ハイスクールD×D ―忍一族の末裔― (塩基)
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旧校舎のディアボロス
紹介


本編を読んでからがいい方は、次の1話へ進んでください。


名前

兵藤(ひょうどう) 和成(かずなり) 

年齢

・17歳

種族

・人間/忍者

容姿

・ダークホワイトの長髪(もとは黒色)

・身長175㎝

・体重58㎏

・体の線は細く、顔立ちは中間的で若干美青年

能力 

・NARUTOの能力全般(尾獣たちの指導によるものが大半)。

・体質は母親似(千手型)で、瞳力は父親似(うちは型)。

・尾獣たちの能力と一部のみ姿を変化させられる『尾獣降ろし』。

・体内には尾獣たちのチャクラの約三分の一を宿している。

・六道仙人の子のチャクラを身に宿しているため、六道の力を扱える。

・各尾獣とテレパシーで会話ができる。

要点

・オリジナル主人公で、駒王学園の生徒で高等部二年生。成績は上の中で、運動神経は人並みを外れている(一般人の前では極力、力を抑えている)。

・幼い時に両親を事故で亡くしている。

・現在は実の両親の親友であった兵藤夫妻に引き取られ、義理の弟のイッセーと四人でごく普通の生活を送っていた。

・中学三年の冬、隣町へイッセーと買い物に行った時に通りかかった川で溺れていた女の子を救出(磯撫の全面協力あり)。その時に(みやび)(れい)(姉)と(まい)(妹)と知り合う。妹の舞に恋心を抱かれていたが、真相を話した時に懐くまでにランクダウンしている。

・麗と恋仲になったのは、雅家が管理している古代兵器『帝具』の一つによる苦しみを麗から取り払ったこと。

・尾獣たちとは、雅家に訪問した日に九体と契約をして顕現させている。その際に体内には九体の各チャクラ(約三分の一)が残されているため、テレパシーによって会話ができる(遮断も可)。

・六道モードになった時は『情け無用』、『非情的』と言われるほど、相手には一切の容赦しない性格になってしまう。

・体の線は細く、顔立ちは中間的で若干美青年だが、女装させられると美女と間違われるほどの外見で、麗とデートの時は五割の確率で女装させられる。

・日常の中で魔物や異形の者たちの始末屋みたいなものをしている。

・麗からの呼び名は「カズくん」。

 

 

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名前

(みやび)(れい)

年齢

・17歳

種族

・人間/帝具保持者

容姿

・明るいスカイブルーの長髪(もとは赤褐色)

・身長 165㎝

・体重 ??㎏

能力 

・氷系の帝具

要点

・オリジナルヒロインで、駒王学園の生徒で高等部二年生。成績は上位一桁で、運動神経は人並み程度。性格は明るく、美人な容姿で学年を問わず人気がある。

・父親は考古学者で、旧時代の遺物である『帝具』の収集と保管・管理をしている。母親は普通の家政婦だが、異形のことを小さい頃から見てきている裏の世界に関わっていた人間。妹はごく普通の中学生に見えるが、ある帝具の保持者。

・中学校を卒業した春の初めに、父親の管理している帝具の保管倉庫に忍び込み、拳サイズの氷のダイヤモンドの置いている棚を見つける。それに触れた際、できていた小さな棘で指先を怪我してしまう。その直後に体に異変が起こりだし、髪が明るいスカイブルーへ変色してしまった。

変化してしまったのは髪の色だけでなく、普段の人格に相反する別の人格が芽生えてしまい、部屋に閉じこもって抑え込んでいた。それから数日後、家を訪れた和成に連れ出され、和成に異変が起こるまでの事、そのあとの事を赤裸々に明かした。

数日間、和成と共に内に宿る『人格』と向き合い、晴れて解放さる。その時から和成を友達としてではなく、一人の男性として見るようになった。

高校入学の二週間前に和成に告白する。自分の意志で和成を好きになったことを告げ、告白は成功し、恋仲になった。

解放された人格の一部を若干引き継いでいるのか、デートの時に和成に女装を無理にさせて外出したり、和成にだけ陰でドSな態度をとったりしている。

内にあった人格が残した帝具の能力を開放したときのみに人間の身体能力を超え、氷を自在に扱え、無から作り出すこともできる。

堕天使に帝具を『神 器(セイクリッド・ギア)』と間違われて襲われた。

 

 

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名前

(みやび)(まい)

年齢

・15歳

種族

・人間/帝具保持者

容姿

・黒髪のミディアム

・身長 156㎝

・体重 ??㎏

能力 

・刀型帝具×2

・帝具 ???

要点

・オリジナルヒロインで、駒王学園の生徒で中等部三年生。運動神経は人並み以上で、性格は真っ直ぐだが、どこか緩い上にあっさりとしている。

・中学一年生の時の事故で和成に助けられて好意を持っていたが、真実を聞かされると共に人の姿で顕現した少年の磯撫に好意を抱きゾッコン中。中学二年に上がる時、姉が通う駒王学園の中等部へ編入した。

・刀型帝具『死者行軍(ししゃこうぐん) 八房(やつふさ)』と『一斬必殺(いちざんひっさつ)村雨(むらさめ)』を保持している。『一斬必殺(いちざんひっさつ)村雨(むらさめ)』の手入れは和成にさせている。

 

 

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名前

守鶴(しゅかく)

年齢

・???歳

種族

・尾獣

容姿

・砂色の短髪に肌には刺青のような封印術の模様が刻まれている。

・身長 164㎝

・体重 ??㎏

能力 

・尾獣の守鶴と同じ

・人化と半尾獣化・尾獣化

要点

・和成との契約によって顕現している。

・雅家の研究施設を改装した建物の一部屋に住んでいる。その為、苗字を『雅』と名乗っている。外に出ると不良やヤクザからは何かといちゃもんをつけられるため、相手をフルボッコにしている。その為か、町を歩くたびに商店街では何かを貰って感謝されたり、不良やヤクザからは敵視される羽目になっている。

通り名は『極道の守鶴兄貴』。警察からは一目置かれているが、中には『ヤクザの排除に役立ってくれるのでは?』と、スカウトを目論んで接触してくる者もいたりする。

・半獣化した時は耳と尾が必ず生える。

・麗からの呼び名は『しゅーちゃん』。

 

 

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名前

又旅(またたび)

年齢

・???歳

種族

・尾獣

容姿

・蒼い長髪で若干カールのようなパーマがかかっている。

・身長 170㎝

・体重 ??㎏

能力 

・尾獣の又旅と同じ

・人化と半尾獣化・尾獣化

要点

・和成との契約によって顕現している。

・雅家の麗の隣の部屋に住んでいる。その為、苗字を『雅』と名乗っている。

・いつも麗の送り迎えをしていて、帰り際に必ず通りのペットショップに寄っている。

・半獣化した時は耳と尾が必ず生える。

・麗からの呼び名は『まーちゃん』

 

 

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名前

磯撫(いそぶ)

年齢

・???歳

種族

・尾獣

容姿

・灰色の短髪。

・身長 154㎝

・体重 ??㎏

能力 

・尾獣の磯撫と同じ

・人化と半尾獣化・尾獣化

要点

・和成との契約によって顕現している。

・雅家の研究施設を改装した建物の一部屋に住んでいる。その為、苗字を『雅』と名乗っている。

・舞にゾッコンされている為、護衛も兼ねて同じ駒王学園の中等部に通っている。

中等部では初め、右目に傷があって潰れているのを見た生徒や先生から誤解されて怖がられていたが、『事故によって失った』と、いつも一緒にいる舞が話したため誤解が自然と解けていった。

・半獣化した時は甲羅と尾が必ず生える。

・麗からの呼び名は『いっちゃん』。

 

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名前

孫悟空(そんごくう)

年齢

・???歳

種族

・尾獣

容姿

・赤色で癖毛のある長髪

・身長 178㎝

・体重 ??㎏

能力 

・尾獣の孫悟空と同じ

・人化と半尾獣化・尾獣化

要点

・和成との契約によって顕現している。

・雅家の研究施設を改装した建物の一部屋に住んでいる。一人だけ苗字を名乗っていないのは、『孫』が苗字となっている為。

・麗と舞の父親の集めた『帝具』の管理とメンテナンスを任されている。

・半獣化した時はきんこじと尾が必ず生える。

・麗からの呼び名は『そんそん』。

 

 

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名前

穆王(こくおう)

年齢

・???歳

種族

・尾獣

容姿

・白で腰まである長髪

・身長 167㎝

・体重 ??㎏

能力 

・尾獣の穆王と同じ

・人化と半尾獣化・尾獣化

要点

・和成との契約によって顕現している。

・雅家の舞の隣の部屋に住んでいる。その為、苗字を『雅』と名乗っている。

・『雅家の女将(おかみ)』の二つ名で呼ばれている程、近所や町の人と交流が深く、商店街やデパートなどでよく買い物をしている上、美人であることも影響している。

・半獣化した時は耳と尾が必ず生える。

・麗からの呼び名は『こーちゃん』

 

 

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名前

犀犬(さいけん)

年齢

・???歳

種族

・尾獣

容姿

・薄い灰色の短髪

・身長 172㎝

・体重 ??㎏

能力 

・尾獣の犀犬と同じ

・人化と半尾獣化・尾獣化

要点

・和成との契約によって顕現している。

・雅家の研究施設を改装した建物の一部屋に住んでいる。その為、苗字を『雅』と名乗っている。

・左目に前髪がかかっており、見た目がおっとりとした美青年。一人称を人化している時は「俺」で話している。

・半獣化した時は触覚のような目(見えていない)と尾が必ず生える。

・麗からの呼び名は『けんちゃん』。

 

 

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名前

重明(ちょうめい)

年齢

・???歳

種族

・尾獣

容姿

・明るい藍色の短髪

・身長 156㎝

・体重 ??㎏

能力 

・尾獣の重明と同じ

・人化と半尾獣化・尾獣化

要点

・和成との契約によって顕現している。

・雅家の研究施設を改装した建物の一部屋に住んでいる。その為、苗字を『雅』と名乗っている。

・尾獣の中で唯一飛べるため、穆王から掃除の時に高い場所を拭くなど扱き使われたりする。

・半獣化している時は一人称を『俺』で話すが、時々癖で『ラッキーセブン』と言いかけている。

・半獣化した時は角と尾と羽が必ず生える。

・麗からの呼び名は『めいめい』。

 

 

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名前

牛鬼(ぎゅうき)

年齢

・???歳

種族

・尾獣

容姿

・黒色で癖毛のある短髪

・身長 180㎝

・体重 ??㎏

能力 

・尾獣の牛鬼と同じ

・人化と半尾獣化・尾獣化

要点

・和成との契約によって顕現している。

・雅家の研究施設を改装した建物の一部屋に住んでいる。その為、苗字を『雅』と名乗っている。

・保護的な性格のせいか、時折り駒王学園に顔を出している。その為、学園の女子からは『優しい伯父さま』と呼ばれ、年上の好みな女子が見かけると声をかけてくる始末。ここ最近では九喇嘛と共に行動することが多く、学園の女子が声をかけてくることに拍車がかかり気味。

・半獣化した時は角と尾が必ず生える。

・麗からの呼び名は『はっちゃん』

 

 

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名前

九喇嘛(クラマ)

年齢

・???歳

種族

・尾獣

容姿

・赤褐色の長髪

・身長 177㎝

・体重 ??㎏

能力 

・尾獣の九喇嘛と同じ

・人化と半尾獣化・尾獣化

要点

・和成との契約によって顕現している。

・雅家の研究施設を改装した建物の一部屋に住んでいる。その為、苗字を『雅』と名乗りっている。

・情報収集をする為に一日中外に出歩いている。その為、駒王町以外でも『厳ついけどカッコいい人』で有名になってるが、本人はあまり気にしていない。

最近は牛鬼と行動を共にする機会が増えた為か、駒王学園の女生徒が声をかけてくる始末。

・半獣化した時は耳と尾が必ず生える。

・麗からの呼び名は『くーちゃん』。

 



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忍の末裔

――能力を持った忍びの世界が滅び、唯一存在しているのは末裔の主人公…たった一人――


―おい、起きろ――。

 

……だ、誰か僕を呼んでる…。

 

――起きろっつてんだろ、小僧――。

 

…僕は目を開ける。すると、目の前に大きい口が見える…。

 

《…やっと起きたか小増》

 

…僕は……僕は…。

 

「…う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

《お、おい! 泣くな! おい!》

 

……怖い、怖いよぉ!

 

《九喇嘛、まだ小さい子供よ。脅かしてはダメよ》

 

《そうですよ。まだ幼いのですから》

 

優しく頭を撫でられる……。

 

「…ぐすっ」

 

僕は涙を拭いてゆっくりと目を開けた。

 

《…初めまして》

 

僕と同じ目線…屈んで微笑んでいるお姉さん。

 

《私は穆王(こくおう)と申します》

 

白い着物を着た綺麗なお姉さんがそう言う。

 

《私は又旅(またたび)。これからよろしくね、カズちゃん》

 

青い服を着たお姉さんが頭を撫でながらそう言う。

 

《俺は孫悟空(そんごくう)だ。小僧…カズでいいか?》

 

赤い服を着たおじさんが僕の前に座って言う。

 

《俺は犀犬(さいけん)って言うんよ。よろしく》

 

白い着物を着たお兄さんがおじさんの横に座って言う。

 

《ラッキーセブン。重明(ちょうめい)だ》

 

背中に生えている羽をはばたかせて浮いているお兄さんが言う。

 

《俺は牛鬼(ぎゅうき)。よろしくな》

 

筋肉がすごいおじさんが座って言う。

 

《僕は磯撫(いそぶ)。よろしく》

 

甲羅を背負っているお兄ちゃんがおじさんの横に座って言う。

 

《シャハハハハ! 俺様は守鶴(しゅかく)だ。覚えておけよ》

 

顔に刺青を入れたお兄ちゃんが言う。

 

《あとは九喇嘛だけですよ》

 

白い着物を着たお姉ちゃんが後ろを振り向いて言う。

 

トントントン――。

 

軽快な足音と共に暗闇から誰かが歩いてくる…。

 

《……く、九喇嘛(くらま)だっ。小僧、グズグズ泣いてんじゃねーぞ…食うからな!》

 

余所を向きながらそう言うお兄ちゃん。

 

「…つ、ツンデレ?」

 

《誰がツンデレだっ。やっぱり食ってやる!》

 

「怖いよぉ」

 

僕は又旅のお姉ちゃんに抱き着く。

 

《九喇嘛、小さい子にそれはないわよ。…ツンデレは事実でしょ?》

 

そろ~と顔を後ろに向ける…。九喇嘛のお兄ちゃんが目を吊り上げながら、抗議している。

 

僕はそれを見て…笑った。

 

                    D×D

 

――目を覚ますと、そこは見慣れた天井がある…そう、ここは俺の部屋のベッドの上だ。

 

体を起こしてベッドから降りる。

 

「~ぁ」

 

大きく伸びをし、身支度をする。

 

俺は覚醒したばかりの脳で、夢のことを思い出した。

 

――なぜ、幼い頃のことを思い出したのだろうと。

 

あの夢は初めて尾獣――守鶴たちに会った時のことだ。

 

幼い俺を気遣って、皆は人化した姿で俺の前に現れた……九喇嘛は初めだけ顕現サイズだったが…。

 

慣れてきた頃に皆は顕現した姿で俺の前に姿を見せてくれた。…正直言って、驚きはあったけど、そこまで怯えたりしなかった。

 

俺は高校の制服を着る最中、机の上に立ててある写真に視線がうつった。

 

そこには、高校の入学式で撮った家族写真と兄弟の写真、彼女とデートで撮った写真がある。

 

俺は異形の存在となってから、色々なことに関わってきた…大方が危害をもたらす妖怪や悪魔などの退治。

 

そういう生活の中で、俺が異形の存在だと知っている身近な人は…彼女の(れい)と家族の人くらい。親父やお袋、義弟(イッセー)には言っていない。

 

麗に俺が異形の存在と教えたときは、すごく驚いていたし…心配もされた。

 

中にいる皆は条件付きで顕現できるし、サイズや姿も自由に変えられる…顕現ミニサイズで現れた皆を、いまの麗はすごく可愛がっているし、人化した又旅と穆王と出かけたりもしている……もちろん、彼女の家から。

 

俺は鞄を持ち、部屋を出て階段を下りる。

 

                    D×D

 

「行ってきます」

 

最近目覚めの悪い弟のイッセーと一緒に家を出る。

 

…おっと、紹介がまだだったな。

 

俺は兵藤(ひょうどう)和成(かずなり)。隣で歩いているのは義弟(おとうと)の兵藤一誠。

 

…なぜ苗字が同じなのに、義兄弟かって? それは…まぁ、ちょっと深い理由…でもないか。

 

俺の両親とイッセーの両親は知り合い…というより、高校の時からの親友同士みたいなものだった……らしい。話を深く突っ込んだことはないからな、そういうの。

 

俺がまだ幼い時、家族三人で旅行に出かけたときに……父さんと母さんと死別した。

 

――交通事故。

 

旅先からの帰りの高速道路で居眠り運転をしていた後続の乗用車が、幼い時の俺と父さんと母さんの乗っていた車の後方に高速で追突。そのまま押されるように左車線のガードレールに衝突して二台とも横転――大破。運転していた父さんと助手席に乗っていた母さんは即死。追突してきた車の運転手も即死。幼い時の俺は後部座席のチャイルドシートのおかげで、左腕と右足の骨折だけで済んだ。

 

…意識が戻ったのは、四日後の正午あたりだったな。

 

意識の無い中、あの夢――今朝、見ていた夢を見た……いや、皆が姿を現してくれたんだ。

 

たぶんだが、皆が力を使って俺を助けてくれた…時間が経つにつれ、そう思うようになっていっていた。

 

その後、俺は父さんたちの知り合い――ここ、兵藤家に引き取られた。

 

――そして、いまに至る。

 

あくびをかみ殺し、朝日に厳しく目を細めて隣を歩いているイッセー。

 

