アーク・ファイブ・ディーズ (YASUT)
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シンクロ次元編 アーク・ファイブ・ディーズ

 ライディングデュエル。それはスピードの中で進化した決闘。

 そこに命を懸ける伝説の痣を持つ者たちを、人々はファイブディーズと呼んだ。

 

 

 ◆

 

 

 時間帯は正午。不動遊星はガレージで一人、物思いに耽っていた。

 手にはフレームに入れられた一枚の写真。トロフィーを掲げた彼を中心に、仲間達が思い思いにシャンパンの蓋を開け、祝杯をあげている。

 チーム“5D’s(ファイブディーズ)”。そう称されたのも今となっては昔の話。仲間達は皆自分の道を選び、それぞれの未来へと走り続けている。

 

「邪魔するぜー、遊星」

 

 背後からの声に遊星は振り返る。

 ワイシャツを着た眉の太い大男。肩に担いだ制服のデザインから、ネオ童実野シティの治安を守る“セキュリティ”であることが伺える。

 

「牛尾か。どうしたんだ、こんな時間に」

「お前こそ何やってんだ。貴重な休憩時間だぞ、十六夜と連絡取らなくていいのか?」

「アキと……? 

 ……いや、特に知らせることもないが」

「――……はぁ」

 

 数秒の沈黙、そして溜息。

 5D'sの面々と付き合いの長い牛尾は、不動遊星と十六夜アキの関係にも気づいている。

 恋人ではない。だが、ただの友人でもない。どちらかが踏み出せば劇的に変わってしまう微妙な関係。

 ――それも、今年で二年になる。

 始めこそ生暖かく見守っていたが、この二年間一切変化なしというのは、セキュリティトップの彼でも不安なのだ。

 ……もっとも。この不動遊星という男が、牛尾の前でそんな簡単にボロを出すはずがないのだが。

 

「いや、まあいいんだけどよ。で、結局何してたんだ?」

「ああ……ちょっと、昔を思い出していた」

 

 遊星は手元に視線を戻す。

 巨大な金のトロフィーと、記念の写真。

 そして、今は無き好敵手(とも)の形見。

 

「WRGPとアーククレイドル。あれからもう二年になるんだな」

「そうだな。これでようやく、お前も大人の仲間入りってわけだ」

「よく言う。初めて会った時から子供扱いしてくれなかっただろう」

「目の前であんだけの決闘(デュエル)を見せられちゃ、子供扱いする方が失礼ってもんだ」

「どうだろうな……スタンディングの方はアキと定期的にやってるが、ライディングは最近作ってばかりだからな。セキュリティとして毎日走っている牛尾の方が上なんじゃないか?」

「ん? 作ってばかりってのはどういうことだ?」

「ああ。モーメント開発の息抜きで、よくDホイールを弄ってるんだ。安全性を重視してみたり、可能な限り低コストにしてみたり、最大速度を上げてみたり、な」

 

 Dホイールとは、ライディングデュエル専用のデュエルディスクのことである。

 通常のデュエルとは異なり、プレイヤーはバイク型デュエルディスク――Dホイールに乗ってデュエルを行う。

 転倒させる、周回遅れにするなど、相手のLPを0にする以外にも勝利条件が幾つかあり、カードプレイングが上手いだけでは勝てないのが魅力の一つだ。

 ちなみにネオ童実野シティは、専用道路やコースが作られるほどライディングデュエルが盛んである。

 つまりどういうことかと言うと――Dホイールは、滅茶苦茶売れる。

 

「ちゃっかりしてんなぁ、お前」

「フッ…………ん?」

「どうした?」

 

 

『こ こ は 、どこだァァ――!!!!』

 

 

「……なんだ、今の」

「外が騒がしいな。ちょっと様子を見てくる」

「おう」

 

 牛尾は遊星を見送る。

 向かう先……ガレージの外の噴水広場には、騒がしい人影が四つ。

 

「――珍しいこともあるもんだ」

 

 

 ◆

 

 

「こ こ は 、どこだァァ――!!!!」

 

 

 時刻は正午。昼休みの社会人達がくつろいでいる中、噴水広場で怒号が響き渡った。

 高価そうな黒のシャツと白い制服。

 世界はオレが中心で回っていると言わんばかりの、俺様オーラ全開の金髪少年。

 沢渡シンゴ。見ての通りおぼっちゃま、そして金持ちだ。

 

「一々五月蝿い男だ。少しは静かにしたらどうなんだ」

「なんだと――!」

「やめろって二人共。ほら、周りの人達も見てるし……」

 

 一人の少女が不愉快そうに突っぱね、一人の少年が宥める。

 そんな彼らを、休憩中の社会人達は奇異の目で見つめている。

 WRGP終了以降、この噴水広場はとても静かになった。二年前ならいざ知らず、今となってはこのような騒ぎも珍しいのだ。

 

「クソ、ようやくシンクロ次元に行けたと思ったらこのザマか。赤馬零児め、この俺を誰だと思ってやがる。普通はシンクロ次元のトップか、せめて柊柚子の目の前に飛ばすのがマナーってもんだろ」

「……兄様?」

 

 赤馬零児。その名を聞いて一人が反応する。

 帽子を目深にかぶり、その上から更に水色のフードを被った子供。

 子供は少年――榊遊矢の制服を引っ張り、尋ねる。

 

「ねぇ、兄様はどこ?」

「零羅……えっと、ごめん。まだ分からないんだ。ここがどこかもまだ分かってないし。

 けど大丈夫だ。赤馬零児は俺が一緒に探してやる。だから――」

「私は反対だ」

 

 そう言ったのは赤い服を着た少女、セレナ。

 遊矢の幼馴染――柊柚子とそっくりな容姿をした、融合次元の決闘者(デュエリスト)だ。

 

「どうしてだよ。まずは皆と合流するのが先だろ?」

「いや、その必要はない。こうしてバラバラになったのはおそらくあの男の思惑通りのはず。

 我々ランサーズの目的は、このシンクロ次元で柊柚子を探すこと。そして、強い決闘者(デュエリスト)を探し、アカデミアの侵略に備え同盟を結ぶことだ」

「成程な。つまり、赤馬零児はシンクロ次元のトップと取引。俺達は手分けして決闘者(デュエリスト)を探せってわけか。あのヤローにこき使われるのはちょっと釈だが、確かに俺にはこっちの方が合っている。ま、適材適所ってやつだな」

「そういうことだ。早速だが私は柚子を探しに行く。お前達はここらで大人しくしていろ」

「えっ――?」

 

 脇目も降らず、セレナは噴水広場を出ていこうとする。

 セレナは以前、ここではない別次元で監禁にも似た生活を送っていた。

 窮屈な暮らしをしていた彼女としては、早く行動したくて仕方ないのだろう。

 尤も、チームという観点から見れば、彼女は自分勝手の一言に尽きるのだが。

 

「ちょっと、セレナ!」

「四人行動は効率が悪い。その子供が一緒なら尚更だ」

 

 セレナは不満を隠さず零羅を一瞥した。

 それに怯え、零羅は遊矢の後ろに隠れる。

 

「……フン」

「セレナ!」

 

 遊矢の静止を聞かず、セレナは噴水広場を出て行った。

 

「まぁ、確かに一理ある。そういうわけで、俺も行かせてもらうぜ」

「なっ……沢渡、お前まで!」

「一人にするわけには行かねーだろ。いいからこっちは任せとけ」

「あ……ああ」

 

 そうして、沢渡もまた噴水広場を出て行った。

 

 

 ◆

 

 

「――ということがありまして」

「成程なぁ。よく分からんが、大変だなお前も」

 

 時間は昼過ぎ。遊星と牛尾は二人を椅子に座らせて相談に乗っていた。

 あまった廃材で作られた簡素なものだが、その丈夫さから作り手の腕は確かであることがわかる。

 零羅は用意された甘めのコーヒーを啜りつつ、物珍しそうにガレージ内を見回している。

 

「そういえば牛尾。もう時間は過ぎているが、大丈夫なのか?」

「ぐっ……う、うるせえ、迷子捜索も仕事の内よ。っていうか、そういうお前はどうなんだ」

「抜かりはない。きちんと休暇をとっている」

「なにぃ!? ……ああいや、俺は今絶賛仕事中だ。風間のヤローにも連絡つけといたし、多分大丈夫だろう」

「そうだな。俺もよかれと思って深影さんに連絡しておいた。あの人なら庇ってくれるだろう」

「んなっ!? 遊星、てめえ!」

「――フッ」

「確信犯じゃねーか!!」

「気にするな。それより遊矢」

「あっ、はい」

 

 あからさまな塩対応に牛尾は落ち込むが、構わず遊星は遊矢に話しかける。

 

「さっきの話を聞く限り、寝床はまだ決まっていないんだろう? よければここを使ってくれ」

「え……いいんですか?」

「構わない。四人ならなんとかなる。それに、いくつか気になる話もあるからな」

 

 先程の四人の会話には、遊星と牛尾にとって聞きなれない単語がいくつか出てきていた。

 ――シンクロ次元。

 過去や未来に関係する敵とは何度も戦ってきた遊星だが、別次元に関しては初耳だ。

 

「おいおい遊星、まさか信じてるのか? シンクロ次元だか何だか知らないが、所詮は子供の言うことだろ?」

「ダークシグナーやイリアステルといった前例があるんだ。聞いてみる価値はあるだろう」

「遊星さん……」

 

 遊星もまた椅子に座り、遊矢と零羅に向き直る。

 

「詳しく話してくれないか。君達は何者なのか。そして、目的はなんなのかを」

「――はい」

 

 遊矢もまた遊星を見つめ、自分達のことを真摯に話し始めた。

 

 他次元を侵略する融合次元の決闘者(デュエリスト)のこと。

 彼らに滅ぼされたエクシーズ次元のこと。

 そしていずれは残りのスタンダード次元、シンクロ次元にも侵略に来ることを。

 

 次元を渡ってきた彼らの目的は三つ。

 一つ目は融合次元に対抗するため、シンクロ次元と同盟を結ぶこと。

 二つ目は強い決闘者(デュエリスト)を探し、対融合次元精鋭部隊“ランサーズ”を強化すること。

 そして三つ目は、この次元に迷い込んだであろう少女“柊柚子”を探し出すこと……だそうだ。

 

「俺は柚子を……柊柚子を探しに来たんだ。確かに強い決闘者(デュエリスト)も探さなくちゃいけないけど……柚子を見つけないことには、俺はスタンダード次元には帰れない。

 牛尾さんは警察なんですよね? 何か連絡とかないんですか?」

「さあな。そもそも俺はハイウェイの取り締まりがメインだからな。迷子とかには詳しくねえんだよ」

「そうですか……じゃあ、遊星さんは何か知りませんか?」

「俺は最近、外に出ること自体が少なくてな。すまない」

「……いえ、謝らないでください。こんなに広い住まいまで貸してもらってるんですから」

「気にするな。俺も五月蝿いのには慣れている。いや、寧ろ騒がしいくらいがちょうどいいくらいだ」

「慣れている? ――……あ」

 

 遊矢はガレージの奥、大切に仕舞われている大きなトロフィーを見つけた。

 側には一枚の写真立てと、ボロボロに壊れた赤いサングラス。

 

「……仲間、ですか?」

「そうだな。皆、俺の大切な仲間だ」

「…………」

 

 写真を見つめ、遊矢は自問自答する。

 大切な仲間ならいる。探しに来た“柊柚子”もその一人だし、他にも沢山いる。

 だが、今のランサーズの面々はどうだろうか。果たして彼らを仲間と言えるのか。あの写真に映る彼らのように、ふざけあうことができるのか。

 ――無理だろう。

 ランサーズとは赤馬零児が率いる決闘(デュエル)戦士のチーム。

 その選抜基準は“強いこと”。ただそれだけだ。それ以外の共通点など皆無に等しい。

 隣で大人しくしている零羅だって、彼自身、赤馬零児の弟であること以外は何も知らないのだ。

 

「……このままじゃ、駄目なのかな」

 

 写真を見れば見るほど遊矢はそう考える。

 確かにランサーズは強いかもしれない。今は無理だとしても、いずれは融合次元に勝つことができるかもしれない。

 けれど最後の最後に、あの写真に映る彼らのように、皆で笑い合うことができるのだろうか――と。

 

「まあ、なんだ。人探しの件はセキュリティの奴らに任せるとして……強い奴らなら、こっちにゃ山程心当たりがあるぜ? なあ遊星」

「……どういう意味だ、牛尾」

「こういう意味だよ――そら!」

「!」

 

 どこから用意したのか、牛尾はデュエルディスクを遊星に放り投げた。

 ぞんざいに扱う牛尾を軽く睨みつつ、遊星はディスクをキャッチする。

 

「融合次元だのシンクロ次元だのは正直信じられねーが、こいつらが何か問題抱えてるのは明白だ。だったら、力になってやるのがおまわりさんってもんだ」

「だからって何故デュエルディスクを……遊矢とデュエルしろ、とでも言うつもりか」

「おうよ。デュエリストの性格を知るなら、言葉よりもこっちの方が断然早え。プレイングや使うカードで、そいつがどんなヤツか大体分かるからな。それに、リハビリにはもってこいだと思ってな」

「リハビリ?」

「ああ。遊星、ここにテレビあるか?」

「テレビならそこだ。だが、何を見るつもりだ?」

「ちょっとしたDVDよ……あった、こいつだ」

 

 牛尾はバッグの中から、ケースに入った円盤状のディスクを取り出した。

 白を基調とした華美なパッケージ。

 

「それは……まさか、ジャックのDVDか?」

「ああ、それも最新のな。

 おい遊矢、それと零羅だったか。お前ら確か強い決闘者(デュエリスト)も探してんだろ? だったら見といて損はないぜ」

「あ、はい。……零羅、行こう」

 

 零羅は小さく頷き、遊矢の後ろについていく。

 牛尾は再生プレーヤーにディスクを入れ、リモコンでテレビを操作する。

 画面が点灯し、すぐにデカデカとタイトルが表示された。

 タイトルは――“(キング)への(ロード)”。

 

「あ……この人、もしかして遊星さんと?」

「ああ。名前はジャック・アトラス。世界を舞台に活躍してるDホイーラーだ」

「D……ホイール?」

「ちょいと飛ばすぜー」

 

 牛尾は早送りのボタンを押した瞬間、画面がめまぐるしく動き回る。

 内容は、ざっくり言えばジャック・アトラスのデュエル総集編だ。

 ネオ童実野シティのキングだった男が世界へ飛び出し、多くの好敵手と戦い競い合うというありきたりな構成のもの。

 ところどころインタビューやドラマも入れられており、完全にジャックファン向けの内容となっている。

 

 ――が、遊矢と零羅にとってはそうもいかない。

 ありきたり。それはあくまで遊星と牛尾にとってでしかない。

 零羅は目を丸くしてDホイールを駆るジャックを見つめ、遊矢は浮かんだ疑問を素直にぶつけた。

 

「遊星さん。これはアクションレースか何かですか?」

「似たようなものだな」

「そうですか……いえ、でも、時々カードが映ってるような……」

「デュエルだからな」

「え? デュエルって、バイクに乗って?」

「ああ。ライディングデュエル。もしかして知らないのか?」

「はい。今、初めて見ました」

「……そうか」

 

 遊星は確信する。この二人は間違いなく別世界の人間であると。

 ネオ童実野シティに住んでいてライディングデュエルを知らない、なんてことは絶対にありえない。

 専用道路やコースがいくつもあり、毎日セキュリティやプロが練習のために走っているからだ。

 ライディングデュエルが認知されていないほどの田舎から来た、という考えが一瞬過ぎったが、こうして世界大会が開かれている上、その単語すら知らないのはおかしい。

 

「詳しくは後で教えよう。とりあえず今は、スタンディング……通常のデュエルの進化系とでも思ってくれればいい」

「はい」

「おい、そろそろだ。早送り止めるぞ」

 

 牛尾が通常再生のボタンを押した瞬間、画面は高速移動を止め、通常の速度で動き出す。

 映っているのは二人の決闘者(デュエリスト)――否、Dホイーラー。

 白く巨大なDホイール“ホイール・オブ・フォーチュン”を駆る“ジャック・アトラス”と、赤黒いDホイールを豪快に乗り回す“炎城ムクロ”のデュエルだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 炎城ムクロ

 LP:2400

 

 ジャック・アトラス

 LP:800

 

 映像にする際に編集されたのか、画面の端に分かりやすくライフが表示された。

 炎城ムクロの猛攻が終わり、次はジャックのターン。

 

「再生時間から予想すると、おそらくこれがラストターンだな」

「ラストターン? でもこれ、ジャック・アトラスって人のDVDですよね?」

「そうだな。ジャックの残りライフは800。《スピード・ワールド2》には手札に《Sp(スピードスペル)》がある場合、SPC(スピードカウンター)を四つ取り除くことで800ポイントのダメージを与える効果がある」

「じゃあ、もしかして負けるんですか?」

「さあ、どうかな」

「?」

 

 遊矢の疑問も尤もだ。

 炎城ムクロのフィールドには炎を纏い、四つ足で疾走する骸骨のようなモンスター――《スピード・キング☆スカル・フレイム》が一体、伏せ(リバース)カードが二枚。

 

 《スピード・キング☆スカル・フレイム》

 星10/風属性/アンデット族/攻2600/守2000

 

 対しジャックのフィールドには、伏せ(リバース)カードが二枚のみ。モンスターは一体もいない。

 このフィールドを見て遊矢は、炎城ムクロの伏せ(リバース)カードが発動してジャックのライフが0になる、と予想した。

 ジャックの状況は絶望的ではあるが、二枚の伏せ(リバース)カード次第では逆転も可能。だが、このターンで決着が着くならそれしかない。

 

『ハッ、どうよジャック・アトラス! テメェとは長い付き合いだが、今度こそオレの勝ちだ!』

『フン! 相変わらず口だけは達者だな!』

『強がりはよしな! お前のライフは僅か800! 次のターン、オレが《Sp(スピードスペル)》をドローすればオレの勝ちよォ!』

『ならばこのターンでケリを着けるのみ! ――オレのターン!』

 

 ジャックはカードをドローし、SPCが一つ溜まる。

 しかしカウンターの数は三つのみ。手札に《Sp》があったとしても、《スピード・ワールド2》の恩恵は得られない。

 

『――フッ』

『あん?』

『フフフフフ…………フハハハハハ――!』

 

 男は笑う。関係ないと言わんばかりに。

 スピード・ワールドがあろうとなかろうと関係ない。

 この男はいつだってその圧倒的パワーで、何もかもを根こそぎ薙ぎ払う。

 

『炎城ムクロ! 以前オレはお前に言ったな! キングのデュエルは、エンターテインメントでなければならないと!』

「!!」

 

 エンターテインメント。聞き慣れ、そして言い慣れた言葉に遊矢は反応する。

 

『あぁん!? それがどうした!』

『今からそれを見せてやる! 行くぞ!』

 

 ジャックは手札から、長い間愛用してきたドラゴンを選択する。

 

『相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時、《バイス・ドラゴン》は特殊召喚することができる!』

 

 《バイス・ドラゴン》

 星5/闇属性/ドラゴン族/攻2000/守2400

 

『ただし、この効果で特殊召喚した《バイス・ドラゴン》の攻撃力と守備力は半分になる』

 

 攻2000 → 攻1000

 守2400 → 守1200

 

『そしてチューナーモンスター、《ダーク・リゾネーター》を召喚!』

 

 《ダーク・リゾネーター》

 星3/闇属性/悪魔族/攻1300/守 300

 

『オレはレベル5の《バイス・ドラゴン》に、レベル3の《ダーク・リゾネーター》をチューニング!

 王者の鼓動、今ここに列をなす! 天地鳴動の力を見るがいい! 

 ――シンクロ召喚! 我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!!』

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

 星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

 

 ガラ空きだったジャックのフィールドに紅蓮の竜が現れる。

 決闘者(デュエリスト)の頂点に君臨する絶対王者の風格が、そこにはあった。

 

「……これが、シンクロ次元のシンクロ召喚」

 

 その在り方に、遊矢は息を飲んだ。

 何もかもが違いすぎると本能が悟ったのだ。

 Dホイールを乗りこなすパフォーマンス。

 王者の象徴とも言えるエースモンスター。

 そして、場を盛り上げる魅せ方とテクニック。

 遊矢が志すエンターテイメントとは別ベクトルではあるが、決闘者(デュエリスト)として圧倒的に格上であることは画面越し、録画越しでも理解した。

 だが、炎城ムクロもまた一人のDホイーラー。この程度に一々臆する男ではない。

 

『流石は孤高のキング、ジャック・アトラス! だが一手甘ェ! 

 (トラップ)カードオープン! 《煉獄の落とし穴》!

 こいつは攻撃力2000以上のモンスターが特殊召喚された時、その効果を無効にして破壊する!』

 

「そんな――!?」

 

 炎城ムクロが発動した(トラップ)カードにより、紅蓮の竜はたちまち爆散した。

 これで再びジャックのフィールドはもぬけの殻。

 エースによって逆転すると思った遊矢は驚きを隠せない。後ろに控えている零羅、映像を用意した張本人である牛尾ですら驚いている。

 

「……こいつはマジでヤベーんじゃねえか? どう思う、遊星」

「さて、どうだろうな。まあ、もう少し見れば分かるさ」

 

 だが遊星だけは一人落ち着いていた。そして、それだけではない。

 笑っているのだ。

 好敵手(とも)の活き活きとした表情、全力で決闘(デュエル)する姿を見て、彼の決闘者(デュエリスト)としての本能が疼いているのだ。

 ここに遊星の理解者――例えば十六夜アキでもいれば、ジャックに誰よりも魅せられているのは遊星自身だと指摘されていただろう。

 

『《レッド・デーモンズ・ドラゴン》撃破ァ! これで勝負は見えたぜ!』

『笑わせる! 一手甘いのは貴様の方だ!

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が破壊されたことにより、この伏せ(リバース)カードを発動させる!

 (トラップ)発動! 《シャドー・インパルス》!  シンクロモンスターが破壊された時、同じレベル・種族のシンクロモンスターをエクストラデッキから特殊召喚する!』

『何ィ――!?』

 

 破壊された《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が半透明で出現し、影から同種のドラゴンが現れる。

 全身に傷を負い、角は一本折られた。

 それでいてなお倒れぬ、誇り高き破壊竜――!

 

『混沌を制する次元の王者! 天地鳴動の力をその身に刻め!

 ――現れろ、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!!』

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

 星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

 

『オレは更に貴様の二歩先を行く! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の効果発動! このカードの攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、一体につき500ポイントのダメージを与える!』

『チッ――させるかよ! 永続(トラップ)発動、《ミニチュア・ライズ》! モンスター一体の攻撃力を1000ポイント下げ、レベルを一つ下げる! オレは《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》を選択!』

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

 星8 → 星7

 攻3000 → 攻2000

 

 (トラップ)の赤いエフェクトが傷だらけの竜を縮小させ、弱体化した。

 

「……《スピード・キング☆スカル・フレイム》の攻撃力は2600。これじゃあ、効果を発動しても破壊できない……!」

「ああ。だが、ジャックの場にはもう一枚の伏せ(リバース)カードがある」

 

『まだ終わらんぞ! これが、三歩先を行くオレのデュエルだ!

 (トラップ)発動、《スカーレッド・カーペット》! 

 フィールドにドラゴン族シンクロモンスターが存在する時、墓地から《リゾネーター》モンスターを二体まで特殊召喚できる!

 これにより《ダーク・リゾネーター》、《フォース・リゾネーター》を特殊召喚!!』

 

 《ダーク・リゾネーター》

 星3/闇属性/悪魔族/攻1300/守 300

 

 《フォース・リゾネーター》

 星2/水属性/悪魔族/攻 500/守 500

 

『《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》はフィールド・墓地に存在する時、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》として扱う! この意味が分かるか!』

『チューナーモンスター二体に《レッド・デーモンズ・ドラゴン》……ってことは、まさか――』

『見せてやろう! これがオレの荒ぶる魂――バーニング・ソウル!』

 

「――っ!?」

 

 ジャックの様子が豹変する。

 その様子は――例えるなら、“紅蓮の悪魔”。

 

『レベル7となった《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》に、レベル3の《ダーク・リゾネーター》と、レベル2の《フォース・リゾネーター》を、ダブルチューニング!!』

 

「ダブルチューニング……!? 遊星さん、これは!?」

「ジャックのデュエルは初めてか。ならいい機会かもな。じっくり見ておくんだ、遊矢」

「――はい」

 

 チューナーモンスター二体が炎の輪となり、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》がその輪をくぐり抜け、同調(シンクロ)する。

 チューナー二体を必要とする究極シンクロ召喚。その負担は無視できないほど大きいが、その分召喚されるモンスターは圧倒的なパワーを誇る。

 

『王者と悪魔、今ここに交わる! 荒ぶる魂よ、天地創造の叫びをあげよ!

 ――シンクロ召喚! 出でよ、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》!!』

 

 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》

 星12/闇属性/ドラゴン族/攻3500/守3000

 

 赤いアーマーで全身を覆った、新たな紅蓮の龍が爆誕した。

 その威圧感と咆哮は観客を沸かせ、対戦相手を怯ませる。

 

『《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》は墓地のチューナー一体につき、攻撃力を500ポイントアップさせる。オレの墓地のチューナーは三体。よって攻撃力は、1500ポイントアップする!』

 

 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》

 攻3500 → 攻5000

 

『攻撃力5000!?』

『行け、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》! 《スピード・キング☆スカル・フレイム》を攻撃!

 ――“バーニング・ソウル”!!』

 

 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》は全身に煉獄を纏い突撃。その破壊力を前に成すすべもなく、ムクロのモンスターは粉砕した。

 

『ぐわあぁぁァァ――――!!!?』

 

 炎城ムクロ

 LP:2400 → LP:0

 

 ムクロのライフは尽き、これにて試合終了。

 勝者はジャック・アトラス。

 王者を名乗るに相応しい圧倒的な力で勝利を勝ち取ったのであった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「――すごかった」

 

 遊矢の第一声はそれだった。

 純粋な賛美。表も裏もないむき出しの感情。

 

「すげえよな、流石はジャック・アトラス。ちなみに、あと一週間だ」

「一週間? 何がだ?」

「……はぁ。遊星、ここまで言ってまだ分からねえか。来るんだよ(・・・・・)、ジャック・アトラスが。この街にな」

「何っ? いや、だがどうしてだ。ジャックはプロだ。早々この街に帰って来られるとは思えないが」

「テレビ、見てみな」

 

 牛尾に顎で差され、三人はテレビを見る。

 画面には“ジャック・アトラス”対“炎城ムクロ”を振り返り、二人が使用したカードの説明・解説が始まっている。

 そして画面の一番下には“FRIEND(フレンド)SHIP(シップ) CUP(カップ)開催”と、開催日まで添えて大きな文字で宣伝されていた。

 

「……そうか。そういえば、そんなイベントもあったな」

「ああ。全国からDホイーラーが集うライディングデュエルの祭典。優勝者は賞金と共に、ジャック・アトラスと対戦する権利を得る。その予選があと一週間後、ネオ童実野シティ全域で開かれる。ま、俺は警備があるから出られねえけどな」

「しかし、一週間ならもう無理だろう。こういう大会は選手登録とか、色々と手続きがあるんじゃないのか?」

「いいや、要らないんだよなこれが。タイトルをよく見ろ。これは“フレンドシップ”な大会だぜ? Dホイールさえあれば誰でも参加できる」

「……俺に、出場しろと言いたいのか」

「無理強いはしねえ。が、遊星よう。お前は今のデュエルを見て、何も感じなかったのか?」

「――――」

 

 遊星は黙る。

 何も感じなかったと言えば嘘になるからだろう。

 不動遊星は研究者だ。勝手に街を出ることは許されない。

 それ自体に後悔はない。残ったからこそ得られたものも沢山ある。

 だが時々――本当に時々だが、心が疼く。

 街を出られない。しかしこの街で開かれる大会ならば、彼を縛り付けるものは何もない。

 ならば――ならば、自分も参加してみてもいいのではないか――と。

 

「遊星さん」

 

 迷う遊星に遊矢は話しかける。

 そして。

 

「俺と、デュエルをしてください」

 

 唐突に。正面から真っ直ぐに、デュエルの申し込みを受けた。

 

「遊矢……?」

「俺はデュエルの可能性を信じています。デュエルは人を笑顔に出来る。ジャック・アトラスも、あの炎城ムクロって人も、全力で戦って全力で笑ってた。

 遊星さん。貴方は最近、デュエルで笑ってますか?」

「……勿論だ。俺も時々、街に帰ってくるアキや龍亜と……仲間とデュエルしている」

「それは、仲間と一緒だからじゃないですか? 話を聞く限り、遊星さんもかなりの決闘者(デュエリスト)とお見受けします。全力で戦って勝ったり負けたり……そんなデュエルを、最近はしてないんじゃないですか?」

「…………」

「だから、俺とデュエルしてください。生意気なことを言ってるのは分かっています。でも、俺は――デュエルで、皆を笑顔にしたい」

 

 そう言って、遊矢は後ろの零羅を見た。

 全力で俺とデュエルしろ。この少年はつまり、そう言っているのだ。

 

「――ハハ」

 

 本人の言う通り……確かに生意気だ。

 けれどそれは、目指すものがあるからこそ。背負うものがあるからこそだ。

 ならば、遊星に断る理由はない。

 

「そうだな。だがまだまだだ。君一人では、俺が本気を出すまでもない」

「むっ……そんなことない。俺だって――」

「だから、タッグデュエルにしよう」

「俺だって――――え?」

 

 タッグデュエル。そう聞いて遊矢は固まる。

 

「牛尾、手伝ってくれ」

「そう来ると思ってたぜ。任せろ」

「えっ、ちょっと待って。タッグなんて、そんないきなり――」

 

 

「ようやく俺様の出番のようだな! 榊遊矢!!」

 

 

「えっ?」

 

 声のする方向に四人が振り返る。

 ――ガレージの前で、天高く指を突きつける少年が、そこにはいた。

 

「沢渡!? って、ちょっと待て! セレナはどうしたんだ?」

「ここにいる」

 

 ガレージ入口……その隅っこから顔を出す。

 どうやら、この意味もなく叫ぶ金髪少年とは他人のフリをしたかったらしい。

 

「しかし、何やら面白いことになってるな。タッグデュエルか。実戦に備えて練習しておくのもいいかもしれないな」

「全くもってその通り。そういうわけだ遊矢。この沢渡シンゴが特別にお前のパートぶぎゃっ――!?」

「うわ……」

 

 セレナの顔面裏拳が炸裂。

 ……ものすごくいたそう。

 そんな、小学生並の感想(こなみかん)が出た。

 

「お前はDVDを見ていなかったのか? 先に言っておくが、お前程度ではワンターンキルされるのがオチだ」

「んなワケねーだろ! てめえ、俺を誰だと思ってやがる! 俺は沢渡シンゴ、舞網市市長の息子だぞ!」

「知らん。それより遊矢、さっさと準備しろ」

「無視してんじゃねーよ!

 ッ――くそう、こうなったらデュエルで決着をつけてやる。それなら文句ねーだろ!」

「勝った方が遊矢とタッグを組むというわけか。……フン、面白い。瞬殺してくれる」

「こっちのセリフだ! 行くぜ!」

 

 

「「――決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 ◆

 

「……俺は一体どうしたらいいんでしょうか」

「……とりあえず、コーヒーでも飲もうか」

 

 




魔界劇団と月光(ムーンライト)がOCG化しないと絶対続きが書けないようにした。
ちょっと無理矢理だったかもしれないけど、他にオチが思いつかなかった。



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遊矢とセレナ エンタメ・タッグ・フォース!

セレナに ペ ン デ ュ ラ ム ユ ー ゴ させたかっただけ。(ネタバレ)

注意:アニメオリジナルカードが何枚か登場します。
   具体的には《月光(ムーンライト)》シリーズ。
   そして遊矢の《ペンデュラム・クライマックス》。

遊矢の方は「多分こんな感じの効果じゃないかなー」っていう予想。

《魔界劇団》は流石に情報少なすぎて無理なんで、沢渡さんには申し訳ないがワンキルされてもらうZE!


魔法(マジック)カード、《融合》を発動。私が融合するのは《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルー・キャット)》と、《月光(ムーンライト・)紫蝶(パープル・バタフライ)》!

 蒼き闇を徘徊する猫よ。紫の毒持つ蝶よ。月の引力により渦巻きて新たな力と生まれ変わらん!

 ――融合召喚! 現れ出でよ、月明かりに舞い踊る美しき野獣! 《月光(ムーンライト・)舞猫姫(キャット・ダンサー)》!」

 

 《月光(ムーンライト・)舞猫姫(キャット・ダンサー)

 星7/闇属性/獣戦士族/攻 2400/守 2000

 

 セレナのフィールドに融合モンスターが召喚される。

 三日月を模した仮面で素顔を隠し、二刀の短剣を手繰る舞姫。

 

「来たな、融合召喚……! だが攻撃力はわずか2400! 俺のビッグ・スターには届かないぜ!」

「さあ、どうだろうな。私は更に魔法(マジック)カード、《月光香》を発動。墓地から《月光(ムーンライト)》モンスターを一体選択し、特殊召喚できる。

 これにより《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルーキャット)》を特殊召喚!」

 

 《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルーキャット)

 星4/闇属性/獣戦士族/攻 1600/守 1200

 

「ブルー・キャットの効果発動。このカードの特殊召喚に成功したとき、自分の場の《月光》モンスター一体の攻撃力を、ターン終了時まで二倍にする。私がキャット・ダンサーを選択!」

 

 《月光(ムーンライト・)舞猫姫(キャット・ダンサー)

 攻 2400 → 攻 4800

 

「更にキャット・ダンサーの効果発動。このカード以外の《月光》モンスターをリリースすることで、キャット・ダンサーは全てのモンスターに二回ずつ攻撃できる」

「なぁにぃ!?」

「バトル! 《月光(ムーンライト・)舞猫姫(キャット・ダンサー)》で、《魔界劇団-ビッグ・スター》を攻撃!」

 

 沢渡シンゴ

 LP:4000 → LP:1700

 

「まだだ! キャット・ダンサーの効果により、ビッグ・スターは一回目のバトルでは破壊されない!

 そして二回目のバトル! キャット・ダンサーで攻撃!!」

 

 沢渡シンゴ

 LP:1700 → LP:0

 

「うわぁぁ――――!!!?」

 

 モンスターが破壊されると同時、沢渡は爆風に吹っ飛ばされた。

 怒涛の展開。まさに瞬殺。有言実行。

 全くの無傷であった沢渡のライフを、セレナは一ターンのみで削りきった。

 

「よし、終わったぞ」

「あ……ああ」

 

 遊矢の顔が引き攣る。

 実力差はそこまで圧倒的ではない。互いが全力を尽くせば――それでもセレナが勝つかもしれないが――そこそこいい勝負になったかもしれない。

 だが如何せん間が悪かった。

 沢渡はセレナを舐めていた。故に遊び心を持たせ、最善と言えるプレイをしなかった。セレナはその隙を全力で攻めた。

 その結果がワンターンキルだっただけである。

 

「――成程。これは中々厄介だな」

「遊星。それはどういう意味で言ってんだ?」

「……想像に任せる。ともかく、タッグデュエルといこう」

 

 遊星と牛尾はデュエルディスクを装着し、デッキを装填する。

 

「そういうわけだ。お前は大人しく下がってろ」

「クソッ……まあいい、そういう約束だからな。いいか、俺達は言わばスタンダード次元の代表だ。無様な格好を晒したら承知しねえからな」

「ワンターンキルは無様ではないのか?」

「あれは油断しただけだ! 次は俺が勝つ!」

「どうだろうな。かろうじてペンデュラムを使えるだけのお前が私に勝てるとは思えないがな」

「あーもう、ストップストップ! いいから行くぞセレナ。沢渡は零羅を頼むよ」

「ッ――ああ、分かったよ」

 

 二人は渋々と離れ、セレナは遊矢の元に、沢渡は零羅を傍において観戦する。

 仲が悪い……わけではないのだろう、きっと。“喧嘩するほど仲がいい”なんて言葉もあるのだから。

 ――そう信じて不安を誤魔化す遊矢であった。

 

「ルールは“タッグフォース”ルールだ。遊星、いいか?」

「ああ」

 

 タッグフォースルールとはその名の通り、タッグデュエル専用のルールのことだ。

 フィールド、墓地、除外されたカード、そしてLP(ライフポイント)――つまり、デッキと手札以外の全てを共有する。

 

「ということは、パートナーのカードを自分も使えるのか。……ともかく、頑張ろうセレナ」

「言われるまでもない」

「……牛尾、一つ提案がある」

「あん?」

 

 遊星は二人に聞こえないよう、牛尾に耳打ちする。

 怪訝そうな顔をしていた牛尾だったが、遊星の提案を聞いた途端、納得顔で頷いた。

 

「――……成程な。ちょいとおせっかいな気もするが、面白いことになりそうだ」

「だろう?」

「……何をこそこそとしている。早く始めるぞ」

「あー悪い悪い。そんじゃあ――始めるぜ!」

 

 四人の決闘者(デュエリスト)が、デュエルディスクを一斉に展開した。

 

 

 

 ◆

 

 

決闘(デュエル)――!!」

 

 

 ライフは共有して4000ポイント。

 プレイヤーのターンは交互に回ってくるため、LV(レベル)モンスターを初めとしたターンを跨ぐコンボは難易度が格段に上がる。

 ライフをコストとするカードも然り。この“タッグフォース”ルールのデュエルは、より高度なタッグプレイを要求されるのだ。

 

「さて、勝手ばかりで申し訳ないんだが、先行はこちらがもらう。はるばる別の次元からやって来たお客様には厚ーいおもてなしをしなくちゃな」

「好きにしろ。むしろ私としては好都合だ」

 

 牛尾の挑発をセレナはバッサリ切り捨てる。

 そして挑発には挑発。セレナは明らかに年上である牛尾に対して、この上なく不敵に笑う。

 

「シンクロ次元と言うからには、お前達はシンクロが得意なんだろう? だったらこのターンで見せてみろ」

「ほう、言うね。その態度、いつぞやの誰かさんを思い出すぜ。なあ遊星」

「…………」

 

 遊星は露骨に黙りこくり、無表情で睨む。

 ――“早くしろ”と。

 

「ハハッ、無言か。まあいい。お嬢さんのお望み通り、一ターン目から本場のシンクロ召喚を拝ませてやるぜ。俺のターン!

 俺は《ゴブリンドバーグ》を召喚!」

 

 《ゴブリンドバーグ》

 星4/地属性/戦士族/攻1400/守 0

 

「《ゴブリンドバーグ》のモンスター効果発動。このカードの召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを召喚できる。

 ここで俺はチューナーモンスター《トラパート》を特殊召喚!」

 

 《トラパート》

 チューナー

 星2/闇属性/戦士族/攻 600/守 600

 

「俺はレベル4の《ゴブリンドバーグ》に、レベル2の《トラパート》をチューニング!

 ――シンクロ召喚! であえ、《ゴヨウ・ガーディアン》!」

 

 《ゴヨウ・ガーディアン》

 星6/地属性/戦士族/攻2800/守2000

 

 一ターン目にして、牛尾のフィールドにシンクロモンスターが召喚された。

 かつてのセキュリティの象徴。紐付きの十手を振り回し、権力を振りかざすポリスモンスター。

 

「攻撃力2800のシンクロモンスターか」

「ああそうさ。そこらのモンスターじゃ越えられねえ権力の壁よ。お前さんの融合モンスターも然りだ。さて、残りの俺のターンだが、カードを一枚伏せてターンエンド」

「――よく言った。ならばその壁、一足で踏み超えてやろう。私のターン!」

 

 セレナのターンが回り、カードをドローする。

 ドローしたカードは――《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルー・キャット)》。先程の沢渡シンゴとのデュエルでも使用された、融合素材モンスターだ。

 

「その顔からすると、早速キーカードを引いたらしいな」

「まあな。今度はこちらの番だ。お前達に融合の力を見せてやろう。

 私は魔法(マジック)カード、《融合》を発動する! これにより、私は手札の《月光(ムーンライト)》二体を――」

 

 ――ニヤリ、と。

 セレナが《融合》を使った瞬間、牛尾は不気味に笑った。

 

「かかったな! セレナ、お前さんの《融合》にチェーンして、俺はこの(トラップ)カードを発動するぜ!」

「何っ――!?」

 

 セレナの魔法(マジック)カードを遮り、牛尾は前のターンにセットした伏せ(リバース)カード――カウンター(トラップ)を発動させる。

 

「このカードは《封魔の呪印》。手札の魔法(マジック)カードを墓地に送ることで、相手の魔法(マジック)の発動を無効にし破壊する。そして、この効果で破壊されたカードはこのデュエル中、使用することができない」

「なっ――デュエル中だと……!?」

「そう。つまり、これでお前は完全に《融合》を封じられた」

「……くっ」

「オイ、何やってんだ! とんでもない醜態晒してんじゃねえ!」

「っ――うるさい!」

 

 沢渡のブーイング。

 しかし、全くもって彼の言う通りだ。セレナは何も言い返せない。

 

「さあどうするよ。このままターンエンドか?」

「……くそ。私は、モンスターを守備表示で召喚」

 

 セレナはモンスターを裏守備表示でセットする。

 だが、通常召喚できるモンスターの守備力などたかが知れている。

 彼女を守る盾は、あまりにも薄い。

 

「ターンエンドだ」

「……さて。次は俺のターンか」

 

 牛尾が下がり、ターンプレイヤーである遊星が前に出た。

 セレナは警戒する。

 彼女は先程のDVD……ジャック・アトラスのデュエルを途中から見ていた。戦士を自称する彼女からしても、あの男の腕は確かだった。

 ――そしてこの男は、ジャック・アトラスの仲間だと言う。

 あの男より強いかは分からない。だが、少なくとも弱いはずがない。

 

「ドロー。俺は《シンクロン・キャリアー》を召喚!」

 

 《シンクロン・キャリアー》

 星2/地属性/機械族/攻 0/守1000

 

「《シンクロン・キャリアー》の効果発動! 俺は通常召喚に加えてもう一度、《シンクロン》と名のつくモンスターを召喚できる。

 これにより、《ジャンク・シンクロン》を召喚!」

 

 《ジャンク・シンクロン》

 チューナー

 星3/闇属性/戦士族/攻1300/守 500

 

「《ジャンク・シンクロン》の効果発動! 墓地からレベル2以下のモンスターの効果を無効にし、守備表示で特殊召喚することができる!

 牛尾の《トラパート》を特殊召喚!」

 

 《トラパート》

 チューナー

 星2/闇属性/戦士族/攻 600/守 600

 

「チューナーモンスター……やはり来るか!」

「俺はレベル2、《シンクロン・キャリアー》に、レベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング!

 集いし星が、新たな力を呼び起こす! 光射す道となれ!

 ――シンクロ召喚! 切り拓け、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》

 星5/闇属性/戦士族/攻2300/守1300

 

 牛尾の《ゴヨウ・ガーディアン》に並び、また新たなシンクロモンスターが召喚された。

 紫のアーマーと加速ブースター。右腕には巨大なナックルが装着されている。

 

「《ジャンク・ウォリアー》の効果発動! このモンスターのシンクロ召喚に成功した時、自分の場のレベル2以下のモンスターの攻撃力分アップする!

 ――“パワー・オブ・フェローズ”!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》

 攻 2300 → 攻 2900

 

「バトルだ! まずは《ゴヨウ・ガーディアン》で、裏守備モンスターを攻撃!

 ――“ゴヨウ・ラリアット”!」

 

 守備表示モンスターは――《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルー・キャット)》。

 投擲された十手がモンスターを粉砕する。

 そして、それだけでは終わらない。《ゴヨウ・ガーディアン》は十手を巧みに使い、ブルー・キャットは縛り上げる。

 

「なにっ――これは……!?」

「これぞ《ゴヨウ・ガーディアン》のモンスター効果よ! 戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時、そのモンスターを俺達のフィールドに守備表示で特殊召喚できる」

 

 《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルー・キャット)

 星4/闇属性/獣戦士族/攻 1600/守 1200

 

 牛尾の解説と共に《ゴヨウ・ガーディアン》がブルー・キャットを引っ張り上げ、フィールドに特殊召喚された。

 コントロール奪取。これこそがポリスモンスター最大の特徴。

 

「まだバトルフェイズは終わっていない。《ジャンク・ウォリアー》、ダイレクトアタック!

 ――“スクラップ・フィスト”!」

「ぐうっ――!!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》の巨大な拳を受け、セレナは大きく後ずさりする。

 伏せ(リバース)カードはない。セレナに抵抗する手段はなく、二人共有のライフが一気に減少する。

 

 セレナ・遊矢

 LP:4000 → LP:1100

 

「くっ……!」

 

 セレナは歯噛みする。

 牛尾・遊星の場には、彼らのエースであろうモンスターが一体ずつ。

 そしてチューナーの《トラパート》と、セレナのモンスター《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルー・キャット)》。

 

「セレナ。これはタッグデュエルだ」

「……分かっている。次は私のターンではない。遊矢のターンだ」

「違う、そうじゃない。……やはり、君は分かっていないようだな」

「……なんだと?」

「俺の仲間の一人は、タッグデュエルの世界大会にも何度か出場していてな。そいつがよくこう言っている。

 “パートナーを信じない者に勝利はない”、と」

「……何が言いたい」

「それは自分で考えるんだ。もし見つけられなければ、悪いが君達に勝機はない。

 ……カードを二枚伏せて、ターンエンド」

 

 フィールドに二枚の伏せ(リバース)カードが出現する。

 これで牛尾・遊星のフィールドは万全。対して、セレナ・遊矢のフィールドには一枚もカードがない。

 状況は絶望的。されど――

 されど、これを覆してこそエンターテイメント。

 

「セレナ、無事か?」

「…………」

「浮かない顔だな」

「……まあな」

「そっか。じゃあ、とりあえず今は休んでくれ。舞台は俺が温めておくから」

「? 何をする気だ」

「決まってるだろ」

 

 そう言って、遊矢は満面の笑顔を浮かべる。

 そして――

 

 

「レディース、エーン、ジェントルメーン!!」

 

 

 ――唐突に、声を張り上げた。

 

「あ? なんだぁ?」

 

 その唐突さに牛尾は素に戻り、間抜けな声で呟いた。

 遊星、パートナーであるセレナでさえも目を丸くして遊矢を見ている。

 

 

「本日はワタクシ榊遊矢と、その弟子セレナのエンタメタッグデュエルにお越しいただき、誠にありがとうございます!」

 

 

「弟子になった覚えはない」

 

 セレナはきっぱり否定するが、遊矢は気にせず続ける。

 

 

「さて。早速ですが、まずはフィールドを確認しましょう! 牛尾・遊星タッグのフィールドには、強力なシンクロモンスターが二体! しかもセレナのモンスターは無実にも関わらず、悪い警察官に捕まってしまいました! ですがご安心あれ! このエンタメデュエリスト“榊遊矢”が、この逆境を見事引っくり返してみせましょう!」

 

 

「……言いたい放題だな。あんにゃろう」

 

 毒づく牛尾。だが、その顔は笑っている。

 

「では参ります。ワタシのターン!」

 

 長い長い前口上のあと、ようやく遊矢がドローした。

 遊矢は引いたカードともう一枚を手札から選択し、相手に見えるように掲げる。

 

「ワタシは、スケール4の《EM(エンタメイト) トランプ・ウィッチ》と、スケール8の《相生の魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 二枚のカードが置かれた瞬間、遊矢のディスクに“PENDURAM”の文字が表示された。

 セットされた《EM(エンタメイト) トランプ・ウィッチ》と《相生の魔術師》が出現し、上空へ浮かび上がる。

 

「この召喚法……沢渡もさっき使っていたな。遊矢も使えるのか」

「左様でございます! 我々のペンデュラムゾーンには、スケール4のトランプ・ウィッチと、スケール8の《相生の魔術師》。これにより、レベル5から7のモンスターが同時に召喚可能となります!」

 

 振り子(ペンデュラム)が揺れる。大きく――もっと、大きく。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!

 ――ペンデュラム召喚! 来い、ワタシのモンスター達!」

 

 遊矢が手を振り上げた瞬間、天空の孔からモンスターが出現する。

 

「まずは、《EM(エンタメイト) ドラミング・コング》!」

 

 《EM(エンタメイト) ドラミング・コング》

 星5/地属性/獣族/攻1600/守 900

 

「続いて、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 召喚されたのは二体。

 一体は、胸部がドラム状になっているゴリラのエンタメイト。

 もう一体は世にも珍しい、緑と赤のオッドアイを持つドラゴン。

 ――ペンデュラム召喚。上級モンスターを同時に召喚する、榊遊矢の十八番。

 

「この二体が第一幕の主役となります! さあ、バトルと参りましょう!

 まずは《EM(エンタメイト) ドラミング・コング》で、《トラパート》を攻撃!」

 

 《トラパート》が破壊されるが、表示形式は守備。遊星にダメージはない。

 

「次はオッドアイズ! 《ジャンク・ウォリアー》に攻撃!」

「何っ――? だが、攻撃力はこちらが上」

「その通り! しかしここで、ドラミング・コングのモンスター効果が発動します!

 自分のモンスターが相手モンスターとバトルする時、その力強いリズムによって、攻撃力を600ポイントアップさせるのです!

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻 2500 → 攻 3100

 

「行け、オッドアイズ! その二色の眼で捉えた全てを焼き払え!

 ――“螺旋のストライク・バースト”!」

 

 オッドアイズのブレス攻撃が、強化された《ジャンク・ウォリアー》を焼き尽くす。

 その炎はモンスターだけでなく、プレイヤーにまで効果が及ぶ。

 

「オッドアイズの効果発動! モンスターとの戦闘で与えるダメージを二倍にする!

 ――“リアクション・フォース”!」

 

 牛尾・遊星

 LP:4000 → LP:3600

 

「っ……、やるな」

「まだまだこれからですよ! ワタシは更に速攻魔法《ペンデュラム・クライマックス》を発動! 自分の場のペンデュラムモンスター一体をリリースし、同じレベルの相手の墓地のモンスターを、このターン戦闘を行ったペンデュラムモンスターに装備します!

 ワタシは《EM(エンタメイト) ドラミング・コング》をリリースし、同じレベルの《ジャンク・ウォリアー》を、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》に装備!

 オッドアイズの攻撃力は《ジャンク・ウォリアー》の攻撃力の半分アップし、このターン、二度目の攻撃が可能となります!」

「何――!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻 3100 → 攻 4250

 

「さあオッドアイズ、二度目のバトルです! 《ゴヨウ・ガーディアン》を攻撃!

 ――“螺旋のストライク・バースト”!!」

 

 二度目のブレスが、今度は《ゴヨウ・ガーディアン》を粉砕する。

 オッドアイズの攻撃力は4250。その差――1450。

 

「オッドアイズの効果により、与えるダメージは二倍!

 ――“リアクション・フォース”!」

 

 牛尾・遊星

 LP:3600 → LP:800

 

「ぐぁっ――!」

「無事かぁ、遊星」

「っ――ああ。……しかし、予想以上にやるな」

 

 オッドアイズの怒涛の連続攻撃により、状況は一気に逆転した。

 ――だが、それだけでは勝てない。

 ライフは僅か800。それでも、牛尾と遊星は微塵も焦ってはいなかった。

 これはタッグデュエル。一人で頑張るにしても限界がある。パートナーを引きずったまま勝つことなど不可能。

 つまり、言い換えれば――

 

「――あとは、セレナ次第だな」

「あ? どういうこった。確かにヤバイっちゃヤバイが、このままなら行けるだろ」

「さあな、今にわかるさ。一つだけ確実に言えるのは、次が牛尾の最後のターンということだ」

「……分かんねえな。はっきり言えよ遊星。お前、何企んでる?」

「そんな言い方はよせ。俺はただ、あの二人の絆を信じているだけだ」

「絆……ねえ」

 

 牛尾は遊矢とセレナの方を見やる。

 

「……流石だな、遊矢」

「お褒めに預かり光栄でございます、姫」

「遊矢―― ふ ざ け て い る の か ?」

「……へっ? あ、いや、違うぞ。今のはただのエンタメっていうか、ちょっとしたお芝居っていうか……だから、頼むから落ち着いて。暴力反対」

「なら早くしろ。まだお前のターンだ」

「あ、ああ。ええと、俺、いやワタシは、カードを一枚伏せる!」

 

 セレナに脅され、慌てて遊矢はターンを終了させる。

 牛尾はそのやりとりを眺め――思わず、頬が緩んだ。

 

「ワタシはターンエンド。これにて第一幕は終了にございます」

 

 仰々しく一礼し、遊矢のターンが終了。これにて一巡。

 遊星と交代し、今度は牛尾が前に出る。

 

「さて、と。これでようやく俺のターンが来たわけだが……随分と派手にやってくれたじゃねえか、オイ」

「それはそれは。お気に召して頂けたでしょうか?」

「正直驚いた。が、少しばかり詰めが甘かったな。ドラミング・コングの効果はバトルフェイズ終了時に消え、《ペンデュラム・クライマックス》はターン終了時に消える。

 つまり、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は元に戻り、《ジャンク・ウォリアー》もまたこっちの墓地に帰ってくる」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻4250 → 攻2500

 

「そうですね。ですが、貴方のフィールドにはセレナのモンスターが一体のみ。こちらの優勢は変わりませんよ?」

「――だといいよな。

 じゃあ行くぜ、俺のターン。遊星、この伏せ(リバース)カード、使わせてもらうぜ」

「好きにしろ」

「よし来た。伏せ(リバース)カードオープン!」

 

 牛尾は伏せられたカード――遊星が伏せたカードを使用する。

 

魔法(マジック)カード、《戦士の生還》。墓地の戦士族モンスターを一体手札に戻す。

 俺は《ゴヨウ・ガーディアン》を選択。しかし、シンクロモンスターは手札にいかずエクストラデッキに戻る。

 さらに永続(トラップ)《エンジェル・リフト》! 墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚する。俺が召喚するのはチューナーモンスター《トラパート》!」

 

 《トラパート》

 チューナー

 星2/闇属性/戦士族/攻 600/守 600

 

「レベル4の《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルー・キャット)》に、レベル2の《トラパート》をチューニング!

 ――シンクロ召喚! もう一度来い、《ゴヨウ・ガーディアン》!」

 

 《ゴヨウ・ガーディアン》

 星6/地属性/戦士族/攻2800/守2000

 

「そんな、また!?」

「へっ、それじゃあバトルといくぜ。《ゴヨウ・ガーディアン》で、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!

 ――“ゴヨウ・ラリアット”!」

 

 セレナ・遊矢

 LP1100 → LP800

 

「ぐっ――!」

「そして《ゴヨウ・ガーディアン》の効果発動! そのドラゴンは頂くぜぇ!」

「っ……ところが、そうはいきません! オッドアイズはペンデュラムモンスター。ペンデュラムモンスターはフィールドで破壊された場合、墓地には行かずエクストラデッキに戻ります!」

「おっとそうか。じゃあ効果は使えねえな。俺はカードを一枚伏せて、ターンを終了するぜ。

 ――分かってるよな? 次は融合の嬢ちゃんのターンだ」

「っ……分かっている」

 

 ――そう。ここが境目だ。

 セレナの手札は五枚。枚数だけを考えれば十分逆転は可能だろう。

 だが《封魔の呪印》の効果により《融合》は使えない。融合召喚が主戦力である彼女にとって、これほど厳しい状況はない。

 

「私のターン!」

 

 カードを引く。

 おそらく、これが彼女にとって最後のドロー。

 

「なっ――……!」

 

 セレナはドローしたカードを確認する。

 引いたのは――二枚目の《融合》だった。

 言うまでもなく、彼女のデッキのキーカードである。

 

「どうやらお望みのカードは来なかったらしいな。いや、もしかすると逆か? 《融合》でも引いちまったのか?」

「っ――!」

 

 セレナは射殺すように牛尾を睨みつけるが、当人は涼しい顔でそれを流す。

 牛尾は自分の勝利を確信している。

 事実、《融合》を封じられた今の(・・)セレナは何もできない。

 

「ハッ、分かり易いヤツだ。となると、これで俺達の勝ちは決まりだな」

「いーや、それはどうかな!」

「!」

 

 自信満々の声にセレナは驚く。

 代わりに答えたのは遊矢。

 険しい顔のセレナとは裏腹に、遊矢はどこまでも明るく、牛尾の勝利を否定する。

 

「ほう。この状況を挽回できると?」

「できるさ。俺とセレナならできる。確かに貴方は強い。多分、一体一じゃ勝つのは難しいと思う。けど、これはタッグデュエルだ」

「だったら勝てるとでも言いてえのか」

「勿論! さ、セレナ!」

「……はぁ。全く」

 

 溜息をついたあと、セレナは遊矢を睨む。

 しかし、表情はどことなく柔らかい。

 

「……伏せ(リバース)カードだ、セレナ」

「ん?」

伏せ(リバース)カード。どうしても無理だと思ったら使ってくれ」

 

 訝しげにしつつ、セレナは遊矢のカードを確認する。

 

「――!」

 

 その瞬間、理解した。

 タッグデュエルの意味を。遊矢の想いを。

 そして、不動遊星という男の狙いを。

 

「……そうか。そういうことか」

 

 合点がいった。そう言わんばかりにセレナは頷く。

 

「セレナ?」

「ああ、いや。もう大丈夫だ」

「……そっか。よかった。

 それでは、シンクロ次元の皆様にご覧頂きましょう! 我々師弟のコンビネーションを!」

「だから違うと……――いや……まあ、いい。では、第二幕を上げるとしよう」

 

 セレナの表情に笑顔が戻る。

 ただしそれは、この上なく不敵な笑み。彼女らしい挑発的な笑顔だ。

 

「第二幕か。大きく出たな。今度は何を見せてくれるんだ?」

「今にわかるさ。まずは下準備からだ。

 私は魔法(マジック)カード《死者転生》を発動する。手札を一枚捨て、墓地のモンスターを一体手札に戻す。……私は、このカードを墓地に送る」

 

 セレナが示したのは《融合》のカード。

 《封魔の呪印》によって使えないため、運用としては間違っていない。

 しかし、融合次元の決闘者(デュエリスト)が自らの意思で《融合》を捨てたのだ。

 誰も気づいていなくとも、これには大きな意味がある。

 

「まずいな牛尾。どうやら本気になったらしい」

「らしいな……にしても、やけに嬉しそうだな」

「気のせいだ」

 

「手札に戻すのは《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルー・キャット)》。そして私は、この伏せ(リバース)カードを発動させる!

 ――速攻魔法発動! 《ペンデュラム・ターン》!」

「ペンデュラムだと? オイ、まさかそのカードは……」

「そうだ。これは前のターンに遊矢が残した伏せ(リバース)カード。この効果により、ペンデュラムモンスター一体のスケールをターン終了時まで変更する。

 私は《EM(エンタメイト) トランプ・ウィッチ》のスケールを4から1に変更!

 そしてフィールドのカードが減ったことで、《相生の魔術師》のスケールは8に戻る!」

 

 宙に浮くトランプ・ウィッチと《相生の魔術師》が示す数値が変動する。

 セッティングされたスケールは1と8。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!

 ――ペンデュラム召喚! 来い、私のモンスター達!」

 

 《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルー・キャット)

 星4/闇属性/獣戦士族/攻 1600/守 1200

 

 《月光(ムーンライト・)紫蝶(パープル・バタフライ)

 星3/闇属性/獣戦士族/攻 1000/守 1000

 

 月夜に舞う獣が二体、天空のアークより姿を現した。

 どちらも低級モンスター。一体では大した力を持たない。

 彼女のモンスターは、融合召喚により真価を発揮する。

 

「……こいつは驚いたぜ。まさかペンデュラム召喚とはな」

「安心しろ、お楽しみはこれからだ。

 ここで私は、《EM(エンタメイト) トランプ・ウィッチ》のペンデュラム効果を発動。一ターンに一度、自分フィールドのモンスターで融合召喚を行う」

「なにぃ!?」

 

 《封魔の呪印》はあくまで《融合》という魔法(マジック)カードを封じるだけだ。融合召喚そのものは封じられたわけではない。

 

「私が融合するのは、《月光(ムーンライト・)蒼猫(ブルー・キャット)》と《月光(ムーンライト・)紫蝶(パープル・バタフライ)》。

 蒼き闇を徘徊する猫よ。紫の毒持つ蝶よ。月の引力により渦巻きて新たな力と生まれ変わらん!

 ――融合召喚! 現れ出でよ、月明かりに舞い踊る美しき野獣! 《月光(ムーンライト・)舞猫姫(キャット・ダンサー)》!」

 

 《月光(ムーンライト・)舞猫姫(キャット・ダンサー)

 星7/闇属性/獣戦士族/攻 2400/守 2000

 

「ちっ、出やがったな猫娘」

「バトルだ! キャット・ダンサーで《ゴヨウ・ガーディアン》を攻撃!」

「血迷ったか! キャット・ダンサーの攻撃力はたったの2400! 《ゴヨウ・ガーディアン》の方が攻撃力は上だ!」

「始めに言ったはずだ。その程度の壁、一足で超えてみせると!

 私は速攻魔法《決闘融合-バトル・フュージョン》を発動! この効果によりダメージステップ終了時まで、キャット・ダンサーの攻撃力は《ゴヨウ・ガーディアン》の攻撃力分アップする!」

 

 《月光(ムーンライト・)舞猫姫(キャット・ダンサー)

 攻 2400 → 攻 5200

 

「攻撃力、5200だとォ!?」

「これにて終幕だ。行け、キャット・ダンサー!

 ――“フル・ムーン・クラスター”!!」

「うおぉぉぁぁ――――!!」

 

 キャット・ダンサーの攻撃が決まり二人のライフが底をつく。

 一歩下がっていた遊星はその様子を――セレナが牛尾を打ち負かす光景を、満足げに眺めていた。

 

 牛尾・遊星

 LP:800 → LP:0

 

 

 ◆

 

 

「私は、弟子になった覚えはない」

「ご、ごめん、他に案が思い浮かばなくて……けど、いいエンタメだっただろ?」

「どこがだ。私は戦士だぞ。お前の謳うエンタメなど知らないし興味もない」

「う……ごめん」

 

 がっくりと遊矢は項垂れる。

 実際先程のデュエルは、エンタメとしては不安定だった。

 ……素人を舞台に上げ、その上で活躍させる。

 余程上手く魅せなければ客は満足しないし、失敗する可能性も十分あったのだから。

 ……けれど。

 一つだけ、確かなことがある。

 

「――ただ」

「?」

「ただ……まあ、その……」

 

 ぼそり、と。

 誰にも聞こえないほど小さな声で、セレナは呟いた。

 

「お前とのデュエルも、悪くはなかった」

 

 少女もまた、魅せられてしまったのだ。

 この榊遊矢というエンタメの使者に。

 

 




――という感じで、「狂犬」が「番犬」になったりとか。
え、しない? ……デスヨネー。


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加速するハヤブサ

しかしそこでは黒咲が大活躍していた!(ネタバレ)

注意:スピードスペルが登場します。RUM(ランク・アップ・マジック)が使えねぇ!
   デュエルは途中からです。一から書くのは割とキツイ。というか、【RR】を書くのがキツイ。


 その男は、灰色のコースを駆けていた。

 跨っているのは漆黒のD・ホイール。男はカードと、速さ(スピード)というもう一つの武器を纏い、未知の召喚法を駆使して敵を殲滅する。

 観客は皆、その男に魅了されている。別世界から来たのではないかと疑ってしまうほどの、その異次元的な強さに。

 聞くところによると、男はライディング・デュエルの経験がないらしい。

 真実は定かではない。証拠がないからだ。だが、目の前のこの惨状を見れば、誰もが嘘だと感じるだろう。

 

 ――男の名は黒咲隼。

 

 スタンダート次元の精鋭部隊『ランサーズ』が誇るエクシーズ次元のデュエリストである。

 

 

 ◆

 

 

 このスタジアムでは定期的に一種の賭博が行われている。

 腕に覚えのあるD・ホイーラー達を集め、リーグ戦を開く。観客は誰が勝つかを予想し、手持ち金を賭ける。

 ある者は無名の選手に大金を貢ぎ、ある者はトッププレイヤーに僅かばかりの財産を注ぎ込む。

 平たく言ってしまえば競馬である。ただ、走るのは馬ではなくD・ホイーラーであるというだけ。

 ここに集められる者達は様々だ。表舞台を去った者から高待遇のVIPまでなんでもアリ。

 

 ――共通しているのは、ここを走る者全員が敏腕プロモーター『ギャラガー』に目をつけられた決闘者(デュエリスト)だということ。

 

 黒咲隼もまたそのうちの一人。

 シンクロ次元に存在しない召喚法――“エクシーズ召喚”の使い手としてスカウトされたのである。

 

「“ライディング・デュエル”……バイクに乗ってデュエルしてるんだ。うん、スリルがあって面白そうだね!」

 

 スタジアムでD・ホイールを駆る黒咲を見て、デニス・マックフィールドは目を輝かせる。

 水色のシャツの上にオレンジのスーツ。動きやすさを重視してか、スーツには右袖だけがない。派手かつ紳士的なその服装は、見る者に手品師(マジシャン)を連想させる。

 

「何が“面白そう”だ。今の俺達にこんなことをしている暇はないぞ」

 

 もう一人の男――権現坂昇がデニスを諌める。

 巨大なリーゼントと白い学ラン、赤いハチマキ。

 髪型だけを見れば不良のそれだが、雰囲気や立ち振る舞いは完全に真逆と言っていいだろう。

 権現坂は限界まで敷き詰められた観客席を見て、不満を隠さずに言う。

 

「それに見たところ、これはおそらく賭けデュエルだろう。こんなもの、実にけしからん行為だ」

「そうかなぁ。だって聞こえない? この歓声、この熱気。これぞエンタメって感じじゃない?」

「どこがエンタメだ。法を侵すエンタメなど、もはやエンタメではない」

「オイオイ、人聞きの悪いこと言うんじゃねえぜ」

 

 金色のサングラスを掛けた男が訂正する。

 高価なスーツを身に付け、指には宝石首にも宝石。只者ではないことが一目で分かる。

 彼こそがここの支配人、ギャラガーである。

 

「ここをどう思おうと勝手だが、これだけは言わせてもらうぜ。こいつは違法じゃねえ。シティからの許可も降りてるんだからな」

「だとしても、けしからん見世物であることに変わりはない。デュエルが終了したら、俺達は黒咲を連れて出て行くぞ」

「えぇ~!? そんな、黒咲だけずるいじゃないか! 僕もライディング・デュエル興味あるのに!」

「後にしろ後に。遊矢達を探して合流するのが先だ」

「むぅ……」

 

 デニスは渋々、といった感じで引き下がる。

 が、ギャラガーは引き下がらない。

 何しろこの二人はギャラガーにとって絶好のカモ。黒咲を倒せる可能性が最も高く、何より話題性抜群の決闘者(デュエリスト)だからだ。

 

「なるほどな。けど、人探しならここよりいい場所はないぜ。なんせ賞品があれだからな!」

 

 ギャラガーが指差したのは一枚のポスター。

 映っているのは、白いライディングスーツと金髪の男。そして、明らかに一般の物とは異なるD・ホイール。

 

「なんだ、それは」

「このネオ童実野シティには、かつて世界を救った伝説のチームがいてな。そのうちの一人“ジャック・アトラス”が、じき開催される“フレンドシップ・カップ”で帰ってくるのよ」

「フレンドシップ・カップ?」

「ああ。フレンドシップなんて可愛らしい名前が付いちゃいるが、その正体はただの生存競争よ。参加希望のD・ホイーラーがシティ中を跋扈し、出会えばたちまちデュエル開始。人数が絞られるまで永遠に戦い合う。

 ――そう。大会が始まれば、この眠らない街“ネオ童実野シティ”は、修羅の街“バトル・シティ”と化す!」

「バトル・シティだと!?」

「そうだ! 公平な戦いなんてのは上っ面だけだ。乱入上等インチキ上等。()()()()()()()()()()()なんだってOKなんだぜ。

 ……ま、大抵は見つかっちまうんだがな」

「む――そうか、ならば安心だ」

 

 不正は見つかる。

 バトル・シティと聞いて背筋が凍ったが、それを聞いて権現坂はほっと胸をなでおろす。

 この次元にはセキュリティと呼ばれる警察組織がある。彼らはしっかり自分達の街を取り締まっているようだ。

 

「で、この大会の優勝者には“ジャック・アトラス”とデュエルする権利が与えられる。その最短ルートがこのスタジアムってわけだ」

「どういうことだ? 何故ここがその“フレンドシップ・カップ”とやら繋がる」

「そいつは賞品が“シード権”だからだ。“バトル・シティ”が終われば、その後は一つのスタジアムでトーナメント戦が行われる。

 要するにここで一定以上の成績を出せば、バトル・シティの火の粉を浴びることなくトーナメントに進めるってわけだ」

「……成程。黒咲の狙いはそれか」

 

 元来、ランサーズの目的はシンクロ次元と同盟を結ぶこと。そして、強い決闘者(デュエリスト)を探すことだ。

 ここで勝ち続けていれば、自ずと強い決闘者(デュエリスト)に会えるだろう。たとえ機会に恵まれなかったとしても、フレンドシップ・カップでは確実に会える。

 加えて大会に出場すれば、ランサーズの面々とも合流することができる。

 黒咲の行動は一応、理にかなっている。

 

「……だとしてもだな、それでは時間が掛かってしまう。俺達は遊矢だけじゃなく、柚子も探さなければならんのだぞ」

「まあまあ権ちゃん」

 

 デニスはギャラガーに聞こえないよう、声を潜めて言う。

 

「……見る限りこの次元は平和っぽいし、少しくらい遅れたっていいんじゃない? それに、大会に出場した方が遊矢達も驚くと思うし」

「……正直に言ったらどうだ。ライディング・デュエルがしたいだけだと」

「心外だなぁ。“だけ”なわけないじゃないか」

「まったくお前というやつは――」

「まぁまぁ落ち着いて。とりあえず、細かい話は後で相談して決めることにしようよ。今は黒咲のデュエルを楽しもうじゃないか」

 

 デニスはスタジアムの方へ目を移す。

 ギャラガー専用の特等席だけあって、かなり眺めはいい。

 

「デニスの言う通りだぜ。なんせ今度は、お前らが黒咲と戦うかもしれねえんだからな」

「ホントに!?」

「断る!」

 

 身を乗り出すデニス。対し、権現坂は腕を組み拒否する。

 

「ハハッ、真逆の反応とは面白い。こいつは楽しみだぜ」

 

 

 ◆

 

 

 黒咲は無言のままコースを駆ける。

 対戦相手は腕利きのD・ホイーラー。公式試合で大敗した後ここに流れ着き、以降長い間活躍しているらしい。

 だが、黒咲はそんな経歴に興味はない。いかに幅をきかせていようが、所詮は這い上がれなかった弱者。そんな決闘者(デュエリスト)など、彼にとって敵ではない。

 

「俺のターン!」

 

 ターンが変わり、ドローフェイズ。

 黒咲は今一度、フィールドの状況を確認する。

 

 ENEMY

 LP:1200

 SPC:3

 

 黒咲

 LP:1000

 SPC:5

 

 ここでのデュエルは、好成績を収めれば収めるほど不利になる。

 今回のライフペナルティは、連勝している黒咲に2000。勝ち負けを繰り返している男には0。

 デュエルは既に佳境に入っている。

 黒咲の場にモンスターはなく、男の場にモンスターは一体。新緑の木々を彷彿とさせる虎のようなモンスター、《ナチュル・ビースト》。

 

 《ナチュル・ビースト》

 星5/地属性/獣族/攻2200/守1700

 

 《ナチュル・ビースト》は、デッキトップのカードを二枚墓地に送ることで魔法(マジック)の発動を無効にできる。

 加えて伏せ(リバース)カードが一枚。

 ライディング・デュエル最大の特徴は、専用の魔法である《Sp(スピードスペル)》。《SPC(スピードカウンター)》が貯まれば貯まるほど、反則的な効果を持つ魔法(マジック)カードを使用できるようになる。

 しかし、今はそれが封じられてしまっている。これでは逆転も難しい。

 

「……くだらん」

 

 黒咲は吐き捨てる。“くだらない”、と。

 彼にライディング・デュエルの経験はない。しかしそれが幸いした。

 たとえ《Sp(スピードスペル)》が使えなくとも、経験がない黒咲にとってはなんの負担にもならない。

 

「《RR(レイド・ラプターズ)-バニシング・レイニアス》を召喚!」

 

 機械じみた鳥獣が現れ、D・ホイールを操る黒咲と並行して滑空する。

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-バニシング・レイニアス》

 星4/闇属性/鳥獣族/攻1300/守1600

 

「バニシング・レイニアスのモンスター効果発動! 手札から《RR(レイド・ラプターズ)》モンスターを特殊召喚する! 俺は、二体目のバニシング・レイニアスを特殊召喚!」

 

 二体目のバニシング・レイニアスが現れ、一体目と並ぶ。

 そして、まだ終わらない。

 

「更に二体目の効果を発動! 三体目、バニシング・レイニアスを特殊召喚!」

 

 三体目が現れ、更に滑空。

 同名モンスターが三体並び、互いに共鳴し合う。

 

「……やるじゃねえか」

 

 高音の咆哮を浴びて、対戦相手の男は笑みを浮かべつつも賞賛した。

 男とて黒咲の評判と戦術は聞いていた。が、それでもなお、魔法(マジック)を使わずに同名モンスターを三体並べる手際の良さには、驚かざるを得ない。

 

「俺は、三体のバニシング・レイニアスでオーバーレイ!」

 

 三体の鳥獣は闇色の塊となり、空に空いた黒き孔へと吸い寄せられる。

 同レベルモンスター複数を使用する召喚。素材となったモンスターはオーバーレイ・ユニットとして宙に舞い、効果を使う際に消費される。

 シンクロ次元には存在しない新たな召喚法――それが。

 

「雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ! エクシーズ召喚! 現れろ! ランク4! 《RR(レイド・ラプターズ)-ライズ・ファルコン》!」

 

 寒色の色を帯びた機械鳥が、黒咲の元へと舞い降りた。

 強者を倒すための反逆の翼。黒咲隼の象徴とも言えるモンスター。

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-ライズ・ファルコン》

 ランク4/闇属性/鳥獣族/攻 100/守2000

 

「ここに来てエクシーズ召喚か。攻撃力はたったの100。だが――」

「そうだ。ライズ・ファルコンには、攻撃力の差をものともしない効果がある。

 オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで、特殊召喚された相手モンスターを一体選択し、その攻撃力分アップする!

