10分間のチート (reiz0)
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一日10分だけのバスケ

 

「ったく。こけて怪我するなんて、ホンっとにドジだなテツ。」

「ドジじゃありません。」

 帰り道。黒子がこけて怪我をしたのだが、どういうこけ方をしたのか、結構酷い傷だったので病院に行っていた。治療はすぐに終わり、病院を出ようとしていた。

「おーい!そこの人たちー!5分でいいからさー、俺とバスケしようよー!」

 病院に設置されていたバスケのコートから、そんな声が聞こえた。5人がそこを見ると、黒髪を腰まで伸ばした少年が、バスケットボールを持って、こっちに手を降っていた。

 練習が終わって疲れてはいたが、

「病院にバスケのコート。リハビリ用か?」

「リハビリでも何でもいいや。ちょっと物足りなかったんだ。いいぜー!」

 赤司の言葉をよそに、青峰が黒子にカバンを預けて、その少年の方に向かった。

 青峰が向かったので、残った5人はそのコートの方に向かった。

 コートにつくと、丁度今から始めるところだった。

「じゃあ、行くよ。」

 少年は、楽しそうな笑顔でバスケットボールを地面にぶつけた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「よっしゃ、勝ったー!!」

 5人は驚愕していた。1on1。一瞬で勝負はついた。先に3ゴールした方が勝ち。そのルールの中で、青峰は一回もゴールすることが出来なかった。

 ありえなかった。キセキの世代と言われた内の一人である青峰が、ここまで歯が立たないのは初めてだった。

「うーん。あと四分くらいあるよね...。そうだ、5対1やろうよ、5対1!」

 驚愕していた5人をよそに、少年はさらにとんでもないことを言い出した。

 キセキの世代と呼ばれた5人を同時に相手するというのは、普通の選手なら考えられないものだ。5対5で今まで負けた事がないのに、5対1で負けるはずがない。

 5人は承諾し、コートに足を入れた。

「あれ?君はやらないの?」

「いえ、僕は疲れているので。」

 少年が不思議そうに黒子にいうが、黒子がそう言うとなるほど、と納得して5人と対峙した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

結果を言うと、5人は勝った。試合に参加しなかった黒子が点数を数えていた。結果は、23対20。

 

たった4分間の試合とは思えないほどの、ゴールの連続。

 

キセキの世代の5人と5対1で試合をしたら、普通一点も入れられない。しかし、少年は、相手のゴールを阻止し、ゴールを入れて、負けをしたものの、とんでもないことをした。

「いやー、負けた負けた。」

 皆の驚愕をよそに、少年は嬉しそうな表情で晴ればれと言う。

「まさか、こんな人たちがいたとはねー。久しぶりに大満足だよ。ありがとね。」

「...君、名前は?」

 礼を言う少年に、赤司が問いかける。

「零途だよ。霧崎零途。」

 霧崎零途(きりさきレイズ)。それが彼の名前。

「そうだ。もし良かったらさ、これからたまにで良いからここに来てくれない?俺病室でいても暇でさぁ。」

「だったら、ずっとバスケしてりゃ良いじゃねえか。」

 頭を掻きながら言う零途に青峰が言う。

「いやー。実は、俺ある事件から身体がかなり弱っちゃってさ。一日10分しか激しい運動出来ないんだよねー。それ以上動くと、身体が動かなくなっちゃってさ。だから、一日10分しかバスケも出来ないんだよ。あんた達...。」

「...俺は赤司征十郎だ。」

「ああ、ありがとね。赤司君達が来るまでに、もう5分バスケやってたから、5分しかバスケ出来なかったんだ。」

 寂しそうに言う零途を見て、青峰が零途の前に立つ。

「じゃあ、俺が毎日来てやるよ。毎日来てやるから、俺とバスケしろ。」

「え、良いの?面倒じゃない?」

「ああ、どうせ練習の後だからな。それに、俺に勝てる奴なんていなかったしな。逆にこれから来るのが楽しみだ。」

「...そっか。ありがと。」

 零途は、寂しそうな顔を笑顔に変えて、青峰を見た。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「実は俺、高校に行けるようになりましたー!」

 中学三年の冬。いや、どちらかといえば春だろうか。

 帝光中学で卒業式があった日。赤司達は病院に来ていた。

「身体が弱っていて、学校には行けなかったのではないのか?」

 零途は、身体が弱かったため中学校には行けていなかった。緑間が不思議そうに零途に問いかける。

「いや、最近は体調も落ち着いて来たからさ。一ヶ月に一回ここで検査を受けるって条件で、高校には行けるようになったんだー。」

 ベッドに座る零途は、足をブラブラさせながらえへへーと、いかにも嬉しそうな表情で言う。零途のことを知っている皆だから勘違いすることはないが、知らない人がいたら確実に女と思い込むだろう。青峰の横に座っている桃井と良い勝負だ。

