『ベストプレイス』 (victory)
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~日常と小さな変化~
そうして一色いろはは口火をきった


今回が初投稿です。
拙いながらも頑張って取り組みます!

やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
原作は読んでいますが、初のssなのでなんかキャラ違うぞみたいな指摘があれば是非お願いします。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです



「せ~んぱい、今日も一人寂しくぼっち飯ですか~?」

 

今日も今日とてベストプレイスにて一人昼食をとっていると亜麻色の髪を揺らしあざとさmaxの猫なで声で声を掛けてきたのは総武高校生徒会長の一色いろはである。

 

一色はここ数日俺のベストプレイスに何故か短時間ではあるがよく出没するようになった。

 

クラスで居場所のない俺が誰に迷惑を掛ける事もなくぼっちらしく振る舞えるぼっちによるぼっちのための安息の地、いわば縄張りに足を踏み入れるとは・・・

俺がカバなら怒り狂って突撃して撃退されるまである。いや、撃退されちゃうのかよ・・・

ちなみにカバってのは見た目に反してかなり獰猛らしい。これ豆知識な。

 

 

「は?寂しくなんかねぇし。ぼっちマスターの俺を舐めるなよ?なんなら俺位になるとぼっち飯を楽しめるまである」

 

と一色にやりかえすと

 

「ぼっちマスターって何言ってるんですか、先輩」

 

と一色が心底呆れた顔をしながら

『はぁ・・・なんか変な事言っちゃてるぜ、こいつ』と言わんばかりの低い声を出してきた。

 

どうでもいいが、凄くムカつくなその反応・・・

まぁ、いいんだけどね・・・

その手の反応慣れてるからいいんだけどさ・・・

 

 

「心の持ちようだな。ぼっちである自分を誇れるかどうか。受け入れられるか、ぼっちを楽しめるかどうか。そこがぼっちマスターとその他多数のぼっちとの違いだな」

 

「へぇ~・・・まぁ、先輩のぼっち論はどうでもいいんですけどね~」

 

俺のぼっち論を聞き流す様子の一色。

 

まぁ、いろはすったら!!失礼な娘!

なんて思いながら飯をパクついていると一色は何やら『・・・・先輩しか・・・・・・』『・・・もう・・・』等と顔を俯かせ何やら一人呟いている。

 

 

何故だろうか・・・嫌な予感がする・・・

今までの経験上俺の嫌な予感はよくあたる。希望や願望の類は当たらないのにな・・・

そんなのってないよ!あんまりだよ・・・

 

 

何やら嫌な予感がするなと思いつつ飯を食い終わり一色が何か言い出す前にこの場から離れようとするが、少し遅かったようだ。一色いろははとんでもない事を言い放った。

 

「先輩、明日から私もお昼ご一緒してもいいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん・・・だと?」

 

一色いろはの予期せぬ発言に思わず死神になった高校生が言いそうな反応しかできなかった。

 

一色はなんと言った?

『先輩、明日から私もお昼ご一緒してもいいですか?』

だったな

 

一色がベストプレイスで俺と飯を食う・・・うん

、訳がわからん。そもそも一人で飯を食うからぼっち飯であって二人で食うとぼっち飯でなくなる。昼食はぼっち飯と決めてる俺の信条と掛け離れてしまう。

なに?朝と夜はぼっち飯じゃないのかだって?

それはアレだろ小町と食うからに決まってるからだろ。言わせんな恥ずかしい。あと、戸塚も可だな。いや、戸塚となら朝昼夜問わずいつでもウェルカムだ。なんならvip待遇でお出迎えしちゃうね。むしろ戸塚を食べたいまで・・・いやそこまでではないな。

                       

等と現実逃避をするために考えていると一色は何故か俺を哀れむような眼で見ていた。

 

「なんだよ・・・」

その顔腹立つな

「先輩・・・腐っているのは眼と性格だけだと思っていたのに・・・まさか耳まで腐っていただなんて・・・残念です。いや、ほんと残念です。」

 

「おい、その発言もお前の眼も限りなく俺を傷つけているからな。残念残念って大事な事だから二回言ったの?そんなに残念な子なの、俺?あと腐ったような眼であって実際に腐っている訳ではないからな。それと耳は良いほうなんだぞ」

 

ぼっちは聴力は良い奴が多い。一人でいる事が多いし人混みを避けるからな。いや、むしろ引きこもるまである。そんな誇り高きぼっち達は無駄にデカイ声で話すリア充(笑)やスイーツ(笑)やらや騒音、雑音と掛け離れた生活を送っているからな(ソースは俺)。むしろ耳が良過ぎて『ヒキタニが何かニヤニヤしてるし・・・キモい』等と聞きたくもない話まで聞こえちゃうくらいだ・・・ヒキタニって誰だよ・・・俺、本読んでただけだぞ・・・ニヤニヤしてたか?してもいいだろ・・・いや、ダメか?

 

「性格が腐っているのは否定しないんですね・・・まぁ、先輩らしいといえば先輩らしいんですけどね。

とにかく!私は先輩とお昼ご一緒したいんです~」

 

と可愛いらしい、だがあざとさ満点の猫なで声で返してくる一色。

 

「え、やだよ」

 

「可愛い後輩のお願いを当たり前のように断らないでください!」

ぷく~と一色は不満げに口を尖らせる。

相変わらずあざとい後輩である。

 

「あのな、一色・・・ぼっち飯ってのは一人で食べるからぼっち飯であって誰かと食べるとそれはぼっち飯じゃなくなるだろ?」

 

「はぁ・・・その理屈は分からなくもないですが・・・そんなどうしようもない理屈で私のお願いが即否定されるのはイラッときますね。イラッと。そもそも先輩はなんでぼっち飯にこだわるんですか?」

 

・・・そういえばなんでだろうな

気付けばぼっち飯をしているのが当たり前の様になっていた。幼稚園の頃からぼっち飯だったからな・・

幼き時から自分だけの時間を大切にするなんて俺って偉いな

 

 

「ぼっちだからな」

 

「先輩がぼっちなのは知ってますよ」

と当たり前のようにいう一色。

 

いや、確かに俺はぼっちだよ?

ぼっちだけど・・・他人から『お前ってぼっちだな』って言われるとなんか不快だな・・・なんなんだろうなそういうのって

 

 

 

「・・・どうでもいいが、自分で可愛い可愛い連呼するな」

 

あざといから

 

「可愛い可愛い言うなって・・・はっ!お前が可愛いのはわかってるって事が言いたいんですか!?そうなんですか!いや、嬉しいですけど・・・先輩にそう言われると何故かムズムズするのでこの気持ちに整理がつくまでは勘弁してください!あと少しで受け入れられそうなんですが今すぐには無理です!ごめんなさい!」

 

と手をぶんぶん振りまくし立てるように言いながらハァハァと呼吸を落ち着かせる一色。

 

雪ノ下程ではないがこいつも長文多いな・・・  

長文流行ってんの?ぼっちはいつでもマイペース。だから流行とか分からない

 

 「・・・誰もそんな事は言ってないぞ」

 

どういう思考の末そういう解釈になったのかは甚だ疑問だがもういいや・・・

あとこいつに勝手にフラれるの何回目だろうな?

