ダンジョンで現代兵器をふるうのは間違っているだろうか (大神)
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第一話 出会いと魔法
迷宮都市オラリオ。その路地裏で一人の少年が先日の雨が乾ききらぬ汚泥に染められボロ雑巾のように倒れていた。
少年の眼前に広がる青く澄んだ空には薄く白い雲が漂う。
あたりは薄暗くホコリ臭い。
足下を薄汚いネズミが数匹通る。
ふと、少年がポツリとつぶやく。
「・・・・・・なにがどうしてこうなった」
◆◇◆◇
ーーなにがどうしてこうなったのだろう
私はへファイトストス・ファミリアの主神、ヘファイストス。
私のファミリアはこの迷宮都市オラリオでは唯一ダンジョンで収入による運営がなされていない、鍛冶師のファミリアだ。
今日は仲の良い神に注文を受けた武器を私自ら届けに行く途中で、近道をしようと路地裏を通ったのが運の尽き、だったのだろう。路地を奥まったところでみすぼらしい服装の男衆に囲まれてしまった。
『よう姉ちゃん。ずいぶん良い格好してるな、さぞ良いところのファミリアなんだろうなあ』
『少し俺らに恵んでくんねぇかなあ?』
『もしくは俺らの相手をしてくれても良いんだぜ?ヒヒッ』
男衆は下品な笑みを浮かべてヘファイストスを見下ろす。
ヘファイストスはその姿こそ男の装いをしているが、だからこそ、同性すら羨む流線美がくっきりと現れる。禁欲を強いられている男衆には堪らない誘惑だろう。
ーー
『恩恵』を受けた冒険者などは本能的に神と人間や他の種の区別がつく。
しかし、それを受けない最貧層の人間たちは人の形を模した神を区別することができない。『
「・・・・・・悪いけど、私は用があるからアンタ達の要望に応えられることはできないわ。他を当たって」
『おっと、そうはいかねえなあ。悪いがその用はキャンセルだ。アンタには俺たちに付き合ってもらう』
「ちょ・・・・・・ッ!!」
ヘファイストスが男の一人の脇を通ろうとするが、手を捕まれて壁に押しつけられた。その衝撃で注文された武器も落としてしまう。
『へへへ・・・・・・。久しぶりの女だぜ』
『おい、この女結構な業物持ってやがるぜ』
『一石二鳥とはこのことだな!ガハハハッ!』
「くっ・・・・・・やめなさい!」
『クハハ!気の強ぇ女だ。そう言うのも好きだぜ?まぁ、今はおとなしくーー』
「なぁ」
男の一人がヘファイストスの服に手をかけようとしたその瞬間、路地の曲がり角から一人の少年が姿を現した。その少年はひどく、汚れていた。
◆◇◆◇
少年は目を覚ましたら倒れていた。それもほとんど行き倒れているような格好で。
腹もへり、ノドも渇いた。意識が朦朧とする。
記憶も曖昧だ。自分が誰だか分からない。いや、記憶はある。ここが何処だかも、どんな世界なのかも分かる。しかし、自分が誰だか分からない。
ーー~~~~~!~~~!
少年の離れたところから男女の声が聞こえる。言い争っている気もするが関係ない。少しでも今の状況を知りたい。あわよくば食い物や飲み物を恵んでもらいたい。
少年は覚束ない脚を前に前に動かしながら、声の下へと向かう。
声の発生源はやはり言い争っていた。
情勢は圧倒的に女性の方が不利だ。しかし少年は関係なしと声をかける。
「なぁ」
『ああ?』
『なんだテメェ!さっさと散れ!』
『薄汚ねぇ格好で声かけんじゃねぇよ!』
薄汚い格好。それもそうだ、先ほどまで泥に浸かっていたのだから。しかしそれは男衆が言えたことではない。彼らも同じく砂埃にまみれているのだから。
「アンタ等に言われたくねぇよ。そんなことより何か食い物でも持ってねぇか?水でも良いんだが」
『んなもんある訳ねぇだろ!もしあったとしてもテメェみたいなのにはやらねぇよ!』
「まぁそれもそうだ。・・・・・・あと、アンタ等がなにをしようが勝手だが、その
少年はそう言って踵を返すと、男の一人が待てと言い、少年の肩を掴む。
『見られたからには生かしちゃおけねぇ、とりあえず死ねェ!』
男は拳を握り、それを振り上げる。ヘファイストスはその次の光景を想像し、隠されていない左目を瞑った。
ーーこんなときにこそ『神の力』が使えない事が嫌になる!無関係の少年を巻き込んでしまった自分が嫌になる!
ヘファイストスは後悔した。こんな路地を通ってしまったことを、ファミリアの子どもを連れず一人で外出したことを、男達に囲まれる前に引き返さなかったことを、持っていた武器を使ってでも男達を退けなかったことを、このオラリオに降りてきてしまったことを。
ゴスッと重く叩きつける音が路地裏に響く。ヘファイストスの予想を裏切ることなく拳を握った男の手が、少年に押しつけられた。
少年はその威力に逆らうことなく地面に叩きつけられる。立とうとも、反撃する様子も見られず、ただただ少年は地面にひれ伏している。もう一人の男が少年を蹴り上げる。
「ガハ・・・・・・ッ!?」
見事なまでに急所に当たった男の蹴りは少年の身体を宙に浮かし、また地面に叩きつける。
この男たち、ヘファイストスを囲む早さと言い、少年への暴力と言い、かなり手慣れている。常習的犯行だというのは火を見るより明らかだろう。
『ハッ!弱ぇな!そんなんで俺たちに刃向かうなんて百万年はえぇんだよ!』
「グフッ・・・・・・!」
『俺たちに絡んだのが運の尽きってな!ガハハハッ!』
「ブッ・・・・・・!」
『クハハッ!いいぞ、殺っちまえ!』
ヘファイストスを掴む男の興味が少年に向いたその時、少し掴む力が緩んだ瞬間を狙い、ヘファイストスは男の腕を振り払った。
『!?テメッ!』
「止めなさい!」
ヘファイストスは地面に伏した少年の前へ出て男二人の攻撃を止める。
「この少年は関係ないでしょう!無関係の人間を巻き込むのは止めなさい!!」
『ヘッ、バカな女だ。今の隙に逃げればよかったものを。そいつの犠牲が無駄になったな?』
確かに、今なら逃げられるかもしれない。だが、そんなことをすれば今後ろにいる少年の命が危ない。そんな無関係の人間を囮にするようなことをすれば自分のファミリアの名前に傷が付く。それ以前に、ヘファイストスという神はそんなことをする自分を赦せるほど甘くはなかった。たとえそれが少年が命を投げ捨ててでも
ーーあーあ、バカだなこの人。自分にも他人にも厳しいタイプのバカだ。
そのくせ強く懇願されると断れないタイプだなきっと。
・・・・・・あー、だめだ。強く頭を打ったかな?