…数日前の夜中、部屋から出てきたイッセーとすれ違った時に気がついた…人間()()()気配ではなく、異形の気配…。

 

俺は部屋に戻った時、ショックを受けた……あれほど巻き込みたくない家族を――イッセーを巻き込んでいたと。…原因はわかっていないが、なってしまった時間から考えると、イッセーの初デート…天野夕麻という女子高生と出かけた日からだと思う。

 

朝に弱く、夜に耐性がついてしまったイッセーに訊く。

 

「イッセー。最近、朝が滅法弱くなってるように見えるんだけど…気のせいか?」

 

「ん?まあ、ね」

 

苦笑いしたイッセーだが、辛そうにしている…。

 

歩くこと十数分……俺たち兄弟が通っている高校――私立駒王学園の門前に着いた。

 

「――カズく~ん」

 

俺を呼び名で呼ぶ声が聞こえ、その声のするほうを見る。

 

「…っと。イッセー、先に行っていてくれ」

 

「ん~、はいはい」

 

いつもなら「うらやましいぞ、カズ!」なんて突っ込んでくるんだが…やはり、ここ最近のイッセーはどこか変だ。

 

「おはよう、レイ」

 

「おはようございます。カズくん」

 

「おはよう、カズ」

 

「おはようございます、カズ」

 

麗の隣に二人の女性――人化している又旅と穆王だ。

 

右に立っているのが又旅。蒼い髪色でオッドアイが特徴的。

 

左に立っているのが穆王。長い白髪を一本の(かんざし)で結って留めている…ツーサイドの片方だけみたいな? しかも、一昔の主婦が着ていたと思う割烹着を着ていた。

 

二人は尾獣だが、この俗世で人の形をとって暮らしている…あっ、他の尾獣七人も人の形をとって生活をしているな…。

 

又旅と穆王は麗の警護を主に、生活の中では家事などをしている。

 

ちなみにだが…尾獣は普通、抜かれると宿主は死に至る。俺の中には九体のチャクラ…約三分の一が留まっているから、死ぬことなく九体が外に出られている。

 

……まぁ、こいつらの事はさておき――。

 

「行ってくる。又旅、穆王」

 

「行ってきます」

 

俺と麗は又旅と穆王にそう言い、正門を通る。

 

「行ってらっしゃい」

 

「気をつけて」

 

又旅と穆王も送り出しの言葉をかけて、元の道を帰っていく……俺と麗は帰っていく二人の背に手を振った。

 

俺と麗は校舎内に入ろうとして、見覚えのある人影を見つける。

 

「…遅かったな。カズ」

 

「九喇嘛…何で居るん?」

 

一瞬言葉が変になったが、そこはスルーしておいて……。

 

「おはようございます。クーちゃん」

 

「やめろ、その呼び名でワシを呼ぶな」

 

麗が呼び名で呼ぶと、若者の姿の九喇嘛が引き攣った顔でそう言う。その姿で「ワシ」とか言うもんだから……吹きそうになったぞ、俺。

 

「何の用なんだ?」

 

「少し込み入ったことがあってな…いいか?」

 

「あぁ…すまん、先に教室行っててくれ」

 

「うん」

 

俺は麗にそう言って席を外してもらう。

 

「屋上に移ろう。人が多いからな」

 

俺と九喇嘛は校舎の屋上に移動する。

 

屋上に着くと、九喇嘛が口を開いた。

 

「カズ、気づいてるだろう?」

 

「ん、何に?」

 

「…あれだ。近くにある廃教会から感じる気配、はぐれ神父ども」

 

「あ~、なんとなく気づいているけど…」

 

俺は嫌なことを連想してしまう…ありえないと思ってはいるが。

 

「阿呆、それだ。ワシらはあのエロガキが転生した日より密かに調べていてな…」

 

「やっぱり、イッセーは違う存在になっていたか…」

 

「あぁ。あのガキは人ではない……」

 

「…わかったよ、俺も原因を調べとく」

 

俺は九喇嘛と屋上で別れる。九喇嘛は登校してくる生徒が少なくなった頃をみて、校舎を離れるらしい。

 

俺は階段を下り、教室に入ると……。

 

「騒ぐな! これは俺らの楽しみなんだ! ほら、女子供は見るな見るな! 脳内で犯すぞ!」

 

最低な発言が聞こえてきて、俺はため息をついた。

 

いまの発言者は…同じクラスでイッセーの悪友の一人――松田。見た目は爽やかなスポーツ少年だが、日常的にセクハラ発言が出る変態。

 

「ふっ……今朝は風が強かったな。おかげで朝から女子高生のパンチラが拝めたぜ」

 

キザみたいに格好つけているメガネがもう一人の悪友――元浜。そのメガネは女子の体格を数値化できる変な能力を持っているらしい。

 

朝からそんな二人を見て、ため息が出る。いつもならそこにイッセーも交じって、エロ話に熱をたぎらしているんだが……あの日以降、二人がエロ話を持ち掛けても反応が薄い。

 

俺は自分の席に着く…麗の隣の席だ。

 

「ねぇねぇ、クーちゃんと何話してたの?」

 

麗が話しかけてくる…周りを囲んでいたクラスの女子も、なぜか静かに俺の返答を待つように耳を傾けている…怖いぞ。

 

「あぁ、ちょっとした相談だよ。男同士のね」

 

「えぇ~、教えてくれないの?」

 

「教えられるわけないだろ」

 

俺は裏の話を持ち出すわけにもいかないことを言ったつもりだったのだが……麗はわかっている表情をしたが、周囲の女子たちが黄色い声を上げだす。

 

「ねぇ! さっきの男の人、カズくんの知り合いよね!?」

 

「この前もデパートで見かけたんだけど、ここに住んでるの?」

 

次々に飛んでくる質問の雨に、俺は苦笑を浮かべるだけだ。

 

「あ~……え~と……」

 

ちょうどその時、H R(ホームルーム)のチャイムが鳴りだす。

 

「あ、先生が来る時間だよ」

 

俺がそう口にすると、女子たちは残念そうに席に戻っていく。

 

「命拾いしたね」

 

「他人事みたいに言うなよ…」

 

麗からそう言われ、俺はため息を吐きながら…机に突っ伏した。

 

                    D×D

 

「今日もいっぱい買ったね~♪」

 

下校の道中、麗と近くのスーパーで買い物を終えた俺は……右手に鞄、左手に買い物袋を提げながら、ご機嫌な麗の隣を歩いていた。

 

…日も暮れ、闇夜の星たちが天で輝いている。

 

「迎えに来たわよ」

 

突然、道の向こうから現れたのは…又旅だ。

 

「まーちゃん!」

 

麗が又旅を呼ぶ。……こいつのネーミングセンスには、ついて行かれないんだよな…単純なのか、センスがないのか……。

 

「迎えに来てくれるなんて、気が利いてるなぁ…」

 

「カズくん……なんだか、おじいさんみたいだね」

 

麗が又旅に袋を手渡しているなか、そんな会話をしていた…が――、

 

「カズ!」

 

ドォォン!!

 

又旅の叫びとともに、俺はその場から吹っ飛ばされた!!

 

「痛ってぇ…」

 

砂埃が舞い上がり、視界が悪いなか――、

 

「ただの人間だと思ってたっすけど、なかなかやるじゃん」

 

「……何者?」

 

砂埃が払われ、姿を現したゴスロリ少女の姿を見て…俺はそう言う。

 

「わたくし、堕天使のミッテルトと申します~」

 

そいつ――堕天使ミッテルトは、ゴスロリのスカートをちょっと摘まんで微笑む。

 

……どう見ても、年下にしか見えないや。

 

「あ! いま、うちのこと『年下の幼女』とか思ったっしょ? ノンノン。こう見えても、あんたよりは年上になるっすよぉ」

 

「…え~と、すみません。人って見た目によらないって言いますもんね。…って、人じゃなかった…堕天使だった……」

 

…つい、反射的に謝ってしまった……まぁ、いいや。

 

「……で、俺に何の用ですか? 堕天使のお姉さん」

 

「あんたに用はないし…。うちは後ろにいる小娘に用があんの」

 

「小娘……レイのことか?」

 

「そうそう。そこの人間の小娘を殺しに来たんすよ~」

 

「殺しに、か…」

 

俺はズボンの埃をはたきながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「マジか…」

 

「ちょーマジっす!」

 

ブゥン。

 

堕天使のミッテルトは、右手に朱い光の槍を出現させ――、

 

ヒュッ。

 

風を切る音。

 

ドスッ。

 

…鈍く重い音とともに、腹部に激痛が走る。

 

腹部を光の槍が貫いて、真っ赤な血が噴水のように吹き出る!

 

「あ~あ、死んじゃったっすねぇ。…じゃ、次は――」

 

「……次は…何だ?」

 

俺の問いかけに、ミッテルトは目を丸くして驚いていた。

 

立ったまま死んだと思っていたらしいが……事実、俺は死んでいないし、意識もしっかりと保っている。

 

「……『死んでないっ!?』って顔してるね。悪いけど、俺は心臓と頭部以外は消されない限り再生できる体質なんでね…こんな風に」

 

ぽっかりと空いた腹部から煙が上がり、ものの数秒で穴が完全に塞がる。

 

懐から小瓶を取り出し、なかに入っている粒を一つ…飲んだ。

 

…増血丸。一粒で失血した3分の2までなら、血を増やすことのできる特効薬…穆王の作ってくれた秘薬だ。

 

体から気だるさが抜け、全体に血が巡っていく。

 

「ちょっとヤバイって感じなんでぇ、一旦退却させてもらうっすね!」

 

ミッテルトの頭上に魔方陣が展開し、光が弾けるとともに姿を消した。

 



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オカルト研究部へようこそ!

俺は麗と又旅を家まで送ってから、帰宅する。

 

「ただいま~」

 

「あら、お帰りなさい」

 

母さんが玄関で洗濯籠を持って立っていた。

 

「……母さん、今日の夕飯なんだけど」

 

「レイちゃんの家で食べてきたの?」

 

すごく言いづらかったのに、母さんは呆気なく返してきたぞ…。

 

「そ、そう! レイのところで食べてきたから、今日はいいかなぁって…」

 

「いいわよねぇ…。お父さんとの若い日を思い出すわぁ」

 

…何か、母さんの惚気話になりつつあるんだが。

 

「ま、まぁ…母さんの昔話はまた今度聞くよ。……眠いから、部屋に戻って寝るね」

 

俺はそそくさと二階の自室に入る。

 

……さすがに、「腹に穴開けられて、治したばかりから食欲がない」…なんて言えるわけがない。

 

ベッドにダイブし、そのまま意識を落としていった――。

 

                    D×D

 

『アサデス! オキマショウ! タダイマ――』

 

…いつものうるさいアラームで、俺は目を覚ました。

 

「イッセー! カズ! 起きてきなさい! もう学校でしょ!」

 

俺は枕の傍に置いてある目覚まし時計を手に取って…慌てた!

 

さっきのアラームは予備で、身支度してギリギリ出られる時間で設定してあるんだ。

 

慌てて部屋のドアを開け、窓を開けて換気する。

 

「母さん、イッセーは部屋にいるのか?」

 

「お父さん、玄関に靴があるんだから、帰ってきてるのよ。もう! 夜遅くまで友達の家にいるなんて! その上、遅刻だなんて許さないわよ!」

 

一階から聞こえてくる母さんと父さんの会話。そして、階段をドタドタと勢いのある足音が聞こえてくる…。

 

「あ、おはようです…お母さま」

 

俺はひょっこりと部屋のドアから顔を出して、母さんに朝の挨拶をする…なぜか、変な敬語だけど。

 

「カズは起きてるわね……」

 

俺を見てそう言った母さんは、イッセーの部屋の前に怒りの表情で仁王立ちする。

 

「待ってくれ! 俺なら起きてる! いま起きるから!」

 

「もう! 今度という今度は許さないわ! 少し話しましょう!」

 

……相当怒っていらっしゃいますなぁ。

 

俺はイッセーの最期を看取ってやろうと、そのまま様子をうかがっていた。

 

母さんがドアノブに手をかけ――、

 

ガチャ!

 

勢いよく開けた!

 

「おはようございます」

 

部屋の中から女性の声――挨拶が聞こえ……え?

 

俺は我が耳をうたがう。

 

それとほぼ同時に、部屋のなかを見ていた母さんの表情が凍ったのが見えた。

 

「……ハヤク、シタク、シナサイネ」

 

機械的な声を出し、母さんはイッセーの部屋のドアを閉めてしまう。

 

一泊あけて、慌てて階段を下りていく母さん。

 

「お、お、お、お、お、おおおおお! お父さんっ!」

 

「どうした母さん? 血相変えて。イッセーがまた朝から一人でエッチなことしてたのか?」

 

「セセセセセセセセ、セッ○スゥゥゥゥ! イッセーがぁぁぁぁぁ! が、外国のぉぉぉ!」

 

「!? か、母さん! 母さんどうした!?」

 

「国際的ぃぃぃぃ! イッセーがぁぁぁぁ!」

 

「母さん!? 母さん!? 落ち着いて! 母さぁぁぁぁん!」

 

「…………」

 

…って、おいおいおいっ!! 朝から何つう騒ぎになってるんだ!?

 

                    D×D

 

ジャァァァァ……。

 

シャワーの水が俺の体の泡を流していく。

 

母さんが慌てて下りてから、俺は急いで身支度をしていた。

 

……どう考えても、居づらいしなぁ。

 

だから、イッセーとその女性に鉢合わせないように、颯爽と朝食を平らげてから風呂に入ったということだ。

 

…時間もないし、風呂から出た俺は体を拭き、制服に着替えた。

 

「染髪剤…え~と……あれ? どこに…あ!」

 

俺は自分がしていたことの意味がなくなることを悟ってしまった…。

 

……仕方ないか。

 

意を決し、リビングに入る。朝食中の()()の横を通り過ぎ、鞄を置いているソファーの前に立つ。

 

…あったぞ、染髪剤。

 

「あら、おはようございます」

 

突然かけられた声に肩をびくつかせ、後ろを振り返ってしまった!

 

「……お、おはようございます…グレモリー先輩」

 

…そう、俺がスルーした食事中の四人――父さんと母さん、対面の席にイッセー、その隣に座る紅髪の女性…リアス・グレモリー先輩。

 

俺と先輩の目が合う…そして、気がついた。

 

――悪魔の気配。

 

気配は先輩とイッセーから感じ取れた……そういうことか。

 

「か、カズ。また髪染めるのか?」

 

「いつものことだし、黒染めだから問題ないだろ」

 

部屋を出ようとしたとき、イッセーにそう言われて…そう返した。

 

俺の髪は白髪だ。父さんや母さん、イッセーには『事故のショックで、突然に髪の色素が抜けた』と記憶されている。…まぁ、実際は『六道仙人になってしまったから、素が白髪のまま』なんだよね、これが。

 

俺は白髪のまま登校するのが嫌だから、黒髪に染めている。小学生の頃、それでよくいじめられていたな…。

 

その度に泣いて、イッセーに助けてもらっていた。

 

染めだしたのは中学の入学日からだった……その頃一度だけ、俺が白髪を人前にさらしたことがある。

 

――麗と知り合った日だ。

 

中学三年の冬、クリスマスへのカウントダウンのなか、買い出しに行っていた俺とイッセーは、隣町のケーキ屋にケーキを買いに行っていた。

 

その帰り道、川岸を走っていた時…近くから悲鳴が聞こえた。

 

その声の元を探すと、川辺で叫んでいる女子がいて、その視線の先には川で溺れている女の子がいた。

 

雪が降るなか、俺は自転車を慌てて降りて…極寒の川に飛び込んだ。

 

必死に泳いで女の子のところに着いたのはよかったけど、一瞬の安堵で緊張が解けたせいか、体中が一気に固まりだして…女の子とともに水の中へ溺れた。

 

――僕に任せて。

 

そう言って、俺の体を動かしたのは――三尾の磯撫。

 

水中での一時的な尾獣降ろしで半尾獣化して、岸に着く浅いところで元の体に戻った。

 

そのあと、背負っていた女の子を下した時に、はずみでニット帽が脱げて白髪がさらされたってこと。

 

…もちろん、俺と女の子は救急車で緊急搬送されたけどね。

 

そうそう、そのとき助けた女の子は…元気に学校へ通っている。

 

その子の姉――岸辺にいた女性が麗。…だから、磯撫が助けたのは妹さんの舞。

 

通っている学校は――駒王学園中等部で、年は二つ下の三年生。

 

麗や舞ちゃんが俺と尾獣たちの存在を知っているのと、麗と俺が付き合っていること、尾獣たちが条件付きで顕現――人の身で俗世にいること……すべて、この時の出来事が繋いでくれたものだった。

 

……思い出にひたりながらも、髪を黒く染め上げてドライヤーで乾かす。

 

乾かし終えて、腰まで長い髪を根元あたりでまとめて結ぶ……俗にいう『ポニーテール』ってやつだな。

 

……そろそろ出ますか。

 

                    D×D

 

イッセーとは別で登校する。

 

いつものように麗を送り迎えする又旅と穆王。

 

教室の自分の席に着くと、麗と女子たちのトークが始まり…俺に話が振られる。

 

授業は前回の続きを受ける…英語で長文読まされたりしたけど。

 

――そして、放課後。

 

いつものように帰宅の準備をし、麗が準備しているのを待つなか…イッセーに声をかける。

 

「イッセー、買い物が終わったら帰るから、母さんによろしく伝えてくれる?」

 

「はいはい、いつものことだな」

 

ジト目で見てくるイッセー。

 

「…ほいよ。ちょっとだけど、手数料」

 

俺はそう言いながら、手元の財布から五百円玉を手渡す。

 

「よし!」

 

買収したイッセーの頭に手をポンと乗せ、麗のところに戻った……ちょうど、そのタイミングだった。

 

「や。どうも」

 

教室に入ってきていた男子が、イッセーの前に立って挨拶をしていた。

 

…対して、イッセーはその男子を半眼で見ている。

 

その男子生徒はここの学校一のイケメン王子――木場祐人。

 

同学年でクラスは別だが……接点を全く持っていないイッセーに接触している、何の用なんだろうか?