101回目はプロポーズなの?いや、違うか                                                                                                

 

というか話が進んでない上にもうすぐ貴重な昼休みが終わってしまう。早く話を終わらせるためにも俺は『以前から抱いていた疑問』も含め一色に問い掛ける

 

「一色、何故俺と昼を過ごす必要がある?」 

 

続く




今回はここまでです。
初投稿で色々と緊張しました。

指摘や感想等があれば是非ともお願いします。

次回の投稿は日曜を予定しています


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終ぞ彼女は理由を語らず

「一色、何故俺と昼を過ごす必要がある?」

 

一色にそう問い掛けた。

 

何故俺が一色と昼を過ごすのか・・・

よくわからん・・・

 

俺と一色の付き合いはそれほど深いわけではない。だが、平塚先生と城廻先輩からの奉仕部への依頼・・・生徒会選挙の一件で知り合って以来、思いだすだけで意識が高くなりそうな海浜総合高校とのクリスマス合同イベントや三浦からの依頼を受けてのマラソン大会等を通してある程度ではあるが、一色いろはという人間の人となりは理解しているつもりだ。最も知っているのは知っている事だけで、彼女の知らない一面もあるのだが・・・

 

一色はあざといがあざといなりにしたたかさを兼ね備えているし、人付き合いも良いイメージがある。そんな一色は昼を一緒に過ごす相手どころか友人関係には事欠かないはずだ。ましてや一年生にして総武高校の生徒会長となった一色は今や雪ノ下や葉山と並ぶ有名人である。校内屈指のトップカーストの一員だ。そんな彼女が校内カーストの最底辺に属する俺と昼を過ごす等おかしな話である。

 

「理由、理由・・・ですか・・・・」

 

俺の問い掛けに一色は何故か顔を俯かせ思案する。

 

・・・『やはり』何かあったのか?

 

最近の一色に俺は何か違和感を感じていた。こいつが俺のこの場所、ベストプレイスに初めて来た辺り・・・確かマラソン大会が終わってから少し経った辺り位からか?勘違いならそれにこした事はないのだが妙にモヤモヤする何かが最近の一色にはある。

 

そもそも本来のというか以前の一色なら俺の問い掛けに対して即座に

『なんとなく先輩といたいからですかね~せ・ん・ぱ・い、と』やら『そんなの暇潰・・・暇潰しに決まっているじゃないですか。あれ?何か期待してましたか?だとしたらごめんなさい、先輩の期待にはまだ応えられません。もう少し待ってください!』

等のあざとい返答やいつものよく分からん返答があると思うのだが・・・あれ?普段通りもおかしいな・・・慣れって怖いな慣れって・・・

 

だが、今の一色は返答を用意してなかったようだ。返答につまる程余裕がないのか、あるいは理由などなくなんとなくなんて事かもしれないが・・・少し気になるな・・・

 

最近ふとした時に見せるはかなげな表情や俯き考え込む頻度、それに伴いつく溜息等おかしな点はいくらかある。ふむ・・・

 

ってあれ?もしかして、いや、もしかしなくても俺ってば一色の事見すぎか?見すぎだってばよ・・・

それはまぁ、きっとあれだろ、一色が醸し出す庇護欲だとか小町と少し似ている(当然小町の方が可愛いぞ)故に俺の108あるお兄ちゃんスキルの、一つ『異変察知』がオートで発動したのだろう。千葉県民のお兄ちゃんスキルの高さは異常。同じ千葉県民の高坂さんもお兄ちゃんスキル高いしな・・・

等と考えていると一色はようやく口を開いた。

 

「先輩、女の子のお願い事に理由を聞くなんて野暮ですよ?野暮。そんなだから先輩はモテないんですよ~」

 

と、いつも通りの・・・そう極めていつも通りの笑顔で返してくる一色。

 

その言葉には『理由は言いたくない』あるいは『理由は言えない』そういう意味が込められているのだろうか・・・

 

あとモテないのは言わないで自覚しているから・・・モテモテ甘甘の人生等送っていない。むしろ俺の人生は常にビターなのである。ビターな人生だからこそコーヒー位甘くていいじゃない・・・

 

「まぁ、先輩は理由なんか関係なく私のお願いを聞く義務があると思いますよ?」

 

「義務って何んだよ義務って?あと俺に断る権利がないみたいな言い方やめてくれない?」

 

「先輩が言うから私は生徒会長になったんですよ?生徒会のお仕事、もう大変なんですからね?へとへとです。だから、先輩には責任を取るというか・・・これくらいのわがまま聞いてくれてもいいんじゃないんですかね~」

 

ふむ・・・どうしたもんかね・・・

 

一色が言う『責任』という言葉に俺は弱い。平塚先生と城廻先輩からの依頼を受けた生徒会選挙の一件で俺はある思惑の為に一色をたきつける、唆す形で一色を生徒会長にした。その事に責任は当然感じているし、できる限り、俺がやれる範囲での責任は果たすべきだ。だが、それはあくまでも生徒会関連の事に限る。一色のプライベートな事までサポートする必要はないはずだ。

 

「先輩・・・」

と一色は縋り付くような声を出す。

 

ほんとどうしたもんかね・・・

 

 

俺が生徒会関連以外で一色に対する責任を果たす必要はない。だから一色のお願いを断るはできる。ここで要件を飲んでしまうと今後も何かとつけこまれそうだしな・・・つけこむのは胡瓜や大根だけで大丈夫。

そう思い俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかったよ・・・責任、取ればいいんだろ。面倒臭いけど・・・昼休みだけならいいぞ。面倒臭いけどな」

 

そう答えた。

 

今回、責任なんてものは考えちゃいない。正直ベストプレイスでの一人優雅に過ごすベストな時間を潰されるのは癪だ。

 

癪なのだが・・・それ以上に最近の一色に感じる違和感が分からないまま・・・モヤモヤしたものを抱えながら今後を過ごす方が癪だ。気持ちが悪い。こいつともう少しいれば自ずと違和感の正体が分かる筈だ・・・

まぁ、生徒会関連の仕事ではない分心労もさほどなさそうだし、昼休みは1時間にも満たない。これくらいなら許容範囲だしな。

 

俺の返答に一色は満足したのか笑顔を浮かべたがすぐさま顔を曇らせた。

 

何?何か言ったか、俺?

一色さん、あなた笑顔だったじゃないですか・・・花咲くいろはだったじゃないですか・・・

 

「先輩、お願いを聞いてもらえて嬉しいですけど・・・面倒臭いって酷くないですか!あと二回も言わないでください!」

 

「大事な事は二回言わないとな」

 

お前さっき俺の事残念残念って二回言ったの忘れたの?何?健忘症なの?

 

 

ぐぬぬと憤慨していた一色だが次にはふっと小さな笑みを浮かべていた。

「面倒臭い発言はポイント低いですけど、そう思いながらも私に付き合ってくれる先輩はとてもポイント高いですよ♪」

 

そんな話をしていると昼休みの終わりをつげる、予鈴が鳴った。

 

っべー、俺そんなに一色と話してたの?次平塚先生の授業じゃん。物理的な制裁喰らっちまうわぁ・・・マジないわぁ

 

一色も少し慌てた様子で5限目の授業があるという特別棟に向かってパタパタと走り出す。そして一色は特別棟に入る直前に

「せ~んぱい、明日からお願いしますね~♪」

と笑顔で言い残し去っていった。

 

さて、平塚先生への言い訳はどうしたものかと思案しながら教室に向かい思いだしたのは最後に見せた一色の笑顔。

その時の笑顔は何の違和感も感じない至極魅力的なものだった。

 

 

続く

 

 



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彼等の日常を見て比企谷八幡が思う事

結果として俺は授業に遅れ、ドアの前で待ち構えていた平塚先生からの鉄拳制裁を受けた。ドアの前で待ち構えているって・・・っべー、あの人どんだけ俺の事好きなんだよ・・・こぇぇよ!あと怖い

 

理由を聞く前の平塚先生は怒り半分、心配半分って表情だった。一応体調を崩してたとかそういった理由も浮かんだのかもしれない。いや、今思うと怒りは8割位だったかな?顔は笑顔だが全く笑ってなかったし眉もひくつかせてたしな・・・平塚先生激オコじゃん

 

理由を聞かれた俺は『人生に迷ってました』と素直に答えたのだが、答えた瞬間く俺のボディーに衝撃が走る。

 

撃滅のセカンドブリット炸裂である。

 

おっかしいな・・・俺は何一つおかしな事は言ってないのにな。俺は人生の迷い子なのにな。

 

制裁が終わりやや痛む腹を摩りながら自分の席に向かう。途中戸塚の近くを通ったら戸塚はやや小声で『八幡大丈夫?』と心配そうに聞いてきた。

戸塚は優しいなぁ!戸塚こそ、この汚れきった世界を浄化するために顕現した天使に間違いないね!