 《ナチュル・ビースト》の攻撃力は2200。よって、ライズ・ファルコンの攻撃力は――!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-ライズ・ファルコン》

 攻 100 → 攻 2300

 

「バトルだ! ライズ・ファルコンで《ナチュル・ビースト》を攻撃! “ブレイブクロー・レボリューション”!!」

 

 炎を纏った突撃を受け、《ナチュル・ビースト》は破壊。同時に男のライフが減少する。

 削られた数値は僅かだが、いずれにしても上級モンスターの直接攻撃を受ければ消える程度。いかに小さな傷でも避けたいのが本音だろう。

 

 ENEMY

 LP:1200 → LP:1100

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「ちっ……やってくれるぜ。俺のターン!」

 

 ENEMY

 LP:1100

 SPC:4

 

 黒咲

 LP:1000

 SPC:6

 

 男はカードをドローした後、即座に伏せ(リバース)カードを発動させる。

 

(トラップ)発動、《シンクロ・スピリッツ》! 墓地のシンクロモンスターを除外して、素材となったモンスター一組を墓地から特殊召喚する!

 《ナチュル・ビースト》をゲームから除外して、《キーマウス》、《素早いビッグハムスター》を特殊召喚!」

 

 《キーマウス》

 チューナー

 星1/地属性/獣族/攻 100/守 100

 

 《素早いビッグハムスター》

 星4/地属性/獣族/攻1100/守1800

 

 一枚のカードで、二体の下級モンスターが特殊召喚された。

 内一体はチューナーモンスター。レベル5のシンクロモンスターが来るのでは、と黒咲は警戒する。

 

「そして俺は、《素早いビッグハムスター》をリリースして、《バフォメット》をアドバンス召喚!」

 

 《バフォメット》

 星5/闇属性/悪魔族/攻1400/守1800

 

「《バフォメット》の効果発動! デッキから《幻獣王ガゼル》を手札に加える」

「……」

 

 《キーマウス》と《バフォメット》。合計レベルは6。

 今度こそシンクロ召喚が来る――とは、黒咲は思わなかった。

 違う、そうではないと彼の本能が告げる。

 

「っ――」

 

 黒咲隼は覚えている。己の無力さを。己の不甲斐なさを。

 どれだけ強くなっても。いかに勝利を重ねようと。

 今浴びている歓声など、飾りにも劣るのだ。

 

 

「《Sp(スピードスペル)-スピード・フュージョン》を発動! SPC(スピードカウンター)が四つ以上ある時、モンスターを融合させることができる! 俺は、手札に加えた《幻獣王ガゼル》と、フィールドの《バフォメット》を融合!

 融合召喚! いでよ、《有翼幻獣キマイラ》!!」

 

 

 《有翼幻獣キマイラ》

 星6/風属性/獣族/攻2100/守1800

 

 ――翼が生えた二頭の獣。

 無理矢理合成させられたようなその醜い様は、正しく合成獣(キメラ)に相応しい。

 

「そして《Sp(スピードスペル)-シルバー・コントレイル》を発動! SPC(スピードカウンター)が二つ以上ある時、モンスター一体の攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

 《有翼幻獣キマイラ》

 攻2100 → 攻3100

 

「バトルだ! キマイラでライズ・ファルコンに攻撃! “キマイラ・インパクト・ダッシュ”!」

「墓地の《RR(レイド・ラプターズ)-レディネス》の効果発動! このカードを除外し、このターン受ける全てのダメージを0にする!」

「だが、モンスターの攻撃は通るぜ!」

 

 キマイラの攻撃を受け、ライズ・ファルコンは脆い硝子のように砕け散った。

 破壊の衝撃をD・ホイール上で受けつつ、黒咲は体勢を整える。

 

「耐え抜いたか。俺はこれでターンエンド」

 

 《有翼幻獣キマイラ》

 攻3100 → 攻2100

 

「っ――」

 

 黒咲は舌打ちする。

 何しろ手札がない。先程のバニシング・レイニアス三体で既に使い切ってしまったのだ。

 観客は動揺する。連勝中の黒咲が負けるのか、と。

 だが、当人の目はまだ死んでいない。それに期待している者達もいる。

 結果はどうあれ、間違いなく次が黒咲のラストターン。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ENEMY

 LP:1100

 SPC:5

 

 黒咲

 LP:1000

 SPC:7

 

 スタンバイフェイズの瞬間、両者のスピードカウンターが一つずつチャージされる。

 カウンターの数は七個。黒咲はこれでようやく、狙っていた効果を発動できる。

 

「俺は《スピード・ワールド2》の効果発動! SPC(スピードカウンター)を七つ取り除き、手札の《Sp(スピードスペル)》を一枚公開することで、カードを一枚ドローする」

「ほーう、最後のドローに賭けるってことか。まぁ無駄だろうがな。エクシーズモンスターは一体では成り立たない。精々壁モンスターを出して終わりってとこだろうよ」

「言っていろ。このデュエル、勝つのは俺だ。

 ――ドロー!!」

 

 黒咲

 LP:1000

 SPC:0

 

 黒咲はカードをドローし、途端にD・ホイールは失速する。

 SPC(スピードカウンター)がなくなったためだ。D・ホイーラーにとってSPC(スピードカウンター)はライフの次に管理すべき数値。これが無ければほぼ全ての魔法が発動できないからだ。

 ――その上で、黒咲は笑っていた。

 速度が落ちた黒いD・ホイールは、中継カメラで黒咲の表情をはっきりと捉えている。

 観客席は一瞬だけ静まり返り、男は訝しげに黒咲を見つめる。

 

 ――そして唐突に、黒咲のD・ホイールは急加速する。

 

「《Sp(スピードスペル)-オーバー・ブースト》発動! SPC(スピードカウンター)を六つ増やす代わりに、ターン終了時に一つにまで減少する!」

「何っ――うおっ!?」

 

 黒咲

 LP:1000

 SPC:6

 

 カウンターを上回った黒咲は、あっという間にその男を追い抜いた。

 もはや彼を止められない。

 止まることなく、止め様がなく、黒咲は勝利への道を突き進む。

 

(トラップ)発動、《エクシーズ・リボーン》! この効果により、墓地からエクシーズモンスターを復活させる! 舞い戻れ、《RR(レイド・ラプターズ)-ライズ・ファルコン》!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-ライズ・ファルコン》

 ランク4/闇属性/鳥獣族/攻 100/守2000

 

「なんだと!?」

「ライズ・ファルコンの効果発動! オーバーレイ・ユニットを一つ使い、特殊召喚されたモンスターの攻撃力分アップする!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-ライズ・ファルコン》

 攻 100 → 攻 2200

 

「さらに《Sp(スピードスペル)-スピード・エナジー》発動! SPC(スピードカウンター)を一つ使うことで、ライズ・ファルコンの攻撃力はSPC(スピードカウンター)一つにつき、200ポイントアップする!」

 

 黒咲

 SPC:6 → 5

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-ライズ・ファルコン》

 攻 2200 → 攻 3200

 

 ライズ・ファルコンの攻撃力が流れるように上昇する。

 最終的な攻撃力は3200。一撃で相手を葬れる範囲にまで到達した。

 翼を持っただけの地を這うキマイラに、その攻撃力(ちへい)はあまりにも(たか)い。

 

「バトルだ! ライズ・ファルコン、《有翼幻獣キマイラ》を攻撃! “ブレイブクロー・レボリューション”!!」

 

 スピードの力を得た(はやぶさ)合成獣(キメラ)に突撃する。

 攻撃力の差は1100。男に防ぐ術はなく、彼を守る最後の砦が破壊された。

 

「ぐっ――うあああぁぁあぁあ――!!」

 

 ENEMY

 LP:1100 → LP:0

 

 ライフが尽き、男のD・ホイールが停止。スモークが吹き上がり、完全にスピードを失って停止した。

 勝敗が決着し、会場は再び黒咲コールに包まれる。

 

 ――融合モンスターの破壊。

 己の完全なる勝利を実感しつつ、黒咲は余韻を味わう。

 

 勝者は黒咲隼。連勝記録は守られ、目的へとまた一歩近づいた。

 

 

 ◆

 

 

「ハーイ黒咲。久しぶりだね、元気だった?」

「……」

 

 開口一番、デニスは黒咲に明るく声を掛けた。

 試合が終了し、黒咲は一度控え室へ戻った。そこで待っていたのがこの二人――デニスと権現坂だったというわけである。

 だが、黒咲が無言になった理由はその格好だ。

 権現坂はいつも通り。しかし、デニスはオレンジのライディングスーツを纏い、ギャラガーから借りたであろうD・ホイールを引いている。

 

「……何故貴様らがここにいる」

「それはこちらの台詞だ。単独行動は感心せんぞ」

「俺は俺に出来ることをやっていただけだ。ここに来たということは、貴様らも話は聞いただろう?」

 

 D・ホイールの点検をしていたデニスが得意げに言う。

 

「あーそれ、僕らも聞いたよ。フレンドシップ・カップのことだよね?」

「そうだ。俺はここで勝ち残り、その大会に出場する。強い決闘者(デュエリスト)を探すなら、これを逃す手はない」

「だよね。ね、権ちゃん。僕が言ったとおりだったでしょ?」

「ぬぅ……しかしだな、これは健全なデュエルではない。賭けデュエルなんだぞ」

 

 賭けデュエル。権現坂が渋る理由はそこだ。

 糞真面目という言葉が似合うこの男は、どんなに正当な理由があっても、この手のモノを認めるわけにはいかないらしい。

 

「勘違いしてもらっては困る。貴様らに出番はない」

「……む」

 

 挑発とも取れる黒咲の言葉に、デニスは反論する。

 

「そんなことはないよ。僕らだってランサーズの一員なんだから」

「それ以前の問題だ。これはライディング・デュエル。通常の魔法は使えず、《Sp(スピードスペル)》がモノを言う速さのデュエル。

 魔法を使わない決闘者(デュエリスト)に、ペンデュラムを使えないエクシーズ使い。参加したところで結果は見えている」

「随分はっきり言うんだね。理由を聞いてもいいかな?」

「この次元の決闘者(デュエリスト)は、スタンダートの連中とは違う。どの連中も強いわけではないが、決して弱くはない。スタンディングならいざ知らず、LDSがライディング・デュエルを挑むなど自殺行為だ」

「意外だね。心配してくれてるのかい?」

「寝言は寝て言ったらどうだ」

「はは、ごめんごめん。でももう登録しちゃったからね。それに、今のを聞いてちょっとワクワクしてきたよ」

 

 デニスはD・ホイールに跨り、ヘルメットを装着する。

 デッキをセットし画面を操作すると、Dホイールは走行モードに変形する。

 

「……うん、行けそうだ。どう? 権ちゃん」

「ぬぅ…………まあ、サマになってはいるが」

「そっか、よかった。じゃあ二人共、客席でしっかり僕を応援してね!」

 

 ゲートが開き、デニスは意気揚々とD・ホイールを駆る。

 別席からはギャラガーのアナウンスが響き、それに合わせてデニスがパフォーマンスを披露した。

 奇想天外なその振る舞いに、観客たちは一気に呑まれていく。

 

 ――かくして、スターがまた一人。

 

 この小さなスタジアムにて誕生した。

 

 




遊戯王はアニメとタッグフォースぐらいでしか知らないので、ぶっちゃけ【RR】と【Em】は全く書けません。TFSPに【RR】は三種類しかいませんし、【Em】に至ってはゼロですから。


「かませになる融合モンスター」を出したかったので、《有翼幻獣キマイラ》を無理矢理出張させました。


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榊遊矢、アクセラレーション!

『デュエルが開始されます、デュエルが開始されます。一般車両は直ちに退避してください』
(ネタバレ)

注意:スピードスペルが登場します。
   《スピード・ワールド・ネオ》についてオリジナルルールを生やしました。


 雲一つない快晴の空の下。不動遊星と榊遊矢は鬱陶しいくらいの陽光を浴びつつ、Dホイールに跨っていた。

 共に色は赤。片方は長年使い込まれているらしく、所々小さな傷が目立つ。修理された痕もいくつか残っており、持ち主に大切に扱われていることが読み取れる。

 対してもう片方――遊矢が乗っているD・ホイールは傷一つない新品。遊星自身の手で製作されたからか、形状は似通っている。

 とはいえ遊矢の方は、倉庫の奥で眠っていたものを引っ張り出してきただけだ。毎日ハイウェイを走っている他のDホイールに比べるとやや古い。

 しかしその中身は別だ。この二車には、新型のあるシステムが組み込まれている。

 

「遊矢、調子はどうだ」

「はい……なんとか」

 

 遊矢はデッキをDホイールにセットし、ディスプレイを操作する。

 Dホイールが変形し、デュエルモードに移行。人工ボイスが遊矢のDホイールから発せられる。

 

『――デュエルモードON。オートパイロット、スタンバイ』

 

 無事起動したことを確認し、遊星もまたデュエルモードに移行させる。

 

「遊矢はライディング・デュエルは初めてだったな?」

「はい。……ここまで来て今更ですけど、本当にこれでデュエルができるんですか?」

「ああ。使用するフィールド魔法は《スピード・ワールド・ネオ》。《スピード・ワールド2》なら専用の免許が必要になるんだが、オートパイロットのこれは必要ないらしい。最高速度も大幅に制限されて、何より“転倒しないこと”が重視される」

「そうなんですか。いえ、ですけど……」

 

 遊矢は不安げに自分のDホイールを見つめる。

 当たり前だが、十四歳である遊矢はDホイールに乗ったことがない。当然バイクもない。本人的に二輪と言えば自転車なのだが、流石にあれとは速さの次元が違う。不安になるのも仕方ないだろう。

 

「初めては誰にでもある。少しずつ慣れていけばいい」

 

 遊星はヘルメットを被った後、出来るだけ穏やかに、遊矢に呼び掛ける。

 

「好きなタイミングで始めてくれ。俺は後から続く」

「……はい」

 

 遊矢もまた、遊星に習ってヘルメットを被った。

 強烈な日差しとライディングスーツ。全身に熱を感じながらも、思考をクリアにする。

 

「――……」

 

 深呼吸の後、遊矢は愛用のゴーグルをかけ、走る先を見つめた。

 道はどこまでも続いていて果てがない。邪魔な障害物もなく、遊矢と遊星以外の走行車もない。

 ……自由の象徴。ふと、そんな言葉が浮かんだ。

 ネオ童実野シティ。街の規模からして、総人口は故郷である舞網市と同等……いや、それ以上だろう。

 にも関わらず、道は拓けている。ここに住んでいる誰もが、思い思いに生きている。

 遊矢はただ、漠然と感じる。

 

 ――大きいな、と。

 

 具体的に何が、と聞かれたら返答に困る。

 答えは“何もかも”だからだ。

 D・ホイールに怖気づく自分など、なんと小さいことか。

 

「――よし」

 

 迷いが消える。

 肺に溜まった空気を吐き出し、思考をクリアに。

 もう一度走る先を見据え、遊矢はハンドルを握り締める。

 

「行きます!」

 

 アクセルを踏み、エンジンを鳴らし、遊矢は走り出した。

 

「っ――――!」

 

 経験のない風の抵抗が遊矢の全身を襲う。

 アクション・デュエルでモンスターに乗るのとはワケが違う。

 モンスター独特の揺れはない。しかし速度は段違いだ。圧倒的な速さで流れていく景色。そして、固まった空間を切り裂くかのように疾走する己自身。

 そのえも言われぬ感覚に、遊矢は酔う。恐怖とスリルが絶妙に絡み合い、クリアになったはずの思考は一気に沸騰する。

 

 遅れて遊星が後ろに続く。

 両者は縦に並び、ディスプレイを操作。

 

 ――瞬間、世界は塗り替えられる。

 

 フィールド魔法《スピード・ワールド・ネオ》。

 エンタメを志す少年は、新たな世界へと足を踏み入れた。

 

 

「「ライディング・デュエル、アクセラレーション!」」

 

 

 ◆

 

 

 時間は少し遡る。

 ランサーズの四人が不動遊星を訪れ早二日。遊星、遊矢、零羅の三人は、いつものガレージで留守番をしていた。

 セレナと沢渡は柊柚子・ランサーズの捜索、強い決闘者(デュエリスト)の聞き込み……そして街歩き。

 箇条書きにすると働き者に聞こえてしまうが、実際は捜索二割、聞き込み二割、そして街歩き六割といったところである。

 というのも、前者二つは既に目星がついているからだ。柊柚子に関してはセキュリティに探してもらっているし、何よりフレンドシップ・カップがあるため問題は無い。ならば、遊び呆けてしまうのも致し方ないだろう。

 遊星は専用のケーブルでパソコンとDホイールを繋ぎ、あるプログラム――《スピード・ワールド・ネオ》をインストールしている。

 遊矢はテレビを借り、以前牛尾が持ってきた“ジャック・アトラス”のDVDを眺めている。

 エンターテイメント。ジャックのお決まりの台詞となっているこの言葉が彼には響いたらしい。

 人見知りの激しい性格をしている零羅は、細かく気に掛けてくれる遊矢に付きっきりだ。従って零羅もまた“ジャック・アトラス”のDVDを視聴していた。

 

 各々の時間を思うまま過ごすその光景は、まさに平和そのもの。

 しかしその平穏は、ある人物の来訪により崩れ去る。

 

 

「邪魔をするぞ、遊星!」

 

 

「「「!?」」」

 

 気持ちが良いくらい豪快にガレージの入口が開かれた。

 三人はそれぞれ驚く。

 集中していた遊星は突然のその大きな音に。残りの二人はその人物の正体に。

 

「……ジャック(・・・・)か」

 

 ――ジャック・アトラス。

 かつてネオ童実野シティに君臨した決闘王(デュエルキング)、その人だった。

 遊矢と零羅は、何が何だか分からないといった体で硬直している。

 無理もない。今まさにテレビに映っているはずの人物が、自分達の目の前に現れたのだから。

 

「お前はいつも突然だな。いつここに?」

「先程この街に着いたところだ。早速で悪いが、頼めるか?」

「ああ、構わない。遊矢、少し席を外す。用事があったら呼んでくれ」

「あ……はい」

 

 狼狽える遊矢。輪にかけて沈黙する零羅。

 しかし遊星の態度はいつも通りである。

 

「ホイール・オブ・フォーチュンの整備か。ジャックの立場なら、専用の整備士が何人もいるんじゃないのか?」

「確かにいるが、最も信頼できるのはお前の腕だからな。といっても、半分はファンサービスみたいなものだ」

「そうか。まあ、俺としても願ったり叶ったりだ」

 

 雑談を交えつつ、遊星とジャックはガレージを出る。

 今日は天気もいい。気分転換も兼ねて、Dホイールの整備は外でやるのだろう。

 

 世界で活躍するDホイーラー、ジャック・アトラス。この街の人間にとってその男はヒーローそのもの。

 ヒーローとは一種の偶像。偶像とは理想の権化。故にそれは、この世の何よりも美しい。

 だからこそ手が届かないのだ。どんなに美しい“理想”も、手が届いてしまえば“現実”に堕ちる。

 ……それほどの存在が目の前にいて尚、遊星は普段と変わらない。

 

「……本当に、仲間なんだなぁ」

 

 多くの人やファンにとって、ジャック・アトラスとは理想だ。

 輝いて見える反面、決して手が届かない。目指すべき目標として、常にこちらに背を向けている存在。

 しかし遊星にとってジャック・アトラスとは現実であり、仲間だ。

 手を伸ばせば確実に届く。いつでも抜くことができ、いつ抜かれてもおかしくない好敵手なのだ。

 

「……ジャック・アトラス」

「零羅?」

 

 零羅はぬいぐるみを抱えたまま、弱々しくテレビを指す。

 停止し忘れていたからか、映像はまだ続いている。

 テレビの中のジャック・アトラスは、特徴的な白のDホイールに乗り、天高く指を突き上げ声を張り上げる。

 

 ――“キングは一人、このオレだ”

 

 ――“キングのデュエルは、エンターテインメントでなければならない”

 

「エンターテイメント。エンタメ……か」

 

 遊矢がDVDを食い入るように見ていたのは、この発言が気にかかったからだ。

 実際ジャックのデュエルは、会場を何度も沸かせていた。

 

「……零羅」

 

 遊矢は零羅の身長に合わせてしゃがみ、話しかける。

 

「俺、ちょっと出てくるよ。少しだけ一人にしちゃうけど、いいか?」

「…………」

 

 答えはない。

 けれど小さく……ほんの小さくだが、零羅は頷いた。

 

「っ……ありがとう、零羅!」

 

 何に対しての“ありがとう”なのか。

 わがままを許してくれたことに対してか。それとも、ようやく返事をしてくれたことに対してか。

 ……おそらくはどちらもだろう。

 遊矢は零羅なりの返事を確認した後、ガレージの外へ飛び出した。

 

 

「――エキシビション・マッチ?」

 

 

 遊星はDホイール“ホイール・オブ・フォーチュン”の整備点検をしながら、ジャックの言った言葉を訊き返す。

 

「ああ。フレンドシップ・カップは、キングであるこのオレとのエキシビション・マッチで幕を上げるらしい。年に一度の祭典だ、出来るだけ派手に盛り上げたいのだろう」

「……」

 

 ズズ、と飲み物をすする音。

 遊星は聞こえないフリをして作業を続ける。

 

「そうか。確かに、使用するフィールド魔法は《スピード・ワールド・ネオ》。アピールも兼ねてるんだろうな。

 それで、その相手を俺に頼みたいと?」

「そういうことだ。――フッ」

「……」

 

 ジャックの謎の笑み。遊星は手を止めない。いつものことだからだ。

 

「どうして俺を選んだんだ?」

「並のDホイーラーにオレの相手は務まらんからな。それに、他に手応えのあるヤツも思いつかん。

 ……ん、もうなくなったか。“ブルーアイズ・マウンテン”、おかわりだ!」

 

 ジャックは空になったカップを置き、追加注文を頼んだ。

 “ブルーアイズ・マウンテン”とは、超高級なコーヒーのことである。値段は一杯三千円ナリ。

 

 ……その光景、実に異様。

 遊星はDホイールの点検を行っている。が、何も喫茶店の前でやっているわけではない。遊星にも一応の常識はある。

 ()なのだ。遊星が喫茶店の前で作業しているのではなく、ジャックが店員にコーヒーを用意させている。

 たった一杯の、三千円のコーヒーを、わざわざ噴水広場の向こうから。

 

 “あー……この人、本当にキングなんだなぁ”

 

 そんなことを漠然と思う遊矢であった。

 思い描いていた理想が崩れた気がする遊矢でもあった。

 そして店員も店員でヒドイ。

 ジャックの後ろに付き添い、おかわりと聞けば本当におかわりを用意してくるのだから。

 完全にジャック専属のメイド気取りである。

 

「はっ――そうか。これが……これこそが、カリスマの成せるワザ。究極の精神汚染。即ち、エンタメの局地――!」

「違うぞ遊矢、惑わされるな」

「あっ、はい」

 

 ちなみに、ジャックのこの振る舞いはいつものことである。

 

「遊星、この子供は誰だ。他にもう一人いた気もするが」

「榊遊矢。もう一人の子は赤馬零羅だ。今はあのガレージで居候させている」

「ガレージか。そういえば、どうしてお前は相も変わらずあの部屋を使っている? その気になればもっといい場所に住めるだろうに」

「なんだかんだ言ってあそこが一番落ち着くんだ。俺に豪華な暮らしは似合わない。それに、この場所だからこそできることもある。

 ……よし、いいぞジャック」

 

 作業を一通り終え、遊星は立ち上がる。

 

「速いな。もう終わったのか」

「特に異常は見当たらなかったからな。だが、外装は以前より小さな傷が目立つ。もう少し優しく扱ったらどうだ」

「許せ、名誉の負傷というやつだ。おそらく、お前とのデュエルでまた傷が増えることになるだろうな」

「エキシビション・マッチか……ん?」

「?」

 

 遊星はちらりと遊矢を見やる。

 しばらくして、遊星は意味深に微笑んだ後。

 ――とんでもないことを提案した。

 

「ジャック。エキシビション・マッチの件だが、遊矢にやってもらうというのはどうだ?」

「何?」

「えっ!?」

 

 世間話のような軽い口調だが、遊矢本人としてはただごとではない。

 エキシビション・マッチ。フレンドシップ・カップ開催と同時に開かれる模擬戦。

 戦績には一切関与されないが、祭典の開幕戦としてそれ相応の期待が集まる。

 

「ちょっと待ってください! どうして俺がその大会に……それもエキシビションで――ジャック・アトラスと」

「君達の目的は強い決闘者(デュエリスト)を探すことだったろう? それに、エキシビションに参加すれば自然と君の顔も広まる。柚子って子も探しやすくなるし、いい事ずくめだと思ったんだが」

「それは……確かに」

「何より、この一戦は特に注目を浴びる。エンタメを目指しているのならいい練習になるだろう」

「エンタメ……だと?」

 

 いつかカメラの前で言ったその言葉に、ジャックが反応する。

 

「ああ。前にDVDを見せてからお前に興味を持ったらしくてな。それ以来、彼なりに“ジャック・アトラス”を研究している」

「ちょっと! そこまで言う必要ないでしょう!」

「フン。研究された程度で負けるようならキングは名乗れん。それで、他にはなんだ? 遊矢とか言ったな。お前が俺との対戦でそいつを勧める理由は、まさかそれだけじゃないだろう?」

「勿論だ。デュエルに関しても遊矢は負けていない。勝敗はともかく、確実にお前を驚かせるだろう」

「――ほう」

「っ……!」

 

 ジャックは遊矢を観察する。

 榊遊矢がどれほどの決闘者(デュエリスト)なのか、彼なりに測っているのだ。

 ぱっと見た感じ、そこまで強い印象は受けない。しかし、不動遊星ともあろう男が自ら勧めた男。

 ならば“何かある”。ジャックはそう感じ取っていた。

 

「……仕方あるまい。お前がそこまで言うならよかろう。榊遊矢、貴様の挑戦を受けてやる」

 

 

 ◆

 

 

 そんなこんなで、二人はこうしてD・ホイールに乗っている。

 零羅は外出中の二人が帰ってきても問題ないように、ガレージのテレビを通して見学している。

 ジャックはD・ホイールの点検が終わった後、早速それに乗ってどこかへ去っていった。遊矢の戦術を見ないようにするためだろう。

 

「……けど、まさかあんなことを言う人だったなんて」

 

 先程の発言を思い返し、遊星に聞こえないように一人で愚痴る。

 遊矢自身、“不動遊星”は大人しい人だと思っていた。ジャック・アトラスと対戦させる、なんて大胆な提案をする人だとは思わなかったのだ。

 けれど思い返せば、彼の提案は遊矢にとって有難いことだった。

 ――ジャック・アトラス。

 成り行きとはいえ、彼と対戦できるのはまたとないチャンス。

 他次元だからという理由もあるが、何しろ相手は彼と同じエンタメを志す決闘者(デュエリスト)。言ってみれば先輩だ。

 どこまで自分の力が通用するのか、遊矢としても試したいのだ。

 ……まずは、慣れること。

 今の榊遊矢とジャック・アトラスが決闘(デュエル)をしても勝ち目はゼロ。万に一つすらありはしない。

 なにせ立っている土俵が違うのだから。

 だからこのデュエルで、ライディング・デュエルの経験を積む。それが遊矢の第一目的。

 

「行きます、俺のターン!」

 

 遊矢

 LP:4000

 SPC:1

 

 遊星

 LP:4000

 SPC:1

 

 遊矢はD・ホイールから片手を離し、バランスを取る。

 現在展開されている魔法は《スピード・ワールド・ネオ》。オートパイロット機能を搭載したフィールド魔法。

 とはいっても、片手でバランスを取ることは容易ではない。アクション・デュエルの経験がある遊矢だからこそ対応できるのだ。

 

「よし。俺は《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》を召喚!」

 

 《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》

 星4/闇属性/獣族/攻1800/守 700

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 銀色の狼と伏せ(リバース)カードを展開し、遊矢のターンが終了。

 召喚されたシルバー・クロウは遊矢の隣を並走している。

 ターンプレイヤーが変わり、次は遊星のターン。

 

「俺のターン!」

 

 遊矢

 LP:4000

 SPC:2

 

 遊星

 LP:4000

 SPC:2

 

「わっ……っと!」

 

 SPC(スピードカウンター)はお互いのスタンバイフェイズ毎に一つずつ増えていく。

 つまり、デュエルが進むほどD・ホイールの速度も上がっていくのだ。

 しかし遊星は、スピードの中でも容易に片手を離し、手札から二体のモンスターを選択する。

 

「手札のモンスターカードを一枚墓地に送り、《クイック・シンクロン》を特殊召喚!」

 

 《クイック・シンクロン》

 星5/風属性/機械族/攻 700/守1400

 

「そして、墓地に送った《レベル・スティーラー》の効果発動! 自分の場のレベル5以上のモンスターのレベルを一つ下げることにより、墓地から特殊召喚!」

 

 《クイック・シンクロン》

 星5 → 星4

 

 《レベル・スティーラー》

 星1/闇属性/昆虫族/攻 600/守 0

 

「レベル1の《レベル・スティーラー》に、レベル4となった《クイック・シンクロン》をチューニング!

 集いし星が新たな力を呼び起こす。光射す道となれ! シンクロ召喚! いでよ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》

 星5/闇属性/戦士族/攻2300/守1300

 

 ――《ジャンク・ウォリアー》。以前のデュエルでも姿を見せた瓦礫の戦士。

 しかし、遊星の場にレベル2以下のモンスターはいない。攻撃力はそのままだ。

 

「レベル・スティーラー》の効果を再び発動! 《ジャンク・ウォリアー》のレベルを1下げ、墓地から特殊召喚!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》

 星5 → 星4

 

 《レベル・スティーラー》

 星1/闇属性/昆虫族/攻 600/守 0

 

「バトル! 《ジャンク・ウォリアー》で《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》を攻撃! “スクラップ・フィスト”!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》の拳が唸りを上げ、シルバー・クロウが破壊された。

 その衝撃は当然遊矢自身にも襲い来る。

 

 遊矢

 LP:4000 → LP:3500

 

「更に《レベル・スティーラー》、遊矢にダイレクトアタック!」

 

 遊矢

 LP:3500 → LP:2900

 

「ぐっ……まだまだ!」

 

 猛攻を耐えつつ、遊矢はD・ホイールを走らせる。

 勝機はまだ尽きてはいない。《レベル・スティーラー》の攻撃力はわずか600。これを利用すれば大ダメージを与えられる。

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 

 遊矢

 LP:2900

 SPC:3

 

 遊星

 LP:4000

 SPC:3

 

「――来た!」

 

 ドローしたカードは《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 攻撃力は2500を誇り、戦闘で与えるダメージを二倍にする効果を持っている。

 これにてピースは揃った。

 遊矢は一転、攻勢に入る。彼の十八番である“ペンデュラム召喚”を用いて。

 

「俺は、スケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 ペンデュラム召喚は、上級モンスターを一度に大量召喚する新たな召喚法。

 しかし、その真価は別のところにある。

 (ペンデュラム)モンスターはフィールドで破壊された時、墓地にはいかず表側表示でエクストラデッキに行く。そしてペンデュラム召喚は、手札だけでなくエクストラデッキにも対応している。

 つまり、除外するか、デッキに戻すか、何らかの手段で墓地に送られない限り、何度でもフィールドに特殊召喚されるのだ。

 遊矢のエクストラデッキには、先程破壊された《EM(エンタメイト)シルバー・クロウ》。このターン、遊矢は最低でも二体以上のモンスターを召喚できる。

 

 ただし――あくまでもこれが、通常のデュエルだったらの話だが。

 

 D・ホイールの速度が落ち、同時にデュエル・ディスクから人工ボイスが発せられる。

 

『エラーが発生しました』

「え……?」

 

 遊矢の画面には赤い文字でエラーが表示され、デュエルの続行が不可能なことを知らせている。

 

「エ、エラー!? そんな、どうして……!」

「どうかしたのか?」

「わかりません。なんかエラーが発生したみたいで……」

「エラー……? いや、しかし……」

 

 遊星は遊矢のD・ホイールを見回す。

 見る限りおかしなところは見当たらない。D・ホイール自体は乗り物として機能している。

 

「……ん?」

 

 しばらくして遊星はある一点……このターンの最初とは異なる箇所を見つけた。

 それはSPC(スピードカウンター)。遊星のカウンターは3。スピードスペルを使っていないため一つも消費していない。しかし、遊矢のカウンターは1に減っていた。

 

 遊矢

 SPC:3 → SPC:1

 

「……遊矢。(ペンデュラム)モンスターでスケールをセットする時、どのような処理が行われるんだ?」

「処理?」

「ああ。モンスターの召喚として扱うのか、魔法(マジック)の発動として扱うのか、それとも(トラップ)か。あるいは、それ以外の別の何かなのか?」

「ええっと……一応は、永続魔法の発動として処理されます」

「それだ。遊矢、セットしたPモンスターを一体、手札に戻してみてくれ」

「? はい」

 

 遊矢はセットした魔術師――《星読みの魔術師》を手札に戻した。

 途端、画面は正常に戻り、再びフィールドの状況がモニタリングされる。

 

「戻った……? でも、どうして?」

「これが《スピード・ワールド・ネオ》の新しい効果だ。スピードスペル以外の魔法を使う場合、自分のSPC(スピードカウンター)を二つ消費しなければならない。(ペンデュラム)モンスターのセッティングは、要するに魔法(マジック)カードを二枚続けて発動するということだ。

 つまり今の遊矢は、SPC(スピードカウンター)を二つ使って《時読みの魔術師》だけをセッティングしたことになる。ペンデュラム召喚をしたいなら、もう一ターン待ってカウンターを貯めないといけない」

「なるほど……あれ? ということは、もしかして……」

 

 カクカクと、遊矢はロボットのように遊星の方を見る。

 遊星は心底言いづらそうに、その疑問に答えた。

 

「……はっきり言ってしまうと、ペンデュラム召喚はライディング・デュエルに向いていない。更に言ってしまうと、それを得意とする君や沢渡は、ライディング・デュエルに向いていない」

「そんなぁ!? 俺、確かジャック・アトラスとデュエルするんですよね!?」

「すまない。(ペンデュラム)モンスターについて把握していなかった俺のミスだ」

「うぅ……」

 

 遊矢はがっくり項垂れる。

 ……今更対戦相手の変更はできないだろう。

 ジャックは既に立ち去ったのだ。おそらく今頃、運営相手にゴリ押ししているに違いない。

 榊遊矢という無名の決闘者(デュエリスト)がオレの相手になる、と。

 

「……とりあえず、このデュエルは完結させよう。どうする遊矢。一ターン待ってもいいが」

「……!」

 

 申し訳無さから出た温情。しかし、それをどう受け取るかは相手次第。

 遊矢にとってはそれが“余裕”に見えた。

 遊星は遊矢のことを“ペンデュラム召喚の使い手”と認識している。それ自体は間違ってはいない。

 ――だが、それだけではない。

 悔しい。そう思った遊矢は、意地を張って答えた。

 

「その必要はありません」

「遊矢?」

「確かに、この状況でペンデュラムは使えません。でも、俺だってランサーズの一員だ。それだけで諦めるつもりはないし、手を抜く必要もありません」

 

 遊矢は自分の手札、そしてセットされたカードを確認する。

 ――まだ、手は尽きていない。

 

「……そうか。いいだろう、ならば手は抜かない。デュエルを再開する」

 

 遊星はアクセルを踏み、遊矢の前を先行する。

 追う者と追われる者。即ち弱者と強者。

 いつだって追う者には、強者に食らいつく権利がある。

 

「永続(トラップ)、《連成する振動》を発動! 一ターンに一度、自分の(ペンデュラム)ゾーンのモンスターを破壊し、カードを一枚ドローできる!

 この効果により《時読みの魔術師》を破壊し、一枚ドロー!」

 

 宙に浮く《時読みの魔術師》が消滅し、遊矢はカードを引く。 

 現在の遊矢の手札は三枚。そのうち二体は(ペンデュラム)モンスター。このドロー次第で勝敗が決まる。

 

「――……」

 

 遊矢は引いたカードを恐る恐る確認した。

 ――《EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ》。

 遊矢が愛用するカバのEM(エンタメイト)。愛らしい外見をしているが、効果は使い道が限られているため、本気の決闘(デュエル)で使用されることは少ない。

 けれど今は違う。このカードこそがキーカード。遊矢の逆転の一手となる。

 

「よし! 行きます、遊星さん!」

「ああ、来い!」

 

 遊矢の顔に笑みが戻り、釣られて遊星もまた微笑む。

 

「まず俺は《EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ》を召喚!」

 

 《EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ》

 星3/地属性/獣族/攻 800/守 800

 

EM(エンタメイト)の召喚に成功した時、このカードは特殊召喚することができる! 来てくれ、《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》!」

 

 《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》

 星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1200

 

 ディスカバー・ヒッポはドタドタと遊矢の隣を走り、ヘルプリンセスが後ろに続く。

 これがアクション・デュエルだったらなぁ、と遊矢は心の中で思う。

 

「壁モンスターを召喚したか。だが、それでは俺は止められないぞ」

「いいえ。彼らこそがこの状況をひっくり返すキーカードです!

 ヒッポの効果発動! このカードの召喚に成功したターン、通常召喚に加えてもう一度、自分はレベル7以上のモンスターをアドバンス召喚できる!」

「何っ!」

「ヘルプリンセスとヒッポをリリース! 輝きと共に現れろ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 二色の眼を輝かせ、榊遊矢のエースモンスターが降臨した。

 

「バトルだ! オッドアイズで《レベル・スティーラー》を攻撃! “螺旋のストライク・バースト”!」

 

 二体の攻撃力の差は1900。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の効果を加味すれば、与えるダメージは3800。

 一撃死(ワンショットキル)には届かないが、それでも十分凶悪なダメージを与えられる。

 けれど遊矢は知らない。不動遊星の決闘(デュエル)を。

 ――“この一撃で決まる”

 それを何度も躱し、反撃を伺うのが彼のスタイルだ。

 

(トラップ)発動、《ガード・ブロック》! このカードの効果により、戦闘ダメージを一度だけ0にする」

 

 ブレス攻撃を受けて《レベル・スティーラー》が焼き尽くされるが、遊星にまでダメージは届かない。

 

「《ガード・ブロック》の二つ目の効果により、カードを一枚ドロー」

「っ――やっぱり、そう簡単には行かないか。ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 

 遊矢

 LP:2900

 SPC:2

 

 遊星

 LP:4000

 SPC:4

 

「遊矢。一つ手本を見せよう」

「手本?」

「ああ。SPC(スピードカウンター)の使い方だ。

 まずは永続(トラップ)、《エンジェル・リフト》発動。これにより、《レベル・スティーラー》を特殊召喚!」

 

 《レベル・スティーラー》

 星1/闇属性/昆虫族/攻 600/守 0

 

「そしてチューナーモンスター、《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

 

 《ニトロ・シンクロン》

 星2/炎属性/機械族/攻 300/守 100

 

「チューナーモンスター! ということは、またシンクロ!?」

「行くぞ! レベル4の《ジャンク・ウォリアー》と、レベル1の《レベル・スティーラー》に、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!

 集いし思いがここに新たな力となる。光射す道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

 

 《ニトロ・ウォリアー》

 星7/炎属性/戦士族/攻2800/守1800

 

 新たなシンクロモンスターが遊星の場に現れる。

 ニトロの名を冠するだけあって見た目は緑一色。加えて、悪魔のような強面が特徴だ。

 

「《ニトロ・シンクロン》の効果により、カードを一枚ドロー。

 更に《Sp(スピードスペル)-スピード・ストーム》を発動!」

「スピードスペル。ライディング・デュエルの専用の魔法(マジック)カード……!」

「そうだ。このカードは自分のSPC(スピードカウンター)が四つ以上ある時、相手に1000ポイントのダメージを与える」

 

 電撃のエフェクトが遊矢を襲い、ライフを削る。

 

 遊矢

 LP:2900 → LP:1900

 

「うっ――くっ!」

「そして、《スピード・ワールド・ネオ》の効果を発動。SPC(スピードカウンター)を四つ取り除き、手札のSp(スピードスペル)を一枚公開することで、相手に800ポイントのダメージを与える。

 手札のカードは、これだ!」

 

 遊星が公開したのは《Sp(スピードスペル)-エンジェル・バトン》。SPC(スピードカウンター)を取り除くことでカードをドローできるスピードスペル。

 よって、遊矢のD・ホイールに再び衝撃が奔る。

 

 遊星

 SPC:4 → SPC:0

 

 遊矢

 LP:1900 → LP:1100

 

「っ――そんな、一気にライフが」

「《ニトロ・ウォリアー》の効果発動! 魔法(マジック)カードを発動した自分のターン、一度だけ攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

 《ニトロ・ウォリアー》

 攻2800 → 攻3800

 

「攻撃力、3800!?」

「バトル! 《ニトロ・ウォリアー》で《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃! “ダイナマイト・ナックル”!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》を上回る巨大な拳を受け、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は粉砕された。

 攻撃力の差、1300が遊矢のライフから削られる。

 

 遊矢

 LP:1100 → LP:0

 

「わっ……!」

 

 スモークが吹き出し、画面に“敗北(LOSE)”の文字が表示される。

 ライフがゼロになった瞬間、遊矢のD・ホイールは緩やかに停止した。

 

 

 ◆

 

 

「大丈夫か、遊矢」

 

 しばらく走った後Uターンし、遊星が遊矢の元へ戻ってきた。

 遊矢は自分のD・ホイールを見つめつつ言う。

 

「はい。すごいですねこのD・ホイール。こんなにゆっくり止まってくれるなんて」

「安全性重視の設計だからな。最高速度は遅いが、《スピード・ワールド・ネオ》自体が全体的に遅めだから、問題ないと思ってこれを選んだんだ」

「あれで遅いんですか?」

「経験を積めばそのうち慣れるさ。とは言っても、その恐怖心は大切だから、なくさないようにな。あまり慣れすぎて恐怖がなくなると、事故を起こして大怪我することになる。昔のあいつのように」

「あいつ……?」

「ジャックだ」

「そ……そうなんですか。とてもそうは思えませんけど」

 

 半信半疑で遊矢は返す。

 世界を舞台に活躍するあの男が、そんな初歩的な事故を起こすとは思えなかったからだ。

 

「君はキングとしてのあいつしか知らないからな。実際はそうカッコイイものでもない。昼間のジャックを見ただろう? あれが素だ。あいつは少々常識が欠落している」

「……あぁ」

 

 二人は昼間のジャック・アトラスを思い出す。

 自分が世界の中心にいるような、“傲岸不遜”な振る舞い。いや、あの場合は“厚顔無恥”だろうか。

 どちらにせよ、確かに(キング)と言えば(キング)ではある。悪い意味で。

 

「だが、デュエルの腕は本物だ。慣れていないハンデがあるとしても、このままでは一方的にやられるだけだろう。

 とりあえず、今日は一旦帰って反省会だ。そろそろ他の皆も帰ってくるだろうしな」

「……あの、遊星さん」

「ん?」

 

 走り出そうとした遊星を遊矢は呼び止める。

 

「俺……運転できません」

「…………。

 待て、じゃあさっきまでのデュエルは?」

「オートパイロットでしたから……」

「そうか……そういえばそうだったな」

「……ごめんなさい」

「気にするな。……なら、歩いて帰るしかないな」

 

 




最初は遊矢にダーク・リベリオンを使わせる予定だったけど、魔が差してヒッポを使わせたくなった。

「通常の魔法を使用する時、SPCを二つ消費」にした理由は、DSのゲームがそんな感じだった……ような気がしたからです。あとサーチ系、ドロー系は四つだった気がする。(うろ覚え)
軽いように見えて割と重いんですよねこれ。とりあえず【HERO】は確実に弱体化する。あとは【魔術師】とかも。


ARC-Vのジャックと5D'sのジャックの一番違いは「親しみやすさ」だと個人的に思う。
つまり、とりあえずアホっぽいことさせとけば5D'sジャックとなるのだ!(極論)


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エキシビション・マッチ 嵐の直前

遊矢「カードは貰った」(ネタバレ)

注意:デュエルしません。

今回は繋ぎの回。各陣営の話をちょっとずつ。


 このネオ童実野シティでは、ライディング・デュエルが盛んである。それは専用のコースが複数作られていることからも察せるだろう。

 しかし、誰も彼もがライディング・デュエルができるわけではない。バイク型デュエルディスク“D・ホイール”は、通常のバイクよりも重くて大きい。積んでいるエンジンの馬力も相応に強力なため、最高速度は通常のバイクを上回る。そのため天下の公道でライディング・デュエルを楽しむには、専用の免許が必要となるのだ。

 それを解消したのが《スピード・ワールド・ネオ》。通常の《スピード・ワールド》、《スピード・ワールド2》よりも速度を抑え、万が一転倒しても軽傷で済むように調整されたシステム。ライディング・デュエル初心者用に《Sp(スピードスペル)》以外の魔法が使えるのも特徴だ。

 そして、システムの完成と同時に開かれたのがこの“フレンドシップ・カップ”。歴史はまだ浅いが、誰でもライディング・デュエルが楽しめる大会として有名になりつつある。

 

「ライディング・デュエル。そしてフレンドシップ・カップ……なるほど、実に興味深い催しです」

 

 赤いマフラーを首に巻いた男は、眼下の景色に視線を移す。

 中央にはスタンディング・デュエル用のフィールドが並び、その周囲をライディング・デュエル用のコースが囲んでいる。ネオ童実野シティの人間にとっては当たり前のモノだが、舞網市から来たその“男”にとっては異様な舞台だった。

 客席には観客と思しき人々がぎっちり敷き詰められている。遠くから見ても暑苦しく感じてしまうほどに。

 しかし、上空には球体状の巨大なスクリーンがある。あれならば角度を問わずどこからでも等しく確認できるだろう。

 

 そして、スタジアムの特別席。ネオ童実野シティの市長、及びその関係者しか立てない場所に、“赤馬零児”はいた。

 

「街一つをそのまま舞台にしてしまうほどの規模。これならば専用の塾がないにも関わらず、一般人があれほどの腕を持つのも頷けます。

 いや……真に驚嘆すべきは、それを可能にしてしまうほどの貴方の手腕でしょうか。イェーガー市長殿?」

「はひっ!?」

 

 声をかけられた人物――イェーガーは肩をびくりとさせて顔をあげる。

 

「……こほん、失礼。

 確かにこの街のライディング・デュエルは世界規模ではありますが、何も私一人の力で運営しているのではございません。いえ、寧ろ私一人の力など微々たるもの。この街の人々が互いに協力し合うことで、ようやく機能しているのです」

「協力……ですか」

「はい。少々青い言い方をさせていただきますと……絆、というところでしょうか。いやはや、この歳にもなってこんな言葉を使うのは、少々気恥ずかしいですね」

「いえ、いい言葉だと思います。繋がりは成長と変化を促し、人を強くする。私はそう感じています」

「そう仰ってくださると私も嬉しく思います」

 

 そう言って、イェーガーもまたスタジアムの様子を見た。

 現在、スクリーンは“フレンドシップ・カップ”の開催、そしてエキシビション・マッチの詳細を告知している。

 

「“ジャック・アトラス”の対戦相手は“榊遊矢”。以前聞いた話によると、彼は貴方の身内ということですが?」

「ええ。その認識で構いません」

 

 ――“ランサーズ”。融合次元からの侵略に備えて結成された決闘者(デュエリスト)のチーム。赤馬零児、そして今からジャック・アトラスと対戦する榊遊矢も、そのメンバーの一人である。

 他次元からの侵略者。本来なら鼻で笑い飛ばす程度の与太話。しかしイェーガーは、その話を真摯に受け止めた。

 彼自身、全てを信じているわけではない。が、全てを否定することもできない。その理由は、榊遊矢の異常性が物語っている。

 

「確か、“ペンデュラム召喚”と言いましたね。この次元にはない新たな召喚法を彼は行使するとのことですが」

「はい、その通りです。信じられませんか?」

「……ええ。残念ながら」

 

 イェーガーは肯定できなかった。

 この街……この世界には存在しない新たな召喚法。それについてはイェーガー自身も非常に興味深く思っている。

 ――だが。それを信じてしまえば、他次元に関係する話もまた信じてしまうことになる。

 

「私は何も、貴方がたを疑っているわけではないのです。貴方からは嘘の色が見えない。おそらく次元侵略の話も本当なのでしょう。

 ですが、これでも私は市長。証拠もないままそんな話を簡単に信じるわけにはいかないのです」

「それは重々承知しています。だからこそ私は、榊遊矢が対戦相手に選ばれて内心ほっとしています。ジャック・アトラスの推薦がなければ、きっと私が彼を推していたでしょう。

 融合次元による侵略。これを無条件で信じろとは言いません。ただ、この一戦でその真贋を見極めていただきたい」

 

 言いたいことを言い終え、赤馬零児は眼鏡を直す。

 席では警備員が観客相手に格闘している。

 当人達からすれば悲鳴モノかもしれないが、逆に言えばそれだけデュエルに対する関心が強いということ。

 市長であるイェーガー、そしてランサーズの長である赤馬零児にとっては、嬉しい悲鳴に他ならなかった。

 

 

 ◆

 

 

「ジャック・アトラスの相手は……誰だあいつ。不動遊星じゃないのか」

「なになに……榊遊矢? 聞いたこともないな。まだ子供みたいだし、大丈夫なのか?」

「知らないのか? 《スピード・ワールド・ネオ》なら子供でもライディング・デュエルができるんだぜ?」

「そうじゃなくて、ジャックにボコボコにされないかって話」

 

「…………」

 

 桃色のライダースーツの少女――“柊柚子”は、席を確保した観客たちの雑談を耳にして、あからさまに眉をしかめた。

 中央の特殊なスクリーンには、これから行われるエキシビション・マッチの組み合わせが発表されている。

 しかし、この街の人々にとってこの組み合わせは不評のようだ。

 ジャック・アトラス。かつてこの街にキングとして君臨し、ライディング・デュエルの世界大会『WRGP』では、チーム『5D's』の1stホイーラーとして先陣を切った。

 そのカリスマ性は相当なものだ。D・ホイーラーを志す者なら、その多くが彼を目標に腕を磨く。

 この男に比べれば、確かに榊遊矢は見劣りする。華やかな栄光も、キングを名乗れるほどの強さも持ち合わせていない。

 それでもこの会場の雰囲気は、柊柚子にとっては居心地が悪かった。

 

「おーい柚子。飲み物買ってきたぞー」

「うん」

 

 白いライダースーツの少年が二人分の飲料を手に戻って来た。

 柊柚子はそれをひったくり、鬱憤をぶつけるようにストローを啜る。

 

「……どうしたんだよ。この会場に着いてから色々変だぞ?」

「……別に。なんでもない」

「いや、絶対変だって。明らかに不機嫌というか――」

「ナン・デモ・ナイ!」

「う……」

 

 これ以上詮索するな、と柚子は強烈な視線を送る。

 少年は気圧され、曖昧に返事をしながら誤魔化すように飲料を口にした。

 

「…………」

 

 柚子はもう一度スクリーンに視線を戻す。映っているのはエキシビション・マッチの対戦カード。ライダースーツを着たジャックと遊矢。

 二人は幼馴染だが、ライダースーツを着た遊矢を見たのはこれが初めてだった。

 

「……ねえ、ユーゴ」

「ん?」

 

 少年――ユーゴが振り向く。

 

「ユーゴはこのデュエル……どっちが勝つと思う?」

「どっちって、そりゃジャックだろ。なにせこの街のキングだった男だからな。ちょっと腕が立つ程度じゃ、軽く伸されて終わりだ」

「……やっぱり、ユーゴもそう思うんだ」

「あー……そっか。まあ、柚子からしたらあいつを応援したいよな」

 

 気まずそうにユーゴは視線を逸らす。

 彼にとって“ジャック・アトラス”とは理想だ。ネオ童実野シティが統一される前から目標としてきたD・ホイーラー。

 だからこそ、ユーゴの中では“ジャック・アトラス”は最強の存在である。肩を並べるほどの決闘者(デュエリスト)――不動遊星やクロウ・ホーガンが相手だったならともかく、自分と同い年程度の少年がジャックを倒すとは微塵も考えていない。

 けれど、柚子にとっては全くの逆だ。

 いくらジャックがこの街のヒーローであったとしても。

 いくらジャックが強力な決闘者(デュエリスト)であったとしても。

 彼女の中の優先順位は絶対に揺るがない。

 

「えっと……まあ、なんだ。とにかく、大丈夫だって!」

「うん」

「だろ? 俺、あいつのことよく知らないけど、そこそこ強いんだろ? なら、案外いいところまで行くんじゃないか?」

「うん」

「だよな! くぅー、にしても羨ましいぜ! 俺とそっくりの顔なのに、俺よりも先にジャックとデュエルできるんだからな! あの遊矢ってヤツ、すごくラッキー……って、柚子!?」

 

 精一杯のユーゴの話を生返事で流した後、柚子は突然立ち上がった。

 彼女の視線はやはり、フィールドに釘付けになっている。

 

「ユーゴ、飲み物ありがと。ごちそうさま」

「えっ?」

 

 まだ中身が入っている飲料をユーゴに押し付け、柚子は走り出す。

 

「おーい、どこ行くんだよ、柚子!?」

「もっと近くに行く! ここからじゃ、全然見えないから!」

 

 脇目も振らずに、柚子はより中央の席へと駆けていく。

 榊遊矢。最後に彼を見たのはスタンダード次元。舞網市でのバトルロワイヤル開幕時。

 多くの災難に見舞われ、何度も窮地に陥った。

 その度に会いたいと願った。

 

 ――その榊遊矢が、目と鼻の先にいる。

 

 黙って試合を傍観しているなど、もう彼女には出来なかった。

 

 

 ◆

 

 

「対戦相手は遊矢だと!?」

 

 スクリーンに映る遊矢を見て、権現坂昇は驚きの声をあげた。

 結局のところ権現坂、デニス、黒咲の三人は、ランサーズの面々と合流することは適わなかった。というのも、地下決闘(デュエル)場で何度も試合が続いたからだ。

 そのため、遊矢と柚子を探す最後のチャンスとして、権現坂はこのエキシビション・マッチに一縷の望みをかけていた。

 ……結果、一秒とかからず見つけることができたのである。

 

「あららー……流石は遊矢だね。大会に参加して驚かせようって思ってたんだけど、逆にこっちが驚かされちゃったよ。でも、この組み合わせは期待できそうだね」

 

 デニスは身を乗り出してフィールドを覗く。

 まだ二人はいない。対戦が始まるのはもう少し後のようだ。

 

「ジャック・アトラスって地下闘技場のポスターに映ってたあの人でしょ? 権ちゃん、遊矢とのデュエル、どうなると思う?」

「さあな。ここから先は俺には読めん。個人的には遊矢を応援したいところだが――」

 

 権現坂は会場をさっと見渡す。

 観客の多くは、ジャック・アトラスのデュエルを今か今かと待っている。

 

「……この人気とカリスマ性。どちらが勝ってもおかしくはないだろう」

「ならばその時は、俺がジャック・アトラスを倒すまでだ」

 

 黒いライダースーツを着た男が二人の後ろから現れる。

 名前は黒咲隼。地下決闘場にて連勝記録を更新し、ついにシード権を獲得した決闘者(デュエリスト)。今大会注目のダークホースである。

 

「黒咲。やはりお前も気になるか」

「ああ。ジャック・アトラスはこの街の英雄だそうだからな。シンクロ次元の強さを測るいい基準になる。まぁ――」

 

 黒咲はスクリーンに映っている榊遊矢を一瞥した後、入場門の方を見る。

 

「俺があの場所にいないことが、不満と言えば不満だがな」

「あはは。その気持ちは少し分かるかな。楽しみなんだけど、ちょっと嫉妬しちゃうよね」

 

 うんうん、とデニスが同意する。

 

 “ジャック・アトラスとデュエルがしたい”

 

 この次元の決闘者(デュエリスト)なら誰もが抱く願望。そしてそれは、どうやらこの二人も例外ではなかったらしい。

 唯一人、権現坂は違っていた。彼はひしめく観客席を見て二人に言う。

 

「そんなことより、俺は柚子を探しに行くぞ。もしこのことを知っていたら、会場のどこかにいるかもしれん」

「あ、そっか。それもそうだね。黒咲はどうする?」

「……どうもしない。それは俺の役割ではない」

 

 話を振られた黒咲はしばし逡巡する素振りを見せたが、きっぱりと断った。

 黒咲隼には妹がいる。名前は瑠璃。彼が言うには、柊柚子とそっくりな容姿をした少女らしい。

 瑠璃は現在、融合次元の連中に捕らえられている。

 彼女を救うのはエクシーズ次元の人間――わがままが許されるなら、兄である自分か仲間であるユートであるべきだと考えている。

 ならば柊柚子を最初に見つけるべきもまた、スタンダード次元の人間であるべきだろう。

 ……尤も、なんだかんだ言いつつ協力してしまうのが黒咲隼という男なのだが。

 この男は恐ろしく目がいい。範囲を限定すれば、権現坂やデニスのように走り回らずとも人探しはできるだろう。

 

 

 ◆

 

 

「絶対におかしい」

 

 控え室。

 選手が体を休め、次に備えて静かに(・・・)待機するはずの休憩室にて、沢渡シンゴは不満を爆発させていた。

 

「フレンドシップ・カップのエキシビション・マッチで遊矢が選ばれた。それはいい。

 ……いやよくないけど、遊矢だって俺達ランサーズの一員だ。納得はできる。だがな、どうしてその相手がジャック・アトラスなんだ!」

「まだ言ってるのかお前は」

 

 騒ぐ沢渡を、セレナは冷ややかな視線で見つめる。零羅もセレナほどではないが、彼の態度にすっかり呆れている。

 五日前……ジャックが遊星のガレージを訪れたあの日からずっとこの調子だ。ライディング・デュエルの練習で遊矢と遊星はガレージを空けることが多かったため、自ずとセレナと零羅が相手をすることが多くなっていたのだ。

 

「そんなにあの男とデュエルがしたいなら、この大会で勝ち残ればいいだけだろう。少なくとも私はそのつもりだ」

「相変わらず分かってねーな、これはそれだけの問題じゃあないんだよ。こんだけのアピールチャンスは滅多にねえ。エンタメるなら絶好の機会だろうが!」

「知らんし興味もない。大体お前如きが相手では、対戦相手のジャック・アトラスにも失礼だ。ヤツはこの次元のキングらしいからな」

「はん、それがどうした。こちとら舞網市市長の息子だぞ!」

「やはり話にならんな。せめて市長とやらになってから出直してこい」

「ぐっ、ぬぬぬ――!」

 

 返す言葉が見つからないせいか、沢渡は悔しげに唸りつつセレナを睨みつける。

 市長の息子とやらがどれだけエライのかは不明だが、“市長の息子”よりも“市長”が上であることは沢渡自身も分かっているらしい。

 

「……いつも通りだな、三人とも」

 

 二人のやりとりを見つつ遊矢は呟く。沢渡が喚き、セレナが突っ込み、零羅は一歩引いて傍観する。これからフレンドシップ・カップの開幕戦が始まるというのに、彼らは普段通りの彼らでいる。

 D・ホイールの最終チェックを終えてきた遊星は、工具箱片手に尋ねる。

 

「緊張しているのか?」

「……ええ。白状すると、少しだけ。ライディング・デュエルの大会なんて生まれて初めてだし。それに、この観客ですからね」

「そうか」

 

 一見すると淡白な答え。しかし、遊星は笑っていた。

 懐かしいのだ。その初々しさが。

 二年前に行われた世界大会、WRGP。その初戦、VS(バーサス)チーム・ユニコーン。

 遊矢のように緊張しているD・ホイーラーを見ると、遊星はどうしても彼女(・・)を思い出す。

 

「あ。それと、整備ありがとうございます、遊星さん」

「ああ」

 

 遊星のメカニックとしての腕は確かだ。これで少なくともD・ホイールが原因で転倒することはない。

 ――よって、ここから先は遊矢の戦い。

 相手はジャック・アトラス。この街に住む人間なら誰もが知るビッグネーム。緊張するのも無理はない。

 

「遊矢」

 

 そんな遊矢に、遊星は声をかける。

 裏方にできることなど限られている。結局最後に物事が決まるのは、表に立つ人間次第だからだ。

 だから。せめてもの慰めとして、彼はお守り(・・・)を託す。

 託されたのは一枚のカード。

 進化の可能性を秘めた、小さなピース。

 

「……遊星さん、これは?」

「今の君達を象徴する絆のカードだ。デッキに入れるかどうかは、君自身が決めてくれ」

「…………」

 

 遊矢は受け取ったカードを確認する。

 単体では全く役に立たない。対応するモンスターもいないため、入れてもデッキの中で腐るだけだろう。

 

「大切に使わせてもらいます」

 

 ――そこまで理解した上で、遊矢はそのカードをデッキにいれた。

 お守りとしてわざわざそれを選んだ理由。そして、カードに込められた意味を理解したからだ。

 最後に遊星は、いつか彼女に送った言葉を遊矢にも伝える。

 

「後のことは考えなくていい。初めてのライディング・デュエル、目一杯楽しんでこい」

「はい!」

 

 年相応の元気な返事。緊張は既に吹き飛んだらしい。

 遊星はそれを見届け、この部屋から立ち去った。

 彼は所詮部外者に過ぎない。遊矢の仲間がいるこの部屋にいても、邪魔なだけだ。

 

「決めたぜ俺は! バトル・シティが始まったらセレナ、まずお前から倒してやる! いつかのリベンジだ、今度は俺が勝つ!」

「断る。せっかく次元を超えてここまで来たのだ。もう少し骨のあるヤツと戦いたい」

「な、成程。ここはシンクロ次元なんだし、確かに一理ある……って、どういう意味だコルァ!」

 

「……まだやってたのか、二人共」

 

 怒号と挑発の不毛な応酬。それが未だ続いていたことに遊矢は呆れる。

 

「二人共仲良くしろって。最年少の零羅が困ってるじゃないか」

「「俺は(私は)悪くない」」

「……はぁ」

 

 遊矢は思わずため息をつく。喧嘩(?)が絶えない二人ではあるが、息は驚くほどピッタリだ。

 

「それより二人共、この会場で赤馬零児を探してくれないか?」

「……兄様?」

 

 遊矢は不安げに見上げる零羅を、安心させるよう優しく撫でる。

 兄弟は最も身近な他人だという。遊矢に兄弟はいない。零羅が今感じている寂しさは、彼には一生理解できないだろう。

 だが、大切な人がいなくなる辛さは痛いほど知っている。

 

「兄様が……ここにいるの?」

「ああ。これだけ大きな大会なら、会場のどこかにきっといると思う。だからさ、二人共」

「…………」

 

 無言。返事はない。

 肯定的に捉えるなら『躊躇っている』

 否定的に捉えるなら『イヤダ』

 なんと分かり易い二人だろうか。

 

 ……以前までなら、ここで終わっていた。

 

「――はぁ」

 

 やがてセレナは沈黙に耐えかね、分かりやすくため息をついた。

 彼女なりの抵抗。探したくない、それよりもデュエルが見たいという意思表示。

 

「仕方ない、これ以上足を引っ張られても迷惑だ。零児を探して押し付けるぞ」

「ありがとう、セレナ。……沢渡?」

「だーっ! 分かった、分かったよ。探せばいいんだろ探せば! けど、俺らが見つけるまで負けるなよ。DVD見る限り、実力はマジみたいだからな」

「何を甘いことを言っている。相手が誰だろうと関係ない。遊矢も決闘者(デュエリスト)ならば勝て!」

「……! ああ!」

 

 沢渡とセレナが激励を送り、控え室を出て行く。

 零羅は最後に振り返ったあと、二人に続いて部屋を出て行った。

 

「――……」

 

 遊矢は不思議な充足感を感じながら、大きく深呼吸する。

 

 繋がりが出来つつある。

 それはまだ微かで弱々しく、ふとしたことで切れてしまう細い糸。

 けれどもその糸は、時間と共に少しずつ折り重なり、太く大きく成長していく。

 

 ――人はそれを、絆と呼ぶんだ。

 

「榊遊矢さん。榊遊矢さんはいらっしゃいますかー?」

 

 係員の女性が待機中の遊矢に声をかける。

 

「ここにいます」

「準備が出来ました。スタンバイお願いします」

「はい、分かりました」

 

 




遊矢がどんなカード貰ったかはOCGやってると察せると思う。
で、この後の展開もなんとなく分かっちゃうと思う。


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エキシビション・マッチ ジャック・アトラス

遊矢「シンクロ召喚!」(ネタバレ)


注意:オリジナル口上とスピードスペル。
   SPCを二つ使うことで通常の魔法が使えます。
   ライディング・デュエル専用カードはゲーム版基準。
   もし違ってたら……許してください。


エンタメとはなんぞや。そんなことを考えつつ書いてみた。
……いや、正直わかんねーわ。


『会場の皆様、大変長らくお待たせいたしました! 只今よりライディング・デュエルの祭典、フレンドシップ・カップの開催を、今、ここに宣言するぞォー!!』

「「オオオォォォォ――――!!!」」

 

 巨大なリーゼントを生やしたMCがマイク片手に叫び狂う。

 超が何個もつきそうなレベルのハイテンションに、観客は更にヒートアップする。

 

『では、早速行ってみようか! 今大会最初のデュエル、ジャック・アトラスとのエキシビション・マッチ! まずは挑戦者(チャレンジャー)の入場だー!!』

 

 ゲートから飛び出たのは暖色のD・ホイール。

 スピードは控えめであることからライディング・デュエル初心者、あるいは()ってないことが伺える。

 だが少なくとも、この決闘者(デュエリスト)なら後者は有り得ない。

 

『ジャック・アトラスに立ち向かうのは、なんとライディング・デュエル初心者! 異次元からの使者、エンタメの貴公子こと、榊遊矢ー!』

「って、なんだよそれ!?」

 

 ハチャメチャな自分の二つ名に遊矢はツッコミを入れる。誰が考えたのかは定かではない。赤馬零児が考えたのかもしれないし、不動遊星が考えたのかもしれない。前情報のみでMCがたった今考えた可能性もある。

 

『少年を迎え撃つのは、かつてこの街のキングとして君臨し、紆余曲折あって伝説となったこの男! 絶対王者、ジャック・アトラスー!』

 

 続けて飛び出たのは白いD・ホイール。世界に一つしかないと言われる“ホイール・オブ・フォーチュン”。そしてジャック・アトラス。

 両者はグリッドにつき、D・ホイールはデュエルモードに移行する。

 

「ようやくこの時が来たな。貴様はあの遊星が勧めた男。がっかりだけはさせてくれるなよ」

「……分かってる。見せてやるさ、俺のエンタメデュエルを!」

『両者共に準備はいいかー!