 

廊下、教室の各所から木場に対して黄色い歓声が沸いている。

 

「で、ご何の用ですかね」

 

「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」

 

イッセーの問いに木場が答えた。

 

「リアス先輩の……OKOK、で、俺はどうしたらいい?」

 

「僕についてきてほしい」

 

その言葉が出た直後、女子たちの悲鳴が上がる。

 

…ちなみに、俺は飲んでいたお茶が器官に入ったせいでむせていた。

 

歩き出した木場の後ろにイッセーがついて……こっちに来たぞ?

 

「兵藤和成くんと(みやび)(れい)さんだね」

 

木場が俺と麗の前に立ち止まると、そう尋ねてきた。

 

「そうだけど…何の用?」

 

俺は一応問う。

 

「君たちもついてきてほしいんだけど、いいかな?」

 

「…別にいいけど」

 

俺は麗をちらっと見る…麗は俺の目を見てうなずく。

 

麗と自身の鞄を持ち、俺はイッセーたちの後ろについていく。

 

                    D×D

 

木場のあとに続きながら向かった先は…旧校舎の裏だった。

 

「ここに部長がいるんだよ」

 

そう告げた木場。

 

…部長ってことは、ここは何かの部室ってこと?

 

二階建ての木造校舎を進み、階段を上る。さらに二階の奥まで歩を進める。

 

…床、壁、手すり……どこも埃が付いていない。ホント、綺麗にされている。

 

開いている教室とかも通り過ぎるときに見たが、やっぱり掃除が行き届いているな。

 

木場の歩みが止まる。…そうこうしているうちに、目的の場所に着いたみたい。

 

『オカルト研究部』

 

…オカルト研究部!?

 

噂でしか聞いたことがなかった…特定の者しか入部できない部活があると。

 

「部長、連れてきました」

 

引き戸の前から木場が中に確認を取ると、

 

「ええ、入ってちょうだい」

 

女性の声が聞こえてきた。

 

「失礼しまーす」

 

木場のあとに続いて室内に入る。一応、挨拶はしておく。

 

「スゲェ」

 

室内に入ると、至るところに文字が…。

 

魔方陣らしきものもあるぞ!? おお! すごいクオリティだな!

 

室内を見渡していると、ソファーに座って洋館を食べている小柄な女子いる。

 

…一年生の塔城小猫さんだな。

 

こちらに気がついたようで、俺たちと視線が合う。

 

「こちら、兵藤和成くん、一誠くん、雅麗さん」

 

木場が紹介してくれる。無表情で頭を下げてくる塔城さん。

 

「よろしく」

 

「あ、どうも」

 

「よろしくね」

 

俺たちも頭を下げる。

 

シャー。

 

部屋の奥から、水の流れる音がしてる…シャワーみたい。

 

見れば…室内の奥にはシャワーカーテンがある。カーテンには陰影が映っている。

 

どう見ても…女性の肢体だってわかる、そんな陰影だ。

 

ずむっ!

 

「……うっ!」

 

突然、両目に痛みが走る!

 

俺はその場でしゃがみこみ、両目を抑えて悶える。

 

……目つぶしだ。麗の…俺だけに食らわせてくる奥義の一つ『瞬間目つぶし(命名・和成)』。

 

「だ、大丈夫?」

 

木場が心配して声をかけてくれる。

 

「……だ…い、丈夫…」

 

どう聞いても無事じゃない返答になっているが、これでも結構回復は早い。

 

「部長、これを」

 

水を止める音の直後に聞こえる声。

 

「ありがとう、朱乃」

 

…目が見えないから音で判断するしかない。

 

無音に近い、体を拭く音。布の擦れる音。

 

状況を推理すると、カーテンの向こうで誰かが着替えているってことだな。

 

直後に、ぼやけ気味だが……視力が回復してきているのを感覚で判断して、俺は立ち上がった。

 

ジャー。

 

カーテンが開く。そこには制服を着込んだ二人の女性がいた。

 

「ゴメンなさい。昨夜、イッセーのお家にお泊りして、シャワーを浴びてなかったから、いま汗を流していたの」

 

紅髪の女性――グレモリー先輩がそう言う。

 

もう一人の女性……さっきグレモリー先輩から『朱乃』って呼ばれていたから、すぐに誰だかわかった。

 

…姫島朱乃先輩。

 

校内で「二大お姉さま」と称されている一人だ。

 

「あらあら。はじめまして、私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後、お見知りおきを」

 

ニコニコフェイスで丁寧なあいさつをくれた。

 

「こ、これはどうも。兵藤一誠です。こ、こちらこそ、はじめまして!」

 

「よろしくお願いします、姫島先輩。……あっ、俺は兵藤和成。イッセーの兄です」

 

「雅麗ですわ。義弟(おとうと)がお世話になります」

 

おーい! 義弟は相当早いからねー! 俺たち、まだ結婚すらしてないじゃん!

 

「うふふふ」

 

麗の冗談なのかどうかグレーゾーンなあいさつに、姫島先輩が面白そうに微笑む。

 

あいさつを終えた俺たちを「うん」と確認するグレモリー先輩。

 

「これで全員揃ったわね。兵藤和成くん、雅麗さん、一誠くん。いえ、イッセー」

 

『は、はい』

 

「私たち、オカルト研究部はあなたたちを歓迎するわ」

 

「え、ああ、はい」

 

『はい』

 

「悪魔としてね」

 

「…やっぱりですか」

 

最後に聞こえないように漏らしたのは俺。…いや、ネタはわかっていたからね。

 



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仲間入り?

「粗茶です」

 

「ありがとうございます」

 

ソファーに座る俺たちへ姫島先輩がお茶を淹れてくれる。

 

ずずっと一飲み。

 

「おいしいですわ」

 

「あらあら。ありがとうございます」

 

うふふと嬉しそうに笑う姫島先輩。

 

テーブルを囲んでソファーに座るイッセー、麗、俺、木場、塔城さん、グレモリー先輩。

 

「朱乃、あなたもこちらに座ってちょうだい」

 

「はい、部長」

 

姫島先輩もグレモリー先輩の隣に腰を下ろす。

 

全員の視線が俺たち――主にイッセーに集まる。

 

口を開くグレモリー先輩。

 

「単刀直入に言うわ。私たちは悪魔なの」

 

俺は納得しているので澄まし顔。麗もあまり驚くことなく澄ました顔だ。…ただ、イッセーだけは訳がわからない表情をしているな。

 

「信じられないって顔ね。まあ、仕方ないわ。でも、あなた()()昨夜(ゆうべ)、黒い翼の男を見たでしょう?」

 

グレモリー先輩がイッセーに向けて言う。…俺たちの表情を見て、一番にイッセーに言ったみたい……ん? 俺と麗にも言ったのか?

 

「あれは堕天使。元々は神に仕えていた天使だったんだけれど、邪な感情を持っていたため、地獄に落ちてしまった存在。私たちの敵でもあるわ」

 

堕天使…あぁ、あのロリっ娘か。

 

「私たち悪魔は堕天使と太古の昔から争っているわ。冥界――人間で言うところの『地獄』の覇権を巡ってね。地獄は悪魔と堕天使の領土で二分化しているの。悪魔は人間と契約して代価をもらい、力を蓄える。堕天使は人間を操りながら悪魔を滅ぼそうとする。ここに神の命を受けて悪魔と堕天使を問答無用で倒しに来る天使も含める三すくみ。それを大昔から繰り広げているのよ」

 

「いやいや、先輩。いくらなんでもそれはちょっと普通の男子高校生である俺には難易度の高いお話ですよ。え? オカルト研究部ってこういうこと?」

 

「……ふむふむ」

 

「カズも真面目に話聞いてないで…って、レイさんは?」

 

「…あぁ、手洗いを借りるって部屋を出たな」

 

いつの間に! って顔してるな、イッセー。

 

「オカルト研究部は仮の姿よ。私の趣味。本当は私たち悪魔の集まりなの」

 

…次の瞬間、話を続けるグレモリー先輩の一言にイッセーが反応する。

 

「――天野夕麻」

 

イッセーが目を見開く。

 

「あの日、あなたは天野夕麻とデートしていたわよね?」

 

その話題を出すと、イッセーの表情が暗雲のようになっていく。

 

「彼女は存在していたわ。確かにね」

 

ハッキリと言ったグレモリー先輩が指をひと鳴らしすると、姫島先輩が懐から一枚の写真を取り出す。

 

そこに映っている人物を見たイッセーは、言葉を失っている。

 

「この子よね?天野夕麻ちゃんって」

 

その写真には、イッセーの元カノだった女性――天野夕麻の姿が鮮明に映し出されている…しかも、背に堕天使の翼を生やしているところだ。

 

「この子は、いえ、これは堕天使。昨夜、あなたたちを襲った存在と同質の者よ」

 

俺はポケットから携帯を取り出し、ある写真を画面に映し出した。

 

「俺もあの日に撮った写真を持ってまして…」

 

その写真を見せた瞬間、イッセーが驚いた表情をする。

 

「…ゴメン、イッセー。俺さ、嘘ついてたんだ」

 

あの日、イッセーが悪魔になったと感じた朝…俺はイッセーの質問にこう答えた。

 

『…悪い、それってイッセーの妄想か?』と。

 

携帯の画面には、イッセーと天野夕麻のツーショット写真が映し出されている。

 

「カズ…その写真、消されてなかったのか?」

 

「イッセーの携帯で撮った直後、メールで送っておいた。送信メールは削除しておいたし、消される手がかり作らなかったってこと」

 

それを聞いていたグレモリー先輩の目が俺を睨む。

 

「やっぱり、ただの人間じゃなかったようね。何者なの? ずっと気になっていたのよ」

 

「い、いえ…何者って訊かれても、人間でしか言いようがないですよ」

 

ちょうどその時、部室のドアが開かれた。

 

「…すみません。迷子になってしまいました」

 

麗が手洗いから帰って……って、あれ?

 

「……お、お邪魔します」

 

「…こんにちは」

 

麗の後ろから、見知った少女と少年が姿を現す。

 

少女は小さく会釈し、少年も同じく会釈する。

 

…二人の背中には、それぞれ竹刀を持ち運ぶ時の布に何かが巻かれて背負われている。

 

俺は麗に問う。

 

「…何で二人がここに?」

 

「マイといっちゃんも関係あるんじゃない? 昨日、私たちと別の場所で堕天使に襲われたんだし」

 

「いやいや、襲われたのは分かるけど…って、いつから話を聞いていた?」

 

「え~とぉ、リアス先輩が『私たち悪魔は堕天使と太古の昔から争っているわ』って、話し始めたところから?」

 

「ほとんど初めからだよね? …それはいいとして、磯撫、連絡がなかったんだけど?」

 

「うん。マイに『心配させたくない』って口止めされた。それと、カズ以外の皆はこのことを知ってるよ」

 

……俺だけ連絡なしなのか!?

 

「むぅ…」

 

俺はその報告に眉間を抑えて唸る。

 

静かになった時、様子を見ていたグレモリー先輩が口を開く。

 

「あなたたち、その制服…中等部よね?」

 

「……はい、マイと磯撫は中等部です」

 

「…わかったわ。マイ、イソブでいいわね」

 

「…はい」

 

「そこのソファーに座って。朱乃、お茶を」

 

「はい。すぐにお持ちいたしますわ」

 

そう言って、お茶を淹れに姫島先輩は席を離れる。

 

「あなたたち全員が堕天使に襲われたってことでいいわね」

 

『はい』

 

グレモリー先輩の言葉に、俺たちはうなずいた。

 

俺はなぜ襲われたのか、グレモリー先輩に訊いてみた。

 

「グレモリー先輩、俺たちが別々の場所で堕天使に襲われたのでしょうか?」

 

「…そうね。ひとつめは、あなたたちの中に宿っているものよ」

 

「俺たちの中ですか?」

 

「そうよ」

 

イッセーの返答に、グレモリー先輩がうなずく。

 

「あなたたち…いえ、イッセーの中にあるのは神 器(セイクリッド・ギア)よ。彼女があなたに近づいたのも神 器(セイクリッド・ギア)を身に宿しているか調査するためだった、そんなところでしょうね。…そして、確信したから、あなたを殺した」

 

…待て待て、イッセーがそういう理由で殺されたのは分かったけど、俺やレイ、マイや磯撫が襲われた理由がわからないぞ! 神 器(セイクリッド・ギア)なんて代物、宿してもいないし、いま聞いたのが初めてだ。

 

「イッセーには神 器(セイクリッド・ギア)が宿っているのだけれど、あなたたちには宿っていないわ」

 

「俺たちも宿っていないことは分かってます。…勘違いで殺されかけたってところですか?」

 

「そんなところでしょうね。私と祐斗の使い魔の情報だと、堕天使が襲おうとしたのはレイとマイの二人のようだったわ」

 

「……そういえば、ゴスロリ堕天使がそう言っていたような」

 

俺はレイの方を一瞥して、視線を戻す。

 

「まずは…イッセー、手を上にかざしてちょうだい」

 

グレモリー先輩がそう言うが、イッセーは困惑して動いていない。

 

「いいから、早く」

 

グレモリー先輩がイッセーを急かす。

 

イッセーは左腕を上にあげる。

 

「目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい」

 

「い、一番強い存在……。ド、ドラグ・ソボールの空孫悟かな……」

 

…え? あのテレビでやってたアニメの主人公! 確かに強いし、小さい時のイッセーがよく真似してたな。

 

「では、それを想像して、その人物が一番強く見える姿を思い浮かべるのよ」

 

「………」

 

イッセーの表情が一瞬だけ動く。

 

「ゆっくりと腕を下げて、その場で立ち上がって」

 

イッセーが腕を下げて、ソファーから腰を上げて立ち上がる。

 

「そして、その人物の一番強く見える姿を真似るの。強くよ? 軽くじゃダメ」

 

俺はグレモリー先輩の言葉を聞いた瞬間、顔を伏せて笑いを堪える…どう見ても、悶えているようにしか見えないと思うが。

 

「ほら、早くしなさい」

 

グレモリー先輩が再びイッセーを急かす。

 

俺が顔を上げたときには、イッセーが意を決したのか…あのポーズの準備に入っていた。

 

「ドラゴン波!」

 

イッセーは開いた両手を上下に合わせたまま前へ突き出す格好で、声を張り上げる。……そう、空孫悟の使うドラゴン波のポーズだ。

 

「さあ、目を開けて。この魔力漂う空間でなら、神 器(セイクリッド・ギア)もこれで容易に発現するはず」

 

イッセーが目を開ける。

 

カッ!

 

すると、イッセーの左手が眩い光に包まれる!

 

その光はしだいに形を成していき、左腕を覆っていく。

 

光が止むとイッセーの左腕には、赤色の籠手が装着されていた。

 

手の甲の部分には宝玉がはめ込まれている。

 

「な、なんじゃ、こりゃぁぁぁぁぁ!」

 

叫ぶイッセー。

 

「それが神 器(セイクリッド・ギア)。あなたのものよ。一度ちゃんと発現できれば、あとはあなたの意志でどこにいても発動可能になるわ」

 

「……ふむ。これがイッセーの殺された理由なんですね」

 

「そういうことね」

 

俺の回答にグレモリー先輩がうなずく。

 

……勘違いで殺されかけたって、傍迷惑なものだよなぁ。

 

「…あ、あとは、マイたちの正体だけですね」

 

湯呑を傾けていたマイが言う。

 

離席していた姫島先輩もグレモリー先輩の隣に、いつの間にか座っているし…。

 

「…その前に、一ついい?」

 

磯撫が挙手して言う。

 

「何かしら?」

 

「玄関前に()が待機してるから、中に入れて話を続けてもいいかなと思ってる」

 

「…お仲間かしら?」

 

「仲間…というより、きょうだいみたいなもの」

 

グレモリー先輩は木場に「案内を頼むわ」と一言いうと、木場は「承知しました」と部屋を出た。

 

…待つこと四十秒ほど。

 

「古い建物やんね」

 

「そうですね…見た目は古いですが、掃除が隅々まで行き渡っているのがよく分かります」

 

「ラ…俺としては、すごく落ち着く」

 

「そうね。私もこういう建物なら、結構落ち着くと思うわ」

 

「この建物はいい雰囲気を出しているな。校舎も近い上に見張れる位置だな」

 

「つーか、何でクソ狐もいんだよ」

 

「あ? それはワシの言葉だろーが。アホ狸」

 

「んだと! やるかクソ狐!!」

 

「上等だ! アホ狸!!」

 

「やめろ、守鶴、九喇嘛」

 

「そうよ、二人ともカズに出禁にされるわよ」

 

『うるせー! 猫ババァ!!』

 

「なんですって!!」

 

シャー!!

 

ゴゴゴゴゴ!!!

 

猫が唸るような声の直後、建物が小さく揺れる!