そんな天使(戸塚)に大丈夫だと言う意味も込めて頷くとホッと息を吐き天使は優しく微笑み返してくれた。

 

戸塚マジ天使!と戸塚の笑顔を忘れぬように脳裏に刻み込ながら席に戻り戸塚の偉大さについて考えている間にいつのまにか授業は終わっていた。

 

 

つつがなく6限、HRを終えて今は放課後。

いそいそと帰り支度しているといつも通りのガヤガヤと騒々しい教室の中でも一際賑やかな声が聞こえてきた。

葉山・三浦を中心としたいつものグループである。

 

 

 

 

 

「っつーか、今日部活ないとかガチでテンション上がるわ~!」

 

金髪の髪をかきあげながら戸部がいう。

いやいや・・・戸部、お前のテンションはいつも高いと思うぞ?更に上がっちゃうの?やだ、それ迷惑なんだけど?

 

「それな」

「こういう日もたまには良いよな~」

と賛同したのは大和と大岡だ。

 

「戸部っち達部活ないんだ?」

「三人とも部活が休みなんて珍しいね」

戸部達の話に由比ヶ浜と海老名さんも加わる。

 

「あれだべ?陸上部とソフトボール部が大会近くて 今日ガチで部活やっから俺等の使うスペースねーわー的な?」 

 

大会の近い陸上部とソフトボール部が気合いを入れて練習したいから各部活動と交渉した結果今日はグラウンドを優先的かつ広く使う事が決まったらしい。グラウンドは特別広くはないから結果として休みになる部活がある。今回割を食ったのはサッカー部、ラグビー部、野球部らしい。

以上が戸部の話の要約である。ってなんで俺戸部の通訳してんだろうな・・・マジ勘弁だぞ

 

 

「っつーか、俺達今日部活ないべ?ってな訳で久々に皆でどっか行かね?どうよ?」

 

いつもの軽い調子で戸部が皆に提案する。

リア充には部活がなかったら真っすぐ家に帰るって発想はないのか?俺ならウキウキしながら真っすぐ家に帰っちゃうよ?

 

「あーしはいいけど・・・みんなはどーなん?」

 

金髪の髪をくるくる弄りながら三浦が皆を見回す。

皆を見回してはいるが視線の中心は心なしか葉山に向いている。

葉山は三浦の視線に気づいたのか 

 

「俺も今日は用事もないし行けるよ。あまり遅い時間にならなければ大丈夫だ」

といつもの柔和な笑みを浮かべ答える。葉山の答えを聞いた三浦はやや頬を赤く染め満足そうに笑みを浮かべながら携帯を弄り始める。

なんだろうか、三浦を見ていると微笑ましくなってきたぞ?心がポカポカしちゃうよ。                   

 

大和と大岡も葉山と同様の返答をする。

 

「隼人達は行けんのね。海老名と結衣はどーなん?」

 

「私も行けるよ~。予定もないし・・・それに愚腐腐」

 

と三浦からの問い掛けを受け賛同の意を述べながらも何やら不吉いや、腐吉な笑みを浮かべる海老名さん。相変わらず腐っていらしっしゃる。いったい何を想像したんですかね・・・

 

「海老名、なんだか良くわかんないけど擬態しろし!」

ペシッと海老名さんの頭を軽くはたき、突っ込みを入れた後三浦はそんな海老名さんを見て苦笑している由比ヶ浜をちらりと見る。

「後は結衣だけど、これそ?」

 

「ごめん、優美子。私は部活あるから・・・今日は無理、かな?」

 

「そっか、残念だけどしょうがないか・・・」

 

「あっ、でも!」

 

さてさて、彼等の話をいつまでも聞いている必要もないわけで、俺は席を立ち教室を後にした。 

 

 

「あーし・・・じゃん?」

 

「ヒキ・・・・と・・君が・・・組んず・・・BL ・・・腐腐腐」  

「擬・・・し!」

 

 

「優美子冴えてるわ!マジぱねぇわ!ヤバいべ、それ!」

 

教室を離れて特別棟に向かって歩き始めるが彼等の声は聞こえてくる。

あいつらうっせーな、主に戸部と戸部とあと戸部。

あと、海老名さんは腐吉過ぎますよ?『ヒキ』ってもしかしなくても俺だよな?『君と・・・組んず』って誰と組んずほぐれつしちゃうの?戸塚以外お断りだよ?俺・・・

組んずって・・・BLって・・・腐腐腐って・・・海老名さん、擬態しろし!

 

しかし、だ。あいつらうっせーなと思うものの三浦にしろ戸部にしろ海老名さんにしろ彼等は彼等の日常を謳歌しているに過ぎない。戸部はいつも通りうるさかったし、海老名さんは相変わらず腐っていた。  葉山の柔和な笑みもいつもと代わり映えしていなかった・・・彼等はいつもとなんら変わっていない。そう、彼等の日常に変化はない。

日常というのはそうそう大きく変化はしないものだ。

『この中に宇宙人、未来人・・・』等と後ろの奴が自己紹介しだしたり、地球外生命体に

『魔法少女になってよ!』等と勧誘されたりしない限り大きな変化というものは起きない。

起きないはずなのだが・・・あいつは・・・

 

 

等と考え特別棟を歩いている内にいつのまか部室はすぐ目の前である。

さて、彼等がいつも通りの日常を送るように俺も俺の変わらぬ日常を送りますかね?

 

扉に手をかけると既に鍵は空いていたのか、すんなり扉は開いた。中には雪ノ下雪乃が平素変わらぬ様子で読書に勤しんでいた。

 

 

続く



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彼は彼の大切なひと時を過ごす

「うす」

 

「ええ」

 

互いに簡潔に挨拶を済ますと、俺はいつもの席につき文庫本を取り出す。雪ノ下が部室に来てから暫く経っているのか部室の中は既に暖房が効いており、校内といえど廊下はやはり肌寒く、そんな中教室から特別棟にあるこの部室まで歩いてきた俺の冷えきった身体をじんわりとだが温めてくれる。ホッと一息、溜息をつくと俺は取り出した文庫本を開き読み始める。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

今のところ悩みを抱えた依頼人が来たり平塚先生が連れてくる気配はない。そもそも奉仕部に依頼が来る頻度はさほど高くはなく、せいぜい1ヵ月に1~2件程なのだから来る可能性はほぼないとみていいだろう。また、三浦からの依頼を終えて以降の奉仕部が現状抱えている案件はない。特にする事のない時間。

 

