黒子のバスケ~次世代のキセキ~ (bridge)
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全中大会編
第1Q~誓い~


にじふぁん→アットノベルス→ハーメルンにやってきた(知る人ぞ知る)ブリッジことbridgeです。

アットノベルスにて投稿していた黒子のバスケ~もう1つのキセキ~をこちらにも投稿することに致しました。

お時間があればお立ち寄り下さい。

それではどうぞ!




 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

それと同時に観客の歓声が沸いた。

 

コート上では中央に選手達が集まり整列を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

――キセキの世代……。

 

 

 

 

 

 

 

バスケットに興味がある者ならその名を知らぬ者はいない。

 

10年に1人の逸材と称された者が5人同時に存在していたことからその名が付けられた。

 

彼らはバスケにおいて名門と呼ばれる帝光中学校に集まり、そこで中学バスケにおけるあらゆるタイトルを総なめにし、後に全中三連覇という偉業まで果たすことになる。

 

如何なる猛者も、この5人の前では凡人へと輝きを落としてしまう。

 

現在、このコートで行われた試合は圧勝という言葉すら生温い試合結果であった。

 

彼らは整列を終えると、淡々とベンチへと下がっていく。勝利による歓喜はなく、言うなれば、勝利という当たり前の作業でもしたかのよう様相である。

 

ベンチで荷物をまとめると、彼らはそのままコートから去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「すっげぇ…」

 

「これが、キセキの世代ですか…」

 

この試合を観戦していた2人から驚嘆と驚愕の声があがる。試合が終わっても尚、席から立ち上がれずにいた。

 

 

――神城 空

 

――綾瀬 大地

 

 

彼ら2人は今話題のキセキの世代の試合を見るためにこの会場に来ていた。キセキの世代の事は、雑誌や噂などではよく話を聞いていたが、実際にその姿を目にすることはなかった。全中大会が行われるのをきっかけにキセキの世代の試合を観戦しにやってきた。

 

「あの6番…、あんな型破りなバスケは見た事ねぇよ」

 

「それを言ったらあんな長距離からの3Pなんてありえません。ハーフラインから撃ってましたよ?」

 

「あのC(センター)の奴だって、とんでもない守備範囲だったぜ?」

 

「あの8番の選手は、相手のプレーを相手以上のキレとスピードでやり返していました。彼のセンスは計り知れませんね」

 

「そして、その4人を巧みに従える4番。底が知れねぇ」

 

空と大地は各々感想を言い合っていた。

 

「そういえば、あの15番もすごかったよな」

 

「15番? …試合に出てましたか?」

 

空がふと漏らした感想に大地が首を傾げた。

 

「いや、出てたろ。第2Qで途中交代で入ってきて、パスを中継したりスティールを連発してたぜ?」

 

「……すみません、印象に全く残っていません」

 

大地は両腕を胸の前で組んで何とか思い出そうと試みたが思い出すことは出来なかった。そんな大地を空が呆れ顔で見ていた。

 

「試合に出た奴のことくらい覚えておけよ…、まぁ、試合中でも時折姿を見失うくらい影薄い奴だったけどな」

 

空がケラケラ笑いながら両手を後頭部に組み、背もたれに寄りかかりながら天井を見上げた。

 

「…」

 

「…」

 

ひとしきり感想を言い合うと、2人はおもむろに口を閉じた。暫しの間黙っていると、空が口を開いた。

 

「なあ、大地」

 

「なんでしょう?」

 

大地は空の問いかけに首を向けながら返事をする。

 

「仮に、だけどさ、もし、俺らがあのキセキの世代と試合をしてたら、どうなってたかな?」

 

「…聞かずとも分かるでしょう? まず間違いなく、大敗していましたよ」

 

「だよな~」

 

空は思ったとおりの回答に苦笑いをする。空は両手両足を広げながらグッと伸ばして前かがみに座りなおした。

 

「…でもさ、たとえ結果がそうであっても、……戦ってみたかったな」

 

「…そう……ですね」

 

神城空と綾瀬大地は中学時代にキセキの世代と戦うことはなかった。その理由は志半ばで敗れ去ったからでもなければ病気や怪我をした訳でもなく…。

 

「…来年、キセキの世代は高校に進学しちまう。だから、再来年だ。再来年、俺達の手で、キセキの世代を倒そうぜ!」

 

空は立ち上がり、大地にへと目を向け、右手を差し出す。

 

「ええ、もちろんです。私達の手で彼らを倒しましょう!」

 

大地も立ち上がり、ニコリと笑いながら右手を差し出す。

 

2人は固くを手を握り、打倒キセキの世代を誓い合った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

季節は春になり、桜が舞い散る季節となった。

 

静岡県某所のとある公園にて…。

 

 

 

 

――ダム、ダム…。

 

 

 

 

空がゆっくり右手でドリブルをしながら機会をうかがい、大地が両手を広げてディフェンスをしている。

 

 

 

 

――ダム…、ダム…、ダムッ!

 

 

 

 

空が一気に加速をし。高速のドライブで大地の横を抜ける。

 

「甘いですよ!」

 

大地はそのドライブに即座に対応し、遅れることなく空についていく。

 

「っ! なら!」

 

空はターンアラウンドで回りながら大地の右へとドリブルし、そこでボールを掴んでジャンプショットを放った。

 

「っ! まだまだぁ!」

 

大地は、一瞬遅れるもそれに反応し、ブロックするために懸命に腕を伸ばす。だが、ボールはそのままリングへと向かっていく。

 

 

 

 

 

――ガン!

 

 

 

 

 

ボールはリングに弾かれ、こぼれたボールを距離が近かった大地がキャッチする。

 

「ふぅ、ギリギリ追いつきました…」

 

その光景を見て空は額に手を当てて項垂れる。

 

「ちくしょう、触られたか…」

 

大地は伸ばした手はかすかにボールに触れていた。そのため、リングに嫌われた。

 

「それでは、次は私のオフェンスですよ」

 

大地は笑みを浮かべながら構える。

 

先のキセキの世代の試合を観戦してから数ヶ月が経ち、空と大地は星南中学の3年生に進級した。

 

学校が終わると、2人は近くの公園にやってきて、1ON1を繰り広げていた。

 

大地がオフェンスへと周る。攻守を入れ替えた1ON1が始まろうとしたその時…。

 

「おーーーい!」

 

公園の入り口から大声が聞こえてきた。2人がその方向へと視線を向けると、1人の男が2人の下へ駆け寄っていった。

 

「ハァ…、ハァ…、やっと見つけたぜ…」

 

男は2人の傍まで駆けていくと、両手で膝を手に付き、呼吸を荒げた。

 

「おー、田仲じゃん、そんなに慌ててどうしたよ?」

 

「ふ、2人に…、大切な話があって…スーーー、ハーーー」

 

田仲と呼ばれた男はゆっくりと呼吸を整えていく。

 

「なあ、2人とも――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――バスケ部に戻って来る気はないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…」」

 

その言葉に空と大地は表情を曇らせながら沈黙する。

 

「あの時のことは今でも申し訳なかったって思ってる。今まで何もしてこなかった俺がこんなことを言うのは虫がいい話だというのは分かってる。それでも! 俺は、また2人とバスケがしたい!」

 

田仲は感情を露わにしながら心の内の想いを訴える。

 

「…別に、あの時のことはお前を責めちゃいねぇよ」

 

「私も同様です。仮に何かしてたとしても、結果は変わらなかったでしょうし」

 

田仲の訴えに空と大地は苦笑いしながら答える。

 

「あの先輩達は卒業していないんだから、もう気にする必要ないだろ!? だから、中学最後の全中大会に出ようぜ!」

 

「「…」」

 

2人は再び沈黙する。

 

神城空と綾瀬大地がキセキの世代と戦うことができなかったのは、志半ばで敗れ去った訳でもなければ怪我や病気の不運に見舞われたわけでもなく――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――とあることが原因で、上級生とトラブルを起こしたことが起因している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

事の発端は今より2年前、2人が中学校に入学し、バスケ部へと入部したことから始まる。

 

入部直後、新入生の実力を量るという名目で新入生と上級生と紅白戦を行うことになった。通常であれば、新入生が上級生に勝利することは困難なのであるが、空と大地が率いる新入生は上級生を完膚なきまでに叩きのめしてしまう。

 

ミニバスで腕を鳴らしていた2人を相手に上級生はまったく相手にすることができなかった。…しかし、これがいけなかった。

 

プライドを傷つけられた上級生は空と大地は目の敵にし、執拗なまでに嫌がらせを始めた。

 

部活動の時間では、ボールには一切触らせず、練習にもまったくと言っていいほど参加させず、やらせるのは雑用など、マネージャー等が行うようなことばかり。他の1年生は練習に参加しているのにも関わらずである。

 

2人にとって最大の不幸は、前年度までに在籍していたバスケ部の顧問は他校へ赴任してしまい、代わりに付いた顧問がバスケ未経験者であったため、練習等は部員に一任してしまっていたことだ。

 

そのことにより、上級生を諌める者が皆無になってしまい、もともと、素行があまりよくない上級生であったため、バスケ部はその上級生のやりたい放題になってしまった。

 

空と大地もしばらくは耐えていたが、上級生がやってることバスケットではなく、ただのボール遊びであったことと、仮にこの事態をどうにかしても、上級生とは上手くやれるはずもなければ、これからも嫌がらせを続けられることは明白なので2人はバスケ部を辞めた。

 

以来、2人は学校を終わると近くのバスケットゴールが設置してある公園に行って1ON1に明け暮れたり、近くの高校等のバスケ部を尋ねて練習に参加させてもらったり等しながら日々を過ごしていた。

 

「でもさ、いくらあいつらがいなくなったっていっても、また来るんじゃないか?」

 

空が1つの懸念を抱いた。例え卒業しても、OBとして彼らが母校のバスケ部を尋ねてくることは充分考えられる。

 

「大丈夫。例え先輩達がやってきてもあの人達に邪魔はさせないから」

 

「「…」」

 

田仲は決意の表情で2人に告げる。その表情を見て2人は再び思案する。

 

「…とは言ってもなぁ、キセキの世代は卒業していないから、全中大会ってのにもいまいち魅力を感じないんだよなぁ」

 

「…」

 

空と大地はキセキの世代とは学年が1つ下なので、彼らは皆、各々違う高校へと進学している。

 

その回答を聞いて田仲は悲痛な表情を浮かべながら俯く。

 

「でも、ま、…高校に進学したらキセキの世代と戦うつもりだし、あいつらと戦う手土産に、全中大会優勝を掲げていくのも悪くないかな」

 

「ふふっ、そうですね」

 

空と大地は向き合いながらニヤッと笑みを浮かべる。その言葉を聞いて田仲は顔をガバッと上げる。

 

「じゃ、じゃあ…」

 

「ああ。試合もしてみたいし、俺達、バスケ部に復帰するよ」

 

その言葉を聞いて田仲は目に涙を浮かべながら微笑んだ。

 

「恩にきる! それじゃあ2人とも、さっそく今からでもバスケ部に来てくれよ!」

 

田仲は空と大地を引っ張りながら学校へと向かっていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ※ ※ ※

 

 

この年、高校バスケット界ではキセキの世代と、帝光中学校で幻と謳われたシックスマン、そして、キセキの世代と同等の資質を持ったキセキならざるキセキによる壮絶なドラマが繰り広げられた。

 

そんな影で起こった、空と大地による、もう1つのキセキが今、始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




作者はバスケ素人なので、矛盾や勘違いがあればご指摘をお願いしますm(_ _)m

時間を置いて修正を加えながら投稿を続ける予定です。

感想、アドバイス等あればよろしくお願いします。

それではまた!



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第2Q~招かれざる客~

 

 

――キュッキュッ!

 

――ダム!

 

 

 

 

体育館内にスキール音とドリブル音が鳴り響く。

 

「ふっ!」

 

「っ! ちっ!」

 

そこでは空と大地が壮絶な1ON1を繰り広げている。

 

大地が左右に高速で揺さぶりをかけながら抜きにかかる。空もそれに対応してピタリと付いていく。両者共に真剣な面持ちで一進一退の勝負を繰り広げている。

 

「あの2人、まだ続いてるよ…」

 

「2年間もブランクあるのに衰えるどころか、凄みが増してないか?」

 

周囲にいる部員達は思わず練習の手を止めて2人の勝負に目を奪われてしまっている。

 

3年生は過去に僅かではあるが、1年時に2人のバスケに触れていてある程度の実力は知っていたが、その時より遥かに伸びていた2人に驚愕していた。

 

その他の下級生はそのあまりの速さとテクニックに唖然としている。

 

 

 

 

――ザシュッ!

 

 

 

 

ボールがリングを潜る。この勝負は大地が制した。

 

「ちっ! くそ…、もう1度だ!」

 

「いいですよ。やりましょう」

 

攻守を切り替えて再び1ON1が始まった。

 

空と大地がバスケ部に復帰して1週間が経過し、2人は確実にバスケ部へとなじみつつあった。

 

3年生は2人の復帰に大いに喜んでいたのだが、2人のことを知らない現1年生2年生達下級生は、3年生がこの時期に入部してきたこともあり、少々戸惑いを感じていたのだが、2人の事情と実力を知ると、瞬く間に打ち解けていった。

 

2人の入部手続きも、そもそも、退部処理がされていなかったため、一応は在籍扱いなっていたので特にすることもなかった。

 

現在、3年生7名、2年生6名、新入生である1年生が8名が在籍しているバスケ部。放課後にその全員が集まって汗を流している。

 

「全員集合! これからスリーメンを始めるぞ」

 

『はい(おう)!』

 

キャプテンである田仲がそう提案すると、一斉に返事が帰ってくる。

 

「んじゃ、続きを後でな」

 

「ええ」

 

空と大地も1ON1を切り上げ、ゴール下へと向かう。

 

部員達が全員、ゴール下にそれぞれ三ヶ所へと集まろうとした時、それは突然やってきた。

 

 

 

 

 

 

――ガラッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「おー、久しぶりだなぁ! って、おいおい? なんでそいつらがバスケ部にいんだよ?」

 

体育館の入り口の扉が開かれると、突然の来訪者の声が体育館内に響いた。

 

「…ちっ」

 

「…ハァ」

 

その来訪者に空は舌打ちをし、大地は盛大に溜め息を吐いた。

 

入り口から他校の制服を着た、お世辞にもガラが良いとは言えない5人が入ってきた。5人はズコズコと体育館内へと入ってくる。

 

「神城ぉ~、綾瀬ぇ~、誰の許可を貰ってこの神聖な体育館に脚ぃ踏み入れてんだコラァ!」

 

そのうちの1人が空と大地を威嚇しながら歩み寄っていった。

 

「っ! …先輩」

 

部員の1人がポツリと呟く。

 

彼らは星南中学の卒業生であり、バスケ部のOBでもあり、…そして、空と大地をバスケ部から追い出した者達でもある。

 

その内の1人が空達に絡もうと歩み寄っていくと、田仲がその間へと立って2人を守るようにその先輩達と対峙する。

 

「…帰ってください」

 

「あん?」

 

「これから練習が始まるので、先輩達は帰ってください」

 

「…おい、それが先輩に対する言葉か? あん?」

 

頭を下げながらお願いする田仲に、そのOBは青筋を立てる。

 

「先輩達はもう卒業した人間です! もう部外者です! だから帰ってください!」

 

「ふざけた事言ってんじゃねぇぞこらぁっ!」

 

怒りを爆発させた先頭に立っていたOBが田仲の胸倉を掴みあげる。反対の手をきつく握り、殴りかかろうとしたその時…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ヒュン…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのOBと田仲の間にバスケットボールが猛スピードで通過し、OBの鼻先を僅かに掠める。

 

「誰だ!? ボールを投げやがった奴は!」

 

OBはハッとすると、ボールが飛んできた方向を睨みつける。そこには大地の姿があった。

 

「先輩方、神聖な体育館で喧嘩はやめましょう」

 

大地は特に悪びれるでもなく、薄く笑みを浮かべながら言い放つ。

 

「同意見だな。喧嘩しても俺達には何の得もねぇし」

 

ボールが通った先に立っていた空が、右手の人差し指で器用にボールを回しながらそれに同調する。

 

「っ! …てめ――あつっ!」

 

それに怒りを露わにしたOBが空に掴みかかろうとしたが、すかさず空が回転させたボールをOBの鼻先に当てた。ボールの摩擦により、OBは思わず鼻先を押さえた。

 

「おいこらぁ! てめぇ、何舐めた事――」

 

「試合しませんか?」

 

「…あん?」

 

空の提案に鼻を焦がされたOBが鼻を手で押さえながら聞き返す。

 

「バスケで試合をやって、先輩達が勝ったら俺と大地はバスケ部を辞めますよ。けど、俺達が勝ったら先輩達は金輪際このバスケ部には関わらない。これを条件で…」

 

空の提案にOB達は困惑する。

 

「先輩達は都合よく5人いるみたいだし、先輩達は5人、…こちらは、俺と大地だけで構わないですよ」

 

『っ!?』

 

これには、OBだけではなく、在校生のバスケ部の面々も驚いていた。

 

2ON5。圧倒的に不利な条件での試合。普通に考えればまず2人に勝ち目はない。OB達があまりの提案に戸惑っていると…。

 

「どうしました? ここまで有利な条件でビビりましたか?」

 

空が小馬鹿にするかのような口調で告げる。それに怒りを心頭させたOB達は…。

 

「っ! 上等だコラァ!」

 

その挑発に乗った。

 

かくして、かつて空と大地を追いだした先輩であり、バスケ部のOB達と、2人の試合が急遽、始まるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 



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第3Q~2ON5~

 

急遽、空と大地2人と星南中学OBとの2ON5の試合が行われることとなった。

 

現在、1、2年生達が体育館のモップ掛けをしたり、点数表を運んできたりと試合の準備を進めている。

 

空は柔軟運動を始め、大地はバッシュの靴紐を結んでいる。OB達は何故かジャージとバッシュを持参していたため、倉庫で着替えている。

 

「なあ、神城、綾瀬、本気で先輩達と2人だけで試合するのか?」

 

田仲が心配そうな面持ちで尋ねる。

 

「ん? まあな」

 

空は柔軟運動を続けながら答える。

 

「先輩達は態度と言動こそ悪いけど、バスケの実力は決して悪くないぞ? 去年の全中大会も、予選でベスト8まで進んでるし…」

 

「へぇー、あの先輩達、口だけじゃないんだな」

 

空は他人事ように感想を言う。

 

「いくらお前ら2人でもあの条件じゃ無理だって! 今からでも先輩達と交渉して5人での試合に――」

 

「無用です」

 

靴紐を結び終えた大地が、先輩達のもとへ交渉しようとする田仲の肩に手を置いて止める。

 

「対等な条件で勝利しても向こうは納得はしないでしょう。…不利な条件で勝利してこそ意味があります」

 

「そうそう。心配しなくても、2人で充分だよ。予選のベスト8程度をどうにかできないようじゃ、キセキの世代どころか、…今年の全中すら取れねぇよ。…ま、いいから黙って見てな。あ、ちなみに、審判は公平に頼むぜ」

 

空がもう田仲のもう片方の肩をポンッと叩き、コートへと向かっていく。それに続くように大地も向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

着替えと準備運動を終えたOB達5人もコートの中央へとやってきた。

 

「それじゃ、試合は8分間の1本勝負。それでいいですよね?」

 

「おう。いいぜ」

 

OB達は空と大地を睨み付けながら了承する。

 

「…それでは、試合を始めます!」

 

審判役の田仲が不安そうな面持ちで試合開始のコールをする。

 

ジャンパーには大地が立った。OBからは一番背丈のある1人が立った。大地の身長は179㎝。一方、OB側のジャンパーは185㎝と、OB側の方が6㎝程高い。

 

「試合開始!」

 

ボールは高く上げられ、試合が開始される。

 

「っ!」

 

「ふっ!」

 

両者が同時にジャンプする。

 

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

 

『なっ!?』

 

OB達と試合を観戦している在校生のバスケ部員達から驚愕の声が上がる。

 

6㎝もの身長差がありながら、大地はOBの遥か上でボールをはたいた。

 

「おっしゃ! ナイスだぜ、大地!」

 

ボールはすぐさま空が拾った。

 

OB達は一瞬茫然とするも、すぐさま切り替える。

 

「おっ?」

 

ボールを所持した空にダブルチームで付き、ボールを所持していない大地にも2人が付いている。残りの1人はその後方でリカバリー役として待機している。

 

OB達は予想どおり、人数差の利を生かした戦術を布いてくる。

 

「(ま、これは当然だわな)…けど、…関係ねぇ!」

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

 

 

 

「「っ!?」」

 

空はレッグスルーからのドライブでダブルチームの間を高速で駆け抜ける。

 

「くそっ!」

 

後方にいた1人がヘルプに入る。

 

 

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

 

 

空はそれを意にも返さず、バックロールターンでそれをかわす。

 

 

 

 

 

 

――バスッ!!!

 

 

 

 

 

空はそのままゴール下までボールを運び、レイアップで得点を決める。

 

「うしっ!」

 

「ナイスです」

 

パチン! とハイタッチをする。

 

「くそっ! 気にするな! こっちもガンガン点とりゃいいんだよ!」

 

自軍ゴール下に転がるボールを拾い、すぐさまリスタートする。

 

OB達はパスを中心に試合を組み立てていく。在校生側は空と大地の2人である以上、当然ながらマンツーマンマークができないので、形的に中央でゾーンという形を取り、ボールが渡った相手に多少距離をあけながらチェックに向かっている。

 

OB達はボール所持時間をとにかく減らし、パスを回しながら空と大地を翻弄し、チャンスを窺う。

 

 

 

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

 

 

OBの1人がゴール下へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

――ピッ!

 

 

 

 

 

 

そこにすぐさまパスを出す。

 

「いただき!」

 

ボールが渡ると、そのままゴール下から得点を決めようとシュートをする。

 

 

 

 

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

『なにぃぃぃっ!!!』

 

そのシュートは大地によってブロックされる。

 

「(高ぇ! それにこいつ、さっきまでペイントエリアの外にいたはずだろ!?)」

 

OBは驚愕を隠せないでいた。大地はゴール下に飛んだボールにすぐさま反応し、猛スピードでブロックに向かい、失点を阻止した。

 

ブロックされたボールをOB側が確保する。

 

「くっ! もう一度だ! もう一度――」

 

 

 

 

 

 

 

――ポン…。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「油断大敵♪」

 

ボールを拾い、もう一度切り替えようとした時、いつのまにか後方に回り込んでいた空にボールをはたかれる。

 

「大地ぃっ! 走れッ!」

 

ボールを拾った空は前方へとボールを放り投げる。

 

「走ってますよ!」

 

すでに走っていた大地がボールを受け取り、ドリブルを始める。

 

「っ! 戻れぇっ! 戻れぇっ!」

 

OB達が急いで自軍ゴールへと戻る。だが…。

 

「…お、追いつかねぇ…」

 

猛ダッシュで大地を追いかけているにもかかわらず、OB達はドリブルをしている大地に追いつかない。それどころか引き離されていく。

 

 

 

 

 

 

――バスッ!!!

 

 

 

 

 

大地は難なくレイアップで沈める。

 

「くっ、…くそっ…!」

 

OB達は悔しげな表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、田仲の当初の不安とは反し、在校生側が圧倒的な優勢で試合を進めていた。

 

OB達は数的有利の状況にもかかわらず、圧倒的劣勢を強いられた。

 

パスをとにかく回して試合を進めていくのだが、絶好のポジションでボールを受け取っても、シュート体勢に入る頃には空か大地がチェックに詰めており、すぐさまブロックされる。

 

ブロックされないために無理なクイックモーションでシュートを打つも、当然ながら、そんなシュートが入るはずもなく、たまにマグレで決まるのが関の山。アウトサイドシュートを得意とする選手もいないため、3Pシュートも同様だ。

 

開き直ってドリブル突破を試みようとしたが、あっけなくスティールされる。

 

 

 

 

そして試合は終盤、残り時間は十数秒。

 

 

在校生 21

OB  6

 

 

点差はトリプルスコア以上に離れ、試合結果は既に決まったも同然である。

 

「くそっ! くそぉぉぉーーーっ!」

 

OB達が絶叫上げながらシュート体勢に入る。…だが。

 

 

 

 

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

空のブロックショットがさく裂する。

 

「(くそぉ! こ、こいつも高すぎる!)」

 

ブロックされたOBは空の跳躍力に驚愕する。空の身長は大地よりさらに低い177㎝。にもかかわらずその高さは常軌を逸していた。

 

「おら!」

 

ボールを拾った空が前方へと放り投げる。既に走っていた大地がボールを受け取り、ドリブルを始める。OB達は試合の勝敗がほぼ決していることと、疲弊してしまっているため、後を追えず、その場に立ちすくんでいる。

 

「ラストだ! 派手にかましてやれ!」

 

空から注文が飛ぶ。

 

「まったく、仕方ありませんね」

 

 

 

 

 

 

――ダン!!!

 

 

 

 

 

 

大地は苦笑しながらフリースローラインの少し先から跳躍する。

 

「えっ!?」

 

「ま、まさか!?」

 

それを見つめる者達から驚愕の声が漏れる。

 

大地はボールを持ったまま跳躍し、グングンリングへと近づいていく。そして…。

 

 

 

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

 

 

 

大地のワンハンドダンクがさく裂した。

 

『うおぉぉぉーーーっ!!!』

 

それと同時に絶叫の声が上がる。

 

『ピピィィィーーーッ!!!』

 

「し、試合終了!」

 

ここで審判から試合終了を告げる笛とコールがされる。

 

在校生 23

OB   6

 

 

試合結果は空と大地2人の圧勝。

 

『ハァ…ハァ…』

 

その結果をOB達は息を切らしながら信じられないと言った表情で見つめる。それに対し、空と大地は平然としている。

 

パスを中心に組み立てたOB達に対し、数的不利な状況でのブロックや実質的なゾーンディフェンスのドリブル突破など、運動量はOB達の3倍以上。にもかかわらず大して息を切らしていない。

 

「俺達の勝ちです。約束どおり、今後、このバスケ部に関わらないでください」

 

空がOB達に当初に取り交わした条件を告げた。

 

「……知るかバーカ!」

 

OB達はその条件を了承……をせず、暴言を吐いて立ち上がり、空達に詰め寄ってくる。

 

「あ~うぜ。もういいや。こんなバスケ部、潰してやるよ?」

 

他のOB達もその言葉に呼応するように指の骨を鳴らすなどの威嚇行為を行う。

 

「手ぇ出しても構わねぇぜ? ま、そうなったらバスケ部がどうなるかは分からねぇけどなぁ」

 

OB達が下卑た笑みを浮かべる。

 

「…クズが」

 

思わず空の口からそんな言葉が漏れる。OB達が掴みかかろうとしたその時…。

 

 

 

 

 

 

――ガラッ!!!

 

 

 

 

 

 

突如、体育館の入り口が開かれる。

 

『ひっ!』

 

OB達の口から悲鳴にも似た声が漏れる。そこから現れたのは身長は180㎝を超え、30代半ばほどの年齢で、パンチパーマでいかつい顔に色メガネをかけた、一見して堅気には見えない者だった。

 

「…呼ばれて来てみれば、なんじゃいこいつらは…」

 

現れたパンチパーマの男は体育館の中央に集まるOB達の下へゆっくり歩み寄っていく。

 

「お、俺達はバスケ部のお、OBでして…」

 

OB達はビビりながら説明する。

 

「ほう?」

 

パンチパーマの男は答えたOBに歩み寄り、下から覗きこむ。

 

「っ!」

 

そのOBは完全にビビり、目を逸らす。

 

「ほんならもう部外者じゃ、とっとと帰らんかい」

 

「…」

 

OB達はビビりすぎたため、言葉も発することも何もできない。

 

「帰れ言うとるじゃろがぁっ!!!」

 

『す、すみませぇぇぇん~!!!』

 

パンチパーマの一喝により、OB達は一斉に荷物を持って出口へと逃げ去っていった。

 

「なんやあいつら…まぁええわ。田仲ぁっ、約束どおり来てやったぞ」

 

男は田仲の方に向き直りながら言う。

 

「ええっと、こちらの方は…」

 

空はビビりながらおそるおそる尋ねる。

 

「今年からこの学校に赴任された龍川先生ですよ。始業式のおりに挨拶されたでしょう?」

 

「…スマン、寝てた」

 

空は、始業式が始まると同時に爆睡していた。

 

「(そういや、途中でどよめきがあったような…)」

 

田仲が龍川と呼ばれた先生の横に並び紹介を始める。

 

「みんな知っていると思うけど、今年からこの学校に赴任された龍川先生で、バスケ部の顧問及び指導をお願いしていたんだ」

 

「まだするとは言うとらんがのう」

 

『…』

 

バスケ部の面々は固まっていた。

 

「龍川先生は前の学校でバスケ部の指導されていて、実績もある方なんだよ」

 

「そんな大したもんやないわ。…とりあえず…、そこのガキ2人ぃ…」

 

龍川は空と大地に向き直る。

 

「さっきの試合、途中からやけれど、見させてもらったわ。なかなかええもん持っとる。お前らに1つ聞く。…お前ら2人の目指すもんはどこや?」

 

龍川は真顔(傍から見たらメンチ切っている)で2人に尋ねる。

 

「…まあ、目先の目標として今年の全中大会を優勝するつもりですよ」

 

「ほう…」

 

「全中を制し、高校に進学したらそれを手土産に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「キセキの世代を俺(私)達の手で倒します!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空と大地は自分達の目標を龍川に告げる。

 

『…』

 

それを聞いて周りの部員達は沈黙する。

 

挑む者に絶望を抱かせる10年に1人の天才。キセキの世代の実力はバスケを志す者にとっては周知のことである。

 

だが、今の試合を見た部員達は『この2人ならもしかしたら…』と考える者もいる。

 

それを黙って聞いた後、龍川は…。

 

「クックックッ! あのバケモンどもを倒すか。…身の程知らずだが、…ええじゃろう!」

 

龍川は笑みを浮かべると、空と大地の肩をパンパンと叩く。

 

「その目ぇと覚悟。気に入ったわ! 今日からお前ら指導しちゃるわ!」

 

「痛たた…よ、よろしくお願いします」

 

「ご指導ご鞭撻。よろしくお願いします」

 

空と大地は新しい指導者となった龍川に頭を下げる。

 

「お前らも、ワシが全中取らしたる! しっかりついてこい!」

 

『はい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

かくして、2年ほど不在であったバスケ部の監督が決まり、新生星南中学バスケット部が始動した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 



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第4Q~全中に向けて~

 

 

 

――キュッキュッ!

 

――ダムッ!!!

 

 

 

 

 

 

バスケ部に新たな監督が着任し、バスケ部員はより一層練習に励んでいる。

 

「おらぁっ!!! そこのガキィッ! なにチンタラ走っとんのじゃ! そんなんで試合に勝てるかい!」

 

「は、はいぃ!」

 

注意を受けた部員は身体をビクつかせながら返事をする。

 

「スクリーンかけるのが遅いんじゃぁっ! そんなもんに誰がかかるんじゃボケェッ!」

 

「す、すいません~!」

 

先程と同じく、指示を受けた部員が身体をビクつかせる。

 

新しく龍川が監督に着任してから数日が経過した。以前までは部員が練習メニューを組んでいた関係で、どうしても練習は軽めになってしまっていたのだが、龍川が着任してからは練習量は大幅に増え、怠けていると檄が飛ぶので、適度に緊張感のある練習風景となっている。

 

龍川は白いスーツに竹刀を肩にかけながら指導を行っている。

 

部員の中には急激に練習量が増え、厳しい指導が行われるようになって部活を辞めようと思った者も少なからずいたのだが、空と大地がいれば全中大会に出れるかも、という理由で辞めずに汗を流している。

 

「おし! 3分休憩じゃぁっ!」

 

竹刀をドン! と床に突きながら休憩を告げる。部員達はヘロヘロになりながら水分補給をするために体育館の外に設置されている水道へと向かっていく。

 

「あの、龍川先生…」

 

水分補給を終えた田仲がおそるおそる龍川に尋ねる。

 

「神城と綾瀬は今の練習でいいんですか?」

 

現在、体育館の練習に空と大地はいない。2人がどうしているのかというと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ※ ※ ※

 

 

「「おぉぉぉーーーっ!」」

 

空と大地は学校近くにある砂浜で走り込みをしていた。

 

「くっ!」

 

「っ! 負けません!」

 

空が一歩前に出ると負けじと大地が前に出る。砂浜での走り込みは砂に足を取られるため、舗装された道の何倍もきつい。

 

「いよっしゃーっ! 俺の勝ちぃっ!」

 

僅差で空が先にゴールする。

 

「ハァ…ハァ…、や、やりますね…」

 

大地は膝に手を置き、息を切らしながら悔しがる。

 

「よ、42本目…、お、俺の勝ち…だ…」

 

空は勝利に歓喜するも、息は絶え絶えだった。

 

2人は歩きながらゆっくり呼吸を整えていく。

 

「…なぁ、最近、ボール全然触ってないような気がするんだけど…」

 

「それは、私達は基礎トレーニングが主な練習メニューとなっていますからね」

 

龍川が監督に着任してからというもの、空と大地は他の部員達とは別メニューをしており、その主な内容が砂浜や近くの山中のダッシュなど、基礎づくりが中心…というよりほぼ基礎づくり中心だ。

 

「基礎が大事だってのはわかってるけどさ、やっぱボール使った練習がしたいよなぁ」

 

空は半ば愚痴交じりに呟く。

 

2人に命じられた練習量はかなりの量で、常人なら半分もこなせるかどうかという程の量であり、すべてこなした時には部活動の時間は終わっている時間になっており、その後に自主的にやろうと思ってもオーバーワークでヘロヘロであるため、最近ではほとんどボールに触れていない。

 

「基礎は重要です。不満が一切ない、と言えば嘘になりますが、着実に基礎能力が向上していると実感できていますから、私としては有益だと思っていますよ」

 

「うーん、それはそうなんだけど…」

 

大地に宥められるも空はいまいち納得できていない様子である。

 

「では、龍川先生の練習メニューを無視して勝手にやりますか?」

 

「…それこそ胃が痛くなるな…」

 

白いスーツにパンチパーマ、竹刀を持った龍川の姿を想像して思わず顔を顰める。

 

「とりあえず指示を受けた練習メニューをこなしましょう。最近ではこの練習にも慣れてきましたし、その後に好きなだけボールに触れればいいでしょう」

 

「ま、そうだな。…おし! それじゃ、次行くか。…次も負けねぇからな」

 

「こちらこそ、次は譲りませんよ」

 

空と大地は再び走り込みを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ※ ※ ※

 

 

「あいつらはあれでええんじゃ」

 

「ですけど、少しはボールを使った練習もさせた方が…、それに、別メニューばかりじゃチームとの連携も…」

 

田仲は自身が思った懸念を告げてみた。龍川は真剣な面持ちを取り…。

 

「…あいつらに今必要なのは小手先のテクニックでも連携でもない、絶対的な基礎や。如何なる才能も潜在能力も、基礎なくして開花はせん。ずっとバスケ部から離れとったわりにはなかなかもんでもあるが…、あれではまだ足りんわな」

 

「…」

 

「今、あいつらが積み上げとるもんは、この先の全中大会…、ひいては、来年からのバケモノ共(キセキの世代)とやり合う時に大いに生きてくるはずや」

 

いつのまにか集まっていた部員達が龍川の話しに無言で耳を傾けていた。

 

「それに、あの2人は…、言いたかないが、なかなかのもん持っとるからのう、放っておいてもテクニックは勝手に身につく。やから今はとにかく基礎や…おっ? 3分過ぎとるやないか。…おらぁっ! 休憩終わりじゃクソガキ共! スリーメンじゃ! 1人でもつまらんミスしよったら連帯責任で全員その場で腕立てスクワット50回やってからやり直しさせるから気ぃ引き締めてやれやぁっ!」

 

『は、はいっ!』

 

部員達は返事をするや否や一目散に所定の場所へとダッシュで移動していった。

 

空と大地の別メニューは全中大会の3週間程前まで続き、両者共に多少の不満を感じながらも龍川の出した練習メニューは全てこなし、何だったらそれ以上の量もこなしていき、最後の方ではその後にボールを使っての個人練習もやっていた。

 

全中大会予選3週間前に本格的に空と大地はチームに合流し、練習試合や紅白戦をやりながら連携面を磨き、チームを熟成させていった。

 

星南中学バスケ部は、空と大地の2人をチームの軸とし、それ以外の部員は2人をより生かすため、ディフェンスであったり、囮の動きや、2人を自由にするためにスクリーンをかけたり、身体を張ったリバウンドなど、ロールプレイヤーの役割を課した。

 

龍川が監督に就任し、練習を開始するその日にチームの構想を部員達に発表し、部員達はそれを了承した上で今まで練習に取り組んでおり、大会3週間前とギリギリで2人が合流したにも関わらず大会前までにチームを形にすることができた。

 

そして、月日は全中大会予選の日となり、空と大地の、中学生活における最初で最後の公式戦…、全中大会地域予選が開幕した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 



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第5Q~全中地域予選開幕~

 

 

「おっしゃぁっ! テンション上がってきたぁっ!」

 

感情の昂りが抑えられない空が絶叫する。

 

「クスッ…周りの方に迷惑がかかりますから、少し抑えてください」

 

空を窘める大地だが、心なしか表情は緩い。

 

 

 

 

 

 

――全国中学生総合体育大会…。

 

 

 

 

 

 

通称、『全中』と呼ばれる大会の地域予選大会の会場に空と大地、そして、星南中学のバスケ部員達がやってきていた。

 

空と大地にとって、中学生での初めて公式戦であり、最後の公式戦でもあるため、2人共興奮を抑えきれないでいた。

 

「大地ー、今日の試合って何時からだっけ?」

 

「やれやれ、そのくらいちゃんと覚えておいて下さい。10時からですよ」

 

空は前日に試合日程ついては聞いていたはずなのだが、すっかり頭から抜け落ちていた。

 

「あー、そういやそうだったな…、今日の相手って強いの?」

 

「去年は2回戦敗退している中学校だし、強力な新人が入学した話も聞かないからそこまででもないんじゃないか?」

 

「ふーん、なら、腹ごなしにちょうどよさそうだな」

 

「油断は禁物ですよ。試合では何が起こるかわからないんですから」

 

「そのとおりじゃ」

 

監督の龍川がガシィっと空の肩に腕を回した。

 

「ガキの分際で相手ぇ舐めくさるなんざ、ええ度胸しとるのぉ」

 

「ギ、ギブ…」

 

回した腕を締め上げ、アームロックをかけていく。空はその腕を叩いてタップする。

 

「ったく、試合まではそんなに時間はない。身体は入念に解しておけよ」

 

腕を放すと、龍川はそのまま会場に向かっていった。

 

「よし、会場入りしたらすぐに荷物を置いて、それから準備運動を始めよう!」

 

『おう(はい)!』

 

部員達は会場入りしていく。

 

「ゴホッ! ゴホッ! …ちょっ、ちょっと待って!」

 

咳き込みながら空もそれに続いて会場入りしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

準備運動の後、会場のコート内で試合前の練習をし、試合開始2分前の合図を聞いて自軍のベンチに戻り、ジャージを脱いでユニフォーム姿になる。

 

「よし! 行こうぜ!」

 

キャプテンの田仲の声に続いて赤いユニフォーム姿の星南中学のスターティングメンバーに選ばれた5人がコート上のセンターサークルへと向かっていく。

 

 

星南中学スターティングメンバー

 

4番C :田仲潤  187㎝

 

5番PG:神城空  177㎝

 

6番SF:綾瀬大地 179㎝

 

7番PF:駒込康平 181㎝

 

9番SG:森崎秀隆 171㎝

 

 

試合開始前に告げられたスターティングメンバー、これに空が少々反発した。空はプレースタイルもさることながら、攻撃意識がかなり強く、ミニバス時代もスコアラーとして鳴らしていた。そのため、PG起用に難色を示したのだが…。

 

「ええからワシの言うことに従わんかい!!!」

 

龍川は一喝して空を黙らせ、半ば無理やりPGとして空をコートに送った。

 

「始めます」

 

ついに試合が開始される。

 

ジャンパーには一番身長の高い田仲が入る。そして……!

 

 

 

 

 

ティップ・オフ!!!

 

 

 

 

 

ジャンパーが同時に飛ぶ。

 

 

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

 

 

 

身長で勝る田仲がボールを制す。

 

「ナイスだぜ!」

 

弾かれたボールを空が拾う。

 

「っしゃあ! 行くぜ!」

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

 

 

空がそこから一気にドリブルで相手ゴールへとボールを運んでいく。相手チームもすぐさまディフェンスへと向かうが空のスピードに全くついていけずにいる。

 

「先取点、いただきぃっ!」

 

そのままレイアップで点を決める。

 

「ナイス、神城!」

 

空と田仲がバチンとハイタッチ。

 

「は、はえぇ…」

 

試合開始わずか4秒。そのあまりの速さに相手チームは茫然としている。

 

試合は電光石火の得点により、一気に星南ペースで進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

空、大地を中心に、それ以外のメンバーが2人をフォローしながら試合は進んでいく。

 

相手チームが空と大地を止めることは皆無で、2人はガンガン得点を量産していく。

 

「ラストォッ!」

 

第4Q残り時間数秒、空が3Pを放つ。

 

「(やべっ! 汗で…)」

 

 

 

 

――ガン!!!

 

 

 

 

しかし、そのショットはリングに弾かれてしまう。

 

 

 

――ポン……。

 

 

 

外れたボールを大地がタップで押し込む。

 

ボールはリングをくぐり、星南に得点が加算される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時に試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

『ありがとうございました!』

 

両校が中央に整列してお互いに礼をしてコートから下がっていく。

 

114対28。トリプルスコア以上の点差を付けての快勝。星南中学は順調に2回戦に駒を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

両校がベンチに戻り、ベンチを引き上げるべく片付けを行っているのだが…。

 

「…」

 

「…」

 

ベンチの前で正座させれている空。竹刀を肩にかけ、足を組みながらベンチに座り、空を睨みつける龍川。

 

「の~、神城よ?」

 

「…はい」

 

「ワシは試合前にお前に何言うたかの~、言うてみぃ?」

 

龍川は下から見上げるようにして睨み付けながら空に尋ねる。

 

「…ターンオーバー等からの速攻を除き、1試合10点以上取ってはならない…」

 

試合前にポジションを発表されると同時に龍川が空に課した制約であった。これは、空にPGというポジションに慣れてもらう意味合いも含まれている。

 

「おいガキィ、ワレ、今日何点取ったんか言うてみぃ?」

 

「…38点です(ビクビク)」

 

空は怯えながら申し訳なさそうに呟いた。

 

総得点103点の内、空が取った得点38点、実にチーム2位の得点率だ。(この試合の得点率1位は大地の44点)

 

「喧嘩うっとんのかワレェェェェッ!!!!????」

 

「す、すいませぇぇぇぇ-ーーん!!!」

 

空は全力で土下座をした。龍川は竹刀を空の顎下に当て、強引に顔を上げさせた。

 

「ええか? 次はないで? 次ワシの言うことに逆らったら海にチンするからのぉ、そのつもりでいるんやなぁ」

 

 

 

※ 沈(チン)↓↓↓

 

 

 

「話しは終わりやぁ! お前らようやった! 引き上げるで!」

 

星南中学の面々は荷物をまとめ、ベンチを引き上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後、星南中学の勢いは止まらず、次の試合、その次の試合と、空が起点となり、大地が得点を量産し、ダブルスコア以上の点差を付けての快進撃を繰り広げていた。

 

 

 

――ダム…ダム…ダム!!!

 

 

 

空がぺネトレイトでゴール下へと侵入していく。

 

「囲め!」

 

それに合わせて相手チームが3人がかりで空を取り囲んでくる。

 

「空! こっち――」

 

 

 

――パシィッ!!!

 

 

 

森崎がアウトサイドでパスを要求をしたのと同時にその手にボールが収まる。

 

「フリーだ! 打てるぞ!」

 

「えっ? あっ!」

 

森崎はパスを要求してからボールを貰うまでがあまりにも速かったため、一瞬茫然するが、すぐに我に返り、そのまま3Pを打つ。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

そのシュートはリングを潜った。

 

「ナイッシュ! ガンガン回していくから頼むぜ」

 

空は森崎の肩にポンと手を置いてディフェンスに戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

星南中学のベンチにて…。

 

「なあ、空先輩、今ノールックでパス出してたよな…」

 

「俺も見た。パスターゲットの方を全く見てなかった」

 

先程のプレー、空はぺネトレイトでゴール下に侵入し、囲まれる前にビハインドパスでアウトサイドにいる森崎にパスを捌いていた。森崎は、ゴール下に侵入し、囲まれる空がパスを出しやすい位置に移動したのであって、始めからそこにいたわけではない。

 

「空先輩って、この試合に限らず、ノールックパスがすごく多いんだよね。だから一度聞いたことがあるんだよ」

 

空の後輩の1人が、何故そんなにパスターゲットを見ずにパスを出せるのか尋ねたことがあった。

 

『う~ん、何というか…試合が始まっていい感じに集中力が増してくると、上から覗いてるみたいにコートが見えるようになるんだよ』

 

空は少し考えながらそう後輩に答えた。

 

「上から? …それってどういう――」

 

「そういう視野を持つ選手というのが稀におる」

 

龍川が竹刀を肩にかけながら言葉を挿んだ。

 

「バスケに限った話やないが、広い視野と高い空間把握能力を持ったスポーツ選手の中には、脳内で視点を変え、コート上をあらゆる角度で把握できる能力を持つ者がおる」

 

ベンチにいる選手達は龍川の話しに聞き入る。

 

「鷲の目(イーグルアイ)や鷹の目(ホークアイ)とか呼ばれ方はいろいろあるが、あのガキ(空)にはそういったもん(能力)を持っとるちゅうわけや」

 

「だから、監督は空先輩にPGを…」

 

「無論、それだけが理由やないけどのぉ」

 

龍川は腕を組みながら言う。

 

「空先輩やっぱりすげぇ…」

 

下級生達は説明を聞いて感嘆の声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

この試合は88-49で星南が勝利した。

 

星南の快進撃は止まらず。強豪校でさえもその勢いを止めることができなかった。

 

星南はそのまま勝ち上がり、そして遂に、星南は全中地域予選の決勝戦まで辿り着いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第6Q~全中地域予選決勝~

 

 

「「「…(ゴクッ)」」」

 

コートの中央に整列する星南中学の面々。その表情は緊張に包まれている。

 

全中地方予選決勝。今日の相手は全国レベルの強豪校の1つである東郷中学。遡ること10年以上全中大会出場を逃したことはなく、昨年も全中大会準優勝校の明洸中学相手に敗れたものの、逆転に次ぐ逆転の好ゲームを繰り広げている。

 

 

星南中学スターティングメンバー

 

4番C :田仲潤  187㎝

 

5番PG:神城空  177㎝

 

6番SF:綾瀬大地 179㎝

 

7番PF:駒込康平 181㎝

 

9番SG:森崎秀隆 171㎝

 

 

東郷中学スターティングメンバー

 

4番PG :三浦祐二  171㎝

 

5番C  :高島新之助 190㎝

 

6番SF :木原康生  180㎝

 

7番PF :鈴木巧   185㎝

 

10番SG:牧村宗次  174㎝

 

 

今年の東郷中学は弱点や穴は特になく、選手のそれぞれがバランスよく鍛えられており、特に昨年時にもスタメンを勝ち取っている三浦と高島は昨年の雪辱を果たすべく、今年にかける想いは強い。

 

『東ー郷!!! 東ー郷!!!』

 

応援席からは東郷中学の部員達による応援が鳴り響く。強豪校だけに部員数は多く、ユニフォームを獲得できなかった者も多い。その者達がチームを鼓舞するべく、腹の底から声を出して応援している。

 

強豪校ならではの光景。空と大地を除く星南中学の面々はその光景に圧倒されている。

 

「やっぱり全国区の学校は凄ぇな…」

 

森崎がポツリと苦笑いを浮かべながら呟く。

 

「ハッ! 強豪だろうが何だろうが、コートでは等しく5人で戦うんだ。ビビることはねぇよ」

 

空が森崎の肩に手を回しながら声をかける。

 

「相手がどこであろうと、私達のやることは変わりません。私達は私達のバスケを致しましょう」

 

大地が続けて声をかける。2人の余裕の笑顔に、身体や表情に硬さが残っていたスタメン達に余裕が生まれる。

 

 

 

「試合開始!」

 

ジャンパーは星南中学は田仲で東郷中学は高島。審判のコールの後、ボールが高く上げられる。

 

ジャンプボールを制したのは身長で勝る高島。東郷ボールで試合はスタートする。

 

星南のディフェンスはハーフコートマンツーで、それぞれが同ポジションの者をマークしている。

 

東郷はパスを回しながらゲームを組み立てていく。無茶なドリブル突破はせず、パスを回しながらチャンスを窺う。

 

ボールは3Pラインのやや外側に立つ牧村に渡る。シューターでもある牧村の3Pを警戒し、森崎がすかさずプレッシャーをかけにいく。

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

牧村が3Pの体勢に入る。森崎がブロックするべくジャンプする。

 

「っ!?」

 

だが、牧村は途中でショットを止め、フェイクをかけ、そのままドライブで森崎の横を駆け抜ける。

 

ヘルプに大地が向かう。牧村は大地につかまる前にゴール下の高島にボールを捌く。ボールを受け取った高島がそのままゴール下を決める。

 

先制点は東郷。

 

「気にするな! 返すぞ!」

 

素早くリスタートし、空がボールを受け取る。

 

「1本! 行くぞ!」

 

空がゆっくりドリブルしながらボールを進めていく。

 

中央付近で大地にボールを渡す。

 

「っ!?」

 

大地にボールが渡ると東郷が木原、鈴木、牧村の3人が取り囲む。

 

「綾瀬にトリプルチーム!?」

 

その光景に星南から驚愕の声が上がる。大地自身も僅かに目を見開いている。

 

星南の総得点の7割近くが大地。大地さえ潰せば試合に勝てる、というのが東郷の目論見だ。

 

「まさか、全国区の東郷さんがトリプルチームとはねぇ」

 

空がポツリと感想を呟く。

 

「ワンマンチームはそいつを潰せばそれで終いだからな。ま、悪く思わないでくれ」

 

空の呟きに空をマークしている三浦が囁くように言う。

 

「…」

 

空はその言葉に若干勘に障った。大地の実力は充分に認めているが、自分が半ば雑魚扱いされていることが納得できなかったのだ。

 

空は初戦以降、積極的に点を取りに行かず、パス中心で試合をしていたため、東郷側の警戒は薄かった。

 

「空!」

 

大地は1度空にボールを戻す。ボールを離れると鈴木のみがマークから外れ、後の2人はそのまま大地についている。

 

「(ボールがない状態でも2人か…)」

 

東郷はとにかく大地に仕事をさせないつもりなのだと空は認識する。

 

「(…あれ? 大地がダメな今、俺が点を取らなきゃいけないんじゃないか?)」

 

空はとある考えが浮かぶ。そして、ベンチの龍川に目をキラキラさせながら視線を向ける。

 

龍川はハァ~と深く溜め息を吐きながら。

 

「(好きにせぇや)」

 

と、龍川が許可を出す。

 

「(よっしゃーっ! 楽しくなってきたーーーっ!!!)」

 

試合での制限が解除され、嬉々とした表情を浮かべる。

 

「(なんでそんなに嬉しそうなんですか…)」

 

大地がその様子を見て苦笑いを浮かべる。

 

「余所見してんじゃねぇ!」

 

ベンチ方向に視線を向け、マークマンの三浦から目を放して空のボールを奪うべくカットに向かう。

 

空はボールに触れられる直前にバックロールターンでかわし、そのまま一気に加速し、ゴール下へと侵入する。

 

「ふっ!」

 

空がレイアップの体勢に入る。

 

「させるか!」

 

高島がブロックに飛ぶ。

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

「っ!?」

 

空は1度ボールを下げ、高島の左脇の下からリングに放り投げた。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールはリングを潜る。

 

「っ! ダブルクラッチ…」

 

高島がポツリと呟く。

 

空が見せた高等技術に東郷メンバーも息を飲む。

 

ここから、東郷中学の計算が狂い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「5番を止めろ!」

 

東郷ベンチから指示が飛ぶ。だが…。

 

「っ!」

 

「くそっ!」

 

空は東郷のディフェンスを物ともせず、ガンガンドライブで相手ディフェンス突破し、得点を重ねていく。そのあまりのスピードとテクニックに東郷中は空は止めきれないでいた。

 

「星南の5番にこんな得点力があるとは…」

 

これには東郷の監督も頭を抱えた。東郷とて、星南の研究をしなかったわけではない。侮りは禁物と、星南の研究は欠かさなかった。空が得点を取りまくった試合は1回戦のみで、それ以降はボールを持てばパスを中心に、ドリブル突破もそこそこに得点は決定時しか奪っていなかった。

 

東郷の空の評価はパス回しこそ特化しているが、それ以外は平凡なPG。これが東郷の評価だった。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

空の3Pが決まる。星南の…空の勢いは止まらない。

 

これまで窮屈なプレーを強いられていた鬱憤を晴らすかのように空は得点を量産していく。たまらず、東郷は第1Qは半ばにタイムアウトを取り、終了後に、大地のトリプルチームを解き、空と大地に1人ずつマークし、残りはゾーンを組む。トライアングルツーで対抗。

 

ボールを所持する空。それをマークするのは三浦。その表情に侮りはなく、全神経をディフェンスに注いでいる。

 

「やる気になってくれてなにより。それじゃ…行くぜ!」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「っ! くそっ!」

 

クロスオーバーで三浦を抜き去る。グングン加速しながら東郷ゴールへと迫る。高島と鈴木のヘルプにくる。

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

空は囲まれる直前にパスを捌く。

 

「ようやく、やりやすくなりました」

 

ボールを受け取った大地がミドルシュートを決める。

 

マークを振り切った大地に絶妙のタイミングでパスが渡り、得点が加算される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後、制限が外された空とトリプルチームを解消された大地によって星南ペースで試合が進んでいく。東郷も分があるインサイド中心に攻め立てて食らいつく。第3Q終了時、点差僅か6点。星南リードで終了する。

 

試合は第4Qから動き出す。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「ゼェ…ゼェ…」

 

ここで、空をマークしていた三浦と、大地をマークしていた木原のスタミナが尽きる。

 

運動量もスピードも尋常ではない2人を第3Qまでは気力と根性でマークし続けた2人だが、遂に限界が訪れた。2人の交代によって点差は更に広がっていく。

 

さらに、インサイド主体で攻め立ててきたが、それも読まれ始め、インサイドに陣取る高島と鈴木へのパスは空か大地のディナイによってカットされ、得点力が半減。攻めてを欠く。

 

 

 

――ガシィィッ!!!

 

 

 

「綾瀬! 行け!」

 

「助かります」

 

田仲がスクリーンをかけ、大地をフリーにする。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

森崎が3Pが決める。

 

駒込がハイポストでボールを受け、そこから大地へとボールを捌き、ポストプレーをこなす。

 

東郷のペースにも慣れてきた田仲、森崎、駒込が、的確に空と大地のフォローにまわり、星南本来の持ち味が発揮される。

 

高島、鈴木、牧村と、1度はベンチに戻り、体力を回復させた三浦と木原が奮闘するも…。

 

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

星南 79

東郷 62

 

 

星南が全中大会地方予選決勝を制した。

 

「っしゃぁぁぁーーーっ!!!」

 

空は大きくガッツポーズをする。

 

「やりましたね」

 

大地は空の下に歩み寄り、パチン! と、ハイタッチする。

 

「「「よっしゅあーーーっ!!!」」」

 

田仲と森崎と駒込が歓喜の表情で空と大地の抱きつく。その目には涙が浮かんでいる。

 

星南ベンチのメンバーもその輪に駆け寄っていく。龍川はベンチから腰を動かさず。

 

「ようやった」

 

と、試合を戦い、勝利をもぎ取った5人を労った。

 

『ありがとうございました!』

 

整列し、互いに礼をする。

 

「完敗だよ。この借りは全中で返すよ」

 

「楽しかった。またやろうぜ」

 

空と三浦が固く握手する。

 

「次は負けねぇからな!」

 

「こちらも同様ですよ」

 

大地と木原が同じく握手する。

 

その他の面々もそれぞれ握手し、健闘を称えている。

 

東海地方の全中出場枠は3つ。敗れた東郷にも出場権があり、全中大会で再び戦う可能性がある。そこでの再戦を誓い、ベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

全中大会地方予選を見事優勝を勝ち取った星南。

 

空と大地の最初で最後の挑戦権を勝ち取り、地方予選を超える戦いが始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第7Q~全中大会開始~

 

 

星南中学が全中大会出場及び地域大会優勝を決めてから数日が経った。

 

地域大会終了後、学校では、全中出場という星南中学始まって以来の快挙により、戦勝ムードに包まれ、学校を上げてバスケ部を出迎えた。

 

1学期の終業式を終え、夏休みに突入する。それは、激闘がもう目の前であることを意味している。

 

「…」

 

時刻は早朝、まだ陽は昇り切っておらず、辺りは薄暗い。

 

場所は海。空は船の先端で腕を組んで立っている。

 

「全中まで残り僅か。……あ~、待ちきれねぇ! 早く試合がしたいぜ!」

 

空は興奮を抑えきれずにいた。

 

「バカ息子! 大声で独り言言ってねぇで、早く網を引きやがれ!」

 

「分かってるよ!」

 

空の実家は何代も前からの漁師の家系で、現在、家業の手伝いの為、父と祖父と共に漁に出ている。

 

「やれやれ…」

 

空は文句を言いながら網を引っ張っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「それじゃ、綾瀬さんのお家までよろしくね」

 

「あいよ~」

 

空は、本日の漁で取れた魚と氷が入ったボックスを肩に担ぎ、歩き始めた。

 

空の母親の使いにより、漁で取れた魚を大地の自宅までお裾分けに向かっている。空と大地は幼い頃からの幼馴染。家同士も家族ぐるみの付き合いの為、漁の後に取れた魚をお裾分けするのは一種の慣例行事となっている。

 

歩くこと15分。一軒の屋敷に到着する。空がインターホンを押すと、玄関の奥から『は~い♪』と、陽気な声が聞こえてくる。

 

「あら~、空ちゃん♪」

 

玄関が開けられると、そこから着物を着た婦人が現れた。

 

「おはようございます。これ、今日の漁で取れた魚です。よろしければどうぞ」

 

「あらあらあら♪ いつもありがとね~♪」

 

婦人は、空からのお裾分けを嬉々として受け取った。この婦人は、その幼い言動と出で立ちから大地の姉とよく勘違いされるが、大地の母親である。

 

「大地は?」

 

「大地ちゃんなら離れにいるわよ~♪ さっ、入って入って~♪」

 

「お邪魔します」

 

空は大地の母親に促されるまま屋敷にあがっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――シャカシャカ……。

 

 

離れの一室。部屋の中央にて、着物を着た大地がお茶を点てている。

 

茶筅でひとしきりかき混ぜ、そっと茶筅を置く。

 

「朝から精が出るな」

 

離れの入り口の襖が開けられ、そこから空が現れる。

 

「空ですか。おはようございます。早朝から家業の手伝いをしているあなた程ではありませんよ。どうです? 一服」

 

大地は先程自分が点てた茶を茶碗に淹れ、空に差し出す。

 

「もらうわ。…んぐ、んぐ、んぐ…ぷはぁ! …苦っ! …やっぱお茶は俺には合わねぇな」

 

空はお茶を飲み干すも渋い表情を浮かべる。

 

「ふふっ、相変わらずですね」

 

そんな空に苦笑いをする。

 

「…」

 

「…」

 

暫しの間2人は沈黙する。

 

「…もうすぐだな」

 

「…ええ」

 

その沈黙を空が打ち破る。もうすぐとは、言わずと知れた全中大会のことである。

 

「キセキの世代がいない中学バスケに興味はなかったけど、それでも、やっぱ、…試合は楽しいよな」

 

「まったくです」

 

2人は微笑みながら言葉を交わしていく。

 

「…勝とうぜ、何よりも、俺達をバスケ部に戻してくれて、歓迎してくれたあいつらのためにも、な」

 

「同感です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

2人は一度解散し、身支度と荷物をまとめてから合流し、中学校の体育館へと向かう。

 

「おっ?」

 

体育館からはボールを付く音とスキール音が鳴り響いている。

 

「ソーエイ! オーエイ!」

 

体育館内では既に練習が始まっていた。時刻はまだ練習開始時間前だ。

 

「あっ、空、大地! おはよう!」

 

2人が体育館内に入ると、それに気付いた田仲が挨拶をする。

 

「おーす!」

 

「空先輩、チュース!」

 

「おはようございます!」

 

それに続いて3年生、下級生達が続いて挨拶をする。

 

「おーす。早いな」

 

「ああ。全中まであと少しだからな。時間は無駄に出来ないから、出来ることをやっとこうと思って」

 

「空と大地がいて、優勝できなかったら俺達の責任だからな」

 

「足引っ張らないように、頑張らないと」

 

バスケ部達は全中大会に向け、確実に準備を進めていた。

 

「お前ら…」

 

「皆さん…」

 

空と大地はそんなチームメイトを見て、皆の為にも、絶対優勝したいと改めて心に誓う。

 

「お前ら、ようやっと来たか」

 

そこに監督の龍川がやってくる。

 

「このガキ共は2時間前からこの調子じゃ。お前らもさっさと着替えて準備せんかい」

 

「オス!」

 

「はい!」

 

2人は急いで着替えをし、準備運動を始める。

 

「お前らは基礎トレじゃ、さっそく砂浜走ってこいや」

 

「えー、また基礎トレですか~?」

 

空は不満を漏らす。

 

「あたりまえじゃ。たかだか地域予選優勝したぐらいで調子づくな。ワシから言わせれば貴様らはまだまだひよっこじゃ。ド突かれる前に早よ行ってこい」

 

「ラ、ラジャー!」

 

「分かりました」

 

指を鳴らしながら龍川が告げると、2人は急ぎ足で駆けていった。

 

「お前らも! 地域予選はあのガキ共(空と大地)におんぶに抱っこもええとこやったんや。てっぺん取りたきゃ死ぬ気で練習せい!」

 

『はい!!!』

 

こうして、星南中学のバスケ部のメンバーは全中大会まで調整していった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

8月を迎え、ついに全中大会開催の日がやってきた。

 

会場には地方大会を勝ち抜いた全国からの猛者達が集まっている。

 

「さすが、全中ともなると、どいつもこいつもやる匂いがするな」

 

会場に集まる全中大会出場校の面々を見て、笑顔を浮かべながら呟く。

 

「あいつと…あいつ。俺の勘だけど、あいつらはかなり出来るな」

 

「あのジャージは…、城ケ崎中と照栄中だな」

 

森崎がジャージの背中のネームを読み上げる。

 

「あの学校はBランク…、あっちはAランク…」

 

「ん? 何ですかそれは?」

 

駒込が月バスを読みながら何やら呟いている。それを見ていた大地が何かと尋ねる。

 

「あぁ、これね、今月号の月バスに、全中出場校の総合評価が載ってるんだよ」

 

「えっ、なになに?」

 

それを聞いて空も興味を持ち、月バスを覗き込む。そのページには、全中出場校の総合評価がアルファベット表記で記載されている。(上からS、A、B、C)

 

「ちなみに星南中は…なになに、『突如現れた新星。今大会のダークホースになりうる』か、総合評価はB。んだよ、微妙だな」

 

空はその評価に不満気味である。

 

「仕方ありませんよ。私達は初出場校で知名度も低いですから」

 

そんな空を大地が諌める。

 

「ま、こんなのあてにならないよな。俺達が勝った東郷はAランクだし」

 

実績の差と、地方予選決勝の結果は星南の作戦勝ちであり、総合的には東郷が上、というのが月バス編集者の批評だ。

 

「そんで、1番総合評価が高いのは――」

 

 

 

 

 

――来たぞ!!!

 

 

 

 

 

その時、会場がざわつき始める。

 

「ま、当然と言っちゃ当然か」

 

会場中の視線が集まる方向に空も視線を向ける。そこには、キセキの世代を輩出した、中学バスケット界の頂点に立つ名門校…。

 

「帝光中だ!」

 

帝光中学校の面々が会場入りする。

 

「『キセキの世代が抜けたことにより、大きく戦力ダウンをしたが、その実力は未だ健在。今大会の優勝候補』…べた褒めだな。総合評価は最高のSランクっと」

 

優勝候補筆頭と、月バスでは高評価である。そんな彼らを記者達が半ば囲み取材を始める。

 

「全中大会の意気込みを聞かせてもらえるかな?」

 

「はい。尊敬する先輩達が残した連勝記録を守り、全中4連覇を成し遂げることが僕達の使命だと思っています」

 

「チームの調子はどうかな?」

 

「ベストです。後は試合に臨むのみです」

 

「今大会で注目している中学校は?」

 

「全中大会参加校の全てが厳しい地方予選を勝ち抜いてきた強豪です。全ての相手に敬意を払い、全力で勝負に臨むつもりです」

 

記者達の質問に、帝光中の今年度の主将である、新海が淡々と答えていく。

 

「さすが、帝光中のキャプテンだな…」

 

「なんか、貫録あるな…」

 

その光景を見て、星南中の後輩達は嘆息を吐きながら感心する。

 

「…気に入らねぇな」

 

「えっ?」

 

「俺には、何処も眼中にない。そう言ってるように聞こえるぜ」

 

空は、その光景を快く思っていなかった。

 

「ですが、その実力は盤石ですよ。地方予選の全ての試合をダブルスコア以上で勝ち上がっていますからね」

 

大地も記者達の受け答えをする帝光中の者達を見て、思うところがある様子だが、その脅威さを実感している様子だ。

 

「へっ! 王様気分の帝光中の奴等に、所詮は裸の王様にすぎないってのを教えてやるよ」

 

空は帝光中の面々を睨みつけながら意気込む。

 

「気合を入れる事は好ましいことですが、脅威なのは彼らだけはないことを忘れないでくださいよ」

 

帝光中ばかりに鼻息を荒くする空を大地は溜め息を吐きながら諌めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

全中大会は各地方大会を勝ち抜いた全23校(+開催都道府県から1校)の計24校で行われる。その24校が3校1グループの計8グループに分けられ、予選リーグが行われる。その中の上位2校が決勝トーナメントに進み、そこから最後まで勝ち抜いた学校が優勝となる。

 

試合日程は1日2試合ずつ行われるため、選手達にとって過酷な試合日程と言える。

 

「帝光とは…ハハッ! いいねぇ、クライマックスか」

 

空が全中大会の組み合わせを見てニヤリと笑みを浮かべる。

 

星南中と帝光中。双方が順調に勝ち上がれば両者が戦い合う舞台は全中大会決勝。空にとっては願ってもないシチュエーションであった。

 

「…空。先程も言いましたが、帝光中ばかり――」

 

「心配すんな。他を舐めてかかるつもりはねぇよ。あいつらと戦うためには、まずはそこまで辿り着かなきゃならないんだからな」

 

「分かっているなら、いいのですよ」

 

大地は再び空を諌めようとするが、それは杞憂であったと判断する。

 

「この全中大会、私達は出ずっぱりになるでしょう。心してくださいよ」

 

「毎日馬車馬みたいに走らされたんだ。そのくらい楽勝だ」

 

空は両脚をパチンと叩きながら気合を入れる。

 

「ガキ共! 集合じゃ!」

 

龍川が星南メンバーを集める。

 

「まずは初戦じゃ。スターターは田仲、神城、綾瀬、森崎、駒込でいく。気ぃ入れていけよ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

スタメンは予選時と同じメンバー。

 

「神城! 全中ではお前に制限をかけるつもりはない。自由にやれ」

 

「おっしゃ!」

 

制限がなくなり、空はガッツポーズで喜びを露わにする。

 

「綾瀬! 星南のエースはお前や、ガンガン仕掛けて点を取れ」

 

「わかりました」

 

大地は粛々とおじぎをして指示を了承する。

 

「田仲! ゴール下がお前の戦場じゃ。神城と綾瀬同様、責任重大じゃ。覚悟決めぇ」

 

「はい!」

 

田仲は大きな声で返事をする。

 

「森崎! お前の外が決まればそれだけチームが活性化する。役目を果たせ」

 

「了解ッス!」

 

森崎は軽く手を上げて返事をする。

 

「駒込! スクリーンアウトとポストプレーはきっちりこなせ。数字には表れんでもそれがチームの勝利をもたらす。腐らずに励みぃ」

 

「はい」

 

駒込はそのまま返事をする。

 

「言う事やる事は一緒じゃ、行ってこい!」

 

「「「「「はい!!!」」」」」

 

スタメンの5人はコート中央へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

全中大会の予選リーグが始まった。相手も星南と同じ、地域予選を勝ち抜いてきた強豪。当然、強敵である。だが…。

 

「おらぁっ!」

 

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

 

空のワンハンドダンクが炸裂する。

 

『うおぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『すげぇ! あの身長でダンクかましやがった!』

 

観客が沸く。

 

「ふっ!」

 

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

 

大地がドライブで切り込み、ヘルプに来た相手C(センター)の上からダンクをかます。

 

『あいつもすげぇ! 相手C(センター)の上から決めやがった!』

 

ダンク2連続。それも180㎝も満たない2人がしたこともあり、観客のボルテージはグングン上がる。相手チームはそれを見て唖然としている。

 

相手は地域予選を勝ち抜いた強豪。にもかかわらず、空と大地を止められる者はおらず、試合を2人の独壇場となっている。

 

初戦と続く2戦目も、2人の活躍により、81-59、83-55で破り、無事、予選リーグを1位突破を果たし、ベスト16に進出を果たす。

 

初日2戦が終わり、これより、それを勝ち抜いた16校による決勝トーナメントが始まる。

 

ここから先は1度の敗北も許されず、負ければそこで終了。最後まで勝ち抜いた学校のみが王者となる。

 

2日目、地域予選を勝ち抜き、予選リーグを突破した16校によるサバイバルゲームが始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第8Q~想い~

 

 

「んだよ~、まだ時間あるんだからいいじゃんかよ~」

 

「いいわけがないでしょう? 次の試合までそんなに時間はありませんよ」

 

大地に引きずられる形で空は歩いている。

 

「試合までには間に合わせるから、だから、なっ?」

 

「だ・め・で・す!」

 

大地は空のお願いを却下し、呆れ顔で空を引きずっていく。

 

空と大地が今いる場所は、全中大会の会場より少し離れた場所にある某会場。そこの正面入り口には大きくこう書かれている。

 

 

 

 

 

――全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会

 

 

 

 

 

高校バスケットの3大大会の1つである、通称、インターハイの会場である。

 

全中大会は2日目を迎え、星南はつい先程、決勝トーナメントの初戦を戦い、83-66で勝利し、ベスト8に進出した。次の試合まではいくらか時間があったため、空はこっそり抜け出してこの会場に来ていた。

 

空がいないことに周りが気付き、長年の付き合いがある大地だけが空の行き場所に心当たりがあったため、この場所に来たところ、会場に入ろうとしていた空を見つけたため、拘束…連れ戻している。

 

「ちょっとだけどいいから! この試合だけは見させてくれよ!」

 

「ダメです! あなたのことですから、試合に夢中になって時間を忘れるに決まってます」

 

手を合わせて懇願するが、大地はうんざり顔で却下し、引きずっていく。

 

空がこうまでして観戦をしたがるのは理由がある。それは、会場の入り口すぐ横の立て看板に記載されている――

 

 

 

 

 

――海常高校 対 桐皇学園

 

 

 

 

 

この試合を見たいがためにこの会場にやってきたのだ。とはいえ、大地も本音を言えば自分も観戦したい気持ちがあるため、空をきつく叱ることが出来なかった。

 

海常高校は黄瀬涼太。桐皇学園は青峰大輝。10年に1人の逸材と呼ばれるキセキの世代を獲得した高校同士の戦い。バスケに興味がある者、ひいてはバスケを志す者ならば是非とも直にその目で見ておきたい試合である。

 

「知り合いに試合を録画してもらってますから、後でゆっくり見ればいいでしょう?」

 

「……はぁ、仕方ないか」

 

空はようやく観念し、少々不貞腐れながら会場を後にし、ベスト4を決める試合へと臨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「ほえ~、でかい会場だな~。俺ちょっと探検でもしてこようかな」

 

とある集団の猫のような顔をした1人が試合会場を目の当たりにし、ポツリと感想を漏らす。

 

「ほらほら。バカなこと言ってないで、さっさと会場に入るわよ」

 

先頭に立つ女子高生が急かすように会場入りを促している。

 

「まあまあリコ、試合まではまだ時間があるし、少しくらい歩いて回ってもいいんじゃないか?」

 

「んな時間ねぇよ、だアホ!」

 

集団で1番の長身の男に、眼鏡をかけた男が怒りを露わにしながらツッコミを入れる。

 

「短剣片手に探検。キタコレ!」

 

「伊月黙れ。そして土に還れ」

 

一見してクールそうな面持ちの男から飛び出すダジャレに眼鏡の男が不機嫌にツッコむ。

 

その後ろには寡黙な男と糸目の男が並んでおり、その後ろにはそれらの下級生と思われる3人が会場の大きさに圧倒されている。

 

彼らは誠凛高校バスケ部のメンバーであり、創部されてまだ2年。昨年は1年生のみでインハイ予選の決勝リーグまで進出。今年は東京の三大王者と呼ばれる正邦高校と、同じく三大王者であり、キセキの世代の1人、緑間真太郎を獲得した秀徳高校を破り、決勝リーグに進出した。

 

しかし、決勝リーグ初戦で同じくキセキの世代の1人である青峰大輝を獲得した桐皇学園に大敗。その試合で火神が以前の秀徳戦で負傷したを足の怪我が再発して出場できなかったことと、キセキの世代の幻のシックスマンである黒子テツヤが大きく調子を崩したこと、そして、チーム全体が敗戦のショックから立ち直りきれなかったことが原因で残る試合を全て敗戦し、インハイへの切符を逃した。

 

その後、怪我でインハイ予選を辞退していた、無冠の五将の『鉄心』、木吉鉄平がバスケ部に復帰し、三大大会の1つである、冬のウィンターカップに向けて、合宿所で猛特訓。合宿終了後、海常高校と桐皇高校の試合の観戦にやってきた。

 

「黄瀬と青峰の試合か…」

 

その集団の最後尾を歩く長身の男。誠凛高校の大型新人である、火神大我が険しい表情で試合会場を睨みつけている。

 

火神は黄瀬涼太と青峰大輝の両方と試合経験を持ち、黄瀬涼太は黒子テツヤとの連携によって僅差で勝利をしたが、青峰大輝はその型破りなバスケに対応出来ず、最後は秀徳戦で痛めた足の怪我が悪化し、ベンチへと退いた。

 

会場に来るまでに両方と戦った経験からどちらが勝利するか予測したものの、その答えは出ていない。

 

改めて試合の予想をしていると、その数メートル横を、一方が一方を引きずりながら歩く2人組が通っていく。

 

「っ!?」

 

火神が一瞬ハッとした表情を浮かべながらその2人組の方に振り返る。

 

「…火神君、どうかしましたか?」

 

「っ! 黒子か」

 

その様子に気付いた影の薄い男、黒子テツヤに話しかけられ、一瞬驚くも…。

 

「……いや、何でもねぇ」

 

「…そうですか」

 

火神の返答に、黒子はやや腑に落ちないものを感じながらもそれ以上の追及はしなかった。火神は改めて先程の2人組の方に視線を向ける。

 

「(…一瞬、あいつらから黄瀬や緑間や青峰に似た臭いを感じたが……、気のせいか)」

 

直感的に2人からキセキの世代と同じものを感じとり、改めて2人を見たが、多少は出来る臭いを感じたが、彼らには遠く及ばないものであった。

 

「火神! 黒子! 早く来ないと置いてくぞ!」

 

「あ、すいません!」

 

主将の日向に促され、火神と黒子は会場へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉーーーっ!!!』

 

試合は既に終盤を迎え、盛り上がりは最高潮に達している。

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

 

空がボールをキープし、チャンスを窺っている。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

空がチェンジ・オブ・ペースからのクロス・オーバーで相手PGを抜き去る。そのままのゴール下に侵入し、レイアップの体勢に入る。

 

「「させねぇーーっ!!!」」

 

得点を阻止しようと相手ブロックが2枚入る。

 

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

 

空はボールを下げ、ゴール裏から咄嗟にパスに切り替え、左アウトサイドで待ち構える森崎にボールを渡す。ボールを受け取った森崎は3Pの体勢に入る。

 

森崎をマークしていた相手がブロックに飛ぶ。

 

 

 

 

 

――ダム!

 

 

 

 

シュートを中断し、飛んだ選手の足元にワンバウンドさせながらパスを出す。ボールを受け取った大地は背中につく相手ディフェンスを高速のスピンムーブで抜き去り、シュート体勢に入る。

 

再び相手Cがブロックに飛ぶ。大地はトスするようにボール放し、田仲にボールを渡す。

 

 

 

 

――バス!!!

 

 

 

 

田仲は落ち着いてゴール下を決める。

 

中から外。そこから中、さらに中できっちり得点を決める星南。それぞれハイタッチしながらディフェンスに戻っていく。

 

「くっ! 1本、1本返すぞ!」

 

相手PGは1本返すべく、ゆっくりドリブルしながらボールを相手コートに進めていく。

 

「こっちだ!」

 

森崎のマークをスクリーンでかわした相手SGがパスを要求。即座ボールを渡し、ヘルプにきた大地に掴まる前にPGにリターンパスを出す。

 

 

 

 

 

――バチィッ!!!

 

 

 

 

だが、そのパスは空によってカットされ、スティールされる。

 

ターンオーバーとなり、ボールを奪った空はそのままドリブルでボールを進め、3Pライン手前で止まり、そのまま3Pシュートを放つ。

 

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

 

それと同時に試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

 

ボールはリングを潜り、星南に得点が加算される。空が見事にブザービーターを決め、試合が終了する。

 

 

星南 89

松本 60

 

 

星南は20点近くの点差を付け、準々決勝の試合を制した。

 

『ありがとうございました!!!』

 

互いに礼をし、後に握手を交わし、健闘を称えあう。星南はベスト4へと駒を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…」

 

「…」

 

星南のメンバー達は、試合終了後、観客席へと向かった。同じくベスト4への進出を決める他校の試合を観戦するためだ。

 

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

 

大きくブザーが鳴り、試合終了が告げられる。

 

「……強い」

 

「まさか、こんな結果に…」

 

星南のメンバーは試合を目の前で目の当たりにして驚きを隠せないでいた。

 

 

帝光 112

東郷  48

 

 

かつて、地域予選の優勝をかけて星南が戦った相手、東郷。79-62で降した相手だが、決して容易い相手ではなかった。

 

「…あの東郷相手にダブルスコアの100点ゲーム…」

 

「改めて、帝光中は強い…」

 

帝光中の強さに息を飲む星南の面々。

 

「…やっぱり、今年の帝光中は気に食わねぇ」

 

「えっ?」

 

空が試合を見て険しい表情でポツリと言葉を発する。

 

「整列だってのに、誰1人礼をしてねぇ」

 

試合終了後の整列。東郷のメンバー達は涙を流しながら礼をしたのに対し、帝光中は誰1人頭を下げず、ヘラヘラしながらメンバー同士で雑談している。

 

「相手への敬意の欠片もありませんね」

 

これには普段冷静な大地も苛立ちを隠しきれないでいた。

 

「あいつらまであと1つ。待ってろよ、帝光中…」

 

星南中のメンバー立ち上がり、席を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

この日の試合が全て終わり、宿舎へと向かう星南中の面々。会場の入り口を出ると…。

 

「…おっ?」

 

「……あっ」

 

そこには、先程試合を行っていた東郷中のPGである三浦がいた。

 

「よう。なんつーか、惜しかったな」

 

「いやいや、完敗だよ」

 

空は自分がマッチメイクしたPGの三浦に声を掛けた。

 

「約束、守れなくて悪いな」

 

約束…、それは、全中大会で再戦しようと言う約束のことだ。

 

「気にすんなよ。全中でなくても、バスケ続けてりゃ、またやる機会なんざいくらでもある。そん時に改めてやろうぜ」

 

申し訳なさげにする三浦に、空は笑顔でそう告げる。

 

「…それじゃ、またな」

 

空達はその場を後にする。彼はその目を赤くし、その頬には何かが伝った跡があった。つい先程まで涙を流していたのだと容易に想像ができた。

 

彼は敗者で自分達は勝者。これ以上は嫌味なり、余計に彼らを傷つけるだけと判断し、早々に会話を切り上げ、その場を後にしようとする。

 

「……決勝まで必ず辿り着いてくれ! そして、あいつらを…帝光中を絶対倒してくれ!」

 

東郷中の三浦は背中越しに空達に自分の今の想いを叫ぶように告げた。それを聞いた空達は立ち止まり、振り返った。

 

「あいつら、俺達のことなんか眼中になくて、試合中に誰が1番点を取るか。味方同士でただそれだけを競ってるだけだった。悔しくて、絶対に勝ってやろうとしたけど、結局…」

 

三浦は悔しそうに歯を食い縛る。

 

「あんな奴等に負けた事が悔しい。こんなこと頼まれる筋合いはないと思うけど、絶対あいつらに勝ってくれ!」

 

三浦は再び涙を流しながら星南中の者達に自分達の無念を託す。

 

「…言われるまでもねぇよ。帝光中は俺達がぶっ潰す」

 

「あなた達のその想いと無念は受け取りました。必ず、彼らは私達が倒しましょう」

 

他の者達はその言葉に頷く。

 

星南中はかつての競い合った強豪の想いを背負い、明日…全中最終日に臨むのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第9Q~準決勝~

 

 

全中大会3日目にして、大会最後の日がやってきた。

 

準決勝が行われた後、全中大会の頂点を決める戦いが始まる。

 

 

――全中大会準決勝…。

 

 

城ケ崎中学 × 星南中学

 

帝光中学  × 照栄中学

 

 

地域予選、予選リーグ、そして、トーナメントを勝ち残った4校。

 

帝光中は言わずもがな、部員数が100名を超え、10年に1人の逸材と呼ばれるキセキの世代を輩出した、全国でも指折りの強豪校。

 

照栄中はここ数年、全中大会に顔を出し、頭角を現した中学校。主将のC(センター)、松永透を中心に勝ち上がった強豪校。

 

 

試合前のアップ。星南の面々は粛々と身体を暖めている。

 

「よっ…よっ…」

 

空は柔軟運動を繰り返しながら身体を解していく。

 

「…」

 

空の見つめる先には、『百戦百勝』の文字が書かれた横断幕が。これは、帝光中が掲げる横断幕だ。

 

「…まずは、この試合に勝てなければならないことを忘れないでくださいよ」

 

そんな空を見て、大地がやんわり釘を刺す。

 

「分かってるよ。あまりにこれ見よがしに掲げるもんだから、ちょっと視線に入っただけだ。それに――」

 

柔軟運動を終え、スッと立ち上がる。

 

「次の相手は……、かなり手強いからな。本気で集中しないと、な」

 

空は首をコキコキと鳴らし、気分を落ち着ける。

 

城ケ崎中学。全中常連の強豪の1つであり、過去に、全中を制した実績もある。

 

「月バスの総合評価は、帝光中と同じSランク。『今年の帝光中を破るところがあるとするなら城ケ崎中』って書かれてるよ」

 

駒込が以前に持ち寄った月バスを読み上げる。

 

「全てのポジションに高いレベル選手が揃ってる。中でもあの5番。SG(シューティングガード)の生嶋奏は全国でもトップレベルの選手だよ。地域予選では1試合平均42点をあげて得点ランキングは1位。この全中でも、今のところだけど、得点王だよ」

 

星南中の後輩達が集めたデータを駒込が読み上げていく。

 

「大地を押しのけての1位かよ…」

 

これには空も驚く。星南の総得点の7割近くが大地によるものだからだ。

 

「ポジションからして、シューターか?」

 

「うん。得点の8割以上が3Pでの得点みたいだよ」

 

シューターの端くれである森崎がこれを聞いて目の色を変える。

 

「気を付けろよ。俺の目から見て、あいつは帝光中の奴等より遥かにやる感じがする」

 

空が見つめる先には、耳にイヤホンを付け、音楽を聞きながら指でトントンとリズムを取りながらベンチに腰掛ける背番号5番がいる。

 

「ガキ共、アップは済んどるな? スターターはいつもと同じじゃ。始めはハーフコートマンツーでいく。マッチアップはそれぞれ同じポジションの奴に付けや」

 

そこに監督の龍川がやってきて、前日に決めていた通りの作戦を伝える。

 

「ここにマグレで勝ち上がった学校などおらん。正真正銘、力でここまで勝ち残った猛者ばかりじゃ。ここから先は、つまらんミスが命取りになると思え!」

 

『はい!!!』

 

「心配いらん。てめえらも同じく勝ち残っとるんじゃ。条件は一緒や。ガキ共ッ! いってこいやぁっ!!!」

 

『はい!!!』

 

星南のスタメン達がコート中央に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

相手ベンチにて…。

 

「生嶋。試合始まるぞ」

 

背番号4番を付けた選手。牧原が生嶋に声を掛ける。呼ばれた生嶋は耳からイヤホンを外す。

 

「試合前にクラシックを聴くと心が落ち着くな~」

 

生嶋はすっきりとした表情をしながらジャージを脱ぎ、立ち上がる。

 

「…相変わらず変わった奴だな。相手は無名校だが、油断は出来ない相手だぞ。くれぐれも――」

 

「心配無用だよマッキー」

 

用心を促す牧原を遮るように声を割り込ませる。

 

「今日の相手…特に、あの5番と6番。彼らからは何というか、とてつもないオーラを感じる。本気でかからないと勝てないだろうから序盤から僕も飛ばしていくよ」

 

「ならいい。ガンガンパス回していくからよ。期待してるぜ、エース」

 

「任せてよ」

 

城ケ崎のスタメン達がコート中央へと歩み寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

コート中央に集まる星南と城ケ崎のスタメン達。

 

『よろしくお願いします!!!』

 

それと同時に中央から散らばっていく。

 

 

星南中学スターティングメンバー

 

4番C :田仲潤  187㎝

 

5番PG:神城空  177㎝

 

6番SF:綾瀬大地 179㎝

 

7番PF:駒込康平 181㎝

 

9番SG:森崎秀隆 171㎝

 

 

城ケ崎中学スターティングメンバー

 

4番PG:小牧拓馬 173㎝

 

5番SG:生嶋奏  180㎝

 

6番SF:前田一誠 178㎝

 

8番PF:花田誠司 188㎝

 

9番C :末広一也 191㎝

 

 

センターサークルに両チームのジャンパー、田仲と末広が立つ。

 

「始めます!」

 

ティップ・オフ。審判がボールをトスする。

 

田仲と末広が同時に跳ぶ。

 

「っ!」

 

「ふっ!」

 

 

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

 

 

両者は同時にボールを叩き、ボールがこぼれる。

 

「っし!」

 

跳ねたボールに1番近い位置にいた小牧がボールを拾い、城ケ崎ボールから試合が始まる。

 

「さあ、1本行こう!」

 

小牧は左手人差し指を立て、ゆっくりドリブルでボールを進めながらゲームメイクを開始する。

 

それをマークするのは空。

 

「(城ケ崎中キャプテンの小牧。クイックネスに長けたPGか…けど、俺がマークしてる限り抜かせねぇけどな)」

 

腰を落とし、相手のドリブル突破に備える。

 

「(さすが、生嶋が警戒するだけあって、いいディフェンスをするな)」

 

隙のないディフェンスをする空に再警戒する小牧。そこから左手右手とゆっくりボールを付き…。

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

一気に加速して空の左側からドライブで切り込む。空は、全く遅れることなくついていく。

 

「(想定済みだ!)」

 

そこからクロス・オーバーで切り替えし、今度は逆側から抜けようとする。

 

「っ!」

 

だが、空は右手を進路を塞ぐように出し、ドリブルを止める。小牧は一度バックステップし、仕切りなおす。

 

「こっち!」

 

森崎のマークを外し、パスを要求する生嶋。即座にそこにパスを出す。

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

生嶋は3Pラインギリギリでボールを受け取るや否やすぐにシュート体勢に入る。

 

「くっ!」

 

森崎がすかさずブロックに向かうも間に合わず…。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールはリングに掠ることもなく、綺麗にリング中央を潜った。

 

「くそっ!」

 

「ドンマイ、次で返そう」

 

悔しがる森崎に田仲が声を掛ける。

 

「ナイッシュ! 次も頼むぜ!」

 

「うん。任せて」

 

3Pを決めた生嶋に小牧が肩を叩きながら労う。

 

「(マッキーのドライブをいとも簡単に止めた。…これはいよいよ1本も外せなくなるな)」

 

生嶋は空の方を見ながら思った。

 

城ケ崎のバスケは小牧から始まり、彼がドリブル突破で相手ディフェンス陣を斬り裂き、そこからパス、あるいは自ら決めるのが城ケ崎の型であり、PQの小牧が機能しなければ、城ケ崎の型が出せない。

 

星南はリスタートをし、空にボールを渡す。

 

「1本! 行くぞ!」

 

空がボールをゆっくり進めながら相手コートに侵入していく。1度大地にパスし、3Pライン付近まで移動し、再びボールを貰う。そこに、小牧がチェックに来る。

 

城ケ崎もハーフコートマンツーでそれぞれがマークに付く。

 

「…」

 

「…」

 

空はトリプルスレッドの体勢で小牧と睨み合う。

 

「…(チラッ)」

 

「っ!」

 

大地が前田のマークを振り切り、パスを貰いにペイントエリアへと移動する。そこへすかさず空は右手でボールを持ち、放り投げるようにパスを出す。

 

「させねぇ!」

 

小牧がスティールしようとパスコースを塞ぎにかかる。

 

「ふっ!」

 

だが、空は右手で投げたボールを左手で止め、そのままドライブで一気に侵入し、ヘルプに花田が来るのと同時に右サイドの3Pラインの外側にいる森崎にノールック・ビハインドパスを出す。

 

ボールを受け取った森崎はそのまま3Pシュートを放つ。森崎をマークしていた生嶋も釣られて空のヘルプに向かってしまったため、ノーマークでの3Pシュート。

 

 

 

――ガン!!!

 

 

 

だが、そのシュートはリングに嫌われる。

 

「リバウンド!」

 

ルーズボールとなったボールを拾うべく、ゴール下でポジション争いが始まる。

 

「よし!」

 

「ぐっ!」

 

リバウンド争いでボールをもぎ取ったのは城ケ崎の末広。

 

「末広、下!」

 

小牧の声を張り上げる。

 

 

 

――ポン…。

 

 

 

「っ!?」

 

リバウンド争いを制した末広だが、着地と同時に大地にボールを弾かれる。

 

「ナイス!」

 

空がボールを拾い、そのままシュートを決める。

 

 

星南  2

城ケ崎 3

 

 

星南もきっちり1本返す。

 

「相手を意識し過ぎて肩に力が入り過ぎだぜ」

 

「わ、悪い…」

 

空は森崎をフォローしながら自陣へと戻っていった。

 

末広からリスタートし、小牧がボールを受け取る。

 

「1本! 行こう!」

 

『おう!!!』

 

小牧が声を出し、城ケ崎の攻撃が始まる。小牧の前に空が立ちふさがる。

 

「…」

 

目線や身体を揺すってフェイクをかけ、再び空を抜きにかかる。だが…。

 

「っ!」

 

空は振り切られることなく牧原についていく。

 

決して空はフェイクにかかっていないわけではない。かかってもなお、その脅威的な反応速度と瞬発力ですぐさま進路を塞いでしまうのだ。

 

「(認めよう。こいつは俺よりも1枚も2枚も上)」

 

僅か数回の攻防で実力差を実感した小牧。

 

「(…けど、試合だけは譲らねぇ!)…生嶋!」

 

小牧は生嶋へとパスを出す。

 

生嶋にボールが渡ると、森崎がすかさず距離を詰め、3Pを封じるため、フェイスガードでディフェンスに付く。

 

べったりとマークされているため、生嶋は3Pを打てないでいる。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

だが、僅かな隙を見つけ、森崎の横をドライブで抜ける。

 

「っ! なろう!」

 

森崎は強引に手を伸ばしてボールを弾こうと試みる。だが、生嶋はそれを読んでおり、ターンアラウンドで反転し、そのまま3Pを放った。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

そのシュートは再びリングを潜る。

 

「ナイッシュ、生嶋!」

 

城ケ崎のチームメイトが駆け寄り、ハイタッチしていく。

 

「……(森崎はディフェンスも結構上手い。なのにああもあっさり決めちまうのか…)」

 

森崎のディフェンスは決して温くはない。3Pだけの選手ではないと空は認識する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、城ケ崎の小牧は無理なドリブル突破はせず、生嶋にボールを預ける。パスを受けた生嶋はマークに付いている森崎をかわし、得点を重ねていく。

 

対する星南は、空がぺネトレイトで相手インサイドに切り込み、そこから大地、あるいはインサイドに陣取る田仲にパスを捌くか、そのまま自分が決め、城ケ崎に追いすがっていく。

 

城ケ崎が決めれば星南が返す。互いにきっちりと得点を重ねていった。

 

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

 

第1Q終了のブザーが鳴り響く。

 

 

星南  12

城ケ崎 16

 

 

城ケ崎の4点リード。互いに同じ数だけシュートを決めたが、星南は全てが2点ずつに対し、城ケ崎は生嶋の3Pが4本決めたことにより、4点リードという形になった。

 

だが、現時点で戦況は互角。試合は第2Qへと突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第10Q~不屈のシューター~

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

「キターッ! 生嶋のスリー!」

 

「今日6本中6本決めてるぞ!?」

 

「外れる気配がない! まるでキセキの世代の緑間だ!」

 

第2Qに入り、本日6本目となる3Pシュートが決まる。

 

 

星南  22

城ケ崎 31

 

 

第2Q、5分経過…。

 

試合は城ケ崎ペースで進んでいる。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

会場内にブザーが鳴り響く。

 

星南がタイムアウトを取る。星南ベンチで監督の龍川が仁王立ちで腕を胸の前で組みながら選手達を待つ。

 

「くそっ! くそっ!」

 

森崎がベンチに座ると、両手を強く握り込みながら悔しさを露わにする。

 

「あなただけの責任ではありませんよ。事実、第2Qに入ってからは確実に5番のアウトサイドからの失点は減っています」

 

「…けど、結局1本も止めれてねぇ!」

 

「…」

 

第2Qに入り、森崎は生嶋に対し、よりタイトにマークを行っている。その結果、生嶋のシュート回数自体を減らすことには成功した。だが、生嶋を止めることは未だ出来ていない。

 

「森崎だけの責任じゃない。俺も、肝心なインサイドでやられまくってる。俺がもっとインサイドを抑えていれば…」

 

田仲が頭からかけたタオルを握りしめ、悔しそうに歯を食い縛る。

 

「森崎君も生嶋を相手によくやってるし、田仲君も城ケ崎相手にたった1人でインサイドを抑えている。…それに比べて、僕はこの試合何も役に立ってない…」

 

駒込が悲しそうな表情で2人に言葉を掛ける。

 

『…』

 

星南ベンチ内が沈黙に包まれる。

 

「男がゴチャゴチャと泣き言をぬかすなっ!」

 

『ッ!?』

 

その沈黙を監督の龍川が破る。その怒声に選手達は身体をビクつかせる。

 

「まぁ、ここまではワシの予想の範囲内じゃ。点差は9点。まだまだどうにでもなる」

 

選手達は龍川の言葉に耳を傾ける。

 

「相手の4番は神城がほぼ封殺しとる。後は5番じゃが…マークを変える。森崎に変わって綾瀬、お前が5番に付け。5番の動きはおおよそ掴んだやろ?」

 

「はい」

 

綾瀬はニコリとしながら返事をする。龍川もそれに大いに満足する。

 

「ならええ。ここからは5番に綾瀬を付け、神城はそのまま4番をマークじゃ。田仲、森崎、駒込はインサイドを死守せい」

 

『はい!』

 

龍川は状況の打開の為にトライアングルツーを布く。

 

「散々練習でやってきたことや。しっかりこなしてみぃ」

 

『はい!』

 

「それと、神城ぉっ!!!」

 

「は、はい!」

 

「ボールを持ったらお前も積極的に点獲りに行け。ワシが許す」

 

「っしゃあ! そうこなくちゃ!」

 

空はニヤリと笑みを浮かべながら喜びを露わにする。

 

「他のもんも、練習どおり、教えたとおりにやれ。そうすれば勝てる」

 

「「「はい!!!」」」

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここでタイムアウト終了のブザーが鳴る。

 

「言う事はそれだけじゃ。行ってこい、ガキ共ぉっ!!!」

 

『はい(おう)!!!』

 

星南の選手たちはコートへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

タイムアウトが終わり、試合が再会される。

 

先程までは城ケ崎ペースで進んでいた試合。タイムアウト終了後、試合は動き始める…。

 

「くっ!」

 

小牧から生嶋にボールが渡る。すかさず大地がディフェンスに入る。

 

「(…隙がない! これじゃ、シュートはおろか、抜くことも…!)」

 

マークが大地に変わった途端、生嶋の得点が止まる。大地のディフェンスの前に、生嶋は手をこまねいていた。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

生嶋はドライブで綾瀬の横を抜こうとする。だが、大地は瞬時に対応し、道を塞ぐ。

 

「想定済みだ。本命は――」

 

生嶋はそこからターンアラウンドで反転し、3Pの体勢に入る。生嶋の得意パターンの1つである。

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

 

「そのパターンはさっき見ましたよ」

 

大地はそれにも対応し、ブロックショットが炸裂する。こぼれたボールをすぐさま大地が拾う。

 

「大地ーーっ!!!」

 

既に前に走っていた空がパスを要求する。

 

「っ! まずい、戻れ! ディフェンスだ!」

 

慌てて城ケ崎が自陣コートへと戻る。だが、もともとの動きだしに加え、空のダッシュ力に城ケ崎は追いつけない。

 

大地が先頭を走る空に向け、力強いワンハンドパスを出す。

 

「っしゃあ!」

 

ボールを受け取りペイントエリアまでボールを進めると、そこから大きく跳躍し…。

 

「らぁ!!!」

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

ワンハンドダンクを炸裂させる。

 

「ダンクキタァ!!!」

 

「あの身長でマジやべぇ!!!」

 

空のダンクに観客も大きく沸く。

 

 

星南  26

城ケ崎 31

 

 

2度にわたって攻撃を失敗し、ターンオーバーからの得点によって点差を詰める星南。

 

「落ち着こう! まだ点差はある。立て直すぞ!」

 

小牧が声を張り上げ、立て直しを図ろうと試みる。

 

城ケ崎のオフェンス、小牧がボールを所持し、空がディフェンスの付く。

 

「ちぃ!」

 

空のディフェンスを突破できない苛立ちから思わず舌打ちをする小牧。完全に得意のドライブが封じられる。

 

そこに、生嶋が大地のマークを振り切ってパスを貰おうと動き出す。間髪入れず、大地がそれを追いかけるが…。

 

 

 

――ガシィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

8番、花田のスクリーンに大地が捕まる。

 

「ド阿呆ッ! しっかり声かけんかい!!!」

 

龍川から怒声が星南ベンチから響く。そこにすかさず小牧からパスが渡る。ミドルレンジでパスを受けると、生嶋は星南のヘルプが来る前にすぐさまシュート体勢に入る。

 

 

 

――チッ…。

 

 

 

「えっ?」

 

その放たれたボールに真後ろから現れた指先が触れる。ブロックに現れたのは…。

 

「あっぶねぇ…」

 

小牧のマークを外し、ヘルプに来た空。

 

「(まさか…、その位置から追いついて…)」

 

空は生嶋にパスが渡るまでは小牧のマーク…、3Pラインの外にいた。生嶋はパスを受けると同時にシュート体勢に入ったため、空とは距離があった。生嶋はシュートの瞬間は空のことは意識の外だった。

 

だが、空はパスがされるのとほぼ同時に小牧のマークを外して動きだし、生嶋のシュートブロックに向かい、指先のみだが、ボールに触れることに成功した。

 

「リバウンド!」

 

ボールに触れた空はシュートが外れるのを確信し、叫ぶ。

 

 

 

――ガン!!!

 

 

 

ボールは空の目論見どおり、外れる。リバウンド争いを制したのは田仲。星南のゴール下には田仲、森崎、駒込の3人がいたのに対し、城ケ崎は末広しかいなかったため、悠々とリバウンドボールを田仲がもぎ取った。

 

田仲は空にパスをする。

 

「よっしゃ! もう1本、行くぞ!」

 

再び、星南ボールに。空から再び攻撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

第2Q終了のブザーが鳴る。

 

 

星南  37

城ケ崎 39

 

星南が点差僅かワンゴール差までに詰め寄った。

 

空と大地が得点を重ね、それ以外がフォローにまわる。星南のいつもの形で試合を推し進める。

 

一方、城ケ崎も最大の得点源である生嶋を封じられたものの、花田、末広が星南のミスマッチを突き、得点を重ねる。

 

第2Q終わり、戦況は互角。だが、勝敗を分ける要因となるものがここから少しずつ表れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

肩で大きく呼吸をする生嶋。その表情に余裕はなく、顔色もよくない。

 

 

星南  55

城ケ崎 54

 

 

第4Qに入り、開始1分で星南が逆転に成功する。

 

更に勢いが増す星南。だが、城ケ崎の旗色は悪い。時間、点差を考えてもまだまだ挽回の余地はいくらでもある。だが…。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

城ケ崎の絶対的エースである生嶋はもう限界…いや、限界を超えている。その原因は、大地のマークを振り切ろうと動き回ったことによるものと、星南がトランジションゲームに持ち込み、走り合いとなったことにより、体力が大幅に削られたからだ。

 

今ではすっかり動きにキレがなくなり、立っているのも辛そうな面持ちだ。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

森崎の3Pが決まる。この日、ようやく当たりが出る。

 

 

星南  58

城ケ崎 54

 

「点差が開いてきたぞ!」

 

「ここでのスリーは痛い!」

 

観客にも戦況が星南に傾いてきたことが伝わる。

 

生嶋はもうろくにディフェンスもできない。城ケ崎ベンチはエースが退くのは痛手だが致し方なしと判断し、生嶋の交代要員を呼び、メンバーチェンジを告げようとした。だが…。

 

「…(スッ)」

 

生嶋はそれを手で制し、交代を拒否する。

 

「まだ…やれます。…だから…」

 

困惑する城ケ崎の監督。そして降した判断は……、生嶋の続行。

 

「いいんですか? もう、生嶋は――」

 

城ケ崎ベンチの選手が異を唱えるが、監督は、生嶋の目を見て判断を降した。

 

 

 

――本人が大丈夫と言うなら…、まだ目が生きてる内はエースの意見を尊重すると…。

 

 

 

城ケ崎ボール。生嶋へとパスが渡る。

 

「…」

 

トリプルスレッドの体勢に入る生嶋。

 

「(もう、彼は限界を超えています。ドリブル突破はおろか、シュートも難しい。ましてやスリーなどは無理なはず…)」

 

大地はパスにのみ警戒を強める。それ以外なら後出しでも反応できるだけのスピードと瞬発力があるからだ。

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

「っ!」

 

生嶋が3Pシュートの体勢に入る。大地は1番ないと思っていた3Pの体勢に入ったことにより、一瞬驚くもすぐさまブロックに跳ぶ。

 

ボールを放つ前に生嶋のシュートコースを塞ぐ大地。他のマークも外れていないため、パスの切り替えも難しい。

 

ブロックが成功する…。誰もがそう思ったが…。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

「なっ…!」

 

そのシュートは綺麗にリングを潜った。そのことに誰もが驚いたが、それ以上に…。

 

「なんだ今の!?」

 

「すげぇ体勢から撃ってたぞ!?」

 

今の3P。ブロックは確実かと思われたが、生嶋はボールを手から放つ瞬間、上半身を左方に傾け、ブロックを避けるようにしてシュートを放っていた。

 

当然の如く、バスケのシュートは距離が離れれば離れる程成功率は下がる。確実にシュートを決めるためには綺麗なフォームとりリリースタイミングとリズムが求められる。

 

今のシュートはリズムは崩れており、フォームもブロックをかわすために上半身を傾けて打ったため、バラバラもいいところ。…それでも、ボールはリングに掠ることなく潜った。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

生嶋は両膝に手を付きながら息を切らしており、すぐさま両手を放してディフェンスへと戻っていった。

 

「あんなシュート、そうそう入る訳ない。気にすんなよ」

 

田仲が大地の腰を叩きながら励ます。

 

「(…本当にそうならばいいのですが…)」

 

大地は不安を感じながらオフェンスに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本!」

 

空が人差し指を立て、ゲームメイクを始める。城ケ崎は星南のエースである大地に花田と前田のダブルチームでマークする。

 

「…」

 

空はゆっくりボールを進めていく。

 

 

 

――ダッ…!

 

 

 

大地が一瞬の隙を付いてダブルチームを振り切る。

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

 

そこにすかさず空のパスが飛ぶ。

 

『!?』

 

コートにいる者のほとんどが目を見開いた。空は大地にではなく、森崎にパスをしたからだ。完全に虚を突かれた城ケ崎。森崎は完全フリー……と思われたが…。

 

「っ!?」

 

生嶋だけは森崎のマークに付いていた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

もはや息は絶え絶えで、一見して立っているのがやっと。ならば、と生嶋を抜き去ろうとドライブの体勢に入る森崎。

 

「っ!?」

 

その瞬間、森崎の背筋に冷たいものが走る。限界を超えている生嶋。だが、その瞳は鬼気迫るものがあり、執念にも似た何かがあった。その瞳が森崎の動きを止めさせた。

 

「森崎! 何やってんだ!」

 

田仲の言葉にハッとし、正気に戻った森崎だが、その僅かな硬直の内にヘルプに来た花田と前田に囲まれる。

 

「くっ!」

 

何とかボールは渡すまいとキープし続ける森崎だが…。

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

「オーバータイム!」

 

24秒が過ぎ、オーバータイムを取られる。

 

 

※オフェンス側は24秒以内にシュートを打たなければならない。

 

 

「よーし! ナイスガッツだ、生嶋!」

 

城ケ崎ベンチから歓声が上がるが、当の本人は…。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

反応をせず、ただただ荒い呼吸を繰り返すだけであった。

 

「どうした?」

 

空が心配そうに声を掛ける。

 

「いや、悪い。あの時、行ってたら取られそうな気がして…」

 

森崎は声を震わせながら言う。

 

「…ま、気持ちは分からんでもないけど、打っていなかきゃ始まらねぇ。取られたら俺達が拾ってやるから、ガンガン行けよ」

 

腰をパシッと叩きながらディフェンスへと戻っていった。

 

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

 

小牧がドリブルをしながら星南リングへと近づいていく。

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

小牧が一気に加速し、ドライブで空の横を抜けようとする。

 

「甘ぇーよ!」

 

空はそれに対応し、阻もうと付いていこうとする。

 

 

 

――ドン!!!

 

 

 

「うっ…」

 

だが、真後ろにいた花田のスクリーンによってそれは防がれる。

 

「ちぃ!」

 

たまらず大地がヘルプに向かったが、それを見越したかのように小牧はパスをする。ボールの先は左サイド、3Pラインの外側にいる生嶋。

 

「俺が…!」

 

森崎がディフェンスに向かう。

 

生嶋は、ボールを受け取ると、ゆっくりボールを上げ、3Pを放つ。森崎のブロックより紙一重に早く、ボールはリングに向かっていく。

 

「(もう5番は限界。あんな状態で入るわけ…)」

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

だが、ボールはリングに掠ることなく再び潜る。

 

「うおぉぉぉーーーっ! 5番止まんねえ!」

 

そのシュートに観客が沸く。

 

「ディ…フェンス…」

 

生嶋はボールがリングを潜るのを見送ると、ゆっくりディフェンスに戻っていった。

 

『…』

 

その様子を唖然として見送る星南メンバー。

 

 

星南  58

城ケ崎 60

 

生嶋のスリーで再び城ケ崎がリード。第4Q残り5分。激闘は終わらない…。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第11Q~勝利者~

 

――ダム…ダム…。

 

 

空がボールをキープし、チャンスを窺う。

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

 

大地がマークに付いている前田を一瞬の隙を突いてマークを外す。空はそれを見計らったかのようにマークが外れると同時に高速のパスを出す。

 

 

――バス!!!

 

 

大地は落ち着いてレイアップでゴールを決める。

 

 

星南  69

城ケ崎 69

 

残り時間4分。試合は再び振りだしに戻る。

 

城ケ崎は素早くリスタートし小牧にボールが渡る。小牧はボールをゆっくりキープしながらゲームメイクを進める。

 

「2番!」

 

小牧がそう声を上げると同時に左手の指を2本出す。それを合図に城ケ崎が動き出す。生嶋がフリーになるべく左サイド3Pラインギリギリまで走って移動し、生嶋のマークに付いている大地に前田がスクリーンをかける。

 

「(ナンバープレーか!?)」

 

空は城ケ崎がやろうとしていることを即座に理解する。

 

「(フィニッシュは生嶋で来るはず、なら!)」

 

空は小牧のマークを外し、生嶋にディフェンスにいく。

 

「スクリーン!」

 

味方からの声に反応し、大地は前田のスクリーンをかわし、生嶋を追う。

 

生嶋が動き出したのと同時に小牧はパスを捌く。生嶋には空と大地の2人がマークに向っていた。城ケ崎のオフェンスを先読みした星南がスティールに向かう、だが…。

 

『っ!?』

 

星南はここで驚きの表情を露わにした。小牧がパスを出した相手は生嶋ではなく…。

 

「あっ!」

 

ゴール下に陣取っていた末広だった。これには星南のすべての選手が不意を突かれた。

 

「くそっ!」

 

シュート体勢に入った末広に田仲が慌ててブロックに向かうが間に合わず、ボールはリングを潜った。

 

 

星南  69

城ケ崎 71

 

『うおぉーーーっ! ここで中か!』

 

『絶妙のタイミングだ!』

 

この小牧の好判断に観客も唸り声を上げる。生嶋が散々外を意識させ、それを見透かしたかのように中へとボールを渡す。

 

「ちっ」

 

空は思わず舌打ちをする。もともと、インサイドは城ケ崎に分があった。それを何とかゾーンで抑えていたのだが、ディフェンスが外に向き過ぎたため、中が手薄になってしまった。これにより、星南は的を絞れなくなり、苦しい展開になった。

 

星南はリスタートし、再び空がゲームメイクを始める。

 

「…」

 

空はいつもとは一転してゆっくりボールを進めていく。流れは今、城ケ崎に傾きつつある。万が一、ここを落とし、失点をすれば完全に流れは城ケ崎に傾き、残り時間を考えても試合は星南の敗北がほぼ確定する。

 

城ケ崎もそれを理解しており、この試合1番気合の入ったディフェンスをしている。

 

「…」

 

空が中央3Pラインの僅か外側でトリプルスレッドの構えで様子を窺う。

 

「(ここは何としてでも止める!)」

 

空をマークしている小牧は深く腰を落とし、空のドリブル突破に備える。他のメンバーも自身のマークに気を配りつついつでもヘルプに入れるよう集中している。

 

パスを捌くか、それとも自ら突破してくるか、コートに立っている選手達はもちろん、ベンチにいる者も会場の観客達も固唾を飲んで見守っている。

 

空の選択は…。

 

「えっ…?」

 

小牧のそんな声が漏れる。空は、大地に一瞬アイコンタクトのようなものをしたかたと思うと、突然、シュート体勢に入った。

 

ドライブに備えて距離をあけ、さらに腰を落としていたこと。ここでシュートを打つことはないと踏んでいたことから、小牧は茫然と何1つ身動きが取れず、ただただ、空のスリーを見送った。

 

これには城ケ崎だけではなく、星南の者達ですら予想外で、小牧と同じようにただボールの行く先を見送っていた。

 

ボールは放物線を描き、リングへと向かい、そして…。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

リングを潜った。

 

会場中が瞬間静まり返る。

 

『おっ…』

 

『うおぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!』

 

会場が熱気を取り戻したかのように絶叫に包まれる。

 

「っし!」

 

空はボールがリングを潜ったのを確認すると、両手でガッツポーズを作った。

 

「落とせば敗北が決定するこの状況でスリーを打つなんて…、あいつにはここで決められる自信があったとでも言うのか…」

 

城ケ崎選手達は唖然とした表情で空を見つめる。

 

空は決して自信があったわけではない。このスリーは半ば賭けだった。城ケ崎がシュートに対して無警戒だったので、それを選んだだけで、スリーは撃てても純粋なシューターではない空が、試合後半の勝負所、疲労もプレッシャーもあるこの状況で確実に決められる程の自信があった訳ではなく、ただ博打を打っただけ。

 

そして、空はこの博打に勝った。城ケ崎に傾きかけていた流れを強引に引き戻した。

 

 

星南  72

城ケ崎 71

 

星南、再び逆転。

 

ディフェンスに戻ろうとする星南選手達に龍川は…。

 

「下がるな! 当たれやぁっ!」

 

ベンチから立ち上がり、大声で指示を飛ばす。

 

末広がリスタートし、小牧にボールが渡ると…。

 

「っ!?」

 

空と大地がダブルチームですぐさま小牧にプレッシャーをかける。

 

「これは!?」

 

小牧の表情が驚愕に染まる。

 

「オールコートゾーンプレスだ!」

 

試合終盤。残り3分弱。ここで星南が動く。

 

 

 

オールコートゾーンプレス…。

 

 

 

リスタートと同時に即座にボールを奪うためのチーム戦術。高い戦術理解度とスタミナが求められ、相手側をフロントコートに進ませることなくボールを奪うための高度なディフェンス。

 

体力の消耗が激しいことと抜かれるとたちまちアウトナンバーになりやすく、失点する恐れがあるというデメリットがあるが、パスミスを誘発しやすく、ターンオーバーを招きやすいというメリットがある。

 

3-1-1のゾーンプレス。これは、龍川がかねてより星南に仕込んでいた戦術だ。

 

「ぐっ!」

 

空と大地の2人がかりのプレッシャー。小牧はどうすることもできず、コートの隅へと追いやられてしまう。

 

 

 

――バチィ!!!

 

 

 

根気よくボールをキープしていたが、ついにボールは弾かれてしまう。すぐさま大地がボールを拾うと、そのままレイアップにいく。

 

「させっか!」

 

末広がレイアップを阻止するためにブロックに向かう。大地はボールをいったん下げ、末広を空中でかわし、リバースレイアップでゴールを決める。

 

「おぉぉぉーーーーっ!!!」

 

大地のダブルクラッチに再び観客が沸き上がる。

 

「くそっ!」

 

前田がボールを拾い、リスタートしようとすると…。

 

「っ!?」

 

大地がその前で両手を上げ、パスコースを塞ぐ。前田はパスが出せず、苦しむ。

 

「急げ! もうすぐ5秒だぞ!」

 

ベンチから焦りの声が響く。

 

「この…!」

 

前田は何とか小牧にボールを渡すことができた。だが、それを見透かしたかのように再び空と大地が小牧にダブルチームでプレッシャーをかけ、小牧をコートの隅へと追いつめていく。

 

「がぁっ!」

 

小牧は2人がかりのプレッシャーを受けながらも前田の姿を捉え、苦し紛れにパスを出す。だが…。

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

 

そのパスは駒込にカットされる。駒込はそのままペイントエリアまで侵入し、シュート体勢に入る。小牧がブロックにいくと、駒込はシュートをせず、ゴール下にいる田仲にパスする。

 

ボールを受け取った田仲はポンプフェイクを1つ入れる。焦った末広がブロックに跳ぶと、それを見届けながら真横に来ていた空にボールを渡し、空はそのまま大きく跳躍し…。

 

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

 

ワンハンドダンクを叩きこんだ。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

空のダンクにより点差はさらに開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

星南はその後も間髪入れずにゾーンプレスを続けた。城ケ崎は試合終盤で疲労困憊のこのタイミングでのゾーンプレスを喰らい、ターンオーバーを繰り返す。タイムアウトを取って流れを切りにかかるも、星南の勢いを止めることは出来なかった。

 

 

星南  82

城ケ崎 75

 

第4Q残り7秒。ゾーンプレスが功を奏し、7点もの点差をつけた星南。試合の結果はもはや決したのだが…。

 

「1本! 絶対取るぞ!」

 

小牧はボールをキープしたまま檄を飛ばす。星南は既にオールコートを解き、ハーフコートマンツーとなっている。

 

残り5秒になったところで小牧がぺネトレイトで星南インサイドに侵入する。マークマンの空は真後ろにスクリーンに来ていた前田をロールでかわし、小牧を追いかける。田仲、駒込もヘルプに向かう。

 

小牧は囲まれる前にローポストにいる末広にパスを捌く。大地がシュートを打たせまいとすぐさまチェックにいく。

 

末広はシュート打たず、彼の真後ろ、左サイド3Pラインの外側でフリーになっていた生嶋にパスを出す。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

生嶋はそのままシュート体勢に入った。森崎がブロックに跳ぶ。

 

「っ!?」

 

生嶋は真上ではなく、真後ろに跳び、フェイダウェイでシュートを放った。それにより、森崎は触れることができず、ボールはそのままリングへと向かっていく。

 

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

 

それと同時に試合終了のブザーが鳴る。生嶋はそのまま真後ろに倒れ込んだ。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールは綺麗にリングを潜った。得点はカウントされ、3点が城ケ崎に加算される。

 

 

星南  82

城ケ崎 78

 

最後、城ケ崎がブザービーターで得点を決めたものの、後一歩星南に届かなかった。

 

「生嶋!」

 

最後、スリーを打った生嶋は倒れ込んだまま起き上がれないでいた。チームメイトが慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫…。ただ、起き上がれないから…誰か肩貸してくれない?」

 

最後のスリーで残った体力を全て使い果たした生嶋。小牧が生嶋の腕を肩に回し、センターサークルへと運んでいく。

 

「82対78で星南中の勝ち! 礼!」

 

『ありがとうございました!』

 

星南、城ケ崎共に礼をし、握手を交わしていく。

 

「帝光中を倒す役は、君達に譲るよ。僕達の分まで頑張って」

 

「任せろ。きっちり倒しておく」

 

生嶋は小牧に抱えられたまま空と大地と握手を交わしていく。

 

「城ケ崎ー! 強かったぞ!」

 

「生嶋ー! 最後まで凄かったぞー!」

 

退場していく城ケ崎の者達に観客は惜しみない拍手を送る。城ケ崎のメンバー達は涙を流しながら観客席に礼をし、退場していった。

 

「最後まで気を抜けない相手でしたね」

 

「ああ。結局、俺達生嶋1人に34点も取られたんだよな」

 

城ケ崎の総得点の78点うち、生嶋があげた得点は34点、そのうち、3Pシュートは30点。

 

「すげーのは、キセキの世代ばかりじゃないって、改めて思い知らされたよ」

 

惜しみない拍手を送られた城ケ崎を見ながら空と大地は語り合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「スタメンは絶対身体冷やすな! 栄養補給も忘れるんやないで!」

 

控室に戻った星南のメンバー達はすぐさまこの後に迫る決勝戦の準備を始める。

 

「これ、俺の母親が持たせてくれたレモンのはちみつ漬けです。良かったらどうぞ!」

 

「おっ、サンキュー」

 

後輩の1人がタッパーに入ったはちみつレモンをスタメンに渡していく

 

「試合に出た先輩達はバッシュ脱いでください。今からマッサージしますので」

 

同じく、後輩達が1人1人スタメン達の下に寄っていく。

 

「へぇー、お前ら、そんなことできんの?」

 

空が感心して、後輩に尋ねる。

 

「実は、俺の親がマッサージ師で、練習後にみんなで習いに行ってたんですよ」

 

「俺達、試合に出れないけど、代わりに何か先輩達の役に立ちたくて…」

 

後輩達が恥ずかしそうに告げていく。

 

「…マジでサンキューな」

 

そんな後輩達の心遣いに、上級生達は感謝の気持ちでいっぱいになった。

 

チーム一丸。これは試合だけに限った話ではなく、これも1つのチームワーク。

 

星南のメンバーは、ゆっくり疲労を抜きながら決勝戦の準備を進めていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方、もう1つの準決勝のカード、帝光中対照栄中の試合は、試合開始当初は照栄中のC(センター)、松永透が帝光中を相手にインサイドを制圧し、試合を優位に進めていき、第2Q半ばまでは同スコアで試合が進んでいった。

 

だが、帝光中は攻め手をインサイドからアウトサイドへと変え、外から照栄中を崩しにかかった。照栄中は、悪い言い方をすれば松永のワンマンチームであり、松永以外のポジションは全くと言っていい程帝光中に歯が立たず、アウトサイド、あるいはインサイドから松永を誘い出し、得点を重ねていく。

 

第3Q終了時には20点もの点差が付き、第4Q開始時にはスタメンのPGの新海とPFの池永を決勝戦のためにベンチへと下げ、第4Q半分が過ぎた頃にはスタメンは全員がベンチへと退いていた。

 

これに松永1人が奮起して帝光中を猛追していく。帝光中の控えでは松永は止められず、点差はどんどん詰まっていく。だが、残り時間が足りず、点差を限りなく詰めた照栄中だったが…。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

帝光 81

照栄 75

 

後一歩届かず、決勝戦へは下馬評どおり、帝光中が駒を進めた。

 

この結果は星南中の者達にも伝わり、予想通りの結果に皆が息を飲む。

 

部員数100人以上を誇り、キセキの世代を輩出した全国屈指の強豪校。バスケをする者ならその名を知らぬ者はいない中学校。星南中はついにそこに辿り着いた。

 

「ちょっと便所行ってくる」

 

マッサージを終えた空は1人控室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……ん?」

 

トイレに向かって歩いていると、正面から帝光中の、それもレギュラーの2人が歩いてきた。空は思わず足を止めた。試合前の宣戦布告でもしようとどんな言葉をかけるか考えていると…。

 

「っ!」

 

だが、その2人は雑談しながら、一瞬、空の方をチラリと見ると、そのまままた雑談をしながら歩いていった。

 

「ちっ!」

 

空は険しい表情をしながら拳をきつく握り、控室まで引き返していった。

 

 

 

――ドォン!!!

 

 

 

控室の荒々しく開けると、険しい表情のまま備え付けの椅子に座り込んだ。

 

「? …どうかしましたか?」

 

大地がいち早く空の様子のおかしさに気付き、声をかける。

 

「……すぐそこで、帝光中のスタメンの奴等とあった」

 

「…何か言われたのですか?」

 

大地がそう尋ねると、空は歯をギュッときつく噛みしめた。

 

「何か言われた方がまだマシだったよ」

 

「どういうことですか?」

 

「あいつら、次の…決勝戦の相手のスタメンの俺の顔を知りもしなかった」

 

先程帝光中のメンバーがした反応は、言うなれば、街中ただすれ違う一般人の反応とも言うべき反応。空が憤っている理由は、決勝であたる対戦チーム、それもスタメンである空の顔を向こうは知らないことを意味している。それはつまり、帝光中は星南中のことなど眼中にないということに他ならない。

 

それを聞き、他のメンバーも険しい表情をする。

 

「…見てろよ、決勝じゃ、あいつらの鼻っ柱へし折ってやる…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

激闘の準決勝を制し、ついに全中大会の決勝の辿り着いた星南中。

 

相手は帝光中学校。全中3連覇中の超強豪校。

 

選手達は暫しの休息を経て、最後の激闘へと足を進めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第12Q~決勝戦~

 

 

 

『…』

 

星南中の控室。つい先程までは選手同士で談笑をしていたが、今現在は沈黙に包まれていた。

 

刻一刻と決勝戦の時間が迫っており、時間が経つにつれて次第に選手達の緊張感は増していく。

 

相手は帝光中学校。キセキの世代を輩出し、今大会も圧倒的な強さで勝ち進んだ強豪校。中学校のバスケ部に所属する者にとって、畏怖と憧憬を抱く相手だ。星南にとっては、今現在自分達が全中決勝に辿り着いたこともそうだが、帝光中と試合をすることすら少し前までは夢のまた夢であった。

 

だが、彼らは今、この舞台にいる。観客としてではなく、敵として、対戦相手として…。

 

その時、控室の扉が開かれ、そこから監督の龍川がやってきた。

 

「時間や、会場に行くぞ」

 

ついにこの時が来た、と、選手達は一瞬息を飲み…。

 

『はい!』

 

不安と緊張を振り払うかのように大声で返事をし、立ち上がると会場に向かっていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!!!!!!』

 

『っ!?』

 

星南の選手達が入場した瞬間、会場の観客達の歓声が地鳴りの如く会場中に轟いた。星南の選手達は思わず身を竦めた。

 

観客はほぼ満員。準決勝の時にはちらほら見えた空席も軒並み満席になっていた。

 

「すごい観客の数だな…」

 

その埋め尽くすような観客と歓声に田仲は思わず圧倒される。

 

「これ全員この試合見に来たのかよ…」

 

森崎が顔を引き攣らせながらポツリと感想を漏らす。

 

「違うな。この観客は目当てはこの試合じゃねぇ」

 

「えっ、それってどういう――」

 

空が森崎の感想を否定すると、駒込が理由を尋ねようとした時…。

 

 

 

 

 

『来たぞっ!!!!!!』

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

その瞬間、先程星南の選手達が入場した時より以上の歓声が会場中に響いた。

 

「そのとおりです。この観客達の目当ては…」

 

大地の視線の先、そこから帝光中の選手達が入場してきた。

 

「帝光中ですよ」

 

帝光中の入場により、観客達が大いに盛り上がり始めた。

 

『…(ゴクリ)』

 

目の前で帝光中の選手達を目の当たりにし、星南の選手達は息を飲んだ。彼らの発するオーラは、確実に一線を越えていた。

 

「ボーっと突っ立ったっとらんで、さっさと準備を始めんかい!」

 

ベンチに座っていた龍川が怯える選手達に痺れを切らし、檄を飛ばす。

 

『は、はい!』

 

星南の選手達は、空と大地を除き、慌ててジャージを脱ぎ、準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「スタメンはさっきと同じ、田仲、神城、綾瀬、森崎、駒込や、1試合まるまるこなした後やが、これで最後や。こんなんでばてる程ヤワな鍛え方はしとらんはずや。最後の一滴まで搾りだせ!」

 

『はい!』

 

そこから、龍川が決勝の戦術プランを伝えていく。選手達はそれを返事をしながら頭に叩き込んでいく。

 

「観客もぎょーさん入っとるな。…お前ら、この場におることが場違いやと思っとるか?」

 

『?』

 

「過去のお前らの実績から考えれば、この舞台は夢のまた夢やな。だがな、お前らはここにおる。それは決して運でもなければ奇跡でもない、お前らの実力でや」

 

龍川はそのまま言葉を続ける。

 

「ええか? この舞台に来たことだけで満足するなや。お前らの頂点はあの調子こいとるクソガキ共(帝光中)へこませた時や。…まどろっこしい話を抜きにして一言で言うなら…」

 

龍川スーッと息を飲み…。

 

「勝てぇ!!! それだけや」

 

『はい!』

 

龍川の鼓舞に選手達は大声で返事をした。

 

「行ってこい、ガキ共ぉっ!!!」

 

星南のスタメン達がコート中央へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート中央に集まる星南と帝光のスタメン達。緊張な面持ちの星南とは対照的に帝光には余裕が見られる。

 

 

星南中学スターティングメンバー

 

4番C :田仲潤  187㎝

 

5番PG:神城空  177㎝

 

6番SF:綾瀬大地 179㎝

 

7番PF:駒込康平 181㎝

 

9番SG:森崎秀隆 171㎝

 

 

帝光中学スターティングメンバー

 

4番PG:新海輝靖 178㎝

 

5番C :河野雄大 194㎝

 

6番PF:池永良雄 190㎝

 

7番SG:沼津孝信 179㎝

 

8番SF:水内彰  188㎝

 

 

「(…でけぇ奴が勢揃いしてるな)」

 

去年も同様だが、今年の帝光中のスタメンも、高さのある選手達が揃っている。190㎝代が2人、180㎝後半が1人。

 

「(これは、いよいよインサイドはやばいな)」

 

バスケにおいて、高さは絶対的な武器の1つであり、高ければ確実に勝つということではないが、高さで…空中戦を制すことが出来れば自ずと勝率は跳ね上がる。星南のインサイドの要は事実上キャプテンである田仲1人。彼とて今や全国でも有力のCの1人ではあるが、彼1人であまりにも分が悪過ぎる。

 

空も大地も驚異的な跳躍力を有しているが、空中戦と肉弾戦は別物なので、必ずミスマッチが出てしまう。

 

「(けどまあ、そんなもんは始めからわかってたことだ。今までもそうだった。やることは変わらねぇ!)」

 

空は新たに気合を入れなおす。

 

「この試合は俺40点は取らないとな」

 

「はぁ? 言っとくけど、この試合、俺の方が多く点取ったらジュース2本だからな」

 

「お前らもう少しパスくれよ。ポジション的に俺不利じゃん」

 

「言い訳か? そんなこと言っても勝負のルールは変えないからな」

 

「…はぁ」

 

試合開始を前にしても、帝光中のスタメン達に緊張感はなく、余裕ばかり窺える。

 

空はそんな彼らを見て前に出て、帝光中の6番、池永に手を差し出した。

 

「ん? あ~はいはい」

 

それに気付いた池永は面倒くさそうに握手を交わした。手を握ると、空はその手を力一杯握りしめた。

 

「っ! …あん?」

 

「おめぇらの相手はこっちだろう。相手を見間違えてんじゃねぇ」

 

空は睨み付けながら池永に囁くように言う。それを見て池永は薄ら笑いを浮かべ…。

 

「あ~悪い悪い、興味が…じゃなかった――」

 

 

 

 

「――眼中になかったから忘れてたよ」

 

 

 

 

「あっ?」

 

その言葉を聞いて空は不快感を露わにする。

 

「てっきり、城ケ崎が来るかと思ったんだけなぁ…ま、いいや、どうせ結果は同じだし」

 

空達を侮辱する言葉を吐き続ける池永に、空のボルテージはどんどん上がっていく。

 

「この試合、ダブルスコアくらいには頑張ってよ? あんまり圧勝すると俺達が弱い者いじめしてるみたいだからさ。ただでさえ、負け犬達の逆恨みがうるさいからさ。少しは楽しませろよ…『ほしみなみ』中、さん?」

 

「『せいなん』だ。おちょくるのも大概に――」

 

「あー、いい。どうせ2時間後に忘れてる名前だから。ま、健闘を祈るよ」

 

池永は手をヒラヒラさせ、薄ら笑いを浮かべながら下がっていった。

 

「…」

 

一連の会話を聞いていた星南のスタメン達は苛立ちを隠せないでいた。彼の言葉は戦略上の挑発ではなく、ただの侮り。

 

「…気持ちは分かりますが、熱くなり過ぎないでくださいよ」

 

空を大地が諌める。

 

「…分かってるよ。お前こそ、こえー顔してるぞ」

 

大地もまた、憤った表情していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「始めます!」

 

審判がボールを構える。

 

センターサークルに立っているのは田仲と河野。

 

緊張感に包まれた中、審判がトス…ティップ・オフ!

 

田仲と河野が同時に跳ぶ。…そして。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

身長で勝る河野がジャンプボールを制した。弾かれたボールを池永が拾う。

 

「それじゃ、1本サクッとかますかな!」

 

池永がそのままドリブルを開始する。そこをすぐさま森崎がディフェンスに入る。

 

「あらよっと」

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

池永はドライブで一気に森崎の横を抜ける。

 

「(は、早い!)

 

その速さに、森崎は驚愕する。

 

間髪入れずに駒込がヘルプに入るが。

 

「はいはい、ごくろうさん」

 

バックロールターンで駒込もかわす。

 

「くっ!」

 

そのまま星南のペイントエリアまで侵入すると…。

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

下からボールをすくいあげるように投げ、バックボードにボールを当てる。そして跳ね返ってきたボールをジャンプして掴んだ。

 

「まさか!?」

 

観客の何人かが池永のやろうとしていることに気付き、思わず声を上げる。池永は空中で自らが投げて跳ね返ってきたボールを掴み、そして…。

 

 

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

 

 

そのままリングに叩きこんだ。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

「すげぇ! 1人アリウープだ!」

 

帝光の派手なプレーに観客が沸き上がる。

 

「ま、こんなもんでしょ」

 

池永はケラケラ笑いながらディフェンスに戻っていく。

 

開始早々のビックプレーに、星南中にも動揺が走る。

 

『帝光! 帝光――!』

 

会場中に帝光コールが響き渡る。

 

『…』

 

その重圧に、星南のメンバーは飲まれ始めていく。

 

「やられましたね。きっちり返したいところですが、ここで私達2人のどちらかが攻撃を失敗すれば最悪、勝敗を決しかねません。ここは慎重にいきましょう」

 

「…ちっ! しょうがねぇか…」

 

大地の懸念による忠告を空は渋々承諾する。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

空はゆっくりとボールを進めていく。

 

「何か、神城は随分落ち着いてるな…」

 

観客席で試合を観戦する城ケ崎の4番である小牧がポツリと感想を漏らす。

 

「仕方ないんじゃないかな? ここで彼か綾瀬が攻撃に失敗すれば流れは完全に帝光中に持っていかれる。ここはじっくりチャンスを窺うべきだと思うけど?」

 

「まぁ、それもそうなんだけど…」

 

小牧の感想にチームメイトである生嶋が自身の意見を述べる。小牧はどうも納得がいっていない様子だ。

 

「(…あいつ(空)がそんな大人しい気性の奴だとは思えないんだけどな。てっきり、すぐさまやり返すとばかり…)」

 

小牧は、空に対し、いくらか違和感を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

空はゆっくりゲームメイクを始める。空に相対するは帝光中のPGであり、キャプテンでもある新海。一定の距離を保ち、ディフェンスをしている。

 

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

 

空はゆっくりボールを付いている。そして…。

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

チェンジ・オブ・ペースからのドライブで一気に加速する。

 

「っ!」

 

新海もそれを読み切り、遅れることなくピタリとマークする。空の得意パターンの1つであり、必勝パターンの1つで抜くことが出来なかった。

 

 

 

「「神城が抜けない!?」」

 

 

 

これを目の当たりにした城ケ崎の小牧と東郷の三浦が驚愕の声を上げる。彼らはいずれも空とマッチメイクし、空をほとんどまともに止めることが出来なかったからだ。

 

「…」

 

空は特に気にする様子はなく、途中で止まると、マークを外した大地にビハインドパスを捌く。ボールを受け取った大地はすぐさま走り込んている空にリターンパスを出す。

 

ボールを受け取った空はそのままゴール下まで進み、レイアップの体勢に入る。だが…。

 

「あめぇーよ!」

 

池永が高く跳躍し、ブロックにやってくる。

 

「うおぉっ! 池永高ぇー!」

 

空を超える高さでブロックにやってくる池永。空は特に動揺することもなくボールを手放すようにトスし、ゴール下の田仲にボールを渡す。

 

「よし!」

 

田仲はボールを受け取るとそのままシュート体勢に入る。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

だが、そのシュートは河野によってブロックされる。

 

「速攻!」

 

ボールを拾った新海は一気にドリブルで駆け上がる。

 

「ワンマン速攻だー!」

 

先頭を走る新海。星南ゴールにグングン近づいていく。3Pライン目前まで近づいてところで…。

 

「いかせねぇ」

 

空が追いつき、新海の進路を塞ぐ。

 

「…」

 

追いつかれた時点で新海はその場で停止した。すぐに大地も自陣のフロントエリアまで戻る。その後を続くように星南の選手と帝光の選手がやってきた。

 

「…」

 

新海は一度停止すると、ボールを付きながらチャンスを窺う。

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

3度程ボールを付いた後、一気に加速し、クロスオーバーで空の左側を抜けようと試みる。空もそれに遅れることなくついていく。

 

そこから切り替えし、今度は逆を狙う。

 

「っ!」

 

空はそれに難なくついていく。

 

「…」

 

新海の表情に動揺なく、このくらいは想定していたかのような面持ち。新海はそこでボールを両手で掴み、そのままノールックで左の3Pラインの外側でボールを待つ沼津にパスをする。

 

「ナイスパス」

 

ボールを貰うとすぐさまトリプルスレッドの体勢に。森崎がマークに付く。

 

沼津がフェイクを入れると、森崎が僅かに反応してしまう。そこを見逃さず、ドライブで森崎の横を抜ける。そのままシュートを放ち…。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールはリングを潜る。

 

 

星南 0

帝光 4

 

「ちっ!」

 

思わず舌打ちをする空。

 

『帝ー光! 帝ー光!』

 

会場がさらに帝光一色に染め上っていく。

 

開幕から1人アリウープで試合の空気と流れをものにし、さらにターンオーバーからの得点でさらに波に乗る帝光。

 

帝光中の強さを今、目の当たりにする…。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第13Q~苦戦~

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

「沼津のスリーだ!」

 

森崎のマークをかわして帝光の沼津のスリーが決まる。

 

 

第1Q、残り4分。

 

星南 4

帝光 13

 

さらなる失点により、点差が開く。

 

「いいぞいいぞ沼津! いいぞいいぞ沼津!」

 

帝光中のベンチ入り出来なかった観客席の2軍、3軍達の応援が会場中に響き渡る。そして、さらに沸き上がる観客。

 

「くっ、くそ…」

 

帝光一色の会場の空気に星南の選手達の気持ちが徐々に押しつぶされていく。

 

「暗くなるな。まだ試合は始まったばかりだ」

 

「そうです。ある程度やられることは想定していたことです。これからですよ」

 

暗くなる星南メンバーを空と大地が励ます。

 

「あ、あぁ…」

 

ここまで勝ち抜いてきた原動力の2人の頼りになる言葉を聞いてもなお、不安は拭うことはできなかった。空と大地のマッチアップの相手である新海と池永。この2人は空と大地を相手に互角の戦いを繰り広げていた。

 

これまでの試合では、例え、自分が抜かれても空か大地が持ち前の運動量とスピードでカバーしてくれた。だが、今回は自身の相手で手一杯でヘルプに来る余裕がない。つまり、自分が抜かれたら2人のフォローはあまり期待できないということだ。そのプレッシャーがまた田仲、森崎、駒込を追いこんでいく。

 

「…基本に立ち返りましょう。田仲さん、森崎さん、駒込さんは我々のフォローを頼みます」

 

大地が3人に指示を飛ばす。

 

「俺達で何とか帝光を切り崩す。隙を見てボールも回すから、集中しとけよ?」

 

空が笑みを浮かべながら伝える。その笑顔に他の3人も幾ばくか余裕が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よし、1本! 行くぞ!」

 

空がボールを貰い、ゲームメイクを始める。

 

「5番、オッケー」

 

空に新海がマークにつく。

 

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

 

空がゆっくりボールを付きながらチャンスを窺う。

 

「(よし!)」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

空が一気にドライブで抜きにかかる。だが、新海は遅れることなくついていく。

 

「ダメだ! やっぱり抜けない!」

 

星南ベンチから絶望の声が上がる。

 

空は、ハイポストで待ち構える駒込に鋭いパスを出す。駒込はボールを受け取ると右側のアウトサイドのポジションにいる森崎にすぐさまパスを出す。

 

「打たせないよ」

 

沼津が間髪入れずにチェックに入る。森崎は動じることなく中にパスを出す。そこに駆け込んだ空は右手で受け取り…。

 

 

 

――ブン!!!

 

 

 

そのまま腕を回し、逆サイドでフリーになった大地にボールをまわす。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

大地はブロックに阻まれる前にシュートを放ち、落ち着いて点を決める。

 

「星南の連携プレイだ!」

 

内、外、内からのパスで得点。1ON1で得点を決める帝光に対し、星南は連携で得点を決めていく。

 

「これが星南の強みだな」

 

東郷中のC(センター)、高島がポツリと言う。

 

「星南は神城と綾瀬だけのチームと思われがちだが、その他のメンバーの戦術理解度と連携度が高い。彼らのフォローあっての星南だ」

 

「確かに、神城と綾瀬だけのチームだったら、少なくとも、俺達も、城ケ崎も負けることはなかったかもな」

 

三浦も3人の実力を認めており、同様の感想を述べた。

 

 

 

 

「ふーん。伊達に決勝まで来てはいないみたいだな」

 

水内が感心した表情で星南の選手を見つめる。

 

「1人でダメなら皆でことだろ。雑魚はそうしなきゃ戦えませんってか? 健気過ぎて同情したくなるな……新海、ボールくれ」

 

池永がボールを要求する。

 

「小物の小細工は、王者には通用しないってことを…、力を合わせれば勝てるなんて思ってる奴等の考えが無意味だってことを教えてやる」

 

ボールを受け取った池永。マークするのは大地。

 

「1つ忠告しておいてやるよ」

 

「?」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

クロスオーバーで大地の左側から抜きにかかる。大地もそれにピタリとついてくる。そこから池永は自身の背中からボールを通し、ビハインド・ザ・バックで切り替えした。

 

「ちっ!」

 

大地は不意を突かれたものの僅かに遅れながら池永の横についてくる。インサイドまで侵入すると、ジャンプする。

 

「小物の努力なんてのはなぁ、王者の前では無駄な努力に過ぎないんだよ!」

 

池永がレイアップの体勢に入る。

 

「させるかよ!」

 

そこにヘルプにきた田仲がブロックに跳ぶ。池永はボールを下げ、田仲のブロックをかわす。そのままリバースレイアップ、ダブルクラッチでボールを放つ。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

池永のダブルクラッチはブロックされる。ブロックしたのは…。

 

「神城のブロックだ!」

 

空がダブルクラッチを叩き落とした。

 

「っ! てめぇ…」

 

決まると思ったダブルクラッチ。それはブロックされる。池永はその張本人の空を苦々しく睨み付ける。

 

「無駄な努力なんてねぇし、俺達は小物でもなければお前らは王者でもないだろ」

 

空はフフンと笑みを浮かべながら言った。

 

「くそっ!」

 

池永は舌打ちをする。

 

「ハッハッハッ! 池永ちょーだせぇ!」

 

「うるせぇよ!」

 

水内が大笑いをし、池永が怒りを露わにする。

 

「お手数をおかけしました」

 

「はっ! 気にすんな。こっちもスカッとしたしな」

 

頭を下げる大地に空が笑みを浮かべながら肩に手を置いた。

 

「向こうは去年と同じ個人技主体の攻撃バスケ。パスはPGの新海以外は最小限しかしないし、他の奴のフォローもほとんどしない」

 

「…確かに、我々が抜いても積極的にヘルプに来る様子はありませんでしたね」

 

空と大地がスピードとテクニックを駆使してぶち抜いても帝光中はほとんどヘルプにこない。これはひとえに抜かれた者の自己責任という考えであり、その尻拭いをするつもりはないということである。

 

そして、たとえ点を取られても難なく返せるという自信と驕りのあらわれである。

 

「向こうがその気なら、こっちだってやりようがあるな」

 

帝光中の戦い方の方向が見えてきたことにより、攻め方も決まってくる。

 

「よし。…駒込、お前はガンガンスクリーンかけてフリーの選手を作ってくれ。森崎はボールの動きに注視しろ。外を決めてディフェンス意識を外に向けさせるんだ。神城と綾瀬は今までどおり、俺達がフォローするからガンガン行ってくれ」

 

「うん」

 

「おう!」

 

「任せな」

 

「もちろんです」

 

キャプテンの田仲が指示を出し、他の4人が頷きながら返事をし、散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は進み、どんどん加速していく。

 

星南はこれまでどおり、空が起点となり、大地がフィニッシュを決め、他の者達が2人をフォローし、帝光中と戦っていく。

 

帝光中はとにかくボールを持ったら個人技を仕掛け、得点を量産していく。

 

 

 

――連携 対 個人技

 

 

 

大筋予想どおりの様相を繰り広げている。

 

第1Qは星南の連携がうまくはまったことと帝光が積極的に他者のフォローをしないことが要因で20対12と、失点差を一桁で終わることができた。

 

試合は第2Q。試合が動きを見せ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

空がボールをキープしながらチャンスを窺う。

 

「(…ここだ!)」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

空が一気に加速し、新海の脇をドライブで抜けようとする。新海がそれに対応し、空を追いかける。

 

「っ!? …ちっ!」

 

新海は駒込のスクリーンに捕まり、舌打ちをする。

 

空がぺネトレイトでインサイドに侵入する。ここまでなら帝光のフォローはこず、難なくシュートに行けたのだが…。

 

「…ようやく来たか」

 

侵入してきた空に対し、素早く池永と水内がヘルプにやってきた。空の進行を阻む位置に陣取る。

 

第1Q終了後のインターバルで、帝光中の監督である真田から檄が飛んだこともあるが、それ以上に失点されることが勘に障った帝光中のスタメン達がヘルプで潰しに行くことを決意した。

 

「ふっ!」

 

空は構わずボールを持って跳躍する。

 

「調子に乗るな!」

 

「潰す!」

 

池永と水内がブロックに跳び、リングを塞ぐ。

 

『おー! 高ぇーっ!』

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

空は2人がブロックに跳んだのを見計らい、2人の足元でバウンドさせながらパスを捌き、ゴール下に陣取る田仲のボールを渡す。

 

リングに背を向ける形で田仲がボールを受け取ると、河野がすぐさま田仲の背中に付き、ディフェンスに入る。

 

「(…ダメだ! 押し切れない!)」

 

田仲は背中でジリジリと押しながらシュートチャンスを窺うが河野はビクともせず、反転しようにもそれをする隙がない。

 

「田仲! 3秒!」

 

星南ベンチから悲痛の声が上がる。

 

「くそっ!」

 

田仲は悔し紛れにボールを外に捌く。左サイド3Pラインの外側に走っていた森崎がボールを受け取る。

 

「やっば!」

 

沼津が慌ててチェックに向かう。森崎はボールを受け取るとすぐにシュート体勢に入る。

 

「させっかよ!」

 

沼津がブロックに跳ぶ。

 

 

 

――ピッ!

 

 

 

ボールは沼津に触れることなくリングへと向かう。

 

「入れ!」

 

3Pを放った森崎が決死の願いを込めて叫ぶ。

 

 

 

 

「…ダメだ。体勢が崩れてるし、何よりリズムが悪い…」

 

観客席の生嶋が眉間に皺を寄せてボソッと呟く。

 

 

 

――ガン!!!

 

 

 

「っ!?」

 

ボールはリングに弾かれてしまう。

 

「リバウンド!」

 

新海が外れたボールに叫ぶ。

 

「任せろ!」

 

田仲と河野がリバウンドを制するため、ゴール下でポジション争いを始める。両者が同時に跳ぶ。

 

「っしゃぁ!」

 

「くっそ…」

 

リバウンドを制したのは河野。河野はボールを新海に渡し、帝光ボールに変わる。

 

 

「…田仲も全国上位クラスのセンターだ。だが、帝光の河野はそのさらに上だ」

 

東郷中のセンター、高島が今のリバウンド争いを見て感想を漏らす。

 

「あいつはセンターとしてはあまり大柄の選手ではないからな。空中戦、肉弾戦においては河野に軍配が上がる」

 

今までの試合を見た限り、帝光の河野の方が上だと言い切る。

 

「…このままではまずいぞ」

 

「えっ?」

 

東郷中のポイントガード、三浦がポツリと喋り始める。

 

「星南はリバウンドが取れない。これではおもいきってシュートが打てなくなる。神城にしても綾瀬にしても、確実にシュートを決められるわけじゃない。このままじゃ、点差はどんどん開くばかりだ」

 

三浦がこの試合の星南にとっての不安要素を口にする。そして、この不安は的中することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は第2Q終盤。残り10秒のところまで進む。

 

 

星南 26

帝光 44

 

三浦の不安どおり、点差はどんどん開いていった。要因はやはり、リバウンドが取れないことだ。オフェンス、ディフェンス共に外れたボールは帝光がことごとく制し、ピンチを拾い、チャンスはことごとくものにしていった。

 

空と大地が要所要所で得点を重ねるが、失点はそれ以上に取られてしまう。

 

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

 

新海がボールを運びながらチャンスを窺う。

 

 

「…この1本。星南はなにがなんでも止めなければならない」

 

「えっ?」

 

生嶋がボソリと呟くと、小牧が振り向く。

 

「ここで決められたら点差は20点。点差が10点代ならまだ後半粘るだけの気力も残るけど、20点差付いたら心の中に諦めの言葉が出てくる。…つまり、ここを防げなかったら――」

 

「(…ゴクッ)」

 

「――星南は負ける」

 

 

新海はゆっくりボールを付く。第2Qの時間が残り7秒になったところで動きを見せる。

 

 

 

――ピッ!

 

 

 

新海はマーカーを振り切った沼津にボールを渡す。

 

ボールを受け取った沼津はヘルプに来た森崎をかわし、急停止すると、そのままミドルシュートを放った。

 

「させねぇーーーっ!!!」

 

田仲が決死のブロックに跳ぶ。

 

 

 

――チッ…。

 

 

 

ブロックに行った甲斐があり、そのミドルシュートは田仲の指先を僅かに掠る。

 

 

 

――ガン!!!

 

 

 

ボールはリングに弾かれる。

 

「やった、外れ――」

 

シュートが外れたことに一瞬安堵するが…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

池永がダンクでリングに押し込む。

 

「あぁ…」

 

池永のリバウンドダンクにより、絶望にも似た嗚咽が漏れる。

 

 

「……終わった」

 

生嶋が深くを目を瞑り、声を漏らす。

 

残り4秒。点差が20点にまで開いてしまう。

 

 

「「「…」」」

 

田仲、森崎、駒込。そして、星南ベンチのメンバーにも絶望がよぎる。20点も開いたスコアボードを見て茫然とする。

 

動くことができない星南のメンバーの中で、唯一次の行動に移していた2人がいた。

 

「っ! …まだだ! ディフェンス!」

 

「遅ぇーよ」

 

それにいち早く気付いた新海が声を荒げるが…。

 

 

 

――ブォン!!!

 

 

 

得点を決められたボールをすぐさま拾った空が前方に大きくボールを投げる。そこには、フロントコート内にダッシュしていた大地がいた。

 

「あっ、やっべ」

 

他の帝光メンバーもそれに気付いたがもう手遅れだった。

 

ボールを受け取った大地はそのままドリブルでボールを進め、そして…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

そのままワンハンドダンクを決める。

 

『うおぉぉぉーーーっ!!!』

 

そのダンクに観客が沸き上がる。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

それと同時に第2Q終了のブザーがコート内に鳴り響いた。

 

2点が星南に加算される。

 

「終わらせませんよ。まだ試合は折り返しです」

 

「そうそう。勝負はこれからだ」

 

空と大地が帝光中のメンバーを睨みつける。

 

 

星南 28

帝光 46

 

第2Qが終わり、試合は半分を消化する。

 

試合の行方は、まだまだ決まらない……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第14Q~邂逅~

 

 

第2Q終了。

 

 

星南 28

帝光 46

 

 

帝光中が18点リードで試合の半分が終了する。

 

 

「一時は20点差付いたが、最後に綾瀬が決めて、点差はギリギリ10点代だ。どうにか理想の形で折り返すことができたな」

 

前半戦を観戦していた小牧が背もたれにもたれかかりながら感想を言う。

 

「…でも、あくまでも首の皮一枚繋いだに過ぎない。星南は後半で何か手を打たなければ点差はどんどん開くばかりだ」

 

隣の席に座っている生嶋が神妙な表情で今の現状を話す。

 

「何かって…、星南は1対1では勝てない。頼みの綱の神城と綾瀬も自分のマッチアップ相手で手一杯。手はあるのか?」

 

「…分からない。でも、何もしなければ星南の勝ちはない。…やはり、カギを握るのは…」

 

「…神城と綾瀬、か」

 

城ケ崎中の生嶋、小牧共に、自分達を大いに苦しめ、敗北へと追いやった神城と綾瀬が勝利のカギを握ると予想。

 

「頼むぜ。お前らが負けたら、今年の全中参加校全員が帝光中の奴等にバカにされたまま終わっちまう…!」

 

生嶋、小牧、そして、この試合を観戦する全中参加校の全ての選手達が星南中に期待を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「あれー? たったの18点差かー。しょぼー」

 

「最後に気を抜きやがって。集中が足りないぞ」

 

「カリカリすんなよ。後半になりゃもっと点差が付くからよ」

 

「楽勝だよ楽勝」

 

「早く終わんねぇかなぁ。相手たいしたことないから俺後半下がろうかなぁ…」

 

帝光中に選手達は大量のリードを奪っての前半戦を終えたことにより、余裕が見られる。各々が軽口を叩きながら控室に下がっていく。

 

『…っ!』

 

半ば悪口とも取れる発言を繰り返しているが、星南中の面々はただ歯を食い縛ることしかできなかった。

 

点差は18点。だが、内容的にはもっと離れていても不思議ではなかったからだ。

 

1対1では攻守共に勝ち目がない。頼みの綱である空と大地も自身のマッチアップ相手に苦戦していてヘルプが期待できない。後半戦、点差をひっくり返し、勝利を手にするイメージができないでいた。

 

『…』

 

控室ではスタメン全員がお通夜の席のように黙り込み、室内全体が静まり返っている。そんな様子を見て、スタメン以外の者達も声を掛けれないでいた。

 

「…格が違い過ぎる」

 

沈黙を破ったのは森崎。

 

「少しはやれると思ってたけど、帝光のスタメン全員、これまで戦ってきた奴等とはレベルが違う」

 

駒込が両膝の上で両手を強く握りながら悲痛な面持ちをする。

 

「…俺よりも高くて、俺よりもうまい奴が3人。…んなもん、どうしようもねぇよ!」

 

田仲が悔しげな表情でベンチを叩く。

 

「これが王者か…。何をやっても通じない。どうすれば…!」

 

各々が必死に考えを巡らせるが、一向に答えは出ない。

 

『…』

 

再び控室内が沈黙に支配されると、ポツリと1人が呟く。

 

「俺達…、よくやったよな…」

 

それは、諦めとも取れる言葉。

 

「実績のない星南が全中の決勝、それも帝光相手にここまでやれたんだ」

 

「…出来すぎだよな」

 

今まで吐かなかった弱音。1人が吐き出してしまうと他の者もまるでダムが決壊したかのように溢れていく。

 

星南選手内はもはや、勝利への意欲を無くしつつある。

 

「終わらせてんじゃねぇよ!!!」

 

それに喝を入れるかの如く空が声を荒げる。

 

「まだ前半戦が終わったばかりだろ! 諦めるにはまだ早いだろ!」

 

「そのとおりです。勝負を投げるにはまだ早いのではないですか?」

 

大地もそれに続くように皆に喝を入れる。

 

『…』

 

チームの柱とエースによる喝。だが、それでもチーム内の不安を取り除くには至らなかった。

 

 

――ドン!!!

 

 

『っ!?』

 

そこに、大きな音が室内に響き渡る。それは、龍川が持ち前に竹刀の先を地面に力強く叩き付けた音だ。

 

「まだ前半戦終わったばかりじゃ。たった18点差でなに泣き言抜かしとんじゃガキ共。お前ら本気でド突かれたいんか、あっ?」

 

龍川が星南選手達を睨みつける。選手達は思わず目を背ける。

 

「それにのう、ホンマに通用せんかったら点差がこの程度すんどるはずがないやろ。この程度なら打つ手はいくらでもあるわ。…耳の穴かっぽじってよう聞けぇっ! 第3Qからの作戦を言うでぇ!」

 

そう言うと、作戦ボードを出し、後半戦の作戦を選手達に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方、帝光中の控室。

 

帝光中の控室は談笑に包まれていた。試合に出場していたスターティングメンバーはキャプテンの新海を除き、携帯をいじっていたり、雑誌を読んでいたり、携帯ゲーム機を操作していたりなど、緊張感はなく、余裕すら感じられる。

 

その様子は、すでに勝敗が決したかのような雰囲気である。

 

「…」

 

帝光中の監督である真田は前半戦を振り返りながら後半戦の方針を考える。

 

「(…思ったより点差が開かない。星南中の奮闘もあるが、それ以上に、ウチのオフェンスが単調だからだ)」

 

帝光中のオフェンスはポイントガードの新海を除き、各々が自由に1ON1を仕掛けるだけの単調のオフェンス。去年と同じ。

 

真田は暫しの顎に手を当てて思案し、後半戦の方針を決める。

 

「全員静かにしろ! 後半戦だが、オフェンスでは――」

 

作戦の指示しようとしたが…。

 

「別に前半戦と同じでいいでしょ?」

 

池永はゲーム機の操作を続けながらそれを遮るように言う。

 

「相手大したことないし、このままやってりゃ点差付いて圧勝っしょ。…おっしゃ! ボス撃破!」

 

「…池永。監督の私が話してる時はそれを置け」

 

池永の態度に真田は怒りを露わにする。

 

「♪~♪」

 

だが、とうの池永はそれを意にも返さず、無視をしながらゲームを操作する。

 

「池永! いい加減に――」

 

「後輩く~ん、セーブしといて~。…ちょっとトイレ行ってきま~す」

 

池永はゲーム機を後輩に渡し、真田のあしらうかのように手をヒラヒラしながら控室を出ていく。

 

『…』

 

控室は和やかなムードから一変し、スタメンを除き凍りつく。

 

当のスタメンは変わらず雑誌を読んでいたり、携帯をいじったりしている。

 

「…ぷっ! ちょーうける…」

 

それを見ていた水内は笑いを堪えらず、噴き出す。

 

「くっ! …いいか! 第3Qからはもっとオフェンスのパターンを増やす。河野はハイポストに立って新海と一緒にゲームを組み立てろ。水内はもっと積極的にスクリーンをかけて――」

 

「んー、やだ」

 

「同じく」

 

だが、水内と河野はそれを拒否する。

 

「お前ら…! これは全中の決勝だ! 今までの相手と同じと思うな! 単調な攻めではそのうちに得点は止まる。勝利を確実にする意味でもここでトドメを刺す必要性があることが何故分からん!」

 

真田は声を荒げながら選手達に言い放つ。

 

「今のままで勝てるんだから必要ないでしょ。ていうかめんどくさい…はい、論破」

 

沼津が携帯をいじりながら視線も向けずに淡々と言う。それを見て水内が再び笑いを堪えるかのように口元を押さえる。

 

「…っ!」

 

バカにするかのようなスタメン達の発言。真田は拳をきつく握りしめ、歯を食い縛る。

 

「…お前らいい加減にしろ。監督に失礼だろ」

 

そんなスタメン達をキャプテンの新海が諌める。

 

「お言葉ですが監督、点差こそ、想定を下回っていますが、確実に点差は開きつつあります。ここは前半と同じ、このまま流れを維持するべきだと提案します」

 

新海が監督の指示を真っ向から否定する。

 

「しかし、新海…」

 

「監督言ったオフェンスはこれまで試合でほとんど試したことがありません。それを全中の、それも決勝で行うのはリスクが高すぎます。それに、何よりそれでは他の者達のモチベーションが確実に下がります。前半のまま、自由にやらせる方が本人達も乗り気になって後半戦に臨んでくれるかと思います」

 

「…ムッ」

 

新海の一理ある提案に真田も唸り声をあげる。

 

「さっすが新海! わかってるな!」

 

水内が新海の肩を叩きながら賞賛する。

 

「…別にお前達のために言っているわけではない。これが一番の勝率が高いと判断しただけだ」

 

「…ちっ、感じ悪ー」

 

水内はつまらなさそうに新海から離れていく。そこに、トイレから池永が戻ってくる。

 

「ただいまー。…で? 第3Qからどうすんの? もう前半戦と同じでいいでしょ?」

 

池永がハンカチで手を拭いながらあっけらかんと言い放つ。

 

「しかしな…」

 

それでも真田の後半戦に不安を感じ、肯定を出来ずにいる。

 

「まあまあ、監督はベンチでどーんと構えていて下さいよ――」

 

そう言って池永は真田の下に歩み寄り…。

 

「――去年みたいに」

 

ポンと真田の肩に手を置きながら言った。

 

「…」

 

これは決して真田を賞賛しているわけではない。むしろ、バカにしての発言である。

 

 

――キセキの世代…。

 

 

10年に1人の逸材と称され、全中3連覇など、中学バスケにおけるあらゆるタイトルを総なめにし、帝光中に輝かしい栄光を残した。

 

だが、それと同時に彼らは負の遺産も帝光中に残してしまった。

 

キセキの世代は、勝利をすることを条件にあらゆる我が儘も許されていた。

 

練習のサボりや試合では自身が好き勝手にプレーすることが許され、果ては、暴力問題までも勝利に貢献したという理由で許され、学校規模で特別扱いを受けていた。

 

そして、そんなキセキの世代を見て育った今の世代。彼らの頭の中には、『試合に勝ちさえすれば何をやっても許される』という考えがあった。

 

キセキに世代の青峰や紫原や黄瀬のように練習をサボったり、元キセキの世代の灰崎のように暴力問題を起こしたりするものはいないが、試合では監督の命令に従わず、好き勝手なバスケをやったり、キセキの世代が昨年行っていた試合で誰が一番点を取るかチーム内で競ったり。果ては、相手チームへの暴言などを吐いたりしている。

 

さらに、現在の帝光中の監督である真田を軽視する者も多い。

 

理由として、去年の紫原の練習の不参加に関して、赤司に言いくるめられる形で了承してしまったこと。去年一年間、練習でも試合でも全体の指揮を執っていたのは事実上キャプテンであった赤司であり、真田はほとんどすることがなく、赤司にほとんどまかせっきりになってしまった。

 

それを見ていた今の世代はそんな真田を軽視し、スタメン(新海を除く)に至っては真田を露骨にバカにさえしていた。キャプテンである新海もバカにはしないまでも、信頼はしておらず、監督の考えよりも自分の判断を優先している。

 

それが、今の帝光中。

 

去年と同様、そこにチームワークは存在せず、打算のみで繋がっている薄い関係。

 

そんな現状を作り上げてしまった現監督の真田は、ただ溜め息しか出ず。自身の無能さをただ恨むしかなかった。

 

「(…帝光中は変わってしまった。この現状を変えるにはもはや――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ハーフタイムの終了時間が近づき、星南中と帝光中の選手達が会場に戻ってくる。

 

『おぉぉーーーっ!!!』

 

『待ってましたー!』

 

観客達がそれに合わせて盛り上がる。

 

戻ってきた選手達の表情は対照的で、点差と実力差を見て半ば勝利を確信したかのように笑みを浮かべている帝光中に対し、星南中は不安を拭いきれず、表情は暗い。

 

「(まずいな。星南(うち)の士気が低すぎる。どうにか、この空気をなんとか変えないと…)」

 

「(何かほしいですね。この流れと空気を変える何かを…)」

 

空と大地は、現状を変える何かを考える。いずれ来る流れを迎えるための何かを。

 

その時…。

 

「っ!?」

 

突然、空が目を見開いて立ち止まる。

 

「? どうかしましたか?」

 

それに気付いた大地が空に声を掛ける。

 

「おい…あれ、あれを見ろよ」

 

空が観客席の一点を指差す。

 

「向こうの観客席の最上段」

 

大地は空が指差したところを目で追う。

 

「!? まさか…あれは…!」

 

そこにいたのは――

 

 

 

――海常高校、黄瀬涼太。

 

――秀徳高校、緑間真太郎。

 

――桐皇学園、青峰大輝。

 

――陽泉高校、紫原敦。

 

――洛山高校、赤司征十郎。

 

 

 

言わずと知れた、元帝光中学校、10年に1人の逸材と称された5人。キセキの世代である。

 

「何で、あいつらがここに…」

 

理由は分からない。だが、彼らは偶然か、ここにいる。

 

「……ハハッ、ハハハッ!」

 

空がそれを見て笑い声を上げる。

 

「空?」

 

「ハハハハハッ! …忘れてたよ。俺達の目標が何処にあったのか。…俺達にとって、この全中大会なんて通過点に過ぎないってことも」

 

大地はそれを聞いてハッとした表情する。そして、ニコリと笑う。

 

「ふふっ、そうですね。こんなところで躓いては、彼らに笑われますね」

 

「…もう様子見だとか、慎重にだとかは考えねぇ。全身全霊でもって、………叩き潰す」

 

「私も腹を決めました。全力で戦います」

 

空と大地の表情が一変する。その表情は危機迫るものがあった。

 

「とっとと決める。行くぞ」

 

「ええ!」

 

空と大地がコツンと拳を合わせる。

 

そしてここから、後半戦……星南中の反撃が、始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第15Q~覚醒への扉~

 

 

「あれ~、楽勝……ていう程の点差じゃないみたいッスね」

 

黄瀬涼太が手すりに腕を掛けながら言う。

 

「後輩達は人事を尽くしていない。だからこの体たらくなのだよ」

 

緑間真太郎がメガネのブリッジを上げながら険しい表情で続く。

 

「星南…? 聞いたことねぇな。さつき、あんな中学去年いたか?」

 

青峰大輝がつまらなそう表情で横にいる桃井さつきに問いかけた。

 

「えっと……、星南中学は、今年が全中初出場で、去年は予選のベスト8で敗退しているみたい」

 

桃井さつきは自身の持つノートをめくりながら質問に答えていく。

 

「ん~? それってつまり~、星ナントカって学校に強い新入生でも入ったってこと~?」

 

その横にいる、キセキの世代の中で1番の身長である紫原敦が駄菓子を食べながら桃井に聞く。

 

「そういう訳でもないみたいだよ? スタメンは全員3年生みたいだし。…詳しく調べたわけじゃないから詳細は分からないけど…」

 

「星南の5番と6番。彼らが要因だろう」

 

6人の真ん中で立っている赤司征十郎が口を開く。

 

「去年に何故姿を現さなかったかは分からないが、あの2人が実にいい動きをしている。帝光中にいたなら、まず間違いなく1軍、レギュラーにもなっていただろう」

 

「へぇー、第3Qから来たからよく分からないッスけど、赤司っちがそこまで言うってことは、あの2人は結構やるってことッスね」

 

「星南中? みんなちっこいよ。これなら後輩が勝つんじゃない?」

 

「前半戦までと同じならそうなるのだろうが、…おそらく、試合はここから動きを見せるだろう」

 

「…」

 

青峰は特に興味なさげにコートを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

キセキの世代がこの会場に揃っているのは、ある種の偶然であった。

 

赤司は自身が声を掛けていた選手の様子見を兼ねて観戦に…。

 

黄瀬は新しいバッシュを買いに行った帰りに偶然この会場に辿り着き…。

 

青峰は練習をサボってうろついていたところ、そこを桃井に見つかり、その場所がたまたまこの会場近くだったので無理やり引きずられ…。

 

紫原は会場入りする赤司と偶然出会い、赤司に誘われて一緒に付いていき…。

 

緑間はこの近くでさっきまで練習試合をしており、その帰りに後輩達の試合を思いだし、この会場に…。

 

 

形だけ見ればただの偶然である。だが、彼らは引き寄せられるようにこの会場にやってきた。

 

果たして、これはただの偶然なのか…、それとも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ハーフタイムが終了し、コート上に戻って来る星南と帝光の選手達。

 

18点ものリードがあり、表情にも余裕がある帝光に対し、18点のビハインドがあり、ポジションごとの力の差もあることから余裕のない表情の星南。

 

対照的な両校。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

後半戦、第3Qが開始される。

 

帝光ボールからスタート。

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

ボールをキープし、ゲームメイクをする新海。マークに付く空。

 

「っ!?」

 

前半戦とは明らかに雰囲気が違う空。それを新海は即座に感じ取る。フェイクなどを入れて揺さぶりをかけるが、空は意にも返さない。

 

「(さっきまでとは明らかに違う。隙がない!)」

 

ドリブル突破を試みようとするが、空はその隙を与えてくれない。

 

「(くそっ!)」

 

内心で舌打ちをする新海。

 

「新海! ボール止めてんじゃねぇ! さっさとパスしろよ!」

 

攻めあぐねる状況にイライラした様子の水内。

 

「ちっ!」

 

仕方なく水内にパスをする新海。

 

「よっしゃ!」

 

ボールを受け取った水内はトリプルスレッドの体勢に入る。すぐさまチェックに入る駒込。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「くそぉっ!」

 

ドライブで抜き去られ、悔しさを露わにする駒込。

 

そのままグングンゴール下近くまで侵入する水内。そのままレイアップの体勢に入る。

 

「もう1回20点差ぁっ!」

 

ゴールを確信してテンションを上げる水内。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「えっ?」

 

レイアップをブロックされ、思わず声が漏れる水内。ブロックしたのは…。

 

「綾瀬だ!」

 

大地のブロックショットが炸裂する。

 

こぼれたボールを茫然としながら確保する田仲。

 

「速攻だ!」

 

空がフロントコートに向かって走りながらボールを要求する。

 

田仲はハッと正気に戻り、前線に大きくロングパスを出す。ボールを受け取り、前を向くと、すぐ目の前には新海。空は足を止める。

 

「ここは行かせん」

 

新海だけはディフェンスに戻っており、ロングパスを受け取ったのと同時にチェックに入った。

 

それに続いて次々とディフェンスに戻る帝光メンバー。

 

「(大地が魅せてくれたんだ。次は……俺の番だ!)」

 

空がトリプルスレッドの体勢からドライブの体勢に入り、ボールをゆっくり動かす。

 

「(来るっ!)」

 

新海はドリブル突破に備える。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

空のドライブで新海の横を抜ける。今日イチのスピードとキレを有したドライブに新海もあっさりと抜き去られた。

 

『うおぉっ! はえー!』

 

高速のドライブに観客からも歓声が上がる。

 

「何やってんだよ、新海!」

 

沼津がヘルプにやってくる。空は沼津の右側を抜けようとフェイクをかける。沼津がそちらに警戒をする。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「うそぉっ!」

 

空は逆の左側からビハインドバックで抜け、沼津をかわす。

 

「調子に乗んな、雑魚が!」

 

池永が不快感を露わにしながらヘルプに入り、空の進路を塞ぐ。空は逆サイドに走る森崎の方に視線を向ける。

 

 

 

――ダンッ!!!

 

 

 

空は森崎にではなく、池永の股下にボールを投げつける。投げつけられたボールを大きくバウンドし、リング付近に弾む。そこに、先程ブロックをした大地が走り込む。

 

「ふっ!」

 

大地は跳躍し、空中でキャッチし…。

 

 

――ザシュッ!

 

 

そのまま放り投げ、ボールはリングを潜る。

 

ゴールを沈めた大地はそのまま着地する。

 

『うおぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『アリウープだ!』

 

大地によるアリウープ。観客が沸き上がらせるには充分なインパクトだった。

 

空と大地はパチンとハイタッチをする。

 

「いっきに点差をひっくり返すぞ」

 

「勝ちましょう、この試合」

 

2人は田仲、森崎、駒込に声を掛ける。この2人のワンプレーと声掛けにより、失いかけていた戦意が戻り、勝利への意欲と執着心が戻る。

 

『おう!』

 

3人はそれに応えるように大きく返事をする。

 

「それと、監督の指示、それにちゃんと従いませんとね」

 

「監督、すっげー顔でこっち睨んでるぜ」

 

3人が恐る恐る星南ベンチに視線を向けると、不快感と怒りを露わにしている龍川の姿があった。

 

『(ゴクッ!)』

 

そのあまりの殺気に星南選手は息を飲んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

帝光はリスタートし、新海がボールを受け取り、ゲームメイクを始める。

 

ゆっくりフロントコートに侵入すると、星南のディフェンスが動きを変える。

 

「っ!?」

 

『これは!?』

 

『2-3ゾーンだ!』

 

星南はこれまでのハーフコートマンツーから2-3ゾーンにディフェンスを変える。

 

前には空と大地、後ろには森崎、田仲、駒込。

 

 

 

「星南は勝負をかけてきたな」

 

「えっ?」

 

生嶋がニヤリと表情を変える。

 

「ここでこれを出すということは、かなりこのディフェンスを練習してきたんだろう。ここでこれがハマれば、勝負は分からなくなるよ」

 

 

 

突然の2-3ゾーンのへの変化に新海は少なからず動揺する。

 

「こっちにくれよ! 今度は決めてやるからさ!」

 

水内がパスを要求する。新海は仕方なくパスをする。

 

「よっしゃ!」

 

ボールを受け取った水内はすぐさまドライブの体勢に入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そのまま大地の横を抜けようとする。だが…。

 

「っ!」

 

水内がドライブしてきたのと同時に星南は水内を囲うように包囲する。

 

「(ぐっ!)」

 

個々の能力で勝る帝光中とはいえ、複数の人数を相手ではさすがに突破は困難。

 

「くそっ…」

 

水内は舌打ちをしながら新海へと一度ボールを戻した。

 

ボールを受け取った新海はまだマークに誰も来ていないことを確認し、すかさずスリーの体勢に入った。

 

「っ!?」

 

だが、打たせまいと空が一瞬で距離を詰めてピッタリと付き、ガンガンプレッシャーをかける。

 

「ぐっ!」

 

空のあまりのプレッシャーに、新海はシュートどころか、ボールをキープすることで精一杯の状況まで陥る。

 

「(なんてプレッシャーだ!)」

 

新海は歯を食い縛りながらボールを奪わせまいとキープする。

 

「こっちだ! さっさと寄越せ!」

 

池永が苛立ちながらボールを要求する。

 

「ちぃ!」

 

新海は空のプレッシャーをかわしながら何とか池永にパスを出す。

 

「(どいつもこいつも、こんな雑魚共にやられやがって…見てろ)」

 

ボールを受け取った池永はドライブの体勢に入る。

 

「(ちっせぇだけあってスピードだけは大したもんだ。それだけは認めてやる。だがな…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

全速のドライブで池永が星南のペイントエリアに一気に侵入する。星南はすかさず人数をかけて池永を包囲する。池永が包囲されながらも強引に突破していき、そのまま大きく跳躍する。

 

「(見とけチビ共! こうやって飛んじまえば、お前らはただの雑魚なんだよ!)」

 

跳躍した池永は右手にボールを持ちかえる。リングにグングン近づき、ダンクの成功を確信してか表情に笑みがこぼれる。右手のボールがリングへと叩きこまれるであろうその時…。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

池永は大きく目を見開く。池永の持ったボールは、リングに叩きこまれる瞬間にブロックされた。

 

「うそ…だろ…」

 

新海はその光景を目の当たりしてもなお信じられないでいた。

 

『か…神城だーーーっ!!!』

 

池永をブロックしたのは何と空だった。

 

先程まで新海にフェイスガードでマークしていた空。にもかかわらずパスを貰ってすぐさまドライブで切り込んでダンクに向かった池永をブロックに行ったその俊敏性。だが、それ以上に驚愕なのが…。

 

「(こいつ…、こいつのタッパ(身長)は180㎝もないはず。なのに何で俺(190㎝)のダンクをブロック出来んだよ…)」

 

空と池永の身長差は13㎝。だが、空は脅威の跳躍力で池永のダンクをブロックした。

 

「池永、切り替えろ! ディフェンスだ!」

 

「はっ!?」

 

空にブロックされたショックで茫然としていた池永だったが、新海の檄で正気に戻り、ディフェンスに戻っていく。ブロックされたボールは駒込が拾い、すぐさま空にボールを預ける。

 

「もう1本! どんどん返すぞ!」

 

空が人差し指を上げ、ゲームメイクを始める。

 

空に対し新海がマークに付く。新海の表情には先程の動揺がまだ残っている。

 

「(さてと、もう1本かまして……ふふっ、そうだよな。お前もそろそろ我慢できないよな)」

 

空は笑みを浮かべてパスをする。パスの先は…。

 

『来たぞ!』

 

ボールの先は大地。先程の空を見て、会場は大地に期待感を寄せる。

 

「(大地は大人しそうに見えて、実は俺と同じくらい…いや、俺以上に攻撃意識が高い奴だからな。これまではチームの為と抑えてきたみたいだが、もう抑えられねぇよな)」

 

スリーポイントラインの外側でボールを受け取った大地。マークするのは池永。大地はドライブの体勢に入る。

 

「(こいつ…! 調子に乗りやがって。今まで1度もまともに抜けてねぇくせに!)」

 

池永は腰を落とし、ドライブに備える。

 

「スー…ハー…」

 

大地は深呼吸1つする。

 

「(空にああも魅せられてしまっては、私も負けていられませんね)」

 

大地が顔を上げる。そこには、普段の穏やかな眼つきではなく、鋭い眼光が発せられていた。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

大地が僅かにボールを振り子のように動かし、そのままドライブ。大地は池永の横を風の如く通り抜けた。

 

池永は棒立ちで抜かれてしまった。

 

『は…、はえーーーっ!!!』

 

あまりの速さに観客からも歓声が上がる。

 

「く…そがっ!」

 

池永はすぐさま追いかけようと振り返り、追いかけようとする。だが、池永は再び驚愕することになる。

 

「なっ!?」

 

池永が振り返ると、そこに大地の姿はなかった。圧倒的な速さで抜かれ、一瞬視界から外れただけに過ぎないのにだ。

 

「何処に…」

 

池永は大地を探す。だが、視界に大地の姿は映らない。不意に、目を見開いて池永の後方を指差す河野の姿が目に映る。

 

「う…後ろだ!」

 

声に釣られ、池永が振り返った後、再び振り返ると、先程ボールを受け取った地点に大地がおり、シュート体勢に入っていた。ノーマークになった大地は障害も遮蔽物もなく、悠々とスリーを放った。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールは綺麗にリングを潜った。

 

 

星南 33

帝光 46

 

『おっ…』

 

『おぉぉぉーーーっ!!!』

 

会場が大歓声で埋め尽くされる。

 

今のワンプレーで会場中が盛大に湧き上がった。

 

「何が起こったんだよ…」

 

状況が理解出来ない池永はただただ困惑するばかり。

 

「バックステップだ…」

 

「はっ?」

 

「あいつ、ドライブでお前の横を抜けた直後にとんでもない速さでバックステップしやがったんだよ!」

 

一部始終目の当たりにした河野も、今見た光景が信じられないでいた。

 

高速のドライブとそれと同等のスピードでの高速のバックステップ。常識外れのプレーだ。

 

「おいおい…、そんなわけ…」

 

信じまいとする池永だが、河野の表情と今自分に起きた現象を頭が理解してしまい、そこから先を続けることは出来なかった。

 

当の本人は、空と笑顔でハイタッチをしている。

 

僅か1分の間に起きた3つのビックプレーに、会場とコートの空気が一変した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――神城空…。

 

――綾瀬大地…。

 

 

 

名も無き中学でくすぶっていた2人のプレイヤー。

 

後に、『次世代のキセキ』と称されることになる2人の天才。

 

彼らの覚醒への扉が今……、開かれ始める……。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第16Q~変わる流れ~

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

空が3Pラインの外側でボールをキープし、チャンスを窺う。その空をマークする新海。

 

試合はまだ帝光中が13点ものリードを保っている。だが、両者の表情は対照的だ。苦々しい、焦りも感じられる新海に対し、空は…。

 

「♪~♪」

 

何とも楽しげな表情でプレーしている。

 

「(くそっ! リードしてるのはこっちなのに…!)」

 

空の余裕とも取れる表情に苛立ちを覚える新海。空はボールを付きながらゲームメイクをする。3回程ボールを付いたところで…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が右から抜きにかかる。

 

「この程度…!」

 

新海は何とか反応し、それに付いていく。

 

 

――ドシン!!!

 

 

空はそれを見越していたかのようにボールを力強く叩きつけ、左へと高速でフロントチェンジをする。

 

「くっ…そ…」

 

新海は苦悶の表情を浮かべながらもそれに何とかついていこうと強引に足を踏ん張り、逆側に身体の重心を変えようとする。だが、空は新海の重心が逆に切り替わった瞬間…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ! くそっ!」

 

再び右に高速で切り替えし、新海をかわす。

 

高速の切り替えしによるクロスオーバー。

 

『すげー! まるでキラー・クロスオーバーだ!』

 

観客から歓声共にそんな声が上がる。

 

NBA…アメリカでよく呼称されるまさに相手の息の根を止める高速の切り替えしと体重移動によるドリブル。その名がキラー・クロスオーバー。

 

だが、新海を抜いた直後、すぐさまヘルプがやってくる。

 

「調子に乗んなよ!」

 

「行かせないよ!」

 

池永と水内が空を止めにかかる。

 

「ヘルプが速くなってきたな…、関係ないけど♪」

 

空は構わず突っ込み、この2人を抜きにかかる。

 

「あら…?」

 

だが、汗で滑ったのか、踏み込んだ右足が滑り、バランスを崩す。

 

「バカめ、調子に乗るからだ!」

 

「ラッキー」

 

池永と水内が空の手からこぼれるであろうボールを拾いにかかる、…が。

 

「えっ…?」

 

「なに…?」

 

池永と水内がキョトンとする。空が尻餅を付く直前に空の姿が消え、自分達が抜かれていたからだ。コート上の、大地を除く全員が何が起きたのか理解出来ていなかった。

 

空はそのままペイントエリアに侵入する。それに並んで大地が反対側を走っている。そこに最後の砦、センター河野が立ちはだかる。

 

「(……チラッ)」

 

空は一瞬、反対側の大地の方向にチラリと視線を向ける。河野が飛び出そうとして足を止め、瞬間大地に意識が向いてしまう。

 

それを確認して空がボールを持って跳躍する。

 

「しまっ…くそっ!」

 

慌てて河野がブロックに向かう。

 

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

 

それよりも早く空がリングにボールを叩きこむ。

 

『うわぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

沸き上がる歓声。河野のブロックは間に合わなかっただけなのだが、観客には空が河野の上からダンクを叩きこんだように見えたため、地鳴りのような歓声がコート上に注がれる。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

「派手に決めましたね」

 

バチン! とハイタッチをする空と大地。

 

「…今日ほど、あいつらが味方で良かったと思う日はないよ」

 

2人の一連のプレーを見てそんな感想を漏らす田仲。

 

 

星南 35

帝光 46

 

 

またさらに2点、星南が点差を縮める。流れは完全に星南へと傾き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「今、クロスオーバーの後何が起こったんスか? ここからじゃ遠すぎて良く見えなかったッスよ~!」

 

今の一連のプレーを見て、何が起こったの理解出来なかった黄瀬が悔しがる。

 

「うるさいのだよ。…だが、最後のあれは…」

 

そんな黄瀬を諌める緑間だが、彼も同じく理解出来てはいなかった。

 

「ストリートの技だ」

 

青峰がポツリと呟くように答える。

 

「ストリートの~? あいつ何やったの~?」

 

紫原が視線だけを青峰に向け、聞き返す。

 

「スリッピンスライドフロムチェンジ。ディフェンスに背中を向けて倒れ込んだかのように見せかけてボールを切り返しながら起き上がって抜き去るドリブル。主にストリートバスケで使われるドリブルだ」

 

その質問に赤司が答える。

 

「へぇー。なんか凄そうなドリブルッスね! 帰ったら動画でも見て覚えてみるのも面白そうッス!」

 

「黄瀬。今のあれはお前でもコピーできねぇよ」

 

テンションが上がる黄瀬に青峰が苦言を呈す。

 

「そんなひどいッス! …あれくらい、俺にだって…」

 

「従来のスリッピンスライドフロムチェンジならお前でもコピーできんだろうけど、あれはお前にも……俺でも無理だ」

 

「? …どういうことッスか?」

 

黄瀬は青峰の言うことが理解できず、理由を聞く。

 

「本来のアレは床に座り込みながらやるもんだが、あの5番は腰を浮かせたままアレをやりやがった。5番がやったことをまねるには、テクニックだけじゃねぇ、規格外のバランス感覚が必要だ。腰や背中が地面スレスレで、それでも倒れないくらいのバランス感覚がな。お前出来るか?」

 

空は、腰や背中を地面につけることなくそれをやってのけた。

 

「…それは俺にも無理ッス…」

 

黄瀬は落ち込みながら答える。

 

「(にしても、あの5番、どうも頭に引っかかる。俺は何処かであいつに会ったことがあんのか?)」

 

青峰は記憶何処かに引っかかるものを感じ、記憶を巡らせる。が、結局思い出すには至らず。

 

そして、今まではつまらなそうに眺めていたのだが、集中しながら試合を観戦をする。

 

それは、他の4人も同じであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「すごい…、神城先輩と綾瀬先輩、帝光中を相手に圧倒してる」

 

星南ベンチで試合を見届けていた選手がポツリと感想を漏らす。

 

「ふぅ…ったく、あのガキ共、ようやっとふっきれよったか」

 

「? どういうことですか?」

 

龍川が呆れた表情で喋り出す。

 

「田仲、森崎、駒込は相手が帝光中ってだけで萎縮しよって、さらに開始早々の1人アリウープで完全に飲まれておった。じゃがのう、それは、神城も綾瀬も同じやったんや」

 

「えっ?」

 

驚いた後輩は龍川の方を向く。

 

「あの2人の性格上、あれだけ舐められてさらに派手にやられたら即座にやり返すはずじゃ。やのに逆におとなしゅうなりおった。奴等も、帝光中を相手に舞い上がっておったっちゅうことや」

 

「そうだったんだ…、でも、何で急に圧倒出来るようになったんですか? 慎重に試合を進めてたといっても、前半までは先輩達と互角に戦っていたのに…」

 

空と大地は慎重に試合を進めてはいたが、要所要所に見せていた動きは以前までの試合と遜色なかった。ベンチの後輩達はふっきれただけでこうも変わるものなのかと疑問に感じた。

 

「化け始めたからや」

 

「化け始めた?」

 

「お前ら、キセキの世代は知っとるな? 奴等がどうして10年に1人の逸材と呼ばれているか、分かるか?」

 

龍川はそんな質問を投げかけた。

 

「えっ? …それは、キセキの世代はすごい身体能力だし、テクニックだって…」

 

質問されたベンチメンバーは思いついた感想を述べていく。

 

「まあ、それもあるのう。だが、身体能力にしろテクニックにしろ、例年、あれくらいの奴は1人はおる。……奴等は誰にも真似できんものをそれぞれが持っとる。やから10年に1人言う大層な異名が付いたんや」

 

「誰にも真似できないもの…」

 

「選ばれたもんしか開けられん扉。神城と綾瀬はそこへ辿り着きよった。あんのガキ共、これから先…いや、この試合中にもどんどん伸びていくやろうなぁ」

 

龍川は竹刀で身体を支えるようにしながら答えた。

 

「…ていうことは、あの2人は今やキセキの世代と同等っていうことじゃ…」

 

「勝てる…勝てるよこの試合…!」

 

ベンチメンバーは龍川の言葉を聞いて盛り上がっていく。

 

「(いや、あくまでも扉に辿り着いただけや。キセキの世代には『まだ』遠く及ばん。試合も、このままなら確実に大勝するやろう。『このまま』行けたら、のう…)」

 

沸き上がる横で、龍川だけは冷静に思考を巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

帝光のリスタートをし、再び試合は進んでいく。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

帝光は何とか空と大地をかわし、ミスマッチを突く形で得点を決め、再び点差が開く。

 

「ま、気にすんな。取られたらまた返しゃいい」

 

空は気にする素振りも動揺する素振りも見せず、チームを落ちつかせる。

 

リスタート。ボールを受け取った空は即座にボールを大地に預ける。ボールを受け取った大地はフロントコートまでボールを進めていく。そこにマークに付くのが池永。

 

「…来い」

 

睨み付けるようにディフェンスに入る池永。

 

「…ふむ」

 

ディフェンスは池永。だが、今の大地ならばさほど脅威にはならない相手。だが、後方にはすぐにヘルプに入れるようにその他の者達が目を開かせていた。

 

例え抜いても即座に囲まれてしまう状況。そうなると突破は今の大地と言えど難しい。

 

「いったんこっちに戻せ!」

 

空が声を掛ける。無理に行く状況でもないと判断した大地はすぐさま空にボールを渡す。

 

「よっしゃ!」

 

3Pライン外側でボールを受け取った空。そこからすかさずスリーの体勢に入る。

 

「(まずい! こいつには外がある…!)」

 

マークに付いている新海は空のアウトサイドの確率の高さをデータで知っており、すぐさまブロックに跳ぶ。だが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!」

 

空はシュートを途中で止め、新海の横をドライブで抜ける。

 

そこに池永と水内のヘルプが入る。

 

「えっ…?」

 

「な…に…?」

 

ヘルプに来た2人は即座に困惑する。ドライブで切り込んできた空がボールを持っていなかったからだ。ボールの行方は…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の横を大地が高速で抜けていく。空は、新海をかわした直後、ノールックで大地にビハインドパスを出していた。

 

ペイントエリアまで切り込んだ大地。

 

「させるか!」

 

センターの河野がヘルプにやってくる。大地は捕まる前に、ビハインドパスを出すのと同時に大地の横まで来ていた空へパスを捌く。

 

「っ! ちっ!」

 

河野はボールが渡った空のチェックに向かうが…。

 

 

――バチン!!!

 

 

空はボールをキャッチせず、両手でボールを弾き、大地にリターンパスを出す。

 

「あっ!」

 

声を上げる河野。リターンパスを受け取った大地は悠々と無人のゴール下を沈める。

 

 

星南 37

帝光 48

 

再び点差を11点差まで詰める。

 

空と大地のコンビネーションによる得点。

 

「よーーし!」

 

喜びを露わにする空。

 

「ディフェンス。次は止めましょう!」

 

『応っ!』

 

大地が檄を入れ、ディフェンスに戻っていく。

 

新海がボールをフロントコートまで運ぶ。星南は変わらず2-3のゾーンのディフェンス。

 

「(どうする…。さっきは何とかミスマッチを突けて点を取れたが、あんな形、そうそう出来るものじゃない…)」

 

点差はまだ二桁あるものの、焦りを覚える新海。何とか自分が状況を打破したいが、目の前の空を抜くことが出来ない。仮に出来てもゾーンディフェンスによって囲まれてしまう。

 

仕方なく、ボールを水内に渡す。

 

「っし」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

水内は囲まれる前にとボールを受け取ると同時に切り込んでいく。だが、星南の対応は早い。空、大地、森崎の3人が一気に水内を囲む。

 

「くっ!」

 

思わずボールを止めてしまう水内。その結果、3人に完全に囲まれてしまう。水内はボールを奪われないようにするだけで精一杯となる。

 

「戻せ!」

 

そんな声が水内の耳に届く。3Pラインの外側でボールを要求する沼津の姿を捉える。

 

「こん…の…!」

 

何とか沼津にパスすることに成功する水内。

 

「フリーだ! 打てるぞ!」

 

新海から声が飛び、シュート体勢に入る。ボールは沼津の手から放たれる。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールはリングに向かうことなく大地によってブロックされる。

 

「(嘘だろ!? こいつ、さっきまで水内に付いてたじゃんか!)」

 

あまりのブロックの速さに驚きを隠せない沼津。こぼれたボールを誰よりも早く空が拾う。

 

『ターンオーバーだ!』

 

空が一気にフロントコートに突き進んでいく。

 

「くそっ!」

 

そんな空を追いかける帝光だが、最高速に達した空に追いつくことは出来ず…。

 

 

 

――バス!!!

 

 

 

難なくレイアップを決める。

 

 

星南 39

帝光 48

 

 

再び失点をし、ついに点差を一桁の9点にまで詰める星南。

 

「っしゃーーーっ!!!」

 

喜びを露わにする空。星南の士気は最高潮にまで達する。

 

「くそ…くそっ…!」

 

不安、苛立ち、焦りが帝光中を襲う。前半戦までの余裕が嘘であるかのように。

 

「…っ!」

 

帝光中の中でも新海は一際動揺が激しい。

 

「(まずい…、流れが星南に傾きつつある。このままでは…)」

 

依然としてまともに星南の2-3ゾーンは破れていない。今のこの状況がかなりまずいことを新海は誰よりも理解していた。

 

「こっちだ、くれ!」

 

池永がパスを要求。新海は自分ではこの状況を打破することは出来ないため、希望を込めて池永にボールを渡す。

 

パスが渡ると、それに合わせて星南のゾーンディフェンスもそれに合わせて動きを見せる。

 

「(調子に乗りやがって、見てろ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

池永がドライブで星南のゾーンディフェンスに切り込む。当然、星南は池永を囲みにかかる。

 

『あ~! やっぱり駄目だ!』

 

観客から絶望の声が上がる。

 

「無理だ! 一度俺に戻せ!」

 

後方で新海がボールを戻し、仕切りなおすよう要求する。

 

「(うるせーよ! この程度の相手、俺1人でも楽勝なんだよ!)」

 

池永は囲まれてもなお強引に推し進めていく。

 

 

 

――ドン!!!

 

 

 

だが、目の前に立つ駒込にぶつかってしまう。

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

「オフェンスチャージ! 白6番!」

 

審判がホイッスルを鳴らす。

 

『うわーっ! 帝光また攻撃失敗だ!』

 

観客からは溜め息交じりの声が。

 

「んだよ、今のあいつからぶつかりに来ただろ…」

 

そして、苛立ちを露わにする池永。

 

「今のは戻せよ。1人で格好付けすぎ」

 

「うるせーよ!」

 

今の池永の行動に水内が苦言を呈し、池永は更に苛立ちが増す。

 

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

そこに、会場中にブザーが鳴り響く。

 

『チャージドタイムアウト! 白!』

 

タイムアウト…それも帝光側のタイムアウトを告げるアナウンス。そのことにコート上の帝光の選手達は驚く。

 

「…」

 

帝光ベンチには、腕組みをして選手達を待つ監督、真田の姿があった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第17Q~帝光崩壊~

 

 

第3Q、残り4分20秒。

 

 

星南 39

帝光 48

 

 

帝光中、タイムアウト。

 

度重なるターンオーバーによって失点を重ね、18点もあった点差を一桁の9点まで詰められてしまう。

 

池永が星南のゾーンディフェンスの強引な突破を試み、ファールを取られ、そこで帝光がタイムアウトを取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「点差、9点まで縮まっちゃったね」

 

試合を観戦していた桃井が心配そうな面持ちで呟く。

 

「何やってんスかね。高さで勝ってんスから、それで攻めれば楽勝じゃないッスか」

 

呆れ顔の黄瀬。

 

「バカめ。だからお前はダメなのだよ。高さの優位性はとっくに解消されているだろう」

 

緑間はそんな黄瀬に溜め息を吐きながら言う。

 

「? …どういうことスか?」

 

緑間の言うことが理解出来ない黄瀬。

 

「ゾーンディフェンスだ」

 

答えが分からない黄瀬に赤司が回答を出す。

 

「インサイドは人数をかけて勝負することで星南は高さの不利を消している」

 

「あ~、そういうことッスか」

 

黄瀬はここでようやく理解する。

 

「ゾーンディフェンスを攻略できなければ、後輩達に勝ちはない。相手が中を固めているなら、決まりやすくなる外から攻めるのがセオリーだが…」

 

ここで赤司は緑間をチラッと見る。

 

「真太郎のように試合を通じてスリーを決められる者など稀だ」

 

「…」

 

緑間は無言でメガネのブリッジを押し上げる。

 

「そんなまどろっこしいことしなくても、俺なら中からまとめてひねり潰すけど~」

 

紫原がポテトチップスを頬張りながら言う。

 

「敦なら可能だろうが、そんなことが出来る者もまた稀だ」

 

赤司はフッと笑いながら答える。

 

「ファ~…、情けねぇ。あの程度のゾーンくれぇぶち抜けってんだ」

 

青峰が欠伸をしながら言う。

 

「この場合、それは1番の悪手なのだよ」

 

緑間は青峰に呆れ顔を向ける。

 

「星南。聞いたことないッスけど、なかなかやるッスね」

 

「そうだね。だが、1番褒めるべきなのは、星南の監督だ。付け焼刃でないところを見ると、この試合に照準を合わせて練習してきたのだろう。さすがは闘将、龍川監督だ」

 

「赤司っち、相手の監督のこと知ってるんスか?」

 

「ああ。かつて、大学で指導をしていた監督だ。関東2部の下位の大学を1年で1部に押し上げ、その2年後には公式戦で優勝にまで導いた名監督。闘将、龍川昭二」

 

「! そうか。どこかで見た顔だとは思ったが…」

 

緑間がハッとした表情をする。

 

「それはさておき…、ここからの試合だが、独力でゾーンディフェンスを破れない以上、チームでの連携が必須。だが、今の状況を見る限り、それは期待できそうにない。真田監督はここでどういう指示を出すか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「よーし! いい調子だぞ!」

 

星南ベンチ。空と大地の活躍により点差が詰まり、沸き上がるベンチ内。

 

「空先輩、大地先輩、マジですごいですよ!」

 

タオルとドリンクを持ってきた後輩達は興奮を隠せない。

 

「ああ、絶好調だ。今なら何でもできそうな気がするぜ」

 

空は笑顔で答えていく。

 

「こんな感覚、初めてです。何というかこう…力が溢れてくるというか、全てが思い通りなる。そんな感覚です」

 

大地が自分の手のひらを見つめながら喋っていく。

 

「俺も俺も。こんなのバスケやってて初めてだ」

 

空も同様の感想を抱いていた。

 

「おら、ガキ共! ピーピー騒ぐのも大概にせぇ! タイムアウトの時間は限られとんのじゃ。まだこっちが負けとるのを忘れんな!」

 

ここで龍川の檄が飛び、緊張感に包まれる星南ベンチ。

 

「…とはいえ、ええ調子や。神城、綾瀬。お前らに言う事はない。お前らの自由にやったれ。ワシが許す」

 

「オス!」

 

「はい!」

 

龍川の賛辞とも取れる言葉に喜びながら返事をする。

 

「次に、田仲、森崎、駒込!」

 

『は、はい!』

 

呼ばれた3人は背筋を伸ばしながら返事をする。

 

「…相手は腐っても帝光じゃ。レベルはお前らよりも格段に高いのう。1ON1なら、まず勝ち目はないじゃろう」

 

『…』

 

現実と事実を突きつきられ、落ち込む3人。

 

「じゃがのう、お前達は帝光を止めとる。1人1人では劣っておっても、試合でなら戦えるんじゃ。お前達は帝光と対等に戦えるだけのものを持っとる。お前達の武器、ここで見せてみい!」

 

『はい!』

 

「ここからは大まかな指示はない。お前達がこれまで積み上げてきたもんを全部吐き出せ!」

 

『はい!』

 

5人は大きな声で返事をし、さらに気を引き締める。その表情は気合に満ち、恐れている者は1人もおらず、全員が覚悟と決意に満ちた表情であった。

 

「(さて、向こうはどう出るか…。このまま何もせんかったら、試合は決まるで。のう…真田よ…)」

 

龍川は相手ベンチ、帝光ベンチで選手達の前に立つ真田の方を見やった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方、帝光のベンチ。

 

「くそっ!」

 

池永が憤りながらベンチに備え付けてある椅子を蹴り飛ばす。

 

「…うるさいなぁ。物に当たんなよ鬱陶しい」

 

それに対して水内が不快感を出す。

 

「ちっ! …つうか監督、こんなところでタイムアウトなんか取らないで下さいよ。これじゃ、俺達がおされてるみたいに見えるじゃん」

 

池永が真田に抗議する。

 

「必要だから取ったまでだ」

 

それに対して特に表情を変えることなく淡々と答える。

 

「…ちっ! ホントつかえねぇ…」

 

それに対して池永は暴言を吐くが、真田は気に留める素振りを見せない。

 

『…』

 

帝光ベンチの空気は重く、誰も言葉を発しようとしない。まだ帝光がリードしているのにも関わらず…。

 

暫しの沈黙の後、それを破るように真田が口を開く。

 

「この試合、このままならうちは負ける」

 

「…あっ?」

 

「もはや9点のリードなどあってないようなものだ。早ければこのクォーター中に、第4Q早々には点差はひっくり返るだろう」

 

真田は淡々と言葉を続けていく。

 

「はぁ? うちが無名校に負けるとかありえないでしょ。今のギャグにしてもつまんないですよ? 頭大丈夫ですか?」

 

池永は薄ら笑いを浮かべ、自分の頭を人差し指でトントンしながらバカにするように言う。

 

「本当にそう思っているのなら、もう勝敗は決したようなものだ」

 

真田は表情1つ変えず、ただただ現実を突き付けていく。

 

「お前達はいつまで王者を気取っているつもりだ? お前らが掲げている栄光は、お前達の先輩達が得たものであってお前達のものではない」

 

『…っ!』

 

その言葉に帝光選手達は黙り込む。

 

「つまらんプライドにすがってこの試合を捨てるか、つまらんプライドを捨てるか…。私から言えることはそれだけだ。後は自分達で考えろ」

 

それだけ言うと、真田はベンチから離れていった。

 

『…』

 

再び静まり返る帝光ベンチ。その沈黙を池永が破る。

 

「…ボール拾ったら俺に全部よこせ。俺が突き放してやる」

 

「はぁ? 何言ってんの? マジ、真面目に考えてほしいね」

 

その発言を沼津がバカにするように否定する。

 

「俺で攻めるのが1番確実だろうが。沼津、てめぇ今日何本スリー決めたよ? スリー以外取り柄がねぇカスなんだから最低限の役割くらい果たせよ」

 

「…自分より10㎝も小さい奴にバカスカブロックされまくってる奴が何ほざいてんの? マジ、ウザいんですけど?」

 

「んだと、てめぇ!」

 

冷たくあしらった沼津の言葉に腹を立て、掴みかかる池永。

 

「やめろ池永! 喧嘩してる場合じゃないだろ!?」

 

それを止めようとする河野。

 

「うるせぇよ。チームでただ1番でかいだけでスタメンのセンターやりやがってよ。あんなチビ共に何点取られてんだよ? 仕事できねぇならとっとと下がれよでくの坊」

 

「…なんだと? オフェンスばっかでろくにディフェンスもしない。しても無様に抜かれるだけのお前が言えることか? 今ではろくに点も取れてないくせによ」

 

「…ぶっ殺されてぇのか」

 

今度は河野と睨み合う池永。

 

「いい加減にしろ!」

 

喧嘩を始めようとしている3人に苛立った新海が怒声を上げる。

 

「場所と状況を考えろ! いいか、俺達は帝光中バスケ部だ。そのことを忘れるな。帝光中の理念は勝つことだ。くだらないプライドなど捨てて、もっとチームの為に――」

 

「黙れよ…」

 

そんな新海の言葉を池永が低い声で制しする。

 

「キャプテンだからってエラそうに説教してんじゃねぇよ。この際だから言っとくけどよ、俺はお前をキャプテンと認めてねぇんだよ。そう思ってんのは俺だけじゃねぇぞ」

 

『っ!』

 

その言葉に帝光の選手達は身体を震わせる。池永の言葉に同意なのか、唯一、スタメンだけはその言葉に対して何の反応も見せなかった。

 

「帝光の為、チームの為だぁ? ハッ! 笑わせんなよ。俺は知ってんだよ。…お前、洛山から…赤司先輩から誘われてることをな」

 

「っ!?」

 

新海は思わず目を見開く。

 

「洛山!? マジかよ!?」

 

その事実に帝光の選手達は驚愕している。

 

洛山高校とは、ウィンターカップ・インターハイの開催時から連続出場し続け、出場・優勝回数は全校最多の超強豪校。ウィンターカップ開催第一回目の優勝校であり、高校バスケ最古にしても最強とも目され、『開闢の帝王』と通称されている高校である。

 

「聞いたぜ、全中大会の優勝が洛山のスカウトされる条件らしいな? そりゃ、何が何でも優勝してぇよな? チームの為とかほざいてはいても結局お前も自分の為にやってんじゃねぇかよ」

 

「待て! その話は事実だが、俺は――」

 

新海は必死に説明しようとするが…。

 

「…何それ? 自分だけずっる~。俺なんかまだどこからも声かけてもらってないのに…」

 

「そういえば、お前、赤司さんに媚び売ってたよね。あー羨ましい、そんなことでキャプテンになれて、スカウトされんなら俺ももっとお近づきになっときゃよかったよ」

 

「何か、俺達の実績が新海1人の手柄になってるみたいで気分悪いわ」

 

次々とスタメンが悪態を吐き始める。

 

「……っ!」

 

それは違うと訂正したい新海だったが、もはや、帝光選手達は自分達を利用して洛山のスカウトをモノにしたいだけの卑しい者という目で新海を見ており、口を開いても醜い言い訳にしかならないことが分かっているのでそれも出来ずにいた。

 

「……何でお前なんだよ」

 

池永がボソリと低い声で囁くように言う。

 

「何でお前なんだよ! 帝光で1番上手いのは俺だろ!? 何で俺じゃなくてお前なんだよ!? …納得できねぇよ…」

 

池永は新海のユニフォームを掴みあげながら叫ぶ。その表情は前半戦までの余裕や嘲笑の表情はなく、ただただ悲痛に満ちていた。

 

『…』

 

そんな池永を見て、再び静まり返る帝光ベンチ内。

 

今年の帝光中は、去年と同様、そこにチームワークは存在せず、打算のみで繋がっている薄い関係。順調な内はそれでも問題ないが、ひとたび上手くいかなくなったり、追いつめられれば簡単に崩れてしまう程に脆い。

 

去年、それでも上手くいったのは、キセキの世代という、10年に1人の逸材が5人もいたためだ。だが、今年の帝光は優れてはいてもそれは周囲から頭1つ抜けている程度。

 

そして、目の前の相手の中にはスタメンの5人を凌ぐ天才が2人もいる。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここでタイムアウト終了のブザーが鳴る。

 

結局、タイムアウトを取ったものの、何1つ作戦も対策も立てることが出来なかった。

 

帝光のスタメンの5人は不安の面持ちのままコートへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第18Q~逆転~

 

 

コートに戻ってくる両校の選手達。星南ボールからスタートする。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをキープし、ゲームメイクをするのは空。その空をマークするのは新海。

 

「…」

 

「…」

 

双方睨み合う。空がそっと口を開く。

 

「何だが揉めてたみたいだけど、話しは纏まったかい?」

 

「…うるさい」

 

軽口で尋ねる空に対し、新海は険しい表情で答える。

 

「…相変わらず、こっちを見下して、自分達は王様気取りか? …あのさあ、キセキの世代はいなくても帝光には俺も少しは期待してたんだ。…あんまり――」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「――失望させんなよ」

 

「っ!?」

 

空はクロスオーバーで新海の横を抜けながら言う。新海はその速さに棒立ちで抜きさられた。

 

グングンインサイドに侵入していく空。そこに池永と水内のヘルプがやってくる。空はここでノールックビハインドバックパスで左に走る大地にパスを捌く。

 

「っ! バカの1つ覚えかよ。いい加減読めるぜ!」

 

池永が空と大地の間に入り、パスコースを塞ぐ。

 

「(やっば…、さすがに大地との連携を見せすぎたか…このままじゃ取られちまう…)」

 

空は咄嗟に左肘を後方に突きだす。

 

 

――バチン!!!

 

 

「なっ!?」

 

目を見開く池永。空の背中の右から通されたボールは右方向へと飛んでいく。

 

「よし! …ここは決める!」

 

パスを受け取ったのは右サイド、3Pラインの外でノーマークの森崎。

 

「えっ!?」

 

思わず声を上げる森崎をマークしていた沼津。森崎は何の障害もない位置からスリーを放つ。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールは綺麗な放物線を描き、リングの中央を潜る。

 

「よっしゃぁーーーっ!!!」

 

スリー決めた森崎は身体全体で喜びを表現した。

 

「沼津! 9番のマークはお前だろ! 何フリーにしてんだよ!」

 

水内が怒りの声を上げる。

 

「…わからないよ。あいつが動きだして、7番がスクリーンをかけてきたからそれをかわしたら、あいつはもういなかったんだよ」

 

沼津は何が起こったか理解できていなかった。森崎がフリーなるべく動きだす。当然、沼津はそれを追いかける。それと同時に目の前に現れた駒込のスクリーン。かかりが甘かったため、それをかわして森崎を追いかけるとそこに森崎はいなかった。

 

気が付けば右サイド3Pラインの外側でボールを受け取っており、悠々とスリーを決めた。

 

「9番が一瞬消えた…、もしかして、これは黒子先輩の…」

 

 

――ミスディレクション。

 

 

沼津はその可能性を考えた。

 

それは帝光中のキセキの世代の幻のシックスマンである黒子テツヤが得意としていた技術である。黒子テツヤはこれを利用して相手マークの視界から消えるように動き、パスを中継し、仲間をサポートした。

 

だが、森崎がやったのはミスディレクションではない。これは、森崎と駒込の2人の連携によって起きた現象である。森崎が動いたのに合わせて駒込が動き、沼津に、森崎の姿を隠すようにスクリーンをかける。沼津が森崎の姿を見失った瞬間を狙って動き、フリーとなる。

 

2人は幼稚園の頃からの幼馴染であり、付き合いが長い。そんな彼らだから出来る阿吽の呼吸で駒込がサポートし、森崎がマークを外す。

 

森崎はアウトサイドシュートを得意としているが、それ以外は平凡であり、駒込は仲間をサポートすることに長けているが、同じくそれ以外は平凡。だが、この2人が同じコートに立てば相手マークを無効化し、アウトサイドシュートを量産する脅威の存在になる。これが、龍川の言った帝光と戦える2人の武器。

 

「…それよりも、その前の5番のパス…」

 

池永が身体をワナワナとさせながらボソリと呟く。

 

「ん? ああ、あいつ、エルボーパスしたんだよ。NBAで見た事あるけど、わざわざ見せてくるなんて、感じ悪ぅ」

 

水内は嫌悪感を抱きながら言う。

 

「(…問題はそこじゃねぇ。あいつはそれを咄嗟のリカバリーでやったことだ…)」

 

池永が驚愕したのは、エルボーパスそのものではなく、大地とのパスコースを塞がれてしまったことによるアクシデントの咄嗟の機転でそれをやってのけたこと。

 

空はビハインドパスを出す直前まで大地にパスをするつもりだった。だが、右手からボールから放れる直前にパスコースを塞がれてしまったので瞬間的に左側を走る大地へのパスを右アウトサイドでフリーの森崎のパスへと切り替えた。それもエルボーパスで…。

 

これは、ずば抜けた反射神経と広い視野と判断力が求められる。

 

「(そんなの、コート全体を見渡せる視野の広さと咄嗟の判断力、反射神経がないとできねぇ。狙ってやったんならまだしも、咄嗟にそんなことやるなんて、それこそ、赤司先輩以外に出来るはずが…)」

 

池永は空に対して恐怖を抱き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

星南 42

帝光 48

 

 

点差が再び縮まる。

 

「くそっ…切り替えろ! まだ点差はある。ここを決めて突き放すぞ!」

 

新海がゲームメイクを始める。新海はマークが緩い池永にパスを出す。

 

「…よし」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受け取った池永がインサイドに切り込む。当然、切り込んできた池永を星南のゾーンディフェンスが襲いかかる。

 

「ちっ!」

 

池永は舌打ちをし、強引にドリブル突破を試みようとする。だが…。

 

「っ!」

 

先程のオフェンスチャージが頭をよぎり、動きを止めてしまう。そこにすかさず星南が囲い出す。

 

「戻せ!」

 

3Pライン外側に立つ新海が戻すように声を掛ける。池永は今の状況では何も出来ないので一度新海に戻す。

 

「(池永はダメだった。…だが、これで2-3ゾーンが乱れた!)」

 

池永を囲い込んだことにより、ゾーンが形を変えてしまった。新海はそれを見逃さず、ゴール下に立つ河野へパスを出した。

 

「よし、これなら!」

 

ゴール下でボールを受け取った河野。それをマークするのは後方に立つ田仲1人。

 

「行け! これなら決められるぞ!」

 

水内から声が飛ぶ。

 

河野が反転しながらジャンプをする。

 

「叩きこんでやる!」

 

ボールを片手に持ち、リング目掛けてボールを叩きこもうとする。

 

空と大地以外が相手なら1対1では負けることはない。帝光は得点を確信する。

 

「…ていうか、うちのキャプテン舐めすぎでしょ?」

 

空がボソリと呟く。

 

「おぉぉぉーーーーーーーっ!!!」

 

田仲がそのダンクをブロックするべく大きくジャンプする。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

河野のワンハンドダンクを両手で受け止める田仲。

 

「舐めるなぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

 

 

――バチィン!!!

 

 

 

田仲はそのダンクを両の手ではたき落とした。

 

『なにぃぃぃーーーーーーーっ!!!???』

 

その光景を目を見開きながら絶叫する。

 

空と大地以外は雑魚。それが帝光の認識だった為だ。

 

「地域予選から全中の決勝まで、星南のゴール下を守ってきたのは彼ですよ? そんな彼が弱いわけがないでしょう」

 

大地が薄く笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

「星南のエースと柱は神城と綾瀬じゃ。じゃがのう、ワシが監督になってから今日までで、1番伸びたのは田仲じゃ」

 

ベンチで龍川が呟く。

 

強敵とのマッチアップが続き、何度も苦い思いをさせられた。田仲はその度に相手から学び、敗戦の悔しさをバネに努力をし、その集大成が今発揮されている。

 

才能を開花されて空と大地。星南のキャプテンである田仲もまた積み上げてきたものが実り、実力を発揮し始めた。

 

「よし! 速攻だ! 走れ!」

 

ボールを拾った空が速攻を始める。

 

『星南すげえ! 帝光を圧倒してるぜ!』

 

星南の奮闘に観客席から歓喜の声が上がる。

 

『星ー南! 星ー南!!!』

 

試合開始当初はそのほとんどが帝光コールをしていた観客が星南の応援をし始めた。

 

今日の観客の目当ては帝光中学校。それは大地の言ったとおり間違いはない。だが、彼らが本当に見たかったのは帝光が相手を圧倒し、順当どおりに勝利する姿ではなく、帝光の敗北。

 

 

――ジャイアントキリング。

 

 

弱い者が強い者を倒し、勝利する。

 

その姿は観客を熱狂させる。

 

その熱は、会場全てに広がっていく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『決めたぁっ! 神城だ!』

 

『綾瀬もすげぇ!』

 

試合は空、大地が中心に進んでいく。2人を止めることは出来ず、迂闊に2人に集中してしまえば他の3人にやられてしまう。

 

もはや、バラバラの帝光中に星南の勢いを止めることは出来なかった。何とか得点をしてもそれはただの単発であり、この勢いと流れを変えるには至らなかった。そして…。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールが綺麗にリングを潜る。

 

『キタァァァァァァーーーーーーーッ!!!』

 

 

第3Q、残り3秒。

 

星南 59

帝光 57

 

 

『ついに逆転だーーーっ!!!』

 

残り2秒、ついに星南が逆転する。

 

「っしゃあぁーーーっ!!!」

 

シュートを決めた空がガッツポーズをする。

 

帝光は慌ててリスタートをするが…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで第3Q終了のブザーが会場に鳴り響く。

 

第3Qに才能を開花し始めた空と大地をきっかけに星南の勢いが増し、帝光を圧倒し始め、ついには逆転に成功する。

 

士気が高く、流れも勢いもある星南に対し、逆転を許し、それぞれがバラバラでチームワークの欠片もない帝光。

 

第4Q、勢いのまま星南が圧倒するのか、それとも、帝光が息を吹き返すのか。

 

会場全ての熱気が増す。

 

星南、帝光の選手達がベンチへと引き上げていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第19Q~プライド~

 

両校ベンチに引き揚げていく。

 

『…』

 

帝光ベンチ、楽勝ムードに包まれていた第2Q終了時とは対照的で、今は誰1人口を開こうとはしない。

 

「…」

 

それは、監督である真田も同様で、ベンチに座り、ただ目を瞑っている。

 

「…」

 

池永はベンチに座り、タオルを頭にかけながら俯いていた。

 

「(こんなことが…こんなことが…!)」

 

池永の胸中はひどく荒れ、混乱していた。そして思い出す昨年の苦い記憶。

 

彼はキセキの世代に憧れて帝光中学への入学を決意した。当時、1年生でありながら超強豪校のスタメンの座を勝ち取り、試合で相手を圧倒しているキセキの世代に憧れて…。

 

念願が叶い、帝光中学の進学が決まり、バスケ部へ入部する。

 

残念ながら、入部当初のテストで1軍に入ることは出来ず、しばらくは2軍で過ごすこととなったが、努力が実り、2年に進級する直前の昇格テストで1軍に昇格した。

 

池永は嬉々として憧れであったキセキの世代の中でも特に尊敬していた青峰大輝に1ON1の誘いに向かったのだが…。

 

『あぁ? お前なんかと勝負しても時間の無駄にしかなんねぇんだよ。他あたれ』

 

学校の屋上で昼寝をしていた青峰には鬱陶しげに断られた。

 

仕方なく黄瀬涼太に同様の誘いをかけるが…。

 

『あ~…悪いスけど、他あたってくんないスかね』

 

同じく断られてしまった。

 

ならば、先輩達が勝負をしてくれるくらいに強くなろうと一層バスケにうちこんだ。強くなれば、先輩達が自分と勝負してくれるだろうと信じて。そして、実力を示す絶好の機会がついにやってくる。

 

それは、キセキの世代にとっての最後の全中大会。その1ヶ月程前に行われた……。

 

 

――帝光中バスケ部、3年生と1・2年生との試合…。

 

 

これは帝光中バスケ部の恒例行事であり、来年を担う下級生達に檄を入れる意味合いも含まれている。

 

この行事には普段練習を休みがちな青峰と紫原と黄瀬も参加している。

 

※ キセキの世代は試合に勝てばあらゆるものを不問とされているのだが、この恒例行事も試合と見なされているため、渋々であるが3人も参加している。

 

試合方式は前後半8分の試合。

 

3年生チームのスタメンは当然、キセキの世代の5人。1・2年生チームは現帝光の5人。

 

 

――この試合で実力を示せればキセキの世代の5人は自分を認めてくれる。1ON1の誘いにも快く引き受けてくれる。

 

 

池永は嬉々としてこの試合に臨んだ。だが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了を告げるブザーが体育館中に響き渡る。

 

『…』

 

茫然と立ち尽くす、あるいは膝を付いているのは1・2年生チーム。

 

 

帝光3年生 83

帝光下級生  0

 

 

始めから勝てるとは思っていなかった。差を付けられるだろうとも予想していた。結果は一矢も報いられず、僅かな傷痕すらも付けることも出来ず、惨敗に終わった。

 

『何ていうか…、拍子抜けッスね』

 

黄瀬が苦笑いをし…。

 

『話しにならないのだよ』

 

緑間が落胆のこもった顔をし…。

 

『ちっ! わざわざ赤司に言われたから仕方なく来てみれば…手ぇ抜いてこの有り様かよ』

 

青峰が苛立った顔をし…。

 

『その程度の実力で頑張ればどうにかなると思ってんの? もうバスケ辞めたら~?』

 

紫原が蔑んだ顔で言い放ち…。

 

『…来年、お前達が帝光中のバスケ部を担うことになる。このザマでは先が思いやられる。帝光中の名に傷を付けるような真似だけはするな』

 

赤司が見下ろすように言い放った。

 

『あ…あ…』

 

その、侮蔑、落胆、失望がこもったその瞳。池永にとって、トラウマに近いものとなってしまった。

 

それ以後、池永は弱さを憎むようになった。弱者は何も成すことが出来ず、踏みにじられる。代が変わって彼らが帝光中の主力となり、対戦相手を罵倒したり露骨にバカにするようになったのも、かつて自分が味わったトラウマによるもの…。

 

 

「―永、池永!」

 

「えっ?」

 

池永はここで正気に戻る。

 

「ボーっとすんなよ。第4Q、もうすぐ始まるぞ」

 

「あ、あぁ…」

 

水内に声をかけられ、タオルを取って立ち上がる池永。

 

「(負けられねぇ! もう、あんな屈辱を味わうのは嫌だ! 絶対に…!)」

 

心中で池永は自分を鼓舞する。

 

結局、何も対策も作戦も決まることなくインターバルを終えてしまった。

 

コート上に向おうとする帝光の5人。

 

「皆、待ってくれ」

 

『?』

 

それを止める新海。

 

「集まってくれ、頼む」

 

新海が真剣な面持ちで他の4人を呼び止める。それを見てか、4人は新海の傍までやってくる。

 

「…この試合、このままでは負ける。それはもう皆分かっているだろう?」

 

『…』

 

他の4人は反論することはなく沈黙する。

 

「ここで俺達は選ばなくてはならない。つまらないプライドにこだわって勝利を逃すか……、勝利の為にプライドを捨てるか…」

 

『…』

 

「認めよう。星南は強い。そして、あの5番と6番、神城と綾瀬は俺達の誰よりも強い。資質だけなら、先輩達にも匹敵するほどに…」

 

『…』

 

「けど…俺は負けたくない。スカウトだとか帝光中の為だとかはもうどうでもいい。俺はあいつらに負けたくないんだ!」

 

新海は自身の心情を吐露していく。

 

「頼む。理由は何だっていい。帝光中の為でも、自分の為でも構わない。この試合に勝つために、協力してほしい。頼む!」

 

新海は4人に頭を下げる。この、真摯に頼み込む新海の姿を目の当たりにした4人の答えは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ※ ※ ※

 

 

星南ベンチ…。

 

第3Q終了目前で逆転に成功し、勢いも流れも星南にある今、ベンチの和やかであった。

 

「特に指示することはない。逆転はした。じゃが、相手は帝光じゃ。間違っても油断などすんなや。ここから先は気持ちの勝負じゃ! 気持ちが強い方が勝つ! 行ってこい、ガキ共!!!」

 

『はい!!!』

 

龍川の檄に元気よく答える星南選手達。

 

「皆、せっかくだから円陣を組もう」

 

キャプテンである田仲の提案で5人が円を描くように集まる。

「神城、綾瀬」

 

「ん?」

 

「なんでしょう?」

 

呼ばれた2人が返事をする。

 

「ありがとな」

 

「「?」」

 

「お前らがいなかったら、俺達は帝光とこうやって対等に戦うことはできなかった」

 

「そもそも、全中大会にこれたかどうか疑問だよな」

 

「ほんとほんと」

 

森崎と駒込が続くように言う。

 

「だから言わせてほしい。たった数ヶ月の間だけど、お前らとバスケができて良かった。お前らとバスケが出来た事は一生の自慢と誇りなると思う。だから…、ありがとう」

 

田仲は心からのお礼を2人に捧げる。

 

「…俺達も感謝してるんだぜ?」

 

「えっ?」

 

「3年に進級したあの日。お前がバスケ部に誘ってくれなかったらこうして試合に出ることはなかった。あの時、キセキの世代のいない全中に興味はないって言ったけど、やっぱ、試合をすんのは楽しいし、何より、皆で力を合わせて勝つのはもっと楽しい」

 

「こうして、皆でこの舞台に立てた事、私は一生忘れません。今、この瞬間のこの気持ちと思いを、私は絶対忘れません」

 

空と大地も3人に心からのお礼を捧げた。

 

「泣いても笑っても後8分だ。だったら勝って…笑って終わらせようぜ! 礼は、改めてその時に聞かせてもらうし、言わせてもらうよ」

「…そうだな。まだ試合は終わってない。この試合に勝って、中学最後のバスケを最高のものにしよう。……、よし、それじゃあ……」

 

田仲が大きく息を吸う。

 

「星南ーっ! ファイ!!!」

 

『おーっ!!!』

 

星南の選手達は勝利を誓い、コート上に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ※ ※ ※

 

 

コート上で対峙する両校。

 

最終Q、この試合の勝敗が決まる。両選手共気合は充分に溢れている。

 

雌雄を決する最後の8分間が始まろうとしている。

試合は星南ボールで再開される。

 

「っ!?」

 

空が思わず目を見開く。帝光のディフェンスが変化する。

 

『こ、これは…!』

 

『ゾーンディフェンスだ!』

 

帝光のディフェンスがハーフコートマンツーからゾーンディフェンスに切り替わる。それも、星南と同じ2-3ゾーンに…。

 

「お前も、綾瀬も。今の帝光中に止められる奴はいない。だから、お前達は5人で止めさせてもらう」

 

帝光中は空と大地を1人で止めることを諦め、ゾーンを用いてチームで止めにかかる。

 

「いいね。止められるものなら止めてみろ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロスオーバーで新海の横を抜け、インサイドへ一気に切り込む。

 

「うおっ!」

 

そこへ、帝光の選手達が一斉に囲みだす。

 

「(これはしんどい…)」

 

さすがの空もこの包囲網には驚きを隠せない。ここは無理をせず、ゴール下で待ち受ける田仲にパスをする。そこへ、すかさず包囲網が敷かれる。

 

「うわ!?」

 

その包囲網に田仲は慌てだす。

 

「まずい! 外に出せ!」

 

森崎から指示が飛ぶが、田仲に周りを見渡す余裕はない。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

ついには、ボールは弾かれ、奪われてしまう。

 

「速攻!」

 

ボールを拾った河野が前線へ大きくロングパスを出す。既に新海が走っており、ボールを受け取った新海がワンマン速攻を始める。

 

「くそっ!」

 

空が慌ててディフェンスに戻る。空のスピードは凄まじく、距離があったにも関わらず、新海に追いつく。新海がレイアップの体勢に入る。

 

「させっか!」

 

空がブロックに飛ぶ。だが、それと同時に新海が後方にボールをパスをする。

 

「あっ!?」

 

ボールはその後ろを走っていた池永に渡る。池永は追いついてミドルシュートの体勢に入る…が、途中で止め、真横へボールを捌く。

 

「っ!?」

 

池永のすぐ後ろを、大地がブロックに飛んでいた。

 

「だろうと思ったよ」

 

もしシュートを放っていれば確実にブロックされていただろう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取った水内がミドルシュートを決め、更に帝光に得点が加算される。

 

 

星南 59

帝光 59

 

 

「これが本当のゾーンディフェンスだ」

 

池永が大地に指を差し、不敵に笑いながらディフェンスに戻っていく。

 

「まさか、奴等がゾーンディフェンスとはな…」

 

「これには、驚きましたね」

 

空も大地も驚きを隠せなかった。

 

これはとどのつまり、帝光は1対1で空と大地を止めることを諦めたことを意味する。いわば、1対1では空と大地に勝てないと認めたようなものである。

 

星南のリスタート、空がボールを運ぶ。

 

帝光は再び2-3ゾーンディフェンスを組む。

 

「…」

 

空がチャンスを窺いながらゲームメイクを開始する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が一気にゾーンに切り込む。帝光は空の包囲に入る。

 

 

――スッ…。

 

 

空は完全に囲まれる直前に外へとボールを捌く。

 

森崎がボールを受け取る。だが…。

 

「っ!?」

 

ヘルプでやってきた池永がフェイスガードでディフェンスをしたため、森崎は何も出来なくなる。

 

 

――ポン…。

 

 

「あっ!」

 

ボールはスティールされ、池永がワンマン速攻を始める。

 

「行かせねぇよ」

 

空と大地が猛スピードで戻り、池永の速攻を止める。

 

「…」

 

池永は無理をせず、新海にボールを戻した。

 

「?」

 

空はさっきまでとは様子が違う帝光に気付く。

 

空と大地が速攻を止めた隙に星南は全員がディフェンスに戻る。

 

「…」

 

新海は落ち着いてゲームメイクを始める。

 

星南は変わらず2-3ゾーンディフェンス。

 

4秒ほど機会を窺っていると、新海が動き出す。

 

 

――ピッ!!!

 

 

新海が矢のようなパスを出す。それと同時に帝光の他の4人も動き出す。

 

河野がハイポストへと向かい、その横を水内が駆け抜け、そこで水内がボールを受け取る。新海もパスを出したのと同時に動き出し、池永も連動して動き出す。

 

そこから、帝光選手達は目まぐるしくポジションを入れ替え、ボールも絶えず動いていく。

 

『っ!?』

 

先程までの個人技主体から一転、高速のパスを捌き出し始めたことにより、星南選手達は混乱する。

 

ボールも人も絶えず動き回っている為、星南選手達は徐々にボールを見失いつつある。

 

24秒のタイマーが残りの2秒になったところで…。

 

「よっしゃ!」

 

左サイドの3Pライン外側に移動していた沼津にボールが渡る。

 

「あっ!」

 

星南選手が思わず声を上げる。

 

絶えずボールと人が動き回ったことにより、星南の2-3ゾーンが崩され、ついにはフリーの選手を作ってしまった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの沼津が悠々とスリーを決める。

 

『お…』

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

帝光のパス回しからの得点。ゾーンディフェンスを崩すための見事な連携。観客を騒がすには充分であった。

 

これには空も大地も冷や汗を流す。

 

 

星南 59

帝光 62

 

第4Q、再び帝光中が逆転する。

 

「いつまでもその程度のゾーンが通じると思うな」

 

新海がディフェンス戻り際に空にボソリと囁く。

 

「おもしれぇ!」

 

挑発とも取れるその言葉に空はテンションを上げる。

 

 

「さっきのゾーンディフェンスといい、今のパス回しといい、苦し紛れの付け焼刃…という感じはしないな」

 

「ええ。おそらくこれが、今年の帝光中の真の姿なのでしょう」

 

ゾーンディフェンスはオフェンス側にとってもっとも攻めにくいディフェンスである。だが、チームの連携が悪ければ上手く機能しない。さらに、相手のゾーンディフェンスを破るための連携ならば尚の事だ。

 

個人技主体の愚直に1ON1を仕掛けるスタイルは去年のキセキの世代に憧れて彼らが始めたスタイルであり、本来の彼らのスタイルは高速のパスワークによるラン&ガン。去年、キセキの世代に惨敗するまではこのスタイルであった。

 

空も大地も、今の帝光中の方がしっくりきていると感じている。

 

「どうするか…」

 

田仲が心配な面持ちで空と大地の下へやってくる。

 

「悲観することはねぇよ。ここにきてこれを出してきたってことは、こっちがそれだけ奴等を追いつめてる証拠だ」

 

「ですね。今までの彼らの言動と行動を鑑みるに、今の戦い方は本来ならやりたくはないのでしょうし」

 

空と大地はそんな田仲の心配を払拭させるべく声をかける。

 

「任せろ。あんなゾーン、俺達でぶち抜いてやる」

 

「心配いりませんよ。練習通り、やれば問題ありません」

 

「…ああ! 頼りにしてるぜ!」

 

田仲の心配事はなくなり、笑顔を浮かべながら定位置に向かっていく。

 

「…とはいえ、プライドを捨てたエリート程、怖いものはないんだけどな」

 

空は田仲がいなくなった後にそんなことをポツリと言う。

 

「…その割には、随分楽しそうですね?」

 

「あ、分かる? …やっぱ、中学最後の試合は、こうでなければ面白くねぇ!」

 

「ふふっ、同感ですね」

 

空と大地は共に笑い出す。

 

「勝つぞ、絶対に」

 

「ええ!」

 

空と大地はコツンと拳を合わせる。

 

そして、試合はこれまで以上に激化していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 



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第20Q~決着~

 

 

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

観客の大歓声が上がる。

 

大地が帝光中のペイントエリアへと切り込む。それに合わせて帝光中が大地の包囲にかかる。

 

「ふっ!」

 

そこで大地が完全に包囲する前に高速のバックステップで包囲網から脱出。帝光の選手達を置き去りにする。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

マーカーをかわした大地がミドルシュートを決める。

 

「っし!」

 

大地は静かにガッツポーズを取る。

 

 

帝光中リスタート。

 

フロントエリアまでボールを進めると高速のパスが繰り広げられる。24秒をきっかり使い、チャンスを窺い…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

星南中の2-3ゾーンを崩し、ミスマッチを突いて帝光中が得点を加える。

 

 

再び星南中の攻撃。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が高速のドライブで帝光中のゾーンに侵入。それに合わせて空の包囲網が作られる。

 

「こんなもん!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ダックイン…上体を限りなく下げながら包囲網の隙間を抜け…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ヘルプが来る前にダンクを叩きこむ。

 

 

帝光中の高速のパス。

 

巧みにゾーンをかきまわし…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

池永が森崎をかわし、ゴール下を沈める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地が切り込み、相手ゾーンを突破する。

 

「「ここは行かせねぇ!」」

 

大地がレイアップに行くと、河野と池永がそれをブロックしにやってくる。

 

190㎝の2枚の壁が大地を阻む。

 

 

――スッ…。

 

 

「「っ!?」」

 

大地がボールを下げ、空中で2人をかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

ダブルクラッチで得点を決める。

 

第4Qが始まると、これまで以上の点の取り合いが始まる。

 

星南は空と大地が持ち前のテクニックで得点を重ねていき、帝光は第4Qから見せ始めた高速のパス回しによる連携で得点を重ねる。

 

試合は一気にヒートアップする。

 

『帝ー光!!! 帝ー光!!!』

 

『星ー南!!! 星ー南!!!』

 

先程まで星南に声援が偏っていたのだが、今ではどちらにも等しい声援が送られている。

 

ここ3年間、全中の決勝は帝光中が一方的な試合で制しており、他者を全く寄せ付けない試合結果であった。だが、今年は地域予選から全中決勝まで勝ち上がった学校同士。まさにファイナルに相応しい試合展開である。

 

バスケは、ワンサイドゲームよりも、クロスゲーム…接戦の方が遥かに盛り上がる。

 

観客のボルテージは今年の全中大会の中で1番最高潮に達している。

 

試合は星南が1点差まで詰めると、帝光が3点差に戻す。第4Q最初の帝光の連続ゴールから後はこの繰り返しであった。

 

 

第4Q、残り37秒。

 

星南 80

帝光 81

 

遂に第4Q残り1分を切る。

 

「1本! ここ、決めるぞ!」

 

帝光ボール。新海がゲームメイクを始める。

 

「(ここを決めることができれば勝てる。だからこの1本は何としてでも…!)」

 

新海がパスを回す。それと同時に帝光が動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(来た!)」

 

新海がパスを出し、帝光が動き始める。高速のパス回しが始まる。

 

「(ここを止めないとタイムリミットだ。ここは絶対に死守だ)」

 

空は全神経を集中させ、この試合1番の集中力を見せる。

 

「(これだけの組織的なパス回し…確実に決められたパスルートがあるはずです)」

 

大地も同様に頭を研ぎ澄ませ、集中する。

 

ボールが動き回る中、空と大地はボールを奪うべく、ポジションを変えていく。

 

「(帝光は時間をたっぷり使ってくるはず。ならば、残り20秒切ったところからが勝負)」

 

空がフリーの選手を作らせないようにしながら頭を働かせる。

 

「(第4Qから見てきたこのオフェンス。だいぶパスルートが見えてきました)」

 

大地がボールと帝光選手の動きに気を配りながらスティールのチャンスを窺う。

 

帝光のパス回しは、決してその場のアドリブでボールを回しているのではなく、あらかじめ決められたパスルートでボールを回している。

 

それさえ的確に読めればボールは奪える。それが空と大地の考えだ。

 

28秒…27秒…。

 

時計は刻一刻と終了へと近づいている。

 

帝光は慌ててシュートを打ちにいかず、時間いっぱい使って確実に得点を奪うべくボールを回しながらチャンスを窺う。

 

24秒…23秒…。

 

勝敗を左右するこの1本。

 

『ゴクッ…』

 

観客も固唾を飲んで試合を見守っている。

 

21秒…20秒!

 

帝光が動きを見せ始める。

 

「(今まで見てきたパターンから考えて、ここで点を決めてくるのは…)」

 

大地が過去のパスルートを瞬時に思いだし、最後のパスターゲットにあたりを付けていく。そして、導き出した答えは…。

 

「(6番…池永です!)」

 

大地がボールを持っている新海と池永の間に動き出す。

 

「…そう来ると思ったよ」

 

大地の動きを見て新海がニヤリと笑う。

 

帝光のパスは空と大地の読み通り、決められたパスルートが存在する。それぞれが決められたポジションに動き、決められたところにパスを出す。

 

これまで行っていたパスのパターンをパターンAとする。これまでの法則通りならここで決めてくるのは池永である。だが、新海は最後の最後でパターンBにパスルートを変更した。

 

新海がゲームメイクを始める際、指を1本立ててゲームメイクを開始したのだが、その際、いつもより手の高さを低くした。これが、パターンBの変更のサイン。他の4人も即座に新海の意図を理解したポジション取りとパス回しをした。

 

最終的な狙いは、マークを外した池永ではなく、池永の逆サイドの3Pラインの外側で同じくマークを外していた沼津。

 

新海は池永にパスを途中で中断し、沼津へのパスへと切り替える。

 

『っ!?』

 

これには星南選手達も完全に虚を突かれる形となった。

 

ここで2点を決めれば99%帝光の勝利が確定する。だが、1%だが可能性は残る。しかし、ここでスリーを決めて点差を4点とすれば、残り時間を考えても帝光の勝利が100%確定する。

 

ボールが沼津の手に納まる。

 

この状況下によるスリー。勝敗を決するスリー。当然、かかるプレッシャーは並みではない。

 

「(決めるよ。ここで決めるために練習してきたんだ。それに、プレッシャーなんて、この帝光中のスタメン選ばれたことで常に感じてきたんだ。今更そんなものなんてないよ!)」

 

沼津が深く腰を落とし、スリーの体勢に入る。充分に指先からボールに力を伝える。

 

「(指のかかりがいい。これは入る!)」

 

沼津はこのスリーが入ることを確信する。そして、ボールは指先から放たれる――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――チッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

今度は帝光が驚愕することとなった。

 

完全に星南の裏をかいたパス。決まると確信していた。だが、これを阻止したのは…。

 

『うおおぉぉぉーーーーっ!!!!』

 

『神城だぁぁーーーーーっ!!!!』

 

ボールに触れたのは、他の4人が虚を突かれた中、ただ1人、沼津に向かった空。

 

「バカな!?」

 

これには新海も同様を隠せない。最後の最後の一撃で変えたパターン。読みようがあるはずがなかったからだ。

 

空も、新海がパスを出す直前までは池永にパスが来ると予想していた。だが、その直前、空の中で嫌な予感がした。ただの直感であるが、嫌なものを感じた。ここで、今一度周りを見渡すと、池永の他にもう1人、フリーになっている。沼津を見つける。

 

池永の方には大地が向かっているのが見えたため、空は脇目を振らず、沼津の方へと向かった。結果、これが功を奏する形となった。

 

「(けど! …俺がボールを持った時は完全フリーだった! どんなスピードしてんだよこいつ!)」

 

空の反応の速さとスピード。そして瞬発力。これにより、ギリギリボールに追いつかせた。

 

「リバウンド!」

 

空は外れるのを確信して叫ぶ。

 

池永はゴール下から離れており、河野もハイポストに立っていたため、リバウンド争いは田仲と水内。

 

ガッシィィッ! と、身体をぶつけ合う両者。

 

「(こいつは確かに上手い。けど、パワーはそれほどでもないし、身長も俺と変わらない。それにスクリーンアウトも大して上手くない!)」

 

田仲は水内の前に出てベストなポジションを確保する。水内も田仲の前に出てリバウンドを制しようとするが、田仲がそれをさせない。

 

単純な1ON1なら水内が制するであろう。だが、ゴール下でのリバウンド争いなら、生粋のセンターである田仲が負けるどおりはない。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに当たり、外れる。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」」

 

田仲、水内が同時に跳ぶ。ボールを確保したのは……。

 

「よおーーーしっ!!!」

 

「っ!?」

 

ポジション争いで勝利した田仲。

 

「田仲ぁっ! 来い!」

 

声を出すのは速攻に走っていた空。

 

田仲は一気に前線にロングパスを出す。

 

「よし!」

 

ボールを受け取った空はドリブルを始める。

 

「行かせない!」

 

それを新海が阻む。

 

「(止める! ここはファールしてでも…!)」

 

「…」

 

空は一旦停止し、クロスオーバーで新海の左側を抜けようとする。

 

「ぐっ! まだ…まだぁっ!」

 

新海は何とか踏ん張ってそれについていこうとする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、空はそんな新海を見越してか、バックロールターンでかわす。

 

そのままゴールへと進行していく空。

 

「ここは行かせん!」

 

「絶対止める!」

 

空が新海を抜くためにスピードを緩めた隙にディフェンスに戻っていた池永と河野。

 

「ここで決めなきゃ、男じゃねぇ!」

 

空は構わず突っ込んでいく。

 

『頼むーーーっ!!! 決めてくれぇっ!!!』

 

他の星南選手達の決死の声が飛ぶ。

 

空がペイントエリアまで侵入する。そして、跳躍する。

 

当然、池永と河野もブロックに飛ぶ。

 

「「っ!?」」

 

池永と河野は目を見開く。空は真上ではなく、やや後方にジャンプしていた。それだけではなく、通常のジャンプショット体勢ではなく、ボールを右手だけで持っている。

 

「俺のとっておきだ。もらっていけ」

 

空はそのままボールをふわりと浮かせるようにボールを右手から放った。ボールは2人のブロックの僅か上を綺麗な放物線を描くように通過していく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そしてボールは綺麗にリングを通過していく。

 

空はガッツポーズをしてリングに背を向ける。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!!』

 

『逆転だぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!』

 

観客から大歓声が沸き起こる。

 

 

星南 82

帝光 81

 

 

「今のは…ティアドロップ…」

 

今空が見せたのは、NBAなどで主にガード選手が使う、相手ブロックをかわし無効化するシュート。別の名をフローターとも呼ばれるショットである。

 

「あいつ…、あんなものまで打てんのかよ…!」

 

池永は身体をワナワナと震わせる。

 

残り時間13秒。ついに星南が点差をひっくり返す。

 

「いいんですか? あれ、対キセキの世代用に練習していた技でしょう?」

 

ディフェンスに戻りながら大地が空に尋ねる。

 

キセキの世代は赤司を除いて全員が10㎝以上も身長が高い。跳躍力がある空であってもその差は覆せない。それを補う武器の1つとして見に付けたのがこのフローター。

 

「構わねぇよ。ここで見られて通じない程度の代物だったらどのみち通用はしないだろうからな。それに、出し惜しみしている局面でもなかったしな」

 

最後の池永と河野の気迫は凄まじいものがあり、生半可なことでは突破できなかったと空はあの時感じていた。

 

「ラスト1本! 止めんぞ!!!!」

 

『おぅ!!!』

 

ディフェンスに戻り、全員に気合を入れる空。それに応える4人。

 

 

「くそ! …くそ!」

 

池永が悔しさと焦りを思わせる表情で切り込んでくる。

 

「お前らなんかに…お前らなんかにぃっ!」

 

ボールを掴み、リング目掛けて跳躍する。

 

「こんなところでぇっ! 俺は負けられねぇんだよぉぉぉっ! これで終わりだぁぁぁっ!!!」

 

咆哮を上げながらボールをリングへと叩きこもうとする。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

そのダンクを大地が阻む。

 

「記録も王朝も、いつかは終わりが来るものです。それが今なんですよ!」

 

大地がボールに力を込める。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 

――バチィン!!!

 

 

 

ボールはリングに叩きこまれることなく弾き飛ばされていく。

 

「ナイスだぜ!」

 

こぼれたボールを空が拾い、そのまま速攻を開始する。

 

「止める!」

 

「行かせねぇ!」

 

水内と沼津がその速攻を阻むべく空の前に立ちはだかる。

 

「通させてもらうぜ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

水内をレッグスルーでかわし、沼津をビハインドバックで抜き去ってそのままフロントコートに侵入していく。

 

「そこまでだぁっ!!!」

 

3Pライン僅か内側まで来たところで新海がディフェンスに戻り、空の進行を阻む。

 

「まだだ…まだ終わってねぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

新海のこの試合一番の気迫。

 

「これでトドメと行くぜ」

 

空は停止し、僅か後方にジャンプし、ボールをリングに投げつけた。新海はそれを防げず、見送る。

 

「(シュート? …違う…これは…!)」

 

それと同時に2人の横を高速で何者かが駆け抜ける。

 

「最後、任せたぜ」

 

「任されましたよ!」

 

その正体は大地。

 

大地は2人の横を駆け抜け、ジャンプしてボールを掴む。そして……。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

空中で掴んでそのままリングに叩き付けた。

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

沸き上がる歓声。

 

「リスタートだぁぁぁぁぁっ!!! 早くしろぉぉぉぉっ!!!」

 

新海が決死の声を上げる。大地が決めた後に送れて戻ってきた河野がボールを拾う。素早くリスタートするべく新海にボールを渡そうとしたその時!

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

試合終了…タイムアップを告げるブザーが鳴り響く。

 

空と大地がそっと拳を上へと突き上げる。

 

 

 

――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!

 

 

 

 

全中大会決勝戦。その長い戦い試合が今……終結した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第21Q~全中終結~

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

試合終了を告げるブザーが会場に鳴り響く。

 

 

星南 84

帝光 81

 

 

空と大地が拳をそっと突き上げる。

 

 

 

 

――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!

 

 

 

 

会場を揺るがす程の歓声が轟く。

 

空と大地がゆっくり歩み寄っていき…。

 

 

――バチン!!!

 

 

ハイタッチを交わす。

 

『うおぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

田仲、森崎、駒込が歓喜の表情で2人に飛び込んでいき、それに続いてベンチメンバー涙を流しながらその場から飛び出し、2人の下に駆け込んでいく。

 

長い長い激闘についに終止符が付く。

 

一度は点差も付き、絶望すらも頭にちらついたりもした。だが、最後まで諦めず、1人1人が死力を尽くした結果、栄光を手にした。

 

ベンチにただ1人残っている監督、龍川も、普段は一切見せることない笑顔を選手達に向けている。

 

『…』

 

対する帝光中。

 

応援席の選手達は一様にまだ現状を理解出来ていないのかのように茫然としている。

 

コート上で戦った選手達は、ある者は茫然とし、ある者は俯き、深く目を瞑っており…。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

池永は、コート上の選手の中でただ1人、床を叩き付けながら絶叫を上げ、涙を流している。そんな彼の下に新海が歩み寄って手を差し出す。

 

「……整列だ」

 

同じく悲痛の表情の新海が何とか声を搾りだしていく。

 

「うるせぇ! …うるせぇ…」

 

池永はその手を払い除ける。

 

「っ!」

 

新海は池永の腕を掴んで無理やり立たせ、中央へと引っ張っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両校が中央に整列する。

 

「84対81で星南中学校の勝ち!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

整列を終え、向かい合う星南と帝光の選手達。

 

『…』

 

『…』

 

悔しさをにじませる帝光に対し、星南は勝利という結果で試合が終えることが出来てほっとしている。

 

「……ラスト8分間はなかなか楽しめた。またやり合う機会があったらその時は始めから全力で来いよ」

 

「っ! ……次は負けない。絶対にだ。来年、高校でこの借りは返す」

 

目線を合わせずに淡々という空に対し、新海は睨み付けながら宣言する。

 

「あなたは選手としては優秀です。ですが、スポーツマンとしては最低です。これからは、もっと相手に敬意を持ってくれることを希望します」

 

「…覚えてろ、今度コート会ったらぶっ潰してやる…」

 

冷めた表情で告げる大地に対し、池永は涙を流し、嗚咽交じりに告げていった。

 

両選手達が退場していく。

 

 

 

――パチパチパチパチパチ…!!!!

