異次元からの贈り物 (橘花)
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異変

1941年8月1日 アメリカは侵略国に対し石油輸出全面禁止を命じた。

 

石油や鉄類、工作機械など70%以上をアメリカに依存していた日本にとって致命的な経済制裁を喰らわされた。

 

之により、軍部の南進論を唱えるものを筆頭に開戦派が力をさらに付け始めた。

 

9月6日 御前会議

 

「対米交渉は10月上旬までとする。これまでに終わらない場合、英・蘭・米に対して開戦を決定する。」

 

陛下出席の御前会議にて対米交渉最終決定がなされた。

 

同日 大本営

 

「陛下は遂に交渉への最終決定を下した。我々としては陸軍の援護が殆どの役目であろう。」

 

そんな時、慌てて会議室に入ってきた者がいた

 

「たっ、大変です!。四国の沖5キロに突然島が出現したと連絡がありました!!」

 

突然の報告で戸惑ったが、呉に駐留する海軍と陸軍が調査の為に付近を閉鎖して上陸した。

 

-四国沖 謎の島-

 

「なんなんだここは?」

 

先ず上陸して一番初めの感想がこれである。なにも無い。あるのは目の前に広がる森だけだった。

 

陸軍と海軍は別々になって島の中に入っていった。

 

先に海軍が大きな飛行場を見つけた。しかも、そこの滑走路には巨大な航空機が駐機されていた。

 

「なっ、これは一体?」

 

見るからに奇怪な形。機体上面には主砲と思しき砲がある。

 

「この機体は?それに何故主砲がある?」

 

海軍は皆疑問に思う。なぜなら航空機に戦艦の主砲を搭載するなど聞いた事が無いからだ。

 

「長官、これは一体?」

 

長官と呼ばれる大将の階級章を付けた海軍軍人。そう、この人こそ日米開戦に最後まで反対した連合艦隊司令長官、山本五十六大将である。

 

「分からないが、かなりの技術力だ。技術大国の独逸でもこんな航空機は作れないだろう。」

 

機体は赤く塗装されており、国籍マークは見た事もない物である。

 

「とにかく、後でこの機体は技術獲得のために一度分解するからこのままにしておこう。」

 

そう言って飛行場を離れた。

 

暫く歩くと今度は港があり、そこには多数の艦艇が停泊していた。しかも、見た事もない兵装で尚且つ巨大である。

 

「一体誰がこんな物を?」

 

悪ふざけにしてはやり過ぎであり、冗談にも見えない巨大艦艇が目の前に存在していた。

 

「これでは大和の威厳はどうなるんだろうか?」

 

日本の誇る世界最大の戦艦は目の前の艦艇と比べたら巡洋艦クラスに見える。

 

「とにかく、これらも後で調査するからこのままにしておこう。」

 

港を離れようとしたとき、山本の従兵の秋水一郎1等水兵が来て

 

「長官、この島に人間が居り、怪しい格好をしていた為捕まえようとしたんですが、逃げようとしたので殴って気絶させました。今は長門の営倉の中にいます。」

 

「君等は人を殴るのが趣味か?」

 

山本は急いで長門へと向かった。



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事実と決断

目の前に白い空間が広がっていた。

 

「こっ、ここはどこだ?」

 

そこに立つ青年。周りは白い壁が見え始め。

 

「一体どうしたんだ?」

 

青年はただ周りを見て不安になる。そこで目の前が暗くなり目が覚めた。

 

 

-連合艦隊旗艦 戦艦 長門  艦内営倉-

 

「ここは?牢屋?」

 

ドアは鉄製であり、いかにも破れないようになっている。

 

(俺、何かやったのかな?)

 

青年は疑問に思うが

 

「お目覚めですか?」

 

突然女性の声がして、青年は振り向いた。

 

「あなたは私が見えるんですか?」

 

「え?君は一体?」

 

「私は現連合艦隊旗艦戦艦『長門』の艦魂『長門』です。」

 

その少女は18歳くらいの如何にも日本人女性を思わせる体格である。髪は後ろで一つに纏めており、とても長い。目は黒色で特に変な点は無い。

 

「艦魂て、何?」

 

「艦魂とはその艦に宿る魂の事です。特定の人間にしか見る事もできず、触る事や声も聞く事ができません。」

 

(じゃあ、俺はその特定の人間なのか?)

 

そこへ牢屋の扉が開いた為、青年は扉の方を見る。

 

「目が覚めたようだな。すまないね、長門も確り見ていてくれたんだね。」

 

「はい。山本閣下。」

 

(山本?どこかで聞いた名だな。)

 

青年はそう考えていると。山本と呼ばれている人物は

 

「君。名前は?」

 

「斉藤(さいとう)次郎(じろう)です。」

 

「斉藤君。すこし来てくれないか?長門も」

 

「はあ。分かりました。」

 

そう言って山本を先頭に斉藤、長門の順に長官室に案内された。

 

 

 

-戦艦 長門 艦橋部長官室-

 

「さて、自己紹介が遅れたね。私は山本五十六。現在は連合艦隊司令長官をしている。」

 

(やっぱり、この人はあの山本長官だったのか。)

 

「まずは、何故この島にいたのかね?そして、この島は何なのかね?」

 

「この島の事は知りません。私は東京から大阪に向かう新幹線に乗っていたら、突然列車ごと白い空間に入りまして、気づいたらここに。」

 

「なるほど。新幹線とは列車と解釈して宜しいかね?」

 

「はい。ところで、今は昭和何年ですか?」

 

「昭和16年9月6日だが。それが何か?」

 

「9月6日!!」

 

斉藤は突然大声を出した為、近くにいた長門と山本は耳を抑える。

 

「なっ、何なのかね?」

 

「すみません。しかし不味い事になりました。この年の12月8日、日本海軍は米太平洋艦隊の母港である真珠湾を攻撃し、日本とアメリカは戦争に突入しました。」

 

「なっ!」

 

「ほっ、本当かね?」

 

長門と山本は驚く。

 

「結果は長官の予想通り。始めは勝ち続けますが、最後は日本本土一面が焼け野原に変わります。」

 

それを聞いて長門と山本は愕然とする。

 

「そっ、そんな。艦は?艦はどうなるの?」

 

「君を除いて戦艦は全滅。君は戦後に水爆実験で沈没。空母は軽空母が数隻残るだけ。他も、殆どの艦艇が失われる。」

 

長門はビキニ環礁で行われた水爆実験で生涯を終える事を聞き、ショックを受ける。

 

「どおせなら、艦隊決戦でみんなと一緒に沈みたかった。」

 

「残念だけど、もう艦隊決戦は起こらない。あっても、戦艦が本格的に撃ち合う艦隊決戦は少ない。」

 

「では、みんなは何故沈んだのですか?」

 

「航空機にやられた。そこに居る山本閣下ならお分かりでしょう。」

 

「確かに、今後も進化し続ける航空機ではそれも可能だと思うが。」

 

「これからは航空機の時代になってくる。今の戦艦では対応できない。早急に戦艦に対空火器を充実させる必要があります。」

 

「しかし、今の航空機の真価を分からない軍令部や艦政局の連中を説得するなど無理だ。」

 

「そこで、私も説得できるようお手伝いします。」

 

「では、協力してくれるのかね?」

 

「はい。」

 

「君の居た時代がもし変わってしまってもかね?」

 

「私の居る時代の日本は腐っています。戦後、GHQの戦後政策。今の日本人が魅せられている偽りの平和。この時代の神である陛下は戦後では象徴。何も出来ない軍隊の代わり。無能な国会議員で汚職多数。なによりも国民は愛国心が無く、国際協調心が無く他人任せ。おまけに貴方方の時代の軍人は嫌われ者。他にも多すぎて限が在りませんが、私の時代の日本に何の未練もありません。」

 

 

長門も山本もこの話を聞き、

 

「では、戦争で死んでいった者は?」

 

「報われていません。貴方も昭和18年4月18日にブーゲンビル島上空で戦死します。」

 

自分の死ぬ日付を聞き、ショックを受けると斉藤は思ったが

 

「それは構わない。軍人は死ぬことが仕事だからな。ただ、君の話を聞く限りでは死んで逝ったものは何の恩給も無く、嫌われ者。それでは意味が無い。別に報われたいからという訳ではないが、それは守るべき国ではないな。」

 

以外にもショックは受けなかった。その上、斉藤の言っている事を信じてくれた。

 

「あのー、私は?」

 

「すまない、長門。少し席を外してくれないか?」

 

「はい。では私は戦艦の艦魂を連れてきます。」

 

そう言って突然光に包まれ、長門は消えた。

 

「え?長門は?」

 

「瞬間移動だよ。ところで斉藤君。」

 

「はい?。」

 

次に聞かされた事は意外な言葉だった。

 



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簡単な自己紹介

その日、斉藤は山本の言葉を思い浮かべながら長門の寝室に就いていた。

 

-数時間前-

 

「君が私の部下と言う事で作戦に協力してほしい。」

 

「へ?」

 

「私は君の言うとおり航空機の真価を理解しているつもりだ。だが、先程も言ったとおり軍令部や大艦巨砲主義を固める旧勢力は私の説得など一切応じようともしない。」

 

「はあ。」

 

「そこで、君を新第一機動部隊司令長官に私自らが任命する。すなわち、君の言う真珠湾攻撃を君自身で完遂してほしい。」

 

「え?」

 

来て間もない人物に世界最強の機動部隊指揮官に任命するのもどうかと思うが、山本自身は本気であった。それは、この作戦で新たに航空機の時代が来る事を旧勢力の連中に見せ付けるのが狙いである。

 

「しかし、私は艦隊指揮どころか艦隊勤務自体無いのですよ。そんな私を艦隊指揮官に任命するのはどうかと。」

 

「心配は無い。山口君は話が分かる人間だ。南雲君は分からないが、君なら十分やれると私は思う。」

 

「しかし、司令長官を勝手に決めるのはあまりよろしくないかと。」

 

「なら君を航空参謀に任命するかね?」

 

「いえ、海軍に籍を置かない私を艦隊勤務にさせるのがどうかと。」

 

「そうかね?君は艦隊勤務の経験があるように見えるが、その潮の香り、それにこの艦に乗ってから一度も潮臭いと言っていない。」

 

「!。」

 

実は斉藤は海上自衛隊で4年間洋上勤務をしており、全く経験の無い訳ではなかった。

 

「分かりました。第一機動部隊を預からせて頂きます。」

 

斉藤は観念して山本の命令を聞く、丁度その時に長官室の扉が叩かれる。

 

「入っていいぞ。」

 

山本がそう言うと、扉が開き、先程出て行った長門とその他艦魂らしき少女が入ってきた。

 

「貴様が長門の言う斉藤か?確かに変わった服装だな。」

 

「あっ、あのう、君は?」

 

「おお、すまない、私は戦艦金剛の艦魂「金剛」だ。よろしく。」

 

「ああ、よろしく。」

 

金剛と握手をする斉藤は

 

(なるほど、やはり英国生まれだけあって目は日本の目ではないな。)

 

金剛の目の色は青であり、英国で生まれた事をあらわしている。

 

「ん?長門。そちらの艦魂は誰かね?」

 

扉の近くにいた数名の艦魂はこれまで山本が見た事もない艦魂であった。

 

「ああ、彼女等はあの島に停泊している艦の艦魂だそうよ。ええと、名前は。」

 

長門は名前を思い出そうと考えるが、扉の近くにいた中の1人が前に出て

 

「私はウィルキア帝国本国艦隊のヴォルケンクラッツァー2よ。」

 

「ウィルキア帝国?そんな国名は知らないぞ。」

 

「私達も大日本帝国なんて知らないわよ。尤も、私達は戦争するなら何処へでも協力するしね。」

 

「戦争しかする事が無いのかよ?」

 

「私達は兵器よ。兵器は戦争以外で存在意義があるわけ無いじゃない。」

 

「君は可哀想だよ。戦争でしか自分を表現できないなんて。」

 

「なっ、なんですって!!」

 

ヴォルケ2は怒った表情で殴りかかろうとするが、手を止められる。

 

「落ち着いてくださいお姉様。確かにこの者の言う事にも一理あります。」

 

「なっ、ヴォルケ。あなた、姉の私に逆らうの?」

 

「だから落ち着いてくださいと言っているのです。ここでいがみ合っても仕方がありません。」

 

「それはそうと、君は?」

 

ヴォルケと呼ばれる艦魂はヴォルケ2の手を止めながら。

 

「私はウィルキア帝国本国艦隊のヴォルケンクラッツァーです。今貴方に殴りかかろうとした人の妹です。」

 

(なんで冷静な方が妹なんだ?生まれてくる順番間違えたとか?)

 

斉藤はそう思う始末である。

 

他の艦魂も止めに入って、何とか事無きを得た。そして、各艦魂の簡単な自己紹介をして自艦へと戻った。

 

「では長門。斉藤君を寝室に案内してあげなさい。」

 

「分かりました長官。斉藤さん、此方へどうぞ。」

 

そう言って長門の案内を受けて、今に至るわけである。

 

 

 

-最初の時系列に戻る-

 

「明日から大変だな。まあ、楽しい時間を過ごせるのも今だけだろう。」

 

9月6日。運命の開戦まで残り三ヶ月と二日である(日本時間で)



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島の真実

次の日。長官室に呼ばれた斉藤は戦艦と空母の艦魂が見守る中で

 

「斉藤君。本日を持って君を海軍中将に任命する。これを持ち、君を第一機動部隊司令長官を命じる。回避不能となった日米開戦に備えて君の知識を存分に生かして、焦土となるこの国の運命を変えてください。」

 

「ありがとうございます。第一機動部隊司令長官の任、確かにお受けしました。」

 

そう言って斉藤は命令書を受け取る。そこへ4人の艦魂が来て

 

「おめでとうございます斉藤中将。私は第一機動部隊旗艦の赤城です。」

 

赤城は後ろで縛った髪を手で抑えながらお辞儀をする。

 

「よろしく斉藤中将。私は第一機動部隊所属の加賀だ。」

 

加賀は腰に軍刀を挿していて、目の色は純粋な日本人とは違い少し赤みを持っている。

 

「同じく第一機動部隊所属の飛龍だ。しかし、いきなり中将になるとは。ま、これからもよろしく頼む。」

 

そう言って飛龍はお辞儀をする。

 

「私は蒼龍。同じく第一機動部隊所属です。」

 

蒼龍は眼鏡を掛けており、手には1冊の本が握られている。

 

「よろしくお願いします。」

 

斉藤は全艦魂に向かってお辞儀をする。

 

そこへ光が現れて、ヴォルケ姉妹が出てきた。それにまだ知らない2人の艦魂も一緒である。

 

「あのー、そちらの2人は?」

 

「初めまして斉藤さん。私は氷山空母の艦魂ハボクックです。」

 

「私は超巨大航空戦艦ムスペルへイム。なるほど、貴官がヴォルケ2の言う斉藤か。まあ、そんな訳だからよろしく。」

 

そう言って2人はお辞儀をする。

 

「あっ、ああ、よろしく。ところで君達はあの島が何なのか分かるのかい?」

 

斉藤は4人の艦魂に聞く。するとヴォルケ2が前に出て。

 

「付いて来て。」

 

そう言って4人は長官室にいる山本、斉藤。さらには艦魂らも巻き込んで瞬間移動する。

 

 

暫くして斉藤は目を覚ます。

 

「こっ、ここは?」

 

周りを見ると数人の艦魂はまだ気絶しており、山本大将と残る数人の艦魂は目を覚ましていた。

 

「一体ここは何処かね?」

 

「ドックの中みたいですが。」

 

クレーンや造船用の台座。間違いなくここはドックである。

 

 

「気が付いた?」

 

そこへ先程瞬間移動をした4人が来た。

 

「瞬間移動した瞬間に気絶するからビックリしたわ。」

 

「それよりもここは?」

 

「見てのとおりドックよ。しかも、凄いね。」

 

「凄いって?」

 

「まあ見てて。」

 

そう言ってヴォルケ2は1枚の紙を出し、何かを書いてからその紙を機械の中に入れる。

 

「何をしたんだ?」

 

「静かに見てて、時期に分かるから。」

 

その時、気絶していた残りの艦魂も目を覚ます。

 

「こっ、ここは?ドック?」

 

長門は目を覚まして何故自分がここにいるのか理解が出来ない。だが、目の前の光景の方が理解できないものである。

 

「なっ!こっ、これは!?」

 

いつの間にか目の前に巨大空母が出来上がっていた。

 

「馬鹿な!。こんなにも早く空母が出来るわけが。」

 

通常正規空母1隻造るのに約3年位は掛かる。だが、目の前の空母は僅か1分足らずで出現した。

 

「一体どうして?」

 

「私達ウィルキア帝国はこのドックを発明してから世界各国に戦争を挑んだの。この他にもこの島に軍需工場があるから使ってみればいいわ。」

 

ヴォルケが言うにはどんな無茶苦茶な物でも出来る。その上、実践でも奇跡に近い不可能な事も出来るようである。

 

「すっ、凄い。これがあればアメリカに物量作戦を挑める。」

 

斉藤は興奮するが、山本は

 

「しかし、資源にも限界があるのでは?」

 

「心配ないわ。資源は一切必要なしに建造してくれるし、生産もしてくれる。燃料も私と同じ原子力機関だから必要ないわ。」

 

「原子力機関?」

 

「ああ、それはですね。」

 

斉藤は原子力機関について簡単な説明を行う。

 

「確かに凄い。それでは正に無敵の艦隊ではないか。」

 

「とりあえずこの空母は如何しますか?」

 

「あとで進水式だ。その前にこの事を伝えなくては。」

 

「では長官。長門へ帰りますね。」

 

そう言って山本は長門の力で瞬間移動し、急いで帝都東京へと向かった。

 



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開戦への道

山本は長門に戻ると急いで呉航空基地に向かった。そこで零式輸送機に乗り、一路帝都へと向かった。

 

「長官。そこまで急いで如何するおつもりで?」

 

「良いから急いでくれ。一刻も早く陛下にお伝えしなくては。」

 

それを聞いたパイロットはスロットルを全開にして全速力で帝都へと向かう。そして、飛行場にて車に乗り換えた山本は皇居へと向かった。

 

 

-帝都 皇居-

 

「山本さん。そんなにも急いで何の用ですか?」

 

出迎えたのは木戸幸一内大臣である。

 

「木戸さん。陛下はいらっしゃいますか?」

 

「ええ、居りますが。そんなにも急いで何用ですか?」

 

「一刻も早く陛下に伝えなければなりません。お会いさせてください。」

 

「少しお待ちを。」

 

そう言って木戸は皇居の竹の間に入っていった。暫くして木戸が出てきて

 

「20分だけならお会いできるそうです。」

 

木戸が山本を入れると、自分は外に出る。

 

 

-皇居 竹の間-

 

本来の竹の間で日本人が入れるのは政府関係者位だが、今回は特別に山本を招きいれた。

 

「陛下。緊急事態が発生しました。」

 

「うむ、聞いておる。あの島の事だね?」

 

「はい。あの島は我々が想像していた以上に危険なものです。あれを開戦派の連中に見せたら恐らく」

 

「朕もそれには危険を感じておる。しかし、陸軍はもはや開戦へと動き出しておる。その流れを朕が止めれば、皇居内の者全員が暗殺されかねない。」

 

「勝利。もはや日本はそれしか残されておりません。確かに列強国はアジア全域に植民地を持っており、中国を市場化しようとする陰謀があります。我々は、そんなアジアを列強からの開放。それだけを考えて戦います。」

 

「それで、もし開戦すればいつまで勝ち続けられますか?」

 

「よくて半年。ですが、あの島を使えばいつまでも勝ち続ける事は可能です。」

 

「どうか、日本を戦禍から救ってくれる事を祈りたい。」

 

「私も全力を尽くしたいですが、私は常に暗殺の危険のある身です。陛下のお役には立てないかと。」

 

「山本さん。平和を願う気持ちは貴方も持っていると思っています。貴方は開戦に反対し続けてくれました。朕は感謝しております。」

 

「陛下。」

 

「先程も言ったように、朕達はもはや開戦は避けられない立場にいます。アジア開放。それだけを目標にして下さい。決して戦争は侵略するものではありません。」

 

「分かっております。」

 

そこへドアが開いて

 

「山本さん。そろそろ」

 

木戸が中に入ってきた。

 

「すみません。では陛下、私はこれで」

 

そう言って山本は今上天皇に一礼をして出て行った。



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開戦への歯車

11月26日  運命の開戦の歯車は遂に動き出した。

 

再編成された日本第一機動部隊(空母7隻、超兵器2隻を含む)はハワイを目指し、択捉島の単冠湾(ひとかっぷわん)を密かに出撃した。

 

 

艦隊編成

 

総司令官  斉藤次郎中将   旗艦 赤城    

 

 

第一航空戦隊 赤城  加賀  関鶴(謎の島のドックで造られた1番艦)

 

 

第二航空戦隊 飛龍  蒼龍    (司令長官 山口多門少将)

 

 

第三航空戦隊 鳳翔 瑞鳳  駆逐艦 三日月 夕風 

 

 

第四航空戦隊 龍譲  春日丸

 

 

第五航空戦隊 翔鶴  瑞鶴  (司令長官 原 忠一少将)

 

 

特別戦隊   ハボクック ムスペルへイム

 

 

第三戦隊   金剛  榛名  比叡  霧島  (司令長官 三川軍一中将)

 

 

第四戦隊  高雄 愛宕 鳥海  摩耶

 

 

第七駆逐隊 曙  潮 漣

 

 

第二三駆逐隊 菊月 夕月 卯月

 

 

民間から大型の高速タンカーを9隻徴用して編成された大規模機動部隊が出撃した。また、謎の島のドックで空母は全てカタパルト装備、特別戦隊の艦載機は無人機など時代を超えた装備もされている。

 

 

「赤城。遂に私たちは悪魔の引き金を引く事になるんだね。」

 

斉藤は隣に立っている赤城に声をかける。

 

「はい。私としてはまだ開戦すべきではないと思います。しかし、国がそう決めたのならば私はそれに従います。それが私たちの使命であり、義務であるからです。」

 

「それを聞くと救われるよ。史実については知っているね?」

 

「ええ。たしか、私たちは攻撃したのはいいけど空母はいなくて、おまけに奇襲扱いを受けるんですよね?」

 

「ああ、だから山本長官には開戦文書提出はアメリカ東部時間の11時に通達するようにと伝えてある。そうすれば、少なくとも不意打ちの汚名は着せられることはないでしょう。」

 

「マレーの方は大丈夫なんでしょうか?」

 

「大丈夫だよ。伊勢や日向などの古参の艦艇とはいえあのドックで改装したんだ、性能は新鋭戦艦にも劣らないよ。」

 

「そうだといいけど。」

 

「心配しなくても大丈夫だって。それよりもこの作戦を成功させることだけを考えよう。」

 

「そうね。」

 

そう言って赤城は艦橋を後にする

 

 

12月1日  御前会議にて史実どおり開戦決定が下される。

 

12月2日

 

 

「長官。大本営から電文です。」

 

通信参謀が持ってきた電文を読み

 

「ニイタカヤマノボレ1208か。」

 

そして斉藤は艦橋にいる(もちろん赤城を含めて)全員を見渡して

 

「開戦は12月8日に決まった。」

 

開戦への歯車は留めることは出来ず、開戦決定。史実どおり日本は地獄への門を開けたのか、それとも未来からの日本人と超兵器によって救われるのか。開戦はまだ起こっていない、戦いの行方はまだ誰にもわからない。

 

 



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真珠湾は艦の墓場 前編

12月6日  ワシントンD.C.  ホワイトハウス

 

大統領のフランクリン・デラノ・ルーズベルトは閣僚等を集めた会食の場で

 

「諸君。いよいよ念願の日米開戦だ。明日に日本軍は攻撃を開始すると掴む事が出来た、待ちに待った第二次世界大戦の参戦日となるだろう。」

 

大統領は会食の場でこう宣言した。

 

 

12月7日   東部時間午前11時   外務省

 

「これは?」

 

内務大臣のコーデル・ハル国務長官は日本の全権大使である野村吉三郎が提示した宣戦布告文書を見て驚愕する。

 

「日本政府から、アメリカ合衆国に対する宣戦布告です。我が帝國は永年の横暴を見て、アメリカ合衆国に対して宣戦布告を表明します。」

 

「我々はモンロー主義(孤立主義)で参戦をしていないだけです。」

 

「あのハル・ノートを見てアメリカは日本との戦争を望んでいるもの以外考えられません。」

 

「それは日本が中国から手を引かないからでしょう。」

 

「アメリカは国民党以外の政府を認めないという横暴な文書を渡すからです。」

 

「資本主義は何にでも優れる主義です。社会主義などは認められません。」

 

「それが横暴だというのです。何故、他の主義を認められないですか?貴方方は資本主義や民主主義が全て勝ると思っているんですか?」

 

「勿論です。民衆の意見を反映してこそ政府、資本のある者が力を握れるのが資本主義。世の中の当然の事です。」

 

「分かりました。貴方方には何を言っても無駄なようです。とにかく、宣戦布告文書は渡しましたよ。」

 

「後悔しますよ。」

 

「どうだか。」

 

そう言い残して野村は外務省を後にする

 

 

 

-ハワイ 北方220海里-   

 

「ここまで接近に成功しましたね。」

 

「ああ、そろそろ攻撃隊も発艦できるだろう。」

 

現在甲板では発艦前の最後のチェックを行っていた。

 

「源田中佐。士気の方は大丈夫だね?」

 

斉藤は隣にいる航空参謀の源田実中佐に聞く

 

「勿論です。皆、この作戦の為に備えてきたのです。全員健康で士気も十分、申し分ない位です。」

 

それを聞いて赤城も笑みを浮かべるが、少し暗い表情になって

 

「斉藤さん。彼等は何人帰ってきませんか?」

 

「一応史実では29機、55人が戦死したけど。今回は史実以上の大戦力で来たからどうなるか。」

 

「そんな。彼等はそんなにも帰ってこれないの?」

 

「ああ、残念だけど。」

 

そこへ伝令兵が来て

 

「各空母から入電。第一次攻撃隊は発艦準備完了、出撃求む。」

 

「通信参謀。出撃命令を各空母に伝達。」

 

それを言って斉藤は赤城を見る

 

「大丈夫だよ。彼等は生きて帰ってくるから。」

 

「うん。」

 

 

 

-飛行甲板-

 

「総大将。これは整備員からの贈り物です。真珠湾までお供させてください。」

 

整備長が乗機に乗ろうとする淵田中佐を見つけて整備員全員で書いた『必●勝』の鉢巻を渡そうとする。

 

「分かった。貴様らの分も真珠湾に行って敵艦船を沈めてきてやる。」

 

そう言って淵田中佐は鉢巻を受け取り、頭に巻いた

 

『第一次攻撃隊、発動機始動!!』

 

マイクから指示が出て、全機がエンジンを掛けてプロペラを回す

 

『発艦始め!!』

 

今、歴史に残る戦場へ海鷲達は赴こうとしていた。

 

 

-飛龍 飛行甲板-

 

「頼むぞお前たち。必ず真珠湾に居る艦艇を全滅させてくれよ」

 

飛龍は飛び立っていく航空隊を見てそう言った。そこへ加賀が現れて

 

「そっちはいいか?」

 

「ああ、絶対に敵艦艇を全滅させてもらうよ。」

 

「もちろんだ。この作戦は敵の戦艦と太平洋艦隊を最低1年近くは行動不能に追い込むことだ。もちろん戦艦は全滅させるがな。」

 

「空母の方は?」

 

「見つけたら沈める。だが、主目的ではない。」

 

史実では米空母の全滅が主目的だが、今回はあくまでも戦艦の全滅と太平洋艦隊を1年近く行動不能に追い込むことであり、空母はおまけの意味があった。

 

「では、私はこれで。」

 

加賀は光に包まれて、自艦へと戻って行った。

 

 

-第一次攻撃隊隊長機  淵田機-

 

「隊長、あれを。」

 

真珠湾が見えてきて操縦手は偵察員席に座る隊長に伝える。

 

「よし、通信手。母艦にト連送だ。」

 

「了解。」

 

ト連送。すなわち全軍突撃命令を打電する。これは内地にて待機している長門にも受信された。

 

-長門-

 

「長官。第一次攻撃隊の突撃命令を受信しました。」

 

山本は目を開いて

 

「よし、本艦隊も出撃する。急ぎ、中部太平洋とミッドウェーに進出せよ。」

 

山本の艦隊は戦艦2隻を含む艦隊であり、エンタープライズとレキシントンの撃沈命令を下していた。

 

 

-淵田機-

 

「隊長、敵機は真珠湾上空には居りません。それに此方の接近も探知している様子はありません。」

 

淵田は双眼鏡で確認するが、やはり敵機は確認できなかった。それに停泊している艦艇も日曜のためのんびりしている。

 

「敵さんは戦争が始まっていると分かっているのか?」

 

「分かっていてもこんな所を攻撃されるなんて思ってもいないんでしょう。」

 

「確かにな。母艦に打電、『トラ・トラ・トラ』だ。」

 

「了解。」

 

トラトラトラ、すなわち我奇襲に成功せり。



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真珠湾は艦の墓場 後編

-真珠湾-

 

この日、アメリカ軍は普段通り軍艦に国旗の掲揚式を行っていた。そして、盛大に国歌が演奏されている最中に

 

「何なんだ?」

 

「こんな朝っぱらから飛行機が何故飛んでいるんだ?」

 

演奏している者もつい飛来した航空機に目をやってしまい、演奏に集中出来ていない。だが、その中の何機かは低空に侵入して

 

「攻撃用意。・・・・・撃ー!」

 

97式艦功から改良を加えた特殊航空酸素魚雷が切り離された。投下した機体はそのまま艦艇の真上を通り過ぎる。

 

「何かしらあれ?」

 

艦上では魚雷が接近していることに気づかないネバダの艦魂であるネバダがいた。

 

「でもあの機体は日本軍機?」

 

ネバダは艦艇の間を縫うように飛ぶ航空機の機体を見て言った。だが、突然接近してきた魚雷がネバダの左舷に3本突き刺さった。

 

「きゃあああ!!」

 

魚雷の命中と同時に左脇腹から盛大に出血する。この戦争において、最初に攻撃を受けた艦という不名誉な名を付けられてしまった。

 

「命中!!。」

 

魚雷の命中を見届けたパイロットは

 

「母艦へ『我、大型艦の雷撃に成功。効果甚大なり。』」

 

 

 

-赤城-

 

「そろそろ攻撃を始める頃だが。」

 

斉藤は時計を見て言ったら

 

「長官。攻撃隊が雷撃に成功し、艦艇は損傷を受けたようです。」

 

伝令兵が来て報告した。それを聞いた赤城は

 

「まずは第一陣は成功ですね。」

 

斉藤は伝令兵を下がらせてから

 

「ああ、あと数分で第二次攻撃隊も出撃する。」

 

「ええ、貴方に聞いた史実どおりになるかどうか。」

 

「さあね。ただ、山本長官も動いている。今頃はハルゼーのエンタープライズ捜索に躍起になっている頃だろう。」

 

斉藤の言うとおり、山本の艦隊は中部太平洋に居るエンタープライズの捜索を行っていた。

 

 

-ヒッカム飛行場-

 

ここにも日本軍機が殺到。他のオアフ島にある全ての飛行場にも真珠湾攻撃時刻と同時に殺到し、地上にいる航空機を破壊し続けた。

 

「ジャップめ、これでも喰らいやがれ。」

 

米兵は飛行場に配備されている火砲で応戦し、数機が炎上して撃墜される。だが、応戦の準備に入った所から制空隊に発見されている為、長くの反撃は出来ずに機銃の餌食となって終わった。

 

「早く航空隊を上げろ!!。急げ!!」

 

飛行場は配備されているP-40のエンジンを掛けて迎撃させようとするも、空を縦横無尽に駆け巡る制空隊の攻撃をかわしながら離陸など不可能である。たちまち滑走路上で破壊されて、滑走路を塞いでしまった。

 

 

 

第一次攻撃隊は帰還の任に着き、続く第二次攻撃隊が休む間もなく殺到する。

 

この時は既に飛行場の航空機は殆どが破壊されて、湾に居る艦艇も入り口を運悪く出ようとしていた大型タンカーを沈められてしまい、湾から脱出が出来ない状況であった。

 

「第二次攻撃隊突入。目標は残った航空機と艦艇だ。」

 

幾つかの隊に分かれて、それぞれの目標に向かう。艦艇の大型艦は既に損害を受けており、目標は主に小型の工作艦や、湾に居る軽巡などの小艦艇まで狙われる。

 

「く、ううう。」

 

傷だらけのオクラホマの艦魂であるオクラホマは傷む足や腕を抑えて、最後の力を振り絞って立ち上がった。

 

「うう、アリゾナ。」

 

一番仲が良かったアリゾナは日本軍の攻撃で轟沈するという事になってしまった。大型艦は大破、着底している、良くても、大火災を起こしている。既に、そこに居る太平洋艦隊は戦闘力を失い、ただ、遣られるだけの存在になってしまっている。

 

「畜生。ジャップの奴らは攻撃をやめる気がないのかよ!?」

 

沈み始めて、喫水線下が露にされたオクラホマも日本軍の攻撃対象にされ、更に攻撃を受ける。艦魂のオクラホマはあまりの攻撃の痛みと、ショックで気絶している。それでも攻撃は止む所が無い。

 

 

 

-赤城-

 

「山本さんはエンタープライズを撃沈できたようですね。」

 

通信室から戻ってきた斉藤は艦橋に居る赤城に伝えた。

 

「やりましたね。これで残るはレキシントンだけ。」

 

「ああ。」

 

斉藤はそう返事をした後

 

「航空参謀。第二次攻撃隊の様子は?」

 

斉藤に言われて、航空参謀は報告書を持って

 

「は、攻撃は成功です。総出撃数420機中、未帰還38機のみです。」

 

出撃数が増えたのにこの損害の増え方は正解といえよう。なにせ斉藤は50機は越えると予測していたのだから。でも、熟練搭乗員を失った事に変わりは無い。

 

(今後の作戦に影響が無ければいいが。)

 

「分かった。残りは特別戦隊が行い、我々の内の第2航空戦隊とその護衛部隊はミッドウェーに行き、山本長官の艦隊を援護せよ。」

 

斉藤の指示で、山口少将は部隊を率いてミッドウェー方面へと向かった。ちゃんと、向かう前に山口少将は第三次攻撃を意見具申していた。

 

(流石は猛将と言われただけの事はある。攻撃精神も猛将に必要な程備わっているし、あれで熱くなり過ぎなければもっと良い指揮官に生れるのに。)

 

斉藤は山口が熱くなりすぎる事が玉にキズと言っている。

 

「斉藤中将、第三次攻撃隊の準備が出来たと特別戦隊から連絡がありました。」

 

「よし、直ちに出撃だ。」

 

命令を受けて、特別戦隊から無人攻撃隊が出撃する。

 



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塗り替えられた歴史 変われ、日本の歴史

無人攻撃機を特別戦隊が出撃させ、真珠湾へと再度攻撃に入った。無人攻撃機は通常の日本艦載機だが、高性能コンピューターで目標攻撃や操縦を行う時代を超越した超兵器である。

 

 

 

-真珠湾-

 

「畜生。ジャップの連中はまた攻めて来たぞ!!。」

 

「艦艇は湾から脱出できないし、もう終わりだよ。」

 

既に戦艦は着底しており、艦の一部が見えるだけとなっている。しかし、それすらも日本攻撃機は雷撃や爆撃、機銃掃射を始めた。

 

「ぎゃああ!!」

 

艦底に上っていた水兵が零戦の機銃掃射を浴びて死亡する。さらに容赦ない雷撃を横転したオクラホマが受ける。

 

「きゃああああ。」

 

既に瀕死の状態である艦魂のオクラホマが悲鳴を上げる。雷撃を艦の腹に受け、脇腹から更に出血をする。

 

陸に辿り着き、走って逃げる水兵等も機銃掃射を浴びて死亡する。まさにその光景は地獄絵図であった。飛行場も爆撃を受けて使用不能なところを再度攻撃に移り、反撃を出来ない兵等の頭上に機銃や爆弾の雨を降らせる。

 

大型艦はこの攻撃で完全に破壊され、史実では引き上げられて修理された戦艦も度重なる雷撃や爆撃で修復は不可能になった。しかし、徹底した作戦で民間人には一切の被害は出ていなかった。

 

 

-赤城-

 

「そろそろ攻撃が終了する頃だな。」

 

斉藤は時計を見て言った。

 

「まだ攻撃するお積りで?」

 

隣に立つ赤城が斉藤の目を見て聞いてきた。

 

「勿論だ、徹底的に真珠湾を破壊するよ。まだ司令部と燃料タンクを破壊していないし、浮いている艦だってまだある。」

 

そこへ通信参謀が入ってきて

 

「哨戒機より報告。本艦東に敵空母を発見、艦影よりサラトガと思われる。」

 

(やはり居たか。)

 

斉藤はそう思った。

 

「飛ばせる航空機は?」

 

「このときの為に雷装、爆装を終えて甲板に待機しております。命令さえあれば何時でも。」

 

「よし、直ちに出撃だ。」

 

斉藤はそう命じて、赤城に向き直った。

 

「大丈夫だ。まだ連中は生きていなくては困るからな。」

 

連中はいま飛び立った攻撃隊の事である。

 

「特別戦隊は攻撃隊の準備完了。」

 

航空参謀はそう伝えてきた。

 

「出撃。燃料タンクと司令部を破壊させよ。続き、第五次攻撃隊の準備を命じろ。」

 

第五次攻撃隊は残った艦艇と飛行場を再び攻撃することである。

 

 

 

-サラトガ-

 

「くっそ、いざ着いたらいきなり攻撃に晒されるとは。」

 

サラトガは日本攻撃隊の攻撃を受けており、駆逐艦6隻とサラトガの対空機銃では効果が無かった。

 

「迎撃隊は一体何をやっていた?」

 

「出撃したのは良いですが、日本の戦闘機は非常に優秀でして、全く歯がたたなかったようです。」

 

F4Fではゼロ戦には敵わない。しかも、2倍のゼロ戦に襲われたら逃げ回るだけで精一杯だった。

 

「左舷より雷撃!!」

 

「面舵一杯!!」

 

九七式艦攻から放たれた魚雷計3本の内2本が艦首に命中、浸水が発生し、速力は愕然と落ちた。

 

「よーし、艦爆隊は止めを刺せ。」

 

淵田中佐はそう命じると、待ってましたとばかりに上空待機していた九九式艦爆は急降下を始めた。

 

各機から投下された250kg爆弾はサラトガの飛行甲板に次々と命中。その中の幾つかは格納庫などの艦内部で爆発、炎上しながら真っ直ぐ航行を始めた。

 

「どうやら舵を破壊されたらしいな。」

 

それを見た雷撃隊は残った魚雷をサラトガの艦中央部に命中させる。さすがに合衆国最大の空母もこれには耐え切れず、徐々に傾斜を始めた。

 

「母艦に打電『我サラトガ撃沈。損害は3機のみ』」

 

完全に不意打ちを決めた日本軍機は未帰還機3機という少数の損害で済んだ。

 

 

-赤城-

 

「サラトガは沈みました。それに司令部と燃料タンクも破壊完了。しかし、少数の艦艇はまだ真珠湾に停泊中です。」

 

「分かった。第五次攻撃隊を出す。それと、念の為に第六次攻撃隊も準備しておけ。」

 

命令を受けて第五次攻撃隊は出撃する。

 

 

-真珠湾-

 

黒煙が昇り、人の目では目標を目視することが出来ないぐらいの状態である。しかし、無人機にそんな事は関係ない。到達と同時に爆撃と雷撃を開始、例によって零戦は兵を機銃掃射する。

 

「ジャップの奴等、一体どれだけ破壊すれば気が済むんだ!?。」

 

戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦の戦闘艦艇は全滅し、残っているのは工作艦だけとなっている。

 

しかし、それすらも攻撃対象に日本はしていた。工作艦と言えど、大改装すれば軽巡洋艦クラスの戦力には成りうる。すなわち、今後の為にも徹底的に真珠湾の艦艇を叩いておきたかった。

 

またしても工作艦が炎上する。もはや、太平洋艦隊は真珠湾には存在しない、あるのは無残にも遣られた艦艇が在るだけである。

 

「もう機銃も無い。一体どうして日本は攻撃するんだ!?」

 

次々と零戦の機銃掃射で海軍、陸軍兵が遣られていく。航空機も全滅させられ、既に真珠湾に脅威と呼べる戦力は存在していない。戦車も殆どが破壊され、軍用トラックやジープなども至る所で炎上している。

 

今、最後の工作艦が炎上し、沈んだ。

 

 

-赤城-

 

「偵察に飛び立った偵察機より報告。『真珠湾炎上中。敵戦力の存在確認できず。』だそうです。」

 

「分かった。ありがとう。」

 

斉藤は通信参謀にお礼を言い、赤城に向き直った

 

「これでアメリカは戦力を損失し、早くても1年半は作戦を展開できないだろう。その内に我々の進める南方作戦、インド洋進出を行わなくては。」

 

「ええ、これで私たちの仲間が失われることは無いのね。」

 

「ああ、そろそろ報告も入る頃だろう。」

 

時計を見ようとしたときに、艦橋に慌しく伝令兵が入ってきた

 

「ちょ、長官。山本司令長官より連絡あり、エンタープライズとレキシントンを撃沈。ハルゼー中将を捕虜にすることができました。」

 

「ハルゼーを?」

 

(史実では名台詞の『キル・ジャップ キル・ジャップ キル・モア・ジャップ』を言い続けた人物を捕虜にしたのだから彼も怒り心頭だろう)

 

斉藤は不敵な笑みを浮かべてそう思う。

 

「全艦へ、トラック諸島を目指して移動する。」

 

第一機動部隊の残った部隊はトラック諸島を目指した。飛龍と蒼龍はウェーク攻略を支援する為にウェーク島目指して向かった。



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マレー進撃作戦。シンガポール攻略  前編

真珠湾攻撃の第2次攻撃隊が出撃し終わった頃、マレー半島に龍譲丸以下の日本輸送船団が接近していた。これに、海軍の重巡「鳥海」を旗艦とする艦隊が護衛し、別働隊として史実の反撃を受けた上陸地点であるコタバルを艦砲射撃する戦艦「伊勢」を旗艦とする艦隊が先行していた。

 

「司令、『日の出は山形』。大本営からの電文です。」

 

マレー作戦の司令官は史実と同様に山下奉文中将である。

 

「日の出は山形か。閣僚等を集めろ。」

 

「了解しました。」

 

集められた各部隊の指揮官と参謀はそれぞれの椅子に座って山下中将の言葉を聞いていた。

 

「諸君、もうじき上陸の時間が来る。そこで、諸君等も知っての通りにシンガポールは難攻不落の大要塞として知られている。その為、海からではなく陸から攻めることが決まった。もちろん、海軍の支援を受けることにもなる。だが、問題は3つある。1つは敵の兵力はおよそ8万人、対して我々はおよそ3万だ。2つ目は、進撃途上に250以上の橋があり、破壊されるとそれだけ進撃が遅れる。3つ目は3月10日の陸軍記念日までに陥落させねばならない。普通の攻め方では9ヶ月くらいは必要だろう。だから、本作戦では突進、突進、更に突進。とにかく突進をしてマレー半島を南下する。戦車は振り返らずにただ突進させる。それしか手は無い!!。」

 

それを聞いた瞬間、閣僚等の目つきは変わった。全員が作戦に合意したことを示している。

 

 

 

マレー半島に接近し、各上陸に地点に輸送船団は近づいていった。既にコタバルでは戦艦部隊が砲撃を始めており、陸上砲弾やトーチカ破壊が殆ど完了していた。あのドックで「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」は長門型とほぼ同性能に改装されており、準長門型と呼ばれている。

 

 

「上陸始め!!。」

 

輸送艦の艦内マイクを聞き、陸軍上陸部隊は上陸用短艇に乗艦を始める。そして、コタバルは多少の抵抗勢力を排除して上陸、あとの2ヶ所も無事上陸に成功し、真っ直ぐシンガポールを目指して進撃を始めた。

 

 

-シンガポール イギリス極東軍司令部-

 

「失礼ですが閣下、既に戦争が始まっております。戦争は会議や文書では勝てません。日本軍は既に上陸し、真っ直ぐ此方に向かってきていると連絡を受けております。それに対し、我が方は戦力が分散しており、早急に戦力を集結させるべきです。」

 

オーストラリア第8師団長はイギリス軍司令官のパーシバル中将に進言した。

 

「しかも、我が方の東洋艦隊であるプリンス・オブ・ウェールズとレパルスは出港したけど湾の出口で潜水艦の雷撃を受け、大破してドック入りです。彼等は周到な準備を持って進撃しています。早急なる作戦立案をお願いします。」

 

「師団長。君は、少し日本軍の事を過大評価しすぎではないのかね?確かに彼等は上陸をし、此方に向かっておる。それに東洋艦隊が大破したのも事実だ。しかし、これは偶然であり、もう二度とこのような事は起きないと思うがね。」

 

パーシバルは少し見下したような表情で師団長の進言を無視する。

 

「それに彼等が向かっている先には我が方の誇るジットラ陣地がある。堅固なジットラ陣地はおそらく3ヶ月は持ちこたえられるだろうし、それだけあればシンガポールには我々の増援部隊で溢れておるよ。」

 

 

-シンガポール  東洋艦隊ドック-

 

「日本軍め。湾の出口で待ち伏せとは姑息なマネを。」

 

プリンス・オブ・ウェールズの艦魂ウェールズは舌打ちしながら言う。そこへレパルスの艦魂レパルスが瞬間移動してきた。

 

「そっちも酷く遣られたみたいだね。」

 

「レパルス、私を笑いに来たの?。」

 

「笑いになんて酷いな。私も被雷したんだから。」

 

「そうだったの。ご免。」

 

「まあいいけど。」

 

「ところでフィリップス大将は?」

 

「司令なら今は司令部に居るはずだけど。」

 

「そう。」

 

「?」

 

 

 

-ジットラ陣地前の日本軍-

 

「そろそろジットラ陣地だ。総員、司令の言葉通りに突進を続けよ。」

 

戦車部隊がまずジットラ陣地へと突入を始める。時間は夜間であり、視界は悪いが、敵は寝ているという絶好の攻撃隊民であった。

 

木を掻き分けてジットラ陣地の守備隊テントに戦車部隊は到達する。やっとこの時点で敵襲に気づいた連合軍は慌てて武器を取ろうとするが、日本軍の進撃は凄まじく、反撃が出来ず。パーシバルが3ヶ月は持ちこたえられる期待していたジットラ陣地は僅かに1日で突破された。

 

 

その頃、シンガポール

 

「敵機来襲!!。」

 

日本航空部隊による夜間爆撃が始まった。目標はドック内にいる2隻の戦艦と陸上砲弾である。

 

「あれがドックか。」

 