俺も雪ノ下も読書に集中している為か、互いに会話はなくただただ沈黙が部室を包む。二人の本を読み進める音と少し古びたヒーターが稼動する音だけが聞こえる。

静かな部室に静かな時間がゆっくりと流れていく。

 

沈黙を嫌う人間は多い。大抵は居心地の悪さを感じその場から逃れる術を考えるか沈黙を埋める為に必死に言葉を紡ぐ・・・多くの人間の中では沈黙とは苦痛なものなのだろう。

 

だが、俺は雪ノ下といる時・・・奉仕部にいる時に訪れる、静かな時間、ひと時は嫌いではない。不思議と居心地の良い沈黙。京都での修学旅行を終えてから暫くの間、この沈黙には痛ましさや居心地の悪さを感じたものだ。同じ空間、同じ人間といるのに全く違う。そう考えると、このひと時は稀有なものであり、大切な時間・・・

 

かつて失いそうに・・・いや、失い取り戻した大切なものを再認識してしまう・・・

不思議と顔には小さな笑みが零れる。

 

願わくばこのひと時が少しでも長く続きますように・・・

 

等と物思いに耽っていると、今まで本を読み進めていた雪ノ下が不意に口を開いた。

 

「そう言えば・・・由比ヶ浜さん遅いわね・・・

何かあったのかしら?」

 

「由比ヶ浜なら教室で三浦達と話してたな。

部室には来ると思うぞ?」

 

 

いや、いつ来るかは知らんけどさ。でもあいつ部活あるからって三浦達の誘い断ってたし来ると思うんだが・・・来るよね?

 

「そう・・・ところでさっきニヤニヤとしてたけれど、何か卑猥な事でも考えてたのかしら?いやらしい。場合によっては通報も辞さないのだけれど?ヒス谷君」

                            

えぇ?ニヤニヤしてたの俺?

感傷に浸ってニヒルに微笑んだつもりなんだけど・・・

卑猥な事なんて微塵も考えてないよ?ほんとだよ?

いや、考えた事がないかと聞かれたらそりゃ嘘になるよ?考えた事はあるよ?だって男の子だもん!

でも、今は違うじゃん?

 

あと、雪ノ下には俺が放課後女の子(雪ノ下)と二人きりの部室でニヤニヤ文庫本を読みながら卑猥な妄想をしてる奴に見えたの?

っべー、そら通報も辞さないわな・・・俺でも通報しちゃいますわ・・・

今や子供に挨拶した位で事案になっちゃう世の中だからな・・・全く生き辛い世の中である。

 

「卑猥な事なんて考えてないからその冷たい眼をやめて手に持った携帯も下ろそうか?あと、ナチュラルに人の名前間違えるなよ、ヒス谷って何?ヒステリー?」

 

と雪ノ下の罵倒を受けていると何やら部室の前ではパタパタと足音が聞こえ間もなく扉が開けられた。

入ってきたのは件の人物、由比ヶ浜だ                   。

 

 

「やっはろー!ゆきのん、遅くなってごめんね~!」

 

いつもの頭の悪そうな挨拶をすると同時に雪ノ下の方に駆け寄ると遅くなった事を謝罪する由比ヶ浜。

ビッチな見た目に反して律儀な奴である。

そこらのスイーツ(笑)ビッチとは違う。アホだけどさ

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん。あなたが気に病む必要はないわ」

 

「ゆきのん・・・!」

 

雪ノ下の手を取り嬉しそうにするガハマさん。

まぁ、実際依頼人は来てないしな・・・ただ、俺と黙々と本を読んでいただけだからな・・・そういった意味では由比ヶ浜が気にする必要はほんとないな。

 

しかし、由比ヶ浜・・・気にしなくてはいいと言ったものの、雪ノ下には謝罪をして俺にはないって・・・いや、まぁいらんけどさ・・・でもなんつーか、このスルー感というか雪ノ下との扱いの差は何なんですかね?

と由比ヶ浜を見ていると視線に気づいたのか雪ノ下から離れ先程までの笑顔を一転させプリプリした様子でこちらに向かってくる。

どしたん?

 

「ヒッキー!!なんで先に部活行ったし!?私探したんだよ!?」

 

「いや、約束してなかったし。なんか話し込んでたし」

 

いつ頃からは忘れたが由比ヶ浜と一緒に部活に行く事も増えたがいつ一緒に行くとか明確には決まってない。約束はしてないし俺は悪くないと思う。

 

「うぅ・・・確かに・・・じゃ、じゃあ明日は一緒に行こ、ヒッキー!」

 

「・・・前向きに検討しとくわ」

 

「・・・何故かしら、この男の口から前向きという言葉を聞いても後ろ向きな発言にしか聞こえないのは・・・」

とこめかみに手をあて呆れた口調で雪ノ下が言った。

 

さすが、雪ノ下わかってらっしゃる!

 

 

「そう言えばヒッキー、今日どうして5限遅れたん?いつもなら10分前には戻ってきて寝たふりしてるかなんか本読んでニヤニヤしてるのに」

 

・・・・・いや、確かにそうだよガハマさん。

そうだけどストレート過ぎるのは八幡的にポイント低いよ?思ってても言わないで!

ぼっちが寝たふりしててもそっとしといて!見守るのがマナーだぞ!

 

『おい!ヒキガエル(俺の事)が寝たふりしてんぞ!冬眠の練習か!冬眠にはまだ早いぞ!』

 

小4の時にそういった隣のクラスの山本はマジ許さん。未だに許さん。未来永劫許さん。なんなら末代まで許さん。俺が『絶対許さないリスト』を作るきっかけとなった位だ。

あと何度も聞くけど俺ってそんなニヤニヤしてんの?

家帰ったら鏡見てみるか・・・  

 

「・・・つか、俺の事見過ぎだろ?なんで知ってんの?」

 

「み、み、み、み、み、見てないし!?ヒッキーマジでキモい!ヒッキーって逆に目立つっていうか!?悪目立ちってやつ!?一人浮いてるから逆にみたいな!?ヒッキーマジでキモい!」

 

うがーと顔を真っ赤にしてまくし立てるように否定する由比ヶ浜。

いや、そんな必死にならんでも・・・あとキモいキモい言うなよ・・・

それと、寝たふりしてるとか浮いてるとかキモいとかこいつも大概俺を無意識なんだろうけど傷つけるよな・・・雪ノ下は意識してだが・・・

どこかに空気の美味しいところないかな?

今毒素にまみれてんの、気のせい?

 

「は、話反らしてもダメだからね!?で、なんで遅れたし!」

 

素直に一色に捕まってたというのは何故か躊躇してしまった・・・何故だろう?

まぁ、特に言う必要もないからだろ、と自分を納得させる。

 

「それは、まぁ、アレだよ、アレ。アレだな」

 

「アレしか言ってないし!?」

 

「遂にボキャブラリーまで少なくなってしまうなんて・・・」

 

 

「ボケ?ラブリー?」

と首を捻る由比ヶ浜は放置する。帰って辞書開くかGoogle先生に聞いてくれ。

 

由比ヶ浜は首を捻りながらも席に座り、ふっと一息つくと鞄から茶菓子を取り出す。

 

「由比ヶ浜さん、紅茶いれるわね。比企谷君も」

 

「ありがとう~ゆきのん」

 

「あんがとさん」

 

その後は俺と雪ノ下は紅茶を片手に文庫本を読み進める。由比ヶ浜は携帯をカチカチ弄りながら時折茶菓子をパクつく。また俺や雪ノ下に話を振り俺達はそれに応じる。そんなどこにでもあるありふれた時間が流れていく。ふと気付けば外はもう暗くなりつつある。

もう下校時間が迫っていた。

 

「今日は終わりにしましょうか」

 

「そうだね、もうすぐ下校時間だし」

 

「だな、あんまり遅いと疲れるし」

 

それぞれ帰り支度を済ませヒーターの電源を切る。

温かな部室から出るのは少し名残惜しい気もするが、いつまでもこうしている訳にもいかない。始まりがあれば必ず終わりがくるのだから。

 

雪ノ下が鍵を閉め俺達は部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもと変わらない葉山達、奉仕部、雪ノ下や由比ヶ浜・・・しかし、彼女は?