すげぇ幻聴聞こえてきた。なんだこれ・・・・・・
『逃げねぇって事は俺たちの相手をしてくれる気になったのかぁ?へへへ・・・待ってろよすぐにトばしてやるからさぁ』
「誰が・・・・・・!」
男たちは一歩ずつヘファイストス達に近づいてくる。一歩一歩、下品に口をつり上げ、近づいてくる。
ヘファイストスは少年を抱き上げ、その細身の身体で守るように抱きしめる。
「くっ・・・・・・地獄に堕ちろ・・・・・・!」
『ハッ、そうだなぁ。そんなものがあればな?』
「・・・・・・ット」
『あ?』
「!よかった、まだ意識が・・・・・・。ッ!?」
ーーこの少年から魔力の気配が・・・・・・!?まだ、『恩恵』をうけていないのに!?
魔力は神の眷属となり冒険者になるために交わす『恩恵』を主神から授かってから発現されるもの。普通、ただの人間が魔法の源たる魔力を持っていることは限りなく0に近い。
しかし、目の前の少年の、男たちの暴力によってむき出しになった背中には『恩恵』を受けた証拠となる『
幾年の間このオラリオに君臨し、幾百もの眷属を生み出してきたヘファイストスでも見たことも聞いたこともない現象だった。
「・・・・・・ァレット・・・!」
『コイツ、何言って・・・・・・』
少年の右手を男たちに向ける。
親指を天に突き立て、人差し指を男たちに突きつける。その他の指は折り畳んだまま。曰く銃のポーズである。
「
少年の頭上の空間が歪み、そこから光の固まりがいくつも放射され、男たちに向かって飛んでいく。男たちの条件反射で避けられる速度ではない。
『『『う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』』』
だが、初めての魔法行使。しかも不安定な状態で狙いがうまく定まるはずもなく、光の塊は男たちの顔の横を通り過ぎていった。
「『『『・・・・・・・・・』』』」
男たちを始め、ヘファイストスもいきなりの展開に呆然とする。
つい先ほどまで、優勢だったのは男たちの方。それは誰が見ても間違えようのない事実だった。しかしそれを一瞬にして変えてしまったのは少年の魔法、少年の『力』だった。
それほどまでに強力な力を、この少年は有している。この場での絶対者はこのヒドく汚れた少年だった。
「・・・・・・次は、当て・・・ャる」
少年のかすれた、しかししっかり聞こえた声に、必ずやり遂げるという意志の炎を灯した瞳に、男たちは怯える。
『ヒッ、ヒイッ!!コ、コイツ、冒険者だったのかよ!?』
『い、今のは魔法!?ふざけんな!かなう訳ねぇって!』
『こ、殺されるゥゥゥアアアア!?』
三者三様の叫び、少年とヘファイストスから逃げ出す男たち。ご丁寧に、ヘファイストスの届け物を放り出して。
「・・・・・・逃げ、たァ?」
「ね、ねぇ!大丈夫なの!?」
「無事、かァ?」
「それはこっちの台詞よ!アンタの方が死にそうじゃない!」
「・・・・・・」
「ねぇちょっと!ねぇって!・・・・・・ッ!死なせないわよ、絶対に死なせなんてしないんだから!」
少年はヘファイストスの無事を確認すると、安らかに眠るように意識を手放した。
魔力は精神で放つ。魔法の源たる魔力は精神によって形作られ、ギリギリまですり減らした精神を脳が危険だと判断し、自己防衛として意識を手放したのだ。
自らが瀕死の状態ながらも他人の心配をする少年をヘファイストスは頼もしく見える反面、危うくも見えた。
この少年は自己犠牲を是としている節がある。確かにそれで救えるものもあるだろう。だがしかし、それではあまりにも少年が報われない。
そう思ったヘファイストスは少年をその背に背負い、自らの拠点を目指す。すべては少年を助けるため。少年を否定するため。
背負い上げた少年の身体は、自らと変わらぬ背丈のはずなのに余りにも軽かった。
はい、ということで見切り発車で進行していきます。当然行き当たりばったりです。
久しぶりの方も初めましての方もこんにちわ。大神と申します。
まだ他の小説を一つとして完結させてもいないのにおめおめと新作を出してしまいましたお待たせしている皆さんはゴメンナサイ。
でも書けないんです……許してつかぁさい……
さて、今回は『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の二次ですが、今回も今回で今後のことはまったく決まってません。出来次第更新する予定ですがそれもいつ出来るか……
まあこれもお待ちしていただくことになります。飽きっぽい自分を許して下さい。
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第二話 記憶と名前
ヘファイストスは自らの拠点に少年を運ぶと、ファミリアの団員達に事のあらましを軽く説明し、少年を私室に連れ、ベットへ寝かせた。少年の汚れでシーツも汚れてしまうが、そんなもの後で代えれば済む話だ。今はこの少年に、自ら命をなげうってまで自分を守ってくれたこの少年に奉仕をしようと、それだけを考えていた。
ふと、部屋の扉を軽く叩く音が聞こえる。
「誰?」
「私だ」
「椿・・・・・・。戻ったのね」
扉が開かれると、黒い髪に赤い目の左側を眼帯で覆った女性が現れた。名を椿・コルブランドという。このヘファイストス・ファミリアの団長を任されている。
「ええ、今し方。それより主神様。また『拾いモノ』か?みんなが噂しておったぞ」
「常習犯みたいに言わないで。まだ前例は一つでしょ?それにこの子はそんなんじゃないわ。恩人よ」
「恩人・・・・・・?そう言えばお召し物が汚れているではないか!」
「ああ、これは--」
「早くお風呂に入ってまいれ!」
「え、いや、でも--」
「この少年のことは手前が引き受ける!さぁ、はやく!」