爆撃手は爆撃照準儀を覗いて呟く。修正を機長に指示しながら

 

「投下!!。」

 

一式陸攻が250kg爆弾を投下してその内の何発かはドックに命中し、プリンス・オブ・ウェールズとレパルスに損害を与える。

 

「く、日本軍め。私たちが動けないことをいい事に。」

 

プリンス・オブ・ウェールズは血が流れ出した足を引きずって甲板を移動する。レパルスも同様に負傷しており、此方は巡洋戦艦という比較的装甲が薄いために被害はプリンス・オブ・ウェールズより酷かった。その他輸送艦が炎上しており、マレーに停泊する輸送船の半分は撃沈された。しかも、増援部隊を乗せた輸送船団はマレーに来る前に海上封鎖した日本潜水艦隊が撃沈しており、増援は来なかった。

 

飛行場にも爆撃機が殺到し、滑走路と駐機中の僅かな航空機を破壊した。残る航空機では殆ど戦力にならない為、以後の出撃を基地司令は全て取りやめて、基地を放棄した。(ここで判断ミス犯してしまう。なんと、残った航空機を一切破壊せずに放棄してしまったのだ。)

 

 

その後も陸軍部隊は各方面にて快進撃を続け、ジョホール・バルの目前まで接近していた。



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マレー進撃作戦。シンガポール攻略  後編

ジョホール・バルに到達した日本陸軍は第5師団が先陣を切って突入。その後は各部隊が時間差で突撃して市街戦が起きる。

 

「日本軍だ!!」

 

連合軍は部隊を展開していたが、日本軍の猛進と敗戦で士気が下がり、組織だった反撃は行えずに各個撃破をされていく。

 

「なんとしてもここを守りきれ。」

 

その中でも奮戦したのがパーシバルに的確な意見を言うも、無視された不運な司令官が指揮するオーストラリア第8師団である。第8師団は沿岸部を守り続け、港湾部を占領するだけに2日も要したが、無事に占領することができた。

 

「港湾部を守っていた部隊は手ごわかったですが、無事に占領できたようです。」

 

「そうか、よくやってくれた。残すは。」

 

「シンガポール攻略ですね。」

 

「ああ。だが、予想を遥かに上回る進撃速度だったよ。」

 

史実では1月31日にジョホール・バルに到達しているが、今回は1月20日という脅威の進撃速度であった。

 

「明日からは艦隊と航空部隊による攻撃がシンガポールを襲う。皆は休憩をさせていけ。」

 

山下中将はそう師団長等に命じて、司令部にしたホテルの部屋に入った。

 

 

次の日に山下中将の言うとおりに、航空部隊と上陸支援をした戦艦部隊が攻撃を開始した。

 

「燃えろ、燃えろ。全部燃えて、我々を受け入れてくれた日本軍に盛大な花火を見せてくれ。」

 

この攻撃には内地から出撃した特別戦隊の高速巡洋戦艦「ヴィルベルヴィント」と「シュトュルムヴィント」と超巨大双胴戦艦「ハリマ」である。そして、先程の言葉はハリマであった。

 

「ハリマ、貴方ってそんなに残虐な性格だったっけ?」

 

瞬間移動してきたヴィルベルヴィントが訊ねる

 

「別に。ただ、こんな訳の分からない世界に飛ばされて、混乱している私を受け入れてくれた日本に感謝しているだけだよ。」

 

「貴方の恩を返す心は誉めるけど、遣り過ぎじゃない?」

 

シンガポールは火の海と化しており、至る所で火災が起こっている。これも全て、ハリマが情け容赦無く主砲をぶっ放したからである。

 

そして、その様子を見ていたウェールズとレパルスは

 

「な、何なのあの戦艦は?日本軍にあんな怪物艦が居るなんて聞いてないよ。」

 

「レパルス、落ち着きなさい。私達は動けなくても、ドックがあるから大丈夫よ。」

 

雨の様に降ってくる砲弾だが、2隻の戦艦はドックのお陰で砲弾の破片を浴びなくて済んでいる。しかし、直撃をすれば話は別であるが、日本軍は戦艦を出来れば鹵獲したいため、ドックに直接狙うなと指示を出してある。

 

 

 

その頃、ジョホール・バルでは

 

「す、すげーな。街中が火の海だぜ。」

 

沿岸部に来ていた日本軍兵は炎上しているシンガポールを見て驚く。

 

「そろそろ止めてもいいんじゃないか?」

 

日本陸軍内でも盛んに砲撃する海軍の動きを見て、現地住民に同情するものまで現れる。

 

そして、何と5日間にも及ぶ艦砲射撃が続き、殆ど残っていない敵戦力を撃滅するために陸軍は上陸を決行しようとするが、先に連合軍が来て降伏を勧告した。

 

それを聞いて陸軍はシンガポールに移動、残っている戦艦2隻を海軍に引渡し、海軍から(斉藤が山本に言った)煩く要請されて現地に招きいれた今村均に現地の独立指導をさせ、資源の提供と軍港の使用権を条件に1942年2月28日に独立をした。



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ミッドウェー出撃

-トラック諸島-

 

「まさか、こんなに早く作戦が終わるとは。」

 

なんと、各戦線にて日本軍は史実以上の快進撃を行い、殆ど損害という損害を出さずに太平洋の島々を占領してしまった。

 

「斉藤さんは思っても見なかった結果ですか?」

 

隣に居る赤城は聞いてくる。

 

「ああ。まさかこんなにも太平洋で連勝を続けるなんて思っても見なかった。」

 

既に、史実のミッドウェー海戦前までの領土を手に入れており、史実よりも明らかに少ない損害で勝利していたのだ。

 

「そして、あれが次期連合艦隊旗艦の秋島か。」

 

艦隊停泊地から少し離れた位置に巨大な戦艦が停泊している。

 

「ええ。私も聞いてはいましたが、実際見るとその大きさに圧倒されそうです。」

 

排水量は優に1000万トンを超えている。

 

「あんな物を造るなんて、やっぱり極端から極端を要求する民族なんだな。」

 

斉藤は一種の皮肉ともいえる言葉を言う。

 

「それはあのドックが在ったからでしょう。」

 

「まあな。」

 

そこへ、伝令兵が艦橋に入ってくる。

 

「長官、大和に乗艦している山本閣下から至急来るようにとの連絡です。」

 

「山本大将から?」

 

「はい。」

 

「分かった。内火艇を用意してくれ。」

 

赤城の右舷タラップまで行き、そこで内火艇に乗って大和へと向った。

 

 

-大和  長官室-

 

「失礼します。」

 

長官室のドアを開けると、山本ともう一人

 

「君が、大和の艦魂ですか?」

 

「いかにも。私は戦艦大和の艦魂「大和」だ。連合艦隊旗艦を短いかったが務めさせて頂いた。そう言う君は斉藤中将ですね?」

 

「あ、ああ。一応中将の階級を貰っている斉藤次郎です。」

 

大和、武士のような立ち振る舞いと威厳。正に、日本を代表する戦艦に相応しい立ち振る舞いである。

 

「では、斉藤君。そろそろ本題に入ってもいいかね?」

 

「は、はい。」

 

「まずはこれを見てくれ。」

 

山本は二つの封筒を取り出し、斉藤に渡した。

 

「拝見します。」

 

まず、一枚目の封筒の中の紙を見る。内容は

 

『南雲忠一中将を第一航空艦隊司令長官へと戻すよう命じる。』

 

明らかに軍令部からの命令書であった。

 

「こ、これは。」

 

「南雲君を第一航空艦隊の司令官に戻すことになった。従って、君には降りてもらうことになった訳だ。」

 

「はあ。」

 

「だから、それを呑む条件として君をあの超兵器で編成された特別戦隊の司令長官にするようにと言っておいた。もう一枚がそれだ。」

 

斉藤はもう一枚の封筒の中の紙を見る。内容は

 

『斉藤次郎中将、貴官を本日付で特別戦隊司令長官に任命する。』

 

「なるほど。」

 

「旗艦はヴォルケンクラッツァー2と決められている。そして、今回の作戦がこれだ。」

 

山本は再び封筒を取り出し、斉藤に渡す。

 

『帝國海軍はミッドウェー海域に進出。当該海域に存在するミッドウェー基地を壊滅させ、出てきた米艦隊を殲滅せよ。』

 

「み、ミッドウェー作戦!。」

 

あまりにも早過ぎる進出、現在4月10日にミッドウェーに進出するのだ。

 

「軍令部は大西洋艦隊がようやく太平洋に進出したが、今だ編成が整っていないと思っている。しかし、連中は間違いなくミッドウェーにて待ち伏せしている私は感じている。」

 

「確かに、ありえます。こんな電文を送ってくれば。」

 

実際その通りだった。米側は史実と違い、本暗号を仕掛け無しで完全に解読している。そして、進出してきたばかりの大西洋艦隊を編成し、迎撃部隊を編成してミッドウェー海域に向っていた。

 

「しかし、この基地を叩けばインド洋方面にもう数艦隊此方から回せる。この作戦は相当重要だと私も思う。」

 

「まあ、長官が心配しておられた国力差はあの島で無くなったも当然ですからな。早期講和も考える必要は無くなりましたし。」

 

「そうだが、私は一刻も早く講和をしたいとは思っている。」

 

「なら、マリアナ。この諸島で、最終決戦を挑めばいいでしょう。それまでに、欧州との連絡線を繋げておきたいですし。」

 

「私も、君にマリアナ沖海戦の様子を聞いた時にここで決戦を挑めば良いと感じている。それまでに、今の米側の空母を全滅させておきたいというのも本音だ。」

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 艦橋-

 

「そういう訳だヴォルケ2.宜しく。」

 

「略さないで。自分の名に誇りを持っているんだから。」

 

「だって長いんだもん。」

 

「黙れ。」

 

「はい。」

 

ヴォルケ2は緒戦にて出番が無かった事に相当腹を立てていた。

 

「まあまあ。この作戦では出番があるから。」

 

「本当!?」

 

急に目を輝かせる。

 

「それじゃあ、出撃をしよう。」

 

 

 

特別戦隊   司令長官 斉藤次郎中将

 

 

ヴォルケンクラッツァー2(旗艦)

 

ヴォルケンクラッツァー

 

ハボクック

 

ムスペルへイム

 

ハリマ

 

 

 

第一航空戦隊  司令長官 南雲忠一中将

 

第一航空戦隊  赤城(旗艦)加賀  関鶴

 

第二航空戦隊  飛龍  蒼龍

 

第四航空戦隊  龍譲  大鷹

 

第五航空戦隊  翔鶴  瑞鶴

 

第七戦隊   最上 熊野 鈴谷 三隅

 

第七駆逐隊   曙 潮 漣

 

第二三駆逐隊  菊月 夕月 卯月

 

第三駆逐隊   汐風  帆風

 

第五航空戦隊付属駆逐艦 朧 秋雲

 

第三戦隊より  霧島  比叡

 

第八戦隊    利根  筑摩

 

第八駆逐隊   朝潮 満潮 大潮 荒潮

 

第五駆逐隊   朝風 春風 松風 旗風

 

 

 

山本主力部隊   司令長官 山本五十六大将

 

Z戦隊  秋島(旗艦)

 

第一戦隊 大和 長門 陸奥

 

第二戦隊 伊勢 日向 扶桑 山城

 

第三戦隊より 金剛 榛名

 

第三航空戦隊 鳳翔 瑞鳳  駆逐艦 三日月 夕風

 

第四戦隊 高雄 愛宕 鳥海 摩耶

 

第五戦隊 那智 羽黒 妙高

 

第六駆逐隊 雷 電 響 暁

 

第一七駆逐隊 浦風 磯風 谷風 浜風

 

第三水雷戦隊全艦

 

 

 

潜水戦隊  司令長官 重岡信治朗中将(予備役だったが、斉藤の助言で山本が無理やり復帰させた)

 

第一潜水隊 伊15 伊16 伊17

 

第二潜水隊 伊18 伊19 伊20

 

新編成潜水隊 伊1200 伊1201 伊1202 伊1203 伊1204(大型重雷装潜水艦)

 

 

 

 

新編成太平洋艦隊   司令長官 レイモンド・エイムズ・スプルーアンス中将(史実よりも早期に昇進)

 

空母 ヨークタウン(旗艦) ホーネット ワスプ レンジャー

 

戦艦 サウスダコタ(キンメル少将乗艦) インディアナ(兵装等不備あり)マサチューセッツ(兵装等に不備あり)

 

重巡洋艦2隻

 

駆逐艦12隻

 

 

 

キンメルは史実では真珠湾攻撃以後少将に降格されて予備役に編入されたが、ハルゼー中将を捕虜にされた為、合衆国上層部はキンメルに名誉挽回のチャンスを与えて予備役から戻した。

 

 

「新型機の訓練を終えているの?」

 

「大丈夫だ。真珠湾が終わった後に全員徹底的に鍛え上げていたから。」

 

新型機とは艦上戦闘機では烈風、艦上爆撃機では彗星、艦上攻撃機では天山を示す。その他、史実では完成しなかった機体を多数試作し、生産に入っている。

 

「長官に言っているZ計画。その為にもこの海戦では何としても勝利しなくては。」

 

連合艦隊は太平洋の荒波を乗り越え、ミッドウェー海域目指して進んでいった。

 



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ミッドウェー海域突入す

-サンド島-

 

「なあ、本当にジャップは攻めて来るのかよ?」

 

「無駄口叩いてないでさっさと準備しろ。早急に航空機を上げれるようにしておかなきゃいけないんだ。」

 

整備兵等は殆ど理由を聞かされずに、ただ航空機をいつでも出撃できるようにしておけとだけ命じられている。そこへ

 

「おい、ジャップの機動部隊が航空機を出撃させたそうだ。」

 

「よーし、出撃だ。」

 

米パイロット等は足早に自分の乗機へと飛び乗り、エンジンを掛ける。

 

 

-南雲機動部隊航空隊-

 

「こちら隊長機。各機へ、ミッドウェー諸島が見えてきた。既に迎撃機が昇っているから気をつけろ。」

 

史実と同じく、友永丈市大尉指揮する第一攻撃隊がミッドウェー諸島へ到達する。

 

「こちら、烈風制空隊。敵機の迎撃に向う。」

 

新型艦上戦闘機烈風は進路を敵機に向けて飛行し、迎撃態勢をとる。

 

 

「撃て撃て!ジャップの飛行機を撃墜しろ。」

 

ミッドウェー諸島にある対空陣地から無数の弾幕を張る。

 

「滑走路視認。しかし、敵航空機の姿は確認できず。」

 

爆弾を投下した彗星艦上爆撃機は敵機が一機も地上に居ない事に不審がる。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 艦橋-

 

「やはり史実どおりに敵航空機は居なかったか。」

 

「敵は何処に居るんですか?」

 

「恐らくは南雲さんの機動部隊を目指しているだろう。」

 

「それじゃあ、伝えなくていいんですか?」

 

「構わない。あちらは史実では殆ど損害を被っていない。それよりも、問題は米国の機動部隊だ。」

 

「私の水上電探にはまだ反応がありませんよ。」

 

「偵察機を出したいが、あいにく無人機だから役に立たないし。」

 

特別戦隊はミッドウェー北方の890キロ地点に待機している。

 

「史実どおりに居るとしたら、ミッドウェーの東北に機動部隊が居るはずだが。」

 

「賭けで出してみる?。」

 

「そうだな。伝令兵!!」

 

斉藤は伝令兵を呼ぶ。

 

「ハボクックに連絡。第一次攻撃隊は雷装にて出撃。」

 

「了解。」

 

伝令兵は足早に艦橋を出て通信室に向った。

 

「!!。」

 

その時、ヴォルケ2は肩をピクッと動かした。

 

「どうした?」

 

「わ、私の対空電探に反応。味方の機動部隊に向っているわ。」

 

「やはり、敵機動部隊は居たのか。」

 

斉藤は伝声管を使って、

 

「敵、味方機動部隊に向けて飛行中。発光信号にてムスペルへイムに迎撃機を上げさせろ!!。」

 

「ミッドウェーの航空機はいいの?」

 

「たかだか120機の航空機では南雲さんの機動部隊を仕留められんよ。それよりも問題は。」

 

 

-赤城 艦橋-

 

「敵機動部隊は何処にも居ません。」

 

「長官、ミッドウェー基地を再攻撃すべきです。」

 

第一次攻撃隊は史実どおりに攻撃不十分。その為、これまた史実どおりに艦橋では再攻撃か雷装待機かで揉めている。

 

「よし、待機中の全機を爆装転換し、再攻撃する。」

 

航空機は一旦格納庫に戻され、装備している魚雷を一個一個取り外し、爆弾へと変えなくてはならない。それは、史実どおりの悲劇を呼ぶ可能性が非常に高かった。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 艦橋-

 

「恐らくは、今頃兵装転換をしているころだろう。」

 

「何で教えないの?」

 

「あの人は見つけても居ない物を信じる人じゃあないからね。」

 

斉藤は時計を見る。

 

「そろそろ敵機動部隊に攻撃を仕掛ける頃だとは思うけど。」

 

 

-ヨークタウン-

 

「提督、敵が接近して来ています。」

 

「何!?何時の間に発見されたんだ?」

 

「分かりません。対空見張り員の話では全く敵の偵察機を発見していなかったとの事です。」

 

「直ぐに飛ばせる迎撃機は?」

 

「第二次攻撃隊の戦闘機32機しかありません。」

 

「敵の兵力は?」

 

「およそ、350機。」

 

「3、350機!?そんな数の航空機にたった32機で挑むのか?」

 

350機と言う多大な航空戦力の中にたった32機で挑むなど論外である。

 

「しかし、どうも妙なのです。敵機動部隊はミッドウェーを攻撃して帰還している最中だと言うのに350機の航空機を敵は出撃させているのです。」

 

「では、別の機動部隊が居ると?」

 

「しかも、並みの機動部隊ではない機動部隊です。」

 

そんな時、ヨークタウンの艦橋からでも視認出来るほどの黒い点が無数に現れる。

 

「もはや、戦闘機は間に合わないな。」

 

各艦は自艦の艦長の指示で対空射撃と回避運動を始める。だが、血の通っていない無人機がそんなものに恐怖するなどありえず、グングン高度を下げて雷撃進路に入る。急降下爆撃機も敵空母の頭上目指して一直線に飛行する。

 

「敵、右舷より接近!対空射撃始め!!。」

 

ヨークタウンの5インチ砲と25ミリ機銃が放たれ、海面に水柱を作る。その水柱に天山が突っ込み、撃墜された。

 

「よくやった。」

 

しかし、喜んだのも束の間だった。撃墜された天山の後方から現れた別の天山が魚雷を投下する。

 

「取り舵一杯!!。」

 

ヨークタウンは急いで取り舵を切り、船体を左旋回させる。

 

「いいわよ。そのまま避けて。」

 

飛行甲板の端っこに居るヨークタウンの艦魂「ヨークタウン」は接近する魚雷を避けれると感じた。しかし、

 

「後方より8本の魚雷。避け切れません。」

 

ハッと、ヨークタウンは後方を見る。すると、明らかに潜水艦から放たれたと分かる大型魚雷が接近してきた。

 

「な、何て事!!合衆国の無敵輪形陣に敵潜が侵入するなんて。」

 

その魚雷は酸素魚雷。よく目を凝らさないと魚雷本体の確認は難しい。その魚雷はヨークタウンの旋回しきった左舷に4本命中する。

 

「きゃあああ!。」

 

ヨークタウンの左腹から血が噴き出す。続いて、上空に待機している急降下爆撃機6機が爆弾を相次いで投下、艦橋に5発、飛行甲板に1発命中しスプルーアンス中将は戦死する。ヨークタウン自身も大火災が発生し、直進を続ける。

 

 

-ホーネット-

 

「ヨークタウン大火災で大破。司令官も戦死。」

 

艦橋にそう報告が飛び込んでくる。

 

「ね、姉様が。」

 

ホーネットの艦魂「ホーネット」は顔が真っ青になる。慌てて窓の外を見ると、そこには黒煙を吐きながら直進するヨークタウンがあった。

 

「敵機接近!!。」

 

ヨークタウンを仕留めた雷撃隊は次にホーネットへと向う。

 

「撃て撃て、絶対に撃ち落せ。」

 

ホーネットの機銃と対空砲をフル稼働させて迎撃を行うが、天山12機が各方位から魚雷を投下する。

 

「艦長、各方位から魚雷が迫っていて避けれません!。」

 

「面舵だ。面舵に切れ!!。」

 

ホーネットは右旋回を始める。しかし、少し遅かった。魚雷は右舷に3本、左舷に2本、艦首1本、艦尾に2本を受けてスクリューを破損。浸水も始まった。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 艦橋-

 

「敵は仕留めたようだな。」

 

戻ってきた第一次攻撃隊を見て斉藤は言う。伝令兵が入ってきて

 

「戦果報告。敵空母2隻沈没、1隻飛行甲板使用不能。戦艦には被害なし。駆逐艦は8隻沈没との事。」

 

「戦艦には被害なし?」

 

「はい。雷撃機と爆撃機は空母と駆逐艦を狙ったようです。」

 

「損害は?」

 

「戦闘機2機、雷撃機10機、爆撃機7機です。」

 

「分かった。」

 

横にヴォルケ2が来て

 

「ねえ、味方の機動部隊に向った爆撃隊は?」

 

 

-赤城-

 

「転換完了。これより、第二次攻撃隊出撃します。」

 

各空母から出撃しようとする航空機を見るため、対空警戒が疎かになってしまった。その一瞬を突き

 

「敵機来襲!!。」

 

発艦時の敵機来襲。高空より侵入した急降下爆撃機「ドーントレス」は急降下を始める。烈風が会敵して迎撃を行ったが、何機か逃してしまった。その逃した機がこうして現れたのだ。

 

「回避!!。」

 

慌てて各空母は回避運動を執る。その為、戦闘機1~2機しか発艦出来ておらず、その戦闘機は迎撃の為に高度を取る。

 

 

「ジャップめ、これでも喰らえ。」

 

まず、先頭の編隊が赤城に向けて爆弾を投下する。続き、別の編隊が加賀、翔鶴、蒼龍に投下する。

 

赤城は艦橋に4発、甲板に並べられている航空機群に3発、甲板を貫通して格納庫で5発が爆発。格納庫に置かれている魚雷等に引火し、大爆発を起こして沈む。源田実中佐・淵田美津夫中佐を除く参謀・司令長官・艦長は戦死。

 

加賀は飛行甲板に2発、格納庫に2発で大破、炎上する。

 

翔鶴は飛行甲板に3発で中破。

 

蒼龍は飛行甲板に1発で小破。

 

これは、帝國海軍初めての大損害である。しかし、史実と違って空母1隻の損害で終わったのは不幸中の幸いであった。

 



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超兵器VS米戦艦

赤城が沈んだ頃、特別戦隊では

 

「艦隊を分ける。」

 

斉藤は戦力分散と言う愚を犯してまでも敵の殲滅を決断した。

 

ムスペルへイムは敗走する米機動部隊の追撃。ハボクックは主力部隊のミッドウェー砲撃の支援。残った三隻は米戦艦に横から殴り込みを掛ける命令を下した。

 

「斉藤さん、いよいよ私の出番ですね。」

 

「ああ、君には期待している。」

 

「任せてください。」

 

ヴォルケンクラッツァー級二隻とハリマは艦隊を組んで米戦艦へと向った。その頃、米戦艦部隊では

 

 

「敵を殲滅する。」

 

キンメル自身も日本艦隊撃滅を決断し、真っ直ぐ特別戦隊の三隻の方向へと進んだ。両艦隊はその後30分程度航行し、特別戦隊が先に射程圏内に収めた。

 

「撃て!。」

 

ヴォルケ二隻から先発して砲撃を開始する。砲弾はインディアナの右舷とサウスダコタの後方に着弾する。

 

「命中弾無しか。」

 

斉藤は双眼鏡を覗いて言った。

 

「波動砲を撃てば一発なのに。」

 

「そんな物を使ったら一発で倒しちまうだろう。それじゃあ面白くない。」

 

斉藤は笑みを見せる。

 

「次弾発射。」

 

今度はハリマも合わせて再び砲撃する。ハリマの主砲弾の1発がマサチューセッツの前甲板に命中した。

 

 

「被害を知らせろ。」

 

「前甲板に命中1.戦死8名を出すも戦闘に支障なし。」

 

「しかし、砲弾で開いた破口は異様に大きく、我々の使用している砲弾より明らかに大きいそうです。」

 

約51センチの主砲弾を前甲板に命中し、マサチューセッツの乗組員は恐怖心に駆られる。

 

「うろたえるな。高々1発の命中で恐怖していてどうする?我が偉大なる合衆国の建造技術はたった1発の主砲弾命中で沈むような船など造らん!。」

 

マサチューセッツの艦長は乗組員等にそう言うが

 

 

「撃て。」

 

再び発射された主砲弾の内、ヴォルケンクラッツァーの主砲弾がインディアナに命中して轟沈する。

 

-サウスダコタ 艦橋-

 

「インディアナ轟沈。たった一撃で沈みました。」

 

「分かっている。しかし、あの艦隊は何だ?艦が、あまりにも大きすぎる。」

 

キンメルは目の前の特別戦隊所属艦艇を見て言う。実際、この時代では考えられない技術で運用されている特別戦隊相手に挑んで勝てると思うほうがおかしい。

 

「だが、此方も射程に捉えている。発射!!。」

 

残った二隻から一斉に主砲弾が放たれた。

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 艦橋-

 

「敵、発砲!。」

 

見張りの声に斉藤は双眼鏡で敵艦隊を見る。そして、暫くすると周囲に水柱が発生した。

 

「対空電探に感あり!大型機です。」

 

「何だと!!。」

 

突然の敵機来襲。

 

「ハワイ方面より爆撃機60機接近!。」

 

「馬鹿な、真珠湾の航空基地は壊滅させているはず。飛行場など再建されていないはずだ。」

 

実は、ヒッカム飛行場の滑走路だけをアメリカが優先的に修復し何とか使用できる状態まで回復させていた。

 

「全門を持って航空機を殲滅する。砲門開け!。」

 

特別戦隊は米戦艦を無視して敵爆撃隊に全砲門を向ける。

 

「対空ミサイル発射準備よし。」

 

戦闘CICからの報告を受け

 

「撃て。」

 

特別戦隊から多弾頭ミサイルが放たれた。目標へと飛翔すると、寸前で6~14へと別れて34機を一瞬で撃墜した。

 

「目標撃墜。続き、第二波発射用意よし。」

 

「ムスペルへイムから入電。敵機動部隊撃沈。アメリカに残る空母無し。」

 

次々と戦闘報告が届く。

 

「爆撃機を殲滅する。」

 

米戦艦から砲撃は続いているが、命中弾があるかと思えば全弾が重力場で弾かれる。特別戦隊は再びミサイルを発射し、残っている爆撃機を撃墜した。

 

「残るは米戦艦。」

 

「どうやって倒すの?」

 

「お待ちかねの波動砲だ。」

 

その瞬間、ヴォルケ2は笑顔になった。やっと自分の主砲が放たれるのだから当然だ。

 

「機関供給変更、全エネルギーを波動砲へと集中。制動板展開。」

 

波動砲の砲身から青い光が現れる。続き、制動板が展開される。

 

「エネルギー充填50・・・・60・・・・70・・・・80・・・・」

 

エネルギーが充填されていき

 

「100%。発射準備完了。」

 

流石は原子力機関。充填速度は速かった。

 

「機関供給変更、速度最大。撃て!!。」

 

スクリューが回転を始めた同時に波動砲が放たれた。それは、二隻の米戦艦を貫いたかと思うと、二隻は大爆発を起こして消えた。沈んだのではなく消えた。

 

「す、凄い。」

 

 

 

-山本主力部隊旗艦  秋島-

 

「山本さん、あれがミッドウェー諸島ですか?」

 

秋島の艦魂「秋島」見えてきたミッドウェー諸島を指差して言う。

 

「そうだよ。あれが、我々の砲撃する島だ。」

 

艦隊はミッドウェーを取り囲むように布陣し、

 

「全艦発射。」

 

主力部隊の艦艇は全艦全門を持って島に砲弾を撃ち込む。その中でも一際凄まじい砲撃を続けるのが秋島であった。秋島は51cm主砲を3連装60基も備えている。前後合わせて6基、片舷で27基もの主砲座が存在し、サンド島とイースタン島間に入って両島を砲撃している。

 

「凄まじいな。」

 

参謀長の宇垣少将が声を漏らす。実際、こんな砲撃など夢とも思える光景だった。

 

「連射装置や冷却装置、自動装填装置のお陰で、1分間になんと4発の連射が可能という戦艦の、しかも51cm砲では考えられない連射速度を誇っているんだ。夢にも思いたくなるよ。」

 

山本も合意する。

 

「着弾観測を行っている零観からはもはや目を瞑りたくなる様な光景だと報告してきていますが。」

 

10隻の戦艦の砲撃だけでも島の形が変わってしまうような砲撃にも拘らず、重巡洋艦や軽巡洋艦などの艦からも砲撃を受け、ミッドウェーの守備隊は次々とやられていき、飛行場ももはや消滅したと思えばいいほどの状態になっている。

 

「航空機です。恐らくは特別戦隊のものでしょう。」

 

ハボクックを出撃した無人攻撃隊はミッドウェーの爆撃を開始する。しかし、既に主力部隊の砲撃は最終段階に入っているため、目標物は殆ど残っていなかった。

 

山本は時計を見て

 

「作戦終了の時間だ。本時刻を持って我が連合艦隊はミッドウェー作戦成功を宣言する。各艦隊は本海域より撤退を開始せよ。」

 

山本は主力部隊を率いてトラック諸島を目指す。特別戦隊は南雲機動部隊改め山口機動部隊と合流し、内地へと目指して撤退した。



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Z部隊の訪問

-黎明島-

 

日米開戦前に出現した島は天皇陛下の名の下で黎明島と呼称された。そして、ここでは1日に2万台の車両と3.5万機の航空生産を現在行われている。

 

「あれが、黎明島か。」

 

特別戦隊のミッドウェー攻略部隊は山口機動部隊を引き連れて黎明島の泊地へ入港した。

 

「山口機動部隊はここで修理されるんですか?」

 

斉藤の横に立つヴォルケ2が聞いてくる。

 

「ああ、と言ってもこのドックじゃあ一瞬で修理されるしな。直ぐにまた出撃できるようになる。」

 

 

その頃、アメリカのホワイトハウスでは

 

「キング作戦部長、これはどういう事かな?私にこの報告書を読んで怒れと言っているのか?」

 

ようやく作戦入りした合衆国最後の機動部隊と新鋭戦艦を全て失うという大敗をした海軍作戦部長を見てルーズベルトは険しい顔をする。

 

「いえ大統領閣下。報告では、敵には我々の想像を絶する艦が存在していたようでして、全ての責任が海軍と言うわけでは。」

 

「見苦しい言い訳はやめたまえ。現に負けたのだ。合衆国の、偉大なる艦隊が全滅したのだ。」

 

「はい。全くその通りです。」

 

キングは俯く。

 

「国民は開戦劈頭の大損害に加え、今回の敗北で一気に厭戦気分に走っておる。このままでは私も君も将来が危ないのだぞ。」

 

「はい。」

 

「いいか、これは命令だ。今建造中のエセックス級航空母艦とインディペンデンス級空母各八隻ずつを43年の8月までに戦闘可能にしろ!。そして、ミッドウェー級の建造計画を早めて44年の1月までに二隻を戦闘可能にしろ。」

 

「い、幾らなんでも無茶です大統領閣下。」

 

「武装や装甲を計画より減らしても構わん。とにかく戦闘可能にするんだ。分かったな?」

 

「はい。分かりました。」

 

無茶苦茶な命令だった。日本のようなチート的なドックがあるならまだしも、いくら世界一の工業力を持つアメリカでもそれはかなり不可能に近かった。

 

この日の翌日からアメリカの造船会社は尻に火がつく勢いで生産に取り掛かったのは別の話である。

 

 

-黎明島-

 

「これが、鹵獲した艦か。」

 

斉藤は島の横に係留されているプリンス・オブ・ウェールズとレパルスを見る。二艦とも、改装されていて雰囲気は違うが、姿形は間違いなくそうであった。そこに、光が二つ現れて

 

「ねえ、貴方って私達が見えているんでしょう?」

 

斉藤の後ろに髪が長く、長身青眼の少女と同じく髪が長いが、低身で琥珀眼の少女が居る。

 

「そうだけど。よく分かったね。」

 

「雰囲気かな、司令とよく似てたし。」

 

「司令って、フィリップス大将の事?」

 

「ええ、そうよ。」

 

「彼は?」

 

「さあ?私達は鹵獲されてここに運ばれたから知らないわ。」

 

そこへ、斉藤の許に一人の青年将校が来て

 

「斉藤中将、お話があります。」

 

「分かった、直ぐに行く。」

 

斉藤は一旦司令部へと向った。

 

 

-司令部 面会室-

 

「それで、話と言うのは?」

 

「貴方は何者ですか?軍令部の記録の読みましたが、貴方の記録は何処にも載っていない。おまけにその若さで中将です。一体、何者なんですか?」

 

「君は、見たところ軍令部の人間のようだな。なら、伊藤さんに聞いた方が早いのでは?」

 

「伊藤中将はそう簡単に口を割るお方ではありません。」

 

「少なくとも、山本長官の密命で動いていると言っておこう。話はこれだけかね?」

 

「ええ、そうです。」

 

「君、名前は?」

 

「寺沢(てらさわ)正文(まさふみ)中佐です。」

 

そう言って部屋を出て行った。そこで、暫く居ると部屋がノックされ

 

「どうぞ。」

 

入ってきたのはヴォルケンクラッツァ-2の艦隊勤務員である亀井(かめい)大広(おおひろ)少佐だった。

 

「何か、用かね?」

 

「長官、私に何かできる事ありませんか?」

 

「いきなりだな。」

 

「私は、ミッドウェー作戦で何もする事が出来ませんでした。なので、お国の為に何かする事はありませんか?」

 

「なら、丁度良いものがある。」

 

斉藤は封筒を取り出し、亀井に渡した。

 

「これは?」

 

「日本の重要人物からの命令書だ。私が、山本長官から預かっている。ただし、山本長官の背後に居る人物が書いたものだ。」

 

亀井は封筒の中身を見る。

 

「本気で遣れと仰いますか?」

 

「嫌ならいい。無理に遣らせるつもりは無いしな。」

 

「いえ、御国の為なら、喜んでお引き受けします。」

 

「分かった。健闘を祈る。」

 

斉藤は敬礼をする。亀井も答礼で返した。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 長官室-

 

「それで、次はどこを攻めるの?」

 

ここでは、斉藤とヴォルケ姉妹。ハボクックとハリマで作戦会議を行っていた。

 

「とりあえず、インドを攻めることになる。陸軍はビルマの首都ラングーンを押さえている。そこで、一気にインドへと攻め込む事になる。」

 

「日本軍って、そんなに強かったの?」

 

ハボクックが聞いてくる

 

「ああ、練度では世界一だ。兵器の質もそれなりに高いしな。」

 

「それでも、足りなくない?」

 

「いや。心強い味方が居る。」

 

史実よりも早くシンガポールに自由インド仮政府を設立したスバス・チャンドラ・ボース。この人が居ればインド戦線は安泰だと斉藤は考えている。

 

「直にラングーンに本拠地を移す。それを狙って彼と会い、協力を要請する。」

 

「そんな事していいの?」

 

「彼はインド独立を狙っている。彼の力無しにインド制圧は有り得ない。東條も、それぐらいは分かっているよ。」

 

そこに、ヴォルケ2の体が一瞬震えた。

 

「どうしたんですお姉様?」

 

「だ、誰かが私の艦内に。そして、こっちに向っている。」

 

「誰かって?」

 

「初めての人よ。」

 

その時、長官室の扉が開き、入ってきたのは

 

「はぁーい。」

 

ウェールズとレパルスであった。しかも、何時に無く上機嫌である。

 

「どうしたの?」

 

「工員達の話を盗み聞きしたんだけど、私達の装備って最新鋭装備なんだって?」

 

「ま、まあそうなるな。(ミサイルなんてこの時代じゃあ独逸が研究中な位だよ。)」

 

ウェールズとレパルス双方にミサイルや電探主砲、高速酸素魚雷や連発式対空砲など、時代を超えた兵器を搭載している。

 

「試作品の連発式対空砲は気に入ってくれた?」

 

「勿論。あんな連射できる対空砲は初めてだよ。」

 

連発式対空砲、レーダーと光学照準機と連動しており、VT信管砲弾である。しかし、驚くべきものは脅威の連射性能にあった。回転式弾倉を利用した自動装填装置によって1分間に50発という対空砲としては異常な連射力を持っていた。

 

「でも、初期だからね。故障は多分多いと思う。」

 

「それでも十分だよ。」

 

ウェールズとレパルスは上機嫌であった。

 

「それで、何しに来たの?」

 

ヴォルケ2は聞く

 

「私達も、その、言いにくいんだけど。」

 

「早く言いなさい。沈めてほしいんなら望みを叶えてあげるわ。」

 

「私達も、日本海軍に入れてください!。」

 

「はい?」

 

斉藤は驚いた。まさか、向こうから祖国を裏切る行為をしてくるとは。

 

「でも、君の事をチャーチル卿はとても気に入っているんだよ。彼が世界最強の不沈戦艦と言ったんだから。」

 

「うん。それでも、こんな凄い装備を提供してくれた日本海軍の為に働きたいの。」

 

「無茶苦茶だな。それで、戦後はどうするんだ?」

 

「貴方達の意見次第ね。返還するか、貰うか。」

 

「できれば、返還で。」

 

「そう。」

 

と、言うわけでプリンス・オブ・ウェールズとレパルスはイギリス海軍を離反し日本海軍在籍となった。

 



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ボースと謁見

1942年 5月10日

 

「艦隊出港。」

 

特別戦隊は独立政権樹立の同盟国シンガーポール共和国へと艦隊を移動させるために呉を黎明島を出港した。

 

2日間を掛けてシンガーポールの軍港へと移動し、斉藤は史実よりも早く設立された自由インド仮政府国家主席兼インド国民軍最高司令官のスバス・チャンドラ・ボースへの謁見許可を取り付けた。

 

3日間掛かったが、無事に謁見の時間を用意してもらい、ホテルへと移動した。

 

 

-自由インド仮政府-

 

「貴方が、斉藤中将ですか?」

 

「そうです、ボース国家主席。」

 

「貴方にお会いできて光栄です。それで、私に用とは?」

 

「1週間後。我が帝國海軍と帝國陸軍がインドへと進撃します。その進撃軍の先遣隊として貴方方インド国民軍が参加してもらいたい。」

 

「な、何ですって!?」

 

「我々、大日本帝国はインドへと進撃して独立させます。その為の先発隊として貴方方インド国民軍が参加してもらいたいのです。」

 

ボースは少し考え込み

 

「しかし、イギリス東洋艦隊は?」

 

「ご安心を。我が帝國海軍が責任をもって全滅させます。」

 

「アメリカの増援は?」

 

斉藤は腕時計を見て

 

「もう直ぐ、アメリカの工業は半年間は殆ど再起不能になるでしょう。」

 

「え?」

 

斉藤の謎めいた言葉はボースを驚かせる。

 

(あの大国の工業が停止する?一体どういうことだ?)

 

「事はこうです。」

 

 

 

 

-アメリカ 五大湖工業地帯-

 

「はあ、戦車や軍用機の部品だで疲れたぜ。」

 

「泣き言言うな。戦争なんだから仕方がないだろう。」

 

「でもよお、我が国は今負け戦が続いているそうだぜ。こんなんで勝てるのかよ。」

 

「ほら、軍用機の大群だ。あれを見て、我が合衆国が負けると思うか?」

 

空を突然爆撃機の大編隊が飛来する。

 

「確かにな。流石は我が合衆国の工業だ。」

 

しかし、上空に現れた爆撃機は突然爆弾倉を開く。

 

 

「こちら先頭機、目標を視認した。これより、爆撃に移る。」

 

飛来した爆撃機から無数の爆弾が投下され

 

 

「お、おい!。あの爆撃機って、敵だ!!。」

 

突然の爆撃で工業工員は慌てて工場から逃げ出す。警報もようやく鳴り始め、敵機の来襲を告げた。

 

「畜生。なんで、なんでジャップの爆撃機がこんな所に。」

 

日本本土を飛び立ち、太平洋を越えてアメリカ本土へと到達。アメリカの大きな工場や研究所を全て破壊するために飛来した日本の新機軸爆撃機「富嶽」が五大湖の工場に爆弾の雨を降らせる。

 

「迎撃は、一体軍の戦闘機は何をやっているんだ!?」

 

実際、知らせを聞いてPー38が迎撃に昇ったが、15000mからの高高度精密爆撃機を行う爆撃機には上昇限度が足りず、迎撃は不可能だった。爆撃機は五大湖を含むアメリカの各工場や研究所などを完全に破壊し、アメリカの工業は最低半年完全ストップとなった。

 

 

 

「そういう事です。」

 

「なるほど。しかし、爆撃機は何処へ?」

 

「同盟国。独逸とその占領されている地域ですよ。500機を越す富嶽ですから各基地に分散着陸させないと他の航空機が身動きできなくなるので。」

 

「では、独逸では大歓迎ムードだな。」

 

「ええ、それを狙って。」

 

「ん?」

 

「いえ、此方の話です。とりあえず、そういう事なので宜しく。」

 

「あ、ああ。分かった。」

 

斉藤は立ち上がり、敬礼をしてホテルから出た。

 

 

 

(亀井、何としても入国してくれ。その為のアメリカ爆撃でもあるんだ。)

 

亀井は斉藤の(正確には山本五十六の背後に居る人物)とんでもない依頼を受けてある国へと向っている。

 

斉藤はシンガーポールの泊地へと移動し、艦隊の出撃準備を見守った。

 

 

 

インド洋進出艦隊

 

 

特別戦隊  司令長官 斉藤次郎中将

 

ヴォルケンクラッツァー2(旗艦)

 

ヴォルケンクラッツァー

 

ハボクック

 

グロース・シュトラール

 

ムスペルへイム

 

 

 

残りの特別戦隊所属艦艇の居場所

 

ヴィルベルヴィント・・・シュトゥルムヴィントと共に珊瑚海等の南方海域に出現する輸送船団を強襲し、離脱しを繰り返して損害を与えている。

 

ドレッドノート・・・ノーチラスや他の潜水艦と共にハワイとアメリカ本土との間に進出し、ハワイの修理のための機材や人員等を乗せた輸送船を沈めては復旧を遅らせている。

 

アルケオプテリクス・・・内地にて技術取得の為に完全解体。組み立ての予定無し。(ヴィリルオーディンも同様)

 

デュアルクレイター・・・ラバウルへの航空輸送、人員輸送

 

グロース・シュトラーム・・・アラハバキとアマテラスと共に南方・トラック諸島防衛。

 

 

 

第一機動部隊   司令長官 山口多門少将(まだ中将になっていない。)

 

第一航空戦隊  天城(赤城の代替・旗艦)加賀  関鶴

 

第二航空戦隊  飛龍  蒼龍

 

第三航空戦隊  鳳翔  瑞鳳   駆逐艦 三日月 夕風

 

第四航空戦隊  龍譲  大鷹

 

第五航空戦隊  翔鶴  瑞鶴

 

第七駆逐隊   曙 潮 漣

 

第二三駆逐隊  菊月 夕月 卯月

 

第三駆逐隊   汐風  帆風

 

第五航空戦隊付属 朧 秋雲

 

第三戦隊  金剛 榛名 霧島 比叡 

 

第一水雷戦隊全艦

 

 

 

主力部隊  司令長官 高須四郎中将

 

Z戦隊   島垣(旗艦)島谷 島崎 島紅  (速力30ノット以外は大和級と同性能)

 

第二戦隊  伊勢 日向 扶桑 山城

 

第六戦隊  青葉 衣笠 古鷹 加古

 

第九戦隊  北上  大井

 

第三水雷戦隊全艦

 



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インドの空は晴れのち爆弾雨  前編

-ヴォルケンクラッツァー2 艦橋-

 

「ハボクックから入電。『我、攻撃隊の準備完了。いつでも発進可能。』」

 

伝令兵が艦橋に居る斉藤に伝えに来た。

 

「分かった。」

 

まず、山口機動部隊から偵察機が発艦して敵の居場所を突き止める。突き止め次第、特別戦隊が全力を持って新東洋艦隊を撃滅する計画だった。

 

 

-新東洋艦隊 旗艦 インドミタブル-

 

史実では旗艦は戦艦「ヴォースパイト」であったが、史実同様に工事を切り上げての出撃の為に新東洋艦隊司令長官のジェームス・ソマヴィルは日本の空母機動部隊の力と、自国のタラント空襲の成功例を取って空母を艦隊の旗艦にしていた。

 

「あえて私を旗艦にするなんて。」

 

艦魂「インドミタブル」はソマヴィル中将の采配に賛成していた。空母の艦魂は基本的には戦艦と仲が悪い。同じ大型艦なのに空母と戦艦との扱いの差を見てあまり良い感情を持って居る者は少なかった。

 

「提督、日本の機動部隊を基地飛行艇が発見しました。」

 

史実では艦隊主力である戦艦と正規空母はアッズ環礁に退避させていたが、敢えてソマヴィル中将は決戦を挑むことにした。

 

「位置は?」

 

「発見の報告後に撃墜されたようでして、あまり正確ではありませんがここから東600kmです。」

 

「分かった。攻撃隊を出撃させろ!」

 

命令を受け、第一次攻撃隊64機(戦闘機28機、雷撃機36機)が飛び立った。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 艦橋-

 

「電探に感あり、敵機およそ60機接近!!」

 

「了解。迎撃を上げろ。」

 

特別戦隊は烈風30機、山口機動部隊は烈風40機を迎撃に向わせた。

 

烈風制空隊は艦隊からの無線による航空管制で敵機に接敵し、両者の間で空中戦が発生する。

 

「ジャップの戦闘機は化け物か?」

 

烈風の圧倒的な空戦性能と速度、武装に圧倒されながらも護衛機は戦うが、2重3重で待ち構える防空網に雷撃機は次々撃墜される。

 

「やはり、烈風一一型は今の敵機では無敵だな。」

 

その様子を斉藤は見ながらマリアナ沖で日本機が次々撃墜されていく光景が頭に浮かぶ。あの時、烈風があったらまた戦局は少しはマシに成っていたかもしれない。そう、斉藤は感じていた。

 

「斉藤さん、私の電探が別方位からの敵機を探知しました。」

 

ヴォルケ2がやって来て言う。

 

「基地航空隊か。機数は?」

 

「80機。」

 

「ほぼ全てを投入したか。」

 

斉藤は少し考え

 

「VLS開放。全艦目標、接近中の敵航空隊。」

 

斉藤は艦隊無線で全艦に指示を出す。

 

「発射!」

 