一色いろははどうなのだろうか?

変わらない奉仕部でのひと時を過ごす中でふと俺はそんな事を思った。

 

 

続く



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そうして彼女は再び訪れる

部室の戸締まりを確認した後俺達3人は昇降口に向かい歩き始めた。放課後、とりわけ下校時間が迫っているこの時間の廊下は閑散としている。普段より気持ち肌寒く感じられるのもそのせいだろうか?

 

しかし・・・コートにマフラーと、手袋と防寒具をしっかり身につけていても肌に感じるこの寒さ・・・『肌を刺す寒さ』とはこのような寒さの事を言うのだなと

考えながら廊下を歩いているうちに昇降口はすぐ目の前にきていた。俺達同様部活帰りの生徒や委員会で残っていた生徒、はたまた放課後ただただ残っていた暇を持て余した生徒がチラホラ見える。

 

「うわっ、外めちゃ寒そう!?」

 

「校内でもこの寒さだものね・・・気が滅入るわ」

 

「そうだな・・・これ以上寒くなる前に早く帰るか」

 

陽が落ちると気温は一気に落ちるからな・・・

比例して俺のテンションも下がり続ける一方である。

いや、まぁ元から高くはないけどさ・・・

 

上履きからローファーに履きかえ外に出ると予想した通りの寒さが俺達を迎える。そんなお迎えゴメン被りたいまである。戸塚か小町のお迎えならウキウキなんだけどね!やはり校内と違い風もあるため、肌に感じる寒さはより強く感じられる。

 

「やっぱ寒っ!?寒すぎるよ!?ゆきの~ん!温めて!」

 

と雪ノ下の腕を組みくっつく由比ヶ浜。

雪ノ下もこの寒さに滅入っているのか平素なら抗議やその意を示すのだが、特に何も言わずに受け入れている。雪ノ下の頬がやや赤いのは・・・冬の寒さのせい・・・だけじゃなさそうだ。少し照れも入ってるな、あれ。

二人ともお熱いですね・・・俺はお独り様でお寒いですが・・・あっ、俺が独り寒い人生歩んでるのはいつもだったな・・・とにもかくにもお熱い事はなによりだ。

そんなゆるゆり、もとい百合百合している二人を見ながら歩いていると駐輪場が見えてくる。

 

「んじゃ、俺こっちだから」

 

「うん、バイバイ!ヒッキー!」

 

「比企谷くん、また明日」

 

二人に別れを告げて独り駐輪場へ向かう。

駐輪場に生徒はチラホラとはいるが普段のこの時間の割には少ない。多くの生徒は家に帰って心身ともに温かく過ごしているんだろうか?

普段少数派にいる・・・いや、下手すればその少数派にすら入れない逸材であるぼっちマスターな俺も今日ばかりは彼等を見習って早く帰るか・・・

 

自転車の鍵を外し自転車にまたがるとふっと一息つき、『さて帰りますか』と今日一番の気合いを入れ帰路に向けてペダルを踏みだそうとするとパタパタという足音が徐々にこちらに近づいてくる。

 

「せ~んぱいっ、今お帰りですかぁ?」

 

トントンと肩をつつかれ後ろを振り向くと冬の寒さかあるいは駆けてきたせいなのかやや顔を紅潮させた一色が立っていた。いや、まぁ誰なのかは言わずもがなわかったけどさ。俺の知る限り『先輩』と呼ぶのはこいつだけだし、いまとなっては聞き慣れた可愛いらしい、だがあざとい声でわかったんだけどな。

 

「なんだ、一色か。」

 

「むっ、リアクションが薄すぎてつまんないですねぇ、先輩は」

 

ぷくっと顔を膨らませつまらなさそうな様子の一色を見てため息が出る。

なんで俺は帰ろうとした矢先に急に声を掛けてきた後輩につまんないってディスられてんの?雪ノ下といい由比ヶ浜、一色といい俺の事ディスり過ぎでしょ・・・他人様に迷惑を掛けないようひっそりこっそりしている俺をディスるなよ・・・泣いちゃうよ?ワンワン泣いちゃうよ?泣き過ぎてワンワンパラダイスになるぞ・・・パラダイスじゃねぇな・・・

 

「つまんないってお前・・・」

 

「ですよ?せっかく可愛い後輩の私がすすけた背中で独りトボトボと帰ろうとしている先輩に声を掛けたんですから・・・まぁ、先輩にテンプレ通りのリアクションとか求めてないから良いんですが・・・つまんないです。先輩つまんないです」

 

テンプレ?なにそれ美味しいの?

あとつまんないつまんない2回も言うなよ

 

「そうですか・・・で、なんかようか?見て分かると思うが帰るとこなんだけど?」

 

寒いし疲れたし早く帰りたい・・・

 

「あっ、それです。私って今から買い物行くじゃないですかー?」

 

何だ何だよなンですかァ?

そんな情報知らないンですけどォ・・・

いや、知る必要もないけどさ

 

「いや、知らんし・・・買い物?この寒い日に?お疲れ様。風邪ひかないようにな」

 

「それがですねー、買うものが意外と多くて荷物も少し多くなっちゃいそうで・・・私独りじゃ大変そうなんですよねー」

 

チラチラとこちらの様子を上目遣いで伺う一色・・・あざとい・・・さすがいろはすあざとい・・・あざといろはである。まぁ、薄々と今のでこいつが何を言いたいかはわかったが・・・

 

「だから先輩、付き合ってくれませんか?」

 

「寒いし疲れたし面倒臭いし帰りたい。だから断る」

 

「薄々そう言われると思ってましたが・・・即否定されると流石に傷つきますね・・・」

 

少しショボンとした表情で肩を落とす一色を見て少し・・・ほんの少しだが良心が痛む。だが断る。

痛みに耐えて人は強くなるんじゃよ、とじっちゃんも言ってたしな。

 

「ていうか、先輩暇なんだし・・・買い物も生徒会関連の物ですから手伝ってくれてもいいじゃないですかー」

 

ショボンとした様子の一色だったが顔を上げるとぶーぶーと文句を言ってくる。

それを先に言えよ・・・

一色のプライベートな買い物にまで俺が付き合う必要はないが生徒会関連の仕事なら出来る限りのサポートならしていくつもりだ。でもなぁ、なんでもかんでも

するつもりはないんだが・・・実際昼を一色と過ごすという事にもなったし・・・放課後じゃねぇな下校の時まで一色のサポートというかわがままを聞くのは・・・聞いちゃうと俺の一日は一色一色になりそうだ。今の上手いな。いや上手くないな・・・

 

「ナチュラルに人を暇人扱いするなよ・・・俺忙しいよ?帰って本読んで飯食って風呂入って宿題してゲームしてゴロゴロして寝る・・・帰ってからのスケジュールは埋まっている。超多忙といっても過言ではないね」

 

「それ世間一般では暇って言うんですよ?あと過言過ぎます。まぁ、世間からズレてる先輩じゃ仕方ないですか。聞く限り暇そうなんだから良いじゃないですかー。先輩は可愛い後輩と過ごせる、私は安心して買い物出来るwinwinじゃないですかー」

 

winwin!!それある!いや、ねーよ。

 

「いや、葉山とか戸部とか・・・それこそ生徒会の連中に頼めよ」

 

「葉山先輩はちょっと・・・アレです。今は頼み辛いっていうか・・・というか葉山先輩も戸部先輩も放課後先輩の教室に行ったら何処かに遊びに行くとか言ってたんで・・・」

 

あぁ、そう言われば部活行く前教室で戸部が

『遊びに行かね?』とかなんとか言ってたな・・・

ていうか教室来たんだな一色は

戸部辺りに頼みに来たんだろうが・・・

 

葉山に関しては何かあったのか?