 では行くぞぅ! フィールド魔法《スピード・ワールド・ネオ》! セェーット、オーン!!』

 

 MCによる実況が会場全体に響き渡り、同時にカウントダウンが始まった。

 カウントは十。しかしワンカウントは一秒すら満たさず、実質五秒もない。スタートを急かすように、カウントはD・ホイーラー達を精神的に追い詰める。

 この瞬間、客席は一斉に静まり返る。

 緊張のボルテージがカウントと共に上昇し、最後の瞬間に全てが爆発する。

 唯一人。試合の実況を勤めるMCは、静寂の中で稲妻のごとく声を轟かせた。

 ――カウント・ゼロ。戦いの幕は上がる。

 

『ライディング・デュエル、アクセラレーション!!』

「っ――!」

 

 遊矢はエンジンを全開まで唸らせるが、思うようにスピードが出ない。

 いや、正確には出ている。いつも通り、練習の時と全く同じペースで。

 ただそれ以上に、ジャックのD・ホイールが速いのだ。

 

『第一コーナーを制したのはジャック・アトラス! よってこのデュエル、先行はジャックだァー!!』

「当然だな! そんな馬力では、このジャック・アトラスには到底追いつけん!」

「いや、追いついてみせる! このデュエルで! 行くぞ――!」

 

 

「「決闘(デュエル)――!」」

 

 

 ◆

 

 

「オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:1

 

 遊矢

 LP:4000

 SPC:1

 

「まずは小手調べだ。《インターセプト・デーモン》を召喚!」

 

 《インターセプト・デーモン》

 星4/闇属性/悪魔族/攻1400/守1600

 

「カードを二枚伏せてターンエンド! さあ、貴様のターンだ!」

「……俺のターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:2

 

 遊矢

 LP:4000

 SPC:2

 

 一ターン目が終了し、遊矢のターンが回ってくる。

 ジャックのフィールドには六つの腕を持つ悪魔モンスター。ヘルメットや防具の類からフットボールの選手を連想させる。ステータスそのものは貧弱と言っていい。彼の言ったとおり、まさに小手調べのモンスターなのだろう。SPC(スピードカウンター)はお互い二つ。《スピード・ワールド・ネオ》下で通常の魔法(マジック)カードを発動する場合、SPC(スピードカウンター)を二つ払わなければならない。

 つまり、ペンデュラム召喚に必要な個数は最低でも四つ。遊矢は次のターンに備え、まずは下地を整える。

 

「俺は《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を召喚!」

 

 《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》

 星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 100

 

 モンスターが召喚ゲートより現れ、文字通りアクロバットに空中を舞う。

 その身軽さ、サーカス団員のような振る舞いに、観客の視線が釘付けになる。

 

「ドクロバット・ジョーカーの召喚に成功した時、デッキからこのカード以外の《EM(エンタメイト)》、《魔術師》、《オッドアイズ》のいずれか一体を手札に加えることができる。

 この効果により俺は、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を手札に加える」

「――なに?」

 

 ジャックは遊矢のカード――手札に加えたドラゴンを見た瞬間、目つきが変わった。

 現在フィールドにいるドクロバット・ジョーカー。そして《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 これらの共通点。即ち榊遊矢の特異点を、ジャックはこの一瞬で見切った。

 

「そして、手札の《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》の効果発動! 《EM》の召喚に成功したとき、このカードは特殊召喚できる!」

 

 《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》

 星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1200

 

『おーっと、これは速い! チャレンジャー榊遊矢、わずか一ターン目にして早くもレベル4モンスターを二体召喚したぞォ! 《インターセプト・デーモン》の攻撃力は1400。総攻撃が決まれば大ダメージだァー!!』

「バトル! ドクロバット・ジョーカーで、《インターセプト・デーモン》を攻撃!」

「《インターセプト・デーモン》の効果! 相手モンスターの攻撃宣言時、500ポイントのダメージを与える!」

 

 遊矢

 LP:4000 → 3500

 SPC:2

 

「更に(トラップ)発動、《ハーフ・カウンター》! 自分のモンスターが攻撃対象となった時、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の半分を自分のモンスターに加える。よって《インターセプト・デーモン》の攻撃力は、このターンのエンドフェイズまで900アップする」

「なに!?」

 

 《インターセプト・デーモン》

 攻1400 → 攻2300

 

「返り討ちだ! 消し飛べ!」

 

 光弾による反撃を受けてドクロバット・ジョーカーが消滅し、遊矢のライフが引かれる。

 

 遊矢

 LP:3500 → 3000

 SPC:2

 

 モンスターが破壊されライフが減少する。これだけなら何度も見慣れた光景だ。

 しかし今回ばかり違う。モニターを眺めつつ、ジャックはその(・・)モンスターを分析する。

 

「ほう。破壊されたら墓地ではなくエクストラデッキに行くのか。随分とユニークなモンスターだな」

「っ……、カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 《インターセプト・デーモン》

 攻2300 → 攻1400

 

 伏せカードを展開し、遊矢のターンが終了。フィールドには攻撃表示のモンスター1体のみ。

 彼のデッキはペンデュラムに特化している。それが使えない今、フィールドが手薄になってしまうのは仕方ないことだ。

 

「オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:3

 

 遊矢

 LP:3000

 SPC:3

 

「チューナーモンスター、《トップ・ランナー》を召喚!」

 

 《トップ・ランナー》

 星4/風属性/機械族/攻1100/守 800

 

「レベル4の《インターセプト・デーモン》に、レベル4の《トップ・ランナー》をチューニング!」

 

 先頭を走る者――《トップ・ランナー》は四つの光の円環となり、《インターセプト・デーモン》が後に続く。

 二体の魂は同調、調律し、ここに新たな刃が誕生する。

 

「王者の決断、今赤く滾る炎を宿す、真紅の刃となる! 熱き波濤を超え、現れよ!

 シンクロ召喚! 炎の鬼神、《クリムゾン・ブレーダー》!」

 

 《クリムゾン・ブレーダー》

 星8/炎属性/戦士族/攻2800/守2600

 

『決まったァァ――! ジャック・アトラスのシンクロ召喚! トップバッターは二刀の長剣を操る剣神、《クリムゾン・ブレーダー》!』

「っ……!」

 

 MCの実況を耳に入れつつ、遊矢はDVDでのジャックのデュエルを思い出していた。

 このモンスターは言わば第一関門。王の待つ玉座、その入口を守る赤い騎士――!

 

「バトルだ。《クリムゾン・ブレーダー》で《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》を攻撃! “レッド・マーダー”!」

 

 烈火の剣戟を受け、ヘルプリンセスが消滅。攻撃表示であったため、遊矢のライフは大きく削られる。

 

「うあぁぁ――っ!!」

 

 遊矢

 LP:3000 → 1400

 SPC:3

 

「まだ終わらんぞ! こいつの切れ味、貴様ならよく知っていよう!

 《クリムゾン・ブレーダー》のモンスター効果。戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時、次のターン、相手はレベル5以上のモンスターを召喚できない!」

『な、な、なんということだ――!! 先程ドクロバット・ジョーカーによって手札に加えたドラゴンが封じられてしまったぞー!

 これではエースモンスターを召喚できない! 挑戦者(チャレンジャー)榊遊矢、このまま成すすべもなく負けてしまうのかー!?』

「っ……それは、どうかな!」

 

 練習していたことが幸いした。遊矢はD・ホイールの体勢を立て直しつつ(トラップ)を発動し――加速する。

 

(トラップ)カード、《デス・アクセル》! 自分が戦闘ダメージを受けた時、300ポイントにつき一つ、SPC(スピードカウンター)を増やす!

 俺が受けたダメージは1600。よって、カウンターは5つ増える!」

 

 遊矢

 LP:1400

 SPC:3 → 8

 

「仕掛けるつもりか。いいだろう、来るがいい! オレはこれでターンエンド!」

「俺のターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:4

 

 遊矢

 LP:1400

 SPC:9

 

「……よし」

 

 カウンターは貯まり、これにて準備は整った。

 ――天を指す。

 運転をオートパイロットに任せ、少年は観客席に向かって声を張り上げた。

 

 

「レディース、エーンド、ジェントルメーン!!」

 

 

『え?』

 

 あまりにも唐突なその行動に、誰もが困惑した。

 榊遊矢の対戦相手はジャック・アトラス。どのような言葉であれ、その言葉は対戦相手であるジャックに向けられるべきなのだ。

 

「ご来客の皆様、長らくお待たせしました! これよりワタクシ榊遊矢と、生ける伝説ジャック・アトラスによるエンタメデュエルを、このスピードの世界で披露したいと思います!」

 

 だが、榊遊矢は観衆に話しかける。

 ある者はこう考えるだろう。この少年は、一人ではジャック・アトラスに勝てないと。だから彼は力を求める。自分以外の誰かに。観客を味方に付け、力の差を埋めるために。

 ある者はこう考えるだろう。この少年は、この会場の全員を楽しませたいのだと。十人いれば十人を笑顔に。百人なら百人。千人なら千人。それ以上でも同様に。

 そして、全員が確信する。ここから先が、無謀な挑戦者(チャレンジャー)の本領発揮なのだと。

 

「このオレを前にして随分と大きく出たな。その度胸は買ってやるが――ここまで言ったからには、それなりのものを魅せてくれるんだろうな?」

「ああ、勿論だ! 行くぞ、ジャック・アトラス!」

 

 遊矢は手札から二枚を選択する。

 一見するとモンスターカード。しかしそれらは、魔法(マジック)カードとしても機能する。

 

「俺はSPC(スピードカウンター)を四つ使い、スケール3の《EM(エンタメイト)ラ・パンダ》と、スケール5の《EM(エンタメイト)チアモール》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 遊矢

 LP:1400

 SPC:9 → 5

 

 スタジアムの上空に二体のモンスターが浮かび上がる。

 シンクロ次元にペンデュラム召喚は存在しない。未知なる召喚法、デュエルの新たな可能性に、観客は呼吸を忘れて見入る。

 

『な、なんだ? これは一体どういうことだぁ!? 私も正直よくわかりませんが、なんだかスゴイことが起こる気がするぞォォ――!!』

 

 MCの興奮気味の実況で、スタジアム全体の空気が変わる。

 ――期待が高まり、会場は湧き上がる。

 その熱気を肌で感じ、遊矢の魂もまた揺れ始める。

 振り子(ペンデュラム)が揺れる。大きく、もっと大きく……!

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!

 ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスター達!」

 

 上空の孔より現れたのは二つの魂。一体は手札、もう一体はエクストラデッキから、二体同時に召喚される。

 

「手札から《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》!

 そしてもう一体! アンコールだ、《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》!」

 

 《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》

 星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守 500

 

 《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》

 星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 100

 

 MCは実況席から身を乗り出し、マイク片手に喉を震わす。

 

『ご、ご覧になりましたでしょうか会場の皆様方ー! 上空からモンスターが二体、榊遊矢のフィールドに同時に現れたぞぉー! しかもそのうちの一体は、先程倒されたはずのドクロバット・ジョーカー! これが挑戦者(チャレンジャー)の奥の手、ペンデュラム召喚なのかー!?』

「フン! そんなモンスターでは、この《クリムゾン・ブレーダー》の足元にも及ばんぞ!」

「まだまだ! お楽しみはこれからだ!

 俺は、レベル4のヘイタイガーとドクロバット・ジョーカーで、オーバーレイ!」

 

 暗黒の渦が現れ、二体のモンスターはその中心に吸い寄せられる。

 ここではない何処か。はるか異次元で新たな命が生まれ、召喚者の元に現れる。

 

「漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ!

 エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」

 

《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 巨大な逆鱗を持つ漆黒の龍。

 これまで見たことのないドラゴン、見たことのない召喚法に、MCは再び絶叫した。

 

『こ、こ、これはどういうことだー!? 挑戦者(チャレンジャー)榊遊矢、ペンデュラム召喚に続き、また新たな召喚法を披露したぞー!? 少なくとも、私はこれまであのようなカードは見たことがありません! 《クリムゾン・ブレーダー》の効果を一切受け付けないアレは、一体なんなんだー!?』

「エクシーズモンスターはレベルを持たない。よって、《クリムゾン・ブレーダー》の効果は受けないのさ!

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果発動! 素材になったモンスター、オーバーレイ・ユニットを二つ使うことで相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、その数値分、このカードの攻撃力に加える!」

「なるほど、反逆(リベリオン)を名乗るだけのことはある。だがそんな小細工、オレには通用せん!

 永続(トラップ)、《デモンズ・チェーン》! 効果モンスター一体の攻撃と能力を封じる!」

「なに――!」

 

 ジャックが発動したカードから鎖が飛び出し、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の全身を拘束する。

 宙に浮くモンスターの魂、オーバーレイ・ユニットは無意味に消費され、効果は不発に終わった。

 

『おーっと、流石はジャック・アトラス! 事前に伏せた(トラップ)カードで、ドラゴンの効果を封じ込めたー! これでは身動きがとれない。さあ、どうする挑戦者(チャレンジャー)!』

「っ……いや、まだだ! カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 遊矢のフィールドに伏せ(リバース)カードが現れる。

 そして、

 

「……こんなものか」

「――え?」

 

 溜息まじりに、ジャックは呟いた。

 

「遊星が勧めた男だからと期待していたが、蓋を開けてみればこのザマか。

 断言してやる、榊遊矢。貴様はエンタメに向いていない」

 

 その宣言に、遊矢は硬直した。

 時が止まったのではないかと錯覚するほどに。

 

「……どうして」

 

 エンタメというスタイルは、遊矢のデュエルの大元であり目標だ。彼は幼少時、父親が原因で笑うことが少なかった。いつも誰かに泣かされ、誰かに助けられていた。笑顔がない生活の虚しさを、榊遊矢は身を持って体感している。

 だから、デュエルで皆を笑顔にしたいと思ったのだ。皆笑って皆幸せ。単純で最も幸福なユメのカタチ。

 だから。ジャックの言葉は、遊矢自身の否定にも繋がる。

 

「どうしてアンタにそんなことが言える、ジャック・アトラス!」

「ここまでのデュエルを思い返してみろ。それが答えだ」

「思い返す、だって……?」

「貴様のデュエルは振り子のようだ。左右に忙しなく揺れ動き、焦点がまるで定まっていない」

「……どういうことだよ」

「自覚がないなら教えてやろう。そのドラゴンをよく見てみろ」

 

 遊矢は、(トラップ)によって拘束された《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を見た。

 翼、腕、首。各部位が鎖で縛られ、身動きがとれない状況だ。

 

「貴様にも背負うものがあるのだろう。やるべきことがあるのだろう。だがそれらは全て、今の貴様にとっての鎖に成り下がっている。かつてのオレのように」

「かつて……?」

「ああ。その気になってるだけで、本質がまるで視えていない(・・・・・・)。貴様のエンタメは押し付けがましい。独りよがりにも程がある」

「な――」

 

 どういう意味か聞き返す前に、ジャックはターンを進める。

 

「デュエルを続行する! オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:5

 

 遊矢

 LP:1400

 SPC:6

 

「バトルだ! 《クリムゾン・ブレーダー》で、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を攻撃! “レッド・マーダー”!」

 

 遊矢

 LP:1400 → 1100

 SPC:6

 

「うわぁぁ――――!!!」

 

 漆黒の龍は十字に裂かれ、ダメージの衝撃が遊矢に伝わる。

 このドラゴンは元々遊矢のカードではなく、彼の中にいるもう一つの魂、“ユート”のカードだ。

 レジスタンス。強者への反逆を象徴する龍。

 それでさえ届かなかった。門番に阻まれ、奥に待つ《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を引きずり下ろすことさえ叶わない。

 

「……くっ」

 

 遊矢の頭には、ジャックの言葉がひどくこびり付いていた。

 ……“独りよがり”。“押し付けがましい”とジャックは言った。

 どういう意図が込められているのか、今の遊矢には全くと言っていいほど分からなかった。

 だって、会場は湧いている。皆が心を一つにして、この時間、この瞬間に没頭しているのだから――

 

 

「遊矢ー!!」

 

 

「え?」

 

 少女の声。しかし、聞こえたのはほんのひと握りであろう。

 

「……柚子?」

 

 少女の名を呼ぶ。当然返事はない。高速で走るD・ホイール上での呟きが、観客席まで聞こえるはずがない。

 それでも遊矢は会場を見回す。たった一人の女の子。ずっと会いたかった幼馴染を探し出す。

 少女はすぐ見つかった。アクション・デュエルで鍛えられた視力と、彼女の奇抜な格好……ライダースーツのおかげだろう。

 

「……そうだった」

 

 柚子が見ている。遊矢はそのことをすっかり失念していた。

 ジャック・アトラスとのデュエルに夢中で、それ以外のことが考えられなくなっていたのだ。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:6

 

 遊矢

 LP:1100

 SPC:7

 

「リバースカード、《ペンデュラム・バック》。ペンデュラム召喚可能なモンスターを二体まで、墓地から手札に戻す。これにより《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》、《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を手札に戻す」

「?」

 

 雰囲気の変化にジャックは気づく。

 ダウナーな気配は変わらない。しかし、落ち込んでいるわけでもない。

 例えるなら――嵐の直前。何かが起きる前の静かな一時。

 

SPC(スピードカウンター)を二つ使い、魔法(マジック)カード《EM(エンタメイト)キャスト・チェンジ》を発動。手札のEM(エンタメイト)を任意の枚数デッキに戻し、戻した枚数プラス一枚、カードをドローする。

 手札のヘイタイガー、ドクロバット・ジョーカーをデッキに戻し、合計で三枚ドロー」

 

 遊矢

 LP:1100

 SPC:7 → 5

 

「モンスターを裏守備表示で召喚。

 カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

挑戦者(チャレンジャー)のターンが終了。しかし、壁モンスターを召喚しただけだ。これで万事休すかー!?』

「万策尽きたようだな。オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:7

 

 遊矢

 LP:1100

 SPC:6

 

「オレが引いたカードは《Sp(スピードスペル)-エンジェル・バトン》。こいつを発動し、SPC(スピードカウンター)を四つ取り除いて二枚ドロー。そして、手札を一枚墓地に送る」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:7 → 3

 

「《マッド・デーモン》を攻撃表示で召喚!」

 

 《マッド・デーモン》

 星4/闇属性/悪魔族/攻1800/守 0

 

「バトルだ! 《クリムゾン・ブレーダー》、裏守備モンスターを攻撃! 切り裂け、“レッド・マーダー”!」

 

 二刀の長剣が三度(みたび)振るわれ、セットされたカードが十字に切り裂かれた。

 しかし破壊した直後、振るわれた剣は錆び付き、《クリムゾン・ブレーダー》の攻撃力が減少する。

 

 《クリムゾン・ブレーダー》

 攻2800 → 攻2000

 

「《EM(エンタメイト)ラクダウン》のモンスター効果! このカードを破壊したモンスターの攻撃力を800ポイントダウンさせる!」

「フン、今更足掻いても遅いわ! 《マッド・デーモン》のダイレクトアタックが決まれば、それで貴様は終わりだ!」

「まだだ! まだ終わらない! 

 ……終わってなんかやるもんか。俺はまだ、何一つ成し遂げちゃいないんだ!

 速攻魔法発動! 《イリュージョン・バルーン》!」

 

 遊矢

 LP:1100

 SPC:6 → 4

 

 もぬけのカラとなった遊矢のフィールドに、カラフルな五つの風船(バルーン)が出現した。

 

『これは一体何だー!? 挑戦者(チャレンジャー)を守るかのように、五つの風船が飛び出したぞー! これぞまさにイリュージョン! どうやら彼は、まだ諦めてはいないようだー!!』

「ジャック! お前は俺に視えていないと言ったな! けど、それはアンタにも言えることだ!」

「どういう意味だ」

「……確かに、貴方には視えてるんだろう。この会場が。このフィールドが。もしかしたら、この展開そのものが既に手の平の上なのかもしれない。

 だけど! 俺の夢。俺の未来。俺の可能性は、決してアンタにも見えはしない! だから、さっきの言葉は撤回してもらう!」

「――……ほう。面白い、ならば見せてみろ! 貴様の可能性とやらを! 行け、《マッド・デーモン》!」

「《イリュージョン・バルーン》の効果発動! デッキの上からカードを五枚確認し、その中から《EM(エンタメイト)》を一体選択して特殊召喚できる!」

「《マッド・デーモン》は守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていれば貫通ダメージを与える。いくら壁モンスターを引き当てようと、攻撃力と守備力、共に700以下なら貴様の敗北だ!」

「いや、まだ終わらない! 引き当ててみせる、俺の仲間達を! まず、一枚目――!」

 

 バルーンが一つだけ割れ、中から引き当てたカードが姿を現す。

 

「っ……《EM(エンタメイト)トランプ・ウィッチ》!」

 

 《EM(エンタメイト)トランプ・ウィッチ》

 星1/闇属性/魔法使い族/攻 100/守 100

 

「早速モンスターを引き当てたか。運だけはあるらしい。だが、そのモンスターでは防げんぞ!」

「まだだ――二枚目!」

 

 遊矢はカードを引く。しかし、引き当てたのは(トラップ)カード、《エンタメ・フラッシュ》。

 

「くっ……三枚目!」

 

 《EM(エンタメイト)トランポリンクス》

 星2/地属性/獣族/攻 300/守 300

 

「四枚目――!」

 

 ……《Sp(スピードスペル)-ソニック・バスター》。

 SPC(スピードカウンター)を二つ取り除き、自分のモンスター一体の攻撃力の半分のダメージを与えるカード。

 

「――くそ」

「四枚目も外れたか。これで後がなくなったな。

 榊遊矢。今、貴様はどんな気持ちだ」

「っ……!」

 

 五枚目を引く手が止まる。

 右腕だけが麻痺してしまったような、不自然な感覚。

 音が遠ざかり、視界は暗く染まる。

 ……恐怖と炎は似ている。気づいた瞬間には、既に奥深くまで侵食されている。

 

「怖いだろうな。自分を否定する敵に負けるというのは」

「え……?」

 

 先程までとはまるで違う柔らかな言葉に、遊矢は顔を上げる。

 

「貴様のエンタメはまだ独りよがりだが、その想いは決して間違ってはいない。

 この先、貴様を否定する敵は山程現れる。だが、何があろうと決して折れるな。信じるモノが正しければ、たとえどれほど間違えたとしても――必ず、最期には“何か”を得られるだろう」

「ジャック……?」

「さあ、カードを引くがいい! 貴様の未来は尽きてなどいない! ならば最後に、その輝きを見せてみろ!」

「……ああ!」

 

 遊矢は顔を伏せ、見えないように笑いをこぼした。

 ジャック・アトラス。この男もまた、不動遊星の仲間なのだと。

 

「行くぞ、五枚目!」

 

 最後のバルーンが割れ、中からカードが現れる。

 ドローしたカードを確認。遊矢は、未来を共に歩む仲間(EM)を召喚する。

 

「俺が引いたカードは《EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ》! 《イリュージョン・バルーン》の効果により、このカードを特殊召喚!」

 

 《EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ》

 星3/地属性/獣族/攻 800/守 800

 

「《マッド・デーモン》の攻撃! “ボーン・スプラッシュ”!」

 

 骨の礫を受け、バルーンより現れたヒッポが消滅。更に貫通効果により、遊矢のライフが減少する。

 

 遊矢

 LP:1100 → 100

 SPC:4

 

『耐えたーー!!! 挑戦者(チャレンジャー)榊遊矢、最後の最後でディスティニードロー! 首の皮一枚繋がったぞー! ジャックの言う通り、彼の未来はまだ終わってはいないようだー!!』

「てて……ありがとう、ヒッポ」

 

 遊矢はカードを墓地に送りつつ、礼を言う。

 残りのライフは僅か100。対してジャックは全くの無傷。実力差は圧倒的と言ってもいい。

 にもかかわらず、会場のボルテージは上がっていく。限界ギリギリの戦いに、客の視線はますます遊矢に集まる。

 

「オレはカードを一枚伏せてターンエンド。さあ、攻めてこい!」

「俺のターン、ドロー!!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:4

 

 遊矢

 LP:100

 SPC:5

 

「……この、カードは」

 

 そうして、遊矢は引き当てた。

 託された成長のピース。

 可能性に満ちた新たなカードを。

 

「……独りよがりって言ったな、ジャック」

「ああ」

「……その意味が、少しだけ分かった。俺には、視えてなかったんだ。皆のことが。仲間のことが。観客やMC、遊星さん。そして柚子。

 楽しませるなんて言っておきながら。笑顔にするなんて言っておきながら。その具体的な方法を、俺は、何一つ考えてなかった」

 

 ジャックは黙って遊矢の独白に耳を傾ける。

 榊遊矢のエンタメは、少しばかりズレている。

 才能がないわけじゃない。彼のデュエルで笑顔になる人間は確かにいる。向いていない、というのは流石に言いすぎだ。

 けれど所詮、彼のエンタメは“好き勝手に振舞う”だけだ。やりたいことだけをやってるようでは、本当の意味でのエンタメとは言えない。

 無論、榊遊矢はそこまで至っていない。ただ、今の自分は少し違うと気づいただけ。

 ……その一歩が。少年の未来を、少しだけ変える。

 

「見せてやる。今の俺の精一杯を。ジャック、貴方だけじゃない。ここにいる全員……ランサーズの皆にも!」

「……フッ。

 ならば、来るがいい! このジャック・アトラスは、逃げも隠れもしない!」

「ああ! 全力で行くぞ!」

 

 大きく揺れれば、それだけ大きく戻ってくる。それがペンデュラムだ。

 

「今一度揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ペンデュラム召喚! もう一度、力を貸してくれ――!」

 

 遊矢は手をかざし、再び振り子(ペンデュラム)を揺らす。心なしか、揺れ幅は一回目よりも大きい。

 セットされたスケールは3と5。同時に召喚可能なモンスターはレベル4のみ。

 《クリムゾン・ブレーダー》によって破壊され、エクストラデッキに送られたEM(エンタメイト)が帰還する。

 

「《EM(エンタメイト)ラクダウン》!」

 

 《EM(エンタメイト)ラクダウン》

 星4/地属性/獣族/攻 800/守1800

 

『出たー! 先程も見せた新たな召喚法、ペンデュラム召喚! だが、召喚されたモンスターはわずか一体! ここからどう巻き返すつもりだ、榊遊矢ー!』

「永続(トラップ)、《連成する振動》を発動! この効果により、(ペンデュラム)ゾーンのラ・パンダを破壊し、カードを一枚ドロー!

 更にSPC(スピードカウンター)を二つ使い、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を(ペンデュラム)ゾーンにセッティング!」

 

 遊矢

 LP:100

 SPC:5 → 3

 

「そして俺は、このカードを通常召喚する!

 風水司る未熟な魔術師よ。絆を紡ぎ、今こそ現れろ!

 チューナーモンスター、《()(りゅう)の魔術師》!」

 

 《貴竜の魔術師》

 星3/炎属性/魔法使い族/攻 700/守1400

 

「「!?」」

 

 ――その召喚に、ごく一部の者は度肝を抜かれた。

 ランサーズ、そして柊柚子。即ち、榊遊矢を知る者達。

 

「……行け、遊矢」

 

 会場のどこかにいる、一人の男の呟き。

 それに応えるようにカードは塗り替えられる。

 色は二重に折り重なり、ペンデュラムの、新たな進化の扉が開かれる――。

 

「レベル4の《EM(エンタメイト)ラクダウン》に、レベル3の《貴竜の魔術師》をチューニング!」

 

 《貴竜の魔術師》は祈るように杖を掲げ、三つの円環を生み出した。ラクダウンが輪をくぐり抜け、調律・同調する。

 

「二色の(まなこ)の龍よ。紅き炎をその身に纏い、次元を照らす星となれ!

 シンクロ召喚! いでよ、大地抉りし紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》

 星7/炎属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 合計レベルは7。今ここに、二色の眼を持つ超新星が爆誕した。

 炎を纏った神秘の龍が、会場全体に咆哮を轟かす。

 

『で、で、出たァー!

 ペンデュラム、エクシーズに続き、まさかのシンクロ召喚! 複数の召喚法を操るD・ホイーラー、その名も榊遊矢! なんというデュエリストだ! これまで無名だったのが不思議なくらいだぞォー!』

「《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》は特殊召喚に成功した時、自身のバトルを放棄することで、(ペンデュラム)ゾーンのモンスターを召喚できる! 繋げ、“ボンド・オブ・フレイム”!」

 

 空に浮く一体のモンスターが炎に包まれ、隕石のごとく落下した。

 輝くは二色の眼。赤き神秘の龍が、遊矢の場に誕生する。

 

「真打ち登場! 雄々しくも美しく輝く二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

「さらに《EM(エンタメイト)チアモール》の(ペンデュラム)効果! 自分のPモンスターの攻撃力は300ポイントアップする!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻2500 → 攻2800

 

「バトルだ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《クリムゾン・ブレーダー》を攻撃! “螺旋のストライク・バースト”!」

 

 螺旋を描くブレスにて《クリムゾン・ブレーダー》が破壊される。

 

「そして、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のモンスター効果! モンスターとの戦闘で与えるダメージを二倍にする! “リアクション・フォース”!」

「ぬぅ……!?」

 

 ジャック

 LP:4000 → 2400

 SPC:4

 

 更なるブレス攻撃を受け、ジャックのライフが減少。一瞬だけ体制を崩すが、即座に立て直した。世界で活躍しているだけあって、そのテクニックは遊矢の比ではない。

 

『《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃が決まり、ジャックのライフが大きく削られた! 一矢報いた榊遊矢、このまま逆転なるかー!?』

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「やってくれたな、榊遊矢! 今の一撃、確かにオレに響いたぞ! 先程の言葉は訂正しよう! だからこそ貴様は、このオレ自らの魂で打ち砕く! オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:2400

 SPC:5

 

 遊矢

 LP:100

 SPC:4

 

「オレは貴様の永続(トラップ)《連成する振動》をコストに、チューナーモンスター《トラップ・イーター》を特殊召喚!」

 

 《トラップ・イーター》

 星4/闇属性/悪魔族/攻1900/守1600

 

「チューナーモンスター。合計レベルは8……!」

「行くぞ! レベル4の《マッド・デーモン》に、レベル4の《トラップ・イーター》をチューニング!」

 

 ジャックは高く腕を掲げ、召喚(シンクロ)した。龍は玉座を立ち上がり、自らの肉体で挑戦者と相対する。

 

「王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力を、その身に刻むがいい!

 シンクロ召喚! 荒ぶる魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

 星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

 

 現れたのは同じく紅蓮の龍。

 全身の傷は勝利の証。

 絶対的な覇気を持つ、孤高なる破壊龍――!

 

『ついに来たぞォォー! ジャック・アトラスの新たなドラゴン、その名も《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》! これはまずい、どうするチャレンジャー!?』

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の効果発動! このカードの攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、一体につき500ポイントのダメージを与える!

 喰らうがいい! “アブソリュート・パワー・フレイム”!」

 

 オッドアイズ二体の攻撃力はどちらも3000以下。遊矢のライフは残り100。

 だが、二体が破壊龍の火炎を浴びる直前、遊矢はセットした(トラップ)を発動させる。

 

伏せ(リバース)カードオープン、《ミニチュア・ライズ》! モンスター一体の攻撃力を1000ポイント下げ、さらにレベルを一つ下げる! 対象は、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

 星8 → 星7

 攻3000 → 攻2000

 

 (トラップ)の効果を受け、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》は縮小し、攻撃力がダウンした。

 これは、遊矢がジャック・アトラスの対策に投入した(トラップ)カード。《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の効果は強力だ。特に、ペンデュラムを得意とする遊矢には恐ろしく刺さる。しかしそれは、モンスター自身の高い攻撃力があってのもの。

 ならば答えは簡単だ。高いのなら、下げてしまえばいい。

 

「これで《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の攻撃力は、俺のオッドアイズ達を下回った。効果では破壊できず、当然戦闘でも破壊できない!」

「甘いわ! そんな他人の真似事では、このジャック・アトラスを倒すことなどできはしない! それを今、この場で教えてくれる!

 チューナーモンスター、《チェーン・リゾネーター》を召喚!」

 

 《チェーン・リゾネーター》

 星1/光属性/悪魔族/攻 100/守 100

 

「レベル7となった《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》に、レベル1の《チェーン・リゾネーター》をチューニング!」

「なっ……!」

 

 《チェーン・リゾネーター》は音叉を鳴らし、自身を一つの光輪に変換。その中心を、縮小したドラゴンが通り抜ける。

 

「王者の鼓動、今ここに列をなす。天地鳴動の力を見るがいい!

 シンクロ召喚! 我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

 星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

 

 全身の傷は癒え、角は再生。

 ジャック・アトラスを象徴する破壊龍が、今、完全な形で降臨した。

 

「そんな、ここで《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!?」

『なんとぉ! 榊遊矢の仕掛けた(トラップ)をくぐり抜け、まさかの連続シンクロ召喚! これがジャック・アトラス、三歩先を行く彼のデュエルなのかー!』

「これで終わりだ! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!

 森羅万象、全てを突き貫け! “アブソリュート・パワー・フォース”!」

 

 有無を言わさぬ強烈な掌底が《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を貫き破壊した。

 遊矢に防ぐ術はもうない。ライフが減少し、決着する。

 

「うわぁぁ――!!」

 

 遊矢

 LP:100 → 0

 SPC:4

 

 ぶしゅう、と空気が抜ける音。遊矢のD・ホイールは速度を失い始め、やがて停止するだろう。

 フレンドシップ・カップの開幕戦は、ジャック・アトラスの勝利にて幕を閉じた。

 

 

 ◆

 

 

「……負けた、のか」

 

 届かなかった。その事実が遊矢にとってショックだった。

 ライディング・デュエルと通常のデュエルは違う。今回のデュエルでも、魔法(マジック)カードの制限が無ければ遊矢はもっと動けていただろう。

 だが、そんなのは些細なことだ。

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》。

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 そして、《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》。

 これ以上ないほどの大盤振る舞い。間違いなく全力以上の力を発揮した。

 ――それでもなお、ジャックは遠い。

 榊遊矢にはもう一体切り札がいる。しかしそれはジャックも同様だ。

 今の自分ではどうやっても勝てないと、遊矢は痛感した。

 

「おい」

 

 ジャックはD・ホイールを止め、項垂れる遊矢の元へ歩み寄る。

 

「何も言うな。そして、顔を上げろ」

「えっ――」

 

 言われるがまま、遊矢は顔を上げる。

 そして、圧倒的な光景を目にした。

 

 

『ついに、決着ー! フレンドシップ・カップの開幕戦、エキシビション・マッチを制したのはジャック・アトラス! 生ける伝説はなお健在! いや、むしろ勢いを増している! その圧倒的な力を、参加者全員に見せつけたぞー!

 そして挑戦者(チャレンジャー)榊遊矢もよくやった! ペンデュラム召喚、エクシーズ召喚、そしてシンクロ召喚! 数多くの召喚法を駆使し、最後まで全力で食い下がった! 彼もまた大会の参加者! このフレンドシップ・カップにて、我々にどのようなデュエルを魅せてくれるのでしょうか! これから先、彼から目を離すことは許されないぞー!』

「流石はジャック・アトラス! 伝説のD・ホイーラーだー!!」

「アトラス様ー!」

「榊遊矢って子もやるじゃないか!」

「惜しかったぞ、少年ー!!」

 

 

「……これって」

 

 こんなに広かったのか。こんなに多かったのか、と。

 走っている時には気づかなかった世界の広さが、そこにはあった。

 

「お前の目指すモノが何なのかは知らん。オレには関係のないことだからな。だが、この景色だけは覚えておけ」

 

 観衆は各々の言いたいことを好き勝手に叫んでいる。誰が何を言っているのか聞き取れないほどに。

 だが、そこには笑顔があった。

 ここにいる誰もがこの瞬間を、十二分に満喫していたのだ――。

 

 




本編
「二色の(まなこ)の龍よ。紅き炎をその身に纏い、次元を照らす星となれ!
 シンクロ召喚! いでよ、大地抉りし紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」

他の案
「二色の(まなこ)の龍よ。聖なる炎を纏いて、闇夜を照らす星となれ!
 シンクロ召喚! いでよ、絆を紡ぐ紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」
「二色の(まなこ)の龍よ。聖なる炎を纏いて、燦然と輝く星となれ!
 シンクロ召喚! いでよ、次元を繋ぐ紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」
「爆炎より生まれし二色の眼。業火を纏いて大地を照らせ!
 シンクロ召喚! いでよ、次元を繋ぐ紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」



……などなど。
気をつけた点は
「炎」
「二色の眼」
「星」
「絆」
「次元」
に関連する言葉が含まれていること。その気になれば割と考えられますね。
ぶっちゃけ技名の“ボンド・オブ・フレイム”の方が言わせたかったので、召喚口上はそれっぽいならなんでもいいんですけど。

……うむ、我ながら実に痛々しい。だが逆に考えよう。この痛々しさを恥じるのではなく、楽しむのだ! 何事であれ頂点を極めるのいいことだって誰かが言ってた!


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曇った眼

赤馬零児「これが私のファンサービスだ! 受け取れイェーガー!」

デニス「燃えてきたぞ!(竜殺し並感)」

柚子「おい、デュエルしろよ」

大体こんな話(ネタバレ)


注意:デュエルなし。


「――素晴らしい」

 

 怒涛のエキシビション・マッチが終了した時、赤馬零児は思わずそう口にしていた。

 彼の知る榊遊矢は、ペンデュラム・融合・エクシーズの三種類の召喚法を使う決闘者(デュエリスト)だ。

 ――その男が、“シンクロ”を使用した。

 赤馬零児はランサーズの面々がシンクロ次元に飛ぶ際、意図的に分断した。榊遊矢の元には、柊柚子とそっくりな容姿をした“セレナ”、彼に触発されペンデュラム使いとなった“沢渡シンゴ”、そして自分の弟である“赤馬零羅”を同行させた。

 このメンバーを選んだ理由は、各々に経験を積ませて成長させるため。融合次元出身であるセレナをランサーズ側に完全に取り込み、沢渡シンゴを榊遊矢に次ぐペンデュラム使いとして成熟させ、赤馬零羅に自分以外の決闘者(デュエリスト)を見せつける。そして榊遊矢には、この問題児達を押しつけることで精神的成長を図る。

 赤馬零児の思惑は、当初の予定以上の成果を上げていた。

 

「……これは、信じるほかないようですね」

 

 イェーガーは溜息を漏らしつつ呟く。

 

「本当に素晴らしいデュエルでした。ペンデュラム召喚とエクシーズ召喚。どちらもこの街には……いえ、おそらくこの世界には存在しない召喚法です。

 榊遊矢。負けはしましたが、彼からは将来性を感じました。鍛え方次第では大いに化けるでしょう」

「……その割には、残念そうに見えますが」

「ええ。これで次元侵略の話が真実味を帯びてしまいました。このネオ童実野シティは、また戦場となるのですね」

「……申し訳ありません。しかし、ランサーズは融合次元から人々を守るための組織です。

 ジャック・アトラス。彼の力には私も感服しました。是非我々と……ランサーズと手を組んで頂けたらと」

 

 期待と確信をもって赤馬零児はイェーガーを見る。

 しかし彼の答えは、期待していたそれとは異なっていた。

 

「いいえ。その誘いにはまだ頷けません」

「っ――何故?」

「同盟を結ぶという意見には賛成です。ですが、貴方の真意は別のところにあるはず」

 

 そう言ってイェーガーは懐から小さな端末を取り出した。指で画面を操作した後、それを赤馬零児に見せる。

 映っていたのは、四人の少年少女達。

 

「榊遊矢。セレナ。沢渡シンゴ。赤馬零羅。確認ですが、この四人がランサーズのメンバー。そうですね?」

「……流石です。もう情報を集めてられたとは。

 はい、その通りです。私と月影、更に残りの三人を含めて、計九人でこの組織は成り立っています」

「おや、九人でしたか。ですが、それでもまだ戦力不足は否めませんね。

 ……榊遊矢。彼は素晴らしい決闘者(デュエリスト)です。しかしそれは、将来性までを考慮に入れた場合の評価。私自身、デュエルは素人ですので正しい評価ではないかもしれませんが、彼はよくてセキュリティ上層部の実力しかないように思えます。

 残りの八人を同レベルと仮定しても、やはりランサーズは力不足です。スタンダード次元を守ることはできても、敵の本拠地に乗り込めば全滅は免れません」

「……」

 

 赤馬零児は黙って話を聞いている。いずれ“融合次元に乗り込む”ことを否定せずに。

 

「貴方の真の目的は、ランサーズという組織の強化と肥大化。ジャック・アトラスや不動遊星を初めとしたこの次元の決闘者(デュエリスト)を取り込むこと。もっと簡潔に言えば、“守る”ための組織ではなく、“攻める”ための組織を作ること。違いますか?」

「――……!」

 

 その指摘を受けて赤馬零児は、イェーガーを敵を見る目で睨みつけた。

 いや、正確には“睨みつけてしまった”。同盟相手に敵意を向けるなど言語道断。この男のような小心者が相手ならなおさらだ。

 だがイェーガーは、その視線を受けてもピエロのように笑う。

 

「イッヒッヒ、どうやら図星のようですね。忠告はありがたく受け取っておきます。スタンダード次元に危機が訪れたなら、その時は手を貸しましょう。

 ――ですが。貴方の個人的な思惑に付き合うつもりはありません」

「……そうですか。どうやら私は、貴方を誤解していたようです」

 

 赤馬零児は眼鏡を直し、イェーガーと向き合う。どういうわけか、表情は少しばかり嬉しそうだ。

 

「それは、どういう意味ですかね?」

「いえ、深い意味はありません。言葉通りの意味ですよ。

 この街には不動遊星、そして今はジャック・アトラスという英雄がいる。失礼ながら私は貴方のことを、市長という肩書きだけの飾りと思っていました。ですが貴方は、我々の知る市長以上に広い視野をお持ちのようだ」

「ヒッヒ、それはどうも。では、試合も終わったことですし、場所を変えましょう」

 

 踵を返し、イェーガーは部屋を出ていこうとする。

 

「……そういえば、貴方はこの街の歴史をご存知ですか?」

「歴史?」

「ええ。といっても、ほんの二年ほど前の話ですがね」

「……いいえ」

 

 しばらく考える素振りを見せたが、赤馬零児には分からなかった。

 シンクロ次元の歴史が、ではない。そんなものは調べれば簡単に分かる。それはイェーガー自身にも分かっているはず。

 分からなかったのは、何故このタイミングで歴史の話を振ったか、だ。

 

「この街は二年ほど前まで“サテライト”と“シティ”に分けられていました。現在では考えられないほどの階層社会です。これらは過去に起きたある災害によって分断されており、サテライトの住民はゴミ溜めの中で生活していました」

「ですが、今のネオ童実野シティにその片鱗は殆ど見られません。どのような経緯があったのでしょうか?」

「繋げたのです。サテライトとシティを。誰もが自由に行き来できるよう橋を作り、全域にライディング・デュエル用のコースを設立しました。この街は文字通り、デュエルによって進化したのです。

 ですから私は、その例に倣うべきと考えます」

「倣う……? 具体的には、どのような?」

「橋を作ります。スタンダードとシンクロを結ぶ大きな橋を。そうして、()()()()()()()()()()()()()。貴方がたの技術力と、我々の開発した新エネルギーがあれば、不可能なことではありません」

「――繋ぐ、だと?」

 

 赤馬零児は驚きを隠せない。スタンダード次元からシンクロ次元へ移動する際、ランサーズは“転送”という手段を使った。デュエル・ディスクを装着した者のみを跳ばすという、基本的な手法。この技術は元々エクシーズ次元の物であり、おそらく融合次元も同じ手段を取っているだろう。

 だからこそ信じられない。もし実現すれば、それだけで融合次元より一歩先へ行くことができる。住民をスタンダード次元に避難させ、応用してシンクロ次元と融合次元を繋いでしまえば、先手を取ることも防衛することも容易となる。

 

「……本当に、そんなことが可能なのですか?」

「それを今から確かめに行くのです。それに、不動遊星にも貴方のことは知らせておきたいですし」

「不動遊星? どうして彼がこの話題に出てくるのです? 彼はジャック・アトラスに並ぶ伝説の決闘者(デュエリスト)のはずでは?」

「……ああ、そういえばそうでしたね。申し訳ありません。彼とはよく顔を合わせるので、ジャック・アトラスのように伝説というイメージがないのです。おそらく、この街の皆さんも同じように思っているかと」

「どういうことです? それだけ馴染み深い、ということでしょうか?」

「そういうことなのでしょうね。では、ご案内します。ついてき――」

「ここかぁ!」

 

 バダン! と。

 恐ろしい勢いで扉が開かれ、イェーガーの姿が消えた。

 代わりに現れたのは……榊遊矢に同行させたはずの、三人の問題児達だった。

 

「……」

「ビンゴだ。ようやく見つけたぜ社長さんよお。この沢渡シンゴの手をここまで煩わせるとは、随分といいご身分――」

「兄様!」

 

 沢渡シンゴの言葉を遮り、赤馬零羅は兄の元へと駆け寄った。

 これまで離れていた分を埋め合わせるように、零羅は零児の服をぎゅっと握り締めた。

 

「兄様……よかった。また、会えた。あの人の、言った通りだった……!」

「零羅……?」

 

 弟の変化に兄は気づいた。

 以前より少しだけ……本当に少しだけだが、口数が増えている。

 

「……君達が連れてきてくれたのか?」

「いや。試合が始まる直前に遊矢に頼まれたのだ。お前を探してほしいとな」

「何? あの榊遊矢が……?」

 

 セレナの言葉に、赤馬零児は再び驚く。あの少年が何故そこまで気を回せたのかが引っかかったのだ。

 エキシビション・マッチ、それも相手はジャック・アトラス。加えて柊柚子のこともある。あの状況で榊遊矢が、まともな精神状態でいられるはずがない。

 

「とにかく、これでその子は渡したからな。おい、行くぞセレナ」

「いや、待て」

 

 沢渡はセレナに視線を送った後、部屋を出ていこうとしたが、赤馬零児は呼び止めた。

 

「なんだよ。まだ何かあんのか」

「沢渡シンゴ、そしてセレナ。君達がここに至ったまでの経緯を私に報告しろ」

「……んなもん知ってどうすんだよ」

「榊遊矢。彼の成長の原因を知りたい。そのためには、君達がこの次元に来て何を経験し、何を得たのかを知る必要がある」

「俺達をいきなりワケ分かんねえ場所に飛ばしたアンタに、んなこと知る権利はないと思うけどな」

「――そうか」

「っ……!」

 

 赤馬零児のひと睨みで沢渡は、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。

 嫌な汗をかきつつも、なんとか反論する。

 

「な、なんだよ。別に、間違ったことは言ってねえだろうが」

「……」

 

 実際、彼の言には一理ある。それでも、たとえ正論が後ろに控えていたとしても、間違っているのは自分ではないかと思わずにはいられない。それほどの威圧感が赤馬零児にはある。

 だが同時に、自分のミスを認める誠実さもまた、彼は持ち合わせている。

 

「いや、失礼。確かに君の言う通りだ。これに関しては、事前に知らせておかなかった私に非がある。すまなかった」

「お、おう……」

 

 真正面から謝罪され、沢渡は戸惑う様子を見せた。まさかこの男が本当に謝るとは思っていなかったのだろう。

 

「ではセレナ。今度は君に訊こう。何があった?」

「……」

 

 セレナは腕を組み、その視線を怯むことなく受け止める。

 無言の間が続く。やがて痺れを切らし、セレナは一言だけ赤馬零児に伝えた。

 

「不動遊星と会った。それだけだ」

「何?」

 

 不動遊星。先程イェーガーからも聞いた名前だ。

 

「……そうか。榊遊矢がシンクロを習得したのはその影響か。となると、君達二人はどうなんだ? 不動遊星と接触して、何か得るものはあったか?」

「さあな。あったとしても、お前には関係のないことだろう」

「ああ、それで構わない。どんな形であれ、君達が更に力をつけたなら満足だ。これでようやく、我々ランサーズは次のステージに進める。

 ……イェーガー市長」

「市長?」

 

 ぎぎ、と扉が音を立てて閉まっていく。

 ……その裏側には、ぺしゃんこに潰されたピエロがいた。

 

「うおっ!? 誰だアンタ。というかいつの間に……」

「初めからここにいました。ヒッヒッヒ、流石は精鋭部隊ランサーズ、中々の強かさをお持ちのようだ」

「えっ……なんだよその目。俺が悪いのか?」

「いいえ、誰もそうは言っておりませんよ。これしきの不条理、流せぬようでは市長は務まりません。

 申し遅れました。私はネオ童実野シティ市長のイェーガーと申します」

「へえ――そうか、アンタ市長か。俺は沢渡シンゴ。知っての通り、舞網市市長の息子。言わば御曹司だ」

「……失礼、舞網市とは?」

 

 初めて聞く単語について、イェーガーは赤馬零児に質問した。沢渡シンゴ本人に直接訊かなかったのは、話が通じないと判断したからだろう。

 

「スタンダード次元に存在する我々の故郷です。意味合いとしては、“ネオ童実野シティ”と同じかと」

「成程。では今後、私は貴方と何度も会うことになりそうですね」

「まあ、そういうことだ。このシンクロ次元も、いずれは俺のエンタメで染め上げる予定だからな。今のうちに知り合いになっておいて損はないぜ」

 

 とことん上から目線で話す金髪少年。しかし向けられている感情は明らかに好意であるため、イェーガーは咎めない。

 エンタメで染め上げる、という宣言には難色を見せたが。

 

「……まあ、そういうことにしておきましょう。それで、そちらのお嬢さんは?」

「……セレナだ」

「そうですか。では貴女が――」

 

 イェーガーは肝心のところを言わず、そこで言葉を区切る。

 その様子を見て、赤馬零児は目を見開いた。

 ――気づかれている。少なくとも、セレナがスタンダードの決闘者(デュエリスト)ではないことに。

 赤馬零児はこれまでそのようなミスは犯していない。イェーガーとは何度も話し合う機会があったが、ランサーズのプライベートには極力触れられないよう誘導している。

 

「……いえ。不動遊星と出会っているのなら、さして問題ではないでしょう。

 では、赤馬零児さん。要件はなんでしょうか。確か先程、次のステージ、と仰ってましたが?」

「……ええ。ですがその前に、このフレンドシップ・カップについて一つ質問が」

「構いません。なんなりと」

「ありがとうございます。

 確認ですが、この大会はまず開幕戦として、ジャック・アトラスとのエキシビション・マッチが行われる。その後、この街は“バトル・シティ”となり、街の至る所でライディング・デュエルが開始される。戦績は運営に管理され、一定以上の成果を収めた上位数名が駒を進める。そして最後に、このスタジアムでトーナメント戦が行われる。

 ……細かいルールは他にもあるのでしょうが、大まかな流れとしてはこれでよろしいですね?」

「はい。その通りです」

「では、ここからが本題です。この“バトル・シティ”ですが、開幕はいつ頃でしょうか?」

「正式な開幕は明日の明朝です。尤も、一定以上の成績を収めればよいので、腕に自身のある方はもう少し遅れても結構ですが」

「そうですか。今すぐではないのですね?」

「……流石にこれほどの規模になると、セキュリティの配置にも時間が掛かってしまうもので。この点に関しては、住民からもちらほらと苦情が届いています。フットワークが悪くて申し訳ない」

「いいえ。寧ろ安心しました。明日ならば間に合います」

「はて? 間に合う、とは?」

「今回、我々スタンダード次元とシンクロ次元は、融合次元に備えて同盟を結びます。その友好の証として、あるサプライズを提供したいと考えました」

 

 眼鏡を直し、赤馬零児は向き直った。

 イェーガーだけではない。セレナと沢渡シンゴ、そして隣にくっついている零羅にも聞こえるように、その男は高らかに提案した。

 

 

「この“バトル・シティ”に我々の世界――“アクション・フィールド”を導入してはいかがでしょう」

 

 

 ◆

 

 

「……やるね、あの男」

「デニス……?」

 

 デニスは、これまでにないほどの低音で呟いた。

 どうやってあの男を倒すか。それ自体は決闘者(デュエリスト)なら誰もが考える。だがデニスの目は、その域をぶっちぎりで超えていた。

 どうやって倒すか? 違う。どうすれば(・・・・・)仕留められるか(・・・・・・・)。彼の目からは、そんな殺気が微かに漂っていた。

 

「ジャック・アトラス。やはり只者ではなかったか」

 

 黒咲もまたデニス同様、ジャックを評価する。ただしこちらに殺気はない。彼の底知れぬ強さを感じ取り、警戒している。

 

「見ているだけでも伝わった。今のあいつでは、どう足掻いてもあの男は倒せない」

「うん、黒咲の言う通りだね。最後の連続シンクロは僕も痺れたよ」

「待て。何故二人してそう思う? 確かにジャック・アトラスは圧倒的だったが、遊矢も頑張っていただろう。それだけではない、あいつはデュエルの中で進化を見せた。可能性はあるはずだ」

「いやいや、結構厳しいと思うよ? デュエルの前、ジャック・アトラスはペンデュラム召喚を知らなかった。それでこの結果なんだから。きっと次やる時、同じ戦術は通用しない」

「それだけではない。あの男はまだ何か隠していた」

「え?」

 

 黒咲は最後のターンを思い出す。

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》を遊矢が防ぎ、直後にチューナーを召喚して新たなシンクロ召喚。そして――

 

「ジャック・アトラスが伏せていた伏せ(リバース)カード。俺はあれが気になる」

「そう? 確か、遊矢の最後のターンは――」

 

 デニスは遊矢のラストターンを思い出す。

 彼はシンクロ召喚を披露し、新たなモンスターでエースを召喚した――

 

「で、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で《クリムゾン・ブレーダー》を戦闘破壊したんだったね。でもあの時、ジャック・アトラスは《マッド・デーモン》を守りたかっただろうから、ミラーフォースのような攻撃反応系の(トラップ)だったんじゃない? 後に備えて温存しておいたとか」

「……確かに、その可能性もあるか」

「? どうしたのだ黒咲。お前の意見はデニスとは違うのか?」

「――いや、なんでもない。確かにその通りだ。あの状況なら、攻撃反応系の(トラップ)を仕掛けるのが一般戦術だろう。そして、それを使うまでもなく榊遊矢は敗れた。それだけのことだ」

 

 黒咲は不安を振り切るように、自分に言い聞かせる。

 これより上が、あるはずないと。

 

「それより、肝心の柊柚子は見つけられたのか?」

「あー……あはは」

「……ぬぅ」

「……貴様ら」

 

 露骨に目を逸らす二人に、黒咲は大きくため息をついた。会場には人が多かった。ただ見つけられなかっただけなら仕方ないだろう。だがこの二人は、間違いなく足を止めてデュエルを見ていた。感想を述べていること、分析していることが何よりの証拠だ。

 

「……いやしかし、探そうとすらしなかったお前にどうこう言われる筋合いはないぞ」

「俺は見つけたぞ」

「WHATS!?」

「何!? ならば、柚子はどこに!?」

「そこまでは分からん。見つけたといっても一瞬だったからな」

 

 黒咲は観客席を見回す。

 エキシビション・マッチが終了し、明日からは“バトル・シティ”が開かれる。観客の中には参加者も大勢いたらしく、目に見えて人が減っている。

 

「だがこの場にいないということは、もう別の場所に移動したと考えるべきだろう。つまり……」

「! 柚子もこの大会に出場するということか!」

「十中八九、そうだろう。でなければ、わざわざこの場を離れる理由がない」

「ぬぅ……まあ、姿を確認できただけでも良しとすべきか」

「あはは! 駄目だよ権ちゃん、そんな顔してちゃ。大会に参加してるってことは、今度会う時はデュエルの相手ってことなんだから。その時はやっぱり笑顔で戦わないと」

 

 デニスは心から楽しそうに笑う。

 ジャック・アトラスと榊遊矢のデュエルを見て、彼の心にも火がついたのだ。

 二人のデュエルは間違いなく観客を魅了した。いつもの遊矢のデュエルとは異なっていたが、あれは間違いなくエンタメと言える試合だった。

 今度は自分の番。自分がこの会場を盛り上げるのだと、デニスは気合を入れた。

 

 

 ◆

 

 

 

 柊柚子は、とある選手の控え室の前で立ち止まっていた。

 プレートに書かれている名前は“榊遊矢”。エキシビション・マッチで、ジャック・アトラスと戦った決闘者(デュエリスト)

 

「…………」

 

 柚子は扉の前でこくりと喉を鳴らす。ずっと会いたいと思っていたはずなのに、いざ目の前にすると足が進まない。

 そも、どう声をかけたらいいのか。

 榊遊矢はジャック・アトラスに敗北した。完膚無きまでに。新たな力である“シンクロ”を披露してなお、あの男には一撃しか与えられなかったのだ。

 

「……落ち込んでる、よね」

 

 扉に手をかける。

 ……離す。

 もう一度手をかける。

 ……そして離す。

 それを繰り返し、はや十分。

 

「って、あーもう! なんでこんなに緊張してるのよ! 相手は所詮遊矢じゃない。あいつはただの……っ、ただの、幼馴染なんだから!」

「全くもってその通りだぜ」

「きゃあぁぁぁぁ――!?」

 

 耳をつんざく絶叫の後、柚子は恐るべき俊敏性を発揮した。

 背後の少年から全力で距離を取り、何故かハリセンを構えて臨戦態勢に入ったのだ。

 

「ユーゴ! あんたいつからそこに……!」

「ついさっきだよ。いや、ホント探したぜ。試合が終わった途端、急にどっか行っちまうんだから。……で、ここがあいつの部屋か」

「……うん」

「なんで入らねえんだ? しばらく会ってなかったんだろ?」

「そうだけど……遊矢、きっと落ち込んでるし。なんて声をかけたらいいか、分からなくて」

「ふーん。別になんでもいいと思うけどな、俺は」

「なんでもって言われても……」

「じゃあ、黙ってればいいだろ」

「そういうわけにはいかないでしょ! もう、相変わらず分かってないんだから!」

「分かってねえのは柚子の方だろ? そりゃ、相手が女だったら駄目かもしれないけどさ。男の場合はそれでいいんだって」

「それでいいって……そんな単純な」

「だから、単純なんだよ男って生き物は。気の利いた台詞はいらねえ。とりあえず姿さえ見せれば飛びつく。それが男だ」

「それはユーゴだけだと思うよ?」

 

 柚子は以前、ユーゴが自分に飛びかかろうとしたことを思い出した。

 彼には想い人がいる。名前は“リン”。彼女もまたセレナや瑠璃同様、柊柚子と同じ顔をしているらしい。

 要するに、シャワー上がりの柚子をリンと間違えて飛びかかろうとした、ということだ。

 

「んなことないって! 仮にそうだとしても、あいつだけは例外だ。俺とそっくりな顔してるから、きっと柚子のことが好きなはずだ。だから、姿を見せれば飛びかかる」

「どんな理屈よそれは! というか、それはそれで私が困るんだけど!」

「え? なんで?」 

「なんでって……だって、そういうのはまだ早いっていうか、心の準備が……いや、じゃなくて! こんな公衆の面前と抱きつかれたら誰だって困るでしょ!」

「? 公衆の面前?」

 

 ユーゴはさっと辺りを見渡す。

 ここらには選手の控え室がずらりと並んでいる。あらかじめ予約をとっていた選手のみが使える特別な部屋だ。当然防音機能付き。廊下でいくら騒いでも中には聞こえない。

 そして幸運なことに、廊下自体の人通りは少ない。

 

「よし、大丈夫だな」

「大丈夫じゃなーい! とにかく、遊矢はユーゴと違って繊細なの! 叩いたら直っちゃうような貴方とは違うのっ!」

「いーからいーから。とりあえず開けるぞー」

「えぇっ!? ちょ、ちょっと待って! まだ心の準備が――」

「いーからいーから」

 

 そうしてにこやかに微笑みながら、ユーゴは扉を開けたのだった。

 ――しかし、遊矢の反応は二人の予想とは異なっていた。

 扉は開いた。だが、肝心の遊矢は二人に目もくれず、ベッドに座ったまま一枚のカードを見つめていた。

 

「……遊矢?」

「んじゃ、俺はこれで」

「え、えぇ? ちょっと、ユーゴ……」

「俺がいたら邪魔だろ? こっから先はお前の仕事だ。そんじゃ、今度はハイウェイで会おうぜ、柚子」

 

 ユーゴは最後にそう言い残し、扉を閉めて部屋の前から去っていった。

 残ったのは柚子と遊矢のみ。だが、再会を喜べる空気ではない。

 沈黙は長く続かず、来客に気づいた遊矢はやがて、柚子に話しかけた。

 

「……柚子。“エンタメ”って、なんだと思う?」

「え?」

「俺は、皆を笑顔にすることだと思う。デュエルで皆を楽しませて、笑顔にする。それが……父さんのエンタメだ」

「――」

 

 それは、明らかに自分の意見を言っている様子ではなかった。

 意見を述べるというよりは、まるで自分に言い聞かせるような、自己暗示のような呟きだった。

 

「……なんてな。ごめん、いきなりこんなこと言われても困るよな。折角の再会なのにさ。とりあえず、適当に座ってくれ」

「……うん」

 

 柚子は備え付けられた椅子に腰をかけ、もう一度遊矢を見つめた。

 遊矢はというと、やはりまだ一枚のカードを眺めている。

 表情は曇っている。柚子には、ただジャックに負けて落ち込んでいるのではないように思えた。

 

「遊矢。何があったのか訊いてもいい?」

「……いや、別に。ただ、ジャックに負けたってだけだよ」

「本当にそれだけ?」

「……まあ、他にも色々あったけど」

「うん」

「……」

 

 再び沈黙。それでも、柚子は急かさない。遊矢が次に紡ぐ言葉を、じっくりと待ち続ける。

 最初はだんまりを決め込んでいた遊矢だったが、柚子の忍耐にやがて痺れを切らし、自身の悩みを打ち明けた。

 

「……俺。この次元に来る前に、母さんからこのカードを貰ったんだ」

 

 遊矢は、ずっと眺めていたカードを柚子に手渡した。

 それは一枚の魔法(マジック)カード。満面の笑顔が広がった世界。

 

「《スマイル・ワールド》?」

「カードとしての効果はちょっと頼りないけど……父さんと母さんの、馴れ初めのカードだって」

「へー。いいカードじゃない。《スマイル・ワールド》、笑顔の世界か。フィールドのモンスター一体につき、全てのモンスターの攻撃力を上げる……?」

「はは。ホント、笑っちゃうようなカードだよな。自分だけならともかく、相手まで上げちゃったら意味ないのに。

 ――でも。そういうの、凄くいいと思った。今の俺じゃ、そのカードは全然使いこなせないけどさ。いつかちゃんと使いこなせるようになって、皆を笑顔にできたらなって。

 ……そう、思ってたんだ(・・・・・・)

「思ってたって……今は違うの?」

「……分からない。全然、何一つ分からないんだ。俺のエンタメは……独りよがりだから」

 

 遊矢は悔しげに歯噛みし、拳を強く握り締めた。

 彼の頭には、あの時のジャックの言葉が未だに残っている。おそらくそれは、榊遊矢がエンタメを志す限り一生消えないだろう。

 

「独りよがりって……エキシビション・マッチでは皆を笑顔にできたじゃない」

「あれは父さんのエンタメじゃない!」

 

 遊矢は顔を下に向けたまま、これ以上ないほどの声量で叫んだ。

 声には焦りと苛立ちが大きく表れている。

 

「遊矢……?」

「ぁ……ごめん。最低だな、俺。イライラして人に当たるなんて」

「ううん。ねえ、一つ訊いてもいい? エキシビション・マッチのデュエルは、遊矢のお父さん……“榊遊勝”のエンタメじゃなかったの?」

「……うん。別に、父さんのエンタメを極めたわけじゃないけど、あれは絶対に違ってた。父さんのエンタメじゃなかった。でも、最後には皆、笑顔になってたんだ」

 

 目を瞑れば鮮明に思い返せる。最後のあの景色を。全員が身を乗り出し、もみくちゃになりながらも笑っていた観客達を。

 

「多分、あれがジャックなりのエンタメだったんだと思う。決闘者(デュエリスト)同士が全身全霊でぶつかり合うデュエル。相手に実力以上の力を引き出させて、その上で正面から打ち破るパワー・デュエル」

「そうね。じゃあ、もしかして遊矢も?」

「ああ――シンクロ召喚。ジャックが相手じゃなかったら、きっとできなかった」

 

 遊矢はデッキから二枚のカードを取り出した。

 一枚目は《貴竜の魔術師》。デュエルの直前、不動遊星から託されたチューナーモンスター。“貴竜”とは風水言語の一つであり、生き生きとした土地のことを指す。ここには多くの「気」が集まり、住む人間に様々な利益を与えるという。初めは普通の効果モンスターだったが、いつの間にかペンデュラムモンスターに変化している。

 二枚目は《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》。ジャックとのデュエルにて開眼した新しい力。

 

「シンクロを習得できたのは素直に嬉しいけど……同時に分からなくなったよ。これは父さんのエンタメじゃなくて、ジャックのエンタメで得た力だ。そして、シンクロ次元の人達はこの力で盛り上がってた。

 ――だから。もしかしたら、俺は」

 

 そこまで言って、遊矢は言葉を止めた。ここから先は言ってはいけないと、自分でブレーキをかけたのだ。

 

「遊矢は、そこまで考えてどう思ったの?」

 

 柚子は答えを急かす。本人の中では既に答えは出ている。この問題に先延ばしは許されない。

 何故ならこれは、榊遊矢の人生(デュエル)の根幹を揺らす部分だからだ。

 

「……俺は」

 

 恐怖に怯え、両手を組む。

 その様子を見て柚子は立ち上がり、今度は遊矢の隣に座り込んだ。

 ……それで少しは気持ちが和らいだのか。遊矢は覚悟を決め、ひと思いに胸中の不安を吐き出した。

 

「――俺のデュエルは。父さんのエンタメは、間違ってたんじゃないかって」

「……どうしてそう思ったの?」

「だって、そうじゃないか。父さんのエンタメは全然駄目で、ジャックのエンタメは受けていて。

 でも、そんなことは絶対ないはずなんだ。スタンダード次元では、父さんのデュエルは絶賛されてたんだから」

「そうね……でも、それって矛盾してない?」

「うん。だから、自分でもよく分からなくって。

 俺は、デュエルで皆を笑顔にしたい。でもそのためには、ジャックのエンタメじゃないと駄目で。だけど、認めるわけにはいかなくて」

「抵抗があるのね。これまで遊矢はずっと、“榊遊勝”のエンタメを目指してたから。今までの自分を否定するみたいで」

「……ああ。大体そんな感じかな。すごいな柚子は。なんでもお見通しか」

「これでも幼馴染ですから。

 ……でも、そっか。じゃあ簡単じゃない。どちらのエンタメが正しいか分からないなら、いっそ両方極めちゃえばいいのよ」

「――――は?」

 

 柚子は得意げに――これ以上ないほど自信満々に言い放った。

 どちらが正しいか分からない。ならばどちらも極めよう、と。

 ……強欲にも程がある。

 

「そんな、無茶言うなよ。俺はそこまで器用じゃない。両方なんて、無理に決まってる」

「じゃあ、どちらも諦めるしかないわね」

「……お前、真面目に話聞いてる? 俺は父さんみたいなエンタメデュエリストになるんだって、何度も言ってるだろ?」

「あはは、ごめん。遊矢、昔からそれが口癖だったよね。いつか父さんみたいになるんだーってさ」

 

 ニコニコしながら、柚子は昔を思い出す。

 

「いつもゴーグルかけて泣いてた遊矢が、今ではすっかり一人前になっちゃって。人間って、変わろうと思えば案外簡単に変われるのかもね」

「む、昔のことは別にいいだろ。今はもう、そんな簡単に泣かない」

「ホントかなー。遊矢、結構いっぱいいっぱいだったよ。私が来なかったらまた一人で泣いてたんじゃない?」

「だから泣かないって! もうそんな子供じゃないぞ、俺」

「……それじゃあ、大丈夫ね」

 

 柚子は柔らかく微笑んだ後、立ち上がり、遊矢と向き合う。

 彼女に遊矢の悩みは分からない。実際にジャックとデュエルをした遊矢と、見ていただけの柚子。理解はできても共感はできない。

 だが、だからこそ――本人とは違う立場にいるからこそ、伝えられる言葉だってあるのだ。

 

「……柚子?」

 

 少女は提案する。自分の想いを伝えるために。

 ほかの誰でもない――榊遊矢の笑顔を、もう一度見るために。

 

 

「遊矢。私とデュエルしましょう」

 

 

 




……《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》の(2)の効果では《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》の(1)の効果を無効にできないと知って只今絶望中。
……デュエル構成練り直しっと。


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たった二人のエンタメ・デュエル

遊矢と柚子のデュエル回。茶番臭がハンパない。

注意:アニメオリジナルカード、完全オリジナル(アクション)カードあり。

始めは(アクション)カードもアニメ限定で書いてたんだけど、無理だと思ってすっぱり諦めたよ……。
アクション・デュエルの構成難しい。お互いに使うカードが数枚増えるわけだから、当たり前といえば当たり前なんですけども。



 シンクロ次元とスタンダード次元は、文化が根本的に違う。それが最も顕著に表れているのは、やはりデュエルだろう。古代エジプトにおける魔術師の決闘を起源とし、時代と共に独自に進化を遂げたのだ。

 デュエルの形式が異なれば舞台も異なってくる。

 舞網市のデュエルフィールドは、例えるなら運動場。地形は質量を持ったソリッド・ビジョン――“アクション・フィールド”によって様々に変化するため、広いこと、そして何より“何もないこと”が求められる。

 対してここ、シンクロ次元におけるデュエルフィールドは文字通りレース場。中央にスタンディング用のフィールドが並び、その周囲を専用コースが囲んでいる。Dホイーラーによっては時速数百キロを維持して走ることもあるため、舞網市とは比べ物にならないほど広く大きい。

 

「客席でも思ったけど、こうして立って見ると本当に広いのねー。ここまで来るだけでも一苦労じゃない」

 

 柊柚子は空になった席を見回しつつ呟いた。

 時間帯は夜。大会参加者は宿を決め、明日に備えて休む頃。街灯の明かりがフィールドを照らし、空には微かだが星が見える。人口の明かりが無ければ、きっと満点の星空を拝めたことだろう。

 

「ほら遊矢、こっち来なさい。嫌がっても駄目だからね」

「えぇ……ちょっ」

 

 榊遊矢は手を引っ張られ、そのまま強引にデュエル場まで連れて行かれた。

 場所は当然中央。時間が時間なら、観客全員の視線が集まる特等席だ。

 

「柚子、頼むから離してくれよ。俺も柚子も明日から試合だろ? 今日は俺、ジャックとデュエルして疲れてるし、なるべく早く休みたいんだけど」

「だーめっ」

 

 柚子は笑顔で封殺する。

 その暴虐不尽な振る舞いに、遊矢は諦めて溜息を漏らした。

 

「今更駄々をこねても駄目。ここまで来ちゃったんだから、いい加減観念しなさい」

「……今すぐだとは思わなかったんだよ。俺はてっきり、明日やろうって意味だと」

「でもそれなら、わざわざコースを見たい、なんて言わないと思うけど?」

「それは、柚子には勝ち残る自信があるんだなって意味で、今のうちに本選のコースを見学したかったってことだと」

「あー……そっか。うん、それはちょっとあるかも。これだけの大舞台で遊矢とデュエルできたら、きっと楽しいと思うから」

「……いや、それは」

 

 遊矢は言葉を濁し、柚子から視線を逸らした。

 以前までなら肯定していただろう。しかし、今の彼にはできない。彼のデュエルはジャック・アトラスによって否定された。“独りよがり”“押し付けがましい”と指摘され、かつ、それは真実であると身を持って実感したのだから。

 

「……遊矢」

 

 柚子は一つ確信する。このままでは、榊遊矢は勝ち残れない。この大会にではない。もっと大きな意味で、彼は勝ち残れない。

 デュエルで皆を笑顔にする。それは幼稚だが、とても素晴らしいことだと柚子も思っている。

 だが――誰かを笑顔にしたいと願う人間が、笑顔になれないのは間違ってる。

 

「遊矢、デュエルをしましょう。私、貴方に伝えたいことがあるの」

「伝えたいことって……だったら、きちんと言葉にして言ってくれよ」

「ううん、言葉じゃ駄目。それだけじゃ、この気持ちは半分も伝わらない。何より、貴方自身に気付いて欲しいの」

「気付いてって……何に?」

「ごめんなさい、ここから先は言えないわ。どうしても知りたかったら、このデュエルを受けて」

 

 柚子はデュエル・ディスクを展開し、構える。

 遊矢にはますます分からない。何故ここまで自分とのデュエルにこだわるのか。

 デュエルがしたいなら今じゃなくてもいい。明日から大会であることを考えると、寧ろ今日は早く休み、朝早くにやる方がいいに決まっている。

 ともあれ、ここまで来たら逃げられないし止められない。遊矢はこれみよがしにもう一度溜息をついた後、渋々とディスクを構えた。

 

「分かったよ。このデュエル、受けるよ」

「ありがと。でも待って。私達、何か一つ忘れてない?」

「……忘れてるって、何を?」

「私達はスタンダード次元の決闘者(デュエリスト)なのよ? だったら、デュエルの前にやることがあるでしょう?」

「デュエルの前……ああ、そっか」

 

 ――“アクション・デュエル”。フィールド魔法である“アクション・フィールド”を展開し、専用の魔法(マジック)カードである“(アクション)カード”をばらまく。決闘者(デュエリスト)達はモンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、これらを拾って戦う。スタンダード次元ではライディング・デュエルの代わりに、この“アクション・デュエル”が主流となっている。

 遊矢達ランサーズのデュエル・ディスクは、専用の機器がなくても“アクション・フィールド”が展開できるよう改造されてあるのだ。

 

「アクション・フィールド、オン。《クロス・オーバー》」

 

 ディスクを掲げた瞬間、世界に物質が付随される。

 アクション・フィールドには様々な種類がある。童話で見るお菓子の世界、氷に包まれた氷河期、マグマで溢れる活火山など、多種多様だ。

 しかし《クロス・オーバー》は、その中で最も地味な世界。通常の舞台に足場が加えられただけの、初心者用のステージだ。

 

「柚子、これでいいか?」

「そうね。あとは……笑いましょうか」

「笑うって……もしかして、エンタメデュエルをしてくれってことか?」

「ううん、違う。寧ろ逆。エンタメとか、正しいとか、正しくないとか。そういうのは一旦忘れて、二人でデュエルを楽しみましょう。ここには観客もいないんだから」

「……そっか。そうだな。まあ、分かったよ」

 

 遊矢は観客席を見回した後、ほっと一息ついた。

 今の遊矢にとって、見物客が一人もいないのはありがたいことだった。これならば、たとえ独りよがりでも批判されることはない。

 人がいない。たったそれだけでも、精神的な負担は確実に減るのだから。

 

「準備はいい? それじゃ、しっかり合わせてね!」

 

 柚子は笑顔を見せ、手を掲げる。

 遊矢にはそれが眩しい。たとえ空が曇っていようと、人工の光で星が見えなくても、柊柚子だけは太陽のように輝いている。

 

 

「戦いの殿堂に集いし決闘者(デュエリスト)達が!」

 

 

 誰もいない会場で、柚子は一人声を張り上げる。

 ――決闘者(デュエリスト)達が。

 彼女はそこで口上を止め、合いの手を待つ。遊矢は苦笑を漏らしつつも、それに応えた。

 

 

「……モンスターと共に、地を蹴り宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」

「「アクショ~ン!」」

 

 

「「決闘(デュエル)――!!」」

 

 

 知らず、少年には笑顔が戻りつつあった。

 

 

 ◆

 

 

 柚子

 LP:4000

 

 遊矢

 LP:4000

 

 上空に集まったカードが弾け飛び、フィールド全域に散蒔かれる。

 それらは全て(アクション)カード。デュエル中に拾って使用できる専用の魔法(マジック)カードだ。

 

「先行は貰うわ! 私は手札から魔法(マジック)カード、《独奏の第1楽章》を発動! 自分の場にモンスターがいない時、手札かデッキからレベル4以下の《幻奏》とつくモンスターを特殊召喚する!