VLSから勢い良くミサイルが放たれ、接近中の敵機に向う。半数が一瞬にして撃墜された。

 

「敵、直も接近中。」

 

「半分を失ったのに何故引かない?」

 

半分を失ったら兵力差は分かるはず。斉藤は半数を撃墜して撤退を促すつもりだったが、これで台無しになった。

 

「57mmバルカン砲の用意を。」

 

各艦艇にはドックにて57mmバルカン砲を増設されている。それで、敵機を撃墜する。

 

「電探連動良し。敵機捕捉。」

 

全艦のバルカン砲が敵機に向けられる。

 

「撃ち方始め!!。」

 

命令と同時に空を埋め尽くさんばかりの無数の弾幕が張られる。敵機はその弾幕の中に飛び込み、無残な姿に変わっていった。

 

「撃ち方やめ。」

 

バルカン砲は回転をやめ、冷却を始める。

 

「敵機は全滅だな。」

 

「はい。」

 

そこへ、伝令兵が入ってきて

 

「偵察機から機動部隊発見。」

 

それを聞き、斉藤は目つきを変える

 

「全機出撃!。敵艦隊をこのインド洋に沈めろ。」

 

ハボクックとムスペルへイムから合計800機が飛び立った。殆どが急降下爆撃機で戦闘機は100機程度しか居ない。それは、もはや敵機動部隊に航空機が残っていない事を知っての攻撃であった。それは、攻撃前の秘密の攻撃隊が戦果を齎したからである。

 

 

-数分前の機動部隊-

 

「攻撃隊の約半数が遣られただと!?」

 

ソマヴィル中将は怒り心頭に言う。

 

「敵機接近!双発の機体が数機の護衛機と共に向って来ています!!」

 

「な、何だと!!」

 

ソマヴィルは外を見る。すると、双発機と数機の二式戦闘機(五式戦闘機だが、採用時期の問題で本機が二式戦闘機)

 

「敵さん、ビックリしていますねきっと。なんてったって、双発の攻撃機が爆弾抱えずに向ってくるんだから。」

 

双発機のパイロット「永瀬大尉」は目の前の2隻の正規空母に目をやる。

 

「我が帝國の新発想対艦攻撃機「双陣」の力。見せてやる。」

 

発射ボタンを押す。先端に備えられている機銃が火を噴く。機銃と言っても100ミリ砲なので厳密には機銃ではない。史実の三式弾をヒントに斉藤が考案した特殊対艦攻撃機「双陣」。三式弾に衝撃信管に換え、空母の格納庫の装甲を破った後に内部で爆発。敵の格納庫内にある航空機や武装などを破壊するために考え出された機体である。

 

「きゃあああ」

 

砲弾は目的の格納庫内で爆発し、中にて武装装備中だった機体が爆発する。スプリンクラーが直ぐに作動するため、艦自体には大したダメージは無いが、空母は搭載機が無ければ一番弱い艦種でもある。その搭載機が全滅したのだ。

 

インドミタブルが真っ先に遣られ、腹の辺りから血がにじみ出る。前述の通りダメージは大したことが無いので出血は少ないが、それ以上の心のダメージを受ける事になった。

 

「くっ、日本軍め。こんな小細工を。」

 

流石はイギリス空母。タフさだけは列強随一なだけはあり、火災は格納庫内だけで済んだ。しかし、黒煙は外に漏れており、この黒煙が日本軍機を呼び寄せる事となった。



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インドの空は晴れのち爆弾雨  後編

火災を起こしている2隻の正規空母を捉え、無人機が攻撃進路に入った。

 

-インドミタブル 艦橋-

 

先ほどの奇襲攻撃で搭載機を全て失い、ハーミーズが少数の迎撃機を飛ばしたが一瞬で全滅してしまい、対空機銃のみで敵を迎撃しなければならなかった。

 

「私の命運も、ここで終わりか。」

 

インドミタブルは観念したように艦橋で自分の迫り来る運命を待った。

 

「英印空軍の応援は無いのか!?」

 

ソマヴィル中将は応援機を期待していたが

 

「そ、それが全てを敵艦隊に差し向けてしまったらしく、此方には回せないようです。」

 

「何をやっておるのだ!、後で全員をクビにしてやる。」

 

ソマヴィルは艦橋から見える日本無人攻撃隊を凝視する。

 

 

「駆逐艦テネドス、沈没。敵は直も接近!」

 

「エンタープライズより入電。接近中の敵機他に潜水艦の反応あり。」

 

 

-伊15潜水艦-

 

「敵を見つけたわ。」

 

伊15潜水艦の艦魂「伊15」は自分の艦にある潜望鏡と目がリンクしており、敵を捉える事が出来た。

 

「見つけたようだね。」

 

伊15航海長の早乙女泰司少尉が言う。

 

「や、泰司さん。」

 

伊15は泰司を見て笑顔になる。この艦で唯一自分が見える存在の泰司は初めてあったときからよく話をしていた。

 

「魚雷発射用意、目標は目の前の空母だ。」

 

空母フォーミダブルを目標に捉え、発射準備を行う。

 

「発射!」

 

艦長は命じ、魚雷が放たれた。

 

「駆逐艦接近!!。」

 

「急速潜行!。」

 

伊15は慌てて潜行をする。暫くし、艦の上方で爆発音が響く。

 

「目標に命中。推進音が停止しました。」

 

「機関最大!早急にこの場を離れるぞ!!」

 

伊15は敵を仕留めたら直ちに戦闘海域を離脱し、安全海域へと退避した。

 

 

-インドミタブル 艦橋-

 

「フォーミダブル、機関停止にて停船。艦長より退艦命令が発令されました。」

 

報告を聞いていたインドミタブルは

 

「ね、姉さんが。」

 

姉妹のインドミタブルは姉の戦闘不能を聞いて絶望する。

 

「お、おのれ日本軍。」

 

先ほどの死を受け入れる覚悟を捨て、イギリス空母特有のタフさに物を言わせて反撃を始める。

 

「敵12機撃墜。凄い戦果です。」

 

残った艦艇も対空火器を総動員して反撃を行うが、所詮は無人機。幾ら失っても搭乗員を失うわけではない。

 

「敵、急降下!!」

 

彗星艦爆はインドミタブルを捉え、急降下爆撃に入る。

 

「撃て!!弾幕を展開しろ。」

 

戦闘の彗星は撃墜されるが、後方に居る2機が投下に成功した。

 

「甲板に命中2。甲板に穴が開きました。」

 

「構わん。どうせ飛ばせる機体はもう無いのだ。」

 

だが、インドミタブルは

 

「も、もうだめね。」

 

背中から血が出ており、息も絶え絶えだった。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 艦橋-

 

「報告。敵空母2隻沈没、1隻大破して後退。戦艦2隻沈没、1隻大破、2隻小破。重巡3隻沈没。駆逐艦8隻沈没。」

 

「残った1隻の空母は?」

 

「撮影さえた艦影からインドミタブルかと思われます。」

 

「では、沈んだのはフォーミダブルとハーミーズか。」

 

「はい。」

 

ヴォルケ2が来て

 

「追撃はしなくてもいいの?」

 

「構わん。まだ、イギリスとは長い戦いをしなければならん。アメリカが艦隊を整え、マリアナに攻めて来るまでは。」

 

「マリアナの状況はどうなの?」

 

「今、マリアナ諸島全島に設営隊や工兵隊、軍属の土木事業団や民間土木事業団などが要塞化を行っている。43年の9月には要塞化が完了するそうだ。」

 

「アメリカの反抗は何時と思う?」

 

「情報機関Gの情報ではエセックス級とインディペンデンス級を増産しているそうだ。早くて、43年の10月から12月だと思う。」

 

「その海戦で敵を完全に叩き潰し、一気に終戦と言うのが貴方の計画?」

 

「そうだ。その為にも亀井をある国へと向わせたのだから。」

 

「何処?」

 

斉藤はヴォルケ2に小さな声で耳打ちをした

 

「!。そ、そんな事をするつもりなの!?」

 

「ああ。」

 

「成功の可能性は?」

 

「ある。というか、成功しなければ日本に終戦は恐らく無いだろう。」

 

 

 

-印度・ビルマ国境線-

 

「おい、聞いたかよ。日本海軍にイギリス海軍が壊滅させられたらしいぜ。」

 

「いよいよイギリスも終わりかね。俺達をずっと支配し続けてきたが、これで解放されるのだろうか。」

 

そこへ、日本陸軍とインド国民軍の連合軍が進撃を開始した。連合軍は国境を凄まじい勢いで突破し、一気にインド内部へと進撃を始める。

 

「に、日本軍だ!!」

 

英印軍は慌てて反撃を始めるが、日本の1式中戦車や2式重戦車を前に歯が立たずに撤退を始める。

 

「国境を突破した。インドの首都目指し、一斉進撃せよ。」

 

日本陸軍のインド解放軍司令官に選ばれたマレーの虎こと山下奉文中将は部隊を率いて国境線を突破に成功し、インド国民軍と共に移動を始める。

 



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特別戦隊 トラックへ帰還する

-トラック諸島-

 

「早い帰りだったな。」

 

見えてきた金曜島を見て斉藤は言う。特別戦隊は艦隊停泊地へ艦隊を停泊し、斉藤は山本に竹島に来るように言われて向った。

 

 

「長官、こんな所に呼んで何なんですか?」

 

「君にこれを見てもらいたくてね。」

 

そう言って山本は従兵に格納庫の扉を開けさせる。そこにあったのは

 

「こ、これは!?」

 

一機の戦闘機であった。

 

「これが、神速。」

 

「そうだ。」

 

最速最強の戦闘機『神速』が置かれていた。4000馬力の怪物エンジンを搭載した高速戦闘機がその格納庫に置かれていた。

 

「これを君に見せたくてね。君の言うF6FやP-51にもこれなら戦いを挑めるし、航続距離も零戦を越している。十分過ぎる機体性能を持たせた戦闘機だよ。」

 

「これが、量産されるのですか?」

 

「勿論だ。今のところ5000機が完成し、内地にて新米等の訓練にも使っている。陸上基地のパイロットは一通り訓練を終えたが、艦上機の方はインドに行っておって訓練は出来ていないのが残念だ。」

 

「インドはもうじき終わるりますし、もう戻してもいいと思います。」

 

斉藤は時計を見て

 

「そろそろアメリカでは再び空襲を受ける事になるでしょう。」

 

 

-五大湖工業地帯-

 

ここでは先日の空襲で破壊された工場の修復を行っている。

 

「急げ!遊んでいる暇は無いのだぞ。今、全米の兵器生産体制は完全に止まっている。だから、急いで修復させなくてはならん!!。」

 

ハワイも殆ど修復できていないのに本土すらも攻撃されたためにアメリカでは大混乱が起こっている。その為、それが大統領の支持率低下に繋がっているのだ。

 

「敵襲!!」

 

空襲警報が鳴り響き、先日同様に爆撃機の大編隊が上空に現れた。欧州から燃料や爆弾を再装備して出撃した(何機かはソ連やイギリスに爆撃を行っている。)富嶽はアメリカ最大の工業地帯である五大湖工業地帯に目標を定めて飛来したのだ。

 

「迎撃が向うぞ!。」

 

先日では迎撃できなかった。しかし今回は即席改造で運動性能があまり良いとは言えないがPー38に30mm機関砲2門備えた高高度戦闘型が迎撃を行った。

 

 

「アメ公、迎撃してくるぜ!!。」

 

富嶽は混乱に陥り、爆弾を各自バラバラに投下してしまった。目標は殆どが逸れてしまい、期待できるほどの効果も上がらず、8機の損害を出して退いた。

 

 

-トラック諸島-

 

「大本営から富嶽に損害が出たと文章が届けられた。」

 

「バカな!!。あの富嶽が。」

 

斉藤は山本の言葉に驚きを示す。

 

「損害は8機だが、損害は損害だ。」

 

「やはり、護衛機は付けるべきでしょうか?。」

 

「しかし、航続距離が足りないから護衛など。」

 

「方法はあるのですが、日本はまだ実験すらしていないものですよ。」

 

斉藤は山本に自分の意見を言う。

 

「そんな事が可能かね?」

 

「平時に前例ならありますが、実戦では初でしょう。」

 

「まあ、遣ってみよう。」

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「富嶽に損害が出たんだって。」

 

「ああ。」

 

「アルケオプテリクスならこんな事にならなかったのに。」

 

あいにく、解体してしまって組み立ての計画など未だに持ち上がらない不運な機体と化してしまった同じ世界の超兵器を思ってヴォルケ2は言う。

 

「あの機体はあの機体で役に立ってくれた。あの機体が無ければ富嶽のエンジンは完成しなかっただろう。」

 

ジェットエンジンの冷却方法を見た中島飛行機は、後部エンジンの所に幾つかの穴を開けることで外気を取り入れ、冷却する方法を見つけることが出来、史実では解決できなかった問題の一つをそこで解決したのだ。

 

「それに、もう損害は出ないだろう。」

 

「え?」

 

「山本長官にあることを教えた。直に行われるだろう。」

 

「どういう意味か分からないけど、楽しみね。」



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繋がった連絡網

山口機動部隊はインド洋の制海権を獲得し、危険を冒してアラビア海とマダガスカル島の艦隊泊地を強襲して身動きを取れなくした。続き、ドイツは石油問題解決の為に中東諸国と同盟を結んだ。これにより、欧州と日本の連絡網を確立に成功することとなった。おまけに、インドを解放したことによって援蒋ルートの封鎖が実現。中国戦線も安泰という形になった。

 

1942年 12月3日

 

-立命館大学-

 

「この為、日本は今のところ南方の石油を手に入れており、日本の石油問題は解決するでしょう。しかし、国力の差は埋まっておりません。今後、このような作戦を立案し続けると負けに繋がることだってありえます。」

 

立命館大学にて講義している石原莞爾元陸軍中将は壇上にて今後の戦争論を述べている。

 

「このまま補給線を確保し続けられるかは不安なことです。アメリカは潜水艦を無制限投入をして南方からの補給線を遮断する可能性だって考えられます。」

 

(史実どおり、優秀な人物だな。)

 

講義をこっそり聞いている斉藤は思う。そこへ

 

「講義は中止だ!!。こんな真っ向から国を批判するような講義は直ちに中止だ。」

 

後ろで聞いている警察数人が講義を中止させるように言う

 

「なんだ、警察か。君たちも黙って私の講義を聞いたらどうだ?聞けば御国の為になるぞ。」

 

そう言って石原莞爾は講義を続ける

 

「石油は南方から運ばれてくる。しかし、南方からと言うのはすなわち補給線が確立していなければ出来ない。そして、アメリカと日本の国力差はアリとゾウのように違う。いつかはこの補給線は遮断され、日本は石油枯渇になってしまう。」

 

「閣下、その前に日本は焼け野原になると思いますよ。」

 

斉藤は石原に言う

 

「ほー。なかなか分かっている人もいるじゃないか。」

 

「それに、アメリカは閣下の予想する最終兵器を造っており、それが最初に投下されるのはこの日本です。」

 

石原は斉藤の許に歩いてきて

 

「私の予想ではドイツの筈だが。」

 

「ドイツは本大戦に間に合わないと考えて開発を放棄します。最初に完成させ、その脅威に晒されるのは日本の広島です。」

 

そこへ、先ほどの講義中止を訴えた警察が来て

 

「もう講義は中止だ。それと貴様、怪しいな。ちょっと来てもらおうか。」

 

「講義は中止かね?」

 

石原は惚けた様に言う

 

「当たり前です。こんな真昼間から批判されては敵いません。」

 

「なら君たちはお国のためになる話があるのかね?」

 

「なっ!?」

 

「壇上は空いておる、好きに講義すればよい。」

 

「そうだ!そう言うあんた達が御国の為になる話をすれば言い!!。」

 

生徒の一声で他の生徒も便乗。警察はこの勢いに負けて署へと戻って行った。

 

 

 

「それで、まだ名前は聞いていなかったな。」

 

「はい、海軍中将の斉藤次郎です。」

 

「ふむ、この国の軍人にしては珍しい。現実を見えている人かね。」

 

「現実と言うか、正直どう説明すればいいか。」

 

「訳ありかね?」

 

「はい。」

 

「まあ、家でゆっくり話そうじゃないか。誰にも邪魔はされないしな。」

 

 

 

-スイス チューリッヒ-

 

(日本と欧州との連絡路確立。日本と欧州同盟国との更なる関係良好に期待か。)

 

新聞を見て亀井は思う。

 

(斉藤中将の命令でここに来たけど。無茶な命令なのは承知していますよ。)

 

その命令はロンメル将軍と面会し、日本が増援部隊を送ることと、今後のドイツの方針を伝えることだった。

 

亀井はスイスにてロンメル元帥と面会の許可を取れた為、面会場所にロンメル自身が指定したチューリッヒのカフェにて待っていた。

 

 

「遅くなってしまって申し訳ありません。」

 

ロンメル元帥が姿を現す。しかも、驚いたことに護衛を一人も連れていなかった。

 

「あの、護衛の方は?」

 

「同盟国の人間に会うのに護衛は付けませんよ。」

 

「そうですか。」

 

「それで、話と言うのは?」

 

「北アフリカの撤退は認められなかったようですね。しかも、北アフリカ駐留のヴィシー・フランス軍は米英軍に寝返ったとか。」

 

「なぜそれを?」

 

「日本の情報機関は世界をも視野に入れた諜報活動を行っております。まさか、ドイツが裏切ることはないでしょうが、念には念をです。」

 

「それで、そんな事を言うためにわざわざ。」

 

「いえ、あなたに少し早いですがクリスマスプレゼントを北アフリカに贈りました。どうぞお受け取りを。」

 

「クリスマスプレゼント?」

 

「大量の戦車や装甲車。給油車等の地上車両から航空機を積んだ水陸両用航空基地です。」

 

「そ、それを北アフリカに。」

 

「ええ、気に入ってもらえると思いますよ。」

 

キングティーガー戦車とほぼ同性能の2式重戦車とまだ日本でも少数しか配備されておらず、来年から正式採用が決定した3式中戦車(史実違い、主砲等も強化されている。)などの地上車両はどれも砂漠戦仕様に改造されて送った。航空機も砂漠用の防塵シャッター等を装備して送り、航空支援や制空権の確保を行う。

 

「それとこれはお願いです。総統がもし死亡したら、貴方が次期総統になってもらいたい。そして、貴方の手で本大戦を終結してもらいたいのです。」

 

「どういう事ですか?」

 

「我々がマリアナ諸島にて連合軍と決戦を行います。そして、その終結したあたりで貴方が全世界規模にて講和会議を行い、戦争の幕引きを行うのです。」

 

ロンメルは暫し考えて

 

「別に構いませんが、ヒトラーが死ぬと言うのは?」

 

「まだ、詳しくは話せません。」

 

「そうですか。とりあえず、私はアフリカに戻らなくてはなりません。クリスマスプレゼントは喜んで使わせて貰います。」

 

「どうぞ。ドイツ兵が使用するから整備等もし易いように規格統一を行いましたので難なく使えると思いますよ。」

 

それを聞いてロンメルはカフェから出て行く。



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終戦への道

-ラバウル-

 

「今村さん、そろそろ撤退の容易は出来ておりますね?」

 

「もちろんです山本さん。部隊は既に再編され、マリアナ方面への引き上げは準備は完了しております。」

 

「では、輸送船へ分乗して撤退しますか。」

 

山本は長門とプリンス・オブ・ウェールズ、レパルスと共に南方方面最前線のラバウルへと来ていた。

 

「輸送船は全部で10隻。よくこれだけの輸送船を確保できましたね。」

 

今村はマリアナ要塞化の為に内地や各方面の輸送船を引き抜いていることを知っており、10隻も撤退の為に用意できるとは思っていなかった。

 

「航空機のほうは指示通りに置いておきましたか?」

 

「はい。昨日から故障機と無人機を指示通りに配置しましたが、一体?」

 

そこへ、空襲を知らせるサイレンが鳴り響いた。

 

「敵襲!!」

 

ガダルカナル方面からはB-25とP-38、トラック方面からはB-17が飛来してきた。

 

「敵さん、ガダルカナルをやはり航空基地に使っていたか。」

 

B-17は回り込んでトラック方面から飛来し、B-25とP-38は直進してラバウルまで飛来してきたのだ。

 

「無人機が迎撃に向かいます。」

 

見ると、烈風が30機上昇し、迎撃に向かった。

 

 

-港-

 

「輸送船を守れ!!。」

 

港では撤退のための輸送船を守ろうと各自対空機銃をに付いて応戦している。

 

「アメリカ軍は輸送船を狙ってきたのか。」

 

甲板にいる長門は自分に向かってくるB-25を見て言う。

 

 

「投下用意、目標は前方の戦艦!」

 

「き、機長、右を!!。」

 

「何!?」

 

だが、既に遅かった。プリンス・オブ・ウェールズの連発式対空砲に狙い撃ちにされて撃墜された。

 

「大丈夫ですか?長門先輩?」

 

ウェールズが瞬間移動してきた。

 

「ええ、ありがとう。」

 

「アメリカは二手に分かれてラバウルを空襲しているそうですよ。」

 

「丁度いいわ。新型対空砲の威力を試せるじゃない。」

 

新型対空砲。VT信管付き対空砲は十分な性能を発揮し、自艦に向かってくる敵機を見事に撃墜し続けている。

 

「斉藤さんの書いた設計図と、物理学者の石原純さんのお陰ね。」

 

結局、輸送船に至近弾が一発あったが被害は無し。飛行場機能も20%程度しか失わず、烈風も8機が撃墜されたに留まった。

 

逆にP-38を6機とB-17が3機、B-25は8機を撃墜した。

 

 

 

-アメリカ・サンフランシスコ沖-

 

「浮上!!」

 

浮上した大型潜水空母「伊5000」型は搭載機数60機の潜水艦である。そして、護衛してきた「伊2500」型は巡航ミサイル搭載の中型潜水艦である。

 

「まさか、見つからずにここまで来れるなんてね。」

 

伊5000の艦魂は目の前に広がるサンフランシスコの街並みを見て言う。

 

「搭載機上げ!!」

 

甲板の飛行甲板に備えられている2基のエレベーターは次々と搭載機を上げ、上がった艦載機は次々とカタパルトで打ち出されていく。

 

 

「巡航ミサイル、射出準備良し。」

 

伊2500級4隻はそれぞれ巡航ミサイルを射出座に乗せ、命令を待つ。

 

 

 

-サンフランシスコ海軍基地-

 

「敵だ!!」

 

飛来した彗星と烈風は片っ端から爆弾やロケット弾で攻撃を開始する。

 

「迎撃、迎撃!!」

 

基地内にある機銃や高射砲を使って迎撃を開始する。

 

 

 

 

-ロスアラモス原爆工場-

 

「敵爆撃機襲来!!」

 

内地を飛び立った富嶽重爆撃機はロスアラモス目指して飛行していた。

 

「電探に感あり。50機が向かってきます。」

 

「アメ公、今度はこの前みたいにいかんぞ。」

 

富嶽の中には空中戦艦「羽島」と空中空母「風龍」が混じっており、風龍から長距離戦闘機「先秦」が切り離され、迎撃に向かう。

 

「な、何故戦闘機が!?」

 

完全に油断した迎撃隊は次々と撃墜され、運よく防空陣を突破しても羽島の対空火器の餌食となり、一機も迎撃できなかった。

 

 

「原爆工場視認。爆弾投下!!」

 

突入した富嶽重爆撃機はロスアラモス原爆工場を完全破壊し、悠然とドイツ向かって飛行した。

 

 

 

-サンフランシスコ郊外-

 

「気を付けろ。」

 

烈風が無傷で墜落している言う情報を聞きつけ、陸軍が調査の為に派遣された。

 

「見つけたぞ。」

 

烈風は確かに無傷で置かれていた。置かれていただ。

 

「連中、破壊し忘れたな。」

 

実はこれは完全な罠だった。この烈風はわざとここに降ろした。しかも、性能や弱点もゼロ戦と同じにして油断させるための罠であった。

 

「これで、開戦から無敵とされていた敵機の性能が分かるな。」

 

「搭乗員は?」

 

「さあな。とにかく、これは回収しよう。」

 

そこに、大きな音が突然響いた。

 

「な、何だ!!」

 

見ると、ゴールデン・ゲート・ブリッジが沈み始めていた。

 

「橋が。」

 

巡航ミサイル4発はサンフランシスコの象徴である橋に命中し、完全に破壊することが出来た。

 

 

-石原莞爾の自宅-

 

「それで、私に再び軍務に復帰して中国共産党指導者の「毛沢東」と講和、国民党を中国大陸から一掃しろと。」

 

「はい。国民党政権を討伐することでアメリカの中国での覇権を崩し、アメリカ国民に一気に厭戦気分になってもらいます。そして、その厭戦気分の中で我々海軍がマリアナに接近した艦艇を完膚なきまでに叩きのめし、上陸した連合軍兵も要塞化した島の前に屈して貰います。」

 

「しかし、太平洋のほうはそれでいいかもしれんが、欧州は?」

 

「既に手は打ってあります。」

 

「ふむ、確かに面白い作戦だな。確かに、これを成功させれば太平洋での戦争は終わる。なかなか考えたな。」

 

「いえ閣下。太平洋だけでなく、本大戦自体を終結させます。」

 

 

 

 

-近衛文麿邸-

 

「私は三度首相の座に就き、経験と人脈、民心と主上の覚えも少しはあるやもしれぬ。軍部政治を倒すために担ぐ神輿としてはこれ以上無い人材だろうね。」

 

「あなたは1940年7月に内閣決定がした『基本国策要綱』に対する松岡洋右外務大臣との対談で使って流行語化した『大東亜共栄圏』。これを私が初めて聞いたとき、アジア解放を目指して戦おうと考えていました。しかし、現実には難しく、軍部の独裁による圧政が一部の島で起きていると聞いています。このままでは、日本は本当に世界の孤児となってしまいます。」

 

斉藤の指示を受け近衛邸を訪れていた寺沢は自分の意思をハッキリと近衛公爵に伝える。

 

「思い出したくもないあの晩・・・・ここで対米英開戦が決定したこの部屋で、私に再び第4次近衛内閣を組織せよと、そう仰るのですか?」

 

「あなたはあの時、東條英機・・・いえ、彼を後押しする陸軍に開戦へと踏み切られてしまった。」

 

「貴方の言う講和の時期、それが一番最適な時ですか?」

 

「はい。マリアナでの勝利を機に講和。これしか日本には残されておりません。これ以上続けますと多方面での不利が生じます。何とか、ここで終えたいのです。」

 

「講和などと勝手に動けば、陸軍の連中に暗殺されかねない。犬死は御免だね。」

 

「名前は明かせませんが、陸軍の主戦派を抑える陸軍将校が極秘裏に動いております。彼ならやってくれるでしょう。それに、いざとなれば我が海軍も。」

 

すると、近衛の側近は

 

「馬鹿な、一介の中佐が海軍全てを動かせるはずがない。」

 

「山本長官では、どうですか?」

 

「ぐっ。」

 

「山本長官が元々この計画をお立てになったのです。私はその許で動いている海軍中将の指令でここに来たのです。」

 

「しかし、陸海軍の大臣は誰が遣れば?」

 

「海軍は米内光政、陸軍は今村均が行います。」

 

「今村さんはともかく、米内さんは。」

 

「二人とも了解を得ております。貴方の手で講和内閣を作り、本大戦の幕引きに尽力して貰いたい。」

 

 

 

-ドイツ ミュンヘン-

 

「遅いな。」

 

亀井はミュンヘンにあるホテルの中であるドイツ軍将校を待っていた。

 

「あなたが、亀井さんですか?」

 

現れたのは大佐の階級章を付けた人物だった。

 

「お会いできて光栄です。SS第101重戦車大隊のシュタイナーです。」

 

史実よりも早く創設された重戦車大隊所属の将校が亀井の会う人物だった。

 

 

「貴方はSSに所属していながらも反ヒトラー派の人間と伺っております。」

 

「全くそのとおりです。それで、私にどうしろと?ヒトラーを暗殺しろなどと仰るんじゃないないですよね。」

 

「その通りです。しかし、直接手を下すのは私です。貴方は、ベルリンにいる親衛隊を抑えることをやって貰います。貴方はドイツ各軍に顔のきくお方だ。仲間を大勢いるんでしょう?」

 

「まあ、確かにそれなりの者はおりますが、ヒトラーを殺すのは危険ですよ。」

 

「ご心配なく。方法は考えていますので。」

 



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増援

-黎明島-

 

「それで、終戦の準備は整ったの?」

 

「ああ。寺沢からも説得に成功したと連絡があった。」

 

「斉藤さんは石原さんを説得できたんですか?」

 

「一応な。」

 

ヴォルケンクラッツァー2の会議室にてヴォルケ姉妹と斉藤は話をしていた。

 

「じゃあさあ、私の電探に掴まった航空機をどうするか考えましょう。」

 

「え?」

 

「私の電探にも反応しています。列島沿いに帝都目指して飛行してきますが。」

 

「な!?なんだって!!?」

 

油断していた。まさか、こんな状況で敵が接近してくるなんて。そこへ

 

「敵爆撃機、本土へ侵入。真っ直ぐ帝都目指して飛行している模様。」

 

斉藤の許に伝令兵が駆け込んできた。

 

「厚木航空隊は?」

 

「出撃命令が下り、震電と羽島、それに天弓(てんきゅう)(キ94Ⅱ試作高高度戦闘機)が迎撃に上りました。」

 

「確か横須賀に伊勢と日向が居たな?」

 

「はい。」

 

「伊勢と日向に対空戦闘を命じろ。VT信管の威力を見せてやれ。」

 

「りょ、了解しました。」

 

伝令兵は急いで通信室に向かった。斉藤はヴォルケ姉妹を見て

 

「しかし、敵は一体何処に着陸する気なんだ?」

 

北海道と言う事はダッチハーバーから飛び立ったと考えられるが、着陸場所は思いあたなかった。

 

「もしや!!」

 

 

-B-29 隊長機-

 

「いいか。我々に着陸するところは無い。我々の任務は敗北が続くアメリカ国民達に我々の勇気ある行動を見せて一気に厭戦気分を吹き飛ばすことが目的だ。全員、心してかかれ。」

 

「了解。」

 

ようやく航空機は安定した生産が出来るようになり、急造した20機のB-29は帝都爆撃を目指して捨て身の飛行を続けていた。

 

「パイロットの殆どは元囚人やならず者と呼ばれていた人たちですからね、死ぬのが怖くないんでしょう。」

 

副操縦士は編隊を率いるマクウェル中佐に言う。

 

「だろうな。しかし、この作戦が成功すれば我々は死んだ英雄になれるんだ。」

 

だが、

 

「電探に感。迎撃多数!!」

 

「馬鹿な。もう発見されただと!!。」

 

外を見ると、震電6機と天弓2機が接近してきた。

 

「散開!!各自で目標に向かって飛行せよ。」

 

B-29は慌てて散開した。

 

 

「機長、敵機が2機追ってきます!。」

 

迎撃機も2機ずつに分かれて追った。

 

 

「悪く思わんでくれよ。帝都を守るのが我々厚木航空隊の仕事なのだから。」

 

震電のパイロットはそう言って機銃を発射する。30ミリ機銃はB-29の装甲をやすやすと貫通し、炎上しながら落下して行った。

 

 

「隊長、生き残ったのは確認できるだけで12機です。」

 

電探に移っている味方機を数えて報告する。

 

「とにかくこのまま飛行するしかない。ぐずぐずしていると、また迎撃が来ないとも限らん。」

 

「そのようですね。敵機2機接近、極めて巨大です。」

 

「どれくらいだ?」

 

「本機の倍以上に。」

 

「そんな機体がどうして?」

 

 

「敵機確認。」

 

羽島2機が飛行するB-29を電探に捉えて言う。

 

「主砲発射準備。」

 

主砲が敵機に向けられ、機長は操縦桿を固定した。

 

「撃て!!」

 

2機から主砲が放たれる。その主砲は2機のB-29に命中し、残骸が落下して行く。

 

 

「隊長、機影2機消滅。撃墜されました。」

 

「そ、そんな馬鹿な。まだ射程内に入っていないのに。」

 

「それが、撃墜される前の無線に発砲炎が見えたと一瞬報告してきました。」

 

「発砲炎だと!?」

 

「はい。」

 

「連中は、飛行機に主砲を積んでいるのか?」

 

「ええ、報告ではロスアラモス研究所を襲った敵機の中に主砲らしき物が備えられていたと言う報告書を見た覚えがあります。」

 

「敵機見えました。」

 

操縦士が目の前に見え始めた羽島を指差して言う。

 

「で、でかい。」

 

見る者を圧倒する巨人機だった。そして、再び主砲が放たれる。

 

「2番機に命中、落下して行きます。」

 

右を見ると、2番機は主翼が吹き飛び、回転しながら落下して行った。

 

「か、回避。急げ!!全速力で回避するんだ。」

 

旋回しようとしたその時、周囲で物凄い爆発が起こる

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

「分かりません。ただ、砲撃を受けたという事しか分かりません。」

 

「化け物は目の前に居るんだぞ。どこから攻撃が?」

 

しかし、再び砲撃が襲う。

 

「し、下です。」

 

 

-伊勢-

 

「爆撃機なんかに帝都を遣らせるかよ。」

 

伊勢の艦魂「伊勢」は甲板に出て帝都を目指している爆撃機を睨み付ける。すると、その睨み付けていた爆撃機に対空用主砲弾の花火弾が直撃して破壊する。

 

「第3弾、斉射!!」

 

軍刀を抜き、刃を爆撃機の3機編隊に向ける。すると、その3機編隊も花火弾の直撃を喰らい、撃墜する。

 

 

 

 

「機長、残ったのは我々だけです。」

 

20機の内、隊長機だけを残して全滅した。

 

「き、機長。敵の主砲がこちらを向いています。」

 

「くっそ。」

 

マクウェルは急いで上部機銃座に付き、

 

「遣らせるか!!我々の任務を完遂するんだ。絶対にお前達に落とされて堪るか!!!。」

 

羽島に向かって機銃を撃ち続ける。しかし、羽島の防弾装備を貫けず、逆に主砲の直撃を喰らって撃墜された。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 会議室-

 

「敵機全機撃墜成功しました。」

 

「分かった。ご苦労。」

 

もし、敵が帝都を爆撃してここまで到達していたら、主砲を撃ちまくってやろうと待機していたが、とりあえず帝都を守りきることが出来た。

 

「戻るぞ。入念に整備をして、決戦に備えなければいけないからな。」

 

ヴォルケンクラッツァー2は反転し、黎明島の母港へと帰還した。

 

 

 

-ワシントンD.C ホワイトハウス-

 

「それで、作戦は失敗で出撃した爆撃機全機が未帰還だと?。」

 

「はい。大統領閣下。」

 

ジョージ・マーシャル陸軍大将は作戦の失敗を受けて大統領の呼び出しを喰らっていた。

 

「君は本土爆撃は有効だと話していなかったか?」

 

「はい。全くもって申し訳ありません。」

 

「私の支持率はもはや地に落ちた。恐らく、時期に私は解任されることだろう。」

 

「しかし、海軍と陸軍で8月10日に実行する計画のマリアナ諸島占領計画がうまくいけばまだ策はあります。」

 

「確かにそうだ。しかし、もしそれが失敗したら君も私も明日は無いと思って過ごさなければならんぞ。」

 

そこへ

 

「だ、大統領閣下!!大変です。サンディエゴ海軍基地にエセックス級航空母艦8隻とアイオワ級戦艦6隻が突然出現しました!!」

 

「な!?、一体どういうことだ?」

 

「分かりませんが、これはチャンスです。この艦隊も作戦投入すべきです。」

 

「まあ、よい。誰の仕業かは知らんが、ありがたく使わせて貰うとしよう。」

 



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共産党との講和

-トラック沖-

 

「敵潜水艦探知。」

 

アメリカはついに潜水艦による通商破壊作戦を実行に移し始めていた。その為、日本は対潜哨戒をより厳重に行い、敵潜の発見・撃沈を行っていた。

 

「カ号観測機、ロ号ヘリ離陸しました。」

 

軽空母「千歳」と「千代田」からカ号観測機が、重巡洋艦「利根」と「筑摩」からロ号ヘリが飛び立った。

 

 

「敵潜水艦発見。爆雷投下。」

 

史実でもカ号観測機は対潜任務に使用され、ある程度の戦果を残しているオートジャイロである。ロ号ヘリは、カ号観測機をモデルに世界初の軍用ヘリ開発を行おうと海軍航空技術部が開発したヘリコプターである。

 

海中では投下した爆雷が次々と爆発をしている

 

 

-スティングレイ-

 

「爆雷が爆発しています。」

 

「被害は?」

 

「船体に歪みが出ていますが、何とか潜行していられます。」

 

「分かった。このまま敵が離れるまで待機している。」

 

 

「日本軍め、全く妙な兵器を使ってくれるではないか。」

 

艦魂の「スティングレイ」は言う。海底鎮座2日が彼女にとって堪え始めていた。

 

 

 

「敵潜の反応消えません。」

 

駆逐艦「島風」のソナー連動対潜レーダーは未だに敵潜の反応を捉え続けていた。

 

「対潜魚雷を放つ。準備急げ。」

 

島風は魚雷発射管のひとつを対潜誘導魚雷に変更しており、深度80までの目標を撃沈できるようになっており、それ以下の深度に逃れても対潜ミサイルで対応できるようになっていた。

 

「発射!!」

 

島風の対潜魚雷が放たれ、敵潜追尾を始める。

 

 

-スティングレイ-

 

「敵、魚雷を発射!!」

 

「ぎょ、魚雷だと!?」

 

「はい。真っ直ぐこっちに向かってきます。」

 

「ばかな、潜行中の潜水艦に魚雷攻撃だと!!そんな、馬鹿な話があるか!!」

 

次の瞬間、魚雷はスティングレイの左舷に命中。破口が開き、撃沈した。

 

 

「敵潜の反応消失。撃沈しました。」

 

島風の艦橋では大喜びが起こる。

 

 

-千代田-

 

「ふむ、あの連絡機とヘリの性能も凄いが、あの魚雷も素晴らしいな。」

 

艦魂の千代田は水柱の昇った方を見て言う。

 

千代田は現在、トラック諸島の第一対潜警戒部隊の旗艦を担っており、軽空母2隻と重巡洋艦2隻、駆逐艦8隻を伴う機動部隊とも呼べる部隊を指揮している。その部隊が、トラック諸島近海に現れた潜水艦の最初の撃沈した部隊となった。

 

トラック諸島以外でも、パラオ沖やマーシャル諸島沖でも敵潜水艦が確認されており、連合艦隊は敵が潜水艦による資源供給を断つ方針を採り始めていると感じていた。

 

 

 

-中国 江西省-

 

「閣下、着任するなり毛沢東と謁見するなんて言い出してどうしたんです?」

 

「なーに、この不毛な争いを少しでも和らげるために行くんだよ。」

 

斉藤の説得を受け、関東軍参謀長へ着任した石原莞爾は参謀長着任を条件に東條英機に共産党との講和条件を突きつけた。それにより、石原は参謀に復帰。共産党との講和の為に江西省の共産党本拠地へと向かった。

 

「止まれ!!」

 

突然、共産党軍兵士に乗っているトラックを止められる。そして、銃を構えて

 

「降りろ!!」

 

「貴様ら、閣下からの連絡を受けていないのか!?」

 

「ここからは石原一人で行って貰う。」

 

「な!?、そんな事を出来るわけがないだろう。」

 

「待て。いいだろう、わざわざ向こうから出迎えてくれたんだ。従わないわけには行くまい。」

 

石原はそう言ってトラックから降り、将校とおぼしき人物の後に続いて行った。

 

 

-共産党司令部-

 

「入れ。」

 

先ほどの将校がドアをノックし、中にいる毛沢東が入室を許可した。

 

「あんたが石原さんか。満州事変等、中国ではいろいろやってくれたようだが、私の庭に来たからにはそれなりの理由があるんだろうな?」

 

「お前さん、共産党との講和条約を結びに来たんだよ。」

 

「講和条約とは笑わせてくれるな。先に仕掛けたお前達が、今になって講和条約を結びに来るはずが無い。」

 

「だが、お前達共産党は国民党を一掃し、国の政治を行おうとしている。その一掃に、我々が手を貸すと言ったらどうだ?」

 

「悪くない条件だな。しかし、なぜ俺が国民党を一掃しようと思っていると分かる?」

 

「共産党はあまり積極的な攻撃を行わず、ゲリラ戦を行ってばかりではないか。それは、国民党一掃為の戦力温存と私は見ている。」

 

「ふっ、はっはっは。面白い。そこまで分かっているとは思わなかった。確かに、俺は戦力を温存して戦争終結後に国民党一掃を狙っている。」

 

「その為の協力を我々は行おうと言っているのだ。」

 

「具体的には?」

 

「戦闘機と爆撃機を500機ずつ提供し、戦車200台や小銃2000丁、火砲150門等の多数の兵器を提供しようではないか。希望するならもっと提供してやるぞ。」

 

「そんな提供してもらって、もし我々が裏切ったらどうする?」

 

「お前さんは、受けた恩は必ず返す男だと分かっている。だが、もし仮にそんな事をするなら、中国が灰になると思え。」

 

「それは、あの怪物を使って攻撃すると言う事ですか?」

 

「ええ、あれがあれば不可能な事などありません。」

 

「いいでしょう。我々共産党と、貴国日本との講和条約を締結します。」

 

1943年、2月2日。日本と中国共産党との講和が成立し、それと同時に共産党は国民党への宣戦布告を行った。

 

講和条約の主な内容

 

・日本は中国共産党に武器・兵器の提供を行う。

 

・共産党と日本は互いを信頼し、互いに裏切らないことを誓う。

 

・共産党政権確立後、日本との無期友好条約を結ぶ。

 

・終戦後、満州国は独立国とし、いかなる国家的管理を他国は行わない。

 

 

 

-満州国-

 

「遅くなってすみません。」

 

「いえいえ、トロツキー氏。お会いできて光栄です。」

 

斉藤は元ソビエトの政治家「レフ・トロツキー」と満州国で落ち合った。史実ではとっくに暗殺されている筈なのだが、何故かこの世界ではまだ生きており、斉藤は情報機関Gに行方を捜させていた。

 

「それで、話というのは?」

 

「貴方は昔、スターリンの大粛清で国外追放を喰らい、ウクライナの故郷へ戻っていた。」

 

「そして、貴方の呼び出しと協力でここに来た。それで、何が言いたいんですか?」

 

「貴方は、再びソ連に戻り、人民委員会議議長(日本で言う首相)になる積もりはありませんか?」

 

「しかし、私はスターリンと対立して国外追放を喰らったんですよ。そんな私がソ連に戻れば、たちまち暗殺されてしまいます。」

 

「そのスターリンが、死ぬと言えばどうです?」

 

「え?」

 

「戦後のソ連。貴方は、それを指導する気はありませんか?」

 

「しかし」

 

「もちろん、ただとは言いません。貴方達ユダヤ人の長年の夢であるエルサレム共和国。それを、我が日本管理下の満州国に戦後、建国するよう取り計らいましょう。」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「貴方達の聖地である場所には残念ながら建国できません。しかし、どの道あなた方ユダヤ人は自分たちの国がほしいんですよね?」

 

「はい。」

 

「貴方がそこを造り、それと同時にソ連の首相に就任する。その両方を、行ってほしいんです。」

 

「ドイツに収容されているユダヤ人は?」

 

「ご心配なく。早ければ、今年中には解放されます。」

 

「では、彼らも招き入れてエルサレム共和国を。」

 

「はい。建国できます。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「これで、交渉成立ですね。」

 

斉藤とトロツキーは握手を交える。

 



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難攻不落の大要塞

-マリアナ諸島 サイパン島-

 

「艦隊入港!!。」

 

サイパイ島の港に特別戦隊のヴォルケンクラッツァー姉妹とハボクック、ムスペルヘイムが入港した。

 

 

「山本長官、内地等の終戦工作は順調です。ドイツでもロンメル元帥等の説得に成功したと連絡がありました。」

 

「そうか。残るはイタリアだけだが、その国のほうはどうするんだ?」

 

「そうですねえ、一番いいのはムッソリーニを暗殺してそれと同時に連合国と講和、中立宣言するのが一番いいとは思いますが。」

 

「史実ではどうなのかね?」

 

「はあ、私の知る限りでは枢軸国側の戦況に危機感を抱いた王家やファシスト党内の反ムッソリーニ派のディーノ・グランディをはじめとする一派に首相解任をされ、幽閉されます。後にドイツの特殊部隊に救助されますが、それからいろいろありまして最後はコモ湖畔の小村にてレジスタンスに捕まり、処刑されています。」

 

「だが、戦況悪化はしていないぞ。」

 

「そうですね、ですので亀井に頼んで暗殺して貰おうと考えています。」

 

「どうやって?」

 

「彼は健康に気を使っている人物でして、朝は体操を行っております。そこを狙って狙撃させましょう。」

 

「可能かね?」

 

「一応武器を持たせておりますし、腕は分かりませんが可能かと。」

 

「分かった。なるべく、日本がやったと気づかれんようにな。」

 

「はい。厳命しておきます。」

 

「それはそうと、君はまだ「秋島」に会っていなかったな?」

 

「え?ええ、艦艇は見たことありますが、艦魂のほうはまだ。」

 

「入りたまえ。」

 

 

「失礼します。」

 

扉を開けて入ってきたのは。

 

「はじめまして斉藤中将。私は現在連合艦隊旗艦を務めさせてもらっております秋島の艦魂「秋島」です。」

 

なんと、巨大な艦艇に似合わず小柄の少女だった。斉藤も予想外である。

 

「き、君があの秋島の艦魂なのか?」

 

「ええ、そうです。」

 

(予想外だな。)

 

斉藤は素直にそう思う。

 

 

 

「これが、武蔵の主砲に使われるはずだった陸上砲台か。」

 

この世界では大和の建造だけで終わり、2番艦の武蔵は解体されてしまっている。その武蔵に使われるはずだった46センチ砲をサイパン島とテニアン島に配備されている。

 

「それと、これが航空掩蔽壕か。」

 

飛行場にも航空機を配備されているが、各島には航空機を数百機単位で収容できる穴を設けており、敵の艦砲射撃や爆撃の被害を受けないようにされている。

 

「塹壕を縦横無人に掘り、敵の背後等を狙った奇襲戦法を行えるようにしてあります。」

 

「いやー、素晴らしいよ。設営隊隊長の岡村少佐。」

 

史実ではガダルカナル島飛行場設営に従事した岡村徳長少佐はこの航空掩蔽壕を推進した中の一人である。

 

「なーに、自分の意見が通って良かったですよ。」

 

「君も、数少ない航空主兵主義を唱えた中の一人だ。協力は惜しまないよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