「へぇ、良かったっすね。どこの学校なんすか?」

 祝福の言葉を述べながら、黄瀬が問いかける。

「誠凛高校だよー。」

「誠凛?テツくんと一緒の高校だね。」

「ホント?テツヤと一緒か。よろしくね?」

「はい、よろしくお願いします。」

「良いなー。私も零途君と一緒の高校が良かったなー。」

 頬を膨らませて不満そうに桃井が言う。

「ごめんねー。皆が卒業するまで待っとこうと思って。」

「...って事は、これから零途とは毎日バスケ出来ないのか。」

 この事を思いついた青峰が残念そうに言う。

「まあねー。でも、その変わりに大会とかで会えるよ。俺一人だったら不安だったけど、テツヤがいるなら優勝できるかもだしね。」

「そうか、大会で会えるのか。じゃあ、そこで会うまでに俺も強くなってないとな。そうだ、今からバスケしようぜ。中学最後のバスケ。」

「お、良いね。行こう行こう!」

 零途はベッドを飛び降り、横に置いてあるバスケットボールを手にとって、皆に笑顔を向けた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「...来たね、テツヤ。」

「はい。」

「ついに来たね、テツヤ。」

「はい。」

「やっと来れたね、テツヤ!」

「はい。」

「...俺のこと嫌い?」

「いいえ。」

「なら良かった。行こう、テツヤ!」

「はい。」

 二人は、誠凛高校の門を潜った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「バスケー!バスケ部ー!」

「部員になって、ブインブイン言わせよう!」

「...あんたら、バスケ部か?」

 新入部員を勧誘するバスケ部に、一人の新入生が話しかけた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「...あともうちょい欲しいかな。」

「10人行かないか...。」

「これからこれから。」

 男子バスケットボール部と書かれた張り紙がはられている折りたたみ式のテーブルと、そこに設置された椅子に座っている、茶髪の女子生徒とメガネをかけた男子生徒。

「新設校なんだからさ。これでIH(インターハイ)、WC(ウィンターカップ)と勝ち上がれば...来年は大変なことになるよ?」

「主将の俺に対するさりげないプレッシャーか。」

 この誠凛高校は、出来てまだ二年目。つまり、去年にできたばかりな為、三年生がいない。なので、この二人は二年生なのだろう。

 茶髪の女子生徒の言葉に、男子生徒は苦笑いする。

「日向君そんなに繊細だったっけ?」

「...頑張ります。頑張りますとも。」

 女子生徒の言葉に、男子生徒、日向は項垂れながら言う。

「勧誘の方はどうかなー。頑張って有望そうなの連れてきてくれると

 言葉を続けようとした途端、女子生徒の前に勧誘に行っていた部員が涙を流し名が現れた。

「き、来ましたぁ。新入生。」

「え?」

「...バスケ部ってここか?」

 見上げると、赤い髪の男がそこにいた。

「うん。」

(何コイツ。目の前に野生の虎でもいるみたいな...。ド迫力。)

 その迫力に、二人は少し固まってしまっていた。

「入りたいんだけど。」

「え?」

「バスケ部。」

 赤髪の新入生が椅子に座りながら言う。

「え?あ、ああ。歓迎、大歓迎。ちょっと待って。」

 女子生徒が、日向から受け取ったお茶を新入生に差し出す。

「知ってると思うけど、うちは去年出来たばっかりの新設校なの。上級生はまだ二年だけだから、君みたいに体格良ければ、多分直ぐに

「そういうの良いよ。名前書いたら帰る。」

 女子生徒の言葉を遮って、書類に名前を書きながら新入生が言う。

「あら、志望動機は無し?」

「別にねえよ。」

 書類を見た女子生徒が言うと、新入生は紙コップに入ったお茶を飲み干し、紙コップを握りつぶす。

「どうせ日本のバスケなんて、どこも一緒だろ。」

 立ち上がり、握りつぶした紙コップをゴミ箱に投げ捨てながら言うと、新入生は去って行った。

「怖えぇぇぇ。あれで高1?」

「中々の逸材だな。」

「おまっ、今までどこに隠れてたんだよ!」

 新入生に連れてこられた部員が、勧誘をしていた他の部員に言う。

「火神大我。中学はアメリカか。本場仕込だな。」

 日向が書類を見て言う。

「どっちにしろ、只者じゃないわね。」

「...これ。集め忘れた入部届け。」

 日向の言葉を聞いた女子生徒が言うと、火神に連れてこられた部員が一枚の紙を出す。

「ああ、ごめん。」

 謝ってその紙を受け取り、その紙を見る。

「えーっと。...黒子テツヤ。あれ?」

(ずっと机番してたのに、全く覚えてない...。ん!?)

 その紙に書かれている文章を見て、女子生徒は驚いた。

「どした?」

 女子生徒の様子を見て疑問を抱いた日向が、女子生徒に問いかける。

「帝光バスケ部出身!」

「帝光って、あの帝光か!?」

 帝光バスケ部。黒子達キセキの世代がいたバスケ部だ。

「しかも、今年一年って事は。キセキの世代!」

「キセキの世代...って、あの有名な!?」

 キセキの世代。バスケットボールをしている中学生、高校生などの間では、かなり有名だ。黒子はそのシックスマン。

「うん!あぁー!なんでそんな金の卵の顔を覚えてないんだ私!」

 頭を抱え、後悔しながら叫ぶ女子生徒。

「さっきの奴はアメリカ帰りだし、今年の一年って、結構ヤバイ?」

 しかし女子生徒は、すぐに期待に満ちたように言った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「どうだった?テツヤ。」