 さあ出番よ、《幻奏の音女アリア》!」

 

 《幻奏の音女アリア》

 星4/光属性/天使族/攻1600/守1200

 

「そしてこのカードは、自分の場に《幻奏》モンスターが存在する時、特殊召喚できる!

 来て、《幻奏の音女ソナタ》!」

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 星3/光属性/天使族/攻1200/守1000

 

「特殊召喚されたソナタがいる時、自分の場にいる天使族モンスターの攻撃力、守備力は500アップする!

 そして特殊召喚されたアリアがいる時、《幻奏》モンスターは戦闘では破壊されず、効果の対象にもならないわ」

 

 《幻奏の音女アリア》

 攻1600 → 攻2100

 守1200 → 守1700

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 攻1200 → 攻1700

 守1000 → 守1500

 

 アリアとソナタの歌声が響き合い、ステータスが変化し、耐性が付与される。

 単体では非力。だが二体、三体と集まれば互いをカバーしあい、重奏曲を奏でる。それが《幻奏》モンスターの特徴。

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド。さあ、次は遊矢のターンよ」

「俺のターン、ドロー!」

 

 遊矢は手札からモンスターカードを二枚を選択し、掲げる。

 

「俺は、スケール2の《EM(エンタメイト)ラクダウン》と、スケール3の《EM(エンタメイト)ラ・パンダ》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 二枚のカードを両隅にセットした瞬間、遊矢のディスクに“PENDULUM”と文字が浮かび上がった。

 モンスターが出現し、二体はフィールドの上空へと浮上していく。

 

「早速ペンデュラム召喚ね。でも、そのスケールじゃ何もできないわよ?」

「このままだったらな。俺はここで速攻魔法《ペンデュラム・ターン》を発動! セットされた(ペンデュラム)モンスターのスケールを、ターン終了時まで1から10までの任意の数値に変更する。これにより、《EM(エンタメイト)ラ・パンダ》のスケールを10に変更。

 そして、ラ・パンダの(ペンデュラム)効果発動! 一ターンに一度、自身のスケールを一つ上げることができる。この効果で、ラ・パンダのスケールは11に上がる!」

 

 ラ・パンダが指し示す数字が一気に上昇した。

 本来なら《ペンデュラム・ターン》の効果はターン終了時に消滅し、対象となったモンスターのスケールは元の数値に戻る。

 しかし、ラ・パンダ自身の効果でスケールを上書きしてしまえば、《ペンデュラム・ターン》の効果は切れてもスケールは11のままでいられる。

 

「そっか、これなら。考えたわね、遊矢」

「ああ。これで、レベル3から10のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 黒く染まった夜空に、ペンデュラムの光が灯る。

 振り子はアークを描き、ゲートを穿つ。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!

 ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスター達!」

 

 ――モンスターが二体召喚される。

 一つは光。一つは闇。万華鏡を持つ蠍と、二色の眼の龍。

 

「《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》!

 そしてもう一体! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》

 星6/光属性/昆虫族/攻 100/守2300

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

「カレイドスコーピオンの効果発動! このターン自分のモンスター一体は、特殊召喚された相手モンスター全てに一回ずつ攻撃できる!

 輝け、オッドアイズ! “カレイド・ミラージュ”!」

「っ……!」

 

 万華鏡の光を浴び、オッドアイズの眼はギラギラと輝き始める。

 それに目を眩ませつつ、柚子は一目散に走り出した。狙いは一つ。攻撃を躱す(アクション)カード。

 

「バトルだ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《幻奏の音女ソナタ》を攻撃! “螺旋のストライク・バースト”!」

「きゃあぁ――っ!」

 

 アリアの歌声で守られているため、ソナタは戦闘では破壊されない。しかし、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》にとってそれは、大きな意味を持たない。

 

「オッドアイズの効果発動! モンスターとの戦闘で与えるダメージを二倍にする! “リアクション・フォース”!」

「うっ――!」

 

 柚子

 LP:4000 → LP:2400

 

「まだまだ行くぞ柚子! 二撃目、今度はアリアに攻撃! “螺旋のストライク・バースト”!」

「っ――そうはいかないわ!

 (アクション)魔法(マジック)、《回避》を発動! モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!」

 

 柚子は先程発動しそびれた(アクション)カードを使い、攻撃を回避した。

 これが“アクション・デュエル”の真骨頂。互いのプレイヤーはフィールドに散らばったカードを使い、デッキ構築の時点では想定していなかった戦略を立て、実行することができる。

 

「躱されちゃったか。俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 

 ドローした後、柚子は遊矢のフィールドを確認する。

 遊矢の(ペンデュラム)ゾーンには《EM(エンタメイト)ラクダウン》がいる。ラクダウンの(ペンデュラム)効果は、相手モンスターの守備力を下げ、更に自分のモンスターに貫通能力を与える効果。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は戦闘で与えるダメージを二倍にし、《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》はオッドアイズに全体攻撃を付与する。

 これらのコンボにより、《幻奏の音女アリア》の戦闘破壊耐性が逆に働いてしまっている。

 このままではただのサンドバック。柚子はこの状況を打破すべく、上級モンスターを召喚する。

 

「私は、アリアとソナタをリリース!

 天上に響く妙なる調べよ、眠れる天才を呼び覚ませ! いでよ、《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》!」

 

 《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》

 星8/光属性/天使族/攻2600/守2000

 

「っ――!」

 

 タクトを持つ歌姫――プロディジー・モーツァルトは、柊柚子のエースの一体。攻撃力は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を上回っている。

 遊矢は攻撃に備え、(アクション)カードを求めて走り出した。

 

「プロディジー・モーツァルトの効果発動! 一ターンに一度、手札から天使族・光属性モンスターを特殊召喚できる!

 これにより、《幻奏の音姫ローリイット・フランソワ》を特殊召喚!」

 

 《幻奏の音姫ローリイット・フランソワ》

 星7/光属性/天使族/攻2300/守1700

 

「ローリイット・フランソワの効果発動! 一ターンに一度、墓地から天使族・光属性モンスターを一体、手札に戻すことができる!

 私は墓地から《幻奏の音女ソナタ》を手札に戻し、ソナタの効果でもう一度特殊召喚!」

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 星3/光属性/天使族/攻1200/守1000

 

「特殊召喚されたソナタがいる時、天使族モンスターの攻撃力と守備力は500ポイントアップするわ!」

 

 《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》

 攻2600 → 攻3100

 

 《幻奏の音姫ローリイット・フランソワ》

 攻2300 → 攻2800

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 攻1200 → 攻1700

 

「さあ、バトルよ! まずはローリイット・フランソワで、《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》を攻撃!」

「っ……あった!」

 

 ローリイット・フランソワの音波攻撃を受け、カレイドスコーピオンが破壊される。

 その余波を受けつつも、遊矢はかろうじて(アクション)カードを拾った。

 

「続けていくわよ! プロディジー・モーツァルトで《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃! “グレイスフル・ウェーブ”!」

「させない! (アクション)魔法(マジック)《不動》! このターンオッドアイズは戦闘、及びカード効果では破壊されない!」

「でも、ダメージは受けてもらうわ!」

 

 プロディジー・モーツァルトの攻撃により、遊矢のライフが削られる。しかしその数値は微々たるもの。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》もまた健在だ。

 

 遊矢

 LP:4000 → LP:3400

 

「どうだ、柚子。俺の場にはまだオッドアイズがいる。これならもう攻撃できないだろう?」

「それはどうかしら。これを見なさい、遊矢!」

「え?」

 

 柚子は得意げに一枚のカードを見せる。

 裏面には大きく“A”の文字。即ち(アクション)カード。遊矢が(アクション)カードを拾っている間に、柚子もまた(アクション)カードを拾っていたのだ。

 それも攻撃を防ぐカードではなく、“追撃”のカードを。

 

「まさか、(アクション)カード!?」

「そうよ! 私は(アクション)魔法(マジック)《セカンド・アタック》を発動! 戦闘を行った自分のモンスターの攻撃力を800ポイント上げて、もう一度バトルできる!」

「なっ――!」

 

 《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》

 攻3100 → 攻3900

 

「いくわよ! プロディジー・モーツァルトで、もう一度攻撃! “グレイスフル・ウェーブ”!」

 

 遊矢

 LP:3400 → LP:2000

 

「ぐっ――……!」

 

 遊矢はモンスターの後ろに隠れ、ダメージを堪え続けた。

 先程発動した(アクション)魔法(マジック)の効果により、このターン《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は破壊されない。しかしダメージは大きい。無傷の状態から一気に半分を持っていかれた。何より驚愕すべきは、攻撃力2500のオッドアイズがいるにも関わらず、ライフを奪った手段が全て戦闘ダメージである点だろう。

 

「バトルフェイズ終了時、《セカンド・アタック》の効果は切れて、攻撃力は元に戻るわ。

 私は更にもう一枚カードを伏せて、ターンエンド」

 

 《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》

 攻3900 → 攻3100

 

 音姫達の猛攻が終了し、ようやく遊矢のターンが回ってくる。

 流れは柚子にある。ペンデュラムモンスターは何度倒されても復活するが、それだけでは力で押し切られる。

 

「……はぁ。やっと終わったか。それにしても、柚子は相変わらずだな。ストロングっていうか」

「あっはははー……――それはどうも」

「っ!?」

 

 地獄耳恐るべし。ちょっとした呟き程度だったのだが、柚子には聞こえてしまったらしい。

 ――その時、遊矢には幻聴が聞こえた。

 ゴゴゴゴ、と地面が割れるような、隕石が落ちたような――それとも火山の噴火だろうか……?

 いずれによ、地雷であることは間違いなかった。

 当然か。年頃の女の子がストロングと揶揄されたら誰だって怒る。

 ……たとえ本人にその気がなく、純粋な賛美だったとしてもだ。

 

「じゃ、じゃあ行くぞ。俺のターン、ドロー!」

「はっきり答えなさい! 遊矢、ストロングってどういう意味よ!」

「ふ、深い意味はないよ! 強いなって思っただけ、それだけだから!」

「――――あっそう」

「あっ」

 

 言葉を間違えた? 言い方の問題? 思うこと自体がアウトだった?

 ――否、どれでもない。どれでも同じ。何を言っても、きっと同じ結果になっていた。

 

「いーわよ、じゃあかかってきなさい! 貴方が勝手につけた“ストロング”の異名通り、(パワー)で捩じ伏せてやるわ!

 聞いてるの遊矢! 目を逸らさない! こっちを見なさい! いくらオッドアイズが(ペンデュラム)モンスターでも、所詮は攻撃力2500。そんなひ弱なモンスターじゃ私には勝てないわよー!」

「――……」

 

 遊矢は思考を停止し、かつての自分を思い出す。

 ストロング。その場の勢いだったとはいえ、なんて言葉を口走ってしまったのか。

 当たり前だと思っていたもの。目の前にいた少女の強さを、あの時の自分は分かっていなかった。鬱陶しいと思うことだってあった。この柊柚子という女の子が、もっとお淑やかな子だったらなぁと。

 

 ――けれど。今はただ、その強さに感謝を。

 

「……あはは」

「?」

 

 突然の笑い声に、柚子は困惑する。

 遊矢が笑ってくれた。それはとてもいいことだし、彼女自身も望んでいたことだ。だが、どうしてこのタイミングで笑ってくれたのか、彼女には今ひとつ分からなかった。

 

「遊矢、どうしたの? 何か悪いものでも食べた?」

「なんでそうなるんだよ! 確かに、そこまでいいもの食べてなかったけど……カップ麺ばかりだった」

「? どういうこと?」

「あぁいや、何でもない。ただ、柚子は凄いなぁって思っただけだよ」

「凄い? 料理のこと?」

「うーん……まあ、それもかな。それも含めて全部。――柚子はさ。本当に凄いよ」

 

 万感の思いを込めて、遊矢はそう言った。

 真正面から尊敬の眼差しを向けられ、柚子は赤面する。

 挑発したかと思えば急に笑い、笑ったかと思えば褒め殺し。柚子としては嬉しい変化なのだが、こうもコロコロ変えられると調子が狂う。

 

「なによ、いきなり褒めちゃって。そんなこと言われても、私はまだ怒ってるんだからね!」

「だから、深い意味はなかったんだって。

 ……柚子は、凄い。あまりにも凄すぎて、俺には眩しい。俺はきっと、お前みたいに強くなれない。ジャックのようにも、父さんのようにもなれないんだ」

「遊矢……?」

 

 そうして、榊遊矢は弱さを認めた。不可能だと認めた。

 笑いながら(・・・・・)。どうあがいても、父のようにはなれないと。

 

「でも……よく考えたら、それは当たり前のことだった。だって俺は、柊柚子じゃない。ジャック・アトラスじゃない。榊遊勝じゃない。

 ……エキシビション・マッチでも、ジャックは言ってたよ。所詮誰かの真似事じゃ、オレには勝てないって」

 

 誰かの真似をする。それ自体は間違ったことではない。この世のありとあらゆるものは、既存のものを改良して成り立っている。このデュエル・モンスターズだって、元はといえば古代エジプトの決闘をベースに作られたのだから。

 だが、それでは限界があるのだ。最後の壁を乗り越えるためには、自分なりの答えを見つけなくてはいけない。

 遊矢は笑顔で問いかける。既に分かりきった答えを。

 

「柚子。俺は将来、エンタメデュエリストになるよ。でも、俺にはどうすればいいか分からない。俺は、誰のエンタメを目指せばいい?」

「……私は」

 

 その問い掛けに、柚子はほっとした。泣きそうになるくらいに。

 それでも今は堪えた。今は笑おう。このたった二人のエンタメデュエルを、楽しいものにするために。

 

「私は、“榊遊矢”のエンタメが見たい」

「――かしこまりました」

 

 遊矢は仰々しく礼をした後、リアル・ソリッド・ビジョンの足場を軽やかに移動し、やがて頂上に辿り着く。

 ペンデュラムの光が灯る空を指差し、誰もいない会場で声を張った。

 

「レディース、エ~ンド、ジェントルメーン! 只今より始まりますは、ワタクシ榊遊矢による、榊遊矢にしかできない、榊遊矢だけのエンタメ・デュエル! 短い間ですが、どうぞご堪能ください!

 ……なーんてな」

「あはは、おっかしい」

 

 赤の他人が見れば、とんだ茶番に映ることだろう。

 だが観客はいる。たった一人の寂しい席だが、確かにいるのだ。ならばその期待に応え、心ゆくまで楽しませるのがエンタメデュエリストだ。

 

「それじゃ行くぞ、柚子!

 ――揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスター達!」

 

 天空の孔より、再びモンスターが現れる。

 光属性と水属性。先程破壊された一体と、たった今ドローしたもう一体。

 

「もう一度来い、《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》!

 続いて、《EM(エンタメイト)マンモスプラッシュ》!」

 

 《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》

 星6/光属性/昆虫族/攻 100/守2300

 

 《EM(エンタメイト)マンモスプラッシュ》

 星6/水属性/獣族/攻1900/守2300

 

「新しいモンスター……!?」

「お楽しみはこれからだ! 俺は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と、《EM(エンタメイト)マンモスプラッシュ》をリリース!

 二色の(まなこ)の龍よ! 巨獣のしぶきをその身に浴びて、新たな力を生み出さん!」

 

 遊矢はエクストラデッキから一枚のカードを取り出す。

 獣を宿す神秘の龍。二つの魂は混じり合い、融合し、新たな命となりて誕生する。

 

「いでよ、野獣の(まなこ)光りし獰猛なる龍! 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星8/地属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

 

「来たわね、ペンデュラム融合!」

「まだまだ! ここで《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》の効果を発動! このターン、《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は、特殊召喚されたモンスター全てに攻撃できる! “カレイド・ミラージュ”!」

 

 龍の瞳に万華鏡の光が宿り、野獣の咆吼が轟く。

 ビーストアイズの攻撃力は3000。プロディジー・モーツァルトにはわずか100届かないが、それでも他の二体に攻撃すれば決着する。

 

「バトルだ! 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《幻奏の音女ソナタ》を攻撃! “ヘルダイブ・バースト”!」

「くぅっ――!!」

 

 柚子

 LP:2400 → LP:1100

 

「ここで、ビーストアイズの効果発動! 戦闘で相手モンスターを破壊した時、素材となった獣族モンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「まだよ! (トラップ)発動、《ブレイクスルー・スキル》! 相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする!」

 

 追撃のブレスを放とうとした瞬間、(トラップ)のエフェクトによって遮られた。

 野獣の名を冠するだけあって、その能力は非常に攻撃的だ。前のターンで柚子がこの(トラップ)を引いていなければ、ここで負けていただろう。

 

「やるな、柚子。でも、ソナタがいなくなったことで《幻奏》モンスターの攻撃力は下がった。更にビーストアイズは、カレイドスコーピオンの効果でまだ攻撃ができる。さあ、これをどう躱す?」

「こうするわ! (トラップ)カード、《奇跡の残照》を発動! このターン、戦闘で破壊されたモンスター一体を、墓地から特殊召喚する!

 《幻奏の音女ソナタ》を、守備表示で特殊召喚!」

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 星3/光属性/天使族/攻1200/守1000

 

「これで私の《幻奏》モンスターの攻撃力は元に戻るわ!」

「甘いぞ柚子。ビーストアイズはこのターン、特殊召喚された全てのモンスターに攻撃できる。ソナタを特殊召喚しても、もう一度攻撃すればいいだけだ」

「ええ、分かってるわ。勝負はここからよ。ほら、遊矢も」

「え?」

「私だけ(アクション)カードを使っても盛り上がらないでしょ? だから、遊矢も自分のカードを探して」

「わ、分かった」

 

 柚子に急かされ、遊矢もまた(アクション)カードを探し始めた。

 カード自体はあちこちに散らばっている。見つけるだけならそこまで苦ではない。

 問題は、今すぐ使えるかどうかだ。

 

「……あった!」

 

 先に見つけたのは遊矢。躊躇いなく、拾ったカードを発動する。

 

(アクション)魔法(マジック)、《ペネトレイト》! 自分のモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていれば、貫通ダメージを与える!

 これで終わりだ! 行け、ビーストアイズ! もう一度《幻奏の音女ソナタ》を攻撃!」

「それはどうかしら!」

 

 柚子もまた走りながら(アクション)カードを拾い、発動する。

 

(アクション)魔法(マジック)《回避》を発動! ビーストアイズの攻撃を無効にする!」

「なっ――!?」

 

 槍のように鋭く尖ったブレスを、ソナタは間一髪回避した。柚子は得意げに笑い、挑発する。

 

「ふっふーん。どう?」

「ぐっ……だけど、ローリイット・フランソワの攻撃力は2800だ!

 行け、ビーストアイズ! 三回目の攻撃、“ヘルダイブ・バースト”!」

 

 柚子

 LP:1100 → LP:900

 

「くっ――やるわね、遊矢。これがペンデュラム融合の力ってわけ?」

「まあな。でも、お楽しみはまだまだこれからだ。ペンデュラムは可能性の振り子。俺はこれからも、もっともっと進化する」

「私だってそうよ。さあ、今度はこっちが魅せる番。覚悟なさい遊矢!」

「ああ、来い。俺はこれで、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 

 カードを確認し、柚子はほくそ笑む。引いたのは彼女のデッキのキーカード。ビーストアイズと同じ“融合”の力。

 

「私は魔法(マジック)カード《融合》を発動! これにより、フィールドのソナタとプロディジー・モーツァルトを融合!

 流れる旋律よ。至高の天才よ。タクトの導きにより、力重ねよ!

 融合召喚! 今こそ舞台に、勝利の歌を! 《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》!」

 

 《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》

 星6/光属性/天使族/攻1000/守2000

 

 花弁が一枚ずつ開き、中から小さな歌姫が現れた。ソナタやプロディジー・モーツァルトとは違い、その姿は少女のように幼い。

 

「このターンで決着をつけるわ!

 バトル! ブルーム・ディーヴァで、《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃! “リフレクト・シャウト”!」

 

 ブルーム・ディーヴァの音波攻撃に対抗し、ビーストアイズは灼熱のブレス“ヘルダイブ・バースト”を放った。

 ――ここで、《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》の特殊効果が発動する。

 

「ブルーム・ディーヴァは特殊召喚された相手モンスターと戦闘を行った時、相手モンスターを破壊し、元々の攻撃力の差分のダメージを与える!

 ビーストアイズの攻撃力は3000! 遊矢、貴方に2000ポイントのダメージよ!」

「そうはいかない! カウンター(トラップ)、《ダメージ・ポラリライザー》! 効果ダメージの発動と効果を無効にする!」

 

 遊矢はセットしておいた(トラップ)を使い、効果ダメージをかろうじて防いだ。

 とはいえ、状況は変わらない。次のターン、再度攻撃されたら遊矢のライフは尽きる。

 

「……《ダメージ・ポラリライザー》のもう一つの効果。互いのプレイヤーはカードを一枚ドローする」

「上手く防いだわね。いけると思ったんだけどなぁ。

 ……私はドローしたカードを伏せて、ターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローした後、遊矢は長考する。

 ……《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》。柊柚子の融合(エース)モンスター。

 対して遊矢のフィールドには《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、そして《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》の二体。どちらも特殊召喚されたモンスター。更に、ビーストアイズの攻撃力は3000。頼もしい攻撃力も、ブルーム・ディーヴァにとっては格好の的でしかない。

 

「……ん?」

 

 遊矢は足元のカードに気づき、それを拾った。裏面にはAの文字――(アクション)カード。

 そのカードは、今の彼の心情をこれ以上ないほど的確に表していた。

 このデュエルは、まさにこういう(・・・・)デュエルだ。ならば結果はどうあれ、このカードで逆転を狙うべきだろう。

 

「遊矢、どうしたの?」

「ん、なんでもない。

 俺は(アクション)魔法(マジック)《リスタート》を発動。自分の場のカードを全てデッキに戻す。戻ってこい、俺のモンスター達!」

 

 全てが消える。ペンデュラムスケールの二体、ビーストアイズ、カレイドスコーピオン。合計四体をデッキに戻し、何もかもを零に帰す。

 これはリセット――否、リスタートだ。

 

「ペンデュラムスケールも、ビーストアイズも戻しちゃうなんて」

「大丈夫、これは戻っただけだ。ペンデュラムモンスターは、これまでの俺の積み重ね。無かったことにはしない。その上で俺は、俺だけのデュエルを見つけてみせる。

 《リスタート》の効果。デッキに戻したカード二枚につき、一枚ドローする」

 

 遊矢はデッキの上に指を置き、祈るように問いかける。

 

“――応えてくれ”

 

 《リスタート》によって戻したカードは四枚。遊矢は合計二枚のカードをドローした。

 引き当てたのは《魔術師》二枚。絆のピースと始まりのピース。

 

「俺は、スケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 白と黒の魔術師がセットされ、上空へ浮かび上がった。

 夜空に光が灯る。始まりの二体によって、閉じられたゲートは再び開く……!

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!

 ペンデュラム召喚! いでよ、雄々しくも美しく輝く二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 振り子(ペンデュラム)はアークを描き、三度モンスターが召喚された。

 待っていたと言わんばかりに、神秘の龍は帰還する。

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

「更に俺は、手札の《貴竜(きりゅう)の魔術師》の効果発動! このカードは、レベル7以上の《オッドアイズ》モンスターのレベルを三つ下げ、手札から特殊召喚できる!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7 → 星4

 

 《貴竜(きりゅう)の魔術師》

 チューナー

 星3/炎属性/魔法使い族/攻 700/守1400

 

「チューナーの《魔術師》? これって――!」

「レベル4となった《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》に、レベル3の《貴竜(きりゅう)の魔術師》をチューニング!

 二色の(まなこ)の龍よ。紅き炎をその身に纏い、次元を照らす星となれ!

 ――シンクロ召喚! 

 いでよ、大地を抉る紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》

 星7/炎属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 ドラゴンは紅蓮の炎を纏い、両目の輝きと共に生誕した。

 暗闇の中でも燃え盛るその肉体は、太陽のように眩しい。

 

「これが、遊矢のシンクロ召喚……凄い、凄いよ遊矢!」

「えへへ……俺は、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「え? 攻撃はしないの?」

「ああ。メテオバーストの効果じゃ、柚子にダメージは与えられないからな」

 

 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》は、榊遊矢の他のドラゴンに比べて攻撃能力が低い。

 ……“バトルフェイズ中、相手はモンスター効果を発動できない”

 この場合、ブルーム・ディーヴァの効果ダメージは無効にできるが、永続効果――“破壊されず、ダメージを受けない”効果は無効にできないのだ。

 拳銃と弾丸に例えるなら、メテオバーストは弾丸を全て弾き飛ばせるが、拳銃そのものはどうにもできない。存在するだけで効果があるものに対しては無力なのだ。

 

「そう。だったら残念だけど、このデュエルもらったわ!

 私のターン、ドロー! このままバトルフェイズよ!」

「《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》がいる限り、相手はバトルフェイズ中にモンスター効果を発動できない! これでブルーム・ディーヴァの効果を封じる!」

「それはどうかしら? 私はここで、墓地から(トラップ)カード《ブレイクスルー・スキル》を発動!」

「墓地から(トラップ)!?」

 

 《ブレイクスルー・スキル》は、モンスター効果をターン終了時まで無効にするカード。そしてもう一つ、このカードには墓地でのみ発動する効果がある。

 

「このカードを除外することで、相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。私は《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》を選択!」

 

 (トラップ)カードの赤いエフェクトが《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》の全身を覆った。

 炎の光は小さくなり、徐々に勢いが弱まっていく。

 

「これでブルーム・ディーヴァの効果は復活するわ!

 行け、《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》を攻撃! “リフレクト・シャウト”!」

 

 ブルーム・ディーヴァの歌声がメテオバーストを誘い、炎熱のブレスを放つ。

 華の歌姫と火炎の龍。中々に凶悪な光景だが、結果は真逆となった。モンスター効果によってメテオバーストは破壊され、遊矢のライフが削られる。

 

 遊矢

 LP:2000 → LP:500

 

「更に(トラップ)発動、《幻奏のイリュージョン》。これにより、ブルーム・ディーヴァはこのターン二回攻撃ができる。遊矢の残りライフは500、ダイレクトアタックが決まれば私の勝ちよ!」

「それはどうかな!

 (トラップ)発動、《コズミック・ブラスト》! ドラゴン族シンクロモンスターがフィールドを離れた時、その攻撃力分のダメージを相手に与える!

 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》の攻撃力は2500。よって柚子、お前に2500のダメージだ!」

「えぇ!?」

 

 太陽は消えた。だが種火は消えない。

 燻っていた火は炎となり、龍を象った。それは隕石のごとく降り注ぎ、召喚者(プレイヤー)に直接ダメージを与える。

 

「これでフィニッシュだ! 行け、《コズミック・ブラスト》!」

「きゃあぁぁぁ――!!」

 

 柚子

 LP:900 → LP:0

 

 炎の一撃を受け、柚子は尻餅をついた。

 ――勝者は榊遊矢。

 (アクション)カード、アクション・フィールドはその役目を終え、早々に消えていった。

 

 

 ◆

 

 

「柚子、立てるか?」

「あ……う、うん」

 

 遊矢は躊躇なく手を差し出し、柚子を助け起こした。

 前回――舞網チャンピオンシップでは拒絶された。それでも懲りず、自然と手を差し伸べられるのは彼なりの強さだろう。

 

「ありがとう。柚子のおかげで、少し元気が出たよ」

「どういたしまして。答えは見つかった?」

「いや、正直に言うとまだ分からない。でも、一つだけ分かったよ。

 父さんのエンタメとジャックのエンタメ。どっちかが間違ってるって思ってたけど、きっとそうじゃない。どっちも正しかったんだ(・・・・・・・・・・・)。だってあの時――ジャックとデュエルした時、お客さんは確かに笑ってたんだから。

 だから思ったんだ。俺は、俺だけのエンタメがしたい。父さんにもジャックにも真似できない、榊遊矢だけのエンタメで、皆を笑顔にしたいって」

 

 その答えに、柚子は満足して微笑んだ。

 エンタメという定義について、ここまで確固とした答えを求めていたわけではない。

 これまで通り父親のエンタメを貫くか。それとも、ジャック・アトラスのエンタメに鞍替えするか。

 彼女としてはどちらでも良かった。なんでも良かった。

 ――ただ、この少年に笑ってさえくれれば。

 

「……榊遊矢だけのエンタメ、か。うん、凄くいいと思うよ、私」

「とは言っても、具体的には何をすればいいのやら。問題は山積み……寧ろ増えてる気がするよ」

 

 だがそれでいい。そういったことは、これから少しずつ学んでいけばいい。

 幸いにもこの次元には多くの先導者がいる。

 不動遊星。ジャック・アトラス。探せばもっと多くのデュエリストが挙げられるだろう。

 ここはそういうところなのだ。

 ネオ童実野シティ。人と人の絆を育み、次世代へと繋げる街。

 

 ――そしてまた、新しい絆が結ばれる。

 

 

「いいデュエルだったぜ、二人共」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 “俺は、俺だけのエンタメがしたい。父さんにもジャックにも真似できない、榊遊矢だけのエンタメで皆を笑顔にしたい”

 

 

 ――ああ。それは、(まさ)しく独りよがりだ。

 皆を笑顔にしたい?

 なんて思い上がり。なんて独善。そんなことは誰も頼んでいない。所詮は理想の押し付けだ。彼が目指すのは結局のところ、究極の“お節介”でしかない。

 

 だが。

 

 ――だがそれは、決して間違いではない。

 皆を笑顔にしたい。

 それだけは疑うべくもなく、()い願いだ。

 

 榊遊矢を否定する敵は当然のように現れるだろう。

 何故なら、彼の理想に正解はない。エンタメの定義は捉え方・考え方次第でいくらでも変わる。

 誰か一人、身近な人だけ(・・)を笑顔にする。それなら可能だ。

 だが、()を笑顔にすることはできない。いつか必ずどこかで、越えられない絶壁にぶつかるだろう。

 

 その上で、ジャック・アトラスは言ったのだ。“折れるな”と。

 

 だから、榊遊矢は胸を張る。折れないことを誓う。

 ずっと自分を見てくれていた、柊柚子という幼馴染に。

 




《コズミック・ブラスト》は遊星VSアキ(一戦目)で遊星が使ったカードです。
クェーサーを初めとしたシンクロ龍と相性が良いように思えますが、発動ターンは特殊召喚できなくなるのでそこまで凶悪じゃないですきっと。LP:4000だとヤバイけど。


《幻奏》Sモンスターがいたら、柚子が遊矢にシンクロ教えてもらう展開(=柚子覚醒のフラグ建築)ができるんだが、まだまだ先になりそうだなー。というか多分ないな。



デュエル終了後、誰かに

?「いいデュエルだったぜ、二人共」

とか言わせてしまったが、まだ誰かは決まってないぜ!


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ストーリーメモ

ARC-V73話視聴後

「これで……満足したぜ」

↑モチベーション消滅の瞬間

元々この小説は、本編に対する不満やイライラを物語にしただけだったのです。
本編の遊矢が立ち直った今、モチベーションを維持するのは難しい。途中で失踪するくらいなら、多少強引でもキリがいいこのタイミングで終わらせるべきだと考えました。
↓はメモ書きです。


「……やっぱり凄い。この人達、全員がフレンドシップ・カップの参加者なのね」

 

 熱気に塗れた人混みの中で、柊柚子は呟いた。

 ライディング・デュエル用のコースには色とりどりのD・ホイールがずらっと並び、D・ホイーラー達はというと、バトル・シティ開幕までの時間を各々自由に過ごしていた。

 といっても全く緩やかな雰囲気ではなく、ガラの悪そうな連中があちこちでメンチを切っている。

 

「なんとなく分かってはいたけど、舞網チャンピオン・シップとは別物ね。全体的にピリピリしてる……?」

「そうだな。もしかしたらライディング・デュエルとアクション・デュエルの違いが、こういうところにも出てるのかもな」

 

 遊矢は自分のD・ホイールを触りながら、軽くイメージする。

 デュエルで皆を笑顔にする。言葉にすると簡単に聞こえるが、実際は尋常ならざる難易度だ。ただ強いだけではいけない。勝つだけでは達成できない。いやそもそも、この次元の決闘者(デュエリスト)相手に勝てるのかさえ分からない。

 何しろ遊矢自身、ライディング・デュエルは初心者だ。同じような参加者は数多くいるが、この大会にはジャックとの対戦目当てで参加したベテランD・ホイーラーも紛れ込んでいる。

 

「ライディング・デュエル……かぁ」

 

 対して柚子は、桃色のD・ホイールを不安そうに撫でる。彼女にはライディング・デュエルの経験が一切ない。この次元に迷い込んでからは遊矢そっくりの人物“ユーゴ”と行動を共にしていたが、彼女自身がライディング・デュエルをすることはなかった。つまり、ぶっつけ本番でやるしかないということだ。

 遊矢は思い出す。この次元に来たばかりの自分達を。

 全ては“不動遊星”がきっかけだった。彼と出会ったおかげで、バラバラだった歯車は少しずつ噛み合い始めた。もし出会っていなかったら、おそらく何もかもが違う結果になっていただろう。もしかしたら柚子の立場に立っていたのは、ほかならぬ遊矢自身だったかもしれないのだ。

 

「ゆ、遊矢?」

 

 ならばと、遊矢は柚子の手を握る。

 そして提案する。不動遊星ほど上手くはいかないだろうが、それでも、少しは安心させられるように。

 

「柚子。最初のデュエルは俺と一緒にやらないか? その方が経験も積めるし、緊張も少しくらい誤魔化せるだろ?」

「一緒に? 私と遊矢が?」

「ああ。名付けて、“タッグ・ライディング・エンタメ・デュエル”だ。……ちょっと長いかな」

「でも、遊矢だってまだ経験浅いでしょ? 私がいたら足手まといに……」

「その時はその時さ。一定以上の成績を出せば勝ち上がれるんだから、一回くらいは負けても大丈夫だよ」

「そうなの? ……でもこの大会、タッグ・デュエルなんてできるのかな」

 

「その点は心配いらねーぞ。この大会は比較的自由度が高いからな。タッグは勿論、変則バトル・ロイヤルだってできる」

 

「?」

 

 柚子の問いに答えたのは別の男だった。

 黒いヘルメットを脇に抱え、茶色のライディングスーツ。顔にはイタズラでもされたのか、文字のような、あるいは模様のようなラインがこれでもとか刻まれている。

 二人は知っていた。それは“マーカー”と呼ばれる印であり、犯罪者の刻印であることを。不動遊星にもマーカーはあったが、ここまでひどくはなかった。一体何をしたらここまでマーカーまみれになるのかは、この次元の人間でも分からない。

 柚子は警戒心をむき出しにして、遊矢の後ろに下がった。

 

「遊矢、この人……」

「大丈夫だ、柚子」

「え?」

 

 ただ、遊矢は知っていた。

 ガレージに飾ってあった一枚の写真。それに不動遊星、ジャック・アトラスと共に写っていた人物であると。

 

「えっと……もしかして、不動遊星さんと知り合いの方ですか?」

「おお、よく分かったな! 俺はクロウ(・・・)。クロウ・ホーガンだ。お前、エキシビション・マッチでジャックとデュエルしたやつだよな。

 名前は……榊遊矢だったな。となると、もしかして後ろのが柊柚子か?」

「え? 柚子のこと、知ってるんですか?」

「まあな。事のあらましは遊星から聞いてるぜ。随分と大変だったらしいが……ま、再会できてよかったじゃねえか」

「はい。遊星さんには色々とお世話になりっぱなしです」

「らしいな。ならお礼は、そのD・ホイールとデッキで払ってもらおうか」

「……デュエル、ですか?」

「ああ。折角だ、二人まとめて相手してやるよ」

「え――っ」

 

 通常、デュエルは一対一か二対二で行われる。それはライディング、アクションを問わず同様である。

 だからこそ、クロウの発言は二人を驚かせるものだった。一対二では、どうしてもアドバンテージに差が出来てしまう。バトル・ロイヤル形式でもタッグ・フォース形式でも、一人の方が圧倒的に不利なのだ。

 

「本当にいいんですか?」

「お前ら、どっちもライディング・デュエルは初心者だろ? だったら問題はねえさ。このクロウ様に任せとけ」

「――いいわけないだろ。何言ってんだお前は」

 

 また一人、クロウの後ろから人が駆けつけた。

 長身の男だった。寒色系のライディング・スーツを着込み、脇には黄土色のヘルメットを抱えている。

 

「シンジ。お前もこのエリアに来てたのか」

「偶然だと思うけどな。で、クロウ。お前いきなり浮気か? 一戦目は俺とやるって言ってただろ」

「悪ぃ。けど、エキシビションであんな試合見せられちゃ、今のうちにやるしかねえと思ってな」

「だとしても一対二は無理だ。ルールブック読んでねえのかよ」

「前回の時はできただろ? 乱入にバトル・ロイヤル、なんでもありだったじゃねえか」

「そのシステムだと、徒党を組んで乱入を繰り返せば相手にターンを回さず勝ててしまうからな。それで問題になって、今回は禁止になったんだよ。できるのは通常のライディング・デュエルと、“タッグ・フォース”ルールのデュエルだけ。どうしてもやりたいなら、その辺のセキュリティに申請して許可を貰わないとな」

「はぁ!? マジかよ……どうせ申請なんかしたとこで、許可なんて貰えねえだろうしなぁ」

「……えっと」

 

 クロウとシンジの会話について行けず、遊矢と柚子は沈黙する。

 どちらも成り行きで参加することになったため、詳しいルールまでは把握していなかったようだ。

 

「遊矢、どうする? 一対二は無理だって」

「そうだったのか……じゃあ、仕方ないな」

 

 遊矢は腹を括り、クロウとシンジに向き合った。

 柚子を一人にはしておけない。クロウとデュエルする。

 これらを同時に満たす方法は一つだけ。遊矢と柚子にとっては無謀極まりない提案だ。クロウ・ホーガンは以前、不動遊星、ジャック・アトラスと同じチームで活躍していた。実力は折り紙つきだ。

 それでも、もう一度ジャックとデュエルするためには、避けては通れない壁である。

 

「クロウさん、シンジさん。俺達とタッグ・デュエルをしましょう」

「えぇ!?」

 

 真っ先に反応したのはクロウでもシンジでもなく、柚子だった。

 

「ちょっと遊矢。本気なの?」

「ああ。確かに、いきなりこの人達を相手にするのは厳しいと思う。でも、試したいことがあるんだ。そしてそれは、お前とのタッグでしかできない。

 ……頼む、柚子」

「う……私じゃないと、駄目なの?」

「ああ。他には考えられない」

 

 言動は冗談レベルでぶっ飛んでいたが、遊矢の目は真剣そのものだった。

 柚子はその気迫に気圧され、泣く泣く承諾した――してしまった。

 クロウは、そんな遊矢を見てほくそ笑む。彼自身、こういう思考をする人間は嫌いではないのだ。

 

「どうやら冗談で言ってるわけじゃなさそうだな。

 遊矢。一応聞いておくが、俺達がどういうチームか知ってて言ってんだよな?」

「知ってるさ。クロウ・ホーガンとシンジ・ウェーバー。世界大会で活躍中のタッグ・チームだ」

「せ、世界大会!?」

 

 再び柚子は驚く。

 マーカーだらけのD・ホイーラーは実は大物で、その大物相手に遊矢が喧嘩を売っている……声を荒らげるのも無理はない。

 柚子はようやく遊矢の無謀さを理解する。初心者と世界レベルのベテラン。結果は初めから見えているようなものだ。

 

「そこまで知った上で俺達に挑むと? どう足掻いたところで、大人と子供の遊びにしかならねえと思うが?」

「それはどうかな。デュエルはそんな単純じゃない。少なくとも、俺はそう信じてる」

「――ははっ、違いねえ。そんじゃま、期待させてもらうぜ」

 

 クロウは踵を返し、シンジと共に自分のD・ホイールの場所へ戻っていった。

 面白い相手を見つけたと言わんばかりに、笑みを浮かべながら。

 ――かくして対戦相手は決定した。

 榊遊矢、柊柚子と、クロウ・ホーガン、シンジ・ウェーバーによるタッグ・デュエル。

 バトル・シティと化したこの街では、シティ全域でライディング・デュエルが行われる。これもまた、数十を超える戦いの一つに過ぎない。

 大きな意味を持つか、それとも平凡な一試合として終わるか。全ては彼ら次第である。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 以下、メモ。

 

 

『バトル・シティ編』

 ・遊矢・柚子 VS クロウ・シンジ

 ルールはタッグ・フォース式(重要)

 遊矢・柚子。クロウ・シンジのコンビネーションに追い詰められるも、連続ペンデュラム召喚でなんとか対抗する。

 (タッグ・フォース・ルールでは、ペンデュラムスケールは共有する)

 ターンは

 

 1.遊矢

 2.クロウ

 3.柚子

 4.シンジ

 

 の順番。

 

 ラストターンで柚子が遊矢の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をペンデュラム召喚。

 遊矢、遊星直伝のライディング・テクニックで(アクション)カードを拾いまくり柚子をサポート。

 しかし、シンジも同じようにAカードを拾いまくり対抗する。完全にマリ○カート。

 ここでクロウが《月影のカルート》で反撃。これで終わりかと思いきや、柚子が“なにか”を発動して攻撃を取り消すorオッドアイズの攻撃力上昇。(“なにか”はご都合Aカード)

 

 柚子「いくわよ遊矢!」

 遊矢「あ、ああ!(それ俺のモンスターなんだけど、まあいいか)」

 

 遊矢・柚子「「“螺旋のストライク・バースト”!」」

 

 で今度こそフィニッシュ。遊矢=トマトラル。

 勝者は遊矢・柚子。試合後クロウが柚子をからかう。

 

 クロウ「よく考えたら勝てるわけなかったわHAHAHA!」(ハリセン受けながら)

 

 ・セレナ VS 炎上ムクロ

 融合 VS スピード☆アクセルデッキ

 ムクロのデッキは平たく言うなら超速(物理)バーン(カード)SPCデッキ。

 

 炎上ムクロ、SPCをガンガン稼いでヒャッハー!!!!

 《融合》、《Sp-スピード・フュージョン》はどちらもSPCが必要。セレナは終始圧倒される。

 ラストターンで存分に《融合》を使って一矢報いるが、ムクロのエースに倒され敗北。

 勝者は炎上ムクロ。ここでセレナの精神を徹底的に折り、覚醒フラグを立てる。

 

 

 

『オベリスク・フォース襲来』

 ・大会中に融合次元が侵略してくる。

 遊星、大会を辞退して市民を守ることを優先する。

 ジャックは頭に血が上り、同じようにキングの座を捨てようとする。

 

 零児 「キング。どちらへ?」

 ジャック「キングではない。今のオレはジャック・アトラス。遊星(あいつ)と同じ、この街で育った一人の決闘者(デュエリスト)だ」

 零児 「しかし今は大会中。貴方がその席を離れれば、問題になると思いますが」

 ジャック「知ったことではない。キングの座など欲しければくれてやる。今のオレには、そんなものよりも大事なことがある」

 

 イェーガー「……お待ちください、ジャック・アトラス」

 

 イェーガーに諭され、ジャックは“砦”となる。

 市民を会場内に避難させ、その入口をジャックが仁王立ちで守るイメージ。

 

 

 ・遊矢、キレる。覇王化。逆鱗。

 当然のように《覇王黒龍オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》(以下オベリオン)でワンターンスリーキルゥ。

 そして暴走。オベリスク・フォースを片っ端から殲滅する。

 

 「流石にやりすぎだろ」ということで、

 

 逆鱗遊矢 VS 沢渡・セレナ・柚子

 

 の変則マッチ開始。ターンは三人→遊矢の順。三人は攻撃できないが、遊矢は攻撃できる。

 各々エースを召喚するが、初手オベリオンでワンターンスリーキルゥされかける。

 途中で遊星乱入。《エフェクト・ヴェーラー》で効果を止める。

 以下、華麗なるソリティア↓

 

 《エフェクト・ヴェーラー》の効果発動。

 手札4

 遊星「俺のターン、ドロー!」

 手札5

 《ジャンク・シンクロン》召喚、効果で《エフェクト・ヴェーラー》特殊召喚。

 手札4

 墓地から蘇生したので《ドッペル・ウォリアー》特殊召喚。

 手札3

 《ドッペル・ウォリアー》に《ジャンク・シンクロン》をチューニング。《アクセル・シンクロン》、ドッペルトークン×2特殊召喚。

 手札3

 《アクセル・シンクロン》を自分の効果でレベル7に。ドッペルトークンと《アクセル・シンクロン》で《スターダスト・ドラゴン》召喚。

 手札3

 ドッペルトークンと《エフェクト・ヴェーラー》で《フォーミュラ・シンクロン》特殊召喚。効果でドロー。

 手札4

 遊星「アクセルシンクロォォォ!!!!」

 

 そしてグォレンダ。ワンターン遊矢キルゥ…。

 《Sp-オーバー・ブースト》×2、《Sp-ファイナル・アタック》

 

 プ○シド「馬鹿な! 攻撃力6600の五回連続攻撃だと!?」

 

 ここで遊矢は一旦フェードアウト。ヒーローとヒロインが交代する。

 

 

 ・遊星のガレージ(仮)でランサーズ集合。

 柚子が正式にランサーズIN。

 セキュリティのおかげで住民の被害は今のところゼロ(ここ重要)

 しかしあちこちにオベリスク・フォースがいるので危険。

 

 柚子「避難し遅れた人達を探しに行きましょう!」

 

 というわけでランサーズを分断……ではなく班分け。

 

 柚子・デニス(重要)

 権現坂・黒咲

 セレナ・沢渡

 

 で別れる。

 

 遊矢「zzz……」

 零羅「看病」

 零児・月影「情報収集」

 

 

 ・権現坂・黒咲 VS オベリスク(ry

 ルールはタッグ・フォ(ry

 デッキの相性最悪にも関わらず、安心安定のコンビネーションでオベフォ殲滅。特に山場はない。

 

 ・セレナ・沢渡 VS バレット(ここ重要)・オベ(ry

 ルールは(ry

 沢渡は終始サポートに徹する。

 セレナが覚醒する(雑)

 勝者、セレナ・沢渡

 

 ・柚子・デニス

 ユーリと遭遇。バトル・ロイヤル開始。

 

 デニス「なぁwんちゃってwおかしくって腹痛いわぁw」

 デニス「楽しかったよ柚子ww君達とのエンタメごっこぉww」

 

 ユーリ・デニス VS 柚子

 柚子フルボッコ、そして攫われる。シンクロ次元からオベリスク・フォースが全員撤退する。

 →セレナは失敗したが、柚子を攫うことには成功した。

 

 

 遊矢が起きる。主人公交代。曇る。

 市民の被害はゼロ。しかし柚子はいない。

 仲間は励まそうとするが耳を貸さない。権現坂でも不可能。 

 

 黒咲「おい、デュエルしろよ」

 

 黒咲が遊矢と自然な流れ(?)でデュエル。

 

 黒咲 VS 遊矢

 簡単に言うと遊矢イジメフェイズ。

 

 黒咲「ユートは違ったぞ」

 黒咲「あいつは瑠璃が攫われても、俺達と一緒に立ち上がった」

 黒咲「貴様にそのドラゴンは相応しくない」

 黒咲「戦う意思を持たぬというのなら、貴様はここで永遠に這い蹲っていろ!」

 

 度々ユートと比較し、遊矢を挑発し続ける。

 

 遊矢「何度も何度もユートとばかり……他の言葉を知らないのか?」

 遊矢「俺はユートじゃない。榊遊矢だ!」

 

 みたいな決め台詞と共に覚醒。BGM:揺れろ、魂のペンデュラム。

 当たり前のようにカード創造。《ペンデュラム・コール》で《竜脈の魔術師》、《竜穴の魔術師》をサーチし、Pスケールをセッティング。

 オッドアイズPをペンデュラム召喚、以下省略。

 フィールドには《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》と《竜穴の魔術師》。

 

 遊矢 「――これで、レベル7のモンスターが二体揃った」ゴゴゴ

 権現坂「レベル7が二体……まさか!」カンコーン!

 

 権現坂、以前の逆鱗遊矢を思い出す。

 

 権現坂「遊矢!」

 遊星 「待て、権現坂」

 権現坂「なぜ止める!? このままでは遊矢は――!」

 遊星 「いや、あの時とは明らかに違う」

 権現坂「なに……?」

 遊星 「よく見ておくんだ。これが、遊矢なりの覚悟だ」

 

 遊矢 「俺は、レベル7の《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》と《竜穴の魔術師》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 ~構築!まで言ってるのは「これまでとは違う感」を出すための演出。

 遊矢、《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》を創造(エクシーズ召喚)し、黒咲に勝つ。

 最後に柚子を助けることを誓ってエンド。

 ここから遊矢は《マスター・オブ・ペンデュラム》のカードも使うようになる。

 

 

 

 ユーゴ「……俺は?」

 作者 「素で忘れてた」

 



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バトル・シティ編 初陣! エンタメ・タッグ爆誕!

ARC-V本編でようやく《スマイル・ワールド》について触れてくれたので滾った。続かないと言ったな、あれは嘘だ。
……ごめんやっぱ続かない。とりあえず途中だったものを仕上げただけ。いつぞや書きなぐったメモとは思いっきり違うけど許せ。


※《Sp(スピードスペル)》関連、《B・F(ビー・フォース)》関連、(アクション)カードなど、オリカが何枚も登場します。アニメ通りではないカードもあります。耐性ない方はバック推奨。

※デュエル内容修正。主にライフ計算と降魔弓のハマ。大したミスじゃなくてよかった……。ハマの修正に従って演出も若干変更しました。


 

「……やっぱり凄い。この人達、全員がフレンドシップ・カップの参加者なのね」

 

 熱気に塗れた人混みの中で、柊柚子は呟いた。

 ライディング・デュエル用のコースには色とりどりのD・ホイールがずらっと並び、D・ホイーラー達はというと、バトル・シティ開幕までの時間を各々自由に過ごしていた。

 といっても全く緩やかな雰囲気ではなく、ガラの悪そうな連中があちこちでメンチを切っている。

 

「なんとなく分かってはいたけど、舞網チャンピオン・シップとは別物ね。全体的にピリピリしてる……?」

「そうだな。もしかしたらライディング・デュエルとアクション・デュエルの違いが、こういうところにも出てるのかもな」

 

 遊矢は自分のD・ホイールを触りながら、軽くイメージする。

 デュエルで皆を笑顔にする。言葉にすると簡単に聞こえるが、実際は尋常ならざる難易度だ。強いだけでは達成できない。勝つだけでは達成できない。

 いやそもそも、この次元の決闘者(デュエリスト)相手に勝てるのかさえ分からない。

 何しろ遊矢自身、ライディング・デュエルは初心者だ。同じような参加者は数多くいるが、この大会にはジャックとの対戦目当てで参加したベテランD・ホイーラーも紛れ込んでいる。

 

「ライディング・デュエル……か」

 

 対して柚子は、桃色のD・ホイールを不安そうに撫でた。彼女にはライディング・デュエルの経験が一切ない。この次元に迷い込んでからは遊矢そっくりの人物“ユーゴ”と行動を共にしていたが、彼女自身がライディング・デュエルをすることはなかった。遊矢と違って柚子は、ぶっつけ本番でやるしかないのだ。

 ならばと、遊矢は柚子の手を握って提案した。

 

「柚子。最初のデュエルは俺と一緒にやらないか? その方が経験も積めるし、緊張も少しは誤魔化せるだろ?」

「一緒に? 私と遊矢が?」

「ああ。名付けて、“タッグ・ライディング・エンタメ・デュエル”だ! ……あれ、ちょっと長いかな?」

「でも、遊矢だってまだ経験浅いでしょ? 私がいたら足手まといに……」

「その時はその時さ。一定以上の成績を出せば勝ち上がれるんだから、一回くらいは負けても大丈夫だよ」

「そうなの? でもこの大会、タッグ・デュエルなんてできるのかな」

 

「その点は心配いらねーぞ。この大会は比較的自由度が高いからな。タッグは勿論、変則バトル・ロイヤルだってできる」

 

 柚子の問いに答えたのは別の男だった。

 黒いヘルメットを脇に抱え、茶色のライディングスーツ。顔にはイタズラでもされたのか、文字のような、あるいは模様のようなラインがこれでもとか刻まれている。

 二人は知っていた。それは“マーカー”と呼ばれる印であり、犯罪者の刻印であることを。不動遊星にもマーカーはあったが、ここまでひどくはなかった。一体何をしたらここまでマーカーまみれになるのかは、この次元の人間でも分からない。

 柚子は警戒心をむき出しにして、遊矢の後ろに下がった。

 

「遊矢、この人……」

「大丈夫だ、柚子」

「え?」

 

 ただ、遊矢は知っていた。

 ガレージに飾ってあった一枚の写真。それに不動遊星、ジャック・アトラスと共に写っていた人物であると。

 

「えっと……もしかして、不動遊星さんと知り合いの方ですか?」

「おお、よく分かったな! 俺はクロウ(・・・)。クロウ・ホーガンだ。お前、エキシビション・マッチでジャックとデュエルしたやつだよな。

 名前は……榊遊矢だったな。となると、もしかして後ろのが柊柚子か?」

「え? 柚子のこと、知ってるんですか?」

「まあな。事のあらましは遊星から聞いてるぜ。随分と大変だったらしいが……ま、再会できてよかったじゃねえか」

「はい。遊星さんには色々とお世話になりっぱなしです」

「らしいな。ならお礼は、そのD・ホイールとデッキで払ってもらおうか」

「……デュエル、ですか?」

「ああ。折角だ、二人まとめて相手してやるよ」

「え――っ」

 

 通常、デュエルは一対一か二対二で行われる。それはライディング、アクションを問わず同様である。

 だからこそ、クロウの発言は二人を驚かせるものだった。一対二では、どうしてもアドバンテージに差が出来てしまう。バトル・ロイヤル形式でもタッグ・フォース形式でも、一人の方が圧倒的に不利なのだ。

 

「本当にいいんですか?」

「お前ら、どっちもライディング・デュエルは初心者だろ? だったら問題はねえさ。このクロウ様に任せとけ」

「――いいわけないだろ。何言ってんだお前は」

 

 また一人、クロウの後ろから人が駆けつけた。

 長身の男だった。寒色系のライディング・スーツを着込み、脇には黄土色のヘルメットを抱えている。

 

「シンジ。お前もこのエリアに来てたのか」

「偶然だと思うけどな。で、クロウ。お前いきなり浮気か? 一戦目は俺とやるって言ってただろ」

「悪ぃ。けど、エキシビションであんな試合見せられちゃ、今のうちにやるしかねえと思ってな」

「だとしても一対二は無理だ。ルールブック読んでねえのかよ」

「前回の時はできただろ? 乱入にバトル・ロイヤル、なんでもありだったじゃねえか」

「そのシステムだと、徒党を組んで乱入を繰り返せば相手にターンを回さず勝ててしまうからな。それで問題になって、今回は禁止になったんだよ。できるのは通常のライディング・デュエルと、“タッグ・フォース”ルールのデュエルだけ。どうしてもやりたいなら、その辺のセキュリティに申請して許可を貰わないとな」

「はぁ!? マジかよ……どうせ申請なんかしたとこで、許可なんて貰えねえだろうしなぁ」

「……えっと」

 

 クロウとシンジの会話について行けず、遊矢と柚子は沈黙する。

 どちらも成り行きで参加することになったため、詳しいルールまでは把握していなかったようだ。

 

「遊矢、どうする? 一対二は無理だって」

「そうだったのか……じゃあ、仕方ないな」

 

 遊矢は腹を括り、クロウとシンジに向き合った。

 柚子を一人にはしておけない。クロウとデュエルする。

 これらを同時に満たす方法は一つだけ。遊矢と柚子にとっては無謀極まりない提案だ。クロウ・ホーガンは以前、不動遊星、ジャック・アトラスと同じチームで活躍していた。実力は折り紙つきだ。

 それでも、もう一度ジャックとデュエルするためには、避けては通れない壁である。

 

「クロウさん、シンジさん。俺達とタッグ・デュエルをしましょう」

「えぇ!?」

 

 真っ先に反応したのはクロウでもシンジでもなく、柚子だった。

 

「ちょっと遊矢。本気なの?」

「ああ。確かに、いきなりこの人達を相手にするのは厳しいと思う。でも、試したいことがあるんだ。そしてそれは、お前とのタッグでしかできない。

 ……頼む、柚子」

「う……私じゃないと、駄目なの?」

「ああ。他には考えられない」

 

 言動は冗談レベルでぶっ飛んでいたが、遊矢の目は真剣そのものだった。

 柚子はその気迫に気圧され、泣く泣く承諾した――してしまった。

 クロウは、そんな遊矢を見てほくそ笑む。彼自身、こういう思考をする人間は嫌いではないのだ。

 

「どうやら冗談で言ってるわけじゃなさそうだな。

 遊矢。一応聞いておくが、俺達がどういうチームか知ってて言ってんだよな?」

「知ってるさ。クロウ・ホーガンとシンジ・ウェーバー。世界大会で活躍中のタッグ・チームだ」

「せ、世界大会!?」

 

 再び柚子は驚く。

 マーカーだらけのD・ホイーラーは実は大物で、その大物相手に遊矢が喧嘩を売っている……声を荒らげるのも無理はない。

 柚子はようやく遊矢の無謀さを理解する。初心者と世界レベルのベテラン。結果は初めから見えているようなものだ。

 

「そこまで知った上で俺達に挑むと? どう足掻いたところで、大人と子供の遊びにしかならねえと思うが?」

「それはどうかな。デュエルはそんな単純じゃない。少なくとも、俺はそう信じてる」

「――ははっ、違いねえ。そんじゃま、期待させてもらうぜ」

 

 クロウは踵を返し、シンジと共に自分のD・ホイールの場所へ戻っていった。

 面白い相手を見つけたと言わんばかりに、笑みを浮かべながら。

 ――かくして対戦相手は決定した。

 バトル・シティと化したこの街では、シティ全域でライディング・デュエルが行われる。これもまた、数十を超える戦いの一つに過ぎない。

 大きな意味を持つか、それとも平凡な一試合として終わるか。全ては彼ら次第である。

 

 

 

 ◆

 

 

 時計の針はチクタクと音を立て、時を進める。遅く、重く、けれど確かに。決して止まることなく、その瞬間は確実に近づいてくる。

 ――開始時刻。

 エキシビションマッチでも実況を勤めたリーゼントのMCが、マイクを片手に映像として現れた。

 

『現時刻をもって、この街は変貌する! 剣戟鳴り止まぬ決闘(デュエル)の都市、その名も“バトル・シティ”!

 ジャンクの海に眠る熱きD・ホイーラー達よ! 荒ぶる闘志を胸に秘め、頂きを超え、遥かなる(ソラ)を目指せ!

 さあ、開幕だ! アクションフィールドオン! 《スターライト・ジャンクション》!』

 

 ネオ童実野シティの上空にて、無数のカードが弾け飛んだ。

 街中の道路は全てデュエル専用のコースとなり、各地にカードが配置される。

 アクション・フィールドとスピード・ワールド。似て非なる二つの世界が混ざり合い、デュエルは新たな進化を遂げたのだ。

 

「アクション・フィールド? って、なんだ?」

「カードが散らばっていたな……何が始まるんだ?」

 

 突然の新システムに、参加者達は騒めき始めた。そんな彼らを他所に、もう一度MCの声が響き渡る。

 

『たった今上空にて弾けたのは、(アクション)カードと呼ばれる専用のカードだ! ネオ童実野シティ全域に配置されたそのカードは、デュエル中に拾って使用することができるぞ!

 ただし、リスクの高いカード、拾ってもすぐに使えないカードもあるから要注意だ!』

 

(アクション)カードなんて……どうしてシンクロ次元に……まさか」

 

 遊矢の脳裏に一人の人物が浮かぶ。

 ……赤馬零児。ランサーズの長にしてデュエルアカデミアのプロフェッサー・赤馬零王の息子。

 

「おい遊矢。今のは何だ? 何か知ってんのか?」

 

 クロウはDホイールに跨ったまま遊矢に尋ねる。遊矢は意味ありげに、どこまでも挑戦的に微笑んだ。

 

「今にわかるよ。ただ、退屈はさせない。俺達のデュエル、存分に見せてやる」

「……ほう、そいつは楽しみだ」

 

 遊矢・クロウを含む決闘者(デュエリスト)達は、Dホイールに自分のデッキをセットした。オートシャッフルが機動し、順番にカードが並べられる。

 

『デュエルの準備はいいかァー!!

 では行くぞぅ! フィールド魔法《スピード・ワールド・ネオ》! セットオン!』

 

 全てのDホイールが機動し、オートパイロットモードに入った。同時にスタジアムのコースが変形し、枝分かれする。

 参加者のDホイールには予め走るコースがインプットされている。例えばAブロックの決闘者(デュエリスト)はAコース。Bブロックの決闘者(デュエリスト)はBコース、といった具合にだ。

 ――カウントが始まる。

 

「柚子」

「?」

 

 直前、遊矢は柚子に呼びかけた。

 

「楽しいデュエルにしよう」

 

 遊矢は笑っていた。苦悩と使命、それら全てを抱えた上で。

 

「ええ」

 

 既に言葉は要らない。彼ら決闘者(デュエリスト)はカードで語る。

 ――零。

 幕は上がる。眠らない街は修羅の街へ。Dホイーラー達は、見果てぬ未来(さき)へと(はし)り出した。

 

 

『ライディング・デュエル、アクセラレーション!』

 

 

 ◆

 

 

 四台のDホイールがコースを駆ける。先頭は黒と赤の二台。その後ろを黄土色、桃色が追随する。

 

「っ――くそ、このスピードでまだ抜けないのか!」

「これが経験の差ってやつだ! ついこの前始めたばっかの新米Dホイーラーが、このクロウ様を抜けると思うなよ!」

 

 その瞬間、黒は赤を追い抜き、コーナーを曲がった。

 ライディング・デュエルのルールにより、第一コーナーを取ったクロウ・シンジが先行となる。

 

「俺のターン!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000

 SPC:1

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:1

 

「《BF(ブラックフェザー)-黒槍のブラスト》を召喚!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-黒槍のブラスト》

 星4/闇属性/鳥獣族/攻1700/守 800

 

「そして、自分の場に他のBF(ブラックフェザー)がいる時、このモンスターは特殊召喚できる!

 来い! 《BF(ブラックフェザー)-疾風のゲイル》!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-疾風のゲイル》

 星3/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 400

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」

「な……、シンクロ召喚しないのか!?」

「まあな! この戦略、読めるもんなら読んでみやがれ! さあ、来い遊矢!」

「っ――俺のターン!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000

 SPC:2

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:2

 

「《Sp(スピードスペル)-オーバー・ブースト》を発動! SPC(スピードカウンター)を六つ増やし、ターン終了時に一つになる!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:2 → SPC:8

 

 遊矢のDホイールにロケットブースターが装着され、一気に加速した。先頭を走るクロウを追い抜き、独走する。

 

「このタイミングでそのカードを使うってことは……いいぜ、来いよ!」

「俺はSPC(スピードカウンター)を四つ使い、スケール4の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と、スケール8の《EM(エンタメイト)オッドアイズ・ユニコーン》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:8 → SPC:4

 

「これで俺たちは、レベル5から7のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 二色の眼を持つ竜と幻獣が上空へ浮上する。

 が、その瞬間を待ち構えていたクロウの罠が炸裂する。

 

(トラップ)発動! 《ゴッドバード・アタック》! 自分フィールドの鳥獣族を一体リリースすることで、フィールドのカードを二枚破壊する!

 疾風のゲイルをリリースして、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、《EM(エンタメイト)オッドアイズ・ユニコーン》を破壊!」

 

 疾風のゲイルは光を纏い、分裂して突進した。浮上した二体のペンデュラムモンスターは破壊され、天空に描かれた軌跡が消滅する。

 

「くっ……カードを二枚セット! 俺はこれで、ターンエンド!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:4 → SPC:1

 

「遊矢……!」

 

 柚子が不安そうに声をかける。慣れないライディング・デュエルに、得意のペンデュラム召喚も不発。彼女が不安になるのも仕方がないだろう。

 

「やっぱりな」

 

 そう呟いたのはシンジ。その得意げな声音に、柚子はむっとする。

 

「さっきセットされたスケールは4と8。ということは、お前の手札にはレベル5から7のモンスターが一体のみ。つまり、今のお前はモンスターを一体も召喚できないってことだ」

「おい、あんま油断するなよシンジ」

「分かってるさ。行くぜ、俺のターン!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000

 SPC:3

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:2

 

「俺は《B・F(ビー・フォース)-毒針のニードル》を召喚!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-毒針のニードル》

 星2/風属性/昆虫族/攻 400/守 800

 

「うっ……蜂のモンスター!?」

 

 巨大な蜂型モンスターの出現に、柚子は思わず口を抑えた。ただでさえグロテスクな外見をしているのに、それが人間と同じ大きさをしているのだから、無理もないだろう。

 

「まだまだ行くぜ! 自分の場に《B・F(ビー・フォース)》モンスターが存在するとき、《B・F(ビー・フォース)-連撃のツインボウ》は手札から特殊召喚できる!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-連撃のツインボウ》

 星3/風属性/昆虫族/攻1000/守 500

 

「さらに、もう一体のツインボウを特殊召喚!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-連撃のツインボウ》

 星3/風属性/昆虫族/攻1000/守 500

 

「一ターンに三体も……!」

 

 その高速展開に柚子は驚く。シンクロ召喚はその性質上、最低でもモンスターを二体必要とする。盤上を整えるのはスタンダード次元の決闘者(デュエリスト)より一枚も二枚も上なのだ。

 

「まだ終わりじゃないぜ。レベル3の連撃のツインボウに、レベル2の毒針のニードルをチューニング!

 蜂出する憤激の針よ! 閃光と共に天をも射抜く弓となれ!

 シンクロ召喚! 現れろ、《B・F(ビー・フォース)-霊弓のアズサ》!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-霊弓のアズサ》

 星5/風属性/昆虫族/攻 2200/守 1600

 

 スカート型のアーマーと昆虫の面。その手にあるのは木製の弓。

 ――その名は(アズサ)弓。神事において使用される“梓の木”を用いて作られた弓である。

 これでシンジ・クロウの場にはブラスト、ツインボウ、そしてアズサ。攻撃力の合計は4000を超えている。そして遊矢・柚子のフィールドには壁となるモンスターがいない。

 だからこそ遊矢は、シンジのプレイングに違和感を覚えた。

 

「どうしてシンクロ召喚を……?」

 

 霊弓のアズサは、《B・F(ビー・フォース)》モンスターによる効果ダメージを二倍にする。しかしシンクロ召喚を行う前、クロウ・シンジのフィールドにはブラスト、ニードル、そしてツインボウが二体。この時点で攻撃力の合計は4100。総攻撃が決まればシンジ達の勝利である。

 わざわざシンクロ召喚を行う意味がないのだ。だというのに何故行ったのか。ただの格好付けか、それとも――

 

「これで決めさせてもらう! バトルだ! ツインボウで遊矢にダイレクトアタック!」

「遊矢!」

「くっ……!」

 

 ツインボウが持つ二つの針が遊矢を襲う。

 が、その直前。遊矢はセットしていた(トラップ)を発動させる。

 

(トラップ)発動! 《ペンデュラム・リボーン》! 自分の墓地かエクストラデッキから、ペンデュラムモンスターを特殊召喚する!

 今こそ目覚めよ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 二色の眼が目を覚まし、遊矢のフィールドに召喚される。シンジは攻撃を中止し、ツインボウは自軍へと戻っていった。

 

「へっ、やるじゃねえか遊矢。ペンデュラムゾーンが破壊されるのは想定内だったってわけか。だがな、それでも一手甘ぇ! 行けシンジ!」

「おう! (トラップ)発動、《緊急同調》! このカードにより、バトルフェイズ中にシンクロ召喚を行うことができる!

 俺はレベル3の連撃のツインボウに、レベル5の霊弓のアズサをチューニング!」

「何!? 霊弓のアズサはチューナーモンスターだったのか!?」

 

 シンクロモンスターでありチューナー。その類のモンスターを見るのは、遊矢はこれが初めてだった。アズサは五つの円環となり、ツインボウがその中心を飛行する。

 

「呼応する力! 怨毒の炎を携え、反抗の矢を放て!