予定より早く要塞化が出来たマリアナ諸島。陸軍の司令には史実にて硫黄島での戦いでアメリカに自軍よりも多くの出血を強いれた「栗林忠道」中将を抜擢した。海軍の司令には基本的陸戦指揮は陸軍に任せてあるが、その補佐的な意味でも史実では奇策等を使った天才「神重徳」大佐を置いた。陸海軍統合航空隊指揮官には山本五十六と共に海軍航空隊を育て上げ、特攻の発案を行った人物として知られる「大西瀧次郎」中将を置いた。

 

 

-サイパン島司令部-

 

「では、アメリカの反攻は今年の夏ごろだと。」

 

「はい。情報機関Gからの報告では、ラバウルを空襲する部隊とマーシャル諸島を占領する部隊。それと、この二つが合同で行うトラック諸島空襲計画があることが判明しました。」

 

「なるほど。それで、応援部隊の方は整っておりますか?」

 

「勿論です。命令さえあれば、小笠原諸島と硫黄島から長距離爆撃機と戦闘機を飛ばして援護させます。それに、砲撃陣地等を要塞化しておりますし、優秀なパイロットも集めております。負ける要素など何処にもありません。」

 

「戦闘機のほうは?」

 

「我が海軍の戦闘機「神速」が必ずやマリアナ諸島の制空権を守りきるでしょう。陸軍は防空よりも攻撃を中心とした機体を揃えており、敵艦隊への攻撃を基本方針とした部隊を集めております。」

 

 

 

 

-アメリカ ノースアイランド基地-

 

「凄いな。」

 

ここでは、サンフランシスコの空襲のときに鹵獲した改悪版烈風の弱点等の研究を行っていた。

 

「サッチ少佐。右旋回をお願いします。」

 

「オッケー。」

 

烈風は右旋回を始める。しかし、左旋回のときよりも操縦桿が重く、旋回が鈍かった。

 

「はっはっは。まさか試験搭乗一日目でこの烈風の弱点が分かるとは。」

 

罠とも気づかずにサッチ少佐は史実の「サッチ・ウェーブ」を考案してしまう。そして、この烈風に対抗できる戦闘機だと分かったヘルキャットの本格生産を始めるのであった。



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学生達の戦争

-東京物理学研究所-

 

「それで、VT信管の対策は出来たと。」

 

「はい。このアンチ・レーダーシステムを航空機に搭載し、敵側の無線周波数である180~220MHzに合わせれば、敵のVT信管の完全な無力化が可能です。」

 

「しかし、これだけの大型の機械は戦闘機には搭載できませんよ。」

 

「ええ。しかし攻撃は戦闘機が行うのではなく少し大型の攻撃機や爆撃機が行うのでしょう?」

 

「まあ、確かにそうです。」

 

斉藤は東京に戻り、VT信管の対策が出来たという連絡を受けて東京物理学研究所にやってきていた。

 

「アンチ・レーダーシステムが実用化できたのも、貴方の力とあの島のお蔭です。」

 

「いえいえ、こちらとしても決戦の敗北要因を少しでも少なくしておこうと思ったのですよ。」

 

 

そこへ、助手らしき者が来て

 

「博士、今日は息子さんの壮行会でしょう?行かなくていいんですか?」

 

「ああ、そうだったな。」

 

「壮行会?」

 

「あれ?今日は学生達が戦地に赴くから、その壮行会の日ですけど。ご存知ありませんでしたか?」

 

「な、なんだって!?」

 

まさか、史実では戦局の悪化における兵力不足から行われた学徒出陣だが、未だに戦局は我が方が有利の筈だった。それに、史実よりも早すぎる。

 

「一体どうして?」

 

「なんでも、マリアナ諸島の防備不足から学生の一部を送るそうだ。それに、中国大陸にも行くとも言っている。」

 

「中国はともかく、マリアナ諸島の防備は完璧ですよ。」

 

「さあね、お偉い方が何を考えているのか知らないが、学生達を戦争に巻き込まないでほしいよ。」

 

 

 

-明治神宮外宛競技場-

 

ここでは、史実同様に東京帝国大学を先頭に学徒生が行進してくる。

 

「まずいことになったな。」

 

斉藤の絶対に繰り返したくない歴史の一つを繰り返してしまった。

 

祭壇には東條英機が敬礼をしながら行進する学徒兵らを見ている。史実同様に雨が降っており、ずぶ濡れになりながらも見送る人々は手を振っている。

 

整列が終わり、会場にいるもの全員で国歌斉唱を行う。そして、東條が祭壇から訓示を述べる

 

「御国の若人たる諸君が勇躍学窓より征途につき、祖先の威風を昂揚し、仇なす敵を撃滅して、皇運を扶翼し奉るの日はこんにち来たのであります。」

 

そして、東京帝国大学の代表生徒が壇上に上り、答辞を行う。

 

「我らいまや見敵必殺の銃剣をひっさげ、積年忍苦の精進研讃をあげて、ことごとくこの栄光ある重任に捧げ、挺身をもって頑敵を撃滅せん。生等もとより生還を期さず」

 

うみいくばが斉唱され、壮行会は終わる。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「まさか、歴史を繰り返す羽目になるとは。」

 

「一体誰が光栄あるあんな壮行会を考えたの?」

 

隣にヴォルケ2が悲しい目で斉藤に話しかける。彼女自身も、いくら兵器と言えど良心を持っている。学生が戦場に行くほどの国家総力戦を戦っているなんて感じてもいなかった。

 

「史実では戦局の悪化によって学徒出陣を行っている。」

 

「でも、」

 

「分かっている。何処かで、歴史を元に戻そうとした力が働いたんだと思う。しかし、歴史は絶対に変えてやる。あの様な悲劇の終戦を迎えての国にしたくは無い。」

 

斉藤はより一層、早期終戦を願った。

 

 

-連合艦隊泊地 パラオ 秋島 会議室-

 

「それで、斉藤君から連絡があったと。」

 

「はい。彼は予想以上に驚いており、米内大将にも学徒出陣の壮行会があった事実を確認しました。」

 

秋島は連合艦隊の主力空母と戦艦の艦魂、山本五十六大将に内地からの報告を伝える。

 

「彼の言う悲劇の歴史の1ページを開けた感じだな。」

 

山本は溜め息をついて椅子に深く腰掛ける。

 

「司令、このままでは彼の歴史を繰り返す羽目になります。」

 

「分かっている大和。しかし、繰り返された歴史。彼の言うミッドウェー海戦でも4分の1は実際の通りに進んだのだ。赤城の戦没という悲劇をな。」

 

山本は同型艦の天城を見る。史実では関東大震災で竜骨が折れ、廃艦が決定した天城で、後に雲龍型の2番艦に付けられた名だが、黎明島のドックで赤城の2番目の艦を造り、天城と命名された。その天城の艦魂が赤城そっくりなのだ。

 

「歴史が修正しようというなら、我々がそれに抗ってみようではないか。彼の言う繰り返したく歴史の大きな2つ、特攻隊の編成と原子爆弾。」

 

「研究所は破壊しましたが、何処かで造っている情報を情報機関Gが掴んでおり、現在調査中です。」

 

秋島は内地からの情報を伝える。

 

「それと、斉藤中将から追加の報告で、VT信管対策が完了したそうです。艦上機の転換訓練も終え、陸上機も続々とマリアナ諸島に配備されているそうです。」

 

「そうか。それにまあ良い知らせだな。」

 

「敵の潜水艦の方はどうなのだ?敵が潜水艦によって通商破壊戦を始めたという見方もされているが。」

 

「今のところ大きな損害はありません。私達は対潜哨戒と船団護衛を重点的に行っておりますので、今後も損害は出ないかと思われます。」

 

「そうか。」

 

金剛の質問に秋島は答える。

 

「すまない、私はこれで失礼させて貰うよ。」

 

そう言って、山本は長官室へと戻った。

 



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判明

-黎明島 ドック-

 

「思えば、この島から全てが始まったんだよな。」

 

斉藤は一人、黎明島のドックに来ていた。時間は既に0時を回っており辺りは暗い。

 

「そして、そこに隠れているんだろう。私をこの過去に呼び寄せた神『ヨグ=ソトース』」

 

すると、ドックの隅から黄色いモジャモジャが現れる。

 

「まさか、我に気づいているとは。」

 

「まさか、お前が存在しているとはなあ。確か、クトゥルフ神話の架空の神性のはずだが。」

 

「それは、人間の勝手に考えたことであり我は全ての時間軸、空間軸に存在する。」

 

「それで、何時になったら私を戻す気なんだ?最初はああ言ったが、向こうに残してきた家族の事は心配でね。」

 

「永久に戻す気など無いと言ったらどうする?」

 

「お前をこの場で息の根を止める」

 

「さっきも言った筈だぞ。我は全ての時間軸、空間軸の中に存在すると。故に、我は不死身なり。」

 

「便利な体だな。」

 

「まあそう怒るな。この大戦が終わった貴様の望んだ戦後世界だ。大戦が終わったら元の世界に戻してやる。」

 

「その言葉、確かに信じていいんだな?」

 

「我は知識を象徴する神でもある。その知識の象徴する神が嘘を言ってどうする?」

 

「確かに。」

 

「安心しろ。貴様が長くこの世界にいられたら不都合な点もあるのだ。それと、米国に過去や未来に戻って艦艇を与えておいたぞ。」

 

「な!?ちょっと待て!!」

 

しかし、ヨグ=ソトースは先ほどまで居た場所から消えてしまった。

 

「くそ!!」

 

「斉藤さん?」

 

突然、ヴォルケがドックに入ってきた。

 

「わ!!なんだヴォルケか。どうしたんだ?」

 

「なんと言うか、斉藤さんが姉さまから降りて、ここに来ていたので後を付けたんです。そしたら」

 

「なんだ。見ていたのか。」

 

「私達をこの世界に呼び寄せたのも、あの・・・」

 

「ヨグ=ソトースの事か?。」

 

「はい。でも、私はこの世界の方が幾分好きです。向こうでは戦うことしか頭に無い政府高官や同僚ばかりでしたが、こちらの世界では国民の事も考えた政治をきちんと行っている政治家ばかりですから。できれば、一生を此方の世界で終えたいです。」

 

「君がそう希望するなら、山本長官に取り計らうよ。」

 

「それに、他の超兵器の皆さんも口では言いませんが此方の世界を皆気に入っております。」

 

「そうか。」

 

斉藤はヴォルケから目を逸らす。

 

(自分の元居た世界はどうなのだろうか?)

 

斉藤はそう考えてしまう。

 

 

「艦隊、出航!!」

 

特別戦隊は連合艦隊司令部のあるパラオ目指して全速力で出航するのであった。



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イギリスの協力

1943年 4月1日

 

-イタリア ムッソリーニ私邸-

 

「一、二、三、四。五、六、七、八。」

 

ムッソリーニは普段の日課どおりに体操を行っている。

 

 

「目標は完全に油断しているな。」

 

狙撃ライフルを構え、亀井は言う。

 

「悪く思うなよ。これも日本の為だ。」

 

亀井はライフルの引き金に指を掛け、銃を固定する。

 

「同盟国の人間を殺すのはあまり良い気分ではないのだが。仕方が無い。」

 

引き金を絞り、弾丸が放たれた。その弾丸は見事にムッソリーニの頭部を貫き、絶命させた。

 

「なむ。」

 

一応、家が仏教(当時の日本にしては珍しい家系)であるため、簡単な念仏を唱えて狙撃した場所から離れた。

 

その30分後、朝食の準備が出来たことを知らせに来た従士がムッソリーニの遺体を発見。次期国家首相にはピエトロ・バドリオが就任。連合国に降伏と同盟を国王の密命で密かに開始した。

 

 

-アメリカ合衆国 ワシントンD.C ホワイトハウス-

 

「大統領、エドワード駐米大使がお見えになりました。」

 

側近が在米国イギリス大使のエドワード・ウッドを大統領執務室に迎え入れた。

 

「やあ、大使殿。今朝方連絡を受けて何事かと思ったが、イタリアではムッソリーニが何者かに暗殺された言うではないか。一体何事かね?」

 

「実は大統領閣下、その暗殺したのは我が国の情報機関の話ではどうも日本の軍人のようなのです。」

 

「では、内部争いでも起きているのかね?」

 

「いえ、どうも彼は欧州に渡ってなにやら不審な動きを見せています。ロンメル元帥や、SSの将校と会ったりと、そして今回のムッソリーニの暗殺。どうも、高度な政治的問題を行っているようです。」

 

「では、背後に何者かがいると?」

 

「ええ。少なくとも、我が国の調査では日本政府とは無関係だと言う事は確認できました。ですが、必ず日本の誰かが彼に命令を下しているんだと思います。」

 

「ふむ。しかし、この暗殺のお蔭でイタリアとの交渉を行っておるのだろう。それなら、我々にとって好都合ではないのかね?」

 

「確かにその通りです。それと、貴方にとって好都合なのは、これでイタリア海軍を相手にする必要が無くなり、我が国の艦隊を此方に幾らか回せるようになりました。貴国の考えている反攻作戦に我々も参加いたします。」

 

「それは今、恩を売って戦後の利権を少しでも貰おうという腹積もりではないのかね?」

 

「確かに仰るとおりです。しかし、貴国が今の戦力だけで日本艦隊を撃滅することなど万に一も無いでしょう。ですので、我々が協力すると言っているのです。」

 

「チャーチルがそう言ったのか?」

 

「はい。首相閣下もアメリカの連敗を見て艦隊派遣を決定したそうです。」

 

「まあ、協力はありがたい。何せ、我が国の航空兵力は十分だが砲撃の為の戦艦部隊が不足していてな、そちらの方を重点的に送っていただきたい。」

 

「分かりました。ただちに伝えましょう。」

 

 

 

そして、4月28日 イタリア、連合国に無条件降伏。それと同時にイタリアは枢軸国に宣戦布告を行った。イギリス増援部隊、アメリカ西海岸に到着。

 

4月29日、ドイツ陸軍イタリアへと侵攻を開始。北部を完全に占領され、艦隊はタラントを出ようとしたところをUボートの攻撃を受けて損傷。主力海軍艦艇全滅。

 

 

-エジプト-

 

「敵戦車部隊接近!!」

 

史実では守りきったエジプトだが、ロンメル軍団は本格的に攻撃を開始。日本からの増援部隊を得たドイツ軍は快進撃を続け、次々と連合軍勢力を一掃していく。

 

「敵機来襲。」

 

日本の急降下爆撃機彗星が砲撃陣地を粉砕、シュトゥーカは戦車を爆撃し、残った戦力は地上の戦車部隊が撃破していった。

 

「素晴らしい。日本の戦車はあまり良い印象を持っていなかったが、この戦車はティーガー戦車に勝るも劣らない性能だ。」

 

ロンメルは日本が付与した2式重戦車と3式中戦車の戦果を見て感心する。

 

「右方向にマチルダ、撃!!」

 

2式重戦車が主砲を放ち、マチルダを撃破する。史実ではティーガーが登場するまでアフリカ戦線のドイツ兵を苦しめていたマチルダだが、キングティーガー戦車とほぼ同性能を持つ2式重戦車には敵わなく、あっさりと防衛線を突破した。

 

5月17日 エジプト連合軍降伏。ロンメルはアフリカから身を引いた。

 



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勝利の後退

-マーシャル諸島-

 

「急げ!!グズグズしていると敵が攻めてくるぞ。」

 

マーシャル諸島駐留の日本陸海軍は少しずつ撤退を始めて行く。ただ、海軍が輸送船を用意できなかったため、特別戦隊のデュアルクレイターが撤退する兵の収容を行っていた。

 

「斉藤中将、兵の収容を完了しました。」

 

「分かった。言われたとおりに無人機と故障機を並べておいたな?」

 

「はい。現地の飛行場に飛べない故障機と無人機を並べておきました。」

 

撤退の際に故障機と攻撃用の無人機を飛行場に置いた。それは敵の目を誤魔化すためのと時間稼ぎをするためだ。

 

「斉藤さん、敵潜らしき反応を捉えました。」

 

「なに?」

 

デュアルクレイターの艦魂「デュアルクレイター」が斉藤に報告する。

 

「ロ号ヘリを飛ばせ。」

 

命令を受け、軽巡洋艦「大淀」からロ号ヘリ2機が60kg爆雷2つを搭載して飛び立った。

 

 

「敵潜水艦発見!!。爆雷投下。」

 

2機のロ号ヘリから爆雷が投下され、水柱が上る。

 

「敵潜の反応健在!!」

 

ロ号ヘリでは仕留め切れず、駆逐艦「子日」と「初春」が敵潜の反応を頼りに近づき、爆雷を投下する。

 

 

-シーポーチャー-

 

「爆雷接近!!」

 

潜行深度ギリギリで待機しているシーポーチャーの周りに爆雷の爆発音が響く。

 

「艦長、魚雷発射管室浸水しました。これ以上の潜行は危険です。浮上して降伏を。」

 

「くそ。仕方が無い。」

 

艦長はこの場にいる全員を見渡し

 

「緊急浮上!!浮上しだい降伏旗を掲げる。」

 

シーポーチャーは浮上し、降伏旗を掲げて降伏した。

 

 

-デュアルクレイター-

 

「敵潜は降伏しました。」

 

「了解、拿捕せよ。」

 

駆逐艦は潜水艦の乗組員を収容し、潜水艦は曳航してトラック基地へと戻った。

 

 

 

-トラック諸島-

 

現在、トラック諸島は拿捕した潜水艦とハリボテの輸送艦が停泊している。

 

「ここに潜水艦を収容せよ。」

 

斉藤は駆逐艦に指示を出し、自身はデュアルクレイターの艦橋へ戻った。

 

 

「斉藤さん、どうしてここに敵の潜水艦やハリボテの輸送艦を置いておくのですか?」

 

「もう直ぐここを空襲されるからな。ここに偽の艦艇を残しておいて、敵の犠牲になってもらうんだよ。」

 

 

「なーんだ。その為にわざわざ私をここに置いていくのか。」

 

「!!、誰だ!?」

 

突然聞きなれない声を聞き、斉藤は驚く。

 

「初めまして。私はシーポーチャーの艦魂『シーポーチャー』。私をこんな所に置いていくし、他の撃沈されたと思っていた仲間はここにいるし。一体何を考えているのかと思いきやそういう魂胆なのね。」

 

「そうだ。少し冷酷かもしれないが、これも戦争なんでね。」

 

「ま、確かにそう言えばなんぼよ。」

 

「物分りは良いな。」

 

「当然よ。こっちも兵器。使い捨て覚悟で戦う兵器よ。」

 

「ふーん。希望するなら内地に戻し、改装してやってもいいが、何せ旧式艦だ。使い方によってはあっと驚く運用方法があるかも知れないが、今は思いつかないしな。」

 

「別に、祖国に対して攻撃なんてしたくないわ。」

 

「だが、プリンス・オブ・ウェールズとレパルスは仲間になったぞ。」

 

「ふーん。」

 

そう言ってシーポーチャーは消える。

 

「何がしたかったんだ?」

 

「分かりませんが、その祖国の攻撃に沈められる気持ちはどうなんでしょうね?」

 

「さあな。」

 

 

 

-パラオ 連合艦隊泊地-

 

「長官、斉藤中将からマーシャル諸島撤退完了と報告がありました。」

 

「そうか。斉藤君もうまくやっているそうだな。」

 

「それと、これは軍令部からなのですが、イタリアが連合軍に取り入ったと報告がありました。」

 

山本はそれを聞いて、前に斉藤が言っていたことを思い出す。

 

(そうか。亀井君がうまくやったのか。)

 

「あの、長官?。」

 

「いや、何でもない。ありがとう。」

 

伝令兵は敬礼をして長官室から出て行く。

 

 

 

-ニューギニア諸島-

 

「辻参謀、内地からの撤退命令が着ました。」

 

「うむ、しかしポートモレスビー攻略が出来ずに撤退とは無念だ。」

 

陸軍の辻政信は残念がってポートモレスビーの方角を見る。

 

「撤退の輸送船が到着しました。急ぎましょう。」

 

「ああ。」

 

そう言って輸送船へ乗艦する。

 

「今回は撤退するが、絶対にマリアナでは撤退しないからな。」

 

辻はニューギニア諸島撤退後、マリアナ諸島サイパン守備隊の参謀になる予定であり、マリアナ諸島へと輸送船は最大速力で向かった。

 

 

 

 

-東京-

 

「米内大将、もうじき連合軍が反攻作戦を開始するでしょう。そして、その最終地であるマリアナ諸島にて決戦を挑み、その終焉で東條内閣を倒し、貴方が海軍大臣へと就任する準備は整いました。」

 

米内の自宅に訪れている寺沢は米内に報告する。

 

「分かっておる。その後、ロンメル元帥の講和会議に全権代表として赴き、講和条約調印という山本の計画通りにするのだろう。」

 

「はい。正確には山本長官にこれをお話した斉藤という海軍中将の計画です。」

 

「分かっている。」

 

「では、私はまだやらなければいけない事があるので、これで失礼します。」

 

そう言って寺沢は米内の自宅から出て、外に待たせている車に乗って軍令部へと戻った。



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秘密工作員

-軍令部-

 

「お待たせしてすみません。谷豊さん。」

 

軍令部にて待っていた、史実では死んでいるはずの人間。谷豊。史実ではマレー半島で活動した盗賊であり、日本陸軍の諜報員として働いた経歴もあり、マレー電撃戦の影の立役者とも言われている人物である。

 

「それで、私を呼び出して一体なんです?」

 

「実は、貴方にある所に潜入していただきたい。」

 

「一体どこです?」

 

「ハワイ。この場所がいまどんな状況なのか正確な情報がほしいのです。そして、必要なら破壊工作もお願いしたい。」

 

「それで、私の利益は?」

 

「成功した暁には時価200億の金塊を提供します。一生遊んで暮らして生けるほどの額です。」

 

「悪くない条件だが、もうひとつ。」

 

「なんです?」

 

「潜水艦がほしい。それを使って世界中の深海を見てみたい。」

 

「非武装なら提供できますが。」

 

「できれば深度500まで潜れるのを頼む。」

 

「分かりました。では、行きましょう。横須賀へ。」

 

 

 

-横須賀-

 

「では、先ほど伝えておいた場所に頼む。」

 

伊169潜水艦の艦長に事情を話してあり、その潜水艦でハワイに上陸する計画だった。

 

「お任せ下さい、寺沢中佐。では、谷豊さん。こちらへどうぞ。」

 

艦長が谷豊を艦内に入れ、出航を命じて横須賀を出撃した。

 

 

 

-ガダルカナル-

 

「まだ動いちゃいけないのかしら。」

 

サンガモンの艦魂「サンガモン」は退屈そうに飛行甲板から漆黒の海を見ていた。時間は午後10時。すっかり暗くなり、哨戒任務も夜間の為に行われていない。

 

「もう、日本軍も攻撃してこないんだし移動してもいいと思うだけど。」

 

 

 

「浮上!!」

 

ガダルカナルから西へ30kmほど行ったところに4隻の潜水艦が浮上した。それは、先のサンフランシスコ空襲で巡航ミサイルを放った2500級潜水艦である。

 

「巡航ミサイルを射出座に装着し、命令あるまで待機せよ。」

 

 

そして、ガダルカナルに島影に隠れてレーダー探知を免れながら接近する日本艦隊が居た。

 

「三川長官、敵はまだこちらの存在に気づいてはおりません。夜間奇襲成功です。」

 

「全く、山本長官も私にガダルカナルにいる敵輸送船団を撃滅して来いと言った時には驚いたが、まさかこんなにうまくいくとは。」

 

「また、得意の大博打ですかね。」

 

「ああ、あの人に博打で勝てる人なんかこの世界に存在しないよ。」

 

実際、山本長官の博打の腕前は世界中に知れ渡っており、モナコのカジノでは出入り禁止が喰らうほどである。

 

 

 

「発射!!」

 

巡航ミサイルが勢いよく飛び出し、ロケット推進でガダルカナルの飛行場目指して飛行を開始する。

 

 

 

「何かしらあれ?」

 

サンガモンは西から飛行してくる巡航ミサイルに気づいた。

 

「まさか、あれがドイツや日本が開発したって言う噴進弾?」

 

巡航ミサイル4本は飛行場へ命中し、ガダルカナルのヘンダーソン飛行場に駐機されている全ての航空機は破壊された。

 

「敵襲!!」

 

それと同時に艦隊のサイレンが鳴り響き、戦闘態勢に入る。

 

「輸送船団に近づけ。輸送船を一隻も沈めさせるな。」

 

現在、輸送船には弾薬や食料など、兵が1ヶ月間戦えるだけの補給物資を満載していた。

 

 

 

「敵の飛行場から火災発生中。」

 

伝令兵が艦橋にいる三川軍一中将に報告する。

 

「山本長官、食えないお方だ。」

 

三川はパラオの方角を見て言う。そして、

 

「島影から出る。敵艦隊に夜襲を仕掛け、輸送船団もろとも駐留艦隊を撃滅する。」

 

夜戦の鬼と言われた名に恥じぬ顔つきになり攻撃命令を下した。

 

「砲撃開始。」

 

三川艦隊の旗艦重巡洋艦「鳥海」を先頭に、重巡2隻、軽巡4隻、駆逐艦8隻の夜間水雷戦隊である。

 

艦橋には鳥海の艦魂『鳥海』が敵艦隊を見据える。

 

「アメリカとは直接撃ち合うのは初めてだな。」

 

鳥海は刀を抜き

 

「今こそ、我が皇国の力を思い知らせてやる。」

 

 

 

「敵艦隊出現!!」

 

駐留艦隊旗艦のサンガモンのレーダーが島影から現れた三川艦隊を捉える。

 

「急げ!!早く輸送船団に近づけ。」

 

油断していた。輸送船からかなり離れた所に停泊していた為、向かうのには時間がかかった。

 

 

 

 

「三川艦隊が突入した模様。」

 

伊2500潜は再び巡航ミサイルを射出座に乗せて待機していた。

 

「分かった。三川さんの援護も我々の仕事だ。発射!!」

 

再び巡航ミサイルは放たれ、敵艦隊目指して飛行を開始する。

 

 

 

「撃ち方はじめ!。」

 

鳥海を旗艦とする三川艦隊は単縦陣になって輸送船団の側面に進出。そこから主砲と魚雷を撃ち分けて次々と輸送船を海に沈めていく。

 

「長官、敵艦隊が接近してきます。」

 

報告を聞き、三川は敵艦隊のいる方角を見る。すると、その敵艦隊の空母に向かって飛行する巡航ミサイルを見つける。

 

「あれは?」

 

 

 

「噴進弾接近!!」

 

輪形陣を突破し、巡航ミサイルはサンガモン目指して飛行してくる。

 

「いやああぁぁぁ!!」

 

その瞬間、巡航ミサイルはサンガモンの飛行甲板と左舷に命中する。

 

「がはぁ!」

 

艦魂のサンガモンは背中と左脇腹から血が出て、続いて吐血をする。サンガモンは飛行甲板から大火災が発生し、舵が右に切れていく。

 

 

 

「長官、輸送船団は全滅しました。敵の空母も炎上中。」

 

「丁度良い。あの空母の火災を松明代わりに攻撃を開始せよ。」

 

火災が発生しているサンガモンを松明代わりに付近にいる駆逐艦と重巡目掛けて砲撃と雷撃を開始する。

 

「面舵一杯!!右舷水雷戦始め!!」

 

反転しながら右舷に向いている魚雷発射管から魚雷が放たれる。

 

「敵重巡洋艦に命中。撃沈しました。」

 

「砲撃、駆逐艦に命中。大破!!」

 

艦橋には次々報告が舞い込んで来る。

 

「敵、魚雷を発射!!」

 

「面舵一杯!!」

 

鳥海に向かってくる魚雷を難なく回避する。アメリカ海軍の魚雷は二酸化炭素を排出して進むため、日本の酸素魚雷と違って航跡がよく見えるのだ。その為、回避は容易であり、夜戦になれないアメリカは一方的に遣られていく。

 

「敵駆逐艦撃沈!!重巡大破!!」

 

「愛宕より、『我魚雷使い果たした、撤退を開始する。』と発光信号」

 

「分かった。許可しろ。」

 

夜戦では砲撃よりも魚雷がカギを握り、それを使い果たしたら満足な戦果は期待できない。その為、魚雷を使い果たした艦艇から逐一撤退を開始する。

 

「敵、重巡1隻撤退したのみ。他は全滅です。」

 

中破した重巡洋艦『ボルチモア』は攻撃が激しくなる前に撤退しており、何とか難を逃れた。

 

 

-ボルチモア-

 

「覚えておきなさいよ日本軍。必ずこの恨みは晴らすわ。」

 

ボルチモアの艦魂『ボルチモア』はガダルカナルの方角を見て言う。背中や足からは血がにじみ出ており、正直立っているのがやっとだが、それよりも突然の奇襲による味方艦隊全滅の方が腹が立ち、その怒りで立っているようなものだった。

 

 

 

 

-パラオ-

 

「鳥海から、敵のガダルカナル駐留艦隊の壊滅報告が届いたわ。」

 

秋島が会議室にいる艦魂に報告する。

 

「敵護衛空母1隻撃沈。重巡洋艦5隻沈没、1隻中破。駆逐艦6隻沈没。」

 

「こちらの損害は?」

 

「愛宕が艦首に20センチ砲を2発喰らったぐらいで、後は大なり小なりよ。」

 

「沈没艦なしか。さすがは斉藤中将の推薦した人だね。」

 

金剛が言う。

 

「では、そろそろ我々の方の撤退を開始しなければいけないな。アメリカの反攻もそろそろ情報機関Gの報告にあった日に近づいているし。」

 

大和は秋島の方を見て言う。

 

「ええ、そうね。明日から少しずつ撤退が始まるわ。マリアナ決戦も近づいているし、斉藤中将の講和計画実現も近づいているわ。」

 

「早く平和な戦後世界になってほしいよ。そうすれば、我々は悠々と停泊していられるんだから。」

 

「ああ、最低限独立させたかった地域は独立したし。あとは決戦を挑んで講和が一番だな。」

 

「マリアナとトラックは日本の領土になるんでしょう。」

 

「ええ、斉藤中将の計画にはそうなっているわ。」

 

「でも、彼の言う戦後ではマリアナやトラックは独立しているはずだよ。」

 

「ええ。でも、グアムを除く全ての島が今だアメリカ合衆国の統治領でもあるの。それに、戦後暫くはトラック諸島もアメリカ領だったの。」

 

「そ、それじゃあ独立できなかったの?」

 

全艦魂達が秋島を見る。

 

「ええ、私達の戦いが史実では無駄に終わったそうよ。」

 

「そ、そんな。」

 

「でも、私達は予定通りそれぞれの島を手に入れ、日本軍と現地政治の独立を行い、基本的には現地政治に任せる方針を採る。それが、斉藤中将の望んだ戦後世界よ。」

 

「彼は思想家としても高い才能を持っているな。」

 

加賀は冗談半分で言う。

 

「そんな彼の計画に乗った私達も十分な思想家よ。」

 

長門が答える。

 

「そうだ。我々は彼の言う戦後世界をよりよいものにする為に戦っている。それが、計画の途中で命を絶った赤城を含む全艦魂に対する我々の使命なのだ。」

 

大和が立ち上がって言う。

 

「そうよ。全ては平和たる戦後のため。」

 

金剛も同意する。

 

「ああ、勝とう。マリアナ決戦に。」

 

加賀も同意する。それと同時に、会議室にいる全艦魂が立ち上がり、

 

「全ては戦後世界の為に。」

 

全員で言い、壁に掛けられている艦魂『赤城』の絵と時の『昭和天皇』、海軍旗の『旭日旗』に酒を掲げ、一気に飲み干した。

 



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開始された反攻

-ホワイトハウス-

 

「大統領、艦隊の準備は整いました。いよいよ我々の反攻作戦の開始です。」

 

キング作戦部長は大統領に報告する。

 

「まず、輸送船を使って陸軍をハワイに送り、そこでそこで一部は暫く待機をしてもらいます。そして、海軍は二つの艦隊に分けてマーシャル諸島とラバウルを空襲し、占領します。海軍はこの二つの艦隊が合流してトラック諸島を空襲します。」

 

「分かった。それで、作戦は間に合いそうか?」

 

「はい。イギリスの増援と突然現れた艦艇のお蔭で我々は予想以上の戦力を手に入れることができました。」

 

「ふむ、では作戦を開始してくれ。」

 

「分かりました。」

 

キング作戦部長はホワイトハウスを後にした。

 

 

-サンディエゴ海軍基地-

 

「出航!!」

 

連合軍は、特にアメリカは持てる殆ど戦力をこの大反攻作戦に投入することとなった。

 

アメリカ(主力艦のみ)

 

戦艦    12隻(アイオワ級)

 

正規空母  16隻(エセックス級)

 

軽空母   10隻(インディペンデンス級)

 

護衛空母  11隻(ボーグ級)

 

 

 

 

 

イギリス(主力艦のみ) 

 

戦艦  10隻(リヴェンジ級、キング・ジョージ5世級、ヴァンガード)

 

空母  3隻(イラストリアス級)

 

 

 

 

上陸部隊

 

陸軍兵25万人  海兵隊10万人 戦車等の戦闘車両500両 マンリー級などの他、大量の輸送艦をかき集めて100隻近い大艦隊を作っている。

 

 

 

-ハワイ沖-

 

谷豊をハワイに輸送し終えて、帰ろうとしていた「伊169」は向かってくる連合軍の艦艇を捉えた。

 

「敵艦隊多数!!」

 

艦長が潜望鏡にて確認する。その様子を潜望鏡と目がリンクしている艦魂の『伊169』も

 

「遂に敵の反攻作戦が始まったか。」

 

落ち着いてそう言った。

 

「連合艦隊司令部へ打電!!『我、ハワイに向かう大輸送船団及び護衛の艦艇を確認。連合軍の反攻作戦の可能性あり。』」

 

この無電は直ちに暗号化され、連合艦隊旗艦の秋島や内地の軍令部等の関係各所に情報が行き渡った。

 

 

 

-秋島-

 

「ハワイ沖にて工作員を上陸させた潜水艦が敵の大艦隊を発見したわ。」

 

集まっている艦魂に秋島が報告する。

 

「いよいよか。」

 

「山本長官には伝えなくていいの?」

 

長門は秋島に言う。

 

「長官は既にご存知です。今、連合艦隊の重人達と会議を行っております。

 

 

 

「ですから、これは間違いなく敵の大反攻作戦と見るべきです。」

 

「いや、この輸送船にはハワイの修理機材を積んでいるだけかも知れないではないか。何故、そう言い切れるのだ?。」

 

「たかだか修理機材を運ぶのに戦艦や空母をこんなに護衛させる必要はありません。これは大反攻作戦が始まったと見るべきです。」

 

斉藤は敵が反攻作戦を始めたというが、なかなか信じて貰えない。

 

「まあまあ、確かに反攻作戦が始まったという確証は無いが、斉藤君の言う事も尤もだ。ここは、様子を見ようではないか。」

 

軍令部から派遣されている神重徳は一応マリアナ諸島防衛の参謀を任せられているが、基本的に陸戦は陸軍が指揮するもので海軍所属の神には秋島での会議に参加して貰った。

 

「それに、その答えはもう暫くしたら出ると思いますよ。」

 

 

 

 

数日後のマーシャル諸島

 

「ジャップの航空基地だ。」

 

護衛空母から飛び立ったワイルドキャットは爆撃隊の護衛を任されており、上空待機を行っている。すると、飛行場から60機の無人戦闘機が向かってくるのが見える。

 

「敵のレップウだ。全員、サッチウェーブを試すぞ。」

 

「了解。」

 

戦闘機は2機一組になって迫り来る烈風に迎撃態勢をとる。

 

「な、なんだ!!こいつ等、ただの烈風じゃねえ!?」

 

しかし、サンフランシスコに墜落していた烈風は囮であった。本来の烈風の半分以下の性能しか持たない不良品の烈風を使って訓練していたため、完全に舐め切っていた。

 

「ぎゃあああ!!」

 

無人機といえど、性能は本来の烈風そのものだった。零戦にも敵わなかったワイルドキャットがその後継機の烈風に敵うはずも無く撃墜されていく。

 

「戦闘機隊は一体何しているんだ!!」

 

爆撃隊は落ちていく味方機を見て怒りを表す。そして、何機かの烈風はそのまま爆撃隊にも攻撃を仕掛ける。

 

「くっそ、駄目だ。」

 

爆撃隊にも被害が出始め、撃墜されていく。結局、爆撃機での攻撃は失敗に終わり、戦艦部隊による砲撃が開始されるが、既にマーシャル諸島に日本軍は居ないため、砲弾の無駄使いをしてくれているのだ。

 

「撃て撃て!!ジャップの奴等を砲撃の雨に晒してやれ。」

 

キングジョージ5世級は砲撃を続け、全弾撃ち尽くしたところで砲撃を中止する。

 

「上陸隊!!残ったジャップを攻め、占領を開始せよ。」

 

結局、上陸したはいいが、島はもぬけの空となっており、連合軍はあっさりと占領することが出来た。

 



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無駄撃ち続く連合軍

-ラバウル沖-

 

「暇だなー。」

 

ラバウル沖で敵情偵察を行っているドレッドノートと僚艦の伊号潜水艦2隻の艦魂は退屈そうに旗艦のドレッドノートの会議室に集まっていた。

 

「敵が反攻を開始したっていうから偵察に来たけど、ここには敵が現れないね。」

 

既に5日間も海底鎮座をしており、乗組員の間でも疲れが出始めている。そこへ

 

「私の電探に敵の航空隊を捉えたわ。」

 

ドレッドノートの艦魂は僚艦の艦魂に伝える。

 

「やれやれ、5日目でようやくか。」

 

そう言ってそれぞれの艦へと戻り、接近する敵艦隊を迎え撃つ準備を整える。

 

 

 

-ラバウル-

 

「目標を発見!!」

 

アメリカ・イギリスの連合航空隊はラバウルに向かって殺到する。ラバウルに配備した無人の烈風が迎撃に昇り、空中戦が発生した。

 

「喰らえ!!」

 

イギリスは烈風との本格的な航空戦は初めてで、スピット・ファイアの性能は少しばかり烈風に勝っているが、旋回性能では圧倒的に劣っている。

 

「ぎゃああ!!」

 

しかし、アメリカのヘルキャットや爆撃機は違う。性能差が激しく、烈風に翻弄されては撃墜されていった。

 

「畜生、あのサッチウェーブが全く利かないじゃないか。」

 

ヘルキャットは逃げるだけで精一杯で、とても史実にて大活躍した性能は一切発揮できていなかった。

 

「航空機で落とすのは無理だ。」

 

爆撃機の一機が母艦に打電をし、至急作戦の練り直しが必要とされた。

 

 

 

-ラバウル攻撃部隊 旗艦エセックス-

 

「司令、ラバウルは非常に強固な守りで、航空部隊での陥落は不可能です。」

 

「分かっておる。しかし、此方には島を砲撃するための戦艦は少ないのだ。何とか、航空機だけでラバウルを落としたい。」

 

司令のミッチャー中将は部下にこう言ったその時

 

「敵機来襲!!」

 

艦隊にサイレンが鳴り響く。

 

「機数は?」

 

「約20機。いずれも大型」

 

ミッチャーは艦橋から外を見た。すると、巨大な6発機が艦隊に向かってくるのを見つけた。

 

 

「敵艦隊視認。爆撃隊は爆弾投下用意。砲撃隊は主砲発射用意」

 

爆撃機は爆弾倉を開き、空中戦艦は下部主砲を敵艦隊に向ける。

 

 

「航空隊は直ちに出撃!!迎撃しろ。」

 

残った航空機で富嶽と羽島を撃墜しようとするが、近づいたところで羽島と富嶽の対空機銃は接近する航空機に容赦なく放たる。

 

「敵に近づけん。」

 

 

「目標、輸送船団!!」

 

富嶽と羽島の狙いは空母などの戦闘艦艇ではなく、鈍足で装甲のひ弱な輸送船であった。

 

「砲撃開始!!」

 

羽島が一斉に砲撃を開始し、輸送船が炎上する。それを見た爆撃機は

 

「よくやった。熱追尾式爆弾投下!!」

 

富嶽には熱を探知して目標が移動しても有翼制御装置を使って誘導し、敵を攻撃する新型爆弾を搭載していたのだ。羽島はその熱を発生させるための補助的な機体に過ぎないのだ。

 

「目標に命中!!炎上しながら沈んでいきます。」

 

戦果を見届け、富嶽と羽島は内地の横須賀航空基地へ向かって飛行を開始した。

 

 

-エセックス-

 

「輸送船の半分を失いました。」

 

艦橋は突然の襲撃で殆ど打つ手が無く、その上で輸送船の半分を損失したのだ。

 

「日本の新兵器、よく見せて貰ったわ。」

 

艦魂のエセックスは燃えながら沈み始めている輸送船を見ながら言った。エセックスは爆弾が誘導されているのに気づき、日本の技術の高さを改めて思い知ったのだ。

 

結局、残った兵力のみで上陸を開始しようとしたが

 

 

「魚雷発射!!」

 

待機していたドレッドノート以下潜水艦が待ってましたとばかりに雷撃を開始した。結局、輸送船は全滅してしまい、泳いで上陸した部隊は島に待機していた97式中戦車(無人)に次々とやられてしまい、ラバウル占領は失敗したのだ。

 

 

 

-トラック諸島-

 

その後、マーシャル諸島を空襲した部隊とラバウルを空襲した部隊が合流し、トラック諸島へと攻撃隊を向かわせた。トラック諸島は占領が目的ではなく、日本の泊地としての機能損失を狙う作戦であるため、砲撃の必要は全く無かったのだ。

 

「トラック諸島視認。湾内に艦艇多数!!」

 

殆どは鹵獲した潜水艦なのだが、それを斉藤の指示を受けてハリボテで覆い、あたかも戦闘艦艇の様に見せかけたのだ。

 

「今度は敵機も少ないな。」

 

ラバウルには烈風が20機のみ配備され、敵の空襲成功をあたかも願っているような配備状況であった。

 

「喰らえ!!」

 

急降下を開始したヘルダイバーは軽巡洋艦の様にハリボテで覆われたマッケレルであった。

 

「やめて!!味方よ!!。」

 

マッケレルの艦魂は必死に叫んだが、艦魂の見えないパイロット(実際見えていても風防によって声が遮断されるから聞こえないのだが)は構わず爆弾を投下した。

 

「きゃああ!」

 

爆弾は船体の中央を貫通し、内部にて爆発。マッケレルは沈没していった。

 

「正面に烈風4機。」

 

スピット・ファイアは倍の8機で挑み、撃墜に成功する。しかし、ヘルキャットは1対1で戦って遣られるし、1対2でも撃墜されることがあったのだ。

 

 

 

結局、空襲には成功したが、ヘルキャットは28機も損失し、スピット・ファイアも12機が損失したのだ。烈風は全滅したが、航空戦の損害比を見れば連合軍の惨敗という形となった。艦艇も22隻中10隻が沈んだが、鹵獲艦の為に日本側の損害は全く無しということであった。

 

 

 

-千葉県 捕虜収容所-

 

「ハルゼー提督をお連れしました。」

 

「ご苦労。」

 

斉藤は衛兵にお礼を言い、ハルゼーを正面の椅子に座らせた。

 

「ハルゼー中将、初めまして。私は日本海軍中将の斉藤次郎です。」

 

斉藤はまずハルゼーに自己紹介をする。しかし、ハルゼーは斉藤をじー、と見つめるだけであった。

 

「お気持ちはお察しいたします。キルジャップ、キルジャップと言い続けていた貴方がそのジャップに捕まったのですから。」

 

「そうではない。お前は、アドミラル・トーゴーに似ている。」

 

「はぁ?」

 

意外な一言に斉藤は驚く。

 

(確か、ハルゼーは東郷の事をあまりよく思っていなかったと思ったが。)

 

「まあ、それはさておき、史実では2番目に神風(特攻ではなく、元寇の時の神風)を2回も受けた人だと言うが、ここではあり得ませんね。」

 

「史実?何を言っているんだ?」

 

「いえ、此方の話です。本題に入ると、もうじきこの大戦は終結します。そして、戦後のアメリカの幕引きを貴方にもお願いしようと思ってここに来ました。」

 

「終結?どういう事だ?」

 

斉藤は手元にある資料をハルゼーに見せた。

 

「こ、これは!!」

 

「貴方の国、アメリカを含むこの大戦参加国の主要国が講和を行い、本大戦終結。その後の戦後世界の物です。」

 

ハルゼーは資料を一枚一枚捲って目を通す。

 

「このような世界になると?」

 

「はい。むしろ、そうなるべきなのです。」

 

「欧州・アメリカ連合とアジア・中東共栄圏の対立。その終結と代理戦争。テロの増加と国内動乱。なぜこんなにもこの後の事を書ける?」

 

「それは言えませんが、恐らくはそうなる事かと。」

 

「そして、アメリカで発生した同時多発テロとイラク侵攻。ロンドン同時爆破テロ。第2の世界恐慌。世界軍事バランスの変化。」

 

「それが、恐らくは現実に起こると予想されます。」

 

「こんな世界に、戦後なるのか?」

 

「はい。そうならない為にも我々はやっているのですが、恐らく、止めることは不可能かと。」

 

「では、一体どうすれば?」

 

「出来る限り早期の講和。これしか、考えられません。そして、世界政府の建設と他民族統一国家の建国。これしかありません。」

 



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中国戦線講和計画

-重慶-

 

「大元帥、共産党が日本との講和後に我々国民党政府に対して宣戦布告をしました。」

 

「やはり共産党は裏切ったか。」

 

蒋介石は溜め息を付いて言う。元々、蒋介石自身は抗日民族統一戦線などの当てにしていなかった。確かに共産党も日本軍を攻撃してはいたが、あくまでもゲリラ戦であり、実質戦っているのは国民党であった。

 

「日本軍は本当に強いです。信じられない兵器を保有し、我々中国軍を各戦線にて易々と撃破して此方に進軍している聞きます。」

 

「分かっている。全く、連合軍からの支援を受けられない状態で日本と共産党の二つを相手にしないといけないとは。」

 

蒋介石は再び溜め息を付く。援蒋ルートは日本がインド等の占領で遮断され、おまけに大陸の日本軍はここ重慶を包囲する布陣で動いている。

 

「援蒋ルートは日本軍が包囲したお蔭で破壊する事が出来なかった。そのルートを逆に利用されたら我々に打つ手は無い。」

 

もし、援蒋ルートを使ってインド方面から日本軍が押し寄せれば、国民党に逃げ場は無い。国民党には現在まともな武器や装備が無く、士気も非常に低かった。そんな状態で勢いに乗る軍勢に立ち向かえば結果など見え見えであった。

 

「どうするべきか。」

 

蒋介石は悩んだ。自分の判断で国民党の命運は決まる。判断ミスが戦線の崩壊を呼び、国民党の勢力圏は地に堕ちてしまう事だって考えられた。

 

 

 

-日本軍 中国方面総司令部-

 

