破滅を望む者 (十六夜 一哉)
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Profile

オリキャラの能力などの設定です。
細かな設定は随時更新する予定



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裡葉 玲治

万華鏡写輪眼:左:月読・天照 右:禍津日 (モデル:うちはマダラの永遠の万華鏡写輪眼)

古式魔法師の頂点に君臨する名家である裡葉の直系。

裡葉の純血であるため写輪眼を開眼し、古式魔法『忍術』の使い手でもある。しかも、現代魔法師としてもかなり優秀でもあり、正に世界最強の存在といっても過言ではない。

殆どの裡葉は自分の地位に胡坐を掻いている。過去の栄光に縋っている自分の血族に怜治は完全に見限っていた。

導いた結果というのが、この世界に写輪眼は必要ないと判断した。だから父たちが考えていたクーデターを利用するような形で何人かの裡葉を殺した。その事実をどうやって知ったかは分からないが、裡葉直系の家では玲治を「同胞殺し」「親殺し」など侮蔑の意味を込めて言っている。

玲治の最終目標はこの世から写輪眼―――裡葉の血を根絶やしにする事。

義妹であるさくらには相当に甘く、重度のシスコンと化している。

 

 

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裡葉 さくら

万華鏡写輪眼:左:神威 右:闇御津羽 (モデル:畑カカシの万華鏡写輪眼)

怜治と同じく裡葉の直系であり、怜治の義妹。

10代前半まで地下牢みたいな場所に幽閉されていて、統治の子を産むための母体として物心付く前から地下に移されていた。この事実を知るものはかなり少なく、同じ忍びである九重八雲の情報網を以ってしても掴めないほど厳重に管理されていた。

余計な知識を教えられずに育ったため、純粋に育っていた所に怜治と邂逅を果たした。定期的に裡葉の目を盗んで来る怜治の話を楽しみにしていた。

統治の子を産むのには納得してはいたが、そこに愛情は無くて死んだという情報を怜治から得た時は最初は悲しんでいたが、数日後には普通に過ごしている。

古式魔法も少々使えるが、現代魔法の方を得意としている。

重度のブラコンと化しているが、これの主な原因は深雪のせい。

 

 

 

禍津日 :重力操作

闇御津羽:闇の操作

 

 

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~第一章 入学編~
episode01-001


その日は冷たい雨が降り注いでいる―――

大雨、というほどではないが地上へと降り注いでいる。その雨は―――燃え盛っている炎を沈静するように降り注いでいる。

暗い夜を照らさんばかりに火はどんどん大きくなり、和式の館を焼き尽くす。

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

一人の青年が荒い息を繰り返しながら血の滲む脇腹を抑えている。

そしてその青年は他の魔法師とは違う特異な力が備わっていた。正確にはその血が流れる者だけが持つ力だ。

闇夜の中でも妖しげに輝く真紅の瞳。そして三つの黒い勾玉が紋様として浮かび上がっている。

 

「―――凄い粘るね。もう終わってるはずなんだけど」

 

燃えている民家から声が聞こえてくる。現れたのは黒い髪の少年、その佇まいや容姿は青年にどこか似ているように思わせる。そして同じ“眼”を持っている。

 

「貴様……玲治ッ!今なにやっているのか分かっているのかッッ!!」

 

修羅の如き表情となっている青年は玲治と呼んだ少年に殺気を送る。大怪我をしているというのに全く衰えが見えないその覇気に少々目を丸くしている。

 

「分かっているよ。今俺は―――家族を殺している」

 

「分かっていてなお、こんな事をするかっ……何を吹き込まれた!」

 

「別に何も。ただ、これは自分自身が決めた事だよ―――父さん」

 

玲治は父に軽薄な笑みを向けながら言う。

 

「自分で決めただと……?世迷言をっ……!」

 

「いいや、この件には『数字持ち』はおろか『師補十八家』も『十師族』ですら介入していない。接触はあったが、それまでさ」

 

玲治は血や雨で濡れた前髪を掻き上げ、黒い眼が青年と同じような禍々しい真紅の眼となった。

同じ魔眼なのに感じる力は全く違う。その事実に父である統治は歯噛みする。

 

「力に溺れた、というワケでも無さそうだ。普段のお前からしてみれば有り得ない」

 

「確かに有り得ないよ。俺は、俺の思うがままに行動している。それは今も変わらない」

 

「私たち家族を殺してまでもか……?」

 

怒りを抑えるようにして低い声で統治は問う。

 

「そうだ。むしろ殺さなくては俺の願いは成就できない」

 

「願い、だと……?」

 

「そう。俺の願いだ。いいや、こんなものを願いというにはおかしいな……野望、というのがしっくり来る」

 

バキバキッと支柱が完全に燃えたのか玲治の後ろにある屋敷が軋みながらどんどん崩れていく。真後ろに振り向きもせず、ただ統治と相対する。その眼には狂気も何も見つからない。自分の意思で、尚且つ人としての心を捨ててないのが統治には分かった。

だから尚更分からない。なぜこんな事をするのかが。

 

「俺たち裡葉(うちは)は古式魔法師の中でも異質だ。原典と言ってもいい。けどね、もうお呼びじゃないんだよ」

 

「……?」

 

統治は玲治が何を言いたいのかが分からずに疑問しか思い浮かばない。しかし、玲治の薄ら寒い笑みを見ていると、寒気が走る。

 

「俺たち裡葉はもう過去の栄華に縋るなんて無様な真似をしなくていい。今この世は現代魔法に向かいつつある。古式魔法師は退場すべきだとは思わない?」

 

一部例外はあるけど、と付け足す玲治の意図がようやく分かった。それゆえに驚愕を露わにしている。

 

「父さん、裡葉の権威は十師族に近いけど、はっきり言えば面倒極まりないんだよね。俺たち裡葉には『写輪眼』という眼があるから尚更、ね」

 

裡葉の血を引く物にしか発現しない特異な眼『写輪眼』。その眼はあまりに万能過ぎた。その眼は裡葉の血を引いていなくても十分に使えるのだ。“眼”の欲しさに狙ってくる連中は後を絶たない。それほど魔法師にとっては魅力的な能力を兼ね揃えているのだ。

 

「これ以上他の愚者に眼を渡したく無いんだよね。まあ殆どの血縁者は色んな血が混ざり過ぎたのか開眼した者はかなり少ないけど」

 

「それは私も思っていることだ……だからこそ守っている」

 

「守っている、ね……」

 

統治の言葉に玲治は落胆を込めて呟く。

 

「―――ご退場願おう裡葉統治。あなたは国家転覆しかねない。あなたの野望はここで終わりだ」

 

殺意と共に玲治の写輪眼に変化が訪れる。写輪眼の特徴である三つ巴がゆっくりと回転し始め、通常とは異なる眼となった。

 

「……ふざけるな」

 

統治は俯いたまま呟くため、どんな表情をしているのか分からないが大体察しが付く。

 

「私の野望は誰にも止めるさせはしないっ!!」

 

憤怒を露わにして玲治を睨みつける統治の写輪眼にも変化が訪れる。玲治と同じように三つ巴が回転していき、やがて三つの突起物のような紋様へと変わる。

 

「貴様を殺すッ!邪魔だぁぁぁっ!」

 

その怒りに呼応するように統治から浅紫色の炎のような揺らめきが噴き出した。その炎はやがて骨を形成し人の形を取り始めた。統治を覆うようにして現れた巨大な霊体の像は膨大なエネルギーで構成されているのが分かる。

 

「……なんだ、父さんもそっち(・・・)まで開眼してたのか。差し詰め母さんの死かな?」

 

「―――ッ!?ど、どうしてお前がその事を知っている!?」

 

それ以前に、なぜお前もその“眼”を持っている?との疑問も浮かび上がっていく。

 

「俺も開眼した理由か……さぁ、なんでだろうねぇ」

 

残虐な笑みを浮かべるのと同時に玲治の体からも蒼いオーラが噴き出し、人の形を取っていく。その事実に絶句する統治を見て優しげな笑みを浮かべる。

 

「さよなら、父さん。この世界には裡葉は要らないんだ」

 

 

 

 

 

玲治の眼の紋様は最初の写輪眼へと戻っている。悲しげに下を見つめる先には左肩から右脇腹まで一刀の元に斬られた後を残して絶命している統治だ。

 

「世界はままならないものだ。父さんもクーデターを企まなければこんな事にならなかったのに」

 

後ろを振り返ると、既に焼き尽くした後の屋敷がある。僅かに目を細めて苛立し気に舌打ちする。

 

「だとしても俺はお前の事が嫌いだから結局は殺していたかもな」

 