 

「すみません、少し席を外します」

 

俺は慌てて廊下へ飛び出し、尾獣たちのいる方を見る。

 

「え? 何が起こって――」

 

「少し早いので、中に入って待ちましょう」

 

困惑している木場の背を無理矢理押しながら、俺の隣を通り過ぎて部屋に入っていく穆王。

 

「おいおい、こんな騒ぎをカズに見られたら知らんぞ」

 

牛鬼が宥めながらも、そんなことを言う。

 

「何やってんだ」

 

俺が七人の目の前に立って言うと、守鶴と九喇嘛の顔が青ざめだす。

 

「又旅、二人を放してやって」

 

「…でも」

 

「いいから」

 

「わ、わかったわ」

 

俺が怒りのオーラを滲み出させていると、気づいた又旅が抑え込んでいた守鶴と九喇嘛から離れる。

 

「守鶴、九喇嘛…」

 

「…カズ、このクソ狐が」

 

「守鶴? 言い訳するぐらいなら、出禁にするよ」

 

「す、すまん」

 

「九喇嘛は?」

 

「いや、俺の方が悪かった、すまん」

 

「うん。反省してるならいいよ…部屋に入ろう」

 

二人が反省してるかどうかはさておき、これで役者(メンバー)が揃ったわけだね。

 

「いまの揺れは何だったの?」

 

部屋に入って麗の隣に腰を下ろした直後、グレモリー先輩から問いかけられる。

 

「すみません、グレモリー先輩。守鶴と九喇嘛が喧嘩してしまいまして…」

 

「そうなの? 建物が揺れるくらいに?」

 

「はい。これが俺たちの正体の一部なんです」

 

そう言った俺の言葉に、グレモリー先輩は納得のいかない表情をしている。

 

「と、とにかく、俺たちの正体明かしですね」

 

俺が立つと、続くように麗たちも腰を上げる。

 

「まずは私とマイから。私とマイは共に『帝具』というものを所持しています」

 

「…帝具? どこかで聞いた名ね」

 

「部長、『帝具』は人類の旧世代に存在していたものですわ」

 

「そうね…思い出したわ。ありがとう、朱乃」

 

「いえいえ、うふふ」

 

思い出した仕草をするグレモリー先輩と、微笑むように笑う姫島先輩。

 

「…はい。旧世代に用いられていた帝具を、私の父が発掘して保管しています」

 

「そうなの? レイとマイのお父さまは……考古学者かしら?」

 

グレモリー先輩の問いに舞がうなずいた。

 

「は、はい。マイとお姉ちゃんのお父さんは考古学者で、いま持っている帝具は倉庫から持ち出したものです」

 

「帝具の管理はカズくんの後ろに立っている、そんそんがしています」

 

俺は後ろを振り返る…孫がうなずきながら蓄えている赤髭を摩っていた。

 

マイが背に背負っている布に巻かれたものをテーブルの上に置くと、隣に立っている磯撫も背負っていたものをテーブルの上に並べた。

 

「マイの帝具はこの死者行軍八房(ししゃこうぐんやつふさ)一斬必殺村雨(いちざんひっさつむらさめ)です」

 

マイが二枚の布をとると、二刀の日本刀が鞘に収められた状態で並ぶ。

 

「の、能力は、八房(やつふさ)は殺したものを骸人形にすることと、村雨(むらさめ)はかすり傷一つで死に至らしめるものです」

 

「かすり傷一つで? それは指先を切るだけでも?」

 

「はい」

 

木場の問いにうなずいた舞は話を続ける。

 

「切り傷から村雨(むらさめ)の呪毒が心臓に向けて進行します。どこを掠っても必ず致命傷になります」

 

それを聞いていたオカ研とイッセーの皆の表情が若干引きつり気味になっていた。

 

舞に続いて麗も話し出す。

 

「私の帝具は魔神顕現(まじんけんげん)デモンズエキス…なのですが、その帝具は既に存在していませんでした」

 

「存在していないの?」

 

「はい。私はこの帝具の所有者の成れの果て――氷の結晶に触れて、この帝具の力を取り込みました」

 

パキンッ!!

 

瞬時に俺が飲んでいた湯呑のお茶()()が凍りついた。

 

「氷の帝具みたいね」

 

「はい。私の帝具の特性は氷です。大気の水分を瞬時に凍らせて作りだせますし、無からも作りだすことができます」

 

そう言って右手をかざすと、『別の空間から召喚している』と表現できるような現象で、氷の塊を掌に作りだした。

 

「本来の力を出すには、いまの体を成長させないと持たずに不発して倒れてしまいますので、この場では遠慮させていただきますわ」

 

麗はそう言うと、掌の氷の塊を宙で粉々にして消滅させた。

 

「二人の所持している帝具は三つね……イソブは?」

 

「僕は後ろにいる皆と同じだから、帝具は持ってないよ」

 

「そうなの?」

 

グレモリー先輩は俺たちの正体に興味があるようで、目を若干輝かせている……さすが、オカ研を趣味で運営している人だなぁ。

 

続いて俺が話をする。

 

「俺は古代に断絶した(しのび)一族の末裔――いまで言う『忍者』ですね。俺はその忍者の祖、組織される前時代の忍者で、特殊能力を身に宿しているって覚えてもらった方がいいですね」

 

「能力持ち? 影分身とか、ああいうのできるの?」

 

俺はイッセーの問いに答える。

 

「イッセー、劇場や現実に存在している忍者は、身体能力と物理技術や仕掛けを磨き上げたエリートたち…もとは人間だよ」

 

「マジで!? じゃあ、カズは?」

 

「俺は前時代…忍の世界が存在していた時の子孫で、忍の祖と呼ばれていた人物やその子孫の力を継いだ末裔だよ。死んだ父さんと母さんも忍の血が薄まっていたって言ってたし、二人もその子孫から分かれた血族の末裔なんだ」

 

「こんな風に――」と、俺は印を結んで術を発動させる。

 

ボンッ!!

 

煙と共に麗と俺の間に俺の分身体が現れる。

 

「これが影分身の術。存在している忍者が使う影分身とは違って、実体のある分身体だよ」

 

「俺は分身体で、そっちがオリジナル…本体ってこと」

 

「分身がしゃべった!?」

 

「失敬な。分身でもオリジナルと同じ実態だから、動けるし話せるよ」

 

俺は右、分身体は左に顔を同時に向ける…右を見ながら左を見るって感じに。

 

俺は顔を正面に戻すと、分身体を消す。

 

ボンッ!! と煙を上げて消えた分身体。

 

「あとは、皆だけだな」

 

「私たちの番ね。分かりやすく説明するわよ」

 

又旅がそう言うと、全員が瞬時に半獣化する。

 

守鶴、又旅、九喇嘛は耳と尾を。

 

磯撫は甲羅と尾を。

 

孫悟空はきんこじと尾を。

 

穆王と牛鬼は角と尾を。

 

犀犬は触覚と尾を。

 

重明は兜と羽と尾を。

 

「私たちは尾獣と言って、尾が名を現しています。ここにいるのは一尾の守鶴から九尾の九喇嘛まで。十尾という存在もありますが、それは私たちの力のすべてが合わさった時のみに出現しますので、ご心配には至らないと思います」

 

「それぞれ個性があるように、私たちにも長所となるものがあるわ。守鶴は砂と風遁を操り、私は灼遁を操るように、能力もそれぞれが違うものを使っているの」

 

穆王と又旅がわかりやすく(?)説明してくれた。

 

「私たちも紹介しないといけないわね」

 

グレモリー先輩がそう言うと、オカ研全員が立つ。

 

「先に言っておくわ。イッセー、あなたは私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったわ。私の下僕として」

 

バッ! とオカ研四人の背からコウモリ――悪魔の翼が生える。

 

バッ!

 

イッセーの背からも触発されたように、悪魔の翼が生えた。

 

「改めて紹介するわね。祐斗」

 

グレモリー先輩に呼ばれ、木場が俺たちにスマイルを向ける。

 

「僕は木場祐斗。兵藤一誠くんたちと同じ二年生ってことはわかっているよね。えーと、僕も悪魔です。よろしく」

 

「……一年生。塔城小猫です。よろしくお願いします。……悪魔です」

 

小さく頭を下げる塔城さん。

 

「三年生、姫島朱乃ですわ。いちおう、研究部の副部長も兼任しております。今後もよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」

 

姫島先輩は深く頭を下げた。

 

グレモリー先輩は、紅い髪を揺らしながら堂々と言う。

 

「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね」

 

俺はイッセーの背をドンっ! と強くたたく……頑張れという意味で。

 

……イッセーが異形の者たちの仲間入りを果たした瞬間、すべての歯車が噛み合わさった…のかもしれない予感がした。

 



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奇襲

 

「眠ぃ~」

 

帰路に着いた俺はあくびをしながらそう漏らす。

 

夜も更けること二十二時過ぎ。

 

あれから少しオカ研との交流会みたくなって話が盛り上がったが、俺はイッセーを預けて帰宅していた。

 

途中で皆と別れ、さっき麗と舞、穆王、又旅、磯撫の五人と別れてきたばかりだ。

 

俺は一人のんびりと帰路を歩いていた…その時だった。

 

…一瞬で周囲の空気が変化したのを感じ取り、とっさに横へ飛ぶ!

 

バシュッ!

 

左腹部をえぐられ、血が噴出する!

 

「くっ!」

 

俺は腹部をえぐった物体を一瞥する……それは先日、いまと同じように腹部を貫いた光の槍のそれだ。

 

えぐられた左腹部からは煙が立ち上りだしている…自己治癒が始まっている証拠だ。

 

「カラワーナ、いまの見たっしょ!」

 

「ああ、あの回復力…ただの人間ではなさそうだな」

 

顔を上げると、視線の先には俺の腹をえぐった張本人――ゴスロリ堕天使のミッテルトと、黒紫色のボディコンスーツとスカートをはいている女性が、堕天使の翼を広げて宙に浮いている……カラワーナっていうみたいだ。

 

《おい、助けが要りそうか?》

 

《ちょっとな…腹をえぐられただけだが》

 

《おいおい、腹えぐられたって? 何してんだ》

 

《守鶴、大丈夫だ》

 

《助太刀に行ってもいいんだぜ?》

 

《遠慮しとく。周囲を吹き飛ばしそうで怖い》

 

《んだよ、つれねーなぁ》

 

いの一番で俺の異変に気付いた守鶴がテレパシーで訊いてくるが、俺はあっさりと流しておく。

 

《気遣い、ありがとさん》

 

俺はそれだけを言って、即切断した。

 

「さぁて、どうしようか…」

 

俺は懐から増血丸の入った小瓶を取り出す。

 

カランッ!

 

その瞬間、体から力が抜け、目の前が暗転し、手元から小瓶が地面へ転がった。

 

「しまっ……!」

 

ヒュン!!

 

二本の光の槍が俺の頭部目がけて飛んでくる!

 

……よけられねぇ、ぞ!

 

体勢も整えることができず、俺は――。

 

「……たくよぉ、どこが大丈夫だってんだ」

 

目の前に守鶴のげんえ……守鶴!?

 

「何驚いた目ぇしてんだ?」

 

「いやいや、来なくていいって言ったじゃん」

 

「途中で切りやがって…んなこと、聞いてねぇし!」

 

バキバキッ!!

 

飛来していた二本の光の槍は、半獣化した守鶴の尾によって防がれ、音を立てながら砕けていく。

 

「脆ぇなぁ。んじゃ、今度は俺さまの番だな!!」

 

守鶴は地面に両手をつき、半尾獣化させた腕から大量の砂を流していく。

 

「磁遁! 多段砂時雨!!」

 

広がった大量の砂からビー玉サイズほどの砂の球が無数に浮き上がり、二人を目がけて高速で飛来しだす!!

 

「ちょ、これやばいんじゃ!」

 

「しまっ…!」

 

ドォォォン!!

 

悲鳴も聞こえる暇もなく、砂時雨に撃たれて砂埃の中に消える二人。

 

「こんなところか?」

 

砂埃の中から砂の塊が守鶴の尾に入って消える。

 

砂埃が止むと、無傷の電線、アスファルト、民家とその塀が現れだし……地面に横たわる全裸の二人の姿が……何で、全裸やねん。

 

「しかたねーだろ。周囲を傷つけないようにしろって言ってんのは、どこの誰だ?」

 

「ま、まぁ…それって、俺が言ってることだよね」

 

「そーだ」

 

「つか、何で全裸なん?」

 

「しかたねーだろ、破壊力を極限にまで抑えてんだからさ、人間相手なら死ぬかもしれねーが、あの女どもなら良くて打撲とアザができるくらいだ」

 

……そりゃ、ね。人間に比べたら、かなり頑丈だもんね…異形の体は。

 

「くっ! ……いまはあのお方に報告せざるを得ない。ミッテルト、一旦……」

 

「ふきゅ~」

 

「こんな時にのびて…あー、めんどうだ!」

 

カラワーナはのびて気を失っているミッテルトを抱えて、さっそうと飛び去って行った。

 

「……何だったんだ?」

 

「どう見ても、俺を排除しに来たにしか見えなかったんだが……」

 

俺はそう言ってため息をつきながら、近くの電柱に背を預ける。

 

「疲れてんな、カズ」

 

「そりゃ、疲れるも何も…」

 

ふぅ…と、再びため息を吐く。

 

「んじゃ、俺さまは帰るぜ」

 

「ありがとさん、守鶴」

 

俺と守鶴は別れて帰路に着く。

 

……ほんと、奇襲ばかりで疲れる。

 



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シスター

カラワーナとミッテルトが奇襲をかけてきてから、数日が経ったある日の放課後。

 

イッセーが悪魔稼業で契約を二度破綻させて、若干やつれていた…というより、教室で落ち込んでいたもんな。

 

買い物帰りに麗と近くのある公園に寄り道していた。

 

二つあるブランコにそれぞれ座る。

 

ギーコギーコ……。

 

久しぶりに漕いでいると…ブチン!!

 

俺の座っていたブランコの鎖が切れ、後ろに漕いだ勢いを兼ねたまま…後頭部を強打した上に引きずる…痛い。

 

麗が傍らでクスクスと笑っているのを半眼で見ながら、後頭部をさする。

 

「いてぇ…血は出てないけど、コブができてるな」

 

触って手のひらを確認したら…血らしきものはついてはいなかったが、コブのある感触はすぐに分かった。

 

クスクスと笑い続けている麗…そろそろ泣くぞ、俺。

 

「うわぁぁぁぁん」

 

聞こえてきた泣き声…俺じゃないぞ。

 

「だいじょうぶ、よしくん」

 

少し離れた広場で子供がこけて、母親だろう女性がなぐさめていた。

 

そこへ、通りすがりだろうシスターの少女と、制服を着ただん……イッセーじゃん!?

 

シスターが男の子の頭を撫でて、怪我をしている膝に当てた。

 

その瞬間、手のひらから淡い緑色の光が生じ、男の子の膝の怪我を治していく。

 

数日前にイッセーの左手に出現した赤い籠手と同じ、そう……、

 

――神 器(セイクリッド・ギア)

 

それから三十秒と経たないうちに、男の子の膝の怪我は完治していた。

 

「あの子、治癒の神 器(セイクリッド・ギア)持ちなんだね~」

 

俺の横に立っていた麗がそう呟いた。

 

俺たちの視線に気がついたのか、シスターの少女がこっちを向いて丁寧にお辞儀をしてくれる。

 

イッセーもそのシスターの行動でこっちを向いて、手を振ってきた。

 

俺たちの方へ歩いてきたイッセーとシスターの少女。

 

「よ、よぉ~。奇遇だなぁ、こんなところで会うなんて」

 

「カズ、麗さん…って、カズ…頭でも打ったのか?」

 

イッセーが後頭部を抑えている俺を見て言う。

 

「あぁ~、そのブランコに乗っていてな。漕いでたら切れて、勢い余って後頭部を強打した」

 

イッセーが「だいじょうぶなのか?」と言ってきたので、俺は「心配ない」と答える。

 

「レイ、この袋に水を入れてきて」

 

「うん、ちょっと待っててね」

 

麗が俺から透明のビニール袋を受け取り、近くの水飲み場まで水を汲みに行った。

 

「えっと、私が治したほうが…」

 

「いいよ。あまり人前で力を見せない方がいいと思うな…特に、さっきみたいな場合」

 

俺は尾獣たちのチャクラを介して、シスターの少女の言葉を翻訳して話す。

 

「す、すみません。つい…」

 

「いいさね。キミの心がそれだけ純粋で優しい……イッセーも隅に置けないなぁ」

 

「な、何だよ、いきなり」

 

「ん~や、こんなに清純な女の子と歩いてるなんてさ」

 

「…え!? いやいや、さっき会ったばかりで…」

 

俺が笑いながらそう言っていると、イッセーは若干焦りながら否定し、シスターは日本語が通じてないようで首をかしげていた。

 

すると……後頭部に冷たい感触と共に痛みが走る。

 

「痛っ! レ、レイ?」

 

俺の頭に水…いや、氷塊の入ったビニール袋を強引に押し付けてくる。

 

…少しどころか、凍りついている微笑みで俺を睨む。

 

「ところで、イッセーはその子とどこかに向かおうとしていたみたいに見えたんだけど…?」

 

「うん。教会に用があるって言っててさ、案内する途中だったんだ」

 

「教会…」

 

イッセーが指をさす…その先には古い教会が見える。

 

「あの教会って…いまは廃教会じゃなかったの?」

 

「…そうだったと思う。何か怪しいにおいがしてきたな」

 

俺と麗は二人に聞こえないようにひそひそと話す。

 

「よし。俺と麗もついて行くさね」

 

「え…いやいや、カズと麗さんは買い物の荷物が…」

 

「いいさいいさ。又旅と穆王にも連絡したし、レイのお母さんにもその流れで連絡は耳に入るだろうよ」

 

本当はまだなんだけどね、いまから連絡しますっと。

 

――俺たちは公園を出て、教会へ足を向ける。

 

俺と麗はイッセーとシスターの少女の後ろを歩いてついていく。

 

…テレパシーで又旅と穆王に連絡をしておく。

 

しばらく歩くと、数分で教会に辿りつく。

 

古ぼけた教会が建っており、遠目から見ても建物に明かりが灯されていた。

 

「あ、ここです! 良かったぁ」

 

俺はふとイッセーの方を見る…若干だが、額に汗をかいていて、足が小さく震えていた。

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

「待ってください!」

 

イッセーが別れを告げて立ち去ろうとした直後、シスターの少女が呼び止めた。

 

「私をここまで連れてきてもらったお礼を教会で――」

 

「いや、俺急いでいるもんで」

 

「……でも、それでは」

 

困るシスター。

 

……イッセーは悪魔だし、入った途端に悪魔だってバレたらロクなことにならない。いまでも、震えや発汗が落ち着かないところを見ると、影響を受けているに違いなさそうだしなぁ…手を貸すか。

 

俺は麗に荷物を持ってもらって、イッセーに肩をまわした。

 

「ごめんね。こいつ、この後に母さんと約束事があってさ。急がないといけないんで…お礼は今度会った時にしてあげてほしいな」

 

「そ、そうなんですか…? お約束があるのでしたら、破るわけにもいきませんし……仕方がありません」

 

俺はそう言って、イッセーから離れて隣に立つ。

 

「俺は兵藤和成。で、こいつは一誠。それと、彼女は雅麗」

 

「イッセーでいいよ、周りにはそう呼ばれているから。で、キミは?」

 

名乗ると、シスターの少女は笑顔で答える。

 

「私はアーシア・アルジェントと言います! アーシアと呼んでください!」

 

「じゃあ、シスター・アーシア。また会えたらいいね」

 

「はい! イッセーさん、カズナリさん、レイさん、必ずまたお会いしましょう!」

 

イッセーとの会話を終え、ペコリと深々頭を下げたシスター・アーシア。

 

俺たちも手を振って別れを告げる。少女は俺たちの姿が見えなくなるまで、ずっと見守ってくれていた。

 

少女の姿も見えなくなるところまで歩いた俺たち。

 

俺はイッセーに言う。

 

「イッセーさ、あのシスターと付き合ったらいいんじゃないかな~って思ったんだけど?」

 

「か、カズ! 何を――」

 

「おぅ。顔真っ赤にしやがってさ! 脈ありじゃないかね? イッセーくん」

 

「俺は…そうなりたいって思ったりもしたけどさ……」

 

「あ…ゴメン、イッセー」

 

イッセーの表情が途端に暗くなり、俺はイッセーの元カノだった堕天使の女の事を思い出して謝る。

 

空気が重くなり、気まずい空間になってしまった。

 

「カズ、さっきはありがとうな」

 

「ん。いいさね、あれは俺の勝手な言動だからさ」

 

イッセーが苦笑し、俺も悪戯な笑顔を作る。

 

「……そろそろ荷物持ってくれないかな?」

 

麗が不満げな声とともに、冷たい空気を漂わせ出した!