 

 

 

会場の観客達はそんな彼らに惜しみない拍手を送る。

 

『すごかったぞーっ!』

 

『ナイスファイトーっ!』

 

次々に賛辞の言葉をかけていく。そんな言葉の数々を両選手達が各々噛みしめながら退場していく。

 

「…終わったな」

 

「…終わりましたね」

 

空と大地が退場しながら会話している。

 

「全中は予定通り、優勝で終わった。これで中学でやり残したことはない。次は――」

 

「ええ。次は――」

 

空と大地が観客席…、最上段にいるキセキの世代の5人を指差し……。

 

「「次は、お前(あなた)達だ(です)!」」

 

来年の宿敵、目標であるキセキの世代の5人に宣戦布告を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「負けたか…」

 

緑間がボソリと呟く。

 

「情けねぇ。あの程度の相手によぉ」

 

青峰が後輩達を蔑むような表情で見下ろしながら言う。

 

「あれー? あの2人、何かこっち指差してない?」

 

紫原がこっちを指差す空と大地に気付く。

 

「ホントッスね。さしずめ、『次はお前達だ!』とでも言ってそうな顔ッスね」

 

黄瀬が笑いながらそれに続く。

 

「…」

 

赤司がジッと無表情で後輩達を見届けると、そのまま踵を返して出口へと歩き出した。

 

「後輩を…新海を洛山にスカウトしていたのだろう? 会っていかなくてもいいのか?」

 

それに気付いて緑間が赤司の背中に声をかけた。赤司はその場で立ち止まり…。

 

「…もともと、今年で引退してしまう僕のバックアップのポイントガードの代わりの1人として声をかけていたに過ぎない。ここで勝利を逃す程度なら必要ない。もう用済みだ」

 

「…そうか」

 

その言葉を聞いて緑間は深く目を瞑り、ただ納得するように頷いた。

 

「5人揃ったら確認しておきたいことがあったが、それは別の機会にしよう。どのみち、冬に僕達は再び顔を合わせることになる。その時に、…今度はテツヤも交えて聞くことにしよう。では、冬に会おう」

 

そう告げて、赤司は会場を後にした。

 

「…ふん」

 

緑間もそれに続いて会場の出口に向けて歩き出した。

 

「緑間っちも帰るんスか?」

 

「ウィンターカップの予選まで時間は限られている。こんなところで時間を無駄にしている場合ではないのだよ」

 

緑間は振り返らずにそれだけ告げて赤司に続いて出口へと向かっていった。

 

「俺もお菓子なくなっちゃったから帰るね~。それじゃ、また冬にね~」

 

紫原もお菓子の空き袋を折り畳み、ゴミ箱に投擲しながら去ってゆく。

 

「皆、淡泊ッスねー。せっかく偶然にも再開したって言うのに。…にしても、来年はあの2人が高校に上がってくるんスよね。来年も楽しくなりそうッス」

 

「ハッ。ありえねぇーな。あいつらは『まだ』こっち側じゃねぇ。遊び相手にもならねぇよ。……俺に勝てんのは俺だけだ」

 

それだけ言って会場を去っていく。

 

「ちょっと青峰君! それじゃ、キー君、またね!」

 

そんな青峰を桃井が追いかけていく。

 

「『まだ』ッスか…」

 

青峰は無意識に『まだ』という言葉を付けた。それは、いずれあの2人が自分達と同じところに来ることを示唆しているかのように。

 

「さてと。俺も帰るとするッスかねー。あー無性にバスケがしたくなったッスー!」

 

黄瀬も会場を後にしていった。

 

彼らキセキの世代はそれぞれのチームメイトの下に帰っていき、後に控えるウィンターカップに向けて歩みを進めていき、空と大地のことは記憶の片隅へと追いやっていく。

 

だが、彼らは翌年、再び2人の名を記憶から呼び戻すことになる。2人が巻き起こす新たな旋風によって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「帝光の王朝が、ついに崩壊したね」

 

「あー、まさにそんな感じだな」

 

決勝を見届けていた城ケ崎中の生嶋と小牧が試合の興奮そのままに感想を言い合っている。

 

「来年からは全中、どうなるのかな?」

 

「さあな。少なくとも、星南はあの2人が抜けたら県の中堅レベルになっちまうだろうから、精々、全中に行けるかどうかってところだろうから、来年は今年以上に荒れるかもな」

 

「ハハハッ、来年も大変そうだ」

 

そんな感想を言い合う。するとそこへ…。

 

「来年の全中のことを考えるなんざ、随分と余裕だな、生嶋」

 

「っ! 君は、照栄中の松永透」

 

「よう」

 

偶然近くまで来ていた照栄中のセンター、松永が生嶋に声を掛けた。

 

「お互い、準決で負けちまったな」

 

「うん。でも、君は帝光相手に1人でよくあそこまでやり合えたね。負けて名を上げるとはこのことだと思うよ」

 

「俺の名が上がったところでチームが負けたら意味ねぇよ」

 

生嶋の賛辞の言葉に松永は複雑そうな表情で返す。

 

「ま、そんなことより、来年、俺達は高校に上がる。それはつまり、あいつらに加え、あいつら以上のバケモノが待ち受けているっていうことだ。来年の全中のことなんか気にかけてる場合じゃないんじゃねぇか?」

 

「っ! …そうだったね。高校にはキセキの世代がいる。僕も一度だけだけど、戦ったことがあるからよく理解しているよ」

 

「ああ。俺も一度だけやったけど、俺の尊敬している鉄平さんですら、あいつらには歯が立たなかった」

 

鉄平…、それは、無冠の五将と呼ばれる、キセキの世代と唯一渡り合う事ができた5人の1人である、『鉄心』木吉鉄平のことである。

 

彼らはかつて一度だけ対戦を経験し、その実力と絶望を肌で体験していた。

 

「俺は絶対奴等ともう1度戦う。そして、次こそは勝つつもりだ」

 

「僕も、同じだよ。彼らともう1度戦いたい。今度は勝ちたい…」

 

2人は静かに闘志を震わせていた。

 

「ふっ、聞くだけ野暮だったな。…それじゃ、チームメイトが待ってるから俺は行く。では、来年にな」

 

「うん。今度はコートの上で」

 

軽く挨拶を交わし、松永は去っていった。

 

 

星南を苦しめた生嶋奏…。

 

帝光を1人で追いつめた松永透…。

 

 

彼らもまた、次のステージへと進んでいく。この2人にもまた、思いもよらない旋風が吹き荒れることなるのだが、この時はまだ、知る由もなかったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

星南の選手達は控室に戻り、興奮冷めやらぬ者、疲れ切ってベンチに突っ伏す者、マッサージ受ける者など、様々見受けられる。

 

そんな中、監督の龍川は控室からただ1人抜け出し、控室を後にしていく。

 

ゆっくりと歩みを進め、会場の外を出て少し歩いていくと、そこには…。

 

「…久しぶりじゃのう、真田」

 

「…お久しぶりです、龍川先輩。卒業以来ですね」

 

そこには、帝光の現監督である真田がベンチに腰掛けていた。

 

彼らはかつて、先輩後輩の間柄であった。

 

龍川は真田の横まで行くと、ゆっくり腰を下ろした。

 

「…」

 

「…」

 

2人は何を話すでもなく、無言でベンチに腰掛けている。1分程すると、龍川が口を開いた。

 

「今回の試合――」

 

「ええ、分かっています。敗因は全て、私にあります」

 

「そのとおりじゃ。全く、帝光もつまらん学校になったもんじゃ。白金さんが率いていた頃は、まだ見栄えがあったんじゃがのう」

 

「…返す言葉もありません」

 

真田はその言葉をただ受け止めていた。

 

「昔っからお前は余計なことを難しく考えすぎなんじゃ。やからチームも……才能も壊してまうんじゃ」

 

「…」

 

「ま、今回はええ勉強になったじゃろう。次からはもっとマシなチーム作りをせい」

 

「次…ですか…」

 

真田はフッと自嘲する。

 

「なんや? やっぱり、責任取らされるんか?」

 

「…責任は取らされるでしょう。理事長は帝光中が全国優勝すると信じてやみませんし、監督が変わり、キセキの世代が卒業直後の敗退です。解任は免れないでしょう。ですが――」

 

真田がスッと立ち上がる。

 

「――私は、帝光中を辞そうと思っています」

 

「…それは、責任逃れやないんか?」

 

「かもしれません。…ですが、今回の敗北をきっかけに、帝光中はまたあの頃の輝きを取り戻すと思っています。白金先生が率いていた頃のように。そして――」

 

真田が龍川の方に向き直る。

 

「龍川先輩が主将をしていた、あの頃のように…」

 

「…辞めてどうするんじゃ?」

 

「地元に、ミニバスのチームがあるのですが、そこが今コーチを募集していまして、それを受けようかと思います。私のバスケの原点であるミニバスのコーチとなれば、私は前に進めると思っています。そこで今一度学んで、いずれは龍川先輩、あなたに受けた今日の借りを返しにいきます」

 

「…フッ。そこで決めとるんなら言うことはないわ。ま、しっかり勉強してこいや。そんで、また戦ろうや」

 

「はい。…では、その時まで…」

 

真田がそっと手を差し出す。

 

龍川はその手を握り、握手を交わした。

 

「じゃあのう」

 

握手を交わすと、真田は去っていった。

 

「…去年までは難しい顔しかしとらんかったあいつも、随分ふっきれたもんや。…帰ってこいよ」

 

龍川は空に向かって語りかけた。

 

 

真田は帝光中に戻ると、理事長からの叱責よりも先に辞表を提出した。周りのコーチは根気よく説得をしたが、真田の決意は固く、考えは変わらなかった。

 

彼は原点に立ち返り、再び、同じ舞台へと戻ってくることになるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

閉会式……。

 

それは粛々と行われた。

 

優勝旗が星南中に渡される。

 

 

――パチパチパチパチ…!!!

 

 

惜しみない拍手が彼らに送られる。

 

 

 

優勝

 

星南中学校

 

準優勝

 

帝光中学校

 

 

ベスト5

 

 

神城空  PG 星南中学校

 

生嶋奏  SG 城ケ崎中学校

 

綾瀬大地 SF 星南中学校

 

池永良雄 PF 帝光中学校

 

松永透  C  照栄中学校

 

 

得点王

 

綾瀬大地 星南中学校

 

 

MVP

 

神城空 星南中学校

 

 

 

長い長い激闘。地域予選から始まった全国中学生総合体育大会、通称全中が、今、閉幕した……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第22Q~新たなる戦い(ステージ)へ~

 

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

場所は東京都に位置する誠凛高校の体育館。

 

彼らは今、すぐ先に控えるウィンターカップの予選に向けて、厳しい練習に臨んでいる。

 

 

 

――ピピーーーーーーッ!!!

 

 

 

「そこまで! 5分休憩よ! 皆、水分しっかり取るのよ!」

 

誠凛高校の監督である相田リコが笛を吹き、指示を出す。

 

「あ゛ー! やっと休憩だー」

 

「みずみず~」

 

まだ残暑も残る季節。滝のような汗を流しながら水道へと向かっていった。

 

 

「…」

 

水分補給を終えた黒子テツヤが、座って身体を休めながら持ってきていた雑誌に目を通していた。

 

「黒子。何読んでんだ?」

 

同じく水分補給を終えた誠凛高校の主将である日向が黒子の後ろから尋ねる。

 

「キャプテン…今週発売された月バスです。これに気になることが載っていまして」

 

「んーどれどれ…」

 

日向が後ろから覗きこむように雑誌の記事に目を通す。

 

「…うぉっ! これ、マジかよ」

 

そこに載っていた1つの記事に日向は驚愕する。

 

「ん? どうかしたか?」

 

それに気付いた他の者達も黒子の周囲に集まってくる。

 

「これ見てみろよ」

 

日向が雑誌を周りの者達に見せる。

 

「なになに……えっ!? 帝光負けたの!?」

 

雑誌を受け取った小金井が書かれていた記事に日向同様驚く。

 

そこには、最近行われた全中大会の特集が記載されていた。

 

 

 

『王者陥落』

 

 

 

それがその記事の見出しである。

 

「…いつかは起きることなんだろうけど、もうか…」

 

伊月が神妙な面持ちで言う。

 

「キセキの世代が抜けたとはいえ……黒子、今年の帝光中はどうなんだ?」

 

「強いです。スタメンに関しては、高校でもたいていの強豪校ならスタメン、あるいはシックスマンの座を掴める実力を持っています」

 

黒子は自身の分析したことを告げていく。

 

「…それにしても、星南中学校の名前を聞くのは初めてだな」

 

「今年が初出場だと、これには書いてあります」

 

「初出場で初優勝…すげぇーな」

 

これには全員が感心していた。

 

「…でもさ、過去3年間は帝光中の圧勝だったから、何かスカッとするよな!」

 

小金井がケラケラと笑いながら言う。

 

「おい、コガ」

 

「ん? あっ! …悪い、黒子…」

 

伊月が小金井を制し、自分の失言に気付いた小金井が黒子に謝罪する。

 

「いえ、僕はもう卒業した身ですので気にしていません。それに…」

 

黒子がそこで言葉を止め、雑誌に視線を移す。

 

「(帝光中は良くも悪くも、彼らのせいで変わってしまった。今回の敗北で、帝光中はきっと変わって…いえ、戻ってくれるはずです。彼らと笑いあっていたあの頃のように…)」

 

黒子は、そうなってくれるよう、心の中で願った。

 

「おっ? 盛り上がっているな。俺もまぜてくれよ」

 

そこに、木吉鉄平がやってくる。

 

「木吉。月バス見てみろよ。すげーぞ」

 

小金井が木吉に月バスを渡す。

 

「どれどれ…へぇー、帝光、負けたのか」

 

木吉はその記事に目を通していくと、驚き半分、複雑半分の表情をした。

 

過去に大敗をした木吉からすると、その内容は少々複雑であった。

 

「過去3年間、帝光の独占状態だったベスト5も、今年選ばれたのはたった1人か」

 

キセキの世代が現れてからはベスト5は彼らが常に受賞していた。

 

「…おっ? 松永の奴、ベスト5に選ばれてるじゃないか」

 

その中の1人に木吉が気付く。

 

「知り合いか?」

 

その反応を聞いて日向が尋ねる。

 

「ああ。中学の時の後輩さ。1年でスタメンに選ばれていたからよく覚えているよ」

 

「照栄中も全国クラスのチームだよな。そこで1年からスタメンってのも凄いな」

 

伊月が素直に驚く。

 

「俺のことを『鉄心』なんて呼ぶ奴もいるが、それはあいつこそが呼ばれるに相応しい名前さ。…キセキの世代相手に俺も、俺以外の奴も諦めかけて、絶望しかけたが、あいつだけが顔を上げて、前を向いて、諦めなかった。あいつはすごい奴だ」

 

「へぇー」

 

「MVP、得点王、共に星南中だな。今年3年なのに聞かない名前だな」

 

伊月が読み上げていく。

 

「月バスもべた褒めだな。それぞれに特集組まれてるぜ」

 

次ページに2人が1ページずつプロフィールとインタビュー内容、全中の成績などが記載されていた。

 

「来年、こいつらも高校に来るんだよな」

 

「うおっ! もしこいつらがキセキの世代のいる高校に進学したら…」

 

小金井がその悪い予感を言葉にする。

 

「それは多分ないかと思います」

 

その予感を黒子がバッサリ切り捨てる。黒子がそっとインタビューの内容を指差す。

 

 

Q、今後の目標は?

 

A、打倒、キセキの世代!

 

 

それは、両者がそう答えていた。

 

「となると、もしかしたら誠凛(うち)に来る可能性もあるってことだよな? そうなったら助かるな~」

 

「俺としては、ポイントガードの彼が来たら、出番がなくなるだろうからそうなったら少し複雑だな」

 

希望を語る小金井に対し、少々複雑な表情をする伊月。

 

「…」

 

黒子は、それは無いと、直感していた。彼らは来年、自分達の敵となると、何故かそう確信していた。

 

「はいはい! もう休憩時間は過ぎてるわよ。お喋りはそこまで!」

 

監督である相田リコが手を叩きながらやってくる。

 

「来年の事を気にしてる余裕はないわよ! もうすぐウィンターカップの予選よ。決して楽な道程ではないのよ? もっと集中して練習に臨みなさい」

 

緊張感が薄まっていた誠凛に、相田リコが檄を入れる。

 

「…そうだな。よーし! 3ON3、始めるぞ! 気合入れていくぞ!」

 

『おう!!!』

 

日向の言葉に誠凛全員が気合を入れなおす。それぞれが3ON3の為に散っていく。

 

「ん?」

 

置かれた雑誌に火神が視線を送る。そこには、先程のMVPと得点王の受賞者のページ。そこの顔写真。

 

「(こいつら確か……黄瀬と青峰の試合を見に行った時にすれ違ったあの2人。…なら、あの時感じた直感ももしかしたら…)」

 

「おらぁっ! 火神! ぼさっとしてんじゃねぇ!」

 

「すいません、今行きます!」

 

火神も遅れて練習に参加していった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

月日は流れ、季節は春先、3月…。

 

星南中学校の卒業式が粛々と行われていた。

 

「神城先輩! 一緒に写真撮ってください!」

 

「綾瀬! 最後に写真撮ろうぜ!」

 

空と大地を大勢の在校生、卒業生達が囲んでいる。

 

バスケ部が全中を制し、胸を張って凱旋すると、それはそれは盛大にバスケ部を出迎えた。

 

星南中学始まって以来の快挙。それも、バスケで成し遂げてことにより、学校を越えて街全体がお祭り騒ぎとなった。

 

雑誌の切り抜きや、号外まで地域に配られ、バスケ部…その中でも空と大地は街の有名人となり、一時期は街を歩けば指を差される程に。

 

季節が変わる頃にはそれも落ち着いたが、卒業式になると、最後の思い出にと、皆が2人を囲む。

 

2人はそれに戸惑いながらも1人1人それに応えていく。全ての者に対応が終えた頃には2時間以上の時間が過ぎていた。

 

「はぁー、ようやく解放された…」

 

「これなら、試合の方が遥かに楽ですね」

 

空と大地が冷や汗を流しながら笑いあった。

 

2人は校舎の方を振り返る…。

 

「あっという間の3年間でしたね」

 

「…ああ。最後の1年はメチャメチャ楽しかったけどな」

 

2人は憂いの表情を浮かべながら星南中学での思い出を思い浮かべる。

 

1年時、2年時は特に振り返る程の思い出はないが、3年時には決して忘れられない思い出が満載である。

 

 

チームメイトとの猛練習…。

 

試合での激闘…。

 

そして優勝…。

 

 

これは一生涯忘れることはない思い出になるだろう。

 

「…」

 

「…」

 

しばらく思い出に浸ると…。

 

「さて…それじゃ、最後に、寄って行こうか?」

 

「そうですね」

 

2人はあるところへと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

星南中学の体育館。そこでは外にも漏れる程にバッシュのスキール音が鳴り響く。

 

「おらぁっ! もっとキビキビ動かんかい!!! 亀かおのれらは!!!」

 

それに合わせて龍川の怒声が轟く。

 

「監督、チース!」

 

「こんにちわ」

 

空と大地は龍川に話しかける。

 

「ん? 何やお前ら、こっちは忙しいんじゃ。卒業したなら部外者じゃ、早よ去ね去ね」

 

龍川は虫でも払うかのように手をヒラヒラさせる。

 

「んなこと言わないで下さいよ。可愛い教え子でしょう」

 

「ほざけボケ。ド突くぞ」

 

そんなやり取りを交わす。

 

「ほんで? お前ら揃って何しに来たんや?」

 

「最後の挨拶にと思いまして」

 

「そんなんいらんいらん。こっちに気にかけてる暇があるなら自分達の心配せぇ」

 

あくまでも冷たい対応で追い払おうとする龍川。

 

「取りつく島もねぇな…なら、仕方ねぇな」

 

2人は諦めたのか、体育館から出ていこうとする。その体育館から出る直前に…。

 

「「龍川監督ー!」」

 

2人が声を揃えて監督に叫ぶと、龍川が振り返る。

 

「「ありがとうございましたー!!!」」

 

2人は頭を下げ、声を精一杯張り上げながら感謝の言葉を述べた。

 

感動の一面……になるはずなのだが…。

 

「やかましいわぁっ!!! はよ消ぇぃっ!!!」

 

持っていた竹刀を2人に投げつけた。

 

「挨拶ぐらいさせてくれよぉっ!」

 

「し、失礼致します!」

 

2人は大急ぎで立ち去っていった。

 

「ったく、最後まで面倒かけよって…」

 

龍川は投げた竹刀を拾いにいく。

 

「あっ、監督」

 

そこにちょうど挨拶に来た田仲、森崎、駒込がやってきた。

 

「どいつもこいつもがん首揃えよって、何じゃ?」

 

「いえ、まあ、挨拶に寄ったのですが…あれ、どうしたんですか?」

 

田仲が指差す方向に、ダッシュで逃げ去る空と大地の姿が。

 

「ピーピーやかましいから追い払っただけじゃ」

 

「あ、相変わらずですね…」

 

田仲は冷や汗を流しながら言う。

 

「あいつら、今年、キセキの世代と戦うんですよね」

 

「2人ならやってくれそうだよな?」

 

「俺もやれると思うな」

 

共に戦ったチームメイトである3人はそれを確信する。

 

「…いや、それはどうかのう」

 

「えっ?」

 

「あの2人は未完の大器。まだまだ伸びるじゃろう。じゃが、それはキセキの世代にも言えることじゃ」

 

「「「…」」」

 

3人は龍川の言葉に無言で耳を傾ける。

 

「ウィンターカップの事はお前らも知っとるじゃろう? 優勝したのはキセキの世代のおる高校ではなく、また、別の高校じゃ。それはつまり、奴等が負けたことを意味する」

 

ゴクリと3人は息を飲む。

 

「1度の敗北は100度勝利するより遥かに人を成長させよる。敗北を知った奴等は更に高みに昇るじゃろう。まだ、扉に辿り着いた程度のあの2人じゃ、2人がかりでも手も足も出んじゃろう」

 

「そんな…」

 

無名の中学を全国優勝…それも、絶対的王者を破っての優勝の原動力になった2人を目の当たりしている3人には到底信じられないことであった。

 

「じゃが…」

 

「「「?」」」

 

「ええ指導者、ええ環境、ええチームメイトに恵まれれば可能性はゼロではないかもしれんのう。ワシも、短い期間であいつらに最低限の仕込みはしておいた。後は……奴等次第じゃ」

 

龍川は逃げ去っていく2人に笑みを浮かべながら見届けながら言った。

 

「まあ、楽しみにするかのう。今年、キセキが順当に勝つか。キセキならざるキセキが再び勝つか。…次世代のキセキが勝つか…のう」

 

その言葉は、一陣の風に流されていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

季節は春…。

 

桜舞い散る季節…。

 

空と大地は新たな制服に身を包み、新たな学び舎の前に立っていた。

 

「始まるな」

 

「ええ」

 

高校に進学した2人。その胸は期待とワクワクで張り裂けそうであった。

 

「俺達の夢が…目標がやっと叶う時が来たんだ。やろうぜ!」

 

空が拳を突きだす。

 

「もちろんです。キセキの世代と、そして、彼らを破った新たなキセキを倒し、あの時の誓いを果たしましょう!」

 

大地が同じく拳を突き出し……。

 

 

 

――コツン…。

 

 

 

そっと拳を合わせるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

在校生達が様々な部活の勧誘を行っている。

 

その中の1つ、バスケ部のブースに2枚の入部届が出される。

 

 

1年A組 神城空

 

1年C組 綾瀬大地

 

 

氏名、組、出身中学の記入欄に加え、目標と書かれた記入欄がある。そこには2人共同じくこう書かれていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――キセキの世代とそれを破った誠凛を倒し、日本一になると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キセキ達の激闘の影で起こった1つのキセキと2人のキセキ…。

 

2人の新たな戦いの舞台が始まったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ 第1部 全中大会編 完 ~

 

 

 





以上が、過去に別サイトにて掲載していたものです。ここから先は現在執筆中ですので、なるべく早く書き上げ、投稿できたらと思います。

オリキャラも多数出ることになるので、ご了承を…。

それではまた!



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高校生編
第23Q~運命~


新章、開幕です。

本格的に原作キャラが登場し、オリキャラとの絡みが始まります。

うまく表現できるか…。

それではどうぞ!



 

とある某所…。

 

「…っ! …っ!」

 

1人の長身の男がトレーニング器具を用いて自身の身体を鍛えている。男の身体は見て分かる程の筋肉質の体型であり、顔つきも厳しさが窺える。

 

その男の身体からはおびただしい程の汗が流れており、長時間身体を酷使していたことが窺える。

 

「ふぅ」

 

ひとしきりトレーニングをすると、男は器具から手を放し、一息吐く。

 

「お疲れ、相変わらず精が出るな」

 

そこに、もう1人の男が現れ、身体を鍛えていた男を労う。現れた男は一見すると優しげな風貌が窺える。

 

「ほら」

 

現れた男が持っていたタオルを手渡す。

 

「すまない」

 

タオルを受け取り、礼を言うと、男は身体の汗を拭い始める。

 

「部屋へ戻ったのではなかったのか?」

 

「ああ。戻ったよ。そしたら、これが部屋に届いていてね」

 

優しげな男が人差し指と中指に挟み込んだ1通の手紙を見せる。

 

「理事長からのエアメールだ」

 

それを聞くと厳つい男がげんなりとした表情を取る。

 

「はぁ…またか。何度頼まれても答えは変わらん。お前も同様だろ?」

 

「ああ。俺もそのつもり『だった』」

 

「だった?」

 

優しげな男の答えに厳つい男は疑問を持った。

 

「今回は少々趣が違ってね。手紙と一緒にこれが届いていてね」

 

優しげな男が1枚のDVDを見せた。

 

「返事はこれを見てからでも遅くはないと思ってね。君も一緒にどうだい?」

 

厳つい男は数秒考え…。

 

「分かった。シャワーで汗を流したらお前の部屋に向かう」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

20分後、部屋に集まると、件のDVDをデッキに差し込み、中身を確認する。

 

 

 

 

 

――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

 

 

DVDを再生すると、大歓声が轟く。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

それと同時にスキール音が鳴り響く。DVDの中身はバスケの試合であった。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

1人の選手のダンクが炸裂する。

 

「…なかなかだな」

 

それを見て、厳つい男が感嘆の声を上げる。

 

「今のが青峰大輝。このチームのエースみたいだね」

 

優しげな男がDVDに同封されていた手紙を見ながら説明する。

 

「型破りなバスケスタイル。日本では珍しいストリートのバスケを取り入れているみたいだ」

 

「ふむ、確かに。『こっち』ではさほど珍しくはないが、まさか日本のバスケで見られるとはな」

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

高弾道のシュートがリングに掠ることなく潜る。

 

「今のが緑間真太郎。このチームのシューターだね。…ハハッ! あの距離、でたらめだな」

 

「偶然だと思いたいが、あの様子を見るに、決められる自信と確信があって打っているな」

 

「みたいだね。敵にまわしたら面倒だな。あの距離から撃つには全身の力が必要だろうから弾数に限りはあるだろうけど、常にボックス・ワンでマークする必要があるから並みのスタミナではもたない」

 

説明しながら笑みを浮かべる。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

再びダンクが炸裂する。

 

「この選手は黄瀬涼太。…ふむ、恐らくだけど、彼、バスケを始めてまだ間もないね」

 

「で、あろうな。ドリブル突破の際にハンドリング技術がまだ拙い。ボールを持っていない時の動きはまさにそれを感じさせる」

 

「けど、センスは感じられる。この1~2年でかなり伸びるだろうね」

 

2人は分析結果をそれぞれ口にしていく。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

再度、1番迫力のあるダンクが叩きこまれる。

 

「…ほう」

 

厳つい男が目を輝かせ、薄っすらと笑みを浮かべる。

 

「彼は紫原敦。君にとっては1番興味がそそられる選手だろうね」

 

「…このパワーと迫力。これほどのものを持っている選手は『こっち』でもそう多くはない」

 

「それだけじゃない。スピード、反射神経もかなりのものだ。この守備エリアの範囲は君と同等クラス。同ポジションとしては、当然、興味が沸くよね?」

 

「ああ。実際にマッチアップをしたら、どうなるか…」

 

厳つい男は、あまり表情には出さないが、内心では興奮を隠せないでいる。

 

「…で、最後が、キャプテンである、名前は赤司征十郎」

 

「…だが、この映像では実力は判断できんな。基本的にはパスを捌くばかりで、ドリブルもシュートも最低限しかしていない」

 

「ま、これだけの選手に囲まれていれば、無理をする必要はないだろうから、それで充分だろう。…とはいえ、この4人を率いているのだから、弱いわけがない。間違いなく他の4人と同等…もしかしたら、それ以上のものを持っている…かもね」

 

試合はこの5人の圧倒的な試合運びにより、どんどん点差が開いていく。

 

「彼らは、今、日本で『キセキの世代』と呼ばれている。これを見る限り、その言葉に偽りはないね」

 

「同感だ。…強くなるために早々に見限ってはいたが、それは訂正する必要がありそうだ。日本もまだ捨てたものじゃない」

 

「……それで、理事長への返事だけど…」

 

「無論、答えはもう決まっている」

 

厳つい男がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「了解。…じゃあ、理事長にはOKと返事を出しておくよ」

 

優しげな男もニヤリと笑みを浮かべる。

 

「この資料は去年の物。話しでは5人はそれぞれが別々の高校に進学したみたいだから、今年にキセキの世代同士に優劣が付く。となれば、彼らはさらに進化を遂げるということだ。…さて、今年もそうだろうけど、来年も面白くなるだろうね…」

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

暗い室内に、試合終了を告げるブザーが鳴り響く。

 

試合は、キセキの世代率いる帝光中が、圧倒的大差で試合を終えるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

星南中学校が全中大会を制してから幾ばくか過ぎたある日のこと。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地がフリースローラインからシュートを放ち、ボールがリングを潜る。

 

激闘が繰り広げられた夏休みが終わり、2学期が始まった。

 

現3年生は全中終了と同時にバスケ部を引退し、体育館に足を運ぶ機会も減った。

 

だが、空と大地だけは監督の龍川から練習メニューが出されており、高校進学までそれをこなすよう言われていた。

 

『来年、キセキの世代を倒したいんなら時間を無駄にするな。これでもやっとれ』

 

と、言われ、空と大地は毎日そのメニューを忠実に…または過剰にやっていた。

 

今日は、空が特別な用事があり、大地だけが学校近くのリングが設置してある公園でシュート練習をしていた。

 

シュートを決め、ボールを拾い、またシュート。それを繰り返していると…。

 

「おー、お待たせー」

 

公園の入り口から声が響く。大地は放とうしたボールを止め、そちらを振り返る。

 

「お疲れ様です。どうでしたか?」

 

大地がそう訪ねると、空はげんなりとした表情で首を横に振った。

 

「あー、ダメダメ。話になんねぇ」

 

「そういえば、今日のスカウトは何処からでしたか?」

 

空はつい先ほどまで学校に応接室にて、高校からのスカウトの話しを聞いていた。

 

全中優勝以降、実力も知名度も広まった空と大地の下に、高校の…それもバスケの強豪からのスカウトが全国から尋ねていた。2人は、連日、様々な高校からの話しを聞いている。

 

「えーっと、せーしんかんってとこ」

 

「せーしんかん……、ああ、東京都の泉真館ですね。あそこは東京都三大王者と呼ばれている高校で、今年もIHへと出場した高校だと聞いています。何が気に入らなかったのですか?」

 

「ふーん、そこって、そんな有名なんだ。…まあ、なんだ…」

 

空は1つ1つ説明していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

つい1時間程前、応接室に呼ばれ、足を運ぶと、そこには星南中学の学校長と40代程の男性が待っていた。彼は自分は泉真館の監督であり、スカウトに来た告げる。

 

挨拶もそこそこに話しが始まったのだが、空はものの数分でげんなりし始める。

 

泉真館は設備が充実し、実績もある高校であると、そこまではまだ良かった。だが、泉真館のバスケ部の伝統で――。

 

 

曰く、1年時は例外なく、基礎重視の練習が主となり、公式試合には一切出場できない。1年間、じっくり基礎をつくりあげてもらうとのこと。

 

曰く、典型的な体育会系世界であるため、先輩の言うことは基本的に絶対であること(これはかなりオブラートに包んで説明された)。

 

 

 

他にもいくつかあったが、空の中で著しく拒否反応を示したのがこの2つである。

 

実力で出れないというならともかく、たかだか伝統という理由だけで公式戦に出れないのは納得も我慢もできない。

 

空は、中学1、2年時、理不尽な縦社会が原因でバスケ部から離れている。よって、無駄に偉ぶる先輩の存在は煙たいだけである。

 

よって、空はまだまだ話を続ける泉真館監督の言葉を遮り…。

 

『悪いけど、話にならないので、お断りします』

 

空がバッサリ断ると、何が何でも空を獲得したい泉真館監督は焦りだし、必死に説得を試みだす。

 

『な、何が気に入らなかったのかな?』

 

『1年時に試合が出れないとかありえないでしょ? 試合出れないなら行く意味ないですし』

 

『それは伝統ある強豪校なら当然のことです。中学と高校は違う。安易に試合に出ても通用するとは限らない。ここで1年間基礎を積み上げた者だけが後の2年間の栄光を手に入れられるのですよ』

 

『そうとは思えないけど? 現に、キセキの世代は入学してからすぐにレギュラー取って試合に出てますけど? 赤司に至ってはキャプテンやってるみたいだし』

 

『あれは例外もいいところです。行き過ぎた知名度に惑わされた故の暴挙。彼らは後に後悔するはずです。念入りに基礎を積み上げてこなかったことを』

 

あくまでも食い下がる泉真館監督。早く話を切り上げたい空。不意に、空がふと疑問に思ったことを尋ねる。

 

『って言うかさぁ、東京の三大王者って、桐皇、秀徳、誠凛の3校じゃなかったっけ?』

 

これを聞いて泉真館監督は表情を曇らせ、激昂する。

 

『っ! もういいです。この話はなかったことに…!』

 

立ち上がると、足音荒く応接室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「とまあ、こんな感じ」

 

「…なるほど、怒って帰ってしまったと」

 

空の説明に、大地は苦笑いを浮かべる。

 

2人は話しながら1ON1を始める。

 

「あーあ、高校、何処行こうかなぁ…そういや、大地のところにもスカウト来てたよな?」

 

「ええ。私のところには、有名な高校ですと、秀徳高校と陽泉高校からお話が来てますね」

 

「俺のところには、今日のせーしんかん以外だと、海常高校と桐皇学園から来たな」

 

空と大地の下には全国区の強豪校から誘いがいくつもきている。

 

「けどまあ、そこに行く気はないけどな」

 

空がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ふふっ、そうですね」

 

同じく大地も笑みを浮かべる。

 

今挙げた高校には、言わずと知れたキセキの世代が在籍している。彼らを倒すことを目標としている2人からすれば、それらの高校はハナから選択肢から外している。

 

「正直、キセキの世代と戦えればどこでもいいんだけど、やる気のない弱小校に行って周りに足を引っ張られるのはなぁ…」

 

強力なチームメイトに頼りきりなるつもりはないが、レベルの低いチームメイトに足を引っ張られるのも困る。

 

「そうなると、私達の条件に沿いそうな高校となると…大仁多高校が妥当でしょうか」

 

「大仁多高校か…」

 

大仁多高校…、全国区のPG、小林圭介を有する栃木県最強の高校。昨年はインターハイをベスト4まで勝ち上がり、実績も実力もある高校である。

 

「条件は良いんだけど、ここ(静岡)からだと遠いんだよなぁ…」

 

越境入学が必要なことに空は難色を示す。

 

「家元を離れるのは辛いことですが、そこは仕方ありませんよ。近場の強豪校となると、今年のインターハイの静岡代表の1校である松葉高校ですが…」

 

「あそこは絶対にやだ」

 

静岡の強豪校、松葉高校。空がそこを嫌う理由は、上下関係が厳しい、典型的な強豪校だからだ。

 

「まだ時間はあるし、幸い、全中優勝とMVPと得点王の恩恵のおかげでスカウトはいっぱい来てるから、もう少し考えてみますか…隙あり!」

 

空がシュート体勢に入る。

 

「甘いですよ!」

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

不意を突いたシュートは大地に看破され、ブロックされる。

 

「うげっ!」

 

ボールは弾かれ後方に転がっていく。

 

「あ~あ」

 

空は転がっていったボールを拾いに行く。

 

「…?」

 

ボールが転がった先、1人の男が立っている。男はボールを拾いあげる。

 

「すいません~、ボールとって下さ……い…?」

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

男は薄い笑みを浮かべながらゆっくりボールを右手で突きはじめる。空いている左手の人差し指を…。

 

 

――クィクィ…。

 

 

と、まるでこのボールを奪ってみろと言わんばかりに動かす。

 

この日、この出会いが、キセキの世代の…キセキならざるキセキとその影の…そして、空と大地の運命を大きく動かすこととなる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

キセキの世代が高校に進学し、高校の勢力図が一変する。

 

彼らのその才能は、バスケを志す者に畏怖を与えた。

 

そして、この年の彼らの集大成とも言える冬のウィンターカップ。

 

この大会を制したのはキセキの世代のいずれでもなく、彼らが一目置いた影、幻の6人目(シックスマン)と、彼らと異なる道を歩んだキセキならざるキセキが所属する誠凛高校であった。

 

翌年、初の敗北を糧に、キセキの世代達は失った覇権をプライドを取り戻すべく、彼らを降した誠凛は得た王者の座を死守するべく、大会に臨んでいく。

 

だが、彼らの前に立ちふさがる新たなる挑戦者がやってくる。

 

最強の王者を破った次世代の挑戦者。

 

彼らがキセキの世代打倒に名乗りをあげる。

 

だが、それだけではなく、遠い異国の空より、最強にして最高の脅威がやってくる。

 

その脅威がキセキの世代とキセキならざるキセキ、次世代の挑戦者にもたらすものは…。

 

昨年を上回る、更なる激闘が、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 第2章 高校生編 開幕 ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




めちゃめちゃ大風呂敷を広げました(^_^;)

完全自由に書いていた前章と違い、今章はそういかないので、ちょっと不安と緊張が…。

…にしても熱い…。完全に夏バテ中です(T_T)

熱中症と脱水症状には十分気を付けて下さい(^o^)ノシ

それではまた!



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第24Q~異国の空からの天才~

 

 

 

転がっていったボールを追いかける空。ボールが1人の男の足元に転がっていく。

 

「(何だ、こいつ? 背は、俺よりデケェな、多分、190㎝くらいあるか?)」

 

ボールを拾ってくれた男を目の当たりにし、空はそんなことを考える。

 

男はボールを拾うと徐にボールを突きはじめ、薄っすらと笑みを浮かべながら空に対し、ボールを奪ってみろと言わんばかりに挑発を始める。

 

「…ムッ」

 

その行動が、空の勘に障る。

 

空は全中優勝校の司令塔。そして、MVPを獲得したプレイヤー。その実力には自信がある。

 

「(おもしれぇ。その舐めた態度、すぐに黙らせて――)」

 

「君の左から抜けるよ」

 

男が予告染みた言葉を挿む。

 

「えっ?」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

それと同時に男が予告どおり空の左側からドライブで切り抜けていく。そのあまりのスピードとキレに、空は棒立ちで抜かれる。

 

男はリングに向けてどんどん加速していく。一部始終見ていた大地も瞬時にディフェンス体勢に入る。

 

「クロスオーバーからのバックロールターン」

 

「っ!」

 

男が再び予告を入れると、右左とボールを突き、クロスオーバーで大地の左側を抜けようとする。

 

「…ぐっ!」

 

大地も何とかそれに反応し、追いすがっていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

男はそこからバックロールターンで大地の横に反転しながら逆に回り、大地をかわす。そして…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

そのまま跳躍し、リングに背を向けながら片手でボールをリングに叩き付ける。

 

「「…」」

 

男のスピードとキレの良さに2人は目を見開く。

 

ボールが地面に弾むと、男は着地する。転がったボールを拾うと、器用に人差し指で回し始める。

 

「君達、星南中の神城空、綾瀬大地だろ? どうだい? 暇なら、俺と少し遊ばないか?」

 

男が空と大地にそう告げる。

 

「…ああ、もちろん」

 

「お付き合いしていただけるのなら、こちらとしても幸いです」

 

男の提案に、2人は好都合とばかりに笑みを浮かべながら了承する。

 

「そうこなくっちゃ」

 

提案に応じてくれたことに、男は爽やかな笑みを浮かべる。

 

「そうだな…、とりあえず、オフェンスディフェンスそれぞれ5本勝負。そっちのオフェンスは1人1回ずつ。こっちがオフェンスの時は2人がかりでいいよ」

 

「「…っ!」」

 

向こうのオフェンス時は2対1。この、余裕とも取れる態度に、2人はカチンとくる。

 

「…舐めてるんですか?」

 

「今の君らならそれで充分だろうさ」

 

男は淡々と答える。

 

「…心外ですね。我々はこれでも――」

 

大地が喋り終えるよりも早く…。

 

「知ってる。全中王者のエースと司令塔だろ。そんな肩書きはプレーには関係ない。…御託はいいから1本でも決めるか止めてみな」

 

その言葉に2人に完全に火が付く。

 

「舐めやがって、その余裕、すぐに消してやるよ!」

 

「こうも侮られてはいい気分ではありませんね。…覚悟してください」

 

…こうして、戦いの火蓋は切って落とされた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

「「っ!?」」

 

男のワンハンドダンクが炸裂する。

 

大地を抜群のキレ味のレッグスルーでかわし、ボールを持ってジャンプ。ブロックに飛んできた空を空中でかわし、反転してボールをリングに叩き付けた。

 

突如、始まった勝負。だが、空も大地も、この男に手も足も出ず、オフェンス時はあっさりボールを奪われ、ディフェンス時は2人がかりにもかかわらずあっさり抜かれてしまう。

 

「く…そ…」

 

成す術もなくやられてしまう結果に、空の口から悔しさが漏れる。

 

既に、相手のオフェンスは1度も止めることが出来ず、全て決められてしまった。

 

「(くそっ! …この人、桁違いだ。前に見たインハイの時の青峰と黄瀬と同等…いや、それ以上だ…)」

 

始めにやられ、勝負が始まってからは一切の油断を捨て、全身全霊を持って勝負に臨んだ。だが、それでも手も足も出なかった。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

空がゆっくりボールを突き、様子を窺う。

 

「(俺の全速でこいつをちぎってやる。もっと…もっと早く…)」

 

空はスピードを意識し、腰を深く落とす。

 

「行くぞ!」

 

空が全身全霊、自身の最速をもってドライブで切り込む。

 

 

――ポン…。

 

 

「あっ!?」

 

だが、切り込む寸前、空の手元にあったボールは弾かれてしまう。

 

振り返る空。

 

「スピードを意識し過ぎるあまり、手元がお留守だよ」

 

男はボールを人差し指で器用に回しながら告げる。

 

「…」

 

空は言葉を失う。全中大会、帝光中ですらまともに止められなかった自身のドライブがいとも簡単に止められてからだ。

 

「次は私です」

 

大地が男からボールを受け取る。

 

「(悔しいですが、現状の私ではまともやり方では敵わない。相手の虚を突かない限りは何度やっても結果は同じ…)」

 

大地は男をキッと睨み付け、構える。

 

「(フェイクを1つ入れましょう。空も私も、この勝負ではまだ1つも入れていません。今なら虚を突けるはず…!)」

 

大地をフェイクを1つ入れ、そこからのドライブで抜けようとする。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

フェイクを入れ、ボールを下げた瞬間はたかれ、ボールを奪われる。

 

「フェイクをかけるのはいいが、手元のボールを疎かにするなよ」

 

男はフェイクにかからず、大地がシュートフェイクを入れた瞬間の一瞬の隙を突いてボールを奪った。

 

「…」

 

大地は動揺を隠せず、茫然とする。

 

「じゃ、今度は俺の最後のオフェンスな」

 

「「っ!」」

 

空と大地はディフェンスに回る。

 

「「…」」

 

2人は腰を落とし、今日の最大の集中力、最高警戒モードで備える。

 

「…」

 

男はゆっくりボールを突き、機会を窺う。

 

「(…ふふっ、若いな)」

 

男は心中でそう呟く。男は突いていたボールを両手で掴み…。

 

 

――スッ…。

 

 

「えっ?」

 

「うそっ!?」

 

地面に足を付けたままシュートを放った。

 

この、予想外の選択に、空と大地は一切反応出来ず、ただただボールを見送る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに一切触れることなくリングの中央を通過する。

 

「ふふっ、毎回ドリブルで仕掛けるとは限らないよ? さあ、君達の最後のオフェンスだ」

 

微笑みながら空にボールを渡し、ディフェンスに回る。

 

「ちっくしょう! 最後の1本、ぜってぇ決めてやる!」

 

結局、1度も止めることが出来なかった相手のオフェンス。せめて、最後のこちらのオフェンス、1本でも決めると気合を入れなおす空。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールを突きながらチャンスを窺う空。

 

「(まともな攻め方じゃこの人は抜けない。…だったら、これしかねぇ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が一気に切り込む。

 

「むっ?」

 

空が切り込んだと同時に足を滑らせ、男に背中から倒れ込む。それに唸り声をあげる男。

 

「(かかった!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「おっ!」

 

スリッピンスライドフロムチェンジ。ディフェンスに背中を向けて倒れ込んだかのように見せかけてボールを切り返しながら起き上がって抜き去るストリートで使われるドリブル。

 

全中の決勝で空が1度だけ見せたドリブルで仕掛ける。

 

これには男も意表を付かれたのか、空に抜き去られる。

 

「よっしゃぁ!」

 

抜き去ったのと同時に空は跳躍する。

 

「くらえ!」

 

空がボールを片手に持ち替え、ダンクの体勢に入る。ボールをリングに叩きこもうとしたその時!

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

手に納まったボールは後方から弾かれてしまう。

 

「ふぅ、今のは危なかった…」

 

男はフゥと一息吐き、着地する。

 

「マジかよ…、俺のとっておきを初見で…」

 

切り札を初見で破られた空はその場で立ちつくし、茫然とする。

 

「それじゃ、最後、君の番ね」

 

ボールは大地に渡される。

 

「(せめて1本決めなければ…、空のためにもせめて一矢だけでも…!)」

 

空の雪辱を果たす意味でも、何としてもこの1本はと、気合を入れる大地。

 

大地の最後のオフェンスが始まる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりドリブルを開始し、切り込むタイミングを窺う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地は一気に加速し、ドライブで切り込む。

 

当然、男は難なく付いていく。

 

「(ここです!)」

 

大地は切り込むのと同時に高速でバックステップ。

 

「っ!?」

 

これには男も驚きの表情を浮かべる。

 

大地はバックステップと同時にボールを掴み、シュート体勢に入る。

 

「(これで!)」

 

大地の指からボールが離れる。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールが放たれるのと同時に男に弾かれてしまう。

 

「…とんでもないな、今の」

 

先程と同じくフゥッと一息吐いて着地する。

 

「これですら、ダメなのですか…」

 

切り札が通じなかったことに大地は茫然とする。

 

「おいおい、嘘だろ…」

 

空も冷や汗を流す。

 

結局、オフェンスが互いに1本も決められることが出来ず、ディフェンスは2人ががりで1本も止めることが出来なかった。

 

「もう1回! もう1回頼むよ!」

 

空が泣きの1回を要求する。

 

「あーダメダメ。今日はもう終わり。それより、少し俺と話をしないか? 神城君、綾瀬君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「はい、俺の奢りだ」

 

男は傍の自販機で買ってきたスポーツドリンクを空に、大地にお茶を手渡した。

 

「どうも」

 

「ありがとうございます」

 

2人は礼を言い、受け取る。

 

「えーと…」

 

「ああ、俺は三杉誠也だよ」

 

「三杉さん、すげぇ上手いですね。見たところ、俺より年上みたいだけど、高校生? …いや、違うか、大学生ですか?」

 

「いや、高校生だよ。今年2年のね」

 

男は同じく自販機で買ってきた水を口にする。

 

「…ですが、それほど実力を有しているならもっと名が知れていてもおかしくはないはずですが…」

 

大地の疑問に三杉と名乗った男は…。

 

「ああ、先月まで数年間アメリカにいたからね。日本で俺を知る奴はほとんどいないだろうね」

 

「へぇー、アメリカ…アメリカ!?」

 

その回答に、空は驚愕する。

 

バスケの本場とも言えるアメリカ。そこでバスケをしていたことに2人は驚愕する。

 

「本場仕込みの…だからあれだけの実力を…」

 

「まあ、俺のことより…、君達、雑誌で知ったんだけど、来年、キセキの世代と戦うつもりなんだろ?」

 

三杉は話題を変え、唐突にそう切り出す。

 

「よく知ってますね」

 

「ええ、そのつもりです」

 

空と大地はそう答える。

 

「結論から言うと、君達はキセキの世代には遠く及ばない。来年、仮に戦うことになったとしても、君達は惨敗するよ」

 

「「っ!?」」

 

三杉のその言葉に、2人は不機嫌な様相になる。

 

「彼らの資質、実力共に一級品だ。『キセキ』という名に偽りはない。はっきり言って、今の君達とは次元が違う」

 

淡々と告げていく三杉。

 

「今すぐ敵わなくても、いつか必ず――」

 

「無理だろうね」

 

三杉は空の言葉を遮りながら言葉を挟む。

 

「君達は未完の大器だ。これからまだまだ伸びる。けど、それはキセキの世代も同じことだ。彼らもまた、これからどんどん伸びていくだろう」

 

「「…」」

 

「君達が成長する間、彼らもまた成長する。その差は埋まることはない。来年、彼らの敵になったとしても、結局、差は埋まることなく、彼らは卒業していくだろう」

 

三杉の口から語られる衝撃の言葉。

 

「だったら…だったら何だと言うのです? 彼らを倒すのを諦めろと?」

 

大地は少々語気を荒げながら三杉に問う。

 

「強大だからこそ面白いんじゃないですか。強敵と戦ってそれに勝つ。それが面白いからバスケをやってんですよ」

 

空は笑みを浮かべながら三杉に自身の意思を告げる。

 

三杉は2人の固い決意を聞き…。

 

「…フフフッ、ハハハハハッ! やっぱり、君達は面白い。俺の思ったとおりだ」

 

三杉は2人の意思を聞いて笑みを浮かべる。

 

「やっぱ、バスケやってて面白いのは、自分より強い奴を戦って勝った時に他ならないよな」

 

「「?」」

 

三杉は満足げに笑い声を上げる。そんな三杉を見てクエスチョンマークを浮かべる空と大地。そして、三杉は立ち上がり、少し歩くと、空と大地の方に振り返る。

 

「さてと、実はここからが本題だ。今日、俺が君達に会いに来た理由は、2人を誘いに来たんだ」

 

「「誘いに?」」

 

「神城空、綾瀬大地。君達2人を、花月高校にスカウトしたい」

 

三杉は真剣な表情で2人に問いかける。

 

そして、三杉は自身の事と、2人を誘う経緯を話しはじめる。

 

「俺は花月高校付属中学に入学した。そこは、決してバスケが強い中学でないんだが、そこには海外への留学制度がある。アメリカの姉妹校へのな」

 

三杉はボールを拾い、指で回しはじめる。

 

「帝光中に行って、抜群の環境でバスケをする選択肢や、あるいは、君達のように帝光中を倒す道もあったが、俺にはそれを選ぶ選択肢はなかった。何せ、当時の帝光中はレベルが低すぎたからな」

 

当時の帝光中も決して低レベルではなかったが、つい先ほど三杉の実力を知った2人からすると納得できるものだった。

 

「キセキの世代がもう1年早く上がって来ていれば話は変わったんだろうが、当時の俺は、自分をより高見に昇るため、もっと強い相手戦う為、俺はアメリカに留学した。そこで先月まで過ごしていたんだが、花月高校の理事長から帰国の要請があってね。最初は断っていたんだが、同封されていたキセキの世代の試合映像を見て気が変わった。キセキの世代と戦ってみたくなった」

 

「「…」」

 

「同じ日本人で、俺と同等の資質を持ち、俺と互角に戦える可能性がある5人の逸材。それを知っちまったら、戦わずにはいられない。…どうだ? 俺と一緒に、キセキの世代と戦ってみないか?」

 

三杉は2人に問いかける。

 

「…あんたと一緒なら、キセキの世代にも勝てるんだろうけど、それじゃ、意味がないんですよ」

 

「ええ。私達は、私達の手でキセキの世代を倒したいのですよ。あなたの助力で倒したのでは意味がありません」

 

2人の力でキセキの世代を倒したい空と大地は、この提案を受けることが出来ない。

 

「そこで、さっきの話に戻るんだが、君達はまだ、キセキの世代には遠く及ばない。だが、花月高校に来てくれるのなら、俺が君達を、キセキの世代と互角に戦えるところまで連れていってやる」

 

「「…」」

 

「それに、俺が日本に滞在するのは、来年のインハイまでだ。それが終われば、またアメリカだ。キセキの世代と戦いたいのなら、その後に好きなだけ戦えばいい」

 

三杉は回していたボールを2人の足元に放る。

 

「明日、またここに来る。その時に答えを聞かせてくれ」

 

三杉は後ろ手に手を振り、公園を去っていった。

 

そして、公園に、空と大地だけが残されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「「…」」

 

一連の話しを聞いて、思案に耽る2人。

 

「大地、花月高校って、知ってる?」

 

「…知識程度ですが、同じ、静岡県にある、中高一貫の高校です。海外への留学制度があり、基本的には中学からのエレベーター式に高校に上がるのですが、外部からも募集をかけています」

 

「へぇー」

 

「バスケの強さは静岡県で中堅クラスですが、そこのバスケ部はあることで全国的にも有名でもあります」

 

「あること?」

 

「そこの練習量は全国でも右に出る高校がないほどに厳しいらしく、毎年、入部しても1年後には数人、酷い時には全滅する年もあるらしいのです」

 

「…そんなにすげーんだ」

 

空は頭の後ろで手を組んで空を見つめる。

 

「とまあ、私の知ってる限りのことはこの程度です」

 

「説明サンキュー」

 

礼を言うと、2人は再び沈黙をし、思案に耽る。10分程、押し黙っていると…。

 

「…いろいろあり過ぎて、考え纏まらねぇわ。家に帰ってゆっくり考えることにするよ」

 

「…そうですね。一度、頭を冷やした方が良さそうですね」

 

2人は立ち上がり、公園の外に出ると、軽く挨拶を交わしてそれぞれ帰宅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

公園から出た三杉。

 

「…何だ、健じゃないか? 近くまで来ていたのなら一緒に来れば良かったのに」

 

目の前に現れた身長2メートルを超える厳つい顔の男、堀田健に穏やかな笑みで話しかけた。

 

「…たまたま近くに来たから寄ったまでだ…それより、何故あの2人をうち(花月高校)に誘った?」

 

「…君も全中の決勝を見ていたのなら分かっているだろう? あの2人もまた、俺達やキセキの世代と肩を並べる程の資質の持ち主であると」

 

「それは俺も理解している」

 

「あの2人、良く似ている。昔の俺達と…アメリカに挑戦したばかりの俺達に…。だからこそ、危うい」

 

「危うい?」

 

「あのまま2人を放っておけば、来年、肉体的にか、あるいは精神的に潰れてしまうだろう。だから、彼らには正しく導いてやる必要がある」

 

「それをお前がすると?」

 

「そう出来るかどうか確証はないけど、俺は、彼らを導き、道を示してあげたい。その才能をいかんなく伸ばす手助けをしてあげたい。アメリカが俺達にそうしてくれたように」

 

堀田健は暫し黙って話を聞き、フッと笑みをこぼす。

 

「お前は相変わらずだな。…だが、あいつらが来てくれる保証はまだないぞ?」

 

堀田がそれを言うと、三杉は困った表情を浮かべる。

 

「そうなんだよな~。振られたらどうしよう。女の子には振られたことないんだけどな~」

 

「…嫌味か。今日はもう用事は済んだのだろう? だったら帰るぞ」

 

「了解。…明日が楽しみだ」

 

2人は駅に向かって歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

異国の空からの天才と次世代の挑戦者が邂逅する。

 

この出会いがいったい何をもたらすのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





一応、今回登場した2人の簡単なプロフィールを…。


三杉誠也(みすぎ せいや)

身長   :190㎝

体重   : 88キロ

ポジション:PG SG SF PF(要はセンター以外)

アメリカ帰りの選手。オールラウンダーで、プレイスタイルは後程…ただ、キセキの世代同様、デタラメな選手です。

見た目や顔のイメージはテニスの王子様の幸村精市。


堀田健(ほった たけし)

身長   :204㎝

体重   :110キロ

ポジション:C PF

同じく、アメリカ帰りの選手。同じくプレイスタイルは後程…。とりあえず、圧倒的パワーと身体能力を生かした選手ですとだけ…。

見た目の顔やのイメージはスラムダンクの赤木剛憲。


そういえば、肝心な空と大地のイメージをまだ説明してなかった…Orz

いずれ、投稿します。

それではまた!





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第25Q~進むべく道~

 

 

 

「…」

 

日が沈み、外はすっかり夜となっている。薄暗い部屋の中、空は1人そこにいた。

 

 

 

――おぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

空が眺めるテレビから大きな歓声が上がる。

 

そこには、バスケの試合が流れている。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールがリングを潜り、得点が加算される。

 

攻守が入れ替わると、先程行われたプレーをそっくりそのまま再現し、得点を返す。

 

次はミドルレンジからシュートを仕掛ける。だが、ブロックをかわすために背中を極限まで後ろにのけ反らせた体勢でシュートを放ち、得点を決める。

 

対して、攻守が変わり、相手はそっくりそのままやり返す。

 

試合は激しく攻守が入れ替わり、エース同士が激しい1ON1を繰り広げている。

 

 

 

――桐皇学園対海常高校。

 

 

 

試合は第4Qに突入し、両チームのエース、青峰大輝と黄瀬涼太が互いに入れ替わりに得点を奪い合う激しい試合展開となっている。

 

「…やっぱ、この2人はすげーなぁ」

 

食い入るように映像を眺める空。

 

今年のインターハイで行われた桐皇学園対海常高校の試合。全中終了後、空はこの試合映像を何度も見ている。

 

キセキの世代同士の対決。両者のハイレベルすぎるプレーに、他の8人は割って入ることが出来ず、互いのフロントコートの往復ダッシュを繰り返している。

 

空はリモコンで一時停止ボタンを押し、目を瞑る。

 

頭の中でイメージを浮かべる。自身がこの両者と戦うイメージ。

 

「………ハァ」

 

結果は惨敗。あっさり抜かれ、敗北。

 

家で暇があったら何度か行っているイメージトレーニング。空はイメージの中ですら1度も勝てたことがない。

 

「…」

 

来年、高校に進学したら彼らと戦うことになる。空は、現時点の力の差を激しく痛感する。

 

今日、公園にやってきた三杉誠也に惨敗した。それも、2人がかりで。

 

「…けど、キセキの世代の連中なら、互角に戦えるんだろうなぁ」

 

三杉は確実にキセキの世代と同格の選手。

 

『君達はキセキの世代には遠く及ばない。来年、仮に戦うことになったとしても、君達は惨敗するよ』

 

三杉に告げられたこの言葉。

 

空はこれに反論したが、改めてキセキの世代の試合を目の当たりにすると、それが事実であると痛感させられる。

 

正直、空には、どうすればこのレベルにまで上り詰められるのか、見当が付かなかった。

 

唯一分かるのは…。

 

「がむしゃらに練習するだけじゃ、無理だろうなぁ…」

 

ここにきて、空は方向を見失う。

 

全中を制し、新たな…いや、本来の目標を目指す空。

 

だが、目標はとても高く、そして険しい。

 

「どうすっかなぁ…」

 

行き先を見失い、迷う空。

 

『花月高校に来てくれるのなら、俺が君達を、キセキの世代と互角に戦えるところまで連れていってやる』

 

三杉が空と大地に道を示してくれた。

 

「あの人の下に行ったら…」

 

空はベッドに寝転び、思案に暮れる。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

テレビから試合終了のブザーが鳴り響く。

 

試合は、青峰大輝がダンクを決め、桐皇学園の勝利で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

外はすっかり日が暮れ、暗くなった室内…。

 

 

――シャカシャカ……。

 

 

大地が茶筅でお茶を点てている。

 

お茶を点てながら今日あった事を思い返す。

 

三杉誠也との出会い、そして敗北…。

 

「…」

 

驕ったことなど1度もない。

 

身近には空という、頼りになる相棒であり、尊敬している選手がいるし、1つ上にはキセキの世代という、10年に1人の天才がいる。

 

上には上がいると、自覚し、精進は欠かさなかった。

 

だが、今日、三杉誠也という、天才に出会い、自分の認識がまだまだ甘かったことを再認識した。

 

「…」

 

大地は手を止め、茶筅を置くと、茶碗を手に取る。

 

「…私が…いや、私達が目指すところは、あまりにも高い…」

 

大地がポツリと呟くように口にする。

 

掲げた目標に対して、どう挑めばいいのか、どのように歩みを進めればいいか、大地にはそれが見えない。ただ、1つ分かっているのは…。

 

「あの方、三杉さんの師事を受けることが出来れば、私は今より上の高みに登ることが出来るのでしょうね」

 

大地は点てたお茶を一口啜る。

 

「…やれやれ、今日のお茶は、一段とまた苦い…」

 

それはまるで、今の大地の胸中を示しているかのようだった。

 

大地が傍の襖をそっと開ける。そこには、大きな満月が輝いていた。

 

「…」

 

大地はそっと満天に輝く満月に手を伸ばす。手を伸ばせば届きそうにも感じられる程の大きな満月。だが、当然ながら、その手に満月が納まることはない。

 

「…フッ」

 

大地は皮肉気に笑みを浮かべる。

 

近くに満天輝いているのに届かない。それはまるで今の自分のようだと。

 

そんな大地を、満天の月がだけが、照らし、見つめていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

放課後となり、昨日の公園に空はやってくる。公園にはまだ誰の姿もない。

 

「…」

 

空はバッグからボールを取り出すと、ドリブルを始める。

 

ゆっくりフリースローライン程の距離に進むと…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

シュートを放ち、ボールをリングに潜らせる。

 

ボールを拾っては放ち、拾っては放ちを繰り返していると…。

 

「お待たせしました」

 

そこへ遅れて大地がやってくる。

 

「よう」

 

空はボールを大地に放り、大地がそれを受け取る。

 

「1ON1やろうぜ」

 

空が誘いをかける。

 

「…ええ、やりましょう」

 

大地は了承し、上着を脱ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

1ON1を始める両者。どちらも一進一退、互角の勝負を繰り広げる。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

空のブロックショットが炸裂する。

 

「甘いな」

 

大地の攻撃を防ぎ、ドヤ顔を浮かべる空。

 

続き、空のオフェンス。空は左右に揺さぶりをかけ、緩急を付けながら攻撃を組み立てていく。

 

得意のパターンであるクロス・オーバーからのバックロールターンで仕掛け、シュート体勢に入る。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

だが、それを読んだ大地にブロックされる。

 

「読めていますよ」

 

大地はニコッと笑顔を浮かべる。

 

数本に亘ってオフェンス、ディフェンスを入れ替え、1ON1を行う2人。すでに3本程入れ替わって1ON1をするが、どちらも1本も決まらない。それは、両者の実力が拮抗しているという理由以上に…。

 

「…ったく、プレーに精彩が欠けるな」

 

「…お互いに、ですね」

 

2人は苦笑いをした。

 

「「…」」

 

両者共に無言になる。1分程黙っていると空が口を開いた。

 

「去年、キセキの世代の生で見て、そこで掲げた誓い。キセキの世代を倒すという目標。それは今でも変わらない。…けどさ、俺さあ、あいつらを倒すという目標と同等…いや、それ以上に……俺は、もっと…もっと強くなりたい…!」

 

空は拳をギュッと握り、歯を食い縛りながら告げる。

 

「情けねぇ話さ、今の俺達じゃ、あいつらには歯が立たない。2対1でも。…あいつらに追いつくためには、どうすりゃいいのか…、それすらも見えない」

 

「…」

 

「…けど、その答えは、あの人が…三杉さんが知っているような気がする。これは、誓いに背くことなのかもしれないけど。…それでも! …俺は…俺は…!」

 

空が顔を上げる。

 

「もっと強くなるために、三杉さんの下で学びたい。あの人から学べるものを全て学びたい! だから俺は、花月高校に行く。俺自身がもっと強くなるために」

 

空のその瞳には、堅い決意が感じられる。もっと強く、もっと高みに…それを思わせる強き決意。

 

「…」

 

大地はその決意を静かに受け止める。

 

「…私とあなたは違う。性格も、考え方も…」

 

「…」

 

「翌年、三杉さんの下でキセキの世代を倒したとしても、私は納得できない。虎の威を借る狐。もっとも醜く、嫌いなものです。私のプライドはきっとそれを許さない」

 

大地がそっと目を瞑る。

 

「ですが、つまらないプライドです。所詮は、矮小な自分には不相応なプライド。そんなもの、持つことに意味はありません」

 

大地は瞳を開け、空を見据える。

 

「ふふっ、私と空。様々違う点が見受けられるのに、こと、バスケとなると、どうしてこうも合ってしまうのか、もはやこれは絆なのか、はたまた、縁なのか…」

 

「なら、答えは…」

 

「抜け駆けは許しませんよ? 私も、あの方の下で師事を仰ぎたい。もっと、自身を高めたいです」

 

大地はニコリと笑みを浮かべた。

 

「決まりだ。なら、俺達の進むべく道は花月高校だ。そこで俺達は力を付けて――」

 

「ええ。あの時の誓いを果たしましょう」

 

空と大地は拳を突出し、コツンとぶつけた。

 

「お待たせ、昨日の返事を聞きに来たよ」

 

ふと、公園の入り口に、三杉誠也の姿があった。

 

空と大地は、姿勢を正し、三杉の方へ振り返り…。

 

「「よろしくお願いします、『先輩』」」

 

2人は頭を下げた。

 

三杉はニヤリと笑みを浮かべ…。

 

「よろしく、『後輩』達」

 

そんな言葉をかけた。

 

「話しは決まったようだな」

 

そこへ、長身の険しい顔つきの男がやってくる。

 

「「っ!?」」

 

その男を見て、空と大地は身震いする。

 

「(でけぇ…いや、それだけじゃねぇ、この人からも、三杉さんと同じ種類の匂いがする…!)」

 

「(気圧される…! この人が纏うものは、それほどに…!)」

 

圧倒される2人。

 

「ああ。やっと来たね。そこで威圧してないで、君も自己紹介しようか」

 

「堀田健だ。来年、お前達と僅かながら共にすることになる。よろしく頼む。…あと、俺は威圧などしていない」

 

ジト目で堀田は三杉を見る。

 

「悪い悪い。…とりあえず、理事長にはすでに話を通してある。明日にでも花月高校に来てほしい」

 

「…手回しが速いですね。…ていうか、俺らがこの話を断ることは考えてなかったんですか?」

 

素朴な疑問をぶつける空。

 

「受けてくれると思ったからね。…さて、来年が楽しみだ」

 

三杉がにこやかに囁く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

空と大地は、花月高校への入学を決意する。

 

その選択を、彼ら獲得を熱望していた全国の強豪校が疑問の声を上げた。

 

この年のウィンターカップは、他の予想を覆す結果となり、ファンを熱狂させた。

 

…そして月日が経ち、2人は高校生となった。

 

新たな物語が…今…始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第26Q~それぞれの新体制~


遅くなりました(^_^;)

一気に時間が飛びます。

それではどうぞ!

~追記~

今吉誠二の設定を変更しました。



 

 

 

季節は春…。

 

ところかしこに桜が咲き乱れ、今が春であることを告げている。

 

「ふぁぁぁっ」

 

空が1人、机から欠伸をしながら大きく伸びをする。

 

入学式が終わり、教室に行くと、担任の先生の自己紹介。それから1年間同じクラスとなるクラスメイトの自己紹介。後は担任の先生からの連絡事項があった(その途中、空は爆睡)。

 

「さてと…」

 

空は席から立ち上がり、荷物を持つと、教室を後にする。

 

ホームルームが終わると、次に始まるのは…。

 

「サッカーやらない!?」

 

「是非、我が文芸部へ!」

 

「野球部へ! 目指せ甲子園!」

 

「水泳ちょー気持ちいい!」

 

新入生を対象に、部活動の勧誘が始まる。

 

窓からその様子を眺めながら目的地へと向かっていく。その途中…。

 

「空」

 

「ん?」

 

呼ばれ、振り返ると、そこには大地の姿が。

 

「奇遇ですね。向かう場所は同じですし、一緒に行きましょう」

 

空の横に並び、一緒に歩きはじめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

空と大地は本人達の希望どおり、花月高校に進学した。

 

推薦の話しも、進学を決めた翌日に花月高校に向かい、そこで理事長に会った。理事長は妙齢の美女であり、2人同時に面接を受けたのだが、話もそこそこに…。

 

『合格とします。必要事項と詳しい入学手続きについては後日、書類一式を発送致します。それでは、春にお会いしましょう』

 

と、にこやかに告げ、終わった。

 

あまりの事に拍子抜けし、空と大地は思わず顔を見合わせたが、理事長はにこやかに微笑むだけであった。

 

2人の進学先が決まり、それからは高校に向けて、中学時代のバスケ部顧問の龍川に課せられた練習メニューをこなしながら過ごした。

 

そして、2人は花月高校に入学した。

 

2人は今、バスケ部のブースに向かっている。2人の手には入部届。

 

バスケ部への入部を果たすために2人は向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「しかし、まさかこの高校にお前がいるとはな」

 

「僕も、君の姿を見かけた時は目を疑ったよ」

 

2人の新入生同士が肩を並べながら歩き、話をしている。

 

「随分と思い切った選択をしたな、生嶋」

 

「その言葉、熨斗を付けて君に返そうかな、松永君」

 

 

――照栄中、松永透…。

 

――城ケ崎中、生嶋奏…。

 

 

入学式が終了し、教室に向かうと、そこで両者は出会った。

 

『っ!? お前…生嶋か?』

 

『えっ!? 松永君!?』

 

2人同時に目を見開きながら驚愕した。

 

「何故ここに来たんだ? 花月のバスケ部は県でも精々中堅校。お前なら、全国区の強豪校からも声が掛かったんじゃないのか?」

 

「…うん、いくつか声を掛けてもらったよ。でも…自分自身がもっと強くなるためには、並みの強豪校では足りない。だから、練習が全国一厳しいここに来たんだ。…君はどうして?」

 

「ま、概ね、お前と同じだ。…後、気になる噂もあってな」

 

「気になる噂?」

 

「ああ、この高校に、実力者が加入するという噂を聞いてな。もし、それが本当なら、そいつと力を合わせて、戦いたいと思ったまでだ」

 

「へぇー、それは楽しみだ」

 

生嶋はそれを聞いてニコリと笑みを浮かべる。

 

「バスケ部のブースはっと…、あそこだ」

 

ブースを発見し、人ごみを掻き分けながらそこへ向かっていく。

 

「すんません~、バスケ部希望でーす」

 

「バスケ部の入部届を持ってきました、よろしくお願いします」

 

「入部希望です」

 

「入部届です。受理をお願いします」

 

4人の声が重なり、入部届が一斉に出される。

 

「ん?」

 

「えっ?」

 

「あっ…」

 

「おいおい…」

 

4人が顔を合わせる。

 

『えぇぇぇぇーーーっ!!!』

 

4人の声が辺りに響き渡る。

 

「生嶋! それとお前は確か照栄中の…」

 

空が指を指しながら驚く。

 

「神城君、…それに綾瀬君も…」

 

生嶋も同じく指を指しながら驚愕する。

 

「これには驚きましたね…」

 

大地は苦笑いをしながら一息吐く。

 

「松永だ。まさかこんな偶然がな…」

 

4人共、思わぬ偶然に皆驚愕する。

 

4人は去年の全中大会のベスト5に選出された4人であり、生嶋奏に至っては空と大地と対戦し、2人を最後まで苦しめた。

 

松永も、帝光中を苦しめた実績がある。

 

「これはすげぇことになったな。…なあ、この後暇か? 帰りに何処か寄って――」

 

「あー君達、ちょっと待って」

 

空が4人を誘おうとすると、ブースの生徒が呼び止めた。

 

「バスケ部希望なら、そのまま体育館に向かってくれ。新入生も今日から活動を開始するからな」

 

「…確か、部活動は明日からなのでは?」

 

大地が質問をかける。

 

「他の部活はな。けど、バスケ部だけは違うんだ。…この入部届が受理されるかどうか、そこで決まる」

 

ブースの生徒はニヤリと笑みを浮かべる。

 

『?』

 

そんな言葉に、4人は顔を見合わせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「星南中出身、神城空です。ポジションはPGです。よろしくお願いします!」

 

「同じく星南中学校出身、綾瀬大地です。ポジションはSFです。よろしくお願いします」

 

「城ケ崎中出身、生嶋奏です。ポジションはSGです。よろしくお願いします」

 

「照栄中出身、松永透です。ポジションはF、Cやれます。よろしくお願いします」

 

 

――ざわっ…ざわっ…。

 

 

体育館に向かうと、入部希望者の新入生が集まり、それと同じくして、上級生、現2年生と3年生が集まった。

 

入部の希望の新入生は総勢、経験者、素人合わせて21名と多い。これはバスケ人気が高まり始めたことに加え、キセキの世代の誕生が人気に拍車をかけたことが主な理由である。

 

集合し終えると、上級生達の挨拶と説明が入り、次に新入生の簡単な挨拶が始まった。挨拶が始まると、上級生達と、一部の新入生がざわつき始める。

 

「あいつらって、去年の全中のベスト5の内の4人じゃ…」

 

「神城と綾瀬って、MVPと得点王じゃねぇかよ」

 

「おいおい、今年の1年生(ルーキー)はどうなってんだよ…」

 

各々、4人の挨拶が終わるとひそひそと囁きながら驚く。

 

県で中堅レベルの花月高校にこれだけの有力選手が集まることは奇跡とも呼べる事例だ。

 

「しかし…」

 

「ん?」

 

「実力者が加入するという噂は本当だったようだな。まさか、お前達がいるとはな」

 

松永が横に並ぶ空に話しかける。

 

「ふーん、そんな噂があったんだ」

 

「司令塔のお前、スコアラーの綾瀬、シューターの生嶋、それと俺。キセキを倒して奇跡を起こすには充分な役者だ」

 

「ハハッ、確かにな。…けど、その噂を信用するなら、実力者ってのは、俺達のことじゃないぜ」

 

「えっ?」

 

「すぐに分かる。一目見りゃ嫌でもな」

 

空が冷や汗を流しながら前を見据える。

 

やがて、新入生の挨拶が終わる。

 

「さて…、新入生の挨拶も終わっちまったし、後は監督とあの2人待ち…おっ、来た来た」

 

挨拶を取り仕切っていた上級生、馬場高志が体育館の入り口に視線を向ける。そこには、甚平のような物を着た40歳ほどの男性。その後ろには三杉と堀田の姿が。

 

「馬場、挨拶はもう済んだのか?」

 

「はい。今、ちょうど終わりました、監督」

 

監督と呼ばれた男性がゆっくりと部員達の下に歩み寄っていく

 

「新入生諸君、遅れてすまない。俺は三杉誠也。一応、試合ではキャプテンを任されている。よろしく」

 

「遅れてすまない。俺は堀田健だ。よろしく頼む」

 

三杉と堀田が軽く挨拶をする。

 

「「っ!?」」

 

目の前で目の当たりにした生嶋と松永が2人の放つオーラに圧倒される。

 

「こ、この刺すような感覚は…」

 

「かつて対戦したキセキの世代を遥かに凌駕している…!」

 

「だろ? ちなみに、俺と大地は1度やり合ったが、2対1でも手も足も出なかった」

 

「っ! 君達2人がかりで…でも、実際この目で見てしまうと、それも嘘ではないことがよく分かる」

 

生嶋が冷や汗を流しながら囁くように言う。

 

「あの2人はこの花月高校の姉妹校である、アメリカの学校からやってきました。夏のインターハイまで滞在してくれる予定です。…学ぶことがあるなら、早めに尋ねる方が懸命ですよ」

 

「そうか…、なら、是が非でも勉強させてもらわなければな」

 

松永は冷や汗を流しながらニヤリと笑みを浮かべた。

 

「馬場! 入部届持ってこい!」

 

呼ばれた上級生の馬場は小走りで入部届を持っていく。受け取った監督は…。

 

 

 

――ビリリッ!!!

 

 

 

『っ!?』

 

入部届を破り捨てた。それを目の当たりにした新入生達は驚愕する。

 

「俺がここの監督やってる上杉剛三だ。この場でお前達の入部届は受け取らん」

 

監督、上杉はそう言い放つ。

 

「…それはつまり、私達新入生が入部するためには、何らかの試験を通過しなければならないということですか?」

 

大地が上杉に質問を投げかける。それを聞いた上杉はフッと笑みを浮かべる。

 

「心配すんな。試験なんてもんはねぇ。1週間後にもう1回持ってこい。その時に改めて問題なく受理してやる」

 

それを聞いて新入生達はホッと胸を撫で下ろす。

 

「話しは以上だ! 準備運動をした後にいつものメニューを始めろ。新入生は上級生の指示に従え」

 

「監督、『いつもの』でいいんですか?」

 

「2度も言わすな、『いつもの』だ」

 

「分かりました。…新入生は集まれ! 準備運動を始めるぞ!」

 

上級生、新入生は体育館の真ん中へと向かっていく。

 

そこで、新入生達は、上杉がこの場で入部届を受け取らなかった真の意味を理解する。

 

そして、練習量全国一の洗礼を受けることとなる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方、他の高校でも新体制が始まる。

 

 

――海常高校……。

 

 

「城ケ崎中学から来ました、小牧拓馬です! ポジションはPG、よろしくお願いします!」

 

「同じく、城ケ崎出身、末広一也! ポジションはC、よろしくお願いします!」

 

神奈川県に位置する海常高校にも新入生がやってくる。

 

去年、インハイベスト8、ウィンターカップ4位の海常高校。新戦力として、昨年、全中ベスト4の司令塔とCである、小牧と末広を獲得。

 

「新入生達、よく来た!!! 今年こそ、先輩達の悲願であ(る)全国制覇を果たす!!! みんな、気合をい(れ)てけ!!! 早速(れ)んしゅう開始だ!!!」

 

『はい!!!』

 

今年度の主将、早川充洋が挨拶をする。

 

体育館中に響き渡る程の音量。だが、当の新入生達は…。

 

『何言ってるかほとんど分からなかった…』

 

滑舌に難があり過ぎるあまり、聞き取ることが出来なかった新入生。

 

「ま、しばらく一緒に練習すれば慣れるはずッスから、心配いらないッスよ」

 

新入生の様子に気付いたのか、黄瀬が声をかける。

 

「ウ、ウス!」

 

話しかけられた小牧が戸惑いながらも返事を返す。

 

「早川キャプテンが言ってたとおり、今年こそ、全国取るつもりッスから、一緒に頑張るッスよ!」

 

黄瀬はにこやかに親指を立て、上級生に合流していく。

 

「黄瀬先輩……よーし!」

 

小牧は自らの顔をパンパンと叩き、気合を入れなおす。

 

「去年のレギュラーが3人も抜けてる。つまり、俺達にもチャンスがあるってことだ。一緒に頑張ろうぜ」

 

「ああ。歴代の先輩達の悲願。俺達も一役買おう」

 

小牧、末広の城ケ崎コンビはレギュラー奪取に気合を入れた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――秀徳高校……。

 

 

――ザシュッ!!! …ザシュッ!!!

 

 

緑間が黙々と3Pの練習を続ける。

 

 

――ガシュッ!!!

 

 

「むっ?」

 

最後に放った1本がリングに僅かに触れる。汗でボールが滑り、僅かにボールの軌道が逸れたからだ。

 

「ほれ、真ちゃん」

 

そこに、チームメイトである高尾和成がやってきて、タオルを放る。放られたタオルを緑間が受け取る。

 

「…」

 

受け取った緑間は無言で手の汗を拭い、顔の汗を拭った。

 

「にしても、大坪さんに宮地さん、木村さんが抜けて今年はどうなるかと思ったけど、今年も何とかなりそうだな」

 

「…そうだな」

 

緑間はそっけなく答える。

 

「にしても、今年入った木村さんの弟、あれ先輩に似すぎっしょ? マジウケる」

 

高尾はケラケラと笑う。

 

「…そうだな」

 

「あと、大坪キャプテンの妹さん、可愛かったなぁ。あれ、ホントに兄妹かね?」

 

「…そうだな」

 

笑いながら話しかける高尾に対し、当の緑間はそっけなく答えるだけ。

 

「おいおい真ちゃん、相変わらず冷たいなぁ……、けど、誠凛に借りを返して、今年こそ、頂点狙わないとな」

 

「…無論だ。…人事は尽くした。…今年勝つのは――」

 

緑間がシュートを放つ。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

「――俺達だ」

 

緑間が放ったシュートが綺麗にリングを潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――桐皇学園高校……。

 

 

「今日からお世話になります、今吉誠二いいます。よろしゅう頼んます」

 

新入生が挨拶を交わす。

 

「うお…、お前、今吉さんの…」

 

「ええ、従弟です。去年は翔一兄がお世話になったようで…」

 

今年の主将、若松孝輔が質問すると、今吉誠二は頭を下げる。

 

去年の主将、今吉翔一の弟である今吉誠二。去年は全中大会に出場することは叶わなかったが、その実力を桐皇に買われ、入学する。

 

「よし! それじゃあ練習始めんぞ! …って、青峰がいねぇな。青峰はどうした!? まさか、サボりじゃねぇだろうな!?」

 

「うるせーな、ここにいんだろ」

 

ちょうど体育館の入り口から青峰大輝がやってきた。

 

「遅えぞ青峰! 練習始めっから、参加するなら早くバッシュ履け」

 

「言われなくても履いてんだろ。ピーピーうるせーな」

 

「こんの…!」

 

「わーわー、キャ、キャプテン! 落ち着いて下さい!」

 

青峰の態度に額に血管を浮かび上がらせる若松。それを窘める桜井。

 

「大ちゃん! …んもう…」

 

そんな姿を見て溜め息を吐きつつ、練習に参加するようになったことが嬉しくてひっそりと笑みを浮かべるマネージャーの桃井さつき。

 

「…兄貴はようこのチーム纏めとったのう…」

 

傍から眺めて、兄の偉大さを噛みしめる弟の今吉誠二だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――陽泉高校……。

 

 

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

 

豪快なダンクが叩きこまれる。

 

「いいぞ、敦!」

 

ダンクを決めた紫原敦が地面に着地し、その紫原に賛辞の言葉を贈る氷室辰也。

 

「気合入ってるじゃないか、敦」

 

「ん…、まあ、もうすぐインハイだからね~」

 

紫原は自身の肩を回しながら氷室の横を歩いて行く。

 

「室ちんも、キャプテンが板に付いてきたんじゃない?」

 

その言葉を聞くと、氷室は苦笑いをする。

 

「まさか、俺がキャプテンを務めることになるとはね」

 

去年のウィンターカップ終了後、陽泉は新体制を迎えることになった。それに伴い、新チームのキャプテンに任命されたのが氷室だった。

 

これには氷室自身が一時否を唱えた。氷室は陽泉のエースの一角を担う程の実力者であるのだが、彼が加入したのは2年の秋口から。言うなれば新参だ。そのことが氷室自身がキャプテンを務めることに抵抗があった。

 

だが、前キャプテンであった岡村及び、前年度3年生全員が次のキャプテンに氷室を推した。現在のチームメイトからも反対意見はなく、先輩と現メンバーの総意であることを知り、氷室は不肖ながらキャプテンを務めるに至ったのだ。

 

「もうすぐインターハイだ。タイガに…、誠凛に去年の借りを返して、今年こそ優勝をしよう」

 

「うん、そうだね~。負けっぱなしってのも癪だし、全部捻り潰して…優勝しないとね」

 

紫原は指を鳴らしながら気合を更に入れたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――洛山高校……。

 

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

体育館内にスキール音が響き渡る。

 

新年度を迎え、各県の上位クラスの選手が集まった。

 

洛山高校バスケ部は、粛々と練習に取り組んでいる。

 

「3分休憩だ!」

 

キャプテンである赤司の指示が飛ぶ。

 

「お疲れ、征ちゃん」

 

「すまない」

 

実渕玲央が赤司にドリンクを渡す。

 

「調子はどうだ、実渕」

 

「いい感じよ。今のコンディションでインハイの決勝を迎えられたら最高でしょうね」

 

赤司の質問に実渕はにこやかに答える。

 

「コタローもエイキチもいい調子よ。…やっぱり、去年の敗北が要因なのでしょうね」

 

実渕は表情を暗くする。

 

昨年度の敗北…、開闢の帝王と呼ばれた洛山高校。その帝王を王座から引きずり降ろされることとなった昨年のウィンターカップ。

 

そして、赤司にとっては、自身初めての敗北であった。

 

「敗北は忌避すべきものだが、糧となるならそれも良しとすべきなのか…」

 

昨年の敗北を思い出したのか、赤司は複雑そうな表情する。

 

「だが、敗北は1度だけでいい。今年、俺達は王ではなく、挑戦者だ。失った栄光は、俺『達』の手で取り戻すぞ」

 

赤司は表情を改め、真剣な面持ちで宣言する。

 

「俺『達』…ふふっ、そうね。私にとっても最後の年。有終の美を飾って終わらせないといけないわね」

 

赤司が自分達に信頼を置いてくれることに喜びを感じつつ、失った栄光の奪還を誓った。

 

無冠の五将にとっての最後の年が始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――誠凛高校……。

 

 

創部2年の新設校であり、昨年度、数々の奇跡を起こし、ウィンターカップ優勝を勝ち取った奇跡の新星。

 

各校が代替わりする中、昨年度のメンバーがほとんど残る誠凛だが、決して楽観視できる状況ではなかった。

 

他の強豪校が新戦力を獲得し、戦力を増強させている。だが、誠凛は他の強豪校のように、スカウトなどは行っておらず、誠凛は、去年の黒子や火神のように、自らの足で来てくれることを祈るばかりなのだ。

 

創部の2年でのウィンターカップ優勝という実績と、華も実力もある火神大我の存在でどれだけ集まってくれるか…。

 

そして、1番の不安要素は、鉄心、木吉鉄平の離脱。

 

誠凛のCであり、誠凛のゴール下を守ってきた木吉鉄平。

 

一昨年に膝を負傷し、昨年度はその怪我をおして大会に参加し、選手生命をかけて誠凛を優勝へ導き、膝の手術のため、アメリカへと旅立った。

 

これにより、誠凛のゴール下が弱点となってしまった。

 

誠凛にとって、是が非でも木吉鉄平の穴を埋められる人材を獲得したいのだが…。

 

「これは、思いもよらない事態ね…」

 

誠凛の監督である、相田リコが唸る。

 

新年度が始まり、誠凛バスケ部にも新1年生が入ってきた。

 

やはり、昨年の実績が功を奏したのか、昨年を大幅に上回る大人数の新1年生がやってきた。その中には、バスケをするために誠凛に来た者もいる。

 

例年なら、秀徳、正邦、泉真館に行っていたであろう人材も新入生の中にはいる。

 

「これは……、嬉しい誤算だわ!」

 

相田リコは目を光らせて歓喜する。

 

誠凛の今年の新戦力…。

 

 

――田仲潤…。

 

――新海輝靖…。

 

――池永良雄…。

 

 

昨年の全中大会優勝校のキャプテン、田仲潤。

 

準優勝校であり、キセキの世代を輩出した帝光中学。その昨年のキャプテン、新海輝靖と、ベスト5にも選出された池永良雄が誠凛高校にやってきた。

 

誠凛にとって、これは思いもよらない戦力獲得である。

 

この新戦力達が、あらゆる風を誠凛に吹きかけることとなる。

 

誠凛高校も、新体制の下、王座連覇を目指し、動き出きだした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

各校が始動した。

 

ある者は失った栄光を取り戻すため。

 

ある者は勝ち取った栄光を守るため。

 

ある者はその栄光に立ち向かい、栄光を掴むため。

 

昨年を上回る、更なる物語が始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 






これからオリキャラをどんどん出していく予定です。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第27Q~花月の練習~


気が付けばお気に入り登録数が100人を超えてました!

ありがとうございますm(_ _)m

ゆっくり完結目指して頑張ります!

それではどうぞ!


 

 

 

花月高校…。

 

入部届を出したその日から練習は始まった。

 

噂どおり、花月高校バスケ部の練習は壮絶という一言であった。

 

『ハァ…ハァ…』

 

その翌日も当然ながら練習は行われる。現在、部員達は学校の外を走っている。

 

『とりあえず、外走ってこい。25キロ』

 

『…っ!?』

 

新入生達は言葉を失うものの、上級生達にとってはいつものことなのか、返事をした後、外へ向かっていった。

 

花月高校の練習は徹底とした基礎づくりが重視されている。初日も、マラソンランナーばりに走り、終了後もひたすら濃密な基礎練習。それが部活終了時間まで続けられた。

 

初日には21名いた新入生も、2日目には15名まで減っている。

 

ここで、新入生達が初日に監督が入部届を受け取らなかった上杉の真意が理解できた。早い話が、厳しすぎる練習に付いてこれないからだ。

 

花月高校では毎年、経験者、初心者問わず、それなりの人数が集まる。だが、毎年、その中で1年後に残っているのは多くても2、3割程度。巡りが悪い時は全滅する年もある。

 

入部届を受理してもすぐに辞めてしまう者が多いため、ふるいをかける意味でも、1週間という期間を設けたのだ。

 

現在、25キロという距離のランニングをしている。最後尾には新入生の集団。その前を生嶋と松永。その前を上級生の集団。

 

「ハァ…ハァ…やっぱり、1年は遅れているな」

 

馬場が後ろを振り返りながら呟く。

 

「ハァ…ハァ…、でも、生嶋と松永だけは俺達の集団に付いてきている。たいしたもんだ」

 

上級生達は1~2年間ここで鍛えられているアドバンテージがある。にもかかわらず、それに遅れずについてくる2人に感心する。

 

「…けどよ、先頭集団はバケモンだろ。三杉や堀田はまだ分かるけど…」

 

先頭集団、上級生達より遥か前を走るのは、三杉、堀田。そして…。

 

「神城と綾瀬。あの2人に遅れずに付いていってやがる…!」

 

空と大地。先頭を走る三杉と堀田にピタリと付いていっている。上級生グループを遥かに引き離し、その姿は既に小さい。

 

「帝光倒してMVPと得点王を獲得したのは伊達じゃないな」

 

上級生達はただただ茫然と眺めながら走っていた。

 

「…」

 

その空と大地を、1人の上級生が見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方、先頭集団…。

 

三杉、堀田が先頭に、その一歩後ろを空と大地が走っている。

 

「やるね。このペースに付いてこられるだけでも大したものだよ」

 

「当然! スタミナには自信があるんでね。これでは負けませんよ」

 

賛辞の言葉を贈る三杉に笑みを浮かべながら答える。

 

「ほう…」

 

堀田が唸り、三杉と顔を合わせる。そしてニヤリとする。

 

「なら、ペースを上げるぞ。ついてこいよ」

 

三杉と堀田がペースを上げて空と大地を引き離す。

 

「負けるか! 大地、行くぞ!」

 

「言われなくても!」

 

空と大地もペースを上げ、遅れずに付いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

残り3キロ…。

 

三杉、堀田のペースに相変わらず全く遅れずに付いていく。

 

「(やるね。普段からこのくらいは走っているんだな…、なら!)」

 

 

――ダッ!!!

 

 

三杉と堀田がラストスパートをかけ、さらにペースを上げる。

 

「負けるかーっ!」

 

「負けません!」

 

空と大地もスパートをかけ、ピタリと付いていく。全く離されることなくピタリと付いていく。

 

 

残り1キロ…。

 

「「おぉぉぉーーーっ!!!」」

 

 

――ダッ!!!

 

 

空と大地がさらにペースを上げる。

 

「「っ!?」」

 

これには三杉と堀田も驚愕する。空と大地を引き離すため、目一杯飛ばして走っていた2人だが、空と大地はそこからさらにペースアップ。

 

空と大地は上げたペースをそのまま維持し…。

 

「よっしゃーーーっ!!!」

 

空が一歩大地より早くゴールする。

 

「負けました…」

 

僅かな差で負けた大地は項垂れながら悔しがる。

 

20秒ほど遅れた三杉と堀田がゴールした。

 

「全く、最近の若い奴は元気がいいな」

 

「やれやれ…、スタミナには自信があったんだがな」

 

三杉は苦笑を浮かべ、堀田はフゥッと溜め息を吐いた。

 

「後ろは…まだ戻って来る気配がないな…、三杉さん! みんなが戻って来るまで1ON1付き合ってくださいよ!」

 

空は三杉を急かすように体育館に誘う。

 

「あー分かった分かった、そう急かすなって、一息吐いたらな」

 

三杉は腰に手をあて、呼吸を整えながらゆっくり体育館に向かっていく。

 

「元気だな。何も今でなくても、練習終了後でもいいだろう?」

 

「練習終わった後もお願いするつもるですよ? 時間はいくらあっても足りないですからね。ひたすら練習しないと、先輩達がアメリカに帰る時までに勝てませんから」

 

堀田の言葉に、空はニコッとしながら答える。

 

それを聞いた三杉が一瞬目を見開き、そして、薄い笑みを浮かべる。

 

「ハハハッ! なるほど、俺達にも勝つつもりか…よし! 空、急いで体育館に行くぞ。1ON1だ」

 

「そうこなくちゃ!」

 

空と三杉はダッシュで体育館に向かっていった。

 

「やれやれ…、綾瀬、俺とやってみるか?」

 

「いいのですか? まだ呼吸が乱れているようですが…」

 

「構わん。第4Q、勝負所という想定での練習だ。…やるか?」

 

「…分かりました。是非とも、ご教授願います」

 

堀田の皮肉に、大地はニコリと笑みを浮かべ、頭を下げた。

 

そして、空と三杉の後に続くように体育館に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「空ぁっ! 手元がお留守になってるぞ!」

 

「はい!」

 

「綾瀬、相手の土俵に無理に付き合うな。自分の土俵で戦え」

 

「はい!」

 

『…』

 

10分以上遅れて帰ってきた上級生達と1年生。1ON1を繰り広げている4人を見て空いた口が塞がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「今日はここまでだ! 1年は片付けしっかりしてからあがれよ」

 

監督の上杉が練習終了を告げると、体育館を後にしていった。

 

「お、終わった…」

 

その場で1年生達が倒れ込むように床に座り込む。

 

「…はぁ」

 

上級生達も、1年生ほどではないが、疲労の色が見える。

 

バスケ部全体がお疲れムードの中…。

 

「三杉さん、1ON1やりましょうよ!」

 

「私も、お願いします!」

 

空と大地が1ON1の勝負を三杉に頼み込む。

 

「ああ。1人ずつな」

 

三杉はそれを了承し、3人はリング付近まで移動していく。

 

別の一角では、松永が堀田の下に歩み寄っていた。

 

「ハァ…ハァ…ほ、堀田先輩。…ゴール下のディフェンスのご教授、願います」

 

「うむ、いいだろう。だが、まずは呼吸を整えろ」

 

息絶え絶えで頭を下げる松永に対し、堀田は快く了承する。

 

「も、申し訳…ござい…ません。…ぼ、ボールをお借り…します」

 

生嶋が断りを入れて、ボールを集めた篭をスリーポイントラインまで運んでいく。

 

「に、日課、ですので…い、1日500…本…」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

生嶋はフラフラな状態でボールを掴み、スリーを放つ。ボールは綺麗にリングを潜る。

 

「甘い」

 

「あっ!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

三杉が空をかわし、レイアップを決める。

 

「ちくしょう…」

 

「なかなかでしたよ、空。…次は私ですね、よろしくお願いします」

 

空が下がり、大地と立ち位置を変える。そして、大地と三杉の1ON1が始まる。

 

 

 

 

 

「腰を落とせ! そんな棒立ちじゃ、押し合いには勝てんぞ!」

 

「ぐぐぐっ! はい!!!」

 

堀田と松永がゴール下で押し合いをしている。

 

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

 

――ザシュッ!!! …ザシュッ!!!

 

 

生嶋は、息を切らし、今にも倒れそう面持ちながらもスリーを放っていく。回数が三ケタに届きそうな回数に昇るものの、未だに1本も外していない。

 

 

 

 

 

 

『…』

 

その光景を、他のメンバー達が茫然と眺めている。

 

「…あんな異常な量の練習こなした後なのに、まだ自主練するだけの余裕があるのかよ…」

 

1年生達は信じられないものを見るかのような表情でその光景を見つめる。

 

「…お前、入部して2日目で自主練する余裕あったか?」

 

「あるわけないだろ。練習をこなすだけで精一杯だったよ」

 

上級生達も驚きを隠せない。

 

「俺、もう無理だよ…」

 

「こんなの続けられないよ…」

 

目の前で見せつけられる自分との違い。1年生の中に心が折れる者も現れる。

 

そしてこの日、さらに1年生が退部を決意する。

 

「…」

 

空達、自主練をする1年生達を、1人の上級生が観察していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

辺りはすっかり暗くなった頃、1年生達と三杉と堀田の自主練は終わった。

 

「今日は終わりだ。また明日な」

 

さすがの三杉も、疲労を隠せない面持ちである。

 

「「ありがとうございました!」」

 

空と大地は揃って頭を下げ、礼の言葉を述べる。その面持ちはすっきりしている。

 

「やれやれ、元気なルーキーだ」

 

三杉が苦笑を浮かべながら呟く。

 

「鍛え方が足りん。この先、センターでやっていくつもりなら、そこからさらに身体を鍛え上げろ…だが、筋はいい。いっそう励めよ」

 

堀田は松永に厳しめに批評するが、最後には褒め称えた。

 

「ありがとう…ございました…」

 

滝ような汗を流し、疲労困憊で床に座り込みながら何とか声を搾りだして礼を言う松永。

 

「ヒュゥー…ヒュゥー…」

 

スリーポイントラインの僅か外側で今にも消え入りそうな呼吸をしながら倒れ込む生嶋。

 

「おーい、生きてるかー」

 

空が傍まで近寄り、声をかける。

 

「…(グッ)」

 

生嶋はフルフルとさせながら右手を上げ、人差し指と親指でマルを作った。

 

「…大丈夫そうに見えねえけど、まあいいや、片付けは俺達がしとくから、それまで寝とけ」

 

生嶋の心配をよそに、空達は後片付けを始めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「生嶋さん、大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫…、すぐに回復…するかな?」

 

「知らん。歩けないならジッとしとけ」

 

帰り道、空と大地、生嶋と松永の4人で下校をしている。大地が生嶋の心配をし、松永が生嶋をおぶっている。

 

「にしても、お前達はあれだけ動いている割に随分余裕そうだな? 俺は少し休んでようやくこの程度なのだがな」

 

松永は生嶋をおんぶしているが、足元はフラフラだ。当初、空と大地が交互におぶるという提案をしたが、松永が、同じ寮に住んでいるという『生嶋と松永は他県からの越境入学のため、寮生活』理由と、身体を鍛えるためという理由で自ら名乗り出た。

 

「まあ、もともと体力には自信があったし、ここ(花月高校)もあっさり推薦で決まっちまったから受験勉強せずに身体鍛えまくったからな」

 

「母校のバスケ部の顧問は厳しくも優秀な方でしたので、みっちりと身体を鍛えることができました」

 

星南中バスケ部顧問、龍川。卒業まで空と大地を気にかけ、課題という形で練習メニューをやらせていた。

 

「見た目はヤ○ザそのものだけどな」

 

空がケラケラ笑いながら補足する。

 

雑談しながら下校していると…。

 

「なあ、ちょっとそこ寄ってかないか?」

 

空が親指でファーストフード店を指差す。

 

「寄り道は感心しませんよ?」

 

「いいんじゃないかな。親睦を深めるためにも」

 

大地が難色を示したが、生嶋が感心を示した。

 

「そうそう。堅い事言わないで、行こうぜ」

 

空が先頭を切って店に入っていく。

 

「それも悪くないな」

 

それに続いて生嶋をおぶった松永も入店していく。

 

「はぁ…、まったく、しょうがないですね」

 

溜め息を吐きながら大地も渋々入店していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

それぞれが注文したものを席まで運び、席に付く。

 

生嶋も、ようやく1人で歩ける程度には回復し、足元がおぼつかないながらも自力で席まで歩いて行く。

 

「ようやく回復してきたよ。ありがとう、まっつん」

 

「誰がまっつんだ…、にしても、練習熱心なのはいいが、体力がないなら500本もスリーなんて打つな」

 

「ハハハッ、日課だからね。さすがに、あれだけ練習した後に、500本決まるまでスリーはきつかった」

 

生嶋は笑いながらポテトを1つ咥える。

 

「500本決まるまで!?」

 

それを聞いた空が身を乗り出して驚きを露わにする。

 

「うん。…でも、1本も外さなかったからピッタリ500本で終わったよ」

 

『…』

 

それを聞いた他の3人は絶句する。

 

決めるのか容易ではないスリー。それを500本ノーミス。それも、膨大な練習をこなして疲労が溜まりきっている練習後に…。

 

「僕はくー(空)やダイ(大地)みたいに身体能力に恵まれなくてね。ミニバスを始めた当初は、全く試合に出れなくて…それで、こんな僕でも試合に出れるように、試合で活躍できるように身に着けたのがこのスリーだったんだ」

 

「ほう…」

 

松永が生嶋のスリーへのこだわりを聞いて唸り声をあげる。

 

「でも、その努力が実って、全国中学校の強豪の1つの城ケ崎中のエースにまで上り詰めたんだからすげーよな」

 

「僕は回りにかなり支えられてのエースだからね。少なくとも、ここにいる皆みたいに、1人で結果をだせるようなレベルじゃないから。僕からすれば、君達の方がすごいよ」

 

和やかに談笑していく。

 

唐突に、空が話を切り出す。

 

「そういやさ、生嶋と松永って、キセキの世代と戦ったことがあるんだよな?」

 

「…うん」

 

「まあな」

 

2人は少し表情を暗くする。

 

「率直に、今の俺がキセキの世代と戦ったとして、通用するか?」

 

空が表情を改め、真剣な表情で聞く。

 

「…そうだな、俺が戦ったのは、中学1年の時だが、凄まじい実力だった。鉄平さん…無冠の五将とまで呼ばれていた木吉さんですら、1対1でも歯が立たなかった。正直、あれからさらに進化を遂げたキセキの世代となると、今のお前でも、精々何とか戦えるか、という程度だろうな」

 

「僕は一昨年戦ったけど、ほとんど適当に流して試合していたのにも関わらず、一方的な試合だったよ。僕の私見だけど、今の君では勝てるどころか、『敵』にもなるか…」

 

2人共、言いづらそうに、正直な感想を述べる。

 

「…なるほど、まあ、分かっていたことだ。悪いな、言いづらいこと聞いちまって」

 

空は特に気にする素振りを見せず、軽く謝罪をしながら飲み物を口にした。

 

同格の実力を持つ大地は苦笑しながら、2人の意見を受け止める。

 

「「…」」

 

生嶋と松永は正直に話し過ぎたことを少々後悔した。

 

暫しの間、その場に沈黙が支配していると…。

 

「なんや、通夜の席みたいに静まりよって」

 

空いている席に突如、1人の男が座り込んだ。

 

「ん? あんた、どっかで…」

 

空はその男に見覚えがあるのか、必死に思い出そうとする。

 

そんな空を見て男は席からずっこける素振りを見せる。

 

「いや、昨日と今日に顔合わせとるやろ…、ほな、しゃーない、自己紹介や! ええか、ワイはなぁ――」

 

「天野幸次先輩、ですよね?」

 

大地が言い切る前に名前を言い当てる。それを聞いて男は再びずっこける素振りをした。

 

「お前が言うんかい! …って、よう知っとったなぁ!?」

 

天野はズビシ! っと突っ込みを入れ、かと思えば目を見開いて驚いた。

 

「ええ、三杉先輩や堀田先輩を除けば、この静岡でもっとも有名なプレイヤーとも言えますからね」

 

大地がニコリと笑みを浮かべながら説明する。それを聞いて天野は満足気に笑いだす。

 

「わかっとるなあ! そうや、静岡の笑いのヒットマン幸ちゃんとはワイのことや!」

 

親指を自分に向けながらドヤ顔をする。

 

「ヒットマン? は知りませんが、去年のインターハイとウィンターカップにおいて、マッチアップした選手を全て0点に抑えこんだ、通称、『エースキラー』天野幸次。…静岡では知らない者は少ないのでは?」

 

「そっちかい! …まあ、ディフェンスとリバウンドはワイの専売特許や。相手が誰であれ、負けへんでぇ。…それが、キセキの世代でもなぁ」

 

1年生4人は、天野から発する凄みを感じ取り、思わず圧倒される。

 

「なら、天野先輩をぶち抜ければ、キセキの世代を相手にしてもぶち抜けるかもしれない…ってことですか?」

 

空がニヤリと笑みを浮かべながら挑発するように問いかける。

 

「先輩はいらんで。堅苦しい。ワイを呼ぶときは天さんでええで。…まっ、ワイに勝てればいけるかもなぁ…R-○大会」

 

「笑いの話しじゃねぇ! …ま、いいですよ。明日から、練習後の自主練の時、大地が三杉さんとやってる時に相手お願いしますよ」

 

空が挑戦状を叩き付ける。それに対し、天野はニヤリとする。

 

「ええで、こいやルーキー。ネタ帳持って待っとるわ」

 

「だから笑いじゃねぇ!」

 

こうして、にぎやかに談笑していくのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして翌日…。

 

「やべーやべー。早く着替えないと…」

 

提出物を職員室に持っていったため、1人遅れる空。

 

基本的にバスケ部は時間厳守で、1分でも遅れるとペナルティーの筋トレが待っている。

 

「ん?」

 

その途中。体育館の影で人影を見つける。

 

1人は三杉誠也。

 

「誰だろ、あの子」

 

もう1人は見覚えのない女生徒。様子を見るに、何やら女性が涙を流しており、三杉がその子を慰めている。

 

「三杉さんの彼女か?」

 

三杉程のルックスと性格なら彼女の1人はいてもおかしくはない。

 

「……あっ、やべ! 遅れる!」

 

空は、時間が押し迫っていることを思いだし、気にはなるものの、部室へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神城ぉ、腕立て腹筋スクワット50回……を、5セット」

 

「…Orz」

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、間に合わなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 





最近バスケの描写をほとんど入れてないことに気付きました(^_^;)

次回から何とか入れることができれば…。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第28Q~新しい風~

 

 

 

入部届の提出をしてから1週間が経過した…。

 

放課後になり、部活動が始まる。

 

「集合!」

 

主将である馬場(※ 三杉はコート上での主将であり、部活動としての主将は馬場)が集合をかける。

 

号令が聞こえると、すぐさま部員達が駆け足で集まる。そこには、以前と同じく甚平を着た監督、上杉が立っていた。

 

「集まったな」

 

上杉は集まった部員達を端から端まで視線を向ける。そして、フッと笑みを浮かべる。

 

「残ったのは5人。…いいだろう。それだけ残りゃ上等だ」

 

コホン! と、咳払いをし、表情を整える。

 

「花月高校のバスケ部によく来てくれた。改めて歓迎する。うちのバスケ部の練習は厳しい。毎年問題に上がるほどになあ。実績もねぇから批判は絶えん」

 

『…』

 

「けどなぁ。俺はこのやり方を変えるつもりねぇ。俺は、難行苦行を乗り越えた先に得られるものがあると信じている。だから、先に言っておく。俺に付いていけないと判断したらいつでも辞めていい。付いてこれる奴だけ付いてこい」

 

『はい!!!』

 

部員全員が確固たる決意を持って返事をする。

 

「今年は粋のいい新人に、俺のしごきに耐え抜いた2・3年に、空の向こう(アメリカ)から2人もここに来てるんだ。インハイ出場どころか、優勝も射程圏内だ。おめえら、獲るぞ」

 

『はい!!!』

 

先程と同じく、返事をする。

 

「ここからは俺が本格的に指導する。今までみたいに温くはねぇからな。…それじゃあ、練習を始める!」

 

上杉が練習開始の宣言をする。

 

「監督、あの件、忘れていませんか?」

 

馬場が突如、手を上げる。

 

「ん? …ああ、そうだったな」

 

上杉は何かを思い出した。

 

「遅くなってすまない、入ってきてくれ!」

 

馬場が促すと、入り口からロングヘアーとショートカットの2人の女生徒がやってくる。

 

「今日からこの2人がマネージャーとしてバスケ部を入部してくれることになった。自己紹介を」

 

女生徒の1人、ロングヘアーの女性が一歩前に出て自己紹介を始める。

 

「初めまして! 今日からマネージャーとして入部しました、1年C組、相川茜です! 元気の良さが私の取り柄です! よろしくお願いします!」

 

元気良く挨拶するマネージャー志望の相川。ペコッと挨拶の後頭を下げると、ニコッと笑顔を浮かべる。

 

『おぉ…』

 

清々しいほどの元気の良さに加え、チャーミングな笑顔。思わず部員達の間に感嘆が漏れる。

 

相川茜の自己紹介が終わると、もう1人の女生徒が一歩前に出る。

 

「(…あれ? あの娘、確か前に三杉さんと一緒にいた…)」

 

空にはもう1人の女生徒に見覚えがあった。ショートカットの女生徒の自己紹介が始まる。

 

「1年E組、姫川梢です。よろしくお願いします」

 

特に表情を変えることなく、淡々と自己紹介を終える。

 

「表情硬いな…けど、あの娘も可愛い…(ボソリ)」

 

相川茜と違い、ほぼ無表情で簡潔に自己紹介を終える姫川梢。だが、彼女もまた、相川とは違った種類の魅力があり、先程と同じく部員達の心を掴む。

 

「…」

 

彼女、姫川梢を、大地が何やら神妙な表情で見つめる。

 

「どうした大地? お前って、ああいう女がタイプだったっけ?」

 

その様子に気付いた空が茶化すように聞く。

 

「魅力的な女性だと思いますよ。…ただ、姫川さんという女性、何処かで拝見したことがあるような気がしまして…」

 

大地は空の茶化しに反応することなく質問に答えていく。

 

「何処かで…ねぇ…そう言われると、俺も何処かでも会ったような…地元で会ったのかな?」

 

「いえ…もっと何処か違う形で…ダメですね、考えても思い出せません。…おそらく、偶発的に何処かで拝見したのでしょうね」

 

大地は結局、その場で思い出すことは出来なかった。

 

「ふーん…」

 

空がそのまま、姫川梢に視線を送る。すると、空の視線に気付いたのか、姫川と空の視線がかち合う。

 

「……(プィッ)」

 

姫川は、その視線から素っ気なく逸らす。

 

「あーらら」

 

当の空はその対応に苦笑を浮かべた。

 

「話しは終わったな。よし! それじゃあ、これから練習を始めるぞ! 準備運動、念入りにやっとけよ! 散れ!」

 

『はい!!!』

 

こうして、本格的に花月高校バスケ部の練習が始まる。それは、今まで比ではなく、上級生ですら根を上げそうになってしまう程の練習であった。

 

花月高校バスケ部は、インターハイに向けての練習が始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全国の高校で新体制がスタートする中、花月高校と同様に強風が吹き荒れたのが誠凛高校。

 

新たに誠凛高校バスケ部の門を叩いた新入生が良くも悪くも、新しい風を送り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

新学年、新学期を迎えた誠凛高校。新入生を迎え入れた初日…。

 

体育館には、最上級生となった主将の日向と3年生達。火神を除いた2年生メンバー。そして、新1年生が集まっていた。

 

創部2年でのウィンターカップ制覇という実績の為か、昨年よりも、数でも質でも勝る新入生がやってきた。

 

その中でも、上級生及び、新入生の注目の的なのが、帝光中出身、新海輝靖と池永良雄。昨年、全中大会を制した中学校の主将、田仲潤。

 

スカウトなどを一切行わない誠凛にとっては願ってもない期待の新人。

 

監督である相田リコが1年生達の前に出る。ここに集まっていた1年生は噂では聞いていたが、監督が女性、それも、同じ高校生であることに最初は驚いていた。

 

「それじゃ手始めに…全員、シャツ脱げ!」

 

『えっ!?』

 

リコが、1年生達を1列に並べ、唐突にそう指示する。

 

「…」

 

シャツを脱ぎ、上半身裸になった1年生を1人ずつ観察していく。

 

彼女はスポーツジムを経営する父親の下で育ち、幼い頃から父の横で仕事を見てきた関係で、身体を見ればすぐさまそれを数値化することができ、さらにはその欠点や限界値まで見ることができる。

 

「(…今年の1年はいいわね。単純な筋力なら火神君を除いた1年生を上回っているわ。何より…)」

 

その中でも、今年の期待のホープである、3人に視線を向ける。

 

「(この3人は特にいいわ! 新海君と池永君。さすが、帝光中の1軍でスタメンを張っていただけあって、数値はかなりのものだわ。単純な筋力値なら、今の3年生をも上回っているわ。田仲君も、現段階の数値は2人に劣るけど、伸び代がかなりあるわ。鍛え方次第では化けるわね)」

 

未来有望な新入生を見てニヤリと笑みを浮かべる。

 

「えー、まずはキミからね――」

 

リコが、筋力を分析した結果から弾きだした欠点と改善点を1人1人に説明していく。

 

「えっ…嘘!?」

 

「当たってる…」

 

ピンポイントに言い当てられた1年生は驚きを隠せないでいた。リコは、その場にいた1年生全員に説明し終えると、コホンっと咳払いをし、話しはじめる。

 

「知ってると思うけど、私達は去年、ウィンターカップを制することができたわ。次の目標はズバリ、インターハイ制覇よ! 生半可な道じゃないわよ! ビシバシ鍛えていくつもりだから、皆そのつもりでいなさい!」

 

『はい!』

 

1年生達の声が響く。

 

だが…。

 

「ふわぁぁぁっ…」

 

そのうちの1人、池永だけが欠伸をしながら話を聞いていた。

 

「…」

 

それを主将である日向が見つけ、眉を顰める。

 

「それじゃ、練習を開始するわ! 皆、しっかり準備運動をして――」

 

「――あー、いいスか」

 

池永が割り込むように言葉を挟む。

 

「俺は自己流で練習するんで、後は勝手にやりまーす」

 

この一言で、その場が凍りつく。

 

発言をした当の本人は、それだけ告げて、1人勝手に行動を開始しようとする。

 

「待ちなさい!」

 

当然、リコはそれを止める。

 

「何だよ?」

 

引き留められたことに軽く苛立ちを覚えながら振り返る。

 

「勝手な行動を許すつもりないわ。私の指示どおりの練習をしなさい」

 

リコは努めて冷静に言葉を交わしていく。

 

当の本人は鬱陶しいとも言わんばかりに溜め息を吐く。

 

「はぁぁーーーっ…まず、監督が女とかありえねぇし、何で女の指図に従わなきゃいけねーんだよ」

 

「あん!♯」

 

先程まで冷静にしていたリコも、この発言に怒りを覚える。これに日向も怒りを覚え、口を出す。

 

「おい、お前! 監督に対してなんて口のきき方してやがる。そもそもお前は先輩に対してそんな口のきき方に――」

 

「あーあー、俺、年功序列って嫌いなんだよね。1年2年早く生まれたことがそんなに偉いの? バスケで偉いのは上手い奴だろ? 実力ねぇ奴の指図聞くとか、ねぇわ」

 

そう言いのけ、日向の傍まで歩み寄り、ガンを飛ばすように日向を見下ろす。

 

「俺、お前より上手いよ? お前が敬語使えよ」

 

「あぁん!?」

 

この言葉に日向は思わず激昂し、掴みかかろうとする。

 

「おい、日向! やめろって!」

 

それを伊月が止める。それを見てフンっと、鼻を鳴らす。

 

「池永君。そんな言い方はないと思います」

 

黒子がそっと池永の傍まで近寄り、池永を諌める。

 

「あっ、黒子先輩のことは尊敬してますよ? だって、誠凛が優勝できたのって、黒子先輩がいたからっしょ? そうでなきゃ、先輩達(キセキの世代)がこんな奴等に負けるわけねぇし」

 

だが、それでも池永の暴言は止まらない。

 

「マグレで優勝したぐらいで粋がんなよ。そんじゃ、俺、自主練行くんで、試合とかは後で連絡先渡すんで、メールよろしく~」

 

池永は先輩の言葉などどこ吹く風の如く、体育館を去ろうとする。

 

「おい! 待てよ!」

 

日向が大声で呼び止める。

 

「♪~♪…痛てっ!」

 

鼻歌交じりに体育館を出ようとすると、何かにぶつかる。

 

「ちっ! …っ!」

 

ぶつかった何かに池永が睨みつけると、そこには…。

 

「よう、話は途中からだけど聞いてたぜ。お前の理屈なら、お前より上手ければ言う事聞くんだよな?」

 

遅れてやってきた火神がやってきた。

 

「すんません。先生に呼ばれてて遅れました」

 

火神が皆に頭を下げる。

 

現れた火神を、池永がジロジロ見る。

 

「火神…こいつが……、お前が誠凛エースだよな?」

 

「…だったら何だよ?」

 

それを確認すると、火神に背を向け…。

 

「なら、こいつに勝ったら俺がエースだよな?」

 

後ろ手で親指を指しながらそう言ってのける。

 

「エースさんよ、俺と勝負しろよ。勝ったら俺がスタメンな」

 

唐突に、池永が勝負を提案する。

 

「おい、お前いい加減に――」

 

日向が諌めようとするが…。

 

「いいぜ。勝負してやるよ」

 

火神は迷うことなく勝負を受ける。

 

「おい、火神!? お前勝手に…」

 

「大丈夫ッスよ。悪いスけど、ちょっと時間貰います。5本勝負だ。お前が勝ったらお前がスタメン。自己流がどうとか言ってが、好きにしろよ。そのかわり、俺が勝ったら、今後、勝手な真似はさせねぇ。先輩達にも敬語使えよ」

 

「ハッ! 上等だよ!」

 

池永はニヤリと笑い、勝負が始まる。

 

 

 

 

「…止めなくていいの?」

 

「止まるのなら始めから止めている」

 

田仲の質問に、新海は溜め息を吐く。

 

「あいつ、全中で会った時と何も変わってないな」

 

「あいつのバカは変わらないよ。…バカに付ける薬はない」

 

新海はかつてチームメイトに酷評を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

双方の準備が完了し、勝負…1ON1が始まろうとしている。

 

「去年のウィンターカップの立役者の火神先輩と、全中ベスト5の池永の1ON1…」

 

「大丈夫なのかな…。火神先輩が負けると思わないけど、万が一…」

 

1年生達は口々に外から眺めながら勝負を見守っている。

 

2、3年生は、怒り心頭の日向とリコを除き、特に心配する素振りを見せず、余裕の表情で勝負を見守っている。

 

「お前からオフェンスやっていいぞ」

 

火神は池永にボールを渡す。

 

「いいぜ。瞬殺してやるよ」

 

ボールを受け取り、余裕の笑みを浮かべる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

池永がドリブルを始める。

 

勝負が始まると、体育館中が静まりかえり、ゴクリと息を飲む音が聞こえる。

 

「(よし、行くぜ!)」

 

右、左、さらに自身の股下にボールを通して揺さぶりをかけていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロス・オーバーで火神の左を抜ける。

 

「うおっ!」

 

「はえー!」

 

火神をかわし、ペイントエリアまで侵入する。

 

「(ハッ! 楽勝じゃねぇか)」

 

そこでボールを掴み、ワンハンドダンクの体勢に入る。

 

「(くらいやがれ!)」

 

池永がボールをリングに叩き付ける。

 

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

「その程度で俺をかわせると思わねぇことだな」

 

いきなり目の前に火神が現れ、ダンクはブロックされた。

 

「ちっ!」

 

舌打ちをする池永。

 

「次は俺のオフェンスだ」

 

攻守が入れ替わる。

 

「…」

 

「…」

 

火神がボールを持ち、機会を窺う。

 

「(ちくしょう! ここで1本止め返してやる!)」

 

先程のダンクを防がれ、プライドを傷つけられた池永。やられたことをやり返すとばかりと気合が入る。

 

「行くぜ」

 

火神がゆっくりボールを動かし、そして…。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

一気にドライブで池永の横を抜ける。

 

「なっ!?」

 

池永が振り返った時には…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

火神のダンクが炸裂していた。

 

「…」

 

茫然とする池永。

 

「次、お前のオフェンスだ。来いよ」

 

「っ! ぶっ潰してやる」

 

余裕の態度を取る火神にカチンとする池永。再度攻守を入れ替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「監督、この勝負、どう見る?」

 

日向が横に立つリコに問いかける。

 

「どうもこうもないわ。火神君はあのキセキの世代と対等に渡り合ったのよ? 番狂わせはおろか、苦戦もありえないわ」

 

ハァッと溜め息を吐きながらそう答える。

 

「にしても、とんでもない新人が来たもんだ」

 

「ホント、去年の火神君が可愛く見えるわ」

 

今度は2人で盛大に溜め息を吐いた。

 

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

 

火神が池永を単純なドライブでぶち抜き、ダンクを決める。

 

「くそっ! くそっ!」

 

悔しさを露わにする池永。

 

キセキの世代と対等に戦ってきた火神。ただのドライブであっても今の池永では止められるものではなかった。

 

 

「新海は去年、どうやってあいつの手綱を握ってたんだ?」

 

日向が元帝光中の主将であり、池永とはチームメイトであった新海に尋ねる。

 

「握れるわけありませんよ。帝光中は、自分が主将になる前の年から単純な実力主義だったので、試合で結果さえ残せれば他の大抵のことは不問でした」

 

特に表情を変えることなく、質問に答えていく。

 

「…」

 

黒子が、その回答を聞いて複雑そうな表情をする。

 

続いて、伊月が質問をする。

 

「そもそも、2人はどうしてここ(誠凛)に来たんだ?」

 

誠凛は昨年、ウィンターカップを制したといっても、まだまだ新設校。他の強豪校に比べても歴史は浅く、設備も充実しているとは言い難い。

 

「…すいません、今はそれは…」

 

新海は表情を歪ませ、回答を控える。周囲も、空気を察したのか、深く追求することはなかった。

 

一方、勝負の方は…。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「次、最後のオフェンスだ」

 

火神の最後のオフェンス。

 

5本勝負の1ON1。池永は1度も点を決めることが出来ず、火神はこれまで全て決めていた。

 

グッと腰を落とし、ドライブに備える池永。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、火神を止めることはできない。

 

火神がそのままダンクの体勢に入る。

 

「何度もやらせるかーーーーっ!!!」

 

火神の後ろから池永がダンクを止めるべく、ブロックに入る。

 

「うおっ! 抜かれてから追いついた!」

 

池永の手がボールに触れたが…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

「がぁっ!」

 

ブロックに来た池永を吹っ飛ばしながらダンクを決めた。

 

「そこまでよ!」

 

リコが間に入る。

 

「火神君が5本。池永君が0本。火神君の勝ちよ」

 

そして、結果を言い渡す。

 

「…」

 

座り込みながら茫然とする。火神が傍まで歩み寄り…。

 

「約束だ。今後は口のきき方気を付けろ。後、勝手な行動はするなよ」

 

キッと睨み付けながら告げる。

 

「…っ!」

 

池永は立ち上がると、体育館を駆け足で出ていった。

 

「お、おい! …なんなんだよ、まったく…」

 

火神は頭を掻きながら苦い表情をする。

 

「ほっといても構わないですよ。今後来ないならこれまででしょうし、…まあ、明日には忘れているでしょうけど」

 

新海はめんどくさそうに追いかけるか否か迷ってる面々に告げていく。

 

「なあ、あいつ、どうするんだ?」

 

「…」

 

リコが顎に手を当て、考える。

 

「俺は正直、彼の入部は反対だ。去年の試合を見た感想を言わせてもらうと、自分勝手で暴走しがちな選手だ。コートに入られると俺は困る」

 

誠凛の正ポイントガードであり、広い視野とパスを重視する伊月は池永入部に難色を示す。

 

「俺もちょっとなー。仲良く出来そうにないし」

 

小金井も同じく反対する。

 

『…』

 

他の面々も、先程までの池永の言動行動に思うところがあり、入部には反対気味である。

 

「いいんじゃないスか? 別に入部させても」

 

ただ、火神だけは賛成する。

 

「結果は俺の完勝だけど、最後の1本は止められないまでも俺のダンクに追いついてみせた。性格に問題ありそうですが、実力は確かです。戦力は多い方がいいんじゃないスか?」

 

勝負をした火神は、池永の実力を買い、加入に意欲的である。

 

『…』

 

全員がリコの方に視線を向ける。ジャッジをリコに委ねた。

 

「……そうね。私も賛成だわ。彼ほどの実力者をこのまま埋もれさせるのは惜しいわ」

 

監督であるリコの判断は入部の賛成であった。

 

「…良いんだな?」

 

日向が再度確認する。

 

「もちろん! だって、実力を伸ばすより、性格を矯正する方が遥かに楽だもんね。…それに、監督であり、先輩でもある私に吐いた暴言の分もヤキ入れときたいしね」

 

「確かに…、そうだな…」

 

日向とリコ。両者共に額に青筋を浮かび上がらせながら不気味な笑顔で手の指を鳴らしていった。

 

「新海君は明日は引きずってでも彼を連れてきなさいよ。…それじゃ、練習開始するわよ! インターハイは簡単に獲れる程甘くはないから、ビシビシ行くからね!」

 

こうして、誠凛高校の、波乱に満ちた新年度初日が始まったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――花月高校…。

 

新入生の入部届が正式に受理され、さらに1週間ほどが過ぎた。

 

『ハァ…ハァ…』

 

部員達は息を切らしながら懸命に練習に取り組んでいく。

 

「おらそこぉっ! チンタラすんなっ! 全員10本追加だ!」

 

「は、はい!」

 

僅かながら遅れた部員に檄が飛び、連帯責任で部員全員にペナルティーが科せられる。

 

監督の上杉自ら指導に乗り出したことにより、練習がさらに激化した。今までさえ辛かった練習がさらにきつくなる。

 

「おぇっ…」

 

その練習によって吐き出す者も少なくない。生嶋はほぼ毎日吐いていた。

 

「生嶋君、頑張って下さい!」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

マネージャーの茜が介抱しながら元気づける。生嶋は礼を言って再び練習へと戻っていく。

 

『ぜぇ…ぜぇ…』

 

辛そうにしているのは1年生ばかりではなく、2、3年生も同様であった。全国制覇を狙うと宣言した上杉に妥協も手抜きもない。

 

「よーし! 5分休憩!」

 

練習が始まり、ようやくの休憩。ほとんどの者がその場で座り込んだ。

 

「お疲れ様です。どうぞ」

 

もう1人のマネージャーである梢が労いの言葉をかけながらタオルとスポーツドリンクを渡していく。

 

「…はい」

 

何故か空だけには素っ気ない表情と言葉でタオルとスポーツドリンクを渡す。

 

「…?」

 

嫌われる身に覚えがない空は不思議そうに首を傾げるだけだった。

 

「お前ら、そのままでいいから話を聞け」

 

上杉が全員の注目を集め、話を始める。

 

「来月の大型連休、他校と練習試合をするぞ」

 

 

――練習試合…。

 

 

その言葉に部員達が目の色を変える。

 

「相手は2校。おそらく、インハイ予選前の最後の試合になるだろう。各自、試合までにしっかり調整しておけ」

 

『はい!』

 

「よっしゃぁっ! やっと試合だ!」

 

空は決まった練習試合を前に興奮を隠せないでいた。他の部員も、言葉にこそ出さないが、待ち遠しい気持ちでいっぱいだった。

 

「監督、練習試合の相手は?」

 

馬場が試合相手を尋ねた。すると、上杉はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「昔の知り合いの都合で急遽決まった相手だが、インハイ前の調整相手には申し分ない相手だ。初日の相手は、正邦高校。2日目は泉真館だ」

 

 

――ざわっ…。

 

 

発表された試合相手に、部員達はざわつく。

 

「大地? 知ってる? 俺、どっかで聞いたことある気がするんだけど…」

 

質問する空に、大地が溜め息を吐く。

 

「ハァ…、正邦、泉真館。これに秀徳を加えた3校は、東京都の三大王者で、一昨年までは、東京都のインハイ出場枠である3つの枠は、常にこの3校の独占状態だったんですよ?」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

「…というか、あなた、その中の泉真館からスカウトが来ていたでしょう?」

 

「あー、そういえば…、来ていたような…」

 

空の記憶の中からはスッポリ消え失せていた。

 

「でも、東京だと、ここからだと遠いですね」

 

「それは心配いらん。理事長から部員人数分の足代は預かっている。その辺りは心配無用だ」

 

馬場の懸念に、上杉は答えていく。

 

「練習試合とはいえ、無様な姿を晒すな。試合までみっちりしごいていくからな! 5分だ! 練習を再開するぞ!」

 

『はい!』

 

再び、練習を再開した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

 

そして、時はあっという間に過ぎ、ついに、花月高校初陣とも言える練習試合の日が、やってきたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





次回、久しぶりにバスケの描写を入れます(^_^;)

5月の大型連休とはいえ、静岡から東京の高校相手に試合しに行くのは無理があるとは思うのですが、花月高校はお金持ちが集まる学校で、その関係で部費が潤っている。という感じの設定みたいな感じでお願いしますm(_ _)m

誠凛に加入した新戦力、その中で池永は、限りなく問題児になるつもりです。ちなみに、現在、オリキャラの選手紹介を(オフィシャルブック、くろフェスを参考にしながら)作成中なのですが、その中の池永の能力値の中の精神力は限りなく低い設定であったりします(笑)

そちらも完成次第投稿します。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第29Q~遠征~


お待たせしました!

書きたいことを盛り込んでいったら過去最大のボリュームに。

それではどうぞ!


 

 

 

やってきた大型連休……。

 

 

 

――プァァァーーーン!!!

 

 

 

花月高校バスケ部の部員達と監督、上杉は、新幹線に乗車中。

 

「にしても、たかだか練習試合に行くのに、新幹線に乗れるとは思わなかったよ」

 

「花月高校は名門私立ですからね、OGからの寄付金もありますが、何より、花月高校の創始者の一族は古くからの旧家で、資産家だという話ですから、高校の部活動と言えど、部費が豊富なのでしょう。…お茶、入りましたよ」

 

背もたれに身体を倒しながらリラックスする空に、にこやかに水筒のお茶を渡す大地。

 

「それもあるが、1番の理由は理事長がそれだけ今年のバスケ部に期待しているということだよ」

 

空の真向いに座る三杉が肘掛けに肘を付き、読書を続けながら口を挿む。

 

「文科系ではあらゆる部活動に全国でも優秀な成績を収める生徒が在籍している花月高校だが、それに対して運動部は全般的に実績が乏しい。にもかかわらず、結果を出す前にこの待遇。学校全体がバスケ部に期待を込めているのさ」

 

「なるほど…」

 

いくら理事長であっても、学校の資金を自由にすることはできない。例え切実な理由があっても、その理由に答えるだけの価値が見いだせなければ、資金を出す許可がおりない。

 

花月高校の運営側も、運動部でも実績を上げ、更なる入学希望者を増やすという、大人の事情があったりもする。

 

「正邦と泉真館かぁ…、秀徳はよく知ってるけど、他はよくわからねぇな。…大地、何か知ってる?」

 

「そうですね…、東京都は、去年、キセキの世代が進級したことで、勢力図が大きく変わってしまったのですが、その前年、一昨年までは、インターハイ及び、ウィンターカップの代表校は、常にこの3校でした」

 

大地が顎に手を当てながら説明を続ける。

 

「今日試合予定の正邦高校。この学校は、全国でも珍しい、古武術をバスケに取り入れた学校でもあります」

 

「古武術~? アチョー! のあれ?」

 

空は口を尖らせながら、手を手刀に変えて聞き返す。

 

「それは古武術ではありませんが…、私も記事を読んだだけですので、詳細は存じ上げませんが、古武術の独特の動きを取り入れることで、体力を消耗を抑えたり、動作をスムーズにしたり、動きを読みづらくしたりなど、様々な効果があると言われています」

 

「へぇ…」

 

「もともと、古武術の動きは、現在の様々なスポーツに精通すると言われています。他の競技の有名スポーツ選手も取り入れていると聞きますし、事実、その正邦が東京都の王者に名を連ねていたのですから、確実に効果があるのでしょう」

 

大地は一度言葉を切り、続ける。

 

「正邦高校の持ち味は、古武術を生かした高いディフェンス力。三校の中でもそれが秀でた学校です」

 

へぇーと、空が感心しながら聞いている。

 

「次に、泉真館ですが、特徴としては、入部して1年は公式戦には一切出場させず、徹底的に基礎を磨き、3年時にその集大成を披露するのがこの学校の特色のようです」

 

「…あー、そういや、そんなこと言ってたような…」

 

「パス、ドリブル、シュート、それぞれをバランス良く鍛え上げ、試合に出場する5人の選手が苦手分野のない、何でもこなせるオールラウンダーを理想とし、どのような相手、状況でも対応できる柔軟なバスケ」

 

「ふーん、何となく、すごそーってのは分かるけど、つまらなそうなバスケだな」

 

型にハマることを嫌う空はげんなりとした表情をする。

 

「ディフェンスに比重を置いた正邦とは違い、オフェンス、ディフェンスに大きな偏りはない、バランスの取れた学校ですね」

 

「なるほど」

 

「最後に、秀徳高校ですが…」

 

すると空は、待ってました! と言わんばかりに身体を起こし、真剣に話を聞く体勢を取る。

 

「秀徳高校は、先の泉真館と同じく、バランスの取れたチームではあるのですが、どちらかと言えば、オフェンス力に比重が傾いた学校ですね」

 

「ふむふむ」

 

「東京都でもナンバーワンを誇るインサイド。これが攻守共に生きてきます。バランスを取りつつも、高いオフェンス力を誇る。これが秀徳高校の特徴……ですが」

 

「?」

 

「これは、あくまでも、キセキの世代、緑間さんがいない時までの話しです。強力なインサイドに、あの驚異的な射程距離を誇る天才シューター、緑間さんが加わります。それを考えると、現在では秀徳高校が頭1つ2つ突き抜けている言っても過言ではないでしょう」

 

「なるほどね…、せっかくなら、秀徳とも戦ってみたかったなぁ」

 

話しを聞き終わり、両手を頭の後ろに組み、座席にもたれかかりながら自身の願望を口にする。そんな空をクスクスと笑いを零しながら大地は会話をしていく。

 

「東京都のインターハイの出場枠は3つ。全国有数の激戦区を誇る東京都ですが、秀徳高校が3つの椅子から弾かれることはおそらくないと思います。我々がインターハイの出場を果たせれば、然るべき場所で戦うことも充分ありえるでしょう」

 

「…そうか、そうだよな! やっぱ、楽しみは、後に取っとくべきだな!」

 

空は握り拳を作り、目を輝かせながら気合を入れる。それを大地が『他の乗客の迷惑ですよ』と窘める。

 

「さて、そろそろ到着しますから、下車の準備をしますよ」

 

新幹線は既に減速に入っており、もうすぐ到着を告げるアナウンスも入っている。

 

空は慌てて新幹線を降りる準備を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

新幹線を降り、そこからさらに電車を乗り継ぎ、正邦高校へと向かう。

 

校門の前に到着すると…。

 

「上杉さん、遠路はるばる来てもらってすまないね」

 

「こちらこそ、試合を組んでいただき、恐縮です」

 

監督の上杉と、校門の前で待っていた正邦の監督、松元郁憲が挨拶と握手を交わした。

 

「花月高校のバスケ部の皆も、わざわざ遠くからすまないな。今日は是非ともいい試合をしよう」

 

『よろしくお願いします!』

 

花月高校バスケ部一同が松元監督に礼をする。

 

「今から控室に案内させる。…おーい」

 

体育館方面に声をかけると、ジャージ姿の1人の部員がやってきた。

 

「花月高校の方々だ。控室まで案内頼む」

 

「はい」

 

呼ばれた部員が前に出て先導を始める。

 

「主将の早蕨です。今から控室に案内しますので、自分に付いてきてください」

 

主将と名乗った早蕨を先頭に、花月高校の面々は、体育館に隣接しているプレハブ小屋まで案内される。

 

「こちらの小屋を自由に使ってください。着替えが終わったらすぐそこの体育館の方までお願いします」

 

と、頭を下げ、体育館へと向かっていった。

 

「急いで着替えろ。あまり相手を待たせるな」

 

バスケ部のメンバーは、すぐさま着替えを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『チュース!』

 

着替えを終えたメンバー達は、体育館内へと足を踏み入れる。

 

正邦高校の面々は既にアップを開始しており、花月高校の者達がやってくると、手や足を止め、彼らが入ってきた体育館入り口に視線を向ける。

 

「試合は1時間後に始めます。花月高校の皆さんはこちらの半面を使ってアップを始めてください」

 

早蕨に案内され、花月高校はアップを開始する。

 

 

――ザシュッ! ザシュッ…!

 

 

パスを出し、リターンパスを受け取った者がそのままレイアップを決めていく。

 

「おっしゃ!」

 

空の番。パスを出し、リターンパスを貰う。

 

「(景気づけに! …1発…)」

 

「空、試合前に余計な体力は使うなよ」

 

「…うげっ!」

 

 

――ガン!!!

 

 

ダンクを決めようとした空。寸前で三杉に止められ、勢いが付きすぎ、ゴールを外す。

 

「しまった…」

 

空が外したボールを拾いにいく。

 

「アハハハハッ! おもしれー!」

 

「ん?」

 

その様子を見ていた正邦側の丸坊主頭の選手が大笑いする。

 

「普通あれ外すかなー。ねぇ、キャプテン! 花月高校って、聞いたことない高校だし、景気付けにダブルスコア狙いましょうよ! ていうか、できなきゃ恥っすよ!」

 

『っ!』

 

その選手が続けて暴言とも取れる言葉を続ける。その言葉を聞いた花月高校の面々(三杉と堀田と大地を除く)は怒りを露わにする。

 

「お前は、思ったことをすぐ口出すなって、岩村さんに散々言われただろうが!」

 

「あいたっ!」

 

その選手の傍まで寄ってきた首相の早蕨が、坊主頭の選手に拳骨を落とす。

 

「申し訳ない! あのバカは後できっちりしめておきますので!」

 

主将が坊主頭の頭を押さえ、無理やり頭を下げさせながら自身も頭を下げながら謝罪した。

 

「いやいや、試合前に挑発をして相手のペースを乱すのも立派な戦術の1つだ。謝る程のことじゃないよ」

 

三杉は特に気にする素振りを見せず、淡々と気にしていない胸を述べた。

 

「いや…こいつはそんなつもりは…すまない! おらっ! こっちこい! あんま恥を掻かせるな!」

 

早蕨は丸坊主頭の選手の襟首を掴んで連れていき、再度拳骨を落とした。

 

「…帝光の池永とは、違った意味でむかつく奴だな…」

 

バカにされた当の本人である空はかなりイライラした様子で相手を睨みつける。

 

「…まあ、あの池永さんと違って、あちらの方に悪気はなさそうですけど」

 

「余計に性質が悪いわ」

 

空の機嫌を直そうとする大地だが、全く直らない様子を見て苦笑いを浮かべる。

 

「…ですが、あの方には注目した方がいいですよ」

 

「…どういうことだ?」

 

「あの方、確か津川智紀という方です。去年、正邦はインハイ予選の準決勝で誠凛に敗れたのですが、あの津川という選手は、誠凛の火神さんを抑え込んだ程の選手です」

 

「っ!? あの火神をか!? マジかよ…」

 

その告げられた事実に、空は驚きを露わにする。

 

火神大我。誠凛高校のエースであり、キセキの世代と同等の資質を持ち、昨年のウィンターカップ優勝の立役者の1人である。

 

空は去年の誠凛の試合映像はその目で見ている。火神の実力はある程度把握している。

 

「まだスタメンの発表がされてないので、誰がマッチアップするかは分かりませんが、もし相手になったら、気を引き締めてくださいよ」

 

大地は空に警戒を促す。

 

「分かってるよ……でも、それなら、是非ともやりあってみてーな」

 

空は返事をしつつも、ワクワクが溢れ、笑みがこぼれる。

 

「まったく、あなたという人は……ですが、同感です」

 

大地もやれやれと言った口調で空を窘めるが、大地もまたワクワクが抑えきれず、ニヤリとした表情をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合開始10分前となり、それぞれの選手がそれぞれにベンチに集まっていく。

 

「スタメンを発表するぞ。呼ばれた奴はマネージャーからユニフォームを貰え」

 

上杉がそう告げると、全員がゴクリと唾を飲み込む。

 

「4番、三杉誠也!」

 

最初に呼ばれたのはアメリカからやってきた、三杉。

 

高みを求めてアメリカに渡り、キセキの世代と戦うために日本に帰ってきたスーパーエース。

 

三杉が前に歩き出す。部員の誰もが当然だな、という眼差しで見送る。

 

「試合、楽しみにしています」

 

「ああ。ありがとう」

 

三杉はにこやかな笑顔でユニフォームを受け取る。

 

「お前はSGとして入れ。コートでの指揮はお前に任せる」

 

「分かりました。任せて下さい」

 

上杉が放り投げたキャプテンマークを受け取った。

 

「次、5番、堀田健!」

 

「はい!」

 

次に呼ばれたのは同じく、アメリカからキセキの世代と戦うためにやってきた堀田。

 

2メートルを超える身長と圧倒的なパワーを誇る肉体。相対する者を萎縮させる超人。

 

「堀田先輩! 大暴れしちゃって下さい!」

 

「ふっ、もちろんだ」

 

相川から背番号5を受け取る。

 

「ポジションはCだ。ゴール下はお前が死守しろ」

 

「はい」

 

返事をすると、堀田は指を鳴らす。

 

「次、8番、天野幸次!」

 

「はいな!」

 

次に呼ばれたのが、現2年生である、天野幸次。

 

192㎝という長身に、高い身体能力を誇り、そのディフェンス力とリバウンドは静岡県でもナンバーワンを誇る。

 

プレースタイルはリバウンドやスクリーン等、チームの汚れ役に回る事が多いロールプレイヤータイプ。

 

「お前はPFに入れ。役割は、分かっているな?」

 

「もちのロンや! 一生懸命チームのフォローしまっせ!」

 

親指を立てて役割を口に出していく。

 

「天(てん)先輩、ファイトです!」

 

「おおよ! ファイト1発や!」

 

キャッキャ言いながら天野にユニフォームを渡す相川。

 

「次! ……10番、神城空!」

 

「っしゃあっ! はい!」

 

次に呼ばれたのは、昨年、無名の星南中を全中の覇者にまで押し上げた立役者の1人、空。

 

抜群の身体能力と予測不能のプレースタイル。無尽蔵のスタミナを誇る空。

 

呼ばれた空は身体全体で喜びを露わにする。

 

「PGだ。状況によっては三杉とチェンジすることもある。その時は勉強させてもらえ」

 

「了解っす!」

 

空は敬礼のようなポーズを取る。

 

「…一応、多少は期待はしてるわ」

 

素っ気ない表情で空にユニフォームを渡す姫川。

 

「最後! 11番、綾瀬大地!」

 

「はい」

 

最後にスタメンに起用されたのが、空と同じく星南中出身であり、空に比類する実力を持つ大地。

 

高い身体能力に加え、空にも負けない運動量。高いテクニックを誇り、ガンガン1ON1を仕掛けていくスラッシャータイプのプレイヤー。

 

「SFだ。よーく三杉のプレーを見ておけ」

 

「はい。期待添えれるよう、頑張ります」

 

優等生のような言葉で返事をする。

 

「綾瀬君! 神城君と一緒に頑張ってね!」

 

「ええ。空共々チームに貢献しますよ」

 

背番号11を相川から受け取る。

 

こうして、スタメンが発表された。ベンチメンバーとして、6番、馬場高志。7番、真崎順二。9番、松永透。12番、生嶋奏。

 

「試合際して特別な指示は出さん。…だが、課題は出す」

 

深く目を瞑った状態で話しだし、そして両の目を見開いた。

 

「今日の試合、得点は100点以上、失点は30点以内に抑えろ」

 

『っ!?』

 

出された課題に、驚愕の表情を浮かべる。

 

昨年、王者の座から陥落したとはいえ、未だ全国区の実力と実績を誇る正邦高校。一方、実績は乏しい花月高校。

 

そんな状況下で出された厳しい課題。

 

「鉄壁を誇る正邦相手に100点以上…」

 

「オフェンスだって決して緩くはないのに…」

 

思わず弱音が漏れる。

 

「いいか! 100点以上、30点以内だ! 俺の顔に泥を塗ったらインターハイには出られないと思え! お前達の躍進はここから始まるんだ! それを正邦に…特にあの坊主頭に思い知らせてやれ!」

 

『(やっぱり気にしてたんだ…)』

 

先程の津川の失言。それは上杉の耳にもしっかり入っていた。

 

しかも、今の上杉の指示は正邦にも聞こえており、正邦メンバーは一様に花月高校のメンバーを睨みつけている (監督の松元は笑っている)。

 

「背番号を受け取った奴は控室で着替えろ。それ以外の奴は試合の準備を手伝いに行け」

 

『はい!』

 

花月高校バスケ部の面々は控室に行く者、手伝いに行く者に分かれて移動していく。

 

「ふう」

 

ベンチ内に選手がいなくなり、上杉は一息吐きながらベンチに腰掛ける。

 

「お久しぶりです。上杉のおじ様」

 

そこに、上杉に話しかける1人の人物。花月でも正邦でもない制服を身に付けている。

 

「んー…おう、トラんとこの嬢ちゃんじゃねぇか!」

 

話しかけたのは、誠凛高校の学生であり、監督でもある相田リコだ。

 

「遅くなったが、去年のウィンターカップ、見させてもらった。見事な監督ぶりだったぞ」

 

「いえ、私ではなく、優秀な選手達のおかげです。私は、あくまでも、優勝した学校の監督ってだけで…」

 

リコは上杉の賛辞の言葉に謙遜しながら苦笑いする。そんなリコを見て上杉は豪快な笑い声を上げる。

 

「ハッハッハッ! そう謙遜することはねぇ。試合の勝利は、選手の手柄なんて言葉はあるが、どんないいチームでも、率いている監督がヘボじゃ、勝てるものも勝てん。逆に、監督が優れていれば、番狂わせなんかも容易に起こせる。自信を持て。俺から見てもお前の采配は見事だった。もう、立派に監督しているぞ。もしかしたらトラより優秀かもな、ガッハッハッ!」

 

「おじ様…、ありがとうございます!」

 

リコは涙ぐみながら頭を下げて礼の言葉を述べた。

 

「それで? 今日は正邦の試合でも見に来たのか?」

 

「はい。正邦は、誠凛(私達)がインターハイ出場を狙うにあたって障害になる相手の1つですから」

 

本題を切りだした上杉。リコは袖で涙を拭い、答える。

 

昨年、勝利を収めたとはいえ、辛勝もいいところだった誠凛。誠凛にとって、障害となる学校は何もキセキの世代が所属する学校ばかりではない。

 

「今日は他にも、秀徳も練習試合をしているので、そっちに行きたかったんですけど、パパが、『インターハイで頂点を目指すなら、正邦の試合を見に行け』って、言うものですから…」

 

「なるほど、トラがそう言ったのか…」

 

すると、上杉がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「なら、よーく見ていけ。今日は、すげーもんが見られるぞ」

 

「…自信があるようですね。それだけ、今年の花月高校は強いと?」

 

「説明せずとも、その目で見た方が早い。…まあ、監督としては、つまらんチームだがな」

 

そう説明すると、上杉は太腿の上に肘を立てて頬杖を突いた。

 

「…」

 

花月高校のスターティングメンバーはまだ着替えから戻ってきていない。リコは準備が出来ている正邦の方に視線を向ける。

 

「(さすが、三大王者の一角ね。去年の主力がほとんどいなくなったとはいえ、よく鍛えられている。津川君も、去年より伸びているし、戦力は去年と同等…けど、今年は去年までと違う点があるわ)」

 

リコの視線の先には、試合に出場するであろう選手。

 

「(あの5番、身長は推定で191㎝。7番、推定で189㎝。今年の正邦には、高さがある)」

 

去年の最高身長は、主将を務めていた岩村勤の187㎝。全国区のチームとしては高さがあるとは決して言えなかった。

 

今年は、去年と同様、古武術を生かした鉄壁のディフェンスに加え、高さまでプラスされる。

 

「(見に来て良かったわ。キセキの世代がいる秀徳、桐皇ばかり気にしていたら、確実に足元をすくわれていたわ)」

 

東京都のインターハイ予選に参加する高校は100を超える。その中で、インターハイに出場出来るのはたった3校。その3つしかない席を獲得するため、その全ての学校が死にもの狂いでやってくる。僅かばかりにも驕りがあった自分自身に反省を促し、対策を取るべく、試合に集中することを決意する。

 

「お待たせしましたー!」

 

ちょうどその時、着替えを終えた花月高校のスタメン達がやってくる。

 

「(来たわね!)」

 

リコは待ってましたと言わんばかりにそちらに視線を向ける。

 

花月高校は今年、スーパールーキーを獲得したことは既に情報として入っている。気が早いが、全国で当たる可能性も考えられるため、そちらにも興味がある。

 

まず入ってきたのは…。

 

「(あれが、今年のルーキーの目玉、あの帝光中を倒した2人、神城空君と綾瀬大地君ね)」

 

空と大地が花月高校のユニフォーム、白を基調に、緑をあしらったユニフォームに着替えてやってきた。

 

「(っ! 服の上だから正確な数値は測れないけど、全ての数値が軒並み高い。しかも、伸び代も見えない…)」

 

肉体を数値化することができるリコ。その、弾きだした数値に驚きを隠せない。リコが1番印象的だったのが…。

 

「(…良く鍛えられているわね。才能をより伸ばすため、才能が開花しても身体がそれに耐えられるようにしっかり鍛えられている。普通あれだけ才能に恵まれているなら、才能任せになりがちなのに…。高校に上がって1ヶ月であれだけの肉体にするのは不可能。なら、高校入学以前から鍛え上げてきたことになる。だとすると、彼らの中学時代の指導者はすごいわね)」

 

中学時代の空と大地の監督であった龍川は、とにかく基礎づくりを2人にやらせて (ほぼ脅しで)やらせていた。才能を伸ばすのも、支えるのも基礎であるため、自身の才能に潰されないように、先に控える強敵との戦いの為に、龍川は出来る限りの指導をしていた。

 

次にやってきたのは…。

 

「久しぶりの試合や。いっちょ、やったるでぇ」

 

「(静岡でディフェンスとリバウンドに定評がある天野幸次君)」

 

天野は腕の関節を鳴らしながら歩いていく。

 

「(…すごいわね。単純な肉体の数値だけなら、ウチの火神君や、キセキの世代にもひけを取らないわ)」

 

静岡で現時点で最も有名であり、鬼監督と言われる、上杉剛三の下で育ったその実力は本物。

 

「(ウチの火神君でも、かなり苦しめられそうね…)」

 

見に来て良かったと、心の中で思ったリコ。

 

続いて、生嶋奏、松永透がやってくる。

 

「(全中ベスト5の生嶋君と、同じくベスト5で鉄平の後輩である松永君。失礼だけど、静岡でも決して強豪校とは言えない花月高校にこれだけの選手が集まったのは奇跡だわ)」

 

リコは、今年の花月高校は必ず全国へとやってくると確信する。自分達が全国大会へと出場した時、花月高校は強敵の1つになると。

 

だが…。

 

「…えっ?」

 

ここでリコは、言葉を失う。

 

「嘘…、こんなの、ありえない…」

 

驚きを隠すことが出来なかった。

 

最後に体育館内にやってきた、2人。4番と5番のユニフォームを着てやってきた2人。

 

「三杉さん! 遅いっすよー!」

 

「堀田さん。待たせすぎでっせ」

 

空と天野に急かされてやってきた2人。

 

「(何よこれ…あり得ないわ…。あの2人の筋力の数値…、今まで見たどの人より高い…。それこそ、火神君やキセキの世代よりも…!)」

 

三杉誠也、堀田健、2人の選手を目の当たりにして驚きを隠せないでいた。

 

身体能力の数値は嘘を付かない。これほど数値を持った選手がコートに立ったらどうなるのか…。

 

 

――まあ、監督としては、つまらんチームだがな。

 

 

この言葉の意味がよく分かった。

 

これだけのメンバーが揃っていれば、特に指示を出さなくても試合に勝ててしまうからだ。

 

監督の身としては、当然、選手達を勝たせてあげたい。勝利は何よりも望むものだ。

 

だが、やはり、自身が采配を揮って試合に勝たせたいという願望が何処かにある。

 

誰が率いても勝てるチームでは、上杉にとっては面白みはないということだ。

 

「すまない、遅くなった」

 

「遅くなった」

 

2人は軽く謝罪し、ベンチへとやってくる。

 

ユニフォームに着替えた選手達が花月側ベンチへとやってくる。

 

「ん?」

 

選手達が上杉の横に立つリコに気付く。

 

リコはペコリと頭を下げる。

 

「…あっ!? 確か誠凛の!」

 

空がリコの正体に気付く。

 

「俺の知人の娘さんで、知ってると思うが、正邦と同じ、東京都の誠凛の監督だ。今日はここで見学してもらうことになっている。まあ、気にせず試合に集中しろ」

 

「よろしくお願いします」

 

リコは再度頭を下げる。

 

「楽しんでいって下さいね」

 

三杉は笑顔で声をかける。

 

「は、はい//」

 

リコは何故だか一瞬心がときめいてしまう。

 

「さて…、まもなく試合だ。三杉、一言あるか?」

 

「はい」

 

上杉が仕切り直し、三杉に声掛けを託す。

 

「さて、これが俺達の初陣となる。初戦から躓くことなど、あってはならない」

 

三杉は白のヘアバンドを額に巻き、立ち上がる。

 

「言うことはこれだけだ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――勝とう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっと、両肩にかけていたジャージをベンチに落とす。

 

『はい「おう」「了解や」!!!』

 

その三杉の言葉に、部員全員が一同に返事をする。

 

かくして、花月高校の…空、大地と、三杉と堀田が加わった花月高校の初陣の幕が、今、開かれる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





花月高校のユニフォームのカラーは緑です。イメージ的にはスラムダンクの翔陽のユニフォームをイメージしてください。

今回は、正邦のユニフォームのカラーが黒なので、今回は、というか、のっけから別カラーバージョンとなります。

本当は正邦戦まで書きたかったのですが、試合始まるまでにこんなボリュームになってしまったので、次回に持ち越します。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!



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第30Q~VS正邦高校~

やっとの試合。

書きたいこと書いていたら結構文字数増えるもんですね…。

それではどうぞ!




 

 

試合開始の時間となり、花月、正邦のスタメン達がセンターサークル内に集まる。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番SG:三杉誠也 190㎝

 

5番 C:堀田健  204㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

 

正邦高校スターティングメンバー

 

4番PG:早蕨春人 180㎝

 

5番 C:石野五郎 191㎝

 

7番PF:藪清志郎 189㎝

 

8番SG:津川智紀 181㎝

 

9番SF:東海林巌 178㎝

 

 

『…』

 

『…』

 

先程の正邦は津川、花月は上杉の挑発とも言える言動により、両者共、若干だが、殺伐とした空気が流れている。

 

「さっき聞こえちゃったけど、何か100点以上取って失点を30点以内にしないとインハイ出れないんだって? じゃーもうインハイ出れないねー。そうだ! どうせならこっちもそれを目標にしましょうよ!」

 

津川がそんな空気の中、おちゃらけた口調で喋り出す。

 

「お前はもう余計なこと喋んな!」

 

主将の早蕨が厳しく注意を促す。

 

「元はと言えば、このバカ(津川)がきっかけだ。試合はお互いクリーンで行こう」

 

「もちろん」

 

三杉と早蕨がギスギスした空気を緩和させるべく、言葉を交わしていく。

 

「だが、こいつ(津川)じゃないが、こっちはこれでも去年までは東京都で三大王者と呼ばれていたんだ。今年は去年を上回っていると自負している。さっきの目標、やれるものならやってみな」

 

「監督は、一度吐いた唾は飲まない堅い人でね。是非とも達成しないと、言葉通りにインハイを欠場されかねないから、目標、果たさせてもらうよ」

 

両校主将同士、表情はにこやかだが、胸の内を熱くさせながら握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

整列も終わり、いよいよ試合開始となる。堀田がジャンプボールをするためにセンターサークルに向おうとすると…。

 

「待った、健」

 

「? どうした?」

 

三杉に呼び止められた堀田が立ち止まる。

 

「せっかくだ。スタートから相手にサプライズをしようか」

 

そう言うと、三杉は視線を空に向け、ニコリと笑った。

 

「? ……っ! なるほど…」

 

三杉の真意を察した空が同じくニコリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ジャンプボールのため、正邦は、5番の石野がセンターサークルに入る。

 

対する花月側は…。

 

『っ!? これは!?』

 

正邦は今目の前の光景に目を見開く。何故なら、ジャンプボールに入ったのは…。

 

「10番、神城がジャンパー!?」

 

花月のスタメンの中でもっとも身長が低い神城がジャンパーとなった。

 

正邦は、当然、堀田がジャンパーを務めるものと思っていたため、軽く頭が混乱させられる。

 

ジャンプボールは、必ずしもチーム最高身長の者が務めるとは限らないが、チームで最も身長が低い者が務める理由などない。

 

「(何が狙いだ…。何か裏があるのか? それともただの挑発か? それとも…)」

 

正邦側は必死に花月側の狙いを探し出そうとする。

 

センターサークル内で屈伸運動をする空。

 

「(…ちっ! 去年、新設校に…それも、その前の年に大勝している誠凛に敗れてインハイもウィンターカップも逃したことで、ある程度舐められることは覚悟していたが、こうもあからさまとはな…)」

 

正邦側のジャンパーの石野は不快感を露わにする。

 

「狙いは分からんが、…奇策ってのは、大概が策を練り過ぎたあまりに自分を見失った故の愚挙だというのは知ってるか?」

 

早蕨が横に立つ三杉に探りを入れる。

 

「奇策? …ああ、先に言っておくと、ウチに狙いはない。だから、考えるだけ無駄だよ」

 

「なに?」

 

「それと、ウチのルーキー、結構面白いよ」

 

にこやかに告げる三杉。それと同時に審判がボールを上げ、ティップ・オフ。

 

空と石野が同時に跳ぶ。

 

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

 

『なっ! なにぃぃぃーーーっ!!!』

 

体育館中に驚愕の声が響く。

 

ジャンプボールを制したのは、空。

 

「っしゃぁっ!」

 

自分より12㎝も高い相手の上からボールをはたく。こぼれたボールを拾ったのが大地。

 

「ナイスです、空」

 

すぐさま、正邦ゴールへとドリブルしていく。

 

「させないよ!」

 

それを阻んだのが津川。

 

「(…試合開始直後の最初の1本。味方を待って万全を期するのがセオリーですが…)」

 

だが、強敵を求める本能が抑えられない大地は…。

 

「行きますよ」

 

その場で止まり、レッグスルーからの…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロスオーバー。津川の左手側から一気に仕掛ける。

 

「はやっ! けど、足りないね」

 

「っ!」

 

だが、津川は遅れずに大地に付いていき、左手を大きく広げ、進路を塞ぐ。道を塞がれた大地はドリブルを止め、動きを止める。

 

「(さすが、火神さんを抑え込んだ実力は本物ですね。速いというより、上手さを感じます)」

 

決して高い身体能力を持っているわけではない津川。古武術の動きと読みを利用し、先回りして大地の道を塞ぐ。

 

「(古武術は左右の揺さぶりに強いようですね。左右がダメなら…)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地は再度ドライブを仕掛け、津川の横を抜けようと試みる。

 

「何度やっても同じだって!」

 

津川はやはり、そのドライブに対応する。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

高速ドライブ後、大地は高速のバックステップで津川との距離を空ける。

 

そして、リングへと視線を向ける。

 

「こんの! させないよ!」

 

津川は何とか踏ん張り、下がった大地との距離を詰めようとする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、大地はそれを嘲笑うかのように再びドライブを仕掛ける。

 

「ぐっ…ぐっ…!」

 

再度、ドライブに対応しようとしたが…。

 

「あっ…」

 

前後の揺さぶりに足腰が踏ん張れず、その場で尻餅を付いてしまう。

 

「津川がかわされた!」

 

ディフェンス優れた正邦選手の中でも、指折りなディフェンス力を持つ津川が振り切られたことに正邦側がざわつく。

 

「行かせん!」

 

ヘルプに来た津川が止めていた間に下がっていた石野が来る。

 

「ふっ!」

 

右、左の切り替えしを繰り返し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

これをかわす。リング近くまで進軍した大地が跳躍する。

 

「させるかー!」

 

藪がブロックするべく跳躍してやってくる。

 

「はぁ!」

 

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

 

『なっ!?』

 

大地は、藪の上からワンハンドダンクを叩きこんだ。

 

「まじかよ!? あの身長差で…!」

 

身長差8㎝。そして、180㎝前半の大地のダンク一閃に体育館中に驚愕の声が上がる。

 

「(あれが180㎝程度の人間のジャンプ力かよ…)」

 

開始早々、12㎝差もある空がジャンプボールを制し、大地が正邦の要の1人である津川をかわし、身長差のある藪の上から叩きこむスーパーダンク。

 

奇襲という意味では、大成功とも言える。

 

「さて、目標はまだ遠い、早くリスタートしてくれると助かるかな」

 

「っ! まだ試合は始まったばかりだ。藪、ボール拾え! 津川も! 切り替えろ! 1本! 返すぞ!」

 

ボールを受け取った早蕨がチームを落ち着かせる為、声をかけ、ゆっくりゲームメイクをする。

 

「ディフェンス! 1本止めるぞ!」

 

三杉の檄にチーム全体が呼応し、それぞれが同ポジションの相手にマークに付く。

 

「…」

 

早蕨がゆっくりボールを付き、ゲームメイクを始める。

 

空は腰を落とし、早蕨の一挙手一投足に注視する。

 

「(…なるほど、伊達に全中を制した選手ではないな。いいディフェンスをする)」

 

隙のないディフェンスに、内心で賛辞の言葉を贈る。

 

「…(チラッ)」

 

早蕨が藪に一瞬アイコンタクトを取る。藪はコクリと頷く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して早蕨がドライブを仕掛ける。空は遅れずにそのドライブに付いていく。

 

振りきれないことが想定内であった早蕨はハイポストに入っていた藪にパスをする。

 

ボールを受け取った藪の背中に天野が付く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スピンターンで天野をかわしにかかる。

 

「あかんで。そんなもんじゃ俺はかわせんでぇ!」

 

天野は一歩踏み出し、左手を大きく広げ、進路を塞ぐ。

 

「ちっ!」

 

かわしきれなかった藪は舌打ちをし、ゴール下まで侵入していた石野にパスをする。

 

ボールを受け取った石野が背中に付く堀田を押し切ろうと身体をぶつける。

 

「ぐっ…!」

 

だが、堀田の身体はビクともせず、1ミリたりとも動く気配がない。

 

「(重すぎる…、まるで山でも押してるみたいだ!)」

 

パワー勝負では勝ち目がないと判断した石野はターンアラウンドで反転し、フェイダウェイで、後ろに飛びながらジャンプショットを放つ。

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

191㎝を誇る石野が後ろに飛んで距離を空けてもなお、堀田の上を超すことは出来ず、ブロックに阻まれる。

 

「たっ、高い!」

 

圧倒的高さを誇る堀田のブロック。それを目の当たりにした石野は茫然とする。

 

「ルーズボールいただきや! それ、カウンター!」

 

こぼれたボールを拾った天野が前方へ大きくロングパス。ボールを受けとったのは三杉。

 

「っ! 止めてやる!」

 

その前に立ちふさがるのは津川。

 

「…」

 

「…」

 

対峙し、睨み合う両者。そこへ、左側から空が走り込み、手を上げてパスを要求。

 

「…(チラッ)」

 

三杉は一瞬そちらへ視線を向ける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

その瞬間にドライブで切り込む。

 

「あっ!」

 

ほんの一瞬そちらへつられて視線を逸らした津川は成す術もなく抜き去られる。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま難なくレイアップを決める。

 

試合の主導権は花月が握り、完全に花月ペースで試合は進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空の放ったスリーが決まる。

 

「っし!」

 

拳を強く握り、喜びを露わにする。

 

1度握った主導権を明け渡すことなく、試合は進んでいく。

 

「天さん。ちょっと頼みが…」

 

「ん? 何や?」

 

空と天野がヒソヒソと話し込む。

 

「おう、ええで。うまいこと演出したるで」

 

空の提案に、天野は快くオーケーサインを出す。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

正邦のオフェンス。パスを回してチャンスを窺う正邦だが、大地によってスティールされる。

 

「速攻!」

 

大地がターンオーバーを取り、素早く速攻を決める。

 

「大地、ストップ!」

 

それを空が大声で止める。

 

「?」

 

大地は空の声で止まり、後ろにいる空の方へと振り返る。

 

振り返ると、空がパスを要求している。大地は空にボールを戻す。

 

「っしゃあ! 1本!」

 

空は人差し指を天高く上げ、ゲームメイクを始める。

 

「(ディレイドオフェンス? 空は早い展開のオフェンスの方が好みなはずですが、いったい何を考えて…)」

 

空はゆっくりフロントコートへと侵入していく。マークに付くのは早蕨。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりボールを付きながらチャンスを窺う空。

 

「……(よし!)」

 

何かを待つようにゆっくりドリブルを続ける空。天野から合図が出ると…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、ぺネトレイトで正邦ペイントエリアに侵入する。

 

「行かせ…っ!?」

 

早蕨が止めるべく動く。フェイクにかかったわけではないので、すぐさま追いかけようとするが、天野のスクリーンにぶつかる。

 

マークが外れた空に、ヘルプに来たのが…。

 

「(…これこれ! 待ってました!)」

 

津川がやってくる。

 

先程の空と天野のやりとり。

 

 

『何とか、俺に津川がマークに来るようにしてもらえませんか?』

 

『津川と? …なるほど、ええで、うまいこと演出したるで』

 

 

こんなやりとりがあった。

 

マンツーが基本ディフェンスの正邦。それぞれのマッチアップ相手は同ポジションなので、何かしらのお膳立てがなければ空が津川を相手にすることはない。

 

故に、空は先程の大地の速攻を止め、ディレイドオフェンスを慣行し、正邦側を自陣へと戻させた。

 

「(さて、絶好の機会だ。ここで勝負!)」

 

空は津川に突っ込んでいく。

 

空は右、左と揺さぶりをかけ、隙を窺う。だが、津川もディフェンスを得意とするだけはあり、揺さぶられず、空の動きにピタリと付いていく。

 

「(…やる。大地の奴、さっきよくあっさりぶち抜けたな…)」

 

考え事をしていると…。

 

「空! 右!」

 

大地からの声掛け。右側から東海林がボールを狙いにきた。

 

「うおっ!」

 

慌ててボールを右から左に切り返した。

 

「もらい!」

 

だが、そこを津川が狙いすます。

 

タイミング、状況的に、再度切り返すことは不可能。

 

「こんの…!」

 

空は、この状況を打開すべく、上半身を後方に大きく、今にも倒れてしまいそうな程に反らし、ボールを僅かに後方へと下げる。

 

「なっ!?」

 

スティール出来ると確信していた津川だが、目標物を失い、思わず声を上げる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

後方に上半身を逸らしたままビハインド・バックで背中から左手から右手にドリブルする手を変え、素早く上半身を起こすと、東海林の右からドリブルで抜け、この密集地帯を脱出する。

 

そのままゴール下まで侵入し、ジャンプ。石野がブロックに飛んだのを確認し、横へとボールを放る。

 

そこに駆け込んでいた堀田がボールを受け取り…。

 

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

 

ボースハンドダンクを叩きこんだ。

 

「いいパスだ」

 

アシストをした空の背中を叩きながら褒め称える。

 

「よくやった。あまり褒められたことではないが、積極的に勝負を仕掛ける気概は買うぞ」

 

「どもっす」

 

三杉は褒めつつも身勝手な行為に諌める。

 

「どんどん積極的に行け。PGはお前なんだ。お前がゲームメイクをするんだ。ミスは俺が拾ってやる」

 

「うっす!」

 

パチンと背中を叩いて激励した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合の優劣はもはや揺るぎなかった。

 

当初、古武術を絡めたディフェンスに空と大地は戸惑ったが、試合が進むごとにその動きにも対応できるようになり、自身の持ち味を存分に生かしたバスケが出来るようになっていった。

 

そして、三杉と堀田を止められる選手は正邦にはおらず、ガンガン得点を量産していった。

 

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

『ハァ…ハァ…』

 

正邦の選手達は信じられないといった表情でただただ唖然としている。

 

「なんだよ…何なんだよ、お前ら…。無名の学校なのになんで…」

 

津川は歯を食い縛りながら花月の選手達を睨みつける。

 

 

花月 107

正邦  21

 

 

上杉が掲げた、得点100点以上、失点30点以内の目標を達成。

 

「ったく、上杉の奴、とんでもねぇ奴等を集めやがって…」

 

正邦の監督の松元は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「つえーよ、お前ら。前に見たキセキの世代並みだな」

 

「まあ、彼らに勝つために日本に帰ってきたからな」

 

主将同士、早蕨は悪態を吐きながら握手を交わす。

 

「日本に? ……そうか、だからそれだけの実力を持っていながら名前を聞いたことがなかったわけか。…ふっ、インハイ、俺達も死に物狂いで出場してやる。その時にリベンジだ」

 

「ああ。東京は大変そうだな。楽しみに待ってるよ」

 

そんな会話を交わした。

 

「おら、いつまでもグチグチ言ってないで、切り替えろ。インハイまで時間ないんだからな」

 

「はい……(グチグチ)」

 

津川は早蕨に引きずられながら下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(想像以上だわ…)」

 

花月側ベンチにて試合を見学していたリコはただただ言葉を失っていた。

 

正邦は決して弱くない。去年を上回る戦力に加え、去年にはなかった高さが備わっている。

 

「(あの三杉さん堀田さんは想像以上だわ。しかも、実力はほとんど見せていない…)」

 

自身がその目で弾きだした数値どおりの実力を披露した。そして、まだ底を見せていないことも見抜いた。

 

「(そして、ルーキーコンビも、以前にビデオで見た全中決勝の時よりさらに伸びてる。才能が覚醒する前とはいえ、火神君でさえ苦しめた津川君を何度か抜いてみせた)」

 

空の異常なバランス感覚を生かしたフェイントや、大地の強靱な足腰を生かした高速のバックステップに対応出来ず、ほとんど止めることが出来なかった津川。

 

古武術を生かしたバスケは全国でもあまり見かけない。誠凛も、昨年の対決時には、そのバスケに翻弄され、デッキが壊れる程研究したにも関わらず、対応出来るようになったのは後半に入ってから。

 

だが、花月は第1Qこそ、その動きに戸惑いを感じたものの、第2Qに入るとすぐさま対応出来るようになっていた。

 

「(天野君も、マッチアップ相手を完全に封じ込めていた。他の4人が派手すぎるから目立たないけど、スクリーンやポストプレーを巧みに使って味方をフォローしていた。黒子君とは違った形のチームの影だわ)」

 

三杉、堀田、天野、空、大地。常軌を逸した5人が集まった花月高校。

 

「(パパがこの試合を見に行けと言った意味が分かったわ。パパが見せたかったのは正邦じゃなくて、花月高校の方だったんだわ)」

 

リコの父、相田景虎は、花月高校の監督、上杉剛三と旧知の仲。

 

静岡から遠征試合にやってくることを知り、娘のリコを行かせた。

 

「(今年のインターハイ。花月高校は来るわ。…今年の優勝候補として)」

 

リコはそう予感したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

練習試合も終わり、帰り支度をし、正邦高校を後にするバスケ部面々。

 

「デビュー戦、初勝利! 幸先いいなぁ!」

 

完勝に終わった練習試合に、空は喜びを露わにする。

 

「あの津川って奴もぶち抜けたし、言うことなしだよな!」

 

隣を歩いていた大地の肩に手を回しながら同意を求める。

 

「ととっ、空、前を見てしっかり歩いてください」

 

大地は苦笑しながら空を諌める。

 

「とてもそう思える内容だとは思えないけど」

 

そこに、姫川が水を差す。

 

「あなたと津川さんとの勝負シチュエーションは、ターンオーバーからのアウトナンバーがほとんどだった。体勢も整わず、三杉さんが横に並んでいる状況では、あなただけを見ていられない。そのシチュエーションでは、津川さんが不利。唯一、最初のあなたの余計なディレイドオフェンスからの勝負は、初見殺しのトリックプレー。あなたに有利な状況での勝負だからあなたは勝てた。周りの援護もない、対等な条件での1ON1なら、今のあなたでは勝てなかったでしょうね」

 

「むっ」

 

冷静に今日の試合を分析する姫川に、空はムッとした表情をする。

 

「姫川ー、せっかく勝ったんだから、何も水差すことないじゃん」

 

空は口を尖らせながら文句を言う。

 

「勝ったからと言って、そこから何も学ばず、驕ることしか出来ないのなら、あなたはプレイヤーとしてそこまで。反省点が出るのは、負け試合からだけじゃないのよ? もう少し、自身を冷静に分析しなさい」

 

「ぐぬぬ…」

 

あまりの言いようだが、空にも思うところがあったのか、ただただ唸り声を上げるだけだった。

 

「(…実に的確な分析ですね…)」

 

今、姫川は実に的確な分析をした。それは、大地も同意見であった。

 

「(今のは、バスケに詳しい者でなければ言えない意見です。それも、経験者でなくては…。彼女はいったい…)」

 

大地は空と姫川がやり取りをしているのを、思案しながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月高校の面々は予約していた旅館に行き、そこで1泊した。

 

そして、翌日、泉真館へと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




泉真館との試合も一気に書きたかったんですが、思った以上にボリュームが増えてしまったので次回に持ち越し。

何か、だんだん三杉と堀田の影が薄くなってきたような…。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!



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第31Q~VS泉真館~


投稿します!

盛り込みたいことを書き、それを違和感なく( じぶんなりに)繋がるように文章を盛り込むと、文章量がすごいことになるんだなと痛感しました(^_^;)

それではどうぞ!


 

 

 

正邦高校と練習試合をした翌日…。

 

花月高校バスケ部の面々は泉真館まで来ていた。

 

控室に案内され、着替えを済まし、ウォーミングアップをこなした後、スタメンの発表がされる。

 

「今日は2、3年生は出さん。1年生のみで試合をしてもらう」

 

「残念。1年生達、楽しみに試合を見させてもらうよ」

 

上杉からの言葉を受け、三杉が若干残念そうな表情をした後、にこやかに1年生にエールを送る。

 

「中学最強が4人も揃ってるんだ。是非とも勝たないとな!」

 

空が気合を入れる。

 

「昨日は出番がなかったからね。ここで頑張らないと」

 

生嶋が音楽プレイヤーのイヤホンを耳に入れながらやる気を見せる。

 

「まだスタメンの座を諦めたわけではない。ここでアピールをさせてもらう」

 

ひしひしと気合が入る松永。

 

「連携面に不安を残しますが、私達1年生だけの初陣です。白星を飾りたいですね」

 

大地も1年生の試合に期待に胸を膨らませていた。

 

「んー、せやけど、全中参加の4人はええけど、帆足はええんか? 確か、バスケ始めたん高校入ってからなんやろ?」

 

天野が問題点を指摘する。

 

今年の1年生で部活に残っているのは5人いるのだが、全中ベスト5に選ばれた4人はともかく、残りの1人、帆足は高校に入学してからバスケを始めた素人。経験者でも逃げ出す程の練習に今日までついてこれただけでも大したものだが、それでも不安は拭えない。

 

「うーん、県1、2回戦レベルならともかく、全国区の泉真館相手にバスケ初めて1ヶ月足らずの帆足では荷が重いな」

 

「うぅ…すいません…」

 

当の本人である帆足は身体を小さくして頭を下げていた。

 

様子を見るに、このまま試合に出しても満足にプレーすることは出来ないだろう。

 

「ふむ…、しょうがないな。天野、お前が出ろ」

 

「ホンマ!? おっしゃ! ついとるでぇ!」

 

試合に出られることに天野は全身で喜びを露わにする。

 

空、大地、生嶋、松永、天野がスタメンに決まった。

 

「昨日のような課題は付けん。自由にやってみせろ。…だが、あまりにも無様な結果に終わったら、スタメンは練り直すからな」

 

『はい!』

 

なんだかんだで制約が付いてしまった形だが、自分達が勝利することを疑わない5人はただただ大声で返事をする。

 

「それと、今日も誠凛の監督の嬢ちゃんが見学に来てる。ま、気にせずやれ」

 

「ご迷惑をお掛けします」

 

リコは頭を下げる。

 

「(今日の試合はあの2人の出番はなしか…けど、ルーキー達の試合が見られるのは僥倖ね。じっくり見させてもらうわ)」

 

三杉、堀田の試合が見られないのは残念に思ったが、他に気になる大物ルーキー4人の実力が見られるので、そこに注目する。

 

「行ってこい!」

 

『はい!!!』

 

スタメンの5人はセンターサークルに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

9番 C:松永透  194㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

12番SG:生嶋奏  181㎝

 

 

泉真館スターティングメンバー

 

4番 C:鈴木学   193㎝

 

5番PG:渋谷啓太郎 170㎝

 

6番SG:松橋泰三  173㎝

 

7番SF:結城海人  184㎝

 

9番PF:沖裕也   190㎝

 

 

 

「…」

 

「…」

 

両チームがセンターサークル内に集まり、顔を合わせる。

 

泉真館のスタメン達は、一様に花月高校のスタメン達を睨み付けている。

 

「…ふん。低レベルの全中で活躍した程度でいい気になるなよ」

 

ふと、泉真館の1人がポツリとこのようなことを囁いた。

 

「あん? キセキの世代がいなかった頃の代でしか王者名乗れねー奴が威張んなよ」

 

それにカチンときた空が売り言葉に買い言葉のように返した。

 

「っ! …ズタボロにして静岡に送り返してやる。覚悟しておけ」

 

そんな捨て台詞を残して両チームのスタメン達は、ジャンパーの松永、鈴木を残して散らばっていく。

 

センターサークル内に立つ松永と鈴木。

 

「…」

 

「…」

 

双方がジャンプボールに備える。

 

審判がボールを上げ、ティップ・オフ。

 

ルーキーたちの試合が始まった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「(さすが、伊達に全中でベスト5に選ばれただけあるわ。それぞれ身体能力は高いしテクニックもある。並みの高校生レベルをはるかに凌駕している)」

 

試合が始まって幾ばくか経ち、リコはそれまでの経過をこう総評する。

 

「(…けど、それでも試合は…)」

 

リコは改めてコートに視線を向ける。

 

「……ちっ!」

 

空は思わず舌打ちをする。

 

 

第2Q、残り3分。

 

花月  30

泉真館 39

 

 

試合は泉真館がリードしている。

 

花月側は要所要所で好プレーを見せているが、いまいち波に乗り切れていない。

 

対する泉真館は、スタメン5人全員がパス、ドリブル、シュートを高いレベルでかつバランス良く鍛えれており、花月ほど派手さはないが、ミスを逃さず、チャンスは的確に物にしていた。

 

泉真館リードの要因の1つは、花月側のミスが多いことだ。現在のスタメン5人は、実力者こそ揃っているが、チームの連携が上手くいっておらず、5人全員が噛み合わず、時折、足を引っ張り合ってさえいる。

 

だが、1番の要因は…。

 

 

――バチン!

 

 

「あっ!」

 

空から生嶋へパスが出るが、ボールが出された場所が悪く、生嶋がファンブル。ボールを弾いたところを泉真館の沖に奪われる。

 

「ターンオーバーだ!」

 

「あー、ちくしょう!」

 

瞬く間にピンチとなり、頭を抱える空。

 

「速攻!」

 

沖が前方に大きくロングパス。フロントコート少し先で速攻で走っていた渋谷が受け取り、そのままドリブルしていく。

 

完全なるワンマン速攻。

 

渋谷が悠々とレイアップを打つ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「えっ?」

 

レイアップが決まると確信していた渋谷はブロックされた瞬間にこんな声が漏れる。

 

ブロックショットを決めたのは。

 

「だー危ねぇ!」

 

空だった。

 

ブロックが決まると、空は着地し、苦々しい表情をする。

 

「(マジかよ…、あいつパスミスした時はぺネトレイトでペイントエリアまで行ってたのに…、あそこから俺に追いついたのかよ…)」

 

渋谷は空が生嶋にパスを出した瞬間にスティールを確信し、速攻に走っていた。確かに、ターンオーバーからワンマン速攻が決まると確信していた渋谷は僅かにスピードを緩めていたが、それでもかなりスピードは出していたし、そもそも、自分と相手との距離はかなりあった。

 

にもかかわらず、速攻は防がれてしまった。

 

この事実に、ブロックされた渋谷だけではなく、他の者達も驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ふん。これが才能に頼り切りになり、基礎をじっくり鍛えずに試合に出てしまった者の末路だ」

 

泉真館の監督が鼻を鳴らしながらニヤリと笑う。

 

「おまけに、自らのミスを帳消しにするためのわざわざ全力で走り込んでのブロック。そのスピードには目を見張るが、私から言わせれば後先考えないただの暴走だ。もう優に1試合分は走っている。直に終わりだ」

 

先程の空のブロックも、無益なものと吐き捨てる泉真館の監督。

 

彼からすれば、花月高校のバスケはそれぞれが能力と才能に任せた自分本位なバスケと総評している。対する泉真館はそれぞれがパス、ドリブル、シュート。そして、走、攻、守がバランス良く鍛えられており、今までチャンスはものにし、ピンチは防ぎ、相手に対して有効的な戦術を布いている。

 

「一芸突出の選手や、自分勝手な天才はウチにはいらん」

 

泉真館は、東京都の強豪校であるため、関東圏から、あるいは全国から有望な選手が集まる。

 

バスケ部に入部した新入生にまず叩きこむのが、選手は、チームのためにあり、選手は歯車であるということ。

 

始めの1年間はとにかく基礎重視で練習を行い、弱点を無くし、全ての基礎や技術をバランス良く身に付けてもらう。翌年から試合を通じてそれらを馴染ませていき、最後の年にその積み上げてきたものの集大成を見せる。

 

もちろん、中学のエース級の選手の中にはこの方針に反発する者も少なからずいるが、最後には納得してもらい、そうでない者はバスケ部を去る、といった具合だ。

 

結果、全てに秀でた選手が育ち、どのような相手、どのような戦術にも対応出来るようになる。

 

「神城空君。君の才能は認めよう。秀でたものを持っていることも認める。だが、それを支える土台である基礎を積み上げない者が、積み上げてきた者と戦えば結果は自ずとこうなってしまうのだ。今日は、そのことを勉強していってもらおう」

 

泉真館の監督は、去年に星南中学に赴いて空のスカウトに行った際の空の言動と態度に未だに根に持っていた。それらは、選手達にも伝わっており、それが先程の言動の一因だ。

 

「さあ、私の教えをその身に沁みつけた私の選手達よ。花月高校のような無駄に派手なプレーはいらない。じっくりチャンスをものにし、じわじわと差を付けてあげなさい」

 

含み笑いを浮かべながら試合を見守った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1人でピンチを作って、1人で挽回して、忙しい奴だな」

 

ベンチから試合を眺めていた三杉が薄っすらと笑顔を浮かべながら空に向けてそう呟いた。

 

今日の試合、泉真館にリードを許している1番の要因は、空と、大地を除く、他の3人とのパスが噛み合わないからだ。

 

空は、持ち前の広い視野とパスセンスを生かしてパスを捌くが、特にリズムが合わない生嶋と松永とのパスが上手くいっていなかった。

 

ボールを取りきれず、ファンブルするか、不安定な体勢でのキャッチが求められ、体勢を立て直した時にはチェックが付いてしまうか。

 

「今日の神城は調子最悪だな。さっきからミスばっかだ」

 

ベンチメンバーである馬場がフゥっと溜め息を吐く。

 

「…本当にそうでしょうか?」

 

「えっ?」

 

同じく、試合を見ていた姫川が馬場の言葉に反論する。

 

「確かに、神城君からの失点が多いですが、全て神城君が悪いと言われるとそれは違うのではないかと…」

 

「けどな、現に神城から…」

 

「いや、姫ちゃんの言うことも一理ある」

 

そこに、三杉が口を挿む。

 

「確かに、神城のパスからの失点が多いが、何も、空だけが原因という訳ではない。見てて気づかないか? 今日の空のパスはファンブルはしていても、スティールは1度もされてないんだ」

 

「まあ、確かにそうだが、だが、そうなると、受け手に問題があるってことか?」

 

「んー、それもまた違うかな。大地以外の奴が空のパスを取れないのは、ひとえに、リズムやテンポ、タイミングの問題だ」

 

三杉はコートに視線を移す。

 

「昔からのコンビの大地や、ポストプレーがメインの天は別にして、生嶋と松永は、今まで受けてきたパスとあまりにかけ離れている為にファンブルが多いのだろう。こだわりの強い生嶋は自分独自のリズムやテンポがある。過去のチームメイトはそれに合わせてパスを送っていたのだろう。松永はワンマンチームにいたために空のような癖のあるパスに耐性が弱いからまだ対応が出来ない」

 

『…』

 

「空は、特殊で広い視野とパスセンスを持っているから、瞬時にフリーの味方を発見でき、パスコースも、ボール1個分通るスペースを見つければそこからパスを出せる。慣れている大地はともかく、他の奴等は慣れるまでに時間がかかるだろうな」

 

『…』

 

「だが、空もそこで受け手が取りやすいパスを出せるほどまだ器用ではない。俺や健、大地のスピードとタイミングではさっきのようにファンブルしてしまうし、過去のチームメイトのスピードとタイミングでは遅すぎてシュートまで持っていけない。まあ、この5人でのチーム練習をほとんどやってないから、仕方ないと言えば仕方ないんだが…」

 

三杉の言葉を、ベンチメンバーは注目しながら耳を傾けていた。

 

「パスの出してと受け手のズレ。これさえ修正出来れば、試合の流れは1年坊達の方に変わるんだがな…」

 

そう言葉を残すと、再び試合に注目し始めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は点差が縮まらないまま進んでいく。

 

花月高校はミスが多い中、それでも離されずに食らいついていっている。

 

その要因の1つは…。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「おら! もらうでーーーっ!!!」

 

天野はリバウンド争いを制し、ボールをもぎ取る。

 

要因の1つ、天野がオフェンス・ディフェンスリバウンドを取りまくっていること。

 

1つ、個人技を生かし、ここ一番のシュートはきっちり決めていること。

 

1つ、流れを変えうる泉真館側のシュートはしっかりブロック出来ていること。

 

1つ、泉真館に爆発力がなく、ここ1番で突き放すことが出来ないことが要因だ。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

ここで、だい2Q終了のブザーが鳴る。

 

 

第2Q終了

 

花月  38

泉真館 46

 

 

泉真館リードで終わる。

 

「あー! ちくしょう!」

 

自身のミスが失点につながっている自覚があるため、悔しさを露わにする。

 

「ごめん、僕が君のパスをちゃんと取れていれば…」

 

「いや、それは俺も同じだ。神城は悪くない」

 

生嶋も松永も、これまでの結果の要因は自分にあると考えており、決して空を責めることはしなかった。

 

「悪いのは俺だ。生嶋も松永が踏ん張りがあったから何とか食らいついていけてる。けど、俺は自分の尻拭いしかしてねぇ…!」

 

自分の失態を挽回することでしか結果を残せてない空は悔しさを露わにする。

 

「はいはいそこまでや。自分を責めとっても何にもならんで? それよか、対策考えんと。時間も限りがあるんやからな」

 

天野が手をパンパンと叩きながら間に入り、クールダウンさせる。

 

「天野先輩の言うとおりです。このままではジリジリ離されるだけです」

 

大地も同じように割って入って空達を諌めていく。

 

「まあ、そうだな…とりあえず、パスが上手くいかねぇ。第2Q後半までやってだいぶ掴めてきたが、どうもテンポが合わねぇ」

 

「中学時代とはメンバーが違いますからね。連携が不十分な段階ではどうしても空の素早いテンポになってしまいますからね」

 

あーでもない。こうでもないと話し合っていく。

 

「…」

 

監督、上杉は、特に指示を出す素振りは見せない。

 

「監督、指示は出さないのですか?」

 

姫川が尋ねる。

 

「練習試合だからな。俺が勝たせても意味がない。だったら、自分達に考えさせて、その結果が、あいつらを大きくさせるだろう」

 

上杉はあくまでも空達の自主性に任せた。

 

『…』

 

話し合う事数分。未だに具体的な案は出てこない。

 

「…ん?」

 

空はふと、ベンチで見学している誠凛の監督、リコに視線を移す。リコは何かをノートにメモしていた。

 

昨年、創部2年で奇跡を起こす程のチームをつくりあげた現役女子高生監督。

 

「…あっ! なあ、ちょっと思いついたんだけど…」

 

突如、閃いたことを空が話していく。

 

「っ! これはまた、大胆なことを思いつきましたね…」

 

大地がその案を苦笑いをする。

 

「…確かに、半端な連携を組むよりはマシだとは思うが…」

 

松永も大地と同じく、苦い表情をする。

 

「…面白いとは思うけど、これをやるとなると、くー、君の負担が1番大きくなるよ? 今までさえ、合わなくて苦しんでいたのに…」

 

生嶋は空の案に対して、提案者の空の負担の大きさを懸念する。

 

「問題ねぇ。むしろ、そのくらいの方がやりやすいし、何より、面白そうだろ?」

 

空がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「けど、君はもう1試合分動いているんだよ? それでは――」

 

と、生嶋はここで言葉を止める。

 

空は自身のミスを自分でカバーするためにコート中を走り回っている。これからやろうとしている作戦を実行したら空がもたないのではないかと。

 

だが、生嶋はここで気付く。空はあれだけ走り回っていたにも関わらず、息を全く乱していない。空の半分も動いていない生嶋の方が息が上がっているくらいだ。

 

「私は空の案に賛成です。せっかくの練習試合です。思い切って試すのもありだと思います」

 

大地も空の案に賛成の意思表示をする。

 

「ならば、簡単な基本のパターンも決めておきましょう。とりあえず、天野先輩に――」

 

空が突如、思いついた案に大地がさらに具体案を出し、煮詰めていく。

 

「――と、こんな感じでどうでしょうか?」

 

「ええで。おもろなってきたわ」

 

「面白い。これが上手く決まれば、さぞかし最高だろうな」

 

「まさに、この5人の、『僕達のバスケ』だね」

 

天野、松永、生嶋も、具体的に固まった案に興奮を隠せない。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

ここで、インターバル終了のブザーが鳴る。

 

「っしゃぁ! 行こうぜ!」

 

空が気合一閃。大声を上げる。

 

双方のベンチから選手達が現れる。

 

前半戦の結果を見て、心なしか余裕がある泉真館の選手達。対する花月側の選手達の表情も明るい。その表情は、新しい悪戯を思いついた悪戯坊主のよう…。

 

第3Q、泉真館ボールからスタート。

 

淡々とパスを回していき、チャンスを窺う泉真館。

 

 

――ピッ!

 

 

渋谷からゴール下に走り込んでいた沖に矢のようなパスが通る。

 

「もらった!」

 

パスを受け取った沖がそのままゴール下を沈めにいく。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「くっ!」

 

「させるか!」

 

そのシュートは松永にブロックされる。

 

「ええ仕事ぶりやで、松永!」

 

ルーズボールを天野が拾う。

 

「天さん!」

 

「あいよ!」

 

拾ったボールはすぐさま空に預けられる。

 

「っし! 速攻ー! 走れー!!!」

 

その掛け声と同時に花月側の選手が一斉にフロントコートへと走り出した。

 

「っ!? これは!?」

 

前半戦までのゆったりしたバスケとは一転、選手達が全速力で駆け抜けるスピードバスケに切り替わる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が目の前に渋谷を抜き去り、そのまま一気に加速していく。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールは大地へと渡り、悠々とレイアップを決める。

 

『…』

 

ボールが花月へと渡ってから瞬く間に得点。

 

そのあまりの速さに茫然とする泉真館の面々。

 

 

『ボール奪ったらさ、全員で一気にフロントコートまでダッシュしちまおうぜ!』

 

 

空の提案した案は、各々の身体能力と運動量を生かし、圧倒的なスピードで相手が体勢を整える前に一気に決めてしまうラン&ガン。

 

泉真館の者達は何も出来ずにターンオーバーからの失点を決められてしまう。

 

試合の流れが花月の5人の起こした激流によって、変わっていく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「慌てるな! たかだか付け焼刃のラン&ガンだ! お前達は昨年にも味わっているだろ!」

 

泉真館の監督が立ち上がりながら檄を飛ばす。

 

彼らは、昨年にラン&ガンを経験している。

 

後に日本一にまで上り詰めた奇跡の新星、誠凛高校によるラン&ガン。

 

より純度を高めたラン&ガンを彼らは経験している。

 

だが、同じラン&ガンでも、誠凛と花月では大きく異なる。

 

誠凛は、高速のパスワークと、そこに黒子テツヤのミスディレクションによるパスの中継が加わった変幻自在型のラン&ガン。

 

対して、花月は、連携不足も相まって、誠凛ほどパス行き交うことはないが、誠凛と大きく違うところは、選手の機動力。ボールではなく、選手が絶え間なく動き回る。

 

誠凛と大きく違う点は、フィニッシャーの多さだ。

 

誠凛のフィニッシャーは、主に火神と、外から日向の2人なのだが、花月は、スコアラーである大地に、オフェンス能力が高い空。外から確実に射抜けるシューターの生嶋に、もともとはフォワードの選手であり、スコアラーでもあった松永。

 

つまり、得点源が4人も存在する。

 

そのため、的が絞れず、早い展開に対応出来ないまま失点を重ねてしまう。

 

そして、先程まで上手くかみ合っていなかった空のパスが、早い展開になってから格段にファンブルの回数が減り、パスが通り始めるようになる。

 

さらに、天野がハイポストに展開してポストプレーをこなしたり、スクリーンを駆使してパスを中継し、フリーの選手を作り、チャンスを演出する。

 

それが機能し始めると、さらに止めることが困難になる。

 

「くそ…!」

 

花月側のスピードに付いていけず、翻弄される。

 

試合は、完全に花月の流れとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第4Qに入っても、花月側はそのままラン&ガンを継続する。

 

生嶋が第4Qに入ってすぐにスタミナ切れで失速する。

 

半ばに入ると、松永の足も止まり始める。

 

だが、空と大地は止まらない。

 

「(こいつら、何でこんなに動けるんだよ…)」

 

「(バケモノだ…)」

 

泉真館の選手も足が止まり、既にスタメンの渋谷、結城はベンチに下がっている。

 

だが、控え選手さえも足が止まりかけている。

 

ラン&ガンを始めてから全く運動量が落ちない大地。空に至っては迷惑をかけた分、スピードが落ちた生嶋と松永の分をカバーすべく、さらにスピードアップ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がインサイドへと切り込む。

 

「囲め!」

 

泉真館選手達が空を包囲し始める。

 

 

――スッ…。

 

 

完全に囲まれる前にパスアウト。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

ボールは左アウトサイド、3Pラインの外側に立っていた生嶋にボールが渡る。

 

「そいつはもう撃てない! ボールを奪え!」

 

「そんなヤワじゃねぇよな?」

 

生嶋はゆっくりボールを構え、シュートを放つ。

 

フォームは崩れ、リズムも悪い不格好なシュート。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに掠ることなく潜り抜ける。

 

『なっ!?』

 

「さすが、相変わらず落ちないな。ナイッシュー」

 

空が声をかけると、生嶋は黙って親指を立てた。

 

 

 

「1本! 返すぞ!」

 

泉真館側もきっちり返すべく、パスを回していく。

 

「もらった!」

 

鈴木がシュート体勢に入る。

 

「ちっ、させっか!」

 

空がブロックするべく、ヘルプに向おうとしたが…。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「らぁっ!」

 

松永の渾身のブロックが炸裂。

 

「これが俺の仕事だ。お前は自分の仕事に専念しろ」

 

ヘルプに行こうとしていた空に気付いていた松永がニヤリとしながら空に告げる。

 

「(頼もしいな。俺がいちいち駆け回る必要もないんだな…)」

 

主に周囲のフォローに駆け回っていた星南中時代。

 

それも楽しくもあったが、頼もしい仲間を得て笑みがこぼれる。

 

ボールを拾った空がそのままワンマン速攻。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクをぶちかました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「面白いね。まさに、監督好みのチームですね」

 

「ふっ、鍛え甲斐がある」

 

上杉が試合を見ながら笑みを浮かべる。

 

「連携不足、攻撃パターンの増加、体力増強、冬までにどこまで熟成させられるか、ですね」

 

姫川は、スコアの集計と各選手のデータをノートに纏めながら課題を指摘する。

 

「しかし、泉真館も全国レベルのチームだぞ。バランスのいい選手が揃った相手に運動量と個人技でねじ伏せてやがる」

 

馬場が冷や汗を流しながらポツリと呟いた。

 

3年間、じっくりチーム練習をしながら積み上げてきた泉真館を今年の4月に顔合せたばかりの急造チームが圧倒している。

 

味方ながら、頼もしいと思うのと同時に恐ろしくも感じる。

 

今年集まったルーキーは、とてつもない可能性を持っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

「バカな…、こんなことが…」

 

泉真館の監督がベンチに腰を抜かしながら座り込む。

 

 

試合終了

 

花月  104

泉真館  96

 

 

第3Qから泉真館を圧倒し、そのまま勢いに乗り、試合を決めた。

 

泉真館選手達は、公式戦に負けたかのように悔しがっている。

 

ルーキー達の初陣は、勝利に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

試合を見学していたリコ。

 

その表情は険しい。

 

「(あの2人がいなくとも、恐ろしいチームね…)」

 

それが最初に思った感想であった。

 

圧倒的なスキルにテクニック、身体能力を持った選手も恐ろしい。キセキの世代がいい例だ。

 

だが、1試合通じてコート中を駆け回れるスタミナを持った選手もまた恐ろしいのだ。

 

スタミナには限りがあり、ペースを誤ればすぐに枯渇してしまう。

 

「(このチームの連携が深まり、さらにオフェンスパターンが増えたら脅威だわ)」

 

急造チーム故に運動量任せの試合運びになってしまったが、連携力が高まれば、チームはさらに熟成される。

 

「(しかも、彼らはまだ1年生。これからまだまだ伸びていく)」

 

リコの目には、ルーキー達に大きな伸び代が見えた。

 

キセキの世代の次に現れた新たな世代。

 

リコは、更なる強豪の誕生に、頭を悩ませるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

帰りの新幹線…。

 

「2連勝! いやー、遠征試合、楽しかったなー!」

 

空が練習試合の結果を得て喜びを露わにする。

 

東京都の強豪校2校を相手に連勝完勝。戦果としては上々である。

 

「浮かれないの。課題は山積み。あなたは特にね」

 

姫川がノートでポンっと空の頭を小突く。

 

「見て。第2Q頭、あそこは切り込むんじゃなくて、天野先輩を中継してフリーだった生嶋君に繋げるべきだった。次は――」

 

姫川が空の隣に座り、ノートを見せながら今日の試合の空の問題点を次々と上げていく。

 

「うぐ…」

 

言い返したいが、正論すぎて言い返せない空。

 

「(…僕の課題はスタミナだ。とりあえず、早朝と、練習後のシュート練習の後に走り込みを加えよう)」

 

「(今日の試合、パワー負けをした場面が多々あった。もっと筋力を付けなければ)」

 

「(ハンドリング技術にまだ難がありました。さらに磨きをかけなければ、この先、ひいては、三杉先輩と堀田先輩が抜けた冬を勝ち抜くのは難しいですね)」

 

1年生達は各々、今日の試合での自身の課題を洗い出し、帰郷後、さらに自分を高めるために練習に励むのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ラン&ガンってかっこいいですよね!

戦術もそうだけど、名前からしてかっこいいです(^o^)





……腰痛めました(T_T)

しゃがむと痛い…、椅子に座ってると痛い…。

現在通院中です(^_^;)

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!



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第32Q~インターハイに向けて~


再投稿です。

一部、修正、追加しました。

それではどうぞ!


 

 

 

大型連休に行われた遠征試合…。

 

花月高校は東京都の強豪、正邦高校、泉真館を相手に勝利を収めた。

 

静岡県に戻ってきたバスケ部の面々は、先に控えるインターハイ予選に向け、練習に励んでいる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

体育館中にスキール音が響き渡る。

 

「…」

 

現在、3ON3が行われており、ボールをキープするのは空。その空をマークするのは3年生の真崎。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

左右に揺さぶりをかけ、真崎の横を抜ける。

 

「させへんで!」

 

すぐさま、天野がヘルプにやってくる。

 

 

――スッ…。

 

 

その直後にノールック・ビハインドパスを出す。

 

「とと…」

 

パスの受け手である生嶋は軽くボールでお手玉をするが、何とかパスを受け取る。

 

「止める!」

 

パスを受けるのに時間がかかった隙に馬場がディフェンスに付く。

 

「ふっ…!」

 

ターンアラウンドで馬場をかわしながらシュート体勢に入る。

 

「ぐっ! まだまだー!」

 

馬場は何とか食らいつき、シュートブロックのために飛ぶ。

 

生嶋はそのままシュートに行かず、馬場の脇の下からパスを出す。

 

「よし!」

 

ボールは空に戻り、そのままレイアップに行く。

 

「空坊! 決めさせへんでぇ!」

 

空の前に天野がブロックに現れ、空の前を塞ぐ。

 

空は、持っていたボールを真上にふわりと上げる。

 

「なんやて!?」

 

天野が驚愕の声を上げる。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

空の後ろから、遅れて飛び込んできた松永がボールを掴み、そのままリングに叩きこんだ。

 

「オッケー、ナイス!」

 

空が生嶋と松永とハイタッチを交わす。

 

「神城! まだパスが荒いぞ!」

 

「う、うす!」

 

上杉の怒鳴り声に、背中をピンと伸ばしながら返事をする。

 

「馬場! 真崎! あっさりやられ過ぎだ! そんなことでは試合に出れんぞ!」

 

「「は、はい!」」

 

同じく、怒鳴り声を上げられた3年生、馬場と真崎がビクつきながら返事をする。

 

「とはいえ、だいぶズレが修正されてきた。この分なら、インハイ予選までには充分間に合うだろう」

 

一連のプレーを外から見ていた堀田がこう評価する。

 

「ああ。先日、あれだけあったズレがほとんど修正出来ている。たいしたセンスだ」

 

三杉も、高評価を出した。

 

「次の組、出ろ!」

 

「おっと、出番だ」

 

「ふぅ…、行きましょう」

 

三杉の組と、大地の組がコートに向かう。

 

「大地ー! ぶち抜いてやれ!」

 

外から空がエールを送る。

 

「簡単に言わないで下さい…」

 

引き攣った笑顔をする大地。

 

勝負は、ボールを受け取った大地が三杉に仕掛けるが、上手くいかず、最終的にパスを繋いで堀田にボールを渡し、堀田がボールを決めて終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

練習も、それぞれの自主練を終わり、下校となった。

 

「お疲れー、…ちくしょう、結局1度も三杉さん抜けなかった」

 

制服に着替えた空が悔しそうに点を仰ぐ。

 

「私も同様です。やはり、三杉先輩はまだ遠いですね」

 

同じく、制服に着替えた大地が横に並ぶ。

 

「君達は勝負になってるだけまだマシだよ。僕では勝負にすらならないよ」

 

「俺も、堀田さんに指導してもらってるが、毎度吹き飛ばされているな」

 

生嶋も松永も、高すぎるレベルにげんなりしている。

 

4人は世間話やバスケの話しをしながら歩いている。

 

「そういえば、もうすぐ中間テストだね」

 

「そうだな。部活に集中していたせいで、万全とは言えん。そろそろ準備しないとな」

 

「赤点があると大会への参加が出来ませんからね、早めに準備をしたいところです」

 

「…」

 

ただ1人、空だけがその場で石のように固まり始めた。

 

「くー? おーい」

 

そんな空に気付いた生嶋が空の下に寄り、空の目元で手をヒラヒラさせた。

 

「……あっ」

 

その時、大地があることを思いだした。

 

「…空、今日返却された、数学の小テストを見せてくれませんか?」

 

そう聞かれると、空は震えながら鞄をあさり、手を震わせながら恐る恐る小テストの答案用紙を開いた。

 

「「「…」」」

 

その答案用紙を見た3人が今度は石のように固まってしまった。

 

「…薄々予想はしていましたが、ここまでとは…」

 

「これはひどいな…」

 

「僕、点数にしか丸がない答案用紙って、初めて見たよ…」

 

3人は引き攣った笑顔で感想を述べていく。

 

「…空、花月高校は、赤点を取ると大会への不参加になるということはご存じですよね?」

 

「……マジで?」

 

驚愕の事実を聞き、この世の終わりのような表情をする空。

 

「この調子では、厳しいな」

 

「…まだ中間テストまで幸い、僅かながら期間があります。空は推薦入学者ですから、赤点のボーダーラインも下がっていたはずです。今から缶詰にして叩きこめば…」

 

「えー、勉強漬けとか勘弁だわー」

 

テスト勉強ということを受け、空は苦い表情をする。

 

「…大会に出られなくてよろしいのですか?」

 

「うっ…それは絶対嫌だ」

 

「ならば我慢なさい。これから私の家の座敷ろ……離れで勉強です。さあ、付いてきてください」

 

「今、座敷牢って言おうとしたよね!?」

 

「さあ、逝きますよ」

 

「嫌だー! やりたくねぇー!」

 

駄々をこねる空を引きずりながら大地宅へ連行していく。

 

「……勉強するか」

 

「…そうだね」

 

残された生嶋と松永も、テストに向けて勉強を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

空は大地宅へと連れてこられ、庭の一角にひっそりとある屋敷から母屋の前までやってきた。

 

「さあ、試験まで時間はありません。今日から学校以外ではここで過ごしてもらいます。ご実家とご両親には連絡済みですから、悪しからず」

 

「…人が絶対に通れなそうな小窓が一つ。入り口にはドラ○エの鍵が付けられた扉…」

 

空は遠い目をしながら母屋を見つめる。

 

「掃除は行き届いてますので、すぐに始めますよ」

 

「…インハイには出たいし、やるか…」

 

空は覚悟を決め、母屋へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――カキカキカキ…。

 

 

室内にシャーペンを走らせる音だけが響く。

 

現在、大地が用意した中間対策のテストをしている。

 

「……よし、終わった!」

 

開始して40分。答案用紙を埋め尽くした。

 

「では、採点をしてみましょう」

 

大地がテスト用紙を受け取り、採点をしていく。

 

「………ふむ」

 

「どうだ?」

 

テストに手応えがあったのか、目をキラキラさせながら結果を待つ空。

 

「…空」

 

採点が終わると、大地が満面な笑顔を浮かべながら空を見つめる。

 

「……中間テストまであと4日。あなたの睡眠時間はないものと思ってください」

 

「うぇっ!?( Д)゜゜」

 

目玉を飛び出させながら驚愕する空。

 

答案用紙を空に向けると、そこには、点数にのみ丸が存在する答案用紙が。

 

「幸い、あなたは体力に自信がありますから、死ぬことはないでしょう。時間がありません。基礎からガンガン叩き込みます。さあ、教科書を開いてください」

 

「\(^o^)/」

 

空の、インターハイ前の厳しい戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…ぶつぶつ」

 

「…くー、すごいことになってるね」

 

単語帳片手に必死に頭に詰め込もうとしている空。

 

「目が充血通り越して真っ赤だな。デビル化でもしたのか?」

 

「一睡もさせずに勉強させてますからね」

 

引き気味に空を眺める生嶋と松永。ニッコリと笑みを浮かべる大地。

 

「それで、間に合いそうなのか?」

 

「……ギリギリ…と、言ったところでしょうか」

 

深く目を瞑りながら苦々しい表情で質問に答える。

 

「やれやれ、くーはインターハイの主軸になるんだから、是非ともテストをクリアーしてもらわないと」

 

心配そうな表情で空を労う生嶋。

 

「あぁ…ぶつぶつ…」

 

かろうじて返事をし、そこから再び単語帳の暗記に戻る空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

放課後、部活動の時間やってくる。

 

基本的に、テスト前には活動を自粛する部活がほとんどだが、バスケ部は大会が近いので、特別に活動が許されている。

 

「ひゃはははははははははははっ!!!」

 

空がけたたましい程の笑い声をあげながらコート中を駆け回っている。

 

「空の奴はついに壊れたのか?」

 

その様子を遠巻きに怪訝そうな表情で見つめる堀田。

 

「申し訳ありません。空は昨日からテスト勉強で一睡もしていませんので…」

 

空に変わって頭を下げる大地。バスケ部員全員がその光景を異様な目で見つめている。

 

「ナチュラルハイっていうやつか。それにしてもあれは異常だな」

 

「それもありますが、勉強から解放されて、バスケの練習がいい気晴らしになっているのでしょう」

 

「気晴らしって…」

 

花月高校の練習量は全国一。並みの者なら1日もたない厳しさである。

 

現在、バスケ部に残っているメンバーですらついていくだけでも一苦労だ。

 

「…完徹明けであんだけ動き。改めてあいつの凄さがわかるな」

 

バスケ部の者達は、空の無尽蔵の体力に驚愕するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして、ついに中間テストの日がやってきた。

 

「絶対クリアしてやる…絶対クリアしてやる…」

 

並々ならぬ気迫でテストに臨む空。必死にシャーペンを走らせていく。

 

そして、テスト期間は終わり、ついに、結果が返ってくる。

 

「ふー。まぁ、こんなものかな」

 

生嶋奏、5教科合計、423点。学年29位。

 

「やれやれ、やっと終わったか…」

 

松永透、5教科合計、361点。学年172位。

 

「あっかーん。点数落ちてもうた」

 

天野幸次、5教科合計、338点。学年189位。

 

「こうも海外生活が長いと、国語がどうしても落としてしまうね」

 

三杉誠也、5教科合計、496点。学年1位。

 

「部活動は言い訳にはならん。文武共に、もっと気を引き締めんとな」

 

堀田健、5教科合計、453点。学年18位。

 

「いけませんね。部活動に集中してしまうと、つい学業が疎かになってしまいますね」

 

綾瀬大地、5教科合計、475点。学年3位。

 

「空、あなたの方はどうでした?」

 

「ふっ、楽勝」

 

ドヤ顔で答える空。

 

神城空。5教科合計、257点。学年392位←ギリギリ。

 

バスケ部全員が赤点を取ることなく、補習を逃れ、無事、インターハイ予選に臨むことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

全国高等学校総合体育大会。通称、インターハイ。

 

その静岡県予選が開催された。

 

花月高校の1回戦の相手は掛下高校。

 

ベンチ前に集まる選手たち。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番SG:三杉誠也 190㎝

 

5番 C:堀田健  204㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

 

「監督、指示はありますか?」

 

三杉が上杉へと尋ねる。

 

「第1Qでけりをつけろ」

 

『はい!!!』

 

花月高校のスターティングメンバーがコートへと向かっていった。

 

「…でけぇのが3人もいる」

 

「あの2人、全中優勝校の2人じゃ…」

 

対戦相手の掛下高校のスタメン達はすでに萎縮している。

 

整列が終わり、各選手が散らばっていく。中央センターサークル内にジャンパーだけが残る。

 

そして、審判によってボールが高く上げられ、ティップオフ!

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

「た、高い!」

 

堀田がジャンプボールを悠々と制し、花月ボールからスタートする。

 

ボールを拾った天野が空にボールを渡す。

 

「っしゃあ! 行くぜぇ!」

 

空がボールを持つと、ドリブルを開始、ディフェンスに来た相手PGとSFをスピードでかわす。そのままグングン加速して相手ゴールに突き進み…。

 

 

――バス!!!

 

 

開始早々数秒で先制ゴールをあげた。

 

「うし!」

 

ガッツポーズをする空。

 

「は、はえー…」

 

その、あまりのスピードに唖然とする相手選手達。

 

これを皮切りに、花月の壮絶な波状攻撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

相手チームはフロントコートにほとんど侵入することも叶わず、攻撃が切り替わってもすぐさまボールを奪われてしまう。

 

試合のほとんどをディフェンスに追われ、攻めることは全くできず、ただただ失点を重ねていく。

 

花月選手達は、攻める手を緩めることなくオフェンスに興じ…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

怒涛の第1Qが終了する。

 

 

花月 61

掛下  0

 

 

『ハァ…ハァ…』

 

掛下選手達はもうすでに涙目であり、心も折れかかっている。

 

「いいだろう。三杉、堀田、下がれ。生嶋、松永、行ってこい」

 

「「はい!」」

 

 

OUT→三杉 堀田

 

IN →生嶋、松永

 

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

9番 C:松永透  194㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

12番SG:生嶋奏  181㎝

 

 

1年生4人と、天野が第2Qから試合に出場する。

 

第2Qに入ると、花月側がスピードアップし、速い展開へと変わっていく。

 

花月側の二大エースの三杉と堀田が下がったことと、オフェンスがラン&ガンに切り替わったことで掛下側も点を奪えるようにはなったが、それでも花月側の優位は覆ることはなかった。

 

試合は、1年生達と、その4人を天野がフォローし、さらに、経験値が高い3年生達が支えながら試合を進めていき…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

花月 184

掛下  24

 

トリプルスコア以上の大差を付け、花月高校が初戦を制した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

続く2回戦からは、花月は三杉と堀田を温存。

 

空達、1年生を中心に、他の上級生達が上手くフォローしながら戦っていった。

 

花月の速い展開についていけず、危なげなく勝ち進んでいく。

 

しかし、勝ち進むにつれて、花月の速い展開に対応できる高校も現れ、容易にリードを保つことはできなくなっていく。

 

場合によっては、序盤にリードを許す場面もちらほら現れる。

 

だが、後半に進むにつれて、花月の運動量、特に空と大地の驚異的なスタミナからくる運動量についてこれなくなり、この2人のマッチアップ相手は後半入って早々にスタミナ切れを起こし、ベンチへと下がることとなる。

 

そこから相手が崩れ、花月が波に乗って相手を切り崩し、最後には逆転、勝利をものにしていった。

 

決勝リーグ…。

 

 

Aブロック代表、浜田商業高校

 

Bブロック代表、花月高校

 

Cブロック代表、松葉高校

 

Dブロック代表、鬼羽西高校

 

 

各ブロックトーナメントを勝ち抜いた代表校4校出揃い、その4校同士の総当たり戦を行い、その上位2校がインターハイ出場の切符を手にできる。

 

強豪、松葉高校を筆頭に、各校、インターハイ出場を果たすため、闘志を燃やす。

 

 

『…』

 

2、3年生達が、決勝リーグの対戦校を見て神妙な表情をする。

 

「馬場さん、どうかしたんですか?」

 

それに気付いた空がその訳を尋ねる。

 

「…決勝リーグに福田総合がいない」

 

「えっ?」

 

「絶対出てくると思ったんだが…」

 

福田総合…、昨年のウィンターカップの静岡県の代表校である。

 

「福田総合というと、去年のウィンターカップでベスト8まで、あの海常をギリギリのところまで追いつめた高校ですね」

 

大地が思い出したかのように説明する。

 

「あっ! そうだ、確か、1人やばい奴がいたところだよな?」

 

「灰崎祥吾、黄瀬涼太と入れ替わる形で帝光中から姿を消した元キセキの世代のことだ」

 

真崎が会話に加わり、説明をする。

 

灰崎祥吾…黄瀬涼太の加入前、キセキにも数えられていた実力者である。

 

「去年のインターハイ予選にはいなかったが、突然ウィンターカップの県予選に現れたんだ。昨年、俺達は松葉に敗れたんだが、灰崎が加わった福田総合は松葉を大差で打ち負かした」

 

「どうなってんだ?」

 

思いがけない事態に軽くざわつき始める。

 

「福田総合はCブロックトーナメントの決勝で松葉高校に敗れました」

 

そこに、自前のスカウティングノートを胸に抱えた姫川が現れた。

 

「負けたって、あの福田総合が負けたっていうのか?」

 

「はい」

 

「マジかよ…、それじゃあ、今年の松葉はあの灰崎がいても勝てない程の強さなのか?」

 

その疑問に、姫川は首を横に振った。

 

「いえ、灰崎祥吾は試合に出ていません」

 

「? …どういうことだ?」

 

「私も、県予選の1番の障害となる相手が福田総合と踏んでいたので、試合を見に行ったのですが、試合に灰崎祥吾は出場していませんでした。それどころか、ベンチにも姿はありませんでした」

 

姫川が自身の目で確認したことを話していく。

 

「ベンチにもいなかったって、怪我でもしたのか?」

 

「そこまでは…、ただ、コートにもベンチにも姿がなかったのは確かです」

 

「…もしかしたら」

 

馬場が顎に手を当てながら何かを考え付く。

 

「福田総合のバスケ部の1人が、俺の中学の時のチームメイトなんだが、そいつによると、灰崎の素行の悪さは常軌を逸しているらしい。それでも、実力は本物だから、渋々スタメンで使っていたらしいが、もしかしたら、何か問題でも起こしたのかもな」

 

「…まあ、ここでいくら考えても答えなんて出ない。いない相手のことを考えるより、今はこれから戦う相手に集中しよう」

 

馬場が話を切り上げさせる。

 

「そうだな。まずは初戦、取りに行くぞ」

 

こうして、試合の準備を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

初戦、花月高校の対戦相手は浜田商業高校。

 

高さのある高校ではないが、機動力に自信があり、速い展開を得意とする高校。

 

花月高校と同じ、ラン&ガンスタイルのチーム。

 

だが…。

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

空がぺネトレイトで相手インサイドに切り込む。そこからパスを捌くか、自らが決め、起点となる。

 

大地も、ボールを受け取ると、ガンガン1ON1を仕掛け、得点を量産していく。

 

天野がポストプレー、スクリーンを駆使してチーム全体をフォローし、生嶋、松永も負けじと得点を重ねる。

 

浜田商業高校のスピードを上回るスピードで競い合う花月高校。その走り合いを制し…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

花月 96

浜田 79

 

 

花月高校が初戦を制した。

 

 

続く2戦目、対戦相手は鬼羽西高校…。

 

ディフェンス力に定評があるチーム。初戦を落としているため、ここを落とせばインターハイ出場は絶望的。

 

崖っぷちである彼らの、この試合に対して並々ならぬ熱意を燃やしている。

 

先に行われた松葉高校と浜田商業高校の試合。松葉高校が勝利しているため、この試合を勝利すればインターハイ出場が確定するため、花月高校の者達も気合充分である。

 

 

「へっ! 正邦の方がよっぽど硬かったつうの」

 

 

予選トーナメントをすべての試合を失点、40点以内に抑えて勝利を重ねてきた、鉄壁が売りの鬼羽西高校。

 

その鉄壁のディフェンスも、花月高校のスピードとオフェンス力によって崩される。

 

「3…2…1…!」

 

マネージャー、相川がカウントダウンを口ずさむ。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く

 

 

試合終了

 

花月  74

鬼羽西 65

 

 

「よっしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

空が大きく両拳を突き上げた。

 

大地、生嶋、松永、天野も抱き合いながら喜びを露にする。

 

決勝リーグ2勝目。インターハイ出場が確定した。

 

初戦以降、三杉と堀田はほぼ温存状態。自分達の手で掴み取ったインターハイ出場の切符。

 

そのことが、花月高校の者にとって、大きな自信となった。そして、何よりも…。

 

「(よし! これで、全国でキセキの世代と戦える!)」

 

このことが、空や大地、キセキの世代を打倒するため、自らを鍛えなおすために花月高校に来た者達の心を熱くした。

 

花月高校バスケ部、創部されてから初めての全国大会出場を果たすことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そして、残る最終戦。

 

相手は、昨年までは福田総合と並ぶほどの実力を誇る強豪、松葉高校。ここ2年程、福田総合に静岡王者の座を譲ったが、その無念を今年は見事晴らし、勢いに乗っている。

 

両校とも、すでにインターハイ出場が確定しており、半ば、消化試合なのだが、優勝がかかった一戦。

 

松葉高校はインターハイ出場だけでは満足せず、静岡ナンバーワンの称号を得るため、ベストメンバーで試合に臨む。

 

対する花月高校は…。

 

「よし、今日は2、3年、お前らで行く」

 

『っ!』

 

上杉の言葉を聞き、上級生達は拳を握った。

 

昨年、花月高校は松葉高校に敗れ、全国への道が断たれた。この1戦は、昨年の雪辱戦でもある。

 

「えー、松葉と試合したかったなー」

 

空は軽く不貞腐れる。

 

静岡の強豪、松葉高校。その実力を体感してみたかったのだ。

 

「まあ、そう言うな。俺と健は、初戦以降はお預け状態だったんだ。いい加減、身体を動かさないと鈍っちまう」

 

ヘアバンドを頭に巻きながら空を窘める。

 

「久しぶりの試合だ。存分に暴れさせてもらおう」

 

気合充分に入った堀田が、ニコリと微笑みながら身体を解していく。

 

「空、綾瀬。俺達の試合をよく見ておけ。お前達の道を照らしてやる」

 

「「はい!」」

 

スタメンに選ばれた者達がコートに向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番PG:三杉誠也 190㎝

 

5番 C:堀田健  204㎝

 

6番SF:馬場高志 187㎝

 

7番SG:真崎順二 176㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

 

「あれ? 今日は三杉さんがPGなんですね」

 

真崎のメインポジションはPG(司令塔)。今日はSGのポジションに入っている。

 

「よく勉強させてもらえ」

 

空の疑問に、上杉がそっと答える。

 

松葉高校のスタメンは、前の試合とスタメンが様変わりしていることに少々戸惑っている。

 

「さあ、行こうか」

 

試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

三杉がゆっくりボールを突きながらゲームメイクをする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

チェンジ・オブ・ペースから一気に加速し、松葉インサイドに切り込む。

 

「囲め!」

 

すぐさま、三杉の包囲にかかる。

 

 

――スッ…。

 

 

『っ!?』

 

三杉、敵を深く引き付け、完全に囲まれる前にパスを捌く。

 

走りこんでいた馬場の手元にドンピシャでボールが収まる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

馬場はノーマークで悠々とミドルシュートを決める。

 

「…」

 

空は、三杉のプレーを目を離さず眺めている。

 

自ら敵陣に切り込み、敵を引き付けてパス、あるいはそこから自ら決める。

 

自分の目指す、PG(司令塔)としての道を、空は目を逸らさず、見つめている。

 

試合は、終始、花月高校のペースだった。

 

堀田と天野の鉄壁のディフェンス力、三杉のオフェンス力。松葉高校に付け入る隙を与えなかった。

 

後半から三杉と真崎がポジションを入れ替え、三杉がよりオフェンスに専念すると、点差はさらに広がっていく。

 

「…」

 

大地も、三杉の1プレー、その一挙手一投足に目を配り、少しでもその技術を吸収すべく、三杉から目を離さない。

 

実力者揃いの松葉高校も、三杉と堀田には手も足も出ず…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了

 

花月 113

松葉  41

 

 

ダブルスコア以上の点差を付け、静岡県の勢力図を塗り替えた。

 

「よっしゃぁぁぁぁっ!!! 優勝だーっ!!!」

 

いの一番に空がベンチから飛び出し、喜びを露にした。

 

 

優勝  花月高校

 

準優勝 松葉高校

 

 

花月高校は、晴れて、この夏、インターハイへ殴り込みをかける。

 

 

そして、他県でも、全国への参加校が決まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

京都府…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了のブザーが鳴る。

 

優勝校は下馬評通り、洛山高校。

 

開闢の帝王の名の通り、圧倒的な実力で相手をねじ伏せた。

 

最終戦、第2Q半ばにはすでに主将、赤司の姿はコートになく、第3Q終盤には、スタメン全てがベンチに下がっていた。

 

にもかかわらず、点差は縮まるどころか広がり、選手層の厚さも知らしめた試合結果だった。

 

「俺達は挑戦者だ。昨年、失った王の座は、今年のインターハイを制することで取り戻す」

 

敗北を知り、王座から降ろされた王は、その玉座に再び凱旋を果たすため、その牙を尖らせた。

 

万全の態勢で、全国へと殴り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

秋田県…。

 

優勝を決めたのは、陽泉高校。

 

最終戦、相手はここまで勝ち上がってきた強豪にも関わらず、失点を0点に抑えた。

 

「最高の結果だ。今年こそ、優勝しよう」

 

「そうだねー。もういい加減負けるの嫌だし、全部倒さないと…」

 

陽泉のダブルエース、紫原、氷室共に気合充分。

 

絶対防御(イージスの盾)を持った選手達が、全国へと殴り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

神奈川県…。

 

優勝を決めたのは海常高校。

 

コート上で1番の存在感を示す黄瀬。どれだけ厳重に警戒されても、それでも黄瀬を止めることは出来なかった。

 

「青峰っちに火神っちと黒子っち、去年の借りはキッチリ返すッスよ。それに、緑間っちと赤司っちと紫原っちとも、去年戦えなかったッスから、戦ってみたいッスね」

 

密かに闘志を燃やす黄瀬。

 

借りも技もキッチリ返す黄瀬涼太、そして海常高校が、全国へと殴り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

東京都…。

 

全国一の激戦区。

 

決勝リーグに勝ち上がってきたのが…。

 

 

――誠凛高校

 

――秀徳高校

 

――桐皇学園

 

――霧崎第一高校

 

 

初戦、誠凛高校対秀徳高校…。

 

木吉鉄平不在で誠凛不利が試合前の予想だったが、誠凛は抜けた木吉の穴を、ゾーンを組むことで補う。

 

火神が緑間をボックスワンでマークする。

 

緑間を火神で抑え、高尾との連携プレー、空中装填式3Pシュート(スカイ・ダイレクト・スリーポイントシュート)を最警戒しながら試合を進める。

 

試合は、火神と緑間の相性もあり、誠凛不利を覆し、92-91で誠凛が初戦を制した。

 

桐皇対霧崎第一の試合は、霧崎第一がラフプレーを臭わせながら試合を進めたが、青峰大輝を止められる者が霧崎第一にはおらず、試合は105-69で桐皇が制した。

 

2戦目…。

 

誠凛の相手は桐皇学園。

 

1戦目の疲労と、桃井のデータもあり、それと何より、黒子テツヤの影の薄さが桐皇にはほとんど通じず。試合は常時桐皇ペース。

 

終盤、火神がゾーンに突入し、一時的に点差を詰めるも、試合は、97-80で桐皇学園が制した。

 

秀徳と霧崎第一の試合は、緑間がアウトサイドから終始攻め立て、89-60で制した。

 

そして3日目…。

 

誠凛対霧崎第一の試合は、悪童、花宮の蜘蛛の巣に途中、苦しめられる。

 

黒子の昨年のチームプレーを無視した中継パスで切り崩しにかかるも、昨年と同じ手を2度も食うほど、花宮は甘くなく、すぐさま手詰まりになる。

 

そこで、火神が単独プレーでガンガン攻め立てることで盛り返していく。

 

火神が得点を量産し、マークが集まればパスを捌き、黒子の中継でパスを繋ぎ、インサイドを固められれば主将の日向が外から決める。

 

いい流れを誠凛を作り出し、結果、73-70で誠凛が制した。

 

秀徳対桐皇…。

 

同じ東京都にいながら、これまで1度も対戦したことがない両校。

 

試合は当初、桐皇ペースで進んでいったが、後半に入り、緑間が青峰に対応し始め、決定力を失い始める。

 

緑間が青峰を抑え、青峰も、ゾーンに入るきっかけが掴めず、試合は結局、88-86で秀徳が制した。

 

結果…。

 

誠凛 2勝1敗

秀徳 2勝1敗

桐皇 2勝1敗

霧崎 0勝3敗

 

2勝1敗で3校が並び、順位は得失点差で…。

 

 

1位 桐皇学園

 

2位 秀徳高校

 

3位 誠凛高校

 

4位 霧崎第一高校

 

 

インターハイ出場の切符は、上位3校。誠凛、秀徳、桐皇が手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

番狂わせや神の悪戯は起こることなく、各都道府県代表校が決まる。

 

 

 

――役者は揃った。

 

 

 

こうして、新たな激闘の物語が、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 





1度削除、再投稿する形になってしまい、申し訳ありませんでしたm(_ _)m

福田総合が静岡県代表であることを完全に失念していました。というか、指摘されて初めて気付きました(^-^;)

ご指摘、ありがとうございます!

灰崎祥吾は『謎の』欠場。これはどちらにしろ決まっていたことなので、少々内容を軌道修正する程度で済みました。理由は……内緒ですが、大方予想通りです。

今一度、原作を読み返す必要がありそうですね…。

感想、アドバイス、お待ちしています。

それではまた!


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第33Q~インターハイ開幕~

投稿します!

ついに原作主要キャラが出てきます。

あと、ちょっとねつ造設定も入ります。

それではどうぞ!


 

 

 

「インハイ出場、おめでとう」

 

『そっちも、危なげなく出場したみたいで』

 

空が携帯電話片手に電話で話をしている。

 

「にしても、引っ越すから東京のどこかの高校に進学するってのは聞いてたけど、誠凛って聞いた時はマジで驚いたよ」

 

電話の相手は、中学時代の主将であり、チームメイトであり、バスケ部に引き戻してくれた恩人でもある、田仲潤。

 

『ああ、引っ越し先から目と鼻の距離だったし、何より、バスケ部が有名なところだからね』

 

ウィンターカップ制覇を、創部2年で成し遂げた誠凛高校。その名は今や全国にも轟いている。

 

「調子はどうよ? 確か、そっちは去年の正センターがいないんだろ? 結構出番があるんじゃないのか?」

 

『全然だよ。予選ではそこそこ出番あったけど、後は、秀徳戦にちょっとだけ出たくらいだよ』

 

「仮にも、全中優勝校の主将だろ。レギュラー奪えなかったのか?」

 

『無理言うなよ。今年センターやってる水戸部さんはすげー上手いし、火神さんはマジ化け物。主将の日向さんと伊月さんもすげーよ。1年じゃ、試合に出れるだけマシだよ。新海はそれなりに出番あるけど、俺と池永は出番少ないぜ』

 

「…そういや、そっちに何故か帝光の新海と池永がいるんだったな。新海はまぁ…いいけど、池永はどうも好きになれないんだよなぁ…」

 

かつての敵の名前を聞き、眉を顰める。

 

『新海はいい奴だぜ。池永は、まぁ、想像通りだけど、毎日、火神さんに勝負挑んではズタボロにされてるよ』

 

「身の程知らずだなぁ…」

 

『…けど、毎日やりあってるだけあって、かなり伸びてるぜ、あいつ。今なら、お前相手でもいい勝負するかもしれないぜ?』

 

それを聞いて空はムッとした表情をする。

 

「…あいつだけには絶対負けたくねぇな。こっちだって伸びてんだぜ? 返り討ちにしてやるよ」

 

そのまま2人は談笑していく。

 

「ととっ、そろそろ行かねぇと…、それじゃ、インターハイで会おうぜ」

 

『ああ、今度は敵同士だが、やり合う時はよろしくな』

 

そこで電話を切る。

 

「さてと…練習練習」

 

荷物を持ち、空は家を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

インターハイ静岡県予選を無事、1位突破した花月高校。先に控えるインターハイに向けて猛練習を積んでいる。

 

「足を止めるな! この程度でバテていて優勝が狙えると思ってんのか!」

 

上杉の檄が飛ぶ。

 

インターハイ出場が決まってから、花月の練習も激化していた。

 

今までも厳しい内容だったが、現在はさらに厳しい。

 

『ぜぇ…ぜぇ…!』

 

部員達は滝のように汗を流し、大きく肩で息をしながら練習に取り組んでいる。

 

きつい練習なれど、ここまで脱落せずに残ったメンバー。必死に食らいついていく。

 

練習は、日が暮れてもなお続いた。

 

部活動終了後…。

 

「空! 今日こそは俺を抜いてみせろよ!」

 

「もちろん! 今度こそぶち抜いてやる!」

 

空と三杉が1ON1勝負を行っている。

 

「俺を抜けんようじゃ、誠さんは抜けへんでぇ!」

 

「行きますよ!」

 

隣のリングにて、大地と天野が1ON1を行っている。

 

「ふぐぐぐっ…!」

 

「もっと腰を落とせ! どう足掻こうと相手より高くはなれん。自分より高い相手には重心を落として対応しろ!」

 

「はい! おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

松永と堀田が、ゴール下にて、勝負を行っている。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

生嶋は、普段から日課にしている500本( 決まるまで)のスリーの打ち込みに加え、自身の弱点であるスタミナ不足を補うため、両足にパワーアンクルを付け、走り込みをしている。

 

その他の者も、自主的に居残り練習を行い、またある者は、それらの者達のフォローをしている。

 

バスケ部の者達の中に、県予選1位突破で満足している者はおらず、全国の頂点を目指すべく、自身を高めていく。

 

「…ふっ」

 

その姿を、監督である上杉は満足そうに眺めている。

 

「今年は狙えそうですね」

 

その横から同じく、自主練を眺めていた姫川がノート片手に問いかける。

 

「当たり前だ。これだけの戦力が揃っているんだ。獲れなきゃ無能以外の何者でもないだろうよ」

 

優勝は狙えると断言する上杉。

 

――後半、動けない天才より、試合を通じて走り回れる凡人…。

 

これが、上杉が好む選手像。

 

故に、練習は基礎体力を向上させることを目的としたメニューが多い。

 

だが、今年の花月の戦力は、試合を通じて走り回れる天才が集まっている。故に優勝出来なければ無能と言い切る。

 

今年入部したばかりの1年生も、わずか数ヶ月で急成長を遂げており、三杉や堀田と濃密な練習をこなすことにより、今、この瞬間も成長している。

 

「皆さーん! しっかり水分補給をしてくださいねー!」

 

マネージャーの相川が特製の栄養ドリンクを片手に自主練をしている部員達に見せる。

 

「おっ、きたきた!」

 

部員達が待ってましたとばかりに相川の下に寄っていく。

 

相川特製の栄養ドリンクは、栄養もさることながら、味も抜群で、部員達の間では人気を博している。市販で発売されているスポーツ飲料の粉に、プロテインを絶妙な分量で配合しているらしいが、そのレシピは相川しか知らない。

 

「茜ちゃんには感謝するばかりです。マネージャー業務のほとんどは茜ちゃんに任せきりになってしまってますから」

 

姫川は主に、他校のスカウティングや、チームメイトの試合や練習内容を基に、弱点や課題を洗い出し、それを上杉や選手達に伝えるのが役割となっている。

 

「お前はお前にしかできんことをやっている。それでいい。現に、こっちは助かっている」

 

「ですが…」

 

「バスケと一緒だ。周りに仲間がいるんだ。1人で全てやる必要はない。任せられるところは任せても構わん」

 

マネージャー業務を相川に任せてしまっていることを気にする姫川を、気遣う上杉。

 

「そうです! 私、こういうの好きだから問題なしです! 私はバスケのことはチンプンカンプンだから、こっちは私に任せて、姫ちゃんはすかうてぃんぐ? に専念してね♪」

 

ドリンクを配り終えた相川が姫川を抱きしめながら伝える。

 

「茜ちゃん…うん!」

 

頼れる仲間に、姫川は笑顔で返事をする。

 

「それより……もう吹っ切れたのか?」

 

突如、上杉が笑顔から一転、表情を改めて姫川に尋ねる。

 

「……いえ、まだ…」

 

「?」

 

姫川は一瞬、苦悶の表情をし、首を横に振る。話が分からない相川は頭に?を浮かべている。

 

「…まあ、そんなもんだ。割り切るには、まだ時間がかかるだろう。若いならなおな。ゆっくり、考えていけばいい」

 

「…はい」

 

俯きながらそっと返事をする姫川。事情を尋ねたいが、軽々しく触れてはならないと判断した相川は、姫川の顔を見るだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

インターハイ予選が終わり、各県の、インターハイへの切符を掴んだ者達が頂点を目指すべく、練習を重ねていく。

 

そして、月日は過ぎ、遂に、その日がやってきた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

8月某日…。

 

全国高等学校体育大会。通称、インターハイが開催された。

 

各県の予選を勝ち抜いた代表校が、今年の会場となった千葉県に集まった。

 

「っしゃぁ! やってきたぜ!」

 

今年の会場となる場所にやってきた空が、会場を目の前に大はしゃぎをする。

 

「空、周りに人がいるのを忘れないで下さいね」

 

そんな空を大地が窘める。

 

「大声出さないで、恥ずかしい」

 

姫川がジト目で注意する。

 

「へぇー、日本大会の会場も豪華なものだな」

 

「確かにな」

 

三杉と堀田が会場を見ながらにこやかに談笑する。

 

『…(ゴクリ)』

 

会場を前にした2、3年生達がゴクリと唾を飲み込む。

 

「先輩? どうかしたんですか?」

 

様子に気付いた生嶋が尋ねる。

 

「…いや、俺達、全国の舞台は初めてだから…」

 

現2、3年生は、今回が初めての全国大会となる。

 

「さすが、全中経験者、余裕だな」

 

特に、臆した様子がない1年生達を見て、上級生達は感心する。

 

「余裕ではありませんよ。私も同じく、緊張しています。ですが、それ以上にワクワクしています」

 

「そうですね。怖いの半分、ワクワク半分です」

 

「こういう気分は、こういう舞台に立たないと味わえないな」

 

「この始まる前の緊張感、たまんねーよな!」

 

大地、生嶋、松永、空が、笑顔で先輩の問いに答える。

 

「お前ら…」

 

その様子を見て、上級生達の緊張が薄れていく。

 

「開会式まで時間はない。行くぞ」

 

上杉が声をかけ、会場入りしていく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

開会式がつつがなく執り行われた。

 

前年度優勝校である洛山高校。その主将である、赤司征十郎によって優勝旗が返還される。

 

各校の各選手が、ある者は緊張に包まれ、ある者は敵を威嚇し、ある者は闘志を胸に秘め、ある者は強敵との闘いを目の前に笑っていた。

 

そして、開会式は終了し、選手達は明日からの激闘に向けて準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

開会式後、誠凛高校…。

 

「あの、飲み物買ってきてもいいですか?」

 

黒子テツヤが監督であるリコに尋ねる。

 

「あまり遅くならないようにね。ただ…火神君! 一緒に付いていきなさい」

 

「うす」

 

黒子と肩を並べて火神が歩いていく。

 

「…1人でも大丈夫なんですが…」

 

「お前はほっとくとすぐフラフラといなくなるからな。まぁ、お目付役ってことだろ」

 

黒子と火神は会場外にある自販機を目指して歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ん?」

 

会場の外に出て、エントランス付近を歩いていると、火神が発見する。そこには…。

 

「あん? お前もかよ」

 

「黒子っち! 火神っちも!」

 

「…ふん。騒がしい奴が来たのだよ」

 

「あれ~、黒ちんじゃん。あと火神」

 

そこには、キセキの世代と呼ばれる者達が集まっていた。

 

「久しぶりです。…もしかして、今年も集まったんですか?」

 

「いや、今回は本当に偶然だ。たまたまここに皆が集まっただけだよ」

 

そこにはもちろん赤司もいた。

 

目的は様々だが、この場に、昨年のウィンターカップを熱狂させたキセキの世代と彼らを倒した火神が集まった。

 

「全員、無事、インターハイに出場出来たようで安心したよ」

 

「はっ、当然だ! 去年は出れずじまいだったからな」

 

不敵に笑いながら火神が答える。

 

「ふん。3位でのギリギリの出場でどうしてそんなに威張れるのか、不思議でならないのだよ」

 

「得失点差でだろうが! つうか、お前には勝ったけどな!」

 

「言ってくれるな…!」

 

火神と緑間がにらみ合いを始める。

 

「やめろ、うっとうしいな。今更どうでもいいだろ」

 

そのやり取りを、青峰が面倒くさげに言葉を挟む。

 

「何だと? 負けたくせに偉そうなのだよ」

 

「…言ってくれるじゃねぇか緑間」

 

そこに、青峰も参加し、三つ巴で睨み合う。

 

「…ミドちん~、はさみ貸して~。これ切れない」

 

そんなにらみ合いも気にせず、菓子袋が切れない紫原が緑間にはさみを借りようとする。

 

「持ってないのだよ。…というか、取り込み中だ」

 

緑間はうっとうしげに答える。

 

「やめろお前達。誰が強いか、それはすぐに分かることだ」

 

「そうです。喧嘩はやめましょう」

 

その争いを、赤司と黒子が止める。

 

「…ちっ」

 

「ふん」

 

「…そうだな」

 

2人の静止に、3人は半分納得、半分不満げな表情をしながら言い争いをやめる。

 

「ふぅ…、とはいえ、このインターハイは、俺にとっては去年のリベンジの舞台だとも思っている。黒子、火神。去年の借りは、返させてもらうよ」

 

「はっ! 負ける気はさらさらねぇけどな!」

 

「僕も負けません」

 

赤司の挑戦状とも言える言葉に、黒子と火神は笑顔で答える。

 

すると、そこへ…。

 

「おっ、見ろよ! キセキの世代が全員揃ってる! 火神さんもいるぜ!」

 

エントランスの階段の下から声が聞こえてきた。

 

「声が大きいですよ。周りの迷惑も考えてください」

 

現れたのは、花月のジャージを着た2人の選手、空と大地だ。

 

開会式終了後、空は、会場のどこかにいるキセキの世代を探しに単独行動をし、空がいないことに気が付いた大地が探索に出かけ、ちょうどこの近くで空を発見、連れ帰っているところだった。

 

声が大きかったことで、その場にいた全員が空と大地に気付いた。

 

「あれ~? あの2人、どこかで見たことあるような…」

 

紫原が2人のことを必死に思い出そうとする。

 

「あんた達の後輩を目の前で倒したはずなんですけどね…、なら、自己紹介、星南中出身、現花月高校の神城空だ。あんた達を倒すためにここに来た」

 

空が不敵な笑みを浮かべながら自己紹介をしていく。

 

「空、失礼ですよ。…綾瀬大地です。申し訳ありません。彼に悪気はありませんので…」

 

大地が自己紹介をしながら頭を下げて謝罪をしていく。

 

「ふん、覚えていないのだよ」

 

緑間は眼鏡のブリッジを押し上げながら視線を外す。

 

「おっ、あの時の目立ってた2人ッスね! 俺は覚えてるッスよ」

 

黄瀬は興味を持ったのか、笑顔で答えていく。

 

「へぇー、そうなんだー、すごいねー」

 

紫原はそれでも思い出せず、菓子を食べている。

 

「お前が……なるほど、なかなかやりそうだな」

 

火神は、新たなるライバルの出現に笑顔を浮かべる。

 

「謝ることはないさ。ただの挨拶だ」

 

赤司は紳士な態度で対応する。

 

「…俺達のいない帝光中に勝ったくらいでいい気になってんじゃねぇぞ」

 

青峰だけが、軽く不快感を露にし、2人に歩み寄っていく。

 

「俺達に勝つ勝たないの話は、その実力差を埋めてから言えよ」

 

「「っ!?」」

 

2人の目の前までやってきた青峰が、凄みながら言い放つ。その、青峰が放つ威圧感に…。

 

「(これがキセキの世代のエースのプレッシャーかよ…、やべぇ、これはとんでもねぇわ!)」

 

「(…コートに立たずしてこのプレッシャー…、これが今の私と彼の差ですか…!)」

 

2人は、青峰の放つプレッシャーに圧倒されそうになるが、何とか踏ん張る。

 

空は少し引き攣ってはいるものの、不敵な笑みを変えず…大地は冷や汗を流すものの、表情を変えず、目を逸らさずに対峙する。

 

空と大地の登場に、その場の空気が変わる。そこへ、更なる風がやってきた。

 

「…おっ、ここにいたか」

 

そこへ、1人の男がやってくる。

 

『っ!?』

 

その瞬間、キセキの世代の面々と、火神の表情が一転する。

 

「空、あんまりウロウロするなよ。監督カンカンだぞ?」

 

三杉がそこにやってきて、空を諫める。

 

「ん? ……へぇ」

 

その場に、キセキの世代と火神がいることに気付く。

 

「…」

 

三杉は、キセキの世代を1人1人を観察する。

 

「……なるほど、10年に1人の逸材。その言葉に偽りはないな」

 

「あん? あんた、誰だよ?」

 

青峰が、三杉に尋ねる。

 

「俺はこの2人の先輩さ。…ゆっくり話でもしたいが、あいにくと、監督が待っている。空、綾瀬、戻るぞ」

 

2人の肩に手を回し、その場を後にする。数歩歩いてからピタリと足を止める。

 

「全員と戦うことができないのが残念だ。それじゃ、次はコートで会おう」

 

三杉は、空と大地を連れてその場を後にしていった。

 

「…今の、誰ッスか?」

 

黄瀬は、冷や汗を流しながら周囲に尋ねる。

 

「初めて見る顔なのだよ」

 

緑間は、険しい表情をしながら答える。

 

「…あんな強烈な匂いは初めてだ。お前ら(キセキの世代)と会った時以上の衝撃だぜ…」

 

火神が、目を見開きながら言う。

 

「…」

 

紫原は、菓子を食べる手を止め、無言で三杉達の後を見つめている。

 

「いいね。今年の楽しみが増えたってことだな」

 

新たなる強敵の登場に、不敵に笑う青峰。

 

「…彼は…」

 

赤司は、何か思い出そうとしていた。

 

ライバル達との再開で騒がしくも盛り上がっていたキセキ達。

 

そこに現れた、次世代の風と、異国からの風。

 

2つの風を受けた昨年を騒がせたキセキ達。

 

今年、彼らは知る。

 

その、暴風雨の恐ろしさを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日、インターハイの試合が始まる。

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

年々、バスケ人口と共に人気が上昇していき、そのレベルも、年々上昇していく。

 

観客席はファンに埋め尽くされ、大熱狂している。

 

彼らの目当てはもちろん…。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

『きたぁぁぁーーーっ!!!』

 

海常の黄瀬のダンクが炸裂する。

 

キセキの世代の誕生により、バスケ人気を加速させていった。この会場にいる観客のほとんどが彼ら目当てといってもいい。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

「すげぇ! レーンアップだ!」

 

火神がフリースローラインから跳躍し、ワンハンドダンクをぶちかます。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「なんであそこから入るんだよ!?」

 

緑間がセンターラインの後ろからシュートを放ち、その放ったボールがリングを潜るのを待たず背を向け、ボールはリングを潜った。

 

他者を圧倒する活躍を見せるキセキの世代と火神。そのパフォーマンスに、観客は大いに盛り上がる。

 

海常、誠凛、秀徳が、番狂わせの気配などみじんも見せず、1回戦を突破していく。

 

「今年にインハイはどこが優勝すんのかな?」

 

「桐皇だろ! 青峰止められる奴なんていないって!」

 

「洛山だろ。赤司はもちろん、あそこには無冠の五将が3人もいるんだぜ。総合力が違うよ」

 

「いや、陽泉だな。バスケはやっぱり、インサイドがものを言う。紫原に加え、長身選手が揃ってる陽泉が優勝だ」

 

「秀徳だって。コートのどこからでも打てるシューターの緑間いるんだぜ?」

 

「おいおい、海常を忘れんなよ。あそこには、キセキの世代の技をコピーできる黄瀬がいるんだぜ? 止められないって」

 

「誠凛も充分可能性あるぜ。去年のウィンターカップの優勝メンバーがほとんど残ってるんだ。また奇跡を起こしてくれるって!」

 

観客達は、各々今年のインターハイの優勝校を予想している。

 

知らぬ者同士が大いに盛り上がっている。

 

 

その頃、花月高校もまた、目の前に迫る1回戦に向けて準備をしていた。

 

「…盛り上がってますね」

 

「キセキの世代の皆さまは派手ですからね」

 

空と大地が準備をしながら会話していく。

 

「そういや、三杉さんと堀田さん、今日スタメンですけど、今日も第1Qで下がるんですか?」

 

「いや、今日はフル出場するよ。インターハイのコートの感触を確かめておきたいからね」

 

柔軟をしながら三杉が答えていく。堀田は椅子に腰かけ、腕を組んで目を瞑りながら時間を待っている。

 

「何より…」

 

柔軟を終え、ヘアバンドを額へと付ける。

 

「会場のオーディエンスに理解してもらう必要がある。今年、この大会を優勝するのがどこであるかを…」

 

現段階で、花月高校の注目度は高くない。三杉と堀田は県予選でほとんど出場していなかったため、認知度は低い。むしろ、空と大地を始め、昨年の全中ベスト5の内、4人が在籍していることでの認知度の方が高い。

 

注目度は、せいぜいダークホースという程度だ。

 

その言葉を聞き、三杉はニコリと笑い、空も大地も笑う。堀田は静かに目を開ける。

 

「さあ、初戦だ。…いこうか」

 

 

『おう(はい)!!!』

 

 

花月の選手達は、コートへと向かっていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

観客席…。

 

「最終戦だってのに、まだ客がこんなにいんのか…」

 

そこには、試合を無事、完勝で終えた誠凛の選手達が来ていた。

 

バスケ人気の上昇の影響か、目当ての試合だけではなく、すべての試合を観戦していく観客も多い。

 

「(…さっきの奴はまだか? 確か、花月だったか…)」

 

火神は、コート中をくまなく探している。

 

「タイガ、ここにいたのか」

 

そこに、火神に話しかける人物が現れる。

 

「タツヤ! 来てたのか」

 

現れたのは、火神の兄貴分であり、ライバルでもある、陽泉高校現主将、氷室辰也だ。

 

本日、陽泉はシードのため、試合はない。洛山、桐皇も同様に試合はない。

 

「ああ。タイガやキセキの世代の試合をこの目で見ておきたいからね」

 

そう言って、空いていた火神の隣の席に座る。

 

「調子が良さそうで何よりだ」

 

「たりめえだ。去年は出られなかったからな。冬と続けて優勝してやるつもりだ」

 

気合に満ちた表情で語る。

 

「お互い、順調に勝ち上がれば戦うのは決勝だ。そこで、去年の借りを返させてもらう」

 

「ああ。決勝で会おうぜ!」

 

互いに、誓いを立てる。

 

「陽泉の相手はどこなんだ?」

 

「ああ、それだったら次の――」

 

「見つけた。ここにいたか、タイガ、タツヤ」

 

新たに2人の前に人影が現れる。

 

「「アレックス!」」

 

「よう」

 

そこに、2人のバスケの師匠である、金髪の異国の女性、アレクサンドラ=ガルシア、通称アレックスが現れる。

 

「アレックス、また来たのか」

 

「まあな。愛弟子の試合だし、何より、日本の試合はもはや、アメリカと肩を並べるほど面白いからな」

 

アレックスはにこやかな笑顔で話していく。

 

「あと…」

 

ここで、アレックスの表情が引き締まる。

 

「お前達に教えておいた方がいいこともあったからな」

 

「アレックス?」

 

「いったい、何のことだよ?」

 

「それは……いや、説明するより、実際に見た方が早い。あそこだ。あいつらをよく見ておけ」

 

アレックスが、コートの一角を指差す。そこから現れたのは、本日の最終試合の高校の選手達が現れた。

 

「っ! あいつ、さっきの…!」

 

現れた高校の一方は花月高校。そこにいる三杉を火神が見つける。

 

「っ! そんな、彼がどうして!?」

 

氷室の方は、席から立ちあがり、驚愕の声を上げた。

 

「タツヤ?」

 

「あの4番と5番は……アレックス」

 

「ああ。お前も知ってのとおりだ」

 

氷室とアレックスのみが理解しているかのように話していく。

 

「みんな、花月高校の試合をよく見ておきなさい。片時も目を離すんじゃないわよ」

 

リコが注目を集めると、誠凛のメンバーに告げる。

 

「花月高校は、去年の全中のベスト5の内の4人が集まったところだったな」

 

「中でも、MVPと得点王を獲得した神城と綾瀬がどこまでやれるか、か」

 

日向と伊月がコートに視線を向けながら言う。

 

「あの2人だけなら、そこまで警戒しなかったんだけどね…」

 

「監督?」

 

ボソリと呟くリコに気付いた小金井が声をかけるが、リコはコートから目を離さなかった。

 

スタメンに選ばれた空、大地、天野。そして、三杉と堀田がコート中央に向かっていく。

 

そして、試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「うそ…だろ…」

 

「…こんなことが…」

 

試合は、第4Q残り2分まで進んだ。

 

当初は盛大に沸いていた会場も、不気味な静けさを醸し出していた。

 

 

第4Q、残り1分。

 

花月 137

令聖   0

 

 

圧倒的な点差を付け、試合を支配している花月高校。

 

『ハァ…ハァ…』

 

対する、令聖学園の選手達は、猛者揃いの花月高校相手に手も足も出ず、戦意を失いかけている。

 

「…令聖高校って、弱いの?」

 

小金井がポツリと呟くように囁く。

 

「全国まできた高校が弱いわけないだろ。うちの火神やキセキの世代のような目立ったエースはいないが、穴はない、バランスの取れたチームだよ」

 

日向が冷や汗を流しながら答える。

 

「…正邦が、インハイ前に花月と練習試合をしたのよ」

 

ゴクリと唾を飲み、リコの話に耳を傾ける。

 

「結果は、107対21で、正邦が惨敗したわ」

 

「っ!? 嘘だろ!?」

 

その事実に日向が驚愕の声を上げる。

 

誠凛は、予選大会の、ブロックトーナメント決勝で、決勝リーグ進出をかけて試合をしていた。

 

正邦の硬い守備に手こずり、試合終了スコアは74-69。

 

「はっきり言って、花月高校は化け物揃いよ。今年のインハイの優勝候補は、花月高校であることは間違いないわ」

 

『…』

 

その言葉に、誠凛の選手達は絶句した。

 

 

「おいおい! なんだよあいつら、化け物かよ!」

 

秀徳高校、2年生の司令塔、高尾が目を見開きながら驚愕の声を上げる。

 

「…っ!」

 

緑間は、歯をギュッときつく噛んだ。

 

 

「なんなんスか…、あんな奴らがまだいたんスか…」

 

黄瀬が、観客席最上段、手摺をきつく握りながら驚愕の声を上げる。

 

 

「…」

 

紫原敦。氷室とは別の場所から試合を観戦していた。

 

「…花月高校」

 

表情を変えず、ボソリと呟いた。

 

 

「…クククッ! いいじゃねぇか! 勝ちあがりゃ、あいつらとやれると考えると、俄然やる気が出てくるぜ!」

 

青峰は、強者の襲来に興奮を隠せず、ただただ笑っていた。

 

 

「なんなのよ、化け物じゃない!」

 

洛山、実渕が声を上げる。

 

「なにあいつら! 俺、知らねぇんだけど!」

 

同じく、葉山も声を上げる。

 

「おいおい、ダークホースどころじゃねぇぞ」

 

根武屋も、先の2人と同様のリアクションだ。

 

「…やはり、彼は…いや、彼らはそうだったか」

 

「征ちゃん、知ってるの?」

 

「あの4番と5番。三杉誠也と堀田健のことは知っている。帝光中時代、1本のビデオに映っていた。俺が入学する1年前、帝光中が全中前の最後の調整相手に花月高校付属中学と練習試合を行った」

 

「「「…」」」

 

五将の3人は無言で赤司の言葉に耳を傾ける。

 

「前半戦までで、帝光中がダブルスコア以上点差を付けてリードしていた。後半戦からあの2人が出てきて、結果、点差はひっくり返されて逆転負けを喫した」

 

「マジかよ!」

 

葉山は再度驚愕する。

 

キセキの世代加入前の帝光中とて、全国屈指の実力を誇っていた。その帝光中を相手に、ダブルスコア以上のビハインドを背負って出場して逆転勝利。驚かないわけがない。

 

「…けど、おかしいわね。征ちゃん達が入学前の全中。私も試合に出てたけど、そんなことができる実力者なんていなかったわよ?」

 

「ああ。先輩達も、彼らを1番に警戒していたらしいが、彼らの姿は全中にはなかったらしい」

 

実渕の疑問に、赤司は伝聞情報を伝える。

 

「…彼らの存在は驚異だ。だが、俺達はその前に倒さなければならない相手が数多くいる。皆、そのことを忘れるな」

 

洛山が花月と戦うのはずっと先。そのことを口にし、赤司はコートで行われている試合に集中した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「くそっ! 1本! せめて1本決めるぞ!」

 

令聖の選手達は、せめて1本、凍り付いた令聖のスコアを変えるため、最後の気力を振り絞る。

 

軽快にパスを回していく令聖。10秒後、フリーの位置でボールを受け取った令聖スモールフォワードの選手がシュート態勢に入る。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

そのシュートは堀田にブロックされる。

 

「ぐっ! もう1回だ!」

 

ルーズボールを拾った令聖パワーフォワードがすかさずシュート態勢に入る。

 

堀田がブロックに向かう。

 

「大丈夫です、任してください!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「何だと!」

 

堀田を静止し、空がブロックに飛び、阻止する。

 

10㎝近い身長差をものともしないブロックに、観客はおろか、令聖選手も驚愕する。

 

「ナイス空坊!」

 

天野がボールを拾い、三杉へとボールを預ける。

 

「速攻!」

 

三杉がドリブルで進軍を開始する。

 

「くそっ! 行かせない!」

 

相手フロントコートの、スリーポイントライン、わずか外側まで進むと、相手シューティングガードが立ちはだかる。

 

「…」

 

三杉が相手の左側から仕掛ける。相手も反応し、左側をふさぎにかかる。だが…。

 

「っ!?」

 

だが、三杉は右側から仕掛けていた。相手はフェイクにかかってしまう。

 

「この…!」

 

ヘルプがやってくると、シュート態勢に入る。

 

当然、相手はブロックに飛ぶのだが…。

 

「っ!?」

 

三杉はシュート態勢に入ってはおらず、そのまま相手の脇を抜けていく。先ほどと同じく、フェイクにかかってしまう。

 

 

――スッ…。

 

 

その直後、三杉は放るようにリング付近にボールを投げる。そこに駆け込んでくる影、それは大地。

 

大地がリング付近で跳躍し、空中でボールを掴む。

 

「ま、まさか…!」

 

これから起こること。観客はもうすでに予想が付いていた。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きつける。

 

『アリウープだーーーっ!!!』

 

大地にアリウープに、観客のボルテージが上がる。

 

それと同時に…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了のブザーが鳴る。

 

 

試合終了

 

花月 141

令聖   0

 

 

花月の圧倒的勝利で試合が終了する。

 

0点は1回戦全ての試合の最低得点はもちろんのこと、総得点141は、1回戦の最多得点。

 

コート上では、空が大地に抱き着き、三杉と堀田がハイタッチをしている。

 

花月高校、1回戦、圧勝…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「つえぇ…」

 

火神の口から出た感想はその一言だった。

 

「あの5番、堀田だったか。パワーといい守備範囲といい、紫原並みだ」

 

この試合、0点に抑えた1番の原動力は堀田の手によるものだ。

 

「…だが、あの4番、三杉のバスケスタイル。心なしか、タツヤに似ている気がするな」

 

「…似てて当然さ。俺のこのスタイルは、彼を参考にしたんだからな」

 

「マジかよ!?」

 

その事実に、火神は驚愕する。

 

「あいつらはアメリカでも有名だ。あいつらの名が知れ渡ったのは、タイガがアメリカを離れて少しした後だから知らないだろうが、あの2人、三杉と堀田は、日本人でありながらアメリカの手練れ達を圧倒していったことで名が上がった」

 

アレックスが詳細を説明していく。

 

「その姿に憧れた俺は、彼の、三杉のスタイルを手に入れるべく、アレックスと一緒にそのスタイル獲得を目指した。結果、あれに近いものを身に着けることができた」

 

「…」

 

「覚えておけ、タイガ。この大会で優勝を狙うなら、あいつらは、1番の障害になる」

 

「…ああ、みたいだな」

 

「そしてタツヤ。あれがお前の――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――最初の相手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インターハイ2日目、1回戦の全ての試合を終わり、翌日の、2回戦へと進むのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




文章が長いわりに、内容が薄くてすみませんm(_ _)m

インハイの仕組みがいまいち不透明なため、矛盾が生じるかと思います。あったらご指摘願います。

ついに公開、三杉のスタイル。氷室に近いスタイルなんですが…詳細は後日…。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第34Q~注目のカード~

投稿します!