物言わぬ肉体と成った統治の脇腹を思いっきり踏む。そして、あくどい笑みを浮かべる。

 

「まあいい。そんなお前にも役に立つ事がある。俺の眼となり、未来永劫礎となれ」

 

玲治の指が統治の眼へとゆっくり近付いていき―――抉り出した。

そのまま懐から特殊な液体に満たされた容器に放り込む。両の眼を入れたのを確認した玲治は蓋を閉め、屋敷の方へと足を運ぶ。炭となった骨組みを『青い巨大な骸の腕』で薙ぎ払って吹き飛ばした。そこには一つの鋼鉄の蓋が地面に在った。玲治は屈んで思いっきり持ち上げる。

その下には地下に続く階段があった。

コンクリの階段を降りて行き、また重々しい扉がある。

 

「これでやっと、報われるか……」

 

鍵が幾重にも掛かっているが、面倒なのが原子レベルにまで『分解』して扉を失くす。

その先には一体何が待っていると言われると―――ただの部屋だった。

十二畳ほどの小さな畳の部屋があり、敷布団や木製の机と言った生活感に溢れている場所だった。

そんな布団の上には一人の少女が眠っていた。いや、丁度起きたらしく、眠い目を擦りながら上半身を起こした。

 

「起きたか、さくら」

 

「……兄さん?どうしてここに?」

 

きょとんとしながらさくらは小首を傾げている。相変わらず無垢な少女であるさくらに苦笑しつつも内心で統治に怒りを覚える。さくらを此処に閉じ込めたのは他でも無い統治だったからだ。

 

「いや、賊に襲われてね。しかも今回はやたらと強かったらしく、父さんが死んだ」

 

「統治さんが……そう、ですか」

 

さくらは端整な顔立ちを悲しげに歪ませている。

玲治はウソの情報を流した。一家皆殺しにしたのさくらの目の前にいる玲治だ。しかし、ここまで音が届かないように完全防音となっているから、さくらは玲治のいう事を信じるしかない。

 

(あの屑を殺して正解だったな。このままでは、さくらの貞操が危ない)

 

血に、力に固執し過ぎた裡葉一族は世間でも禁忌に等しい行為を行おうとした―――近親相姦だ。

実の娘を犯して子を成そうとさせる狂った統治を玲治は幾度無く殺そうとしていた。不幸中の幸いなのが、統治にそんな趣味が無かったおかげで今の今まで手を出していなかった事だ。

さくらは世間の事を何も知らずにただ父と子を成すことしか教えられていなかった。それが普通だと思っているし、嫌悪するべき事ではないと思っている。一種の洗脳教育に近い。

しかし、そんな牢獄のような生活は終わりだ。玲治が立った今終わらせた。

 

「さくら、外に興味は無いか?」

 

「外ですか?兄さんの話を聞いて興味が湧いています」

 

本来さくらと会おうにも監視役がいて余計な真似や知識を吹き込まないように見張る存在が要るのだが、生来から異質だった玲治は写輪眼で監視役を幻術に掛けたりしていた。

そのため、さくらには統治でいう余計な知識をたくさん持っている。

 

さくらは目を輝かせながら、玲治の事を見つめてくる。可愛らしい妹を抱き締め、優しく頭を撫でる。

 

「お前は自由だ。まあ自由って言われてもピンと来ないか。俺と一緒に暮らさないか」

 

「ちょっと不安ですけど、頑張りますっ」

 

さくらは期待と不安半々という感じだ。

元々こんな事をしたのはさくらを助け出すためでもある。というより一応は血の繋がっている妹が親に犯されて子を成すなんて行為を兄として見過ごせない。開眼したのを今日この日まで秘匿していた甲斐があったというものだ。

所詮は自分自身のエゴだと分かっていても、さくらには自由になってほしかったのだ。

 

「じゃあ行くか」

 

「はいっ。これからよろしくお願いします、兄さん」

 

 

 

 

 

 

その日、裡葉一族の殆どが死んだことは、魔法師の名家では有名な事件として衝撃的なニュースとして魔法界隈で流れた。

 

 



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episode01-002

黒髪の少年―――裡葉玲治は自分の制服を見て、難しい顔をしている。

クローゼットのドアの内側に備え付けられている姿鏡を見て冷や汗を流している。

 

「おぉう……マジで入学することとなってしまった」

 

玲治が着ているのは国立魔法大学付属第一高等学校の制服だ。胸と肩には八枚花弁のエンブレムが刺繍されている。一科生という魔法師として期待の卵の証でもあるのだが、それでも玲治の表情は晴れない。

それ以前になぜ自分は第一高校の入試を受けたのだろうと今になって思った。

さくらが行くから玲治も行くことになったのだが、それ以外の理由もある。どの高校でも変わらないか、と思ってもこれだけは顔を顰めてしまう。

 

「俺って―――白色の制服って似合わなくね?」

 

白い制服はどうにも落ち着かないのだ。ただそれだけの理由だが、玲治にとっては大問題だ。

 

「兄さん、入っていいですかー?」

 

「おー、入っていいぞー」

 

ドアの外から妹の声が聞こえたので催促する。ガチャとドアを開け、栗色の髪を揺らしながら入ってきた。

 

「どうですか?一高の制服は似合ってますか?」

 

「へぇ、中々似合っているな。可愛いぞ、さくら」

 

「ありがとうございますっ」

 

兄である玲治に褒められるのはさくらにとって最高の意味を持つ。花が咲いたように笑うさくらに玲治も頬が緩む。

 

「兄さんも似合ってますって断言します」

 

「そうかぁ?俺的には白は似合わないと思うだが……」

 

「そんなことありません。元々格好良いですから何着ても問題ないですよ」

 

「……似合う似合わない以前に、これを着て三年間通うから慣れなくちゃいけないかねぇ」

 

玲治は諦めたように息を吐き、ネクタイを締める。

 

「ふむ、さくらも一科生か。まあ魔法力を考えれば当然か」

 

「そういう兄さんも一科生のようですが、手を抜きましたねぇ……」

 

「…………」

 

ジト目で睨んでくるさくらの視線に耐え切れずに思わず視線を逸らしてしまう。事実、玲治は筆記も実技もある程度手を抜いて合格しているのだ。その理由があまり目立ちたくは無い、という残念極まりない理由だ。

 

「そんな事はどうでも良い。さっさと朝食食べて学校に向かうぞ」

 

「露骨過ぎる話題転化ですね」

 

さくらの呟きは聞こえないように振る舞い一階へと降りていく。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「納得できません」

 

「まだ言っているのか……?」

 

玲治とさくらの友人である兄妹が一高校門前で言い合っている―――というより妹の方が拗ねている。

 

「なぜお兄様が補欠なのですか?入試の成績はトップだったじゃありませんか!」

 

「なんでお前が入試結果を手に入れ―――ああ、玲治の仕業か」

 

男子生徒の方が側で成り行きを見ていた玲治へと視線を向ける。その視線に答えるように屈託の無い笑みを浮かべて親指を立てる。感に触ったようで「後で覚えてろ」と目で訴えられてしまった。

ちょっとだけ、やらかした感があった玲治は手助けすることにした。

 

「なぁ、深雪。魔法科高校は筆記だけじゃダメなんだが」

 

「玲治の言う通りだ。俺の実技能力は深雪も知っているだろう?」

 

「むぅ……」

 

可憐な美少女である司波深雪は、兄である司波達也にまだ納得がいってない、という視線を送っている。

 

「お前の気持ちは嬉しいよ。俺の代わりにお前が怒ってくれるから俺はいつも救われている」

 

「嘘です」

 

「嘘じゃない」

 

「嘘です。お兄様はいつも、私をこと叱ってばかり……」

 

「嘘じゃないって。でも。お前が俺のことを考えてくれているように、俺もお前のことを思っているんだ」

 

その一言で、深雪は頬を赤らめている。

 

「お兄様……そんな、『想っている』だなんて……」

 

何かとてつもない齟齬が発生しているのは見ていて分かる。それは玲治はそんな茶番っぽいやりとりを側で見ていて「あぁ、またか」と言った表情で見ている。

っとそこまで考えていると、隣にいるさくらは裾を引っ張ってきた。

 

「兄さん兄さん、私の事も想ってくれてますか?」

 

「……えぇ~」

 

あのバカップルの如く甘ったるい空間に侵されたのか、やけに期待した目で見てくる。

 

「うんまぁ、俺もお前の事は大事だぞ。ちゃんと『思っている』からな」

 

「はいっ、私も兄さんの事を『想っています』!」

 