「石原中将、重慶の包囲を完了しました。援蒋ルートを北上している部隊も配置に付いたとの報告を受けました。」

 

石原は地図を見つめながら

 

「分かった。海軍の爆撃部隊がもうじき空爆を開始する。その後は富嶽が残ったものを完全に破壊し、我々が占領する。全員準備を整えさせろ。」

 

 

 

-重慶-

 

「空襲警報発令!!」

 

重慶市街は人で溢れかえり、パニックに陥っている。そこへ上空にはアメリカ義勇軍航空隊『フライング・タイガース』が姿を現した。史実では戦局の好転で解散されているが、未だに好転しないことから部隊は残存していた。

 

「日本の爆撃機を視認。大きいぞ。」

 

海軍の連山20機が十数機の護衛機と共に姿を現す。P-40は機体を旋回させて爆撃機に向かう。日本軍の護衛機も迎撃に気づき

 

「戦闘機接近!!全機、散開して撃墜せよ。」

 

神速は直ちに増槽を捨てて、P-40へと向かった。

 

 

「喰らえ!!」

 

多少の練度で勝るフライング・タイガースの方が先に急降下で操縦席目掛けて機銃を放った。しかし、機銃弾は風防に全弾はじかれ、効果は一切無かった。

 

「ばかな!!」

 

実は、神速には幾つかの秘密があった。その一つは、被弾確立の高い翼には二重装甲と呼ばれる物を採用している。それは、外装甲と内装甲との間に特殊なゴムを入れているのだ。それによって被弾に非常に強く、胴体にも重要区画はこの二重装甲で覆われている。それに、風防も30ミリですら耐える事が可能な特殊防弾ガラスを使っているため、傷一つ付かないのだ。ただ、ここまでやると重量が半端じゃない。その為に4000馬力と言うエンジンを積んでいるのだ。

 

「無駄だ。そんな13ミリ程度の豆鉄砲じゃあこの戦闘機は落とせんよ。」

 

神速のパイロットは機体を宙返りさせ、敵機の後ろにつき、機関砲を発射して撃墜した。

 

 

「集合!!」

 

隊長は無線で護衛機の集合を掛けた。一般に日本の無線機は雑音が酷くて役に立たないと言われているが、一説によると内地の部隊は問題なく使用できたと言う。調べてみると、南方の最前線では無線が使えなく、内地では使用できていたと言うことになった。これは、本来日本の無線機は当然日本国内での使用に適した仕様になっている。そんな物が雨が多く、湿気も凄い南方戦線にしかも部品の供給も少ない所にあったら一瞬で使用できなくなることは分かる筈である。だから、部品の供給を常に断たないよう、各基地に技師も置き、簡単な故障なら修理し、使用できなければ直ぐに交換用の部品を送るようにしておいたのだ。

 

「敵機半数の撃墜を確認。残りは退却しました。」

 

「分かった。全機、帰還する。」

 

爆撃を終え、爆撃機とその護衛機は帰還の任に就いた。その数分後、富嶽が重慶の残ったものを完全に破壊し尽くし、重慶は完全に廃墟となってしまった。

 

 

 

「突撃!!」

 

廃墟になった重慶に戦車や歩兵やらがなだれ込む。殆どが瓦礫の為に身を隠すところは多い。しかし、戦車などの装甲兵器を持たない国民党は戦線が崩壊。5日間の市街戦後、国民党は降伏した。

 

 

「5日間も占領に掛かるとは予想外だ。」

 

「はい。ですが、この戦闘で我々の兵器の弱点を露呈することができました。この戦訓をマリアナの決戦で生かせれば良いでしょう。」

 

「そうだな。」

 

石原は地図をしまい、総司令部から外に出る。

 

(斉藤、中国は片付いたぞ。後は、欧州とマリアナだ。お前さんの計画に乗ったのだ。成功させてくれよ。)

 

石原はそんな事を思うのであった。



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最終兵器撲滅

-軍令部-

 

「各方面での説得は完了しました。」

 

斉藤は軍令部に居る寺沢から報告を受ける。

 

「そうか。これで、心置きなく終戦への道を歩めるな。」

 

斉藤は安息の溜め息をもらす。彼の考えた戦後世界の下準備は殆ど完了したのだ。

 

「それと、情報機関Gがようやくアメリカの第二の原爆工場を発見しました。」

 

斉藤はそれを聞いて

 

「一体何処で造っているんだ?」

 

「はい。調査の結果、オークリッジ国立研究所で製造されているようです。」

 

「オークリッジだと。」

 

斉藤には思い当たる節がある。史実にてアメリカは第二の原爆である長崎型原始爆弾のプルトニウムの製造を任せた所だ。

 

「ファットマンを造っていると言う事は、アメリカはプルトニウム型原爆を日本に投下する気だ。」

 

「プルトニウム?」

 

「説明は後だ。とにかく、その研究所を破壊する。」

 

斉藤は北海道にある飛行場に連絡を入れた。現在、そこには50機の富嶽がこの原爆工場破壊の為に待機しており、その全てに出撃命令を下した。

 

 

-北海道 愛国飛行場-

 

「急げ急げ!!出撃命令は下っているぞ!!」

 

急いで富嶽に搭乗している陸軍重爆撃隊の隊員は祖国を救えると思い、息高揚している。しかし、彼らの戦隊司令官はこの原爆工場破壊とは別の任務も背負っていた。

 

愛国飛行場からは富嶽50機が緑ヶ丘飛行場からは羽島と風龍が合わせて50機飛び立った。

 

太平洋上にて編隊を組み、アメリカ本土目指して全速力にて飛行を開始する。

 

 

 

-ドイツ-

 

「それで、ヒトラーの今後の予定が判明したんだな。」

 

亀井はクラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐にベルリン市内で会った。彼は斉藤から反ヒトラー派である事を聞いており、彼を使ってヒトラーの身辺調査や予定等を探っていた。

 

「それで、12月3日にヒトラーはフランスに装甲列車でゲッベルスを除く側近らと共に向かい、パリ市内の博物館を視察すると。」

 

「ああ。」

 

「全く、戦時下だと言うのに呑気な人だ。」

 

欧州で暗躍を続ける亀井は反ヒトラー派の人間を出来る限り味方に引入れ、ベルリン市内の制圧に当てようと考えていた。それに、彼にとってゲッベルスが一緒に行かないことは好都合であった。彼なら、プロパガンダの為にも必ず国民的英雄のロンメル元帥を総統に引き立ててくれる。そして、そのロンメルはこの大戦終結の鍵である。

 

「では、頼んでおいたものを。」

 

「これです。」

 

取り出したのは爆弾であった。」

 

「これを線路に仕掛け、奴の列車がこの上を通過する時を狙って爆破すれば、いくら奴でも生きていまい。たとえ生きていても重症を間違いなく負うだろう。その間にお前が銃で頭を撃ち抜けばいい。」

 

「分かっている。しかし、できればこの爆弾で殺したい。」

 

「お前の言う講和。その為に私はお前の計画に乗ったのだ。一介の少佐にしては大胆な計画だと思ったが、まあ上手くいきそうだから乗ったまでだ。」

 

亀井は少し上向きになり

 

「それは違いますよ大佐。私の計画ではなく、一人の海軍中将の計画です。」

 

「ほー。それは一体誰かね?」

 

「言えません。」

 

「そうか。まあ、上手く計画が成功すればどうでもいいがな。」

 

そう言ってシュタウフェンベルク大佐は出て行った。残された亀井は

 

「大佐、あなたの言う戦後と我々の戦後とは違うんですよ。」

 

と、一言言った。

 

 

 

半日を掛け、重爆隊はアメリカ本土を捉えた。

 

「見えてきたぞ。」

 

戦隊長の真田(さなだ)大佐は眼下に広がる広大なアメリカの海岸線を見て言う。カリフォルニア州ロサンゼルス上空を通過し、アリゾナ州に入ったところでアリゾナ基地から飛んできた超高高度戦闘改造型のP-38画12機、迎撃に昇ってきた。

 

「敵戦闘機接近!!全機、対空射撃用意!!」

 

全機の機銃が上昇してくるP-38に向けられた。幾ら超高高度戦闘型とは言え、無理な改造な為に動きは非常に鈍い。機銃は放たれ、6機は忽ち撃墜される。そこまで撃墜したところで風龍からは10機の先秦が切り離された。こちらは高高度でありながらも非常に俊敏で、P-38を一瞬で撃墜してしまったのだ。

 

「やはり、もう損害は無いな。」

 

最初は動揺したが、今では本土上空を飛行する重爆撃機にアメリカは打つ手が無かった。幾ら改造されたP-38が迎撃に来ようと、性能が発揮しきれていないのに富嶽を撃墜することは不可能であった。真田大佐は撃墜されたP-38の方を見て

 

(お前達は立派だ。祖国の空を守るために命を賭けてここまで来たんだ。それだけでも英雄的行動だよ。)

 

真田は今は大佐だの何だの、一切の軍事的用語を無視して男としての敬意を表して敬礼をした。

 

 

ニューメキシコ、テキサス、オクラホマ、アーカンソーと多少の抵抗を受けたが損害無しで無事に目的のテネシー州達した。

 

「全機へ、目標が見えたぞ。爆弾倉開け!!」

 

真田機が編隊の富嶽全機へ伝える。

 

「目標を捉えた、爆撃開始!!」

 

富嶽から全20トンの爆弾を投下し始める。その爆弾の量は半端じゃないくらい多く、B-29のおよそ2倍の搭載力を持っている富嶽だからこそ出来る芸当だった。

 

 

 

-オークリッジ国立研究所-

 

「た、退避!!」

 

研究員らは急いで退避を始めるが、製造している物までは持ち出せないのだ。結局、研究員の約半数と最後の原爆製造工場を破壊された。

 

そして、ウラン原子炉が暴走を始め、核エネルギーがテネシー州一帯に広がり、放射能汚染を受けたのだ。

 

 

 

富嶽とその護衛機は任務を終え、ノースカロライナ州の上空を通過してドイツへと飛行したのだった。

 



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最終決戦に向けて

マリアナ諸島に戻った斉藤は早速、艦隊の訓練に励んだ。

 

-秋島-

 

「撃て!!」

 

秋島の全門一斉掃射は凄まじい。左右別々に狙える上、多数の砲弾を一回で飛ばすために外す可能性は皆無だった。予想通り、目標に命中した。

 

「この艦じゃあ訓練にならないあな。」

 

山本は艦橋で目標を双眼鏡で見ていた。

 

「長官、今度は対空戦闘の訓練です。」

 

宇垣が山本に耳打ちした。山本は双眼鏡でサイパンの方を見ると、標的の凧を付けた99式艦爆や彗星が姿を現す。

 

「対空戦闘開始!!」

 

しかし、秋島は砲撃だけでなく対空戦闘も優れているのだ。機銃や高角砲が無数に装備されており、絶え間ない弾幕を張ることで航空機は近づけないのだ。

 

「標的凧は穴だらけですよ。」

 

双眼鏡で確認できるだけで相当数穴が開いている。秋島の艦魂は通り過ぎていく99式と彗星を見ながら

 

(これなら、いつ何時敵機が来ようと対応できるわね。)

 

そう思った。

 

 

一方、ヴォルケンクラッツァー姉妹は

 

「撃て!!」

 

80センチ砲の最大射程、53km先にある目標に向かって放っているが、こちらはなかなか当たらない。

 

「こりゃあ、訓練がもっと必要だな。」

 

斉藤は見張り艦から送られてくる成果を聞きながら言った。隣にいるヴォルケ2も

 

「全く、日本軍の砲術は世界一だって自負していたのに、当たらないじゃないの。」

 

撃ち続けているのに成果は一切無し。そこへ、ムスペルヘイムが瞬間移動してきて

 

「斉藤さん、砲角をもう少し下げてくれませんか?」

 

「どうしてだ?」

 

「あの角度じゃあ遠距離目標に対する砲弾の軌道が悪すぎます。もう少し砲角を下げ、風の力を利用して砲撃を届かせるのです。」

 

「分かった。」

 

斉藤は艦内マイクを砲撃指揮所に繋げ

 

「指揮長、砲角をもう少し下げるように言ってくれないか?」

 

「え?長官、丁度よい角度で砲撃を行っているのにいいんですか?」

 

「ああ。」

 

砲撃指揮長は主砲に砲角を少し下げさせ、一発放った。すると、

 

「司令、見張り艦から命中したと連絡が届きました。」

 

「そうか。」

 

斉藤はムスペルヘイムの方を向いて

 

「ありがとう。これで、勘がつかめただろう。」

 

「どういたしまして。」

 

そう言うなり、ムスペルヘイムは自艦に戻っていった。

 

 

-満州-

 

「寺沢、主戦派の連中を抑えるにはやはり殺すしかない。」

 

「そうか。」

 

満州にて寺沢は陸軍の友人である浜崎(はまざき)司(つとむ)陸軍大佐に会った。彼が、陸軍の主戦派の連中を止めるために動いている陸軍将校なのだ。

 

「やはり、言葉では理解できませんか?」

 

「言葉で分かれば最初からこんな戦争を始めないよ。」

 

浜崎は陸軍内では数少ない現実を見ている者の一人である。彼は元々開戦反対派で、現在の戦局も直に崩壊するとうすうす感じている。

 

「貴様の言う講和の為にも、やはり死んで貰うしかないのだ。」

 

「できれば、穏便に済ませたかった。同じ日本人を殺さなければならないなんて。」

 

「気持ちは分かるが、殺らねば国が滅びる。分かってくれ。」

 

「ああ。」

 

寺沢は覚悟を決めた。自分が説得する海軍は殆どが説得に成功したが、一部はまだ説得できていない。そして、陸軍では説得に応じる人間はあまりにも少ないことを悟った。

 

「仕方が無い。マリアナまで時間が無いのだ。どうか、陸軍の事を宜しく頼みます。」

 

「任せろ。そっちも海軍を任せたぞ。」

 

二人は握手を交わす。これが、最後の握手になるかどうかは分からないが、戦争終結後の平和な世界で会おうとの意思表示であった。

 

 

 

-ホワイトハウス-

 

「頼みの綱の原爆は無くなった。これで、日本を武力によって完全に屈服させる以外に方法が無くなったのだ。それが何を意味するか分かるんだろうな?マーシャル陸軍元帥?」

 

「はい、大統領。一ヵ月後にマリアナ方面に進出し、そこを占領した後に日本を戦略爆撃をする。そして、焼け野原になった日本本土に上陸し、軍事政権から国民を解放する。」

 

史実では日本の降伏で決行されなかったダウン・フォール作戦を陸軍内にて進めていたマーシャルはその足がかりにB-29の帝都爆撃機に必要なマリアナ諸島を如何しても手に入れたかった。その為、マリアナ諸島占領の為の準備を前々から進めていたのだ。

 

「B-29も1000機生産でき、続々と増産されております。これらを占領後のマリアナ諸島に配備し、日本本土を焼け野原に変えます。」

 

「これ以上、私を失望させないでくれよ。私の支持率はもはや無きに等しいのだ。ここで、大敗北なんて事になったらホワイトハウスにいる者全員のクビが本当に飛ぶぞ。」

 

「分かっております大統領閣下。我々の願う戦後世界は我がアメリカを中心とする世界なのですから。」

 

マーシャルはそう言って大統領執務室を後にする。



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マレーの虎はハワイの虎

-ハワイ-

 

「アメリカは基地をまだ完全に修復できていないんだな。」

 

茂みに隠れている谷豊はアメリカのホイラー飛行場を見る。谷は日本の潜水艦でハワイに上陸した時からアメリカ軍基地を気づかれないように回り、現在の結論至った。

 

「これは、日本の中枢に知らせたほうが良いな。」

 

谷は林の中に入り、自らが設置した仮キャンプ場に到着する。ここには、わずか4名だが内地より派遣された情報機関Gのメンバーも居り、この4人と谷は生活を共にしている。

 

「それで、アメリカの連中は基地をまだ完全に復旧出来ていないんだな。」

 

「ああ。」

 

内地から送られて来たハワイ方面情報部隊隊長『長浜(ながはま)栄治(えいじ)』情報少佐は谷の報告を聞く。

 

「やはり、海軍のハワイ・合衆国本土間通商破壊作戦『F作戦』が成功していたんだな。

 

日本海軍は、ハワイ近海に出現する復旧資材を積んだ輸送船を徹底的に撃沈しており、これが原因でアメリカはハワイを思うように修復できなかった。航空機で運ぼうにも、ドレッドノートやノーチラスに発見されては対空ミサイルを放たれて悉く失敗している。最近、ようやく輸送船の安全(と、言うより日本軍潜水艦隊が後退した)確保がなされた為に復旧を大急ぎでさせていた。

 

「そこで、少し連中に度肝を抜いて貰いませんか?」

 

谷は長浜に提案した。

 

「具体的には?」

 

「夜間に陸軍基地に侵入し、戦車を奪って暴れてみるのはどうです?夜なら航空機も来ませんし、大乗でしょう。我々が死んでも十分な情報を内地に送ることも出来たんです。」

 

「確かに、十分な情報を集めて内地に送った。しかし、ここに居る者は死ぬために来たのではないぞ。」

 

「そんな事は百も承知です。しかし、今陸海軍で部隊を再編している最中です。この間にアメリカが攻撃を仕掛けてきたら、混乱して余計に損害が出ます。それよりも、その準備阻害の意味でもやりましょう。」

 

「分かった。元より帰還の意思は我々は持っていない。やってみよう。」

 

提案は行動に直ぐ移された。谷を先頭に、ベロース基地に侵入した。

 

 

-ベロース基地-

 

偵察基地だが、戦車は少数配備されている。そして、駐車されているシャーマンに基地衛兵に気づかれないように乗り込んだ。

 

「燃料と弾薬は十分。」

 

「戦車の操縦が出来るのかよ?」

 

操縦席に座った長浜少佐は任せろと手で合図する。

 

「分かった。行ける所まで真珠湾海軍基地に近づく。出来れば、砲撃する。」

 

 

 

「ああ。連中に度肝を抜かせてやるよ。」

 

そう言って、長浜はエンジンを掛ける。

 

「よっしゃ!!全速前進!!」

 

シャーマンは基地の出口に向かって走り出す。

 

 

「おい!!誰が戦車に乗っている!?」

 

衛兵等は気づいて走ってくるが、重い武装をしている為に追いつかない。辛うじてジープやハーフトラックに辿り着き、急いで戦車の後を追った。

 

「止まれ!!」

 

シャーマンに呼びかけるが、当然止まる筈は無い。そればかりか、76mmカノン砲を向ける。

 

「よけろ!!止めるんだ!!」

 

しかし、突然の事で運転手はパニクり、ハンドルを思いっきり切ってしまった。ジープは横転し、停車したハーフトラックにはカノン砲が命中し、炎上した。

 

 

「やったぜ。」

 

射撃手を務める谷は炎上するハーフトラックを見て喜ぶ。それと同時に、ハワイ全体に緊急警報が鳴り響き始めた。

 

『正体不明の者にM4中戦車を強奪され、ハーフトラックとジープを破壊された。各員、警戒を厳重にせよ。』

 

「騒がしくなりましたね。」

 

「ああ。」

 

シャーマンは山道を走り、真珠湾にあるハワイ方面海軍基地を目指して突き進んだ。

 

 

「止まれ!!止まらねば発砲する。」

 

途中、ジープと歩兵で構築した防御陣地があったが、

 

「喰らえ!!」

 

溜弾砲で歩兵を片付け、ジープはキャタピラで踏み潰して進んだ。

 

「もう少しだ。」

 

山道を抜けると思ったその時、側面からロケット弾を受ける。

 

「な!!何が起こった?」

 

突然、側面からの衝撃を感じ、停車してしまったのだ。

 

「くっそ。動け!!動け!!」

 

長浜はアクセルを踏むが、動かない。

 

「おいおい、いい子だから動いてくれよ。」

 

再びアクセルを踏むが、一向に動かない。キャタピラがロケット弾で破壊され、動けないのだ。

 

 

「やったか?」

 

ロケット弾を放った60mmバズーカはシャーマンの車体自体には効果が薄いが、キャタピラには十分な効果があった。シャーマンのキャタピラに命中した後、キャタピラが外れて移動できなくなったのだ。

 

「乗り込め!!」

 

周りに潜んでいた米兵が戦車に群がっていった。

 

 

「ここまでですね。」

 

車内では、長浜が椅子に座って一同を見る。そして、基地に侵入した時に戦車を奪うついでに持って来たC-4爆弾を10個取り出す。そして、起爆スイッチを押した。

 

 

「ぎゃあ!!」

 

一瞬、米軍側にも何が起きたのか分からなかった。突然、ハッチを開けて車内に入ろうとしていた者が吹っ飛んだかと思うと、戦車自体が吹っ飛び、周りにいた兵らも巻き込んで大爆発をした。

 

 

死者  日本側5名(全員戦死)   アメリカ側30名

 

 

 

-軍令部-

 

「ハワイからの無線傍受で、長浜を含むハワイ情報機関全員の戦死が判明した。」

 

永野修身大将は、軍令部参謀の寺沢に言いに来た。

 

「谷さんもですか?」

 

「ああ。」

 

「そうですか。」

 

寺沢は俯いた。自分が死地に追いやったものだと責任を感じる。

 

「彼は、軍属のために戦史扱いとなる。だから、実家には戦死公報を送った。」

 

「そうですか。」

 

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2 司令長官室-

 

「軍令部より、ハワイ基地は今だ修復不完全だと連絡を送ってきました。」

 

通信兵が艦橋にいる斉藤の許に報告に来る。

 

「分かった、ご苦労。」

 

斉藤は頷き、通信兵に退出を促した。

 

 

「斉藤さん、秋島から決戦が近いので準備をしておくよう伝えられました。」

 

ヴォルケ2は一応特別戦隊所属ながら連合艦隊に属している身である。だから、連合艦隊の艦魂達の会議にも出席している。そして、その連合艦隊旗艦である秋島の命令には逆らえないのだ。

 

「そうか。偵察機の報告では、マーシャル諸島に大型爆撃機が大量に配備されていると言う。間違いない、B-29がマーシャル諸島に配備されているんだよ。」

 

「では。」

 

「ああ、航続距離は十分、マリアナ諸島を狙える。上陸作戦を援護させる目的で配備したと考えるのが妥当だろう。」

 

「富嶽なら。」

 

「反撃できるが、富嶽の大半はソ連方面の作戦に当てるのだ。援護に来れるのは関東方面に配備した500機と、黎明島に配備している700機のみ。残る、5000機と、中国・ビルマやインド方面の3000機、中国の800機、ドイツの500機は全てを使ってソ連を爆撃し、スターリンを殺すのだ。」

 

「そうすれば、この大戦は終結するのね。」

 

「そうだ。その為に、今まで終戦後の準備をしてきたのだ。後は、ヒトラーとスターリンが死ねば全て終わる。」

 

「何で、そんな巧妙な作戦を立てれて、実行できるの?」

 

「言ったろ、私の時代の日本は腐っていると。汚れた政治家などが国のトップに居座り続け、国を私物化している。そんな国になって欲しくないから、あらゆる方面で考えて実行してきたんだよ。」

 

「そんなにまで、国を救おうと思っているの。」

 

「私は、国を救いたいんじゃなくて国民を救いたいと思っている方が正しいかな。大勢の国民を守ることで後世日本の復興を行ってもらう。恐らくは、私の国が経験したほどの驚異的な経済成長は遂げないだろうが、それでも国が豊かになってほしい。そして、国を豊かにするのは政治家ではなく、国民だよ。」

 

アメリカ加護の元で悠々と経済復興を遂げた日本と、斉藤の思い描く、独力だけで経済成長を遂げる日本。どちらが、国にとって重要かは人の判断にもよる。しかし、彼の思い描く日本は今まで日本人の誰もが経験しなかった新たな日本を想像していたのだ。

 

「早く、見てみたい。この国が、アメリカ加護の元での経済成長か。日本独自の力で経済成長する日本なのか。どちらが、今後の日本の為になるのか私は証明できる。戦後の日本を経験した唯一の日本人だからこそ分かる。史実の戦後が良かったのか、この世界の戦後が良いのか。」

 

ヴォルケ2は

 

「私はどっちでもいいな。ただ、貴方の思い描く日本がどんな国なのか見たいのは事実。世界は違えど、日本は私達超兵器にとって第2の祖国と言っても間違いではないからな。」

 

ヴォルケ2は日本の方を向いて言った。



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日連決戦始動

1943年11月20日

 

-マーシャル諸島-

 

ここでは、現在連合軍がマリアナ方面進出の準備をしている。そして、海軍の艦隊もぞくぞく集結してきた。

 

「本作戦は日本の大要塞、マリアナ諸島を占領することにある。今まで、日本の大した反撃を受けなかったが、今回は違う。ここを獲られると日本本土を直接狙われることは連中も気づいている。すなわち、何としてもマリアナを死守しようとするだろう。だから、諸君らは心して掛かって欲しい。」

 

上陸部隊指揮官のホーランド・スミス中将は言った。そして、似たような訓示を同じく指揮官のリッチモンド・ターナー中将も言った。

 

「全員乗船!!」

 

アメリカだけで海兵隊12万と陸軍25万の総勢37万人が参加する大上陸占領作戦が開始した。これに、他の連合軍陣営10万にも参加しており、戦闘艦艇も多数集結していた。その中には、工期を早めて無理やり参加させている艦もあった。

 

 

-伊19潜水艦-

 

「マーシャル諸島とハワイ、本土を結ぶ無線連絡がピタリと止んだな。」

 

伊19の艦長が無線に耳を当てながら言った。艦魂の伊19もそれを感じ取り、

 

「いよいよ、動いたか。」

 

情報収集の為に派遣された伊19はマーシャル諸島周辺の無線を傍受しており、それがピタリと突然止んだので連合艦隊司令部に無電を打った。

 

『我、連合軍の活発なる無線交信の沈黙を確認せり。』

 

 

 

米攻略部隊 司令官 総司令官ニミッツ大将 機動部隊指揮官トーマス・C・キンケイド少将 

 

戦艦 18隻(史実では完成しなかったアイオワ級全6隻プラス増援のアイオワ級6隻、サウスダコタ級6隻)

 

正規空母12隻(エセックス級)

 

軽空母10隻(インディペンデンス級)

 

護衛空母30隻(ボーグ級等)

 

その他、支援艦艇多数

 

 

イギリス攻略部隊 司令官 バートラム・ラムゼイ大将 

 

戦艦12隻 (アイアン・デューク級3隻、リヴェンジ級2隻、クイーンエリザベス級3隻、ネルソン級2隻、キングジョージ5世級2隻)

 

空母18隻

 

その他、支援艦艇多数

 

 

 

 

 

日本艦隊 司令官 山本五十六大将

 

戦艦 17隻

 

空母34隻

 

その他、支援艦隊多数

 

 

特別戦隊 司令官 斉藤次郎中将

 

超兵器残存全て

 

 

 

-マリアナ諸島-

 

「そろそろ現れても可笑しくないな。」

 

マリアナ諸島南西120km地点をゆっくり航行している連合艦隊は秋島にて敵艦隊発見の報告を待った。

 

「山本さん、心配しなくても島の制空権は奪われませんよ。」

 

秋島は山本に言う。それもそうであった。圧倒的な性能の神速や陸軍には極電がおりますし、防空体制等もしっかりとされている。負ける要素など何処にも無かった。

 

「分かっているが、万が一って事もありえる。覚悟はしないといけないな。」

 

 

 

-サイパン島-

 

「敵戦闘機接近!!敵戦闘機接近!!」

 

レーダーが接近する敵航空機約20機を捉えた。急いで海軍は山を掘った航空掩蔽壕から神速を27機出した。

 

「発進せよ!!」

 

陸海軍航空総督官の大西瀧治郎中将は飛び立っていく航空隊を見て敬礼をする。

 

 

 

「ジャップの島が見えて来たぜ。」

 

ヘルキャットに乗るアメリカ軍パイロットは直線飛行にてサイパン目指して飛行を行った。しかし、真下から突然機銃を受け、9機が一瞬のうちに撃墜された。

 

「な、何が起こったんだ!?」

 

パイロットは混乱していると、下から9機の神速がヘルキャットを飛び越えて上昇していく。

 

「な!?」

 

9機は鮮やかに旋回すると、一糸乱れる軌道で再びヘルキャットに狙いを定める。

 

「い、一体この9機は何者なんだ!!」

 

次の瞬間、残った6機も撃墜された。他の方でも撃墜に成功したと無線が入った。

 

 

「よしよし、まずは完勝だな。」

 

先程、一糸乱れる軌道で敵機を撃墜した中隊はそのままサイパン上空を旋回する。

 

「笹井隊長、敵機の性能ってこの程度なんですか?」

 

「羽藤、あんまり油断するなよ。」

 

「西澤さんこそ、油断してやられないでくださいよ。」

 

「ぬかせー。」

 

「静かにしろ。敵さんがやって来たらどうするんだ?」

 

「坂井さんなら撃墜できるでしょう?」

 

そんな風な戦場とは思えぬ緩い会話が無線機を通して聞こえてきた。そう、現在サイパン島の防空任務を負っている3個中隊の中には、エースパイロットのみで編成した新笹井中隊が居たのだ。

 

「隊長、敵がまた接近中との事です。」

 

「分かった杉田。」

 

笹井中隊の面々が旋回して敵機の真下に入り込んだ。通常、航空戦では真上からの一撃離脱が一番効果を発揮するのだ。それは、急降下によって速度を付け、攻撃後にその速度を利用して再び上昇できるからだ。しかし、神速は違う。エンジンの高馬力のお蔭で上昇戦でも無敵の性能を誇っているのだ。

 

「行くぞ!!」

 

神速は機首を上げて上昇を入った。

 

「ヨーソロー。」

 

操縦桿を微妙に傾けながら狙いを定める。航空機は真下が完全に死角の為、接近を発見できないのだ。瞬く間に撃墜され、ヘルキャットは燃えながら落下していった。

 

「アメさんがこれじゃあ拍子抜けしちまうよ。」

 

「遠藤、気持ちは分かるが油断するなと言った筈だ。」

 

「分かっていますよ。」

 

笹井は燃料計を見た。まだ十分だが、これからの戦いを考えるとここらで補給を受けたほうがいいだろうと考え

 

「全機、着陸するぞ。」

 

基地に交代要請を出し、笹井中隊はサイパンの飛行場に着陸した。

 

 

 

-伊21-

 

「推進音多数探知!!」

 

哨戒を行っている伊21が味方艦隊の居ないはずの海域で推進音を探知したのだ。

 

「潜望鏡上げ!!」

 

すぐさま潜望鏡が上げられ、艦長が確認する。

 

「おいおい、敵さんはなんちゅう数を投入してくれたんだ。2kmは離れているのに全部を捉え切れん。」

 

伊21の艦魂も潜望鏡と目がリンクしているから状況は読めた。

 

「敵の物量はさすがね。」

 

一方、艦長は落ち着いた声で

 

「機動部隊に連絡『我、敵艦隊発見せり、サイパン島東250kmにて敵大艦隊の存在を確認。』」

 

直ちに連合艦隊機動部隊は攻撃隊を出撃させた。

 

 

-特別戦隊-

 

「敵を発見したんだって?」

 

斉藤は伝令兵からの報告を聞く。現在、特別戦隊はマリアナ諸島の北西に居るのだ。

 

「ハボクックの攻撃隊の準備は?」

 

「大丈夫と言って来ておりますが、なにぶん初めての実践の者が多くて。」

 

特別戦隊にはようやく正規搭乗員が回ってきたのだ。しかし、大半が新米パイロットで機体の性能をうまく引き出せるかすら不安だった。何人かはベテランで、また何機かはまだ無人機のままなので安心できる。

 

「攻撃隊を飛ばすぞ。ただし、攻撃機と爆撃機は超低高度を海面スレスレで飛行する。戦闘機は例の装備を施して出撃させろ。」

 

例の装備とは後ほど判明する。兎に角、特別戦隊からも攻撃隊が飛び立ったのだ。



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奇策は有効の一手

-エセックス-

 

「敵航空隊接近!!制空隊は発艦せよ。」

 

米機動部隊は接近する日本航空隊を捉えた。甲板は慌しく、艦魂のエセックスは自分の居場所に困った。

 

「こんなに焦ってて、大丈夫なのだろうか?」

 

エセックスは不安がる。

 

「急げ!!ジャップの攻撃隊を歓迎してやらなきゃならん。」

 

パイロットは余裕な表情で乗機に乗り、発艦していった。

 

「敵はおよそ80機で高度3000mを飛行している。かなり速いから気をつけろ。」

 

「分かっていますよ。連中、俺達が高度まで読み取っているなんて思わないだろう。」

 

そう言って34機のヘルキャットは攻撃隊目指して飛行していった。一方、特別戦隊を飛び立った攻撃隊も連合軍機の接近を捉えた。

 

 

「連中、俺達にまともなレーダーが無いと油断しているな。」

 

「隊長、連中に思い知らせてやりましょう。」

 

神速は機体下部にアルミ製空き缶を吊るしている。これは、敵のレーダーを誤魔化して大編隊に見せかける為だった。実際は神速20機程度で飛行していた。

 

「敵は高度3400m程を飛行しているな。」

 

「完全にベストポジションですね。」

 

「ああ。」

 

20機の神速は空き缶を捨て、迎撃態勢に入った。

 

 

「敵はこの真下だ。一気に急降下するぞ。」

 

ヘルキャットは降下制限速度ギリギリで急降下を掛ける。しかし、

 

「な、何で敵はこちらを向いているんだ!?」

 

神速はヘルキャットと相対する形で接近していた。そして、完全に油断した米軍機を12機撃墜した。

 

「機銃弾は惜しみなく使え。弾なら売るほどある。」

 

神速は自由自在に飛行しては敵を翻弄し、ヘルキャットは少しずつ数を減らされていった。

 

「ジャップにまだ、こんなパイロットが。」

 

今まで撃墜してきたのは殆どが無人機なのだが、それには連合軍側は全く気づいていなかった。

 

「くそ。しかし、敵の攻撃隊は何処なんだ?」

 

米軍の迎撃隊はそんな疑問が浮かんだ。実際、攻撃隊は海面をスレスレで飛行しており、レーダーに捉まらなかった。

 

 

-エセックス-

 

「完全に不意を突かれました。迎撃隊は戦闘機だけと言っております。」

 

キンケイドは部下の報告を聞き

 

「戦闘機?では、敵の攻撃隊は一体何処に?」

 

「分かりませんが、もうじき日が暮れます。サイパン方面に向かった制空隊は帰還できませんね。」

 

「全く、貴重な搭載機を無駄にするとは。」

 

米軍だけでも総搭載機は2000機を越している。戦闘機はおよそ700機のため、貴重とも言える。

 

「攻撃隊の所在が不明なのは気がかりですが、迎撃に出た航空機は全滅するでしょうね。」

 

キンケイドは俯き

 

「だから、もっと敵の情報を集めておけば良かったんだよ。」

 

そこへ

 

「し、司令!!敵航空隊が海面スレスレで輪形陣を突破して来ます。目標は輪形陣中央の空母かと!!」

 

突然の攻撃隊発見の知らせに驚く。

 

「馬鹿な!!敵がこんな闇の中を海面スレスレだと。」

 

日は既に落ち、あたりは暗い。そんな中を海面スレスレ飛行はほぼ自殺行為とも言える。

 

「迎撃しろ!!何としても内周部には入れるな。」

 

キンケイドは対空戦闘を命じる。既に日は落ち、しかもそんなに接近されている状況下で直線進行を必要とする発艦を行えばたちまち狙い撃ちされる考え、回避行動を取ることにした。

 

 

 

「撃て撃て!!新型対空砲の力を見せてやれ。」

 

外周の重巡洋艦と駆逐艦が対空砲火を続ける。しかし、アンチ・レーダーシステム搭載の攻撃隊にVT信管は役に立たない。

 

「た、隊長。本当に新型対空砲弾は役に立つんですか?」

 

撃てば当たると言われている対空砲弾が当たらないのを見て対空要員は不審がる。その様子を見ているアイオワは

 

「新型対空砲弾も噂ほどじゃあ無いわね。」

 

 

「敵さん、新型対空砲とやらに頼りきって訓練を怠ったな。」

 

攻撃隊の彗星は輪形陣を次々と突破し、目の前に捉えたアイオワ目指して飛行した。

 

「機長、2番機が遣られました。」

 

見ると、対空砲弾の直撃を受けて、バラバラになって海面に落ちるのが見えた。

 

「このまま行く。敵の弾幕は思ったほど濃密ではない。」

 

対空砲火の中を彗星は迷わず突き進む。そして、アイオワを捉えた。

 

「喰らいやがれ。」

 

彗星は爆弾を切り離し、急上昇を始める。爆弾は、落下角度が浅いことと、速度が付いている為に海面を跳ね、アイオワの横腹に命中した。

 

「きゃああ!!」

 

アイオワの左脇腹から血が噴出し、甲板を紅く染めた。続き、1番主砲付近にも爆弾が命中し、今度は右腕から血が出た。

 

 

-エセックス-

 

「アイオワに命中弾あり。中破し、1番主砲は旋回不能。」

 

キンケイドが送られてくる被害報告を聞く。

 

「で、敵の攻撃隊は?」

 

「は、爆弾投弾後に引き返しました。」

 

「そうか。」

 

しかし、ここで予期せぬ事態が起こった。

 

「し、司令官!!敵雷撃機が輪形陣を突破しました。」

 

「またかね?それで、何処を突破されたんだ?」

 

すると、報告に来た兵は直ぐ傍を指し

 

「あそこです!!」

 

キンケイドは慌てて艦橋から外を見る。すると、もう目前まで迫った雷撃機3機が見えた。

 

「な!?」

 

攻撃機の麗華は、1t魚雷を投下してエセックスの右舷に3本とも命中した。

 

「きゃ!!」

 

エセックスは左脇腹から血を出し、口からも血を吐き出す。

 

「ゲホッ!日本軍め、小細工を使うじゃない。」

 

炎上しているが、ダメージコントロールで修復できる。航空隊も発艦にも支障が無いし、1隻でも戦闘艦艇が欲しい連合軍はエセックスとアイオワを撤退させなかった。

 

 

 

-サイパン島-

 

「真っ暗で何も見えないな。」

 

攻撃を終了した攻撃隊の一部はサイパン島目指して飛行していた。真っ暗の為に高度計等を読み違えると海水浴を楽しむか、迷子になる。だから、技量の高い者を夕暮れ攻撃に向かわせたのだ。

 

「そろそろ見えてもいい頃だが。」

 

サイパン島は航法士の話ではそろそろ見える頃だと言っている。ようやく、サイパン島の明かりが見えてきた。

 

「機長、サイパン島の明かりです。」

 

攻撃隊の偵察員席に居る搭乗員が見えてきた滑走路の明かりを指差す。しかし、

 

「機長、電探に敵機の反応!!」

 

「何!?」

 

待ち伏せしていたヘルキャットが明かりを見つけて着陸態勢に入った麗華を攻撃し、撃墜した。

 

「だ、脱出だ!!」

 

搭乗員は落下傘で脱出に成功したが、機体は燃えながら海に突っ込んだ。

 

「我らの母艦を攻撃した代償は大きいぞジャップ。」

 

ヘルキャットのパイロットもこんな夜で、しかも航法士が居ない戦闘機での帰還は絶望的だった。だから、少しでも敵を撃墜しようとサイパン上空にて待ち伏せしていたのだ。

 

「いいか!!よく目を凝らして敵機を探せ。」

 

米軍のパイロットは辺りをよく目を凝らして探した。すると、単独飛行をする1機の飛行機に気づいた。

 

「よっしゃ!!頂だ。」

 

米パイロットは操縦桿を倒してその飛行機の真後ろに着いた。そして、機銃を放とうとしたその時、

 

「な!?」

 

突然、後ろに目が付いているかの如く旋回したかと思いきや、目の前から姿を消した。

 

「ど、何処へ!?」

 

「真下だ!!」

 

「え?」

 

突然、僚機からの無線で探していたパイロットは我に返る。

 

「ま、まさか、この技量。辛うじて帰還したパイロットが話していたエース集団。笹井中隊なのか?」

 

パイロットの考えは当たった。そして、ご褒美の銃弾を受けて絶命した。

 

「坂井、流石だな。」

 

現れた残る笹井中隊の面々を見て米軍パイロットは恐怖した。

 

「んじゃ、俺達も遣りますか。」

 

笹井中隊のパイロットはサイパン上空で日本軍機を牽制しているヘルキャットを次々と撃墜した。

 

「俺達が給油している間に、随分と勝手なことをしてくれたなあ。」

 

神速を自分の手足の様に操り、性能で劣るヘルキャットを全滅させた。

 

「さーて、戻って飯でも食うか。」

 

笹井中隊のパイロットは自分の飛行場へと帰還した。

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「それで、艦船攻撃は成功したのか。」

 

「はい。戦艦1隻中破、空母1隻火災発生と山口機動部隊から連絡がありました。」

 

斉藤はヴォルケンクラッツァー2の艦橋で今日の戦果を聞いていた。

 

「それで、こちら側の損害は?」

 

「戦闘機は損害なし、爆撃機は23機、攻撃機は30機です。」

 

「やはり、二重装甲は成功のようだな。」

 

神速には翼と胴体の重要な部分は二重装甲になっており、米軍の使用するブローニング機銃で撃墜など出来ないのだ。

 

「それで、イギリスの方は?」

 

「それが、上陸部隊の支援に当たっているらしく、迂闊に攻撃できません。」

 

「では、上陸されたのだな?」

 

「はい。まだ上陸していない輸送船もあるそうですが、一部の部隊は上陸したと。」

 

斉藤は地図を敷いている机の所に行き、

 

「サイパンのここに上陸したのなら、戦艦部隊の出番だな。」

 

「戦艦部隊ですか?」

 

「ああ、米機動部隊はゆっくりと上陸地点に向かっているんだろう?だったら、機動部隊の真後ろに回りこんだ大和を旗艦とする戦艦部隊がやってくれるよ。」

 

 

 

-大和-

 

「祭りには丁度良い満月じゃ。」

 

高須四郎中将座上の大和は戦艦7隻を率いて機動部隊の後方に回り込み、全速力で機動部隊に同行戦を挑もうと突き進んでいた。そして、もう一つの目的は、敵に休みを与えずに疲れさせるという目的もあった。

 

「司令、連合艦隊旗艦より突撃命令を受信しました。」

 

高須四郎はそれを聞くなり、

 

「突撃、ここで勝たねば講和何時ぞや?勝てばもうじき直ぐ傍だ!!」

 

この号令と共に、戦艦部隊は敵機動部隊をレーダーに捉えた。

 

 

-軍令部-

 

「それで、私に何の用かね?」

 

軍令部次長の伊藤整一の許を訪れた寺沢は、

 

「伊藤中将、マリアナ沖で戦闘が勃発しているのはご存知ですね?」

 

「当たり前だ。戦闘が起こっておることを軍令部が知らんでどうする? 」

 

伊藤は寺沢を見る。

 

「その戦闘終了後、我が国は講和へ踏み切ります。」

 

「気持ちは分かる。しかし、一体どうやって講和すると言うのだ?東條内閣健在の今、講和など持っての他だ。」

 

「ええ、なのでこの戦いが終わったら海軍と陸軍の説得の応じた者だけでクーデターを起こします。」

 

寺沢はいきなりとんでもない事を言った。

 

「な!?貴様は正気か?聞いているのが私だから良いものを、憲兵とかが聞いていたらただでは済まんぞ。」

 

「分かっています。しかし、マリアナでの勝利以外で連合国との講和時期はありません。そこを逃せば、日本は焦土になるまで戦い続けるでしょう。」

 

「確かに、その時期以外で講和のタイミングは無かろう。しかし、クーデターが成功するとも思えん。第一、内地の者は説得できても関東軍の方はどうするのだ?」

 

「関東軍はある人物が説得しております。中国での戦争も片付きましたし、以外に説得に成功するかも知れませんよ。」

 

「何か、隠しているな?」

 

寺沢は惚けたような顔になる。

 

「で、私にどうしろと?」

 

「軍令部での説得は貴方にお任せします。私は、日本の各鎮守府を回って説得せねばいけませんので。」

 

そう言って、寺沢は軍令部を出て行った。



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放たれた巨砲

-エセックス-

 

「司令、後方より敵の艦隊が接近している模様です。」

 

艦橋にいるキンケイドはその報告を聞いて

 

「後方だと?潜水艦の報告では後方に敵艦隊は居ない筈だが。」

 

「その潜水艦がここ暫く連絡を絶ってお下ります。恐らくは。」

 

それを聞いていたエセックスは

 

「日本には対潜能力の高い艦はいないと聞いていたが、見当違いのようね。」

 

と、司令部の人間に対して冷たく言ったのだった。

 

 

-大和-

 

「敵は真っ直ぐ航行しております。後、15分もしないうちに有効射程内に入ります。」

 

「分かった。・・・・いよいよ決戦の時か。開戦から、今まで大砲屋の本分を発揮できなかった者はようやく発揮できるな。」

 

「はい。兵らも早く撃ちたいと言っております。」

 

高須はそれを聞いて

 

「分かった。各主砲に5発だけ発砲を許可しよう。そしたら、有効射程内に入るまで発砲を禁じる。」

 

この命令は直ぐに届けられ、1、2番主砲は発射準備に入った。

 

 

「いよいよ戦艦大和の力を見せられるんだ。」

 

「初弾必中の覚悟で狙えよ。貴重な5発だ。」

 

そう言い、射撃管制所からの報告を元に狙いをつける。

 

「撃て!!」

 

前部主砲は1発目の砲撃を行った。その様子を甲板で見ている大和は。

 

「私の主砲も、最後の最後で決戦に投入されると思わなかったよ。てっきり大艦巨砲主義は時代遅れかと思っていたのだが。」

 

もちろん、初弾命中などしなかった。幾ら夜戦に強く、レーダーも持っている日本軍だが、距離がありすぎる事と、完全な闇の為に狙いはうまく付けられないのだ。それでも、最後の5発めで1発だけ命中弾を得た。

 

 

-エセックス-

 

「空母ヨークタウンに命中しました。」

 

「被害は?」

 

「甲板に命中し、火災を起こすも消火に支障無しだそうです。」

 

キンケイドは燃えているヨークタウンを見る。確かに火災が起こっているが、命中角度が浅く、弾速も遅かったことから致命傷は免れたのだ。

 

「しかし、兵らの消耗は激しいですよ。朝から一睡も出来ずに敵が攻めてきまして、士気の低下は止むを得ません。」

 

幾ら軍隊でも元は人間なのだ。どんなに屈強な兵士でも、眠らなければ戦い続けることなど出来ない。その睡眠ができない為に士気低下を起こしているのだ。そして、士気低下は主砲などの命中率にも影響し、戦闘行為そのものの影響も激しい。だから、士気の維持は戦場では最重要課題の一つと言っても過言では無いのだ。

 

「しかし、敵の主砲の射程距離は信じられません。あの距離で届くのですから。」

 