椿の有無を言わさぬ剣幕に押され、ヘファイストスはなくなく部屋から退出することにした。椿もヘファイストスを押して部屋を出る。自然とヘファイストスの私室に残ったのは少年だけだった。
「・・・・・・――――――ァ」
だから、誰一人として少年の覚醒を見届けることはなかった。
◆◇◆◇
「・・・・・・あー、何処だここ」
少年が目覚めると眼前に広がったのは見たこともない天井だった。
見たことのある天井というのも変な話だ。今の彼に以前の彼の記憶はないのだから。
「痛ってェ・・・・・・」
せめて上半身だけでも起こそうするが、男たちに手酷くやられたのだろう。少し動かすだけで激痛が走る。特に右腕、まるで肩から先がないような不快な感覚が少年を襲う。
「・・・・・・身体動かすのは諦めるか。にしてもここは一体何処だ・・・・・・。アイツ等の寝蔵、じゃあねぇよなぁ・・・・・・」
あんな格好をした集団がこの見るからに上品で金のかかってそうな部屋を持っているはずがない。
少年が頭を回転させていると部屋の扉が開かれる。
ヘファイストスを風呂に押し込んできた椿が少年を看るために帰ってきたのだ。
「む、起きたな」
「・・・・・・アンタが俺を助けてくれたのか?ここは何処だ」
「いや、お主をここに連れてきたのは手前共の主神様さ。ここはその
「神・・・・・・?・・・・・・ずいぶんと物好きな神様だな、見ず知らずの人間を自分の部屋に連れてくるなんて」
「神様なんて物好きなものであろう、
「・・・・・・恩人?・・・なるほど、あの人か」
少年の脳裏を自らが守った赤い髪の女性が横切る。彼女が目の前の女性の言う神様かどうかはわからないが、少年には彼女しか浮かばないので恐らくはそうなのだろう。
「あの人神様だったのか。じゃあ、俺の手助けはいらなかったか・・・・・・骨折り損、というやつかな」
「いや、とても感謝しておったよ。神達はこの地上で『神の力』を使うことができんからな、きっとされるがままになっていただろう。手前も、ファミリアの構成員を代表して感謝いたす。本当にありがとう」
「・・・・・・役に立てたならよかった」
椿は粗暴な口調とは正反対に上品に礼をする。一つひとつの動作が洗礼されていてそれだけで絵になる。
彼女のそんな仕草にたじたじしながら少年は礼を受け入れた。
「それで礼がしたいのだが、お主の名前を――」
「おや、起きたね」
「主神様・・・・・・。ずいぶんとお早いお戻りだが、ちゃんと浴槽には浸かったのだろうな?」
「入ったわよ。でも客人がいるのに長湯なんてできないでしょう?」
ヘファイストスが艶やかに濡れた髪を布で拭きながら部屋へはいる。掻きあげられる度に見えるうなじと、わずかに汗ばむ首筋は同性すら魅了することだろう。
「何の話をしてたの?」
「まだなにも。とりあえず彼に名前を聞こうとしてた所さ」
「そう、じゃあまず私たちから名乗らなくてはね。私はヘファイストス、ヘファイストス・ファミリアを率いる鍛冶を司る神よ。知ってるかもしれないけど。こっちは――」
「椿・コルブランドだ、この主神様の一番弟子と言ったところかな。これでこっちの紹介はおしまいだ。お主の名、教えてくれるな?」
「・・・・・・」
名前、というなんてこと無い一単語に少年は黙り込んでしまう。それはそうだろう、彼には自らの名前すらわからないのだから。
「どうしたのだ?黙る様なことではないであろう?」
「・・・・・・何か理由でもあるの?」
黙りこくった少年の様子を不審に思い、二人は怪訝そうに少年の顔をのぞき見る。
すると、ポツリと少年が声をこぼす。
「・・・・・・記憶がない、と言ったら信じるか?」
「記憶が?」
「・・・・・・どれくらい前から無いの?」
「丁度、アンタを助けるすこし前だな。目が覚めたら空が目の前にあって、腹が減ったから声がした方に向かっていったって所か。・・・・・・そういえば腹減ってたな」
「・・・・・・お主、見た目に反してだいぶ大物だな」
「悪かったな平凡な見た目で。・・・・・・この
「そう・・・・・・」
ヘファイストスは
神々が降りてくる前、この地上には魔法使いや、魔女といった人間の種族がいたらしい。彼もその末裔かと思ったが彼にその記憶がないならば確証を得ることが出来ない。
ヘファイストスは当てが外れたというように肩を落とした。
「・・・・・・期待を裏切ってしまったようだな。悪い」
「いや、お主が謝ることではないだろう。ウチの主神様が勝手な期待を抱いて勝手に裏切られただけだ、お主の気にするところではない。それはそうと、お主、これからどうするつもりだ?」
「どう、するかな・・・・・・。とりあえず、今すぐここから追い出すってのは勘弁して欲しいな。どう言うわけだか身体が全く動かない。このまま飢え死ぬのは流石に辛い」
「いや、流石に回復するまでは客人として扱わせてもらう。主神の恩人を動けないまま放り出したと知れたら手前共はオラリオ中の笑い物だ。そうではなくそれからの話だ。記憶がないということは頼る者もいないのではないか?」
「あー、まあそうだな。ま、表に出ないところでひっそりと暮らしてるさ」
少年は薄くにっこりと笑った。
椿は少年のその無欲さに眉をひそめた。
何かを強請ることもせず、感謝すら表面上でしか受け入れない。そんな姿勢の彼に椿は不安すら覚えた。
「お主、流石に無欲過ぎはしないか?もっと手前共に何かを強請ったりはせんのか?」
「強請るも何も、欲しいモノは特にはないしなぁ。なんかくれるんなら、そっちで決めてくれ」
「お主・・・・・・」
「まあ、いいじゃない、椿。この子が決めて欲しいというならこちらで決めてしまえば」
「主神様?」
「お、よろしく頼む」
少年の投げやりにも思える返事にヘファイストスは満面の笑みで応えた。
「君には私のファミリアに入ってもらう事にするわ」
ヘファイストスの突拍子もない提案に見えた決定事項に椿と少年は唖然とした。