二組の兄妹の甘ったるい空間に引いている生徒を見て、ああなぜこんな風に育ってしまったんだろうと悔いる。

 

 

 

 

深雪が新入生総代に選ばれ答辞に選ばれているため、分かれてしまった。二人に付き合って早めに来てしまったため、三人でベンチが置かれているのを見つけたため、三人で一緒に座った。

 

「深雪も相変わらずだなぁ。どうにかならないの、アレ」

 

「無理だな。こんな兄を贔屓目で見てくれるのは嬉しいが、少し過大評価が過ぎる」

 

「そうかぁ?俺的には深雪の見解で間違ってないと思うが?お前って色んな意味で規格外だし」

 

「酷い言い草だな」

 

達也は肩を竦めるだけで、特に何も言わない。

 

「達也も兄さんも私からすればどっちもどっちなんですけど」

 

さくらは呆れにも等しいため息を漏らす。総合的に見るのなら、玲治の方に分配が上がるが、実戦―――殺し合いとなればまだ分からない。魔法師として優れていると言われても、実戦ではまるっきり評価が変わる。

 

玲治は自分がおかしいとでも言っているような妹の頭を乱暴に撫でる。

 

「あわわわっ!や、やめて下さい!髪がっ、髪が乱れますっ!」

 

「兄を規格外呼ばわりした罰だ。達也だけにしろ」

 

「だから俺が別に規格外でもないんだが。現に二科生だぞ、俺は」

 

「「……へー」」

 

全く信用していないように呟く兄妹。達也は深い深いため息を吐くだけだ。玲治はその程度で本人の実力が測れないのは知っているから特に何も言わない。深雪という妹を持っていれば否が応にも化けの皮は剥がれる。

そうなれば芋づる式に自分たちも関わるのは目に見えている。

 

「今度はどんな面白い事を引き起こしてくれるんだ?」

 

「……俺をトラブルメイカーのように言わないでくれ」

 

「えっ、違うんですか?」

 

純粋な疑問を口にしたさくらにより達也は静かに携帯端末を取り出した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「新入生ですね?会場の時間ですよ」

 

玲治たちに話し掛けて来たのは一人の女子生徒である。女としてはやや小柄ではあるが、モデルのように出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

隣でさくらが軽く唸っているのを無視して玲治はその手首に巻かれているCADに注目した。

校内で普通にCADを装着できるのは生徒会役員や風紀委員だと推定する。

 

「ありがとうございます。すぐに行きます」

 

達也はそう言ってお礼を言うが、早々に立ち去りたいように思える。

 

「申し遅れました。私は七草真由美。第一高校の生徒会長を務めています。よろしくね」

 

丁寧な自己紹介をされた、と思いきや最後の最後で口調が砕けてウィンクしてきた。どうやら真由美は明るい性格のようだ。

 

(数字付き……しかも七草って四葉に次ぐ第二位か)

 

いきなり十師族との邂逅に玲治は苦い顔になりかけたが、すぐに普通の表情に戻した。

 

「俺、いえ、自分は司波達也です」

 

「裡葉玲治と言います」

 

「私は裡葉さくらです。妹です」

 

「司波達也くんに……そう、あなたたちが……」

 

目を丸くして驚く真由美は達也と温度が若干違うのにに玲治はすでに分かりきっている。『裡葉』と言えば、古式魔法の名家であり、写輪眼の大元だ。

さくらも魔法師界で裡葉がどんな扱いを受けているのか知っている。何を言われても動じないだろう。

 

「先生方の間では、あなたたちの噂で持ちきりよ」

 

どうやら真由美の話では、入学試験の筆記の高得点さに噂になったらしい。達也が入試で平均九十六点、玲治も筆記六位に実技五位。さくらは筆記実技共に三位であり、次席だ。その事はすでに知っているから対して驚きもしない。

 

「そんな凄い点数、少なくとも私には真似出来ないわよ?」

 

「……そろそろ時間ですので失礼します」

 

達也はこれ以上時間を取りたくないのか、半ば無理矢理話を終わらせて背を向けた。

 

「では会長、自分たちも失礼します」

 

玲治も真由美に礼をしてから達也の背中を追いかけるように歩き出した。さくらはも先ほどから感じていた視線の意味を感じ取っていたため、ちょっと不機嫌だ。

 

「……玲治」

 

「分かっているさ。俺が裡葉だからこそ、十師族も放って置かないだろう。はてさて、いったいどんなアプローチを掛けてくるのやら」

 

玲治は父たちを殺して四年が経ったが、未だに接触を計ってくる者が絶えない。異性を使って引き込んでこようとする者、眼だけを狙って暗殺をしてくる者。自分たちに仇成す者は悉く屠ってきたが、まだ絶えない。ここ最近では専らストレス発散になってきている。

四年前に裡葉というサンプルが激減した今、玲治とさくらという純血の裡葉は貴重だ。

 

「さくら、気にするな」

 

「むぅ……兄さんにお手数を掛けているのを申し訳なく思っています」

 

これは暗に暗殺者たちの対処の事だろう。その対策として玲治たちはかなりの頻度で一緒にいる。それはさくらも了承している事だ。

 

「これは俺たちの問題だから達也の出る幕は無いな。表立って過激なアプローチは掛けてこないだろうし」

 

「ならいいが、本当に手が必要な時は呼んでくれ。対処しよう」

 

「礼を言う。そんな日が来ないことを祈るがな」

 

玲治と達也は苦笑し合い、さくらは蚊帳の外であることに不満を持っている。謝罪の意味を込めて

頭を撫でると、途端に気分が良くなった。我が妹ながら単純過ぎることに不安を持つ。

 

三人は講堂の中に入っていくが、少々時間的に遅かったようで半分以上の席が埋まっている。

普通なら一科生も二科生もどこの席に座ってもいいのだが、綺麗に分かれている。

前席には八枚花弁の刺繍が施されている一科生。後席にはエンブレムが無い二科生。人間の意識というのは差別に敏感らしい。

対して達也は二科生であり玲治とさくらは一科生。流石に一緒に座るのは目立ち過ぎる。

 

「達也。差別意識なんてどうでもいいが、ここで目立つわけにはいかないよな」

 

「ああ。流石にあえてこの流れに逆らうつもりは無い。玲治、さくら、ここは一旦別れよう」

 

「そうですね。では、達也、また深雪と一緒に会いましょう」

 

「二人で帰らないで待っててくれよ?」

 

「ふっ、分かってるさ。深雪もそこまで非情ではない」

 

玲治たちは達也と別れて一科生が前の席へと移動する。取り敢えず二人で座れる場所に座り、銃学識が始まるのを待つ。

 

「深雪の答辞ですか……本気でやれば総代は兄さんがやっていましたね」

 

「そこまで目立ちたくは無いなー。色々と面倒だし」

 

「そんな覇気の無いことでどうするんですか……」

 

「お前、深雪と同じことを言うんだな」

 

全く同じことを深雪に言われた事がある玲治は、この二人絶対に似てるわ、と改めて思った。

開始まで十分程度であり、その間さくらと話していると、

 

「あの、隣いいですか?」

 

声を掛けられたので、そっちを向くと二人の女子生徒がいた。もちろん一科生である。

 

「ああ、構わない。どうぞ」

 

屈託の無い、と言えばウソになるが社交辞令程度の笑みを向けると最初に話しかけてきた活発そうな少女の顔が真っ赤になった。

玲治は達也よりも容姿が整っており、十人中九人は振り返るであろう美形である。当の本人である玲治は自分の容姿に無頓着でもある。

玲治の横に活発そうな少女が座り、次に大人しそうな少女が座る。

 

「あっ、わ、私は光井ほのかと言います!」

 

少し慌てながらも自己紹介してきた。

 

「私は北山雫。よろしく、二人とも」

 

こっちの少女はほのかとは対照的でかなり落ち着いている。感情が乏しいというのか良く分からないけど

 

「俺は裡葉玲治だ。で、こっちが」

 

「……妹のさくらです」

 

ちょっと膨れっ面となっているさくらは当たり障りの無い自己紹介をしているが、明らかに不機嫌です、といた感じだ。

そこで雫は何かに気付いたようにハッとした。

 

「裡葉……裡葉ってあの?」

 

「その裡葉を言っているのか分からないが“眼”に関してなら合っているぞ」

 

雫と玲治のやり取りに首を傾げていたほのかだが、思い出したような顔をする。

 

「損得勘定は抜きにしてよろしく頼む。俺的にはさくらとも仲良くして欲しいしな」

 

「兄さんは心配し過ぎです。私だって頑張れば……」

 