「気付いてくれませんでした。」

「まあ...いつも通りだね。気にしない気にしない!バスケしたら、すぐにでも覚えてくれるって!」

 あまり落ち込んではいないようだが、一応零途は励ます。

「じゃあ、次俺行ってくるね。ちゃんと待っててよ?」

「はい。」

 黒子の返事を聞くと、零途はバスケ部の机に向かっていった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あのー、すいません。バスケ部入りたいんですけどー。」

「...この子可愛くないか?」

「...ああ。かなり可愛いな。」

「あぁ、マネージャー志望?マネージャーいないから、助かるよ。」

 零途が女子生徒に話しかけると、部員たちは零途に聞こえないように他の部員と話し、女子生徒が勘違いする。

「いや、部員になりたいんですけど...。」

「女子バスケ部はここじゃないわよ?うちは男子バスケ部。」

「...俺男なんですけど...。」

 勘違いするのも無理はない。零途の言葉を聞いた瞬間、全員が固まる。

「...マジで?」

「マジですよ。制服も男子用でしょ?」

 女子生徒の疑問に応えるように、零途はクルリと回って男子用の制服を見せる。部員たちには、一瞬ズボンがスカートに見えたのは気のせいだろう。

「...わかった。じゃあ、ここに名前とか書いてね。」

「了解でーす。」

 女子生徒の言うとおりに零途は紙に名前などを書き出す。

「はい、どうぞ。」

「霧崎零途君。...一日にバスケが10分しか出来ない?」

「そうなんですよー。体が弱くて、高校には行けるようになったんですけど、やっぱり激しい運動は一日に10分しか出来ないっていうのは守らなきゃならなくて。でも、俺結構バスケ得意なんですよ。」

「...わかった。もう行っていいよ。」

「ありがとうございましたー。」

 零途は笑顔で、去って行った。

「一日10分しかバスケが出来ないって、相当体が病弱なんだな。」

「病弱...ね。体も細かったし、肌も普通の人より白かったけど...。」

(...何か...。違和感が...。とんでもない事があるような...。そんな気がする...。)

 女子生徒は、そう思っていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「全員、シャツを脱げ!!」

「はあああああああ!?」

 女子生徒が放った言葉は、バスケ部志望で集まった男子生徒たちが驚きの声を上げる。

 男子生徒たちは、全員来ているかチェックでもした後に適当にテストでもすると思っていただろう。

 しかし、女子生徒はこう言った。シャツを脱げ、と。

 驚くのも無理はないだろう。だが、男子生徒達はシャツを脱いでいく。そのまま一列に並んだ男子生徒たちを、女子生徒が見ていく。

 彼女の名前は相田リコ。彼女は、親の仕事の関係で、人の体を見ただけで、ステータスのようなものが見える。

 彼女はそれを見ていた。

 それを見ていき、火神の体を見て驚愕。

(何コイツ...。全ての数値がずば抜けてるし、伸びしろが見えない...!?初めて見る、天賦の才能...!!)

「何だよ。」

「い、いや、なんでもないわ。」

 リコは火神の言葉で自我を取り戻し、通り過ぎて零途の体を見る。そして、また驚愕。

(嘘...?)

 初めての経験だった。

(数値が見えない...?)

 この能力を手にしてから、体を視れば数値が見えてきた。先程は火神の伸びしろが見えなかったが、今度は違う。何も見えない。

「どうかしました?」

「...え?い、いや。なんでもないわ。」

 これ以上時間をかけるわけにはいかない。零途の実力は、明日見ることにしたリコは、体を見るのをやめる。

「これでもう全員か?」

「あれ?黒子くんは?」

「黒子って、あの帝光中の?」

 日向がそう言うと、集まった男子生徒たちがざわめく。

 帝光中の出身、などという肩書きを持った人間なら、ざわめかれても仕方がない。

「黒子くーん?」

「あのー。」

「...へっ?」

 突然現れた、男子生徒の姿。

「うわあああああ!!??」

「い、いつからいた?」

「最初からいました。」

(影うっす...。)

「と、とにかく。黒子くんもシャツ脱いで。」

「はい。」

 そう言って、黒子がシャツを脱いだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 帰りのバスの中で、リコは窓から外の景色を見ながら考えていた。

 考えていたのは、帝光中の一軍出身だという、期待の新人。黒子テツヤの事だった。

(...あらゆる数値が平均よりも下。とても帝光中の一軍で生き残っていけるとは思えない。)

 それに、もう一人。身体が弱く、中学校には行けていなかったという、もう一人の新入生。

(...数値が見えないなんて、今までなかったのに...。)

(...今年の新入生は、変なのが多いなぁ...。)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「いきなりシャツ脱げなんて、びっくりしたよね。」

「はい。」

「まあ、一番俺が驚いたのが、テツヤが帝光中の出身だって事を言った瞬間、周りがざわついたことかな。あんなに有名なんだね。帝光中って。」

「全中三連覇ですからね。有名になるのも当然だと思います。」

 零途と黒子は、家に帰りながら一緒に話していた。家の方向が一緒らしい。

「おい。お前ら。」

 楽しく話していると、何だか不機嫌そうな声がする。

「ん?あ、君確か、バスケ部の新入部員が集まってた時に居たよね?どしたの?君も家こっちなの?」

「いや、そうじゃねえ。俺は、お前らの実力を確かめに来た。」

「実力?それだったら、明日にでもテストとかあるんじゃない?」

 零途が、不思議そうに首を傾げる。

「いや、今確かめずにはいられねえんだ。強い奴には、強い奴なりの匂いってやつがあるんだ。でも、お前からは何も感じねえ。」

(まあ、テツヤは仲間がいて初めて本領を発揮できるしなぁ。)