今回は花月高校の試合……の前に、1戦挟みたいと思います。

それではどうぞ!


 

 

インターハイ3日目…。

 

初戦の興奮冷めやらぬまま、2回戦が始まる。そして、シード校も始動する。

 

本日、注目のカードが2つ…。

 

 

誠凛高校 × 洛山高校

 

花月高校 × 陽泉高校

 

 

1つは、昨年のウィンターカップで、激闘のファイナル戦を繰り広げた誠凛と洛山の試合。

 

観客も、あの激闘が再び見られることに興奮が隠せない。

 

もう1つのカード…。

 

方や、絶対防御(イージスの盾)と称されるほどのディフェンス力を誇り、県予選の試合のほとんどを失点0で抑えた、全国屈指の強豪校。

 

方や、昨日の行われた1回戦、会場を震撼させるほどの試合をした花月高校。

 

初戦のインパクトは充分で、花月高校の、特に三杉と堀田に関しては、『もしかして、キセキの世代クラスなのでは?』と、口にする者もいる。

 

会場中が試合開始前から盛り上がる中、この日最初の目玉のカード、誠凛対洛山の試合が始まろうとしている。

 

『…』

 

緊張感に包まれる誠凛ベンチ。試合開始直前、誰もが無言で準備を整えている。

 

「作戦は昨日説明したとおりよ。皆、頭に入っているわね?」

 

リコがベンチに座る選手達の前に立ち、確認をする。

 

「お互い、去年の主力が1人ずついない。こっちは木吉が、向こうは黛が…」

 

「向こうの新戦力はあの11番、四条か…」

 

日向と伊月が洛山ベンチを見ながら会話する。

 

誠凛が注目するのは、黛に変わってスタメンに選ばれた11番の選手、四条大智。

 

「彼は知ってます」

 

黒子がその選手に付いて知っていることを口にする。

 

「11番の選手、四条君は、僕と同じ、帝光中出身です。彼は、1軍の選手でした」

 

「ということは、結構な実力者ということか?」

 

日向が聞き返す。

 

「はい。帝光中にはキセキの世代がいたので、試合に出れる機会は少なかったのですが、実力はかなりのものでした」

 

「…なら、少なくとも、去年の黛みたいな変則的な選手ではないってことか?」

 

「それは間違いありません」

 

火神の質問に、黒子は断言する。

 

「赤司君はもちろん、無冠の五将の3人も去年の敗北を糧にかなり伸びているはずよ。けど、絶対に受け身になっちゃ駄目。最初から突き放しにいくつもりでかかりなさい!」

 

『おう!!!』

 

気合充分に返事をする。

 

「よっしゃ行くぞぉっ!!!」

 

日向の一喝を皮切りに、スタメンの選手達がコートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

対する洛山…。

 

相手は昨年、敗北を喫した誠凛高校。だが、洛山の選手達は特に入れ込むわけでも熱くなるでもなく、淡々と準備を整えている。

 

「皆、準備は出来ているな?」

 

赤司がベンチに座る選手達の前に立つ。

 

「相手は誠凛高校。昨年の冬に負けた相手。当然、思うところがある相手だ」

 

洛山の選手達の目付きが鋭くなる。

 

「だが、俺達は昨年とは違う。俺達は、再び王を名乗るために今日まで、昨年の敗北を糧にここまで積み上げてきた」

 

『…』

 

「今年の俺達は挑戦者だ。それを忘れるな。昨年の借りはここで返す。…今年こそ知らしめるぞ。最強は俺達だと。…行くぞ」

 

『おう!!!』

 

洛山のスタメン達は立ち上がり、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両校の選手達がコート中央、センターサークル内にやってくる。

 

『待ってましたーーーっ!!!』

 

選手の入場により、観客が盛大に沸きあがる。

 

 

誠凛高校スターティングメンバー

 

4番SG:日向順平   179㎝

 

5番PG:伊月 俊   174㎝

 

7番 C:水戸部凛之助 187㎝

 

9番PF:火神大我   191㎝

 

11番SF:池永良雄   191㎝

 

 

洛山高校スターティングメンバー

 

4番PG:赤司征十郎 173㎝

 

5番SG:実渕玲央  190㎝

 

6番SF:葉山小太郎 181㎝

 

7番 C:根武谷永吉 192㎝

 

11番PF:四条大智  191㎝

 

 

「黒子はベンチスタートか…」

 

赤司がボソリと呟く。

 

誠凛は、キセキの世代の幻の6人目(シックスマン)である黒子テツヤをスタメンから外す。

 

これは、余裕や驕りでは断じてなく、理由がある。

 

1つは、黒子のミスディレクションは1試合丸々もたない。試合に出れば出るほど効力を失う。2度目の対戦となればそれはさらに顕著に表れる。

 

ましてや、昨年の洛山には、黛という黒子テツヤと同種の幻の6人目(シックスマン)がいたことにより、ある程度耐性が付いており、効力はさらに短い。

 

そのため、早々に効力を失わせないための処置。これが1つ。もう1つは…。

 

「(洛山のバスケは横綱相撲。序盤から勝負をかけることはしない。1度負けてる相手なら尚更だわ)」

 

第1Qだけなら、黒子がおらずとも、対等に渡り合うことは可能。これがリコが出した結論だ。

 

「言っとくが池永。勝手なプレーばかりしたらすぐにベンチに下げる。それを忘れるな」

 

「わーってるよ。赤司先輩の恐ろしさは俺だってよく知ってんだよ」

 

日向の忠告を、池永は面倒くさそうに返事をする。

 

県予選で池永が試合にあまり出られなかった。その理由は、チームプレーを無視してスタンドプレーばかり行ったからだ。チームプレーを重視する誠凛にとって、池永は異物も同然だった。

 

今回の試合、戦力的なことを考え、悩んだ挙句、池永を使うことを決断した。

 

整列が終わり、試合が始まろうとしている。

 

ジャンパーに、誠凛は火神、洛山は根武谷が立つ。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「っ!」」

 

審判がボールを放るのと同時にジャンパーが飛ぶ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「ぬおっ!」

 

ジャンプボールを制したのは火神。

 

「ナイス、火神!」

 

弾かれたボールを日向が拾う。

 

「伊月!」

 

日向が前方に大きくボールを放る。ティップオフと同時に相手ゴールへと走っていた伊月にボールが渡る。

 

そのままドリブルで持ち込み、レイアップの態勢に入る。

 

「やらせないわ」

 

だが、伊月の前方を、ディフェンスに戻っていた実渕が阻む。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

伊月は、焦ることなく、想定していたかのようにボールを真上に放る。実渕の視線を前に移すと、そこには…。

 

 

――ダンッ!!!

 

 

空中に向かって大きく跳躍した火神の姿が。

 

ジャンプボールと同時にダッシュで相手ゴールへと走り込み、フリースローラインから跳躍し、伊月が放ったボールを空中で掴み取った。

 

『ま、まさか!』

 

観客が期待の眼差しを向ける。

 

「させるか!」

 

「調子に乗んな!」

 

根武谷と四条が火神の前方に現れる。だが…。

 

「「っ!?」」

 

火神の高さ、滞空時間には及ばず…。

 

「らぁっ!」

 

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

 

リングにボールが叩きこまれる。

 

着地する火神。静まり返る会場。

 

「お…」

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

息を吹き返したかのように大歓声が沸きあがった。

 

『レーンアップ・アリウープだーーーっ!!!』

 

試合開始早々の超ビックプレー。会場を震え上がらせるには充分だった。

 

「よし! 奇襲成功!」

 

ベンチにて拳を握り、ガッツポーズをするリコ。

 

まだ完全に試合に入り切れていない試合開始早々の奇襲。

 

「ちぃっ!」

 

開始早々に大技を1発もらったことにより、表情を多少険しくする洛山選手。

 

前日に試合をしていた誠凛と違い、洛山はシード校のため、今日がインターハイ初の試合。入念に準備をしていたつもりであっても、やはり、完全には入り切れていなかった。

 

それを見抜いたリコはまさにその最初を狙い打った。しかも、昨年のウィンターカップの優勝を決定付けた時と近いシチュエーションの火神のアリウープ。昨年の敗北を思い起こされる1発。動揺を誘うのと同時に流れを掴み取る狙いもある。

 

「慌てるな」

 

少なからず動揺をしていた洛山選手の中で一切動じず、表情1つ変えずに味方を落ち着かせる赤司。

 

「開始早々仕掛けてくるのは想定の範囲内だ。慌てることはない。1本、きっちり返すぞ」

 

赤司の言葉に、落ち着きを取り戻し、無言で頷く。

 

リスタート。洛山の攻撃が始まる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

赤司がゆっくりとフロントコートにボールを進めていく。マークするのは伊月。

 

今や全国区の選手である伊月のディフェンス。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

チェンジオブペースから一気にぺネトレイト。伊月は抜き去られる。

 

「っ!」

 

だが、伊月の真骨頂はここから。抜き去った赤司に背を向けたままバックチップを狙う伊月の必殺技。

 

 

――鷲の鉤爪(イーグルスピア)!!!

 

 

鷲の鉤爪が赤司を襲う。

 

赤司、それを右から左への切り替えしてかわし、パスを捌く。ボールはスリーポイントラインの外で立っていた実渕へと渡る。

 

「打たせねぇぞ!」

 

日向がすかさずチェック。

 

三種のシュートを持つ実渕。昨年の経験を基に、警戒をする日向。

 

実渕、スリーにはいかずに中に展開していた四条にボールを渡す。四条がそのままゴール下まで切り込み、シュートに持ち込む。

 

「やらさねぇよ!」

 

池永がブロックに現れる。四条、動じず、根武谷にボールを渡す。

 

「おっしゃぁっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

根武谷が落ち着いてゴールを沈める。

 

『おぉ! 洛山がきっちり1本返したぞ!』

 

奇襲を仕掛けて先制点を先取した誠凛。傾きかけた流れを淡々と戻す洛山。

 

共に得点は2点ずつ。試合は加速していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「誠凛はいきなり派手にいったな~」

 

観客席で試合を観戦する花月高校の面々。空がポツリと感想を述べる。

 

「洛山も、それに動じることなく、きっちり返しましたね」

 

派手な誠凛に目を向ける空に対し、大地は確実に返す洛山に注目した。

 

「洛山…というよりも、赤司か。動じるでもなく、やり返すでもない。自身のペースで、きっちり仲間を使って1本返す。優秀な選手だな」

 

一連のプレーを見ていた三杉が赤司を称賛する。

 

「空も、その辺は見習ってほしいかな」

 

「クス、そうですね。あなたはやられるとすぐさまやり返そうとしますからね」

 

「うっ…」

 

三杉の指摘に、大地はクスリと笑い、図星を突かれた空は言葉を詰まらせる。

 

「奇襲を仕掛けて強引に流れを呼び込もうとした誠凛。あくまでも自分のペースを崩さない洛山。恐らく、序盤は試合は動かないだろうな」

 

試合を観戦しながら堀田が冷静に分析する。

 

「同意見だ。まずはお互い様子見。誠凛は最初にジャブを1発出した程度。動くのは第2Q…いや、第3Qかな?」

 

堀田の意見に賛同した三杉が具体的な動きの時期を指す。

 

「お前はこの試合、どっちが勝つと踏んでいる?」

 

堀田が視線だけを三杉に向けて尋ねる。

 

「…そうだな。正直、誠凛はどうにも読みづらいチームだから、一概には言えないが、俺の予想は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

花月高校が集まる観客席の1番端で試合を観戦する上杉。

 

腕を組みながら試合を観戦している。

 

「よう、順調そうじゃねぇか」

 

上杉の横の席を、白いスーツとサングラスをかけた1人の男が座る。

 

「…トラか」

 

横に視線を向けることなく返事をする上杉。

 

横の席に座ったのは、現在、誠凛のベンチで試合の指揮を執っている監督、相田リコの父親、相田景虎だ。

 

「ハッハッハッ! 久しぶりじゃねえか、ゴウ!」

 

景虎はサングラスを外すと、上杉の肩に手を回し、再会を喜んだ。

 

「相変わらずやかましい奴だ」

 

若干、うっとうしげに溜息を付く上杉。

 

「お前が指揮する試合が見れて嬉しいぜ」

 

「何が指揮だ。俺は何も指揮をしていないぞ」

 

「ま、だろうな。あんだけのメンバーに恵まれればな」

 

景虎は肩に回した腕を外し、試合に視線を向けた。

 

「…お前の娘、監督が板に付いてきたようだな。指揮の執り方が昔のお前に瓜二つだ」

 

「だろだろ! 俺のリコちゃんは大したもんだろ!」

 

豪快に笑いながら愛娘を自慢する。

 

「…ふん」

 

鼻を鳴らしながら自慢話を聞き流す。

 

「にしても、2回戦で洛山とはな」

 

「…ああ、去年はかろうじて勝ったが、それでも分が悪い」

 

ここで2人の表情が変わる。

 

「…お前はこの試合どう見る?」

 

「……7-3で洛山だ」

 

上杉は少し考えてから分析結果を伝える。

 

「7-3か」

 

「不満か? これでも、誠凛贔屓のつもりだったんだがな」

 

「フッ、妥当な分析だ」

 

フッと笑みを浮かべる。

 

「あてにするなよ。俺の予想は当たらないからな。去年も、決勝で誠凛が大差で負けると踏んでいたからな」

 

「いやいい。あくまでも予想だ。目くじら立てることの程じゃねぇさ」

 

景虎は膝を組んで、頬杖をつきながら答える。

 

「試合の入り方を重視するエージの性格を考えて、洛山は序盤には動かない。誠凛も、黒子テツヤを温存していることから序盤は様子見。だが、まだ、表面化はしていないが、試合の勝敗を左右するものは少しずつ出ている」

 

「…だな」

 

「…見させてもらうさ。試合がどのような結末を迎えるかを、な」

 

2人は試合に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は進行していく。

 

この日絶好調の火神が得点を量産し、同じく絶好調の日向が得意のスリーで外から攻めていく。

 

第2Qに入り、5分を経過したところで黒子テツヤを投入。高速のパスワークに変化が付き、攻守共に安定していく。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

第2Qが終了し、試合の半分を消化する。

 

 

第2Q終了

 

誠凛 33

洛山 45

 

 

「…誠凛が調子良さそうに見えたけど、試合の半分が終わってみれば、洛山が二桁リードか…」

 

第2Qが終わり、誠凛、洛山の選手達がコートから退くのを眺めながら空がボソリと呟く。

 

「確かに、誠凛は絶好調と言える試合運びだった。だが、洛山はミスがなかった」

 

「ミスがない?」

 

「ああ。見事な試合運びだ。点数を付けるなら90点以上だ。全国屈指の強豪と呼ばれるのも頷ける」

 

高得点を付ける三杉。

 

「絶好調の誠凛、ノーミスの洛山ですか…」

 

大地も、その意見に同調するように頷く。

 

「この点差は、ひとえに今の誠凛と洛山の実力差だ。洛山は特に動きを見せたわけじゃない。淡々と自分達のバスケをしていただけ」

 

「誠凛は、切り札の1つである黒子テツヤを切った。対して洛山は手持ちの手札を一切伏せたままだ。このままでは差は開くばかりだな」

 

三杉と堀田が次々と感想を述べていく。

 

「…誠凛、勝てますかね?」

 

空が恐る恐る尋ねる。誠凛にはかつてのチームメイトであり、中学最後の年に全中大会へと誘ってくれた恩人、田仲がいる。そのためか、誠凛贔屓で応援している。

 

「…勝負の神様というのは、気まぐれで、どんな筋書きを用意するかはわからない。だが、最後まで諦めなかった奴に驚くようなドラマを用意することは多々ある。まだ折り返しだ。結末を語るにはまだ早いさ」

 

あえて多くは語らず、最後まで試合を見守るように言い含める三杉。

 

「…」

 

空は祈るようにコートを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛控室…。

 

各々、体力回復に努めている。

 

「…」

 

リコは後半戦から戦略を練る。

 

本音を言えば、もっと点差を詰めておきたかった。だが、想定はしていたので動揺は少ない。

 

「…水戸部君、交代よ。第3Q頭からは田仲君、出番よ」

 

「…(コクリ)」

 

「は、はい!」

 

水戸部は無言で頷き、呼ばれた田仲は返事をし、準備を始める。

 

これまでの試合、1番負担が大きかったのは水戸部だった。技巧派の選手である水戸部が、超パワー型の選手である根武谷のマッチアップするには分が悪い。

 

「ディフェンスを変えるわ。赤司君に伊月君。実渕君には日向君。後はゾーンでインサイドを固めて」

 

「トライアングルツーか…」

 

後半からのディフェンスに一同が頷く。

 

「(…後は、黒子君ね。1度ここで下げたいのだけど…)」

 

やはり、黒子のミスディレクションの効力が限りなく短い。2度目の対戦であり、黛の慣れがあるため、第2Q途中から出場したのにも関わらず、黒子の姿が捉えかかっている。

 

影の薄さが無くなる前に1度下げたい、だが、ここで下げてしまっては点差は詰まらない。

 

思わずリコの頭に、木吉鉄平がいたら…と、よぎる。だが、それは叶わない。現段階に手元にある手札で戦うしかない。

 

「後半、ある程度の失点は仕方ないわ。けど、それ以上に点を取りにいくわよ。外の日向君、中からは火神君、ガンガン行きなさい」

 

「うす!」

 

「後半からは点の取り合いを挑むわよ。みんな、ガンガン走ってガンガン打っていきなさい!」

 

「はい(おう)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山控室…。

 

12点リードで前半を終えた洛山。

 

しかし、そのことで慢心する者はいない。

 

「前半戦はプラン通りに終わることができたな」

 

「はい。ここまでは想定通りです」

 

赤司と監督である白金が話し合う。

 

「皆、注目してくれ」

 

赤司が選手達に問いかけると、全員が赤司に視線を向ける。

 

「ここまでは想定通り、皆、よくやっている。現在、12点もの点差がある。だが…、それは一旦忘れろ」

 

『…』

 

「この程度の点差など、誠凛相手ではあってないようなものだ。勝利を掴むためには、もっと引き離す必要がある」

 

『…』

 

「実渕、葉山、根武谷。お前達も積極的に仕掛けろ。根武谷、木吉がいない以上、お前のところが1番のミスマッチだ。特に積極的にいけ」

 

「おう! 任せろ!」

 

根武谷が腕の筋肉を高ぶらせながら返事をする。

 

「誠凛の心を折ることは不可能だ。それは去年からの経験で理解しているはずだ。後半は、心を折るのではなく、…息の根を止めにいく」

 

『はい(おう)(ええ)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

誠凛、洛山の選手達がコートに戻ってくる。

 

「おっ! 田仲が出るみたいだな」

 

コートへと向かっていった田仲を目の当たりにし、前のめりになる空。

 

第3Q、後半戦が開始される。

 

「行くぞぉっ!!!」

 

日向の掛け声と同時に相手フロントコートへ走る誠凛。得意のラン&ガンを仕掛ける。

 

「誠凛は点を取りに来た」

 

「当然だな。点差もある。守りに入って防ぎきれる相手ではない。なら、多少のリスクは覚悟で点を取るしかない」

 

誠凛は高速でパスを回しながらチャンスを窺う。

 

洛山、慌てず、確実にマークに付き、シュートチャンスを与えない。

 

「(…やはり、簡単には打たせてもらえないか。…なら!)」

 

ボールを受け取った伊月は、鷲の目(イーグル・アイ)でコート全体を見渡し、ビハインドバックパスを出す。

 

一瞬、誰もいないところにパスをし、パスミスか? とも思われたが、パスを出した先には黒子テツヤの姿が現れる。

 

「っ!」

 

黒子、両足のスタンスを広げ、右手を引き、指だけを曲げ、掌底の構えをする。。

 

「っ!? これは…!」

 

洛山選手、瞬時に黒子が何をするかを察知し、火神のマークを強める。

 

「甘いわよ!」

 

それを見てリコが笑みを浮かべる。

 

黒子、ボールに作った掌底を叩きつける。

 

 

――バァァァァン!!!

 

 

「加速するパス(イグナイトパス)廻!」

 

螺旋の回転が加えられた高速パスが放たれる。

 

 

――バチィン!!!

 

 

「いってぇっ!」

 

スリーポイントラインの外側で立っていた日向にボールが渡る。

 

ボールを受け取った日向はすぐさまスリーを放つ。マークをしていた実渕は火神の警戒をするあまりに日向のマークを甘くしてしまい、ブロックに行けない。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのシュートは綺麗な放物線を描きながらリング中央を潜った。

 

「おーし!」

 

スリーを決め、拳を握る。

 

日向、手をヒラヒラさせ、涙目でディフェンスに戻っていく。

 

「今の、イグナイトパス・廻」

 

「火神と木吉以外も取れるようになったか…」

 

実渕、根武谷がボソリと呟く。

 

「うちは冬からさらにフィジカルアップしているわよ。今では、条件次第ではあるけど、イグナイトパス・廻も取れるようになっているわよ」

 

昨年のウィンターカップの時点では火神と木吉しか取れなかったイグナイトパス・廻。今では、正面から、尚且つ両手で受けるという条件の下なら他の選手(現1年生と2年生以外)も取れるようになっている。

 

洛山、リスタート。

 

赤司がゆっくりとボールをフロントコートまで進めていく。

 

誠凛のディフェンスが変わる。

 

赤司には伊月が、外の実渕に日向がマークし、インサイドを火神、田仲、黒子がゾーンで展開し、トライアングルツーに変わる。

 

「…」

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司、スリーポイントライン手前から外に展開していた実渕に鋭いパスを出す。

 

ボールが渡ると、日向がガンガンプレッシャーをかけていく。

 

「あら、気合入ってるわね」

 

ボールをキープしながら日向に話しかける。

 

「お前を止めなきゃ話にならないんでな。絶対止めてやる!」

 

気合充分の日向。全神経を集中させてディフェンスに徹する。

 

「そう。これは一筋縄ではいかなそうね…」

 

実渕も、集中力を高めていく。

 

「(集中しろ! 重心の動きを見逃すな!)」

 

日向、実渕の三種のスリー、天、地、虚空を選別するべく、実渕の重心の動きに注視する。

 

「いいわ、出し惜しみは無しにするわ」

 

「?」

 

「もう知ってると思うけれど、私には天、地、虚空の三種のシュートがある。そして、今から見せるのが、新たに身に着けた4つ目のシュート…」

 

「っ!? 何だと…!」

 

実渕の発言に日向の表情が驚愕に染まる。

 

「見せてあげるわ。私の、あなた達に敗北してから身に着けた新たな武器――」

 

 

 

 

 

 

 

 

――下弦…。

 

 

 

 

 

 

 

洛山…、五将、動く……。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




まずは誠凛対洛山の試合からです。

去年の主力が1人ずついない両校。

結末は…。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第35Q~開闢の王~

投稿します!

ひとまず、誠凛対洛山戦も終わりです。

それではどうぞ!


 

 

 

「見せてあげるわ。私の、あなた達に敗北してから身に着けた新たな武器……下弦を」

 

実渕が日向に新たなる武器を存在を告げる。

 

「(新技だと!? まさか、虚空をも上回る技か!?)」

 

新技の存在を告げられた日向は驚愕する。

 

「(集中しろ! 新技だろうが何だろうが、この1発で見極めるんだ!)」

 

日向の集中力が増す。

 

「そんなに警戒することはないわ。この技は、天や地、虚空に比べれば大した技じゃないから…」

 

 

――スッ…。

 

 

実渕がシュート態勢に入る。

 

「(きた!)」

 

実渕の一挙手一投足に日向は神経を集中させる。

 

膝を曲げ、ボールを頭上へと上げていく。日向もそれに合わせて両手を上へと上げる。

 

「(ここから何が…)」

 

曲げた膝が再び伸ばされ、ボールを持った手が伸ばされたその時!

 

「…えっ?」

 

日向がボールを見失う。

 

「(ボールは、どこだ!?)」

 

必死にボールのありかを探す。

 

ふと、実渕の視線がリングに向かっていることに気付く。その視線に気付き、後ろに振り返る。

 

「なっ!?」

 

そこには、リングへと向かうボールの姿があった。ボールは綺麗な弧を描き…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中央を綺麗に潜る。

 

 

「おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

観客の歓声が沸く。

 

「ねっ? 大した技じゃないでしょ?」

 

ウィンクしながら日向に告げ、実渕はディフェンスに戻っていく。

 

「ボールが消えた…いったい、何が…」

 

何をされたのかわからない日向の頭はパニックに陥る。

 

「飛ばずにシュートを放ったんだ」

 

一連の動きを見ていた伊月が日向に声をかける。

 

「今、実渕は両足を地面から一切飛ばず、フリースローを打つようにスリーを打ったんだ。実渕の重心に集中していた日向にはボールが消えたように見えたみたいだが、こっちからは新技の全容が見えた」

 

技の正体を見たまま日向に伝えていく。

 

「なん…だと…」

 

伊月から技の正体を聞き、日向は言葉を失う。

 

実渕の三種のスリーを見破るには、野生の勘で対応するか、重心の動きを見て見極めるか。

 

だが、今の技、下弦は、ジャンプをすることなくスリーを放った。

 

『飛ばずにリングに届かせるのはすごいけど、他の3つに比べたらそこまでインパクトはなくないか?』

 

観客は今のプレーを見た感想をこう語る。

 

「冗談じゃねぇ…!」

 

だが、技をくらった張本人である日向は違う。

 

技自体は難易度は高いが派手さはない。

 

しかし、重心の動きに集中していた日向はボールを見失った。しかも、重心の動きを見ても判別もできなかった。

 

この下弦という技は、かつての3つの技を上回るものではない。この技は即ち、かつての3つの技をより生かすための技だということだ。

 

『ねっ? 大した技じゃないでしょ?』

 

「冗談じゃねぇぞ…!」

 

つまり、日向は今後、重心を見てシュートを区別することができなくなった。

 

重心に集中しては下弦にやられてしまうし、かといって、重心を見なくては実渕にスリーは防げない。

 

SG対決。日向に暗雲が立ち込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本! 返すぞ!」

 

伊月がボールを受け取り、ゲームメイクを始める。

 

洛山がディフェンスに入る。

 

「なっ…!」

 

『これは!』

 

洛山のディフェンスに、誠凛は驚愕する。

 

ディフェンス相手が入れ替わる。伊月には葉山が。そして、先ほどまで伊月をマークしていた赤司は…。

 

「赤司が黒子をマーク!?」

 

赤司が黒子をマークしていた。

 

「誠凛の心臓とも呼べるのは黒子、お前だ。お前を止めてしまえば、誠凛の息の根は直に止まる」

 

「っ!?」

 

この、予想だにしていない事態に、誠凛も、黒子も目を見開いた。

 

現在、伊月に葉山、日向に実渕、黒子に赤司、火神に根武谷と四条がダブルチームでマークしている。

 

田仲のみ、フリーである。

 

「っ! …くっ!」

 

必死にミスディレクションを駆使して赤司を振り切ろうとする黒子だが、赤司は惑わされることなく黒子にピタリと付いていく。

 

「無駄だ。いかにミスディレクションを使おうと、俺の目からは逃れられない。そもそも、お前を見出したのは俺だ」

 

黒子、赤司を振り切れない。

 

「伊月先輩、こっち!」

 

ただ1人、マークが付いてない田仲がゴール下まで侵入してボールを要求する。

 

伊月は、目の前の葉山をかわすことは出来ないので、田仲にパスを出す。

 

すかさずヘルプにやってきたのが根武谷。

 

「ぐっ!」

 

力付くで根武谷を押していくが、ビクともしない。

 

「くそっ!」

 

他もフリーの選手がおらず、もうすぐ3秒が経過していまうため、強引にシュートにいく。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

「甘いわ!」

 

根武谷のブロックショットが炸裂する。

 

「速攻!」

 

ボールを奪われ、ターンオーバーとなる。

 

根武谷が前方にボールを大きく放り、四条が受け取ると、そのままフロントコートまでボールを進めていく。

 

「行かせるかぁっ!」

 

「っ! とと…」

 

火神がヘルプにやってきて、四条が足を止める。その間に他の4人もディフェンスに戻ってくる。

 

「赤司!」

 

一旦ボールを赤司に戻す。ボールを貰った赤司は葉山にボールを渡す。

 

「よっしゃ! 今度は俺だな!」

 

ボールを受け取った葉山がゆっくりドリブルを始める。

 

「くっ!」

 

すかさず、伊月がマークが付く。

 

「来たな、そんじゃ、5本、行くぞ!」

 

 

――ドォン!!!

 

 

葉山が力強くボールを付く。その衝撃からくる轟音が会場中に響き渡る。

 

「(来た!)」

 

葉山の雷轟のドリブル(ライトニングドリブル)。

 

圧倒的な速さを誇るドリブル。伊月は頭をクールにしながらディフェンスに入る。

 

 

――ドォン!!!

 

 

葉山が5本の指に力を集約させ、その力をボールに一気に伝え、そこから高速のドリブルを繰り出す。

 

「っ!」

 

伊月が鷲の目(イーグルアイ)を駆使し、雷轟のドリブルに食らいつく。

 

 

――ドォン!!!

 

 

葉山、切り替えしてかわしにかかる。

 

「まだだ!」

 

伊月、これにも何とか対応する。

 

「いいね! ここからが今年の俺の真骨頂だよ!」

 

葉山の指に力が籠る。

 

「えっ…?」

 

その瞬間、伊月はボールを見失う。

 

 

――ドォン!!!

 

 

葉山、ボールを背中側から切り替えし、伊月をかわす。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのままドリブルで突破し、ブロックに来た田仲をかわし、レイアップを決める。

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

一連のプレーで観客が再び沸きあがる。

 

「今のは…」

 

「バックチェンジだ…です」

 

技の正体を探ろうとすると、火神が説明に入る。

 

「後ろから見ていたので分かりました。最後のドリブルは、前からじゃなくて、背中からボールを通す、バックチェンジという技でした」

 

伊月の後ろから、距離があるところから見ていた火神には今のプレーを全て理解していた。

 

「去年はまではクロスオーバーだけだったが、今年はあの高速の切り替えしに加えてバックチェンジまで加わるのか…!」

 

思わず伊月は歯をギュッときつく噛みしめた。

 

葉山のライトニングドリブルに、新たな切り替えしが加わり、止めることがさらに困難になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は完全に洛山ペースになる。

 

黒子は赤司のマークにあい、完全に機能停止に追い込まれている。

 

何より、誠凛の不安要素となるものが見え始めてきた。

 

「ぐぐっ…!」

 

根武谷をマークする田仲。だが、その圧倒的なパワーによって、なすすべもなく外の弾かれていく。

 

「(何てパワーだ! 押しても押してもビクともしない!)」

 

先ほどから強引にいいポジションを奪おうと試みる田仲だったが、根武谷のパワーがそれを許さない。

 

「マッスル~、ゴール下ぁっ!」

 

「ぐあっ!」

 

ゴール下でボールを受け取った根武谷がそのままゴール下を沈める。その際、田仲はそのパワーで弾き飛ばされてしまう。

 

「(これが、五将…、今までやり合ってきたセンターが子供ようにしか思えないほどのプレイヤーだ…)」

 

田仲とて、かつて星南中のセンターとして全国で戦ってきた。

 

東郷中の高島、城ヶ崎中の末広、帝光中の河野。

 

全国レベルの名に恥じない選手だった。

 

だが、根武谷永吉は彼らとは格が違った。

 

圧倒的なパワーに加え、テクニックも有しており、田仲では手も足も出ない。

 

「…」

 

誠凛ベンチにて、リコが大いに頭を悩ませる。

 

黒子テツヤが封じられている。そして何より、インサイドを完全に制圧されてしまっている。

 

火神をもっても洛山を抑えるのは困難であり、田仲も、頑張ってはいるが、現段階の実力では洛山相手に付いていくのが精一杯。

 

「監督、1度タイムアウトを取った方が…」

 

「…」

 

小金井からリコに進言が入る。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

リコ、その進言を聞き、タイムアウトを入れる。

 

『はぁ…はぁ…』

 

肩で息をする選手達、何より、根武谷をマークしていた田仲はそれがさらに顕著である。

 

リコ、メンバーチェンジをする。伊月を下げ、新海を投入。さらに、黒子を下げ、小金井を投入。

 

体力の消耗が激しい伊月と、現状、機能していない黒子を下げた。

 

試合は再会される。だが、それでも状況は変わらない。

 

かつての洛山は、赤司から五将…あるいは、黛を経由して五将のいずれかに渡り、そこから1ON1が主だった。

 

だが、今年は根武谷がゴール下からパスを捌き、ポストプレーをこなしたり、実渕が外から中へパス。葉山も、切り込んでそこから中の根武谷や、外の実渕にパスをしたり、連携プレーを見せている。

 

そして、四条も、洛山のユニフォーム及び、スタメンを獲得しただけに、五将に引けを取らない実力者。

 

点差は、激しく動かないが、ゆっくり、着々と離されていく。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

第3Q終了

 

誠凛 45

洛山 64

 

 

点差は20点近くまで離されてしまう。

 

誠凛は窮地に陥る。

 

洛山の攻撃を止められない。インサイドは完全に洛山に制圧されている。何より、洛山は手札らしい手札をまだ1枚も切っていない。

 

黒子テツヤも封じられている以上、手が打てない。

 

誠凛、伊月を戻す。

 

 

第4Q、1分経過…。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

火神のダンク炸裂。そして…。

 

「火神の奴、入りやがった…」

 

火神、ゾーン突入。

 

ここから誠凛が巻き上げていく。

 

ゾーンに突入した火神が攻守に渡って活躍し、洛山を圧倒していく。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

再びダンク炸裂。

 

「うぉぉぉーーーっ! 火神止まんねぇ!」

 

ゾーンに入った火神。点差をどんどん縮めていく。

 

「(いい調子だわ。流れは今ウチのものだし、点差は確実に縮まっているわ。……けど)」

 

リコはどこか腑に落ちない表情している。

 

理由として、点差は縮まっているのに、洛山に動きがない。何より…。

 

『…』

 

コートでプレーしている洛山選手達に一切の動揺が見られない。

 

「(何を考えているの? このままでは点差が縮まって、いずれは追いつかれてしまうかもしれないのに…)」

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

「スリーキター!」

 

火神がスリーを決める。そして、第4Q残り5分。ついに点差が一桁まで縮まった。

 

「よおーーーし!!!」

 

日向が火神の肩を叩く。ガッツポーズをする火神。

 

『…』

 

その光景を、冷静な面持ちで見つめる洛山選手達。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、終了時、ベンチにて…。

 

『第4Q、流れは1度、誠凛に傾くだろう。点差も、一桁まで縮まるかもしれない。だが、そうなっても決して動じるな』

 

『…』

 

『それは一過性のものに過ぎない。流れが誠凛にあるうちにこちらが仕掛けても効果は薄い。むしろ、逆効果になるだろう。だから、流れが誠凛にあるうちは耐え忍ぶ。そして、誠凛に流れが途切れたら…』

 

『…』

 

『そこから一気に畳みかける』

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

これが第4Q始まる前に赤司から告げられた言葉。故に、洛山選手達に動揺はない。

 

誠凛の攻撃、ボールは伊月から絶好調の火神に渡る。

 

そこに、赤司がヘルプに現れる。

 

「っ!」

 

火神、赤司を抜きにかかろうと考えるが、赤司の後ろには根武谷、四条が近くに構えており、仮に赤司を抜けても狭いインサイドで2人に囲まれる恐れがあり、それではゾーンに入った火神といえど突破は困難と判断し、断念する。

 

そこで火神は…。

 

「っ!」

 

スリーの態勢に入った。

 

赤司、すかさず距離を詰め、阻止に向かう。

 

「ちっ!」

 

 

――ピッ!!!

 

 

シュートを放つよりも先に赤司に距離を詰められてしまい、スリーを断念、反対サイドに展開していた日向にボールを渡す。

 

「(決める!)」

 

日向がスリーの態勢に入る。

 

「させないわ!」

 

それをブロックするために実渕が飛ぶ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

それよりも一瞬早く、日向がスリーを放った。

 

ボールはリングに向かっていく。

 

「(入れ!)」

 

日向がそのスリーに願いを込める。

 

 

――ガン!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールは無情にもリングに嫌われてしまう。

 

「実渕のブロックが間に合った!」

 

「(いえ、私はボールに触れていないわ。私のブロックに動揺してリズムが崩れた。…そしてこれは…)」

 

ここで、洛山、動く。

 

 

――誠凛の流れが途切れた!!!

 

 

そう判断した洛山選手達、一斉に動きを見せる。

 

「マッスゥ~ル、リバウンド!」

 

根武谷がリバウンドを制する。

 

「速攻!」

 

根武谷がフロントコートにボールを力強く投げる。

 

ボールを受け取った赤司がグングン進軍していく。

 

「行かせるか!」

 

いち早くディフェンスに戻っていた火神が赤司の前に立ち塞がる。

 

赤司、すかさずパスを捌く。ボールの先には、スリーポイントラインの外側に立っていた実渕。

 

実渕、ボールを受け取るや否や、シュート態勢に入る。ディフェンスに日向も戻っており、実渕の正面に立ったが…。

 

「(くそっ! これはどれなんだ!?)」

 

三種のスリーに新たに下弦が加わり、見分けが付かない実渕のスリー。うかつにブロックに飛べば地のシュートの餌食になってしまうため、ブロックに行けない。

 

 

――ピッ!!!

 

 

実渕、地から足を離さずシュート。

 

「(ぐっ! 下弦か!)」

 

ブロックに向かうが間に合わず、ボールはリングに向かい…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中央を射抜く。

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

点差が再び二桁に戻る。そして…。

 

「時は来た。一気にトドメを刺す」

 

赤司、ゾーンに突入。

 

「来やがった…!」

 

それはつまり、これからほかの4人もゾーンに引き上げられるということを意味する。

 

天帝の目(エンペラー・アイ)を使ったパス回し。これにより、他の選手達のパフォーマンス能力が向上する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は、機を読み、流れの変動を読み切った洛山に傾いた。

 

ゾーンに入った火神が奮闘するも、同じくゾーンに入った赤司と、赤司によってゾーンの1歩手前まで引き上げられた4人の選手を止めることは困難だった。

 

「くっ…そ…!」

 

ゴール下。インサイドで押し合いをする田仲と根武谷。だが、根武谷の圧倒的なパワーにやはりなす術も無い。

 

やがて、押し合いに負けて、田仲が弾かれ、根武谷が悠々とゴール下を沈めにかかる。

 

そこに…。

 

「田仲ーーーーーっ!!! てめぇ、負けてんじゃねぇぞ! それでも星南中のセンターかよ! 俺達とやるんだろ!? 意地見せろよぉっ!!!」

 

居ても立っても居られなかった空が観客席から声を張り上げ、檄を飛ばす。

 

「っ!?」

 

その、空の檄が耳に入る。

 

「(何やってんだよ、俺。今日、何もできてないじゃないか! 何もできないまま、終われない!)」

 

転倒しそうな態勢から歯を食いしばり、必死に態勢を立て直す。

 

「おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

そのまま根武谷のブロックに向かう。

 

「むっ?」

 

 

――ガン!!!

 

 

根武谷、田仲の気迫に僅かに押され、手元をわずかに狂わせる。

 

「おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

すぐさま田仲が飛び上がり、リバウンドをもぎ取った。

 

「よおぉぉぉし、ナイス、田仲!」

 

ボールを奪った田仲が着地する。

 

 

――ポン…。

 

 

「あっ!」

 

着地したその瞬間、赤司によってボールを弾かれてしまう。

 

「あぁ!」

 

ボールを拾った赤司がシュート態勢に入る。

 

「させるかーーーっ!」

 

火神がシュートブロックに入る。赤司、そのままシュートを放つ。

 

「っ!」

 

ボールはそのまま火神の横を抜けていく。

 

「(違う! これはシュートじゃねぇ!)」

 

火神は気付く。ボールをリングではなく、リングの手前に飛んでいっていることに。

 

ボールが飛んだ先、そこに人影が。それは、四条大智だ。

 

「まさか!?」

 

四条は空中でボールを掴み…。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きこんだ。

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

アリウープ一閃。

 

実渕や葉山とハイタッチをしていく四条。

 

「根武谷、最後まで気を抜くな。仮にも誠凛のユニフォームを着た選手だ。油断など、禁物だ」

 

「あぁ、すまねぇ」

 

赤司が軽く叱責すると、根武谷は謝罪をし、ディフェンスに戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ここで、誠凛は選手交代。田仲を下げて水戸部を。小金井を下げて黒子を投入。

 

変わらず、畳みかけにくる洛山。誠凛も、一縷の望みをかけて食い下がる。

 

誠凛は、昨年のウィンターカップに見せた、火神のゾーンスピードに合わせた、ゾーンの先のもう1つの扉、直結連動型ゾーン(ダイレクトドライブゾーン)に望みをかけるが、火神、扉を開けることができない。

 

通常のゾーンと違い、仲間との連携と共存が必要なダイレクトドライブゾーン。仲間への絶対の信頼と、究極なまでの集中力が必要になる。

 

だが、その、ダイレクトドライブゾーンを意識するがあまり、もう1つの扉を開けることができない。入ろうと意識するがあまり、それが雑念となり、扉を開けられない。

 

攻めに転じた洛山。赤司も黒子のマークには行かず、オフェンスに重視する。それによって、黒子が機能するようにはなったが、やはり、洛山の攻めが上回る。

 

試合は、洛山が自身のペースを乱さずに進行していく。そして……。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

試合終了

 

誠凛 68

洛山 83

 

 

洛山、勝利に終わる。

 

『よおぉぉぉし!!!』

 

洛山選手達、喜びを露にし、喜びを共有し合う。

 

普段であれば、決勝戦を勝利で終わるまでは一切喜びを表に出さず、次の試合にすぐさま切り替えるのだが、今回ばかりは、昨年の雪辱もあるため、喜び合う洛山選手達。

 

「…ふぅ」

 

赤司も、普段であったら選手達を諫めるのだが、この瞬間だけは許した。そして、赤司自身も、勝利で終えることができてホッとするのと同時に僅かではあるが笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「83対68で、洛山高校の勝ち!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

両者共に整列をする。

 

「黒子、これで1勝1敗。とりあえず、去年の借りは返させてもらったよ」

 

「はい。…赤司君の勝ちです。とても、強かったです」

 

握手をし合う赤司と黒子。黒子の瞳からは頬に伝うものが流れている。

 

「また戦ろう。そして、次も俺が勝つ」

 

「負けません。次はもっと強くなってきます」

 

2人は、新たに再戦を誓い合った。

 

各選手達も握手をし合い、健闘称え合った。

 

粛々とベンチから引きあがる洛山。敗北の悔しさから涙を流し、悲しみをよそに引き上げていく誠凛。

 

両者の激闘が、終わった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「誠凛が…負けた」

 

そ観客席からポツリと秀徳の高尾が呟く。

 

「…昨年は、あらゆるものが誠凛に味方をした。今年は、木吉鉄平不在の上、洛山が実力どおりの試合をした。これがその結果なのだよ」

 

緑間が表情を変えることなく淡々と告げていく。

 

「行くぞ高尾。試合は近い」

 

それだけ告げて席を立つ。

 

「…」

 

緑間が引き上げていく誠凛の、黒子と火神の視線を向ける。

 

「(…決勝リーグの借りを返せないのは不本意だが、優勝することで、それを果たさせてもらおう)」

 

密かに誓う緑間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

試合が終わり、拳をきつく握りこみながら悔しさを露にする空。

 

「空? 行きますよ?」

 

席から動かない空に大地が声をかける。

 

「ん? ああ…」

 

大地の声で我に返り、立ち上がる。

 

インターハイにて、かつてのチームメイトである田仲と同じコートの立てることを願っていた空の表情は暗かった。

 

「洛山は強かった」

 

「えっ?」

 

そんな空に三杉が空の頭に手を置きながら話しかける。

 

「個人のスキルはもちろんのこと、試合の流れを読む判断力。試合運び。開闢の王の名は伊達ではなかった」

 

「三杉さん…」

 

「誠凛が負けたのは決して恥ではない。彼らは主力を1人欠いた状態でよくやったさ」

 

「…はい」

 

「それとな、他者を気に掛けている余裕はないぞ? キセキの世代は、俺や健をもってしても容易く打倒できる相手ではない。…切り替えろよ」

 

「っ! …はい!」

 

空は返事をし、試合の準備へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

誠凛と洛山の試合が終わり、先の試合もスケジュール通り進行していく。

 

海常、秀徳も、順当通り勝利を収めていく。この日、最初の試合である桐皇学園も、圧倒的な攻撃力を見せ、相手に大差を付けて圧勝する。

 

試合はどんどん終わり、ついにやってくる。

 

この日、もう1つの注目の対戦カード…。

 

 

花月高校 × 陽泉高校

 

 

会場が試合開始前から異様な空気に包まれていく。

 

花月高校の…、そして、空と大地の、挑戦と激闘の火蓋が、切って落とされようとしているのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




誠凛対洛山は、このような結果となりました。

やはり、木吉鉄平不在ではこの結果が妥当かなと思います(^-^;)

誠凛ファンの方、申訳ありませんでしたm(_ _)m

次話から、花月対陽泉の試合に入る予定です。

こうご期待!

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第36Q~絶対防御~



投稿します!

かなりの難産でした(^-^;)

それではどうぞ!


 

 

 

 

――おぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

観客の歓声が会場中に響き渡る。

 

現在、コートでは桐皇学園の試合が行われている。

 

 

――バス!!!

 

 

桐皇学園のエースである、青峰大輝が、ダブルチームをかわし、確立されたフォームに捉われない、無造作に放り投げるようにシュートを放ち、得点を決める。

 

試合は第2Q半ばに突入しているが、この時点は点差はダブルスコア近くまでついており、もはや勝敗は決まったも同然だ。

 

桐皇学園、そして、青峰、本日がインターハイ初めての試合であるが、番狂わせなどあり得ず、確実に点差を広げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「盛り上がってるなー」

 

現在、試合のための準備をしている空が、控室にまで届く歓声に耳を傾ける。

 

「桐皇の試合でしょうね。あそこは超攻撃的なチーム。派手さもあります。今日の相手を考えても、桐皇勝利は揺るがないでしょうね」

 

空のポツリと呟いた言葉に大地が続く。

 

これから始まる2回戦に向け、花月の選手達は準備をしている。

 

今日の相手は陽泉高校。最硬のディフェンス力を誇るチームであり、キセキの世代のセンター、紫原を擁するチームである。

 

手強い相手のため、選手達は普段より緊張しているためか、口数も少ない。

 

中でも、1番様子が違うのは…。

 

「フー…フー…」

 

控室のベンチに座り込み、アップが済んだのか、頭からタオルを被り、試合を今か今かと待ち構える堀田。

 

「…三杉、試合はまだか」

 

「慌てるな、健。試合までまだ時間がある」

 

タオルの下から、鋭い眼光を覗かせながら尋ねる堀田。そんな堀田を鎮めるように言い聞かす三杉。

 

「…堀田さん、気合入ってますね」

 

その鋭い眼光に気圧される空。

 

「当然さ。今日の試合は健にとっては特別な試合だからね。紫原敦は、日本で唯一、健と互角に戦えるかもしれない選手だ。健は、言わば彼と戦うために日本に来たと言っても過言ではない」

 

センターとして、圧倒的な能力を備える堀田。そんな堀田と同ポジションであり、10年に1人の逸材と称されるキセキの世代のセンターである紫原敦。

 

「他と潰し合う前に対戦できることを望んだが、それが叶ってくれたことを神に感謝しなければならないな。今日は久しぶりに、本気が出せそうだ」

 

堀田がタオルの下から不敵な笑みを浮かべ、指の骨を鳴らす。

 

『…(ゴクリ)』

 

普段は冷静で、自他ともに厳しく、一部の者からは武士でまで呼ばれる堀田の今の様子を見て、他の者達は息を飲む。

 

気合、集中力共に普段とは段違いである。

 

天才と称される紫原と、今の堀田が激突すればどうなるか。試合が始まる前から緊張は隠せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方、陽泉側控室。

 

こちらも、言葉を発する者は少なく、黙々と試合に向けて準備を進めている。

 

「…っ! …っ!」

 

入念に身体を解していく氷室。普段の試合前より念入りに行っている。

 

「ほどほどにしとくアル。氷室」

 

そんな氷室を諫めるチームメイトであり、中国からの留学生、劉。

 

「…俺はエンジンのかかりが遅いからね。今日は、スタートから全開で行くためにも、普段より、入念にやっておかないと…」

 

「…」

 

鬼気迫る表情で柔軟をこなす氷室。劉は、そんな氷室を目の当たりにして思わず冷や汗が流れる。

 

「その言葉は、俺よりも敦に言った方がいいんじゃないか?」

 

目線で紫原を指す氷室。

 

「っ!? おいおい、紫原、すげー汗だな!?」

 

噴き出すような汗を流す紫原に気付いたチームメイト。

 

「…」

 

頭からタオルをかけ、両膝の上で拳を作り、ベンチに座っている。

 

「おい、紫原。やりすぎだぞ。それじゃあ、試合でバテて――」

 

「今、話しかけないで。…集中してるから」

 

「っ!?」

 

タオルの下から一瞬覗いた、紫原の鋭い眼光。

 

普段であれば、試合前のこの時間であっても、呑気に持参した駄菓子を頬張っている様子が見られる紫原だけあり、他の陽泉選手達も戸惑っている。

 

インターハイ開催前は、初戦はノーマークであった。だが、前日の試合で、初戦の相手が最大の鬼門であったことを目の当たりにした。

 

大慌てでその夜に対策を立てるも、三杉と堀田が出場したのは、県予選1回戦の第1Qと、決勝リーグの最終戦。それと、前日のインターハイ初戦のみ。

 

普段であれば、しっかり対策を立てて試合に臨むのだが、情報不足のため、不安は否めない。

 

紫原も、今日の相手が強敵であることを理解し、激闘を覚悟してか、今までにない程に集中している。

 

陽泉選手一同。試合に向け、黙々と準備を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

桐皇学園の試合は、桐皇の完勝で終わり、会場を大いに盛り上げた。

 

その後、試合はスケジュール通り、滞りなく進んでいった。

 

 

――ざわ…ざわ…。

 

 

試合が進行するにつれ、観客の興味は、花月高校と陽泉高校の試合へと向けられていた。

 

絶対防御(イージスの盾)と称される程の守備力を誇る陽泉高校。

 

前日、圧倒的な強さで相手校を圧倒し、観客の注目を集めた花月高校。

 

その両校の試合を今か今かと待つ観客達と、インターハイに参加する選手達。

 

 

 

――来たぞ!!!

 

 

 

コートへの入場口から、選手が現れる。最初に現れたのは花月高校の選手達。

 

ジャージを肩にかけた三杉を先頭に、悠々と入場する。

 

続いて、陽泉高校の選手達が入場する。

 

高身長選手が多く揃った陽泉高校。他を圧倒しながら堂々と入場していく。

 

それぞれの選手達がそれぞれのベンチへと向かっていく。

 

双方が、目前に控える試合の準備をしていく。

 

 

「今日はよろしく頼む、荒木」

 

「こちらこそ、あなたのチームと試合できて光栄です、上杉さん」

 

両校の監督、上杉と荒木が握手しながら挨拶をする。

 

「そうかしこまるな。実績はお前の方が上だ。今日は、胸を借りるつもりで挑ませてもらおう」

 

「ご謙遜を。…あなたの教え子より、私達が上回っていることをここで証明させてもらいます」

 

2人はにこやかに握手を交わすと、各々のベンチに向かっていった。

 

 

 

「荒木監督、花月高校の監督と知り合いなんですか?」

 

部員の1人が、先ほどのやり取りを見て尋ねる。

 

「…私達の世代でバスケをしていて、知らない者はいない。元日本代表、サムライと呼ばれていたあの人のことをな」

 

陽泉の監督、荒木は、フッと笑みを浮かべながら答える。荒木は、すぐさま表情を改めると、選手達に振り返る。

 

「今日の相手は強い。皆、今日がインターハイの決勝のつもりで挑め」

 

『はい!』

 

「それと、紫原」

 

「なにー?」

 

「今日はつまらんミス1つが命取りになりかねない。間違ってもジャンプミスなどするなよ?」

 

「うん。気を付ける」

 

荒木の忠告に、紫原は返事をした。

 

「まずは最初の1本。奇襲を仕掛けて先手を取る。うちが今までほとんど見せていないパターンだ。まずはそれで相手のリズムを崩す。後は前日のミーティングと変更はない。各自、気を引き締めて行け」

 

『はい!』

 

「初戦だ、気合入れて行こう!」

 

『おう!!!』

 

氷室の掛け声に選手達が応え、スタメン達がコートに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月側ベンチ、ベンチに座りながら準備を進めるスタメン達の前に上杉が立つ

 

「陽泉のディフェンスは硬い。崩すとなると、簡単にはいかないだろう」

 

スタメンの5人は上杉の言葉に耳を傾ける。

 

「ボールは止めるな。ガンガン打ってけ。あの鉄壁のディフェンスをこじ開けるには、打ち続けて穴を突く他はない。うちには強力なリバウンダーが2人もいる。ガンガン行け」

 

『はい!』

 

「紫原の相手は堀田に一任する。存分にやれ」

 

「はい。そのつもりです」

 

指名を受けた堀田はニヤリと笑みを浮かべながら返事をする。

 

「お前たちは強い。行ってこい!」

 

「さあ、行こうか」

 

「はい(おう)!!!」

 

三杉の号令で、スタメン達はコートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『来たぞ!』

 

『待ってました!』

 

両校のスタメンがコートに入っていくと、観客達が沸きあがった。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番SG:三杉誠也 190㎝

 

5番 C:堀田健  204㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

 

陽泉高校スターティングメンバー

 

4番SG:氷室辰也 184㎝

 

5番PG:永野健司 180㎝

 

7番SF:木下秀治 192㎝

 

8番 C:紫原敦  209㎝

 

9番PF:劉 偉  203㎝

 

 

『うおー! やっぱり陽泉でけー!』

 

『イージスの盾は健在だ!』

 

ビックマンが多い、陽泉に絶叫する観客達。

 

『花月高校だ…』

 

『昨日の試合はやばかったから、番狂わすもあり得るぜ!』

 

対して、花月側。圧倒的威圧感を放つ堀田。薄く微笑んでいる三杉。ニコニコしている空に、首を鳴らしている天野、表情を引き締めている大地。

 

各選手が対照的な花月側のスタメン達。昨日の試合のインパクトは充分であったため、歓声もひと際大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「相変わらず、陽泉のスタメンには圧倒されるな…」

 

観客席、誠凛の選手達が並んでいる。

 

選手達、及び監督であるリコの目は赤く、それは、先ほどまで悲しみに暮れていたことを意味していた。

 

「皆、次の戦いはもう始まってるのよ。選手の分析、いいプレーは学ぶのよ」

 

リコが観客席に集まっている誠凛選手達に言い聞かす。

 

「2メートル越えの選手が1人減ったとはいえ、それでもインサイドは驚異だな」

 

「それでも、今年スタメンに抜擢された7番は190㎝越えの選手だ。相変わらず、陽泉にはでかい選手が集まるな」

 

伊月と日向が陽泉を見た感想を言い合う。

 

「今年の陽泉は去年と同等…いえ、去年を凌ぐディフェンス力を誇るわ。…けど、もちろん、それだけじゃないわ」

 

リコは表情を引き締める。そんなリコに誠凛選手達は注目する。

 

「今年スタメンに抜擢された選手から、まず、PG、永野健司。クィックネスに長けたスラッシャータイプの選手。テクニックと身体能力だけなら、去年のPGの福井健介を上回っているわ」

 

「去年、ベンチだったのは、やはり、3人もいたビックマンの関係か?」

 

日向が自身の疑問を問う。

 

「そうね。去年は2メートル超えのビックマンが3人もいたから個人スキルの高い永野君より、プレイメーカーである福井さんの方が適任だったのよ。けれど、今年はビックマンが1人減ったから、彼のドライブテクニックが生かしやすい環境になった」

 

「で、でも、今年スタメンになった木下って人もビックマンと言っても差支えないと思うんですけど…」

 

2年生の降旗が頭に浮かんだことを口にする。

 

今日の陽泉のスタメンである木下も、2メートルはないものの、それでも190㎝を超えている。

 

「降旗君の言いたいことも分かるわ。けれど、木下秀治は、中でプレーする選手ではないのよ」

 

「というと?」

 

「木下秀治。192㎝の身長誇るアウトサイドシューター。シューターとしては、緑間君に次いで高身長よ」

 

「…あいつ、シューターなのか」

 

驚いた表情で木下に視線を向ける日向。

 

「高い打点からスリーを放つ、秋田県でも1・2位を争うシューター。ノーマークなら高確率で沈めてくるピュアシューターよ。つまり、彼は外に展開することが多いから、インサイドの選手は去年より1人少ないのよ」

 

「…陽泉には、まだあんな奴がいたのか…」

 

伊月が冷や汗を流す。

 

「今年の陽泉は、異名どおりのイージスの盾に加え、飛び道具が加わった。ディフェンスだけじゃない、オフェンスも驚異よ」

 

『…(ゴクリ)』

 

誠凛選手達が息を飲んだ。

 

「次は、花月ね」

 

今度は陽泉の相手である花月側に注目する。

 

「花月側の目玉はやはり、4番と5番。三杉と堀田よ。昨日の2人を見て…火神君はどう感じた?」

 

リコは、火神に問いかけた。

 

「そうッスね。…昨日の試合は正直、ほとんど底を見せてなかったッスけど、少なくとも、あの2人は、キセキの世代と同等の実力を持っていると思います」

 

「…俺も同感だな」

 

火神の意見に伊月も賛同する。

 

「神城も綾瀬も、スピードとスタミナだけならキセキの世代を凌駕している。帝光中を破って全中を制した実力は本物だ」

 

「…」

 

「…ちっ!」

 

日向の分析に、新海は眉を顰め、池永は舌打ちをした。

 

「三杉、堀田、神城、綾瀬。とんでもない奴が集まったもんだな…」

 

「…(フルフル)」

 

土田の言葉に、水戸部が首を横に振った。

 

「―――」

 

「何だって?」

 

「んと、8番の天野も侮れないって。目立たないけど、きっちりポストプレーはこなすし、リバウンドは強い。特にディフェンス能力は、キセキの世代にも匹敵するって」

 

何かを伝えようとしている水戸部の言葉を小金井が変わって代弁する。

 

「そのとおりよ。天野君が影となって支えてるからこそ、他の4人がより輝くことができる。良い選手よ」

 

「…正直、情報が足りないな。とりあえず、どっちが勝ってもおかしくないってことだな」

 

「ああ。どっちが勝つか。その答えは、この後分かる…」

 

花月高校、陽泉高校の選手達が、センターサークル内に整列したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両校の選手達がセンターサークル内に並ぶ。

 

「(っ! でっけー…)」

 

空が、目の前に立つ紫原を下から覗くように観察する。

 

「(堀田さんより高い209㎝。今大会、最高身長だもんな。改めて見ると、すげーデカいな…)」

 

空とは30㎝もの身長差がある。見上げることでようやく紫原の顔を覗くことができる。

 

「んー、なにー?」

 

空の視線に気付いた紫原が、見下ろすように空に声をかける。

 

「いや、何食ったらそんなデカくなれんですか?」

 

空が自分の頭から紫原の頭の高さまで手を上げながら質問する。

 

「んー……お菓子?」

 

「…うそー」

 

選手が並び終え、整列が始まる。

 

「これより、花月高校対陽泉高校の試合を始めます」

 

『よろしくお願いします!』

 

両校の選手達が頭を下げる。

 

「いい試合をしよう」

 

各校の主将が前に出て、氷室が手を差し出す。

 

「ああ。楽しませてもらうよ」

 

その手を三杉が握り、双方、にこやかに握手を交わした。

 

「…(氷室辰也。キセキの世代に最も近しい実力者。…相手してみてぇなぁ!)」

 

「…(キセキの世代に匹敵する実力者の氷室辰也さん。今の私が、どれだけ通用するか…)」

 

空、大地は、氷室を見て胸中でそう考える。

 

ジャンプボールとなり、花月側は堀田。陽泉側は紫原がセンターサークル内に立つ。

 

「…紫原敦。俺はお前との勝負を何より待ち望んでいた。今日は楽しませてくれよ?」

 

不敵な笑みを浮かべながら紫原に告げる。

 

「…ふーん。楽しんでいけばー? ……そんな余裕、すぐに無くなるだろうけど」

 

目付きを鋭くした紫原は、堀田の言葉にこう返した。

 

センターサークル内の中央に立つ堀田と紫原。

 

2人の間にボールを持ちながら立つ審判。

 

「(…この選手は、充分な高さに放ったつもりでも届いてしまう。ティップオフの時は注意しないと…)」

 

審判は、紫原を見ながら自身に注意を促した。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

審判がボールを充分な高さにボールを放った。

 

「「っ!」」

 

それと同時にジャンパーの2人が同時に飛ぶ。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

互いが同じ高さで同時にボールを叩いた。

 

「なっ…!?」

 

『なにぃーーーーっ!!!』

 

それを目の当たりにした観客が驚愕した。

 

「敦と互角!?」

 

これには、陽泉側も驚きを隠せなかった。

 

最高到達点だけなら誠凛の火神すらも上回る高さを誇る紫原。その紫原と互角の勝負するなど、考えもしなかった。

 

「おいおい、マジかよ…」

 

観客席のアレックスも驚く。

 

 

――バチィン!!!

 

 

同時叩かれたボールは弾かれるようにこぼれていく。

 

「ほう」

 

「ちっ!」

 

ジャンプボールで負けるなどと露ほども考えなかった堀田と紫原。堀田は感心し、紫原は舌打ちをする。

 

こぼれたボールは陽泉の木下のところへ。木下がボールを確保しようとしたところ…。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

そのボールに素早く大地が飛び込み、ボールを確保した。

 

「くっ!」

 

先に奇襲を仕掛けたかった陽泉側。それが失敗したことに監督の荒木は眉を顰めた。

 

ボールを掴んだ大地は相手ゴールへとそのままドリブルしていく。

 

「行かせるか!」

 

その前に立ちはだかったのはPGの永野。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

大地が左からの右のクロスオーバーで永野を抜きにかかる。

 

「この程度…!」

 

永野もそれに何とか食らいつき、その動きに付いていく。だが…。

 

「ぐっ!」

 

大地はその直後にバックロールターンで反転し、永野をかわした。

 

「抜いたー!」

 

永野をかわした大地。そこから先には、相手ディフェンスはおらず、そのまま相手リングへとドリブルしていく。

 

そのままペイントエリアまで侵入していく。。

 

『先制は、花月高校だ!』

 

大地はレイアップの態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ハァ? そんなわけないじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

そのレイアップはブロックされた。

 

『きたー! 紫原のスーパーブロック!』

 

ブロックしたのは紫原。

 

「(そんな…、ジャンプボールに参加していた紫原さんに追いつかれた!?)」

 

その事実に目を見開きながら驚愕する大地。

 

全速ではなかったにしろ、大地はレイアップに入るまで決してスピードを緩めなかった。木下をかわすためにスピードを緩んだ隙に紫原は自陣ゴールまで戻っていた。

 

「(ボールを持っていたとはいえ、大地のスピードに追い付くとか、どんなスピードしてんだよ!)…まだだ!」

 

ルーズボールを拾ったのは、同じく走りこんでいた空。ボールを拾った空はすぐさまシュート態勢に入った。

 

「させると思ってんの?」

 

「っ!?」

 

だが、その眼前には、ブロックに来ていた紫原の姿があった。

 

「(何て反射神経だ!)…ちっ!」

 

空はシュートを止め、パスに切り替える。ボールを受け取ったのは三杉。

 

「来い!」

 

その前に立ち塞がるのは、氷室。

 

三杉は、すぐさまシュート態勢に入った。

 

「(打たせ……違う、これは!?)」

 

シュートブロックをしようとする氷室だが、すぐに気付く。三杉が飛んでいないことに。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、瞬間的に三杉のフェイクに釣られ、両手を上げようとした隙に三杉が氷室の左側から抜ける。

 

そして、すぐさまシュート態勢に入る。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

だが、そのシュートは紫原によってブロックされてしまう。

 

「嘘だろ…、三杉さんがブロックされた…」

 

その事実を目の当たりにした空は驚愕する。

 

「よし、速攻!」

 

「ちっ、やべ!」

 

ブロックされたボールは永野が拾い。そのままフロントコートまでドリブルをしていく。

 

花月選手達は、速攻を阻止すべく、すぐさま自陣まで下がっていく。永野よりも早く自陣ゴールまで戻り、振り返ると…。

 

「えっ!?」

 

「これは!?」

 

振り返った先に見えた光景に目を見開いた。

 

 

 

 

――紫原、自陣ゴール下から動かず。

 

 

 

 

すでに、ボールは陽泉側に渡り、ボールはフロントコートまで進んでいるというのに自陣ゴール下から動かない紫原。

 

「去年の試合映像にもあったけど、これは…」

 

全くオフェンス参加をしない紫原に戸惑いを隠せない空と大地。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おいおい、紫原の奴。また去年みたいにものぐさ出したんじゃないだろうな?」

 

「…いえ、今回は違うと思います」

 

観客席の火神が怪訝そうな表情で呟くと、黒子がその言葉を否定する。

 

「何か様子が変です。あの表情、明らかに去年とは違う…」

 

「私も同意見よ。恐らく、2つの理由があるわ。まず1つは、失点を最小限に抑えること。もう1つは、体力の温存よ」

 

「体力の温存?」

 

「紫原君は、オフェンス、ディフェンス共にかなりの能力を有しているわ。けれど、それを試合を通じて発揮できるほどまだ身体も体力もできていない。花月高校相手に第1Qから攻守の両方をこなしていては、最後までもたない」

 

『…』

 

「だから、序盤は昨年と同じように守備だけに専念させ、失点を抑えると共に体力を温存させるのが陽泉側の狙いよ。後半の勝負所で力を発揮できるように」

 

「なるほど…」

 

リコの分析結果に、誠凛の選手達は納得する。

 

「ディフェンスに専念した紫原から点を取るのは至難の業だ。花月はどうやってあの絶対防御(イージスの盾)を突破するか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「やれやれ、あれを突破するには、一筋縄では行かないな」

 

「そのようだな」

 

三杉と堀田がディフェンスをしながら話し合っている。

 

「…それにしても、監督の目論見どおりになってしまったね」

 

試合前、2人は上杉に告げられていた。

 

『陽泉の監督、荒木の性格を考えて、序盤…おそらく、第3Qまで紫原はゴール下で守備に専念させるだろう』

 

「どうする? これでは、健の望む勝負は出来ないぞ?」

 

「…そう来るなら、こっちにも考えがある」

 

堀田が不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ボールは、スリーポイントライン外側で永野がキープしている。マークしているのは空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

永野は得意のドライブで花月のインサイドへカットイン。

 

「遅い!」

 

空は、すかさず反応し、進路を塞ぐ。

 

「ちっ!」

 

永野は止まると、左アウトサイドに展開していた木下にパスをする。

 

「打たせませんよ」

 

大地がすぐさまチェックに入り、木下の懐に入る。

 

「ぐっ…!」

 

木下のスリーを警戒した大地は、フェイスガード気味のタイトなディフェンスをする。

 

身長差はあるものの、懐に入られているため、シュート態勢に入れない。かといって、木下はドライブをあまり得意とはしていないため、切り込むこともできない。

 

「こっちアル!」

 

ローポストで劉がボールを要求。木下、頭の上で構えていたボールをそのまま劉へと投げる。

 

「あかん!」

 

スティールしようとした天野だが、紙一重でボールに届かなかった。

 

「行くアル!」

 

ボールを貰った劉がそのまま反転してシュートを放った。

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

だが、そのシュートは堀田にブロックされる。

 

「うおー! すげーブロック!」

 

「(とんでもないパワーアル!)」

 

ブロックをされた劉本人もそのパワーと圧力に圧倒される。

 

ルーズボールは、氷室が確保した。

 

「いかせっかよ!」

 

すぐさま空がヘルプにやってきた。

 

「(身長差はそんなにねえ、絶対止める!)」

 

集中力を最大にしてディフェンスに臨む。

 

 

――スッ…。

 

 

氷室はシュート態勢に入った。

 

「舐めんなぁっ!」

 

空はブロックモーションに入る。だが…。

 

「えっ?」

 

氷室は、シュート態勢には入っておらず、足は地に付いたまま。

 

「(フェイク!? マジかよ、シュートにいくようにしか見えなかった…)」

 

飛んでしまった空の横を悠々と抜け、今度こそシュート態勢に入った。

 

「こんの! まだだ!」

 

着地した空は今度こそブロックするべく氷室を追いかける。だが、空のスピードと瞬発力をもってしても、ドリブルからシュートへの繋ぎがスムーズな氷室には間に合わない。

 

ボールが、氷室の指から離れる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「甘いわ!」

 

そのシュートは、堀田によってブロックされた。

 

「(この高さと威圧感、敦並みだ!)」

 

ブロックされた氷室も圧倒されてしまう。

 

「っしゃ、速攻!」

 

「くそっ、戻れ!」

 

今度は花月側のカウンター。堅守を誇る陽泉。すぐさま自陣まで戻り、守備を固める。

 

「なっ…」

 

『なにーーーーっ!!!』

 

自陣コートまで戻った陽泉選手が振り返ると、今度は陽泉側が驚愕をした。

 

 

 

 

 

――堀田、自陣ゴール下から動かず。

 

 

 

 

「まさか、紫原と同じことをやるつもりか!?」

 

これには観客達も驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

 

紫原のブロックショットが炸裂。

 

攻守が入れ替わり、今度は陽泉側のオフェンス。

 

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

 

今度は堀田のブロックショットが炸裂した。

 

攻守が絶え間なく入れ替わる。そのたびに、両チームのセンターのブロックに阻まれる。

 

 

――ざわ…ざわ…。

 

 

当初は歓声を上げて盛り上がっていた観客も、目の前で起こっている異様な光景に、歓声からどよめき、ざわめきに変わっている。

 

両チーム、手を尽くしてオフェンスに臨むが、両チームとも、その強固な壁を突破できない。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

そして、第1Q終了のブザーが鳴り響く。

 

『…』

 

静まり返る会場。

 

「おっ…」

 

 

 

 

――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!!!

 

 

 

 

忘れていたかのように観客の大歓声が会場中に響き渡った。

 

「マジかよ…」

 

「こんなことが…」

 

「おいおい、俺、夢でも見とるんか?」

 

花月側の選手達は驚きを隠せなかった。

 

「なんだよこれ…」

 

「ありえない…」

 

「信じられないアル…」

 

それは、陽泉側も一緒であった。

 

バスケの試合には、双方のオフェンスが激しく入れ替わり、互いに得点を取りまくるハイスコアゲームと、双方がディレイドオフェンスをするか、または、双方共にシュートが決まらない等の理由で得点が入らない、ロースコアゲームがある。

 

この試合は後者だ。

 

だが、双方共に、激しいオフェンスを繰り広げている。

 

 

第1Q終了

 

花月 0

陽泉 0

 

 

双方、試合開始からスコアが凍り付いたかのように動かず。

 

試合は、驚愕の第1Qが終わり、第2Qへと進んでいくのだった……。

 

 

 

続く

 

 

 





ど、どうでしょう…。

裏設定として、陽泉のスタメンの木下は、昨年、氷室が加入するまでスタメンだったという設定と、この試合の審判は、昨年の誠凛対陽泉の審判と同じという設定があります。

なら、書けや! って話ですね(^-^;)

途中であった、プレイメーカーとは、チームの起点となり、戦術的に試合を組み立てる司令塔タイプのプレイヤーのことで、伊月のようなプレイヤーのことを言います。

感想、アドバイス、お待ちしています。

それではまた!


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第37Q~均衡~


投稿します!

少し試合が動きます!

それではどうぞ!


 

 

 

第1Q終了

 

花月 0

陽泉 0

 

 

両校共に激しい攻撃を仕掛けるも、得点をあげることは出来ず、スコアは試合開始から動かなかった。

 

 

――ざわ…ざわ…。

 

 

観客席はざわめき、どよめいている。

 

『0対0とか、初めて見た…』

 

『バスケでこんなこと起きるなんて…』

 

サッカーや野球等の球技なら珍しくもないことだが、頻繁に点が入るバスケにおいて、この現状は稀有…いや、まず起こりえない。

 

『誠凛は、あの陽泉によく勝ったな…』

 

『いや、今戦ったら分かんないぞ…』

 

観客は各々、感想を言い合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「0対0とかマジかよ!」

 

試合を観戦していた誠凛、日向が思わず驚愕の声を上げる。

 

「紫原のいる陽泉は分かるけど、まさか、花月まで0点に抑えるなんて…」

 

伊月も同様に驚いていた。

 

「…紫原君のディフェンスエリアの質が上がっているわね」

 

「質が上がっている? どういうことだ?」

 

リコの言葉を聞いて日向が尋ねる。

 

「知っていることだと思うけど、紫原君のディフェンスエリアはツーポイントエリア全域。けど、ツーポイントエリアの全ての攻撃を防げるわけじゃない。連続攻撃を仕掛けられれば、どこかで綻びが生じるわ」

 

『…』

 

「去年の紫原君は、ツーポイントエリア内のシュートは全て自分でブロックに向かっていたわ。けど、今年は自分が行かなくても問題ない、味方に任せてもいいシュートに限っては味方に任せているわ」

 

「なるほど、無理にブロックに行かないから、去年では間に合わなかったシュートに届くようになったってわけか…」

 

「もちろん、紫原君自身がフィジカルアップしたことも要因だけれどね」

 

リコが補足のように付け足す。

 

「しかし、花月の堀田も、紫原同様、ツーポイントエリアのシュートをほとんど迎撃している」

 

「パワーは凄そうだが、反射神経やスピードに関しては、紫原程ではないように見えるが…」

 

紫原がツーポイントエリア全域をカバー出来る要因は、長い手足の他に、その体格に見合わないスピードと反射神経によるものだ。

 

「それはひとえに、彼の読みと上手さによるものよ」

 

「上手さ? どういうこと?」

 

理解できない様子の小金井が聞き返す。

 

「彼がツーポイントエリア全域を迎撃できる理由は、ボールと選手の流れを読んで事前に最適なポジションに動いていること。これが1つ」

 

「ふむ…」

 

「後は、プレッシャーのかけ方が抜群に上手いのよ」

 

「プレッシャーのかけ方?」

 

「ツーポイントエリア内に進入してきた選手にプレッシャーをかけることで、攻撃を制限する。『ここでシュートを打ったらブロックされる!』って、思わず考えてしまうようなプレッシャーをかけることによって、相手を萎縮させ、思考状態に入り込ませて、その隙に迎撃態勢を整えているのよ」

 

リコは堀田のディフェンスの理由をこう語る。

 

「試合は、これから先どうなるか…」

 

日向がポツリと呟く。

 

「どっちも、何か仕掛けなければ点は入らない。第1Qでも、いくつか仕掛けてはいたが、どちらも実らなかった」

 

「…試合を動かすにはやはり――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ちっくしょう! 点が取れねぇ!」

 

ベンチに座った空は苛立ちながら水分を取る。

 

「…想像以上の鉄壁です。絶対防御の名は伊達ではありませんね」

 

大地は、神妙な面持ちで陽泉の守備力を称える。

 

「あかんなー、こりゃ、緊急事態やわ」

 

天野は両手を頭の後ろで組みながら天井を見上げた。

 

「どうする? 陽泉は2-3ゾーンに加え、紫原が中央にいるからインサイドは鉄壁だ」

 

「なら、生嶋を投入するか? ゾーンにはスリーで攻めるのがセオリーだろ?」

 

馬場の分析に対し、真崎が生嶋投入を進言する。

 

「いや、それは悪手かもしれません」

 

その提案を、空が否定する。

 

「陽泉は、ガンガン前に出てプレッシャーをかけて、とにかくスリーを最優先でディフェンスしています。あれじゃ、外はきついですし、何より、生嶋には悪いが、テクニックはあっても身体能力と高さがない生嶋では、陽泉をディフェンスするのはきついかと」

 

「…言い返したいけど、これには同意かな」

 

悔し気な表情で肯定する生嶋。

 

陽泉は、ディフェンスエリアが広い紫原が後ろに控えているので、ガンガン前に出てスリーをとにかく打たせないようにガンガンチェックしてくる。

 

最悪、抜かれてしまっても、後ろには紫原がいるので失点するリスクは低い。

 

「ならどうすんだ。スタメンにはシューターはいないんだぞ。中から崩せないんじゃ…」

 

ここで、何人かが堀田をチラリと見る。

 

選手達の胸中では、堀田がオフェンスに参加すれば突破口が開ける。だから、オフェンス参加してほしい、と考えている。だが、それは口に出せない。

 

実際、花月のオフェンスは堀田を欠いた状況でのオフェンスであり、数的不利。これに堀田が加われば、不利もなくなり、何より、紫原を攻略できるかもしれない。だが、陽泉側も同じことを考えている。

 

今、堀田が出るということは、引きずり出されたのと同じであり、後手に回るのと同義なため、動けない。

 

やはり、流れを掴むためには、4人で紫原から点を奪う他ない。

 

「相手はゾーンやから、スクリーンも効果は薄いからのう…」

 

「ブロック覚悟で、しばらく中から攻め立てて、然る後、外から決めるのはどうでしょう?」

 

「それを成立させるには、中からの攻撃が驚異であると示さなければならない」

 

「だったら、連携を駆使しての連続攻撃ですね。俺と大地で何とか仕掛けてみます」

 

次々と意見を述べていく選手達。

 

「三杉さんはどうです? 相手は氷室ですが…」

 

「ああ、いい選手だ。テクニックは優れているし、頭も切れる。キセキの世代に匹敵する逸材だ」

 

第1Q、主に氷室の相手をしていた三杉は、氷室を絶賛する。

 

「そういや、氷室のプレースタイルって、三杉さんに似てますよね?」

 

「確かに、フェイクの精度やテクニックは三杉さんに通じるところがあります。あの方は去年の夏までアメリカにいた聞きますし、もしかして、どこかで?」

 

「いや、少なくとも、アメリカでは会ったことはないな。確かに似てはいるが、ただの真似ではなく、自分のスタイルとしている。俺とは別物だ」

 

三杉は、似てるが別物と断言する。

 

「とりあえず、ガンガン中から仕掛けて、相手のディフェンスを中に向けて、そこを一気に外から仕掛けるってことでいいですよね?」

 

「やむを得まい。とりあえず、その方向で行こう。ディフェンスは、こちらもスリーを要警戒。シューターの木下は特に警戒だ。綾瀬、ガンガンプレッシャーをかけろ。最悪は抜かれても構わないからな」

 

「分かりました」

 

「均衡を崩すためにも、紫原を引きずり出すぞ!」

 

『はい(おう)!!!』

 

花月は、中を意識させて外。ディフェンスはスリーを警戒。そして、紫原をどうにか引きずり出す、ということで纏まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方、陽泉ベンチ…。

 

「まさか、こんなことになるとはな…」

 

0点に抑えられ、動揺を隠せない陽泉選手達。

 

「(失点を0点に抑えたのは重畳だ。だが、こちらも0点に抑えられたのは予想外だ)」

 

監督である荒木も動揺していた。

 

「花月側も、こちらと同じ、スリーを警戒している。唯一、堀田の射程外から打てる木下は封殺されていると同じだ…」

 

「ならば、中から攻めるしかあるまい。…氷室」

 

「はい」

 

荒木が名を呼び、氷室が返事をする。

 

「中へ切り込め。こちらにはシューターの木下がいる。花月側はうちより外の意識が強い」

 

「…ですが、氷室のマッチアップ相手は三杉です。切り込むのは難儀なのでは?」

 

インサイドへのカットインを勧める荒木に、選手達が苦言を呈した。

 

「確かに、三杉からは至難の業だろう。…だが、それ以外からなら可能だろう?」

 

「もちろんです」

 

フッと笑みを浮かべながら氷室に視線を向けると、氷室はニコリとしながら首を縦に振った。

 

「三杉にスクリーンをかけてでも氷室から引き離せ。氷室なら、得点を決められるか、少なくとも、中へ意識を向けることは出来る。早いうちにこの均衡を崩し、堀田をゴール下から引きずり出すんだ」

 

『はい!!!』

 

「早く点決めてよー。いい加減飽きてきたー」

 

第1Q、ディフェンスに専念していた紫原は、タオルで汗を拭いながら言う。

 

「ああ、分かってる。必ず点を決めて敦を楽にするから、敦もディフェンスを頼むよ」

 

「うん。分かったー」

 

そんな紫原を、氷室はそっと宥めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第2Qが始まると、双方、硬いディフェンスをこじ開けるべく、攻撃を仕掛けていく。

 

「…」

 

ボールをキープしているのは空。その空の前には永野。

 

両者、にらみ合い、空は隙を窺う。

 

大地がスリーポイントラインの外側まで下がり、空の近くでボールを要求。空はチラリと大地の方を見て…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールを投げる。

 

「っ!?」

 

だが、それは大地にではなく、ハイポストまで走りこんだ天野にであった。

 

空はパスをするとすかさず天野に向かって走り出した。そして、すれ違い様にボールを受け取り、そのままゴールまで突っ込んでいく。

 

「行ったー!」

 

待ち構えるは紫原。

 

「…行くぞ!」

 

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

空、バックチェンジからのクロスオーバー。左右の揺さぶりをかけて紫原を抜きにかかる。

 

「それでフェイントのつもり?」

 

だが、紫原、空のフェイントとスピードに悠々とついていく。

 

『駄目だ、抜けない!』

 

「そんなの、百も承知だ。…本命はこれからだ!」

 

空はボールを掴み、そのまま真横に身体が倒れるほどの態勢で横っ飛びをする。

 

紫原も一瞬、戸惑いながらもそれに対応しようとする。

 

空は、横っ飛びの態勢からボールを右手で持ち…。

 

 

――ブン!!!

 

 

そのまま、リングに向かってボールをブン投げる。投げた先には、リングに向かって跳躍している大地の姿が。

 

『これは…アリウープだ!』

 

ボールは大地の右手に収まる。

 

「いっけーーーーっ!」

 

花月ベンチからの期待の歓声が響く。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「くっ!」

 

だが、リングにボールを叩きこむより速く紫原の手が現れ、ボールはその手に弾かれてしまう。

 

「マジかよ! これでも追いつくのか!?」

 

意表を突くと共に、空と大地の高速連携。紫原の反射神経と身体能力はこれにも追いつく。

 

こぼれたボールは劉が拾い、そのまま前線に向かって放り投げる。

 

「カウンター!」

 

前線でボールを受け取った永野は、一気にワンマン速攻を仕掛ける。

 

「ちっ! させねえよ!」

 

猛ダッシュでディフェンスに戻る空を始め、花月選手達。

 

「っ!? 速っ!?」

 

あっと言う間に全員自陣に戻り、ディフェンスを固めてしまったそのスピードに、永野は思わず声を上げた。

 

永野の前に空が立ちはだかり、氷室には三杉、木下には大地、劉には天野がマークに付き、ゴール下に堀田が立ち塞がる。

 

「…」

 

ボールをキープしながらゲームメイクをする永野。空はドライブを警戒して若干深めにディフェンスをしている。

 

ふと、劉が動き、合図を出す。それと同時に氷室が動き出す。

 

「…と」

 

追いかけようとする三杉だったが、劉のスクリーンに捕まる。そこにすかさず氷室にボールを渡す。

 

「スイッチや!」

 

「了解っす!」

 

天野の指示に空が従い、氷室のマークに向かう。

 

「…」

 

「…」

 

氷室の前に空が立ち塞がる。

 

「(止める。そんで今度こそ紫原から点を取る!)」

 

腰を落とし、氷室のドライブに備える。

 

「……足りないな」

 

「…?」

 

「資質はなかなかだ。だが、俺を止めるには至らない。俺を止めたければ、もっと殺す気でこい」

 

「っ!」

 

刺すような視線と、プレッシャーが空を襲う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

それと同時に氷室が仕掛ける。

 

「今度こそぉっ!」

 

空の左側から仕掛ける氷室。空はそれについていく、が…。

 

「っ!?」

 

氷室は右側から仕掛けていた。空は氷室の高精度のフェイクに釣られてしまう。

 

ペイントエリアに進入した氷室はそのままフリースローライン目前でシュート態勢に入る。

 

「打たせません!」

 

ヘルプに現れた大地がシュートブロックに向かう。

 

「なっ!?」

 

だが、氷室はロールしながら大地をかわす。大地もフェイクにかかる。

 

「(クソが! このフェイクといい、マジで三杉さんとやってるみたいだ!)」

 

「(身体能力だけなら帝光の池永さんとそう変わりません。ですが、テクニックが段違いです!)」

 

高精度のフェイクを用いて、空と大地の2人を抜き去る。

 

『氷室行ったーっ!!!』

 

インサイド近くまで潜り込んだ氷室。その前に立ち塞がるは堀田。

 

「(俺のミラージュシュートで、堀田をかわす!)」

 

氷室が得意とする、相手ブロックをすり抜ける陽炎のシュート(ミラージュシュート)。自身の技で持って堀田をかわしにかかる。

 

「面白い…、来い!」

 

堀田が両腕を広げて氷室を待ち構える。

 

「…くっ!」

 

堀田から発するプレッシャーが氷室に襲い掛かる。

 

「(…ダメだ、このまま打っても防がれる!)」

 

身体に突き刺さるプレッシャーから、堀田はかわせないと判断する氷室。

 

「(…なら!)」

 

そのまま堀田へと突っ込んでいく氷室。

 

2人の距離が詰まり、堀田が動く。

 

「(ここだ!)」

 

機と見て、シュートフェイクを入れ、パスを捌く。ボールの先は、左アウトサイド、スリーポイントラインの外側に展開していた木下に。

 

「フリーだ、打て!」

 

「っ! しまった!」

 

大地が氷室のヘルプに出てしまったため、木下がフリーになってしまった。

 

パスを受けた木下は、シュート態勢に入る。

 

「行っけーーーっ!!!」

 

ボールは、木下から指から放たれた。

 

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

そのシュートはブロックされる。

 

『三杉だーーーっ!!!』

 

ブロックをしたのは三杉。

 

「ふぅ」

 

無事、ブロックに成功し、一息吐いた。

 

「…あっさりとスティールにかかったことに引っかかってはいたが…」

 

「健がいる以上、インサイドから点を取るのは容易ではないからね。内は彼に任せて、俺は外に警戒を向けるさ」

 

堀田の堅守に絶対の信頼を預け、三杉は外に目を向け、フリーになっていた木下を見つけ、ブロックに向かっていた。

 

「よし! 今度こそ決めるぞ!」

 

ボールを貰った空は、フロントコートまで侵入していった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そこから再び、双方が手を変え品を変え攻撃を仕掛けていく。

 

だが、両校の守備の要である、堀田、紫原を突破することができない。

 

両校、どちらも得点を決めれないまま、4分が経過しようとしていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『まだ点が決まらない…』

 

『どっちのオフェンスも温くない…』

 

『両校共守備が固すぎる…』

 

未だにスコアが動かないことに観客のどよめきが止まらない。

 

いったい、この均衡はいつになったら動くのか。

 

もう間もなく第2Qが折り返しに入りかかる頃、この均衡が動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…飽きたな」

 

「ん?」

 

ボソリと呟いた堀田の言葉に、三杉が反応する。

 

「俺はこんな勝負がしたくて日本に来たのではない。これではつまらん。そろそろ、行かせてもうおうか」

 

「良いのかい? 今、勝負の焦点は、どちらが先にセンターを引きずり出すことができるか、だ。今、出てしまえば、相手の思惑にハマることになるよ?」

 

「構わん。時間には限りがあるんだ。いつまでも変わらない勝負など意味がない。向こうが来ないなら、こちらから出向いてやろう」

 

堀田が、ついに自陣ゴール下から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「来た…!」

 

第2Q、5分が経過し、花月ボール、花月のオフェンス。

 

堀田が、自陣のゴール下から離れ、オフェンスに参加する。

 

「(堀田をゴール下から引きずり出すことは出来た…)」

 

「(けど、何て威圧感だ!)」

 

フロントコートまでやってきた堀田。陽泉選手達は、その強烈な威圧感に圧倒される。

 

「(ディフェンスの時以上の迫力。敦並み…下手したらそれ以上…!)」

 

「(オフェンス参加した紫原を敵にした相手の気持ちが今、分かったアル!)」

 

堀田は、ローポストに立つ。

 

「(…結局、堀田さんが出張る結果になっちまった…。情けない限りだが、ここは頼らせてもらおう)」

 

ひとまず空は、大地にボールを渡し、大地がハイポストまで移動した天野にパスをする。天野が空にボールを戻し、ボールを再び受け取った空が、一連のパスでゾーンディフェンスが崩れ、ローポストに立つ堀田までのパスコースができ、そこに投げるようにパスを出す。

 

ボールを受け取る堀田。その背中に紫原が付く。

 

「行くぞ」

 

「来いよ」

 

堀田と紫原のファーストコンタクト。

 

『ついに来たぞ…』

 

『センター対決…!』

 

観客も固唾を飲んで2人の勝負を食い入るように注目する。

 

 

 

――ズン!!!

 

 

 

「っ!?」

 

紫原に、未だかつてない重圧が襲い掛かる。

 

堀田は背中で紫原を押し込んでいく。

 

「ぐっ! …ぐっ!」

 

紫原、踏ん張るも、堀田のパワーに押されていく。

 

『マジかよ…』

 

『あの紫原が力で押されてる!?』

 

圧倒的な力を持つ紫原。力の権化とも言える紫原が力で押されている現状に、観客は再びどよめく。

 

そして、ついにゴール下まで押し込まれてしまう。

 

「ぬん!」

 

そのまま反転し、ボールを片手で掴み、ダンクに向かう。

 

「ちぃ!」

 

紫原がブロックに向かう。

 

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

 

「がっ!」

 

堀田は紫原を弾き飛ばし、ボールをリングに叩きつけた。

 

吹き飛ばされ、倒れる紫原。ズン! と、着地をする堀田。

 

水を打ったように静まり返る会場。

 

事実に思考が追いつくと…。

 

 

 

――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

割れんばかりの大歓声に変わった。

 

試合開始から凍り付いたスコアが、ついに溶け出し、新しい『2』の数字を刻む。

 

『すげー! 紫原からあっさり点を取った!』

 

陽泉選手達は、今の光景を見て唖然としている。

 

キセキの世代と呼ばれ、絶対の守備力を持つ紫原。

 

その紫原から最初のコンタクトで得点を奪った堀田に、言葉を失う。

 

「何だ、いたのか?」

 

リングを潜ったボールを拾うと、座り込んでいる紫原にボールを放るように渡す。

 

「あん?」

 

その一言を聞き、表情を険しくする。

 

ディフェンスに戻る堀田、及び、花月選手達。

 

「敦、大丈夫か?」

 

吹き飛ばされた紫原の傍により、身体を気遣う氷室。

 

「…あいつ、ちょっと調子に乗りすぎだわ」

 

スクッと立ち上がり、ボールを氷室に渡す。

 

「…捻りつぶす」

 

静かに…それでいて、業火の如く怒りを燃やす紫原。

 

氷室が陽泉側ベンチの荒木に視線を向ける。

 

「…(コクリ)」

 

荒木はコクリと頷いた。

 

「分かった、存分にやるといい」

 

氷室がそう伝えると、紫原は自陣ゴール下から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「良かったんですか? 作戦では、紫原がオフェンスに参加するのは、第3Qからの予定だったはずでは…」

 

「やむを得ない。ああなってしまっては、あいつ(紫原)は止まらない。下手に止めるくらいなら、行かせた方がマシだ」

 

「…なるほど」

 

「それに、気性の荒い紫原が、第3Qまで大人しくディフェンスだけをしていられる等、初めから思ってない。ここまで我慢出来ただけでも良好と言える」

 

荒木は、試合を…選手達を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉ボールとなり、永野がボールをキープしている。

 

「(やべーやべー、紫原を引きずり出したけど…)」

 

「(圧倒される! ディフェンスの時以上の迫力です!)」

 

先ほどの陽泉選手同様、紫原の放つプレッシャーに、花月選手達は圧倒される。

 

「寄越せ!」

 

先ほどの堀田と同じ位置でボールを要求する。

 

永野は、ディナイを警戒し、ボールを高く上げ、紫原にパスをする。

 

ボールを受け取る。その背中には堀田。

 

「来い」

 

「捻りつぶす」

 

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

 

堀田と紫原がぶつかり合う。

 

「っ!?」

 

紫原は、いつもの如く、背中で相手を押し込み、ゴール下まで侵入しようとする。だが…。

 

「う…動かない…?」

 

2人の対決を見守る陽泉選手達は目を丸くする。

 

背中で押し込もうとする紫原だが、堀田はピクリとも動かない。

 

過去、紫原の相手をしたチームは、ダブルチーム、トリプルチームで紫原を抑え込もうと試み、それでも抑え込むことが出来なかった。

 

だが、今、その紫原を、たった1人で抑え込んでいる。

 

未だかつて見たことないこの事実に、陽泉選手達は焦りを覚える。

 

「(…ちっ! 重い。…山でも押してるみたいだ…)」

 

相対する紫原も、まるっきり動かすことが出来ないことに苛立ちを覚える。

 

「ふぅん、大した力だね。だったら、これはどう?」

 

 

 

――ダムっ!!!

 

 

 

「っ!」

 

紫原、そこから高速のスピンターン。体格に見合わないスピードで堀田を抜き去る。

 

『うおっ! はえー!』

 

「ちっ!」

 

堀田、すぐさま反応し、紫原を追いかけるが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

それよりも速く紫原のワンハンドダンクが叩き込まれた。

 

 

 

――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

『紫原もすぐさま返したーーーっ!!!』

 

リングから手を放し、着地すると、堀田に振り替える。

 

「あれー、今来たの? 随分とのんびりなんだねー」

 

ボールを拾い、堀田に渡しざま、挑発するように言い放った。

 

「ふっ…面白い…!」

 

挑発を受けた堀田は、強敵を得たことにニヤリと笑った。

 

そしてここから、凍り付いていたスコアが沸騰したかのように熱を帯び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

堀田が紫原を力で押し切り、ダンクを炸裂させると…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

紫原はスピードで堀田をかわし、そのままダンクを叩き込む。

 

両チームのセンターがオフェンス参加をすると、試合は点の取り合いへと移行した。

 

ここで退けば、流れを一気に持っていかれてしまうし、現状、他の者のオフェンスでは失敗する恐れがあるので、オフェンスは双方のセンターに委ねた。

 

結果、どちらも1歩も譲らず、互いに得点を奪い合った。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

ここで、第2Q終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

第2Q終了

 

花月 10

陽泉 10

 

 

ディフェンスで均衡が保たれ、堀田がその均衡を崩したのをきっかけに、今度はオフェンスにて均衡が保たれ始めた。

 

「…」

 

「…」

 

ブザーが鳴った直後、数秒、睨みあうと、互いのベンチへと引き上げていった。

 

試合の半分が終わり、スコアは互角。

 

試合は、激動の後半戦へと移行するのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





タイトルの名のとおり、未だ均衡が保たれています。

これからどう試合が動くか…。大雑把には構想がありますが、まだ少し靄がかかっています(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第38Q~差~


投稿します!

少々、時間がかかりました…(^-^;)

それではどうぞ!


 

 

 

第2Q終了

 

花月 10

陽泉 10

 

 

前半戦が終了し、スコアは互角。

 

第2Q中盤まで、互いに点が取れず、スコアボードが0点から変動しなかったが、互いの守備の要である、堀田、紫原が動くと、点の取り合いへと変わっていった。

 

『紫原と堀田…、どっちもすげぇ…』

 

失点を0に抑えた鉄壁の盾。両者の矛はその盾を貫いていた。

 

「…」

 

観客席、肩に桐皇学園のジャージを掛け、コートを見つめる男。

 

「10-10…」

 

映し出されているスコアボードを見てポツリと呟いた。

 

自身の試合を終え、柔軟体操をし、汗を拭うと、すぐさま花月×陽泉戦を見るために観客席へと急いだ青峰。

 

「(さつきの話じゃ、第2Q中盤まで0-0。そこから紫原とあの5番、堀田が動いて双方5本ずつ決めて10-10…か)」

 

ちょうど試合の半分が終わり、その結果を見て眉を顰める。

 

「(陽泉が0点に抑えたのは分かる。なんせ、紫原がいるんだからな。…だが、花月も0点に抑えたってのか?)」

 

その事実に、青峰は少なからず衝撃を受ける。

 

陽泉は、全国的には、その守備力で有名であるのだが、オフェンス力も決して低くない。

 

複数人も長身選手が揃っている上に、今年はアウトサイドシューターもいる。何より、青峰自身も警戒する氷室辰也もいる。

 

それだけの選手が揃った陽泉相手に0点に抑える守備力。驚かないわけがない。

 

「(しかも、第2Q後半からは、あの陽泉…紫原からあっさり点を奪いやがった)」

 

紫原から得点を奪うのは、青峰をもってしても容易ではない。その紫原から、あろうことか力づくで得点を奪った堀田。

 

力においては、紫原以上はいないと思っていた青峰は、紫原を上回る力を持つ堀田に驚きを隠せなかった。

 

「…読めねぇーな。間違いなく第3Qに試合は動く。そのカギは、まあ、紫原と堀田。どっちが勝つか…か…」

 

試合の勝敗を分ける要因として、堀田と紫原のセンター対決。これをどちらが制するかと青峰は予想した。

 

「にしても…」

 

青峰は、控室に向かっている花月選手達。その1人の三杉に視線を向けた。

 

「何を考えてやがる。昨日の試合を見て、あいつは間違いなく俺達と同格だ。だが、動く気配が全くねぇ」

 

前半戦、三杉は得点出来ていない。紫原のいるインサイドにカットインするものの、そこからパスを捌くばかりで、シュートにはいかない。

 

「紫原相手に攻めあぐねているのか? そんなタマには見えなかったが…」

 

動きを見せない三杉に、青峰は疑問を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「堀田さん、すごいっすね! あの紫原から点を取っちまうなんて!」

 

控室に戻ると、空ははしゃぎながら堀田に歩み寄った。

 

第2Q中盤まで、いくら手を尽くしても紫原の牙城を崩せなかった。その紫原からあっさり点を決めてしまった堀田。

 

「第3Q、これまで通り、健を中心に攻める。いいね?」

 

三杉が全員に向けて告げる。

 

「どんどんボールをくれ。それと、紫原にディナイはかけなくていい。どんどんボールを渡しても構わない」

 

「えっ? それって…」

 

「奴と真っ向勝負をする。ようやく紫原が前に出てきたんだ。つまらん小細工はいらん」

 

「んー、でも、ええのですか?」

 

軽く不安顔の天野が訪ねる。

 

「心配はいらん。こっちもそろそろ本気を出すからな」

 

堀田が指の骨を鳴らしながら拳を握る。

 

その光景を見て、三杉と上杉を除く者達は背筋を凍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「いいぞ、敦。この調子で頼むぞ」

 

氷室が紫原に飲み物を渡す。

 

「第3Qからどうするアル?」

 

仕切りなおすように劉が皆に尋ねる。

 

荒木が、考えるように胸の前で腕を組む。

 

「そうだな…、紫原のおかげで中から攻められるようになった。これで外に向いていた意識が中に向く。中の紫原を起点に、外から木下で――」

 

「いい。余計なことしないで、まさこちん」

 

それを制するように紫原が言葉を挟む。

 

「まさこちんって呼ぶんじゃねぇ!」

 

荒木は傍に立てかけてあった竹刀で紫原の後頭部を叩いた。

 

「あいつを捻り潰さなきゃ気がすまない。…ていうか、俺が捻り潰せば終わりなんだからそれでいいじゃん」

 

叩かれた後頭部を擦りながら言い放った紫原。

 

「…出来るのか、敦?」

 

氷室が表情を改める。

 

「んー、さっきまでずっと守備ばっかだったら、身体が冷えちゃったけど、ようやく温まってきた。…そろそろ本気出すよ」

 

紫原は指を鳴らし、拳を握る。それを見た陽泉選手達は寒気を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『出てきたぞ!』

 

『待ってました!』

 

10分間のインターバルが終わり、花月、陽泉の選手達がコートに戻ってくる。試合を待ちわびていた観客は盛大に歓声を上げる。

 

両校共、選手交代はなく、スタメンと同じメンバーがコートにやってくる。

 

注目の的はやはり…。

 

『来た来たー!』

 

『紫原と全くの互角の堀田! あいつはもう、キセキの世代と同格と言っても間違いない!』

 

第2Qの後半から始まった両校のセンター対決。

 

10年に1人の逸材と呼ばれ、ディフェンス力はその中でも随一の紫原に引けを取らないディフェンスを見せ、尚且つその紫原からあっさり得点を奪った堀田。その注目度はもはやキセキの世代と同等。

 

どちらがこの勝負を制するか…。

 

観客の注目はその一点である。

 

「来い。俺を倒して見せろ」

 

「言われなくもするし。…捻り潰す」

 

不敵な笑みを浮かべる堀田に対し、紫原は、第2Qから、自分からあっさりと点を決められたこともあり、表情は不機嫌であり、堀田を睨みつけている。

 

 

そして、第3Qが始まり、再び、2人の勝負の火蓋が再び切って落とされた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス…。

 

空はすかさず堀田にボールを渡す。それと同時に、それ以外の4人がヘルプサイドに寄る。

 

『うお! 花月のアイソレーションだ!』

 

 

――アイソレーション…。

 

 

特定の選手が1ON1しやすいようにスペースを空ける戦術。

 

花月は、堀田で点を取りに行くことを意味している。

 

常識で考えるのならば、紫原相手に1ON1など、無謀の極み。

 

 

――ズン!!!

 

 

堀田の背中でマークする紫原に第2Q同様、ズシリとした衝撃が襲う。

 

ジリジリと背中でインサイドまで押し込もうとする。

 

「いつまでも調子に乗るなよ…!」

 

紫原は歯を食い縛り、腰をより深く落として堀田の侵入を阻んだ。

 

「ほう…」

 

堀田は、紫原の様子がさっきまで違うことを瞬時に理解する。

 

「(ようやく本気を出してきたか…)」

 

先ほどまではリング下まで押し込めたのだが、此度の衝突では、リングに手が届くまで距離まで押し込むことが出来ず、手前で止められてしまった。

 

「なるほど、そうでなくてはな…ならば、次はこっちの番だ」

 

 

――ダムっ!!!

 

 

「っ!?」

 

堀田は、そこから先ほどの紫原に劣らない程のキレ味がある高速スピンターンで紫原を振り切る。

 

押し留めることに力を注いでいた紫原は、スピードもキレもあるこのスピンターンに対応出来なかった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

紫原をかわした堀田はそのままリングにボールを叩きつけた。

 

『すげー! 今の、めちゃめちゃ速かったぞ!?』

 

一連のプレーを見た観客は、突如上がった堀田のスピードに度肝を抜かれる。

 

「ちっ!」

 

止めることが出来なかった紫原は思わず舌打ちをする。

 

「いいぞ、敦」

 

悔しがる紫原に氷室が声をかける。

 

「押し合いでは負けてなかった。これで最初の関門はクリアした。スピードは敦に分があるはずだ。次は止められるさ」

 

「ん、当然じゃん」

 

氷室の鼓舞を受け、紫原の士気が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

続いて、陽泉のオフェンス…。

 

ハイポストに立つ紫原にボールを渡すと、他の4人がヘルプサイドに寄った。

 

『陽泉もアイソレーションだ!』

 

陽泉側も、オフェンスを紫原に託した。

 

「…」

 

「…」

 

ハイポストに立つ紫原。その背中にマークに付く堀田。

 

 

――スッ…。

 

 

紫原は左へとロールし、堀田の左手側からかわそうと試みる。

 

だが、それにすぐに反応し、紫原の進路を塞ぎにかかる。その瞬間…。

 

 

――ダムっ!!!

 

 

堀田がその瞬間に逆方向にロールする。

 

「(速い!)」

 

スピードの上がった紫原に対応しきれず、堀田の横を高速で抜けていく紫原。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

堀田に追いつかれる前にリングにボールを叩きつけた。

 

「…スピードが上がった。…なるほど、奴も本気を出し始めたか…」

 

一見して分かるほどに雰囲気が変わった紫原。以前までの衝突で、紫原がまだ全力ではないことは理解していたが、未だ、紫原の底を計りきれていないことを知った堀田。

 

「ドンマイ、健。次、行こう」

 

「ああ。今度はこっちの番だ」

 

三杉に檄を受け、オフェンスへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そこから、第2Qと同様、両チームのセンター同士の1ON1が再び始まる。

 

双方、インサイド一辺倒の攻撃ではあるが、互いに止めきれていない。この戦いに、両チームともヘルプには向かわない。あくまでも、互いのセンターを信じ、勝敗を託す。

 

その後、両者が2本ずつシュートを決め、点差は同店のまま時間は進んでいった。

 

「…どっちも譲らねぇな。この均衡、いったいいつまで続くんだ?」

 

2人の対決を目の前で見ている空は、いつになったら勝負が動くのか、冷や汗を流しながら見守っている。

 

「均衡はもう崩れる」

 

そこに、横で同じく勝負を見守っていた三杉が、ボソリと呟いた空の独り言に回答する。

 

「えっ、ホントですか? いったいどっちがこの勝負を制するんですか?」

 

「答えは言わずとも、すぐに分かる。よく見ておけ」

 

答えは言わず、ただ勝負を見ろとだけ言う三杉。言われるがまま、空は2人の勝負に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

堀田が得点を決め、陽泉ボールに切り替わり、ボールを持つのは紫原。

 

「…」

 

 

――ダムっ!!!

 

 

右から行くと見せかけ、左から高速スピンターン。堀田の左側を抜ける。

 

そのままボールを片手で掴み、リングに向かってワンハンドダンクを叩き込む。

 

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

だが、そのダンクは堀田の手でブロックされる。

 

「それはさっき見たぞ?」

 

「そんな…、紫原がブロック!?」

 

陽泉選手達は目を見開いて驚愕する。

 

こぼれたボールは天野が拾い、そのまま空に渡す。

 

「ナイスブロック、堀田さん! そんじゃ、速攻!」

 

ボールを受け取った空はそのままフロントコートまで進んでいく。

 

「悪いが、行かせないよ」

 

ヘルプにやってきた氷室が進行を阻むべくやってくる。

 

「(構うことはねぇ、さっきの借りを返すためにも、ぶち抜く!)」

 

空、そのまま氷室に突っ込んでいく。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

レッグスルーからのクロスオーバーで抜きにかかる。

 

「(っ! 速いな…)」

 

氷室、それに遅れることなく付いていく。

 

「(ちっ! ダメか…なら、もう一丁!)」

 

そこからバックロールターンで再度仕掛ける。

 

「スピードは目を見張るものがある。だが、キレが悪い。それでは俺は抜けないよ」

 

これにも氷室は追いつき、抜かさない。

 

「くそっ…、まだ抜けないか…」

 

 

――スッ…。

 

 

空は1度立ち止まり、ノールックビハインドパスでボールを左に投げる。

 

「っ!?」

 

投げた先、空のすぐ横を大地が駆け抜け、ボールを受け取って2人の横を抜けていった。

 

「ちっ!」

 

すぐさま反応した氷室が大地を追いかける。だが…。

 

 

――スッ…。

 

 

氷室が横に並走した瞬間、大地は真後ろの空にバックパスをする。

 

再び、ボールを受け取った空は今度は右へとボールを放る。ちょうどその瞬間、ブロックしてからやってきた堀田がボールを拾い、そのままドリブルを開始する。

 

「行かせん!」

 

「止めるアル!」

 

その進行を、劉と木下が阻む。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「ぐっ…!」

 

「くそっ…!」

 

堀田は2人の間を、強引にドリブルで突破していく。

 

リング近くまで侵入すると、ボールを掴み、そのままリングに向かって跳躍する。

 

「っ! ふざけんな! させるわけないじゃん!」

 

そこに、先ほどのシュートから戻ってきた紫原が前方に回り込み、ブロックに現れる。

 

『紫原はえーっ!』

 

「よし! 敦、頼むぞ!」

 

素早い速攻だったにも関わらず、それに対してブロックに追いついてしまう紫原に驚愕する。

 

「…大したものだ。そうでなくては面白くない。…ならば、こちらも本気を出すとしよう」

 

堀田は、右手に持っていたボールに左手を添え、両手に持ち帰る。

 

 

 

――ズッ…!!!

 

 

 

「っ!?」

 

その瞬間、紫原にかつてないほどの圧力と威圧感が襲う。

 

「(そんな…、さらに力が上がった! まだ本気じゃなかったのか!?)」

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

堀田のボースハンドダンクが炸裂する。

 

「ぐあっ!」

 

紫原、堀田のダンクをブロック出来ず、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 

『うおぉぉぉっ! マジかよ、あの紫原を吹き飛ばしたーーーっ!!!』

 

観客は大歓声、驚愕の声を上げる。

 

紫原が相手を吹き飛ばしていた光景は何度も目の当たりにしていたが、紫原が吹き飛ばされた光景を見るのは初めてであったからだ。

 

床に倒れこむ紫原。両手をリングから放し、着地する堀田。

 

「くっ!」

 

倒れこんだ紫原は、すぐさま上半身だけ起こし、すぐ横にそびえ立つ堀田を睨みつける。

 

「いいぞ。もっとだ。もっと来い。お前の実力、可能性、もっと見せてみろ」

 

上から見下ろしながら紫原に告げる。

 

「っ!?」

 

その迫力に、紫原は圧倒される。

 

「敦、大丈夫か!?」

 

弾き飛ばされた紫原を心配した氷室が傍まで歩み寄ってきた。

 

それと同時に堀田は自陣コートまで下がっていく。

 

「…ん、大丈夫」

 

心配する氷室を手で制し、すぐさま立ち上がった。

 

腕を回し、足首や腰の具合を確かめる。すぐさま問題がないことを確認された。

 

その様子を見て、氷室もそっと胸を撫でおろす。

 

「(…それにしても、あの敦を吹き飛ばすとは…)」

 

今の光景を見て、氷室も思わず背筋を凍らせる。

 

ボールは陽泉ボールになり、陽泉のオフェンスが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(くそっ! どうする…、紫原は止められた。誰で行く…)」

 

ボールをキープする永野は何処から攻めるか悩む。

 

相変わらず、紫原のマークは甘い。それ以外は、マークがきつい。

 

氷室は三杉がマークし、パスを受け取る隙もなければ、振り切ることも出来ないでいる。

 

木下も、大地がタイトにマークしており、ボールすら触らせない程である。劉も天野のマークがきつい。

 

選択肢は、自ら行くか、紫原に渡すか。

 

「(ちっ! …こいつのディフェンスも時間が進むごとにきつくなってきやがる!)」

 

何度かカットインを試みようとしたが、空のディフェンスはその隙を与えない。それどころか、気を抜けばいつ取られるか分からない程きつい。

 

「(…しょうがない、ここはやっぱり託すしかない!)」

 

やむを得ず、永野は紫原にボールを渡す。

 

ボールを受け取る紫原、背中には堀田。

 

「来い」

 

「っ!?」

 

背中からはどんどん増す堀田のプレッシャー。紫原は背中で押し込もうとするがピクリとも動かない。

 

「ちっ!」

 

紫原は1度後ろに退き、僅かに距離を開けると、向かい合うように対峙する。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりドリブルを開始する。

 

 

「紫原の奴、正面から1ON1を仕掛けるつもりか? …だが、あいつにあの堀田をかわす程のドリブル技術はあるのか?」

 

火神が素朴な疑問を浮かべる。

 

「…いや、紫原っちは、少なくとも、そこらのエース級の奴よりドリブル技術は高い。もしかしたら…」

 

観客席で観戦していた黄瀬が勝負を静かに見守る。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

紫原は左右の切り替えしで堀田をかわそうと試みる。

 

「…っ!」

 

だが、堀田は翻弄されることなく、進行を阻む。

 

そこからさらにターンや切り返しをして突破を試みるが、堀田をかわすことは出来ない。

 

「っ! …くそっ!」

 

堀田を抜くことが出来ず、思わず悪態を付く。

 

「敦!」

 

氷室がインサイドに侵入し、パスを要求。

 

紫原はすぐさま氷室にパスを出す。

 

「打たせないよ」

 

氷室がボールを受け取ると、その横を三杉が並走するように並ぶ。これではシュート態勢に入れない。

 

「そのつもりはないよ」

 

 

――ピッ!!!

 

 

氷室は、ボールを受け取るとすぐさま紫原にリターンパスを出す。

 

紫原は、氷室にパスを出すと、ロールしてすぐさまゴール下まで移動していた。

 

ボールを受け取る紫原。だが、背中には堀田の姿が。

 

「そんな…! 紫原のスピードと対等に!?」

 

スピードでは分があると思っていた陽泉サイドは驚きを隠せない。

 

「ちっ!」

 

そのまま決めるつもりだったのだが、堀田の対応があまりにも速すぎ、舌打ちをする。

 

「だが、その距離は敦の距離だ」

 

先ほどはハイポストで対峙した両者だが、今回はゴール下。紫原の得意な距離である。

 

『出た!』

 

紫原は、横回転しながら跳躍する。

 

『来るぞ! 紫原の必殺ダンク!』

 

持ち前の体格とエネルギー量を十全に生かした必殺技。それは複数人のブロックを吹き飛ばし、時に、リングをも叩き折った程の威力を持つ。

 

 

 

――破壊の鉄槌(トールハンマー)!!!

 

 

 

「これをブロック出来たのは火神のみ…!」

 

回転力を加えた紫原がリングへとボールを叩きつけようとする。

 

「ぬぅん!!!」

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

『なっ!?』

 

紫原の破壊鉄槌(トールハンマー)。それを堀田は右手のみでブロックに向かう。

 

「無理だ。紫原のあのダンクを片手でブロックなんて…」

 

そのダンクを体験した火神はブロック不可能だと断言する。

 

「ぐっ! …ぐっ…!」

 

空中で押し合いをする両者。

 

「ぬるいわぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

――バチィィィン!!!

 

 

 

『なにぃぃぃーーーっ!!!』

 

陽泉選手、そして観客からの驚愕の声が会場中に響き渡る。

 

圧倒的な破壊力を持つ紫原の破壊の鉄槌(トールハンマー)。堀田は、あろうことか、片手でブロックしてしまった。

 

「(あり得ない…。ゾーンに入ったタイガでさえ、両手で、しかも、前方に飛んで力を上乗せすることでやっとブロック出来たと言うのに…)」

 

昨年のウィンターカップの火神も破壊の鉄槌(トールハンマー)をブロックしたが、その時は、ゾーンに入って、実力の100%を開放してた上に、両手を使い、前に飛んで力を上乗せして何とかブロック出来た。

 

だが、堀田は、ただ垂直に飛び、右手1本で紫原ごとブロックしてしまった。

 

「マジ…かよ…」

 

今のプレーを目の当たりにした火神は、ただただ言葉を失っていた。

 

「…すごすぎだろ…」

 

「味方ながら、ここまでいくと恐怖を覚えますね…」

 

空も大地も、引き攣った笑いが思わずこみ上げてしまう。

 

「まだだ。もっとだ。お前はこんなものではないだろう? これで全力なら、俺には届かないぞ?」

 

「っ! あっ…」

 

互いに着地し、堀田が紫原に言い放つと、紫原は気圧されて思わず1歩退いてしまう。

 

「悪いが、彼は健には勝てないよ」

 

「…何だと?」

 

ボソリと呟くように三杉が囁くと、隣にいた氷室が怪訝そうな表情で振り返る。

 

「確かに、資質は大したものだ。資質なら、健と同等…いや、もしかしたら、それ以上かもしれない。だが、彼は健には勝てない」

 

「なに?」

 

「この日本に、彼、紫原君と対等に戦える者がどれだけいるだろうか? せいぜい、同じキセキの世代と火神大我君くらいだろう。彼らにしても、平面や高さに秀でてはいるが、パワー勝負、ゴール下で争う分には紫原君と互角というわけにはいかないだろう」

 

「…」

 

「けど、俺達のいたアメリカは違う。あそこには、キセキの世代クラスはゴロゴロいる。それ以上の奴もね。俺や健が戦ってきた相手は、常に自分と同等がそれ以上の相手ばかり。単純なテクニックは通じず、身体能力では後れを取る相手ばかり。これが俺達の戦ってきた環境だ」

 

「…」

 

「キセキの世代は、10年に1人と言われる程の才能を有し、勝利に勝利を重ね、輝かしい栄光を残した。だが、俺達には輝かしい栄光などない。自前のテクニックは通じず、身体能力では勝負にすらならない。アメリカに行った俺達の前に待っていたのは、吐き気がするほどの敗北の連続。唯一、対抗出来たのは負けん気くらいのものだった。血の滲むような努力を重ね、壊れてしまうかもしれない程自身の身体をいじめ抜き、勝てるようになったのは最近の話だ」

 

「…」

 

「強大なチームメイトからスタメンを奪い、奪ってからはそれを死守し、試合では結果を残さなければすぐにスタメンを奪われてしまう。特に、センターである健は、俺以上の苦行だ。決して楽しいことばかりではない。…俺達を、キセキの世代と同格と言う、評価を与えてくれているが、…そうだな、少し彼らに乱暴な言い方をさせてもらうと――」

 

「っ!?」

 

「――ろくに相手出来る者もいない、勝利が当たり前の温い環境で戦ってきたような奴らと同列に扱われるのは、少々、心外なんだよ」

 

三杉から語られる言葉、そして、迫力に、氷室は背筋を凍らせる。

 

「…まぁ、一言で言うなら、健と紫原君の差は、ひとえに、2人が戦ってきた環境の差だ。同等以上の者と戦って敗北にまみれながら戦ってきた者と、対等に戦えるのが限られていて、勝利することが当たり前の環境で戦ってきた者。資質が互角なら、勝つのは前者だ」

 

表情を改め、今の結果を砕いて説明する。

 

堀田と紫原における差は、戦ってきた環境の差だと三杉は断言する。

 

「均衡は崩れた。こうも分かりやすく差を見せつけられてしまえば、並のメンタルでは折れてしまうだろう。さてと、紫原君は、どうだろうか…」

 

意味深なことを呟き、三杉はディフェンスへと戻っていった。

 

「…」

 

呆然と立ち尽くす紫原。

 

「―つし、敦!」

 

「えっ?」

 

氷室が声掛けでハッと我に返る紫原。

 

「気落ちするな。まるっきり通じない相手ではないんだ。やりようはいくらである。これからもボールをどんどん回していくから、頼むぞ」

 

鼓舞する言葉をかけながら、コツンと紫原の胸に軽く拳を当て、オフェンスへと向かっていく。

 

「…っ」

 

だが、紫原の表情が晴れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ついに崩れた均衡。試合は動きを見せ始めた。

 

堀田が紫原を圧倒し始める。

 

試合の流れは、花月へと傾いていく……。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





投稿が遅れました(^-^;)

難産であったことと、やはり、年末は忙しすぎます…Orz

年末年始に入るまで、投稿スピードは落ちるかもしれませんm(_ _)m

出来るなら、今年度中に陽泉戦を書き終えたいです…。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第39Q~闘志~


投稿します!

ついに…。

それではどうぞ!


 

 

 

 

 

――おぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

紫原の必殺の破壊の鉄槌(トールハンマー)をブロックした堀田。

 

これにより、試合の流れは花月へと傾き始める。

 

「(まずいな…、このままでは点差は開いていくばかりだ…)」

 

紫原を鼓舞したものの、胸中では焦っていた。

 

陽泉のエースの一角である、紫原がこうも完璧にブロックされるなど、考えもしなかったからだ。

 

このまま紫原が堀田に抑えれてしまえば、決め手を失うだけではなく、インサイドを制圧させてしまう。

 

「(だが、敦に注意が向いている今なら、他からでも決められる!)」

 

自身の反射神経とスピードでディフェンスエリアをカバーしている紫原と違い、堀田は読みとポジション取りや駆け引きで紫原と同等のディフェンスエリアをカバーしていた。

 

だが、紫原がオフェンス参加している以上、紫原のマークは外せない。今なら、ディフェンスエリアは縮小しているため、紫原以外からでも得点は可能。

 

「(…チラッ)」

 

氷室がアイコンタクトを送る。それと同時に動き出す。

 

「来い!」

 

ボールをキープする永野にパスを要求する。

 

氷室を追いかけるべく、三杉も後を追う。だが、目の前には劉のスクリーンが。

 

「ととっ…」

 

スクリーンを読んでいた三杉はロールをしながら劉のスクリーンをかわす。

 

「…っ!」

 

だが、かわした先に、木下がスクリーンに立っていた。これも何とかかわすが…。

 

「ちっ」

 

木下をかわすと、そこに氷室の姿はなかった。

 

「あかん、スイッチや、空坊!」

 

「言われなくても!」

 

瞬時に天野が空に指示を出し、空が氷室のディフェンスに向かった。

 

ボールを受け取る氷室。対するは空。

 

「止めてやる!」

 

「今の君では俺は止められない!」

 

氷室がシュート態勢に入る。

 

「(っ! 来た! 今度はどっちだ!? …ちくしょう、わかんねぇ!)」

 

空は判別出来ず、シュートブロックモーションに入る。

 

「あっ!?」

 

だが、氷室は飛んでおらず、フェイクであった。

 

氷室は悠々と空の横を抜け、ツーポイントエリアに切り込むと、改めてシュート態勢に入った。

 

「くっそっ! だが、まだだぜ! まだ諦めねぇぞ!」

 

ブロックから着地した空は、すぐさま氷室を追いかけ、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

フェイクでかわしたはずの空が目の前に現れ、思わず目を見開く氷室。

 

「(フェイクに引っかかってブロックに飛んだはずなのに、俺に追いついたのか!? なんて瞬発力だ!)」

 

これには氷室も驚愕した。

 

氷室の手からボールが放される。

 

「(よし、ギリギリ間に合う――)」

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

「えっ?」

 

だが、ボールが空の手を触れようとした瞬間、ボールは空の手をすり抜けるように通過していった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは綺麗にリングを射抜いた。

 

「っしゃぁっ!」

 

拳を握り、喜びを露わにする氷室。

 

 

 

 

「出た! タツヤの陽炎のシュート(ミラージュシュート)…」

 

ブロックをすり抜ける、氷室得意のミラージュシュートが決まる。

 

 

 

「…」

 

空は、その場に立ち尽くしながら自分の手を見つめる。そこに、大地がやってくる。

 

「ドンマイ、あともう少しでしたね……空?」

 

「…いや、今のはギリギリだけど、ブロックに間に合ったはずだった。…そのはずなのに、今、ブロックをボールがすり抜けやがった」

 

信じられないものを見たかのような表情で大地に振り返った。

 

「…私にも、間に合ったように見えましたが…。ですが、ブロックをすり抜けるなど、そんなことがあるはずが…」

 

「そのとおりだ。ブロックをすり抜けるなんてありえない。これにはトリックがある」

 

三杉が2人の元までやってくる。

 

「いや、確かにそうですけど、現にすり抜けたんですよ」

 

「三杉先輩には、今のシュートのからくりが見えたのですか?」

 

「…」

 

大地が尋ねると、三杉は顎に手を当て、考えるようなしぐさを取る。

 

「…ふむ、俺に少し考えがある。とりあえず、オフェンスだ。1本返すぞ」

 

「「はい!」」

 

2人は返事を返す。

 

「それと…」

 

三杉は空の方を向き…。

 

「あいつのフェイクにポンポン引っかかり過ぎだ。普段あれだけ引っかけてやってるのにまだ判別出来ないのか? いい加減、早く慣れろ」

 

「う…すいません…」

 

空はボールを受け取ると、ゲームメイクを開始した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

花月ボール。ボールをキープするのは空。

 

「(さて、何処から攻めるか…)」

 

堀田が紫原を攻略し始めた。1番の狙い目はそこだろう。だが、それを警戒してか、劉がディナイに入っている。

 

「(パスコースを塞いできたか…。無理にでも出せないことはないけど…ここは、スティールされる恐れがある堀田さんよりも、ここだな…)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

空は、左サイドに展開していた三杉にボールを渡した。

 

「今度こそ止める…!」

 

立ちはだかるは氷室。この1本を止めるべく、気合い充分である。

 

「…」

 

ボールを受け取った三杉…。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

シュート態勢に入る。

 

「(フェイク…いや、違う、これはフェイクじゃない!)」

 

迷うことなく今のシュートを本物と判断し、ブロックに飛ぶ。

 

「(ノーフェイクとは、俺を舐めているのか? だが、これは届く!)」

 

タイミングもバッチリで、ブロック出来ることを確信する氷室。

 

ボールが三杉の指から放たれる。ボールが氷室の手に阻まれるかと思われたその時…。

 

「なっ!?」

 

目を見開き、驚愕する氷室。

 

ボールが氷室の手をすり抜けるように通過し…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは綺麗にリングを潜った。

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

観客からの歓声が上がる。

 

「馬鹿な…今のは…」

 

氷室は今、三杉がしたことの招待にすぐさま気付く。

 

 

「嘘だろ!? 今のはタツヤの…」

 

観客席の火神も驚きを隠せなかった。

 

 

今のは、先ほど氷室がしたシュートと同じもの…。

 

 

――ミラージュシュート…。

 

 

「三杉さん! 今のって…」

 

空も驚きながら三杉に駆け寄っていく。

 

「思ったとおりだ。氷室の反応を見ても、今のでビンゴだったみたいだな。ブロックをすり抜けるシュートの正体は、今実行したとおりだ」

 

「? 全然分かんなかったですけど、どういうことですか?」

 

「あのシュートのトリックは、2度のリリースにある」

 

「2度のリリース…ですか…」

 

そこに大地もやってくる。

 

「続けるぞ。あのシュートは最高到達点に入る前に1度、真上に放る。それを、最高到達点に入ったところでキャッチしてそこでシュートを打つ。…それを、基本を限りなく磨き、洗練されたフォームを会得している氷室が行えば、すり抜けたように錯覚してしまう。これが、あのシュートの正体だ」

 

三杉は、ミラージュシュートの全容を説明していった。

 

「…2度リリースしてたのですか…。どおりで…、ですが、からくりを理解しても、どう対処すればいいのか、見当が付きませんね」

 

「2度リリースするってんなら、ブロックに行くタイミングを遅らせて飛べば…」

 

「その場合、最初のリリースで打たれれば止めようがないのでは?」

 

空が攻略法の案を口にするが、大地は却下する。

 

「現状、あれを止めるには、1度目か2度目か、どちらか見極めるか、氷室より高く長くジャンプするか。この2つだろう」

 

「…どっちにしても、簡単には止められそうにないですね。…それにしても、よくあのシュート秘密に気付きましたね?」

 

「彼のプレースタイルは、俺に似ているからな。同じ特性を持つ俺だから見極められた。…ま、それはいい、それよりも、ディフェンスだ。戻るぞ」

 

「「はい!」」

 

花月選手達は、ディフェンスへと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(…俺が、血の滲むような努力の末に身に着けたミラージュシュートを、1度見ただけで…)」

 

氷室の胸中は悲痛に締め付けられていた。

 

弟分である火神大我に勝つため、バスケの師匠であるアレックスの指導の下に身に着けた必殺のミラージュシュート。

 

自身の最大の武器であり、こだわりのあるミラージュシュートを、三杉はすぐさま目の前で再現してしまった。

 

「(三杉誠也…、彼も、タイガや敦達と同じ側の人間…。堀田健も…)」

 

「氷室!」

 

「っ!?」

 

ベンチからの荒木の声で正気に戻る氷室。

 

「(そうだ。今の俺はこのチームの主将なんだ。俺が、チームを立て直さないと…!)1本! 返そう!」

 

『おう!』

 

氷室の鼓舞に、選手達が応える。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをキープするのは永野。

 

「(くそっ! 相変わらず、紫原が空いてやがる! いつもなら、迷わずそこに出すが…)」

 

ここ2本とも、ブロックされている手前、紫原にパスを出しづらい。だが、他のマークは厳しく、パスの出し場がない。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

永野の気が緩んだ一瞬の隙を突き、永野の持つボールに空の指先が触れる。

 

「危ねぇ…」

 

「ちっ」

 

すかさず、ボールを所持し直して、ホッと胸を撫でおろし永野と、舌打ちをする空。

 

「(ダメだ…、俺もこいつ(空)相手にいつまでもボールをキープしていられねぇ! …くそっ! ここしかないか…!)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

永野はハイポストに入った紫原にボールを渡す。

 

『来た来たーっ! センター対決!』

 

この試合のもはや目玉とも言える、堀田、紫原の一騎打ち。どちらかにボールが渡るだけで歓声が上がる。

 

紫原が背中で押し込みにかかる。

 

「…くっ!」

 

だが、堀田は1ミリたりとも動くことはなかった。

 

「(動かない…! 何で!?)」

 

全く動かすことが出来ないことに、紫原は焦りと苛立ちを覚える。

 

キセキの世代に数えられ、その中でも身体能力、特に力が優れている紫原は、今まで、その力で相手を蹂躙していった。

 

どんなスピードもテクニックも、その圧倒的な力で粉砕していった。

 

だが、今、目の前の相手は、その力が全く通じない。それどころか、逆に力で押されていた。

 

その事実が、紫原の頭の中を混乱させている。

 

「どうした? それで終わりか?」

 

背中から堀田の声がかかる。

 

「っ!?」

 

声がかかった直後、紫原に強大なプレッシャーがかかる。

 

「ちぃっ!」

 

紫原はそのプレッシャーを振り払うように動き出す。

 

 

――スッ…。

 

 

紫原、その場から反転するように身体を回転させる。身体がリングの正面に向くと、すかさず、後ろの飛びながらジャンプシュートを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜る。

 

『うおー! 紫原上手い!』

 

ターンアラウンドからのフェイダウェイシュート。堀田をかわしながらゴールを決めた。

 

「いいぞ、敦!」

 

氷室が背中を叩いて紫原を称えた。

 

「…」

 

だが、紫原の表情は晴れることはなかった。

 

 

「紫原の奴、あんなテクニックも…。けど…」

 

一連のプレーを見て、火神も驚いたが、少々、腑に落ちないリアクション。

 

 

「(…あいつのあんなプレーを見たのは初めてだな…。だが、今のは…)」

 

青峰も、今のプレーに、違和感を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ボール…。

 

空は、フロントコートまでボールを進める。

 

「…」

 

堀田のマークは依然としてきつい。

 

「(…堀田さんはマークがきついな。さて、何処から攻めるか…)」

 

空は、ボールをキープしながらパスターゲットを探す。

 

「(…こいつ、目の前の俺がいるってのに、俺から視線を外してやがる。…舐めやがって!)」

 

マッチアップをしてる永野。侮りとも取れる空の態度に腹を立て、隙ありとばかりにボールを奪いにいく。

 

「待て、永野! 迂闊だ!」

 

動き出した永野を氷室が静止したが、永野の耳には届かず、ボールに向かっていく。

 

永野の手がボールに触れようとしたその瞬間…。

 

 

――ダムッ! ダムッ!!!

 

 

バックチェンジでボールを切り返して永野をかわし、そのままぺネトレイトで陽泉ゴールに切り込んでいく。

 

「止める!」

 

「行かせないアル!」

 

その直後、木下と劉がヘルプにやってきて、空の前に立ち塞がる。

 

「(…チラッ)」

 

空は、横でノーマークになっている大地に視線を向ける。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

ここで、空はパスを出す。

 

ボールは、視線を送った大地…ではなく…。

 

「「っ!?」」

 

ボールを劉の股下でワンバウンドさせ、その後ろにいた堀田に渡る。

 

それと同時に観客の歓声も上がる。

 

「…」

 

「…」

 

無言の両者。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

堀田は、右に行くと見せかけて、左からスピンムーブで紫原をかわしにかかる。

 

「ぐっ! …こんの…!」

 

紫原もそれに反応し、何とか付いていく。

 

堀田がボールを掴み、跳躍する。紫原も堀田の前方に回り込み、ブロックに現れる。

 

「ふん!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

堀田のボースハンドダンクが再び炸裂し、紫原は吹き飛ばされてしまう。

 

「…っ」

 

尻もちを付く紫原。堀田はそれを一瞥してディフェンスに戻っていく。

 

『紫原でも止められないのか…』

 

陽泉選手達の中に絶望の声が出始める。

 

「リスタートだ! まだ点差は付いてない! 取り返すぞ!」

 

氷室が、陽泉選手達の不安を払うように選手達を鼓舞する。

 

ボールは永野に渡り、陽泉の攻撃が始まる。

 

「…ちっ!」

 

永野は思わず舌打ちをする。

 

相変わらず、紫原のマークが浅く、それ以外のマークはきつい。紫原以外の者には、ボールを渡し辛い状況だ。

 

かつて、陽泉にとって、このような経験は初めてのことだ。これまでの相手は、何とか紫原にだけはボールを持たせまいとディフェンスに臨んできたが、花月は、紫原だけを空けてきている。

 

もちろん、これは、侮りでもなければ、罠を張っているわけでもない。堀田という、圧倒的な守護神がいることによる、圧倒的な自信。

 

永野に空を抜くテクニックはないため、仕方なく、唯一のパスコースである紫原にボールを渡す。

 

「来い」

 

「っ!」

 

背中からの堀田のプレッシャーに、心臓を掴まれるような感覚が襲う。

 

 

――スッ…。

 

 

紫原は、先ほどと同様、ターンアラウンドからのフェイダウェイジャンパーでシュートを放つ。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、ボールはリングに嫌われてしまう。

 

リバウンドボールは、堀田が悠々と抑え、陽泉の攻撃は失敗に終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、次の花月のオフェンスは、裏をかいて空→大地の連携で仕掛けるも、紫原にブロックされ、失敗に終わる。

 

続く、陽泉のオフェンス。

 

 

――ガン!!!

 

 

紫原が堀田をかわしてミドルシュートを放つが、ボールはリングから阻まれる。

 

ボールの行き先が良かったため、オフェンスリバウンドを劉が抑え、陽泉のオフェンスは続く。

 

 

――ガン!!!

 

 

再び、紫原にボールが渡ると、堀田をかわしながらミドルシュートを放ったが、ボールはやはり、リングに嫌われてしまう。

 

「(リズムもフォームもガタガタだ。これでは入らん。最初のシュートは、偶然入ったに過ぎん)」

 

堀田がリバウンドをきっちり抑え、陽泉の攻撃は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…なあ、黒子」

 

「何でしょう、火神君?」

 

「紫原はひょっとして、リングから離れた場所からのシュートが下手なのか?」

 

火神がこれまでの紫原から感じていた違和感。それは、紫原のシュートフォーム、リズムが悪かったことだ。

 

「…下手かどうかは分かりませんが、少なくとも、高速でディフェンスをかわしながらのシュートを連続で決められるような器用な選手ではないことは確かです」

 

質問を受けた黒子は、少し思考すると、こう答えた。

 

「そう言えば、去年も紫原が離れたところからのシュートは見たことないな…」

 

「ほとんどダンクだったな」

 

昨年の試合を思い出しながら話す誠凛選手達。

 

「あれだけの身長に高さ、パワーを持っているんだ。そんなものに頼らずとも、押し込んでダンクだけで充分脅威だからな」

 

 

――ガン!!!

 

 

再び、紫原のミドルシュートが外れる。

 

「…決まりだな。紫原のシュートエリアは狭い」

 

今の外れたシュートを見て、日向は断言した。

 

「…その弱点が分かってれば、去年も少しは楽に勝てたのに…」

 

「そうだよな。もっと早く知っていれば…」

 

「ダアホ!」

 

「「あいた! キャ、キャプテン!?」」

 

降旗、河原を、日向が後ろから小突く。

 

「バカなこと言ってんじゃねぇぞ。確かに、紫原のシュートエリアは狭いのかもしれない。だが、それは、紫原をゴール下から追い出せて初めて成立する弱点だろうが」

 

「「?」」

 

「…忘れたのか? 去年、俺と木吉と水戸部の3人がかりでも押し込まれたことを…」

 

「「あっ…」」

 

降旗と河原は、去年の試合を思い出す。

 

「紫原のパワーは半端ねぇ。まるでトラックと押し合いしてるようだった。…それを1人で抑え込んじまう堀田健…マジでバケモンだ…」

 

紫原のパワーを知る日向は、その紫原をパワーで圧倒してしまう堀田に驚愕の一言しかなかった。

 

「陽泉のエースである、紫原は堀田に抑え込まれ、氷室も、三杉のマークで仕事をさせてもらえない。このままでは勝敗は決まるぞ」

 

「…紫原の奴、何やってんだよ…。今のあいつはまるで…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールは、紫原に渡る。

 

当然、マークに付くのは堀田。

 

「(…調子に乗りやがって! どうにかして、こいつをかわさないと…!)」

 

紫原は、堀田をどうにかかわし、得点を奪う方法を考える。

 

「…どうした、それがお前のバスケなのか? 足りないぞ。もっと本気でぶつかってこい。それこそ、殺すつもりでな」

 

「っ!」

 

背中から、堀田の強烈なプレッシャーがかかる。それを受けた紫原は…。

 

 

――ブン!!!

 

 

頭の上で掴んでいたボールをそのままアウトサイドに立っていた木下にパスを出した。

 

「あっ!?」

 

木下をマークしていた大地。堀田と紫原の戦いに目を向けた一瞬に木下はマークを外し、慌てて追いかけるも、劉のスクリーンに捕まってしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

木下が放ったスリーがリングを潜る。

 

「よし!」

 

スリーを決めた木下はガッツポーズをする。

 

「ナイスパス、紫原!」

 

「今のはナイス判断だ」

 

木下と氷室が紫原に声をかけながらディフェンスに戻っていく。

 

「…っ」

 

だが、紫原の表情は晴れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『今のは良いパスだったよな』

 

『良い判断だ』

 

今のパスを、観客は称賛する。

 

「…逃げたな」

 

「えっ?」

 

青峰の呟きに、横で一緒に観戦していた桃井が驚きながら振り返る。

 

「今のは、パスを捌いたんじゃねぇ、ただパスで逃げただけだ」

 

「逃げたって、あのむっくんが?」

 

紫原をよく知る桃井は信じられないと言った表情だ。

 

「そもそも、あいつが試合でミドルシュートを打つとこなんざ、帝光中時代から1度も見たことねぇ。あいつは今、怯えてるだけだ」

 

「…」

 

青峰の言葉に、桃井は言葉を発することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ハイポストでボールを貰う紫原。

 

「(くそっ! この距離じゃ、どうにもならない。どうにかして、ゴール下に行って……っ!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゴール下に行って、どうすんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫原の頭の中に、そんな疑問が生まれる。

 

自身の最大の武器である、破壊の鉄槌(トールハンマー)は、難なく防がれてしまった。それが通じなければ、仮にゴール下まで行けたとしても紫原には手立てがない。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

紫原が思考状態に陥った瞬間、紫原に隙が出来た。それを見逃さなかった堀田は後ろからボールを弾いた。

 

「さすがッス! 大地!」

 

ボールを拾った空はフロントコート目掛けて走っている大地にロングパスを出す。

 

「っ! まずい、カウンターだ!」

 

陽泉選手達も慌ててディフェンスに戻っていく。

 

「よしっ! 行きます!」

 

ボールを受け取った大地はワンマン速攻を開始する。

 

「っ! この…!」

 

紫原も全速力で自陣まで戻っていく。

 

「っ!? やはり速い…」

 

後方から全速力で追いかけてくる紫原に思わず悪寒が走る。

 

「これでも私は、スピードが武器の選手です。自分より身長が高い選手にスピード負けなどできません!」

 

大地もグングン加速していく。

 

紫原も驚異的なスピードで自陣まで走っていく。だが、スタート位置、走り出しが良かった大地に、紫原は追いつくことが出来ない。

 

「この1本、行かせてもらいますっ!」

 

大地がボールを持って跳躍する。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま、ワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『来たーっ! 綾瀬のダンーク!!!』

 

決して身長が高くない大地によるダンクに、観客は沸き上がった。

 

「くそっ!」

 

ディフェンスに戻っていく大地を、苦々しい表情で睨みつける紫原。

 

点差は、さらに開いていく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、残り10秒。

 

ボールを持つのは堀田。

 

「…」

 

「…」

 

このQ,最後となる2人の対決。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

堀田が紫原をかわしにかかる。

 

「っ!?」

 

ここで、堀田の表情が曇る。何故なら…。

 

 

 

 

 

 

 

――紫原は、それを棒立ちで見送ったからだ。

 

 

 

 

 

 

――バス!!!

 

 

堀田が悠々とレイアップで得点を決めた。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了。

 

花月 32

陽泉 24

 

 

第3Qが終了し、ついに点差が付いた。

 

「…」

 

「…っ」

 

堀田が紫原に視線を向けると、当の本人は、その視線を逸らすように陽泉ベンチに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「決着はもうまもなく、付いてしまうかもしれん」

 

「健?」

 

ベンチに座り、マネージャーの相川からドリンクとタオルを貰い、汗を拭っていると、堀田がポツリと言葉にする。

 

「またあの目だ」

 

「……そうか」

 

堀田の様子が少しおかしいことが気にかかっていた三杉だったが、今の言葉を聞いて、複雑な表情をしながら納得した。

 

2人がアメリカへと挑戦する以前のこと。

 

堀田は、恵まれた身体能力を武器に、コート上でこれ以上にない存在感を出していた。

 

だが、その実力は強大過ぎて、堀田を止められる者は皆無であり、ダブルチーム、トリプルチーム、時には、4人がかりでマークされても、堀田を止めることは出来なかった。

 

試合が進むと、相手チームは、堀田の圧倒的過ぎるディフェンスを前に、攻撃意欲を無くす。

 

そして、最後には、戦意さえも無くしてしまう。

 

その時に見せる相手の目を、堀田は、何度も見てきた。

 

第3Qの最後、紫原の目はその時と同じ、戦意がなくなりかけていた。

 

「紫原敦。奴なら、俺と対等の存在なってくれると思っていたんだがな…」

 

10年に1人の逸材と称されるキセキの世代。その中でも堀田は、同ポジションでもある、紫原敦を高く評価していた。

 

今、堀田は、戦意を失いかけている紫原を見て、失望しているのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方、陽泉ベンチ…。

 

『…』

 

ベンチ内は、第3Q前のインターバルの時とは違い、暗いムードに包まれている。

 

「…どうする?」

 

開口、口を開いたのは氷室。

 

「非常事態だ。まさかうちが、インサイドで圧倒されるとは…」

 

「堀田には俺も付くアルか?」

 

「いや、それではゾーンが崩れてしまう」

 

「なら、いっそ、シューターをもう1人入れるか? 木下ともう1人、外から撃てる選手が入れば…」

 

「逆効果だ。木下でさえ、こうも撃たせてもらえないんだ。逆に、インサイドが瓦解するだけだ」

 

「なら、どうします?」

 

陽泉選手達がどうにか対応策を考えようと意見を出し合っている。

 

「(…まさか、うちのインサイドがこうも崩されるとは…。未だかつて、うちがインサイドで悩まされることなどなかった…)」

 

監督の荒木も、今の事態に危機感を感じていた。

 

陽泉の監督として、選手達の動揺を抑え、対策を立てて選手達をコートに送り出したい。だが、それが浮かばない。何故なら…。

 

「(あの紫原が圧倒されることなど、どうやったら想像が出来る…!)」

 

陽泉のエースの一角の紫原が、たった1人の選手に抑えこまれている。

 

紫原は、頭からタオルかぶり、下を向いている。

 

第4Qが始まる前に、何か1つでも対応策を立てたい。

 

選手達が話し合う中…。

 

「ていうか、もう無理でしょ?」

 

今まで黙り込んでいた紫原がそっと口を開いた。

 

「もうどうしようもないし、考えるだけ無駄でしょ」

 

「っ!? 敦! お前、またそんなことを!?」

 

「何言ってんだよ! まだ試合は終わってないだろ!?」

 

試合を諦めたとも取れる紫原の言葉に、選手達は怒りを露わにする。

 

「じゃーどうすんの? 何か方法があるなら教えてよ。それするからさ」

 

紫原は、下を向いたまま、言い放つ。

 

「あるわけないじゃん。押しても押してもビクともしない。速く動いても追いつかれる。あんな化け物、どうすればいいんだよ!?」

 

紫原は激昂しながら声を荒げる。

 

「仮にどうにか出来ても、もう1人はどうするのさ!? 室ちんだって歯が立ってないじゃんか!」

 

「っ!」

 

もう1人、それは三杉のこと。

 

主に、三杉のマッチアップをしているのは氷室だが、これまで、ほとんどまともに止めきれていない。

 

三杉が堀田にラストパスをすることが多いため、その印象が周囲には残っていないが…。

 

『…』

 

この、タオルを握りしめて激昂する紫原の姿を見て、陽泉選手達は理解する。

 

紫原は決して、試合を投げ出したいわけではないのだと。

 

だが、堀田を打倒出来ない自分自身に…、見えてしまっている試合展開を前に、悔しさを隠すことが出来ない。

 

『…』

 

再び静まり返る陽泉ベンチ…。

 

「…紫原」

 

今まで口を開かなかった荒木がここで初めて口を開く。

 

「今ここで、お前を納得させるだけの言葉をかけることは出来ない」

 

「…」

 

「だが、これだけは言っておく。私は以前。このチームは、お前と氷室のダブルエースだと。だが、今は違う。お前はもはや、このチームのエースではない」

 

「…」

 

「お前は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――このチームの柱だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「お前が折れれば、このチームはそこで終わる。だが、お前が折れなければ、まだ勝機はある」

 

「…」

 

「それだけは、忘れないでくれ」

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、インターバル終了のブザーが鳴る。

 

紫原は、無言のまま、コートに向かっていく。

 

続く陽泉選手達も、不安を拭えないまま、コートに向かっていった。

 

 

「…何て無能なのだ、私は!」

 

荒木は、拳が肉に食い込むほどきつく握りこみながら怒りを露わにする。

 

ここで優秀な監督なら、選手達の不安を払拭し、効率的で的確な作戦を与えて選手達を送り出すのだろう。

 

だが、それが出来ず、口から出たのは、何の具体性もない、ただの精神論だけ。

 

そんなことしか言えなかった自分が、選手達の力になれなかった自分がたまらなく憎いのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Qが始まり、ボールは現在、堀田が所持している。

 

目の前に立つは、紫原。

 

「…」

 

堀田のディフェンスをする紫原だが、その目には覇気がない。

 

「…お前はこの程度なのか? もう、抗うこともしないのか?」

 

「…」

 

堀田の問いに、紫原は何も答えることはしなかった。

 

そんな紫原を目の当たりにし、堀田は完全に紫原に失望した。

 

「…そうか。ならばもういい。そうやって、チームが負けるのを、そのまま見ていろ」

 

堀田がドリブルをし、紫原の横を抜ける。そのすれ違い様…。

 

「…もうお前には、何の期待もしない」

 

この言葉を囁きながら紫原の横を抜ける、そのままダンクへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(あーあ、早く試合終わんないかな~)」

 

紫原は、もう試合から意識が離れかけていた。

 

「(バスケなんてどうでもいいし、別に負けたって……っ!)」

 

その時、紫原の胸に、鋭い痛みが襲う。それは、以前にも経験したことがある痛みだった。

 

昨年の冬。誠凛に負けた時も、この痛みが襲った。

 

紫原にとって、初めてとも言える敗北だった。

 

 

――バスケなんて、欠陥競技…。

 

 

紫原にとってのバスケの認識はこうだった。ただ向いていたからやっていただけあって、試合に負けようがどうなろうがどうでもいい……はずだった。

 

だが、誠凛に負けた時、鋭い痛みと同時に、敗北の悔しさに、悔し涙が止まらなかった。

 

辞めようと1度は口にしたが、それでもバスケを辞めることは出来なかった。

 

 

 

 

 

――また、負けるの…?

 

 

 

 

 

頭の中でそう考えた時、紫原の胸に、鋭い痛みが襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――嫌だ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――嫌だ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――もう負けるのも…、あんな思いをするのも嫌だ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫原の目に、闘志が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…もうお前には、何の期待もしない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何言ってんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて会った時から気に入らなかった。

 

自分が上だと言わんばかりのその尊大な態度が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何で、こんなこと言われなきゃいけないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫原の胸中では、怒りとも取れる感情が生まれてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――気に入らない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――いつまでも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――いつまでも…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子に乗ってんじゃねぇよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

紫原はダンクに向かう堀田の前方に回り込み、そのダンクのブロックに行った。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」

 

紫原が渾身の力を込める。

 

 

 

 

――バチィィィィン!!!

 

 

 

 

堀田の右手に収まっていたボールをその手から弾き飛ばした。

 

 

 

両者が同時に着地する。

 

 

 

そして静まり返る会場。

 

 

 

――おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!

 

 

 

会場に熱気が戻る。

 

「もう負けるのは嫌なんだよ! もう誰にも負けない! たとえそれが赤ちんでも! …誰が相手でも、捻り潰してやる!!!」

 

最大限に声を荒げながら堀田に告げる。

 

「そうだ。それだ。紫原敦。やはり、俺の目に狂いはなかった。これでようやく、俺の臨む勝負が出来る…!」

 

堀田は、自分と対等の現れたことに、この試合一番の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…この、紫原っちの迫力は!?」

 

「…間違いないのだよ」

 

「…紫原が、このまま終わるわけがない」

 

「ついに、来やがった…!」

 

黄瀬、緑間、赤司、火神は、紫原の変化に気付く。

 

「紫原の奴……入りやがった…!」

 

青峰がポツリと呟く。

 

 

 

紫原、ゾーンに突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





紫原、ゾーンに突入です。

原作では、わずか1分足らず、しかも、最後には限界がきてしまって、正確な紫原のゾーンは語られなかったですが、それを何とか表現出来るよう、精進致します。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第40Q~秘策~


投稿します!

遅れて申し訳ありませんm(_ _)m

とにかく忙しすぎて投稿出来ませんでした(^-^;)

それではどうぞ!


 

 

 

第4Q、残り9分43秒。

 

花月 32

陽泉 24

 

 

「来いよ」

 

堀田のダンクをブロックした紫原。ツーポイントエリアの真ん中を陣取る。

 

「…っ! この威圧感、さっきまでとは段違いだ…!」

 

ボールをキープする空。

 

ゾーンに入った紫原の威圧感に圧倒される。空は現在、スリーポイントラインの外側に立っている。

 

「(どうする…? 堀田さんにパスをするか? それとも…)」

 

空をマークする永野。空のドライブを警戒してか、若干ではあるが、空と距離を空けており、腰を深く落としている。

 

この場で空には、スリーを狙うという選択肢もある。

 

「(永野のディフェンスが深い。…なら、ここは…!)」

 

空がスリーを狙うべく、リングに意識を向ける。

 

「(…ピクッ)」

 

紫原が僅かに反応する。

 

「(っ!? 何だ今の…)」

 

空の身体が硬直する。

 

「(冗談だろ!? スリーポイントラインの外側だぞ!? 届くのか!?)」

 

先ほどから空の身体に刺さるようなプレッシャーが伝わっている。それはつまり、今、空がいるその場所は、紫原の迎撃エリア内だということを意味する。

 

「(…ダメだ! 今の俺じゃ、紫原は崩せない…!)」

 

自分との力の差を思い知る空。

 

「ちっ!」

 

空は永野をかわしながら堀田にボールを渡す。

 

「来いよ」

 

堀田はドリブルを始め、背中で紫原を押し込み始める。

 

「(むっ? 重くなったか…)」

 

紫原は腰を深く落とし、堀田の侵入を食い止めにかかる。

 

「こんの!」

 

歯を食い縛り、堀田をその場で押し留める。

 

「(なるほど、ゾーンに入ったことで、俺に抗うことが出来るまでになったか)」

 

第3Qまでとは明らかに様子が違う紫原に、堀田の表情が引き締まる。

 

「(俺とパワーで競うとは見事だ。…だが、まだ、甘い)」

 

堀田がさらに力を込め、押し込みにかかる。すると…。

 

「ぐっ!」

 

少しずつだが、堀田がゴール下へと侵入していく。

 

「っ! ゾーンに入った敦でも力負けするのか…!」

 

不可能なはずの実力の100%を引き出すゾーン。それに入ってもなお、堀田の力には届かない。

 

紫原が侵入阻止にさらに力を込める。それにより、堀田の侵入は阻止出来たが…。

 

「(だが、そこまで押し返すのに神経を注いでしまって、これに対応出来るか?)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

堀田はスピンムーブで反転しながら紫原をかわす。

 

『抜いたー!!!』

 

紫原を抜き去り、そのままボールを掴んでダンクに向かう。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!」

 

だが、紫原は驚異的なスピードと反射神経ですぐさま堀田の前に回り込み、堀田のボースハンドダンクを両手でブロックする。

 

「何度も何度も決めさせるわけないだろ!」

 

紫原は両手に渾身の力を注ぐ。

 

 

――バチィィィィン!!!

 

 

堀田の両手に収まるボールを弾きだした。

 

『ついに紫原が堀田を止めたーーーっ!!!』

 

「ナイス、紫原!」

 

ルーズボールを木下が拾う。

 

「ちっ」

 

思わず舌打ちが出る堀田。

 

「まさか、健がブロックされるとはね」

 

これには、三杉にも驚きの表情が現れる。

 

木下がボールを拾い、そのボールを永野に渡し、そのままフロントコートまで進んでいく。

 

「よこせ!」

 

紫原がボールを要求し、永野がすかさずパスをする。

 

ボールを受け取った紫原はそのままドリブルで切り込んでいく。

 

「行かせへんで!」

 

天野がヘルプにやってきてディフェンスに入る。

 

「ぐっ!」

 

紫原は、体格を生かしたパワードリブルで強引に切り込んでいく。

 

「(なんやねん、これ!? まるでラッセル車やないか!)」

 

強引に、押しのけるようなドリブルに、天野は紫原の進路から弾き出される。

 

フリースローライン僅か前まで押し進むと、そこでボールを掴む。

 

「させん!」

 

ゴール下まで戻っていた堀田がブロックに向かう。

 

紫原は、横回転しながら跳躍する。

 

『紫原の破壊の鉄槌(トールハンマー)!』

 

『けど、さっきは止められたばかりだぞ!?』

 

 

 

―――バチィィィッ!!!

 

 

 

紫原のダンクに堀田のブロックが衝突する。

 

両者が空中で押し合いをする。

 

「(っ!? さっきまでとは違う!)」

 

堀田が徐々に押していき…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

堀田のブロックを弾き飛ばし、そのままボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

紫原が堀田との対決に初めて勝利した。

 

「…」

 

堀田が自身の、僅かに痺れた手を見つめる。

 

「(ゾーンに入って身体能力が引き出されたか…。だが、それだけじゃない…)」

 

堀田のダンクをブロックに行った際、紫原は僅かに前方に飛び、その力を加えて堀田との力の差を埋め、此度のダンクは、従来の破壊の鉄槌(トールハンマー)に、助走の勢いを加えて堀田のブロックを弾き飛ばした。

 

ゾーンに突入したものの、まだ、堀田の方が力ではまだ上回っている。その差を補うため、紫原は別の力を加えて対抗した。

 

堀田と紫原の勝負は、再び激化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「いいぞ、敦」

 

ディフェンスに戻りながら、氷室が声をかける。

 

「もう負けたくないし、何より、あいつ(堀田)ムカつくから絶対負けたくない」

 

その表情は、いつものやる気がなさそうな表情とは一転、これ以上になく研ぎ澄まされている。

 

「…けど、次は止められないかもしれない」

 

紫原は、自身の手を見つめながらポツリと呟く。

 

「敦?」

 

そんな紫原を、氷室が怪訝そうな表情をする。

 

「まだ力はあいつの方が上。同じ手は多分通じない」

 

ゾーンに入っているため、これ以上になく現状を把握出来てしまう紫原。

 

「(ゾーンに入った敦をもってそこまで言わせるのか…)」

 

紫原の実力を誰よりも理解している氷室は、紫原にそこまで言わせる堀田の実力に改めて身震いする。

 

「…室ちん、力貸してくんない?」

 

「…まさか、敦の口からそんな言葉が出るとはね」

 

プライドが高い紫原。基本的に、敵を倒すのに誰かの力を借りるようなことはしない。

 

「ホントは俺1人で捻り潰したいけど、それは難しそうだし、…何より、負けるより100倍はマシ」

 

「…分かった。俺も力を貸そう」

 

紫原の言葉を了承した氷室。

 

陽泉の反撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「楽しんでるかい、健」

 

三杉が堀田に声をかける。

 

「バカを言うな、三杉。…そんな余裕、もはや無い」

 

先ほどまで試合を楽しんでいた堀田。現在、堀田の表情からは笑みは消えている。

 

「戦いを楽しんでいては足元を掬われるだろう。これからは、楽しむのではなく、勝つためのバスケをしよう」

 

「…分かった。こちらも、出来る限り援護をするよ」

 

「露払いをしてくれればそれでいい」

 

「分かってるよ。約束どおり、君と紫原君の勝負に水は差さないよ」

 

2人は、オフェンスへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを進めるのは空。

 

その表情は優れない。

 

「(…話には聞いたことがあるけど、これがゾーンって奴か…)」

 

突如、紫原が様変わりした理由に気付いた空。

 

「…ちっ!」

 

相変わらず、紫原はツーポイントエリアの中央で存在感を露わにしている。

 

そこから相変わらず空へプレッシャーを与え続けていた。

 

「(今の俺じゃ、1人で紫原から得点を奪うのは不可能だ。…崩すには、連携しかない…)」

 

ここで、空は大地に視線で合図を送る。

 

「(…コクリ)」

 

合図に反応した大地が頷く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

それを確認した空は、インサイドへカットインする。

 

永野はそうはさせまいと食らいついていく。

 

それを見越していた空は、直後にクロスオーバーで切り返し、反対側から永野をかわす。

 

ヘルプに氷室が来ると、それに捕まえる前にノールック・ビハインドパスで大地にボールを渡す。

 

「行きます」

 

ボールを受け取った大地はそのまま紫原に突っ込んでいく。

 

「お前ごときが勝てると思ってんの?」

 

迎撃態勢万全の紫原。

 

そのままペイントエリアまで侵入すると、そのままリングに向かって跳躍する。

 

「ハァ? 舐めてんの?」

 

当然、紫原もブロックするべく跳躍する。

 

 

――ビュン!!!

 

 

紫原がブロックに飛んだその瞬間、大地は身体を反転させ、後方にパスを捌く。

 

「よし! 狙うならここしかねぇ!」

 

ボールを受け取った空。ブロックに飛んだ隙を狙う。

 

ワンドリブルを入れてそのままシュート態勢に入る。

 

「させないアル!」

 

そこへ、劉のヘルプが現れた。

 

2メートルを超える劉のブロックは、空の前方をすっぽりと塞いでしまう。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

空は、レイアップの態勢から、上へ放り投げるようにボールを放った。

 

『これは!?』

 

放ったボールは、劉の伸ばした手の上を弧を描くように越えていく。

 

『まさか!?』

 

『スクープショットだ!』

 

ボールは劉の上を越えてリングへと向かう…と、思ったその時!

 

「お前らじゃ無理に決まってんじゃん」

 

劉の後方から、新たな手が飛び出す。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

空が放ったボールは、紫原によって弾かれてしまう。

 

「(くそっ! 今までさんざんやられまくって、紫原の反射速度は掴んだつもりだったが…)」

 

「(ここに来て、さらに反射速度が……、これがゾーン…!)」

 

大地が紫原を極限まで引き付け、空がその隙を付いてゴールを沈める。

 

だが、紫原の反射速度は、2人の上を行く。

 

ルーズボールを永野が拾い、陽泉のカウンターが始まる。

 

「ちっ!」

 

空は軽く舌打ちをし、ディフェンスへと戻っていく。

 

「オフェンスでは全て俺にボールを預けろ」

 

「堀田さん?」

 

戻りながら、堀田が空に声をかける。

 

「今のお前達では紫原から点を奪うことはほぼ不可能だ」

 

「っ…」

 

単刀直入の堀田の言葉に空は思わず歯を食い縛る。

 

「頼んだぞ」

 

それだけ告げて、堀田は戻っていく。

 

「ドンマイ」

 

「三杉さん…」

 

そこに、隣にやってきた三杉が、空の背中をポンと軽く叩きながら声をかける。

 

「健も別に、お前らを過小評価しているわけではない。だから――」

 

「別に、分かっていたことです。気にしてない、と言えば嘘になりますが、受け入れますよ」

 

空は表情を引き締める。

 

「正直、勝てそうにありません。……今の俺達では…。けど、絶対、近いうちにあそこに行きますよ」

 

「…ふっ、そうか」

 

空の回答を聞いて、三杉は満足そうに微笑む。

 

もし、ここで空が現実を受け止めず、熱くなっていたり、現実を思い知り、心が折れていたら、三杉は失望していただろう。だが、空の表情は、現実を受け止めつつも、心も折れていない。

 

「…」

 

それは、大地も同様であった。

 

「さあ、ディフェンスだ。多分、向こうは何か仕掛けてくる。動揺するなよ」

 

空と三杉、花月の選手達は、ディフェンスへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉側が、フロントエリアに侵入する。

 

「永野!」

 

それと同時に、氷室がパスを要求する。永野、すかさず永野にボールを渡す。

 

ポジション的に一番近くにいた空がディフェンスに付く。

 

ボールを受け取った氷室。ゆっくりドリブルを始めると、左手の人差し指を1本立て…。

 

「さあ、1本決めていこう!」

 

ゲームメイクを開始する。

 

『これは、まさか!』

 

『氷室がポイントガードをするのか!?』

 

突如、氷室がゲームメイクを始めたことにより、観客からどよめきが起こる。

 

『っ!?』

 

それは、花月側も同様だった。

 

 

「氷室がポイントガード…確かに、あいつはパスも捌けるが…」

 

伊月が少々面を食らう。

 

「(タツヤは視野も広いし、並のポイントガードより、パスセンスもある。アメリカ時代でも、ポイントガードをしたことはあったが…)」

 

終盤のこの局面での奇策。火神はいささか不安を感じていた。

 

 

「(奇策ではない。この戦術は、かねてより構想はあった。本当は、対洛山戦の為に用意した戦術プランだったが、ここで負けてしまっては元も子もない)」

 

バスケにおいて、重要とも言えるポジションであるポイントガードとセンター。陽泉には紫原という強力なセンターがいるが、ポイントガードは永野。全国レベルに恥じない実力を有しているが、赤司相手では分が悪い。

 

そこで戦術の1つとして用意したのが、氷室のポイントガードに据えたフォーメーション。

 

氷室なら、赤司が相手でも対抗が出来る、という考えで洛山相手を想定して用意していた氷室ポイントガード。

 

実は、このプランは、昨年時から構想はあった。

 

氷室を、昨年時の副主将であり、司令塔の役割を担っていた福井の代わりに司令塔を任せ、空いたシューティングガードのポジションに木下を置く。

 

もし、これが実現していれば、2メートル選手3人に、190cm台が1人の最強のインサイドに加え、外からの飛び道具も加わる。

 

冬で敗戦した誠凛はもちろん、冬を制することも出来たかもしれない。これは、氷室が陽泉に加入した時期が遅すぎ、机上の空論に終わってしまったが…。

 

「ちっ!」

 

空は思わず舌打ちをする。

 

星南中時代に、監督龍川に見出され、空はポイントガードにコンバートされた。

 

オフェンス意識が高い空。当初こそ、司令塔に任命されたことに反発を覚えたが、試合を重ねていくうちに、ゲームメイクすることに楽しさを覚え、今では自身に1番合ったポジションだとも思えるようになった。

 

キャリアこそ浅いが、ポイントガードというポジションにこだわりがある空。素質はあれど、本来のポジションではない氷室がポイントガードをすることに軽く憤りを覚えた。

 

「(いよいよ負けられねぇ。本来のポジションじゃない奴に負けられるかよ!)」

 

空は腰を落とし、睨みつけながら氷室の一挙手一投足に注視する。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

氷室がクロスオーバーで空の右側から仕掛ける。

 

「(右! …いや、これはフェイクだろ!)」

 

読み通り、氷室は空の右側からではなく、左側から仕掛けていた。

 

空は遅れることなく氷室にピタリと付いていく。

 

抜けないと悟った氷室は、その場で一旦止まり、オーバーヘッドパスでハイポストに展開していた永野にパスを出す。

 

それと同時に永野の傍まで走り出し、すれ違い様にボールを受け取り、そのまま堀田に突っ込んでいく。

 

「来い」

 

両腕を広げ、攻撃に備える堀田。

 

リングにグングン迫っていく氷室。だが、堀田は紫原のマークは外さず、ヘルプに行かない。

 

「(来ないつもりか? なら、このまま決めさせてもらう)」

 

そのままゴール下まで侵入し、レイアップの態勢に入る。

 

堀田は、氷室がレイアップの態勢に入ったまさにその瞬間にブロックに向かう。

 

「(来ると思っていたよ!)」

 

シュートブロックに来た堀田を確認した氷室は、レイアップの態勢からリングの近辺に放るようにボールを投げる。

 

そこに、紫原が示し合わせたかのように飛んでくる。

 

「ちぃっ!」

 

着地し、すかさず紫原のブロックに向かうが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

不安定な態勢では紫原の渾身のダンクに抗えず、ブロックを弾き飛ばされてしまう。

 

『うおぉぉぉぉぉっ! すげぇコンビネーション!』

 

「いいぞ、敦!」

 

「室ちんも、ナイスパス」

 

ハイタッチをして健闘を称えあう2人。

 

「ちっ! 1本、返しましょう!」

 

空が声を張り上げ、ゲームメイクを始める。

 

「っ!」

 

空の前に立つのは、永野ではなく、氷室。

 

陽泉のディフェンスが変わる。2-3ゾーンからマンツーに。堀田に紫原。大地に永野。三杉に劉と木下のダブルチーム。天野はノーマーク。

 

「(堀田は今の敦なら対等に渡り合える。だが、他のメンバーで三杉を抑えることは難しい。なら、ボールを持たせなければいい。故に、潰すのは…)」

 

「なるほど、潰すのは、ボール運びをする俺ってことか…」

 

劉と木下で、全力でマークしボールを持たせないようにし、ボールを回しをする空を氷室がシャットアウトする。

 

ボールが回らなければ、三杉と堀田がどれだけ強力であろうとも、意味をなさない。

 

 

――ギリ…!

 

 

陽泉が布いてきた戦術に作戦を目の当たりにし、空は憤りを感じた。

 

「(要は、俺は舐められてるってことかよ…!)」

 

氷室が空を完封出来ることが前提に立てられたこの戦術。

 

「(けど、ここでムキになって突っかかっていたら、それこそ向こうの思う壺。…だが!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「気に入らねぇんだよ! その上から目線の余裕がよぉ!」

 

氷室に1ON1を仕掛ける。

 

「(若いな…)」

 

空はクロスオーバーで仕掛けるが、氷室はそれに付いていく。

 

「ちぃっ! なら!」

 

レッグスルーで切り返す。だが、それにも氷室は付いていく。

 

「キレが悪いよ。それでフェイントのつもりなら、俺には通じない」

 

「そうかい、だったら通じるまで続けるまでだよ!」

 

そこから空は、前、股下、背中の後ろでボールを連続で切り返し続けた。

 

「……くっ!」

 

スピードとキレがどんどん増す空の連続切り返しに、氷室の余裕がどんどんなくなっていく。

 

「(何て奴だ! 思えば、試合が始まってから動きがどんどん良くなっていく。試合前とは別人に思えるほどに…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!」

 

機を見て空がダックインで氷室の左側から仕掛ける。

 

「ぐっ!」

 

氷室、不意を突かれるも、何とか空を追いかける。

 

「問題です。ボールをいったいどこにあるでしょう♪」

 

「っ!?」

 

ニヤリと、笑みを浮かべながら問いかける空。

 

氷室はここで初めて、空の手にボールがないことに気付く。

 

「(何処に…?)」

 

氷室は、ボールの所在を探す。

 

「氷室! 後ろアル!」

 

「っ!?」

 

ボールは、今正に氷室の頭を越えて後方へと落ちようとしていた。

 

空は、ダックインし、氷室が空を追いかけようとした直後、ボールを背中の後ろで手首のスナップを利かせ、氷室の後方へと放り投げた。

 

完全なる死角を突かれた氷室は、ボールを一瞬見失ってしまった。

 

空は外回りに反転しながらボールを追いかけ、ボールを拾う。

 

「くっ!」

 

それでも何とか空を追いかけるべく、1歩踏み出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

空は、踏み出した氷室の股下にボールを通し、そのまま切り返す。

 

「俺相手ならいつでも止められると思ってたんなら、舐めすぎだよ」

 

すれ違い様に呟き、氷室を抜き去った。

 

『うおぉぉぉぉぉっ! 氷室を抜いたーーーっ!!!』

 

氷室を抜いた。

 

「空!」

 

それと同時に劉と木下のマークを振り切った三杉が右サイドでボールを要求。

 

「よし!」

 

ここでボールを手に取り、三杉へとボールを出す。

 

「っ!?」

 

が、空はそのパスを途中で止め、ビハインドバックパスに切り替え、反対サイドに展開していた天野のパスを出した。その直後…。

 

「あっぶねぇ、油断も隙もねぇな」

 

「くそっ!」

 

空の後方、死角から、空と三杉のパスコースを塞ぐように氷室が現れた。

 

「堀田さん!」

 

ボールを受け取った天野は、すぐさまローポストに展開している堀田にパスを出す。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

両チームのセンター対決。

 

この試合の目玉と言える両者の対決。今や、どちらかにボールが渡るだけで歓声が上がる。

 

『堀田はどう攻める?』

 

『紫原はもう、堀田を凌ぐ勢いだぞ!?』

 

「…」

 

「…」

 

無言で対峙する両者。

 

「(まともな勝負では勝てないことはもう理解しているはず。なら、堀田はここでどのような手を打ってくるか…。紫原を引き付けてパスを捌くことも考えられる)」

 

陽泉選手達は、パスも視野に入れ、動き出す。

 

 

――ズン!!!

 

 

「っ!」

 

堀田はパワードリブルで紫原を押し込み始める。

 

紫原は踏ん張るも、ジワリジワリとゴール下まで押し込まれていく。

 

押し込んだ直後、堀田はボールを掴んで跳躍する。

 

「させるかよ!」

 

紫原もブロックに飛ぶ。

 

紫原が堀田の立ち塞がるように現れる。

 

『よし!』

 

それを目の当たりにした陽泉サイドはブロックを確信して拳を握る。

 

「ぬぅん!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「がっ!」

 

ブロックに飛んだ紫原を力付くで弾き飛ばし、リングにボールを叩きつけた。

 

尻もちを付く紫原。コートに着地し、紫原を見下ろす堀田。

 

「ここで小細工に走るようなやわな鍛え方はしていない。俺の武器はあくまでも、この鍛え上げた肉体とそこから培ったパワーだ」

 

「っ! 上等だよ、絶対捻り潰す!」

 

立ち上がり、鬼の形相で睨みつける紫原。

 

オフェンスが陽泉に切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「なんて、パワーだよ…!」

 

一連のプレーを見ていた火神は思わず冷や汗を流しながら呟く。

 

「あいつ(堀田)の力は、ゾーンに入った紫原をも上回るのかよ…」

 

ゾーンに入り、100%の力を引き出した紫原の力は凄まじい。だが、堀田はその紫原を正面から弾き飛ばした。

 

「それにその前の、タツヤをかわした神城のテクニック…。キレやスピードはまだまだ及ばねぇが、あれは青峰と同じ、ストリートのバスケだ」

 

最初に見せた左右の揺さぶり、ダックインした直後の氷室の後方に放ったプレー、最後の股下にボールを通した、シャムゴットと称されるテクニック。

 

これらはストリートでよく見られるテクニックである。

 

「試合当初は良いようにあしらわれていたが、今では、タツヤに付いていってるし、ついには抜けるまでになってやがる」

 

キセキの世代に近しい才能を持つ氷室。その実力は、火神も身をもって理解している。

 

火神は、空と大地の成長速度の速さに、軽く恐怖を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ナイッシュ、健」

 

ディフェンスに戻りながら健闘を称える三杉。

 

「…とはいえ、向こうはこれからも氷室をポイントガードに据えて攻めてくるだろう。いくら健でも、今の紫原と氷室を同時に相手取るのは困難だろう」

 

「…ふむ」

 

三杉の分析に、堀田は唸るように返事をする。

 

「空も、ようやく氷室に対抗出来るまでにはなったが、まだ止めるのは難しい。…ここは、俺が氷室に当たろう」

 

「動くのか?」

 

「ああ。空や綾瀬に氷室をぶつけて、成長を促したかったんだが、とりあえずここまでだ。まず、陽泉側に傾きかけた勢いを止める。その為に、まずは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――氷室の心を支配する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉のオフェンス…。

 

ボールをキープし、ゲームメイクするのは氷室。

 

「…やはり来たか」

 

司令塔となった氷室をディフェンスするのは……三杉。

 

「…むぅ」

 

不満顔の空。もっと相手をしたかったのだが、今の空では氷室を抑えることは難しい為、渋々マークを変わる。

 

これを想定していた為、氷室の表情に焦りや驚きはない。

 

「この流れは切らせない」

 

「悪いが、これ以上はやらせるつもりはない、止めるよ」

 

対峙する両者。

 

氷室が動く、シュートモーションに入った。

 

『うおっ、いきなり行った!』

 

だが、三杉はブロックに飛ばない。

 

「(読まれたか…だが、想定の範囲内だ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

シュートはフェイクであり、それを看破した三杉。氷室はすかさずドライブで三杉の右側を抜けて切り込んでいく。

 

『フェイクだったのかよ!?』

 

『氷室が仕掛けた!』

 

観客は、再び騙されることになる。

 

右側からのドライブ。これもフェイクであり、本命は、左側からのドライブ。

 

「っ!?」

 

だが、三杉はそのフェイクに引っかかることなく付いていく。

 

「…やはり、あなたには通じないか。…だが、それも織り込み済みだ」

 

氷室はそこでビハインドバックパスを劉に出す。

 

自身のフェイクが三杉には通じないことを想定していた氷室は焦ることなく劉にボールを渡す。

 

「(抜けずとも、彼(三杉)を俺に引き付けることが出来ればそれでいい)」

 

「ナイスアル!」

 

ボールを受け取った劉はすかさず紫原にボールを渡す。

 

「っ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高速スピンターンで堀田をかわす。

 

そして、そのまま跳躍する。

 

「ふっ!」

 

そこに、堀田がブロックに現れた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

両者が再び激突する。

 

ボールは紫原の手から離れる。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングを弾く。

 

 

――ポン…。

 

 

弾かれたボールを劉がタップし、リングへと押し込む。

 

「紫原を全員でフォローするアル」

 

紫原を最大限に生かすための氷室ポイントガード。

 

この1本をものにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、花月のオフェンス。

 

『っ!?』

 

陽泉側が驚愕する。

 

「さあ、1本、行こうか」

 

ゲームメイクを始めたのは何と三杉。

 

「…これは、少し驚いたな」

 

ポツリと呟くように言葉を発する氷室。

 

永野では三杉を止めることは不可能な為、ディフェンスに付くのは氷室。

 

「…」

 

「…」

 

睨む合う両者。

 

三杉がシュートモーションに入る。

 

「(よく見ろ! 彼を止められるのは俺だけなんだ!)」

 

氷室はフェイクと読み、ブロックに飛ばない。

 

シュートではなく、ドライブを仕掛けていた三杉。それを何とか看破した氷室は、三杉を追いかける。

 

「止め……なっ!?」

 

だが、振り返ると三杉はそこにおらず、今一度先ほど、三杉が立っていた場所に視線を戻すと、そこには、シュート態勢に入っていた三杉の姿があった。

 

2重のフェイクをかけ、氷室を翻弄した三杉は、悠々とシュート放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは綺麗にリングの中心を潜った。

 

「くっ! …だが、次は必ず…!」

 

対抗心を燃やす氷室。その表情は闘志に溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は再び拮抗する。

 

花月は、三杉がゲームメイクをし、ぺネトレイトで切り込み、そこから堀田にパスを捌き、堀田がフィニッシャーとなる。

 

対する陽泉は、氷室がゲームメイクをし、紫原をフィニッシャーとなっている。

 

その他のメンバーがフォローに回り、得点を重ねていく。

 

勝負の目玉はやはり堀田と紫原のセンター対決。

 

一方が決めれば一方決め、一方が止めれば一方が止める。

 

試合は、再び均衡が保たれ始めた。

 

試合は第4Q終盤へと向かっていく。

 

しかし、この均衡のある一角がすでに崩れ始めていた。

 

そしてそれは、突如現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り3分12秒。

 

花月 46

陽泉 40

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

三杉がゆっくりドリブルをし、ゲームメイクをしている。

 

「…」

 

落ち着いてボールをキープをしている三杉に対し…。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

大きく肩で息をしている氷室。心なしか、目の焦点が合っていないように見える。

 

「氷室?」

 

氷室の違和感に監督の荒木が気付く。

 

三杉は、特にフェイクをかけることなく、ドライブを仕掛ける。

 

「っ!?」

 

それに対して氷室は、何故かシュートブロックモーションに入る。

 

「室ちん!?」

 

氷室の行動に、誰しもが目を疑った。

 

今の三杉のドライブは、周囲の者すべてがドライブだと認識出来たからだ。

 

「っ!」

 

やむを得ず、紫原がヘルプへと飛び出す。

 

 

――ピッ!!!

 

 

その瞬間を狙い、堀田に矢のようなパスを出す。

 

「あっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ヘルプに飛び出していた紫原はブロックに行けず、堀田のワンハンドダンクが炸裂する。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

三杉と堀田がハイタッチをしながらディフェンスに戻っていく。

 

「氷室、どうした!?」

 

心配になった陽泉選手達が氷室に駆け寄る。

 

「今…のは、フェイク…?」

 

未だに正気に戻ったとは言えない氷室を心配する選手達。

 

「ああ…大丈夫だ…」

 

氷室は、様子が変わらないまま、オフェンスに向かっていった。

 

『…』

 

そんな氷室を、怪訝そうな表情で見送っていく。

 

 

オフェンスは陽泉。ボールは氷室が所持している。

 

「っ…」

 

ディフェンスに立つのは三杉。心なしか、氷室は怯えているようにも見える。

 

「っ!」

 

三杉がプレッシャーを強めると、それから逃げるようにアウトサイドに展開している木下にパスを出した。

 

「ひ、氷室さん!」

 

「あっ…」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

無造作に出されたパスは、大地によってスティールされる。

 

「やはり氷室の様子がおかしい」

 

氷室らしからぬミスを目の当たりにし、非常事態と見て荒木がタイムアウトを申請すべく動く。

 

ボールを奪った大地はすぐさま三杉にボールを渡す。

 

三杉の前に立ち塞がるのは氷室。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

「…無駄だよ。君はもう、見失っている」

 

三杉がゆっくりと進んでいく。

 

「あっ…あっ――」

 

 

 

 

 

 

「虚実に目を奪われ、現実を見失った君が、真実に辿り着くことはない」

 

 

 

 

 

 

三杉は、何のフェイントも無い、ゆっくりとしたドライブで氷室の横を抜けていく。

 

氷室は、目を見開いたまま、ボールを奪うことはおろか、ピクリとも動くことも出来ず、棒立ちのまま、三杉に抜き去られた。

 

それと同時に加速し、ゴール下で待ち構える紫原に突っ込んでいく。

 

レイアップの態勢に入ると、それを阻止するため、紫原がブロックに現れる。

 

 

――ドン!!!

 

 

三杉と紫原が激突する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹く。

 

体格で下回る三杉が弾かれる形となる。

 

 

――ピッ!!!

 

 

弾かれながらボールをリングに向けて放り投げる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜る。

 

「ディフェンス、チャージング、白8番! バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『うおぉぉぉぉぉっ! バスカンだ!』

 

倒れこみながら拳を握る三杉。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、陽泉のタイムアウトのブザーが鳴る。

 

氷室の乱調。陽泉側に暗雲が差し掛かる。

 

試合は第4Q終盤差し掛かり、クライマックスへと向かっていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ついに三杉が動きました。

能力の詳細は次話にてさせていただきます。

年内最後の投稿となります。

皆さん、良いお年を…。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第41Q~雌雄決す~


投稿します!

投稿が遅れて、申し訳ございませんm(_ _)m

そして、謝罪を…。

いくつか感想をいただいた中で、オリ高校のパワーバランスが悪すぎるという指摘がありました。

正直、ご指摘どおりだと思います(^-^;)

インターハイの間は、原作キャラがオリキャラに圧倒される場面が見られると思います。読者や原作ファンの方に、不愉快な思いをさせてしまうと思いますが、インターハイの間だけ、ご容赦と作者のわがままをお許しくださいm(_ _)m

それではどうぞ!



 

 

 

三杉誠也がゆっくりとドリブルをしながら近寄ってくる。

 

 

 

――これは、フェイクなのか? それともリアルなのか?

 

 

 

――止めなければ…! だが、どっちなんだ…?

 

 

 

――分からない……分からない……分からない!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「悪くない。調子はまずまずだな」

 

ベンチに戻ってきた選手達を上杉が労う。選手達はタオルとドリンクを受け取り、呼吸を整えている。

 

「にしても、氷室の奴はいったいどうしたんですかね? 何か、最後の方、様子が変でしたけど…」

 

空がタオルで汗を拭いながら尋ねた。

 

「奴は、見失ったのだ」

 

「? …どういうことですか?」

 

「三杉のバスケの神髄は、相手の心理を付くところにある」

 

堀田が続けて説明していく。

 

「本物と見紛う程の高精度のフェイクを巧みに見せつけながら相手を圧倒する。何度も見せつけられていくうちに、本物が偽物に見え、偽物が本物に見えるようになっていき、区別が出来なくなっていく」

 

『…』

 

選手達全員が堀田の言葉に黙って耳を傾ける。

 

「そして、最後には疑心暗鬼に陥り、脳が判別が出来なくなり、脳から身体への信号を止めてしまい、動けなくなる」

 

『…』

 

「これが、三杉の武器の1つ、『支配』と呼んでいるものだ」

 

「お、恐ろしいですね…、相手の心理を付くとか…」

 

思わず冷や汗が流れる空。

 

「人間の心は、身体とは裏腹にとても繊細だ。ひとたび支配されてしまえば、とても脆い」

 

汗を拭いながら口ずさむ三杉。

 

「アメリカで勝利するため、俺は、スピードを維持しながらアメリカ人相手でも圧倒できるパワーを得るために自らを鍛え上げた。三杉は、身体を鍛えつつ、勝利に役立ちそうな様々な技術を習得していった。それは、古武術であったり、スポーツ医学であったり、メンタリズムであったり…」

 

「もちろん、ここまでの域に達するまでには時間がかかった。今にしても、まだ完成とは言い難い。何度も挑戦し、何度も失敗することで今の俺のバスケがある」

 

「挑戦……ですか」

 

大地がリピートするように口にする。

 

「お前達も、その言葉を忘れるなよ。少なくとも、頼れる先輩がいるうちは、何度でも挑戦しろ。尻拭いは、俺達がしてやる」

 

「「はい!」」

 

ニコリと告げる三杉に、空と大地は笑顔で返事をする。

 

「ええ話の途中で悪いんやけど、これからどないしましょうか?」

 

仕切り直すように天野が先行きを尋ねる。

 

「とりあえず、氷室はこのタイムアウトの時間内に立ち直ってくるか?」

 

「難しいだろうな。並の精神力ではまず不可能だ。過去に、三杉の相手をした者の中には、2度とバスケが出来なくなった者もいるからな」

 

「マジですか!?」

 

堀田から告げられた新たな事実に、空は驚きを隠せなかった。他の者も同様であった。

 

「……今のは冗談なのだが」

 

困った表情を浮かべる堀田。

 

「健、普段は堅物な君では冗談に聞こえないよ」

 

「むぅ…」

 

こんな2人の掛け合いを、他の者達はポカンとしながら眺めていた。

 

「まぁ、冗談はともかく、簡単には立ち直れないだろう。俺の『支配』は、精神に頼るところが大きいからね」

 

「なら、下げてきますかね?」

 

「それは、相手の監督と、氷室次第さ」

 

選手同士で試合のこれからの作戦を考察していく。そこに、上杉が、口を開く。

 

「とりあえず、ボール運びは引き続き、三杉がやれ。紫原は堀田に任せる。オフェンスは先ほどまでと同様、堀田を中心に攻める。終了まで、攻撃の手を緩めるなよ」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「ハァ…ハァ…!」

 

氷室がベンチに戻ると、すぐさま腰掛け、タオルを頭に被って俯いている。

 

「氷室! いったいどうしたアルか!?」

 

尋常ではない様子の氷室に、劉が心配そうに声をかける。

 

氷室は、目を見開きながら口を開く。

 

「分からない…分からないんだ。何が本物で、何が偽物かが…」

 

タオルを力一杯握りしめ、絞り出すように声を出していく。

 

「(…氷室をここまで壊してしまうとは…、三杉誠也。奴はいったい、氷室に何をしたんだ…)」

 

荒木は、相手ベンチの三杉を睨みつける。

 

「(噂には聞いたことはあった。アメリカで活躍する日本人2人の話は。まさか、これほどとは…!)」

 

予想外の現在の状況に、荒木の心中は焦りに焦っていた。

 

「(どうする? 氷室を一旦下げるか? …いや、そうなったら、三杉を相手にゲームメイク出来る者がいなくなる。何より、得点力が半減してしまう…)」

 

想定をはるかに超えた三杉と堀田の実力。氷室の不調。陽泉にとっての不安要素がここに来て出来てしまった。

 

「(落ち着け! 落ち着け! 主将の俺がこの様では試合に勝つことなど不可能だ! 俺がどうにかしないと…!)」

 

氷室は自身の顔を両手で叩き、落ち着かせようとする。

 

「氷室さん…」

 

そんな氷室を見て、チームメイトの不安はさらに広がったいく。

 

「(もっと相手(三杉)をよく見ろ! フェイクを見定めて…)むごっ!」

 

さらに集中力を高めようと自問自答していると、紫原が氷室の口に棒状の駄菓子を突っ込んだ。

 

「むぐっ…、あ、敦? いったい何を…」

 

「室ちん~、そんなんで試合に出られてもこっちが困るからさぁ、もう下がってもいいよ」

 

口に入れられた駄菓子を抜き取り、文句を言うと、紫原がベンチに下がるように提案する。

 

「こっから先は俺が何とかするよ」

 

「何とかするって、どうするんだよ?」

 

「俺が全部やる。俺が全部止めて、全部決めればそれで勝ちじゃん」

 

オフェンス、ディフェンスも全てこなすと宣言する。

 

「全部止めて全部決めるって、いくら何でもお前でもそれは…」

 

チームメイトはそれは無茶だと心配する。

 

「出来る出来ないじゃなくて、やるだけだし。…まさこちん、ヘアゴム1つ貸してくんない?」

 

「まさこちんと呼ぶなと言ってんだろ! …だが、紫原、いくらなんでもそれは無茶だ。両方やろうとすれば、何処かで綻びが出来る」

 

竹刀で紫原の頭を叩きつつ、紫原の提案を拒否する。

 

紫原は受け取ったヘアゴムで自身の後ろ髪を束ね、1歩も引かない。

 

「(…あの敦が、ここまで勝つために必死になってくれている…)」

 

バスケへの執着心が少なかった以前であれば、とっくに勝負を投げていたかもしれない。

 

「(敦とて、堀田を相手に余裕があるわけではない)」

 

少なくとも、現状では堀田と紫原は互角。そこに余力などあるはずがない。

 

「(…そうだ、陽泉には、敦がいる…)」

 

氷室は、自分が三杉に勝てなければ陽泉は負けると考えていた。故に、がむしゃらに三杉に食らいつこうと考えていた。

 

「(俺が1人で全てを背負い込む必要はないんだ…)」

 

陽泉には紫原という絶対的な柱がいる。他にも頼れるチームメイトもいる。自分1人が奮闘しなければ勝てないチームではない。

 

頼れる仲間…、それを理解したことにより、落ち着きを取り戻し、狭まっていた視野が広がっていく。

 

「いくら敦でも攻守の両方をこなすのは無理だ」

 

被っていたタオルを手に取り、紫原の肩に手を置く氷室。

 

「室ちん?」

 

「いくら敦でも、攻守の全ては負担が大き過ぎる。オフェンス面では俺がフォローする。そうすれば、敦の負担は減る」

 

「大丈夫なのー?」

 

「心配はいらない。さっきまでは、フェイクか否かを見失っていた。実際、今も定まっているわけではない。…だが」

 

氷室はベンチから立ち上がる。

 

「俺達(陽泉)の勝利は見失っていない」

 

真剣な面持ちで紫原を直視する。

 

「……ん、それじゃー、これまでどおり、オフェンスは室ちんの力を借りるよ」

 

迷いのない氷室の表情を見て、再び、氷室にフォローを任せることを決める。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴る。

 

「さあ、行こう! 残り時間、最後の1滴まで絞り出そう!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り2分52秒

 

花月 50

陽泉 40

 

 

両ベンチから選手達がコートへとやってくる。

 

「…なるほど」

 

「どうかしました?」

 

陽泉側を見て、三杉は何か納得した表情をする。

 

「氷室辰也。大した選手だ。タイムアウトの間で完全に立ち直ったようだ。並の精神力ではこうはいかない」

 

「さすが、キセキの世代にもっとも近しい選手と称されるだけはありますね」

 

大地も、何処か吹っ切れた氷室を見て、感嘆の声を上げる。

 

「陽泉は誰1人、目が死んでいない。あの目をしている限り、何が起こるか分からない。…集中を切らないようにな」

 

「はい、分かっています」

 

三杉の忠告を得て、改めて集中し直す大地。

 

試合は、三杉のフリースローから開始される。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

三杉がフリースローをきっちり決め、3点プレーを成功させる。

 

劉が素早くリスタートをし、氷室がボールを受け取ると…。

 

「行くぞ!」

 

陽泉選手全員がフロントターンまで走り始めた。

 

「っ!? ここでランガンかよ!?」

 

これまで、陽泉は、オフェンスではハーフコートオフェンスが主流であった。ところが、試合終盤のこの局面で速い展開のバスケを仕掛けてくる。

 

フロントコートに進んでいく氷室に、三杉がディフェンスに向かうと、氷室はそれに捕まる前に永野にパスを捌く。

 

ボールを受け取った永野はそのままドリブルで進んでいく。

 

「やっべ! ボール運びが出来んのは氷室だけじゃねぇんだった…」

 

陽泉の本来のポイントガードは永野。この手の仕事はむしろ本職である。

 

慌てて空が永野のチェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

永野がカットインで空の横を抜けようとする。

 

「行かせねえ!」

 

空も抜かせまいと永野の動きに付いていく。

 

空が横に並走してくるのと同時にビハインドバックパスでスリーポイントの外側で待ち構える木下にパスを出した。

 

ボールを受け取った木下に、大地が間髪入れずにチェックに入る。すると、木下はシュート態勢に入る。

 

大地はスリーを阻止するするべく、跳躍してブロックに向かう。木下は、シュートを中断し、ボールを下げて大地のわきの下から中へパスを出した。そこには、氷室が走りこんでいた。

 

ボールを再び受け取ると、すぐさまインサイドに立っている紫原にボールを渡した。

 

紫原は、左右に揺さぶりをかけると、そのまま高速ターンで堀田をかわすと、そのままボールを持って跳躍する。

 

「やすやすさせると思うな!」

 

正面からブロックに向かう堀田。

 

『タイミングはバッチリだ!』

 

『パワーではまだ堀田の方が上だ! どうする!?』

 

堀田のブロックは速く、紫原の前に万全の態勢で迎撃に来ている。

 

「(だったら、これならどうだよ!)」

 

紫原は、頭の上に持ち上げたボールを頭の後ろへと動かす。

 

「(っ! これは!)」

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

紫原は、後ろへと持って行ったボールを堀田の上からリングへと叩きつけた。

 

「届かなきゃ、いくら力があっても意味ないし」

 

「…ちっ、厄介な技だ」

 

今、紫原が行ったダンクは、トマホークと呼ばれるダンクである。

 

高い身長に加え、ジャンプ力、ウィングスパンがある紫原が行えば、ブロック困難のダンクとなる。

 

「…」

 

紫原は自身の手を見つめている。

 

「(力がどんどん沸いてくる。今なら、誰にも負ける気がしない)」

 

拳をギュッと握り、自分の力の増大を自覚する。

 

「気にするな、1本、返すぞ」

 

リスタートし、三杉がゲームメイクを始める。

 

「……そう来たか」

 

フロントコートまでボールを進めると、三杉の前に氷室と木下がダブルチームでマークする。

 

「あなたを徹底的に抑える。今の敦なら、あなたと堀田以外では失点する心配はないからね」

 

「良い判断だ」

 

三杉は動じることなくボールを突いている。

 

「…」

 

「「…」」

 

ゆっくりと機会をうかがう三杉に対し、氷室と木下は全身全霊を持ってディフェンスをしている。

 

数秒、対峙していると、三杉が動く。

 

「っ!」

 

シュート態勢に入った三杉に対し、木下がブロックに飛ぶ。

 

だが、これはフェイク。すぐさまその横をドライブで抜けていく。

 

「行かせないよ!」

 

そのドライブに、氷室はピッタリと付いていく。

 

「なるほど、シュートは彼(木下)、ドリブルには君が備えるというわけか」

 

「ええ。俺1人では、あなたを止めれないし、シュートかドリブル、見分けがつかない。ならば、2人で分担して止めればいい」

 

迷いが出てしまえば、2人がかりでも三杉を止めることは出来ない。故に、一方がシュート、一方がドリブルをと、初めから担当を決め、迷いを消し、三杉に当たった。

 

「…ふむ、さすが、キセキに1番近いとされていると称されるだけのことはある。特にメンタル面では、彼らを凌駕しているかもしれない。ならば、無理するのはやめておこうか」

 

三杉はハイポストに展開していた天野にパスを出す。

 

パスを受けた天野は、空いている大地のパスを捌く。そこから大地が堀田へとパスを送った。

 

『来たぞ!』

 

ボールを受けた堀田。紫原が背中へと付く。

 

『いくら堀田から点を取れても、堀田を止められなければ点差は縮まらないぞ!』

 

 

――ジリ…ジリ…。

 

 

堀田が紫原を背中でジリジリと押し込んでいく。

 

「…ぐっ…!」

 

歯を食い縛って堀田の進行を阻止しようと試みるが、堀田の進行は止まらない。

 

『ダメか!?』

 

絶望の声がチラホラ響く。

 

「(くそっ! 止まらない! 力が足りな――)」

 

 

――違う、もっと腰を落とすんじゃ!

 

 

「っ!?」

 

その時、紫原の頭の中に、言葉が響き渡る。

 

 

――そして上体は上げる。これが、力を無駄なく発揮する態勢じゃ。

 

 

それは、陽泉の前主将、岡村の言葉だ。

 

彼らの代の選手達の卒業前、才能任せでろくに身体の使い方を知らなかった紫原に、最後の置き土産として指導していった。

 

それは、自分達が成しえなかった、全国制覇を成し遂げてもらうために……。

 

紫原は、その教えの通り、腰を落とし、上体を上げた。

 

「(むっ? 重くなったか?)」

 

突如、堀田の進行が止まった。更に背中で押し込もうとするも、紫原はピクリとも動かない。

 

シュートを打てるポジションではあるが、僅かにリングと距離があるため、狙ったところでブロックされるだけである。

 

「(…ならば!)」

 

堀田は反転してバックステップをし、紫原から距離を取り、そのままシュート態勢に入る。

 

が、それはフェイクであり、本命は、フロントターンからのダンク。

 

『行ったーーっ!!!』

 

「(負けない! 絶対に! 俺が勝たせるんだ!)」

 

紫原がブロックに飛ぶ。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

堀田の手から、ボールを弾き飛ばした。

 

『うおぉぉぉぉぉっ! 止めたぁぁぁぁぁっ!!!』

 

「堀田さんがブロックされた!?」

 

この光景に、空も驚愕を隠せなかった。

 

「速攻だ!」

 

ルーズボールを拾った氷室がそのままワンマン速攻を始める。

 

「くそっ!」

 

花月も、急いでディフェンスへと戻っていく。

 

スピードと運動量がある花月選手達、すぐさまディフェンスに戻る。

 

氷室の前に三杉が立ち塞がる。氷室は、三杉のチェックが厳しくなる前に、ボールをリング付近に放った。

 

そこに、走りこんでいた紫原がボールに向かって跳躍する。同じく、並走していた堀田がブロックに飛ぶ。

 

「絶対に決めてやる!」

 

「させんぞ!」

 

両者が激突する。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

紫原が堀田のブロックを弾き飛ばし、空中で掴んだボールをリングへと叩きつけた。

 

『うおぉぉぉぉぉーーーーーっ、ぶち込んだーーーっ!!!』

 

そして…。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が2本指を振り下ろし…。

 

「バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『しかも、バスカンだぁぁぁぁぁっ!!!』

 

会場がこの日、最高に沸き上がる。

 

「っしゃぁっ!」

 

拳を握り、喜びを露わにする紫原。

 

「ナイス、紫原!」

 

選手達も紫原に駆け寄り、一緒に喜び合う。

 

「ちっ」

 

思わず舌打ちをする堀田。

 

「大丈夫か? まさか、健のブロックを弾き飛ばすとはね。…ゾーンが深くなったか?」

 

「それもあるだろう。だが、それ以外にも要因がある」

 

堀田の下に歩み寄った三杉が堀田の肩に手を置く。

 

「だろうね。恐らく、心理的なリミッターが外れたのだろう」

 

「心理的な?」

 

「あれだけ体格に恵まれていれば、力の差がありすぎて全力を振るうだけで相手をケガさせてしまうこともあるだろう。だが、全力をもってしても、対等以上に戦える相手に出会えた」

 

「…なるほど、そういうことか」

 

堀田自身も、過去、日本にいた時に経験があるためか、納得する。

 

「今の彼を止めるのは至難の業だ。…どう止める?」

 

「特に策を講じる必要はない。このまま行く」

 

「何か考えがあるのか?」

 

「お前も分かっているのだろう?」

 

「……分かった。なら、そうしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

バスカンにより、フリースローラインでボールを受け取る紫原。

 

「(決めろ…!)」

 

『決めてくれ!』

 

両手を顔の前に組んで祈る陽泉選手達。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『よおぉぉぉしっ!!!』

 

紫原、決して得意ではないフリースローをきっちり決める。

 

 

花月 51

陽泉 43

 

 

花月リスタート、三杉がボールをキープする。

 

三杉の前に立ち塞がるのは、氷室と木下。

 

「…」

 

三杉はすぐに大地にパスをし、大地はインサイドの堀田にボールを渡す。

 

「…」

 

「…」

 

何度目となる2人の激突。

 

「ぬぅっ!」

 

「んのぉ!」

 

堀田が強引にシュートをする。紫原はブロックに向かう。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれる。

 

 

――ポン…。

 

 

そのルーズボールを、三杉がタップで押し込んだ。

 

『おしい!』

 

『けど、堀田からの失点は防いだぞ!』

 

此度の激突は、紫原に軍配が上がる形となった。

 

「…」

 

堀田は、特に反応することなく、ディフェンスへと戻っていく。

 

「行けるぞ! みんな、ここが正念場だ! 最後の1滴まで絞り出せ!」

 

『おう!!!』

 

陽泉のオフェンス……。

 

ゲームメイクをする氷室に対し、マークするのは三杉。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

氷室がドライブを仕掛ける。

 

その氷室を、三杉が猛追する。三杉の背中には、劉のスクリーンが待ち受けていたのだが、三杉はそれを反転しながらかわす。

 

「スクリーンにかからないのは分かっている!」

 

三杉がスクリーンをかわせば、ほんの僅かだが、氷室を追いかける際に遠く膨らなければならず、その瞬間、氷室がノーマークになる。その一瞬を狙って紫原にパスを出す。

 

ボールを受け取った紫原は…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

再び、トマホークで堀田の上からボールを叩きつける。

 

『すげぇ! もう、紫原は誰にも止められない!』

 

「…マジかよ」

 

堀田から連続で点を決めた紫原を、茫然と見送る空。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

続く、花月のオフェンスは、紫原にブロックされ、失敗する。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

ルーズボールを劉が拾い、それを氷室に託し、紫原がフィニッシャーとなり、再び得点を重ねる。

 

「くそ…」

 

じわじわと縮まる点差を目の当たりにし、焦りの色が見える花月選手達。

 

攻守が切り替わり、花月のオフェンス。

 

三杉が大地にボールを渡し、大地がインサイドへ切り込んでいく。

 

「っ!?」

 

そこへ、紫原のプレッシャーが大地を襲う。

 

「(くっ! 今の私では、紫原さんは突破出来ない…!)」

 

パスに切り替え、堀田にパスを出そうとする大地だが、劉がディナイに入った為、それを断念。

 

「大地!」

 

逆サイドで空がボールを要求し、そこへ大地がパスを出す。

 

「っ! 綾瀬、出すな!」

 

「えっ?」

 

三杉が声を張り上げるが、僅かに遅く、大地は空へパスを出してしまう。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ! しまった!?」

 

「若いな」

 

大地が出したパスは、パスコースを読んでいた氷室によってスティールされてしまう。

 

『ターンオーバーだ!』

 

「走れ!」

 

氷室の掛け声を合図に、陽泉選手達がフロントコートへと走り出す。

 

「くそっ!」

 

ターンオーバーとなり、全速力で自陣へと戻っていく花月側。

 

「…っ」

 

やはり、スピードと運動量が豊富な選手が揃う花月側。戻りが速く、すぐさまディフェンス態勢を整える。

 

『うわぁ、花月戻りはえー!』

 

ローポストに紫原が立ち、堀田がマーク。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

氷室がドライブで切り込む。対峙するは三杉。背中には劉のスクリーン。

 

背中のスクリーンをかわしながら氷室を追いかける三杉。それと同時に大地と天野が紫原に対してディナイをかける。

 

切り込んだと同時にパスを出す。

 

「あっ!?」

 

思わず大地が声を上げる。氷室がパスを出したのは、紫原ではなく、スリーポイントラインの外側にいる木下だった。

 

「くっ! 間に合え!」

 

大地がすぐさま木下のチェックに向かう。木下、スリーポイントラインから1メートル離れた場所に立っていたが、構わずシュートを放つ。

 

192㎝という長身から放たれる高い打点に加え、スリーポイントラインから1メートル離れたところからシュートを放った為、スピードと跳躍力がある大地でも届くことなかった。

 

「入れ!」

 

決死の思いを放ったボールに込める。ボールの行方は……。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールは、リングの中央を潜った。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 

起死回生のスリーを決めた木下は絶叫しながら喜びを露わにする。

 

「…私は、何てことを…!」

 

オフェンス時は氷室にパスカットされ、ディフェンスではアウトサイドシューターの木下のマークを外してしまうという失態。

 

悔しさを露わにする大地。

 

「…仕方がない。氷室の方が1枚上手だっただけだ。まだ、逆転されたわけではない。切り替えろ」

 

肩にポンっとそっと手を置き、激励する三杉。

 

流れは完全に陽泉に傾いた上に、内と外と、的が絞れなくなった最悪の状況。現状の悪さを理解してしまっているため、焦りは拭えない。

 

一時、11点もあった点差も、3点まで縮まっている。

 

『3点差だ!』

 

『スリーなら同点だ!』

 

会場のボルテージは最高潮。

 

『陽ー泉! 陽ー泉!』

 

流れは陽泉にある。

 

「…」

 

三杉がゆっくりとボールを進めていく。

 

変わらず、三杉の前には氷室と木下が。

 

「流れも勢いもこちらにある。そして、敦を止めることも、突破することもできない。残り時間は僅か。もう、打つ手はない」

 

氷室が、三杉を焦らせる目的も含めてトラッシュトークを仕掛ける。

 

「……まだ、時間は充分にある。結論を出すのは早いんじゃないかな?」

 

一切動じることなく、そう返す。

 

最大の集中力をもって三杉をマークする氷室と木下。

 

「…会場がうるさいね。少し、静かにしてもらおうか」

 

そう呟いて、三杉が動く。

 

シュートフェイクを入れて木下をかわし、そのままドライブ。

 

「行かせるか!」

 

ドライブに対応した氷室が三杉に追いかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックロールターンで氷室をかわした。

 

『氷室と木下を抜いた!』

 

そのまま紫原に突っ込み、三杉と堀田の2人、2対1のアウトナンバーで紫原に対抗するかと思われたが…。

 

「なに!?」

 

三杉は、堀田にパスをし、数的有利を消してしまった。

 

そして、堀田と紫原の対決。

 

「どういうつもり? もう、お前1人じゃ、俺には勝てないよ?」

 

堀田の背中から囁くように言い放つ。

 

「…もう、お前が俺を止めることはない」

 

そう返し、そのままリングに向かって跳躍する。

 

「無駄だって、言ってんだろ!」

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

堀田のダンクを、紫原がブロックする。

 

「よし! 紫原の勝ちだ!」

 

ブロックを確信し、拳を握る陽泉選手達。

 

「っ!?」

 

その瞬間、紫原の腕に強大な衝撃が襲い掛かる。紫原のブロックは、どんどん押されていき…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

「ぐぁっ!」

 

ブロックに向かった紫原は弾き飛ばされ、ボールはリングへと叩きつけられた。

 

『……』

 

静まり返る会場。ゆっくりと着地する堀田。

 

「(あいつ(堀田)の力が急に上がった…)」

 

座り込みながら茫然とする紫原。

 

『さっきまで互角だった紫原を吹っ飛ばした…』

 

「まさか、あいつもゾーンに入りやがったのか?」

 

今の光景を見ていた火神がそう結論する。

 

「…いや、そんな感じはしねぇ」

 

その考えを、青峰が否定する。

 

「…」

 

紫原を一瞥すると、堀田は自陣に戻っていった。

 

「くそ…待て…!」

 

それを見て紫原が立ち上がり、フロントコートまで走っていく。

 

会場が未だ、不気味な静けさをする中、氷室がゲームメイクをしている。

 

氷室がハイポストの劉にパスをし、そこからローポストの紫原にボールを渡す。

 

「もう1回、叩き込んでやる!」

 

紫原が堀田を押し込み、そのままボールを片手に持って跳躍する。

 

再び、トマホークで堀田の上から叩き込もうとする。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

だが、堀田はあっけなく紫原の手に収まるボールを片手で叩き落とした。

 

その光景を、紫原は目を見開いて驚愕する。

 

「そんな…、敦のトマホークをこうもあっさり…」

 

氷室も茫然としていた。

 

ルーズボールを空が拾い、そのまま前方に投擲する。そこには、すでに三杉がフロントコートまで走っていた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを受け取った三杉がワンマン速攻をし、そのままリングにボールを叩きつけた。

 

「…くっそ!」

 

立ち上がろうとする紫原だったが…。

 

「あっ…」

 

足に力が抜けてしまったかのようにその場に膝から落ちる。

 

「なん…で? 力が…入ら…ない…」

 

自身に起こっている身体の異変に戸惑いを隠せなかった。

 

「……時間切れだ」

 

「な…に…?」

 

座り込む紫原に、堀田が告げていく。

 

「ゾーンの限界時間が来たのだ」

 

「っ!? 何で…? さっきまで、力が溢れてきてたのに…」

 

「それは、集中力が高まり、ゾーンの深奥にさらに潜っていったからだ。だが、もう、お前の身体は限界…いや、とっくに限界を超えていた。もっとも、俺への対抗心か、それとも怒りか、それらが影響して、自覚がなかったようだがな」

 

「っ!?」

 

堀田の口から告げられた事実に、言葉を失う紫原。

 

「アメリカでは、ゾーンに入る素質がある者…、特に、センターのポジション担う者は、ゾーンに入る条件を満たしても、あえてトリガーを引かない。それは、今のお前のように体力を使い尽くしてしまうからだ」

 

バスケにおいて、もっとも消耗するポジションはセンターである。それは、センターの戦場がゴール下であるからだ。

 

常に敵と味方のゴール下で肉弾戦が求められるセンタープレイヤー。体力、筋力の消耗が激しく、状況や試合によっては、あっという間に限界がきてしまう。

 

「察するに、お前がゾーンに入ったのはこれで2回目だろう?」

 

「っ!」

 

「ゾーンに入った時の、他を圧倒し、全てが思い通りになるあの感覚は、麻薬に近い。故に、それに溺れて攻守に渡って動き続ければ、気が付かない内に体力は空になる。第2Q途中まで守備に専念していたとは言え、第4Qの頭からゾーンに入ったことを考えれば、ここが限界だ」

 

「…そん…な」

 

拳を握り、悔しさを露わにする紫原。

 

「お前は、ゾーンを使いこなすにはまだ鍛え方が足りない」

 

「くっ…そ…!」

 

「だが、ここまでお前はよくやった。お前は間違いなく、俺を…いや、俺達を追い詰めた。その事実に、敬意を表する」

 

それを告げ、堀田は自陣に戻っていった。

 

「くそ…くそ…くそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

紫原は床を何度も叩きつけ、声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り13秒。

 

花月 55

陽泉 50

 

 

陽泉のオフェンス。

 

「ハァ…ハァ…」

 

インサイドで、紫原が呼吸を大きく乱しながら立っている。

 

「くっ!」

 

先ほどまで流れが一気に途絶え、紫原は限界を迎えてしまった事実が、氷室を焦らせる。

 

「(まだだ! まだ追いつける!)」

 

氷室は、胸中で自分に言い聞かす。

 

「(劉がスクリーンに入った。彼はそれを理解しているはず。なら、それを逆手に取る!)」

 

頭の中でオフェンスプランが出来上がる。

 

氷室は、ドライブで三杉の横を抜けていく。

 

だが、それはフェイク。本命は…。

 

「(この試合、俺はスリーを1度も打っていない。過去の試合でも印象に残るほど打っていない。ここで決められる自信もある。スリーを決めて、オールコートディフェンスを仕掛け、もう1本取る!)」

 

氷室がスリーの態勢に入る。

 

 

――バチィィィィン!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、氷室がスリー態勢に入ろうとしたその瞬間、その手に収まっているボールを三杉が叩き落とした。

 

「そう来ると思っていたよ。君は過去の試合でも、何本かスリーを打っていたからね」

 

「バカな!? 県予選の…それも、ノーマークで数本打った程度だぞ!?」

 

「主将であり、エースである君のデータを見落とすことなど、あり得ないよ」

 

氷室の手からこぼれたボールを三杉が拾い、そのままワンマン速攻。トドメを刺しに行く。

 

「(動け…動けよ! どうして動かないんだよ!)」

 

ワンマン速攻で、どんどん陽泉ゴールに迫る三杉。

 

自分の身体ではないかのように重い身体。動かない脚。

 

「(どうして! 去年も最後の最後で…! 動けよぉっ!)」

 

紫原は強引に足に力を込める。

 

「(火神だって、限界を超えてきた。…俺だって、出来るはず! …いや、やんなきゃダメなんだよ!)」

 

 

 

――ダッ!!!

 

 

 

渾身の力を足に込め、最後の力を振り絞る。

 

立ち上がると、全速力で自陣ゴール下まで戻っていった。

 

「…へぇ、これは予想外だ。さすが、健が認めただけのことはある」

 

紫原を確認する三杉。再びゾーン状態に戻ったことを理解する。

 

「こっちだ!」

 

反対側に現れた堀田がボールを要求する。

 

「分かった。最後の勝負をするといい」

 

要求どおり、堀田にボールを渡す。

 

「来いよ!」

 

両腕を広げ、ゴールを守護する紫原。

 

「…紫原敦…。俺はお前と戦えたことを誇りに思う。そして、改めて、お前という選手を尊敬する」

 

堀田がボールを掴み跳躍する。

 

「次、お前と戦う時、その時は、お前を、最大にして最高のライバルとして迎え撃とう」

 

紫原もブロックに飛ぶ。

 

「眠れ、最高の戦士よ。これで終いだ」

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

ブロックに飛んだ紫原。

 

だが、紫原に、堀田を止めるだけの力は、残っていなかった。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

そして、ここで試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

両校の激闘は……。

 

 

 

 

 

 

今ここで、終結した……。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





陽泉戦、これにて終了です。

本当は、去年までに終わらせたかったのですが、間に合いませんでしたorz

ペースが落ちてきたので、ここいらでペースを元に戻せれば……。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!



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第42Q~四強~


投稿します!

一気に日程を進めます。

それではどうぞ!


 

 

 

試合終了

 

花月 57

陽泉 50

 

 

大激戦に、ついに終止符が打たれた。

 

 

「陽泉が……紫原が、負けた…」

 

観客席で観戦していた火神が、茫然としながら呟く。

 

「花月高校……、マジでシャレにならない強さだな…」

 

「ああ。特に、堀田健の実力は異常過ぎる。ゾーンに入った紫原と、対等にやり合うなんて…」

 

同じ列で観戦していた日向、土田も神妙な表情で感想を言い合っていた。

 

「三杉誠也も同様だ。あの氷室をああも抑え込んだ」

 

両膝の上に肘を付き、顔の前で手を組みながら伊月もポツリと呟く。

 

『…』

 

衝撃の試合結果に、誠凛メンバーは静まり返る。

 

「…でも、紫原も凄かったよな! ゾーンがあそこで切れてなかったら、分かんなかったよな!?」

 

暗くなっていたムードを明るくするため、小金井が大きめな声で言った。

 

「…『たら』とか『れば』を言い出したら、キリがないが、紫原の奮闘があったからこそ、ここまで競った試合になったって言えるな」

 

攻守で紫原が起点となり、花月高校を追い詰めていった。

 

「……冬、優勝するためには、あいつらにも勝たなきゃならないってことか」

 

『…』

 

何気なく、火神が口にしたこの言葉を聞き、再び静まり返る誠凛メンバー。

 

「……強くなりましょう」

 

「…黒子?」

 

「もっと強くなりましょう。冬、また優勝するために」

 

黒子が、真剣な面持ちで、自分と、誠凛のメンバーに言い聞かせるように言う。

 

「黒子君の言う通りよ。劣っている言うなら、もっと練習して私達も強くなればいいだけのことよ。去年もそうだったでしょ?」

 

黒子の言葉に同調したリコが皆に問いかける。

 

「…そうだな。足りねぇ…及ばねぇところがあるなら、もっと練習して補えばいいだけのことだ。冬までに、あいつらを倒す為に必要なモノを掴もうぜ!」

 

『おう(はい)!!!』

 

それに、日向も同調し、誠凛メンバー全員がそれに同調し、冬の連覇に向けて、気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

試合の行方を、目の当たりにした青峰。無言のままコートを見つめている。

 

『どっちが勝ってもおかしくない内容だった』

 

『紫原と堀田の勝負は白熱したよな』

 

『ああ。双方共に互角で、どっちが勝ってもおかしくなかった』

 

観客達も、未だに興奮が冷めやらぬ様子で感想を言い合っている。

 

「(…今日の紫原はかなりやばかった。正直、戦ってたのが俺だったら負けてたかもしれねぇ…)

 

試合を最後まで観戦して、最初に抱いた感想だった。

 

「(その紫原と互角にやり合った堀田…。だが、今日見せたあれがあいつの全力だったのか?)」

 

コート上の両者を見比べると、劉の肩に腕を回し、それでようやく立っているのがやっとの紫原に対し、肩で大きく息をしているものの、自分の足で立ち、足取りもしっかりしている堀田。

 

最後の1滴まで絞り出し、すべてを出し尽くした紫原に対し、堀田は、まだ、余力を残していることを意味する。

 

「(にしても、気に食わねぇのあいつだ)

 

コート上の、堀田から視線を外し、その横で、何やら話をしている三杉へと視線を向けた。

 

「(あいつが、もっと積極的に点を獲りに行っていれば、点差はこんなもんじゃすまなかったはずだ)」

 

今日の三杉は、氷室を圧倒しつつも、堀田にパスを捌くことがメインで、自身ではほとんど点を獲りにいかなかった。

 

「……ハッ!」

 

思わず、青峰の表情から笑みをがこぼれた。

 

「(いいね、勝ちあがりゃ、あいつらとやれると思うと、ゾクゾクするぜ!)」

 

自身と同格。全力で戦える実力者が2人も在籍している花月高校と戦うことを今から熱望する青峰。

 

「やつらと戦うためには――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…ふぅぅぅっ」

 

試合終了のブザーが鳴ったのを確認すると、堀田は深く息を吐き出した。

 

「お疲れ、健」

 

「…ああ」

 

そんな堀田を、三杉が労った。

 

「一筋縄では行かない相手だった。死力を尽くすに値する相手だったよ」

 

「うん、君の言う通りだ。健とここまで戦えるとは思わなかった。…紫原敦、大した男だよ」

 

額に当てていたヘアバンドを首元に下げる三杉。

 

「奴はもっと強くなる。次は、果たしてどうなるかな…」

 

「近い将来、健と紫原敦で、日本最強のセンターの座を、争うことになるかもしれないね」

 

「もちろんだ。そうなってもらわねば困る。…もちろん、負ける気は毛頭ないがな」

 

三杉の予感に対し、自信満々で答える堀田だった。

 

「…」

 

「…」

 

神妙な顔で黙り込む空と大地。

 

「なんや、辛気臭い顔しとるのう。勝って嬉しくないんか?」

 

2人の肩に腕を回して引き寄せる天野。

 

「…そりゃ、勝ったことは嬉しいですよ。…けど…」

 

「我々は、紫原さん相手に何もできませんでした…」

 

歯をギュッと食い縛り、悔しさを露わにした。

 

「氷室にも、一矢は報いたけど、試合通して見たら、経験、技術、あらゆるもので及ばないのは一目瞭然です」

 

「終盤、紫原さんの限界が来たからいいものの、そうでなければ、私の浅はかなミスで負けるところでした」

 

この試合での反省点を次々と述べていく2人。

 

「ま、確かに、誠さんとたけさんおらんかったら、確実にうちら惨敗やったろうな。けどまあ、そう腐ることもないやろ。実際、紫原敦は、空坊と大地坊には相性最悪の相手なんやし」

 

身長がない空と大地にとって、身長があり、身体能力と力に優れている紫原は天敵と言ってもいい相手。

 

「インターハイは、長いようで短いで。大会中に何か掴まんと、誠さんとたけさんがおらんウィンターカップ、惨敗するで。たくさん、2人から学ばせてもらおうや」

 

「ウッス!」

 

「もちろんです」

 

三杉と堀田の背中を見た3人が、決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

センターサークル内に整列する両チームの選手達。

 

「57対50で、花月高校の勝ち!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

共に礼をする。

 

「…完敗だ」

 

「君達も強かったよ」

 

三杉と氷室が前に出る。

 

「まだまだ、あなたには及ばないか…」

 

「紙一重さ。勝てたのは、僅かばかりに運が巡っただけさ」

 

「謙遜を…。だが、次は負けない。もっと練習して、次は勝たせてもらうよ」

 

「望むところだ。また、戦えることを楽しみにしてるよ」

 

2人は固く握手を交わした。

 

「さすが、あの帝光倒してMVPに選ばれただけのことはある」

 

「こっちも、結構ヒヤヒヤでしたよ。マジでキレのいいドライブでした」

 

永野が空の近くへと歩み寄った。

 

「お前ほどじゃない。…このまま優勝しちまえよ」

 

「そのつもりです。ありがとうございました」

 

同じく、固い握手を交わす。

 

「…全く、俺よりも、10㎝も低い奴に何度もブロックされるとはな。大した奴だよ」

 

「私も、あの局面、あの距離から決められる技術と胆力。脱帽致しました」

 

今度は、木下が大地に近寄る。

 

「俺達の負けだ。俺達の分まで……勝ってくれ」

 

「もちろんです。ありがとうございました」

 

同様に握手を交わした。

 

「ハァ…ハァ…」

 

劉に支えられ、立つのがやっとの紫原。

 

「…」

 

堀田は、紫原を一瞥し、踵を返した。

 

「ええんですか? てっきり、話でもするもんやと…」

 

「奴とは、試合中に充分に語り合った。勝者はただ、夢と志を継いで勝ち続けるのみ」

 

「…確かに、その通りやな」

 

堀田と天野は、ベンチへと戻っていった。

 

他の選手達も、付いていくように戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「紫原、大丈夫アルか?」

 

ベンチまで肩を貸し、ベンチまで戻った劉は、ベンチに紫原を座らせた。

 

「ちくしょう…ちくしょう…!」

 

俯き、両膝の上で拳をきつく握りしめながら悔しさを露わにする紫原。

 

「……お前がいなければ、ここまで競った試合にはならなかっただろう。…お前は、チームの柱としての役割を、立派に果たしてくれた。よくやった」

 

荒木が、紫原を労いながら、そっと頭にタオルをかけた。

 

「どうして…、どうして俺は…! 去年も…、これじゃあ、一緒じゃねぇかよ!」

 

「敦…」

 

昨年、陽泉は誠凛に負けた。

 

試合の最後、火神の必殺のダンク、流星のダンク(メテオ・ジャム)で逆転し、その直後、紫原が誠凛ゴール下まで走り、ボールを受け取った。

 

だが…、そこで…、紫原の脚は限界を迎えてしまった。

 

それでも何とかボールをリングに放とうしたものの、ただ1人、ディフェンスに戻っていた黒子テツヤのブロックを食らい、陽泉は敗北を喫した。

 

そして今年、勢いも流れも陽泉に傾き、勝機が見えた直後、紫原が限界を迎えてしまい、後一歩ところで敗北した。

 

何の因果か、昨年と似た形で…。

 

「……敦、君は決して負けてなかった。あの堀田と対等に…いや、対等以上に戦った」

 

「…そんなの、試合に負けたら意味がないじゃんか!」

 

氷室が慰めるべく声をかけるが、紫原は感情を抑えられない。

 

「だが、次は勝てる」

 

「?」

 

「敦はもっと強くなる。そして、俺も…いや、俺達ももっと強くなる。だから、次、必ずリベンジを遂げよう」

 

「っ…、当たり…前…じゃんか…!」

 

紫原はタオルをギュッと握りしめ、花月ベンチを睨みつけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

この日、2戦もの、大激闘が行われた。

 

その試合は、見る者全てを魅了し、熱狂させた。

 

勝者がいれば、敗者もいる。

 

この日、昨年のウィンターカップの覇者、誠凛高校と、絶対防御(イージスの盾)を誇る陽泉高校が、敗北し、インターハイの3日目が、終わった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その夜……。

 

激闘を終えた花月高校の選手達が、自分達の宿泊している旅館へと戻ってきた。

 

「…まだ信じらないよ。俺達が、陽泉に勝っちまうなんて…」

 

旅館の一室で、部長である馬場が、未だに夢心地の表情でポツリと呟く。

 

「ホントだよなぁ…。少なくとも、去年の俺達じゃあ、考えられなかったな」

 

馬場の対面に座る真崎が、同様の表情で返す。

 

全国で名は知られているものの、過去の実績は乏しい花月高校。全中大会に参加したことなかった2人は、キセキの世代の紫原敦を擁する陽泉高校に勝利したことに未だに実感が持てないでいた。

 

「改めて、三杉と堀田はバケモンだ」

 

「それしか感想が出ないな…」

 

三杉と堀田…。

 

数ヶ月間、共に練習をしていて、実力は分かっていた。…いや、分かっていたつもりだった。

 

だが、2人が普段、見せていたものは、実力の片鱗にしか過ぎなかったことを今日、知った。

 

「…ん?」

 

ふと、窓の外を覗くと、旅館から飛び出す2人の影が。

 

「神城……綾瀬…?」

 

それは、ジャージに着替えた空と大地だった。

 

「まさか、これからトレーニングにいくのか?」

 

2人の様子を見て、そう判断する。

 

さらに、2人に続いて、生嶋と松永も旅館の玄関から現れた。

 

「あいつら…、明日も試合があるっていうのに…」

 

インターハイは連日試合がある。当然、明日も試合が行われる。

 

空と大地に至っては、今日、陽泉高校相手にフル出場している。

 

「多分、空と大地は、今日の試合内容に、納得してないんだろうな」

 

普段、試合に勝利にした時は、抱き合うくらい喜びを露わにする空や、大地は、浮かない顔をしていたことが馬場には強く印象に残っていた。

 

「試合には勝ったけど、それは三杉と堀田がいたからこそだ」

 

「悔しかったんだろうな」

 

結局、空と大地は、紫原敦からまともに1回も得点を奪うことが出来なかった。氷室辰也も、倒したとは言い難い。

 

「…今年の冬は、三杉と堀田はいない。そのことが、さらに不安なんだろう」

 

インターハイが終わってしまえば、三杉と堀田は、アメリカにある、花月高校の姉妹校に戻ってしまう。

 

冬のウィンターカップは、2人抜きで戦い、勝ち抜かなければならない。

 

キセキの世代の実力を目の当たりにし、体感した今、それが至難の業だということを痛感させられた。

 

たとえ、大会中でも、明日に試合があろうと、時間を無駄には出来ない。

 

試合に出場する機会がなかった生嶋と松永も、キセキの世代と戦うにはまだまだ足りないものがありすぎると痛感し、自主的に練習を始めた。

 

「「…」」

 

旅館の外へ走り出した1年生達を目の当たりにした馬場と真崎はその場から立ち上がり……。

 

「後輩達が頑張ってるのに、俺達だけ休んでいられないよな」

 

「ああ。冬は、あいつらが主軸となる。俺達は恐らく…」

 

実力的なものを考えて、冬、スタメンに選ばれるのは今年入学してきた1年生達だと予想する。そうなれば、馬場、真崎をはじめとした、上級生達は出番は少なくなる。

 

「けど、俺達にだって出来ることがあるはずだ。だから、今、出来ることをやろうぜ」

 

馬場と真崎は、ジャージに着替えると、外へと飛び出していく。すると……。

 

「考えることは、皆、同じだな」

 

「お前ら…」

 

そこには、2・3年生全員が揃っていた。

 

「時間は限られとるんや。はよう、始めましょう」

 

2・3年生達は、馬場を先頭に、走り始めた。

 

空と大地は、ひとしきり走りこんだ後、1ON1を繰り返し、生嶋は、ひたすらスリーを打ち続け、松永は、筋トレを始め、上級生達は、チーム練習を始めた。

 

少しでも、自身の実力アップのため、限られた時間を練習に充てたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ふふっ、いいチームだな」

 

花月選手達の練習を眺めていた三杉がポツリと呟く。

 

「明日の試合に備えて、軽く身体を動かすつもりだったが、…やれやれ、これではそうはいかないな」

 

三杉は、選手達の下まで近づいていったのだった。

 

その後、全体で練習を始め、さらには、紅白戦まで始めたのだが、上杉がその場に現れ、チーム全員が説教される事態にまでになった。

 

三杉を始めとした、選手のほぼ全員が正座で上杉に説教を受け、呆れ顔の姫川と、苦笑いをする相川だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「やれやれ…」

 

その光景を、外から眺める堀田。

 

他の者達と同じ、明日の試合の調整のため、旅館の近場にあるコートまで足を運んだのだが、選手全員が上杉に正座で説教を受けていたため、コートに入れずにいた。

 

「…仕方がない。軽く走りこむ程度にとどめるか」

 

コートの練習を諦め、その場を後にする。

 

「…っ」

 

踵を返そうとすると、突如、足に違和感が襲い、軽く表情を曇らせる。

 

「…」

 

堀田は、ほんの僅か、考える素振りをすると、走り込みを中止し、旅館の自室へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

インターハイ4日目、3回戦が始まる。

 

この日は、キセキの世代を擁するチーム、及び、花月高校がぶつかる試合はない。

 

洛山高校……。

 

相手は、全国区の高校が相手だが、危なげなく試合を進めていく。

 

第2Q終了時には、赤司、実渕、葉山は既にベンチに下がっており、それでも、試合は優勢に進んでいった。

 

第4Q終盤には、スタメン全員がベンチに下がっており、コート上は、控え選手が試合を行っていた。

 

点差も覆らないほど開いており、試合は洛山優勢のまま進み……。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

そのまま、洛山が完勝で終わった。

 

 

 

次に、海常高校…。

 

この日、唯一、苦戦を強いられたのが、海常高校だった。

 

相手は、全国常連の大仁田高校。

 

かたや、キセキの世代の黄瀬涼太を擁する海常高校。

 

かたや、小林圭介が抜けた大仁田高校。

 

海常高校が完勝で終わると誰もが予想していた。

 

だが、試合は拮抗した。

 

第3Q終了時、点差は僅か4点差。

 

大仁田は、徹底的に黄瀬にボールを持たせないよう動き、黄瀬はほとんどボールを持たせてもらえず、チームのエースでありながら得点は僅か10点に抑えられてしまった。

 

遂には、第4Q残り3分には、同点となってしまう。

 

「仕方ないッスね」

 

海常リスタート、ボールを受け取る黄瀬。

 

『なっ!?』

 

ディフェンスに戻る大仁田の選手達の顔色が変わる。

 

自軍ゴール下で、黄瀬がシュート態勢に入る。黄瀬の手から放たれたボールは、高いループを描き…。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ほぼ、垂直でリングを潜った。

 

一瞬の静寂の後、会場に歓声で埋め尽くされる。

 

キセキの世代、黄瀬涼太の無敵の必殺技、パーフェクト・コピーが発動される。

 

それから1分間、黄瀬は、パーフェクト・コピーで大仁田を圧倒。失点を全部防ぎ、得点を量産した。

 

その1分間で、10点もの点差を付けた。

 

試合は、黄瀬のパーフェクト・コピーによって流れを引き寄せた海常が優勢に進め…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

海常高校が試合を制した。

 

 

次に、秀徳高校…。

 

やはり、試合は緑間を中心に得点を重ねていく。

 

緑間にマークが集中されれば、そこからパスを捌き、他の者が得点をする。

 

試合は、危なげなく進んでいき…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

秀徳が大差で試合を制した。

 

 

続く、桐皇学園…。

 

試合は、驚異的なオフェンス力を擁する桐皇学園がガンガン得点を重ね、相手を圧倒していく。

 

ディフェンスも、桃井さつきが調べ上げたデータを基にした先読みで封殺し、攻め手を塞いでいく。

 

コート上で、青峰を止められる者はおらず、型にはまらないバスケで得点を量産。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合は、圧勝という言葉すら生温い点差を付け、桐皇学園が制した。

 

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

――おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!