 シンクロ召喚! レベル8、《B・F(ビー・フォース)-降魔弓のハマ》!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-降魔弓のハマ》

 星8/風属性/昆虫族/攻2800/守2000

 

 昆虫の鎧と弓。光る矢を番えた新緑の弓兵。

 強力なモンスターの出現に柚子は息を呑む。攻撃力は2800。遊矢のオッドアイズを上回っている。

 

「降魔弓のハマで、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」

「させない!」

 

 蠱毒の一射が放たれるより速く、遊矢はカードを手にする。

 手札ではなくコース上のカード。すなわち、(アクション)カードである。

 

(アクション)魔法(マジック)《奇跡》を発動! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》はこのターン戦闘で破壊されず、発生するダメージは半分になる!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:2 → SPC:0

 

 遊矢が(アクション)カードを発動した直後、オッドアイズの胴が射抜かれた。

 破壊はされない。しかし、ライフポイントは減少する。

 

「ぐっ……!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000 → LP:3850

 SPC:0

 

「……なるほどな」

 

 クロウは呟いた後、コースを見渡す。

 ――確かに、カードが落ちている。いや、浮いていると表現すべきか。

 いずれにせよ、あれはアトラクションの一種。デュエル中に拾い、そのまま使用できるカードなのだ。

 だが、ただ拾えばいいものでもないらしい。次にクロウが確認したのは遊矢と柚子のSPC(スピードカウンター)。《スピード・ワールド・ネオ》に支配されたこの世界では、《Sp(スピードスペル)》以外の魔法(マジック)カードを発動する際、コストとしてSPC(スピードカウンター)を二つ消費しなければならない。スピードを維持して《Sp(スピードスペル)》を使い続けるか、それともスピードを落として多種多様な魔法(マジック)カードを使用するか、二つに一つである。

 

「ちっ……だがここで、降魔弓のハマの効果発動! 戦闘ダメージを与えた場合、与えた数値分だけ相手モンスター一体の攻撃力を下げる! よって《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は150下がる!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻2500 → 攻2350

 

「さらに降魔弓のハマは、一ターンに二回攻撃できる! 二度目の攻撃、行け!」

「《奇跡》の効果により、受けるダメージは半分になる!」

 

 遊矢・柚子

 LP:3850 → LP:3625

 SPC:0

 

「くっ……!」

「バトルフェイズ終了時、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は元に戻る」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻2350 → 攻2500

 

「カードを三枚伏せる。黒槍のブラストを守備表示に変更してターンエンド。さあ、お前らのコンビネーションを見せてみろ!」

「……私のターン!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000

 SPC:4

 

 遊矢・柚子

 LP:3625

 SPC:1

 

「……! これって」

 

 シンジのターンが終了し、柚子のターンとなる。

 柚子がドローフェイズにて引いたのは魔法(マジック)カード《融合》だった。しかし、SPC(スピードカウンター)は一つのみ。発動することはできない。

 

「柚子!」

「え――?」

 

 遊矢と柚子は一度だけ視線を交わす。

 ……それで意図は伝わった。柚子は遊矢が残した伏せ(リバース)カードを確認する。

 

「どうやら望みのカードは引けなかったようだな。言っとくが、これはライディング・デュエル。通常のデュエルと同じ感覚でいると、思わぬところで躓くぜ!」

「……いいえ。それはどうかしら」

「なに?」

「私は《幻奏の音女アリア》を召喚!」

 

 《幻奏の音女アリア》

 星4/光属性/天使族/攻1600/守1200

 

「さらに、自分の場に《幻奏》モンスターが存在するとき、このモンスターは特殊召喚できる! 来て、《幻奏の音女ソナタ》!」

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 星3/光属性/天使族/攻1200/守1000

 

「ソナタの効果発動! アリアとソナタの攻撃力は、それぞれ500ずつアップする!」

 

 《幻奏の音女アリア》

 攻1600 → 攻2100

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 攻1200 → 攻1700

 

「バトルよ! まずは、《幻奏の音女ソナタ》で《BF(ブラックフェザー)-黒槍のブラスト》を攻撃!」

 

 ソナタの歌声により、守備表示のブラストが破壊される。

 

「ブラストが破壊されたところで、どうってことないぜ。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は2500。所詮はハマの敵じゃない」

「これを見ても同じことが言えるかしら?

 伏せ(リバース)カードオープン! (トラップ)カード、《アナザー・フュージョン》! 自分フィールドの表側表示モンスター二体を融合できる!」

「なんだと!? まさか、そのカードは――」

「そう、これは遊矢が残したカード! ライディング・デュエルは初めてでも、コンビネーションなら貴方達にも負けてないわ!

 《アナザー・フュージョン》の効果で私が融合するのは、《幻奏の音女アリア》と、《幻奏の音女ソナタ》!

 響き渡る歌声よ。流れる旋律よ。タクトの導きにより、力重ねよ!

 融合召喚! 今こそ舞台へ! 《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》!」

 

 《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》

 星6/光属性/天使族/攻2400/守2000

 

「よし!」

「バトルフェイズ中に融合召喚だと!?

 ――……だが、攻撃力は2400! ハマにはまだ届かない!」

「マイスタリン・シューベルトの効果発動! 一度だけ、自分か相手の墓地からカードを三枚まで除外できる! 私は、貴方の《B・F(ビー・フォース)》モンスター三体を除外するわ!」

「墓地のモンスターを使わせない戦術か……!」

「この効果で除外したカード一枚につき、マイスタリン・シューベルトの攻撃力は200アップする!」

 

 《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》

 攻2400 → 攻3000

 

「行け、マイスタリン・シューベルト! 降魔弓のハマを攻撃! “ウェーブ・オブ・ザ・グレイト”!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000 → LP:3800

 SPC:4

 

「くっ、ハマ……!」

「まだ攻撃は残ってるわ! さあ行きなさい、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! “螺旋のストライク・バースト”!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:3800 → LP:1300

 SPC:4

 

「ぐ――おおぉぉぉ!」

 

 赤熱のブレスを受け、シンジが呻く。

 ――しかし、その痛みを疾さに変える。ブレスの勢いを利用して、シンジのDホイールはさらに加速する……!

 

(トラップ)発動、《デス・アクセル》! 戦闘ダメージを受けたとき、300ポイントにつき一つSPC(スピードカウンター)を増やす!」

「300につき一つ!? ということは――」

「受けたダメージは2500! つまり、こういうことだ!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:4 → SPC:12 MAX

 

 カウントストップ。シンジのDホイールはライディング・デュエル最速の速さを叩き出した。

 暴風の如き抵抗、それを我が身で切り裂く快感は、ベテランのDホイーラーでさえ尻込みする。

 だがシンジは口元に笑みを浮かべ、その感覚に酔いしれる。危険な爆走マシンと化した自らのDホイールを、まるで手足のように操る。

 そしてそれは、パートナーのクロウとて同じ。二人は並走し、遊矢と柚子との距離を更に広げる。

 

「……《アナザー・フュージョン》の効果で融合召喚したモンスターは、ターン終了時に破壊されるわ。カードを三枚セットして、ターンエンドよ」

「さあて、次は俺のターンだ!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:12 MAX

 

 遊矢・柚子

 LP:3625

 SPC:2

 

「俺は《Sp(スピードスペル)-アクセル・ドロー》を発動! こいつは自分がマックススピードの時のみ発動でき、カードを二枚ドローする!

 そして、《BF(ブラックフェザー)-極北のブリザード》を召喚!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-極北のブリザード》

 星2/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 0

 

「このモンスターの召喚に成功した時、墓地から《BF(ブラックフェザー)》を一体、守備表示で特殊召喚できる!

 さあ来やがれ! 《BF(ブラックフェザー)-疾風のゲイル》!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-疾風のゲイル》

 星3/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 400

 

「まだまだ行くぜ! 手札から《BF(ブラックフェザー)-砂塵のハルマッタン》を特殊召喚!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-砂塵のハルマッタン》

 星2/闇属性/鳥獣族/攻 800/守 800

 

「こいつは自分の場にハルマッタン以外の《BF(ブラックフェザー)》がいる時、手札から特殊召喚できる。そして召喚に成功した時、他の《BF(ブラックフェザー)》のレベルをコイツに加えることができる!

 俺は極北のブリザードのレベルを加え、ハルマッタンのレベルを4にする!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-砂塵のハルマッタン》

 星2 → 星4

 

「レベルの調整……ということは――!」

「レベル4の砂塵のハルマッタンに、レベル3の疾風のゲイルをチューニング!

 漆黒の翼翻し、雷鳴と共に走れ! 電光の斬撃!

 シンクロ召喚! 降り注げ、《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》!」

 

 《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》

 星7/闇属性/鳥獣族/攻2600/守2000

 

 小さな鴉達を素材に、上級のBF(ブラックフェザー)が召喚された。

 (つるぎ)の翼と黒い翼を持ち、日本刀を繰る鴉の剣士。

 その名は雷切。雷・雷神を切ったとされる伝説の日本刀である。

 

「ライキリの効果発動! 一ターンに一度、他の《BF(ブラックフェザー)》の数だけ相手のカードを破壊できる! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を破壊!」

「そんな――うっ!」

 

 雷光じみた一閃。

 二色の眼の竜は、鴉の剣士に両断・破壊される。

 

「柚子……! 待ってろ! 今、俺が(アクション)カードを……!」

「駄目よ! ここで(アクション)カードを使ったら、遊矢のターンでSPC(スピードカウンター)は一つだけ。それだと遊矢は動けない!」

「だけど!」

「大丈夫。今度は私の番。絶対、貴方に繋いでみせる」

「……分かった」

 

 遊矢は柚子の決意を目の当たりにして、(アクション)カードを狙うことをやめた。

 (アクション)カードは便利だがSPC(スピードカウンター)を喰らってしまう。使い過ぎれば、後々自分の首を絞めることになるのだ。

 

「相談は終わったか? なら行くぜ、ライキリで柚子にダイレクトアタック!」

「永続(トラップ)、《竜魂の幻泉》! 墓地からモンスターを守備表示で特殊召喚する! 来て、《幻奏の音女アリア》!」

 

 《幻奏の音女アリア》

 星4/光属性/天使族/攻1600/守1200

 

「アリアは特殊召喚された場合、戦闘では破壊されない!」

「だったら、ライキリの切れ味を受けてもらうぜ! 伏せ(リバース)カードオープン! (トラップ)カード、《メテオ・ウェーブ》! モンスター一体の攻撃力を300アップさせる!」

 

 《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》

 攻2600 → 攻2900

 

「そして、対象モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていれば、貫通ダメージを与える!」

 

 遊矢・柚子

 LP:3625 → LP:1925

 SPC:2

 

「う――くぅっ!」

 

 ライキリの刀はアリアを貫通し、柚子を切り裂く。

 

「だけど、これで――」

「凌いだ、とでも思ってんのか?」

「え……?」

 

 安堵の息を漏らした瞬間、クロウがそれを否定する。

 そう。クロウにはまだ、攻撃の手段が残っている。

 

「どういうこと? 貴方のモンスターの攻撃は終わったはずよ」

「確かにな。だが、忘れてもらっちゃ困るぜ。《スピード・ワールド・ネオ》はただの雰囲気作りじゃねえ。こいつにだって、ちゃんとした能力があるんだぜ」

「《スピード・ワールド・ネオ》の効果……?」

「《スピード・ワールド・ネオ》は自分のSPC(スピードカウンター)を四つ使い、手札の《Sp(スピードスペル)》を一枚公開することで、相手に800のダメージを与えることができる。

 俺達のスピードは最高の12。そしてお前らは、今の一撃でセーフティラインの2400を切った。つまり……こいつで、チェックメイトだぜ」

「まさか――!」

 

 クロウは残り一枚の手札を見せる。

 それは、やはり《Sp(スピードスペル)》だった。

 

「行くぜ! 《スピード・ワールド・ネオ》、効果発動!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:12 → SPC:8

 

 クロウのDホイールから漆黒の雷が放たれ、柚子を襲う。雷は柚子のDホイールに直撃し、絶叫の悲鳴を上げる。

 

 遊矢・柚子

 LP:1925 → LP:1125

 SPC:2

 

「まだだ! もう一度《スピード・ワールド・ネオ》を発動! 第二撃を喰らえ!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:8 → SPC:4

 

 遊矢・柚子

 LP:1125 → LP:325

 SPC:2

 

「柚子!」

「――っ。まだ、まだよ!」

「強情だな。嫌いじゃねえが容赦はしねえ。こいつでトドメだ! 《スピード・ワールド・ネオ》、発動!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:4 → SPC:0

 

 SPC(スピードカウンター)を使い切ったことで速さを失い、クロウとシンジは二人に追い抜かれてしまう。

 だが、それはもう関係ない。この効果ダメージが通れば決着なのだから。

 

「……これで、全部ね」

「なに?」

 

 ――柚子は笑う。この時を待っていた、と。

 

「カウンター(トラップ)発動! 《フュージョン・ガード》! エクストラデッキから融合モンスターを一体ランダムに選択し、墓地に送る。そして、発生した効果ダメージを無効にする!」

 

 (トラップ)カードによる障壁が発生し、墓地に送られたモンスター――ブルーム・ディーヴァが柚子を雷から守った。

 敢えて攻撃を受け続けたのはこの瞬間……つまり、SPC(スピードカウンター)を使い切らせることが狙いだったのだ。

 クロウは歯噛みする。基本的に《Sp(スピードスペル)》はSPC(スピードカウンター)を消費しない魔法(マジック)カード。エネルギー源たるスピードがなければ、そもそも発動ができない。

 

「……やってくれるじゃねえか。俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 これにてクロウの手札はゼロ。つまり今伏せたのは間違いなく、《スピード・ワールド・ネオ》で公開し続けた《Sp(スピードスペル)》。発動しようにも、SPC(スピードカウンター)が足りない。

 

「これで、繋げたよ」

「……ああ」

 

 二人は再びアイコンタクトする。

 ――言葉は無粋。それで意思は伝わるのだ。

 

「俺のターン!」

 

 遊矢・柚子

 LP:325

 SPC:3

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:1

 

「俺は《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》を召喚!」

 

 《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》

 星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守 500

 

「何かと思えばチューナーでもない下級モンスターか。遊矢、お前の手札は残り一枚。それもレベル5以上のモンスターってバレてる。今のお前にこの状況を覆すことはできねえ!」

「確かにその通りだ。このデュエル、俺一人だったら勝てなかった。だけど、俺は一人じゃない。柚子!」

「ええ! 思う存分やっちゃって!」

「ああ、行くぞ!

 俺は、レベル4の《幻奏の音女アリア》と、《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》でオーバーレイ!」

「なに!?」

 

 遊矢のフィールドに黒い宇宙が開き、アリアとヘイタイガーはその中心に集う。

 

「まさか、コイツは――!」

 

 クロウは思い出す。ジャックと遊矢のデュエルを。

 同レベルモンスター二体による新たな召喚。シンクロとも融合とも違う異次元の力――。

 

「エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

 ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 巨大な逆鱗を持つ漆黒の竜。ジャックとのデュエルで姿を見せ、力を発揮することなく破壊されたモンスターだ。

 その効果を、クロウは覚えていた。単純にして明快、しかして強力。それがこのドラゴンの能力である。

 

「ダーク・リベリオンの効果発動! オーバーレイ・ユニットを二つ使うことで、相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、その数値をダーク・リベリオンの攻撃力に加える! “トリーズン・ディスチャージ”!」

 

 《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》

 攻2900 → 攻1450

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

 攻2500 → 攻3950

 

「バトル! 行け、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》! 驟雨のライキリを攻撃!」

 

 ダーク・リベリオンは紫電を纏い、攻撃体勢に入った。

 しかし攻撃に移る直前、シンジが叫ぶ。

 

「クロウ、使え!」

「当然! (トラップ)発動、《重力解除》! フィールドの全てのモンスターの表示形式を変更する! これにより、ライキリ、ブリザード、ダーク・リベリオンは守備表示となる!」

 

 クロウが発動したのは、シンジが残した最後の一枚。その効果により攻守が逆転する。全てのモンスターは守備表示となり、バトルは中止された。

 

「これでそのドラゴンは攻撃できねえ。そして次のターン、ライキリの効果でダーク・リベリオンを破壊できる!」

「それはどうかな」

 

 クロウは得意げにライキリの能力を語るが、遊矢はそれを否定する。

 ――柚子は走る。カードを求めて。

 

「クロウ、シンジ。貴方達に次のターンはない。このターンで決めてやる!」

「ハッ。いい気構えだが、一体どうするつもりだ? そのドラゴンは今守備表示。攻撃は封じられてるぜ」

「だったら、新しくモンスターを召喚すればいい。俺には、柚子が残してくれたこのカードがある!」

 

 遊矢はセットされた一枚を指し示す。

 前のターン、柚子がセットしたのは三枚。その、残り一枚である。

 

「どういう意味だ。融合、シンクロ、ペンデュラム、そして今見せたエクシーズ。バトルフェイズ中はそのどれもができないはずだぜ」

「その通り。だけど、それを可能にするのが――」

「私達のデュエルよ」

「なにっ……!」

 

 遊矢の言葉を柚子が紡ぐ。

 その手に握るのは(アクション)カード。タイミングを選ばず発動できる、スタンダード次元最高の武器(アトラクション)

 

 遊矢・柚子

 LP:325

 SPC:3 → SPC:1

 

「私は(アクション)魔法(マジック)《ビギナーズ・ラック》を発動! フィールドにセットされた通常魔法をコストなしで発動できる!」

「これにより俺は、セットされた魔法(マジック)カード――《融合》を発動する!」

「《融合》だと!? ……そうか。あの時、柚子がドローしたカードか!」

「そうよ! これでカードは繋がったわ! 行けー、遊矢!」

「任せろ!

 ――俺が融合するのは、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》! そして貴方達の読み通り、手札に残ったレベル5のモンスター、《EM(エンタメイト)ドラミング・コング》!

 胸を打ち鳴らす森の賢人よ。逆鱗の竜と一つとなりて、新たな力を生み出さん!

 融合召喚! 出でよ! 野獣の眼光りし、獰猛なる竜! 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星8/地属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

 

 獣の魂を宿す、獰猛なる肉食竜。その瞳は、捉えた獲物を全て焼き尽くすだろう。

 竜は咆吼し、群がる鴉達を怯ませる。攻撃力は3000、ライキリでも届かない……!

 

「だが、ライキリは今守備表示だ!」

「ビーストアイズは戦闘でモンスターを破壊した時、素材となった獣族モンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「なんだと!?」

「素材となったドラミング・コングの攻撃力は1600。よって、クロウとシンジに1600のダメージを与える!」

「っ、このまま終わってたまるかよ!」

 

 シンジはDホイールを走らせ、Aの文字が入ったカードを取る。

 

「よし! (アクション)魔法(マジック)《回避》! こいつで攻撃を無効に……なに?」

 

 拾ったカードをディスクにセットするが、発動しない。

 理由は一つ。ライディング・デュエルに慣れているシンジはすぐに気づく。

 

「くそ、SPC(スピードカウンター)が一つ足りねえ! まさかあの柚子って子、ここまで読んでやがったのか……!?」

「行け、《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! 《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》を攻撃! “ヘルダイブ・バースト”!」

 

 クロウはライキリと共にブレスを浴び、灼熱の炎に焼かれた。

 ダメージは1600。二人はライフは尽き、デュエルは決着する。

 

「ぐあぁぁぁ――!!!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300 → LP:0

 SPC:1

 

 勝者は遊矢・柚子。今ここに、優勝候補二人を蹴落としたダークホースが誕生した。

 

 



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スピード☆アクセル! 炎上ムクロ

バトル・シティ編なんだから適当にデュエル回作っとかないとナ……。
フリーデュエル回の何が難しいって、デュエルに至るまでのキャラ同士の絡みだよ。特に今回は「ムクロ VS セレナ」って事前に決めて書き始めたから余計に難しかった。もし《魔界劇団》がOCG化してたらキャラに押されて「ムクロ VS 沢渡」になってた。
……そういえば、《Sp(スピードスペル)》ばっかりで(アクション)カード完全に忘れてたなぁ。

※《Sp(スピードスペル)》関連のオリカあり。


※2016.02.16.文章・台詞修正。


 バトル・シティと化したこの街でのデュエルは全て映像として記録され、開催中は各高層ビルに設置されたスクリーンによって常に放送されている。これはライバル達の勇姿、あるいは自身の醜態を曝け出すことで、参加者達の競争心・闘争心を煽るためである。

 

『行け、《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! 《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》を攻撃! “ヘルダイブ・バースト”!』

『ぐあぁぁぁ――!!!』

 

 高層ビルに設置された巨大スクリーンに、とあるデュエルの決着シーンが放送された。

 映っているDホイールが四台であることから、どうやらタッグ・デュエルであるらしい。しかもその片方はクロウ・ホーガンとシンジ・ウェーバーによるタッグ。本人の実力もさる事ながら、そのコンビネーションは世界で通用するレベルである。

 ――その二人が撃破された。その結果は、参加者達の間に瞬く間に広がっていった。

 

「ほーう。あのクロウ・ホーガンとシンジ・ウェーバーがねぇ……」

 

 対戦相手は榊遊矢と柊柚子。柊柚子は無名だが、榊遊矢はエキシビション・マッチでジャック・アトラスと対戦した決闘者(デュエリスト)だ。

 このデュエルで注目すべき点は、勝者二人のコンビネーション。そして、新しく追加された(アクション)カードの使い方であろう。

 

 もし、このデュエルが一対一だったら?

 (アクション)カードがなかったら?

 そもそも、ライディング・デュエルではなかったとしたら?

 

 ――どれか一つでもあれば、きっと違う結果になっていた。

 

「ま、だとしてもだ。俺の目指すデュエルは変わらねえ」

 

 黒いDホイールに跨り、男は思う。

 榊遊矢と柊柚子。

 クロウ・ホーガンとシンジ・ウェーバー。

 どちらもコンビネーションはかなりのものだ。一人ではできない戦略がとれる、それこそがタッグの魅力。専用のリーグが存在するのも分かる。

 だが――。

 

 だがその男から見れば、両者には圧倒的に欠けているものがあった。

 それはコンビネーションでも(アクション)カードでもない。

 他人にとっては違っていても、その男にとってはデュエルそのものと言える要素。

 曰く――

 

 

「疾さが足りねえ」

 

 

 ◆

 

 

「順調に勝ち上がったみたいだな。流石、舞網チャンピオンシップでこの俺様に勝っただけはあるぜ」

 

 スクリーンの映像を見て沢渡シンゴは呟いた。親友の勝利が素直に嬉しいのだろう。

 実際のところ親友だと思っているのは彼のみの一方通行なのだが、それでも、沢渡シンゴが榊遊矢を親友だと思うこと自体が進歩だ。

 ――自分も負けてはいられない。映像として記録されるなら尚更のこと。

 沢渡の目には、そんな覚悟とやる気に満ちていた。

 

「私達もうかうかしてられないな」

「おう、セレナ。何処行ってたんだ? もう遊矢の試合は終わったぜ?」

「Dホイールを点検してもらっていた。それで、結果は?」

「遊矢達が勝った。ま、結構ギリギリだったけどな」

「そうか」

 

 そう、一言。セレナは興味なさそうに呟き、自分のデッキを点検する。

 

「……おいおい、どうしたんだよ。あの遊矢がシンクロ次元のスターに勝ったんだぜ? つまり、同じランサーズの俺達も同じくらい強いってことだ。もうちょっと喜んだらどうなんだ?」

「勝ったと言っても、所詮はタッグ・デュエルだろう」

「ん? 引っかかる物言いだな。お前、タッグ・デュエル嫌いなのかよ?」

「あぁ、いや、そういうわけではない。

 ……ただ、なんというか。タッグで勝てたとしても、勝った気にならないんだ」

「あ? なんでだよ。どんな形でも、勝ちは勝ちだろう」

「いや、それは違うな。覚えているか? 私と遊矢がタッグを組み、不動遊星とデュエルしたことを」

「ああ」

 

 二人は以前不動遊星、そしてセキュリティの牛尾哲とタッグ・デュエルを行ったことを思い出していた。

 あの時は、牛尾がセレナの動き――融合――を封じたが、遊矢のサポートを受け、なんとか二人に勝利することができたのだ。

 

「あれは本当に危なかったな。あのデュエルがあるまで正直、この次元を舐めてたぜ。しっかし、本当に良かったぜ。シンクロ次元相手のランサーズ初デュエルが、おっさん相手に完全敗北じゃなくてよ」

「……だからお前は未熟なんだ」

「なんだとぅ!?」

「それからの生活を思い出してみろ。

 ――ジャック・アトラスが不動遊星のガレージを訪れ、遊矢がフレンドシップ・カップのエキシビション・マッチに参加することになっただろう?」

「ああ。それで俺達も参加することになって――こうして、Dホイールを用意してもらったんだろ」

 

 沢渡は自分のDホイール、そしてヘルメットを手に取る。

 これらは遊矢の赤いDホイール同様、ガレージの倉庫で余っていたものを引っ張り出し、チューニングされたものだ。型式は少し古いらしいが、そんなことは沢渡の知ったことではない。

 青いDホイールにヘルメット。そして黄色のライディングスーツ。沢渡はその色合いに惚れ込み、すこぶる気に入っていた。カードほど愛着があるわけではないが、Dホイールに乗るならこれでなければ駄目だ、と。

 

「不動遊星、だったな。見た目通り中々いい仕事をするぜ。そのうちスタンダード次元にも来てもらって、俺様がスターになるための手伝いをさせたいくらいだ」

「見た目通りか……それはどうだろうな。あの男はまだ、何か隠しているように感じた」

 

 スターの下りを全力でスルーし、セレナは以前から感じていた違和感を打ち明けた。

 ――“本当にあれは全力だったのか?”

 一言で表現するならそういうことだ。現にあの後、フレンドシップカップが開催されるまで訓練として手合わせしたが、遊矢、沢渡、セレナは一度勝利できていないのだ。

 

「考えすぎだと思うけどな。それで、要するに何が言いたいんだ? 不動遊星は強いって言いたいのか?」

「そうじゃない。タッグで勝てたからと言って、シングルでも勝てるとは限らないということだ。私達はランサーズ、融合次元と戦うための組織だ。オベリスク・フォース相手ならタッグ・デュエルもあるだろうが、幹部級の相手となるとまずありえない。私達は一対一で不動遊星やクロウ・ホーガン、そしてジャック・アトラスとも互角以上に戦えねばならん」

 

「確かにそうだな。特にタッグ・デュエルは、互いの相性がよっぽど良くなきゃ続かねえ」

 

「そう、それもネックだ。私もアカデミア時代に何度か経験したが、誰もついては来れなかった。遊矢とのデュエルもまぐれだったようだしな」

 

「お、分かってくれるか。俺も色んな奴とタッグを組んできたが、どいつもこいつも根性の無え奴らでなぁ。俺のスピードが速すぎるだの、もっと速度落とせだの、文句ばっかりだぜ。

 ま、あいつらの気持ちも分かるけどなぁ! そらそうよ! 俺のスピードについてこれるやつなんざ誰もいねえからなぁ! ヒャーハッハッハ!!」

 

「……」

 

 沢渡とセレナは、いつの間にか接近していたその男を見た。

 髑髏を模したヘルメット、その下にはサングラス。炎のような橙の髪。そして奇妙なテンション。

 言うなれば暴走族。近寄ってはいけないタイプの人間だった。

 ……二人はDホイールに搭乗する。運転はできないが、オートパイロットモードにすればとりあえず走ることはできる。

 

「ちょっと待てぇ! 無言で逃げようとすんじゃねえ!」

「……なら聞くが、お前は誰だ?」

「俺様は炎上ムクロ。今大会最強のダークホースにして、最速のDホイーラーよ」

「……はぁ」

 

 セレナは二度、大きくため息を吐いた。自信過剰な点は隣のやつとよく似ている。

 

「そんじゃ、次はお前だな」

「何がだ」

「決まってんだろ、名前だ名前。俺様が名乗ったんだから、相応に名乗り返すのが筋ってもんだろう? おっと、ついでにそっちのもな」

「……セレナだ」

「沢渡シンゴ。今大会最強のダークホースにして、最高のエンターテイナー、それがこの俺だ」

「……ほーう」

 

 ため息混じりにセレナ、自信満々に沢渡が自己紹介した。

 その心意気に通じるものがあったらしく、ムクロは沢渡を吟味する。

 しかしやがておもむろに、残念そうに首を振った。

 

「駄目だなお前は。この炎上ムクロ様の初戦には相応しくねえ」

「なんだと!? てめえ、舐めるのもいい加減に――っ」

「だが見込みはあるぜお前」

「な、見込み……!?」

「ああ。まだまだ初心者で全然駄目だが……そうだな。予選を勝ち抜くことができりゃ、その頃にはそこそこのDホイーラーになれるだろーぜ」

「……ほう。どうやら人を見る目はあるらしいな。けどよく分かったな、俺が初心者だって」

「仕草を見りゃ分かる。Dホイールにさえ慣れてない初心者だってな。ま、要は経験だ経験。もうしばらく慣れてから相手してやるよ。

 んでそっちは――悪くねえな。ライディング・デュエルはともかく、実力は確かと見える」

「私とデュエルがしたいのか」

「ま、そういうことだな。自慢じゃねえがこの炎上ムクロは有名なんでね。どいつもこいつも相手してくれなくて困ってたんだ。けどアンタならどうだ? 俺様の挑戦、受けてくれるよなぁ?」

「……なるほど。この大会の参加者が避けるほどの決闘者(デュエリスト)、か」

「そいつはちょっと違え。俺はただの決闘者(デュエリスト)じゃねえ。Dホイーラーだ」

「? Dホイーラーとは、ライディング・デュエルをする決闘者(デュエリスト)のことだろう?」

「そいつは俺とデュエルすりゃ分かる。で、どうなんだ。やるのか、やらないのか」

「……いいだろう。お前の挑戦、受けてやる」

 

 少し悩んだ末、セレナは返事を返した。

 シンクロ次元で数日暮らして、彼女には分かったことがある。それは、この次元の平均的な決闘者(デュエリスト)レベルが高いということ。そして、この炎上ムクロという決闘者(デュエリスト)――否、Dホイーラーは、そんな彼らが避けるほどの人物らしい。

 ならば、相手にとって不足はない。

 

「おいおいおい、ちょっと待て! 俺とのデュエルはどうすんだよ!」

「まあそこで待ってな。せっかくだ、この炎上ムクロ様のデュエルを特等席で拝ませてやるぜ」

「もう勝った気でいるとは、随分と舐められたものだな」

「舐めてるつもりはねえさ。負けるつもりもねえがな」

「フン。ならばこの私が、貴様のその長い鼻をへし折ってやろう」

 

 セレナとムクロは各々のデッキをセットし、ヘルメットを被る。

 沢渡は不満げにしつつもコースから離れ、近くに設置された専用の休憩所へ入っていった。

 

「初心者だろうが手加減はしねえ。いいな?」

「当然だ」

 

 両者は共にスタート体勢に入る。フィールド魔法《スピード・ワールド・ネオ》が展開され、カウントが開始された。

 この大会におけるデュエルは全て記録される。ならば既にこの時点で、何らかの方法で記録が始まっていることだろう。

 無言のままスタートまでの数秒が流れた。

 

 ――カウントゼロ。

 

 紫と黒。二台のDホイールは一斉にスタートを切った。

 

 

『ライディング・デュエル、アクセラレーション!』

 

 

 ◆

 

 

「ヒャッハァァ――――!!! 遅い遅い、全っ然遅いぜぇ!」

「な!?」

 

 一斉にスタートを切ったにも関わらず、ムクロのDホイールはあっという間に先頭を取った。

 セレナのDホイールもまた遊矢、沢渡のものと同様だ。ある程度のスピードはあるものの、オートパイロット時に転倒しないこと、事故に遭った時搭乗者を守ることに重点を置いている。対してムクロのDホイールはとにかくスピード。最高速度と、そこに到達するまでの加速度が尋常ではない。

 そして、それを操る彼もまた人間離れしていた。後続のセレナとぶっちぎりで第一コーナーを取り、デュエルが開始される。

 

「くっ……全く、とんだ暴走マシンだな!」

「ハッハー! 褒めても何にも出ねえぜ! 行くぜ、俺様の先行!」

 

 ムクロ

 LP:4000

 SPC:0 → SPC:1

 

 セレナ

 LP:4000

 SPC:0 → SPC:1

 

「俺は《ピラミッド・タートル》を攻撃表示で召喚!」

 

 《ピラミッド・タートル》

 星4/地属性/アンデット族/攻1200/守1400

 

「カードを三枚伏せて、ターンエンドだ!」

「私のターン!」

 

 ムクロ

 LP:4000

 SPC:1 → SPC:2

 

 セレナ

 LP:4000

 SPC:1 → SPC:2

 

「私は――」

「おっと待ったァ! 永続(トラップ)《フルスロットル》発動!

 こいつは互いのスタンバイフェイズ時、俺のSPC(スピードカウンター)を更に一つ増やす!」

SPC(スピードカウンター)だと?」

 

 ムクロ

 LP:4000

 SPC:2 → SPC:3

 

 これまで見たことのない戦術に、セレナは一瞬だけ戸惑った。ライディング・デュエルにおいてSPC(スピードカウンター)魔法(マジック)カードを使用する上で重要な役割を持つ。しかし、わざわざ意識して増やすものでもない。

 そもそも《スピード・ワールド・ネオ》を展開している時点で魔法(マジック)カードの使用はある程度制限されるものなのだ。だからこそ、通常はデッキに入れるモンスター・(トラップ)の比率を上げ、魔法(マジック)カードはここぞという時のみ使う。それがライディング・デュエルのセオリーである。

 

「……まあいい。貴様がどんな戦術で来ようと、私は私のやり方で勝つだけだ。私は《月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)》を召喚!」

 

 《月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)

 星4/闇属性/獣戦士族/攻1600/守1200

 

「バトルだ! ブルー・キャットで《ピラミッド・タートル》を攻撃!」

(トラップ)発動、《アルケミー・サイクル》! 自分フィールドのモンスターの攻撃力をゼロにする!」

 

 《ピラミッド・タートル》

 攻1200 → 攻 0

 

「自ら攻撃力をゼロにするだと……?」

 

 ブルーキャットの繰り出した蹴りが《ピラミッド・タートル》に決まり、破壊される。

 本来ならダメージは400。しかし攻撃力がゼロになったことで、ムクロのライフは1600も削られた。

 

 ムクロ

 LP:4000 → LP:2400

 SPC:3

 

 ――そして、それこそが彼の狙いでもあった。

 ライディング・デュエルのスタイルは、Dホイーラーの性格によって大きく二種類に分けられる。ライフを温存しSPC(スピードカウンター)を堅実に貯めていくか、ライフを犠牲にSPC(スピードカウンター)を一気に貯めるか。

 炎上ムクロは紛れもなく後者。それも、後者の中で最も分かりやすい例だった。

 

(トラップ)発動、《デス・アクセル》! 戦闘ダメージを受けた時のみ発動でき、300ポイントにつき一つSPC(スピードカウンター)を増やす!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:3 → SPC:8

 

「ライフを犠牲にSPC(スピードカウンター)を!?」

「更に、《アルケミー・サイクル》の効果発動! 攻撃力がゼロになったモンスターが戦闘で破壊され墓地に送られた時、カードを一枚ドローする!

 更に更にィ! 《ピラミッド・タートル》の効果発動! 戦闘で破壊された時、守備力2000以下のアンデッド族をデッキから特殊召喚できる! 俺は、《スカル・フレイム》を特殊召喚!」

 

 《スカル・フレイム》

 星8/炎属性/アンデット族/攻2600/守2000

 

「攻撃力2600……!」

 

 《ピラミッド・タートル》最大の特徴は、条件に合うモンスターならば最上級モンスターでも特殊召喚可能なことだ。

 ムクロの場に召喚されたのは攻撃力2600、炎のマントを纏う骸骨のモンスター。セレナのデッキでは、《融合》を使わなければ越えられないモンスターである。

 しかし、それを想定していないセレナではない。

 

「さあどうしたァ! デュエルはまだこれからだぜ!」

「言われるまでもない! 私はカードを二枚伏せて、ターンエンド!」

「俺のターン! 《フルスロットル》の効果によりこのスタンバイフェイズ、俺のSPC(スピードカウンター)は二つ増える!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:8 → SPC:9 → SPC:10

 

 セレナ

 LP:4000

 SPC:2 → SPC:3

 

 ムクロのSPC(スピードカウンター)はついに二桁を越え、ひたすらに爆走する。セレナとの距離は更に大きくなった。

 弾丸の如き己の疾さに、ムクロは興奮と快感を覚える。これこそがライディング・デュエル。通常のデュエルでは決して味わえない迫力と戦略だ。

 

「ヒャッハー! 見ろ、このスピードを! これこそがライディング・デュエルの真骨頂だぜぇ!」

「またそれか。まだ三ターン目だが、ここまで来るとワンパターンと言わざるを得ない。貴様は他の戦術を知らないのか?」

「知らねーな! いいか、よく聞けルーキー!

 俺様のデュエルは! 常に!! この、スピードの中にある!!!」

「っ……暑苦しいやつだな。戦術を一つしか持たない決闘者(デュエリスト)に勝利はない!」

「そいつはどーだろーなぁ?」

「なんだと?」

「確かにアンタの言うことは一理ある。だが生憎と、俺はそこまで器用じゃなくてな。多くを修めるより、一つを極める方が性に合ってるのさ。そして、極限まで極めた一芸は、時にあらゆる芸を凌駕する」

「御託はいい。そこまで言うのならば、このデュエルで証明して見せろ!」

「ハッ、ごもっともだ! だったら行くぜ、バトル! 《スカル・フレイム》で《月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)》を攻撃!」

「単調な攻撃だな。(トラップ)発動、《ジェネレーション・チェンジ》! 自分フィールドのモンスターを破壊し、同名モンスターをデッキから手札に加える!

 私はブルーキャットを破壊し、デッキから二体目を手札に加える!」

「何? だが、これでアンタの場はがら空きだぜ!」

「いいや。ここで、ブルー・キャットの効果発動! フィールドのこのモンスターが効果で破壊された時、デッキから《ムーンライト》モンスターを特殊召喚する! これにより、三体目のブルー・キャットを召喚!」

 

 《月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)

 星4/闇属性/獣戦士族/攻1600/守1200

 

「ブルー・キャットの効果は戦闘で破壊された場合でも発動する。攻撃したければするがいい!」

「上等だぜ、バトル続行ォ! 行け、《スカル・フレイム》!」

 

 ブルー・キャットが火炎に焼かれ、破壊される。

 

「この瞬間、ブルー・キャットの効果発動! 私はデッキから《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)》を特殊召喚!」

 

 《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)

 星4/闇属性/獣戦士族/攻1800/守 600

 

「蒼い猫の次は紅い狐か。まあいい、好きなだけ呼びな。新たにカードを二枚伏せて、ターンエンド!」

「私のターン!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:10 → SPC:12

 

 セレナ

 LP:4000

 SPC:3 → SPC:4

 

「……来たか」

 

 セレナはドローしたカードを確認し、ほくそ笑む。

 《融合》。彼女のデッキのキーとなる魔法(マジック)カード。如何に不利な状況であろうと、これさえあれば覆すことができる。彼女はこのカードにそれだけの自信を持っている。

 

「よほどいいカードを引いたらしいな。感情が顔に出てるぜ」

「ああ、その通りだ。スピードのみに頼ったのが貴様の敗因だ。このデュエルは貰ったぞ!

 私はSPC(スピードカウンター)を二つ使い、魔法(マジック)カード《融合》を発動!」

 

 セレナ

 LP:4000

 SPC:4 → SPC:2

 

「これにより私は、《ムーンライト》モンスター二体を融合する!」

「甘い、いや遅いぜ! 伏せ(リバース)カードオープン! 《Sp(スピードスペル)-サモン・クローズ》!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:12 → SPC:9

 

「これは――」

「《Sp(スピードスペル)-サモン・クローズ》は、SPC(スピードカウンター)を三つ取り除くことで発動できる速攻魔法。手札を一枚墓地に送り、カードを一枚ドローする。

 しかぁし! サモン・クローズの真の力はそこじゃねえ! このターン相手は如何なる方法でも、モンスターを特殊召喚することはできない!」

「如何なる方法でも、だと……!」

「そうだ。よって《融合》は不発。アンタのSPC(スピードカウンター)は無駄に消費された」

「……くっ」

 

 セレナは悔しげにムクロを睨む。

 彼女のフィールドにある《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)》は、効果で墓地に送られた時相手モンスターの攻撃力をゼロにできる。このモンスターを素材に、攻撃力2400の《月光舞猫姫(ムーンライト・キャット・ダンサー)》を融合召喚、攻撃力ゼロの《スカル・フレイム》を攻撃する――

 それが、彼女のこのターンでの必勝パターンだった。

 

「だが、まだ手は残っている!

 《Sp(スピードスペル)-シルバー・コントレイル》を発動! SPC(スピードカウンター)を一つ取り除き、モンスター一体の攻撃力を1000アップさせる!」

 

 セレナ

 LP:4000

 SPC:2 → SPC:1

 

 《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)

 攻1800 → 攻2800

 

「バトルだ! クリムゾン・フォックスで《スカル・フレイム》を攻撃!」

「そうはいかねぇ! 永続(トラップ)《スピード・ブースター》、発動ォ!」

「な!?」

 

 その(トラップ)を発動した瞬間、ムクロのDホイールの後ろにロケットブースターが装着された。

 ブースターは火を噴き、ムクロは更に、更に加速する。

 

「《スピード・ブースター》の効果! 相手よりSPC(スピードカウンター)が多い時、一度だけ相手モンスターの攻撃を無効にできる!」

 

 縮まった距離が再び開く。クリムゾン・フォックスの攻撃は《スカル・フレイム》まで届くことはなかった。そして《スピード・ブースター》がある限り、その差が開くことはあれ、縮まることはないだろう。

 

「おのれ……私はモンスターをセット。ターンエンドだ!」

 

 《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)

 攻2800 → 攻1800

 

「行くぜぇ、俺のターン!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:11

 

 セレナ

 LP:4000

 SPC:2

 

「《Sp(スピードスペル)-スピード・ジャマー》発動! これにより、相手のSPC(スピードカウンター)を六つまで取り除く!」

「何!?」

 

 セレナ

 LP:4000

 SPC:2 → SPC:0

 

 セレナのDホイールが急激に減速する。これにてカウンターはゼロ。これで次のターン、セレナは通常の魔法(マジック)カードを発動できない。

 

「まだ終わっちゃいねえ! 永続(トラップ)《スピード・ブースター》、効果発動! 自分のSPC(スピードカウンター)の方が多い場合、自分のターンに一度、SPC(スピードカウンター)の差の100倍のダメージを与える!」

 

 装着されたロケットブースターから小型のロケットが複数発射された。数は十一。ロケットの群れはセレナの元に着弾し、計1100のダメージが与えられる。

 

 セレナ

 LP:4000 → LP:2900

 SPC:0

 

「ぐっ……くそ」

「そして俺は、《Sp(スピードスペル)-シフト・ダウン》を発動。SPC(スピードカウンター)を六つ取り除き、カードを二枚ドロー!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:11 → SPC:5

 

「《スカル・フレイム》の効果を発動! 一ターンに一度、手札から《バーニング・スカルヘッド》を特殊召喚できる! 来い《バーニング・スカルヘッド》!」

 

 《バーニング・スカルヘッド》

 星3/炎属性/アンデット族/攻1000/守 800

 

「《バーニング・スカルヘッド》は手札から特殊召喚した時、相手に1000ポイントのダメージを与える!」

 

 セレナ

 LP:2900 → LP:1900

 SPC:0

 

「この……!」

「《スカル・フレイム》の効果を使用したターン、俺はバトルフェイズを行うことができない。カードを一枚伏せてターンエンド!」

「私のターン!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:7

 

 セレナ

 LP:1900

 SPC:1

 

「っ――!」

 

 互いのライフとSPC(スピードカウンター)を確認し、セレナは何度目か分からない舌打ちをする。

 ムクロのフィールドには上級モンスターこそいるが、大した攻撃は行っていない。にも関わらず、ライフはいつの間にか逆転されている。加えてセレナのスピードは未だ1。これでは魔法(マジック)カードそのものが封じられているようなものだ。

 

「そらそら、さっきまでの威勢はどうした。俺様を倒すんじゃなかったか?」

「うるさい! 待っていろ、今すぐその口を黙らせてやる!

 私はセットしたモンスターを反転召喚! 現れろ、《月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)》!」

 

 《月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)

 星4/闇属性/獣戦士族/攻1600/守1200

 

「そして、手札から《月光紫蝶(ムーンライト・パープル・バタフライ)》の効果を発動。このカードを墓地に送り、《ムーンライト》モンスター一体の攻撃力をターン終了時まで1000アップさせる。

 私は……ブルー・キャットを選択!」

 

 《月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)

 攻1600 → 攻2600

 

「相打ちさせることで新しいモンスターを召喚しようってか。だが俺様の場には、攻撃を無効にする《スピード・ブースター》がある。そんなもんじゃ、このスピードにはついてこれねえぜ!」

「それがどうした! バトル! ブルー・キャットで《スカル・フレイム》を攻撃!」

「《スピード・ブースター》発動! 攻撃を一度だけ無効にする!」

 

 ブースターが再び火を噴き、ブルー・キャットとの距離が離される。攻撃は届かず中断。セレナのバトルフェイズは終了する――かのように思われた。

 

「《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)》、《スカル・フレイム》を攻撃!」

「あぁん!? そいつの攻撃力は1800だ! 《スカル・フレイム》には届かねぇ!」

「永続(トラップ)発動、《幻獣の角》! 発動後このカードは装備カードとなり、攻撃力を800アップさせる!」

「何ィ!?」

 

 《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)

 攻1800 → 攻2600

 

 クリムゾン・フォックスの額に角が生え強化され、決死の攻撃により《スカル・フレイム》と相打った。

 その采配にムクロは感心した。《幻獣の角》は、装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、カードを一枚ドローする効果を持つ。つまり、強化されたクリムゾン・フォックスで《バーニング・スカルヘッド》を攻撃していれば、カードを一枚ドローすることができたのだ。

 しかしセレナはそれをせず、《スカル・フレイム》に攻撃し相打ちさせた。彼女は《スカル・フレイム》のもう一つの効果を見抜いていたのである。

 《スカル・フレイム》はドローフェイズ時、通常のドローを行う代わりに墓地の《バーニング・スカルヘッド》を手札に加える事ができる。もし今の攻撃が《スカル・フレイム》ではなく《バーニング・スカルヘッド》に向いていれば、セレナは一枚ドローすることができ――次のターン、《スピード・ブースター》とのコンボで敗北していたのだ。

 

「どうだ。これでお前のエースは破壊した。私の反撃はここからだ!」

「本当にそう思ってるのか?」

「……どういう意味だ」

「気づいてるだろ? この俺様が……いや、俺達がこの程度じゃないってことをよ」

「……フン。私はこれで、ターンエンドだ!」

「俺のターン!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:9

 

 セレナ

 LP:1900

 SPC:2

 

「行くぜ! まずは《スピード・ブースター》、効果発動!」

 

 セレナ

 LP:1900 → LP:1200

 SPC:2

 

「くっ……またそのカードか――!」

「更にこのモンスターは、墓地の《スカル・フレイム》を除外することで手札から特殊召喚できる!

 いざカモーン! 《スピード・キング☆スカル・フレイム》!」

 

 《スピード・キング☆スカル・フレイム》

 星10/風属性/アンデット族/攻2600/守2000

 

「新たな上級モンスターだと……!」

 

 炎を纏う、骸骨のケンタウロス。

 疾さの王を自称するスカル・フレイムは、紅のマントを羽織り、ムクロと共にスピードの世界を駆け抜ける。

 

「《バーニング・スカルヘッド》を攻撃表示に変更。

 そしてバトル! 《スピード・キング☆スカル・フレイム》、《月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)》を攻撃ィ!」

 

 セレナ

 LP:1200 → LP:200

 SPC:2

 

「おのれ――」

 

 ブルー・キャットが戦闘で破壊され、セレナのライフは800を切った。《スピード・ワールド・ネオ》下では、相手のライフを800削りきるのは容易だ。今こそムクロの手札はゼロだが、次のターンで《Sp(スピードスペル)》を引かれてしまえばセレナは敗北する。

 強力なモンスターではなく、特殊な召喚法でもない。ただの、純粋なスピードによって負けるのだ。

 

「ブルー・キャットの効果発動! 私はデッキから、二体目のクリムゾン・フォックスを特殊召喚!」

 

 《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)

 星4/闇属性/獣戦士族/攻1800/守 600

 

「攻撃力はこちらが上。これで残りのモンスターは攻撃できまい!」

「へっ、首の皮一枚繋がったか。《バーニング・スカルヘッド》の効果発動。フィールドのこのモンスターを除外して、除外された《スカル・フレイム》を墓地に戻す。

 俺様はこれでターンエンド!」

「私のターン!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:11

 

 セレナ

 LP:200

 SPC:3

 

「――これは」

 

 セレナは逆転のカードを引き当てた。

 ムクロのSPC(スピードカウンター)は十一。セレナのスピードでは到底追いつけない。

 だが、それでいい。彼女が引き当てたのは、追いつけないからこそ発動できる《Sp(スピードスペル)》だ。

 

「……手札から《月光黒羊(ムーンライト・ブラック・シープ)》の効果を発動。このカードを墓地に送り、デッキから《融合》を手札に加える!

 そしてSPC(スピードカウンター)を二つ使い、魔法(マジック)カード《融合》を発動する!」

 

 セレナ

 LP:200

 SPC:3 → SPC:1

 

「手札の《月光狼(ムーンライト・ウルフ)》と、フィールドの《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)》を融合!

 現れ出でよ! 月明かりに舞い踊る美しき野獣! 《月光舞猫姫(ムーンライト・キャット・ダンサー)》!」

 

 《月光舞猫姫(ムーンライト・キャット・ダンサー)

 星7/闇属性/獣戦士族/攻2400/守2000

 

 三日月を模した仮面。胸元にはアクセサリ。両手には二刀の短剣。

 ムクロの妨害はない。ここまで来てやっと、セレナのエースモンスターが召喚されたのだ。

 

「融合素材となったクリムゾン・フォックスの効果発動! このモンスターがカード効果で墓地に送られた時、相手モンスター一体の攻撃力をゼロにする! 私は《スピード・キング☆スカル・フレイム》を選択!」

 

 《スピード・キング☆スカル・フレイム》

 攻2600 → 攻 0

 

「なるほどなぁ! だが何度も言うように、俺には《スピード・ブースター》がある! こいつを忘れてもらっちゃ困るぜ!」

「忘れたつもりはないさ。このカードで、貴様のスピードを奪う! 《Sp(スピードスペル)-ギャップ・ストーム》! 発動!」

「にゃにぃぃ!? そのカードはぁぁ!!?」

「このカードはSPC(スピードカウンター)の差が七つ以上ある時、互いの魔法(マジック)(トラップ)カードを全て破壊する!」

 

 セレナの発動したカードから突風が吹き荒れ、互いのバックを破壊する。セレナのフィールドに魔法(マジック)(トラップ)は一枚もない。よって、被害を被るのはムクロのみ。

 

「――なーんてな」

 

 しかし、ムクロの余裕は崩れない。

 《Sp(スピードスペル)-ギャップ・ストーム》は、炎上ムクロにとって因縁のカードでもある。

 ……フォーチュン・カップで行われた試合。対戦相手は不動遊星。序盤はムクロが押していたが、最後はこのカードによって逆転され、敗北した。

 ならば、その対策をしていないはずがない。

 

「以前、そのカードには煮え湯を飲まされたんでな。同じ戦術でやられる炎上ムクロ様じゃねえ!

 カウンター(トラップ)発動、《大革命返し》! カードを二枚以上破壊する効果を無効にし、そのカードを除外する!」

「なんだとっ!?」

「これによりギャップ・ストームは無効、そして除外される!」

 

 ムクロの(トラップ)により《スピード・ブースター》は守られた。ムクロのSPC(スピードカウンター)は十一、対してセレナは僅か一。《スピード・ブースター》に阻まれ、攻撃は届かない。

 万策は尽きた。セレナのフィールドにはキャット・ダンサーのみ。サポートできるカードはない。そしてこのターンの終了時、《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)》の効果は終了する。

 

「……私は、これでターンエンド」

 

 《スピード・キング☆スカル・フレイム》

 攻 0 → 攻2600

 

「俺のターン!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:12 MAX

 

 セレナ

 LP:200

 SPC:2

 

「最後までデュエルを続けるその気力、褒めてやるぜ!

 こいつで終わりだ。《スピード・ワールド・ネオ》、効果発動! SPC(スピードカウンター)を四つ取り除き、800のダメージを与える!」

 

 ムクロ

 LP:2400

 SPC:12 MAX → SPC:8

 

 セレナ

 LP:200 → LP:0

 SPC:2

 

「っ……ここ、までか」

 

 Dホイールから放たれた電撃を受け、僅かに残ったセレナのライフは霧散した。

 ブシュ、と音を立てて空気が漏れ、Dホイールが停止する。

 

 ――何もできなかった。

 

 加速世界(スピード・ワールド)。シンクロ次元にて初めて体感した別世界に、セレナはまだ適応できていなかったらしい。

 潜在能力は高い。だが、経験がそれに追いついていない。

 

 フィールドに残された《月光舞猫姫(ムーンライト・キャット・ダンサー)》は、失意の底に沈む主を穏やかに見つめていた。

 




ムクロのデッキ、スピード☆アクセルとか言わせたくせにロックバーンにしちゃったなぁ。
ま、まあ、スピードワールド自体がロック風味の効果だし、仕方ないよネ。そもそもビートバーンにするとライフ4000なんてあっという間に削れちゃうしネ。


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襲撃の予告

ランサーズのデュエル書きにくいな~と思って試しに遊星のデュエル書いてみたら、筆が進む進む……。フリーデュエル、まだ二回しか挟んでないのに。

※アニメ産オリカあり↓
《シンクロ・ヘイロー》
自分フィールド上に存在するシンクロモンスター1体が
戦闘によって相手モンスターを破壊できなかった場合に発動できる。
そのシンクロモンスター1体の攻撃力を倍にし、
このターンのバトルフェイズ中にもう1度だけ攻撃する事ができる。



 

「やるな、ムクロのやつ」

 

 不動遊星は休憩所で飲み物を片手に、スクリーンを見つめていた。

 映されていたのは炎上ムクロとセレナのデュエル。

 一見するとムクロがSPC(スピードカウンター)を使いこなし、セレナを終始圧倒したように見えただろう。

 しかし、遊星が何より注目したのはムクロの疾さである。

 

 ――シンクロ召喚。

 未来を切り開き、新時代を築く神秘の力。使い方次第で善にも悪にも染まる可能性の結晶。

 それはかつてのダークシグナー、そして何より不動遊星自身が物語っている。

 炎上ムクロは既に不動遊星の真後ろにいる。あと一つ、どんな些細なことでもいい。きっかけさえあれば、彼は不動遊星と同じ境地に辿り着く。

 

「……俺ものんびりしてられないな」

 

 遊星は空になった容器を捨て、休憩所を出て行く。

 バトル・シティは数日に渡って開催される。一日に決められたノルマ――すなわち、一日一定以上の勝率を上げれば、積極的にデュエルをする必要はない。

 それでも遊星は、自分のDホイールの元へ向かった。彼の目的はジャック・アトラスとのデュエル。そこまで行くには、参加者を全員蹴落とし、優勝しなければならない。そして何よりも、遊星はじっとしていられなかった。

 とりあえず、と遊星は自分のDホイールを点検する。

 彼のDホイールは、DホイールであってDホイールではない。デュエルで発生するエネルギーを間近で観測するため、通常の機能に加えてモーメント観測装置を初めとした諸々の研究機器が搭載されている。

 走る研究室と言い換えてもいい。遊星のDホイールは、ムクロのDホイールとは別の意味でモンスターマシンなのである。

 

「おい」

「?」

 

 そんな彼に声をかける男がいた。

 上半身は青、下半身は白のライディングスーツ。顔は半分以上が青いヘルメットで隠されており、唯一口元だけが晒されていた。

 

「お前、不動遊星だよな?」

「ああ……アンタは?」

「なら話は早い。オレとのデュエル、受けてくれるよな?」

「――――」

 

 遊星の質問を聞かず、男は自分に都合のいいように話を進める。

 だが、バトル・シティとは得てしてそういうものだ。こういった人の話を聞かないガラの悪い連中だって何人も参加している。そういった連中を警戒して、あちこちにセキュリティが設置されているのだ。

 

「黙ってないで何とか言ったらどうだ、英雄サマ。それとも、仲間の力がなきゃ戦えない腰抜けだったか?」

「……そう焦るな。デュエルの申し込みなら受けてやる」

「ああ、そうだ。そうこなくちゃな。そうでなきゃ、わざわざこんなところまで出向いた意味がない」

 

 男は口元を邪悪に歪ませ、自身のDホイールに搭乗する。

 遊星も彼に習い、赤いDホイールに跨る。デッキをセットした瞬間オートシャッフルが起動し、四十枚のカードが並べ替えられた。

 

『――デュエルモードオン。オートパイロット、スタンバイ』

「これで準備完了。行くぞ不動遊星。あまりがっかりさせないでくれよ?」

「……デュエルの前に、一つ聞きたいことがある。そのDホイール、どこのものだ?」

「……どこだっていいだろ」

「なら言い当ててやる。俺の見たところ、そのDホイールはアンタの自作。旧式の物を大幅に改良したものだ。違うか?」

「うるせえな。こういうのは他の連中に任せてあるんだよ。俺が知るわけないだろう。

 ……あーそうか。スタート前につまらねえ質問して注意を逸らそうってか? 随分せこい手を使うんだな、こっちの英雄サマは」

「……気に障ったのなら謝る。すまなかった」

「まあいいってことよ。さっさと始めるぞ」

 

 両者が位置につき、カウントが始まる。

 しかし遊星はコースの先ではなく、スタート体勢に入った男の方を見ていた。

 

 ――違和感。この男からは、底知れぬ違和感を感じる。

 

 彼の中のアラートが鳴り響く。

 まるで、次元が異なる存在と相対しているかのような――

 

「余所見とは余裕だな! ライディング・デュエル……!」

「「アクセラレーション!」」

 

 カウントゼロ。一瞬遅れて遊星も続く。

 それでもなお、遊星は男から目を離さない。

 

 Dホイールの性能はそこまで高くない。榊遊矢達に贈った機体の方がまだ高性能だろう。

 肝心のライディングテクニックもまた、どこか不慣れな印象を受けた。

 

 その気になれば追い抜ける。それでも、ここは様子を見るべきだと遊星は判断した。

 

 

 ◆

 

「行くぞ、オレの先行!」

 

 男

 LP:4000

 SPC:1

 

 遊星

 LP:4000

 SPC:1

 

「オレは《疾走の暗黒騎士ガイア》を召喚!」

 

 男の隣に暗黒の騎兵が召喚される。

 両手には螺旋を描くように尖った槍。騎兵はスピードに乗り、男と並走する。

 

 《疾走の暗黒騎士ガイア》

 星7/光属性/戦士族/攻2300/守2100

 

 《疾走の暗黒騎士ガイア》

 攻2300 → 攻1900

 

「《疾走の暗黒騎士ガイア》は、攻撃力を1900にすることでリリースなしで召喚できる。オレはこれでターンエンド!」

「俺のターン!」

 

 男

 LP:4000

 SPC:2

 

 遊星

 LP:4000

 SPC:2

 

「俺は《シンクロン・キャリアー》を召喚!」

 

 《シンクロン・キャリアー》

 星2/地属性/機械族/攻 0/守1000

 

 遊星が召喚したのは、攻撃力0の弱小モンスターだった。小さな橙色の人型マシンで、背中には小型のクレーンがある。どう見ても戦闘型のモンスターではない。

 

「攻撃力0のモンスターだと……! 舐めているのか、不動遊星!」

「《シンクロン・キャリアー》がモンスターゾーンに存在するとき、通常召喚に加えてもう一度、《シンクロン》とつくモンスターを召喚できる。

 この効果により、チューナーモンスター《ジャンク・シンクロン》を召喚!」

 

 《ジャンク・シンクロン》

 星3/闇属性/戦士族/攻1300/守 500

 

 続いて召喚されたのは、背中にエンジンを背負った小さな機体。カラーリングは《シンクロン・キャリアー》と同じく橙。首元には白いマフラーが巻かれている。

 

「レベル2の《シンクロン・キャリアー》に、レベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング!

 集いし星が、新たな力を呼び起こす! 光射す道となれ!

 ――シンクロ召喚! いでよ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》

 星5/闇属性/戦士族/攻2300/守1300

 

 現れたのは瓦礫の戦士。

 紫の機体で、背中にはスラスター。首元には《ジャンク・シンクロン》同様に長く白いマフラーが巻かれている。

 

「バトル! 《ジャンク・ウォリアー》で、《疾走の暗黒騎士ガイア》を攻撃! “スクラップ・フィスト”!」

 

 スラスターが火を噴き、マフラーがたなびく。右の巨大な拳が唸りを上げ、騎兵を粉砕した。

 攻撃表示のモンスターが戦闘破壊されたことでダメージが発生。数値はごく僅かだが、このデュエルは遊星が先制した。

 

 男

 LP:4000 → LP:3600

 SPC:2

 

「フン……そうこなくてはな」

「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

「オレのターン!」

 

 男

 LP:3600

 SPC:3

 

 遊星

 LP:4000

 SPC:3

 

「オレは伏せ(リバース)カードを四枚セット! そしてこのモンスターは、手札がこのカード一枚の時、リリースなしで召喚できる!

 来い、《疾風の暗黒騎士ガイア》!」

 

 《疾風の暗黒騎士ガイア》

 星7/闇属性/戦士族/攻2300/守2100

 

 男は先ほどと殆ど同じモンスターを召喚した。

 違う点といえば能力と攻撃力くらいか。外見をパッと見ただけでは、どちらがどちらか見分けがつかないだろう。

 

「二体目の暗黒騎士……」

「バトルだ! 《ジャンク・ウォリアー》を攻撃!」

 

 攻撃を命じられ、ガイアは瓦礫の戦士へと立ち向かう。

 攻撃力は互角。ガイアは拳を、《ジャンク・ウォリアー》は刺突を受け、粉々になったガラス片のように散っていった。

 

「オレはこれで、ターンエンド!」

「……俺のターン!」

 

 男

 LP:3600

 SPC:4

 

 遊星

 LP:4000

 SPC:4

 

 デュエル開始から既に四ターンが経過。にも関わらず、男はそこまで大きな動きを見せていない。

 遊星は男に疑いの視線を向ける。プレイングだけを見ればライディング・デュエルの初心者そのものではあるが――

 

「……手札のモンスターカードを一枚墓地に送り、《クイック・シンクロン》を特殊召喚!」

 

 《クイック・シンクロン》

 星5/風属性/機械族/攻 700/守1400

 

 テンガロンハットと赤いマント。両手には拳銃が一丁ずつ。西部劇に登場するガンマンのような出で立ちだ。

 このモンスターもまたチューナー。強力なモンスターを召喚するための布石である。

 

「さらに、墓地に送った《ボルト・ヘッジホッグ》の効果発動! 自分の場にチューナーモンスターが存在するとき、墓地から特殊召喚することができる!」

 

 《ボルト・ヘッジホッグ》

 星2/地属性/機械族/攻 800/守 800

 

「そして、《チューニング・サポーター》を召喚!」

 

 《チューニング・サポーター》

 星1/光属性/機械族/攻 100/守 300

 

 巨大なネジが背中から針のごとく生えた鼠。

 フライパンを目深に被り、さらにマフラーで目元を隠した小さなマシン。

 どちらも単体では役に立たない小型モンスターである。しかしここに来て、今更男はモンスターを罵倒しない。

 弱小モンスターを結束させ、強力なモンスターを召喚する。それが不動遊星の戦い方と知ったからだ。

 

「チューナーにレベル1のモンスター。レベル6、いや8か……!」

「《チューニング・サポーター》はシンクロ召喚の素材になる時、レベル2のモンスターとして扱うことができる。そして《クイック・シンクロン》は、《シンクロン》とつくチューナーの代わりになることができる。

 レベル2扱いの《チューニング・サポーター》に、レベル5の《クイック・シンクロン》をチューニング!

 集いし想いが、ここに新たな力となる! 光射す道となれ!

 ――シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

 

 《ニトロ・ウォリアー》

 星7/炎属性/戦士族/攻2800/守1800

 

 第二の戦士(ウォリアー)が召喚される。鍛えられた緑の四肢。背中と臀部には巨大なブースター。悪魔のような強面が男を睨む。

 

「っ――!」

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となったことにより、カードを一枚ドロー!」

「……ほう。流石は不動遊星。一ターンでここまでやるとはな」

 

 モンスター達の攻撃力の合計は3600。全ての直接攻撃が決まれば遊星の勝利である。

 しかし、このターンで終わらないと遊星は確信しており――男もまた、対策を用意していた。

 

「さあどうする! 攻撃するなら今しかないぞ!」

「……いいだろう、誘いに乗ってやる!

 バトル! 行け、《ニトロ・ウォリアー》! “ダイナマイト・ナックル”!」

 

 《ニトロ・ウォリアー》のブースターが火を噴き、拳は威力と速度を備えて男を狙う。

 ――その拳を、男は余裕の表情で迎え撃つ。

 

(トラップ)発動! 《業炎のバリア-ファイヤー・フォース》!

 相手の攻撃表示モンスターを全て破壊し、その攻撃力の合計の半分のダメージを互いに受ける!」

「何っ!」

 

 バリアの炎により遊星のモンスターは全滅し、プレイヤーに飛び火する。

 否、飛び火なんて軽いものではない。爆発じみた火炎放射が二人を襲う。

 

「ぐぁ――!!」

 

 男

 LP:3600 → LP:1800

 SPC:4

 

 遊星

 LP:4000 → LP:2200

 SPC:4

 

「っ……自らダメージも厭わないとは。ターンエンドだ」

「オレのターン!」

 

 男

 LP:1800

 SPC:5

 

 遊星

 LP:2200

 SPC:5

 

 ドローフェイズ。男はドローしたカードを確認し、うすら笑いを浮かべた。

 ――ツイている。これで、一応の目的は達成できる。

 

伏せ(リバース)カードオープン、《スター・ブラスト》! ライフを500ポイント単位で払い、手札のモンスターのレベルを払ったポイント500につき一つ減らす。オレは500ポイント払い、手札の上級モンスターのレベルを4に下げる!」

 

 男

 LP:1800 → LP:1300

 SPC:5 → SPC:3

 

「そして、レベル4となった《獄炎のカース・オブ・ドラゴン》を通常召喚!」

 

 《獄炎のカース・オブ・ドラゴン》

 星5 → 星4

 /闇属性/ドラゴン族/攻2000/守1500

 

「さらに伏せ(リバース)カード発動、《竜魂の幻泉》! 自分の墓地からモンスターを一体、守備表示で特殊召喚する! 甦れ、《疾走の暗黒騎士ガイア》!」

 

 《疾走の暗黒騎士ガイア》

 星7/光属性/戦士族/攻2300/守2100

 

「この組み合わせは……まさか」

 

 呪われし竜と暗黒の騎兵が並ぶ。

 この二体は、とある召喚法を知っている者の間ではあまりにも有名――もはや常識の域にあった。

 遊星の脳裏に、ある言葉が浮かぶ。

 

 ……“アカデミア”。

 

 遊星からすれば、男の戦い方はあまりにも不自然だった。魔法の使用が制限されるライディング・デュエルにおいて、融合モンスターをメインとするDホイーラーは殆どいない。

 もしいるとすれば、精々個人の趣味・嗜好や、場を盛り上げるためのパフォーマンスくらい。もしくは、融合召喚を誇りに持つ決闘者(デュエリスト)か。

 

「《獄炎のカース・オブ・ドラゴン》は、自分フィールドのモンスターのみを融合素材とする時、《融合》のカードなしで融合召喚ができる。

 オレは《獄炎のカース・オブ・ドラゴン》と、《疾走の暗黒騎士ガイア》を融合!

 呪われし煉獄の竜よ。地を駆ける暗黒騎士よ。螺旋の渦で一つとなりて、新たなる力と生まれ変わらん!

 ――融合召喚! 天を駆けよ、《天翔の竜騎士ガイア》!」

 

 《天翔の竜騎士ガイア》

 星7/風属性/ドラゴン族/攻2600/守2100

 

 呪われた竜を駆る竜騎士(ドラグーン)。それが召喚された瞬間、遊星のDホイールが反応を示す。

 機械達は一斉に告げる。目の前の竜騎士は、これまで一度も観測したことがない未知の存在だと。

 

「《天翔の竜騎士ガイア》は特殊召喚した時、デッキから永続魔法《螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)》を手札に加えることができる。もっとも、この一撃で終わるお前には関係ないがな。

 バトルだ! 《天翔の竜騎士ガイア》で、不動遊星にダイレクトアタック!」

「手札から《速攻のかかし》の効果発動! このカードを墓地に送ることで、相手のダイレクトアタックを無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

 槍の刺突が案山子に防がれ、竜騎士は自軍へと戻っていった。

 バトルフェイズは終了しているため、男は追撃できない。そもそも、そのためのカードがない。

 

「チッ……仕留め損なったか」

「油断したなDホイーラー。いや……オベリスク・フォース!」

「!」

 

 既に予感は確信に変わっていた。遊星は、対戦相手である男の素性を追求する。

 

「その反応。どうやら図星のようだな」

「……知っていたのか。オレ達のことを」

「ああ。初めからそうだろうと思っていた」

「ならどうして、このデュエルを受けた?」

「決まっている。俺はこの街の人間だ。怪しい人間はセキュリティに通報しないとな」

「……通報、ねえ」

 

 くく、と男は肩で笑う。

 男は最初からオベリスク・フォースであることを一貫していた。シンクロ次元侵略への第一歩、それこそが自分であると。

 ――にも関わらず、何もかもが見破られている。そのことに笑いが溢れてしまったのだ。

 

「いいだろう、やれるものならやってみろ。オレはこれでターンエンド!」

「俺のターン!」

 

 男

 LP:1300

 SPC:4

 

 遊星

 LP:2200

 SPC:6

 

(トラップ)発動、《ロスト・スター・ディセント》! 墓地からシンクロモンスターを一体、効果を無効にして特殊召喚する!

 来い、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》

 星5/闇属性/戦士族/攻2300/守1300

 

「この効果で特殊召喚したモンスターはレベルが一つ下がり、守備力は0となる!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》

 星5 → 星4

 守1300 → 守 0

 

「そしてチューナーモンスター《ブライ・シンクロン》を召喚!」

 

 《ブライ・シンクロン》

 星4/地属性/機械族/攻1500/守1100

 

「レベル4となった《ジャンク・ウォリアー》に、レベル4の《ブライ・シンクロン》をチューニング!

 集いし願いが、新たに輝く星となる。光射す道となれ!

 ――シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」

 

 《スターダスト・ドラゴン》

 星8/風属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 煌く粒子を撒き散らし、白銀の竜は飛翔する。

 この瞬間、不動遊星のエースモンスターがこのバトル・シティにて初めて召喚された。

 

「これが《スターダスト・ドラゴン》……噂に違わぬ、といったところか。だが攻撃力は2500。竜騎士ガイアには届かない!」

「《ブライ・シンクロン》を素材としたシンクロモンスターは、ターン終了時まで攻撃力が600アップする!」

 

 《スターダスト・ドラゴン》

 攻2500 → 攻3100

 

「バトル! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》! “シューティング・ソニック”!」

 

 風圧のブレスが、星屑を撒き散らしながら竜騎士へと迫る。

 《スターダスト・ドラゴン》が不動遊星のエースならば、男のエースは《天翔の竜騎士ガイア》。既にフィールドには、竜騎士をサポートする(トラップ)が用意されている。

 

「永続(トラップ)発動、《安全地帯》! 対象となったモンスターは戦闘、及び相手のカード効果では破壊されない! オレは、《天翔の竜騎士ガイア》を選択!」

 

 男

 LP:1300 → LP:700

 SPC:4

 

 竜騎士の周囲をバリアが覆う。ブレスは竜騎士を貫いたが、なんとか破壊は免れたらしい。

 

「っ――これで耐え切った。《ブライ・シンクロン》の効果はこのターンの終了時まで。次のターン、オレの竜騎士ガイアが、お前のスターダストを倒す!」

「それはどうかな」

「何? ……っ!