「アイオワでも応戦できないのか?」

 

「はい。あれは、40cm砲ではありません。もっと、大口径の物だと思われます。」

 

大和級の存在はかなりの秘匿性で、アメリカ・イギリス領事館の前で秘密裏に建造されていた武蔵ですらその存在は最後まで知られなかった程である。

 

「そんな大口径を日本が開発していたのか。世界に先駆けた大艦巨砲主義は伊達ではないな。」

 

戦前から、日本海軍の主砲開発は非常に熱心だった。軍縮条約の縛りが無ければ、大正期にでも大和が完成していたと言われるぐらいの物だった。各国が38cmやらも実用化しているときに日本はそのワンランク上の40cmを実用化し、40cm艦が外国で開発が始まると46センチ艦の開発に着手する程であった。

 

 

-大和-

 

「有効射程内に入りました。」

 

それを聞き、高須は

 

「面舵一杯!!全主砲発射用意。」

 

長門級も46センチ砲を装備しており、46センチ砲装備艦は全部で3隻居た。

 

「用意完了。」

 

「撃て!!」

 

大和の9発と長門、陸奥の計16発。合計25発が米艦隊に向けて放たれたのだ。

 

「弾着・・・・今!!」

 

米艦隊の方に水柱が昇る。だが、命中弾は無かった。

 

「各主砲。自らの判断で砲撃せよ!!」

 

各主砲は自らの判断で砲撃を続行し、高須は夜戦艦橋へと降りた。

 

 

 

-アイオワ-

 

「敵の主砲が飛んできます。」

 

現在、米艦隊は日本の戦艦からの弾雨に晒されていた。至る所で水柱が昇り、射程で劣るアメリカの戦艦はジグザグ航行で避けるしかできない。

 

「くっそ、主砲の射程が違いすぎて反撃できない。」

 

艦魂のアイオワは逃げる自艦に嫌気が指すが、どうすることも出来ない。反転して砲撃の為に直進すれば忽ち狙い撃ちにされる。かと言って、このままジグザグ航行を続けても的にされるだけである。

 

「もうじき夜明けです。そうすれば、航空部隊が反撃してくれます。」

 

しかし、アイオワのサーチライトに信じられない物が飛び込んできた。

 

「んな!?」

 

「見つけたぜアメ公。」

 

前代未聞。闇の中を、しかも砲撃で水柱が昇る戦闘海域を超低空で高速で接近した零式水上観測機は急上昇して

 

「少し早いが、クリスマスプレゼントだ。」

 

零観から照明弾が投下される。そして、それは米艦隊の真上で炸裂した。艦隊は、まるで真昼のような明かりに照らし出され、闇の中に居る日本艦隊にとって射撃の丁度良い的であった。

 

「全艦一斉射撃!!」

 

射程関係無しに戦艦全隻が一斉に主砲を放つ。もちろん、伊勢や日向は届かなかったが、大和と長門に陸奥は十分届いた。

 

 

「盛大に照らし出されているな。」

 

命中弾を見た大和は甲板から沈んでいくニュージャージを眺める。艦首を主砲弾によって切断され、重心が突然変化したニュージャージは耐え切れず、マリアナの海に没した。

 

「あんな様になった艦魂は見たくないわね。」

 

大和の上甲板に長門が瞬間移動してきた。

 

「そうだな。」

 

恐らくは首が吹っ飛んだだろうと大和は想像する。そんな光景、国は違えど同じ艦魂の大和は想像できても見たくは無かった。

 

 

 

 

-サイパン 米上陸地点-

 

「急げ!!ジャップの居る塹壕までもう少しだ。」

 

上陸した部隊は戦車を先頭に進軍を開始する。しかし、上陸地点で待っていたのは

 

「砲撃だ!!」

 

サイパン島の山の頂上には武蔵に使われるはずだった主砲5門が陸上砲座として機能している。砲撃監視所からの報告を受けて砲撃を開始したのだ。

 

「うわあ!!」

 

46センチの主砲を受けたら人体など一溜まりも無い。砲撃の中心地に居た者は骨すら残らず、周囲50メートルでも影響が出るほどだった。

 

「敵戦車だ!!」

 

砲撃が止んだかと思いきや、2式重戦車と3式中戦車、3式駆逐戦車が姿を現した。

 

 

「目標、敵シャーマン。」

 

2式重戦車は進軍するシャーマンに向かって主砲を放った。88ミリ砲にシャーマンは耐え切れず、砲塔が吹っ飛んで、炎上した。

 

「に、逃げろ!!」

 

シャーマンが遣られたのを見て、上陸した兵らは後退を始める。しかし、3式駆逐戦車は88ミリバルカン砲を使って逃げる兵を片っ端から撃ち殺す。もはや、地獄だった。至る所で血が飛び、人が飛びの状態だった。内陸に運よく入れた兵も。

 

「喰らえ!!」

 

塹壕を縦横無尽に移動する日本兵は、巧みに相手に背後に回りこんでは倒していった。これも、史実で栗林中将が硫黄島の戦いで見せた塹壕十字戦法は早期からの準備で史実の硫黄島の戦いでは間に合わなかった塹壕計画も壮大な計画にも係わらず完成していた。

 

「撃て!!」

 

海岸線に設置されている機銃座も威力を発揮。第1陣をやり過ごし、増援に来た第2陣を海岸線で徹底的に銃撃を加える。機銃座で海岸線を狙えるのは全部で48基。それら全てで上陸する連合軍を片っ端からなぎ倒していった。

 

 

「斉藤中将の言うノルマンディー上陸作戦とやらよりも酷いんじゃないか?」

 

司令部にて報告を聞いた栗林は言う。栗林はマリアナ諸島守備隊総指揮官になる時に斉藤と会い、そこで彼の知る真実を聞かされた。栗林も旧勢力とは違い、論理的な思考等も持っている。だから、直ぐに理解することが出来たのだ。

 

 

 

 

-エセックス-

 

「上陸部隊は苦戦しているそうですよ。」

 

旗艦のエセックスには上陸部隊の報告まで届けられた。

 

「分かった、もうじき夜が明ける。そうすれば、あそこで砲撃している日本の艦隊に航空機を差し向け、攻撃する。イギリスも朝になれば航空支援を出来るし、占領は容易いと思うぞ。」

 

 

 

-大和-

 

「長官、本気で当ててはならないのですか?」

 

「そうだ。」

 

高須はニュージャージを沈めてから敵に当てるなの命令を下したのだ。それは、こんな真意があったからだ。

 

 

「夜が明けます。」

 

エセックスの艦橋では水平線から上る太陽が見えた。しかし、

 

「あの黒い点は・・・・!!、敵機接近!!」

 

直ぐに艦隊に警報がなる。夜明けと同時に攻撃できるよう、特別戦隊から無人攻撃機が飛び立っていたのだ。短い距離ならともかく、長い距離を夜間に低空侵入は神経を使い、敵艦隊到達時には参ってしまうのだ。それを防ぐ為に無人機による夜間発艦を行い、攻撃に向かわせたんだった。

 



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航空機の猛撃

日本戦艦部隊は攻撃権を航空機に譲り、一旦燃料や弾薬補給の為にアナハタン島沖の補給艦待機場所へと向かった。

 

-エセックス-

 

「撃て撃て!!撃ちまくれ!!」

 

艦隊は輪形陣を整え直して迎撃を行うが、恐れを知らない無人機は悠々と輪形陣の内輪部目指して飛行する。

 

「敵雷撃機、高度20mを飛行中!!」

 

報告が届けられ、高角砲はその雷撃機に狙いを付ける。しかし、既に遅く、麗華は1tの酸素魚雷を投下した。

 

「敵、魚雷投下!!」

 

「雷跡が見えません!!」

 

エセックスの左舷に魚雷が命中する。船体は大きく右に傾いたかと思うと、今度は左に傾いた。

 

「日本もやるじゃない。」

 

左脇腹から血が出るも、平然と襲撃してくる日本軍機をエセックスは睨んだ。左舷は火災を起こし、浸水も始まっている。それでも、戦闘に支障無しの脅威の生存能力を持っていた。

 

「イギリスの増援はまだかしら?」

 

アメリカ艦隊はイギリス艦隊に航空機の増援を要求し、イギリス側も戦闘機を応援に向かわせているのだ。しかし、その肝心の応援機が来ない。

 

 

-アメリカ艦隊 北220km-

 

「ジャップの戦闘機が何でこんな所に!?」

 

応援に向かっていたシーファイアーはテニアンから飛び立った陸軍の極電に見つかり、迎撃を受けているのだ。

 

「敵機は化け物だ!!俺達の機銃が利かない!!」

 

神速と同じ二重装甲を施されている極電はシーファイアーの機銃を物ともせずに戦い、一機一機を確実に仕留めていった。

 

「集合。」

 

極電の隊長機は列機に集合命令を出す。

 

「黒江、敵機は全滅させたな。」

 

「はい、加藤さん。敵戦闘機は全滅させました。」

 

史実では死んでいる筈の加藤建夫中佐指揮の加藤隼戦闘機隊事『飛行隊第64戦隊』はテニアン島の航空隊配備を命じられ、集結したビルマ方面からマリアナ方面へと出っ張ってきたのだ。マリアナ諸島の空は正に日本を代表するエース級パイロットが守っていると言っても過言ではなかった。

 

「帰還するぞ。まだまだ先は長いのだ。」

 

加藤は列機を率いてテニアン島の飛行場へと向かった。

 

 

-エセックス-

 

未だに戦闘に支障無しという脅威の生存能力は失われず、火災は消し止め、浸水も収まってきた。

 

「合衆国の建造技術の粋を集めた空母だ。そう簡単に沈んで堪るかよ。」

 

だが、キンケイドは恐怖に駆られている。自分の策が全て日本軍に見破られ、自艦隊の損害が増え続ける戦いに正直うんざりしている。

 

「も、もう嫌だ。なぜ、なぜこんなにも日本軍は我々の手を読んでいるだ!?」

 

大和を夜明けと共に攻撃しようと準備していると夜明けと同時に日本の攻撃隊が現れ、増援のイギリス軍機も待ち伏せしていた日本軍機が全滅させ、全てが失敗に終わっているのだ。

 

「何としても、このマリアナ諸島を占領せねばならないのだ。上陸部隊はどうなったのだ?」

 

「はい・・・それが。サイパンに上陸した第2陣部隊まで全てが全滅した模様です。」

 

「ぜ・・・・全滅。」

 

キンケイドは落胆した。予定では、サイパン占領にはおよそ3千の損害で終わる筈だった。しかし、実際は2万人が戦死したのだ。この原因は、まだマリアナ諸島の制空権が獲れておらず、航空機の攻撃を受け続けているからだった。

 

 

「北方より、敵大編隊を捉えました。」

 

レーダーを見ていた兵が突然、北方に移る航空機の大編隊を捉えたのだ。

 

「迎撃隊を飛ばせ!!これ以上の損害を出させるな。」

 

命令を受け、ヘルキャット20機が発艦し、迎撃体制を整えた。

 

 

「見えたぞ。!!・・・4発機だと!?」

 

見えたのは双発機に護衛されている4発の爆撃機だった。それは、高度8000mまで降下すると、輸送船団へ攻撃を開始した。

 

「まずい、燃料や弾薬を積んだ輸送船が攻撃されてる。」

 

輸送船は必死に落ちてくる爆弾を避けるのに必死だった。しかし、全弾は回避し切れず、4隻が沈み、5隻が至近弾で浸水という形になった。

 

「野郎!!」

 

ヘルキャットは攻撃を仕掛けようとするが、目の前に現れた双発の飛行機を見る。

 

「な、なんだあの機体は?双発の戦闘機?」

 

機首には4門の機銃が見受けられる。しかし、空母艦載機パイロットの彼らは見たことが無かったのだ。何度もアメリカ本土を爆撃した富嶽の護衛についている風龍にはこの双発機が搭載されているが、彼らは見たことが無い。先秦は本土から飛来した天極(キ91)を護衛する為にググアン島から離陸したのだ。

 

「は、速い!!」

 

先秦は旋回したかと思うと、日本軍機伝統の格闘戦を挑んできた。しかし、米パイロットも双発機と舐めて掛かり、性能差は歴然だと知ったのだ。

 

「な、なんで双発機なのに格闘戦が出来る!?」

 

完全に舐めて掛かったパイロットは、次々とやられて落ちて行った。ヘルキャットは、何とか体制を立て直して迎撃する。損害はアメリカが多少多いという形になったが、艦艇の損害はあまりにも痛かった。

 

 

-エセックス-

 

「司令、もはや我々は戦う力が残されておりません。」

 

「弾薬を積んだ輸送船は沈められ、上陸部隊は多大なる被害を受けました。ここは、一旦引いて体制を立て直すべきかと。」

 

「諸君、世界の頂点は何処の国かな?」

 

キンケイドは突然、参謀達に聞いた。

 

「え?」

 

「私はアメリカだと思っている。」

 

「し、しかし提督。」

 

「私は悔しい。」

 

キンケイドは窓の外を見る。

 

「見たまえ、我が合衆国の偉大なる艦艇は尽く遣られ、傷ついてしまっている。この海軍力の再建に一体どれだけの月日を費やしたのか。約一年半前、我々の主力艦は日本海軍に全滅させられ、海軍力再建は一時不可能とまでなった。しかし、あれから一年半でこれだけの艦艇を揃え、ここまで来たのだ。撤退は有り得ない。最後まで戦う覚悟を持って決戦を挑む。」

 

キンケイドは先程の弱気な考えを捨て、再び日本海軍へ決戦を挑むことを決意したのだ。

 

 

 

-キングジョージ5世-

 

「アメリカさんもこっ酷くやられたようだな。」

 

ラムゼイ大将は、旗艦のキングジョージ5世の艦橋で優雅に紅茶を飲んでいる。

 

「て、提督。そんな呑気に紅茶を飲んでいる場合じゃあ在りません。」

 

参謀は半分呆れ顔だった。これには、艦魂のジョージ5世も呆れてしまった。戦闘中に紅茶を飲む司令官を珍しいものだ。

 

「参謀長、我々はあくまでもアメリカにとっては補助に過ぎないのだ。作戦失敗もアメリカの責任になるのだ。だから、我々は与えられた仕事をしていればいいのだ。」

 

そう言ってラムゼイは再び紅茶を啜る。

 

「そのアメリカから支援要請です。上陸した部隊が航空支援を求めておりますが。」

 

「分かった。攻撃隊を飛ばして遣れ。」

 

しかし、キングジョージ5世のレーダーに航空機の編隊が探知された。

 

「やれやれ。日本軍はこっちにも攻撃機を差し向けたのか。」

 

ジョージ5世は立ち上がり、編隊の接近する方角を見る。時間は既に18時を切っているし、完全な夜間攻撃だ。

 

「いい度胸だ。この暗闇の中を、勝負してやろうじゃないか。」

 

ジョージ5世はサーベルを抜き、日本軍機の編隊を待つのだった。



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どちらが沈むか?

夜間攻撃を受けるイギリス海軍。迎撃を上げようにも夜間の為に上げられない。その為、艦艇の防御火器に頼っての迎撃しか出来ないのだ。

 

「VT信管が効果を発揮しません!!」

 

アメリカから提供されたVT信管は、日本攻撃機の搭載するアンチ・レーダーシステムの効果で目標を狙えないのだ。

 

「撃て撃て!!VT信管が無くても、我々にはジョンブル魂がある。」

 

しかし、流石は世界一の海軍国家。猛撃を続ける日本軍機を次々と迎撃し、投下された魚雷や爆弾も尽く回避する。

 

 

「淵田隊長。連中になかなか命中弾が出ませんよ。」

 

編隊を率いてきた淵田美津夫中佐は、魚雷や爆弾を回避し続けるイギリス軍艦艇を見る。

 

「奴等も相当な練度だな。出来れば、味方となってほしかったよ」

 

ようやく、ハウに命中弾を浴びせることが出来たが、ハウは何事も無かったかのように航行を続ける。

 

 

-ハウ 艦橋-

 

「被害は?」

 

「船体に特に異常はありません。」

 

「そうか。」

 

艦魂のハウも平気そうな顔だった。魚雷は船体に命中したが、突入角度が急だった為に被害は殆ど無かったのだ。

 

「日本も必死ね。」

 

ハウは飛び交う日本軍機を見て言う。辺りは暗闇で、既に目標識別も困難な状況だった。麗華には夜間攻撃の為のライトを持っているが、彗星は発光弾を放って目標を選別するしかないのだ。

 

「目標、敵爆撃機!!」

 

ハウの主砲は限界仰角で放たれ、飛行する彗星3機編隊の中央で爆発し、撃墜した。

 

 

-キングジョージ5世-

 

「魚雷投下!!」

 

「雷跡見えません!!」

 

航空酸素魚雷は航行時に水と二酸化炭素を出すのだ。水は勿論、二酸化炭素は水にある程度溶けるため、雷跡を視認するのは非常に困難なのだ。しかも、それが夜間なら尚更だ。

 

1本がキングジョージ5世の右舷に命中し、それだけで速力は19ノットまで低下。戦列を離脱し、サイパンの方角へと進路を変えた。

 

 

 

「撃ー!!」

 

その後も攻撃は続き、戦艦「ネルソン」は4本の命中弾を受けて撃沈。他の戦艦も大なり小なりの被害を被った。空母も「インドミタブル」は3本と2発の命中弾を受け、舵を破壊された為、自沈した。巡洋艦も6隻が沈没する。駆逐艦は3隻。その他、輸送艦等6隻が沈み、3隻は戦列を離脱した。

 

 

 

 

-秋島-

 

「航空部隊は着々と戦果を上げております。」

 

秋島は長官室にて、艦魂からの戦況報告を山本に伝えていた。

 

「戦果は大きいな。それに、イギリスの戦艦が戦列を離脱したとか。」

 

「ええ、今追跡艦隊を派遣し、撃沈命令が下りました。」

 

「追跡艦隊?」

 

「プリンス・オブ・ウェールズとレパルスです。」

 

「そうか。」

 

皮肉な物だ。まさか、祖国の艦艇を沈めることになるとは。

 

 

 

-プリンス・オブ・ウェールズ-

 

「皮肉ね。まさか、姉様をこの手で仕留めなくてはならないなんて。」

 

艦影を見たプリンス・オブ・ウェールズは言う。間違いなく、それは自分の姉であった。

 

「次女が長女を葬るのも、どうかと思うけどね。」

 

主砲は旋回を始め、キング・ジョージ5世に狙いを付ける。相手も気づいたのか、此方に主砲を向けてきた。

 

「さあ、姉様。これが私なりのけじめよ!!覚悟してください!!」

 

レパルスとプリンス・オブ・ウェールズは砲撃を開始する。火力ではこちらが勝っており、電子技術等でも此方に分がある。唯一無いのが経験だった。

 

「初弾、命中弾なし!!」

 

「敵発砲!!」

 

向こうも夜間砲撃戦は慣れていない。お互い、初弾命中は無かった。

 

 

 

-キングジョージ5世-

 

「まさか、妹が日本軍に居るとは。沈んだと思っていたが、ロイヤルネイビーの恥さらしめ。敵に寝返るとは我が栄光ある艦型に傷をつけたも同然。」

 

妹との直接対決。こんな事、一体誰が予測したものか。

 

「今ここに、妹の処刑を宣言する!!。」

 

サーベルを抜き、それをプリンス・オブ・ウェールズに向けた。

 

「砲撃続行!!」

 

お互いが有効射程ギリギリで撃ち合う。レパルスは艦首に1発を受け、一旦砲撃戦から離脱するように離れ、体勢を立て直して戻ってくる。

 

 

 

-レパルス-

 

「私も、最後まで戦う。何としても、勝利する。」

 

改装を受けている為、第一世界大戦にて露呈した巡洋戦艦の脆さはある程度まで直してあるが、所詮は気休めである。1発だけでもかなりの致命傷なのだ。

 

「面舵一杯!!」

 

夜間戦の必殺の一撃。レパルスの両舷には5連装酸素魚雷発射管が2基ずつ装備されている。それを、砲撃戦の最中に放った。

 

 

-キングジョージ5世-

 

「やるわね二人とも。でも、これで最後。」

 

と、サーベルを振りかざそうとしたその時、先程放った酸素魚雷が10本全弾命中してしまった。

 

「しまった!!」

 

この攻撃で艦は完全に停船する。そして、左に傾き始める。

 

 

「止(とど)めよ、姉様!!」

 

プリンス・オブ・ウェールズは全門一斉射撃を行う。電探連動に切り替えられており、こちらも8発命中した。キングジョージ5世は、静かに沈み始める。

 

「姉様。」

 

最後と思い、プリンス・オブ・ウェールズはキング・ジョージ5世の艦橋に瞬間移動する。

 

 

-キング・ジョージ5世-

 

「姉様、何処?」

 

艦橋内を必死に探すが、煙と傾き始めていることから探すのは困難だった。しかし、羅針盤の近くに横たわっている姉を見つける。

 

「姉様!!」

 

ウェールズは姉を抱き起こす。まだ、死んでいなかった。ジョージ5世は目を覚まし、妹を見る。

 

「ウェールズ。あなたは、よく、やったわ。まさか、敵に寝返っているとは思わなかったけど。生きていて良かったと今で、は、思う。」

 

「姉様!!」

 

既に、言葉を発する気力も無い筈だった。しかし、ジョージ5世は最後に妹を見れてホッとしているのも事実である。

 

「姉様、今から曳航の要請をします。だから、死なないで。」

 

「も、いいの。自分で分かる。既に、私の機関は停止し、傾斜も修復できない。」

 

「そんなこと無い。斉藤さんに頼んで、何とかしてもらう。」

 

「さ、いと、うさん?」

 

「私を日本海軍に引入れ、この決戦を考えた人よ。そして、私の標的艦としての最後を止めた人よ。」

 

レパルスとプリンス・オブ・ウェールズは、鹵獲したはいいが使い道は考え付かなかった。その為、軍令部は2艦を標的艦として沈めようと考えたが、それを斉藤は止め、改装したのだ。仲間になるとは予想外だったが。

 

「そう。その人に、出来れば会いたかったわ。」

 

傾斜角は20度を越す。もはや、曳航も不可能だ。

 

「最後の頼み、聞いてくれる?」

 

「何でも言って姉様。」

 

「あなたは、この戦争が終わるまで死なないで。絶対に。その斉藤って人に救われたのなら、命は、大事にして。」

 

それだけ言い、ジョージ5世は目を閉じ、静かに深い眠りに着いた。

 

「ね、姉様!!」

 

ウェールズは、ただ、ただ、泣くことしか出来なかった。最初は味方で最後は敵。なんとも、皮肉な、波乱の人生なのだろうとウェールズは思う。

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「そうか。」

 

秋島から届けられた報告を聞き、斉藤は溜め息を付く。

 

「まさか、自分の姉を葬ることになるとは。」

 

隣にヴォルケ2が来て

 

「せめて、この戦争が終わったらこの海域に花を落とさなきゃね。」

 

「勿論だ。」

 

既に、本土では大量の花を用意してある。戦後、それを富嶽から投下する為に用意したのだ。

 

「では、最後の仕上げの為の準備と行こうか。」

 

「ええ。」

 

斉藤は長官室から出て

 

「最後の作戦を行う準備をする。総員、心して掛かれ!!」

 

最後の作戦。それは、連合艦隊ほぼ全戦力を持って敵をこの海域から駆逐する水上殲滅作戦だった。その前に、この海域に居る全敵性潜水艦を排除する水中殲滅作戦に取り掛かった。



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水中モグラ退治

-デュアルクレイター-

 

「敵潜水艦発見。」

 

ソナー室からの報告を聞き、艦長は哨戒中のロ号ヘリを向かわせる。

 

 

「敵潜の反応を確認。爆雷投下!!」

 

ロ号ヘリが30kgの爆雷4つを投下する。爆雷は敵潜水艦の真横で爆発し、船体に穴が開いて沈んだ。

 

「撃沈を確認。」

 

 

「ふう、一体何隻潜水艦が居るやら。」

 

甲板にて水柱を見たデュアルクレイターは溜め息を付く。各艦隊の累計潜水艦撃沈数は現在8隻。それでも、所々で敵潜水艦の反応がある。

 

 

-ドレッドノート-

 

「敵潜水艦発見。」

 

マリアナ周辺には30隻近くの潜水艦が居るとの報告もあり、日本も潜水艦を使っての潜水艦狩りを開始している。そして、哨戒中のドレッドノートが発見したのだ。

 

「前方魚雷発射管装填。」

 

全部の魚雷発射管2連装8基全てに対潜魚雷を装填する。

 

「発射!!」

 

全弾が放たれ、敵潜を追尾して撃沈した。

 

「一方的も面白いわね。」

 

撃沈を確認したドレッドノートは、再び哨戒の任務に戻った。

 

 

 

-大鳳-

 

「それで、敵潜水艦は撃沈したのだな?」

 

小沢機動部隊旗艦の装甲空母『大鳳』は、山口機動部隊とは別の地点を航行しており、最も敵艦隊に近づいている艦隊なのだ。

 

「はい、本艦隊の総撃沈数は既に5隻。これは、マリアナ諸島に居る艦隊の中で最高の撃沈数です。」

 

「しかし、敵が何隻の潜水艦を投入しているのか正確な数字は分からないのだな?」

 

「はい。秋島からは30隻との報告はありましたが、正確な数字は。」

 

「分かった。周辺の警戒を怠るなよ。いくら装甲空母だからといって、油断すれば一撃で沈められるぞ。」

 

小沢は海戦前に斉藤に会い、そこで大鳳の意外な問題点を言っていた。それは、密閉した格納庫が仇となった沈没原因の例えだった。実際に斉藤は大鳳の撃沈原因が分かっているが、あまりこの手の案件を知る人を増やしたくない為、例え話で注意を呼びかけたのだ。

 

 

-小沢機動部隊 北3km-

 

「敵の推進音を探知。」

 

海底鎮座していたシーウルフは、無音排水でゆっくりと浮上する。

 

「潜望鏡上げ!!」

 

シーウルフは深度10mで潜望鏡を上げ、推進音の聞こえる方角を見る。

 

「よし、俺達はついてるぞ。敵の機動部隊だ。」

 

潜望鏡と目がリンクしているシーウルフも敵の機動部隊を見据える。

 

「ようやく捉えたわ。ここで、あの真ん中の大型空母を沈めてやる。」

 

シーウルフは中央を航行する大鳳を睨む。

 

「頂くぞ、魚雷発射用意!!」

 

魚雷を装填する為に発射管を排水する。その排水音を探知した付近哨戒中の伊15が待ってましたとばかりに音響魚雷を放った。

 

「こ、後方より魚雷接近!!」

 

「な!?一体何故、そんな所に!!」

 

魚雷は後方の魚雷発射管室に命中し、魚雷に誘爆を起こして沈没した。

 

 

-伊15-

 

「潜水艦撃沈。」

 

「敵かどうか分からんかったからな。見張ってて正解だったぜ。」

 

かなり前から探知していたが、敵か味方か分からなかった為、ずっと見張っていたのだ。そして、機動部隊が接近したのを知った潜水艦が魚雷発射体勢に入ったのを見て撃沈した。

 

「旧型の潜水艦だから敵味方識別装置を積んでいなかったんだが、まさか、意外な所で必要になるとはな。」

 

 

-大鳳-

 

「左舷より水柱確認。」

 

「どういう事だ?」

 

「お、恐らくは潜水艦が沈んだでしょう。」

 

それを裏付けるように、先程の伊15が浮上した。

 

「味方の潜水艦です。あれが沈めたんでしょう。」

 

飛行甲板では浮上した伊15に手を振る兵が見受けられる。

 

「では、この空母を狙っていた潜水艦を沈めたんだな?」

 

「はい。」

 

「感謝すると発光信号を送れ。」

 

その様子を見ていた艦魂の大鳳も、

 

「ありがとう伊15号。潜水艦も、戦果を伸ばしていっているのね。」

 

水柱を見ていた大鳳は、伊15号に感謝の言葉を述べる。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「敵潜水艦の殲滅率は?」

 

「はい、概ね90%かと。」

 

「そうか。」

 

各艦隊の戦果を累計し、予想侵入潜水艦数との計算から90%の殲滅したと言う結果になった。

 

「まあ、そんなに潜水艦は侵入していないだろうし、そろそろ決着を着けるか?」

 

「それなのですが、旗艦より今夜まで敵潜水艦の殲滅を行い、明日に決着を着ければ良いとの連絡が入りました。」

 

「旗艦から?」

 

「はい。何でも、明日の夜明けと同時に内地から重爆隊が飛び立ち、それと同時に機動部隊や基地航空隊、それに我々連合艦隊全兵力を持って一斉殲滅を行うそうです。」

 

「そうか。では、明日には盛大な航空戦と艦隊決戦が見られるわけか。」

 

「大和を含む戦艦部隊も補給を済ませて本海域へと到着しております。明日が楽しみでしょう。」

 

斉藤は、艦橋の窓から航行する特別戦隊水上艦部隊を見る。これだけの超兵器が一度に作戦に投入した例は一度も無い。敵は震え上がるだろうと斉藤は考えていた。

 

「上陸した連合軍兵はどうすると言っている?」

 

 

 

-サイパン島-

 

「敵は上陸した海岸線に退避しております。ここは、夜明けを持って一斉に突撃し、殲滅すべきかと。」

 

「海に近づけば、敵艦隊からの砲撃を浴びます。水際作戦など、持っての他です。」

 

サイパンでは辻と栗林が言い合う。辻は水際にて敵を殲滅し、一気に降伏へと追い込む作戦を立てる。しかし、栗林は水際作戦は敵艦隊からの砲撃を受け、損害も大きいから反対している。日本陸軍の敵上陸作戦対処方法は基本的には水際での敵殲滅が主流であり、成功例もある。しかし、損害が大きくなるというのも正しいのだ。

 

「難しい問題ですね。」

 

海軍陸戦隊指揮官を命じられ、マリアナ諸島防衛部隊の参謀『神重徳』大佐はこの言い争いの場にて唯一落ち着きを持っている者だった。

 

「まあまあ皆さん。ここは、急げば回れ作戦を行おうではありませんか。」

 

その言葉に全員が驚く。

 

「そ、それは前例の無い貴方が考えた奇策ですよ。このような国運左右しかねない決戦にそのような策を投じるなどご免です。」

 

辻は反対するが、栗林は。

 

「いや、それは案外成功するかもしれないな。」

 

「しかし、司令。このような国運を賭けた決戦に、そんな前例の無い作戦は。」

 

「だからこそやるのだ。兵力差は歴然。質では勝っていても、数では我々はどうしても劣る。勝つには、それしか無い。」

 

「物量など、我が必勝信念の大和魂の前には屈するものですよ。」

 

「精神で物量を巻き返せるほど、近代戦は甘くない。確かに気持ちは大事と言う事も分かりますが、それだけでは勝てないのだよ。」

 

辻は引き下がる。栗林の言葉はあまりにも正論を言っているからだ。

 

「分かりました。しかし、もし敗北しても私は知りませんからね。」

 

神はニコっと笑う。

 

「ご心配なく。もし失敗したら、我々は全員戦死しますので。」

 



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奇策の天才は健在なり

-連合軍上陸地点-

 

「敵襲に備えて警戒せよ。」

 

上陸した連合軍は日本軍の猛攻を前に引き下がり、一旦海岸線に陣を築いて増援部隊を待った。しかし、肝心の増援部隊を乗せた輸送船は日本軍の攻撃を前に惨敗し、一旦退避しているので来なかった。

 

「司令、我々は本当に占領できるのでしょうか?」

 

上陸した部隊はまともな反撃を出来ずに防衛陣地を築いて待っている状態なのだ。そんな事を口にする気持ちも理解できる。

 

「安心しろ、もうじき増援部隊が到着する。それまでの辛抱だ。」

 

補給物資は十分だった。食料に弾薬。3万の追加上陸部隊が4日間は戦えるに十分な量である。

 

「夜が明ける頃に到着すると言っていたが、それまでは耐えるしかないのだ。」

 

しかし、スクリューの音が聞こえてくる。不審に思い

 

「変だな、まだ夕方だと言うのに。」

 

振り向くと、そこに大量の潜水上陸艇が装備しているキャタピラで海岸線から上陸してきた。

 

「な、なんだ!?」

 

陸に乗り上げるなり、装備している12.7mm機銃で兵を撃ち、乗っている兵や戦車を吐き出し始める。

 

「じゃ、ジャップだ!!」

 

銃撃戦が始まったが、あまりの予期せぬ方角からの攻めに混乱が生じた。そして、反対側からも

 

「ジャップです!!。連中、俺達を挟み撃ちにしやがった!!。」

 

神の考えた急がば回れ作戦は、潜水上陸艇を使って反対側に兵を送り、奇襲をして混乱した所をセオリー通りに進んできた部隊と挟撃すると言う作戦だった。

 

 

-司令部-

 

「まんまと引っ掛かったな。」

 

司令部にて奇襲成功の報告を聞いた神は言った。これには、参謀等も唖然とするしか無かった。

 

「まさか、この様な奇策を通じようとは。」

 

反対していた辻も思わず賞賛してしまう。奇策の天才と謳われた頭脳は健在であった。

 

「これで、上陸した部隊の問題は無くなるでしょう。」

 

神は司令部にて落ち着きを持った声で言う。他の参謀は圧勝と言う戦果に喜ぶ者も居るのに。

 

「神大佐はあまり嬉しくない様なご様子ですね。自分の策が完璧に成功したと言うのに。」

 

「確かに成功しましたが、まだ連合軍には大量の上陸用部隊や補給物資が積まれた輸送船団は健在です。これらを使って再び上陸戦を挑まれたら、勝機は薄いです。」

 

まだ、残存部隊は30万人を超している。これらの輸送船も全滅させなくてはならないのだ。それが、アメリカから講和を引き出す為の条件の一つ。

 

「連合軍の輸送船団は所在は分かっておるのですが、攻撃部隊が敵艦隊攻撃の為に割いているので航空部隊では攻撃できないです。敵の輸送船には軽空母と護衛空母が居り、潜水艦による攻撃は相当きついです。」

 

大西は言う。軽空母は正規空母の補助的艦だが、護衛空母は対潜哨戒の任務も兼ねている。迂闊に近づいたら潜水艦は沈められてしまうのだ。

 

「どうするべきか?」

 

 

 

-秋島-

 

「輸送船団の攻撃には、我が主砲を持って敵を砲撃するのが一番効果が高いかと。」

 

秋島は長官室に居る山本に言う。確かに、暗闇に紛れて砲撃を行い、敵輸送船とついでに空母も沈める事が出来れば後の作戦に有利になるのだ。そして、敵艦隊攻撃用に温存しておきたい航空部隊をこんな所で消耗したくないと考えている。

 

「航空部隊を使わないとなると、やはり夜間砲撃しか無いな。」

 

ずっと、姿を隠し続けていた秋島は敵艦隊砲撃と言う初の敵艦隊攻撃命令を受領した。その為、サイパン南に退避した輸送船団を攻撃する為に進路を南に取る。

 

「両舷全速!!」

 

最高速力は15ノット。辛うじて輸送船に勝っている有様だった。しかし、圧倒的な攻撃力と防御力を持たせている為に速力など苦にならない。

 

「私は、遅いけど世界一の戦艦よ。」

 

秋島は得意げに言う。普段の冷静な判断力を持っている為、笑顔も殆ど見せないのに、この時ばかりは笑った。

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「秋島が出撃したか。」

 

旗艦から届いた電報を読んで、斉藤は言った。その隣にヴォルケ2が来て

 

「あんな戦艦なんか見たら、私達も震え上がるわよ。」

 

船体はヴォルケンクラッツァーよりも巨大で、武装はレベルが違うから比較できないが、この時代では最高の武装をしている。秋島と真っ向から撃ちあえる戦艦はこの世界の何処を探しても存在しないのだ。

 

「しかし、今思えば秋島って金田秀太郎の提唱した超巨大戦艦の更に巨大版じゃないかな。」

 

金田秀太郎、当時は海軍中佐だが、彼の提唱した超巨大戦艦建造計画『五十万トン戦艦』を八八艦隊の代替案としてもあった。しかし、あまりの巨大さと軍縮条約、技術の限界から建造できなかった。

 

「そんな戦艦建造計画もあったのね。」

 

「ああ、しかし、皮肉な事に技術の限界だよ。それに、もうそんな巨大軍艦を必要としないからな。」

 

そんな巨大な軍艦は史実の太平洋戦争には必要無かった。こんな奇想天外な世界の太平洋戦争なら未だしも、航空主兵時代の太平洋戦争にそんな巨大戦艦など維持費の金喰い虫でもある。(五十万トン級戦艦が出てくる小説は子竜蛍作の『不沈要塞播磨』くらいだと思う)

 

「じゃあ、そんな戦艦が現実に存在していて、それが敵艦隊を砲撃したらどうなるんだろうね?」

 

「知らないよ。第一、我々は艦載機の準備に忙しいんだ。そんな余裕は無い。」

 

艦載機総数1500機を一回で出撃させるのだ。1500機分の装備を整えるのはそう早々に出来るものでもない。

 

「分かったわよ。私達は準備している間、敵の警戒をしていればいいの。」

 

「分かっているじゃないか。」

 

斉藤はヴォルケ2の頭を撫でる。すると、ヴォルケ2は顔を真っ赤にしてしまった。

 

「ちょ、斉藤さん。何するの!?」

 

しかし、斉藤は無視し、艦橋に上がって

 

「山口機動部隊に繋げ。」

 

 

-山口機動部隊 旗艦 飛龍-

 

「山口司令、斉藤中将より連絡です。」

 

山口機動部隊、空母『飛龍』を旗艦に、蒼龍、天城、関鶴、加賀の5隻の空母を持つ機動部隊である。

 

「斉藤さんから?一体なんだろう?」

 

艦魂の飛龍は疑問に思いながら無線に耳を傾ける。艦魂とは便利なものだ。自分の艦ある全ての電子機器等が自分とリンクしているのだから。

 

「はい?」

 

『山口司令。偵察機を3機、それぞれ北と南、東へ飛ばしてくれませんか?敵の正確な布陣を知りたいのです。』

 

「別に構わないが、そっちでは飛ばせれないのかね?」

 

『ええ、申し訳ありませんが。』

 

「分かった。至急、用意させて発艦させる。」

 

そう言って山口は無線を切った。

 

「斉藤さんも必死だな。」

 

飛龍はもう少し精神的余裕を持っておけばいいのにと思う。そこへ、艦長の加来は飛龍の許にやって来て

 

「飛龍も少しは斉藤さんが恋しくなったか?」

 

「そ、そんな事はありません。私はただ、心に余裕の無い斉藤さんを心配しているのです。」

 

「そうか。しかし、蒼龍は恋しがっていたぞ。」

 

自分の義妹の蒼龍が斉藤を恋しがっている聞いて、何とかこの思いを斉藤中将に理解して貰おうと考える。

 

「まあ、彼女も積極性は無いからな。今頃は自室の部屋に篭って恋愛系の本でも読んでいるんだろう。」

 

加来はそう言って離れる。蒼龍の自室は小さな図書館みたいな状態になっているのは事実だ。本は棚を埋め尽くさんばかりにあり、床にも散らばっている。その殆どは戦略系の本などだが、一部は恋愛系も混じっている。

 

「義妹(そうりゅう)も大変だな。」

 

そう苦笑した飛龍であった。



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全滅の布石

-福岡県 福岡市舞鶴-

 

福岡県は、日本歴史上多数登場する県である。稲作が初めて伝わったとされるなど、大陸との交友の中心地でもあった。そして、日本軍国主義の発祥地としても伝えられている。

 

「わざわざすみませんね。急に訪ねさせていただいて。」

 

寺沢は現在の福岡県中央区舞鶴にある玄洋社を訪れていた。玄洋社とは、1881年(明治14年)に結成されたアジア主義を貫き通した政治団体の巨匠である。フィリピン革命家のアギナルドやインド独立運動家のラース・ビハーリー・ボースなどを支援したりと有名な会社でもあった。

 

「いえいえ、寺沢さん。今回はどの様なご用件で?」

 

寺沢は玄洋社社長の吉田(よしだ)癒(こくら)に会っていた。彼自身は何度か玄洋社を訪れており、各地域の独立運動を支援させたりなどの依頼をしたりしていた。

 

「今日はお願いがあって来ました。実は、今マリアナでは連合軍と我々が決戦を挑んでいるのです。そして、その終結後に我々は講和を行います。そこで、現在の政権打倒に協力していただきたい。」

 

「な!?東條内閣を倒すと。それはまた、驚きの事を言いますね。」

 

「私は本気です。この計画の為に各方面を説得し、ようやく人数は集まりました。後は、主戦派を倒して東條内閣を崩壊させ、アジア新秩序の許に日本は成り立たせてゆく。それは、貴方方玄洋社の思想でもあったはずです。」

 

吉田は頷いたが

 

「確かにそれは我々の思想でもあります。しかし、現政権打倒など我々は考えたことはありません。」

 

「いいですか、今この現状を許しますと日本はこの先悪くなっていきます。ここで終戦をしなければ日本は完全に孤立してしまうのです。日本を想う貴方なら、それが許せないでしょう。」

 

「確かに許せないが、かと言って我々にどうしろと?」

 

「満州義軍と同じような団体を作り、帝都の重要箇所を襲撃する支援をお願いします。既に、陸海軍の説得に応じた者が部隊を率いて配置に着いております。」

 

「では。」

 

「ええ、終結後に一気に帝都を抑え、講和内閣を結成して枢軸国と連合軍との講和会議を行います。その為の下準備も既に終えており、後は勝利するだけです。」

 

「分かった。やりましょう。」

 

「ありがとうございます。」

 

寺沢と吉田はお互いに握手をし合う。既に、日本では寺沢の説得に応じた陸海軍将兵が部隊を展開し、帝都の占領計画を練っているのだ。これには学徒出陣で戦場へ行く筈だった学生等も参加している。

 

 

 

-マリアナ-

 

「敵反応がありませんよ。」

 

夜間偵察を行っている彩雲は電探を使って敵艦隊を探しているのだが、発見することが出来ない。

 

「元々、たった3機で敵艦隊発見を行おうとするのが間違っているんじゃないか?」

 

「馬鹿言ってないで電探を見ていろ。航法手も航法を間違わないでくれよ。こんな所で迷子なんて御免だからな。」

 

彩雲は既に1時間飛行している。海中の潜水艦からの電波を頼りに航法を行っており、行動半径限界まで飛行してきた。

 

「ここらで引き返すぞ。」

 

操縦手は帰還しようと操縦桿を倒すが

 

「ま、待ってください!!敵の反応が微かにありました。もう少し行って下さい。」

 

「仕方ない。海水浴を楽しむか。」

 

操縦桿を元に戻し、飛行を続けた。もう、帰還できない。

 

「もし見間違いなら、お前を海に放り落として帰還するぞ。」

 

3座だが、一人減れば辿り着ける確率は微妙だが上がる。だから、本気で操縦手は電探手を海に放り落とす気でいた。

 

「ええ、いいですよ。」

 

ようやく、完全な反応を捉えた。航法手は信号銃を取り出し、風防を開けて機外へ放った。

 

「間違いない。」

 

「ええ、敵の機動部隊です。」

 

空母や戦艦、護衛の艦艇も確認した。紛れも無く連合軍の機動部隊だ。

 

「直ぐに母艦に連絡だ。『我、敵艦隊を発見す。』」

 

しかし、上方から急降下を仕掛けたヘルキャットが連絡中の彩雲を撃墜したのだ。

 

 

-飛龍-

 

「司令、偵察中の彩雲が敵艦隊の発見を報告してきました。」

 

「それで、位置は?」

 

「連絡途中に撃墜されたらしく、発信位置は大まかですが判明しましたが、正確な場所までは。」

 

参謀は偵察機からの報告を伝える。

 

「その付近に潜水艦は?」

 

「2隻が作戦行動中です。その2隻に付近の哨戒を依頼しましたので、直に発見するかと。」

 

艦魂の飛龍も心配になってきた。

 

「機動部隊なら、護衛空母もいる筈。そして、夜間にも係わらず飛来した偵察機を撃墜する腕。敵にも、凄腕のパイロットがいるのね。」

 

 

 

-エセックス-

 

「それで、飛来した偵察機を撃墜したパイロットは?」

 

キンケイドは着艦したヘルキャットのパイロットを艦橋に呼んだ。

 

「はい、レキシントン航空隊のアレキサンダー・ブラシウ中尉です。」

 

「そうか。夜間の中をよく発艦して撃墜したな。」

 

「ありがとうございます。」

 

レーダーで偵察機の接近を知った機動部隊だが、夜間の為に発艦できずにいたのだ。そんな中にアレキサンダーは独断で飛び立って偵察に飛来した彩雲を撃墜したのだ。

 

「凄いパイロットも居たものね。」

 

艦魂のエセックスも感心する。

 

 

-伊25-

 

「間違いないな。」

 

哨戒の依頼を受けて哨戒中だった伊25潜が機動部隊を発見したのだ。

 

「直ちに機動部隊に報告せよ。」

 

 

 

-飛龍-

 

「し、司令。遂に敵機動部隊の正確な居場所が判明しました。」

 

それを聞いて山口は目を見開き

 

「直ちに全航空隊に下命!!すぐさま発艦して敵を攻撃せよと」

 

この命令は機動部隊やマリアナの航空基地、内地の飛行場に伝わり、航空隊が敵艦隊目指して全速力で向かった。

 



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温存した航空兵力

-アメリカ特殊偵察型潜航艇-

 

アメリカはただ潜水艦の犠牲に何も対策を考えていない訳ではなかった。そこで、非武装の小型潜航艇を使って敵の艦隊を捜索していたのだ。

 

「敵に間違いないな。」

 

そこに、攻撃隊を出撃させたばかりの小沢機動部隊を捉えた。

 

「機動部隊に打電『敵艦隊発見、空母5隻を含む機動部隊』と」

 

「了解」

 

潜航艇は急いで打電をし、その場から離れた。

 

 

-エセックス-

 

「提督、遂に敵艦隊を捉えました。いよいよ反撃できますね。」

 

機動部隊は小沢機動部隊発見の知らせを聞いて航空隊を発艦させ、全速力でサイパンを目指していた。

 

「これで、先程までの借りを返せるって訳か。」

 

キンケイドは艦橋の窓から小沢機動部隊に向けて飛行を開始している航空隊を見て言う。艦魂のエセックスも

 

「私を攻撃した忌々しい機動部隊に一矢報いれるのね。」

 

と、言った。そこへ、電探室から報告が届けられた。

 

「し、司令。敵の航空隊です!!それも、数え切れない数です!!。」

 

「な、何だと!!」

 

急いで制空隊を上げるが、3000機(内、戦闘機800機)を越す航空隊に高々300機程度の戦闘機に何が出来るのだろうか。

 

 

 

「敵反応確認。」

 

隊長である笹井は迎撃に来る戦闘機を捉えた。

 