 

 

 

会場が、この日最大の大歓声に包まれる。

 

『待ってました!』

 

『これだよ! この試合を見に来たんだよ!』

 

花月高校がコート上に現れる。

 

先日、鉄壁を誇る陽泉高校を降したことにより、注目度は最高。今や、優勝候補筆頭とも言われるほどである。

 

スタメンに選ばれたのは、先日と同じ、三杉、堀田、天野、空、大地。

 

「よし、行こうか」

 

『おう!!!』

 

花月高校の、3回戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「4番と5番だ! あの2人を止めれば――」

 

相手チームの主将が、悲鳴に近い声を上げ、三杉と堀田を止めるよう指示を出す。

 

「舐めんなよ!」

 

空が、目の前の相手をドライブでかわす。そのまま、堀田対策で組んでいたゾーンに向かって突っ込む。

 

「周りを警戒しろ! パスが来るぞ!」

 

相手チームの監督が、ベンチから指示を出す。

 

だが、空はパスを出さず、相手をゾーンを高速スピンムーブでゾーンによる密集地帯を抜ける。そして、跳躍。

 

「舐めんな、1年坊が!」

 

相手センターがブロックに現れる。

 

「らぁっ!」

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

相手センターの上からワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『…』

 

茫然とする相手選手達。

 

『すげー!!!』

 

『花月は三杉と堀田だけじゃないぞ!?』

 

「そのとおり」

 

ドヤ顔で空が呟く。

 

続く、相手のオフェンスを止め、空がボールを拾い、すぐさま大地の渡す。

 

「行きますよ」

 

大地がスリーポイントラインの外側から一気に切り込んでいく。先ほどの空と同じく、ゾーンに突っ込んでいく。

 

「くそっ! 絶対止めてやる!」

 

相手が大地の侵入に備える。

 

「囲め!」

 

大地が侵入すると、ゾーンディフェンスが縮小し、大地を囲みだす。

 

「ふっ!」

 

大地がゾーンに突っ込むと、その瞬間、高速のバックステップで下がり、ディフェンスを置き去りする。

 

『っ!?』

 

フリーになった大地は、そのままミドルシュート。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

難なく得点を決める。

 

「ナイス!」

 

パチン! と、ハイタッチをする空と大地。

 

『…』

 

再び、茫然とする相手選手。

 

三杉と堀田以外のからの得点。ここで思い出す。空と大地は、あの帝光中を破って全中を制し、さらには、MVPと得点王に輝いた選手なのだと。

 

圧倒的な戦力で押しつぶされ、試合は進んでいき…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

大量得点、圧倒的な点差を付けて花月高校が試合を制した。

 

この日、番狂わせは特に起きることなく、終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日、インターハイ5日目、準々決勝。

 

この日、注目のカードは2つ。

 

 

洛山高校 × 海常高校

 

桐皇学園 × 秀徳高校

 

 

キセキの世代を擁する高校同士の激突。

 

高校入って初対戦の洛山と海常。県予選の決勝リーグでぶつかった桐皇と秀徳。

 

最初の試合は、洛山と海常の試合。

 

「去年は、結局、戦うことはなかったッスけど、今日は勝たせてもらうッスよ、赤司っち」

 

「悪いが、そうはいかない。失った栄光を取り戻すため、今日、勝つのは俺だ、黄瀬」

 

試合前から激しく火花を散らす赤司と黄瀬。

 

そして、試合は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、開始直後から動く。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

高弾道の超長距離からのスリーがリングを潜る。

 

黄瀬、試合開始直後からパーフェクト・コピーで突き放しにかかる。

 

海常の思惑どおり、試合開始僅か3分で、海常が12点もの点差を付ける。

 

「…」

 

だが、赤司…そして、洛山、一切動じず、落ち着いたバスケで展開、確実に点差を詰めていく。

 

第1Q終わった時点で、7点差で海常リード。

 

試合開始当初から勢いと流れを掴みにかかった海常だが、洛山の動揺を誘うには至らなかった。

 

第2Qから、洛山が動き出す。

 

赤司がパスを捌き、五将…実渕、葉山、根布谷が得点を量産していく。

 

海常も、黄瀬が奮闘するも、点差はどんどん詰まっていく。第2Q終了時には、同点にまでなっていた。

 

後半戦、洛山は止まらない。いや、止められなかった。

 

やはり、昨年の主力である、笠松、森山、小堀が抜けた穴は大きかった。新戦力を獲得したものの、黄瀬頼りになってしまう面も多く見られた。

 

赤司が仕掛けに入り、点差はどんどん開いてしまう。黄瀬も踏ん張るも、やはり、1人では限界がある。

 

結局、第3Qで洛山が13点もの点差を付けた。

 

第4Q、洛山優勢は覆らず、点差は、じわじわと付いていく。

 

やはり、戦力の差が大きく、黄瀬が奮闘しても、他のポジションから崩されてしまう。

 

「(り)ッバァァァン!!!」

 

辛うじて、今年、主将に任命されて早川がリバウンドを制しているため、洛山に食らいついていける状況だ。

 

第4Q、残り5分…。

 

点差は17点を付けられ、焦った黄瀬がパーフェクト・コピーを再び発動させる。

 

試合開始当初に3分間、使用したことを考えれば、試合終了までもつ可能戦は限りなく低い。だが、逆転するためにはここで使うしかない。

 

だが、これも、赤司の思惑どおりだった。

 

ここで、赤司が黄瀬のマークをし、とにかく黄瀬にボールを渡さないようにピッタリマークする。

 

「いかに、お前のパーフェクト・コピーが強力でも、ボールを持てなければ宝の持ち腐れだ」

 

「っ!」

 

黄瀬、何とか赤司を引き離そうと試みるが、赤司の目が、それを許さない。

 

ここから、膠着状態に陥る。

 

双方、共に点が入らない。

 

洛山は、黄瀬の、紫原のコピーによって、攻撃は全てシャットアウトされ、海常は、黄瀬が赤司のマークによってボールを持たせてもらえないので、点が入らない。

 

試合は、ごく稀に、黄瀬が赤司をかわし、ボールを受け取り、パーフェクト・コピーで攻めるも、洛山は、緑間のコピーに最大の警戒を強いているため、点差は2点ずつしか詰められない。

 

結果、洛山、海常は残り5分から極端に得点が減り、海常が僅かずつ点差は詰めていったものの…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで試合が終了した。

 

 

試合終了。

 

洛山 76

海常 65

 

 

洛山が準々決勝を制し、準決勝へと駒を進めた。

 

海常、ベスト8で敗退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

次は、桐皇対秀徳…。

 

県予選の決勝リーグでは、88-86で秀徳が制していた。

 

桐皇にとって、これはリベンジマッチでもある。

 

チームの相性、そして、青峰の緑間の相性を考えると、僅かに秀徳有利…と言うのが、試合開始の前の予想だった。

 

試合は、開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、第4Q、残り3分。

 

 

桐皇 80

秀徳 69

 

 

試合は、秀徳有利の予想を覆し、桐皇リードで進んでいた。

 

「ハァ…ハァ……くっ!」

 

思わず、唸り声を上げる緑間。

 

緑間は、青峰を抑えている。だが、逆に、緑間も青峰に抑えられていた。

 

県予選では、ある程度は緑間にやられていた青峰なのだが、この試合、青峰は緑間を抑え込んでいた。

 

「青峰の動き…、緑間の先を完全に読んでやがる。もしかしてあれは…」

 

「…間違いないと思います。青峰君は、桃井さんから、データを受け取っています」

 

ふと、浮かんだ火神の予想に、黒子が頷いた。

 

2人の予想は的中しており、青峰はマネージャーの桃井からデータを受け取っていた。

 

「(緑間とは、さつきのデータ抜きでやりあいたかったが、仕方がねぇ)」

 

青峰がチラリと視線を向けると、そこには、試合の備えて待っている、花月高校の面々の姿があった。

 

無論、青峰とて、これは不本意であった。だが、これには理由があった。

 

それは、何としてでも、次の対戦相手と戦いたかったからだ。

 

いつものとおり、データ無しで戦えば、試合はどう転ぶか分からない。

 

相性を考えれば、僅かに分が悪い。

 

確実に、花月高校と戦うため、渋々、青峰は桃井からデータを受け取った。

 

その結果が、桐皇リードである。

 

試合は、青峰が緑間を抑え込んだことが要因となり…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

桐皇 92

秀徳 84

 

 

この試合を、桐皇が制し、準決勝へと駒を進めた。

 

秀徳、ベスト8で敗退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そして、花月高校の試合。

 

試合は、花月が圧倒的優勢で進んでいく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がぺネトレイトでインサイドに切り込み、そのままシュート態勢に入る。

 

「させるか!」

 

そこに、2枚のブロックが現れる。

 

 

――スッ……。

 

 

ここで、空はゴール下で待つ堀田にパスを捌く。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

堀田のボースハンドダンクが炸裂する。

 

そのまま、着地すると…。

 

「…っ」

 

ほんの僅かに、表情を顰める。

 

「堀田さん? どうしました?」

 

堀田の反応が気になった空が尋ねる。

 

「…いや、何でもない。ディフェンスに戻るぞ」

 

堀田は、ディフェンスに戻っていった。

 

「…」

 

そんな堀田を、三杉は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、花月高校の圧勝で終わった。

 

試合終了後、ベンチにて…。

 

「…」

 

堀田がバッシュの紐を緩めていると…。

 

「堀田」

 

両腕を組み、険しい表情をした上杉が堀田の傍に歩み寄る。

 

「お前、どこか痛めたな? 恐らく、脚を…」

 

「…っ」

 

突然の上杉の発言に、バッシュを緩める手が止まる。

 

「俺も、同意見だ。健、今日…いや、昨日の試合を含めて、君のプレーは精彩を欠いていた。俺の目は、誤魔化せないよ」

 

三杉も堀田の違和感に気付いており、同様の感想を得ていた。

 

「えっ!? やっぱり、さっきのアレって…」

 

「大丈夫ですか?」

 

会話を聞いていた空と大地が心配そうな面持ちで堀田に歩み寄る。

 

「騒ぐほどのことではありません。…痛み…というほどではありませんが、少々、脚に違和感がありまして…」

 

隠しきれないと判断した堀田は、自身の不調を話していく。

 

「原因はやはり…」

 

「…一昨日の陽泉戦…、紫原とのマッチアップが原因やな」

 

「情報程度ですが…、紫原敦さんも、昨日の試合の後、医者に掛かったという話を耳にしました。やはり、堀田先輩も…」

 

姫川が、表情を暗くしながら言葉にしていく。

 

チーム全体が突然のアクシデントにムードが暗くなる。

 

「…」

 

少し、考える素振りをした後、上杉が口を開く。

 

「堀田。お前は明日はベンチに下げる。否は認めん」

 

上杉がそう決定する。

 

「…出れない程のものではありませんよ?」

 

決定を認められず、堀田が食い下がる。

 

「脚の怪我はバカに出来ない。ここで無理をすれば、この将来(さき)に影響する恐れがある」

 

「…ですが、次の相手は…」

 

準決勝の相手は桐皇学園…。

 

誠凛が敗れた今、オフェンス力ナンバーワンのチームである。

 

「もっと早く話していれば、昨日今日、お前を休ませる処置が出来た。黙っていた罰だと思え。…ったく、我慢は美徳ではないのだぞ?」

 

呆れた表情で堀田を窘める。

 

「…」

 

堀田は、尚も納得出来ない表情だ。

 

「まあまあ…。監督の言うことも尤もだよ。ここで無理をすることはない。…それに、そろそろ、後輩達に出番をあげてもいいんじゃないかな?」

 

納得しない堀田を窘め、親指で後ろを指さす。そこには…。

 

「お任せ下さい。そろそろ試合に出ないと、身体が鈍ってしまいます」

 

「任せて下さい。堀田先輩の教えを披露する機会を下さい」

 

不敵の笑みを浮かべる生嶋と松永の姿が。

 

「……ふっ、そう言われてしまうと弱いな。分かった。明日は、大人しく、ベンチで休ませてもらおうか」

 

ここで、堀田は納得し、上杉の言葉を聞き入れる。

 

「どのみち、お前(三杉)がいるなら、安心して試合を任せられる」

 

「君にそう言ってもらえるのは光栄だけど、プレッシャーでもあるかな。俺は、健のような規格外ではないからね」

 

信頼の言葉を贈る堀田に対し、薄い笑みを浮かべてそう返す三杉。

 

「どの口がそれを言う。…見せてもらうぞ。アメリカで、プロフェッサーとまで称された、お前のバスケを…」

 

「ああ。……やれやれ、明日は、楽しくなりそうだ――」

 

三杉は、ニコリと笑った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

準々決勝が終わり、四強が出揃った。

 

 

洛山高校 × 多岐川東高校

 

花月高校 × 桐皇学園

 

 

だが、強敵を前に、花月高校が誇る最強の盾、堀田健が欠場となってしまう。

 

かくして、激戦が終わり、また新たな、激戦が、始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





準々決勝の洛山×海常戦と桐皇×秀徳戦は、省略しました。

理由としましては、じっくり書くと、ものすごく長くなってしまうことと、上手く書ききれる自信がなかったからです(^-^;)

四強が出揃い、インターハイも佳境に入りました。ですが、堀田の欠場。いったい、どうなるってしまうか…。

それではまた!


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第43Q~研究~


投稿します!

遅くなって申し訳ありません(^-^;)

めちゃくちゃ忙しかったので、期間が空いてしまいました( ;∀;)

中途半端ではありますが、投稿致します。

追記として、今吉誠二の設定を変更します。

それではどうぞ!


 

 

 

準決勝前夜……。

 

花月高校…、旅館の一室にて、部員及び、監督、マネージャーが集合している。

 

「いいか、分かっていることだが、準決勝の相手、桐皇は手強い。全員、目ぇかっぽじって研究しろ」

 

『はい!!!』

 

マネージャーに姫川が、DVDをプレイヤーにセットし、再生する。

 

映像が切り替わると、そこには試合の映像…桐皇の試合が始まる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

試合開始して、桐皇の7番のスリーポイントが決まる。

 

「リリースが速い…、けど、それだけじゃない。かなり打ち込んでる。レベルが高いシューターだね」

 

一連のプレーを見た生嶋が、ポツリと感想を呟く。

 

「桜井良。昨年時からSGに抜擢されているピュアシューター。ブロックしづらいクイックリリースから放たれるスリーポイントは、かなり脅威です。桐皇のオフェンスは、彼から始まることが多いです」

 

姫川が、持っている自身のノートを読み上げながら説明していく。

 

「確かに、あんだけリリースが速いと、止めんのは面倒そうだな」

 

テーブルに肩肘を付きながら鑑賞している空が、若干、眉を顰めながら言う。

 

「彼が決まりだすと、桐皇が流れに乗せてしまうことになります。…マッチアップする方は、気を引き締める必要がありますね」

 

姿勢正しく鑑賞している大地が、警戒の必要性を説いた。

 

「どっせぇい!!!」

 

背番号4番のユニフォームを着た選手がオフェンスリバウンドをもぎ取る。

 

「若松孝輔。今年の桐皇の主将であり、センターのポジションを任されています」

 

「フィジカルはかなりのものですね。スピードもある。…あと、うるさい」

 

真剣な面持ちで分析をする松永。

 

「高い身体能力に豊富な運動量が彼の特徴です。ディフェンスはもちろん、オフェンスでもチームを支えています」

 

「確かに…、フィジカルは、一昨日見た、誠凛の火神に匹敵するレベルだな…」

 

高いフィジカルに、馬場も唸り声を上げる。

 

「基本、相手をするのは、松永になるわけだけど、大丈夫か? あの手のタイプって、お前、苦手なんじゃないか?」

 

マッチアップすることになる松永に懸念を感じた空が、尋ねる。

 

昨年の全中、ベスト5に選出され、帝光中を相手に1人で奮闘した松永。

 

長身でありながら、優れたスピードとテクニック、並のエース以上の得点能力を兼ね備えたセンターである。

 

だが、フィジカルはまだ発展途上であり、パワー争いは不得手である。

 

桐皇の若松は、松永にとっては相性が良くない相手である。

 

「得意ではないのは確かだが、それでもやるだけだ。…相手にとって不足はない」

 

松永は目をギラつかせ、やる気を露わにする。

 

「次に、今年からポイントガードに抜擢された1年生、今吉誠二です」

 

ゆっくりドリブルでボールを進めながら、ゲームメイクを始める、10番のユニフォームを着た選手の説明が始まる。

 

「今吉? ……確か、去年の桐皇の主将の名前が確か、今吉でしたね?」

 

ふと、大地が思い出しながら尋ねる。

 

「はい。彼は、前主将、今吉翔一の従弟にあたるそうです」

 

「去年の主将は、どうにもやりづらいって言うか、弱点を突くのが上手い選手だったけど、こいつはそれとは違う選手みたいだな」

 

「スピードは結構あるな…、テクニックも、かなりのレベルだ。それにミスも少ない、基本に忠実なゲームメイクをするタイプか…」

 

「いわゆる、『オールドスクール型』の司令塔か…」

 

馬場、真崎を始めとする、上級生たちが、分析をしている。

 

「相手をするのは俺か…、けど、この手の正統派は得意だから、完封してやる」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら背もたれに体重をかける空だった。

 

「次に、こちらも、今年からスモールフォワードに抜擢された、福山零」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

キレとスピードのあるドライブで相手ディフェンスをかわし、ペイントエリア近くまで侵入すると、急停止し、そのままミドルシュートを決めた。

 

「っ…、今のドライブ、スピードもキレもかなりのレベルだったな…」

 

一連のプレーを見て、松永は顔色を変える。

 

「確かに…、全国でも、ここまでのレベルのプレイヤーはそういない…」

 

生嶋も、同意する。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

今度は、外からスリーを決めた。

 

「中に切り込むことも出来て、尚且つ、外もあるオールラウンダーですか…、しかし、これだけの実力者なら、昨年時もレギュラーに選ばれていてもおかしくないはずなのですが…」

 

素朴な疑問を大地が口に出す。

 

「それはおそらく、これが原因だと思います」

 

姫川が、早送りで映像を進める。すると、そこには、相手選手がボールを持ち、それをディフェンスするのは、福山。

 

だが、福山は、相手のフェイクに釣られ、あっさり抜かれてしまう。

 

「…今の、特別キレもスピードも感じられなかったけど……まさか」

 

ここで空が、気付く。

 

「ええ。この選手は、驚異的なオフェンス力とは裏腹に、ディフェンス面ではかなりの難があります」

 

追加で姫川が補足説明する。

 

「そういうことか。だから、去年はこいつではなく、諏佐が選ばれたわけか…。だが、この映像を見る限りでは、まだ、ディフェンスは克服出来てなさそうだ。オフェンスでは、こいつを狙うのも1つの手だな」

 

福山の位置が穴と見て、攻略の1つとして認定された。

 

「そして、最後が……」

 

 

――ガシャン!!!

 

 

無造作に投げられたボールが、リングを潜る。

 

「っ! 何度見ても驚かされるな…あんなシュートが何で入るんだ…」

 

フォームレスシュート(型のないシュート)。バスケットの基本のフォームから大きく外れたシュートは、見る者をあざ笑うかのようにリングを潜っていく。

 

そして、変幻自在、予測不能なプレー、圧倒的なスピードに加え、0からMAX、MAXから0の、驚異的な敏捷性(アジリティー)を駆使した平面のドリブル。

 

ディフェンス不可能の点取り屋(アンストッパブルスコアラー)の名のとおりの実力を披露し、相手を圧倒……蹂躙していく。

 

「…すげーな。改めて見ると、あの動き、全く読めないな…。やっぱり、キセキの世代のエースの名は伊達じゃない…」

 

「スピードも…、あの身長からは考えらない程速い。…もしかして、神城や綾瀬より速いんじゃないか?」

 

「…」

 

「…」

 

目の前の映像に映る青峰を、空と大地は真剣な表情で見つめる。

 

「いや、最高速なら、空や綾瀬の方が速い」

 

三杉が、解説をしていく。

 

「だが、青峰大輝は、加速力、減速力が尋常ではない。それに加えて、動きが読みづらいストリートのバスケが加われば、止めるのは困難だろう」

 

『…』

 

三杉の分析に、選手達は息をのむ。

 

映像は続き、青峰の見せるプレーに、花月の選手達は圧倒されていく。

 

そして、映像は切り替わるとそこには、今年のインターハイ予選の決勝リーグの誠凛対桐皇の試合が収録されており、そこで、青峰と火神が壮絶な1ON1を繰り広げている。

 

方や、高校最高の男…。

 

方や、高校最速の男…。

 

両者の激突は、試合を…、会場を飲み込んでいった。

 

「すげぇ…」

 

静まり返る室内に、ようやく吐き出された言葉がこの感嘆の言葉。

 

キレ、スピード、テクニック…。

 

高校最高クラスの両者が、一進一退の戦いを繰り広げている。

 

「ゾーンか…」

 

堀田がポツリと呟く。

 

「やはりそうですか…」

 

「…紫原の時もそうだったが、ゾーンに入ると、ここまでのバケモンになっちまうのか…」

 

冷や汗を流しながら、2人の戦いを見届けている空と大地。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

結局、試合は、両チームのエースがゾーンに入ったものの、それ以前に付いた点差を縮めることが出来ず、桐皇が誠凛を降した。

 

「…凄まじいまでのオフェンス力だな」

 

「ディフェンスに優れた陽泉とは対照的の、超オフェンス型チーム」

 

「当たり前の話だけど、準決勝は激戦になる」

 

試合映像を見て、各々が覚悟を決める。

 

「…けど、次の試合には、堀田先輩は出られないんだよな…」

 

『…』

 

何気なく呟かれた言葉に、全員が黙り込む。

 

堀田は、今日の試合後に足の不調が見つかったため、次の準決勝…、桐皇戦は欠場が決まった。

 

それはつまり、最強の矛を持つ相手を前に、最硬の盾を失ったと同義。

 

花月高校は、痛手を被ることとなった。

 

「なーに暗くなってんスか?」

 

黙り込んだ室内に、空が口を開いた。

 

「堀田さんは出れない。ディフェンスに不安がある。…だったら、相手以上に点を獲るだけでしょ」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら口にしていく。

 

「超オフェンス型チーム相手に点の取り合い……、考えただけでゾクゾクしてきたーっ!」

 

「……確かに、空の言う通りですね。我々は、ディフェンス頼りのチームでありません。ならば、1点でも多く、相手から奪うのみです」

 

大地も空の言葉に賛同するように続いた。

 

「空の言う通りだ。堅守なんざ、俺はそんな鍛えかたをしたつもりはない。…オフェンス主体のチームなんざ、力でねじ伏せてみせろ」

 

『…っ!』

 

上杉の言葉に、選手達は、目をギラつかせる。

 

その後、選手達は、消灯時間ギリギリまで、映像を見ながら対戦相手の研究を続けたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方、桐皇学園高校……。

 

こちらも、同時刻にスカウティングが行われていた。

 

「言うまでもありませんが、次の準決勝、相手は強いです。スタメンの方はもちろんですが、控えの方も、研究を怠らないでください」

 

監督の原澤がそう告げると、映像がスタートする。

 

流れるのは、インハイ2日目の花月対陽泉の試合。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

堀田が、紫原を吹き飛ばし、ボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

「…あの紫原をパワーで吹き飛ばしやがった」

 

背筋を凍らせながら顔を引き攣らせる若松。

 

「堀田健。花月高校の姉妹校である、アメリカの高校からやってきた選手で、中学、高校では、日本での記録はほとんどありません」

 

マネージャーの桃井が、自身のノートを開きながら説明していく。

 

「1番の特徴は、他者を圧倒する尋常ではないパワーとスピードを兼ね備えた身体能力。そして、キセキの世代に引けを取らないテクニックです」

 

『…』

 

「そのパワーは、遺伝子レベルで敵わないとまで言われるアメリカ人を相手にしても健在で、アメリカでも、彼とパワー勝負をして勝てる者はほとんどいません」

 

『…っ!』

 

次々と明かされる情報に、桐皇の選手達は表情が曇っていく。

 

「ですが、彼のことに関しては、気にする必要はありません」

 

「? どういうことだ?」

 

主将の若松が、桃井の言葉に疑問を覚え、尋ねる。

 

「堀田健は、次の試合には欠場するそうです」

 

「欠場? …どこか、怪我でもしたんかのう?」

 

1年生、今吉誠二が、自身の推測を口にする。

 

「はい。怪我による欠場です。原因は考えることもなく…」

 

「陽泉戦…、紫原とのマッチアップが原因か…」

 

「怪我が治らないまま続く、3回戦、準々決勝を出場してしまったため、準決勝は欠場ということでしょう」

 

原澤が、ボソリと言う。

 

「ということは、明日はそれだけ点が取りやすくなるってことだな」

 

最硬の盾がない。それだけ、最強の矛が通りやすくなる。

 

「続いて、10番、神城空」

 

切れ味のあるドライブで、相手ディフェンスを抜きさる。そのままインサイドに切り込んでいくと、ヘルプが2人やってきて、空の進路を塞ぐ。

 

すると、空は立ち止まり、その場でクロスオーバー、レッグスルーで揺さぶりをし、ボールを背中から手首のスナップを利かせると、2人の頭の上を越えながら背後にボールを落とす。そのボールを味方が拾って得点を決める。

 

「去年の全中大会で、当時、無名校であった星南中学を優勝に導き、MVPを獲得したポイントガード。クイックネスに長け、相手をあざ笑うかのようなトリックプレーを好む選手。調子の波が激しい選手ではありますが、花月高校において、もっとも次のプレーの予測が難しい選手です」

 

相手の次のプレーはおろか、その選手がどう成長するかまで調べ上げる桃井においても読みづらいと言う。

 

「バスケスタイルは、青峰に似てるか?」

 

「…いや、通常のプレーにストリートのテクニックを取り入れている程度だから、青峰とは違うな」

 

「マッチアップは、…言うまでもなくワシか。…全中はワシも見とったが、それからまた成長しとるのう」

 

げんなりしながら、溜息を付く今吉。

 

「まあしかし、単純そうな性格してそうじゃし、この手のタイプ得意やから、全力で抑えるかのう」

 

表情を特に変えず、目だけ光らせ、気合いを露わにする今吉だった。

 

「次に、11番、綾瀬大地」

 

高速の切り返しで、相手ディフェンスを抜き去る。その後、当然、ヘルプがやってくるのだが…、大地は、クロスオーバーでかわしにかかる。当然、相手はそれに付いてくるのだが…。

 

大地は、相手ディフェンスが自身に並走した瞬間、バックステップで急バックする。

 

相手は、突然、大地が下がったことに驚愕し、慌てて追走しようとするが、間に合わず、大地は、そのままジャンプショットを決めた。

 

「彼も、全中大会優勝のもう1人の立役者。先ほどの神城空と同等の身体能力を誇り、そのスピードを生かしてガンガン切り込んでくるスラッシャータイプの選手です」

 

「速いな…」

 

「それ以上に、あのフルドライブからの高速バックステップ。あれ、やばくないか?」

 

大地の、1番驚異に感じたのがフルドライブからのバックステップだ。

 

実際、左右の揺さぶりには対応出来ても、前後の揺さぶりは対応しづらい。

 

「厳密に言うと、あれは全力のドライブではありません。せいぜい、8割と言ったところです。全速のドライブから急停止ならともかく、バックステップとなると、足腰がもちません。それは、大ちゃ…青峰君でも不可能です」

 

通常であれば、全速から急停止を行おうとすれば、足腰の負担は尋常ではなく、行ってしまえば、痛めることは必至。バックステップとなればそれ以上。

 

故に、大地も、ドライブからのバックステップを行う際は、ある程度、速度を落としている。

 

「バックステップを行う際の癖もありますので、そちらも後に説明します」

 

そう告げて、ノートのページを進める。

 

「次に、8番、天野幸次」

 

隙のないディフェンスで、マッチアップ相手を封殺していく。

 

「彼は、リバウンドも強く、ディフェンス、リバウンドなら、全国でも指折りのプレイヤーと言えます」

 

『…』

 

「オフェンスでは、スクリーンやポストプレーなど、味方のサポートに徹するロールプレイヤーです」

 

今まさに、切り込もうとしている味方に合図を出す天野。それに呼応して、ドライブで切り込む。相手ディフェンスは、追いかけようとするが、天野スクリーンに阻まれてしまう。

 

「上手いな…。抜群のタイミングだ」

 

「ディフェンスも、得意とするだけあって上手い。キセキの世代でも、抜くのは至難の業じゃないのか?」

 

スクリーンのタイミング、ディフェンスも、その高いレベルに、思わず唸り声を上げる。

 

「相手をするのは多分、福山だぞ。行けるか?」

 

若松が、首だけ後ろに向きながら福山に活を入れる。

 

「ディフェンスのスペシャリストだぁ? ハッ! ぶち抜きまくってやんよ」

 

指の骨をコキコキ鳴らしながら意気込みを露わにする福山。

 

「頼んまっせ? いっつも抜かれまくるんですから、せめて点取ってもらわんと」

 

「うっせ! 生意気だぞ、1年坊!」

 

野次を飛ばした今吉の髪の毛を笑いながらグシャグシャする福山。

 

「…続けます。次に、堀田健の代わりに出場するであろう選手の説明をします。まずは、松永透」

 

映像は、県予選の決勝リーグの試合に変わる。

 

「元照栄中学校の主将。彼が1年時には、木吉さんが守備を、松永君が攻撃の2枚看板のチームでした」

 

「確かに、センターのくせに、1ON1スキルが高いな」

 

「照栄中学入学時は、身長173㎝で、任されていたポジションはフォワードでした。ですが、木吉さんが抜け、それから急激な身長の増加と、チーム事情によって、センターを任されることになりました」

 

「なるほど…」

 

「ということは、明日出てくりゃ、相手すんのは俺なわけだな」

 

若松が、不敵に笑いながら気合いを入れる。

 

「そうなります。若松キャプテンなら、問題なく相手に出来ますので、よろしくお願いします」

 

「おっしゃぁっ! 任せろ!!!」

 

若松の気合いがこもった怒声が室内に響き渡った。

 

「若松君。気合い充分なのは結構ですが、他の方の迷惑になりますから、声のボリュームは抑えてくださいね」

 

「す、すいません…」

 

原澤にそっと戒められ、シュンっと落ち込む若松だった。

 

「続いて、もう1人の出場する可能性のある選手、生嶋奏」

 

映像は、生嶋が放ったスリーが綺麗にリングの中央を潜る場面に変わる。

 

「…(ピクッ)」

 

それを見て、桜井の身体が反応する。

 

「元城ヶ崎中出身のシューターであり、身体能力こそ、高くありませんが、テクニックも優れており、1番の武器は、アウトサイドシュート」

 

「どうよ? 桜井」

 

同じシューターである桜井に意見を求める。

 

「…すごいです。打った瞬間、鳥肌が立ちました。特に、試合終盤スタミナが切れ、リズムもフォームが崩れているのにも関わらず、外す気配がありません」

 

「彼が出場した場合、マークは厳重にお願いします。最強のシューター、緑間君のような射程距離があるわけではありませんが、こと、精度に関していえば、緑間君を上回るほどの選手ですので」

 

「…確かに、外したシュートは1本もなかったな」

 

ピュアシューターの桜井でさえ、1試合を通してのスリーの成功率は百発百中とはいかない。だが、生嶋は、ボールに触れられなかったものに関しては全て決めている。

 

「桜井。もしこいつが出てきたら、頼むぞ」

 

「撃たせませんよ。彼より多く決めてみせます」

 

静かに気合いを入れる桜井だった。

 

「では、最後に…」

 

映像が切り替わると、そこには三杉誠也のプレーが流れる。

 

「テクニック、身体能力、全てが高校最高水準だな…」

 

「…あの氷室を、ああもあしらうとは…」

 

流れる映像を見て、溜息をもらす選手達。

 

「基本プレーを極限にまで体得した、青峰君とは対照的な超正統派の選手。それは、陽泉の氷室さんをも上回るレベルです」

 

『…』

 

「堀田さんと同じく、アメリカで活躍するプレイヤーであり、彼の1番の武器は、相手の心を理解し、支配するところにあります」

 

すると映像が、氷室を抜き去るシーンに切り替わる。

 

氷室は、目を見開いたまま、身動きが出来ないまま抜き去られていく。

 

「このシーン、僕も見てましたけど、何がなんだか…」

 

「氷室は、どうして動けなかったんだ?」

 

実際に目の当たりにしても、映像を見ても、このからくりを理解出来ない選手達。

 

「三杉さんのフェイクは、実物と見間違うほどの精度です。それを巧みに見せつけ、本物とフェイクの判別を付かなくさせ、最後には、どちらも選択出来なくなり、動けなくなります」

 

『…』

 

「ですが、陽泉戦での三杉さんは、まだ手の内の全てを見せておりません。まだ、切り札が残っていると断言できます」

 

『っ!?』

 

桃井が、そう告げると、再び室内にどよめきが走る。

 

「三杉さんは、バスケ選手以外でも、メンタリストとしての一面や、心理学者として、研究結果を発表したりなど、あらゆる一面を持っている方でもあります」

 

「? …それがいったい何の…」

 

いまいち理解出来ない選手達に、桃井が分かりやすい説明を始める。

 

「簡単に説明しますと、三杉さんは、今吉前キャプテンのように人の心を読むのに長け、無冠の五将の花宮さんのような頭脳を持ち、……私と同じデータを持ち合わせた選手です」

 

『っ!?』

 

この砕いた説明でようやく理解する。

 

サトリとまで称されるほど心理を読むことに長けた今吉誠二の従弟、今吉翔一。

 

優れた頭脳で、パスコースを選定し、スティールを連発する花宮真。

 

そして、1番の動揺となったのが、驚異的な情報収集能力から、相手の未来の成長傾向まで見抜いてしまうほどの桃井と同等のデータを持ち合わせていることだった。

 

桃井のデータは、桐皇の要の1つとも言えるものであり、相手の次の行動を予測し、並の相手なら封殺出来てしまう。

 

「マジ…かよ…」

 

この事実に、桐皇の選手達の動揺を隠せない。何せ、自分達のこれまでの強みが、次の試合では自分達に返ってくるからだ。

 

「…堀田がいないとは言え、次の試合も激戦になるな…」

 

ボソリと、身震いしながら言葉を発する選手達。

 

「氷室でも抑えられなかった以上、三杉のマークを出来るのは…」

 

当然、桐皇のエースであり、キセキの世代に数えられる青峰大輝。だが…。

 

「その三杉を止める鍵となる青峰はどこに行ったんだ…!」

 

この場に、青峰大輝がいないことに、今更怒りを露わにする若松。

 

「すいません…。来るように言ったんですけど、必要ないと言って、何処かに行っちゃいまして…」

 

桃井が自分のことのように申し訳なさげに頭を上げる。

 

「ふむ、秀徳戦では珍しくデータを受け取ってくれましたが…困ったものですね…」

 

原澤も軽く溜息をつく。

 

いない者は仕方がないと、選手達は再び研究を続けていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その頃、青峰はと言うと…。

 

桐皇学園高校の選手達が宿泊するホテルの近くの公園に来ていた。

 

そこには、簡易ながらリングもあり、そこにボールを持ち寄っていた。

 

「…」

 

青峰は器用に人差し指でボールを回し、それをリングに放る。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれる

 

それと同時に青峰は駆け出し、跳躍。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

そのボールをリングに押し込む。

 

「……くくくっ、あははははっ!」

 

そして、おもむろに笑い出す。

 

「待ちきれねぇ…。早く明日になりゃいいのによぉ…!」

 

明日の花月戦。相手には、自分と同等クラスの選手が2人も存在する。

 

強者との戦いに何よりも渇望する青峰にとって、それは楽しみ以外の何物でもない。

 

青峰は、その抑えられない興奮を、発散するかのように、身体を動かしていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

準決勝前夜…。

 

各々の選手達が、決勝へと駒を進めるため、夜遅くまで研究を続けていった。

 

そして夜が明け、激闘が……始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





新年を迎えれば、時間が出来るかと思いましたが、意外と時間が出来ず…(^-^;)

それと、私事でありますが、携帯が壊れました…orz

ついにガラケーからスマホに進化しました!

一生ガラケーを誓った過去の自分よ……すまん…m(_ _)m

スマホすっげー便利だわ…(^-^)/









感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第44Q~エース~


投稿します!

ついに、2人目のキセキの世代との試合が始まります。

それではどうぞ!


 

 

 

夜が明け、インターハイ6日目…。

 

 

第1試合 洛山高校 × 多岐川東高校

 

第2試合 花月高校 × 桐皇学園高校

 

 

四強が出揃い、準決勝の火蓋が切って落とされた。

 

第1試合…。

 

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

 

 

試合は、第2Q、残り2分まで進んでいた。

 

 

洛山   47

多岐川東 23

 

 

試合は、洛山優勢で進められていた。

 

主将である赤司はこの試合、出場しておらず、ベンチにて試合を見守っていた。

 

スタメンで出場した実渕、葉山、根武谷も、第2Q中盤にはベンチに下がっており、スタメンで残っているのは、四条のみ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

洛山選手の放ったシュートが決まり、追加点を取る。

 

「さすがは洛山だな。控えの層も厚い。こりゃ、決まりだな」

 

観客席で試合を観戦していた秀徳高校のポイントガード、高尾が頭の後ろで手を組みながら座席の背もたれに体重をかける。

 

「多岐川…。くじ運に恵まれたとはいえ、ここまで勝ち上がっただけあって決して弱いチームではない。だが、やはり、洛山とは格が違う。番狂わせは、あり得ないのだよ」

 

隣に座る緑間が、メガネのブリッジを押し上げながら言う。

 

「ま、最初から期待してなかったけどな。……観客のお目当てはやっぱり、次の試合だよな」

 

コートでは依然として試合を行われているが、事実上、勝敗は決しているため、観客の興味は次の試合に移っている。

 

 

――ざわざわ…。

 

 

第2Q終了に近づくにつれて、観客のざわめきが大きくなる。そして…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

第2Q終了のブザーが鳴り響く。

 

 

洛山   54

多岐川東 26

 

 

試合の半分が終わり、インターバルへと突入する。

 

洛山、多岐川東、両校が控室へと向かっていくと、入れ違いに、次の対戦校同士が現れる。

 

『待ってましたぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!』

 

花月、桐皇の選手達がコートに入場すると、観客は盛大に歓声を上げる。

 

『昨年、ウィンターカップこそ、初戦敗退したが、激闘を見せ、実力を見せつけた、新鋭の暴君、桐皇学園高校!』

 

絶望的な点差を付けられ、悲痛な表情で控室に向かう多岐川東に対し、一瞥もくれず、コートに向かう桐皇の選手達。

 

『そして、突如、強力な新戦力を獲得し、並み居る強豪を圧倒し、勝ち上がってきた、進撃の暴凶星、花月高校!』

 

セーフティ圏内まで点差を付け、淡々と控室に向かう洛山選手達。

 

「…」

 

「…」

 

花月選手達の先頭を歩く三杉。洛山選手達の先頭を歩く赤司が、無言ですれ違うと、その瞬間、空気が弾ける。

 

「(…こいつが、キセキの世代のキャプテンの赤司征十郎か)」

 

「(以前に拝見した印象とはかなり違うようですね…)」

 

同じく、すれ違い様にチラリと一瞥する空と大地。

 

2人の赤司征十郎の印象は、近寄り難い、例えるなら、独裁者のような印象だった。だが、今は、それらの要素はなく穏やかで、それでいて威厳を感じられた。

 

その後ろを無冠の五将と称される、実渕、葉山、根武谷が続いて歩き、興味深そうに花月の選手達に注目する。

 

すれ違った洛山の選手達を視線で追う空と大地。

 

「空、綾瀬。気になるのは分かるが、今は目の前に相手に集中してくれよ」

 

視線を一切向けることなく、空と大地を諫める三杉。

 

「もちろん、分かってますよ」

 

「はい。今日の相手は、強敵ですから」

 

諫められた2人は、洛山から桐皇へと視線を移し、再度、集中し直す。

 

両校がエンドラインに整列し、対峙し、睨みあう。

 

今日の相手は、今大会、オフェンス最強の呼び声が高い、桐皇学園高校。

 

『よろしくお願いします!!!』

 

一礼をして、コートへと足を踏み入れる。

 

準決勝のもう1つのカード、花月高校と桐皇学園高校のアップが始まる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

パスを出し、リターンパスを受け取ると、そのままレイアップを決める。

 

「ちっ!」

 

青峰が、花月側のアップ風景を見て、思わず舌打ちをする。その理由は、堀田がアップに参加してなかったからだ。

 

前日に、桃井から、堀田の欠場のことは聞いていたのだが、それでも、無理をしてでも出場してくることに一縷の望みをかけていたが、それが叶わなかった。

 

紫原と対等以上に戦い、勝利した堀田健と、戦えないことに、青峰は苛立ちを隠せない。

 

『3分前!』

 

審判が、第3Q開始3分前をコールする。

 

「おらぁっ! ラストォッ!!!」

 

桐皇の主将、若松が、声を張り上げて告げる。

 

桐皇側のラストは福山。福山がハイポスト付近に立つ今吉にパスを出す。

 

「リング近くに投げろ」

 

「これでよろしいでっか?」

 

パスを受けた今吉は、リング付近にふわっとしたボールを上げる。それに合わせて福山が飛ぶ。

 

空中でボールを掴み…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きつけた。

 

 

――おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!

 

 

それと同時に歓声が上がる。

 

「へへっ! …どうよ? 俺からの宣戦布こ……あれ!?」

 

自信満々な表情をしていた福山だったが、今の歓声が自分に向けられたものではないことに気付く。

 

今、観客が歓声を上げたものの正体は…。

 

反対側のコート、花月側。

 

「よしっ! ラスト!」

 

三杉が花月選手達に指示を出す。

 

「そんじゃ、1発かますかな」

 

花月側のラストは空。ハイポストに立つ大地にパスを出す。パスを出すと、空はリングを指さす。

 

「やれやれ、分かりましたよ」

 

呆れた表情で大地はリング付近にボールを上げる。それに合わせて空が跳躍する。

 

空が空中でボールを両手で掴むと、そこから反転、リングに背を向け…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きこんだ。

 

『すげー!!!』

 

『あの身長でアリウープするだけでもすごいのに、空中で反転して、リバースダンクとか、ありえねぇ!!!』

 

180㎝満たない空がアリウープ……それも、空中で反転しての180°ダンク。

 

観客を沸かせるには充分だった。

 

「くそっ…目立ちたがり屋め…」

 

苦々しい表情で空を睨みつける福山。

 

「そりゃ、おめぇだ!」

 

そんな福山を後ろから小突く若松。

 

「試合前に余計な体力使ってんじゃねぇ!」

 

プンプンとさせながら引き上げていった。

 

「よし、試合が始まる。引き上げるぞ。ほら、空! さっさとコートから出ろ」

 

「うぃっす」

 

観客のインパクトを与え、意気揚々とコートから引き上げていく空。

 

そこに、転転と転がっていく1つのボール。そのボールを拾うのは三杉。

 

「よう。今日はあの堀田って奴は出ないのかよ?」

 

ボールを拾った三杉に歩み寄り、話しかけたのは青峰。

 

「ああ。残念なことだけど、今日、健は欠場だよ」

 

拾ったボールを青峰に放って渡す三杉。

 

「ちっ! んだよ、おもしれぇ勝負が出来ると思ってたのによぉ……まあいい、お前もあいつと同じくらいやれんだろ?」

 

「さて、どうだろう?」

 

青峰の質問に惚けながら答える三杉。

 

「お前には期待してるんだ。……楽しませてくれよ?」

 

不敵な笑みを浮かべて告げる青峰。

 

「ああ。善処するよ」

 

ニコリと笑みを浮かべて答える三杉。

 

「青峰! 早くしろ!」

 

「うっせぇな…言いたいことはそれだけだ」

 

踵を返し、桐皇の選手達に合流し、引き上げていった。

 

「ふふっ、若いな」

 

ボソリと呟き、同じく合流し、引き上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

会場では、準決勝の最初のカードである、洛山対多岐川東の後半戦が始まる。

 

試合は変わらず、洛山優勢で進み、洛山側は、試合当初のスタメンは全員ベンチに下がっている。

 

それでも、洛山優勢は揺るがない。

 

試合は、番狂わせが起こることなく進んでいき…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り、試合が終了する。

 

 

試合終了

 

洛山   91

多岐川東 51

 

 

洛山が準決勝を制し、決勝へと駒を進める。

 

 

――ざわ……ざわ……。

 

 

先ほどまで沸いていた観客も、試合が終わりに近づくにつれて、ざわつき始める。

 

今日の観客の興味は1つであり、波乱や番狂わせが起きそうにない洛山×多岐川東戦は二の次であった。

 

そして、両校が再び、会場入りする。

 

 

 

――おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!

 

 

 

ざわついていた観客に熱が再び戻る。

 

花月、桐皇が入場し、それぞれのベンチへと向かっていく。

 

「あなたの教え子と試合が出来る日がきたことを嬉しく思います」

 

「久しぶりだな、原澤。相変わらず若いな。今日はよろしく頼む」

 

両校の監督、上杉と原澤が歩み寄り、上杉が手を出す。

 

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 

出された手を握り、握手を交わし、挨拶を終える。

 

刻一刻と試合開始が近づく中、選手達は試合に準備を進め、気持ちを作っている。

 

「…」

 

その中でも、花月ベンチ、松永は、ベンチに俯きながら腰掛けている。

 

「(今日は、俺がインサイドを任されているんだ。俺が堀田先輩の代わりを担うんだ…!)」

 

パンパン! と、自身の顔を叩き、自問自答しながら気合を入れていく。

 

「……(かなり、気合が入ってる……、けど、これは入れ込みすぎだな)」

 

そんな松永を見て空は、少し不安を覚える。

 

堀田欠場により、代わりにセンターのポジションを任されたことの重圧が松永に襲い掛かっているのだろう。

 

しかも、相手は、キセキの世代のエース、青峰大輝を擁する、超オフェンス型チーム、桐皇。ディフェンスの中軸を担う松永の責任は重大である。

 

その重圧が、今、松永の双肩にのしかかっている。

 

「(…ちょっと、声をかけてやるかな)」

 

緊張を解そうと、松永の下に寄ろうとすると、それよりも早く、生嶋が松永の目の前に立った。

 

「まっつん」

 

そっと話しかけると、生嶋は松永の肩にそっと手を乗せた。

 

「大丈夫、心配はいらないよ」

 

「松永…」

 

肩に手を置かれ、顔を上げる松永。すると、生嶋は薄く笑みを浮かべる。

 

「君が何点取られても、僕がそれ以上に点を取る。だから、安心していいよ」

 

不意にそう言われ、一瞬ムッとした表情を取ったが、すぐに、不敵な笑みに変わる。

 

「ほざけ。今日の試合、お前に出番を与えるつもりない。何せ、お前はすぐガス欠起こすからな。とてもではないが、俺の後は任せられん」

 

皮肉に対して皮肉で返す松永。その表情には、先ほどまでとは違い、幾ばくか、余裕が生まれていた。

 

「(ナイス、生嶋!)」

 

胸中で、空は生嶋に親指を立てる。生嶋は、そっと空にピースサインをした。

 

「よし、集まれ!」

 

上杉が号令をかけると、選手達が集まる。

 

「今更言うまでもないが、今日の相手は強い。2回戦の陽泉と同じく……いや、それ以上の激戦になるだろう」

 

『…』

 

「だが、勝つのはお前達だ。お前達は、インターハイに参加するどの高校よりも練習してきた。それがお前達の力となり、自信となり、支えになる」

 

『…』

 

「言って来い。お前達が積み上げてきたものを、見せつけてこい!」

 

『はい!!!』

 

「さて、時間だ。準備は出来ているな? なら……行こうか」

 

三杉がそう言うと…、コートへと足を踏み入れる。

 

『おう!!!』

 

それに続き、スターティングメンバーが、コートへと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コートのセンターサークルで整列する両校。

 

「これより、インターハイ準決勝、第2試合。花月高校対桐皇学園高校の試合を始めます!」

 

『よろしくお願いします!』

 

整列を終え、散らばっていく両校。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番SG:三杉誠也 190㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

9番 C:松永透  194㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

 

桐皇学園高校スターティングメンバー

 

4番 C:若松孝輔 195㎝

 

5番PF:青峰大輝 193㎝

 

7番SG:桜井良  175㎝

 

9番SF:福山零  189㎝

 

10番PG:今吉誠二 177㎝

 

 

『堀田がいないぞ!?』

 

『嘘だろ? 俺、あいつが見たくて来たのに…』

 

『花月は、堀田抜きで大丈夫なのか?』

 

堀田欠場により、残念がる観客達。それと同時に、花月のディフェンスを心配する観客達。

 

「舐められたもんだねぇ。なあ、松永?」

 

「全くだ」

 

不敵に笑い合う空と松永。

 

「昨年の全中大会、ベスト5に選出された私達の実力、ご披露しましょう」

 

「「おう!」」

 

互いに気合を入れ合う、全中でしのぎを削った空達。

 

そして、準決勝のもう1つのカード、花月高校対桐皇学園高校の試合の火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ジャンプボール…。

 

花月のジャンパーは松永。桐皇は若松。

 

「…」

 

「…」

 

両者が対峙し、睨み合う。そして、審判がボールを上げ、ティップオフ!!!

 

「っ!」

 

「らぁっ!」

 

ジャンプボールを制したのは若松。今吉がボールを確保する。

 

「おおきに。ほな、いきまっせ!」

 

今吉がボールを進め、ゲームメイクを開始する。

 

花月のディフェンスは、ハーフコートマンツー。今吉に空がマークする。若松には松永、福山には天野。ここまでは、予想通り。

 

『なっ…!?』

 

『これは…!?』

 

ここで、桐皇及び、観客は驚愕する。

 

「…ちっ!」

 

再び、舌打ちをする青峰。その青峰をマークするのは、大地。

 

「えぇっ…えぇっ!?」

 

目を見開いて驚愕する桜井。その桜井ををマークするのは、三杉。

 

「(何考えとるんや? 青峰はんマークするんは三杉はんやろ?)」

 

実力的なものや、身長面を考えれば、マークするのは三杉が妥当。あるいは、ディフェンスに定評がある天野がマークするのが無難である。

 

「どういうつもりだ? なんであいつ(三杉)じゃなくててめぇ(大地)なんだ?」

 

「…」

 

苛立ちながら目の前で対峙する大地に尋ねる青峰。対する大地は、無言でマークに徹する。

 

これは、試合開始前のベンチでのこと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ベンチにて、バッシュの紐を結びなおす大地。

 

『綾瀬』

 

そんな大地に、三杉が目の前に立つ。

 

『何でしょうか?』

 

『青峰のマークをやってみるか?』

 

『っ!?』

 

三杉から、まさかの提案に、当の大地を含め、他の選手達も驚愕する。

 

大地は、三杉の提案に一瞬、目を見開くも、すぐに笑みを浮かべ…。

 

『やります。やらせて下さい』

 

了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

このようなやりとりによって、スタートは大地が青峰をマークすることになった。

 

「(さて、どうするかのう…)」

 

ボールをキープしながらどう攻めるか考える今吉。

 

普段であれば、特攻隊長である桜井から攻めるのが桐皇のセオリー。だが…。

 

「…ぐっ!」

 

だが、その桜井は、三杉のフェイスガードによってマークを振り切れず、顔を顰める。

 

「(桜井はんはあかんな…)」

 

次に視線を向けたのが、主将である若松。堀田が欠場した今、ここも狙い目の1つ。後は、ディフェンスには難があるものの、青峰に次ぐ得点能力を持つ福山。

 

「(…けどまあ…、ここはここしかないやろ)」

 

今吉はここでパスをする。

 

『来た…!』

 

ボールの行く先は、桐皇のエースたる青峰。

 

「…っ」

 

大地は腰を落とし、青峰の攻撃に備える。

 

「へぇ…、俺のマークにあてがうだけあって、ただの雑魚ってわけじゃなさそうだな…」

 

「…ありがとうございます」

 

目の前の大地を見て、青峰は僅かではあるが、大地の実力を認める青峰だったが…。

 

「…だがまあ、せいぜい、多少は歯ごたえがあるって程度だ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰がゆっくりとドリブルを始め、そのまま仕掛ける。

 

「俺の相手にはならねぇ」

 

「っ!?」

 

ノーフェイクからのドライブで大地をあっさりとかわす。

 

「(速い! 空や三杉先輩以上に…!)」

 

スピードに定評がある空。抜群のテクニックとキレを持つ三杉。その2人をも上回ると評した大地。

 

グングン加速し、ゴールへと進軍していく青峰。

 

「行かせっかよ!」

 

ヘルプに現れたのは、もっとも青峰から遠い位置にいたはずの空。

 

「(いつもの間にヘルプに行ったんや!? 速すぎるやろ!)」

 

先ほどまで自分をマークしていた空がおらず、青峰のヘルプに向かったことに言葉を失う今吉。

 

「おーおー、さつきが言っただけあって、スピードだけは大したもんだ。それだけは認めてやる」

 

ここで、青峰が空の手前で急停止する。

 

「それだけだ。お前も俺の相手にはならねぇ」

 

クロスオーバーで空の横を高速で抜ける。

 

「はっえ!」

 

ほとんど反応出来ず、青峰を見送る空。

 

ペイントエリアまで侵入すると、そのまま跳躍する。

 

「くっそっ!」

 

松永がブロックに向かう。

 

ブロックが現れると、青峰は手に持ったボールを下げ、下から放り投げる。

 

 

――ガシャン!!!

 

 

無造作に投げられたボールは、バックボードに当たりながらリングを潜った。

 

『青峰いきなり来たーーーーーっ!!!』

 

青峰が、花月のルーキー3人を抜き去り、開始早々先取点を決める。

 

先制点を決め、踵を返し、ディフェンスへと戻る青峰。その際に、三杉の下まで歩み寄る。

 

「何を考えてのか知らねえが、あんな雑魚じゃ、何度やっても俺を止められねぇぞ」

 

「…」

 

特に反応を示さない三杉に、軽く鼻を鳴らす。

 

「ふん、だったら、てめぇが出てくるまで点差を付けるだけだ。アメリカ帰りだかなんだか知らねぇが、俺に勝てるのは俺だけだってのを分からせてやるよ」

 

それだけ告げ、青峰は自陣まで戻っていった。

 

「…やれやれ」

 

そんな三杉は、軽く苦笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスは、花月に切り替わる。

 

「よっしゃ! 1本、返そうぜ!」

 

空が声を張り上げ、ゲームメイクを開始する。

 

そんな空の前に立ち塞がるのは、今吉。

 

「…」

 

今吉は、多少距離を取り、ドライブに備える。

 

「(…距離取ってくんなぁ…、ここは、外から狙うのがいいんだろうけど…)」

 

外からのスリーもある空。これだけ距離を取ってくるなら、スリーを狙っていくのが1番の選択肢。

 

「(…けどまあ、ここはあえて、裏をかいて抜きにいってみるかな!)」

 

空は、ドリブルで一気に距離を詰める。

 

「(桃井はんのデータ通りや。距離を開けたら、ムキになって抜きにきよった)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこから、バックチェンジからのクロスオーバーを仕掛ける。

 

「抜かせへんで!」

 

今吉は、空の進路を塞ぐように手を出し、これに対応する。

 

「これに付いてくるかよ。…けど、本命は…!」

 

そこから、空はバックロールターンでかわしにかかる。

 

「クロスオーバーからの、バックロールターンやろ!」

 

「っ!?」

 

今吉は、これも読み切り、空を止める。

 

「(マジかよ…、大して身体能力が高いようには見えないのに、俺に追いつきやがった…)」

 

追いつかれたことに、軽くショックを受ける空。

 

桐皇には、マネージャーである、桃井のデータによる先読みがある。

 

彼女のデータは、非常に正確であり、それは、その選手がどのように動くか。さらには、その選手がどう成長するかまで調べ上げてしまう。

 

「(厄介やのう。データありきで、追いすがるのがやっとや…)」

 

余裕そうな表情を取る今吉だったが、内心では冷や汗をかいていた。

 

「(何か悔しいから、もう1回行きたいけど…)」

 

すでに1本決められている。それも、エースの青峰によって。ここを落とすと、流れが桐皇の傾きかねない。故に、この1本は確実に取りたいと考える空。

 

空は、ビハインドパスで1度戻す。

 

ボールの先は、三杉。その三杉をマークするのは…。

 

『始まるぞ…』

 

『エース対決だ!』

 

ボールを受け取った三杉の前に、青峰が立ち塞がる。

 

「来いよ」

 

「…」

 

待ち焦がれたとばかりに不敵な笑みを浮かべる青峰。そんな青峰を目の前に特に表情を変えない三杉。

 

僅かな…それでいて、長く感じる間対峙する両者。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

そして、三杉が、フロントチェンジで左右に揺さぶりをかけながら仕掛け、青峰の左手側から抜きにかかる。

 

『うおっ! 速いぞ!』

 

だが、青峰はこれに遅れることなくピタリと付いていく。

 

『青峰もこれに付いていってるぞ!』

 

だが…。

 

「っ!?」

 

三杉は、右側からではなく、左側から現れる。本物と見間違うほどの高精度のフェイクによって、青峰の虚を突く。

 

『抜いたーーーっ!!!』

 

裏をかき、三杉が青峰を抜き去った……かに見えた。

 

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

『なっ…なにぃぃぃぃっ!!!』

 

三杉の手からボールが弾かれる。青峰が抜かれた直後、即座に後ろからバックチップで三杉のボールを弾いた。

 

『アウトオブバウンズ、緑(花月)!』

 

弾かれたボールは、コートの外にこぼれる。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

ボールを弾かれた三杉は転転と転がるボールを一瞥した後、ボールを弾いた張本人の青峰に視線を向けた。

 

「……やるね」

 

「…お前もな」

 

ニコリと三杉は笑い、青峰は不敵に笑った。

 

ボールを拾いに行く三杉を、青峰は目で追っていく。

 

「(…抜かせるつもりはさらさらなかった…)」

 

三杉が見せたフェイクに一瞬だが完全にかかった。こうもあっさりフェイクにかかったのは、ここ数年記憶にない。

 

持ち前の野生の勘によって、ギリギリ追いつき、バックチップでボールを弾くことが出来た。

 

「…いいね。こうでなくちゃ、面白くねぇ!」

 

新たな強敵の誕生に、青峰の胸の奥が熱く滾ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「三杉さん! 今の…」

 

空が三杉に駆け寄って話しかける。

 

「ああ。本気で抜きに行ったが、さすがに、簡単には行かないみたいだ」

 

軽く肩を竦める三杉。

 

「(マジかよ…。俺は花月に入学して今まで、1度も三杉さんを抜いたことも止めたこともないのに、青峰は初対戦で止めやがった!)」

 

誰よりも三杉と戦ってきた空にとって、この事実は受け入れ難い事実だった。

 

「(…これが、キセキの世代のエースの実力か…!)」

 

自分と、キセキの世代の力の差を思い知り、苦々しい表情で青峰を睨みつける空だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

試合は、桐皇ペースで進んでいく。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

青峰が大地を抜き去り、ブロックに飛んだ松永の上からダンクを叩きつけた。

 

『すげー!!! 青峰止んねぇよ!!!』

 

この日、10得点目を決める青峰。

 

「くっ…!」

 

思わず悔しさが声に出てしまう大地。

 

第1Qも中盤に移行する中、一向に青峰を止められる気配がない。

 

3度目の対決で、ようやく青峰のスピードにも慣れ、リズムも掴んできたのだが、その矢先、教科書どおりのバスケに飽きた青峰が、自身の本領とも言えるストリートのバスケを出し始めた。

 

その、変則的なリズムから繰り出されるストリートのバスケに、驚異的な敏捷性(アジリティー)が加わり、大地は、全く対応が出来なかった。

 

桐皇は、エースである青峰を中心に得点を重ねていく。さらに…。

 

「おらぁっ!」

 

「ぐっ!」

 

インサイドから、若松が力で松永を押し切り、ゴール下を鎮める。

 

センター対決も、松永は若松に力で押され、失点を許してしまう。

 

花月は、大地、松永から点を取られてしまうのが現状だ。

 

試合は、青峰を中心に攻める桐皇ペースで進んでいき……。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

第1Q終了のブザーが鳴る。

 

 

第1Q終了

 

花月 16

桐皇 22

 

 

試合は桐皇リードで第1Qを終える。

 

未だ、青峰を捉えられない花月。

 

試合は、第2Qへと、移行するのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





花粉症により、体調不良です(T_T)

春は花粉があるから苦手です。夏は暑いですし、冬は寒い。結局、秋しか残りません。

花粉症って、克服出来ないのかな……。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第45Q~才能~


投稿します!

だいぶ間が空いてしまいました(^-^;)

それではどうぞ!


 

 

 

第1Q終了

 

花月 16

桐皇 22

 

 

桐皇リードで第1Qを終える。

 

花月ベンチ…。

 

ベンチに腰掛けるスタメンの5人。

 

「…っ!」

 

「くそっ…!」

 

その中でも、大地と松永はひと際悔しさを露わにしている。

 

第1Qでの失点は22点。その内訳は、青峰が14点、若松が6点、福山が2点。つまり、綾瀬、松永からの失点がほとんどである。

 

「…見るのと実際に相手するのとでは、これほど勝手が違うとは…。動きが読めない変則的なプレースタイルに加え、あのスピード。対応出来ません…!」

 

「ちっ! …どうしても、フィジカルに差が出て、押し合いで勝てない…!」

 

型にはまらない、変幻自在のバスケ。大地はその、独特のリズム、圧倒的なスピードの青峰に、大地は付いていけない。

 

松永も、未だ、フィジカルは発展途上の為、ほぼ完成しきっている若松とフィジカルの差から出るパワーの差により、ポジション争いや押し合いに勝てず、ゴール下を完全に支配されている。

 

エースを止められず、ゴール下は制圧されている為、花月は苦しい戦いを強いられていた。

 

「どうもやりにくいディフェンスをしてくるよな。まるで、こっちの動きが読まれているみたいだ」

 

桐皇のディフェンスは、陽泉のような鉄壁ではない為、点は取れている。だが、動きが読まれているのか、どうにも後手後手に回ってしまっている。

 

「文字通り、読まれているのだろう」

 

汗をタオルで拭いながら三杉が言葉を挟む。

 

「桐皇の反応が速すぎる。相手の手を見てからではあそこまでの対応は出来ない。よく、研究しているのだろう。大方、とても優秀なブレーンでもいるのだろうな」

 

汗を拭い終えた三杉は、タオルを首に掛け、傍に置いていたドリンクを手に取り、喉を潤していく。

 

「ま、こういう展開になることは分かっていたことだ。試合はまだ、4分の1を終えたばかりだ。慌てることもないさ」

 

あっけらかんと普段と変わらない調子で告げる三杉。

 

『…』

 

いつもであれば、三杉の一言で不安を取り除けるのだが、今回ばかりは不安が拭えなかった。

 

大地は青峰を止めきれない上、インサイドも若松に制圧されている。

 

何より、三杉が、青峰相手に攻めあぐねていることが、花月選手達にとって、1番の不安要素であった。

 

花月のオフェンス時、三杉をマークするのは青峰。最初の激突後も、2人が対決する場面はいくつかあったのだが、いずれも、青峰を振り切れず、パスを捌いているのが現状だ。

 

三杉のプレーはいつもと変わりはない。つまり、青峰のスピードと野生が、三杉を上回っていることを意味している。

 

「三杉、第2Qはどうする気だ? 続けて青峰は綾瀬にマークさせるのか?」

 

堀田が、暗くなった空気を変えるかのように言葉を挟む。

 

「もちろんだ。引き続き、青峰大輝は綾瀬に任せる」

 

「っ! はい、止めて見せます」

 

マークを変えられると思っていた大地は瞬間胸を撫でおろすが、その後、表情を引き締めた。

 

「後は…、ゴール下か。松永、現状、センターとしては、相手の方が1枚上だ。…ならば、どうするか。練習を思い出せ。そこに答えがあるぞ」

 

「は、はい!」

 

三杉の言葉に、松永は気を引き締めた。

 

「とりあえず、こんなところだな。そろそろ時間だ。…行こう」

 

『はい(おう!!!)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇ベンチ…。

 

第1Qをリードで終え、まずまずの立ち上がり。

 

「…第1Qをリードで終えたのは良好と言えますね。…ですが、点差は6点。決して楽観視出来る点差ではありません。こちらも、16点も取られていますからね」

 

決して、セーフティとは言えない点差に、原澤は選手達に釘を刺すように言う。

 

試合は青峰が得点を重ね、桐皇が圧倒的リードに終わったように見えたのだが、蓋を開けて見れば、わずか6点差であった。

 

理由として、花月は、青峰からの失点を防げないまでも、要所要所できっちり点を決めているからだ。

 

それと、もう1つ理由は…。

 

「やはり、桜井君が封じられてしまっているのが大きいですね」

 

「すいません! すいません!」

 

桐皇の特攻隊長にして、アウトサイドシューターの桜井が三杉の徹底マークに合い、得点どころか、ろくにボールも触らせてもらっていない。桐皇は外を封じられ、2点ずつしか得点出来ていないのも要因の1つだ。

 

当事者である桜井は、ただただ頭を下げ、謝っていた。

 

原澤は、顎に手を当てて、考えをまとめ、そして口を開く。

 

「…ふむ、とりあえず、福山君はチェンジで、新村君、第2Q頭からお願いします」

 

「えっ!?」

 

「分かりました」

 

原澤の指示に、新村は返事をしてシャツを脱ぎ、福山は声を上げる。

 

「ちょっと待ってください! 何で俺が…」

 

「てめぇが穴だからに決まってんだろ」

 

理解出来ないと監督を問い詰める福山に、青峰がきつめに言葉をかける。

 

「第1Qの失点の大半はてめぇからだろ。それで試合に出続けられると思ってんなら、頭悪すぎだろ」

 

「なんだと!?」

 

馬鹿にするような物言いに、福山は思わず青峰に詰め寄る。

 

「ディフェンスがザルなてめぇでも、点を取ってきたから試合に出れた。だが、今日何点決めた? たったの2点だろ。今のてめぇは、弱点しかねぇ雑魚も同然なんだよ。分かったらとっととベンチに座ってろ」

 

「…青峰。言い方を考えろよ」

 

きつい言葉をぶつける青峰を、若松が窘める。

 

普段、青峰の横暴を止める時のような強い口調ではないことから、若松も少なからず青峰と同意見なのだろう。

 

「……くそっ!」

 

それを感じ取った福山は悔しさを露わにする。

 

「…のちにあなたの得点力が必要な時が来ることは十分考えられます。試合から気持ちを離さないでくださいね」

 

「は、はい!」

 

落ち込みかけていた気持ちが戻り、元気よく返事をした。

 

「…青峰君。相手は綾瀬君ですが、どうですか?」

 

「雑魚だ。話にならねぇ」

 

「結構です。第2Qもこのまま、青峰君を中心に行きます。青峰君のボールを集めてください」

 

その後も、原澤は指示を続ける。

 

「…ちっ」

 

桐皇選手の中で、青峰だけが苛立っていた。

 

「(…三杉誠也。こんなもんなのか?)」

 

ディフェンスだけとは言え、マッチアップしている青峰の、第1Q終わっての感想はこの一言だった。

 

確かに、テクニックはある。身体能力も高い。だが、これなら、他のキセキの世代や火神の方がよほど驚異だ。

 

第1Q,最初の激突後、それから何度かやりあった両者だが、三杉は、青峰を1度も抜くことが出来ず、全て、パスで逃げている。

 

「(…これじゃあ、さつきにデータを見せてもらってまで緑間に勝った意味がねぇじゃねぇか…!)」

 

花月と…、三杉や堀田と戦うため、秀徳戦、緑間との勝負を、楽しむことより、勝つことに専念した青峰。

 

楽しみを1つ捨ててまでこの試合に臨んだことと、強敵だと思っていた相手がこの体たらくであることへの失望が、青峰を苛立たせていた。

 

「(これが全力じゃねぇだろ。まだ底があるなら、早く見せてみろ…!)」

 

青峰は、相手ベンチ…、三杉を睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「序盤は、桐皇リードか…」

 

観客席の一角に座る、火神がポツリと呟くように漏らす。

 

「桐皇はとにかく青峰君にボールを集めているようですね」

 

隣に座る黒子が、第1Qを見た感想を口にする。

 

黒子、火神の2人は、冬に向けての偵察を兼ねて、準決勝の観戦に来ていた。

 

本来なら、このような偵察の仕事は、1年生の役割なのだが、試合を目の前で見たかった黒子と火神がかって出たのだ。

 

誠凛は、冬の大会に向けて、練習を再開している。そのため、誠凛の主力である、黒子と火神にも当然、練習に参加してほしいところであったが、試合が気になり、集中を欠いた状態で参加させても意味がないと判断したリコは、渋々観戦を許可した。

 

「ああ。…対して、花月は、神城、綾瀬、松永が、天野を中継して確実に得点を重ねているな」

 

花月は、三杉が青峰を上手く引き付け、そこからパスを捌き、得点を重ねている。

 

「ここまで、大きな力の差はない……だが…」

 

火神は、桐皇…青峰はスロースターターであり、彼が調子が上がってくるのはこれからであることを知っている。

 

「花月は堀田がいない。あの綾瀬って奴に、青峰が抑えられるわけがねぇ。このままじゃあ、点差はさらに開いてばかりだ。…第2Qで、花月側がどう動くか…」

 

先の読めない展開。ここから先、どうなるか考えていると…。

 

「やあ、タイガ」

 

「っ!? タツヤ!? 来てたのか…」

 

そこへ、陽泉の氷室が現れた。

 

「ここ、いいかな?」

 

「どうぞ」

 

空いている黒子の隣の席を指さすと、黒子が了承し、席に座る。

 

「タツヤ、まだ帰ってなかったんだな」

 

「そういうタイガこそ。…こっちは、敦の付き添いさ。この近くに、評判の良い医者がいると聞いたからね」

 

「医者? 紫原の奴、どこか怪我でもしたのか?」

 

「ああ。花月戦で無理をして膝を少しね。とはいえ、そんなに大袈裟な怪我ではなく、少しの間、安静にしていれば、完治する程度さ。…堀田が試合を欠場しているのも、同様の理由だろうね」

 

横で話を聞いていた黒子は、紫原の怪我が軽いことに胸を撫でおろす。

 

「しかし、第1Q、あの堀田がいないとは言え、花月がリードを許して終わるとは…」

 

2回戦で対戦し、完敗した氷室は、この結果には少々驚いていた。

 

「ああ。三杉は青峰にほぼ抑えられている。他が何とか点を取っているとはいえ、このままだと多分、もっと点差は開くぜ」

 

「……腑に落ちないな。実際、マッチアップした俺から見て、青峰より、三杉の方が上だと思っていたんだが…」

 

「実際、三杉は、パスを捌くので精一杯だ。青峰も、去年の冬からかなり伸びているからな」

 

「…」

 

それでも、顎に手を当て、腑に落ちないとばかりに首をかしげる氷室。

 

「このまま、堀田が出場出来ないなら、試合は第2Qにでも決まりかもしれないな」

 

火神が呟くと、花月、桐皇の双方のベンチから、選手達がコートへとやってくる。

 

そして、第2Qが始まった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まる。

 

ボールは桐皇。花月はマンツーマンディフェンスを布いてくる。

 

「…っ!」

 

ギリっと、歯ぎしり聞こえそうなばかりに青峰が表情を険しくする。

 

花月のマッチアップ相手は第1Qと同じ。天野のマークが交代した新村になっただけ。つまり、青峰をマークするのは、大地。

 

「…てめぇら、俺をイラつかせるのも大概にしろよ? てめぇ(大地)じゃ、俺の相手にならねぇってことがまだ分かんねぇのか?」

 

低い声で、かつ、怒りがこもった声で正面の大地……そして、三杉に告げる。

 

「…」

 

三杉は、一瞬、青峰の方へ視線を向けるが、すぐさま目の前の桜井に視線を戻す。

 

「ちっ!」

 

そんな三杉の行動が、青峰をさらに苛立たせる。

 

ボールが、青峰に渡る。

 

「…っ!」

 

大地は、自身の全精力を注ぎ、青峰のマークに徹する。

 

「いくらやる気見せたって無駄だ。てめぇは俺の足元にも及ばねぇ。…どういうつもりかは知らねぇが、てめぇがそういうつもりなら――」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「――取り返しが付かねぇくらいの点差を付けてやるだけだ」

 

青峰が、変則のチェンジオブペースからのドライブを仕掛ける。

 

「(っ! 第1Q、ただやられていた訳ではありません。スピードと緩急には慣れてきました。リズムも、ようやく掴んできました。これからは、簡単には抜かれません!)」

 

大地は、このドライブに何とか食らいつく。

 

「おっと」

 

ボールを反対側にバウンドさせ、反転させながら大地の横を抜けようとする。

 

「くっ!」

 

相変わらずの変則的なドリブル。それでも、大地は歯を食いしばって食らいつく。

 

「へぇ、さすがに、俺にマークさせるだけあって、ただのへぼじゃないらしいな」

 

「…っ」

 

感心する青峰だが、大地は言葉を返す余裕は一切ない。

 

「お前、誇っていいぜ? あの火神も、俺と初めてやりあった時は、全く付いてこれなかったんだからな」

 

一歩下がってテンポを落ち着ける。

 

「もう少しだけ本気を出してやる。こっちはとっととあいつ(三杉)を引きずり出さなきゃなんねぇからな」

 

ゆったりとテンポに1度戻し…。

 

 

 

――ダムっ!!!

 

 

 

そこから再度加速をした。

 

「(は、速い! 先ほどまでとは違ってさらに…!)」

 

その後も、クロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを繰り返しながら大地を翻弄していく青峰、大地も、必死に猛追するが…。

 

「(だ、ダメだ…!)」

 

ついには、青峰の動きに付いていけず、バランスを崩して座り込んでしまう。

 

大地をかわした青峰は、そのままリングへと一直線に向かい、リングへと飛ぶ。

 

「させるか!」

 

ヘルプに来た松永がブロックに飛ぶ。

 

「…邪魔だ!」

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

「がっ!」

 

ブロックに飛んだ松永を弾き飛ばし、リングのボールを叩きつけた。

 

ダンクを叩き込んだ青峰はゆっくりとディフェンスに戻りながら、三杉のすれ違い様に…。

 

「さっさと来いよ。こっちはお前が来るまで待ってやるつもりはねぇ。来ねえなら、このQ中に勝負を決めちまうからな」

 

そう一言囁きながらディフェンスに戻っていった。

 

「…」

 

オフェンスが切り替わり、花月ボールとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールをキープする空。目の前には今吉。

 

桐皇は第1Qと変わらず、マンツーで、マッチアップ相手も同じ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

空から大地にパスが飛び、大地がハイポストの天野にボールを渡す。そこから空がボールを貰うも、厳しいマークに合い、そこからアウトサイドに展開していた大地に一旦戻す。そこから、三杉へとボールが渡った。

 

『来た! エース対決!』

 

何度目かの対決。両チームのエースの激突に、観客が沸き上がる。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う両者。

 

そこに、今吉のマークを振り切り、ボールを貰いに空が動く。

 

 

――ピッ!!!

 

 

動いた空に、間髪入れずにパスを出す。ボールを受け取った空はそのまま切り込んでいく。

 

「調子のんな!」

 

若松がヘルプに飛び出す。

 

レイアップの態勢に入り、若松がブロックに飛んだタイミングで空はパスを出す。

 

「あっ!?」

 

ボールの行く先は、ゴール下の松永。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

松永はそのままリングにボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

「よっしゃ!」

 

ハイタッチをする空と松永。2人の肩を叩いて労う三杉。

 

「…」

 

そんな光景を見つめる青峰。

 

「…誠二、ここからは全部俺にボールよこせ」

 

「?」

 

静かに、かつそれでいてはっきりとした口調で今吉に伝える。

 

「こんな不愉快でつまんねぇー試合はもう終わりだ。とっとと終わらしてやる」

 

「……分かりました」

 

鬼のような形相の青峰に、今吉は圧倒されつつも、それを表に出さず、ただ返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇のオフェンス…。

 

フロントコートまで今吉がボールを進めると、迷わず、青峰にボールを渡す。

 

「(今度こそ止めて見せます!)」

 

腰を落とし、気合を入れて対峙する大地。

 

「…遊びは終わりだ」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「えっ…」

 

そう囁くように言ったの同時に青峰が切り込む。それは一陣の風が通り抜けるが如く、大地の横を抜けていった。

 

「行かせるかい!」

 

ヘルプにやってきた天野が青峰の進路を塞ぐ。青峰は、リング付近まで侵入すると、リングと反対方向に飛ぶ。

 

「(なにしとんねん? まだ俺をかわせてへんのに…)」

 

疑問を抱きつつも、天野もブロックに飛ぶ。

 

青峰は、ボールを右手に持ち替え…。

 

 

――ブン!!!

 

 

そのままリングめがけて放り投げた。

 

 

 

――バス!!!

 

 

 

ボールは、バックボードに当たりながらリングを潜った。

 

『うおぉぉぉぉぉっ!!! 青峰のフォームレスシュートだぁぁっ!!!』

 

「何やねん、それ!?」

 

正当なフォームから逸脱したシュート。だが、ボールはリングの中央を射抜く。

 

 

「来やがったな。青峰のエンジンがかかり始めた…!」

 

観客席の火神がポツリと言う。

 

 

ここから、試合は青峰の独壇場となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ちっ! 1本、返すぞ!」

 

先ほどの青峰のプレーを振り払うように空が声を上げる。

 

「(…チラッ)」

 

空が天野にアイコンタクトをする。それと同時に切り込む。

 

「読めとるで!」

 

今吉は、桃井のデータによる先読みで、空のプレーを読み切り、空を猛追する。

 

「あんさんのそれ(スクリーン)も織り込み済みや!」

 

今吉は、天野のスクリーンも読み切り、かわしながら空を追いかける。

 

「天さん、あざっす!」

 

「っ!? あかん!」

 

ここで、今吉は空の狙いに気付く。

 

スクリーンをかわせば、わずかに加速が遅れ、尚且つ、距離が膨らむ。空と今吉のスピード差を考えれば、それは致命的。

 

これは、陽泉の氷室が、三杉をかわすために行った戦法だ。

 

今吉は振り切った空は、そのままリングに突っ込む。

 

「舐めんな、1年坊!」

 

あまりの無謀とも言える空の進軍に、若松がいきり立ちながらブロックにやってくる。

 

 

――スッ…。

 

 

「がっ!」

 

それを嘲笑うように真横にトスするようにボールを放る。

 

「よし!」

 

空からボールを受け取った大地が、がら空きになったリングに向かって跳躍する。右手に持ったボールをリングに向けて叩きつける。

 

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、大地の手からボールが弾き飛ばされる。

 

ダンクが決まると確信していた大地は目を見開いて驚愕する。

 

「簡単にダンクなんかさせるわけねぇだろ」

 

ブロックしたのは青峰。強烈なアジリティーで一気に大地との距離を詰め、ダンクを阻止した。

 

ルーズボールを桜井が抑える。

 

着地した青峰が、前方を指差し、そのままフロントコートに加速していく。

 

桜井は、青峰の要求どおり、フロントコートにボールを投げる。

 

フロントコート手前でボールを掴み、そのままドリブル。

 

「ちくしょう!」

 

「くっ!」

 

空と大地が、青峰を追いかけるべく、相手リング下から猛ダッシュで青峰を追いかける。

 

ボールを持って尚、他者を突き放すほどのスピードを有する青峰。だが……。

 

「あん?」

 

同じく、スピードを信条とする空と大地。ペイントエリア直前で青峰を捉え、その道を阻む。

 

 

「うぉっ! あいつら、あの青峰に追いつきやがった…」

 

これに火神が驚愕する。

 

かつてはボールを持った青峰に逆に離された経験を持つだけに、青峰よりスタートが遅れたにも関わらず、シュート態勢に入る前に追いついた空と大地に軽く驚愕する。

 

 

「止めてやる!」

 

「これ以上は…!」

 

空と大地のルーキーコンビが青峰と対峙する。

 

「…無駄だ。お前ら程度じゃ、何人来ようが結果は一緒だ」

 

青峰が1度停止し、そこから再び加速。フロントチェンジからのクロスオーバー。

 

「っ!」

 

「ぐっ!」

 

これには何とか食らいつく2人。だが、これにより、2人の間にスペースが出来る。そこへ…。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「「っ!?」」

 

ロールしながら高速でその間を通り抜けた。

 

「こんのぉ…!」

 

諦めずと、空が後ろからバックチップを狙うべく、手を伸ばす。だが…。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

あっさり切り返され、その手は空を切った。

 

青峰、その後、そのまま跳躍。

 

「させません!」

 

切り返しの間に大地が青峰の前方に回り込み、ブロックに飛んだ。

 

青峰は、1度上げたボールを下げ、大地の横を抜けていく。そのまま、リングの裏手にまで出てしまった。

 

「よっしゃ! ナイス――」

 

青峰を止めたと確信した空は思わず拳を握りこむ。

 

「ハッ! んなわけねぇだろ」

 

リングの真裏にまで行ったところで、青峰はリングに背を向けたままボールを放り投げる。

 

「っ!? まさ…か…」

 

ボールはリングの真裏から真正面に戻ってきて、そのまま……。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

「「っ!?」」

 

空と大地を嘲笑うかのようにリングの中央を潜った。

 

「「…」」

 

信じられないとばかりに、空と大地は茫然とする。

 

「実力はまあ、認めてやってもいい。だがな、お前らはこっち側じゃねぇ。いいとこ、五将止まりだ」

 

スタスタ歩きながら自陣に戻っていく。そのすれ違い様に…。

 

「お前らじゃ、俺には永遠に勝てねぇよ」

 

残酷なまでの言葉を2人にかけていった。

 

「「…っ」」

 

圧倒的なまでな実力差を目の当たりにし、何も言い返すことが出来ない空と大地。

 

ただただ歯をきつく食いしばるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も、青峰の独走は止まらない。

 

ボールが青峰が得点をどんどん量産し、リードを広げていく。

 

大地も、何とか止めようと奮闘するも、その驚異的なアジリティーと、変則的なストリートのバスケを前に、手も足も出ない。

 

司令塔である今吉が、青峰にボールを集め、青峰にマークが集中すれば、もう1つの得点源である若松にボールを捌くなどの機転を見せ、活躍していた。

 

ディフェンスも、福山が抜けたことで穴がなくなり、桃井のデータも相まって、花月の得点チャンスは確実に減っていった。

 

空がボールを大地に回し、大地が桜井をかわし、インサイドにカットイン。

 

だが、そこへ、青峰が現れる。

 

「大地!」

 

空がボールをもらうためにパスを要求。

 

「っ!」

 

大地は、青峰に1ON1を挑むため、突っ込む。

 

「分からねぇ奴だな」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

レッグスルーからのクロスオーバーでかわしにかかる。だが、青峰は難なく付いていく。

 

「っ!」

 

そこから、バックロールターンで反転するが、これにも青峰は難なく対応する。

 

「ここからです!」

 

そこから大地が高速のバックステップで急バックする。そこからシュート態勢に入る。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!? これも…」

 

大地の目の前に現れた青峰の手にボールが触れる。

 

「今のはなかなか良かったぜ」

 

自身の最大の武器すらも、青峰には通じなかった。

 

素早くルーズボールを拾った青峰はそのままワンマン速攻を仕掛ける。

 

「ちっくしょう!」

 

空が速攻を阻止するべく、全速で青峰を追いかける。

 

やはり、最高速で上回る空がシュート前に青峰を捉える。

 

「(青峰に追いついた。追いついたけど…)」

 

青峰と対峙する空。

 

「(…くそっ! 俺じゃ、青峰は止められねぇ!)」

 

左右の揺さぶりからのドライブで空の横をあっさり抜け、そのまま跳躍する。

 

「こんちくしょうがぁっ!」

 

声を張り上げ、青峰のダンクの阻止を試みる。

 

ボールがリングに叩きつけられる直前でボールに触れることが出来たが…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

「がっ!」

 

不安定な態勢に加え、元々の力の差もあり、空はあっさりと弾き飛ばされてしまう。

 

「…」

 

青峰は、空に一瞥もくれず、ディフェンスに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

青峰にボールを集め、得点を量産する桐皇。

 

リードはどんどん広がり、劣勢を強いられる花月。

 

エンジンがかかった青峰を大地は止めることが出来ず、付いていくのが精一杯。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

ここで、第2Q…、前半戦の終了を告げるブザーが鳴る。

 

 

第2Q終了

 

 

花月 29

桐皇 48

 

 

第1Q終了時、僅か6点だった点差が、19点にまで広がっていた。

 

「「…っ」」

 

悲痛な面持ちでベンチに戻っていく空と大地。

 

桐皇の圧倒的なオフェンス力を目の当たりにし、言葉が出ない花月選手達。

 

「…」

 

ただ1人、同じくベンチに下がっていく、桐皇の選手達を観察する三杉。その表情には、焦りは微塵も感じられなかった。

 

三杉はいったい何を考えているのか…。

 

試合は、これより、インターバルを迎えるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





花粉症、スランプのダブルパンチで、ここまで間が空いてしまいました…。

バスケの細かいルールなど、改めて調べているのですが、身近にバスケ経験者がいないので、四苦八苦しております(^-^;)

更新ペースを早く戻したいと思う今日この頃です。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第46Q~狼煙~


投稿します!

ペースを戻す言いながら、かなり空いてしまい、申し訳ありませんm(_ _)m

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q終了

 

 

花月 29

桐皇 48

 

 

桐皇の大量リードで前半戦が終わる。

 

両チーム、控室へと戻っていく。

 

『桐皇が大量リード。これは決まりかなー』

 

『堀田がいないと花月はダメだな』

 

『それにしても、やっぱ、青峰のプレーはすげぇな!』

 

『うんうん、相手、全然止めれてなかったからな』

 

観客達は、感想を言い合う中、ひと際、青峰のプレーに魅了された者が多かった。

 

中には…。

 

『つうかさ、青峰マークしてた奴って、確か、去年の全中の得点王だったよな? ぶっちゃけ、微妙じゃね?』

 

『言われてみればそうだな。ずっと抜かれっぱなしだったし、何か、付いていくだけでやっとって感じだったな』

 

『ショボ過ぎだろ。キセキの世代がいない全中なんてどうせレベル低いだろうし、得点王なんてたかが知れてんだろうな』

 

口々に、青峰をマークしていた大地の悪口とも取れる言葉を吐く者もいた。

 

「…ちっ!」

 

「…」

 

そんな心無い言葉に、怒りを覚えたのが、元城ヶ崎中学、現海常高校に所属する小牧と末広。

 

空と大地とは、全中でしのぎを削って戦い合った同士。

 

自分達との激闘を制し、さらには優勝した彼らを嘲笑し、ついには、彼らと自分達を含めた者達を、低レベルと嘲る言葉を吐いたことに苛立ちを隠せなかった。

 

「随分な物言いッスね」

 

「っ! 黄瀬先輩…」

 

そんな小牧と末広の様子に気付き、溜息を吐く黄瀬。

 

「ま、観客の言うことも一理あるから、仕方ない気もするッスけど」

 

「…黄瀬先輩も、あの神城と綾瀬は低レベルだと思ってるんですか?」

 

思わず尋ねる末広。

 

「まあ、あの2人は、青峰っちのプレーに付いていくのがやっとッス。でも…」

 

「「…」」

 

「あの青峰っちの動きに付いていけることが、どれだけすごいことなのか、全く分かってないッスよ」

 

黄瀬は、興味深そうな面持ちで空と大地は目で追っていく。

 

「あのアジリティーに変則的なリズムが加わった青峰っちに付いていけることが出来る奴が、全国にどれだけいるか。分かってないッスよ」

 

「黄瀬先輩…」

 

黄瀬の2人を認める言葉に、小牧は多少ではあるが、溜飲が下がった。

 

「今は正直、2人ががりで来たととしても、負ける気はしないッス。けど…1年後には分かんないッスね」

 

「どういうことですか?」

 

「あの2人、初めて戦った時の火神っちと同じ匂いがするんスよ。大きな才能と、その才能の蓋がまだ空いてない。そんな匂いが…」

 

「それって…」

 

「神城君と綾瀬君だっけ? あの2人、まだまだ伸びるッスよ。あのタイプは、僅かな期間で劇的に化けたりすることもあり得るッス。もしかしたら、1年後とは言わず、今年の冬には、俺達(キセキの世代)と対等に戦えるレベルになるかもしれないッスね」

 

「マジですか…」

 

黄瀬の、2人への評価に、小牧と末広は、思わず息を飲んだ。

 

「同世代の君達にとってあの2人は無視出来ないッス。死ぬほど努力しないと、差は開くばかりッス」

 

「!? は、はい! もっと練習して、さらに強くなります!」

 

発破をかけると、2人は気合を入れた。

 

「頼もしくて何よりッス。…ま、今は試合ッス。今のところは、桐皇の優勢ッスね」

 

「花月は青峰を止められないですし、堀田不在でインサイドも劣勢です。それにこの点差。正直、ここから巻き上げられるとは思えないですね」

 

「俺も同意見だ。点差は安全圏内。もう、8割方勝敗は決まったようなもんだな」

 

小牧、末広は、既に桐皇勝利と予想する。

 

「……俺はそうは思わないッス」

 

「「えっ?」」

 

黄瀬の言葉に、2人は驚きの声を上げる。

 

「正直、青峰っちが負ける姿は想像出来ないんスけど、花月がこれで終わるとも思えないんスよね」

 

「…ですが、花月に打てる手があるとは思えません。…生嶋がベンチにいますけど、この点差をひっくり返す程の結果を残せるとはとても…」

 

「…」

 

ここで、黄瀬は考える仕草を取る。

 

「(…あの4番、三杉とか言う人。この程度だとは到底思えないッス。初めて見た時のあのプレッシャー。あれは間違いなく、俺達と同等…いや、それ以上ッス。そんな彼が、この程度だとは思えないッス。まず間違いなく、後半から動くはず…)」

 

黄瀬は、そう予測したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「開いたな」

 

「そうですね」

 

ポツリと火神が呟くと、黒子がそれに返事をする。

 

「青峰の奴…予選の時よかキレがいい。今の青峰を止められる奴が、全国にどれだけいるか…」

 

口々に、ライバルである青峰を称賛する。

 

「…」

 

「? ……タツヤ?」

 

そんな中、氷室はただ1人、神妙な顔をしている。そんな氷室に声を掛けようとしたその時…。

 

「ここ、空いているかな?」

 

そこへ、隣の空席に1人の男が現れる。

 

「!? 赤司!?」

 

やってきたのは、先ほどまでコートで試合をしていた、洛山高校の主将、赤司征十郎。

 

「今日、俺は試合に出なかったのでね。クールダウンする必要がなかったから、ミーティングの途中で許可をもらって試合の観戦に来たのだが、少々間が悪かったようだ」

 

赤司は、次の…決勝戦で戦う相手をその目で確かめるため、洛山の中でいち早く観客席にやってきたのだ。

 

「落ち着いて試合を見たかったから、空席を探していたのだが、あいにくとここしか席がなくてね。少々、配慮にかけるが、構わないだろうか?」

 

氷室は別として、黒子と火神は、2回戦で赤司率いる洛山と試合をし、負けている。そんな相手と並んで試合を見るのは気分を害するのではないかと、赤司は気にしている。

 

「僕は構いません。一緒に観戦しましょう」

 

黒子が了承すると、チラリと火神の方を見る。

 

「……別に、正々堂々と戦った結果なんだから、一々気にする必要なんてねぇだろ。好きなところで見りゃいいんだよ」

 

火神も、気にするなとばかりに了承する。

 

「なら、隣、失礼します」

 

「ああ」

 

「氷室さん。こうして会うのは久しぶりですね」

 

「そうだね。こうやって話をするのは、以前のタイガのバースデーパーティー以来か」

 

隣同士の赤司と氷室が挨拶を交わす。そして、挨拶もそこそこに、話は試合のことに変わる。

 

「試合は、桐皇が随分と点差を付けているようだね」

 

「はい。第1Qはそこまでの点差はなかったのですが、第2Qに入って、青峰君の調子が上がってきました。それに応じて、桐皇も調子を上げています」

 

「花月も、要所要所できっちり点を取ってはいるが、9番(福山)の代わりに11番(新村)が入ったことで、ディフェンスの穴が無くなって失点は減った。だが、調子を上げた青峰に、綾瀬は歯が立ってねぇ」

 

「綾瀬? 青峰をマークしていたのは三杉ではないのか?」

 

疑問を感じた赤司は、思わず聞き返していた。

 

「はい。青峰君をマークしているのは、綾瀬君です」

 

それに、黒子が答える。

 

「…腑に落ちないな。資質は認めるが、今の彼に、青峰を抑える力はないことは明白だ。何か思惑でもあるのか?」

 

花月の考えが理解出来ない赤司は、腕を胸の前で組んでその狙いを思案する。

 

「どんな狙いがあるにしても、もう逆転は無理なんじゃないのか? 正直、堀田が試合に出れないのなら、花月に青峰を止められるとは思えねぇ。仮に点が取れても、それ以上に失点を抑えられない。後半戦、逆転出来るとはとても…」

 

「……俺はそうは思わない」

 

火神の予想を、氷室が否定する。

 

「あの三杉が、あまりにも大人し過ぎる。俺には、わざと動かなかったとしか思えない」

 

「…そうは言ってもな、あの青峰相手じゃ、三杉が付いても結果はあまり変わらなかったと思うぞ? 確かにテクニックはかなりのレベルだが、俺には、キセキの世代のような怖さをあいつ(三杉)からは感じねぇ。とてもじゃないが、この状況から逆転出来るような奴には…」

 

「タイガは、直接やりあったことがないから分からないだろうが、俺には、タイガやキセキの世代、あの堀田よりも、三杉の方が断然怖さを感じる」

 

神妙な顔をし、氷室は続ける。

 

「確実に言えるのが、俺達との試合。三杉は、実力のほとんどを見せていない」

 

「っ!? マジかよ…」

 

これには、火神は驚愕する。氷室の実力は、キセキの世代に比類するほど。氷室の言葉を信じるなら、三杉は力を抑えながら氷室を手玉に取ったことになるからだ。

 

「あの言い知れない恐怖は、実際に相手した者にしか分からないよ。全てを見透かされたかのようなあの感覚は…」

 

「「…」」

 

黒子も赤司も、ただ黙って氷室の言葉を聞いていた。

 

「三杉は前半戦、わざと動かなかった。時折、何かを観察する様子が見られたし、何より…桐皇は、点差こそ付けているが、何処か波に乗り切れていない。完全に流れをのるための1本を防いでいたのは全て三杉だった」

 

「!? そう言われてみれば…」

 

「第3Q。必ず、花月は何か手を打ってくる。そして、動くのは確実に三杉だ。まだ試合は、決まっていない」

 

「っ!」

 

確信にも似た氷室の言葉と迫力に、火神は、思わず息を飲む。

 

「俺は試合を見てはいないが、氷室さんの意見に同感だ。…後半戦、俺達の思いのよらない展開になるかもしれない」

 

赤司はこう予測する。

 

そして、その予測は、現実のものとなることを、まだ、知らない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月控室…。

 

『…』

 

圧倒的なオフェンス力を誇る桐皇…青峰を止められず、19点ものリードを許し、空気は重い。

 

「後半…どうする?」

 

重い空気の中、馬場が口を開いた。

 

「とりあえず、仕掛けるしかないですよ。開始早々、オールコートで当たりましょう」

 

空は、オールコートディフェンスを提案する。

 

「それはいくらなんでも、早計じゃないのか? お前や綾瀬はともかく、終盤の勝負所で体力が尽きるのが関の山だ」

 

松永が空の提案に苦言を呈す。

 

「けど、何か仕掛けなきゃ、点差は縮まりませんよ。多少無茶でも、やるしか…」

 

「いえ、相手も、こちらが何か動きを見せのは予想しているでしょう。私には、劇的な効果があるとは…」

 

「なら、松永を下げて、生嶋を投入したらどうだ? インサイドが不安になるが、この際、ある程度は目を瞑るしか…」

 

選手達が口々に意見を出し合っていく。だが、中々結論が出ず、徐々にヒートアップしていく。

 

「…」

 

監督、上杉は、無言でこの状況を見守っている。

 

大量リードされている不安。止められない青峰。その事実が、選手達の心をさらに焦りを生む。

 

 

 

――パンパン!!!

 

 

 

そこへ、大きく手を叩く音が2つ、室内に響く。全員がその音の先に集中する。

 

「みんな落ち着け。まだ試合は折り返したばかりなんだ。まだまだ慌てる時間帯じゃない」

 

手を叩いた三杉が、皆を落ち着かせるべく、声をかける。その一言で、ヒートアップしていた選手達が多少落ち着きを取り戻す。

 

「とりあえず、後半もこのまま行く」

 

次に言葉にしたのが、先ほどまで変更点なしという言葉だった。

 

「ちょっと待ってください! 何か手を打たないんですか? 19点差付いているんですよ!?」

 

この提案に驚いたのが、空だった。

 

決して楽観視出来ない状況にこの点差。空以外の者も、口には出さないが同様の見解であった。

 

「落ち着けと行っただろ? 派手な仕掛けを打つ必要はない。点差なんて、いくら付いても、第4Q終了のブザーが鳴るまでにひっくり返せば問題ないのだからね」

 

周囲の空気を感じつつも、三杉は意見を変える素振りを見せない。

 

「それに、19点という点差を一気に返そうとすると、やはり、賭けに出なければならない。点差(借金)を掛け(ギャンブル)で返そうとすれば、まず破滅だ」

 

「で、ですが…」

 

「空。お前はもしかして、点差を付けられることが不利になる。そう思ってないか?」

 

「…違うんですか?」

 

心配する空に、三杉が突如、そう問いかける。

 

「もちろん、それは間違いではない。…だが、正解でもない」

 

『…』

 

「点差を付けてしまったことで、それが後々、自分達の首を絞めることもある」

 

『…(ゴクリ)』

 

三杉が発する迫力に、思わず選手達は息を飲んだ。

 

「前半戦で勝つ為の種は撒いておいた。それが必ず、後半戦に芽を出す。それを踏まえても、今の状況は全く問題にならない。ここは1つ、俺の言葉を信用してくれ」

 

自信と、三杉の中になる根拠からなる言葉に、選手達は引き込まれ、胸の中の不安が不思議と無くなっていった。

 

「とは言え、これ以上、点差が付くのは空の言う通り、好ましくない。このままで行くとは言ったが、1つだけ変更する。ここから先は、青峰大輝は俺が相手をする」

 

『っ!』

 

「っ! 三杉さん! 私は――」

 

異議を唱えようとする大地を、三杉は片手で制する。

 

「綾瀬。お前はよくやった。お前は俺が望んだとおり…いや、それ以上にやってくれた。これはお世辞でも同情でもない。だが、今のお前では青峰の相手は無理だ。今は、ね。この試合に勝つ為、後は俺に任せろ」

 

「……はい、分かりました…!」

 

大地は俯き、拳をきつく握りしめ、悔しさを露わにした。

 

「…」

 

そんな大地を、空は一瞥した。

 

「…すいません、少し、席を外します」

 

大地は一言断りを入れてから控室を後にした。

 

「…すんません、俺、ちょっとトイレに行ってきます」

 

大地に続いて、空も控室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

控室から少し歩いた扉の先のエントランスで、大地は手すりに手を付きながら遠くを眺めていた。

 

そこへ、後を追ってやってきた空が、大地の肩にジャージをかけた。

 

「夏とは言え、汗まみれのままウロウロしてたら身体冷えるぜ」

 

「……すみません」

 

そのまま空は、手すりに腰掛けるように体重を預けた。

 

「…陽泉の紫原は、俺達と戦う土俵もタイプも違った。だから、勝てなくとも『言い訳』が出来た。けど、今日の青峰は、俺達の土俵である平面。しかも、スピードで圧倒された」

 

「…」

 

「分かっていたつもりでも、いざ、実力差を突き付けられると、きついな」

 

「……全くです」

 

「方や、全中MVP。方や、全中得点王。けど、キセキの世代には歯が立たない。……全く、高校バスケはすげぇよな」

 

晴れ渡る青空を見上げ、溜息のように言葉を紡いでいく。

 

「…同感です」

 

同じく、晴れ渡る青空を見上げながら呟く。

 

「「…」」

 

暫しの間、無言で空を見上げていると、空が口を開く。

 

「…諦めるか?」

 

「えっ?」

 

「あと2年もすれば、キセキの世代はいなくなる。そうすりゃ、生嶋と松永がいる俺達に敵はいない。三大大会優勝だって夢じゃないぜ」

 

ケラケラと笑いながら空が言う。

 

「……諦めるわけがないでしょう。キセキの世代を倒すと決めたあの誓いを、私は片時も捨てたつもりはありません。…というか、あなたも、欠片もそんなつもりはないのでしょう?」

 

大地の返答に、空は満足そうな笑みを浮かべた。

 

「ハハハッ! 心が折れてなくて何よりだ。大地って、一見冷静だと思われがちだけど、ここ一番、俺より熱くなりやすい上に、プライドも高いからな。少し心配したけど、杞憂で良かった」

 

「…あなたに言われるとは、私もまだまだですね」

 

大地は苦笑を浮かべながら溜息を吐く。

 

「ま、現段階じゃ、俺達はキセキの世代に敵わない。…けど、勝敗は別だ。試合での勝利は譲れない。後半、もっと暴れて、勝利に貢献しようぜ」

 

「もちろんです。私達に出来ることは必ずあります。インターハイ、優勝して冬の糧としましょう」

 

空と大地は拳を突き出し、コツンと合わせた。

 

その後、空と大地は控室に戻り、すぐさま、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!

 

 

 

再びコートへと戻ってきた両校。

 

観客達は、会場中を埋め尽くす程の歓声でそれを出迎えた。

 

「さて、後半、どう出るかね」

 

観客席の一角に座る、誠凛の監督である相田リコの父、景虎が予想を立てる。

 

「ゴウは、今大会、特別な指示は出さねぇみたいだが、この状況でも口出ししないつもりか?」

 

以前に景虎は、上杉から、恵まれ過ぎた新加入の強者が大勢揃ったがために、練習は別として、試合では最低限の指示しか出さないと聞かされていた。

 

「かっちゃんは、と、点差は19点。相手は、ディフェンスの要の堀田が欠場…。ここは一度、スタメンを下げて、休ませてもいい場面だ。たとえ控えでも、しばらくは持つだろうからな。…だが、俺ならやらねぇし、かっちゃんなら、尚のことしねぇだろうな」

 

足を組み、頬杖と付きながらコートを見つめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇ベンチ…。

 

「第3Qも、メンバーチェンジ無しでそのまま行きます。点差があるからといって、決して油断しないよう、お願いします」

 

桐皇は、第2Q終了時のメンバーのまま、後半戦に臨む。

 

メンバーチェンジはせず、一気にトドメを刺すことに決まった。

 

「…ふぅ」

 

ベンチに座り、ひと際、大きな溜息を付く桜井。

 

「桜井君、大丈夫?」

 

「大丈夫です。今日の試合、まだ何もしていませんから。疲れなんて…本当にすいません!」

 

疲労が見えている桜井を、桃井が気に掛け、声をかけると、桜井は疲れた表情を見せたものの、それをごまかすかのように頭を下げた。

 

「ま、一気にトドメ刺してやるよ」

 

肩にかけていたタオルを桃井に渡し、コートへと向かっていく。

 

「?」

 

タオルを受け取った桃井は、何処か違和感を感じたが、考えても思いつかなかったため、そのまま原澤の横へと座った。

 

青峰に続くように、若松、桜井、今吉、新村がコートへと向かっていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「よし!」

 

「ふぅ…」

 

先ほどまで気落ちしていた大地だが、すっかり切り替えられ、気合も十分であった。そらも同様で、顔を叩いて気合を入れていた。

 

「ほな、行きまっせ」

 

天野も気合十分で、これからの後半戦の意気込みが窺えた。

 

「…」

 

唯一、暗い表情をしていたのが、松永。

 

マッチアップ相手である若松に後れをとっていることが理由だ。

 

「…松永」

 

「はい、何でしょう?」

 

そんな松永を見かねて堀田が声を掛ける。

 

「若松は強いか?」

 

「…はい。強いです」

 

「俺よりもか?」

 

「いえ、そんなことは…」

 

「花月高校に入学して、練習でお前は毎日俺とゴール下を争ってきたのだぞ? それを忘れるな」

 

「は、はい!」

 

堀田に発破を掛けられたことにより、松永の表情が引き締まった。

 

「さて、ここからが正念場だ。皆、覚悟は出来ているな」

 

三杉が言い終えると、選手達の顔を見渡す。選手達の顔は真剣そのものだった。

 

「…ふっ、結構だ」

 

選手達の表情に満足した三杉は笑みを浮かべる。

 

「ここからは青峰はお前がマークするのだろう? 大丈夫なのか?」

 

先ほど、控室の話し合いで決まったマークチェンジ。堀田が再度、確認の意味を込めて尋ねる。

 

「問題ない。すでに、『アナライズ』も済んでいる。ここから先、彼(青峰)が活躍することはない。さしあたって、第3Q、青峰を0点に抑える」

 

『っ!?』

 

三杉のこの言葉に、選手達…特に大地が驚いていた。

 

「それじゃ……行こうか」

 

額に、愛用のヘアバンドを当て、コートへと向かっていった。

 

『おう(はい)!!!』

 

それに続くように選手達が続いていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合が再開され、ボールは桐皇ボール。

 

「……へぇ」

 

ここで、青峰が嬉しそうにほほ笑む。理由は、自分のマークが三杉に変わったからだ。

 

『青峰に三杉が付いた』

 

『けど、三杉でも止められんのか?』

 

観客の興味もそこへと移る。

 

「…来たか」

 

氷室もこれに注目する。黒子、火神、赤司や、他の選手も同様である。

 

「誠二、よこせ!」

 

早速、青峰がパスを要求。

 

ボールをキープしていた今吉は、ここでパス。ボールの先は、青峰……ではなく、若松。

 

「あっ!?」

 

エース対決が見られると思っていた花月側は意表を突かれ、観客からは溜息。

 

「おい、誠二!」

 

「すんまへんなぁ。青峰はんより、こっちの方が空いてたんですわ」

 

苛立つ青峰に、今吉は、表情を変えずに謝罪の言葉だけ述べた。

 

「(ホンマは、何か嫌な予感がしてならんのですわ。後半戦最初の1本やし、不確定要素のある青峰はんより、ここは確実性の高いキャプテンを選びますわ)」

 

この1本を確実に取る為、今吉はエースの青峰ではなく、前半戦、実績がある若松を選択した。

 

ボールを受け取った若松。背中に付くのは松永。

 

「止める!」

 

背中でジリジリ押し込んでくる若松に対し、松永はグッと腰を落とし、それを阻止している。

 

「(さっきまでより重い! だが、人間、すぐさまパワーアップ出来るわけねぇ! 分かるぜ! けどな、押し返すのにそんなに全力注いだら、これには対応出来ねぇだろ!)」

 

押し込めないと見た若松は、フェイントを掛けてスピンムーブで反転しながら松永をかわす。

 

「ちぃっ!」

 

やはり、押し返すのに、力を込め過ぎたため、突然のスピンムーブに対応出来なかった。

 

「おっしゃー! もらったぁっ!」

 

そのままボールを右手で掴み、そのままリングに跳躍。持ったボールをリングに叩きつけ――

 

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

 

るはずだったのだが。ボールは若松の手から弾きだされた。

 

ブロックに行ったのは…。

 

「っ! んだとぉっ!?」

 

青峰のマークを解いてブロックに向かった三杉だった。

 

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

 

 

ルーズボールを大地が拾った。

 

「ちっ! だから俺に寄越せっつったんだよ…」

 

溜息と怒りが混ざった声で青峰が呟いた。

 

「大地! こい!」

 

大地がボールを投げると、空がボールを受け取り、速攻。そのままワンマン速攻を決めたかったが、桐皇、戻りが速い。全員がディフェンスに戻っていった。

 

「どうするかなぁ…」

 

桐皇の守備をどうやって突破するか考えていると…。

 

「三杉さん?」

 

三杉がボールを要求している。その三杉の目の前には青峰がいる。空は、すかさずパスを出した。

 

ボールは、カットされることなく三杉に渡る。

 

「ようやくやる気になったかよ。散々もったいぶりやがって、せいぜい俺を楽しませて――」

 

その時、青峰の全身に言い知れようがない悪寒が襲う。

 

『っ!?』

 

それは、他の選手達も同様であった。

 

その直後…。

 

「っ!」

 

両手をダラリと下げ、野生を全面に出してディフェンスを始めた。

 

「っ! 青峰が本気になった!?」

 

青峰の雰囲気が変わったことに気付く火神。

 

「みたいですね」

 

これに、黒子も同意した。

 

「完全にディフェンスに集中した。今の青峰を抜き去るのは誰であっても至難の業」

 

赤司は、青峰の全力のディフェンスを評価する。

 

 

 

 

『…(ゴクリ)』

 

 

 

 

固唾を飲んで見守る観客と選手達。

 

左サイドに展開する三杉に対し、他の選手達は右サイドに寄っていた。

 

 

『アイソレーションだ…』

 

 

観客の誰かが口にした。

 

「…」

 

「…」

 

三杉と青峰の勝負。

 

今までは、極力勝負を避け、引き付けてパスを捌いていたが、今回は違う。会場の観客達も、それを感じ取って黙って勝負を見守っていた。

 

 

 

――ゴクリ…。

 

 

 

今までの歓声が嘘のように静まり返る会場。唾を飲み込む音さえも聞こえてきそうなほどの静寂に包まれている。

 

2人の姿はさながら、居合の達人同士が、お互いの間合いで刀を構える侍そのものである。

 

時間にして僅か数秒。だが、数分にも感じられるこの対峙。

 

観客及び、コート上にいる選手達が注目する中、2人の勝負が始まる。

 

そして次の瞬間、勝負を見守る者達のその目に移ったものは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、棒立ちで抜き去られる、青峰大輝の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

慌てて反応した青峰が振り返ると、そこにあったのは、レイアップを決める三杉の姿だった。

 

ボールがネットを潜る音が会場中に響き渡る。

 

『…』

 

会場にいる、堀田を除く、全ての者が、茫然としてその光景を見つめている。

 

2人の勝負を見守っていた1人であるカメラマンが、思わず持っていたカメラを床に落としてしまう。

 

その落下音で、ハッと会場を正気に戻す。

 

 

 

 

 

――おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!

 

 

 

 

 

その目に移った事実を脳がようやく理解し、観客達が会場を揺るがさんばかりの歓声を上げた。

 

「さあ、試合はこれからだ」

 

薄い笑みを浮かべ、三杉が囁くように声を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q最初に先制したのは花月。

 

そしてここから試合は、誰もが予想しえないところへ、進んでいくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





試合描写よりも、会話描写の方が多くなってしまいました(^-^;)

ここからが花月…三杉の本領発揮です。

キセキの世代みたく、でたらめになっちゃうかもです…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第47Q~欠陥~


投稿します!

お、お久しぶりです…(^-^;)

少しずつ書き溜め、ようやく書き終えられたので投稿致します。

それではどうぞ!


 

 

 

 

第3Q、残り9分31秒…。

 

花月 31

桐皇 48

 

 

後半戦最初の桐皇の攻撃を止め、三杉が青峰を抜いて得点を決めた。

 

キセキの世代のエース、青峰大輝を棒立ちのまま抜き去り、観客からは、歓声が響き渡った。

 

「…っ」

 

全身全霊でディフェンスに臨んだにも関わらず、止めることはおろか反応も出来なかったことに、青峰は悔しさを露わにし、三杉を睨みつける。

 

得点を決めた三杉は、ディフェンスへと戻っていく。

 

「――」

 

「あぁっ!?」

 

青峰とのすれ違い様、三杉が何かを囁くと、これを聞いた青峰が激昂する。

 

「青峰、どうかしたか?」

 

声を荒げる青峰に、若松が声を掛ける。

 

「…何でもねぇよ。つうか、ブロックされてんじゃねぇよ」

 

「んだと…てめぇもあっさりぶち抜かれてんじゃねぇか…!」

 

毒を吐いた青峰に額に血管を浮かべる若松。

 

「どうどう、いつものことやないですか。心広く持ちましょうや」

 

そんな若松を、今吉が抑える。

 

「(あの野郎…、上等じゃねぇか…!)」

 

怒りを露わにする若松を無視し、三杉に視線を戻す。三杉の姿を捉え、より一層、闘争心を燃やすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あの青峰が棒立ちで…、今のドライブ、スピード、キレ共に青峰並み…いや、キレはそれ以上だった」

 

先のプレーを見ていた火神は、今、目の前で起こった事実を受け止めることが出来ていなかった。

 

「あいつには、青峰と同等のアジリティーまで備わってやがるのか…!」

 

「…少なくとも、加速力だけは、青峰君に匹敵することは間違いないな」

 

冷や汗を流しながら呟く氷室。

 

「彼の身体は、とても効率よく筋肉が付けられている」

 

赤司が、ここで口を開く。

 

「先ほど、第2Q終了後のインターバルの際、僅かに見た程度だが、彼は一見、細身に見えるが、その実、実に効率的だ」

 

「効率的な筋肉の付け方?」

 

「まず、全身の筋肉を無駄ない。細身に見えるその身体は、筋肉を極限にまで絞り込んだ結果なのだろう」

 

『…』

 

「もう1つ。彼は、身体の筋肉の使い方を良く理解している。筋肉をどのように使えば、より、大きな力を発揮することが出来るのか。これを正しく理解しているからこそ、筋肉を無駄なく、かつ、効率的に使うことが可能となる。それが、青峰と遜色ないスピードを披露出来た答えだ」

 

「…なんていうか、正邦が使う、古武術みたいだな」

 

一連の説明を聞いた火神は、予選で戦った、正邦を思い出した。

 

「似たようなものだ。恐らく、古武術だけでなく、それ以外のものも取り入れていることも間違いないだろう」

 

「…赤司君の説明のおかげで、三杉さんが、青峰君と同等のスピードを持っていることは分かりました。ですが、それだけで、青峰君がああもあっさり抜かれてしまうとは思えません」

 

青峰は、ディフェンスも一級品。ただ速いだけでは不可能。黒子は、まだ何かあると考えている。

 

「…それについては、俺に、1つ考えられることがある。…赤司君、彼は、ドライブで切り込む前に、シュートフェイクを1つ入れたと思うのだけれど、どうだろうか?」

 

「そのとおりだと思います。俺も、『この目』で見ましたので」

 

「そうか、なら、俺の仮説は間違いないな」

 

赤司に確認を入れ、考えが合うと、氷室は、確信に至った。

 

「彼は、ドライブの前にシュートフェイクを入れた。それに青峰君がかかり、その隙に、先ほどのドライブ。…これが、答えだ」

 

「シュートフェイクにかかったことにより、視線が上へ向く。それと同時にドライブを仕掛ければ、目の前の相手は、黒子君のバニシング・ドライブを受けたのと同じ感覚を陥るだろう」

 

「っ!? マジかよ…」

 

「…」

 

氷室の説明と赤司の補足を聞くと、火神は驚愕し、黒子は沈黙を保った。

 

昨年、自身の限界を超え、更なる進化を遂げるため、苦心して完成させた、黒子テツヤのバニシング・ドライブ。

 

火神の協力を得て、初めて完成するバニシング・ドライブとは違い、三杉は、1人でそれを再現してしまった。

 

その事実が、黒子と火神を驚愕させた。

 

「ついに、三杉誠也が動き出した。この試合…分からないぞ」

 

ボソリと、予言のように氷室が言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスは切り替わり、桐皇ボール。

 

「ほな、1本、返しましょか」

 

ポイントガードである今吉が、指を1本上げ、ゲームメイクを始める。

 

表情こそ先ほどまでと変わっていない、しかし、内心では動揺していた。

 

「(青峰はんをあっさりちぎるとか、ありえへんわ! 何やねん、あの人は!?)」

 

昨年の主将であった今吉翔一同様、青峰には絶大な信頼を置く今吉誠二。その青峰があのような形で抜かれたことに驚愕した。

 

「(点差はまだ充分あるのにこの空気。あかんわ。取り返して流れを戻さなあかん)」

 

第3Q早々の、エース対決からの失点。会場及び、試合の流れに変化をもたらすには充分であった。

 

バスケは、たとえ、大きな点差が付いても、試合の流れと展開次第ではいくらでもひっくり返すことが出来るスポーツ。故に、この流れをもとに戻したいと今吉は考えた。

 

タイムアウトを申請して試合を止めれば花月に傾きかけている流れを切れるのだが、インターバル直後のこの時間帯では使いづらい。そのため、コート上の選手達の手によって、流れを戻さなければならない。

 

「…来いよ」

 

今吉の前に立ち塞がるのは、空。決死の表情でディフェンスをしている。

 

「(…ここに来て、10番(空)の集中力が増してきおった。ええディフェンスしよる。今の1発で目が覚めたんか…、それとも、単にスロースターターなだけなんか…)」

 

どちらにせよ、今吉の前に、強敵がいることには違いない。それをどうにか出来なければ、流れはもとには戻らない。

 

フロントコートにまでボールは進んでいるが、今吉は、一向にどこから攻めるか苦慮している。

 

「よこせ!」

 

青峰が、ボールを要求する。

 

「(…青峰はんが空いとる。普段なら、迷わずそこに出すんやが…)」

 

ここで、青峰が攻撃に失敗すれば、流れは花月に傾くことは必至。この1本を確実に取りたい今吉は、信頼はあれど、成功確率未知数な青峰より、実績のある、若松で攻めた方が賢明とも考える。

 

「誠二! うだうだ考えてねぇで、黙って俺によこせ!」

 

パスを出し渋る今吉に怒りを覚えながら再度、ボールを要求する青峰。

 

「(……せやな、うちのエースは青峰はんなんや。迷うことはあらへん、最強は、青峰はんなんや!)」

 

意を決した今吉は、青峰にボールを渡す。

 

『来た! エース対決だ!』

 

攻守を入れ替えてのエース対決に、観客は沸き上がる。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う両者…。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

青峰がゆっくりとドリブルを始める。そこから徐々にスピードを上げていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

後方、股下にボールを通しながらリズムとスピードを上げ、そこから仕掛ける。

 

三杉も、これに遅れず付いていく。

 

ここで青峰が、ボールを後方に弾ませる。そのボールを回転しながら掴み直し、再度、反対側から仕掛ける。

 

 

「出た…! 青峰の、変則のチェンジオブペース!」

 

火神が食い入るように注目する。

 

 

青峰のスピードがどんどん上がっていく。型にはまらない、ストリートのバスケ。そこに、青峰のアジリティーが加わり、その動きはさらに読みづらく、捉えらないものになっていく。

 

ひとしきり、変則のドリブルで翻弄した後、一気に加速し、三杉の横を抜ける。

 

『抜いたーっ!!!』

 

三杉の横を抜けると、青峰はボールを掴み、跳躍する。

 

「ちっ!」

 

「させんで!」

 

そこに、松永と天野がヘルプに現れ、ブロックに向かう。

 

それよりも速く、青峰はボールを右手に持ち替え、リングに向かってボールを投げつけた。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

ボールが手から投げられるその瞬間、ボールがその手から弾き飛ばされる。

 

『三杉だぁぁっ!!!』

 

青峰の手からボールを弾き飛ばした者の正体は三杉。

 

「させないよ、キセキの世代のエース君」

 

ルーズボールを大地が拾い、空へと渡す。

 

「速攻!」

 

空がそのままフロントコートにボールを進めていく。

 

「行かせへんで!」

 

「調子にのんな、1年坊!」

 

今吉、若松の戻りが速く、花月の速攻を阻止する。

 

「数的不利だな…」

 

強気で攻撃意識が高い空だが、点差のこともあり、無理な攻めを断念した。

 

やがて、桐皇がディフェンスに戻り、花月の選手のディフェンスに付く。

 

「さて、どうするか…」

 

どう攻めるか、考えを巡らせる空。

 

「…いや、考えるまでもないよな」

 

空がパスを出す。そのボールの先は当然…。

 

「次は抜かせねぇ」

 

三杉にボールが渡る。

 

先ほどの勝負は三杉に軍配が上がった。2人の勝負の、言うなれば2ラウンド目が始まる。

 

『…(ゴクリ)』

 

青峰は、両手をだらりと下げ、集中力と野生を最大限にする。その気迫は、同じコートに立つ選手達にも伝わる。

 

右サイドに展開する三杉と青峰。それ以外の者は反対サイドに展開し、アイソレーションの形を作る。

 

三杉は、いくつかボールを持ちながらフェイクを入れ、仕掛ける。

 

「行かせ……っ!?」

 

ドライブに対応しようとした青峰だが、ここで違和感に気付く。

 

「(違ぇ、これはフェイクだ!)」

 

青峰の読み通り、三杉はドライブをしておらず、シュート態勢に入っていた。

 

「ちっ、打たせっかよ!」

 

すぐさま反応した青峰が、驚異のアジリティーでブロックに飛び、三杉のシュートコースを塞いだ。

 

『うおぉぉっ! 青峰速ぇーっ!』

 

 

「青峰の野生とアジリティーが三杉を上回った!」

 

ブロックを確信する火神。

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

『なっ!?』

 

三杉は、シュートを中断すると、ブロックに飛んだ青峰の脇の下からボールを通し、パスに切り替えた。

 

ボールは、針の穴を通すかのように、ゴール下の若松の後方にポジション取りしていた松永に渡った。

 

「んな!?」

 

全く反応出来なかった若松は驚きの声を上げる。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った松永は、落ち着いてゴール下を決めた。

 

 

『何だ、今のパス!?』

 

『密集地帯を通しやがった!』

 

 

ゴール下の松永までキレイにボールを通したことに、観客席から驚嘆の声が上がる。

 

「ナイッシュ、松永」

 

「いえ、三杉先輩のパスのおかげです」

 

点を決めた松永を三杉が労う。

 

「よくあんな狭いところに通せましたね?」

 

芸術的なパスに、空が冷や汗を流す。

 

「密集地帯はボールを通しにくい…と、考えがちだが、逆に死角となる箇所が増える。各選手のポジションと視野と目線と死角。これを理解していれば、そう難しい芸当ではない」

 

コート上で、選手達が密集すると、ボールが通りにくくなるかわりに視界に味方、敵選手が常に近くにいる為、見えにくいところ、死角が出来る。三杉は、コート上の選手達がどこにポジション取りをしているか、そのポジションからの死角がどこに出来るかを割り出し、パスを通した。

 

「広い視野と独特の視野を持つ空なら、そのうち出来るようになるさ」

 

「…そうなりたいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、桐皇ボール。

 

「(…あかんで、恐れてたことが起こってもうた)」

 

エースからの失点、及び、エースが止められるという事実が、今吉及び、桐皇選手達の気持ちに影を差す。

 

第3Qが始まってからの連続失点。今は何よりも、得点を上げて流れを保ちたい。

 

得点を上げるため、何より、青峰の得点力をより生かす為、外からの得点が欲しいのが現状。そのため、今日、当たりがない桜井に外から決め、ディフェンスエリアを広げてほしいところなのだが…。

 

「ハァ…ハァ…」

 

当の桜井は、大地のマークを振り切れず、ボールすら触れない。何より、呼吸が乱れており、動きが重い。

 

「(まだ第3Q始まったばかりやで? 桜井はんはスタミナのない選手やない。もうガス欠起こしたとでも言うんか?)」

 

桜井は、傍から見ても分かる程に動きに精彩を欠いている。スタミナ切れは明白である。

 

 

「これが、前半戦、三杉が青峰ではなく、桜井に付いた理由の1つだ」

 

ベンチの堀田が口を開く。

 

「三杉は、桜井のマークに付き、とにかく体力を使わせるディフェンスをした。完璧にマークするのではなく、わざと隙を作り、ボールを受け取る為に走らせ、ボールを受け取れないギリギリでパスコースを防ぐことを繰り返して、な」

 

オフェンスの際、選手は当然、ボールを受け取る為にマークを振り切ろうとする。

 

三杉は、桜井をマークする際、ボールが受け取れないよう完全にシャットアウトするのではなく、わざと隙を作ってマークを振り切らせる動きをさせた。

 

その後、パスが出来ないギリギリでパスコースを塞ぎ、再びマークをする。これをひたすら繰り返した。

 

結果、桜井は何度も余分に動きまわされ、必要以上にスタミナを浪費させられてしまった。

 

「スタミナ切れを起こしてしまえば、味方のフォローがない限り、マークは振り切れない。綾瀬が付いてしまえば、もはや何も出来なくなるだろう」

 

桜井が無効化するということは、桐皇に外がなくなる。外がなくなれば、ディフェンスを外に広げることが出来なくなる。

 

「これで桐皇は、青峰に1人に頼らざるを得なくなる。ディフェンスを広げることが出来ないこの状況。しかも、マークは三杉。…ふっ、面白くなってきたな」

 

堀田は満足気な笑みを浮かべ、試合に注目するのだった。

 

 

「さて、どないしようかのう…」

 

限りなく平静を装いながらゲームメイクをする今吉。

 

危険を察知する嗅覚に長け、リスクが少なく、確率が高い選択肢を選ぶ傾向がある今吉。現状、青峰に頼りたいところであるのだが…。

 

「(向こうもそれは百も承知や。あの三杉はんには、青峰はんを止めるだけの絶対的の自信があるんやろな。……それでも、こっちの取る選択肢はこれしかないんや!)」

 

今吉は、青峰にボールを渡した。

 

ボールを受け取った青峰。2人の勝負が再び始まる。

 

「…次はぶち抜いてやる」

 

目をギラリとさせ、三杉を睨みつける。

 

そして、小刻みにフェイクを入れ、三杉を抜く隙を窺う。だが…。

 

「(っ! 隙がねぇ…!)」

 

正面で立ち塞がる三杉からは、一切の隙がなかった。そして、沸き上がるのは、どう攻めても止められてしまう、圧倒的な敗北のイメージ。

 

 

――ポン……。

 

 

「っ!?」

 

敗北のイメージが浮かび、身体が一瞬、硬直する。まさにその瞬間を狙いすました三杉の手がボールに触れる。

 

「ちっ!」

 

すぐに反応した青峰は、すぐさまボールを拾いなおす。

 

 

「彼は、オフェンスだけじゃない、ディフェンスも一級品だ。少しでも隙を見せればああやってスティールされる。彼から得点を奪うのは困難だ」

 

氷室が、自身の経験から三杉をこう総評する。

 

「だが、それでも青峰が優位だ。青峰のバスケは予測出来ねぇ。先読みが出来ない以上、止めるには野生の勘で食らいつくしかねぇ。野生を持たないあいつ(三杉)では、そう何度も止められるとは思えねぇ」

 

火神は、自身の対戦の経験から、青峰の優位を押す。

 

 

「…」

 

「…」

 

再度、睨み合う両者。

 

「(…ハナから、隙のなんて見せる奴じゃねぇ。隙がねぇなら…)」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「作るだけだろ!」

 

停止状態から一気に加速し、三杉の左脇を抜けようとする。三杉も遅れずに付いていく。

 

「っ!」

 

青峰も、それを見越しており、動じず、バックロールターンを仕掛ける。

 

 

――スッ……。

 

 

そのロールの途中、青峰はリングにリングに背中を向けながらシュートを放つ。

 

『来た、フォームレスシュート!』

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

だが、その放たれたボールは三杉のブロックによって阻まれる。

 

 

「これもブロックされた!?」

 

決まると思っていた黄瀬は、思わず座席から立ち上がる。

 

「青峰のバスケは見てから反応したのでは間に合わない。…まさか、青峰のプレーを読んだとでも言うのか?」

 

同じく、緑間も、冷や汗を流しながら2人の対決を観戦していた。

 

 

「速攻だ!」

 

ボールを拾った三杉は、そのまま攻め進んでいく。

 

「くっそがぁっ!」

 

ブロックされた青峰。激昂しながら三杉を猛追し、スリーポイントライン手前で三杉に追いつき、進路を塞ぐ。

 

「…さすが、大したスピードだ」

 

三杉は感心し、停止する。その間に、他の桐皇の選手達もディフェンスに戻る。

 

「…」

 

「…」

 

第3Qから始まった、もはや、お馴染みとも呼べる、三杉と青峰の対決。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

三杉、ノーフェイクでドライブを仕掛ける。

 

「(フェイク…違ぇっ! これは、本物だ!)舐めんな!」

 

青峰、ノーフェイクを読み切り、ピタリと三杉に付いていく。

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

 

三杉、ここで、ノールックビハインドパスを出す。ボールの先は、逆サイドでマークが空いた空のところへ。

 

「っ!? しもた!」

 

空に付いていた今吉。三杉を囲むためにヘルプに出てしまった為、空のマークを空けてしまった。

 

「っ! ナイスパス!」

 

ボールを受け取った空はそのままシュート態勢に入る。今吉が慌ててブロックに戻るが間に合わず、ボールはリングへと向かっていく。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールはリングを潜る。

 

「よおぉぉぉし!」

 

スリーを決めた空は両拳を握り、喜びを露わにする。

 

「「…」」

 

その光景を、今吉は茫然と、青峰は歯を食いしばりながら見つめていた。

 

 

「おいおい、今の、今吉がヘルプに向かったのを見計らってからパスを出してたぞ。あんなの、広い視野とパスセンスがなきゃ出来ない芸当だ。三杉はポイントガードとしても一流なのかよ!?」

 

試合を観戦していた高尾は、今の一連のプレーを理解し、驚愕していた。

 

 

桐皇ボール…。

 

「(あかんわ…! まさか、こないなことが起こるなんて…!)」

 

ゲームメイクをする今吉の心中は、焦りが占めていた。

 

エースからの立て続けの失点。予想だにしない事態に、動じるなというのが無理であった。

 

「(みんな浮き足立っとる。この流れはあかん…)」

 

エースの青峰が続けて攻撃失敗からの失点、しかも、ハーフタイム直後。前半戦、順調に点差を付けた直後の為、桐皇は、意思の統一が出来ない。

 

「(何とかせな…、翔兄なら、この状況でも何か手ぇ考えてくるはずや。司令塔のわしがどうにかせな…!)」

 

必死に策を巡らせる今吉。だが…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ! あかん!」

 

思考を巡らせ過ぎた結果、大きく隙を作ってしまい。空にボールをカットされてしまう。

 

「アウトオブバウンズ、黒!」

 

ボールは、ラインを超える。

 

「ちっ、おしい」

 

悔し気に舌打ちをする空。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、ブザーが鳴る。

 

『チャージドタイムアウト、黒!』

 

桐皇の監督、原澤が、悪い流れを絶つ為、タイムアウトを申請する。

 

「…さすが、原澤、手を打つのが速いな」

 

上杉も、的確なタイミングでのタイムアウト申請を称賛する。

 

両チーム、ベンチへと退いていく。

 

 

第3Q、残り6分49秒…。

 

 

花月 36

桐皇 48

 

 

後半戦が始まり、点差が12点にまで縮まる。

 

「とりあえず、順調ですね」

 

縮まってきた点差を見て、空の表情が明るくなる。

 

「…まさか、あの青峰さんをああも止めてしまうなんて、嬉しくもありますが、複雑でもありますね」

 

前半戦、青峰をマークしていた大地は、複雑そうな表情をしていた。

 

「ま、簡単ではないけどね」

 

タオルで汗を拭いながら答える三杉。

 

「けどまあ、彼のプレーは読みづらくはあるが、別に空を飛んでいるわけでもなければ、瞬間移動しているわけでもない。どんな選手でも、よーく観察し、データを集め、分析すれば、その動きを予測することも可能さ」

 

そこで、三杉はドリンクを口にした。

 

データがあれば、その動きを予測することは可能、と、三杉は言う。

 

『…』

 

だが、過去に、青峰のプレーを予測出来た者がいないことを皆知っている。それを、試合前日のスカウティングと、第1、第2Qだけで予測を立ててしまう三杉に、花月の選手達全員が言葉を失ってしまった。

 

「ここだけの話、青峰大輝は、キセキの世代の中で、1番プレーが予測しやすい」

 

「えっ? それってどういう……」

 

思わず、空が聞き返す。

 

「何せ、彼には――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇ベンチ…。

 

いい形で終わらせることが前半戦とは打って変わり、後半戦、早々に劣勢に立たされた桐皇。

 

余裕があったハーフタイムの時は違い、重苦しい空気の桐皇ベンチ。

 

「すんまへん、単調に攻めすぎましたわ」

 

司令塔である今吉が、謝罪をする。

 

「お前だけの責任じゃねぇよ。俺も、マーク外しちまったからな」

 

そんな今吉を若松が制した。

 

「…」

 

原澤は、顎に手を当て、作戦を練る。

 

「ふむ…、とりあえず、新村君は下がりましょう。福山君、お願いします」

 

「はい!」

 

途中交代の新村を下げ、そこに福山を入れる。スタメンに戻した。

 

「ディフェンス力が落ちるのは痛いですが、今は、点を取りに行くことが先決です。今吉君は、出来るだけパスを散らして攻めてください」

 

「分かりました」

 

「それと…」

 

原澤は、視線を別に移す。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

ベンチでただ1人、荒く呼吸をしている、桜井。

 

前半戦は三杉に、現在では大地に徹底マークを受けている為、この試合、全くと言っていいほど仕事が出来ていない。

 

桜井は、決してスタミナがない選手ではない。そんな彼がここまで体力を削られてしまった要因は、三杉によるマークだ。

 

無駄な体力を使わされ、それでもなお動き回った結果、あっという間に体力は枯渇してしまった。

 

「…」

 

ここで原澤は頭を悩ませる。桜井の今の状態を考えれば、1度ベンチに下げて休ませるべきである。だが、桜井がいなくなれば、外からの脅威がなくなる。

 

福山もアウトサイドシュートを打てる選手ではあるが、桜井に比べれば精度と信頼度ははるかに劣る。

 

「…桜井君、まだ行けますか?」

 

「ハァ…ハァ…大丈夫…です。…まだ…行けます」

 

呼吸は整っていないが、原澤の問いにしっかり答える。

 

「……分かりました。引き続き、外からチャンスを窺ってください」

 

原澤は、桜井の目を見て、続投を指示した。

 

「…」

 

もう1人、桐皇ベンチ内で、沈黙を保っているものが1人。

 

「……(ギリッ)!」

 

青峰が、歯をきつく食い縛り、苛立っていた。

 

第3Qに入り、全く得点が出来てない青峰。過去にも止められたことはあったが、ここまで立て続けに止められたのは記憶にない。

 

「……くそっ…!」

 

ここまで青峰を苛立たせている要因は、第3Q最初の失点時、三杉から掛けられた言葉だ。

 

それ以降、青峰は三杉に完全に抑えられている。

 

「(……負けられねぇ。誰が相手でも…! 俺に……俺に勝てるのは…!)」

 

「――峰、青峰!」

 

「あん!」

 

ここで、若松の声で正気に戻された。

 

「お前、話聞いてたのか? これから先は、今吉がパスを散らして攻める。周りにも気を遣えよ」

 

「…ちっ、分かったよ」

 

内心、自分のボールを集めてくれれば…とも考えたが、自分からの立て続けの失点であるため、その言葉を飲み込んだ。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴る。

 

「では、行ってきてください」

 

『はい(おっしゃー)!!!』

 

桐皇はベンチから飛び出していった。

 

「…」

 

同じく、花月ベンチから選手達がコートへと向かっていく。

 

その中の一角、三杉を、睨みつけるように視線を送る青峰。

 

 

 

 

 

――君のバスケには、致命的な欠陥がある…。

 

 

 

 

 

先ほど、三杉が青峰に囁いた言葉。

 

「ふぅぅぅぅ……」

 

ここで青峰は、自分落ち着かせるべく、大きく深呼吸をした。その結果、幾分か頭を落ち着かせることが出来た。

 

「…上等だよ。ようやく楽しくなってきた。もっと楽しませてもらうぜ…!」

 

青峰は、笑みを浮かべ、コートに向かっていった。

 

そして試合は、再開されるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ちょっと会話の描写の方が多いですね…(^-^;)

1ヶ月以上も空けてしまい、申し訳ありませんm(__)m

……また空いてしまうかもしれません…Orz

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第48Q~恐怖~


投稿します!

投稿まで1ヶ月以上もかかってしまいました…(^-^;)

リアルの忙しさに加え、最近では、ハイスクールD×Dの編集作業に精を出していた為、ここまで空いてしまいました。

休みほしい…Orz

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り6分49秒…。

 

 

花月 36

桐皇 48

 

 

タイムアウトが終わり、桐皇ボールでゲームが再開される。

 

「…」

 

今吉がボールを受け取り、ゆっくりとボールを進めていく。

 

「(…焦りは禁物や。ゲームは生き物や。何をやっても上手くいかん時がある。こういう時、無理に攻めてもええことあらへん。…まだ、うちらがリードしとるんや、今は、流れがうちに来るまで点差を死守や)」

 

タイムアウトの折、呼吸を整えると共に頭も落ち着かせた今吉。三杉の活躍で狭まった視野がだいぶ戻ってきていた。

 

「(福山はんが入ったことでディフェンスに穴が出来よったが、逆に、攻めてが増えた。桜井はんも多少、休めたみたいやし…、堅実に行くで!)」

 

目の前でディフェンスをしているのは空。絶対に抜かせまいと今吉の前に立ち塞がる。

 

「(ええディフェンスや。…やけど、タイムアウトを挟んだことで集中が途切れとる。今なら、どうにでもなる!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで、今吉が仕掛ける。空の横をドライブで抜けようとする。

 

「甘ぇっ!」

 

対する空も、これに即座に反応し、今吉にピタリと付いていく。

 

「誠二、寄越せ!」

 

「こっちだ、今吉!」

 

青峰と福山が同時にボールを要求する。今吉の選択は…。

 

「青峰はん!」

 

ここでボールを掴み、パスのモーションに入る。

 

「こっち!」

 

空が今吉と青峰のパスコースを塞ぐ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

今吉は、青峰へのパスを途中で止め、ビハインドパスに切り替える。

 

「っ!」

 

パスの先は、福山。

 

「ナイスパース!」

 

ボールを受け取る福山。

 

「行かせへんで!」

 

背中に張り付く天野。そこに…。

 

「福山はん!」

 

今、パスを出した今吉が、福山目掛けて走り、ボールを貰いにいく。

 

2人が交差し、天野が通り抜ける今吉を追いかける。だが…。

 

「!? しもた!」

 

今吉はボールを持っていなかった。ボールは、今吉には渡らず、福山が持ったまま。

 

「よっしゃ!」

 

交差すると同時に反転し、天野のマークを振り切った福山が、そのままドリブルで進んでいく。

 

「くっそ!」

 

思わず悪態を吐く松永。

 

天野が突破されてしまった為、ディフェンスは松永1人。対する桐皇は、ぐんぐん近づいてくる福山と松永マークしている若松の2人。つまりは、アウトナンバー。

 

飛び出せば若松にパスを出されてしまう為、ギリギリまで引き付けてシュートかパスに対応しようと考える松永。

 

ペイントエリア内まで侵入してきた福山は急停止。そのままジャンプショットを放つ。

 

「くっ!」

 

慌ててブロックに向かう松永だが、ブロックをされない為にクイックモーションで放った福山のシュートに触れることが出来ず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイにリングを潜った。

 

「よっしゃぁぁぁっ!!!」

 

後半戦、ようやく初得点を取った桐皇。

 

「ええシュートでしたわ」

 

「お前も、いい囮っぷりだったぜ」

 

パチン! と、ハイタッチをする今吉と福山。

 

「けどまあ、次、止めんと点差は変わらへん。期待しとりませんが、1本頼んます」

 

「素直に頑張れと言え!」

 

軽く毒を吐く今吉に、福山が突っ込みを入れる。

 

「ちっ!」

 

自分で得点を取れなかった青峰は、舌打ちを打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本、取りましょう!」

 

攻守が入れ替わり、花月ボール。

 

ボールを進めるのは、空。

 

「…」

 

目の前には今吉。ディフェンスはマンツーマンなのだが、福山だけ、天野のマークを甘くし、空と三杉のパスコースに割り込める位置に陣取っている。

 

「…やっぱ、そこを塞いでくるよな…」

 

予感をしていた空は、特に動揺はせず、落ち着いてゲームメイクをする。

 

空は、大地にパスを出す。大地は、間髪入れず、ハイポストに立つ天野にパスを出す。

 

天野にボールが渡ると、先ほどのお株を奪うとばかりに天野に向けてダッシュ。

 

つい先ほどの桐皇のオフェンスと同じパターン。

 

ボールを渡すのか、それとも、渡さず、自分で仕掛けるのか…。

 

ボールは……空に渡される。

 

「ちぃっ! 行かせねぇっ!」

 

福山が、空を追いかける。

 

 

――ピッ!!!

 

 

空は、福山が動いたのを見計らい、パスを出す。

 

「っ!?」

 

福山の顔のスレスレをボールが通りすぎる。福山は、動き出した直後だったこともあり、反応出来なかった。

 

ボールは…。

 

『来たっ!!!』

 

三杉の手に収まる。

 

「いいね。そうでなきゃ面白くねぇ」

 

1ON1の形になり、青峰は笑みを浮かべる。三杉、トリプルスレッドの態勢で青峰と対峙する。

 

「…」

 

「…」

 

小刻みにフェイクを入れ、隙を窺う三杉。両腕を広げ、隙を潰す青峰。

 

その時、大地が桜井のマークを外し、ボールを貰いに行く。

 

それと同時に、大地にパスを出した。

 

「ちっ! チマチマパスばっか出しやがって…!」

 

第3Q最初の勝負以降、仕掛けてこない三杉に苛立ちを覚える青峰。パスに反応した青峰は、瞬時に三杉と大地のパスコースに割り込む。

 

「よし、カウン……なっ!?」

 

青峰のスティールが成功すると誰もが確信したが、ボールはカットされず…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

三杉は、ドライブで切り込んだ。

 

 

「!? …フェイクだ!」

 

氷室は、今、何が起こったかを理解した。

 

 

三杉のパスはフェイクであり、青峰はそれに反応してしまい、抜かれてしまう。

 

青峰を抜き去った三杉はグングン突き進み、ペイントエリア到達と同時にシュート態勢に入る。

 

「おらぁっ! 打たせっかぁっ!」

 

若松がヘルプにやってきて、ブロックに飛ぶ。

 

「馬鹿野郎! 飛ぶな!」

 

青峰から怒声が上がる。

 

「なっ!?」

 

その声で若松は気付く。三杉が、飛んでいないことに…。

 

ブロックに飛んだその横を抜け、ゴール下まで侵入すると、ボールを掴み、跳躍する。

 

「いっけぇっ!」

 

空が声を上げる。三杉は右手にボールを持ち、ダンクの態勢に入った。そこへ、黒い影が現れる。

 

「調子に乗ってんじゃねぞ、三杉ーーっ!!!」

 

青峰が、リングを阻むように現れた。

 

 

「っ! フェイクでスピードが緩んだその一瞬で追いついた!」

 

火神が目を見開く。

 

 

青峰のその手が、三杉の持つボールを叩くその直前…。

 

「っと」

 

三杉はボールを下げ、青峰のブロックをかわす。

 

「っ!?」

 

そのまま、青峰の横を抜け、リングを通り過ぎ、リングに背中を向けながらボールを放る。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはリングをキレイ潜り抜けた。

 

 

『うおーーっ! 絶妙のダブルクラッチ!』

 

 

「……っ!」

 

またもや三杉に抜かれ、点を決められてしまったことに、苛立つ青峰。

 

 

「今のプレー、タイミング的に、青峰がブロックに現れてから切り替えるのは不可能。青峰のブロックを予見していたのだろう」

 

赤司は冷静に分析する。

 

「青峰っちが、2度も…」

 

2人の対決を見守っていた黄瀬も、言葉を失いかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

攻守が入れ替わる。

 

今吉は、胸中に不安を感じながらゲームメイクを始める。

 

攻め方次第で、桐皇は、青峰以外からでも点が取れる。特に、若松のところならば、1ON1ならば、1番の狙いどころである。

 

だが、青峰以外の攻めでは、いつか限界が来る。

 

エース対決は、ゲームの流れ…ともあれば、ゲームの勝敗に直結する。負けっぱなしでは、そのツケが終盤の勝負どころでやってくる。

 

「(10点差…)」

 

点差を見て、今吉は判断する。

 

ここで、今吉はパスをする。ボールの先は、青峰。

 

残り時間と今の展開を考え、このままエース対決を避けて攻めても、攻め勝つことも凌ぎきることも不可能。やはり、勝つには、青峰が三杉から点を取ることが必須。

 

点差を犠牲にしてでも、青峰が三杉から点を取ること…否、取れるようになることを期待を込め、青峰にボールを…試合を託した。

 

 

――青峰が、三杉を倒すまでに成長することを信じて…。

 

 

そして、三杉と青峰の1ON1が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ほう…、あの10番(今吉)、なかなか思い切ったことをする」

 

ベンチの堀田が、今吉の意図を理解し、称賛の言葉を贈る。

 

「青峰との1ON1…、三杉はいつまでも抑えられるのか?」

 

馬場が、心配そうな面持ちで2人の対決を見守っている。

 

「心配はいらん。『今』の青峰ならば、三杉が負けることはまずない」

 

馬場の危惧を、堀田が断言する。

 

「タイムアウトの時に三杉が言っていただろう?」

 

「確か、『青峰のバスケには致命的な欠陥がある』…でしたっけ?」

 

「あの青峰にどんな欠陥が…」

 

タイムアウト時の三杉の言葉の意味を考えるベンチメンバー達。

 

「堀田先輩は、青峰さんの欠陥の正体が分かってるんですか?」

 

隣に座っていた生嶋が尋ねた。

 

「ああ。まあな」

 

「それはいったい…」

 

コート上では、再び、三杉と青峰の1ON1が始まろうとしている。

 

「もっとも、弱点と呼べる程のものでもないのだがな」

 

堀田はコートに視線を向けたまま答えていく。

 

「青峰大輝のバスケは、選択肢が1つ少ない」

 

「? ……選択肢が、少ない?」

 

答えを聞いてもピンとこない馬場。

 

「青峰大輝がしているのは、ただの1ON1の延長でしかない。奴は『試合』をしていない」

 

淡々と説明を続けていく堀田だが、未だに、誰も答えに辿りつけていない。その時…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

コートでは、青峰が三杉に仕掛けるも、失敗。三杉にボールを奪われてしまう。

 

「っ!? …また止めた。俺には青峰のどこに欠陥があるのかさっぱり…」

 

「選択肢が少ない……、もしかして…」

 

花月ベンチ内で、生嶋だけが何かに気付く。

 

「生嶋、何か気付いたのか?」

 

「…この試合に限った話ではないのですが、青峰さんって、パスをしないんですよね」

 

「そう言われてみればそうだが…」

 

バスケにおいて、主に、ドリブル、シュート、パスを警戒しながらディフェンスを行う。

 

「……確かに、あいつがパスを出すところは見たことがないが…」

 

生嶋の言葉を聞いて、真崎は頷くが…。

 

「だが、それは欠陥と呼べる程のものなのか?」

 

納得は出来なかった。

 

確かに、青峰は試合でパスをほとんど出さない。1ON1ともなれば、全くと言ってもいいほどである。だが、過去に青峰と対戦した者で、同じキセキの世代や火神でさえも、止めきれていないという事実がある。

 

「あれだけの身体能力にアジリティー、それに、動きが読めないストリートのプレーが加われば、たとえ、パスがないと分かっていても、止めることは至難の業だろう。…だが、三杉を相手に、選択肢を狭めることは、命取りになる」

 

『…』

 

「裏を掻かれない限り、三杉を抜くことは不可能。パスがないという状況は、三杉に優位に働く。相手のプレーや心理を読むことに長ける三杉にな」

 

『…』

 

「青峰大輝がやっていることは、ただの1ON1。試合となれば、敵も味方もいる。ただの1ON1とは違い、選択肢はさらに少なくなる。そんな状況でパスという大きな選択肢をなくせば……答えはあれだ」

 

三杉にボールを奪われ、速攻に走り、レイアップを決め、再び点差が縮まる。

 

「俺は、様々な選手と戦ってきた。手強い奴も当然いた。…だが、三杉程、敵に回さなくてよかったと思える選手はいなかった」

 

『…(ゴクリ)』

 

堀田の言葉に、思わずゴクリと唾を飲む花月のベンチメンバー。

 

「青峰が自身の欠陥に気付くことが出来なければ、試合はもう決まったも同然だ」

 

試合は、さらに進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇のオフェンス…。

 

まだ、桐皇がリードしているのにも関わらず、表情を暗い。

 

『…』

 

青峰が、ここまで抑えられることなど、未だかつてなかった。故に、この状況に対し、動揺を隠すことが出来ない。

 

今吉からオフェンスが始まり、ボールが青峰に渡る。

 

「…」

 

「…っ」

 

淡々とした表情でディフェンスをしている三杉に対し、青峰の表情は若干硬い。

 

ボールを持った青峰は、小刻みにフェイクを入れ、抜き去る隙を窺っているが、当の三杉は歯牙にもかけない。

 

青峰自身に、自分が止められる未来が見えてしまっているため、仕掛けることも出来ない。かと言って、パスに逃げることもプライドが許さない。

 

「…どうだ? 楽しんでいるか?」

 

攻めあぐねている青峰に、三杉がポツリと話しかける。

 

「…ちっ!」

 

そんな余裕ともとれる態度に、思わず舌打ちが出る青峰。

 

「俺と健が帰国するきっかけになったのは、君達、キセキの世代の試合映像がきっかけだった」

 

「?」

 

突然、話し出す三杉に、青峰は怪訝そうな表情をする。

 

「健は紫原敦に興味を持った。ま、同ポジションだからね。俺が興味を持ったのは、青峰大輝、君さ」

 

「あん?」

 

「キセキの世代の中で、君が1番センスを感じた。中学であのレベルなら、俺が帰国する頃には、俺と同等…いや、それ以上になってるかもしれない。そう、信じていた。…だが――」

 

三杉がスッと目を細くする。

 

「――君が、キセキの世代の中で1番、成長していなかった」

 

「…っ!?」

 

「確かに、能力アップはしていた。だが、それは、成長期による能力アップに過ぎない。それ以外は、全く成長を感じなかった。まるで、成長することを拒否したみたいに…ね」

 

「…」

 

「第3Q最初に俺が君に向けて言った言葉。あれは、君を挑発する意味合いだったが、あの言葉自体は嘘ではない。君のバスケには、致命的な欠陥がある」

 

「…っ」

 

その言葉を聞き、青峰の表情が曇る。

 

「いや、欠陥と言うのは少々大袈裟かな? 正確には、君は、その才能を生かし切れていない」

 

「んだと?」

 

思わず言い返す青峰。

 

「それに気付くことが出来なければ、君は、キセキの世代の中でただ1人、その場に取り残されることになる」

 

「…うるせえ」

 

「昨年の敗北。君はそこから何も感じることはなかったのか? 何も学ばなかったのか? …これ以上、俺を失望させないでほしいな」

 

「うるせえって言ってんだよ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

激昂した青峰が仕掛ける。当然、三杉もそれに付いていく。その直後、青峰が立ち止まると、背中の後ろでドリブルを始める。

 

「…むっ?」

 

その後、背中から手首のスナップを利かせ、ボールを三杉の後方に放る。それと同時に、青峰が走り、三杉の横を抜ける。

 

自らが投げた拾おうとする。だが…。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

青峰がボールをキャッチしようとした瞬間、三杉が手を後方に伸ばし、ボールを逆に奪った。

 

「速攻!」

 

三杉のその声を合図に、花月が速攻を開始する。

 

「くそがっ!」

 

カウンターを食らい、桐皇は急いでディフェンスに戻る。いち早く、青峰と若松と福山がディフェンスに戻った。

 

「っと」

 

戻りの速い桐皇を前に、三杉がスリーポイントライン手前で止まり、1度、空にボールを渡した。その間に、今吉、桜井もディフェンスに戻った。

 

「っしゃっ! 行くぜ!」

 

ボールを貰った空は、喜々としてゲームメイクを始める。

 

「行かせへんで」

 

空の前に、今吉が立ちはだかる。

 

これ以上、点差を縮められるわけにはいかない今吉は、決死の表情でディフェンスに臨む。

 

「…うおっ!」

 

フェイスガード気味のタイトなディフェンスを仕掛ける今吉の迫力に空が僅かに押される。

 

「ちっ!」

 

思わず、頭上に構えていたボールをハイポストに立っていた天野にパスを出す。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

だが、そのパスは、若松にスティールされてしまう。

 

「やっば! 迂闊過ぎた」

 

今吉のフェイスガードはこの為の伏線。若松も、これを見越して松永のマークを外していた。

 

「おらぁっ! 走れぇっ!」

 

ボールを奪った若松は、前方に放り投げる。

 

「もう走ってますよ!」

 

すでにフロントコートまで走っていた福山がボールを掴み、進軍。そのままシュート態勢に入る。

 

「させません!」

 

唯一、追いついた、大地がブロックに飛ぶ。

 

「甘ぇーよ1年坊!」

 

1度ボールを下げ、空中で大地のブロックをかわし…。

 

 

――バス!!!

 

 

ダブルクラッチでボールをリングに沈める。

 

「よーし!」

 

点を決めた福山がガッツポーズで喜びを露わにする。

 

「くっ…!」

 

ブロック出来なかった大地は悔しさを露わにしている。

 

「ドンマイ。今のは仕方ない。切り替えろ」

 

三杉が大地の肩をポンっと叩き、労った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、花月ペースで進んでいった。

 

花月は、三杉が起点となり、適所にパスを捌き、得点をアシストするか、自らが切り込んで得点を重ねる。

 

対して桐皇は、青峰が三杉に抑えられ、完全に沈黙。

 

今吉が随所にパスを捌いて何とか点を取ってはいるが、前半戦の勢いは完全に衰えている。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

第3Q終了のブザーが鳴る。

 

 

第3Q終了…。

 

 

花月 54

桐皇 60

 

 

20点近くあった点差は、6点にまで縮まっていた。

 

両チーム、ベンチに下がっていく。

 

花月側は、点差を一気に詰め、流れに乗っている為、表情は明るい。

 

それとは対照的に、桐皇側は、リードをスリー2本分まで詰められ、後半戦開始前とは違い、表情は暗い。

 

「くそがっ!」

 

苛立ちを隠せず、荒々しい足取りでベンチに座る青峰。

 

前半、32得点を挙げた青峰だが、第3Q、得点は0。1Q、得点が出来なかったことなど、青峰に経験はない。

 

『…』

 

エース対決の結果は、文字通り、試合の流れに直結する。青峰の沈黙は、チームに大いに影響していた。

 

「…ふむ」

 

原澤が前髪をいじりながら第4Qの戦略を練っている。一見、平静を装っているが、内心は穏やかではない。

 

現状、桐皇はジリ貧もいいところである。点差こそ、リードしているが、今や、点差など、あってないようなもの。

 

この状況を打破するには、三杉をどうにかしなければならない。桐皇で、それが出来るのは…。

 

「…っ!」

 

チームの視線が青峰に集まる。

 

「そう言えば、第3Qの途中、三杉と何か話してたよな? 確か、欠陥がどうとか…」

 

「…」

 

新村の指摘に、青峰が沈黙する。

 

「もしかして、青峰が抑えられてるのは、その欠陥…弱点があるからなんじゃないのか?」

 

「あぁ? うるせえよ。俺に弱点なんかねぇよ」

 

青峰は、新村の指摘を一蹴する。

 

「現に抑えられてるじゃねぇかよ! 真剣に考えろよ。それさえ分かりゃ、第4Q、逃げ切ることだって――」

 

「――ハッ! 逃げ切るだぁ? 馬鹿かてめぇ。何で俺がそんな惨めなことしなきゃなんねぇんだよ。…三杉は俺が絶対倒す。やっと、俺を楽しませてくれる相手が現れたんだ。邪魔すんじゃねぇ」

 

声を荒げる若松に、青峰は鼻で笑う。

 

「てんめぇ…!」

 

我慢の限界を迎えた若松が青峰に掴みかかろうとする。

 

「皆さん、聞いてください」

 

原澤が皆の注目を集める。

 

「第4Q、うちは、青峰君中心に攻めていきます」

 

『っ!?』

 

「か、監督、それは…!」

 

原澤の提案に、若松が異を唱えようとする。

 

「桐皇のエースは青峰君です。それは、皆、分かっていることでしょう?」

 

『…』

 

「この試合、青峰君に任せます…いや、託します。いいですね」

 

「…ああ、任せろよ。必ずあいつを倒してやる」

 

原澤の言葉に、青峰は、決意の表情で頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「よーし! いい調子だ!」

 

点差を大きく詰め、喜びを露わにする空。

 

三杉の活躍により、点差を6点にまでしたことにより、ベンチのムードは明るい。

 

「静かにしろ。まだ試合は終わっていない。しかもこっちは負けてんだ。喜ぶのまだ早い」

 

緩みかかっていた選手達を、上杉が引き締める。

 

「とりあえず、順調には点差を詰めている。だが、ここからが正念場だ。全員、足を止めるなよ」

 

『はい!』

 

「とりあえず、松永、下がれ。生嶋、入れ」

 

「えっ?」

 

上杉の指示に、交代を命じられた松永が目を丸くする。

 

「待ってください! 俺はまだ――」

 

「交代だ。まだ自覚出来ていないだけで、お前はもう限界に近い」

 

「そんなことは…」

 

と、立ち上がろうとしたが、松永は足が縺れてベンチに座り込んでしまう。

 

「ゴール下でのポジション争いは、パワーがない方が倍疲れる。集中が切れた今、これ以上は無理だ。分かったな」

 

「……はい」

 

渋々ではあるが、松永は承諾する。

 

桐皇の若松相手に、決して、対等にやり合えた訳ではなく、結局、力の差を見せつけられてベンチに下がってしまう自分に悔しさが拭えない松永であった。

 

「生嶋は2番(シューティングガード)に。空いた5番(センター)には天野が入れ」

 

「はい」

 

「任しとき!」

 

「三杉は4番(パワーフォワード)だ。青峰を抑え込め」

 

「分かりました」

 

ニヤリと笑みを浮かべる三杉。

 

「特別な指示はない。変更点があれば、三杉に指示を出させる。この調子で最後まで攻め抜け!」

 

『はい!!!』

 

「最後の10分だ。行って来い!」

 

花月選手達が、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

松永OUT 生嶋IN

 

 

第4Qが始まる。

 

花月のオフェンス…。

 

「1本! 行くぞ!」

 

空がゲームメイクを始める。

 

速い展開を好みとする空だが、インターバル直後のオフェンスの為、流れを維持すべく、慎重にボールを進める。

 

花月は、パスをしながらチャンスを窺っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「監督」

 

「何でしょう?」

 

桐皇ベンチ、桃井が原澤に話しかける。

 

「インターバルの時に触れた、青峰君の欠陥…弱点についてですが…」

 

「ええ、もちろん気付いています」

 

「だったら――」

 

「――ですが、これは、答えそのものに意味はありません。青峰君自身が答えに気付き、たどり着くことが重要なのですよ」

 

「…」

 

「心配する気持ちは理解します。青峰君では、気付いたとしても、受け入れることは出来ないでしょう。……昨年の彼であれば」

 

「えっ?」

 

「昨年の敗北は、彼にとって良い経験なったはずです。その経験が、彼を答えに導き、1歩、前に進むためきっかけを与えてくれるはずです」

 

「そう……ですよね」

 

「信じてあげてください。青峰君を。彼はきっと、三杉君を超えてくれるはずです」

 

そう桃井を励まし、試合を見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合の流れは、インターバルを挟んでも変わることはなかった。

 

依然として、青峰は三杉に抑えられ、三杉を中心に花月は得点を重ねていく。

 

対して、桐皇はエースである青峰が沈黙している為、決定打がなく。単発でしか得点が出来ない。そして…。

 

「っ!」

 

空のパスから生嶋へ。スリーポイントラインの外側でボールを貰った生嶋はすぐさまシュートを放つ。

 

マークする桜井がブロックに飛ぶが、生嶋得意の斜めに飛び、かつ、上体を傾けた変則打ちでブロックをかわされ…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは、リングをキレイに潜った。

 

『ついに逆転だぁぁぁーーーっ!!!』

 

第4Q、開始3分が経過したところで、花月が遂に逆転する。

 

 

第4Q、残り6分44秒。

 

 

花月 66

桐皇 64

 

 

「くそがっ!」

 

主将である若松が、桐皇の中の誰よりも悔しさを露わにする。

 

「っ!」

 

青峰も、悔しさこそ表に出さないが、きつく拳を握り、歯を食いしばった。

 

桐皇のオフェンス…。

 

「…っ」

 

ゲームメイクをする今吉。逆転を許してしまった為、平静を装うとするものの、その表情は暗い。

 

「っしゃっ! 抑えてやるぜ!」

 

空が、フェイスガードで今吉をマークする。

 

「(…なんやねん、こいつ! あれだけ動き回っとるのに、なんでまだこないな動きが出来んねん!)」

 

一向にスピードとキレが落ちない空に、驚愕を超えて恐怖を覚え始める。

 

「(…あかん! これ以上、ボールをキープできへん!)」

 

空のプレッシャーに押され、たまらずパスを出す。ボールの行先は…。

 

『来た! エース対決!』

 

青峰にボールが渡る。ディフェンスをするのはもちろん三杉。

 

「……ちっ!」

 

ボールを保持した青峰だが、思わず舌打ちが出る。三杉のディフェンスからは、隙が一切見当たらず、抜けるイメージが沸かないからだ。

 

小刻みにフェイクは入れてはいるものの、三杉は一切反応しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「出るぞ。三杉の真骨頂が」

 

「えっ?」

 

ボールが三杉に渡ると、堀田が腕を組みながら2人の対決を見守っている。

 

「俺が三杉を敵に回したくないと言ったのは、単に、身体能力やテクニックが優れているからではない」

 

『…』

 

「単純な能力なら、キセキの世代や誠凛の火神の方が優れていると言えるだろう。三杉の恐ろしさは、誰よりも自分を知り、敵を知り。心を知り、人を知り、バスケを知っていることだ」

 

『…』

 

「三杉は、キセキの世代のようなオンリーワンの才能を有している訳ではない。赤司征十郎のような特殊な眼を持っている訳でもない、緑間真太郎のように、どこからでもシュートが打てる訳でもない、黄瀬涼太のように、見たものを即座に真似るセンスがあるわけでもない、紫原敦のような規格外のパワーと反射神経を有している訳でもない、青峰大輝のようなアジリティーを有している訳でもない、火神大我のような、驚異的なジャンプ力と滞空力を持っている訳でもない。…だが、三杉の力は、それらを霞ませる」

 

『…(ゴクリ)』

 

話を聞く花月の選手達は、思わず唾を飲む。

 

「第3Q開始時、三杉には、青峰が『どう』動くかが予測出来ていた。そこから青峰と幾度となく激突し、データをより正確なものに修正していった。第4Q半ば。もはや三杉には――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを保持し、抜き去る隙を窺う青峰。

 

「(もっとだ。もっと速く…もっと速く動け! こいつが反応出来ない程速く…!)」

 

もはや、三杉を出し抜くことは不可能と判断した青峰は、とにかく『速さ』を意識する。たとえ読まれても、反応出来なければ一緒。

 

「(…行けっ!)」

 

青峰が、最小限の動作、最大限の加速を意識したドライブを仕掛ける――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!?』

 

その瞬間、2人の勝負を見守る者達が目の当たりにしたものは、青峰が動き出したその瞬間、三杉が青峰の持つボールをカットした光景だった。

 

「っ!?」

 

とうの青峰は、動き出した瞬間にボールを失い、目を見開く。

 

ボールをカットした三杉は、そのままボールを取り、速攻をかける。

 

「させっか、ボケッ!」

 

「行かせるか!」

 

スリーポイントライン少し超えてところで若松と福山が三杉に追いつき、道を阻んだ。

 

残り時間と流れを考えれば、ここでの失点は致命的。何としても失点を防ぎたい2人の裂帛の意思を持ってディフェンスに臨んでいる。

 

「いい気迫だ。確固たる意志を感じられる。…だが、ここは決めておきたい。決めさせてもらうよ」

 

三杉は、左右へ切り返しを始める。

 

「……っ」

 

若松と福山の体重が片足に乗った瞬間…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこで切り返す。

 

「なっ!?」

 

「がぁっ!」

 

2人はバランスを崩し、その場で尻餅を付いてしまった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「アンクルブレイク! 今、狙って起こしたぞ!」

 

「その前、青峰君が動き出した瞬間にカットした…。まさか、彼には――」

 

「――いや、違う」

 

火神と氷室が一連の三杉のプレーを見て、ある仮説を立てるが、それを赤司が否定する。

 

「彼には、俺のような特殊な眼は持っていない。それは間違いない」

 

「だったら、今のは?」

 

「最後のアンクルブレイクは、黄瀬が俺の眼をコピーしたやり方と同じことをしたのだろう。その前のカットは恐らく、青峰がいつ動くかを読み切ったんだろう」

 

「読み切った!? そんなの、次に何するか読むのとは訳が違うぞ…」

 

赤司の推理に、火神が冷や汗を流す。

 

「間違いない。特殊な眼を持たず、動き出した瞬間を狙える方法があるとするなら、それしかない」

 

赤司は、断言する。

 

「青峰は、恐ろしい選手を相手にしている。…自惚れたつもりはなかったが、キセキの世代と呼ばれる逸材をここまであしらえる選手が、同じ日本人でいるとはね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

若松と福山が尻餅を付き、視界を阻む者がいなくなる。

 

そこでボールを掴み、悠々とシュート態勢に入る。

 

だがそこに、そのシュートを阻む黒い影が現れる。

 

『青峰!』

 

三杉の前方に回り込んだ青峰が、ブロックに飛んだ。

 

 

――青峰をかわすのは一筋縄ではいかない…。

 

 

その時、誰もがそう思った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかとは言わないよ。来ると思っていたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

ここで、青峰を含めた、全ての者が気付く。三杉が飛んでいないことに…。

 

『フェイク!?』

 

三杉は飛んではいなかった。青峰のブロックを読み切った三杉は、フェイクをかけた。

 

「せっかく来てくれたんだ。ついでにもらっていくよ」

 

 

――ドン!!!

 

 

三杉は、ブロックに飛んだ青峰にぶつかりながらシュートを放つ。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹く。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイにリングを潜った。

 

「ディフェンス、プッシング、黒5番! バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!!!!!』

 

ファールを貰いながらシュートを決め、バスカンをもぎ取った三杉。

 

 

『――三杉には、青峰が『いつ』動くまで読めている』

 

堀田が静かに呟いた。

 

 

三杉は静かに、拳を握ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





投稿ペースを早く戻したい…。

休みがない上、唯一の休みに予定がてんこ盛り。……しんどいッス…( ;∀;)

まぁ、地道に書き上げて投稿を続けていきます。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第49Q~チームの勝利のために~


投稿します!

遅れてしまいました…(^-^;)

気が付けば、前投稿から一ヶ月…。

時間が欲しい…。

それではどうぞ!



 

 

 

青峰のブロックを逆手に取り、バスカンをもぎ取った三杉。

 

フリースローラインに立ち、ボールの感触を確かめ、しっかり掴むと、落ち着いてフリースローを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り、しっかりとボーナススローをものにした。

 

 

第4Q、残り6分21秒…。

 

 

花月 69

桐皇 64

 

 

点差はさらに開いた。

 

「よーし!」

 

空が三杉の下に駆け寄り、ハイタッチをする。

 

『…』

 

青峰を半ば無効化され、さらには手玉に取ってバスカンを取られ、茫然とする桐皇。

 

「…」

 

青峰は、ディフェンスに戻っていく三杉を目で追う。

 

「(あんな奴がいたんだな…)」

 

第3Qから自身を圧倒する実力を見せた三杉。青峰は、逆転されたにも関わらず、その胸中は落ち着いていた。

 

「(…勝ちてぇ)」

 

三杉に勝ちたい…、青峰の頭の中にあるのは、これだけであった。

 

「スー…ハー…」

 

青峰は1つ深呼吸をしながら目を瞑り、両腕をだらりと下げた。

 

集中力を極限にまで研ぎ澄ませる。

 

すると、目の前には大きな扉が現れる。青峰は、その扉にそっと両手をかける。そして、力一杯押す。

 

扉は開かれ、そこに飛び込んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

今吉がボールを拾う。

 

「…っ」

 

すると、青峰が寄って来て、ボールを要求する。今吉は、持っていたボールを青峰に渡した。

 

ボールを受け取った青峰はゆっくりとドリブルを始める。

 

そこへ、近くにいた空と大地が青峰のマークに向かう。

 

「「?」」

 

青峰の様子が僅かに違うことを察したが、特に気にすることなくディフェンスを始める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

「っ!?」

 

青峰が動くと、空と大地の間を風のように通り抜けた。2人が振り返ると、青峰はすでに完全に2人を抜き去っていた。

 

「なんや!? あのルーキーコンビをあっさり抜きよった!」

 

ヘルプに天野が向かう。

 

 

――キュッ! …ダムッ!!!

 

 

青峰は1度停止し、そこから加速。激しく緩急の付いたそのドライブを、天野は付いていくことが出来なかった。

 

「…くっ!」

 

続けて生嶋がヘルプに向かうが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スピードをほとんど落とさず、バックロールターンで生嶋をあっさりかわす。

 

そのままリングに向かっていき、ペイントエリア内に入ると、そこでボールを掴み、跳躍。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

そのままリングにボールを叩きつけた。

 

『…』

 

抜かれた4人は茫然と青峰に視線を向ける。

 

「いいね。やっぱ、勝負はこうでなくちゃ面白くねぇ」

 

青峰は三杉に視線を向ける。

 

「もっとだ。もっと楽しくしてくれ、三杉ぃっ!」

 

満面な笑みを浮かべる青峰。

 

「………ゾーンか」

 

ボソリと三杉が呟く。

 

「青峰からくるこのプレッシャーは…!」

 

「陽泉戦の折の紫原さんと同じ…!」

 

刺すようなプレッシャーを放つ青峰に空と大地は圧倒される。

 

 

――青峰大輝、ゾーンに入った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、花月ボール…。

 

現在、空がボールを保持し、ゲームメイクを行っている。

 

「……ちっ!」

 

空が苦々しい表情をする。理由は、コートでひと際存在感を醸し出す青峰に対してだ。

 

ゾーンに入った者との対戦は先日の陽泉戦の紫原で経験をしているが、青峰大輝は、それとはまた違っていた。

 

驚異的なまでにディフェンス力を誇った紫原。青峰は、圧倒的なまでのオフェンス力を有していた。

 

今吉が、フェイスガード気味に空をマークする。

 

「っ! んなろ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

隙を突いて空が今吉の横をドライブで抜ける。

 

「(ここからどうする…)」

 

ペネトレイトでツーポイントエリアに切り込んだ空。そのまま突っ込むか、それとも急停止してシュートを放つか…。

 

 

――キュッ!!!

 

 

空は今吉を抜いてすぐに停止し、シュート態勢に入る。

 

「させるか!」

 

福山がヘルプにやってきて、ブロックに現れる。

 

だが、空はシュート態勢を中断し、そこからノールックビハインドパスに切り替えた。

 

ボールは、横をかけてきた大地に向かっていく。ボールが、大地の手に収まろうとしたその時!

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

そのパスは、大地に手に収まることなく、青峰にスティールされてしまう。

 

「(マジかよ! 俺はパスの直前まで青峰の位置は把握していた。どんな瞬発力してんだよ!)」

 

その驚異的な瞬発力と、空がパスのキャンセルが出来ないギリギリのタイミングで飛び出したことでパスは失敗する。

 

青峰は、その野生を以って絶妙なタイミングで飛び出したのだ。

 

ボールを奪った青峰は、そのままワンマン速攻を仕掛ける。

 

「っ! 行かせない!」

 

生嶋が、青峰の前に立ちはだかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、青峰はクロスオーバーであっさり生嶋をかわしてしまう。

 

生嶋を抜いた後は、そのままリングに向かってドリブルをしていく。

 

「止める!」

 

「止めなければ!」

 

空と大地が、生嶋を抜いた際のスピードが緩んだ隙に戻り、スリーポイントラインの外側で青峰を捉えた。

 

 

「っ! ゾーンに入った青峰君に追いつくとは…。スピードはやはりさすがと言ったところか」

 

「…だが、ゾーンに入った青峰を止められる訳がねぇ。今の青峰を止められるのは、同じくゾーンに入った奴だけだ」

 

青峰を捉えた2人のスピードを評価する氷室。火神は、ゾーンに入った青峰を止めることは無理だと断じだ。

 

 

「…」

 

空と大地がディフェンスに現れたことにより、青峰は一旦止まる。そこから、左右に揺さぶりを始める。

 

「(右か左か……いや、考えても分かるわけねぇんだ。勘で食らい付いてやる!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰が切り込む。

 

「(右! ビンゴ!)」

 

勘が的中し、青峰が切り込む方向に動いた空。だが…。

 

「っ!? マジかよ!?」

 

それでも、青峰の速さが上回り、空の横を抜けていく。その抜けた先に、大地が空のかわした直後の青峰のボールをカットする為、そのボールに手を伸ばした。

 

「(これなら…!)」

 

空が抜かれると想定し、抜いた直後の一瞬の隙を狙いすます大地。

 

 

――ダンッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

青峰は、大地がボールに触れる瞬間、ボールを大地の股下に投げつけ、そのまま加速。投げたボールを拾った。

 

「(食らいやがれ!)」

 

ボールを拾うと、そのままボールを右手に掴み、リングに向かって跳躍する。

 

グングンリングへと近づいていく青峰。ボールは、リングへと叩きつけられる…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

が、青峰の右手の収まっていたボールは、その右手から弾き出された。

 

「まさか自らの意思でゾーンに入るとはね。これにはさすがに驚いた。…けど、違うんだよ」

 

ダンクをブロックしたのは、三杉。

 

「スピードだとかテクニックだとか、君が俺に勝てないのは、そういうことではない」

 

青峰の手からボールを弾き出した三杉。ルーズボールを空が素早く拾う。

 

「くれ!」

 

ブロックをした三杉はそのままフロントコートに駆け出し、ボールを要求する。空はすかさずフロントコートに向かっている三杉にボールを投げた。

 

「ゾーンの強制解放を見せてくれて礼に俺も見せよう。『支配』の発展形を…」

 

ボールを受け取った三杉はそのまま速攻で駆けていく。

 

「っ! 行かせへんで!」

 

そこに、今吉がディフェンスに現れる。だが、三杉は構わずそのまま今吉に突っ込んでいく。

 

 

「っ! ぶつかるぞ!」

 

ディフェンスが目の前にやってきたにも関わらず、減速するでもなく、左右に切り返すのでもなく、むしろ、スピードを上げて突っ込んでいく三杉を見て、思わず声を上げた。

 

 

変わらず三杉は今吉に突っ込んでいく。

 

 

――3メートル…2メートル…1メートル…。

 

 

その距離が、ゼロへとなろうとしたその瞬間…。

 

 

――今吉が、まるで譲るかのように道を空けてしまう。

 

 

「っ!」

 

ハッとした表情で後ろへ振り返ると、三杉は既に今吉の後方に駆けていた。

 

「行かすか、ボケ、カス!」

 

次に現れたのは、若松だ。

 

三杉を威嚇するように声を荒げ、両腕を広げながら三杉を迎え撃ちにきた。

 

「…」

 

それでも三杉は、先ほど変わらず、そのまま直進……若松に突っ込んでいく。

 

再び、両者の距離がどんどん縮まっていく。そして、2人の距離がゼロになる直前…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

若松は、先ほどの今吉同様、道を譲るように空けてしまう。

 

「んだと!?」

 

驚愕の声を上げながら若松は後方に振り返った。

 

『道譲ってどうすんだよ!』

 

観客からは、非難するような声が上がる。

 

「(そんなわけないやろ!)」

 

「(今、あいつは確かに――)」

 

今吉、若松の2人を抜き去った三杉は、そのままリングに向かってドリブルしていく。

 

「っ! 今度こそ、今度こそ止めてやる!」

 

スリーポイントラインを僅かに超えた瞬間、青峰がディフェンスに現れた。

 

 

「ゾーンに入った青峰なら…!」

 

先ほどまであしらわれていたが、ゾーンに入ったことにより、100パーセントの実力を引き出している為、青峰に期待感を持つ火神。

 

 

野生+ゾーンの青峰が三杉を迎え撃つ。

 

一定の距離まで両者の距離が詰まると、おもむろに三杉がフッと笑みを浮かべた。

 

「……気前がいいな。また1本くれるのかい?」

 

「っ!?」

 

その時、青峰の頭の中に、先ほどのバスカンの記憶が蘇る。その瞬間、青峰の身体が僅かに硬直する。

 

 

――ピッ!

 

 

0コンマ何秒の硬直による一瞬の隙。常人…いや、実力者ですら、隙と呼べるレベルとは言えない僅かな時間の硬直。だが、三杉の前ではそれが致命的なる。

 

その隙を付き、三杉がミドルシュートを放つ。青峰、ブロックに向かうが、ほんの僅かに間に合わなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは、キレイにリングを潜り抜けた。

 

三杉は拳をグッと握りこむ。

 

「……っ!」

 

対して青峰は、悔しさから拳をきつく握りしめた。

 

 

「……青峰っちが……ここまで…」

 

自身の目標である青峰が簡単にあしらわれている光景を見て、黄瀬は茫然とする。

 

「その前に、今吉と若松は、なんで道を開けたんだ?」

 

「…いや、あの2人は道を開けたのではない。……道を開けさせたのだよ」

 

高尾の疑問に、緑間が答える。

 

「三杉は、接触する直前に、左右に小さなフェイクを入れた。今吉と若松は、それに反応してしまい、正面を開けてしまった」

 

「人間には、『無条件反射』というものがある。熱い物に触れた時に手を引いてしまったり、物が飛んでくれば咄嗟に避けてしまうあれだ。彼は、ギリギリのタイミングでフェイクを見せ、無条件反射を起こさせた」

 

氷室の解説に赤司が補うように捕捉する。

 

「っ! そんなの、狙って起こせるものなのかよ!?」

 

信じられない火神が思わず立ち上がって聞き返す。

 

「相手の動きと心理。この2つを正確に読むことが出来れば可能だ。…俺自身、この眼を使っても3回に1回起こせるかどうか…。試合中ともなればもっと確率は低くなるだろう」

 

赤司は、火神を言い含めつつ、険しい表情を取った。

 

 

「…」

 

青峰は無言で俯いている。

 

ゾーンに入ってもなお、青峰は三杉を止められなかった。

 

「(どうすればあいつに勝てる!? どうすればあいつを……!)」

 

三杉は勝つ方法を必死に考える。

 

「(勝ちてぇんだよ、三杉に! 俺が全力を出してなお倒せねぇ三杉に!)」

 

格上と断じた三杉に勝ちたいと願う青峰。その時…。

 

 

――昨年の敗北。君はそこから何も感じることはなかったのか? 何も学ばなかったのか?

 

 

青峰の頭の中に、三杉が発したこの言葉が蘇る。

 

昨年のウィンターカップ。青峰は誠凛に負けた。

 

 

――負けた…。そうか、俺は負けたのか…。

 

 

自身の初めての敗北。言葉に出来ない、胸を締め付けるような痛みを伴った。

 

仲間に頼らず、自分1人で戦った結果、青峰は誠凛に負けた。その後、誠凛は、キセキの世代を擁した高校に勝ち続け、ついには、圧倒的格上である洛山を倒し、日本一になった。

 

彼らは決して、1人で戦ったわけではない。力を結集させることで、日本一の座をものにした。

 

 

――俺のバスケは、仲間を頼るようには出来てねぇ。

 

 

だが、1人で戦った結果、青峰は誠凛に負けた。

 

その後、洛山と戦う誠凛を目の当たりにし、1人で戦うことの限界を知った。

 

 

――たとえ、青峰が三杉に勝ったとしても、試合に負ければ何の意味がない。

 

 

「……スーフー」

 

青峰は、1度大きく深呼吸をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わって桐皇ボール…。

 

今吉がボールをキープする。

 

「(…もう、手があれへん。…こんなん、計算外や)」

 

すっかり気落ちする今吉。その動きは、精彩を欠いていた。

 

「(…気を抜き過ぎだぜ!)」

 

 

――ポン…。

 

 

「あっ!」

 

隙を付いて空が今吉がキープするボールをスティールする。

 

「よっしゃ!」

 

ボールを奪った空はそのままワンマン速攻で駆ける。グングン加速し、空はフリースローラインを越えたところでボールを掴み、そのまま跳躍する。

 

「トドメだ!」

 

ボールを右手に持ち替え、ワンハンドダンクの態勢に入る。ボールはリングへと叩き込まれる……。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

その瞬間、ボールは空の手から弾き飛ばされた。

 

「なっ!?」

 

ブロックされた空は、後ろを振り返ると…。

 

『青峰だぁぁぁーーーっ!!!』

 

ブロックしたのは、青峰だった。

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞ、1年坊!」

 

ルーズボールを桜井が拾う。

 

「よこせ!」

 

青峰が前方を指差し、ボールを要求。桜井は、フロントコートに走る青峰の前方にボールを投げた。

 

「よし…!」

 

ボールを受け取った青峰はそのまま速攻をかける。

 

「あかん、ターンオーバーや!」

 

空の速攻が防がれ、焦りながらディフェンスに戻る花月選手達。このままターンオーバーからの速攻が決まると思っていたが…。

 

「…ちっ!」

 

三杉が青峰の前に立ち塞がる。青峰は舌打ちをし、いったん停止する。その間に、花月選手達はディフェンスに戻る。

 

「…」

 

「…」

 

青峰はドリブルをしながら機会を窺う。そこから青峰が仕掛ける。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

レッグスルーからのクロスオーバーを仕掛ける。だが、青峰の動きを掴んでいる三杉はそれに難なく付いていく。

 

「っ!」

 

クロスオーバーの直後、急停止し、反対方向に横っ飛び、そのままフォームレスシュートの態勢に入る。だが…。

 

「くっ!」

 

それすらも三杉は見透かし、シュートコースを塞ぐように青峰の目の前に現れる。

 

 

「ダメか…!」

 

「彼の裏をかくことは不可能か…!」

 

火神と氷室は隙を見せない三杉に対し表情がさらに険しくなる。

 

 

「(…くそっ! 今の俺じゃこいつには…!)」

 

ゾーンに入ったことにより、状況を冷静かつ正確に把握出来る青峰は、今の自分では三杉には勝てないことを嫌でも実感出来てしまう。

 

「(また…負けるのか…)」

 

昨年、青峰は誠凛に負けた。今年のインハイの決勝リーグでも、秀徳に負けた。

 

 

――敗北による喪失感…。

 

 

かつて敗北を知らなかった青峰にとって、無意識に望んでいたものではあったが、それは耐え難いものだった。

 

「(俺じゃ…俺だけじゃ、こいつには勝てねぇ…)」

 

自分1人では、三杉には勝てない。それは、青峰にはもう分かっていたことであった。ここで思い出す。1人でやれることの限界に…。チームメイトと力を合わせることで強敵を圧倒する誠凛…自身のライバルである火神の姿に…。

 

「(………認めるぜ。今の俺じゃ、お前(三杉)には勝てねぇ…)」

 

ここで初めて、青峰は力の差を認める。

 

「(だがな、それでも、試合の勝敗だけは、譲らねぇ!)」

 

 

――ブォン!!!

 

 

青峰がボールを放り投げる。

 

「っ!」

 

三杉が目を見開く。

 

だが、そのボールの先は、リングではなく、ゴール下に陣取っていた若松であった。

 

「うおっ!」

 

若松は、突然飛んできたボールに驚きながらもキャッチする。

 

「ボーとしてんな、打て!」

 

青峰の声に若松はハッとした表情の後、そのままシュートを放つ。

 

 

――バス!!!

 

 

放たれたボールは、リングを潜った。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

その直後、観客から大歓声が上がる。

 

「なかなかいいパス出すじゃねぇかよ!」

 

「うるせえーよ」

 

ハイタッチをした若松の手を青峰はかわす。

 

 

「……まさか、あの青峰っちがパスをするなんて…」

 

今の青峰のプレーを見て、黄瀬は苦笑いをする。

 

「おいおい…、青峰がパスかよ…」

 

火神も同様であり、赤司も少なからず驚愕の表情をしていた。

 

青峰のバスケにパスはない。これは、周囲の選手達にとっては周知の事実であった。

 

1人で決められるだけの実力を持ち、バスケを楽しみたいが故の青峰の悪癖であった。少なくとも、以前の青峰であるなら、勝てるまで無謀な1ON1を繰り返していただろう。

 

それだけに、驚きを隠せなかった。

 

 

「…なるほど、ナイス判断、ナイスパスだ」

 

三杉は、今の一連の青峰のプレーに素直に称賛の言葉を贈った。

 

そして、予感する。これで、勝敗が分からなくなったと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

生嶋の変則スリーが青峰によってブロックされる。ルーズボールを福山が拾い、桐皇ボールとなる。

 

今吉がフロントコートまでボールを運び、そこから青峰にボールが渡る。

 

『来た! 青峰だ!』

 

「…」

 

「…」

 

青峰がゆっくりドリブルを始め、徐々にスピードを上げていく。

 

 

――ダムッ…。

 

 

青峰はボールを視線の反対側に弾ませる。ボールは青峰の手から離れていく。一見、隙だらけに見える。

 

「(…違うな、これは、変則のチェンジオブペース!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

素早くボールを右手で掴み、ドリブルで三杉の横を抜けようとする。だが…。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

それを読み切った三杉は先回りをして青峰の進路を塞ぐ。その瞬間、青峰はボールを両手で掴んだ。

 

『打つ気か? だが、マークが外れてないぞ!?』

 

三杉のマークは外れていない。このままシュートを打っても止められるのが目に見える。だが…。

 

 

――ピッ!

 

 

青峰の選択は、ノールックビハインドパスを出す。ボールの行き先は、左サイドの、スリーポイントラインの外側に立っていた桜井。

 

「あっ!?」

 

マークを外してしまった生嶋は思わず声を上げる。慌ててブロックに向かうものの…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

桜井のクイックリリースの方が速く、放たれたスリーはリングの中心を射抜いた。

 

「よしっ!」

 

拳を握る桜井。

 

「よっしゃぁぁぁっ! 同点だぁぁぁーーーっ!!!」

 

若松が歓喜の声で桜井の背中を叩き、称えた。

 

「…くっ!」

 

悔しさを露わにする生嶋。

 

「…ふむ、この流れは少しまずいか…」

 

三杉がポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ボール…。

 

空がボールを運び、そのまま右スリーポイントラインの外側にいる三杉にボールが渡る。

 

「…来い」

 

「…」

 

青峰がマークをする。フェイクに対応出来るよう、若干距離を開けている。

 

「……いいのかい? そんなに開けて。俺は一言も言ってないよ――」

 

「……っ!?」

 

青峰は目を見開いた。気が付くと、三杉と青峰の距離がさらに開いていた。

 

「くっ……そ!」

 

三杉がスリーを放った。青峰もブロックに飛んだが僅かに間に合わなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜った。

 

「――外がないとはね」

 

『うおぉぉぉぉぉっ! ここでスリーは痛い!』

 

観客からは悲鳴に近い声が上がる。

 

 

「今のは、キャプテンの不可侵のシュート(バリアジャンパー)!」

 

「……いや、似ているが少し違う。彼のは膝を曲げるのではなく、抜いている。さらに難度の高い高等技術。瞬発力がある者があれを使えば、当然、もっと速くなる」

 

赤司が解説を入れる。

 

 

桐皇は同点に追いつくも、またもや花月リードを許してしまう。

 

「……ちっ!」

 

またもや止めることが出来なかった青峰は、思わず舌打ちが漏れる。

 

「気にすんな! 流れはうちにある。すぐに取り返すぞ!」

 

若松が青峰に発破をかける。

 

「るっせぇな、でけぇ声出すな」

 

悪態を吐くものの、青峰の口は僅かに綻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、今吉がボールをキープする。

 

「(今更、裏も表もないで! うちはエースに託すだけや!)」

 

今吉は迷わず青峰にパスをする。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

両チームのエース対決に、観客が沸き上がる。

 

 

「第3Qに入ってから、青峰君はこれまで1度も三杉さんを抜けてない。この2本はパスで切り抜けてきましたが、それもいつまでも通用するとは…」

 

「ですが、彼は2本のパスを『見た』。それは、彼の頭の中に刻まれています」

 

桃井の懸念に、原澤はコートを見据えながら答える。

 

「これまでデータになかったパスという選択肢が青峰君に増えた以上、読みが効く状況ではなくなった。そうなれば、青峰君のアジリティーがものを言います」

 

 

 

「…」

 

「…」

 

三杉、青峰が睨み合う。青峰がゆっくりボールを動かしながら機会を窺う。そして…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!」

 

そこから一気に仕掛けると、三杉の横を高速で抜き去った。

 

『抜いたぁぁぁーーーっ!!!』

 

フリースローラインを越えたところで跳躍し、ボールを右手で掴む。

 

「こんの…!」

 

そこへ、天野がブロックに向かったが…。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

天野の上からリングへとボールを叩きつけた。

 

『うおぉぉぉぉぉっ! 青峰がついに決めたぁぁぁーーーっ!!!』

 

リングから手を放し、ゆっくりとディフェンスに戻る青峰。三杉とすれ違い様…。

 

「ぶち抜いてやったぜ」

 

不敵な笑みを浮かべながら三杉に呟いた。

 

「…フッ、面白い」

 

三杉も不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ここからは、両チーム、エースを中心に展開する。

 

青峰がボールを受け取れば、パスを捌きつつ、パスを囮に自ら仕掛け、得点を重ねていく。

 

一方、三杉も、究極のフェイクで青峰を翻弄しつつ、パスを捌き、得点を重ねていった。

 

試合は、3点差と1点差を繰り返しながら第4Q終盤まで進んでいった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り53秒…。

 

 

花月 86

桐皇 83

 

 

桐皇のオフェンス。ボールは現在、青峰がキープしている。残り時間を考えれば、桐皇はこの1本は絶対に落とせない。青峰の表情にもある種の決意が見られる。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う両者……、そして、青峰が動く。

 

『フォームレスシュート!?』

 

青峰がボールを投げる態勢を取った。三杉もブロックへと動く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、青峰のそれはフェイク。フォームレスシュートを中断すると、そのまま仕掛けた。

 

『抜いたか!?』

 

しかし、三杉もそのドライブに付いていく。三杉のブロックもフェイクであった。

 

ドライブを読まれたものの、青峰は強引に押し進めていく。リング近くにまで切り込むと、そのままボールを掴んで跳躍し、ダンクの態勢に入った。

 

そこへ、リングと青峰の間に、三杉がブロックに現れた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

三杉と青峰が激突する。

 

「っ!」

 

ここで、青峰は理解する。このダンクは失敗すると。

 

「ちぃっ!」

 

青峰は零れるボールを空中で掴み直し、そこからパスに切り替えた。

 

 

「なっ!?」

 

「上手い!」

 

火神と氷室は、その青峰のプレーに驚愕する。

 

 

ボールの行き先は、福山。ボールは福山の手に収まった。

 

「よっしゃぁぁぁっ!」

 

若松が声を上げる。福山がシュート態勢に入る――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――読んでいるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

シュート態勢に入る直前、空と大地がダブルチームで福山にマークした。

 

「くそっ!」

 

空と大地のダブルチームにより、福山はボールをキープするので精一杯。

 

「わざと俺の左側を通らせ、パスルート限定させ、そこにルーキーコンビをぶつけた。うちのルーキーコンビによるダブルチーム。君以外に抜ける者がいるかな?」

 

「っ!?」

 

三杉による罠。青峰の表情が歪む。

 

「(やべぇ、もうボールをキープ出来ねぇ!)…キャプテン!」

 

たまらず、福山は視界に入った若松にパスを出した。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

その瞬間、死角から1本の手が現れる。

 

「もらいや!」

 

天野がパスコースに割り込み、ボールをカットした。

 

『なっ!?』

 

ボールをカットした天野はすぐさまボールを拾った。

 

「天野!」

 

フロントコートに走っていた三杉がボールを要求した。天野はすぐさまフロントコートへボールを投げた。

 

ボールを受け取った三杉はそのまま進軍していく。フリースローラインを越えたところでボールを掴んで跳躍する。

 

「決めさすかよ! 絶対止める!」

 

そこに、青峰が現れた。

 

『青峰速ぇぇぇっ!!!』

 

ボールがカットされ、三杉が走ってから少し遅れて青峰も三杉を追っていった。平面では青峰が速いため、ギリギリのところで三杉を捉えた。

 

青峰は、三杉のシュートコースを完全に塞いだ。

 

「…さすが、一筋縄ではいかないか」

 

ポツリと呟くと、ダンクを中断し、空中で態勢を整え、手首のスナップを利かせてボールをふわりと浮かせた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

青峰のブロックを山なりに越えていったボールは、リングの中心を潜った。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ターンオーバーから、三杉が青峰のブロックをかわし、得点を決めた。

 

『…』

 

閉口する桐皇選手達。落とせない1本を落とし、トドメに近い失点をしてしまった。

 

点差は5点にまで広がり、残り時間を考えると、試合の結末はほぼ決まったも同然であった。

 

「まだ終わってねぇ! ボールを俺によこせ!」

 

諦めムードになりかけていたチームを青峰が一喝して引き戻す。

 

若松がリスタートをし、今吉がボールを運び、青峰にボールが渡った。

 

「…」

 

「…っ」

 

マークするのは三杉。両者の最後の1ON1が始まる。

 

青峰は力を振り絞る。自身の最大最速を以って、三杉に仕掛けようとしている。

 

「(……行くぞ!)」

 

意を決し、青峰が仕掛ける――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――データは揃った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青峰が動いたその瞬間、青峰の手からボールを弾いた。

 

「っ!?」

 

弾いたボールを拾い、そのままワンマン速攻を仕掛ける。

 

 

――ダン!!!

 

 

そのまま、ボールを掴んでダンクの態勢に入った。

 

「負けねぇ! 俺は絶対にお前に勝つ!」

 

青峰がブロックに現れた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

三杉と青峰が激突する。

 

「さすがはキセキの世代のエースだ。最後は少しヒヤッとしたよ」

 

「っ!」

 

青峰の手が徐々に押されていく。

 

「試合終盤のその気持ちを忘れるな。それさえ忘れなければ、君は俺を超えられる……かもな」

 

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

 

青峰のブロックを弾き飛ばし、ボールをリングに叩きつけた。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

激闘のセミファイナルがついに、終結した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





桐皇戦終了です。

青峰の成長をもっと表現したかったのですが、これが限界でした。

最近はもう1つの方にかかりっぱなしでこっちの執筆が出来ませんでした。複数の作品を遅らせずに投稿出来る人はホントに尊敬出来ますね…(^-^;)

気が付けば投稿1周年が経過してました。今後も投稿を続けられればと思います。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第50Q~インターハイファイナル~


投稿します!

少し、駆け足で展開していきます。

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了…。

 

 

花月 90

桐皇 83

 

 

三杉が青峰を吹き飛ばすダンクを決め、そこで試合が終了した。

 

『…』

 

桐皇の選手達は、茫然とする者、悔しさを露わにする者など、各々が敗北を噛みしめていた。

 

花月の選手達は、大きく喜びを表現する者はおらず、試合に勝利することが出来てどこかホッとしている様子だった。

 

両校の選手達がセンターサークル内に整列する。

 

「90対83で花月高校の勝ち!」

 

『ありがとうございました!』

 

互いに礼をした。

 

「全中優勝は伊達やないな。完敗や」

 

「全中には、お前ほどやりにくい相手はいなかったよ」

 

空と今吉が握手をした。

 

「…」

 

三杉が、無言で青峰に握手を求めた。

 

「ハッ! 俺の負けだ。…だがな、次は俺が勝つ」

 

青峰は不敵な笑みで握手に応じ、ベンチへと引き上げていった。

 

「…待ってるぜ」

 

三杉はそんな青峰を見据え、ベンチへと引き上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇の選手達が、控室へと戻っていく。

 

各々がこみ上げるものを堪えながら歩いていく。試合に出場した選手達、特に桜井はタオルを頭から被り、桐皇の選手達の中でひと際沈んでいた。

 

「くくくっ、あんな奴がいるとはな。…これだからバスケは面白ぇ」

 

青峰だけは笑い声をあげていた。その態度に主将の若松が怒りを露わにした。

 

「てめぇ! 負けたんだぞ!? なにヘラヘラして――」

 

青峰の袖を掴み、強引に自分の方を向かせたところで若松を言葉を止めた。いや、続けることが出来なかった。

 

「…るっせぇな、放せよ」

 

「…っ」

 

掴んだ手を無理やり振り払うと、青峰は1人歩いていった。そこへ、原澤が若松の肩に手を置き、そっと首を横に振った。

 

「…負けて悔しくない者などいません」

 

原澤はそれだけ若松に告げた。若松は、それ以上青峰を非難することは出来なかった。

 

何故なら、青峰は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

青峰は、会場の裏手にあるベンチに1人来ていた。ここは人気がほとんどなく、今は青峰1人しかいない。

 

「…」

 

青峰は、1人今日の試合を振り返る。

 

 

――完敗だった…。

 

 

点差だけ見れば7点差だが、試合の内容は、完全に三杉に抑え込まれ、言い訳の余地がなかった。

 

「…」

 

ふと、青峰は自分の過去を振り返った。

 

 

――練習したら、上手くなっちまうじゃねぇか…。

 

 

――俺に勝てるのは俺だけだ…。

 

 

「…っ」

 

かつて、青峰はバスケを愛するが故。バスケをより楽しみたいが為に自身の成長を止めた。

 

全ては、周りが成長することを願い、自分と対等に戦い、より、スリリングな戦いをしたいが為に…。

 

その驕りが、昨年のウィンターカップの敗北に繋がり、ひいては、今日の敗北に繋がった。

 

もし、絶望せず、練習を絶えず重ねていたら、昨年も、今日も、違う結果になっていたかもしれない。

 

だが、それも全ては後の祭りだ。

 

「……くっ」

 

思わず、青峰の口から嗚咽が漏れる。

 

今日の三杉誠也は強かった。自分のバスケの全てが止められてしまった。

 

青峰は腹立だしくてならなかった。それは敗北した自分自身のことはもちろん、三杉程のプレーヤーが日本にいなかったこと…。そして、何より…。

 

「…俺は、なんで……時間を無駄にしたんだ…!」

 

自分より上はいないと高を括り、何もせずに練習をサボっていた過去の自分自身に腹が立ってしょうがなかった。

 

自分以上の実力者は、成長を止めずともいたのだ。

 

「ちくしょう……ちくしょう…!」

 

青峰は、自分自身の無能さを呪い、涙を流し続けた。

 

「……大ちゃん…!」

 

その光景を物陰から見ていた桃井が、一緒に涙を流していたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方、花月側の控室。

 

桐皇とは違い、無事、決勝へと駒を進めることが出来、選手達の表情は明るくい。

 

「…ふぅー」

 

さすがに三杉は、青峰を相手にしながら試合をコントロールしていたので、いつもの試合後より疲れを見せていた。

 

『…』

 

その中でも、1年生の4人は、表情が暗かった。

 

「すいません、俺ちょっと先上がります」

 

空は一言告げ、そのまま控室を後にした。

 

「私も失礼致します」

 

それに続くように大地が出ていった。

 

「俺もすいません、お先に失礼します」

 

「すいません、僕も」

 

松永と生嶋もすぐ後を追った。

 

「あいつら、まさか…」

 

「そのまさかだろうな」

 

馬場の予想を言い終える前に、三杉が肯定した。

 

「今日の試合内容で満足出来る程、あいつらの目標が低くないだろうからな」

 

「明日も試合…それも決勝。相手は洛山だってのに、相変わらずだな」

 

真崎が呆れながら言った。

 

空と大地は、近くのストリートバスケのコートに出向くと、ひたすら1ON1を繰り返し続けた。

 

生嶋は、日課であるスリーを500本。それにプラス100本の計600本決めるまで打ち続けた。

 

松永は、足腰を鍛えるため、ひたすら走り込みをしたのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート上から花月、桐皇の両校が去ったが、観客席の黒子、火神と言った選手達は未だ席に座っていた。

 

『…』

 

キセキの世代のエースとまで称された青峰が、半ば封殺されて試合は終わってしまった。終盤、通じるようになったものの、やはり、最後には止められてしまった。

 

「……今日の青峰は強かった」

 

『…』

 

「スピード、キレ、俺の見た中で最高だった。あれにパスを絡められたら、正直、俺じゃあ止められねぇ」

 

火神がポツリと喋り始めると、周りの者達は無言で耳を傾けていた。

 

「だが、三杉は、そんな青峰すらも止めてみせた。…あいつは…いや、あいつらは、どれだけ高見にいるんだよ…!」

 

あいつら…。それは、三杉誠也だけではなく、堀田健のことを指している。そして、現時点の自分では相手にもならないことも理解してしまい、悔しさを露わにする火神。

 

キセキの世代の中でも最硬のディフェンス力を誇る紫原敦は堀田健に、キセキの世代の中でも最強のオフェンス力を誇る青峰大輝は三杉誠也に完敗した。

 

「…今大会、ディフェンスに長けた陽泉が負け、オフェンスに長けた桐皇が負けました。花月高校に勝てる高校があるとするなら…」

 

黒子が言い終えると、視線を隣に移した。

 

「…」

 

言葉を発することなく、赤司はコートを見つめていた。

 

「今大会、攻守において最もバランスの取れ、優れたチームは洛山高校だ。…もしかしたら、初めから花月高校と対等に戦えるのは洛山高校だけだったのかもしれないな」

 

氷室が赤司の方へ向きながら言う。

 

「…陽泉にしろ、桐皇にしろ、花月に引けを取ってはいなかった。次、やれば試合の勝敗は分かりませんよ」

 

そういい終えると、赤司は席から立ち上がった。

 

「…勝算はあるのか?」

 

火神が尋ねる。

 

「…明確には言えない。ただ分かるのは、俺が今までやってきた試合の中で一番厳しいものとなるだろう。…だが、俺は好都合だと思っているよ」

 

「どういうことですか?」

 

赤司の真意が分からず、思わず質問をする黒子。

 

「俺は…いや、俺達(洛山)は去年、誠凛に負け、王の座を失った。誠凛にリベンジを果たしたが、それはあくまでも雪辱を果たしただけ。再度、王を名乗るには、それに見合った試練が必要だと考えていた」

 

ここで赤司がフッと笑みを浮かべた。

 

「花月高校…、俺達、洛山が再び『開闢の王』を名乗り、最強の名を取り戻す相手にはうってつけの相手だ。明日、俺達は全力を以って花月高校を討つ」

 

そして、決意に満ちた表情を浮かべたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

日はすっかり暮れ、辺りは既に夜の帳が降りていた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「ハァ…ハァ…」

 

空と大地は、未だ1ON1を繰り返していた。生嶋と松永は試合後ということもあり、自主トレを終えて既に旅館へと戻っていた。

 

「今のはどうだ?」

 

空が尋ねると、大地は首を横に振った。

 

「…残念ながら、スピード、キレ共に青峰さんのものには遠く及びません」

 

「ちっ! まだまだダメか…」

 

それを聞いた空は苛立った表情を取った。

 

今日の試合で見た青峰のイメージを元に、自分のスキルアップを目指した空だが、まだまだ元のイメージには遠く及ばなかった。

 

「…正直、アレを再現するには、今日明日程度のトレーニングではとても足りません。やはり、少しずつ着実に積み上げていくしか…」

 

「分かってるよ。けど、これまでは三杉さんや堀田さんに頼りっぱなしだったんだ。最後の決勝くらい、2人の手を煩わせずに戦いたいんだよ。それに、明日の俺のマッチアップは――」

 

「――普通に考えれば、空のマッチアップは赤司さんになりますね」

 

キセキの世代の主将、赤司征十郎。10年に1人の逸材を率いていた選手だ。

 

「花月の司令塔は俺だ。俺が何も出来なきゃ話にならねぇ。だから、僅かな時間でも練習して戦えるように――」

 

 

――ファサ…。

 

 

突如、空の頭にタオルが掛けられた。

 

「そこまでだ。今日フル出場している上、明日は決勝だ。コンディションを整えるのも選手の仕事だぞ」

 

2人の様子を見に来た三杉がやってきた。

 

「三杉さん……すいません、あと少しだけいいですか? もう少しで何か――」

 

「――ダメだ。いくら、お前達の体力が無尽蔵でも、これまでの全ての試合フル出場した上、今日も1試合丸々こなしてるんだ。確実に疲労は蓄積している。これ以上は、明日のパフォーマンスに影響する」

 

渋る空を、三杉が遮るように窘める。

 

「「…」」

 

それでも空と大地は納得しなかった。

 

「…これまでの試合の内容が満足出来なかったのか? それとも、明日の試合への不安か?」

 

「……それも勿論あります。ですが、それ以上に…」

 

「三杉さんと堀田さんがいない今年の冬。このままじゃ間違いなくうち(花月)は惨敗します」

 

2回戦の陽泉。準決勝の桐皇戦でキセキの世代のレベルを肌で感じた空と大地。三杉と堀田がいない今年の冬に不安を感じていた。

 

「…お前達の気持ちはよく分かる。俺も健も、アメリカで十分味わったからな。…だが、今日はここまでにしておけ。今は、先のウィンターカップのことより、明日の決勝戦の方が重視しろ」

 

「…はい」

 

「…分かりました」

 

三杉に諭され、空と大地は渋々了承した。

 

「みんな待ってる。さっさと着替えろよ」

 

そう告げると、三杉は2人に背を向け、踵を返して旅館へと戻っていった。

 

「…」

 

その際、三杉は後ろを振り返り、2人を見やった。

 

「…お前達はインハイ前とは比べ物にならないくらい成長してるんだが…、紫原や青峰レベルの選手を相手にしていれば、気付かないのは無理もないか…」

 

三杉はボソリと呟くように言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

翌朝…。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

起床時間より2時間は速い早朝、ジャージ姿の空が息を切らしながら走っていった。

 

「……ぷはぁ!」

 

公園の前に辿り着くと、空はそこで足を止めた。

 

「…ふぅ」

 

公園内に設置された水道に向かい、喉を潤した後、頭から水をかぶった。

 

「やっべ、タオル持ってきてなかった」

 

ここでタオルを忘れた事に思い出した空は焦り出した。

 

「どうぞ」

 

その時、空の手にタオルが渡された。

 

「……ふぅ、…って、大地?」

 

タオルで濡れた髪を拭き取ると、ここでタオルを渡した者の正体が大地である事に気付いた。

 

「あなたが旅館を出ていったのを見かけたので、きっとあなたはここに寄ると思ったので、先回りして待っていました」

 

「大地…」

 

「お気持ちは察します。本音を言えば私も試合まで練習をしておきたいです。…ですが今日は決勝戦です。あなたの体力は知っていますが、あなたの相手が相手だけに、それでもどうなるか分かりません。この辺りにしておきましょう」

 

「……ハァ、分かったよ」

 

大地に促され、空は渋々了承した。

 

旅館に戻った空が上杉に大目玉を食らったのはご愛敬…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

『洛山高校、花月高校は、アップを開始して下さい』

 

『しゃす!』

 

決勝戦の舞台にたどり着いた花月高校、洛山高校が一礼をし、ウォーミングアップの為、コートへと現れた。

 

『来た! 王者奪還を狙う、キセキの世代、赤司が率いる、開闢の帝王、洛山高校!』

 

『対するは、強力な新戦力を率い、突如現れ、陽泉、桐皇を退けた新星、進撃の暴凶星、花月高校!』

 

会場のボルテージは、この日最高潮となった。

 

初戦で昨年のウィンターカップのリベンジを果たし、準々決勝で黄瀬涼太が擁する海常高校を破った洛山高校。

 

2回戦で今大会の最硬のディフェンス力を誇る陽泉を破り、準決勝で今大会最強のオフェンス力を誇る桐皇を破った、花月高校。

 

下馬評どおりの洛山は別として、花月高校は当初、ダークホース程度の扱いであったが、今では、優勝候補の筆頭にまで挙げられていた。

 

「健、足の調子はどうだ?」

 

足に違和感を感じ、準決勝を欠場した堀田。三杉が調子を確認する。

 

「問題ない。むしろ、昨日1日退屈してたことで、身体がなまっていないかの方が心配だ」

 

問題ないとばかりに笑みを浮かべた堀田。

 

「おりゃ!」

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

パスを出し、ボールを受け取った空がワンハンドダンクを炸裂させた。

 

『出た! 神城のダンク!』

 

沸き上がる観客。180㎝にも満たない空によるダンクは、今では花月の代名詞となっていた。

 

「やれやれ、試合前だというのに…」

 

そんな空を呆れながら見つめる三杉。

 

「さて…」

 

三杉が今日の対戦校である、洛山高校の方へと視線を向ける。

 

 

――バス!!! バス!!! …!!!

 

 

洛山高校のウォーミングアップは、派手なことはせず、淡々とレイアップを決めていた。

 

「…1本も外していない。これが、洛山高校…」

 

ベンチからその光景を眺めていた姫川が冷や汗を流していた。

 

「それくらいのレベルでなきゃ、王者は名乗れねぇよ。…ましてや、監督はエージだ。とことん、選手達に基本が染みついてるだろうよ」

 

「…」

 

旧知の仲である上杉剛三と洛山高校の監督、白金永治。2人が視線でやり合う。

 

「…なるほど、1人1人のスキルは素晴らしい。高校最強の名は伊達ではないな」

 

「特に、スタメンの実力はその中でも群を抜いている。歯ごたえのある試合になりそうだ」

 

冷静に相手を分析する三杉と堀田。

 

「…うぉ、すげぇ。これが洛山か!」

 

「…分かっていたことですが、激戦は避けられませんね」

 

空と大地も、三杉と堀田の横に並び、洛山の様子を眺めていた。

 

「ディフェンスだけなら陽泉。オフェンスだけなら桐皇の方が上だろう。…だが、総合力では間違いなく、洛山の方が上だ」

 

「オフェンスにもディフェンスにも隙がない。ベンチの層も厚い。…さて、どうなるか」

 

「三杉はんでもやっぱ、洛山は強敵でっか?」

 

同じくやってきた天野が、三杉に尋ねる。

 

「あぁ、強敵だよ。特に、赤司征十郎は、俺とは相性が良いとは言えないし、何より、今まで戦ってきたキセキの世代とは違う」

 

「どういうことですか?」

 

三杉の言葉の意味が分からず、空が尋ねる。

 

「紫原にしろ、青峰にしろ、彼らは『勝負』にこだわっていた。だが、赤司はおそらく『勝利』にこだわったバスケをしてくるだろう。その手の選手は変に熱くなり過ぎないし、ビビッて消極的になり過ぎることもない」

 

「『勝負』ではなく、『勝利』ですか…」

 

大地が唸るように呟く。

 

「もし、紫原と青峰が初めから勝利だけを重視して試合に臨んでいたら、もっと手強かった…いや、最悪、負けていたかもしれない」

 

「…」

 

空の表情が強張る。

 

「空、綾瀬、天野。今日の試合、俺と健だけが活躍しても勝てない。…頼りにしてるぜ」

 

「うす」

 

「はい」

 

「了解や」

 

3人が返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「見てみろよ玲央姉! 花月マジで強そうだぜ!」

 

洛山高校の葉山小太郎が目をキラキラ輝かせながら花月高校の選手達を見つめる。

 

「ハァ…、あなたは気楽でいいわねぇ」

 

そんな葉山を実渕玲央が呆れた表情で溜息を吐いた。

 

「いやいやだって、あんな凄いの見せられたら、テンション上がりまくりっしょ!」

 

「言っておくけど、今日の試合、あんたがキーマンになるのよ? あんたの相手は――」

 

「――分かってるって。今日の俺の相手は……綾瀬大地。確かにやるけど、誠凛の火神ほどじゃないし、まっ……ぶっ潰してやるよ…!」

 

葉山は持っていたボールを額に乗せ、目をギラつかせながら言った。

 

「俺のことより、玲央姉はどうなんだよ。確か玲央姉の相手って、三杉誠也っしょ?」

 

「…そうね。細身だけど、無駄がなく、強靭かつ柔軟なあの肉体……たまらないわ♪」

 

実渕が三杉の全身を舐めまわすように視線を向ける。

 

「ほれぼれしちゃうわ…………敵でさえなければ…ね」

 

全身を観察した後、真剣な面持ちとなった。

 

「正直、私でどこまで相手になるか分からないけど、やるだけのことはやってみるわ」

 

消極的な言葉ではあるが、実渕の表情からは、確固たる意志が感じられる表情であった。

 

「私と同じ……いえ、私以上に不安なのは――」

 

「――ゲェェェェェェェェェェプ!!!」

 

そこに、とてつもなく長いゲップ音が響いた。

 

「もう! 相変わらず、試合前のドカ食いはやめられないのね!」

 

怒り半分、呆れ半分の表情で実渕が根武谷永吉を睨みつける。

 

「応よ! 何せ、今日の俺の相手はあの紫原に勝った堀田だからな。いつも以上に食ってきたぜ!」

 

特に悪びれることなく、腹を摩りながら根武谷は笑った。

 

「見ろよ、あいつのあの筋肉。小手先のテクニックに逃げず、パワーアップを追及し続けたあの肉体を! 俺と同じ考えの奴がいてくれて嬉しいことこの上ないぜ!」

 

堀田を見て、自分と同じ志を持つ同士を得たとばかりに根武谷は嬉しさを露わにする。

 

「俺も、去年、負けてからこの身体をさらに鍛え直した。今の俺は、パワーだけなら、紫原にだって勝てる自信がある。どっちの肉体が最強か、決めてやろうじゃねぇか!」

 

自らの肉体に力を込めて隆起させ、根武谷はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「準備は出来ているようだね」

 

そこに、洛山のキャプテン、赤司征十郎がやってきた。

 

「今日の相手は過去最強。全員が100パーセント…いや、120パーセントの力を尽くさなければ勝てない。健闘を祈る」

 

「「「応(あぁ)(えぇ)!」」」

 

「実渕、お前の相手は三杉誠也だ。正直、かなり分が悪い相手だが、それでも相手をしてもらう。五将のブライドに賭けても彼を止めてみせろ」

 

「もちろん、タダでやられるつもりはないわ」

 

赤司の激に、実渕が笑顔で答える。

 

「根武谷、実渕と同様、お前の相手も今日は分が悪い。だが、インサイドを制圧されてしまっては、試合どころではない。お前のその鍛え上げたパワーで、インサイドを制圧しろ」

 

「応よ! 任せておけ!」

 

同じく赤司の激に、根武谷が筋肉をさらに隆起させて答える。

 

「葉山、今日の試合、お前のところが狙い目になる。とは言え、相手は全中を優勝したチームのエースだ。決して侮るな」

 

「ハハッ! 任せてよ」

 

赤司から掛けられた激に、葉山は目をギラつかせながら答えた。

 

「さあ、帝王の凱旋の前に立ちはだかる最後の試練。超えてみせるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――ざわざわ…。

 

 

迫る決勝戦を前に観客達が騒めいている。どちらも優勝候補に恥じない戦力を有する高校。興味は尽きない。

 

しばらくすると、決勝にまで駒を進めた2校がコートへとやってきた。

 

 

 

――おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

その瞬間、試合会場に地響きが起こる程の歓声が上がった。

 

「出てきたな」

 

「…始まるッスね」

 

緑間と黄瀬が、ポツリと呟いた。

 

観客席には、インターハイに出場した高校を始め、あらゆる選手達がこの試合を観戦している。

 

キセキの世代を擁する高校はもちろん、誠凛高校も、決勝の行く末を見守る為、会場に来ている。

 

「洛山高校対花月高校…」

 

「この試合、いったいどんな結果になるんだ…!」

 

誠凛の日向と伊月が、コートに注目しながら言った。

 

 

 

「さて、そろそろ時間だ。みんな、準備は出来ているな?」

 

「ふっ、言われるまでもない」

 

「当然!」

 

「もちろんです」

 

「当たり前や!」

 

三杉の問いかけに、堀田、空、大地、天野が決意に満ちた表情で答えた。

 

「いい顔だ。…ここまで来たなら、特に言うことはない。勝つぞ」

 

『応(はい)(よっしゃっ)!!!』

 

花月の選手達が、三杉の号令で声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『試合に先立ちまして、両チームの紹介を行います。始めに、白のユニフォーム。洛山高校、コーチ、白金永治』

 

呼ばれた白金永治は立ち上がり、一礼をした。

 

『続きまして、スターティングメンバーの紹介です。12番、五河充(いつかみつる)』

 

「…よし! やるぞ!」

 

呼ばれた、洛山高校の12番、五河充が顔を両手で2回叩き、コートへと入場した。

 

 

「12番? 11番の四条じゃないのか?」

 

日向が、自分達と対戦した時に出てきた選手と違うことに、眉を顰めた。

 

「けど、デカいな。去年の陽泉の主将の岡村くらいあるな。洛山には、あんな奴がいたのか…」

 

伊月が、意外な伏兵に軽く驚嘆の声を上げた。

 

「去年のウィンターカップの時にもベンチにいたわよ。…もっとも、出番はなかったけれど」

 

「…そういや、1人でけぇのがベンチにいた気がするな」

 

火神が思い出すように言った。

 

「洛山の控えのセンターよ。昨日の試合にも出ていたけれど、それを見る限りでは、かなりの選手よ。陽泉と洛山以外なら、どこに行ってもスタメンでしょうね」

 

リコが、知ってる限りの情報をもとに、詳細なデータを口にしていく。

 

「あれ? 洛山のセンターって、根武谷だよね? それじゃあ、根武谷はベンチ?」

 

「んなわけないだろ。…見ろ」

 

小金井が、疑問に思ったことを口にし、日向が否定しながら指を指した。

 

 

『7番、根武谷永吉』

 

「おっしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

呼ばれた根武谷が筋肉を意識したポーズを取り、大声を上げながら筋肉を隆起させた。

 

 

「バックアップセンターの五河をスタメンに起用し、かつ、根武谷をスタメンに据えたということは…」

 

「えぇ、おそらく、根武谷君は今日、パワーフォワードとして起用されたのでしょうね。狙いは…」

 

「堀田健対策……ッスね」

 

伊月、リコに続き、火神が答えを言った。

 

 

 

「紫原ですら勝てなかった堀田を、根武谷1人でどうにか出来るわけない。バスケは、インサイドを制圧されたらそれこそ勝敗に影響する」

 

「2人がかりで、堀田を抑えるってことだな」

 

緑間の解説に、高尾が続けて説明した。

 

「根武谷は今でこそセンターをやっているが、中学時代のポジションはパワーフォワードだ。昨日の準決勝でも、パワーフォワードのポジションに入っていた。昨日の試合を見た限りでは、ブランクは感じられなかった」

 

「なるほど、昨日の試合の時から既に今日の準備は進められたってことか」

 

高尾は改めて、洛山の戦略に感心したのだった。

 

 

『6番、葉山小太郎』

 

「ははっ♪」

 

呼ばれた葉山が、屈伸運動、両腕の関節を鳴らしながらコートへと入場した。

 

 

「今日の試合、間違いなく葉山にボールが集まることになるだろうな」

 

伊月が自身の予想を告げる。

 

「マッチアップ相手は多分……綾瀬か。…伊月、2度も葉山を相手にした経験から基づいて、花月の綾瀬とぶつかったら、どうなると思う?」

 

日向は、誠凛で1番葉山を相手にした経験がある伊月に尋ねた。

 

「……今の時点なら、葉山の方が上だと思う。だけど、綾瀬は試合を追うごとにどんどん進化していく。だからどうなるか…」

 

伊月は、このように予想した。

 

 

『5番、実渕玲央』

 

「ふふっ♪」

 

呼ばれた実渕は、薄い笑みを浮かべながらコートへと入場した。

 

 

「『天』『地』『虚空』…そして、『下弦』の4つのスリーを携えたシューター…」

 

「けれど、今日の相手は恐らく、三杉誠也だ。あの男に、どれだけ抗えるか…」

 

「…」

 

陽泉の木下、そして氷室は、実渕を高く評価しているが、今日の相手はあの三杉。分が悪いと予想する。紫原は、特に表情を変えることなくコートを見つめていた。

 

 

『キャプテン、赤司征十郎』

 

「スー…フー…」

 

呼ばれた赤司は、1度深呼吸をし、コートへと入場した。

 

 

「言わずと知れた、キセキの世代の主将、赤司征十郎…」

 

「自身の実力はもちろん、赤司に率いられる者は、実力を限りなく発揮出来る…」

 

「高校バスケット界最強のポイントガードや…!」

 

永野、高尾、今吉が、最強を目する司令塔、赤司。

 

 

無冠の五将と称される実渕、葉山、根武谷。そして、その3人に引けを取らない実力者の五河。そして、キセキの世代の赤司…。

 

これだけの実力者を擁する洛山高校…。普通であれば、これだけの選手達が相手を目の前にすれば、たちまち震え上がり、果ては、戦意を喪失してしまうだろう。…だが、今日の相手は違う。

 

 

『続いて、緑のユニフォーム、花月高校…。』

 

洛山高校の紹介が終わり、対戦校の花月高校の紹介が始まる。

 

『コーチ、上杉剛三』

 

呼ばれた上杉は、立ち上がり、一礼をした。

 

『マネージャー、姫川梢』

 

呼ばれた姫川は、立ち上がり、ペコリと一礼をした。すると、観客席の一部から、ピーピーと指笛を鳴らす音が響く。

 

『続きまして、スターティングメンバーの紹介です。11番、綾瀬大地』

 

「さあ、行きましょう」

 

呼ばれた大地は、落ち着いた表情でコートへと入場する。

 

『10番、神城空』

 

「よっしゃぁぁぁっ! ガンガン走るぜ!」

 

ピョンピョンとジャンプをしながら空がコートへと入場する。

 

『8番、天野幸次』

 

「ほな、行きまっせ!」

 

呼ばれた天野は、腕をグリグリ回しながら入場していく。

 

『5番、堀田健』

 

「よーし、行くぞ!」

 

呼ばれた堀田は、存在感を醸しながらコートへと入場する。

 

『キャプテン、三杉誠也』

 

「さあ、行こうか」

 

呼ばれた三杉は、薄く笑みを浮かべながらコートへと入場する。

 

洛山に続き、花月の選手達がコート上のセンターサークル内に整列した。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番SG:三杉誠也 190㎝

 

5番 C:堀田健  204㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

 

洛山高校スターティングメンバー

 

4番PG:赤司征十郎 173㎝

 

5番SG:実渕玲央  190㎝

 

6番SF:葉山小太郎 181㎝

 

7番PF:根武谷永吉 192㎝

 

12番 C:五河充   200㎝

 

 

「紫原と青峰を1対1で降した三杉と堀田、全国屈指のディフェンス力とリバウンド力を持つ天野。そして、未だ発展途上、潜在能力未知数の実力者の神城と綾瀬の花月高校…。そして、俺達(キセキの世代)を率いていた赤司に、無冠の五将の実渕、葉山、根武谷と、それに匹敵する実力を持つ五河の洛山高校…」

 

「戦力的にはほとんど互角。…なら、勝敗はどう転ぶか…」

 

「…赤ちんが負けるとは考えられないけど、それと同じくらい、花月も…」

 

「確かめさせてもらうッスよ」

 

緑間、火神、紫原、黄瀬が試合開始を今か今かと待ち焦がれている。

 

『これより、インターハイファイナル。洛山高校と花月高校の試合を始めます』

 

「礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

審判のコールに、選手達が礼をした。

 

 

 

――おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

ついに、ティップオフが目の前に近づき、会場が再び歓声に包まれる。

 

選手達は、それぞれ散らばっていく。そして、センターサークル内に、花月高校、洛山高校のジャンパー、堀田、五河が立った。

 

『…』

 

選手達は、無言でこれから始まるジャンプボールに神経を注いでいる。

 

 

――ゴクリ…。

 

 

先ほどまで歓声を上げていた観客達も、それに釣られるように静まり返った。

 

静寂に包まれる会場…。

 

『ピーーーーーーーーー!!!』

 

審判が笛を吹き、そして…。

 

ボールが高く上げられた

 

 

――バッ!!!

 

 

ボールが上げられると、堀田、五河が同時に飛んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ファイナルティップオフ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏の王者を決める最後の戦いの火蓋が今、切って落とされた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





何とか1ヶ月空けずに投稿出来ましたが…、相変わらず、時間が取れない…(^-^;)

閑散期になって暇になると言われながら、今日まで来ました…Orz

たまの休みも、他にやることが忙殺され、結局ほとんど執筆出来ず…。

にも関わらず、別の二次のアイディアがポンポン浮かぶんですよね…。これは自分だけでしょうか…( ;∀;)

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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第51Q~主導権~


投稿します!

思ったより早く仕上がりました!

それではどうぞ!



 

 

 

――ファイナルティップオフ…。

 

 

審判によってボールが高く上げられ、試合が開始される。

 

「ふっ!」

 

「っ!」

 

ジャンパーの堀田と五河が同時に飛ぶ。ジャンプボールを制したのは、堀田。

 

「ナイス、堀田さん!」

 

ボールは空の目の前に落ち、すかさず空がボールを確保する。

 

「よっしゃっ!」

 

ボールを持った空は前を向くと…。

 

 

――ブン!!!

 

 

前方へと勢いよくボールを投げた。

 

『っ!?』

 

ボールは、密集する洛山選手達の隙間を縫うように抜けていき、ティップオフと同時に走っていた大地の手元に飛んで行った。

 

『うおー、スゲーパス!』

 

ボールを受け取った大地はそのままドリブルで進軍していく。洛山選手達は、意表をつかれた形となり、慌てて大地の後を追う。

 

大地は、そのままフリースローラインを越えたところでボールを掴み、レイアップの態勢に入る。

 

先取点は花月高校……と、思われたが…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

手元からボールを放られた直後にブロックされる。

 

『赤司だぁぁぁっ!!!』

 

意表をつかれた洛山選手の中、赤司だけは空と大地の電光石火の奇襲を読み、ディフェンスに戻って冷静にブロックをした。

 

「残念だが、簡単に先取点はやれないな」

 

「くっ!」

 

ボールは大地の手元からこぼれていく。

 

「ナイス、赤司!」

 

ルーズボールを葉山が抑えた。

 

「葉山、くれ!」

 

ブロックをした赤司がボールを要求する。葉山はすかさず赤司にボールを渡す。

 

「走れ!」

 

赤司の号令と同時に洛山選手達が一斉にフロントコートへと駆け上がる。

 

「なっ…!」

 

『なにぃぃぃぃーーーっ!!!』

 

この、洛山の行動に、花月選手達はもちろん、会場中から驚愕の声が上がる。

 

赤司がドリブルしながらフロントコートまで進むと、そこからパスを出す。ボールを受け取った選手がすぐさまパスを捌いていく。

 

洛山のバスケは、相手チームのバスケを真っ向から受け止め、きっちり対策を立ててから攻勢に出る、所謂、横綱相撲ようなバスケスタイル。

 

故に、序盤から積極的に攻めてくることは全くと言っていいほどない。

 

にも関わらず、洛山が第1Q序盤から誠凛を彷彿させるラン&ガンで攻める姿に、驚きを隠せなかった。

 

「ちぃっ!」

 

データに全くない、想定外の洛山の攻撃に、空の口から思わず舌打ちが出てしまう。

 

再び、スリーポイントラインの外側で赤司にボールが渡り、赤司はそのままドリブルで切り込んでいく。

 

「むっ…」

 

ドリブルで切り込む赤司。待ち受けるのは、ゴール下を陣取っている堀田。フリースローラインを越えたところで、堀田が飛び出す。

 

 

――ピッ!

 

 

「っ!」

 

赤司は、堀田をギリギリまで引き付け、リング付近にボールを放った。堀田はカットしようと試みるも、紙一重でボールに触れることが出来なかった。

 

リング付近に放られたボールに飛び込む1つの影。

 

『根武谷だぁぁぁっ!!!』

 

赤司のパスに絶妙なタイミングで根武谷が飛び込んだ。

 

根武谷は空中でボールを掴み…。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きつけた。

 

『アリウープだぁぁぁっ!!!』

 

開始早々の赤司のパスからのアリウープに、会場は大いに盛り上がる。

 

「ちっ!」

 

「っ!」

 

開始早々1本決めるつもりが、逆に決められてしまい、悔しがる空と大地。

 

「ドンマイ! しゃーない、1本返すで!」

 

天野がボールを拾い、素早くリスタート。空にボールを渡す。その瞬間…。

 

「あかん! 空坊!」

 

パスを出した瞬間、天野が思わず目を見開いた。

 

「えっ…?」

 

空にボールが渡った瞬間、赤司と実渕がダブルチームを仕掛けた。

 

「っ!? んだと!?」

 

予想外のことに、空は激しく動揺する。

 

赤司と実渕が空を囲うようにダブルチームを仕掛け、その後ろで、葉山と根武谷がポジションを確認しながら陣取り、そのさらに後ろで五河が陣取っている。

 

 

「おいおい、これって…」

 

「オールコートゾーンプレスかよ!」

 

日向と伊月が、洛山の選択に驚愕する。

 

 

洛山が得点を決め、花月がリスタートをした瞬間にオールコートゾーンプレスを仕掛けた。

 

「ぐっ……ぐっ…!」

 

赤司と実渕の2人がかりでプレッシャーをかけられ、空はコートの端へとどんどん追い詰められていく。このままではラインを割ってしまうため、焦る空。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「あっ!」

 

実渕の手がボールを捉え、空の手からボールが零れる。

 

「いいぞ、実渕」

 

ルーズボールを赤司が素早く確保した。

 

赤司はそのまま、リングへとドリブルしていく。

 

「こんの、させっか!」

 

「行かせへんで!」

 

空が素早く赤司の後を追い、天野がヘルプへと向かった。さらに、ゴール下には堀田が待ち構えており、正面から堀田、側面から天野、後方から空の3人が赤司を囲むようにやってくる。

 

「…」

 

赤司、3人に完全に囲まれる前に、ノールックパスを繰り出す。ボールは構築される前の包囲網の隙間を抜け、フリースローラインの外側でポジション取りをしていた葉山にボールが渡る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

葉山はボールを受け取るとすかさずミドルシュート。落ち着いて決める。

 

「よっしゃっ!」

 

ガッツポーズをする葉山。

 

「…っ」

 

自分からの失点の為、悔しがる空。

 

リスタートするべく、天野がボールを拾う。

 

「っ!?」

 

実渕が天野の前で両手を上げて立ち塞がる。司令塔である、空の背中には赤司が。

 

「ちぃっ!」

 

空にボールを渡したいところだが、その瞬間、先ほど同様、ダブルチームの餌食になることは明白なので、天野は、他のパスターゲットを探す。だが…。

 

「…くっ!」

 

他の、大地、三杉、堀田はパスコースが見事に塞がれている為、パスを出せない。

 

「天野先輩、もうすぐ5秒です!」

 

ベンチから、姫川が声を出す。

 

仕方なく、天野は唯一パスコースが空いている空へとパスを出す。

 

『来た!』

 

「くそっ!」

 

予想通り、赤司と実渕が空を再びダブルチームで密着マークし、コートの端へと追い込んでいく。

 

『今日の洛山どうなってるんだよ! 開始早々容赦ねぇ!』

 

かつてない戦術プランに、観客からも悲鳴に近い声が上がる。

 

 

「いつもの洛山じゃねぇな、横綱相撲の洛山が第1Qから仕掛けてくるとは…」

 

2度の洛山との試合経験のある日向は、一連の洛山のプレーを見て驚きを隠せない。

 

「……洛山は花月の弱点を突いてきたわね」

 

今まで無言で試合を観戦していたリコが口を開いた。

 

「花月の弱点?」

 

「ずばり、連携不足よ。花月には、今年になって強力な戦力が加入された。でも、今年の4月に顔合わせしたばかりのチームでは、連携不足は否めないわ」

 

リコは、花月の弱点に、連携不足を挙げた。

 

「その点、洛山は、スタメン全員が昨年から同じチームで過ごしているわ。当然、チームプレーは抜群よ」

 

昨年からのスタメンが4人も残る洛山。四条にしても、今日スタメンの五河にしても、昨年から洛山に在籍している為、その分、チームの練度も高い。

 

「それと、花月にはもう1つの弱点があるわ」

 

「まだあるの?」

 

思いつかない小金井は思わず聞き返した。

 

「それは、ルーキーコンビよ」

 

「ルーキーコンビって、神城と綾瀬のことか? …だが、あいつら、キセキの世代程じゃないにしても、かなりの実力者じゃねえかよ」

 

花月のルーキーコンビ。それは、言うまでもなく、空と大地だ。

 

昨年の全中優勝校の原動力であり、今年のインターハイ、これまでフル出場を果たしている。

 

「確かに、身体能力、テクニック、資質共に全国レベルでも上位のプレーヤーよ。…けれど、彼らはまだ1年生。百戦錬磨の洛山選手相手には、実力は互角でもキャリアで大きく後れを取ってしまうわ」

 

『…』

 

「ゾーンプレスを破るには、連携は必須。それは、今から対策を講じていたら間に合わない。…赤司君は、実に強烈な一手を打ってきたわね」

 

リコは、洛山の…赤司の戦略に感心するのだった。

 

 

「くっ! こんの…!」

 

赤司と実渕は、ボールを持った空にガンガンプレッシャーをかけていく。

 

「(ちっ! プレッシャーが強すぎる。これじゃあ抜けねぇ! …左右がダメなら――)」

 

空が、ボールを掴んでジャンプする。

 

「上からだ!」

 

ボールを持って高く飛び上がると、赤司と実渕の上から大地にパスを出した。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「いただきだ!」

 

だが、そのパスは根武谷によってカットされてしまう。

 

『うわー! またカットされた!』

 

「ちっくしょう!」

 

またもやボールをカットされ、悔しさを露わにする空。

 

「五河ぁっ!」

 

 

――ブン!!!

 

 

ボールを奪った根武谷は、ゴール下に陣取る五河に、ドッジボールようにボールを投げ、鋭いパスを出した。

 

「よし!」

 

バチンっと大きな音を立てながら五河はボールを受け取る。すぐさま、堀田が五河の背中に付く。

 

「戻せ!」

 

そこに、大きな声が響く。フリースローライン付近に走りこんだ赤司がパスを要求した。

 

五河は迷わず赤司にボールを渡す。ボールを受け取ったすかさずシュート態勢に入る。

 

「…ちっ」

 

ブロックに向かおうとした堀田だが、目の前の五河がスクリーンの役割になり、ブロックに向かえず、思わず舌打ちが出る。

 

「打たせっかよ!」

 

そこに、空がブロックに現れた。

 

『うおー、神城高ぇっ!』

 

空は、赤司以上に高く、赤司とリングを塞ぐようにブロックに飛んだ。

 

「…」

 

ここで赤司、動じることなく、シュートを中断し、ノールックビハインドバックパスに切り替える。

 

「ナイスパス、征ちゃん♪」

 

ボールは、スリーポイントラインの外側でポジション取りをしていた実渕のもとへ。

 

「あかん!」

 

ノーマークだった実渕は悠々とシュート態勢に入る。

 

「打たせへんで!」

 

それでも、何とかスリーを阻止しようと天野が懸命にブロックに飛ぶ。

 

「天野、行くな!」

 

三杉が咄嗟に声を出すも、紙一重で遅かった。実渕は、シュート態勢のまま止まっていた。

 

「あかん!」

 

「せっかちね。…でも、せっかくだからいただくわ」

 

 

――ドン!!!

 

 

実渕がシュート態勢に入ると、ブロックに飛んだ天野と激突する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹く。

 

ぶつかったのと同時に実渕はシュートを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放られたボールは、リングを潜った。

 

「ディフェンス、チャージング、緑8番! バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

「出た…! 実渕の地のシュート」

 

地のシュート…。無冠の五将の夜叉と呼ばれる実渕の技の1つ。相手にぶつかりながらスリーを決め、かつバスカンを獲得する技である。

 

身をもって味わったことのある日向は冷や汗を流す。

 

 

「しもた…!」

 

スリーに加え、バスカンまで与えてしまった天野は頭を抱えて悔しがる。

 

「仕方ありません、切り替えましょう」

 

大地が天野の傍まで歩み寄り、声を掛ける。

 

とはいえ、ここまで何も出来ていない大地の胸中も穏やかではなかった。

 

「このままじゃまずい。大地、ゾーンプレスを突破するから力貸してくれ」

 

「分かっています。独力ではゾーンプレスの突破は難しいですから、リスタート後、私が直接ボールを貰いに行きます」

 

「人数かけてボールを運べば突破も出来るやろ。俺も動くで。」

 

空、大地、天野は、ゾーンプレス突破の打ち合わせをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

実渕、落ち着いてボーナススローを決め、4点プレーを成功させる。

 

 

第1Q、残り9分2秒…。

 

 

花月 0

洛山 8

 

 

『開始1分経たずにもう8点差だ』

 

『このままじゃもっと点差は開くぞ!?』

 

観客は、ざわついている。

 

「(何度も同じ手を食らわねぇぞ。次で必ず…!)」

 

堀田がリスタートをし、空がボールを受け取る。

 

「(よっしゃ、来てみろ…)…あれ?」

 

ダブルチームを警戒する空。だが、赤司と実渕が一向にプレッシャーをかけてこない。ふと見ると、洛山選手達は自陣に全員戻っていた。

 

「んだよそれ、せっかく突破してやろうと思ったのによ…」

 

意気込んで待ち構えていた空は、肩透かしを食らった表情になった。

 

 

『オールコートゾーンプレスをやめたぞ?』

 

『何だよ、このまま続けてりゃ、楽勝に勝てんだろ』

 

ゾーンプレスを解いた洛山に対し、悪態を吐く観客。

 

「…いやいや、メチャメチャ体力を消耗するオールコートゾーンプレスをいつまでも続けられる訳ないだろ」

 

そんな観客に対し、苦言を呈する高尾。

 

「けど、あと1回くらい仕掛けても良かったんじゃないか? 決めりゃ、点差は二桁にまで開くから、与えるダメージもデカいだろ」

 

「…いや、主導権は既に掴んでいる。ここが引き時なのだよ」

 

高尾の考えを、緑間は否定する。

 

「開始早々の隙を付いたとはいえ、同じ戦術が3度も通用するほど、花月は甘い相手ではない。万が一、ゾーンを突破されれば、せっかく掴んだ主導権を手放すことになりかねない」

 

「…」

 

「所詮、序盤の2点。多大なリスクを背負ってまで取りにいく価値はないのだよ」

 

「…それもそうか」

 

高尾は緑間の解説に納得し、コートに視線を移した。

 

 

「…監督、洛山の予想外の奇襲に、みんな浮き足立っています。流れを切る意味でも、ここは1度、タイムアウトを取っては…」

 

「……うむ」

 

状況が悪いと判断した姫川は、上杉にタイムアウトを提案する。上杉は、少し考えを巡らせた後、タイムアウトを申請するべく、ベンチから立ち上がった。

 

「…(スッ)」

 

その直後、コート上の三杉が、タイムアウトを申請する上杉を止めるように手で制した。それに気付いた上杉は三杉に視線を向けると…。

 

「…(フルフル)」

 

三杉は首を横に振った。

 

「………(コクリ)」

 

それを確認した上杉は頷き、上げた腰をベンチに下した。

 

「…よろしいんですか?」

 

「三杉は問題ないと判断している。まだ序盤だ。もう少し、様子を見よう」

 

心配そうに尋ねる姫川に、上杉は腕を組み、試合を見守った。

 

 

フロントコートにまでボールを進めた空。洛山は、マンツーマンディフェンスを布いてくる。

 

空には赤司。大地には葉山。三杉には実渕。天野はノーマークで、堀田には根武谷と五河がダブルチームでマークしている。

 

「(堀田さんには2人…、天野さんが空いている。ここは天野さんに渡してそこから切り崩しにかかるか…それと、大地に任せるか…)」

 

どのように攻めるか…。自分のミスからの失点を重ねている為、何としてもここは返したい。その心が、空を焦らせていた。

 

「空、くれ!」

 

その時、三杉が左のスリーポイントラインの外側でボールを要求した。

 

「(…三杉さん……よし、ここは堅実に三杉さんで行こう)」

 

空はすかさず三杉のパスを出した。

 

「簡単に突破はさせないわよ」

 

三杉にボールが渡ると、実渕がプレッシャーを強める。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う三杉と実渕。

 

「…(チラッ)」

 

おもむろに、三杉が目線のフェイクを入れる。その直後…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

高速のドライブ。三杉が一歩で実渕を抜きさる。

 

三杉はそのまま切り込んでいく。

 

「残念だけど、ここで止まってもらうよ!」

 

そこに、ヘルプに葉山がやってくる。三杉、葉山に捕まる前にその場で停止し、シュート態勢に入る。

 

「させないよ!」

 

葉山は、持ち前の脚力で距離を詰め、ブロックに飛んだ。

 

「小太郎、待ちなさい!」

 

実渕が大声で葉山を静止させようとした。

 

「えっ? …うそっ!」

 

だが、紙一重で間に合わず、葉山はブロックに飛んでしまった。その直後、気付く。三杉が飛んでいないことに。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そんな葉山をバックロールターンで抜きさった。

 

インサンドへと侵入していくと、五河がヘルプに飛び出そうとする。

 

「…(チラッ)」

 

「っ!?」

 

接近しようとする五河に対し、三杉は一瞬チラリとインサイドに陣取った堀田に視線を向けた。これにより、五河は動きを止めた。何故なら、ヘルプに出てしまえば、堀田ががら空きになり、パスを出されてしまうからだ。

 

ゴール付近まで近づくと、三杉はボールを掴み、高く跳躍した。

 

「させるかよ!」

 

ダンクに向かう三杉の前に、根武谷がブロックに現れた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

根武谷の右手が、三杉の掴んだボールに接触する。

 

「――らぁっ!」

 

「ぬおっ!?」

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

三杉が右腕から手にかけて、渾身の力を込め、根武谷の右手を吹き飛ばし、ボールをリングへと叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ダンクが決まると同時に大歓声が会場中を埋め尽くす。

 

「「「…」」」

 

実渕、葉山、根武谷は茫然としながらディフェンスに戻る三杉を見送る。

 

「…三杉さん」

 

一連のプレーを見ていた空や大地のところへ三杉がやってきた。

 

「空、綾瀬、天野。月並みだが、まずは落ち着け」

 

『っ!?』

 

三杉の言葉に、呼ばれた3人の心臓が鳴る。

 

「…洛山のデータに無い試合開始早々のラン&ガンとオールコートゾーンプレスで主導権を奪われた。だからと言って、慌てる必要はない。昨日も言ったろ? 点差なんて、試合が終わるまでにひっくり返せば良いんだよ」

 

『…』

 

「赤司征十郎は、無駄なことや意味のないことはやらない。そんな彼が、かつて1度もやったことのない戦術をやってきたということは、それだけ余裕がないということだ」

 

「…あっ」

 

「なるほど…」

 

「少しは落ち着いたな。なら、ディフェンスだ。きっちり止めるぞ」

 

「「「はい!」」」

 

花月の選手達は、自陣へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「凄いな…」

 

今のワンプレーを見て氷室がポツリと呟く。

 

「彼は、実渕玲央をかわして3点を決めることだって出来たはずだ。…いや、その方がリスクが少なかった。だが、彼は、あえて切り込んだ」

 

「? どういうことー?」

 

紫原が意図が分からず、聞き返す。

 

「彼は中央を突破して得点を決めた。ここで大事なのは、五将の3人を抜いて決めたということだ」

 

『…』

 

陽泉の選手達が氷室の解説に聞き入る。

 

「先の奇襲で花月の選手……特に、1年生2人は浮き足立っていた。口で落ち着けと言っても、冷静になれるものではない。だが、五将の3人を抜きさって決めるというプレーは、それだけインパクトがある。冷静さを取り戻すには十分だ」

 

「なるほど…」

 

「おまけに、今のワンプレーで奪われた主導権を奪い返すことが出来た。…赤司君が組み立てた戦術によって奪った主導権を、彼は独力の力技だけで奪い返した。…やはり、底が知れないな」

 

氷室は、改めて、三杉の恐ろしさを知ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、洛山のオフェンス…。

 

「…」

 

赤司がボールを運びをしている。

 

花月のディフェンスはマンツー。赤司には空、実渕には三杉、葉山には大地、根布谷には天野、五河には堀田。

 

 

「赤司のマークは三杉の方が良いんじゃないか?」

 

「確かに、神城が実渕に付く場合、お互いにミスマッチが出来るが、神城の身体能力なら多少の身長差は関係ないだろうし、アウトサイドシューターならなおのこと…」

 

伊月の考えに、日向が同調する。

 

「赤司をどうにか出来なきゃ、洛山は止められないぞ」

 

 

赤司はゆっくりボールをキープしている。空は、全神経を集中させ、ディフェンスに臨んでいる。

 

「…」

 

赤司は暫しボールをキープし、実渕へパスを出した。そこから、洛山はボールを回して隙を窺う。

 

「…」

 

赤司が目の前の空に視線を向けている。

 

『気に入らないな』

 

突如、赤司の内側で声が響いた。

 

 

『どうした?』

 

『この試合、この僕に、神城空をマークさせる意味はない。昨日の試合では、大輝の観察とシューターを潰すことが狙いだったが、この試合でそれをする意味はない。つまり、これは神城空に僕をぶつけ、経験を積ませようという意図しかない』

 

『…』

 

『王の座を失ったとはいえ、ここまで侮られるのは不愉快だ。…すまないが、代わってくれないか?』

 

『…分かっているのか。この試合は――』

 

『――心配はいらない。作戦を壊すつもりはない』

 

『……分かった。ひとまずお前に任せよう』

 

 

ボールは赤司に戻ってくる。ボールを受け取ると、赤司は目を瞑った。

 

「よし」

 

空が再びディフェンスに付く。

 

「神城空、だったね」

 

「?」

 

ボールを受け取ると、赤司はゆっくりボールを付き始めた。

 

「君は以前、キセキの世代を倒すと、言っていたね」

 

赤司がゆっくりと目を開く。

 

その瞬間、空に、今までにないプレッシャーが襲った。

 

「(っ!? なんだ、この感じ…。さっきまで様子が全く…!)」

 

「キセキの世代を倒す。…その言葉を口にすること自体、思い上がりだということを、教えてあげよう」

 

そこから今度はボールを左右に切り返し始めた。空は、その動きに食らい付いていく。

 

「無駄だ。誰であっても、僕のこの眼からは逃れられない」

 

赤司が目を見開く。そして、空の足の重心が片足に乗った瞬間、ボールを切り返した。

 

「っ!?」

 

その瞬間、空はバランスを崩し、後ろへと倒れた。

 

「――道をあけろ」

 

赤司は、空の横を抜ける。

 

もう1人の赤司征十郎が、再びコートに君臨した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





俺司と僕司の切り替えが実際どういう感じなのかはわかりませんが、とりあえず、僕司が出る意欲を見せ、俺司が了承すれば出られるという設定にしました。

ところで、この作品にアンチ・ヘイトタグは必要でしょうか? 自分は、アンチ・ヘイトは、原作良キャラをぞんざいに扱ったり、正反対のクズキャラにすることだと思っていたのですが、どうなんでしょうか? これを見ていた方がいましたらご意見ください。

感想、アドバイスお待ちしています。

それでまた!


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第52Q~ルーキーコンビの力~


投稿します!

良いペースになってきました。

どうにかこのペースを保ちたいですね…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

洛山がボールを回し、チャンスを窺っている。

 

「私達も随分舐められたものね」

 

「?」

 

突如、実渕が三杉に言い放つ。

 

「良いの? あの子(空)じゃ、征ちゃんには敵わない。敵わないだけならいいわ。もしかしたら、潰されちゃうかもしれないわよ」

 

「……もしそうなったら、その程度だった、だけのことさ」

 

ボールの動きに注視しながら答える三杉。

 

「2つほど、言っておくよ。空は、花月高校に入学してから、俺に何度も1ON1を挑んできた。その度に俺は空を負かしてきた。…だが、あいつは何度も敗北しても、1度も潰れることはなかった。あいつを潰すのは、至難の業だぜ」

 

「…」

 

「あともう1つ。君は俺達が洛山を舐めてる言ったが、君達こそ、空を舐めてるよ」

 

そっと、三杉は実渕に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「――道をあけろ」

 

バランスを崩す空の横を赤司が通り抜け、そのまま赤司はインサイドへ切り込んでいく。

 

「…むっ」

 

堀田がヘルプで飛び出し、赤司の進軍を阻もうとする。

 

「…」

 

赤司は迫ってくる堀田を冷静に見極め、ギリギリのタイミングで…。

 

 

――ピッ!