ぶつぶつと何か言っているが、別に邪険にしているわけじゃない。ただの妹の可愛らしい嫉妬だ。

取り敢えず自分の世界に入りつつあるさくらを放置して三人で話す。

 

「二人は友人なのか?」

 

「はいそうです。小さい頃からずっと一緒なんですよ」

 

「幼馴染みってやつか。友人はいるけど、結局中学からの仲だし」

 

その友人というのは達也と深雪の事だ。

その二人はこれまでも色々と面白い事に巻き込んだり、巻き起こしていたりしていたから、この高校でどんな面白い事を巻き起こしてくれるのだろうと不謹慎ながら期待している。

 



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episode01-003

深雪の答辞は……本人らしさが出ていたと思う。さくらも頬が引き攣っていたが、深雪だから仕方がないと納得していた。

答辞自体はミスもなく見事なものであったが、その内容に含まれる「皆等しく」「一丸となって」とか「魔法以外にも」「総合的に」など際どいフレーズが盛りだくさんであり冷や汗を掻いたが、講堂にいる男女全員の心を鷲掴みにしたおかげで、誰も気にも留めていなかった。

深雪は世間でも可憐な美少女であり、女性としての黄金律を体現しているような存在だ。成績優秀、容姿端麗といた才色兼備な深雪は中学でも相当な人気があった。その弟である達也も女子からの人気があったが、本人は全く以って気付いていなかった。

さくらも深雪ほどでは無いが、かなり整っており深雪の『美しさ』とは違う『可愛さ』を持っている。そんなさくらと一緒に深雪に会いに行きたかったが、今からIDカードの交付がある。それでクラスが分かるわけだ。

玲治とさくら、雫とほのかは受付でカードをもらい、何組かを確認する。

 

「玲治くんとさくらは何組?」

 

「俺は……A組だな」

 

「兄さんもですか?私もA組ですよ」

 

親しくなった雫とほのかとは敬語も外れて名前で呼び合うようになった。

 

「二人ともA組ですか?私たちもです!ね、雫」

 

「うん。これで四人一緒」

 

雫も少し嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

「玲治さんたちはホームルームに行きますか?」

 

「すまんな。これから友人二人と待ち合わせしているんだ」

 

これは本当のことだ。帰りに達也と深雪合わせて四人でどっかに寄ろうと話していたのだ。深雪の人気振りを見れば、少し早めに行かなくてはいけない。

玲治や二人に挨拶をしてからさくらと少し話す。

 

「あの二人は一体何組になったことやら……」

 

「深雪なら私たちと同じA組だと思いますよ。達也は分かりませんが」

 

「アイツの魔法技能は勿体無い限りだ。戦場では無類の強さを誇るというのに」

 

学生に向いていない奴は始めて見た、と面白そうに言う。

ポンポンとIDカードをお手玉のように放り投げている玲治をさくらが叱ったりしながら歩いていると、達也の姿が見え、その周囲に二人の女子生徒がいた。

ニヤリと笑みを浮かべた玲治はそのまま達也たちの方へと歩いていく。

 

「ほほぅ……達也さん。随分と面白―――仲がよろしい事で」

 

「玲治、何を思っているのか分かるが、違うからな。あと本音が漏れているぞ」

 

「達也が両手に花の状態なんていう面白い状況を作ってくれた事に感謝、と」

 

「開き直るな」

 

そんなしょうもないやり取りをしていると、達也と一緒にいた二人の女子生徒は、少し玲治とさくら警戒している。一科生だから仕方が無いといえば仕方が無い。その事に気付いたのか、達也がフォローに入る。

 

「千葉さん、柴田さん。彼は俺の友人だ。差別意識は無い」

 

「そそ。友人の達也が二科生なんだから見下すわけ無いだろ。それに、一科生とか二科生とかどうでもいいし」

 

それでようやく千葉と柴田と呼ばれた少女は警戒を解く。どうやら玲治が思っていた以上に一科生と二科生の溝は深いようだ。

 

「初めまして、俺は裡葉玲治。まあ見ての通り一科生だ」

 

「私は裡葉さくらです。兄さんと同じ一科生ですよ」

 

「うわぉ、いきなり大物と出会っちゃったよ……」

 

玲治とさくらの自己紹介を聞いて千葉は驚いたように目を丸くして、軽い調子で僅かに身を引いていたが、演技だとすぐに分かる。驚いたのは本当だろう。

自己紹介で驚くということは、千葉もまた裡葉について知っているということだ。隣にいる柴田は裡葉についてはあまり知らないようだ。

 

「あたしは千葉エリカよ。よろしくね、裡葉くんに裡葉さん―――ってなんか言い難いわね。名前で呼んでいい?」

 

「別に良いけど、じゃあこっちもエリカと呼ばせてもらおうか」

 

「オーケー、じゃ改めてよろしくね、玲治くんにさくらちゃん」

 

「はい、よろしくお願いします、エリカさん」

 

エリカが親しみ易い性格で良かったと玲治は思う。殆どの魔法師は裡葉と知れば避けるか逆に擦り寄ってくるかの二択が非常に多い。

 

「美月、さっさと自己紹介しなさいよー」

 

「わ、分かりました……えっと、柴田美月です。よろしくお願いします」

 

「こっちこそよろしく」

 

「よろしくお願いします、柴田さん」

 

自己紹介が終わり、玲治は美月の眼を見て僅かに眉を顰める。別に不機嫌になったとか、癪に障ったとうわけではなく、眼鏡を掛けている理由だ。

ここ最近視力矯正なんて出来るようになってきたから眼鏡を掛ける人は激減している。魔法師で眼鏡を掛けるなんて『霊子放射光過敏症』としか思えない。しかも、感覚からして強力なものだと推定した。

 

(まさかこんな所で会うとは……俺の眼より少々下か?)

 

写輪眼が全てを視る魔眼であるため、霊子(プシオン)想子(サイオン)も視る事が出来る。写輪眼とは違い、霊子だけであり尚且つ制御不能だから写輪眼の劣化版と思っても相違ない。

警戒する必要は無いため、興味深い程度の認識となっている。

 

 

 

 

 

「―――お兄様、お待たせしました」

 

講堂の入り口の隅で話していた玲治たちの背後から、待ち人がやってきた。何となく予想していたが、ものの見事に人垣が出来ている。深雪はその間をすり抜けて来た。

 

「深雪、あなたは人気ものですね。相変わらず」

 

「さくら、あまり嬉しくないのよ。疲れるもの」

 

「……分かります」

 

深雪とさくらは誰に、というより深雪の美貌で寄ってきた人たちに聞こえない声で話し合っている。その際、深雪と話しているさくらの方に視線が向き「あの子、誰だ?」とは「可愛いな」などとさくらを評価する声も上がっている。

深雪とは違うベクトルの容姿を持つさくらにも目が行くのは仕方が無い。確かにさくらは小柄だが美少女の部類に入る。『可愛い』という域から出ないのだが。

こうして二人並んでいると、中々絵になるのだがいつまでもこうしている場合ではない。

話しかけようとしたとき、後ろにいる人に気が付いてしまった。それは達也も同じだ。

 

「こんにちは。またお会いしましたね」

 

なんか裏が有りそうな笑顔を浮かべている真由美に頭を下げる。

 

「お兄様、そちらの方たちは……?」

 

「ああ……こちらが柴田美月さん。そしてこちらが千葉エリカさん。同じクラスなんだ」

 

「そうですか……早速、クラスメイトとデートですか?」

 

深雪は達也に笑みを向ける。しかし、目が完全に笑っていないのが付き合いが長い玲治たちに気づいた。そして、玲治は場を弄るのが好きな性格であり、独り言のように呟く。

 

「結構親しげに話してたよな。会って全然経ってないのにそんなに仲が良いとは……もしかして結構気が合っている?」

 

「玲治っ……!」

 

「へぇ、そうなのですか。気が合っているのですね……」

 

達也は煽った玲治を睨みつけるようにしているが、ただ悪い笑みを浮かべて傍観を決め込んでいるだけで、フォローなんでものは一切しない。

しかし、そんな深雪を少し戒めるとすぐに怒りが収まってしまい、玲治としては面白くない結果となった。

 

「玲治、あとで覚えてろよ」

 

「はて、何のことかな?俺はただ独り事を呟いていただけだが?」

 

「兄さん、公共の場では少し自重してください……」

 

「やれやれ、可愛い妹から言われちゃあしょうがない」

 

おどけたように言う玲治に白々しい、と言った視線が向けられる。主にエリカと達也からだ。

 

「もしかして玲治くんって……シスコン?」

 

「別に俺はシスコンじゃない、と思いたいなぁ」

 