「増槽を捨てて迎撃する!!」

 

笹井中隊を先頭に、戦闘機400機が上昇した。

 

「見えた。」

 

急降下してくる敵戦闘機を見つけ、搭載しているロケット弾を放った。

 

「じゃ、ジャップ!!」

 

ロケット弾を受けた戦闘機は主翼が吹っ飛び、回転しながら落下していく。他の機体も何機はロケット弾に遣られ、次に格闘戦へと移行した。

 

「神速に格闘戦を挑む勇気だけは褒めてやる。」

 

ヘルキャットと神速では格闘戦の性能差も違っていた。それに、練度でもかなり違う。連合軍側はようやく飛行時間300時間を越えたパイロットが大半を占めているが、日本側の多くは1000時間を軽く越している。

 

「助けてくれ!!」

 

ヘルキャットは初心者でも扱いやすいが、それは神速も同じ。なら、性能差が物を言うのだ。

 

「ぎゃああ!!」

 

30ミリ機関砲はヘルキャットの胴体や風防を貫通し、撃墜する。まるで、史実のマリアナの七面鳥撃ちが逆転したような光景であった。いくら優れた機体でも、パイロットの飛行時間差は余りにも大きいのであった。

 

 

 

-エセックス-

 

「迎撃隊は壊滅しました。敵の攻撃隊は尚も向かっています。」

 

「こちらの攻撃隊は?」

 

「甘かったようです。敵の迎撃に会い、救援を求めております。」

 

もはや、連合軍にとって恐怖以外の何物でもない。航空隊は次々と壊滅し、上陸した部隊は全滅。打つ手は無く、ただ損害が増え続けるだけだった。

 

「このまま戦っても埒が明きません。幸い、艦艇の損害は軽微ですので撤退しましょう。」

 

「いや、もう遅い。見たまえ、あの航空隊を。」

 

キンケイドは艦橋から見える航空機群を指差す。空を埋め尽くさんばかりの大量の航空機が向かってくる光景は想像できるのだろうか。

 

「もはや、逃げ道は無い。どうせなら、一機でも多く撃墜しようではないか。」

 

「分かりました。対空戦闘!!」

 

艦隊の対空兵装は一斉に接近する航空隊に向けられる。既に、VT信管が効果を成さない事は分かっている。だから、通常信管を使うことにした。

 

「撃ち方始め!!」

 

一斉に艦隊の対空兵装が放たれ、向かってくる航空隊の周りに爆発が起こる。

 

 

「な、なんて対空砲火だ。」

 

対空砲が弓の様に飛んできて、航空隊の周りで爆発する。機銃も次々と飛んできて、操縦桿を倒せば被弾するのでは無いかって位飛んでくる。

 

「各機、注意せよ。」

 

雷撃隊は低空に侵入し、水平爆撃隊と急降下爆撃隊、ロケット弾装備戦闘機は高空に侵入する。

 

「隊長、3番機が遣られました。」

 

振り向くと、対空砲の直撃を喰らって落下していく彗星が見える。

 

「構わん。爆撃を開始する。」

 

彗星は急降下に入り、戦艦『ルイジアナ』目掛けて爆弾を投下する。

 

「目標に命中。火災を確認しました。」

 

上甲板では火災が発生し、煙で対空砲が撃てなくなっている。そこを狙って雷撃隊が追い討ちを仕掛けた。

 

「投下!!」

 

麗華が1t酸素魚雷を3本投下し、上昇する。魚雷は2本命中し、その後に追い討ちを仕掛けた別の編隊から1本を喰らって沈み始める。

 

 

-エセックス-

 

「ルイジアナ沈没。」

 

沈み始めたルイジアナを見てエセックスは

 

「戦艦が、あんなに早く沈むなんて。」

 

戦艦はタフな物であり、魚雷数本で致命傷にはなるが沈むことは少ないのだ。

 

「戦艦部隊は壊滅です。至急、体勢を立て直さなくては不味いです。」

 

「分かっている。しかし、この状況でどうしろと言うのだ!?」

 

駆逐艦はロケット弾装備の戦闘機が魚雷発射管を狙って攻撃し、魚雷の誘爆を引き起こして次々と沈んでいく。巡洋艦も同様の攻撃に減らされていっている。

 

「補助艦はもう少ないのですよ。撤退しなければ潜水艦の狙い撃ちです。」

 

駆逐艦と巡洋艦は最初の3分の1まで減り、作戦遂行は困難になった。

 

「戦艦『ミズーリ』、大火災により総員退艦。」

 

 

-ミズーリ-

 

「まだ、私は戦えるのに。」

 

ミズーリは火災を起こしてはいるが、戦闘能力を損失したわけでない。しかし、火災の勢いは止まらず、船体を炎が包み込んでいく。

 

「こんな、最後を迎えることになるなんて。」

 

次の瞬間、第一主砲弾薬庫の弾薬に誘爆。続いてその誘爆が別の弾薬庫の誘爆を引き起こし、ミズーリは沈没した。

 

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「もうじき敵を捕捉できる。」

 

敵艦隊発見の海域目指して特別戦隊は最後の決戦を挑もうとしていた。

 

「もう少しで終戦ですね。」

 

「ああ、この決戦が終わったら終戦だ。」

 

「今までの準備。報われると良いね。」

 

「寺沢も、亀井もしっかりと遣ってくれたんだ。後は私だけ。」

 

そこへ、伝令が来て

 

「高須長官の戦艦部隊はイギリス艦隊と輸送船団を攻撃。壊滅的打撃を与えられたとの報告が入りました。」

 

「早いな。」

 

「それはそうですよ。向こうは46cm砲を持っていないのですから。こちらが一方的に発射して壊滅させたそうですよ。」

 

「砲術長の角田中将が能力を発揮したそうですよ。」

 

「やはり、彼を戦艦部隊の砲術長に任命して正解だったな。」

 

角田(かくた)覚治(かくじ)は砲術の専門家として知られており、彼を抜擢したのは斉藤であった。彼の人柄を高く評価したのも抜擢の理由であり、彼なら部下とも上手くやってくれるだろうと考えたからであった。

 



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最終決戦兵器 前編

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「敵の艦隊はサイパンを目指しているようです。」

 

レーダーに捉えた米艦隊はサイパンを目指しているのだと予測され、斉藤は海図を見て

 

「いや、連中は我々をサイパンに向かうのだと見せかけ、実はテニアン島の沖に向かっているのだろう。そこなら、サイパンやテニアンにも航空攻撃を行えるし、我々だって発見しやすくなる。」

 

地図を見て、サイパンとテニアンの丁度中間地点を指差し

 

「恐らくは、ここへ行くのだろう。」

 

そこへ、

 

「艦隊は進路を変更しました。サイパンとテニアンの中間を突っ切る形です。」

 

伝声管から伝えられた報告から、少なくとも斉藤の読みが当たっている事を示した。

 

「斉藤さんって、どうしてこんなに敵の先が読めるんですか?」

 

ヴォルケ2が隣で聞いてきて

 

「戦後育ちだからかな。アメリカとの密接な関わりを持つ海自に所属していたんだ。いやでも、連中の戦術を教わったからな。」

 

 

 

-エセックス-

 

「マーシャル諸島に停泊して例の兵器がマリアナ海域に到達したと報告してきました。」

 

キンケイドは、それを聞いて

 

「ニミッツめ、総指揮官がわざわざこの海域に来るとは。」

 

「あの艦を見せられたときに、この世の物とは思えないおぞましいオーラって言うんですかね?そんな物を感じました。」

 

「君もかね?、私もそう感じたよ。なんと言うか、禍々しい巨大戦艦。よく、あんな物を合衆国が建造できたと思うよ。」

 

「噂では、別の世界から来たって言ってますよ。SFみたいな話ですが、そう思わないとあの戦艦の説明が出来ないんですよ。」

 

 

 

-ルフトシュピーゲルング-

 

「キンケイドは予定よりも遅れている様だし、私が前線へ出向くことになるとはな。」

 

合衆国の最終兵器、ルフトシュピーゲルングはヴォルケ達の世界からヨグ=ソトースが呼び寄せた超兵器で、太平洋艦隊の旗艦である超戦艦であった。

 

「キンケイドは必要ないと言うが、マリアナが落とせなければ不味いのでな。独断で来させて貰ったよ。」

 

既に波動砲の発射準備に入り、制動板も展開を終えている。目標は、戦艦部隊の霧島だった。

 

「発射!!」

 

青白いエネルギー砲弾が放たれ、真っ直ぐに霧島へ向かって飛んでいった。

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「こ、この感じは!?」

 

突然、嫌な予感に襲われる。そして、それを裏付けるように戦艦部隊の霧島が消滅した。

 

「!!、一体何があった!?」

 

斉藤は突然の爆発に驚く。敵の主砲は射程外だから当たる筈がない。なら、一体何が起こったのか疑問に思う。そこへ、

 

「さ、斉藤さん。今すぐにこの海域から離脱してください。」

 

袖口を掴んでヴォルケ2が言ってきた。

 

「ど、どうして?」

 

斉藤はこんな弱気なヴォルケ2を見るのは初めてで、少しおかしいと思う。

 

「あ、あれは間違いありません。あの攻撃。我がヴィルキア帝国本国艦隊旗艦になるべく建造されていた私たち超兵器の総大将。ルフトシュピーゲルングです。」

 

「な、なんだって!?」

 

突然、電探室から報告が届けられた。

 

「て、敵の艦隊の後方に、巨大な、とてつもなく巨大な戦艦の艦影を捉えました。」

 

続き、通信室から。

 

「て、敵からの電文です。『我、合衆国最終決戦兵器。艦名はタイタン。貴艦隊に通達する、本海域より無条件で撤退されたし。受け入れられる場合、先ほどの戦艦を沈めたように、連続発射にて貴艦隊を殲滅する。』以上です。」

 

「タイタンか。洒落た名を合衆国は付けるではないか。」

 

タイタン。日本ではティタンやティターンと表記されるが、英語発音ではタイタンという。ギリシア神話やローマ神話に登場する巨人の名である。巨人艦という意味ではピッタリの名称だろう。

 

「斉藤さん、あの艦の言うとおりに撤退してください。戦えば、犠牲は増えます。」

 

ヴォルケ2が隣で言う。

 

「いや、それは許されん。講和のためにもこの決戦で必ず勝利せねばならない。それが、私を信じ、私をこの艦隊の司令長官に任命された山本長官と、危険を冒し、欧州へ渡って影で支えてくれた亀井。そして、内地にて終戦工作を担っている寺沢。彼等のためにも、この決戦で必ず勝利せねばいけないのだ。」

 

斉藤は考え、ヴォルケ2に聞く。

 

「なあ、波動砲って撃つ前にエネルギー充填が必要だろう?」

 

「え?ええ、そうよ。」

 

「なら、そのエネルギー充填中にその砲身を攻撃されたらどうなると思う?」

 

「そりゃあ、!!。まさか!?」

 

「そう、そのまさかだよ。賭けでもあるけど。」

 

斉藤は通信室に繋がる伝声管を掴み

 

「ドレッドノートとノーチラスに、至急敵を挟撃できる位置につけと命じろ。」

 

伝声管から了解の声が聞こえ、斉藤はヴォルケ2に向き直り

 

「決戦は我々の勝ちだ。」

 



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最終決戦兵器 後編

-ウォルケンクラッツァー2-

 

「まだか?」

 

斉藤はドレッドノートとノーチラスの位置を確認する。

 

「はい。目標まであと30秒って所です。」

 

「急いでくれ。」

 

そこへ、窓から外を見ていたヴォルケ2が来て

 

「斉藤さん、焦らないで。もう少しだから。」

 

「分かってる。しかし、早くしないと撃たれる。」

 

 

 

-ルフトシュピーゲルング-

 

「義妹達(いもうとたち)も、ここでお別れか。会って直ぐお別れとは、悲しいものだな。」

 

艦橋では、艦魂の『ルフトシュピーゲルング(以下、艦魂としての表記はルフト)』が特別戦隊の超兵器群を眺める。

 

「戦争とは皮肉だな。自分の義妹達を私が葬るのだから。」

 

涙は流さない。兵器として、例え肉親でも敵ならば倒すのが戦場では当たり前だった。

 

(こんな形で会い、こんな形でお別れとは。)

 

そこへ、総司令のニミッツの許に伝令兵が来た。

 

「提督、敵からは何の返信もありません。」

 

「そうか。許せよ、憧れの東郷の子孫たち。」

 

東郷平八郎。日露戦争で大勝利した日本海海戦(海外では対馬沖海戦と言う)にてロシア・バルト海艦隊を再編したバルチック艦隊を撃滅し、一躍世界にその名を轟かせた日本海軍の名将。当時、各国の多くの海軍を志していた者の憧れの対象になった。ニミッツも、1905年に戦艦『オハイオ』に配属され、マニラに向かう際に日本にも来た。その際に東郷と10分間だけだが会話をし、彼に感銘を受け、尊敬を続けていた。

 

「発射用意。」

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「敵、エネルギー充填中!!」

 

「位置は?」

 

「到達しました。」

 

「直ぐに浮上させて攻撃させろ、急げ!!」

 

 

-ドレッドノート-

 

「攻撃命令受信しました。」

 

「緊急浮上!!」

 

艦長は急いで浮上させ、射撃体勢を取る。

 

 

 

「敵潜水艦、本艦の両舷に出現しました!!。」

 

「主砲は?」

 

「今から旋回させたのでは間に合いません。」

 

そこへ、挟撃したドレッドノートとノーチラスの主砲が放たれた。主砲は、寸分違わずに波動砲の砲身に命中し、溜まっていたエネルギーは行き場を失って、暴走を始めた。

 

「こ、こんな事って?」

 

腹から血を出し、床に座り込んだルフトは言った。

 

「充填していたエネルギーが暴走を始めました。相当危険状態です!!。」

 

「機関室より、暴走したエネルギーが逆流して機関が不安定だとの報告。」

 

「一部の部屋で停電が発生!!」

 

次々と被害報告が齎され、ルフトシュピーゲルングは戦闘能力の損失を意味していた。

 

「まさか、潜水艦に遣られるとは。」

 

警報が鳴り響き、総員退艦の指示が出始める。

 

「提督、そろそろ避難しなくては。ここも、危険です。」

 

参謀等は避難を促すが、ニミッツは首を横に振った。

 

「君たちは避難したまえ。」

 

「提督、まさか。」

 

「そうだ。君たちは避難したまえ。」

 

「では、何か形見を。」

 

ニミッツは、被っている帽子を参謀に渡した。

 

「では、達者でな。」

 

ニミッツは長官室へと篭った。参謀等は敬礼をし、退艦が始まった艦後部に向かった。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「斉藤さん、私はあの艦に行きたいです。」

 

「分かってるよ。艦長!!。」

 

「はい?」

 

「指揮を暫く頼む。私は自室へ少しの間戻るから、その間の指示を頼む。」

 

「了解しました。」

 

斉藤はヴォルケ2と一緒に艦橋を離れ、一階したの長官室へと入った。

 

「鍵は掛けましたか?」

 

「ああ。」

 

念のために扉に鍵を掛ける。

 

「では、行きますよ。」

 

そう言い、ヴォルケ2は斉藤を連れてテレポートした。

 

 

-ルフトシュピーゲルング-

 

「酷いな。」

 

窓からは炎上している波動砲の砲身が伺えた。

 

「まだ、戦闘能力を有している筈なのに。」

 

波動砲は遣られているが、主砲はまだ撃つ事が可能なように見える。

 

「無駄よ。もう、この艦には司令長官しか居ないから。」

 

突然、声がしたので振り返ると、壊れた鉄骨を杖代わりに立つ艦魂のルフトが居た。

 

「司令長官?司令長官って誰?」

 

「ニミッツ、貴方なら知ってるでしょう?」

 

「太平洋艦隊司令長官のニミッツかよ。」

 

「そうよ。」

 

「それよりも姉さま、傷は?」

 

「私自身の傷は大丈夫だけど、艦は駄目ね。波動砲のエネルギーが逆流して不安定なの。今この瞬間にも爆発の危険が迫っているわ。」

 

「急がなきゃ不味いな。それで、どうして私の事を知っている?君とは、初めて会う筈だが。」

 

「私はヨグ=ソトースと会っている。奴に貴方の事を聞いた。」

 

「なるほど。」

 

「ヨグ=ソトースって?」

 

「クトゥルフ神話の神だ。時間と空間を司る旧支配者の。」

 

ヴォルケ2は頷いた。地球の歴史に詳しいとは思えないが、とりあえず理解は出来たようだ。

 

「それで、ニミッツ提督は何処に?」

 

「長官室だ。ここの直ぐの隣の。」

 

「分かった。ありがとう。」

 

斉藤は急いで長官室へと向かった。ヴォルケ2はルフトとまだ会話を続けたいと言ったのでおいて行った。

 

 

-長官室-

 

「提督、いいですか?」

 

「誰だか知らんが、退艦命令は出ている筈だぞ。」

 

扉を開け、斉藤は中に入った。

 

「提督、私は貴方とは命令系統が違いますのでその命令に受けられません。」

 

ニミッツが驚いたように振り向く。

 

「に、日本の提督が何故?」

 

「今は日本とかそう言うのは関係無しに、貴方にお願いがあって来ました。」

 

「何!?」

 

 

 

「姉さま、どうしてこっちの世界に来たんですか?」

 

「さっきも言ったとおり、ヨグ=ソトースによって此方の世界に来た。お前たちも奴によって此方の世界に来たのだ。」

 

「私たちも?」

 

「そうだ。奴が何を企んでいたのか知らんが、恐らくはゲーム感覚で楽しんだだけだろう。」

 

「それで、私たちをこの世界に?」

 

「ああ。そして、完成した私も此方の世界に送られた。この海戦にはアメリカ側として参加し、結果はお前たちの知るとおりに戦艦一隻を沈めただけ。皮肉だな、超兵器なのに、たった一隻しか軍艦を沈められなかったなんて。」

 

「姉さま、姉さまは立派です。たった一隻で私たちに挑もうとしたのですから。私は斉藤さんに撤退を促して救おうと思ったんですが、此方も負けられない理由があるのだと斉藤さんに教えられました。」

 

「お前も、弱くなったな。戦場で感情に流されるとは、兵器、失格だな。」

 

ルフトの意識が遠のき始めた。

 

「姉さま!!」

 

「良いものだな、妹に、最後を看て死ねるのは。」

 

「姉さま、死んじゃ駄目。」

 

「もういいのだ。短い人生だったが、その短い人生の中で、自分が、生きた証を残す事が出来たのだ。」

 

「え?」

 

「私は、最終決戦兵器。名はタイタン。これが、私の生きた証だ。」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

「この世に、生をもらい、初めから決められていた名以外を貰えたと言う事だ。短い人生だったから、一日、一日が今でも思い出す。ヴィルキアで戦争に熱狂的になってしまった国民と軍。こちらの共産主義打倒に燃えるアメリカ。色々な、人を見て思った。何処の世界でも、完璧だと思われているものも、実は脆く、切ないものなのだと言う事を思い知らされたよ。私の船体のように。」

 

それを最後に、がっくりと倒れた。

 

「そ、そんな。」

 

もう、起き上がってくる気配は無い。ヴォルケ2はゆっくり立ち上がり、ルフトを綺麗に寝かしてやった。

 

「お休み、姉さま。また、会えると、いいね。」

 

ヴォルケ2の目から涙が溢れてくる。実質的に会うのはこれが初めてなのに、昔会ったような感じが襲ってくる。

 

「姉さま、姉さま。もう一度、もう一度会いたい。」

 

だが、その願いは空しい。ルフトは全く動かず、声は艦橋内を響くだけだった。

 

「そろそろ、脱出しないと。もうじき、船体が爆発を起こす。」

 

急いで、ヴォルケ2は長官室へと向かった。

 

 

 

「本当に、君は未来から来た人なんだね。」

 

ニミッツに自分の正体を明かし、その上で、世間に口止めするようお願いした。

 

「この後、ドイツでクーデターが発生し、それに呼応する形で日本はソ連を爆撃してスターリンを殺し、トロツキー氏を主導とする新生ロシア国家を建国します。そして、この戦争の始まりとも言える満州国は戦後、独立国としてユダヤ人国家へとなります。既に、中国首相の毛沢東との密約でそれは確立されており、反対意見は通りません。」

 

「そして、君の言う戦後に世界政府を造って国際問題の解決を促していく。しかも、その造る場所がハワイとは。」

 

「はい、アメリカを抑える為にも貴方の働きが必要なんです。日本人が何をしたいのか、貴方の口からも世界に伝えてもらいたい。」

 

「分かった。君の言う戦後。私も見てみたくなった。」

 

「感謝します、提督。」

 

そこへ、ヴォルケ2が走りこんできた。

 

「斉藤さん、そろそろ脱出しないと不味いです。」

 

「分かった、頼む。」

 

「い、一体何なんだね?」

 

「提督、失礼しますよ。」

 

ニミッツの目に布を巻き、目隠しをした。それを確認したヴォルケ2は自艦の長官室へと瞬間移動した。

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「すみません。」

 

ニミッツの目隠しを外し、事の説明をする。

 

「艦魂?」

 

「ええ、彼女の力で我々は助かりました。」

 

「不思議な力もあるものだな。」

 

瞬間移動などのSFのジャンルがあまり確立できないため、艦魂についての説明は最小限に留めた。

 

「では、暫くここに居てもらいます。本艦隊はここから撤退するので。」

 

「分かった。」

 

斉藤は長官室から出て

 

「艦長、我々の戦闘は終わった。日本へ向けて進路をとれ。」

 

「了解しました。」

 

特別戦隊は反転をし、日本目指して離脱を開始した。他の艦隊も、少しずつ離脱を始めていった。



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海底の暗殺者

-サイパン島-

 

「日本の艦隊は大半が撤退しました。連合軍も、艦艇は壊滅的な打撃を受けて撤退しているとの報告も入っております。」

 

サイパンの司令部に報告が飛び込んでくる。

 

「作戦も完遂したようだな。上陸した部隊も降伏し、局地的な戦闘は起こっている所はありますが、弾薬などの補給が無いので時間の問題でしょう。」

 

栗林もそれを聞いて安心する。そこへ

 

「空襲警報発令!!空襲警報発令!!。東から大型4発機と、南から小型の艦載機と思われる機体の接近を確認。」

 

「4発機はB29だと分かるが、艦載機とは?」

 

「レーダーには映っておりませんが、南方に残った機動部隊が居るのでしょう。」

 

 

 

-レキシントンⅡ-

 

「艦載機の突入命令を受信しました。」

 

「そうか。旨くやってくれよ。」

 

マリアナ諸島南方には、撤退したと見せかけた正規空母2隻と軽空母4隻が、艦載機を発艦させたのだ。

 

「まだ、終わっていない。艦載機があるかぎり、私は負けない。」

 

甲板に居るレキシントンⅡはマリアナの方角を見て言った。

 

 

 

-サイパン島-

 

「本島からは神速が飛び立ち、テニアンからは極電が飛び立ちました。」

 

大西は電話を切り、栗林に伝えた。

 

「そうか。制空権の保有も、必要だからな。必ず、守りきってくれ。」

 

 

 

「見えたぞ。」

 

まず、神速が艦載機に向けて攻撃を開始した。敵機の上から急降下し、頭上を押さえて一撃を加える事に成功したのだ。

 

「よし、7機撃墜だ。」

 

先陣を切った笹井中隊は、後続部隊の戦果も確認するために上昇を開始する。

 

「笹井さん、この機体は本当に最高の戦闘機ですよ。狙った敵は簡単に撃墜できるんですから。」

 

羽藤は、燃えながら落ちていく敵機を見て言う。

 

「そうだな。しかし、油断するなよ。」

 

上昇し、後続部隊の突入も確認する。やはり、簡単に撃墜され、一方的な戦いを行っている。

 

 

「日本の戦闘機に被られた。急いで帰還するぞ。」

 

米パイロットは機体を反転させて母艦を目指した。

 

 

「集合。」

 

敵艦載機の撤退を確認し、笹井中隊は集合を掛ける。

 

「急いで、戻るぞ。」

 

 

-サイパン島-

 

「敵機です!!」

 

サイパンを何機かが爆撃し、残りも爆撃しようとしたその時に陸軍の極電が急降下攻撃を行う。

 

「助けてくれ!、エンジンが、火が出た!!」

 

B29のエンジンから火が出始め、横に逸れて行く。

 

「ぎゃああああ!!」

 

そこを狙った極電が操縦席やら無線手席やらの重要な部分を撃ち、撃墜した。

 

「加藤隊長、B29がこんなに弱いんじゃあ拍子抜けしちゃいますよ。」

 

「黒江、敵機の様子が可笑しいと思わんか?」

 

「え?」

 

「敵は一見普通の飛行機だが、どうも簡単に落ちすぎる。」

 

「気のせいでしょう。」

 

「だと、いいが。」

 

加藤の読みは当たっていた。このB29の大半は多くの場所に木材を使った木製爆撃機である。

 

「もうじき、終戦なんだ。それまで、ここを守り抜くぞ。」

 

加藤は操縦桿を倒し、逃げる爆撃機の追撃に移った。

 

 

 

-大西洋-

 

「浮上!!」

 

浮上した伊2500型潜水艦4隻は、格納庫を開け

 

「巡航ミサイル発射用意、急げ!!」

 

巡航ミサイル搭載攻撃型潜水艦伊2500型4隻は、潜水補給艦の援助の下、大西洋へと進出した。長い道のりではあった。ラバウル沖で最後の整備を受け、後は一切浮上せずにこの海域まで殆ど休み無く航行してきたのだから。他にも、欧州方面に進出した潜水艦も存在する。

 

「発射準備完了しました。」

 

「よし、発射しろ!!」

 

ロケットエンジンが点火され、カタパルトを使って勢いよく巡航ミサイルは飛び出していった。

 

 

 

-ホワイトハウス-

 

「諸君、もはや我が国に未曾有の危機が迫った。今回の反抗作戦に投入した戦力が壊滅的な打撃を受けたそうだ。」

 

「では、反抗作戦は大失敗と。」

 

「そうなるだろう。」

 

会議に参加したものは全員驚愕した。トルーマンは講演の為に遅れて会議に参加する事になっている為、この場には居なかった。

 

「戦艦は2隻、空母は正規空母3隻、軽空母6隻を入れた計58隻しか生き残らなかった。」

 

作戦投入の艦は累計で200隻以上の艦艇だったのに、約7割の損害を出したのだ。

 

「来年、ミッドウェー級が2隻就役するが、その2隻と残った空母で日本を討つ必要があるのだ。」

 

ルーズベルトは、未だに対日戦を諦めていなかった。トルーマンは講和を訴えているし、国民も講和を訴えている。彼が何故、日本にこんなに拘るのかというと、彼の人種差別的思考に答えはあった。

 

「東洋の猿に我が合衆国が負ける事は許されないのだよ。」

 

「お言葉ですが大統領。講和と敗北は違います。講和は、言うなれば関係の回復を意味します。」

 

「どちらにせよ、我々の負けと言う意味ではないか。この状況で講和すれば、ロシアと同じ彼らは勝ったといい気になるぞ。」

 

日露戦争は、一般的に日本の勝利と言う事になっているが、実は講和による停戦と言う事が正しいのだ。即ち、日本は太平洋戦争まで無敗と言うが、それは厳密には間違っている解釈でもある。

 

「まあ、確かにそれは分かりますが、このまま戦争を続けていく力が今の我々には残されていないと言う事です。」

 

「無いならば造ればよい。何のための工業力だ!?」

 

そこへ、大慌てでSS(シークレット・サービス)が入ってきた。

 

「大統領、大変です!!ここに、敵の噴進弾が向かっているとの報告が入りました!!」

 

「何!?」

 

「急いで下さい。我々が安全な場所に誘導します。」

 

そう言ったのも束の間。ミサイルのロケット推進の音が聞こえてきたかと思うと、大統領の真後ろのガラスに一発が突っ込み、爆発。他も、四方から突っ込んで爆発し、ホワイトハウスは完全に崩れ去った。

 

 

その2時間後、知らせを聞いて大慌てで帰ってきたトルーマン副大統領は崩壊したホワイトハウスを見て驚愕する。

 

「い、一体、何があったんだ?」

 

そこに、警備の者が来て

 

「副大統領、ホワイトハウスは崩壊直前に噴進弾の直撃を見たという目撃証言があります。恐らくは、敵の攻撃かと思われます。」

 

「な、なんと言う事だ。このワシントンまで、敵の射程圏内だとは。それで、大統領は?」

 

「目下、全力で捜索中ですが、瓦礫が多すぎて発見は困難かと。」

 

「とにかく急いでくれ。」

 

「分かりました。」

 

そう言って瓦礫の山と向き合った。

 

 

3日後、懸命な捜索活動は業を煮やし、遺体だがルーズベルト大統領を発見する事が出来た。その為、憲法に従ってトルーマンが次期大統領として就任する。国防長官なども講和派の人間が着き、講和の模索を開始した。



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昭和動乱

-黎明島-

 

「それで、決起の用意を整えたのだな?」

 

斉藤は、黎明島で寺沢と合流し、状況を聞いていた。

 

「はい、既に説得に応じた者は決起の為に部隊を集結させております。明日、決起が開始される予定です。」

 

「そうか。終戦工作、ご苦労だった。」

 

「いえ、まだ成功していないので何とも言えません。」

 

 

 

-米内邸-

 

「近衛さん、明日に決起が始まり、東條英機を拘束して主戦派を一掃した後に我々講和内閣が政界入りを行って連合軍との講和。これが、全て一人の日本人によって計画されたのです。」

 

「わかっております、米内さん。ドイツでも着々と計画が進んでいるそうですね。」

 

「はい。彼の部下が欧州に渡って密かにヒトラー暗殺を企てています。本当は、イタリアが降伏した時に我々も降伏し、連合軍の仲間入りしてドイツと戦うべきだったのですが、それはあの時の国情から不可能であったのは確かです。」

 

イタリアが降伏したとき、日本はまだ連戦連勝だったために降伏など一切出なかった。それに、降伏したのにイタリアの実情は連合軍の傀儡となって戦っている様なもの。とても、日本が受け入れられる筈が無い。

 

「マリアナでの決戦でも計画とは違いましたが輸送船団を壊滅させたのは確かです。連合軍は、この敗北と大勢の犠牲者から厭戦気分も出ていますので、講話は成功すると思います。」

 

「後は、ソ連とドイツだけです。もうじき、戦争は終わるのですよ。」

 

「近衛さん。その為にも明日の決起、失敗は許されませんよ。」

 

「分かっています。」

 

 

 

次の日、

 

「突撃!!」

 

帝都を陸海軍の車団が疾走した。陸軍の目的は主戦派の排除と軍令部の機能停止、東條を含む政治家達の拘束だった。

 

海軍は警察署と陸海軍省の制圧、帝都の治安維持が主目的であった。

 

「行け行け!!」

 

海軍兵は警察署に雪崩れ込み、署内にて銃撃戦が勃発した。

 

 

「突撃!!」

 

陸軍も、軍令部内へと突入。そして、

 

「長官、国家扇動罪にて逮捕します。」

 

主戦派の一派を拘束。抵抗する場合は射殺を行った。

 

「貴様ら、こんな事をして許されると思っているのか!?」

 

「この国が戦火で崩落していくのと比べたら、よっぽどマシです。」

 

寺沢の説得を受けた兵の意志は固かった。

 

「この国は不滅だ。皇国の敗北は後世永久にありえないのだ!!。」

 

「その様な戯言に付き合っている暇はありません。」

 

 

-首相官邸-

 

ここにも陸軍兵が雪崩れ込み、中に居た東條を拘束することが出来た。憲兵は入ってくる兵らに発砲するが、数に押されて結局は全滅したのだ。

 

「首相、あなたを国家扇動罪で逮捕します。」

 

日米戦争の戦端を開いた東條はこれによって拘束された。拳銃で自殺しようとするが、入ってきた兵らに止められ、潔く降伏したのだ。

 

「これで、計画は完了しました。」

 

決起のリーダーである浜崎大佐に、将校が報告する。

 

「うむ、これでいいのですね?近衛さん。」

 

「はい、ありがとうございました。」

 

そう言い、近衛はマイクを取る

 

 

『国民の皆さん。今日は、重大な発表があります。この国の戦端を開いた東條内閣は倒れました。付きましては私、近衛文麿が第4次近衛内閣を組織する事をここに表明します。』

 

近衛は間を置き

 

『そして、長年言論の自由を弾劾し続けた政治体制の撤廃。これによる記者達の取材活動の妨害を行わないことを宣言いたします。』

 

 

国内は熱狂した。これまで、言論を抑えられていた国民は各地で集会を開き、近衛内閣を支持するかしないかを競った。新聞社は通常発行とは別に号外として近衛内閣の組織を表明する内容を発信し続けたのだ。

 

これに、国会は二つの派に分かれた。近衛文麿を、国賊とする派か、英雄とする派か。だが、英雄視する者が国会内でも多く、国民のほぼ全てが近衛文麿を英雄視したのだ。これには、玄洋社の言論誘導の効果も合わさっていた。

 

 

-国会-

 

「ここに、第四次近衛内閣を結閣する事を承認します。」

 

結局、裕仁天皇陛下の仲裁で近衛内閣の結閣を承認。連合国との講和計画が進められていった。

 

 

 

-黎明島-

 

「決起は成功したな。」

 

黎明島に停泊しているヴォルケンクラッツァー2の艦橋で報告を聞いた斉藤は、自室へと戻った。そこには

 

「決起が成功したんだって。」

 

特別戦隊の艦魂が集結していた。

 

「これで、私たちの戦争は終わったんですね?」

 

ヴォルケが言うが

 

「いや、まだソ連とドイツが終わっていない。まあ、直ぐに終わるのだが。」

 

「ソ連海軍って強いの?」

 

播磨は戦いたくてうずうずしているようだが、

 

「いや、そんなに戦力としては高くないし、ウラジオストクを塞げば役に立たなくなるよ。」

 

それを聞いて残念がった。

 

「まあ、そう残念がるな。」

 

そう言って一枚の紙を見せる。

 

「「これは?」」

 

全員がその紙を見に来るのだ。

 

「ウラジオストクの攻撃計画だ。ヴォルケ姉妹と播磨が参加する作戦だよ。他にも、小沢機動部隊から隼鷹と飛鷹に護衛の駆逐艦が参加する。後は、接近しての攻撃に巡洋艦6隻と駆逐艦4隻の艦隊が艦砲射撃を行う予定だ。」

 

「これに平行して。」

 

ヴォルケ2が言う。

 

「ああ、富嶽によるソ連の猛爆だ。だが、その前にドイツで革命が起こる。」

 

「では、富嶽の着陸地点は?」

 

ハボクックが言う。

 

「残念ながら、降りられる場所は無い。ニミッツとハルゼーを乗せるから、運がよければイギリスに降りられるが。」

 

「見殺しにするとも考えられますか?」

 

「ああ。」

 

その場が静まり返ってしまった。

 

「まあ、何とかするように全力を注ぐよ。12月3日。この日、ドイツは変わる。」



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第二次ドイツ革命

12月3日

 

―ベルリン―

 

「国家社会主義ドイツ労働者党万歳!!総統陛下万歳!!」

 

ドイツは、未だに熱狂の中にあった。同盟国日本は、マリアナにて連合軍に大勝利し、その勝利にも国民は熱狂的だった。東部戦線は少しずつ崩壊が始まっているが、国民はそんな事を知らされていない。ただ、アフリカの大勝利以外はしらされていないのだ。

 

「国民諸君、我が盟友日本はマリアナにて連合軍に大勝利した。その勝利に我々が乗らないでどうする?私は、この勝利に我が軍の士気は高揚していると感じている。よって、我々はイギリス上陸作戦を決行するのだ!!」

 

ヒトラーは、西部戦線の再構築のためにフランスの前線に赴き、前線兵の士気高揚を鼓舞するために総統専用特殊装甲列車で向かう。その前に、国民の前で演説を行っているのだ。

 

「ジーク・ハイル(勝利万歳)!!ジーク・ハイル(勝利万歳)!!」

 

国民は、ナチス式敬礼を行い、ヒトラーへの忠誠を示す。

 

 

 

-装甲列車-

 

「ゲーリング君、今回の第二次バトル・オブ・ブリテンの指揮を執ってもらう。前回の様な失敗は許さんぞ。」

 

「はい総統陛下。必ずやジョンブル共の空を支配し、陸軍の安全な上陸を保障します。」

 

国家元帥のゲーリングは、空軍の統括権を持っている。それに、第一次世界大戦ではエースパイロットとして戦ったので、ある程度の航空戦は心得ているのだ。しかし、バトル・オブ・ブリテンでは速度を生かす戦闘機の性能を生かしきれず、スピット・ファイアーに大敗を喫するという敗北をしてしまった。

 

「宜しい。日本が送ってきた烈風とやら、その性能をたっぷりと見せてもらおうではないか。」

 

日本は旧式化した烈風でも、欧州ではまだ通用する為、ドイツへ50機ほど送っていた。航続距離の短いドイツ軍戦闘機にとって、烈風の長い航続距離は魅力的だろう。

 

「我々に劣るとされるアジア人でも、あの航空機の性能は素晴らしいの一言です。一撃離脱を好む我が空軍の戦術にも対応できますし、格闘戦でも無敗を誇っています。」

 

 

 

 

「こんなもんで良いか。」

 

線路上に爆弾を括り付けた亀井は、起爆装置のコードを延ばして森の中に隠れる。

 

「総統、貴方の命は今日限りです。」

 

いくら装甲列車と言えど、下部まで装甲がなされているわけではない。だから、したからの攻撃では簡単に破壊できるのだ。

 

「来たぞ。」

 

列車の走ってくる音が聞こえ、亀井は起爆スイッチに手を掛ける。失敗は許されない。この一回に、世界の命運が委ねられている。

 

「爆発してくれよ。不発なんて洒落にもならんからな。」

 

そして、列車が丁度真上に来た所で

 

「今だ!!」

 

スイッチを押し、伏せる。その瞬間、爆弾が爆発し、先頭車とその後方の5両までが吹っ飛んだ。総統の乗っているのは3両車の為、確実に死んだのが分かる。

 

「これで、終わった。」

 

 

 

-ベルリン-

 

ヒトラーの死亡を聞き、シュタイナー大佐率いる部隊と説得に応じた部隊が決起を開始。

 

「目標、SS本部。」

 

ティーガーの主砲がSS本部へ数発撃ち込まれ、崩落する。

 

「爆撃機です。」

 

反乱を鎮圧する為に、爆撃機の出撃命令が下ったが

 

「目標確認、これより急降下する。」

 

シュトゥーカが急降下しようとしたその時

 

「戦闘機です!!。」

 

「何!?」

 

その瞬間、Bf109がシュトゥーカを撃墜した。

 

「空は任せろ。絶対に守りきってやる。」

 

反乱に参加したBf109はドイツ空軍のマークを消し、白い鳩のペイントが施されている。

 

「隊長、戦闘機です。我々を撃墜しに来たんでしょうか?」

 

編隊2番機が隊長に報告する。

 

「分かった。全機、一機残らず撃墜するぞ。」

 

「その威勢はありがいが、俺たちは味方だ。」

 

突然、無線に割り込みが入ってきた。

 

「誰だ?」

 

「俺か?俺は日本海軍潜水艦『伊5000』航空隊隊長の桂崎だ。お前さん方の反乱の協力に来た。』

 

通り越した神速には、同じく白い鳩が描かれている。

 

「隊長、これは一体?」

 

「なーに、味方だと言うなら大歓迎だ。何せ、あんな数に挑まなければいけないからな。」

 

見ると、戦爆連合(戦闘機と爆撃機が混じっている事)100機が接近してくる。

 

「行くぞ!!」

 

 

 

「上は大変なことになっていますね。」

 

何とかベルリンの要所を抑えたシュタイナー大佐は、副官の報告を聞く。

 

「まあ、何とかするさ。それよりも、」

 

隣にいるドイツ宣伝省大臣ゲッベルスを見る。

 

「先程の要求。呑んでくれますね?」

 

「は、はい。」

 

拳銃を突きつけられ、ロンメルを次期総統とするという嘘の遺言をヒトラーから聞かされていたと言う事を発表しろとゲッベルスに言っていた。

 

「では。」

 

マイクに着き、ゲッベルスは

 

『ドイツ国民の皆様、既に知っての通りにベルリンは大変なことになっております。しかし、先程受け取った反乱軍の声明文と総統陛下の遺言が一致していることから、この反乱は終結へと向かっております。総統陛下は、次期総統をロンメル元帥に任命すると言う遺言を私に話しておりました。よって、次期総統をロンメル元帥に任命いたします。』

 

嘘だが、総統の遺言に逆らうことの出来ないドイツはロンメル元帥を総統とする新ドイツ帝国建国を宣言した。

 

 

 

その頃、日本海軍はゆっくりとウラジオストクへ接近していた。

 



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真の敵 前編

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「大本営より入電。『貴艦隊の奮戦に期待す。なお、在ソ大使館より日ソ中立条約破棄は10分後。』」

 

通信兵が大本営からの命令を伝えた。

 

「10分とは早いな。大陸の準備は?」

 

「準備完了です。いつでも攻め込めます。」

 

「爆撃隊もか?」

 

「はい。」

 

まだ、日ソ中立条約は有効内で、先の富嶽によるソ連爆撃はドイツ空軍の許可を貰い、ルフトバッフェのマークを施して行われた。陸軍は中立条約破棄と同時にソ連領内へと攻め込む予定だった。ソ連の極東軍備は非常に甘く、優秀な人員は全員が対独反抗作戦に投入されてしまっている。

 

「ウラジオストクの防衛力も非常に脆いです。航空兵力なんか練習生レベルです。」

 

「練習生か。こちらは可能な限り精鋭部隊で来ているのだな?。」

 

「はい、小沢機動部隊と山口機動部隊から選り優りの人材ばかりです。」

 

「分かった。では、内地へ打電だ。『我、敗北の可能性薄し。全兵力をもって敵を壊滅せんとす。』」

 

そう言い、会議室へと向かった。

 

 

「作戦は順調だ。陸海軍の合同任務は気持ちがいいよ。」

 

会議室にはヴォルケ姉妹と播磨がいた。

 

「それにしても、ここまで旨くいくとはね。てっきり、気づかれるんじゃないかとひやひやしてたよ。」

 

「同感。」

 

「同感です。」

 

ヴォルケ2の言葉にヴォルケと播磨は同意する。

 

「ははは。まあ、そう簡単に読まれても面白くない。それに、今回は心置きなく主砲を撃てるんだ。」

 

「敵航空部隊はどうするの?」

 

「心配ない。兵力火力共に我が方優勢。艦艇に関しては少数の水雷艇や砲艦があるくらい。陸上砲座や要塞砲はあるけど、大したことはない。」

 

「十分。」

 

「撃滅可能だな。」

 

 

 

 

「砲撃開始!!」

 

ウラジオストクを射程に収めた特別戦隊は砲撃を開始する。艦砲射撃を行う部隊はまだ接近しなければならず、近づいていく。航空部隊は、航空隊を上げ、収容地点への移動を開始する。

 

「全部燃えてしまえ!!。我が主砲で、ウラジオストクを火の海に変えてやる。」

 

播磨は砲弾の命中するウラジオストクを見て歓声を上げる。同時刻、陸軍もソ連との国境を突破し、内陸部への移動を開始した。

 

「砲撃は港湾施設に集中していますね。」

 

ヴォルケ2が斉藤の隣に来て言う。

 

「ああ。港湾施設さえ破壊すれば脅威は無くなる。航空隊は現れる敵航空兵力さえ倒してくれていればいい。」

 

「ソ連の航空機って弱いのね。」

 

神速に捕捉され、次々と撃墜されていくソ連軍機を見て言う。

 

「弱くはないんだが。なにせ、パイロットの練度があまりにも違いすぎるからな。」

 

対独反抗作戦に優秀な搭乗員を投入してしまった結果、極東の部隊は弱小と言うほかなかった。

 

 

 

-最上-

 

「発射!!」

 

ようやく射程圏内に入り、砲撃部隊の艦砲射撃を開始する。しかし、射程が射程なだけに陸上砲座や要塞砲から狙い撃ちに晒される。

 

「うーむ、もう少し後に突入すればよかったのではないか?」

 

最上が疑問に思ったその時、後方の那智が船体中央に受けて沈没を始めた。

 

「な!?たった、一発で。」

 

当たり所が悪かったとしか言いようが無い。船体が中央で断裂して沈んでいく。

 

「那智さん。」

 

沈み行く那智を見て、敬礼しようとしたその時。突然、沈んでいく那智から主砲が放たれ、砲撃陣地を壊滅させたのだ。

 

「え?、一体どういう事?」

 

最上、いや、この場に居た全員が状況を理解できなかった。浸水し、傾いているはずの主砲射撃室から、一体誰がどうやって主砲を放ったのか誰にも理解できなかった。

 

 

 

-ヴォルケンクラッツァー2-

 

「作戦は第二段階に移行。各艦、現海域より撤退して本土を目指せ。」

 

斉藤は操艦指示を出し、通信室へ

 

「全航空基地へ打電。富嶽爆撃機、出撃せよ。」

 

命令を受け、各地に分散されている富嶽計9800機が一斉に飛び立ち、モスクワ目指して飛行を開始した。

 



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真の敵 後編

飛び立った全9800機の富嶽は梯団を組んで第一目標のウラル工業地帯目指して飛行を開始した。そこに被害を出し、兵器生産を大幅に遅らせるのが目的だった。そして、モスクワを無差別爆撃し、灰塵に変えてスターリンを殺すのが目的だった。

 

「機長、順調に飛行すればあと3時間ほどでウラル工業地帯ですよ。」

 

航法士が目標到達までの大よその時間を伝えてくる。

 

「了解した。各機、周囲の警戒を怠るな。」

 

勿論、爆撃隊の中には羽島と風龍も一緒に飛行している。既に、日ソ不可侵条約は破棄しているので、迎撃機が上がってくることだってあり得るのだ。

 

「空は驚くほど澄んでいますね。」

 

高度1万5000m。極寒の中を飛行している爆撃隊は、これまで見たことが無いほど澄んだ空を見ている。気温は、100m上がるごとに0.6度下がると言われている。なので、単純計算で地上よりも90度低いことになる。

 

「着陸地点は絶望的だろう。独逸は革命の混乱で着陸できる場所は無い。唯一の望みは、イギリスか。」

 

編隊5号機にはハルゼーとニミッツが乗っているし、6号機にはフィリップスも乗っている。説得することが出来れば、イギリスに着陸することが可能だが、可能性は絶望的だった。

 

 

 

「目標視認。」

 

誤差はあったが、おおよそ3時間でウラル工業地帯を目標に捉えることに成功した。

 

「爆弾倉解放。投弾用意。」

 

富嶽の爆弾倉が開き、爆撃手は光学照準儀を覗き込む。爆撃高度は1万2000m。風はないが、富嶽の装備する光学照準儀でも全弾命中は難しいだろう。

 