 

やべぇ! 完全に怒っていらっしゃるよ!!

 

「スミマセン。全部持たせていただきます」

 

俺は麗から手荷物をすべて預かって持つ…重っ!

 

いまの機嫌の状態なら、拷問という戯れをされることはなさそうだな…。

 

「んじゃ。イッセー、気をつけて稼業がんばれよ」

 

「うん。行ってくる」

 

俺と麗は途中でイッセーと別れて歩く。

 

…帰ったら、家の手伝いでもしましょうかね。

 



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閻魔送り

その日の夜。

 

俺は父さんと母さんと夕飯を食べ、就寝の支度をして部屋のベッドに横になって会話していた。

 

《修行? いきなり連絡をしてきたから、びっくりもするよ》

 

《ワシが誘うときは、どういう意味かを教えているはずだぞ?》

 

《わかってるよ、九喇嘛……あれでしょ?》

 

《そうだ、用意しろ》

 

《はいはい》

 

俺は手を組み、木分身を召喚する。

 

木分身を身代わりとして部屋に残ってもらい、俺は身支度を済ませる。

 

《カズ、待ち合わせは…》

 

《牛鬼、九喇嘛と雅家の門前で待ってて》

 

俺はサンダルを履き、灰緑色のジャケットを羽織る。ジャケットには巻物を装備できるポケットが胸部と腹部の左右に三つずつの十二か所あり、全部に巻物を収容する。

 

額に額あてをし、手には穴あきのグローブ、太ももにはクナイ入れのホルスターを装備し、腰には手裏剣などのポシェットを付けた。

 

「留守番頼んだ。俺」

 

「気をつけて行ってこいよ、俺」

 

分身とあいさつを交わして、窓を開放して――屋根伝いで走る。

 

麗の家は町の外にあるため、瞬身の術で高速移動をして移動時間を短縮していく。

 

雅家の門前に着地した俺。

 

「そこそこ速くなったな、カズ」

 

「おせぇーぞ、カズ」

 

門前に立っていた牛鬼と九喇嘛がそう言う。

 

二人は普段の服装のままだ。

 

「行くぞ。カズ、八尾」

 

九喇嘛が走りだし、俺と牛鬼もそのあとを追う。

 

尾獣それぞれが異なる能力を有している。九喇嘛はその中で『敵の悪意を感知する』能力を有していて、いまのように感知すると『修行』という名目で俺を狩りだしてくる。

 

数分走ると、それがいるという場所――廃屋の前に到着する。

 

「あの悪魔の小娘どもも来ているようだな」

 

到着した九喇嘛が開口一番にそう言う。

 

「あぁ~、確かにいるね。この大きな存在は…今回の獲物? 九喇嘛」

 

「そうだ。あの悪意、遠くからでも安易に感知できるぞ」

 

「まぁ…イッセーたちが先についてたんなら、料理は任せるけど――」

 

俺は瞬時に六道仙人の状態に昇華する。

 

「魂には閻魔のところへ行ってもらわないとな」

 

…そう。数々の異形の者で拭えない業を犯してきたものを、その魂を人のものへと昇華させて閻魔のところへ送り出し、業の裁きを下してもらい償いをさせる……俺は今まで数えきれないほど異形の者たちをそうやって滅してきた。……俺もその者たちの業を背負っている。

 

「血生臭いな…人の血だな、この匂いは」

 

牛鬼がそう言う。

 

「今回は人殺しを重ねた悪魔か。送りがいがあるな…」

 

俺は宙に浮遊して先頭を進んでいく。

 

バヂッ!!

 

「グァァァァァァアアアアアアッッ!」

 

屋内の奥から閃光が見えスパークノイズが聞こえる。直後に大きな断末魔も聞こえてきた。

 

俺たちは気配を消して進んでいくと、ひらけた空間に出た。

 

黒焦げになっている……蜘蛛? いや、上半身は女性のものだが…四足だし、尾が蛇みたいだから…何だろうか。

 

よく分からない形態の悪魔。イッセーたちの攻撃で黒焦げになっていて、その四~五メートルあるだろう巨体を地面に突っ伏して倒れていた。

 

その悪魔の眼前にグレモリー先輩が立つ。

 

「最後に言い残すことはないかしら?」

 

「殺せ」

 

その悪魔から放たれた最後だろう言葉。

 

「そう、なら消し飛びなさい」

 

冷徹な一言と共に、グレモリー先輩の手のひらから巨大でドス黒い魔力の塊が打ち出される。

 

その魔力は悪魔の巨体を余裕で包むほどの規模で、悪魔はその魔力で消滅しようとしていた。

 

俺は咄嗟に手元の杖を天井に向けて高速で放つ。……その杖は自然落下とはほぼ遠い、急なアーチを描いて消えゆく悪魔の胸部へ突き刺さる。

 

魔力が宙に消えたとき、その悪魔は消滅し、俺の放った六道の杖だけが低く宙に浮いていた。

 

                    D×D

 

「カ、カズ!? 何でここに…?」

 

イッセーが俺を見てそう問う。

 

「九喇嘛がさ、修行に模した討伐に行こうなんて言いだしてさ~」

 

俺は白々しくそう言う。当の九喇嘛は…近くにある椅子の上で狸根入りをかましていた。

 

六道仙人の状態を説いて、大きく伸びをする俺。

 

「とこで、さっきの杖やあなたの姿は何なの?」

 

グレモリー先輩が訊いてくる。

 

…先輩は自身の魔力でも六道の杖を消し去ることができなかったところに、疑問を持っているみたいな様子だ。

 

「さっきの姿ですか…わかりました」

 

俺は解いたばかりの六道仙人の状態に再度なる。

 

「この間部室で話した通り、忍の子孫です。忍の祖である『六道仙人』と呼ばれる人物が、忍の世界を築きました。俺はその人とその子孫の力を強く受け継いでいるので、この『六道仙人』の姿と力や、子孫の力を顕現できますし、扱うことだってできます」

 

皆が黙って聞く中、俺は話を続ける。

 

「この世のものの性質――エレメトや五行思想と言ったりもすると思いますが、忍術にはその両方の一部分が交わっているようなもの…五大性質変化で出来ています。エレメントは『水・火・風・土』の四大素、五行思想には『木・火・土・金・水』の五大素…ここは大体わかると思います。この二つの特徴の『五行』と性質が混ざったもの…『火・風・雷・土・水』から成ります」

 

「これは基礎の基礎」と俺は言い、話を続けた。

 

「基礎の『優劣関係』を話したいのですが、長くなるので省略します。…で、その性質変化には二種類を混ぜることで『血継限界(けっけいげんかい)』や三種類で『血継淘汰(けっけいとうた)』という上位性質が生まれます。さらにその上は単純に四種・五種の性質を混ぜ合わせることで発現します。――ここからが本題の『六道の性質変化』に入ります」

 

俺は一呼吸おいて続ける。

 

「六道の主なベースの性質は『陰陽遁』。陰と陽は知ってると思います…白と黒の勾玉がくっ付いている円の模様みたいなもの見たことありますよね? 陰遁は、想像を司る精神エネルギーをもとにする力で、陽遁は、生命を司る身体エネルギーをもとにする力。つまりは陰遁と陽遁から作られている万物創造の術。そして、反する全ての忍術を無効にする力もあります。創造と破壊の両方を持っている性質変化なんです」

 

俺は六道の杖で落ちている物の残骸を突く。すると、それは時間を戻しているかのように形を再生して成していく。

 

「これが六道の性質変化。五大性質変化と陰陽遁を組んだ最大の性質変化にして、唯一の存在です」

 

再度、六道仙人の状態を解除する。

 

「帰ろう。牛鬼、九喇嘛」

 

暴れる相手がいなくなったせいか、九喇嘛は不機嫌な表情で建物から出ていく。

 

「じゃ、先に帰るけんね。イッセー」

 

俺は大きく伸びをして牛鬼と共に建物を出た。

 



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はぐれ悪魔の姉妹

数日後の深夜。

 

イッセーが悪魔稼業に出たあと、俺は毎回のごとく自室に分身体を残して二階から抜け出していた。

 

…九喇嘛から連絡はあったんだが、あいつは今は遠い場所にいるということで来られない…というより、移動が面倒なだけだろ。

 

他の皆にも連絡は取ってみたが……全員が手が離せない状態という、何とも面倒くさい状況になってしまっていた。

 

俺一人、闇夜を駆ける。

 

家を出てから十数分後――。

 

目的地の建物の前に着いた俺は、輪廻眼を開眼して求道玉のみを背に出現させる。

 

……この状態だと、六道仙人の状態の時よりチャクラを多く消費してしまう…が、仙術を用いれば通常の消費量で済む話なんだがね。

 

慣れも慣れで、仙術を瞬時に練り込んでチャクラの消費量を通常の状態へ落ち着ける。

 

背後に浮いている七つの求道玉をすべて日本刀の形状に変化させ、片方の太ももに三本装着し、もう片方の太ももにも同じく装着する。残りの一本は右手に携える形になる。

 

俺は建物のドアを開け、中に入っていく。

 

気配から察するに…二人か。

 

九喇嘛の情報通り……この場所に、二人の悪魔が潜んでいるようだ。

 

俺は中央まで足音を忍ばせながら……立ち止まる。

 

建物の中はそこそこ広いが……物が散乱し、所々が破損していた。

 

『出てこい』

 

…すると、ボロボロの薄汚れた白いワンピースを着た女性が壊れたタンスの陰から姿を現す。

 

俺は手元の日本刀型求道玉を握りしめ、臨戦状態に入る。

 

女性がゆっくりと覚束ない足取りで近づいてくる……。

 

「た、助けてください…」

 

女性の口からこぼれる言葉。

 

「止まれ、さもないと容赦なく斬り払う」

 

俺の威嚇で……立ち止まった女性。

 

…少々、予想と違う動きだが、油断は見せられない。

 

いつ攻撃されてもいいよう、間合いを計りながら近づく。

 

「どうした?」

 

「姉を…助けてください」

 

建物の屋根からそそぐわずかな月の光が女性の表情を照らし出す。

 

その表情は悲しげで、本当に大切な者を助けたいというそれだった。

 

「姉を、か。……悪いが、信用に足りない。あんたが俺を襲ってくるかもしれないということにな」

 

「わ、私はあなたを襲いません。信じてください」

 

そう言う女性の目は……嘘を言っていない者の目だ。

 

少し考え、結論を出す。

 

「わかった。でも、俺を殺そうとしたときは問答無用で消し去るからな」

 

「はい。姉を助けてください」

 

「それで、どういう状態なんだ?」

 

俺の質問に表情を一層曇らせる女性。

 

「…姉は、理性を失いかけています。私以外の者を見つけると躊躇なく襲い掛かります」

 

「躊躇なく、か…。わかった、十王送りをするか」

 

「じゅ、十王送り…?」

 

女性は「分からない」と首を小さくかしげる。

 

「俺には異形の者の魂を人間のものへ昇華させる力がある。それで十王――閻魔のところへ送り、裁いてもらう」

 

俺の言葉に一瞬黙り込む女性。だが、すぐに俺の顔を見て強くうなずいた。

 

「お願いします。姉を楽にしてあげてください」

 

女性は姉を「殺してください」と頼み込んでくる。

 

「承った」

 

「姉は…あの扉の向こうにいます」

 

女性の指差す先に……一つの扉が見える。

 

俺はその扉を開け、中に入る。

 

カチャリ…。

 

足に当たった『何か』を手に取る…刀剣の類の柄のようだ…赤い塗料…血がついている。

 

鉄の臭いが鼻につく……人の血の臭いだ。

 

「血の臭い……誰か殺したのか?」

 

俺の質問に傍らに立っている女性が答える。

 

「…はい。悪魔祓いの人です…私を消そうとして、姉に…」

 

「…返り討ちってところか。この刀剣の柄もそのエクソシストが持っていたものか?」

 

「はい。そこのボタンを押すと、刀身が現れますよ」

 

俺は言われたとおりにボタンを押す。ブウン…と刀身が音を立てて出現した……レーザーサーベル?

 

「――あ…」

 

少し離れたところに、隠れるようにこっちを見ている女性……何か言いたそうだ。

 

「あんた、この女性の姉――」

 

「グァァァァアアアッッ!!」

 

何もしていないのに、突然変異を起こす女性……。

 

女性のいたそこには、女性の姿はなく……異形の姿があるだけだ。

 

「お姉ちゃん…」

 

「下がっていろ、死ぬぞ」

 

俺は女性を後ろに下げ、高速で飛び出す。

 

姿が昆虫――蜘蛛に近いその悪魔は、駆ける俺に向けて糸を吐きだしてくる。

 

俺はその糸を日本刀型求道玉で切り裂き、壁を伝って……ビームサーベルを蜘蛛悪魔の背中に突き刺す。

 

「グギャァァァアアッ!!」

 

背中から煙を上げ、苦しみだす蜘蛛悪魔。

 

「すぐに楽にしてやる」

 

俺は高速移動する中で天に六本の日本刀型求道玉を抜き放っていた。それを、急降下させ……蜘蛛悪魔の六本の手足に突き刺した。

 

地面に張り付けにされる蜘蛛悪魔。八本ある手足のうち、前足二本は動かせるようにしている…不意を突かれないように避けておいただけだが。

 

「言い残すことはあるか…理性を失いかけているんだっけ?」

 

俺は答えないだろうと、手元の日本刀型求道玉を蜘蛛悪魔の胸部――心臓に突き刺して絶命させた。

 

…その直後、肉体が消滅していくなか――蜘蛛悪魔から抜け出した女性の魂が語りかけてくる。

 

『ありがとう。これでやっと、苦しみから解放されるわ』

 

「いや、これから犯してきた罪の償いが待っている…苦しむかもしれないぞ」

 

『いいえ。これまでの苦しみより楽だと思うわ』

 

魂の姿が消えゆく中、女性は最後の言葉を言い残す。

 

『妹…アルルを助けてくれてありがとう。アルルをよろしく頼みます……私の愛する妹を』

 

魂は消え、あの世へ旅立って逝った。

 

「アルル…それがキミの名前?」

 

俺の言葉に、真っ赤にしていた目を真ん丸に見開く女性。

 

「…どうして、その愛称を?」

 

「独り言を呟いてたでしょ? 俺。キミのお姉さんの魂と話してたんだよ」

 

物腰柔らかく、いつもの態度に戻って話す。

 

「消えて逝く中で、キミのお姉さん…『苦しみから救ってくれてありがとう』って言ってたよ。それと、『愛するアルルをよろしく頼みます』って言ってた」

 

その言葉に表情を崩し、泣きだす女性。

 

俺はその涙を見ないように抱き寄せる。

 

それから数分すると…女性は泣き止み、顔を上げる。

 

「姉をありがとうございました。すぐにここを離れてください、追手が到着する頃合いです」

 

俺は少し考え込んで、首を振った。

 

「それは無理な依頼です。それに、アルルさんのお姉さんに『よろしく』って頼まれていますし」

 

「……アルティナ」

 

突然、そう言いだした女性。

 

「…私の名前は、アルティナです」

 

「アルティナさん…それでアルルさんか」

 

俺は微笑みながらそう言う。

 

女性――アルティナがむすっと頬を膨らませた。

 

「幼い愛称で悪かったですね」

 

「いやいや、幼いって言うか…すごくかわいい愛称だよ」

 

正直、幼いとは思ったけど、それは幼いころに呼ばれていた愛称であったから…本当にかわいいんだけどね。

 

ボフン!! と煙が上がったような音とともに、顔を急速に赤く染めるアルティナ。

 

「か、かわいいなんて言わないでください! 恥ずかしい……」

 

「え~、それしかないんだけどなぁ」

 

俺は若干からかい気味に言う。

 

「そ、それより、早く逃げてください。追手が――」

 

俺はアルティナがそれ以上言わないように……抱き上げた。

 

「少しの間、話さないでね。舌を噛むから」

 

すべての求道玉を球体に戻し、その一つで近くのガラス窓を割った。

 

「今からこの状態のまま逃げます。絶対に追跡はさせないので、安心してください」

 

俺は駆ける直前に「目も瞑って、しっかりと抱きついていてくださいね」と言い、アルティナがその通りに俺の首に抱き着いたのを確認すると――、

 

タンッ!!

 

割った窓から神速で飛び出し、雅家の門前までものの四秒ほどで駆けた。

 

高速で駆けて十数分かかった距離を四秒で……速過ぎたカナ?