「・・・・・・本気か?」
「ええ。そうすれば衣食住も保証できるし、職も案内できるわ。これ以上ない待遇だと思うけど?」
「確かに破格の条件だが・・・・・・いいのか?」
少年は椿に目配せる。ヘファイストス・ファミリアほどの大派閥ともなればこのような特別な入り方をすれば前からいる人間に不和が生じないかという心配故である。
「・・・・・・まぁ、心配なかろう。ここにいる人間は基本鉄を打つことにしか興味はない。多少歪な入り方をしても気にするものは居らん」
「ならまぁ、俺に断る理由はないが・・・・・・」
「そう、なら決まりね!」
ヘファイストスは語尾に音符でも付きそうなほど上機嫌に笑う。
胸の前で手を合わせたその姿は新しい玩具をもらった子どものようだった。
「そうと決まれば早速
「儀式?」
「ああ、このファミリアにはいるときには皆、ある儀式を受けてもらうことのなっておる」
「儀式ねぇ・・・・・・俺あんまり難しいことは出来ないぞ」
「安心してよい。そんな難しいことではない。ただ一振り、剣を握ってもらうだけだ」
「そうすることでここがアナタに合っているかを感じてもらうの」
そういってヘファイストスは少年に鞘に収まった状態の短剣を渡す。
少年はそれを辛うじて動く左手で受け取り、刀身を鞘から引き抜いた。
外見は飾り気のない無骨なものなれど刀身は鈍色に輝き、少年の顔を照らした。
「・・・・・・正直、俺には刃物の善し悪しなんて分からない。記憶がないから憶測でしかいえないがおそらく俺はこういう刃物を使ったことがないし、手に馴染む感覚がないから多分それは当たってるんだろう」
「「・・・・・・」」
ヘファイストス・ファミリアに入るとき行われるこの独特の儀式はこのファミリアがその人間に合っているかを見極める特別なものだ。
ファミリアの主神であるヘファイストス自らが打った武器を入団者に見せ、その仕事ぶりを見て違うと思ったなら他のファミリアを目指してもらうというものだった。
つまり、ここで少年が何か違和感を感じたならばその時点で少年の入団はなかったことになるのだ。
ヘファイストスはもとより椿も少年に少しの不安とともに期待を抱きながら少年の次の言葉を待つ。
「でも、これだけは分かるぞ。コイツは誰にでも作れるものじゃない。思慮深く繊細で、優しさと厳しさを持ちながら、使う者を強く想っていなければこういうモノは作れないだろうな。まあ、端的言えば好きだ。こういう仕事をする人は」
「~~~~~~ッ!?//////」
「・・・・・・ほう?」
少年の聞いている方が恥ずかしくなるような歯の浮く台詞にその制作者であるヘファイストスが顔を真っ赤に染める。
勿論、今までも彼女を褒め讃えるような歯の浮く台詞を吐いた人間は居た。しかしそれらはすべて的外れなことばかりを口にし、重要なことを忘れているようにも思えた。その点目の前の少年は彼女の想いを的確に言い当て、そしてトドメとばかりに告白とも取れる言葉に、ヘファイストスの羞恥心が限界を迎えた。
「それに――」
「ま、待って!も、もういいわ!ありがとう//////」
「ん?そうか?まだ言いたいことがあったんだが・・・・・・」
「い、いいの。これ以上は保たないわ」
「は?」
「と、とにかく!これでたった今からアナタは私の
「――名前、じゃな」
少年が動けない今、契約を交わすのは後回しにして彼の身体に刻むステイタスに必要な名前を考えることにする。
ステイタスとは
「別に俺は名無しでも構わないけどな」
「ダメよ。名前はそのものの特徴を表すモノなんだから大切なものなのよ。特に魔法を使うアナタにはね」
「それに手前らがお主のことを呼びにくかろう」
「そんなものか。じゃあ、格好いいので頼むよ」
「任せなさい、実はもう考えてあるのよ。『エリクト』、それがアナタの名前」
「では手前からは下の名前を与えよう。『アプリストス』、主神様の言葉で『強欲』を意味する言葉らしい。お主には欲が足らん、もっと強欲になるように名前に刻むといい」
「エリクト、アプリストス・・・・・・。俺の、名前・・・・・・」
「どうかしら?注文通り格好良くない?」
「・・・・・・ああ、いい名前だ。ありがとう」
少年――エリクトは噛みしめるように与えられた名をその身に刻み、贈り主であるヘファイストスと椿に柔らかい微笑みを向けた。
さて、如何だったでしょうか。前回投稿した時には直ぐに感想が送られてきて驚きました。みなさん結構読んで頂けるものですね。
現時点でお気に入り数141件。こんなにも多くの方にこんな拙いものを読んで頂いてうれしいです。
さて、頂いた感想の中に「人間が神に気付かない、という事はあり得ない」という感想を頂きました。ただ今5巻を読み直している所です。
ただ、少し見つけられないので、自分なりに解釈することにしました。
この小説内では「神の恩恵を受けている者だけが神と認知できる」という前提で進めていきたいと思います。
なので、前回の話でいうとヘファイストスを襲った男達は神の恩恵を受けていなかったということで彼らはヘファイストスを神だと認識できなかったというわけです。
今後も感想や批評どんどん募集しています。解説などもしますのでどんどん送っていただけたら嬉しいです。…あまり考えてないことも多いですけど(ボソッ
それではみなさんまた次回お会いしましょう
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第三話 処女神と感情
「じゃあ、エリクト。今日はゆっくり休みなさい。そのベットは貸してあげるから」
少年の名が『エリクト・アプリストス』と決まると、次は今晩の寝床を決めることとなった。しかし、エリクトの身体は例の男達による暴行と魔法の無理な使用によって首から下が全く動かない状態だ。