 それを火神は知らないので、仕方がないのだろう。黒子の強さは、他の選手に比べたら異質の強さだから。

 その後、火神と黒子が対戦して、火神がストレート勝ち。

 火神は失望して帰っていった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 今から、一年生対二年生の試合。

 創立一年目で大会の決勝まで進んだという二年生達を見て、一年生はビビっていたが、火神や零途はウキウキしていた。相手が強いほど燃える。二人はそういう性格だ。

 やがて、試合が始まった。

 最初は火神がいるおかげで良い勝負だったが、火神にマークが集中し、やがて点差は開いていった。

「そろそろかな...。」

 そう言って、他の選手と交代でコートに入ったのは、零途だった。

(あいつは身体が病弱だったって話だし、マークは大丈夫だろう。)

 零途の身体が病弱だと知っているからこその行動。しかし、その行動は間違いだった。

 

 彼らは知らない。零途の本当の実力を。

 彼らは知らない。零途の天から与えられた才能を。

 

 そして、彼らは知らない。

 

 零途が、キセキの世代五人を相手にして同等に戦った、唯一の選手であることを。

 

「へい、パース。」

 そう零途が言うと、仲間がパスを零途に。そして、ボールが零途の手に渡る。

 今零途は、コートを半分に割る線のちょうど上に行く。マークはいない。そこは、零途の『射程圏内』だ。

 

 零途が、シュートフォームに入る。

(おいおい、一体どこでシュートフォームに入ってるんだよ。あんなの届くわけないだろ...。)

 いつも試合で3Pシュートを打っているからこそ、他の選手よりもわかっている。どうしていつも3Pラインの近くでしか打たないか。理由は二つ。単純に、届かないから。それに、届いたとしても、ゴールには入らない。それくらい、ボールを持った時にわかると思うんだが。

 

 しかし、そんな常識、零途には通用しない。

 零途がシュートを放つ。それは、非常に高い軌道。今まで見たことがないような、高弾道のシュート。あんなシュート、3Pラインから打っても入るかわからない。

 だが、零途は違う。

 

 そのボールは、仕組まれていたかのように、ゴールに綺麗に収まった。

 

「スーパーロングレンジ3Pシュート。」

 そう、呟く。誰もが驚いて声も出せない空間で、一人声を出した黒髪の少年。

「準備運動はこれで終わり。たった十分しかないんだし。」

「さ、始めよっか。バスケ。」

 その声は、決して大きくはないが、確実に全員の耳に届いた。

 

 

 



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一日10分だけのチート


 展開が早すぎます...よね。出来れば、少しずつセリフとかも多く入れていきます。ごめんなさい。
 黒子のバスケの最初の方は、見たのが結構前なのでセリフとかほとんど忘れてて、ついつい書くペースが遅くなるんですよね。いちいち同じスマホでアニメの動画と同時進行で書いてるので。


 

「クソっ!!何が病弱だっただよ!!!」

 日向が叫ぶ。零途の強さは明らかに常軌を逸している。

 零途の活躍で、たった三分で点差が縮まってしまった。零途は、激しい運動ができるのは一日十分だけだと言っていた。つまり、これがあと十分続く。単純計算で、これからさっきの二倍以上の点を取られるという事になる。

 

 零途の攻撃は何回やっても止められない。しかも、零途がいることによって火神が自由になってしまう。

 ボールを持っていない零途に二人つけても、するりと抜けてボールを取られてしまう。三人付ければ、その分火神のマークが薄くなり、火神に点を取られる。

 零途がいることによって、形勢が一気に逆転しまった。

 

 今度は火神にマークを集中していたため、零途が再びボールを手にしてしまう。そこに、伊月が零途を止めに来る。伊月はイーグルアイを持っており、視野も広いため、零途の動きを全体的に見ることが出来る。伊月はバスケ部の中で一番キャリアが長いため、零途の動きを先読みしようとする。

 

 しかし、それでも零途は止められない。

 

 零途は、体を左右に揺さぶりながらドリブルするそれについて行こうと、伊月も重心を左右に動かす。やがて伊月は零途の速さについて行けなくなり、伊月の重心が完全に左に重心が乗り切った瞬間、零途は伊月の右を通り過ぎていく。

 

 そしてシュートフォームに入ろうとした瞬間、日向がシュートを止めに来る。一度日向が来たことを確認した零途は、そのままジャンプする。それを見た日向が合わせてジャンプするが、そこで違和感に気付く。

 

 高すぎる。零途の方がかなり高く飛んでいた。

 

 日向の身長 178cm

 零途の身長 172cm

 

 ジャンプ時の高低差 20cm

 

 もちろん、零途の方が高い。

 

 その高低差で止められる筈もなく、零途はそのままシュートを決めた。最初と同じ、かなり高弾道のシュート。もちろん、ゴールに収まった。

 

 点差がまた、縮まった。

 

 

(...なんなんだよ、あいつ。)