 

「もういいよ…下ろすね」

 

俺はゆっくりとアルティナを下ろすと、門の中へ連れて入る。

 

「今日からここに泊まってもらおうと思っています」

 

……そう言ったは良いんだが、どう説明しようかな?

 

俺は心の中で少し後悔するのだった。

 



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幼馴染と再会?

その翌日。

 

俺は早起きをして身支度を早く終えたので、時間早く家を出た。

 

学校とは反対の……町の外へ歩いて向かう。

 

…目的地は麗の家。

 

先日、はぐれ悪魔を閻魔送りしたあと、そのはぐれ悪魔の妹――アルティナを保護し、雅家に預けた。

 

麗の母親――かなえさんに話は通してはいる。…かなえさんは裏の世界の存在を認識しているし、夫――将志(まさし)さんの仕事の中身も知っている…というより、元はこの人が帝具を保持していたのがきっかけだったりする…。

 

アルティナを快く迎え入れてくれて、俺としては助かっているが…尾獣たちも世話になっているし、雅家の財力には頭が下がる思いだ。

 

雅家の門前に着き、中に入る。…庭は広く、そのほとんどがガーデニングの花や木で埋め尽くされているほどの規模になる。

 

その花園を抜け、大きな屋敷の玄関前にたどり着く。

 

「いってきます。お母さん」

 

「いってらっしゃい。気をつけてね」

 

「だいじょうぶだよぉ。カズくんが迎えに来てくれるんだから」

 

玄関のドアが開き、麗がかなえさんと言葉を交わしていたところを見かける。

 

「おはよう。麗」

 

「おはよ~、カズくん」

 

「あらあら、いいタイミングじゃない。朝早くからごめんなさいね」

 

「いえいえ、自分が言いだしたことですから」

 

かなえさんに挨拶をした直後、もう一つの目的であるアルティナがひょっこりと姿を現す。

 

「おはようございます。カズナリさん」

 

「おはよう、アルルさん。雅家とはどう?」

 

「はい。とても優しい方ばかりで、お世話になっています」

 

「そう? 私はアルルちゃんのお世話になっているわ」

 

「いえ。かなえさまには大変迷惑ばかりを」

 

女子トーク? よく分からないが、そんなものが始まり…終わる気がしないやん。

 

「うん。……アルルさんが馴染んでくれているなら、良かったよ。俺の家じゃ…ね」

 

「イッセーがいるからね~」と言いかけて、話をそらす。

 

「そろそろいこっか。長話してたら、遅刻するだろうし」

 

「そうだね~。いってきます」

 

「いってらっしゃい。麗、和成さん」

 

「御気をつけて」

 

俺と麗は歩き出そうとしていた。

 

その直後、足元を通過する一つの影――。

 

「あら、コロちゃん。今日も元気ね」

 

二足歩行で歩く小さな丸犬のぬいぐるみ…そう、これは帝具。生物型の帝具だ。

 

散歩でこの庭を駆けていたみたい。すごく機嫌がよく、かなえさんに抱えられている。

 

「主、庭の手入れを終えている」

 

「あら、いつもありがとう。スーちゃん」

 

俺より一回りほど大きい、男性がかなえさんと会話をしている。

 

…そう、この人も生物型の帝具。

 

コロは『魔獣変化(まじゅうへんげ)・ ヘカトンケイル』、スーさんは『電光石火(でんこうせっか)・ スサノオ』。二体とも生物型の帝具であり、かなえさんが保持者。

 

「カズ」

 

「は、はい!」

 

スーさんに突然呼ばれたものだから、変に声が裏返る…。

 

「これでよし」

 

スーさんは俺のネクタイを少しいじると、髪の毛を撫でて左右対称に直してくれる。

 

「あ、ありがと」

 

俺は一応礼を言う。

 

スーさんはとても几帳面で、いまみたいに左右が若干でもずれていたり、埃一つでも見つけると、整えたり掃除したりする。

 

俺と麗は手を振りながら、門に向って歩き出す。

 

                    D×D

 

学校の帰り、俺は麗と一緒に買い物を終えていつもと同じ帰路についていた。

 

その帰路の途中、数メートル前方に辺りをきょろきょろとしている人がいる……どう見ても不審だ。

 

…その人物の行動をよく見ると、手元のスマホを見てはきょろきょろ…見てはきょろきょろ……。

 

「迷子かな?」

 

麗がそう呟く。

 

俺と麗はその人物に近づいてみた。

 

帽子をかぶり、サングラスをしている人物…やっぱり不審だ。

 

「あの…何かお困りでしょうか?」

 

俺がそう問うと、その人物は「いいところに!」的な反応で俺と麗を見る。

 

「あ…えっと、すみません。この住所の場所がわからなくて」

 

スマホの地図を見せてくれる……声からして女性?

 

「ここって…」

 

麗が言葉に詰まる……俺もどう答えようか迷ってしまった。

 

「……あ、あの」

 

俺たちの反応に困っているようだ。

 

「えっと…その住所、自分の家の住所なんですが……」

 

俺がそう答えると、女性は「え?」っと俺の顔を見た。

 

「……そ、そうなの? …もしかして、カズちゃん?」

 

カズちゃん……そう呼んだ女性は、帽子とサングラスを外す。

 

…さらっとしたストレートの白髪と白内障のような瞳の目を晒す。

 

「……」

 

俺は声が出ず、唖然とした…その女性には見覚えがあったから。

 

「も、もしかして……なっちゃん?」

 

俺はまだ父さんと母さんが生きていた幼少の頃に、よく遊んでいた幼馴染の少女の名前…愛称を呼んだ。

 

「…やっぱり! カズちゃんだ!!」

 

突然抱き着いてきた幼馴染…。

 

「ちょ、苦しい」

 

「やっと会えた…会えた!」

 

今この状況を見ているのは……麗しかいないみたいだけど、すごく恥ずかしい。

 

幼馴染が俺から離れると、サングラスだけをつけた。

 

「お久しぶりです。今は兵藤って苗字だったね…カズちゃん」

 

幼馴染は頬を赤らめて言う。

 

「えっと……その子は?」

 

麗が不機嫌そうに訊いてくる。

 

「あ、うん。この子は日向奈津美。俺の小さい頃の幼馴染」

 

「日向奈津美と言います」

 

奈津美は名乗ると、俺の腕に抱き着いてきた。

 

「何で抱き着くんだよ」

 

「将来の旦那様だもん。当然でしょ」

 

その瞬間、周囲の空気が凍りついた。

 



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傀儡―かいらい―

 

幼馴染と再会し、その幼馴染が抱き着いてきたおかげで…右腕肘から先が氷漬けになってしまった。

 

…どうしようかと思っていた矢先、九喇嘛が話しかけてきた。

 

《おい、カズ》

 

《何だよ、いきなりテレ飛ばしてきて》

 

《仕方がないだろ、あの堕天使どもが動き出しやがったぞ》

 

俺は人気がない路地に二人を連れ込み、俺たち以外がいないことを確認した俺は……九喇嘛チャクラモードになる。

 

チャクラが衣を成し、悪意の索敵を即開始する。

 

それはすぐに見つかる。

 

《大体の状況は理解したぞ》

 

《あぁ。俺たちはその廃教会へ向かっている》

 

《俺たち?》

 

《三尾を除いた全員が別々のルートから向かっている。カズもとっとと来い》

 

《……行くしかない、選択肢はないし》

 

…選択なんてないよな。

 

《ワシと一尾はエロガキと行動している。他は知らんがな》

 

《了解。俺もすぐに発つよ》

 

会話を終え、二人に言う。

 

「俺は今から堕天使の巣に殴り込みを入れてくる。麗は来ると思うけど、なっちゃん……なつみはどうする? 日向(ひゅうが)って聞いたけど、柔拳を扱えるんだよね?」

 

俺は生きていた時の父さんと母さんに、日向の話を聞いた記憶が残っている。

 

「…そうですね。柔拳法と白眼は扱えます」

 

…やっぱり、あの眼は白眼だったのか…日向でそう感じてはいたけど。

 

「……協力しますよ。…いいえ、私はカズくんのお嫁さんになるんだから、協力というより共同作業ですね」

 

……また、爆弾を投下してきた奈津美。今度は核弾頭並みだぞ!

 

空気が凍り、俺の右腕がさらに凍っていく――。

 

                    D×D

 

俺は二人を連れ…いや、二人をチャクラの腕で鷲掴みした状態で家屋の屋根の上を走っていた。

 

「うん…この間、話してた帝具…そうね……」

 

チャクラの腕の中で麗が携帯で電話をしている……会話内容からして、舞?

 

話を聞きながらってのは事故になりやすいので、俺は麗の会話を聞き流す程度で耳に入れる。

 

俺は状況整理のために、奈津美に話しかける。

 

「なつみ。悪魔と堕天使の気配は分かるか?」

 

「はい。白眼でも見分けられます」

 

「白眼って、そんな能力あったっけ?」

 

「いえ、私は長年の修行で異形の存在を見分けられるように、鍛えてきたつもりです」

 

「そうなのか…。じゃあ、いまからの任務を伝える」

 

「はい」

 

俺はアーシア・アルジェントの事、堕天使の事、悪魔の事、イッセーの事……今起きている現状をすべて奈津美に説明した。

 

                    D×D

 

走ること数分、目的地の廃教会にたどり着き――屋根の上に着地する。

 

「結構速かったね…マイ」

 

「…お姉ちゃんこそ、すごく速かったよ」

 

磯撫に抱えられて隣に降り立った舞。

 

俺は九喇嘛チャクラモードを解除し、皆と共に身を伏せる。

 

「この教会ね。はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)と堕天使がいるところは」

 

「はい、私の白眼で見えるのは……はぐれ悪魔祓いが百名ほど。堕天使が一人と……」

 

「なつみ、どうした?」

 

「…いえ、奪取目標の聖女さんですが、十字架に磔にされた状態です」

 

「……酷いよ、磔なんて」

 

「そうだな。…磯撫、皆に連絡してくれた?」

 

「うん。九喇嘛と守鶴以外はここの周囲で見張ってるって言ってた」

 

麗と舞、俺、奈津美、磯撫で教会の外屋根の上に潜み、中の様子をうかがっていた。

 

…突然、奈津美が顔を上げて、屋根で見えない向こう側をうかがうように、白眼で凝視し出す!

 

「……カズくん、六時の方向に悪魔の女性二人、堕天使三人を発見しました」

 

「堕天使が三人……あいつらだな」

 

「どうするの? カズくん」

 

「どうするたって、先輩二人でも十分と思うんだが…」

 

「マイの骸人形にしたいなぁ…あの三人」

 

『!?』

 

俺と奈津美は舞の言葉に驚く……麗と磯撫は感づいていたのか、全く気にしていない様子だった。

 

俺は思考を巡らし、優先と遂行の効率、諸々の状況を模索する。

 

…そして、四人に指示を出す。

 

「……マイとレイ、俺の三人で先輩たちの間に割り込む。磯撫となつみは付近の物陰に隠れて、必要に応じて仕掛けてほしい。……その間は、絶対に感づかれたりしないでくれよ?」

 

「はい、カズくん」

 

「うん、わかった」

 

「散!!」

 

俺の掛け声とともに全員が動き出す。

 

俺と麗と舞はグレモリー先輩たちの方へ駆け出し、磯撫と奈津美は別々の方向から回り込みをかける。

 

「マイ、例のもの持ってきてる?」

 

「うん。ここにあるよ」

 

走っている途中で麗の質問に舞が服をたくし上げて答える。そこには、帝具の一つ『百獣王化(ひゃくじゅうおうか)・ライオネル』のベルトが巻かれていた。

 

「マイ、そのベルト…確か…」

 

「うん。宝玉が割れてたけど、お母さんが帝具で直しちゃった」

 

俺の疑問に舞が即答してきた…そんなことができるの?

 

「いくよ。ライオネルっ!!」

 

掛け声とともに舞の全身が輝きだし、光が止むとそこには……体を成長させ、髪を伸ばし、両手は獣の手と化し、頭部には耳が生えている。

 

「私も開放するわ!」

 

パキッ!! と周囲の草木が一瞬で凍りつき、麗の体を青い光と氷の結晶が包み込んでいく。

 

麗がその光と結晶を払った時には……一回り成長した麗の姿がそこにあった。

 

「……何だ?」

 

口調の変わった麗が俺を見るや否や、鋭い目で見てくる。

 

「……さてと、俺も使うかな」

 

話をそらすように、俺は体内のチャクラを一気に練り上げると共に周囲――自然に存在しているチャクラを取り込んで仙術へ変化させていく。

 

木々の枝を足場にして、俺たちは飛ぶように走る。

 

少し走ると……目の前に結界が張られているのを認識して、手前に飛び降りて立ち止まる。

 

「グレモリーの紋…この中にいる」

 

舞が結界に触れ、そう言う。

 

「……俺が突き破る」

 

俺は尾獣たちの中から、物理に秀でたチャクラを引き出す。

 

「尾獣降ろし――穆王!!」

 

溢れ出る穆王のチャクラと共に、頭部には角が、腰あたりに五本の尾が生える。

 

沸遁(ふっとん)怪力無双(かいりきむそう)!!」

 

俺は体内のチャクラを沸点まで高め、周囲に蒸気を放出させた。

 

「オラァァァ!!!」

 

パリンッ!!

 

全体重を載せた一撃の拳打で、結界が儚く砕けた……脆っ!?

 

「先に行くよっ」

 

舞が呆けに取られていた俺の横を高速で走っていく。

 

「おっと…」

 

俺も麗と共に舞の後ろを追いかける。

 

すぐに開けた場所が見え、先輩二人の背が見えたので……頭上を飛び越えて乱入する!

 

「乱入御免!」

 

俺は着地と同時に決め文句を吐く。

 

俺の左隣に麗が華麗に着地し、右隣に舞が派手に急ブレーキをかけて砂埃を巻き上げる。

 

「ちょ、ちょっと! あなたたち、危ないじゃない!」

 

魔力を放とうとしていたグレモリー先輩が、怒声と共に消滅の魔力を霧散させた。

 

「すみません、グレモリー先輩。あの三人の相手を譲ってもらえませんか?」

 

俺はグレモリー先輩に背を向けたまま物申す。

 

「何を考えているの? あなたたち、あの堕天使たちは――」

 

「お気持ち、お察しします。グレモリー先輩のさっきの魔力、相当な怒気を含んでいました…察するに、グレモリー先輩の怒りに触れる何かがあったものだと感じています。…ですが、それはこちらも同じ……いえ、それ以上だと思います。ですから、この場を俺たちに譲っていただけませんか?」

 

俺は柔らかく、そして…怒気を含んだ声音でグレモリー先輩に言った。

 

「……そう、少し理解し難いけれど……わかったわ」

 

「あらあら、よろしいですの? リアス」

 

「ええ。……私はイッセーのところに向かうわ」

 

「了解いたしましたわ。少々お待ちを」

 

後方で先輩二人の会話が聞こえ、数秒後――赤い光と共に気配が消えた。

 

「あっ! 逃げられた!!」

 

「ふんっ! 三下が出てきただけか」

 

「あの方の手土産にもならんな」

 

ミッテルト、紳士的な風貌の男、カラワーナがそう吐いた。

 

「三下はどっちかな? マイから見れば、そっちの方が弱そうに見えるけど?」

 

舞が喧嘩文句を言い終えた瞬間、俺と舞は高速で飛び出す!

 

『この三下風情が――』

 

「私を忘れていないか?」

 

俺と舞に気を取られている三人に向け、麗が氷で作った三本の太い槍をそれぞれ同時に放つ!

 

「くっ!」

 

「あー、もう!」

 

「ちょこまかと!」

 

三人が槍を弾いた瞬間、男が弾いた槍の陰から隠れていた舞が姿を現す!

 

「ドーナシーク!」

 

ミッテルトが男に向けて叫ぶ。……あいつ、ドーナシークって言うのか。

 

ドンッ!

 

舞の強烈な蹴りが低く鈍い打撃音と共にドーナシークを吹っ飛ばす!

 

「行くぞ、マイ!」

 

後方へ回り込んでいた俺は、掛け声とともに舞の方へドーナシークを蹴り返す!

 

ダンッ!

 

一旦地面に着地した舞は、背負っている八房を鞘から抜き、地面をクレーターができる勢いで蹴り――、

 

「まずは一人!」

 

ドーナシークの胸を貫き、その勢いのまま……木の幹を貫いて、地面に叩きつけた!

 

クレーターの中心で息絶えたドーナシークが横たわる……心臓を貫いたみたい。

 

「嘘っしょ!? こんなに強くなかったはず――」

 

「嘘じゃないよ」

 

「ひっ!!」

 

俺が眼前に現れて言うと、驚愕と恐怖で表情が歪むミッテルト。

 

その状態から瞬時に両手を組んで、脳天に叩き込む!

 

ドゴォォン!!

 

地面に叩きつけられたミッテルトは、小さいクレーターを作る。

 

頭部から血を流し、ピクリとも動かない…いや、意識はあるようで、口をパクパクと動かしている。

 

「逃がすとでも思った?」

 

舞が四肢を氷の槍に貫かれて、仰向けに地面に固定されているカラワーナの傍らに立つ。

 

「た、助けて…何でも…するから……」

 

「ダ~メ! 目が全然変わってないもん。少しでも後悔と苛まれている色があったら、助けてあげてもいいかなーって思ったんだけどね。何も変わってないから、処刑!」

 

舞が八房を振り上げて――、

 

ドォォォン!!