 そうか、その伏せ(リバース)カードは……!」

 

 男は遊星の場に残された最後の一枚を見る。一番最初のターンにセットされ、温存されていた伏せ(リバース)カードだ。

 

(トラップ)発動、《シンクロ・ヘイロー》! シンクロモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊できなかった時、攻撃力を二倍にして、もう一度バトルする!」

 

 《スターダスト・ドラゴン》

 攻3100 → 攻6200

 

「攻撃力、6200だと!?」

「行け、《スターダスト・ドラゴン》! もう一度《天翔の竜騎士ガイア》を攻撃! “シューティング・ソニック”!」

 

 男

 LP:700 → LP: 0

 SPC:4

 

 

 ◆

 

 

「ぐぁ――……っ!」

 

 ライフが尽きた瞬間、男のDホイールは強制停止する。

 勝者は不動遊星。彼はまた一つ、この大会で勝ち星を上げた。

 

「っ……流石は、不動遊星。オレもここまでか」

 

 オベリスク・フォースの決闘者(デュエリスト)は敗北すれば故郷である融合次元へと強制送還される。既に転移は始まっていた。この次元から消えるまで、あと一分もないだろう。

 

「待て」

 

 その前に遊星は引き返し、男に声をかける。

 デュエルの最中から、彼の中ではある疑問が渦巻いていた。

 

「なんだ。敗者はただ去るのみだ。これ以上恥をかかせるな」

「その前に確認したいことがある。お前は、本当にオベリスク・フォースなのか?」

「正確には()オベリスク・フォースだ。下っ端連中は支給品のデッキしか使えない。加えて戦術もワンパターンだ。シンクロ次元皆で対策すれば、とりあえずなんとかなるだろ」

「……お前の目的はなんだったんだ」

「シンクロ次元の侵略。一応はそう命じられている」

「俺が知りたいのはそんなことじゃない。俺は、他でもない()()に話を訊いているんだ」

「さあね。よく言うだろ? 死人に口なしってな。つっても、死んじゃあいないが。

 ま、伝えたいことは伝えた。あとは自分で考えろ、英雄サマ」

 

 最後に意味深な言葉を残して、オベリスク・フォースを名乗った男はDホイールごと消えていった。

 後には何も残らない。対戦相手そのものが消えてしまった以上、遊星の勝利はノーカウントになってしまう可能性が高いだろう。

 

「……自分で考えろ、か」

 

 不動遊星はこの短い時間で、男の真意を見抜いていた。

 オベリスク・フォースのことは遊矢から聞いている。彼らの目的は他次元への侵略。この街もまた、いずれは狙われる運命にあると。

 だが、それにしてはあの男はあからさますぎた。本当に侵略したいのなら住人に紛れ込み、機を見てトップを討てばいいだけのこと。わざわざ分かりやすい格好で主張する意味はないのだ。

 これらから導き出される答えは一つ。

 彼は知らせてくれたのだ。

 近いうちにオベリスク・フォースが侵略に来ること。さらにその侵略は、何かを隠すための措置――ただのフェイクに過ぎないということを。

 

 情報整理。

 融合次元はオベリスク・フォースというあからさまに目立つ組織を盾にして、秘密裏に何かの計画を進めている。

 そしてその情報は案外筒抜けになっており、内部に裏切り者が存在する――

 

「……一人で考えていても始まらない。牛尾を探すか」

 



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水面下の死闘

ジャック対オベリスク・フォースを書きたかったはずなんだけどネ。何故かこうなったヨ。

※アニメ産オリカあり↓
《ジェスター・クィーン》
星2/闇属性/魔法使い族/攻800/守800
(1).このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、自分の魔法&罠カードゾーンに存在するカードを全て破壊する。
(2).自分フィールド上にこのカード以外のモンスターが存在しない場合、このカードは自分の魔法&罠カードゾーンに存在するカードの数だけ、1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。

《隠し通路》
永続魔法
相手フィールド上に表側表示で存在する攻撃力が一番低いモンスターよりも攻撃力の低い自分フィールド上に存在するレベル2以下の魔法使い族モンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。


2016.03.05.デュエル修正。《スピリットバリア》《安全地帯》《ツインツイスター》を別のカードに変更。

2016.03.10.《ミスティック・バイパー》を《ミスティック・パイパー》に修正。



 夜。バトル・シティの一日目が終了し、参加者達が各々休息を取っている頃。ジャック・アトラス、イェーガー、そして赤馬零児は、とある一室でデュエルの記録を見返していた。

 

『行け、《スターダスト・ドラゴン》! もう一度《天翔の竜騎士ガイア》を攻撃! “シューティング・ソニック”!』

 

 再生されていたのは、不動遊星と謎の男のデュエル。フィールドには白銀の竜《スターダスト・ドラゴン》と、呪われた竜を駆る騎士《天翔の竜騎士ガイア》。最後の一撃が《天翔の竜騎士ガイア》に直撃し、プレイヤーのライフが削られる。

 そして決着。デュエルは遊星の勝利で幕を閉じた。

 ……何も知らない人間からすれば、ごく普通のデュエルにしか見えなかっただろう。

 

「今、遊星が戦っていた連中がオベリスク・フォースか?」

「はい、その通りです」

 

 零児は眼鏡を直し、ジャックへと向き直る。

 

「彼らこそがオベリスク・フォース。融合次元の尖兵、そして我々ランサーズの戦うべき相手です」

「戦うべき相手か。だが、奴等の目的は侵略なのだろう? これでは気づいてくれと言っているようなものだ」

「敢えて自分達の姿を晒すことで印象に残し、恐怖に怯える弱者を狩る。それが彼らなりの侵略なのです」

「…………」

 

 オベリスク・フォースは他次元への侵略を“狩り”と認識している。そのことを知っているからこそ、零児は彼らの派手な格好に違和感を感じなかった――感じることができなかった。“相手に恐怖を植え付ける”ためと考えれば、彼らの青い服装は都合がいいからだ。

 対して融合次元に疎い遊星、そしてジャックもまた気づくことができた。彼らが行っているのはただの侵略ではない。彼らはまだ、何かを隠していると。

 

「この映像を見る限り、オベリスク・フォースは不動遊星に撃退されたように思えますが」

「いいえ。おそらくは違います、イェーガー市長。これはあくまで前哨戦。彼らとの戦いはじき始まるでしょう。至急大会を中止し、住民を避難させることを提案します」

「中止、ですか……おや、ジャック?」

 

 ジャックは立ち上がり、窓の方へと歩を進める。

 窓には中の光を漏らさぬようブラインドが降りている。それを豪快に引き上げ、外を睨む。

 ネオ童実野シティは眠らない。たとえ真夜中であっても、必ずどこかには人工の光がある。

 ――光があれば闇だってある。その奥に蠢く人影を、ジャックは捉えた。

 

「どうしたのです、ジャック」

「第二波だ」

「!」

 

 ジャックはデュエルディスクを装着し外へ向かう。彼の呟きを聞いた零児も続いた。

 

「へ? あっ、ちょっと!?」

 

 突然走り出した二人に、イェーガーは訳も分からずついていく。

 エレベーターを使わず、階段を数段飛ばして一気に飛び降りる。一瞬遅れて零児が続き、イェーガーは息も絶え絶えになりながら追いかける。

 そうして三人が建物の外へ出た瞬間――

 

「お二人共! 一体どうしたのです……か?」

 

 ――既に、彼らは囲まれていた。

 素顔を隠す仮面と、軍服のような青い制服。剣を象ったデュエルディスク。

 数は三。男達は獲物を見つけたハイエナのように、ニタニタと笑っている。

 

「ヒィィィィ!! こ、これは、もしや……」

「オベリスク・フォース……既にここまで来ていたとは」

「フン、ちょうどいい。奴等の腕を測る絶好の機会だ」

 

 ジャックもまたデュエルディスクを展開し、一歩前へ出た。

 

「貴様等の目的は分かっている! シンクロ次元を侵略したいのならば、まずはこのジャック・アトラスを倒してみろ!」

「いいだろう。だが」

 

 オベリスク・フォースの一人が卑しく笑った後、三人はそれぞれ相手の前へと移動する。

 一人はジャック。一人は零児。そして最後は……イェーガー。

 

「ヒィィィィ!! こっちに来ましたぁぁぁ!!」

「まずは一人ずつだ。自分の相手を倒した者が、他の連中のデュエルに加勢する」

「構わん。イェーガー、貴様デュエルはできるな?」

「へ? まあ一応……はっ! いえ、できません全く!」

「ならば耐えろ。こっちの雑魚を片付けた後、貴様に加勢してやる。

 ――行くぞ、オベリスク・フォース!」

「「決闘(デュエル)――!!」

 

 掛け声を合図に、ジャックとオベリスク・フォースのデュエルが開始される。

 加勢するとは言ったものの、それが叶うのは、ジャックが決着をつけるまでイェーガーが負けなければの話だ。

 

「およよ、おろろろ……」

「落ち着いてください、イェーガー市長」

「へ?」

「問題はありません。私もこちらを片付けた後、貴方に加勢します。同盟相手を失うことは避けたいですからね」

 

 そう言った後、零児もまたデュエルディスクを展開し、オベリスク・フォースと相対する。

 イェーガーは心の奥底で思う。どちらか二対一で戦ってくれてもいいんじゃないのかと。それが駄目ならせめてタッグをと。

 

「おい、いつまで余所見してるつもりだ」

「ヒッ! 申し訳ありません!」

 

 どこまでも弱腰のイェーガーを見て、オベリスク・フォースは勝気に笑う。

 勿論これは初めから仕組まれたこと。ジャック・アトラス、そして赤馬零児が強いことは遠目に見ただけでも分かる。

 そして同様に、イェーガーが三人の中で最も弱いことも。オベリスク・フォースはイェーガーを真っ先に仕留めた後、三対二に持ち込むつもりなのだ。

 

「こいつは勝負が見えたな。一息に仕留めてやるよ、ピエロ野郎」

「……はぁ。やれやれ」

「あん?」

 

 イェーガーはどこからともなく自分のデュエルディスク、デッキを取り出し、腕に装着した。

 態度が豹変したイェーガーを見て、オベリスク・フォースは眉を潜める。

 彼は市長であり道化師。滑稽な格好、言動、行動で相手を楽しませ、惑わすのがイェーガーという男だ。

 

「仕方がありませんね。

 ……よろしい。では僭越ながら、この私が相手をしてさしあげます。我々のネオ童実野シティに危害を加えようというであれば容赦はしません。覚悟はよろしいですね、オベリスク・フォース」

「強がっても無駄だ。貴様如きでは、俺達オベリスク・フォースは止められない」

「ヒッヒッヒッヒ……人を見かけを判断するのはよくないですよ」

「フン、ほざいてろ。シンクロ次元侵略の肩慣らしだ」

 

「「決闘(デュエル)――!!」」

 

 

 ◆

 

 

 イェーガー

 LP:4000

 

 オベリスク・フォース

 LP:4000

 

「先行はもらう! 俺は魔法(マジック)カード、《融合》を発動! これにより、手札の《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》二体を融合!

 古の魂受け継がれし、機械仕掛けの猟犬達よ。 群れなして混じりあい、新たなる力と共に生まれ変わらん!

 ――融合召喚! 現れろ、レベル5! 《古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)》!

 

 《古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)

 星5/地属性/機械族/攻1400/守1000

 

 オベリスク・フォースの十八番・融合召喚にて、機械仕掛けの猟犬が召喚される。

 頭は二つ。飢えた牙に乾いた眼光。猟犬は目の前のピエロを獲物と認識した。

 

「ほう。お得意の融合召喚ですか。情報通りですね」

「情報だと?」

「おっと。失礼、口が滑りました。それで、貴方のターンは終了ですか?」

「フン。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 一枚の伏せ(リバース)カードが出現した後、オベリスク・フォースのターンが終了する。

 《古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)》は、相手フィールドにモンスターが召喚された時、そのモンスターにギア・アシッドカウンターを置く。ギア・アシッドカウンターが置かれたモンスターが戦闘を行う場合、ダメージステップ開始時にそのモンスターは破壊される。つまり、《古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)》が存在する限り、イェーガーの攻撃は封じられたも同然なのだ。

 

「では参ります。ドロー」

 

 ――しかし、それが分からないイェーガーではない。

 彼は戦士ではなく道化師。道化師は道化師らしく、高笑いで煽る。

 

「ヒッヒッヒ。私はカードを三枚伏せて、ターンエンドです」

「なんだと……?」

「申し訳ありません。どうやら手札がよろしくない様子。一体もモンスターを召喚できませんでした」

「ふざけた真似を……ならば、その前に息の根を止めてやる。

 俺のターン! 俺は《古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)》を召喚!」

 

 《古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)

 星4/地属性/機械族/攻1300/守1300

 

 猟犬に続き召喚されたのは機械の兵士。殲滅に特化させるためか、右腕は銃となっている。

 

「なるほど。オベリスク・フォースは数ある融合召喚の中でも、とりわけ《古代の機械(アンティーク・ギア)》を多く使うのですね」

「その通り。《古代の機械(アンティーク・ギア)》モンスターが攻撃する時、相手は魔法(マジック)(トラップ)を発動できない。貴様のような雑魚に、無駄な抵抗は許されないってことだ。

 さらに俺は永続魔法《一族の結束》を発動。墓地のモンスターの種族が一種類のみの場合、その種族のモンスターの攻撃力を800アップさせる。俺の墓地には機械族の《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》が二体。よって、俺のモンスターの攻撃力はそれぞれ800ずつアップする」

 

 《古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)

 攻1400 → 攻2200

 

 《古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)

 攻1300 → 攻2100

 

「これで攻撃力の合計は4300。どんな(トラップ)が伏せられてようが、このターンで貴様は終わりだ」

「それはそれは。では、バトルフェイズ前に(トラップ)を発動させましょう。

 永続(トラップ)《スキルドレイン》。ライフポイントを1000払い、フィールドの全てのモンスター効果を無効にします」

「何……!」

 

 イェーガー

 LP:4000 → LP:3000

 

「おやおや、私のライフが減ってしまいましたね。ここで攻撃を通してしまえば私の負けです」

「っ……!」

「どうしました? 何を躊躇う必要があるのです。その二体でダイレクトアタックを宣言すれば、貴方の勝ちなのですよ?」

「貴様……どこまでも舐めた真似を……!」

 

 だが、オベリスク・フォースは最後の一歩を踏み出せずにいた。

 《古代の機械(アンティーク・ギア)》モンスター達が効果を失っている今、イェーガーはバトルフェイズ中でも(トラップ)カードを使用できる。

 このタイミングで《スキルドレイン》を使用したということは、セットされた二枚のうちどれかは攻撃反応系の(トラップ)。挑発に乗ってしまえば、それこそイェーガーの思う壺。

 

「俺はこれで、ターンエンド!」

 

 ……そう判断したオベリスク・フォースは、ターンエンドを宣言した。

 

「ヒッヒッヒッヒッヒ! やはり楽しいですね、デュエルというものは。童心に返るとはまさにこのこと」

「楽しい、だと?」

「気づきませんか? 前のターン、貴方がダイレクトアタックを宣言していれば、私は負けていたのですよ」

「なんだと……!」

「その証拠をお見せしましょう。

 私のターン。まずは一枚目。永続(トラップ)、《サモンリミッター》を発動。このカードがある限り、互いのプレイヤーは一ターンに二回までしかモンスターを召喚できません。

 そして、二枚目の伏せ(リバース)カードをオープン。《マジック・プランター》。自分の場の永続(トラップ)を一枚墓地に送り、カードを二枚ドローします。私は《スキルドレイン》を墓地に送りましょう」

「くっ――!」

 

 《スキルドレイン》が消滅したことで、《古代の機械(アンティーク・ギア)》達は再稼働する。

 しかしこれではっきりした。オベリスク・フォースはイェーガーを警戒するあまり、勝機を逃したのだ。

 

「やれやれ。オベリスク・フォースは強敵だと聞いていましたが、どうやら大したことはないようですね」

「いい加減にしろピエロ! 早くターンを進めたらどうだ!」

「ヒッヒ、言われずともそうさせていただきます。《マジック・プランター》の効果により、カードを二枚ドロー。

 そして私は、手札から《ジェスター・コンフィ》を攻撃表示で特殊召喚します」 

 

 《ジェスター・コンフィ》

 星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0

 

 玉乗りをこなす奇っ怪なピエロが召喚される。攻撃力は0、レベルは1。オベリスク・フォースから見れば、ただの弱小モンスターである。

 

「《ジェスター・コンフィ》はその効果により、手札から攻撃表示で特殊召喚することができます。もっとも、攻撃力は0ですがね」

「貴様――!」

「ホホ。見えます、見えますよ、貴方の心の動きが。さて、本当のショーはここからです。

 私は更に、《ミスティック・パイパー》を攻撃表示で召喚」

 

 《ミスティック・パイパー》

 星1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0

 

「《ミスティック・パイパー》の効果発動。このモンスターをリリースすることで、私はカードを一枚ドロー。そしてドローしたカードをお互い確認し、それがレベル1のモンスターだった場合、更にもう一枚ドローします」

 

 イェーガーのフィールドから《ミスティック・パイパー》が消え、カードをドローする。

 ドローしたのはレベル1のモンスター。《ジェスター・コンフィ》が玉乗りならば、こちらはジャグリングのピエロだ。

 

「私が引いたのは《ジェスター・ロード》。よって、もう一枚カードをドローします」 

「っ――!」

 

 これにて手札は六枚。何が来てもおかしくない枚数であるが、イェーガーは全く別の戦略を取る。

 

「新たに伏せ(リバース)カードを四枚セット。ターンを終了します」

「また伏せ(リバース)カードだと……!」

 

 融合、シンクロ、エクシーズ、そしてペンデュラム。どんな決闘者(デュエリスト)にせよ、手札が六枚もあれば強力なモンスターを召喚するかコンボを仕掛けるかするだろう。それが正攻法であり王道だからだ。

 だが、イェーガーは王道を取らない。奇想天外なプレイングで相手を乱すのが道化師なりの戦い方なのだ。

 

「ヒッヒッヒ。さあ、貴方のターンですよ。全力で踊ってご覧なさい」

「……いいだろう、ならば踊ってやる。その結果、貴様がどうなっても知らんがな!

 俺のターン! このままバトルだ!」

「お待ちを。バトルフェイズ前に(トラップ)カード、《和睦の使者》を発動。このターン私が受ける戦闘ダメージは全て0となり、モンスターは戦闘では破壊されません」

「何……!?」

「どうしましたか? 踊るのではなかったのですか?」

「ッ――小癪な」

 

 オベリスク・フォースは悔しげに舌打ちした。

 これが唯一の穴。《古代の機械(アンティーク・ギア)》モンスターが攻撃する時、相手は魔法(マジック)(トラップ)を発動することができない。しかし、攻撃を行う前なら可能なのである。

 

「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

「おや、残念ですね。ではこのターンのエンドフェイズ、《ジェスター・コンフィ》の効果が発動します。

 自身の効果で特殊召喚された《ジェスター・コンフィ》と、相手フィールドのモンスター一体を手札に戻します。その悪趣味な猟犬にはご退場願いましょう」

「おのれ……!」

「まだ貴方のターンは終わっていませんよ。ターン終了前に、私は永続(トラップ)《底なし流砂》を発動。相手ターンのエンドフェイズに一度、フィールドで最も攻撃力が高いモンスターを一体破壊します。

 今、フィールドには《古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)》が一体のみ。よって、残った貴方のモンスターを破壊します!」

「なんだと――!?」

 

 イェーガーの(トラップ)とモンスターの応酬により、オベリスク・フォースの場からモンスターが完全に消滅した。

 これにて、互いの場にモンスターはいない。ライフはオベリスク・フォースの方が上。それでも、デュエルを支配しているのは紛れもなくイェーガーだった。

 

「さて、次は私のターンですね。ドロー。

 これにて手札は四枚。《底なし流砂》は自分のスタンバイフェイズ時に手札が四枚以下の場合、自らを破壊してしまいます。

 しかし――ここで永続(トラップ)発動、《宮廷のしきたり》。このカードがある限り、《宮廷のしきたり》以外の永続(トラップ)は破壊されません。

 そして私は、先ほど手札に加えた《ジェスター・ロード》を召喚します」

 

 《ジェスター・ロード》

 星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0

 

「また、攻撃力0のモンスター……!」

「デュエル前に申し上げたはずですよ? 人を見かけで判断するのはよくない、とね。

 《ジェスター・ロード》はフィールドに他のモンスターが存在しない場合、互いの魔法(マジック)(トラップ)カード一枚につき攻撃力を1000ポイントアップします。

 私のフィールドには四枚。貴方のフィールドには三枚。よって攻撃力は1000×7アップします」

 

 《ジェスター・ロード》

 攻 0 → 攻7000

 

 《ジェスター・ロード》は合計七つの玉を巧みにジャグリングする。玉一つで1000ポイントの攻撃力があるらしい。

 だが恐るるに足らず。オベリスク・フォースは《ジェスター・ロード》の弱点を見抜いていた。

 《ジェスター・ロード》の攻撃力は確かに高い。だがそれは、あくまで他にモンスターがいなければの話。雑魚モンスターがどちらかのフィールドに一体でもいれば、攻撃力は0に戻る。

 

「では、バトルと参りましょう! 覚悟なさい!」

「永続(トラップ)発動! 《リビングデッドの呼び声》! 自分の墓地からモンスターを一体、攻撃表示で特殊召喚する! 甦れ、《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》!」

 

 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

 星3/地属性/機械族/攻 1000/守 1000

 

「これにより、《ジェスター・ロード》の攻撃力は0に戻り、《一族の結束》の効果でハウンドドッグの攻撃力は800アップする!」

 

 《ジェスター・ロード》

 攻7000 → 攻 0

 

 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

 攻1000 → 攻1800

 

「なるほど。モンスターを増やすことで攻撃力を下げてきましたか。ですが、やはり甘い。隅々まで教育が行き届いていないようですね」

「この状況でよくそこまで言えるな。雑魚モンスターに成り下がった《ジェスター・ロード》では、我々の《古代の機械(アンティーク・ギア)》を倒すことはできん」

「不愉快ですね。私を小馬鹿にしたことではなく、貴方のような人間がそのカードを使っていることが」

「どういう意味だ」

「貴方が知る必要はありません。ただ一つ言えることは、貴方に次のターンはないということです。

 (トラップ)発動、《サンダー・ブレイク》! 手札を一枚墓地に送り、フィールドのカードを一枚破壊します!

 もうお分かりですね? 私はこれにより《ジェスター・コンフィ》を墓地へ。そして、貴方の《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》を破壊します!」

「何っ――!」

 

 イェーガーが発動した(トラップ)より、一筋の雷が発せられた。

 これで《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》が破壊されれば、フィールドのモンスターは《ジェスター・ロード》のみとなり、攻撃力は再び上昇する。

 そうなる前に――と、オベリスク・フォースはセットした(トラップ)を起動させる。

 

「ならば(トラップ)発動、《破壊輪》! 相手モンスター一体を破壊し、その攻撃力分のダメージを互いに受ける!

 これにより、《ジェスター・ロード》を破壊!」

「なんですと!?」

 

 《ジェスター・ロード》に爆弾付きの首輪が装着され、爆発した。

 直後に《サンダー・ブレイク》の雷が《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》は破壊。これで、互いのフィールドのモンスターは全て消滅した。

 

「フン、残念だったなピエロ」

「くっ、ぬぬぬ……いいでしょう。勝負はまだまだこれからのようです。とことん付き合って差し上げますよ。私はこれで、ターンエンドです!」

「俺のターン。魔法(マジック)カード、《天よりの宝札》。手札・フィールドのカードを全て除外し、カードを二枚ドローする。

 そして、魔法(マジック)カード《ソウル・チャージ》を発動! ライフポイントを1000払うごとに、自分の墓地からモンスターを特殊召喚する! 俺はライフを3000払い、三体の《古代の機械(アンティーク・ギア)》を復活させる!」

 

 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》×2

 星3/地属性/機械族/攻1000/守1000

 

 《古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)

 星4/地属性/機械族/攻1300/守1300

 

 オベリスク・フォース

 LP:4000 → LP:1000

 

 オベリスク・フォースのフィールドに三体のモンスターが並び立つ。

 《サモンリミッター》は一ターンに三回以上の召喚を封じる永続(トラップ)。しかし《ソウル・チャージ》は、一度に大量のモンスターを特殊召喚する魔法(マジック)カードだ。仮に五体モンスターを召喚したとしても、それらは全て一回の特殊召喚なのである。

 

「またそのモンスターですか。ライフを支払ってまで召喚するとは、よほど飼われるのが好きなご様子」

「知ったような口を利くなよピエロ。飼われるのが好きだと?

 ――違う。俺達は飼われなきゃ生きていけない。そういう世界に生まれ、育ってきた。いや、育てられてきたんだ」

 

 オベリスク・フォースは力の限り拳を握り締め、歯噛みした。

 その様子にイェーガーは目を奪われる。

 ――怒りだ。

 素顔は仮面で隠されているが、イェーガーは確かに彼から怒りを感じたのだ。

 

「《ソウル・チャージ》を発動したターンはバトルフェイズが行えない。カードを一枚伏せてターンエンド」

「……このターンの終了時、《底なし流砂》の効果が発動。《古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)》を再び破壊します」

 

 流砂に呑まれ、《古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)》が破壊される。

 ――融合次元の闇。イェーガーはその一端を垣間見た。

 ――ならばやることは一つ。彼らを倒すのではない。止めるのだ。

 

「私のターン! 私は、《ジェスター・クィーン》を召喚!」

 

 《ジェスター・クィーン》

 星2/闇属性/魔法使い族/攻800/守800

 

「《ジェスター・クィーン》を召喚した時、自分の魔法(マジック)(トラップ)カードを全て破壊します。しかし《宮廷のしきたり》により、このカード以外の永続(トラップ)は破壊されません。よって、《宮廷のしきたり》のみを破壊!

 さらに永続魔法《隠し通路》を発動。自分のモンスターの攻撃力が相手モンスターの最も攻撃力が低いモンスターよりも低い場合、そのモンスターはダイレクトアタックが可能となります。

 そして《ジェスター・クィーン》は、自分の場の魔法(マジック)(トラップ)カードの枚数だけ連続攻撃ができるのです」

「なんだと――つまり……!」

「私の場には永続(トラップ)が二枚と、永続魔法が一枚。よって、合計三回のダイレクトアタックが可能となります!」

「させるか! (トラップ)発動、《針虫の巣窟》! デッキの上からカードを五枚墓地に送る!」

「このタイミングでデッキの枚数を削ると? そんなことに何の意味があるのです?」

「違うな。デッキの枚数を削るんじゃない。デッキからモンスターを墓地に送るんだ」

 

 オベリスク・フォースの男はデッキの上から五枚めくり、墓地に送る。彼の目的はとあるモンスターを墓地に送ること。それができれば、このターンを凌ぐことができる。

 

「――フン。来たぞ、望みのカードが」

「ええい、それがどうしたというのです! 行け、《ジェスター・クィーン》!」

「俺が墓地に送ったのは、《超電磁タートル》! このモンスターを墓地から除外することで、バトルフェイズを終了させる!」

「何っ!?」

 

 《超電磁タートル》が立ちふさがり、《ジェスター・クィーン》の攻撃が遮られた。どうやら相手のオベリスク・フォースは、よほどの強運の持ち主だったらしい。

 

「この土壇場でそのカードを墓地に送るとは……中々の強かさです。カードを一枚伏せて、ターンを終了します」

「俺のターン! 俺は、三体目の《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》を召喚!」

 

 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

 星3/地属性/機械族/攻1000/守1000

 

「なんと――!」

「ハウンドドッグの効果発動! 相手フィールドにモンスターが存在する時、600ポイントのダメージを与えることができる!

 俺の場にハウンドドッグは三体。よって、合計1800のダメージだ!」

 

 イェーガー

 LP:3000 → LP:1200

 

 三発の火炎弾がイェーガーを撃ち抜き、ライフを削る。

 そして、この程度では終わらない。これらは融合次元のモンスター。当然、融合召喚に関連する能力も持っている。

 

「《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》の効果発動! 自分の場に他の《古代の機械(アンティーク・ギア)》が存在する時、手札と場のモンスターを素材に融合召喚を行うことができる!

 俺は、フィールドの《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》三体を融合!

 古の魂受け継がれし、機械仕掛けの猟犬達よ。 群れなして混じりあい、新たなる力と共に生まれ変わらん!

 ――融合召喚! 現れよ、レベル7! 《古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)》!」

 

 《古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

 星7/地属性/機械族/攻1800/守1000

 

 三体の猟犬が混じり合い、一つとなって降臨した。

 機械仕掛けの三つ首の猟犬。これこそが彼らに与えられた切り札である。

 

「《古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)》は、一ターンに三回攻撃を行うことができる。そしてこのモンスターが攻撃する時、相手は魔法(マジック)(トラップ)カードを発動できない。

 そこそこ楽しめたがここまでだ、妖怪ピエロ」

「……それは、どうでしょうかね」

「なんだと? まだ抗うというのか」

「はて、抗う? 何をおっしゃいますやら。このデュエルは徹頭徹尾、私が上だったではありませんか」

「知ったことか。結果が全てだ。事実、貴様はここで負ける。潔くカードとなれ」

「お断りですね。こう見えても忙しい身でして。カードになってサボれるほど暇ではないのです。

 従って、ここは素直に勝たせてもらいます。貴方達を解放してやれるほど、私は優れた人間ではありませんので。

 ――速攻魔法発動! 《融合解除》!」

「何!?」

 

 イェーガーの切り札が発動する。

 《融合解除》。融合モンスターの融合を解除し、分離させる魔法(マジック)カード。

 

「馬鹿な、そのカードは!」

「相手が融合次元の決闘者(デュエリスト)と聞いて、急遽デッキに入れたのです。まさか本当に役に立つとは思っていませんでしたがね。

 《融合解除》の効果により、その猟犬には退場していただきます!」

「な……に――!」

 

 せっかく召喚した《古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)》は消え、オベリスク・フォースのフィールドからは全てのモンスターが消えた。

 《融合解除》は、フィールドの融合モンスターをエクストラデッキに戻し、素材となったモンスターを墓地から召喚してもいい、というものだ。

 ――してもいい、ということは、しなくてもいい、ということでもある。

 

「そんな……馬鹿な――!」

「これで貴方のカードは尽きました。私の勝利は決まりましたね」

「くっ……だがこのターンのエンドフェイズ、貴様の永続(トラップ)《底なし流砂》によって、《ジェスター・クィーン》は破壊される!」

 

 《ジェスター・クィーン》が流砂に呑まれ、破壊される。これでまた互いの場からモンスターが消えたのだ。

 

「互いの残りライフは僅か。ですが、次は私のターンです。ここで攻撃力1000以上のモンスターを引けば、私の勝ちですね」

「ありえんな。見たところ、貴様のデッキの殆どは弱小モンスター。条件を満たさなければ、攻撃力1000のモンスターすら用意できまい!」

「それは次のターンではっきりします。

 どうです? ゾクゾクしませんか? デッキの上のこの一枚で、貴方の人生が大きく変わるかもしれませんよ?」

「黙れ。知ったような口を利くなと言ったはずだ」

「おっと、これは申し訳ありません。

 ――では、参ります。私のターン!」

 

 イェーガーのドローしたカードはレベル1、攻撃力も0の弱小モンスターだった。

 しかし。条件は、既に整っている。

 

「このスタンバイフェイズ、手札が四枚以下なため《底なし流砂》は破壊されます!

 そして、《ジェスター・ロード》を攻撃表示で召喚!」

 

 《ジェスター・ロード》

 星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0

 

「二体目の《ジェスター・ロード》だと!?」

「《ジェスター・ロード》の効果発動! 互いの魔法(マジック)(トラップ)ゾーンのカード一枚につき、攻撃力を1000ポイントアップします!」

 

 《ジェスター・ロード》

 攻 0 → 攻2000

 

「そんな……馬鹿な――」

「これで終わりです! 《ジェスター・ロード》、相手プレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 オベリスク・フォース

 LP:1000 → LP:0

 

「ぐあ――……!」

 

 三つの火球を受け、ライフは0となる。

 これにて決着。イェーガーはジャック、零児の手を借りることなく、撃退に成功したのだった。

 

 

 ◆

 

 

「話が違うではありませんかジャック! 終わったら助けてくれるという話はどこへ行ったのです!?」

「俺のデュエルが終わった頃、ちょうどお前はオベリスク・フォースを気持ちよさそうに煽っていたのでな。あの時のお前の気持ちは俺にも分かる。邪魔しては悪いと思い、涙を飲んで引いたのだ。むしろ、余計な水を差さなかったこの俺に感謝してほしいくらいだ」

「そういう問題ではないのです。二人、いえ三人でかかれば、もっと早く勝てたはずです!」

「過ぎたことだ。過程はどうあれ、最終的には勝ったのだから問題ないだろう。それより今はもっと、他に話すべきことがあるだろう」

「おっと、そういえばそうでした」

 

 こほん、とイェーガーは咳払いし、ジャックと零児に向き直る。

 話すべきこととは他でもない。明日からのフレンドシップ・カップについてだ。

 現在は“バトル・シティ”の期間中。ネオ童実野シティ全域が舞台であり観客席。そんな中にオベリスク・フォースが攻め込んでくれば、街は混沌と化してしまう。

 

「どうすべきでしょうかね。零児さん、貴方はどう思いますか?」

「先ほども述べましたが、オベリスク・フォースは“侵略”を“狩り”と考えています。事が起こるとすれば、二日目のバトル・シティが開催される明朝。それまでに対策を討つべきです」

「なるほど……対策ですか。彼らが参加者以外の一般人を狙う可能性は?」

「彼らが何を“標的”とするかで変わりますが……可能性としては十分ありえますね。

 ところで、イェーガー市長。セキュリティの実力はどれほどのものでしょうか。貴方よりも上なのですか?」

「いいえ、そうとも限りません。勿論、私より強い決闘者(デュエリスト)はいますが」

「そうですか。では、セキュリティの力を均等に分散させ、各拠点の防衛に当ててはどうでしょう? そこに住民達を避難させるのです」

「それは……いいえ、不可能ですね。住民達はオベリスク・フォースのことも、エクシーズ次元とやらのことも知りません。我々が知らせても信じてはもらえないでしょう。

 ……誰か一人でも犠牲者が出てくれれば、話は通じるのですがね」

「イェーガー!」

 

 ジャックは声を荒らげ、イェーガーを睨む。

 このネオ童実野シティは彼の故郷。住民は全て、彼にとって大切なファンなのだ。たとえ一人だとしても、犠牲者を出すことはジャックが許さないだろう。

 

「勿論冗談です。そう睨まないでください」

「だとしても、言っていいことと悪いことがある」

「失礼しました。しかしこれは事実です。分かりやすい犠牲者を出さなければ、住民全員を避難させるなど到底不可能です」

「何を寝ぼけたことを言っている。大会は続行だ。中止などありえん」

「な――……」

 

 ジャックのその言葉に、二人は耳を疑った。

 オベリスク・フォースの妨害を受けてなお、大会を続ける。この男はそう言ったのだ。

 彼の意見は、住民の守ることを最優先に考えていた二人には考えつかないことだった。

 

「……ジャック・アトラス。このまま大会を続行すれば、関係のない住民に危害が及ぶ。貴方はそれが分かっているのですか?」

「知らん。住民の避難など知ったことではない。俺は、デュエルで奴等を引き付けろと言ったのだ」

「……どういうことです?」

「オベリスク・フォースに少しでも決闘者(デュエリスト)としての魂があるのなら、より強い者に惹かれるはずだ。バトル・シティを開催しておけば、自ずと力なき者は守られる。

 それでも弱者に群がる雑魚共は、この俺自らが蹴散らしてくれる」

「なるほど。つまりはこういうことですね。

 バトル・シティを時刻通り開催し、観客達を大きな会場に避難させる。いいえ、避難ではなく引き寄せる。巨大スクリーンを大量に設置し、サービスを充実させ、大会の熱気を数箇所に閉じ込める。

 そして、それらの門をジャック・アトラスとセキュリティが守る、と」

「セキュリティは邪魔だがな。俺はもう休むぞ。明日からはつまらんデュエルの連続になりそうだからな」

「いえ、待ってください」

 

 自室へ帰ろうとしたジャックを、零児は呼び止めた。

 

「なんだ。まだ用があるのか」

「貴方一人にオベリスク・フォースの相手を任せるのは忍びない。

 ですので、我々が助力します。こういう事態に備えて、我々ランサーズは結成されたのですから」

「フン……勝手にしろ」

 

 興味なさげに返事をして、ジャックは今度こそ自分の部屋へ戻っていった。

 

「相変わらずですねジャックは。ともあれ、一先ずは彼の案で行きますか。そうそう、ハイウェイにもセキュリティを配置しなくては」

 




オベリスク・フォースのデッキがワンキルに特化しすぎてて、デュエル構成がかなり大変だった。
イェーガーも負けず劣らず大変だった。(トラップ)戦術とかTFでもADSでもやったことないZ。
その結果がこのガバガバデュエルさ!


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牙を剥く覇王黒竜

スターターデッキ2016で登場する《EM》を使わせたかっただけです。
過去最速の執筆速度だった気がする……。

※注意、完全オリカあり↓

《RUM-リベリオン・フォース》
通常魔法
「RUM-リベリオン・フォース」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外ではモンスターを特殊召喚できない。
(1).自分の墓地の一番ランクが高いXモンスター一体を対象として発動できる。そのモンスターをX召喚扱いとして特殊召喚し、そのモンスターのランクと同じ数値のレベルのモンスターを自分フィールドから2体以上選び、対象のXモンスターの下に重ねてX素材とする。
(2).(1)の効果でXモンスターを召喚した時発動する。(1)の効果で特殊召喚したモンスターと同じ種族・属性でランクが3つ高いモンスター一体を対象モンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

……はいそうです。手軽に覇王黒竜を出させるためのご都合カードです。



 気が付くと榊遊矢は、巨大都市の中心にいた。

 舞網市ともネオ童実野シティとも違う異質な場所。丸みを帯びた建物と多くのスポットライト。中心には都市のシンボルといえる巨大なタワー。

 この世界に遊矢は見覚えがあった。シンクロ次元に来る前に赤馬零児と戦ったアクション・フィールド。

 

 ――未来都市“ハートランド”。それがこの街の名前である。

 

「どうしてハートランドに……」

「俺が呼んだんだ」

「え――?」

 

 どこからともなく声が聞こえ、遊矢は振り返る。

 紫髪の少年。髪型こそ違えど、顔の造形は遊矢と殆ど同じ。何も知らない人が見れば、ドッペルゲンガーの類だと勘違いするだろう。

 

「ユート……?」

「ああ。こうしてお前と話すのは初めてだな」

「どうしてお前がここに……? いや、そもそも、ここは何処なんだ?」

「遊矢は見覚えがあるだろう? ここは未来都市ハートランド。お前が赤馬零児とデュエルした場所。そして……俺と隼の故郷だ」

「故郷……? あっ――」

 

 瞬間、世界は暗転する。光に満ちていた未来都市は、廃墟へと姿を変えた。

 

「……これって」

「これが今のハートランド……エクシーズ次元だ」

 

 ぐるり、と遊矢は周囲を見渡した。

 ついさっきまで確認できた生活の跡は最早ない。空は雲で覆われ、太陽の明かりさえも届かない。

 

「――非道い」

「ああ。全ては融合次元……オベリスク・フォースが来てからだった。

 この街で平和に暮らしていた俺達は、突如奴等に襲われた。大人も子供も関係ない。融合次元は徒党を組み、遊びのように俺達を狩り続けた。

 だから俺達は、エクシーズ次元の強い決闘者(デュエリスト)を集めてレジスタンスを組み……きっと、こうしている今も奴等と戦い続けている」

「今も? けど、あいつらは一度スタンダード次元に来たはずだろ?」

「融合次元の組織力はあんなものじゃない。その気になればエクシーズ次元とスタンダード次元、両方に攻め込めるだけの人員がいる」

「そんなに沢山……!?」

「一対一の決闘(デュエル)なら勝機はあった。エクシーズ次元も、ここまで一方的にはやられなかっただろう。

 だがこれは、決闘(デュエル)ではなく戦争だ。一騎当千の英雄よりも、千人の兵士の方がよほど価値がある。俺達は数の暴力によって、一度敗北したんだ」

 

 悔しさのあまり、ユートは拳を握った。

 込められた感情は――無念。大切なものを守れなかった後悔の塊。

 そして同様に、炎のように燃え盛る怒りがあった。

 

「……戦争、か」

「遊矢。バトル・シティでお前は、オベリスク・フォースのデュエルを見たはずだ」

「ああ。遊星さんが戦ってたな」

 

 遊矢は既に見ていた。柚子と共に。ユートと共に。

 バトル・シティの参加者であのデュエルを知らない者はいないだろう。

 優勝候補NO.1のDホイーラー、不動遊星。彼のエースモンスター《スターダスト・ドラゴン》が初めて召喚された試合だったからだ。

 

「きっと隼もあのデュエルを見ていたはずだ。だから、俺はもう一度隼に会う。

 遊矢、一度だけでいい。俺に身体を貸してくれ」

「身体を?」

「ああ。姿まで変えることはできないが、隼なら俺だと分かってくれるはずだ」

「……黒咲と会って、どうするつもりなんだ」

「決まっている。これから始まる戦争に備えて、準備を整える」

「準備を整えて、それでどうするんだ」

「……遊矢?」

 

 彼は、不動遊星とオベリスク・フォースのデュエルを思い出していた。

 印象的な仮面と融合召喚。挑発的な態度。確かにあの男は、スタンダード次元にやってきたオベリスク・フォース達と似ていた。

 ――だが同時に、遊矢は違和感も感じていた。

 あの試合でのオベリスク・フォースは、デュエルを“狩り”ではなく“強者との戦い”として楽しんでいたのではないのか――と。

 

「……ユート。お前には遊星さんと戦っていた男が……オベリスク・フォースが敵に見えたのか?」

「当然だ。オベリスク・フォースはエクシーズ次元を滅ぼした俺達の敵だ。

 あの悲劇を二度と繰り返させるわけにはいかない。レジスタンスの仲間はいないが、今はランサーズがいる。今度は準備を整えて、奴等を――オベリスク・フォース、を――」

「ユート……?」

 

 ドクン、と禍々しい鼓動。

 それはユートを中心に空間全体を震わせ、身体を共有している遊矢も感じ取れた。

 

「っ――!?」

 

 ユートは胸――心臓を押さえ、苦しみだす。

 鼓動はより早く。廃墟と化したハートランドは、蜃気楼のように揺らぎ始めた。

 

「なんだこれ……ユート、大丈夫か!?」

 

 あからさまな異常を感じ、遊矢がユートの元へ駆け寄った、その時。

 

『――オベリスク・フォースを、殲滅する』

「え?」

 

 ユートの瞳が鈍く光る。さながら刃の如く。

 その眼力に、遊矢は思わず足を止めた。

 ――覚えている。スタンダード次元でユートとユーゴがデュエルをした、あの時の目。我を失い、暴走し、ユートと同化するきっかけとなった姿。

 

「寄越せ。その身体を」

「ユート……?」

「寄越せと言っている!」

 

 ユートが地面を踏みしめた瞬間、黒い衝撃波が遊矢を弾き飛ばした。

 虚ろだったユートの瞳に、禍々しい光が灯る。

 破壊を楽しむ覇王の眼。オベリスク・フォースなどより、よほど凶悪で危険な力。

 

「っ……ユー、ト?」

「デュエルだ、遊矢。俺が勝てばその身体を貰う」

「デュエルだって……!? おい、どうしたんだユート!」

「どうもしていない。じき、シンクロ次元にもオベリスク・フォースが襲来する。奴等を俺に殲滅させろと言っているんだ」

「殲滅……!? 何を言ってるんだ! どうしてお前がそんなこと――」

「心配しなくていい。俺の敵は融合次元だけだ。柊柚子にも、不動遊星にも手は出さない。それは約束する」

「そういうことを言ってるんじゃない! 本当にどうしたんだよユート……急に殲滅なんて、お前らしくないじゃないか!」

「これが俺の本性だ。融合次元に故郷を壊され、仲間はカードにされ……そして、瑠璃を攫われた。俺の心の中は、無念と憎しみで溢れかえっている」

「無念と、憎しみ……?」

「これが最後だ。遊矢、その身体を貸せ。断るのなら、力ずくで奪い取る」

 

 その問答を最後に、ユートはデュエルディスクを展開した。

 彼の瞳からは、普段は感じられない荒々しい狂気が感じられた。

 全てを破壊するまで、その勢いは止まらない。オベリスク・フォースを殲滅しても、次の獲物を求めて彷徨うだけだろう。

 

「くっ――!」

 

 遊矢もまた、決死の覚悟でディスクを構える。

 彼とてみすみすユートに身体を渡す気はない。何より、今のユートの在り方は気に入らない。

 

「遊矢……何故拒む。お前達に危害を加えるつもりはない」

「決まってるだろ。

 ユート。お前がどれほど融合次元を憎んでいるかは知らない。それでも、確実に言えることが一つだけある。

 怒り。憎しみ。そんな力は間違ってる! ましてや殲滅なんて、考えるまでもない!」

「――いいだろう。ならば押し通るまで。行くぞ!」

 

 

「「決闘(デュエル)――!!」」

 

 

 ◆

 

 

 ユート

 LP:4000

 

 遊矢

 LP:4000

 

「先行は貰う! 俺は《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》を召喚!」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》

 星3/闇属性/戦士族/攻 800/守1000

 

 誇りを被った漆黒のローブに、怨念の魂が宿る。

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)》は、何度倒されても立ち上がる不屈の戦士。しかし今回ばかりは、相手を滅ぼすまで何度も蘇る死体(グール)に見えた。

 

「自分フィールドに《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)》が存在する時、《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》は特殊召喚できる!」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》

 星3/闇属性/戦士族/攻 200/守1200

 

 ボロボロになったブーツに霊魂が宿り、意思を持って動き出す。

 ――レベル3モンスターが二体。ユートのデッキは、同レベルモンスターが複数揃った状況でこそ真価を発揮する。

 

「俺は、レベル3のダスティローブと、サイレントブーツでオーバーレイ!

 戦場に倒れし騎士たちの魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!

 ――エクシーズ召喚! 現れろ、ランク3! 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ブレイクソード》!」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ブレイクソード》

 ランク3/闇属性/戦士族/攻2000/守1000

 

 切っ先が欠けた大剣を黒い鎧のケンタウロスが背負う。

 肉体は既にない。成仏できない霊が、欠けた武具に取り憑いているかのようだ。

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン! 俺はスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 遊矢の両サイドに二体の《魔術師》が並び、天空へ浮上する。

 暗闇がかった空に、ペンデュラムの光が灯った。

 ユートがエクシーズならば、遊矢はペンデュラム。各々、自分の得意とする召喚法を武器に立ち向かおうとする。

 

「甘い」

「何……?」

 

 ――けれど、今回ばかりはユートが一枚上。

 

「速攻魔法《ツインツイスター》! 手札を一枚墓地に送り、魔法(マジック)(トラップ)カードを二枚破壊する! これにより《星読みの魔術師》、《時読みの魔術師》を破壊!」

 

 二つの竜巻が二体の魔術師を葬る。空に描かれた光は消え、再びハートランドは雲に覆われた。

 

「ペンデュラム召喚。二体以上の上級モンスターを同時に呼べる召喚法。だがその弱点は、召喚の際に必要なスケールが無防備になること。

 遊矢、お前の戦術は誰よりも俺が知っている。お前に俺は倒せない」

「っ……そんなのは、やってみなきゃ分からない! 俺は《EM(エンタメイト)ロングフォーン・ブル》を召喚!」

 

 《EM(エンタメイト)ロングフォーン・ブル》

 星4/地属性/獣族/攻1600/守1200

 

 遊矢の場に小型の牛モンスターが召喚される。

 ロングホーンとロングフォン。尻尾はコンセントとなっており、頭よりも大きな受話器が角替わりとなっている。

 

「そして、《EM(エンタメイト)》と名のつくモンスターの召喚に成功した時、《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》は手札から特殊召喚できる!」

 

 《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》

 星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1200

 

 続いて召喚されたのは、受話器と杖を持ったプリンセス。

 これで遊矢のフィールドには、レベル4モンスターが二体。下準備は整ったといえるだろう。

 ……もしこれが、普段の彼のデュエルだったなら。

 

「レベル4のモンスターが二体。ダーク・リベリオンを召喚するつもりか」

「そうだ、ユート。お前のドラゴンの力で、目を覚まさせてやる!」

「残念だが、それは叶わないな」

「何!?」

「エクストラデッキをよく見ろ」

「え……?」

 

 ユートに言われるがまま、遊矢は自身のエクストラデッキを確認した。

 先ほど破壊された《星読みの魔術師》と《時読みの魔術師》。数体の融合、シンクロモンスター。

 ――それだけだった。その中には、ダーク・リベリオンが入っていない。

 

「ダーク・リベリオンが――ない?」

「忘れたのか。ダーク・リベリオンは元々俺のドラゴンだ。お前には使いこなせない」

「っ……!」

 

 遊矢は勘違いしていた。何度も使う内にダーク・リベリオン、ひいてはユートのことを、新しい相棒だと思っていたのだ。

 ――この程度の怒りすら、共感できないのに。

 

「……俺は、カードを一枚伏せてターンエンド」

「俺のターン! それほど会いたいのなら会わせてやる。お前が望むドラゴンに。

 (トラップ)発動! 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シェード・ブリガンダイン》! このカードは発動後モンスターカードとなり、自分フィールドに特殊召喚される!」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シェード・ブリガンダイン》

 星4/闇属性/戦士族/攻 0/守 300

 

「そして、《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)フラジャイルアーマー》を召喚!」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)フラジャイルアーマー》

 星4/闇属性/戦士族/攻1000/守2000

 

 二種類の鎧が出現し、亡霊が宿る。

 これらは素材。次なる一手、竜のための贄だ。

 

「行くぞ遊矢! レベル4のシェード・ブリガンダインと、フラジャイルアーマーでオーバーレイ!

 漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今降臨せよ!

 ――エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

 ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 鋼の翼、顎には逆鱗の牙。ユートのエースモンスターたる漆黒の竜が降臨した。

 鈍い眼光が遊矢を捉える。仲間だった時はあれほど頼もしかったはずなのに――今の遊矢には、とても恐ろしく見えた。

 

「ダーク・リベリオンのモンスター効果発動! オーバーレイ・ユニットを二つ使い、相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、その攻撃力をダーク・リベリオンに加える! “トリーズン・ディスチャージ”!」

 

 竜の翼から雷撃が発せられ、ロングフォーン・ブルは絶叫する。

 攻撃と吸収。弱者から力を搾取し、反逆の牙は更なる力を得る。

 

 《EM(エンタメイト)ロングフォーン・ブル》

 攻1600 → 攻800

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

 攻2500 → 攻3300

 

「ロングフォーン・ブル……!」

「バトルだ! まずはブレイクソードで、ヘルプリンセスを攻撃!」

 

 一刀両断。欠けているにも関わらず、ブレイクソードの大剣はヘルプリンセスを切り裂いた。

 遊矢のライフが削られる。そして――

 

 遊矢

 LP:4000 → LP:3200

 

 ――まだ、本命が残っている。

 

「くっ――!!」

「行け、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》! 《EM(エンタメイト)ロングフォーン・ブル》を攻撃! “反逆のライトニングディスオベイ”!」

 

 紫電を纏った竜のアギトがロングフォーン・ブルを貫く。

 その勢いを殺しきれず、遊矢は玩具のように吹き飛ばされた。

 

 遊矢

 LP:3200 → LP:700

 

「ぐ――がは……!」

 

 地面に背中を打ち付け、肺に溜まった空気が吐き出される。

 だが――身体に激痛を受けながらも、遊矢の頭はひどく冷静だった。

 この牙はユートの魂そのもの。一見冷静に見えるその裏側には、オベリスク・フォースに対する怒りで溢れている。

 

「これで分かっただろう、遊矢。お前では俺には勝てない。用が終われば体は返す。これ以上お前を傷つけるのは、俺の本意ではない」

「……そうやって、俺を揺さぶって……っ、身体を、乗っ取ろうって考えてるんだろ? オベリスク・フォースを殲滅するために」

「襲われたから反逆する。それの何が悪い」

「悪いに決まってるだろ! そんなことしてたら、いつまで経っても終わらない!

 憎しみは更なる憎しみを呼ぶ。どちらかが完全に滅ぶまで、争いは決して止まらないんだ!」

「戦いとは、戦争とはそういうものだ。俺達レジスタンスはいつか融合次元を侵略し、殲滅する。そして必ず、この手に瑠璃を連れ戻す!」

「どうしてそこまで殲滅にこだわるんだ! 瑠璃を連れ戻すなら、それだけで十分だろう!」

「それだけでは意味がない。何故ならお前の言ったとおり、いつまで経っても終わらないからだ。一度奪い返したところで、奴等はまた襲ってくる。瑠璃を攫うために。だから、完膚なきまでに滅ぼさなければならない」

「……なんだよ、それ。そんなの、ユートらしくない。

 お前はそのドラゴンを俺に託した時、言ってくれただろう? “デュエルで皆に笑顔を”って。あの時のお前は何処に行ったんだよ!」

「あれは俺が忘れた夢だ。オベリスク・フォースに襲われる前、ハートランドで目指していた俺のデュエル。

 ……そうだ。俺もまた、ある意味でのエンタメを目指していたんだ。俺のデュエルで、誰かを笑顔にできたらと。

 だが、それは不可能だった。オベリスク・フォースの存在が何よりの証明! いつだってこの世の何処かには、滅ぼすべき悪が存在する! 奴等を倒さない限り、エクシーズ次元に笑顔は訪れない!」

「――そうか。分かったよ、ユート」

 

 ユートの言は正しいように見える。いや実際、世間一般的には正しいのかもしれない。人間の悪性はどうあってもなくなることはない。それこそ、人類がまるごと滅ばない限りは。

 “やられたらやり返す”。どちらかが折れるまで連鎖は終わらない。これを断ち切るには、全く無関係の第三者が止めに入るしかない。

 第三者――ああ、それならここにいる。遊矢は覚悟を新たに、ユートの前に立ち塞がった。

 

「だったら、俺が思い出させてやる。デュエルに秘められた可能性ってやつを!」

「……結局はこうなるか。

 デュエルを続行する。俺はこれでターンエンド」

「俺のターン!

 魔法(マジック)カード《死者蘇生》を発動! 墓地からモンスターを一体特殊召喚する! 甦れ、ロングフォーン・ブル!」

 

 《EM(エンタメイト)ロングフォーン・ブル》

 星4/地属性/獣族/攻1600/守1200

 

「この瞬間、ロングフォーン・ブルの効果発動! 特殊召喚に成功した時、デッキからペンデュラムモンスター以外の《EM(エンタメイト)》を一体、手札に加える!」

「ペンデュラム以外だと?」

「そうだ! これにより、《EM(エンタメイト)スライハンド・マジシャン》を手札に加える!」

 

 ユートは眉を潜める。彼のデッキがエクシーズならば、遊矢のデッキはペンデュラム。仮にエクシーズが使えなくなったとしても、軸となる部分は変わらないはずなのだ。

 

「“何をする気か分からない”……そう言いたそうだな、ユート」

「……そうだな。俺にはお前が何を考えているのか、全く分からない」

 

 ――何故俺を遮るのか。それがユートの疑問だった。

 遊矢とユートは同化している。ユートの中の憎しみなど、わざわざ口にしなくても分かっているはずなのだ。

 大切なものを奪われる苦しさと虚しさ。胸にぽっかり空いた穴の空虚さ。そこから湧き上がる憎しみ。そして、それをぶつけていい相手がいる。

 そこまで理解した上でなお、遊矢はユートの前に立っている――。

 

「スライハンド・マジシャンは、ペンデュラムモンスター以外の《EM(エンタメイト)》をリリースすることで、手札から特殊召喚できる!

 ロングフォーン・ブルをリリース! 現れろ、《EM(エンタメイト)スライハンド・マジシャン》!」

 

 遊矢のフィールドに人間大のクリスタルが現れ、赤い衣装がそれを包み込む。

 ただの結晶に過ぎなかったそれは、みるみるうちに人間を象っていく。

 ――結晶の下半身と、手品師の上半身。スライハンド・マジシャンは杖を構え、黒竜・黒騎士と相対する。

 

 《EM(エンタメイト)スライハンド・マジシャン》

 星7/光属性/魔法使い族/攻2500/守2000

 

「攻撃力2500。それで倒せるのはブレイクソードまでだ。ダーク・リベリオンには届かない」

「いーや、お楽しみはこれからさ。ここで、スライハンド・マジシャンの効果発動! 一ターンに一度、手札を一枚捨てることで、表側表示のカードを一枚破壊する!

 これにより、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を破壊する!」

「何っ……!」

 

 スライハンド・マジシャンが指を鳴らした瞬間、竜の全身が赤い布に包まれた。

 竜は抵抗するが、布は破れない。最後に手品師が杖を振ると、竜は布ごと粒子となって砕け散った。

 

「ダーク・リベリオンが破壊されただと……!」

「まだ俺のターンは終わっていない! 行け、スライハンド・マジシャン! ブレイクソードを攻撃!」

 

 手品師の杖から光弾が放たれ、黒騎士が破壊される。

 最後の一体がやられ、ユートのエクシーズモンスターは全滅。ライフこそ差はあれど、遊矢はこの一ターンで戦況をひっくり返したのだ。

 

 ユート

 LP:4000 → LP:3500

 

「くっ……この瞬間、ブレイクソードの効果発動! エクシーズ召喚されたこのモンスターが破壊された時、墓地から同レベルの《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)》二体を特殊召喚できる!

 ダスティローブ、サイレントブーツを特殊召喚!」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》

 星3/闇属性/戦士族/攻 800/守1000

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》

 星3/闇属性/戦士族/攻 200/守1200

 

「ブレイクソードの効果で特殊召喚された二体は、レベルが一つ上がる!」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》

 星3 → 星4

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》

 星3 → 星4

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)》達のレベル上昇。普段のユートならば、ここからダーク・リベリオンに繋げ反撃に出るだろう。

 しかし、肝心のドラゴンは既に墓地だ。準備は整っても本命がいない。

 

「ユート、これがデュエルの可能性だ。どんなに絶望的な状況でも、たった一枚のカードで変えられる。俺はこの力で、皆を笑顔にしてみせる。

 スタンダード次元の皆は勿論、シンクロ次元も、エクシーズ次元も……そして、融合次元もだ」

「融合次元も、だと?」

「そうだ。俺はランサーズの一員としてオベリスク・フォースと戦う。だけど、それは殲滅するためじゃない。争いを止めるために……皆を笑顔にするために、俺は戦うんだ」

「……お前は、本気でそう思っているのか? ジャック・アトラスと戦ったお前なら気づいているはずだ。そんなこと、できるはずがないと」

 

 皆を笑顔にすることなど、できるはずがない。

 仮に融合次元が侵略を止め、四つの次元が平和になったとしても、やはり恨みは残る。

 恨みは更なる恨みを作り、やがて争いへ発展する。これを収めても、残された恨みが再び争いを作る。

 絶対に終わらない無限地獄。争いの根絶は不可能なのだ。それはジャック・アトラスとて同じ。表に出てこないだけで、彼を恨む人間は山のようにいる。

 

 つまるところ――誰かを笑顔にしたいのなら、取捨選択は逃れられない。

 

「……分かってる。そんなことは」

「なんだと――?」

 

 遊矢は、胸を張ってユートを――その奥にいる()()を見据えた。

 

「……どうしてそこまで笑顔にこだわる。どうしてそこまで誰かを救おうとする」

「別に、大した理由じゃない。

 ……俺は昔、父さんのことで苛められててさ。その度にイヤってほど泣かされて――その度に、色んな人に助けられたんだ。だから、俺もそうしたいだけ。

 誰かの涙を拭くことができる。それって、凄くカッコイイと思わないか?」

『――笑わせる。独善的にも程がある。誰かを笑顔にする自分が可愛い。遊矢、お前はそう言ってるんだぞ』

「そうだな、大体合ってるよ。けど、それって悪いことじゃないだろ?

 皆幸せそうに笑っていて、それ以上に俺が一番笑う。それこそが、俺が目指すエンターテイメントだ。

 ――だから失せろ。もう二度と、お前に身体は渡さない」

『何っ――!?』

 

 ユートに乗り移った“誰か”が後ずさりした。

 その様子を見て遊矢は確信する。目の前にいるこの少年は、ユート本人ではないことを。

 

『貴様……』

「ミエルが言ってたよ。俺の中には、ユートの他にもう一人誰かがいるって。

 ……ユートに何したんだ。あいつは普段、ここまで怒りを露わにしない」

『そこまで大層なことはしていない。オベリスク・フォースを見て燻り始めた“怒り”に薪を入れただけだ』

「ユートを操ってデュエルさせて、俺の身体を乗っ取ろうとしたのか」

『操る? 違うな。この怒り自体はこの男のもの。我は背中を押しただけに過ぎん』

「なんでもいいよ。とにかくユートから離れてくれ。俺はお前に身体を渡す気はない」

『それは断る。まだデュエルは終わっていない。我を剥がしたいのならば、それだけの力を示してみろ』

「そうか……ならこのデュエルで、俺がお前を追い払ってやる! ターンエンドだ!」

「――俺の、ターン!」

 

 ドローフェイズ。ユートの引いたカードが漆黒に染まった。

 憎しみや怒り。そういった負の感情から生まれた暴力の結晶。ユートのデッキに元から入っていたのか、それとも乗り移った“誰か”に仕組まれたカードなのかは不明だ。

 だが、それが如何に凶悪なモノか、相対する遊矢は感じることができた。

 

「俺は《RUM(ランクアップマジック)-リベリオン・フォース》を発動! 自分フィールドのモンスターを素材に、墓地から最もランクが高いエクシーズモンスターを、エクシーズ召喚扱いとして特殊召喚する!」

「墓地からエクシーズ召喚だって!?」

「俺は、レベル4となったダスティローブと、サイレントブーツでオーバーレイ!

 漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今降臨せよ!

 ――エクシーズ召喚! 復活せよ、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

 ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 墓場より逆鱗の竜が蘇生する。

 だが、《RUM(ランクアップマジック)-リベリオン・フォース》の真の力はここからである。

 ――オーバーレイネットワークの再構築。上空に暗い渦が現れ、召喚されたダーク・リベリオンがその中心へ向かう。

 

「なんだ……!?」

「リベリオン・フォースの効果発動! この効果で特殊召喚したエクシーズモンスターを、さらにランクが三つ高いエクシーズモンスターへとランクアップさせる!

 俺は《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で、再びオーバーレイ!」

 

 ランクアップ。それはエクシーズ召喚の第二ステージ。黒竜は姿を変え、逆鱗の牙はさらに研ぎ澄まされる。

 

「二色の眼の龍よ! その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!

 ランクアップ、エクシーズチェンジ! いでよ、ランク7! 怒りの(まなこ)輝けし龍! 《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》!」

 

 《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》

 ランク7/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

 

 機械的な八つの翼。下顎から伸びる一対の牙。そして二色の眼――オッドアイ。

 ダーク・リベリオンよりも一回り、二回りも大きい黒竜が、ユートの元に降り立った。

 

「覇王、黒竜――」

 

 肌を刺す圧力が遊矢を襲う。

 かつては従えた怒りの竜。それが今は敵としてそびえ立ち、遊矢の全てを奪おうとしている。

 

「オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンの効果発動! エクシーズモンスターを素材として召喚した時、相手フィールドのレベル7以下のモンスターを全て破壊し、一体につき1000ポイントのダメージを与える!

 全てを壊せ! “オーバーロード・ハウリング”!」

「くっ――カウンター(トラップ)発動、《ダメージ・ポラリライザー》! ダメージを与える効果が発動した時、その発動と効果を無効にする!」

 

 黒龍が咆哮し、揺らいでいたハートランドの景色がかき消される。

 遊矢とスライハンド・マジシャンの周囲に(トラップ)のバリアに張られ、衝撃波を防ぎ切った。

 ――そして、残されたのは闇。足場さえ不確かな暗黒の世界だった。

 

「……《ダメージ・ポラリライザー》の効果で、互いのプレイヤーは一枚ドローする」

「凌いだか。だが、その手品師には消えてもらう。

 行け、《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》! 《EM(エンタメイト)スライハンド・マジシャン》を攻撃! “反旗の逆鱗――ストライク・ディスオベイ”!!」

 

 地面を抉りながら突進し、逆鱗がスライハンド・マジシャンを刺し貫いた。

 その巨体に押され、遊矢は再び吹き飛ばされる。不確かな地面を激しく転がり、そして沈んでいく。

 

 遊矢

 LP:700 → LP:200

 

「ターンエンド。

 ……諦めろ。ここでお前を消すのは、()もまた本意ではない。目障りではあるが、今は大切な器でもあるのだからな」

「――――だ」

「何?」

 

 暴力の一撃を受け、傷つき、追い込まれた。

 ――それでも、遊矢は立つ。

 ふらつきながらも、手を付きながらも、無様に立ち上がろうとする。

 

「……まだだ。まだ、デュエルは終わっていない」

「終わっている。今のお前に勝利はない。初めから分かっていたことだ」

「分からないさ。だってこれは、デュエルなんだから」

 

 最後の一息。歯を食いしばり、腹に力を入れて、地面を踏みしめて――長い時間をかけて、ようやく立ち上がった。

 体力も精神も既に限界だ。それでも立つのは遊矢の意地。自分が信じるデュエルを貫くためだ。

 

「……俺の、ターン」

 

 遊矢はデッキの上に指を置く。

 フィールドにカードはなく、手札は残り一枚――《ダメージ・ポラリライザー》でドローしたペンデュラムモンスター、《EM(エンタメイト)ギタートル》。

 スケール6、レベル1の弱小モンスター。とても覇王黒竜には太刀打ちできない。

 

降参(サレンダー)するなら今のうちだ。その場合は身体を貰うが……魂は、この中に残しておく」

「しない。降参(サレンダー)はしない。

 ……見てろ。このドローで、俺の劣勢を変えてやる」

「ならば仕方がない。お前を一度ここで倒し、その後は心の奥底で眠りについてもらう。明日からは、俺が榊遊矢を演じよう」

「それはどうかな……お楽しみは、これからだ。

 俺のターン、ドロー!」

 

 ――引いたカードは《EM(エンタメイト)オッドアイズ・ユニコーン》。

 こちらもレベル1だが、スケールは8。これで遊矢はもう一度チャンスを得た。

 

「俺は、スケール6の《EM(エンタメイト)ギタートル》と、スケール8の《EM(エンタメイト)オッドアイズ・ユニコーン》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 左にはギターと(タートル)を掛けた楽器のEM(エンタメイト)

 右には二色の眼を持つ小さな幻獣。

 その中心にはペンデュラムの光。光はまるで太陽のように、闇に覆われた世界を照らし出す。

 

「これで、レベル7のモンスターが同時に召喚可能!」

「だが、今のお前の手札はゼロ。エクストラデッキにはレベル3、レベル5の《魔術師》のみ。条件は揃っても、召喚できるモンスターはいない!」

「いや! ここでギタートルのペンデュラム効果を発動! 対となるペンデュラムゾーンに《EM(エンタメイト)》を発動した時、カードを一枚ドローできる!

 ……俺は、このドローに全てをかける!」

「レベル7のモンスター……あのドラゴンを引き当てるつもりか」

「ああ。お前だけには、絶対に負けるわけにはいかない」

 

 覇王黒竜の力は、ほかならぬ遊矢自身が生み出した力だ。

 だからこそ誰よりも、彼自身がそれを否定する。

 

「ッ……ドロー!」

 

 祈りと想いを込めて、遊矢はカードを引く。

 

 ――それは、もしかしたら必然だったのかもしれない。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!」

 

 振り子が揺れる。

 光の軌道は楕円を描き、召喚ゲートを穿つ。

 

「ペンデュラム召喚! いでよ、雄々しくも美しく輝く二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 天空より一体の竜が現れる。

 赤と緑のオッドアイ。赤い体色。覇王黒竜と違って翼はなく、空も飛べない。

 それでも榊遊矢にとってこれ以上ない味方であり、長い間共に戦ってきた相棒だった。

 

「やはりエースモンスターを引き当てたか……!」

「ここで、墓地から(トラップ)カード《スキル・サクセサー》を発動! このカードを除外することで、自分のモンスターの攻撃力をエンドフェイズまで800アップさせる!」

「何!?

 ……そうか、あの時の――!」

 

 数ターン前の光景がフラッシュバックする。手札を一枚墓地に送り、ダーク・リベリオンを破壊したあの瞬間を。

 

「そうだ。これはスライハンド・マジシャンの効果で墓地に送ったカード。これでオッドアイズの攻撃力は、覇王黒竜を上回る!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻2500 → 攻3300

 

「くっ……遊矢ァ――!」

「よく聞けユート! いや、もう一人の俺。確かにユートが抱える憎しみは大きい。

 だが同時に、それらは脆い! そんなものいくら束ねたって、この俺を倒すことはできない! それを覚えておけ!」

 

 竜の瞳が標的を定める。

 打破すべきは心の闇。かつては呑まれた負の化身を、今度は真っ向から立ち向かう――!

 

「行け、オッドアイズ! 怒りの化身、覇王黒竜を打ち破れ!

 “螺旋のストライク・バースト”ォ――!!」

 

 オッドアイズが渾身のブレスを放つ。

 螺旋を描く紅のブレスは巨大な胴を貫き、覇王黒竜を見事撃破した――

 

 ――その景色を最後に、遊矢の意識は暗転した。

 

 

 ◆

 

 

 次に彼が目を覚ましたのは、自分に与えられた選手用の控え室だった。

 榊遊矢はジャック・アトラスとのエキシビション・マッチのために呼ばれた特別な選手だ。その待遇に見合った豪華な部屋があらかじめ用意されている。

 一人で使うには大きすぎるベッド。遊矢が横になっているその隣で、柚子は不安げに彼の顔を覗き込んでいた。

 

「遊矢。大丈夫?」

「柚子……なんでここに」

「覚えてない? 昨日、遊矢がこの部屋に誘ったんだよ。一人で使うには広いからって」

「……そう、だっけ」

 

 目眩を覚えつつ、遊矢は起き上がる。

 

「っ――」

 

 吐き気と頭痛。

 強烈な疲労が遊矢の全身を襲った。よく見ると全身汗まみれで、顔色も悪い。体調は絶不調と言っていいだろう。

 

「大丈夫? 遊矢、寝てる時すごくうなされてたよ。それにブレスレットも光りだして……私、少し怖かった」

「ああ……いや、心配ないよ。ちょっと夢を見てただけだから」

 

 遊矢はもう一度ベッドに倒れこむ。

 まだ時間は早い。もう少し眠りについても許されるだろう。

 

「遊矢?」

 

 柚子にとって、そんな遊矢の表情が不思議でならなかった。

 見るからに疲労困憊……けれど、少しだけ笑っていた。

 

「少し疲れた。俺はもう一回寝るよ、柚子。今度はいい夢が見れそうだ」

「……そっか。おやすみ、遊矢」

 




「汗まみれ(意味深)」とか一瞬でも考えた奴をデュエルで拘束せよ!


※2016.03.10
……実はユートが本気なら3ターン目で遊矢負けてるんだよね(後で気づいた)

1.ブレイクソードの効果でブレイクソード自身とヘルプリンセスを破壊。
2.ブレイクソードの効果でファントムナイツ二体召喚、二体を素材にダベリオンX召喚。ロングフォーン・ブルにトリーズン・ディスチャージ。
3.ダベリオンでロングフォーン・ブル攻撃(2500)、クラックヘルムでダイレクトアタック(1500)でジャスト4000。

……実はこれ、もう一人の遊矢(仮)がユートを完全に操りきれてなくて、ついプレイングが雑になってしまったのだ(後付け)

2016.03.11.デュエル修正。


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開戦・革命の隼

シナリオの都合で追加・変更される数々の設定……!
あと、いい加減ネタも切れてきた……!