 火神はそう思っていた。零途の実力を見たのだから、仕方がない。しかし。

 

 昨日火神は、黒子のことは気になっていたが、零途のことは気にならなかった。理由は単純。何も感じなかったからだ。しかし、今思えば、自分が感じられなかっただけかもしれないが。

 圧倒的実力差の前に、何も感じ取る事が出来なかっただけかもしれない。

 だが、今はそんなこと思っている暇はない。零途のお陰でかなり動きやすくなり、火神もボール十分に持てるようになって来た。これからもっと点を入れようと。そう思った矢先だった。

 

「よし、そろそろかな。」

 そう言って、零途がコートを出ていく。それを見た火神が、思わず零途を止める。

「おい、何がそろそろだよ。折角流れが変わってきたのに。」

「いやだって、俺休憩したいし。俺病弱だから。」

「あれだけ動いて何が病弱だよ。」

 さっきまでの零途の動きは、体が病弱な人間に出来る動きではない。というか、病弱でなくてもそうそうできる動きではない。

「いや、ホントに病弱なんだって。十分以上運動したら俺とんでもない事になるから。」

「...お前がいないと、俺はボールをまともに持つことも出来ないんだぞ。その状況で、勝てるわけがないだろ。」

「ああ、それなら大丈夫。テツヤがいるからね。」

「テツヤ?あの黒子ってやつか。あいつに何が出来るんだよ。」

 黒子の実力は、火神が自分で昨日確かめた。結果は圧勝。黒子に、さっきの状況を続けるための実力があるとは、とても思えなかった。

「...火神君が思ってる強さと、テツヤの強さは違うからね。俺や火神君は、一人でも全力を出せるけど、テツヤは違うよ。仲間がいるから全力を出せる。多分、火神君がテツヤに力を貸して上げれば、この試合は勝てるよ。俺がいなくても。」

「...本当なんだろうな...。」

「ホントだよ。」

「...わかった。」

 まだ少し納得はしていないようだったが、火神はコートに戻っていった。

 

 その後、黒子と火神が力を合わせ、一年生チームは勝利した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 本入部に一騒動あったが、それからはバスケ部も練習に励んでおり、いつも通り日常を過ごしていた。

 特に変わったこともなく、いつも通りの筈だったある日。

「練習相手から、オッケー貰えたらしいです!!」

「へえ、何処なんだろうな。」

「わかりませんけど、なんか監督、スキップしてましたよ。」

 その言葉に、二年生が凍りつく。

「...皆。よく聞け。監督がスキップしてたって事は、今回の相手、相当ヤバイぞ。」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ここッスか。誠凛高校。さすが新設校。校舎綺麗ッスねー。」

 同日。誠凛高校に、金髪の他校の生徒がやってきていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「海常高校!?」

 リコの言葉を聞いた日向が、驚きのあまりそう叫ぶ。

「ええ。しかも、そこはキセキの世代、黄瀬涼太を獲得した高校よ。」

「え!?あのキセキの世代が!?」

 その言葉に、火神が嬉しさからかついニヤけてしまう。自分が戦いたかった相手が、こんなにも早く敵として出てくるとは、火神も思わなかっただろう。

 ちなみに、今零途はいない。今日は一ヶ月に一度の病院に行く日だ。検査もすぐに終わるため、終わったらすぐに帰ってくるとは伝えてある。

「黄瀬って、モデルやってるらしいぞ。」

「え?マジで?」

「カッコよくてバスケ上手いとか酷くね?」

「アホ。」

 そんな会話をしていると、体育館の入り口の方から、大勢の女子生徒の声が聞こえる。

 見ると、声と同じで、一人の男子生徒を囲んで、大量のギャラリーがいた。

「え!?いつの間にこんなにギャラリー出来てんの!?」

 誠凛バスケ部は、練習をするときにギャラリーが出来る事など一度もなかった。驚くのも無理はない。

「あぁ...。こんなつもりじゃなかったんすけど...。」

 そのギャラリーの中心にいる、金髪の男子生徒が、頭を書きながらそう言う。

「えーっと、五分だけ待ってて貰っていいっすか?」

 そこには、キセキの世代の一人。黄瀬涼太の姿があった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「いやー、すいません。まさかこんなことになるとは思わなくて。で、霧崎っちは...」

「霧崎君は病院です。」

「おー、黒子っち!久しぶりッス!!」

「お久しぶりです。」

 黄瀬と黒子が話しているのを、他の部員が眺める。そういう流れになっていた。

「そういえば、今日って霧崎っち病院行く日だったんすか?だったら残念だなー。」

「検査もすぐ終わるって言ってましたし、もう少しで帰ってくるって言ってましたよ。」

「マジッスか!?だったら、俺ここで待ってようかなー。」

 と言った瞬間、黄瀬が後ろから投げられたバスケットボールを、とっさに受け止める。

「暇なんだろ?だったら俺とやろうぜ。」

「...へえ。まあ、霧崎っちが来るのに時間かかるっていうし、ちょっと遊んで上げるッスよ。」

 

 黄瀬と火神の1on1が始まった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「じゃあ、これで診察は終わり。」