そういうことでヘファイストスは仕方なく、エリクトに自らのベットを譲った。
「うん?いや、俺はその辺に転がして置いてくれればいいんだが。俺は雨風を防げれば別に・・・・・・」
「ダメよ。アナタは怪我人であるのと同時に私の恩人なのだからそんな扱いは出来ないわ。それに体は動かせないんでしょう?だったらそこで寝ていなさい」
「いや、だが、この部屋はアンタのなんだろう?だったら何処で寝るつもりだ」
「・・・・・・しょうがない、あの子の――」
「ヘファイストス~?ここか~い?」
「・・・・・・ノックくらいしてって何回言えば分かるの?ヘスティア」
「あ、あははは・・・・・・」
ヘファイストスの言葉を遮って部屋には入ってきたのは豊満な胸の前に青い紐を下げた少女だった。あの紐はいったい何の意味があるのか。
ヘファイストスに全く畏敬してないことからこのヘスティアと呼ばれた少女も女神なのだろうと予想が付いた。
「そ、そんなことよりヘファイストス。襲われたって本当かい!?キミの
「ええ、まあね。でも見ての通り無事よ。思わぬ助けもあったしね」
「助け?おや、ヘファイストス。後ろの男の子は誰だい?ま、まさかとは思うけどキミのだ、男娼じゃあないだろうね?!」
「なっ!?そ、そんなわけないじゃない!いい加減なこと言ってると叩き出すわよ!」
「ご、ごめんよぉ!裸でベットに寝てるものだから、つい!」
裸といっても上半身の部分の布が破れて落ちてしまっているだけで、履くものは履いている。
「まったく、処女神のクセにそういう知識は持ってるんだから・・・・・・。この子は私の恩人よ。危ないところを助けてくれたの」
「エリクト・アプリストス、と名乗ることにした。まあ、与えられた名前だがな。これから顔を合わせることも多くなると思う」
「エリクト・・・・・・?エリクトニウス?」
「うん?」
「!?」
「はっはーん?ヘファイストス、キミ――」
「今晩の食事は無しねヘスティア」
「そんなバカな!?」
ヘスティアの何か分かったというような笑みに何かを感じたヘファイストスは何かを言われる前に黙らせた。
「とにかく、今日のところはここで寝なさい。私はこの子の部屋で寝るから」
「え゛!?」
「・・・・・・今のはどういう反応かしら?ヘスティア」
「え、えーっと・・・・・・、その・・・・・・」
「ま・さ・か!部屋を貸してもらっている分際で散らかしてたりなんかしないでしょうね?」
「あ、あははは・・・・・・。ごめんよぉ~~~~~!」
ヘファイストスの覇気に圧されヘスティアは後ずさりし、謝りながら逃げていった。
「まったく、あの子は・・・・・・」
「クククッ・・・・・・。仲がいいんだな?」
「・・・・・・まあ、そうね。悪い訳じゃないわ。神友だともおもってる。あの子に助けられたところもあるし。でも、それとこれとは別の話よ。せっかく貸してあげてるのに整理もできないなんて、あとでこってり絞ってあげなきゃ。そんなんだから眷属の一人も出来ないのよ」
「なんだ、あの神はまだ眷属がいないのか?」
「そんなに不思議?」
「いや。あの容姿だ、寄ってくる冒険者は多いんじゃないかと思ったんだが」
「多くの冒険者達は目の奉養より安定をとったらしいわよ」
「なるほど。嗜好では腹は膨れないわな。・・・・・・そして俺の腹も膨らみたいらしい」
ヘスティアのいなくなった扉を目で追いながら話しているとエリクトの腹の虫が鳴いた。その恥ずかしさを誤魔化すようにエレクトは目をヘファイストスや椿と合わせないように窓の外の青い空に背ける。
「そうみたいね。ご飯を持ってきてあげるから大人しく待ってなさい」
ほのかに頬を赤く染めたエレクトに頬をゆるめ、ヘファイストスは椿を引き連れて部屋を後にした。
静粛に包まれた部屋に再び一人残されたエレクトはもう一度身体の調子を確かめ、相変わらず動かないことを確認したところで諦めるようにその身体を深い無意識の海へと沈めていった。
◆◇◆◇
「さて、まずは食堂かしら。あの子に持って行ってあげないとね。その後はヘスティアね。1こってりと絞らないと」
パタンと扉を閉め、長い廊下を食堂の方へと歩みを進めるヘファイストスのあとに椿が続く。
「のう、主神様」
「え?なに、椿」
「お主、あの坊主――エリクトに惚れたな?」
「ぶっ!?」
椿が核心を突くとヘファイストスはつま先を何もない床に引っ掛けて廊下の柱に鼻からぶつかる。
「おいおい、大丈夫か主神様。何もそんな器用なこけ方をしなくてもよかろうに」
「誰の所為だと・・・・・・!」
「違うと?」
「違う!・・・・・・事もないけど、これはアレよ。家族愛よ、ほかの
「エリクトはまだ正式に
「ゔ・・・・・・」
「では、質問を変えよう。なぜエリクトをファミリアに入れた?」
「・・・・・・それはさっき説明したでしょう?あの子は私を助けてくれた恩人で――」
「――
「そう、だから気になったのよ、あの子の秘密が。まさかまだ私に
「それだけか?」
「・・・・・・今回はイヤにしつこいわね」
「しつこくもなるさ。他でもない、主神様のためならいくらでも」
「・・・・・・卑怯よ、その言い方は。・・・・・・確かに貴女の言う通り私はあの子に他の
再び食堂を目指すヘファイストスは自分に言い聞かせるようにそう口にしたのだった。
「それはただの逃げだぞ、主神様・・・・・・」
椿の呟きは背を向けたファイストスには届かない。虚空に抜けた羅列は誰かの心情を表したような曇天の空に呑まれていった。
誰か自分に考えてから行動することを教えてください……
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第四話 経験値と居場所
名前を与えられて数日、怪我と
「・・・・・・終わったわ」
「ん、もう良いのか?」
上半身を露わにし、背中に
「やっぱり、『恩恵』を与えても真名は現れないわね」