真っ先に葉山に私大変なんですアピールすると思ってたんだが・・・荷物持ちに葉山を使いたくないとかか?

しかし、その割にはアレやら今はやら何か妙な事を匂わせてくる。本人が言葉を濁してる辺り言いたくない事なんだろうか・・・この件は少し気になるが突っ込まず心に留めておくか

 

「生徒会の連中は?」

 

「生徒会の皆さんは先輩と違って塾やら約束やらで忙しいんですよー。先輩と違って」

 

だーかーら俺は(以下ry

 

放課後の下校時間はもうかなり迫っている。気付けば駐輪場付近には俺と一色しかいないし校門付近にも生徒はいるが数人程度しかいない。それと

 

「・・・・・」

下校時間がかなり迫っているせいかさっきから用務員のオッサンが迷惑そうにこちらをチラチラ見ている。

ゴメンねオッサンすぐ出るから

 

葉山が無理で戸部も無理、生徒会の連中も手が空いてない。用務員のオッサンがチラチラ見てくる。俺は一色に責任を果たす必要がある。

となれば

 

「・・・だからな」

 

「へ?」

 

「今日だけだからな」

 

「先輩っ!」

パァっと笑顔を浮かべる一色。

 

 

このくだり今日の昼間もあったな・・・

 

 

「さっきまで渋ってたのに・・・もしかして本当は嬉しかったとか?照れ隠しだったんですか?」

 

ニヤニヤしながら聞いてくる一色は本当に嬉しそうだ。そりゃ荷物持ちが出来たら嬉しかろうよ

 

「アホか・・・アレだよ、いい加減こうでもしないとお前しつこそうだし・・・責任を果たすというか・・・アレだ、用務員のオッサンが迷惑そうにチラチラ見てたからだよ」

 

「用務員さんのせいにする辺り捻デレてますね~ま、そういう事にしといてあげます。先輩のいう用務員さんもチラチラどころか既にガン見してますから早く行きましょうか!」

 

「へいへい」

 

俺と一色はそんな話をしながら校門に向かい始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下が由比ヶ浜に甘いように俺は俺で一色に甘いようだ。小町に少し似ているからか・・・一色に責任を感じているせいか・・・はたまた・・・いや、そりゃねーな。

隣であざとい笑顔を浮かべる一色をチラリと見てそんな事を思う俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと、用務員のオッサン、ごめんね。

もう帰るから

 

 

 

 

続く




中々更新が捗らず・・・
思っていた以上に難しいですね

感想やご意見お待ちしております


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彼女の一言に彼は歩みを止める

はてさて、こうして生徒会の買い物とやらに付き合う事になってしまった俺は一色のいう目的地、マリンピアに向かって目下移動中の身である。

 

マリンピア、略してマリピンはショッピングセンターをはじめ飲食施設等を備えている所謂大型商業施設であり、ここに行けば大抵の物は揃えられる。また、駅前にある事から比較的総武高校から近い距離にある。一色が行き先にマリピンを選んだのは至極当然だといえる。将来専業主夫を目指す俺的にも遠いと疲れるし買い物はやはり近場で済ませるに限る。遠くに行きたいのではなく、近くに行きたいのである。

 

今は夕暮れ時であり、冬の陽が落ちるのはやはり早い。周囲は既に暗くなりつつある・・・駅前に向かっているとはいえまだ少し距離があり、周囲の人通りは気持ち少なめであり、冬の寒さも相まってかどこかしか物寂しい印象を受けてしまう。

 

駅前に行けばゾロリと並ぶ店先から溢れる光で照らされ明るく、また買い物中あるいは買い物帰りの主婦やら多忙な俺(本当だよ)とは違い暇をもて余した学生やらで賑わっているのだろうが・・・

目的地から離れた距離にあるこの場から聞こえるのは、梢を揺らす冷たい冬の風・・・そして、微かに聞こえる小気味よい鼻歌の音

 

チラリと隣にいる一色を盗み見るとなにやら機嫌が良いのかふんふんと鼻歌を唄っていらっしゃる。

 

機嫌が良さそうでなによりなのだが、先程から一色が時折何かを期待するような、あるいは何かを促すような視線を送ってくるのは俺の気のせいだろうか・・・気のせいだと信じたいのだが・・・気のせいだといいな

 

一色の視線の意味を考えていると、一色は先程までの機嫌の良さはどこにやら、鼻歌を止めなにやらつまらなそうに口を開いた。

 

「先輩・・・女の子と二人きりで無言ってどうなんですか・・・何か喋ってくださいよー、私、つまらないです」

 

 

どうやら一色は無言だった俺に機嫌を損ねたらしい。

無言でも俺的には問題ないのだが、一色的にはNGだったようだ。先程から一色がチラチラ送っていた視線にはそんなメッセージが込められていたようだ。俺と一色はツーカーの仲じゃあるまいし・・・長年ぼっち生活を送ってきた俺に分かる訳があるまい。無理無理かたつむりである。

 

 

あと、何か話せって何を話せばいいの?

千葉についてならいくらでも話せるが・・・

チーバ君や、なのはな体操、東京ドイツ村とかか?

千葉なのに東京ドイツ村って・・・千葉なの?東京なの?ドイツなの?

 

「先輩・・・その顔からどうでも良さそうな事を考えているのはなんとなく分かりますが、今は私の事を相手してください。で、何かありますか?」

 

  

何かありますかってお前・・・

あとどうでもいい事じゃないんだが・・・

 

「あぁ・・・なんだ、その最近どうだ?」

 

捻りに捻りだした会話の糸口がこれである。

やだ、俺のコミュ力低すぎ・・・ワロえないな

 

 

一色は聞いた瞬間ガクリと肩を落とすと深い溜息をつく。

 

「はぁ・・・最近どうだって・・・捻り出したのがそれですか・・・まぁ、いいですけど・・・」

 

何やら不満そうな一色だが、再度溜息をつくと気を取り直したのか直様顔を上げ顎に手をあて何やら思案しながら口を開く。

 

「最近ですか・・・最近・・・まぁ、色々とありましたけど・・・先輩と一緒にお昼出来る事が一番嬉しい事ですかね!せ・ん・ぱ・い・と♪」

 

きゃるん♪といったいつものあざとい笑顔を浮かべる一色を見て思わず苦笑いになってしまう。

 

「あぁ・・・そう」

 

「むっ、冷たい反応ですねー」

 

少しむくれた顔の一色であったが、チラリと俺の顔を見ると一転ニヤニヤした悪笑みを浮かべる。

                                    

 

「冷たい反応は残念ですけど、うっすら頬を染めている辺り実は照れたりします?」

 

「ばっか、寒いからだろ・・・」

 

 

「ベタな照れ隠しでごまかさなくてもいいですよ?」

 

「俺の言葉聞いてた?寒いから頬が赤くなってるって言っただろ・・・」

 