「はーい。ありがとうございましたー。また一ヶ月後に来ますねー。」

 そう言いながら、零途は扉を閉めて部屋を出た。そこには、一人の医師がパソコンの画面を眺めていた。

「...相変わらず明るいな、あの子は。」

 あれだけの事があったのに、と言葉を連ねる。

「バスケのお陰...か。」

 医師の心には、そのバスケでさえもたった十分しか出来ない零途に、なんとか試合にずっと出られるようにしてあげたい、という思いもあったが、同時に何もできないという悔しさもあった。

 医師は一人、画面に映し出されているデータを眺めていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 キセキの世代の実力を、思い知っていた。

 火神の動きを見て、黒子もこれなら行けるかも、とは思っていたのだ。しかし、違った。別人のように。皆で最後にバスケをしたのは、少し前だというのに。

「これで終わりッスか?」

「...まだだ。」

「わかったっすよ。...いや、やっぱりやめとくっすよ。」

「は?なんでだよ!!」

 いきなり意見を変えた黄瀬に、火神が思わず叫ぶ。

「あんたよりも強い人が来たッス。」

 黄瀬が指を指したのは、体育館の入り口。そこから、一人の生徒が入ってきた。

「遅れてすいません...って、涼太!!」

「霧崎っち!!」

 零途は黄瀬の元まで走り、手を握る。

「久しぶり!!元気だった?」

「元気っすよ。霧崎っちはどうっすか?」

「俺はもう絶好調だよ!!ちょっとさ、バスケやろうよバスケ!!」

 零途はバスケを持ち、黄瀬に勝負を持ちかける。

 黄瀬の心の中で、選択肢など一つしかない。

「イイッスよ。成長した俺を見せてやるッス!!」

「先輩、監督!!良いですか?」

「え?ええ。良いわよ。」

 監督の許可を貰い、零途と黄瀬の勝負が始まった。

 

 零途がドリブルを始めたので、黄瀬も警戒度をマックスにする。キセキの世代五人で掛かっても勝てない相手に、1on1で手を抜けば、勝機などない。

 

 現在の零途の位置は、ちょうどコートの真ん中辺り。零途は、行動の選択肢がとても広い。

 コートの何処からでも、いきなりシュートを打つことも出来る。

 零途はボールを構えてジャンプする。

 それを見た黄瀬が、ブロックにジャンプする。

 

「なっ!?ジャンプで霧崎に追いついてる!?」

 

 最高到達点は、零途とほぼ同じ。零途のシュートは黄瀬の指の先に当たる。

 

「へえ、高くなったね。」

「だから言ったッスよ。成長した俺を見せるって。」

 

 そんな会話をし終わった後、二人がゴールに向かいリバウンドを狙う。やがてゴール下に着く。シュートは高弾道で放った為、まだ落ちてきてはいない。

 

「でもさ、涼太。」

 

 零途が、膝をいつもより深く。曲げる。

 

「俺まだ、全力じゃないんだよね。」

 

 ボールがゴールに当たった瞬間、二人が思い切り飛ぶ。

 

「全力、ジャンプ!!」

「ちょ、ええ!?」

 

 あまりの高さに、黄瀬の顔が真剣な表情から一転、驚愕の表情に変わる。

 

 零途の跳躍力は、並外れている。

 

 跳躍距離、約150cm

 

  腕の長さを入れると、最高到達点は3mを優に超える

 

「どっせい!!」

 

 そんな掛け声と共に、リバウンドで奪ったボールをダンクでゴールに収める。

 

「まず一点。」

「...まあ、これぐらいやってもらわないと、キセキの世代の名が泣くッスからね。」

「泣かせないよ。全力で行く。」

 

 次は、黄瀬がボールを持って始まる。

 

 一挙一動見逃さないように、零途は黄瀬を見つめる。零途は、キセキの世代五人を同時に相手にすることが出来る。しかし、確実に勝てるわけではない。六割程は零途が負けているのだ。五人同時に相手をしているのだから仕方がないのだが。

 

 相手は黄瀬一人。前なら負けることはまずありえない。しかし、今は違う。シュートを撃つ零途と同じぐらいのジャンプ力。スピードだって前とは遥かに違う。

 

 それでも、黄瀬がキセキの世代の残り四人分強くなったわけではない。零途に勝てる確率などない。零途が負ける確率などない。

 

 しかし、零途は手を抜かない。

 

 黄瀬がドリブルをしながら突っ込んでくる。真っ直ぐに。

 そして零途を左右の揺さぶりで混乱させようとするが、黄瀬が揺さぶりをかける以上のスピードでついてくるため、揺さぶりは効かない。

 

「...やっぱり、強いッスね。」

「それほどでもないよ。」

「...でも、負ける気はサラサラないッスよ。」

「そんなわかりきった事、今更言う必要ある?」

「...そうッスね。言う必要もなかったッスね。行くッスよ!」

「来いっ!!」

 

 そんな会話をして、黄瀬が零途の左側をドリブルで突き抜けていく。

 それに零途は付いていき、いずれゴールの横辺りまで来る。

 

 そこでただシュートを撃つのでは、零途に止められてしまう。

 

 黄瀬は一度シュートのフェイントを入れる。

 

 それに釣られて零途がブロックに飛ぶ。

 

 チャンスとばかりに黄瀬が地面に両足を付けてゴールにダンクをしに走る。

 

「ふぇ、フェイント!?」

「貰ったッス!!」

 