 

 

ローポスト付近にパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは、そこへ走りこんでいた葉山が拾う。1歩目でリングを通り抜け、バックレイアップを放った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

葉山の手から放られたボールはそこに現れた者によってブロックされた。

 

「アウトオブバウンズ、白(洛山)」

 

こぼれたボールは、ラインを割った。

 

「うそっ!?」

 

決まると思っていた葉山は思わず声を上げ、ブロックした者に視線を向けた。

 

『神城だぁぁぁっ!!!』

 

葉山のシュートをブロックしたのは空だった。

 

「あっぶねぇ。また俺からの失点とかシャレにならねぇからな」

 

空自身も、何とかブロックに間に合い、胸を撫でおろした。

 

「なに?」

 

これには赤司もわずかだが驚きの表情に変わった。

 

あまりにも速すぎる。アンクルブレイクを起こし、尻餅をついた空が葉山のシュートをブロックすることはタイミング的に出来ないはずだからだ。

 

「征ちゃん……よね?」

 

赤司の変化に気付いた実渕がおそるおそる尋ねる。

 

「そうに決まっているだろう……玲央」

 

「っ!?」

 

この一言で、実渕は赤司が以前の赤司に戻ったことを理解した。

 

「それよりも、神城は確かにアンクルブレイクで崩したはずだが…」

 

「ええ、確かにバランスを崩したのだけれど、倒れる直前に手を床について転倒を防いだのよ」

 

先ほど、赤司は確かにエンペラーアイを使ってアンクルブレイクを起こさせたはずだった。だが、空はギリギリで床に手をついて転倒を避けたのだった。

 

「……感情的になりすぎて、かけ方が甘かったか」

 

顎に手を当て、赤司は反省をした。

 

「ごめーん、赤司! 決まると思って油断し過ぎたわ!」

 

そこへ、葉山が手を額に当てながらやってくる。

 

「いやいい。今回は僕の落ち度だ。気にすることはない」

 

「えっ? ……赤司?」

 

葉山も、赤司の変化に気付いた。

 

「おいおい、いつまでも集まってないで、早く再開しようぜ」

 

そこへ、根武谷がリスタートを促す為にやってきた。

 

「ああ、そうだな。……この試合、僕1人の力で勝つことは不可能だ。玲央、小太郎、永吉、充。力を貸してくれ」

 

『おう!!!』

 

洛山選手達は、散らばっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

リスタート、試合が再開され、ボールが赤司に渡る。

 

「次は止める!」

 

赤司のマークをするのは変わらず空。

 

「…」

 

赤司はゆっくりドリブルを始める。

 

「(同じ愚はもう犯さない。この眼で見極める)」

 

ボールを左右に散らし、揺さぶりをかけていく。空も、抜かれまいとその動きに付いていく。

 

空の片足に体重が掛かったその瞬間!

 

「(ここだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に左から右へと切り返した。

 

「くっ!?」

 

空がバランスを崩し、背後へ崩れる。

 

「(今度こそ崩した。これで――)」

 

「征ちゃん!」

 

空を崩し、その横を抜けようとした瞬間、実渕が赤司に対して声を掛ける。

 

 

――ブン!!!

 

 

「っ!?」

 

赤司は、背後に嫌なものを感じ取り、咄嗟にボールを右から左へ切り返した。それと同時に、背後から1本の腕が現れる。

 

「ちぃっ!」

 

ボールを狙い撃つことが出来ず、舌打ちが飛び出す。その腕の正体は、空だった。

 

「…どういうことだ?」

 

先ほどとは違い、エンペラーアイで念入りに足を崩すことを確認していただけに、先ほど以上に来るのが速かった空に驚愕を隠せない赤司。

 

「……何よあれ。何であんなことが出来るのよ」

 

今の空の動きを後ろから見ていた実渕は、顔が強張っていた。

 

空は確かに、体重が片足に乗ったところで切り返され、アンクルブレイクを起こし、背後へ倒れた。だが、空は尻餅を付く直前、両足を踏ん張って身体を支え、手を床に付けることなく転倒を拒否すると、すぐさま反転、赤司の持つボールを狙い撃った。

 

普通の人間であれば、限りなく背後に倒れこんだ態勢から、手を付かずに転倒を拒否することなど、まず不可能。

 

「空の御実家は、代々、漁師の家系で、彼は、幼少の頃から良く稼業の手伝いをされていました」

 

「?」

 

大地が、空の身の上の話を始める。目の前の葉山がそれに耳を傾ける。

 

「彼の家は少々過激で、収穫の時期が来ると、一般の漁師ならまず船を出さないであろう大荒れの海でも船を出し、漁を行うんですよ」

 

「…」

 

「私も1度、手伝いをさせてもらったことがあるのですが、その時に私が見たものは、船から投げ出されないようにするので精一杯な程の大荒れの海で、彼は、船の舳先で両足でバランスを取りながら平然と作業をしていたのですよ」

 

「…」

 

「つまり、何が言いたいのかというと――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――神城空相手に、アンクルブレイクを引き起こすことはまず不可能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い頃から培った天性のバランス能力は、赤司のエンペラーアイを使ったアンクルブレイクを無効化にした。

 

1度、実渕にボールを渡し、再びボールを受け取った赤司。マークするのは当然空。

 

今一度、赤司はボールを左右に切り返し、揺さぶりをかけ、アンクルブレイクを起こそうと試みる。

 

「…ととっ」

 

空は、僅かにバランスを崩し、倒れそうになるも、先ほどよりも危なげなくバランスを取り、立て直した。

 

「始めはちょっと面食らったが、だいぶ慣れてきた」

 

軽く笑みを浮かべる空。

 

「…」

 

赤司は仕掛けることなく、ボールを実渕に戻した。

 

 

「あの赤司が攻めあぐねてる?」

 

まるで空との勝負を避けるようにパスを出した赤司の姿を見て日向が呟く。

 

「それにしても、赤司のエンペラーアイに対抗出来る奴がいるなんて…」

 

実際に2度のマッチアップ経験のある伊月は、その姿を見て驚愕している。

 

過去、赤司に対抗するため、火神は、限りなく距離を取り、赤司に相対した。だが、これは、ゾーンに入った火神だからこそ出来たことであり、これでも、完全には対抗出来なかった。

 

黒子と火神が力を合わせ、これでようやく対抗出来たくらいだからだ。

 

故に、独力で赤司に対抗した空に、驚きを隠せなかった。

 

 

その後、赤司は、三杉のポジションや堀田の迎撃エリアを確認しながらボールを回し、そのパスを受けた実渕、葉山、根武谷が得点を重ね、五河は、スクリーンやポストプレーで味方を補助し、後はディフェンスに専念した。

 

花月は、今まで通り、天野がポストプレーで仲間を補助。空と三杉が上手くボール回し、チャンスと見れば自ら決め、パスを受けた大地、堀田が得点を重ねていく。

 

序盤こそ、洛山の奇襲で一方的な展開になったが、その後は、双方、点の取り合いをしている。

 

ただ、どちらのチームにも個人技に優れた選手が多くいるにも関わらず、どちらも、積極的に仕掛けず、あくまでパス回しを中心に得点を重ねていった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

第1Q終了…。

 

 

花月 18

洛山 22

 

 

選手達がベンチへと引き上げていく。

 

 

「序盤の洛山の奇襲で一時、二桁近くまでリードが開いたが、第1Q終わってみれば、4点差か…」

 

高尾が、背もたれに身体を預けながら言う。

 

「ここまで大きな力の差は見られない。だが、お互いまだ、全力ではない。動きを見せるのは、これからなのだよ」

 

試合を見て、緑間はこう分析する。

 

「普段はお互い、どちらかと言えば、個人技主流のチームなのに、不気味なくらい、1ON1仕掛けなかったな」

 

「どちらも守備は固い。恐らく、仕掛けなかったのではなく、仕掛けることが出来なかったのだよ」

 

絶対的な守備力を誇る堀田に、身体能力が高く、運動量の多い選手が揃っている花月。同じく、能力が高い選手が揃い、さらに、全国屈指の練度を誇る洛山。共に、一筋縄ではいかない。

 

「お互い、オフェンスもディフェンスも見事にかみ合っちまってる。こうなっちまうと、試合がなかなか動かなくなるんだよな」

 

バスケは、実力が互角でも、相性などによって、点差が付くこともある。だが、攻守が互角で、バスケスタイルが似た同士が試合をすると、もちろん、点差が付く展開になることもあるが、点差が付かず膠着状態になることもある。

 

膠着状態になってしまえば、どちらが均衡を覆すきっかけを掴むか、どちらかがミスを犯すのを待つか…。

 

「(だが、少なくとも、あの赤司が、いつ起こるか分からないミスを待ったり、形も見えないきっかけ見つけるまで何も手を打たないはずがない。赤司は、必ず何か手を打ってくるのだよ。…いや、もしかしたら既に…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ…。

 

試合に出場した選手達は、ベンチに腰掛け、汗を拭いながら水分補給をしていた。

 

「現状は、想定内か」

 

「はい」

 

選手達の前に立った白金の言葉に赤司が首を立てに振る。

 

とはいえ、赤司としては、ここまでの展開は想定内ではあれど、もっと点差を付けておきたかったというのが本音だった。

 

赤司は、試合が膠着状態になることは分かっていた。だから、身体と気持ちが試合に入り切れていない試合開始直後にこちらのデータにない奇襲を仕掛けたのだ。

 

奇襲によって付けた点差と、奇襲による余波。それによって付いた点差を維持しながら試合を進めたかった。

 

かみ合っているとはいえ、試合には流れがあり、全てが上手くいく時もあれば、逆に、上手くいかない時もある。その時の保険の為、もう少し点差を付けておきたかった。

 

今、試合が4点差しか付けられなかった要因は…。

 

「(まさか、あんな強引に主導権を奪い返されるとはね。…三杉誠也。アメリカでの経験は伊達ではないな。後は堀田健…)」

 

「…ふぅ」

 

「ぜぇ……ぜぇ…」

 

普段の第1Q終了時以上に汗を掻いている根武谷。五河は肩で息をしている。

 

根武谷、五河、共に、普段以上に消耗している。2人共、スタミナのない選手ではない。根武谷に関しては、洛山の中でも随一のスタミナを誇っているのにも関わらずだ。

 

ここまで消耗している理由は言うまでもなく、堀田だ。堀田とのゴール下争いによって、2人はスタミナを削られてしまった。

 

「(この2人を同時に相手をして、ここまで消耗させてしまうとは。永吉はともかく、五河は最後までもたないだろう。三杉誠也、堀田健。やはり、一筋縄ではいかないか…)」

 

花月ベンチに視線を向ける赤司。

 

「赤司、第2Qからは…」

 

「はい。次のプランに移行します。ここからは僕達本来のバスケスタイルでいく。玲央、小太郎、永吉にはもっと点を取ってもらう」

 

「ええ」

 

「おっしゃ!」

 

「おうよ!」

 

「充。お前がどれだけインサイドを制せるかにかかっている。全力で食らい付け」

 

「ああ」

 

「行くぞ。勝つのは、僕達だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「序盤の奇襲で点差を付けられたが、第1Q終わってみれば4点差。まあ、上出来か」

 

上杉が、腕を組みながら言う。

 

空の特性により、赤司のプレーに制限をかける結果となり、試合は均衡を保つことが出来た。

 

「ここまでは一応、想定通りです。…問題はここから。攻守がこれ以上になくかみ合ってしまった。しばらくは、我慢の時間が続きそうだ」

 

三杉は、この先の展望を告げる。

 

「(…それにしても、赤司征十郎。俺のポジションと健のディフェンスエリアを掌握しつつ、味方のポジションを把握する広い視野。敵味方が密集しているエリアから針の穴を通すかのような的確なパス。そして、ここまでのゲームメイク。これほどのポイントカードはアメリカでもそうはいない。大したものだ)」

 

ここまで、的確に試合を運んでいる赤司に、三杉は内心で賛辞の言葉を贈ってた。

 

「(…ただ、気にかかるのが、途中、彼のプレイスタイルががらりと変わった。まるで、人が入れ替わったかのように…。そういえば、昨年のウィンターカップ決勝の資料映像でも、終盤、同じことが起きていたな。彼は…)」

 

ただ1つ、赤司の変化に、三杉は疑問を持った。

 

「向こうは、これからオフェンスに変化を付けてくる。恐らく、洛山本来のオフェンスを仕掛けてくるだろう。…なら、こっちもそれで行こう」

 

「というと…」

 

三杉の提案に空が聞き返すと…。

 

「こっちも、パス回し主体から1ON1主体に切り替える。そうだな、俺と健……綾瀬の3人で点を取りに行く」

 

「っ! 分かりました」

 

オフェンスを任された大地は、心なしか、口元を綻ばせた。

 

「後はディフェンス。空。赤司は引き続きお前に任せる。抑えてみせろ」

 

「うす。任せてください!」

 

「天野。お前はリバウンドだ。簡単な相手ではないが、何としてでもボールをもぎ取れ」

 

「任せといてください!」

 

「健。君には現状、ダブルチームを布かれているが、問題はないだろう。君の力、存分に揮ってくれ」

 

「任せろ」

 

三杉は立ち上がり、選手達の方へ振り返る。

 

「さあ行こう。決して守ろうなんて考えるな。俺達のバスケはあくまでもオフェンスだ。攻めまくって、俺達の力を見せつけるぞ」

 

『はい(おう)!!!』

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

インターバル終了のブザーが鳴る。

 

花月の選手達は、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まり、花月ボールでスタートする。

 

ボールをフロントコートまで運ぶ空。目の前には赤司。

 

「…」

 

「…っ」

 

目の前の赤司に対し、空は一定の距離を取る。

 

「(こいつ(赤司)、試合開始当初とは別人みたいなプレッシャー放ちやがる。…っていうか、これ以上は踏み込まれたらボールを取られる気がして近づけねぇ)」

 

空は、無意識に、赤司との距離を空けていた。

 

 

「あいつ…、まさか、赤司のエンペラーアイの射程距離をすでに見切っているのか?」

 

距離を空ける空を見て、伊月がこのような感想を呟いた。

 

未来が見える赤司のエンペラーアイは、動き出したその瞬間を狙う撃つことが出来る。故に、近づけ過ぎてしまうと、簡単にボールを奪われてしまう。

 

 

目の前の赤司のプレッシャーに押され、どう攻めるか迷っていると…。

 

「空! 俺に持ってこい!」

 

インサイドで、堀田がボールを要求した。空は、赤司にボールを奪われないようにその場でジャンプをし、ボールを要求した堀田へパスを出した。

 

「行かせるか!」

 

「止める!」

 

堀田にボールが渡ると、根武谷と五河が背中に張り付くようにディフェンスをする。

 

 

――ズシッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

堀田はドリブルを始めると、根武谷と五河を背中で押し込んでいく。

 

「(うおっ! 何て力だ! 今までよりさらにパワーアップしやがった!)」

 

「(根武谷先輩と2人がかりでも止められないのか!?)」

 

その、堀田のあまりの力に、2人はジリジリ押されていく。

 

「…五河ぁっ! 気合入れろぉっ! 全身から力を絞り出せぃ!」

 

「はい!」

 

2人は、さらに腰を落とし、踏ん張る。すると…。

 

『おっ、止まったぞ!』

 

今までジリジリと押し込まれていたが、ピタリと侵入が止まった。

 

「(…ほう)」

 

2人がかりとは言え、自分を力で押しとどめたことに内心で感心する堀田。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで、堀田は高速のスピンターンで2人をかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま、ゴール下を沈めた。

 

「くそっ! あのパワーでこのスピードかよ…」

 

「身体能力が桁違いだ…」

 

堀田を止められず、みすみす失点をしてしまった根武谷は悔しがり、五河は茫然としている。

 

「ナイス」

 

「おう」

 

堀田と三杉はハイタッチをする。

 

「今のは仕方がない。切り替えろ」

 

赤司は2人を責めることはなく。リスタートを要求した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

五河がリスタートをし、赤司がボールを貰い、フロントコートまでボールを進めた。

 

「…来い!」

 

赤司に対して、目の前に立つのは空。

 

「…」

 

赤司は、特に仕掛けるでもなく、スリーポイントラインの外側に立っていた葉山にパスを出した。

 

「よーし、きたきた!」

 

ボールを貰った葉山は喜々として構える。大地がすかさずディフェンスに入る。その瞬間、洛山の選手達が片側へと動き、スペースを空けていく。

 

 

「アイソレーションか…」

 

火神がボソリと呟く。

 

 

「…」

 

「……良いね、お前、大人しそうな顔してるけど、気合がビンビン伝わってくるよ」

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

「っ!」

 

葉山がドリブルを始めると、耳をつんざく程の轟音が鳴り響く。目の前の大地も、顔を顰めた。

 

 

「出るぞ、葉山の雷轟のドリブル(ライトニングドリブル)が…!」

 

2度の試合で何度も体験した伊月が、葉山に注目する。

 

 

「3本……いや、4本から行っちゃうよ」

 

ボールを突く葉山の指に、さらに小指が足される。

 

「(…来る!)」

 

仕掛けてくると感じ取った大地は集中力を高める。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

葉山は、高速で大地の横を抜けていく。

 

『抜いたか!?』

 

だが、大地はこれに遅れずに付いていく。

 

 

「おいおい、マジかよ!? あの宮地先輩ですら付いていけなかったあのドリブルに初見で対応しやがった!」

 

洛山との試合の折に近くで目の当たりにしたことがある高尾は、大地のディフェンス力の高さに驚愕する。

 

 

「やるね! 全中得点王は伊達じゃなさそうだね。だったらこれならどうよ!」

 

 

――ダムッ!!! ダムッ!!!

 

 

そこから葉山はさらに切り返していく。だが、大地はこれにも対応していく。

 

「(こいつ…! キセキの世代相手にやられてばかりのイメージしかないから印象薄かったけど、結構やるじゃんかよ!)」

 

自身の認識が低かったことに反省する葉山。

 

「……正直、4本でも十分だと思ってたけど、ちょっと舐めすぎてたわ。…良いよ、5本……全力で行くわ」

 

ここで、ドリブルをする葉山の指に、親指が足された。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

さらにスピードアップする葉山のドリブル。

 

「(は……やい…!)」

 

何とか反応し、葉山を追いかけるが…。

 

「ハハッ! 甘いね!」

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

大地が動いた瞬間切り返し、大地の横を完全に抜けていった。

 

『抜いたーーーっ!!!』

 

そのままどんどん侵入していく葉山。ゴール下でボールを掴むと、そのままレイアップの態勢に入る。

 

「させるかい!」

 

1番近くにいた天野がマークを外し、ブロックに向かう。だが、葉山は1度ボールを下げ、天野のブロックをかわすように抜けていく。

 

「なんやて!?」

 

 

――バス!!!

 

 

リングを潜るように通過した葉山は、ダブルクラッチで得点を決めた。

 

「おーし、ナイス!」

 

根武谷が得点を決めた葉山を労うように背中をバチンと叩いた。

 

「だからいってぇーんだよ馬鹿力!」

 

そんな根武谷に怒りを露わにする葉山。

 

「…」

 

ディフェンスに戻る葉山を視線で追う大地。

 

「ドンマイ、大丈夫か?」

 

気落ちしていると考えた空が、大地の下に歩み寄る。

 

「…はい。葉山さんの噂に聞くドリブル。4本ならば恐らく問題ありません。…ですが、5本は、止めるのに少しかかりそうです」

 

「……少し…ね。なら安心した。あいつは大地に任せるわ。つうか、…俺も人の心配している余裕ないしな」

 

気落ちはなく、時間はかかっても止めると言い切った大地を見て、空は目の前の相手に集中することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…彼のドリブルは、いつ見ても驚かされるね」

 

葉山のライトニングドリブルを見た氷室がそのドリブル速度に驚愕する。

 

「ていうか、あいつ、ポコポコ点取られ過ぎでしょ。俺とやった時はこんなもんじゃなかった」

 

失点を重ねる堀田に、紫原は不満の声を上げる。

 

「…敦の名誉の為に言わせてもらうと、彼はブロックに行かないんじゃない。行けないんだ」

 

「…そうなの?」

 

「洛山は第1Q、セットオフェンスを仕掛けた。ボールと人が常に動き、ボールの所在を分からなくする。いくら、守備範囲が広くとも、ボールの位置が分からなければブロック出来ない」

 

「…」

 

「仮に、ボールの位置を特定出来ても、敵味方がインサイドに密集しているから、ブロックに行くことが出来ないシチュエーションもあった」

 

「…」

 

「そのオフェンスが効いているから、1ON1を仕掛けてきても、迂闊にヘルプに出てしまえば、たちまちパスを出されてしまう。だから、堀田健は容易にブロックに行かないんだ」

 

「…このオフェンスは恐らく、うち(陽泉)の……いや、敦対策に用意した戦術プランなんだろう」

 

「…ふーん」

 

紫原は、氷室の解説に納得する。

 

「(…とはいえ、ここまで何度も得点出来ているのは、ひとえに、赤司君の手によるものが大きい。…彼のゲームメイクぶりはもはや化け物染みているな…)」

 

赤司の抜群のゲームメイクに、氷室は冷や汗を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、空が再びボール運びを始める。

 

「…」

 

空は、赤司を最大限警戒しながらゲームメイクをしていく。その時、視界に入ったのが、ボールを要求する大地の姿。

 

「…」

 

その目は、強くボールを要求する。

 

「分かってるって。借りは、しっかり返さないとな」

 

ビハインドパスで大地にパスを出す。

 

『うおー! 早速やり返す気か!?』

 

攻守が入れ替わり、今度は大地のオフェンス。観客も盛り上がる。

 

「抜けるもんなら抜いてみな」

 

葉山が腰を落とし、集中を高めて対応する。

 

「っ! この感じ…、青峰さんを相手にした感覚に似てますね…」

 

青峰に似た感覚……それは、野生の獣のそれに似た感覚のことだ。

 

「…ですが、それでも、行くだけです」

 

ボールを小刻みに動かし…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速。葉山の左手から仕掛ける。

 

「うおっ、はやっ!」

 

一瞬、大地の速さに面を食らうも、葉山は持ち前のスピードと野生でピタリと付いていく。

 

「…」

 

大地は並走する葉山を確認すると、バックロールターンで反転しながら葉山の反対側を狙う。

 

「…けどっ、そんなんじゃ抜かせないよ!」

 

葉山はこれにも遅れることなく付いていく。

 

『葉山すげー! 11番じゃ無理か!?』

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「えっ!?」

 

大地は、バックロールターンで逆側を付いた直後、バックステップで急バック。葉山は瞬間、大地の姿を見失う。

 

バックステップで距離を作った大地は、シュート態勢に入る。

 

「やばっ!」

 

葉山は慌ててブロックに向かうも、僅かに間に合わず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地のミドルシュートが決まる。

 

「ナイッシュ!」

 

空が大地の駆け寄り、ハイタッチをした。

 

「すっげー、あんなスピードでバックステップ出来んのかよ」

 

葉山は大地のバックステップの速さに感心する。

 

「感心してる場合じゃないわよ。…大丈夫?」

 

「大丈夫! 絶対止めてやるから」

 

実渕の激に、葉山が不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、試合は、花月は大地、三杉、堀田が得点を重ね、洛山は葉山の1ON1を中心に、実渕、根武谷が、周りのフォローを受けながら得点を重ねていく。

 

パス中心の試合展開から1ON1中心の試合展開に切り替わった。

 

それでも、試合は均衡を保ち続けていた。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

花月 42

洛山 44

 

 

点差は僅か2点。

 

試合の半分が終わり、試合は、後半戦へと突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





もっと短くまとめたいのですが、どうしても長文になってしまうorz

投稿活動を始めた当初は文字数の少なさに悩んだのですが、今は長すぎる文字数に悩まされるとは…。もっと短い文章でそれでいて意味がわかるものを書く。これが才能なんでしょうね…(^-^;)

過去のキセキの世代との試合があまりにも長すぎたので、決勝ではありますが、ボリュームをしぼっていきたいと思います。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第53Q~天帝~


投稿します!

相変わらずの会話描写が多いです…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q終了…。

 

 

花月 42

洛山 44

 

 

試合の半分が終わり、点差は僅か2点。

 

双方、攻守共に全くの互角で前半戦を戦い合った両者はベンチに戻り、控室に戻っていった。

 

 

「互角だな」

 

前半戦を観戦した伊月がこのような感想を呟く。

 

「洛山は、個人の能力だけじゃねぇ、同じチームで1年以上共にしたことで培った連携もある。花月は、ほぼ急造チームでありながら、その洛山と対等に渡り合ってやがる」

 

個人の能力に加え、連携もある洛山に、花月は個人の能力で食らい付いている。誠凛のどの選手も、同じ感想を抱いたのだが…。

 

「…いえ、互角じゃないわ」

 

リコだけが、日向の分析に否を唱えた。

 

「点差、展開だけ見れば、一見互角に見えるけど、洛山は、試合開始早々に手を打ち、その後もいくつか手を打っていたわ。けれど、花月はまだ、何も動きを見せていない」

 

「っ!? そういえば、花月の監督は、最初の奇襲の後にタイムアウトを取りかけたっきり、特に大きな指示は出してなかったな…」

 

土田が、リコの言葉を聞き、思い出すように言った。

 

「洛山は、手札を複数切り、赤司君自身が積極的にゲームメイクをしてやっと互角なのよ」

 

戦況は互角ではなく、洛山の不利と分析したリコ。

 

「いくら準備期間が短かったとはいえ、あのおじ様(上杉)が何もしこんでいないわけがない。確実に、第3Qから何か手を打ってくるはずだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月側控室…。

 

「戦況は互角……だが、うちは向こうに良いように扱われている」

 

腕を組みながら上杉が唸る。

 

「仕方ありませんよ。こちらは急造チーム。しかも、チーム練習も少なかったですからね」

 

タオルで汗を拭いながら三杉が言う。

 

「ここからどうしましょうか…。洛山と違い、私達には打てる手が少ないのが現状です」

 

大地がこれからの行き先を懸念する。

 

「そう暗くなる必要はない。…むしろ、状況が悪いのは洛山の方なんだからな」

 

「どういうことでっか?」

 

意味が分からず、天野が聞き返す。

 

「向こうの術中にハマっても点差はシュート1本差で済んでいる。展開は互角でも、この差は大きい」

 

『…』

 

「それに、切れる手札にも限りがあるだろうし、何より…、俺も健も、赤司のゲームメイクにも慣れてきた。…そろそろ自由に動けるようになる」

 

ここまで、赤司のゲームメイクによって、実力をほとんど発揮出来ず、半ば、封じられてきた三杉と堀田だが、試合の半分を終えてそれにも慣れてきた。そうなれば、この膠着状態を抜けることも可能になる。

 

「うむ…、とりあえず、第3Qもこのままで行く。向こうも、必ずこの状況を打破すべく、動いてくるだろう。そうなれば、俺からも指示を出そう。…生嶋、松永はいつでも出れる準備はしておけ」

 

「「はい!」」

 

「相手は洛山、高校最強のチームだ。一時も気を緩めるな。最後の1滴まで搾り出せ!」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山側控室…。

 

「状況は……あまり思わしくはないな」

 

白金が選手達を見渡す。まず、目に付いたのは根武谷と五河。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

2人共、まだ、試合の半分しか戦っていないにも関わらず、既に1試合戦い終えたかのように疲弊していた。特に、五河は限界に近い。

 

「…っ」

 

赤司も、皆に気取られないように装ってはいるが、こちらも消耗が激しい。

 

それもそのはず、赤司は三杉と堀田の2人を封じるゲームメイクをこなしながら運動量が多い空を相手にしているからだ。

 

「とりあえず、五河、交代だ」

 

本日スタメン起用された五河の交代を指示した。

 

「監督! 俺はまだ――」

 

交代に不服を持った五河は抗議しようと立ち上がると…。

 

「充。聞き分けろ。これは勝つ為だ」

 

これを赤司が諫める。

 

「…くっ!」

 

五河は赤司に諫められ、悔しながらベンチに腰掛ける。

 

「勘違いするな、充。お前を責めての交代ではない。お前がいなければ、ここまで競ることは出来なかった」

 

「赤司…」

 

「ここから先は、お前のディフェンス力より、点を取ることの方が重要になる。ここまでよくやってくれた。後は任せろ」

 

「……分かった」

 

赤司の労いの言葉を込めた説明に五河は納得した。

 

「センターはこれまで通り、永吉がやるとして、大智を入れるの?」

 

「…そのつもりだ」

 

ここで、五河を下げ、四条を投入。従来のスタメンに戻す。

 

「…けど、五河を下げちゃったらインサイドがやばくない? 正直、永吉だけじゃきついっしょ」

 

葉山が、五河を下げたことで発生する懸念材料を口にする。

 

「無論、それも承知している。後半マンツーからゾーンにディフェンスを変更する」

 

「なるほど、そういうことね」

 

白金の説明に、実渕は納得する。

 

五河が抜けることで出来るインサイドの穴は、ゾーンディフェンスを布くことで埋めるという算段である。

 

「向こうは圧倒的な個のチームだ。わざわざ正面から受け止める必要はない。こちらは、集で対抗する」

 

『…』

 

「昨年、失った名誉を今日挽回する。全員、気力死力を尽くせ」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そして、両チームがコートへと戻ってくる。

 

『うおぉぉぉっ! 戻ってきたぞ!』

 

それと同時に会場中が完成に包まれる。

 

選手達はジャージを脱ぎ、コートへと向かっていく。

 

 

「おっ? 洛山は五河を引っ込めたな。代わりに出てきたのは……11番、四条か」

 

コートに出てきた、その中でも、洛山側の選手交代に疑問を覚える高尾。

 

「……本来のスタメンに戻したか」

 

緑間は、1人頷く。

 

「目的はオフェンス力のアップ…、多少の失点を覚悟し、点を取りに来たか…」

 

「けどよ真ちゃん、あれだとオフェンスはともかく、ディフェンスがやばいんじゃないか? 五河が下がったらインサイドが…」

 

「止める方法はある。俺の予測が正しければ、恐らく洛山は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

後半戦、第3Qが開始される。

 

花月ボール。空がフロントコートまでボールを進めると…。

 

「っ!?」

 

空は思わず目を見開く。洛山のディフェンスが変わる。

 

「……そう来たか」

 

三杉が小声で呟く。

 

前に赤司と実渕。その後ろに葉山、根武谷、四条が構える。

 

『これは…!』

 

『2-3ゾーンだ!』

 

洛山のディフェンスがマンツーからゾーンへと切り替わる。

 

 

「そういうことか!」

 

「1対1……ダブルチームでも止められないなら、チームで止めればいいのだよ」

 

「これなら、インサイドの不利も消せる」

 

ここで、高尾は緑間の考えの意味に気付いた。

 

「それにしても、横綱相撲のような戦い方をする洛山が今日はあの手この手で花月を翻弄している。珍しいな」

 

陽泉の永野が、いつもと違う洛山の姿にこのような感想を抱く。

 

「いや、むしろ、これが洛山本来の姿だ」

 

陽泉の監督、荒木が口を挟む。

 

「今の代の奴は知らないだろうが、もともと、洛山は、圧倒的な運動量と、培ってきた経験と戦略で優勝を重ねてきたチームだ。個人技を生かした戦術に加え、お前の言う横綱相撲のような戦い方になったのは、一昨年、五将の3人が加入してからだ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。恐らく、五将の3人が加入し、さらに、キセキの世代の赤司が加入したことで、チームで戦うことより、個人を生かして戦うほうが効率が良いと考えたのだろう」

 

『…』

 

陽泉の選手達は、荒木の言葉に聞き入る。

 

「強力な選手の加入は、時として、チームの在り方を変えてしまう。良くも悪くも、な。去年の敗北で、白金監督にも思うことがあったのだろう。…王の座を取り戻すため、洛山は本来の姿に戻した」

 

「…」

 

紫原が、静かにコートに視線を向けた。

 

 

「去年、強大な個を生かして戦ったが、集で戦う誠凛に敗れた。個では限界がある。ならば、こちらも個を束ねて戦おう」

 

ゾーンディフェンスに切り替わった洛山の選手達を見て、白金が静かに呟いた。

 

 

インサイドをゾーンで固めてきた洛山。これでは、中での勝負はもちろん、切り込むのも難しい。

 

「…」

 

空は、大地へとパスを出す。その瞬間、洛山ディフェンスが動く。

 

「…」

 

ボールを貰った大地は、隙を窺う。

 

「(…ゾーンディフェンス、ですが、こちらも、既に経験済み。…行きます!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て大地が切り込む。それと同時に洛山が大地を包囲する。

 

「っ!?」

 

とてつもないプレッシャーが大地を襲う。

 

「(このプレッシャーは、陽泉のディフェンスに匹敵……いや、それ以上…!)」

 

ボールのキープが困難になり、ゴール下の堀田へとボールを出す。当然、新たな包囲網が築かれる。

 

「……ちっ」

 

如何に堀田でも、この包囲網では思うようなプレーが出来ず、舌打ちをする。

 

「健!」

 

アウトサイドから三杉が声を出してボールを要求する。堀田はボールを三杉に渡す。ボールを貰った三杉はすぐさまシュートを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『来た、スリー!』

 

ボールはリングの中央を射抜き、後半早々、花月が逆転に成功する。

 

『くっ!』

 

後半戦最初の1本を止められなかったことに悔しさを露わにする洛山選手達。

 

『うわー、やっぱ三杉はすげー!』

 

『堀田もいるし、キセキの世代を超える2人がいる花月がやっぱ優勢か…』

 

観客達は、やはり花月の方が上回っていると口にする。

 

「…」

 

その言葉を耳にする赤司。特に反応するでもなく、洛山選手達に声を掛ける。

 

「外から打たす分には構わない。中からの失点は防げた。上出来だ」

 

「赤司…」

 

「オフェンスだ。取り返すぞ」

 

洛山のオフェンスが始まる。

 

 

赤司がフロントコートまでボールを運び、空がマークに付く。

 

「…」

 

「…」

 

淡々とボールをキープをする赤司に、空は全神経を集中してディフェンスに臨む。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで、赤司がドライブで切り込む。

 

「行かせねぇ!」

 

負けじと、空もこれに食らい付く。

 

 

――キュッ!!!

 

 

ここで赤司は急停止。それと同時にノールックビハインドパスでハイポストに立つ根武谷にパスを出す。

 

根武谷にボールが渡るのと同時に赤司が根武谷の下に駆け寄る。

 

「ちっ、行かせ――っ!」

 

空は赤司を追いかけようとしたが、四条のスクリーンに捕まってしまう。

 

赤司は根武谷とすれ違い様にボールを受け取り、そのままインサイドへと切り込み、シュート態勢に入る。

 

「させん!」

 

そこに、堀田がブロックに現れる。

 

「赤司!」

 

赤司の左方から葉山がボールを要求する。

 

その声を聞くのと同時に、ボールを下げ、背中から左方の葉山へのビハインドパスに切り替える。だが…。

 

「ちっ」

 

ここで舌打ちがされる。したのは三杉。赤司と葉山の間に割り込むようにパスコースを塞ぎにかかったが、ボールは葉山のもとに来なかった。

 

ボールは逆、右アウトサイドに展開していた実渕に渡った。

 

『今のって…』

 

赤司は右手で持ったボールを背中からパスを出した直後、左肘を後方に突き出し、ボールを当て、ボールの進行方向を左から右へと変えた。いわゆる、エルボーパスである。

 

「ナイスパスよ、征ちゃん」

 

ボールを貰った実渕はすぐさまシュート態勢に入る。

 

「させるかい!」

 

天野がスイッチで実渕のブロックに向かう。

 

「(…けど、どっちや? 『天』で来るんか? それとも、また『地』か? いや、分からん、もしかしたら『虚空』かもわからん…!)」

 

第1Q時の『地』のシュートのイメージが残っているため、天野はブロックに行くことを躊躇う。その躊躇いが、命取りになる。

 

実渕が、後ろへ飛びながらシュート態勢に入る。

 

「くっ! 考えすぎてもうた!」

 

慌ててブロックに向かうも、間に合わず、ボールは放たれ…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングをキレイに潜った。

 

スリーが決まり、点差は再び2点に戻る。

 

「あーあかん! 頭でごちゃごちゃ考えてる時点で負けやー!」

 

頭を抱えて悔しがる天野。

 

「まだまだ、試合これからですよ。1本返していきましょう!」

 

空が天野に声を掛け、リスタートをした。

 

フロントコートまでボールが運ばれ、待ち受けるは洛山のゾーンディフェンス。花月は、スリーポイントラインの外側でボールを回し、隙を窺う。

 

だが、洛山のゾーンディフェンスは一糸の乱れない。パスを回し続けていると、24秒タイマーが残り10秒を切った。

 

ここで、空にボールが戻ってきた。

 

「(…ちっ、時間がねぇ。ここまで連携が取れていると、単純なパス回しじゃ崩れねぇ。だったら…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

目の前に立つ実渕に対し、ドライブを仕掛ける。当然、洛山は空の包囲にかかる。

 

「(…来た! 引き付けて……完全に包囲される前に…!)」

 

 

――ピッ!

 

 

包囲される直前、空は逆サイドに展開していた大地にパスを出した。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

「…甘いな。お前の程度の考え等、全てお見通しだ」

 

空のパスは、赤司によってスティールされる。

 

「…10秒切った途端、やけに不自然にゾーンに綻びが出来たとは思っていたが、やはり罠か」

 

三杉は、今の赤司のスティールが仕組まれていたことだということを理解した。

 

洛山は、ただゾーンディフェンスで守っていたわけではなく、タイマーが10秒切るまでは穴を一切空けずにディフェンスをしていた。10秒を切り、そこで空にボールを持たせたところで僅かにゾーンに穴を作る。包囲する時も、逆サイドの大地へのパスルートだけを空けた。

 

オーバータイムが迫り、攻めあぐねている空はそれが罠だとは気付くことが出来ず、チャンスとばかりに仕掛ける。空がパスを出した瞬間、狙いすましたかのように赤司がパスルートに割り込んでスティール。

 

視野の広い空だが、ドライブ中、しかも、包囲されてしまう状況では、その視野は狭まる。空のメンタル面の未熟さを念頭に置いた、赤司の周到な罠。

 

全ては、赤司に掌の上での出来事だった。

 

ボールを奪って赤司はワンマン速攻を仕掛ける。

 

「くそっ!」

 

ターンオーバーとなり、慌ててディフェンスに戻る花月選手。

 

「…」

 

フロントコートまでドリブルでボールを進め、スリーポイントライン直前で赤司は唸る。目の前に、三杉が現れたからだ。

 

花月選手の中で誰よりも罠に気付いたこともあり、いち早く赤司を捉えることが出来た。

 

「…三杉誠也。大輝を降した実力者。だが、そのお前でも、僕のこの眼の前では無力だ」

 

ここで赤司が停止し、左右に切り返しを始める。

 

「道をあけろ」

 

「っ!」

 

三杉の重心が片足に乗ったその瞬間、切り返す。三杉はバランスを崩し、後方へと崩れる。

 

「ちっ!」

 

何とか片手を床に付け、転倒を拒否し、横を抜けようとする赤司に食らい付く。

 

「無駄だ。何人も、僕に逆らうことは出来ない」

 

食らい付く三杉を、赤司はバックロールターンで反転しながらかわした。

 

三杉をかわした赤司は、そのままインサイドへと切り込んでいく。

 

「…来い」

 

三杉をかわしている間にゴール下にまで戻った堀田が赤司を待ち構える。

 

他の洛山選手達もやってきてはいるが、いずれも、花月選手達がパスコースを塞いでおり、パスは出せない。

 

堀田に仕掛けるか、一度仕切り直すか…。赤司に取れる選択はこの2つ。赤司の選んだ選択は…。

 

『うおーっ! 赤司がそのまま行ったぁぁぁっ!!!』

 

赤司は、堀田に仕掛けることを選んだ。

 

堀田は両腕を広げ、赤司を待ち構える。

 

赤司は、フリースローラインを到達と同時に跳躍を開始する。

 

「むっ?」

 

この行動に、堀田が思わず唸る。

 

赤司の態勢はジャンプショット態勢ではなく、ましてや、ダンクの態勢でもない、レイアップの態勢である。

 

だが、赤司の踏切位置ではレイアップでは遠い。

 

「そういうことか…!」

 

堀田は赤司の行動の意図に気付き、ブロックに向かう。

 

赤司の目の前に、圧倒的な高さを誇る大きな壁が立ち塞がる。

 

「…」

 

赤司は、レイアップの態勢からボールをふわりと浮かせるように上へと放り投げる。

 

「っ!」

 

放り投げられたボールは、堀田のブロックの上を弧を描くように越えていき…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

綺麗にリングを潜った。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

赤司、三杉と堀田の2人をかわし、得点を決めた。

 

 

「今のは…」

 

「五将の花宮の得意としているティアドロップ…!」

 

伊月は、昨年の冬と今年の夏の予選大会の折に、霧崎第一高校の花宮真が披露したテクニック。

 

ブロックをかわしながら決める、別名、フローターとも呼ばれる必殺のレイアップシュートを思い出す。

 

 

「マジかよ…」

 

今の赤司のプレーを目の当たりにし、空は驚きを隠せなかった。

 

三杉をかわしたことももちろんそうだが、最後のフローターは、空がキセキの世代対策に覚えた技でもある。

 

この技は、当然、難易度が高い。相手ブロックが高ければ難易度はさらに上がる。しかも、堀田クラスの選手のプレッシャーを受ければ、手元も狂う。にもかかわらず、赤司はあっさり決めてしまった。

 

ボールがリングを潜ると、赤司がそっと口を開く。

 

「大輝や敦が相手であったならば、僕は止められていただろう。如何に僕でも、2人を同時に相手出来る程、甘い相手ではない」

 

ここで、赤司が振り返る。

 

「敦も大輝も、試合に敗れこそしたが、決して劣ってはいなかった」

 

「「…」」

 

「キセキの世代を超えた? 思い上がるな。キセキの世代は、お前達ごときに超えられる程、容易くはない」

 

赤司は自陣へと歩みを進める。

 

「昨年のような愚はもう犯さない。今日、お前達を跪かせ、王の座を取り戻す。昨年の汚名を払拭し、絶対が僕であることを証明しよう」

 

それだけ告げ、赤司はディフェンスへと戻っていった。

 

「……参ったな」

 

三杉は、思わずこんな言葉が漏れた。

 

「さすが、キセキの世代を従えていただけのことはある。俺と健を同時に抜かれたのは、ここ最近ではあまり記憶にないな」

 

「…全くだな。まさか、自分より身長の低い者に、こうも容易く決められるとはな」

 

堀田は、汗をユニフォームで拭った。

 

「良いね。ファイナルの舞台は、こうでなくては」

 

「同感だ」

 

2人は、自陣に戻った赤司、及び洛山の選手達に視線を向けた。

 

「ここまでやられて、ここまで言われてしまっては、こちらも黙ってはいられない」

 

「ああ。受けた借りは、きっちり返さねばな」

 

三杉と堀田は、不敵に笑った。

 

赤司は、三杉と堀田の2人を相手に得点を決めた。

 

これにより、試合はさらに、激化していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





若干文章のボリュームを抑えました。

執筆活動を始めた当初は、文章量が少なくて泣いていたのですが、今では無駄を省けず、文章量がやたら多くなって泣いています…( ;∀;)

これからは、話数が多くなることを覚悟で投稿スピード重視で投稿して行こうと思います。

後は、内容まで少なくならなければ…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第54Q~決意~


投稿します!

相変わらずのクォリティです…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り8分57秒。

 

 

花月 45

洛山 49

 

 

赤司による、三杉、堀田の2人を抜いて得点を決めた。

 

「…マジかよ」

 

「こんなことが…」

 

2人に絶対的な信頼を持つ空と大地は、驚きを隠せなかった。

 

 

「すげぇ…、それぞれキセキの世代を倒した2人を1人で抜きやがった」

 

今のプレーを見ていた火神も目を見開いていた。

 

「そうだよ…、赤司には、あの眼があるんだ…」

 

あの眼、未来を先読みするエンペラーアイ。赤司を最強たらしめる代名詞である。

 

「今の1本…、大きいわよ」

 

リコは、今のプレーを見てこう分析した。

 

「まず、今の1本で、エンペラーアイの絶対性を見せつける事が出来た」

 

エンペラーアイが脅威であることを見せつけることによって、心理的に優位に立つことが出来た。

 

「次に、後半戦開始直後だということ」

 

ハーフタイム直後の為、タイムアウトが使いづらい。申請出来る回数が限られているタイムアウト。この先、何があるか分からない以上、終盤の勝負所まで取っておきたいというのが監督の心情である。

 

「そして、これが1番の効果。三杉君と堀田君がこの大会を通して植え付けた最強という意識を壊したことよ」

 

紫原を倒した堀田。青峰を倒した三杉。この2人は今や、キセキの世代以上という評価をする者も多い。

 

強者を相手にする場合、その者が強ければ強い程萎縮をしてしまいがちだ。それが高校生なら尚更である。メンタルがパフォーマンスに及ぼす影響力は計り知れない。

 

勝てないと思い込んで相手をすれば実力を発揮出来ない。だが、勝てると思い込んで相手をすれば時に実力以上の力を発揮することもあるし、最後の最後まで踏ん張ることも出来る。

 

赤司は、三杉と堀田を1人で抜きさることで2人に纏わりついていた最強という意識を壊し、他の洛山選手達に勝てない相手ではないということを自らのプレーで証明した。

 

「さすがね。花月を倒す為にここまで策を用意してくるなんて。……開くわよ、点差」

 

リコは予言のように言った。そして、その予言は的中することとなる。

 

 

「ちっ!」

 

リスタートをし、フロントコートまでボールを進めたものの、花月は攻めあぐねている。

 

改めて、赤司のエンペラーアイの破壊力を目の当たりにし、特に空と大地は動揺を隠せない。パス回しをしながらチャンスを窺うが、洛山のゾーンディフェンスは崩れない。もちろん、時折、僅かではあるがゾーンに綻びは出来るのだが…。

 

「…っ」

 

先ほどのスティールのダメージが残っており、罠を警戒して切り込めない。

 

「神城君! 恐れてはダメ! 積極的に攻めて!」

 

ベンチから姫川が声を掛けるも、空は警戒心が邪魔をしてしまう。

 

「くっ――っ! やばっ…!」

 

ボールを長く保持し過ぎた為、赤司に手を伸ばせばボールに届く所まで近づけてしまった。

 

空は、オフェンス時、無意識の内に、赤司を近づけさせないよう目測でテリトリーを定めていた。そのテリトリーに入られるとボールを奪われてしまう予感がしていたからだ。

 

そして今、赤司にそのテリトリー内に踏み込まれてしまった。

 

「(どうする!? 仕掛けても取られる予感しかしねぇ…!)」

 

思考する空。それが一瞬の隙を作ってしまう。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

赤司の手が空の持つボールを弾く。

 

「っ! こんの…!」

 

弾かれたボールを慌てて保持する。

 

「(ちっ! ちょっとでも隙を見せたらこれかよ。今は運が良かったが、下手すれば速攻喰らっちまう…)」

 

一瞬の隙が命取りになる赤司とのマッチアップ。空は気を入れ直す。再び、至近距離でディフェンスをする赤司。

 

「(……考えたって、赤司を出し抜くことなんて俺には不可能。だったら、仕掛けるだけだ!)」

 

意を決した空は、ドライブで赤司に仕掛けた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、ドライブを仕掛けようと動き出したその瞬間、赤司の手が空の手に収まるボールを捉えた。

 

『ターンオーバーだ!』

 

ボールを奪った赤司は速攻で一気に駆け上がる。

 

「ちくしょう! 行かせっかよ!」

 

空も猛ダッシュで赤司を追いかける。スピードには定評がある空。スリーポイントライン手前で何とか赤司に追いついた。

 

 

「あの赤司に追いついた。スピードは神城の方が上か!」

 

ボールを奪われてなお赤司に追いついたそのスピードに感心する伊月。

 

 

「…ほう、良く追いついた」

 

賛辞の言葉を贈る赤司。

 

「(集中しろ! 赤司には青峰のようなアジリティはない。アンクルブレイクにも慣れた。集中さえ切らさなければ…!)」

 

腰を落とし、集中力を最大限にして身構える空。

 

「……1つ、勘違いしているようだから教えておいてやる」

 

赤司が左右に切り返しながら空に仕掛けていく。

 

「(右……いや、左だ!)」

 

空の左手方向から仕掛けてからのクロスオーバー。空の予測が当たり、クロスオーバーで切り返した直後のボールを狙い撃つ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこからビハインドバックで再度切り返す。

 

「まだ……まだぁっ!」

 

身体を強引に動かし、倒れこみながら赤司にボールに手を伸ばす。だが、赤司はそんな空を嘲笑うかのようにバックロールターンで反転し、鮮やかに空をかわした。

 

「アンクルブレイクなど、僕にとっては選択肢の1つに過ぎない。そんなものがなくとも、僕とお前とでは埋まりようが無い実力差がある。……身の程を弁えろ」

 

冷たい視線を向けながら言い放った。

 

空を抜き去った赤司は、そのままリングに向かって進んでいく。幸い、空が赤司を捉えた為、花月の選手達はディフェンスに戻っている。

 

「……来い」

 

待ち構えているのは三杉。

 

 

「どうする赤司。あそこではアンクルブレイクは使えないぞ」

 

ある程度スペースがなければアンクルブレイクを起こすことは出来ない。既に人が密集しているインサイドに切り込んでいる赤司にはそのスペースがない。

 

赤司は前後に身体をゆらゆらと動かし、ロッカーモーションで三杉に対して仕掛ける。三杉はそれに惑わされず、付いていく。赤司もそれは想定したのか、動じることなくビハインドバックで右に切り返した。それに三杉が反応し、赤司の進路を塞ぎにかかる。

 

 

――ピッ!

 

 

その瞬間、赤司が左にノールックビハインドパスを出す。

 

「よっしゃー! ナイスパス!」

 

そこへ、三杉が空けたスペースに葉山が走りこむ。ボールが葉山の手に収まる。

 

「なんつって♪」

 

だが、葉山はそのボールをスルーする。

 

「なに?」

 

葉山にボールが渡ると思い込んでいた堀田はこれに目を見開く。スルーしたボールは左サイドのスリーポイントラインの外側にポジション取りをしていた実渕に渡った。

 

「っ!? 天野先輩……あっ!?」

 

天野に声を掛ける大地だが、天野は四条のスクリーンに捕まっていた。

 

「くっ!」

 

仕方なく、大地がヘルプに向かうが…。

 

「もう遅いわよ」

 

悠々とスリーを放つ実渕。大地もブロックに向かうが届かず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイな弧を描いてリングの中央を通過した。

 

『スゲー、連続ゴールだ!』

 

洛山の2連続ゴールに、観客が沸き上がる。

 

「ちっ! 次だ、次は止めてやる!」

 

ターンオーバーの切っ掛けになった赤司に対して闘志を燃やす空。

 

試合は、後半戦になって再び動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は洛山ペースで進んでいく。

 

現状、花月は赤司を単独で止めることが出来ない。スペースがあるエリアでは、アンクルブレイクで足を崩されてしまうし、唯一、アンクルブレイクが通じない空では、実力に差があって止めることが出来ない。

 

かと言って、人数をかければ他が空いてしまう。洛山は、赤司以外も一級品なので、迂闊に空けられない。

 

ディフェンスは、もともとの高いディフェンス力に加え、連携抜群の2-3ゾーンが待ちかまえ、オフェンスでは、赤司のエンペラーアイによる単独突破……あるいは、そこからのパスで他の4人がフィニッシュ。花月は、これに対応しきれず、失点を重ねていく。

 

第3Qが残り3分を過ぎた頃には、点差は大きく開いていた。

 

 

第3Q、残り2分54秒。

 

 

花月 51

洛山 61

 

 

『ついに10点差! 点差が開いてきたぞ!』

 

状況は花月にとってかなり悪かった。三杉が個人技でゾーンを突破し、何とか得点を決めるが、追撃には至らなかった。

 

「大丈夫ですか、空」

 

赤司にやられ続け、気落ちを心配して大地が声を掛ける。

 

「…」

 

空は赤司に視線を向ける。

 

キセキの世代の主将、赤司征十郎。空と同ポジションの天才。

 

力の差は歴然であった。今まで積み上げてきた経験も実力も、赤司には通用しなかった。そんな赤司を前に、空は絶望……していると思いきや…。

 

「…ハハッ」

 

にこやかに笑っていた。

 

自分が倒すと誓った選手がここまでの実力者であることに、空は絶望どころか、その胸中は興奮していた。

 

「あんなスゲー選手がいるんだな。……あんな人を倒せたら、最高だろうな」

 

「…空?」

 

こんな状況にも関わらず笑っている空に、戸惑う大地。

 

「良いぜ、最高だよ。こうでなくちゃ、倒し甲斐がない。もっと勉強させてもらうぜ。もっと…もっと…」

 

不敵な笑みを浮かべたまま、空は歩いて行った。

 

「…空坊は大丈夫なんか?」

 

同じく、心配になった天野が大地に尋ねる。

 

「……大丈夫です。少なくとも、気落ちはしていません。久しぶりに見ました。ああなった空の姿を…」

 

今の空の姿に不安が消え去る大地。空は、相手が強敵であればあるほどモチベーションを上げていく。

 

「空は大丈夫ですね。…私も空の心配ばかりしていられません。自分の為すべきことをしなければ…」

 

空のことは頭の片隅に追いやり、目の前の相手に集中するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス時…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

仕掛けようとした空の手に収まるボールを赤司が弾き飛ばす。

 

「まだまだぁっ!」

 

ボールを拾おうとする赤司より先に、飛び込みながらボールを確保する空。

 

「…ちっ」

 

しぶとく足掻く空に思わず悪態を吐く赤司。ボールをもぎ取った空は大地にボールを渡した。

 

 

ディフェンス時…。

 

赤司が左右、前後に高速かつキレのあるテクニックで空に仕掛けていく。

 

「抜かせるか!」

 

空も遅れずに食らい付いていく。

 

「無駄だと言ったはずだ。お前ごときでは、僕の敵にすらなりえない」

 

必死に食らい付く空をあっさり翻弄していく。

 

「うるせぇ! 何度でも挑戦してやる!」

 

不安定な態勢になりながらも、その天性のバランス感覚でがむしゃらに食らい付いていく。

 

 

――ドン!!!

 

 

だが、突っ込み過ぎた為、赤司と接触してしまう。

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

「ディフェンス、チャージング、緑10番!」

 

「ちっ」

 

結局、ファールの形になってしまい、舌打ちをする空。

 

「…」

 

そんな空を、無言で見つめる赤司。

 

「大丈夫、征ちゃん?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

駆け寄った実渕に問題がないことを告げる。

 

今のプレー、赤司は問題なくかわせると思っていた。だが、実際はファールで止められた。赤司は、そんな空を表情には出さないが、軽い不快感を抱いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「まだだ! 俺はまだこんなもんじゃねぇ!」

 

全身全霊、全力で赤司に挑む空。それでも、赤司は空の上を行く。

 

今は試合中、それもインターハイの決勝。劣勢の状況にも関わらず、空は赤司との勝負が楽しくて仕方なかった。

 

自分より上の領域。その領域にいる者とのマッチアップ。それを体感出来ることが楽しくてしかたなかった。

 

 

――自分もこの領域にたどり着きたい…。この領域にいる赤司を倒したい…。

 

 

「おしい! 次だ、次!」

 

今回も止められなかったが、気持ちを切り替えていく。

 

『あいつ、まだやるつもりかよ』

 

『やるだけ無駄だろ、いい加減気付けよ』

 

『さっさと諦めろよ! お前じゃ勝てっこねぇよ!』

 

そんな空の姿を見て、観客席から嘲笑う者、野次を飛ばす者も現れる。

 

 

「だが、少しずつではあるが、赤司のプレーに対応し始めている」

 

「ああ。さっきまで余裕の顔していた赤司が、今ではあの表情だ」

 

緑間、高尾の指摘した通り、最初は涼しい表情で相手をしていた赤司だったが、今ではそれもない。

 

試合中にも関わらず、進化を続けている。空の身体能力と潜在能力の高さを2人は評価をした。

 

だが、それでも止めるには至らず、点差は少しずつ広がっていく。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

花月 58

洛山 72

 

 

試合も残すところ、第4Qのみを残すところまで進み、点差は14点にまで広がっていた。

 

『洛山強ぇー!』

 

開闢の帝王、洛山高校が、今年に新たに現れた新勢力、進撃の暴凶星、花月高校を追い詰めていく。

 

 

「赤司の奴、去年よりさらに進化してやがる」

 

自らのゲームメイクで花月を翻弄していく赤司に、火神の背筋が凍る。

 

「赤司に生かされて、他の4人も実力をいかんなく発揮している。テクニック、ゲームメイク全てにおいて赤司はもう、高校生のレベルを遥かに超えている」

 

伊月も、同ポジションである赤司に畏敬の念を覚える。

 

改めて、洛山の実力を目の当たりにし、高校最強であることを痛感する誠凛の選手達。

 

「…決まりか」

 

日向が、ポツリとこんな言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ…。

 

「悪くない。ここまでは想定通りだ」

 

現在の結果に、白金は当初の想定通りに進んでいることに頷く。

 

「ですが、まだこの点差です。流れや勢い1つで容易に追いつかれてしまう点差です」

 

赤司は、まだ安全な点差ではないと判断し、気を引き締めさせる。

 

「もちろん、ここで守りに入るつもりない。洛山が帝王と称されてきたのは、我らを倒そうとした挑戦者達に対して守備に回らず、攻め続けたからだ。それはこれからも変わらない」

 

「分かっています。試合が終わるまで攻撃の手を緩めるつもりはありません」

 

ここで赤司がスッとベンチから立ち上がる。

 

「もっと点を取りに行く。各自、試合が終わるまで花月を蹂躙し続けろ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「…」

 

上杉は、両腕を組み、無言で選手達の前に立っている。

 

前半戦まで拮抗していた点差が、今では14点もの点差が開いてしまった。その為、ベンチの空気は重い。

 

「…っ」

 

空は、俯きながら右の拳を左の掌に当てている。

 

「(少しずつだが、赤司の動きに対応出来るようになってきた。あと少し…あと少しで――)」

 

「――ら、空!」

 

「えっ?」

 

考え事をしていて上の空だった空が大地の声で正気に戻る。

 

「第4Qだが、まず、マークを変える。…三杉、ここからはお前が赤司をマークしろ」

 

「えっ…」

 

それは、空にとって受け入れがたい指示であった。空は思わず立ち上がる。

 

「待ってください! ようやく掴めそうなんですよ! もう少し、もう少しだけ――」

 

「――空」

 

指示の撤回を求める空を、三杉が制止する。

 

「お前はいずれ、赤司を超えられる。…だが、この試合中には無理だ」

 

「っ!?」

 

「まだ戦りたい気持ちも分かる。だが、これは勝つ為だ。良いな」

 

「………はい…!」

 

渋々、空は了承する。ベンチに腰掛けると、悔しそうな表情で両拳をきつく握った。

 

「(…空)」

 

準決勝で大地も途中で青峰のマークを変えられたことがあるだけに、空の気持ちが手に取るように分かった。それだけに、声を掛けることが出来なかった。

 

その後、第4Qの指示が為され、インターバルが終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Qが始まり、洛山ボールからスタートされる。

 

『うおっ、来た!』

 

花月の変化に観客が気付き、思わず声を上げる。ボールを持つ赤司に三杉が付き、実渕を空がマークしていた。

 

 

「やむを得まい。神城では赤司を止められない。赤司をどうにか出来なければ、花月に逆転はないのだからな」

 

緑間がメガネのブリッジを押し上げながら言う。

 

 

「…っ」

 

怒りの形相を浮かべながら空は赤司を睨み付ける。

 

「ダメよ、余所見しちゃ」

 

目の前に立つ実渕が空を諫めるように口を開いた。

 

「あなたが私の相手をするんでしょ? だったら集中しなきゃ。気移りした相手に負ける程、私は容易くないわよ」

 

「…分かってるよ」

 

諫められた空は目の前の実渕に視線を戻した。

 

「……運が悪かったわね」

 

「あぁ?」

 

「違う世代に産まれていれば、あなたは間違いなく天才と呼ばれていたでしょうね」

 

「…」

 

「運が悪かったのよ。あなたも……私も」

 

表情を曇らせながら実渕は呟いた。

 

才能に恵まれ、天才と呼ばれる程の実力を有しながら、キセキの世代という、さらに上の天才が存在してしまった為、無冠の五将等という不名誉な称号を与えられてしまった。

 

それだけに、実渕は空に同情した。

 

「……確かに、運が悪いよ。俺は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――後1年早く産まれたかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

「1年早く産まれれば、キセキの世代と1年多く戦えたんだ。ホント、残念だよ」

 

「…」

 

予想外の返答に、実渕は目を丸くする。

 

「何でも自分の思い通りになることの何処が面白い? 自分を超える奴に挑戦するから楽しいんじゃんか。だから俺は、何度でも、勝つまで挑戦してやるつもりだよ」

 

「……そう」

 

一瞬、目を見開いた実渕だが、すぐさま表情を元に戻しながら呟いた。

 

「挑戦することは素敵なことよ。けど、その資格を持つのは力がある者だけ。あなたに、その資格があるのかしら?」

 

「知らねぇな。ただ、1つだけ言えるのは、力はなくとも、挑戦し続けるだけの意志はあるぜ」

 

ここで空は不敵な笑みを浮かべた。

 

「悔しいが、この大会でキセキの世代には歯が立たなかった。けど、このまま終わったんじゃカッコ悪すぎる。せめて、五将の首くらい取ってやる」

 

「…ふふっ、面白いことを言うわね、坊や。…やれるものならやってみなさい」

 

一瞬微笑んだ後、その笑み消して空を見据えた。

 

「監督は、私達にこのような指示を出しました」

 

大地が目の前の葉山に語り始める。

 

『1年以上同じ時間を過ごした洛山と違って、俺達は急造チームだ。緻密な戦略なんざ取れっこねぇ。なら、やることは1つだ。三杉は赤司。堀田は根武谷。天野は四条。神城は実渕。綾瀬は葉山。各自、叩き潰してこい!』

 

「私にも意地があります。負けっぱなしでこの大会を終えられません」

 

スッと大地は葉山を見据える。

 

「ですから、私は今日ここで、あなたを倒します。全身全霊を以って…」

 

「……へぇー、大人しそうな顔してるくせに、なかなか面白い目付きしてんじゃん」

 

大地に宣戦布告され、葉山はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「俺、どうにもお前には負けたくないんだよね。……ぶっ潰してやるよ」

 

笑みを消し、大地を睨み付けた。

 

「ようやく来たか」

 

「ああ。これからは俺が相手をさせてもらう」

 

赤司が目の前の三杉に喋り出す。

 

「だが、お前が来ても同じことだ。僕を止めることは出来ない」

 

「どうかな? それはやってみなければ分からないと思うけどね」

 

ジッと赤司を見据え、薄く笑みを浮かべながら言葉を返す三杉。

 

「絶対は僕だ。未来(さき)が見えている僕を出し抜くことは出来ない。お前達は今日、ここで負ける」

 

自信に満ちた表情で赤司は告げる。

 

「絶対か…。そんなもの、バスケの国アメリカにすらなかったよ」

 

三杉の表情から笑みが消える。

 

「試合が終わるまで、何が起こるか分からない。君が絶対と呼ぶその幻想。ここで打ち砕いてやろう」

 

三杉は、そう赤司に告げた。

 

試合はついに第4Qを残すのみとなった。全国の覇者を決める最後の10分が始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





試合もそろそろ佳境。早いとこ終わらせたいものです。

インハイ後が本領と自分は考えているので、今一度、原作を見直し、構想を練りたいと思います。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第55Q~大地VS葉山~


投稿します!

忙しく、投稿予定が1週間遅れたしまいました…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り9分57秒。

 

 

花月 58

洛山 72

 

 

試合は最終Q、洛山ボール。現在、赤司がボールをキープしている。

 

「…」

 

赤司の前に立つのは三杉。第4Qから空に代わって赤司のディフェンスをしている。

 

「……1つ聞く。君は誰だ?」

 

おもむろに、三杉が赤司に尋ねた。

 

「君は試合開始直後と今とではまるで別人だ。言動も、バスケスタイルも…」

 

「妙なことを聞くね。僕は赤司征十郎に決まっているだろう」

 

その質問に、赤司は淡々と答えた。

 

「……なるほど」

 

三杉は何かを理解したのか、1人で納得したかのように頷いた。

 

 

「赤司はどう動く?」

 

赤司の目の前に立ちはだかるのは三杉。仕掛けるか否か。赤司の動きに火神は注目する。

 

 

「…」

 

目の前の三杉を注視する赤司。赤司の選択は…。

 

 

――ピッ!

 

 

右サイドにパスを出した。

 

 

「赤司は仕掛けなかったか…」

 

「赤司は自分から仕掛けるタイプじゃない。仮に三杉を抜けても、インサイドの密集地帯で囲まれるだけだった。当然の選択だ」

 

日向の言葉に、伊月が状況の説明を捕捉して解説する。

 

 

赤司から放られたボールの行き先は…。

 

「おっ、きたきた!」

 

葉山の下にボールが渡る。

 

「そんじゃ、早速行っちゃおうか」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

葉山がドリブルを始める。同時に、耳をつんざく程の轟音がコート上に駆け巡る。

 

「っ!」

 

それと同時に、大地は腰を落とし、全神経を集中させ、葉山のドリブルに備える。

 

「さっきの言葉に免じて、見せてやるよ。ライトニングドリブル、レベル5!」

 

葉山のボールを突く指に親指が加わる。

 

「(…来る!)」

 

親指が加わった事で葉山の気迫が変わる。5本の指の力がボールに伝わる。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

指の力がボールに行き渡ると、そのまま一気にドライブ、大地の左側から仕掛ける。圧倒的なスピードを誇る葉山のライトニングドリブル、レベル5。だが、それでも大地はそのドリブルに食らい付く。

 

『うおっ! あのドリブルに付いていってる!』

 

そこから葉山がクロスオーバーで切り返す。

 

「っ!」

 

これにも大地は反応し、葉山の進路を塞いだ。

 

「やるね! けど、ここからがこれ(ライトニングドリブル)の真骨頂ぉっ!」

 

道を塞がれるのと同時に葉山が今度は背中、後ろからボールを切り返した。

 

 

「出た! 葉山の新たな武器、ライトニングドリブルのバックチェンジ!」

 

実際に目の前で体験した伊月が思わず立ち上がる。

 

 

「っ!?」

 

その瞬間、大地の視界からボールが消える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

『抜いたぁぁぁぁぁっ!』

 

大地を抜った葉山はゴールへと切り込み、レイアップの態勢に入る。

 

「ちっ」

 

堀田がヘルプに行き、ブロックに向かう。

 

「おっと」

 

堀田が飛んだのと同時にレイアップを中断し、ボールを落とすように放り投げる。

 

「ナイスパース!」

 

そのボールを根武谷が受け取る。そして…。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

そのままボースハンドダンクでリングに叩きつけた。

 

「良いパスだったぜ!」

 

「痛! 加減しろよ馬鹿力!」

 

根武谷が労いの言葉と共に葉山の背中を叩き、葉山がそれに激怒した。

 

「…」

 

それを見つめる大地。

 

「おい、随分と簡単に抜かれたな。今の、もう少し粘れたんじゃないのか?」

 

一連のプレーを見た空が不満気味に大地に歩み寄る。

 

「えぇ。ですが、それでも今のは止められなかったと思います」

 

「おいおい、随分と弱気だな」

 

「今のはあえて『見』に回りました。大丈夫です。今のでスピードにも慣れましたしリズムも掴みました。…次は止めます」

 

そう空に告げ、大地は走っていった。

 

「空坊、相方は大丈夫なんか?」

 

心配になった天野が空に尋ねる。

 

「大丈夫です。あいつは止めるって言いました。あいつは出来ない事は言いません。ああ言い切ったことは、次からは大丈夫です」

 

ニヤリと空は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よし、1本返すぞ!」

 

空に代わってPGになった三杉がゲームメイクを始める。すると…。

 

『洛山がゾーンディフェンスを解いた!』

 

洛山のディフェンスがゾーンからマンツーに切り替わる。

 

 

「どうしてだ? ゾーンディフェンスは効果的だった。そのまま押し通せば…」

 

日向が洛山の選択に疑問の声を上げる。

 

「多分ッスけど、トドメを刺しに来たんだと思います」

 

日向の疑問に、火神が答える。

 

「1対1で確実に潰すことで花月を息の根を確実に止めに来たんじゃないでしょうか」

 

「確かに、ここで1ON1を制すれば、残り時間を考えても、花月に逆転は不可能だな」

 

「それが理由の1つよ。1番の理由は、スタミナよ」

 

リコが捕捉説明を始める。

 

「ゾーンディフェンスは機能すれば確かに効果的だけれど、スタミナの消耗が激しいディフェンスでもあるわ。スピード、テクニック、運動量の多い花月相手では最後までもたない。だから、マンツーに切り替えてきたのよ」

 

「…そういうことか」

 

リコの説明に日向は納得し、コートへと視線を戻したのだった。

 

 

ボールを進める三杉の前に立ち塞がるのは赤司。

 

「下さい!」

 

そこへ、大地がボールを要求する。

 

「(綾瀬がここまで主張するのは珍しいな。…良いだろう、やってみろ)」

 

三杉はボール要求する大地にパスを出した。

 

『早速やり返す気か!?』

 

大地がボールを受け取り、腰を落とす。

 

「来いよ」

 

葉山は腰を落とし、大地のドリブルに備える。

 

「…野生か」

 

三杉がボソリと呟く。葉山は、集中を最大にし、読みではなく、直感で大地を止めようと立ち塞がっている。

 

「…」

 

大地は、その迫力を肌で感じるも、表情は一点の曇りもない。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そして、自身最速のドライブで葉山に仕掛ける。

 

『こっちも速ぇーっ!』

 

大地が葉山の左手側から抜けようとする。

 

「甘いね!」

 

だが、葉山の野生がこれに反応し、大地のドリブルに遅れずに付いていく。そこから、大地はバックロールターンで逆を突く。

 

「残念!」

 

葉山、これにも反応し、大地の道を塞ぐ。

 

『ダメだ! 綾瀬では五将には敵わない!』

 

「…」

 

大地は想定したのか、特に表情に曇りはない。そこから大地はフルバックステップで後方へ急バックする。

 

「下がるんだろ。そんなの分かって――なっ!?」

 

フルバックステップを読んでいた葉山だったが、そのバックスピードが想定以上に速かった為に驚愕する。

 

「(疲労が溜まる終盤だってのに、スピードが上がった!?)…いいや、まだだね!」

 

下がる大地を、葉山が必死に追いかけるべく、前進して距離を詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

それと同時に大地は再び全速で前進する。

 

「くっ…そ…!」

 

歯を食い縛り、自身の横を抜けようとする大地のボールに手を伸ばし、カットしようと試みる。葉山の手がボールに触れようとした瞬間…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

切り返し、これをかわした。

 

『綾瀬が抜き返したぁぁぁぁぁっ!』

 

葉山を見事かわし、大地がグングン進軍し、そのまま右手でボールを掴み、ワンハンドダンクの態勢に入る。

 

「させるかぁぁぁぁぁっ!」

 

そこへ、根武谷がブロックに現れた。

 

「…っ」

 

大地はダンクを中断。右手のボールを左手で抑え、ボールを下げた。

 

「なに!?」

 

ボールを下げると、空中で根武谷をかわし、そこからリングにボールを放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

『決めたぁぁぁぁぁっ!』

 

「ナイス!」

 

空が大地に駆け寄り、ハイタッチをした。

 

「あの野郎、小太郎並みの身軽さ……下手したらそれ以上…!」

 

目の前でかわされ、ダブルクラッチを決められた根武谷は驚愕する。

 

「くそっ!」

 

その前に抜かれた葉山も悔しさを露わにする。

 

そして、オフェンスが切り替わる。

 

 

ボールを運ぶ赤司。

 

「赤司、くれ!」

 

葉山が強くボールを要求する。

 

「…」

 

一瞬考え、赤司は葉山にボールを託した。

 

葉山にボールが渡り、当然、目の前に立ち塞がるのは大地。

 

「(調子に乗りやがって! けどな、俺の進化したライトニングドリブルは誰にも止められない。たとえ、キセキの世代でもな!)」

 

ボールに5本の指が添えられ、指の力がボールに伝わる。

 

「(葉山さんのドリブルスピードは速い。ボールの動きを目で追うことは難しい。ですが…)」

 

大地が腰を落とし、左足を僅かに下げる。

 

「(葉山さん自身のスピードはそこまで脅威ではありません。三杉さんや青峰さんに比べれば劣ります。そして、空に――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

葉山のライトニングドリブル、レベル5で仕掛けられる。葉山が大地の横を抜ける。

 

「(空は、これよりはるかに速い!)」

 

大地は振り返ることなくバックステップで葉山を猛追する。

 

「なにっ!?」

 

完全に抜いたと思っていた葉山は驚愕する。後ろ向きのまま大地に追いつかれたからだ。大地は、そのまま葉山の進路を塞ぎにかかる。

 

「くっ! けど、ここからだ! 進化した俺のドリブルはお前じゃ止められない!」

 

そこから葉山がバックチェンジで切り返す。これにより、大地の視界からボールが消える。

 

「(ボールが見えなくなっただけで、消えてなくなったわけではありません)」

 

ボールを見失うも、大地の心中には焦りはない。

 

「(葉山さんのドリブルを何度も体験して、リズムとタイミングは掴みました。指の本数が増えても、スピードが上がりますが、これは変わりません。ボールは……ここです!)」

 

経験からボールの行方を推察し、切り返した葉山を追いかけ、手を伸ばして再度進路を塞いだ。

 

「うそっ!?」

 

進化したライトニングドリブルで抜くことが出来ず、葉山に初めて動揺が走る。

 

「なんの!」

 

気持ちを瞬時に切り替え、再び切り返す為、指に力を込める。

 

「(このドリブルの欠点は、その勢いの為、急な方向転換が出来ない。故に、方向転換する時、動きが一瞬だけ止まります)」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なら私は、その一瞬を狙い撃つだけです!」

 

大地の手が葉山のボールを捉え、弾き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

弾かれたボールを大地がすかさず抑えた。

 

 

「葉山を止めた…!」

 

2人の対決を観戦していた伊月が思わず声を上げる。

 

 

「大地ー!」

 

既に速攻に走っていた空がボールを要求する。

 

「空!」

 

大地が前線へ大きくボールを投げる。

 

「っしゃあ!」

 

スリーポイントラインの外側でボールを貰った空がそのままワンマン速攻でリングへと向かい、そのままレイアップの態勢に入る。

 

 

――スッ…。

 

 

空はボールをリング……にではなく、真上に放った。その時…。

 

「ちっ」

 

空の近くから舌打ちが聞こえてくる。それと同時に、空の後方から1本の手が現れる。葉山が止められると洛山の中で唯一読んだ赤司が空を追いかけていた。

 

「あいにく、視野の広さには自信があるんでね」

 

ボールがリング付近に放られると、そこへ1人の影が飛び込む。

 

『あ、綾瀬だぁっ!』

 

放られたボールを大地が右手で抑えた。

 

「あいつ! さっきまで自陣にいたのに、なんてスピードだ」

 

その、あまりの速さに、四条が茫然とする。大地は空中でボールを掴み…。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

そのままリングに叩きつけた。

 

『アリウーーーープ!』

 

観客から歓声が上がる。

 

「ナイス!」

 

「最高のパスでしたよ」

 

パン! と、ハイタッチを交わす空と大地。

 

「…っ!」

 

自分の1番の武器を止められた葉山は怒りに震えていた。

 

洛山がリスタートをし、フロントコートまで赤司がボールを進める。

 

「赤司!」

 

葉山が赤司を睨み付けるように目でボールを要求する。

 

「…」

 

赤司は暫し考える。現状、葉山以外はパスコースを塞がれている。赤司の選択肢は、自ら切り込むか、葉山に託すか。

 

「よし!」

 

考えた結果、赤司は葉山にボールを託した。目の前の三杉をかわせても、囲まれるの明白だったからだ。赤司は得点の可能性が僅かに高い葉山にパスを出した。

 

「…絶対に止めます」

 

大地が葉山のドリブルに備える。

 

「(ふざけんな…、俺のドリブルが止められる訳がねぇ! ましてや、キセキの世代でもなんでもない1年坊なんかに…!)」

 

再び、ライトニングドリブルレベル5で大地に仕掛ける。クロスオーバー、バックステップの高速の切り返しで翻弄するも、大地はバックステップとスピードで抜かせない。強引に切り替えそうとした瞬間を再び狙い撃たれる。

 

「こんの…!」

 

ボールに迫ってくる大地の手を、さらに力を込め、強引にボールを掴むことでかわす。

 

「よし、これで!」

 

大地の手をかわした葉山はシュート態勢に入る。葉山の手からボールが放たれる。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「これ以上、あなたに得点はさせませんよ」

 

そのミドルシュートは、大地のブロックに阻まれた。

 

「ホンマ、見せつけてくれるで!」

 

ルーズボールを天野が拾った。

 

「速攻!」

 

天野からボールを受け取った三杉が速攻に走る。

 

『ターンオーバーだ!』

 

グングン加速し、洛山のリングに進軍する三杉。

 

「っ! 行かせないわ」

 

そこへ、実渕が立ち塞がる。

 

「道を空けてもらうよ」

 

三杉はスピードを一切落とさず、実渕の至近距離でフェイクを入れる。フェイクに釣られた実渕は道を空けるように正面を空けてしまう。

 

「ちっ! 撃たせるかよ!」

 

根武谷がハイポスト付近で三杉に追いつき、ディフェンスに付く。

 

「…(チラッ)」

 

「うおっ!」

 

三杉が目線でシュートフェイクを入れる。これに釣られて根武谷がブロックに飛んでしまう。ブロックに飛んだ根武谷の横を三杉が悠々と抜けていく。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!」

 

その瞬間、根武谷の影から1本の腕が飛び出し、三杉がキープするボールを弾いた。

 

『あ、赤司!?』

 

ボールを弾いたのは、赤司だった。抜かれることを想定し、その後ろで根武谷にエンペラーアイを使い、三杉が飛び出してくる方向とタイミングを計り、狙い撃った。

 

 

「あいつ! 去年、黒子がやったのと同じ事を…!」

 

「…っ!」

 

思わず、火神は立ち上がり、黒子は目を見開いた。

 

赤司が今、行ったことは、昨年、火神と黒子が赤司を止める為に行ったのと同じ戦法である。エンペラーアイを持つ赤司ならば再現することは容易。

 

 

「ちっ!」

 

 

――バチィン!!!

 

 

三杉は軽く舌打ちをすると、瞬時に右腕を後ろに伸ばし、身体を回転。その反動でボールを叩き、パスに切り替える。

 

『うおっ! 弾かれたボールをパスに変えやがった!』

 

ボールは、右アウトサイドに陣取っていた大地に渡った。

 

「来い! もう絶対抜かさねぇ!」

 

大地の前に、葉山が立ち塞がる。葉山は、大地に抜かれないように距離を取ってディフェンスに立っている。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う両者。

 

「良いのか? そんなに距離を取って…」

 

空がボソリと呟く。それと同時に大地がシュート態勢に入る。

 

「えっ!?」

 

不意を突かれた葉山は思わず声を上げたが、すぐさまブロックに向かう。だが、距離を取ったことが仇となり、ボールに触れることは出来なかった。

 

「っ!」

 

振り返る葉山。ボールはリングへと向かい…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

綺麗にリングを潜った。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!!!!』

 

ボールが潜るのと同時に大歓声が上がる。

 

「よし!」

 

スリーが決まり、拳を握り、小さく喜びを露わにする大地。

 

『これで点差が一桁! 花月が猛追してきた!』

 

「…」

 

葉山は、茫然とリングを見つめていた。

 

 

「今ので綾瀬に軍配が上がった。これで葉山は、外も警戒しなければならなくなる。迷いが生じては、葉山に綾瀬は止められないのだよ」

 

今の2人の勝負で確信を得た緑間は、静かに語った。

 

 

洛山のオフェンス。洛山はパスを回し、チャンスを窺う。パスが飛び交い、そして、葉山にボールが渡った。

 

「…」

 

「…」

 

再び、大地と葉山が睨み合う。葉山は小刻みにボールを動かし、隙を窺う。

 

「(俺がこんな奴に負ける訳がねぇ! 俺が、こんな奴に…!)」

 

「…」

 

大地は葉山のドリブルに備え、ディフェンスに臨んでいる。

 

「っ!」

 

葉山は、ボールを赤司に戻した。そしてそれは、事実上の葉山の敗北宣言でもあった。

 

「…」

 

ボールを受け取った赤司は、特に動じることなく、ボールをキープする。

 

 

「あの葉山が引くなんて…」

 

マッチアップ経験のある伊月は、驚きを隠せなかった。

 

無冠の五将の1人に数えられ、『雷獣』と称される葉山。その実力は、全国屈指であり、当然、プライドも高い。

 

そんな葉山が、勝負を避けた。

 

 

「…」

 

赤司はそんな葉山には一瞥も与えず、目の前の三杉と対峙する。赤司は自ら仕掛けることはせず、パスを出す。

 

「まさか、小太郎がここまでやられるなんてね」

 

ボールを受け取った実渕が驚きの言葉を口にする。

 

「へへっ、どうよ、俺の相棒は」

 

目の前で対峙する空がドヤ顔で言葉を返す。

 

「…ええ、認めてあげるわ。さすが、全中を制しただけのことはあるわね」

 

ここで、実渕は空に視線を合わせる。

 

「けどここまでよ。あなた達と私達とでは背負っているものが違う。洛山のユニフォームを着る者に、これ以上の敗北は許されないのよ」

 

「ハッ! 随分と余計なものを背負ってるんだな。もっと楽しくバスケすりゃ良いのに。そんなんだから、去年負けたんじゃないの?」

 

「……伝統も実績もない高校にいるあなたには到底理解出来ないでしょうね」

 

小馬鹿にしたような空の物言いに、実渕は軽く苛立つ。

 

「伝統だの実績だの、試合が始まっちゃえばそんなもんは何の意味も持たない。楽しくバスケをして、それで強い奴に挑んでそれで勝つ。それが俺のバスケだ。そこにくだらないしがらみなんて無い」

 

今まで笑みを浮かべていた空だが、真剣な表情に変えて実渕に言った。

 

「あなたのバスケに対するポリシーに興味なんてないわ。さっきも言ったけど、私達にこれ以上の敗北は許されないの」

 

ここで実渕はトリプルスレッドの態勢に入る。

 

「小太郎にようにいくとは思わないことね。あなたでは私は止められない。ここで突き放してトドメを刺してあげるわ」

 

「へっ! 負けたくないのはこっちも同じなんだよ。さっきも言ったが、ここで五将の首を取る」

 

「返り討ちにしてあげるわ」

 

空と、夜叉、実渕玲央の一騎打ちが、始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





本当は空と実渕の対決まで書きたかったのですが、それだと容量がえらいことになるので、今回は大地と葉山の対決のみです。

年末に差し掛かり、忙しくなってきた為、執筆時間が減少する為、投稿ペースが落ちるかもしれません。何とか今年度中にインターハイを終わらせたいです…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第56Q~空VS実渕~


投稿します!

諸事情により思ったより時間がかかってしまいました…(^-^;)

今年も残すところあと1ヶ月弱。駆け抜けたいです。

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り6分54秒。

 

 

花月 65

洛山 74

 

 

大地が葉山のライトニングドリブルを攻略し、連続得点をしたことで点差は一桁の9点にまで縮まった。

 

ボールは実渕が所持し、その前に立ちはだかるのは空。

 

「…」

 

「…」

 

夜叉、実渕玲央と、空の戦いの火蓋が切って落とされようとしている。

 

「(こいつには、数種類のスリーがある…)」

 

実渕には、後ろに飛んで相手のブロックを避けて決める『天』のシュート。相手とぶつかってファールを貰いながら決める『地』のシュート。相手を飛ばせずに決める『虚空』のシュート。そして、今年から加わった、飛ぶことなく決める『下弦』の4種類。

 

「(天と地はこの試合で見たけど、虚空と下弦はまだ見れてないんだよなぁ)」

 

一応ではあるが、空は、資料映像を見た三杉から虚空のシュートの正体を聞いている。下弦のシュートの意味合いも同時に聞いている。だが…。

 

「(こいつを止めるには、どれを打ってくるか見極める必要がある)」

 

1つ1つは空なら止められない程ではない。1番重要なことは、実渕がどれを打ってくるかである。

 

「考え事かしら? 感心しないわね。私を相手に…」

 

その時、実渕がシュート態勢に入ろうとしていることに気付く。

 

「(やばっ! 何を打ってくる……っ! 状態が後ろにやや傾いている。…天か!)」

 

空は天と判断し、ブロックに向かう。

 

「あっ!」

 

焦ってブロックに飛んだ空だが、ここで自分が失態を犯したことに気付く。実渕がまだ飛んでいないことに…。

 

「ここで突き放させてもらうわよ」

 

 

――ドン!!!

 

 

実渕が、空にぶつかるように飛び、接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹き、指を3本立てる。

 

 

「出た、実渕の『地』のシュート…!」

 

高尾が息を飲む。

 

 

「ちっ!」

 

実渕の手からボールが放たれる。ボールはリングの縁をクルクルと回る。ボールはその勢いを徐々に失い、そして、零れ落ちた。だが…。

 

『外れた!』

 

ボールはリングの内側ではなく、外に零れ落ちた。

 

「ディフェンスチャージング、緑10番!」

 

審判からフリースローを宣言される。

 

 

「花月は命拾いしたな。ここで決められたら絶望的だった」

 

「ああ。…それにしても、あのシチュエーションで実渕が外すとはな。疲労かプレッシャーで手元が狂ったか?」

 

伊月、日向が言葉を交わす。

 

 

「…んもう! 嫌な子だわ!」

 

実渕が苛立った表情で右手をヒラヒラさせ、空を睨みつけている。

 

地のシュートが外れた理由は疲労でもプレッシャーでもなく…。

 

「……(ぺロッ)」

 

そんな実渕に舌を出す空。

 

空は、ボールが手から放たれる瞬間、実渕の右手を思い切り叩いた。その為、シュートの軌道が僅かにズレてしまった。

 

フリースローラインに実渕が立つと、審判からボールを渡される。

 

「…」

 

ボールを受け取ると、手元でボールを回転させ、縫い目と感触を確かめながらボールを掴む。4点プレーにはならなかったものの、ここで全てのフリースローを決めれれば3点。実渕の1投目。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!?」

 

『外れたー!!!』

 

ボールはリングに嫌われ、外れてしまう。

 

「…っ! ホント、嫌になるわ」

 

先ほど叩かれた際の痺れが完全に引いていなかった為、手元が狂い、外してしまう。

 

「(……痺れがなくなったわね。後は大丈夫…)」

 

痺れが治まった実渕は後の2本を落ち着いて決める。これにより、花月は再び点差が二桁になるも、最悪の失点は防いだ。

 

「(ちくしょう、結局止められなかった…。まあいい、次だ、次!)」

 

空は顔を叩き、次のオフェンスに切り替えた。

 

 

三杉がボールを運び、ゲームメイクを始める。

 

「三杉さーん! パスパース!」

 

空が大声でボールを要求する。

 

「分かったよ。あまり大声を出すな」

 

軽く嘆息しながら三杉は空にパスを出した。

 

「っしゃあ! そんじゃ、早速さっきの借りを返すぜ」

 

ドリブルを始める空。

 

「それはこっちのセリフよ。完膚なきまで負かしてあげるわ」

 

実渕がその前に立ちはだかる。

 

「…」

 

空はゆっくりドリブルをしながら隙を窺う。

 

「(さすが五将。簡単には隙は見せてくれないか。なら…!)」

 

小さなフェイクを入れながら崩しにかかったが、実渕は隙を作らなかった。その為、空は決断する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

実渕の態勢等お構いなしにレッグスルーを入れてドライブで仕掛ける。

 

「甘いわよ」

 

スピードに乗った空のドライブだったが、実渕は冷静に対応する。

 

「こんの!」

 

そこからバックチェンジで切り返し、逆を付く。

 

「その程度? それでは私は抜けないわ」

 

読み切った実渕が空の進路を塞いだ。

 

「ちっ!」

 

動きを読まれた空は舌打ちをしながら1歩引いて距離を取る。

 

「…ふぅ」

 

距離を取った空は一息吐く。簡単にいく相手ではないことを改めて認識する空。

 

「空! こっちです!」

 

その時、左サイドから大地がボールを要求する。

 

「……(チラッ)」

 

大地の呼びかけに、空は一瞬そっちに顔と視線を向ける。それと同時に…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

視線を向けた方とは逆にクロスオーバーで再び実渕の左手側から仕掛ける。

 

「ホント、あからさまねぇ」

 

視線のフェイクには実渕は引っ掛からず、先ほど同様、進路を塞がれる。

 

「…」

 

 

――ピッ!

 

 

それと同時にノールックビハインドパスで大地にパスを出した。だが…。

 

『パスが緩いぞ!?』

 

咄嗟だった為か、パスが緩くなってしまい、葉山がパスコースに割り込み、実渕がボールを追いかける。

 

「っ! 玲央、小太郎! そのボールは――」

 

何かに気付いた赤司が2人に指示を出したが…。

 

「えっ?」

 

「はっ?」

 

ボールがコートを跳ねた瞬間、ボールが実渕と葉山の手から逃れるかのように軌道を変えた。

 

「…(ニヤリ)」

 

ボールは、吸い込まれるようにハイポストに移動していた空の手元に向かっていった。

 

 

「あいつ…! 何をしやがった!」

 

ボールを軌道を変えたカラクリが理解出来ず、火神が思わず声を出す。

 

「見りゃ分かんだろ。ボールに回転をかけたんだよ」

 

火神の背後から、その答えが聞こえてくる。

 

「っ! …青峰…!」

 

振り向くと、そこには青峰が立っていた。

 

「ボールに意図的に回転をかけてバウンドの方向を変える、ストリートで良くやるテクニックだ」

 

「…そういや、俺も見たことあるな」

 

それを聞いて火神も納得する。

 

「青峰君も今の出来ますか?」

 

「出来る。…けどまあ、試合じゃやったことねぇな」

 

黒子の質問に答えると、青峰は黒子の横に座った。

 

「クライマックスか…」

 

点差を見て、青峰は1人呟いた。

 

 

ボールを受け取った空はそのままリングへと向かい、フリースローラインを越えたところでレイアップの態勢に入る。

 

「行かせねぇぞ!」

 

そこへ、ヘルプでやってきた根武谷がブロックに飛ぶが…。

 

「なっ!?」

 

空は、ボールをひょいとリングに放り投げる。ボールはブロックの僅か上を綺麗な放物線を描くように通過していき…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

「っしゃあ!」

 

先ほどの赤司のお株を奪うかのような空のティアドロップにより得点が決まり、拳を握る空。

 

「…っ、ティアドロップ、あいつも打てるのかよ」

 

得点を奪われた根武谷は茫然とする。

 

「後悔している時間はない。ゴール下のディフェンスはお前の仕事だ。次は止めてみせろ」

 

「おう! 分かってるぜ」

 

根武谷に告げると、実渕の方に振り返る。

 

「玲央。現状、小太郎は使えない。そして、中は厚い」

 

「分かってるわ。次は完璧に決めてみせるわ」

 

赤司の激に、実渕は目をギラつかせるのだった。そして、洛山のオフェンスに切り替わる。

 

ボールは、赤司によって運ばれ、実渕へと渡る。

 

「(来たっ! こいつから点を取るより、得点させないことの方が難しい。どう止める…)」

 

先ほどは、咄嗟の機転を利かせ、最悪の4点プレーこそ防いだものの、結局、失点を防ぐことは出来なかった。

 

「神城君! 距離を詰めて! フェイスガードならスリーは撃てないわ!」

 

「…」

 

ベンチから姫川から指示が飛ぶ。

 

スリーは通常のシュートと比べてモーションが大きい。その為、べったり張り付かれると早々打てるものではない。だが…。

 

「(それじゃあダメなんだよ…)」

 

この方法では、スリーは防げても、止めたことにはならない。それでは、実渕に勝ったことにはならない。

 

「ああもう…!」

 

頭を抱える姫川。空は、指示には従わなかった。

 

「(やっぱり、何度か観察しないと見極めが出来ない。けど、これ以上、失点も出来ない。何かないのか…。何を打ってきても止められる1発逆転の秘策は…!)」

 

必死に考えを巡らせる。身長差は確かにあるが、空の跳躍力なら問題はない。見極めさえ出来れば…。

 

「(何か……何か…! …………………あった)」

 

ここで、空の頭の中で1つのアイデアが浮かんだ。

 

「(ハハッ! ある! 見つけた! この方法なら止められるかも!)」

 

攻略法を見つけ、思わず頬が緩む空。空は、早速それを実行に移した。

 

「……何のつもりかしら?」

 

実渕が怪訝そうな表情になる。空は、実渕との距離を空けたのだ。

 

通常、ディフェンスに入る際、相手と付かず離れず、手を伸ばせば届く距離が理想とされている。例外として、相手がスラッシャータイプ、ドライブで切り込んでくるタイプの場合、抜かれないように距離を取り、シュータータイプの場合、距離を潰し、密着してディフェンスすることがある。

 

実渕玲央は言わずもがな、シューター。それも、全国トップレベルのだ。そんな実渕に、距離を取ることは自殺行為でしかない。

 

 

「なに!?」

 

「あいつ、何考えてんだ!?」

 

突如、空が起こした行動に、伊月と日向が目を見開いた。

 

「距離を取られると、地や虚空は打ちづらくなるだろうけど…」

 

「まさか、それが狙いか?」

 

「だが、あれじゃ、天のシュートは打ち放題だ。そうでなくても、天のシュートをフェイクに使われたらそれこそ地のシュートの餌食だぞ」

 

結局、答えが出なかった為、2人の勝負を見守ることにした。

 

 

「…」

 

依然として、距離を空けたままディフェンスをする空。

 

「(何が狙いかしら。これだけ距離があると、天が打ちやすいわね。もしかして、それが狙い? 気になるのが、重心を低くして右足を後ろに下げてるのが気になるところだけれど…)」

 

空は、重心を低く、右足を1歩引いている。

 

「(…まあいいわ。それなら天のシュート……を囮に改めて4点貰おうかしら)」

 

実渕が天のシュートのフェイクを入れる。

 

「…」

 

だが、空は一切動きを見せなかった。

 

「(…かからなかった。さすがにあからさま過ぎたかしら? さっき見せたばかりですものね)」

 

ならば次はどうするか…。ならば、相手のブロックから逃れる天のシュートを撃ちたいが、誘われているような気がして中々決断出来ない。

 

「(…いえ、行くわ。向こうは地のシュートを警戒している。迷いが出てるはずだわ。それにこれだけ距離があれば、例え読まれていても問題ないわ)」

 

実渕は決断し、天のシュート態勢に入る。

 

「(動かない…。地のシュートを警戒し過ぎたわね。今からではブロックは間に合わない。いただくわ!)」

 

得点を確信し、悠々と後ろに飛んだ。その瞬間、実渕の顔が驚愕に染まった。

 

「なっ!?」

 

飛ぶ直前まで動きを見せなかった空が今、目の前でシュートコースを塞ぎにかかっている。

 

「(嘘!? あの状況でブロックに間に合うわけが…!)」

 

実渕の手からボールが放される。

 

 

――チッ…。

 

 

空の指の先に微かにボールが触れた。

 

「っ! リバウンド!」

 

外れることを確信した空はゴール下の堀田と天野に叫ぶ。その声と同時に2人が即座にスクリーンアウトに入る。

 

「ぐおっ! ビクともしねぇ…!」

 

「こいつ…!」

 

根武谷がパワーで強引にいいポジションを奪おうとするが、堀田は微動だにしない。天野も、持ち前にパワーと腕を上手く使い、理想のポジション取りをする。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールは予想通りリングに弾かれた。

 

「もろたでぇっ!」

 

リバウンドボールを天野がしっかりと抑えた。

 

「三杉はん!」

 

「速攻!」

 

天野が三杉にボールを預けると、花月の選手達は一斉に駆け上がる。洛山も戻りが速く、すぐさま自陣に戻り、各自マンツーで付いた。

 

「勢いのまま言って来い」

 

三杉はパスを出す。ボールの行き先は…。

 

「任せて下さい!」

 

空の手にボールが治まる。

 

「今度こそ止めるわ。さっきみたいな曲芸染みたテクニックが何度も通じると思わないことね」

 

先ほどと変わらず、空をマークするのは実渕。その表情は、鬼気迫るものがある。

 

「そんじゃ、その曲芸で抜いてみよっかな」

 

空はゆっくりとドリブルを始める。前方、股下、後方と、左右にボールを散らしながら少しずつスピードとテンポを上げていく。

 

「…っ!」

 

ドリブルをするスピードがどんどん速くなっていく。それに応じて重心を低く構え、ボールをコートに近い位置で突くことでテンポがさらに上がる。

 

「♪~♪」

 

スピードが上がり、リズムに乗ってくると、空は足を何度もクロスさせ、そこをボールを通すなど、ダンスでも踊っているかのようなドリブルをする。

 

『おいおい、ふざけ過ぎだぞ! 状況分かってんのか!』

 

余裕とも取れる空のドリブルに一部観客からは野次が飛ぶ。

 

傍から見れば空がふざけているように見えるが…。

 

「っ!?」

 

目の前で対峙する実渕は、ボールの動きを追いきれず、焦りが生まれる。

 

「…にひっ♪」

 

空がニヤリと笑みを浮かべる。それと同時に…。

 

「えっ?」

 

実渕はついにボールを見失う。空が倒れこむように上半身を下げると、空の背中からボールが飛び出し、実渕の背後にボールは飛んで行った。

 

「しまっ…!」

 

気付いた時には遅く、空はすぐさまボールを追いかけ、拾った。ボールを掴むと同時にシュート態勢に入る。

 

「ちっ、打たせるか!」

 

四条がヘルプに飛び出し、ブロックに向かうが、フェイダウェイ気味に後ろに飛ぶことでギリギリブロックをかわす。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「しゃぁぁぁっ!」

 

それと同時に拳を握る空。

 

 

「あいつのプレースタイル、スピードとキレは劣るが、まるで青峰……変則性だけならそれ以上」

 

数度の対戦経験のある火神が空を評価する。

 

「いや、それよりも、今のプレー、間違いない。神城空は――」

 

 

「あなた…司令塔やってた時よりプレーが生き生きしているわ。こっち(スコアラー)が本職ね」

 

空は、中学3年時に広い視野とパスセンスを買われてポイントガードにコンバートされたが、それ以前は大地と共に得点を重ねるスコアラー(点取り屋であった)。

 

「まあね。…それより、そっちのオフェンスだ。さっきので確信した。もうあんたのスリーは脅威ではない。次も止める」

 

「っ! たかが1本止めただけで随分強気ね。…やれるものならやってみなさい」

 

宣戦布告をする空を、実渕は睨み付けるように返した。

 

 

オフェンスは洛山に切り替わり、ボールは再び実渕の手に渡る。

 

「…」

 

「…」

 

トリプルスレッドの態勢で構える実渕に対し、空は先ほど同様、距離を取り、右足を1歩引いて構えている。

 

 

「さっきはギリギリ止めれたが、今度はどうなるか…」

 

2人の対決の行方を高尾は予想する。

 

「…恐らく、先ほどと同じ結果になるのだよ」

 

緑間は、そう断言する。

 

「…どういうことだよ?」

 

「神城が距離を取っているのは、実渕の全体像を捉える為だ」

 

「……?」

 

高尾は緑間の説明を聞くも理解出来ず、首を傾げる。

 

「見ていろ。実渕玲央は、この後背筋を凍らせることになる」

 

 

「(変わらず距離を取ってきたわね…)」

 

これだけ距離があればスリーを撃ちやすい。天のシュートなら尚のこと。だが、先ほどのブロックが頭にちらつき、躊躇う。

 

「(…なら、ブロックに飛ばせなければいい。虚空はこの試合まだ1度も見せていない。これなら、この子がどれだけスピードがあろうとジャンプ力があろうと関係ないわ!)」

 

意を決して、実渕はシュート態勢に入る。普段より膝を沈み込み、実渕の切り札である虚空を放つ為。

 

「(…動かない? 何を考えて…)」

 

だが、空はその場から未だ動いてはいなかった。

 

「(いいわ。今からではブロックは間に合わない。やっぱりさっきも勘が当たっただけ。いただくわ!)」

 

得点を確信し、実渕はボールを頭上に掲げ、跳躍し、ボールを指から放した。だが…。

 

「!? 嘘…でしょ…」

 

実渕の表情が驚愕に染まる。ボールが放たれる直前、下から1本の腕が現れる。

 

「言ったはずだぜ、止めるって!」

 

それは、空の腕だった。

 

「(どうして…、私が飛ぶまでこの子は1歩も動いていなかった。なのにどうして……まさか!?)」

 

ここで、実渕は先ほど何故天のシュートに触れることが出来たのか…。今、何故目の前に現れたのか…。それに気付いた。

 

 

「神城が行ったことは至極単純で、それでいて恐ろしいことなのだよ」

 

緑間は説明を始める。

 

「その方法は、相手が先に飛んでからブロックに飛ぶことだ。現時点で、神城はスリーの見極めは出来ていない。だが、相手が先に飛んでしまえば、何を選択しようと関係がなくなる。距離を取ったのは、相手の全体像を捉え、足元をより見やすくする為だ」

 

「……おいおい、ちょっと待てよ。相手を先に飛ばせちまったらブロックなんて…」

 

「足がコートから離れた瞬間に反応出来る反射神経と相手との距離をすぐさま詰め、先に飛んだ相手より先に最高到達点に達する瞬発力がなければ不可能だ」

 

「……!?」

 

緑間の説明を聞いて言葉を失う高尾。

 

「それらを持ち合わせる神城だからこそ、この作戦が成り立った。実渕玲央にとって、神城空は最悪の相手なのだよ」

 

 

先に飛んだ実渕にグングン迫る空。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

実渕が放ったボールを、空が叩き落とした。

 

『止めたぁぁぁぁぁっ!』

 

「そんな……私のスリーが…、こんなふざけて方法で…!」

 

常識では考えられない手段でブロックした空を見て背筋が凍りついた実渕。

 

「速攻ぉぉぉぉっ!!!」

 

すかさずボールを拾った空がワンマン速攻を仕掛ける。無人のリング目掛けて駆け抜ける。はずだったが…。

 

 

――バチィン!

 

 

拾ったボールをすぐさま弾かれてしまう。

 

「っ!? 赤司!」

 

ボールを弾いたのは赤司だった。ボールが、空の手から零れていく。

 

「あぶねぇ!」

 

すかさず、空が零れたボールをキープする。

 

「大地!」

 

再度、赤司に詰められる前に空は大地にボールを渡す。ボールを貰った大地は駆け上がっていき、リング目前でレイアップの態勢に入る。

 

「大地! 打つな、後ろに戻せ!」

 

「っ!」

 

ボールを放る瞬間、背後から空の声が耳に入り、咄嗟にボールを抑え、背後にボールを落とす。

 

「ちぃっ!」

 

大地の僅か後ろで、根武谷がブロックに飛んでいた。そのままボールを放っていれば、確実にブロックされていただろう。

 

「よし!」

 

ボールを受け取った空はそのまま跳躍する。

 

「させないわ!」

 

一連のやり取りの隙に戻っていた実渕が空の目の前、ブロックに現れた。

 

「ハッ! 関係ねぇ!」

 

空は構わずボールを右手に持ち替える。

 

「俺の勝ちだ、五将ぉぉぉぉっ!!!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

実渕の上からワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「うおぉぉぉっ!!!」

 

雄叫びを上げる空。

 

「…」

 

茫然とする実渕。再度、空は実渕を止め、実渕から得点を奪った。

 

点差はついに5点にまで縮まり、花月の士気も上がっていった。逆に、洛山の士気は下がっていった。

 

洛山のオフェンス。ボールが実渕に渡る。

 

「…くっ!」

 

距離を取ってディフェンスをする空に、言い知れようのない恐怖を感じ、パスを出した。

 

 

「あの実渕が引いた…」

 

「どうやら、格付けが済んでしまったようだな」

 

高尾は驚き、緑間は淡々としている。

 

「だが、実渕には新しい武器の…確か下弦があったはずだろ? コートを足から放さないあれなら出し抜けるはずじゃ…」

 

「結果は変わらないのだよ。下弦ならば、一瞬出し抜く事は出来る。だが、飛ばないということは、打点が限りなく低いということだ。一瞬出し抜いても、結末は同じだ」

 

 

ボールは実渕から葉山へ。

 

「…っ!」

 

目の前でディフェンスする大地を抜けるイメージが持てず、葉山は四条にボールを渡す。

 

「やらせへんで」

 

「……ぐっ!」

 

隙の無いディフェンスをする天野を目の前に、仕掛けるきっかけを掴めず、ゴール下の根武谷にパスを出す。

 

「マッスル~ドリブ――」

 

身体で強引に押し込もうとする根武谷。だが、堀田は山の如く微動だにしない。

 

「(このおっさん…ビクともしねぇ! それより、前半、五河と2人がかりでマークしてたのに、全然息を切らしてねぇじゃねぇか!)」

 

持ち前のパワーは通じず。それどころか消耗もしていない堀田に、驚愕を隠せない根武谷。押し切れず、ボールを戻す。ボールは、赤司の下に帰ってくる。

 

「どうだい? うちのルーキーは?」

 

マークをする三杉が赤司に話しかける。

 

「…称賛には値する。だが、驚愕することのほどではない。あの2人が五将を凌ぐ資質の持ち主であることは初めて見た時に分かっていたことだ」

 

「…ほう」

 

「ここまで詰められてしまった以上、こちらにも余裕はない。切り札を切る」

 

「興味があるな。各選手をウチが洛山を上回り、頼れないこの状況で、どんな手があるのか…」

 

「周りが頼れないのであれば、僕が1人で決めればいいだけのことだ」

 

「…っ」

 

『っ!?』

 

その瞬間、コートに立つ者及び観客席の選手達が赤司の変化に気付く。

 

「……ゾーンか」

 

「ここまで僕を侮辱した罪は重い。僕直々に跪かせてやろう」

 

赤司の放つプレッシャーが花月選手達を襲う。

 

「ゾーン、それも自らの意志で入るとは恐れ入る。…なら、1つ忠告しておくよ。もう1人の君。その彼と入れ替わることが可能ならそうすることを勧めるよ。君では俺には敵わない」

 

「面白いことを言うね。だが、それはあり得ない。絶対は僕だ。去年のテツヤような想定外な事がない限り、未来が見える僕は誰にも止められない」

 

勝利宣言をする三杉に対し、同じく勝利宣言で赤司は返した。

 

「エンペラーアイ。確かに恐ろしい武器だ。その眼を日本でも見れるとは思わなかった。だが、その眼は全能ではない。そして、その眼が君に致命的な欠点を生み出してしまっていることを教えてやる」

 

そっと集中力を高める三杉。

 

試合は、クライマックスへと移行していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





パソコン買い替え時かな…。

今回、執筆途中で突然テキスト画面が消えること2回。数時間分の文章が一瞬で消えてなくなりましたorz

かなり旧式なので致し方無いのですが、消える度にテンションダダ落ちになります。

早く何とか、今年度中にインハイを…!

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第57Q~絶対~


投稿します!

予定より1週間オーバー。年末忙しい過ぎッス…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り5分21秒。

 

 

花月 71

洛山 76

 

 

空、大地が五将の実渕と葉山を1ON1で攻略し、流れが花月に傾きかけたその時、赤司がゾーンの扉を開き、コート上の選手達及び会場中の空気を一変させる。

 

「…」

 

「…」

 

そんな赤司の前に立ち塞がるのは三杉。赤司のプレッシャーを一身に受けるも、表情を変えることなくディフェンスに臨んでいる。

 

『…(ゴクリ)』

 

会場中が緊張感に包まれる。2人の対峙はさながら、居合の達人同士の死合いである。

 

空気が張り詰める中、両者の戦いが始まる。

 

赤司がドライブで三杉の左手側から仕掛ける。三杉もそれに反応し、行く手を塞ぐ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

三杉が赤司の持つボールに手を伸ばそうとした瞬間、赤司がバックチェンジで切り返す。

 

「っ!」

 

このバックチェンジを読み切った三杉が切り返し際を狙い撃った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

切り返したと同時にバックロールターンで反転しながら三杉の横を抜けていった。

 

『抜いたぁっ!』

 

「マジかいな!?」

 

三杉が抜きさられたことに動揺するも、1番近くにいた天野がヘルプに向かった。

 

「邪魔だ。跪け」

 

ここで赤司が緩急を付けながら高速で切り返しをする。

 

「っ!? 嘘やろ!?」

 

あまりの緩急に、天野はその場で膝を付いてしまう。

 

天野を抜いた赤司はそのままリングに向かい、フリースローラインを数歩越えたところでシュート態勢に入る。

 

「打たせん!」

 

堀田がここでブロックに飛ぶ。先ほどのティアドロップを警戒し、深めにブロックに飛んだ。だが…。

 

「なに!?」

 

ここで堀田は驚愕する。赤司は飛んでいなかったからだ。

 

 

「フェイク!?」

 

「今のはタツヤばり…いや、それ以上だ!」

 

堀田する見破ることが出来ない程のフェイクの精度に、氷室、火神も驚愕した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

目の前の障害なくなり、赤司は悠々とレイアップを決めた。

 

『うおぉぉぉっ! 赤司、1人で決めたぁぁぁぁぁっ!』

 

「マジ…かよ…」

 

三杉、堀田、天野と、花月高校においてもっともディフェンスに優れた3人を1人で抜きさって得点を決められ、茫然とする空。

 

得点を決めた赤司は歩きながら自陣へと戻っていく。

 

『…っ』

 

そんな赤司を他の洛山の選手達は俯きながら見送る。

 

「……なんだその顔は?」

 

おもむろに赤司が歩みを止めると、4人に背を向けたまま言葉を発した。

 

「まさか、もう心が折れたわけではないだろうな? それとも、ここから先、僕1人に戦わせるつもりか?」

 

『?』

 

「花月は僕1人で戦える相手ではない。戦意を失ったのならコートを出ろ。不要だ。そうでないのなら顔を上げろ。誠凛は、この程度で折れたりはしなかったぞ?」

 

『っ!』

 

赤司の言葉に4人は目を見開く。

 

「行くぞ。僕達の手で花月を倒し、失った栄光を取り戻すぞ」

 

そう4人に告げ、赤司は自陣へと戻っていくと、表情を引き締め、4人も赤司に続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。

 

「…これは」

 

葉山をマークする大地がその変化に気付いた。先ほどまで心が折れかけていた洛山選手達の表情が戻っていることに。そして…。

 

『っ!?』

 

ボールをキープする三杉。その前に立ち塞がる赤司。その赤司のプレッシャーが花月選手達を襲う。

 

「(んだよこれ…! これが赤司の守備範囲か!?)」

 

その身に浴びるプレッシャーから赤司の守備範囲を理解する。

 

「(エンペラーアイにゾーン加わるとここまで…! これは陽泉の紫原さんに匹敵…いえ、それ以上…!)」

 

未来が見えるエンペラーアイに100パーセントの力を発揮出来るゾーンの扉を開いた赤司のディフェンスエリアは、あの紫原をも上回っていた。

 

「冗談やないで。中央に陣取られたらどこから攻めてもアウトやんか…」

 

天野も赤潮ディフェンスエリアの広さを理解し、絶望する。

 

 

「花月はどう攻めるつもりだ…」

 

ゾーンに入った赤司を良く知る伊月は、先の展望が見えない展開に眉を顰める。

 

「いくら三杉でも、ゾーンに入った赤司を止められるとは思えない。去年、赤司を止められたのだって…」

 

ここで日向が黒子の方へ視線を向ける。

 

昨年、ゾーンの扉を開けた赤司を、黒子、火神の2人で止めた。実際、止めることが出来たのは黒子の助力によるところが大きかった。

 

赤司を知る者全てが思う。単独で赤司を出し抜くのは不可能だと。

 

 

「…」

 

赤司のプレッシャーを浴びながら対峙する三杉。エンペラーアイを持つ赤司出し抜くことで不可能だが…。

 

「…出し抜くつもりはないさ」

 

三杉がボールを右手で掴み、ボールを高く上げながら跳躍をする。

 

『何をするつもりだ?』

 

『まさか、フックシュート?』

 

『いやいや、まだスリーポイントラインの外側だぞ!?』

 

三杉が起こした行動に、観客は理解が出来なかった。

 

跳躍し、最高到達点にまだ達すると、右手で掴んだボールを手首のスナップを利かせ、放り投げた。

 

ボールがリング付近に到達すると、そこに堀田が現れ、ボールを掴んだ。

 

「…っ」

 

赤司はボールを追い、ゴール下までやってきたが、ここで足を止めた。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

ボールを掴んだ堀田はそのままリングに叩きつけた。

 

『堀田のアリウープだ!』

 

アリウープを成功させた堀田はリングから手を放し、ディフェンスへと戻っていった。

 

 

「…そういうことか」

 

「青峰君、何か分かったんですか?」

 

「赤司を出し抜くことは不可能だ。だったら、分かってても止められない攻撃を仕掛けりゃいい」

 

「っ! そうか、いくらゾーンに入った赤司でも、堀田のパワーには敵わない」

 

青峰の解説に火神は今の攻めの意味を理解した。

 

「そういうことですか。だから赤司君はブロックに行かなかったんですね」

 

ブロックに行っても止められない。下手にブロック行けば、バスカンを与えてしまったり、最悪、負傷退場ということもあり得る。その為、赤司はブロックに飛ばなかった。

 

「だが、攻め手が分かってる分、洛山の方が有利じゃないのか?」

 

「確かに、このままなら、な」

 

同じ手が何度も通用するほど洛山は甘くない。それが分からない三杉ではないと、青峰は考えた。

 

 

洛山のオフェンス。

 

赤司は高速で左右に緩急を付け、三杉を揺さぶる。

 

「っ!?」

 

あまりの緩急に、三杉の足は崩れ、バランスを崩してしまう。その隙に赤司が前方へ加速、三杉を一気に抜きさる。

 

「…」

 

三杉を抜いた直後、赤司の目の前には大地と天野が待ち受ける。そして…。

 

「ここだ!」

 

赤司の後方から、空が襲い掛かる。

 

「いくらエンペラーアイでも、前後、これだけの人数の未来は見れないはずだ!」

 

後方から空がボールを狙い、大地が前方から狙い、天野が赤司の動きに対応するために控えている。

 

 

「無駄だ。確かに赤司のエンペラーアイは複数人の未来を同時に見ることは出来ない。だが、ディフェンスの死角を見つけることは容易い」

 

伊月がポツリと言う。

 

 

空と大地の伸ばした手が赤司のキープするボールに触れる直前…。

 

 

――ピッ!

 

 

赤司はパスを出す。ボールは天野の股間の下を抜け、ゴール下の根武谷に渡る。

 

「ナイスパース!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを貰った根武谷がゴール下を沈めた。

 

「ちっ」

 

不意を突かれ、ブロックに行けなかった堀田は舌打ちを打つ。点差は再び7点に戻った。

 

 

オフェンスは切り替わる。三杉がボール運びをし、赤司がディフェンスとして立ち塞がる。

 

赤司は手の届かない高さでパスを出されないよう、距離を先ほどより詰めてディフェンスに臨む。だが、三杉はそれを嫌い、一定の距離を保とうと距離を空ける。

 

「…」

 

これ以上、距離を保つ事が不可能と判断した三杉は傍にいた空にビハインドバックパスを出した。それと同時に赤司の横を駆け抜ける。

 

 

――スッ…。

 

 

それと同時に、三杉は空に向けて指を上に向ける。

 

「…っ! うす!」

 

三杉の狙いを理解した空はリターンパスを上に高く出した。出されたパスを三杉は空中で右手で受け取り、そのまま手首のスナップを利かせ、リングに向けてボールを放り投げた。

 

 

―――バキャァァァァ!!!

 

 

先ほど同様、堀田がリングに直接ボールを叩きつけ、アリウープを決めた。点差は5点に再度戻る。

 

 

「一進一退だな」

 

「有利なのは洛山だ。花月は赤司を単独で止められない。かと言って人数をかければパスを捌かれて他が決めてしまう」

 

伊月と日向が今までと今後に展開を整理する。

 

「花月は赤司が三杉をマークしている以上、堀田へのアリウープしか得点は難しい。だが、赤司に…洛山に同じ手が2度も通用するほど甘くない。直に手詰まりになる」

 

「……勝負あったか?」

 

 

「三杉」

 

三杉の下へ、堀田が歩み寄った。すると、三杉は手を前に出した。

 

「心配はいらない。彼の『アナライズ』は今終了した。もう、何もさせない」

 

「…ふっ、ならいい。期待しているぞ」

 

三杉の返答に、堀田は満足し、自陣に戻っていった。そして、洛山のオフェンスが始まる。

 

「…っ」

 

ボールをキープする赤司。目の前の三杉の雰囲気が変わったことに気付いた。

 

「未来を視るエンペラーアイ。そしてゾーン。本当に手を焼かされたが……データは揃った、そろそろ止めさせてもらうよ」

 

「不可能だ。僕は誰にも止められない。お前がどんな戦略を用意しても、僕の眼は見逃さない。何をしてこようとただの足掻きだ」

 

「なら試してみるといい。…あと1つ言っておくと、小細工など使わないよ。俺はシンプルに行く」

 

そう言って、三杉は集中力を最大限に高めた。

 

「…」

 

ボールをキープする赤司は考える。ここで三杉が何をしてくるかを。

 

三杉本人が何をしてきても、エンペラーアイは見逃さない。ならば、味方を使って何かを仕掛けてくるか…。可能性を考えるなら、昨年、黒子テツヤが仕掛けたあれだ。だが、簡単に出来る代物ではないし、何より、打ち合わせをしたような時間はなかった。

 

「(…関係ないな。何をしてこようと、僕のこの眼がある限り、裏を掻かれることはない。いざとなれば、パスを回せばいいだけだ)」

 

何が起きても問題ないと判断した左右にボールを揺さぶり、崩しにかかり、三杉の体重が片足にかかるのを確認し、逆に切り返し、仕掛けた。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

だが、赤司が三杉の横を抜ける直前、三杉の手が赤司のボールを捉え、弾き飛ばした。

 

 

「なにっ!?」

 

「赤司のボールをカットしただと!?」

 

今の三杉のスティールに、緑間と高尾が驚愕した。

 

 

零れたボールを空が抑え、速攻を開始する。

 

「(馬鹿な……僕の眼は確かに三杉の未来を捉えていた…)」

 

赤司はエンペラーアイを使い、三杉の未来を視ながら仕掛けた。にもかかわらず、三杉の横を抜けようとした瞬間、その手からボールの感触がなくなった。

 

「(未来を捉え損ねた? いや、そんなことはあり得ない…!)」

 

「征ちゃん!?」

 

「っ!」

 

茫然とする赤司だったが、実渕の声で正気に戻り、ディフェンスに戻った。

 

「…速いな」

 

ワンマン速攻を仕掛けて1本決めるつもりだった空だが、洛山の戻りがそれより速く、スリーポイントライン手前で停止する。

 

「どうすっか…」

 

どのように攻めるか考えていると…。

 

「空!」

 

三杉がボールを要求する。

 

「三杉さん…」

 

どのみち自分では点を取ることは難しいと判断し、空は迷いなく三杉にパスを出した。ボールを受け取ると、目の前には赤司が立ち塞がる。

 

「ふざけるな!  絶対は僕だ! 僕が1対1で止めることなどあり得ない! そんなことはあり得ないことだ!」

 

さっきまでとは違い、激しく激昂する赤司。

 

「どうした? 集中が乱れているぞ?」

 

そんな赤司に、冷静に言葉をかける三杉。そして、三杉が動く。

 

「っ!」

 

ドライブを仕掛ける三杉。エンペラーアイで未来を捉えた赤司がその手に持つボールを狙い撃つ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、赤司の手がボールを捉えることはなかった。三杉は赤司の手をかわし、横を抜けていく。

 

『抜いたぁぁぁぁぁっ!』

 

赤司を抜きさり、そのままリングに向かい、跳躍する。

 

「ぬおっ!」

 

根武谷が慌ててヘルプに飛び出し、ブロックに現れる。だが…。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

三杉は根武谷の上からボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

その瞬間、会場中が大歓声に包まれる。

 

『赤司を抜いて決めやがった!』

 

『これで3点差!』

 

『スリーなら同点だぞ!?』

 

今のダンクにより、点差は3点にまで縮まり、花月がついに洛山の背中を捉える形となった。

 

『くっ!』

 

ジリジリと詰め寄り、ついにワンゴール差にまで詰められ、苦悶の声が洛山から漏れる。

 

「…」

 

抜こうとしたが止められ、止めようとして抜かれた赤司は茫然とする。

 

「…っ!」

 

そして赤司の横を三杉が抜けるように通り過ぎると、赤司は拳をきつく握り、歯をギュッと噛みしめると、鬼のような形相で三杉を睨み付けた。

 

「パスだ、早くしろ!」

 

赤司がボールを要求すると、根武谷がスローワーとなり、リスタートし、赤司がボールを受け取った。ボールを受け取ると、赤司はそのままドリブルを始めた。

 

「おい、赤司!?」

 

突然のドリブル。赤司は花月のディフェンス網に1人突っ込んでいく。それに慌てて洛山選手達が追いかけていく。

 

「(僕は去年までとは違う! テツヤのような援護がない限り、僕が止められるはずがないんだ!)」

 

グングン加速し、赤司はドリブルをしていく。そして、花月のディフェンスの先頭、三杉が赤司を止めるべく現れる。

 

「三杉誠也ぁっ!」

 

自身を止めた張本人、三杉が現れると、表情がさらに険しくなる。

 

「…赤司征十郎。君は言わば堅牢な城だ。堅牢な城は、崩すのは容易ではない。だが、ひとたび崩れると、それはとてもあっけなく崩壊してしまう」

 

三杉が呟くように言葉を続ける。

 

「ここで教えておこう。エンペラーアイがもたらしてしまった君自身の欠陥を…」

 

「欠陥だと? この眼を持った僕に欠陥などない! ここでお前を倒し、試合を決める!」

 

三杉の目の前までドリブルをすると、赤司は左右に揺さぶりをかける。

 

「(見えているぞ、お前の未来が。この眼がある限り、僕が1ON1で敗れることなどあり得ない!)」

 

エンペラーアイで三杉の未来を先読みし、三杉の裏を狙う赤司。未来を読んだ赤司が三杉の横を抜けていく。

 

「(勝った! やはり絶対は僕――っ!?)」

 

その時、赤司の眼に移ったのは、自分自身の姿だった。

 

「――相手の未来が見える。相手からすればこれは厄介だ。だが、逆に言えば、君は相手の未来に必ず先回りしてくるということだ。ならば、こちらはその先で待ち受ければいい」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

赤司の手からボールが弾かれる。ボールは零れ、三杉が拾う。

 

再びターンオーバーとなり、三杉が速攻をかける。幸いというべきか、赤司以外の洛山の選手達はまだフロントコートに上がりきっていなかった為、素早くディフェンスに戻れた為、ワンマン速攻を防ぐことが出来た。

 

三杉はハイポストに立つ天野にパスを出し、天野が手元に駆け込んだ空にボールを手渡す。ボールを受け取った空がそのまま行こうとしたが、根武谷、四条に道を塞がれ、1度、大地に戻す。大地は三杉へとパスを出した。

 

「ふざけるな! こんなことがあってたまるか! 僕はもう、2度と敗北など…!」

 

先ほどまでとは違い、完全に冷静さを失っている赤司。三杉は軽く嘆息しながら赤司を見据えた。

 

三杉、ドライブを仕掛けるべく、動き始める。

 

「(…見えた! 今度こそ取る!)」

 

赤司はエンペラーアイを使い、トリプルスレッドの態勢になる一瞬を狙い撃つ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「なっ…!」

 

赤司の伸ばした手に手応えはなく、空を切った。

 

「君のその眼は確かに俺の未来を見ている。だが、いくら未来が見えても、それに君自身がついてこれなければ意味をなさない」

 

三杉は、最小限の動作かつ、最大限の加速をもって赤司の眼と手をかわし、抜きさり、そこからミドルシュートを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイにリングの中心を射抜いた。

 

『うおぉぉぉっ! ついに1点差!』

 

ボールがリングを潜ると、三杉は踵を返した。

 

「エンペラーアイを持ったことで君は敵のことを誰よりも知ることが出来るようになった。だが、逆に自分自身のことが見えなくなった。考えたことがあったか? 自分の未来が読まれるという状況を…」

 

「っ!」

 

三杉は赤司を分析し尽し、事実上、赤司の先が見えているのと同じ状況である。先ほど見た自分自身の姿は、自分の未来が見られていることを脳が無意識に感じ取り、それを自分自身の姿として投影したものだと赤司は悟った。

 

「絶対などというありもしない幻想から、早く抜け出すことだな」

 

三杉は通り抜け様、赤司に告げていった。

 

「…」

 

そう告げられた赤司は、何も言い返すことが出来ず、茫然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『限界だな』

 

内なる赤司が言葉を発する。

 

『っ! まだだ! 僕はまだ――』

 

『ダメだ。お前も分かっているだろう? 自分の弱さを…。1度崩れると脆く、立て直すことが出来ない自分のメンタルの弱さを』

 

『っ!?』

 

『責めはしない。お前はよくやってくれた。後は任せろ』

 

『……ああ、分かった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

 

 

「征ちゃん…」

 

茫然と佇む赤司に実渕が話しかける。

 

「…」

 

「おい、赤司、大丈夫かよ!?」

 

反応を示さない赤司が心配になり、葉山が肩を揺さぶる。

 

「……心配はいらないよ、実渕、葉山、根武谷、四条」

 

『っ!?』

 

ここでようやく返事をした赤司だが、そのある変化を選手達は感じ取った。

 

「無様な姿を見せてしまった。すまない」

 

洛山選手達に頭を下げる赤司。

 

「気にしてないから謝らなくてもいいわ。…それよりも、ここからどうしようかしら…」

 

もはや各ポジション、全てにおいて花月側が優位に立っている為、攻め手が見つからない。

 

「ならば、原点に戻ればいい。バスケの原点に――」

 

 

洛山リスタート…。

 

赤司がボールを進める。

 

「……むっ」

 

ここで三杉は赤司の変化に気付く。

 

「(…変わった…いや、戻ったというべきか…)」

 

他を圧倒するプレッシャーは鳴りをひそめ、近寄り難い雰囲気はなくなっていた。

 

「(…流れは完全に俺達にある。各ポジション俺達が有利。後ひと押しで――)」

 

空が胸中でそう考えていると…。

 

「もう勝った気でいるつもりか?」

 

空の心中を見透かしたかのように赤司が言い放つ。

 

「まだ試合は終わっていない。ここから先は小細工など使わない」

 

1度、ゾーンが切れた赤司だったが、再びゾーンに突入した。

 

「ここからはチームの力を結集しての真っ向勝負だ。たとえ、個では劣っていても、個を束ねた強さでは負けない。俺達の底力を見せてやろう」

 

洛山選手達の瞳に更なる闘志が燃え上がる。

 

追いすがる花月。追撃を振り切る洛山。決勝戦の結末がまもなく、決まろうとしている……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





結局試合終了まで終わらず、次回以降に持ち越しになりました…(^-^;)

一応、この試合は次話か、長くともその次くらいで終わらせるつもりです。年内までに終わらせることが今の目標であります。

僕司に関して、成長している部分もあれば、やはり、欠点などは未だ改善していない感じです。主に、メンタル面の弱さ(崩れると立ち直れないところ)です。これを読んでくれた方はそれぞれ思うところはあると思いますが、僕司は本来の赤司の弱さによって生まれているので、その辺はそのままにしました。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第58Q~決死~


投稿します!

やはり、この話では終わらなかった…( ;∀;)

それではどうぞ!


 

 

 

第4Q、残り4分4秒。

 

 

花月 79

洛山 80

 

 

試合終了まで残すところ4分程となり、花月がついに洛山の背中を捉える。それと同時に、赤司が本来の自分に切り替わった。

 

「…」

 

ボールを進める赤司が目の前の三杉に対し、左右に切り返しながらチャンスを窺う。

 

「(…さっきまでとは雰囲気が違う。この感じ、試合開始直後の彼に戻ったか…)」

 

三杉は、赤司の変化にすぐに気づいた。

 

「(ジキルとハイド。赤司征十郎を一言で表すならそれだな。実際、その手の人物に初めて会ったが、戦うとなると、厄介極まりないな…)」

 

相手のあらゆる情報を集め、分析し、そこから攻略法を導き出す三杉のとって、赤司のような稀有な選手は苦手であった。何せ、人が別人のように変わってしまうので、集めた情報が役に立たなくなるからだ。

 

「(見たところ、身体能力に大きな変化はない。プレースタイルも、僅かに基本に忠実になっている程度。今のフェイントも、崩したり逆を突いたりするものでもない。エンペラーアイを使わないのか? それとも、使えないのか…)」

 

少ない情報をもとに、赤司の分析を進める三杉。それでも、エンペラーアイを使わない状態で抜かれる程三杉は甘くはなく、赤司の動きにピタリと付いていく。

 

「…」

 

ピタリと付いてこられるも、動揺の色はなく、落ち着いてボールを掴む。

 

 

――ピッ!

 

 

それと同時に矢のようなパスを出した。

 

「よっしゃぁっ!」

 

ボールの先、そこへちょうど走りこんでいた葉山がボールを受け取る。

 

「くっ!」

 

裏を取られた大地だったが、すかさずバックステップで追いかけ、葉山の前に立ち塞がる。

 

「あなたのドリブルにはもう慣れました。私には通じません」

 

「どうかな?」

 

大きな轟音が鳴ると、葉山はドリブルを始める。

 

「読めていますよ。次はここ――っ!?」

 

葉山のドリブルを読み、ボールを狙おうと手を伸ばしたが、大地の手は空を切り、葉山はそのまま大地の横を抜けていった。

 

「態勢が不安定だったとはいえ、大地が抜かれた!?」

 

止められるとばかり思っていた空は思わず声が出る。

 

「(スピードが……リズムが速くなった。いったい何が…)」

 

大地を抜きさった葉山はそのままリングに真っすぐ突き進み、レイアップの態勢に入る。

 

「打たせへんで!!」

 

そこへ、ヘルプにやってきた天野がブロックに現れる。

 

「知ってるよ、来てることぐらい!」

 

ここで、葉山は上げたボールを下げ、パスに切り替えた。ボールは、フリーの四条の下へ。

 

「あかん!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーでボールを受け取った四条は危なげなくミドルシュートを決めた。

 

「良いぞ四条ぉっ!」

 

「痛っ! …あざっす」

 

労いの言葉と共に根武谷が背中を叩き、四条が痛がりながらも礼を言った。

 

「…」

 

今の一連のプレーを三杉はジッと観察していた。

 

 

花月のオフェンス…。

 

三杉から大地へとボールが渡る。

 

「もう抜かせねぇからな」

 

「っ!」

 

大地の前に立ち塞がる葉山。今まで以上のプレッシャーを大地が襲う。

 

「…っ」

 

ボールを持った大地にフェイスガードでべったり張り付く葉山。そのプレッシャーに苦悶の表情を浮かべる大地。

 

「(突然動きが良くなった? …ですが!)」

 

機を見て大地がバックステップをし、葉山と距離を作った。

 

「ちっ!」

 

距離を空けさせまいと瞬時に距離を潰しに来る葉山だったが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

葉山が前に出てくるのと同時にバックロールターンで葉山をかわす。

 

「させるかよ!」

 

葉山を抜いてシュート態勢に入る大地の前に根武谷がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

大地はボールを下げ、落とすようにボールを手放す。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

ボールを受け取った空がそのままリングにボールを叩きつけた。

 

「よし!」

 

パチン! と、ハイタッチをする空と大地。だが、点を決めたものの、2人は洛山に違和感を覚えた。

 

 

オフェンスが切り替わり、赤司から実渕にボールが渡る。

 

「来たな。何度やっても同じ――っ!?」

 

距離を取って実渕の数種類のスリーに対応しようとした空だったが、嫌な予感がした為、咄嗟に距離を潰してフェイスガードでマークをした。

 

「…へぇ、良い勘してるわね。けどね、私はスリーだけしか能のない選手じゃないわ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

僅かな隙を付き、空の横をドライブで抜ける。中へ切り込んだ実渕がシュートかパスか選別していると…。

 

「実渕、後ろだ!」

 

赤司の咄嗟の声に反応し、手元に視線を移すと、後ろから1本の腕がボールを近づいていることに気付く。

 

「っ!」

 

咄嗟にボールを掴み、その腕をかわした。

 

「おしい!」

 

「…んもう、やっぱり一筋縄ではいかないわね」

 

腕の正体は空。抜かれた直後、倒れこむように背中を倒し、実渕の持つボールを狙い撃った。腕が空振りすると、器用に態勢を立て直しながら身体を起こし、実渕の前を塞ぐ。

 

「(…とは言え、マジで抜かれた。いきなりキレが良くなりやがった)」

 

ふぅっと一息吐き、再びを腰を落としてディフェンスを臨む。

 

「……仕方ないわね」

 

抜くことを諦めた実渕は赤司にボールを戻した。ボールを受け取った赤司は間髪入れずにゴール下にパスを出した。

 

「っ!」

 

ボールは、目の前の三杉、その後ろの天野、堀田を抜け、ゴール下の根武谷にボールが渡った。

 

「ナイスパース!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

ボールを受け取った根武谷がボースハンドダンクを叩きつけた。

 

点差は、再び3点に広がる。

 

 

代わって花月のオフェンス。三杉がボールをフロントコートまで運ぶ。

 

「……なるほど」

 

「そういうことか…」

 

ここで三杉と堀田が洛山の変化の正体を知る。

 

「っ! これは…!」

 

「おいおい、ホンマかいな…」

 

「まさか…!」

 

それに続き、空、天野、大地もその正体に気付いた。

 

 

 

――洛山選手の全員がゾーンに突入していた。

 

 

 

「出た…! 赤司の味方をゾーンに引き上げる究極のパス!」

 

日向が目を見開いて驚愕をする。

 

去年と今年、誠凛が2度味わった洛山、赤司による、味方のパフォーマンス能力を上げる究極のパス。

 

 

ゾーンに引き上げられた4人のプレッシャーは、この試合最大のものとなった。

 

花月選手達の前に立ち塞がる洛山選手達の5人は、さながら、越えることを許さない断崖絶壁であった。

 

「臆したか?」

 

動揺する花月選手達に三杉が声をかける。

 

「まさか、要するに、試合が面白くなったってことでしょ?」

 

それを聞いた空はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「この程度は想定済みです。私のやることは変わりません」

 

大地は表情を引き締めた。

 

「さっすが洛山やなぁ。ま、それでもリバウンドは譲らへんけどな」

 

天野はケラケラ笑った。

 

他の3人の様子を見て、三杉は満足そうに笑みを浮かべる。

 

「ならいい。正真正銘、これからが正念場だ。…行くぞ」

 

『はい(応)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、このまま一進一退。膠着状態に陥る。

 

洛山が決めると、花月が決め返し、1点差と3点差を繰り返す展開になる。

 

花月は圧倒的な個人技で、洛山は劣る個人の差を連携で埋め、互いの矛が互いの盾を貫き、それぞれ得点を重ねていく。

 

 

「すげぇ…」

 

観客席の火神が今の試合展開を見てポツリと呟く。他の観客達も同様の感想であった。

 

試合はもはや、高校生のレベルを遥かに超越しており、大学、社会人のバスケでさえ、早々お目にかかれない試合内容である。

 

「どっちも譲らない。まさに互角だ」

 

日向も驚愕しながらも、試合から目を一切反らしていない。

 

互いに力が均衡し、結末が見えない試合内容。

 

「…そうね。両者は互角『だった』わ」

 

このリコの発言により、試合は動きを見せ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り1分31秒。

 

 

花月 87

洛山 88

 

 

洛山オフェンス。赤司がボールをキープしている。

 

三杉のディフェンスの隙を付き、実渕にパスを出す。

 

「っ!」

 

実渕をマークしている空は四条のスクリーンに捕まり、マークを外されていた。ノーマークでボールを受け取った実渕は悠々とスリーを放った…。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

だが、ボールが放たれた瞬間、ブロックされてしまう。

 

『綾瀬だ!』

 

ブロックしたのは大地だった。空がスクリーンに捕まるのを確信した大地は、捕まる直前にヘルプに飛び出しており、それが功を奏してブロックに成功する。

 

「やるやんけ!」

 

ルーズボールを天野が抑え、攻守が切り替わる。

 

「天さん!」

 

大地のブロックと同時にフロントコートに走っていた空がボールを要求。すかさず天野はボールを走る空へ向けて投げた。

 

「っしゃ!」

 

ボールを受け取る空。そこへ…。

 

「行かせるわけないだろ!」

 

「っと」

 

フロントコートに足を踏み入れたところでボールを受け取った直後、葉山がその前に立ち塞がった。

 

「さすがに、簡単には速攻は許しちゃくれねぇか。まあいいや、俺としては、実渕だけじゃ物足りなかったところだったからな。ついにでにもう1人倒しておくかな」

 

「調子に乗んなよ1年坊。玲央姉の時みたいな小細工が俺に通用すると思うな」

 

葉山は腰を落とし、やや距離を取り、野生を全面に押し出して空を待ち構える。

 

「小細工? しねぇよ。ここは真っ向勝負だ!」

 

空もトリプルスレッドの態勢でグッと腰を落とした。

 

「行け。洛山が赤司のパスで力を発揮していると言うなら、お前は相手が強ければ強い程その力を発揮出来る」

 

三杉が囁くように空を鼓舞する。

 

「(俺の全身全霊の全速。…足に力を貯めて……それを一気に解放する!)」

 

全身の力を足に込めるよう貯める。そしてそれを一気に解放し、踏み出した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空が最初の1歩で葉山の横に並び、次の1歩で後ろに抜けた。そのスピードに、葉山は反応出来ず、反応出来た時には空は自身の後方に抜き出していた。

 

 

「なんて速さだ! 今のスピード、葉山のライトニングドリブルの比じゃないぞ!」

 

伊月が今のスピードを見て思わず立ち上がった。

 

「今の加速力は、青峰と同等……マックススピードが速い分、それ以上だ!」

 

火神の同様に立ち上がっていた。

 

 

葉山を抜きさった空はそのままリング目掛けて突き進み、フリースローラインを越えたところでボールを掴み、跳躍した。

 

「決めさせるわけないだろ!」

 

そこへ、葉山を抜く際に立ち止まった間に戻った根武谷がブロックに現れた。

 

「よーし、よく戻った根武谷!」

 

身長差と身体能力を考えれば空中戦で空に勝ち目は薄い。既に、ダブルクラッチで切り返すことも難しい。誰もが、根武谷のブロックを確信する。

 

「……知ってたよ。来てたことはな」

 

空は右手で持ったボールを左手で抑え、ボールを下げる。そのまま根武谷の脇の下を抜けると、エンドラインを越えていった。それと同時に抑えていた左手をボールから放し、身体を捩じってボールを左アウトサイドに投げつけた。

 

「良く切り返した。見事だった」

 

左サイドのスリーポイントラインの外側でポジション取りをしていた三杉にボールが渡った。

 

『っ!?』

 

空を追うことに集中していた洛山は、ノーマークの三杉に気付くことが出来なかった。

 

「そしてこれが、流れを帰る1本となるだろう」

 

悠々とボールの位置と縫い目を整え、放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイな弧を描き、リングの中心を通っていった。

 

『ついに逆転だぁぁぁっ!!!』

 

花月がついに逆転に成功する。

 

「ナイッシュ、三杉さん!」

 

「良いパスだったぞ」

 

パチン! と、空と三杉がハイタッチをする。

 

『くっ!』

 

ついに逆転を許してしまい、思わず苦悶の声が出る洛山選手達。オフェンスが洛山に切り替わるが…。

 

「…くっ!」

 

ボールを保持する実渕。空は、距離を空けず、フェイスガードでマークをしている。先ほど同様、抜こうと試みるが、空がその隙を与えない。やむを得ず、パスを出す。

 

パスの先は葉山。マークに付くのは大地。

 

「こんの!」

 

ライトニングドリブルレベル5。高速で切り返しながら大地を抜きにかかるが大地はピタリと付いていき、それを許さない。結局攻めきれず、パスを出す。

 

そこから根武谷、四条とボールが渡るが、いずれも堀田、天野を抜けず、パスを出し、ボールは赤司の下に戻ってくる。

 

「…っ」

 

他の4人が得点を決められず、表情には出さないが、内心で動揺をする赤司。だが、即座に雑念を消し、目の前の三杉に集中する。

 

「…」

 

三杉は付かず離れず。理想的な距離で赤司をマークしている。

 

「…っ!」

 

意を決して赤司、動く。アウトサイドに陣取る実渕にパスを出す。それと同時にツーポイントエリアに走り、パスを要求。実渕はすかさずリターンパスを赤司に出した。

 

「…よし」

 

リターンパスを受けた赤司はそのままインサイドへ突き進んでいく。

 

「行かせへんで!」

 

天野がヘルプに飛び出し、赤司の前に立ち塞がる。

 

「…(チラッ)」

 

「っ!」

 

天野がヘルプに来た直後、赤司は四条の方をチラリと見る。それを見た天野は視線に釣られ、足を止めてしまう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フェイクと同時にダックインで天野の横を抜ける。

 

『赤司が自ら切り込んだ!?』

 

残り時間4分を切った直後から、自ら仕掛けず、パスを捌いてきた赤司。

 

 

「ここまで赤司が仕掛けなかったのはこの為の布石!」

 

氷室が目を見開く。

 

 

今までのパスワークでインサイドには人がいない。無人のリングに向けて赤司が跳躍する。

 

『た、高い!』

 

173㎝の身長からは考えられない跳躍力。ボールを持った手はリングを越える。赤司はそのままボールをリングに向けて振り下ろした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、横から現れた1本の腕がボールを弾き飛ばした。

 

『堀田だぁぁぁっ!!!』

 

赤司のダンクは、堀田によって阻止された。

 

「やはりな。勘を信じて正解だった」

 

ゴール下から離れた根武谷と、赤司と天野の位置から赤司の切り込みを察知し、根武谷のマークを外してヘルプに飛び出した。それが功を奏し、ブロックに成功する。

 

ルーズボールを空が拾い、フロントコートにロングパス。大地がボールを受け取る。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

そのままワンマン速攻でワンハンドダンクを炸裂させた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

それと同時に大歓声が上がった。

 

「よっしゃぁぁぁっ!」

 

空と大地がハイタッチ。点差は、ついに4点にまで開いた。

 

 

「どうなってるんだ? 急に均衡が崩れた。花月が何かしているようには見えないが…」

 

「確かに、花月と洛山の戦力はほぼ互角だった。いったいどうして…」

 

突然の花月の猛攻。日向と伊月は納得出来なかった。

 

「スタミナよ。この均衡を破るきっかけになったのはひとえに、スタミナの差よ」

 

リコが、その疑問を晴らす答えを言った。

 

「スタミナって、そんなもんが――」

 

「――そんなもんが勝敗を分けちまうんだよ」

 

火神の言葉を遮るように後ろから声が聞こえてくる。

 

『景虎さん!』

 

「テクニック、身体能力。確かに勝敗を分ける重要なファクターだ。だがな、拮抗した試合において、スタミナ…運動量が勝敗に強く影響しちまうなんてことはよくある話だ。相手より長く走れる。それだけのことでな」

 

そう言って景虎は座席に腰掛けた。

 

「試合開始直後のラン&ガンにオールコートゾーンプレス。その後のセットオフェンスに2-3ゾーン。そして、赤司のパスによるチーム全員のゾーン。考えてみれば、洛山は試合開始から今までハイペースで試合を進めてきた」

 

神妙な表情で緑間が試合を振り返っていく。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

洛山選手達は、大きく肩で息をしており、ゾーンも解けていた。

 

「っ! あんなに消耗してやがる…!」

 

横の高尾も、洛山が消耗が著しいことに気付く。

 

「ここに来て、命綱とも言えるものが切れた。もう試合は…」

 

緑間は言い切らなかったものの、試合の結末を半ば予言した。

 

 

第4Q、残り49秒。

 

 

花月 92

洛山 88

 

 

点差は4点にまで広がり、洛山のオフェンス。残り時間は1分を切り、早く点差を詰めたい。だが…。

 

「……くっ!」

 

苦悶の声を上げる赤司。

 

必死にマークを外そうとする洛山選手達。だが、ゾーンが解け、体力も限界に近い今、フリーになることが出来ない。赤司ですらも、目の前の三杉を相手にボールをキープするので精一杯の状態であった。

 

ボールを回すも、それぞれ、目の前のマークを振り切れず、抜くことはおろか、シュートにも持っていけないでいた。ボールを回している内に、24秒が迫っていた。

 

絶え間なくボールが動き、ボールは、実渕の手元に収まる。

 

「…っ」

 

実渕をマークする空。空は、さっきまでのフェイスガードではなく、距離を取ってディフェンスをした。

 

「(ゾーンが解けてスピードとキレが戻った。なら、もうべったり張り付く必要はねぇ)」

 

ゾーンに入っていたさっきまでであれば、距離を空けるとスリーを決められてしまうリスクがあった。だが、ゾーンが解けた今、張り付かずともさっきまでの距離を取るディフェンス方法で止められると空は判断した。

 

「(…ダメだわ。天、地、虚空、下弦、どれを打っても止められてしまうわ)」

 

もはや、実渕に空をかわすことは出来ない。スリーは打てない。ドライブは距離を取られているので論外。パスをするにも、全員マークが外れておらず、仮にボールを渡せてもシュートまでは時間が足りない。

 

「(もう私が決めるしかない。…けれど、この状況で私に決められる方法が……いえ、考えるのよ。この坊やをかわして決める方法を…!)」

 

実渕は必死に考えを巡らせる。

 

「(…………これだわ)」

 

その時、実渕に1つの手段が浮かんだ。

 

「(これしかないわ。練習なんて当然したことない。けれど、去年と今年、何度も見せてもらったからイメージは十分。……やるのよ。彼が去年やったように…!)」

 

意を決した実渕が動く。

 

「……えっ?」

 

その時、空は目の前で起こった異変に思わず声を上げる。意識して広げていた距離がさらに広がっていたからだ。

 

「まずい!」

 

慌てて距離を詰める空。

 

「遅いわよ」

 

十分に距離を空けた実渕は後ろに飛んでさらに距離を取り、天のシュートを放った。

 

「くそっ!」

 

必死に距離を詰め、ブロックに飛んだ空だったが、紙一重で届かなかった。

 

 

「あれは……日向のバリアジャンパー!」

 

実渕が行ったことの正体を伊月がいち早く気付いた。

 

「あの野郎…!」

 

そんな実渕を日向は笑みを浮かべながら悪態を吐いた。

 

 

ボールはリングへと向かっていき…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

「よし!」

 

スリーを決めた実渕は拳を握った。

 

「ナイス玲央姉!」

 

駆け寄った葉山とハイタッチ。

 

「ナイッシュゥゥゥッ!」

 

「あなたのは嫌よ」

 

根武谷のハイタッチはかわした。

 

「ナイスです。けど、よくいきなりであれが出来ましたね?」

 

「付け焼き刃よ。少なくとも、2度と通用しないでしょうね。…けれど、次なんてどうでもいいわ。この1本が成功すれば」

 

四条の質問に、実渕は笑みを浮かべながら答えた。

 

「見事だ、実渕。今日ほど、お前が味方で良かったと思った日はない」

 

「征ちゃん…」

 

赤司が労いの言葉をかける。

 

「ここからが正念場だ。1本止めて1本決める。残り時間は僅かだ。みんな、死力を尽くすぞ!!」

 

『応!!!』

 

赤司の激に、洛山選手達が声を張り上げて応えた。

 

残り時間は僅か、点差は1点。勝敗の行方は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





続けて投稿致します。

予定は同日21時を予定しています。

1話に纏めて投稿しても良かったのですが、ボリュームがあまりにも多くなってしまったので、分けて投稿します。

それでも4時間後にまた!


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第59Q~夏の王者~


投稿します!

ついに、長かったインターハイが終わります。

結末は、刮目してご覧ください。

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り30秒。

 

 

花月 92

洛山 91

 

 

「ちっ…!」

 

「気にするな。今のは仕方がない。それよりも次の1本だ。取るぞ」

 

「うす!」

 

失点をし、悔しがる空に声をかけ、渇を入れる三杉。

 

 

点差は1点にまで縮まり、花月のオフェンス。

 

「残り時間は僅かだ。最後の1滴まで搾り出せ!」

 

赤司が声を張り上げ、チームを鼓舞する。

 

『応!!!』

 

洛山選手達はその鼓舞に力一杯応えた。

 

花月も先ほどの洛山同様、ボールを回してチャンスを窺う。

 

「…くっ!」

 

大地にボールが回ると、葉山が距離を詰め、激しくプレッシャーをかける。葉山の決死のデイフェンスに、大地は攻めあぐね、やむなくパスを回す。

 

「ちっくしょう…! ゾーンは解けてるはずなのに、プレッシャーはゾーンの時以上じゃねぇか…!」

 

ボールを持った空に対し、実渕が激しくチェックする。大地と同じく、空も手をこまねく。

 

「この状況やで? 少しは焦ってもええやんけ! これが百戦錬磨の洛山なんか!?」

 

天野も付け入る隙のない洛山のディフェンスを前に思わず悪態を吐いてしまう。

 

だが、洛山とて、平静を保っているわけではなかった。1本でも決められればその時点で敗北はほぼ濃厚。花月からボールを奪い、さらに決めなければならない為、表情には出さないが、心中ではかなり焦っていた。

 

ボールを回す花月。花月とて、この1本を失敗すればたちまちピンチに陥る。故にリスクの高い攻めは出来ない。強力なリバウンダーがいるとは言え、洛山相手、この状況では確実の取れる保証はないからだ。

 

刻一刻と時計は進んでいく。

 

「(落ち着け。残り時間を考えれば、花月は確実に何処かで仕掛けてくる。そこを見極めるんだ!)」

 

赤司はボールが回る中、三杉をピッタリとマークしながら考えを巡らせる。そしてボールは三杉に渡る。

 

「(…来る!)」

 

直感的に赤司はここで三杉が仕掛けてくると判断する。

 

「(だがどうする…)」

 

ゾーンが切れた今、赤司と言えど、三杉を止めるのは困難。そして、赤司は三杉に『アナライズ』されている為、もはや動きはほとんど読まれている。

 

「(……情けない話だ)」

 

この状況で何1つ打開策を生み出せないことに赤司は腹立だしさを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『なら、諦めるか?』

 

もう1人の赤司が声を掛ける。

 

『そんな選択肢は俺にはない』

 

『仮にもキセキの世代を束ねていた者が情けない限りだな』

 

『キセキの世代の名などにもはや、こだわりはない』

 

それは本来の赤司の本音だった。

 

『紫原も青峰も負けた。日本から離れ、アメリカに新天地を求めた2人に』

 

『…』

 

『ここで俺まで負けてしまえば、彼ら(キセキの世代)を貶めることになる』

 

『…』

 

『だから、負けるわけにはいかない。彼らの為にも…。昨年、敗北しても尚、俺を主将と認め、ここまで付いてきてくれたチームメイトの為にも…!』

 

『同感だ』

 

もう1人の赤司が頷いた。

 

『ならば、僕も力を貸そう。勝利の為に』

 

『頼む。力を貸してくれ、ここまで共に戦ってきたみんなの為に…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールは巡り、三杉の下へやってきた。

 

「(…データは揃った)」

 

赤司が入れ替わって以降、三杉は赤司のテータを集め続けていた。そして、データは十分に揃った。

 

ゆっくりと三杉がドリブルを始める。レッグスルーからクロスオーバーを仕掛ける。赤司もそれにピタリと付いてくる。赤司の重心が片足に乗ったのを確認すると…。

 

「(――ここだ!)」

 

バックチェンジで切り返した。

 

 

『来たぞ』

 

「(分かっている。この『眼』のおかげで全て見えている)」

 

『使いこなしてみせろ。僕のエンペラーアイを!』

 

 

切り返したボールの赤司の手がボールへと伸びる。

 

「っ!?」

 

重心の乗った足の逆に切り返したはずのバックチェンジに反応され、軽く動揺を覚える三杉。だが、三杉とて百戦錬磨の選手。集めたデータ通りに行かないことはままあること。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

赤司の手がボールに触れる直前、バックロールターンで反転し、赤司の左手側を抜けていった。

 

「(ただ先の未来を狙っても三杉誠也には通じない。ならば、俺はさらにその先の未来を――狙い撃つ!)」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

三杉が目を見開いて驚愕した。赤司は手を後ろに伸ばし、バックロールターンで反転した直後を狙い撃ち、ボールを狙い撃った。

 

これまで、三杉は赤司のデータを集めるべく、読みではなく、相手の動きに合わせてプレーをしていた。その為、その時は常に後手であった。だが、データが揃った今、三杉はデータに伴った読みで赤司に仕掛けてきた。そこを赤司は狙った。

 

レッグスルーからのクロスオーバーにあえて反応し、重心を片足に乗せた。そこから、バックチェンジに誘発させる。そこを狙いすましたかのようにボールを狙う。だが、赤司の本命はここからだった。

 

予想外のバックチェンジに反応され、ここからの対処として、バックロールターンしかないと読み、反転して背後に回られた直後のボールの位置を逆算し、そこへ手を伸ばし、ボールを狙い撃つ。未来のその先と三杉の心理まで読んだ赤司の二重三重の罠であった。

 

三杉の手元から離れるボール。いち早く掴んだのは葉山だった。

 

「赤司ぃぃぃぃっ!!!」

 

咆哮と共に赤司にボールを渡す。

 

残り時間、19秒。

 

「走れ!」

 

ボールを受け取った赤司の号令と共に洛山選手達が走り出す。

 

「くっ、戻れ!」

 

花月も三杉の声でディフェンスに戻っていく。

 

「行かせるかぁっ!」

 

「ここは絶対抜かせません!」

 

誰よりも早くディフェンスに戻った空と大地が赤司の前に立ち塞がる。

 

「この期は逃さない。突破する」

 

赤司は左右の切り返しと緩急で空と大地を翻弄。

 

「くっ!」

 

その切り返しと緩急で大地がアンクルブレイクを起こし、座り込んでしまう。空は天性のバランス感覚で踏みとどまる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロスオーバーからのダックインで態勢を低くして切り込んで空の横を抜ける。

 

「(何としても、ファールしてでも…!)」

 

何とか赤司の足を止めようと空が赤司に仕掛けるが、紙一重で赤司に突破されてしまう。

 

「っ!?」

 

だが、その直後、目の前に現れたのは三杉。空と大地の足止めが功を奏した。

 

赤司は思わず足を止めてしまう。赤司に続いて洛山選手達もフロントコートになだれ込んでくるが、花月の選手もディフェンスに戻ってくる。赤司が足を止めている間に空は実渕に、大地は起き上がり、葉山のマークに付いた。

 

堀田も根武谷をゴール下でマークし、天野も四条をローポストでマークした。

 

残り時間僅かでのターンオーバー。この攻撃は洛山にとって事実上最後のオフェンス。しくじれば敗北は濃厚。だが…。

 

「…くっ!」

 

花月のディフェンスを突破することが出来ない。洛山は体力気力を振り絞り、奮闘しているが、それでも目の前のマークを振り切れない。

 

赤司にも、もう目の前の三杉をかわす力は残っておらず、ボールをキープするだけで精一杯の状況。このままでは、ボールを奪われるのは時間の問題。

 

「(……っ! 突破が出来ない…! パスも…!)」

 

パスを捌いたとしても、他の4人のいずれもシュートまで持っていくことは出来ない。八方塞がりである。

 

「(諦めてたまるか! たとえ絶望的な状況でも、俺は絶対に諦めない!)」

 

『そうだ、絶対にあきらめてなるものか。今一度、頂点に立つ為に!』

 

「『絶対に、勝つんだ!』」

 

表の赤司と内なる赤司の想いが1つになった。その時…。

 

 

 

――ドクン!!!

 

 

 

その時、赤司の眼に異変が起きる。

 

コート上の敵味方がスローになった。

 

だが、赤司は感覚的に気付く。時間が流れが遅くなったわけではないと。

 

今、自分が見ているものは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――コートの上の未来であると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう理解した時、身体が勝手に動いていた。その眼で捉えた未来に従って動いていた。

 

 

――バチィン!!!

 

 

次の瞬間、ボールは動いていた。それは、四条の手元に。

 

四条は、自身をマークしている天野を何とか振り切ってボールを貰おうと、瞬間的に動いてパスを要求する。だが、パスを要求しようと両手を前に出して声を出そうとした瞬間、その手にボールが収まっていた。

 

それは、四条をマークしていた天野すら反応出来ていなかった。

 

「っ!?」

 

三杉はここで気付き、ボールを目で追った。

 

ボールを貰った四条も、パスを要求する前に手にボールが収まっていたことに僅かに動揺するが、すぐに頭の中を切り替え、シュート態勢に入った。

 

「なっ……んやとぉっ!?」

 

そこで初めて天野も四条がボールを持っていることに気付いたが、何もすることが出来なかった。

 

ボールの位置、タイミング、指にかかる縫い目の角度まで完璧なパスからのシュート。ボールはキレイな放物線を描き…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リング中央を的確に射抜いた。会場は一瞬静寂に包まれた後…。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

大歓声が会場中に轟いた。

 

 

第4Q、時間8秒。

 

 

花月 92

洛山 93

 

 

洛山がついに逆転に成功する。

 

『よし!』

 

拳を握り、喜びを露わにする洛山選手達。

 

「まだだ! 戻れ!」

 

ここで、赤司が声を張り上げた。

 

赤司には、スローワーとして立つ堀田がボールを構えて大きく振りかぶっている姿が映っていた。いち早く状況を理解していた赤司はすぐさま指示を飛ばした。

 

堀田がボールを力一杯投げると、センターライン直前で三杉がボールを受け取り、ドリブルを始める。それと同時に花月、洛山の選手が走り出す。

 

「っ!」

 

ドリブルで突き進む三杉を赤司が追いかける。センターラインを越えたところで横に並んだ。

 

 

――7秒…6秒…。

 

 

「(ここは絶対に死守する!)」

 

赤司が手を伸ばし、ドリブルをするボールに手を伸ばす。

 

 

――ピッ!

 

 

だが、その手は空を切る。手がボールに触れる直前、ビハインドバックパスを出した。ボールは左を走っていた空に渡り、空はすぐさま三杉にリターンパスを返した。

 

 

――5秒…4秒…。

 

 

「行かせないわ!」

 

「絶対止めてやる!」

 

リターンパスを受けた三杉の前に、実渕と葉山が立ち塞がる。だが、三杉は構わず前進…加速していく。

 

実渕と葉山との距離がどんどん近づいていくが、三杉は止まらない。それどころかさらに加速していった。2人と三杉がぶつかる直前…。

 

「「っ!?」」

 

三杉は実渕と葉山とぶつかる直前に精度の高いフェイクを見せ、無条件反射を引き起こし、2人を左右にどかし、道を空けさせた。空いた隙間を三杉は通過していく。

 

ツーポイントエリアに侵入し、フリースローラインを越えたところで跳躍する。

 

 

――3秒…2秒…。

 

 

「これで終わりだ!」

 

「何としてでも止めてやる!」

 

ここで、赤司が正面から、根武谷が背後から挟み込むようにブロックに現れた。

 

前後からのブロック。前と後ろを塞がれてしまう。

 

「っ!」

 

ここで、三杉が右に回るように回転し、赤司の横を反転する。それと同時にボールを左手に持ち替え、左腕を外に伸ばし、手首のスナップを利かせてボールをヒョイと放り投げた。

 

「「っ!?」」

 

ボールはリングへと向かっていく。赤司と根武谷も懸命に手を出し、ボールに触れようとするが、僅かに届かず。ボールはリングへと向かっていく。

 

 

――1秒…。

 

 

まるで時間の流れが遅くなったかのようにボールはゆっくりとリングに向かっていく。ボールは重力によってゆっくり落下していき…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜っていった。

 

 

――ボムっ…。

 

 

リングを潜ったボールがコートに落下すると…。

 

 

『お……おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

この日、1番の大歓声が会場中を揺るがした。

 

『…』

 

逆転した直後に逆転を許し、茫然とする洛山選手達。

 

「まだだ! ボールをくれ!」

 

ただ1人、赤司が素早いリスタートを要求する。根武谷がボールをすかさず拾い、赤司にボールを渡した。

 

「っ!?」

 

振り返ってドリブルを開始しようと振り返るとそこには、すでに自陣に戻り、ディフェンス態勢を整えている花月の選手達の姿が映った。

 

「くっ…!」

 

それでも歯を食い縛ってドリブルをする赤司。

 

1度は逆転を許し、それでも再度逆転に成功した洛山。後8秒……後たった8秒凌ぎきれれば勝利をその手に掴む事で出来た。

 

だが、そのたった8秒を凌ぐ力が、洛山には残っていなかった…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、試合終了のブザーが鳴り響く。夏のインターハイの頂点を決める最後の激闘の幕が降ろされた。

 

 

試合終了。

 

 

花月 94

洛山 93

 

 

『やったぁぁぁぁっ!!!』

 

試合の勝利…夏の王者の称号を得た喜びを露わにするのは花月の控えの選手達。

 

『…』

 

茫然とするのは実渕、葉山、根武谷の3人。四条は拳をきつく握りしめ、歯をきつく食い縛って悔しさを露わにする。

 

「…」

 

赤司はギュッと目を瞑り、こみ上がるものをこらえている。

 

「勝った……のか…」

 

茫然と、未だ勝利を実感出来ていない空がポツリと呟く。

 

「ええ、勝ったんです。我々が」

 

そんな空の肩に手を置き、事実を伝える。

 

「ハァァァァァァ、勝った…」

 

天野はその場に座り込み、勝利を得たことに安堵の言葉を漏らす。

 

「……ふぅ」

 

そっと溜息を吐いたのは三杉。

 

「(…危なかった。最後の赤司は、間違いなく未来を…それも、コート全体の未来が見えていた。…どういう経緯でそうなったのは分からないが、もし、彼の覚醒が後1分早かったら…、もし、残り時間がなかったら…、負けていた)」

 

紙一重の勝利。それをものにしたことにホッと胸を撫でおろした。

 

「手強い相手だったな」

 

そんな三杉の下に歩み寄ったのは堀田だった。

 

「ああ。苦戦することは分かっていたが、まさかここまで追いつけられるとはね」

 

「全くだ。洛山…赤司征十郎、恐ろしい選手だ」

 

堀田も、辛うじて勝利を手に出来たことに胸を撫でおろしていた。

 

「日本に帰ってきて良かった。俺達と戦える新たな可能性に出会い戦えた。それに、自惚れかけていた自分自身を見つめ直す良いきっかけにもなれた」

 

「ああ。うかうかしていたら、確実に奴らに抜かれてしまうだろう。俺も、さらに精進しなくてはな」

 

三杉と堀田は、さらに精進することを誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「洛山が、負けた…」

 

囁くように呟いたのは、火神だった。

 

昨年、冬に決勝でギリギリの激闘をし、夏では自分達を破った洛山。その洛山が敗れた事実を茫然と受け止めていた。

 

『…』

 

他の誠凛の選手達も火神と同様、茫然とコートを眺めていた。

 

「…」

 

青峰は無言でコートを見つめ、その中の三杉を睨み付けるように凝視していた。

 

「今日の洛山は強かった。特に赤司がいなければ、ここまで試合は拮抗しなかっただろう」

 

「…そうだな。同じポイントカードとしては、すげー勉強になったわ」

 

緑間がメガネのブリッジを押し上げながら洛山を称えた。高尾も、赤司に称賛の言葉を贈っていた。

 

「洛山も、内容では負けていなかった」

 

「…」

 

「それでも、勝ったのは花月だ」

 

氷室がそう言うと、紫原は、無言でコートを見つめていた。

 

「……赤司っち、惜しかったッスね」

 

残念そうに黄瀬が呟く。

 

「…俺なんかまだまだッスね。もっと強くならないと…!」

 

自分自身の未熟さを自覚し、海常を優勝に導く為、更なる成長を自分自身に誓った黄瀬であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

閉会式…。

 

 

決勝戦が終わり、コート上では閉会式が行われている。

 

『優勝は、花月高校!』

 

それと同時に拍手が会場中から巻き起こる。

 

「代表者の方、4名お願いします」

 

三杉と堀田が前に出る。だが…。

 

『…』

 

それ以外の者が誰も前に出ようとしなかった。

 

「…馬場さん、真崎さん、行って下さい」

 

「「えっ?」」

 

空のこの言葉に、驚いたのは馬場と真崎だった。

 

「このインターハイは三杉さんと堀田さんがいたからこそですから」

 

「でもな…」

 

「試合に出たのはお前達だし、俺達は別に…」

 

空の提案に戸惑う2人。

 

「お願いします。私達はここまで戦うことが出来たのは、先輩達の助力あってのことでした」

 

「そういうこっちゃ。俺らは冬に貰う予定やし、何やったら来年の夏にも貰うつもりや。せやから気にせんと行ったって下さい」

 

大地と天野が2人の背中を押すように言った。

 

「馬場、真崎、早く行け。運営のスタッフを困らせるな」

 

「「は、はい!」」

 

上杉の言葉に2人は慌てて前に出て、優勝トロフィー、賞状、記念品を受け取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

優勝

 

花月高校

 

準優勝

 

洛山高校

 

3位

 

桐皇学園高校

 

 

ベスト5

 

 

赤司征十郎 PG 洛山高校

 

三杉誠也  SG 花月高校

 

葉山小太郎 SF 洛山高校

 

青峰大輝  PF 桐皇学園高校

 

堀田健   C  花月高校

 

 

得点王

 

青峰大輝  桐皇学園高校

 

 

MVP

 

三杉誠也  花月高校

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

こうして、夏のインターハイの王者を決める長く、熱い戦いが終結した。各々が結果を受け止め、更なる進化と勝利を誓って各々の場所へと帰っていく。

 

1つの戦いが終わった。次に待ち受けるのは…。

 

 

 

――秋の国体。そして、冬の選抜、ウィンターカップ…。

 

 

戦いは、次のステージへと移行する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――はずだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

インターハイが終わって幾ばくかの日が過ぎたある日…。

 

 

――パシャパシャ…!

 

 

絶え間なく、眩い程のフラッシュが焚かれている。

 

 

――場所は某国際空港…。

 

 

大勢集まる記者達のカメラ先には、異国の地、アメリカからやってきた5人の選手達がいた。

 

彼らはアメリカでも有名なストリートバスケチームの選手であり、NBA選手にも匹敵すると言われている実力者である。

 

それは、新たなイベントであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Jabberwock、来日……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





以上をもちまして、インターハイは終了です。

結果においては、納得出来ない方もいらっしゃるかもしれませんが、このような結末とさせていただきました。

当初の予定としては、洛山が大差で負ける予定でした。実際、洛山戦を投稿した最初の話までその予定でした。実際、紫原以上の堀田と青峰以上の三杉。ディフェンス力キセキ級の天野に五将以上の空と大地がいるのですから、そうするのが無難だと思っていました。ですが、原作を読み直している内に原作キャラに愛着がわき、結末を一部変更することとしました。この戦力差でどうのようにすれば違和感のない拮抗した試合に出来るか、原作を読み直したり、他のバスケ漫画を読んだり。バスケの動画を見たり、バスケの戦術などが記載してあるサイトに目を通したりと、かなり大変でした…(^-^;)

それらを参考にし、書いてみましたが、バスケ素人の自分ではこれが限界でした。

洛山を勝利にしてほしいという要望があり、それも面白そうとも思ったのですが、それをすると、この二次のコンセプトがぶれるのでやめました。申し訳ありません…m(_ _)m

さてさて、これが今年最後の投稿になります。今年は、多忙が極まり、投稿が月1あるいは月以上になって投稿が滞ることも多々ありました。来年は、なるべく一定のペースをもって投稿出来たらと思います。

以上、今年最後の投稿でした!

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第60Q~EXTRA GAME~


投稿します!

この二次の新年1発目の投稿となります。

それではどうぞ!



 

 

 

インターハイの激闘が終わり、数日が経過した。

 

花月の選手達は静岡に帰郷し、インターハイ制覇の余韻もそこそこに、既に次の目標に向けて、猛練習を重ねていた。

 

ちなみに、目の前に迫る大会は三大大会の1つである、国体なのだが、静岡選抜に確実に呼ばれるであろう三杉と堀田は8月下旬にアメリカへ戻る為、辞退する予定であり、有力候補の空、大地、天野も既に辞退の意思を固めている。

 

花月の照準は冬の選抜、ウィンターカップに定まっており、県の選抜の選手達と試合をするより、アメリカに戻るまで残り僅かな期間、三杉と堀田に練習及び指導を受けた方が有益だと判断した結果である。

 

だが、今、花月の選手達の話題は、国体でもウィンターカップでもなく…。

 

「ジャバウォックって、どういうチームなんだ?」

 

休憩時間、給水を終えた空がボールをいじりながら大地に尋ねた。

 

「私も詳しくは存じませんが、アメリカでは有名なストリートバスケのチームで、人気、実力共にアメリカ内で随一らしいですよ」

 

大地がボールを起用に指で回しながら質問に答えた。

 

「めっちゃつよーて有名らしいな? 俺も聞いたことくらいはあるで?」

 

そこへ、天野がタオルで汗を拭いながら話に加わってくる。

 

「アメリカと言えば……三杉さん、堀田さんはこいつらのこと知ってますか?」

 

ここで空が、遅れてやってきた三杉と堀田に話を振った。

 

「……知っている」

 

「良く知っているよ。……良く、ね」

 

「?」

 

どこか歯切れの悪い2人を見て、疑問に思う空だったが、深くは追及はしなかった。

 

「東京で開催されるエキシビションマッチが午後にテレビ放送されるんやから、楽しみはそれまでとっとこうや。休憩時間はもう終いや。ぼちぼち練習再開しよか。監督がおらんからってサボったらあかんで」

 

「おっと、そうっスね」

 

天野に促され、空を始めとする花月の選手達は練習を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その日の練習を終え、各々が学校に備え付けられているシャワーで汗を流し、着替えると、学校の一室に集まった。

 

「さてさて、いよいよだな」

 

その場にいる全員が備え付けのテレビモニターに釘付けになる。そして、ついに待ちに待った試合中継が始まる。

 

司会進行役に促され、本日の試合の対戦カードのチームの1つ、チームstrkyがやってくる。このエキシビションマッチ前に開催された大会に参加し、並み居る猛者を擁するチームを薙倒し、ジャバウォックへの挑戦権を獲得した。

 

「チームstrky。昨年時、キセキの世代を擁する高校の主将、主力だった選手達が集まったチーム。現在、在籍している大学でも1年生ながらスタメン、あるいはベンチ入りを果たした実力者達よ」

 

姫川がコートにやってきた5人の解説をする。

 

「知ってるぜ。去年のキセキの世代の試合の資料映像で見た。かなりいい動きしてたよな。…けど、あの5番だけは知らねぇな」

 

空が、チームstrkyの5番を指差す。

 

「樋口正太。洛山のマネージャーやっとった選手やけど、かなり出来るで」

 

「知ってるんですか?」

 

「直接やりおーたことはあらへんけど、1度だけ見たことがある。身長こそ恵まれへんかったみたいやけど、実力は相当やった。3年に進級する直前に怪我して最後の年は試合に出られへんようになって、それで去年はマネージャーやっとったらしいで」

 

「なるほど」

 

天野の説明に空は納得し、再びテレビ画面に注目した。

 

そして、司会進行にアナウンスによって、チームstrkyと反対側のコートに目当てのチームがやってくる。

 

「来た…! ジャバウォック!」

 

チームジャバウォック。アメリカ最強のストリートバスケチームがコートにやってきた。

 

「っ! …やっぱ、アメリカ人だけあってでかいな」

 

「うん。テレビ越しに威圧感が伝わってくるよ」

 

テレビ画面に注目していた松永と生嶋がコートに出てきたジャバウォックの5人の迫力に思わず冷や汗を流す。

 

「特に、あの4番と8番が特に…。他の3人も規格外ですが、彼らはその中でも別格です」

 

大地は、その中の2人に注目した。

 

「ナッシュ・ゴールド・Jr、ジェイソン・シルバー。あの2人は良く見ておけ」

 

堀田が2人を指しながら言った。

 

「ああ。あの2人は現時点でのキセキの世代を上回る実力者だ」

 

『っ!?』

 

「っ!? マジすか」

 

キセキの世代の実力を身をもって知っているだけに、空も、他の花月の選手達も驚きを隠せなかった。

 

整列が終了し、互いに礼をすると、待ちに待った試合が始まる。

 

 

――ティップオフ…。

 

 

ジャンプボールを制したのは、身長2メートルを誇る岡村の遥か上をシルバーが叩き、ジャバウォックボールからスタートした。

 

ボールは4番、ナッシュに渡る。マークするのは7番笠松。笠松がディフェンスに入ると、ナッシュはリズミカルにかつスピーディーにドリブルを始める。

 

『…っ! …っ!』

 

その、あまりに速く、変則的なドリブルに、笠松は翻弄される。ひとしきりドリブルをすると突如、ナッシュが両腕を広げた。

 

「……? ボールは何処に行った?」

 

テレビの試合に注目していた馬場だったが、ボールの所在を見失う。カメラマンも同じく見失ったらしく、別カメラに映像が切り替わったり、引きの画面になっている。

 

「っ! ボールはナッシュの背中だ!」

 

見えていた空が指を指しながら立ち上がった。ナッシュが肘を背中に突き動かすと、そこからボールが飛び出し、ボールは7番のもとに。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのまま7番がシュートを決め、先取点を決めた。

 

「高速かつ変則のドリブルからのエルボーパスかよ…。スゲーな」

 

一連のプレーに、空は素直に驚愕する。

 

試合はそのまま、ジャバウォックペースで進行していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

試合は終盤、点差は既に、勝敗が覆りようが無い程のまでに広がっている。ジャバウォックは、当初の期待通り、ハイレベルのテクニックを披露している。だが…。

 

「……何か、胸糞悪いな」

 

静まり返った室内で、空が沈黙を破るように言った。

 

ジャバウォックは、相手をおちょくったり、挑発するかのようなテクニックを披露している。ストリートバスケにおいて、それらは高度なテクニックであるのだが、ジャバウォックは、それしかやっていない。それ故、そのプレーが相手を見下しているように映り、憤りを隠せない。

 

試合を生で観戦している観客もそれを感じとっており、当初は沸いていた観客も、試合終盤の今では静まり返っている。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合はそのまま、ジャバウォックの圧勝で終わった。

 

『……っ』

 

あまりに一方的、圧倒的な点差では終わってしまった為、チームstrkyの選手達は何も言葉を発せずにいた。

 

チームstrkyの7番、笠松が悔しさを押し殺しながら相手のリーダーであるナッシュに握手を求めた。それと同時に局アナの1人がマイクを持ってインタビューを求めた。

 

『今日の試合で確信したよ。この国でバスケごっこしている奴ら全員、今すぐやめるか死んでくれ』

 

ナッシュの口から飛び出したのは、日本でバスケを行う全ての者に対しての侮辱だった。

 

続いてナッシュは、自分達の今の心境を相撲と猿に例え、日本人はその猿であると言い放つ。

 

『バスケは俺達人間(アメリカ人)が行う崇高なスポーツだ。お前達サル(日本人)に、バスケをする資格なんてねぇんだよ』

 

そう締めくくり、握手を求めた笠松の手に唾を吐きかけたのだった。

 

会場の空気は最早最悪であった。大半が憤りを隠せなかった。それは、この中継を見ている者達も同様であった。

 

「あのクズ野郎共! ふざけたこと言いやがって!」

 

ダン! と、机を強く叩き、憤りを露わにした。他の花月の者達も、一様に険しい表情をしていた。

 

「ハハハッ、彼は本当に変わらないな」

 

そんな中で、三杉だけが、笑い声を上げていた。

 

「三杉さん! 笑い事じゃないですよ! あいつら、俺達のこと舐めくさって――っ!?」

 

笑う三杉に怒りをぶつけながら振り返る空だったが、その瞬間、心臓を握りしめられたかのような感覚に陥り、最後まで言葉を続ける事が出来なかった。

 

「本当に変わらない。あの時と全く…」

 

当の三杉の表情は全く笑っておらず、それどころかその眼は今でかつて見たことがない程鋭くなっていたからだ。

 

「…三杉さんは、彼らのこと知ってるんですか?」

 

そんな三杉の圧倒されながらも、大地が尋ねた。

 

「……良く知っている。ナッシュ・ゴールド・Jr、ジェイソン・シルバーは、アメリカに渡った俺達に挫折と絶望……そして、屈辱を植え付けた奴らだ」

 

三杉の変わって説明をする堀田だったが、その表情は鬼のように険しくなっており、過去の悔しからか、きつく食い縛った際の歯ぎしりまで伝わってきた。

 

「……三杉さんと堀田さんは、あの2人と何かあったんですか?」

 

恐る恐る空が尋ねた。

 

「ああ。…あの出来事は今でも夢に出るくらいだからな」

 

そう前置きすると、三杉は話し始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって、東京のストリートバスケの会場…。

 

会場は、ナッシュの発言により、怒りに震える者、気分を害した者など、異様な空気に包まれていた。

 

『……っ!』

 

その中でも、試合では圧倒的な点差を付けられた上に、挑発紛いのテクニックの的にされたチームstrkyの5人はひと際悔しがっていた。

 

「……あの悪ガキ共…!」

 

チームstrkyの5人と同じくらい怒りを露わにしている者がいた。それは、今回、ジャバウォックのガイドを担当していた、相田景虎である。

 

ここまでにも、ジャバウォックは騒動を起こしたり等、怒りを抱えていたが、ここに来てのナッシュの発言でそれが爆発した。

 

コートを後にしようとしているジャバウォックの選手達を引き留めるべく、コートに足を向かわせる。だが…。

 

「………何の真似だ?」

 

そんな景虎の肩に手を置き、止める者が現れた。

 

「放せ。ここまでコケにされて黙って引き下がれとか言うんじゃねぇだろうな。……ゴウ」

 

景虎を引き留めたのは、上杉であった。

 

「そんなことは言わん」

 

「だったら――」

 

「お前、まさか忘れた訳じゃないだろうな?」

 

「忘れるだぁ? いったい、何の――っ!」

 

上杉の言葉に、景虎はあることを思い出した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「あれは、4年近く前、俺と健がアメリカに渡って2年が経った頃の事だ」

 

三杉が背もたれに体重を預け、話し始めた。

 

「アメリカ渡った当初、俺達のバスケはすぐには通用しなかった。身体能力面でも、テクニック面でも、やはり、アメリカ人との差は大きかった」

 

『…』

 

「それでも、俺達はがむしゃらに練習をし、力を付けていった。2年が経った頃になってようやく通用し始めた。当初は勝てなかった相手にも勝てるようになり、その結果、チームメイトにも認められ、確かな手応えを感じていた。そんな時、あいつらは現れた」

 

 

――おいおい、ここはいつから動物園になったんだ?

 

 

「ナッシュとシルバー。彼らは、俺達に蔑んだ目を向けながらそこに現れた。その時、一目見て、この2人は他のアメリカ人とは別格だと理解した。だから俺達は、侮辱とも取れる言葉を俺達に吐き掛ける2人に勝負を挑んだ」

 

 

――サルが…、2度とそんな生意気な口叩けねぇようにしてやるよ。

 

 

「結果は惨敗。俺達のバスケは、彼らの足元にも及ばなかった。俺のテクニックも、健のパワーも、あの2人の前では全くの無力だった。今日の彼ら(チームstrky)と同じく、屈辱的な負け方をした」

 

 

――ここまで力の差を見せつけりゃ、サルのお前らでも十分理解出来ただろ? バスケは人間(アメリカ人)がする崇高なスポーツだ。サルはとっとと動物園に帰ってバナナでも咥えてるんだな。

 

 

「悔しかった。彼らの言葉を否定することは愚か、一矢も報いることも出来なかったことに…」

 

『…』

 

三杉と堀田は当時の無念を思い出し、悔しそうな表情をする。その悔しさは、他の花月の選手の者達にも伝わった。

 

「それがきっかけとなって、俺達は今まで以上に努力をするようになった。アメリカ人からはクレイジーだと言われるほどにね」

 

最後は皮肉気に笑いながら言った。

 

「……信じられないですよ。あのクソ野郎共が、三杉さん達より強いなんて…」

 

三杉を尊敬し、慕う空は、三杉からの話を聞いても信じることが出来なかった。それは空だけでもなく、他の花月の選手達も同様だった。

 

「何を暗くなっているんだ? 手も足も出なかったのは事実だ。…だが、それはその当時の話だ」

 

語られた事実により、下を向いていた者達が、堀田の言葉を聞いて顔を上げる。

 

「今の俺達はあの時とは違う。俺達は、いつか来るであろう『この時』の為に、力を付けた――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって、東京のストリートバスケの会場…。

 

景虎はあることを思い出した。

 

ジャバウォックが日本に滞在中、親善試合は2試合組まれている。1試合は、チームstrkyとの試合。もう1試合は、今年度の総体王者校との試合である。それはつまり…。

 

「あのガキ共を叩き潰すのは、俺の教え子達の役目だ」

 

上杉は、ジャバウォックの選手達を睨みつけながら言った。

 

「…っ、だが、あの三杉と堀田をいるとはいえ、かなり厳しい戦いになるぞ。勝率は万に一つ……ほとんど0に近い勝率だ」

 

「かもしれないな」

 

「それでもやるって言うのか?」

 

「当然だ」

 

景虎が懸念をするも、上杉は迷いなく言い切った。

 

「……分かった。そこまで言うならお前達に任せる。だがな、もし、お前達が負けたなら――」

 

「その時は好きにしろ」

 

「……可能な限り、俺もバックアップをする。必要なら、あいつらにも協力を要請する。何かあれば、俺に言え」

 

「恩に着る」

 

景虎に礼を言い、上杉は会場を後にしていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「日本に帰ってきて良かった。キセキの世代という、新たな可能性と戦えることが出来ただけではなく、かつての雪辱を晴らす機会を与えてくれたのだからね」

 

「試合は1週間後。相手は見ての通りの強敵だ。インターハイ決勝の洛山とは比較にはならない程にだ。全員、覚悟は出来ているな?」

 

堀田が、戦う意思があるか否か、問いかけ、見渡すと、そこには、覚悟を決めた花月の選手達の表情があった。

 

「問われるまでもないですよ。あのクソ共は絶対ぶっ潰す」

 

「同感です。あのような礼儀もスポーツマンシップもない行いと言動は許せません」

 

「僕も…、自分にこんな感情があったことにびっくりしたよ。彼らは許せない」

 

「奴らをこのまま好き放題言わせたままアメリカに帰らせる訳にはいかない」

 

「せやな。あれはあかんわ。あないなバスケは大阪でも笑えんわ」

 

次々に、ジャバウォック達と戦う意欲と共に、怒りが露わになっていった。

 

「フフッ、聞くまでもなかったな。よし、これから試合に向けて、最後の調整に入る。当然、練習はこれまで以上に厳しくする。全員、付いて来いよ」

 

『はい(おう)!!!』

 

三杉の号令に、その場にいた全員が気合の入った声で応えたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月の選手達は一斉に部屋を飛び出し、体育館に向かった。

 

試合までは残り1週間。勝率を少しでも上げる為、少しでも自身を成長させる為、自らに厳しい修練を課していく。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

体育館内にスキール音が鳴り響く。

 

ボールを受け取った空が瞬間的に周囲を見渡し、そのままドライブで切り込んでいく。

 

「それでは判断が遅い! ボールを持ってから次の行動を考えるな。ボールを受け取る前に最低3パターンは考えておけ。ボールを受け取ると同時に最善のパターン選べるようにしろ」

 

「う、うす!」

 

「綾瀬、お前はまだドリブルの際に手元を意識し過ぎている。それではインターハイでは通用してもジャバウォックの連中には通用しないぞ」

 

「は、はい!」

 

体育館では三杉の指導の声が響いている。

 

今までにない厳しい指導の声。花月の選手達はその指導に必死に応えていた。

 

時刻が夜19時を越えた頃、体育館に東京でのジャバウォックの視察を終えた上杉が現れた。

 

「全員手を止めろ! 集まれ!」

 

体育館に入ると、上杉は選手達を集めた。

 

「監督。今日は東京で1泊されるのではなかったんですか?」

 

選手達が集まると、馬場が尋ねた。

 

「そんな悠長なことをしている場合じゃなくなったからな。とりあえず、今日はもう時間が時間だ。クールダウンして上がれ」

 

上杉は、選手達にクールダウンを指示した。

 

「帰ったらすぐにインターハイの時のように荷造りをしろ。それを持って明日、駅前に5時集合だ。遅れるな」

 

「荷造り? いったい、何処に行くんですか?」

 

疑問に思った空が尋ねる。

 

「東京に行く。予定では当日に行く予定だったが、理事長が当日、移動の疲労が残らないよう試合当日までホテルを手配してくれた」

 

「マジすか。理事長太っ腹ッスね」

 

理事長の配慮に空は苦笑いをした。

 

「東京に付いたらそこから秀徳高校で合同練習を行う。試合まで1週間しかないからな。今まで通りの環境で練習するより、違った環境、競い合う相手がいた方が捗るだろうからな」

 

「秀徳高校…」

 

東京のかつての三大王者の一角であり、キセキの世代の緑間が所属する東京屈指の強豪校である。

 

「秀徳は設備が整っているし、そこの監督とは旧知の仲で、突然の要請にも二つ返事で了承してくれた。当日、バックアップ要因を何人か呼ぶが…それは向こうで話す」

 

突然の上杉による決定に、戸惑う者もいたが、選手達は了承した。

 

「連絡事項は以上だ。全員クールダウンの後、急いで片付けを済ませて帰宅しろ。以上解散!」

 

上杉の号令と同時に選手達は散らばり、クールダウンをして後、片付けをしてから各々帰路に向かった。

 

そして翌日…。

 

早朝5時に集まった花月の選手達は、東京行きの新幹線に乗り、試合に向けての最後の調整場所である秀徳高校に向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





と、この二次ではこのような形に致しました。

もしかしたら、疑問に思う方がもしかしたらいるかもしれないので、説明されていただくと、この話内で、三杉と堀田が惨敗した描写がありましたが、これは、2人が覚醒する前の話なので、ナッシュ達の実力は原作据え置きです。

ところで、黒子のバスケの映画が3月に放映されますね。ファンとしては待ち遠しい限りです。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第61Q~合同練習~


投稿します!

久しぶりに文章量が大幅に増えました…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

「ここが秀徳高校か…」

 

新幹線に乗り、その後、電車を乗り継ぎ、ようやく秀徳高校に到着した。

 

「正邦や泉真館も広かったけど、ここも結構広いな」

 

以前に東京遠征に寄った正邦と泉真館と比べ、その広さに感心する空。

 

「同じ強豪校で、進学校ですからね。当然の規模でしょう。…どうやら出迎えの方がいらしたみたいですね」

 

大地の視線の先、監督思しき者と選手が1人やってきた。

 

「遠路はるばるご苦労様です。秀徳高校の監督、中谷です」

 

「主将の宮地です」

 

監督の中谷が挨拶をすると、横に立つ選手、主将の宮地が続いて挨拶をした。

 

「久しぶりだな、マサ。今日は突然の申し出を受けてくれて感謝する」

 

相手側の挨拶が終わると、続いて花月の監督である上杉が挨拶をした。

 

「こちらとしても、インハイ王者校との練習は選手達には良い経験にもなるし刺激にもなる。願ったり叶ったりだ」

 

「そう言ってくれると助かる。今日から6日間、よろしく頼む」

 

「こちらこそ」

 

上杉が差し出した手を中谷がその手を握り、握手に応じた。

 

『よろしくお願いします!』

 

続いて花月の選手達が一斉に頭を下げた。

 

「では、時間も惜しい、すぐに合同練習を始めようか。…宮地、花月高校の方々を控室まで案内してやってくれ」

 

「分かりました。では、俺に付いてきて下さい」

 

主将の宮地の案内に従い、花月の選手達は控室に向かい、そこで着替えを済ませ、体育館へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「本日より6日間、秀徳高校と花月高校の合同練習を始める」

 

『よろしくお願いします!』

 

控室にて着替えを終え、体育館に集合し、互いに礼をした。

 

「練習内容は、花月高校が来週に試合がある都合上、花月高校に合わせた練習内容になる。つまり、実戦を想定した練習を中心とする」

 

中谷から、秀徳の選手達に大まかな練習内容が伝えられる。

 

「(あいつが緑間真太郎…)」

 

空は、秀徳の選手達の一角に釘付けだった。キセキの世代シューター、緑間真太郎に…。

 

バランスを崩さなければコート上の何処からでも決めることが出来るという、キセキの世代の中でもひと際異才を放つ選手である。

 

「…」

 

同じシューターである生嶋も、興味深々の眼差しで見つめていた。

 

「そういえば、バックアップ要因を呼ぶと聞きましたが…」

 

「ああ、それなら――」

 

馬場が、上杉に尋ねると…。

 

「チュース!」

 

体育館の入り口から、突如、声が聞こえてきた。

 

「あっ! 誠凛の火神さん!」

 

そこには、誠凛高校のエース、火神大我の姿があった。

 

「バックアップ要因って、誠凛の火神のことだったのか…」

 

真崎がまさかの人物に驚きを露わにする。

 

「僕もいます」

 

『っ!?』

 

火神の隣に、黒子テツヤが立っており、それに今気付いた花月の選手達の何人かが驚いていた。

 

「よう、来てやったぜ」

 

「こんにちわー! よろしくッス!」

 

続いて現れたのは、桐皇高校学園、キセキの世代の一角である青峰大輝と、同じく一角の黄瀬涼太であった。

 

「青峰さんに、黄瀬さん…!」

 

続いて現れた、まさかの人物が現れ、空は興奮を隠せないでいた。

 

「どうせなら、レベルの高いプレイヤーがいた方が練習になる思ったのでな、知り合いを通して合同練習の参加を要請しておいた」

 

上杉は、景虎を通じて誠凛、そして、桐皇の監督に連絡を取り、合同練習の参加を要請していた。

 

「…ホントなら、お前とはコートの上以外で会うつもりはなかったんだが…、お前、ウィンターカップには参加しないらしいじゃねぇか」

 

青峰が睨み付けるような視線を向けながら三杉に喋りかけた。

 

「ああ」

 

「…ちっ、なら仕方ねぇ、だったらこの合同練習でインハイの借りを返す。それで我慢してやるよ」

 

軽く苛立ち気味に青峰は納得させていた。

 

「にしても、まさか黄瀬涼太までおるなんてな」

 

「いや、参加を要請したのは、誠凛の火神と黒子、桐皇の青峰だけだ。他は呼ぶには距離があるからな」

 

天野の言葉に、上杉は顎に手を当てながら答えた。

 

「いやー、桃っちから話を聞いて、居ても立ってもいられなくなって、ここまで飛んで来ちゃったッスよ。あっ、アンタが三杉さんッスね? よろしくッス!」

 

「フフッ、どうも」

 

黄瀬が喜々として三杉に駆け寄り、三杉の手を握った。

 

「わざわざ来てくれたところ悪いが、参加の話は来ていない。監督の許可は貰っているのだろうな?」

 

「……あー、それは…」

 

上杉が尋ねると、黄瀬は目を逸らした。

 

「黄瀬君、どうやら招かれていなかったみたいですね。会えて嬉しかったです。冬に会いましょう」

 

「ちょっと、黒子っち! そんなこと言わないでほしいッス!」

 

黒子の容赦ない一言に、黄瀬は涙目になった。

 

「まあまあ、せっかく来てくれたんだし、どうせなら参加してもらいましょう」

 

三杉が黄瀬の肩を持つ形で参加を促した。

 

「うぅ…そう言ってくれると助かるッス。監督達には黙って来たんで、このまま帰ったら絞られるッス」

 

「…ハァ。分かった。だが、参加するなら監督の許可を取れ。選手を預かる以上、無断という訳にはいかないからな」

 

上杉は、溜息を吐きながら黄瀬の参加を許可した。

 

「さて、選手は全員揃ったな。後は…」

 

「こんにちわー」

 

「すごいメンバーが揃ってるわね」

 

最後にやってきたのは、桐皇のマネージャー、桃井さつきと、誠凛の監督、相田リコ。

 

「来たな。リコの嬢ちゃんには、コーチの補佐と練習メニューの作成を、桃井さんには、チームサポートと情報収集にあたってもらう」

 

「よろしくお願いします」

 

「もうまとめてあります!」

 

リコは頭を下げ、桃井は手持ちのカバンからDVDを取り出した。

 

「さて、これで全員揃ったな。これより、合同練習を開始する。では、アップを開始してくれ」

 

「まずはランニングから始めようか。宮地、花月の選手達を連れていつものランニングコースを案内してあげなさい」

 

「はい。では、花月の人達は俺達に付いてきて下さい。おら、お前ら! 遅れんじゃねぇぞ!」

 

秀徳の宮地を先頭に、合同練習に参加する選手達は体育館を出ていった。

 

こうして、花月と秀徳+黒子、火神、青峰、黄瀬を加えた選手達による合同練習が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

アップを済ませると、本格的に練習が始まった。

 

現在、3ON3を始めている。三杉、生嶋、松永。この3人に対するのは、火神、黄瀬、秀徳の選手の支倉。

 

花月側のオフェンスで始まり、現在、ボールを持っているのは三杉。松永には支倉。残りは…。

 

「三杉さんはオレのマークッスよ!」

 

「俺だろ!?」

 

三杉の前に火神と黄瀬が立ち塞がっており、生嶋はノーマーク。

 

「火神っち! 譲ってほしいッス!」

 

「お前が譲れよ!」

 

3ON3は既に始まっているのだが、火神と黄瀬は尚も言い争っている。目の前の三杉は苦笑を浮かべ…。

 

「構わない、来なよ。それくらいでちょうどいい」

 

2人にそう言い放った。

 

「…今の発言、舐められてるみたいでムカつくな」

 

「…上等ッス。止めてやるッスよ」

 

今の三杉の言葉にカチンときた2人は、表情を引き締め、改めて三杉のマークを始めた。

 

「本気出しても良いッスよね?」

 

「もちろん」

 

「ハッ! 覚悟しろよ」

 

火神は両腕をだらりと下げ、集中力を全開にし、黄瀬は…。

 

「っ!? パーフェクトコピー…!」

 

自身の最大の武器であるパーフェクトコピーで待ち構える。

 

「火神も黄瀬も本気だ。本気のあの2人のダブルチームなんて、抜くどころか、パスを捌くのも至難の業だぞ…」

 

三杉対火神・黄瀬。その対決に、体育館中の選手達が注目する。

 

「…」

 

「…」

 

それは、青峰と緑間も同様であった。

 

「…」

 

三杉から見て左に火神、右に黄瀬。三杉は重心を下げながら手に持ったボールを下げ、ドライブの態勢を取る。火神と黄瀬も、三杉の仕掛けに備える。

 

『…(ゴクリ)』

 

体育館中の選手達が固唾を飲んで勝負を見守る中、三杉が動きを見せる。

 

「「っ!?」」

 

三杉が少ないモーションからのフルドライブで火神の右手側を抜けていく。その速さに、マークをする2人は目を見開く。

 

「(速ぇっ! だが)…まだだ!」

 

火神は瞬時に反応し、横を抜けていく三杉を追いかけるべく、振り返る。だが…。

 

「なっ!?」

 

だが、そこに三杉の姿はなかった。

 

「(フェイクか!? 何て精度だ! マジで本物と見分けが付かなかった!)」

 

精度の高すぎるフェイクを前に、火神は完全に釣られ、反応してしまった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

対して三杉は、フェイクに反応した火神とは逆、黄瀬の左手側からドライブで仕掛けた。

 

「っ!?」

 

黄瀬も、火神程ではないが、フェイクに反応してしまい、横を抜けられてしまう。

 

「(まだだ! まだ止められる!)」

 

「(まだッスよ! まだ追いつける!)」

 

火神は持ち前の野生で瞬時に反応し、反転して三杉を追いかける。黄瀬は、青峰のコピーで三杉を追いかけた。だが…。

 

 

――ドン!!!

 

 

「ぐっ!」

 

「がっ!」

 

その瞬間、火神と黄瀬はタイミング悪く接触してしまう。

 

 

――バス!!!

 

 

三杉はそのままレイアップを決める。

 

「ってぇ~、おい黄瀬! 何やってんだよ!?」

 

「ったた、火神っちこそ、何やってんスか!?」

 

立ち上がるや否や、掴み合いを始める2人。

 

「ったくあの2人、何やってんだよ…」

 

そんな2人を見て、勝負を見守っていた面々はその光景を呆れていた。ただ…。

 

「…」

 

「…」

 

青峰と緑間だけは真剣な表情でコートを見つめていた。

 

「…見たか?」

 

「……あぁ」

 

緑間の問いかけに、一言返事を返す青峰。

 

「今のプレー、偶然でも事故でもない。三杉誠也のテクニックと駆け引きが引き起こした結果なのだよ」

 

今の一連プレーを偶然ではなく、三杉の手で引き起こしたものだと断言する緑間。

 

「まず、高精度のフェイクを見せ、黄瀬と火神を引っかける。完全にかかった火神と僅かにかかった黄瀬。この時点で、2人は背中合わせになる。その後、フェイクをかけた方とは逆方向に切り込む。三杉誠也の進路を塞ごうとする火神と青峰のコピーで追いかけようとする黄瀬。だが、背中合わせとなってお互いが見えていない2人は…」

 

「……ふん」

 

緑間の解説に鼻を鳴らす青峰。

 

「お前が負けた訳が良く理解出来たのだよ」

 

「うるせーよ」

 

悪態を吐いた青峰は、コートへと向かっていった。

 

 

次の組は、堀田、馬場、真崎と、青峰、高尾、木村(秀徳、木村信介の弟)がコートにやってきた。

 

「…」

 

青峰は、堀田を鋭い眼光で凝視する。

 

「うはっ! 見ろよ木村、視線だけで人殺せそうだぜ」

 

「はぁ」

 

ケラケラ笑いながら木村の肩を叩いて青峰を指差す高尾。木村は、困った表情で返事を返した。

 

そして3ON3は始まり、ボールは高尾から始まる。

 

「…っしゃ」

 

「くっ!」

 

ドリブルを始めた高尾は、目の前でマークする真崎をクロスオーバーでかわす。その後、ヘルプに馬場がやってくると…。

 

「よっ」

 

ノールックビハインドパスで青峰にパスを出した。パスを受けた青峰はそのままリング目掛けてドリブルで進行していく。

 

「…来たな」

 

ドリブルする青峰に立ち塞がるように堀田が現れる。青峰は堀田の目の前で急停止し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを堀田の股下に投げつけ、通すと、自身も同時に加速、堀田の横を抜けていく。

 

「うおっ! 青峰が抜いた!」

 

ボールを掴んだ青峰はそのまま跳躍。ボールをリングに叩きつける。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、その直前に手に持ったボールを叩き落とされる。

 

「堀田スゲー!」

 

堀田が後方から手を伸ばし、ダンクが決まる寸前にボールを叩き落とした。

 

「ちっ!」

 

青峰は舌打ちをしながら着地した。

 

「ふぅ」

 

一息吐き、ズンっと同時に堀田が着地した。

 

「マジかよ…」

 

その光景を見て高尾は茫然としながら呟いた。

 

「誘いこまれたな」

 

ポツリと緑間が呟くように言った。

 

堀田は青峰の仕掛けを誘い込む形でディフェンスをした。それが功を奏し、ブロックに成功した。

 

堀田の組と青峰の組がコートから去ると、次の3ON3が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後、合同練習は定期的に休憩を挟みながら行われていく。

 

要所要所で花月、秀徳の監督の指示が飛び交い、両校共に、普段より過酷で濃密な練習が続く。一応、練習は来週の花月の試合に合わせた練習メニューが組まれているが、秀徳の選手達や黒子、火神、青峰、黄瀬は、文句1つ言わず、練習メニューをこなしていった。

 

時刻が8時を回ると、練習は終わりとなった。

 

「よし、今日の練習はここまで。各自、ストレッチを入念に行うように、秀徳の1年生はストレッチの補助を。残りは片付けに入るように」

 

中谷が教え子達に指示を出した。

 

「同じく、こっちもストレッチを行え。身体を冷やすなよ。後、ストレッチが終わったら校舎2階の視聴覚室で資料を見ながら来週の試合の対策を立てる。場所の案内は…」

 

「あっ、はいはい! 案内、俺がします! ついでに俺も参加させてくれると嬉しいッス」

 

案内役を探していると、高尾がそれをかってでた。

 

「分かった。では頼む。帰宅時間が大丈夫なら自由に参加して構わない」

 

上杉は高尾に任せ、ミーティングにも了承した。

 

「あの、すみません、俺もう少し練習したいんですけど…」

 

空が手を上げながら申し出た。

 

「神城、お前は来週の試合に出場予定だろ。練習よりも相手の対策を――」

 

「――構わないぞ。マサ、良いか?」

 

申し出を馬場が諫めたが、上杉がそれを了承した。

 

「モップ掛けと戸締りだけしっかりしてくれれば構わないよ」

 

「あざっす! では、失礼します」

 

了承を得ると、空はその場から離れていった。

 

「私も、空だけでは最後大変でしょうから」

 

それに続いて大地も空の後を付いていった。

 

「あいつらあんだけ練習してまだ動けんのかよ。元気だなー」

 

「あの2人はいつもあんなもんやで」

 

「マジかよ…」

 

感心半分、呆れ半分で高尾が2人を目で追っていった。

 

「にしても、一緒に練習して分かったけど、花月の奴らはホント化け物ばかりだな」

 

ストレッチをしながら高尾が語り出す。

 

「三杉さんと堀田さん。マジで化け物だ。キセキの世代や火神が2人がかりでようやく互角。俺自身3ON3で少しやり合ったけど、全く相手にならなかったし」

 

「…」

 

喋る横で緑間がストレッチをしている。

 

「あの1年坊コンビも、帝光破って全中の覇者になっただけのことはあるわ。スピードに乗ったらマジで手ぇ付けらんねぇ。真ちゃんもやられてたしな」

 

「やられてないのだよ」

 

突っ込むように緑間が口を挟む。

 

「あの天野って奴も、インハイじゃ周りが派手過ぎて目立たなかったけど、ディフェンス、リバウンドがかなり上手い。宮地さんがほぼ封殺されてたし、支倉さんや木村もほとんどリバウンドを取らせてくれなかった」

 

「…」

 

「控えの生嶋と松永も、全中ベスト5に選ばれるだけあって、良い動きしてた。…そりゃ、優勝する訳だよな」

 

半ば、溜息を吐くように言う高尾。

 

「……ふん」

 

緑間は鼻を鳴らした。

 

「スタメンはもちろん、控えも強いしさ、来週のジャバウォックとの試合ももしかしたら…」

 

「……俺はそうは思わないのだよ」

 

期待する高尾に対し、緑間はバッサリ否定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって視聴覚室。

 

「そんじゃ、これからスカウティングを始めるぞ」

 

景虎が合流し、ジャバウォックの選手の詳細を解説が始まった。

 

「まず、ジェイソン・シルバー。身長210㎝、体重115㎏、ポジション、センター。こいつの特徴は何と言っても、凶悪なまでの身体能力だ。全てを兼ね備えたその肉体は、アメリカでは『神の選ばれた躰』とまで呼ばれる程だ」

 

「称賛される反面、性格は粗悪で女好きと、日常生活では最悪と言わざるを得ず、『神も選ぶ人間を間違えた』とも言われています。練習嫌いで有名であり、筋力アップ、スキルアップの為の反復練習も一切やったことがありません」

 

景虎に続いて桃井が補足説明を入れる。

 

「マジかよ…、練習しないでここまで…」

 

桃井の説明を聞き、思わず表情が曇る花月の選手達とスカウティングに参加した秀徳の選手達。

 

「世界には、努力しないでも勝っちまう天才ってのが稀にいるんだよ。キセキの世代も天才と言われているが、こいつはスケールが違う。分かりやすく言うならこいつは、青峰以上のアジリティーと、火神以上の跳躍力、紫原以上のパワーを兼ね備えた選手だ」

 

『…』

 

景虎の分かりやすい説明に、その場にいる選手達は言葉を失った。

 

「……本当に化け物じゃねぇかよ」

 

化け物という言葉が思わず高尾の口から零れた。

 

「……フフッ、良いぞ。そうでなくては戦い甲斐がない」

 

だが、堀田1人が、シルバーの詳細を聞いて笑みを浮かべた。

 

「シルバーの相手は健に任せる。…というより、健にしか抑えられない。任せるよ」

 

「ああ、任せてくれ」

 

堀田にシルバーの相手を託し、次の選手の解説に移った。

 

「次だ。もう1人はジャバウォックのリーダー、ナッシュ・ゴールド・Jr。身長は190㎝、体重は82㎏、ポジションはポイントガード」

 

『…』

 

「シルバー程じゃないが、身体能力はトップクラス、オールラウンダーで、変幻自在のトリックプレーを好む、通称マジシャン。…だが、この選手は謎が多い」

 

『…』

 

「正直、それだけでジャバウォック…特にシルバーが従うとも思えんし、過去のゲームを試合を見ても、全く底を見せていない」

 

「だろうね。少なくとも、昔やった時は、トリックプレーよりもオーソドックスなプレーの方が多かった」

 

「えっ? 三杉さん、ナッシュと試合したことあんの?」

 

「ああ。…完敗したけどね」

 

高尾の質問に、三杉は苦笑しながら答えた。その瞬間、室内に軽く動揺が走った。

 

「こいつの相手だが、ポジション的には神城になるのだが…」

 

「残念だが、今の空ではナッシュの相手は出来ない。俺がやる」

 

三杉がナッシュのマークをかってでた。

 

「他の3人も、実力はキセキの世代と比べても遜色ない。分かってはいたが、激戦は免れないな」

 

上杉の口から飛び出る現実。誰もが理解していたことだが、それでも資料を見て改めて現実を突きつけられる。

 

その後も、資料映像を見ながらジャバウォックのスカウティングは続いた。

 

「さて、時間も遅い。今日はここまでとしよう」

 

上杉がそう締めくくり、スカウティングは終わった。各々が立ち上がり、部屋を後にしていった。

 

「そういや、神城と綾瀬はまだ体育館か? ったく、しょうがない連中だ」

 

「自販機で飲み物買ってくるついでに俺が声を掛けてきますよ」

 

呆れる上杉。三杉は空と大地を呼びにいく為、花月の選手達の輪から離れていく。

 

「…」

 

その姿を見ていた火神がその後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

小銭を入れ、ボタンを押し、取り出し口からスポーツ飲料を取り出し、蓋を空ける三杉。

 

「三杉さん」

 

そこへ、火神がやってきた。

 

「火神君?」

 

「頼みがある。来週の試合、俺も一緒に戦わせてくれ」

 

真剣な表情で火神が三杉に頼み込んだ。

 

「ジャバウォックは強ぇ。さっき映像見て改めて分かった。戦力になるはずだ。だから――」

 

「抜け駆けしてんじゃねぇぞ火神」

 

言葉を遮るように火神の背中から聞こえてくる。

 

「青峰! それに黄瀬も!」

 

「どうもッス」

 

火神が振り返るとそこには青峰と黄瀬がいた。

 

「まあいい。俺の要件もそこの馬鹿と同じだ。俺も戦わせろ」

 

「俺もッス! 良いッスよね?」

 

青峰も黄瀬も来週の試合の参加を申し出た。それを聞いて三杉はフゥッと溜息を吐いた。

 

「やれやれ、3人揃って何の用かと思えば…、来週の試合は花月とジャバウォックで行われるものだ。君達は違う高校なのだから参加は――」

 

「そんなくだらねぇことはどうでもいいんだよ。…はっきり言ってやる。来週、負けんぞ」

 

負けると言い切る青峰。

 

「…ほう」

 

「ジャバウォックは荷物を抱えたまま倒せるような相手じゃねえ。それはお前も分かってんだろ?」

 

「荷物……それは、チームメイトの事を言ってるのか?」

 

「そう言ってんだよ」

 

目を細めて聞く三杉に対し、青峰ははっきり断言した。

 

「お前と堀田以外、ジャバウォックの誰も止められねぇ。お前と堀田にしても、あのナッシュとシルバーとか言うカスを相手にするだけで手一杯になる。どう考えても負けしかねぇだろ」

 

「青峰、言い過ぎだ……と言いてぇが、事実だ。俺にも、花月のメンバーだけで勝てる絵が浮かばねぇ。お前らが負けたら、日本でバスケやってる奴全員が馬鹿にされちまう。だから参加させてくれ」

 

「どうせ向こうも文句なんか言わないッスよ。俺自身、笠松元主将の仇を討ちたいッスから、お願いします!」

 

青峰に続き、火神、黄瀬も心の内を三杉に伝え、参加を強く申し出る。

 

「……ダメだ」

 

それでも三杉は申し出を拒否した。

 

「ざけんな! てめぇ、いつまでくだらねぇことにこだわって――」

 

「納得出来てないようだから理由を説明する」

 

激昂する青峰を手で制し、自販機横のベンチに座った。

 

「君達は確かに戦力としては申し分ない。だが、君達が加入することで1番の問題になるのは連携だ。試合まで後5日。とてもじゃないがそれまでにかみ合わせることは出来ない」

 

「「「…」」」

 

「ジャバウォックは、チームがバラバラで倒せるような相手じゃない。君達のように、プレーも性格も我の強い者達を入れて試合をすればミスを連発して失点を重ねるだけだ。まあ、連携を無視して個人技の主体のバスケという選択肢もある。そう…」

 

ここで三杉は青峰を指差す。

 

「君達が全中三連覇を決めた帝光中がしてたようなバスケだ。これなら半端な連携をするよりは機能する。だが、格下が相手ならともかくジャバウォックレベルにそんな試合をしたら惨敗は必至だ」

 

「「っ!?」」

 

これを聞いて青峰と黄瀬が顔を引き攣らせる。

 

「これが君達を参加させない理由だ。かみ合わず、チームを崩壊させるかもしれないリスクを背負った実力者を使うくらいなら、花月の選手だけで戦った方がまだマシと言える。納得は出来たか?」

 

「…っ」

 

理由を聞いて尚も反論したい火神だったが、三杉の述べた理由は戦略と状況に基づいたものである為、反論出来なかった。

 

「だったらせめて、ベンチにだけでも置いてほしいッス。それなら…」

 

「それもダメだ」

 

黄瀬がせめての提案をしたが、それも三杉は拒否した。

 

「それは逆効果だ。君達がベンチにいたら、自分がダメでも君達がいるとという安心感から俺と健以外のチームメイト…特に空と綾瀬が実力を発揮出来なくなる」

 

「…なら、お前と堀田だけで勝つって言うのかよ」

 

青峰だけは、尚も食い下がる。

 

「そんなわけがないだろ。バスケは5人でやるものだ。寧ろ、来週の試合、キーマンになるのは空と綾瀬だ」

 

「あん?」

 

青峰は三杉の返事を理解出来なかったのか、怪訝そうな表情をした。

 

「話はさっきのことにも起因するが、インターハイで空と綾瀬が実力を発揮出来なかったのはひとえに、危機感がなかったからだ」

 

「危機感?」

 

話が理解出来ず、火神が聞き返す。

 

「例え抜かれても俺や健が取り返してくれる。点を取られても俺や健が取り返してくれる。こんな状況じゃ、実力が発揮出来るわけがない。まあ、洛山との試合では多少の危機感を覚えてくれたから少しは実力を発揮出来たけどな」

 

「「「…」」」

 

「直接やったことがある青峰君や、火神君と黄瀬君も、今日1日2人を見てたなら分かっているはずだ。あの2人の資質は俺や君達と同格だ。今回の状況は、2人の実力を限りなく引き出してくれるはずだ」

 

「ちっ! 分かったよ」

 

青峰は舌打ちをし、つまらなそうな表情で踵を返した。

 

「奴等とやり合いてぇってのもあるが、それ以上に俺は、俺に勝ったお前があんなカス共に負けるのが我慢ならねぇんだよ。ここまで言ったんだ、勝てよてめえ」

 

それだけ告げ、その場を後にしていった。

 

「…納得出来たわけじゃないが、ひとまずは諦める。無茶言ってすんませんでした」

 

「気が変わったらいつでも声を掛けてほしいッス、では」

 

それに続いて火神と黄瀬も青峰に続くように後を追っていった。

 

「やれやれ」

 

三杉は再度溜息を吐き、飲み干した空き缶をゴミ箱に投げて入れると、空と大地のいる体育館へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

早朝から秀徳高校の体育館に花月と秀徳の選手と、火神、黒子、青峰、黄瀬が集まり、合同練習は行われた。一通りの準備運動が終わり、これから実戦練習が始まるのだが…。

 

「空と綾瀬は残ってくれ」

 

「「?」」

 

三杉は空と大地をその場に残らせた。

 

「青峰君と黄瀬君も残ってくれ」

 

「あん?」

 

「何スか?」

 

同時に青峰と黄瀬にも声をかけた。

 

「空、綾瀬はここから別メニューだ。空は黄瀬君、綾瀬は青峰君とここからずっと1ON1だ」

 

「おっ!」

 

「っ!」

 

「あぁ!?」

 

「?」

 

三杉の言葉に、空は顔を綻ばせ、大地は目を見開き、青峰はイラついた表情をし、黄瀬は頭に『?』を浮かべていた。

 

「それだけだ。じゃ、解散」

 

それだけ告げて三杉はその場を後にしようとした。

 

「ふざけんじゃねぇぞ! 俺はお前とやる為にここに来たんだ。何でこいつの相手しなきゃならねえんだよ!」

 

青峰はその場を後にしようとする三杉の背中に怒鳴りつけた。すると三杉は振り返り…。

 

「君はバックアップ要因としてここに来たんだから協力してくれないと困る。そんなにやりたいなら大地が1ON1出来なくなるか、練習後に相手になってやるから、ひとまず俺の言うことに従ってくれ」

 

「…ちっ、分かったよ。おら、早く来い。俺とやり合う気が起きなくなるくらいまで潰してやる」

 

「はい。よろしくお願い致します」

 

イラつきながらも三杉の指示に従い、リングのある方へと向かう青峰。大地は頭を下げると、後を付いていった。

 

「青峰っち、ここに来てからずっとカリカリしてるッスね。それじゃ、俺達は反対がやろっか。よろしくッス、神城君」

 

「お願いしまっす!」

 

黄瀬に続き、空も後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それから、日程は順調に進んでいった。

 

実戦練習を重ね、着実とチームの練度を上げ、空と大地は青峰と黄瀬と1ON1をひたすら繰り返す事で自力を上げていく。

 

練習終了後は、ジャバウォックの試合の資料を見てスカウティングを重ね、対策を立てていった。

 

そして日付は、試合前日まで進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「足を止めるな! 疲れた時程足を動かせ!」

 

試合が翌日に迫るも、相変わらず、厳しい練習は続けられている。上杉から厳しい指示が飛ぶ。そこへ…。

 

「これは…、わざわざ東京までいったい――っ!? …それは本当なのですか?」

 

上杉の元にやってきた1人の人物。その人物から伝えられた言葉に上杉の表情が曇った。

 

「1度練習は中断だ! 花月の部員は全員ここに集まれ」

 

紅白戦の途中だったが、上杉は試合を中断させ、花月の選手を自分の元に集めた。

 

「監督ー、いったいどうしたんですか? ……って、理事長?」

 

疑問を浮かべながら上杉の元に駆け寄ると、上杉の横に立つスーツを着た妙齢の美女、花月高校の理事長がいることに気付いた。

 

「…皆さんにお伝えしなければならない事があります」

 

いつもの柔和でにこやかな表情ではなく真剣な表情で理事長が話し始めた。その内容に、この場にいる者達の表情が一変した。

 

「…嘘ですよね?」

 

ワナワナと身体を震わせながら空が聞き返す。理事長は表情を変えることなく首を横に振った。

 

他の者達も空と同様の面持ちであった。

 

理事長の口から告げられた内容は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――明日のジャバウォックとの試合がなくなった。という内容だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





黒子が文字通り影が薄くなってしまいました…(^-^;)

もうまもなく試合が始まるのですが、今の心境として、試合描写は映画を見てから書きたいなあっという思いもあります。理由として、映画を見てからの方がよりイメージが沸くというのと、万が一原作にはない、映画で初めて公表される原作設定が出てくると、修正するのも帳尻合わせをするのも面倒くさい。というのが理由です。現状、もう1つの二次もありますので、しばらくはそっちを優先してもいいかなぁ……というのが今の率直な心境です。さて、どうしよっかな…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第62Q~開始~


投稿します!

お待たせしましてすみません…(^-^;)

リアルが立て込んで結果、ここまで空いてしまいました。

『』表示は大勢のセリフと今回は、セリフ内は日本語表記されていますが、実際には英語で話しています。主に、ジャバウォックの選手達とジャバウォックの選手達と会話を交わす三杉や堀田のセリフが『』表示になりますので悪しからず…。

それではどうぞ!



 

 

 

花月高校理事長から告げられた内容に、花月の選手はもちろん、その話を聞いていた者達も衝撃を受けた。

 

「試合が無くなったって、いったいどうして…」

 

納得出来ない空は理事長に詰め寄りながら尋ねた。

 

「……それは」

 

真剣な表情で尋ねる空に、普段は柔和な表情が特徴の理事長は悲痛な表情で視線を逸らす。

 

「教えていただけませんか? どのような経緯で試合がなくなったかを」

 

同じく納得出来ない大地が真剣な表情で尋ねた。

 

「……彼らに同行しているガイドからは、体調不良を理由にキャンセルすると連絡が来ました」

 

花月の選手達の真剣な視線を受け、理事長は経緯を話し始めた。

 

「体調不良やて?」

 

説明を受けた天野は、半分拍子抜けの表情で返した。

 

理由は告げた理事長の表情は、暗いものであった。

 

「おいおいマジかよ。これじゃあいくら何でも拍子抜け過ぎるだろ」

 

話を聞いていた火神が思わず声を上げた。

 

「本当にそれが理由なんですか?」

 

説明に納得出来ない馬場が再度問い詰めた。

 

「恐らく、理由は別にあるかと思います。ですが、何度問い合わせをしても相手方からはその一点張りで…」

 

この場にいる全員、理事長を含めて、試合の中止とその理由に納得出来ていなかった。

 

「ああ違う。理由は別にある」

 

「景虎さん!」

 

そこへ、景虎が現れた。

 

「何か知っているのか?」

 

「ああ。何せ、俺もあいつらの案内役の1人だからな」

 

上杉の問いかけに、景虎は溜息混じりで答えた。

 

「体調不良なんてのは嘘っぱちだ。あのクソガキ共は昨日も今日も元気に観光してやがったよ。体調不良なんてのは、今回のイベント側がお前達(花月高校)に気を使ってそれっぽい理由を付けただけだ。今も街で遊び歩いてやがるよ。あの様子じゃ、奴ら、ハナから試合をする気はなかったんだろうな」

 

「はぁ!? どういうことですか!?」

 

景虎の言葉を聞いて空が怒りを露わにする。

 

「試合をする気がなかったって、だったら何で前日になって急に…」

 

「奴等は、親善試合の為にこっちが招いた身だ。当然、滞在中の費用は全てこっち持ちだ。だが、早々に試合をキャンセルしちまったら日本に滞在する理由がなくなり、帰国することになっちまう」

 

「まさか…!」

 

ここで真崎が真相に気付く。

 

「そうだ。あの悪ガキ共はタダで日本で豪遊してえからこのタイミングでキャンセルしやがったんだよ。ったく、既に会場の設営も終わって、チケットも完売した後だってのによ」

 

景虎は頭を掻きながら不快感と怒りを露わにした。

 

「……あのクズ共…、どこまで日本人舐め腐れば気が済むんだよ…!」

 

『…っ』

 

鬼のような形相を浮かべる空。それは、この場にいる全て者が同じであった。

 

「……私はコミッショナーのところへ行ってきます。試合がキャンセルとなれば、手続きがあるでしょうから」

 

理事長がそう告げ、体育館を後にする。

 

「理事長、待って下さい」

 

その理事長を、三杉が呼び止めた。

 

「景虎さん。ジャバウォック達は、今、何処にいるか分かりますか?」

 

「奴等なら、六本木の繁華街にいるが、どうする気だ?」

 

「彼らが試合に乗り気でないなら、直接俺が交渉に行きます。理事長、景虎さんは明日の試合の準備を進めておいて下さい」

 

そう理事長と景虎に告げ、三杉は体育館を後にしていった。

 

「俺も行こう。交渉の頭数は多い方がいいだろう」

 

その後に堀田が続いていった。

 

「俺も行く。ごねるようなら力付くでもその気にさせてやる!」

 

「私も行きます。何か力になれるかもしれませんし、何より、空を放っておくわけには行きませんので」

 

さらに空と大地が続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は六本木の繁華街の一角の建物。目の前の建物には煌びやかで淫靡なネオンに看板が立っていた。

 

「ここに彼らが?」

 

「ああ。間違いねぇ」

 

三杉の問いかけに、景虎は答える。

 

そこは、女性が客席に付いて接待を行う飲食店、所謂キャバクラであった。

 

「あいつらって、俺達と大して歳変わらないじゃなかったっけ?」

 

「ああ。あいつらがどうしても行きてえって言うもんだからな」

 

げんなりしながら空の質問に答える景虎。

 

「行くぞ」

 

三杉はそれだけ発して階段を下りて行った。それに続くように堀田、空、大地、そして、景虎が階段を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

階段を下り、扉を開くと、店内は僅かに薄暗く、所かしこにソファーがあり、男性客の横で女性が接待をしていた。

 

店内に入ると、男性従業員が三杉達を一瞥し、駆け寄ってきた。

 

「申し訳ありませんが、当店は18歳未満の入店をお断りして――ひっ!」

 

退店を促そうとする従業員の前に、堀田が歩み出た。

 

「心配はいらない。俺達は客じゃない。この店の客に用があるだけだ。用が済めばすぐに帰る」

 

「か、かしこまりました」

 

身長2メートルを超え、いかつい顔の堀田から見下ろされながら言われた従業員は、表情を引き攣らせながら了承した。

 

「お邪魔させてもらうよ。さて……向こうだな」

 

従業員に一言添え、店内の一角、ひと際けたたましい英語が飛び交う席へ三杉は向かっていった。

 

『ギャハハハ! もうちょっとこっち寄れよ』

 

「ちょっ、ちょっとストップ! 勘弁してよ!」

 

黒人の1人がキャバ嬢の肩に腕を回し、自身に引き寄せると、女性は拒絶の意思を示した。

 

『……あっ?』

 

その時、金髪の白人が、自分達の席に歩み寄ってくる三杉達に気付いた。

 

『お楽しみのところ、邪魔するよ』

 

三杉が流暢な英語で金髪の白人、ジャバウォックのリーダー、ナッシュに声を掛けた。

 

『何だ、てめえらは?』

 

『明日の君達の対戦相手さ』

 

『あん?』

 

そう告げられると、ナッシュは目の前の三杉と、堀田、空、大地と一瞥していく。

 

『明日の試合はやらねぇって言ったはずだ。聞いてないのか?』

 

『もちろん聞いている。だが、それでは困るからこうして直接出向いてきたわけだ』

 

鋭い視線を向けながら告げるナッシュに、三杉は淡々と告げていく。

 

『見たところ、コンディションに問題はなさそうに見える。明日、試合をするのに影響があるとは思えないが?』

 

『…ったく、何かと思えば』

 

面倒くさそうに溜息を吐くナッシュ、その他のメンバーは三杉達を見てニヤニヤしている。

 

『せっかくの親善試合。しかも、あれだけかましておいて、予定していた試合をせずに帰るってのは、筋がとおらないんじゃないのか?』

 

『親善だぁ?』

 

すると、ナッシュは両脇に抱えたキャバ嬢を払いのけ、立ち上がると、三杉の近くまで歩み寄ってきた。

 

『笑えねぇんだよ。何で結果の見えた試合に付き合わなきゃならねぇんだよ。これ以上、サル回しに付き合うつもりはねぇ』

 

蔑むような表情でナッシュは三杉達に告げた。

 

『結果の見えた…ね。それはどうかな』

 

『なに?』

 

『先の試合を見た限り、俺は君達と戦っても負ける気がしなかったけどね』

 

『…あっ?』

 

微笑を浮かべながら言う三杉。ナッシュは軽く苛立った表情を取る。

 

『確かに、あれだけこき下ろす発言をした後だ。負ければ日本とアメリカの両国から笑いものだ。恥を晒したくないという君達の胸の内も理解出来る』

 

淡々と挑発染みた言動で話を続ける三杉。

 

『さっきから黙って聞いてりゃ…、恥を晒したくないだぁ? こっちはむしろ、これ以上お前達が恥を晒さねぇようにこうやって試合をキャンセルしてやってんだよこのサル共が』

 

席に付いていた一番の長躯の黒人、ジェイソン・シルバーが嘲笑を浮かべながら見すぎに言った。だが、当の三杉は…。

 

『…ジェイソン・シルバー。悪いが君と話はしていない。彼(ナッシュ)との話が終わるまで口を閉じていてくれないか?』

 

シルバーに一瞥もくれずにそう告げた。

 

 

――ガシャァァァン!!!

 

 

『きゃっ!?』

 

三杉がそう告げると、シルバーじゃテーブルの1つを蹴り上げ、辺り一帯に皿やグラスの割れた破片が散らばり、キャバクラ嬢達は悲鳴を上げて席を離れた。

 

『今のは聞き間違えか? てめえ、この俺様に黙れって言ったのか?』

 

怒りを露わにしたシルバーが立ち上がり、割れたグラスの破片を踏みながら三杉の下に歩み寄っていく。

 

『そう言ったのだが?』

 

三杉はシルバーに一瞥もくれず、淡々と告げた。それを聞いたシルバーはさらに激昂する。

 

『このサルが…、いっぺん死ななきゃ分かんねえようだな!』

 

右拳を握ったシルバーが三杉目掛けて床を蹴り、握りこんだ右拳を三杉の顔面目掛けて振り下ろした。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

だが、その拳は三杉の顔面に突き刺さる直前に現れた1つの手に阻まれた。

 

『あん?』

 

シルバーは自分の拳を阻んだ者の方へ視線を向ける。そこには、三杉の左手側から右手を伸ばし、シルバーの拳を受け止めた堀田の姿があった。

 

「お、お客様、て、店内でのその……け、喧嘩は困ります!」

 

一連の光景を見ていた従業員が慌てて止めに入る。だが、2メートルを超える者同士の為、かなり及び腰になっている。

 

「心配はいらない。これは喧嘩ではない。ただの握手だ」

 

慌てふためく従業員を落ち着かせるかのように堀田は薄い笑みを浮かべて言う。

 

『おいてめえ、いつまで俺様の手を握ってんだ。さっさと――』

 

拳を振るったシルバーは堀田の右手に納まった自身の手を引き抜こうとした。

 

『(ぬ、抜けねえ…!)』

 

だが、シルバーの拳は堀田の右手から抜ける事はなかった。

 

『これは、握手だ。明日の試合で健闘を誓い合う者同士のな…』

 

『ぐっ…! ぐっ…!』

 

拳を握りこんだ堀田の右手の力が徐々に強まっていく。すると、先ほどまで嘲笑を浮かべていたシルバーの表情が少しずつ曇っていく。

 

『そうだろ? ジェイソン・シルバー』

 

 

――メキィッ!!!

 

 

『ぐおぉっ!』

 

拳を握る力を最大にすると、痛みに耐えられなくなったシルバーはその場で膝を付いてしまう。

 

『てめえ、何しやがんだ!』

 

その光景を見たジャバウォックのメンバーが激昂し、立ち上がった。

 

「おいおい、先に手を出したのはそっちだろうがよ」

 

それに合わせて空が前に出る。

 

『健、君の握手は彼らには過激過ぎるようだ。その辺で勘弁してやってくれ』

 

『ふむ、そうか。それは残念だ』

 

三杉の言葉を受けて堀田はシルバーの拳を放した。

 

『クソザルがぁ…! ぶっ殺してやる!!!』

 

拳が放されると、さらに激昂し、目を血走らせたシルバーが堀田に殴りかかろうとした。

 

『っ!』

 

それを見た空、大地が臨戦態勢を取る。

 

『待て、シルバー』

 

そんなシルバーをナッシュが制止した。

 

『うるせえ! 止めんじゃねえ! こいつら1人残らず皆殺しに――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――待てって言ってんのが聞こえねえのか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!? …ちっ』

 

静かだが、低く、良く通る声でシルバーに告げると、シルバーは身体をビクつかせると、舌打ちを1つ入れて拳を収めた。

 

「(あのデカブツがビビった? あのナッシュとか言う奴、そこまでの奴なのか…)」

 

シルバーを黙らせたナッシュに、空は注目した。

 

『なかなか面白いもん見せてくれるじゃねえか。ここまで舐めた真似してくれた奴はお前らが初めてだ』

 

ナッシュは、一見すると上機嫌にも見える表情で言った。

 

『この場でお前らをシメてもいいが、それじゃこっちも収まりが付かない。いいぜ、試合してやるよ』

 

突如、ナッシュがニヤ付きながら試合の決定を告げ、三杉の前まで歩み寄り、握手を求めるように右手を差し出した

 

「何だって?」

 

「試合をしてもいいと言っています」

 

「っ! マジかよ…」

 

言葉が理解出来なかった空が大地に聞き、驚愕した。

 

「そうでなくてはな」

 

それを聞いた三杉はニヤリと笑い、右手を差し出した。

 

 

――ガシッ!!!

 

 

だが、ナッシュは三杉の手ではなく、右手首を掴み、顔の高さまで持ち上げた。

 

『ここまで舐めた真似してくれたんだ。サル共の前で恥を掻かすだけじゃ済まさねえ。もし、お前達が負けたら、2度とバスケが出来ないようにこの右手をへし折る。それで良いなら試合してやるよ』

 

ニヤ付いた表情から一変、睨み付けるような表情でナッシュが三杉に告げた。

 

「っ!? そんな、なんて条件を…!」

 

言葉を理解出来る大地はナッシュの出した条件に驚愕した。

 

『良いよ。その条件、受けるよ』

 

三杉は何の躊躇いもなく出された条件を了承した。

 

 

――ガシッ!!!

 

 

了承したのと同時に自身の右手首を掴んでいるナッシュの右手を左手で掴み、引き離した。

 

『こっちが勝った時、同じことして良いならな』

 

表情を変えることなくナッシュに言い放った。

 

『…っ、上等だ。その言葉、忘れんなよ』

 

ナッシュは三杉の左手を振り払い、手首から外した。

 

『では明日、会場で会おう』

 

踵を返した三杉と堀田は出口へと歩み出した。

 

「話は決まった。みんな、帰るぞ」

 

空と大地に告げると、2人は戸惑いながら後ろに続いていった。

 

『フッ、せいぜいその腕と最後の一夜を楽しむんだな』

 

店の扉に向かう三杉達の背中にナッシュが告げる。

 

『その言葉、そっくりそのまま返すよ』

 

振り返らず、三杉はそれだけ言い返し、店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

店を出て、階段を上がるとそこには、上杉がいた。

 

「…話はどうなったんだ?」

 

「予定通り、明日、試合をすることになりましたよ」

 

恐る恐る尋ねる景虎に、三杉はにこやかに答えた。

 

「…そうか、それは何よりだ」

 

安心した上杉はホッと一息吐いた。

 

「分かった。理事長と会場にはそのように伝えておく」

 

上杉は表情を変えることなく、懐から携帯電話を取り出し、連絡を始めた。

 

「さて、帰ろうか。明日は、楽しい試合なるぞ」

 

「ふっ、そうだな」

 

「ハハッ、勝ってあいつら鼻を明かしてやりましょう!」

 

「勝ちましょう。日本人の誇りを守る為に」

 

三杉は笑みを浮かべ、堀田は拳を握り、空は気合を入れ、大地は真剣な表情を取った。

 

一時、キャンセルとなった試合は晴れて決まった。花月の選手達は、明日の試合に向け、ゆっくりと英気を養ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして翌日…。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

東京某所の試合会場。会場は満員御礼。各所から怒号が飛び交っている。

 

『花月ーーっ!!! 勝ってくれぇ!』

 

『奴等をこのままアメリカに帰すなぁっ!!!』

 

1週間前の試合後のナッシュによる日本人への暴言もあり、会場のボルテージは最高潮にまで高まっており、会場全部が花月を応援している。

 

花月、ジャバウォックの両方の選手は既にベンチにて試合の時を待っている。

 

「いいね。会場全部が俺達の味方だぜ」

 

「もしかするなら、日本中かもしれませんよ」

 

空がバッシュの靴紐を結びながら会場中に響く声援を受け、頬を綻ばせる。大地も、自分達に向けられる声援に心強さを感じている。

 

「ええでぇ。盛り上がれば盛り上がる程俺は実力だせんねん。今なら誰が相手でも負ける気がせんでぇ」

 

天野もストレッチをしながら声援を背中で受けていた。

 

「フッ…フッ…」

 

堀田は無言で身体を解しながら集中を高めていた。

 

「そのままでいいから聞け」

 

監督、上杉がベンチの前に立ち、選手達に向き合った。

 

「スタメンは予定通り、三杉、堀田、天野、神城、綾瀬だ」

 

『はい!』

 

「作戦の変更はない。言うことは1つだ。お前ら、奴等に2度と戯言を吐けないよう叩きのめせ」

 

『はい!』

 

上杉の言葉に、花月の選手達は気合の籠った声で答えた。

 

「行くぞ。俺達の手で、ジャバウォックを狩るぞ」

 

「おう!」

 

「っしゃぁ!」

 

「はい!」

 

「了解や!」

 

三杉の掛け声にスターティングメンバーが応え、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

対するジャバウォックベンチ…。

 

「うるせえサル共だ」

 

シルバーは小指で耳の穴をほじりながら悪態を吐いた。

 

「今だけだ。10分も経てば、サル共も黙る。試合が終わる頃には、悲鳴しか聞こえてこないだろうよ」

 

笑みを浮かべながらナッシュが言う。それを聞いて他のメンバーもニヤニヤと笑みを浮かべた。

 

「もう日本も飽きてきたところだ。とっととサル共潰して帰るぞ」

 

ナッシュのこの一言を告げると、ジャバウォックの選手達はコートに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート上に花月、ジャバウォックの両スタメン達がやってきた。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番SG:三杉誠也 190㎝

 

5番 C:堀田健  204㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

 

ジャバウォックスターティングメンバー

 

4番PG:ナッシュ・ゴールド・Jr 190㎝

 

6番SG:ニック・ネイビー     189㎝

 

7番PF:アレン・ブラウン     192㎝

 

8番 C:ジェイソン・シルバー   210㎝

 

10番SF:ザック・ホワイト     198㎝

 

 

『よう、命乞いの言葉は考えてきたのか?』

 

挑発染みた物言いで三杉に言うシルバー。

 

「…」

 

三杉は特にリアクションすることはなかった。

 

センターサークル内にジャンパーとして立つ堀田とシルバー。

 

他の選手達がそれぞれ配置に付く。審判がボールを高く上げ、ティップオフ。遂に試合が開始される。

 

「『っ!』」

 

堀田とシルバーが同時に飛ぶ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

『お…!?』

 

ジャンプボールを制したのは堀田。ボールは三杉が拾い、花月ボールで試合は開始される。

 

「…」

 

ボールを持った三杉の前に立つのはナッシュ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

『っ!?』

 

目の前に立ち塞がったナッシュに対し、キレのあるドライブを仕掛け、一気に抜きさる。ナッシュを抜きさると、7番、アレンがヘルプに現れる。

 

 

――ピッ!

 

 

その直後、三杉はノールックビハインドパスで左にボールを流す。そこへ、駆け込んできた空がボールを受け取り、そのままドリブルで突き進んでいく。

 

『行かせるかよ!』

 

そんな空に前に6番、ニックが立ち塞がる。空は構わずクロスオーバーで仕掛ける。

 

『その程度で俺を――』

 

 

――ガシィィッ!!!

 

 

空を追いかけようとしたニックだったが、天野のスクリーンに掴まる。天野の援護を受けた空はそのまま突き進む。10番のザックが空の前に現れたところで…。

 

 

――ピッ!

 

 

空はリング付近にボールを投げつけた。そこへ、タイミング良く大地が現れる。リング付近でボールを受けた大地は…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングにボールを叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

空と大地のアリウープが成功すると、会場は歓声に包まれた。

 

「まずは1本」

 

「挨拶代わりです」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

『負けた時の言い訳は考えてきたか? そうでないのなら本気でかかってくることだ。俺達は、簡単にはいかないぞ』

 

三杉がジャバウォックの選手達に言い放つ。

 

『あぁ!?』

 

『ふん…』

 

その言葉を受けて、シルバーは怒りを露わにし、ナッシュは鼻を鳴らした。

 

試合は、花月の先制で始まったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





1度短編を書き、3月に入って忙しくなってしまった為、更新が一ヶ月以上も空いてしまいました。後、スランプに陥り、どうにも執筆に対してモチベーションが低下したというのもあったりします。何とかペースを戻して行きたいです。

黒子のバスケの映画が放映開始されましたが、今現在、まだ見ていません…( ;∀;)

近所でやってないので、多忙の関係で未だ見れず。早く見たいなぁ…。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第63Q~答え~


投稿します!

映画を見て、上がったテンションのまま連続投稿です。

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り9分53秒。

 

 

花月  2

J・W 0

 

 

試合開始早々、空のパスからの大地のアリウープによって花月が先制する。

 

「…」

 

ディフェンスに戻る花月の選手達。ナッシュとすれ違う様…。

 

「……何処かで見たと思ったが、そういや、2匹のサルを何年か前に潰した事があったな…」

 

ポツリと呟くようにナッシュが言うと、三杉が足を止めた。

 

「思い出してくれて何よりだ」

 

表情を変えず、ナッシュの方へ振り向くことなく三杉はそう返した。

 

「お前、まだバスケやってたのか?」

 

「おかげさまで、あれからバスケが楽しくて仕方なくてね」

 

ナッシュの挑発交じりの言葉に、皮肉交じりに答えた。するとナッシュは鼻を鳴らした。

 

「やはりサルはサルか。言葉や実力を見せつけても無駄か。…なら、やっぱり腕をへし折ってバスケを出来なくするしかないようだな」

 

「やれるものならな。…あと、あんまりサルサル言わない方がいい。サル以下にはなりたくないだろう?」

 

「…すぐにその減らず口を吐けないようにしてやるよ…!」

 

そう告げてディフェンスに戻ると、その背中をナッシュが睨みつけながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は花月の先制を皮切りに、花月ペースで進んでいった。

 

「もらった!」

 

ボールを受け取ったニックがジャンプショットを放つ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「させへんで!」

 

そのシュートは天野によってブロックされる。

 

「ちっ!」

 

ルーズボールを拾ったザックが舌打ちをしながらボールをナッシュへと戻した。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「迂闊だぜ!」

 

そのパスは空によってスティールされる。

 

「おっしゃ、カウンター!」

 

ボールを奪った空が前線に大きくボールを放った。そこには、既にセンターサークルを越えたところまで走っていた大地の姿があった。

 

「ナイスパスです!」

 

ボールを貰った大地はそのままワンマン速攻を仕掛ける。

 

「(あいつ、さっきまで俺の目の前にいたのにもうあそこまで…!)」

 

大地をマークしていたアレンは大地のスピードに目を見開く。リング付近までドリブルで進んだ大地はそのままレイアップの態勢に入る。

 

「させるか!」

 

「…っ!」

 

大地に追いついたザックが大地のシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

『うぉっ! ジャバウォックも速ぇっ!』

 

スピードに特化で有名な大地に追いついたことに観客から声が上がる。

 

 

――スッ…。

 

 

大地はレイアップを中断し、ボールを後方へ放るように落とした。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ、先ほどスティールをした空が走り込んでいた。

 

「(こいつも…、とんでもないスピードだ!)」

 

今度は空のスピードに驚愕するアレン。

 

「そして今度は…俺の番だ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「イエイ!」

 

「ナイスです」

 

空と大地がハイタッチをする。

 

『くっ!』

 

悔しさを露わにするジャバウォックの選手達。

 

「リスタートだ。早くしろ」

 

ナッシュだけは表情を変えずにリスタートを促した。

 

「…」

 

「…」

 

ナッシュがボールを進めると、三杉がディフェンスに入った。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

前方、股下、後方に、高速にドリブルをしながら三杉に揺さぶりをかけるナッシュ。だが…。

 

「……ちっ」

 

三杉は特に翻弄されることなくその動きにピタリと付いていく。抜くことを諦めたナッシュはボールを止めてニックへのパスに切り替えた。

 

「…へっ」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

ディフェンスに入ったのは空。ボールを貰ったニックはその場で高速かつトリッキーな動きを交ぜたドリブルを始める。

 

「…っ、…っ!」

 

抜かれまいと空はそのドリブルに付いていく。

 

「へっ!」

 

ひとしきりトリッキーなドリブルで翻弄した後、ニックは空の頭目掛けてボールを投げつけた。

 

 

――パシィ…。

 

 

「っ!?」

 

「ナイスパス」

 

だが、ボールが頭に当たる直前、空はそのボールを右手で受け止めた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そのままクロスオーバーでニックを抜きさり、そのままドリブルで進行。

 

「っ!」

 

フロントコートに入り、スリーポイントライン目前で、ナッシュが目の前に立ち塞がる。

 

「(面白れぇ、このままこいつも抜きさ――)」

 

仕掛ける直前、ナッシュのプレッシャーが空に襲い掛かる。

 

「……まだ無理だな」

 

距離が詰まる寸前で空はビハインドバックパスボールを横に流した。そこに、三杉が駆けつけ、ボールを受け取り、そのままレイアップで得点を重ねた。

 

「ナイス判断だ」

 

「…うす」

 

肩を叩く三杉に、空は複雑な表情で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ジャバウォックボール。ナッシュが三杉の隙を付き、天野のマークを振り切ってゴール下へ走り込んでいたザックにパスを出した。

 

「くたばれ!」

 

ボールを貰ったザックはボールを右手で持ち、ワンハンドダンクを叩き込む。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

「甘いわ!」

 

だが、そのダンクは堀田によってブロックされた。

 

「ほれ、空坊!」

 

ルーズボールを拾った天野が前線へと大きな縦パスを出すと、堀田のブロックと同時に速攻に走っていた空がパスを受け取った。

 

『ちっ!』

 

慌ててディフェンスに戻ろうとするも、空はそのままレイアップを決めた。

 

「よーし!」

 

拳を握り、喜びを露わにする空。

 

「…」

 

ナッシュは、花月の選手達を特に言葉を発することなく視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴り、コート上の選手達は2分間のインターバルの為、ベンチへと下がっていく。

 

「第1Qは花月のリードで終わりましたね」

 

「三杉と堀田だけじゃない、神城、綾瀬、天野もかなり試合に貢献している」

 

観客席で試合を観戦していた黒子と火神が感想を言い合っていた。

 

 

第1Q終了。

 

 

花月  22

J・W 18

 

 

「だが、リードはたったの4点なのだよ」

 

「おっかしいッスね、花月の押せ押せの優勢に見えたんッスけど」

 

メガネのブリッジを押す緑間。怪訝そうな表情を取る黄瀬。そこに青峰が口を挟む。

 

「理由ははっきりしてんだろ。点差が開かなかった原因は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……ちっ」

 

「…」

 

舌打ちをする空と、無言で汗をタオルで拭っている大地。

 

「(点差はたった4点。思ったより開かなかったな。やはり、神城と綾瀬のところがネックか…)」

 

ベンチの前で顎に手を当てる上杉。スティールや速攻で得点を重ねる空と大地だが、反面、失点の多くが2人のところからである。

 

「(だが、それは多少は覚悟はしていたことだ。今はそれよりも、選手達の消耗が激しい)」

 

まだ、試合の4分の1を消化しただけにも関わらず、選手達はかなりの汗を掻いている。

 

「(三杉と堀田でさえこの消耗ぶり。ナッシュとシルバーを直接マークをしながら周囲にも気を配っているから当然の話だ。特に…)」

 

「……ふぅ」

 

無言で呼吸を整えている天野。

 

「(天野の消耗が1番激しいな。体力無視してディフェンスに臨んでいるのだからな)」

 

練習量日本一の環境で1年以上過ごした天野の体力は並みではない。普段なら言葉を発してチームを盛り上げる天野なのだが、今日は極力言葉を発せず、体力回復に努めている。

 

「(天野は最後までもたないかもしれないな。後は…)」

 

チラリと上杉は空と大地に視線を向ける。

 

「ちっくしょう! 止められねぇ!」

 

「落ち着いて下さい。空」

 

悔しさを露わにする空と、それを慰める大地。

 

「(……あの2人は問題ないな)」

 

無尽蔵の体力を誇る空と大地の普段と変わらない様子を見て問題なしと判断した。

 

「さて、序盤はまあ、こんなもんだろ。問題はここからだ」

 

『…』

 

選手達が上杉に注目する。

 

「一応はリードはしている。が、神城と綾瀬の速攻頼みのオフェンスがいつまでも通用する程馬鹿じゃない。当然、次の手を打たねばならない」

 

「ですが、神城君と綾瀬君の速攻の脅威は残っているはずです。オフェンスは2人も起点に別パターンを加えればまだ通用すると思います。今、問題なのはディフェンスかと思います」

 

次の戦略を模索する上杉に姫川が意見を述べる。

 

「第1Qで、2人のところが狙い目だと言うことが浮彫になりました。当然、狙ってくると思います。ここは、三杉先輩をナッシュに付けて、後はゾーンディフェンスで対抗するというのはどうでしょうか?」

 

「ボックスワンか…」

 

現状で、空と大地は1対1では分が悪い。だが、ゾーンであればある程度の実力差は解消され、尚且つ、2人の機動力がさらに生きる。チームの起点であるナッシュは三杉が抑え、向こうの歯車を狂わせる。これが姫川が考えた作戦だ。

 

「確かに、それも有効な手段の1つではある…」

 

作戦の有用性を理解し、考え込む上杉。現状を考えれば実行に移したいのだが、何処か引っ掛かるところがある上杉は踏み切れない。

 

「……三杉はどう考える?」

 

ここで、上杉は三杉に意見を求めた。

 

「そうですね――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ジャバウォックベンチ…。

 

「……予想以上にやりやがるな。まさか、ここまでやれる奴が日本にいるとはな」

 

汗を拭いながら花月ベンチ…三杉と堀田に視線を向けるナッシュ。

 

「さっき、あの2人を潰したとか聞こえたが、本当なのか?」

 

三杉とナッシュの会話を聞いていたアレンが尋ねる。

 

「覚えてねえよ」

 

「あっ?」

 

「何年か前に向こう(アメリカ)でサルを2匹潰したって記憶があるだけだ。潰したサルのことなんざ、いちいち覚えてねえよ」

 

そう言ってナッシュは背もたれに体重を預けた。

 

「何だそりゃ? まあいい、これからどうする? こっちは楽勝だぜ」

 

基本、大地を相手にするアレンが嘲笑を浮かべながら尋ねる。

 

「そうだな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバルが終了し、第2Qが開始される。試合開始早々、ジャバウォックが動く。

 

シルバーが突如、ゴール下から離れる。

 

「…むっ?」

 

堀田が追いかけようとすると、アレンのスクリーンに捕まる。スリーポイントラインの外側でシルバーはナッシュからのパスを受けた。

 

『シルバーがゴール下から離れた!?』

 

『何をする気だ?』

 

シルバーの行動に観客は疑問は尽きない。

 

スクリーンに捕まった堀田に代わり、天野がヘルプディフェンスに入る。

 

「(空いたゴール下にパス。……ちゃうな、これは…!)」

 

ボールを受けると、シルバーはドリブルを始める。天野も、腰を落として警戒態勢に入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

左右からの切り返しから一気に加速。クロスオーバーで天野を一瞬で抜きさる。

 

「(速すぎやろ! 今のは、インハイの青峰……下手したらそれ以上や!)」

 

天野を抜きさったシルバーはグングン加速し、そのままワンハンドダンクの態勢に入った。

 

「させん」

 

ゴール下まで戻った堀田がブロックに飛んだ。

 

 

「まさか、堀田とやる気か?」

 

「馬鹿な、一番ディフェンスが固いということは分かっているはずだ!」

 

ジャバウォックのまさかの選択に、観客席にいる誠凛の日向、伊月は理解出来なかった。

 

 

「まさか、本当にこんなことが…」

 

ベンチの姫川は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『そうですね。恐らく、向こうは健のところから攻めてくるでしょうね』

 

『まさか、堀田先輩のところが一番突破が困難なことは相手も分かっているはずです』

 

三杉の予想に姫川が反論する。

 

『普通に考えればそうだ。だが、向こうはこちらを未だ舐めている上に、向こうの一番の強みがシルバーだ。力を誇示する為、まず間違いなく狙ってくる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

堀田の手がシルバーの持つボールを捉えた。

 

「よっしゃ! ナイス堀田さ……」

 

 

――ズン…。

 

 

「っ!」

 

ボールを捉えた堀田だが、少しずつ押され始める。

 

「ハッ! くたばれや!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ブロックに飛んだ堀田をそのまま吹き飛ばし、ダンクを決めた。

 

「嘘……だろ。紫原を凌駕するパワーを持つ堀田さんが…」

 

今の光景を目の当たりにした空は驚きを隠せなかった。

 

 

「…っ」

 

観客席で見ていた、秋田から試合を見に来ていた紫原も同様であった。

 

 

「ハッハッハッ! おいおい、ちょっと本気出したらこれかよ! 貧弱過ぎるぜ! これじゃあ怪我させねえように気を付けなきゃならねえな!」

 

高笑いを上げながらディフェンスに戻るシルバー。

 

「ハッ! サル相手に弱点付くなんざ真似は必要ねえ。一番強いところを付いて力の差を分からせてやるんだよ」

 

嘲笑を浮かべるナッシュ。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをしながら堀田は立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスは花月の切り替わる。

 

空がボールを運び、ハイポストに立つ天野にパスを出し、そこから大地にボールが渡る。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ノーマークなのを確認し、フェイダウェイのミドルシュートを放ったが、ゴール下から現れたシルバーによってブロックされてしまう。

 

「(あの距離からブロックされた…!)」

 

想定外の距離からのブロックに大地の表情も歪む。

 

ルーズボールを拾ったナッシュが前線へ大きな縦パスを出す。そこには…。

 

『なっ、シルバー!?』

 

先ほどブロックをしたシルバーが誰よりも前に走り込んでいた。ボールを貰ったシルバーはそのままドリブルを始めた。

 

「くそっ、追いつけへん!」

 

シルバーを追いかける天野だったが、そのあまりの速さに、全く距離を詰められないでいた。その時…。

 

「…っ!」

 

天野の横を猛スピードで2つの何かが追い越していった。

 

「行かせるか!」

 

「ここで…!」

 

全力疾走で走り、スリーポイントライン目前で空と大地がシルバーを捉え、立ち塞がった。

 

「おいおい、あのチビ2人、シルバーに追いつきやがったぞ」

 

前を走るシルバーを追い越した2人に、ジャバウォックの選手達も感心した。

 

「あのシルバーに追いつくとはな。なかなかやるな」

 

ナッシュもこれには感心を示した。

 

「だが、お前らごときが追いついたところで、何が出来んだよ」

 

 

――ダッ!!!