玲治がシスコンなら達也は重度のシスコンという意味になる。今はまだ分からないかもしれないが、付き合いっていれば自然と分かる。

とは言っても自分がさくらを大事にしていることには変わりは無いから、否定もあまり出来なかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

自宅に帰ってきた玲治とさくらは、着替えてから一階のリビングのソファーに座っている。一般的な家でも良いと言ったのだが『契約相手』からの意向で立派な一軒家に暮らしている。

あの日『一族会議』に来ていた裡葉を滅ぼした玲治だが、また年端もいかない子供が世の中生きていく事は非常に難しい。だから、ある人と契約を結びこうして普通に暮らす事ができる。

決して傘下に入ったわけでも言いなりになっているわけでもない。あくまで対等な関係なのだ。玲治がその気になれば一国を落とせるから、機嫌を損ねるような事は相手はしない。

玲治の怒りの買う原因なんてさくら以外に存在しない。他はあまり気にしていない。

 

「ふふふっ……」

 

玲治と密着して幸せそうに笑っているさくらを見て、本当になんでこんな風に育ってしまったのだろうと内心頭を抱えるが、その最たる原因を知っている。というよりそれしか思い当たらない。

 

(深雪……お前、さくらに何を吹き込んだんだよ)

 

重度のブラコンである司波深雪だ。

まださくらが外に出て間もない頃、一応一通りの知識を教えたのだがいまいち恋愛面など感情に準ずるものは体験をさせなくてはいけない。契約相手のおかげで学校に通う事となり、さくらはどんどん知識を吸収していき、逆に余計なモノまで吸収してしまった。

その中学には司波兄妹がいたのだ。さくらは常に玲治の妹であろうとし、最悪な事に深雪を真似し始めたのだ。クラスが一緒だったりして、話をするくらいの仲だったのだが、いつの間にか友人と呼べるくらい仲が良くなった。それに比例して深雪と関わる毎に純粋だったさくらは毒されていってしまったのだ。

今ではすっかり玲治至上主義となってしまい、困っている。

 

「兄さん兄さん、もっと撫でて下さい」

 

「はいはい。ったく甘えん坊だな」

 

右腕の中にスッポリ入るほど小さな妹は、恋慕もあるとは思うが甘えている部分が多い。それも小さい頃からしたことが無かったからだろうと思う。

 

「兄さんと一緒に暮らせて幸せです」

 

「どうした急に?」

 

「いえ何も。ただ……こんな幸せを味わえるとは思えませんでしたから。あのまま時が流れていたら、私はどうなっていたんでしょうね」

 

「……俺が行動を起こさなければ、間違いなく愚かな父の交配していただろうよ。それはそれで違う幸せがあったんじゃないか?無知は愚かなり、という言葉があるが無知もまた幸せという意味でもある」

 

「うーん……過去についてはいいです。統治さんも亡くなったわけですし」

 

さくらの反応に玲治は少々目を丸くして驚いてしまう。

統治のために幼少の頃から過ごしていたさくらは、統治についてはもう少し情があるかと思っていたから、こんなあっさりした反応を返されるとは思わなかった。最初の頃は悲しんでいたのにも関わらず。

 

「これからも、俺らが裡葉である限り襲撃は絶えないだろう。同じ裡葉一族でもお前を狙ってくる事も有り得る」

 

玲治たちが裡葉である限り、敵は対処しなくてはならない。そして最も危険があるのは、玲治ではなくさくらの方だ。理由は簡単、男よりか女の方が一族に貢献出来るからだ。

だが、これまでも襲撃はさくらに指一本触れさせては居ない。玲治だけが開眼しているとという情報を意図的に(・・・・)流しているから、さくらの方に極力興味を示さないようにしている。

 

「戦力的に見れば兄さんと私、どっちもどっちですけど……」

 

「まあ……そうだな。お前見た目に寄らず近接格闘も出来るもんな」

 

混じりの無い純血のせいなのかは分からないが、とにかく玲治とさくらは優秀だ。むしろ襲う方が無駄な労力だと思う。

 

「そんワケで対襲撃者迎撃用に八雲さんの所に行くぞ」

 

「九重先生の所にですね。朝食はどうしますか?」

 

「用意してくれ。達也たちも行くらしいし、久し振りに手合わせ願おうかねぇ」

 

玲治は明日達也との組み手を期待しているように笑みを浮かべる。

達也に玲治、さくらに深雪には体術の先生というべき存在がいる。それが「忍術使い」と呼ばれる九重八雲だ。玲治たち裡葉と同じ古い家系でもあり、同じ「忍び」だった。

しかし、玲治は現代魔法を取り込んだから、すでに純粋な忍びではなくなった。四年前の真相を知っていて尚、変わらずに接してくれる八雲は玲治にとって貴重な人材だ。

 

「話しは変わりますけど、今日の夕食は何がいいですか?」

 

「そうだな……今日は入学式だから、オムライスでいいぞ」

 

「オムライスですか?もっと豪勢なものではなくて?」

 

純粋に疑問に思っているさくらに苦笑して、頭を撫でた手を止めた。

 

「俺にとってはオムライスは特別さ。なんたって―――お前は初めて俺に振舞ってくれた料理じゃないか」

 

きょとんと小首を傾げているさくらだが、やがて玲治の言葉の意味がわかったのか、花が咲いたよう笑顔となった。

 

「誠心誠意込めて作りますっ!」

 

「ああ、期待しているぞ」

 

玲治も優しげな笑みを浮かべてお互い笑い合う。

 



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episode01-004

玲治とさくらは朝早くに起きて支度をしている。

さくらがすでに弁当を作り終えているため、着替えるだけですぐに家を出ることが出来た。

目的地まで普通に歩くのも面倒なので二人揃って魔法を使っていく。さくらは以前深雪と一緒に行った際に使っていた移動と加速の複合術式を使い、ローラーブレードで滑り上がっている。本人曰く意外と訓練になるらしい。

かくいう玲治もボードに乗って同じような術式+硬化魔法でボードと自分自身の相対位置を固定し、集合概念として定義して移動術式を組んでいる。二人とも移動を完全に魔法で制御しているのにも関わらず平然としている。

 

「うーむ、学校の部活は『SSボード・バイアスロン』にしようかな」

 

「兄さん好きですからね、ボード」

 

「好きというより、移動が楽」

 

どっか遠い場所に行く時などは普通にボードを使っているのだが、その場合高速移動術式を組み込むため、もの凄い速度が出るのだ。目視出来ない速度で移動するこの術式は、基本的に目的地が見える時に使う。とてもじゃないが、街中で使う魔法じゃない。しかし、玲治には写輪眼があるからそんな無茶も呆気なく通るのだ。

 

「んー……もう達也たちは着いているのか、速いな」

 

道に拡散しつつある想子の残滓を見て呟く。二種類の想子は見たことがある。達也と深雪のと見て間違いないだろう。

二人で目的地まで着いた意外と大きな寺は、一般的な寺じゃない。そこら辺でなんかやっている者たちは全員が八雲の下に集ってきた修行者なのだ。一種の僧兵だろう。

ボードを脇に挟んで門を潜った瞬間、横から手刀が飛んできた。

 

「―――随分なご挨拶ですね、八雲さん」

 

「いやはや、達也くんといい君たちは本当に強くなったねぇ」

 

手刀を放ってきた八雲は軽薄そうな笑みを浮かべて、腕で防いだ玲治を賞賛する。

 

忍び(・・)同士の戦いでもするかい?」

 

「……受けて立ちましょう。俺の忍術は衰えていません、よっ!」

 

八雲の手刀は弾いた玲治は寅の印を結び、忍術を発動する―――

 

 

 

 

「……相変わらず凄いな」

 

寺の敷居に建っている木造の寺の縁側に座っている達也と深雪は玲治と八雲の仕合いを見ている。

 

「忍術使い同士の戦い、というわけですね」

 

深雪も感心したように見ている。

現代魔法師が常備するCADを一切使わず超常現象連発している二人を久し振りに見て、思わず魅入られてしまっている。

相手の打撃が当たったと思いきや、いつの間にかそこら辺にある木材などに変わっていたり、風の弾丸を無数に飛ばしたり、幻影を使ったりと深雪に至っては忍び同士の戦いをついていけてない。

 

「やるねぇ、玲治くん。裡葉は健在のようだね」

 

「現代魔法に手を出しただけで、別に弱くなったワケじゃありませんよ!」

 

楽しそうに笑みを浮かべながら拮抗している現状を打破しようとしているが、全然変わらない。

 

「そろそろ止めた方がいいかもしれませんね」

 

「あ、さくら。あなたは加わらないのかしら?」

 