 

クレーターができる勢いでカラワーナの胸――心臓を貫いて絶命させた。

 

「あとは…ミッテルトだけだな」

 

俺はミッテルトの傍らに片膝をついてしゃがむ。

 

「……たす…けて…」

 

ミッテルトは涙を流し、後悔の色を瞳に映していた。

 

「ミッテルト、おまえを助けたいと一瞬思ったが…悪いな。もう少し前に…俺を襲った初めの日にその瞳をしていれば、運命は変わっていたのかもな」

 

傍らに立った舞から八房を受け取り、瞳の光を閉じたミッテルトの胸――心臓を貫いた。

 

「もう一つ、やらないとな」

 

話に聞いていたこと…純粋な堕天使は、死を迎えると魂は無に変える。そうなられては、罪を償えないからな。

 

…俺は六道仙人の姿になり、宙に三本の黒い杖を出現させる。

 

「十王――閻魔のところで裁きを受けよ」

 

その三本の杖を、堕天使三人の亡骸に突き立てた。

 

その直後、堕天使の翼が散りゆくように消滅していく。

 

……そう、堕天使としての存在――魂そのものを人間のものへと昇華させた。

 

能力は継承しているが、二度と翼は出現できない……骸人形でもな。

 

「あとは……レイナーレだけか」

 

俺はふわふわと宙に浮遊し、移動しようとしていた。

 

「あ! 一人だけ空飛ぶのずるい!!」

 

舞が宙に浮いている俺に指を突き付けて、そう叫ぶ。

 

俺は舞と麗を見て…ため息を吐く。

 

「わかったよ…ほら、これに乗って」

 

求道玉二つを平たくして、二人を乗せ……俺と同じ速度で二人を乗せている求道玉を動かして、教会へ向かう。

 

「……って、まだ持ってきてるのか、マイ」

 

舞がどこから出したのかわからない帝具――化粧箱を出していた。

 

「いいじゃん。ちょっと演劇でもしようかなって思って、持ってきた」

 

舞の言葉に俺はうなずき、磯撫にテレパシーを送る。

 

《…磯撫、奈津美を連れて先に教会へ向かってくれるか?》

 

《もう向かってるよ。さっき、三人が飛んで行くのが見えたから》

 

《そうか……俺たちは上から侵入する。磯撫たちは表から頼んだ》

 

《任せて》

 

磯撫との通信を終え、俺は一つあくびをする。

 

…さて、演劇を始めますか。

 



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変身

メイクアップを終えた俺と麗と舞は、イッセーたちが殴り込んでいる廃教会の屋根の陰に潜んでいる。

 

気配を完全に消し、天窓から様子をうかがっていたら…穴が開いている壁から、白髪の青年…容姿から見て、神父が走り去っていくのが見えた…強烈な悪意と共に。

 

天井が脆くなっているせいだろうか隙間がいくつも開いており、中の音や声がよく聞こえる。

 

「さて、下僕にも捨てられた堕天使レイナーレ。哀れね」

 

死を悟ったのか、震えだした堕天使レイナーレ。

 

その視線がイッセーに移る。途端に媚びた目をする。

 

「イッセーくん! 私を助けて!」

 

その声はイッセーの元カノ――天野夕麻のものだ。

 

「この悪魔が私を殺そうとしてるの! 私、あなたのことが大好きよ! 愛している! だから、一緒にこの悪魔を倒しましょう!」

 

衣服も堕天使のものから天野夕麻のものへ変化させて、涙を浮かべながらイッセーへ懇願する。

 

「グッバイ。俺の恋。部長、もう限界っス……。頼みます……」

 

それを聞いた途端、堕天使レイナーレは表情を凍らせていた。

 

「……私のかわいい下僕に言い寄るな。消し飛べ」

 

グレモリー先輩の手に魔力が集まりだす。

 

……このタイミングだ!!

 

俺は立ち上がると共に、背に堕天使の翼を展開し光の槍を二本出現させ…思い切り放つ!!

 

その槍は天窓を破壊し、背を向けているグレモリー先輩へ襲い掛かる。

 

パキンッ!!

 

槍は禍々しい気配の剣を持った木場に切り伏せられ、手元に魔方陣を出現させて結界を作りだした姫島先輩の二人によって防がれた。

 

ドォォォン!!

 

俺の足元が消し飛ぶ!! グレモリー先輩がレイナーレに向けていた魔力の矛先を俺に向けてきた。

 

予想通りの動きを見せてくれたので、俺は翼を羽ばたかせ……レイナーレの眼前に着地する。

 

麗と舞も同じように翼を羽ばたかせて、レイナーレの眼前に着地した。

 

「レイナーレさま!! ご無事で!」

 

「一旦引くっすよ。ドーナシーク!」

 

「言われなくとも分かっている」

 

カラワーナの姿の舞とミッテルトの姿の麗がレイナーレに肩を貸し、ドーナシークの姿の俺が両手に光の槍を持って対峙する。

 

「どういうこと!? あの三人はどうしたの!」

 

グレモリー先輩が俺たちを睨みつけ、問うてくる。

 

「全くの無問題(モウマンタイ)。ちょっと本気見せたら、尻尾巻いて逃げていったすよぉ」

 

ミッテルト()がそう言ってカラワーナ()と共にレイナーレを連れて、崩れた天井から脱出する。

 

「グレモリー嬢。今度こそ、()()()()()()()()()()()()()だろう。見えた時こそ、最後の時だと思うことだ」

 

追撃しようとするメンバーに向け、光の槍を放っておく。

 

一瞬だけでも時間が稼げれば逃げられる……文字通り、逃げられたけど。

 

《迫真の演技、お疲れ》

 

磯撫からテレパシーが届き、俺はため息を吐く。

 

《あぁ。俺たちがメイクアップしていることと、レイナーレを始末することを伝えておいてくれる?》

 

《うん。なつみには実況させる》

 

《実況って……まあ、いいや》

 

磯撫と話し終えた直後、又旅が話しかけてきた。

 

《カズ。あの子の神 器(セイクリッド・ギア)なんだけど、その堕天使が奪った挙句、その体の中に入れてしまってるわよ》

 

《あの治癒するやつ? 入れてるってことは、取り出さないといけないのか…》

 

《そういうことよ。……胸に刻印があるでしょ? それが移植した時の痕よ》

 

《何とかして抜いてみる》

 

《イッセーくんたちに話しておくわ。いきなりでパニックになってるからね》

 

《りょーかい。頼みます》

 

又旅とも話を終え、俺は誰も追ってきてないことを確認して、殿から三人の前に出てすぐに近くの木々の陰に着地する。

 

「レイナーレさま。お背中を」

 

「悪いわね……助けに来てくれて助かったわ」

 

「滅相もありません。……今から、中にある神 器(セイクリッド・ギア)を抜き出しますので」

 

俺の言葉を聞いた瞬間、レイナーレの表情が凍りつく。

 

「う、裏切るつもり!?」

 

「裏切るも何も。元から俺たちはあんたの味方じゃないですよ」

 

口調を戻し、ボフン! とメイクアップを解いた俺たちを見て、レイナーレは目を見開いた。

 

「あんたたちが神 器(セイクリッド・ギア)と間違えてレイとマイを襲った。神 器(セイクリッド・ギア)じゃなく、帝具……この二人が持っているのは、旧世代が残した禁忌の遺産なんだよ」

 

「旧世代の遺産……!! あれは眉唾じゃなかったの!?」

 

「いや、私とマイが持っているのは正真正銘『帝具』。今のは『変身自在(へんしんじざい)・ ガイアファンデーション』。使用者をあらゆる姿に変身させる能力がある帝具だ。そしてこれが――」

 

瞬時にレイナーレの四肢が凍結され、足は地面に固定される。

 

「私の帝具『魔神顕現(まじんけんげん)・ デモンズエキス』。正規の流れで手に入れた力じゃないが、有無関係なしに氷を作れる。今のようにな」

 

麗が俺の方を向く……分かりましたよ。

 

「堕天使レイナーレ。今あんたの中にある神 器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を返してもらう」

 

「い、嫌よ!!」

 

「往生際が悪いね…お姉ちゃん、例のあれで拷問でもする?」

 

「あれか…ちょうど試す相手がいなかったからな」

 

二人の目がギラリと光ったのを見て、俺は止めに入る。

 

「待て待て。神 器(セイクリッド・ギア)を取り出す方が先だろ」

 

「取り出したら死ぬんでしょ? お姉ちゃんの()()を試せないじゃん」

 

「あーもう! 時と場合だろうに。……もう自棄だ!」

 

俺は歯止めがかからないことを悟り、印を組む。

 

右腕から半透明の腕が伸び、レイナーレの胸部に侵入する!

 

「ヤ……イヤァァァァァっっ!!」

 

断末魔を上げるレイナーレ。

 

何かを掴んだ感覚があったので、俺は間をあけずに引っ張り抜いた。

 

半透明の腕が右腕に戻り、その手の中には……一組の指輪が淡く光り輝いていた。

 

「これがアーシア・アルジェントの神 器(セイクリッド・ギア)。優しい光……」

 

俺は懐から巻物を取り出すと、広げて中央に置き……印を組んで別空間に飛ばして保管する。

 

ぐったりとしたレイナーレに舞が近づき、顎を持ち上げる。

 

「お姉ちゃんの拷問にはかけられなかったけど、どう? 死を間近に感じる感覚は…?」

 

「わ……私は…まだ…死ねない……!!」

 

レイナーレの目に光が灯っているが、顔は蒼白で呼吸もままならない状態だ。

 

「そっかぁ。じゃあ、私の骸人形にしてあげる…あの三人と一緒のね」

 

それを聞いた瞬間、レイナーレの表情が歪みだす。

 

舞は太腿に括っていた八房を鞘から抜き、躊躇なしでレイナーレの胸部――心臓に突き立てた。

 

大きく吐血して目から光を失っていくレイナーレ。俺は六道仙人の姿になり、出現させた杖を魂に刺して人のものへと昇華させる。

 

八房の刀身が光り輝き、光が消えたときにはレイナーレの骸は消えていた。

 

…あとは、グレモリー先輩に神 器(セイクリッド・ギア)を渡すだけか。

 

ちょうど今、又旅から連絡が入ってきたところだった。

 

『アーシア・アルジェントが、リアス・グレモリーの力で蘇った』と。

 

…ということは、イッセー同様、悪魔として蘇ったということになる。

 

「…さて、皆のところに戻ろう。目的も達したし、アーシアさんは生き返ったみたいだし」

 

「生き返ったの? それじゃあ……」

 

「聖女が悪魔になったってところ」

 

俺は帰ろうとして、一歩前に踏み出した瞬間……肩を麗に掴まれた。

 

「例のあれの実験台……カズがなれ」

 

「え!? 拷問にかけられるの? 俺」

 

「レイナーレがいないから、私の楽しみがなくなった」

 

「……すみません」

 

俺は力を解いた麗を抱えて走った。舞はまだ持つらしく、俺のあとを走ってついてきていた。

 

……帰ったら、その拷問に俺は耐えられるのか?

 

そんなことを思いながら、イッセーたちが待機している廃教会へ向けて走った。

 



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転校生

「おはようございます。カズくん」

 

いつもと同じく学校の正門で待ち合わせていた俺と麗。

 

先日、俺は取り返した神 器(セイクリッド・ギア)をグレモリー先輩に渡し、麗たちを送った直後に拷問室に連れていかれて、例のあれの実験台になった。

 

解放されたて帰宅したのは夜中の三時過ぎ。爆睡してしまい、母さんからたたき起こされる羽目となった今朝。

 

イッセーは珍しく、早起きして学校へ登校しているらしく…朝食は寝坊しかけた俺一人だけの寂しいものだった。

 

慌てて家を出たから……何か忘れているような気がするんだけど…。

 

いつものように正門から入って下足へ向かう俺と麗。……いつもは気にしてなかったが、周囲の生徒の視線が気になる。

 

チラチラと見られているんだが、俺の服装に何か問題でもあるのかな…?

 

…麗を見ても、何も変わっていない。やっぱり俺なの?

 

下足から教室に入るまで、廊下や階段ですれ違う生徒たちの視線が一段と増しているような…。

 

教室に入って時計を確認すると、八時を過ぎていた。

 

席に座って教科書を出していると、クラスの女子が周囲に集まりだした。

 

いつも以上の集まりに俺は困惑する。…誰も話しかけてくることはないし、余計に困惑してしまう。

 

その中から一人、俺に手鏡を手渡してくる女生徒がいた……片瀬だ。

 

「その…髪の色が違ったから」

 

その一言を聞いた直後、俺は素早くその手鏡で……自分の髪を見た。

 

髪は…し、白? 白!? 白ぉぉぉぉぉっ!!

 

麗の方を見ると、本人はとっくに気がついていたらしく…俺に向けて笑顔で手を合わせていた。

 

女子たちは「白もいいよね!」とか「カズナリくんも髪染めたりするんだね」と元気づけようとしているのか、そう言ってくる。

 

「あ、その……この髪の色、地毛なんです」

 

その瞬間、教室の空気が固まり――、

 

「ウソぉ!?」

 

「それ、地毛なの!?」

 

「いつも黒だったし、そっちが地毛だと思ってたよ!」

 

十人十色……女子たちの黄色い声が四方八方から聞こえる。それに続いて男子どもの嫉妬と皮肉を込めた声も聞こえてきた。

 

「ホントに地毛だよ! 眉の色も白だし!」

 

「ホントだ! カズナリくん、明日からその髪で来てよ!」

 

……なんか、怖がられるより…むしろ、気に入ってる様子に見えるんだけど…ここの女子。

 

キャーキャーと黄色い声もホームルームが始まると静かになり、担任教師が入ってくる。

 

「はい、静かに。ホームルームを始めるぞ」

 

いつもの口調でそう言う担任教師……だったが、次にいつもと違う発言が出てきた。

 

「今から転校生を紹介する。二人とも入ってきなさい」

 

すると、静まり返った教室のドアが開き、廊下から二人の女子生徒が入ってきた。

 

教壇に立った二人に担任教師が言う。

 

「そうだね。キミから自己紹介をしてくれるかね」

 

「はい」

 

金髪ロングの少女は、微笑みを浮かべて言う。

 

「アーシア・アルジェントと申します。慣れないことも多いですが、よろしくお願いします」

 

その女生徒の自己紹介が終わった直後、男子どもの歓喜の声が上がる。

 

「静かにしろ。まだ終わってないぞ」

 

担任教師の一喝に、静まる男子ども。

 

「自己紹介を続けてください」

 

「はい」

 

続くように返事をして、白髪で白い瞳の澄んだ視線で言う女生徒。

 

「日向奈津美と申します。先に言っておきますが、私は先天性の白子症――アルビノ体質です。髪と瞳は体質で白色ですが、視力はあります。怖がらずに声をかけてください」

 

その自己紹介に静まったかと思ったが――、

 

「おぉぉぉぉおおっ!!」

 

「金髪美少女と白髪美少女」

 

男子どもから歓喜の声が上がる。

 

……いやぁ、気になったが…これなら解けこめそうだ。…アルビノ体質ねぇ。考えはいいけど、若干病状が違うからね……バレないと思うけど。

 

「二人の強い希望でここのクラスに編入している。仲良くするように」

 

担任教師が釘を刺したが、男子どもはテンションが上がりきっている状態で耳に入らないようだ。

 

そんな中、笑顔のアーシアさんが……トンでも発言をする。

 

「私はいま、兵藤一誠さんのお宅にホームステイしています」

 

爆弾発言だ…イッセーにとっての。

 

「何!?」

 

クラスの男子どもが鋭い視線を放ちながら、イッセーのところに集まりだす。

 

「どういうことだ! なぜ金髪美少女とおまえが一つ屋根の下に!」

 

「なぜ貴様の鼻先ばかりに、フラグが立つ状況が!」

 

「俺が決めたんじゃねぇって!」

 

松田と元浜に責められているイッセー…おつかれさまです。

 

「昨日ぶり! 開いている席は…あった」

 

俺の右斜め後ろに一つ、空いている席がある。

 

奈津美が俺に向けて笑顔で言う。

 

「これからよろしくね――」

 

その言葉は、麗にとって十分すぎる爆弾だった。

 

()()()

 

昨日もそうだったが、核弾頭のさらに上を行く原爆というものを投下してきたぞ!