今更かもしれませんが、以前書いたストーリーメモとは大分展開が異なります。


※注意、アニメオリジナルカードあり。
《古代の機械猟犬》
星3/地属性/機械族/攻 1000/守 1000
①:このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
②:1ターンに1度、相手フィールドにモンスターが存在する場合に発動できる。
相手に600ダメージを与える。
③:自分フィールドにこのカード以外の「古代の機械」モンスターが存在する場合に発動できる。
自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。


《古代の機械双頭猟犬》
星5/地属性/機械族/攻 1400/守 1000
「古代の機械猟犬」+「古代の機械猟犬」
①:このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
②:1ターンに1度、相手フィールドにモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。
そのモンスターにギア・アシッドカウンターを1つ置く(最大1つまで)。
この効果は相手ターンでも発動できる。
③:ギア・アシッドカウンターが置かれているモンスターが戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。
そのモンスターを破壊する。


《古代の破滅機械》
永続魔法
①:フィールドのモンスターが破壊された場合にこの効果を発動する。
破壊されたモンスターの攻撃力分のダメージをそのモンスターのコントローラーに与える。
②:このカードの発動後、次の自分のスタンバイフェイズにこのカードを破壊する。


2016.03.24.誤字脱字、ライフ計算修正。



 

「……ここがシンクロ次元。ネオ童実野シティか」

 

 長い夜が明け、人々が活動を始める頃。紫雲院素良はビルの屋上から街並みを見下ろしていた。

 デュエルを中心に栄えた都市。それは融合次元――デュエルアカデミアとて同じ。

 しかし、その街並みは完全に別物だ。兵士になることが義務付けられていた素良にとって、シンクロ次元にあるもの全てが刺激的だった。

 

「紫雲院素良」

 

 素良の後ろから、誰かが声を掛けた。

 小柄な素良と違ってガタイがいい。顔には大きな火傷の跡と、それを覆い隠す眼帯。エクシーズ次元での戦いで負った傷だ。

 

「バレット。僕に何か用?」

「じきバトル・シティの二日目が始まる。その前に我々の作戦を確認すべきだと思ってな」

「ふーん……作戦、ねえ」

 

 素良は飴玉を咥えつまらなそうに呟く。

 そのふてぶてしさにバレットは顔をしかめつつ、素良に作戦を告げる。

 

「我々に与えられた任務は柊柚子とセレナ様の確保。我々が先導してオベリスク・フォースを率い、障害となる決闘者(デュエリスト)を排除。そして、遅れて到着するユーリが二人を確保する」

「単純な役割分担じゃないか。大げさだよ、“作戦”なんて言い方は」

「大げさではない。スタンダードに潜伏していたデニスによると、今この次元には“ランサーズ”という組織がいる。今回の任務は、この組織の戦力を如何に削れるかが鍵となる。エクシーズ次元の時とは違うのだぞ」

「……ランサーズ、か」

 

 Lance Defence Soldiers。赤馬零児が結成した対融合次元の組織。彼らが目的とするセレナは、このランサーズに所属している。

 そして――榊遊矢もまた、この組織にいるのだ。

 

「ねえバレット。約束は覚えてるよね?」

「ああ。榊遊矢、だったな」

「そいつは僕の獲物だから、絶対に手は出さないでね。他の連中はいくらでもあげるから」

「それがお前の戦士としての矜持ならば。

 承知した。オベリスク・フォースにも邪魔はさせないと約束する」

「……そう。一応、礼は言っておくよ」

 

 素良は再び摩天楼を見下ろす。

 ランサーズのメンバーは全員“フレンドシップ・カップ”――バトル・シティに参加している。

 大会が開始される瞬間こそが戦いの始まり。開戦の時は、刻一刻と迫っている。

 

 

 ◆

 

 

『ネオ童実野シティの皆さん、長らくお待たせしました! 只今よりフレンドシップカップ二日目、バトル・シティを開催するぞぉぉぉ!!!!』

 

 とあるスタジアムから司会の荒々しい実況が響く。

 それに応じて観客席はヒートアップ。既に二日目だというのに、大会の熱は未だ冷めない。

 

『フィールド魔法《スピード・ワールド・ネオ》! セッート、オン!』

 

 ライディング・デュエル専用のフィールド魔法が発動すると共に、ネオ童実野シティは変貌する。

 一般道路同士が分離、連結を繰り返し、やがてライディング・デュエル専用のコースが幾つも生成された。

 

『ライディング・デュエル! アクセラレーション!』

 

 スタートの合図と同時に、Dホイーラー達はアクセルを鳴らし疾走する。

 ある者は、自分の力を試すため。

 ある者は、ジャック・アトラスとデュエルするため。

 ネオ童実野シティは再び修羅の街、バトル・シティへと変貌する。

 

「……時間だ」

 

 ――そして、それは開戦の合図でもあった。

 座して待機していたバレットが立ち上がった瞬間、緩んでいた空気が引き締まる。

 

「情報によると、この次元にはセキュリティなるデュエル組織がある。あちらの部隊にはセキュリティとデュエルを行ってもらい、市民の注意を惹く。その隙に、我ら歩兵部隊がランサーズと接触する。

 誰でもよい。ランサーズのメンバーを一人でも倒したグループには、相応の勲章を与えよう。

 ――では行くぞ。これより、シンクロ次元の侵略を開始する」

 

 オベリスク・フォースを引き連れて、バレットは街へと繰り出した。

 彼らの任務は敵勢力の注意を引きつけることだ。柊柚子とセレナの確保はあくまでユーリに与えられた任務であり、バレット達がそこに深く関与する必要はない。平たく言ってしまえばバレット達オベリスク・フォースは、ランサーズの誰かと適当にデュエルするだけで任務を達成できるのだ。

 だが、彼らはそれだけで終わるつもりはなかった。

 

 バレットがこの任務に参加した理由は二つ。

 一つ目は名誉挽回。元々バレットは融合次元のデュエル戦士として優秀だった。しかし以前、スタンダード次元にて赤馬零王の息子・赤馬零児に敗北し、セレナをランサーズに奪われたことでその「名誉」を失ったのだ。

 赤馬零児の実力はランサーズ最強。勝ち目が薄いのは当然であり、出会ってしまった時点でこの結果は仕方がないと赤馬零王は思っているのだが、そこは問題ではない。これは“赤馬零王(プロフェッサー)に貢献できなかった”ことに対する、バレットなりのリベンジなのである。

 そして二つ目。バレットにとってはこちらの方が重要だろう。

 すなわち勲章。勲章とは戦士の栄誉の証であり、自身が収めた功績の結晶。バレットはより優れた戦士となるべくこの任務を受けたのだ。

 

 以上の理由から、バレットは“注意を引きつける”程度で終わるつもりはなかった。

 バレットが自らに課した真の任務。それは、ランサーズを一人残らず倒すこと。以前敗北した赤馬零児とて例外ではない。

 そしてこの思いは、後ろに控えているオベリスク・フォース達も同様だった。彼らはバレットが選び抜いた野心溢れる戦士達。何かしらの功績を挙げることで仮面を脱ぎ、バレットや素良のように素顔を晒せる日を常日頃狙っている。

 

 だからこそオベリスク・フォースにとって、シンクロ次元の有様は想定外だった。

 

 バレットの目的はランサーズのみだが、オベリスク・フォースの目的は戦う相手だ。ランサーズであれシンクロ次元の決闘者(デュエリスト)であれ、倒せば功績となるのなら誰でもいい。

 しかし――侵略を開始して早十分。未だ決闘者(デュエリスト)は誰一人として見つかっていない。どこまで行ってもひたすらに無人だ。

 

「どういうことだ? スタジアムから声が聞こえる前は、確かに人がいたはず」

 

 バレットを先頭に、オベリスク・フォース達は周囲を警戒しながら街を歩く。

 天空を刺さんばかりにそびえ立つ摩天楼。ライディング・デュエル専用の高速道路。通行用の一般道路。他にもカフェやデパート、Dホイールの部品ショップ等等。

 人々の生活の跡はあちこちに見受けられる。しかし、この世界で暮らすべき人間が見当たらない。

 

「……ここまで人がいないのは不自然だ。シンクロ次元はどうなっている……?」

「何も不自然なことはない。貴様らが侵略に来ると分かっていれば、誰もが避難するだろうさ」

「!」

 

 進軍する融合次元の前に、一つの影が立ち塞がる。

 黒いロングコートとエクシーズ次元製のデュエルディスク。首元には赤いスカーフ。

 

「ほう。まさか、シンクロ次元でその顔を見るとはな」

 

 その男を、バレットはよく知っていた。

 エクシーズ次元にて一度戦った決闘者(デュエリスト)。黒咲瑠璃の兄。

 

「黒咲隼。エクシーズ次元の決闘者(デュエリスト)がいると聞いてはいたが、まさかお前だったとは。それで、今更負け犬が我々に何の用だ」

「フン……変わらんな、バレット。相変わらず、融合次元の決闘者(デュエリスト)はよく吠えるらしい。

 俺の記憶が確かなら、その潰れた左目は貴様が言う負け犬とやらにやられたのではなかったか?」

「――貴様」

「決着をつけるぞ、バレット。今の俺はあの時とは違う。一切の油断なく、完膚なきまでに貴様を叩きのめす!」

 

 黒咲は怒りの形相でデュエルディスクを展開した。

 融合次元の決闘者(デュエリスト)。ただそれだけで、黒咲にとっては倒すべき敵となる。

 ましてや相手はバレット。この男さえいなければ――黒咲隼がこの男を倒していれば――もしかしたら、瑠璃が攫われることはなかったかもしれない。

 

「くだらんな」

「なんだと……!」

 

 だがバレットからすれば、黒咲隼はただの負け犬である。たとえ決着はついていなくても、守るべきものを守れなかった時点で敗北に等しい。

 

「私が求めるのは名のある大将。今更エクシーズの残党を狩ったところでなんの勲章にもならん」

「逃げるつもりか!」

「翼をもがれた(ハヤブサ)に興味はないと言っている。貴様の相手はオベリスク・フォースがする。数の暴力で溺れるがいい」

「貴様――っ!」

 

 バレットは踵を返し、黒咲とは反対側へ立ち去っていった。

 黒咲は後を追おうとするが、オベリスク・フォースがそれを阻む。結局、バレットの姿が見えなくなるまで見送るしかなかった。

 

「……チッ」

「全く、やれやれだぜ。相変わらず隊長殿は頭が固いらしい」

 

 オベリスク・フォースの中から一人の男が先頭に歩み出た。

 顔を隠す青い仮面。そして、制服の上には青いロングコート。この集団のリーダー格であることは一目で分かるだろう。

 男は黒咲を吟味し、挑発的に笑う。

 

「……だがまあ、こいつはラッキーだ。

 黒咲隼。エクシーズの残党には違いないが、同時にランサーズの一員でもある。倒す価値がある獲物だ。たとえその実力が、どれほど低レベルであったとしても」

「貴様らの目は節穴か? バレット隊長とやらの目をやったのはこの俺だ。雑魚が何匹と群がったところで、所詮俺の敵ではない!

 時間が惜しい、そこをどけ!」

「そう慌てるなよ黒咲隼。今あいつを追いかけたところで、追いつくのは無理だ。それにここにいる連中は、以前貴様が戦ったオベリスク・フォースとはワケが違う。

 なにせ、バレット隊長殿が直々に選び抜いた戦士達だ。雑魚だと罵るのなら、せめてこいつらを殲滅してもらわないとな」

 

 男が合図を出すと、三人のオベリスク・フォースが前に出た。

 オベリスク・フォースが一対一で戦うことは殆どない。彼らは常に、複数対複数の戦いを想定して訓練を受けている。

 だが、その程度で黒咲は怯まない。ディスクを構え直し、オベリスク・フォースを迎え撃つ。

 

「……?」

 

 デュエル開始の直前、黒咲のディスクから通信音が鳴った。

 ランサーズのデュエルディスクは、どんな場所でも互いに連絡が取り合えるよう改造されている。

 ――通話相手は榊遊矢。黒咲はスイッチを押し、回線を繋げた。

 

『――さき! 黒咲! 聞こえるか、黒咲!』

「聞こえている。何の用だ」

『……オベリスク・フォースだ。あいつら、Dホイールに乗ってフレンドシップカップの参加者を襲おうとしてる。融合次元の侵略が始まったんだ』

「セキュリティはどうした」

『応戦してる。けど人数が足りない。今はMCの人が誤魔化してるけど、このままじゃ一般の参加者達も巻き込まれる。黒咲も手を貸してほしい』

「不可能だ。何故なら今、俺の目の前にもオベリスク・フォースがいる」

『え……? てことは、黒咲も戦ってるのか?』

「そういうことだ。デュエルが始まる。切るぞ」

『待ってくれ。黒咲が戦ってるなら、今からそっちに行く。場所は?』

「必要ない。お前が来ても邪魔になるだけだ」

『え――?』

「いい機会だから言わせてもらう。遊矢、お前は優しすぎる。そして傲慢だ。

 デュエルで皆を笑顔にする。借り物ではなく本心でそれを目指すお前には、戦争は向いていない」

『黒咲……?』

「だから守れ。俺のように敵を殲滅するのではなく、大切な誰かを守るために戦え。

 その時こそ、お前の中で眠る力は確固とした方向性を持ち、その力は、お前を屈強な戦士へと変えるはずだ」

『黒咲? 何を言ってるんだ……?』

「……以上だ。次会うときはハイウェイの上だ」

『な、黒さ――』

 

 遊矢の返事を待たずに、黒咲は回線を切った。

 その一部始終を見ていた男は、黒咲を嘲笑う。

 

「ッ――ハッハッハッハッハ! まさか応援を断るとはな。正気か? この人数を相手に一人で戦うと?」

「戦場において甘さは足枷になるからな。あいつが来たところで邪魔なだけだ。

 ――それに。言うまでもないことだが、俺は貴様らに負けるつもりはない。オベリスク・フォース、その全てを俺一人で殲滅してくれる!」

「ハッハ、よく言った。ならばデュエルだ! 勝負形式は三対一の五連戦。貴様がこいつらを殲滅するか、その前に貴様が果てるか。我慢比べといこうじゃないか!」

 

 

 ◆

 

 

「「決闘(デュエル)――!!」」

 

 黒咲

 LP:4000

 

 オベリスク・フォース①~③

 LP:4000

 

 掛け声と同時、四人のライフポイントが表示される。

 どのプレイヤーも数値は4000。どう考えても黒咲が圧倒的不利。

 だが本人からすれば些細なハンデだ。8000の差を物ともせず、黒咲は融合次元に立ち向かう。

 

「俺の先行!

 俺は《RR(レイド・ラプターズ)-バニシング・レイニアス》を召喚!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-バニシング・レイニアス》

 星4/闇属性/鳥獣族/攻1300/守1600

 

 黒咲のフィールドに一体の鳥獣族が召喚される。

 緑色の体色をした鳥獣。しかしその外見は鳥獣というより、鳥獣を象った機械である。

 

「バニシング・レイニアスの効果発動! このモンスターの召喚に成功したターン、手札からレベル4以下の《RR(レイド・ラプターズ)》を特殊召喚できる!

 これにより、二体目のバニシング・レイニアスを召喚!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)バニシング・レイニアス》

 星4/闇属性/鳥獣族/攻1300/守1600

 

「そして、レベル4のバニシング・レイニアス二体でオーバーレイ!」

 

 黒咲のフィールドに黒い渦が出現し、二体の鳥獣はその中心に集う。

 

「冥府の猛禽よ。闇の眼力で真実をあばき、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!

 ――エクシーズ召喚! 飛来せよ、ランク4! 《RR(レイド・ラプターズ)-フォース・ストリクス》!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-フォース・ストリクス》

 ランク4/闇属性/鳥獣族/攻 100/守2000

 

 ――フクロウを象る機械。あるいは、機械のようなフクロウ。

 素材となった二羽の魂はオーバーレイ・ユニットとして、フォース・ストリクスの周囲を円を描くように浮遊している。

 

「フォース・ストリクスの効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デッキからレベル4の闇属性・鳥獣族を一体手札に加える。

 更に、カードを二枚伏せてターンエンド」

 

 二枚のカードが伏せられ、黒咲のターンが終了する。

 先行のプレイヤーはドローすることができないが、相手より先に盤上を整えることができる。

 黒咲のフィールドには守備力2000のエクシーズモンスターが一体のみ。通常のデュエルならともかく、オベリスク・フォース三人を相手にするには少々心もとない。

 

「あれだけ大口を叩いた割には、守備モンスターが一体のみか。その程度の腕で俺達を雑魚呼ばわりするとはな」

「フン。一対一で戦う度胸もない貴様らが言うか」

「分かっていないようだな。我々オベリスク・フォースはバレット隊長やお前とは違う。我々は個ではなく全。戦士ではなく軍隊。一対一で戦う、という前提が既に間違いなのだ。オベリスク・フォースの戦いは常に蹂躙するか殲滅されるかの二択のみ」

「ならばさっさとターンを進めろ。直に俺が貴様らを殲滅してくれる」

「強がりを――俺のターン!

 俺は《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》を召喚!」

 

 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

 星3/地属性/機械族/攻1000/守1000

 

 オベリスク・フォースのシンボルと言うべき猟犬が召喚される。

 巨大な牙を持つ、機械仕掛けの猟犬。赤いモノアイが光り、黒咲を捉える。

 

「やはり《古代の機械(アンティーク・ギア)》か。進歩のない奴等だ」

「そういうことは俺達のターンが終わってから言うんだな。

 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》の効果発動! 相手フィールドにモンスターが存在する場合、一ターンに一度、相手に600ポイントのダメージを与える!」

 

 猟犬の口から火炎弾が発射され、黒咲の全身を焼く。

 

 黒咲

 LP:4000 → LP3400

 

「……フン」

「これで終わりだと思うなよ。

 魔法(マジック)カード《二重召喚(デュアル・サモン)》を発動! このターン、俺はもう一度通常召喚を行うことができる。

 二体目の《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》を召喚!」

 

 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

 星3/地属性/機械族/攻1000/守1000

 

「そして効果発動! もう一度、600のダメージを喰らえ!」

「チッ――」

 

 第二の火炎弾が放たれ、再び黒咲のライフを削る。

 

 黒咲

 LP:3400 → LP2800

 

「まだ俺のターンは終わっていない! 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》、第二の効果! 自分の場に他の《古代の機械(アンティーク・ギア)》が存在する時、融合モンスターによって決められた素材を手札・フィールドから墓地に送ることで、融合モンスターを召喚できる!

 俺は、フィールドの二体の《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》を融合!

 古の魂受け継がれし、機械仕掛けの猟犬達よ。 群れなして混じりあい、新たなる力と共に生まれ変わらん!

 ――融合召喚! 現れろ、レベル5! 《古代の機械(アンティーク・ギア・)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)》!」

 

 《古代の機械(アンティーク・ギア・)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)

 星5/地属性/機械族/攻1400/守1000

 

 二頭の猟犬が融合し、双頭の猟犬が召喚される。

 外見の変化は頭が一つ増えた程度。攻撃力もさほど変化はない。しかし、その効果はより攻撃的なものに変化している。

 

「最後に俺は永続魔法《古代の破滅機械(アンティーク・ギア・ハルマゲドン・ギア)》を発動。

 これでターンエンドだ」

 

 一人目のオベリスク・フォースのフィールドに、怪しげな機械が一つ現れた。

 複数の大砲を強引にひとまとめにしたような機械。砲身は360°全方位に設置されており、敵味方問わず危険な兵器だということがひと目でわかる。

 ――ともあれ、これで一人目のターンが終了した。そして。

 

「次は俺のターンだ」

 

 ――二人目のターンが回ってくる。

 

魔法(マジック)カード《二重召喚(デュアル・サモン)》を発動! このターン、俺は通常召喚を二回行うことができる。

 これにより、手札の二体の《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》を召喚!」

 

 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》×2

 星3/地属性/機械族/攻1000/守1000

 

 二人目のフィールドにもまた、二体の猟犬が現れた。

 黒咲は舌打ちする。オベリスク・フォースのデッキ構成は全く同じ。となれば、自ずと二人目・三人目のプレイは読めるだろう。

 

「ハウンドドッグの効果発動! 合計1200のダメージだ!」

 

 黒咲

 LP:2800 → LP1600

 

 第三、第四の火炎弾により、黒咲のライフが削られる。

 全く同じプレイング、全く同じ火力。オベリスク・フォースのデュエルには、およそ個性というものがない。

 

「《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》、効果発動! フィールドの二体のハウンドドッグを融合する!

 現れろ、レベル5! 《古代の機械(アンティーク・ギア・)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)》!」

 

 《古代の機械(アンティーク・ギア・)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)

 星5/地属性/機械族/攻1400/守1000

 

 効果ダメージに続き融合召喚。

 二体目のダブルバイト・ハウンドドッグが呼び出され、同じように黒咲を睨む。

 

「最後に俺は永続魔法、《古代の破滅機械(アンティーク・ギア・ハルマゲドン・ギア)》を発動。これでターンエンド」

「全く同じカードを使い、全く同じモンスターを召喚する。変わっていないな、何もかも。そんな戦術で俺を倒せると本気で思っているのか――?」

「口の減らないヤツだ。前のターンで、貴様の敗北は揺るがない決定的なものとなった。が、念のためだ。このターンでさらにライフを削ってやる。

 俺のターン! 《二重召喚(デュアル・サモン)》を発動! 再び《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》を二体召喚! そして、その効果を発動! 黒咲隼、貴様に1200のダメージだ!」

 

 《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》×2

 星3/地属性/機械族/攻1000/守1000

 

 三人目はターンの開始と同時、全く同じモンスターを召喚した。

 そして効果を発動。五発目、六発目の火炎が黒咲を撃ち抜く。

 

 黒咲

 LP:1600 → LP400

 

「そして、《古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)》第二の効果! フィールドのハウンドドッグ二体で融合召喚を行う!

 ――融合召喚。現れろ、レベル5! 《古代の機械(アンティーク・ギア・)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)》!」

 

 《古代の機械(アンティーク・ギア・)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)

 星5/地属性/機械族/攻1400/守1000

 

「最後に俺は永続魔法《古代の破滅機械(アンティーク・ギア・ハルマゲドン・ギア)》を発動。ターンを終了する」

 

 三人目のフィールドに大砲の塊が出現し、オベリスク・フォース達のターンがようやく終了した。

 これで二回目の黒咲のターン。しかし残りライフは僅か400。黒咲に次のターンは残されていない。

 ――だが、黒咲隼にとっては大した問題ではない。次のターンがないのなら、このターンで決めればいいだけのこと。

 

「さあ、お前のターンだ黒咲隼。尤も、お前は既に詰んでいるがな。

 フィールドにモンスターを召喚すれば、《古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)》の効果によりギア・アシッドカウンターが一つ置かれる。このカウンターが置かれたモンスターは攻撃する時、ダメージステップ時に破壊される。

 永続魔法《古代の破滅機械(アンティーク・ギア・ハルマゲドン・ギア)》は、モンスターが破壊された時、そのコントローラーに破壊されたモンスターの攻撃力分のダメージを与える。

 そして、お前のライフは残り400。つまり、攻撃力150以上のモンスターで攻撃を宣言した瞬間、お前は敗北する。攻撃しなければ次のターン、俺達の誰かが三体目のハウンドドッグを召喚し、600ポイントのダメージを与えるという寸法だ」

 

 オベリスク・フォース三人は勝利を確信し、黒咲を嘲笑う。どう足掻こうとこの包囲網を突破することは不可能。そう確信しているからだ。

 

「笑止」

「何?」

 

 それが、黒咲にとってひどく滑稽だった。

 ――バカバカしくて話にならない。

 

「今のデュエルを見て確信した。やはり貴様らには、その仮面を取る資格はない。名前を奪われたまま、ここで無様に朽ち果てるがいい!

 俺のターン! 《RUM(ランクアップマジック)-スキップ・フォース》を発動! このカードは、俺の《RR(レイド・ラプターズ)》エクシーズモンスターのランクを二つアップさせる!

 ランク4のフォース・ストリクスを素材に、オーバーレイ!」

 

 黒咲の元に再び黒い渦が現れ、漆黒のフクロウはその中心に吸い込まれた。

 直後、爆発と共に渦から炎が立ち登り、フクロウだったものが飛翔する。

 

「誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!

 ランクアップ・エクシーズチェンジ! 現れろ、ランク6! 《RR(レイド・ラプターズ)-レヴォリューション・ファルコン》!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-レヴォリューション・ファルコン》

 ランク6/闇属性/鳥獣族/攻2000/守3000

 

 爆炎の中から現れたのは、手足のない黒いハヤブサ。

 爆弾、火炎放射、光弾。複数の攻撃手段を兼ね備えた機械の鳥だ。フクロウは革命のハヤブサへと生まれ変わり、宿敵を殲滅するべく、その翼を翻す。

 

「馬鹿め! この瞬間、ダブルバイト・ハウンドドッグの効果発動! レヴォリューション・ファルコンにギア・アシッドカウンターを一つ置く!」

(トラップ)発動、《スキル・プリズナー》! このターン、自分フィールドのカード一枚を対象としたモンスター効果は無効となる!

 よってこのターン、レヴォリューション・ファルコンはギア・アシッドカウンターを受け付けない! その猟犬が何体いようともだ!」

「なんだと――!」

「さらに俺は、《RR(レイド・ラプターズ)-シンギング・レイニアス》を特殊召喚!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-シンギング・レイニアス》

 星4/闇属性/鳥獣族/攻 100/守 100

 

「このモンスターは自分フィールドにエクシーズモンスターが存在するとき、特殊召喚することができる!

 そしてこれをリリースすることにより、(トラップ)発動! 《ナイトメア・デーモンズ》! 三人目の貴様のフィールドに《ナイトメア・デーモン・トークン》を三体特殊召喚する!」

「俺のフィールドにだと?」

 

 《ナイトメア・デーモン・トークン》×3

 星6/闇属性/悪魔族/攻2000/守2000

 

 三人目のオベリスク・フォースのフィールドに、黒い影のトークンが三体召喚された。

 一体一体の攻撃力・守備力は2000と高め。オベリスク・フォースのデッキは《古代の機械(アンティーク・ギア)》で固められているため融合素材にはできないが、それでも純粋な攻撃役(アタッカー)として申し分ない。

 黒咲からすれば一見デメリットしかないように見える。しかしこれは的。このターンで三人一度に葬るための調整なのだ。

 

「血迷ったか。ハウンドドッグの唯一の弱点は、その攻撃力の低さにある。それをわざわざ補ってくれるとはな」

「それはどうかな。

 レヴォリューション・ファルコンは、特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃を行うことができる。そして、特殊召喚されたモンスターがレヴォリューション・ファルコンと戦闘を行う場合、攻撃力・守備力は0となる!」

「何っ!? 攻撃力を0にするだと……!」

「理解したようだな。貴様ら三人のフィールドにはそれぞれ《古代の破滅機械(アンティーク・ギア・ハルマゲドン・ギア)》が存在する。ダブルバイト・ハウンドドッグが破壊された時、貴様らはその攻撃力分のダメージを受ける。

 そして三人目のフィールドには、俺が特殊召喚した三体の《ナイトメア・デーモン・トークン》。すなわち、一人目は6200。二人目は4800。三人目は合計して11800のダメージを受ける!」

「6200!?」

「4800!?」

「11800!?」

 

 三人のオベリスク・フォースが後ずさりする。

 無理もない。合計ダメージは22800。600ずつチマチマと削っていた三人とは天と地ほどの差がある。

 

「行け、レヴォリューション・ファルコン! 革命の火に焼かれて、散れェ! “レヴォリューショナル・エアレイド”!!」

 

 命令を受け、レヴォリューション・ファルコンは天高く飛翔し、空襲を行った。

 爆弾の雨あられが地を這う猟犬達を襲い、その全てを殲滅する。

 狩人と獲物、その関係性が逆転した瞬間だった。

 

「うわぁああぁああ――――!!」

 

 オベリスク・フォース×3

 LP4000 → LP:0

 

 

 ◆

 

 

「ブラボーブラボー。流石は黒咲隼。見事な手前だった」

 

 パチパチと、男は黒咲の勝利を称えた。このオベリスク・フォースの集団のリーダー格の男だ。

 黒咲はその拍手に不快な表情を見せながら、ディスクを構え直す。

 

「おっと、まだ俺のターンは来てないぜ? こっちにはまだまだオベリスク・フォースがいるんだ。それとも、ギブアップでもするか?」

「フン……上等だ。オベリスク・フォース如きが何人いようと変わらない。

 さっさと次を出せ。全てを殲滅し尽くした後、貴様を倒してやる」

「その意気や良し。では次だ」

 

 男が合図を出すと、次の三人が黒咲の前に立ちはだかった。

 一度デュエルが終了したことでレヴォリューション・ファルコンが消滅し、黒咲は再度デッキをセットする。

 

「二回戦だ。精々足掻けよ、黒咲隼」

「貴様らの御託はいい加減聞き飽きた。

 行くぞ。早々に片を付けてやる……!」

 

 

「「決闘(デュエル)――!!」」

 

 

 ◆

 

 

 ――時は少し遡る。

 

「まさか、こんな形で捕まっちゃうとはねえ……」

 

 元ランサーズの一員、デニス・マックフィールドは、とある一室にて監禁されていた。

 扉や窓など、出口になりそうな箇所は全て鍵が掛かっている。外側からはともかく、内側から脱出することは不可能だろう。

 閉じ込められた理由は至極単純。要するに、バレたのだ。

 LDS所属の留学生、というのは仮の姿。デニス・マックフィールドの正体は、融合次元からスタンダード次元に送られてきた伏兵だったのだ。

 正体がバレたデニスは当然失格。連絡が取れないようデュエルディスクは取り上げられ、こうして部屋に捕まることになったのだが――

 

「けど、牢獄というには随分と豪勢だよねえここ」

 

 デニスは近くにあったリモコンのスイッチを押し、テレビを点けた。

 映ったのはバトルシティのデュエル映像。内容は前日のものである。

 ――そう、デニスが捕らえられたこの部屋は選手用の控え室。豪華なベッドにテレビ、テーブルなど、一般にイメージされる監獄とは全く似つかない。

 

「こうしてテレビも見れちゃうし、手足も縛らないなんて。社長は一体何考えてるんだか」

「俺が零児に頼んだんだよ」

 

 そう言いながら部屋に入ってきたのは榊遊矢。片手には丁寧に用意された食事がある。

 

「あれ、遊矢。どうしてここにいるのさ。バトルシティ、行かなくていいの?」

「今日は駄目だってさ。アカデミアの侵略が始まるかもしれないからそっちに備えろって、零児が」

「へえ、あの社長さんがねえ。融合次元の尖兵をランサーズに入れちゃったくせに、よく言うよね」

「そうかな? 俺が零児だったとしても、多分同じことをしたよ」

「――は?」

 

 遊矢の言った意味がすぐに理解できず、デニスは聞き返す。

 

「遊矢さあ。それ、どういう意味?」

「だから、仮に俺がリーダーだったとしても、デニスをランサーズに入れただろうなって。あぁそうだ、食事持ってきたからここに置いとくよ。後で俺か柚子が取りに来るからさ」

 

 デニスの疑問に答えながら、遊矢は食事を運ぶ。

 扉は開きっ放し。背中は隙だらけ。今の榊遊矢には、およそ警戒心というものが感じられない。

 それがデニスにとって最大の疑問であり、同時に不快でもあった。アカデミアであることがバレた以上、「デニス・マックフィールド」は「榊遊矢」にとって、敵以外の何者でもないはずなのに。

 

「君。もしかして馬鹿じゃない?」

「う……全く同じことを皆に言われたよ。特に黒咲なんか、いきなり殴りかかってきそうだったし」

「それが当たり前の反応だよ。僕たちは彼の故郷を滅茶苦茶にしたんだから。

 だから僕からすれば、遊矢の方が異常だ。どうしてもっと厳重に監視しないのさ」

 

 ゆらり、とデニスが動く。

 遊矢は気づいていないが、これは一種の戦闘態勢だ。遊矢が下手な動きを見せれば、その瞬間に一撃で沈められ、デニスは逃亡するだろう。

 

「アカデミアの戦士は身体能力の訓練も受けている。僕がその気になれば、今すぐここから逃げられる。そのまま柚子を攫って、アカデミアの侵略に加わることもできるんだ」

「それは困る。デニスは強いからな」

「分かってるじゃないか。じゃあどうして、僕を見逃すような態度を取るんだい?」

「見逃すつもりはないよ。だからこうして様子を見に来たんだし」

「っ――そういうことを言ってるんじゃない!」

「デニス……?」

 

 煮え切らない態度にデニスは苛立ち、ついに声を荒らげた。

 遊矢は驚いた反応を見せたものの、その余裕は変わらない。

 ――その、どこまでも落ちついた姿勢が、デニスをさらに苛立たせる。

 

「いいかい? 君からすれば僕は敵なんだ! ここで僕を逃がせばシンクロ次元が、ひいてはスタンダード次元が滅ぶかもしれない! なのに、どうして君はそこまで甘いんだ!」

「どうしてって言われてもな。だってデニス、デュエル好きだろう?」

「……は?」

 

 ノータイムで返ってきた短くすぎる答えに、デニスは絶句した。

 次の言葉がすぐに出てこなかったのは、それがあまりにも的確だったからだ。

 

「確かにデニスは融合次元のデュエリストかもしれない。でも、いつも全力でデュエルを楽しんでる。でないと、デニスから“エンタメ”なんて言葉が出てくるわけない。

 だからきっと、デュエルをすれば分かり合える。俺はそう信じてる」

「……はぁ。なにそれ。そんな不確かな理由で油断してるわけ?

 今の遊矢、誰がどう見てもガバガバだよ。融合次元の決闘者(デュエリスト)なら、僕じゃなくても逃げ出せる」

「それは……えっと、ごめん」

「……僕に謝られても困るんだけどね。

 じゃあさ。もしここで僕が“脱獄する”って言いだしたら、遊矢はどうするの?」

「勿論止めるよ。デュエルでね。デュエルディスクが必要なら、柚子から借りてくるけど」

「……へえ」

 

 デュエルで止める。そう言った遊矢の目は本気だった。

 デニスは融合次元。エクシーズ次元を滅ぼした兵士であり、黒咲とユートにとってはまごう事なき敵である。

 そんな相手に対して、遊矢はデュエルで分かり合えると本気で思っているのだ。

 

「――はぁ」

「デニス?」

「いや、いいよ。どっと疲れた。僕はここで大人しくバトルシティの映像でも見てるよ」

「本当にいいのか?」

「いいって。なんかアホらしくなってきたから。ここで君をカードにしたところで、後でランサーズに袋叩きにされるのは目に見えてるし」

「そっか。じゃあ、また――ん?」

 

 ピリリ、と遊矢のデュエルディスクから電子音が鳴る。

 通話相手は赤馬零児。零児からの初めての通信であったため、遊矢は慎重にスイッチを押し、回線を繋げた。

 

『聞こえるか、遊矢』

「ああ。えっと、何か用?」

『悪いがこちらは取り込んでいる。要件だけ伝えて切らせてもらう。遊矢はデュエルディスクでランサーズのメンバーにそれを知らせるんだ』

「分かった。それで、要件は?」

『アカデミアの侵略が始まった。以上だ』

 

 それだけ伝えられ、赤馬零児からの通話は切れた。

 ――開戦の狼煙は上がる。

 熱狂のフレンドシップ・カップ。その水面下で、戦争の幕が切って落とされたのだ。

 

「ランサーズは大変だねー。スタンダード次元の組織なのに、シンクロ次元の手助けをしなきゃいけないなんて」

「せっかくできた繋がりなんだし、大事にしないとな。それに、ランサーズが到着した頃には全て終わっていた、なんてオチはカッコ悪い」

「それもそうだね。そんなことを許しちゃったら、エンタメデュエリスト失格だ」

「あれ? デニスは融合次元なのに、俺を応援してくれるのか?」

「僕は監禁されてる身だからね。オベリスク・フォースがどうなろうと知ったことじゃない。何かしようにも何もできないのさ」

「それもそうか。じゃあ俺は行くけど、変な気は起こすなよ?」

「はいはい分かってますよ。行ってらっしゃい」

 

 デニスはヒラヒラと手を振り、遊矢を見送る。

 ――ガチャリ、と鍵の音。これで自力での脱出は不可能となった。

 遊矢の足音が聞こえなくなった後、デニスは窓越しに空を眺める。

 デニス・マックフィールドの実力は本物だ。オベリスク・フォースなどよりもよほど戦力として期待できる。よって間違いなく、融合次元の誰かがデニスを助けに来るだろう。デニスの脱出は半ば確定した事項なのだ。

 問題はその後。脱出するということは、ランサーズと敵対するということでもある。

 

「……あーあ。余計なことしなきゃよかったなぁ」

 

 デニスの心には、迷いが生じつつあった。

 




スターヴ・ヴェノムの効果はよ! エースモンスターの効果さえ判明すれば、デュエルが書ける!


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裏切り者

GXからとあるデュエリストがゲスト出演。
遊戯王シリーズは長く続いているけど、未だにこの人より好きなキャラは(あんまり)現れない。

ファイブディーズ要素が皆無だけど、元々ARC-Vメインだし大丈夫さ!(?)

※アニメ産のオリジナルカードが登場します。
 詳しくは後書き参照、ただしネタバレ注意。


2016.06.17.作中のプレミに対する補足を追記。
誰も突っ込まなかったことを自ら解説していくスタイル。



「行けェ! 《RR(レイド・ラプターズ)-ライズ・ファルコン》!

 全ての敵を引き裂け! “ブレイブクロー・レボリューション”!!」

 

 黒咲の指示を受け、ライズ・ファルコンは炎を纏い、天高く飛翔した。

 ライズ・ファルコンは隕石の如くオベリスク・フォースのフィールドに落下。特殊召喚されていたモンスター達は全て焼き尽くされ、4000近くあったライフポイントが一気に消滅した。

 

 “ワンターンスリーキル”。

 一度のバトルフェイズで三人を倒す離れ技をそう呼ぶ。これほどの技はキングであるジャック・アトラスですら難しいだろう。

 

 敗北したオベリスク・フォース達は、デュエルディスクに内蔵された次元転送装置によって、融合次元へと強制送還されていった。

 これで十五。黒咲はついに、全てのオベリスク・フォースを葬ったのだ。

 その戦いぶりには、リーダー格の男も驚きを隠せなかった。

 

「どうした、これで終わりか?」

「ハッハ、これは驚いた。まさか本当に一人でやってしまうとはな。こんな芸当ができる決闘者(デュエリスト)は、融合次元でも数える程しかいないだろう」

「つまらん賞賛はよせ。雑魚を何匹蹴散らしたところでなんの意味もない」

「それは過小評価というやつだ。雑魚を散らすのは容易いとお前は言うが、それができない決闘者(デュエリスト)は大勢いる。

 決闘と戦争は別物だ。一対一の決闘(デュエル)で強いからと言って、戦争でもそうとは限らない。逆もまた然り、だがな」

「だからなんだ。貴様、何が言いたい」

「分からんか? 要するに、貴様がいくらオベリスク・フォースを蹴散らせたところで、この俺様にも勝てるとは限らない、ということだ。将の強さは、同じく将との戦いでしか証明されない」

 

 そう言いながら、男は喜々としてデュエルの準備を整える。

 オベリスク・フォースのデュエルディスクではない。男は、男自身が使い慣れた旧式のデュエルディスクを装着し、愛用のデッキをセットした。

 

「ククク……このデッキで戦うのも久しぶりだな。

 さて、行くぞ黒咲隼。監視の目を外してくれた礼はたっぷりさせて貰うぜ?」

「監視だと?」

「ああ、監視だ。こっちにはこっちなりの事情があってな。

 ……オベリスク・フォースがいると、自分のデッキでデュエルすることも叶わんのだ」

「……そうか」

 

 オベリスク・フォースを“監視”と言い切ったことで、黒咲は確信した。

 この男は、先程まで戦っていたオベリスク・フォースとは違う。

 実力の話ではない。立場の話だ。

 

「……まあいい。貴様が何者だろうと構わん。目的が撃退から捕縛に変わるだけだ」

「それができるといいがな。

 見せてやろう。この――愛すべき屑共の力を!」

 

 

 ◆

 

 

「「決闘(デュエル)――!!」」

 

 黒咲と仮面の男がデュエルディスクを構え、デュエルを開始する。

 互いのライフは4000。先ほどまでとは違い、今回は一対一の通常のデュエルだ。

 ターンプレイヤーは仮面の男。よって黒咲は後攻だ。

 

「先行はもらう。

 俺様はモンスターをセット。これでターンエンドだ」

 

 男のフィールドに裏守備表示でモンスターがセットされ、早くも一ターン目が終了した。

 伏せ(リバース)カードはない。ワンショットスリーキルをこなす黒咲が相手だと、壁としては少々心許なく感じるだろう。

 だが、それは錯覚だ。敢えて防御を薄くする――モンスターを展開しないことこそが、黒咲に対する最も有効な戦略なのだ。

 

「俺のターン!

 俺は《RR(レイド・ラプターズ)-トリビュート・レイニアス》を召喚!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-トリビュート・レイニアス》

 星4/闇属性/鳥獣族/攻1800/守 400

 

 青い翼を持つ機械の鳥獣が現れる。

 周囲には獲物を突き刺す青い棘――クチバシが六つ。

 

「トリビュート・レイニアスのモンスター効果発動。デッキから《RR(レイド・ラプターズ)》カードを一枚墓地に送る」

 

 黒咲はデッキから《RR(レイド・ラプターズ)-ミミクリー・レイニアス》を墓地に送った。

 レベル4の下級鳥獣族。このモンスターは墓地に送られてこそ真価を発揮する。

 

「墓地に送ったミミクリー・レイニアスの効果発動。このモンスターを除外することで、デッキから《RR(レイド・ラプターズ)》カード一枚を手札に加える。

 そしてバトルだ! トリビュート・レイニアスで、裏守備モンスターを攻撃!」

 

 宙に浮く青い棘が同時に発射され、男の場にセットされたカードが串刺しにされる。

 破壊されたモンスターの守備力は1000。無事戦闘破壊するが――それらは全て、男の読み通り。

 

「破壊されたモンスターの効果により、デッキからあるカードを二枚手札に加える」

「あるカード、だと?」

「今に分かる。貴様のターンは終わりか?」

「……トリビュート・レイニアスの効果により、デッキから《RUM(ランクアップマジック)》とつく速攻魔法を一枚手札に加える。

 カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 黒咲は、男が手札に加えた二枚のカードが気になっていた。

 加えたのはどちらも魔法(マジック)カード。距離が離れていても、黒咲の目はそれを見逃さなかった。

 黒咲がセットした二枚の内、一枚は《ラプターズ・ガスト》。《RR(レイド・ラプターズ)》が存在するとき、相手の魔法(マジック)または(トラップ)を無効にするカウンターカード。

 ならば対策は万全。手札に加えたのがどんなカードであれ、無効にしてしまえば意味はない。

 けれど――それを上回ってこそ歴戦の決闘者(デュエリスト)である。

 

「俺様のターン!

 手札から速攻魔法《ツインツイスター》を発動!」

「何っ……!?」

 

 男のフィールドに魔法(マジック)カードが現れ、二つの竜巻が発生する。狙いは黒咲の伏せ(リバース)カードだ。

 

「こいつの効果は知っているな? 手札を一枚墓地に送り、フィールドの魔法(マジック)、または(トラップ)カードを二枚破壊する!」

「チッ――(トラップ)発動! 《ラプターズ・ガスト》! その効果により、《ツインツイスター》を無効にする!」

 

 黒咲のカードからさらに強烈な突風が吹き荒れ、《ツインツイスター》のカードを弾き飛ばした。

 だが男の狙いは、カードを破壊することではない。真の狙いは――

 

「フン、やるな。だがこの瞬間、墓地に送った魔法(マジック)カードが発動する!」

 

 真の狙いは、前のターンに手札に加えたカードを墓地に送ること――!

 

「俺が墓地に送ったのは通常魔法《おジャマジック》! このカードが墓地に送られた時、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加える!」

「おジャマ、だと?」

 

 男の言い方から察するに、おそらくは《RR(レイド・ラプターズ)》のようなカテゴリー名だろう。

 だが、黒咲には聞き覚えがない。「黒咲隼」は融合次元と何度も矛を交えた凄腕の決闘者(デュエリスト)だが、それでも聞いたことがない名前だった。

 

「ほう。その反応、どうやらこいつらを知らんらしい。ま、当然といえば当然か。貴様のような決闘者(デュエリスト)からすれば、こんな雑魚共は文字通り眼中にないのだろう」

 

 仮面の男が見せたのは三枚のモンスター。

 レベルは2、攻撃力は0、効果すら持たない。確かに、雑魚と称するに相応しいだろう。

 

「その三枚が、貴様のデッキのキーカードか?」

「少し違うな。こいつらは、俺のデッキのエース達だ」

「……呆れたな。その言葉が本当ならば、貴様はオベリスク・フォース一人にも劣る! 舐めるのも大概にしたらどうだ」

「雑魚とハサミは使いようだ。俺様の手にかかれば、こんな屑共でも使い道ができる。

 魔法(マジック)カード《融合》を発動!

 手札の《おジャマ・イエロー》、《おジャマ・グリーン》、《おジャマ・ブラック》を素材に――おジャマ達の王、《おジャマ・キング》を融合召喚!」

 

 男のフィールドに三体の不気味なモンスターが現れたかと思うと、途端に一つに融合し、さらに不気味なモンスターが召喚された。

 肌は白く、体は一等身――かろうじて二頭身ある程度。巨大な口と鼻、触覚のように生えた目。人によってはエイリアンと称するものもいるだろう。

 悪趣味な赤いパンツを下半身と頭に履き(?)、小さな王冠と緑のマントで王様らしさを表現している。

 

 

『おジャマ・キィィィング!!!』

 

 

 《おジャマ・キング》は掛け声と同時にイラスト通りのYポーズを決め、男のフィールドに舞い降りた。

 

 《おジャマ・キング》

 星6/光属性/獣族/攻 0/守3000

 

「……なんだ、そのモンスターは」

「ハーッハッハッハ! 驚いてるようだな! だがその反応は正しい! 確かにこいつは気色悪い! 俺ですらそう思う!

 ここで、《おジャマ・キング》の特殊効果発動! 貴様のフィールドのモンスターゾーンを三つ封じる!」

「何――!?」

 

 黒咲のフィールドに三体の老人(?)が出現する。

 老化した《おジャマ・イエロー》、《おジャマ・グリーン》、《おジャマ・ブラック》。悪趣味なパンツの二頭身達だ。

 

「貴様が使った《ナイトメア・デーモンズ》とは違う。そいつらは攻撃対象ではなく、文字通り邪魔者だ。これで貴様は、三体以上を素材とするエクシーズ召喚ができない」

「っ――だが、そのモンスターの攻撃力は0。次のターン、トリビュート・レイニアスで破壊してくれる!」

「そんな真似をこの俺様が見逃すとでも? 

 フィールド魔法《おジャマ・カントリー》を発動! これにより、世界は一変する!」

 

 ネオ童実野シティの摩天楼が消え、一つの集落が出現する。

 奇っ怪な形の建物と、窓から覗く不気味な生物たち。共通しているのはどれも二頭身であること。そして、悪趣味な赤いパンツを履いていることだ。

 

「《おジャマ・カントリー》はおジャマ達の住処。ここでは全てがあべこべとなる。この気色悪い生物も、この世界ではヒーロー……いや、キングとなるのだ」

 

 《おジャマ・キング》

 攻 0 → 攻3000

 守3000 → 攻 0

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-トリビュート・レイニアス》

 攻1800 → 攻 400

 守 400 → 守1800

 

「攻守反転の効果か……!」

「まだあるぞ。《おジャマ・カントリー》の効果発動! 手札の《おジャマ》カードを一枚墓地に送り、墓地から《おジャマ》モンスターを復活させる!

 来い、《おジャマ・ブルー》!」

 

 《おジャマ・ブルー》

 星2/光属性/獣族/攻 0/守1000

 

「《おジャマ・カントリー》の効果により、攻守反転!」

 

 《おジャマ・ブルー》

 攻 0 → 攻1000

 守1000 → 守 0

 

「フハハハハ、バトルだ!

 行け、《おジャマ・キング》! “フライング・ボディアタック”!」

 

 白い巨体が跳ね上がり、トリビュート・レイニアスを押し潰すべく落下する。

 黒咲はモンスターを守るため、(トラップ)を発動させた。

 

(トラップ)発動、《RR(レイド・ラプターズ)-レディネス》! このターン、《RR(レイド・ラプターズ)》モンスターは戦闘では破壊されない!」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 よほどの体重だったらしい。《おジャマ・キング》が着地した瞬間、衝撃波が発生し、黒咲を襲った。

 

 黒咲

 LP:4000 → LP:1400

 

「まだバトルは終わっていない! 《おジャマ・ブルー》でトリビュート・レイニアスを攻撃!」

 

 《おジャマ・ブルー》の攻撃力は1000。それに対し、トリビュート・レイニアスは400にダウンしている。

 ブルーの渾身のパンチがトリビュート・レイニアスに炸裂(?)する。バシィ、と。

 《RR(レイド・ラプターズ)-レディネス》によってトリビュート・レイニアスは破壊されないが、ダメージは通る。

 

 黒咲

 LP:1400 → LP:800

 

「おのれ……!」

「フッ、よくぞ耐えた。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「俺のターン!」

 

 黒咲はドローしたカードを確認する。

 ――《RUM(ランクアップマジック)-レイド・フォース》。エクシーズモンスターをランクアップさせ、ランクが一つ高い《RR(レイド・ラプターズ)》を呼ぶカードである。

 男のフィールドには攻撃力3000と1000の()()()()()()()モンスター。これらは全て、黒咲にとっては的である。

 

「《RR(レイド・ラプターズ)-バニシング・レイニアス》を召喚!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-バニシング・レイニアス》

 星4/闇属性/鳥獣族/攻1300/守1600

 

 黒咲の場に、緑の翼を持つ機械鳥が現れる。

 オベリスク・フォースとの戦いで何度も見たモンスターだ。これはただの素材であり、次のエクシーズモンスターこそが本命である。

 

「俺はレベル4のトリビュート・レイニアスと、バニシング・レイニアスでオーバーレイ!」

 

 黒咲のフィールドに黒い渦が出現し、その中央に鳥獣達が集う。

 

「冥府の猛禽よ。闇の眼力で真実をあばき、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!

 ――エクシーズ召喚! 飛来せよ、ランク4! 《RR(レイド・ラプターズ)-フォース・ストリクス》!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-フォース・ストリクス》

 ランク4/闇属性/鳥獣族/攻 100/守2000

 

 渦の中で爆発が起こり、黒いフクロウが飛翔。黒咲の元に舞い降りた。

 

「フォース・ストリクスの効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デッキからレベル4の闇属性・鳥獣族モンスターを一体手札に加える」

「ほう。それで、どうするつもりだ? 《おジャマ・キング》の効果により、貴様は三体以上モンスターを召喚できない。こいつを倒さない限り、手札にいくらモンスターを増やしても無駄だぞ」

「確かにな。既にモンスターは必要はない。このターンでカタをつける!

 《RUM(ランクアップマジック)-レイド・フォース》を発動! これにより、フォース・ストリクスのランクを一つアップさせる!」

 

 再び黒い渦が黒咲の場に出現し、フォース・ストリクスのみがそこに吸い込まれた。

 

「獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けしその翼翻し、寄せ来る敵を打ち破れ!

 ランクアップ、エクシーズチェンジ! 現れろ、ランク5! 《RR(レイド・ラプターズ)-ブレイズ・ファルコン》!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-ブレイズ・ファルコン》

 ランク5/闇属性/鳥獣族/攻1000/守2000

 

 次に現れたのは、赤い翼を持つハヤブサ。見た目はやはり、鳥獣を象った機械というのが正しいだろう。

 だが、黒咲にはまだ次がある。

 

「さらに俺は《RUM(ランクアップマジック)-レヴォリューション・フォース》を発動! 《RR(レイド・ラプターズ)》エクシーズモンスターのランクを、さらに一つアップさせる!

 ブレイズ・ファルコン一体で、再びオーバーレイ!」

 

 黒咲は、前のターンに手札に加えた速攻魔法を発動させ、エクシーズモンスターをさらにランクアップさせる。

 

「誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!

 ランクアップ、エクシーズチェンジ! 現れろ、ランク6! 《RR(レイド・ラプターズ)-レヴォリューション・ファルコン》!!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-レヴォリューション・ファルコン》

 ランク6/闇属性/鳥獣族/攻2000/守3000

 

 爆発と炎上。革命の炎が立ち上り、その中から漆黒のハヤブサが姿を現した。

 その効果は、オベリスク・フォースとの戦いでも猛威を振るった。

 “特殊召喚されたモンスターの攻撃力・守備力をゼロにする”。

 相手の場に特殊召喚されたモンスターが二体以上いれば、このモンスター一体で決着するほどの力を持っている。

 そしてこの《おジャマ・カントリー》では、攻撃力と守備力が反転する。

 すなわち、反旗を翻す革命の翼は、一方的に蹂躙する暴力の翼へと変貌する。

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-レヴォリューション・ファルコン》

 攻2000 → 攻3000

 守3000 → 守2000

 

「ククク……恐ろしい攻撃力だ。こいつをまともに喰らえば、俺のライフは終わりだな」

「自業自得だ。俺とのデュエルでそんなデッキを使った貴様が悪い」

 

 男は上空のハヤブサを見上げる。

 強力なモンスターが召喚された。このままでは《おジャマ》達は殲滅され、ライフポイントはゼロになる。

 されど……そんな状況とは裏腹に、男は口角を吊り上げる。

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-ブレイズ・ファルコン》は、特殊召喚された相手モンスターを一掃し、一体につき500ポイントのダメージを与える効果を持つ。

 ブレイズ・ファルコンの効果を使用した後直接攻撃し、その直後に速攻魔法である《RUM(ランクアップマジック)-レヴォリューション・フォース》を発動。レヴォリューション・ファルコンで追撃し、ライフを削り取る。

 1000、1000、そして2000。合計4000ポイント削りとることができ、黒咲の勝利が決まる。

 

 だが黒咲はそうしなかった。いや、できなかったのだろう。

 

 ――全ては男の戦略通り。

 連戦による疲労と、《おジャマ》というカード達。適度に疲労させて思考力を低下させた後、油断と慢心を誘い、判断力を奪う。

 このミスは男によって引き出されたもの。

 二人の戦いは、黒咲がオベリスク・フォースとデュエルした時から始まっていたのだ。

 

「これで終わりだ! 行け、レヴォリューション・ファルコン!」

 

 そうとは知らない黒咲は、自身のモンスターに攻撃命令を下す。

 レヴォリューション・ファルコンの黒い翼が広げられ、銃口が《おジャマ》達を捉える。

 

「そうはさせん!」

 

 ――が、攻撃が開始される直前に、一枚の伏せ(リバース)カードが発動した。

 

(トラップ)発動、《ブレイクスルー・スキル》! モンスター一体の効果をターン終了時まで無効にする!

 これにより、レヴォリューション・ファルコンのモンスター効果を無効にする!」

「何!?」

「レヴォリューション・ファルコンは特殊召喚されたモンスターを一網打尽にする効果を持つ。だが《ブレイクスルー・スキル》により、このターンのみレヴォリューション・ファルコンは攻撃力3000のモンスターとなった。

 さあ、どうする黒咲隼。《おジャマ・キング》と相打ちさせ、塞がったモンスターゾーンを空けるか。それとも《おジャマ・ブルー》を攻撃し、少しでも俺のライフを削るか。二つに一つだ」

「…………」

 

 黒咲は二体のおジャマを見比べる。

 《おジャマ・キング》と相打ちさせれば、攻撃力3000のモンスターを破壊でき、かつモンスターゾーンにも空白ができる。そうなれば次のターンで逆転は可能。《おジャマ・ブルー》の直接攻撃を受けたところで痛くも痒くもない。何故なら黒咲には、それを防ぐための(トラップ)カードがある。

 ただ、ここでネックとなるのが《おジャマ・カントリー》。男の手札は一枚。残った一枚か、ドローしたカードが《おジャマ》とつくカードだった場合、次のターンに《おジャマ・カントリー》の効果で《おジャマ・キング》は復活してしまう。

 《おジャマ・ブルー》を攻撃すれば、男のライフを一度で半分削ることが出来るが、デッキから二枚の《おジャマ》カードを手札に加えさせてしまう。

 

「……バトルだ! レヴォリューション・ファルコンで、《おジャマ・ブルー》を攻撃!」

 

 黒咲が選んだのは《おジャマ・ブルー》。

 機械の翼に仕組まれた兵器から光弾が発射され、《おジャマ・ブルー》が破壊された。

 

 男

 LP:4000 → LP:2000

 

「《おジャマ・ブルー》の効果発動。戦闘で破壊された時、デッキから《おジャマ》とつくカードを二枚手札に加える。

 意外だったな。まさかこっちを選ぶとは」

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 

 これにて男の手札は四枚。

 手札の枚数は戦略の数でもある。

 尽きかけていた手札が潤い、男は笑みを浮かべる。

 

「判断を誤ったな、黒咲隼。貴様が《おジャマ・ブルー》を破壊してくれたおかげで、こうして手札も増えた。つまり、俺の戦術もまた増えたということだ」

「好きにしろ。貴様がどんな戦術を仕掛けてこようと、俺はその全てを粉砕する」

「やはりな。貴様が《おジャマ・ブルー》を破壊したのは、《おジャマ・キング》の攻撃を防ぐ手段があるからだ。

 手札のカードか、それともセットされた伏せ(リバース)カード……いいや貴様のことだ、おそらくは両方だろう。

 だがな! たとえどんな手段であろうと、こいつらの前では無駄な足掻き! それを思い知らせてやる!

 魔法(マジック)カード《おジャマンダラ》を発動! ライフを1000払い、墓地からおジャマ三兄弟を特殊召喚する!

 現れろ、《おジャマ・イエロー》! 《おジャマ・グリーン》! 《おジャマ・ブラック》!」

 

 男

 LP:2000 → LP:1000

 

 《おジャマ・イエロー》

 星2/光属性/獣族/攻 0/守1000

 

 《おジャマ・グリーン》

 星2/光属性/獣族/攻 0/守1000

 

 《おジャマ・ブラック》

 星2/光属性/獣族/攻 0/守1000

 

「そして《おジャマ・カントリー》の効果により、攻守が反転する!」

 

 《おジャマ・イエロー》

 《おジャマ・グリーン》

 《おジャマ・ブラック》

 攻 0 → 攻1000

 守1000 → 守 0

 

 男のフィールドに三体のおジャマ達が召喚される。

 元々の攻撃力は0。《おジャマ・カントリー》が発動していても、攻撃力は僅か1000のみ。何度も言うように、特殊召喚されたモンスターは黒咲にとっては格好の的だ。

 しかし、この三体が一度に揃った時――奇跡が起こる。

 

「いくらそんなモンスターを揃えようが、レヴォリューション・ファルコンの前では無力!」

「そいつはどうかな。こいつらを甘く見ると痛い目見るぜ!

 俺はこの魔法(マジック)カードを発動する! 行けェ、ザコ共!」

『ヤケっくそぉ~!!』

 

 男の掛け声と同時に、三体のおジャマ達が一斉にジャンプした。

 三体はそれぞれ中腰の姿勢で悪趣味なパンツを押し付け合い、トライアングルを象る。

 

『必殺!』

『おジャマ!』

『デルタ!』

『ハリケェェーン!!』

 

 げらげらと奇声じみた笑い声を上げながら、三体は高速で回転し始めた。

 回転は徐々に勢いを増し、やがて巨大な竜巻となる。

 世界一気色悪い竜巻は、黒咲のレヴォリューション・ファルコンと伏せカードを巻き込み、大爆発を起こした。

 

「くっ……馬鹿な!」

 

 煙が晴れたそこには何もない。

 ――訂正。黒咲のフィールドにはおジャマ老人が三体のみ。

 レヴォリューション・ファルコンも、攻撃に備えた(トラップ)カードも、既に存在しない。

 

「見たか。《おジャマ・デルタハリケーン!!》は、おジャマ三兄弟が揃った時のみ発動する魔法(マジック)カード。その効果により、貴様のフィールドのカードは全て破壊した!」

 

 黒咲の手札には《RR(レイド・ラプターズ)ーブースター・ストリクス》があった。

 《RR(レイド・ラプターズ)》モンスターが攻撃対象となった時、手札のブースター・ストリクスを除外して攻撃してきたモンスターを破壊する。

 だが、黒咲のフィールドにモンスターはいない。よって、《RR(レイド・ラプターズ)ーブースター・ストリクス》の効果は発動できない。

 

「貴様のフィールドにモンスターはいない。これで終わりだ、黒咲隼! 

 《おジャマ・キング》でプレイヤーにダイレクトアタック! “フライング・ボディアタック”!」

「チッ――! 墓地から《RR(レイド・ラプターズ)-レディネス》を発動! このカードを除外することで、このターン受ける全てのダメージをゼロにする!」

 

 《おジャマ・キング》渾身ののしかかり攻撃はバリアに遮られ、黒咲まで届くことはなかった。

 バリアに弾き返され、《おジャマ・キング》は男のフィールドに戻っていく。

 

「まだ防御手段を残していたか。存外にしぶといヤツだ。

 俺のバトルフェイズは終了だが、まだ終わりではない! 

 魔法(マジック)カード《置換融合》を発動! このカードは、自分フィールドのモンスター二体以上を融合させる!

 《おジャマ・グリーン》と《おジャマ・ブラック》を融合! 現れろ、《おジャマ・ナイト》!」

 

 《おジャマ・ナイト》

 星5/光属性/獣族/攻 0/守2500

 

 《おジャマ・ナイト》

 攻 0 → 攻2500

 守2500 → 守 0

 

 二体の《おジャマ》モンスターを素材に、男は新たなモンスターを融合召喚した。

 《おジャマ》共通の赤いパンツと、騎士の甲冑を着た黄色いおジャマ。立派な剣と盾こそ持っているもの、元々の外見が悪いせいかコスプレ感が拭えない。

 

「攻撃力2500……!」

「貴様の目は節穴か? 《おジャマ・ナイト》の真の力はそこではない!

 《おジャマ・ナイト》の効果発動! 相手のモンスターゾーンを二つ、使用不能する!」

「何!?」

 

 黒咲のフィールドに、新たに二体のおジャマ老人が出現する。

 今度は老化したブルーとレッド。五種類のおジャマが揃い、黒咲のモンスターゾーンは全て埋め尽くされた。

 

「これは……モンスターゾーンを全て埋めたというのか」

「その通り! これがこいつらの戦術、その名も“おジャマロック”!

 これで貴様は、モンスターを一切召喚することができない!」

「くっ……!」

 

 黒咲は悔しげに舌打ちし、フィールドのおジャマ老人を睨みつける。

 しかし、そこはやはりおジャマ老人。どれだけ迷惑だろうと知らぬ存ぜぬ。何食わぬ顔で、呑気にお茶を啜っている。

 

「カードを一枚伏せてターンエンド。さあ、貴様のターンだ黒咲。精々足掻いてみせろ。

 尤も、所詮貴様は世界を知らないヒヨッコ決闘者(デュエリスト)。できることなど何もないだろうがな! あーっはっはっはっは!!」

 

 モンスターの召喚を封じたことで男は慢心し、盛大に高笑いした。

 この手の人間は痛い目に遭うのが物語としてのセオリーだが、今の黒咲に打開策はなかった。

 モンスターゾーンに一つでも空きがあれば挽回できるだろう。しかし、全て封じられてしまっては手も足も出ない。

 要するに、詰みだ。

 

「諦めろ。今の俺は気分がいい。大人しくサレンダーすれば見逃してやる」

「誰がサレンダーなどするものか。貴様らアカデミアは、この俺が一人残らず――」

「殲滅すると? 俺一人にここまで手間取る貴様如きが、奴等を倒せるわけないだろう」

「なんだと……!」

「黒咲隼。貴様は色々と知らなすぎる。敵である融合次元のことも、味方であるランサーズのことも。

 知っているか? ハヤブサは時速200キロの速さで空を飛ぶ。ならば、その視力もまた人間とは比較にならない」

「…………貴様」

「見えていないはずがない。気づいていないはずがない。

 余分なプライドはここで捨てろ。そうすれば、もっと色んなものが見えてくるはずだ」

 

 

「俺はスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 

「っ――!?」

「来たか……!」

 

 黒咲は驚きの表情を、男は歓喜の笑みを浮かべて、声の主を見た。

 緑のカーゴパンツと赤いシャツ。白い制服をマントのように着こなし、首からはペンダントを提げている。

 ――榊遊矢。ペンデュラム召喚の開祖にして、ランサーズの特記戦力である。

 

 遊矢

 LP:4000 → LP:2000

 

 デュエルに乱入したペナルティとして、遊矢のライフが半分削られる。

 しかしそのハンデを物ともせず、遊矢は青い仮面をつけた男を見据えた。

 

「ククク……随分と遅い援軍だな。見捨てたとばかり思ってたぞ」

「そんなわけないだろ。黒咲は俺達の仲間だ」

「おめでたい奴だな。貴様はそう思っていても、当の本人はどうだろうな?」

「そんなことは関係ない。他人が俺をどう思っていようと、俺は俺の信じた道を選ぶ。

 だから俺は、仲間である黒咲を助ける!」

「ハッ、よくぞ言った! だが、口でなら何とでも言える! 俺のフィールドには攻撃力2500の《おジャマ・ナイト》と、3000の《おジャマ・キング》がいる! これを突破することはできまい!」

「それは、やってみなくちゃ分からない! お楽しみはこれからだ!」

 

 遊矢の両サイドには光の柱が立ち、上空には魔術師が二体浮上している。

 胸元のペンダントが光り、左右に揺れる。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 上空では振り子の軌跡が楕円を描き、異次元へと繋がる召喚ゲートが切り拓かれた。

 一体の竜が光を纏い、ゲートから遊矢の元に現れる。

 

「ペンデュラム召喚!

 来い、俺の新たなモンスター! 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》

 星5/闇属性/ドラゴン族/攻1200/守2400

 

 そのドラゴンは、男は勿論、黒咲ですら見たことがないモンスターだった。

 オッドアイであることは遊矢のエースモンスター《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と共通している。しかし、体の色は赤というよりも桃。さらに頭、胸、脚には白い装飾があり、全体的に丸みを帯びたドラゴンだった。

 

「さらに魔法(マジック)カード《ペンデュラム・ストーム》を発動! ペンデュラムゾーンのカードを全て破壊し、その後、魔法(マジック)または(トラップ)カードを一枚破壊する!

 これにより、《おジャマ・カントリー》を破壊!」

「何っ――ぐあっ!?」

 

 遊矢のフィールドを()として嵐が発生し、おジャマの国を襲う。

 建物や住人達は全てかき消され、ネオ童実野シティの摩天楼が戻ってきた。

 

「フィールド魔法が消えたことで、《おジャマ》達の攻撃力は元に戻る!

 バトルだ! 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》で、《おジャマ・キング》を攻撃!

 “仮面の衝撃(バイト・ノット・インパクト)”!!」

 

 太陽の模様(アルカナ)を基点とした魔法陣が《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》の前方に描かれる。二色の眼が輝いた瞬間、魔法陣から強烈な閃光が放たれた。

 男の残りライフは僅か1000。《おジャマ・キング》の攻撃力は0なため、直撃すれば終わりだが――生憎と、そう上手く事は運ばない。

 

(トラップ)発動、《和睦の使者》! このターン俺のモンスターは戦闘で破壊されず、発生する戦闘ダメージはゼロとなる!」

 

 (トラップ)の障壁が張られ、《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》の攻撃は遮られた。

 

「っ……やっぱり、一筋縄じゃいかないか。ターンエンドだ」

 

 遊矢のターンが終了し、黒咲のターンが回ってくる。

 だが、二体の《おジャマ》融合モンスターは健在だ。黒咲がモンスターを召喚できないことは変わらない。

 

「……俺のターン」

 

 ドローフェイズ。黒咲が引いたのは《RUM(ランクアップマジック)-ソウル・シェイブ・フォース》。

 墓地から《RR(レイド・ラプターズ)》エクシーズモンスターを召喚し、ランクを二つアップさせる魔法(マジック)カードだ。このままでは使えない。

 

「フッ。どうやら、望みのカードは引けなかったようだな。

 今の《おジャマ》達の攻撃力は0。つまりは無防備な状態を貴様らに晒してるわけだが、モンスターを召喚できないのなら問題ない。

 黒咲隼。所詮貴様程度の実力では、この俺様を倒すことはできないということだ」

「っ……」

 

 黒咲は何も言い返せない。もしあのタイミングで遊矢が乱入してくれなければ、黒咲は負けていたかもしれないからだ。

 だからその代わりに、遊矢が男に忠告する。

 

「あんまり黒咲を舐めないほうがいいぞ」

「……ほう。よほどその男を信頼しているらしいな。

 だが現実を見ろ。ヤツのモンスターゾーンは全て埋め尽くされ、起死回生しようにもモンスターは召喚できない。よってこのターン、ヤツにできることは何もない」

「現実を見るのはそっちだ。俺が参加した時点で、このデュエルは既にバトルロイヤル。流れはこっちにある」

「……なるほどな。貴様の言わんとすることは分かった」

 

 遊矢が黒咲に言いたいことを、男はすぐに理解した。

 “このターンでお前を倒せる”――まったくもってその通り。

 だから、あと一押し。あと一押しで、男の目的は達成される。

 

「黒咲。お前が俺をどう思っているかは知らない。だけど、一つだけ聞いてくれ」

「……言ってみろ」

「俺は榊遊矢だ。顔がどんなに似ていたって、ユートの代わりにはなれない。

 けど、新しく仲間になることはできる。肩を並べることはできる。お前の荷物は背負えないけど、荷物で倒れそうなお前を支えることはできるんだ。だから――」

「もういい」

「え?」

「もういいと言ったんだ。貴様が馬鹿だということは十分分かった」

 

 援軍を断った理由。遊矢はそれを“仲間と認められていないから”だと思っているが、それは間違いだ。

 黒咲は遊矢のことを“仲間だと認めている”からこそ援軍を断った。大切なものを守れなかったというトラウマから、黒咲は無意識に仲間を遠ざけていたのだ。

 だが、“戦いに巻き込まない”など初めから無理な話だった。元よりランサーズという組織は、お節介な連中の集まりなのだから。

 

「力を貸せ、遊矢。このターンでヤツを倒す」

「……ああ!」

 

 二人は肩を並べて仮面の男と向き合った。

 男は思わず頬を緩める。

 その二人が並び立つ光景は、かつてのハートランドを思い出させる。

 しかし、それは違う。

 隣にいるのは全く別の決闘者(デュエリスト)。黒咲が心を許した新しい仲間なのだ。

 

「覚悟は決まったようだな。ならば来い、黒咲隼! 榊遊矢!」

「なら、まずは俺からだ!

 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》の効果発動! 一ターンに一度、エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターの効果を無効にする! 俺が対象に選ぶのは、《おジャマ・キング》!」

 

 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》のブレスが《おジャマ・キング》に浴びせられる。

 同時に、黒咲のフィールドから三匹のおジャマ老人が消滅した。

 

「これで黒咲のモンスターゾーンが三つ使用可能となった! 黒咲!」

「分かっている! 俺は《RUM(ランクアップマジック)-ソウル・シェイブ・フォース》を発動! ライフを半分払い、墓地から《RR(レイド・ラプターズ)》エクシーズモンスターを特殊召喚! そして、そのモンスターをランクアップさせる!

 甦れ、レヴォリューション・ファルコン! そしてこれを素材に、オーバーレイ!」

 

 黒咲

 LP:800 → LP:400

 

 黒咲のフィールドにレヴォリューション・ファルコンが召喚され、同時に黒い渦が足元に拓かれた。

 革命のハヤブサはその渦に吸い込まれ、ランクが二つアップする。

 

「勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!