ヘファイストスの手にはステイタスを写し取った紙が握られている。名前の欄には『エリクト・アプリストス』と書かれていて彼の前の名前はない。
「元々無かったんじゃないか?初めてもらった名前がコレだとか」
エリクトは与えられた上着に袖を通し、冗談ぽく言ってヘファイストスの隣に座る。
「後はどこぞの神の遊びで死人から生き返ったとかな。・・・・・・ま、無いわな」
「そうね、そんな手間の掛かる事をするなら
「
「やっぱりというか何というか、想像通りね。良くも悪くも」
ピラッとステイタスの書かれた紙をエリクトの顔の前に下げる。エリクトはそれを受け取り、眺める。
『エリクト・アプリストス
LV.1
力 I 0
耐久 I 0
器用 I 0
敏捷 I 0
魔力 H 100
《魔法》
速攻魔法〈
《スキル》
』
「貴方って本当に規格外よね」
「その言い方だとこれが普通、と言うわけではなさそうだな」
「ええ、そうね。分かってたことだけど、最初から魔法が発現していることだって珍しいのに、『速攻魔法』ってなによ。聞いたことも無いわよこんなの!」
「口調の割に嬉しそうだな。でもやっぱり他の数値は伸びないか」
「そうなのよ。貴方って不思議なほどに真っ白なのよね。あのとき以前の
「お?これは生き返り説が有力になってきたか?」
「それが本当だとしたらかなり物好きな神ね」
ヘファイストスは肩をすくめて立ち上がり、机の上の呼び鈴を鳴らす。すぐさま扉が開き、椿がカップと紅茶の入ったポットを持って入ってくると慣れた手つきで淹れ始めた。
あらかじめ扉の前で待機していた椿が鈴の音を合図として入ってきたのだろう。
そして紅茶を淹れても居続けるようでカップは三人分用意されている。
「それでどうであった?」
「ほら、こんなもんだよ」
エリクトは自らの経験値が記された紙を紙飛行機にして椿に向けて飛ばす。
「・・・・・・なるほど、これは面妖な」
「そんなにおかしいか?」
「うむ。まぁ、分かっていたことではあるが、
「なるほどね。確かにそりゃ面妖だわ」
「その上に『速攻魔法』だものね、ギルドにどう報告すればいいのよ」
「ム、それもあったな。エリクト、何か覚えはないのか?」
「覚え――心当たりねぇ。・・・・・・つったらアレしかねぇよなあ」
思い返すのはヘファイストスと出会った、あの薄い雲の漂う晴天の空の下の出来事だ。
◆◇◆◇
ヘファイストスを逃がすことに失敗し、エリクト自身も男達に打ちのめされて動けない。
そんな状況の二人を嘲笑うように少しずつ死神の鎌が首にかかる。
(このまんま終わんのかよ・・・・・・。男として女一人守れずに終わるとか、笑われちまうな)
(・・・・・・笑われる?誰に?誰か『俺』を知ってるやつがいるのか?)
(誰なんだ、俺を知ってるやつってのは?・・・・・・『俺』ってのは誰なんだ)
(『俺』を知ってる奴を見つければわかる事か?)
(でも、この状況ではそれも叶わないだろうな)
(何故?)
(力がないから。この状況を脱する力が)
(『俺』にとって力とは?)
(俺の理解の追いつけない所にある不思議なもの。強く、激しく、何にも負けない、しかし目の前の男たち様に無慈悲な暴力ではなく誰かのために使うもの)
(『俺』にとって力とはどんなもの?)
(誰かを守り、誰かを助け、誰かを苦しめるもの。すべてのものに届き、すべての行動を止められるもの。強く、猛々しく、あの空に俺の名を轟き輝かせるもの)
(力に何を求める?)
(速さと威力。なにものより、音も、光をも超える速さ。情勢を一瞬にして逆転させるための強大な威力。今俺を抱えているこの女を一秒でも一コンマでも早く助けるために速さと威力)
(それだけか?)
(望めるなら未来。『俺』を探す未来、誰かを守れる未来)
(自分の事はいいのか?)
(所詮は何も持たない空箱のようなモノだ、これで死んでも何も無くすものはない)
(無欲だなあ。でも、『
(ああ、これが『
(・・・・・・さあ、叫べ。力ならもう持ってる。その
「
エリクトの魂の叫びによって流星が生み出される。すぐに消滅したそれはまさにエリクトの望んだ通り、一瞬で状況を逆転させ、彼を強者と錯覚させるものだった。
そしてその軌跡は彼の未来を祝福するように煌びやかに光り輝いていた。
◆◇◆◇
「有るといえば有るが、どうも要領を得ないな。望んだからとしか言えん」
「なによそれ」
「ま、魔法なんぞ元々要領を得ないものだしのう。仕方がないといえばそれまでだ」
経験があるのか若しくは冒険者ならではの見解か、まるで体験してきたかのような言い様に言葉が詰まる。
「それで、これからどうするつもりなんじゃ?」
「どうってのは?」
「動けるようになったからには働いて貰わなきゃならん。働かざるもの食うべからずだ。大きく分けて四つほど道があるが聞くか?」
椿の問いに頷いて返すと口の端に弧を描き、広げた指を一本ずつ折っていく。
「一つ、冒険者として働く。折角の魔法だからな、それを生かしてモンスターを狩って報酬と珍しいアイテムを持って帰ってきてもらいたい。何、慣れるまで手前も傍に控えるとしよう。
二つ、鍛冶屋として働く。むしろこちらが
三つ、ギルドの上階にある店舗で武器を売りさばく。これは簡単、他人の打った武器をなるべく高い値で売る、これが仕事だ。あまり安く売ると鍛冶師から恨まれるから注意が必要であろうな。
四つ、手前としてはこれがお勧めだ。主神様の御側役――つまりは助手や秘書のようなものだ」
「つ、椿!?」
いきなり表に立たされたヘファイストスは狼狽し、椿につかみかかろうとするが、慣れた手つきで無力化しベットへと放り投げた。とても主神様と崇めている者への所業ではない。
「もちろん、弱い者や知識のない者を主神様のそばに置くことはできない。だから手前が鍛え、鍛冶を教えよう。その他にも主神様の護衛や執務の手伝いなどもやってもらうがな。言ってしまえば一つ目と二つ目に雑用が付いただけだ」