「はいはい、先輩がそういうのならそういう事にしておいてあげますね」

 

やだ、いろはすの自意識高過ぎ・・・

むしろ高過ぎて浮遊しちゃう位だな

凄い楽しそうだしよ・・・

 

「っていうか、先輩はどうなんです?」

 

「どうって?」

 

「いやいや、最近どうかって事ですよ」

 

最近どうかって聞かれても特に変わった事はないんだが・・・ぼっちなのは変わらないし、ビターな人生歩んでいるのも変わらない。戸塚が天使でオアシスなのも変わらない。変わった事といえば・・・あるっちゃあるか・・・

 

「あんま変わった事はないが・・・変わった事といえばベストプレイスに一色、お前がよく来るようになった事位なんだが・・・」

 

「は?ベストプレイス?」

 

『ベストプレイス?意味が分からないんですけど?』

みたいな感じの低い声を出す一色。

 

なんかムカつくなその反応・・・

 

「いや、最近よく来てんだろ・・・というか明日からそこで一緒に食いたいって言ってたろ・・・」

 

言うと一色は『あぁ』と納得のいった顔になる。

 

「ベストプレイスって特別棟一階の先輩が昼休み独りでいたあの場所ですか?」

 

『独りでいた』が強調されているのは気のせいだろうか?気のせいだよね?

 

「そこの事だよ。クラスで居場所のないぼっちな俺が見つけた安息の地があそこだ。ぼっちにとっての最高の居場所ってやつだな」

 

「クラスで居場所がないぼっちにとっての居場所、ですか」

 

そう呟いたと思うと一色は何故か俯き考え込む。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

    

べ、別にそんな深い事を言ったつもりはないんだが、一色は何やら考え込んでおり俺達の会話は暫く止まった。

 

聞こえるのは周囲を行き交う人々の雑踏あるいは話し声、車の走る音・・・先程と異なり人通りも多くなったのだから当たり前といえば当たり前なのだが、どこか違う場所に来てしまったかのような錯覚に陥る・・・下校時に女の子と出掛けるだなんて慣れない事をして疲れてるのかもしれないな、俺は・・・

 

「・・・ですね」 

 

そんな事を考えていると一色がボソリと何やら呟いた。

 

「え?なんだって?」                          

 

「じゃあ、明日からあそこは私と先輩のベストプレイスですね」

 

「は?」

 

「なんですか?その『はぁ・・・何か言っちゃってるぜ、こいつ』みたいな低い声・・・イラッときます。イラッと」   

 

やや眉をひくつかせ不満気な一色だが、一色、お前もさっき俺に似たような反応したと思うぞ? 

というよりも何やら考え込んでいたから何を言うのやらと正直身構えていたのだが・・・やや拍子抜けである。

 

「ベストプレイスはぼっちの居場所だぞ?お前と一緒じゃぼっちじゃねぇじゃねーか」

 

「いえいえ、ぼっちですよ?ぼっちはぼっちでも私と先輩の『二人ぼっち』ですけどねー」

 

どや顔で恥ずかしい事を言う一色。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・何か言ってください」

 

一色は自分で言った事が恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にしている。恥ずかしいなら言うなよ・・・なんかこっちも恥ずかしくなってきたじゃねぇか・・・顔が熱い・・・冬なのに顔が熱い 

 

というか普段のこいつならそんな事言いそうにないんだが・・・テンションも妙だし・・・最近の一色がよく分からない

 

未だに顔を真っ赤にしている一色を横目に歩いているとマリンピアが見えてきた。付近の駐輪場に押していた自転 車を停めマリンピアに向かって歩き始める。

二人並んで入口に差し掛かった辺りで恥ずかしい発言から立ち直ったのか一色は神妙な様子で不意に口を開いた。

 

「二人ぼっち発言はなしですけど・・・」

 

「けど?」

 

「あそこは私にとってもベストプレイスになるはずです。だって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私もクラスで居場所がないですから・・・」

 

 

 

 

「・・・は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・冗談です」

 

そう言い残し俺の一歩先に進む一色の背中を直ぐに追う事が出来ず暫し俺は立ち止まってしまった。

 

 

続く



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それでも彼女は平素と変わらず振る舞い続ける

俺は一歩先に進む一色の背中を直ぐには追う事が出来なかった。

 

一色の言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡り、まるで自分だけ時間が止まってしまったかのような錯覚に陥ってしまう。

 

一色はなんて言った?クラスで居場所がない

 

クラスってのはなんかよく知らんがプログラミングの概念の一つであるあのクラスではなく、学年内でのクラスだよな。

 

校内カーストの最底辺に属し日常的に居場所が少なく今やプロのぼっち、ぼっちマスターともいえる俺はともかく、あの一色が?一年生で生徒会長を務め、葉山や雪ノ下、由比ヶ浜達と同様の校内屈指のトップカーストに属している一色。処世術が上手い一色。猫被りな一色。確かに一色本人が言っていたが、女子生徒からの受けは良くないそうだが・・・それは居場所がないと感じるまでのものなのだろうか?

 

「先輩?どうかしましたかー?」

 

少し先に進んでいた一色が立ち止まっていた俺を気にして振り返る。

 

「いや・・・なんでもねぇ」

 

そう返答しようやく俺は一色の後を追うがその足取りは重く中々前には進まない。

 

「先輩、早く行きますよー」

 

一色は俺の元に駆け寄ると袖を掴み、くいっくいと引っ張り、早く早くと言わんばかりに前に促す。

いつも通りのあざとさを見せる一色を見て俺は苦笑いするしかなく、一色に引っ張られるように館内を歩き始めた。

 

 

『・・・冗談です』

 

最後に言った一色の言葉、願わくばその言葉が真実であれ・・・そんな事を祈りながら。

 

 

 