 

「へぇ――」

 

学校ではお嬢様な雰囲気の麗も、この時ばかりは冷酷な態度になっていた。

 

「昨日から思ってたけど、幼馴染ってだけでどういうつもり?」

 

奈津美も気圧されることなく、堂々と向かっていく。

 

「言っていませんでしたでしょうか? それでしたら、改めて宣言させていただきます」

 

その言葉は、クラスの全員を驚かすような程の威力を見せた。

 

「私とカズちゃんは、幼い頃からの許婚です。……お父さまから最近聞いたばかりですが」

 

『い、許婚!?』

 

クラスの全員(アーシアさんと担任教師以外)が声を合わせて驚いた。…俺もだ。

 

「そういうことですから、いまの関係がどうであろうと、手を引いてもらいます」

 

「……そんなこと、関係ないわ」

 

二人の交差する視線の間に、火花が激しく散っている……俺の目にそう映っているような気がした…間違いなく。

 

……これから、俺はどうなるんだろうな~。と、まだ見えぬ先をぼんやりと予想する俺であった。

 



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戦闘校舎のフェニックス
揃う雅家


早朝…いつものうるさい目覚ましで目が覚め、伸びを一つしてベッドを下りる。

 

「…まだ五時か」

 

時計を確認して、俺はそそくさとジャージに着替える。

 

ここ一週間、イッセーが早くからグレモリー先輩と早朝トレーニングに出だしたため、俺も乗じて雅家に早くから顔を出していた。

 

「おはようございます」

 

「あら、朝早くから元気なのね」

 

「いえ。最近、弟が部活の早朝トレーニングをしていまして。自分も負けていらないと思ったので」

 

「そう、大変なのね」

 

「あはは…」

 

俺は玄関で麗のお母さん…かなえさんと話をしていた。

 

「羨ましいわ。若いって」

 

「いえいえ。かなえさん、すごく若いですよ」

 

「あら、嬉しいわ」

 

頬に手を当てて喜ぶかなえさん。

 

「あらあら、どうしましょう? 和成さんにナンパされちゃったわ」

 

「な…ナンパって…」

 

かなえさんの視線が俺の背後を見ている…俺は後ろを振り向く。

 

「久しぶりだね、和成くん。妻を褒めても、何も出ないよ?」

 

「……お久しぶりです。将志さん」

 

目の前には、海外から帰ってきていた将志さんがいた。

 

「はいこれ、お土産ね。兵藤ご夫妻はお元気なのかな?」

 

「はい。困るほど元気ですよ」

 

「そうかそうか! それは何より」

 

笑ってかなえさんの隣に立つ将志さん。

 

「おや? そこにいるのは、麗ちゃんと舞ちゃんじゃないのかな?」

 

「お帰りなさい、お父さん」

 

「お帰り」

 

二人はロビーの階段を下りてきて、挨拶を交わす。

 

「お帰りなさいませ。将志さま」

 

「おっ! 新人の家政婦さんかな?」

 

「将志さん、この()はアルルちゃん。先日から、預かっている転生悪魔の娘なの」

 

「転生悪魔のね…。うんうん、大丈夫だと思うな。あの総督くんなら」

 

「…総督? お父さん、その人って誰なの?」

 

「あれ? 会っていると思うんだけど…。ほら、度々来ているでしょ。僕のスポンサーの人」

 

「…あのエッチな話する人?」

 

「そうそう! 堕天使の総督だけど、すごく楽しい人だからねぇ。見た目は悪っぽいけどっ」

 

笑いながらそう言う将志さん。

 

「だ、堕天使って…グレモリー先輩たちが聞いたら、面倒なことになるじゃん…」

 

「グレモリー? ん~、どこかで聞いたような…」

 

将志さんが考える素振りで、「ん~」と唸っている。

 

「お父さん。その総督の人のことは、他の人の前で話さないでね。悪魔の人たちに聞かれたら、私たちの身が危なくなるのですから」

 

「そうだね~。犬猿の仲とか聞いたし、他言無用にしておくよ~」

 

麗の忠告を微笑みながら頷いた将志さん。

 

「そういえば、麗ちゃんと和成くんはもうしたのかなぁ。孫はまだできないのかな~?」

 

「んなふっ!!」

 

俺は将志さんのデッドボールに卵が破裂したような声を上げ、麗は顔を真っ赤に赤らめていた。

 

「あらあら。二人とも反応が初々しいわ。……将志さん、孫の顔が見たい気持ちは察しますけど、まだ学生ですよ?」

 

「あ~、そうだったね~。…和成くんは何歳?」

 

「え? あ、十七です」

 

「そっかぁ~。十八歳なら、麗のこと任せてもいいかな~って思ったんだけどねぇ」

 

「もうっ! お父さん!」

 

顔を真っ赤に赤らめた麗が、必死に将志さんへ抗議しだす。

 

麗との初体験……。

 

俺は少し妄想してしまったが、顔が余計に熱くなりそうだったので、頭を振って思考を消す。

 

「もう、お父さんのことなんか知らないっ」

 

「あらら。パパ、麗ちゃんに嫌われちゃったね」

 

頬を膨らませて拗ねた麗がこっちを向くと、途端に顔を真っ赤に爆発させて……下を向いてしまった。

 

やめてっ! 俺も恥ずかしさ全開だから! この場を逃げ出したいから!

 

「ところで、そこの女の子はどなた様かな?」

 

将志さんが俺たちの後方へ視線を向けて言う。

 

「な、なっちゃん!?」

 

俺は驚いて、つい叫んでしまった。

 

「おはようございます。カズちゃん」

 

奈津美は俺に挨拶すると、一歩前に出て頭を下げる。

 

「朝早くから申し訳ありません。私は日向奈津美と申します」

 

「あら、あなたが麗ちゃんの恋のライバルさん? あらあら」

 

「そ、その…私は……」

 

なつみも『許婚』と言おうとしているが……さすがに言いにくいようで、ごもごもと口ごもっていた。

 

「ふふふ。気にしなくてもよろしいのですよ? 許婚のこと」

 

「か、かなえさん! 知ってたんですか?」

 

俺の問いかけに頷くかなえさん……マジか。

 

「…そうね。又旅ちゃんから聞いちゃったってところかしら?」

 

「又旅…」

 

俺は恥ずかしさと申し訳なさで意気消沈してしまう。

 

「あら。和成くん、許婚がいても構わないのよ? そのほうが楽しいと思うわ」

 

「お母さんっ!」

 

かなえさんの言葉に麗が抗議しようとすると、かなえさんはその細くて綺麗な人差し指をそっと麗の唇に当てて黙らせてしまった。

 

「麗ちゃん、ママはどうしてそう言ったと思う?」

 

「…………」

 

麗はかなえさんの問いに声を出さず首を横に振る。

 

かなえさんは話を続ける。

 

「ママはこう思っているのよ。女の子は恋敵(ライバル)がいればいるほど、女を磨いて綺麗になろうとするの。ズルい子もいるかもしれないけど、好きな男の子に振り向いてもらったり、手を繋いで横を歩いたりすることは誰でも願っているの」

 

そう言って、かなえさんはなつみを見て言う

 

「なつみさん、私の目は間違っていないと思います。麗ちゃんとお互い正々堂々と競って、和成くんを魅了してみなさい」

 

かなえさんの言葉に俺や麗、奈津美は驚いた。

 

「ママは、アルルちゃんを応援しちゃうけどね!」

 

「か、かなえさま!」

 

かなえさんは驚いている俺たちをよそに、後ろで立っていたアルティナに抱き着きながらそう言った。

 

「だって、アルルちゃんも和成くんのことが好きなんでしょ?」

 

「わ、私は…」

 

「ほ~ら、素直になりなさい。身分は使用人でも、女の子でしょ? 叶わない恋かもしれなくても、一歩を踏み出して挑戦することが大事なの。…告白しちゃいなさい」

 

最後に言った言かなえさんの言葉は聞き取れなかったが、相当すごい爆弾なのは空気からして察していた。

 

何かを決意して俺に歩み寄ってくるアルティナ…頬が赤い。

 

「そ、その…カズナリさん。私…アルティナは…その、あ、あなた…のことが……」

 

次の瞬間、麗と奈津美の視線が俺の背に突き刺さるほどの爆弾をアルティナが言った。

 

「好きですっ! お姉ちゃんを苦しみから解放してもらって、ここ…雅家の使用人として住まわせてもらえるように頼み込んでくださったり、感謝し尽くせないほどの御恩をいただきました。だから、私はカズナリさんのことが好きです。一人の男性として好きです」

 

告白された俺は固まったままどうしたらいいのか迷い、口を開いた。

 

「あ、ありがとう。アルル」

 

つい、親近感的なものが出たせいか、この空気のせいか、アルティナのことを愛称で呼んでしまった!

 

「……っ!」

 

感無量になったのか、涙目で表情を綻ばせるアルティナ。

 

「これからが楽しみになるわ! そうよね? あなた」

 

「そうだね~。麗ちゃんに二人もライバルがいるなんてね~。頑張れ! 和成くん!」

 

……な、何で俺!?

 

「いや~、男の甲斐性だよっ。三人も思ってくれる女の子がいるのは、すごくいいことだねぇ」

 

「いやいや! それって良いことなんですか!?」

 

「そうだよ~。多重婚は日本じゃ無理だけど、他の国とかならあるよぉ。一夫多妻とかね」

 

やめて! 一夫多妻とか、俺の身がもちそうにないですから!

 

「甲斐性の見せ場だよ、和成くん! 娘二人の孫の顔楽しみに待ってるからね!」

 

「娘……麗ちゃんとアルルちゃんを頼みますわ。和成さん」

 

雅家御夫妻は、仲良く俺にそう言った。

 

「かなえ、孫の顔が楽しみだねぇ」

 

「そうですね。…そういえば、舞ちゃんが『妹がほしい』って言っていましたわ」

 

「妹か…僕たちもまだまだ若いからね~。励もうか?」

 

「そうですね~。私もまだまだ若いですからね……赤ちゃんの一人や二人くらいはいけますよ~」

 

御夫妻はそう話しながら、屋内へ消えていった。

 

『…………っ』

 

俺たちはその会話に頬赤らめながら絶句していた。

 

「……皆さん、おはようございます。…どうかなされたのですか?」

 

数十秒が経ち、穆王が俺たちの前に現れた。

 

「い、いや……何かすごいな~って思ってさ」

 

「……はて?」

 

頭の上に『?』を浮かべながら首を傾げる穆王。

 

「…っと、そうでした。カズ、マイを見ませんでした?」

 

「マイならそこに…あれ?」

 

さっきまで舞がいた場所に、舞の姿がなかった。

 

「そうですか……。いえ、探しますので御心配なく。修行の方、頑張ってください」

 

そう言うと、穆王は屋内に消えていった。

 

「修行……あ! 九喇嘛と牛鬼からあったんだ!」

 

俺は今日の目的を思い出し、慌てて目的の場所へ入りだそうとしていた。

 

「レイたちは……?」

 

「そ、その……私は部屋に戻るね!」

 

「私は……麗さんに用があったので、一緒にお部屋で」

 

「私は仕事の途中ですので、職場へ…」

 

三人とも恥ずかしそうに言って、それぞれも目的のある場所に向かって行ってしまった。

 

……遅刻だぁぁ!!

 

大きく修行の開始時間を超している俺は、慌てて目的の場所へ駆けていった。

 



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新術

ドォォォォン!!

 

襲いくる触手のような尾を瞬時に避け、薙ぎ払われる腕をかいくぐりながら印を結ぶ。

 

「火遁、豪火球弐式!!」

 

二発の特大の火球を放つが、二体は尾を払うだけで消し去る。

 

《その程度じゃあ、ワシは倒せんぞ!》

 

九喇嘛が獣化した右腕を振り下ろす!

 

ドォオオン!!

 

地が抉れるほどの勢い!

 

俺は瞬時に影分身を作りだして、駆ける勢いを残したままブン投げられる。

 

ダッ! と大岩を蹴りつけ、影分身を二体作りだす。

 

ギュォォォォォオオンッ!!

 

突き出した両手に特大の螺旋丸を作りだし、影分身がそれぞれに性質変化を加えていく!

 

「風遁、螺旋手裏剣!!」

 

左手の螺旋丸を九喇嘛目がけてブン投げる!

 

甲高い音と共に九喇嘛目がけて接近する螺旋手裏剣。

 

「もういっちょ!!」

 

スパークノイズが響き、被雷した地面が砕けて飛び散る!

 

螺旋手裏剣の真上に飛びあがり、そこに雷遁・螺旋丸を叩きつける!

 

閃遁(せんとん)槍嵐手裏剣(そうらんしゅりけん)!!」

 

嵐の如く四方八方に飛び散る雷の槍と共に、九喇嘛へ急接近する!!

 

《甘いぞ!!》

 

九喇嘛は尾獣化し、一瞬で作り上げた威力の小さい尾獣玉をぶつけ――、

 

ドオォォォォォォォッッ!!

 

遥か上空で爆発した二つ…爆風がここまで届く!!

 

爆風の余波で上空の雲が消え、眩しい太陽が顔を出す。

 

ジリリリリリリ――。

 

修行時間を終えるベルが鳴り響き、俺と九喇嘛は構えを解く。

 

九喇嘛は人の姿になると、大きく欠伸をした。

 

「まだまだ威力が足りんな。ワシの最低威力の尾獣玉で相殺とは…」

 

「仕方がないでしょ。仙術でも尾獣降ろしでもないんだから」

 

「まあ、やるようにはなったって感じだな」

 

狐耳を出して、ピコピコと動かしている…見る人から見れば、怪しいのか可愛いのかわからないが。

 

「獲ってきたぞー」

 

海辺から人型の牛鬼が姿を現す……手には大量の魚介が入った網が握られている。

 

「おっ、今日は魚の日か?」

 

「あぁ。クロマグロも獲ってきてるぞ」

 

牛鬼は一本のタコ足を持ち上げる……その先には獲れたてのクロマグロがぁぁぁ!?

 

「獲ってきた場所は訊くなよ?」

 

「先読みされた!?」

 

俺は訊きたかったことに釘を刺され、しょんぼりする。

 

「まあ、何でもいい。とっとと帰るぞ!」

 

九喇嘛が懐から携帯電話を取り出し、誰かに電話をかける。

 

しばらくして九喇嘛が電話を切った直後に、目の前に魔方陣らしきものが出現した。

 

帝具の一つ――『次元方陣(じげんほうじん)・ シャンバラ』。

 

さっきの電話は、雅家の使用人のアルティナさんの番号だったと思う。シャンバラは今、アルティナさんが保有していて、魔力を使わない代わりに帝具の一つを護身用として身につけている。

 

「帰るぞ、カズ。ワシは腹が減った」

 

九喇嘛がそう言って、魔方陣の中に入っていく。

 

「今日の昼は寿司と刺身にするか」

 

牛鬼がそう言いながら魔方陣に入っていった。

 

……寿司と刺身ね。

 

俺は『家に帰ったら食事の戦争が始まる』ことを予感していた。

 



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二つの弁当

 

あれから数日後。

 

いつものように学校へ通う日々なのだが、無人島へ修行に行っていた日から少し周囲が変化していた。

 

…その日にアーシアさんが兵藤家に越してきていたからだ。

 

雅家で夕飯を御馳走になり、家に帰ってからそのことを知らされた上に、アーシアが丁寧にあいさつをするもんだから…俺も流れであいさつをしてイッセーに爆笑された。

 

アーシアさんが住みだして、家の中の決まり事とかが大きく変化していた。

 

俺も生活の変化で過ごし難いところも出てきていた……アーシアさん関連で。

 

風呂やトイレなどももちろん、空部屋だった一室がアーシアさんの部屋に変わったことも関係している。

 

なぜなら……イッセーの部屋の隣が俺の部屋で、その隣にアーシアさんの部屋があるから。

 

部屋の並びが気まずいことになっていて、部屋の前をとる時なんかは細心の注意を持って通っている。

 

イッセーはアーシアと共に行動していることが多く、今も登校している俺たちの並びで言うと……進行方向に向けて左が俺、右側にアーシアで真ん中にイッセーといった横並びだ。

 

しかし均等に距離は取っておらず、俺は一歩離れたところを歩いていた。

 

「いいお天気ですね。イッセーさん、今日は体育でソフトボールをやるんですよ。私、初めてなので今から楽しみなんです」

 

楽しそうに会話をしている二人。

 

そんな中、同じ学校へ通う生徒たちの凄まじい視線がイッセーに向けられていた。

 

「どうして、アルジェントさんと兵藤が同じ方向から……」

 

「バカな……何事だ……」

 

「嘘よ、リアスお姉さまだけじゃなく、アーシアさんまで毒牙に……」

 

観衆の悲鳴というかなんというか……それにしても、イッセーってここまで酷い扱いなんだな…小さい頃から見てきてたけど…。

 

…確かにイッセーはエロ全開で、『変態三人組』の筆頭として学園生活を送っていたわけだし、その影響でありえないと思われ続けていたからね。

 

「――おはようございます。カズちゃん」

 

二人の微笑ましい会話を見ていた俺に、聞き覚えのある呼び名で呼ぶ声がする。

 

「あ、おはようございます。なっちゃん」

 

T字路の曲がり角から急に姿を現す奈津美。そのせいか、反射的に敬語と小さい頃の呼び名で返してしまった。

 

「いきなり出てきたから、びっくりした」

 

「ゴメンなさい。…そ、そうです……お弁当作ってきたので、宜しければお昼に食べてください」

 

奈津美の手元には、鞄以外の袋が一つ提げられていた。

 

受け取った俺はその大きさと重さから『重箱』と判断した……というより、四段はあるぞ…この弁当。

 

俺は「ありがとう」と笑顔を向ける。

 

それから五分ほど歩くと、学校の正門に着く。

 

「おはようございます。カズくん」

 

反対の道から一人で登校してきた麗。

 

「おはよう。レイ」

 

「………」

 

ジーと俺の手に提げられている重箱の入った袋を見つめる麗。

 

「ねぇ……」

 

その声は低く、冷たいものを感じさせる。

 

「その手に持っている袋は何かな…?」

 

「これは…」

 

俺は言葉に詰まってしまった。

 

「はい」

 

麗が笑顔で俺に包みを手渡してくる…弁当だ。

 

「今日もおいしいものを入れています。よ~く味わってくださいね」

 

笑顔は笑顔でも…目が笑っていないのがすごく怖い。

 

「あら、おはようございます。奈津美さん」

 

「おはようございます。麗さん」

 

ニコニコと目が笑っていない二人があいさつを交わし、共に校舎へ向かって歩き出す………怖ぇ。

 

正門に置いて行かれた俺は、トボトボと一人校舎へ向けて歩く。

 

                    D×D

 

その日の昼。

 

昼休みに入り、いつものように屋上でシートを広げて座る。目の前には麗の作った弁当と奈津美の作った何人前かわからない重箱の弁当がある。

 

「いただきます」

 

麗と奈津美が手を合わせてから弁当を食べ始める。

 

麗のは、俺に作ってくれた弁当の色違い。

 

奈津美のは、ごく普通サイズの弁当箱。

 

二人は無言で食べながら、俺の方をチラチラと見てくる。

 

……すごく食べづらいんだけど。

 

アウェー過ぎる空気の中、俺は勇気を出して弁当箱を持つ……奈津美のだ。

 

「い、いただきます」

 

一口食べる……うまい!

 

「…どう?」

 

「うん。卵焼きの出汁が絶妙で、柔らかくて美味しい」

 

奈津美は嬉しそうに笑んでいた。

 

「私のは…?」

 

心配そうにしている麗。俺は重箱を横に置き、麗の弁当を食べる。

 

「…煮物の出汁の加減が丁度よくて、火の通りづらい人参もしっかりとしていて美味しい」

 

「よかったぁ」

 

麗も嬉しそうに笑む。

 

俺はそんな二人に、小さな提案を出してみる。

 

「…二人ともさ、お互いの弁当を食べてみたらどう?」

 

そんな提案を聞いて、二人は目を丸くする。

 

「そ…そうね。相手の腕前を知っておくのも勉強のうちね」

 

「…ですね。私も麗さんの腕前を知っておきたいと思います」

 

お互いの得意なものを差し出して食べている…仲が良いのか、悪いのか…。

 

俺はそんな二人から弁当へ視線を移した。

 

……この量、食わないといけないのか…。

 

俺は昼休みが終わる前に二人からもらった弁当をすべて平らげ、午後の授業の半分は机に突っ伏して聞いていた…。

 



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