 

 

シルバーがフリースローラインでボールを掴み、跳躍した。ブロックしようと空と大地も飛ぼうとする。

 

「待て、飛ぶな!」

 

「「っ!」」

 

三杉からのまさかの指示に、2人はその場で留まった。

 

「ハッ! そこから俺様の美技をせいぜい見上げてな!」

 

フリースローラインから飛んだシルバー右手に持ったボールを回しながら両手に持ち替え…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きこんだ。

 

「見たかサル共! 一生かかってもお前らには出来ない技だ! 精々歯軋りしながら力の差を思い知るんだな!」

 

その場にいる観客に言い聞かせるようにシルバーは叫んだ。

 

「…っ! すいません」

 

「いやいい。今のはお前達でなくても止められなかった」

 

頭を下げる空に、三杉は首を振った。

 

三杉は2人をブロックに飛ばせなかった。飛んでも止められなかった上、下手をすればシルバーに吹き飛ばされ、最悪負傷退場してしまう恐れがあったからだ。

 

「切り替えろ。次行くぞ」

 

3人はディフェンスに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合はここから、ジャバウォックペースで進んでいった。

 

シルバーがポジションを無視し、縦横無尽に暴れまわった。

 

花月はシルバーを止められず、シルバーを突破出来ず、点差は開いていった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

たまらず、上杉はタイムアウトを取った。

 

 

第2Q、残り5分4秒。

 

 

花月  26

J・W 35

 

 

「状況は最悪だな」

 

表情を曇らせながら上杉が唸る。

 

花月一の鉄壁を誇る堀田がシルバーを止められず、点差が開いていく。

 

「…現状シルバーをどうにかしなければ点差は開くばかりだ。…シルバーにもう1人付けるか?」

 

上杉が提案する。

 

「インサイドを強化する必要があると思います。神城君か綾瀬を君を下げ、松永君を投入するというのも1つの手段かと」

 

「「…っ」」

 

姫川がインサイド強化の必要性を説く。反論出来ない空と大地は表情を曇らせる。

 

「確かに、それが良策だが……どうする、健?」

 

「…いや、このまま行かせてほしい」

 

シルバーにダブルチームで当たる作戦に、堀田は首を横に振る。

 

「……任せていいんだな?」

 

「ああ。任せてくれ」

 

「…分かった。なら、シルバーはこのまま健に任せる。監督、とりあえずこのままで」

 

「…お前達がそう言うなら任せよう」

 

三杉と堀田のやり取りを見て、上杉は現状のままを選択した。

 

「姫川の意見も1つの手だが、松永では平面で後れを取ってしまう。メンバーチェンジはひとまず無しだ。神城、綾瀬、これ以上奴等に好き勝手させるな。お前達に力はこんなものではないはずだ」

 

「「はい!」」

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「行って来い!」

 

『はい!!!』

 

タイムアウト終了のブザーが鳴り、選手達はコートへと戻ってきた。

 

「あん?」

 

花月のフォーメーションに変化がなく、変わらず堀田がマークに付いたことに、シルバーは怪訝な表情をする。

 

「どうしてもシルバーとやりたいらしいな。あのサルじゃ、シルバーには勝てねえよ」

 

嘲笑を浮かべ、ボールをキープしながら目の前の三杉に告げるナッシュ。

 

「どうかな?」

 

「あっ?」

 

「困ったもので、健は昔からエンジンのかかりが遅くてね。ある程度試合が経過しないと力を最大限発揮出来ないんだ」

 

「…ほう」

 

「しかもかなりの負けず嫌いだ。ここからが彼は見物だよ」

 

「そうかよ。なら、そのお前の希望を絶望に変えてやるよ」

 

ここでナッシュはシルバーにパスを出した。

 

『来た! 堀田とシルバーの1ON1!』

 

「よほど無駄な努力が好きらしいな。ここでトドメを刺してやるよ!」

 

堀田と背中を向けてボールを受けたシルバー。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高速のスピンムーブで堀田の横を抜ける。

 

「これが現実なんだよ!」

 

シルバーの勝利を確信をしたナッシュが声を上げる。

 

「終わりだ!」

 

ボールを掴んで跳躍する。そこへ…。

 

「…っ!」

 

リングとシルバーの間に堀田がブロックに現れる。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

シルバーの掴むボールを堀田の手が捉えた。

 

「このまま地べたに叩きつけてやるよ!」

 

シルバーが力を込め、ボールをリングに押し込もうとする。

 

「かつて絶望の淵に叩きつけられた時、君はテクニックではなく、あくまでも無謀とも言える力で勝利をすることを望んだ。見せてくれ、健。君の出した答えを」

 

 

――グッ…グッ…。

 

 

徐々にリングからボールが離れていく。

 

「(お、押し込めねえ!)」

 

「おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バチィィィン!!!

 

 

大きな咆哮と共にボールはシルバーの手から弾き出された。

 

『なっ!?』

 

シルバーがブロックされるとは露程も思ってなかったジャバウォックの選手達は驚愕した。

 

「三杉はん!」

 

ルーズボールを拾った天野が三杉にボールを渡し、そのままドリブルで突き進んでいく。

 

「…ちっ」

 

ナッシュが目の前に立ち塞がると、三杉は右へパス。そこへ、ブロックをしてから走り込んでいた堀田が現れ、ボールを受けた。

 

「クソがぁっ!」

 

ディフェンスに戻ったシルバーが堀田の目の前に立ち塞がる。

 

 

――ゴッ!!!

 

 

堀田はシルバーに身体をぶつけ、ゴール下へと押し込んでいく。

 

「ぐっ! ……がっ!」

 

ジリジリと少しずつ押し込まれていく。

 

「っ! あのシルバーが侵入を阻止出来ないだと?」

 

力負けをするシルバーを目の当たりにし、目を見開くナッシュ。ゴール下までシルバーを押し込むと、そのままボールを掴んで跳躍する。

 

「ふざけんじゃねえぞ、サルが!」

 

シルバーがそれに合わせてブロックに飛ぶ。

 

「ふんがぁっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「がっ!」

 

そのままボースハンドダンクをリングに叩きつけ、シルバーを吹き飛ばした。

 

『うおぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

それと同時に大歓声が上がる。

 

「これが敗北を糧に鍛え上げた今の俺だ」

 

「っ!」

 

リングから手を放し、コートに着地すると、座り込むシルバーに一言告げ、ディフェンスに戻っていった。

 

「く・そ・がぁぁっ…!」

 

一言告げられたシルバーは激昂しながら立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

堀田がシルバーとの対決に優位に立つと、試合はジャバウォックペースから一転、花月ペースに切り替わる。

 

「ふん!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

堀田のブロックが炸裂する。

 

シルバーは堀田に封じ込められ、他の選手も堀田の鉄壁のディフェンスに阻まれる。

 

オフェンスでは、空と大地の高速速攻を軸に、得点を重ねていった。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q、終了。

 

 

花月  40

J・W 42

 

 

点差は、堀田の奮闘があり、僅かワンゴール差。

 

試合は、後半戦へと突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





一気に試合を折り返しまで進めました。

洛山戦と比べてボリュームがかなり少なくなると思いますが、この二次の本筋はその後ですので…。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第64Q~本気~


投稿します!

この話でジャバウォック戦を終わらせたかったのですが、終わりませんでした…(^^;)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、終了。

 

 

花月  40

J・W 42

 

 

試合の半分が終わり、点差は僅か2点。

 

両チームがベンチへと下がっていく。堀田の活躍によって点差をワンゴールで終えた花月は表情が明るい。対してジャバウォックは…。

 

 

――ガシャン!!!

 

 

「クソがっ!!!」

 

苛立ちを抑えきれなかったシルバーが椅子を蹴り飛ばした。

 

「お、おい、シルバー…」

 

チームメイトのザックがなだめようと恐る恐る声を掛けるが…。

 

「あのクソザルがぁぁっ…、この俺様に恥を掻かせやがって…! 後半になったらブチ殺して…!」

 

それでも怒りが収まらないシルバー。

 

「シルバー」

 

そんなシルバーにナッシュが声を掛ける。

 

「ああっ!?」

 

「黙れ」

 

「…っ!」

 

睨みを利かせたナッシュの言葉に、シルバーは身体をビクつかせる。

 

「バカの1つ覚えのようにパワー勝負を仕掛けやがって。少しは頭を冷やせ。お前はパワーだけの無能じゃねぇだろうが」

 

「っ! だがよぉ、このままあのサルに調子に乗らせたままじゃ俺の気が収まらねえんだよ」

 

「要は、お前の主戦場で戦えばいいだけの話だ」

 

そうシルバーに告げると、ナッシュは指の骨を鳴らした。

 

「心配すんな。どのみちこの試合、俺達の敗北はまずあり得ない。…お遊びはここまでだ。ここからは勝ちにいこうじゃねぇか」

 

不敵な笑みをナッシュは浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「どうにか前半は良い形で折り返した。…だが、正念場はここからだ」

 

「ええ。ジャバウォックの実力はこんなものではない。特にナッシュは全く底を見せていない」

 

選手達の前に立つ上杉が腕を組みながら告げると、三杉が汗を拭いながら答える。

 

「後半。間違いなく向こうは…、ナッシュが仕掛けてくるだろう。さて、どうするか…」

 

上杉が顎に手を当てて作戦を練る。

 

「司令塔であるナッシュの底が見えない現段階で対応策を考えるのは不可能でしょう。とりあえず今、言えるのは…」

 

ここで、三杉が空と大地の方を向く。

 

「空、綾瀬。いいか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ハーフタイムが終了し、後半戦、第3Qが始まった。

 

「…」

 

ジャバウォックボール。ボールはナッシュがキープする。

 

「…っ」

 

ナッシュのマークに付くのは三杉。ナッシュの雰囲気が変わった事を肌で感じ、警戒を強めた。

 

 

「ナッシュの雰囲気が変わった…!」

 

試合を観戦していた火神もそれに気付いた。

 

『…』

 

キセキの世代の5人も同様であった。

 

 

「俺達に舐めた口を利いただけのことはある。ここまでやるとはな」

 

「…君の口からそんな言葉が聞けるとはね」

 

淡々と告げるナッシュの言葉に、表情を変えることなく三杉は返した。

 

「だが、それもここまでだ。この第3Qで試合を終わらせてやるよ」

 

そう告げるとナッシュがゆっくり動き始める。そして…。

 

 

――ヒュッ…。

 

 

ナッシュの手元からボールが消え失せる。

 

「っ!?」

 

目の前の三杉は反応が出来なかった。

 

「えっ?」

 

ボールは、アレンの手元にあった。アレンがシュート態勢に入ったところで大地はようやくボールのありかに気付いた。

 

「くっ!」

 

慌ててブロックに向かうが間に合わず、ボールは放たれた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜った。

 

「今、何が起こったんや? ナッシュの手元からボールが消えたかと思ったら、7番の手元に収まっとった…」

 

何が起こったか分からない天野は混乱する。

 

「何だよあの速さ…。あの野郎、あんなパス出せんのかよ…!」

 

「…空、今の見えたんですか?」

 

「距離があったから何とか。ノーモーションからのクイックパスだ。しかも、目の前の三杉さんやパスの受け手をマークする大地が反応出来ない程の…。あんなパス、見た事ねぇ」

 

正体を辛うじて見えた空は驚愕していた。

 

「ちっ! ここからが本領発揮かいな…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが花月に切り替わる。ボールを貰った空がボールを運んでいく。

 

「スピードなら俺達の十八番だ。行くぞ!」

 

スリーポイントラインの外側までボールを進めると、ハイポストに立つ天野にパスを出した。パスを出した後、天野の下へ駆け寄り、ボールを受け取りにいく。

 

『っ!』

 

空がボールを受け取る瞬間、天野はボールを横に流した。空がボールを受け取ると思っていたジャバウォックの選手達は意表を突かれた。横に流したボールを…。

 

「よし!」

 

天野の目の前で真横に急旋回した空が走り込んでいた。

 

「黒子さん直伝!」

 

 

――バチン!!!

 

 

ボールに触れる直前、1回転し、回転した反動を利用してボールを叩いた。叩かれたボールはリング付近に飛んでいった。そこには、タイミング良く大地が飛んでいた。

 

『うおぉぉぉっ! 綾瀬速ぇぇぇぇぇぇっ!』

 

大地の右手にボールが収まり、そのままリングへと叩きつけた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「なに!?」

 

完全に意表を突き、決まると確信したのも束の間、アリウープはシルバーによってブロックされた。

 

 

「あの連携をブロックした! 読まれたんスか!?」

 

「いや違う。シルバーは完全に不意を突かれていた。単純にシルバーの反射速度がそれを上回っただけだ」

 

黄瀬の予想を赤司が否定し、事実を話した。

 

「今の連携は、黒子と火神の連携に匹敵する威力がある。シルバーの反射速度はそれよりも上か…!」

 

冷や汗を流しながら緑間が言う。

 

「「…っ!」」

 

黒子と火神も驚愕していた。

 

 

「カウンターだ、戻れ!」

 

『っ!』

 

三杉の声に反応し、花月の選手達は急いでディフェンスに戻る。いち早く切り替えた三杉と堀田と、コート上最速の空が戻り、3対3の状況になった。

 

「…」

 

ボールをキープするナッシュ。今度は抜かせまいと気を張ってディフェンスに臨む三杉。

 

「…ハッ! 無駄だ。俺のパスは誰にも止められねぇよ」

 

 

――ヒュッ…。

 

 

再びナッシュの手元からボールが消える。ボールは再びアレンの手元に収まった。

 

「っ! くそっ…!」

 

辛うじて反応出来た空がシュートモーションに入る前にアレンの足元に駆け寄った。

 

「…こいつ、ナッシュのパスが見えているのか?」

 

シュート態勢に入れなかったアレンは驚異的な反射神経を持つ空に驚く。

 

「だが、無駄だよ」

 

アレンは重心を後ろに下げながら膝を曲げると、高速でバックステップをし、空との距離を空けた。

 

「ちっ! だが、バックステップは大地の十八番だ。あれに比べれば…!」

 

すかさず空はアレンを追いかける。距離を取ったアレンはそのままフェイダウェイシュートの態勢に入った。

 

「(くそっ、届かねぇ!)」

 

跳躍力と瞬発力のある空だが、身長差があるアレンのフェイダウェイジャンパーには僅かに届かなかった。

 

「…ちっ」

 

それを察した堀田がブロックに向かった。

 

「…っ!」

 

堀田が迫ってくるのを察したアレンはシュートを中断し、パスに切り替えた。

 

「っ!」

 

ボールはゴールに走り込んでいたシルバーに渡った。

 

「ちぃっ!」

 

慌てて堀田がシルバーに向かう。

 

「無駄だ。パワーは確かにシルバーより僅かに上かもしれないが、スピードはそれ以上に差がある」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ボールに触れた堀田だったが、不安定な態勢だった為力が入らず、弾き飛ばされてしまう。

 

「ゴール下の勝負にこだわらなければ、シルバーがあんなサル(堀田)に負ける事はあり得ねえ。こうやってパスを散らせば、お前らごときじゃ止められねえ」

 

「…」

 

「前半戦、ワンゴール差で終わってこの調子ならいけるとも、と、思ったか? 違うな。それはここまで抑えてプレーをした上に、お前らの土俵で勝負してやったからだ。思い知るといい、現実を。絶対に超える事の出来ない力の差って奴をな!」

 

不敵な笑みを浮かべながらナッシュは花月の選手達に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合の流れは、ナッシュのノーモーションクイックパスをきっかけにジャバウォックに傾き始めた。

 

ナッシュが各選手にパスを捌き、パスを受けた選手が確実に得点を重ねていった。三杉や堀田もフォローに向かおうと試みるが、三杉はナッシュの相手だけで手一杯であり、堀田も、シルバーを空けてしまうとすかさずそこにパスが来るので、対応が出来ないでいた。

 

オフェンスも、シルバーが猛威を振るいだし、得点は停滞気味となっている。

 

第3Q開始当初、僅かワンゴール差であった点差はみるみる開いていった。

 

 

第3Q、残り3分46秒。

 

 

花月  46

J・W 62

 

 

「点差がどんどん開いていく…」

 

開いていく点差を目の前に焦りを露わにする黄瀬。

 

「ちっ、だから言ったんだよ」

 

試合の経過を見て、苛立ちを露わにする青峰。

 

「お前ら、ここから先、試合から目を離すな」

 

そこに、景虎がやってきた。

 

「この試合が終わったら、俺は奴ら(ジャバウォック)にもう1試合申し込む。戦うのはお前らキセキの世代と火神だ」

 

『っ!』

 

景虎の言葉に、その場にいたキセキの世代のメンバーと火神が眼を見開いた。

 

「奴等の…特に、ナッシュとシルバーの動き、癖、プレースタイルをよく観察しておけ。いいな」

 

「ちょっと待ってくれよ。その言い方、まるで、あいつらが負けるみたいじゃないですか!」

 

景虎の言葉に納得出来なかった火神が景虎に詰め寄る。

 

「…お前ももう理解しているだろう。この試合、花月に勝ち目はねえ。こうなることは、ハナから分かっていた」

 

『…』

 

「もちろん、花月の奴等もここまでよくやっている。…だが、戦うのが早すぎた」

 

ここで、景虎が空と大地に視線を向ける。

 

「あいつらが、後1年早く産まれていたら、こんな結果にはならなかっただろう。皮肉な話だ」

 

試合は、空と大地からの失点が多い。そして、それをカバーしようとするとそこを突かれてまた失点を重ねているのが現状である。

 

「けど、試合はまだ――っ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

コートでは、シルバーのダンクが炸裂した。

 

「今からコミッショナーところへ行って再試合の交渉をしてくる。お前らも、覚悟を決めておけ」

 

そう7人に告げ、景虎はその場を後にしようとした。

 

「待ってください」

 

その景虎を、黒子が呼び止めた。

 

「そう判断するのは、まだ早いと思います」

 

「黒子…、だが…」

 

「花月の選手達の目を見て下さい。彼らはまだ、諦めていません」

 

黒子に促され、景虎はコート上の花月選手達を見る。コートに立つ5人の目は、誰1人、勝利を諦めていなかった。

 

「彼らは日本でバスケをする人の為に今戦っています。だから、もう少し見守っていてください」

 

「…」

 

黒子からの心からの言葉に、景虎は渋々了承し、席に腰掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q、終了。

 

 

花月  50

J・W 71

 

 

点差は21点にまで広がっていた。

 

両チームがベンチへと下がっていく。

 

「後10分でその腕ともバスケともお別れだ。今の内に別れの言葉でも聞かせてやるんだな」

 

「…」

 

すれ違い様、ナッシュが三杉に告げた。

 

 

『花月でもダメなのか…』

 

会場中が当初の熱気からは打って変わり、静まり返っている。

 

 

「おい、見ろよ。すっかり静かになっちまったぜ」

 

「まるで葬式だぜ」

 

静まり返った会場に満足気に笑みを浮かべるニックとザック。

 

「ようやく自分達がサルだと理解したんだろうよ。だが、この程度じゃ済まさねえ。このまま一気にトドメを刺す」

 

嘲笑を浮かべながらナッシュが言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

遂に最終Q開始のブザーが鳴った。

 

『頼む、頑張ってくれ!』

 

『花月ーっ! 勝ってくれ!』

 

第4Qが始まると、観客達が必死に声を出し、花月の選手達に声援を送っている。

 

 

「聞こえるか? サル共の奇声が」

 

「…」

 

「ハッ! もう言葉も返す余裕もないか。だが、容赦はしねえぞ。こんなものじゃ済まさねえ。2度と戦うなんて気が起きない程点差を付けてやるからよ!」

 

ここで、アレンが空のマークを振り切り、ボールを貰いにいく。

 

 

――ヒュッ…。

 

 

だが、ナッシュはアレンではなく、シルバーにパスを出した。

 

「あっ!?」

 

空のヘルプに向かおうとしていた堀田は虚を突かれる形となった。

 

「終わりだ、サル共!」

 

ボールを貰ったシルバーが右手でボールを掴み、ダンクの態勢に入った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

だが、リングにボールが叩きつけられる直前、堀田の右手がボールを捉えた。

 

「バカが、そんな不十分な態勢でシルバーのダンクが防げるかよ」

 

得点を確信したナッシュは嘲笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『もういいんだな?』

 

『ああ。もう十分だ。後は、存分にやるといい』

 

『その言葉、待っていたぞ』

 

堀田が三杉に語り掛け、三杉が答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

リング目前で押し合いを始める堀田とシルバー。

 

「おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

大きな咆哮と共にシルバーの右手に収まるボールをかき出した。

 

「な、んだとぉぉぉっ…!?」

 

『なにぃぃぃっ!!!』

 

まさか負けると思わなかったシルバー及びジャバウォックの選手達は驚きを隠せなかった。

 

『アウトオブバウンズ、黒』

 

ボールはラインを割った。

 

「これ以上良いようにはさせん。俺の全力を以って、お前達を倒す」

 

静かに、それでいてよく通る声で宣言した。

 

 

「これは…!」

 

火神が堀田の変化にいち早く気付いた。

 

「…っ!?」

 

紫原も同様であった。

 

「まさか!?」

 

「ああ。あいつ、入りやがった…!」

 

黄瀬の言葉に、青峰が答えた。

 

 

「ゾーン…」

 

空がポツリと呟いた。

 

堀田健がゾーンの扉を開いた。

 

「さあ来い!!!」

 

ゴール下で両腕を広げ、雄叫びを上げるように叫んだ。

 

『ぐっ!』

 

堀田がゴール下から放つ威圧感に、ジャバウォックの選手達は圧倒された。

 

「ちっ、この程度で!」

 

ザックがリスタートし、ニックがボールを受け取った。

 

「…っ!」

 

ボールを受け取り、仕掛けようとしたニックだったが、堀田の放つ強烈なプレッシャーに身体が硬直した。

 

「ボケっとしてんじゃねえよ、寄越せ!」

 

ボールを止めるニックに痺れを切らしたシルバーがボールを要求した。ニックは極限まで堀田を引きつけた後、シルバーにボールを渡した。

 

「くたばれや!」

 

シルバーが助走を付けて飛んだ。

 

「ふん!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

すかさず堀田がブロックに飛び、シルバーの持つボールに指先だけ触れた。不安定な態勢にプラスしてボールに触れているのは指先だけ。ブロックは不可能だと誰もが思った。だが…。

 

「んがぁっ!!!」

 

 

――バチィィィン!!!

 

 

『なっ!!!』

 

堀田は指先だけでシルバーの手からボールをかきだした。

 

「何だと!」

 

これに、ナッシュが初めて驚きを露わにした。

 

「健の握力は100を超えている。指先さえ触れていれば、パワーでは勝てなくても、ボールを弾き飛ばすだけなら造作もない」

 

ブロックされ、零れたボールを天野が拾った。

 

「天さん!」

 

「あいよ!」

 

速攻に走っていた空がボールを貰い、ワンマン速攻を始めた。

 

「…っ!?」

 

だが、ブロックされると予測したアレンが誰よりも早く戻っており、空の前に立ち塞がった。

 

『ダメだ…』

 

『せっかくの速攻のチャンスだったのに…』

 

空ではどうにも出来ないと思った観客から溜息が交じりの言葉が漏れる。空は、後ろに視線を向ける。

 

「(一旦戻し…いや、戻してどうすんだよ。これまで、三杉さんと堀田さん頼りで、俺は足を引っ張ってばかりだったじゃねえか。この試合が終わったら、もうあの2人はいなくなるんだ。だから…)」

 

空は正面を向いた。

 

「ここは俺1人で決める。俺は、もう足手纏いじゃねえ!」

 

ここで空は加速し、アレンとの距離を詰めていく。

 

『よせー! お前じゃ無理だ!』

 

『せっかくのチャンスを潰す気か! 戻せよ!』

 

空の選択に、観客からブーイングが飛ぶ。

 

「うるせー! 黙って見てろ!」

 

そんなブーイングを一喝し、空は仕掛ける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

アレンの目前でクロスオーバーで切り返す。

 

「甘い!」

 

だが、アレンは空の切り返しに遅れず対応する。

 

「(ただのフェイントじゃ、抜けねえか…なら!)」

 

ここで、空は急停止し、右脚を前に、左足を後方に伸ばし、両脚を広げた。

 

 

「頑張るッスよ。神城君ならやれる。何せ君は、俺からパーフェクトコピーを出させたんスから」

 

黄瀬が空に声援を送った。

 

 

「(何をする気だ?)」

 

突然の空の行動に、アレンは先の行動が読めず、混乱した。

 

空は両足を広げると、股下からボールを通し、変則のレッグスルーを仕掛ける。

 

「ぐっ!」

 

混乱しながらも、アレンは空に食らい付く。だが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこから両足を回転させ、バックロールターンでアレンの背後に回った。

 

『抜いたーっ!!!』

 

遂にアレンを抜きさった空はそのままリングへと突き進み…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ワンハンドダンクを叩きつけた。

 

「っしゃぁ! どうだぁぁっ!!!」

 

空は観客に向かって叫んだ。

 

「…」

 

空の変則過ぎるプレースタイルに、アレンは茫然していた。

 

「おい、ボケっとすんな。早くボール寄越せ」

 

「あ、ああ」

 

ナッシュがリスタートを促し、アレンはナッシュにボールを渡した。

 

「…」

 

ボールをフロントコートまでナッシュがゲームメイクを始める。

 

ゴール下では、堀田が変わらず圧倒的なプレッシャーを放っていた。

 

「……ちっ、まさかゾーンとはな。だがな、あいつ1人が変わったところで、試合の行方は変わらねえよ」

 

そう呟くと、ナッシュはバックチェンジで揺さぶり、そこからノーモーションクイックパスを出した。ボールの行き先はアレン。目の前に立つのは大地。

 

「雑魚を抱えたまま勝てると思うな」

 

パスを出すと同時にナッシュが堀田の動きを制限する為に動いた。迂闊に堀田が動けばシルバーがフリーになる為、堀田は動けない。故に、事実上、この勝負は大地とアレンに委ねられた。

 

「…」

 

大地は腰を落とし、アレンの次の行動に備えた。

 

「…っ」

 

そして、アレンが動き出した。

 

「(っ! これは!?)」

 

ここで、大地がとある違和感を感じた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

アレンはドライブと見せかけ、バックステップで大地と距離を取った。

 

「っ!」

 

だが、バックステップを読み切った大地は全く遅れずアレンに付いていった。

 

「くっ!」

 

不意を突けると思っていたアレンは苦悶の声を上げた。そして…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

動きを止めた一瞬を見逃さず、大地はアレンの持つボールを捉えた。

 

「よし!」

 

零れたボールを大地がしっかり抑え、そのまま前進していく。

 

「雑魚が調子に乗りやがって!」

 

ペイントエリアまで侵入すると、そこにニックが立ち塞がる。

 

 

「…ったく、そんなカスに手こずる程てめえは雑魚じゃねえだろ」

 

青峰が大地を見ながら言う。

 

 

大地は、ニックが目の前に立ち塞がってもお構いなしに突っ込んでいく。そして、ニックにぶつかる直前…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

急停止からのフルバックステップでニックと距離を空けた。

 

「なっ!?」

 

ドライブを仕掛けると予測していたニックは重心が背後にかかってしまっていた為、これに対応出来なかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

距離を作って大地が悠々とミドルシュートを決めた。

 

「よし!」

 

得点が決まり、大地は拳を握って喜びを露わにした。

 

「ナイス大地!」

 

空が駆け寄り、ハイタッチをした。

 

「ようやく、殻を破ったか…」

 

2人を見て三杉が微笑んだ。

 

「あの10番と11番のコンビは…」

 

ハイタッチをする2人を見つめるアレン。ジャバウォックでただ1人、2人の覚醒を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は、堀田がゾーンに入ったことと、空と大地の覚醒をきっかけに、花月ペースとなった。

 

「ふん!」

 

堀田がゴール下を制圧し、失点をとにかく抑え続けている。三杉も、ナッシュのパスをあえて止めに行かず、パスコースを限定をすることでパスそのものは見えずとも、行き先が分かっているので他の選手も対応が出来るようになっていた。

 

「行かせるか!」

 

「死守します!」

 

空と大地も、それぞれのマッチアップ相手であるニック、アレンの動きに対応出来るようになり、ここからの失点も格段に減った。

 

 

第4Q、残り4分29秒。

 

 

花月  70

J・W 79

 

 

点差は9点にまで縮まっていた。

 

「おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

ゴール下でボールを受けた堀田がダンクに向かう。

 

「クソがぁっ!」

 

シルバーがブロックに向かう。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

堀田のダンクがシルバーの上から炸裂する。

 

『きたぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

徐々に詰まっていく点差を目の前に、会場が再び熱気に包まれていった。

 

「(この俺様が…! こいつが俺より上だとでも言うのか!? …あり得ねえ。そんなことあり得ねえ…! あっちゃならねえんだよ!)」

 

突如、シルバーの目に狂気が走る。

 

「がああっ!!!」

 

ダンクが炸裂すると同時にシルバーが腕を大きく振り、堀田の腕を振り払った。

 

「っ!?」

 

シルバーの突然の行動に、堀田は空中でバランスを崩し、そのまま落下していく。

 

「(まずい! あのまま落下したら大怪我を…!)」

 

空が慌てて堀田を助けようと駆け寄る。

 

 

――バタン!!!

 

 

だが、間に合わず、堀田はコートに叩きつけられた。

 

「ぐっ…!」

 

堀田が左肩を抑えて蹲っている。

 

「レフェリーストップ!」

 

審判が慌てて笛を吹き、試合を中断した。

 

「大丈夫か、堀田!?」

 

ベンチから上杉が堀田に駆け寄った。

 

「……肩が脱臼してやがる。大した怪我ではないが、これ以上の試合は無理だ」

 

入念に堀田の左肩を調べた上杉はそう判断した。

 

「てめえ、わざとやりやがっただろ!」

 

故意と断言した空がシルバーに詰め寄った。

 

「やめろ、空」

 

詰め寄ろうとした空を三杉が制止した。

 

「ハッ! うるせえサルだ」

 

そんな空を鼻で笑うシルバー。

 

「随分と余裕のない真似をするじゃないか、シルバー」

 

三杉がディフェンスに戻ろうとするシルバーに話しかけた。

 

「あん? 事故だよ事故。ゴール下じゃ、良くあることだろ?」

 

悪びれもせず、嘲笑を浮かべながら三杉に返すシルバー。

 

「あの野郎!」

 

1度は制止された空が再度詰め寄ろうとしたが、三杉に肩を強く掴まれた為、出来なかった。

 

「大丈夫です。まだやれます」

 

「ダメだ。脱臼を甘くみるな。ここで無理をすれば、一生ものだ。何より、左肩が上がらない状態では試合にはならないだろう」

 

試合の続行を要望する堀田に対し、上杉が制止する。

 

「右腕さえあれば問題ありません。ここで下がる訳には――」

 

「ダメだ。下がるんだ、健」

 

制止を聞かず、無理にでも試合に出続けようする堀田を、三杉が止めた。

 

「分かっているのか!? この試合が負ければお前は――っ!?」

 

「下がれ、健」

 

「……分かった」

 

尚も食い下がろうとした堀田だったが、三杉の顔を見て考えを改めた。

 

「メンバーチェンジだ。松永、入れ!」

 

「はい!」

 

呼ばれた松永がシャツを脱ぎ、コートへとやってきた。

 

「…」

 

三杉は、ただ無表情でシルバーに視線を向けていた。

 

 

ジャバウォックがリスタートをし、ナッシュがボールを保持した。

 

「…」

 

目の前には三杉が立ち塞がっている。だが、表情を窺う事は出来なかった。

 

「終わりだな。残念だが、それが現実だ」

 

「…」

 

挑発混じりの言葉を向けられても、三杉は何も反応しなかった。

 

 

――ヒュッ…。

 

 

ナッシュがノーモーションクイックパスをニックに出した。

 

「行かせねえぞ!」

 

怒りを露わにした空が全力を以ってディフェンスに臨んでいる。

 

「(ちっ、抜けねえ…。だが、関係ないな)」

 

抜くことが出来ず、僅かに苛立ちを覚えたが、すぐさま切り替え、ニックはシルバーにパスを出した。

 

「(ぐっ! 何だこの重さは!?)」

 

シルバーのマークに付いた松永だったが、シルバーの圧力に対抗出来ずにいた。

 

「ハッハッハッ! こいつじゃ話にならねえぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高速のスピンターンで松永をかわした。

 

「終わりだ!」

 

ボールを掴んだシルバーが跳躍し、リングへとボールを叩きつけた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「な…にぃぃっ!」

 

「三杉さん!」

 

だが、ボールがリングに叩きつけられる直前、三杉によってボールが叩き落とされた。ルーズボールを空がきっちり抑えた。

 

「空、ボールを寄越せ!」

 

「っ! はい!」

 

普段とは違う三杉の口調に軽く戸惑いを覚えるも、空は三杉にボールを渡した。

 

「…」

 

ボールも貰った三杉はゆっくりボールをフロントコートまで運んでいく。

 

「クソッ! 調子に――」

 

「邪魔だ、引っ込んでろ」

 

ニックが三杉の目の前に立ち塞がった瞬間、突如、尻餅を突いてしまった。

 

『?』

 

試合を観戦していた観客は何が起こったのか理解出来ず、頭に『?』を浮かべていた。

 

そのまま、三杉はシルバーが待ち構えるゴール下まで進んでいった。

 

「まさか敵討ちのつもりか? ハッ! 返り討ちに――ッ!?」

 

「そういえば、まだ健への詫びがまだだったな」

 

そう三杉が呟いた瞬間、突如、シルバーの膝が崩れ、その場に膝を突いた。シルバーが崩れ落ちるのと同時に三杉はシルバーに背中を向け、ボールをリングに放り投げた。

 

「ここは日本だ。この国の最高の謝罪をこいつにさせてやるよ」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイにリングの中心を射抜いた。そして…。

 

 

――ドガッ!!!

 

 

「がっ!!!」

 

リングを潜ったボールが丁度リングの真下で膝を突いていたシルバーの頭に直撃する。すると、その衝撃でシルバー前方に崩れ、両手をコートに付いた。

 

『っ!?』

 

その瞬間、会場中の人が眼を見開いた。

 

コートに膝を突き、さらに両手をコートに付けたその姿は、土下座そのものであったからだ。

 

「舐めた真似してくれやがって…。てめえら、ただでアメリカに帰れると思うなよ」

 

三杉がジャバウォックの選手達に向けて荒い口調で言い放った。

 

 

「まさか、三杉も…!」

 

「遂にあいつの本気が見られるのか…!」

 

「これが、三杉誠也の本気…」

 

「あいつも…」

 

「さっきまでとは別人ッス…!」

 

火神、青峰、緑間、紫原、黄瀬は、三杉の変貌とその正体に気付いた。

 

「間違いない。三杉誠也が、ゾーンに入った」

 

赤司が呟いた。

 

堀田がゾーンに入り、1度は広がった点差が再び縮まった。だが、シルバーの卑劣な行為によって堀田が負傷退場となってしまった。

 

だが、それにより三杉誠也のゾーンの扉を開いたのだった。

 

試合は、クライマックスに突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ジャバウォック戦…というか、三杉と堀田がいるインハイが不評なのでさっさと終わらせたかったのですが、思った以上にボリュームが増え、次回に持ち越しです。

様々な感想をいただき、1度は全中戦以降を書き直す事も検討したんですが、せっかく書いたものですし、何よりそれをやると間違いなくエタリそうなので、このまま続けます。

宣言すると、自分は我が道を貫きます。もちろん、良い意見を頂ければ参考にし、あるいは採用しますが、自分の考えた大筋のストーリーは批判を受けても変えないつもりでこれからも執筆を続けていきますので不快に感じましたら申し訳ありません…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第65Q~課題~


投稿します!

先週投稿予定でしたが、多忙によりここまで伸びてしまいました…(^-^;)

そして、過去最大のボリュームです。

それではどうぞ!



 

 

 

「舐めた真似してくれやがって…。てめえら、ただでアメリカに帰れると思うなよ」

 

三杉がジャバウォックの選手達に向けて荒い口調で言い放った。

 

 

第4Q、残り4分10秒。

 

 

花月  74

J・W 79

 

 

三杉がニックとシルバーをかわし、得点を決めた。

 

 

「三杉がゾーンに入った。…それより、今、三杉は何をしたんだ?」

 

ゾーンに入ったことにも驚いたが、それ以上に火神は、その前のニックとシルバーが突然倒れた事に疑問を覚えた。

 

「昨年の冬に黄瀬のパーフェクトコピーと対峙した君なら分かるはずだ。彼がやったことは『基本』あれと変わらない。だが…」

 

『?』

 

「彼の恐ろしいところは、それをフェイクだけでやってのけてしまったことだ」

 

「なっ!?」

 

赤司の説明を聞き、火神は言葉を失う。

 

「恐ろしい限りッスよ。正直あれは今の俺ではコピー出来ないッス」

 

あらゆる技をコピー出来る黄瀬も、冷や汗を流す。

 

「だが、堀田健が退場したことで、インサイドが弱体化した事実は変わらない。それでも不利な状況は続くのだよ」

 

緑間は、冷静に状況を分析していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「クソがぁっ…ぶっ殺してやる!」

 

屈辱とも言える強制土下座をさせられてシルバーは目を血走らせながら立ち上がり、三杉に殴りかかろうとする。

 

「やめろシルバー!」

 

「っ!?」

 

そんなシルバーをナッシュが制止した。

 

「これ以上、俺に恥をかかせんじゃねぇ。バスケの借りはバスケで返せ」

 

「……ちっ!」

 

制止されたシルバーは渋々であるが拳を収めた。

 

「…サルめ」

 

シルバー程ではないが、ナッシュも苛ついていた。そして、リスタート。ジャバウォックのオフェンスが始まる。

 

「…」

 

ボールをキープするナッシュ。目の前には三杉。

 

「来いよ」

 

「…っ!」

 

低く、静かな声色で言う三杉。その瞬間、ナッシュの背筋に冷たいものが走った。

 

「…ちっ」

 

仕掛けるのは危険と判断したナッシュは左サイドに展開していたザックにパスを出した。

 

「ちぃっ、スイッチや!」

 

ザックをマークしていたのは天野だったが、アレンのスクリーンに捕まってしまった。即座に、大地がディフェンスに向かった。

 

「どけぇ、サルが!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ドライブを仕掛けるザック。

 

「…ぐっ!」

 

ザックに食らい付く大地だが、体格差を生かし、パワーで強引に押し進むザックのドライブを止められず、突破を許してしまう。

 

「…っ」

 

そのまま突き進むザックだったが、そこへ、三杉がヘルプに現れた。

 

「ぶち抜いてやる!」

 

お構いなしにザックは三杉に仕掛けていった。

 

「やめろ、戻せザック!」

 

ナッシュは制止したが、それを聞かず、ザックは仕掛けていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

三杉の目の前で高速のクロスオーバーを仕掛け、三杉の背後を取ったザック。

 

「ハッ! このまま――っ!?」

 

そのままリングに向かおうとしたザックだったが、その瞬間気付いた。自分のその手に、ボールがないことに。ザックが振り返ると、ボールは三杉の右手に収まっていた。

 

「行くぞ、速攻だ! 空、綾瀬、走れ!」

 

三杉がそう号令をかけると共に、ドリブルを始めた。

 

「くそっ、調子に乗るな!」

 

そこへ、ニックが立ち塞がった。

 

「関係ねぇ、そのまま突破する!」

 

構わず三杉はニックに向かっていく。

 

「…なっ!?」

 

三杉が仕掛けると、ニックは言葉を失った。ニックの目には、左右にドライブ、シュート、パスをする三杉の姿が見えたからだ。

 

「(何だこれは! いったいどれが本物なんだ!?)」

 

驚異的を誇る三杉のフェイクに、ニックはどれが本物か判別出来なかった。三杉は棒立ちのニックの横を高速で抜けていった。

 

「野郎、ぶっ潰してやる!」

 

リング付近まで侵入すると、シルバーが現れた。だが…。

 

『っ!?』

 

三杉は構わずボールを掴むと、リングに向かって跳躍した。

 

「バカが! このまま地べたに叩き落してやるよ!」

 

シルバーは同時にブロックに飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

リング目前でシルバーの手が三杉の持つボールを捉えた。

 

「単純なパワーならお前には敵わねぇ。だがな、全身の力を右手に集中させれば…」

 

「…っ!?」

 

ブロックしたシルバーの手が徐々に押され始めた。

 

「そんなチンケなブロックぐれえぶち破れんだよ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐおっ!」

 

シルバーのブロックを弾き飛ばし、三杉のワンハンドダンクが炸裂した。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「しゃあっ!」

 

ダンクが決まると、三杉は拳を握り、大声で喜びを露わにした。

 

「ハハッ、すげえ…!」

 

「これが、三杉さんの本気…」

 

目の前で三杉の実力を目の当たりにし、空は興奮し、大地は驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「すげーな三杉」

 

ベンチで試合を見守る真崎も三杉の活躍に驚愕していた。

 

「でも、いつもの三杉先輩とまるで別人…いったい何が…」

 

突然、人が変わってしまった三杉に、生嶋は戸惑っていた。

 

「そうか。お前達はあの三杉を見るのは初めてだったな」

 

痛めた肩の治療を受けている堀田が会話に加わった。

 

「今でこそ、あいつはコート上で誰よりも冷静であろうと努めているが、昔のあいつは、超攻撃的で、例えるなら、キセキの世代の青峰ように野生を武器とした荒々しいバスケをしていたよ」

 

『…』

 

「だが、シルバーにそれ以上の野生で蹂躙され、ナッシュには完膚なきまでに封殺されてから、それでは勝てないことを知り、センスや直感頼りのバスケから、より基本を磨き、バスケを研究し、スポーツ医学に基づいて理想的な身体を作り、心理学を学んだ」

 

『…』

 

「あいつは常々言っていたよ。野生だけでも、読みやデータだけでなく、両方等しく得たプレイヤーが、バスケ選手の理想像だとな。そして努力の末、あいつはその理想像へと足を踏み入れた。ゾーンに入った今の三杉誠也は、高度なコンピューター並みの頭脳を持った野生の獣。そして、抑えていた自分が解放し、荒々しさと緻密さを兼ね備えた今の姿こそ、本当の三杉の姿だ」

 

コート上の三杉に視線を向けながら堀田は語った。

 

「とんでもない話だな。…っと、肩が入った。これで左肩も動くはずぞ」

 

肩の応急処置を行っていた馬場が堀田に告げた。

 

「ありがとう、馬場。これでまた戦える」

 

スッと立ち上がると、オフィシャルテーブルに足を進めた。

 

「っておい、まさか試合に出るつもりか!? 俺がしたのは肩が動かせるようにしただけのただの応急処置であって、治したわけじゃないんだ。無理に動かせば肩に激痛が走るはずだ。そんな状態じゃ試合どころじゃないぞ」

 

そんな堀田を馬場が止めた。

 

「痛みなど一瞬だ。動けば問題ない」

 

制止を聞かず、堀田は交代申請に向かおうとする。

 

「待て」

 

そんな堀田に、上杉が声を掛けた。

 

「どうしても出るつもりか?」

 

「はい」

 

「…」

 

「……分かった。だが、残り1分まで待て。脱臼した状態で全力で戦えるのはせいぜい1分だ。それまで待て。それが条件だ」

 

「…分かりました」

 

上杉の言葉を了承し、堀田はベンチに戻り、腰掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ジャバウォックのオフェンスが止められ、三杉が決めたことにより、点差は3点にまで縮まった。

 

「アレン、寄越せ!」

 

素早くアレンがボールを拾い、ナッシュにボールを渡し、そのままナッシュがドリブルを始めた。

 

「っ!? しもた、カウンターや!」

 

攻守を素早く切り替えるジャバウォック。

 

「行かせっか!」

 

それよりも早くディフェンスに戻った空がナッシュの前に立ち塞がる。

 

「サルが…、お前ごとき――ちっ」

 

空を抜きさろうと試みたナッシュだったが、空の近くに三杉の姿が見えたので断念した。ナッシュと言えど、抜いた直後を今の三杉に狙われたらボールを奪われる可能性があるからだ。

 

「ふん……なら…」

 

ボールを止めたナッシュはパスに切り替えた。パスの行き先は、現状、花月で1番脆いゴール下の松永がマークするシルバー。

 

「っ!?」

 

ナッシュの手からボールが消え去る。

 

「うおっ!?」

 

だが、ボールはシルバーの遥か頭上に飛んでいった。シルバーは咄嗟に跳躍し、右手でボールを掴んだ。

 

『パスミスだ!』

 

『プレッシャーから手元を狂わせたか!?』

 

軌道が大きく逸れたパスを目の当たりにし、観客が騒ぐ。

 

「(このサル…! 俺のパスに触れやがっただと…!)」

 

パスの軌道が大きく上に逸れた理由はパスミスではなく、空の手にボールが触れたからだ。これはもちろん、ナッシュのパスがたまたま空の手に当たった訳ではなく、空が伸ばした手がボールに当たったのだ。

 

「(俺のパスに癖が? …いや、それはあり得ない。そういえばこいつ…)」

 

ここでナッシュは気付いた。誰もが見えないパスを、空だけが唯一最初から見えていたことに。

 

「(こいつ、まさか…)」

 

軌道が逸れたボールを掴んだシルバーがコートへと着地する。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!」

 

だが、着地した直後、外から1本の腕がシルバーの持つボールを弾いた。

 

「練習嫌いというのは本当のようですね。狙われやすいリバウンド直後の対応が散漫です」

 

大地がリバウンド直後のシルバーを狙い、ボールを弾いた。

 

「空!」

 

ルーズボールを拾った大地が大きく前線へロングパスを出した。

 

「よっしゃ! ナイスだぜ!」

 

空がボールを受け取り、そのままドリブルを始めた。

 

「あんなサルに…! クソがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

大きな咆哮をシルバーが上げると、自陣へ猛ダッシュを始める。そして…。

 

「っ!?」

 

スリーポイントライン手前で空を追い越し、立ち塞がった。

 

「調子に乗るなよ、チビザルがぁっ!」

 

「…このデカ物が」

 

薄っすらと何を言われた理解した空はシルバーに突っ込んでいく。

 

「空坊! それはいくら何でも無茶やで!?」

 

さすがにシルバーを相手には分が悪過ぎると判断した天野は制止した。

 

「ハッ! 行くぜ!」

 

グングン加速して猛スピードでシルバーに突っ込んでいく空。シルバーの目前で空は両足を滑らせるように前に出し、仰向けに態勢を低くした。

 

「なっ!?」

 

その直前で空はビハインドパスでボールを左へと流し、滑り込んだ勢いのままシルバーの股下を潜り抜けた。ボールを受け取ったのは先ほどシルバーからボールを奪った大地。大地はボールを受け取るとすかさずボールをリング付近に放った。

 

『こ、これは…!』

 

シルバーの股下を潜り抜けた空は素早く両足を曲げ、態勢を整えると、リングに向かって跳躍…ちょうどそのタイミングで飛んできたボールを右手で掴んだ。そして…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉっ! 何だ今の!?』

 

一連のプレーを見た観客は大歓声を上げた。

 

 

「ハハッ、すげぇ…!」

 

火神も驚きを半分含んだ笑みを浮かべていた。

 

 

「デカけりゃ良いって訳でもねえだろ?」

 

ドヤ顔でシルバーの横を通り抜けながら言い放つ空。

 

「くっ…くそっ…!」

 

屈辱から顔を歪ませ、拳をきつく握りしめるシルバー。

 

点差はついに1点。ワンゴールで逆転の所までやってきた。

 

『くっ!』

 

ついに背中を捉えられたジャバウォックの選手達の表情には焦りの色が現れた。

 

「…ふぅ。まさか、ここまで追いつめられるとはな。驚いたぜ」

 

一息吐くと、ナッシュは花月を認めるような言葉を呟いた。

 

「どうやら、使うしかないようだな。切り札を…」

 

「っ!」

 

ここで、ナッシュの雰囲気が変わった事に気付いた三杉は臨戦態勢を取った。

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをするナッシュ。それに立ち塞がる三杉。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

唐突に、ナッシュが動く。レッグスルーからバックチェンジに繋げて左右に揺さぶる。だが、三杉はそれにピタリと付いていく。三杉がナッシュの進路を遮ったその時。

 

「っ!?」

 

ナッシュの手元からボールが消え失せた。コート上の花月の選手達がボールを所在を見失う。

 

「っ!?」

 

ここで空が花月で誰よりも早く気付いた。ボールが、自身がマークするニックに渡っていることに。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取ったニックが悠々とミドルシュートを決めた。

 

 

「今のパスは…」

 

そのあまりにも不可解なパスに、火神は驚愕する。

 

「今、あの6番がフリーになった瞬間にパスを出してたッスよ!」

 

「まずいな…」

 

一連のプレーの正体に気付いた赤司は表情を顰める。

 

「今のパスは打ち合わせたプレーではない。彼(ナッシュ)が三杉さんを抜いていたら、自らシュートに行く態勢だった」

 

『…』

 

「彼は持っている。俺と同系統の眼を…。しかも、俺のエンペラーアイを凌ぐ、目の前の1人だけではない、コート上の敵味方全員の未来を視える眼を…」

 

「なっ!?」

 

赤司に説明を聞いてその場にいた全員が驚愕する。

 

「敵味方全員だと? そんなこと…」

 

「間違いない。そうでなければ今のプレーは説明が付かない。…そして、これによって花月は苦境に立たされることになる。敵味方の未来が視えるということは、オフェンスは防げず、ディフェンスは出し抜く事が出来ないことを意味するからだ」

 

あまりにも絶望的な事実が赤司に口から語られた。

 

 

「褒めてやるよ。俺の最大の切り札であるこの魔王の眼(ベリアル・アイ)を使わせたんだからな。だが、頑張りもここまでだ。完全なトドメを刺してやるよ」

 

『っ!?』

 

ナッシュから告げられると、花月の選手達の表情が曇った。

 

「赤司さんと同じ…いや、それ以上の眼があるなんて…」

 

ポジティブな空でも状況の悪さが理解出来てしまい、悔しさを露わになる。

 

「落ち着け。例え、未来が視えていても、ナッシュ1人だけならまだ何とかなる。残り時間僅かだ。点差も3点。死力を尽くすぞ」

 

「は、はい!」

 

気持ちが落ちる空に三杉が肩に手を置いて激励する。

 

 

リスタートし、ボールは三杉に渡される。

 

「…」

 

「…」

 

三杉の前に立ち塞がるのはナッシュ。三杉がナッシュの間合いに踏み込むと、三杉が動き出す。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

高精度のフェイクとスピードとキレのあるテクニックでナッシュを翻弄する。

 

「どんなフェイクも、俺の眼の前では無意味だ」

 

「…」

 

だが、ナッシュは三杉の動きにピタリと付いていく。

 

「(1ON1なら赤司と戦った時と状況は同じ。だが、ナッシュと赤司とでは個人の性能に差がある。簡単には抜けないか…)」

 

「(ちっ、眼を使っても尚、抜かせないだけで精一杯とはな。イラつかせてくれる…)」

 

ゾーンに入った三杉。ベリアルアイを使ったナッシュ。個人の戦況は互角。

 

 

――ピッ!

 

 

僅かに距離を取って三杉は天野のスクリーンでマークを外した大地にパスを出す。

 

「これで…!」

 

ボールを受け取った大地がシュート態勢に入る。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、そのシュートは後ろから駆け込んだナッシュにブロックされる。

 

「それで出し抜いたつもりか? 笑わせてくれるな」

 

ルーズボールをアレンが拾い、素早くナッシュにボールを渡す。ボールを受け取ったナッシュはそのままドリブルで進軍していく。

 

「この…!」

 

「行かせへんで!」

 

ドリブルで突き進むナッシュの前に天野と松永が立ち塞がる。ナッシュは高速のクロスオーバーで松永の横を抜ける。

 

「ぐっ!」

 

「まだや!」

 

松永を抜いた直後、回り込んだ天野がナッシュのボールを狙い撃つ。

 

「所詮はサル知恵だ」

 

天野の手がボールに触れる直前、バックチェンジで切り返し、その天野をかわす。

 

「これ以上好き勝手させるか!」

 

「止めます! ここで!」

 

ナッシュの左右から空と大地が挟み込む。

 

「「っ!?」」

 

だが、ナッシュの手にボールがなく、2人は目を見開く。ボールはさらに左サイドに走り込んでいたザックの手に渡っていた。

 

「トドメだ!」

 

リング付近でボールを掴んだザックはリングに向かって跳躍した。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、ボールがリングに叩きつけられる直前、三杉によってブロックされた。

 

「お前のように未来を視えるような眼は持ってないが、観察した得た敵味方全員のデータから攻撃パターンを予測するくらいは出来る。そう簡単に俺を出し抜けると思うな」

 

「…ちっ」

 

攻撃が失敗したナッシュは軽く舌打ちをした。

 

敵味方全員の未来が視えるナッシュと、敵味方全員の未来が予測出来る三杉の存在によって、試合は膠着状態に陥ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り1分3秒。

 

 

花月  84

J・W 87

 

 

三杉とナッシュという、双方のチームに攻守に大きく影響を与える選手がいる為、点差は3点差と5点差を行き来していた。

 

互いに決定打がなく、手をこまねいている状況だが、焦りの色が大きいのはジャバウォックの背中を追う花月。

 

「くそっ…」

 

「点差が縮まらない」

 

空と大地は、変わらない上に刻一刻と試合終了が近づいている状況にひと際焦っていた。

 

『アウトオブバウンズ、黒ボール!』

 

ボールがラインを割る。その時…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『メンバーチェンジ、緑!』

 

ここで、花月のメンバーチェンジがコールされる。

 

「堀田さん!」

 

オフィシャルテーブルには、堀田の姿があった。

 

「ほ、堀田さん…」

 

フラフラと松永歩いていき、そして、堀田にハイタッチを交わす。

 

「後は……、頼み…ます…」

 

「任せろ。ここまでよくやってくれた」

 

息を限界にまで切らした松永が堀田に後を託した。

 

僅か数分の試合だったが、マッチアップの相手はシルバー。体力を全て注ぎ込んだ結果、限界を迎えてしまった松永。自力でベンチまで歩いていくと、ベンチに倒れ込んだ。

 

「やれるんだな?」

 

「当然だ」

 

「……分かった。それじゃあ、トドメを刺しに行くぞ」

 

『きたぁぁぁぁぁぁっ!!! 堀田が帰ってきたぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

花月最強の守護神、堀田が再びコートに戻ってきたことにより、会場のボルテージは最高潮になる。

 

「…」

 

試合が再開され、ナッシュがボールをキープする。

 

 

――ヒュッ…。

 

 

ナッシュのノーモーションクイックパス。ボールの先はシルバー。

 

「容赦なんかしねーぞ。出てきたなら遠慮なく狙ってやるよ」

 

「ハッ! 死ねや!」

 

高速のスピンターンで堀田の左手側から仕掛けるシルバー。痛めたの左肩。ブロックするには左腕を動かすしかない。

 

「ふん!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

堀田の左腕がシルバーの持つボールを捉える。

 

「っ!」

 

その瞬間、堀田の肩に激痛が走る。それと同時に徐々に押されていく。

 

「これしきの痛み、かつて味わった敗北に比べればはるかに温いわぁっ!」

 

渾身の力を左腕に込め、そして…。

 

 

――バチィィィン!!!

 

 

シルバーの右手に収まるボールを弾き飛ばした。

 

「なんだとぉぉっ…!」

 

「負けん。この試合だけは絶対に負けん」

 

ルーズボールを空が必死に食らい付き、確保する。

 

「空!」

 

「あいよ!」

 

空が前線に走る大地にロングパスを出す。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままワンマン速攻を決め、レイアップを決めた。

 

『再び1点差だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

花月が再度点差を1点に縮めた。

 

「よーし!!!」

 

三杉と堀田がハイタッチを交わす。

 

「…くっ!」

 

自らの判断ミスで点差が縮まり、悔しさを露わにするナッシュ。

 

再びリスタートをし、ナッシュにボールが渡る。

 

「(…ギリッ!)」

 

目の前の三杉を見て、歯ぎしりをするナッシュ。その怒りが、今まで隙を見せなかったナッシュに隙を作ることになった。

 

「健、シルバーだ!」

 

「っ!?」

 

ナッシュがマークから外れようとするシルバーを堀田に伝えた。シルバーにパスを出そうとしていたナッシュは一瞬ではあるが身体を硬直させた。

 

 

―――バチィィィッ!!!

 

 

僅かな隙を見逃さなかった三杉は動きを止めたナッシュの手に持つボールを叩いた。

 

『なにっ!?』

 

まさかナッシュがボールを奪われると思わなかったジャバウォックの選手達は目を見開く。ボールを弾いた後、三杉がすかさずボールを拾い、そのままワンマン速攻で突き進み…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクを決めた。

 

『逆転だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

遂に花月が逆転に成功する。

 

 

第4Q、残り24秒。

 

 

花月  88

J・W 87

 

 

「っしゃぁ!」

 

空は喜びを露わにし、大地も小さく拳を握った。天野とベンチの選手達、そして、観客全てが歓声を上げた。

 

『…っ!』

 

逆転を許し、焦りを露わにするジャバウォックの選手達。

 

「…」

 

だが、ナッシュだけは、1人冷静さを保っていた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

リスタートをし、ゆっくりとフロントコートまでボールを進めるナッシュ。

 

「…(チラッ)」

 

「「(コクッ)」」

 

ここで、ナッシュはアレンとザックにアイコンタクトをすると、2人は頷いた。ザックが三杉の背後まで寄り、スクリーンにやってきたところで…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ナッシュがドライブを仕掛ける。

 

「…っ!」

 

三杉はザックのスクリーンを読み切り、ザックをかわしてナッシュを追いかける。

 

 

――ガシィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だがその直後、三杉は動きを止められる。ザックの背後、三杉にとって死角の位置にアレンがスクリーンをかけていた。三杉のデータにもない連携。これにより、ナッシュがフリーになる。

 

「ちぃっ!」

 

ここで、天野がヘルプに飛び出し、ナッシュを止めにかかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

天野がディフェンスに現れると、ナッシュは前後への揺さぶり、ロッカーモーションで天野を一気に抜きさる。天野を抜くと、そのまま堀田が待ち構えるゴール下にドリブルしていき、そのまま跳躍する。

 

「させん!」

 

それに合わせて堀田がブロックに飛ぶ。堀田の手がナッシュのボールに触れる直前…。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

ナッシュはワンハンドダンクの態勢から手首を捻り、ボールを上へ向けると、手首のスナップを利かせ、ボールをフワリと浮かせるように投げると、ボールは堀田のブロックを越え…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

弧を描きながらリングを潜った。

 

「なっ!?」

 

あっさりと得点を奪われ、絶句する空。

 

「勝ったと思ったか? この程度の修羅場なんざ俺は何度も潜り抜けてきたんだよ。…これでトドメだ」

 

睨みつけながら花月の選手達に言い放つナッシュ。ナッシュ最大の切り札である、スクープショットとフィンガーロールを組み合わせたブロック不可のショット。残り時間9秒を残して、再び花月は逆転を許してしまった。

 

「ちくしょう…」

 

試合終了間際に逆転を許し、悔しさと焦りが露わになる空。得点を決めたナッシュを始め、ジャバウォックの選手全員自陣に退いており、試合終了まで逃げ切る態勢を取っている。

 

「空、ボールをくれ」

 

ボールを拾った空に、三杉がボールを要求する。すかさず空は三杉にボールを渡した。

 

「これが日本での最後のプレーになる。空、綾瀬。よく見ておけ」

 

空と大地にそう告げ、三杉はドリブルを始める。

 

「抜かせるか!」

 

グングン加速していく三杉の前に、ニックが立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、三杉はスピードを緩めず、そのままニックに突っ込む。ぶつかる直前にフェイクを入れ、無条件反射を起こさせ、ニックを進路からどかした。

 

「くっ! 何なんだお前は!?」

 

尚も突き進む三杉に、ザックがヘルプに飛び出し、進路を塞ぐ。だが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「うおっ!?」

 

先ほどのニックと同じく、高精度のフェイクによって無条件反射を引き起こされ、道を空けてしまう。

 

「バカが! 俺にそんな子供だましが通用すると思うな!」

 

ザックを抜きさると、ナッシュが三杉を止める為に立ち塞がる。

 

 

「眼を使われればナッシュにフェイクは通じない。裏を掻けない相手に三杉誠也はどうする…」

 

同系統の眼を持つ赤司が警鐘を鳴らすような発言をする。

 

 

三杉とナッシュの距離がどんどん縮まっていく。すると…。

 

「っ!?」

 

ここで、ナッシュが目を見開く。三杉は止まるどころかさらに加速をし始めた。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

「なっ…!?」

 

三杉はナッシュの股下にボールを投げつけ、ボールを通すとさらに加速。最高速でナッシュの横を駆け抜けた。投げたボールを再び保持する。

 

『抜いたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

ナッシュをも抜きさり、ゴール下まで侵入していく。

 

「シルバーーーーーーーっ!!! ファールしてでも止めろぉぉぉぉぉっ!!!」

 

最後の砦であるシルバーに必死に声を張り上げるナッシュ。

 

「サルがこれ以上付け上がるんじゃねぇっ!!!」

 

ゴール下でシルバーが立ち塞がる。さらに、先ほど抜かれたナッシュがすぐさま後ろから三杉に襲い掛かる。

 

…残り時間、2秒…。

 

 

――スッ…。

 

 

前後から襲い掛かるナッシュとシルバー。双方に挟まれる直前、三杉が動く。

 

…その瞬間、コート上の時間が止まる。

 

三杉が左サイドにボールを流す。ボールはキレイな線を描くかのように舞っていく。

 

「(っ!? このコースは…!)」

 

ナッシュが目を見開く。

 

ボールは、左サイドに展開していた空の手元に届いた。

 

『っ!?』

 

ここで、ナッシュ以外のジャバウォックの選手及び、花月の選手、観客の時間が動き出す。

 

「打て、空!」

 

ボールを受け取った空はすぐさまシュート態勢に入り、ボールを放った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

それと同時に試合終了のブザーが鳴る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイな放物線を描き、リングの中央を射抜いた。

 

『っ!』

 

会場にいる全員の視線が審判に集まる。

 

審判は手を上げ、指を2本立てると、2本の指を振り下ろした。

 

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

その瞬間、観客から大歓声が会場中を包み込んだ。

 

「…」

 

勝利のシュートを決めた空はシュート態勢のまま固まっていた。そんな空に、大地が抱き着き、続いて天野が。さらに、ベンチから飛び出した生嶋、松永が飛び込んだ。

 

 

試合終了…。

 

 

花月  90

J・W 89

 

 

『…』

 

敗北したジャバウォックの選手達はただただ絶句していた。

 

「ふざけんじゃねえ! こんなのはマグレだ! もう1度やらせろ!」

 

試合結果に納得が出来ないシルバーが1人、再戦を叫ぶ。

 

「やめろシルバー」

 

「っ!」

 

喚くシルバーをナッシュが制止する。

 

「俺達の負けだ。これ以上、恥を晒すんじゃねえ」

 

「…っ! ちくしょうがぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ナッシュが舌打ちをすると、三杉の下に歩み寄る。

 

「俺の負けだ。言い訳はしねえ。……折れよ」

 

三杉の前に立つと、ナッシュは右腕を差し出すように出した。

 

負ければ腕を折ると公言していた今日の試合。その公言通り、ナッシュが腕を出す。

 

「…」

 

三杉は右手を前に出すと、その手を握った。

 

「あぁっ!? 何の真似だ!?」

 

握られた手を振りほどくと、ナッシュは怒りを露わにした。

 

「これで1勝1敗。その腕は、いずれ勝ち越しを賭けた戦いの時に必要になる。それまで預けておく」

 

「ふざけんじゃねえ! サルの情けなんざ受ける気はねえ! さっさと折りやがれ!」

 

三杉の言葉に納得が出来ないナッシュは激昂する。

 

「うるせえな。同じ1勝でも俺は辛勝、お前は圧勝。これで終わりじゃこっちが納得出来ないんだよ。約束を行使するかしないかは勝ったこっちに決める権利がある。黙って従えよ」

 

激昂するナッシュに淡々と告げる三杉。

 

「ちっ! ……てめえ、名前を教えろ」

 

「三杉誠也だ」

 

ナッシュが視線を三杉の横に向ける。そこには堀田の姿があった。

 

「堀田健だ」

 

「セイヤ・ミスギ。タケシ・ホッタ。その名前、忘れねえぞ。俺が受けたこの屈辱は必ず返す。必ずだ」

 

睨み付けながらナッシュは三杉と堀田に告げ、ナッシュはコートを去っていった。

 

「「三杉さん」」

 

ナッシュが去った後、空と大地が三杉の下にやってきた。

 

「綾瀬」

 

「はい」

 

「これから先、お前が花月のエースとしてチームを支えていく事になる。だが、今のお前ではキセキの世代に及ばない。チームを背負い、戦っていく為に足りないものがる」

 

「足りないもの…」

 

「それを見つけた時、お前はチームのエースとして、キセキの世代が相手でも対等に戦えるはずだ。それを必ず見つけて見せろ」

 

「…はい!」

 

三杉は空に視線を向ける。

 

「空」

 

「はい!」

 

「最高のパスとは何だと思う?」

 

突如、三杉が空に問いかけた。空は顎に手を当てて考える。

 

「最高のパス……赤司の味方をゾーンに引き入れるパスですか?」

 

「それも正解の1つだ」

 

「1つ?」

 

「ああ。だが、特殊な眼を持たないお前には出来ない芸当だ」

 

「…はい」

 

「だが、まだある。最後のラストパス。お前は見ていたな?」

 

「は、はい」

 

「バスケには、得点に必ず繋げる事が出来る究極パスコースというものがある。それは、NBAでも一握りのポイントガードにしか見る事が出来ないと言われている」

 

「究極パス……なら、さっきのパスがそうですか?」

 

「違う。俺は頭に入れたデータからそのコースを限定したに過ぎない。純血のポイントガードではない俺には見る事出来ない」

 

「…」

 

「だが、お前には見る事が出来るはずだ。広い視野と独特のパスセンスを持つお前なら」

 

「…俺に」

 

空は胸の前で拳を握った。

 

「これが、お前達に教えられる最後の教えであり、課題だ。この課題、必ずこなしてみせろ」

 

「「はい!!!」」

 

三杉の言葉に、2人は大きな声で返事をした。

 

「…さて、今日は疲れた。さあ、引き上げよう」

 

三杉に促され、空達はコートを去っていったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月、ジャバウォックの選手達がコートから去り、観客は未だに試合の余韻に浸っている。

 

『…』

 

試合を観戦していたキセキの世代と火神は無言でコートを見つめていた。

 

「俺は帰るぜ」

 

最初に、青峰が立ち上がり、席を後にしていった。

 

「…へっ!」

 

その表情は、新たな目標が出来た事の喜びに溢れていた。

 

「俺も帰るねー」

 

次に紫原が立ち上がり、席を後にした。

 

「…俺より強い奴。2人もいた」

 

その表情は、真剣なものだった。

 

「…試合は終わった。帰らせてもらう」

 

「俺も帰らないと。監督がカンカンなんで」

 

緑間と黄瀬が同時に立ち上がり、席を後にした。

 

「上には上がいるのだよ」

 

「俺にもコピー出来ないものがまだある。面白いッスね」

 

メガネのブリッジを上げる緑間と、不敵な笑みを浮かべる黄瀬。

 

「俺もそろそろ失礼する。これでも無理を言ってここに来ているのでね」

 

赤司が立ち上がり、席を後にした。

 

「ベリアルアイ…もしかするなら俺も…」

 

何かを考えながら赤司は去っていった。

 

「みんな、興奮が隠しきれていませんでしたね」

 

「あんなの見せられて熱くならない方がどうかしてるぜ」

 

普段は表情が乏しい黒子もこの時は興奮が表に出ていた。

 

「帰ろうぜ。そして、冬。必ず制して連覇するぞ」

 

「はい」

 

黒子と火神も会場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合が終わり、1週間が経過した。

 

 

――某国際空港…。

 

 

そこに、三杉と堀田の姿があった。

 

この日は、2人のアメリカへと帰国の日であった。

 

「見送りはなくても良かったのか?」

 

そこに、花月の選手達の姿はなく、あるのは監督の上杉だけだった。

 

「構いません。今は1分でも時間が惜しいでしょうから」

 

三杉が上杉の問いにこう返す。

 

夏以降、花月は三杉と堀田抜きで戦わなくてならない。先の困難を考えれば、今はとにかく練習が必須である。

 

「わざわざ見送りありがとうございます。それと、お世話になりました」

 

「礼を言うのはこっちだ。わざわざ日本まで感謝する。向こうに戻っても頑張れよ」

 

「はい。それでは失礼します」

 

2人は頭を下げると、搭乗口へと向かっていった。

 

「……さて」

 

姿が見えなくなるまで2人を見送ると、上杉は踵を返した。

 

上杉の頭には、もうこれから始まる冬の激戦しか頭にない。最強の矛と盾を失った状態でどうやって勝ち上がっていくか…。

 

「……フッ、腕が鳴る」

 

1つ含み笑いを浮かべながら上杉は花月高校への帰路に付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

飛行機内にて…。

 

飛行機は、今まさに空を飛び立とうとしている。

 

「日本に来て良かったな」

 

「ああ。キセキの世代という俺達と同じ領域にいる猛者と戦えたし、ナッシュとシルバーに借りを返す事も出来た。1年足らずの帰国だったが、最高だった」

 

その表情は2人共満足気だった。

 

「あいつらは、冬を勝ち抜く事が出来ると思うか?」

 

堀田が三杉に尋ねた。

 

「……そうだな。僅かな期間ではあったが、教えられる事は教えた。特に空と綾瀬。2人には扉を開ける鍵となるものは渡した。扉を開ける事が出来て、可能性は1割くらいだろうな」

 

「…そうか」

 

問いを聞いて、堀田は表情を軽く曇らせる。

 

「心配はいらないさ。あいつらならやってくれる。あいつらは俺達が認めた奴らなんだから」

 

「フッ、そうだな」

 

「…いつの日か、実現出来るといいな。俺と健と、キセキの世代と火神大我。そして…」

 

ここで、三杉の脳裏には空と大地の姿が浮かんだ。

 

「全日本のユニフォームを着て、アメリカを倒す。俺達の夢が…」

 

「出来るさ。俺達ならな」

 

堀田が力強く答えた。

 

やがて、飛行機は滑走路を離れ、離陸した。どんどん高度が上がる飛行機。

 

「勝てよ。次世代のキセキ達…」

 

こうして、長く、波乱を帯びた熱い夏は、終結したのだった……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この話で夏の話は終わりです。次話からこの二次の本筋に入ります。

実は、いろいろ盛り込みたかった事がありましたが、長くなるのでカットしました。三杉のゾーンの描写だったり、笠松と花月の絡みだったり、ジャバウォックの選手の1人(7番、アレン)がナッシュとシルバークラスの実力者で、ジャバウォックで唯一の常識人であるという独自の設定だったり…。

文字数過去最高の13176文字。書いたなぁ…。いっそ2話に分割した方が良かったかな…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第66Q~それぞれの想い~


投稿します!

今回はあまり注目されなかったオリキャラと謎に包まれたオリキャラにスポットを当てました。

それではどうぞ!



 

 

 

ジャバウォックとの激戦が終え、三杉と堀田がアメリカに帰国して1ヶ月が経とうとしていた。

 

 

――キュキュ!!!

 

 

花月高校の体育館にバッシュのスキール音が響き渡る。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

バスケ部の部員達が息を乱し、大量に汗を流しながら走っている。

 

「おらー! 足を止めるな! お前らは経験でもテクニックでも劣っているんだ。足りないものは相手の倍走って補え!」

 

『はい!!!』

 

監督、上杉の激が飛び、選手達は腹から声を絞り出し、足を動かした。

 

全国のバスケ部の中でもひと際厳しいと言われている花月高校。三杉と堀田が帰国してからはさらに厳しさを増していた。

 

「…」

 

上杉が腕を組みながら練習風景を見つめる。最強の矛と盾がいなくなった花月高校。それは、先に迫る冬の激戦の前に致命的な戦力ダウンを意味していた。

 

攻守において絶対的な個がいた夏は、連携不足があっても個人技で押していくだけで勝ち抜く事が出来た。だが、その個がなくなった今、夏と同じ戦い方では勝ち抜く事は愚かまともに戦う事すら出来ない。

 

そこで、上杉がこれから全国で戦うに向けて考えた新たな戦術プランは、空と大地を始めとする、スピードとスタミナを生かしたラン&ガンである。

 

この戦術プランは昨年に誠凛が全国を制したプランであり、その効果はお墨付きだ。だが、昨年誠凛がこれで全国を制する事が出来たのは、2年を費やして練度を高めたのもあるが、黒子テツヤの力によるものが多い。つまり、誠凛と同じでは戦う事が出来ない。

 

上杉は、ボールを絶えず動かす誠凛とは異なり、ボールではなく、選手が動くラン&ガンを目標とした。その為、その下地を作る為、練習は体力強化を中心に行っている。

 

「よーし、1分休憩!」

 

この号令により、選手達は水分補給に入る。

 

『ぜぇ…ぜぇ…』

 

ある者は床に座り込み、ある者は床に大の字になって倒れている。傍から見ればオーバーワークとも言える猛練習。だが、文句や不満を言う者は1人もいなかった。今のままでは全国の…特に、キセキの世代を擁するチームには絶対勝てない事を皆理解しているからだ。

 

「…」

 

上杉は腕を組んで思案する。

 

花月にとっての悩みの種はさらにもう1つある。それは、昨年のウィンターカップは記念大会ということでIHの優勝、準優勝校が県予選を戦うことなくとなったのだが、今年からそれが正式に実施されることになった。つまり、今年にIHの優勝校である花月高校と、準優勝校である洛山高校は県予選無しで出場出来ることとなった。

 

だが、花月にとって、これは喜ばしいことではなかった。一見、試合をせずに本選に出場出来て幸運に見えるがそうではない。

 

チームとしての完成度が高い洛山であるなら、体力的な面やデータを隠す意味合いで有益とも言えるが、1年生が主軸でチームとしての完成度が低い花月にとって、実戦をこなしながらチームを熟成させる機会を奪われるのはかなり痛手である。

 

「…」

 

本選開始までに多くの試合をする必要がある。それも、実力のあるチームとの試合と。だが、静岡県及び、隣県のウィンターカップ予選参加校は試合を組んではくれないだろう。だからといって、県予選に出場出来なかった高校と試合をしても得られるものは少ない。

 

「……よし」

 

組んだ腕を降ろし、顔を上げると、上杉は決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「お疲れさまでしたー!」

 

外はすっかり暗くなったところで練習は終わった。部員達は部室に戻り、それぞれ帰り支度をしている。

 

「…」

 

その中1人、帆足がベンチに座り、俯いていた。

 

「帆足、着替えもせんでどうかしたんか?」

 

その様子が気になった天野が着替えながら声をかけた。

 

「天野先輩。……いえ、何でもありません」

 

「?」

 

一瞬、何かを言おうとした帆足だったが、口を噤み、着替えを済ませると早々に部室を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

夜道を1人、帆足は歩いていた。

 

 

――帆足大典。

 

 

空と大地と同じ1年生である。

 

彼は高校に入って初めてバスケを始めた初心者である。だが、経験者や体力自慢ですら逃げ出す花月高校バスケ部において、ここまで生き残った1人でもある。

 

帆足が徐に鞄に手を入れ、1枚の紙を取り出す。その紙にはこう書かれている。

 

退部届…。

 

もともと、体力を付ける為に入部したバスケ部。バスケ部を選んだ理由は、たまたまその数日前に目に付いたバスケットの雑誌を読んだ事が理由だった。

 

だが、いざ入部してみれば、その練習は地獄とも言えるものだった。過去にスポーツ経験もなければ特別体力に自信がある訳でもない。そんな彼には、練習量全国一の花月のバスケ部はこの世の地獄だった。

 

入部当初は何度も吐いた。同学年の1年生は日を追うごとに1人、また1人と辞めていった。帆足自身も、何度も辞めようと考えた。だが、それでもここまで辞めることなく練習に付いていった。

 

そんな彼が、辞めようと思った理由とは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

それは、数日前のこと…。

 

いつものように部室に向かおうとする帆足の前に、クラスメイトの1人が話しかけてきた。

 

『これから部活か?』

 

『うん。そうだよ』

 

『バスケ部だっけ? 確か夏に全国優勝したんだよな? すげーな』

 

『僕は試合に出なかったけどね』

 

『練習メチャメチャキツイみたいだな。1度覗いてみたけど、見てるだけ吐きそうだったわ』

 

『実際僕は何度も吐いたよ』

 

『マジかよ…』

 

『ホントだよ。…ところで、それ…』

 

『ん、これか? ラケットだよ。ラクロスの』

 

『ラクロス? …でも確かラクロス部は…』

 

『ああ。随分前に廃部になってた。でも、俺と友達で人数集めて復活させたんだ』

 

『そうだったんだ』

 

『なあ帆足。お前も来ないか?』

 

『えっ!?』

 

『バスケ部のことは分かってる。けどさ、バスケ部って、中学時代に鳴らした奴ばかりなんだろ? 正直、このまま続けてても試合に出れないんじゃないか?』

 

『それは…』

 

『ラクロス部は大半が素人だし、人数もギリギリだ。まあルール覚えるのは面倒くさいだろうけど、あのバスケ部でここまで続いた帆足ならすぐにレギュラーになれるぜ』

 

『…』

 

『ま、考えておいてくれよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

クラスメイトによる勧誘に、帆足が内心で思っていたところを揺さぶられた。

 

入部当初こそ、三杉や堀田、空と大地を見ても、漠然とすごいとしか思わなかった。だが、練習を続け、バスケの知識や基本が身に付いてくると、そのすごさが明確に理解出来るようになった。

 

そして、自分とは才能が違い過ぎることも理解出来るようになった。

 

バスケ部に所属する以上、試合には出たい。だが、今年の夏を制し、冬の連覇を狙う花月高校で、自分の出番が回ってくることはないだろう。

 

同学年に4人のスタメン候補がいる。来年にしても再来年にしても、中学の猛者が入部してくる事を考えると試合に出る事は0に等しい。

 

1度そう考えてしまうと、このままバスケ部に居続ける事に疑問を感じてしまう。当初の目的である体力を作るという目標はほぼ達成しているし、それはラクロス部に移籍しても達成させる事が出来る。

 

「……うん。そうだよね」

 

決断するなら早い方がいい。帆足は踵を返し、学校へ引き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ん?」

 

学校に戻り、顧問のいる職員室に向かおうとすると、体育館にまだ明かりが付いていることに気付いた。恐る恐る体育館を覗くと…。

 

「よっしゃ! 次行くぞ!」

 

「ええ。いつでも来てください」

 

空と大地が1ON1をしていた。

 

「…っ、…っ」

 

傍らでは、生嶋がスリーポイントシュートを放っていた。

 

「こんな遅くまで練習を…」

 

時計の針は既に20時を越えている。部活の終了時間を2時間も過ぎても尚、練習を続けていた。

 

「なんや忘れ物か?」

 

唐突に背後から声を掛けられる。振り返るとそこには、天野の姿があった。

 

「天野先輩…」

 

「暇やったら一緒に茶でもしばかんか?」

 

天野は右手に持っていた缶飲料を帆足差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

体育館から少し離れた場所に設置されているベンチに2人腰掛けた。

 

「……辞めるんか?」

 

「えっ!?」

 

突如、天野に確信に迫る言葉を掛けられ、帆足は激しく動揺した。

 

「どうして…」

 

「そりゃ、辞めていった奴を何人も見てきたからのう」

 

飲み物を口にしながら答えた。

 

「ここの練習は殺人的やからなあ。そらしゃーないで」

 

ケラケラと笑いながら言った。

 

「練習は確かにキツイですけど、それが理由じゃ…」

 

「分かっとる。ここまで続いて今更練習が理由とは思えんからな」

 

「…天野先輩は辞めようと思ったことはありますか?」

 

「あるで。というか、練習辛すぎて1回逃げたわ」

 

げんなりしながら帆足の質問に鍛えた。

 

「どうして戻って来たんですか?」

 

「そりゃバスケがおもろいからや。自分はどうや? バスケ」

 

「…それは」

 

つまらなかったわけではない。それだけに言葉に詰まった。

 

「バスケはな、サッカーや野球とちごーて点がぎょうさん入るスポーツや。試合に出ればコートにいる全員得点出来る。打ったボールがリングを潜っためっちゃ気持ちええねん。帆足も今日紅白戦で決めてたやろ? どやった?」

 

「っ!?」

 

尋ねられた時、帆足の胸が鳴った。シュート練習で決めた事はあっても試合で決めた事がなかった帆足。パスを受けてミドルシュートを決めた時、未だかつてない程の興奮を覚えた。

 

「あれ知ってもうたらバスケ辞められへんよ。まあ、実際の試合じゃ俺はディフェンス専門やから得点する機会少ないんやけどな」

 

ハッハッハッと笑い声を上げる天野。

 

「帆足。このままバスケを続けても、お前がスタメンに選ばれる事は多分ないやろ。けどな、試合に出るチャンスはあると思うで」

 

「っ! 試合に…」

 

知ってか知らずか、退部を決めようとした理由の確信を突かれ、動揺する帆足。

 

「空坊や大地は確かに才能がある。イクやマツも相当や。けどな、それでも冬、全国で勝ち抜くには足らん。キセキをぎょーさん起こさんと勝てへん。それが分かっとるから、今も必死に練習しとる」

 

「…」

 

「俺かて、また優勝したいからのう。俺も足掻く。お前はどうする?」

 

「…俺は」

 

「俺は止めへん。決めるのはお前や」

 

「…」

 

「さて、俺はもう帰るで。お前もほどほどになぁ」

 

それだけ言って、天野はその場を後にした。

 

「…」

 

天野が去り、ベンチで1人考え込む帆足。きっかけは大したものではないにしろ、ここまで続いたバスケ。天野によって、バスケが好きなんだと認識させられた。それだけに揺れる。その時…。

 

「あー、今日も練習したなー!」

 

自主練を終えた空を始めとする面々が部室から出てきた。

 

「すっかり遅くなったな。店まだやってるかな?」

 

「どうかしましたか?」

 

「バッシュに穴が開いた」

 

空は穴の開いたバッシュを大地に見せた。

 

「これで入部して3足目だよ。小遣いが底を尽きそうだよ」

 

「バッシュは高価ですからね。…確か、駅前のお店は21時過ぎまでやってますから、急げば間に合うと思いますよ」

 

「マジで!? 今から行ってくるわ。それじゃ、また明日な!」

 

空は大急ぎで走っていった。

 

「やれやれ…」

 

「くーの体力ってすごいね…」

 

呆れ顔で大地と生嶋は帰路に付いていった。

 

「……3足目…、俺はまだ1足目なのに…」

 

入部に応じて購入したバッシュを今も利用している帆足。空と自分の練習量の違いを思い知る。

 

空も大地も、才能ではなく、たゆまぬ努力によってあの実力がある。自分はどうなのか。無理だと言える程やったのか…。

 

「俺は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

翌日…。

 

時刻は早朝6時前。

 

「っしゃぁ! 今日も気合入れて行くぜ!」

 

「朝から元気ですね」

 

「もはや尊敬ものだな」

 

ハイテンションの空に、大地と松永は呆れ気味だった。

 

「ん?」

 

体育館に入ろうとすると、中からボールの弾む音が聞こえてきた。中に入ると…。

 

 

――ダムッ!!! …ダムッ!!!

 

 

コーンを並べ、ドリブルの練習をしている帆足の姿があった。

 

「帆足? 速いな」

 

「うん。もっと上手くなりたいから。もっと上手くなって、試合に出て、ゆくゆくはスタメンを選ばれたいからね」

 

額の汗を拭いながら笑顔で言った。

 

「へえ、それは負けられないな」

 

「私も同様です」

 

「ハハッ」

 

「ふっ」

 

空、大地、生嶋、松永も、釣られて笑顔になった。

 

 

――帆足大典。

 

 

経験者や体力自慢も逃げ出す花月高校のバスケ部に所属する1年生唯一の素人。

 

彼もまた、挑戦する道を選んだのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

数日後…。

 

バスケ部は変わらず、ウィンターカップに向けて猛練習をしていた。

 

「…」

 

ボールを持つのは空。目の前には真崎。現在、3ON3を行っている。

 

「よっしゃ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「くっ!」

 

一気に加速し、ドライブで真崎の横を抜ける。そのまま切り込んでいくと、今度は松永が待ちかまえる。

 

「行かせん」

 

「へっ! このまま行くぜ!」

 

構わず突っ込み、クロスオーバーで松永に仕掛ける。

 

「ちぃっ!」

 

遅れずに松永は食らい付く。

 

「やる! けどまだだぜ!」

 

ここで空は反転、バックロールターンで松永の逆を突いた。

 

「読んでいるぞ!」

 

これを読み切った松永が空を追いかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

松永が追いかけるべく1歩踏み出した瞬間、松永の股下からボールを通し、再度反転して松永を抜きさった。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま空はレイアップを決めた。

 

「よし!」

 

拳を握って喜びを露わにする空。

 

「よしじゃないでしょ。何やってるの!」

 

これに姫川が口を出した。

 

「今のは強引に行く場面じゃない。外に生嶋君がフリーだったし、松永君がヘルプで飛び出した時には馬場先輩がフリーになっていたわ。もっと周りをみなさい」

 

「入ったんだからいいじゃんか…」

 

唇を尖らせて文句を言う空。

 

「あなたは司令塔なのよ? そのあなたが確立の低い選択肢を選んでどうするの。これが全国区のチームならターンオーバーを食らうでしょうし、何より、キセキの世代がディフェンスをしていたら最初の段階でボールを取られていたわ。勢い任せのプレーをするのはやめなさい」

 

「むぅ」

 

言い返したいが言ってる事がもっともな為、空は口を噤んだ。

 

「姫川さん。空だけにはやけに当たりがきついよね」

 

今のやり取りを見ていた生嶋が松永に言った。

 

「そうだな。…だが、言ってることは的を射ている」

 

松永は頷きながら答えた。

 

「それにしても、姫川さんてすごいよね。僕もアドバイス貰ったけど、的確だったよ」

 

「俺もそうだ。最近では、監督は姫川に意見を聞いて練習メニューを組んでいるらしいからな」

 

「…僕さあ、姫川って名前、何処かで聞いたことあるんだよね」

 

顎に手を当てながら生嶋が言う。

 

「そうなのか?」

 

「うん。ずっと引っ掛かってるんだけど、どうしても思い出せないんだ」

 

「あのバスケの知識の豊富さは間違いなく経験者だ。もしかすると中学で――」

 

「いつまで立ち話をしているんだ! 早く戻れ!」

 

ここで、上杉の激が飛んでくる。

 

「ととっ、話は後だ。行こうぜ」

 

2人は会話を中断し、駆け足で戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

この日も練習が終わり、放課後。

 

部員達はそれぞれ自主練に励んでいた。

 

「…っ! …っ!」

 

その中で空は、スリーの練習をしていた。この日も20時を越えたところで…。

 

「くー。僕達はもう上がるけど…」

 

「俺は後37本だから、先上がっててくれ」

 

「分かった。戸締りよろしくね」

 

それだけ言って、自主練をしていた部員は体育館を後にしていった。

 

「…っ! …っ!」

 

他の部員達がいなくなると、空は再びスリーの練習を再開した。

 

 

――ガン!!!

 

 

「481、482……あっ!」

 

ボールはリングに弾かれた。外れたボールが転がっていくと、1人の人影がボールを拾った。

 

「アウトサイドシュートの練習?」

 

ボールを拾ったのは、姫川だった。

 

「ああ。外の精度が上がれば、俺のドライブがより活きるからな」

 

姫川の手によってボールが返され、再びスリーを打ち始める。

 

「483、484…」

 

黙々とスリーを打ち続ける空。

 

「……あなたは冬、キセキの世代に勝てるって本当に思ってるの?」

 

突如、姫川の口からこんな言葉が飛び出した。空はシュートを中断し、掲げたボールを下した。

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味よ。キセキの世代に勝てると、本気で思っているの?」

 

「当然だろ。その為に今はバスケやってるんだからな」

 

そう答え、再びスリーを放つ。

 

「……無理ね」

 

「なに?」

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれる。

 

「はっきり言って無理よ。キセキの世代は10年に1人の天才の名に偽りはないわ。けれど、あなたは違う。あなたは精々例年、1人はいる秀才。結果は見えているわ」

 

「そんなもの、やってみなければ分からないだろ?」

 

「分かるわ。というより、あなたが1番理解しているでしょう? 夏、直接手合せしたあなたが」

 

「…」

 

「天才を倒せるのは天才だけ。秀才や凡人がどれだけ足掻いても敵わないのが天才。いくら努力したって無駄なのよ」

 

姫川が自嘲気味に空に告げる。

 

「手に余る目標なんて、さっさと捨てた方が賢明――」

 

「――だからどうした?」

 

「えっ?」

 

忠告をして空に背を向けて体育館を去ろうとする姫川。空の言葉に振り返った。

 

「俺はキセキの世代に比べれば凡人かもしれない。けどな、凡人が天才には勝てないって、誰が決めたんだよ? やってもいないのに、無駄かどうかなんて分からないだろ」

 

姫川の言葉に気が障った空は目付きを鋭くしながら言った。

 

「…分かるわよ」

 

「どうして?」

 

空は苛立ちながら聞き返す。

 

「分かるわよ!!!」

 

姫川は、声を張り上げながら言った。

 

「これを見て」

 

そう言うと、姫川は自身の膝上までかかる右脚のハイソックスを下した。

 

「…っ!?」

 

空は目を見開く。露わになった脚には、痛々しい傷跡があった。

 

「これが天才に抗おうとした凡人の末路よ」

 

「姫川……お前。…っ!? そうか、姫川梢。何処かで聞いたことがあると思ったら…。お前は中学女子バスケの…」

 

「…っ」

 

ここで、空は何かを思い出す。すると、姫川が表情を曇らせる。

 

中学男子バスケに、10年に1人の逸材、キセキの世代と称された5人の天才がいたように、女子バスケにも、他を圧倒し、1人で試合を支配し、勝利を掴み取ってしまう天才がいた。記者曰く、男に産まれていれば、間違いなくキセキの世代のライバルになっていたと呼ばれた2人の天才が…。

 

「戦乙女(ヴァルキリー)、姫川梢」

 

「…」

 

古い記憶を辿り、空はこの名を思い出す。一時期、キセキの世代の名が有名になって少し後ににこの名が上がったが、ある日、その名を聞くことがなくなった。その為、空を始め、部員達は思い出す事が出来なかった。

 

「天才……違うわ。私は天才なんかじゃない。本当の天才はもう1人の彼女1人よ」

 

「どういうことだ?」

 

「私はただ、彼女に唯一抗えたというだけ。私は結局、1度も彼女に勝てなかった」

 

「…」

 

姫川はゆっくりと歩き、転がっているボールを拾うと、ゆっくりと語り始めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

幼い頃、テレビでやっていたNBAの試合を見て、バスケを始めた姫川。ミニバスでは、男子と交じってバスケをしていた。

 

中学に上がると、迷うことなく女子バスケ部に入部。1年生にも関わらず、レギュラー、スタメンの座を勝ち取った。試合では、姫川は得点を量産し、瞬く間にエースとなり、チームを勝利に導いた。

 

全中大会に出場すると、そこでも姫川の活躍は留まることを知らなかった。そして、全中大会を勝ち抜き、現れたのが、後に天才と呼ばれる彼女だった。

 

地域予選、全中でも姫川を止められる者がいなかった中、彼女は姫川と互角以上の戦いを見せた。試合は、姫川を相手に優勢に試合を進めた彼女を擁する相手中学の勝利で終わった。

 

試合に負け、悔しいという思いもあったが、それ以上に、自分より強い選手がいた事の嬉しさもあった姫川は、彼女に1年後のリベンジを誓った。

 

それから姫川は練習に今まで以上に没頭するようになった。朝は誰よりも早く学校に行き、放課後は誰よりも遅く学校に残って練習をした。そして、1年後。全中大会にて再び両者はコートで出会うことになる。

 

1年間誰よりも練習に臨んだ姫川。今度は必ず勝てる自信があった。そして始まる試合。だが…。

 

『…っ』

 

試合は姫川の中学の敗北で終わった。姫川は彼女を止める事が出来ず、試合も個人も完敗で終わった。

 

姫川と彼女との差は、縮まってはいなかった。

 

この時、姫川は気付いてしまった。自分と彼女の才能の差を。だが、それを認める事が出来なかった。2年時の全中大会後、これまで以上に練習に没頭するようになった。周囲からはオーバーワークだと窘められても姫川は止まる事なく練習に没頭した。

 

そして、その時はやってきた。

 

『~~~っ!!!』

 

3度目の全中大会の地域予選1ヶ月前。練習中突如、姫川が脚を押さえながらその場に倒れ込み、病院に運ばれた。

 

診断の結果、バスケのような激しいスポーツは2度と出来ないだろうと言われた。

 

才能の壁を壊し、勝利する為、血のにじむような努力を課した結果、待ち受けていたのがこの現実だった。

 

そして姫川は、若くしてバスケ選手を退く事となった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「私の努力は、天才の前では無意味だった。天才の前では凡人は抗う事も許されないんだって、身を以って思い知ったわ」

 

「…もうどうにもならないのか?」

 

「ええ。手術をしてリハビリをして、日常生活や軽い運動くらいなら出来るようになったけど、バスケが出来るまでにはならなかった」

 

「…」

 

姫川の言葉を聞いて、空は言葉を発する事が出来なかった。

 

「神城君は、バスケ部の中で誰よりも楽しそうにバスケをしている。私が出来なくなったバスケを…。そんなあなたが妬ましくて、八つ当たりと分かっていても、ついきつく当たってしまった。悪いとは思ってる。けど…!」

 

ここで、姫川は空に詰め寄った。

 

「私のようになってほしくない! あなたは誰よりも負けず嫌いだから、現実を知ってしまえばきっと自分を極限まで痛めつけてしまう。もう私のようにバスケが出来なくなって、大好きなバスケのせいで苦しむ姿なんて見たくない! 見たくないのよ…!」

 

もはや嗚咽ように姫川は言葉をぶつけた。

 

「……姫川は後悔してるのか? そのもう1人の天才に勝つ為に壊れる程努力したことを…」

 

「…」

 

空の質問に姫川は何も答えなかった。

 

「話を聞いて、俺は姫川の事、すげー尊敬したよ。俺は、自分をそこまで追い込む程やってないだろうから」

 

空は姫川に縋りつかれたまま言った。

 

「…でもな、例え、俺は誰に何を言われても、挑戦する事をやめないと思う。強敵に挑んで、そして勝てたら最高だろうから。それは、大地や生嶋、松永や天さん、先輩達も一緒だと思う」

 

「…」

 

「だから俺は、何度でもずっと挑戦し続ける。足りなければ、それこそ極限まで自分を追い込んででも」

 

「…っ」

 

それを聞くと、姫川は表情を歪ませた。

 

「でも、これだけは約束する。まず、俺は絶対に壊れない。限界まで現役を全うする。それと証明する。凡人であっても天才に勝つ事が出来るってことと、無駄な努力なんてない。努力は必ず実るんだってこと」

 

「……本当に?」

 

「ああ。約束するよ」

 

顔を上げた姫川に、空はニコリと笑みを浮かべながら答えた。

 

「だからさ。姫川の力も貸してくれ。ぶっちゃけ、姫川のアドバイスは耳が痛いけど、かなり参考になるからさ」

 

「…うん」

 

姫川は、空の胸に顔を埋めながら頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

体育館の外には、2人の話を聞いていた大地、生嶋、松永の姿があった。

 

「まさか、姫川さんにそんな過去があるとはね」

 

体育館の扉に背中を預けながら生嶋がポツリと呟くように言った。

 

「…」

 

「綾瀬、その反応を見るに、知っていたのか? 姫川の事」

 

「詳しい事情は知りませんでしたが、彼女の事は少し経って思い出していたので…」

 

「…でも、こんなの聞かされたら、意地でも冬、勝たないとね」

 

生嶋が夜空を見上げながら言った。

 

「そうですね」

 

「ああ。そうだな」

 

大地と松永は、ただ頷いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして月日は流れ、各県では、ウィンターカップ予選が始まった。

 

県予選のない花月高校は、猛練習と、上杉の用意した特殊な相手との試合をこなしながら月日を過ごしていった。

 

秋田の陽泉、神奈川の海常は危なげなくウィンターカップの参加を決めた中、全国で1番の激戦区である東京。誠凛、桐皇、秀徳による3校が、僅か2つの席をかけて戦いを繰り広げることとなった。

 

そして、その結末は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

間近に迫るウィンターカップに向けて、今日も練習に励む花月。

 

その休憩時間、空が何気なく携帯をチェックしていると、突如、携帯が鳴る。電話の相手は中学時代の知人である田仲。

 

「もしもし。ウィンターカップ予選、どうなった?」

 

長い時間電話が出来ない空は、電話に出るのと同時に本題を切り出した。

 

『…』

 

だが、通話相手の田仲は何も答えない。

 

「……田仲?」

 

不信に思った空は怪訝そうに名前を呼んだ。

 

『………ごめん。約束、守れなかった…』

 

「……えっ? それって――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





原作では、記念大会ということでIH優勝校と準優勝校が県予選抜きでウィンターカップに参加してましたが、この二次でもそれを採用しました。現実のウィンターカップも、2009年以降、IHの1位2位は参加になっていますので、これにならいます。…まあ、予選を書くのが面倒だったというのもありますが…(^-^;)

この話出てきた帆足大典というのは実は、第31Qにて、密かに出ています。そこから一切出番がなかったので、ここで出しました。姫川梢に関してですが、過去の感想でいろいろ意見をいただいたのですが、あまり風呂敷を広げ過ぎても設定を生かしきれそうになかったので、当初の予定通りの設定に落ち着きました。今後も、原作の桃井的立ち位置で頑張ってくれると思います。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第67Q~冬の開幕~


投稿します!

体調不良により、投稿が遅れました。申し訳ございません…m(_ _)m

それではどうぞ!



 

 

 

「まさか、このような結末になるとは…」

 

『…』

 

突如、花月の選手達に舞い込んだ報を聞き、皆、神妙な表情になった。

 

それは、先ほど空の携帯にかかってきた、空と大地の元チームメイト、田仲からの電話によるものだった。

 

東京都で開催された、ウィンターカップ都予選。全国一の激戦区であり、最も注目度の高い場所でもある。

 

決勝リーグに駒を進めたのは、誠凛、桐皇、秀徳、正邦の4校。去年の冬、今年の夏に決勝リーグに進出した霧崎第一は、主将花宮真が不参加による戦力ダウンが原因で、正邦に敗れた。

 

ウィンターカップ本選に出場出来る東京都の枠は2つ。つまり、キセキの世代及び、火神が所属する高校のいずれかがここで姿を消す事を意味している。

 

まずは初戦。桐皇対秀徳と、誠凛対正邦の試合。

 

キセキの世代同士の桐皇と秀徳の戦い。青峰が緑間を徹底マーク。これにより、緑間のシュートチャンスがかなり減る結果となった。試合は、夏同様、緑間が青峰をマークするが、夏と違い、パスを織り交ぜるようになった青峰を緑間は対処しきれず、得点を許してしまう。

 

秀徳は緑間以外で活路を見出そうとするも、流れに乗り切れず、結果、103-97で桐皇が初戦を制した。

 

一方、誠凛対正邦の試合は、正邦のお家芸である、古武術によるディフェンスに苦労するが、火神が独力でディフェンスを突破。津川も、火神を止めきれず、試合は85-72で誠凛が勝利した。

 

2日目。誠凛対桐皇と、秀徳対正邦の試合。

 

誠凛対桐皇の試合は、火神と青峰の激突となった。夏では互角に戦った両者だが、此度の戦いは、パスという選択肢が増えた青峰に軍配が上がった。

 

影の薄さを取り戻した黒子がパスを中継し、得点を重ねる誠凛だが、青峰と、インサイドから若松がガンガン仕掛けていき、点差は開いていく。結果、試合は99-95で桐皇が制した。

 

秀徳と正邦の試合は、先日の試合のフラストレーションを晴らすかのように緑間がスリーを量産。インサイド、アウトサイド共に秀徳が制圧し、試合は89-65で秀徳が制した。

 

そして都予選最終日。試合は桐皇対正邦と、誠凛対秀徳。

 

最初に行われた桐皇対正邦の試合は、青峰が得点を量産。桐皇が正邦のディフェンスを貫き、試合は101-64で勝利。これにより、桐皇が全勝でウィンターカップ出場を決めた。

 

そして、運命の誠凛対秀徳の試合。勝った方が出場を決め、負けた方はここで終わるサバイバルゲーム。

 

試合は、火神が緑間を連続ブロックし、序盤は誠凛リードで試合が進む。だが、秀徳は後半戦からインサイドを中心に攻め始める。水戸部と田仲は、秀徳のインサイド攻撃に大いに苦しみ、得点を許してしまう。火神がフォローすると、緑間にスリーを打たれしまい、誠凛は、ディフェンスをマンツーからボックスワンに切り替え、対応する。

 

試合終盤、秀徳が動く。メンバーチェンジで、シューターをもう1人投入。外が2枚に増えた事により、誠凛はボックスワンからトライアングルツーに変更。だが、インサイドが1枚減った事により、再びインサイドを攻められてしまう。高尾が鷹の眼(ホークアイ)とパスセンスを駆使して巧みに外と内にボールを回し得点を重ねていく。誠凛も火神がゾーンに入り、食らい付く。

 

試合はラスト数秒まで逆転に継ぐ逆転を繰り返し、そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了。

 

 

誠凛 92

秀徳 93

 

 

試合は秀徳が制し、ウィンターカップ出場の最後の枠を手に入れ、昨年のウィンターカップの覇者が本選に参加する事なく姿を消した。

 

電話では、弱点となってしまった田仲が自分を責め、後は、全国で戦う事が出来なかった事への謝罪をしていた。空は電話を切ると、事の顛末を皆に伝えた。

 

「枠は2つ。漏れたのは昨年の覇者か…」

 

生嶋がポツリと言う。

 

「秀徳はもともと、インサイドが強いチームだ。桐皇も、あの若松は全国でも屈指の実力者。鉄平さんの抜けた穴を埋めきれなかったか…」

 

センターを担う松永が半ば複雑な表情をした。

 

昨年のメンバーがほぼほぼ残る誠凛だが、唯一、怪我で離脱したのが鉄心、木吉鉄平。既存のメンバーでも、新戦力でも穴は埋めきれなかった。

 

「もったいない話やな。誠凛も、別の県なら確実に行けたろうに」

 

残念そうな表情で天野が言った。

 

「誠凛……火神さんとやってみたかったな…」

 

キセキの世代の全員に勝利した火神と戦う事が出来ず、溜息交じりで空は残念がった。

 

「お前ら他の心配をしている余裕はないだろ」

 

ここで、話をしているところに上杉がやってきた。

 

「全国を最後まで勝ち抜いた経験のある誠凛でも負ける。これが高校バスケだ。…休憩は終わりだ。冬、勝ちたければ死に物狂いで練習しろ!」

 

『はい!!!』

 

花月の選手達は、練習へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も、猛練習を続ける花月高校。

 

各々がウィンターカップまで少しでも力を付ける為、上杉が用意した練習メニューをこなし、早朝練習前と練習後に自主練を行ってきた。冬を制覇する為に。そして、11月某日…。

 

「監督、これを」

 

姫川から上杉に1枚の紙が渡された。

 

「むっ。…遂に来たか。…全員、集まれ!」

 

用紙に書かれた内容を確認すると、休憩中の部員達を集めた。

 

「ウィンターカップの組み合わせが決まった」

 

『っ!?』

 

上杉に口から発表された言葉に、部員達は目を見開いた。そして、姫川と相川から組み合わせ表が配られた。

 

「……っ! 1回戦からキセキの世代同士がぶつかってる!」

 

組み合わせで注目したのは、自分達、花月高校が何処にいるか、そして、優勝候補であるキセキの世代が所属する高校が何処にいるか。

 

「海常と陽泉がいきなりぶつかったか…」

 

黄瀬涼太が所属する海常高校と紫原敦が所属する陽泉高校が1回戦でぶつかっていた。

 

「…ちぇ、これじゃあ黄瀬か紫原とは戦えないじゃんか…」

 

1人でも多くのキセキの世代と戦いたい空は、黄瀬と紫原の潰し合いを残念がる。

 

「俺らはシードやから…ここやな…。……栃木の大仁田高校と千葉の仙洋高校……まあ、勝ち上がるんは大仁田やろうな」

 

「大仁田は確か、去年の冬は秀徳、今年の夏は海常と戦ってますよね?」

 

「そや。去年は小林圭介言うかなりやる選手がおってやな――」

 

天野と松永が組み合わせを見ながら話をしている。

 

「僕達がキセキの世代と最初にぶつかるのは3回戦。…で、相手は――」

 

 

――秀徳高校…。

 

 

「…なるほど。秀徳……緑間真太郎か…!」

 

組み合わせ表から視線を外すと、空はニヤリと笑った。

 

「田仲さんの無念を晴らす絶好の機会ですね」

 

釣られて大地もニコリと笑った。

 

「盛り上がるのはここまでだ。戦うためにはまずそこまで辿り着かなければならないことを忘れるな! 休憩はここまでだ。大会の最後の仕上げをするぞ!」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ウィンターカップの組み合わせが発表されてからさらに月日が経過し、遂に、大会1週間までカレンダーは進んだ。

 

「今までよく頑張った。俺の監督歴の中でも、今年は1番練習した」

 

『…』

 

「だが、これから始まるウィンターカップはこれまでのどの練習より辛いものになるはずだ。この中に、自分が夏の王者等という驕った考えを持っている奴は今すぐ捨てろ」

 

『はい!!!』

 

「行くぞ! 全国の猛者を蹴散らし、頂点を獲るぞ!!!」

 

『はい!!!』

 

上杉の激に、部員達は腹の底から声を出し、応えた。

 

「やれることはやりました。後は勝つだけです」

 

大地が右手を前に差し出した。

 

「うん。僕達の挑戦がこれから始まる。キセキを起こさないとね」

 

生嶋が大地の手の上に自分の右手を重ねた。

 

「ああ。俺達になら出来るはずだ」

 

その上に松永が右手を重ねた。

 

「そのとおりや。全国で暴れたろうやないか」

 

その上に天野が右手を重ねた。そして、部員達とマネージャーの姫川、相川が次々手を重ねていく。

 

「俺達が目指してきた、『キセキを倒して奇跡を起こす』という目標。絶対に達成しようぜ!」

 

そして、空が右手を重ねた。

 

「ここに残っているのは、本気でキセキを起こせると信じた奴だけだと思っている。みんな、行くぞ!」

 

『応(はい)!!!』

 

最後に馬場が締め、花月の選手達は優勝を誓い、ウィンターカップの決戦の場へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

12月下旬。

 

 

――全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会…。

 

 

通称、ウィンターカップの会場のある東京に花月の選手達はやってきた。

 

「ついに来たぜ」

 

会場の目の前に立った空が、瞳を輝かせながら会場を見上げた。周辺にはチラホラ他の参加校の選手の姿も見える。

 

「空。今回は夏みたいにフラフラ動き回らないで下さいね」

 

テンションを上げる空を大地が窘める。

 

「この会場…、去年の激戦を思い出すね」

 

「ああ。去年、誠凛が起こした奇跡を…」

 

生嶋と松永が懐かしむように思い出す。

 

昨年、誠凛高校がウィンターカップ初出場初優勝を成し遂げた。その激戦に継ぐ激戦は試合を目の当たりにした者達の記憶に今も焼き付いている。

 

「同じ会場や。1度奇跡が起きたんや。2度起きてもなんも不思議やあらへん。なぁ?」

 

昨年を懐かしむ2人の間にやってきた天野が、2人の肩に腕を回した。

 

「開会式までそんなに時間はない。その後はスカウティングだ。…行くぞ」

 

上杉に促され、選手達は会場内に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

開会式は粛々と行われ、終了すると、シード校以外の参加校が1回戦の準備に向かっていった。

 

花月の選手達は、そのまま観客席に向かっていった。

 

「さて…」

 

「待て、神城。お前、何処に行くつもりだ?」

 

1人別行動を取ろうとする空を上杉が呼び止める。

 

「ちょっと陽泉と海常の試合を…」

 

「ダメだ。明日の相手の試合が優先をしろ」

 

「ちぇー」

 

目当ての試合を見る事が出来ず、口先を尖らせる空。

 

「向こうは決勝まで当たらないのだから当然でしょ? 次の試合相手に集中しなさい。油断していると足元掬われるわよ」

 

「分かったよ」

 

姫川に窘められ、渋々チームメイトと一緒に観客席に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

席に座ると、コート上で次の試合相手である、大仁田対仙洋の試合が行われていた。

 

「(つまんねえ~)」

 

試合は既に第3Q中盤に差し掛かろうとしている。

 

 

第3Q、残り4分49秒。

 

 

大仁田 38

仙洋  30

 

 

8点差で大仁田がリードしている。試合はロースコアゲームで、大仁田がとにかく時間をたっぷり使い、必要以上にドリブルを行わず、パスを中心にゲームを組み立てている。

 

「(こういうテンポが遅い試合って嫌いなんだよなぁ…)」

 

速い展開を得意とする空にとって、ゆっくり試合が動くディレイドオフェンスは退屈そのものであった。

 

「(観客が少ないな。多分、陽泉と海常の方に行ってんだろうな…)」

 

周囲には、空席がチラホラ目立つ。空の推測どおり、観客の大半が陽泉と海常の試合が良く見える席に密集していた。

 

空の目当てである、陽泉と海常の試合は…。

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

初日1番の注目の対戦カードだけに、試合は大いに盛り上がっていた。

 

共にキセキの世代を擁するチーム。試合は拮抗している……と、思われたが…。

 

「ハァ…ハァ…くっ!」

 

滴る汗をユニフォームで拭う黄瀬。

 

 

第3Q、残り5分21秒。

 

 

陽泉 46

海常 34

 

 

試合は陽泉ペースで進められていた。

 

陽泉は普段から強いている2-3ゾーンではなく、氷室を黄瀬に付け、残りはゴール下でゾーンを組むボックスワンで海常と対峙していた。

 

如何に黄瀬でも、氷室を抜くのは容易ではなく、制限時間のあるパーフェクトコピーを使わないで戦うにはかなりの苦労を強いられていた。

 

早川によるリバウンドも、劉がスクリーンアウトで早川を外に追い出し、飛ばせなくして、残りの者がリバウンドを抑える作戦を取ったことで、オフェンス、ディフェンス共にリバウンドを陽泉が制していた。

 

海常は、周りがスクリーンを掛け、黄瀬をフリーにし、そこにパスを回したり、黄瀬が緑間の超長距離スリーのコピーを中心に何とか点を取っているが、ゴール下を陽泉に制されている為、点差は少しずつ開いていっている。

 

「悪いけど、黄瀬ちんは勝てないよ」

 

ボールを貰った紫原が、背中に立つ黄瀬に言った。

 

「何言ってんスか? 試合はまだまだこれからッスよ!」

 

言われた黄瀬は、反論する。

 

「黄瀬ちんは確かにすごいけど、周りが雑魚過ぎるでしょ。1人で勝てる程、うち(陽泉)は甘くないよ?」

 

「っ! 言ってくれるッスね。こっちだってこのまま終わる程、ヤワじゃないッスよ!」

 

ここで黄瀬はプレッシャーを強める。

 

「…ふうん。じゃあ、これならどう?」

 

紫原は回転しながら飛び上がった。

 

「あれは…破壊の鉄槌(トールハンマー)!?」

 

「させないッスよ!」

 

黄瀬は紫原をコピーしてブロックに向かった。

 

「へぇー、すごいね、それ。ホントに俺を見てるみたいだよ。…けど」

 

「っ!?」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

紫原の破壊の鉄槌(トールハンマー)がリングに叩きつけられる。ブロックに向かった黄瀬はその威力に弾き飛ばされた。

 

「動きは真似出来ても、力までは無理みたいだね」

 

「…っ!」

 

紫原の指摘を受けて、黄瀬は表情を歪ませた。

 

黄瀬の紫原のコピーは、ジャンプ力と予測で守備範囲こそ再現しているが、力まではコピー出来ない。本家とぶつかり合ってしまえば、黄瀬に勝ち目はない。

 

「まだッスよ。…まだこれからッス」

 

黄瀬が立ち上がると、再び瞳に闘志を宿らせ、コートを走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ここから黄瀬が奮闘し、点差を縮めていくが、やはり、制限時間のあるパーフェクトコピーの多様である為、黄瀬はみるみる疲弊していく。

 

陽泉は、外から木下が決めるか、氷室が切り込んで決めるか、インサイドの紫原が確実に得点を決め、得点を重ねていく。

 

「シュッ!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

黄瀬がハーフラインからスリーを放ち、得点を決めた。

 

 

第4Q、残り1分18秒。

 

 

陽泉 62

海常 57

 

 

黄瀬の猛追により、得点差を5点にまで縮めていた。

 

「…これがキセキの世代か。とんでもないな」

 

この試合、黄瀬のマークをしていた氷室の口から思わずこんな言葉が漏れる。緑間のコピーを最も警戒しながらディフェンスをしていた氷室だが、それでも防ぎきれず、スリーを許してしまう。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

ハーフラインからのスリーを決めた黄瀬だったが、もはや限界なのは一目瞭然である。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

永野のパスを黄瀬がスティール。そのままターンオーバーの速攻をかける。

 

「行かせないよ」

 

そこへ、氷室が待ち構える。

 

「いいや、ここを決めさせてもらうッスよ!」

 

ここで黄瀬が青峰のコピー、チェンジオブペースで氷室に仕掛けた。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「な…に…」

 

だが、氷室は黄瀬のボールを冷静に捉えた。この事実に黄瀬は両目を見開いて驚いた。

 

「あいにくだが、もはやさっきのキレもスピードもない。これはただの贋作だ」

 

零れたボールを氷室が拾い、再び陽泉のオフェンス。氷室がそのまま切り込んでいく。

 

「絶対に…ここは行かせない!」

 

ボールを奪われた黄瀬が執念で戻り、氷室の横に並走した。

 

『っ!?』

 

黄瀬が横に並んだところで氷室はビハインドパスを出した。ボールの行先はスリーポイントラインの外側でフリーになっていた木下。すぐさまスリーの態勢に入った。

 

「しまっ…!」

 

切り込んできた氷室に釣られ、マークを外してしまった中村が慌ててブロックに向かうが、一歩届かず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに中央を射抜いた。

 

『…』

 

致命的とも言える失点を喫した海常の選手達に表情に絶望の影がよぎった。

 

「まだッスよ! まだ追いつける!」

 

黄瀬が、その絶望を晴らすように声を上げた。

 

「そうだ! まだ試合は終わってないぞ! 声出せ! ちか(ら)をふ(り)しぼ(れ)!」

 

続いて主将の早川もチームを鼓舞する。2人の鼓舞によって、海常の表情が引き締まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

だが、陽泉の壁は厚かった。既に体力の限界に近い黄瀬。他の選手達も同様であり、点差を縮めるのは至難の業であった。

 

それでも海常は体力と気力を振り絞り、戦った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了。

 

 

陽泉 66

海常 62

 

 

しかし、逆転をすることは出来なかった。

 

「…」

 

早川に肩を抱かれてベンチへと引き上げていく黄瀬を、紫原は無言で見送る。

 

「恐ろしい選手だよ、彼は」

 

そんな紫原の横に氷室が歩み寄ってきた。この試合、黄瀬のマークを任された氷室。ほとんど止める事が出来ず、要警戒をしていた緑間のコピーによる超長距離スリーを何度も許してしまった。

 

「……そうだね」

 

紫原は、ただそう返事をした。

 

初日、1番の注目のカードである陽泉対海常の試合は、陽泉に軍配が上がったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方で、空達花月が観戦している大仁田対仙洋の試合も終わっていた。

 

 

大仁田 56

仙洋  42

 

 

予想通り、大仁田が初戦を制した。これにより、花月の最初の相手が大仁田高校に決まった。

 

「順当に大仁田勝ち上がりましたね」

 

「そうだね」

 

試合を見届けた花月の選手達は、明日の試合を想定し、気合を入れる。

 

「さて…、試合も終わったし、トイレ行ってくる」

 

空は立ち上がると、1人席を離れていった。

 

「全くもう…」

 

1人単独行動を取る空に姫川は口先を尖らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ん?」

 

「おっ」

 

トイレに向かっていると、見知った顔と出会った。

 

「高尾さん。夏以来ですね」

 

出会ったのは、秀徳の高尾であった。

 

「よう。元気そうじゃん」

 

声を掛けられた高尾は軽快に返した。

 

「危なげなく勝ったみたいですね」

 

「おう。そっちは…そういやシードだったな。おうおう、良いご身分じゃねえかよ」

 

「どうもッス。…お互い、後1つ勝てばコートで会えますね」

 

「そうだな。そんじゃ、次はコートでな」

 

軽く会話すると、空と高尾は握手をした。

 

「高尾。こんなところで無駄話をしている時間はない。早く行くぞ」

 

横に立っていた緑間が急かすように高尾に言う。

 

「緑間さんも。コートで会ったらその時はお手柔らかに」

 

不敵な笑みを浮かべながら手を差し出した。

 

「…あいにくと、試合をするかどうか分からない相手に裂く時間はないのだよ」

 

そんな空に一瞥もくれず歩き出した。

 

「…っ」

 

そんな緑間の対応に、空はカチンときた。

 

率直に、空はキセキの世代の中で緑間真太郎が1番嫌いであった。青峰と紫原は言動行動共に分かりやすいのでそこまででもないが、赤司や黄瀬は、自分達を下に置いてはいるが、それでも認めてくれているところは認めてくれていた。

 

だが、緑間は、そんな4人とは確実に違っていた。緑間が空を見る目は、見下しではなく、単純に興味がなく、言わば、眼中にないと言った目である。

 

「夏とホントに変わらないですね。あんたにとって俺達はただの道端の石ころなのかもしれないけど、あんま上ばっか見てると、その石ころに躓くことだってあり得るんですよ」

 

緑間の対応に、空は挑発混じりに言った。

 

「…俺達に勝つ勝たないの話は、まずはそこまで辿り着いてから言うのだよ」

 

一瞬立ち止まった緑間はそれだけ告げ、再びその場を後にしていった。

 

「おい真ちゃん! 悪いな神城君。それじゃ、またな」

 

そんな緑間を追うように高尾もその場を後にした。

 

「上等だよ…!」

 

立ち去る緑間達の背中を見つめながら、空は拳をきつく握った。

 

「田仲の無念もあるが、意地でもお前らに勝って、その鼻っ柱を叩き折ってやるよ」

 

空は緑間を睨み付け、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おい真ちゃん。ったく、そのツンデレ癖どうにかならないのかよ」

 

高尾が諫めるのではなく、からかうように言った。

 

「黙れ高尾。俺の言った事は事実だ。この先、花月と戦うとは限らないのだよ」

 

「花月の次の相手は確か……大仁田だよな。確かに大仁田は強いけど、小林圭介はもういないし、強力な新人が加入したって話も聞かないから、楽勝とはいかなくても花月が勝つんじゃないのか?」

 

高尾が鞄からトーナメント表を取り出した。

 

「甘いのだよ。今年の大仁田は強い。俺の見立てでは、昨年、小林圭介が率いていた大仁田より強い。戦えば俺達でも苦戦は免れないのだよ」

 

「なっ、マジかよ…」

 

緑間の分析に、高尾は信じられないと言った表情になった。

 

「真ちゃんはどっちが上がってくると思う?」

 

「さあな。だが、あの様子では、花月の勝率は低いだろう。少なくとも、完勝はまずあり得ないのだよ」

 

先ほどの空の様子を見て、緑間は、花月の苦戦は必至と分析する。

 

そして、この緑間の予想が翌日、的中することとなったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





自宅のクーラーのフィルターを掃除し、その後、試運転でクーラーを起動し、そのまま眠り込んだ結果まさか風邪を引くとは…(^-^;)

ウィンターカップ予選の東京。賛否両論は確実にあるかと思いますが、このような結末にしました。誠凛ファンの方にはただただ申し訳ございません…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第68Q~驕り~


投稿します!

遅くなって申し訳ございません。

色々調べているうちに時間がかかってしまいました。

それではどうぞ!



 

 

 

翌日、大会2日目…。

 

この日からシード校も動き出し、参加校全てが動き出す事になる。

 

『…』

 

花月高校もまた、試合に向けて準備を進めている。三杉と堀田が抜けた初の公式戦、選手達にも気合が入る。やがて、試合の時間がやってきた。

 

「っしゃぁっ! とっとと試合を終わらせるぞ!」

 

空が声を張り上げる。

 

「くー、気合入ってるね」

 

そんな空の気迫に押される生嶋。

 

「当たり前だ。次はキセキの世代が控えてるんだ。こんなところで躓くわけにはいかないからな」

 

険しい表情で生嶋に返す空。

 

「神城君。秀徳の戦うにはまず今日勝たなければならない事を忘れないで。今は目の前の相手に集中して」

 

今日の試合相手に集中しきれていない空を姫川が窘める。

 

「…分かってるよ」

 

窘められた空は軽く苛立った表情で返事をした。

 

「…」

 

そんな空を大地は心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート上では1回戦を勝ち進んだ高校が日程通りに試合を行っている。

 

本日はキセキの世代同士の試合はなく、1番の注目カードが花月高校と大仁田高校の試合。

 

突如、インハイに現れ、キセキの世代を倒し、王者の座を手にした花月高校。その最初の試合が今日の観客の1番の目当てである。

 

『来たぞ!』

 

コート上に花月の選手達がやってくると、観客の注目が一気にそちらに向いた。

 

『おい、三杉と堀田がいないぞ!?』

 

『ホントだ! どうなってるんだ!?』

 

コート入りする花月の選手達の中に、三杉と堀田がいないことに観客がざわめく。

 

「分かっていたことだが、やはり、観客は騒がしくなったな」

 

観客のリアクションに、松永は苦笑いをする。

 

「そらそうやろ。夏はあの2人ありきでの優勝やったからな」

 

身体を解しながら天野が観客席を見渡す。

 

「…」

 

そんな中、空がベンチに座り、一方を睨みつけていた。

 

「……空、そちらを睨んでも、まずは今日勝たないと意味がないんですよ?」

 

不撓不屈の横断幕を睨み付ける空に大地が声をかける。

 

「試合が始まったら気持ちを切り替えるから心配すんなって」

 

鬱陶し気に大地に返すと、立ち上がり大地と少し距離を取って柔軟を始めた空。

 

「…今日の神城君は様子が変だわ。何かあったのかしら?」

 

「……昨日旅館に戻った時からあんな感じでしたから、会場で何かあったのでしょう。空の性格を考えれば、恐らく、誰かに何か言われたのでしょう」

 

異変を感じた姫川。空の性格を誰よりも理解している大地が予測を立てる。

 

「大丈夫かしら?」

 

「熱くなっているだけならともかく、今日の空は雑念がかなり酷いです。こうなると少々…。一応、監督や皆には話しておきます」

 

大地が上杉の下に向かった。

 

「…」

 

姫川は、一抹の不安を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

やがて、試合開始の時間となり、両校の選手達がコート内のセンターサークルに集まった。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

6番PG:神城空  179㎝

 

7番SG:生嶋奏  181㎝

 

8番SF:綾瀬大地 182㎝

 

9番PF:天野幸次 192㎝

 

10番 C:松永透  194㎝

 

 

大仁田高校スターティングメンバー

 

4番PG:綾辻博之 173㎝

 

5番 C:風間孝明 191㎝

 

6番SG:寺沢裕  176㎝

 

7番SF:内海譲  182㎝

 

8番PF:大沢介司 188㎝

 

 

両校がセンターラインで対峙する。

 

『お願いします!』

 

双方が頭を下げ、天野と綾辻が握手を交わす。

 

「よろしゅうに」

 

「ああ」

 

その後、センターサークル内にジャンパーである松永と風間を残してスタメンの選手達が配置に付いた。

 

「…」

 

「…」

 

審判がボールを構えると、ジャンパーの2人が腰を落とし、備える。そして、審判がボールを高く上げた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「っ!」」

 

ボールが上げられるのと同時に松永と風間が飛ぶ。

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

ジャンプボールを松永が制し、生嶋がボールを掴む。

 

「くれ!」

 

すかさず、空がボールを要求する。生嶋が掴んだボールをすぐさま空に預けた。

 

「よし!」

 

空にボールが渡ると、空の同ポジションである綾辻がディフェンスに入る。空がボールを低く構え…。

 

「っらぁっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速。綾辻の横を高速で抜けていく。

 

「っ!?」

 

そのあまりの速さに、綾辻は思わず目を見開いて驚愕した。

 

綾辻を抜きさった後、空はグングン加速していき、リングまで単独でドリブルをしていく。

 

「ちっ!」

 

引き気味にポジションを取っていた内海が舌打ちをしながら空の進路を塞ぐ。

 

「関係ねぇ!」

 

それでも構わず内海に仕掛けていく。内海は空の速さに面を食らうも何とか食らい付いていく。

 

 

――スッ…。

 

 

「なっ…!」

 

空がバックロールターンで反転。内海をかわし、抜きさる。

 

 

――バス!!!

 

 

内海を振り切った空がそのままレイアップを決めた。

 

「よし!」

 

先制点を決めた空が拳を握る。

 

『うおぉぉっ! 速ぇぇぇっ!!!』

 

試合開始から僅か10秒足らず。開始早々の速攻撃から先制点に、観客も盛り上がる。

 

「(とっとと点差付けて、試合を終わらせてやる)」

 

自分にそう言い聞かせながら空はディフェンスに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……速いな」

 

今の空のプレーを見て、大仁田の風間がポツリと言った。

 

「当たり前の話だが、インハイの時よりスピードもキレも増している」

 

6番寺沢が空に視線を向けながら分析をしていく。

 

「今のを見る限り、花月は、運動量とスピードを生かしたラン&ガンスタイルで間違いなさそうだな」

 

「ああ。予想通りだ。なら、前日に立てたプラン通りで試合を進める。…行くぞ、勝つのは俺達だ」

 

8番大沢の分析に綾辻が頷き、チームに活を入れた。

 

ボールを風間が拾い、スローワーとなって綾辻にボールを渡すと、大仁田の攻撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方で…。

 

別コートで試合を行っていた秀徳高校の試合が終わった。

 

相手は佐賀県の強豪であったが、秀徳が終始相手を圧倒。第2Q終わった時点で大差を付けた。

 

第3Qで緑間と高尾はベンチに退き、第4Q中盤時点ではスタメン全員がベンチに退いていた。試合はスタメンが下がった終盤に僅かに点差を詰められるも秀徳が順当に3回戦に駒を進めた。

 

「ま、順当に勝ったな」

 

「当然の結果なのだよ。今日のラッキーアイテムのメリケンサックを持っているのだからな」

 

勝利を喜ぶ高尾に、緑間は表情を変えることなく答えた。

 

「物騒だからそれ(メリケンサック)指にはめんなよ。…さて、花月対大仁田はどうなってるかな」

 

今日の試合、早めにベンチに下がった2人が明日の対戦相手になる2校の偵察にやってきた。

 

「…第3Q、もう折り返しか。……っ! これは…」

 

「…」

 

電光掲示板のスコアを見ると、高尾は軽く驚き、緑間は予想通りだったのか、表情を変えなかった。

 

 

第3Q、残り7分45秒。

 

 

花月  24

大仁田 33

 

 

試合は、大仁田リードで進んでいた。

 

「完全なロースコアゲームだな」

 

未だ、双方の得点が少ないのを見て高尾がこのように感想を言った。

 

 

「ちっ!」

 

コート上では、現在ボールをキープする空が舌打ちをした。リードを許している現状、何より、自分の思い通りに行かない状況に苛立ちを感じていた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

目の前でディフェンスをしている綾辻を高速のドライブで一気に抜きさる。だが…。

 

「っ!?」

 

その直後、寺沢と内海が空の目の前に現れる。空が停止をすると、風間と内海、先ほど抜いた綾辻が空を囲むように包囲し、どんどんコートの端へと追いやっていく。

 

 

「あの4番、わざと抜かせたな」

 

「そのとおりだ。4番では神城を止める事は出来ない。だが、行かせたい方向に抜かせる事は可能だ。わざと右側から抜かせ、6番と7番の待ち構える場所へ追い込んだ」

 

今の一連のプレーは仕組まれたものだと緑間と高尾は推察する。空を端へ追い込み、かつ包囲する為に。

 

 

「くそっ!」

 

さすがの空も、端で3人に囲まれてしまうと思い通りにプレーは出来ない。

 

「くー、戻して!」

 

「ちっ!」

 

生嶋の声を出し、ボールを貰いにいく。空は生嶋の姿を捉え、ボールを生嶋に戻した。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

だが、そのパスは大沢によってカットされてしまう。

 

『ターンオーバーだ!』

 

攻撃に失敗し、花月がディフェンスに戻っていく。ボールを奪った大沢は速攻に走る事はなく、ゆっくりボールを進め、綾辻にボールを渡した。

 

「…」

 

ボールを貰った綾辻はすぐさま左アウトサイドの寺沢にパスを出した。ボールを受けた寺沢も持ちすぎることなくゴール下の風間にパスを出し、風間もすぐに綾辻にボールを戻す。

 

大仁田のオフェンスはドリブルは最小限。とにかくボールを回しながら24秒をきっちり使うディレイドオフェンス。ボールを回しながらチャンスを窺う。

 

「あっ!」

 

ボールを回して20秒が経過したところでノーマークとなった内海にボールが渡る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの内海がミドルシュートを的確に決めた。

 

「よーし!」

 

決めた内海がハイタッチを交わす。

 

「くそっ!」

 

逆にオフェンスは失敗し、失点を喫した空は悔しさを露わにする。

 

試合は、大仁田がパス主体のディレイドオフェンスで確実に得点を積み上げているのに対し、花月はパスを出せばスティールされ、ボールを貰ってもチェックが速い為、得点には繋がらない場面が多く見られている。

 

花月は得意の速い展開に持ち込む事が出来ず、大仁田のペースに乗せられている。劣勢の原因はボールが回せない事なのだが、1番の要因は…。

 

「くそっ…!」

 

空の不調である。失点の多くが、空が強引に仕掛け、捕まり、そこからのパスミスである。自分の思い通りにならず、熱くなり、さらに泥濘にハマっている。

 

司令塔である空の不調がチーム全体に影響を及ぼし、悪循環を生んでいる。

 

試合は、花月が調子を戻せないまま進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、残り1分49秒。

 

 

花月  29

大仁田 43

 

 

点差はじわりじわりと開いていった。

 

要所要所で大地が個人技で得点を上げているが、単発が多く。流れを変える事は出来なかった。

 

現在、大仁田のオフェンス。大仁田は、変わらずボールを回し、時間を使いながらオフェンスに臨んでいる。

 

 

「……なあ、真ちゃん? 大仁田の奴等ってもしかして…」

 

「高尾。お前ならすぐに気付くと思っていたのだよ」

 

何かに気付いた高尾。緑間がコートに視線を向けながら解説を始めた。

 

「大仁田のスタメンは、全員、元はポイントガードとして鳴らして選手なのだよ」

 

「やっぱそうか。あいつら(大仁田)パス回しが上手すぎる。決められたパターンで動くセットオフェンスじゃないのに1つ1つのパスが的確だ」

 

「ああ。全員が広い視野とパスセンスを備えている。それぞれがそれぞれのポジションや人の動きや流れを理解しているからフリーの選手を作り出す事など造作もない」

 

「…」

 

「ディフェンスでも同様に、特定の場所に追い込むようディフェンスをし、さらにパスコースを誘導し、スティールを誘発させている。これも、ポイントガードとして特性をスタメン全員が備えているからこそ出来る芸当だ」

 

「……何か聞いてるだけでやりづらそうな相手だな」

 

緑間の説明を聞いてげんなりする高尾。

 

「現に、今年の夏に、海常を追い詰め、黄瀬にパーフェクトコピーまで使わせている。容易い相手では断じてない」

 

「あっ、そういえば…」

 

ここで、高尾はインターハイで大仁田が海常と戦った時の事を思い出した。

 

「速い展開を得意とするチームにとって、大仁田はとにかく相性が悪い。この苦戦は当然の結果なのだよ」

 

大まかな説明を終え、緑間はメガネのブリッジを押した。

 

「にしても、全員が元ポイントガードとはなぁ」

 

「昨年まで大仁田の司令塔には小林圭介がいた。彼と同じポジションの者がスタメンを獲得する為には、小林圭介からスタメンを奪うか、他ポジションにコンバートをして活路を見出す他なかった」

 

「その結果生まれたのがあのバスケってわけか」

 

その説明を聞いて高尾は納得した。

 

「大仁田のバスケの恐ろしいところはまだある。一般的に、バスケ選手が1試合で走る距離は5キロから7キロ程だと言われている。だが、パス回しが主体の大仁田は昨日の試合を見た限り、おおよそで3キロを超えた程度だった」

 

「3キロって、一般的の約半分くらいしか走ってねぇじゃねえかよ」

 

あまりの少ない運動量に高尾は驚いた。

 

「さっきも言ったが、大仁田のスタメンは全員、広い視野とパスセンスを持っている。各々が最善のポジションを瞬時に見つけ、動くことで無駄な移動を減らす事でスタミナの消耗を減らし、逆に、相手はそのパス回しで走りまわされ、スタミナを奪われる」

 

 

『ハァ…ハァ…!』

 

花月の選手達は肩を揺らしていた。

 

 

「確かに、きつそうだな」

 

花月の様子を見て、高尾は頷いた。

 

「なるほど…。ラン&ガンみたいな速い展開を得意とする花月や誠凛みたいなチームは苦戦を免れなさそうだな。誠凛は黒子テツヤがいるからまだ何とかなりそうだけど…」

 

「花月にはそのような隠し玉はない。この現状を打破する為には、自らの手で切り開くしかないのだよ」

 

緑間の視線が鋭くなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

大仁田ベンチ…。

 

「控えの皆さん、全員アップを始めて下さい」

 

大仁田の監督、高東影貴が、ベンチの選手達に指示を出す。

 

「全員……それは、スタメンを全員下げると言う事ですが?」

 

監督の指示に、控えの選手が聞き返す。

 

「いえ、下げませんよ。うちにはまだそんな余裕はありませんよ。今はこちらのペースで相手を抑え込んでいますが、この点差なら、きっかけ1つでひっくり返ってしまうでしょうから」

 

「では…」

 

「相手に揺さぶりをかけます。向こうの主力の大半が経験の少ない1年生ですから、いくらか動揺を誘う事が出来るかもしれません」

 

「分かりました」

 

監督の真意を聞き、控えメンバーがアップを開始した。

 

 

『大仁田のベンチが動くぞ!』

 

『まさか、明日に備えてスタメンの温存か!?』

 

ベンチが動きに気付いた観客が思わずに声に出す。

 

『っ!』

 

その声に反応して花月の選手達がそちらを見て思わず歯をきつく食い縛った。花月から見れば、大仁田のこの行動が明日の試合への温存策に見え、既に勝敗は決した思われていると判断したからだ。

 

「くそがぁっ…!」

 

その相手のベンチの動きに、特に反応を示したのが空だった。

 

「見てろよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空は目の前の綾辻を抜きさった。だが、抜いた先には大仁田の包囲網が待ち構えていた。

 

「(この程度、キセキの世代なら楽にぶち抜くはずだ。それが出来なきゃキセキの世代となんか戦えねえ!)」

 

包囲されるのもお構いなしに空が強引に突っ込んでいく。

 

 

――ドン!!!

 

 

だが、その直後、寺沢とぶつかってしまう。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹く。

 

「オフェンス、チャージング、緑6番!」

 

審判がコールする。

 

『うわー! オフェンスファールだ!』

 

『それより、神城4つ目だぞ!』

 

ここで空が4つ目のファールを取られてしまう。

 

「っ!?」

 

4つ目のファールを貰ってしまった空はオフィシャルテーブルに出された4の数字を見て目を見開く。

 

「ナイス」

 

ファールを奪った寺沢がハイタッチを交わす。

 

「神城を下げる。真崎、すぐに準備しろ」

 

「は、はい!」

 

上杉から指示を受けた真崎がシャツを脱ぎ、準備を始めた。

 

『メンバーチェンジ、緑!』

 

やがて、空がベンチに下がり、真崎がコートに入っていった。

 

「くそっ!」

 

ベンチに引っ込められる結果となってしまい、悔しさを前面に出しながらベンチに座った。

 

「神城…、まだ出番はある。ゆっくり呼吸を整えて…」

 

「俺がこの程度でバテる程やわなスタミナではないことはキャプテンも知ってるでしょう」

 

「……そうだったな」

 

落ち着かせようと馬場が声を掛けたが、空は苛立ちながら返した。これ以上は逆効果だと判断し、馬場は空から離れた。

 

試合は、真崎がチームを落ち着かせ、慎重にボールを回す事で、第3Qは何とか2点ではあるが点差を詰めて終わらせる事が出来た。

 

「…」

 

1分間のインターバル。空は頭からタオルを被って俯いていた。

 

監督がベンチに座る選手達の指示を出す中、花月のスタメンにメンバーは心配そうな視線を空に向けていた。

 

そして、1分間のインターバルは終わり、第4Qが始まった。

 

花月は上級生の真崎がチームを引っ張ることで試合を進めていた。

 

「…」

 

第4Qが始まっても、空はタオル被って俯いたままだった。

 

「(どうしてこうなった! 俺はキセキの世代をこの手で倒す為にここにいるはずなのに…! どうしてこんなところで!)」

 

キセキの世代の所属するチームではない相手に苦戦を強いられ、あまつさえベンチに下げられてしまった事実を受け入れられず、拳をきつく握っていた。

 

「神城君」

 

自問自答している空の耳に自分を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げると、そこには姫川が立っていた。姫川は右手を大きく振りかぶり…。

 

 

――パチィン!!!

 

 

空の左頬を力一杯引っ叩いた。

 

「少しは目が覚めたかしら?」

 

「~~!」

 

決して力の弱くない姫川の張り手に、空は顔を歪ませる。

 

「キセキの世代以外が相手なら自分が負けるはずがない。…とでも思っていた? 自惚れないで。あなた程度、止める方法なんていくらでもあるのよ」

 

「っ!」

 

痛い所を突かれ、空は目を見開いた。

 

「いつまで夏の気分でいるつもりなの? もう花月には、三杉先輩と堀田先輩はいないのよ? あなたのミスを帳消しにして、あなたの代わりに点を取って、守ってくれるあの2人はもういないのよ!? このチームは、あなたが引っ張らなきゃいけないのよ!? そんなあなたが、上ばかり見て、目の前の相手を見失ってどうするのよ!」

 

姫川は少しずつ声を荒げていく。

 

「凡人であっても天才に勝つ事が出来る、無駄な努力なんてないって事を証明するんでしょ!? だったらこんな情けない姿見せないでよ! 最初から出来もしないなら、夢見させるような事言わないでよ!」

 

最後はその目に涙を浮かべながら空に思いの丈をぶつけた。

 

「(姫川の言う通りだ。俺は何やってるんだよ! 俺がチームを引っ張らなきゃならないのに、1人で暴走して、相手を侮って…!)」

 

姫川の言葉を聞いて、自分が如何に愚かだったかを空は認識した。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

観客が沸き上がる声に反応し、空が顔を上げると、真崎が抜かれ、そのまま得点を決められてしまった。

 

「向こうの4番は強豪大仁田で育ち、スタメンを奪った選手だ。当然スペックは高い。真崎も頑張ってはいるが、1対1で分が悪い」

 

大仁田は、当初は様子を見ていたが、真崎が組みやすい相手と判断し、真崎と綾辻を以外が外に広がり、アイソレーションを仕掛けてきた。

 

「どうする?」

 

上杉が空に尋ねる。

 

「スー…フー…」

 

尋ねられた空は大きく深呼吸をした。

 

「行かせて下さい」

 

空は上杉の目を真っすぐ見据え、こう答えた。

 

「ならば行って来い」

 

「はい!」

 

大きく返事をした空は、オフィシャルテーブルに向かい、交代申請に向かった。

 

「監督、神城に何か指示を与えなくていいんですか?」

 

特に指示を出さなかった上杉を見て、馬場が心配そうに尋ねる。

 

「言いたい事は姫川が言ってくれたからな」

 

「っ//」

 

当の姫川は顔を赤くしていた。

 

「大仁田は強い。だが、秀徳はさらに強い。ここで俺があれこれ指示を出さなくては勝てないようなら、明日、何をしても勝てん。今日負けるか、明日負けるかの違いしかない」

 

「…」

 

「俺はここで負けるような鍛え方はしてはいない。俺は、選手を信じるぞ」

 

上杉は決意と固め、覚悟を決めてコートに視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフィシャルテーブルに向かう空の姿を大地が捉えた。

 

「(…空! あの表情…どうやら吹っ切れたようですね。ならば私は…!)…ください!」

 

大地が真崎にパスを要求し、ボールを受け取る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受け取った大地はすかさずドライブ。内海をかわす。そこに、すぐさま寺沢がヘルプにやってきた。

 

「っ!?」

 

だが、大地はバックロールターンで寺沢をもかわす。大地はそのままリングに突っ込んでいく。

 

「突っ込む気か!?」

 

ゴール下には風間。だが、大地は構わず突っ込み、跳躍する。

 

「(戻ってくると言うなら、私は空がより輝く最高の流れを作ります!)」

 

大地がボールを右手に構えると、風間もブロックの態勢に入る。

 

「(これが私に出来る、最高のお膳立てです!!!)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

大地は風間のブロックの上からワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『うぉぉぉーっ!』

 

それと同時に観客が沸き上がる。そして…。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が指を2本振り下ろし…。

 

「バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『しかもバスカンだぁぁぁっ!!!』

 

バスケットカウントのコールに会場はさらに沸き上がった。

 

 

『ビビーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ、緑!」

 

ここでメンバーチェンジがコールされる。

 

「頼んだぞ!」

 

「うす! 先輩の頑張りは無駄にしません」

 

空と真崎がハイタッチを交わし、真崎はベンチへ、空はコートに足を踏み入れる。

 

「っしゃぁっ! 行くぞォォォォッ!!!」

 

空が雄叫びのような咆哮を上げる。

 

第4Q…。空がコートに戻り、試合は、終末へと向かっていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





基本的に、オリキャラの名前はキセキの世代や火神がいる高校以外は思いつきなので、どっかでかぶったり、あるいは何処かの漫画やらラノベやらと被るかもしれませんが恐らく一切関係ないので悪しからず。

にしても、もう少しバスケの戦術を研究しないと、ネタ不足になって書けなくなりそうです…(^-^;)

原作だけではなく、本物のバスケも見ないとダメそうです…( ;∀;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第69Q~挑戦権~


投稿します!

かなり間隔が空いてしまいました…(^-^;)

それではどうぞ!




 

 

 

最終Q、中盤、4ファールの空がコートに戻ってくる。直前の大地のダンクによってバスカンをもぎ取った事もあり、会場は大いに盛り上がる。

 

「っしゃぁっ! 行くぞォォォォッ!!!」

 

空は咆哮を上げながらコートに入る。

 

 

第4Q、残り6分47秒。

 

 

花月  43

大仁田 55

 

 

試合は、大地のフリースローから再開される。

 

「…」

 

大地は2、3回ボールを弾ませ、念入りに縫い目を確認する。そして顔を上げ、フリースローを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

危なげなく大地はフリースローを決めた。

 

「いいぞ!」

 

松永が大地に歩み寄り、ハイタッチを交わした。

 

 

「とは言え、問題はここからだな。オフェンス、ディフェンス共に花月は突破口を見出してない」

 

「ああ。流れは花月に傾きつつある。ここで綾瀬の作った流れを生かせなければ、花月は負ける」

 

高尾、緑間が冷静に状況を分析していた。

 

 

「ディフェンスを変えるぞ」

 

空がコート上の花月の選手達に指示を出す。

 

「何や、何か良い手でもあるんか?」

 

駆け寄ってきた花月の選手達に空が指示を出していく。

 

『……(コクリ)』

 

皆が空の指示に耳を傾け、頷き、ディフェンスに戻っていった。

 

風間がスローワーとなり、ボールが綾辻に渡り、大仁田のオフェンスが始まる。

 

「…なに?」

 

ここで、花月のディフェンスが切り替わったことで大仁田が眉を顰める。花月のディフェンスがマンツーから3-2ゾーンに変わった。

 

前方に空、生嶋、大地が、後方に松永、天野。

 

 

「…確かに、マンツーではパス回しの餌食になるだけだろうが、出来んのか?」

 

ゾーンディフェンスは選手間の連携が必須。急造チームの花月が上手くこなせるのか疑問に感じた高尾。

 

 

「(残念だが、うちはゾーンディフェンスは苦としていない、むしろ得意分野だ)」

 

これまでどおり、大仁田がボール回し始めた。

 

『っ! …っ!』

 

絶え間なく動く回るボールに、花月は必死に食らい付く。やがて…。

 

「よし!」

 

ボールはペイントエリア内でフリーの内海にボールが渡った。

 

 

『うわー! やっぱり止められない!』

 

観客席から悲痛の声が上がる。

 

 

フリーでボールを受けた内海がシュートを放った。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「えっ!?」

 

だが、そのシュートはブロックされる。

 

「綾瀬だと!?」

 

ブロックをしたのは大地。

 

「バカな、あいつは間違いなくスリーポイントラインの外にいたはずなのに…」

 

花月の選手達のポジションを把握していた内海。ボールを受けた時、自身はフリーで、大地は外に展開していた。だが、気が付けば大地は自分の目の前でブロックをした。

 

ルーズボールを生嶋が抑え、すかさず空にボールを渡す。

 

「戻れ!」

 

速攻を防ぐ為、大仁田は素早く自陣に戻る。

 

『大仁田の戻りが速い!』

 

空が速攻をかけるよりも早く大仁田が自陣でディフェンスを布いた。

 

「…」

 

これを想定していた空は特に動揺はせず、落ち着いてボールをキープしている。

 

 

――スッ…。

 

 

空が手で合図を出すと、他の花月の選手達が動き出す。

 

『っ!? これは!?』

 

花月の選手全員がアウトサイドに寄り、中央にスペースを作った。

 

 

「アイソレーションか…」

 

「確かに、大仁田には有効だろうが、よりによって…。」

 

花月のフォーメーションの変化を緑間はメガネのブリッジを押しながら注目し、高尾は声を上げた。

 

特定のプレーヤーがプレーしやすいようにスペースを空けるように展開するアイソレーション。だが、その対象になったのが4ファールで後がない空。

 

 

「(こいつ…)」

 

花月が布いたアイソレーションに大仁田で1番反応を示したのが空をマークする綾辻だった。アイソレーションは通常、実力の差があるマッチアップ相手の場合に行われる戦術だからだ。それはつまり、自身が舐められている事に他ならない。

 

「大した自信だな。だが、お前が4ファールだと言うのを忘れるなよ? 今日の審判は辛いからな。ぶつかった振りして倒れても、オフェンスファールを取ってしまうかもな…」

 

空に4ファールだと言う現実を知らしめ、動揺を誘う為にトラッシュトークを仕掛ける。

 

「…」

 

だが、当の空は全く反応しなかった。そして…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、高速で綾辻の左を抜けていった。

 

「なっ!?」

 

特にフェイクもない空のドライブ全く反応出来なかった綾辻。空はそのままリングに向かっていく。

 

「くそっ!」

 

風間がヘルプに向かい、空を止めにかかる。フリースローラインを越えたところで空がボールを右手に持ち、跳躍する。

 

「行かすか!」

 

得点を阻止するべく、風間がブロックに現れる。

 

「神城君、無茶よ!」

 

ベンチから姫川が悲痛の声を上げる。空は構わずリングにグングン突っ込んでいく。

 

「(構わねぇ、行くぞぉっ!)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐぉっ!」

 

ブロックをお構いなしに空はリングにボールを叩きつける。体格で勝る風間だったが、態勢が不安定だったのと、空がスピードに乗っていた為、吹き飛ばされた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ダンクが決まるのと同時に大歓声が上がる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、審判が笛を吹いた。

 

『っ!?』

 

その瞬間、コート上の選手、ベンチ、観客が審判に注目する。

 

もし、オフェンスファールとなれば、空は退場。大地が作った流れは止まり、司令塔を失った花月の敗北はほぼ確定する。

 

審判が笛を口から放し、そっと指を2本を上げ、下した。

 

「ディフェンス、バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『うおぉぉっ! バスカンだぁっ!』

 

コールと同時に再び観客が沸き上がった。

 

「よし!」

 

拳を握り、空は喜びを露わにする。

 

「『よし!』ちゃうわ! 何考えとんねん! 次ファール取られたら退場やねんぞ!」

 

喜ぶ空の後頭部を天野が叩いた。

 

「(そのとおりだ。今の、後少しタイミングずれていたらオフェンスファール…いや、審判によっては今のもオフェンスファールものだった。あいつ、何考えてんだ…!)」

 

無謀とも思える空のプレーに、綾辻は信じられないものを見る目で空を見つめていた。

 

 

「全く、神城君は…」

 

ベンチで姫川はハラハラしながら空のプレーを見ていた。

 

「いや、考えなしという訳でもない」

 

腕組をしながら上杉が喋り出す。

 

「その前の綾瀬のプレーも、審判によってはオフェンスファールを取っただろう。あれを見て、今日の審判はオフェンスファールに寛容だと判断したのだろう」

 

今の空のプレーはある程度、計算があったと上杉は言った。

 

「とは言え、これで流れは完全にうちに傾いた。だが、向こうも早々に手を打ってきたな」

 

オフィシャルテーブルに視線を向ける上杉。そこには、大仁田の監督、高東がいた。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボーナススローを空がきっちり決めた。その後…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、白(大仁田!)』

 

ここで、タイムアウトがコールされる。

 

 

「大仁田は判断が速いな」

 

「花月をこのまま勢い付かせたら手遅れになる。流れを断つ意味でも、ここでタイムアウトは当然なのだよ」

 

試合を観戦している緑間と高尾がベンチに下がる両チーム選手を眺めながら分析している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「ちぇっ、良い所で水を差されたな」

 

つまらなさそう表情をする空。

 

「まぁ、当然だろうね。2発のダンクにバスカンだからね。この流れを切るのは当然だよ」

 

ベンチに腰掛け、水分補給をしながら生嶋が空に返した。

 

「この勢いはタイムアウト1つで断てるものでもないはずだ。…だが、問題はここからだ」

 

タオルで汗を拭いながら松永が表情を改める。

 

「せやな。向こうのオフェンスとディフェンス。まだまともに突破してへんし、止めてもおらん。さっきはディフェンスを変えた直後に意表を突いて止めれたが、次はそうもいかんやろ」

 

現状を天野が説明していく。

 

花月は大仁田のボール回しに対応出来ていない。オフェンスでも、パスをスティールされ、ドリブル突破を図れば囲まれ、苦し紛れにパスを出せば同じくスティールされているのが現状である。

 

「みんな聞いてくれ。俺に良い考えがあるんだけど」

 

空が皆を集め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウト終了のブザーが鳴り、両チームの選手達がコート上に戻ってくる。

 

花月、大仁田共に、メンバーチェンジはなく、試合は大仁田ボールから再会される。

 

「…」

 

ボールはスローワーの風間から綾辻にボールが渡り、綾辻はこれまでどおりゆっくりボールを運んでいく。花月のディフェンスはタイムアウト前と変わらず2-3ゾーンのまま。

 

「(どんなチームだろうと、突破出来ないディフェンスはない。これまでどおりボールを回して、花月のディフェンスを切り崩す!)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

綾辻がアウトサイドに展開する寺沢にパスを出し、ボールを受け取った寺沢がハイポストに立つ大沢にボールを渡す。

 

「(…来た!)」

 

ボール回しが始まり、空は集中力を高める。

 

大仁田のボール回しは、パスを受けてから次に捌くまでが速い。しかも、各々が広い視野とパスセンスを擁している為、パスターゲットをほとんど見ない。その為、ボールの行き先を読むことは困難である。

 

「(散々見てきたこのパス回し。一見止めるのは不可能に見えるが、俺の目論見通り運べば、止められるはずだ)」

 

空は、タイムアウト時に提案した作戦の為に動く。

 

「(…スッ)」

 

「(…コクッ)」

 

それと同時に大地にアイコンタクトをし、大地が頷いた。

 

ボール止まることなく大仁田の選手間を行き来する。大仁田のオフェンスが18秒を経過した所で大仁田が動く。

 

「よし!」

 

ここで、ボールは左アウトサイドでフリーになっていた寺沢へと渡った。ボールを受けた寺沢がシュートを放とうとしたその時…。

 

「っ!?」

 

大地が寺沢の目の前に現れた。

 

「バカな!? どうしてここに綾瀬が現れる!?」

 

広い視野で周囲を把握し、他の選手も寺沢がフリーになるよう動いたのにも関わらず、目の前に大地が現れた事に大仁田の全選手が驚愕する。

 

「作戦通りだ」

 

思惑通り事が進み、空はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『大仁田のパス回しは、とにかくリスクを避け、成功確率の高いパスをしてくる。だけど、単にリスクを避けたパスを出し続ければ、何処かでパスカットされるか、少なくとも、シュートにまで持っていけない。そうならないのは、大仁田のスタメン全員が広い視野とパスセンスをあわせ持って持っているからだ』

 

『そうだな』

 

空の分析に、松永が頷く。

 

『向こうがリスクを避けた効率の良いパスをしてくるなら、それを逆手に取ればいい』

 

『? …僕達は何をすればいい?』

 

空の考えが理解出来ない生嶋は、自分の役割を空に尋ねた。

 

『天さん、生嶋、松永はそのままゾーンディフェンスをしてもらう。仕掛けは、俺と大地でやる』

 

『…聞かせて下さい。空の作戦を』

 

大地が空の指示を仰ぐ。

 

『要は、パス回しが厄介なら、そのパスを封じてやればいいのさ。例えば、左右どちらかのアウトサイドでボールを止め、その後、全てのパスコースを塞げば、後は1ON1で勝負せざるを得ない。1ON1なら、俺達に分がある』

 

『なるほど…、その為のゾーンディフェンスという事やな』

 

作戦の全容を理解した天野が感心するように頷く。

 

『良い考えだとは思うけど、この作戦を成立させる為には、あなたと綾瀬君の役割が重要になるわ。ましてや、神城君は4ファールよ。やれるの?』

 

空と大地の負担が大きい事に姫川が2人に…特に空に声を掛ける。

 

『大丈夫。問題ねえ』

 

姫川の心配をよそに、空は笑顔で親指を立てた。

 

『大地も、問題ねぇな』

 

『ええ。ここまで散々大仁田のパス回しを見させてもらいましたので、パスコースは理解しています』

 

『よっしゃ、ならディフェンスはこれで行く。名付けて、追い込み漁作戦だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

目の前に大地が現れ、明らかに動揺する寺沢。

 

「くっ!」

 

パスを出そうとパスターゲットを探す寺沢だったが、他の4人全てががっちりマークされており、パスは出せない。

 

「バスケにおいてパスは重要です。ですが、バスケは1ON1も求められます。パスだけで試合を成立させられるほど、甘くはありません」

 

両腕を広げ、寺沢を大地が威嚇する。

 

「くそっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

オーバータイムの時間が目の前に迫っている為、寺沢はやむを得ずドライブを仕掛ける。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

だが、その直後、大地の手が伸び、ボールを捉えた。

 

「ナイスだよ、ダイ!」

 

ルーズボールをすぐさま生嶋が抑えた。

 

「くれっ!」

 

そこへ、空がボールを要求し、生嶋はすぐに空にボールを渡した。

 

「戻れ、ディフェンスだ!」

 

攻撃が失敗に終わり、慌ててディフェンスに戻る大仁田。幸い、空が自陣深くまで下がっていた為、空の速攻より早くディフェンスに戻れた。

 

 

「おー、大仁田のオフェンス止めちゃったよ。…けどまあ、肝心なのは守りより攻めだ。いくら失点を防げても、点が取れなきゃ点差は縮まらない」

 

大仁田のオフェンスを止めた花月に高尾が感心し、次に花月のオフェンスに注目した。

 

 

「…」

 

フロントコートに入ったところで空はボールを止め、ゲームメイクを始める。

 

タイムアウトで流れを切られた形だが、ここできっちり大仁田のディフェンスを攻略し、得点を決められれば、再び流れに乗ることが出来る。

 

オフェンスに関しては、空が皆に出した指示は1つだけ。

 

『オフェンスでは、ボールから目を離さないでくれ。ちょっと、無茶なパスを出すからさ』

 

時間がなかったこともあり、この1点だけであった。

 

「(無理に切り込んでいけば囲まれ、今まで同様スティールされる。かと言って、まともにパスをすれば何処かでカットされる)」

 

これまで、花月のオフェンスは、空が無理に切り込み、包囲され、そこからの苦し紛れのパスをカットされるか、ボール回しをしている内にパスを読まれ、カットされるパターンが大半だった。

 

「(まともなパスはカットされる。…なら、まともじゃないパスを出せばいい)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

考えが纏まった空は、目の前の綾辻を高速のドライブで一気に抜きさる。

 

「(バカめ。その先には罠があると何度も味わっただろう!)」

 

綾辻はわざと左手側から抜かせ、寺沢と大沢が待ち受ける包囲網に空を誘導した。正面から大沢。左後ろから寺沢。真後ろから綾辻が空の包囲にかかる。その他の風間、内海が空のパスに対応出来るポジション取りをする。

 

徐々に包囲網狭まる中、空は…。

 

 

――ボムッ…。

 

 

包囲される寸前、空がパスを出す。

 

『なっ!?』

 

その瞬間、大仁田選手達が目を見開く。

 

空は、今まさに自分を包囲する寺沢が1歩踏み出したのに合わせ、その股下からボールを通した。

 

「この包囲網はスティールしやすいパスコースにボールを誘導する為に罠。その罠に合わせて他の2人が動くなら、正道のパスは通らない。正道がダメなら、邪道からパスを通せばいい」

 

大仁田のディフェンスは、司令塔を特定のエリアに誘導し、そこからミスリードのパスを誘発させるディフェンス。包囲させる中で出せるパスは全て罠が待っている。だが、常識で測れないところからパスが出れば、3人は空を包囲し、残りの2人は罠を張ったパスコースに待ち受けている為、そのパスを受けた選手は完全なフリーとなる。

 

「ナイスパスだ!」

 

ボールを受けた松永はそのままドリブル。そして…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

「よぉぉしっ!」

 

「景気の1発や!」

 

ダンクを決めた松永と天野がハイタッチを交わす。

 

ここから、花月の反撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

再び大仁田のオフェンス。これまでどおり、高速のパス回しを始める。パス回しが始まって20秒経過したところで大沢にボールが渡る。

 

「(…くっ、天野のチェックが速い。ゴール下の風間はマークがきつい、寺沢は神城との距離が近い、綾辻は空いているが、ここで戻したらシュートに行けない。なら、外の内海だ!)」

 

瞬時に各選手のポジションを確認し、1番得点に繋げる確率が高い味方選手を割り出し、パスを出した。内海にボールが渡り、シュート態勢を整えようとすると…。

 

「させねえよ」

 

そこへ、空がディフェンスに現れた。

 

「くそっ! 何でそこにお前がいるんだよ!?」

 

先ほど同様、フリーを確信したにも関わらず、目の前に空が現れた事に大仁田の選手達に動揺が走る。パスの行き先を読み切った空が自身の瞬発力とスピードを生かして空が距離を詰めた。

 

右アウトサイドでボールを受けてしまった為、パスコースは限られており、内海以外の選手は全て花月のマークされている為、パスは出せない。つまり、内海は、空と1ON1を仕掛けざるを得ない。

 

「時間がない、内海、仕掛けろ! そいつは4ファールだ! 派手なディフェンスは出来ない!」

 

ここで、大仁田ベンチから声が出る。

 

「(そうだ、弱気になるな! こいつ(空)がいくら俺より上手くとも、4ファールだ。仮に得点にならくとも、上手く行けばこいつをコートの外に追い出せる!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して内海が仕掛け、空の左手側を抜けていく。

 

「ちっ!」

 

4ファールという言葉が耳に入った瞬間、軽く動揺が走った空は、ドライブ直後に狙いを澄ましていたのだが、内海を抜けさせてしまう。

 

「よし!」

 

空を抜いた直後、内海はゴール下まで侵入し、シュート態勢に入る。

 

「(何ビビッてんだ! ここで俺がしっかりしなきゃ、花月は勝てない…)」

 

すぐさま転身し、空は内海を追いかける。

 

「(止める! 俺がチームを勝利に導くんだ!)」

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

ボールが放たれる直前の内海のボールを空が叩いた。

 

『うぉぉぉーっ! 神城速ぇっ!』

 

抜かれたも尚ブロックに追いつける空の瞬発力に観客は沸き上がる。

 

「ファールだ!」

 

やや後方からのシュートブロック。ブロックした空が内海に近いことから、大仁田のベンチから審判に対してアピールするかのように声が出る。

 

「…」

 

だが、審判は笛を口に口に咥えたまま動かない。かなり際どかったが、審判はノーファールと判断した。

 

 

「あっぶねえなぁ…。今のもファールギリギリだぜ?」

 

あまりにヒヤヒヤする空のブロックに、高尾が自分の事のように冷や汗を流した。

 

 

素早くルーズボールを松永が抑え、そこから、花月が速攻をかける。

 

「行くぞ! 全員走れ!」

 

ボールを受けた空がフロントコート目掛けてドリブルを始め、それに続いて大地、生嶋、天野、松永が走り出す。

 

「くそっ! ディフェンスだ!」

 

再び攻撃が失敗し、慌てて戻る大仁田の選手達だが、今回は深く切り込み過ぎたことと、花月の速攻が速すぎる為、まだディフェンスが構築出来ていない。それでも、何とか花月に食らい付いていく。

 

「このまま突き進む!」

 

並走してくる綾辻を加速して振り切る空。そのままゴール下まで侵入し、レイアップの態勢に入った。

 

「行かすか!」

 

「止める!」

 

ここで、風間と大沢がシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

「ちっ」

 

咄嗟にボールを左手で抑え、レイアップを中断する。すると、空はそのままエンドラインを越え、リングの裏に行ってしまう。

 

「よーし、止めた!」

 

失点を防ぎ、拳を握る大仁田の選手達。だが、空は空中で態勢を整え、身体を捩じって右手を振りかぶり、ボールをぶん投げた。

 

「ナイスパスだよ、くー」

 

ボールは、左側のスリーポイントラインの外側に展開していた生嶋の手に渡る。ボールを受けた生嶋はそのままシュート態勢に入る。

 

「させるか!」

 

シュート態勢に入ろうとする生嶋の前に寺沢がブロックにやってくる。生嶋はお構いなしに飛んだ。

 

「なっ!?」

 

ブロックに飛んだ寺沢だが、生嶋は真上ではなく、右斜めに飛び、ブロックかわした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ブロックをかわして放たれたボールは、リングの中央を的確に射抜いた。

 

「ナイッシュ」

 

「うん。良い音がしたよ」

 

駆け寄った大地が生嶋の肩に手を置き、労うと、生嶋は親指を立てた。

 

「この調子だ。一気に勝負をかけるぞ」

 

『おう!!!』

 

空の激に、花月の選手達は大声で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンス、ディフェンス共に突破口を見つけた花月。その勢いのまま、花月は攻めていく。

 

一方大仁田も、手を変え品を変えて仕掛け、花月を翻弄。ノリに乗る花月の勢いを断ちにかかるも、止めきれず、点差は徐々に縮まっていく。

 

 

第4Q、残り2分23秒。

 

 

花月  62

大仁田 63

 

 

試合時間、残り2分半を切った所で、花月はついに大仁田の背中を捉える。

 

「集中しろ! この1本、絶対に止めるぞ!」

 

大仁田のオフェンス。空が声を張り上げ、チームを鼓舞する。

 

「負けねえぞ。ここを勝って秀徳と戦うのは俺達だ。小林先輩の悲願を果たすの俺達だ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールをキープする綾辻がフロントコートにボールを運んで早々空に対して仕掛ける。

 

「甘えぞ!」

 

今までにない速い仕掛けであったが、きっちり集中していた空は綾辻のドライブに対応する。だが…。

 

「っ!?」

 

空が並走したのと同時に綾辻は前を向いたままバックパスをする。そこには、寺沢が立っていた。

 

「ちっ!」

 

スリーポイントラインの外側に立っていた寺沢。シュート態勢に入る寺沢を見て空がすぐさま転身し、ブロックに向かう空。

 

 

――ピッ!

 

 

寺沢は、一瞬シュートフェイクを1つ入れると、中断してボールを前方に投げつける。ボールは空の横を抜け、再び綾辻に渡る。

 

「くそっ!」

 

裏を掻かれた空はもう1度転身し、綾辻を追いかけようとする。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

「っ!」

 

だが、その直後、空は寺沢のスクリーンに捕まってしまう。

 

「スイッチ!」

 

スクリーンに捕まった空が声を出す。

 

「任せてや!」

 

空に代わり、天野がヘルプにやってくる。綾辻はボールを受け取ると、すぐさまパスを出した。

 

「あっ!?」

 

ボールは、生嶋のマークを振り切り、ゴール下まで走り込んでいた寺沢に渡る。寺沢はボールを受け取るとすぐさまシュート態勢に入った。

 

「させません!」

 

そこに、大地がブロックに現れる。

 

「っ!?」

 

だが、寺沢のシュートはフェイク。飛んではいなかった。

 

実力はあるもまだ1年生の大地。経験豊富な寺沢は、冷静にフェイクを入れ、ブロックをかわす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地の横を抜け、リングを越え、リバースレイアップの態勢に入る。

 

「まだだぁぁぁっ!!!」

 

そこに、松永がブロックにやってくる。松永は懸命に手を伸ばす。

 

 

――チッ…。

 

 

僅かに松永の伸ばした指先にボールが障る。ボールは、リングを縁を転がりながらリングの外に落ちていった。

 

「リバウンドォォォォッ!!!」

 

外れる事を確信していた松永が声を張り上げる。

 

リバウンド争い。花月は天野が、大仁田は風間と内海がリバウンドに飛ぶ。

 

「リバウンドは、俺の土俵やぁぁぁっ!!!」

 

天野がリバウンド争いを制し、ボールを確保した。

 

「いいぞ天野!」

 

花月ベンチからリバウンド争いを制した天野に対して労いの言葉が出る。

 

「天さぁぁぁぁぁん!!!」

 

その直後、フロントコート目掛けて走りながら空がボールを要求する。

 

「決めてこいや!」

 

天野の声を背中に受けながら空はボールを受け取り、そのまま速攻に走る。

 

「くそっ!」

 

慌ててディフェンスに戻る大仁田だったが、誰よりも前を走る空に追いつける者はいなかった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「しゃぁぁぁぁーーーっ!!!」

 

右拳を天高く突き上げ、空は喜びを露わにした。

 

残り時間2分を切り、花月が遂に逆転に成功する。

 

 

「……帰るぞ、高尾」

 

空のダンクが決まるのと同時に、緑間が踵を返し、歩き始める。

 

「おい、真ちゃん!」

 

スタスタと歩く緑間を高尾が慌てて追いかけていく。

 

「まだ試合は終わってねえぞ」

 

「勝敗はもう決まった。これ以上、見る必要はない」

 

戸惑いながら声を掛ける高尾を他所に、緑間は止まることなく出口へと歩いていく緑間。

 

「勝敗は決したって、んなもんまだ…」

 

「勝敗を分けたのは、エースの有無だ」

 

納得が出来ない高尾に対し、緑間は歩きながら説明をする。

 

「花月は綾瀬の1発で悪い流れを変えた。だが、大仁田にはその役割を担う者がいない」

 

「…」

 

「エースの存在。それが花月と大仁田の差だ」

 

「なるほど。去年まであって今年なくなったものが、勝敗を分けちまったのか…」

 

昨年、大仁田には小林圭介という絶対的なエースがいた。高尾自身、間近で体験しただけに、その実力はよく理解していた。その小林圭介が抜け、エース不在の大仁田がそれでも全国で勝ち抜く為に構築したパス主体のバスケだったが、エースが存在するチームに鳴くことになった事に、高尾は皮肉さを感じていた。

 

「真ちゃんとしては、どうなんだ? この結果に満足なのか?」

 

「……どちらが勝とうと関係ない。俺はただ人事を尽くして試合に臨み、勝つだけなのだよ」

 

高尾の質問に一瞬緑間が立ち止まると、そう答えて再び歩き出した。

 

「ハハッ。素直に答えりゃ良いのによ」

 

高尾は、僅かに口元の口角が上がるのを見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合の流れは完全に花月に傾く。

 

空のダンクが、試合を決定づけた。試合時間が残り1分を切ったその時。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

「…あっ」

 

「ディフェンス、プッシング、緑6番! 5ファール、退場!」

 

綾辻のパスをカットしようとした際、空の手が綾辻の手に当たってしまう。

 

「しまったぁぁぁぁっ!!!」

 

コールされた空は頭を抱えて絶叫した。

 

「ド、ドンマイ、空」

 

退場となった空を大地は引き攣った表情で慰める大地。空はトボトボとベンチへと下がっていく。

 

「最後の最後で集中切らせやがって、バカ者が!」

 

「す、すいません…」

 

返す言葉がない空は、俯きながらベンチに腰掛ける。

 

「そこじゃない。ここに座れ」

 

上杉が指差したのは、自身の正面である床だった。

 

「うっ…」

 

一瞬怯んだ空だったが、覚悟を決めて空は上杉の前で正座した。

 

『あいつ正座させられてるぞ』

 

『可哀想に…』

 

観客の1部から、同情であったり、笑い声が上がった。

 

「バーカ」

 

正座する空を冷ややかな目で姫川は見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、空が退場したものの、それでも流れは変わる事がなかった。

 

残り時間、執念の籠った大仁田の猛攻を、花月は耐えきった。そして…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、試合終了のブザーが鳴った。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

それと同時に観客から大歓声が上がった。

 

 

試合終了

 

 

花月  66

大仁田 65

 

 

試合終盤まで大仁田のバスケに翻弄された花月だったが、大地のダンクと空のアイディアをきっかけに流れを変え、逆転に至った。

 

「66対65で、花月高校の勝ち!」

 

『ありがとうございました!』

 

両チームがセンターサークルに集まり、互いに礼をした。

 

「…ハァ。勝てると思ったんだけどな」

 

綾辻が天野と握手を交わしながらポツリと呟いた。

 

「ヒヤッとしたわ。今でも冷や汗が止れへん」

 

おどけた表情で天野が返す。

 

「秀徳は強いぞ」

 

「よー知っとるで」

 

「番狂わせ、起こせよ」

 

そこで2人は手を放した。

 

「後、そっちのポイントカードによろしく」

 

振り返り、ベンチに引き返しながら綾辻は後ろ手で天野に伝えた。

 

「ふー、たどり着いたな」

 

「うん。待ちわびたよ」

 

「明日は……さらに激戦となるでしょうね」

 

試合に勝利し、喜んだのも束の間、明日に控える激戦を目の前に、自然と表情が引き締まる大地、生嶋、松永。

 

「奇跡を、起こしましょう」

 

「もちろん」

 

「当然だ」

 

3人は拳を突き出し、コツンと合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(試合に勝った。これで戦える!)」

 

試合に勝利し、3回戦に駒を進め、待ち受ける秀徳と戦えることとなり、空は内心で拳を握って喜ぶ。

 

「(キセキの世代への挑戦権は手に入れた。明日は目にもの見せて…)って、いねえ!?」

 

試合中、偶然見つけた緑間・高尾がいた方向に視線を向けると、2人は既にいなかった。

 

「聞いてるのか!」

 

「聞いてます! すいません!」

 

明後日の方向に視線を向けた空を怒鳴りつける上杉。慌てて空は頭を下げた。

 

空の説教は、旅館に戻っても再開された…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

苦戦を強いられた花月高校。

 

それでも、各々が力を発揮し、勝利した。

 

次に待ち受けるのは、キセキの世代のシューター、緑間真太郎を擁する秀徳高校。

 

花月高校は、キセキの世代への挑戦権を、獲得したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





かなり難産でした…(^-^;)

バスケ経験がなく、緻密な戦術となると全然頭が回らず、結果、間隔がかなり空き、試合結果も何か微妙な感じに…。

相当動画やら本やら読みましたが、やっぱり、バスケに限らず、スポーツは年単位で経験しないと深く理解出来ない事を思い知りました…。

没ネタとして、三杉と堀田が見られないことと、誠凛が出場出来ず、一見地味な大仁田にやられる花月に腹を立てた観客による野次が飛び、ヒートアップしてさらなる暴挙に出ようとした観客を後ろに座っていた青峰に睨みつけながら止められるなど考えましたが、さすがにこれはやり過ぎかなと思い、没にしました。今後、没ネタがあったら後書きで書こうかなと思います。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第70Q~奇跡へのプロローグ~


投稿します!

諸事情により久しぶりの投稿です…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

ウィンターカップ2日目が終わった。

 

この日、神奈川の強豪にして、キセキの世代の黄瀬涼太を擁する海常と、栃木の雄、大仁田高校がこの日姿を消した。

 

ここまで勝ち抜いた猛者達は翌日の激戦を備えて各々準備を始める…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

秀徳高校…。

 

ホテルの1室に、秀徳のユニフォームを獲得した選手達と監督中谷が集まっていた。

 

「全員集まったな。これから明日のスカウティングを始める」

 

選手達の前方に設置されているテレビの横に立つ中谷が選手達に向かって口を開いた。

 

「皆、知っているとおり、明日の相手はインターハイ優勝校である花月高校だ。だが、今大会の花月に三杉と堀田はいない。いつもどおり戦えば問題ない相手だ。…………何て、呑気な事を考えている者はここにはいないな?」

 

中谷がそう尋ねると、選手達の表情は真剣なものであった為、満足気に1度頷いた。

 

「うん、それでいい。……明日の花月は今日のスタメンと変わる事はないだろう。1人ずつ見ていくぞ。まずはポイントカード、6番、神城空からだ」

 

テレビに、空の映像が映し出される。

 

「クイックネスに長け、ガンガンペネトレイトで切り込んでくる選手だ。フリーなら外も打ってくる」

 

映像の空が高速のドライブで目の前の相手を抜きさる。

 

「俺が今までマッチアップした相手の中では、元海常の笠松さんがあいつに近いですね」

 

ここで高尾が椅子の背もたれに体重を預けながら口を挟む。

 

「だが、スピードは笠松の比じゃねえぞ。下手したら青峰並みだ」

 

空を見て秀徳の主将である宮地裕也が真剣な表情で言った。

 

「この選手は調子の変動が激しい。とりわけ、今日は限りなく調子が悪かったと言ってもいいだろう」

 

試合映像では空がパスミスを連発している。

 

「多分それ、昨日真ちゃんが挑発したのが原因かと思います」

 

「挑発等していないのだよ。目を向けるべきところに向けるよう伝えただけだ」

 

「いや、あれ普通に挑発しているようにしか聞こえなかったからな」

 

否定する緑間に対し、高尾は笑いながら言った。

 

「まあなんにせよ、こいつを調子付かすとチームが活性化しちまう。…高尾、止められるか?」

 

「今の神城なら何とかなると思います。任せて下さい」

 

宮地の問いかけに、高尾は不敵な笑みで答えた。

 

「次に、7番、シューティングガード、生嶋奏」

 

映像が生嶋に切り替わる。

 

「元城ヶ崎中のエースで、アウトサイドシューターだ。フリーでのスリーはまず外さない」

 

映像の生嶋がスリーを放ち、リングの中央を綺麗に射抜いた。

 

「…」

 

緑間が食い入るように映像に注目する。

 

「同じシューターとしてどうよ?」

 

そんな緑間に高尾が尋ねる。

 

「いいシューターなのだよ。人事を尽くしている事が良く分かる。打たれたらまず外れる事はないだろう」

 

緑間が生嶋を称賛する。

 

「だが、身体能力は高くない。いいとこ、中の中だ。誠凛の日向のバリアジャンパーみたいなディフェンスをかわすテクニックもないし、スタミナも多くない。フェイスガードでべったりマークしちまえば何も出来ずにガス欠だぜ」

 

宮地が対応策を口にする。

 

「この選手をフリーにするのは危険だ。マークは常に外せない。マークに付く者は要注意だ」

 

中谷がそう告げると、秀徳の選手達は頷いた。

 

「次に、8番、スモールフォワード、綾瀬大地」

 

映像が生嶋から大地に切り替わる。

 

「このとおり、ボールを持てばガンガン1ON1を仕掛けてくるスラッシャータイプの選手だ」

 

大地がドライブで目の前にディフェンスを一瞬で抜きさる。

 

「ここからが彼の真骨頂だ」

 

ディフェンスを抜き、インサイドに切り込んだ瞬間、他の選手達が大地を囲みにかかる。その瞬間、大地がバックステップで急速に下がり、ディフェンスと距離を空ける。フリーになった大地は悠々とミドルシュートを決めた。

 

「っ…何度も見てもこのバックステップには驚かされるな」

 

ディフェンスの包囲網から一瞬にして脱出してしまう程のバックステップに、秀徳の面々は顔を顰める。

 

「あれを止めるのは至難の業だぞ。前を塞げば下がられる。かと言って並走すればスピードでちぎられる。面倒さのレベルはキセキの世代並みだ」

 

神妙な表情を浮かべながら宮地が感想を述べる。

 

「攻略法がないわけではありません。実際、あれだけのスピードのドライブからのバックステップは足にかなりの負担が強いられます。そう何度も行えるものではありません」

 

静まり返る室内の中で、緑間が大地のバックステップの欠点を述べていく。

 

実際のところ、猛スピードで走ってる最中に急速に止まるだけでも相当足に負担がかかる。それを止まるではなく、下がろうと考えると、通常の人間の筋肉ではまず耐えられない。

 

「要するに、乱発はしてこない…と言うより出来ない訳か。回数が限られるなら、使いどころも自ずと読みやすそうですね」

 

緑間の解説を聞き、高尾は納得するように頷いた。

 

「それでも、彼の1ON1スキルはあの五将、葉山小太郎をねじ伏せれるレベルだ。花月のエースは綾瀬であり、今日の試合も逆転の引き金になったのも綾瀬だ。彼を乗せると面倒極まりない。明日は、ここのマッチアップが最重要となるだろう。彼には要注意だ」

 

中谷が選手達にそう言い聞かせた。

 

「次に、9番、パワーフォワード、天野幸次」

 

ここで、映像が天野に切り替わる。

 

「彼の仕事は主に、ディフェンスとリバウンドだ。オフェンスではポストプレーやスクリーンで味方をフォローし、ロールプレイヤーに徹している」

 

映像で、天野が長身選手を押しのけてリバウンドを制した。

 

「インターハイでのデータになりますが、1試合平均にリバウンド数は12・5。これは、昨年の冬の誠凛の木吉鉄平を上回る数字です。ディフェンスでも、天野幸次から得点で来たのはキセキの世代と五将のみです」

 

秀徳のマネージャーから細かい数字が伝えられる。

 

「…周りが派手過ぎて目立たないが、こいつもかなりのプレイヤーだな」

 

「うちにも欲しい選手だ。彼なら全国の何処の高校でもスタメンに選ばれるだろう」

 

口々に天野の事を称賛していく。

 

「オフェンス力はどうなんだ? 見たところ、オフェンスでは味方のフォローや中継ばかりやってるが、自ら仕掛ける場面がほとんどない」

 

映像ではディフェンス、リバウンド、オフェンスではスクリーンやポストプレーをする姿が多々見られるが、ボールを持って相手をかわしたり、得点を決めるシーンがほとんど見られない。

 

「これもインターハイのデータになりますが、ノーマークの場面で何本かシュートを決めています」

 

「つまり、誠凛の黒子テツヤのように打てない訳ではなく、打たないだけって訳か」

 

マネージャーの情報から、天野の選手像を解析していく。

 

「形は違えど、彼も黒子テツヤ同様、影となってチームを支えている。目立たずとも要注意だ」

 

ここで、映像が次の選手に切り替わる。

 

「次に、10番、センター、松永透」

 

映像内で松永がディフェンスをかわし、ボースハンドダンクを決めた。

 

「花月のインサイドを担う選手であり、何より、この特徴は、センターとは思えない程の1ON1スキルを持ち合わせているところだ」

 

オフェンス時、松永はゴール下から離れた所でボールを受け、そのまま自身のマークの選手を抜きさり、そのまま決めた。

 

「…まるでスモールフォワードの動きだな。全国レベルで見ても、これだけの1ON1スキルを持っている奴はそう多くはいない」

 

「昭栄中学時代では、3番(スモールフォワード)でスタメン入りをしていて、チームの稼ぎ頭となっていたようです。急激な身長の増加とチーム事情により、センターをしているようです」

 

「つまり、センターでありながら、スモールフォワードの動きも出来るということか、この分だと、パワーフォワードも問題なく出来そうだな」

 

解説を聞きながら松永を分析していく。

 

「シュートエリアが広いのは厄介だな。ゴール下から離れて勝負してくる可能性があるなら、常にゴール下にヘルプに行けるよう心掛けておけ」

 

選手達に中谷が指示を出した。

 

「スタメン以外では、4番、馬場高志。5番、真崎順二。共に3年生で、花月の主将と副主将です」

 

「上杉監督の下で3年間やってきた選手だ。基礎能力が高く、メンタルも強い。決して侮れない選手だ」

 

スタメンから外れている馬場、真崎にも、警戒するように選手達に言い含めた。

 

「こうやって見ると、三杉と堀田が抜けたとは言っても、かなりの戦力だな…」

 

「各ポジションに高レベルの選手が揃っている上に、控えも悪くない」

 

花月の主戦力を見て、秀徳の選手達は改めて、花月の実力を再認識した。

 

「けど、このチームで始動したのはインターハイの後。しかも花月は、予選が免除されてる。実戦不足は否めない。そこは狙い目なんじゃないですかね?」

 

「確かに、スタメンのほとんどが1年生。明らかに時間は足らなそうですね」

 

高尾の指摘に、1年生ながらレギュラーの座を掴んだ木村が頷いた。

 

「ふむ。その指摘はもっともだ。だが、向こうもそれは承知のようだ。本大会まで、練習試合を数多くこなして実戦不足の解消に臨んでいる。これが、大会までの4ヶ月の花月の試合結果だ」

 

中谷から選手達に1枚の紙が配られる。

 

「どれどれ……全部で12試合。結果は、2勝10敗か。花月はホントに調子が悪いんだな」

 

「戦績だけ見ればそうだが、問題は、花月が戦ってきた相手にある」

 

「えっと……天王、国士台……って、おいおい! ここに書いてある練習試合の相手、全部大学…、それも、関東の関西の1部と2部の上位の大学じゃねえか!」

 

1度は戦績を見て侮りを見せる高尾だったが、対戦相手を見て目の色を変えた。

 

「どれも大学の強豪ばかりだな。これだけの相手と戦って2勝出来ただけでも称賛ものだな」

 

宮地も高尾と同様、驚きを隠せなかった。

 

「ここに載っている対戦相手はどれも、うちでも苦戦は必至だ。そして、花月が勝った2校は、エースであるシューターが得点を稼ぎ、固いインサイドが売りの大学。つまり、うちと似たチームスタイルの大学だ」

 

『っ!』

 

中谷の口から発せられた言葉に、秀徳の選手達は息を飲んだ。

 

「改めてもう1度言う。明日の相手は強敵だ。皆、全力で臨め。いいな」

 

『はい!!!』

 

部屋に、選手達の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールがリングの中央を潜り抜ける。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

それと同時に試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

花月 45

秀徳 112

 

 

茫然とする花月の選手達。

 

「この程度で俺達に勝てると思っていたのなら、思い上がるにも程があるのだよ」

 

心底見下すような表情で緑間が空に向けて言い放った。

 

「ふん。明日の試合のウォーミングアップにもならなかったのだよ」

 

そう言い残し、緑間は踵を返していった。

 

「ま、待てよ! 俺達はまだ――」

 

緑間を追って駆け出すと、そこへ、三杉と堀田が現れた。

 

「失望したよ。まさか、この程度だったとはな」

 

「全くだ。俺達がいない花月は、見る影もない」

 

2人共侮蔑がこもった視線で空に言い放つ。

 

「待って下さい! 俺は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「――ハッ!?」

 

空が目を開けると、そこには天井があった。慌てて起き上がり、辺りを見渡す。

 

「………夢か」

 

今し方見たものが夢であることを理解し、心を撫でおろす。時刻を確認すると、時間は朝の6時前。外はまだ仄かに薄暗い。

 

「……起きるか」

 

まだ時間はあるが、今一度寝る事は出来ないだろうと判断した空は頭を掻きながら布団から出て、軽く顔を洗った後、着替えて外に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ホテルを出て軽くランニングがてら走り出すと、バスケのリングが設置してある公園を見つけ、中へと向かった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

公園に足を踏み入れると、既に先客がおり、ジャンプシュートを決めた。

 

「大地?」

 

その人物の正体に気付き、空は思わず声をかけた。

 

「空? ずいぶんと早起きですね」

 

「お前こそ」

 

「私はいつもこの時間には起きてますよ」

 

2人は軽く挨拶を交わした。

 

「試合前に軽く身体を動かしておきたくてな」

 

「私も、どうにもジッとしていられなくて」

 

お互い同じ考えであったことにクスリと笑う。そのまま、2人は何本か1ON1を始めた。

 

「……こんなこと、始めてだ」

 

「?」

 

唐突に、空が神妙な表情で喋り始めた。

 

「今まで、相手が強ければ強い程ワクワクが止まらなかった。去年の全中の決勝、今年のインハイでのキセキの世代との試合、ジャバウォックとの試合の時は試合が近づけば近づく程身体が熱くなっていった。…けど、今は身体がどんどん冷たくなっていくんだよ」

 

「…」

 

「今もホントは、試合に惨敗する夢を見て居ても立っても居られなくなって外に飛び出しただけだ。ったく、キセキの世代打倒を宣言しておきながらこの様だ。情けねえ話だよ」

 

自嘲気味に空は言った。

 

「お互い様ですよ」

 

気落ちする空に、今度は大地が喋り出す。

 

「昨晩、今日の試合に備えて早くに床に就きましたが、結局眠れませんでした。試合の事を考えれば考える程悪いイメージばかり浮かんでばかりで。それを打ち消す為に私はここで身体を動かしてました」

 

「…大地」

 

「三杉さんにエースとして花月を支えるよう託されたのに、試合当日に平静を保つ事が出来ません」

 

大地は自身の胸の位置に拳を置き、歯をきつく食い縛った。

 

2人の心中に悪いイメージと恐怖が襲い、表情が曇る。

 

「何や、お前らも来とったんか?」

 

そこへ、聞きなじみのある声が2人の耳に届いた。

 

「天さん、それに生嶋と松永も…」

 

「おはよう、くー、ダイ」

 

「よう」

 

振り返るとそこには、天野、生嶋、松永が立っていた。

 

「随分早起きやなあ。えらい健康的やないか」

 

ケラケラと笑いながら空と大地に話しかける。

 

「…」

 

「…」

 

だが、2人の表情が変わる事はなかった。

 

「しけた面しとんのう。……何や、お前達も同じかいな」

 

顔を右手抑えて点を仰ぐと、苦々しい表情となった。

 

「早う目ぇ覚めたから茶でもしばこ思たら、フロントのソファーでお通夜みたいな顔して黙りこんどるこの2人を見つけたから何や気分転換に外連れて歩いとったら、お前らもかい!」

 

両脇で生嶋と松永の首を固めながら空と大地に突っ込みを入れた。

 

「秀徳は強いで。手強いインサイドに、絶対的なシューターの緑間がおる。対して、うちらには足らんもんがぎょーさんある。…けどな、そんなん今更やろ」

 

ここで、空、大地、生嶋、松永の4人の視線が天野の方へ向く。そこには、真剣な表情をした天野の姿があった。

 

「お前らは全中で名を上げた選手や。当然、いろんなとこから誘いもあったはずや。キセキの世代のいるとこからも」

 

『…』

 

「けど、お前らはこの花月を選んだ。対して実績もない、練習が全国一で有名なだけの花月をや。あえて、キセキの世代全員と戦ういばらの道を選んだ。覚悟してここに来たはずや。今更ビビってもしゃーないやろ」

 

『…』

 

天野が不安を取り除くべく初心に立ち返らそうと促すも、4人の表情はまだ硬い。

 

「ああもうしゃーないのう! 全員、目ぇ瞑れ。ええから瞑れ」

 

『?』

 

疑問に思いながらも、4人は天野の言葉通り、目を瞑った。

 

「ええか? 今日の試合、多分、ぎょーさん客はいるやろ。けどな、俺らが勝つ思うとる奴はほとんどおらんやろ」

 

『…』

 

「試合は間違いなく秀徳のペースで進む。…ところがや。試合が進むにつれ、俺らがどんどん点差を詰めていく。試合が終盤に進むにつれて点差はどんどん縮まっていく。当然、秀徳の奴等は焦るやろ。そして、試合終了目前。俺らの逆転勝利や。どうや? そう考えると、ワクワクしてけーへんか?」

 

自身の試合の展望を4人に話す。4人は言われた通り想像を膨らませていく。

 

「………ハハッ」

 

想像していくと、空が思わず吹き出した。

 

「確かに、そう考えると試合が楽しみになってきました」

 

「…少し考えすぎたようです。言われた通り、今更でしたね」

 

「僕も、ワクワクしてきたよ」

 

大地、生嶋も続いて気が付けば笑みを浮かべていた。

 

「鉄平さんがいつも言っていた口癖がある」

 

松永が口を開く。鉄平さんとは、かつての松永の先輩であり、無冠の五将の1人、『鉄心』木吉鉄平の事である。

 

「こういう時、あの人はいつも言っていた。『楽しんでいこーぜ』ってな」

 

そう言って、松永はニヤリと笑った。

 

「ええ言葉やないか。…なら、その言葉にならおうや」

 

おもむろに、天野は拳を突き出した。

 

「やったろうや。今日の試合、力合わせて、ジャイアントスイングを起こしたろうやないか」

 

「キリングでしょ!? …まあそれはともかく、その為に俺達はここまで来たんだ。絶対勝とうぜ」

 

突っ込みを入れつつ空が突き出された拳に自身の拳を合わせた。

 

「ええ。私達にはそれが出来るはずです」

 

続いて大地が拳を合わせた。

 

「僕も、最高のプレーをするよ」

 

生嶋も拳を合わせる。

 

「俺も全力を尽くす。そして勝つ」

 

最後に松永が拳を合わせた。

 

「俺達の最初の挑戦だ。絶対勝つぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声に、他の4人は公園に響き渡る程の声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして時計の針は進み、ウィンターカップ3日目が始まった。

 

各校がベスト8進出をかけ、激闘を繰り広げる。まずは洛山高校が危なげなく試合に勝利し、ベスト8進出を決めた。続いて、陽泉高校が同じく勝利を飾る。

 

そのまま試合スケジュールはつつがなく進んでいき、遂に、その時はやってきた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

コート上で第2Q終了のブザーが鳴り、10分間のインターバルに入る。入れ替わりに、花月と秀徳の選手達がやってきた。

 

『来たぞ! 花月と秀徳だ!』

 

本日、最も注目のカードである花月対秀徳戦。その両校がやってきて、観客の関心がそちらに向いた。

 

『しゃす!』

 

それぞれエンドライン上で一礼をし、両校の選手達がコートに足を踏み入れ、ウォーミングアップを開始した。

 

『…っ』

 

淡々とウォーミングアップを行う秀徳に対し、花月は秀徳から放たれるプレッシャーに圧倒されていた。

 

1度は覚悟を決めた5人も同様に、相手コートから放たれる秀徳のプレッシャーに表情を曇らせていた。

 

「(…ちっ、何ビビッてんだよ。こんなんじゃ勝負にならねえ! こうなったら…)」

 

空は自身の両頬を力強く叩き、気合いを入れ直す。

 

「皆、勝負はもう始まってる。挨拶がてらかますぞ」

 

そう言って、空がスタートを切り、フリースローラインを越えた所で跳躍…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ダンクが決まると、観客が沸き上がった。

 

「(続けよ)」

 

「……ハァ、仕方ありませんね」

 

空のジェスチャーの意味を理解した大地が溜息を1つ入れてスタート。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

先ほど同じく、ワンハンドダンクが決まる。

 

「…こうも連続でやられるてしまうと、こっちも続かない訳にはいかないな」

 

一息入れ、松永がスタート。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

松永のボースハンドダンクが決まる。

 

「さ、天さんも」

 

「柄やないんやけど、しゃーないのう」

 

空に促され、天野もスタート。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

天野のワンハンドダンクが決まった。

 

『スゲー! ダンク4連発だ!』

 

派手なダンクが4本決まり、観客は大いに盛り上がった。

 

「何かやらないといけないけど、僕はダンクが出来ないから……これでいいかな?」

 

生嶋がおもむろにスリーポイントラインの外側、正面からスリーを放った。

 

 

――ガン!!!

 

 

だが、ボールはリングのふちに当たり、高く跳ね上がってしまう。

 

『おっ、外れたぞ?』

 

しかし、生嶋はスリーを放った直後、すぐさま2投目を放つ。2投目は1投目よりもループが高く放られている。2投目が高く弧を描きながらリングに落下。1投目のリングのふちに当たったボールに直撃する。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2投目にぶつかったボールはそのままリングの中心を潜り抜けた。

 

『スゲー、ボールをボールで押し込んだぞ!』

 

だが、これで終わりではなかった。1投目のボールにぶつかったボールはそのまま垂直に高く跳ね上がった。跳ね上がったボールはゆっくり落下し、そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中心を潜り抜けた。

 

『マジかよ!? 狙ったやったのか!?』

 

『まさか、偶然だろ?』

 

生嶋が見せた曲芸に観客は再び盛り上がった。

 

「ハハッ、相手さん、見せつけてくれるねえ」

 

一連のプレーを見ていた高尾が笑みを浮かべる。

 

「ふん。サルでも出来るダンクに興味はない。…だが、最後のスリーは見事なのだよ」

 

「確かに、あれは凄かったな」

 

「ボールを狙う位置、ループの高さ、タイミングが全て合致しなければあれは出来ない。それを行おうとすれば当然リズムやフォームが崩れる。崩れても尚狙える正確性があるという事なのだよ」

 

緑間は、今、生嶋がやったことの凄さを解説していく。

 

「真ちゃん、あれ出来る?」

 

「……出来る必要性がない。ただ、生嶋奏だったか。単純なスリーの精度は俺以上かもしれないのだよ」

 

同じシューターであり、全国一のシューターである緑間が、生嶋のシューターとしての資質に脅威を感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

10分間のインターバルが終わり、第3Qが始まった。

 

試合終盤に再び両校はコートまで戻ってきた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴り、ついに、花月と秀徳の選手達は各々のベンチへと向かっていった。

 

「スターティングメンバーは昨日と同じ、1番に神城、2番に生嶋、3番に綾瀬、4番に天野、5番に松永だ」

 

『はい!』

 

「『忍耐』…今日の試合、この言葉を忘れるな。相手は強敵だ。連携、技術、経験、これらにおいてこっちが大幅に劣っている。明日の事なんか考えるな。夏の終わりから言っている通り、足りないものは相手の倍走って補え」

 

『はい!!!』

 

「よし! 行って来い!!!」

 

「っしゃぁっ! 行こうぜ!!!」

 

上杉の号令に選手達が大声で応え、空を先頭にコートへと足を踏み入れていった。それと同時に秀徳ベンチからもスターティングメンバーがコートへと足を踏み入れた。両校のスタメンの面々がセンターサークルへと集まった。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

6番PG:神城空  179㎝

 

7番SG:生嶋奏  181㎝

 

8番SF:綾瀬大地 182㎝

 

9番PF:天野幸次 192㎝

 

10番 C:松永透  194㎝

 

 

秀徳高校スターティングメンバー

 

4番SF:宮地裕也  190㎝

 

5番 C:支倉桂太郎 197㎝

 

6番SG:緑間真太郎 195㎝

 

8番PG:高尾和成  177㎝

 

10番PF:木村孝介  189㎝

 

 

 

――ざわ……ざわ……。

 

 

試合開始を目の前に、観客はざわめく。

 

観客のほとんどが秀徳の勝利と予想している。だが、それでも観客には、何かが起こるのではないかという期待感を抱いていた。

 

ティップオフがなされ、試合が始まるのを今か今かと待ちわびている。

 

 

「これより、花月高校対秀徳高校の試合を始めます」

 

『よろしくお願いします!』

 

審判の号令し、両校の選手達が礼をした。

 

「お手柔らかに」

 

「お願いします!」

 

花月のコートリーダーの天野と秀徳の主将である宮地が握手を交わした。

 

「宣言通り、たどり着きましたよ」

 

各選手が散らばって行く中、空が緑間に話しかける。

 

「キセキ越え、させてもらいますよ」

 

緑間に宣言する。緑間は一瞥もくれずに…。

 

「ふん。昨日、あのような無様な姿を晒しておいてその言葉が吐けるとはな。もはや、理解に苦しむのだよ」

 

「いやー、お恥ずかしい限りです」

 

昨日の事を出され、空は後頭部を掻いて照れる素振りを見せる。

 

「けど、今日勝てばそれもチャラ。…いや、お釣りが出る」

 

「あり得ないのだよ。お前達の奇跡は、ここまで来れたことだけだ。それ以上の奇跡は起こらないのだよ」

 

それだけ言い残し、緑間は空の横を抜けていった。

 

「……あくまでも上から目線かよ。そうやって人を見下して、驕ると痛い目を見るって事を教えてやるよ」

 

苛立った表情を浮かべながら空もジャンプボールに備えて散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

センターサークル内に花月のジャンパーである松永と、秀徳のジャンパーである支倉が立っている。

 

「…」

 

審判が2人の中央に立ち、双方を見渡し、そして、ボールを高く放った。

 

 

――ティップオフ。

 

 

「「っ!」」

 

双方のジャンパー同時に飛ぶ。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

ジャンプボールを制したのは…。

 

「…ちっ」

 

「ナイス支倉さん!」

 

秀徳のセンターの支倉。弾かれたボールは高尾の手に収まった。

 

「やらせねえよ」

 

そこへ、空がすかさず高尾の目の前に立ち塞がる。

 

「おーおー、気合入ってるね。…そんじゃ、挨拶代わりに…」

 

高尾はノールックで自身の右上にパスを出した。そこには、既にシュート態勢を取っている緑間の姿があった。

 

「ま、まさか…!」

 

大地が何をしようとしているか理解し、目を見開いた。

 

緑間が最高到達点に到達するのと同時に緑間の手にボールが収まり、同時にシュートを放った。

 

「勘違いしているようだから1つ言っておく。俺はお前達を侮ってなどいなければ驕ってもいない」

 

シュートを放ち、着地した緑間は踵を返す。

 

「人事を尽くす。故に、お前達に奇跡は起こらない」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

センターサークル付近で放たれた緑間のシュートがリングの中央を的確に射抜く。

 

試合開始数秒、緑間の空中装填式3Pシュート(スカイ・ダイレクト・スリーポイントシュート)が炸裂する。

 

試合は、秀徳の先制によってその火蓋が切られたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





最後に投稿したのが7月の終わり、実に1ヶ月以上空けてしまい、申し訳ございません…m(_ _)m

8月、身内が亡くなり、立て続けに親戚も亡くなり、時間的にもテンション的にも執筆する事が出来ませんでした。一応、諸々落ち着いて来たので、再び執筆を開始しました。

これからも再び以前の投稿ペースに……と、行きたいのですが、もしかしたら再び投稿ペースが落ちるかもしれません。理由として、ここからがこの物語の本題なのですが、大雑把な試合の展開は決まっているものの、試合内容がまだ固まっていないからです。現在、黒バスの原作及び、他作品や、バスケの動画を見て勉強中です。やっぱり、バスケ経験がないとこういう時に困りますね…(^-^;)

万が一、投稿が極端に遅くなると判断したら、もしかしたらハイスクールD×Dのリメイクを投稿するかもしれませんのでその折はお立ち寄りください…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第71Q~ハイスコアゲーム~


投稿します!

遂に物語の本筋に! けれど、内容は薄い…orz

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り9分55秒。

 

 

花月 0

秀徳 3

 

 

試合開始直後、高尾・緑間による、空中装填式(スカイ・ダイレクト)3Pシュートが炸裂し、秀徳が先制点をあげた。

 

「…ちっ、事前に見た試合映像にもあったが、まさか、いきなり打ってくるとはな」

 

舌打ちをしながら空が苦々しい表情を取る。

 

今2人が見せた連携によるスリーは花月の選手達は把握していた。だが、試合開始直後に打ってくる事は予想外であった為、動揺を隠せない。

 

「空坊、惚けてる場合ちゃうで。早う取り返さんと」

 

「っ! そうッスね」

 

天野に促され、気持ちを切り替え、気合を入れ直す空。

 

「…」

 

花月の選手達がオフェンスに切り替える中、生嶋だけがリングを茫然と見つめていた。

 

「おい生嶋。いつまでボーっとしてんだよ」

 

スローワーからボールを受けるポジションに向かいながら生嶋に声を掛けた。

 

「…くー、すごいよ。今の聞こえたかい? あの美しい音を…」

 

「……音?」

 

言ってる意味が分からず、思わず聞き返す空。

 

「ボールがネットを潜り抜けた瞬間のあの音。数あるシュートの中でもスリーは格別。その中でも緑間さんのは別格だよ。美し過ぎて鳥肌が立ってしまったよ」

 

「…」

 

両腕を抱きしめるように組む生嶋に対し、空は毒気を抜かれたような表情になった。

 

花月の1年生において、生嶋はひと際変わっている。元々、彼がシューターを志すようになったきっかけは、シュートの距離が遠い程ネットをボールが潜った時の音が美しいからの一点である。

 

生嶋の家は音楽家系。生嶋自身、ピアノからバイオリンまであらゆる楽器を弾き事が出来る。その為か、音に対してひと際こだわりが強い。

 

「……よく分らんが、惚けてる場合じゃねえぞ。やられたら返さねえと」

 

「うん。分かってるよ。さあ、1本返そうか」

 

そう返して生嶋は走っていった。

 

「……相変わらず、あいつは分かんねえ」

 

肩を竦めながらスローワーとなった天野からボールを受け取った。。

 

「…よし、1本、返すぞ!」

 

空がゆっくりとボールをフロントコートまで運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「先制点は秀徳かー」

 

「まさか、いきなりあれを打ってくるなんてね」

 

観客席の一角、洛山のジャージを着た選手達が座っていた。

 

「どっちが勝つと思うよ?」

 

「秀徳っしょ。選手の質と経験が違い過ぎるし」

 

勝敗予想を尋ねた根布谷に対し、葉山が後頭部で両手を組みながら答えた。

 

「私も小太郎と同じ予想ね。征ちゃんはどう?」

 

実渕も葉山の回答に同意し、赤司に話を振った。

 

「そうだね。……8-2で秀徳勝利と予想するよ」

 

「8-2……征ちゃんが言うと何か起こりそうな予想ね」

 

赤司の回答に、実渕が含みを持たせた視線を赤司に向けた。

 

「葉山の言う通り、選手の質、経験、その他においても秀徳が優れている。だが、秀徳には不安要素が3つある。まず、チームの相性だ」

 

赤司は視線をコートに向けたまま詳細な予想を話し始めた。

 

「秀徳は速い展開を得意とするチームとの相性が良いとはいえない。現に、緑間が加入してから、似たチームスタイルである誠凛との戦績が1勝2敗1引き分けと勝率は良くない。総合力では誠凛を上回っているにも関わらずだ。そこから見ても、秀徳は速い展開を得意とするチームの相性が良くない。これが1つ」

 

『…』

 

「次は、これは不安要素と言うよりも、不確定要素と言った方が正しいかな。神城空と綾瀬大地の存在だ」

 

ここで、視線がコート上の空と大地の2人に向く。

 

「彼らがこの大会までにどこまで成長したか。それ次第で結果は大きく変わってくる。これが2つ目」

 

『…』

 

「3つ目は……これについては、花月が秀徳を追い詰める事が出来れば、浮かび上がってくる。追い詰める事が出来れば、ね」

 

『?』

 

赤司の言う3つ目が理解出来ず、洛山の選手達は頭に『?』を浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

空がフロントコートを越えると、秀徳が花月の選手をマンツーでマークを始めた。

 

空には高尾。生嶋には宮地。大地には緑間。天野には木村。松永には支倉。生嶋と大地のポジション以外はポジションどおりのマッチアップである。

 

「(…やっぱり、大地に緑間が付いたか)」

 

チラリと視線を向け、大地をマークする緑間を確認する。花月のエースであり、得点源の1つである大地。そのマークに、秀徳のエースである緑間がやってきた。

 

「(……よし)」

 

空はゆっくりボールを突きながら前へ進んでいく。

 

「…来いよ」

 

高尾が腰を落とし、空の前に立ち塞がる。空は股下でボールを2度程通し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「うおっ!?」

 

一気に加速。クロスオーバーで高尾の左手側から高速で通り抜ける。高尾を抜いた空はそのままグングン加速していき、リングに突っ込んでいく。

 

「行かせん!」

 

「止める!」

 

レイアップの態勢に入ると、支倉と木村がヘルプにやってきて、ブロックに現れる。

 

 

――スッ……。

 

 

「「っ!?」」

 

ブロックでシュートコースを塞がれると、空はレイアップを中断。ビハインドパスでボールを左アウトサイドへと流す。そこには、生嶋が駆け込んでいた。ボールを受けた生嶋がすぐさまシュート態勢に入る。

 

「打たせるか――っ!?」

 

そこへ、素早く宮地がブロックに現れ、シュートコースを塞ぎにかかる。が、生嶋は斜めに飛ぶ事でブロックをかわし、エンドラインを越えながらスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはバックボードの真上付近から落下し、リングの中央を射抜いた。

 

「なっ!?」

 

宮地が驚きの表情でリングに視線を向けた。ボールに触れる事は出来なかったが、態勢は崩れ、かつバックボードの邪魔が入る角度からのスリーだった為、外れると予測していた宮地だっただけに、決まった事に驚きを隠せなかった。

 

「ドンマイッス。返しましょう!」

 

スローワーである木村からボールを受け取った高尾が宮地に声を掛けた。

 

「おう。そうだな」

 

ディフェンスが甘かった事を戒め、宮地はオフェンスへと向かっていった。

 

 

高尾がフロントコートまでボールを運ぶと、花月がディフェンスに入る。

 

「…そう来たか」

 

ボールをキープする高尾がポツリと呟く。

 

花月は昨日の試合で布いたマンツーではなく、緑間1人にマークを付け、残りは2-2のゾーンを組んだボックスワンを布いた。

 

陽泉程の高さはないが、それでも全国で屈指のインサイドを誇る秀徳。それに加えて緑間という絶対的なシューターがいるので、ボックスワンで来る事は予測の範囲内であった。だが、唯一予想外であったのが…。

 

「お前が来たか」

 

「…」

 

緑間をマンツーマンでマークしているのが大地であった事だ。高さがあり、ディフェンスに定評がある天野が来ると予想していた秀徳。これには意表を突かれていた。

 

「いいのか? あいつじゃ多分、真ちゃんは止められないぜ?」

 

「どうかな」

 

ボールを持つ高尾の前に立つ空に向けて告げると、不敵な笑みで空はそう返した。

 

「…」

 

「…」

 

ボールをキープする高尾に対し、空中装填式3Pシュートを撃たせない為にタイトにディフェンスをしている。万が一抜かれてもゾーンで捕まえられるので、空は強気で前に出ている。

 

「…っとと、気合入ってんな。そんな張り切り過ぎるとガス欠起こしちまうぜ」

 

軽い口調で空に告げると、ビハインドパスで逆サイドに展開していた宮地にパスを出す。ボールが渡ると、生嶋がすかさずディフェンスに付いた。

 

「(…ちっ、こいつ、なかなか良いディフェンスをする)…けど、甘いぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「うっ!?」

 

密着マークを受けるも兄顔負けのキレのあるドライブで生嶋を抜きさった。そのまま切り込んでいくと、天野が立ち塞がった。

 

「行かせへんで」

 

「あぁ!? このまま突っ切ってやるよ!」

 

クロスオーバーで切り返して天野の右手側を攻める。

 

「残念やけど通行止めや」

 

「っ!?」

 

即座に反応し、宮地の進路を塞ぎ、動きを止めた。そこへ、生嶋が宮地を囲う為に後ろから距離を詰めていく。

 

「キャプテン!」

 

ハイポストに走り込んだ木村がボールを要求。宮地はすぐさまパス。ボールを受けた木村はすかさずバックパス。ボールは高尾に渡り、すぐさまパス。

 

『来た!』

 

ボールは緑間に渡り、チェイサーである大地が立ち塞がる。

 

「…っ」

 

腰を深く落としてディフェンスに臨む大地。他の4人も緑間の動きに注視する。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かしながら牽制する緑間。全神経を集中させて対応する大地。次の瞬間。

 

「っ!」

 

緑間がシュート態勢に入った。大地は慌ててチェックしに距離を詰めた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、緑間は途中でシュートを中断。距離を詰める為に大地の動きに合わせてその横をドライブで通り抜けた。

 

「くっ!」

 

裏を掻かれて抜かれるも、大地はバックステップで緑間を追いかける。しかし、それを見越してか、緑間は大地を抜いた直後に急停止し、レッグスルーをした後スリーポイントラインの外側にまでバックステップをし、再度シュート態勢に入った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

慌ててブロックに向かった大地だったが、間に合わず、得点を許してしまう。

 

「おー魅せるね真ちゃん」

 

「…ふん」

 

褒める高尾に対し、緑間は鼻を鳴らした。

 

「くれっ!」

 

リングを潜ったボールを松永が拾うと、空がすぐさまボールを貰いにいく。

 

「走れ!」

 

ボールを受けると空はフロントコート目掛けて速攻を仕掛けた。空の号令に合わせて他の4人もフロントコート目掛けて走り出した。

 

「なにっ!?」

 

突然に花月の速攻に、秀徳の選手達は面を食らう。

 

『は、速えーっ!』

 

あっと言う間に全員がフロントコートにまで駆け上がり、観客から驚きの声が上がった。

 

「ちっ、何度も行かせるかよ!」

 

ガンガン切り込んでいく空に、高尾が並走しながら追いかけていく。

 

 

――キュッ…!

 

 

空はフリースローライン目前で止まり、バックパス。後方、スリーポイントラインの外側に控えていた生嶋にパスを出した。

 

「今度こそ!」

 

生嶋がボールを受けた直後、宮地が厳しめにチェックに入った。

 

「…っ」

 

自分より大きい選手からの厳しいディフェンスに生嶋の表情も曇る。

 

「あかん、イク、こっちや!」

 

見かねた天野がボールを貰いに生嶋の横へと下がる。生嶋は天野の方へ視線を向けるのと同時にシュート態勢に入った。

 

「そんなもんに!」

 

ディフェンスをする宮地は一瞬視線に釣られるも、すぐさまブロックに飛んだ。生嶋はブロックに捕まる前にボールをリリースする。

 

「(バランスを崩した。リズムも悪い。そんな慌てて撃ったシュートが入るかよ!)リバウンド!」

 

外れる事を確信した宮地が叫ぶ。支倉、木村がスクリーンアウトの態勢を取ってリバウンドに備える。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、ボールはリングの中央は的確に射抜いた。

 

「やるやんけ!」

 

スリーを決めた生嶋を天野が肩を抱いて労った。

 

「何であれが入るんだよ…」

 

ボールにこそ触れる事は出来なかったが、確実にシュートセレクションは乱したはずだった。それでも決められてしまい、信じられない者を見る目で宮地は生嶋を見ていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

再び、緑間が大地をかわしてスリーを決める。花月は先ほどと同様、空がボールを受けるのと同時にチーム全員がフロントコートに駆け上がる。空は高尾がマークに付く前に左アウトサイドに展開していた生嶋にパスを出した。

 

「打たせたら終わりだってんなら!」

 

ディフェンスをする宮地は先ほど以上、シュート態勢にすら入らせない程のフェイスガードでべったり生嶋をディフェンスに臨む。

 

「くっ!」

 

これには生嶋も苦悶の声を上げる。厳しい宮地のディフェンスの前に、ボールをキープするだけで手一杯になる。

 

「こっちです!」

 

大地が生嶋に駆け寄り、ボールを貰いにいく。生嶋はすかさず宮地の脇の下からボールを通し、パスを出した。ボールを受けた大地はすぐさまシュート態勢に入った。

 

「させないのだよ」

 

そこへ、緑間がブロックに現れた。

 

 

――チッ…。

 

 

放たれたボールは、緑間の指先に僅かに触れた。

 

「っ! リバウンド!」

 

大地が声を上げると、ゴール下の天野、松永がリバウンドに備える。同時に、支倉、木村もリバウンドに備えた。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールは予想通り外れた。同時に、ゴール下でリバウンドに備えていた4人がリバウンドボールを確保する為に飛んだ。

 

「(…あかんな。場所が悪い。これは取られてまう)」

 

絶好のポジションを木村に取られてしまい、ポジションが悪い天野。松永も同様であった。

 

「…けどな、リバウンドは俺の領分や。これだけはタダは譲らんで!」

 

 

――ポン…。

 

 

天野が懸命に右手を伸ばし、ボールを中指で引っかけた。

 

「「っ!?」」

 

ボールは木村の手に収まる直前に天野によって掻き出され、目を見開く支倉と木村。

 

「ナイス、天さん!」

 

掻き出されたボールを空が飛んで確保した。その直後、空はボールを後ろへと放った。そこへ、リバウンド争い後、ゴール下を離れ、走り込んできた松永がボールを掴む。

 

「よし!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受けた松永はすかさず反転し、そのままシュート。後を追いかけてきた支倉のブロックを紙一重でかわしながら決めた。

 

「おっしゃーっ!」

 

空と松永がハイタッチを交わす。

 

「ディフェンス! 今度こそ止めるぞ!」

 

ディフェンスに戻りながら大声を出し、チームを鼓舞する空。次こそはと気合を入れる花月の選手達。だが…。

 

『っ!?』

 

自陣に戻り、振り返った花月の選手達の目に飛び込んできた光景に目を見開いた。その目に飛び込んできたのは、ゴール下でボールを持ち、縫い目をその手に合わせている緑間の姿だった。

 

「よもや、知らない訳ではないだろうな? 俺のシュートレンジを…」

 

縫い目を合わせた緑間は両足を深く沈め、シュート態勢に入った。

 

「くっ…!」

 

気付いた大地が慌てて緑間の下へ走っていく。緑間は全身の力をボールに伝わせ、ボールを放つ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

その手から放たれたボールは高い軌道を描きながら花月のリングへと向かっていく。

 

「俺のシュートレンジは、コート全てだ」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大きい弧を描いたボールはリングの中央を垂直に射抜いた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

『出たぁっ! 緑間の代名詞、超長距離3Pシュート!』

 

リングをボールが潜るのと同時に観客が盛大に沸き上がった。

 

「ここからならば、得意の速攻も意味を為さないのだよ」

 

自陣のゴール下からメガネのブリッジを押しながら緑間は言った。

 

『…っ!』

 

花月の選手達は険しい表情で緑間を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本、返すぞ!」

 

先ほどとは一転、ゆっくりと空はボールをフロントコートまで進めた。他の選手達も各々ポジションに付いた。

 

 

「意外と動揺は少ないな」

 

秀徳ベンチの選手が呟くように言った。

 

「ふむ、内心ではどうだろうね。分かってはいても、実際に目の当たりにするとダメージは大きいものだよ」

 

両腕を胸の前で組みながら中谷は言った。

 

「ここを止めて流れに乗りたいところだね」

 

 

「…」

 

ゆっくりとボールをキープする空。目の前でマークをする高尾は、多少距離を空けてディフェンスに臨んでいた。

 

「…(行ったれ)」

 

「…(うす!)」

 

天野がスクリーンの合図を出し、合図と同時に空がドライブで一気に仕掛ける。空を追いかける高尾が天野のスクリーンに掴まる…と思った瞬間、反転しながら天野のスクリーンをかわしながら空を追いかけた。

 

「っ!」

 

「残念!」

 

スクリーンをかわした高尾が空の進路を塞いだ。

 

「(こいつ…、俺のドライブにもう対応してやがる…)」

 

天野のスクリーンをかわした事にも驚いたが、それ以上に別段、スピードがある訳でもない高尾に追いつかれた事に空は驚いていた。

 

「(そういや、こいつには鷹の眼(ホークアイ)があるんだっけか。特殊な視野を持ってるからスクリーンをかわす事も俺のスピードにも対応出来るのか…)」

 

自分に追いついた理由にあたりを付けた空は、1度レッグスルーを入れ、シュート態勢に入った。

 

「やっべ…!」

 

シュート態勢に入った空を見て焦りの色が入る高尾。両者の身長差は僅か2㎝程度だが、ジャンプ力に大きな差がある為、シュート態勢に入られてしまうと高尾ではブロックが出来ない。

 

「任せろ!」

 

支倉がヘルプに飛び出し、ブロックに向かった。

 

「むっ」

 

ヘルプが速かった為、支倉は空のシュートコースを塞ぐことに成功した。

 

「ちっ」

 

やむを得ず空はシュートを中断。パスに切り替え、ボールを左へと放った。

 

「ナイスパスです」

 

そこへ駆け込んだ大地がボールを受け取り、そのまま切り込んでいった。

 

「はぁっ!」

 

ゴール下から僅かに離れた所でボールを右手で掴み、大地はリングに向かって跳躍した。ボールを持った右手がリングを越えると、大地はそのままボールをリングに叩きつけた。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、1本の腕が現れ、それを阻止した。

 

「そう易々とダンクを決められると思うな」

 

「緑間!」

 

ダンク阻止に現れたのは緑間だった。

 

「くっ!」

 

緑間によってボールが手から零れたが、大地は空中で再度ボールを手元に手繰り寄せる。そのままボールを下へと落とした。

 

「さすが、タダでやられる訳がないと思っていたぜ!」

 

走り込んでいた空がボールを受け取った。

 

「2発目!」

 

今度は空がダンクへと向かった。

 

「舐めんなよ1年坊主!」

 

そこへ、ヘルプに走り込んでいた宮地がブロックに現れた。

 

「…ま、そうだよな」

 

右手で持ったボールを左手で抑え、ダンクを中断すると、空はボールを頭の上から後ろへと落とした。落とした所に立っていた天野がボールを受け、そのまま右アウトサイドへとパスを出した。

 

「あっ!?」

 

そこには、ノーマークの生嶋が立っていた。マークを外してしまった宮地は思わず声を上げる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの生嶋は悠々とスリーを決めた。

 

「おっしゃ、ええでイク!」

 

アシストした天野と決めた生嶋がハイタッチを交わした。

 

「ちっ」

 

得点を決められ、秀徳から舌打ちが漏れる。

 

秀徳のオフェンス。空、生嶋、天野、松永が自陣まで戻り、ゾーンを布く中、大地だけがフロントコートに止まり、緑間にマークに付いていた。

 

「(…ま、真ちゃんのアレ見せられたらそうするわな。けどな、それは1番やっちゃいけない愚策だぜ)」

 

ボールを貰い、ゲームメイクを始める高尾が横目で緑間と緑間をマークする大地を横目で見ながら心中で呟く。

 

「…」

 

目の前でディフェンスに集中する空。高尾の一挙手一投足に全神経を集中させる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…ダムッ!!!

 

 

ゆっくりボールを突き、3度目でテンポアップ、ドライブで切り込んでいく。

 

「チェンジオブペース…だが、この程度なら…!」

 

空は遅れずに高尾の横を並走しながら追いかける。高尾の進行先に天野が先回りし、包囲にかかる。

 

「あらよっと」

 

包囲される前に高尾が立ち止まり、ノールックビハインドパスを出す。

 

「よし!」

 

ハイポストに立っていた木村にボールが渡る。ボールを受けた木村はすぐさまローポストに立つ支倉にパスを出した。

 

「行かせん!」

 

支倉の背後に立った松永が両腕を広げ、ディフェンスに臨む。

 

 

――ドン…!!!

 

 

支倉が背中をぶつけ、ドリブルをしながらジリジリと押し込んでいく。

 

「(ぐっ! …ここは絶対死守だ。これ以上は梃子でも動かん!)」

 

グッと腰を落とし、力を込め、支倉の侵入を止める。

 

「(むっ、重くなった。押し込めない。ならば…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

これ以上押し込めないと判断した支倉はスピンムーブで反転。松永の横を抜ける。

 

「おぉっ!」

 

そのまま支倉がゴール下でシュートに向かう。

 

「まだまだ!」

 

対する松永もすぐ後ろから追いかけ、後ろから懸命にブロックに向かった。

 

 

――ガン!!!

 

 

懸命に伸ばした手がボールに僅かに触れ、支倉のシュートは外れる。

 

「リバウンド!」

 

リバウンドボールを木村が抑える。そのままもう1度シュートに向かおうとした木村だったが、天野が木村の前に立ち塞がった。

 

「戻せ!」

 

木村の後方、スリーポイントラインの外側まで走り込んでいた高尾がボールを要求。すかさず木村が高尾にパスを出す。

 

「止める」

 

ボールが渡ったの同時に空がディフェンスに入る。

 

「ハハッ、無理だね」

 

そのまま高尾がボールを横に出す。ボールは右アウトサイドに展開していた緑間に渡った。

 

「…」

 

「…っ」

 

再び、大地対緑間の対決。緑間がボールを受けたのと同時にシュート態勢に入る。

 

「(フェイク? …違う、今度は…!)しまった!」

 

慌ててブロックに向かう大地だったが、緑間の放ったスリーに触れる事は出来なかった。

 

「くっ!」

 

大地が振り返ると、天井に届くのでは思う程の高いループを描きながらリングに向かっていく。放った本人の緑間は決まるのを確認する事なく踵を返し、自陣へと戻っていく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

高く高く上ったボールは外れる気配なくリングの中央を落下していった。

 

「ここまで下がってしまえば得意の速攻は使え――」

 

 

――ブォン!!!

 

 

ボールが高いループを描いている内に自陣の最深部まで戻った緑間。花月の速攻を封じにきた緑間だったが、大地、生嶋、天野がフロントコートに構わず猛ダッシュ。スローワーとなった松永が空にボールを渡し…。

 

「速攻!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

目の前の木村を抜きさると、そのままフロントコートに駆け上がっていった。

 

5人全員が一気に駆け上がる。緑間と高尾以外はまだ戻り切れていない。ボールを持つ空は緑間に突っ込んでいく。

 

「思い上がるな!」

 

空を待ち受ける緑間。空はクロスオーバーからのバックロールターンで仕掛けていく。だが、緑間は遅れることなく空を追いかける。

 

「(っ! そういや、誠凛の火神も青峰も、この人に抑えられてんだよな…)」

 

全く揺さぶりをかけられなかった事に軽く驚く空。

 

「ならっ!」

 

急停止した空はフェイダウェイのクイックリリースでミドルシュートを放った。

 

「(そんなシュートが入るわけ――いや、これは!)」

 

シュートセレクションが悪い空のシュートに外れる事を確信した緑間だったが、すぐに気付いた。ボールの軌道が極端にリングから離れている事に。空がシュートを放った直後、後ろから松永が全速で走り込み、跳躍した。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

空中でボールを掴み、そのままボースハンドダンクで押し込んだ。

 

『うおぉぉぉっ! アリウープだぁぁぁっ!!!』

 

再び、得意の速い速攻を成功させる花月。

 

その後も、花月は運動量とスピードを武器に速攻を重ね、秀徳は緑間を中心に得点を重ねていった。

 

秀徳が決めれば、花月も決め返す。双方の矛が双方の盾を貫き、試合は、ハイスコアゲームとも言える試合ペースとなっていった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q、終了

 

 

花月 24

秀徳 30

 

 

双方の選手がベンチへと戻っていく。

 

試合は、秀徳リードで4分の1が終わった……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





あまりの引き出しの少なさに、たった1話で第1Q終了…(^-^;)

正直、インハイの洛山戦があまりにも長すぎたと反省しています。

さて、この後どうしようかなぁ…。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第72Q~地力~


投稿します!

内容に苦しみながらの投稿です…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、終了…。

 

 

花月 24

秀徳 30

 

 

ベンチへと下がっていく両校の選手達。

 

『三杉と堀田がいないからどうなることかと思ったけど…』

 

『秀徳といい勝負してるよな』

 

『これは、もしかしたらあり得るかもしれないぜ!』

 

第1Qの試合ぶりを観戦した観客達は花月の奮闘ぶりにざわめいている。

 

秀徳ベンチ…。

 

「ふむ、悪くない展開だ」

 

ベンチに腰掛け、水分補給とタオルで汗を拭いながら呼吸を整えるスタメンの選手達。監督の中谷が選手達の前に立ち、顎に手を当てながら呟く。

 

「典型的なラン&ガンのチームだ。失点度外視の超攻撃型バスケ。神城と綾瀬を筆頭に、スピードを生かしてこっちのディフェンスが出来上がる前に速攻を仕掛けて得点を狙ってきやがる。面倒な事この上ないな」

 

主将の宮地が首に掛けたタオルで汗を拭いながら花月の戦術を分析する。

 

「ラン&ガンは誠凛である程度慣れているつもりだったが、こっちも厄介だ。外の日向と火神を警戒していれば良かった誠凛と違い、花月は全ポジションから積極的に得点を狙ってくる。的が絞りづらい」

 

センターである支倉が、苦い表情をした。

 

「けど、そこまで悲観する事はないと思いますよ。向こうのペースは異常過ぎる。明らかなオーバーペース。例えるなら特攻っすよ」

 

「…確かにな」

 

高尾の言葉に、選手達は納得する。

 

「向こうがこのままこのペースで攻め続けるなら多少の失点は覚悟して、向こうがガス欠になったところをトドメを刺せばいいし、仮にペースを変えてきたなら真っ向から叩き潰しゃいい」

 

「…うん、楽観視は出来ないが、高尾の言う事も最もだ。とりあえず、第2Qは今のまま様子を見ようか」

 

司令塔である高尾の意見を採用し、中谷は現状維持を指示したのだった。

 

「調子いいみたいじゃん? 真ちゃん」

 

「当然なのだよ。俺は人事を尽くしている。ラッキーアイテムのサイコロもある。この結果は必然だ」

 

軽口で尋ねる高尾に、緑間は真剣な表情で答えた。

 

「今日のは小さくていいじゃん」

 

ケラケラと笑いながら高尾は緑間の横に置いてあった3つのサイコロを振った。それから第2Q開始のブザーが鳴るまで緑間と話をしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

『ハァ…ハァ…』

 

ベンチに腰掛ける選手達。だが、呼吸は荒く、誰1人、口を開く者はいない。

 

「(…まだ第1Qが終わったばかりなのにすごい汗。明らかにオーバーペースだわ)」

 

選手達を見て姫川は焦りの色を見せていた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「(特に生嶋君。消耗が大き過ぎるわ)…茜ちゃん、氷持ってきて。生嶋君の首の後ろに当ててあげて」

 

「うん、分かった!」

 

頼まれた相川はベンチの横のクーラーボックスから氷の入った袋を取り出し、タオルを巻いて生嶋の首の後ろに当てた。

 

「ありがとう。……コー!」

 

相川に礼を言うと、生嶋は酸素スプレーを口に当て、吸い込んだ。

 

「生嶋、お前が抜けたらそれこそ試合は終わっちまう。今日は、何があっても最後までコートにいてもらうからな」

 

呼吸を整えている生嶋に空がタオルで汗を拭いながら声をかけた。

 

「分かっているよ。高校に進学してから走り込みは欠かしてないんだ。まだまだ大丈夫だよ」

 

酸素スプレーを口から外した生嶋が必死に笑顔を作って答えた。

 

元々、生嶋はスタミナに難がある選手だった。花月に来てある程度克服されたが、それでもスタメンの中では1番スタミナが少ない。生嶋がいなくなれば外がなくなり、それは勝敗にも直結される。それ故、空は発破をかけたのだった。

 

「(まずいわ。このままでは…何か手を打たないと…!)」

 

選手達のケアをしながら姫川は胸中で不安を抱いていた。。

 

点差だけ見れば6点。スリー2本分。だが、花月は第1Q全てのオフェンスで全速のラン&ガンを行っている。

 

花月のやっている事は例えるならマラソンでスタート同時にスパートをかけているようなものである。当然、そんなことをしてゴールまで走り切れるはずはない。言わば無謀。そんな無謀な事をしても尚、背中に追いすがることしか出来ないのが今の現状である。

 

「…ま、良い状況とはとても言えないが、想定の範囲内だ」

 

ベンチの前に立った上杉が腕を胸の前で組みながら言った。

 

「第2Qもこれまでどおりガンガン走って点を取りに行け」

 

「(…えっ!?)」

 

上杉の指示に、姫川は言葉を失った。

 

『はい!!!』

 

その指示に、選手達は反論する事なく大声で答えた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、インターバル終了のブザーが鳴った。

 

「っしゃっ、ガンガン走るぞ!」

 

「リバウンドは任せとき、全部拾ったるわ」

 

「外は任せて、マーク外して待ってるから」

 

「必ず緑間さんから点を奪ってみせます」

 

「中も忘れるな。絶対決める」

 

各々が気合を入れ、戦意を醸し出しながらコートへと向かっていった。

 

「監督、本当にこのまま行くつもりですか? いくらなんでも無茶ですよ。少しペースダウンをさせないとこのままでは…」

 

懸念を抱いた姫川が上杉に苦言を呈した。

 

「無茶は百も承知だ」

 

両腕を胸の前に組みながら上杉は言った。

 

「試合前にも言ったが、ウチと秀徳では元々の地力に差がある。ペースダウンをしたところでスタミナの温存は図れても点差は広がる」

 

「…」

 

「ウチがそれでもキセキの世代を擁するチームと戦い、勝ち残るには愚直に走るしかない。俺はそれが出来るだけの練習をあいつらにさせてきた。だから、俺はあえてあいつらに無茶をさせる」

 

「……分かりました」

 

納得出来た訳ではない。だが、現状を理解している為、姫川は頷いた。

 

「みんなーっ! 頑張ってぇっ!!!」

 

『花月、ファイトーーッ!!!』

 

ベンチから相川と選手達が声を張り上げて声援を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「っ!」

 

第2Qが開始され、緑間がハーフラインからスリーを決めた。

 

『うおー! 緑間止まらねえよ!』

 

今日9本目スリーを決め、観客は沸き上がる。

 

 

――ダッ…!!!

 

 

スリーが決まるのと同時に花月の選手達はフロントコートに駆け上がる。

 

「っ!? こいつら正気かよ!?」

 

第1Qと変わらず全速のラン&ガンを仕掛けてきた事に宮地は驚愕する。

 

ボールを持った空がガンガンドリブルで突き進んでいく。

 

「行かせねえぞ!」

 

高尾がそこへ立ち塞がる。だが、空はそれでも構わず突っ込み、直後立ち止まり、もう1度加速。ロッカーモーションで高尾をかわした。

 

「これ以上は行かせん!」

 

ゴール下まで切り込んでいくと、支倉が立ち塞がった。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ここで空は右アウトサイドの生嶋にパス。パスを受けた生嶋がシュートモーションに入った。

 

「させるか!」

 

宮地がシュート阻止の為、ブロックに飛んだ。だが、生嶋は飛ばず、シュートを中断すると、再び中へとパスを出した。

 

「ナイスです!」

 

中へ走り込んでいた大地がボールを受け取った。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま大地がレイアップを決めた。

 

『…っ』

 

速い展開からの中→外→中からの得点を決められ、若干表情を顰める秀徳の選手達。

 

「向こうが何をしてこようと、こっちのやる事は変わらないのだよ」

 

ボールを拾った緑間がスローワーとなって高尾にボールを渡した。

 

「言われなくても分かってるよ。1本、行きましょう!」

 

司令塔である高尾が声を上げ、フロントコートまでボールを運び、ゲームメイクを始めた。

 

「…」

 

ボールをキープする高尾の前に、空が立ち塞がる。

 

「……にしても、お宅の監督は何を考えてるのやら」

 

「?」

 

突如、高尾が喋り始める。

 

「この状況でどんな指示を出してくるかと思えば、変わらず無謀に走らせるだけ。いやいや、理解出来ないね」

 

「…あっ?」

 

バカにするかのような口調で言われた事に、空は軽く憤る。

 

「ホントお前らには同情するよ。うちの監督なら、もっとまともな指示を出してくれるだろうからな。それ以前にもっとまともに戦えるような指導をしてくれただろうならな」

 

「……監督自慢がしたいなら、1度でも優勝してから言ったらどうだ?」

 

「ハハッ、なるほどね。……勘違いしているようだから言っといてやるよ。今年の夏優勝したのは三杉と堀田であって、お前らじゃない。あの2人がいりゃ、どんな高校、どんな無能な監督が率いててもなら優勝出来るからな」

 

「っ! てめえ、うちの監督が無能だとでも言いてえのか?」

 

「そうは言わねえよ。…ただ一言言わせてもらえば、厳しいだけの練習なんて今どき流行らねえぜ?」

 

「…ぶっ潰す」

 

この一言で激昂した空が高尾との距離を詰めた。

 

「おー怖い怖い♪」

 

おどけた声で言うと、持っていたボールを股下から通し、後方へパスを出した。そこには、ハーフラインギリギリの所に走り込んでいた緑間がいた。

 

「…ちっ」

 

緑間をマークをしていた大地は木村のスクリーンに捕まっており、舌打ちをしながら空がヘルプに向かう。シュートモーションに入った緑間に対し、空がすかさずブロックに飛んだ。

 

「…くそっ!」

 

だが、ジャンプ力がある空ではあるが、身長差がある空では高弾道の緑間のボールに触れる事は出来なかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたスリーは危なげなくリングの中央を射抜いた。

 

「…」

 

スリーを決めた緑間はメガネのブリッジを押し上げると、ディフェンスへと戻っていった。

 

「あれが見えるか?」

 

ディフェンスに戻る途中の高尾が空の前で立ち止まると、おもむろにある方向を指差した。そこには不撓不屈の垂れ幕とその後方の応援席に秀徳のジャージを着た大勢の部員達の姿があった。

 

「このコートに立つ俺達はあそこで応援してくれてる部員達の代表だ。きつい練習を耐え抜いてもユニフォーム着れない部員があれだけいる」

 

「…」

 

「俺達はコートに立てなかった部員達の想いを背負ってコートに立ってる。きついだけの、頑張ればユニフォームを貰えるお前達とは違うぜ」

 

それだけ告げ、高尾は自陣へと戻っていった。

 

「……上等だよ」

 

言われた空は、高尾を睨みつけながら呟いたのだった。

 

 

攻守が切り替わり、花月のオフェンス。ボールを持つ空にマークするのは高尾。先ほど挑発をされた手前、仕掛けて見返したいと考える空。

 

「…」

 

だが、空はここはグッと堪え、大地にパスを出した。

 

「おいおい、パスで逃げんのかよ」

 

「ドリブルだけが選択肢じゃねえだろ」

 

「確かにな。…けど、俺なら仕掛けて切り込んでいっただろうけどな」

 

「(……いちいち人をイラつかせる事言いやがって…!)」

 

高尾の発する言葉を聞いて空はボルテージをどんどん上げていった。

 

「…」

 

右45℃付近にアウトサイドでボールを受け取った大地。マークするのは緑間。

 

「…」

 

緑間は若干距離を取ってディフェンスに臨んでいる。

 

「(…やはり上手い。ドリブルに対応出来、撃ちにいってもギリギリでブロック出来る絶妙な距離です)」

 

抜群の距離感でディフェンスをしている緑間に、大地は心中で称賛する。

 

「(ですが、私がこの人から点を取れなければこの試合勝てません。…行きます!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して大地はクロスオーバーで緑間に仕掛ける。緑間は距離を保ちながら大地のドリブルに対応する。ここで1度バックチェンジで切り返し、高速のバックステップで距離を空ける…が…。

 

「…っ!?」

 

緑間は大地の動きに合わせて前進。変わらず一定の距離を保っていた。

 

「(動きを読まれた!? …この距離では撃つこともままなりません。ならばもう1度…!)」

 

ここで大地は視線のフェイクを1つ入れる。それと同時に仕掛けた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

1度切り返し、そこからクロスオーバー。一気に加速して緑間の左手側から仕掛けた。だが、緑間はスピードに翻弄される事なく、遅れずに大地の進路を塞いだ。

 

「(この程度でかわせない事は分かっています。本命は…!)」

 

緑間に進路を塞がれたのと同時にビハインドパスでボールを左へと流した。そこには、パスを受ける為に走り込んでいた空の姿があった。

 

「(私が点を取れずとも、ディフェンスを引きつけられればそれで構いません。得点に繋げる事が私の仕事!)」

 

「(ナイスだぜ、大地!)」

 

走り込んでいた空の手に収まる。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

ボールが空の手に収まる直前、1本の手がそのボールを捉えた。

 

「その程度で俺を出し抜けるとでも思ったか?」

 

大地のドライブ。その後のパスを読み切った緑間は右手を伸ばして大地のパスをスティールした。

 

「くっ!」

 

「ちぃっ!」

 

パスが読まれ、カットされた事に悔しさを露わにする空と大地。

 

「高尾!」

 

「さっすが、ナイス真ちゃん!」

 

緑間からボールを受けた高尾がそのまま速攻を仕掛けた。

 

「戻れ! ディフェンス!」

 

空が声を上げ、花月は自陣へと全力で戻っていく。

 

「行かせねえぞ!」

 

急ぎ転身し、持ち前のスピードで走った空は高尾がセンターラインを越える前に横に並んだ。

 

「速っ!? まさかこんなところで追いつかれるとは、な!」

 

空に並ばれるのと同時に高尾はボールを後ろへと戻した。

 

「あっ!?」

 

「しまっ――」

 

ボールの行き先、自陣のペイントエリア内に立つ緑間の手元に吸い込まれるように向かっていった。

 

「手は抜かん。最後まで全力で叩き潰す」

 

ボールを受け取った緑間がシュート態勢に入る。

 

「くっ…!」

 

大地が慌ててブロックに向かったが、シュートモーションに入った緑間に届かず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大きな弧を描いたボールはリングの中央を的確に射抜いた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

緑間の代名詞、超長距離3Pシュートが決まった。

 

『…っ!』

 

攻撃が失敗してからの失点だけに、花月の選手達の表情が曇った。

 

「落ち込んでる暇はねえぞ! オフェンスだ!」

 

ボールを拾った空が声を張り上げる。空の声を聞いた花月の選手達はハッと顔を上げ、気持ちを入れ直した。スローワーとなった空が松永にボールを渡し、再度空がボールを受け取り…。

 

「1本! 走るぞ!」

 

声を張り上げると、花月のオフェンスが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「ふーん、正直、一方的な展開になるかなぁとも思ったけど、花月も結構やるじゃん」

 

観客席、洛山の葉山がコートに視線を向けたまま呟いた。

 

「勢いもある。波に乗った時はとんでもねえな」

 

根布谷も、花月を高く評価した。

 

「…けど、点差は少しずつだけど確実に開いているわ」

 

実渕がスコアが掲示されている電光掲示板を指差した。

 

 

第2Q、残り4分23秒。

 

 

花月 32

秀徳 45

 

 

「あれ? いつの間にか結構開いてる。良い感じに点の取り合いしてたと思ったのに」

 

「秀徳は緑間のスリーを中心に得点を重ねているからよ。それに対して、花月は7番が徹底マークに付かれてからは2点ずつでしか得点出来ていない上に要所要所で止められてる事が要因でしょうね」

 

開く点差を実渕は淡々と分析していく。

 

「秀徳は花月のオフェンスを正面から受け止め、自分達のバスケをしているだけだ。つまりこの差は、純粋に地力の差だ」

 

両腕を胸の前で組みながら赤司が言う。

 

「きっと、点差はもっと開くわよ。花月のあんな勢い任せの動きがいつまでも出来る訳がない。第3Q…早ければこの第2Q中にでもこの勢いは止まるわ」

 

予言するかのように実渕は呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……ちっ」

 

ボールをキープする空。確実にじわじわと開く点差に焦りの色を見せていた。

 

「どうしたよ? 最初の勢いがすっかりなくなったじゃねえかよ」

 

「うるせえな、黙って試合出来ねえのかよ」

 

時折、高尾が仕掛けるトラッシュトークに、空の怒りをみるみる倍増させていた。

 

「(中は相変わらず固い。外が欲しいが生嶋は…)」

 

「ハァ…ハァ…」

 

チラリと右サイドの方を見ると、大きく肩で息をしている生嶋の姿があった。

 

「(…あれじゃ、パスが出せねえ。出せても4番はかわせねえ…)」

 

無理が祟り、疲労の色が激しい生嶋は使えない。辺りを見渡しても、大地は緑間のマークが厳しく、松永も、今年正センターに抜擢された5番、支倉を相手に苦しんでおり、天野も秀徳でただ1人の1年生ルーキーの木村を相手に苦しんでいる。

 

「(…周りに期待してても仕方ねえ。こんな時に俺が何とかしないと…!)」

 

意を決した空はこの状況を自分で何とかしようと決心する。

 

2、3度レッグスルーを繰り返し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで一気に加速、高尾に対して仕掛けていく。

 

「(確かに速さはあるが、動きは読める。読めさえすれば俺でも何とか…!)」

 

動きを読んだ高尾は空のドライブに遅れる事なく付いていった。

 

「それで止めたつもりかよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ここで空はバックロールターンで反転。高尾の逆を付いて抜きさった。高尾を抜いた空はそのままリングへと一直線に突き進みそのまま跳躍。

 

「止める!」

 

そこへ、ヘルプに来た支倉がブロックにやってきた。

 

 

――ドン!!!