 黄瀬がダンクに飛ぶ。

 

 零途は元々ジャンプ力が高いため、着地にも時間がかかる。

 

 黄瀬はゴールを確信した。しかし。

 

「全力っ...」

 

 背後から聞こえた、不吉な声。

 ただ不吉なだけならまだいい。しかし、それは現実となる。

 

「ジャンプっ!!!!」

 

 着地した後に黄瀬と少し距離を詰めてから、ジャンプを溜めて全力で飛ぶ。

 

 そのジャンプは黄瀬の元まで届き、寸での所で黄瀬のダンクを止めた。

 

「あっぶな...。」

「マジッスか...。」

 

 零途と黄瀬は着地して向かい合う。

 

「いやー、負けたッス。まさか、あんなに高く飛べるなんて...。」

「あれはある程度溜めないと使えないからね。シュート撃つときとかは使えないんだ。溜めてる間にボール取られちゃうから。」

「なるほど。...いい事聞いたッス。」

「あ、やば。情報バラしちゃった。」

「気をつけなきゃ駄目っすよ?...じゃあ、そろそろ俺は帰るッス。」

 黄瀬が端に置いた制服の上着を持つ。

「じゃあ、誠凛の皆さん、黒子っち。霧崎っち。また。」

 

 そう言って、黄瀬は誠凛高校を後にした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 そして時間は過ぎて試合当日。

 

 コートの半分を使った試合。黄瀬曰く、監督は調整ぐらいにしか思ってないから、まずは力を見せつけてやってくれ、ということだった。

 

 それを聞いて零途と火神は燃えていた。

 

 スターティングメンバー

  日向 伊月 水戸部 火神 零途

 

 誠凛高校 対 海常高校。

 

 試合、開始。

 

 

 

 



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一日1分の準備運動


 話の流れが、いくらなんでも、早すぎます、よねー
 いや反省はしているつもりなんですよ。しかし何故だろう、治らない。更新もかなり遅くなりましたし。
 バスケの細かいルールを知らない。戦略とかも知らない。知識もない。原作での会話とかも覚えていない。しかし、あれですね。
 頑張りましょうか、はい。




 

 開始と共にボールは審判によって上に投げられ、零途と黄瀬がジャンプしてボールを取りに行く。

 

 しかしそこは零途の跳躍力。しっかりとボールを火神の元へと弾く。

 

 火神がボールを取り、攻め込んでいく。それを見てすぐさま黄瀬が火神を抑えに来る。

 

「くそっ、お前さっきまでジャンプボールに飛んでただろうがっ!!」

 

「悔しいけど、ジャンプ力じゃ敵わないッスからね。低めに飛ばせてもらってたんッスよ。」

 

 そんな会話を終えて火神が黄瀬を抜こうとするが、黄瀬は中々抜かせてくれない。

 

 そこで、零途にボールを渡す。

 

 見た目だけだと、筋肉がついていない貧弱な身体。好機とばかりに海常のキャプテンである笠松がボールを奪いに来る。

 

「なんか俺、ナメられてる感じだよね。」

 

 ボールを地面につきながら、零途は呟く。

 

「ま、良いけどさ、別に。すぐに考え改めさせてあげるからさ!!」

 

 零途はまず、笠松をあっさりと抜いて、シュートモーションに入る。

 

「一体どっから撃とうとしてんだよ。んな所から入るわけが...」

 

 笠松が、そう呟く。どうせ外れる。焦って止める必要はない。しかし。

 

 笠松の考えに反し、黄瀬がシュートを止めるために飛んでいた。

 

 何をしているんだ、と一瞬思ったが。その考えは、大きな弧を描きゴールに収まったボールを見て、すぐさま治すことになった。

 

 誠凛のメンバーと黄瀬以外の人間が、固まる。

 

「さて、ガンガン行きますか。」

 

 零途が、手を振りながら呟く。

 

 次は笠松が黄瀬にパスを出し、零途が黄瀬のマークにつく。

 

 黄瀬は零途を抜こうとする。しかし、中々抜けない。一か八かでフェイントを入れ、そしてその逆方向に抜けようとするが、零途に止められボールは弾かれ外に出る。

 

 そこで、とある重大な知らせ。

 

「霧崎君!黒子君と交代よ。」

 

「嘘!?」

 

 すぐさま零途は、リコに詰め寄る。

 

「何で!?お、俺これから頑張ろう、って意気込んだ所だったんですけど!!」

 

「今のは準備運動よ。激しい運動が十分しか出来ないから準備運動もろくに出来なかったんだし、どうせなら試合中にさせようと思って。」

 

「...マジですか?」

 

「マジよ。」

 

 試合開始30秒。霧崎零途、ベンチ入り。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「............」

 

 ベンチ入りから二十秒。零途は拗ねて、ベンチの上で体育座りをしながら不満そうな顔をしていた。

 

「まあそんなに拗ねるなって。零途強いんだから、まだ出番あるって。」

 

 小金井がそう零途に言うが、零途は不満そうな顔で同じことを呟いている。

 

「せっかくやる気出してたのに...。せっかくこれから差とかどんどん開けてやろうと思ったのに...。」

 

 小金井は、どうしていいかわからずつい苦笑いをする。

 

「はいそこ拗ねない!!」

 