隣で座って観戦しているさくらに深雪は訊くが、首を横に振った。

 

「無理です。あの二人は忍びの中でもトップクラスですから。それに私の専攻は現代魔法です」

 

少しくらいは使えますが、と言い再び仕合を見る。

そこで、状勢が変わった。

 

「くっ……!」

 

苦い顔をしているのは、八雲ではなく玲治の方だ。接近戦に持ち込まれ対応しているが、押されつつある。そこから逆転ならず、地面に押し倒され首下に手刀を添えられてしまった。

 

「……勝てない」

 

「僕はきみの師匠でもあるからね。そんな簡単に負けられないよ」

 

玲治は起き上がり、体の調子を確かめていた。

 

「だけど、写輪眼を使われてたら僕の負けだった」

 

写輪眼の洞察眼を以ってすれば八雲の動きは手に取るように把握出来る。玲治自身、修行に写輪眼を使わないのを信条としているため、仕合で使う機会は無い。

 

「兄さん、お疲れ様でした」

 

「そこまで疲れてはないが、有意義だったのは違いない」

 

さくらからタオルを受け取り、汗を拭う。一般人からすれば瞬間移動の如く動き回っていたから流石の玲治も息切れする。同じくらい動き回っていた八雲は息切れ一つも起こしていないから理不尽だと思う。

三人は達也と深雪と一緒に座った。

 

「達也、八雲さんには勝てたか?」

 

「いや、一方的にボコボコにされた」

 

達也は苦笑しながら言う。どうやら八雲さんと超えるのは当分先になるらしい。

四人で修行後の朝食を食べながら、雑談を交わす。不意に八雲が玲治と達也を見てしみじみと呟いた。

 

「もう、体術だけなら達也くんにも玲治くんにも敵わないかもしれないねぇ……」

 

それは純粋な賞賛。他の門下生がいれば嫉妬や羨望していただろう。しかし、玲治はその賞賛を素直には受け取れなかった。なぜならば、

 

「俺は写輪眼を使ったから、一概に自分の努力とは言えないがな」

 

当初はさくらを守るために、全ての技術を取り込もうとしていた。それは八雲の体術も例外ではない。写輪眼でコピーしたのだ。

世間で―――魔法界隈で囁かれている写輪眼は展開中の魔法式を読み取り、模倣する事が出来る。更に想子や霊子と意図的に視認する事が可能であり、何より幻術を見せる『幻術眼』と催眠を掛ける『催眠眼』など多くの特殊能力を兼ね備えている。敵からしてみれば相当な脅威だ。簡単に自白させる事ができるのだから。

写輪眼の脅威を正しく認識している者たちは執拗に眼を求めてくる。一番ロクでなしのすることならば、裡葉の女を誘拐し母体にする事例もある。その大半の研究所も裡葉の報復にあったりして潰れている。

 

自分の努力の結晶を横から奪い取るような行為をしたのにも関わらず、八雲は気にしていないように笑う。

 

「別に構わないよ。僕としてはきみたちの身の危険性を知っている。そして家族を守るために力を求めるのなら協力を惜しまないよ」

 

「……ありがとうございます」

 

玲治が八雲に頭を下げている時、その隣でさくらが頬を染めている事に気付いていなかった。しかし、八雲を含めた三人は気付いていたようで、温かい目でさくらを見ていた。

その視線に気付いたさくらは慌てて佇まいを直して咳払いをする。

 

「そういえば、兄さんは普段から写輪眼を使わないですけど、どうしてですか?」

 

「ああ、俺とも組み手でも使わなかったな」

 

「そうだね、僕としても知りたいかな。もう僕と達也くんも体術は模倣する意味は無いんだしね」

 

既に玲治は八雲の体術を完全模倣し、自分自身にアレンジしている。ゆえに別に写輪眼を使ってコピーしなくてもいいのだ。なのに、未だに使わない玲治にさくらですら疑問に思っている。

どうやった話そうか、と悩みながら水を飲み干す。

 

「そうだな……裡葉は代々古式魔法の名家だったんだが、今ではすっかり落ちぶれただろ?」

 

第三次世界大戦で活躍した玲治とさくらの叔父である元当主・裡葉幻山。幻山は黒い雷撃を以って全ての敵を薙ぎ払って行った。

しかし、大戦中で原因不明の失明症に掛かってしまった。今まで猛威を振るっていた裡葉だったが、その殆どが幻山の成果だった。かつて古式魔法のエキスパートだった裡葉だが、現代魔法の発動速度に敵わず、撤退を余儀なくされて権威は失墜した。あくまで表の権威というわけだが。

 

「あんな写輪眼頼りの戦いなんて、俺的には阿呆がやることだ」

 

「だからお前は、写輪眼を使わずに素で鍛えているのか」

 

「そゆこと。つーか裡葉は眼を過信しすぎだ」

 

かつて裡葉一族は体術も行える忍びであったのにも関わらず、眼を過信したあまり疎かになった。その結果が第三次世界大戦だ。

 

「玲治もお兄様も先生が褒めてくださっているのですから、もう少し自信をお持ちになった方がいいのではないかと思います」

 

「深雪くんの言う通りだよ。君たちはもう達人クラスだ。魔法師相手に遅れを取らないさ」

 

一流の魔法師相手となれば話が別だが高校生で二人を超える者はいないといっても過言ではない。

少しくらいは自信を持った方がいいかな、と玲治は思った。

 

 

 

 

 

玲治とさくらが一高へと行った後、その場に残ったのは達也と深雪、そして八雲だ。

何も聞こえない、風で葉が擦られる音以外何も聞こえない一時、達也は口を開いた。

 

「……師匠」

 

「うん、わかっているよ」

 

八雲は笑みを崩さすに縁側に座る。

 

「きみが知りたいと言っていた玲治くん―――裡葉一族についてだね」

 

達也は無言で頷き、深雪はその事実を始めて聞いたのか目を丸くして二人を見ている。

 

「それは、どういう意味ですか……」

 

「言葉の通りだ。俺は師匠に調べて欲しいと頼んだ」

 

「そういうわけだよ。まあ達也くんが来た時にはすでに調べ終わってたんだけどね」

 

じゃあなんでその時に教えてくれなかったのか、と言っても笑って回避されるのは目に見えているから、ため息を漏らす。別に急いで欲しいというわけでも無かったから、大事にはなっていないから良しとした。

 

「知っての通り、裡葉一族は「忍び」の中では最も古い歴史を持つ一族であり、その眼を持って最強となりこれまで不動だった。現代魔法が世に広まる前までは写輪眼は絶大な力を持っていたのは知ってるかい?」

 

「はい。それは今でも変わりないという事も」

 

「その通り。写輪眼は忍術・体術・魔法を看破し、更には模倣する眼だ。正に理想とも言える能力を詰め込んだ力を裡葉は独占門外不出としていた。元々裡葉の力であり、外に広がるのを良しとしなかったのは当然だね。けれど、一族間だけで回るほど世界は甘くない。戦いの果てに一族の数はどんどん減っていった。そこで仕方なく外の血とも交わるようになってきた」

 

裡葉一族は元々少数だった。平和な世界ならば一族の間で血を保ちながら過ごせたかもしれないが、戦闘が多かった。徐々に写輪眼の対抗策が練られていき、徐々に減らしていった。その時から写輪眼を奪われることも多かった。

外と交わる事によって一族も安泰していった―――と思われた。

 

「時代が進むにつれて―――裡葉の血が薄れるにつれて写輪眼の開眼者が減っていった。元々写輪眼が遺伝性の能力だったから当然といえば当然かな?」

 

「そうだったのですか?俺は玲治とさくらを見ていたから数はいると思ったのですが……」

 

「玲治くんとさくらくんは完全な純血さ。裡葉の中には誇りを守るために純血同士の交配でいくつかの家はこれまで保ってきたのさ。今で言う『宗家』と呼ばれる十二家がそうだよ。あの兄妹はその家系出身なのだろう。紛れも無い裡葉の直系だよ」

 

達也は納得した。

 

「最も、写輪眼の開眼条件は裡葉の血と何かがあると思ってるんだけどね」

 

「それは師匠でも調べられなかったのですか?」

 

「写輪眼については本来裡葉だけのものだ。情報隠蔽がかなり厳重だ。それに……」

 

八雲は珍しく顔を顰めて言おうか言うまいか迷っている。そんな八雲を見るのが初めてな二人は驚いていた。

 

「裡葉一族の写輪眼には、更に上の瞳術があるらしい」

 

「さらに上……?そんなものまであるのですか」

 