「左2度修正、速度良し。」

 

爆撃手は慎重に照準を合わせる。

 

「よーい、投下!!」

 

富嶽から爆弾約3トン分が切り離され、眼下の工場地帯に重力に任せての自由落下していく。

 

 

 

「敵爆撃機来襲!!敵爆撃機来襲!!」

 

地上では、ようやく警報が鳴り、作業中人間は大慌てで逃げて行く。

 

「日本の超重爆撃機、高度約1万メートルより投弾開始。」

 

前回と違い、今度は国際法に従って日の丸を付けている。そして、投下された爆弾は次々と工場を破壊し、生産ラインはストップしてしまった。

 

 

 

 

「目標に命中を確認。炎上中。」

 

富嶽から炎上している工業地帯を視認できる。戦車や航空機はこれで当分の間生産することは不可能だろう。だが、それは終戦が近いので関係ない。

 

「残りは全弾モスクワに投下する。」

 

「機長、敵機が上ってきますが。」

 

「心配ない、高度1万5000メートルまで上昇できる戦闘機はソ連には無い。」

 

その通りだった。戦闘機は高度1万メートルに達するギリギリで引き返し始める。迎撃は不可能だと見たのだろう。

 

「編隊5号機より、大英帝国のラジオを傍受したとの報告です。」

 

「何!?」

 

 

―2時間前の大英帝国―

 

「しゅ、首相。突然、日本人と名乗る者が閣下に面会を求めています。」

 

「な、なんだと!?」

 

戦時下で敵対国に単身やって来た人間がいたのだ。

 

「何と言っているのだ?」

 

「はい、何でもムッソリーニやヒトラーを殺したと言っているのです。」

 

チャーチルは考えた。同盟関係を考慮して日本ではムッソリーニやヒトラーの死亡が公にされていない筈であった。だから、知っているのは殺した本人か、政治関係の重要人物だと考えるのが妥当だろう。

 

「分かった。面会を受け入れよう。但し、彼を軍師としてだ。」

 

 

チャーチルは日本人を待たしている執務室に入った。そこに居たのは

 

「初めまして。いえ、一度海相の時に顔だけは見ていますかな。覚えているいないは別として。」

 

亀井だった。ヒトラーを暗殺し、フランスからイギリスへ大胆にも真昼間にドーバーを越えて来たのだ。

 

「まあ、話の前にこれをお見せします。」

 

そう言って、チャーチルに何枚かの資料を渡す。中に入っていたのは。

 

「こ、これはユダヤ人処刑の命令書。しかも、サイン主はヒトラーでは無く、スターリン。」

 

そして、他にも戦後のヨーロッパ赤化計画。核による国外武力進出計画。その他、独逸における作戦指導案など、どれもスターリンの公サイン入りの文書だった。

 

「これを見て分かる通り、大英帝国にとっても真の敵は独逸ではなくソ連です。」

 

亀井はチャーチルに示した証拠を突きつける。チャーチル自身も、これはデタラメだと言うのは簡単だった。しかし、そうしないのはソ連への疑惑を抱いているからだろう。

 

「貴方には罪はありません。全て、スターリンが裏で仕組んでいたのですから。連合軍側に入ったのは、恐らくは勝利と計画実行の為でしょう。恐らく、この戦争は連合軍の勝利で終わる。そして、戦後での発言力を高くし、計画を実行しても誰も文句を言えないようにすればいいのだから。」

 

「こんな資料を持っているということは、日本は気づいているのだな。この戦争が何故起こったのかも。」

 

「はい。第一大戦後、ベルサイユ条約で莫大な賠償金を課せられた独逸。しかし、戦争に負けた独逸にそんな額を支払う力がある筈がない。そして、その後に起こったルール占領や世界恐慌でドイツ経済は破綻。貧困のどん底に一気に叩き落された。」

 

「それが、ヒトラーを伸し上がらせた原因だよ。もっと、早く気付くべきだった。もっと早く、独逸の賠償金の支払い義務を無くせば、こんな、戦争は起こらなかった。」

 

「しかし、それを裏で仕組んだ者がいます。この、戦争。前大戦があった時点で回避できなかったでしょう。前大戦で勝利すれば発言力を高くすることが出来る。そう感じてしまった国があるのです。アメリカと言う国が。」

 

亀井はもう一枚の紙をチャーチルに渡した。

 

「これは、アメリカ政府が国務長官に出した対日参戦を促す命令書です。交渉を引き伸ばし、日本が戦端を開くのを待ち続けたのです。貴方も、アメリカの参戦がどうしても必要だった。だから、この作戦を支持した。」

 

亀井は拳銃を抜き

 

「本来なら、貴方をここで射殺する必要もあるでしょう。しかし、私は別の目的でここに来たのです。今、ソ連のスターリンを殺すために爆撃機が飛行しています。その爆撃機の着陸場所を提供していただきたい。」

 

「ドイツではダメなのか?」

 

「ドイツは現在革命が起こって政情不安定です。直に講和宣言をしますが。それに、富嶽を着陸させるということはあなた方にとって重要人物を助けることになるんですよ。フィリップスとハルゼー。それにニミッツです。」

 

「な、本当か!?。」

 

「はい。」

 

「着陸場所は北部が良かろう。住民たちも少ないから人目も少ない。何とか、そこに着陸できるように取り計らおう。」

 

「感謝します。」

 

 

 

「と言う訳で、着陸場所はイギリス北部。」

 

「まあ、着陸場所が見つけられたんだ。見えて来たぞ。」

 

モスクワが見えてきた。富嶽は爆撃体制に移行し、爆弾倉を解放する。

 

「今度は思う存分投下できるぞ。持ってきた爆弾全て投下してやる。」

 

 

「だ、大元帥同士。大英帝国が我が国に宣戦布告しました。そして、日本は大英帝国を支持する模様です。」

 

「何故だ!!一体何時、何時日本軍は連合軍になったんだ!?」

 

爆撃は激しさを増し、総勢9800機の爆撃機と500機の羽島の砲撃がモスクワを襲う。地上にある物は次々に破壊され、灰に変わっていく。

 

「大元帥同士。ここは危険です。至急、避難を。」

 

しかし、クレムリンに爆弾が命中して崩落する。スターリンは、この3日後に遺体として発見されるのだった。

 



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悪夢の終わり

イギリスに向かって飛行する富嶽は、北欧を越え、北海を通過してイギリス北部へ着陸体制に入った。

 

「機長、何だか凄いことになってますよ。」

 

見えてきたのは、軍楽隊やマスコミなどが大勢いる脇にいる滑走路だった。敵対国にも関わらず、これだけの盛大な出迎えは予想外だった。

 

 

「今朝入った情報によりますと、イギリスは日本と停戦。モスクワを爆撃した日本の重爆撃機を本土へ迎え入れました。一部では非難の声が上っていますが、これは本大戦終結の第一歩だと考える者も出て来ている模様です。」

 

英国放送協会(BBC)が報道している。これは、全世界に向けて発信され、大戦終結を願う者達はこれに乗じて世界で反戦運動を開始した。独逸ではロンメル指導の下、SSなどは解体され、ユダヤ人を含む収容所に居る者は全員が解放され、ユダヤ人には日本へ向かう事のできるビザが発行された。ソ連ではトロツキー氏がスターリン派勢力を一掃、人民委員会議議長就任して停戦を呼びかけた。

 

 

 

―ホワイトハウス―

 

「イギリスは日本との停戦に合意した模様です。これに、各国は動かされており、次々と停戦していきます。」

 

「分かっている。我が国にも、日本からの停戦要請が来ている。私は、これを受け、合衆国全軍の戦闘行為停止を命じた。」

 

トルーマンは閣僚等にそう伝える。閣僚等も、納得した。戦闘は、1943年12月20日をもって、全て終了した。

 

 

―独逸 首相官邸―

 

「では、全世界の戦闘行為が停止したのだな?」

 

「はい。」

 

ロンメルはシュタイナー大佐に確認し、世界放送用のマイクを持った。

 

「全世界政府に通告する。私は、ドイツ帝国総統のロンメルです。今日、ここに全ての戦闘行為停止を確認しました。これにより、本大戦は終了したのです。よってここに、講和会議開催を宣言します。場所は、スペイン・バルセロナ。日時は集まり次第執り行いと思います。なお、これに拒否する国家は平和の敵、人類の敵として殲滅するまで攻撃を行うことを念のため宣言しておきます。」

 

なお、ロンメルは講和会議参加国とその決まりは以下の通りにすると通告してきた。

 

・講和会議参加国は独・英・仏・蘭・米・日・伊・中・ソ、残るは任意参加。外務大臣、または全権代表が最低一人は来ること。

 

・講和意会議開催に当たり、艦艇で来る事は許可するが、来るのは3隻までで基準総排水量7万トンまで。空母の場合は搭載機65機まで。

 

・領有権については事前に決めておくこと。なお、占領した地域は占領国の任意で独立、もしくわ属国も許可する。

 

・軍縮条約については本会議では行わない。但し、国家の任意での軍縮は許可する。

 

・今後の同盟関係や地域グループ等は当事国と相手国の合意の上で許可する。

 

・本会議では全ての国家に平等に権利が与えられ、他国の圧力等に従う必要は無い。

 

 

世界中はこれに納得した。納得しなければ、国内にて再び反戦運動が起こりかねないからだ。起これば、国の権力は地に落ち、力の衰退も余儀なくされるからでもあった。

 

 

 

―黎明島―

 

「世界中の国が講和会議開催を承諾したそうよ。」

 

停泊する秋島の会議室で秋島が伝える。

 

「そうか、これで終わったんだな。戦争は。斉藤の言う悲劇の歴史はこれで回避されたのか。」

 

大和は戦争の終結を素直に喜んだ。味方の損害は驚くほど少なかったが、その分相手の損害は大きい。相手の多くの艦艇が沈んだ事は即ち、敵国だが多くの艦魂が死んだという事。大和はそんな悪夢が終わってくれて良かったと思っている。

 

「明日、全権代表の米内さんを乗せて出港するそうよ。アラビア海の泊地までは行ってもいいけど、そこからは大鳳が米内さんを連れて行くことになるのよ。」

 

「分かっていますよ秋島さん。」

 

全権代表の米内さんを乗せるのは初めから大鳳と決まっていた。既に戦艦の時代は終わり、時代は空母の航空主兵主義に変わっていったのだから。

 

「それと、護衛には最上と三隈が付く事になるわ。2艦とも対戦用のロ号ヘリを装備しているから大丈夫よ。」

 

秋島がそう補足した。ロ号ヘリの力は既にガトー級を多く沈めたことで十分な性能がある事は確証済みだったので特に心配していない。

 

「アラビア海までは大名行列か。そこからは私と最上、三隈で行くことになるのね。」

 

「そうよ。艦載機は合計65機までだから満載していても大丈夫よ。もし、攻撃されても装甲甲板だから弾き返してあげなさい。」

 

「飛龍さん、冗談言わないで下さいよ。私の装甲甲板って言ったてせいぜい500㎏を数発防げるだけよ。そんな弾き返せなんて無理よ。」

 

「冗談冗談。でも、日本初の装甲空母だから誇りを持っていなさい。」

 

確かに大鳳は日本初の装甲空母であり、近代的な空母だった。そして、日本が完成させた純粋な大型空母(信濃は戦艦改装だから除外)では最後の艦だった。しかし、沈没原因は呆気なく、その密閉された装甲が仇となって内部に気化した燃料が引火し、爆沈してしまった。

 

「明日は早いからそれぞれの艦に戻って寝なさい。」

 

秋島は連合艦隊旗艦であるため、日本の全艦魂を管理する立場にある。だから、全員の健康に気を使うことも必要なのだ。

 

「「はい。」」

 

他の艦魂も、秋島のそれを理解しているから、素直に従って自艦へと戻った。

 

「私も早く寝よう。」

 

そう言い、秋島も自室に戻って眠りについた。



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新時代の幕開け

―横須賀―

 

「米内大将上がられます。」

 

大鳳に日本全権代表の米内光政大将を含む講和使節団が乗艦した。

 

「では、行こうか。講和の舞台、スペイン・バルセロナへ。」

 

講和使節団を乗せた艦隊と、アラビア海までの護衛を行う特別戦隊、主力連合艦隊が周囲に展開している。

 

 

―ヴォルケンクラッツァー2-

 

「講和会議は無事に開催されることになって良かったよ。もし、このまま戦っていたら日本はあの悲劇の終戦を迎えることになっていただろう。いや、もっと酷い事になっていたかもしれない。」

 

斉藤は繰り返したくなかった悲劇。特攻隊の編成と原爆投下、そして、史実では決行されなかったオリンピック作戦。これが現実に起こっていたら洒落にならない被害を受け、日本は滅亡しただろうと思っていた。

 

「斉藤さん、富嶽の無事は亀井さんがイギリスを説得してくれたかららしいですよ。」

 

「そうか。彼には感謝しないとな。」

 

亀井が説得しなければ富嶽は今頃水の上に浮かんでいただろう。幾ら自国や同盟国の捕虜を乗せているとは言え、受け入れてくれるなど考えられなかった。そんな中で亀井は危険を冒してイギリスに渡り、チャーチルを直接説得したのだ。

 

「彼の行動力には驚かされたよ。後で苦労を労ってやらんとな。」

 

戦争は今日を持って終結する。戦後は、斉藤の見越した通りに国連がハワイに建てられ、大東亜共栄圏はその後、現在のヨーロッパ連合みたいな共同体へと発展していく予定だった。

 

「斉藤中将、イギリスより無電が入りました。『亀井少佐、現在イギリスにあり。任務、只今を持って終了する。』だそうです。」

 

「ああ、分かった。」

 

そう言って長官室へと向かった。ヴォルケ2は斉藤の後に続き、長官室へと入った。

 

 

「皆、よくやってくれた。損害が少なかったのは予想外だったが、これで戦争は終結した。」

 

長官室には長門などの連合艦隊艦魂が居た。

 

「これで、赤城さんの無念も晴らせれたでしょう。戦後を一番楽しみにしていた赤城さんが、まさか一番最初の大きな損失になってしまうとは。」

 

「残念だよ。しかし、これで報われたのだ。この戦争で死んでいった者全員がな。」

 

戦争が終わり、全員ホッとしている。ようやく、緊張状態だった大国も緩和し、復興へと進んでいくだろう。

 

「米内さんは復興をできる限り支援したいと言っている。講和内容にはそれも盛り込むつもりのようです。」

 

秋島がそう全員に伝える。

 

「まあ、いいだろう。ただ、戦後のあの計画の資金は残しておいてもらうよ。」

 

戦後、朝鮮半島は日本の属国になる。だが、直接行く交通ルートが無いのだ。だから、海底トンネルを作り、朝鮮とのルートを繋げる計画を建てていた。資金はエルサレム共和国と中国も支援する予定で、労働者も中国とエルサレム、日本と三カ国が起用される予定だった。

 

 

 

 

―アラビア軍港―

 

「ここで私は大鳳に乗り換えだ。」

 

斉藤も講和会議参加者としてバルセロナに向かう。だが、艦艇は3隻で総排水量7万トン以下の為にヴォルケ2ではこれ以上いけないのだ。それに、スエズ運河も渡ることが出来ない。

 

「斉藤さん、頑張ってきてくださいね。」

 

「ああ。」

 

斉藤はヴォルケ2から降り、大鳳へ移乗した。

 

 

 

―大鳳―

 

「君とは初めて会うことになるね。」

 

斉藤は長官室で艦魂の大鳳と会った。幼い顔立ちで、背は低いが、これでも本人曰く16才との事。

 

「会うのが講和の時になるとは思いませんでした。機動部隊の先輩方は中将の事を高く評価していましたよ。」

 

「そうか。」

 

「特に飛龍先輩なんて斉藤さんの事言うと赤面しました。」

 

「あはは、飛龍がねえ。」

 

お堅いイメージを斉藤は持っていたが、そのイメージを取り消した。

 

「まあ、大変なのはこれからだろう。戦後はレシプロ機はお払い箱。君たちではジェット機に対応できないから、廃艦処分か記念艦保存のどちらかだよ。それは私の一存では決められないから何とも言えないが。」

 

大鳳も自分が軍艦なら何時かは処分されることが分かっている。その時期が早かろうと遅かろうと。

 

「心配ないよ。いつでも、覚悟は出来てるから。」

 

斉藤は、ただ俯く事しか出来なかった。斉藤も、出来れば一隻でも多く記念艦保存して貰える様願っている。しかし、経済的など、多数の問題点があって難しい事も分かっている。

 

(どうするべきかな。私は。)

 

ただ、悩むことしか出来なかった。もうじき、自分が元の時代に戻されるからどうする事も出来ない事は分かっているのに。



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講和による終戦

―バルセロナ―

 

港には各国の艦艇が停泊している。中国は日本が付与した水上機型富嶽に乗って使節団が派遣されてきた。ソ連やドイツなどは陸続きなので列車や自動車などでスペインまで来た。

 

「ここが、講和会議開催場所のリセウ大劇場。」

 

斉藤は歴史あるスペインの街並みに驚かされる。天才建築家、アントニ・ガウディの設計した建築物の幾つかはまだ出来ていない。だからこそ歴史の新鮮さを感じる。

 

 

中では、各国の首脳が講和前の微調整をしている。いろいろと他国へ条件を突きつけるのだ。事前準備を確りとしておかないと不味い。しかし、この講和。必ずしも平等とは言い難かった。連合軍は不利な状況下での講和なのだ。条件が通るのは正直難しい。

 

「史実では日本を含む枢軸国は一方的な条件を突きつけられたんだ。」

 

実際、日本は無条件降伏となっているが実は条件降伏と言っても間違いではない。なぜなら、戦後大勢の人間が身に覚えのない罪で殺されていったのだ。諸説によるが、サンフランシスコ平和条約調印までに1000人以上が身に覚えのない戦争犯罪で処刑されている。

 

「この戦争。講和で終結したんだ。史実のような集団リンチも無い。日本だけが全て悪いのではなかったのだよ。」

 

戦後の戦争裁判は連合国の一方的な裁判だった。日本の言い分は一切聞かず、裁判に被告として呼ばれた者のほぼ全てが有罪判決を下されている。特にオランダは酷かった。連合国の中で一番多くの日本人に死刑宣告を下したのだ。原因は、敗北にある。僅か10日間しか戦えず、無残に負けて行ったオランダは日本を許すことが出来ず、裁判でその恨みを晴らしたのだ。

 

 

「まあ、あとは米内さん等講和使節団に任せておけばよかろう。こちらも、やっておかねばならないしな。」

 

そう言って、斉藤はバルセロナを離れ、亀井との合流地点としているパリへと向かった。

 

 

 

「本会議で日本が要求することは、朝鮮の統治と大東亜共栄圏の確立です。朝鮮は勿論自治権などを与えますが、朝鮮半島も日本の領土と言うことにしてもらいたい。そして、満州国。ここは、毛沢東との密約で既にユダヤ人国家『エルサレム共和国』が建国されました。独逸の強制収容所に入れられていたユダヤ人全員が日本経由でエルサレム共和国に入国しているのも事実です。」

 

米内は近衛内閣より一切の譲歩も許さないと厳命されていた。一度でも譲歩すると際限なく譲歩しなくてはならなくなる。今の日本が正にそれだった。

 

「異議あり、何故に朝鮮半島を日本の領土にせねばならぬのか?それでは戦前と同様ではないか。」

 

「あなた方の帝国主義と違い、我が国は朝鮮での教育も確りと行っております。否定するなら、教育を確りと行ってから言って頂きたい。」

 

実際、その通りだった。欧米の白人はアジアやアフリカの植民地に一切の教育を与えなかった。自分たちよりも劣る人間なんかに教育など必要ないと考えていたからだ。しかし、日本は日本語教育だが一応教育を与えていた。その点は評価すべきだろう。

 

「ここは講和の場です。その様な領土問題など現地住民の意見無しに決められない。ここは一先ず置いておいて頂きたい。」

 

中国、独逸、ソ連にはあらかじめ事前に伝えておいたから反論はされなかった。ソ連はその見返りに南樺太を返上する計画の為に日本の話に乗ったのだ。

 

「日本のお蔭で列強国の植民地は全て解放されてしまった。おまけに教育を与えて独立意識を高められてしまい、既に再植民地化など出来やしない。これはどうしてくれるのか?」

 

「あなた方の無謀な圧政に苦しめられていたのです。現地住民は欧米への反乱感情が高まっていました。そんな中であなた方を我が国は追い出し、教育を与えて独立意識を高めたのです。戦後、それらの国は我が国の保護国となります。」

 

日本も多少なりとも朝鮮へ圧政を行ったが、斉藤がこの世界に来て朝鮮総督官を朝鮮人にし、下の者に日本人を配置して早期から自治政策を取らせていた。だから、反日感情など一切上がってこなかったのだ。むしろ、統治を要請する文書まで届けられている。

 

「会議はこれでは進みません。まあ、日本の言う事も尤もです。朝鮮半島は、日本の属国化ということにしましょう。」

 

結局、日本の狙い通りに朝鮮半島は日本の領土と言う事になった。これで、計画の一つが実行可能になった。

 

「では、今日の会議はここまでとしましょう。」

 

今日は日本の有利な条件での内容で会議が打ち切られた。そして、日本は各国を納得させ、自国も豊かにすることが出来るカードをまだ出さなかった。復興支援というカードを。



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パリの一時

バルセロナ講和会議が開催されている頃、満州ではトロツキー氏が極東エルサレム共和国の建国を宣言。ロンメルが解放したユダヤ人は在独大使の大島浩に変わって新たに就いた杉原千畝が日本行のビザを発行。シベリア鉄道を使って極東へとユダヤ人は移動していった。

 

―オーステルリッツ駅―

 

「お待ちしていました、斉藤中将殿。」

 

「陸軍じゃないから殿はいらんぞ。」

 

「いえ、今や貴方は救国の英雄です。殿は付けるべきかと。」

 

「まあ、好きにすればいい。終戦工作、ご苦労だった。」

 

「ありがとうございます。」

 

各国はの講和大使はバルセロナにて講和会議の最中だった。斉藤が欧州に来た目的はパリの視察だった。

 

「フランスは無条件解放され、フランス人は舞い戻ってきております。明日は解放記念パレードがあるそうですよ。」

 

「日本からも視察団が来るそうだ。私は個人的な視察だから特に見る理由もない。」

 

 

―バルセロナ―

 

「我が日本は朝鮮と日本を結ぶ大陸海底トンネルの開通を目指しています。そして、この戦争で被った被害の復興支援にも積極的に参加します。」

 

米内は講和会議にて積極的な意見を言い続けた。世界政府(現在の国連と似たようなもの)をハワイに造り、常任理事国に日本・中国・蘇連・英国・米国・独国の6か国が就くこと。極東大アジア同盟など、日本に有利な条件を出し続けた。

 

無論、英国と米国は強硬に反対した。フランスなどの他国は枢軸連盟のお陰で独立できたので文句も言えなかった。

 

「米国とイギリスの植民地政策は酷いものです。現地住民を完全に奴隷以下の扱いしかしていない。お陰で、独立意識を芽生えさせるのは簡単でしたよ。我が国は奴隷的扱いなどしません。」

 

米国と英国は日本がばら撒いた植民地の現状に目を疑い、内政庁などに抗議が殺到しているのが現状だった。それに、日本はユダヤ人国家を建てるなど、国際世論は一気に親日派に傾いてきている。

 

欧州植民地の代表として印度独立運動家で、自由印度仮政府首長のスバス・チャンドラ・ボースも欧州の植民地政策の酷さを物語、英国と米国、阿蘭陀、仏蘭西は立場が非常に危うい状況だった。もはや、譲歩するしかなく

 

「日本の言い分を認めます。」

 

と、言った。

 

 

 

―パリ―

 

「パリ市内は確実に復興が進んでいますね。」

 

フォルクスワーゲンに乗って市内を回る斉藤と亀井は復興を続けている市民の姿を見て感心する。。

 

「戦争は終わって、爆撃機の飛んでくる心配は無いのだ。少しずつ、復興されて元の街並みに戻るだろう。」

 

仏蘭西に舞い戻り、首相となったシャルル・ド・ゴールはフランス復興を呼びかけ、少しずつ復興が進んでいる。日本も、解放記念パレード終了後、復興支援部隊をフランスに送るつもりだった。

 

「ヴィシーフランス政府は倒れ、再び首都はパリになった。これは、フランス人にとっては喜ばしい事だろう。」

 

「フランスの復興には予想では3年かかると言う事だ。米国は6年、英国は8年。ソ連は9年といったところだ。」

 

「富嶽が爆撃しましたからね。しかも、広範囲に。」

 

「ちょっと、やりすぎたと思っているよ。」

 

モスクワは瓦礫の山で、臨時政府がヤロスラヴリに置かれ、行政等を行っている。

 

「直に講和会議も終わるだろう。」

 

「はい。」

 

「明日はパレードだ。ゆっくりと楽しんでいけばいいだろう。」

 

「はい。」

 

二人は、泊まる予定のホテルに着き、個室へと入って行ったのだった。



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フランス解放記念

―パリ 大通り―

 

朝から街は大盛り上がり。解放されたフランス。その首都では、今まさに解放記念パレードが執り行われようとしていた。日本をはじめ、各国から使節団が派遣されている。講和の、裏の平和と言える一大イベントだった。

 

斉藤も亀井と共にパリ市街を見物している。

 

「日本からは陛下の弟君の秩父宮様を中心とする使節団です。アメリカはマッカーサー大将を中心とする使節団。両者の記念パレード前の話し合いは歴史的話し合いとして後世に記憶されるでしょう。」

 

フランス解放記念パレードに、両軍も行進することとなった。アメリカと日本との話し合いで日本軍が先頭で行進することとなり、その話し合いは内容こそ大したことはないが、睨み合いをしていた国家同士とは思えない柔軟な話し合いで、各国を驚かせた。

 

「もう戦争は終わったんだ。これからは外交力が必要だよ。それぐらいの話し合い、できて当然なのだよ。」

 

 

 

 

「全体進め!!」

 

足並みを揃え、フランス軍が大通りを行進し始める。MAS36小銃を手で持ち、行進する様は腐っても軍隊。迫力はある。その後方を行進するB1重戦車、D2中戦車、S35騎兵戦車なども様になっている。

 

「軍楽隊も演奏していますね。」

 

軍楽隊は行進曲『サンブル・エ・ミューズ連隊行進曲』を演奏し、一層解放されたと言う意識を駆り立てられる。

 

「あ、日本軍とアメリカ軍ですよ。」

 

その後ろには解放記念式典に来ている日本軍とアメリカ軍が行進している。軍楽隊は演奏曲を『陸軍分列行進曲』の一番を演奏し、続いて『星条旗よ永遠なれ』が演奏される。

 

「亀井、日本とアメリカ。これからもこんな関係が保たれると思うか?」

 

「分かりません。しかし、今のままでは難しいでしょう。」

 

「そうだろう。しかし、だからと言って講和の譲歩を認めるわけにはいかない。認めると、際限なく譲歩しなくてはいけなくなる。」

 

今の日本の様に、譲歩し続けて際限なく責任を被せられ、落ちぶれて行った国は未来永劫存在しないだろう。

 

「大アジア同盟。大東亜共栄圏の確立はもう確定しているでしょう。朝鮮と日本とを結ぶ海底トンネルも既に設計が始まっています。」

 

レシプロエンジン音が行進している部隊の上を通り過ぎていく。フランス軍戦闘機MB155c1だ。

 

更に大きな飛行音が鳴ったかと思いきや、上空を巨人機が飛び去る。

 

「あれが、チャールズ・リンドバーグが戦前に発注したっていう。」

 

チャールズ・リンドバーグ。1927年にスピリット・オブ・セントルイス号でニューヨーク・パリ間を無給油で飛行し、大西洋単独無着陸飛行に成功した。結婚後、6人の子供を授かったが、長男が誘拐されて殺されたのも有名な話だろう。

 

アナウンスが流れ

 

「現在上空を飛行しているのは地球一周航空機『軌天』です。戦前、チャールズ・リンドバーグ氏が日本へ世界一周機の設計を依頼し、三菱重工、中島飛行機、川崎重工の三社共同で生産された唯一無二の超長距離航空機です。」

 

上記三社は新型機の開発と並行してこの地球一周機の軌天を生産していた。敵国の依頼だから本来は断るべきなのだが、黎明島の工場のお陰で各社の生産力の低下を恐れた。そこで、戦後の提供を条件に生産許可を軍部が下したのだ。

 

「フランス解放記念に乗りつけたのか。後年は世界一周も行われるだろう。」

 

斉藤は上空を飛行するチャールズ・リンドバーグ氏本人が操縦する軌天を見る。日本で本格的な双胴機は初であり、生産は試行錯誤の繰り返しだった。そして、それと並行して地球を一周できるだけの燃料を積むにはどうしたらいいなど、課題は山ほどあった。

 

解決策として、操縦席以外のほぼ全てを燃料タンクにし、重量に対する離陸に必要な推進力を得るためにエンジンは富嶽シリーズに見られる串刺し型エンジン。馬力は一基あたり2500は最低限必要とされた。プロペラは通常の推進方法の他に、震電に見られる後部推進式方法も採用された。

 

「リンドバーグ氏の快挙はフランス人は忘れることが無いだろう。」

 

 

 

「フランスは、今日ここに正式なる解放がなされたと私は感じています。」

 

演説を行うフランス政府首相のシャルル・ド・ゴールは列席する各国使節団、そして出席したすべての兵士、見物人に高々と宣言した。

 

「思えば短いようで長い日々だった。最初、独逸機甲師団の奇襲を受け、我が戦車隊は壊滅させられ、フランスの首都パリは敵の手に落ちた時、私はどうすればいいか悩んだ。」

 

一呼吸分の間が空き

 

「しかし、私は自由フランス政府を組織し、占領しているドイツ軍に徹底抗戦の道を選んだ。南部にて、ドイツ傀儡政権のヴィシーフランス政府も、私は国家政府として認めることはなかった。」

 

見物人は拍手喝采。

 

「そして、今。再び我が祖国。フランスの首都に舞い戻ってきた。私が、今現在味わっている喜びは今までの人生で聞かされてきた朗報を全て掛け合わせた喜びよりも勝るだろう。」

 

再び拍手が巻き起こる。

 

「ドイツはフランスから撤退。全ての権限を自由フランス政府に委任すると申し出が出たとき、私の心境は疑いの念でいっぱいだった。しかし、それは真実だった。全ての権限が返され、ドイツは一切の内政に干渉してくることはない。フランスは、真の独立を果たすことが出来たのだ!!。」

 

その瞬間、全員が近くの人と抱き合ったり、喜び合ったりしている。中には万歳をしている者まで居るくらいだ。

 

 

1944年 1月17日。 自由フランス政府は正式にフランス政府となった。即ち、フランスは正式に独立をすることが出来た。

 



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終結

―パリ―

 

「そろそろ、スペインに戻らないとな。」

 

斉藤は荷物を纏め、講和会議が開催されているスペイン・バルセロナに戻る用意を始める。講和会議は最終段階に入っており、日本の言い分の大半は承認される形となっていた。アメリカでは約束通りにニミッツが国民に各地で演説をして日本人がどうしたいのかを語りかけ、アメリカ国内情勢は日本の言い分を容認する動きが大きかった。

 

「えっへへ、パリって街もいいものだね。」

 

「わ!?」

 

突然、アラビア海の軍港に停泊しているはずのヴォルケ2が現れた。

 

「お、お前、どうして?」

 

「帰りが遅いからね。心配で見に来たの。ここに来る前に大鳳に瞬間移動して会議が順調だと言う事も聞いている。」

 

「そうじゃない。どうしてここまで来れる?そして、その服装は何だ?」

 

見ると、ヴォルケ2はフランスがまだ華やかで、華の都と言われていた時代の1920年代の中で最も高級そうな服装をしている。

 

「フランスに来るならこれぐらいの格好をしなさいって。大鳳の艦内会議室で一緒に話したベアルンさんが。」

 

「ベアルンって、フランス初の航空母艦の?」

 

ベアルン。ワシントン海軍軍縮条約でノルマンディー級戦艦5番艦が改装された。その為、純粋な航空母艦ではない。艦速が遅く(当時は複葉機が主流だから仕方がない。)武装も貧弱でまともな戦闘は経験しなかったが、フランス初の空母として今でも評価されている。

 

「ええ。」

 

「で、それを出してもらったと?」

 

「似合うでしょう?」

 

「似合うには似合うが、それで、どうやってここまで?」

 

「動かないで。」

 

そう言ってヴォルケ2は斉藤の背中に付いている小さな機械を取り外す。

 

「これは私たちが瞬間移動するときに目印としているの。これがある所ならどんなに離れていても瞬間移動が出来るのよ。」

 

今でいう発信機みたいな装置だった。

 

「分かった。それで、他の艦艇は?」

 

「アラビア海の軍港にのんびり停泊しているわよ。来たのは私だけ。」

 

 

―アラビア海 軍港―

 

「お姉さま!!、お姉さま!!」

 

ここではヴォルケが姉のヴォルケ2を探していた。

 

「どこに行ってしまったのやら。」

 

探しても見つけられない。まあ、パリに居るから見つけられないのも当然だが。

 

 

 

―パリ―

 

「せっかく来てくれたところすまないが、もう帰るんだぞ。」

 

「別にいいわよ。」

 

そう言って斉藤に笑顔を見せる。

 

「私は一部の人間にしかその姿を見ることは出来ないんだから・・・。」

 

「ちょっと待て。いやな予感がするぞ。」

 

 

数時間後

 

「ルン、ルン♪」

 

現在夜行列車の中。斉藤は一人なのだが二人部屋を取っている。その理由は、ヴォルケ2が同じ列車に乗ると言ったからだ。

 

「夜の街並みも最高。正に、華の都ね。」

 

「まだ復興途中だ。」

 

過ぎていくパリの夜景を見ているヴォルケ2は切なさを覚える。

 

「早く、復興して欲しいな。」

 

「日本は明日、復興支援部隊を現地に派遣する事になっている。アメリカはハワイに世界政府の建てている。これからが大変になっていくだろう。」

 

「貴方の目指す世界は、少なくとも、貴方の世界より良い世界だと思ってる?」

 

「できれば、そう願いたい。」

 

斉藤もだんだん不安になっているのは事実だった。予想以上に日本は強硬策に出ており、下手をすれば戦後に各国へ横暴な要求をするのではないかと。そんな事になればアメリカよりも酷い国になる事は目に見えている。アメリカみたいに、他国の政治に口出しし、変えようとする事は彼が望まない。国には、その国のやり方がある。日本が古来より天皇陛下を国家元首(武士や貴族中心の時期もあったが)として栄えていた様に。それが、敗戦で天皇陛下は象徴とされ、日本は栄える所か衰退の道を辿っている様に、国家を他国が無理やり変えようとするとその国の崩壊を招くのだ。

 

「まあ、近衛さんをはじめとする講和内閣はそんな事無いが。」

 

(寺沢は近衛文麿との会談で横暴な政治を行う様な人物には見えなかったと語っているし、歴史上を見る限りでも大丈夫だろう。)

 

斉藤はそんな事を考え、自分を落ち着かせた。

 

 

―バルセロナ―

 

講和会議も事態は終わり、あとは各国の個人的な会談が行われているぐらいだった。

 

「ボースさん、今回の証言。ありがとうございました。」

 

米内は欧州植民地代表として参加したスバス・チャンドラ・ボースにお礼を言う。

 

「いえ、礼には及びませんよ。日本のお蔭でアジアは独立を果たし、欧州植民地時代を終焉してくれたのですから。」

 

戦前のアジアには白人は無敗とみなされ、横暴の限りを尽くした。現地住民を奴隷の様な扱いをする事だってあった。そんな中で突然現れた有色人種の日本人はこれまで無敵と考えられていた白人を各地で撃破し、アジアから追い出したのだ。これは全世界が驚愕し、戦後にアジア・アフリカ独立を早める要因となった。

 

「解散後、フィリピンに大アジア総督府を設立して大東亜共栄同盟が成立します。東南アジア、東アジア、南アジア。それに、中央と西アジアの国の一部がこの大東亜共栄同盟に加盟することになっています。その度には、どうぞ宜しくおねがいします。」

 

「こちらこそ、アジア人によるアジア国家。実現して頂き、感謝の言葉も無い位です。」

 

インドの独立を夢見て自由インド仮政府を樹立し、祖国へ解放戦争を挑む機会を窺っていた彼。アジア人主導のもとのアジアを夢見た彼。どちらも、後世に大きな名を残すことになる事はまだ、誰も知らない。

 

 

この後、講和会議は無事に終結した。決まったのは主なものは

 

・大東亜共栄同盟の承認。

 

・日本による朝鮮半島の統治と満州国の独立

 

・世界政府樹立と常任理事国の決定

 

・軍縮条約の締結(但し、日本は拒否。自主規制を始める。)

 

・戦争犯罪人は裁かない(捕虜となっている者は早急に本国への送還)

 

・外国への駐留と派兵は両国との対等なる話し合いで決定

 

という事だった。

 



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真のアジア

―フィリピン―

 

「もうじき、建設が完了します。」

 

フィリピンでは日本主導の下に、大東亜本部を独立承認時から建設している。それが、もうじき完了する事となった。

 

「エミリオ氏の協力で、早期建設が実現したんです。感謝いたします。」

 

大東亜本部建設の中心を担い、国内講和政策を行っていた寺沢は革命家のエミリオ・アギナルドに言う。

 

「いえ、日本の協力でフィリピンは独立できたのです。その事には大変感謝しております。思えば長い事です。アメリカに騙され、スペインに対する独立戦争を始め、勝利した後に初代大統領となったが、パリ講和条約でアメリカの植民地になってしまった。その後は必死に国民と共に抵抗したが、主権を認めざるを得ない状況へとなってしまったんです。」

 

「だが、今は解放されたフィリピンを指導していかなければならない立場。一度経験がある事と、国民からの人気が高いので、大丈夫だとは思いますよ。」

 

「感謝します、寺沢さん。」

 

フィリピンは完全独立を果たし、フィリピンの義勇軍はフィリピン軍と改名して少数ながらも本格的に軍備を整えている。戦闘機は日本製の物から、鹵獲した連合軍製の物まで様々だが、空軍力は充実している。陸軍も日本から戦車を輸出してもらい、装備を整えている。海軍も砲艦などを購入して海上防衛にも重点を置いている。

 

「軍備は完璧です。大国にはやはり敵いませんが、それでもフィリピンを守るには十分な戦力です。」

 

「今後、日本がアジアを導くことになるでしょう。その時は、宜しくお願いします。」

 

 

―日本―

 

「フィリピンには計画通りに大東亜本部を建てることが出来ました。講和会議も終了し、我が国も新憲法を作り終えました。」

 

内務大臣の大達茂雄は御前会議の場にて言う。

 

「斉藤さんの考えに基づく憲法ですが、これが真の日本の姿と言えるでしょう。」

 

大日本帝国憲法と現在の日本国憲法を併せ持った憲法を創設し、新国家憲法として公布が成された。半年後、施行されることも決定された。

 

「明日は講和使節団が横須賀に到着されます。国民は彼らに多大な歓迎をするでしょう。」

 

「そうだな。」

 

全員が陛下の方を見る。この会議で、一度も言葉を発せず、ただ重臣達の話を聞いている。

 

「陛下、宜しいですかな?」

 

近衛は陛下へと質問する。

 

「うむ、朕は満足している。この戦争、ごく少数の犠牲のみで早期講和が実現したことを。斉藤中将には大勲位菊花章頸飾(だいくんいきっかしょうけいしょく)を授与する事に決定した。」

 

大勲位菊花賞頸飾。日本の勲章の一つで、最高位の勲章である。本来は大勲位菊花大綬章を授与していないと与えられないが、今回は特例で認められる事となった。

 

 

 

―南シナ海―

 

「海風はやっぱり最高だよ。」

 

防空指揮所にて風に当たる斉藤は講和使節団を乗せた大鳳からアラビア海で降り、護衛艦のとなっているヴォルケ2に乗艦した。

 

「やっぱり、ここに居たんだ。」

 

「ヴォルケ2か。」

 

瞬間移動してきたヴォルケ2が斉藤の近くに歩み寄る。

 

「戦時じゃないから、誰も防空指揮所に居ないわね。」

 

「ああ。突然、航空機で奇襲なんて事も無いしね。」

 

「それで、戦後に私たちはどうなるの?」

 

ヴォルケ2は斉藤を見つめる。無論、彼女も艦魂。解体される覚悟は出来ている。

 

「君とヴォルケ以外の解体は既に決まってしまっている。彼女らにも話したが、全員覚悟していたようだ。」

 

「私と、妹以外?」

 

「そうだ。」

 

「どうして?」

 

「この後、恐らくは再び戦争が起こるだろう。そして、それは陸上戦が主となる。そして、日本は島国。介入するには上陸戦が不可欠になってくる。その時の艦砲射撃艦として、本艦とヴォルケには残っていてもらいたいんだ。」

 

「でも、航空機が主流になるんでしょう?」

 

「空母は、あのドックで幾らでも量産できる。だが、戦艦は。本艦とヴォルケを除き、すべて解体されるんだよ。」

 

「な!?」

 

「全員、納得してくれた。恐らく、嫌々の納得をした者も居るかもしれない。でも、彼女等は戦争でしか生きられないんだよ。」

 

「だったら。」

 

「分かっている。解体をやめて、保存艦として残しておけと言いたいんだろう?。でも、現実的に、これからは空母の時代が来る。そして、中途半端な抑止力でしかない大和を始めとする戦艦は既に時代の無用な長物と化してしまった。唯一、航空機に対応できる戦艦として本艦とヴォルケを残すことにしたんだよ。」

 

「でも。」

 

そこへ、後ろにヨグ=ソトースが現れた。

 

「終わったかい?」

 

「ああ、ヨグ=ソトース。」

 

「では、戻そう。変わった日本を見るがいい。そして、変わったアジアを、見るがいい!!」

 

突然、斉藤は光に包まれる。

 

「斉藤さん?」

 

「すまないなヴォルケ2。君とは、ここでお別れの様だ。ま、未来で会えれば。また会おう。」

 

「斉藤さあぁぁん!!」

 

斉藤は目の前から消え、ヴォルケ2はただその場に立ち尽くした。

 

「さい、とうさん?嫌だよ。そんな。ここで、お別れなんて。そんなのいややああぁぁぁ!!」

 

ただ、南シナ海の海に。艦魂とそれを見える者しか聞こえない絶叫が響いただけだった。

 



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後世世界史と日本

-帝都ー

 

「いてて。」

 

ヨグ=ソトースの力で現代へと戻ってきたが、まだ頭痛が残っている。

 

「戻ってきたか。」

 

紛れもなく自分の部屋。そして、カーテンを開けると

 

「こ、これは。」

 

現代の東京とは思えない、より近代的になっている。高層ビル群、そして、街外れには工業地帯。

 

「これが。日本。」

 

テレビをつけると、映ったのは天気予報だった。

 

『大和帝国は、明日、全域に亘って大雨が降るでしょう。』

 

テレビの天気予報士は、日本の事を大和帝国と言っている。

 

 

「え?」

 

パソコンで見ると、日本という名は過去のものとなり、国名は大和帝国となっている。首都は東京だが、官庁の幾つかは京都におかれている。

 

「これが。日本なのか。」

 

信じられなかった。現代と違い、誇りと自身に満ち、どの民族よりも高い忠誠心。そして、勤勉さ、誠実さ。どれもとっても、現代の日本人とは大きくかけ離れた人々が帝都を歩いている。

 

「これだ。この国を、私は目指していたんだ。誇りある国家、大和帝国。日本人の誰もが経験しなかった、新しい国家が今、自分の目の前に存在しているんだ。」

 

 

 

大戦後の主人物の動向

 

 

山本五十六 戦後、連合艦隊司令長官を辞職。政界入りをし、第43代内閣総理大臣に就任。戦後復興に貢献した。70歳で政界から身を引き、質素な隠居生活を送る。87歳で他界

 

寺沢正文 戦後、大東亜本部議会議長に就任。大アジア構想の下、新アジアを建国していった。

 

亀井大広 戦後、海軍を辞職して米内の下で山本との連絡係となる。

 

 

 

歴史

 

世界の動き   1945年 新国家憲法施行 国名を大和帝国(以後、大和と表記)へと改名。

 

        1945年 戦後復興法案を提出し、承認。大和、海外の復興を支援。

 

        1946年 米国との間にアジア条約締結。米国、アジアの内情に干渉しないことを表明。

 

        1947年 大東亜共栄圏とヨーロッパ諸国との対立が発生。ドイツ、対立については中立を宣言。 

 

        1948年 大和、朝鮮半島との海底トンネル。大陸トンネル建設を開始。

 

        1950年 大和、アジア諸国との友好条約を次々に締結。事実上、アジアの盟主となる。

        

        1953年 アフリカにて北部アフリカ連盟を発足。アフリカ、完全独立成功。大東亜共栄圏、アフリカ連盟との相互協力を約束

 

        1955年 南部石油危機発生。大和、南部油田を守る為にマレーシア政府承認の下、軍を動員。

 

        1958年 大和、軍とは別に国防突撃隊を編成。退役軍人などを中心に組織化された。

 

        1965年 ベトナムにて国家改革を狙う一派によって内戦が発生。大和、ベトナム政府承認下、軍を展開。

 

        1966年 ベトナム戦争による特需発生。一気に経済成長。

 

        1975年 10年間にも及ぶベトナム戦争終結。戦後、ベトナムにて新体制が確立した。

 

        1976年 大阪万博開催。28年にも及ぶ工事の末、大陸トンネル開通。

 

        1978年 首都高速道路開通。東京オリンピック開催。

 

        1980年 南シナ海の海上交通網上にて海賊が出現。シーレーンを守る為に国防海軍、初の海外派兵。  

 

        1987年 高度経済成長発生。経済成長率平均12%を記録。

 

        1990年 湾岸方面にて戦争が発生。アジア本部、訴えてきたクウェート政府の証言を容認。大和、クウェートを守る為に戦争介入

 

        1998年 8年間にも及ぶ戦争終結。湾岸防衛憲章をアジア本部が発行。アジア軍が湾岸方面警戒に従事。

 

        2003年 米国にて当時多発テロ発生。米国、経済混乱。

 

        2004年 米国、イラクへとテロ報復で侵攻。大和、イラク政府の救援を承認。兵器を提供する

 

        2006年 大和の救援を受けたイラクは米国に勝利。米国、イラクから完全撤退。

 

        2008年 ナイジェリアにて軍事クーデター勃発。新政権樹立を恐れたナイジェリア政府はアフリカ連盟に訴え、相互協力に従って、アジア軍介入。

 

        2009年 クーデター鎮圧。しかし、ナイジェリアの政治基盤が崩壊。事実上、政府は消滅した。新政権がその後に誕生、ナイジェリア共和国誕生。

 



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