 そこでリコが、零途をびしっと指差しそう叫ぶ。

 

「おそらく、終盤はこっちが負けてる。だから、霧崎君は終盤に点差を縮めて勝つのよ。」

 

「...つまり?」

 

「最終兵器ってこと。」

 

「...なんか格好良い!!」

 

(チョロいわね。)

 

 零途は、子どもっぽい性格故に非常にダマしやすい。

 

 リコは、もう既に零途の扱い方をマスターしているのだった。

 

 

 

 



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海常戦 Ⅰ

 一年と四ヶ月、ずっとサボってましたごめんなさい。
 試合とかどう書けば良いのかわからないな、とか、原作の流れ覚えてないな、とか思っていたらいつの間にか(一周回って)夏来てました。
 バスケ詳しい方とか、黒子のバスケの二次創作書いてる方とか、アドバイスあったらお願いします、どうかお願いします。
(タイトル縛り、無理あったと思ったので諦めました)







 

「あーあ、零途っち戻っちゃったスか」

 

 残念そうに頭をかく黄瀬。ハッキリと言えば、黄瀬が誠凛との試合を楽しみにしていたのは、零途が居たから、という理由が大きい。その零途が試合が始まりすぐに下がってしまったのだから、黄瀬が残念がるのに無理はない。

 しかし。

 

「そんな気抜いてて大丈夫かよ」

 

 それを許さない男が一人いた。言わずもかな、火神である。

 

「あいつが居なくても、俺が楽しませてやるよ」

「……へえ」

 

 黄瀬が味方からのパスを受け取り、ドリブルを始める。

 

「前にやった時は、零途っちが帰ってきたからすぐにやめちゃったッスけど……今回はたっぷりと時間あるッスから」

 

 不敵に笑いながら。

 

「精々楽しませてくださいッス!」

 そう言って、一瞬で火神を抜き去った。抜かれた火神が驚いたような声を上げながら、黄瀬を追いかける。

 

(クソッ、気は抜いてなかった筈なのにッ……)

 

 警戒していた。十年に一度と呼ばれるほどの才能、キセキの世代と呼ばれるほどの実力。黄瀬が秘めていた能力に、十分警戒していた筈なのに。黄瀬は、それをあっさりと追い抜いた。

 黄瀬はそのまま他の敵も抜き去ると、そのままダンクを決めた。

 

「俺、コピーばっかり注目されるッスけど……そのコピーが出来るのは、そのポテンシャルがあるからって事を忘れないで欲しいッスね」

 

 誠凛高校で火神と1on1をした際も、黄瀬は火神の動きを一度見ただけで真似して見せた。理由は、単純。それだけのポテンシャル、少なくとも火神と同等かそれ以上の実力があったから。

 

「ったく、キセキの世代ってのはこうも面倒なのかよ」

 

 まだ二度目ではあるが、確かに感じたキセキの世代の実力。

 

「……面白え」

 

 火神は、楽しそうに口角を上げた。

 

 くだらないと思っていた日本のバスケ。けれど、これと同等かそれ以上の実力を持つ人間が、あと四人もいる。それに加えて、今まで出会ってきた人間とは明らかに別格の実力を持つ、零途の存在。

 

(意外と良いもんだな、日本のバスケってのも)

 

 そんな事を思いながら、火神は味方からのボールを受け取り、敵側のゴールへと走って行った。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 試合は進み第二クォーター。誠凛は、未だに勝つ為の方法を見いだせずにいた。

 まだ第一クォーターでは黒子が居たためマシだったが、黒子が下がった今、黄瀬と対峙できるほどの実力を持つのは、実質火神のみ。

 

 味方からのパスを受け、日向が3Pシュートを撃つ。それが入り、今度は海常側の攻撃。

 敵キャプテンの笠松が伊月を抜き去り、そのボールを黄瀬にパス。そしてボールを受け取ると、必然的に対峙する、黄瀬と火神。

 

「黒子っちも零途っちも居ない。この状況で、なんか策はあるんスか?」

 

「まあとりあえず、てめえを止めりゃ勝機はあるだろうな」

 

「なるほど、まあそうッスね!!」

 

 挑発的に言う火神に、黄瀬は口角を上げながら、火神を抜き去る。

 

 火神は今、黄瀬を止められていない。食らいついてはいるが、どうしても黄瀬を完全には止められない。しかし、火神も黄瀬を抜けないわけではないため、点の取り合い合戦になっている。

 しかし、厄介なのは黄瀬だけではない。

 

「随分と盛り上がってんな」

 

 ボールを突きながら、笠松が言う。

 海常高校は、キセキの世代の一人を手に入れた。しかし、黄瀬に任せきりな訳ではない。海常高校は、強豪校の内の一つ。黄瀬以外のメンバーも、十分な実力を持っている。

 

「こりゃ先輩として負けられねーな!」

 

 笠松が対峙していた伊月を抜き去り、そのままダンク。

 

「ナイスッスよキャプテン」

 

「おう」

 

「この調子で頑張ってくださいッス」

 

「言われなくてもするっつの」

 

 二十七対三十三。

 第二クォーターが始まり三分。まだ対して差が開いているわけではないが、それでもゆっくりと、確実に。点差は、徐々に開いて来ていた。

 

 

 

 



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