 

 

シュートに行った空とブロックに飛んだ支倉が空中で激突する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

それを確認した審判が笛を吹いた。

 

「こんの…!」

 

体格差のある支倉と激突して弾かれる空だったが、何とか態勢を立て直し、リングに向かってボールを放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たってリングを潜った。

 

「あだっ!」

 

着地までは上手くいかず、空はコートに倒れ込んだ。

 

「ディフェンス、チャージング、黄5番! バスケットカウントワンスロー!」

 

審判は笛を口から放すと、ディフェンスチャージを宣言した。

 

「なっ!?」

 

「おいおい、今の向こうからぶつかってないか!?」

 

判定に納得が出来ない秀徳ベンチから抗議の声が上がる。

 

「やめるんだ。どちらとも取れる判定だった。審判がディフェンスファールを取った。それだけのことだ」

 

ヒートアップ仕掛ける秀徳ベンチの面々を中谷が諫める。

 

「ドンマイ、今のは仕方ないッス」

 

「ああ、分かってる」

 

高尾が落ち着かせる為に声を掛けると、気にしていないとばかりに支倉は返事をした。

 

「空坊、ちょいと強引過ぎやで。今のも下手したらオフェンスファールや。フリーの奴もおった。今のはパスすべきとちゃうんか?」

 

「決まったんだからいいじゃないですか。現状、1番分があるマッチアップは俺の所なんですから、悪い判断じゃないと思いますけど」

 

「せやけど――」

 

「第一、パス出してどうすんですか? 俺以外、単独で点が取れる奴がいないんですから、むしろパスを出す方がリスクがデカいでしょう」

 

「……えらい引っ掛かる言い方やな。そないな言い方する必要はないんとちゃうか?」

 

空の物言いが癇に障った天野が空に詰め寄ろうする。

 

「空、フリースローですよ。天野先輩も、試合中ですよ」

 

見かねた大地が間に入って仲裁した。

 

「…」

 

「…」

 

双方…特に天野が納得していない表情をしながら空はフリースローに、天野はペイントエリアに向かった。

 

「(…種を撒いてはいたけど、まさかこんなに早く芽が出るとはな)」

 

一連の2人のやり取りを横目で見ていた高尾が人知れずほくそ笑んでいた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボーナススローを空がきっちり決め、3点プレーを完成させた。

 

だが、依然として花月の窮地は変わらず、厳しい状況に立たされており、そんな中で生まれた火種。

 

試合は、中盤戦へと移行していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ここ最近、どうもモチベーションが上がらない今日この頃です。

一定の短い間隔で投稿を続けて人はどうモチベーションを維持しているんですかね? 執筆活動を始めた当初は毎日執筆が楽しかったはずなんですが、今では忙しさも相まってテンションが上がらんとです…( ;∀;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第73Q~起点~


投稿します!

何とか書きあがりました!

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り3分48秒。

 

 

花月 39

秀徳 51

 

 

ボールは現在、高尾がキープし、秀徳のオフェンス。

 

「…」

 

「…」

 

高尾をマークしているのは空。鬼気迫る表情でディフェンスに臨んでいる。

 

「(いい表情してんな。思ったとおり、こいつにはこの手の崩し方が一番だな)」

 

空の表情を見て内心でほくそ笑む高尾。1度ボールを切り返した後にドライブを仕掛ける。

 

「遅ぇーよ」

 

そんな高尾のドライブに空は難なく付いていく。

 

「別に抜こうななんて思ってねえよ」

 

ドライブを仕掛けた直後、頭上からオーバーヘッドパスでハイポストに立っていた木村にパスを出した。ボールを貰った木村はローポストに立っている支倉にパスを出した。

 

「止めてみせる!」

 

背後に立った松永が気合を放ちながらディフェンスに現れた。

 

「…」

 

支倉は一瞬ターンをする素振りを見せ、松永から距離を取って反転。正面を向き、シュート態勢に入った。

 

「くそっ、打たせん!」

 

距離を空けられた松永だが、すぐに距離を詰め、ブロックに飛んだ。

 

「まっつん、フェイクだよ!」

 

「っ!?」

 

慌てて生嶋が声を出した。だが既に手遅れ。ブロックに飛んだ松永だったが、支倉がシュートにいっておらず、フェイクであった事にここで気付き、目を見開いた。

 

「支倉さんはパワーと高さこそ去年のキャプテンの大坪さんに劣るけど、テクニックとシュートエリアの広さなら上なんだぜ」

 

フェイクで引っかけた支倉を見てしてやったりの表情で高尾が呟いた。ポンプフェイクの後、改めてシュート態勢に入った。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

ボールを頭上に掲げようとした瞬間、支倉の持つボールが何者かによって弾かれた。

 

『神城だぁっ!』

 

弾いたのは空。高尾のパスの直後に一気に距離を詰め、支倉の持つボールを狙い撃った。空はすかさずボールを保持すると、そのまま単独で速攻を仕掛けていった。

 

「ちっ、調子に乗んなよ!」

 

フロントコートに到達したところで高尾がディフェンスにやってくる。

 

「…っ」

 

目の前に高尾が現れても空は歯を食いしばって強引に仕掛けていく。高尾が横に並んだ瞬間空はバックロールターンで反転。高尾の逆を付く。

 

「同じフェイントに何度もかかるかよ!」

 

バックロールターンを読んだ高尾は空と同時に反転し、再度空の進路を塞ぎにかかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高尾が進路を塞ぎにかかる為に1歩踏み出した瞬間、高尾の股下からボールを通しながら切り返して高尾を抜きさった。その後、空はそのままリング目掛けてドリブルをしていく。

 

「いつまでも調子に乗るなよ1年坊!」

 

「絶対に止める!」

 

ここで、高尾と抜きさる為に時間をかけた隙に宮地と木村の2人がディフェンスにやってきた。

 

「アウトナンバーだ! 神城、俺達のフォローを待て!」

 

後ろから松永が声を出す。だが、空はそれでも構わず突っ込み、リング目掛けて跳躍した。

 

「叩き落してやる!」

 

「舐めるな!」

 

それに合わせて宮地と木村もブロックに飛んだ。空の目の前に2枚の高い壁が道を阻む。

 

『うわー、いくら何でも無茶だ!』

 

観客から悲鳴に近い声が飛び出る。

 

 

――スッ…。

 

 

目の前にブロックが2枚現れると、空は掲げていたボールを1度下げ、2人の間、脇の下からひょいとボールを放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たってリングの中央を潜った。

 

『スゲー! 何だ今の!?』

 

ブロックを空中でかわし、決めた空が着地する。

 

「フー」

 

大きく一息吐いた。

 

「入ったから良かったものの、今のは俺と生嶋を待って確実に行くべきだったんじゃないのか?」

 

ここで追いついた松永が今の空のプレーに苦言を呈した。

 

「だったらもっと早くフォローに来いよ。待ってる間にディフェンスに戻られたら意味がないだろうが」

 

「っ!」

 

突き放すような空の言葉に、松永の表情が曇る。

 

「くー、そんな言い方は…」

 

「生嶋も、マークが全然外れてねえからパスが出せねえんだよ。ディフェンスをたかだが1人引き付けるだけがお前の仕事なのか?」

 

「っ!?」

 

先ほどと同様の口調で告げられ、生嶋の表情が曇った。

 

「…」

 

2人を一瞥すると、空はディフェンスへと戻っていった。

 

「「…」」

 

そんな空を見ながら生嶋と松永は晴れない表情で自陣に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も、花月は空がボールを保持すると単独で仕掛け、得点を重ねていく。一方、秀徳は高尾がボールを上手く回し、木村がポストプレーで中継し、緑間のスリーを中心に得点を重ねていった。

 

 

第2Q、残り時間14秒。

 

 

花月 49

秀徳 62

 

 

点差は、大きく広がる事も縮まる事もないまま第2Q残り僅かな所まで進行していた。

 

「…」

 

現在秀徳のオフェンス、ボールを保持するのは高尾。

 

「(完全に熱くなってる。ここまでは目論見通り。…だが、まさか、こいつ(空)を止めるのがここまで厄介とはな。さすが、インハイで五将の実渕を圧倒しただけの事はありやがる!)」

 

ボールをキープしながら空を見据える高尾。空のダンクとその後のバスカン以降、花月のオフェンスはほとんど空が担い、ディフェンスでも半ば空がポジションを無視して動き回っている。

 

ここまでは高尾の予定通りであったが、空のオフェンス力が高尾の想定を上回っていた為、点差は想定を下回っていた。

 

「止めてやる。俺が花月を勝利に…!」

 

「…くっ!」

 

鬼気迫る表情でガンガンプレッシャーをかける空。そのプレッシャーに高尾は圧倒されていた。ボールキープが困難になった高尾はハイポストに立っていた木村にパスを出した。

 

「お前の仕事はチームのサポートやろ? させへんよ」

 

背後を取った天野が木村にプレッシャーをかける。

 

「(くっ! この人、ディフェンスが上手い! 俺では抜く事はおろか、碌に仕事も出来ない。このままじゃ…!)」

 

隙を窺う木村だったが、ディフェンス名手である天野を前にボールをキープするだけ手一杯になっていた。

 

「ボールを持ち過ぎだぞ! こっちだ!」

 

見かねた宮地がボールを貰いに走っていく。ボールキープが困難になった木村はすかさず宮地にパスを出した。

 

「っ! 木村、ダメだ出すな!」

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「えっ?」

 

咄嗟に声掛けをしたが既に遅く、木村の出したパスは1本の手にスティールされた。

 

「くそっ、またお前かよ!」

 

スティールしたのは空。木村と宮地の間に手を伸ばし、ボールをカットした。

 

「よし!」

 

ボールを奪った空はそのまま速攻。チームの先頭を走っていく。

 

「あまり調子に乗るなよ」

 

「っ!?」

 

フロントコートに突入し、スリーポイントラインを越えた所で空の進行方向に緑間が現れた。

 

「(…ギリッ!)」

 

だが、空はそれでも歯を食い縛りながらスピードを落とさずに突っ込んでいった。

 

『緑間とやる気か!?』

 

『無謀過ぎるだろ!?』

 

空の決断に観客席から悲鳴が上がる。空と緑間の距離が詰まろうとしたその時…。

 

 

――ズッ…!!!

 

 

急停止しようとした瞬間、空の両足が前方に滑り、空は後方に倒れてしまう。

 

『うわっ! ツイてねえ!』

 

思いがけないアクシデントに観客は頭を抱える。

 

「(違う、これは全中の決勝の時に見せた、倒れ込みながらスリッピンスライドフロムチェンジ!)…そんな初見殺しの技は俺には通じると思うな!」

 

過去にその目で目の当たりにしたことがある緑間は空の次の一手に予測を立て、その後のスピンに備える。だが…。

 

「っ!?」

 

緑間は目を見開いた。それは、空の手元はもちろん、その周囲にボールが存在しなかったからだ。

 

「真ちゃん、上だ!」

 

高尾が緑間の頭上を指差しながら叫んだ。その声に反応し、緑間が視線を上に向けると、ボールが弧を描きながら緑間の頭上を越えていった。空は滑り込む直前にボールを下から背中側に腕を回しながら投げていた。

 

そのまま空は滑り込みながら緑間の横を抜け、両脚を曲げて態勢を整えると、そのまま跳躍した。

 

「ちっ!」

 

舌打ちをしながら反転し、ボールに向かって跳躍した。だが、身長差はあれど、先に飛び、かつ瞬発力で勝る空が先にボールを掴み…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩き込んだ。

 

『うおぉぉぉっ! 何だ今の!?』

 

予測不能の空のプレーに観客から大歓声が上がる。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q、終了。

 

 

花月 51

秀徳 62

 

 

試合の半分が終わり、点差は11点。ハーフタイムを迎え、両チームの選手及びベンチの選手、監督が控室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「秀徳の一方的な展開も予想していたが、中々競った試合をしているな」

 

観客席の一角で観戦していた誠凛の『元』主将、日向がコートから去っていく選手を見ながら呟いた。日向の周辺の席には他にも誠凛の3年生である伊月、水戸部、小金井、土田と監督であるリコが座っていた。

 

「しかし、あの神城って奴マジ凄いな。第2Q終盤からほとんど1人で秀徳と戦ってた。このままなら――」

 

控室に歩いている空を見ながら土田が驚きの表情を浮かべながら言った。

 

「いや、すぐボロが出る」

 

土田の抱いた感想を、伊月が神妙な表情で否定した。

 

「ここまで上手く行ったのは、意表を突かれたことと神城の成長が想定を超えていたからだろう。だが、それも修正されただろうし何よりハーフタイム中に何かしら指示が出ればすぐ手詰まりになる」

 

「でしょうね。今のプレーをこれからも続けたのなら、第3Q早々に止められるわ」

 

伊月の分析に、リコが首を縦に振った。

 

「率直に言って、神城はポイントガードに向いてない」

 

「えぇっ!? だって、あいつ視野は広いし、パスだって上手いじゃん」

 

伊月の口から告げられた事実に、小金井は信じられないとばかりに驚いた。

 

「ポイントガードの仕事はパスを出す事じゃない。確かに彼はコガの言う通り、視野も広いしパスも上手い。だが、彼はポイントカードもっとも必要な事が出来ていない」

 

「必要な、事?」

 

伊月の言葉が理解出来ず、土田は首を傾げる。

 

「ゲームの組み立てだ。ポイントガードの役割を一言で言うならこれに尽きる。彼はそれが出来ていない」

 

『…』

 

「そして、コート上で誰よりも冷静でなくてはならないにも関わらず、コート上で誰よりも熱くなっている。これはもはや致命的だ」

 

「伊月君の言うとおりね。もし、彼が誠凛に来てたなら、私は2番か3番にコンバートさせていたわ」

 

同意見であったリコも伊月の分析に同意した。

 

「後半、開きそうだな」

 

分析の言葉を聞いていた日向が先を予言するかのように呟いた。

 

「…それは良いとして、黒子君と火神君はまだ来ないの?」

 

ここで試合の話を一時締めたリコは話題を変えた。

 

「連絡してみたら今会場に向かってるって」

 

自身の携帯を見ながら小金井が返した。

 

「全くもう。試合を見たいって言ったのはあの2人なのに」

 

唇を尖らせ、怒りを露わにするリコであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

控室に戻った花月の選手達。

 

『…』

 

展開だけ見れば好試合をしているように見えるが、点差は第1Qから確実にじわじわと開いている。やはり、純粋な地力の差が出ているこの事実に選手達の表情は硬い。

 

「いいか、第3Qは――」

 

「待ってください」

 

監督である上杉が後半戦の作戦を説明しようとした所、空がそれを制した。

 

「第3Q、俺にやらせて下さい」

 

『っ!?』

 

空がそう口にした瞬間、控室にいる者全員が驚愕の表情を浮かべた。

 

「お前、何言ってんだ!?」

 

「いくら何でもそれは…!」

 

その言葉を聞いて、馬場と真崎が空を咎める。

 

「神城。お前、その言葉の意味、分かって言ってんだろうな?」

 

ギロリと睨みつけながら上杉が空に問いかけた。

 

「分かってます」

 

当の空は真剣な表情で即答した。

 

「…」

 

「…」

 

空と上杉、両者の視線が絡み合う。

 

「……良いだろう。やってみろ」

 

暫しの沈黙の後、上杉は空の提案を了承した。

 

「監督!? 良いんですか!?」

 

了承した事が納得出来ず、馬場が上杉に異議を唱える。

 

「勘違いするな。あくまでもひとまずそれで行くという話だ。ダメなら即座に次の手を打つ」

 

詰め寄る馬場を上杉は表情を変えずに答えた。

 

「ちょっと外行ってきます」

 

ジャージを羽織りながら空はそれだけ告げて控室の外に出ていった。

 

「お前達も、それで良いのかよ!? これじゃ…!」

 

それでも納得出来ない馬場は今度はスタメンの4人に問いかけた。

 

『…』

 

生嶋と松永は視線を逸らし、天野は鼻を鳴らし、大地はタオルで汗を拭っていた。

 

「…(オロオロ)」

 

チームの不穏な空気を感じ取り、相川が不安そうな表情で辺りを見渡している。

 

「すいません、失礼します」

 

姫川は出ていった空の後を追って室内を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

会場に外に出た空は備え付けのベンチに座っていた。

 

「さっきの、どういう事なの?」

 

後を追ってきた姫川がベンチに座っている空を見つけ、開口一番尋ねた。

 

「どういう事も何も、それが最善だと判断しただけだよ」

 

尋ねられた空は顔を上げずに答えた。

 

「あなた…!」

 

その言葉に激昂した姫川が空に詰め寄る。

 

「何だよ?」

 

顔を上げた空は詰め寄ってきた姫川に目を合わせて返した。

 

「……いえ、もういいわ。何も言う事はないわ」

 

詰め寄った姫川だったが、空の表情を見るや否や表情を戻し、踵を返した。

 

「ホントに、あなたは馬鹿よ」

 

それだけ言い残し、姫川はその場を去っていった。

 

「……スー、フー」

 

大きく息を吸って吐きながら空は集中力を高めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

第3Q、後半戦が秀徳ボールで開始され、木村のスクリーンに大地が捕まり、マークを振り切った緑間がスリーポイントライン2メートル程離れた所からシュートを決めた。

 

『緑間止まらねえーっ! 今日何本目だよ!?』

 

一向に外す気配がない緑間のスリーに、観客からは大歓声が上がった。

 

「…っ」

 

開始早々緑間の失点を許し、大地の表情が曇る。

 

「くれっ!」

 

空がすかさずボールを要求すると、松永がスローワーとなり、空にボールを渡した。ボールを受け取った空はそのままフロントコートへとドリブルを開始した。

 

「…っ! 戻れ!」

 

態勢が整う前に速攻に走った空に焦り、秀徳の選手達は慌ててディフェンスへと戻っていく。

 

「行かせるかよ!」

 

フロントコートに突入した所で高尾が空を捕まえる。

 

「…っ!」

 

高尾がディフェンスに現れると、左右に1度切り返してから高尾に背を向けた。

 

「あん?」

 

突然の空の行動に高尾の口から思わず戸惑いの声が漏れる。背後に背を向けたの同時にスピンしながら高尾の横を抜けていった。

 

「(…ぐっ! 変則のターンかよ! 動きがどんどん読めなくなってきやがった。それだけじゃねえ、スピードもキレも増してきやがった!)」

 

動きにどんどん磨きがかかる空の動きに高尾の表情が強張る。

 

「っ!」

 

高尾を抜いた直後、すぐさま支倉がヘルプにやってきた。空の左からは木村も近づいていた。

 

「まずい、囲まれるぞ! 外にボールを出せ!」

 

背後から高尾もやってくる状況を見て、ベンチから馬場が声を出した。

 

「(…ギリッ!)」

 

ベンチから声が耳に入ったが、それでも空はパスを出さず、そのままリングに突っ込んでいく。

 

 

――スッ…。

 

 

空はボールを持って跳躍すると、そのままボールをふわりと浮かせるようにボールを右手から放った。ボールはブロックに飛んだ支倉の僅か上を綺麗な放物線を描くように通過していく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを的確に通過していった。

 

『ティアドロップ! あいつもすげー!』

 

『もうあいつ1人で試合やってんじゃん!』

 

空が得点を決めると、今度は空に歓声が上がる。

 

「くそっ、いい気になりやがって」

 

失点を許してしまった事に宮地が憤りを露わにする。

 

「けどまあ、さすがに調子に乗り過ぎっしょ。…そろそろ大人しくなってもらいましょうか」

 

高尾がボソリと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あくまでもあいつ1人で戦うつもりか? 花月の監督はどうして何も指示を出さない。せめて1度コートの外に出して頭を冷やさせるべきだ」

 

一連の空のプレーを見て、伊月が疑問を口を出した。

 

「しないんじゃなくて、出来ないのよ」

 

伊月の疑問にリコが答えていく。

 

「なまじ上手くいってるから今止めるのも下げるのも逆効果。後、花月の代わりのポイントガードは真崎君。冷静でミスが少ない選手ではあるけど、秀徳を相手にプレーするには、失礼だけど実力不足。だから代えられないのよ」

 

「要するに、1度痛い目見ないとダメだって事でしょ?」

 

「そういう事だ。見ろ、秀徳が動きを見せるぞ」

 

小金井の発言に同意した日向がコートを指差すと、秀徳のフォーメーションが変化していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、残り8分13秒。

 

 

花月 55

秀徳 69

 

 

花月、秀徳共に次のオフェンスに失敗。その後、互いに1本ずつ返し、先のオフェンスで秀徳の宮地が決め、花月のオフェンス。

 

「っ!?」

 

空がボールを受けた所で、高尾と木村が空に対してダブルチームを仕掛けてきた。

 

「ちぃっ!」

 

2人の激しいプレッシャーにボールをキープする空の表情が曇る。

 

「どうした? きついならパス出したらどうだ?」

 

プレッシャーをかけながら高尾が空に軽口を叩く。

 

「…うるせえ、俺は花月を……優勝に導く男、神城空だぁっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

左右に1度切り返して揺さぶりをかけた後、高尾と木村の間に出来た隙間から一気にドライブで抜けていった。

 

『あのダブルチームを突破しやがった!』

 

激しいダブルチームを抜きさった空。

 

「っ!?」

 

だが、そのすぐ後、支倉と宮地が待ち受けていた。

 

「抜かれたんじゃねえ、抜かせたんだよ」

 

ダブルチームは空を止める為ではなく、空を追い込む為の罠。正面からは支倉と宮地が、後ろからは高尾と木村が空を包囲にかかる。

 

空を覆う包囲網がどんどん縮まると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、中は随分と息苦しくなっちまった。お前もそう思わないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に包囲される直前、空はボールを右へと流した。

 

「なら、僕が飛び切りの心地よい風を送るよ。飛び切りの音と共に…」

 

右アウトサイドに展開していた生嶋がボールを受け取り、そのままスリーを放った。

 

『っ!?』

 

綺麗な弧を描きながらリングに向かっているボールを見ながら秀徳の選手達は目を見開いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中央を的確に射抜いた。

 

「よっしゃ! ナイッシュー!」

 

パンっと空と生嶋がハイタッチを交わす。

 

「ええパスやったで、イクもよー決めた!」

 

2人の下にやってきた天野が2人の背中を叩きながら労った。

 

「おいおい、何親し気にハイタッチとかしちゃってんだよ…。天野も、さっきまでいがみ合ってたじゃねえかよ…」

 

状況が理解出来ない高尾は戸惑う。空は高尾に振り返ると、舌をペロッと出した。

 

「今まで散々1人で攻め続けていたのは…」

 

「自分にマークを引きつける為か…!」

 

ここで宮地と支倉が空の本当の狙いに気付いた。

 

「うちの司令塔はそら頭は悪いし、すぐカッとなる阿呆やが、同じ失敗を連続で犯す程阿呆やないで。そもそも、そこまで阿呆やったら司令塔なんてやらせてへんで」

 

したり顔を浮かべながら天野が2人に向けて言った。

 

「夏に散々キセキの世代にボロクソにやられたし、三杉さんや堀田さんの2人にはアメリカに帰るまで毎日ボロクソにされてんだ。俺1人で勝てるなんて思う程自惚れてねえよ」

 

ここで、大地と松永もこの場にやってきた。

 

「勝つのは俺達だ」

 

「上等だよ!」

 

花月の選手5人が揃い、空が告げると、宮地がそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、空の単独でのオフェンスが功を奏し、秀徳のディフェンスが崩せるようになった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がペネトレイトで切り込む。リングに近づいた所でレイアップの態勢に入る。

 

「(くっ! 自分で行くのか!)させん!」

 

シュート態勢に入ったのを視認した支倉がすかさずヘルプに走り、ブロックに向かった。

 

 

――スッ…。

 

 

ヘルプに来た支倉がブロックに飛んだの同時にボールを左に落とした。落とした先にいた松永がボールを受け取った。

 

「あっ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

支倉がヘルプに向かった為にノーマークだった松永が悠々とゴール下を沈めた。

 

「くそっ、パスか…」

 

裏を掻かれた支倉が悔しさを露わにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

次の花月のオフェンス、先ほど同様、空がペネトレイトで切り込み、レイアップの態勢に入る。

 

「くそっ!」

 

先ほどのパスが頭によぎった木村だったが、このまま放置してしまえば空に決められてしまう為、ブロックに向かった。

 

「っ!?」

 

ここでも、空はシュートコースを塞がれるのと同時にレイアップを中断。右肩越しに背後にボールを落とした。

 

「ナイスパスや!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った天野がそのままレイアップを決めた。

 

『連続得点! 花月負けてねー!』

 

ここでも空が起点となり、得点を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

支倉が松永のディフェンスによって攻めきれず、オーバータイムを恐れて戻したパスを天野によってスティールされる。

 

「天さん!」

 

スティールと同時にフロントコートに向かって走っていた空がボールを要求。天野が前へ大きくパスを出した。ボールを受け取った空はそのまま速攻をかける。

 

「行かせるかよ!」

 

ピンチを察知した高尾が誰よりも早く自陣に戻っており、空を待ち受けていた。ここで空が少し遅れて左アウトサイドに走り込んで生嶋にパスを出した。

 

「(パスか!? させねえよ!)」

 

パスと呼んだ高尾が空と生嶋のパスコースを塞ぎにかかった。

 

「っ!?」

 

だが、空は自ら投げたボールを反対の手で止め、パスを中断し、そのまま高尾の横を抜け、そのまま跳躍。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままボールをリングに叩きこんだ。

 

『うわぁぁぁっ! ダンクキター!!!』

 

空のダンクが炸裂し、会場のボルテージがさらに上がった。

 

「っしゃ!」

 

ダンクを決めた空が拳を握った喜びを露わにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…前言撤回するよ」

 

「えっ?」

 

花月の大躍進を目の当たりにしていた伊月が突如喋り始める。

 

「神城空にポイントガードの才能が無いって言った事。彼はゲームの組み立てがしっかり出来ている。俺とは違う、俺には出来ないやり方で…」

 

先ほど空にポイントガードの才能はないと言った伊月が冷や汗を流しながら前言を翻した。

 

「ああ。あいつが完全に試合を支配してやがる。まだ1年生、ポイントガードとしてのキャリアも少ないはずなのに大した奴だ」

 

続いて日向も空を称賛した。

 

「けど、それでもまだ足りないわね。まだ花月には大きな問題が残っているわ」

 

ここでリコが神妙な表情で言った。

 

「神城君が起点となった所で安定して点が取れるようにはなったけど、それだけでは足りないわ。花月が勝つには――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールが垂直にリングの中央を通過すると、先ほどまで沸いていた観客が沈黙した。

 

「ただの独りよがりではなく、チームの為にプレーしていたお前の事は認めてやるのだよ」

 

自陣のゴール下に立っている緑間がそっと両腕を下ろした。

 

「だが、例え、お前達がどれだけ得点を重ねようと、こちらが3点ずつ決めてしまえば点差が縮まる事はない」

 

下ろした右手を再び上げ、自身のメガネのブリッジを押し上げる。

 

「来い。俺達とお前達との実力の差を教えてやる」

 

睨み付けるような表情で緑間が花月の選手達に言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

空の咄嗟の起点により、秀徳から安定して得点が取れるようになった花月。

 

ここから逆襲を開始しようとしたまさにその時、もう1つの、それでいて花月の最大の問題が再び姿を現わした。

 

 

――キセキの世代シューター、緑間真太郎…。

 

 

如何にして彼を止めるかという最大の問題が。

 

試合は、新たな展開へと移行していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





今年も早いもので気が付けばもう11月。大して投稿も出来ないまま今年も後2ヶ月を切ってしまいました…(^-^;)

最低でもこの試合だけでも今年度中に終わらせたいものです。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第74Q~望み~


投稿します!

今更ながら試合の描写に苦しんでいる今日この頃です…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り6分37秒。

 

 

花月 63

秀徳 75

 

 

空が起点となる事で安定して秀徳から得点を奪えるようになり、逆転の足がかりが出来た。

 

『…っ』

 

だが、チームが反撃ムードになったその矢先、自陣ゴール下から緑間がスリーを決め、その勢いを止めてしまった。花月の選手達は一様に苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 

「(嫌な所で決めてくれやがって…。性格悪い…いや、この場合、百戦錬磨というべきか…)」

 

自身の武器で相手の勢いを止めたその実力と判断力に空は圧倒されるのと同時に感心していた。

 

「(こりゃいよいよこっちは1本も落とせねえ。かと言って、ここで慎重に攻めても意味がねえ。やはりここは…)」

 

空が周囲に合図を出し…。

 

「行くぞ!」

 

この掛け声と同時に花月の選手達が一斉に走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

フロントコートに一斉に走り始める花月の選手達。

 

「くそっ、せっかくが空が活路を見出してくれたのに…!」

 

反撃ムードに水を差され、悔しさを露わにする馬場。

 

「にしても、熱くなってまた暴走したかと思ってけど、まさかチームの為だったとはな。監督は気付いていたのですか?」

 

「ここで自滅するような馬鹿なら、あいつに司令塔なんぞ任せんよ」

 

真崎の問いかけに、上杉は腕を胸の前に組み、コートに視線を向けながら答えた。

 

「そういえば、姫ちゃんも神城君を追いかけた後すぐ戻って来たよね?」

 

「ええ。昨日の試合と違って冷静さを失ってないのは分かったから。…全く、紛らわしい事するんだから」

 

少し頬を膨らませる姫川。

 

「神城の目的はもう1つある。やはり、ここまでハイペースで試合を進めてきただけに、消耗が激しかった。特に、発展途上の松永と元々のスタミナに不安がある生嶋がこのままではもたない。自分がしばらくオフェンスとディフェンスを担えば2人の負担は格段に減る」

 

「そうか、2人を休ませる為に1人で…。けど、という事は、それだけあいつに負担がかかったって事じゃ。ここまでだってコート上で誰よりも走ってたのが神城だ。あいつ、最後までもつのか?」

 

上杉から空のもう1つの狙いを聞いた後、そこまでの空の負担の大きさに不安を覚えた真崎。

 

「心配いらん。見ろ」

 

不安を感じる真崎を他所に、上杉はコートの空を指差した。そこには、大して息も上がっておらぞ、縦横無尽にコートを駆けていく空の姿があった。

 

「あいつに関してはスタミナの不安をするだけ無駄だ。…そんな事より、今は1番にどうにかしなければならない問題がある」

 

突如、上杉が表情を真剣なものに変えた。

 

「緑間さんですね。あの人をどうにか出来なければうちに勝ち目はありません」

 

上杉の懸念を理解した姫川がその答えを口にする。

 

「やはり、綾瀬では荷が重いんじゃ…。あいつも頑張ってはいるけど…」

 

ここまで緑間を大地がマンツーマンマークをしているが、その結果は芳しくない。

 

「…」

 

馬場の言葉はもっともであり、上杉は視線を鋭くする。

 

「(実際、綾瀬と緑間の力の差はそこまで大きくない。それでも綾瀬が緑間を止められないのは根本的な理由がある)」

 

上杉はこの展開をある程度予測していた。花月で1番ディフェンスの上手い天野を付かせればもう少し緑間からの失点は減らせただろう。

 

「(だが、天野が付いてしまえばいくらゾーンを組んでいると言ってもインサイドの松永の負担が大きすぎる。何よりリバウンドが取れなくなる上にオールコートで打てる緑間に付いてしまったらそれこそ天野がもたない)」

 

天野はリバウンドの要であり、ある意味、花月において欠けたら1番影響が大きい存在である。故に、上杉は緑間に天野を付けなかった。

 

「(緑間を攻略する為には、綾瀬の力が必須だ。これは賭けだ。俺はこの手に賭けるぞ…!)」

 

心中で上杉は覚悟を決め、ギュッときつく拳を握ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、4分46秒。

 

 

花月 67

秀徳 80

 

 

試合は再び双方の点の取り合いをするハイペースの展開となった。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

攻守が激しく切り替わる展開に、観客のボルテージはグングン上がっていた。

 

「……ふぅ」

 

現在、秀徳のオフェンス。ボールは高尾がキープしている。決してスタミナがない訳ではない高尾だが、ここまで花月のハイペースに付き合わされ、疲労の色は隠せない。

 

「(こんな疲れる試合は高校入って初めてだ。点差は詰められちゃいないが、広がってもいない。ったく、いつまでこれが続くんだよ…!)」

 

しつこく食い下がる花月の猛攻に、高尾はげんなりしていた。

 

「(いい加減、こっちも付き合ってられねえよ。……少し黙らせねえとな…)」

 

ここで、高尾は木村にアイコンタクトを取った。

 

「(…コクリ)」

 

アイコンタクトを受け取った木村は頷き、動き始める。

 

「っ!?」

 

同時に緑間がマークを振り切る為に動き出す。大地がすかさず追いかけようとした所、木村のスクリーンに捕まってしまう。ノーマークでボールを受け取った緑間がスリーポイントラインから2メートル程離れた所でシュート態勢に入る。

 

「(ここでのスリーは点差的にも流れ的にもあかん!)打たせへんで!」

 

ここで、天野がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んだ。

 

「…」

 

最高到達点に達した所で緑間はボールをリングにではなく、右下に落とした。

 

「ナイス緑間!」

 

落とした所に宮地が走り込み、ボールを受けると同時にリングに向かってドリブルを始めた。

 

「…っ!?」

 

目の前でディフェンスに立った生嶋だったが、ほぼ棒立ち状態で抜きさられた。

 

『よっしゃ、7番はもう限界だ!』

 

いとも簡単に抜かれた様子を見て観客席の秀徳の応援席から歓声が上がる。

 

「くそっ!」

 

慌ててヘルプに向かう松永だったが、生嶋があまりにも容易く抜かれてしまった為に対応が遅れてしまう。ペイントエリアに足を踏み入れた所で宮地はボールを掴み、リング目掛けて跳躍した。

 

「食らいやがれ!」

 

ボールを右手に構えた宮地はリングにボールを持った右手を叩きつけた。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、ボールがリングに叩きつけられる直前、構えていたボールが何者かに叩き落された。

 

「決めさせっかよぉっ!」

 

『神城!?』

 

ブロックしたのは空。緑間にボールが渡るのと同時にヘルプに飛び出した天野とパスを貰いにいく宮地の動きを読んで空がゴール下まで戻っていた。

 

「さすがやで空坊!」

 

零れるボールをすかさず天野が抑えた。

 

「天さん!」

 

ここで、ブロック直後にすぐさまフロントコートに向けて先頭を駆けた空がボールを要求。天野はフロントコート走る空目掛けてボールを放り投げた。

 

「っしゃ!」

 

フロントコートを越えた所でボールを貰った空はそのままワンマン速攻を仕掛けた。

 

「まずい、カウンターだ!」

 

先頭を駆ける空を見て支倉が思わず声を出す。秀徳の選手達は慌てて自陣へと戻っていく。

 

「(さっきまでゴール下までヘルプに来た奴がどうして先頭走れんだよ!? いや、そもそもあいつはもう優に1試合分の運動量を越えてるはず。なのにどうしてあんなに走れるんだ!?)」

 

常識を超えた空の運動量に宮地は軽く恐怖を覚えた。

 

「お返しだ!」

 

単独でボールをフリースローラインを越えた所まで運び、そこで跳躍。先ほどの宮地と同様にボールを右手に構えてリングに向かっていく。だがその時、空の背後から1つの影が現れた。

 

「させないのだよ!」

 

現れたのは緑間。空のすぐ真後ろからブロックにやってきた。

 

「くっ!」

 

ダンクの態勢に入ってしまった為、ここからダブルクラッチでブロックをかわす事も出来ない。しかし、このままダンクをすれば確実にブロックされる。

 

「神城ぉっ!」

 

ここで、空の背後から自身を呼ぶ声が耳に入る。

 

「がっ! …こんのぉ…!」

 

その声を聞いた空はボールを持った右手を広げ、手首を目一杯外に曲げると、スナップを利かせ、ボールを指で滑らせるにしながら右手を振りぬいた。するとボールは空の右手から離れ、空の真上へと緩く舞い上がった。

 

「っ!?」

 

空の咄嗟の機転に緑間は目を見開きながらボールを目で追った。そこに、先ほどの声の主、松永が飛んできた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

空中でボールを両手で掴んだ松永はそのままリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉっ! 何だ今の!?』

 

『アリウープもすげえけど、その前のパスもすげー!』

 

一連のビックプレーに観客の一部が立ち上がりながら2人を指差した。

 

「助かったぜ。よく走ってきてくれた松永」

 

「ぜぇ…ぜぇ…おう、これで鈍足とは言わせんぞ」

 

笑顔で手を差し出した空に、息を切らしながら松永がハイタッチを交わした。

 

「(とりあえず2点縮めた。流れが俺達に傾く時が必ず来るはず。その時までに少しでも点差を縮めておきたいな…)」

 

チラリとスコアが表示されている電光掲示板を見て空は心中で思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳のオフェンス…。

 

フロントコートまでボールを進めると、これまでとは一転、ボールを回し、時間をたっぷり使いながら得点チャンスを窺っている。

 

「(ペースダウンか? それとも…)」

 

ボールを持った選手にシュートチャンスを与えないよう素早くチェックに入る空。他の花月の選手も同様にチェックを早めに行っている。ボールが再び高尾に戻ってくると…。

 

「っ!?」

 

ボールを持っていない緑間がシュートを放つ構えをし始めた。

 

「空中装填式3Pシュート(スカイ・ダイレクト・スリーポイントシュート)か!?」

 

そう判断した空がすかさず高尾と緑間のパスコースに割り込んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、高尾は緑間にパスを出さず、リングに向かってドリブルを始めた。

 

「ちっくしょう、フェイクかよ!」

 

みすみす前を空けてしまった事に空は悔しさを露わにする。

 

「行かせへん!」

 

ドリブルで切り込む高尾に、天野がチェックに行く。高尾は天野に捕まる前にハイポストの木村にパスを出し、すぐさまローポストに立つ支倉にパスを出した。

 

「梃子でも動かん!」

 

支倉はマークする松永。疲労の色が濃いが、歯を食いしばって支倉の侵入を阻止する。背中をぶつけて強引にゴール下まで押し込もうとした支倉だが押し切れず、3秒が経過する前にボールを木村に戻した。そこからボールは宮地に渡り、宮地はスリーポイントラインの外側まで下がった高尾に渡った。空が距離を詰めようととした瞬間、高尾は左上にボールを放った。

 

「しまっ…!」

 

ボールの先には、シュートの構えをしながら跳躍した緑間の姿があった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは緑間が最高到達点に到達と同時にその手に収まり、放たれ、リングの中心を通過した。

 

「さっすが、真ちゃん」

 

労う高尾に対し、緑間は当然とばかりにメガネのブリッジを押し、ディフェンスへと戻っていった。

 

「くそっ、このパス回しはあくまでもこのスリーを成功させる為か」

 

今のオフェンスでの秀徳の目的を知った松永は悔しさを露わにする。

 

オフェンスは花月に切り替わり、空がボールを運ぶ。生嶋にパスを出した所、そこに宮地がパスコースに割り込みボールをカット。ボールはラインを割った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、緑(花月)!』

 

ここで、花月のタイムアウトがコールされた。コート上の選手達は各ベンチへと下がっていった。

 

 

第3Q、残り4分7秒。

 

 

花月 69

秀徳 83

 

 

「うっ…」

 

ベンチにたどり着くや否や、生嶋がベンチに倒れ込んだ。

 

「生嶋君!」

 

その様子を目の当たりにした相川が慌てて駆け寄った。

 

「ハァ…ハァ…、大丈夫…です。少し、足がもつれただけです…」

 

駆け寄ってきた相川を手で制し、ベンチに腰を下ろした。それに続いて他の4人もベンチに座った。

 

「生嶋、もう限界か?」

 

生嶋の前に立った上杉が問いかけた。

 

「やれ…ます! 僕のスリーはまだ…死んでません!」

 

相変わらず息は絶え絶えだが、しっかり上杉の眼を見据えながら生嶋は答えた。

 

「……分かった。ならば下げん。このまま出てもらう」

 

「監督!」

 

そんな上杉の決定に姫川が異議を唱える。

 

「生嶋の眼は死んじゃいない。この先、秀徳に勝つ為には外は必須だ。だから、戦意を失っていないならこのまま出てもらう」

 

「…っ」

 

限界を超えているのは誰の目にも明らか。ここは1度ベンチに下げて回復を図るべきである。だが、生嶋を下げれば外から打てる選手がいなくなってしまい、オフェンスを外に広げなくなってしまう。それが分かっている為、姫川はこれ以上、何も言えなかった。

 

「生嶋。お前はディフェンスでは相手にプレッシャーをかけるだけでいい。後は何もするな」

 

「…えっ?」

 

思わぬ指示に、生嶋は目を見開く。

 

「その代わり、オフェンスでは点を取れ。残り僅かな体力は点を取る為に使え」

 

「は、はい!」

 

「神城。生嶋の穴はお前が塞げ。ディフェンス2人分だが、やれるな?」

 

「もちろんです! そのくらいやってやりますよ!」

 

指名された空は笑顔で引き受けたのだった。

 

「……ふぅ」

 

一方で、ベンチの1番外側で大地が1人汗を拭いながら呼吸を整えていた。

 

「随分と情けねえ姿を晒してんじゃねえかよ、大地」

 

「…えっ?」

 

そこへ、空が大地の目の前に立った。

 

「去年の全中の得点王の名が泣くぜ?」

 

そう語り掛けると、空は大地のユニフォームを掴み上げた。

 

「それが花月のエースの姿かよ。ろくに点は取れない。緑間は止められない。そんな様でエースが務まると思ってんのかよ!?」

 

どんどん熱くなっていく空。口調もどんどん荒く、声も大きくなっていく。

 

「やめろ神城!」

 

「綾瀬は緑間をマークしてるんだぞ? これでも綾瀬はよくやっているだろ」

 

見かねた馬場と真崎が止めに入るが、それでも空は止まらない。

 

「止められねえのは仕方ねえ。そこは俺は何も言わねえ。けどな、点がほとんど取れてないの事だけは言わせてもらうぜ。それが三杉さんからエースを任せられた奴の姿かよ! 情けねえと思わないのか!? そんなんでチームを背負えると思ってんのか!?」

 

「っ!?」

 

空の迫力に、ベンチ全体の空気が張り詰める。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「……分かっています」

 

そっとユニフォームを掴む腕を外すと、歯を食い縛りながら答えた。秀徳の選手達がコートに戻るのに続いて、花月の選手達もコートに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「珍しいな」

 

「あん?」

 

コートに戻る途中、松永が空に話しかけた。

 

「お前は綾瀬にかなり信頼を置いているように見えたんだがな」

 

タイムアウト中の空と大地のやり取りを見て、思わず尋ねた。

 

「…それは今も変わらねえよ」

 

両腕をクロスさせ、腕を解しながら答えた。

 

「あいつは昔から試合とかでも相手に敬意を払いすぎるところがあるんだよ。相手が去年の帝光やジャバウォックみたいにスポーツマンシップの欠片もない奴等なら実力をいかんなく発揮するけど、逆に、相手が心身共に尊敬出来る奴が相手になると、何処かで限界を決めちまって自分にブレーキをかけちまう」

 

「…」

 

「大地は、幼い頃からの親友で、誰よりも頼れる相棒であって、…身近で1番のライバルでもあるからあんまり言いたくはないんだが、俺はキセキの世代の5人と火神大我。あの領域に1番近い所にいるのは大地だと思ってる」

 

「ほう」

 

空の口から出た言葉に、松永は思わず唸り声のような返事をした。

 

「基本的なスペックはあいつらと大差はないし。ポテンシャルはあいつらと同等。平面勝負なら、あいつが緑間に負けるはずがねえ。あいつが本気になってさえくれれば、俺達は秀徳に勝てる」

 

腕を下ろすと、天野からボールを受け取る。

 

「昔からあいつが俺の期待を裏切った事はない。さっき活を入れてやったし、こっからのあいつは見物だぜ」

 

ゆっくりとドリブルをしながら、空は笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールは空がキープし、フロントコートまで運ばれる。

 

「何か揉めてたみたいだが、ひょっとしてさっきのあれも演技かい?」

 

「…」

 

高尾が軽い口調で探りを入れた。本当に仲違いしたならそこにつけ込みたい。だが、先ほどの例もある為、慎重に分析を重ねる。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

チェンジオブペース。ゆっくりとしたリズムから一気に加速し、高尾に仕掛ける。一方の高尾も、読みと持ち前の鷹の眼(ホーク・アイ)を使って対応。無理にボールを取りに行かず、味方の密集エリアに追い込む動きを見せる。

 

 

――ピッ!!!

 

 

囲まれる直前に空はノールックビハインドパスを出す。ボールの先は逆サイドに展開していた大地。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを貰い、構える大地。目の前には試合開始から大地をマークし続けている緑間。

 

『エース対決!』

 

『…て言っても、実力差が明らかだからなぁ…』

 

『盛り上がんないよなぁ』

 

観客の反応は多種多様。だが、勝敗の予想が見えているので、一部の者を除いて注目度は低い。

 

「スー…フー…」

 

ここで、大地は気持ちを落ち着かせるべく、1度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

「(…緑間さんは本当に素晴らしい選手です。こんな私でも、驕る事も侮る事もなく、全力で相手をしてくれています)」

 

ここまで、何度か2人の勝負の場面はあったが、緑間はオフェンスでもディフェンスでも手を抜く事なく相手をしている。

 

「(ですが……空の言う通り、それで満足していてはいけませんね。私は、三杉さんにエースを託されたのですから!)」

 

ここで大地が動き出す。レッグスルーで左、右とボールを行き来させ…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速。緑間の左手側から仕掛けた。

 

「…ちっ」

 

一瞬、大地のスピードに面を食らうも、冷静に動きを読み切り、後を追う。進路を塞がれると大地はここでバックチェンジで反対に切り返した。

 

『抜いたか!?』

 

逆を付いた大地がそのままリングに突き進もうとしたその時…。

 

「っ!?」

 

再び、緑間が目の前に現れた。

 

「それで抜けると思ったのなら、考えが甘いのだよ」

 

「くっ!」

 

ここでボールを掴み、そこからフェイダウェイでジャンプショットを打った。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

だが、そのシュートは緑間のブロックによって阻まれた。

 

『カウンターだ!』

 

ルーズボールを高尾が抑え、そのままワンマン速攻を仕掛けた。

 

「行かせっかよ」

 

だが、スリーポイントライン目前で空が高尾を捉え、進路を塞いだ。

 

「(相変わらずでたらめな速さだな)…けどまあ、分かってたけどな」

 

追いつかれるのと同時に高尾はビハインドバックパスでボールを右へと放った。そこへ、走り込んできた木村が受け取り、そのままリングにドリブルし、レイアップを放った。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、そのレイアップは放たれたのと同時にブロックされた。

 

「決めさせませんよ」

 

「はっ!? 綾瀬だと!?」

 

ブロックに現れたのは大地。そのまさかの人物にラストパスを出した高尾も驚愕する。

 

「ハッハッ! 良い感じだぜ。再度速攻だ!」

 

ブロックしたボールを空が抑え、そのまま速攻に走った。だが、速攻からのカウンターだった為、秀徳のほとんどがフロントコートを越えておらず、空が決める前にディフェンスを整えた。

 

「…ちぇ」

 

軽く舌打ちをしてボールを止めると、高尾が空の目の前に現れた。

 

「残念。簡単に速攻なんざ決めさせねえよ」

 

「…」

 

空は無理に切り込まず、パスを出した。ボールの行き先は先程と同様大地に渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あくまでもエースに託すつもりか…!」

 

「エース対決を制すれば流れを呼び込めるだろうが、いくら何でも無謀だ!」

 

再度、大地にボールを渡す空を見て、日向と伊月が声を上げる。

 

「けど、そうするしかないのよ。神城君が起点となってオフェンスではやはり何処かで失速するわ。そうでなくても点差はじわじわ開いているのだから、何処かで無理やりにでも流れを呼び込まなければ花月に勝ち目はないわ」

 

リコが花月の内情と心情を解説する。

 

「綾瀬大地。インハイでこそ五将の葉山を圧倒していたが、正直、体力が落ちた所を付いた形でもあるから総合的にはまだ五将には及ばないと思う。資質は確かにあるけど、この試合で緑間を圧倒出来る程開花する事はないだろうし、仮にしても時間切れは確実だ」

 

ポツリと伊月が呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

巧みにフェイントを織り交ぜて大地が緑間に仕掛けるも、緑間の手がボールを捉え、弾いた。

 

「(もっと速く、鋭く!)」

 

ターンオーバーを食らい、ディフェンスに戻りながら大地は心中で叫ぶ。

 

「…っ」

 

緑間は微かに苦い表情をする。

 

その後も、花月はワンマン速攻以外のオフェンスは大地にパスを出し続け、ボールを貰った大地は何度も緑間に仕掛け続けた。

 

『おいおい、何度やっても同じだろ!』

 

『格が違うんだよ格が!』

 

観客からは心無いヤジもチラホラ飛び交う。

 

「(どうなってやがる…。あいつ(大地)の動きのキレがどんどん増してやがる。今のも結構やばかったぞ…!)」

 

勝負を重ねる度に余裕がなくなっていく緑間を見て表情が険しくなる宮地。試合は、大地と緑間の戦いに続いていた。

 

 

第3Q、残り17秒。

 

 

花月 77

秀徳 96

 

 

第3Q残り僅か。ボールは高尾がキープしていた。

 

「この1本は絶対に死守よ!」

 

「死守だ死守!」

 

ベンチから姫川、馬場が声を張り上げる。

 

現在、点差は19点。ここで決められてしまえば20点差。かなりの精神的ダメージを負ってしまう。そのダメージは勝敗を左右するには充分な要因となる。

 

花月は、緑間にボールが渡らないようにディフェンスをし、秀徳は、ここで1本決め、第4Qに繋げる為、パスを回しながらチャンスを窺っている。

 

「(…チラッ)」

 

「(…コクッ)」

 

高尾が木村にアイコンタクトを出すと、木村はコクリと頷く。それと同時にペネトレイトで切り込む。空も抜かせまいと並走しながら高尾の後を追う。

 

「…ちっ!」

 

だが、空は木村のスクリーンに捕まってしまう。ペイントエリアまで切り込んだ所でボールを掴み、シュート態勢に入った。

 

「ここは絶対取らせへんで!」

 

ヘルプに走った天野がシュートブロックをするべく、シュートコースを塞ぐようにブロックに飛んだ。

 

「さて、ここいらでトドメと行きますか」

 

天野がブロックに現れた所で高尾は掲げていたボールを下げ、ビハインドバックパスを出した。ボールの先、右サイドのスリーポイントラインの外側に緑間が走り込んでいた。

 

「っ!? あかん!」

 

一瞬の隙を付いた緑間がボールを受けるとの同時にシュート態勢に入った。

 

「くっ! ここで取らせる訳には…!」

 

少し遅れて大地もブロックに飛んだ。

 

 

「ダメだ。このスリーは決まる」

 

確信めいたかのように日向が呟く。

 

緑間真太郎。キセキの世代のシューターであり、コート上の何処からでもシュートを放つ事が出来、リズムが乱れたり、バランスを崩されなければシュート成功率100%を誇る。放たれるスリーは高弾道であり、そこに195㎝という身長と決して低くはないジャンプ力が加われば、ひとたびシュート態勢に入ってしまえばブロック出来るのは数少ない。

 

大地はそこらの190㎝台の者よりも高く飛べるだけの跳躍力を持っているが、やはり、13㎝もの身長差に加え高弾道が加われば、シュート態勢に入られてしまえば大地ではブロックは不可である。この事実がある為、ディフェンスでは常に高さを意識しなければならず、飛ばれてしまえば終わりなので、フェイク1つでも、高さで劣る大地からすればそれは三杉や氷室ばりの威力を誇る。

 

これらの要因がある為、大地では緑間を止める事は至難の業なのである。

 

「(…ですが、それでも……それでも! チームを勝たせる為にも、私は…!)おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

咆哮を上げながら懸命に腕を伸ばす大地。

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

伸ばした大地の指先に僅かにボールが触れた。

 

「(届いた…!?)リバウンド!」

 

着地と同時に振り返り、叫ぶ。

 

「と、来れば、俺の戦場や!」

 

ゴール下。天野と木村。松永と支倉がリバウンド争いの為、スクリーンアウト、ポジション争いを始める。

 

「ぐっ!」

 

懸命に良いポジションを奪い取ろうとする松永だったが、パワーの差でポジションを奪われてしまう。一方、天野と木村は…。

 

「くそっ!」

 

木村が天野に絶好のポジションを奪われ、悔しさを露わにする。1年生ながら、兄直伝のリバウンドで秀徳1番のリバウンド力を誇る木村だったが、どれだけ押し出そうとどれだけフェイントを駆使しても天野からポジションを奪えない。

 

 

――ガン!!!

 

 

予想通り、スリーは外れ、リバウンド勝負となった。

 

『っ!』

 

4人が同時に飛ぶ。

 

「もろたでぇっ!!!」

 

リバウンドボールを天野が確保した。

 

「天野先輩!」

 

フロントコートに走る大地がボールを要求。すかさず天野が前方へ大きなパスを出した。

 

「行かせねえぞ、1年坊!」

 

大地がボールを掴んだの同時に宮地が目の前に立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

迷わず大地は宮地の左手側からドライブで仕掛ける。

 

「っ! やろ、抜かせねえ!」

 

ドライブを読み切った宮地が大地が動くのと同時に動き、大地を追いかける。左手を伸ばし、大地のキープするボールを狙い撃った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

その直後、大地はバックロールターンで反転してその手をかわし、逆を付いて宮地をかわした。

 

「よっしゃ、行ったれぇっ!!!」

 

宮地をかわし、無人のリング目掛けて大地が突き進んでいく。だが…。

 

「っ!?」

 

そこへ、緑間が現れ、大地の進路を塞ぐように現れた。

 

「宮地が時間を稼いだ隙に…!」

 

目の前に立ち塞がった緑間を見て驚愕の表情を浮かべる松永。

 

『せっかくの得点をチャンスなのに…』

 

得点チャンスがなくなったと予想した観客からは溜息が漏れる。第3Q、残り数秒、味方を待っている時間はない。下手にボールを取られれば緑間にブザービーターを決められかねない。無難にボールをキープしてこの点差を維持して第4Qに向かえる選択肢が頭に過ったその時…。

 

「行け! 大地!」

 

後方から、空の声が響いた。

 

「お前ならやれる! 緑間を越えてやれ!」

 

「っ!」

 

この言葉を聞いて、大地の迷いは消えた。1度ボールを左に切り返し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

自身の最高速をクロスオーバーで緑間に仕掛ける。

 

「…っ! だがこの程度で抜かせん!」

 

緑間もこれに対応。すぐさま大地の進路を塞ぐ。

 

「…ぐぅっ!」

 

ここで大地は歯をギュッと噛みしめ、バックステップを行う。

 

「下がるのだろう? そんなもの、読めて――っ!?」

 

バックステップを読み切った緑間が下がる大地を追いかけようとする。だが、視線を後方に向けた時、大地は既に緑間の後方、数メートルの距離を取っていた。

 

「(馬鹿な、あのスピードからのドライブであそこまで下がっただと!?)」

 

想定を超える大地のバックステップのスピードと距離に驚きを隠せない緑間。

 

『いっけえぇぇぇっ!!!』

 

花月のベンチからの声を背に、大地がミドルシュートを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を射抜いた。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。

 

「っしゃぁっ! さすが大地だぜ!」

 

すぐさま空が大地に駆け寄り、抱き着いた。

 

「…ふん」

 

2人を見て鼻を鳴らす緑間。

 

「ドンマイ真ちゃん。なに、こっちの有利は変わらないんだ。気にすんなって」

 

そんな緑間を見て励ますように声を掛ける高尾。

 

「分かっているのだよ」

 

それだけ呟き、2人はベンチへと下がっていった。

 

「…」

 

ベンチへと下がる緑間と高尾の姿を大地は目で追い、その後に自身の左手に視線を向けた。

 

「? …大地、どうした?」

 

その場で自身の左手を眺めながら立っている大地を見て空が怪訝そうに声を掛ける。

 

「……もしかしたらですが、逆転の突破口が見つかったかもしれません」

 

「えっ?」

 

ボソリと大地が呟いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は4分の3が終わり、遂に最終Qを残るのみとなった。

 

首の皮1枚を繋ぎ、希望を残す1本を決めた花月。そして大地の一言。

 

花月と秀徳の試合は、クライマックスへと移行するのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





もっと早く投稿したかったのですが、自身のやっているソシャゲのイベントが忙しく、ここまで空いてしまいました。またイベントが始まったのでまた空くかもですOrz

過去の投稿を読み返してみると、結構誤字があってビビりました。たまに誤字報告を頂いては修正していたんですが、氷山の一角でした。いつか修正したいですね…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!



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第75Q~異常~


投稿します!

年末忙し過ぎです…( ;∀;)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、終了。

 

 

花月 79

秀徳 96

 

 

第3Q最後、緑間のスリーを大地が止め、カウンターからの花月のオフェンスで、大地が緑間をかわして決めた事により、最悪の失点を防ぎ、最終Qに希望を繋いだ。

 

選手達が各々のベンチに下がり、腰掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「花月は何とか最終Qに繋いだな」

 

ベンチに下がる両校の選手を見つめながら日向が言う。

 

「だが、花月はここから逆転する手があるのか?」

 

「あるとは思えないな。外の要の生嶋は限界を超えていてもはや立っている事だけで精一杯。中の要の松永も限界に近い。チームの柱の神城だって攻守の両方で走り回って運動量はもう1試合分どころかもう2試合近いし、エースの綾瀬だって試合序盤から緑間をオールコートでマークしている。ここまでもっただけでも奇跡だ」

 

日向の問いに、伊月が淡々と問題点を挙げていく。

 

「逆転する為には何か秘策が必要だが、スタメンは限界間近、控えには頼れない。…ここまでか」

 

土田がこの結論に辿り着いた。

 

「だが、花月は今年の主力が全員残る。来年も目が離せないな」

 

「ああ。火神達も気を引き締めて――」

 

誠凛の上級生達は試合結果を予見出来た為、翌年の話題を始める。

 

「…」

 

ただリコだけが、神妙な表情でコートを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳ベンチ…。

 

「くそっ、トドメを刺せなかったか…!」

 

ラスト1本を決められ、悔しさを露わにする宮地。

 

「向こうもそれだけ必死だと言う事だ。焦る必要はない。第4Qで確実に追い詰めていけばいい」

 

気がはやる宮地を支倉が諭すように落ち着かせる。

 

「もう生嶋は限界をとっくに超えていますし、松永も限界寸前。時間の問題ッスよ。後は真ちゃんを中心に攻めていけば確実ですよ」

 

皆を落ち着かせるように高尾が言った。

 

「…」

 

緑間は特に言葉を発せず、静かに呼吸を整えていた。

 

「……ふむ」

 

そんな中、監督の中谷が顎に手を当てながら思案していた。

 

「どうかしましたか?」

 

その様子に気付いた木村が声を掛ける。

 

「(…おかしい、緑間を止めなければチームの勢いを止める事が出来ない事は分かっているはずだ。現状で打てる手はいくつかある。それに気付かない程ゴウは愚かではないはずだ)」

 

中谷が視線を花月のベンチ、上杉に向けた。

 

「(何を考えている? 何故を何も手を打たない。それとも既に…)」

 

「――督、監督」

 

「…ん? ああ、すまんな」

 

選手の声で一時思考を中断した。

 

「何か心配事ですか?」

 

「…いや、向こうが何の動きも見せないのが気にかかってな」

 

考え込む中谷の様子に気付いた宮地が尋ねると、花月のベンチに視線を向けながら答えた。

 

「別にそんな心配しなくてもいいんじゃないッスか? インハイの時も三杉と堀田頼りで何かする様子はなかったですし。っていうか、今時厳しいだけの結果が伴わない指導が売りの監督なんて警戒する必要は――」

 

「――高尾。そんな偉そうな言葉はダブルスコア以上の点差を付けてから言え」

 

「っ!? す、すいません!」

 

高尾の軽口を遮り、中谷が強めに言うと、高尾は身体をビクつかせながら謝罪の言葉を述べた。

 

『…っ!』

 

過去にも軽口を叩いて中谷に怒られる高尾の姿は見ていたが、今の中谷はその中でも1番の怒りを醸し出していた為、他の選手達は息を飲んだ。

 

「ここまで向こうは試合開始からこれまで大きな指示をしている様子は見られませんでした。…もしかしたら、花月は今年は諦めて来年に備えて経験を積ませる為に…」

 

「いや、それはない。向こうの監督は例え100点差付いても試合を投げ出すような真似はしない男だ」

 

途中で言葉を遮り、中谷が言い切る。

 

「まだ点差は17点。気力も希望をまだ繋げる点差だ。決して守勢に回るな。引けば向こうは勢い付く。最後まで攻め立てろ」

 

『はい!』

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでインターバル終了のブザーが鳴った。

 

「おっしゃぁっ! 行くぞぉっ!!!」

 

『おう!!!』

 

宮地の掛け声をきっかけに、他の選手達が大声で応え、立ち上がり、コートへと向かっていく。

 

「…っ!」

 

その中で、緑間だけが立ち上がらずにベンチに座っていた。

 

「真ちゃん、どうかしたか?」

 

その様子に気付いた高尾が声を掛ける。

 

「……何でもないのだよ」

 

声を掛けられた緑間が両膝に手を置きながら立ち上がり、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

双方のベンチから選手達がコートに戻ってくる。両チーム共、選手交代はなし。

 

「17点差かぁ。これは決まりかなー」

 

観客席の一角、洛山の葉山がポツリと言う。

 

「確かにな。点差は開く一方だ。ここから花月が逆転出来るとは思えないな」

 

根布谷も同意見である為、葉山の予想に頷く。

 

「…」

 

その中で、赤司は何やら考え込む仕草を取っている。

 

『おっ、出てきたぜ』

 

『最終Qが始まるぞ!』

 

『っていうか、今日の緑間凄すぎないか?』

 

『だよな! 今日スリー何本決めたっけ?』

 

『数えてないけど、20本くらい決めてんじゃないか?』

 

選手が出てきた事に、観客が沸き上がる。

 

「? …ここまでのスコアを見せてくれないか?」

 

「はい。どうぞ」

 

観客の言葉に引っ掛かりを覚えた赤司がマネージャーからここまで付けていたスコアブックを受け取り、眺める。

 

「これからどうする? まだ早いけど、試合の準備でも始める?」

 

「まだ控室は他の高校が使用してるんじゃない?」

 

最終Qを前に、これ以上は見る必要はないと判断した葉山と実渕がどうするか話し合う。

 

「征ちゃん、どうする? ……征ちゃん?」

 

1度赤司に尋ねるが、スコアブックを読み耽る赤司を見て怪訝そうな表情をする実渕。

 

「……フッ、なるほど」

 

何かに気付いた赤司はフッと笑みを浮かべると、スコアブックをマネージャーに返した。

 

「最後まで見ていこう。俺の予想が正しければ、第4Q、面白い事になる」

 

『?』

 

おもむろに、赤司が口にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は再会され、秀徳ボールからスタート。木村から高尾にボールが渡ると、空がすかさずプレッシャーをかける。

 

「うぉっ!?」

 

ボールを保持する高尾。空の猛烈なプレッシャーに圧倒される。

 

「(マジかよ!? 試合終盤にこのプレッシャー、こいつ最後までもたせる気がないのか!?)…ちっ!」

 

ボールキープもままならなくなった高尾はパスを出す。ボールの先は大地のマークを振りほどいた緑間。ボールを受け取った緑間はスリーの態勢に入る。

 

「くっ!」

 

スリーを阻止するべく、大地がすぐさま距離を詰めてブロックに向かう。緑間がスリーを打つ為に膝を大きく沈み込んだその瞬間…。

 

「っ!?」

 

膝を沈ませたのと同時に緑間がボールを横へと流した。

 

「あっ!?」

 

ボールは宮地に渡り、そのままリング目掛けてドリブルしそのままレイアップの態勢に入る。

 

「くそっ!」

 

慌てて松永がヘルプに飛び出し、ブロックに行く。松永がブロックに現れたの同時に宮地はボールを横に流した。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った支倉は落ち着いてゴール下を決めた。第4Q最初の攻撃、秀徳が確実に決めた。

 

「…」

 

ディフェンスに戻る秀徳。その様子を空がジッと観察していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さすが百戦錬磨の秀徳だ。きっちり決めてきたな」

 

一連のオフェンスを見て伊月が感嘆の声を上げる。

 

「けどさ、緑間は何でスリー打たなかったのかな? フリーだったのに」

 

スリーを打たず、パスに切り替えた緑間の行動に疑問を覚えた小金井。

 

「綾瀬が来てたからじゃないか? 緑間は基本的に外す可能性があるシュートは打たない。俺達はここから見てるから分かるが、緑間からは綾瀬に追いつかれるように見えたのかもしれない。第3Q終了間際の事もあるしな」

 

日向が自身の分析した結果を口にする。

 

「…」

 

リコは変わらずコート上の緑間に視線を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

松永がスローワーとなり、ボールを空に渡す。

 

「行くぞ!」

 

空の掛け声と同時に花月の選手達が一斉にフロントコートに走っていく。

 

「なに!?」

 

第3Qと変わらずラン&ガンを仕掛けてきた事に宮地が驚く。空はスリーポイントライン付近までボールを進めると、右アウトサイドに展開していた生嶋にパスを出した。

 

「…っ」

 

フリーでボールを受け取った生嶋だったが、シュートには行かず、宮地のマークが来る前にボールをワンバウンドさせながら空にリターンパスを出した。

 

「っ! 行かせ――っ!?」

 

空を追いかけようとした高尾だったが、天野のスクリーンに捕まってしまう。

 

「っ!」

 

リターンパスを受けた直後、空の目の前には緑間がいた。高尾がスクリーンにかかるのを察知し、ヘルプにやってきた。

 

「…」

 

緑間が目の前にやってくると、空はその場で高速でドリブルを始める。前、股下、背後で左右に切り返しながら緑間に揺さぶりをかけていく。

 

「…っ、…っ!」

 

何度も左右に揺さぶりをかけ、時折仕掛ける素振りを見せる空に、緑間は表情を歪ませながらも抜かせないように対応する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックチェンジ、レッグスルーからのクロスオーバーで緑間の左手側から仕掛けた。

 

「ちっ! この程度で――」

 

舌打ちを打つも、緑間が空を追いかけるも、その瞬間、緑間は空の姿を見失う。

 

「っ!?」

 

視線を下げると、自分の足元のすぐ横でで膝を曲げて上体を低くした空を見つける。だが、その直後、再び空が姿を消す。空は緑間の左脚の横に膝を曲げて上体を低くして潜り込んだ直後、右脚を後ろに伸ばし、そこから反転。限りなく上体が低い変則のバックロールターンで逆を付いた。

 

「それで俺を出し抜いたつもり……っ!」

 

一瞬面を食らうも、反転した空をすかさず追いかけようとして1歩踏み出した緑間だったが、その直後、緑間を足を止めた。

 

『抜いたぁぁぁっ!!!』

 

緑間を抜きさった空はそのままリングに突き進み…。

 

 

――バス!!!

 

 

ヘルプが来る前にレイアップを決めた。

 

『おぉ! 花月も返したぞ!』

 

決め返した空は天野とハイタッチを交わした。

 

「…ここに来てまだラン&ガンするとかあいつら正気か?」

 

既にかなりの距離を走っている花月。まるまる1Q残っているにも関わらず未だに足を止めない花月に宮地は軽く恐怖を覚える。

 

「風前の灯火ッスよ。あんな苦し紛れの特攻がいつまでももつはずがない。多少点差を詰められても、足が止まった所でトドメを刺せばそれで詰みッス」

 

圧倒される宮地を励ますように高尾が声をかける。

 

「…」

 

集まって声を掛け合う中、緑間だけが少し離れてジッと下を向いていた。

 

「真ちゃんもドンマイ。あんな奇策、2度も通じないって」

 

「……分かっているのだよ」

 

声を掛けられると、緑間は顔を上げ、そっとメガネのブリッジを押し上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳のオフェンス。高尾がフロントコートまでボールを進める。

 

「(…と、相変わらずいいディフェンスしやがる。ちょっと切り込むのは無理そうだな)」

 

仮に空を抜けてもゾーンの為、囲まれるのは確実。そこからパスを捌けるとも限らない。高尾は無理に切り込まず、パスを出した。ボールの先は左アウトサイドの宮地。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

ディフェンスをする生嶋は息も絶え絶えで、立っているの辛そうに見える。

 

「(こいつはもう限界を超えてる。さっきもスリーを打たなかったんじゃない。打てなかったんだ)」

 

先程、空がパスを出した時、宮地のマークが僅かに遅れた。その為、スリーを打つ時間はあった。にもかかわらず、生嶋はスリーを打たなかった。

 

「(こいつはもう何も出来ない。こいつの役割は外に注意を引きつける事だけ。抜くのは容易い!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

ドライブを仕掛ける宮地。ディフェンスをする生嶋は棒立ちで抜かれる。

 

「(よし! このまま一気に切り込んで――)」

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

生嶋を抜いた瞬間、宮地の持つボールが叩かれる。

 

「なっ!?」

 

目を見開きながら宮地が自身のキープするボールを叩いた者の正体に視線を向ける。

 

『神城だぁぁぁっ!!!』

 

宮地のボールを捉えたのは空だった。空は高尾がパスを出した直後に生嶋が抜かれる事を予見して、宮地の進行先に先回りをした。

 

「いいぞ神城!」

 

ルーズボールを松永が抑え、前方にボールを投げる。

 

「っしゃぁっ!」

 

スティールと同時にフロントコートに走っていた空がボールを受け取りそのままドリブル。

 

「カウンターだ! 戻れ!」

 

慌ててディフェンスに戻る秀徳だったが、先頭を走る空に追いつける者はおらず…。

 

 

――バス!!!

 

 

ワンマン速攻で空がレイアップを決めた。

 

『おぉ! 花月がまた2点縮めたぞ!』

 

「くそっ、少し焦り過ぎたか」

 

「ドンマイ、次、確実に決めましょう」

 

宮地から高尾がボールを受け取り、ゆっくりボールを進め、ゲームメイクを始めた。

 

「(真ちゃんは……ちょっときついな。今パス出しても綾瀬に取られる…)」

 

ホークアイで緑間の位置を確認する高尾。だが、大地のマークがきつく、断念。

 

「(だったら…)」

 

ここでパスを出す。ボールは再び宮地に渡る。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

マークするのは先程同様生嶋。

 

「ちっ、こいつ…!」

 

ボールを持った宮地は舌打ちを打つ。生嶋は先程と同じく息も絶え絶えでディフェンスをしている。だが、宮地は気付いた。自分にボールが渡った瞬間、空が高尾と自分の両方に対応出来る位置取りをしている事に。もう1つは…。

 

「(こいつ、明らかに神城がいる方に俺を抜かせようとしてやがる…!)」

 

生嶋は単に突っ立ってるだけではなく、意図的に宮地が空がいる方に抜かせるようにディフェンスをしている。このまま抜いてしまえばすぐさま空がヘルプにやってきて捕まってしまい、最悪ターンオーバーを食らう。ならばシュートを選択したいが、生嶋が前に出てプレッシャーをかけてきているので、身長差を考えてもブロックされる心配はないが、これではシュートセレクションが乱されてしまい、外れる可能性もある。

 

「……くそっ」

 

これ以上の失点は花月に良い流れを生み出しかねないと判断した宮地は無理をせず、高尾にボールを戻した。

 

「おいおい、宮地さん、ちょっと慎重になり過ぎじゃない?」

 

苦笑いをしながら戻ってきたボールを受け取る。

 

「さすがに1ON1で点を取ろうと考えるのはちょっと虫が良すぎたかな。だったら、こういう攻め方ならどうよ?」

 

高尾が徐に手を上げ、指を2本立てた。それと同時に高尾以外の4人が動き出す。支倉がハイポストまで移動し、宮地がその横を抜けていく。高尾はその瞬間に宮地にパスを出す。

 

「ちっ、ナンバープレーか!」

 

秀徳の戦術に意図に気付いた空は苛立ち気味に舌打ちをする。秀徳は選手達がとにかくポジションチェンジを繰り返しながら縦横無尽に動き回り、ボールも絶えず動かし、花月のゾーンを乱しにかかっている。24秒タイマーが残り3秒になったその時…。

 

『あっ!?』

 

観客がここで一斉に声を上げる。ボールは右アウトサイドに展開していた緑間に渡った。

 

「っ!?」

 

緑間はフリー。マークしていたはずの大地はその直前に木村のスクリーンに捕まってしまった為、緑間をフリーにしてしまった。

 

「ちっ、こんの…!」

 

一番緑間の近くにいた空が慌ててヘルプに向かう。

 

「無駄無駄。残念だけど、お前じゃ真ちゃんのスリーは止められねえよ」

 

シュート態勢に入った緑間を視認しながら高尾が笑みを浮かべる。膝を深く曲げ、飛び上がり、ボールを構えた。

 

「くそがぁっ!!!」

 

僅かに遅れて空がブロックに飛んだ。緑間の指からボールが放たれる。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「あっ?」

 

「何っ!?」

 

空の伸ばした指の先にボールが当たる。これに空が意外そうな声を上げ、高尾が目を見開いて驚愕する。そしてそれは秀徳の選手達観客含めて予想だにしなかった出来事だった。

 

「ハハッ、俺も結構やるじゃん!」

 

自分で自分を褒め称え、空はフロントコートに走る。

 

「自分で言うな! けどま、今だけは認めたるわ」

 

突っ込みを入れながら指に当たってふわりと浮いたボールを天野が抑えた。

 

「景気良いの頼むで!」

 

前を走る空に天野が大きな縦パスを出した。

 

「ととっ…、りょうか……っ!」

 

若干高く浮き過ぎたボールを飛びながら掴み、速攻をかけようとすると、目の前に緑間が立ち塞がった。

 

「へっ、簡単に決めさせてはくれる訳ないか。が、それでも俺のやる事は変わらねえ!」

 

一気に加速し、右から仕掛けていく。

 

「この程度で…!」

 

緑間はこのドライブに瞬時に反応する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで空が左へとフロントチェンジ。高速で切り返す。

 

「ぐっ…!」

 

歯を食い縛りながらも緑間は左へ切り返した空を追いかける。

 

「(ここだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空を追いかける為、緑間の重心が右足に傾いた瞬間を狙い、空はここで再度切り返す。

 

「くっ、行かせ――っ!?」

 

再び逆を付いた空を追いかけようとしたその時、突如、緑間の脚から力が抜け、膝が折れ曲がり、その場で尻餅を付いてしまった。

 

『抜いたぁぁぁっ!!!』

 

緑間を抜きさった空はそのままリングに向かって前進。フリースローラインを越えた所でボールを右手に持ち替えて跳躍。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

右手に持ったボールをそのままリングに叩きつけた。

 

『キタァァァァァァァァッ! 神城のダンク!』

 

空のワンハンドダンクに観客が沸き上がる。

 

「っしゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ダンクを決めた空はガッツポーズを取りながら咆哮を上げた。

 

「緑間!」

 

「真ちゃん!」

 

観客が盛り上がるのを他所に、宮地と高尾が尻餅を付いた緑間に駆け寄る。

 

「っ! ……何でもないのだよ…!」

 

心配はいらないとばかりに立ち上がろうする緑間だが、立ち上がろうとして再び尻餅を付き、辛そうに膝を手に置きながらようやく立ち上がった。

 

「おい、緑間お前――」

 

ここで宮地は、緑間の脚が痙攣している事に気付いた。

 

「心配いりません。何でも、ありませんから」

 

声を掛ける宮地を遮るように緑間は問題ないと言い切った。

 

『…っ』

 

だが、目に見えて何かしらの異常を起こしている緑間を前に、秀徳の選手達は心中に不安を感じたのだった。

 

 

「っ!」

 

一連の緑間を見て、中谷は表情を曇らせながら立ち上がり、オフィシャルテーブルに向かい、タイムアウトの申請をした。

 

 

「今頃気付いたか。マサよ」

 

タイムアウトを申請する中谷を横目で見ながら上杉がポツリと呟いた。

 

 

秀徳のオフェンス…。

 

「……くっ!」

 

緑間の異常がその目で確認出来る為、秀徳の選手達は動揺を隠せなかった。

 

「(いったい真ちゃんに何が起こったんだ!? あの様子、明らかに普通じゃねえ…!)」

 

ボールをキープする高尾は緑間を横目で確認し、表情が曇る。

 

「(何処かトラブルでも起こしたか? 何にせよ、この状況はヤバい。俺がどうにかして――)」

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

高尾の意識が他所に一瞬逸れた瞬間、空が右手がボールを捉えた。

 

「アウトオブバウンズ、黄ボール(秀徳)!」

 

「ちっ、おしい!」

 

弾かれたボールを追いかけた空だったが、ギリギリでボールはラインを割ってしまう。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、秀徳!』

 

ここで、タイムアウトがコールされる。

 

「よーし、良い調子だ!」

 

意気揚々とベンチへと下がる花月に対し…。

 

「くっ…」

 

ベンチの前まで辿り着くと、緑間はよろけながらベンチに腰掛けた。

 

「緑間! いったい何があった!?」

 

異常を改めて確認出来た秀徳の選手達は一斉に駆け寄ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第4Q始まった刹那、秀徳のエースである緑間が突如異常が発生した。

 

突然の事で動揺を隠せない秀徳、この事態を予見していたかのような上杉の言葉。

 

そしてこの出来事が、試合に流れと展開を大きく変える事となるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





年末の繁忙期に加え、ソシャゲのイベントが隔週で行われている為、なかなか執筆の時間が作れず。何より、執筆のモチベーションが保てないのが1番のネックです…orz

仕事中はこれ以上になく執筆意欲が沸くのに、帰宅すると途端になくなるこのやる気。ストレス溜まってんのかなぁ…。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第76Q~捨てるプライド~


投稿します!

ギリギリ今年度までに投稿に間に合いました…(^-^;)

展開的に賛否両論出るかもしれませんが……受け止めます!

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り8分52秒。

 

 

花月 85

秀徳 98

 

 

最終Q開始直後、緑間に突如アクシデントが起こる。立て続けにスリーはブロックされ、空と大地には簡単に抜かれ、失点を喫する。それを見て中谷が慌ててタイムアウトを申請した。

 

突然コートで起こった出来事に、ベンチ、会場中がざわつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「緑間に何が起こった? 秀徳の監督やベンチの様子を見る限り、穏やかではなさそうだな」

 

「まさか、何処か負傷でもしたのか?」

 

慌ただしい秀徳の様子を見て、日向と伊月がざわつく。

 

「いえ、違うわ。あれは恐らく――」

 

 

「スタミナ切れ?」

 

「ああ。正確には、疲労によって脚が限界を迎えたのだろう」

 

実渕の問いに、赤司が答えた。

 

「でもさ、緑間ってスタミナもかなりあったはずじゃん」

 

納得出来なかった葉山が赤司に問いかける。

 

「要因はある。まず、第3Q終了時点で秀徳、花月の得点を合わせると約180。これは明らかなハイスコアゲーム。これだけでもかなりの消耗をさせられるが、注目すべきが、今日この試合で緑間が放ったスリーの本数だ」

 

「スリーの本数?」

 

「ブロックされたものも含めて、この試合で緑間が放ったスリーは25本。スリーポイントラインから数メートル離れた距離からのスリーは9本。センターラインより外から放ったスリーは7本ある。これはかなりのハイペースだ」

 

「確かに、秀徳の得点の8割近くが緑間だもんな。…けどさ、それだけで緑間があそこまでなんのかな?」

 

説明に一部は納得したものの、釈然としない様子の葉山。

 

「1番の要因は、緑間に対し、攻守両方で綾瀬がマークに付いた事だ」

 

「そういや、緑間をあいつ(大地)がマークしてた事が分からなかったな。身長的にもディフェンス能力的にも天野の方が適役だっただろ」

 

ここまで緑間を天野ではなく大地がマークして事に疑問を抱いていた根布谷。

 

「そうでもない。何故なら綾瀬の方がスピードも運動量も上だからだ」

 

「?」

 

赤司の言葉に根布谷は頭に『?』を浮かべる。

 

「まず、オフェンス時、綾瀬のマークはとにかくしつこい。並みの者ではボールすら貰えない程にね」

 

「あー確かに、あいつ大人しそうな顔して凄いマークしつこかったなぁ」

 

「征ちゃんがポイントガードじゃなかったらあなたほとんどボール持てなかったわよ」

 

げんなりする葉山する。インターハイ決勝での試合では大地と葉山が勝負する機会はそれなりにあったが、その要因は、マークを外すと同時にパスが出せる赤司がいたからこそである。

 

「次にディフェンスだが、綾瀬はガンガン切り込む葉山と同じスラッシャータイプの選手。スピードも全国でレベルでトップクラスであり、緩急もある。そして、緑間と綾瀬には14㎝もの身長差がある。つまり、緑間が綾瀬を相手にする時、常に距離を取り、そして重心低くしてディフェンスに臨まなくてはならない」

 

「? それが何か関係あるの?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

いまいちピンとこない葉山と根布谷。

 

「小太郎は自分より極端に身長が低い上にスピードもある相手と戦う事はないでしょうし、ゴール下が主戦場のあなたも分からないでしょうけど、身長が低くてかつスピードがある相手って凄い疲れるのよ?」

 

理解出来ていない2人に実渕が言う。

 

「重心を下げるという事は、膝を深く曲げる態勢を強いられる。そんな態勢をディフェンス時だけとはいえ、し続ければ脚にかかる負担も大きい」

 

ここで、赤司は背もたれに背中を預けた。

 

「ハイスコアゲーム、打ち過ぎたスリー、綾瀬のマッチアップ。これらが重なった事が要因で緑間の脚はここで限界を迎えてしまった。という事だ」

 

「でも、らしくないわね。征ちゃんを除く他のキセキの世代や火神ちゃんならまだしも、あの冷静な緑間ちゃんがこんな致命的なミスを犯すなんて」

 

「いや、むしろ緑間だからこそかもしれない」

 

緑間らしからぬミスだと発言する実渕。だが、赤司はむしろ緑間故と発言する。

 

「緑間は冷静で思慮深い性格だ。それは去年のインハイ予選で誠凛に負けてからは特にだ。相手が1%でも負ける可能性がある相手なら、相手の心が折れるか、逆転不可能な程の点差を付けない限り決して手を抜かない。今日の試合もそういう心持で試合に臨んだ事だろう。だが、緑間が俺達や誠凛程花月を評価していたかと言えば、答えはノーだろう」

 

『…』

 

「仮に、俺達が花月のような策を弄したなら、緑間はかなり早い段階で気付いただろう。だが、気付かなかった。いや、疑問には行きついたのかもしれないが、そこで思考を止めてしまったのだろう」

 

「つまり、手を抜かないから全力を尽くし、侮っていたから策に気付かなかった。ということね」

 

繊細な心理描写を赤司が説明し、実渕が葉山と根布谷にも分かるように簡潔に短く要約した。

 

「緑間は下がるか?」

 

「いや、下げないだろう。単純なスタミナ切れなら、数分ベンチで休ませればある程度は回復するだろうが、限界を迎えた脚は数分休ませたぐらいでは回復しない。何より、緑間がいなくなれば外の脅威がなくなり、得点は確実に激減する」

 

根布谷の考えを赤司が否定する。

 

「残り約9分残して緑間が失速。勢いは確実に花月に傾くだろうし……どうなるか分かんなくなってきたな」

 

葉山がポツリとそう口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「真ちゃん! 大丈夫か!?」

 

「おい緑間! 何があった!?」

 

倒れ込むようにベンチに座った緑間に慌てて高尾と宮地が駆け寄る。

 

「何でも、ないのだよ」

 

そんな2人に心配をかけたくないのか、気丈にふるまう緑間。そこへ、中谷がやってきた。

 

「見せてみろ」

 

床に膝を付いて緑間の脚に触れる。

 

「……氷を持ってこい。急げ」

 

そう指示を出すと、ベンチいる1人が慌ててクーラーボックスから氷を取り出す。

 

「…っ!」

 

氷を受け取った中谷が緑間の両脹脛に氷を当てる。すると、緑間が顔を顰めた。

 

「第3Q最後のブロック。あの時に既に自覚症状はあったな。何故黙っていた?」

 

「…」

 

咎めるようにではなく、諭すように緑間に尋ねる。だが、緑間は無言のまま。

 

「…全く、我慢は美徳ではないんだぞ」

 

ふぅっと溜息を吐くように言った。だが、中谷は緑間を咎める事は出来なかった。緑間が入学以来、緑間を中心のチーム作りをすると本人及び、チーム全体に言い聞かせていた。誰よりも責任感が強い緑間が試合終盤、楽観視出来ない点差の状況で泣き言を言うはずがない事は分かっていたからだ。

 

「ディフェンスを変える。ここからはマンツーではなく、2-3ゾーンで行く。前を左から高尾、宮地。後ろは緑間、支倉、木村だ」

 

中谷がマグネットボードを取り出すと、選手に見立てたマグネットを貼りながら選手達にここからの作戦を説明していく。

 

「オフェンスでは24秒きっちり使って確実に得点を積み立てて行け」

 

『はい!!!』

 

「緑間。今から第4Q終盤までスリーポイントライン手前から以外のスリーは打つな。高弾道のスリーも同様だ。あれはメリットもあるが脚への負担も大きい。ループの高さは抑えろ」

 

「…っ」

 

中谷に命じられたが、納得出来ないのか返事を渋る緑間。

 

「勝つ為だ。終盤の勝負所で抜けられては困る。それまでは私の指示に従え」

 

「……分かりました」

 

勝利の為、という言葉を聞き、緑間は渋々指示に従った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「よし! 最後まで足を止めんじゃねえぞ! 行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

秀徳の選手達がコートへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳ボールから試合が再開される。審判から木村がボールを受け取り、リスタート。ボールは木村から高尾に渡される。

 

「1本! 行くぞ!」

 

高尾が声を高々と張り上げ、秀徳のオフェンスが始まる。秀徳はこれまでとは違ってペースダウン。とにかくパスを回し、各々があまりボールを持ち過ぎず、無理な攻めはしない。

 

「どうしたよ? 随分と慎重に攻めるじゃん」

 

「…」

 

軽口で喋る空。高尾は表情を変えずにボールを回す。

 

 

――バス!!!

 

 

24秒タイマーが残り4秒になったところで高尾がゴール下にボールを入れる。支倉がボールを受け取り、背中で松永を押しやり、そのままゴール下を沈めた。

 

「ドンマイ! 返そうぜ!」

 

空が松永からボールを受け取り、フロントコートまでボールを進めた。

 

「おっ?」

 

ここで、空は秀徳のディフェンスがマンツーからゾーンに変わった事に気付く。

 

「ここまで露骨に変わられると追い込まれてるって教えてるようなもんだぜ」

 

秀徳の変わりように空が思わず笑みを浮かべる。

 

「(…チラッ)」

 

「(…コクッ)」

 

空がアイコンタクトをすると、松永が頷き、ローポストの位置から空に向かってダッシュ。すると、松永の動きに支倉が釣られてしまう。松永のフラッシュの動きに合わせ、空は左アウトサイドにいた大地にパス。それと同時に空は松永と交差するようにゴール下にダッシュ。それに合わせて大地が空にパスを出した。

 

「よっしゃ!」

 

 

――バス!!!

 

 

松永のフラッシュでゾーンを乱された秀徳ディフェンスは対応出来ず、空はレイアップを決めた。

 

「気にするな取り返すぞ!」

 

ボールを拾った宮地がスローワーとなり、高尾にボールを渡す。

 

「っ!? 高尾!」

 

高尾にボールを渡した瞬間、宮地が声を上げる。

 

「えっ?」

 

その瞬間、空と大地がボールを受けた高尾に激しいプレッシャーをかけた。

 

『なっ!?』

 

秀徳ベンチ、中谷は思わず立ち上がり、選手達は声を失う。

 

『オールコートゾーンプレス!?』

 

花月が仕掛けたオールコートゾーンプレスに、会場中が驚愕に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

先程のタイムアウト、花月のベンチ…。

 

『綾瀬のおかげで緑間を疲弊させる事に成功した。ここからは恐らく、秀徳はオフェンスでは時間をかけて確実に得点を奪い、ディフェンスではゾーンでインサイドを固めてくるだろう。…神城、綾瀬、まだ走れるな?』

 

『当然』

 

『もちろんです』

 

『相手のオフェンスに切り替わったら仕掛けろ』

 

『『はい!』』

 

『正念場だ。苦しいだろうが、そんなものは毎日味わってきたはずだ。俺がお前達をしごいてきたのはこの時の為だ。後9分、走り切れ!』

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「くっ……くそっ…!」

 

空と大地の2人がかりのプレッシャーに高尾はどんどんコートの隅に追いやられてしまう。

 

 

―――バチィィッ!!!

 

 

ボールキープが出来なくなり、ボールは弾かれ、奪われてしまう。

 

「よし!」

 

ルーズボールを大地が拾いそのままリングに向かって跳躍。

 

「決めさせるか!」

 

そこへ、支倉がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

支倉がブロックに現れると、大地は1度ボールを下げ、ブロックをかわし…。

 

 

――バス!!!

 

 

そこからリングに背を向けたままボールを放り、ダブルクラッチで得点を決めた。

 

「何て奴等だよ…」

 

ボールを拾った宮地の表情が驚愕に染まる。試合終盤。疲労がピークのこの時間帯でオールコートゾーンプレス。ましてや、花月はこの試合既に相当な距離を走っている上に空と大地はもう2試合分は走っている。

 

「…ちっ」

 

宮地がスローワーとなった瞬間、天野が目の前で両腕を広げながら立つ。パスターゲットを探す宮地だが、高尾以外にフリーの選手がおらず、5秒が経過する前にやむを得ず高尾にボールを渡す。同時に空と大地が再びプレッシャーをかけた。

 

「ハッ! この程度の事でおたおたしてるようじゃ、秀徳のポイントガードは務まらねえんだよ」

 

ボールを受けた高尾はすぐさま宮地にボールを戻し、前に走る。同時にフロントコートから支倉が戻ってきて、宮地がすかさずそこへパスを出した。

 

『ダブルチームが突破されたぞ!』

 

『ゾーンプレスが破られた!』

 

ボールを受けた支倉は走ってきた高尾に手渡しでボールを渡した。

 

「そんな付け焼き刃のゾーンプレスが2度も通用するかよ」

 

鼻で笑いながらボールを受け取った高尾がドリブルを始める。

 

「ちっ、止める」

 

そこへ、松永が両腕を広げて立ち塞がる。それと同時に高尾はノールックビハインドパスでボールを横に流す。そこへ走ってきた木村がボールを受け取り、そのままリングに向かってドリブル。リング手前でレイアップの態勢に入った。

 

 

「オールコートゾーンプレスは強力な反面突破されればたちまち失点に繋がる諸刃の剣。普通ならな」

 

腕組みしながら試合を見守る上杉。

 

「なっ!?」

 

その瞬間、木村の表情が驚愕に染まる。リングにボールを放った瞬間、そのボールを叩き落とそうする1本の腕が現れたからだ。

 

「例えゾーンプレスを突破されても、シュート態勢に入る前に追いついてしまう化け物がいるウチにはそんな常識は通用しない」

 

 

「神城!?」

 

ブロックに現れたのは空。空はレイアップを木村より早く、そして高く回り込んだ。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

手から放れたボールを空が叩き落とした。

 

「くっ! ルーズボール、抑えろ!」

 

宮地が叫び、高尾がボールに向かって走り込む。ボールを先に抑えたのは…。

 

「ナイス、大地!」

 

ボールに向かう高尾を追い抜いた大地が先にボールを掴んだ。そして、ブロックと同時に前へと走った空にボールを渡す。

 

「くそっ、行かせるかよ1年坊!」

 

フロントコートに入り、スリーポイントライン目前のところで宮地が空の前に立ち塞がった。その後ろにすぐにヘルプに行けるポジションに支倉がいた為、空は無理に突っ込まず、ボールを止めた。その間に、他の秀徳の選手が戻り、2-3ゾーンを布いた。

 

「お前が化け物染みたスタミナの持ち主だってのは理解したよ。けどな、これ以上は何もやらせねえ。お前のスピードにももう慣れた。次は止める」

 

ディフェンスが高尾と入れ替わり、高尾が腰を落として空の動きに備える。

 

「ふーん、そう…」

 

ここで空が右手から左手へとボールを切り返し…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、止めてみろよ。俺のマックススピードを…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「えっ?」

 

その瞬間、高尾の横を風が抜けたかのように空が1歩で横に並び、2歩目で駆け抜けた。ディフェンスをしていた高尾は棒立ちのまま一切反応する事が出来なかった。

 

「っ!? 囲め! これ以上行かせるな!」

 

一瞬驚くも宮地がすぐさま指示を出し、空の動きに対応する。切り込んだ空に宮地、木村がチェックに入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこから高速のスピンムーブ。包囲網を突破した。突破した所で空がボールを持って跳躍。

 

「くそっ!」

 

慌てて支倉がヘルプに飛び出し、ブロックに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

空はリングから離れた所でレイアップの構えでボールをふわりと浮かせるようにリングに放った。ボールは支倉のブロックの上を弧を描くように超え…。

 

「スクープショット!?」

 

支倉は自身の両手の上を越えるボールを見上げながら目を見開く。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

吸い込まれるようにリングの中央を射抜いた。

 

『うおぉぉぉぉっ! ゾーンを突破して決めたぁっ!!!』

 

空のビッグプレーに観客が沸き上がる。

 

「何だよ今の……今までのは全速じゃなかったってのかよ…」

 

最初に抜かれた高尾が茫然と立ち尽くす。

 

「最初の勝負以降、俺は少しずつスピードを下げて戦っていた。あんたがギリギリ対応出来ないまでにね」

 

「っ!?」

 

すれ違い様に空が高尾に語り掛ける。

 

「考えたら分かるでしょ? 40分って長丁場の試合で最初から最後まで全速で走ろうとする奴がいたとするなら、そりゃ単なる馬鹿だ」

 

高尾の横に並んだ所で空が足を止める。

 

「俺達はおたくと違って全学年合わせても登録メンバーギリギリの12人しかいない。何故だか分かるか?」

 

「あん?」

 

突然空から尋ねられ、怪訝そうな表情で返す高尾。

 

「厳しい練習に付いていけねえからさ。過去にも経験者、体力自慢、果てはそれなりにバスケで鳴らした奴が花月のバスケ部に来た。けど、厳しい練習に耐えられなくて残ったこの12人だけだ」

 

「…」

 

「そういや、さっき俺に言ったよな。頑張ればユニフォームを貰えるお前らとは違う、だっけ? なら今度はこっちが言ってやる。あんな大人数が残っちまうような温い練習しかしてないおたくとは鍛え方が違うんだよ。身体も、心もな」

 

「っ!?」

 

空の睨み付けるような表情で告げられ、高尾は僅かに圧倒された。

 

「肝に銘じておきな、おたくのへばったエース共々な」

 

そう告げ、空は自陣へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……ここまで散々走りまくった挙句にオールコートゾーンプレスに突破されてから追い付いちまうスピード」

 

「…だんだん征ちゃん達(キセキの世代)より化け物に見えてきたわ」

 

空と大地の衰えないスピードと運動量に葉山と実渕も表情が引き攣った。

 

「おっ? 花月がゾーンプレスをやめたぞ」

 

自陣に戻る花月の選手達を見て根布谷が言った。

 

「失点を防いだとはいえ、ゾーンプレスを抜かれたからね。これ以上続けるのは愚策だ」

 

状況を見て赤司が口に出す。

 

「(…チラッ)」

 

赤司が辺りを見渡す。

 

「秀徳は早く何か手を打つ事だ。そうでないと、秀徳最大の不安要素が顔を出す事になる」

 

意味深に赤司がボソリと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが秀徳に変わる。指示どおり、ボールを回し、時間をたっぷり使いながらチャンスを窺う。

 

「あっ!?」

 

ボールがローポストの支倉に渡り、再びインサイドプレー……と見せかけて、外にパスを出した。そこには、木村のスクリーンのおかげでフリーになった緑間がおり、ノーマークでボールを受け取った。

 

「…くっ…!」

 

緑間はスリーポイントラインの僅か外でシュートを放つ。その際、若干表情を曇らせた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに触れる事なく中央を潜った。

 

『うわー! ここでのスリーは痛い!』

 

観客が頭を抱えた。

 

「(…ですが、今のは打点もボールのループ低かった。かなり消耗している事は間違いないなさそうですね)」

 

緑間の様子を見て、大地は冷静に分析した。

 

オフェンスは、花月へと切り替わる。空がフロントコートまでボールを進め、スリーポイントラインの手前でボールを止める。秀徳のディフェンスは変わらず2-3ゾーン。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がドライブで切り込み、ペイントエリアに侵入する。そして、包囲が始まる前に右アウトサイドにパスを出した。ボールは大地に渡る。

 

「行きます」

 

空の切り込みによって出来たスペースに大地がドリブルで切り込む。そこへ、緑間が現れる。

 

「これ以上調子には乗らせないのだよ!」

 

必死の表情で緑間がディフェンスに臨む。大地は緑間が現れると左右に切り返し、ゆさぶりをかける。

 

「(さすがにディフェンスは上手い。ですが、下半身の動きが明らかに鈍い。今の緑間さんなら私でも…!)」

 

ここで大地が重心を後ろへと移す。

 

「(バックステップか!)」

 

下がる大地の対応する為、緑間が前に出ようとする。だが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地は重心を後ろに下げた態勢でドライブを仕掛けた。

 

「(くっ、ロッカーモーションか!)」

 

横を抜ける大地を緑間が追いかけようとするが。

 

「っ!?」

 

その瞬間、緑間の脚から力が抜け、その場で尻餅を付いてしまう。

 

『抜いたぁぁぁっ!!!』

 

緑間を抜いた大地はそのままリングに向かっていく。

 

「止める! これ以上は…!」

 

「何度も決めさせるかよぉっ!!!」

 

支倉と宮地が2人がかりでチェックに入った。大地はシュートフェイクを入れ、2人がそれにかかってブロックに飛んだ所で逆サイドにパス。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

ボールは左アウトサイド、エンドラインギリギリに立っていた生嶋に渡った。

 

「そいつはもう何も出来ねえ! 落ち着いてボールを奪いに行け!」

 

宮地から指示が飛ぶ。

 

「腕は動く、リングは……そこだね…」

 

よろよろとした動きでボールを構え、生嶋はボールを放った。

 

「入るわけねえ、あんなヨレヨレの構えで…!」

 

リバウンドに備え、宮地と支倉がスクリーンアウトを取る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールがリングに掠る事なく潜り、言葉を失う宮地。

 

「ええで、イク!」

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

天野に労われた生嶋は、そっと拳を握った。

 

『いいぞ花月!』

 

『頑張れ花月!』

 

花月の奮闘に、観客から声援が上がり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「火神君、急いで下さい」

 

「わーってるよ」

 

会場前の誠凛の黒子テツヤがチームメイトの火神大我を急かす。

 

「信じられません。ウインターカップの試合を見に行こうって言った張本人が寝坊するとか。おかげで待ち合わせをしていた僕も遅刻です」

 

「悪かったって! 今日練習休むから昨日の夜今日の分トレーニングしたらつい…」

 

「言い訳は聞き飽きました。キビキビ歩いて下さい」

 

理由を説明する火神に対し、黒子は淡々と話、足を進める。その後を火神が付いていく。

 

「(秀徳の相手は花月か。夏に見た限り、三杉と堀田がいない花月に苦戦するとは思えねえ。恐らく20点差…もしかしたら30点…)」

 

やがて2人は会場内に辿り着く。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

2人が会場に辿り着いた瞬間、会場中に歓声が響き渡る。

 

「おっ、まだ試合は終わってないな。先輩達は――」

 

「っ!? 火神君、あれを見て下さい!」

 

突如、黒子が血相を変えて電光掲示板を指差した。

 

「どうしたくろ――っ!? …うそ…だろ……」

 

電光掲示板を見た火神が目を見開き、言葉を失う。

 

 

第4Q、残り3分17秒。

 

 

花月 107

秀徳 113

 

 

「6点差? たった?」

 

想像を遥かに下回る点差であった為、驚きを隠せない火神。その時、電光掲示板の数字が動く。

 

 

花月 110

秀徳 113

 

 

花月の数字が3点加算される。コート上を見ると、右アウトサイドのスリーポイントラインの外側で拳を握る空の姿があった。

 

「先輩! いったい何が…!」

 

日向達を見つけた火神が駆け寄る。

 

「遅ぇーぞ火神。…どうもこうも見たままだ。第4Q入って突然緑間が失速して、瞬く間に花月が20点近くあった点差を詰めやがった」

 

遅刻してきた火神を叱りつつ日向が状況を簡潔に説明した。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでブザーが鳴る。秀徳がタイムアウトを申請し、それが今コールされた。

 

『ハァ…ハァ…』

 

秀徳の選手達は、息を切らしながらベンチへと下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「よっしゃー! 3点まで詰めたぞ!」

 

ベンチに辿り着くと同時に空がガッツポーズで喜びを露わにした。

 

「喜んでないでさっさと座って呼吸を整えなさい!」

 

喜びまわる空を姫川が無理やりベンチに座らせ、タオルとドリンクを渡した。

 

「ええ調子やで。第4Qに入って緑間の得点は確実に減った。あの調子じゃ、打てる弾数も残り僅かなのは確実やろ」

 

足が止まりかけている緑間を見て天野が笑みを浮かべる。天野の言葉に選手達の表情も綻ぶ。

 

「静まれ」

 

その時、決して大きい声ではないが、よく通る声で選手達に向けて言った。

 

「もう勝ったつもりか? まだ試合は終わってない。ましてや、こっちはまだ負けてるんだ。その事を忘れるな」

 

諫めるような上杉の言葉に選手達の表情が引き締まる。

 

「最後まで足を止めるな。試合終了まで走り抜け」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウトが終了し、選手達がコートに戻ってきた。

 

『点差はたった3点。これはもしかしたら…』

 

『三杉と堀田がいないから大した事ないかと思ってたけど、花月もやるじゃん』

 

『この調子なら番狂わせもあり得るぜ』

 

『ここまで来たなら勝っちまえ!』

 

『頑張れ花月!』

 

選手達がコートにやってくると、会場中が花月の応援一色に染まる。

 

『かーげーつ! かーげーつ!』

 

『っ!』

 

会場中から発せられる花月コールに秀徳の選手達の表情が曇った。

 

 

「スゲーな、観客のほとんどが花月の味方だぜ」

 

会場の熱気に根布谷が圧倒される。

 

「これが俺の言った、秀徳の3つ目の不安要素だ」

 

「えっ? どういうこと?」

 

答えが分からない葉山は赤司に聞き返す。

 

「この試合、秀徳先行で試合が進む事は分かっていた。点差がある程度付くことも。花月が秀徳を追い詰める事があるとすれば、開いた点差を一気に詰める展開だ」

 

『…』

 

「緑間のいる秀徳と三杉と堀田がいない花月ではどう見ても花月が格下に見える。そんな花月が開いた点差を一気に詰めて逆転可能な所まで来たなら…」

 

「ジャイアントキリングって奴ね」

 

「そうだ。番狂わせってのは見る者を熱くさせる展開だ。つい応援したくなる。ここからは、花月には声援が送られるだろう。声援が選手に与える影響は大きい。それは、お前達も良く理解しているだろう?」

 

「「「…」」」

 

実渕、葉山、根布谷の3人が険しい表情をする。洛山は昨年のウインターカップの決勝で、誠凛絶体絶命の状況で会場中が誠凛の応援に回り、誠凛の選手達は力を貰い、逆転のきっかけとなった。応援が選手に与える影響をよく理解していた。

 

「秀徳は苦しい状況になる。このまま流れを変えられないのなら、秀徳の敗北は決定する」

 

予告するように赤司は呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地のミドルシュートがリングを潜った。

 

「ナイッシュー大地!」

 

得点を決めた大地に空が笑顔で駆け寄った。

 

『キタ、1点差だ!』

 

『いいぞー、頑張れー!』

 

会場中から花月を労う声援が送られる。

 

『…っ!』

 

失点を喫し、花月に送られる声援に秀徳の選手達の精神は確実に削られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「何やってんだよ緑間の奴…!」

 

確実に縮まる点差を見て、火神は苛立ちを露わにする。

 

誠凛と秀徳は、ウインターカップ出の最後の枠を賭けて戦った同士であり、火神と緑間は互いに認めたライバル同士である。試合は僅差で秀徳が勝利し、ウインターカップ出場の最後の席を獲得した。

 

この結果に火神は悔しさは残るが、全力を尽くした結果である為、納得しており、秀徳には1つ多く勝ち上がってほしいと願っていた。

 

だが、今この状況に火神は苛立ちを隠せないでいた。火神から見て花月は格下という認識であり、秀徳が他のキセキの世代がいる高校に負けるなら納得出来るが、格下の花月に負けるのは納得出来なかった。

 

「…」

 

その隣に立つ黒子は、真っすぐコートを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(どうして、こうなった…)」

 

緑間が疲弊し、倍にも感じる身体で走りながら自問自答をする。

 

緑間は決して花月を侮っているつもりはなかった。試合途中、上手く行き過ぎている状況に1度は疑問を抱いた。だが、自分達の方が優れているのでこの状況は必然。例え相手が何を企んでいようと、逆転不可能な程点差を付けてしまえば一緒だと考え、思考を止めてしまった。

 

「(今日程、自分自身に腹が立った事はない)」

 

今、この状況を招いたのは自分自身にあると考える緑間は、自身への苛立ちを隠せないでいた。この状況を何とかしたいと考えるが、身体は鉛のように重く、思い通りに動かない。

 

「(くそっ…!)」

 

重い身体、会場中から発せられる花月コールに緑間の心に影が現れ、視線が下へと向いてしまう。

 

「(負けるのか…)」

 

こんな言葉が頭の中をよぎったその時!

 

『緑間君!』

 

『緑間!』

 

突如、自身を呼ぶ声が緑間の耳に届いた。直感的にこの声はチームメイトのものではないと理解する。顔を上げ、観客席の一角に視線を向けるとそこには…。

 

「…黒子!」

 

視線の先には、苛立った表情で自身を見つめる火神と、真っすぐ自身を見つめる黒子の姿があった。

 

「(…忌々しい奴等だ)」

 

自身と対等の才能を持ち、相性の悪さから何度も煮え湯を飲まされたライバル、火神大我と、決して1人では何も出来ない。それでも試合では頼りになり、人事を尽くして最後まで試合を諦めない黒子テツヤ。

 

不思議と、2人の視線を浴びた緑間の身体に力が沸いてきた。

 

「こい!」

 

緑間が顔を上げ、ボールを持つ高尾にボールを要求した。

 

「真ちゃん…」

 

必死の表情でボールを要求する緑間に一瞬戸惑うも高尾は緑間にボールを渡した。それと同時に大地がチェックに入る。

 

「(ここを止めて逆転に繋げれば勝利を呼び込めます。ここは止めてみせます!)」

 

勝負所であると考えた大地は集中力を高めてディフェンスに臨む。

 

「(やる気みたいだが、足が止まった状態で大地をかわせるかよ。ボールを奪ったらフロントコートに走って逆転を狙う!)」

 

空はディフェンスをしつついつでも走れるよう心掛ける。

 

しつこくプレッシャーをかける大地。

 

「(…ギリッ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

緑間は歯をきつく食い縛りながらドライブで大地の横を抜ける。

 

「っ!? 速い!」

 

想定しなかった突然の緑間のドライブとそのスピードに大地は目を見開いた。大地を抜いた緑間はそのままリングに向かってドリブルをしていく。

 

「これ以上は行かせん!」

 

そこへ、松永がヘルプに現れた。

 

「(…チラッ)」

 

松永が現れると、緑間は視線をリングに向けた。

 

「(打つのか!?)」

 

それを見て松永はミドルシュートを警戒する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、緑間は松永をバックロールターンでかわした。

 

「突然やる気出したやないか!」

 

松永が抜かれたのを見て天野がヘルプに向かう。

 

 

 

 

 

――サルでも出来るダンク応酬。運命に選ばれる訳がない。

 

 

 

 

 

かつて、誠凛に負けた黄瀬に向けて放った自身の言葉。今でもその言葉は間違っていないと思っている。

 

ここで緑間はボールを持って跳躍した。

 

 

 

 

 

――君のスリーは確かにすごいです。けど、僕はチームに勢いをつけたさっきのダンクも点数以上に価値のあるシュートだと思います。

 

 

 

 

 

始めて誠凛と戦った際、自分の上からダンクを決めた火神を決められた時に黒子が自分に向けて放った言葉。

 

「決めさせへんでぇっ!」

 

天野がブロックに飛ぶ。

 

「(忌々しい…忌々しい…! ……だが!)おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

緑間はボールを左手に持ち替え…。

 

 

 

 

 

――バキャァァァァァァァァッ!!!!!!

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

天野の上からボールをリングに叩きつけた。

 

『…』

 

静まる会場。ボールがコートに落ち、続いて緑間がリングから手を放し、コートへと着地する。

 

『おっ…』

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

会場がこの日1番の歓声に包まれる。

 

「もう勝った気でいるのか? まだ試合は終わってないのだよ」

 

ここで緑間が振り返る。

 

「絶対に負けん。勝つのは、俺達だ!」

 

緑間が花月の選手達に向けて言い放ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー間に合って良かったです…(^-^;)

ここからここまで書こうと決めていたんですが、いざ書いてみたらここまでのボリュームになってしまいました。

やり切りました。後は年越しを待つだけです。

来年は、もっと投稿ペースを上げたいなぁ…(遠い目)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第77Q~新しい可能性~


投稿します!

新年1発目の投稿となります。

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り2分58秒。

 

 

花月 112

秀徳 115

 

 

1点差にまで詰め寄られた秀徳だったが、緑間が単独で大地、松永を抜きさり、ブロックに来た天野の上からダンクを決め、点差はタイムアウト前の3点差にまで戻った。

 

現在、ボールは空が運んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「驚きました」

 

緑間のダンクを見ていた黒子が徐に口に出した。

 

「驚いたって、さっきのダンクにか? 確かにあいつのダンクをしている所は見た事ねえが、あの身長と高さなら別に余裕で出来るだろ」

 

195㎝の身長がある緑間。その彼ならダンクなど問題なく出来ると言う火神。

 

「彼がダンクをしている姿を僕は帝光時代から1度も見た事がありません」

 

中学時代から同じ帝光中に所属していた黒子。その黒子ですら緑間のダンクを見た事がなかった。

 

「緑間君はスリーへのこだわりはかなりものです。ワンマン速攻の時でさえスリーを打つ程に。ですが、ダンクに対しては、そのこだわり以上に嫌悪感を持っていました」

 

「…」

 

「そんな緑間君がダンクを決めた。緑間君をよく知っている人は驚きを隠せないと思います」

 

黒子の言う通り、現在会場で見ていた赤司も驚きを隠せないでいた。

 

「だが、その甲斐はあったと思うぜ。見ろよ。さっきまで花月一色だった会場が秀徳の応援が聞こえるようになった。何より、これで流れが変わったはずだ」

 

火神の言う通り、花月一辺倒だった観客だったが、緑間のダンク直後から秀徳の応援を始める者が現れ始めていた。そしてこれがきっかけで、試合は熾烈なクライマックスに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がゾーンディフェンスの中に切り込む。同時に秀徳ディフェンスがゾーンを狭め、空を包囲にかかる。

 

「分かってるよ!」

 

だが、空は包囲される前にボールを右へと出す。そこへ大地が走り込み、ボールを受け取る。

 

「よし!」

 

ボールを受け取るのと同時に大地はレイアップの態勢に入った。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、ボールは横から伸びてきた手によって叩かれた。

 

「決めさせないのだよ!」

 

レイアップをブロックしたのは緑間。必死の形相で失点を阻止した。

 

「いいぞ緑間!」

 

ルーズボールを支倉が抑え、すぐさま高尾にボールを渡す。花月のオフェンスは失敗し、秀徳のオフェンスに切り替わる。

 

「くそっ、戻れ! ディフェンスだ! 絶対止めるぞ!」

 

自陣に急いで戻りながら空が声を張り上げる。持ち前のスピードでワンマン速攻を阻止し、花月はディフェンスを整える。

 

「さて……って、考えるまでもないか。いいぜ、存分にやれよ……真ちゃん!」

 

スリーポイントラインの外側でボールをキープする高尾。どう攻めるか一瞬考えるも、目でボールを要求する緑間にパスを出した。

 

「行くぞ」

 

目の前でディフェンスをする大地にそう告げると、緑間はドリブルを始める。レッグスルーでボールを右から左へと切り返すと、大地もそれに対応する為に緑間を追いかける。その瞬間…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

レッグスルーで切り返した事で大地の身体の重心が右足に乗った。そこを狙い、ボールを股下を通過するのと同時に膝を曲げ、重心を下げ、すぐさまボールを左手に収め、直後にクロスオーバーで逆に切り返すのと同時に加速。大地を一気に抜きさった。大地を抜くのと同時にシュート態勢に入る。

 

「打たせるか!」

 

そこへ、松永がブロックに現れる。だが…。

 

「くっ!」

 

緑間はフェイダウェイシュートで松永のブロックをかわしながらボールを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を綺麗に潜り抜けた。

 

「ナイスだ緑間!」

 

得点を決めた緑間の頭を宮地が掴みながら得点の功を労った。

 

 

「すごい。ここに来て緑間の動きが良くなった」

 

緑間の連続得点とブロックを見ていた秀徳ベンチの選手が驚愕する。

 

「精神が肉体を凌駕し始めたか…」

 

奮闘する緑間を見て中谷はそう呟いた。

 

 

オフェンスは変わって花月。空がボールをフロントコートまで運ぶ。ここで攻撃を失敗すると残り時間を考えても命取り。その為、得意のラン&ガンは控え、慎重にボールを進めた。

 

『…っ!』

 

ここを止め、決定打を決めたい秀徳は疲労はあるにも関わらずこの試合1番の集中力を発揮する。

 

「…」

 

秀徳の気合を一身に浴びる空。空が取った行動は…。

 

「なに!?」

 

突如、空はシュート態勢に入った。空の立つ場所はスリーポイントラインから1メートル程離れている。一見すれば無謀とも言える。

 

「くそっ!」

 

高尾が慌てて距離を詰め、ブロックに飛ぶ。打たせても良さそうな所だが、タイムアウト前に決められた記憶が高尾をブロックに向かわせた。

 

「くっ!」

 

ここで木村もヘルプに飛び出し、ブロックに向かう。空と高尾では高さのミスマッチが生まれてしまう為、やむを得ない状況であった。距離があり、スリーを打つのに溜めが必要だった為か、木村のヘルプが間に合い、空のシュートコースを塞いだ。

 

「…」

 

空は高尾と木村の2枚のブロックが現れると、リングではなく、真横、右にボールを落とした。そこへ立っていた生嶋がボールを掴む。

 

「お前には打たせねえ!」

 

素早く宮地が生嶋のチェックに向かう。だが、生嶋はシュートを打たず、ハイポストの天野にパスを出した。天野がボールを受けると支倉がチェックに入る。天野は背中に張り付かれる前にボールを左へとトス。そこへ大地が駆け込み、ボールを受け取りそのままレイアップ。

 

「…っ!」

 

だが、ここに再び緑間がブロックに現れた。

 

 

『うわー! 緑間高ぇー!』

 

花月の得点チャンスと思われただけに観客席から悲鳴が響く。

 

 

「…」

 

それでも大地は動じず、冷静にレイアップを中断してボールを下へと落とす。

 

「ナイスパスだ!」

 

 

――バス!!!

 

 

ゴール下に立っていた松永がボールを受け取り、落ち着いてゴール下を決めた。点差は3点に戻る。

 

「ドンマイ! もう1本取るぞ!」

 

宮地がすぐさまボールを拾い、高尾に渡す。再びボールをフロントコートまで運ぶと、高尾は迷わずボールを緑間に渡す。そこへ大地がディフェンスに入る。

 

「…」

 

ボールを受け取った緑間は僅かにバックステップをし、視線をリングに向けた。

 

「(まさか、打つのですか!?)」

 

打たせまいと大地が距離を詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、それに合わせて緑間が発進。大地の横をドライブで切り込む。

 

「(くっ! スピードや加速力こそ空や青峰さんに劣りますが、このドライブの切れ味は…!)」

 

不意を突かれた所に切れ味鋭いドライブを仕掛けられ、大地は抜かれてしまう。緑間はそのまま切り込むと、ボールを掴んでそのままリングに向かって跳躍。

 

「これ以上は決めさせん!」

 

失点を阻止する為、松永がブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

だが、松永がブロックに現れると緑間はボールを下げ、そのブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックをかわした直後、再びボールを構え、ボールをリングに放り、得点を決めた。

 

 

『スゲー! ダブルクラッチだ!』

 

絶妙なダブルクラッチに再び観客が沸いた。

 

 

「っ!? ディフェンスだ!」

 

得点を直後、緑間が目を見開いて声を出した。秀徳の選手達が振り返ると、空がフロントコートに猛ダッシュをしていた。すぐさまボールを拾った天野が走る空目掛けて大きなロングパスを出した。

 

 

――バス!!!

 

 

先頭を走る空。ましてや不意を突かれた秀徳の選手達が空に追いつけるはずもなく、悠々とレイアップを決めた。

 

「よっしゃ、今度こそ止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

猛ダッシュで速攻に走ってレイアップを決めた空はすぐさま転身して自陣に戻り、ディフェンスに備えた。

 

「…」

 

ボールをフロントコートまで進めた高尾はゆっくりドリブルをしながらゲームメイクを始める。

 

「気合入ってるねぇ。…止められるもんなら止めて見ろよ」

 

ここで高尾はパス。ボールの先はもちろん…。

 

『キタ! 緑間だ!』

 

ボールが緑間の手に収まり、観客は沸き上がる。

 

「(今度こそ止めてみせます!)」

 

心の中で強く決意した大地は。集中力を最大にして緑間の挙動に備える。

 

「…」

 

スリーポイントラインの外側でボールを受けた緑間。牽制の為、小刻みにボールを動かし、揺さぶりながらチャンスを窺う。大地もそれに反応し、抜かせまいと腰を落としてドライブを警戒。

 

「……おいおい良いのか? ボール持ってんのが誰なのか忘れたのか?」

 

不意に高尾が笑みを浮かべた。

 

「っ!? しまった!」

 

突如、シュート態勢に入った緑間。血相を変えた大地が慌てて距離を詰め、ブロックに向かった。

 

「っ!?」

 

だが、一足遅く。大地のブロックは間に合わず、緑間はボールを放った。放たれたボールは高々と舞い上がった。

 

『っ!?』

 

花月の選手全員がリングへと視線を向ける。ボールを放った緑間はコートに着地すると放ったボールの結末を見届ける事なく振り返り、自陣へと足を進めた。右手でメガネのブリッジを押し上げ、左手はそっと拳を握った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは外れる事なくリングの中心を潜った。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

沸き上がる観客。

 

「くそっ、ここに来て息を吹き返してきたか…」

 

「あかんわ。点差が広まってもうたわ」

 

試合終盤に来ての緑間の躍動に花月の士気も落ちかける。今の1本はそうなるのも仕方がない程のものだった。

 

「確かにきついけど、そんな事は分かり切った事だろ?」

 

絶望の影が過る花月の選手達の中、空だけが1人顔を上げて言った。

 

「相手は10年に1人の化け物だ。俺達とは格が違うかもしれない。けど、それが分かってて俺達は花月に入って、今この場に立っているはずだ」

 

『っ!』

 

「ここまで来たら天才も凡人もない。がむしゃらに勝ちに行くだけだ。だろ?」

 

決して絶望せず、希望の眼差しで放つ空の言葉に、過りかけた絶望の影が希望の光へと変わっていった。

 

「……せやな」

 

「そうだね」

 

「そのとおりだ」

 

再び希望の灯った眼差しで天野、生嶋、松永が空の言葉に応えた。

 

「行くぜ大地。2年前のあの日の誓い、ここで果たすぞ」

 

あの日の誓い…。初めて帝光中の試合……キセキの世代を目の当たりにした時、彼らを倒そうと願った2人の誓いだ。

 

「ええ。勝ちましょう。ここにいる皆で!」

 

大地も空の言葉に賛同した。空の言葉によって、花月の下がりかけた士気が上がり、全員が顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…スゲーな」

 

緑間の奮闘に葉山が冷や汗を掻いていた。

 

「緑間がスリーだけの選手じゃない事は分かっていたが、ここまでとはな…」

 

根布谷も同様であった。

 

「決してあの坊や(大地)のディフェンスが悪い訳ではないわ。正確無比のスリーをちらつかされて上であのレベルのドライブを来られたらまず止められないわ」

 

同ポジションである実渕も緑間のプレーに驚愕していた。

 

「緑間のバスケの中心にあるものはやはりスリーだ。緑間にとって、全てのテクニックはスリーを生かす為、スリーを打つ為のものだった。だが、今はそのスリーを楔にして積極的に点を取りにいっている」

 

『…』

 

「花月に追い詰められ、自身への憤りから勝つ為にこだわりを捨て、がむしゃらに点を取りに行こうとした結果が今の姿なのだろうが、こんな姿は俺も見た事がない」

 

赤司は腕を組みながら淡々と言葉を口にしていく。

 

「だが、今の姿は付け焼き刃と呼ぶにはあまりにも強力だ。もしかしたら、この姿こそが、緑間という選手の完成形なのかもしれない」

 

「完成形…」

 

思わず実渕がオウム返しのように口にした。

 

「今の緑間は同じキセキの世代や同格の火神でさえ止めるのは至難の業。正直、さっきまで花月がこのまま押し切って勝利すると予想していたが、あのダンクで試合の流れも押し戻した。もはやこの試合、どちらに軍配が上がるか誰にも予想出来なくなった」

 

試合の有無は神のみぞ知る。既に結果の予想は赤司の手を離れたと宣言する。

 

「けど、さっきのスリーで6点差だぜ。残り時間も僅か。決まりじゃない?」

 

2本のカットインを布石に決めたスリーによって点差は6点に開いた。この事から葉山は秀徳勝利と断言する。

 

「進化しているの緑間だけではない。花月も、今この瞬間にも進化しようとしている。もし、彼らがまた進化したなら…」

 

ここで赤司は言葉を止めた。実渕、葉山、根布谷はあえて赤司に聞く事はなく、試合の結末を見届ける事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り1分17秒。

 

 

花月 116

秀徳 122

 

 

ボールをキープするのは空。慎重にゲームメイクをしている。

 

「…」

 

点差は6点。残り時間を考えても1本でも取りこぼせば敗北は確定。失点をしても同様。

 

「……よし」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して空がクロスオーバーで切り込む。高尾も空のリズムを読み、ホークアイを駆使して食らい付く。進路を塞がれると空はそこでボールを掴んだ。

 

「(打つのか!?)」

 

ミドルシュートを警戒する高尾。ボールを掴んだ空はシュート……ではなく、ビハインドパスをハイポストに立つ天野に出した。それと同時に反転してボールを渡した天野の下へ走り、ボールを貰いに行く。空が天野の下に到達する直前、天野は身体をリングへと向けた。

 

「しまった!」

 

天野の背後に張り付いた支倉。天野のリングに身体を向ける動きに釣られ、走り込んできた空に手渡しでボールを受け取った空に対応出来なかった。ボールを受け取った空はそのままリングに向かって跳躍した。

 

「何度も何度もやらせるかよ!」

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

ここに、宮地が現れ、空の放ったボールに手を伸ばす。伸ばした手の指先をボールが掠める。

 

 

――ガン!!!

 

 

触れた事で軌道が僅かに逸れ、ボールはリングに弾かれた。

 

「「リバウンドォッ!!!」」

 

空と宮地が同時に叫んだ。松永、木村が一斉にボールに飛びつく。

 

 

――ポン…。

 

 

ポジションが悪かった松永だが、木村の背後から手を伸ばし、タップしてボールをリングに押し込んだ。

 

「よっしゃ、ナイス!」

 

空と松永がハイタッチを交わした。

 

「まだ慌てる状況じゃねえ。落ち着いて1本返すぞ!」

 

すぐさまボールを拾った宮地が高尾にボールを渡した。ボールを貰った高尾はゆっくりボールをフロントコートまで進めた。早く点差を縮めたい花月をしり目に、秀徳はボールを回し、時間を使いながらチャンスを窺っている。

 

「(落ち着け。向こうは24秒以内に確実に打ってくる。例え時間いっぱい使われても時間は十分にある。今やらなきゃいけないのはボールを奪う事じゃない、失点を防ぐ事だ)」

 

心を落ち着け、冷静にディフェンスに努める空。

 

「(…ちっ、焦ってボールを奪いに来るかと思えば、意外に冷静じゃねえかよ。…まあいい、だったら、こっちは確実に行くぜ)」

 

高尾が手を上げて合図を出すと、木村が大地にスクリーンをかけに動く。

 

「(緑間さんか!?)」

 

左アウトサイドに走る緑間。大地はスクリーンをかわしながら緑間を追いかける。だが…。

 

『っ!?』

 

その時、緑間が動いた事で空いたスペースに宮地が走り込み、ボールを要求。

 

「ちぃっ、緑間は囮かいな!」

 

その動きを察知した天野が宮地のチェックに向かう。ここで高尾がパスを出した。

 

「なっ!?」

 

高尾が出したボールの先は、宮地でも緑間でもなく、ゴール下に立つ支倉だった。

 

「何も確率が高いのは真ちゃんだけじゃないからな」

 

ニヤリと笑みを浮かべる高尾。支倉の背後に松永が立った。

 

この試合、大地がマークする緑間からの失点が目立っているが、その陰に隠れ、松永も支倉をほとんど止めきれていないという事実がある。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

支倉が背中で松永をジリジリと押し込んでいく。

 

「ぐっ! …ぐっ…!」

 

少しずつ押し込まれていく松永。

 

「これ以上……やられてたまるか!」

 

歯を食い縛り、腰をさらに落として踏ん張り、支倉の進軍を止めた。

 

『止まった!?』

 

「それを、待っていたぞ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

進軍が止まったのと同時にスピンターンで松永をかわし、そのままボールを掴んでリングに跳躍した。

 

「させるか!」

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

ボールをリングに叩きつける支倉。その前にブロックに飛んだ松永の右手が阻む。

 

「態勢が悪い。元々のパワーも支倉さんの方が上だ。そのまま押し込める!」

 

支倉の勝利を確信する木村。その言葉通り、少しずつボールはリングに押し込まれていく。

 

「ぐっ! がっ!」

 

ここでの失点は致命的。松永は懸命に粘りを見せる松永。

 

「(俺はこの試合、何をした…。神城はゲームメイクを果たした。綾瀬は緑間を失速させ、さらにチームを勢い付けた。生嶋は外を決め、ディフェンスを外へ広げ、チャンスを作った。天野先輩はリバウンドを制し、何度も失点を阻止した。対して、俺はこの試合で何を為せた…)」

 

松永は自問自答を繰り返す。

 

「(俺がこの試合でした事は、周りのお膳立てで得点をしただけだ。まだ何も為してはいない!)」

 

ブロックする右手に力が集まる。

 

「(俺はキセキの世代を倒すと決めて花月に来た。断じて倒してもらう為ではない!)」

 

押し込まれていた右手が徐々に押し返し始めた。

 

「(勝つんだ! 俺自身の力で! 俺は…、その為に花月に来たのだから!)おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バチィィィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

身体から力を集め、渾身の力で松永はボールをかきだした。

 

『なにっ!?』

 

得点出来ると思っていた秀徳の選手からは驚愕の声が漏れる。

 

「さすが、全中ベスト5は伊達じゃねえな!」

 

ルーズボールを空が抑えた。

 

「速攻!」

 

空の号令と同時に花月の選手達がフロントコートに駆け上がる。

 

「戻れ! 絶対死守するぞ!」

 

宮地が声を出し、秀徳の選手達は大急ぎで自陣に戻り、ディフェンスを構築した。

 

「行くぞ!」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

バックチェンジからのクロスオーバーでカットイン。

 

「行かせるかぁっ!」

 

高尾がこれに食らい付き、さらに木村、宮地が空を包囲にかかる。

 

 

――スッ…。

 

 

その瞬間、空はノールックビハインドパスで逆サイドにパスを出す。

 

「よし!」

 

ボールは大地に渡る。空が3人を引きつけた為、逆サイドは手薄。だが…。

 

「行かせん!」

 

大地の目の前には緑間が立っていた。1度は脚が限界を迎え、失速したものの、今はそれを感じさせない…どころかそれ以上の動きを見せている緑間。抜きさるのは容易ではない。

 

「(それでも、ここで私が点を取れなければ花月は負ける。何としてはここは私が…!)」

 

ここで大地はシュートフェイクを入れ、その直後、一気にバックステップで距離を取る。

 

「……くっ!」

 

だが、緑間はフェイクとバックステップを読み、距離を空けずに大地の動きに対応する。続けて大地は左右に連続して切り返し揺さぶりをかけるがそれでも緑間は崩れず、隙を見せない。

 

「(抜けない…! キセキの世代、ここまでなのですか…!)」

 

一向に抜く事が出来ず、大地の表情が曇り、顔に焦りの色が浮かび上がる。

 

「大地ーーーっ!」

 

その時、自身を呼ぶ声が耳に届く。先ほどパスを出した空がパスを要求していた。

 

「(空!)」

 

窮地とも言える状況に頼れる相棒の声。大地は迷わず空にパスを出した。

 

「(1人でどうにもならないなら、力を合わせて勝てばいい!)」

 

ボールを受け取った空はすぐさまリング付近にリターンパスのボールを放った。一方、大地はパスを出すのと同時に走っており、空のリターンパスを空中で掴んだ。

 

「…ちっ!」

 

大地を追いかける緑間だったが、スピードで劣り、さらに走り出しが遅れた為、ボールをスティール出来ず…。

 

 

――バス!!!

 

 

空中でボールを掴んだ大地はそのまま放った。ボールはバックボードに当たりながらリングの中央を潜った。

 

「よっしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

『くっ!』

 

失点を防げず、苦悶の表情を浮かべる秀徳の選手達。

 

「取り乱すんじゃねえ! こんなピンチ、何度も味わってきただろうが!」

 

気落ちする選手達の中、主将である宮地が激を飛ばす。

 

「次の1本、必ず決めるぞ。最後まで気を抜くんじゃねえぞ!」

 

『応!!!』

 

宮地の激により、落ちかけた士気が戻り、さらに闘志が生まれた。

 

「ここまで来たら実績も実力も関係ねえ! より勝ちたいと願った方が勝つ。だったら勝つのは俺達だ。最後まで走りまくるぞ!」

 

『応!!!』

 

司令塔である空の激に花月の選手達が大声で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

最終Q、残り1分を切った。両チーム共に限界間近。それでも気力を振り絞り、勝つ為に試合に臨んでいる。

 

もはや試合の結末は誰にも分からない。

 

点差は2点、秀徳ボール。この試合最後の攻防が、始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





新年を迎えて既に2週間。正月休みを満喫してしまった結果、執筆する時間が取れず…(^-^;)

さらにソシャゲのイベントが始まってしまい、現在それに熱中しています。何で常にかじりつかなきゃならないイベントばかりやるかね…orz

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第78Q~最後の1滴~


投稿します!

思った以上に速く書き終わりました!

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り32秒。

 

 

花月 120

秀徳 122

 

 

ボールは高尾がキープしている。花月は残った気力を振り絞り、懸命にディフェンスに臨んでいる。

 

「…」

 

冷静にゲームメイクをする高尾。このオフェンスを取りこぼすのは命取り。理由は、既に限界を超えている緑間の底力はいつまでも続く事はありえないし、限界間近なのは緑間に限った事ではなく、残りの4人もいつ限界が来るとも限らない状況だからである。

 

延長戦に突入すれば、空と大地がいる花月が断然有利であり、延長戦イコール敗北は必至。その為、秀徳は何としてもこのオフェンスを成功させてトドメを刺したい。

 

「…」

 

高尾はホークアイでコート上を観察しながらチャンスを窺う。まず、宮地だが、目の前の生嶋では止める事は出来ないだろう。だが、生嶋はこれまでどおり、ミドルシュートが打ちづらい距離を保ちつつ、宮地を味方のいる方へ抜かせてくるだろう。ここはリスクは高い。

 

「(なら、支倉さんは…)」

 

ローポストに立つ支倉。1番近くに立っているのは松永。実力差を考えればパスが通ればここは狙い目。だが、先ほど支倉はブロックされた。同じ事が2度も続くとは思えないが先ほど止められているだけにここで攻めるのは躊躇いが生まれる。

 

「(残りは真ちゃんか木村だが…)」

 

緑間は大地が徹底マークしている。スリーを決められれば敗北確定なのでこれは当然。木村はそもそも得点能力はそこまで高くない。中継して起点に使うのも手だが、今は適切なポジション取りが出来ていない。

 

「(……ハッ、ここまで来て隙なんざ見せる訳ねえよな。だったら、チャンスを作るだけだ!)」

 

覚悟を決めた高尾はパスを出す。

 

「よっしゃ!」

 

ボールは宮地に渡る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時に宮地は目の前の生嶋を抜きさる。直後、空が宮地の持つボールを狙いやってくる。

 

「分かってるよ。お前が来る事くらい」

 

抜いたの同時に宮地は木村にパスを出した。ボールを貰った木村はすぐさま宮地にリターンパス。リターンを受けた宮地はそのままリングに向かって突き進む。

 

「くそっ!」

 

ゴール下に迫る宮地を松永がチェックにいく。その動きに合わせて宮地が支倉にパスを出した。

 

「あっ!?」

 

松永がチェックに向かったしまった為、支倉はフリー。ボールを受けた支倉はそのままシュート態勢に入る。

 

「させるかぁぁぁぁぁっ!!!」

 

そこへ、空がブロックに現れる。身長差がある両者だが、空はそれをものともせず、驚異のジャンプ力でシュートコースを塞ぐ。

 

『うわー! 神城高ぇー!』

 

フリーと思われた所に現れた空。秀徳のオフェンスは失敗……と、思われたが…。

 

「っ!?」

 

ここで、支倉はシュートを中断。ボールを両手で掴み直し、パスに切り替えた。ボールはペイントエリアの僅か後ろでフリーで立っていた高尾へ。

 

「くっ!」

 

慌てて大地が緑間のチェックに向かう。

 

「これで終いだ」

 

ボールを受け取った高尾はシュート……ではなく、右上へと放り投げた。そこには、シュートの構えをしながら飛び上がる緑間の姿があった。

 

『ここで緑間かぁっ!!!???』

 

観客席から驚愕の声が上がる。

 

ここまでのは全て伏線。全ては、この1本の為の布石であった。

 

『いっけぇぇぇぇっ!!!』

 

秀徳の選手全員がこの1本に願いを込めた。

 

「そう来ると思たわ」

 

不意を突かれた花月の選手の中、天野だけが、平静を保っていた。

 

 

――秀徳がこの1本を誰で攻めてくるか…。

 

 

秀徳が本格的に動き出す前、天野はこれを考えていた。この1本を確実に決めてトドメを刺したい秀徳。

 

「(そら緑間しかないやろ。そこが1番確率が高いやろうからな。この状況で賭けにはでーへんやろ)」

 

緑間で来るとヤマを張っていた天野は、秀徳がボールを回している最中も緑間から警戒を解かなかった。万が一にも他で攻めてきても、味方が止めてくれる事を信じて。

 

「(緑間と高尾の空中装填式3P(スカイ・ダイレクト・スリーポイント)シュート。本来なら打たれた終いやが、今なら止められる!)」

 

まず、このスリーは高尾側から中断出来ても緑間側からは意識がシュートに向いている場合は中断が出来ない。パスを出してしまえば後は打つしかない事と疲労が祟っていつもよりタメが大きいこの状況。この2つが重なる今、天野でも止められる可能性がある。

 

「(高尾のパスは正確や。後はタイミングを合わせるだけや。普段なら届かん間に合わんこのスリーも、緑間から目ぇ放さんかった俺やからこそ止められる!)」

 

緑間が膝を曲げ、深く沈み込んだのを確認して飛び出した天野。タメが大きい為、多少の距離があっても追いつくだけの時間はある。しかも、通常のディフェンスと違い、助走を付けて跳躍が出来る為、通常より高く飛ぶ事が出来る。この状況下でスリーとブロックのタイミングが合えば…。

 

 

――チッ…。

 

 

緑間が空中で放ったボールに、天野の伸ばした右手の指先を僅かに掠める。

 

「なっ!?」

 

「触れた! 落ちるで! リバウンドや!」

 

驚く緑間。天野が声を張り上げる。

 

 

――ガン!!!

 

 

天野の言葉通り、ボールはリングに弾かれた。

 

「リバウンドォッ!!!」

 

宮地が声を出すのと同時にゴール下の空、松永、支倉、木村がリバウンド争いを始める。身長差、パワーで有利の秀徳がベストのポジションを取る。

 

『ダメだ! 天野がいないからリバウンドが取れない!』

 

観客席から悲鳴が上がる。

 

絶望的な状況。この時、空の頭にある言葉が過る。

 

 

――リバウンド争いで重要なんはボールを取る事やない。先にボールに触る事や。

 

 

以前、天野がポツリと言った言葉が。

 

「松永! お前は飛ぶな!」

 

咄嗟に空がこのような言葉を叫んだ。リバウンドを制する為にボールに飛びつく支倉と木村。それに僅かに遅れてボールに飛びつく空。高さでは競えるもののパワーで劣る空だが、他にも空が勝るものがあった。それは…。

 

「おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

後から飛んだ空が先に飛んだ2人にグングン迫る。ボールが支倉の手に収まる刹那…。

 

 

――ポン…。

 

 

空が伸ばした手がボールを弾いた。

 

「「っ!?」」

 

先にボールに触れられ、目を見開く支倉と木村。

 

 

「あれは、玲央姉のスリーを後から飛んでブロックした瞬発力!」

 

「っ!?」

 

観客席の葉山が立ち上がり、実渕が表情を曇らせた。

 

 

パワーで劣る空では高く飛べてもポジション争いで勝てず、リバウンドが取れない。だが、瞬発力が高い空なら遅れて飛んでも先に最高到達点に飛べる。なら、2人が飛んだ直後、すかさず絶好のポジションに移動して飛ぶ。これならポジション争いに勝てなくても関係ない。

 

「今だ!」

 

「応!!!」

 

空が弾いたボールを松永が抑えた。

 

 

――残り12秒…。

 

 

「走れぇー!!!」

 

空が松永からボールを受け取り、フロントコートに突き進む。

 

「死守だ! 絶対死守しろ!」

 

ベンチから中谷が声を張り上げる。最後の力を振り絞り、秀徳は全速力で自陣に戻り、ディフェンスを構築する。

 

「絶対止めてやる! こんな所で負けられねえんだよ!」

 

決死の覚悟の言葉を口にし、ディフェンスをする高尾。

 

「…」

 

空は左右に高速での切り返しを繰り返し始めた。

 

「…っ! …っ!」

 

必死に高尾は空の揺さぶりに付いていく。

 

「(もっとだ! もっと速く!)」

 

空のドリブルがどんどん速くなる。クロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを高速で繰り返し、かつ時折態勢を低くし、上下の緩急を加えて揺さぶりをかけていく。

 

「(くそっ! 何て速さだよ! 目の前にいるのに時々姿が見えなくなる! だが、絶対に見失うな! ここで止めてジエンドだ!)」

 

抜かせまいと必死に食らい付く高尾。その間も空のスピード、リズムはさらに速くなる。そして、変則な動きも加わり始める。

 

「あっ…」

 

次の瞬間、高尾は空の姿を見失う。

 

「何処に…!?」

 

空の姿を探す高尾。空は、既に高尾の横を通り、後方に抜けていた。

 

 

――残り8秒…。

 

 

「打たせるなぁぁぁぁっ!!!」

 

宮地が声を張り上げ、木村、支倉の3人で空を包囲する。

 

「まだだぁぁぁぁっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

地面に倒れ込む程態勢を低くした空はその態勢のまま加速。包囲網を突破した。

 

『抜いたぁぁぁぁっ!!!』

 

高尾を抜き、包囲網を突破した空はそのままリングに突き進み、リング目前でボールを掴み、跳躍した。

 

『いっけぇぇぇぇっ!!!』

 

リングに迫る空に花月の選手達は願いを込める。その時…。

 

「っ!?」

 

空を阻む1つの影が現れた。

 

「絶対に決めさせないのだよ! 勝つのは俺達だ!」

 

「緑間!」

 

目の前に緑間が現れ、動揺する空。このままダンクに行けばまず間違いなくブロックされる。ここで決められなければもう敗北は確定。

 

「くそっ!」

 

苦悶の表情を浮かべる空。

 

 

――残り5秒…。

 

 

「くー!」

 

その時、自身を呼ぶ1つの声が耳に入る。

 

 

――バゴン!!!

 

 

その声に反応し、空はダンクの態勢から身体を強引に動かし、バックボードにボールを投げつけた。バックボードに投げつけられたボールは…。

 

『あっ!!!』

 

ボールの先には、スリーポイントの外側にノーマークで立っていた生嶋の所へと向かっていった。ボールを掴んだ生嶋はそのまま膝を曲げ、スリーを放った。

 

 

――残り3秒…。

 

 

『っ!?』

 

コート上、ベンチの選手と監督、観客席の者全てがボールへと注目する。

 

「……うん」

 

その瞬間、生嶋はフォロースルーで掲げていた右手を握り、頷いた。

 

ボールは弧を描きながらリングに迫り、そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中心を綺麗に射抜いた。

 

『キタ…』

 

『逆転だ…』

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

この日1番の大歓声が会場に響き渡った。試合時間3秒で花月、遂に逆転を果たした。

 

『スゲー、花月が勝った!』

 

誰もが予想しなかったこの結果に、観客の興奮は収まらない。

 

「……勝った――」

 

その時、誰もが花月の勝利を確信した中、空だけが気付く。

 

 

――緑間は何処だ?

 

 

さっきまで自分の目の前にいたはずの緑間の姿がない。そこへ、高尾がボールを拾い、スローワーとなった。

 

「っ!?」

 

そこで見つけた。緑間が前へ走っている姿を…。

 

「まだだ! 緑間をマークしろぉっ!!!」

 

『っ!?』

 

空の声に、花月の選手達も気付いた。

 

「もう遅ぇーよ!」

 

ボールを大きく前へと投げる高尾。空が必死にボールに飛びついたが、紙一重でボールに触れる事は出来なかった。ボールは、センターライン目前まで走った緑間の手に渡った。

 

「くっ!」

 

「あかん!」

 

大地と天野が慌てて緑間の下へ走る。緑間はすぐさま膝を曲げ、シュート態勢に入った。

 

「…ぐっ!」

 

「届かへん!」

 

ブロックに飛んだ大地と天野だが、対応が遅れた事で緑間のシュートをブロック出来る高さまで間に合わない。そんな2人を他所に、緑間はボールを放った。

 

 

――勝った!

 

 

勝利を確信した秀徳の選手達は拳を握った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ボムッ! …ボムッ……ボムッ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボールは、緑間の数メートル前で転々と転がった。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、試合終了を告げるブザーが鳴った。

 

同時に緑間の膝が力無く折れ曲がり、コートに両膝を付き、両腕から力が抜け、だらりと両手が落ちた。

 

残り3秒。逆転の為に走り、ボールを受け取り、スリーを放った緑間。だが、もう緑間に、リングにボールを届かせるだけの力は、残っていなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合終了…。

 

 

花月 123

秀徳 122

 

 

「勝った……のか?」

 

沸き上がる会場。その中で、空は茫然と立っている。

 

「勝った……ですよね?」

 

大地も同様に状況が理解出来ていないかのような表情をしている。

 

「…」

 

「…」

 

生嶋と松永も同じような表情をしていた。

 

「神城ぉっ!!!」

 

「綾瀬ぇっ!!!」

 

ベンチから馬場、真崎が飛び出し、それぞれ空と大地に飛びついた。

 

「勝ったんだよ! お前達はキセキの世代に勝ったんだよ!」

 

「すげーよお前ら! 俺、花月に来てホントに良かったよ!」

 

馬場と真崎は目に涙を浮かべながら喜びを露わにしていた。

 

「勝ったんや。俺らが」

 

天野が4人に向けてそう言った。

 

「勝った……勝った…!」

 

ここでようやく実感が沸いた空。目の前の大地に抱き着いた。

 

「ええ! 皆の力で!」

 

同じく勝利の実感が沸いた大地が抱き返す。

 

『…』

 

言葉を失う秀徳の選手達。高尾は両目を瞑って天を仰ぎ、木村は膝を手に付いて頭を下げ、悔しさを露わにし、支倉は立ったまま歓喜する花月の選手を見つめ、宮地は腰に手を当てながら俯いた。

 

「…」

 

両膝を床に付けたまま緑間が佇んでいる。

 

「…真ちゃん」

 

そんな緑間の傍まで高尾が歩み寄り、手を差し出した。

 

「…」

 

高尾の差し出した手を緑間は手で制した。

 

「自分の力で立てるのだよ。…っ」

 

そう言って、膝に手を当て、力を込めて立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「123対122で、花月高校の勝ち!」

 

『ありがとうございました!』

 

センターサークル内に集まった選手達が礼をした。

 

「強かったぜ。俺達に勝ったんだ、この先、無様に負けんじゃねえぞ」

 

「おおきに。もちろんや」

 

宮地と天野が握手を交わす。

 

「試合では勝ちましたが、結局あなたには一矢報いるので精一杯でした」

 

「いや、お前もなかなかだった。お前はもっと強くなる。頑張れよ」

 

松永と支倉が握手を交わす。

 

「全中ベスト5は伊達じゃないな」

 

「ありがとう。また戦ろうね」

 

生嶋と木村が握手を交わす。

 

「ありがとうございました。高尾さんのプレーはすごく勉強になりました」

 

「ハハッ! お世辞はいいよ。俺みたいな凡人のプレーが参考になるわけないだろ」

 

「そんなことないっすよ。むしろキセキの世代のプレーは度が過ぎて参考にならないんで」

 

「ちがいねえ」

 

ここで高尾はふぅっと一息溜息を吐いた。

 

「(ったく、とんだピエロだよ。試合中にこいつは俺のプレーを見て全部自分の物にしやがった。とんだ役回りだよ)」

 

試合当初はがむしゃらにプレーしてだけの空だったが、目の前の高尾から学び、ポイントガードとして必要な事を少しずつ吸収していった。

 

「(…もう、個人でこいつには勝てないんだろうなぁ)」

 

緑間という天才と毎日練習している高尾。そんな高尾だからこそ理解してしまった。目の前の空は、その天才と同格の才能を持っていると。そして、その才能が今日、少しずつ蓋が開いていった事を…。

 

「この借りは来年返す。首洗って待ってろよ」

 

「上等。受けてたちますよ」

 

皮肉っぽく笑みを浮かべた高尾と不敵な笑みを浮かべた空が握手を交わした。

 

「…」

 

無表情で立つ緑間。だが、心中は穏やかではなかった。

 

「(油断はなかった。今日、俺は花月を敵として迎え撃った。だが、今日の花月は敵ではなく強敵だった。初めから強敵と戦うつもりで戦っていれば……いや、これも言い訳か…)」

 

顔を上げると、そこには大地がいる。今日の試合、両者の戦いは多かった。個人の結果で言えば緑間の圧勝だろう。

 

「お前達の勝ちなのだよ」

 

「ありがとうございました。内容では私の完敗です。次は、試合だけでなく、1人であなたに勝てるよう精進致します」

 

「ふん」

 

大地の返事に鼻を鳴らすと、2人は握手を交わす。緑間は踵を返すと…。

 

「だがこの先、今日のようにいけると思わない事だ。今日の内容では優勝など。夢のまた夢なのだよ」

 

それだけ言い残し、緑間は歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ベンチに戻る花月の選手達。ベンチでは未だ、試合に勝利した興奮が冷めやらない。

 

「よう」

 

そんな中、空が姫川の姿を見つけると、一目散に傍に歩み寄った。

 

「証明したぜ。凡人であっても天才に勝つ事が出来るってな」

 

ニカッと笑みを浮かべ、親指を立てた。

 

「……バカ…!」

 

試合の勝利で歓喜する中、姫川だけは感情を抑えていた。だが、この言葉で姫川の感情が決壊する。その瞳から止め止めもなく涙が溢れた。

 

「(…でも、少し違うわ。以前、私はあなたを凡人って言った。けど、本当は違う。あなたは紛れもなく――)」

 

笑みを浮かべる空を見つめながら姫川は笑顔を作って涙を拭った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ベンチに戻った秀徳の選手達。応援席に整列し、礼をし、コートを後にした。

 

「…っ」

 

コートに続く専用通路に入った直後、緑間がバランスを崩し、倒れ込む。

 

「っ!? 真ちゃ――」

 

咄嗟に高尾が緑間を支えようとする。

 

「……と、よくここまで意地を張り通した」

 

転倒する直前、高尾より速く横を歩いていた宮地が身体を支えた。そのまま緑間の腕を自身の肩に回し、補助をした。

 

「……すみません」

 

もう地力で歩く事も出来ない緑間。先輩であり、主将である宮地に謝罪の言葉を述べた。

 

「気にするな。そのくらい当然の事だ」

 

「そうではありません。今日の試合――」

 

「『自分のせいで負けた』…なんて思ってんならそれは違うぞ」

 

緑間の言葉を遮り、宮地が訂正した。

 

「今日のお前は、俺の見た中で1番凄かった。チームの敗因はチーム全体の責任だ。お前1人の責任じゃねえ」

 

「…」

 

そう言われても納得が出来ない緑間。

 

「納得出来ないって言うなら、来年、お前が秀徳を優勝に導け」

 

「はい…!」

 

「頼んだぜお前ら。俺達3年の無念は、お前らが晴らしてくれ」

 

『はい!!!』

 

現3年生の無念。そして、想いを託された1年生と2年生達は、涙を流しながらその想いに応えた。

 

「頼んだぜ。新キャプテン」

 

「っ! ……はい…!」

 

緑間は、涙を頬に伝わせながら答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『いやーすごい試合だったな!』

 

『ていうか、秀徳油断し過ぎだろ』

 

『みすみす勝ち試合落とすとか、秀徳も情けないな』

 

観客がそれぞれ感想を語り合っている。

 

「ま、確かに秀徳にも油断はあったな」

 

「けど、再試合したなら今度は秀徳が大差で勝つっしょ」

 

観客の感想を聞きながら根布谷と葉山が言葉を口にする。

 

「ウィンターカップに次はないわ。強い方が勝つのではなく、勝った方が強い。それが勝負の鉄則よ」

 

勝負の鉄則を口にする実渕。五将の3人共、真剣な表情をしていた。

 

「行くぞ。試合の準備を始める。気持ちを切り替えろ」

 

赤司が立ち上がり、席を後にすると、それに続いて洛山の選手達も続いた。

 

「…」

 

歩きながら、赤司が先ほどの試合の電光掲示板に視線を向けた。

 

「(花月高校…。今日の試合を見る限り、仮に、俺達と戦う事となったしても、俺達が負ける事はないだろう)」

 

試合を全て観戦した限り、そう分析した赤司。

 

「(俺達が戦う事があったなら、その舞台は決勝。もし、彼らがその舞台に辿り着けたなら、この予想も当てにならない。彼らは僅かな時間、僅かな経験で進化している。決勝に辿り着く頃には今とはさらに上の次元に立っているだろう)」

 

花月の潜在能力の高さを赤司は評価した。

 

「(もっとも、辿り着く事が出来たら、だがな…)」

 

赤司は踵を返し、歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「秀徳が負けたか…」

 

観客席の一角に座る、誠凛の伊月がポツリと口にする。

 

「…」

 

誠凛の選手達が座る観客席の一角。その中で火神だけが、何とも言えない表情をしていた。

 

「どうした火神」

 

そんな火神に日向が気付き、尋ねる。

 

「……正直、納得出来ないって言うか、俺は、秀徳に勝ってほしかった。どう考えても強いのは秀徳だ。…なのに、負けるとか…」

 

思わず苛立つ火神。自分達に勝ってこのウィンターカップに出場しているだけに、ここでの負けに納得が出来なかった。

 

「言いたい事は分からないでもない。…だがな、その言葉は懸命に戦った秀徳と、正々堂々戦った花月への侮辱だ。そして、俺達自身にもな」

 

「…っ!」

 

日向の言葉に、火神はバツの悪い表情を取った。

 

「火神君。番狂わせが起こる条件って、何だと思う?」

 

突如、リコがそんな言葉を投げかけた。

 

「? ……それは、油断とか、作戦とか?」

 

少し考えた後、火神は自分の思う正解を言った。

 

「確かに、それも大きな要因ね。けど、私にはもう1つ大きな要因があると思っているわ」

 

「?」

 

リコの言うもう1つの答えが分からず、頭にハテナを浮かべる火神。

 

「それはね、番狂わせを起こした側の潜在能力が起こさせた側と同等かそれ以上にある事だと私は思っているわ」

 

それがリコの考えるもう1つの答え。作戦を忠実に実行出来るチーム力も必要だが、それだけでは全国区の強豪には勝てない。相手の実力と同等以上の潜在能力があって初めて番狂わせは起こせる。

 

「花月が格下だと言う思い上がりはここで捨てていきなさい。でないと来年、あなたも秀徳と同じ結末を迎える事になるわよ」

 

「っ!? …うす!」

 

一瞬、図星を突かれて目を見開いたが、すぐに表情を改め、真剣な表情で返事をした火神だった。

 

「…」

 

電光掲示板を眺める黒子。今では飄々としている誠凛の3年生達。高校最後の冬の大会に出場出来ず、悔しさも当然あるだろう。黒子は来年は必ず誠凛を優勝させようと心中で決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「秀徳が負けた?」

 

会場のとある一室。花月と秀徳の試合のスカウティングを行っていた部員から告げられた事実に試合の準備をしていた選手達は驚愕した。

 

「まさか、秀徳が負けるとは思わなかったアル」

 

柔軟運動していた劉が驚きながら動きを止めた。

 

「ふーん。みどちん負けたんだー」

 

周りが驚く中、紫原だけは淡々としていた。

 

「あまり驚いてないようだが、敦はこの結果を予想していたのか?」

 

そんな紫原に氷室が尋ねた。

 

「別に驚いてない訳じゃないよー。俺も秀徳が勝つと思ってたし。…ただ、別にどっちが勝ってもその前にまだ勝たなきゃいけない相手がいるからね」

 

陽泉は花月の反対ブロック。戦うとなれば決勝。そこに辿り着くにはまだ戦わなければならない相手がいる。

 

「それに、花月と戦う事はまずないから。考えるだけ時間の無駄でしょ」

 

「? それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「失礼します! 秀徳と花月の試合が終わりました!」

 

とある一室、桐皇の選手達が集まる控室。突如、試合のスカウティング終えた部員が試合結果を伝える為に控室にやってきた。

 

「終わったのか。で、結果は?」

 

主将である若松は、バッシュの靴紐を結びながら尋ねる。

 

「そ、それが…」

 

尋ねられた部員は言いづらそうに口ごもる。

 

『?』

 

その様子に、今まで耳だけ傾けていた選手達が手を止め、注目した。

 

「……秀徳が、負けました」

 

「……はっ?」

 

事実が理解出来ず、若松が聞き返す。

 

「122対123で秀徳が敗れました」

 

「…………ハァッ!?」

 

口にされた事実をようやく頭で理解した若松は思わず大声を上げた。

 

「ウソ…ですよね? あの秀徳が敗れるなんて…」

 

同様に桜井が信じれないという表情で言葉を口にする。

 

『…』

 

他の選手達も思いがけない事実に驚きを隠せないでいた。その時…。

 

「静かにしてください。まさかの結果に驚くのは分かりますが、この後すぐ試合が控えている事を忘れないで下さい」

 

手をパンパンと叩きながら原澤が選手達に向けて言った。

 

「試合の準備を進めて下さい。『次』の対戦相手の事は、まず目の前の試合に勝ってからです」

 

そう選手達に言い聞かせた。

 

「…何だよ、緑間の奴負けたのかよ。ったくよ、あいつとまた戦うの楽しみにしてたのによぉ」

 

桐皇の選手達の中で、1人気怠そうに座っている青峰がポツリと呟いた。

 

「ちょっと大ちゃん。分かってると思うけど、明日の試合――」

 

「分かってるよ。秀徳は油断やマグレで負ける程温くはねえからな。仮にも勝ったって事は、それだけのもんは持ってんだろ」

 

やる気がなさそうな青峰を見かねた桃井が諫めようとしたが、青峰はそれを遮りながら言った。

 

「ま、例えなんであれ、俺のやる事は変わらねえよ。叩き潰すだけだ」

 

今まで目を閉じていた青峰は、ギラつかせながら目を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…勝てたな」

 

とある一室。試合を終えた花月の選手。その中で試合に出場したスタメンの5人が床に寝転がっていた。

 

「今でも震えが止まらん」

 

空の発した言葉に続き、松永が言った。

 

「それは試合に勝った事? それとも、最後の緑間さんに?」

 

「両方だ」

 

生嶋の質問に、松永が答える。

 

「しんどい相手やったなあ。こないに疲れた試合は始めてや」

 

大の字に寝転んだ天野がしんどそうに言った。

 

「私達の努力が実り、私は感無量です。花月に来て、良かったです」

 

大地の言葉に、他の4人は笑みを浮かべた。

 

「あー疲れた~」

 

「フフッ、くーでも疲れる事があるんだね」

 

「俺を何だと思ってんだよ」

 

生嶋の皮肉に、空は苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「とにかく……勝ったんだな…」

 

そう、空は呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

控室の扉を少し開け、中の様子を窺っていた姫川は、そっと扉を閉めた。

 

「あれ、姫ちゃん? みんなは――」

 

みんなを呼びに来た相川。姫川は唇に人差し指を当て、静かにするように伝える。

 

「この控室は今日どの高校も使わないし、しばらくそっとしておきましょう」

 

相川は音を立てないように扉を開けた。

 

「…フフッ」

 

笑みを浮かべると、姫川と同じようにそっと扉を閉めた。

 

「あんなに頑張ったばかりだもんね」

 

「次の対戦相手のスカウティングに行くから付き合ってもらってもいい?」

 

「うん! 私にもいろいろ教えてね♪」

 

2人は控室を離れていった。控室の中では…。

 

『スー…スー…』

 

先程の5人が眠り込んでいた。激闘に次ぐ激闘の末、辛うじて勝利を収めた花月。身体をギリギリまで酷使した選手達は、その身体に英気を養う為、眠り込む。

 

もちろん、これで大会が終わった訳ではない。今日と同等…それ以上の戦いが明日も待っている。

 

だが、花月の選手達は今はその事を忘れ、勝利の余韻を感じながら、夢の世界に旅立ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





これで一区切り出来ました。

本当は去年までに終わらせたかったんですけどね…(^-^;)

前回投稿時時点で試合終了まで書きあがっていたんですが、あえて分けて投稿しました。…まあ、分けた理由に深い意味はありませんが。

感想、アドバイスお待ちしております。

最近感想なくて悲しいなあ…( ;∀;)

それではまた!


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第79Q~激闘のオープニング~


投稿します!

一気に試合開始致します。

それではどうぞ!



 

 

 

激闘から一夜が明け、早朝。

 

「…っ! …っ!」

 

ジャージに着替えた空が前日と同様、公園までランニングをし、柔軟運動をしている。

 

「おはようございます、空」

 

「おーす、大地」

 

そこへ、同じくジャージ姿の大地がやってきた。

 

「身体の調子はどうですか?」

 

「昨日、寝る前に姫川にマッサージしてもらったおかげで絶好調だぜ」

 

「それは良かったです」

 

「そっちはどうよ?」

 

「こちらも同様です。多少の疲労は覚悟していたのですが、さすがは姫川さんと言ったところでしょうか」

 

肩を回しながら空が、屈伸運動しながら大地が自身の調子を話していく。

 

「昨日は激闘の末、秀徳を撃破! ……て、喜んだのは束の間…」

 

「…ええ、そうですね」

 

明るい表情をしていた2人だったが、突如、表情が暗くなる。

 

昨日、試合終了後、仮眠を取った後、会場の観客席に向かった2人。そこでは、自分達の次に対戦相手の試合が行われていた。試合は終始一方が優勢で進められていた。

 

「全く、とんでもなかったな」

 

「ええ。『夏に戦った』時よりさらに伸びていました」

 

結局、試合は大差を付いて終了した。

 

「今日勝てるかどうかはあいつを止められるかどうかにかかってる」

 

「止めなければなりませんね。あの方、キセキの世代のエースと呼ばれたあの人を…」

 

今日、昨日と同等……それ以上の激闘が始まる。

 

 

――花月高校 × 桐皇学園高校

 

 

新鋭の暴君との試合が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

8強が出揃ったウィンターカップ。この日、4強を賭けた試合が行われる。

 

本日、キセキの世代が所属する高校同士の試合はない。その為、盛り上がりの欠けるラインナップ…と、思われたが…。

 

 

――ざわざわ…!!!

 

 

観客席は、満席に近い程埋め尽くされていた。目当ては勿論、花月対桐皇の試合である。全国随一のオフェンス力を誇る桐皇、そして昨日、奇跡の番狂わせを巻き起こした花月高校。試合前から観客はざわついている。

 

「…」

 

観客席の上段、1人の男がコートを見つめていた。

 

「なーに突っ立ってるんスか、緑間っち」

 

その男に1人の男……黄瀬涼太が話しかけた。

 

「むっ…、黄瀬か」

 

話しかけられた男……緑間は視線だけを向け、返事をした。

 

「試合を見に来たのだよ」

 

「だったら何処かに座ればいいじゃないスか」

 

「見ての通り満席なのだよ」

 

緑間の周辺の席は見渡す限り席が埋まっている。

 

「だったら一緒にどうスか? 俺の隣の席、空いてるんスけど」

 

「…」

 

「決まりッスね。なら、一緒に行くッスよ」

 

返事を待たず、黄瀬は緑間の背中を押しながら自分の席まで移動していく。

 

「待て! 俺は一緒に見るとは一言も言ってないのだよ!」

 

そんな黄瀬を叱りながら緑間は渋々足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

席に辿り着くと、そこにいたある人物を見て緑間は眉を顰める。

 

「緑間! お前も来てたのか」

 

「…黄瀬、何でこいつがいるのだよ」

 

「まあまあ、いいじゃないスか。皆で仲良く見た方が楽しいッスよ」

 

げんなりする緑間を他所に、黄瀬は気に留める様子を見せず、緑間を席に誘った。

 

「ふん…。お前まで来ていたとはな……火神」

 

視線を向けず、コートを見下ろしながら隣の男、火神に話しかけた。

 

「ん…まあ、な。昨日はあまり試合を見れなかったからな」

 

火神は、昨日負けたばかりの緑間。言葉を選びながら答える。

 

「ちょうど良かったッスよ。直に手合わせをした人の意見を聞きたかったところだったんス」

 

対して黄瀬はいつもの如く話しかける。

 

「俺は試合の終盤しか見てねえから詳しくは分からねえが。…どうなんだ? お前はこの試合、どっちが勝つと予想する?」

 

ずばり、火神が1番聞きたかった事を尋ねた。

 

「聞かずとも分かるだろ。勝つのは桐皇だ。花月の勝率は甘めに見積もっても万に一つと言った所だ」

 

尋ねられた緑間ははっきりと断言した。

 

「手厳しいッスね。仮にも緑間っちに勝ったチームッスよ?」

 

あまりに淡泊に言ってのける緑間に怪訝な視線を送る黄瀬。

 

「仕方のない事だ。地力の差…何より、エースの差が大きすぎる」

 

「だったら、お前は何でわざわざこの試合を見に来たんだ? 花月が負けるって踏んでるなら後で結果だけ聞けば良かったんじゃねえのか?」

 

疑問に思い、火神が尋ねた。

 

「見定めに来たのだよ。来年、花月が俺達にとってただの強敵なるのか。それとも、好敵手となるのか…」

 

「「…」」

 

緑間の答えを聞き、火神も黄瀬も口を噤んだ。火神にしても黄瀬にしても、桐皇が負けると欠片も思ってはいなかった。それでもこの会場に足を運んだ。花月と言う、新たな台風の目を見定めに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『…』

 

花月の控室。選手達は粛々と試合の準備を進めている。

 

「…っ!」

 

室内を覆う重い空気を感じ取り、相川は思わず身震いする。

 

今日の相手は昨日と同様キセキの世代を擁する高校、桐皇学園高校。インターハイの準決勝で戦い、勝利を収めた相手であるが、それは三杉誠也の尽力によるものが大きく、事実、三杉以外は青峰大輝を全く止める事が出来なかった。

 

桐皇は秀徳のような相性の良し悪しはない。故にインターハイの時にあった力の差が埋められていなければ敗北は濃厚。それを理解してか、昨日以上に花月の選手達は張り詰めている。

 

その時、控室の扉が開かれ、上杉が入室してきた。

 

「お前ら、しっかり汗をかいているか?」

 

上杉が声を掛けると、選手達は返事をせず、ギラついた目付きを向け、頷いた。

 

「もう時間ですか?」

 

「まだ時間はある。ゆっくり準備を進めろ」

 

空の問いかけに、上杉は薄い笑みを浮かべながら返事をした。

 

「(…1人でも昨日の勝利で浮かれている奴がいたら活を入れてやるつもりだったが…、うん、良い気合のノリだ。試合の入り方としては上々だ)」

 

選手達を見て満足する上杉。

 

「そのままで良いから話を聞け。桐皇は今大会最強のオフェンス力を誇るチームだ。それは、夏で充分味わったはずだ」

 

『…』

 

「試合開始からガンガン点をを取りに来るぞ。決して受けに回るな。こっちも同じように点を取りに行け」

 

『はい!!!』

 

「昨日と特に変わった指示はない。とにかく走れ! 足を止めるな! 相手の倍走ってペースを握れ!」

 

『はい!!!』

 

上杉の指示に、選手達は控室が揺るがす程の大声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『来たぞ!』

 

『秀徳を相手に奇跡大勝利を収めた今大会のダークホースの花月だ』

 

コート上に花月の選手達が空を先頭に入場すると、観客が盛大に沸き上がった。

 

『来た! 最強のオフェンス力を誇る桐皇!』

 

『今大会全ての試合で100点以上決めてるオフェンス力は伊達じゃないぞ!』

 

続いて桐皇がコート上にやってくると、先ほど同様、観客が沸き上がった。各々、ベンチまで移動し、ジャージを脱いで最後の準備を始めた。

 

「スタメンは昨日と同じ、神城、生嶋、綾瀬、天野、松永で行く」

 

『はい!!!』

 

「生嶋、隙あらばガンガン外から撃っていけ。チームの生命線であるお前が決められなければチームが活性化しない。その事を頭に入れておけ」

 

「はい」

 

「天野。今日のお前は責任重大だ。お前には青峰を止めてもらう事になる。それとリバウンド。お前がリバウンドを制するか否かで勝敗が決まる」

 

「はい」

 

「後、オフェンス。普段ならスクリーンやポストプレーに従事してもらっているが、今日は場合によっては点も取ってもらう。いつも以上に気合を入れて行け」

 

「まかしとき!」

 

「神城。お前には特に言う事はない。余計な事は考えずに自由にやれ」

 

「……何か、俺だけ指示が大雑把ですね」

 

特別な指示がなかった事に苦笑いを浮かべる空。

 

「お前は余計な指示を与えると調子が悪くすることは大仁田戦で良く分かっているからな。どのみち夢中になれば忘れてしまうのだから一緒だ。バカは何も考えずに無心で走れ」

 

「う、うす!」

 

「綾瀬。今日の試合の勝敗はお前にかかっていると言っても過言ではない」

 

「…はい」

 

上杉の言葉に気を引き締めながら頷いた。

 

「お前が花月のエースなんだ。絶対に負けるな。それが、キセキの世代であってもだ」

 

「はい!」

 

あまり声を張らない大地が珍しく辺りに響き程の声で返事をした。

 

「松永、お前は昨日以上にきつい相手となる。夏では完敗だった」

 

「…そうですね」

 

痛い所を付かれ、表情が曇る松永。

 

「お前はインターハイ終了後のエキシビションマッチでジェイソン・シルバーと僅かは時間だがマッチアップをした。どうだった?」

 

「…正直、次元が違いました。パワー、スピード、テクニック、全てが桁違いでした」

 

「そうか。……ならば、1つ言っておく。あのレベルの選手は日本にはいないぞ」

 

「…えっ?」

 

上杉にそう言われた松永はキョトンとする。

 

「シルバーはアメリカでも容易に現れないレベルの選手だ。紫原とて奴には及ぶまい。お前は、この日本で唯一最高峰の選手と戦った経験値を持つ選手だ」

 

「っ!」

 

「お前は夏から確実に成長している。今のお前なら若松相手でも決して引けを取らないはずだ。自信を持っていけ」

 

「はい!!!」

 

上杉は選手達を見渡し、再度口を開く。

 

「今日の試合、俺はあえて100%の力を出せとは言わない。何故なら、それでは足りないからだ」

 

『…』

 

「120%の力を出してみせろ。そのくらい出来なければ、この試合は勝てん」

 

『はい!!!』

 

「行って来い! 自分を…桐皇を超えてこい!」

 

『はい!!!』

 

上杉の飛ばした激に、選手達は会場を震わせるかのような声で応えた。

 

「なあ、円陣組まない?」

 

選手達がベンチから立ち上がると、唐突に空が提案する。

 

「おお、ええな! 今までやったことあらへんけど、たまにはええかもな! ほら、みんな集まり! ほら、マネージャーもけえや」

 

天野がいち早く賛成し、花月の選手達及びマネージャーも集まり、1つの円を作った。

 

「キセキの世代を倒す為に俺は花月に来た。他の皆もそうだよな?」

 

円陣を組むと、空が皆に問いかける。空の問いかけに皆が頷いた。

 

「昨日、秀徳に勝った。これで俺達の目標は達成された事になる。…けどさ、皆、これで満足出来てるか?」

 

『…』

 

「…だよな。俺達はキセキの世代を倒す為だけにここに来た訳じゃない。キセキの世代とそれを倒した誠凛を全部倒して優勝する為にここに来たはずだ」

 

「ですね。ここが私達の終点ではありません」

 

「だね。こんな所じゃ満足は出来ないよね」

 

「当たり前の事言うなや」

 

「ああ。目指すのは頂点だ」

 

空の言葉に大地、生嶋、天野、松永が答える。それを聞いて空は不敵な笑みを浮かべた。

 

「安心したぜ。これで心置きなく戦える。……奇跡は1度起こした。なら、もう1度…いや、何度でも起こせるはずだ」

 

ここで空は大きく息を吸った。

 

「勝つぞ!!! 桐皇を、ぶっ潰すぞ!!!」

 

『応!!!』

 

空を中心に行われた号令に、選手達が応える。スタメンに指名された5人は、気合を入れ直し、コートに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コートの中央…センターサークル内に花月、桐皇の両スタメンの選手達が集まった。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

6番PG:神城空  179㎝

 

7番SG:生嶋奏  181㎝

 

8番SF:綾瀬大地 182㎝

 

9番PF:天野幸次 192㎝

 

10番 C:松永透  194㎝

 

 

桐皇学園高校スターティングメンバー

 

4番 C:若松孝輔 195㎝

 

5番PF:青峰大輝 193㎝

 

7番SG:桜井良  175㎝

 

9番SF:福山零  189㎝

 

10番PG:今吉誠二 177㎝

 

 

「これより、花月高校対桐皇学園高校の試合を始めます」

 

『よろしくお願いします!』

 

審判の号令し、両校の選手達が礼をした。

 

「よろしく頼むぜ!」

 

「こちらこそや…(声うっさいのう。それに手ぇつよー握り過ぎや)」

 

まるで威嚇するかの如く声を上げ、きつく握手をする若松に、天野は少々げんなりした。

 

「よう。まさかお前らが緑間に勝つとは欠片も思ってなかったぜ」

 

青峰が空と大地の傍まで歩みを進める。

 

「紛いなりにも緑間に勝ったんだ。ちったぁ俺を楽しませろよ」

 

「…」

 

「…」

 

それだけ告げ、青峰は2人の横を抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

センターサークル内にジャンパーである松永と若松を残し、残りの両選手達は周囲へと展開していった。

 

「…」

 

「…」

 

松永、若松が腰を落とし、ジャンプボールに備える。2人の間に審判が歩み寄り、そして、ボールは高く上げられた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「っ!」」

 

ボールが上げられるのと同時にジャンパーの2人が飛ぶ。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

高く上げられたボールを2人が同時に叩いた。

 

『おぉ! 互角だ!』

 

「どっせぇぇぇぇぇい!!!」

 

「ぐっ!」

 

ジャンプボールは2人が同時にボールを叩いたが、若松が気合と共に渾身の力で松永の手を弾き飛した。

 

「キャプテン、おおきに」

 

ボールは今吉が抑え、そのままリングに向かってドリブルを始めた。

 

「行かせねえ!」

 

スリーポイントラインから僅かに離れた所で空が今吉を追い抜き、目の前に立ち塞がる。

 

「行かせてもらうわ」

 

今吉は無理やり突破を図ろうとする。空は身体を張りながら突破を阻止する。

 

「…と、さすがに簡単には行かんのう」

 

突破が不可能だと判断した今吉はスリーポイントラインまで押し込んだ所でビハインドバックパスでボールを左へと出した。ボールは中央よりやや左側、スリーポイントライン外側で桜井が受け取った。

 

「すいません!」

 

「打たせない!」

 

ボールを受け取った桜井はすぐさまスリーの態勢に入る。それを阻止するべく生嶋がブロックに飛ぶ。だが、紙一重で桜井のリリースが速く、ブロックは間に合わなかった。

 

「(これは外れ……いや、違う!)」

 

ボールの軌道から外れると1度は確信した生嶋だが、すぐに考えを変える。ボールはリングではなく、リングの僅か右へと飛んでいた。そこへ、右サイドからリングに向かって1つの黒い影が駆け上がる。

 

『シュートじゃないぞ!?』

 

『青峰だ!』

 

ボールに向かって右サイドから青峰が現れる。桜井の放ったボールに青峰が飛びついた。

 

『青峰のアリウープだ!』

 

『先制は桐皇だ!』

 

跳躍した青峰はボールをそのままリングへと叩きつけた。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「おっ?」

 

だが、その直前、横から現れた1本の腕が青峰の右手に収まる直前のボールを叩き落とした。

 

「えぇっ!?」

 

アリウープが決まると思っていた桜井は驚愕の声を上げた。

 

『綾瀬だ!』

 

「させませんよ」

 

ボールを叩き落としたのは大地。アリウープを紙一重で阻止した。

 

「ええで。気合入っとるやんけ!」

 

ルーズボールを天野が抑えた。

 

「天さん!」

 

「あいよ!」

 

天野が即座に空にボールを渡し、空はそのままフロントコート目掛けてドリブルを始めた。

 

「行かせるかコラァッ!!!」

 

センターライン目前で若松が空の前に立ち塞がる。

 

「(…チラッ)」

 

若松との距離が詰まる直前、空は右へと視線を向けた。

 

「(パスか!?)」

 

空の右後ろから松永が駆け上がってくるのが見えた若松がパスを警戒する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!? クソがぁっ!」

 

だが、空は視線のフェイクを入れた直後、バックロールターンで反転して若松を抜きさった。

 

『おぉっ! 抜いたぞ!』

 

若松を抜きさると、もう空の行く手を阻む者はおらず、空は悠々とボールを進めた。フリースローラインを越えた所でボールを右手に持ち、レイアップの態勢に入った。

 

『カウンターからの速攻! 先制は花月だ!』

 

今度こそ初得点を確信して沸く観客。だが、そのレイアップを阻もうとする1つの影が現れる。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ」

 

先回りした青峰が空を阻む。

 

『青峰だぁっ!』

 

『もう追いつきやがった!』

 

若松を抜きさる時にスピードが緩んだ隙に青峰が距離を詰め、ブロックに飛んでいた。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

だが、青峰のブロックを予見していた空はボールを下げ、ブロックをかわすと、背中越しからボールをリング付近にふわりと浮かせた。その直後、その僅か後方から大地が走り込み、ボールに向かって跳躍した。

 

『綾瀬も速ぇっ!』

 

空中で大地は右手で掴み、そして…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きこんだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!! アリウープだぁっ!!!』

 

その直後、会場中に歓声が響き渡った。

 

「ちっ」

 

目の前でアリウープを決められた青峰の口から思わず舌打ちが出る。大地はリングから手を放し、コートへと着地する。

 

「楽しみたいなら好きにしたらいい。もっとも、こっちはそんな余裕与えるつもりはねえけどな」

 

すれ違い様、空が青峰に向けて言い放つ。

 

「私達は手も足も出なかった夏とは違います。今日も勝たせていただきます。正真正銘、我々の力で」

 

大地も同様に青峰に言い放った。

 

「…ハッ! いいぜ。そのくらいのやってくれねえとこっちも楽しめねえからな」

 

2人に告げられた青峰は、不敵に笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「おっ? えらい盛り上がっとるやんけ」

 

場所は変わって会場の外、メガネをかけた1人の男が会場入りしようとしていた。

 

「急ごうぜ。もう試合は始まってるぞ」

 

その隣に、並んで会場入りしようとしているもう1人の男がいた。

 

「そんな慌てんでもええやろ、諏佐。まだ第1Q始まったばかりやんけ」

 

「お前が試合を見に行かないかって誘ったんだろうが、今吉」

 

呆れた表情で急かす男に対し、特に気にする素振りを見せず、飄々と歩みを進めていた。

 

今吉翔一、諏佐佳典。彼らは昨年まで桐皇の在籍していた選手であり、主力のメンバーであった2人である。ふと、母校の試合があるのを思い出した今吉が諏佐を誘い、会場まで足を運んでいた。

 

「去年も来たっちゅうのに、えらい懐かしいもんやなあ」

 

「そうだな。…と言っても、苦い思い出の方が大きいけどな」

 

苦い表情をする諏佐。昨年、彼らはウィンターカップの初戦で誠凛と戦い、敗れた。

 

「にしても、こうやってお前に会うのは卒業式以来か。まさか、お前から誘われるとはな」

 

「ええやんけ。あの秀徳に勝った花月との試合。お前も気にはなっとったやろ?」

 

「…ま、確かにな」

 

桐皇のウィンターカップの組み合わせを知っていた両者。最初の障害となるのは準々決勝で当たる秀徳だと思っていた2人。だが、その秀徳は3回戦で花月に敗北していた。

 

「花月の事はインターハイやジャバウォックとの試合の事で知っとったけど、あれは三杉と堀田ありきやったからのう。まさか秀徳が負けるとは思わんかったわ」

 

「同感だな」

 

雑談をしながら会場入りした2人。

 

「さて、試合はどうなる事かな」

 

「そら桐皇が勝つやろ。贔屓目抜きにしても実力が違い過ぎるわ。…おっ、付いたな」

 

話をしている内に試合が行われている会場の観客席に到着した2人。

 

「…っ!?」

 

「っ! ……ハハッ、中々おもろい事なっとるやんか」

 

観客席に付いた2人が電光掲示板を見ると、驚愕の表情に染まる。

 

 

第1Q、残り2分4秒。

 

 

花月 15

桐皇 11

 

 

「おいおい、リードされてるじゃねえか」

 

驚きながら空いてる席に腰掛ける2人。ボールは現在青峰がキープしている。

 

「…っ」

 

「…っ」

 

ボールを左右に散らし、揺さぶりをかける青峰。対する天野が落ち着いて青峰の動きに付いていく。

 

「ほう」

 

この揺さぶりに付いて行かれた事に感心する青峰。

 

「青峰、こっちだ!」

 

青峰の左側からボールを要求する福山。

 

「ちっ」

 

舌打ちをした青峰がボールを福山に放る……振りをして逆に切り返し、そのままボールを下投げでリング目掛けて投げつけた。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

だが、それを読み切った天野が放ったボールをブロックした。

 

『すげー! 今のを止めた!』

 

「速攻!」

 

ボールを拾った空が声を出し、そのまま速攻に走った。

 

「行かせへんで」

 

スリーポイントライン目前で今吉が空の前に立ち塞がる。

 

「(…チラッ)」

 

ここで空は立ち止まり、リングへと視線を向ける。

 

「(っ!? 打つんか!?)」

 

リングに視線を向けられた事で今吉はスリーを警戒する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、その直後、空はクロスオーバーで目の前の今吉を抜きさり、ペイントエリアへと切り込んだ。

 

「やろっ! 行かせ――っ!」

 

ヘルプに飛び出した若松だったが、空がボールを持っていない事に気付く。

 

「あっ!?」

 

ここで、桜井が声を上げる。空は、今吉を抜いた直後にノールックビハインドパスで左アウトサイドの生嶋にパスを出していた。ボールを受け取った生嶋はそのままスリーを打つ態勢に入る。

 

「くっ!」

 

慌ててブロックに向かう桜井。だが、生嶋はブロックをかわす為に斜めに飛びながらボールを放った。

 

「(リズムが悪い。シュートセレクションもバラバラ。けどこれ、入る!)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

桜井の直感通り、ボールはリングに掠る事無く中央を潜り抜けた。

 

「ナイッシュー!」

 

生嶋と松永がハイタッチを交わす。

 

「戻れ! ディフェンス、止めるぞ!」

 

自陣に戻って桐皇のオフェンスに備える花月。試合序盤、花月ペースで進められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…驚いたな。正直、花月がここまでやるとは思わなかったな」

 

花月リードに驚きを隠せない諏佐。

 

「……なるほど、天野幸次。花月にはあいつがおるんやったな」

 

「知ってるのか?」

 

「関西じゃ有名やったからな。最強のリバウンダーにしてストッパー。関西じゃキセキの世代と同じくらい名が知れとったで」

 

懐かしむように今吉(翔)が説明する。

 

「確かにあのディフェンスは脅威だな。あの青峰を止めるくらいだからな」

 

聞いた諏佐も、今吉(翔)の言葉を疑う事なく受け入れていた。

 

「だが、それでもリードされるとは予想外だ。少なくとも、今年のオフェンス力は去年より上なはずだからな」

 

「青峰がスロースターターやからな。良くも悪くも、エースの調子にチーム全体が引きずられる言うんはままある事やからな。何より、福山がコートにおるっちゅう事はでかい穴がぽっかり空いているようなもんやからな」

 

福山の方を見ながら笑みを浮かべる今吉(翔)。

 

「あいつのディフェンスの悪さは相変わらずだな。それさえなきゃ、去年もあいつがスタメンだったろうに」

 

コート上で天野に抜かれる福山を見ながら苦笑する諏佐。

 

「高い身体能力、安定した確率で決められるアウトサイドシュートに、スピードもキレもあるドライブ技術、インサイドでは身体をぶつけながら強引に得点出来る泥臭さも兼ね備えたオフェンス力。これでディフェンスがまともやったら今頃五将と同等の評価を貰ったとったやろうな」

 

今吉(翔)なりに高い評価される福山。

 

「けどま、桐皇がリードされている原因は福山だけやあらへんけどな」

 

「?」

 

言葉の意味が分からず、頭に『?』を浮かべる諏佐。

 

「おいおい、去年スタメンやっとったなら分かるやろ。目に見えて分かる違和感が。ま、第2Q始まったら分かるやろ」

 

そう言って、2人は試合に集中したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了。

 

 

花月 22

桐皇 17

 

 

両チームの選手達がそれぞれのベンチに引き上げていく。

 

『すげー! 桐皇相手に花月がリードしてるよ!』

 

『秀徳を倒したのは伊達じゃないな』

 

『これはまたあるかもしれないぜ。番狂わせが!』

 

花月の奮闘に観客は沸き上がっていた。

 

 

花月ベンチ…。

 

「いいぞ天野! あの青峰を抑えてるぜ。この調子で――」

 

「冗談きつすぎやで、先輩」

 

奮闘に歓喜する真崎に、天野が冷静に言葉を挟む。

 

「あんなんが青峰の本気やったらキセキの世代とか呼ばれてへんよ」

 

「えっ? なら、青峰はまだ手を抜いてるって事か?」

 

「単純にエンジンのかかりが遅いんやろうな。1番の要因は、青峰はモチベーションでパフォーマンス能力が左右されるタイプやから、相手が俺じゃ出るもんもでぇーへんやろうな」

 

ドリンクを口にし、タオルで汗を拭う天野。

 

「けどま、そろそろやろうな。身体も温まってきたやろうし、第1Q何本か止められてプライドに障ったやろうから、ここからが正念場や」

 

ドリンクを置いた天野が未だかつて見た事ない程の真剣な表情をした。

 

「(…温いのは何も青峰だけじゃねえ。他のメンバーを何処かおかしい。桐皇がこんなもんな訳がない。これなら、夏の時の方がマシだったくらいだ)」

 

ここまでの桐皇に違和感を感じているのは天野だけではない。ゲームメイクをしている空には一層肌に感じていた。

 

1番違和感を感じるのはディフェンス。桐皇のディフェンスは特徴的だったので空の中ではかなりの印象が残っている。例えば洛山。実力者が揃っている洛山のディフェンスはとにかく『上手い』という言葉しっくりくる。対して桐皇のディフェンスはとにかく弱点を突き、行動を先回りしてくるので、とにかく『やりづらい』という言葉浮かぶ。

 

だが、今日の桐皇にはそれがない。手を抜いているようには見えないが、何処か温さを感じてしまう。

 

「(向こうがこっちを舐めきっているなら話は単純だけど、そんな甘くはないよな。さて、第2Qからどうなる事やら…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇ベンチ…。

 

「お疲れ様で。実際手を合わせて、花月はどうですか?」

 

ベンチに座った選手達の前に原澤が立ち、労うのと同時に選手達に尋ねる。

 

「1年生が主体なだけあって、ツボにハマった時の勢いは誠凛と同等…いや、それ以上ですね」

 

「あの速攻のスピードは敵わんわ。正直、神城か綾瀬に先頭で速攻走られたら止められんでしょうね」

 

若松、今吉が各々花月の評価を口にしていく。

 

「うん。あの秀徳に勝っただけの事はあるようですね」

 

監督である原澤も、花月を高く評価した。

 

「申し訳ありません」

 

おもむろに、マネージャーである桃井が頭を下げて謝罪した。

 

「あなたが頭を下げる事ありませんよ。むしろ、よくここまで資料を集めてくれました」

 

桃井が頭を下げた理由。それは、花月のデータを集める事が出来なかったからである。桃井は秀徳が負ける等露程も思ってはおらず、花月のデータは夏のものと残りは自身の勘から分析した最低限のものしかなく、昨日の試合後、急遽データをかき集めてものの、正確なデータは取れなかったのである。

 

「第1Q、花月の動きを見定める為にあえて『見』に回りましたが、皆さん、10分間手を合わせて、桃井さんのデータと実際の花月との差異は修正出来ましたね?」

 

この問いかけに、選手達は頷いた。

 

「ったくよ、わざわざこんな回りくどい事しなくてもよ…」

 

唯一青峰がこの指示に不満を漏らした。

 

「青峰、そんな気の抜けた事言ってんじゃねえぞ」

 

「うるせえよ。失点の大半がてめえの所からだろ」

 

「んだと!」

 

気を抜いたかのような発言をする青峰を福山が諫めたが、返された言葉に福山が激昂した。

 

「てめえ今日、ほとんど得点出来てねえだろうが!」

 

「声がでけーよ。…けどま、確かに相手を舐め過ぎてわ。あの天野って奴。さつきがディフェンスの名手だって言っただけの事はある。口だけの正邦坊主頭と大違いだ。ディフェンスだけなら火神…いや、緑間並みだ」

 

何処か花月…天野を舐めていた節があった青峰はその事を本人なりに反省していた。

 

「ちょうど身体も良い感じに温まってきた所だ。第2Q、そろそろ力の差を教えてやるよ」

 

そう発現し、青峰が不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

かくして準々決勝の火蓋が切って落とされた。

 

第1Q、当初の期待を裏切り、花月リードで終わった。だが、花月の選手達は桐皇の勢いのなさに不気味さを覚えていた。

 

試合は第2Qに突入し、暴君の牙が今、花月に向けられる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





第1Q終了まで一気に進めました。

この試合の大まかな展開はもう決まっているんですが、肝心なその合間を埋める試合展開が決まっておらず、現在頭を抱えています…(^-^;)

秀徳戦8話くらいやっておいて桐皇戦が2、3話で終わるのはさすがに避けたいのですが、いかんせん書く事が決まらない。再びネタ集めの為に他の漫画を読み耽る必要がありそうですorz

自身のやっているソシャゲのイベントの為、投稿が遅れ、現在、再びイベントが始まったとのと、ネタ集めの為、次話の投稿が結構空くかもしれません。楽しみにしている方は申し訳ございません…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第80Q~エースの本領~


投稿します!

遅くなりました…(^-^;)

今回はちょっとボリューム控えめです。

それではどうぞ!




 

 

 

 

花月 22

桐皇 17

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両選手達がコートへと戻ってくる。

 

「…よし!」

 

審判から空がボールを受け取り、第2Qが始まる。

 

「っ!」

 

試合が再開され、桐皇がマンツーマンで花月の選手に付くと、空は桐皇の選手達の変化に気付いた。

 

「へっ、ようやく本領発揮ってところか」

 

これまでのディフェンスとは明らかに気迫から違う。今までのただのディフェンスから先読みして相手の動きを封殺する桐皇ならではのディフェンスへと変わった。

 

「(狙い目は天さんの所だが…)」

 

最初に攻め手として考えたのは福山がマークする天野のポジション。1ON1を得意としていない天野だが、福山がそれ以上にディフェンスに難がある為、第1Qもここから得点を積み上げた。

 

「(けどまあ、当然ここは何かしらケアしてくるよな。だったら…)」

 

次に注目したのは右アウトサイドに立つ生嶋のポジション。マークするの桜井は昨日の宮地程の高さも身体能力もない。だが、桜井のポジショニングが上手く、パスルートを見事に塞いでいる。生嶋自身もマークをかわそうと動くも上手くいっていない。

 

「…」

 

ローポストに立つ松永だが、マッチアップ相手の若松の為、空は難色を示す。

 

「…じゃ、ここで試してみるか」

 

意を決して空がパスを出す。

 

『おっ?』

 

『そこは…』

 

ボールが渡ると、観客が軽くざわつく。

 

「…ほう、来んのか?」

 

青峰が軽く笑みを浮かべる。ボールの行き先は大地。

 

「…」

 

左アウトサイドでボールを受け取った大地。その意味は、両チームのエース対決を意味する。

 

「お前とまともにやり合うのは夏以来か。ちったぁマシになったんだろうな?」

 

「…」

 

「…だんまりか。これまでみたいにまた逃げるか?」

 

ここまで、大地はターンオーバーを防ぐ為に1ON1を避けていた。

 

「…」

 

大地は特に受け答えをせず、ボールを小刻みに動かしながら青峰を牽制する。

 

「…」

 

「…」

 

数秒の間、無言の駆け引きを繰り返す両者。そして…。

 

 

――スッ…。

 

 

大地はボールを空に戻した。

 

「結局またそれか。ま、お前との勝負より、今はあの関西弁の奴を相手する方が面白れえから構わねえけどな」

 

「……今はまだ…」

 

ふと、大地は誰にも聞こえない程の声量でこう呟いた。

 

「(ただ逃げたってだけじゃなさそうだな。…なるほど、ちったぁマシにはなってるようだな)」

 

横目で青峰は大地を見ながら夏からの成長を実感したのだった。

 

 

その後も、ボールを回す花月。だが、動きを読まれている為、シュートまでもっていけない。やがてボールは空の下に戻ってくる。

 

「…」

 

空にボールが渡ると、今吉がすかさずチェックする。ゆっくりボールを突きながらチャンスを窺う空。もうすぐ24秒のバイオレーションが迫っている為、これ以上時間はかけられない。

 

「(来るで!)」

 

空が動き出す気配を察知し、備える。

 

右手で突いていたボールを左へと切り返す。

 

「(そこからクロスオーバー……ここや!)」

 

切り返したボールが左手に収まったのと同時に今吉はクロスオーバーに備える。そして空の左手が動く。その直前に空の進路に先回りをする。

 

「っ!?」

 

その瞬間、今吉は驚愕する。クロスオーバーを読んでその進路に先回りをしたが、空がそこにいなかったからだ。ふと見ると、ボールは切り返して空の左手に収まった場所に止まっていた。

 

「(左から右へのクロスオーバーちゃうんか!?)」

 

空の得意パターンであり、好んで使うクロスオーバー。ここはそれが来るとデータにあったが、それが外れる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

次の瞬間、空がくるりと身体を右回転させ、背中越しにボールを右手に収め、バックロールターンで今吉の左手側を進行する。

 

「(変則のバックロールターンかいな! けど、これも選択肢になかった訳やあらへん。今ならまだ間に合う!)」

 

すぐに対応し、駆け抜ける空を追いかける。が、空はバックロールターンで抜けた直後、ボールを掴んだ右手をその場所に残し、両脚を前方へと滑らせた。

 

「はっ?」

 

空が何をしているかが理解出来ず、思わず声が出る今吉。

 

 

――ピッ!!!

 

 

空は背後に倒れ込みそうな態勢から右手のスナップを利かせてパスを出した。

 

『なんだそりゃぁっ!』

 

あまりの不可解な動きに観客席からも声が上がる。

 

「ナイスパスです!」

 

パスが出された先に大地が駆け込み、そのままリングへと突っ切り、そのままレイアップの態勢に入る。

 

「打たせっかボケ!」

 

そこへ、若松がブロックに現れる。

 

「(っ! ヘルプが速いですね)」

 

想像以上に速い若松のヘルプに大地は一瞬驚きの表情を見せる。だが、大地は冷静にボールを下げ、すぐ下へとボールを落とした。

 

「んなっ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

落とした先にいた松永が落ち着いてゴール下を沈めた。

 

「よーし!」

 

得点を決めた松永と空がハイタッチを交わした。

 

「…っ」

 

2人とすれ違い様、今吉が表情を曇らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「第2Qに入って、桐皇が花月の動きを先読みするようになったと思ったが、神城だけは完全に読みが外れていたな」

 

「桃っちが読み違えるなんて、珍しいッスね」

 

一連のプレーを見ていた火神、黄瀬が軽く驚いた表情をする。

 

「読めるはずがないのだよ。何故なら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……これは想像以上に難儀な事やで」

 

額に手を当てて顔を引き攣らせる今吉。第1Q終了後のインターバル。欠けていたデータを組み合わせ、修正した新たな花月のデータを桃井から説明を受けた桐皇の選手達。その甲斐もあって相手の動きを先読み出来るようになった。だが、今吉は桃井からデータを受け取る際にこのような言葉を受け取った。

 

『言いにくいんだけど、神城君のデータだけは取れませんでした。このデータもどこまであてになるか分からないので気を付けてください』

 

この言葉どおり、桃井の読みどおり動いたがその動きは見事に外されたしまった。

 

「翔兄ならどないして止めるんやろか…」

 

自身の従兄である今吉翔一の事を思い浮かべる。

 

「…ま、そんなこと考えてもしゃーないのう。これでもスタメンに選ばれた身や。足掴んででも止めな」

 

覚悟を決め、スローワーとなった若松からボールを貰いに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ふむ、桃井さんの予想どおり、読みが外れてしまいましたね」

 

ベンチで原澤が前髪をいじりながらコートを見つめている。

 

「すいません。どうしても彼のデータだけは上手く取れないんです。基本に忠実なバスケをしてきたかと思えば、突然、セオリーから大きく外れた動きに切り替わり、しかも、そこに法則性が一切ないので、どうしても…」

 

「それは、意図的に読みを外しているという事ですか?」

 

「いえ、それは無いと思います。インターハイ時の三杉誠也さんは情報を与えないように試合をしていた節はありましたが、神城君は、少なくとも大仁田戦、秀徳戦でそんな余裕があったとは思えませんので」

 

原澤の意見に首を横に振る桃井。

 

「恐らくですが、神城君はボールを保持した時、何も考えてはいないのだと思います」

 

「何も考えていない? それが本当なら奇妙な話ですね。バスケにおいて、ポイントガード程考えを巡らせなければならないポジションはないと言っても過言ではないのですがね」

 

桃井の予想に、原澤は顎に手を当てる。

 

「その場の思い付き…いえ、もはや身体が反応するがまま自由奔放に彼はプレーをしています。そこにバスケセオリーから大きく外れた動きが加わりますからどうしても動きを予測するのが…」

 

「…確かに、無心の心を読めと言うのは無理な話。なるほど、これは一筋縄では行きそうにありませんね」

 

原澤は、コートへと視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

今吉がボールを受け取り、フロントコートまでボールを進める。その今吉に空がマークに付く。

 

「(ほんま、夏とは比べ物にならんくらい成長しとるで。これなら誠凛の伊月はん、秀徳の高尾はんの方がまだやりやすいわ…)」

 

過去にも手練れの選手とのマッチアップ経験のある今吉だったが、その中で1番の評価を付けたのが空。

 

「(…しゃーない、今あるデータで確率の高い選択肢を選んで相手する他ないのう)」

 

「っ!?」

 

覚悟を決めた今吉は、おもむろにボールを掴み、シュート態勢に入る。

 

「(この距離から打つのか!?)」

 

突如、シュート態勢に入った事で面を食らう空。今吉が立っている場所はスリーポイントラインから2メートル程離れており、ノーマークならまだしも、きっちりマークが付いているこの状況で打つのは無謀に等しい。

 

「ちっ!」

 

だが、不気味に思った空はすぐさま距離を詰め、シュートコースを塞ぐようにブロックに飛んだ。

 

 

――ピッ!

 

 

空にシュートコースを塞がれると、それと同時にパスを出した。

 

「(ただパス出してもカットされるからのう。パス1つ出すのもほんま難儀やで…)」

 

元々打つ気はなかったが、不意を突いたにも関わらず、自身が最高到達点に達する前にシュートコースを塞いでしまう空の反応速度と瞬発力に今吉は寒気を抱いた。

 

「…来おったな」

 

ボールは、左アウトサイドに展開していた青峰に渡り、天野がポツリと呟く。

 

「…」

 

ジッと天野を見据える青峰。対する天野はどの動きにも対応出来るよう青峰の一挙手一投足に注視する。

 

「(…来る!)」

 

そう直感したのと同時に青峰がボールをゆらゆらと動かし始め…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速、ドライブを仕掛ける。天野も送れずにピタリと並びながら青峰に対応する。

 

『おぉっ! 青峰に付いていってるぞ!』

 

青峰に対応する天野に観客席から賛辞の声が出る。

 

「っ!?」

 

同時に青峰がバックロールターンで反転。天野を抜きさり、シュート態勢に入る。

 

「くっ!」

 

抜かれたのを目の当たりにした大地がヘルプに飛び出す。

 

 

――ブォン!!!

 

 

「っ!?」

 

大地がシュートコースに現れたのと同時に青峰がボールをリングにドッチボールのように投げつけた。

 

 

――ガシャン!!!

 

 

ボールはバックボードに当たってリングを潜った。

 

『出た! 青峰のフォームレスシュート!』

 

『…』

 

リングの下で弾むボールを茫然と眺める花月の選手達。

 

「俺にやる気を出させた事は評価してやるよ。…だがまあ、この程度じゃ、本気を出すまでには至らねえけどな」

 

「っ!」

 

そう告げ、青峰は自陣へと戻っていった。

 

「…天さん」

 

空が思わず天野に声を掛ける。

 

「心配あらへん。さっきまでとスピードとキレがちゃうから対応が追い付かんかっただけや」

 

心配かけないよう、天野は努めて明るく返事をした。

 

「これでもディフェンスを売りにしとるからのう。次からは足掴んででも止めたるわ」

 

瞳をギラつかせながら天野は気合を入れ直したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

松永がスローワーとなり、空がボールをフロントコートまで運ぶ。

 

「…」

 

スリーポイントライン手前から慎重に攻め手を考える空。

 

「…っしゃ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

控えめに気合を入れ、一気にカットイン。

 

「今度はドンピシャやで」

 

対する今吉は今度は空の動きを読み切り、遅れずに空を追いかける。

 

「読まれたか…」

 

ならば1度停止して仕掛け直すか…そう考えたが、若松と福山がすぐにヘルプに走れる距離におり、切り込めば囲まれるリスクがある。

 

「ちっ」

 

仕掛けるのを止め、ビハインドバックパスで右アウトサイドに展開していた生嶋にボールを渡した。

 

「打たせない!」

 

生嶋にボールが渡るのと同時にマークしている桜井が距離を詰め、タイトにディフェンスを仕掛けた。

 

「…っ!?」

 

フェイスガードでピッタリとディフェンスをされてる為、シュートはおろか、ボールをキープする事もままならない。

 

「くっ!」

 

やむを得ず、生嶋は空にボールを戻す。

 

「っ!? 待て!」

 

何かに気付いた空が生嶋に制止をしたが一足遅く、生嶋はボールを戻してしまう。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

空と生嶋のパスコースに1つの影が高速で割り込み、ボールをカットする。

 

『青峰だぁっ!』

 

パスを読み切った青峰がパスコースに割り込み、ボールを奪い取った。

 

「ターンオーバーや、戻れ!」

 

慌てて天野が声を出し、青峰を追いかける。

 

「(あかん、速すぎや! ドリブルしとるのに追いつくどころか引き離されてまう!)」

 

必死に追いかける天野だったが、青峰のドリブルスピードが速すぎて追いつくどころか逆にどんどん距離が開いてしまう。青峰がスリーポイントラインを越えて瞬間…。

 

「っ!」

 

青峰の後ろから1本の手が飛び出し、思わず急停止。ボールを切り返してその手をかわした。

 

「ちぃっ! ダメか!」

 

青峰が停止するのと同時に手の持ち主が回り込み、正面に立った。

 

「相変わらず、スピードだけは大したもんだな。…神城」

 

「そりゃ、それが俺の神髄の1つだからな」

 

不敵な笑みを浮かべる青峰に対し、ニヤリと返した。

 

 

「…相変わらず、あいつのスピードは常軌を逸してるな」

 

「ホントッスね。前を走る青峰っちに追いつくとか考えられないッスよ」

 

青峰に追いついた空に驚く火神と黄瀬。

 

「スピードだけではない。本当に恐ろしいのは、あのスピードを1試合維持する運動量なのだよ」

 

前日に試合をした緑間が空の恐ろしさを口にする。

 

「だが、例えスピードで青峰を凌駕していたとしても、それだけでは青峰は止められないのだよ」

 

青峰の実力を良く理解している緑間がそう口にした。

 

 

「…」

 

青峰と対峙する空。

 

「(どう来る。右か…それとも左……いや、この距離なら意表を突いて直接打ってくるかもしれない…)」

 

この1本を止める為、空は青峰の動きの予測を立てる。

 

「(右か左か…直接狙ってくるか……いや、やめた)」

 

思考を巡らせていた空だったが、ここでが頭を振って思考を停止した。

 

「(頭の悪い俺が三杉さんや大地みたいに相手の動きなんざ読めねえし良い考えだって浮かぶはずがねえ。考えるだけ無駄だ。だったら…)スーフー…」

 

ここで空は1度深呼吸をし、両腕をだらりと下げ、膝の力を抜いた。

 

「(相手に合わせるなんざ俺らしくねえ。本能のまま食らい付いてやる)」

 

頭を空っぽにし、相手のどんな動きに対応出来る態勢に入った。

 

「…っ!?」

 

突如、空の様子に変化が起きた事に対峙する青峰は気付いた。

 

 

「あれは!?」

 

観客席の火神が思わず立ち上がった。

 

「そっくりッスね、あの構え、あの雰囲気」

 

黄瀬も気付き、額に汗が伝う。

 

「昨日の試合の時に薄々感じていた。奴もまた、持っているのだよ」

 

メガネのブリッジを押し上げながら言葉にする。

 

「あれは、野生なのだよ」

 

 

「…へぇ」

 

空から醸し出す野生の威圧感に思わず感心する青峰。ここでボールを左右に高速で切り返し始める。

 

『うお、速ぇっ!』

 

そのスピードはどんどん上がっていき、だんだん目で追えなくなるほどになっていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そして唐突に高速のドライブを仕掛ける。

 

「っ!」

 

だが、空は身体が反応するまま動き、ピタリと青峰に付いていく。空に進路を塞がれるとそれと同時に反転。バックロールターンで逆を付く。だが…。

 

 

――スッ…。

 

 

青峰は反転しながらリングに背を向けながらリングに向かってボールを放り投げた。意表を突いたロールしながらのフォームレスシュート。誰もが決まると確信した。

 

「んがっ!」

 

フォームレスシュートに反応した空がブロックに飛ぶ。懸命に手をボールに伸ばす。

 

 

――チッ…。

 

 

伸ばした空の手の指先に僅かにボールが触れた。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれた。

 

『外れた!?』

 

『違う、ボールに触れたんだよ!』

 

ブロックに成功した事に気付いた観客が沸き上がる。

 

「(よし、何とか間に――)」

 

ボールが外れた事に一瞬安堵したその瞬間、空の横を高速で青峰が駆け抜けていく。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

外れたボールをそのままリングに叩きこんだ。

 

『すげー! 外れたボールをそのまま押し込んだ!』

 

「くそっ!」

 

結局失点を防ぐ事が出来ず、空は悔しがる。

 

「あの関西弁と言い、お前と言い、中々楽しませてくれるじゃねえかよ。その調子で俺を本気にさせてみろよ」

 

空の奮闘に興奮を表に出しながら空達に言う。ここから、キセキの世代のエースである青峰の本領が発揮される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は花月は動きを全て読まれていない空が巧みにボールを回し、時に自ら仕掛けて得点を重ね、桐皇は青峰を中心に得点を重ねていく。

 

 

――バス!!!

 

 

青峰が横っ飛びで天野のブロックをかわし、ボールを投げつけて得点を決める。

 

「くそっ!」

 

再び青峰に得点を許し、悔しがる天野。第2Qに入り、天野は青峰を止められずにいた。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

ボールがサイドラインを割った直後、花月のタイムアウトが申請された。

 

 

第2Q、残り5分18秒。

 

 

花月 30

桐皇 28

 

 

選手達がそれぞれのベンチへと下がっていく。

 

「ちぃっ!」

 

ベンチに座るや否や、天野が悪態を吐いた。普段は周囲を盛り上げるムードメーカーの天野だが、今日ばかりは自分の不甲斐なさに苛立ちを見せる。

 

「遂に青峰が本性を露わにしてきたな」

 

選手達の前に立った上杉が腕を組みながら唸る。

 

「青峰さんを中心に、マークが集中すれば他できっちり得点を重ねてきています」

 

『…』

 

桐皇は青峰だけでなく、青峰を囮にして若松、桜井、福山も隙を突いて得点を重ねていた。

 

「とりあえずオフェンスは動きを読まれていない神城を中心に機動力を生かして速攻で確実に点を取っていく。問題はディフェンスだ」

 

得点力において、今大会最強と目される桐皇。青峰を筆頭に、他の選手も高いオフェンス力を有している。

 

「だが、やはり止めなきゃならないのは青峰だ。エースを調子付かせるとチームが活性化させてしまう。…綾瀬」

 

「はい」

 

「青峰に付け。ここからはお前と天野のダブルチームで行く」

 

「っ!?」

 

上杉がそう指示を出すと、天野がハッと顔を上げる。

 

「エースの歯車が狂えばチームの歯車も僅かに狂うはずだ。まずは青峰を止める事を最優先でいく」

 

「…っ」

 

上杉からの指示に、天野は拳をきつく握り、歯をギュッと食い縛った。

 

「私も青峰さんに付くとなると、福山さんはどうするのですか? 彼は桐皇において青峰さんに次ぐオフェンス力です。ノーマークにするのは危険だと思うのですが…」

 

大地が福山をマークを外す事の危惧を口にする。福山は全国レベルで見てもトップレベルのオフェンス力を有する選手。

 

「綾瀬の言う事ももっともだ。だが、今は青峰最優先だ。…神城」

 

「はい!」

 

「今マークしている今吉と福山の2人をお前1人で抑えろ。お前のスピードとスタミナならやれるはずだ」

 

「任せて下さい!」

 

「無理はしなくていい。最悪、そこからのある程度の失点は覚悟する」

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「良いか。お前達は対等に戦えている。自信を持って行け」

 

『はい!!!』

 

「行って来い!」

 

上杉の掛け声を背に、花月の選手達はコートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は桐皇ボールで再開される。

 

『っ!?』

 

今吉にボールが渡ると、花月のディフェンスの変化に桐皇が気付く。

 

「ほう」

 

目の前の大地と天野を見て青峰が唸る。

 

「ちっ」

 

ノーマークになった事に舌打ちをする福山。

 

少しずつ調子を上げ、本来の得点力を発揮し始める青峰。その青峰を止める為、策を仕掛ける花月。

 

試合は、少しずつ動きを見せ始めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





投稿間隔が空いてしまい、申し訳ありませんでした…m(_ _)m

理由としまして、仕事が忙しくなった事、花粉症が発症した事、ソシャゲです。特にネックなのが花粉症です。くしゃみ鼻水が止まらなくなり、何も手に付かない。薬を飲めば症状がある程度抑えられるのですが、副作用で異常に眠くなり、これまた何も手が付かなくなる悪循環。花粉症のシーズンが終わるまで投稿間隔が空くと思いますのでご了承が下さい…m(_ _)m

ここ数年でヒノキも発症したので5月くらいまで投稿が遅くなります。ホント杉とヒノキ滅べ…(#^.^#)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第81Q~奮闘~


投稿します!

待たせたな!

…すいません、めっちゃ間隔空いてしまいました…(^-^;)

言い訳は後書きにて…。

それではどうぞ!




 

 

 

第2Q、残り5分18秒。

 

 

花月 30

桐皇 28

 

 

タイムアウトが終了し、現在、ボールは桐皇…今吉が所持している。

 

「…」

 

目の前の空に気を配りながら今吉は周囲を観察する。

 

「(青峰はんをダブルチームで止めにきよったか。そら、そこ止めんと話にならんからな。代わりに福山はんが空いた訳やが…)」

 

チラリと視線を向けると、やや苛立ち気にノーマークで立っている福山の姿が。

 

「(そこを空けるとか正気の沙汰としか思えんが…)」

 

「(…チラッ)」

 

目の前の空が今吉に気を配りながらしきりに福山に注意を向けていた。

 

「(…なるほど、そこのケアは神城にさせるっちゅう訳やな。確かに、あれだけのスピードと運動量があったなら可能かもしれんな。…さて、この1本、どないして攻めたろか…)」

 

視線を空に戻し、攻め手を考える。

 

「(安全に点取り行くなら福山はんやけど、ここは…)やっぱここやろ」

 

攻め手が定まった今吉がパスを出す。

 

『おっ?』

 

ボールの先を見て観客がざわめく。

 

「…そう来たか」

 

今吉の選択に上杉の表情が引き締まる。

 

「何が何でも止めるで」

 

「はい!」

 

ボールの先、青峰がボールを受け取ると、目の前の大地と天野が集中力を高める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「この1本は注目なのだよ」

 

「そうッスね」

 

青峰にボールが渡ると、緑間と黄瀬が目の色を変える。

 

「ああ。タイムアウト直後、あのダブルチームは確実に青峰を抑える為のもの。ここで青峰に突破を許せば花月の士気は下がる。最悪、勝敗が決まる」

 

2人の意を理解した火神が解説をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「なかなか良い感じのプレッシャーじゃねえかよ」

 

「「…」」

 

集中し、青峰の一挙手一投足に注視する大地と天野を見てニヤリと笑みを浮かべる青峰。ここでボールを小刻みに動かしながら牽制からドリブルを始める。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりとドリブルをする青峰。2度、3度ボールを突いた所で動き出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

チェンジオブペースからのクロスオーバーで一気に加速し、仕掛ける。即座に大地が反応し、青峰の動きに対応。

 

「っ!?」

 

横に並ばれると青峰はすぐさまバックチェンジで切り返し、大地をかわそうと試みる。だが…。

 

「…ほう」

 

そこへ、天野が現れ、進路を塞いだ。青峰は2人を過小評価をしておらず、まとめて抜きさるつもりで今も仕掛けていた。

 

「…っ! …っ!」

 

「…根性や!」

 

その後も青峰は技を変え、リズムを変えて仕掛け続けるが、大地と天野はそれをことごとく阻んだ。

 

「青峰さんが、攻めあぐんでる!?」

 

なかなか突破する事が出来ない青峰を見て桜井が驚く。過去にも青峰に対してダブルチームトリプルチームを布いて来たチームは多々あったが、青峰はそれを難なく突破してきた。キセキの世代と火神以外、何人でディフェンスしようが青峰の前では無意味だった。だが、大地と天野が青峰の突破を阻んでいる。

 

「ちっ」

 

抜く事が出来ず、青峰は舌打ちをしながらパスを出した。

 

「おーおー、ナイスパスじゃねえかよ!」

 

「…くっ!」

 

ローポストでボールを受けた若松が背中でジリジリと松永を押し込みながらゴール下へと突き進む。

 

「どっせぇぇぇぇぇい!!!」

 

 

――バス!!!

 

 

強引にゴール下まで押し込むと、そのままゴール下から得点を決めた。

 

「…ちっ」

 

得点を防ぐ事が出来ず、松永から舌打ちが飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「失点こそ防げなかったが、タイムアウト直後、対策を布いた青峰からの失点は阻止した。上出来と言っていいのだよ」

 

エース、青峰からの失点を防いだ花月を緑間が称えた。

 

「それにしても、あの2人もやるッスね。去年、火神っちと黒子っちと木吉さんの3人がかりでも失点は防げても止める事は出来なかったのに」

 

「天野幸次のディフェンスはお前や火神でも抜くのは骨が折れる相手だ。綾瀬大地にしても同様だ。見た所、コンビネーションも充分だ。あのダブルチームは並みの実力者ならボールをキープするだけでも至難の業なのだよ」

 

直接手を合わせた緑間が2人の実力を説明する。

 

「花月のオフェンスだ。俺はディフェンスよりもオフェンスの方が重要だと思うぜ。いくら青峰を止めても点を取れきゃ勝てないんだからな」

 

攻守が切り替わるのを見て、火神は再びコートに集中したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ」

 

歯をきつく噛みしめ、拳をギュッと握り込む大地。

 

「ドンマイ」

 

そこへ、空が大地の肩に手を置きながら声を掛けた。

 

「とりあえず青峰からの失点は防げたんだ。それでよしとしようぜ」

 

「…ですが、結局失点は防げませんでした」

 

空が声を掛けても尚、大地の表情は曇ったままだった。

 

「天野先輩と2人がかりでも抜かせないだけで精一杯でした。青峰さんのプレーはこれから更にキレを増していくでしょう。そう考えると…」

 

青峰が尻上がりに調子を上げていく事を理解している大地は、これからの先の展望に不安を感じていた。

 

「(大地と天さんの2人を相手にしたら俺ならボールをキープするのだって至難の業だ)」

 

2人のディフェンス力は空も良く理解しているだけに、大地にここまで言わせる青峰に改めて脅威を感じていた。

 

「…だったら、点を取ろうぜ」

 

「えっ?」

 

「俺らの持ち味は堅守じゃねえだろ? 止められねえそれ以上に点を取る。違うか?」

 

大地の眼を見据えながら空が問いかける。

 

「……そうですね。今は嘆いている場合ではありませんね。ディフェンスの借りはオフェンスで返しましょう」

 

「っしゃ、どんどんパス出していくから、頼むぜ」

 

「えぇ!」

 

そう答えると、大地は前へと走っていった。

 

「さて…」

 

ゆっくりとボールをフロントコートに進めながら空はどう攻めるか考える。桐皇が調子を上げてきている今、1つのミスが命取りになることは明白。空がボールをスリーポイントライン2メートル手前までボールを運ぶと、今吉がディフェンスにやってきた。

 

「…」

 

「…」

 

今吉は僅かではあるが距離を取り、それでいてプレッシャーをかけながらディフェンスをしている。

 

「あの1年坊、絶妙な距離を取るやないか。ドライブに備えて僅かに距離取ったようにみせて、それでいて外撃たれんようにプレッシャーをかけとる。空坊相手にするなら最良のディフェンスや」

 

空に対する今吉のディフェンスを見て天野は思わず称賛の言葉が出た。スピードがあり、確率が低くないスリーがある空を相手にするならこの今吉の距離の取り方とディフェンスは的確。

 

「けどま、それで止めれるかどうかは別問題やけどな」

 

そう付け足すと…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に空が加速し、今吉との距離を一瞬で詰めた。

 

「(ウソやろ!? この距離簡単に潰しよった!)」

 

間合いを一瞬で詰められた事に驚きを隠せなかった。

 

「(けど、この先の動きは読めとる。ここからバックロールターン……ドンピシャや!)」

 

予想通り、空は今吉との距離を詰めるとそこからバックロールターンで反転し、かわそうとした。それを読み切った今吉は横を抜けようとする空の持つボールを後ろから狙った。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

バックチップを狙おうとしたその時、それを阻む壁が現れた。

 

「そう来るやろうとヤマ張って正解やったな」

 

空がバックロールターンで反転するのと同時に天野が走り込み、スクリーンをかけていた。

 

「うお! ここでかいな!」

 

「そら、これまでやってきた事は読まれとるんやから、やった事あらへんことするのは当然やろ」

 

意表を突かれた今吉に、天野はニヤリと笑みを浮かべながら言う。

 

「天さん、サンキュー」

 

今吉を振り切った空はリングに向かって直進。そのままレイアップの態勢に入った。

 

「調子に乗んなよ1年坊!」

 

いち早く若松がヘルプに飛び出し、ブロックに向かった。目の前に若松が現れると、空はレイアップを中断、視線を右に向ける。そこには、生嶋がスリーポイントラインの手前で立っていた。

 

「パスだろ。させるわけねえだろ!」

 

パスに切り替えると読んだ若松が左手を伸ばし、空と生嶋のパスコースを塞ぎにかかる。空はそのまま生嶋にパス……と見せかけ、途中で中断し、逆側にボールを落とした。

 

「んだと!」

 

読みが外れた若松。ボールはゴール下に立つ松永の手に渡る。

 

「おぉっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

「「よぉぉぉし!」」

 

空と松永がハイタッチを交わす。

 

「あのやろ…!」

 

「ドンマイキャプテン。オフェンス期待してまっせ」

 

怒れる若松をなだめるように今吉が声を掛け、ゲームメイクを始めた。

 

桐皇のオフェンス。ディフェンスは先程変わらず今吉には空。若松には松永。桜井には生嶋。青峰には大地と天野のダブルチーム。福山はフリーとなっている。

 

「…」

 

今吉が目の前の空に気を配りながら周囲を見渡す。

 

「……ほな、次はここで行ってみようかの」

 

そう呟くのと同時に左サイドに立っていた桜井が生嶋のマークを振り切り、ボールを貰いに行く。今吉も視線を桜井に向けた。

 

「(あいつ(桜井)か、させるか!)」

 

空が今吉と桜井のパスコースを塞ぎにかかる。

 

「っ!?」

 

今吉はパスを出す。が、ボールは桜井ではなく、逆。右から走り込んできた福山に頭上からノールックでオーバーヘッドパスを出した。

 

「よーし!」

 

フリーの福山がボールを受け取ると、そのままリング目掛けて突っ込んでいく。

 

「くそっ、そっちかよ!」

 

慌てて空が福山を追いかける。

 

 

――ドッ!!!

 

 

「って!」

 

だが、反転して追いかけようとした瞬間、真後ろに移動していた今吉とぶつかってしまう。

 

「ったた、堪忍やで」

 

痛そうな素振りを見せつつも、口元の口角を上げながら今吉が呟く。福山はリング付近までドリブルで進み、シュート態勢に入る。

 

「させるか!」

 

松永がヘルプに飛び出し、ブロックに飛ぶ。

 

 

――ガン!!!

 

 

ブロックに飛んだ松永の指先にボールが僅かに触れ、放たれたシュートはリングに弾かれる。

 

「まだまだーーーっ!!!」

 

外れたボールを福山自らが強引にリバウンドをもぎ取り、再びシュート態勢に入る。

 

「くそっ!」

 

慌てて松永再びブロックを試みる。だが…。

 

「あっ!?」

 

福山はポンプフェイクを1つ入れる。松永はそれに釣られ、思わず両手を上げ、膝を伸ばしてしまう。

 

 

――バス!!!

 

 

フェイクにかかった松永はブロックに飛ぶ事が出来ず、福山は悠々とゴール下から得点を決めた。

 

『うおぉぉっ! あの9番(福山)、ディフェンスはザルだけどオフェンスはすげーぞ!』

 

強引に押し込み、得点を決めた福山に歓声が沸く。

 

「ちょっと待った! その前のあいつ(今吉)のスクリーン。あれファールじゃないのか?」

 

得点が決まる前の空のヘルプを阻んだ今吉のプレーに審判に抗議をした。通常、スクリーンを掛ける際、そのプレーヤーは止まっていなければならない。だが、今吉は明らかに走りながら空の進路を阻んでいた。

 

「いや、ファールじゃないよ」

 

だが、審判は首を横に振り、抗議を退けた。

 

「止めとき空坊」

 

納得出来ない空を天野が窘める。

 

「今吉が福山にパスを出した後、今吉はリターンパスを貰いに風を装って空坊の進路を塞ぎよった。あれ見て審判はリターンパス貰い行く際の事故と取ったんやろ。そもそも、並みのスピードと反射神経じゃぶつからへんタイミングや。残念やけど、向こうが1枚上手やったっちゅう事や」

 

「……くそっ」

 

天野の説明に納得はしたが、悔しさを露わにする。

 

「それより、オフェンスやで。こっちの方が重要や。頼むで」

 

そう告げながら天野は空の肩を叩き、前へ走っていった。

 

「いつまでも気にしてても仕方がねえ。やられたらやり返す」

 

顔を叩いて気合を入れ直し、スローワーの松永からボールを受け取り、ゲームメイクを開始した。

 

「…」

 

「…」

 

先程同じ、ボールをフロントコートまで運んだ空。目の前には今吉。

 

「……よし」

 

意を決すると、空は突然シュート態勢に入った。だが、今吉は一切動じず…。

 

「ええよ。好きに打ったらええ。決める気のないシュートにいちいちブロック飛んどっとら疲れるだけやわ」

 

「(くそっ、読まれてる…!)」

 

ブロックに行かず、その場で留まる今吉。今吉の言葉通り、空はこの距離から打つつもりはなく、今吉を誘い出すのが目的だった。決める気でいたなら僅かなれど決まる確率はあったが、リングに意識が向いていない状態で打てばまず間違いなく外れる。

 

「空!」

 

その時、空の横から大地が駆け寄ってくる。

 

「すまねえ!」

 

その声に反応し、空は大地へボールを渡す。

 

「っ!」

 

「よう。まさか、逃げられるとか思ってねえだろうな?」

 

大地にボールが渡ると、目の前には青峰が立っていた。

 

「逃げませんよ。今回は…!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、青峰の左手側にドライブを仕掛ける。青峰は遅れる事なく大地に付いてくる。

 

 

――キュッ!!!

 

 

ドライブと同時に急停止、高速でバックステップし、青峰と距離を空ける。

 

「っと、夏より速くなってるじゃねえかよ」

 

下がったの同時に青峰が大地との距離を瞬時に詰める。

 

「っ! この程度ではかわせませんか…!」

 

同時に大地はバックロールターンで前進し、距離を詰める青峰をすれ違い様に反転しながらかわす。

 

『うおぉぉっ! あいつ、抜きやがった!』

 

「いや、まだッスよ」

 

抜いたと見た観客は沸き上がるが、黄瀬は冷静に呟く。

 

「っ!」

 

抜かれた直後、青峰は急停止し、腕を伸ばして横を抜ける大地の持つボールを狙い撃つ。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

伸ばした手が大地の持つボールを捉えた。

 

「ナイス青峰!」

 

零れたボールを若松が拾い行く。

 

「っ! まだです!」

 

青峰のバックチップでボールを弾かれたのと同時に大地がボールに飛び込む。

 

 

――バチィン!!!

 

 

ボールが若松の手に収まる前に大地がボールを弾いた。

 

「さすがだぜ、大地!」

 

弾いたボールを空が拾い、そのままリングに突き進む。

 

「っしゃぁっ! 景気良いの1発!」

 

フリースローラインを越えると、そのままボールを右手に持ち、リング目掛けて跳躍し、ボールをリングに叩きつけた。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、1本の手が現れ、ダンクを阻んだ。

 

「調子に乗んじゃねえよ」

 

その手の正体は青峰。バックチップ直後にリングまで戻り、空のダンクをブロックした。

 

「キセキの世代の壁はここまで大きいのか…!」

 

青峰の恐ろしさを見て、ベンチの馬場が絶望する。

 

 

――バチィン!!!

 

 

空の手に収まるボールを青峰が掻き出す。ボールはリング付近にふわりと舞う。

 

「よっしゃぁっ! リバウンド――」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

福山がルーズボールを抑えようとしたその時、浮いたボールをそのままリングに叩きこんだ。

 

『綾瀬だぁぁぁっ!!!』

 

リバウンドダンクを叩き込んだのは大地。ボールを弾いた後、すぐさま立ち上がり、空のフォローに向かい、青峰のブロックで弾かれたボールをすぐさま叩き込んだ。

 

「さすが大地!」

 

「空も、良いフォローでしたよ」

 

空と大地がハイタッチを交わした。

 

「…へぇ」

 

今のプレーを見て青峰が嬉しそうに唸る。

 

「ボール寄越せ」

 

スローワーとなった若松が今吉にボールを渡すと、青峰がボールを要求する。

 

「どうぞ」

 

今吉は躊躇わず青峰のボールを渡した。

 

「来るで…」

 

「はい…」

 

ボールを持った青峰に大地と天野が付く。ゆっくりとドリブルをする青峰。大地と天野の射程に入ると、青峰は加速する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

変則のリズムを織り交ぜながらドリブルを始め、2人を翻弄する。

 

「「…っ!」」

 

ストップ&ゴー、ゴー&ストップを繰り返し、かつストリートの型のないバスケットで隙を窺う青峰。

 

「集中一瞬でも切らすんやないで!」

 

「はい!」

 

一方の大地と天野も必死に青峰に食らい付く。

 

 

――スッ…。

 

 

青峰が背中から手首のスナップを利かせてボールを大地の背後に落とす。

 

「くっ!」

 

大地の背後にボールを放ったの同時に大地の横を高速で抜け、ボールを拾う。

 

「まだやぁっ!」

 

ボールを青峰が拾った直後、天野がその目の前に立ち塞がり、進路を塞ぐ。

 

「っとぉ、やるなぁっ!」

 

天野が現れると、青峰は目を輝かせながら足を止める。直後、左右に切り返し、揺さぶりをかける。

 

「(あ…かん! スピードとキレが更に増してきよった! まだ上がるんかい!)」

 

調子をドンドン上げる青峰。天野は付いていくだけで手一杯となっていた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

急加速した青峰がクロスオーバーで天野の横を駆け抜ける。天野はなす術なく抜きさられる。

 

「まだです!」

 

同時に青峰を追いかけた大地が進路を塞ぎ、青峰の前に立ち塞がる。

 

「すまん、おおきに!」

 

大地が立ち塞がった事で青峰は急停止した。その間に天野が回り込み、再び2人は青峰の前に立ち塞がった。

 

『すげー、2人がかりとは言え、あの青峰を抑えてるぞ』

 

『キセキの世代と火神以外に抑えられる奴がいるんだな…』

 

大地と天野の奮闘に観客席から称賛の声がチラホラ出る。

 

「(何とか抑えていますが、気を抜いたらたちまち抜かれてしまいます…!)」

 

「(紛いなりにもこの花月で体力付けたつもりやったけど、こないに疲れる相手は初めてや!)」

 

当の2人は目の前の相手、キセキの世代のエース、青峰大輝を相手に奮闘しているものの、その圧力に今にも屈指そうになるのを歯を食い縛って耐えている状態だった。

 

「……ふぅ」

 

青峰は僅かに後ろに下がり、一呼吸吐いた。

 

「……ふぅ」

 

そんな青峰を見て大地もその間に呼吸を整えた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

その時、青峰が加速し、大地の横を抜けていった。

 

「しまっ――」

 

青峰は大地が僅かに集中を切らす瞬間を見逃さなかった。むしろ、距離を取って一息吐いたのはその一瞬の油断を引き出す為だった。

 

 

「経験の浅さが露呈したな」

 

「いや、ここはその隙を作りだした青峰が1枚上だっただけの事なのだよ」

 

火神は大地の経験不足を指摘したが、緑間は百戦錬磨の青峰を称賛した。

 

 

完全に不意を突いた青峰が大地と天野ダブルチームを突破。そのままリングに向かって進撃……すると誰もが思った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

青峰が2人の背後に進んだ直後、青峰の手に持つボールが何者かに叩かれた。

 

「ハッハッハッ! 簡単に点は取らせねえぞ!」

 

ボールを叩いたのは、空だった。

 

『うおぉぉっ! 神城だぁぁぁっ!!!』

 

頭で考えての行動ではなく、瞬間、直感で動き、大地を抜いた直後の青峰のボールをスティールした。

 

「速攻ぉっ!!!」

 

ボールを拾った空がそのままワンマン速攻。先頭を駆ける。

 

 

――バス!!!

 

 

速攻をかけた空に誰も追いつけず、そのままレイアップを決めた。

 

「っしゃぁっ!」

 

速攻を決めた空はガッツポーズで喜びを露わにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ったく、神城の奴、ただでさえダブルチームで空いた穴を1人で埋めてるって言うのに無茶しやがって…」

 

博打同然の空の行動に頭を掻きながら溜息を吐いた。

 

「…だが、この博打を成功させた見返りはでかい」

 

「えっ?」

 

上杉の言葉に真崎が声を上げる。

 

「真崎先輩、青峰さんを見て下さい」

 

姫川に促され、真崎は青峰に視線を向ける。

 

「…ちっ」

 

そこには、僅かに苛立ちと戸惑いの色を見せている青峰の姿があった。

 

「さっきの神城君のスティールで青峰さんはいつ来るか分からない神城君に警戒しています。今の青峰さんから見れば実質トリプルチームのようなものです」

 

「いや、ここぞと言う時に現れる分、ただのトリプルチームより厄介だろうな」

 

「なるほど…」

 

姫川の解説に真崎は納得する。

 

「…まさか、神城はその為にヘルプに?」

 

「いえ、恐らく何も考えずにマークを外してカットに向かったのだと思います」

 

馬場の予測に姫川が苦笑しながら否定した。

 

「奴の直感がそうさせたのだろう。そういうプレーヤー少なからずいる。…この効果はしばらく続く。その間にどれだけ試合を優位に進められるかだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

上杉の予想通り、空の影が脳裏にチラついた青峰のプレーは消極的になった。

 

「…」

 

それを感じ取った今吉は、桜井、福山、若松を中心に攻め、得点を重ねていった。そして試合は、第2Q僅かの所まで進んだ。

 

「…」

 

ボールは青峰の手に渡る。青峰は高速の切り返しを繰り返しながら揺さぶりをかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

ゆさぶりをかけた際に出来たダブルチームの間を高速で突破する。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

突破と同時に急停止し、危なげなくジャンプシュートを決めた。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

同時に、第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q、終了。

 

 

花月 43

桐皇 42

 

 

途中の青峰の失速もあり、花月が1点リードで試合を折り返した。ハーフタイムに入り、選手達は控室まで下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よっしゃぁっ! リードで試合を折り返したぜ!」

 

控室に入るや否や、空が喜びを露わにした。

 

「喜んでないで黙って座って呼吸を整えなさい」

 

そんな空を窘めながら姫川は空にドリンクを渡した。

 

「天野先輩、大丈夫ですか~?」

 

「大丈夫ちゃうなぁ。すまんが相川はん、ハチミツレモンくれへん?」

 

疲労の色がある天野は相川の持つタッパーに入っているレモンのハチミツ漬け口にした。

 

「…ハァ…ハァ」

 

「…ふぅ」

 

生嶋と松永も疲労の色を隠せないでいる。1点リードで折り返したとはいえ、スタメンの半数以上がかなりの消耗強いられてしまい、決して楽観視出来ない状況であった。

 

「返事はしなくていい。そのまま話を聞け」

 

上杉が皆の注目を集める。

 

「状況は芳しくない。本当に試練はここからだ。リードはしているが、全員、集中を切らすな」

 

『…』

 

「とはいえ、桐王を相手に戦えている事は事実だ。そこは自信を持ってもいい。良いか――」

 

そこから、上杉が後半戦の指示を伝えていく。選手達は黙って上杉の言葉に耳を傾けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「まさか、試合の半分が終わって花月リードで終わるとはな」

 

観客席の諏佐が神妙な表情で言う。

 

「まあ、データ不足に、花月は秀徳を倒して勢いに乗っとるし、何より、緑間に勝った事でプレッシャーからも解放されとるからのう」

 

「? どういう事だ?」

 

今吉(翔)の言葉が理解出来なかった諏佐が思わず聞き返す。

 

「ワシらは青峰がおったから分からんやろうけど、キセキの世代を相手にする言うんはそれだけでえらいプレッシャーがかかるんや。なんせ、チームに1人加わればたちまち全国区の優勝候補。弱小校でも、加われば全国区のチームに早変わりしよるやろう。そないな奴を相手にすればその圧倒的な力とプレッシャーで実力なんぞ出しきれんやろ」

 

「…」

 

「キセキの世代を擁するチームと戦って負けた相手のほとんどが力出し切れずに負けていったやろなあ。まあ、仮に出し切れても結果は変わらんかったやろうけどな」

 

「なるほどな」

 

今吉(翔)の説明で諏佐は納得した。

 

「なら、ここから先はどうなると予想する?」

 

「…そんなもん、説明せんでも分かるやろ? 第3Q、開始早々試合は動くやろ。そんで始まるのは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『来たぞ!!!』

 

ハーフタイム終了の時間が近づき、花月、桐皇の選手達が戻ってきた。両チーム共、メンバー交代はなし。スタメンのままコートへと向かっていく。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合開始のブザーが鳴り、桐皇ボールで開始される。

 

「…来い」

 

気合い充分で空が今吉に付く。今吉は空がディフェンスに来る否やパスを出す。

 

「…」

 

ボールは青峰に渡る。

 

「…」

 

「…」

 

第2Qと同じく大地と天野がダブルチームで青峰をマークする。集中力を最大にして2人は青峰の動きに備える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを持った青峰が仕掛ける。

 

「えっ?」

 

「なっ?」

 

ダブルチームでマークする大地と天野を一気に突破する。

 

「くっ!」

 

一瞬の出来事で驚愕するも生嶋がヘルプに飛び出す。だが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

青峰は意に介さず、バックロールターンで悠々とかわす。

 

「くそっ!」

 

生嶋が抜かれたのを見て松永が飛び出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「はや…すぎる…!」

 

そんな松永もクロスオーバーで一瞬で抜きさってしまう。松永を抜いた青峰はそのままリングに目掛けて跳躍した。

 

「くそっ、決めさせっかよ!」

 

そこへ、空が先回りし、ブロックに現れる。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「がっ!」

 

だが、青峰はそのブロックを跳ね飛ばし、ダンクを決めた。

 

 

――ボムッ…。

 

 

ボールがコートに落ちる。会場が一瞬静寂に包まれると…。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

会場が歓声に包まれた。

 

『…』

 

試合再開早々の5人抜きに、花月の選手達は言葉を失う。

 

「ふむ。そうですね……第3Q、5分で20点を目標にしましょうか」

 

桐皇ベンチの原澤が前髪をいじりながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

前半戦をリード折り返した花月。

 

昨日の秀徳戦に続き、キセキの世代を擁するチームと互角に戦えると自信が付いた。

 

だが、その直後、キセキの世代のエース、青峰に圧倒されてしまう。

 

「第3Q、開始早々試合は動くやろ。そんで始まるのは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――桐皇による虐殺や…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





花粉症発症とその薬の副作用で創作意欲が沸かず、ずっと筆を止めていましたが、4月中旬くらいから執筆を再開しました。…したのですが、自身のやっているソシャゲが何を思ったのか、ゲームに張り付けイベントを3週間連続で開始した為、これまでずっとそれをやっていた為、ここまで間隔が空いてしまいました。

いや、本当に申し訳ございませんでした…m(_ _)m

ゴールデンウイークが空け、5月は割と時間が取れる(はず)ので、これまでの投稿間隔で投稿出来るよう精進致しまする…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第82Q~虐殺~


投稿します!

前回と引き続き、再びこれだけの間隔が…(^-^;)

それではどうぞ!




 

 

 

第3Q、残り9分51秒。

 

 

花月 43

桐皇 44

 

 

前半戦をリードで終え、試合も折り返しに差し掛かった早々、青峰の5人抜きによる一撃で桐皇は点差を逆転させる。

 

『…』

 

第3Q開始直後の一撃に、花月の選手達は茫然とする。

 

「…っ! 松永ボールをくれ、取り返すぞ!」

 

「っ! す、すまん」

 

いち早く正気に戻った空がボールを要求。同時に正気に戻った松永がボールを拾い、スローワーとなって空にボールを渡した。

 

「ハーフタイム直後に不意を突かれただけだ。取り返すぞ!」

 

ボールを受け取った空は声を出し、ボールをフロントコートまで進めた。

 

「…」

 

同時に、今吉が空のディフェンスに現れた。

 

「…」

 

ここで止まり、空はドリブルをしながら攻め手を考える。現状、大地、生嶋、松永はマークがきつい。天野は比較的マークが緩いが…。

 

「(天さんはポジションが悪い。いくらディフェンスに難がある福山相手でもきついだろう。だったらここは俺が…!)」

 

自分で点を取りに行くと決めた空はその場でレッグスルーで何度かボールを行き来させ…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速、クロスオーバーで今吉を抜きにかかる。

 

「うはっ! 疲労も出てくる時間帯やのにこのスピードは敵わんで…!」

 

空のスピードに面を食らいながらも動きを先読みし、空の進路を塞ぎにかかる。

 

「この程度…!」

 

 

――スッ…。

 

 

進路を塞がれるも、空はすぐさまバックチェンジで切り返し、今吉をかわした。

 

『抜いたぁっ!』

 

ペイントエリアまで侵入すると、若松がヘルプに飛び出す。空は若松がブロックに現れる前にシュート態勢に入った。

 

「あかんわ。やっぱ儂じゃあんさんに勝たらへん。…けどまあ、勝つ事はでけへんけど、止める事は出来そうやわ」

 

「っ!?」

 

ここで空は気付いた。自身の真横から高速で駆け寄る1つの影を。

 

「生憎やけど、そこはエースの射程圏内や」

 

「しまっ――」

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

ボールが空の指から放たれた直後、青峰よってブロックされた。

 

「ナイスブロォォォック!」

 

ルーズボールを福山が拾い、そのままワンマン速攻をかける。

 

「いただきぃっ!」

 

リング付近までドリブルで侵入した福山はそのままレイアップの態勢に入った。

 

「あかん! 福山はん、ボール下に落としぃ!」

 

「っ!?」

 

突然耳に入った今吉の声に反応し、福山はボールを下に落とした。

 

「ちっ!」

 

その時、福山のすぐ後ろから空の舌打ちが聞こえる。

 

「マジかよ…」

 

先程青峰のブロックされたばかりの空が目の前にいた事に軽く驚く福山。もし、今吉が声をかけなければ確実にブロックされていただろう。

 

「いい反応でっせ」

 

落としたボールを受け取った今吉がシュート態勢に入る。

 

「させません!」

 

そこへ、大地が後方からブロックに現れた。

 

「知っとるわ」

 

だが、今吉は予見していたのか、動じることなくボールを左アウトサイドへとパスを出す。そこへ、桜井が走り込み、ボールを受け取る。

 

「すいません!」

 

ボールを受け取るのと同時に桜井はスリーを放つ。生嶋がブロックに向かうも僅かに間に合わず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「くっ!」

 

スリーを決められ、点差が4点に開き、表情が曇る空。ボールを受け取り、ゲームメイクを始める。

 

「…」

 

再びボールをフロントコートまで運ぶ。目の前には今吉。

 

「……ちっ」

 

思わず空の口から舌打ちが飛び出す。自身をマークする今吉に関して言えば、動きを読まれているとは言え、抜けない相手ではない。だが、先ほどの青峰のブロックが頭にチラつき、ドリブル突破をする事に迷いが生じる。

 

「(…ふっ、思ったとおりや。さっきのブロックが相当効いとる)」

 

焦る空を見て今吉は内心でほくそ笑む。

 

「(調子に乗った時の神城は手が付けられんが、1度思考の沼にハメてまえばこの様や)」

 

調子の変動によってパフォーマンス能力に影響が出やすい空。第3Q最初の5人抜きによるダンクと先ほどのブロックは空の調子を崩すには充分な効果があった。

 

「くそっ!」

 

イラつきながら空はパスを出す。ボールの先は右アウトサイドに展開していた生嶋。

 

「…っ!?」

 

ボールが生嶋に渡ると、桜井が厳しくチェックをしてきた。

 

「…っ! …くっ!」

 

桜井の厳しいチェックに、ボールを受け取った生嶋は碌にシュート態勢に入る事も出来なかった。

 

「生嶋奏君の恐ろしさはその正確無比なスリー。ならば、スリーを打たせなければいい」

 

桐皇ベンチで桃井がノートを片手に呟く。

 

「…このくらいで…!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

厳しく当たられながらも生嶋は隙を突いて桜井の脇からドライブで抜けた。

 

「生嶋はスリーだけじゃねえんだよ」

 

桜井を抜きさった生嶋を見て空がほくそ笑む。

 

「こうなっても構いません。生嶋君はとにかくスリーを打たせない事が第一。例え中に切り込まれても、彼にはそこで勝負できる武器がありません」

 

桜井を抜いた直後にシュート態勢に入る生嶋。

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

「っ!?」

 

「百年はえーよボケ!」

 

だが、そのシュートはヘルプに出た若松によってブロックされた。

 

「速攻や!」

 

ルーズボールを今吉が拾い。速攻をかける。

 

「くそっ、させっかよ!」

 

速攻をかける今吉を追いかける空。スリーポイントライン手前で今吉を捉え、目の前に立ち塞がる。

 

「相変わらず信じられんスピードやのう。やが…」

 

追いつかれるのと同時にノールックビハインドパスでボールを右に流した。そこへ、福山が走り込み、ボールを受け取る。

 

「スリーを打てんのは桜井だけじゃねえぞ」

 

「くそっ!」

 

スリーを放つ福山。慌ててブロックに飛ぶ空だったが、紙一重で届かなかった。

 

 

――ガン!!!

 

 

「あがっ!」

 

だが、ボールはリングに嫌われ、外れる。

 

「助かった。リバウン――」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「きっちり決めろバカ」

 

外れたボールを、そのまま青峰がダンクで押し込んだ。

 

『スゲー! リバウンドダンクで押し込みやがったぁっ!』

 

豪快な青峰のダンクに観客がさらに沸き上がった。

 

『…っ』

 

再び点を決められ、表情が曇る花月の選手。

 

「顔を上げろ! 取り返すぞ!」

 

『おう!!!』

 

自身に脳裏によぎる不安を振り払うかのように空が声を張り上げると、他の選手達も同様に声を張り上げる。

 

「…」

 

前とその前と同じく空がフロントコートまでボールを運び、目の前には今吉。やはり強引に仕掛けられない空はパスを出す。今度はローポストに立つ松永に。

 

「こいやぁぁぁぁっ!!!」

 

「くっ!」

 

リングに背を向ける形でボールを受け取った松永は背中に付く若松を背中で押しながらゴール下まで押し込もうとするが、若松はピクリとも動かない。

 

「ちぃっ!」

 

松永はオフェンスを諦め、1度空にボールを戻す。同時にローポストから離れる。

 

「そういうことか。頼むぜ!」

 

ローポストから離れた松永に再びボールを渡す。松永を追いかけた若松が再びマークに付く。今度は互いに向かい合っての1ON1である。

 

「よし! ゴール下が主戦場の若松は向かい合わせでの1ON1は不慣れなはず。そこなら松永に分がある!」

 

勝利を確信するベンチの馬場。馬場の言う通り、センターはゴール下に立つ事が主な為、試合中リングから離れての1ON1を行う機会が少ない。ゴール下での1ON1とリングから離れての1ON1とでは勝手が違う為、切り替えは容易ではない。

 

「いくぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

腰を落とした松永が一気に加速。若松に仕掛ける。

 

「舐めんな!」

 

若松はすぐさま反応し、松永を追いかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

松永は若松が並走したきたのと同時にバックロールターンで反転し、若松をかわす。

 

「よっしゃぁっ! いけー!」

 

若松をかわしたのと同時にボールを掴んだ松永はリングに向かって飛ぶ。

 

「確かに、センターはゴール下から離れて勝負する機会は少ない。現に、秀徳の支倉はんも普段の距離の違いに苦しんどったしな。やが…」

 

「っ!?」

 

ボールを持った右手がリングを越えた所で、目の前に1本の腕が現れた。

 

「うちのキャプテンは、練習で毎日青峰はんと1ON1しとる。やから、その距離の1ON1は別段苦でもなんでもあらへんで」

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

「どっせぇぇぇぇぇい!!!」

 

「ぐっ!」

 

松永の持つボールを力一杯叩き落とした。

 

「その程度のスピードとテクニックじゃ、支倉はんには通じても、キャプテンには通じへんで」

 

ほくそ笑みながら今吉が解説する。

 

「毎日青峰の相手してる俺からすればそんな温いオフェンスじゃ話にならねえぜ!」

 

「1度も勝ててねえけどな」

 

「うるせえよ!」

 

転がったボールを今吉が抑える。

 

「今吉! こい!」

 

「次は頼んまっせ」

 

既に速攻に走っていた福山に大きくボールを投げつける。

 

「あかん! ターンオーバーや!」

 

慌ててディフェンスに戻ろうとするも、距離が空き過ぎて空や大地でも追いつく事が不可能であった。

 

 

――バス!!!