「これはあくまで噂の域を出ないんだけど、僕は真実だと思ってるよ」

 

「それは何故ですか?」

 

あらゆる情報を収集してくる八雲の曖昧な情報にも驚くが、信憑性が限りなく薄い噂を信じてるのがあまり信じられないと思えた。

 

「第三次世界大戦で『雷神』と謳われた黒い雷を操った裡葉幻山。あの力はもしかすると、写輪眼の更に上の瞳術の可能性があるんじゃないかな?」

 

達也自身もその話は聞いた事がある。この世の自然現象や物理法則を超えた力。確かにそう思えば有り得るかも知れない。

 

「一族についてはここまでで、あとは玲治くんとさくらくんの素性だね」

 

「お願いします」

 

「先ほど話した通り、玲治くんは裡葉の『宗家』の一人であり次期当主候補だったんだよ。僅か十歳の時に写輪眼を開眼させ、忍術に関しても他の髄を許さなかった。正に神童とも言うべき存在だったね。『六道仙人』の再来とも言われていたよ」

 

六道仙人とは裡葉一族の開祖であり、天地創造を可能とさせたと言われる人物であり、殆どの者が嘲笑うような骨董無形な人物だ。

 

「四年前の事件を起点として現代魔法にも手を出し始めて今に至るわけさ。たださくらくんの方の情報は無いんだよね」

 

「それはそういう意味ですか?」

 

その事実に達也は眉を顰める。あそこまで仲が良いのにも関わらず過去の情報が無いというのはおかしい。それこそ、自分たちのように徹底隠蔽されているかだ。

 

「さくらくんに関しては本当にわからないんだよ。まるで四年前に突如として現れたようにね」

 

四年前の事件で裡葉さくらという存在が表に出て来た。それ以降の情報が無い、という事を意味するのは、

 

「生まれてきてから、さくらくんはもしかすると幽閉されていたのかもね」

 

「そんな……」

 

今まで黙って聞いていた深雪が悲しそうな声を上げる。深雪と最も仲が良い同性の友人であるさくらが幽閉されていたとは思えなかったからだ。

 

「しかし、四年前の『宗家』の六家が滅んだ際に玲治くんと共に保護された。何者かの襲撃の際に二人で逃げ延びた可能性があるね」

 

八雲の話をを聞きながら達也は幽閉の話が信憑性があると確信していた。

初めて会った時の玲治とさくら。特にさくらに関しては殆ど知らなかったのだ。アイスも知らなかった。服のブランドも知らなかった。パフェも、一般的な料理ですら知らなかった。それを意味するのは外界から隔離されていた、という事実に他ならない。

 

(……まさか)

 

達也は一つの結論に達した。しかしこれはあくまで自分の妄想だと、考えすぎだと思い首を振る。

 

 

―――玲治が四年前の事件を引き起こした犯人だなんて……有り得る筈が無い。



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episode01-005

登校してきた玲治とさくらは自分の教室であるA組へと入る。

入ってきた玲治たちを見ては驚いている。なぜ驚いているのかがわからないが深雪の知り合いという事とさくらの容姿だろうと推測した。自分の席に座り、携帯端末を取り出そうとした時、声を掛けられた。

 

「お、おはようございます、玲治さん!」

 

「おはよう、玲治さん、さくら」

 

声の主は前日講堂で自己紹介した雫とほのかだった。

 

「おはよう、雫、ほのか。相変わらず元気だな」

 

「おはようございます、雫、ほのか」

 

「おはよう、さくらさん」

 

席的には「う」と「き」と「み」。雫は丁度隣の席でほのかだけが少々離れている。しかし、この二人は中々固い絆で結ばれているようで、始まるまで話していたようだ。

 

「ほのか、お前は緊張するなよ」

 

「え、えぇ!?」

 

「……ほのかは何でそこで驚いているのです?」

 

なぜか驚いているほのかにさくらは疑問に思っている。かくいう玲治も昨日で結構打ち解けたと思ったから、結構心にくる。

 

「私たちは友人ですからもっと肩を楽にしてください。雫と話しているように」

 

「え、えっと……」

 

わたわたしているほのかを眺めながら近くにいた雫に声を掛ける。

 

「ほのかって人見知りなのか?」

 

「うん。ちょっと上がり症……というより、二人の容姿が優れているからと思う」

 

「ん……?容姿の問題?」

 

玲治は首を傾げる。さくらに関しては言わなくてもわかるが、なぜ自分に緊張するのかが分からない。もしかして異性と話すのは苦手なのか、と見当違いな方向へと思考が逸れてしまった。その事に雫が気づくはずも無く、会話を続ける。

 

「んー……ほのかとどうやって打ち解けれるようになれるのか良い案あるか?」

 

「それなら時間が解決してくれると思うよ。ほのかも玲治くんたちと仲良くしたいっていつも言ってるし」

 

「ちょっと雫!何言ってるのっ!?」

 

二人の会話が聞こえていたのか、ほのかが顔を真っ赤にして雫を非難するような声を上げる。一方雫はいつものポーカーフェイスを崩さずに「ほのかに任せてると二週間くらい掛かるから」と言うと、気まずそうにほのかは視線を逸らした。

 

「そうだったのですか。ほのかって恥かしがり屋さん?」

 

「それならこっちからもお願いする。仲良くして欲しい」

 

「うぅ……っ」

 

ほのかは玲治とさくらの温かい視線に居た堪れない気持ちになってしまったようで、俯いている。

そんな羞恥心いっぱいなほのかの肩に手を置く雫。

 

「ほのか、元気出して」

 

「元々雫のせいでしょ!」

 

きゃー!わー!、とほのかは雫に八つ当たりっぽく叫んでいる。

本当に仲が良い二人を見て苦笑したあと机の端末にISカードをセットしてインフォーメーションのチェックを始める。

キーボードオンリーの高速タイピングで受講登録を一気に打ち込む。この技術は達也と一緒にCADについて話し合ったり、色々と作っているときに身に付いた技術である。さくらもそこそこ出来るが、玲治たち程ではない。

 

「これでよしっ、と」

 

カタン、とキーを叩いて終わらせる。顔を上げると雫とほのかが目を丸くしてこっちを見ていた。

 

「どうした、そんな鳩が魔法をくらったような顔をして」

 

「それ、鳩死んでますよ、兄さん」

 

「冗談だ。ふむ、面白くなかったか……中々難しいな」

 

中々にズレている会話をしている兄妹。

 

「玲治さん凄いですねっ、あんな速く打てるなんて!」

 

「というより、キーボードオンリーで入力する人が珍しい」

 

先ほどの冗談は無かったように会話を進める二人にちょっと悲しくなった。今度はもっと良いネタを考えようと、内心で決意する。

 

「兄さんはCADを調整(チューニング)が出来るんですよ。超一流です!」

 

玲治が褒められているのになぜか胸を張るさくら。兄である玲治が褒められるのは、自分が褒められるよりか嬉しいのだろう。さくらの笑顔を見てたら、ツッコム気力が失せたから、そのまま会話を続ける事にした。

 

「俺は一応魔法技師を目指しているし、出来て当然って所だな」

 

「一科生なのに魔法技師志望なんですかっ!?」

 

ほのかが驚くのも無理は無い。一科生といえば魔法師の卵であり、魔法技師を志望するものは殆どいないと言っても過言では無い。一科生から魔法技師に行くのは、何かしらの事情がある人くらいだ。

 

「俺って古式魔法の使い手だし、魔法師に興味ないんだよなぁ」

 

「じゃあなんで、一高に入学したの?」

 

雫の疑問は最もだ。普通魔法師になるために入学する一高に入学するのはおかしい。玲治にも色々と理由があるのだが、その中でも最たる理由がある。それは、

 

「―――さくらは一高に行きたいと言うから俺も入学しただけだ」

 

妹に一緒に行こうと言われたからである。可愛い妹に『涙目での上目遣い』で抱きつかれてしまったら断れるわけない、というのがその時の玲治の心情だ。

雫とほのかは玲治の入学理由を聞いて一つ確信した事がある。

 

―――この人、極度のシスコンだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

四人ともインフォーメーションをチェックして雑談を交わしている時、A組全体の空気が変わった。重くなったとかそういうのではなく、有名人が来たような浮き足立ったような甘い雰囲気だ。玲治とさくらは呆れたように額に手を当て、ほのかと雫は何事かと教室のドアを見る。

教室に入ってきたのは、玲治とさくらの親友であり、主席入学者である深雪だ。彼女が放つオーラで男女分け隔て無く魅了する深雪は、中学の時と全く変わらない。さらに磨きが掛かったような気もする。

 