   ~~~~~~マリンピア内~~~~~~

 

館内を歩き始めるとやはり主婦やら学生やらでガヤガヤと賑わっており、生来人通りの多い場所を避けてきた俺のテンションは彼等のテンションと反比例して下がり始めていた。

 

一色のいう買い物は品数こそそこそこあるものの雑貨屋2店舗も回れば事足りるらしく、時間もそれほど掛かる事もないとの話だ。あまり長い買い物は好ましくなく人の多い所が苦手な俺としても早く終わるのは大歓迎である。

さっさと終わらせようぜ、と先程まで立ち止まっていた時間を取り戻すように歩を進めていたのだが、ふと隣を見るとそこにいたはずの一色の姿はなかった。

 

こりゃ事件の臭いがしなくもなくないな・・・つまりはしない。後ろを振り向くと、当人は何やらファッションショップの店頭に並ぶワンピースやらスカートやらを物色しているのだから。

 

そんな様子の一色を見て溜息を一つ吐くと一色の元に向かう。

 

「何やってんの?お前」

 

言外に『油売ってないで早く雑貨屋行こうぜ!』と込めてみるのだが、意に介していないのかあるいは気づいてないのか、一色は俺の言葉を気にした素振りを見せる事なく、きゃるん♪といった笑顔を浮かべ店頭に並ぶワンピースを一枚手にとって見せる。

 

「先輩先輩、このワンピースヤバくないですか!?」

 

一色が見せたのは黒いシンプルなニットワンピースなのだが、ヤバいってどうヤバいんだよ・・・

 

 

「そうか、ヤバいのか」

 

「えぇ!ヤバいです。ビビっときました。ビビっと」

 

やや興奮気味の様子の一色なのだが、ビビっときたと言われても男の俺にはさっぱり分からないんだが・・・さっきから曖昧な情報しか伝わってこないんだけど?

 

 

というか興奮している所に水を差すのもなんだが、今日って生徒会の備品を買いに来たんじゃないの?まさかいろはすってば忘れてる?忘れてないよね?

 

「うーん、こっちの白のも捨てがたいし・・・」

 

そんな俺の懸念は露知らず、一色はうんうん唸りながら二色を見比べたり身体に合わせたりと忙しなく動いている。

 

いやもういいけどさ・・・薄々こんな流れになると思っていたし、小町や由比ヶ浜と買い物にいった時もこういう寄り道はあった訳だし。小町曰く女の子にとって買い物は潤いであり、見て回るだけでも楽しいらしい。なんとなく分からんでもないが小町や一色の年頃の女の子が潤いを求めるのはどうなの?そんなのは俺の心ばりに乾いてからにしてほしいまである。

 

等と考えていると一色がトントンと肩を突く。後ろを振り向くと、一色は二色のニットワンピを見せつけるように持っている。

 

「先輩先輩、どっちが私に似合うと思います?私に!」

 

最後の言葉を強調するように言うと一色は上目遣いこちらを伺ってくる。この後輩は一々あざとさを挟まないとダメなの?

しかし、『どちらが良いと思うか』ではなく『どちらが私に似合うか』ときたか・・・

 

「どっちでもいいんじゃね?」

 

「アウト」

 

言うと平素より鋭く低めの声音の一色はムッとした表情で俺を睨む。

 

「先輩、『女の子にどっちでもいい』はNGです」

 

あれ?この手の質問ってアレじゃないの?

『そっちがいいんじゃないか?』と答えて『えぇー、私はこっちだと思うんだけどー』みたいな感じになるってTVで見たぞ?いや、実際経験した訳じゃないから知らんが・・・多分そうだろう。多分な

 

しかしいろはす的には俺の返答はNGらしい。

 

「で、白と黒どちらが似合うと思いますか?私に!」

 

先程よりもぐいぐいと二色の服ニットワンピを見せつけ促してくる一色。

いや、正直どっちが似合うかと聞かれてもどっちも似合うと思うんだが、性格はともかく可愛さもあるし、スタイルも良い方だと思うし・・・別にいやらしい眼で見てた訳じゃないけどさ・・・何でも卒無く着こなしそうなんだがどっちでもいいはNGらしいし・・・どちらかといえば・・・

                                        

「どちらかっていうと黒じゃねーか?なんとなくだけどさ」

 

「なんとなくっていうのが気になりますが、先輩は私に黒のニットワンピを着て欲しいんですか」

 

言うと一色は再度思案するように二色を真剣な表情で見比べ始める。

 

いや、黒か白かで聞かれたらなんとなく黒の方が似合うと思ったからそう答えただけで・・・ほら、一色って黒いしさ。でも着て欲しいなんて一言も言ってないんだけど、どういう解釈の末にそうなったのかは分からないんだが・・・どうなってんのいろはすの思考回路は

 

「・・・よし」

 

一色はそう呟き手に持っていた白を元あった位置に戻すと微笑を浮かべる。

 

「ではでは、先輩が着て欲しいと言っている黒いニットワンピにしますね!私的にもビビっときたのは黒い方ですしね!」

 

いや、だから着て欲しいとは言ってないんだけど・・・ていうか今更だがそれ買うのかよ・・・

 

「期待しておいて下さいね!」

 

「あぁ・・・って何を?」

 

「秘密でーす」

 

言うと一色は黒いニットワンピを丁寧に畳むと小脇に抱えレジに向かう。その足取りは軽くどこかウキウキした様子にも見える。そんな平素と変わらない様子の一色を見て少しだが、ホッとしている俺がいた。

 

暫くすると一色は精算が終わったのか、ててっと小走りでこちらに戻ってくる。

 

「すみません、お待たせしました」

 

「いや、言いたい事は色々あるんだが・・・もういいわ。そろそろ行こうぜ」

 

「はい!」

 

そうして一色の私的な買い物も終わったようなので、俺と彼女は賑わう館内を進み雑貨屋を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

    ~~~~~~駅前~~~~~~     

 

その後つつがなく・・・いや、一色の寄り道もとい、いろはすショッピングを挟みながらだからつつがなくないが、なんとか本来の目的である生徒会の買い物を果たした俺と一色は今は駅前にいる。

 

本来の目的の為の買い物より一色の私的な買い物(ワンピースやらマフラーやら)の方が多いのは何故だろうか?

というか・・・生徒会関連の荷物って多くないよな?

一色一人でも軽く持てちゃうくらいだ。

一色はもしかして最初からこのつもりだったのだろうか・・・

 

 

なんて訝しげに一色を見ていると当の一色が恭しく口を開く。

 

「先輩、今日はありがとうございました。」

 

そんな恭しい様子の一色を見ていると彼女を訝しんでいた俺が悪い事をした気になるのは何故だろうか?いや、俺は悪くないはず・・・だよね?なんか不安になってきたんだが・・・

 

「いや、まぁ、なんだ。疲れたけど気にするな」

 

予定していた時間より遅くなってしまったのは俺の予定的にアレだが、なんだかんだで俺も楽しんでいた気がするしな・・・嫌なら途中で『トイレ行くわ』とか言ってそのままフェードアウトしていたまである。いや、そこまで無責任な事はしないけどさ。まぁ、それほどの気概って事だ。

 

「その一言がなければ少しは先輩にときめいていたんですけどね・・・疲れたとか言わないでくださいよ・・・」

 

一色はいつものようにあざとく、ぷくっと頬を膨らませ不満気に口を尖らせるが、何か可笑しいな事があったのか尖らせていた口を緩めるとふっと笑みを浮かべる。その笑みにあざとさは感じられず、素の彼女が垣間見れた気がした。

 

「でも・・・疲れたとか言いつつなんだかんだでここまで付き合ってくれた辺り先輩はズルいというかあざといですね」

 

あざとマスターの一色からあざといと言われる日がくるとは・・・近い将来あざといぼっちマスターに昇格するのかもしれないな・・・あざといぼっちってなんだよ・・・ウケる!いや折本ですらウケないな。少なくともあざといのは俺ではなく一色と小町で十分事足りる。

 

「あざとくねぇから・・・素だから・・・ってか大丈夫か?」

 

改札口にある電光掲示板を見ると一色が乗るであろう電車の到着時刻が迫っている。

 

「へ?あぁ~、そろそろ行かないとですね。先輩は名残惜しくて堪らないとは思いますが」

 

「いや、別に」

 

「むっ、相変わらずつれないですね先輩は」

 

むっとした表情だが、どこか楽しそうに言うと一色は改札口に向かって歩き始める。

 

「ではでは、また明日学校で」

 

「あいよ、明日な。気をつけてな」

 

ばいばーいと言わんばかりに手を振ると一色は改札口を通りホームに向かう。そんな彼女の背中が見えなくなるまで見送ると、俺は家路に向けてペダルを踏み込み駅を後にした。

 

 

 

 

 

夜の街並みを進む。

 

そんな中思い返したのは

 

 

 

 

 

『明日からお昼ご一緒してもいいですか?』

 

 

 

『クラスで居場所がないのは私も同じですから』

 

 

 

 

 

『・・・冗談です』

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が変わらない日常を過ごす中であった彼女の微かな変化・・・   

 

今心身ともに寒さを感じるのは冬の夜のせいだろうか・・・ 

 

そんな事を思いつつ家路に向けて独り夜道を進みのであった。

 

 

続く



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