 ランクアップ、エクシーズチェンジ!

 飛翔しろ、ランク8! 《RR(レイド・ラプターズ)-サテライト・キャノン・ファルコン》!!」

 

 《RR(レイド・ラプターズ)-サテライト・キャノン・ファルコン》

 ランク8/闇属性/鳥獣族/攻3000/守2000

 

 ハヤブサを象った白く巨大な機械鳥が、衝撃波を伴って降臨した。

 翼だった箇所に六つ、脚だった箇所には一つずつ、計八つのビーム砲が装備されている。

 

「バトルだ! 《RR(レイド・ラプターズ)-サテライト・キャノン・ファルコン》! 《おジャマ・キング》を攻撃!」

 

 黒咲の攻撃命令を受け、全ての砲台が《おジャマ・キング》を向いた。

 サテライト・キャノン・ファルコンの背後に“R”のリフレクターが二翼展開され、エネルギーが充填され始める。

 ……徐々に溜まっていくエネルギー。《おジャマ・キング》はガクガク震え、全身から汗を滝のように流す。

 

『いやああああ助けて兄貴! オイラ達やられちゃうよぉ!?』

「諦めろ。今回は俺達の負けだ」

『えぇぇー!!?』

 

 ――情けなく慌てふためく《おジャマ》達。その光景は、男にしか見えていない。

 

「砕け散れ! “エターナル・アベンジ”!!」

 

 サテライト・キャノン・ファルコンのビーム砲から合計七つのレーザーが放たれる。

 それらは一つの巨大な熱線となって、《おジャマ・キング》と仮面の男を焼き尽くした。

 

「っ――ぐああ!!」

 

 男

 LP:1000 → LP:0

 

 

 ◆

 

 

 男の身体が徐々に薄れていく。

 デュエルに敗北したことで次元転送が始まったのだ。

 

「ッ――ククク」

 

 敗北したにも関わらず、男は満足げに笑う。

 

「いいぞ、とりあえずは合格だ。あいつらへの土産話もできた。今日のところは退散しよう」

「待て! 貴様の目的は何だ!」

「さあな。全次元の統一、と言えば納得するか?」

「とぼけるな。確かに貴様のデュエルはふざけていたが、同時に鉄の意思と鋼の強さも感じられた。

 オベリスク・フォースとは明らかに違う。その仮面も制服も偽物だろう。貴様は一体何者だ!」

「……レジスタンス、じゃないのか?」

「何!?」

 

 遊矢が発したレジスタンスという言葉に、黒咲は過剰反応する。

 エクシーズ次元には、融合次元に対抗する為の組織がある。それがレジスタンス。ハートランドを旅立つ前、黒咲とユートはそこに所属していたのだ。

 だが黒咲は、この仮面の男に見覚えがない。おそらくはユートもだろう。

 

「半分は正解だが、もう半分は違うな。第一、お前たちには関係ないことだ」

「関係はある。もしアンタが融合次元じゃないなら、俺達は仲間だ」

「仲間だと? この制服が見えんのか貴様は。

 俺はオベリスク・フォースの幹部。断じて仲間などではない」

「格好なんて関係ない。俺達はデュエルをした。その上でお互いに敵対する意思がないのなら、俺達はもう仲間だ。だったら――」

「――仲間なんかじゃないよ」

 

 ――俺達と協力して、融合次元と戦おう。

 そう続けようとしたところで、第三者が遊矢の言葉を遮った。

 剣の形をしたデュエルディスク。

 空色の髪。青い制服。口元には棒つきの飴玉。

 ……現れた“第三者”は、遊矢がよく知っている人物だった。

 

「……素良」

「久しぶりだね、遊矢。スタンダード次元のデュエル以来かな」

 

 会話だけなら再会を喜ぶ友人同士のそれだ。

 しかし、素良はデュエルディスクを展開し、三人の元へ歩み寄ってくる。仮面の男からは感じられなかった敵対の意思があった。

 

「紫雲院素良か。もう嗅ぎつけてきたとはな。貴様の獲物は榊遊矢ではなかったか?」

「だから、その遊矢を探してここまで来たんじゃないか。

 ……僕の獲物を横取りするなって叱りに来たんだけど、その必要はなかったみたいだね。

 僕とバレットの目を掻い潜るなんて、並のスパイじゃない。君、一体何者?」

「おっと、怖い怖い。そう警戒するな、紫雲院素良。この仮面と制服を見れば分かるだろう?」

「……ふぅん。じゃあやっぱり、君が報告にあった“裏切り者”なんだ?」

 

 素良の目つきが一層険しくなる。仮面と制服で姿を偽っても、中身までは誤魔化せない。

 

「ハッハッハッハッハ! そうだな、確かにその通りだ! 貴様の言う通り、俺は裏切り者だな!

 本来ならこの仮面を取って高らかに名乗りあげたいところなんだが……残念ながら、そういうことは“彼女”に止められているのでね。大人しく帰らせてもらおう」

「……次元転送装置が作動してる。追いかけるのは無理かな」

「そういうことだ。デュエルには負けたが、今回は俺達の勝ちだ」

「……あまりいい気にならないでよね。今回の任務が終わったら、僕が直々に君を裁きに行く。それまでそっちで、首を洗って待ってなよ」

「ああ、楽しみにしている。

 ――っと、そろそろか。黒咲隼、そして榊遊矢。俺達はエクシーズ次元の何処かにいる。仲間になって欲しくば、こいつらよりも早く俺達を見つけることだ。

 それと最後に……紫雲院素良。エド・フェニックスという男によろしく伝えといてくれ」

 

 “エド・フェニックス”。

 男は最後にその名前を言い残し、他次元へ……エクシーズ次元へと転送されていった。

 結局遊矢と黒咲は、最後まで男の名前を知ることはなかった。

 




アニメ産オリジナルカードまとめ
《おジャマンダラ》
通常魔法
自分の墓地に「おジャマ・イエロー」「おジャマ・グリーン」「おジャマ・ブラック」が存在する時、ライフを1000ポイント支払って発動する。
自分の墓地から「おジャマ・イエロー」「おジャマ・グリーン」「おジャマ・ブラック」を1体ずつ自分フィールド上に特殊召喚する。



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覚醒の眼

ラストに向けて

限界突破加速同調(リミットオーバーアクセルシンクロ)ォォォォ!!」
(かんじてきとう)

しようとしたら想像以上に長くなったので分割。
今回は1.5倍くらい、次話は0.5倍くらいだと思います。多分。

そして果てしなく続くランサーズの戦いのロード……ARC-Vキャラ多すぎ。一人で全キャラ書ききれねーヨ。沢渡さんの噛ませ化は必然やったんやなぁ……。



※注意
大量の(アクション)カード(完全オリカあり)が登場します。

本編でも度々使われる超ピンポイント(アクション)カード。私は時々……たまに……極々希にですが……ちょっとイラっとします。
で、何故イラっとするのか自分なりに考え、解消しようと頑張ってみたのが今回のデュエル。


つまりあれだ。これは遊戯王であって遊戯王ではない。ポケモ○ですよ、○ケモン。


 

 

『――エド・フェニックスという男によろしく伝えといてくれ』

 

 

 結局、男は最後まで名前を明かすことなく消えていった。

 素顔も名前も分からない。分かっているのは、あの男が融合次元を裏切ったこと。黒咲と互角以上のデュエルができる実力者であること。そして――“エド・フェニックス”と知り合いであること。

 

「あーあ、逃がしちゃった。けど、まさかエド・フェニックスを知ってる決闘者(デュエリスト)だったなんて。戦えなかったのはむしろラッキーだったかも」

 

 仮面の男を追いかけてきた素良は、標的を逃して残念そうにするどころかほっとした様子を見せた。

 遊矢はそれを見て首を傾げた。融合次元での評価は知らないが、少なくとも素良の実力はランサーズに加えても遜色ないほど……つまり、スタンダード次元が基準ならトップクラスの実力なのだ。

 

「なあ素良。そのエドって人、そんなに強いのか?」

「うん、強いも強い。アカデミア時代に戦ったことあるけど、一回も勝てた試しはなかった。卒業してからは一度も会ってないけど、エクシーズ次元侵攻の際は随分活躍したらしいよ。ね、黒咲?」

 

 素良は遊矢の隣にいる黒咲を嘲笑し、黒咲は素良を睨み返した。二人は既にスタンダード次元で二度戦っている。

 一度目は公の大会。二度目は邪魔が入った。もしここに遊矢がいなければ三度目のデュエルが開始され、負けたどちらかがカードにされていただろう。

 融合とエクシーズ。両者の溝はとてつもなく深い。これを埋めるのは恐ろしく困難だ。

 だが、それでも埋めたいと遊矢は思う。デュエルで皆を笑顔にするとはそういうことだからだ。

 どうすれば二人は和解できるだろう――そう考え始めたところで、素良は遊矢の方を向いて言った。

 

「まあいいや。今は黒咲なんてどうでもいい。それより遊矢、僕とデュエルだ」

「……え?」

「何呆けた顔してるのさ。さっき言ったよね? 僕がここまで出向いたのは君とデュエルするためだって」

「……そういえばそうだったな。分かった、やろう」

「待て」

 

 デュエルに向かおうとした遊矢に、黒咲は待ったをかける。

 

「遊矢。お前が今何をしようとしているのか、分かっているのか?」

「分かってるさ。ただのデュエルだろ?」

「いいや違う。お前がやろうとしているのはただのデュエルではない。

 ――決闘だ。勝てばいい。だが負ければカードにされる。ヤツがお前に仕掛けてきたのは、スタンダードのようなお遊びのデュエルではない!」

 

 黒咲は自分にも言い聞かせるように遊矢に告げる。このデュエルは遊びではないのだと。

 通常のデュエルなら負けても次がある。だが、遊矢が挑もうとしているのはそういったものではない。負ければ次はない、正真正銘全てを賭けたデュエルだ。

 

「遊矢。お前にヤツを――紫雲院素良をカードにする覚悟はあるのか? 仮にお前がここで勝ったとして、躊躇なくヤツをカードにできるのか?」

「それは――」

 

 遊矢は言葉に詰まる。未だ遊矢にとって素良は“敵”ではなく“友達”だ。

 友達をカードにできるのか?

 ……答えはノーだ。

 

「……覚悟がないのなら下がれ。俺はヤツに個人的な借りがある。紫雲院素良との因縁はここで断つ」

「それは駄目だ」

 

 黒咲の言葉を、遊矢は強く否定した。

 

「素良は俺の友達だ。たとえ融合次元の決闘者(デュエリスト)でも、あいつとの絆は確かにある。それを勝手に断つのは、黒咲でも許さない」

「フン、実力はあっても所詮はスタンダードか。考えが甘いな。

 確かにお前と紫雲院素良は友達なのだろう。だが、だからこそヤツはその関係を壊しに来た」

「な……どうして――?」

「勝てば戦士として勲章を得、負ければ敗残者として前線から去る。お前とデュエルをすれば勝敗に関係なく、紫雲院素良は“榊遊矢の友達”から“融合次元の戦士”へと戻る。そしてヤツ自身もまた、そうなることを望んでここに来た。

 お前と紫雲院素良の絆はもう壊すしかない。変わるのは“誰の手で壊すか”、それだけだ。

 もう一度訊こう。お前に、友情の絆を断つ覚悟はあるのか?」

「――ない。そんなこと、できるわけないだろう」

「だろうな。だからこそ、代わりに俺が――」

「そうじゃない」

「?」

 

 たとえ何と言われようと、ここを退く気はない――そう言わんばかりの眼差しで、遊矢は黒咲を見つめた。

 

「俺は、素良との絆を断つつもりはない。もしあいつがそのつもりなら、このデュエルで素良を変えてみせる」

「……チッ」

 

 なんの根拠もなく理想を語る遊矢に、黒咲は苛立たしく舌打ちした。

 デュエルで人を変える。なるほどそれは素晴らしい。

 だが黒咲からすれば、それは綺麗事だ。デュエルとは戦いであり、勝つか負けるか、消すか消されるかでしかない。

 

「ジャック・アトラスとのデュエルで少しは成長したと思っていたが、見当違いだったようだな。

 空虚な理想ほど脆いものはない。やはり貴様は足手まといだ。ここは既に戦場。敵に止めを刺す覚悟がないのなら、早々に立ち去れ!」

「……何が覚悟だよ。覚悟がないのはそっちだろ!」

「なんだと……!」

「黒咲、お前の言ってることは分かる! 戦場では時に非情に撤しなきゃいけない時もあるって、俺の中のユートが教えてくれた。

 だけど、それとこれとは話が違う。素良は敵じゃない、()()だ」

「仲間――だと?」

 

 遊矢に気圧され、黒咲が一歩下がる。

 

「ああ、素良は仲間だ。融合とかスタンダードとか、そんなのは関係ない。どんな過去があっても、あいつと過ごした日々は……楽しくデュエルをした日々は本物なんだから。

 だから向き合わなくちゃいけない。敵になったから倒す、なんてのはただの逃げだ。

 俺は素良とデュエルで向き合って、一対一で話を聞く。あいつに本当の気持ちを吐き出させる」

「……仮にそれが上手くいったとして、ヤツの結論が変わらなかったらどうする」

「そうなったら、デュエルで説得するだけだ」

 

 そう答えた遊矢は、黒咲や素良とは違った目をしていた。

 二人にとってデュエルとは決闘であり、目的は相手を倒すこと。融合とエクシーズの違いはあれど、根本の部分にそう大きな違いはない。

 しかし、遊矢はその先を見据えていた。

 融合・シンクロ・エクシーズ、そしてペンデュラム。デュエルとは戦う相手や舞台など、その時の状況次第で大きく変わるものだ。どんなに強い決闘者(デュエリスト)同士の対戦でも、二度同じデュエルにはならず、毎回異なる展開を見せる。

 そして――勝敗を超えたその先には、きっと笑顔がある。

 遊矢は確かな足取りで歩を進め、素良と向き合う。

 

「待たせたな、素良。さあ、スタンダードでの続きを始めよう」

「待って。デュエルを始める前に、一つだけ条件を出させてもらう」

「条件?」

「そう。僕が勝ったら、君のデッキとデュエルディスクを没収する」

「な――!?」

 

 素良の出した条件は、決闘者(デュエリスト)ならば誰もが驚くことであった。

 デッキの消失。それは即ち、決闘者(デュエリスト)としての死を意味する。

 

「どうしてそんなことを?」

「カードにされるよりはマシでしょ?

 君はここで一度死ぬ。決闘者(デュエリスト)として死ぬんだ。そして、その後は大人しくスタンダード次元に帰ってほしい。次元戦争の火が届かない平和な世界にね」

「素良……」

「話は終わりだ。僕は本気で行くよ。遊矢、君を全力で叩き潰す」

 

 素良の瞳に真剣みが帯びる。

 もはや彼に声は届かない。真意を問いただしたいのなら、デュエルの中で訊くしかないだろう。

 

 ――両者は一斉にデュエルディスクを展開する。

 一度目は榊遊矢。二度目は中断。此度は三度目。ペンデュラムと融合の戦いの幕が切られた。

 

 

「「決闘(デュエル)――!!」」

 

 

 ◆

 

 

 素良

 LP:4000

 

 遊矢

 LP:4000

 

「僕の先行! 僕は魔法(マジック)カード《簡易融合(インスタント・フュージョン)》を発動!

 その効果により、エクストラデッキから《デストーイ・チェーン・シープ》を特殊召喚する!」

 

 素良

 LP:4000 → LP:3000

 

 突如、素良のフィールドに融合モンスターが召喚された。

 鎖で拘束された羊のぬいぐるみ。キュートとグロテスクをごった煮にしたかのようなモンスターだ。

 

「融合素材を使わずに融合召喚を……?」

「《簡易融合(インスタント・フュージョン)》はライフを1000払うことで、エクストラデッキからレベル5以下の融合モンスターを一体特殊召喚できる。この効果で召喚されたモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊される。

 でもまだだ。僕はさらに魔法(マジック)カード《融合》を発動する!

 手札の《ファーニマル・キャット》、《エッジインプ・シザー》、フィールドの《デストーイ・チェーン・シープ》を融合!

 現れ出ちゃえ、全てに牙向く魔境の猛獣! 《デストーイ・サーベル・タイガー》!」

 

 《デストーイ・サーベル・タイガー》

 星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000

 

 融合モンスターを素材に、新たな融合モンスターが誕生した。

 巨大な虎のぬいぐるみが無数の剣に貫かれ、口からは()()の目が覗く。

 

「《デストーイ・サーベル・タイガー》の融合召喚に成功した時、墓地から《デストーイ》モンスターを一体特殊召喚できる!

 現れ出ちゃえ、《デストーイ・チェーン・シープ》!」

 

 《デストーイ・チェーン・シープ》

 星5/闇属性/悪魔族/攻2000/守2000

 

 モンスター効果により《デストーイ・チェーン・シープ》が復活する。

 《デストーイ・サーベル・タイガー》は以前、遊矢とのデュエルでも見せたモンスターである。召喚に手間が掛かるだけあって、能力もまた他の《デストーイ》より一段と強力なのだ。

 

「《デストーイ・サーベル・タイガー》の効果により、《デストーイ》モンスターの攻撃力は400アップする!」

 

 《デストーイ・サーベル・タイガー》

 攻2400 → 攻2800

 

 《デストーイ・チェーン・シープ》

 攻2000 → 攻2400

 

「そして、融合素材となった《ファーニマル・キャット》の効果発動! 自分の墓地から《融合》を一枚選択して手札に戻す!

 僕はこれでターンエンド!」

「俺のターン!」

 

 遊矢はドローしたカードを確認する。

 ――《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》。通常召喚時、デッキから《EM(エンタメイト)》、《魔術師》、《オッドアイズ》のいずれか一体を手札に加える効果を持つ。

 素良のフィールドには二体の融合モンスター、そして手札には《融合》。

 どうやって切り抜けるか――そう思考する遊矢の視界に、一枚のカードが過ぎる。

 

「あれは……」

 

 そびえ立つ摩天楼。ビルの群れを貫くコース。人口の森とも言える街の片隅で、一枚のカードを見つけた。

 ――(アクション)カード。フレンドシップ・カップの開催と同時に散蒔かれたアトラクションである。ライディングデュエルのコース上だけでなく、シティ全域に散蒔かれていたらしい。

 

「……よし」

 

 天啓に打たれる。榊遊矢のデュエルはかくあるべき、と。

 

「素良。俺のターンを始める前に、一つだけ質問させてくれ」

「?」

 

 疑問符を浮かべる素良。そんな素良に、遊矢は問いかける。

 

「素良にとって、デュエルはどういうものなんだ?」

「……どういうものか、だって……?」

 

 今まで問われることがなかった質問に、素良は困惑した。

 困惑しつつも、素良は自分の考えを述べる。

 

「……僕にとって、デュエルは決闘……いいや、狩りだ。片方が片方を倒すこと。蹂躙するか拮抗するかの違いはあっても、争いであるのは間違いない」

「そっか」

 

 素良の答えは遊矢にとって半ば予想通りだった。

 融合次元の戦士の模範的回答。おそらくオベリスク・フォースや他の戦士に問いかけても、殆ど同じ答えが返ってくるだろう。

 

「じゃあこのデュエル、素良はそうしてくれ。素良の全力を以て、榊遊矢というデュエリストを狩ってほしい。

 それに俺は、俺のデュエルで応えるよ」

「遊矢のデュエル……?」

 

 遊矢は赤いデュエルディスクを掲げ、世界に宣言するように、腹の底から声を張り上げた。

 

「アクションフィールド発動(オン)! 《クロス・オーバー》!」

「な……!?」

 

 遊矢を中心に新たなフィールドが展開される。空中に透明色の足場が出現し、裏面に(アクション)の文字が描かれたカードが各地に配置された。

 スタンダード次元のデュエリストが自分に有利なフィールドを作る。アクションフィールドの使用法としては何も間違っていない。

 しかし素良からすれば、遊矢の行動は奇行のように見えた。遊矢は明らかに素良を倒すためではなく、楽しくデュエルをするためにアクション・フィールドを使ったのだから。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が、モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る。

 その特性上、アクションデュエルは相手を選ぶ。けど、融合次元で訓練を受けた素良なら、上手く活用できると思ったんだ」

「……その言い方だと、僕に(アクション)カードを使わせるのが目的だって言ってるようにも聞こえるんだけど」

「そ-ゆーこと。早速だけど、まずは俺が(アクション)カードを使わせてもらうよ!」

 

 遊矢は先ほど目にした(アクション)カードを手に取り、発動させる。

 

「俺は(アクション)魔法(マジック)《トレジャー・マップ》を発動! 互いのプレイヤーは、フィールドに散らばった(アクション)カードを確認できるようになる!」

 

 遊矢と素良の間に巨大な地図が出現する。

 記されているのは――ネオ童実野シティの地形、二つの三角形、そして点滅する複数の光。三角形は遊矢と素良、光の点は(アクション)カードを示している。

 どれがどんなカードかはまだ分からない。しかし、どこに(アクション)カードがあるのかは把握できる。

 

「これは……(アクション)カードの地図?」

「フレンドシップカップが始まる時、ネオ童実野シティ全域に(アクション)カードが散蒔かれたんだ。これで俺も素良も、平等に(アクション)カードが使えるだろ?」

「平等、ねえ……遊矢、それは君の勘違いだ。僕達アカデミアの戦士は、あらゆる状況に対応できるよう訓練を受けている。こんなものを使えば、君が不利になるだけだよ」

「それはどうかな。

 ――俺は《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を召喚!」

 

 遊矢のフィールドに一体のモンスターが召喚される。

 黒い衣装を着た金髪の道化師が、アクロバットに宙を舞い着地した。

 

 《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》

 星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 100

 

「ドクロバット・ジョーカーのモンスター効果発動! 通常召喚に成功した時、デッキから新たな《EM(エンタメイト)》を手札に加えることができる!

 俺が加えるのは――《EM(エンタメイト)インコーラス》!」

 

 ジョーカーは黒いシルクハットを取り、中から三匹のインコを呼び出した。

 三匹はバラバラに飛び立った後遊矢の元へ向かい、カードとなってその“手札”に加わる。

 

「これで準備は整った!

 俺はスケール2の《刻剣の魔術師》と、スケール5の《貴竜の魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 左サイドには黒い衣装、黒い剣を持った少年魔術師。

 右サイドには白い衣装、白い杖を持った少女魔術師。

 遊矢のデュエルディスクの両サイドにペンデュラムモンスターがセットされ、大きく“PENDULUM”と表示される。

 

「これでレベル3から4のモンスターが同時に召喚可能!

 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ――ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスター達!」

 

 ペンデュラムとは即ち振り子。

 天空に現れた振り子は左右に揺れ動き、時を刻む。光の軌跡が異次元への扉を開き、モンスターが召喚される。

 

「レベル3! 《EM(エンタメイト)インコーラス》!

 レベル4! 《EM(エンタメイト)ラディッシュ・ホース》!」

 

 《EMインコーラス》

 星3/風属性/鳥獣族/攻 500/守 500

 

 《EM(エンタメイト)ラディッシュ・ホース》

 星4/地属性/植物族/攻 500/守2000

 

 遊矢のフィールドに白・赤・黄、三位一体のインコと、大根(ラディッシュ)で作られた馬が出現する。

 表示形式はどちらも守備。戦闘破壊されてもダメージは受けないが、素良の《デストーイ》と比較すればステータスは貧弱と言わざるを得ない。よって、どちらも壁としてはその場凌ぎのものでしかない。

 しかしラディッシュ・ホースにはモンスター効果が、インコーラスにはアクションデュエルならではの能力がある。

 

「ここで、ラディッシュ・ホースのモンスター効果発動! 一ターンに一度、相手モンスター一体の攻撃力をラディッシュ・ホースの攻撃力分ダウンさせ、さらにその数値分、自分のモンスターに加える!

 俺は《デストーイ・サーベル・タイガー》、《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を選択し、攻撃力を変化させる!」

 

 ラディッシュ・ホースは自分の角を上空に発射した。

 角は爆発し、中から無数のトゲが《デストーイ・サーベル・タイガー》に降り注ぐ。ぬいぐるみの四肢が傷つき、《デストーイ・サーベル・タイガー》は苦悶の表情を浮かべた。対してドクロバット・ジョーカーは得意顔だ。

 

 《デストーイ・サーベル・タイガー》

 攻2800 → 攻2300

 

 《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》

 攻1800 → 攻2300

 

「バトルだ! ドクロバット・ジョーカーで《デストーイ・サーベル・タイガー》を攻撃!」

「何っ――?」

 

 二体の攻撃力は並んでいるにも関わらず、遊矢はドクロバット・ジョーカーに攻撃命令を下した。

 ジョーカーは迷う素振りを見せることなく、《デストーイ・サーベル・タイガー》目掛けて突進する。

 

「二体の攻撃力は互角。攻撃してもダメージは通らないよ!」

「それはまだ分からないさ! さあ行け、インコーラス!」

 

 遊矢はもう一体の《EM(エンタメイト)》に更なる命令を下す。

 インコーラスは遊矢の元を飛び立ち、四方八方に散っていく。

 

「――! そうか、そういうことか!」

「気づいたみたいだな。そう、これはアクション・デュエル! カードの力が全てじゃない。

 モンスターと一緒に戦うことが、このデュエルの醍醐味ってワケさ!」

 

 (アクション)カードを加えたインコーラスが遊矢の元に戻ってきた。

 遊矢はカードを受け取り、ドクロバット・ジョーカーを対象にそれを発動させる。

 

(アクション)魔法(マジック)《スカイスクレイパー・アタック》! 自分のモンスターが攻撃する時、攻撃力をさらに1000ポイントアップさせる!」

 

 《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》

 攻2300 → 攻3300

 

 ドクロバット・ジョーカーが《デストーイ・サーベル・タイガー》に強烈なアッパーカットを繰り出した。

 その姿はまさに怪人と戦うヒーローそのもの。打撃を受けた《デストーイ・サーベル・タイガー》はよろめき、後退りした。

 つまり、破壊されていない。

 

 素良

 LP:3000 → LP:2000

 

「やるね。でも、《デストーイ・サーベル・タイガー》は三体以上を融合素材にした場合、戦闘と効果では破壊されない。僕のモンスターは健在だよ」

「流石は素良、アフターフォローもバッチリだな。俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 遊矢のフィールドに新しくカードが出現し、ターンが終了。ラディッシュ・ホース、(アクション)カードの効果が切れ、二体の攻撃力は元の数値に戻る。

 

 《デストーイ・サーベル・タイガー》

 攻2300 → 攻2800

 

 《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》

 攻3300 → 攻1800

 

「僕のターン! 僕は、《ファーニマル・ドッグ》を召喚!」

 

 天使の翼をつけた犬のぬいぐるみが召喚される。

 つぶらな瞳と愛らしいポージング。並び立つ二体の《デストーイ》とは似ても似つかない。

 

「《ファーニマル・ドッグ》の召喚に成功した時、デッキから《エッジインプ・シザー》を手札に加えることができる。

 さらに僕は、再び《融合》を発動!

 手札に加えた《エッジインプ・シザー》と、フィールドの《ファーニマル・ドッグ》を融合!

 悪魔の爪よ! 猛犬の牙よ! 神秘の渦で1つとなりて、新たな力と姿を見せよ!

 ――融合召喚! 現れ出ちゃえ、すべてを引き裂く密林の魔獣! 《デストーイ・シザー・タイガー》!」

 

 両手を合わせ、素良は新たな融合モンスターを召喚した。

 《デストーイ・サーベル・タイガー》とはまた異なった虎のぬいぐるみが鋏で裂かれ、新たな四肢が再構成された。

 

 《デストーイ・シザー・タイガー》

 星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200

 

 《デストーイ・シザー・タイガー》

 攻1900 → 攻2300

 

「《デストーイ・シザー・タイガー》のモンスター効果発動! 融合召喚に成功した時、融合素材となったモンスターの数だけフィールドのカードを破壊できる!

 僕が素材としたのは二体! よって、遊矢のフィールドの《刻剣の魔術師》と伏せ(リバース)カードを破壊する!」

「そうはさせないさ! 頼むぞ、インコーラス!」

 

 遊矢はインコーラスを放ち、もう一度(アクション)カードを狙う。

 先ほど発動した《トレジャー・マップ》により、(アクション)カードの在り処は全て知れ渡っている。小回りが効く鳥獣族(インコーラス)を操る今の遊矢にとって、(アクション)カードを拾うのはそう難しくない。

 しかし、(アクション)カードはルール上一枚しか手札に加えることができない。連続して発動させることは不可能なのだ。

 ならば、と素良は《トレジャー・マップ》を睨む。

 

「……よし、覚えた。こっちだ!」

 

 僅か数秒で、素良は(アクション)カードの位置を全て()()()()。そして遊矢同様、(アクション)カードを獲得する。

 

「俺は(アクション)魔法(マジック)《ブレイク・インターフィアー》を発動! カードを破壊する効果を無効にする!」

(アクション)魔法(マジック)《ノーアクション》! (アクション)カードの効果を無効にし、破壊する!」

「何っ!?」

 

 遊矢が発動した(アクション)カードを、素良が封殺する。

 結果、《デストーイ・シザー・タイガー》の効果は有効。浮上している《刻剣の魔術師》に狂気の鋏が迫る――

 

「くっ――なら、伏せ(リバース)カードオープン! 《揺れる眼差し》! 

 互いのペンデュラムゾーンのカードを全て破壊する!」

 

 シザー・タイガーに切られる直前、遊矢の伏せ(リバース)カードが発動した。

 二体の魔術師が消滅し、両サイドに昇っていた光の柱はガラス片となって砕け散り――

 

「《揺れる眼差し》は、破壊したペンデュラムカードの枚数によって複数の効果を得る。

 一枚以上の場合、相手に500ポイントのダメージを与える!」

 

 そのまま、ガラス片は素良へと襲いかかった。

 

 素良

 LP:2000 → LP:1500

 

「くっ……!」

「《揺れる眼差し》第二の効果! 破壊したカードが二枚以上の場合、デッキからペンデュラムモンスターを一体手札に加える」

 

 遊矢がデッキからペンデュラムモンスターを手札に加えた後、シザー・タイガーが発動後の《揺れる眼差し》を切り裂いた。

 発動後の魔法(マジック)カードを破壊しても意味はない。よって、シザー・タイガーの破壊効果は不発に終わったと言えるだろう。

 

「けど、《デストーイ・シザー・タイガー》が存在する時、《デストーイ》モンスターは《デストーイ》または《ファーニマル》一体につき、攻撃力が300アップする!」

 

 《デストーイ・チェーン・シープ》

 攻2400 → 攻3300

 

 《デストーイ・サーベル・タイガー》

 攻2800 → 攻3700

 

 《デストーイ・シザー・タイガー》

 攻2300 → 攻3200

 

「バトルだ! まずは《デストーイ・シザー・タイガー》で、《EM(エンタメイト)インコーラス》を攻撃!」

「げっ!」

 

 シザー・タイガーがインコーラスを自慢の鋏で一刀両断する。

 確かにモンスターは(アクション)カードを拾えるが、発動させるのはあくまでプレイヤー。攻撃されると(アクション)カードの発動は途端に難しくなるのだ。

 

「これで(アクション)カードは拾えない! でも、僕は違う!」

 

 素良は暗記した記憶を頼りに(アクション)カードを探す。

 

「戦闘破壊されたこの瞬間、インコーラスの効果が発動! デッキからペンデュラムモンスター以外の《EM(エンタメイト)》を特殊召喚できる!

 現れろ、ロングフォーン・ブル!」

 

 巨大な受話器の頭に乗せた雄の牛が遊矢のフィールドに現れる。

 表示形式はやはり守備。素良の強力なモンスターを前に攻撃表示は許されない。

 

「ロングフォーン・ブルの特殊召喚に成功した時、デッキからペンデュラムモンスター以外の《EM(エンタメイト)》を一体、手札に加えることができる!」

「まだバトルは終わっていないよ! 《デストーイ・サーベル・タイガー》でドクロバット・ジョーカーを、《デストーイ・チェーン・シープ》でラディッシュ・ホースを攻撃!」

 

 巨大な二体の猛攻を受け、ライフが大きく減少する。

 

 遊矢

 LP:4000 → LP:2100

 

 だが、まだ終わりではない。

 素良の手には、先ほど拾った二枚目の(アクション)カードがあった。

 

「さらに(アクション)魔法(マジック)《セカンド・アタック》発動! このターン自分のモンスター一体はもう一度攻撃ができる!

 行け、サーベル・タイガー! ロングフォーン・ブルを攻撃!」

「ぐあっ――!」

 

 (アクション)魔法(マジック)による追撃を受け、ついに遊矢のカードが全滅した。

 そう、全滅だ。ペンデュラムゾーン、モンスターゾーン、魔法(マジック)(トラップ)ゾーン。遊矢のフィールドには一枚もカードがない。

 

「僕はこれでターンエンド。で……早速で悪いけど、僕は(アクション)カードを選ばさせてもらうよ」

「選ぶ? 探す、の間違いじゃないのか?」

「僕の場合は――いや、僕達の場合は違うんだよね。(アクション)カードの配置は一目で覚えた。身体能力は僕が上。それに上級モンスターが三体もいる。

 遊矢がモンスターを駆使して(アクション)カードを取ろうとすれば、同じように妨害する。プレイヤー同士の取り合いなら、どうひっくり返っても僕が勝る。

 つまり同条件でのデュエルなら、(アクション)カードの優先権は常に融合次元(こちら)にあるんだ。

 ……もう分かったでしょ? スタンダードじゃあ融合には勝てない。君達ランサーズが次元戦争に加わったら、皆カードにされてしまう」

「……ああ、やっぱりそうか」

 

 合点がいった。そう言わんばかりに遊矢は頷く。

 

「素良は俺のこと、心配してくれてたんだな。融合次元に負けたらカードにされる。だから、その前に俺をスタンダード次元に帰そうとしたのか」

「……まあ、平たく言えばそういうことだね」

「……そっか。ありがとな。

 でも、やっぱりそれはできないよ。ランサーズの皆は融合次元と戦う気でいる。それを蚊帳の外から見てるなんて、俺には耐えられない」

「ランサーズのデュエリストは殆どがスタンダード次元出身じゃないか。シンクロやエクシーズが滅んでも、君達にはなんの関係もない。

 それにプロフェッサーだって言ってた。スタンダードは敵じゃないって。なのに、どうしてわざわざ戦争に参加するのさ」

「だって。そうしないと、黒咲が突っ走っちゃうだろ?」

「――は?」

 

 驚きのあまり、素良は口に加えた飴を落としそうになった。

 “榊遊矢にとって黒咲隼は赤の他人”。その先入観があったからこその驚きだった。

 

「仮にここでランサーズが解散しても、きっと黒咲は一人で融合次元に立ち向かう。それを見て見ぬ振りはできない。

 黒咲だって、俺にとっては仲間――友達なんだから」

「友達……」

「ああ。勿論素良もだ。友達が危険なことをしようとしてるんだから、それを止めるのは当たり前だろ?

 それにきっと、この次元戦争は俺と無関係じゃない」

「? どういうこと?」

「なんとなくだけど胸騒ぎがしてるんだ。各次元に俺とそっくりな人物が一人ずついる。そして、次元戦争の開幕を告げるように、俺はペンデュラム召喚に目覚めた。

 ……まずは次元戦争を止める。その上で俺はきっと、戦争の発端となった人物に会わなきゃいけないんだと思う」

「……そう。どうあっても僕達と関わろうとするんだね。

 まあ、分かってはいたけどさ。だったら僕の目的は変わらない。力ずくでスタンダードに送り返してあげるよ――!」

 

 素良は空中の足場へ飛び移り、(アクション)カードを拾って発動させる。

 

(アクション)魔法(マジック)《ノーアクション》! これで《トレジャー・マップ》を破壊する!」

 

 ネオ童実野シティの地図が砕け散る。これでお互いに、(アクション)カードの位置を確認することはできなくなった。

 しかし、これによって影響を受けるのは遊矢のみ。素良は全ての(アクション)カードの位置を覚えてしまっている。今更地図がなくなったところで問題ない。

 

「さて。これで(アクション)カードが使えるのは実質僕だけだ。唯一の武器を逆手に取られた気分はどう? 流石に堪えたでしょ?」

「いーや、まだ分からない! お楽しみはこれからだ!

 俺のターン、ドロー!」

 

 ――そしてまた、新たな扉が開く。

 虹彩変化(オッドアイ)

 遊矢がドローカードを確認した瞬間、片方の瞳が青くなった。

 しかし、それは僅か一瞬の出来事。デュエルを見ている黒咲も、実際に戦っている素良も、遊矢本人すら気づかない極々僅かな変化だった。

 

「俺は魔法(マジック)カード《オッドアイズ・フュージョン》を発動! 二体以上のモンスターを素材に、ドラゴン族融合モンスターを融合召喚する!

 俺が融合するのは――《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》! そして、《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」

 

 遊矢の背後に巨大な竜が二体出現する。

 一体は怒りの眼輝く竜。もう一体は大地を抉る隕石竜。本来なら各々エクシーズ召喚・シンクロ召喚によって召喚されるべきモンスターである。

 

「リベリオンが融合する、だと――?」

 

 異次元のモンスターが異次元の召喚法で交わることに、見学に徹していた黒咲もまた驚きの声を上げる。

 

「つまり、シンクロとエクシーズの融合ってこと……!?」

「《オッドアイズ・フュージョン》は相手フィールドにモンスターが二体以上存在し、自分フィールドにモンスターが一体も存在しない時、エクストラデッキの《オッドアイズ》モンスターを素材に融合召喚できるのさ!

 さあ行くぞ、オッドアイズ・リベリオン! オッドアイズ・メテオバースト!」

 

 遊矢の掛け声に応え、二体の竜は一つとなる。

 神秘の渦で一つとなりて、ここに新たな力を持つ《オッドアイズ》が誕生する。

 

「二色の眼を持つ竜達よ。今一つとなりて、次元を荒らす旋風となれ!

 ――融合召喚! いでよ、レベル7! 天候を司る暴風竜! 《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》!」

 

 新たな竜の召喚と同時に、遊矢を中心として旋風が吹き荒れた。

 その勢いに《デストーイ》達は足止めされ、素良もまた(アクション)カードを探す足を止めた。

 赤と青、二色の眼。緑色の体色と青い宝玉。背中には四つの翼。

 ――《オッドアイズ》はついに翼を得、風を纏い、天空へと飛翔する。

 

 《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》

 星7/風属性/ドラゴン族/攻2500/守3000

 

「シンクロモンスターとエクシーズモンスターを融合素材に……それも、エクストラデッキから直接……なんて――」

 

 素良は《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》を見上げた。

 口角が吊り上がる。

 

「凄いよ遊矢! やっぱり君とのデュエルはいつだってゾクゾクする! ワクワクする! こんなの、今まで見たことないよ!」

 

 素良の顔からは、誰が見ても分かりやすいくらいに期待と興奮が溢れていた。

 攻撃力は《デストーイ》達に遠く及ばないが、些細なことだ。シンクロとエクシーズの融合。これで弱いはずがない。

 

「喜んでもらえたようで何よりだけど……そんな余裕、素良にあるかな? この《オッドアイズ》は少しばかり過激だぞ?」

「構わないよ。むしろどんどん見せてよ。遊矢のデュエルをさ!」

「そっか。なら、遠慮なく行かせてもらう!

 《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》の効果発動! 特殊召喚に成功した時、相手の攻撃表示モンスターを一体を手札に戻す!

 俺は《デストーイ・サーベル・タイガー》を選択! “リバウンド・フォース”!」

 

 竜の咆哮と共に再び旋風が巻き起こる。圧縮された高密度の空気が放たれ、対象に叩きつけられる。ぬいぐるみの身体は四散し、素良のフィールドからサーベル・タイガーが消滅した。

 

「《デストーイ》モンスターがいなくなったことで、素良のモンスターの攻撃力はダウンする!」

 

 《デストーイ・チェーン・シープ》

 攻3300 → 攻2600

 

 《デストーイ・シザー・タイガー》

 攻3200 → 攻2500

 

「くっ……それでも、攻撃力はまだこっちが上だよ!」

「まだまだ、続けて行くぞ! 出ろ、《EM(エンタメイト)ウィップ・バイパー》!」

 

 遊矢は前のターン、ロングフォーン・ブルの効果で手札に加えた《EM(エンタメイト)》を召喚した。

 シルクハットを被り、蝶ネクタイをした紫のコブラ。頬には大きな星マーク。胴体は鞭のように大きくしなり、尾の部分には革の持ち手があった。

 人懐っこい性格らしい。ウィップ・バイパーは召喚されるとすぐさま遊矢の腕にぐるぐる巻き付いた。

 

 《EM(エンタメイト)ウィップ・バイパー》

 星4/地属性/爬虫類族/攻1700/守 900

 

「ウィップ・バイパーは一ターンに一度、モンスター一体の攻撃力と守備力を入れ替えることができる!

 これにより、《デストーイ・シザー・タイガー》の攻守を変更する!

 行け、ウィップ・バイパー! “混乱する毒(コンフュージョン・ベノム)”!」

 

 遊矢がシザー・タイガーを指差すと、ウィップ・バイパーはしなる身体を使って意気揚々と飛び出した。

 毒攻撃が浴びせられ、シザー・タイガーの能力値が変動する。

 

 《デストーイ・シザー・タイガー》

 攻2500 → 攻1200

 守1200 → 守2500

 

 攻撃力は一気に1200へとダウン。ウィップ・バイパーでも戦闘破壊可能なほど弱体化した。

 

「くっ――!」

 

 素良は記憶を頼りに(アクション)カードを探し出す。

 カードはすぐに見つかった――が、既にシザー・タイガーに接近しているウィップ・バイパーの攻撃は防げない。

 

「バトルだ! ウィップ・バイパーでシザー・タイガーを攻撃!」

 

 ウィップ・バイパーは身体をバネのように変形させ、《デストーイ・シザー・タイガー》に全力の体当たりをぶちかました。

 シザー・タイガーは消滅し、素良のライフが削られる。

 

 素良

 LP:1500 → LP:1000

 

 《デストーイ・チェーン・シープ》

 攻2600 → 攻2000

 

「続けて行くぞ! 《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》で、《デストーイ・チェーン・シープ》を攻撃!」

「させないよ! (アクション)魔法(マジック)《回避》を発動! 相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!」

「甘いぞ素良! ここで《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》のモンスター効果発動! 一ターンに一度、エクストラデッキから表側表示のペンデュラムモンスターを一体デッキに戻すことで、このカード以外の魔法(マジック)(トラップ)・モンスター効果を無効にし、破壊する!

 俺はエクストラデッキから《貴竜の魔術師》をデッキに戻し、《回避》を無効にする!」

 

 二色の眼が光輝き、刃の如き旋風が放たれる。

 素良の発動した(アクション)カードは風の刃に切り刻まれ、不発に終わった。

 

「何っ――!?」

「攻撃は続行だ! 

 行け、《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》! “烈風のスマッシュバースト”!!」

 

 烈風のブレスが《デストーイ・チェーン・シープ》を貫き、素良のライフをさらに削る。

 

 素良

 LP:1000 → LP:500

 

「く……でもここで、《デストーイ・チェーン・シープ》の効果発動! 破壊されたターンに一度、攻撃力を800ポイント上げて墓地から特殊召喚できる!

 甦れ、《デストーイ・チェーン・シープ》!」

 

 《デストーイ・チェーン・シープ》

 攻2000 → 攻2800

 

 ライフは残り500。しかし、モンスターの全滅はかろうじて避けたらしい。

 素良のフィールドには攻撃力2800の融合モンスター一体のみ。攻撃力は《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》を上回っているが、遊矢のフィールドには攻撃力と守備力を変更できる《EM(エンタメイト)ウィップ・バイパー》がいる。純粋な戦闘で突破するのは難しいだろう。そして《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》は一ターンに一度、カード効果の発動を無効にして破壊できる。

 このデュエルは次のターン、素良のドロー次第と言っても過言ではない。

 

「……はは。やっぱり遊矢は凄いや。追い詰めたと思ったのに、一ターンでここまで巻き返すなんて」

「デュエルってのは、そういうものだろ? ターンごとに繰り広げられる状況の引っくり返し合い。エンタメであろうとなかろうとこれだけは変わらない。だから、こんなにもデュエルは楽しい」

「楽しい……か」

 

 素良は噛み締めるように呟く。

 デュエルは楽しい。そんな当たり前のことを、素良は忘れていた。

 無理もないことだ。それはアカデミア、オベリスク・フォースを見ていれば分かる。彼らにとってデュエルとは戦い。純粋にデュエルを楽しむ余地などなかったに違いない。

 

「……素良。お前、本当は迷ってるんじゃないのか?

 自分達のやってることは間違ってるって、どんな目的があっても侵略なんてしちゃいけないって。

 そう思ったから、こうして俺とデュエルしに来たんじゃないのか?」

「それは――そうだね、そうかもしれない。僕は迷い始めてる。

 今回のシンクロ次元侵略の目的は柚子とセレナを連れ去ることだ。元々融合次元にいたセレナはともかく、スタンダード次元の柚子を攫うのは間違ってると思う。

 オベリスク・フォースに関してもそう。少数精鋭で交渉すればいい話なのに、こんな大規模な戦争を起こすのは間違ってる。

 でも、それとこれとは関係ない。融合次元が間違ってるからといって、僕が融合次元を裏切る理由にはならないよ」

「どうしてだよ。間違ってるって気づいたなら、それを正すべきだろ?」

「何もかも間違ってるわけじゃないってことさ。

 今回のシンクロ次元侵略は間違ってる。でもそれだけなんだ。エクシーズ次元との戦争は間違ってるとは思わない」

 

 素良は自分の言葉を一切疑うことなく、遊矢に向かって宣言した。

 

「ッ……」

 

 エクシーズ次元との戦争という言葉に、黒咲は顔を歪める。

 素良の発言は、融合次元側には戦いを止める気はないという意思を示していたからだ。

 

「っ……!」

 

 遊矢は苦しげに胸を抑える。

 ――ユートの魂が震えている。融合次元に対する怒りか、エクシーズ次元を守れなかったことに対する無念か。あるいは両方かもしれない。

 確かなことは二つ。この感情の出処は自分ではないこと。そしてそれは、遊矢が思っていたよりも大きいことだ。

 

「……そういう、ことか」

 

 ユートの想いを感じ取り、遊矢は一人納得する。

 以前、心の中のデュエルで見せた強い怒り。トリガーさえあれば覇王黒竜すら操ってみせる強烈な想い。

 何故あそこまで強い怒りを感じているのか。そして、どうして黒咲が融合次元に対して苛烈なのか。

 

「ユートも、黒咲も、素良も。皆、故郷が大切なんだな。俺がスタンダードを大切に思うのと同じってことか」

 

 そもそも怒りとは何故生まれるのか。

 愛情があったからだ。愛して愛して愛しているからこそ――それが失われた時、より大きな“怒り”が生まれる。

 

「君の言う通りさ、遊矢。君達にとっては碌でもない場所でも、僕にとってアカデミアは故郷。そこでできた親友だって、尊敬していた先生だって何人もいた。

 でも、エクシーズ次元との戦争が始まってしまった。アカデミアの生徒達も戦線に駆り出され、デュエルディスクを奪ったエクシーズ次元のデュエリスト達にカードにされたんだ」

「当然の結果だな。貴様らは俺達の同胞をカードにした。ならば、相応の報いを受けて然るべきだ」

 

 ありったけの憎しみを込めて、黒咲は素良を睨んだ。

 素良は応える。黒咲に負けず劣らずの憎しみを以て。

 

「あーあ、これだからエクシーズ次元は困るんだよなぁ。そうやって被害者面して自分達を正当化する。ホント、タチが悪いったらないよ」

「何を言い出すかと思えば。事実、俺達は被害者だ。俺達は、お前達にカードにされた仲間の仇を討ったに過ぎん」

「仇討ちか……ねえ黒咲。耳障りのいい言葉で誤魔化すのはもうやめようよ。

 確かに僕ら融合次元は、エクシーズ次元のデュエリストを何人もカードにした。でもそれはそっちだって同じさ。

 君の言う“仇討ち”が上手くいったおかげで、僕の仲間は皆カードにされたんだ……!」

「っ――」

 

 怒気を含んだ静かな声に黒咲は押し黙る。

 黒咲にも覚えがある。エクシーズ次元では融合次元の尖兵を、スタンダード次元ではLDSを何人かカードにした。

 素良は融合次元で育った。ならばその中に素良の仲間がいても不思議ではない。

 

「融合次元とエクシーズ次元の争いはもう止められない。お互いがお互いの大切な存在を奪い続けてるんだから当然だ。たとえプロフェッサーが撤退を命令しても、水面下で戦争は続く。

 でも遊矢。逆に言えば君達は関係ないんだ。エクシーズが滅ぼうと融合が滅ぼうと所詮は他所。だから、遊矢は大人しくスタンダードに帰ってよ!」

「断る」

 

 遊矢は頑なに首を横に振る。

 当然だろう。事情を知ったからこそ引き下がれない。榊遊矢という男は、そんなどうしようもない場所でこそ輝かなければならない。

 

「話してくれてありがとな、素良。おかげで覚悟が決まったよ。

 俺は、融合もエクシーズも滅ぼさせない。どうにかしてこの二つを和解させてみせる」

「勝手なこと言うなよ。そんなことできるはずがない。

 いやそもそも、僕らはそんなこと望んでない! カードにされた仲間の仇を討つ。それが僕らの動力源なんだから!」

「――それは、嘘だ」

「っ……!」

 

 心の底を見抜くような瞳に、素良は狼狽する。

 

「本当のお前は違う。本当のお前は心の奥底で、この戦争を止めてほしいと思っている。

 だからここに来たんだろう。俺が次元戦争に巻き込まれる前に、スタンダードへ逃がすために」

「――――」

「素良、こっちに来るんだ。お前はこの戦争が間違ったものだと知っている。融合次元のデュエリストだけど、ランサーズの一員として次元戦争を止めるために戦える! だから俺達と――」

 

 

『乱入ペナルティ、2000ポイント』

 

 

「……え?」

 

 ――遊矢の説得は、乱入者によってかき消された。

 




時々細かい所を修正するかもしれませんが、大筋は変わりません。
このままGXの使者に暴れてもらいます(ネタバレ)。

それはそれとして……最近ちょっと“続きが書けない病”を発症してな。更新速度はガッツリ落ちる……どころか更新しないまで有り得る。
よって次回を暫定的な最終回とします(二回目)。


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覚悟の眼

今回にて最終回となります。

※アニメ産オリジナルカードあり。


 

『乱入ペナルティ、2000ポイント』

「――え?」

 

 突然、遊矢と素良のデュエルディスクからシステムボイスが発せられた。

 乱入ペナルティ。デュエルに途中参加する際に要求されるライフポイント。

 遊矢ではない。素良ではない。二人は黒咲を見るが、デュエルディスクを構えた様子はない。

 つまり三人以外の誰かがこのデュエルに乱入したということ――!

 

「……どうやら、ビンゴだったらしいな」

 

 第三者の声が上空から降り注ぐ。

 ビルがそびえ立つ摩天楼、その一角。灰色のローブとフードで全身を隠している男が遊矢達を見下ろしていた。

 だが、左腕にはアカデミア共通の剣型デュエルディスク。正体は分からずとも、敵であることは明白だった。

 

「この声――まさか……」

 

 素良と黒咲は警戒心を一層強めてその男を睨む。

 二人はその声をよく知っていた。エクシーズ次元侵略の際、お互いに何度聞いた声だからだ。

 

 UNKNOWN

 LP:2000

 

「裏切り者は粛清対象だ。紫雲院素良、お前はここで倒させてもらう」

 

 フードが剥がれる。素顔が明らかになる。

 ――その顔を、二人はよく知っている。

 

「やはり、エド・フェニックス――!」

 

 素良の注意が完全に遊矢から逸れ、その男――エドにのみ向けられた。

 

「な……じゃあ、この人が……!?」

 

 遊矢は仮面の男が残した言葉を思い出す。

 あの言葉が真実ならば、この男は――エド・フェニックスは、仮面の男と同等かそれ以上の実力を持っていることになる。

 

「僕は魔法(マジック)カード《融合》を発動! 手札の《D-HERO ドリルガイ》、《D-HERO ディアボリックガイ》を融合!

 運命の岩盤を穿つ英雄よ。魔性に囚われた英雄よ。今一つとなりて暗黒の未来に君臨せよ!

 ――融合召喚! カモン、《D-HERO ディストピアガイ》!」

 

 各部には金のアーマー。全身のカラーは青。

 強靭な四肢を持つ人型のモンスター。しかしその名は英雄(ヒーロー)暗黒卿(ディストピア)

 相反する二つの名を持つ英雄が、今ここに誕生した。

 

 《D-HERO ディストピアガイ》

 星8/闇属性/戦士族/攻 2800/守 2400

 

 ディストピアガイが着地し、遊矢・素良・エドの三組がそれぞれ向かい合う。

 

「遊矢、僕のことはいい! 君は早くこの男から逃げるんだ!」

「素良!? いきなり何を――」

「いいから逃げるんだ! エド・フェニックスはアカデミアの総司令官、まともに戦って勝てる相手じゃない!」

「総司令官!?」

「ディストピアガイのエフェクト発動!」

 

 ディストピアガイの右手に漆黒のエネルギーがチャージされ、対象に向けられる。

 対象は当然素良。今のエド・フェニックスは、榊遊矢のことなど眼中にない。

 

「ディストピアガイの融合召喚に成功した時、融合素材となったモンスター一体の攻撃力分のダメージを相手に与える!

 僕はドリルガイを選択! その攻撃力、1600のダメージを――紫雲院素良、お前に与える!」

 

 素良はライフは僅か500。この効果ダメージを受ければライフはゼロ。それを防ぐ伏せ(リバース)カードはなく、(アクション)カードを拾おうにも、もはや間に合わない。

 だが、遊矢には防ぐ手段がある。

 

「《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》のモンスター効果発動!

 一ターンに一度、エクストラデッキからペンデュラムモンスターを一体デッキに戻し、カード効果の発動を無効にして破壊する!」

「何っ――!?」

 

 その驚きは誰のものか。

 全員だ。素良、エド、黒咲すらも、遊矢の行動に驚いている。

 

「ディストピアガイを破壊しろ、ボルテックス! “サイクロン・フォース”!」

 

 効果命令を受け、《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》の両目が光り輝く。

 青と赤。二色の光を放ち、突風のブレスがディストピアガイに放たれた。

 

「させん!」

 

 エドは足場を利用して地上に飛び降り、(アクション)カードを入手。即座に発動させる。

 

(アクション)魔法(マジック)《ミラー・バリア》! ディストピアガイはこのターン、カードの効果では破壊されない!」

「だが効果ダメージは無効となる!」

 

 ディストピアガイが球体のバリアに包まれ、ブレス攻撃が遮断される。

 しかし、ディストピアガイの右手にチャージされたエネルギーは消滅した。発生するダメージはゼロ。結果、素良は遊矢によって守られたのだ。

 

「貴様……」

「エド・フェニックス。これは俺と素良のデュエルだ。勝手な真似は許さないぞ」

「対戦相手を庇うというのか。

 ――甘いな、やはり甘い。榊遊勝の息子、榊遊矢!」

「な……」

 

 エドはまだ名乗ってもいない遊矢の名前、そしてその父親の名前すらも言い当てた。

 

「アンタ、父さんと俺のことを知ってるのか?」

「そんなことはどうでもいいだろう。そこを退け、榊遊矢。紫雲院素良は融合次元、どうなろうとお前には関係ないはずだ」

「いや、関係ある。素良は友達だ」

「融合次元だと言ったはずだ」

「だからなんだ。友達を見捨てる理由にはならない」

 

 一歩も引かない遊矢に、エドはため息をつく。

 ――同時に思う。ここに来て正解だったと。紫雲院素良は榊遊矢に影響され、こうしてアカデミアを裏切ろうとしている。それはアカデミア、ひいてはプロフェッサーにとって大きなマイナス。ここでカードにしておく他ない。

 

「ならば好きにしろ。邪魔したければするがいい。所詮お前では、僕は止められない。

 魔法(マジック)カード《融合回収(フュージョン・リカバリー)》! 墓地(セメタリー)から《融合》と、融合素材となったモンスター一体を手札に戻す。

 僕はドリルガイを手札に戻す!

 さらに! 墓地(セメタリー)のディアボリックガイの効果(エフェクト)発動! このモンスターを除外して、デッキから新たなディアボリックガイを特殊召喚! 

 カモン、アナザーワン!」

 

 悪魔の翼を持った闇の英雄が、エドのフィールドに現れた。

 いや、英雄と言うにはあまりにも邪悪すぎるだろう。悪魔的(ディアボリック)。それがこのモンスターの名称なのだから。

 

 《D-HERO ディアボリックガイ》

 星6/闇属性/戦士族/攻 800/守 800

 

 悪魔の力に身を委ねた影響か、ステータス自体は大して強力ではない。

 しかしエドの狙いは別にある。《融合回収(フュージョン・リカバリー)》によってエドの手札には、先ほど融合素材となったドリルガイと《融合》のカードが揃っている。

 つまり、狙いは二度目の融合召喚。もう一度ディストピアガイの効果が発動すれば、遊矢でも防ぐことはできない。

 

「くっ……行くぞ、ウィップ・バイパー!」

 

 遊矢は地上から飛び立つ。

 足場から足場へ。自前の身体能力とウィップ・バイパーの伸縮する身体を駆使して、フィールド内を縦横無尽に駆け回る。目的は効果ダメージを無効にする(アクション)カード、《加速》。

 ……その動きを、エドは見逃さない。

 

「僕が《融合》を発動する前に動いたか。榊遊勝の息子が聞いて呆れる。それでは防ぐ手段はないと言っているようなものだ。

 ――ディストピアガイ!」

「なっ……!」

 

 既に召喚されているディストピアガイが電撃を放ち、遊矢が飛び移った足場をピンポイントで破壊した。

 足場を失った遊矢は、自ずと空中に放り出される。

 

「くっ――そぉ!!」

 

 体勢を立て直し、ウィップ・バイパーを他の足場へ伸ばす。間一髪、上空からの落下だけは免れた。

 しかし妨害は続く。空中から着地した瞬間、ディストピアガイの光弾が遊矢を狙い撃った。

 カードの応酬は発生していないためダメージはない。これもまたアクション・デュエルのルールの一つなのだ。

 ――モンスターと共に地を蹴り、宙を舞う。それはモンスターを使っての物理的妨害も可能ということ。

 エド・フェニックスは、この場にいる誰よりもアクション・デュエルを熟知している。

 

「くっ……(アクション)カードが取れない……!」

「モンスターを使うとはこういうことだ。お前はそこで一人で遊んでいろ。

 僕は魔法(マジック)カード《融合》を発動! 手札のドリルガイ、フィールドのディアボリックガイをもう一度融合!

 ――融合召喚! カモン、アナザーワン! 《D-HERO ディストピアガイ》!」

 

 二体目のディストピアガイがエドのフィールドに降臨する。

 同時に、再びエネルギーが充填。ディストピアガイは融合召喚に成功した時、素材となったモンスターの攻撃力分のダメージを与える――!

 

「これで終わりだ紫雲院素良!」

「させるか――ぐあっ!」

 

 再度、ディストピアガイの妨害が入る。

 カードはあるのに届かない。目に見えるのに届かない。

 なんて無力。あらゆる召喚法を身につけても、友一人守れはしない。

 

「――あーあ。これで終わり、か」

 

 遊矢とは対照的に――素良は、不気味なくらい冷静だった。最後の飴玉の封を開け、味わう。

 彼が最後に思い浮かべたのは遊勝塾のメンバー――遊矢と柚子だった。

 ……情報によると、遊矢と柚子はシンクロ次元で再会し、柚子はランサーズに入ったのだという。

 背中を二人に預け、融合次元と戦う。エンタメデュエルの継承者、融合召喚の弟子、そしてアカデミアの裏切り者。なんと愉快な光景だろうか。

 ――だが、もう少し素良が素直だったら、そんな未来もあったかもしれない。

 

「ディストピアガイのエフェクト発動! 融合素材となったドリルガイの攻撃力分のダメージを与える!

 これで終わりだ、紫雲院素良――!」

 

 素良

 LP:500 → LP:0

 

 ◆

 

 

「――嘘だろ?」

 

 デュエルが終了した直後、遊矢の第一声がそれだった。

 忽然とモンスターが姿を消した。ウィップ・バイパー、ボルテックス、そしてエドのディストピアガイ。

 その瞬間、嫌な予感が遊矢の全身を駆け巡った。

 

 ――予感は的中した。

 

 素良のライフポイントはゼロになり――エドの右手には、カードにされた素良が握られてた。

 

「素良?」

「紫雲院素良はここにいる。ヤツはここで敗北しカードにされた。当然の結果だな」

「――何が当然だ」

 

 怒りに震え、土を握り締める。

 友達を失った。実感が伴わなかった現実を理解し始め、沸々と黒い感情が煮えたぎる。

 

「どうしてだよ! どうしてお前達はそこまでする! デュエルは争いのための道具じゃない!!」

「弱者が何を叫んでも意味はない。やはりお前は榊遊勝の息子だ。声を大にして叫ぶだけで、何かを変える力などありはしない」

「――そうかよ。なら、俺が今この手で変えてやる。

 俺とデュエルしろ!! 素良は返してもらう!」

「無駄だ。仮に僕を倒しても、紫雲院素良は帰ってこない」

「それでもだ! 俺はここでお前を倒す! そしてお前を――お前、を――――――」

 

 言ってはならない一言を叫びそうになり、言葉に詰まる。

 遊矢は自問する。自分は今、何を言おうとした?

 

「僕を、なんだ? 僕を倒してどうしたいんだ。答えてみろ、榊遊矢」

“――カードにしてやる”

 

 精神のダムが決壊しそうになるが、ギリギリのところで踏み留まった。

 ……エドの質問に答えることができない。

 デュエルで笑顔を。それがどれだけ難しいことか、遊矢は本当の意味で実感した。

 

「答えられないか。そうだろうな。

 榊遊勝の息子。お前もまたあの男同様、エンタメデュエルなどという巫山戯たものを志しているのだろう。そんなデュエリストが、“お前を倒してカードにする”など口が裂けても言えまい。

 救うべきもの、守るべきものを選べない優柔不断さ。それがお前達親子の弱さだ」

 

 全てを笑顔にする。その想いが賞賛されるのは決まって成し遂げた後だ。

 何故ならそれは理想だからだ。理想を現実にするのは極めて困難。だからこそ、たとえ奇跡の重ねがけであったとしても、成し遂げられれば英雄となる。

 だが、できなければ糾弾される。優柔不断だと。覚悟がないと。

 ……エドは遊矢と黒咲に背を向け、デュエルディスクの次元転送機能を起動した。全身が青い光に包まれ、転送が開始される。

 

「待て、どこに行く!」

「エクシーズ次元だ。僕が請け負った仕事は裏切り者の粛清。エクシーズ次元に少なくとも一人、裏切り者がいる」

「それって――」

 

 エクシーズ次元に行った裏切り者。そう言われて思い浮かぶのは一人だけだ。

 

「ではな、榊遊矢。榊遊勝がいる限り、僕はもう一度お前と会うことになるだろう。

 その時までに覚悟を決めておけ。目に映るもの全てを犠牲にして、その上で、最も大切なものを守る覚悟を」

 

 ……エドの姿が消えた。彼もまたエクシーズ次元へ転移したのだろう。

 

「……くそ」

 

 ……デュエルで皆を笑顔にする。

 黒咲の言った通り、それは空虚な理想だった。

 友達一人すら守れないデュエルが、皆を笑顔になんてできるわけがない。

 あるいは、こうして少数を犠牲にすれば、それ以外は救えるのだろうか――。

 

「……そうだ、行かないと」

 

 遊矢は倒れそうになりながら、ふらふらと歩き出す。

 

「柚子……セレナ。今行くぞ」

 

 素良は言っていた。シンクロ次元侵略の狙いは柚子とセレナだと。ならば、エド・フェニックスのような刺客が送られていても不思議ではない。

 以前までの遊矢なら違っていた。“助けられなかった”と、己の無力さを嘆いて足を止めることができた。

 ――だが、今は違う。榊遊矢は強い。エド・フェニックスが相手でも互角以上の戦いを繰り広げられる。柚子とセレナを守れるだけの力がある。

 友を一人失った。だからなんだというのだろう。

 力を持つ者には責任が伴う。大切なものが欠けたからといって、足を止めてはならないのだ。

 

「遊矢」

 

 遊矢の進む先に黒咲が立ちはだかる。

 

「くろさ――」

 

 ――拳が迫る。

 腐ったその顔に、鋼の拳が叩きつけられた。

 その威力に堪えることができず、遊矢は大きく吹き飛ばされた。

 

「目が覚めたか、遊矢」

「っ……なんの、つもりだよ」

「虚ろな顔をしていたのでな。喝を入れてやったまでだ」

「喝……?」

 

 何のことか分からない、と言わんばかりに遊矢は尻餅をついたまま黒咲を見上げる。

 

「お前は紫雲院素良とデュエルする前に言ったな。このデュエルでヤツの本音を聞きだすと。

 だが、肝心のヤツは裏切り者としてカードにされた。今、お前はどんな気持ちでここにいる?」

「……分からない」

 

 歯が砕けるのではないかと思うほど強く歯噛みし、搾り出すように胸の内を吐露する。

 

「エド・フェニックス。あいつの邪魔が入らなければ、素良は今頃――」

「ああ。おそらくはランサーズに入っていただろうな。不本意ではあるが、俺がヤツと肩を並べることもあっただろう」

「そうだ。デュエルは人を変えられる。変えられるはずなんだ。それなのに――」

「悔しいか……ならば立ち上がれ。無念と憎しみを糧にして、俺達と共にアカデミアを討つぞ」

「……嫌だ」

「何?」

 

 遊矢は立ち上がることを否定した。

 ――デュエルで皆を笑顔にする。未だ揺るがぬその信念が、無念と憎しみを糧にすることを拒んでいた。

 

「無念と憎しみ。そんな感情で立ち上がっても、笑顔のために戦うことはできない」

「まだそんなことを言っているのか。笑顔ならアカデミアのトップ――赤馬零王を倒した後で作ればいい。

 いい加減、敵と味方を区別しろ。少なくとも、アカデミアは敵だ」

「それは分かってる。アカデミアとの戦いは避けられない。

 ――でも。アカデミアだから倒す、という考えには賛同できない。素良や、その前にデュエルした仮面の男。融合次元にだって、ちゃんと分かり合える人はいるんだ」

「遊矢……」

「俺は決めたよ、黒咲」

 

 殴られた頬を拭い、立ち上がる。

 無念や憎しみのような後ろ向きな感情ではなく、希望や願いのような前向きな感情で。

 

「俺は次元戦争を止める。今回のような出来事は二度と繰り返さない。もう二度と、俺の目の前で誰かをカードにさせない」

「……友を失ってなお、理想を捨てないか。見上げたものだ。

 分かっているのか? お前は強い。だからこそ“榊遊矢”は破滅する。大切なものを失い続け、先に心が壊れることになるぞ」

「かもな。その時はまた俺を殴ってくれ。

 ……そうしてくれたらきっと、俺はまた頑張れる」

「……筋金入りだな。何がお前をそこまでさせる」

「別に、なんてことない。まだ望みを捨ててないだけだ」

「望みだと?」

「ああ。素良はデュエルディスクによってカードにされた。なら、カードから戻す方法だってきっとある。

 折れるのはまだ早い。希望はまだ残ってる」

 

 遊矢は自分に言い聞かせるように、黒咲に告げた。

 カードにされたデュエリスト達を元に戻す方法。こればかりは融合次元に乗り込まないと分からない。

 そして、それが最後のラインだ。もし方法がなかった場合、榊遊矢は今度こそ崩壊するだろう。

 

「行こう、黒咲。柚子達を――ランサーズを――シンクロ次元を、助けに行こう」

「……ああ」

 

 黒咲はユートの姿を遊矢に重ねる。

 

 片や友を失い、正当な憎しみに身を委ねた者。

 片や友を失い、それでもなお理想を貫く者。

 

 どちらが強いか。後者だ。

 どちらが危ういか。それも後者だ。

 

 黒咲は思う。

 ――いざという時、遊矢を守れるのは自分しかいないのかもしれない。実力があり、かつ優先順位が低い自分だからこそ、榊遊矢を守れるのだと。

 

 

 それぞれの想いを胸に、二人は仲間を救うべく走り出した。

 

 

 




前書きでも書きましたが今回で最終回です。つまり《完》です。打ち切りです。ご愛読ありがとうございました。
バトルシティどころじゃなくなる(=バトルシティ編完)ので次回から章が変わります(書くとは言ってない)。


正直、前回のラスト~今回の話は100人に聞いたら50人以上の人が「雑な展開だなぁ」と思うんじゃなかろーか……?

「素良がカードにされる展開」が不満だったならこう言いましょう。アキラメロン、と。
過程の違いこそあっても、素良がカード化されるのはオベフォVSイェーガー辺りから思い描いていた展開です。

友を失っても立ち上がる遊矢……しかし、表情はどことなく虚ろ。
そこに浴びせられる黒咲(とも)の拳――!

まあ、ここはデュエルの方が良かった気もします。遊戯王なので。


「乱入アンド乱入の手抜き展開」が不満だったならこう言いましょう。
実力不足です、すいませんでした!


以下メモ。流し読みで構いません。

・ランサーズがアカデミアの侵略者達と戦い各々成長。
 (この“各々”ってのがすごく厄介。何度でも言おう、キャラ多すぎ。好きでもないキャラを面白く書けとか、趣味で書いてる身としてはかなりキツイ。ぶっちゃけこれさえなければ……)

・同時進行でユーゴ対ユーリ。
 ユーリが柚子を追い詰めたところでユーゴが主人公っぽく登場してデュエル開始。
 だが勝者はユーリ。ユーゴは吸収される。

・遊矢が駆けつけ、遊矢対ユーリ。
 スターヴ・ヴェノムによって追い詰められるが、遊矢が《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》に覚醒し逆転。
 あと一息というところでユーリがクリア・ウィングを召喚。
→イベント《我らが一つに》発生。柚子によりデュエル中断。

・遊星がカード化されたセキュリティを調べる。戻す手段は分からないが確実にあると断言。おそらくは融合次元にあるとのこと。
→融合次元に突撃する前にエクシーズ次元で仲間を募ることに。
 (マスク・ド・サンダー(バレバレ)含む)

・ランサーズ分断。
 遊矢(ユート)、黒咲、柚子、セレナがエクシーズ次元へ。残りはシンクロ次元の護衛。

・最後にフレンドシップカップ再開。ランサーズは全員敗退し、優勝は不動遊星。最後に遊星対ジャック。
 
「ライディング・デュエル、アクセラレーション!」

 で締め。

《エクシーズ次元編》
・ファイブディーズ要素がなくなるのでタイトル変更。
・遊矢対カイト。
ダベリオンが融合素材となる。あるいはXモンスターが融合素材となる。
煽りではなく、カイトが強いからそうせざるを得なくなる感じで。
→カイトがブチギレる。

・遊矢、明日香対○○、××
タッグなら誰でもいいし何でもいい。
初対面のはずなのにコンビネーションバッチリな二人を柚子に見せつけたい。餅を焼くんだ柚子。セレナは終始「?」顔のツッコミ役でお願いします。

・柚子が力不足を感じ、明日香から融合or儀式を学ぶ。
《幻奏の機械天使デウス=エクス=マキナ》(仮)
かっこいいんだけどめっちゃ不穏な名前のオリカ登場。


以上、メモ終了。
最後に、ご愛読ありがとうございました。


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