「じゃあそれで」
「エリクト!?」
「よし、決まりじゃ。お主ならそう言ってくれると思っていたぞ。実のところ、手前一人ではこの女神を持て余していたところでな。これで気兼ねなく『工房』にこもれる」
ワハハと大口を開けて笑う椿を横目にヘファイストスはエリクトに掴み掛る。
「な、ななな・・・・・・///」
「ん?何でかってか?」
掴み掛ったままの格好で真っ赤な顔を縦に何度も振る。そんな生娘のような仕草にエリクトは頬を緩ませた。
「そりゃあ、四六時中美麗な女と共にいられるならコレを逃す訳にはいかないだろう?それに加え鍛えてもらえるってんならこれはもう男として断る理由はないよな?」
「・・・・・・」
エリクトの言い分にヘファイストスは美麗だとほめられたことに喜んでいいのかその理由の下らなさに呆れていいのか分からず何も言えなくなってしまう。
その反応に不信感を抱いたのかエリクトはヘファイストスの顔を仰ぎ見た。
「・・・・・・?何かおかしなことを言ったか、俺?俺なりに
その言葉にハッとする。エリクトは前の自分を覚えていない、つまり『自分』が不安定なのだ。だから『自分』が安定するまでせめてもと新しい
そう思ってしまったらもう止まらない。彼の少し困ったような顔が捨てられるのを怖がる犬猫の類に見えてしまう。
「・・・・・・降参よ。好きにしなさい///」
パアァと顔を明るくするエリクトの背後に獣の尻尾が見えたのはヘファイストスだけだった。
「主神様の許可も出たことだし早速ギルドに向かうとしよう」
「ギルド・・・・・・そこを通さなければダンジョンには入れないんだったか?」
「うむ、ダンジョンに入るには冒険者登録が必要なんじゃ。もし登録せずに入った場合、対象ファミリアに対して厳重な注意が課せられる事になる。まあ、それ以前に無断で入るような
主神そっちのけで今後の予定を話し合う二人に待ったを掛けたのは当の主神だった。
「待ちなさい!まさかこのまま行くつもり!?殆どのステイタスが0のこの状態で?」
「まあ、そう角を立てるでない主神様。まずはダンジョンがどのような所か分からなければやりようがないであろう?よく言うではないか、『実践に勝る経験はない』と。もちろん手前も同行する。それに・・・・・・心配するまでもないかもしれんぞ?」
おはこんばんちは、お久しぶりです、鈍亀更新でお馴染みの大神です。
また投稿に半年もかかるという暴挙wゾウガメでもここまで遅かねぇぞw
亀ってかナマケモノなんじゃ・・・
遅れた理由としては書いては消しの繰り返しだっとのと、ただ単に投稿忘れてましたスミマセン
ストックは三つ程あるので適宜更新したいと思っています。
それではその時まで~
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第五話
「ようこそ迷宮都市オラリオへ。私たちギルドは貴方を歓迎いたします」
微笑みとともに歓迎の言葉を発したのはギルドの受付嬢、ミィシャ・フロットと名乗るヒューマンの女性だ。可愛らしい童顔に桃色の髪が映えていた。今後エリクトの
「冒険者登録とともに武器も支給の物を使いたいのだが、選ばせてもらえぬだろうか」
「えっと、それは全然構わないのですが、よろしいのですか?その、恥ずかしながら
「構わぬよ、初心者に最初から強い武器を渡してもそれは武器の性能であってその者の強さではない。初心者には身の丈に合ったものを握らせなければな。そうだろう、エリクト?」
「ああ、それで構わない。むしろアンタ等の作った武器を渡されてもその場で突っ返してやるつもりだったさ」
「うむ、男はそれくらいの気概でないとな!ということで受付嬢殿、よろしく頼む」
「あ、はいっ。ではこちらにどうぞ!」
ミィシャはカウンターを出て武器庫にエリクトを案内する。椿とはここで一旦お別れのようだ。
◆◇◆◇
戻って来たエリクトはボウガンとナイフ、そして身軽な装備と奇妙な鉄筒を手にして椿の元へと戻ってきた。
「うむ、やはり後衛にしたか。良い判断だと思うぞ」
「一番妥当だと思ってな。それに、こんなのもあった」
「エリクト、それは・・・・・・」
エリクトが手にしているそれを見て椿は眉を顰める。
「知っているのか?」
「うむ。うちのファミリアにも持ち込まれた珍品でな、鍛冶を司る主神様ですらその正体を見抜けなかったいわく付の物じゃ」
「へぇ、ヘファイストスが・・・・・・」
「もう一度見せてもらえぬか?」
椿に鉄筒を手渡すと注意深く見渡し、叩いたり肌触りを確かめていた。
「うむ、仕事は荒いし使用方法も分からん。武器としては三流も良いところじゃな。・・・・・・しかし、見るからに『銃』に似ているな」
「『銃』・・・・・・?なんだそれ」
「うむ。『銃』とは斧を作る際、柄の木材をはめるために開ける穴のことを言うのだ。ほら、この部分がそう見えるであろう?」
椿が指さしたのは木に挟まれた筒の部分だった。たしかに斧の持ち手をはずしてしまえばこの様な形に見えなくもない。
「じゃあ、コイツはこれから銃だな。そう呼ぶことにしよう」
「これからとは、これからコイツを使うつもりか?」
「ん、ダメか?」
「ダメではないが・・・・・・。どう使うつもりだ?」
「火薬と鉄か鉛の玉が必要になるんだが、用意できるか」
「鉄の玉はともかく、火薬は難しいかもしれぬ」
「なんでだ?」
「火薬はその特性上、取り扱いが難しい。故にギルドに特別な資格を申請する必要があるのじゃ。しかも火薬自体の単価が高い。今のお主には手の届かぬ代物だな」
「いきなり計画が頓挫したか」
エリクトはガックリと肩を落とし明らかに落胆する。そんなエリクトの年相応の姿に椿は微笑みを浮かべる。
「まあ、今は大人しくダンジョンに向かうとしよう。準備はよいな」