「司波さんだ……凄い綺麗だね」

 

「うん。なんか嫉妬するのが馬鹿らしくなるね」

 

ほのかはすでに手遅れなようでぽーっと深雪に熱い視線を送っている。雫は深雪を前にしてもポーカーフェイスなのに玲治は驚いた。達也並みの鉄仮面かもしれない。

 

「まあ、アイツは才色兼備を地で行くような奴だし、中学に入ってからは嫉妬も多々あったが、所詮は陰口しか叩けない奴ばかりだし」

 

「直接手を出せば兄さんと達也が黙ってないですし、仕方ないですよ」

 

中学時代はさくらも深雪もその容姿で相当な人気があった。しかし、玲治と達也という強力なボディガードが居たため、直接的な嫌がらせは無かった。深雪のオーラに気後れしてそんなこと出来ないと思うが。

魔法科高校は一般人とは毛色が違うので、嫉妬は無いだろうというのが玲治と達也の見解だ。むしろ同じクラスなのを誇りにもつだろう。

 

「そう言えば、玲治さんとさくらって司波さんと友達なの?」

 

「中学からの付き合いだ。ふむ、丁度良いしお前らにも紹介しておくか」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待って下さい!心の準備が―――」

 

「おーい、深雪ちょっと来い」

 

ほのかの事なんて軽くスルーして深雪を呼ぶ。後ろでほのかが声にならない悲鳴を上げているが無視だ。

玲治の深雪を呼ぶ声が教室内で響いたらしく、ほぼ全員こっちを見る。深雪をちょっと驚いたように目を丸くしたが、すぐに軽く微笑んで席を立ってこっちまで来た。

 

「急に私を呼んだけど、どうかしたのかしら?」

 

「いやなに、俺とさくらの友人でも紹介しようかとね」

 

「友人……?もしかしてそちらのお二人が?」

 

深雪の視線は顔を赤くして混乱しまくっているほのかととそれを抑える雫がいた。そこまで緊張するものなのだろうか。

 

「ほのか、自己紹介するチャンスですよ」

 

さくらが横からほのかに声を掛ける。そこで正気に戻ったのか、ちょっと落ち着いてきていた。

息を深く吸ってを繰り返してからほのかが自己紹介を始めた。

 

「あ、あの!私は光井ほのかです!よろしくお願いしますっ!」

 

「司波深雪です。こちらこそ仲良くしてくださいね」

 

「は、はい!」

 

感極まったように喜ぶほのかは、見ていて面白い。こういう性格の人は近くにいなかったから新鮮だ。

 

「ほら、雫も自己紹介しなってば!」

 

「……押さないで、ほのか」

 

深雪の前に立たされた雫はほのかの強引さに呆れながらも深雪に軽く頭を下げる。

 

「北山雫です。お名前はかねがね―――それとほのかが司波さんのファンなんです」

 

「―――へっ!?」

 

まさか自分の話題が出てくるとは思わなかったほのかは思わず声を上げてしまう。これは雫の意趣返しのつもりなのだろう。もしくは善意半分悪戯半分か。

 

「……?すいません。どこかでお会いしたことありましたっけ?」

 

「試験会場で一緒だったみたいで、そこで一目惚れしたようですよ」

 

「やや、止めてよっ!恥かしいーっ!!」

 

隠していた心情が暴露されて滅茶苦茶慌てるほのか。くすくすと笑いながら二人のじゃれ合いを見ている深雪に玲治は話しかける。

 

「中々面白いだろ?」

 

「ええ、良い友人に巡り合えたわ」

 

「私たちって四人一緒が基本でしたからね」

 

中学校の友人と言えば達也と深雪くらいだ。あと付き合い程度で遊んでいただけ。

 

「さくらは玲治に近付く女性は嫌だったのでは?」

 

「……色々あったんです」

 

今まで玲治に近付く女性の殆どが淫らな関係を求めていた。講堂では若干警戒していたさくらだが、二人がそんな人物じゃないとわかったら兄の友人になることを認めた。

玲治が気づけば「お前、いったい俺のなんだよ……」と呆れる事だろう。さくらの答えはもう言わずもがな。そんなさくらが気を許したののが珍しいそうで、深雪は微笑ましそうにさくらを見ている。

 

「……なんですか、その笑顔は。言いたい事があるのでしたら、はっきり言って下さい」

 

「何でもないわ。ええ、本当に何でもないの」

 

「絶対にあるでしょう……」

 

笑みを崩さない深雪にさくらは視線を逸らす。

 

「しかし……視線がもの凄い集まってるなぁ」

 

独り言のように呟きながら軽く周囲を見渡す。男子からは殺意一歩手前の嫉妬の嵐だ。女子生徒に関しては色々な視線を感じる。

美少女四人の侍らせているのだから当然の反応だ。さくらと深雪はもちろん、ほのかも雫も美少女の部類に入る。その中に混じっている玲治に男子たちが嫉妬するのも分かる。一部の女子たちが玲治に熱っぽい眼差しで見ているのだが、それに気づく事はなかった。

 

「深雪、あなたには言われたくないです」

 

「それはどういう意味で?」

 

「分かっているでしょう?あぁ、今頃達也は同じクラスの女子たちと仲睦まじく話し合っているでしょうね」

 

ぴくっと深雪の肩が僅かに跳ねる。誰にも気付かない一瞬だったが、さくらは見逃すはずもなく、にやりと悪い笑みを浮かべている。

 

「……なにやってんだ、アイツら」

 

二人のやり取りを見て呆れたようにため息を吐く。

 

 

 

オリエンテーションが終わり、専門授業の見学へと移った。

 

「専門授業か……面倒だなぁ……」

 

「兄さん、ちゃんと行かないと教師からお小言もらいますよ。あと現代魔法のためになりますし」

 

玲治の呟きに答えたのが、前の席に座っているさくらだ。

確かに、他の一科生には魅力的な見学時間だろう。しかし、ある意味で現代魔法ですら使いこなす玲治にとっては不要極まりない。

しかし、さくらは玲治のように忍術や古式魔法ではなく現代魔法が分野だから、一緒に付き合うことにする。

一応は深雪たちを誘おうと後ろを見たが、

 

「ちょっといいですか、司波さん!」

 

他のA組の生徒の方が早かったらしく、深雪の席の側には男子生徒数人がいた。その近くではほのかが「出遅れたっ!?」という表情をしている。

 

「司波さんはどちらを回る予定ですか?」

 

「私は先生について……」

 

「奇遇ですね!僕もです!やっぱり一科なら引率してもらう方がいいですよね!補欠と工作なんてやってられませんよね!」

 

「いえ、そういうわけでは……」

 

何か自慢げに言っている生徒だが、深雪は一科生至上主義者でもないため、賛同できない。だが、普段は猫被り?をしている深雪は言い淀むしかなかった。

 

「何あれ?ちょっと言い過ぎじゃないの?」

 

ほのかと一緒に此方に来た雫は眉を顰めて不機嫌を露わにしている。

 

「ほう……雫は二科生を差別しないのか?」

 

「うん、確かに私は一科生に誇りを持っているけど、あんな風にはなりたくないな」

 

深雪に話しかけている男子生徒は、一科生に多数存在する二科生をウィードやスペアと蔑んでいる典型的な魔法師だ。親愛なる兄が二科生にある今、そんな侮蔑を聞きたいくないだろう。

 

「……どうしようかねぇ」

 

「その必要ないかも」

 

ん?と疑問に思っていると、深雪と男子生徒に身体を割り込んで生徒がいた―――ほのかである。

 

「だったらもう集合場所に急がないといけませんね!」

 

「ええ、そうですね。行きましょう光井さん」

 

渡りに船だったようだ。深雪はほのかに連れられ、教室に出て行こうとしていく過程で此方に来て雫を誘っていた。玲治は他のクラスメイトと親睦を深めた方がいいと思って手を振って、

 

「玲治さんも行くんですよ!」

 

「……マジ?」

 

ガシ、とほのかに手を掴まれた。

 

「うん、玲治さんも行こうよ」

 

反対の手も雫に掴まれてしまい、逃げ道は完全に塞がれた。深雪は口に手を当てて微笑ましそうに見ていた。

 

「おい、さくら、深雪―――」

 

「玲治くんも行きましょう。大勢の方がいいじゃない?」

 

「兄さんが来るのは当たり前です。むしろ兄さんが居なくては行く意味ありません」

 

「……分かったよ。はぁ……」

 

玲治は半ば引き摺られる形で、A組から出た。その際、唐突にほのかに割り込まれ、誘う事が出来なかったA組男子生徒はポカン、と口を開けて立っていた。

 



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