「・・・・・・ああ。期待を裏切らないように頑張るよ」
◆◇◆◇
初めてのダンジョン探索だが、エリクトの頭に緊張の文字はなかった。むしろ積極的に前に出てモンスターを矢で貫く。
薄青色の色彩が彩る洞窟の中でエリクトが足下の小石を蹴散らす音とモンスターの悲鳴が響く。やっとその音が止んだと思えば、辺り一帯にはモンスター
「これは・・・・・・驚いたな」
正直これほどとは予測していなかったと椿の顔は驚愕に染まる。ほとんどの初心冒険者は始めてみるモンスターの凶悪な姿に怯え、本来の力の半分も出せないのが普通である。
なのに目の前で佇むエリクトはどうか。空間を裂くように素早く移動し、壁などを使った三次元的な立体機動を見せ、モンスターの弱点を的確に貫いて絶命させる。まるで戦い慣れた第一級冒険者のような戦い方にただただ驚くばかりだった。
「なぁ、椿」
「うん?」
「モンスターの死骸だが、これはどうすればいい?これじゃあ進めないだろう」
モンスター ――ゴブリンの頭を足で小突きながら椿に指示を仰ぐエリクトは地上での様子とは全く違う雰囲気をまとっており、まるで別人と話しているような気すらした。
「ああ。魔石を取り出すんじゃ、さすれば肉体は灰となって消える。ほれ、これが魔石じゃ」
椿は一番近くに倒れているゴブリンの胴体にナイフを突き刺し、中から鈍色の石を取り出す。するとゴブリンの死骸は灰のように崩れ去り、ダンジョンに呑まれていく。
「おお、すごいな」
「ちなみにこれをギルドに持って行くと換金することができる。今のお主は文無し何じゃから壊すなよ」
「了解した」
エリクトは見よう見まねでゴブリンの胴体にナイフを突き刺して魔石を取り出す。その感覚を忘れまいと今度はコボルトにナイフを突き刺す。
魔石を取り出すと死骸は灰のようになり、崩れて消えたが牙のみが残った。
「椿、これは何だ?」
「うむ、“コボルトの牙”じゃな。それはドロップアイテムといってギルドに持って行けば物によっては魔石より高く引き取ってもらえるし、武具の材料にもなる。拾っておくといい」
「分かった」
魔石とともに牙をポーチに放り込むと次の死骸に刃を突き立てる。だんだん慣れてきたのか取り出し作業にかける時間も短くなっていき、あっという間にすべての魔石を取り終えていた。
「だんだん慣れてきているが・・・・・・もしかして頭の中で反芻しているのか?」
「反芻、ってほど崇高じゃないが、どこに刃をたてたら入れやすいかとかどこに石が埋まってるか、どうすれば効率がいいかは確かめながらやってはいる。俺には知識も時間もないからな、速くお前に追いつくためにはこれくらいの努力は惜しまない」
「手前に、追いつく?」
「現段階で俺の知っている一番強い人間はお前だからな。ヘファイストスを守るならお前に並ぶくらいでないといけないだろう?まあ、いずれは抜かすが」
椿は目を丸くして驚き、そして大きな口を開けて笑った。
それはそうだろう、たった今冒険を始めたばかりの少年が第一級冒険者である椿に追いつくと、追い抜かすと口にしたのだ。彼女からしたら可笑しいことこの上ないだろう。いくらエリクトに知識か少ないといってもこれは耐えられなかった。
「そうかそうか、手前が目標か!」
「何だ、変か?」
「いや。しかし手前の他にも強い奴は多くいる。その者達はどうする?」
「関係ない、全員に勝つだけだ。レベル差?そんなモノどうとでも埋めてやる。なに、10も100も離れてるわけじゃないんだ、何年かけようと必ず追い抜くさ」
エリクトの慢心とも取れるその言葉に、椿は言葉を失った。
だがそれは呆れたからではなく、その堂々とした立ち振る舞いからもしかして、と一瞬だけ考えてしまったからだった。
そのコバルトブルーの瞳に呑まれ、近い将来、名だたる冒険者の集団の先頭で先陣を切ってこのダンジョンの未到達階層を突き進んでいくエリクトの姿を幻視した。
「そう、じゃな。お主ならやるかもしれん」
「ああ、やるさ。首を長くして待つ必要はない、すぐに追いつくからな。で、下に向かう階段が見えてきたんだが、進んで良いのか?」
いつの間にかこんなに奥まで進んでいたのか第二階層に降りる階段まで来てしまっていた。最初の予定ではここまでくることまで考えてなかったのだがエリクトの調子がよすぎたせいですんなり来てしまった。
「いや、ひとまずこれで地上に戻るとしよう。今回でどれだけ経験値があがったか興味がある」
「そうか、じゃあせめて遠回りしてもいいか?もう少しダンジョンに慣れたい」
椿は口端を吊り上げるだけで返答し、踵を返して出口へ向かう。もちろんエリクトの要望通り行きと違う道を通る。
かくしてダンジョンから帰還し、ギルドに寄ったエリクトは上機嫌だった。その表情はまさに新しい玩具を貰った子どものようだった。
「よかったのう」
「ああ、まさか火薬取り扱い資格を得る試験の参考書を貰えるとは思わなかった」
そう。ギルドに魔石を換金しに行くと、エリクトの担当官であるミィシャが火薬の取り扱いについて書かれた本を胸に抱えて待っていたのだ。
おそらく椿とのやり取りを聞いていたのだろう。優秀な同僚に聞いて一番詳しくてわかりやすいものを選んだのだという。あまりの嬉しさにミィシャの手を取って何度も感謝した。
「意外に優秀な人材なのかも知れぬな」
「ああ、意外にもな」
一か月以内に更新達成!これは快挙なのではないだろうか!
冒頭からハイテンションでごめんなさい。大神です。
恐らくですが二次創作を書き始めてから初めて一か月更新が出来たと思います!
だから何だという話なんですが。
次の更新はいつになるかは分かりません。その時の自分の気分次第という事になりそうです。
でわでわ
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