 

 

リングに下までボールを進めた福山はそのままレイアップを決めた。

 

「おっ、今度は決まりよった」

 

「良く決めた!」

 

「いや、さすがにあれは決められるでしょ!?」

 

声をかける今吉と若松に不満げに突っ込みを入れる福山。

 

『…』

 

度重なるターンオーバーで言葉を失う花月の選手達。

 

「…まずいな」

 

事態を重く見た上杉はベンチから立ち上がり、オフィシャルテーブルにタイムアウトの申請に向かった。

 

その後も、桐皇の猛攻は続く。花月は攻めてがなく、そのオフェンスに陰りが見え、桐皇は次々と得点を重ねていく。

 

「(早く…時計止まって!)」

 

ベンチ内で姫川が祈るように胸の前で手を組む。そして…。

 

『アウトオブバウンズ、黒(桐皇)』

 

ボールがサイドラインを割る。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

ここで、ようやくタイムアウトがコールされる。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

時計が止まった事に安堵するのと同時に息を荒げながらベンチへと戻っていく花月の選手達。

 

 

第3Q、残り時間7分46秒。

 

 

花月 45

桐皇 57

 

 

後半戦開始から怒涛の猛攻に、点差は瞬く間に二桁にまで開いてしまった。

 

「お前ら、頭で考えすぎているぞ、足もボールも止まってしまっている。いいか――」

 

上杉はこの状況を打開する為に選手達を落ち着かせ、指示を出していく。

 

『…』

 

だが、状況の重さに押し潰されそうな心を必死に堪える選手達には、その指示が耳には入っても頭に入っていかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「点差、一気に開いたッスね」

 

タイムアウトになり、後頭部で両手を組み、背もたれに体重を預けながら黄瀬が呟く。

 

「後半戦になっていきなり点差が付きやがった。いったい何が――」

 

「桐皇は何もしていないのだよ」

 

火神の言葉を遮るように緑間が言う。

 

「桐皇は何もしていない。この結果はただ単に実力の差が出ただけだ」

 

「「…」」

 

「前半戦、桐皇は実力未知数の花月が相手とあって何処か慎重に試合を進めていた。桃井のデータも不十分な事もあり、オフェンスもディフェンスも、いつもの勢いは出せなかった。だが…」

 

「桃っちのデータが揃って、花月の動きにも対応出来るようになった桐皇が攻勢に出た。…こんな感じッスか?」

 

「概ね、そのとおりなのだよ」

 

黄瀬の捕捉に緑間が頷いた。

 

「花月はタイムアウトを取ったが、何か策があんのか?」

 

「あるとは思えないのだよ。各ポジションで手詰まりとなっているこの状況。キャリアの少ない1年生主体な上、控えの層も薄い花月ではどうにもならないのだよ」

 

花月にとって状況は絶望的であると緑間は断言する。

 

「だが、これでも花月はここまでよくやったのだよ。あるゆる状況が味方したとは言え、桐皇を相手に前半戦をリードで折り返したのだからな」

 

自身に勝った花月が圧倒されるという決して気分の良い光景ではないが、それでも緑間は花月を称賛した。

 

「真価が問われるのはここからなのだよ。ここから花月がどういう結末を迎えるか…」

 

そう言って、3人は視線をコートに戻したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇ボールで試合は再会。だが、緑間の予測通り、花月にとっての悪い流れはタイムアウトを取っても変わる事はなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

青峰のフォームレスシュートが決まる。

 

「「…っ」」

 

大地と天野のダブルチームを突破しての失点に、2人は歯をきつく食い縛る。司令塔の空がボールを受け取り、ボールをフロントコートまで進める。

 

「…」

 

空は熱くなる頭を必死に冷ましながらゲームメイクをする。

 

「怖い顔しとるのう。そんなに睨んでも結果は変わらんで」

 

そんな空に目の前の今吉が微笑を浮かべながら話しかける。

 

「あんさんももう気付いとるんやろ? もうこの試合、どうにもならへんって」

 

「んなわけねえだろ。試合はまだこれからだ」

 

問いかける今吉を睨みつけながら返す空。

 

「健気やなあ。仮にもインハイ王者なんて言う肩書き持ってしもとるから簡単に諦められんのかもしれへんけど、あんなん三杉はんと堀田はんのおかげなんは誰の目から見ても明らかなんやからそう不相応な肩書きに縛られんでもええんとちゃう? 既に秀徳に勝っとるんや。ここで諦めても皆手ぇ叩いて称賛してくれんで?」

 

「うるせえよ」

 

今吉の言葉に軽く荒げながら返す空。

 

「頑固やのう。ほなら、分かりやすく今の状況をきっちり説明したるわ。まず、アウトサイド。桜井はんあれだけがっちり付かれてもうたら碌にスリーも打てへん。何より…」

 

「ハァ…ハァ…!」

 

「徹底マークが祟ってもうガス欠寸前や。あれじゃスリー以前にまともにボールすら受け取れへん。あとは何も出来ずに終いや」

 

「…」

 

「次にインサイド。フィジカルの差が絶望過ぎてゴール下では話にならん。かと言って、ゴール下からキャプテンを引っ張り出しても結果はさっきと同じ。ここもあかん」

 

「…」

 

「次におたくのエースである綾瀬やが、ここは1番話にならん。申し訳ないが、うちのエースとおたくのエースでは根本的に実力差がありすぎる。ここもあかん」

 

「…」

 

「残ったんは天野はんとおたくやが、まあこの二ヶ所なら点は取れんこともないやろが、ウチは攻め手が分かってる場所から何度も得点させる程甘くない。天野はんのポストプレーやスクリーンを使ってもや。ま、10本中、ま、7、8回は止められるやろうな」

 

「…」

 

「さて、今度はウチやが、ウチはワシ以外のポジションなら得点は容易や。ワシにしても、福山はんの片手間に相手してくれよるならチャンスある。ま、10本中8、9本は決められるやろうな」

 

「…」

 

「ここまで分かりやすく説明したならもう理解出来たやろ? オフェンス成功率85%のワシらと25%のおたくがぶつかりあえばどうなるか、結果は明白や。まして、そっちは外がないんや。どや? ぐうの音もでーへんやろ?」

 

「…うるせえよ」

 

ここまで黙って今吉の話を聞いていた空が口を開く。

 

「バスケは確率じゃねえ。そんなつまらねえもんで試合を決めんじゃねえよ」

 

今吉を睨みつけながら空が返す。だが、そんな空の返事に今吉は含み笑いを浮かべる。

 

「それが決まってまうんや。確率は裏切らんよ。よほど数字が拮抗せん限りな。ワシはこれで中学時代弱小校やったチームを全中の一歩手前まで導き、今はここでスタメン張っとるんや。桃井はんデータがあればワシの確率の精度はさらに上がる。ワシの確率は、誰にも崩せんよ」

 

「だったら、俺が崩してやるよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで空が一気に加速、1歩で今吉の横に進み、2歩目で今吉の背後に進んだ。その直後、空はシュート態勢に入った。

 

「速いのう。ワシがおたくを止められる確率はほぼ0やろう。やが、この方ならどうやろ?」

 

「っ!?」

 

そこへ、青峰がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んでいた。

 

「空!」

 

青峰がヘルプに飛び出した事でノーマークとなった大地が空の斜め後ろでボールを要求した。その言葉に反応し、空はシュートを中断し、ボールを後方へと放った。

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、パスを出す瞬間、青峰の手が空の持つボールを叩いた。

 

「うはっ! さすがやのう。(空いた綾瀬はんにボール捌く思てパスコース塞ぎにかかったけど、いらん世話やったな…)」

 

弾いたボールを拾いながら今吉は青峰を見ながら心中でそう思った。ブロックと同時にフロントコートに向かって走る青峰に今吉はボールを渡す。ボールを受け取った青峰はそのままドリブルで突き進んでいく。

 

「絶対止めてやる!」

 

スリーポイントラインを越えた所で空が青峰を捉え、回り込む。

 

「スピードは大したもんだ。スピードだけはな。だが、それだけじゃ話にならねえよ」

 

左右に変則的にボールを散らし始める青峰。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

ひとしきりボールを左右に散らし、突如、ボールを空の股下に投げつける。ボールは空の股下でバウンドし、リング付近に舞う。同時に青峰は走り、ボールを掴む。

 

「まだだ!」

 

空もすぐさま反応し、反転してブロックに飛んだ。

 

 

――ドン!!!

 

 

ブロックに飛んだ空と青峰が接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

接触により、審判が笛を吹く。

 

「ちっ」

 

1人アリウープを狙っていた青峰だったが、空と接触した為にリングから遠ざかってしまう。

 

 

――スッ…。

 

 

青峰は掲げたボールを1度下げ、リングに背を向けながらボールを放る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放られたボールはリングを潜った。

 

「ディフェンス、バスケットカウント、ワンスロー!」

 

審判が笛を口から外し、コールした。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

青峰のビッグプレーに観客が沸き上がった。

 

「…」

 

得点を阻止出来ず、逆にボーナススローを与えてしまい、茫然とする空。

 

「そこがお前の限界だ。お前じゃ俺には勝てねえ」

 

すれ違い様に青峰は空に言い、フリースローラインに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

青峰は危なげなくフリースローを決め、点差はさらに開く。試合はその後も桐皇ペースで進む。

 

「20点。開いたらこの試合は終わりなのだよ」

 

「だな。そこがデッドラインだな」

 

「同感ッス」

 

緑間の意見に火神と黄瀬が頷く。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

花月のオフェンス。空がディフェンスを引きつけ、天野にパス。天野が得点を決めた。

 

「桐皇とて隙がない訳ではない。こういう事もあるだろう。だが、所詮は単発。これで流れが変わる事はないのだよ」

 

緑間の言葉通り、流れは変わる事はなく、桐皇の猛攻は止まらない。

 

 

――バス!!!

 

 

オフェンスが変わり、桐皇が冷静に1本返した。攻め手に欠く花月。天野が何とかスクリーンをかけてマークを外させようとするが、タイミングが読まれており、あっさりかわされてしまう。

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

「っ!?」

 

大地の持つボールを青峰が捉えた。ボールを奪った青峰がそのままワンマン速攻をかける。そして…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

「……これで決まったのだよ」

 

 

第3Q、残り3分39秒。

 

 

花月 49

桐皇 69

 

 

点差は緑間が口にした点差である20点まで開いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

時間が止まると、ここで上杉が申請した2つ目のタイムアウトがコールされた。選手達はそれぞれのベンチに下がっていく。

 

「…」

 

『…』

 

すれ違い様、青峰が花月の選手達を一瞥していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『20点差これはもう決まったなー』

 

『やっぱ三杉と堀田がいないとな』

 

『そういう事言うなよ。花月だってよくやってるだろ』

 

観客ももう勝敗は決したと判断し、各々感想を言い合っている。

 

 

「ふむ。20点。理想的ですね」

 

原澤が結果に納得する。

 

「もう青峰下げてもいいんじゃないですか? こんだけ点差が開けば向こうも心が折れてるでしょうし」

 

「ふむ…」

 

福山の提案に原澤が一考する。

 

今の状況なら例え青峰が下がっても逃げ切る事は充分可能である。少なくとも、急激に点差が縮まる事はないだろう。まだ試合はこの先も続く。休ませる意味も含めてもここで1度下げるのも選択の1つである。例え点差が縮まってもその時に再び投入すればいいのだから。

 

「ハッ! ここまで本気にさせられて下がるかよ。2度と立ち上がれねえようにここで叩き潰してやるよ」

 

だが、当の本人がそれを拒否した。

 

「いいでしょう。青峰君はこのまま試合に出てもらいます。皆さんも点差があるからと言って気を抜かないで下さい。最後の最後まで点を取りに行きます」

 

青峰の言葉を聞いて原澤は青峰をこのまま出し続ける選択を取った。

 

「(下がるわけねえだろ。あいつが…あいつらがテツと同じ目をしている内はよ…)」

 

タイムアウトがコールされ、ベンチに戻る際、青峰は花月の選手達とすれ違った時、青峰は、花月の選手達の目が1人も死んでおらず、それどころかかつてチームメイトであり、相棒である黒子テツヤと同じを目をしている事に気付いた。

 

「(あの目をしている内は、何が起こるか分からねえ。最後まで相手してやるよ)」

 

青峰は、絶望的な状況にも関わらず心が折れる事無い花月の選手達に無意識に敬意を称し、ベンチには下がらなかった。

 

 

試合は、桐皇の圧倒的なリードで第3Q終盤に向かっていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





まさか、こんなに空いてしまうとは…(^-^;)

時間はちょくちょくあったんですが、ひとえにモチベーションが上がらず、ここまで空いてしまいました。このサイト見てると、一定の間隔で長い事投稿している方を見受けられますが、どうやってモチベーションを維持しているのだろうか…。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第83Q~勝利の為に~


投稿します!

久しぶりに長文です…(^-^;)

それではどうぞ!




 

 

 

第3Q、残り3分39秒。

 

 

花月 49

桐皇 69

 

 

第3Qが開始して7分。前半戦を1点リードで終えた花月だったが、後半戦開始早々に逆転され、そのまま追加点を決められ、点差は20点まで開いていた。

 

「「…」」

 

空と大地はベンチに座ったまま頭にタオルをかけ、下を向いている。

 

「……ふぅ」

 

天野はタオルで汗を拭いながら一息吐く。

 

「ハァ…ハァ…」

 

松永は荒れている呼吸を整えている。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

生嶋は激しく呼吸を乱している。

 

『…』

 

ベンチの選手達とマネージャーの姫川と相川は一様に無言でその光景を見つめていた。

 

状況が最悪のなのは目に見えて明らか。素人同然の相川にさえ理解出来ている。だが、この状況を打開出来る作戦など思いつかない。『頑張れ』や『まだいける』等の言葉は気休めにすらならない事も分かっている為、沈黙を保つしかなかった。

 

「…」

 

それは上杉も一緒であった。敵・味方の戦力を理解している、それ故、具体的な指示が出せない。暫しの沈黙の後、上杉が口を開いた。

 

「全員顔を上げろ。こっちを見ろ」

 

『…』

 

そう指示を出すと、選手達が一斉に上杉の方へ視線を向けた。

 

「(まだ誰1人諦めていない。選手達の心は折れていない。…打てる策がないのなら…)」

 

1度深く目を瞑り、そして開いた。

 

「お前達、もう全て出し切ったか? ここで終わって満足出来るか?」

 

上杉は諭すような口調で選手達に語り掛けた。

 

「……満足出来るわけないでしょう」

 

その問いかけに最初に答えたのは空だった。

 

「俺は優勝する為にこのウィンターカップに来た。こんな所で終われねえ。終わりたくねえ!」

 

空は自身の胸の内を吐露した。

 

「私も同感です。ここで終わってしまっては、三杉さんや堀田さんに合わせる顔がありません。例え無茶でも、私はまだ諦めたくありません」

 

力のこもった視線を向けながら大地が言った。

 

「冗談きつ過ぎやで監督。たかが20点差やん。時間もまだあるのに終われるわけないやろ」

 

薄く笑みを浮かべながら天野が言った。

 

「まだ…身体は動きます。…まだやれます…!」

 

身体を疲弊させながらも生嶋は力強い声で言った。

 

「俺は足手纏いになる為にここ(花月)に来た訳ではありません。こんな所では終われません!」

 

拳をきつく握りしめながら松永が言った。

 

「……いい返事だ。試合を投げ出そうもんならここで殴り飛ばしていた所だが、杞憂だったな」

 

選手達の返事に満足したのか、上杉は笑みを浮かべた。

 

「最後まで足掻くぞ。まず、ボール運びが出来なければ話にならん。綾瀬、ここからはお前と空の2人でボールを運べ」

 

「えっ?」

 

突然の指示に大地は思わず声を上げる。

 

「練習でやってこなかった事はいきなりは出来ん。だが、付き合いの長いお前なら空との連携もこなせるだろう。いちいち調子を崩す空に発破をかける意味もある。行けるか?」

 

「…分かりました。やってみせます」

 

当初は戸惑ったものの、意図を聞いて納得し、返事をした。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のコールが鳴る。

 

「ちっ、時間か。天野、生嶋、松永。お前達はお前達の出来る事を全力でやれ」

 

「「「はい!」」」

 

「行って来い!」

 

『おう!!!』

 

花月の選手達は力強い声で返事をし、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「えらい声上げとんのう。目の前の悪い状況を振り払うのに必死なんやろなぁ」

 

花月ベンチから聞こえる声に今吉は嘲笑ような笑みを浮かべた。

 

「おい、今吉」

 

「ん? どうかしま――ぐっ!」

 

声を掛けられた今吉が振り返ると、突然胸倉を掴まれた。

 

「さっきからべらべらうるせぇんだよ。勝ち試合でしか笑えねえ雑魚がいきがってんじゃねえ」

 

イラついた表情で青峰が睨み付けた。

 

「青峰、その辺にしておけ。試合中だぞ」

 

若松が青峰の肩に手を置いて諫めた。

 

「ちっ」

 

舌打ちをして青峰はコートへ向かっていった。

 

「えらいご機嫌斜めやなあ。前半戦抑えられたんがそんなにプライドに障ったんか?」

 

首筋を摩りながら今吉は軽く表情を引き攣らせながら喋る。

 

「死に物狂いで戦ってる相手を馬鹿にしてんじゃねえ…って事だよ」

 

戸惑っている今吉に福山が声を掛ける。

 

「ましてや試合はまだ終わってねえし、何がきっかけでひっくり返るとも限らねえんだ。その事、肝に銘じておけ。代えられたくないならな」

 

そう言って今吉に後頭部を軽く叩き、福山もコートへ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は桐皇ボールから再開する。

 

今吉がボールを運び、アウトサイドの桜井にボールを入れた。桜井にボールが渡ると、生嶋がすかさずチェックに入る。

 

「…っ」

 

だが、桜井はスリーは打たず、生嶋が距離を詰めたの同時に中へパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んできた福山がボールを受け取り、シュートを放つ。

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

シュートを放った瞬間、横から飛び出た1本の手の指先に僅かにボールが触れた。

 

「ちっ、神城!」

 

ボールが桜井に渡った瞬間、中へ走り込む福山が視線に入った空はすぐさま追いかけ、結果、ギリギリブロックに間に合った。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれる。

 

「おぉっ!!!」

 

リバウンドに松永が飛ぶ。

 

「おらぁっ!」

 

 

――ポン…。

 

 

だが、松永の後ろから若松が手を伸ばし、ボールをリングに押し込んだ。

 

「くそっ!」

 

リバウンドを取れず、悔しがる松永。

 

「ドンマイ仕方ねえ。切り替えろ」

 

「ああ、すまん」

 

ボールを拾った松永が空にボールを渡した。

 

「おっ?」

 

フロントコートまでボールを進めると、大地が空の横に並んだ。

 

「スー…フー……よし、行くか」

 

「ええ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空が声を掛け、大地が答えると、同時に動き出した。目の前の今吉をすれ違い様にパスを出し、そのまま両脇を駆け抜けていく。

 

「いいね、来いよ」

 

すると、2人の前に青峰が立ち塞がった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地はスピードを落とさず、クロスオーバーで青峰に仕掛ける。青峰は難なく大地に付いていく。直後。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで大地が高速バックステップで下がり、距離を取り、そのままシュート態勢に入る。

 

「ちっ」

 

すぐさま青峰がこれに対応、距離を詰め、ブロックに飛ぶ。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

青峰がブロックに来ると、大地はシュートを中断し、足元に投げつけるように前へパスを出す。ボールは、大地が仕掛けるのと同時に前へ走り込んでいた空が受け取り、そのままリングに進み、レイアップの態勢に入る。

 

「だっ! くそっ!」

 

慌てて若松がヘルプに飛び出し、ブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

若松がブロックに現れると、空はレイアップの態勢からボールをふわりと浮かせるように上へと放り投げる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは若松のブロックを超え、そのままリングを潜った。

 

『キタ! 神城のティアドロップ!』

 

「くそっ、あの野郎…!」

 

ブロックをかわされ、決められた若松は悔しさを露わにする。

 

オフェンスが桐皇に切り替わり、今吉がボールを運び、早々に青峰にボールを渡す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを小刻みに動かし、左右にボールを切り返しながら牽制し、その結果、空いた大地と天野のダブルチームの隙間を高速で駆け抜け、抜きさり、すかさずシュート態勢に入る。

 

「まだだ!」

 

そこへ、空が高速でヘルプに走り、シュートブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

だが、青峰はボールを右手に持ち替え、下げると、その態勢からボールを放り投げた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

不安定な態勢ながらも、投げられたボールはリングの中央を的確に射抜いた。

 

『青峰のフォームレスシュート! やっぱ何度見てもスゲー!』

 

「…」

 

再びオフェンスが花月に切り替わると、空と大地が並び、ボール運びを始める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

今吉を抜きさると、先程と同様、青峰がヘルプに現れる。

 

 

――ズッ…。

 

 

目の前に青峰が現れると、空は両足を滑らせ、背中から倒れ込んでしまう。

 

「(知ってるぜ。前に見せた倒れ込みながらのスリッピンスライドフロムチェンジだろ?)んなもん俺には――」

 

かつて見た空のトリックプレーを読み切り、対応しようとした青峰だったが、空は背中を向けて倒れ込む瞬間、肩越しにボールをリング方向へ放り投げた。咄嗟に青峰はボールに手を伸ばすが、紙一重で間に合わなかった。

 

放り投げたボールを走り込んでいた大地が空中で掴み、そのままリングに放る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「ちっ」

 

すかさず追いかけた青峰だったが、空が仕掛けるのと同時に走り込んだ大地に追いつけず、舌打ちをした。

 

『うおー! 桐皇もスゲーけど、花月も負けてねえ!』

 

その後も、桐皇は今吉が起点になり、そこから青峰が中心に得点を重ねていく。花月も負けじと、空と大地のコンビプレーで得点を重ね、これ以上のリードを許さない。

 

 

第3Q、残り13秒。

 

 

花月 59

桐皇 79

 

 

互いに得点を決め合い、20点~22点を行ったり来たりしながら時間は第3Q、残り僅かとなった。

 

「…」

 

現在桐皇ボール。ボールは今吉がキープし、攻め手を定めていた。

 

「(青峰はんは……あかん、マークがきついのう。確率が高いんは福山はんか桜井はんやけど…)」

 

どっちがより確率が高いか計算する今吉。

 

「今吉、こっちだ!」

 

攻め手を考えていると、若松がボールを要求する。

 

「頼んまっせ!」

 

その声を聞き、今吉は迷うことなく若松にパスを出した。

 

「どっせぇぇぇぇぇい!!!」

 

「ぐっ!」

 

ボールを受け取ると、若松は身体で松永を押し込みながらジリジリとゴール下に押し込む。松永も歯を食い縛って耐えるも少しずつ押し込まれていく。

 

「(…くそっ! やはり今の俺ではパワーに差があり過ぎる。侵入を防げない…!)」

 

全身から力を振り絞るもそれでもパワーの差は明白であった。

 

「(神城と綾瀬がギリギリの所で踏ん張ってくれているんだ。ここで俺が負けていてどうする! 俺は、勝つ為にコートに立っているんだ。足を引っ張る為じゃねえ!)」

 

同学年である空と大地が諦めずに奮闘をしている姿を目の当たりにし、自分もチームの為を勝利に導く為、貢献したいとその目に力が入る。

 

「(パワーで圧倒的な差がある。ならば…!)」

 

「おらぁっ! もらうぜ!」

 

ひとしきり押し込んだ若松がシュート態勢に入る。

 

 

――バス!!!

 

 

若松が放ったシュートがバックボードに当たってリングを潜った。

 

「っしゃぁっ!」

 

シュートが決まり、喜びを露わにする若松。その時…。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹いた。

 

『オフェンスチャージング、黒4番!』

 

「っ!?」

 

審判にコールされ、若松は審判の方に向き直る。その後振り返ると、松永が倒れていた。

 

『あー! おしい、ファールだ!』

 

得点が無効になり、観客から溜息が漏れる。

 

「ちっ、ファールかよ」

 

「どうも」

 

舌打ち交じりで若松が倒れた松永に手を差し出し、松永は礼を言いながらその手を取り、立ち上がった。

 

松永から空がボールを受け取り、ボールをフロントコートまでボールを進め、目の前に今吉が来ると、空は大地…ではなく、ハイポストに立つ天野にパスを出した。同時に、空と大地が天野目掛けて走り出した。

 

「ちっ」

 

青峰が舌打ちを2人を追いかける。天野の右側から空、左側から大地が走り込む。

 

「(どっちだ? ……いや、関係ねえ。ボールを取った方にチェックすりゃいいだけだ)」

 

青峰は読みを放棄し、ボールの行方に注視した。天野がボールを前に出すと、空と大地が同時にボールに手を伸ばす。2人が天野の横を走り抜けると…。

 

『っ!?』

 

ボールは空、大地、どちらも手にしておらず、天野の手に乗ったままだった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

天野はボールを胸元に引き寄せ、反転。リングに向かい合うと、そのままジャンプシュートを決めた。

 

「ええ感じや!」

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ジャンプシュートが決まった所で第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q、終了。

 

 

花月 61

桐皇 79

 

 

「よっしゃー! 1本縮めたぞ!」

 

タイムアウト終了時よりシュート1本分点差が縮まり、喜びを露わにする空。

 

「ちっ、しぶといな」

 

突き放そうとも食らい付いてくる花月を睨み付ける若松。

 

2分間のインターバルに入り、両チームは各々のベンチに下がっていった。

 

「松永、最後の1本、よく止めた。おかげで最終Qに繋げられた」

 

上手くファールを貰い、失点を防いだ松永を上杉が労った。

 

「俺にも意地がありますからね」

 

フッと笑みを浮かべながら松永は返事をした。

 

「いいか。残りは第4Q残すのみだが、時間は充分にある。ここからは――」

 

最後の10分。上杉は選手達に指示を出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両チームの選手達がコートへと戻ってきた。

 

「行くぞぉっ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の号令に、花月の選手達が応えた。

 

「っしゃぁっ! トドメ刺すぞぉっ!!!」

 

『おう(はい)!!!』

 

続いて、若松の号令に桐皇の選手達が応えた。

 

空がボールを貰い、花月ボールから試合は再開された。

 

「…」

 

「…」

 

空がゆっくりドリブルを始めると、大地が横に並ぶ。

 

『…』

 

今吉が2人の目の前に立ち、他の選手達も自身のマークする選手に注視しながらポジション取りを始めた。

 

「(…監督の言ってたとおり、さっそく動いたか…)」

 

桐皇のディフェンスは、間違いなく空と大地のコンビプレーに対応する為のややゾーン気味のマンツーディフェンスである。いつでもパスコースと進路に飛び込めるポジションに各選手が立っている。

 

「(ここまでは予想。……後は…)」

 

空が周囲を見渡す。

 

「(疑ってなんかいない。ここまで来れたのは皆と力を合わせてきたからだ。俺は信じるぜ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決した空が動き出す。合わせて大地も動く。ドライブで切り込むと、ワンバウンドさせながら大地にパスを出し、大地はすぐさま空にリターンパスをし、目の前の今吉をかわす。すると、それに合わせて桐皇ディフェンスが中を固めてくる。

 

「(ここまで予定通り。頼むぜ!)」

 

このタイミングで空はパスを出す。ボールの行き先は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(来た!)」

 

空がリターンパスを受けた直後、自身がマークしていた生嶋がスリーポイントラインの外側へと走り出した。

 

『神城君と綾瀬君のコンビプレーを止める為、中を固めます。基本はマンツーですが、ポジションをやや中気味に取ってください』

 

インターバル中、原澤が指示を出す。

 

『ですが、向こうも当然、これを読んでくるでしょう。恐らく、ディフェンスを外へと広げるさせるでしょう』

 

『…』

 

『桜井君。第4Q開始直後、花月は生嶋君で攻めてくるでしょう。警戒を怠らないようにして下さい』

 

これが、インターバル中に原澤から出された指示である。

 

「(生嶋君はもう限界に近いせいで動きは鈍い。追いつける!)」

 

桜井は生嶋の後を追う。

 

 

――ドッ!!!

 

 

だが、その瞬間、桜井は何かに接触する。

 

「(スクリーン!? 天野さんのポジションは確認していたのに…!)」

 

桃井のデータによって、天野のスクリーンのタイミングとポジションは把握していた桜井。にも関わらずスクリーンにかかってしまった事に驚愕する。

 

「(どうして……)えっ!?」

 

顔を上げると、桜井はさらに声を上げる。

 

「…っ!」

 

スクリーンをかけていたのは天野ではなく、松永だった。

 

「(試合に勝てるのなら、潰れ役でも何でもやってやる!)」

 

基本的に松永は花月のオフェンスを担う一角の為、スクリーンをやる機会はほとんどなく、天野がこなす事がほとんどだった。現状、松永は若松から点が取れず、天野も動きが読まれている為、スクリーンをかけてもかわされてしまう。その為、松永が動いた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

息を切らしながらノーマークとなった生嶋がボールを受け取る。

 

「(身体が重い。腕が重い…。だけど、まだ動く。リングは……そこだね)」

 

リングを視認した生嶋は不格好ながらスリーを放った。

 

「(フォームもリズムもバラバラ。…けどこれ、入る!)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

桜井の予想通り、ボールはリングを潜り抜けた。

 

「ナイス生嶋!」

 

「…っ」

 

スリーを決めた生嶋を空が労いながら背中を叩くと、生嶋はふらつき、そのままフラフラとしながらディフェンスへと戻っていく。

 

「(もうスタミナなんてとっくに切れてる。多分、意識だって朦朧してる。…なのに、どうして外れないんだ…)」

 

限界をとうに超えている生嶋を見て戦慄を覚える桜井。

 

「桜井! ボーっとしてんな! 取り返すぞ!」

 

「は、はい! すいません!」

 

そんな桜井に若松が声をかけると、いつもの謝罪の後、オフェンスへと向かった。

 

「…」

 

若松からボールを受け取った今吉がボールを運ぶ。

 

「(フリーだったとは言え、この局面で決めよるとはのう。大したシューターや。やが…)同じチームメイトでやりたいとは思えへんな」

 

フロントコートに到達するや否や、今吉は桜井にパスを出した。

 

「すいません!」

 

ボールを受け取った桜井はすぐさまクイックリリースでスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

「いいぞ桜井!」

 

「はい!」

 

若松と桜井がハイタッチを交わす。

 

「今の時代スリーしか撃てへん、1人では何も出来んシューターじゃ全国レベルでは通用せーへんで」

 

「…っ!」

 

空に聞こえるように今吉が話しかけると、空は拳をきつく握りしめた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…ごめん。今のは…僕の責任だ。もう1回……取り返すよ…」

 

息も絶え絶えに空にそう言い、前へフラフラと走っていった。

 

オフェンスは変わり、花月ボール。

 

「(行け!)」

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

松永が合図を出すと、生嶋がアウトサイドへと走り出す。

 

 

――ドッ!!!

 

 

追いかけようとした桜井は再び松永のスクリーンに捕まってしまう。

 

「ぜぇ! ぜぇ!」

 

必死に酸素を取り込みながらアウトサイドへと走る生嶋。

 

生嶋がバスケを始めたのは小学校5年生の時。テレビに映るバスケプレーヤーに憧れ、地元のミニバスチームの門を叩いた。だが、当時の生嶋は何も持っていない選手だった。身体能力もテクニックも高さもない、体力も碌にないバスケ選手として致命的であった。

 

『残念だけど、君はバスケに向いてない』

 

コーチにはそう投げかけられ、退部も勧められた事もあった。それでも生嶋は諦めなかった。そこから、生嶋はアウトサイドシュート練習を始めた。当初は碌にリングにすら届かず、チームメイトからは嘲笑された。それでも生嶋は毎日シュートを撃ち続けた。

 

撃ち続ける内に、ボールがリングに届くようになり、さらに撃ち続ける内に10本撃って1本入るようになった。それが2本3本4本と徐々に確率が上がっていき、遂には10本決められるようになった。その頃にはチームメイトにも生嶋の力が認められ、チームの主力となっていた。

 

「(何も持たなかった僕にはスリーしかない。スリー以外は何もない。だから…!)」

 

スリーポイントラインの外側まで走った生嶋が振り返り、空から出されたパスを受け取る。

 

「(スリーだけは、誰にも負けたくない!)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

不格好ながら放たれた生嶋のスリーはリングの中心を的確に捉えた。

 

『うおぉぉっ! また決めたぁっ!』

 

再び決めた生嶋のスリーを目の当たりにして観客が沸き上がった。

 

「確かに生嶋は1人じゃ何も出来ないのかもしれない。だがな、バスケは1人でやる必要はないだろ」

 

「…っ」

 

先程の異種返しとばかりに空が今吉に語り掛ける。

 

「俺は、俺の…俺達の期待に応えてスリーを決めてくれる生嶋は、俺達の最高のチームメイトだと思ってるぜ」

 

そう告げ、空はディフェンスに戻っていった。

 

「(言いたい事言いよって…。変に勢いづく前にトドメ刺したいところやけど…)」

 

チラリと今吉は青峰の方へ視線を向ける。そこには、必死に大地がディナイをかけ、パスコースを塞いでいる。それに合わせて…。

 

「(神城も、青峰はんにパス出させへんようにいやらしくディフェンスしよる。これじゃ、パス出してもカットされる確率が高い…)」

 

目の前の空も青峰だけにはパスを出させないようパスコースを塞ぎながらディフェンスをしている。

 

「(……まあええわ。うちの得点源はそこだけじゃあらへん。安牌は他にもあるで!)」

 

ここで今吉はパスを出す。ボールの行き先は…。

 

「おっしゃぁっ! ナイスパース!!!」

 

ローポストに立っていた若松にボールが渡った。

 

「おらぁっ!!!」

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

若松は松永に身体をぶつけ、ジリジリとゴール下へと押し込んでいく。やはり、フィジカルに差がある両者である為、徐々にゴール下まで押し込まれていく。

 

「っしゃぁっ!」

 

ゴール下まで押し込んだ若松がそのままシュート態勢に入る。

 

「(止める! 生嶋も頑張っているんだ。俺も…!)」

 

 

――バチィン!!!

 

 

「痛ぇっ!!!」

 

ブロックに飛んだ松永が若松の手ごとボールを叩くと、若松は顔を歪ませる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、イリーガル・ユース・オブ・ハンズ、緑10番!』

 

ボールが外れ、コートに落ちると、審判が笛を吹き、ファールをコールした。

 

「ちっ」

 

若松は舌打ちをすると、審判からボールを受け取り、フリースローラインに立った。

 

 

――ガン!!!

 

 

「ぐっ!」

 

1本目、放たれたフリースローはリングに嫌われる。

 

 

――ガン!!!

 

 

2本目もリングに弾かれ、外れてしまう。

 

「いただきやぁっ!!!」

 

リバウンドボールを天野が抑えた。天野はボールを空に渡し、フロントコートへと駆け上がっていった。

 

空がボールを運ぶ。

 

「…」

 

「…(コクリ)」

 

空が松永に視線を送ると、松永は頷いて桜井にスクリーンを掛けに向かう。同時に生嶋が動き出す。

 

「(もうそのパターンには慣れた。何度もかかるもんか!)」

 

2度のスクリーンにパターンとタイミングを覚えた桜井は松永をかわして生嶋を追いかける。

 

 

――ドッ!!!

 

 

だが、生嶋を追いかけようとした桜井が壁に阻まれてしまう。

 

「(なんで!? スクリーンは確かにかわしたはずなのに!)」

 

進行を阻まれた事に驚愕し、咄嗟に顔を上げる。

 

「残念やけどな、ここは通行止めや」

 

「えっ!? 天野さん!?」

 

松永がスクリーンをかけた直後、天野は桜井の死角にさらに二重にスクリーンに立っていた。松永を意識し過ぎたあまり、花月本来の楔役の役割をしていた天野を意識から消してしまい、桜井はスクリーンにかかってしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーになった生嶋がスリーを決めた。

 

『スゲー! 3本連続!』

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

息を切らしながら生嶋はそっと拳を握った。

 

「よう決めた、イク!」

 

「さすがだ、生嶋!」

 

そんな生嶋の肩を抱きながら天野と松永が労った。

 

『…っ』

 

再び三度スリーを決められ、点差を詰められた事に表情を顰める桐皇の選手達。

 

「(あかんわ。ここまで点差を詰められるとさすがに焦ってくるわ…)」

 

ボールを運ぶ今吉は表情には出さないが内心で焦りを感じながらゲームメイクを始める。

 

「(第4Q始まってそこそこで6点も詰められてもうた。落ち着いて返さんと…)」

 

ここで今吉は桜井にパスを出す。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

「うわっ!」

 

ボールが桜井に渡ると、生嶋がすかさず距離を詰め、桜井にベッタリ張り付くようにディフェンスをする。

 

「(すごい勢いだ! 足元にいるから膝が曲げられない。これじゃ…!)」

 

シュート態勢に入れない桜井。やむを得ず、頭の上からローポストの若松にパスを出した。

 

「よぉぉし!!!」

 

ボールを貰った若松は気合を前面に出しながら再びゴール下まで押し込む。ゴール下まで侵入すると、ボールを両手で掴んでリングに向かって跳躍する。

 

「(恐れるな。身体ごとぶつかるんだ!)」

 

 

――ドガッ!!!

 

 

「がっ!」

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、プッシング、緑10番!』

 

身体ごとぶつかられた若松は思わずバランスを崩し、転倒を防ぐようようにコートに手を付いた。

 

「てめえ、今わざとぶつかってきただろ!」

 

今のファールに腹を立てた若松が怒りを露わにしながら松永に詰め寄る。

 

「キャプテン、ストップ!」

 

「やめやキャプテン! ファールして失点を塞ぐなんて昔からある作戦ですやん!」

 

詰め寄る若松に福永と今吉が間に入り、制止する。

 

「っ! ……ちっ!」

 

2人の制止を受け、多少頭が冷えたのか、舌打ちをしながらフリースローラインに向かっていった。

 

「(俺にフリースローを撃たせる為のファールだろ。だったら、ここをきっちり決めててめえの作戦をご破算にしてやる!)」

 

1度松永を睨み付け、リングに集中する。

 

 

――ガン!!!

 

 

1投目が外れ…。

 

 

――ガン!!!

 

 

2投目も外れる。

 

「がぁぁぁっ! ちっくしょぉぉっ!!!」

 

再び2本外し、絶叫する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今のファール、さっきのもッスけど、わざとッスね」

 

一連のプレーを見て黄瀬が呟く。

 

「ああ。若松のフリースローの確率の悪さを知っての行動だろうな。試合終盤で点差が縮まっているこの状況。当然、確率はさらに下がる。あのセンター、意外に強かだな」

 

火神は今のファールを評価する。

 

「ましてや、あんなに肩に力が入ってしまっては、入るものも入らない。この場面で言えば、有効な手なのだよ」

 

緑間も松永のプレーを評価したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

フリースローが外れ、桐皇のオフェンスが失敗。リバウンドボールを天野が抑え、オフェンスが切り替わった。

 

空がボールを運び、松永がスクリーンをかけ、生嶋がアウトサイドへと走り、空がパスを出す。

 

「馬鹿の一つ覚えが。何度も同じ手にかかるかよ! 舐めんな!」

 

松永がスクリーンを掛けに走るのと同時に若松が生嶋に向かって猛ダッシュ。ヘルプに向かった。…が。

 

「んだと!?」

 

若松は目を見開きながら驚愕する。ボールはアウトサイドに走った生嶋にではなく、スクリーンを掛けた松永に渡った。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

若松がヘルプに向かった事でフリーだった松永はそのままリングにボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

『ここで中かよ! タイミング最高過ぎるぜ!』

 

散々生嶋に外を意識させられた為、中の意識が薄くなり、まんまと中を決められてしまう。

 

「これで10点差だ。行けるよ!」

 

「頑張れぇっ! 花月ぅっ!!!」

 

点差が詰まり、ベンチの馬場と真崎が必死に声を出す。流れは確実に花月に傾きつつある。この勢いのまま攻めれば勝機が見えてくる。少しでもコート上の選手達の力になろうとベンチの選手達は必死に声を出した。

 

 

――ガシャン!!!

 

 

その時、物凄い勢いでボールがリングを潜った。

 

『っ!?』

 

応援をしていた花月ベンチの声が止まる。

 

「いつまでも調子に乗ってんじゃねえぞ」

 

青峰が睨み付けるように言い放つ。大地のマークを振り切った青峰が今吉からボールを貰い、ブロックに飛んだ大地と天野のブロックをかわすように横っ飛びをし、そこから放り投げるようにリングに向かってボールを投げつけたボールがバックボードに当たりながらリングを潜った。

 

静まり返る会場。

 

『……お』

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

静寂を占めた会場はすぐさま熱狂に包まれた。

 

 

「さすが青峰っち。良い所で派手なの決めてきたッスね」

 

「花月に傾きかけた勢いは一瞬で戻しやがった」

 

黄瀬と火神が今の青峰の1本を称賛する。

 

 

「たかが1本だ! 取り返すぞ!」

 

落ちかける花月の空気を一蹴するかの如く空が声を張り上げる。

 

『応!!!』

 

空の激に呼応するかのようにコート上の選手達は応えた。

 

「(流れをもう1度こっちに戻す。その為にも…頼むぜ!)」

 

願いを込めて空がパスを出す。ボールはローポストの松永に。

 

「来いよ」

 

松永の背中に付く若松。松永は1度右から反転…と見せかけて左からスピンターンで若松を抜きにかかる。リングに近づいた所でシュート態勢に入る。

 

「それで抜けたと思ってんのか!? 舐めんな1年坊!」

 

すぐさま追いついた若松がブロックに飛ぶ。

 

 

――ピタッ…。

 

 

だが、松永はシュート態勢で1度制止した。

 

 

――ドン!!!

 

 

そこからブロックに飛んだ若松にぶつかりながらシュートを放った。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、プッシング、黒4番!』

 

審判がディフェンスファールをコールした。シュートは決まらなかったが、フリースローが2本与えられる。

 

 

「監督、キャプテン、3つ目です」

 

桐皇ベンチの桃井が原澤に告げる。

 

「ふむ、これはいけませんね」

 

神妙な表情を浮かべながら原澤は呟く。

 

 

「キャプテン、ファール抑えていきましょか」

 

「ああ、分かってるよ」

 

若干苛立ちながらも若松は今吉に返した。

 

フリースローを松永がきっちり2本決め、花月が再び10点差とした。

 

「ナイスだぜ、松永!」

 

「応!」

 

空と松永がハイタッチを交わす。

 

フリースローが決まった後、桐皇のオフェンスが切り替わる。

 

「…」

 

ボールを運ぶ今吉。先ほどの1本もあり、ひと際青峰を警戒し、ディフェンスに臨んでいる。生嶋も、疲労しきった身体に鞭を打って桜井をマークしている。

 

「…っ!」

 

ガンガンプレッシャーをかける空を相手にいつまでもボールがキープ出来ない今吉は福山にパスを出した。

 

「行かせんへんで」

 

「っ!」

 

福山にボールが渡るとすぐさま天野が福山のディフェンスに入った。

 

「……ちっ」

 

何とか抜きにかかる福山だったが、天野のディフェンスを抜けず、舌打ちをする。

 

「くっ!」

 

やむを得ず福山は若松にパスを出した。

 

「(舐めんじゃねえぞ! 去年まで中坊だった奴にパワー負けしてたまるかよ!)…おらぁっ!」

 

さらに力を入れ、ゴール下まで押し込みにかかる。

 

「ぐっ!」

 

全力でぶつかる若松の圧力に、松永はどんどん押し込まれてしまう。

 

「だらぁっ!」

 

程よく押し込んだ所でボールを掴み、強引にシュート態勢に入る。

 

「(……ここだ!)」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

その時、若松と松永が接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

接触と同時に笛を吹かれる。

 

『オフェンス、チャージング、黒4番!』

 

「なっ!?」

 

審判は若松のファールをコールした。

 

『オフェンスファール! ということは…』

 

『若松4つ目だ!』

 

起こった事態を把握した観客が沸き上がる。

 

「ちょっと待ってくれよ! ファールはねえだろ!?」

 

ファールを不服とした若松が審判に異議を唱える。

 

「キャプテン、ストップや!」

 

「若松君、止めなさい!」

 

それに慌てた今吉とベンチの原澤が制止する。

 

「君、手を上げて」

 

審判はそんな若松に淡々と告げる。

 

「俺は普通に撃ちに行っただけだぜ! ちゃんと見てくれよ!」

 

尚も若松は審判に食い下がる。

 

「…」

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判は再び笛を加え、笛を吹く。

 

『テクニカルファール、黒4番!』

 

笛を口から放すと、オフィシャルテーブルに身体を向け、両手でTの形を作って宣言した。

 

「あ…」

 

事の重大さに気付いた若松が思わず声を上げる。

 

『えっ? テクニカルファールって…』

 

『確か、あいつさっきファール4つ目って言ってたよな? という事は…』

 

『若松退場だぁぁぁっ!』

 

観客も状況を理解し、どよめき始める。

 

「なんてことだ…!」

 

この状況での若松退場に表情を曇らせる原澤。まだ第4Qの半分以上を残すこの時間帯にインサイドの要である若松を失う事は桐皇のとってはかなり痛手…致命傷とも言える事態である。

 

「4ファールで引っ込むか、大人しくなってくれれば御の字と思ってけど、まさか退場するとはな」

 

空は若松のファールを誘うところまでは予想していたが、まさか退場に追い込んだ事に軽く驚く。

 

「ありがとな。チームの為に不本意な事をやらせちまって」

 

「構わん。俺のちっぽけなプライド等、試合に勝つ事に比べたら些細な事だ」

 

礼を言う空に、松永は淡々と答えた。

 

「俺は…なんてことを…!」

 

自らが犯した愚行に若松は頭を抱える。

 

「いつまでコートに突っ立ってんだよ。邪魔だからとっとと外に出ろ」

 

頭を抱える若松に青峰が視線を向けずに言い放つ。

 

「てめえ1人いなくても大した問題じゃねえ。むしろ、うるせーのがいなくなってせいせいするくれーだ。さっさとベンチに座って大人しく試合でも見てろ」

 

若松を慰める事なく青峰は非情に言い放った。

 

「……すまねえ。後は頼む」

 

一言そう告げ、若松はベンチに下がっていった。

 

「…ハッ、要は、これで試合が面白くなったって事だろ?」

 

スコアボードに視線を向けながら呟く青峰。

 

「勝てる試合に勝ったって何も面白くもねえ。やっぱバスケは、勝てるどうか分からねえ試合に勝つから面白れぇんだよ」

 

青峰は不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第4Q、試合も残すところ最後の10分…。

 

生嶋と松永の奮闘により、点差を10点に縮まった。

 

試合の流れが花月へとまさに傾こうとしたその時、桐皇の主将、若松孝輔が5ファールで退場となった。

 

主将であり、インサイドの要である若松を失った事は桐皇にとっては最悪のアクシデント。だが、桐皇のエースである青峰大輝は不敵に笑っていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





バスケのルールやら用語やら四苦八苦しながら何とか…(^-^;)

思えば、原作で退場した選手って、いなかったような気がしますね。霧崎第一戦では火神が危うく退場になるところでしたが…。

いやー、バスケは難しい。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第84Q~奇跡を目指して~


投稿します!

久しぶりの投稿となります。

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り7分11秒。

 

 

花月 74

桐皇 84

 

 

最終Qが始まり、花月は生嶋と松永の活躍により、18点の差を10点にまで縮めた。そして、度重なるファールによって頭に血を登らせた桐皇の主将、若松の退場によって、桐皇は劣勢を強いられる事となった。

 

退場した若松に代わり、新村がコートに入った。

 

「…」

 

フリースローラインに立って入念にボールを回しながら縫い目を確かめる空。テクニカルファールが取られた為、花月に2本のフリースローが与えられる。

 

「……よし」

 

ボールを掴み、リングに視線を向け、構える空。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1本目をきっちり決める。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

続く2本目もしっかりと決めた。

 

「っしゃぁぁぁっ!!!」

 

フリースローを2本きっちり決めた空はガッツポーズで喜びを露わにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『2本決めたぁっ! これで8点差だ!』

 

『しかも花月ボール! これは2試合連続の番狂わせもあり得るぜ!』

 

確実に点差を詰めていく花月を見て、観客達も興奮を隠せないでいる。

 

「…っ!」

 

そんな観客の言葉が耳に入った若松はタオルを頭から掛け、俯きながら悔しそうに拳を握り、歯をきつく噛んだ。

 

「若松君。私は慰めの言葉などかけません。君は主将として…いえ、選手としてあるまじき行為をしてしまった。それは深く反省して下さい」

 

「…はい」

 

原澤の言葉に若松は申し訳なさそうに返事をした。

 

「よろしい。では、君が今出来る事を全力で行って下さい」

 

「えっ?」

 

何を言っているのか理解出来なかった若松は思わず声を出す。

 

「もうあなたはコートに立つ事は出来ない。ですが、チームの為に出来る事がまだあるはずです」

 

「…っ!」

 

原澤の言いたい事を理解した若松は頭にかけたタオルを取って立ち上がり…。

 

「頑張れぇっ、桐皇!!!」

 

腹の底から声を出し、選手達の応援を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

フリースローを決め、続けて空がボールを受け取り、ゲームメイクを始める。

 

「…」

 

空をマークするのは変わらず今吉。平静を装ってはいるが、心中では若松退場の事実に動揺していた。

 

「(この流れでキャプテンの退場とかシャレにならんわ。…けど、起こってしまったもんはしゃーない。まずはこの1本止めんと…)」

 

これ以上の失点はまずいと今吉は集中力を高めてディフェンスに臨む。

 

「…」

 

空は周囲に視線を向けながらボールをキープする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そして、一気に加速。クロスオーバーで仕掛ける。

 

「(1度切り返してからのクロスオーバー。ドンピシャや!)」

 

先読みした今吉は仕掛けた空に先回りして進路を塞ぐ。進路を塞がれると空は停止、頭の上からパスを出した。ボールはローポストに立っていた松永に渡った。

 

「止める!」

 

松永の背中に若松に代わってセンターに入った新村が付く。

 

「(…若松に比べればパワーは大した事ない。身長も俺の方が高い。いける!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

1度右へフェイクを入れ、そこから左に反転。スピンターンで新村をかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままゴール下からシュートを放ち、得点を決めた。

 

「くそっ…」

 

自分の所から得点を決められてしまった新村は悔しさを露わにする。

 

「気にするな! 次のオフェンスでやり返せ!」

 

ベンチから若松が声を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今のワンプレーで一目瞭然ッスね。控えの彼では荷が重すぎる」

 

今の対決を見て松永と新村の間には埋めようが無い差があると言う黄瀬。

 

「あの10番は去年の全中でベスト5に選ばれた程の選手だ。控えの選手では止められないのは当然なのだよ。…しかし、これでインサイドの優位性はひっくりかえった」

 

「ああ。若松の退場はオフェンスもそうだが何よりディフェンス面で致命傷だ。正直、これで試合は分からなくなった」

 

緑間も火神も、若松の退場がもたらした影響を危惧した。

 

「…だが、こういう展開になれば力を発揮するのが…」

 

「青峰っち、スね」

 

火神の言葉に黄瀬が不敵な笑みでそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よこせ」

 

ボールを拾った新村の前で青峰がボールを要求。新村はすかさず青峰にボールを渡した。

 

「…ハッ」

 

ボールを貰った瞬間、笑みを浮かべ、そのまま加速。フロントコートに向かってドリブルを始めた。

 

「いきなり来よった!」

 

「っ!」

 

オフェンスが切り替わって早々仕掛けてきた青峰を見て身構える大地と天野。スリーポイントライン手前で青峰を待ち受ける。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

大地と天野の目の前まで進むと、そこで高速かつ変則的なリズムで切り返しを繰り返し、2人を翻弄する。

 

「くっそ…」

 

どうにか抜かせまいとしていた天野だったが、ハイスピードかつトリッキーなリズムでドリブルを続ける青峰に付いていけず、その場で尻餅を付いてしまう。青峰はすかさず天野の横を高速で抜けていく。

 

「くっ、させません!」

 

そんな青峰を慌てて追いかける大地。青峰の横に並ぶ。横に並ばれると、青峰はボールを持って跳躍する。

 

『おいおい、リングの反対側に飛んだぞ!?』

 

リングから離れた方向へ飛ぶ青峰に疑問の声を上げる観客。

 

「っ!?」

 

意図を理解した大地が続いてブロックに飛ぶ。

 

 

――ブン!!!

 

 

青峰はボールを右手に持ち替えると、リング目掛けてボールをぶん投げる。手を伸ばしてブロックに向かった大地だが僅かに手が届かず…。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

『この状況でも青峰のフォームレスシュートは健在だ!』

 

バスケのフォームから大きくかけ離れたシュートに観客は沸き上がる。

 

「ここに来て、このキレとスピード…」

 

「若松退場で危機感が増して集中力が上がったんやろうな。ようやく本気になったっちゅう事やろ」

 

キレが増した青峰を見て大地と天野は戦慄を覚える。

 

「緑間だって土壇場でとんでもない力を見せてきた。このくらいの事は当然やってくるだろうよ」

 

2人の前まで来た空が動揺する2人に声を掛ける。

 

「裏を返せば、本気を出さなきゃ負けるってとこまで俺達が追い詰めてるって事だろ? だったら、後はあいつの本気を超えてやるだけだ」

 

「……そうやな、ここまで来たら泣き言はなしやな。おっしゃ! 全力で止めたるわ!」

 

空の言葉に天野が顔を叩きながら気合を入れ直す。

 

「頼むぜ大地。お前はウチのエースなんだ。お前が青峰相手に張り合えなきゃ話ならねえんだ。負けるなよ。相手が例え、キセキの世代のエースでもだ」

 

「っ! ……分かりました。あなたがまだ私に期待をしてくれるのなら、私はそれに全力で応えます」

 

静かに大地も気合を入れた。

 

ボールはスローワーとなった松永から空の手に。空はゆっくりボールをフロントコートまで進める。

 

「…」

 

生嶋と松永が作ってくれたこの流れ。この流れを途切れさせてしまえば残り時間を考えても花月に勝ち目はない。故に、1本の取りこぼしも命取りになる為、空は慎重にボール運びを続ける。

 

ここで天野が動く。生嶋をフリーにする為に桜井にスクリーンをかける。天野の合図を受けた生嶋が左アウトサイドに走る。同時に空はパスを出す。

 

『ダメだ! マークが外れてない!』

 

桜井はスクリーン読み切り、反転して天野をかわしながら生嶋を追いかける。左アウトサイドの端ギリギリまで走った生嶋だったが、桜井はすぐ傍まで迫っており、このままではシュート態勢に入る前に捕まってしまう。

 

 

――バチン!!!

 

 

生嶋は自身に向かってきたボールを両手で弾くように叩き、ハイポストの松永に中継した。

 

「ナイスパスだ生嶋!」

 

ボールを受け取った松永は1歩引いて新村と向かい合わせに立った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

小刻みにフェイクを入れ、隙を窺い、態勢が崩れた所でスピンムーブで新村を抜きさる。

 

「よし!」

 

ゴール下まで侵入した所でボールを掴む。

 

「戻せ!」

 

「っ!?」

 

シュート態勢に入ろうとした所、後ろから空の声が聞こえ、反射的にボールを戻した。

 

「ちっ」

 

その瞬間、松永の近くで舌打ちが聞こえた。視線を向けると、そこには青峰の姿があった。もし、打ちにいっていれば確実にブロックされていただろう。

 

松永から空にボールが渡ると、青峰が空との距離を詰めていく。空はボールを受け取ったのと同時にボールをリング付近に放り投げた。すると、そこにドンピシャのタイミングで大地が飛んでいた。

 

「…っ」

 

青峰が反転してブロックに向かったが…。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

紙一重で間に合わず、大地のアリウープが決まった。

 

「っしゃ!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

「ボーっとしてんじゃねえ、早くボールよこせ」

 

「す、すまん」

 

慌てて新村がボールを青峰に渡した。ボールを受け取った青峰はそのままドリブルを始める。

 

「ディフェンス、止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が自陣に戻りながら声を上げ、選手達が応える。スリーポイントライン手前まで青峰がボールを進めると、大地と天野が立ち塞がる。

 

「…」

 

1度青峰は停止すると、ボールを切り返す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

切り返しの折、天野の体重が僅かに右脚に乗った瞬間、大地と天野の間に出来た僅かな隙間から青峰は突破した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

突破と同時にそのままジャンプシュートを決めた。

 

『スゲー、あのダブルチームをいとも簡単に!』

 

「くっ…!」

 

「何しとんねん俺は!」

 

失点を許した大地と天野は悔しさを露わにする。

 

「(何処かで青峰を止めなきゃ点差が縮まらねえ…! だが、今はオフェンスだ。この分じゃ、1本の取りこぼしが命取りになる…)」

 

熱くなる自身の頭を状況を見つめ直す事でクールダウンさせる空。

 

「1本、きっちり返すぞ!」

 

ボールを貰った空がボールをフロントコートまで運ぶ。同時に目の前に今吉が現れる。

 

「…」

 

空はその場でレッグスルーを繰り返しながら隙を窺う。

 

「(よく見ろ。あいつ(今吉)の体重移動する瞬間を見逃すな。…体重が片足に乗っ……ここだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

レッグスルーで揺さぶりをかける最中、今吉の体重が右脚に乗った瞬間、クロスオーバーで切り返し、右手側から抜きさった。

 

「(あかん! レッグスルーからのクロスオーバー。読んどったのに動かれへん!)」

 

ほぼ動けず、抜きさられる今吉。

 

「片足に体重が乗った瞬間逆を付かれれば、例え動きが読まれようとも関係ねえ」

 

今吉を抜いた空はそのままシュート態勢に入った。その時…。

 

『あっ!』

 

観客から声が漏れる。空の右側から1人の影が現れる。

 

「青峰やと!?」

 

天野が思わず声を上げる。青峰が空のシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

「……分かってるよ。見えてたからな」

 

空はシュートを中断し、ゴール下付近にボールをバウンドさせながらパスを出した。そこへ、大地が走り込み、リングへと飛んだ。

 

「ちっ」

 

舌打ちをした青峰が瞬時にゴール下まで走り、ブロックに飛び、大地のシュートを阻んだ。

 

「これに追いつくのか!? 何てスピードだ!」

 

ベンチの馬場が常軌を逸した青峰のスピードと反応速度に驚愕する。

 

「…やはり、一筋縄ではいきませんね」

 

大地はシュートを中断し、ボールを足元に落とした。

 

「っ!?」

 

青峰が目を見開く。ボールを落としたそこには空が走り込んでいた。

 

「今度は俺の番だ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを受け取った空がボールをリングに叩きつけた。

 

『今度は神城だ! あの身長で何てバネだよ!』

 

「(ちっ、こいつらの連携の精度と速度は…、テツと火神より面倒だな…)けどま、関係ねえな。この先全部決めりゃいいだけの事だ」

 

空と大地の連携を見て楽しそうに笑う青峰。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

オフェンスが切り替わり、再び青峰が高速かつ変則的なストリートバスケのテクニックで揺さぶりをかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

揺さぶった結果、僅かな隙を付いて青峰はダブルチームを突破する。

 

「あっ!?」

 

直後、桜井が声を上げる。大地と天野を抜いた瞬間、即座にヘルプに行った空が青峰のボールを狙い撃ちに来たからだ。

 

「ほらよ」

 

だが、青峰は野生の勘で空のスティールを感じ取り、空の手がボールを捉えるギリギリでボールを横に流した。

 

「ナイスパスだぜ青峰!」

 

そこへ走り込んだ福山がボールを受け取り、そのままリングに向かって跳躍した。

 

「くそっ!」

 

慌てて松永がヘルプに飛び出し、ブロックに向かうが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

僅かに間に合わず、福山のダンクが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「これだ。誰にも頼らずに1人で戦っていた去年までと違い、今の青峰にはパスがある」

 

「昔の青峰っちからは考えられない事ッスね。話には聞いていたッスけど、実際この目で見ても信じられない光景ッス」

 

火神と黄瀬が今の青峰のプレーを見て驚愕する。

 

「パスというバリエーションが加わった青峰を止めるのは俺達でも至難の業。ダブルチームですらまともに止めきれない今の花月では止める事は不可能なのだよ」

 

一連のプレーを見た緑間が冷静に分析する。

 

「決まりッスかね」

 

黄瀬が試合の結末を予言するかのように呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

花月のオフェンス。空と大地の連携で得点を決める。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、桐皇!』

 

ここで、桐皇が申請したタイムアウトがコールされた。原澤は選手達の残りのスタミナを考慮し、花月の流れを断つ意味も込めてタイムアウトを申請した。

 

選手達は各々ベンチに戻っていった。

 

 

第4Q、残り5分40秒。

 

 

花月 84

桐皇 90

 

 

「何とか決められたが、問題はディフェンスや」

 

オフェンスに成功し、ホッとするのも束の間、目の前の問題点に頭を悩ませる天野。現状、ダブルチームでも青峰を止められない。かと言って、空を加えてトリプルチームで対応すれば今度はパスに対応出来なくなる。

 

八方塞がりの現状。持ち前の手札で対抗出来ない現状。何とか食らい付き、均衡を保ってはいるが、それもいつまでも保っていられる保証はない。

 

『…』

 

必死に策を巡らせる上杉及び花月の選手達。ベンチ周辺を沈黙が支配する中、大地が口を開いた。

 

「青峰さんマーク。私1人でさせてもらえないでしょうか」

 

『…っ!?』

 

唐突に大地の口から出された提案に、花月のベンチの面々が驚愕した。

 

「お前1人でって、何言ってんだよ? ここまでダブルチームでさえ止められなかったんだぞ。いくら何でも…」

 

大地の提案に真崎が苦言を呈した。

 

「無理は百も承知です。ですが、青峰さんを止めようとすれば周りが止められない。周りに気を配ると今度は青峰さんが止められない。もはや、ダブルチームも、空による2人同時のマークも限界に来ています。点差を詰めるには、誰かが青峰さんを1人でマークする必要があります」

 

「…ふむ」

 

真剣な表情で説明する大地の言葉を聞いて上杉が腕を組みながら思案する。

 

「お願いします。やらせてください」

 

「……分かった。やってみろ」

 

深く考えて末、上杉は頷いた。

 

「監督、よろしいんですか?」

 

「綾瀬の言う事ももっともだ。ここは、綾瀬に賭ける」

 

確認するように真崎が問いかけると、上杉は頷いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「よっしゃ、若松の代わりのセンターは大した事ねえ。松永、頼むぜ」

 

「任せろ」

 

空の問いかけに松永が自信に満ちた表情で答える。

 

「生嶋も、まだスリーは打てるよな? 中が固くなればそっちに回すから、あともう少し頼むぜ」

 

「ぜぇ…ぜぇ…もちろん。いつでもボール待ってるよ」

 

息を切らしながらも笑顔で空の言葉に生嶋が答えた。

 

「大地、青峰は任せる。頼むぜ」

 

「はい。チームの勝利の為、やってみせます」

 

表情を引き締めて大地は空の問いに答えた。

 

「外しても構わんからバンバン打っていきや。俺が全部拾ったる」

 

「頼りしてます。天さん」

 

胸を張りながら告げる天野に空が笑顔で答えた。

 

「残り時間僅かだ。お前らの持ってるものをコートの中で出してこい!」

 

『はい!!!』

 

「行って来い!!!」

 

上杉の激を背中で浴びながら花月の選手達はコートへと向かった。今吉がボールを受け取り、試合は再開される。

 

『おっ?』

 

『おいおい、マジかよ…!』

 

花月のディフェンスが変わった事に観客が早くも気付き、声を上げる。天野が福山に付き、青峰は大地1人でマークしている。

 

「無謀としか思えへんわ。万策尽きて血迷ーたんか?」

 

薄ら笑いを浮かべながら今吉が空に問いかける。

 

「ちげーよ。賭けたんだよ。ウチのエースにな」

 

空は真剣な表情で今吉に返した。

 

「たいそうお宅のエースを買っとるみたいやのう。…ほな、遠慮なく突かせてもらうわ。絶好の穴をのう!」

 

ここで今吉がパスを出す。ボールの先は当然、青峰。

 

「…っ!」

 

青峰にボールが渡ると、大地は腰を落とし、オフェンスに備える。

 

「ほう? やる気満々みたいじゃねえか」

 

ボールを受け取るのと同時に青峰はドリブルを始める。

 

「(これまでずっと青峰さんの相手をしてきて独特のリズムにはある程度慣れてきました。スピードも、単純なスピードなら空の方が速い。後は、動きを読むことが出来れば…!)」

 

揺さぶりをかける青峰。大地は懸命にそれに対応しながら青峰の動きを予測する。

 

「夏の合宿でも思ったが、お前の資質は大したもんだ。けどな、それじゃ俺は止められねえ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックチェンジで切り返し、大地の左手側から青峰が駆け抜けていく。

 

「まだです!」

 

同時に大地がバックステップで青峰に並走し、追いかける。

 

「良い線行ってたが……甘ぇ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックステップと同時に青峰は後ろに踏み込んだ大地の脚の股下からボールを通しながら切り返し、大地をかわした。

 

『やっぱり綾瀬じゃ青峰は止められない!』

 

大地を抜きさった青峰はそのままリングに向かっていく。

 

「くそっ!」

 

慌てて松永がヘルプに飛び出すが…。

 

「止まって下さい!」

 

「っ!?」

 

大地が松永を制止させる。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

無人のリングに青峰が悠々とワンハンドダンクを叩きつけた。

 

『おぉぉぉーーーーっ!!!』

 

観客が盛大に沸き上がる。

 

「…へぇ」

 

ダンクを決めた後、青峰は大地に視線を向けながら感心するような声を出した。

 

「綾瀬、どうして止めた? タイミング的には間に合っていた。ブロックする事も…」

 

「狙われていました」

 

制止させられた事に不満を覚えた松永が大地に問いかけるが、大地は表情を変えることなく告げていく。

 

「私を抜きさった後、青峰さんは意図的にスピードを緩めました。恐らく、松永さんからのファールを誘ってボーナススローを狙っていたのでしょう」

 

「っ!?」

 

事実を告げられ、松永は息を飲んだ。

 

「それに、ここでファールをすればあなたはファール4つ目です。そうなれば、こちらの勝利は絶望的になっていたでしょう」

 

「そういう事か。すまない、助かった」

 

大地の制止の意図を理解した松永は頭を下げながら礼を言った。

 

「最悪のシナリオこそ防げたが、失点をしちまった事には変わりない。…大地、どうする?」

 

「続けさせて下さい。何としてでも止めてみせます」

 

「……愚問だったな。お前に賭けたんだ。任せるぜ」

 

そう大地に告げ、ボールを受け取った空はフロントコートにボールを進め、ゲームメイクを始めた。

 

「…」

 

今吉が目の前に来ると、空は右サイドに展開していた大地にパスを出した。

 

「お宅らも懲りんのう。ほな、こっちはカウンターに備えるかのう」

 

先程と変わらず含み笑いを浮かべる今吉。ボールを持った大地の前に青峰がディフェンスに現れる。

 

「…」

 

「…来いよ」

 

腰を落とし、圧倒的な威圧感を醸し出しながらディフェンスをする青峰。大地はゆっくりボールを動かしながら機会を窺う。その時…、

 

「っ!?」

 

空が旋回しながら大地の横へと走り込んできた。大地がボールを横へと差し出し、すれ違い様空がボールに手を伸ばす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、空はボールを受け取らず、そのまま走り、大地はバックステップをして距離を取り、そのままシュート態勢に入る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「ちっ!」

 

走り込んだ空を警戒をし、大地のバックステップへの対応が遅れ、ブロックに紙一重で間に合わず、放たれたボールはリングを潜った。

 

「…ハッ! いいね、なかなかやるじゃねえかよ!」

 

失点を許したが、それでも不敵な笑みを浮かべる青峰。突き放そうとも食らい付いてくる花月を相手にする事がとても楽しいのだろう。

 

桐皇のオフェンスが始まると、躊躇わず青峰にボールを渡す。

 

「…」

 

「何度やっても同じだ。お前じゃ俺は止められねえ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高速で左右に切り返しをし、大地の態勢が崩れた所で一気に仕掛けた。

 

「っ!」

 

態勢が崩れるも、大地は強引に立て直し、バックステップをしながら青峰の進路を塞ぎにかかる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

大地が進路を塞いだのと同時に青峰が急停止し、そのままシュート態勢に入る。

 

「まだです!」

 

大地も急停止し、即座にブロックに飛び、シュートコースを塞ぐように手を伸ばした。

 

「よく間に合ったな。だが、惜しかったな」

 

すると、青峰はジャンプシュートの態勢から背中を後方に大きく倒した。

 

『フォームレスシュート!』

 

『やっぱり青峰は止められない!』

 

ブロックをかわす青峰のフォームレスシュートに誰もが得点を確信する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かってますよ。今の私では青峰さんは止められない。ですから――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

放ったボールが弾かれ、思わず声を上げる青峰。状況的に大地にブロックは不可能。

 

「させねえよ!」

 

ボールを弾いたのは空だった。空が青峰の後方からシュートをブロックした。

 

大地は先程の勝負で今の自分では青峰を止める事が出来ない事を理解し、それでも青峰を止める為、フォームレスシュートを打つように誘導した。

 

『…(チラッ)』

 

『っ!』

 

青峰がシュート態勢に入った瞬間、大地は空に目で合図を送った。空は大地の意図を即座に理解し、ヘルプに飛び出し、青峰のフォームレスシュートを後方からブロックした。

 

 

「あいつら、青峰を止めやがった!」

 

これには火神も思わず立ち上がりながら驚愕した。

 

 

「速攻や!」

 

ルーズボールを拾った天野が前線へボールを放り投げる。そこへ、大地が既に走り込んでおり、ボールを受け取るとそのままワンマン速攻。

 

 

――バス!!!

 

 

大地がレイアップを決めた。

 

「おっしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

「っ!」

 

拳を突き上げて喜びを露わにする空に、大地は笑顔を浮かべて拳を胸元で握った。

 

「そんな…、青峰さんが止められた…」

 

目の前で起きた事実に桜井は茫然とする。

 

「まだ逆転されたわけじゃねえだろ! 切り替えろ!」

 

『っ!』

 

ベンチから若松が懸命に声を張り上げ、チームを鼓舞する。リスタートをした桐皇は今吉がボールを運ぶ。

 

「…っ」

 

平静を保とうとする今吉だったが、未だ先ほどのブロックの動揺を引きずっていた。

 

「(まさか、青峰はんが止められるとは…、やが、こないな事が2度も続く訳あらへん! 最強は青峰はんや!)」

 

絶対的な青峰に対する信頼を寄せる今吉。そして、先程の動揺。この2つが、今吉のミスを誘発した。

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

「っ!? しもた!」

 

青峰に対して出した不用意に出したパス。大地のポジション確認を怠ってしまい、瞬時にパスコースに割り込んだ大地にボールをカットされてしまった。

 

「ナイス大地! っしゃぁっ! 速攻!」

 

ルーズボールを拾った空がそのままフロントコートに駆け上がる。スリーポイントラインを越え、フリースローラインを越えた所でボールを右手で持ち、シュート態勢に入る。

 

「させねえ! これ以上やらせるかよ!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを持ち換えてシュートを放とうと跳躍した直後、空の後ろから福山がボールを叩いた。

 

「くそっ!」

 

手から零れたボールを慌てて掴む空。だが、態勢が不安定の為、これではシュートが打てない。

 

「空!」

 

「っ!」

 

その時、空の耳に自身を呼ぶ声が聞こえ、空は導かれるようにそこへパスを出した。左アウトサイド、スリーポイントラインの外側のエンドラインとサイドラインが重なる所に走り込んだ大地がボールを受け取り、そこからスリーを放った。

 

『っ!?』

 

コート上の選手達、そして、ベンチ、観客全てがボールの行方に注視する。ボールは弧を描き…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中心を射抜いた。

 

『キタ…』

 

『これで1点差…遂に背中を捉えた!』

 

スリーが決まり、1点差にまで詰めた事で観客が沸き上がった。昨年、誠凛がキセキの世代を次々打倒して日本一に輝いた奇跡。その奇跡が再び起ころうとしている今、観客のボルテージは最高潮にまで上がった。

 

『…』

 

茫然とする。桐皇の選手達。

 

油断など微塵もしていなかった。むしろ、秀徳を倒して勝ち上がった花月を警戒すらしていた。だが、ここまでの接戦に持ち込まれるとも思っていなかった。

 

試合の流れ、風は花月に向いている。昨日の番狂わせが今日も起こる。と、誰もが思っていた。

 

「スー…フー…」

 

動揺する桐皇の選手の中で、青峰だけが俯きながら呼吸を整え、精神統一するかのように集中力を高めていた。

 

「…っ!」

 

ボールを運んでいる今吉の前に来て無言でボールを要求する青峰に対し、異変を感じながらもボールを渡した。大地が青峰の前に立ち塞がる。

 

「っ!?」

 

青峰が動きを見せ、大地が対応しようとした瞬間、一瞬で大地の背後に青峰が抜けていた。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままレイアップを決めた。

 

「綾瀬が、こないあっさりと…」

 

「まさか…!」

 

茫然とする天野。そして、青峰の変化に気付いた空。

 

「ここまでやるとはな。さすがに驚いたぜ」

 

背を向けながら話す青峰。そして、花月の選手達に振り返る。

 

「正真正銘、こっから本気だ。死ぬ気でかかってこいよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら青峰は言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――青峰大輝が、ゾーンの扉を開いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





テクニカルファールについて。現在テクニカルファールの場合、与えられるフリースローは1本(2014年から施行)なのですが、原作が連載当時の2009年頃のルールなので、ルール改正がされる以前の2本としています。

ここからは愚痴です。新しいパソコンが欲しい…( ;∀;)

執筆中にパソコンが停止したり、執筆中のウィンドが何故か消えたりしたので新しいのが欲しい。けど、お金がないorz

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第85Q~扉~


投稿します!

久しぶりの投稿です…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り4分28秒。

 

 

花月 91

桐皇 94

 

 

桐皇のオフェンス、青峰のフォームレスシュートを連携で空がブロックし、カウンターで大地がレイアップを決め、その直後、今吉のパスミスからのターンオーバーからスリーを決め、点差を1点差にまで縮めた。

 

だが、その直後、ゾーンの扉を開いた青峰が大地をあっさり抜き、得点を決めた。

 

「正真正銘、こっから本気だ。死ぬ気でかかってこいよ」

 

不敵な笑みを浮かべ、青峰は花月の選手達の言い放った。

 

『っ!?』

 

青峰から発せられる強烈なプレッシャーを受け、花月の選手達も気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――青峰大輝が、ゾーンに入ったと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

スローワーとなった松永からボールを受け取った空がフロントコートまでボールを進める。

 

「(…ちっ、何てプレッシャーだよ。マッチアップしてるわけじゃねえ俺にまで伝わってきやがる)」

 

横目で青峰に視線を向ける空。青峰から発せられるプレッシャーを受け、思わず冷や汗が流れる。

 

「…っ!」

 

目の前の大地はそれ以上のプレッシャーを受け、表情が曇っている。

 

「(焦るな…、ゾーンに入った青峰を相手にするのはこれが初めてってわけじゃないんだ。落ち着いて攻めるんだ…)」

 

深呼吸して動揺を鎮め、冷静にゲームメイクを始める空。

 

「(…チラッ)」

 

「(…コクッ)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地にアイコンタクトを送り、頷いたのを確認するとクロスオーバーで今吉に仕掛ける。

 

「読んどるわ!」

 

先読みした今吉が進行ルートに先回りし、空の進路を塞ぐ。読まれる事を予測した空はクロスオーバー直後、バックロールターンで反転、逆を付く。

 

「相変わらずワンパターンやのう!」

 

これも今吉は読み切り、対応する。

 

 

――ピッ!!!

 

 

「っ!」

 

だが、空はバックロールターンで逆を付いた直後、遠心力を利用してボールをリング付近に放った。すると、事前にアイコンタクトを交わした大地がリングへと走り込み、飛んでいた。

 

『よし! いけー!!!』

 

ベンチから声が飛ぶ。ボールが大地の伸ばした手に収まる。

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

「なっ!?」

 

が、その直前、後ろから手を伸ばした青峰のボールは叩き落とされてしまう。

 

「(嘘だろ…! これに反応するのかよ…)」

 

完全に不意を突いたはずだった。だが、ゾーンに入った青峰は空と大地の高速連携にいとも簡単に対応した。

 

「よっしゃー! カウンター!」

 

ルーズボールを拾った福山がボールをフロントコートに向けて大きく投げる。するとそこには、ブロック直後に走っていた青峰の姿があった。

 

「何やて!? 速すぎる!」

 

その速さに天野が思わず目を見開いた。センターラインを越えた所でボールを掴んだ青峰はそのままリングに向かってドリブルを始める。

 

「くそっ…!」

 

「っ!」

 

スリーポイントライン目前で空と大地が青峰に追いつき、回り込んで進路を塞いだ。

 

 

「マジかよ…! ゾーンに入った青峰に追いつきやがった!」

 

2人のスピードに火神も驚く。

 

「けど、今の青峰っちは止められないッス」

 

黄瀬は冷静にポツリと呟いた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

2人が目の前に現れたの同時に一瞬スピードを緩め、左右に揺さぶりをかけ、2人の間に僅かに隙間が空いた瞬間一気に加速し、2人の間を高速で抜けていった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま青峰はボールをリングに叩きつけた。

 

「「…」」

 

なす術もなく抜かれた2人は茫然とする。青峰はそんな2人に一瞥もくれず、ディフェンスに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「勝負あったな」

 

「そうッスね。ゾーンに入った青峰っちはもう止められない。こっから先、点差が開く事はあっても、縮まる事はありえないッス」

 

コートを見つめる火神と黄瀬が状況を見て言う。

 

「…だが、花月はよくやったのだよ。あの青峰にゾーンの扉を開かせたのだから」

 

緑間は花月を称えた。

 

「ああ。大健闘だ。後は…」

 

「この試合の後、心が折れないかどうか、ッスね」

 

火神と黄瀬は、花月の選手達の行く先を案じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

再び花月のオフェンス。空がフロントコートまでボールを運ぶ。

 

「ほな、1本止めよか」

 

ディフェンスをする今吉。青峰がゾーンに入った事により、その表情には余裕が感じられる。

 

「(…チラッ)」

 

「(っ!? 打つんか!?)」

 

空はボールを突きながら視線をリングに向ける。空には外もあるというデータを持っている為、今吉は慌てて距離を詰めようとする。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

距離を詰めようと1歩踏み出した瞬間、空は今吉の足元でボールをバウンドさせながらパスを出す。ボールはハイポストに立っていた天野に渡る。

 

パスと同時に空は天野の傍まで走り、手渡しでボールを受け取りそのままリングへと飛んだ。

 

「させるか!」

 

そこへ、新村がブロックに現れる。同時に空はボールを下げ、ビハインドバックパスで左に立つ松永にパスを出す。

 

 

――バチン!!!

 

 

が、背中からパスを出すのと同時に肘を背中に突き出し、ボールを逆へと飛んでいった。

 

「エルボーパス!?」

 

逆へボールが飛んでいったからくりに気付いた桜井が思わず声を出す。

 

「へえ」

 

すると横から感心する声が聞こえる。そこには空と松永のパスコースを塞ぐ青峰の姿があった。

 

「ナイスパス!」

 

空の右方向に走り込んでいた大地に渡った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地はボールを受け取るのと同時に高速バックステップで下がりそこからフェイダウェイでシュートを放つ。

 

「っ!?」

 

シュートを放つの同時に青峰がブロックに現れる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

紙一重でボールは触れられず、リングを潜った。

 

「いいね。その調子でどんどん来いよ」

 

点は決められたものの、満足気な表情で青峰は大地に言った。

 

「(念を入れてバックステップとフェイダウェイを入れて余裕を持ったつもりでしたが、それでもギリギリとは…)」

 

何とか得点したものの、ギリギリタイミングであった。その事実が大地の背中に冷たいものが滴った。

 

オフェンスが桐皇に切り替わる。今吉がボールを受け取ると、迷わず青峰にボールを渡す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受け取ると、一気に加速し、フロントコートにドリブルを始める。

 

「うっ!」

 

青峰の進路に割り込む生嶋であったが、クロスオーバーであっさりかわされる。

 

「くっ…止めな…!」

 

生嶋を抜いた直後、今度は天野が立ち塞がる。

 

「お前も結構良い線行ってたぜ。…だが、もう無駄だ」

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

青峰はボールを天野の肩の上から通し、同時に横を駆け抜けて天野を一気にかわす。

 

「まだです! ここで…!」

 

天野が抜かれると、今度は大地がディフェンスに現れる。

 

「お前も、センスは認めてやる。…が、『そこ』で留まっているお前じゃ、俺には永遠に敵わねえよ」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「ぐっ…!」

 

左右の揺さぶりからの崩された所でドライブで突破される。もう青峰を遮るものはない。誰もがそう思った。

 

「まだだぁっ!!!」

 

そこへ、空が青峰に立ち塞がった。

 

「へっ! いいぜ、相手してやるよ」

 

変則のドリブルで揺さぶりをかける。

 

「…っ! …っ!」

 

歯を食いしばって空は青峰の動きに付いていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の重心が右脚に傾いた瞬間、青峰が高速で切り返し、逆を付いて空の左を抜ける。

 

「…がぁっ!」

 

右脚に力を込め、強引に横を抜ける青峰の進路を塞ぐ。

 

 

――スッ…。

 

 

空に進路を塞がれるのと同時に反転、バックロールターンで更に逆を付いて空を抜きさる。

 

 

――バス!!!

 

 

青峰はそのままレイアップを決めた。

 

『…』

 

圧倒的な青峰の実力に、花月の選手達の表情が曇る。

 

「空……っ!」

 

大地が空に歩み寄り、声をかけるが…。

 

「もう少し…、もっと速く、もっと鋭く…」

 

鬼気迫る表情で独り言を呟く空の姿に、大地は息を飲んだのだった。

 

「…」

 

花月のオフェンス、空がボールを運ぶ。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

バックチェンジからのクロスオーバーで今吉を抜きさる。

 

「(ぐっ…! 先を読んどったのに抜かれてもうた。スピードとキレがここに来て増しよったとちゃうか!?)」

 

空をマークする今吉だが、事前に空の行動を読み切って対応したにも関わらず抜かれてしまう。

 

今吉をかわし、そのままリングへと突き進み、ボールを掴んで跳躍。

 

「っ!?」

 

その時、目の前に青峰がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

ダンクに向かった空だが、青峰が現れるのと同時に中断、真後ろに走り込んだ大地にバックパスに切り替えた。

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

だが、パスを出す瞬間、青峰が手を伸ばし、空の手にあるボールを叩いた。

 

「くっ!」

 

まさかのパスカットに空が思わず苦悶の声を上げる。ルーズボールを慌てて大地が拾うが。

 

「っ!?」

 

ボールを掴んだ瞬間、目の前に青峰が現れた。

 

「ぐっ…!」

 

圧倒的なプレッシャーと隙のないディフェンスをする青峰に、大地はボールをキープするだけで精一杯になる。

 

 

――ポン…。

 

 

「あっ…!」

 

青峰の伸ばした手が大地の持つボールを捉える。弾かれたボールを青峰が抑え、そのままドリブルを始めた。

 

「くそっ…戻れ!」

 

必死に声を出し、ディフェンスへ戻る天野。だが、速すぎる青峰に追いつけず、逆にどんどん引き離されてしまう。

 

「…ハッ、懲りねえ奴だな」

 

青峰はスリーポイントライン目前で停止する。

 

「止めてやる!」

 

追いついた空が青峰の目の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う両者。その時…。

 

「っ!」

 

突如、空が青峰がキープするボールに手を伸ばす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰は動じることなくボールを切り返して空の手をかわし、そのまま空の横を抜ける。

 

「行かせるか!」

 

空はすぐに反転、青峰を追いかけ、横に並ぶ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

並ばれるのと同時にボールを弾ませ、反転しながら逆へ切り返す。

 

「っ! この程度でぇっ!!!」

 

だが、空はこれにも食らい付く。その時…。

 

「っ!?」

 

空の視界からボールが消える。同時に青峰が空の横を駆け抜ける。

 

「くっ!」

 

ここで空は気付いた。青峰が切り返したの同時にボールを背中から空の後方に放っていた事に。

 

「まだまだぁっ!!!」

 

空は倒れ込みながらボールに手を伸ばす。

 

「なっ!? まだ反応するのか!?」

 

その反応の速さと執念に福山は驚愕する。

 

「大した奴だ。だが、俺には届かねえ」

 

だが、その手を青峰は嘲笑うかのように切り返してかわす。

 

「ダメだ…、青峰は止められない…!」

 

空の執念を容易くあしらう青峰にベンチの馬場は絶望する。

 

ボールを掴んだ青峰はそのままリングへと跳躍する。

 

「まだだ…。俺は勝つと誓ったんだ…! キセキの世代に…勝つんだ!!!」

 

空は伸ばした手をコートに付き、立ち上がると、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

ボールを持った青峰。突如目の前に空がブロックに現れ、目を見開く。

 

「…っ」

 

青峰はボールを持った腕を伸ばし、バックボードの裏側からボールを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『うおぉぉぉっ! 何だ今の!?』

 

『裏側から放ったぞ!?』

 

スーパープレーに観客が沸き上がる。

 

『…』

 

奮闘をする空。だが、そのさらに上を青峰に花月の選手は言葉を失う。

 

「ボール」

 

「は?」

 

「早くくれ」

 

「お、おう」

 

空に催促され、松永が戸惑いながらボールを渡した。

 

「…」

 

空は前を向き、見据え、ボールを運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

緑間が無言でコートを見つめている。

 

「緑間っち? どうかしたんスか?」

 

そんな緑間に気付き、声を掛ける。

 

「…いや、少しずつではあるが、神城が青峰の動きに対応し始めている気がしてな」

 

「確かに、あいつは何とか青峰に食らい付いてはいるが、止めるのは無理だろう。ゾーンに入った奴を止められるのは、同じゾーンに入った奴か、あるいは、エンペラーアイを持つ赤司か高精度のデータを持てる三杉くらいしか…」

 

緑間の懸念に、火神が苦言を呈した。

 

「火神っち、俺もパーフェクトコピーなら勝てるッスよ」

 

火神の言葉に黄瀬が口を尖らせながら抗議する。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

コート上では、空からのパスを受けた大地がジャンプシュートを決めた。

 

「…」

 

何かを考えるように眉を顰めると、緑間はコートに集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り3分2秒。

 

 

花月 95

桐皇 100

 

 

何とかオフェンス成功させ、点差を5点に戻した花月。桐皇のオフェンスに備える。

 

「…」

 

桐皇は早々に青峰にボールを渡す。ボールを持った青峰の前には大地が立ち塞がる。

 

「…」

 

大地は腰を深く落とし、集中力を全開にしてディフェンスに臨んでいる。

 

「………ハッ」

 

そんな大地を見て青峰は不敵に笑うと、ボールを片手に持ってフォームレスシュートの態勢に入る。

 

「っ!」

 

それを見て大地が慌てて距離を詰めてブロックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、青峰はシュートを中断し、ドライブで大地の横を抜ける。

 

「っ! まだです!」

 

ギリギリで飛ぶのを踏みとどまった大地は高速バックステップで青峰を追いかけ、進路を塞ぐ。

 

「お前といい神城といい、おもしれー奴等だ。だがな…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「俺には届かねえ」

 

大地が目の前に現れると、青峰は急停止し、そこから一気に加速。高速のストップ&ゴーで大地をかわす。そのままフリースローラインを越えた所でボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「意地でも止めたるわ!」

 

そこへ、天野がブロックに現れる。

 

「関係ねえな」

 

だが、青峰は回転しながら天野を空中でかわし、改めてリングにボールを叩きつける。

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

その瞬間、1本の腕が現れ、ボールを止める。

 

『神城!!!』

 

空がブロックに現れ、コート上の選手、ベンチ、観客の全てが思わず声を上げた。

 

「負けらねえんだよ。何が何でも!」

 

必死にボールを弾き飛ばそうと空は力を込める。

 

「状況が分からねえ馬鹿でもねえだろうに、テツと同レベルのその負けん気は、素直に大したもんだ」

 

「…ぐっ!」

 

青峰が力を込めると、徐々に押されていく。

 

「出直してきな、改めて来年勝負してやるよ」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「がっ!」

 

青峰に押し切られ、ボールがリングに叩きこまれた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

沸き上がる観客。会場のボルテージはさらに熱身を帯びていく。

 

「空!」

 

「空坊!」

 

そんな中、コートに叩きつけられた空が大の字で倒れ伏していた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『レフェリータイム!』

 

審判が笛を吹き、そうコールした。

 

「…」

 

花月の選手達が空の身を案じて駆け寄り、声を掛けるが、空は反応せず、倒れたままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「(つえーな)」

 

倒れ込んだまま、空は心中で呟く。

 

自身の意識がどんどん沈み、薄暗い何処かに静かに向かっている感覚を空は意識的に感じていた。

 

「(勝てねえのかな…)」

 

圧倒的な実力差を目の前で見せつけられ、思わず考えてしまう。

 

「(…………けど)」

 

彼我の実力差は明白である。それでも…。

 

「(勝ちてぇ)」

 

空はそれでも心の底から勝利を願った。

 

「(勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ勝ちてぇ!!!)」

 

空は狂ったように願い続ける。

 

「(だからこそ勝ちてぇ! こんな化け物染みた奴に勝てたら最高じゃねえかよ! だから勝ちてぇ! 勝って、皆とその喜びを分かち合いたい!!!)」

 

空は目を開け、立ち上がる。その時…。

 

「……?」

 

目の前には大きな扉があった。

 

「(こんなところに用はねえ。さっさと試合再開だ!)」

 

空は扉に両手を付け、力を込めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「君、大丈夫か!」

 

審判が倒れたまま空の傍に駆け寄り、声を掛ける。反応が見られない空を見て、担架を要求しようと顔をオフィシャルテーブルに向ける。その時。

 

「…っ」

 

倒れていた空が突然両目をパチリと開けた。

 

「目ぇ開いた! 空坊、大丈夫か!?」

 

天野が心配そうに空に声を掛けた。すると…。

 

「…っと」

 

空は両足を上げると、反動を付けて一気に立ち上がった。

 

「君、試合は続けられるか?」

 

勢いよく起き上がった空に一瞬驚くもすぐさま声を掛ける。

 

「問題ないですよ。早く試合を再開しましょう」

 

審判の言葉に空はそう返す。

 

「(………意識ははっきりしている。呂律は回っているし、瞳も定まっている。問題はなさそうだな)」

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『試合再開!』

 

試合続行に問題ないと判断した審判は笛を吹いて試合を再開する。

 

リングの下に転がっていた松永が拾い、スローワーとなりエンドラインに立った。

 

「…っ!」

 

その時、空が松永に近寄り、無言でボールを要求した。

 

「(何だ? 神城の様子が変だ。大丈夫なのか? …いや、ウチのポイントガードは神城だ。神城に渡す他はないな)」

 

一瞬思考したが、松永は空にボールを渡した。

 

「…」

 

ボールを貰った空はゆっくりボールをフロントコートまで進める。同時に今吉がディフェンスに現れる。

 

「(もうそろそろトドメ刺したいのう。この1本止めて、試合を――なっ!?)」

 

その時、今吉の視界から空が消える。人が消える事などありえない事だが、今吉の目からは、空が消える。

 

「(何処行ったんや!? 何が起こったんや!?)」

 

空の姿を探す今吉。空は、既に今吉の背後に抜けていた。

 

カットインで中に切り込む空。そこへ、青峰が現れる。

 

「っ!」

 

すると、空は停止し、その場でドリブルを始める。

 

 

――ダムッ…ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

クロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを高速で繰り返し、時折膝を曲げて姿勢を低くしながら青峰の目の前で高速で切り返しを繰り返した。

 

「…っ、…っ!」

 

目の前で高速で切り返しを続ける空。どんどん上がるスピードに青峰の表情がどんどん余裕がなくなっていく。そして…。

 

「っ!?」

 

青峰が両目を見開く。青峰の視界から空が消えてしまった。

 

 

――バス!!!

 

 

振り返ると、空がレイアップを決めていた。

 

『…』

 

会場が水を打ったように静まり返る。

 

『お…』

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

状況を理解した観客が沸き上がった。

 

「まだ終わってねえぞ。絶対勝つ。俺が、花月を勝たせるんだ」

 

静かに空が言った。

 

「クックックッ。これはマジで嬉しい誤算だ。まさか、お前が開くとはな…」

 

そんな空の言葉を聞いて青峰は満足そうに笑い始めた。

 

「最高だぜ、お前は! 楽しませてくれよ。この俺を!!!」

 

青峰の言葉を聞くと、空は振り返り、不敵に笑った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――空が、ゾーンの扉を開いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





とりあえず、この辺りで筆を止めました。

目標としましては、今年中にウィンターカップを終えたいですね…(^-^;)

ああ、地球の皆、オラに文才を分けてくれ!!!

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第86Q~賭け~


投稿します!

前話投稿後、予想以上に感想を頂いた事により、テンションと執筆意欲が沸いたので久しぶりのスピード投稿です…(^-^)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り2分39秒。

 

 

花月 97

桐皇 102

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「…」

 

「…」

 

ボールを持った青峰がゆっくりボールを突く。目の前には空が腰を落とし、両腕をだらりと下げ、仕掛けに備える。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「(……へぇ、良い感じにプレッシャーかけてくるじゃねえか。そういや、こいつも持ってるんだったな…)」

 

ゾーンに入った事で集中力が最大になった事に加え、持ち前の野生が前面に出た事により、そのプレッシャーが青峰の肌を通して伝わっていた。

 

「(…試してやるよ)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

目の前に空が立ってから、数度ボールを突いた所で青峰が加速。仕掛ける。

 

「ハッ!」

 

同時に空も動き、瞬時に青峰を追いかけ、進路を塞ぐ。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

そこから高速かつストリートの独特の技とリズムを組み込みながら左右に揺さぶりをかける。だが、空はその揺さぶりに遅れる事も惑わされる事なくピタリと付いていく。

 

「やるなぁ、お前!」

 

「そっちこそ、さっきより一段と速くなってんじゃん!」

 

高速の揺さぶりを仕掛けても抜かせない空を見て青峰は興奮を隠せず不敵に笑う。空も、先程よりも上がった青峰のパフォーマンス能力にテンションが上がり、笑みを浮かべている。

 

「おもしれぇ、だがな、笑っていられる余裕なんざねえだろうが!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高速の切り返しをする中、空の重心が僅かに左脚に乗ったのと同時に青峰がドライブ。空の右手側から抜けていく。

 

『抜いた!』

 

『この勝負は青峰の勝ちだ!』

 

1ON1の軍配が青峰に上がり、観客が沸き上がる。だが、その時…。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

青峰がキープするボールを1本の手が触れ、ボールが手元から離れる。

 

「つれないじゃないかよ。もっと見せてくれよ、あんたの本気をさぁ…!」

 

手の正体は空。空が青峰の持つボールを弾いていた。

 

 

「なっ!?」

 

「なんスか、あれ!?」

 

観客席の火神と黄瀬が驚愕する。

 

青峰が抜いたの同時に空は背中から後方に倒れ、そこから右手を伸ばしてボールを弾いていたからだ。

 

 

「ちっ」

 

まさかのカットに一瞬驚くも、すぐさまボールを拾いに行く。幸い、僅かに指に触れただけなので、ボールは青峰の僅か前に弾かれただけだった。すぐさま青峰はボールを拾い、リングへと向かう。

 

「行かせねえよ」

 

だが、同時に空が青峰の横を並走する。

 

『はぁっ!? あいつさっき背中から倒れながらボールカットしてたのに何でもう青峰の横走ってんだよ!?』

 

あまりの出来事に観客からは疑問の声が上がる。

 

空はボールをカットした後、身体をねじって背中の向きを天井に変え、倒れる事はおろかコートに手を付ける事なく駆け出し、青峰の横に並んだ。

 

スピードで勝る空は青峰の横に並び、追い抜いて前を塞ごうとする。

 

 

――キュッ!!!

 

 

空が前へ出る直前に青峰は急停止。そのままジャンプシュートの態勢に入る。だが…。

 

「なっ!?」

 

「嘘…だろ…」

 

その後に飛び込んできた光景に桜井、若松は言葉を失う。

 

ジャンプシュートの態勢に入った青峰。だが、コンマ僅か後にブロックに飛んだ空が青峰のシュートコースを塞いでしまった。

 

「ちぃっ!」

 

シュートコースを塞がれると、青峰は上半身を後方に寝かせ、ボールを放つ。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールは空のブロックをかわしながらリングに向かい、バックボードに1度当たってリングを潜った。

 

『さすが青峰! 難なく決めたぁ!』

 

スーパープレーに観客は盛り上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「いや今の、青峰には全く余裕はなかった」

 

「ホントッスね。とっさのリカバリーで何とか決めたって感じッスね」

 

ギリギリ攻防の末の得点と断じた火神と黄瀬は盛り上がる観客とは裏腹に冷静になっていた。

 

「今までにあった圧倒的な力の差は今の攻防を見る限りほぼ縮まっている。試合は再び分からなくなったのだよ」

 

同じく緑間も冷静になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスは花月の切り替わり、ボールは空がキープする。

 

「来いよ」

 

目の前には青峰が立つ。今吉は大地にマークを変える。もはや今吉では空の相手は務まらない為、特に話し合いをした訳でもなく、自然とマークをチェンジしていた。

 

「ハハッ! さっきのは止められたと思ったけど、やっぱキセキの世代はスゲーな!」

 

不敵な笑みを浮かべながら空が目の前の青峰に言う。

 

「何だか知らねえけど今スゲー調子が良いんだよな。今なら、誰が相手でも負けねえと思えるくらいにね」

 

「ハッ! そらお前の勘違いだぜ。お前じゃ俺には敵わねえんだからな」

 

そんな空に対して青峰も不敵な笑みで返す。

 

「こっちもエンジン全開、最大ギアで行くぜぇっ!!」

 

そう宣言し、ハンドリングのスピードを上げる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

先程同様、クロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを繰り返しながら左右に揺さぶりをかけていく。

 

『うおー! 何だあれ!? 速すぎだろ!?』

 

どんどんスピードが増す空のハンドリングのスピードに観客が驚愕する。

 

「こんなもんじゃねえぜ、俺のスピードはなぁ!」

 

そこからさらにハンドリングのスピードが上がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!」

 

次の瞬間、空が青峰の身体に触れるスレスレの距離まで詰める。

 

 

――スッ…。

 

 

同時に青峰の視界から空の姿が消える。

 

「そんなんでかわせるとでも思ってんかよ!」

 

接近と同時に左にクロスオーバーを仕掛けたのが見えていた青峰は自身の右へと切り込んだ空を追いかける。

 

「っ!?」

 

その時、青峰が目を見開く。身体を右に向けると、確かに空はそこにいた。だが、空の手元にボールがなかった。

 

「っ!」

 

舌打ちをした青峰が視線を左に向けるとボールはそこにあった。空は青峰との距離を詰め、クロスオーバーをしたのと同時にバックチェンジでボールを逆へと切り返していた。

 

「ちっ」

 

ボールの場所を掴んだ青峰がボールに手を伸ばす。だが…。

 

「ダメダメ、それは俺んだぜ」

 

それよりも速く空の左手がボールを捉える。空は両足を滑らせ、背中から倒れながら左手を伸ばし、ボールを左手に収める。同時に身体をねじって態勢を戻し、反転しながら青峰の左手側から抜ける。

 

「くっ!」

 

思わず声を漏らしながら青峰も空を追いかけるべく1歩踏み込む。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこを狙いすまし、空は踏み込んだ青峰の足元からボールを通し、再び反転、青峰を抜きさる。

 

『マジかよ!? あいつ青峰を抜きやがった!』

 

空が青峰を抜いた事により。観客からは驚愕の声が上がる。

 

「くそっ、行かせるか!」

 

そこへ、福山が現れ、空の目の前に立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

目の前に福山が現れると、空は僅かにスピードを落とし、そこからクロスオーバーからのダックインで一気に加速。ハイスピードな上に自身の腰より低くダックインされてしまった為、なす術もなく抜きさられてしまう。

 

フリースローラインの内側まで切り込んだ空はそのままリングに向かって飛んだ。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

その時、先回りした青峰がブロックに現れた。福山を抜いた際にスピードが緩んだ隙に先回りしていたのだ。

 

「さっすが! けど、来るのが少し遅かったね♪」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

先に最高到達点まで飛んだ空が青峰の上からダンクを叩き込んだ。

 

『うおぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

同時に会場が歓声で埋め尽くされる。

 

「やり返したぜ」

 

指を指しながら青峰に言い放つ空。

 

「上等だ。そうでなくちゃ、潰しがいがねえ」

 

そんな空に笑みを浮かべながら返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

変わって桐皇のオフェンス。ボールは早々に青峰に渡される。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしている青峰。目の前には空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

突如、青峰がペースアップ。急加速して仕掛ける。空は遅れる事なく青峰にピッタリと付いていく。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

高速で切り返しながら青峰は隙を窺う。それに翻弄される事なく空もディフェンスに徹する。

 

「っ!」

 

青峰はクロスオーバーで左に切り込んだと同時にボールを掴み、右へと大きく横っ飛びし、ボールを右手に持って投げる構えを取る。

 

「っだらぁっ!!!」

 

これに反応した空が同じく横っ飛びしてブロックするべく左手を伸ばす。

 

「…っ」

 

「っ!?」

 

空が目の前に現れると、頭上に構えていたボールを下げ、下からボールを放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを下に下げたのを見て空も左手を下げるが間一髪間に合わず、ボールは空の脇の下を抜けてバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「また決めてやったぜ」

 

「ハハハッ! スッゲー!」

 

不敵な笑みを浮かべ、指を指しながら言い放つ青峰。空は嬉しそうに笑った。

 

再び空がボールを運び…。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

青峰の懐に飛び込んでそこから左右に高速のハンドリングを始める。

 

「ちょこまか動きやが――っ!?」

 

目で空を追う青峰だったが、突如として空の姿を見失う。

 

「くっ!?」

 

振り返ると、空は既に背後に抜けており、反転して追いかけようとした時にはレイアップを決めていた。

 

「勝ち」

 

「…やるじゃねえかよ」

 

お返しと言わんばかりに言い放つ空に対し、素直に称える青峰。

 

「大した奴だ。スピードだけなら、今までやり合った中でお前より上はいねえ」

 

自身を相手に2度も得点を決めた空を青峰はさらに称えた。

 

「スピードは俺の専売特許だ。誰にも譲らねえよ。だが、それだけじゃ満足出来ねえな。スピードともう1つ、この試合の勝利も頂かねえとな」

 

「ハッ! それは無理だな。俺に勝てるのは、俺だけだからだ」

 

「ハハッ! そんな事言われちゃうと意地でも勝ちたくなっちゃうよ」

 

2人は不敵に笑いながら言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「青峰と……ゾーンに入った青峰と互角にやりあってやがる…!」

 

一連の2人の戦いを見て、火神は冷や汗を流す。

 

「去年の火神っちと青峰っちの時とは逆ッスね。あの時は2人の矛と盾がかみ合って点が入らなかったッスけど、こっちは互いの矛が互いの盾を貫いてるって感じッスね」

 

解説する黄瀬。だが、互角にやり合う両者を見て驚きを隠せない表情だった。

 

「…っ、でたらめな奴なのだよ」

 

一連のプレーを見ていた緑間が眉を顰めながら呟く。

 

「あの動きはもうバスケの常識を大きくかけ離れている。青峰が予測不能なら、神城空はもはや分類不能なのだよ」

 

空の規格外の動きを緑間は分類不能と評した。

 

「にしても今の青峰、まるで神城の姿を見失ったように見えたが…」

 

「事実、見失っていたのだろう。そうでなければ、あんな抜かれ方をする事はありえないのだよ」

 

ふと疑問に思った事を火神が言うと、緑間がそう答える。

 

「目の前にいる人間を見失うとはありえるんスか!? 相手はゾーンに入った青峰っちっスよ!?」

 

信じれないとばかりに黄瀬が緑間に詰め寄る。

 

「…チームメイトの高尾も昨日の試合の最後、神城に同じように抜かれていた。聞けば『いきなり目の前から消えて、気が付いたら抜かれていた』と、言っていたのだよ」

 

「まるで黒子のバニシングドライブみたいだな…」

 

「少なくとも、あれとは違うからくりがあるはずなのだよ。恐らくもっと単純で、恐ろしいからくりが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

青峰がボールをキープし、ドライブ。ゴール下まで切り込み、そのままリングに向かって跳躍。

 

「止める!」

 

リングと青峰の間に空が割り込むようにブロックに現れた。

 

『タイミングはばっちりだ。止めたか!?』

 

「…ハッ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ブロックなどお構いなしとばかりにボールをリングに叩きつけ、空を弾き飛ばす。

 

「そんなチンケなブロックで俺が止められるかよ」

 

「…ちっ」

 

フィジカルの差からくるパワーの差を見せつけられ、空は舌打ちを打った。

 

ボールを貰った空がフロントコートまで進み、目の前の青峰を得意の高速かつ変則のハンドリングで左右に揺さぶりをかけてかわし、フリースローラインを越えた所でリングに向かって飛んだ。

 

「それでかわしたつもりなら、舐めすぎだぜ」

 

そこへ、空の目の前に先回りした青峰がブロックに現れた。

 

『ダメだ。これじゃ止められる…!』

 

「…へっ!」

 

 

――スッ…。

 

 

空はボールを青峰のブロックの上にふわりと浮かせるように放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは青峰のブロックを越えてリングの中心を潜り抜けた。

 

「壊せないブロックなら越えてしまえばいい」

 

「…ちっ」

 

違った形とはいえ、意趣返しをされた事により、青峰から思わず舌打ちが飛び出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰が切り込む。

 

「…ぐっ!」

 

それに反応し、食らい付く空だが、体格の差を生かした青峰のドリブルにより強引に前へ行かれてしまう。

 

そのままボールを掴んで青峰がリングに向かって飛んだ。

 

「俺もいる事忘れんなや!」

 

そこへ、天野がブロックに現れる。

 

「っ! 天さん、ダメだ!」

 

「っ!?」

 

 

――ドン!!!

 

 

制止をした空だが、僅かに遅く、青峰と天野が空中で接触してしまう。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹く。

 

 

――ピッ!

 

 

接触と同時に青峰がボールをリングに向かって放り投げる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

『ディフェンス、プッシング、緑9番! バスケットカウントワンスロー!』

 

「っ!? しもた…!」

 

ディフェンスファール、しかも、バスカンまで献上してしまい、言葉を失う天野。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローを青峰は危なげなく決める。

 

「開いたぜ」

 

「…」

 

そう言って不敵な笑う青峰。空は無言でそれを見送る。

 

「…すまん、余計な事してもうた」

 

「気にしないでいいですよ。取られたら取り返せばいいんですから」

 

落ち込む天野を空は笑顔で励ました。

 

「さて…」

 

ボールを貰い、フロントコート…スリーポイントラインの手前までボールを進める。目の前に青峰が現れる。

 

「っ!」

 

空が腰を落とし、青峰との距離を詰める。

 

「何度も同じ手を――っ!?」

 

距離を詰める空に対し、距離を取る青峰。だが、空は距離を詰めてはおらず、逆に距離を取っていた。

 

「ちっ!」

 

慌てて距離を詰める青峰。空はそのままスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

青峰のブロックは紙一重で間に合わず、ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

「戻したぜ」

 

「…ハハッ! やるじゃねえかよ」

 

そう言って不敵に笑う空。青峰も同様に笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

バスカンで8点に開いた点差だったが、空のスリーで再び5点差に戻した。そこから再び互いに得点を奪い合い、膠着状態となった。

 

 

第4Q、残り44秒。

 

 

花月 110

桐皇 115

 

 

空が再び青峰をかわして得点を決め、点差は5点に戻った。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

「(残り時間を考えるとこれ以上点はやれねえ。何としてでも止める!)」

 

ボールを持った青峰に対し、今までとは違い、距離を詰め、身体が同士がぶつかりそうな程密着し、積極的にボールを狙いながらプレッシャーをかけた。

 

『スゲーディフェンスだ!』

 

『勝負を賭けてきたか!?』

 

 

「当然の選択なのだよ。ここで決められれば花月の敗北はほぼ確定する。仮に止める事が出来ても、時間を目一杯使われても同様だ。ならば、リスクを覚悟してでもボールを奪いに行くしかないのだよ」

 

緑間が2人の対決に注目しながら解説する。

 

 

「…っ、…っ!」

 

空からの激しいディフェンスを受けて、青峰の表情にも余裕はない。

 

両者の激しい攻防が繰り広げられる。

 

「青峰はん!」

 

そこへ、今吉が空の後ろから近づくと、胸の前で腕を組み、スクリーンをかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時に青峰がドライブを仕掛けた。

 

「ちっ!」

 

空の口から舌打ちが飛び出る。

 

ゾーンに入り、視野が広がっている空には当然、今吉のスクリーンをかけている事には気付いている。だが、青峰を追う為にはスクリーンをかわす必要があり、かわすと僅かに距離が膨らむ為、僅かの間青峰がフリーになってしまうのだ。

 

ドライブで切り込んだ青峰はそのままリングに向かって最短距離で突き進む。空も今吉のスクリーンをロールしながらかわし、追いかける。ペイントエリアに足を踏み入れたの同時にボールを掴んでリングに向かって飛んだ。マックススピードで勝る空は飛ぶ直前で青峰に追いつき、ブロックに飛んだ。

 

 

「神城が追い付いた!」

 

「…けど、これはさっきと同じ展開ッス。フィジカルで勝る青峰っちの勝ちッス」

 

目を見開き、一瞬でも見逃すまいと2人の対決に注目する火神。結果の予測が出来た黄瀬は淡々と結末を口にした。

 

 

同じゾーンに入った者同士。だが、単純に10㎝以上も身長が高い青峰の方がパワーで勝っており、ぶつかり合えば空が負けるのが自明の理。

 

「そんな事は分かってる。俺じゃあ青峰は止められない。俺1人では…」

 

「っ!?」

 

ここで青峰が気付く。空の後ろから大地が現れた事に。

 

「俺は花月を勝たせると言った。だが、俺1人で戦えるとも勝てるとも思ってねえ。1人で止められねえなら…」

 

「2人で止めればいい!」

 

青峰は右手で掴んだボールをリングに叩きつける。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空と大地。2人の伸ばした手が青峰の持つボールを捉え、ボールを弾き飛ばした。

 

『止めたぁぁぁぁぁっ!!!』

 

『神城と綾瀬のダブルブロックだぁぁぁぁぁっ!!!』

 

青峰をダンクをブロックし、観客が割れんばかりに沸き上がった。

 

「ナイスだ、神城、綾瀬!」

 

ルーズボールを松永が拾った。

 

「来い!」

 

ブロックと同時に前へと走っていた空がボールを要求。

 

「くそっ! させるか!」

 

パスを阻止する為、新村が目の前に立って両腕を振る。

 

「くっ!」

 

目の前に立たれ、パスが出来ない。さらにコートの隅に立っている為、抜きさる事も難しい。

 

「松永さん!」

 

その時、松永の横から大地がボールを要求。松永はすかさず大地にパスを出す。

 

「空!」

 

パスを受け取った大地はすかさずフロントコートに足を踏み入れていた空に大きくパスを出した。

 

「っ!」

 

空がボールを受け取って前へ向くと、目の前には青峰が立っていた。僅かに遅れて空を追いかけていた青峰だったが、ボールが大地を中継している間に追いつき、回り込んでいた。

 

「…」

 

焦って仕掛ければ青峰にボールを奪われてしまう。その為、空はボールを止め、隙を窺った。その間に他の桐皇の選手達もディフェンスに戻る。

 

『あぁ、せっかくの速攻のチャンスが…』

 

ワンマン速攻が失敗に終わり、観客からは溜息が漏れる。

 

「…」

 

「…」

 

スリーポイントラインの僅か外側で睨み合う両者。青峰は、空のドライブとスリーの両方に対応出来るよう、集中力を最大にしている。

 

「………ふぅ」

 

腰の下に下げたボールを揺らすように左右に揺らし、一息吐くと…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

足の指先に力を集約し、一気に加速。クロスオーバーで仕掛ける。

 

「…っ!」

 

野生の勘で仕掛けるタイミングを読んだ青峰が同時に動き、空に並走する。フリースローラインを越えた所で空はボールを右手で掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「抜けてねえぞ!」

 

そこへ、目の前に青峰がブロックに現れる。

 

「…っ」

 

このままダンクを仕掛ければまず間違いなくブロックされる。

 

「やった、青峰さんの勝ちだ!」

 

勝利を確信した桜井が拳を握る。

 

「…っ!」

 

 

――ピッ!!!

 

 

掲げたボールを左手で抑え、そこから身体を捩じり、その反動でボールを後ろへと投げた。

 

『っ!?』

 

まさかのパスにコート上の桐皇の選手及び観客全てが意表を突かれた。

 

「(パスを警戒しておらんかったわけやない。青峰はんに不用意に手助けに行っても邪魔にしかならんからむしろパスに注意を払ってたくらいや。パスを出すならエースの綾瀬か松永しかあらへん。そう思っとった。…やのに、何でそこやねん!?)」

 

投げられたボールは進行方向に立っていた人物が掴んだ。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

スリーポイントラインの外側に立っていた生嶋。既に限界を遥かに超えており、息は絶え絶えである。

 

「あぁっ!」

 

思わず声を上げる桜井。空と青峰の対決に集中し過ぎていたことと、生嶋はもうまともに走る事も出来ない程に疲弊していた為、何も出来ないと高を括り、マークを怠ってしまっていた。

 

生嶋が膝を曲げ、シュート態勢に入る。

 

「(止めないと! 例えファールしてでも…!)」

 

空のブロックに向かってしまった青峰ではスリーポイントラインの外側に立つ生嶋のブロックには間に合わない。桜井はファール覚悟でブロックに飛んだ。

 

 

――ピクッ…。

 

 

生嶋は膝を曲げた態勢で1度ポンプフェイクを入れる。

 

「(っ!? フェイク!?)」

 

 

――ピッ!

 

 

ここで、生嶋はボールを放った。

 

 

――ドガッ!!!

 

 

スリーを放った生嶋とブロックに飛んだ桜井が激しく接触、コートに倒れ込む。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹き、指を3本立て、頭上に掲げた。

 

「はっ!?」

 

声を上げながら上半身を起こし、ボールの行方に視線を向ける桜井。ボールは弧を描き…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングに中心を潜り抜けた。

 

『ディフェンス、プッシング、黒7番! バスケットカウント、ワンスロー!』

 

笛を口から放した審判がコールする。

 

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

コールがされるのと同時に会場が歓声で埋め尽くされた。

 

「よく走った、生嶋ぁっ!」

 

「やるやんか、イク!」

 

歓喜に沸いた松永と天野が生嶋に駆け寄り、抱き着いた。

 

「ぜぇ…ぜぇっ…!」

 

生嶋は息を切らしながらゆっくり親指を立てる。

 

「…っ」

 

その先で、空が拳を握った。

 

 

「僕は…、何てことを…!」

 

スリーに加え、バスカンまで与えてしまった桜井は両手で頭を抱える。

 

『…』

 

そんな桜井にかける言葉が見つからない桐皇の選手達はただ俯いていた。

 

「いつまでも過ぎた事でグダグダ悩んでんじゃねえ」

 

気落ちする桜井に青峰が声を掛ける。

 

「まだ逆転されたわけじゃねえだろうが。くだらねえ事で後悔してる暇があったら死ぬ気で勝つ事だけ考えろ」

 

「は、はい! すいません!」

 

発破をかける青峰。桜井は謝りながら返事をし、気持ちを切り替えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

フリースローラインに立つ生嶋。2度ボールを両手で突いてからボールを掴み、縫い目を確かめ、視線をリングに向ける。ボールを構え、ゆっくり膝を曲げ、ボールを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローを決め、4点プレーを成功させた。

 

『決めたぁっ! これで1点差だ!』

 

『昨日に続いて2度目の番狂わせもあり得るぜ!』

 

無事、フリースローを成功させ、点差が1点にまで縮まり、観客の歓声がピークにまで高まる。

 

「ここが正念場だ! 絶対守り切れ!」

 

ベンチから上杉が声を張り上げる。

 

新村がスローワーとなり、ボールを拾ってエンドラインに立つ。

 

「っ!?」

 

空がすかさず青峰の目の前に立ちパスコースを塞ぐ。青峰にボールを渡そうと考えていた新村は目を見開く。

 

「…ちっ」

 

マークを外そうと動き回る青峰だが、空がそれを許さず、ピッタリ張り付く。

 

「新村! もうすぐ5秒だ! 1度俺に寄越せ!」

 

やむを得ず、新村は福山にボールを渡す。

 

「みんな、絶対死守よ!!!」

 

「みんなー! がんばってー!!!」

 

ベンチから姫川と相川が声を出す。

 

『絶対止めろぉぉぉっ!!!』

 

他のベンチの選手達も声を張り上げる。

 

桐皇の選手達はボールを回す。依然として青峰は空がピッタリマークしており、パスを出せない。他の選手でチャンスを作ろうにも花月の選手達がそれを許さない。

 

 

――17…16…。

 

 

残り時間は刻一刻となくなっていく。

 

「(早く…ボールを奪わないと…)」

 

「(後1本なんや! ボール奪わへんと…!)」

 

ボールを奪おうとディフェンスに臨む大地、天野の脳裏に焦りが生まれてくる。

 

 

――ピッ!

 

 

福山が天野を抜く事が出来ず、ボールを今吉に戻す。

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

――バチィン!!!

 

 

『っ!?』

 

咆哮を上げながら大地がパスコースに手を伸ばしながら飛び込み、ボールを弾く。だが…。

 

『アウトオブバウンズ、黒ボール!』

 

ボールはラインを割ってしまった。

 

「くっ!」

 

ボールを奪う事が出来ず、大地は悔しさを露わにする。

 

今吉がスローインで福山にパスを出し、試合が再開される。

 

空は青峰、大地は今吉、天野は福山、生嶋が桜井、松永が新村をマークする。

 

 

――13秒…12秒…。

 

 

桐皇は無理な攻めは行わず、ボールを回す。

 

 

――11秒…10秒…。

 

 

必死にボールを奪い行く花月。桐皇は、攻める事をやめ、とにかく引いて残り時間を消費させる事に専念した。

 

 

――9秒…。

 

 

「…っ」

 

ここで、空が目に滴る汗を右腕で拭った。

 

 

――ダッ!!!

 

 

その時、青峰が一気に駆け出し、空のマークを外した。

 

「っ!? しまっ――」

 

汗を拭う際、ほんの僅かに青峰から目を切ってしまい、その隙を見逃さなかった青峰がマークを外してフリーとなった。

 

「もろたで!」

 

好機と見た今吉が青峰にパスを出す。ボールは、青峰の手に収まった。

 

 

「……勝負、あったのだよ」

 

緑間は呟くように言った。

 

 

ボールは、青峰の手に渡った。残り時間、ボールをキープして時間を使うか、それとも点を取ってトドメを刺しに行くか、青峰の選択は……。

 

「ハッ! 時間潰して逃げるなんざ、俺のバスケにはねえ。きっちり決めてトドメ刺すに決まってんだろ!」

 

点を取りに行く選択を取った青峰がドリブルを始める。

 

「くそっ!」

 

「と……止める…!」

 

同時に、空と1番近くに立っていた生嶋が青峰の前に立ち塞がった。

 

 

「なかなかの対応の速さだ。…だが、このダブルチームは失敗なのだよ」

 

緑間が声を出す。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰がドライブで切り込む。

 

「「っ!?」」

 

青峰は、自身から見て右に立っている生嶋の方からドライブを仕掛け、ダブルチームをかわす。

 

 

「生嶋が邪魔で神城のディフェンスが潰されてやがる!」

 

ドライブに反応出来た空だったが、横の生嶋が壁になってしまい、後を追えずにいた。それを見た火神が立ち上がりながら声を上げる。

 

 

ダブルチームを抜きさった青峰。その時…。

 

「っ!?」

 

ドライブで切り込んだ直後、1本の腕がボール目掛けて襲い掛かる。

 

「綾瀬!?」

 

腕の正体は大地。ダブルチーム突破直後の一瞬の隙を大地は狙いすました。

 

空と生嶋の後ろにいた大地は、青峰が生嶋の側から突破を図る事が予測出来た。後はタイミング。大地は第2Qの中盤から青峰をマークしていた為、タイミングの予測出来ていた。

 

「…っ!」

 

グングンボールに迫る大地の手。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、大地の手がボールを捉える直前、青峰は歯をきつく噛みしめながらボールを左に切り返し、その手をかわした。

 

 

「タイミングは完璧だった。けれど、あれでどうにか出来る程、青峰っちは甘くないッスよ」

 

青峰をよく理解する黄瀬が言う。

 

ダブルチームに続き、大地をかわした青峰。そのまま突破を図ろうとしようとしたその時…。

 

「っ!」

 

青峰の身体に悪寒が走る。咄嗟に後ろを振り返ると…。

 

「まだだぁっ!!!」

 

そこには、後方から腕を伸ばし、バックチップを狙う空の姿があった。

 

 

「まさか、あいつはダブルチームをかわした直後を綾瀬が狙いすましている事も、さらにかわされる事も読んでいたのか!?」

 

あまりにも絶妙過ぎるタイミングでの空のバックチップに、火神はそう推理した。

 

 

絶え間なく襲い掛かる連続攻撃。第3の矢である空のバックチップが襲い掛かる。

 

「ぐっ! …がぁっ!」

 

 

――バチン!!!

 

 

持ち前の野生によって空の追撃に気付いた青峰は、声を上げながら左手に力を込め、ボールを身体の中心で掴み、ギリギリの所で空の手をやり過ごした。

 

『これでも止められないのか…!』

 

次々と襲い掛かる花月のディフェンスをかわす青峰を見て、声を失う観客。

 

ボールを掴んだ青峰はその場でシュート態勢に入る。

 

「まだやぁっ!!!」

 

その時、青峰の左側から、天野のブロックが現れた。

 

「4人目!?」

 

「まだ来るのかよ!」

 

さらに現れた天野のディフェンスに、桜井と福山が目を見開いて驚愕する。

 

「……ちっ!」

 

だが、青峰はボールを下げ、天野のブロックをかわした。

 

『これもかわすのかよ!?』

 

『やっぱり青峰は止められない!』

 

放たれた第4の矢、天野のブロック。だが、青峰はこれすらもかわしてしまう。

 

 

「これで、決着だ」

 

火神が呟く。

 

 

青峰が、リング目掛けてボールを放った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

『何だと!?』

 

放たれたボールが弾かれ、青峰、そして桐皇の選手達が驚愕する。

 

「俺もいる事を忘れるな!!!」

 

『5人目だぁぁぁぁぁっ!!!』

 

現れたのは松永。青峰が放ったフォームレスシュートのブロックに成功し、会場は大歓声が上がる。

 

「何故……、何故こうも都合よく現れる…。このような連携、事前に打ち合わせでもしなければ不可能なはず…」

 

一連の花月の選手達の連携を目の当たりにして驚きを隠せない原澤。

 

勿論、この一連の連携は打ち合わせをしたものではない。完全に引いて時間を使い切る選択を取った桐皇。このままボールを回され続ければ、桐皇がミスをしない限りボールは奪えない。百戦錬磨の桐皇がそんなつまらないミスをする等あり得ない。

 

だが、唯一、ボールを受けたら点を取りに行くであろう人物がいる。そう青峰だ。青峰に限り、確実にトドメを刺しに来ると予測が出来た。時間を消費して逃げ切る等、彼のプライドが許さないからである。

 

そこで、空は汗を拭う素振りを見せてわざと隙を作り、青峰のマークを一瞬外し、ボールを掴ませた。

 

そこからは賭けだった。逃げ切られる可能性が高いとは言え、青峰を止める事もまた至難の業であるからだ。青峰にボールが渡った瞬間、コート上の花月の選手達が動いた。青峰を止める為に…。

 

始めのダブルチームから最後のブロックまで、それぞれがそれぞれのマークを外し、本能的に動いていた。万が一、青峰がパスを出してしまえば花月は負ける。だが、花月の選手達はその選択肢を捨て、各々が青峰を止める為に賭けを打った。

 

結果はその賭けが功を奏し、ブロックに成功した。

 

「ルーズボール、抑えろ!!!」

 

ベンチから上杉が声を張り上げる。

 

『…っ!』

 

ボールに向かって走る花月と桐皇の選手達。ボールを抑えたのは…。

 

「行け! 空ぁっ!!!」

 

空が真っ先にボールを抑え、フロントコート目掛けてドリブルを始めた。この時、残り時間は5秒…。

 

「行かせへん、行かせへんで!」

 

今吉が声を張り上げながら空の前に立ち塞がる。

 

 

――スッ…。

 

 

その瞬間、空は反転して背中から倒れ込む。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

転倒する直前、スピンムーブし、空お得意の変則のスリッピンスライドフロムチェンジで今吉を抜きさった。

 

「ぐっ! 儂じゃ、相手にもならへん!」

 

簡単に抜きさられ、苦悶の表情を浮かべる今吉。

 

リングから1番遠い所にいた為に何とかディフェンスに入れた今吉を抜きさった今、空に障害はない。空はリング目掛けて一直線に突き進む。

 

『いっけぇぇぇぇぇぇっ!!!』

 

コート及びベンチに花月の選手達が空に声を掛ける。その声を受けて空は突き進む。やがてフリースローラインを越えた所でボールを右手で掴み、リングに向かって飛んだ。その時…。

 

「っ!?」

 

空の左側から1つの影が現れる。

 

「負けるかよ! こんなところで俺は負ける訳には行かねえんだよ!!!」

 

「(…青峰!?)」

 

現れたのは青峰。今吉を抜きさる際に僅かにスピードが緩んだ隙に追いついていたのだった。

 

空が右手で構えているボールに手を伸ばす青峰。

 

「…っ!」

 

空はその手から逃れるようボールを持った右手を外に伸ばし、そこから手首のスナップを利かせ、ボールをリングに放った。

 

「っ!?」

 

放られたボールに対して懸命に手を伸ばす青峰。だが、ボールはリングに向かって飛んでいった。

 

『入れ!!!』

 

花月の全ての選手が放られたボールに願いを込めた。

 

ボールは1度リングに当たってからバックボードに当たり、リングの縁を転がり始めた。

 

『決まってくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』

 

リングの上で転がるボールにさらに願いを込める花月の選手達。

 

やがて、転がるボールが徐々にゆっくりとなっていき、ボールは転がり落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――リングの…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――外側に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、試合終了のブザーが会場に鳴り響いた。

 

ベスト4を決める花月と桐皇の激闘が今、終結した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





一気に書き上げました…(^-^;)

かなりのボリュームになったので、2話に分ける事も考えたのですが、それだと半端に短くなりそうなので一気に投稿です。

ここ最近は感想が少なく、執筆意欲が沸かなかったのですが、前話のまさかの反響にテンションあがりまくりです…(>_<)

活動報告でも書いた事なのですが、前話投稿でこの二次が日間ランキングに初めて乗り、ここ数年で1番テンションが上がりました。執筆活動がここまで楽しく感じたのはなろうにて自身の処女作を投稿していた時以来です。

さて、これでこの試合も終了です。思えば、この試合を投稿し始めたのって、2月だったんですよね。いやー、かかりました…(^-^;)

エタらずに投稿出来て良かったです…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第87Q~指先の差~


投稿します!

今回は短めです。

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了。

 

 

花月 114

桐皇 115

 

 

ブザーが会場に鳴り響き、試合の終了を告げる。最後、空の放ったシュートはリングに嫌われ、花月は逆転する事は出来なかった。

 

桐皇ベンチは歓喜に包まれている。だが、対称的にコート上の桐皇の選手達は勝利への歓喜より安堵の方が大きく、ただ溜息を吐いていた。それは、ベンチの原澤、桃井、若松も同様であった。

 

『…』

 

花月の選手達、生嶋はその場で座り込み、茫然とし、松永は両膝を付き、コートを叩きながら悔しさを露わにし、天野は天を仰いでいる。ベンチでは上杉が両腕を胸の前で組んで両目を瞑って俯き、姫川、相川は涙を流し、選手達は茫然としていた。

 

「(…負けたのですね)」

 

大地は自身の胸の中で呟く。電光掲示板に視線を向け、0秒と残り時間と花月より1点多い桐皇の点数を見て、歯をきつく食い縛った。

 

「(…っ、これが、敗北なのですね)」

 

ユニフォームの胸の箇所を握りしめながら心の中で呟いた。

 

大地の胸の中を鋭い痛みが走る。過去にも負けた事がなかったわけではない。三杉や堀田らには練習で数えきれない程負けたし、インターハイでも試合では負けなかったものの、キセキの世代達に惨敗した。だが、中学時代から遡って公式戦で負けたのは今日が初めての事だった。

 

胸に走る痛みを感じる事で大地は敗北を実感した。

 

「…」

 

リングの下で俯きながら両拳をきつく握りしめている空。そんな空の下に大地が歩み寄る。

 

「…整列です。並びましょう」

 

「…っ」

 

空は両拳を握り、歯を食い縛りながら大筋の涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「115対114で、桐皇学園の勝ち!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内に集まった両校の選手達が審判の号令の後に礼をした。

 

『…』

 

両校互いに声を掛け合う事はなく、ただ握手だけ交わし、健闘を称え合った。

 

ベンチに戻り、荷物を纏めると、花月の選手達はベンチを後にする。限界を超えていた生嶋は大地に肩を借りながら歩き、松永もまた、天野に肩を借りて歩いていた。だが、花月の皆、顔を下に向ける事なく、顔を上げ、堂々と歩みを進めていた。

 

『凄かったぞ!』

 

『来年も見に来るからな! 絶対に来いよ!』

 

コートを後にする花月の選手達に対し、観客達が割れんばかりの拍手と共に声援が送った。それは、試合に勝利した桐皇よりも多かった。

 

『…っ』

 

その拍手と声援を花月の選手達は悔しさで歯をきつく噛みしめながらも、胸を張りながらコートを後にしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お前の予想通り、桐皇が勝ったな」

 

観客席の一角で観戦していた諏佐が今吉に話しかける。

 

「…何言うてんねん。こんなん予想外やわ」

 

話しかけた今吉は苦笑いを浮かべながらその言葉を否定した。

 

「確かに桐皇が勝つ言うたで。儂の予想では、少なくとも20点30点以上の点差を付けて勝つと思っとった。けど、結果はたった1点差……いや、指先の差や」

 

「? ……それはどういう――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ベンチにて、自身の左手を見つめる青峰。僅かに赤くなった左手の人差し指の先。

 

空が放った最後のシュート。青峰が手を伸ばした際、僅かに人差し指の先に僅かにボールが触れていた。その結果、ボールの軌道が僅かに逸れ、ボールはリングの外に零れ落ちた。

 

「……ハッ!」

 

青峰は左拳を握ると、不敵に笑った。

 

「最高に楽しめたぜ」

 

自分より下の世代からライバルが現れた事に喜びを覚える青峰。

 

コートを去る花月の選手達に視線を向け、静かに呟くように言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「桐皇が勝ったか」

 

試合を見届けた火神が背もたれに体重を預ける。

 

「青峰っちが勝つとは思ってたッスけど、まさかここまでやるとは思わなかったッスよ」

 

頭の後ろで両手を組み、更に左脚の上に右脚を乗せる黄瀬。

 

「…」

 

ただコートを見つめる緑間。

 

「…あいつら、どうなるのかな」

 

ポツリと呟く火神。

 

「神城と綾瀬は中学からここまで公式戦では負け知らずなんだろ? このまま――」

 

「――要らぬ心配なのだよ」

 

2人を懸念する火神の言葉を遮るように緑間が割り込む。

 

「たった1度の敗北で挫折するような奴等に負ける程、秀徳(俺達)は弱くはない」

 

「…っ」

 

無意識に失言をしてしまい、火神は申し訳なさそうに視線を下に向けた。

 

「それに、人の心配をしている余裕など、お前にはないだろう?」

 

唐突に飛び出た緑間の言葉に、火神は顔を上げ、緑間の方へ顔を向ける。

 

「最上級生が引退して、お前の所は主力の大半がいなくなる。今のままでは、優勝はおろか、全国出場すら至難の業なのではないか?」

 

「っ!?」

 

緑間の言葉を受けて火神はドキリとする。

 

都予選で敗退し、誠凛は主将日向を始めとする現3年生は引退となった。誠凛の強さを支えるのはエースである火神と幻のシックスマンである黒子の存在があるが、それと同等…それ以上に現3年生達の力が大きい。その3年生がいなくなるという事は大きな戦力ダウンを意味していた。

 

「再び無様な姿を晒したくないのなら、他人の事より自分達に目を向けるのだよ」

 

「……分かってるよ」

 

「…」

 

耳が痛くなる程の緑間のきつい言葉。黄瀬も緑間の言葉が他人事ではないので思わず黙り込む。ただ、これは緑間の嫌味ではなく、緑間なりの不器用な助言であると分かっている為、2人は素直にその言葉を胸に刻んだ。

 

「…さて、勝ち残ったのはさっきの試合で勝った青峰っちと、後は赤司っちと紫原っちッスね。赤司っちと紫原っちが今日の試合を落とす事はあり得ないだろうから、注目するのは明日の準決勝と明後日の決勝ッスね」

 

今日の残りの試合、他にキセキの世代同士の激突はない。その為、番狂わせはあり得ず、予想通りの結果で終わると黄瀬は断定する。

 

「そうなると、明日の準決勝は、まず、桐皇と多岐川東…、インターハイの時にもあった対戦カードか…」

 

準決勝の対戦カードの1つは、さっきの試合に勝利した桐皇とその前の試合で勝ちあがった多岐川東…。

 

「そして大注目なのが、洛山と陽泉の試合ッスね」

 

もう1つが、洛山と陽泉の試合である。

 

「洛山と陽泉。事実上、高校では初の対戦になるのだよ」

 

「……そうだな」

 

洛山と陽泉は1年前のインターハイの準決勝でも戦っているが、その時は洛山は赤司、陽泉は紫原が欠場していた。その為、全力でぶつかり合うのは事実上初めてである。それを理解した火神は緑間の言葉に頷いた。

 

「勝ち上がった方が、青峰っちと決勝戦ッスね」

 

「洛山と陽泉。戦力的なものだけ見れば、どちらが勝ちあがっても桐皇の方が不利。だが、明日の準決勝、恐らく体力の温存を図る青峰に対し、全身全霊でぶつかり合う赤司と紫原の事を考えれば、どうなるかは分からないのだよ」

 

全く予想が出来ないウィンターカップの結末。3人の議論は結論が出ない。

 

「ま、何にせよ、明日明後日過ぎればその答えも分かる。見届けてやろうぜ」

 

「…そうッスね」

 

「…ふん」

 

締めくくった火神の言葉に黄瀬は返事をし、緑間は鼻を鳴らしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

控室へと戻った花月の選手達と上杉とマネージャーの姫川と相川。

 

『…』

 

未だ、選手達は敗戦のショックもあり、静まり返っている。

 

「…そういえば、くーは?」

 

ここで、控室に空がいない事に生嶋が気付く。

 

「そういえば、おらへんな」

 

「さっきまで一緒だったよな?」

 

続いて空がいない事に気付いた天野と松永が周囲を見渡す。

 

「…私、探してきます」

 

そう言って、姫川が控室の扉に向かう。

 

「私も――」

 

「――ううん、綾瀬君はここで待ってて。私1人で大丈夫だから」

 

一緒に行こうと名乗り出た大地だったが、姫川はそれを制し、1人で控室を後にした。

 

「…まさか空坊、最後のシュートの事で責任感じてんちゃうやろな?」

 

「……感じているでしょうね。空は、自分のせいで負けたと思っているはずです」

 

天野の懸念に大地が首を縦に振った。

 

「そんな、くーがいなかったらここまで戦えなかったのに…」

 

「ああ。あいつは青峰と対等に戦ってみせた。むしろ、足を引っ張ったのは俺達の方だ」

 

大地の言葉を聞き、それは空の責はないと生嶋と松永は唱える。

 

「我々では空も気にするでしょうから、今は、姫川さんに任せましょう」

 

そう言って、大地は姫川が出ていった扉を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「何処に行ったのかしら…」

 

控室を出た姫川が空を探し回って早10分。未だ空の姿が見当たらない。

 

「………あっ」

 

会場内に備え付けてある人気ないベンチで空がジャージを肩から羽織りながら自販機で買ったと思われる缶ジュースを両手で持ちながら座っていた。

 

「こんなところにいたの? 皆控室で待ってるわよ?」

 

「…」

 

空の傍まで歩み寄った姫川が声を掛けるも空は一切反応しなかった。

 

「…」

 

「…」

 

その後、2人は無言になり、その場を沈黙が支配し、やがて、姫川が口を開いた。

 

「…もしかして、試合に負けたのは自分の責任だとでも思っているの?」

 

「…っ!」

 

そう姫川が尋ねると、空は表情を歪めながら缶を持っていた手に力を込めた。

 

「あなたのせいではないわ。あなたはとても頑張った。だから――」

 

「――違う!」

 

「っ!」

 

優しく声を掛ける姫川の言葉をかき消すかのように空が声を出した。

 

「最後、今吉を抜いた後、俺はリングしか見てなかった。だから、青峰がブロックに現れた時、動揺して対応に一瞬遅れた。その結果、ボールに僅かに触れられてしまった」

 

「…」

 

「三杉さんだったら、そんなヘマは絶対にしなかったはずだ。俺がブロックに対して警戒を怠ったから最後決められなかった。だから…!」

 

グシャッと缶を握りつぶす。

 

「この試合に負けたのは俺のせいだ」

 

「…っ」

 

悲痛な表情で自分を責める空。そんな空を見て、姫川は表情を曇らせた。

 

空はポジティブなで何事も前向きな性格をしているが、熱くなりやすく、それが試合でも悪い方向に運ぶ事もあった。だが、勝利対して執着心も責任感も人一倍持っている事も姫川は知っていた。故に、ラストシュートを外してしまったという事実に空は責任を感じずにはいられない事だろう。

 

「…」

 

責任を感じて悔しがる空。そんな空に姫川は…。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

隣に座り、そっと空を抱きしめた。

 

「あなたはよく頑張ったわ。三杉先輩や堀田先輩に負けないくらいに…」

 

「…」

 

「あなたはあの秀徳に勝って、今日も桐皇を相手に後一歩の所まで戦って見せた。そして、私との約束を果たしてくれた」

 

「………っ」

 

抱きしめていた空が震え始める。

 

「あなたはよく頑張った。――お疲れ様」

 

そう優しく包み込むように姫川は空に語り掛けた。

 

「……ちくしょう。…ちくしょう…!」

 

試合終了後に枯れる程流した涙。姫川の腕に抱かれながら、空は再び涙を流したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ひとしきり涙を流し、気分を落ち着けると、空は姫川と一緒に花月の選手達と監督が待つ控室に戻った。

 

『…っ』

 

戻ってきた空に何か声を掛けようと考えていた選手達だったが、赤く腫れあがった空の瞳を目の当たりにすると、それを断念した。

 

『…』

 

空が椅子に腰かけると、再び静まり返る控室。

 

「…今日の試合」

 

静まり返った控室。上杉がその沈黙を破った。

 

「負けた責任は全てこの俺にある」

 

『っ!?』

 

上杉の言葉に選手達はハッとした表情で顔を上げ、上杉の方に顔を向けた。

 

「確かに地力の差はあった。だが、お前達にはそれを補って余りあるポテンシャルを持っていた。それを生かせなかった俺の責任だ。すまなかった」

 

そう言って、上杉は選手達に頭を下げた。

 

「監督!? 監督の責任ちゃいまっせ! 監督やなかったら俺らここまで戦えてませんわ」

 

頭を下げた上杉に天野が慌てながら言う。

 

「僕も、監督の指導がなかったらここまで戦う事はおろか、最後までコートに立てていませんでした」

 

「俺も、秀徳の支倉さんや桐皇の若松さんと競えたのは監督のおかげです」

 

生嶋と松永も続いて上杉に感謝の言葉を述べる。

 

「私も、監督の御指導があったからこそ、今の自分があると思っています」

 

「俺も、上杉監督が監督で良かったです。これからもよろしくお願いします」

 

大地、空も続いて感謝の言葉を述べた。他の選手達も同様の考えであり、一様に頷いていた。

 

「お前ら……」

 

敗戦の責任を取って監督の席を降りる事も考えていた上杉だったが、選手達の言葉を聞いてその考えを飲み込んだ。

 

「…分かった。これからはこれまで以上に厳しく指導してやるからそのつもりでいろよ」

 

『はい!!!』

 

選手達は控室中に響き渡る程の声で返事をした。その後、主将である馬場が監督の横に歩み出た。

 

「皆、お疲れ様。1年生と2年生には感謝の言葉しかない。不甲斐ない俺達3年をここまで連れてきてくれて、ありがとう」

 

3年生達は一斉に頭を下げた。礼を言いたいのは寧ろ1年生と2年生達であった。

 

花月はスタメンは1年生4人と2年生の天野であり、3年生はベンチウォーマーである。花月は夏のインターハイを制している為、ここで1つの区切りとして引退を決める選択肢もあった。先の進路の事を考えればそうするのが賢明だ。だが、3年生達は選手層の薄い花月の弱点を埋める為、冬まで残る事を決めたのだった。

 

「それじゃ、次の主将の事だが…」

 

『…っ』

 

馬場がそう切り出すと、1年生、2年生達が表情を歪ませる。

 

「…何か、突然ですね」

 

「ああ。次の戦いはもう始まってるんだ。切り替えは速い方が良い」

 

余韻に浸る事無く次の代への引継ぎを始める馬場。ウィンターカップが終わった今、3年生達はもう引退。その事実を目の前に、下級生達の間にこみ上げるものがあった。

 

『…』

 

ここで視線が天野の方に向いた。

 

2年生唯一のスタメンであり、実力も実績もあり、面倒見も良く、信頼も厚い。主将を担うには相応しい人物である。

 

「3年生で話し合って決めたんだが、次の主将は……1年生から任命する事にした」

 

『っ!?』

 

馬場の発表に下級生…1年生達は驚愕する。2年生達は事前に3年生から聞いていた為、表情に変化はない。

 

「昨日と今日の試合を見て、改めて確信した。主将に相応しいと。次の主将は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――神城、お前だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ!?」

 

任命された空はその言葉を理解出来ず、暫し茫然とした後に思わず声を上げた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! 俺ですか!? 正直、そういうの向いてないですよ! 俺より大地か、それこそ天さんの方が…」

 

突然の任命に空は自信が持てず、大地と天野の2人を推した。

 

「俺達もウィンターカップが始まるまでは迷っていた。だが、ここまでの試合を見てきて迷いはなくなった。次の主将は神城が相応しいとね」

 

「……けど」

 

強く空を推す馬場。それでも自信が持てない空は渋る。

 

「それとこの決断はな、三杉の考えでもあるんだよ」

 

「えっ? 三杉さん?」

 

突然三杉の名前が出てきて思わず疑問の言葉を浮かべる空。

 

「ああ。三杉と堀田がアメリカに発つ前日――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

渡米の準備を進めている三杉とその手伝いをしている馬場。

 

『次の主将を誰にするか決めているのか?』

 

荷物を纏めながら三杉が馬場に尋ねる。

 

『突然だな。まだ冬の大会前だから深く考えてないが、天野になるんじゃないかな』

 

2年生の唯一のスタメンの天野の名前出す馬場。

 

『無難な選択だな。性格的にも天野は主将にはうってつけだ』

 

馬場の考えに三杉も同意する。

 

『…ただ、もし俺だったら、空を指名するかな』

 

『神城をか? あいつはまだ1年だぜ?』

 

2年生ではなく、1年生の空の名前を出てきた事に疑問の言葉が出た。

 

『あいつを主将にしたら花月は面白いチームになると思うんだけどな』

 

『その根拠は?』

 

『あいつのプレーはチームを巻き込む。まあ、これは良くも悪くもだけどな。それと、例えどんな状況、どんな相手だろうと物怖じせず、常に前を向いて戦い続けるあいつの性格は、主将を任せるには面白い』

 

『…』

 

『冬の大会、勝ち抜く為には空がキーマンになるはずだ。あいつが、キセキの世代を倒すきっかけになる。……ま、俺はもう花月を離れる人間だ。参考程度に留めてくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「三杉さんが、そんな事を…」

 

馬場の口から語られた言葉を空は噛みしめる。

 

「この大会、お前はプレーでも言葉でもチームを引っ張った。キセキの世代相手にここまで戦えたのは、神城のおかげだ。だから、俺は…俺達3年は、神城、お前を次の主将に指名する」

 

「……天さんや他に2年生達はどうなんですか?」

 

深く考えながら空は2年生達に尋ねる。

 

「俺は文句ないで。正直、主将とか堅苦しいんは苦手やしな。空坊なら異論はないわ」

 

天野は不満の言葉を漏らす事無く、馬場の提案を受け入れた。他の2年生達も同様に頷いた。

 

「僕も、くーが主将になるのは賛成だよ」

 

「秀徳を倒し、桐皇をここまで追いつめられたのはお前がいたからだ。俺も賛成だ」

 

生嶋と松永も空の主将任命に好意的な意見を示す。

 

「中学時代のあの観客席で交わしたあの誓い。その一部をこの大会で果たせたのはあなたのおかげです。あなたには感謝の言葉しかありません。ですから、自信を持って主将の指名を受けて下さい」

 

大地も空の肩に手を置きながら主将任命を祝福した。

 

「…」

 

チーム全体の言葉を聞いて目を瞑り、深く深呼吸をする。

 

「…分かりました。俺に主将が務まるかまだ不安しかありません。けど、来年こそ花月の全国制覇を果たす為、全力でやらさせていただきます」

 

覚悟を決めた空は主将の指名を受け入れたのだった。同時に、選手達、マネージャーに2人から拍手が贈られた。

 

「だがまあ、神城だと部長業務は出来ないだろうから、副主将…部長業務代理として天野と綾瀬を指名しておく、2人共、頼むよ」

 

「ま、そこは空坊じゃ出来ひんやろうから仕方ないな」

 

「失礼ながら、そこは同感ですので、勤めさせていただきます」

 

「うっ…そこは頼むわ」

 

頭を掻く空。天野は笑いながら、大地は申し訳なさそうに副主将の指名を受け入れたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ベスト4をかけた花月と桐皇の試合は指先の差によって桐皇に軍配が上がった。

 

3年生が引退し、空が主将として新たな新体制が布かれる。

 

花月の、次の戦いのスタートが今、始まったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ウィンターカップの結末とその後の各校の新体制まで書きたかったのですが、長くなりそうだったのでここで一旦切ります。空の主将任命は正直強引かなとも思ったんですが、まあ、原作でも赤司は入学と同時に主将やってますし、やりたかった事なので、願望を押し切りたいと思います…(^-^;)

次話とその次くらいでこの年代の話が終わればなと思います。それを今年最後の目標に出来たらなぁ…(>_<)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!




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第88Q~卒業~


投稿します!

過去最大のボリュームです。

それではどうぞ!



 

 

 

年が明け、2月某日…。

 

「よう、真崎」

 

「馬場か」

 

3年生で卒業間近の2人。本日は祝日であるが、2人共所用で学校に来ており、用が済むと早々に帰宅をしていた。

 

「受験の方はどうだったんだ、真崎?」

 

「本格的に受験勉強を始めたのが去年の年末だったから正直不安だったけど、無事、第1志望の大学に受かったよ。お前は?」

 

「俺も無事合格だ。4月から東京生活だ」

 

久しぶりに顔を合わせた2人は近況を報告し合った。

 

「にしても、花月での3年間はあっという間だったな」

 

「だな。…けど、最後の1年は、一生、忘れられないだろうな」

 

近況報告を終えると、思い出話を始める2人。

 

「まさか、インターハイで優勝出来るとはな」

 

「三杉と堀田には感謝しかないな」

 

インターハイ優勝の立役者である三杉と堀田に感謝の念を送る2人。

 

「その後のジャバウォックとの試合も、凄かったよな」

 

「2人の凄さは分かっていたつもりだったけど、改めてその凄さを思い知らされたよ」

 

「後は……ウィンターカップだな」

 

「…」

 

ウィンターカップという言葉を出すと、2人の表情が曇る。

 

「ホントに、惜しかったよな」

 

「ああ、勝っててもおかしくなかった」

 

2人の脳裏に最後の空の放ったシュートがリングから零れるシーンが浮かぶ。

 

「次の日の準決勝、俺達に勝った桐皇は予想通り準決勝も勝って決勝に行ったけど、結構危なかったよな」

 

馬場が青空を見上げながら言う。

 

桐皇は準決勝の相手は多岐川東高校。第1Q終了と同時に青峰がベンチに下がり、温存を計ったのだが、試合は点差が拮抗する展開となった。多岐川東も準決勝に残るだけの実力を擁するチームではある。だが、現状の桐皇ならば例え青峰抜きであっても食い下がられる相手でもない。

 

若松を除く選手達の動きが目に見えて重かった。原因は前日の試合。花月との激闘の疲労が抜け切れておらず、桐皇の選手達のコンディションは最低であった事だ。

 

第4Q残り3分で逆転を許し、桐皇はやむを得ず青峰を投入。再び逆転し、この試合を制した。

 

「桐皇も死に物狂いで俺達に勝ったんだな」

 

「そう思いたいな。…そっちも印象的だったが、それよりも衝撃的だったのが…」

 

「洛山と陽泉の試合だな」

 

もう1つの準決勝カードである洛山対陽泉。

 

試合は陽泉ペースで進められる。洛山の攻撃を陽泉のイージス盾がことごとく弾き返し、第2Q終了時には20点近くまで点差が開いていた。

 

このまま試合は陽泉が制すか……と、思われたが、ここで陽泉にアクシデントが起こる。突如、紫原が失速したのだった。

 

目に見えて動きが鈍くなる紫原。異変に気付いた陽泉の監督の荒木が紫原をベンチに下げた。紫原は膝を痛めていた。正確には、夏の堀田とのマッチアップで痛めて膝が再発したのだった。

 

兆候はあった。夏の敗退で辛酸を嘗めた紫原は痛めた膝が治りきる前に練習を行ってしまい、それが1回戦での海常の試合で黄瀬を相手にした折に再発してしまった。

 

この準決勝まで紫原を試合開始早々にベンチに……、紫原の不調に気付かれないように必ずスタメンのいずれかの選手と同時に下げ、紫原の交代の印象を少しでもなくす交代策を荒木は図っていたのだが、赤司だけはそこに疑念を抱いていた。第1Qからあえて根布谷に仕掛けさせた際にその疑念が確信に変わり、洛山は徹底して根布谷を中心に攻めていった。

 

第2Qまでは何とか根布谷を跳ね返していたが、第3Q早々に紫原の膝が限界を迎えた。

 

紫原を失った陽泉はその絶対防御に亀裂が入り、開いた点差も徐々に縮まっていった。第4Q中盤でそのリードもなくなり、遂に洛山が逆転。すると、ベンチに座っていた紫原が立ち上がり、オフィシャルテーブルに向かってコートに戻ろうとする。必死に止める荒木だったが、並々ならぬ決意を持った紫原を止める事は出来ず、コートに送り出した。

 

そこから陽泉が息を吹き返し、再び点差を逆転させる。洛山も意地を見せ、逆転されるとすぐに取り返す。互いに逆転を繰り返しながら試合は進んでいく。だが、残り1分を切った所で紫原が遂に限界を迎えてしまった。

 

やむを得ずベンチに下がる紫原。紫原を欠いた状況で洛山の猛攻を凌ぎきれず、試合は洛山が制した。

 

「あの時の紫原は凄かったな」

 

「ホント、正直、あの時の紫原は堀田でも勝てたかどうか…」

 

その時の紫原のプレーを思い出し、2人は背筋を凍らせた。

 

「そして最後は決勝だ」

 

「ああ。あの激闘は、去年の誠凛対洛山に匹敵…いや、それ以上の激闘だった」

 

決勝戦は洛山対桐皇、昨年のインターハイ以来の対決であり、何の因果か、同じ決勝の舞台でぶつかった。

 

ちなみに3位決定戦陽泉対多岐川東の試合。陽泉は紫原が欠場という形になったが、それでもチーム力で上回る陽泉が快勝した。

 

試合前の下馬評は戦力で上回る洛山有利だったが、やはり、先日の陽泉戦の影響は0ではなく、万全とは言えず、桐皇は青峰は準決勝で体力温存を計った為、コンディションは最高であり、更に陽泉戦の勝利する為、洛山は手札をかなり切った為、データもかなり取れていた。

 

序盤から攻める桐皇に対し、洛山は得意の横綱相撲で挑み、その猛攻を受け止める。試合は、第2Q終了時点で桐皇が僅かにリードで終わった。

 

しかし、ここから洛山が猛威を振るい始める。赤司が巧みにゲームを支配し、味方を生かしつつ自らも点を決め、更に青峰を封じ込め、ペースを握っていく。試合は瞬く間に洛山がリードし、点差をじわじわと広げていった。

 

第4Q、試合時間残り5分を切って点差は20点にまで広がり、この時点で誰もが洛山勝利を確信していた。…だが、試合はこのまま終わらなかった。ここで青峰がゾーンに入り、攻守にわたってその力を振るい始めたのだ。ゾーンに入った青峰は凄まじく、赤司でさえ手に余る程の勢いであり、点差は急速に縮まっていった。

 

このまま桐皇が逆転をすると思われたが、僅かに時間が足らず、洛山が逃げ切った。だが、20点もあった点差は3点にまで縮まっていた。

 

「結局ウィンターカップは洛山の優勝で終わっちまったな」

 

「ああ。だが、来年こそ…正確には今年か。後輩達がやってくれるはずさ」

 

「だな。あいつらならきっと…」

 

そう言って2人は空を見上げた。

 

「受験も終わって、後は卒業を待つばかりか。…来月まで暇だし、俺達もバスケ部に顔出して見るか?」

 

「それいいな! 早速顔出しに……っと、今日はいないんだったな」

 

踵を返そうとした馬場だったが、ある事を思い出してそれをやめる。

 

「今頃新人戦の真っ最中だ。確か、県予選は1位で突破したんだよな?」

 

「ああ。で、今は東海大会で試合をしているところだ」

 

「さて、あいつら、どうなってるかな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

場所は変わって愛知県某体育館。現在ここで、東海高等学校バスケットボール新人大会。通称新人戦が行われていた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

ボールをキープしているのは空。ゆっくりドリブルをしながらゲームメイクをしている。

 

ウィンターカップ終了後の年明けの翌月下旬。新人戦が開催され、それに参加した花月高校。県予選を順調に勝ち抜き、1位で突破した花月は、翌月の2月の東海大会に参加していた。

 

スタメンの入れ替えがないというアドバンテージは大きく、他校が新チームの形を完全に構築出来ていない中、花月は昨年と変わらず機動力を生かしたラン&ガンで着実に勝ち星を重ねていった。

 

そして決勝。花月と同じく勝ち抜いた愛知県の桜和工業高校と試合をしていた。

 

「…」

 

空の目の前には2人のディフェンスが。インターハイ優勝でその名を上げた花月高校、ウィンターカップではインターハイ優勝の原動力となった三杉と堀田を欠いた状態での秀徳撃破と桐皇の惜敗によって花月は完全に全国区のチームと認定された。

 

特に、あのキセキの世代のエースである青峰と対等に戦った空の情報は各地に伝わっており、ここに至るまでも各チーム空を要警戒でマークに来ており、この試合でも常に空にはダブルチームでマークしていた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

だが、空はそんなダブルチームを物ともせず、自慢のスピードと加速力で突破していった。

 

「くそっ! 行かせるか!」

 

中にカットインした空に対し、ヘルプで2人やってくる。

 

 

――スッ…。

 

 

目の前に立ち塞がる直前に空はボールを右へと放る。

 

「ナイスパスです、空!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った大地がそのままレイアップを決めた。

 

「くっ、くそっ…!」

 

得点を決められ、悔しがる桜和高校の選手達。

 

花月は空を中心とし、空を起点に得点を重ねるのが1つのパターンとなっていた。空が中へカットインで切り込み、自ら決めるか、マークが集まればパスを出して他が決める。

 

「よっしゃ!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

4の背番号とキャプテンマークを付ける空。主将に任命された空は当初、試合に際し主将としてどうプレーすればいいか悩んでいた。監督の上杉に相談した所…。

 

『つまらない事で悩むな。お前はお前が思うがままがむしゃらにプレーすればいい』

 

と言われ、その言葉を聞いて空は吹っ切れ、本能の赴くままにプレーに没頭した。

 

「取り返すぞ! 止められないならそれ以上に点を取るぞ!」

 

失点が防げないと見ると、点の取り合いを挑む桜和高校。ウィンターカップでも花月は失点が多い。ならば、点の取り合いで活路を見出す。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

スクリーンを駆使して上手く中でパスを貰ってシュートまで行った桜和だったが、大地にブロックされてしまう。

 

花月はオフェンス特化でディフェンスはさほど固くないと思われがちだが、天野を始め、花月の選手は各々ディフェンス能力は高い。その中でも、空と大地はスピードと運動量が尋常でなく、1人で2人分のディフェンスをする事など造作もない。例えノーマークでシュートに行っても気が付けばブロックされていたり、またはパスをスティールされてしまう。

 

相手からすれば7人でディフェンスされているようなものであり、かつての大仁田高校のように正確かつ的確なパスワークで陣形を崩したり、またはキセキの世代のように個による単独突破が出来なければ得点は困難。

 

 

――バス!!!

 

 

ルーズボールを天野が拾い、ブロックと同時にフロントコートに走っていた空に大きな縦パスを出し、空がそのまま速攻を決める。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

速すぎる空の速攻に追いかける事すら出来ず、桜和の選手達は茫然と空を見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第4Q、残り11秒。

 

 

花月 108

桜和  79

 

 

残り時間は僅か。点差は30点近くまで開いていた。

 

「最後の1本、絶対止めて終わらせるぞ!」

 

『おう!!!』

 

勝敗は既に決しているが、せめて最後は止めて終わらせたいと気合を入れ直す桜和の選手達。

 

「(ありがたい。やる気無くした奴等相手じゃつまらねえからな)」

 

戦意を失っていない相手を見て内心で感謝する空。

 

「(残り時間は後少し。試合はもう勝利が確定している。なら、ここは、行かせてもらうぜ!)」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

1度ボールを左に切り返し、クロスオーバーと同時に加速して目の前の2人を抜きさる。

 

「絶対止めてやる!」

 

抜いたと同時に1人がヘルプにやってくる。空は視線を右に向け、パスを意識させ、そこからバックチェンジで左に切り返し、この選手をかわす。

 

「っらぁっ!」

 

次にやってきた選手をバックロールターンで抜きさり、そこからボールを右手で持ってシュート態勢に入る。

 

「させるか!」

 

そこへ、空の目の前にシュートコースを塞ぐようにブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

空は右手で持ったボールをブロックの上を越えるようにふわりと放った。

 

「っ!?」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはブロックを越えてリングの中心を潜り抜けた。

 

『スゲー! 5人抜きだ!』

 

『キセキの世代と互角にやり合ったって言う噂は本物だ!』

 

空のプレーを見て観客が沸き上がった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴った。

 

「やったな神城」

 

「すごいよ、くー!」

 

空の下に松永と生嶋が駆け寄り、ハイタッチを交わした。

 

「こんの空坊! 何1人で張り切っとんねん! 俺ええポジション取ってたやろが!」

 

天野が駆け寄り、空の肩に腕を回し、そのまま首を絞めた。だが、表情は笑っていた。

 

「さすがです、空。初陣となる新人戦優勝、おめでとうございます」

 

大地が歩み寄り、右手を差し出す。

 

「大地がいてくれたからだよ。これからも頼むぜ、相棒」

 

右手を掴んで握手を交わし、そこから大地の肩に腕を回し、喜び合った。

 

「やったやった♪ 姫ちゃん、優勝だよ!」

 

「うん。良かった…!」

 

試合に勝利し、姫川に抱き着いて喜びを露わにする相川。笑みを浮かべる姫川。

 

「新チームの初陣としては上出来だ。よくやった」

 

監督の上杉も、ベンチに座りながら選手達の健闘を称えた。

 

ウィンターカップ終了後の翌月から開催された新人戦。花月の新世代の初陣は優勝で終わったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして翌月、3月…。

 

「馬場先輩、真崎先輩、卒業おめでとうございます!」

 

卒業式を終え、校内のロータリーにて、空を始めとするバスケ部員達がバスケ部からの卒業生である馬場と真崎に花束を渡した。

 

「わざわざありがとな、みんな」

 

「ったく、気を利かせやがって」

 

礼を言いながら馬場は花束を受け取り、真崎は照れ笑いを浮かべながら花束を受け取った。

 

「お前らも、新人戦優勝、おめでとう」

 

「当然ッスよ。俺達はキセキの世代と互角に戦ったチームなんですから」

 

先月の新人戦優勝の賛辞の言葉に、空は鼻高々に答えた。

 

「調子に乗らないの」

 

そんな空を姫川が窘める。

 

「だがまあ、ウィンターカップで秀徳に勝利して、桐皇を後一歩まで追いつめる事が出来たのは神城のおかげだ」

 

「いやまあ…そんな事は…」

 

面と向かって真崎に褒められると、空は頭を掻きながら照れる。

 

「主将は慣れないとは思うが、お前なら立派に努められるはずだ。花月バスケ部を、頼んだぞ、神城」

 

「…うす」

 

表情を改めた前主将、馬場の言葉に、空は表情と姿勢を改めて答えた。

 

「天野。チームを纏めるにはお前の力が必要になると思う。上級生として神城を…チームを支えてくれ」

 

「言われるまでもあらへんで。任せといて下さい」

 

真崎の頼みに、天野は笑顔で答えた。

 

「綾瀬、生嶋、松永。さっき、ウィンターカップの功績は空のおかげと言ったが、お前達も同様だ。花月の優勝はお前達にかかってる。頑張れよ」

 

「はい」

 

「もちろんです」

 

「任せて下さい」

 

馬場の激励に、3人は真剣な表情で答えた。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

「そうだな」

 

言いたい事を言い終えた2人は手荷物を持った。

 

「それじゃあな。優勝の報告、待ってるからな」

 

「俺も、東京から応援してるからな」

 

そう言って、馬場と真崎は校門へと歩いていった。

 

「先輩!」

 

校門へ歩みを進めている途中、空が2人に声を掛ける。その声で2人は足を止める。

 

『ありがとうございました!!!』

 

バスケ部の在校生達が一同に礼をした。

 

「頑張れよ」

 

「…ちくしょう、泣かないって、決めてたのによう」

 

在校生一同の礼を受け、馬場は目元を拭いながら呟き、真崎は頬に涙を伝わせた。

 

『…』

 

卒業生達の姿が見えなくなるまで見送った在校生達。

 

「……よし! それじゃ、練習しようぜ!」

 

空が皆に指示を出す。

 

「ですね。戦いはもう始まっています。時間は僅かでも無駄には出来ません」

 

「せやな。今度こそ頂点取ったるわ!」

 

「うん。行こう!」

 

「おう!」

 

空の言葉を聞いて表情を変えた在校生達は、体育館に向かっていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――花月高校…。

 

 

馬場高志

 

真崎順二

 

 

卒業…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

京都、洛山高校…。

 

「実渕さん、葉山さん、根布谷さん、卒業おめでとうございます」

 

「ありがと、征ちゃん」

 

「ありがと、赤司」

 

赤司の言葉に、実渕と葉山が笑顔で答える。

 

「おう! …しかしな、赤司に敬語で話しかけられるとどうもこの辺がむずがゆいぜ」

 

と、喉元を掻く仕草をする根布谷。

 

「今はただの先輩後輩ですから」

 

苦笑いを浮かべる赤司。

 

「にしても、3年なんてあっという間だったなぁ」

 

「そうね。…けど、濃密な3年間でもあったわね」

 

3年間を懐かしむ葉山と実渕。

 

「苦い思いもしたが、最後の最後で有終の美を飾れて終われたんだ。良かったじゃねえか!」

 

3人にとっての最後の大会であるウィンターカップを制した事で最高と言える形で終われた事に喜ぶ根布谷。

 

「けど、征ちゃんにとって本当に大変なのはこれからかもしれないわね」

 

「ああ、そうだよね。主力だった俺達が抜けちゃうし」

 

実渕と葉山はこれからの赤司及び在校生達を心配する。

 

洛山高校は3年生の卒業により、無冠の五将である実渕、葉山、根布谷が抜ける事になる。これは大きな戦力ダウンを意味する。

 

「確かに懸念はあります。ですが、心配には及びません。例え、先輩達がいなくなっても、来年度は今年度と同等…いえ、それ以上のチームにしてみせます」

 

3人の心配を他所に、赤司は真剣な表情で宣言した。

 

「ま、俺は何も心配してねえけどな!」

 

「そうね、征ちゃんの心配するなんて野暮もいい所よね」

 

赤司の表情を見て、懸念を払拭する根布谷と実渕。

 

「と言うか、俺達も人の心配してられなくない? 大学に入学したらまた1からレギュラー争いしなきゃならないし」

 

在校生達の心配をする中、自分達に心配をする葉山。

 

3人は来月から大学に進学が決まっている。当然、いずれも強豪校である。無冠の五将と称された3人と言えど、楽観視は出来ない。

 

「それもそうね。征ちゃん達の心配してる暇なんてなかったわね」

 

葉山の言葉に同意する実渕。

 

「先輩達の、大学での活躍を期待しています」

 

「ありがとな! 俺達も応援するからよ。頑張れよ!」

 

赤司の激励に、根布谷も激励で返した。

 

「さて、そろそろ行きましょうか。征ちゃんはこれから練習でしょ?」

 

「はい」

 

「なら、これ以上私達が時間を無駄にしちゃ申し訳ないわ」

 

ここらで実渕が締める。

 

「それもそうだね。じゃ、赤司、これからも頑張れよ!」

 

「俺は何の心配もしてないぜ。後は任せたぜ!」

 

「征ちゃん達の活躍、陰ながら応援してるわ。頑張って」

 

3人は最後の激励をし、その場を後にした。

 

「ありがとうございます」

 

そんな3人の背中に向け、赤司は感謝の言葉と共に頭を下げた。3人の姿が見えなくなると…。

 

「さて…」

 

踵を返した赤司は、体育館へと足を運ぶ。

 

「次の戦いは始まっている。今は、練習あるのみだ」

 

表情を改め、次の戦いへと足を踏み入れたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――洛山高校…。

 

 

実渕玲央

 

葉山小太郎

 

根布谷永吉

 

 

卒業…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

秋田、陽泉高校…。

 

「室ちん、劉ちん、卒業おめでとうー」

 

「ありがとう、敦」

 

「ありがとうアル、紫原」

 

卒業式を終えた氷室と劉に紫原が祝いの言葉を贈る。

 

「室ちんはこれから東京だっけ?」

 

「向こうの大学から推薦を貰ったからね。来月からは都内だ」

 

「俺は中国に帰国アル」

 

来月から、氷室は東京の大学、劉は母国である中国に帰国し、国内の大学に進学予定である。

 

「そっかー、頑張ってねー」

 

「ああ。ありがとう。…敦も、これから大変だろうけど、頑張れよ」

 

氷室は紫原にそう声を掛ける。

 

ウィンターカップを3位で終えた陽泉。そして、氷室と劉はウィンターカップを最後に引退…そして卒業である。それはつまり、攻守の要がいなくなる事を意味する。

 

「健司、主将はいろいろ大変だろうけど、お前ならきっと立派に努められるはずだ。任せたぞ」

 

「はい。……正直、不安の方が大きいですけど」

 

そう言って、永野はチラリと紫原の方を見た。

 

「紫原、あまり永野に我が儘言って迷惑かけるなアル」

 

「…そんな事しねーし」

 

劉の忠告に、紫原はそっぽを向きながら返す。

 

「では先輩方、そろそろ自分達は練習に行きます」

 

「まさこちんがうるさいからねー」

 

「そうか。わざわざありがとう。…敦、分かっていると思うが、お前の怪我はまだ完治していないんだ。くれぐれも治るまで無茶はするなよ」

 

「……分かってるよ」

 

氷室が忠告すると、紫原は表情を曇らせながら返す。

 

「紫原は今は別メニューです。何でも荒木監督は、膝が完全に治るまでは膝に負担をかけないように上半身の強化をさせるているみたいで…」

 

永野が氷室に伝える。

 

紫原はウィンターカップ終了後、膝の完治に努めつつ、荒木に上半身強化の別メニューを課せられていた。これは、この機に上半身を強化させると事が主な目的だが、目を放すとまた治りきる前に無茶をしかねないという荒木に判断の下、紫原の監視の意味合いもあった。

 

「それなら心配はいらないな。それじゃあ、俺達はここで、2人共、頑張れよ」

 

「俺も、中国から応援するアル」

 

そう言って、2人は踵を返し、歩き始めた。

 

「じゃーねー、室ちん、劉ちん」

 

「氷室さん、劉さん、ありがとうございました!」

 

紫原はぶっきらぼうに別れの言葉を伝え、永野は2人に頭を下げた。紫原と永野は2人の姿が見えなくなるまでその姿を見送った。その時…。

 

「紫原、永野! いつまで油を売ってるつもりだ! もう練習は始まっているんだぞ!」

 

2人の背後から荒木の声が響き渡った。

 

「ととっ、紫原、監督がこれ以上爆発する前に行こうか」

 

「だねー。あーあ、またつまらないトレーニングかー」

 

永野がそう促し、紫原はめんどくさそうな表情をしながら体育館に向かっていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――陽泉高校…。

 

 

氷室辰也

 

劉偉

 

 

卒業…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

神奈川、海常高校…。

 

「早川先輩、中村先輩! 卒業、おめでとうッス!」

 

「おう! あ(り)がとな、黄瀬!」

 

「わざわざありがとう、黄瀬」

 

祝いの言葉を贈った黄瀬。早川と中村が礼を言う。

 

「今までお世話になったッス。中村先輩は進学で、早川先輩は確か就職したんスよね?」

 

「ああ。来月から隣町の大学に進学だ」

 

「そのとお(り)だ。だ(れ)よ(り)も早く社会人だ!」

 

隣町の大学を受験し、見事合格した中村は4月から大学生。早川は就職活動をし、4月から社会人である。

 

「3年間お疲れ様ッス。…にしても、ホントに良かったんッスか? 俺がキャプテンで。正直、柄じゃないって言うか、自信ないッスよ」

 

ウィンターカップ終了後、次の主将に任命されたのは何と黄瀬だった。任命された際は何度も断りを入れた黄瀬だったが、早川と監督の武内に押し切られ、渋々引き受けていた。

 

「お前だからこそ、監督や早川は指名したんだ。笠松先輩や早川を誰よりも近くで見てきたお前だからこその指名だ」

 

渋る黄瀬に対し、中村がフォローを入れた。

 

「正直、最後までお前には慣れる事は出来なかったが、それでも、お前と一緒に試合が出来て良かったと思っている」

 

「中村先輩…」

 

「自信を持て。もし、主将として悩む事があったら、笠松先輩と早川の姿を思い出せ。そうすれば、前に進めるはずだ」

 

「……了解ッス。中村先輩。ありがとうございます!」

 

中村の激励を受けて。黄瀬は礼と共に頭を下げた。

 

「もうお(れ)達の事はいい。早く(れ)んしゅうに行け! こんなとこ(ろ)で時間を無駄にす(る)な、黄瀬!」

 

「りょ、了解ッス! っと、最後に、早川先輩、中村先輩、卒業おめでとうッス! では!」

 

早川の言葉を受け、黄瀬は最後に祝いの言葉を伝えてそのまま体育館に走っていった。

 

「まったく、そそっかしい奴だ……早川?」

 

足早に去る黄瀬を見送った中村。その時、黄瀬を遠い目で見つめる早川の姿があった。

 

「…お(れ)は、黄瀬にとっていいキャプテンであっただろうか…」

 

突如、早川がそんな言葉を口にする。

 

「インターハイとウィンターカップ。負けたのはお(れ)の責任だ」

 

「っ! そんな事は…」

 

「黄瀬1人に頼りき(り)になってお(れ)はキャプテンとして、チームメイトとして何もしてや(れ)なかった」

 

そう、悲痛な表情で言う早川。

 

夏と冬の大会、ここ1番という所で黄瀬に頼り切りなってしまう場面は多々あった。記者の中には、海常は黄瀬1人のワンマンチームと言う者もいた。

 

「本当に、黄瀬には申し訳ない事をしてしまった」

 

悔しそうに歯を噛みしめる早川。

 

「お前は、立派にキャプテンを務めていたさ」

 

そんな早川に肩に手を置きながら言った。

 

「黄瀬はお前に1度も不満も文句も漏らさなかった。キャプテンを引き受けたのだって笠松先輩や、お前の姿を見ていたからだと俺は思うぜ」

 

「…」

 

「だから、胸を張ってくれ、早川」

 

「…っ! あ(り)がとなぁ、中村ぁ…!」

 

両目から涙を溢れさせながら感謝の言葉を伝えた。

 

「…さて、この後時間あるか? 景気付けにカラオケに行かないか?」

 

「…グシュッ! ああ! づぎあっでぐでぇっ!」

 

「…とりあえず、涙拭けよ」

 

涙で顔を濡らす早川に対し、中村は苦笑いを浮かべながらハンカチを渡し、2人は海常高校を後にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――海常高校…。

 

 

早川充洋

 

中村真也

 

 

卒業…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

東京、桐皇学園高校…。

 

「若松さん、卒業おめでとうございます!」

 

「おめでとうございます。若松さん」

 

「おう! ありがとな! 桜井、福山!」

 

卒業の祝いの言葉を贈った桜井と福山に、若松は礼の言葉を言った。

 

「来月から大学生ですか。にしても、若松さんよく大学受かりましたね」

 

「うるせーよ。俺は青峰と違って成績はそれほど悪くねーんだよ!」

 

福山の皮肉に若松がこめかみに血管を浮かび上がらせながら返す。

 

「にしても、まさかお前がキャプテンになるとはな」

 

「当然じゃないですか。俺以外に務まる奴なんていないんですから」

 

「言っとくが、お前がキャプテンに指名されたのは消去法だからな」

 

「うわっ、それ酷くないですか!?」

 

福山の皮肉の意趣返しとばかりに皮肉を言う若松。

 

「桜井はどう見てもキャプテンには向いてねえし…」

 

「すいません、すいません!」

 

頭を下げながら謝る桜井。

 

「青峰なんかにキャプテン任せたらそれこそチームは纏まらねえだろうしな」

 

「それには同意です」

 

溜息を吐く若松と福山。

 

「ま、青峰の手綱を掴むって意味じゃ、お前はあいつに物怖じしないから、そう意味じゃ、この選択は間違ってねえかもしれないな」

 

「その辺りは、桃井と協力してどうにかしますわ」

 

げんなりした表情を福山はした。

 

「ところで、青峰の奴はどうしたんだ?」

 

「えっと、卒業式が終わったらフラッと何処かに、今、桃井さんが…」

 

「まあ、あいつがノコノコ祝いの言葉を言いに来る玉じゃねえか」

 

桜井の言葉を聞いて何処か納得する若松。

 

「そんじゃ、俺は帰るわ。…福山、桜井」

 

「「はい!」」

 

「後は、頼んだぜ」

 

「「お疲れ様でした! 卒業、おめでとうございます!」」

 

2人が頭を下げて祝いの言葉と礼の言葉を聞くと、若松はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃん!」

 

「なんだようっせーなさつき」

 

屋上で寝ていた青峰に桃井が大声で呼ぶ。

 

「んもう、卒業式の後に若松さんにお祝いを言いに行くって言ったでしょ!?」

 

「何で俺がそんなめんどくせー事しなきゃなんねーんだよ」

 

めんどくさそうに答える青峰。

 

「そういう事言わないでよぉ」

 

口を尖らせる桃井。

 

「さて…」

 

青峰が身体を起こし、立ち上がると、その場を後にしようとする青峰。

 

「ちょっと大ちゃん、何処行くの!?」

 

「んなもん、体育館に決まってんだろ?」

 

それだけ言って青峰は歩き出した。

 

「大ちゃん、待ってよ!」

 

青峰の言葉を聞き、慌てて追いかける桃井。その表情は、さっきより晴れやかであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――桐皇学園高校…。

 

 

若松孝輔

 

 

卒業…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

同じく東京、秀徳高校…。

 

「宮地さん、支倉さん、卒業、おめでとうございます!」

 

「おう、わざわざわりーな」

 

「ありがとな」

 

校門の前で高尾が宮地と支倉に花束を渡した。

 

「どーゆう風の吹き回しだぁ? お前からな花束贈られるなんざ気味がわりーな」

 

「いやいや、これは俺からじゃないッスよ? うちの新キャプテンからッス」

 

「…あぁ? 緑間?」

 

高尾から新キャプテンという言葉を聞き、次の主将に指名した緑間を思い出す。

 

「真ちゃん曰く、何でも、今日のラッキーアイテムが花束らしくて、ついでに先輩達の分も用意したらしいですよ?」

 

「……緑間の奴、味な真似しやがって…」

 

フッと笑みを浮かべる宮地。

 

「…ん? 今日のおは朝は偶然見ていたが、確か今日は――」

 

「まあまあ支倉さん。そこにツッコミを入れるのは野暮って奴ですよ」

 

ふと、疑問に気付いた支倉だったが、高尾が言葉を割り込ませる。

 

「んで? その緑間は何処行ったんだ?」

 

「真ちゃんなら、一足早く体育館で自主練に行きましたよ。何だったら呼んできましょうか?」

 

「……いやいい。水差すのもわりーしな。…ほら、お前ももう行け。これだけで俺達は充分だからよ」

 

花束を見せながら高尾に促す宮地。

 

「……分かりました。宮地さん、支倉さん、卒業おめでとうございます。大学でも頑張って下さい! では…」

 

そう伝え、高尾は校内へと走っていった。

 

「…ありがとな、高尾」

 

その場で囁くように宮地が礼を言った。

 

「後は任せたぜ。……緑間」

 

空を見上げながら言い、宮地と支倉は秀徳高校を後にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

スリーポイントラインから数メートル程離れた所から放たれたボールが高い軌道を描きながらリングの中心を潜り抜けた。

 

「…ふう」

 

一息吐くと、緑間はバスケットボールが入れられている籠に掛けていたタオルを手に取り、汗を拭った。

 

「…」

 

額の汗と手の汗を拭うと、緑間は体育館の窓から覗く青空に視線を向ける。

 

「……卒業、おめでとうございます。今年こそ、俺達の手で秀徳を優勝させます」

 

青空に向けて、そう宣言した。その傍らで、今日のラッキーアイテムの手鏡がキラリと陽光を跳ね返したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――秀徳高校…。

 

 

宮地裕也

 

支倉桂太郎

 

 

卒業…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「先輩! 卒業おめでとうございます!」

 

「おめでとうございます」

 

『おめでとうございます!』

 

「おう! わざわざわりーな」

 

卒業証書が入った筒を持った誠凛バスケ部の3年生達に火神と黒子を始めとしたバスケ部の在校生達が祝いの言葉を贈り、日向が筒を掲げながら礼を言った。

 

「それにしても、長い卒業式だったなー」

 

「全くだな。まあ俺達が卒業第一期生だからな。その兼ね合いもあるんだろ」

 

両手を後頭部に当てながら小金井が溜息を吐くと、伊月が同様に溜息を吐いた。

 

「――」

 

「いや、しょうがないじゃん。来賓やら何やら代わる代わる話しが長いんだもん」

 

小金井の肩に手を置きながら水戸部が首を横に振ると、小金井は目を細めながら反論する。

 

「…小金井先輩と水戸部先輩はあれでどうして会話が成り立つんだ?」

 

「俺に聞かれてもな」

 

「ていうか、俺、最後まで水戸部先輩とまともにコミュニケーション出来なかった気がする」

 

2人のやり取りを見て、降旗、河原、福田は苦笑いをした。

 

「…それにしても、あっという間の3年間だったよな」

 

部員同士で談笑する中、ふと、土田がポツリと呟いた。

 

『…』

 

その言葉と同時に静まり返る誠凛の部員達。各々、思い出に浸る。

 

「木吉とも、一緒に卒業式を迎えたかったな」

 

沈黙を破るように土田が続ける。

 

 

――全ては、木吉鉄平から始まった。

 

 

誠凛高校バスケ部は、木吉鉄平によって設立され、1度はバスケを辞めた日向も、木吉の説得によってもう1度バスケを始めた。

 

「木吉先輩は…」

 

「鉄平は誠凛の姉妹校のアメリカの高校で卒業式を迎えたわ」

 

「そうですか…」

 

火神の疑問に、リコが答える。

 

「膝が完治していないからまだ帰国はしないけれど、もうすぐメドが立つらしいから、今年の夏頃には帰国出来るらしいわ」

 

「…もう1回木吉先輩とバスケは出来るんですか?」

 

「日本に帰国してリハビリが終わればまた出来るらしいわ」

 

「っ! そうですか。良かったです」

 

リコからその言葉を聞いて黒子は微笑んだ。

 

「木吉が創ったバスケ部。ここからはお前達後輩に託す。後は頼んだぞ」

 

『はい!!!』

 

伊月の激励に、在校生の部員達が応える。

 

「火神。正直、お前を主将なのはまだ少し不安が残るが、お前なら努められるはずだ。任せたぜ」

 

「うす。任せて下さい!」

 

最後の大会が終わった後、日向は新しいバスケ部の主将に火神を指名した。理由として、黒子は影が薄く主将には向いていないし、何より黒子の武器である影の薄さに影響を及ぼす可能性がある為、断念。降旗、河原、福田は実戦経験不足の為、断念。結果、残った火神が主将となった。

 

「新海」

 

「はい」

 

伊月が新海に話しかける。

 

「先輩として適切な指導は出来たかどうかは分からない。けど、教えられる事は教えた。お前はきっと、俺より優秀なポイントガードになれる。頑張れよ」

 

「伊月先輩の指導のおかげで俺はさらに成長出来ました。今日までご指導ありがとうございました」

 

肩に手を置きながら激励する伊月。新海は誠心誠意頭を下げて礼の言葉を言った。

 

「――(コクリ)」

 

田仲の前に立った水戸部がコクリと頷く。

 

「ええっと、君はきっと優秀なセンターになれる。だから頑張れ…だってさ」

 

小金井を通して水戸部は田仲に激励する。

 

「ありがとうございました。誠凛に貢献出来るよう頑張ります!」

 

水戸部の激励を受け、田仲は頭を下げた。

 

「……池永」

 

「…」

 

表情を険しくした日向が池永に話しかける。

 

「率直に言って、俺はお前の事は今でも嫌いだ。先輩に対しての口の利き方もそうだが、試合での身勝手なワンマンプレーを繰り返してチームに何度も迷惑をかけた」

 

「…」

 

「正直、お前を入部させた事を後悔した事もあった」

 

現1年生の中では1・2位を争う程の実力を誇り、単純な身体能力とテクニックなら3年生をも凌ぐ程のものを持つ池永。だが、その身勝手な性格故、試合に出場させるにはリコも難色を示した。試合が苦しくなってやむを得ず池永を出すも、無謀な1ON1を繰り返し、チームに迷惑をかけた。誠凛がウィンターカップ本戦に出場出来なかった要因の1つに池永のワンマンプレーがあった。

 

「…だが、俺達がいなくなった誠凛が再び全国大会に出場し、勝ち抜くにはお前の力が必要だ」

 

今まで視線を逸らしながら話しかけていた日向がここで池永に目を合わせた。

 

「よく聞け。これが元主将として…先輩としてお前に掛ける最後の言葉だ。お前の為にチームがあるんじゃない。チームの為にお前がいるんだ。この事、よく頭に叩き込んでおけ」

 

「…」

 

先輩として最後の言葉を池永に伝えた日向。だが、池永は言葉を発せなかった。

 

「…これで分からなきゃ、お前はただの馬鹿野郎だ。これで説教は終わりだ。ま、後は頑張れ」

 

その言葉を最後に日向はぶっきらぼうに話を終わらせた。

 

「……日向先輩」

 

話を終わらせた日向だったが、今度は池永が話しかける。

 

「その……スゲー迷惑掛けた。それはマジですいません。後、今までいろいろありがとうございました」

 

視線を逸らし、顔を赤くしながら池永が頭を下げた。

 

「……ハッ! まさかお前の口からそんな殊勝な言葉が聞けるとはな。今日は雨が降るんじゃないか?」

 

「…ちっ、茶化すんじゃねえよ」

 

口を尖らせる池永。

 

冬の大会の敗戦、池永は池永なりに責任を感じており、日向の言葉を真摯に受け止めたのだった。

 

「後は頼んだぜ。俺達の無念を…そして、もう1度、誠凛を優勝に導いてくれ」

 

『はい!!!』

 

日向の願いに、在校生達は大きな声で返事をした。

 

「全員、整列しろ!」

 

火神が号令を掛けると、在校生達が1列に並んだ。

 

「ありがとうございました!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

火神が頭を下げると、在校生達が続いて頭を下げた。その声は、学校中に響き渡った。

 

「……ありがとな」

 

そう呟き、日向は目元を拭った。他の3年生達も、瞳を濡らしたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――誠凛高校…。

 

創部2年で全国制覇を果たした立役者。

 

 

日向順平

 

伊月俊

 

水戸部凛之助

 

小金井慎二

 

土田聡史

 

相田リコ

 

そして、木吉鉄平

 

 

卒業…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、4月から監督って、どうするんですか?」

 

『…あっ!?』

 

おもむろに、黒子が疑問を口にすると、思い出したかのように在校生達が声を上げた。

 

誠凛の監督はこれまでリコが担っていた。そのリコが卒業する為、新しい監督を据える必要があった。

 

「えっ? 引き続き私がやるけど?」

 

リコが淡々とそう言った。

 

「…監督が? けど、卒業しちまうし、何より大学が…」

 

「何言ってんのよ? 私が通う大学は誠凛高校から目と鼻の先よ? 講義が終わったらすぐに向かうわ」

 

リコが進学した大学は誠凛高校の隣の駅の大学。原付自転車を使えば20分足らずで行ける程の距離であった。

 

「これまでどおり、練習と試合の指揮は私が取るわよ。…ただ、レポートとかあるからどうしても行けない時は臨時で別に頼むつもりだから、まあ、あなた達は心配しなくても大丈夫よ」

 

片目を閉じて、ウィンクをしながらリコは在校生達に言ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

卒業式を迎え、3年生達は高校を卒業した。

 

翌月の4月、各校が新たな戦力を迎え、始動する。

 

キセキの世代とキセキならざるキセキ。彼らの最後の年の戦いが、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ウィンターカップの残りの試合はダイジェストでお送りしました。理由としては、試合展開を書ききる自信がなかったのと、細かく描写を試みてしまうと、多分、ウィンターカップが終わるのは早くて来年の夏か、下手すると来年いっぱいかかる可能性があるので…(^-^;)

これにて各校の現3年生が卒業、新たな世代に変わるわけですが、誠凛に関して、高校バスケの監督を高校に所属していない部外者が努めて大丈夫なのか、分かりませんが、最悪ゴリ押しします。

ここからですが、とりあえず、新年度を迎える前に1話程話を盛り込む予定です。後、当然ながら、ここから各校オリキャラが大半を占める事となります。正直、これが今から頭を悩ます1つです。とりあえず、キセキの世代以上の選手と、キセキの世代と同格の選手は現状出すつもりはありません。ただ、無冠の五将や氷室レベルの選手。条件次第でキセキの世代とまともに戦える選手は出すつもりです。ご了承を…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第89Q~追う者、旅立つ者~


投稿します!

思いついたまま、勢いで書きました…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

とある、雑誌記者の話…。

 

月刊バスケットマガジン…通称月バスと呼ばれるバスケットボールを専門とするスポーツ雑誌。その部署へ、1人の新人が配属された。

 

配属された当初は、雑用等の仕事を任されるばかりで、記事を書かさせてもらう事はおろか、取材にすら同行させてもらえず、鬱屈とした日々を過ごしていた。

 

だが、これはこの部署に限らず、新人の通例行事であるので、いつか記事を書かさせてもらう事を夢見て、日々の雑用業務をこなしていた。

 

この部署に配属されて数ヶ月が過ぎた頃…。

 

「新人! これから取材に行く。補佐として付いてこい」

 

とあるベテラン記者から声がかかる。

 

「っ!? はい! すぐに準備します!」

 

突然の指名。待ちに待った取材に、興奮を覚えながら撮影の機材を纏め、ベテラン記者の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

電車を乗り継ぎ、やってきたのは1つの体育館。ここで行われている試合の取材にやってきた。

 

 

――全国中学校バスケットボール大会。

 

 

会場に入り口に大きく掲げられた看板がそびえ立つ。

 

「行くぞ」

 

一言促され、会場の中に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

会場に入ると、コートでは今まさに試合が行われようとしていた。

 

 

――帝光中学校 × 星南中学校

 

 

舞台は決勝。

 

中学生の頂点をかけた試合が、始まろうとしていた。

 

早々に記者の撮影スペースに進み、カメラをセットするベテラン記者とそれを補佐する新人。両校の選手達が礼をしたところでカメラのセットが済んだのと同時に試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(退屈だなぁ…)」

 

念願の取材の同行。…だが、新人は既に退屈していた。

 

社会人やプロに限らず、近年ではキセキの世代という10年に1人の逸材が現れた事により、学生バスケも今やサッカーや野球に並ぶ程の人気スポーツとなっていた。

 

だが、キセキの世代は今年から高校に進学している為、彼ら不在の全中大会。資料映像やプライベートで生で彼らの試合を見た事もある新人からすると、全中の決勝戦とはいえ、レベルが低くて退屈を覚えてしまった。

 

試合はこれから第3Qが始まろうとしている。だが、周囲の記者達の中でカメラのファインダーを覗いている者はいない。元々キセキの世代不在の全中大会の興味が薄かったのと、既に会社に提出する為の写真は撮り終えているのだろう。周囲の記者達は試合よりも記者同士の雑談で盛り上がっていた。

 

「…」

 

だが、唯一、同行を指名したベテラン記者だけが真剣な表情でファインダーを覗いていた。

 

「……新人」

 

突如、ファインダーを覗いたまま新人に話しかける。

 

「星南の5番と6番。よーく見ておけ」

 

それだけ告げられ、新人は視線をそっちに向ける。

 

星南中の中で、唯一帝光の選手と対等に戦えている選手である。だが、新人からすると、ベテラン記者が言う程の選手とは思えなかった。

 

身長は180㎝程度。確かに身体能力は高い、なかなかのテクニックを有しており、高校生レベルが相手でも通用する選手である。だが、その程度だ。キセキの世代と比較してしまうとその差は天と地程にも感じた。帝光中の6番の方がまだ派手で目立っていたくらいである。

 

ベテラン記者はそう告げて以降、カメラのファインダーに釘付け。その先は、星南中の5番と6番に向いている。

 

点差はこの時点で20点近く開いている。正直、ここからの番狂わせなどあり得ないと考えたが、言われたと通り、新人は星南中の5番と6番を目で追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「……すごい」

 

観客の大歓声を受けながら新人記者がポツリと囁く。

 

ベテラン記者に促され、言われた通り星南中の5番と6番に注目した。第3Qが始まると、何かに目覚めたかのように帝光中を圧倒し始めた。20点近くあった点差も第3Q終了時には2人の力によってひっくり返っていた。

 

「っしゃぁっ! ガンガン行くぜ!」

 

「ボールを下さい。突破します!」

 

5番と6番が個人技で帝光中を圧倒。帝光中も個人技主体の戦術から連携重視の戦術に切り替えるが、星南中は5番と6番が個人技で対抗。

 

「…(チラッ)」

 

辺りを見渡すと、先ほどまで雑談をしていた記者がカメラのシャッターを切っていた。それほどまでに2人の変貌ぶりに注目しているのだろう。

 

最後は5番のパスから6番のアリウープでトドメを刺し、星南中が全中大会を制した。

 

「…」

 

星南中の選手達が涙を流しながら抱き合い、勝利を喜びあっている。

 

「いいか新人。記者ってのはな、ファインダーを通して選手の才能と可能性を切り取るのが仕事だ。目先の天才ばかりに目で追ってちゃ、いい記事なんざ書けん」

 

「…」

 

「行くぞ。あの2人で特集記事の撮影に行くぞ」

 

「はい!」

 

カメラを持って移動を始めるベテラン記者。その後を、急いで荷物を纏めて追いかけていった。

 

「神城空、綾瀬大地か…」

 

新人記者は、星南中の5番と6番、2人の名前を、頭に刻んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして1年後…。

 

 

――パシャパシャ!!!

 

 

新人記者が夢中でカメラのシャッターを切る。カメラの先にいるのは、星南中の5番と6番、空と大地である。

 

高校に進学した2人。全中を制し、MVPと得点王を獲得した2人は当初、キセキの世代の新たなライバル候補として期待されていた。だが、2人の最初大会であるインターハイでキセキの世代を相手に手も足も出なかった事と、三杉誠也と堀田健という、新たな才能が現れた事により、その期待もなくなり、記者達の注目もなくなった。

 

だが、例の新人記者は全中以降、2人の姿を追っていた。キセキの世代の前ではただの凡人と周囲の記者が2人を切り捨てる中、新人記者は2人を追いかけ続けた。

 

「よう、取材が捗っているようだな」

 

2人を引き合わせてくれたベテラン記者が声を掛ける。

 

「はい。あの2人、今は確かにキセキの世代には通用していませんけど、あの天才達に抗えてはいます。少しずつではありますが、対応し始めていました。将来が楽しみです」

 

「ほう」

 

生き生きとしながら語る新人記者を見て、ベテラン記者は嬉しそうに返事をする。

 

「周りから何を言われようと僕は2人を追いますよ。いつか必ず、次世代のキセキを記事にします!」

 

そう宣言する新人記者。

 

「次世代のキセキ?」

 

新人記者から飛び出した単語に、ベテラン記者が尋ねる。

 

「2人の名称です。安易ではありますが、キセキの世代の次の世代から現れたので次世代のキセキです」

 

嬉しそうに語る。新人記者。

 

「…」

 

それを聞いて何か考える素振りをするベテラン記者。

 

「書いてみるか?」

 

「えっ?」

 

突如、そう尋ねられ、キョトンとする新人記者。

 

「あの2人の記事、書いてみるか?」

 

「良いんですか!?」

 

突然の申し出に驚きを隠せない新人記者。入社して2年足らずの記者が記事を書くなど、異例の事である。

 

「でも、採用してくれますかね? 僕が書いた2人の記事なんかを…」

 

心配そうに尋ねる新人記者。現状、2人はキセキの世代に遠く及ばず、記者及び、編集局の間ではもはや感心は皆無であるからだ。

 

「あいつらはすぐに頭角を現す。早ければ冬のウィンターカップにでもな。俺が編集を説得してやる。やってみろ」

 

「っ! はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それから、新人記者は空と大地の記事を書いた。だが、その記事が採用される事はなかった。やはり、2人のネームバリューが低すぎて記事ならない事が主な理由であった。

 

だが、それでも新人記者は記事を書き続け、何度もデスクに提出し続けた。

 

そして、その年の最後の月の12月に行われたウィンターカップ。三杉と堀田のいない花月の注目度は低かった。だが、秀徳戦でまさかの番狂わせの勝利を掴み取り、続く準々決勝で桐皇を相手に惜敗。キセキの世代のエースである青峰大輝を相手に空が互角に渡り合った事で再びその名を上げた。

 

かくして、早い段階で2人を取材していた新人記者の記事が、ベテラン記者の説得もあり、月バスで特集が組まれる事になった。その記事で、空と大地をこのように綴られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――次世代のキセキと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

3月下旬…。

 

「さむ…!」

 

終業式を終え、花月高校での1年が終わった。本日はその兼ね合いで部活動がなく、空は下校していた。

 

「しっかし、部活がねえと暇だな。自主トレするにしてもどうっすかなぁ…」

 

海の砂浜で走り込みでもするか、それともバスケのコートがある公園で打ち込みでもするか考えていると…。

 

「……ん?」

 

校門を抜けると、空の視線に1人の女子が映った。

 

「(…誰だ? 学校じゃ見かけねえ顔だ。他校の生徒か?)」

 

その女性は見た所、空と同年代。だが、空が花月高校で見た事がなかった。

 

「(女にしては結構でかいな。170㎝はあるんじゃねえか?)」

 

高い身長に、神を後ろで1本に纏めたポニーテール。顔立ちも可愛らしい、同じ学校にいたなら間違いなく注目されていた事だろう。

 

その場で止まって女子に注目していると、その女性が空の視線に気付き、2人の視線が合う。

 

「(…ニコッ)」

 

視線が合うと、女子はニコリと笑顔を浮かべ、空の下に駆け寄ってきた。

 

「こんにちは!」

 

「ん、あー、こんにちは」

 

突然、元気よく挨拶された空は、その勢いにやや圧倒されるも、挨拶を返した。

 

「あのあの! 神城空君、だよね!」

 

「えっと……何処かで会った事があったっけ…?」

 

名指しされ、戸惑う空。相手は空を知っているようだが、空にはその女子に会った覚えがなかったからだ。

 

「フフッ、知ってるよぉ。去年のインターハイで優勝、年末のウィンターカップで、キセキの世代のエースの青峰大輝さんと互角に戦った神城空君! あの試合、ボクも見てたんだよぉ」

 

ビシッと指を指しながら説明する女の子。

 

「へぇ、あの試合見てたんだ」

 

そう説明されて頬を掻きながら僅かに照れを見せる空。

 

「とっっっってもかっこよかったよぉ!」

 

「お、おう…」

 

空の右手を両手で掴んでブンブンと上下に振る女の子。そんな女の子の勢いにさらに圧倒される空。

 

「と、ところで、誰か待ってたみたいだけど…」

 

「あっ! そうだった!」

 

目的を思い出してパッと空の右手から両手を放す女子。

 

「ねえねえ空君、姫川梢ちゃん知ってるよね? ボクね、彼女に会いに来たんだよ!」

 

「姫川に?」

 

「うん!」

 

「ちょっと待ってろ……えっと、名前は…」

 

「由香里。妃由香里、だよ」

 

「了解」

 

ポケットからスマートフォンを取り出し、電話をする。

 

「………出ないな」

 

電話をかけるも、一向に電話に出ず、もう一度かける。だが、やはり繋がらない。

 

「わりぃ、出ないわ」

 

「…そっか」

 

それを聞いて残念そうな表情をした。

 

「…」

 

寂しそうな表情で遠くを見つめる妃と名乗る女の子。

 

「…姫川とはさ、どういう関係なんだ?」

 

沈黙を埋めるように空が尋ねる。

 

「そうだね……ボクにとって梢ちゃんはね、ライバル…かな?」

 

「ライバル?」

 

妃の口から飛び出した思わぬ言葉に空が聞き返す。

 

「ボクが全力を尽くして戦えるのは梢ちゃんだけだった。2回だけだけど、梢ちゃんと戦えたあの試合は、ボクにとって一生の宝物なんだ」

 

懐かしむように語る妃。

 

「試合? ………あっ!」

 

ここで空は何かを思い出す。

 

「妃由香里。そうだ、何で今まで思い出せなかったんだ。そうか君が、中学女子バスケで有名だった2人の天才の1人…、女帝(エンプレス)、妃由香里」

 

「あはは、よく知ってるね」

 

恥ずかしそうに頬を掻く妃。

 

「いやいや、バスケやってる奴なら知らない方が珍しいだろ…」

 

呆れながら言う空。

 

妃由香里。女子中学バスケ界に現れた2人の天才の1人。彼女の偉業はまず、全中三連覇を成し遂げた事から始まる。彼女が在籍していた中学校。そのバスケ部に妃が入部してから引退するまで、その中学は公式戦無敗で終わった。帝光中とは違い、彼女1人の手によってそれを成し遂げた事が彼女の名を上げた。

 

だが、これは彼女にとってそれは伝説の始まりに過ぎなかった。

 

高校進学。彼女がどの高校に進学するか、全国の高校女子バスケ部が注目した。だが、彼女が選んだのは地元の高校だった。その高校は、決して強豪校というわけではなく、全国出場経験のない、実力で言えばせいぜい県の中堅レベルの高校であった。彼女の出身中学の生徒も多く進学する高校に妃は進学した。

 

その選択が、彼女をスカウトした全国の強豪校達の失望を生んだ。だが、その地元の高校に彼女が進学すると、瞬く間に全国大会出場を果たした。そしてその勢いのまま、優勝を果たした。

 

妃は、インターハイ、国体、ウィンターカップの三大大会の全てを優勝に導き、さらに、その全ての大会でベスト5、得点王、MVPを獲得。これは、キセキの世代ですらなしえなかった偉業である。

 

どれだけマークが集まろうと、どれだけ作戦を練ろうと、妃はこれを独力で突破してしまう。男に産まれていればキセキの世代のライバルになっていたという評価は今や、男に産まれていればキセキの世代ですら天才の称号を剥奪されていたと言う者がいる程である。

 

「俺も1試合だけだけど去年見たぜ。マジで凄かったよ。特にテクニックは、鳥肌が立ったよ」

 

「フフッ、ありがと」

 

「正直、高校でも君の相手になる奴なんていなかったんじゃないか?」

 

「…」

 

何気なく空がそう尋ねると、妃の表情が曇った。

 

「……高校に進学すれば、何か変わると思った。でも、高校でもボクが本気を出せる相手はいなかった」

 

「…えっ?」

 

「梢ちゃんだけだった。ボクが本気を出して、それでも勝てるかどうか分からなかった相手は…」

 

「…姫川が」

 

寂しそうな表情で語る妃。

 

「(そういえば、キセキの世代もそんな感じだったな…)」

 

ここで空は、中学時代に見たキセキの世代がまだ所属していた帝光中の試合を思い出した。彼らは、試合の勝ち負けではなく、誰が多く点を取れるかを競い合っていた。当時は対戦相手を蔑ろにした行為に見えた。

 

「(今に思えば、あれは、自分と対等に戦える相手がいなかったから、ああでしかバスケを楽しむ事が出来なかったんだな…)」

 

その当時は空はキセキの世代の試合ぶりに引っ掛かりを覚えていた。

 

「(俺ももし、キセキの世代がいなかったら…、身近に大地がいなかったら…、俺もどうなっていたか…)」

 

恐らく、バスケがつまらないものになっていただろう。新人戦の地方大会の決勝でも、最後、単独の突破を試みたら容易に出来てしまった。あの時、空は、5人抜きをした達成感以外で、自分を止める事が出来なかった失望もあった。故に、空には妃の言っている事も、当時のキセキの世代の事も少なからず理解出来た。

 

「だから、梢ちゃんに最後に会いたかった。ボクのライバルである彼女に」

 

「最後?」

 

その言葉に気にかかった空が思わず聞き返す。

 

「ボクね、アメリカに行くの」

 

「アメリカに?」

 

「うん。ボクの試合を見て、アメリカの高校から誘いがきて、それを受ける事にしたんだ」

 

「アメリカの高校から誘いが来るって、スゲーな」

 

素直に感心する空。だが、1度だけだが彼女の試合を見た事がある空からすれば当然とも思ったのだった。

 

「4月からアメリカの高校に通うの。そこでもっと上手になって、WNBAの選手になる。それが、ボクの小さい時からの夢だったから」

 

WNBA…、それはアメリカの女性のバスケットボールのプロである。

 

「…そうか、お前ならやれるかもな」

 

「空君はどうなの? アメリカに興味はないの?」

 

「興味はあるさ。俺もいずれはNBAのコートに立ちたい。…けど、その前にこの日本で倒さなきゃならない奴がたくさんいる。アメリカは、そいつらを倒してからだ」

 

不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「……そっか」

 

羨ましそうに妃は笑った。

 

そこから当たり障りのない会話を続ける2人。

 

「……っと、残念。もう時間がきちゃった」

 

徐に時計を見ながら残念がる妃。

 

「向こうには今日の便で出発だから、もう行かないと」

 

「もうか。姫川は…」

 

「会えなかったのは残念だけど、2度と会えないわけじゃないからね。いつになるか分からないけど、またその時にまた会いに来るよ!」

 

そう言って、妃はニコリと笑顔を浮かべた。

 

「そうか。…アメリカに行っても頑張れよ。応援するぜ」

 

「ありがと! それじゃ、バイバイ!」

 

空がそう声を掛けると、妃は荷物を持ち、大きく手を振りながらその場を後にしていった。

 

「…」

 

花月高校を後にする妃の背中を見送る空。

 

「………いいのか? このまま会わなくて」

 

その背中を見つめながら空が言う。

 

「…」

 

空が声を掛けると、校門の影から姫川が姿を現わした。

 

「…よく分かったね」

 

「これでも俺は司令塔だぜ? 視野の広さには自信がある。途中から顔を出して様子を窺ってたところまで見えてたぜ」

 

ドヤ顔で言う空。

 

「会わなくていいのか?」

 

「…会す顔がないよ。私は彼女との約束を守れなかった。どんな顔して会ったらいいか分からないよ」

 

表情を曇らせ、空から視線を逸らしながら申し訳なさそうに喋る姫川。

 

「…あいつは、お前の事、ライバルだって言ってたぜ。お前との試合は、一生の宝物だって」

 

「っ!?」

 

「妃にとって、今でもお前は1番のライバルなんだよ。だから、…後悔を残すような事はするなよ」

 

ポンと、姫川の肩を叩く空。

 

「……ありがとう、神城君」

 

その言葉に触発され、姫川は空に礼の言葉を伝え、妃を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「由香里ちゃん!」

 

彼女の名前を叫びながら走る姫川。

 

「っ! 梢ちゃん!」

 

その声で妃が振り向く。

 

「っ!」

 

突如、姫川が顔を歪ませ、右膝を抑える。

 

「だ、大丈夫梢ちゃん!?」

 

そんな姫川に駆け寄り、身体を支える妃。

 

「…大丈夫、古傷が痛んだだけだから」

 

姫川は手で制しながら言った。

 

「由香里ちゃん」

 

呼吸を整え、顔を上げると、姫川は彼女の名前を呼んだ。

 

「ごめんね」

 

そして一言、そう言った。

 

「約束守れなくてごめん、由香里ちゃん」

 

「梢ちゃんが謝る事なんてないよ! ボクの方こそ、あんな約束したせいで…!」

 

2人の言う約束。それは、2人が中学生2年の全中大会で戦った後、また来年、互いに全国の舞台で全力で戦おうと言う約束である。

 

致命的な怪我をしてしまい、約束を反故にしてしまった姫川。その約束を交わしてしまったばかりに姫川に致命的な怪我をさせてしまった妃。互いに負い目を感じていた。

 

「…もう、バスケは出来ないの?」

 

「…ごめん。もう、ダメみたい」

 

恐る恐る尋ねる妃。申し訳なさそうに答える姫川。

 

「ボクの、せいだよね。ボクがあんな約束を押し付けたから…」

 

「違う! これは私の責任だよ! 私が無理をしたから…!」

 

互いに自分を責め合う両者。次第に、2人の瞳に涙が浮かんだ。

 

「…やめよ? こんなの良くないよ」

 

「…そうだね」

 

妃がそう提案し、涙を拭いながら受け入れる姫川。

 

「…ありがとう。ボクとの約束を守ろうとしてくれて」

 

「っ!」

 

「いろんな人試合をしたけど、ボクがライバルと思える人は、梢ちゃんだけだったよ」

 

「…」

 

「ボクの最高のライバル、姫川梢という選手がいた事、ボクは一生忘れない。梢ちゃんと同じコートで試合をしたあの時間は、ボクの一生の宝物にする。だから……ありがとう」

 

自身の思いの丈を伝え、右手を差し出した。

 

「……ありがとう、由香里ちゃん…!」

 

感謝の言葉を伝え、その右手を取り、握手を交わし、そして抱き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

2人が互いに胸のつかえていた思いの丈を伝え合った事により、2人の表情は晴れやかなものとなった。

 

「ありがとう。最後に梢ちゃんに会えて良かった」

 

「私の方こそ、会いに来てくれて嬉しかった。ありがとう」

 

笑顔で2人は感謝の言葉を伝えた。

 

「じゃあボクは行くね」

 

「うん! アメリカでいっぱい暴れてね!」

 

もう1度、2人は握手を交わした。

 

「またね! 梢ちゃん!」

 

妃を手を振り、その場を歩き始めた。

 

「あ、そうだ!」

 

1度は歩き始めた妃だったが、数歩歩いた所で歩みを止め、今一度姫川の下に歩み寄った。

 

「梢ちゃんって、空君と付き合ってるの?」

 

「……………えぇっ!?」

 

突然のまさかの質問に思わず声を上げる姫川。

 

「そんな訳ないでしょ!? あんなバスケ馬鹿…!」

 

必死に否定をする姫川。

 

「そうなんだ。……だったら、ボク、狙ってもいいかな?」

 

「えぇ…えぇっ!? 本気なの!?」

 

「うん! だって、バスケやってる彼ってすごいカッコイイし、ボク、一目見ただけで一目惚れしちゃった!」

 

両頬を抑えながら頬を赤らめる妃。

 

「か、彼はやめた方がいいよ? バスケ以外はホントにだらしないんだよ?」

 

「へぇー、何かそういうの余計に惹かれるなぁ」

 

「は、はぁ…」

 

それでも気持ちが一切揺れない妃に思わず溜息を漏らす姫川。

 

「これ、ボクの連絡先! 空君に渡しておいて! …いっけない! 飛行機に間に合わない! それじゃ、お願いねぇ!」

 

そう言って、妃の連絡先を書いた紙を渡すと、駆け足でその場を後にしていった。

 

「…」

 

紙を受け取ったまま茫然とする姫川。

 

「……頑張ってね、由香里ちゃん」

 

踵を返し、花月高校へと足を進める姫川。道中、ふと、受け取った妃の連絡先の紙に視線を移す姫川。

 

「…っ!?」

 

突如、姫川の胸にズキリと痛みが走った。

 

「?」

 

咄嗟に胸を抑える姫川。その痛みに疑問を覚えながら姫川は歩みを進めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





思い付きで書き、途中でやっぱ書き直そうとも考えましたが、せっかくなのでそのまま書き上げました。

女子バスケ界の2人の天才のもう1人を登場させました!

当初、もう1人はロウきゅーぶの湊智花にする構想もあったのですが、よくよく考えて、その後のロウきゅーぶ勢との絡みが一切なかったので、没にしました。正直、やらなくて良かったと思います…(^-^;)

ここからは、キセキの世代のラストイヤーを始めるか、それともその前にもう1話挟むか、とりあえず、年越しまでに後1話投稿出来たらいいな…(>_<)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第90Q~新たなライバル~


投稿します!

何とか今年中に間に合いました…(^-^;)

それではどうぞ!



 

 

 

時は3月の終盤…。

 

「わりーな松永、こんな事にまで付き合わせちまって」

 

「気にするな。これも仕事だ」

 

空が申し訳なさそうに言うと、松永は嫌な顔1つせずに答えた。

 

現在、2人は背中に大きな籠を背負い、トングを片手に砂浜のゴミ拾いをしていた。何故2人がそんな事をしているのか言うと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

数日前、空の父から電話があり、実家の家業である漁の手伝いを頼まれたのだが、従業員が怪我で急遽、漁に参加が出来なくなり、給与も出すので誰か1人手伝いに連れてきてほしいと頼まれた。

 

『なら、俺が行こうか? ちょうど新しいバッシュが欲しいと思っていた所だし、何より、神城の実家の仕事にも興味があったからな』

 

そこへ、松永が名乗りを上げ、参加する事になった。その翌日の早朝、まだ日も碌に登り切っていない、辺りが真っ暗な時間に漁船がある港に集まった。

 

貸し出された制服に着替え、港に集まると、空がにこやかな表情で松永に近づき…。

 

『ハッハッハッ、松永、今日はツイてるぜ』

 

『?』

 

『大時化♪』

 

『…』

 

荒れに荒れている海を指差す空。そんな海を見て松永は言葉を失ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「あの海は地獄だった…」

 

顔を青くし、手を当てながらげんなりする松永。

 

大荒れの海を進む船は縦に横にと大きく揺れた。松永は船から投げ出されないようにしがみつくのがやっとの状態だった。

 

「綾瀬が必死に止めた訳が今頃になって理解出来た…」

 

漁の手伝いに松永が名乗りを上げた時、大地はとにかく考え直すように止めた。だが、松永は新しいバッシュと空の仕事の興味が勝り、引き受けてしまった。

 

「(…それにしても、神城の奴は、あんだけ船が揺れていたと言うのに平然としていたな)」

 

松永が思い出すのは、船の上での空であった。松永自身が必死に船にしがみついている中、空は船の帆先で両腕を組みながら平然と立っていた。

 

「(確か、神城は小さい頃から船に乗って漁の手伝いをしていたのだったな。あの天性のバランス感覚はそこから培われたって事か…)」

 

試合で倒れ込む程身体を倒しても手を床に付かずに平然と立ち上がるのも然り、高速の切り返しからのアンクルブレイクから倒れ込まずに立て直す事も然り…。

 

「良い経験をさせてもらったよ」

 

「おっ? じゃあ、また頼んでもいいか?」

 

「……いや、もう勘弁してくれ」

 

笑顔で空が頼むと、松永は疲れた表情で断った。

 

「………ん?」

 

ゴミ拾いをしながら歩いていると、空が何かを発見する。

 

「どうした?」

 

そんな空に気付いた松永が尋ねる。

 

「……ハァ。わり、ちょっと面倒事になるかもしれないわ」

 

「どうかしたのか?」

 

「あれ、見ろよ」

 

空が海岸の一角を指差すと、そこには数人の人だかりがあった。

 

「密漁者だ。この辺りは許可無しで海産物を収穫するのは禁止されてんだ。見かけたら注意を促すのもこの辺りの漁師の仕事だ」

 

「なるほど」

 

「で、この手の問題は大概揉め事になるんだよ。でもま、不用意に乱獲されると漁にも影響が出ちまうから、行かねえと」

 

溜息を吐きながら指差した方向に向かう空。

 

「分かった。俺も一緒に行こう」

 

その後を松永は付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「マジ大漁♪」

 

「ちょー取れた! マジパネエ!」

 

岩場で収穫した海産物の入ったクーラーボックスを囲んではしゃぐ髪を染めた大学生風の男達が3人。

 

「あー、ここでは許可なく収穫するのは禁止なんだわ。わりーけどそれ、置いて帰ってくれないかな?」

 

大学生達に注意を促す空。

 

「はっ?」

 

「何こいつ」

 

「うっぜ」

 

空が注意をすると、明らかに不快感を露わにする大学生達。

 

「だから、この海では許可なく海産物を取っちゃダメなんだって、その箱の中のもんを置いて帰ってくれよ」

 

理解しようとしない大学生達にげんなりしながら再度注意を促す空。

 

「おいおい、いつから海はてめえのもんになったんだよ?」

 

「海はみんなものだろ? 馬鹿なの? 死ぬの?」

 

「頭イカレちゃったんでちゅかぁ? さっさと病院行きまちょうねー♪」

 

空の注意に、怒りを露わにする者、馬鹿にする者、煽る者と三者三様。

 

「……ちっ」

 

そんな反応に空の口から思わず舌打ちが飛び出す。

 

「大人しくそれ置いていけばそのまま見逃してやる。応じないなら警察に通報する。どうする?」

 

それでも空は揉め事を最小限に抑える為、空の出来る最大限の提案をした。

 

「何かこいつ俺らの事舐めてんな?」

 

「俺ちょっとプッツンしちゃったわ」

 

「…やっちまうか」

 

空の提案に応じず、大学生達は指の骨を鳴らしながら空に歩み寄っていく。

 

「…」

 

威嚇する大学生達。空は動じる事無くその場で3人に向かい合う。

 

「(おいおい、まさか神城の奴、やる気じゃないだろうな?)」

 

喧嘩腰になる大学生達と1歩も引かない所かむしろ迎え撃つ気になっている空を見て動揺する松永。

 

漁師をやっているとこの手合いは年間に現れる。素直に注意を聞く者もいれば、注意を聞かず、荒っぽい手段に出る者もいる。幼い頃から家の手伝いをしている空にとって、この手のトラブルは毎度の事でもある。

 

「(……仕方ねえ)」

 

空は覚悟を決める。万が一、警察沙汰になった時の言い訳を考えながら肩の骨を鳴らしていると…。

 

 

――ドン!!!

 

 

大学生達の後方から人が現れ、ぶつかった。

 

「って! 誰だ俺様にぶつかってきやがっ……」

 

ぶつかられて態勢を崩した1人が怒りながら振り返ると、そこには、大学生達より遥かに身長が高い、頭陀袋を背負った、長い髪を後ろで束ねた男が立っていた。

 

「久しぶりじゃのう、空ぁっ!」

 

すると、その男は空の名を呼んだ。

 

「?」

 

唐突に名前を呼ばれた空だったが、その者が誰か分からず、目を丸くする。

 

「おいてめえ! 何シカトぶっこいてんだコラァ!」

 

大学生達に気にする素振りを見せない男に大学生の1人が激怒する。

 

「おいおい、まさかワシを忘れた訳じゃないじゃろうなぁ!」

 

それでも男は大学生に見向きもしない。

 

「この野郎、ぶっ殺してやらぁっ!!!」

 

遂に怒りを爆発させて大学生が男に殴りかかった。

 

 

――ドッ!!!

 

 

男の頬に拳がヒットする。

 

「へっ!」

 

拳が当たり、鼻で笑う大学生。だが…。

 

「…おい貴様」

 

「あぁ? 今更ワビ入れてもおそ――」

 

拳が頬を捉えても微動だにしない男。全て言い終える前に男に胸倉を掴まれ、持ち上げられる大学生。

 

「ぶっ殺す、じゃったか? その言葉吐いて手ぇ出す意味は理解しちょるんじゃろうなぁ?」

 

そう言って胸倉を掴んだ手を少しずつ上げていく。

 

「ぐっ…! がっ…!」

 

どんどん手を上げられ、遂に足が地面から離れ始める。

 

「覚悟は出来ちょろんじゃろ? ぶっ殺す言う言葉を口にしたなら、逆に殺される覚悟をのう」

 

「あばばばば…!」

 

遂に大学生の口から泡が吹き始めた。

 

「も、もう勘弁してくれよ!」

 

「し、死んじまうよ!」

 

他の2人も涙目になりながら止めようとするが、男はビクともしない。ひとしきり持ち上げた後、男は手を放し、解放した。

 

「ゴホッゴホッ!!!」

 

落とされた大学生は倒れ込みながら咳き込んだ。

 

「のう兄ちゃん」

 

「…ひっ!」

 

咳き込む大学生に視線を合わせるように膝を曲げる男。

 

「まさか、男が1度吐いた唾を飲み込んだりせんじゃろう? 続き、しよか?」

 

「ひっ、ひぃぃぃっ!!!」

 

その迫力に恐れをなした大学生が四つ足のまま逃げ出す。

 

「ま、待ってくれよー!」

 

「置いてかないでぇ!」

 

それに続いて仲間も逃げ出していった。

 

「やれやれ、これしきで怖気づくとはのう。情けない連中じゃ」

 

立ち去る3人を見て男は溜息を吐いた。

 

「……あれ?」

 

ここで、空が何かに気付く。

 

「もしかしてあんた、……海兄か?」

 

「おう! やっと思い出したか空ぁっ!」

 

「やっぱ海兄か! 久しぶり!」

 

男の正体に気付いた空が歓喜しながら男に駆け寄った。

 

「神城、知り合いか?」

 

一連の出来事を見守っていた松永が空に尋ねる。

 

「ああ。この人は昔、近所に住んでた1個上の幼馴染で、よく一緒に遊んでたんだ。海兄が中学に上がる直前に引っ越しちゃってそれっきりだったけど…」

 

「ハッハッハッ! 懐かしいのう。俺は三枝海ちゅうもんじゃ。よろしくのう」

 

空から紹介され、豪快に自己紹介をした。

 

「(…でかいな。2メートル近くはあるな。何より、服越しからでも分かる。かなりの肉体だ。パワーも相当だろうな…)」

 

紹介され、その男に視線を向ける松永。その佇まいから、何かを感じ取った。

 

「それだけじゃなくて、この人は俺と大地のバスケの師匠でもあるんだ。海兄が俺と大地をバスケに出会わせてくれたんだ」

 

「そうだったのか」

 

「そうとも! こいつと大地にバスケ教えたワシじゃ!」

 

胸を張りながら豪快に笑う三枝。

 

「海兄は今でもバスケは…」

 

「続けとるに決まっちょるじゃろう。ワシからバスケ取ったら何も残らんじゃろう」

 

ニヤリとしながら三枝が言った。

 

「そりゃそうか! それにしても、思い出すな。隣町のストリートバスケのコートで粋がってた高校生をバスケでコテンパンにした事とか…」

 

「あの時は爽快じゃったなぁ!」

 

思い出話に花を咲かせる2人。

 

「そういえば、いつこっちに戻ってきたの? 海兄は確か、親父さんの都合で海外に引っ越したんだよな?」

 

「おう。親父の単身赴任が終わってのう。日本に帰国したのは今日じゃ。4月からは日本の高校に通うつもりじゃ」

 

「という事は、また海兄とバスケが出来るのか!?」

 

自身をバスケに出合わせ、バスケを教えてくれた師匠と再びバスケ出来るのではと考えた空は興奮気味に尋ねる。

 

「そうじゃな。それも悪くない。そう思っとった」

 

「?」

 

「今、日本にはキセキの世代とか言う猛者がいるらしいのう」

 

「海兄も知ってたんだ」

 

「日本の情報は向こうにも届くからのう。最近じゃ、動画も簡単に見れる時代じゃからのう。…とんでもない化け物もいたもんじゃ。あれほどの者は向こうでもなかなかお目にかかれんかったわ」

 

表情を真剣なものにしながら三枝が言う。

 

「それと、お前がその化け物と対等に戦う姿も見させてもらった。つよーなったな」

 

「へへっ、俺だってあれから猛練習してんだから当然だよ」

 

褒められて鼻を高くする空。

 

「あれを見たら、お前と…いや、お前達と戦ってみたくなった。じゃから、ここに戻るのはやめにした。親父の赴任先の近所の高校に進学して、お前達と敵として戦う事に決めたぞ」

 

「っ!? 海兄と…」

 

三枝の宣言に、空は目を見開く。

 

「これからは師弟でも兄弟でもない。鎬を削るライバル同士じゃ。コートで会ったら、互いに全力で戦うぞ」

 

不敵な笑みを浮かべながら三枝は空に右手を差し出した。

 

「ハハッ! 海兄が敵か。それも悪くない。いや、俄然ワクワクしてきた! いいぜ、成長した俺達の姿、見せてやる。そして、勝つのは俺達だぜ」

 

「そうでなくてはのう」

 

互いに不敵な笑みを浮かべながら2人は握手を交わした。

 

「…」

 

蚊帳の外で2人のやり取りを眺めていた松永。

 

「ん? おーすまんすまん。ほったらかしにしてスマンかったのう」

 

ここで松永の存在を思い出し、傍まで歩み寄った。

 

「名前は知らんが、お前、空のチームメイトじゃろう? ワシが見た動画に映っとった。コートで会ったら、よろしくのう。恐らく、ワシとマッチアップするのはお前になるじゃろうからのう」

 

右手を差し出す三枝。

 

「(…この人、只者じゃないな。このプレッシャーはキセキの世代に匹敵する…!)」

 

三枝から溢れ出るプレッシャーに松永は圧倒される。

 

「(…だが、この人を越えれなければ、花月は全国で勝てん。俺は誰が相手でも、負けない!)」

 

プレッシャーを跳ね返し、差し出されて手を握った。

 

「…名を聞いておこう」

 

「花月高校、松永透です」

 

「…良い顔じゃ。敵として申し分ない。その名、覚えたぞ。お前と戦えるのを楽しみにしちょるぞ」

 

松永の表情からその覚悟を感じ取り、三枝は好敵手として認めた。

 

「さて、空の顔も見れたし、ワシはそろそろ行くとするかのう」

 

頭陀袋背負いなおす三枝。

 

「大地には会ってかないの?」

 

「大地とはさっき会ってきた。相変わらず大人しそうな顔じゃったが、良い顔しとった」

 

「そうか。じゃ、次はコートでな」

 

後ろ手で手を振り、三枝はその場を後にしていった。

 

「豪快な人だったな」

 

「ああ。あの人は昔からあんな感じだよ。…それよりも、気付いたか?」

 

「…ああ。あの人、身長も高いが、肉体もかなり鍛えられていた。パワーは相当なものだろう。握手を交わした時に感じたあのプレッシャー、あの人は間違いなく――」

 

「――キセキの世代に匹敵する実力者だぜ」

 

空がニヤリと笑いながら答えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

「空、これを見て下さい」

 

練習の休憩時間、大地が空に雑誌を開いて見せた。

 

「これは?」

 

「去年の11月に発売された月バスです。ここを見て下さい」

 

開いた雑誌の1ページに注目すると…。

 

「あっ! 海兄!」

 

そこには、昨日、再会した三枝海の写真が掲載されていた。

 

「スペインのバスケを特集したもののようです」

 

「へぇー、海兄ってスペインにいたんだな」

 

「これによると、日本人でありながらスペイン人相手に当たり負けしない強靭な肉体とその巨体に似合わないテクニックを兼ね備えた選手で、スペインの高校バスケ界で有力選手の1人だそうです」

 

「マジか!? さっすが海兄だな!」

 

雑誌を読み上げる大地の説明を聞き、空は自分の事のようにはしゃぐ。

 

「…」

 

その三枝に昨日、顔合わせをした松永は興味深そうに耳を傾ける。

 

「それだけではありません。これによると、海さんは既にリーガACBにも注目されていて、下部組織であるリーガ・エスパニョーラ・バロンセストのチームの1つから誘いが来ているらしいですよ」

 

「スゲーな海兄」

 

その情報を聞き、素直に驚く空。

 

「スペイン言うたら、バスケのFIBAランキングでアメリカの下の2位に付ける国や。NBAの選手も排出しとるし、国際試合でアメリカにも勝利している強豪国や。そのプロリーグに注目される程の選手となると、かなりの実力者やな」

 

2人の会話に天野が参加した。

 

「すごいね。未来のプロ選手になるかもしれない人とくーとダイは知り合いなんて」

 

生嶋も会話に参加する。

 

「空、昨日、海さんから聞いたのですが、知っていますか? 海さんが何処の高校に転校したのかを」

 

「そーいや、昨日聞きそびれたな。何処の高校にいったの?」

 

空が尋ねると、大地は表情を真剣なものにする。

 

「……海常高校です」

 

「……えっ?」

 

「神奈川の海常高校ですよ」

 

「……マジか」

 

その情報を聞き、空は表情を僅かに曇らせた。

 

神奈川県の海常高校。言わずと知れた、キセキの世代、黄瀬涼太を擁する全国の強豪校である。

 

「去年の海常は、ここ1番では黄瀬に頼り切りになる場面もあった。悪い言い方をすれば、黄瀬のワンマンチームとも言えるチームだった」

 

松永が去年の海常の分析をする。

 

「特に、インサイドはかなり弱いイメージがあったな。…まあ、冬は相手が陽泉やったから仕方のない事かもしれへんけど…」

 

天野が去年の海常のイメージを口にする。

 

「この雑誌によると、海さんはフィジカルも強く、パワーもあるインサイドプレーヤー。スペインではフォワードセンターをこなしていたのでテクニックも有しています」

 

「…聞いた限りじゃ、マツと同じタイプの選手やな」

 

そう言って天野がチラリと松永の方に視線を向ける。

 

「…」

 

松永は、元々はフォワードの選手であり、高い1ON1スキルを有している。急激な身長の増加と共にセンターにコンバートしたフォワードの特性を兼ね備えたセンター。言うなればフォワードセンタータイプの選手である。

 

「海常には僕の中学時代のチームメイトのマッキーとヒロがいる」

 

「あの2人だろ? マッチアップした小牧はかなりやる選手だったし、あの末広って奴も、結構やる奴だったよな」

 

「ええ。生嶋さんと、小牧さんと末広さんは当時から既に高校でも通用する選手でした」

 

対戦経験のある空と大地は小牧と末広を高く評価していた。

 

「小牧君はスピードを生かしたドライブテクニックとアウトサイドシュートも撃てる、ウィンターカップの県予選からスタメンを勝ち取った神城君に近い選手。末広君も同じくウィンターカップの県予選からスタメンに選ばれた選手。力で勝負するタイプではなく、巧みな技で勝負する技巧派センターね」

 

2人の事も調べていた姫川が知っている限りの情報を説明する。

 

「その2人も海常に入ってかなり伸びとるやろ。キセキの世代の黄瀬に加え、この三枝言う選手が加われば…」

 

「弱点だったインサイドは一気に武器に変わる。…今年の海常は、ヤバイな」

 

天野と空が今年の海常の脅威を予感する。

 

「…」

 

すると、松永が立ちあがり…。

 

「少し、身体を動かしてくる」

 

そう言って、その場を離れていった。

 

「…松永さん、かなり思いつめた顔をしてましたね」

 

「しょうがないよ。まっつんはうちのインサイドを担う選手だし、何より、ウィンターカップの敗退した責任は自分にあるって結構責めてたから…」

 

新たに現れた強力な好敵手が現れた事により、それだけ自分の役割が重要になる。昨年は自身のマッチアップ相手に満足に戦う事が出来なかった事で松永は自分を責めた。同じ轍を踏まない為に、松永はより一層練習に気合を入れたのだった。

 

「…今年も、熱い戦いになりそうだな」

 

空はポツリと呟くように言ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

氷室辰也、無冠の五将の5人の実力者が卒業し、そしてやってきた新たな実力者、三枝海。

 

1年の激闘が終わり、各校の選手達は、新たな戦いに足を進める。

 

季節は春。4月を迎え、中学で鳴らした実力者を新戦力として迎え、キセキの世代にとって、最後の年、最後の戦いが始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この話で今年度の話は終了となります。次話から新しい年度の話に突入します。

新しく登場したオリキャラ、三枝海の簡単なプロフィールとして…。

身長 199㎝
体重 102㎏

ごつい肉体と顔を持ち、それでいてテクニックを併せ持つインサイド主体のオールラウンドプレーヤー。中学進学と同時にスペインに渡り、そこで鎬を削り、現在ではリーガACBにも注目される実力者。

とまあ、こんな感じです。ちょっと敷居を上げ過ぎたかもしれないです…(^-^;)

今年も何とか細々と投稿作業をし、自身初となる日間ランキング入りも果たせて、なかなかの1年だったと思います。来年も一定の間隔で投稿作業が出来たらと思います。

感想、アドバイスお待ちしております。

良いお年を!

それではまた!


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第91Q~新戦力~


投稿します!

あけましておめでとうございます!

新年最初の投稿となります。

それではどうぞ!



 

 

 

時は4月…。

 

「ふわぁぁぁっ…、やっと終わった…」

 

欠伸をしながら校舎内の1室から出てきた空。

 

4月某日、新年度を迎え、入学式が執り行われ、新しく1年生が花月高校に入学した。空は2年生に進級し、主将…及び部長に任命された事により、新年度の初めに行われる各部活動の部長会議に参加していた。

 

「ずっと寝とった癖にのう…」

 

そんな空に呆れ顔になる天野。

 

部長会議にて、新入生の部活動の勧誘における諸注意等が説明されたのだが、空は机に突っ伏して居眠りをしていた。

 

「ホンマ頼むで。空坊、お前部長やねんぞ」

 

「ハハッ! すんません」

 

窘める天野。空は照れ笑いを浮かべながら謝罪した。

 

「そういや、今日はバスケ部に入部届を出した1年生が練習に参加するんですよね?」

 

「そやで。他の部活動は明日から仮入部やけど、ウチは今日からや。ま、バスケ部の毎年恒例行事って奴やな」

 

昨年も入部届を提出したその日に練習が行われていた。

 

「ま、何はともあれ、これで七面倒くさい部長会議は終わりや、次は、新入生やのう」

 

「ですね。けど、ウチは去年、インターハイ優勝してますし、ウィンターカップも秀徳に勝ってベスト8まで行ってますから、期待は出来るんじゃないですか?」

 

「どうかのう。インターハイは三杉はんと堀田はんありきやったし、ウィンターカップは、マグレや油断や言う輩もぎょーさんおったみたいやしな。今年の1年生も一応はキセキの世代を生で見た事ある世代や。去年の空坊達みたいに、本気でキセキの世代を敵に回す気概がある奴がどんだけいるか…やな」

 

新1年生に戦力を期待する空。天野はそんな空の期待を打ち消すように苦い表情をする。

 

「ちなみにや、空坊。主将として、どんな戦力を期待しとるんや?」

 

「んー、そうですね…」

 

天野が尋ねると、空は顎に手を当てながら考え込む。

 

「まず、1番に欲しいのは、インサイドプレーヤーですね」

 

「ほう」

 

「天さんと松永は信頼はしてますけど、インサイドを担えるのが2人しかいないのはちょっときついんですよね。どっちかがファールトラブルに陥ったり、負傷退場したらインサイドがかなりヤバイ事になります。去年は馬場先輩がいたから良かったですけど、やっぱりもう1人くらい控えにいてほしいですね」

 

「ま、もっともな意見やな」

 

共感出来るのか、天野は満足そうに頷いた。

 

「後は…、これは、新人戦の時に感じた事なんですけど…」

 

そう前置きしてから空は続ける。

 

「試合の後半戦、どうにも点差が伸ばせなかったり、縮まった場面が結構ありました。運動量を生かしたラン&ガンがウチの売りですが、ここから先、これだけで戦うには厳しいと思います。とりあえず、ここ1番で流れを変えられる選手が1人欲しいところですね」

 

「シックスマンやな。確かに、去年はデータが少なかったら勢いで何とかなったが、今年はそういかんやろな。空坊の言う通り、新人戦でも対応されて点差が縮まった場面も多々あったからのう」

 

空の分析に天野は概ね意見があったのか、頷いた。

 

「帆足も、花月で1年間耐え抜いただけあって、今では県レベルのプレーヤーが相手なら問題なく戦えますが、全国レベル相手にはまだ足りないですし、3年の先輩方も、失礼を承知で言うなら、戦力的には申し分ないんですけど、流れを変えるシックスマンの役割を担えるかって考えると、違うんですよね」

 

「手厳しいのう。けどま、そう言われてもしゃーないけど…」

 

空の痛い指摘に、天野は苦虫を噛み潰したよう表情をする。

 

「さて、今年はどれだけ新入生が来るかな…どのくらい来たんですか? 俺、ブースに立たなかったから知らないんですよね」

 

「ぎょーさん来てたで。数えてへんけど、少なくとも去年より多いで」

 

「それは、期待出来るかな…」

 

期待に胸を膨らませ、空と天野は体育館に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

体育館…

 

 

――ざわざわ…がやがや…。

 

 

体育館内はバスケ部の2・3年生及び、新入生で溢れかえっていた。

 

「おっ? スゲースゲー! いっぱい来てんじゃん」

 

予想より多い入部希望の新入生の数に空は興奮を隠せない様子。

 

「ホンマやなあ。ひいふうみい…50人はおるなあ…」

 

天野も同様の感想で、新入生の数の多さに驚きを隠せない。

 

「(…なあ、あの人、神城さんだよな?)」

 

「(そうだよな! 去年、キセキの世代の青峰さんと互角にやり合った…)」

 

空が体育館に現れると、新入生がざわつき始める。

 

今や、空はキセキの世代と対等に戦った事で顔も名も知られており、新入生の間でも有名であった。

 

「空! 遅かったですね」

 

「わりぃ、会議が長引いてな」

 

少し疲れたような表情をする大地。これだけの人数の新入生をここまで大地が纏めていた事もあり、主将ともう1人副主将である天野がやってきて安堵の表情をした。

 

「盛況だな」

 

「ええ。見た所、県大会の上位クラスの方もチラホラ見受けられます。数だけでなく、質においても頼りになる新入生達です」

 

中学で鳴らした実力者達が揃った1年生を見て大地は笑顔になる。

 

「俺も気になる奴が2人程。後は…」

 

「ここの練習でどれだけ残るか…ですね」

 

花月の練習は質・量共に全国で1番キツイ事で名が知られている。昨年時も、仮入部段階で20以上いた入部希望者も結局残ったのは5人のみ。

 

空と大地は、1人でも多くの1年生が戦力として残ってくれる事を望むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

新1年生が1人ずつ自己紹介と、得意あるいは、希望のポジションを宣言していく。

 

去年の実績があるのか、経験者…それも、県の強豪校出身の者も多数いた。

 

「帝光中出身、竜崎大成。ポジションは何処でもやれます! よろしくお願いします!」

 

 

――ざわざわ…。

 

 

次の瞬間、新入生及び、2・3年生がざわつく。帝光中出身もさることながら、彼の名前は知る人ぞ知る存在だからである。

 

「水鏡中学出身、室井総司です。よろしくお願いします」

 

寡黙に最後の1人が自己紹介を終わらせた。

 

「…」

 

空は最後の1人に視線を向ける。空が新入生で気になったのは、先の竜崎大成と最後の室井総司である。室井は新入生の中で1番の高身長であり、体格もジャージ越しながら、かなり鍛えられている事が窺える。

 

「…あの1年坊、何処かで…」

 

天野が顎に手を当てながら考え込む。

 

「天さん、あいつ知ってるんですか?」

 

「室井総司言う名前、何処かで聞いた事あるねん。何処やったかなぁ…」

 

聞き覚えがある名前なのか、天野は記憶を辿りながら思い出そうとする。

 

「…ま、何にせよ、頼もしい新入生が来たって事か。今年はいけるかもしれないな」

 

期待どおり、頼もしい新戦力の加入に、空は期待を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、監督の上杉が体育館にやってきて、去年と同じく集めた入部届を破り捨てた。その後、空に恒例の長距離ランニングの指示を出した。

 

「これから外走りに行くから、1年生は運動靴に履き替えて俺達に付いてきてくれ」

 

空が1年生に指示を出し、先頭を切って外に向かった。それに続き、2・3年生と1年生が後に続いていった。

 

「かなり走るから準備運動は入念にやっとけよ」

 

そう指示を出し、各自準備運動を始めた。

 

「…っ、…っ、…よし!」

 

準備運動を終えた空。辺りを見渡し、目当ての人物を探す。その人物を見つけると、傍まで歩み寄り、声を掛けた。

 

「よっ、1年生」

 

「…っ! あっ、キャプテン、どうもです」

 

柔軟運動をしている途中、空に話しかけられ、上半身を起こして返事をする竜崎。

 

「お前、知ってるぜ。俺らが全中出た時、試合に出てたよな? 決勝トーナメントからは1度も試合出てなかったけど」

 

「あの時はどうも。実は、予選リーグの最終戦で足やっちゃって、決勝トーナメントは出れなかったんですよ」

 

バツの悪そうな表情で答える竜崎。

 

「あの時の帝光中の中ではまともにバスケしてたから、よく印象に残ってるぜ」

 

空は当時に全中で帝光中の試合はほとんど観戦していた。好き勝手、自分勝手なプレーをする帝光中の選手の中で、竜崎は唯一チームプレーをこなしていた事から、空は竜崎の事は深く印象に残っていた。

 

「怪我さえなければ中学時代に戦えたんですけどね。そうなれば、試合結果も変わってかもしれないです」

 

「へえ…」

 

自信満々に言い放つ竜崎に、空は不敵に笑った。

 

「いやいや、冗談ですよ!? 多分結果は変わらなかったですよ!」

 

次の瞬間、竜崎は慌てて手を振りながら否定をした。

 

「期待してるぜ、竜崎。ウチはとにかく戦力が足りないからな。くれぐれも、ウチの練習で潰れないでくれよ?」

 

「舐めないで下さいよ。これでも帝光中出身ですよ? あそこの練習はそこらのバスケ部とは次元が違いますからよゆーッスよ」

 

「その言葉、忘れんなよ」

 

空はそう言い残し、部員達の先頭に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…! 何スかこれ!? このペース、あり得なくないですか!?」

 

恒例の20キロのランニングが始まり、中間地点である10キロ地点。竜崎が呼吸を荒げながら弱音を吐く。

 

『ぜぇ…ぜぇ…!』

 

他の1年生も同様の感想で、2・3年生グループから大きく離された所で息を切らしながら走っている。

 

「喋ると呼吸が乱れるぞ」

 

一定のリズムで呼吸をしながら松永が忠告する。

 

「でも、僕達のグループに付いていけるだけでも凄いと思うよ」

 

松永の横を並走している生嶋。1年間花月で鍛えられている2・3年生達のグループに弱音を吐きながらもピッタリと付いてくる竜崎に称賛の言葉をかける生嶋。

 

「確かに、帝光中で鍛えられただけの事はあるな」

 

同様の感想を松永も思っていたのだった。

 

「…だが、驚きべきは…」

 

「…うん、何者なんだろう?」

 

松永と生嶋は、前方に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

先頭を走る空と大地。

 

「(……へぇ)」

 

「(…これは)」

 

走りながら感心する空。

 

「…フー、…フー」

 

一定のリズムで呼吸を取りながら2人の横を走るのは、1年生の室井。

 

空と大地のスタミナは、花月でずば抜けている。そんな2人に平然と付いていく室井に、2人は素直に感心する。

 

「…やるね」

 

「…ありがとうございます」

 

賛辞の言葉を贈った空に、前を向きながら礼の言葉を返す室井。

 

「…とは言え、このまま並ばれるのも芸がないな。…大地、先輩の威厳って奴を見せてやろうぜ」

 

「全く。…分かりました。行きましょうか」

 

そう言って、空と大地はペースを上げて走り出した。

 

「……負けません」

 

室井もペースを上げ、2人の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ぶはぁっ!」

 

「…ハァッ!」

 

トップで花月高校の校門に辿り着いた空と大地。

 

「フゥッ!」

 

数秒遅れて室井が校門に辿り着いた。

 

「ハァ…ハァ…引き離すつもりで全力で走ったのに…」

 

「ハァ…ハァ…、まさか、最後まで付いてこられるとは…」

 

走り切った2人が呼吸を整えながら室井の方に視線を向ける。

 

「ハァ…ハァ…、驚きました。体力には自信があったのですが、まさか、あそこからさらにスパートをかけてくると思いませんでした」

 

同じく呼吸を整える室井。空と大地と並んでも走るも、結局1度も2人の前に出ることが出来ず、その表情は驚いていた。

 

「さすがだな」

 

「…あっ、監督」

 

そこへ、上杉がやってくる。

 

「室井総司。噂通りだな」

 

「彼をご存知なんですか?」

 

「ああ。水鏡中の室井総司は名が知れているからな」

 

大地が尋ねると、上杉は両腕を胸の前で組みながら答える。

 

「へぇー、という事は、全中にも出場してたのか?」

 

「いや、室井はバスケの選手ではない」

 

「?」

 

空は上杉の言葉が理解出来ず、頭にハテナを浮かべる。

 

「はい。自分は中学まで陸上部でしたので」

 

捕捉するように室井が答えた。

 

「陸上…ですか?」

 

「短距離、長距離、砲丸、槍投げ、あらゆる競技で入賞や表彰台に上った、将来を嘱望された陸上界の雄とまで呼ばれた男だ」

 

室井のプロフィールを簡単に説明する上杉。

 

「なるほど、だから俺達にあっさり付いてこれた訳か。…けど、そんな奴が何でウチのバスケ部に来たんだ?」

 

自分達に付いてこれた訳に納得した空。そんな逸材が何故花月のバスケ部に来た理由を尋ねた。

 

「実は昨年の年末、知り合いに誘われて高校のウィンターカップの試合を見に行きました。そこで、先輩達に試合を見ました。正直、素人目ですが、相手の方が1枚2枚格上に見えました。それでも、点差を付けられても諦めずに最後まで前を向いて戦い、後1歩の所まで戦った先輩達を見て、自分も花月高校でバスケがしたくなり、受験しました」

 

「へぇー、あの試合見ててくれたんだ。…でも、良かったのか? そこまで有名なら、いろいろスカウトとか来てたんじゃないのか?」

 

「えぇ、いくつか話は頂きました。実際、周囲からは止められました」

 

空の疑問に困った表情で答える室井。

 

「あの試合を見る前まで、陸上を続ける事に疑問を感じていました。1つの競技に集中するとすぐに敵がいなくなってしまう。様々な競技に挑戦したのも、少しでも陸上に張り合いを出す為でした。高校に進学し、さらにそこから視野を国内から世界に広げれば、自分以上の存在…それこそ、死に物狂いで努力をしてもそれでも届かない選手もいるでしょう。それでも、当時、自分にはそこまで存在がいなかった…」

 

「(…彼もまた、キセキの世代と同じ…)」

 

大地はかつてのキセキの世代と室井を重ね合わせた。

 

「そんな時、先輩方の試合を見て、新しく挑戦をしてみたくなりました。周りからは無謀と言われましたが、それでも、自分はその無謀に挑戦したい。ですから、ここ、花月高校に来ました」

 

真剣な表情で室井は言い放った。

 

「なるほどな。お前みたいに向上心のある奴は大歓迎だ。だが、あえて言わせてもらう」

 

上杉は室井に賛辞の言葉を贈った後、表情を改める。

 

「お前のその身体能力はバスケにおいて大きな武器になるだろう。だが、それだけで通用するほど、バスケは甘くはない」

 

「…」

 

「ウチのバスケ部を始め、全国の猛者は中学…それこそ小学生の頃からバスケを始めた経験者で、実績がある者達ばかりだ。高校からバスケを始めるお前とはスタート地点が違う。そのキャリアの差は致命的だ。努力でどうこう出来るものではない」

 

「…」

 

「ウチの目標は全国制覇だ。俺は勝ち抜く為に最善の選手を使う。身体能力だけの選手を使うつもりはない。バスケ部に入っても3年間試合に出れずに終わる事も充分あり得る。いや、その可能性が高い。率直に言う。今からでも陸上部に行くべきだ。花月の設備はそこらの陸上強豪校より充実している。足りなければお前ほどの実績がある者が申請すれば通るだろう。お前の将来を考えれば、これが最善の選択だ」

 

監督の立場から諭すように室井に告げる。

 

「…お気遣いありがとうございます。ですが、自分は覚悟してここに来ました。キャリアで劣っていると言うなら、人の2倍でも3倍でも努力してその差を埋めます。誰が何と言おうと、自分はバスケ部に入部します」

 

一切の迷いのない表情で室井は上杉に宣言した。

 

「…フッ、そうか。そこまで覚悟出来ているならこれ以上は野暮な事は言わん。死に物狂いで練習して花月の全国制覇に貢献してみせろ」

 

それだけ告げ、上杉は体育館に戻っていった。

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

室井は上杉の背中に向けてお辞儀をした。

 

「さて…、他が戻ってくるまで時間があるし…、室井、体育館に行くぞ。俺と大地でバスケの基本を教えるよ。まだ、動けるよな?」

 

「もちろんです。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

 

空と大地と室井は体育館へと向かっていった。

 

付きっきりで室井に指導をする空と大地。その3人を見て、戻ってきた部員達は、言葉を失うのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

1週間後…。

 

「足を止めるな! 声を出せ! この程度でバテるようじゃ試合じゃつかいものにならんぞ!」

 

『はい!!!』

 

上杉から厳しい激が飛ぶ。部員達は腹から声を出して答える。

 

あれから1週間が経ち、本日、入部届が受理された。当初は50人程新入生だったが、この時点でもう11人まで減っていた。中学からの経験者…実力者が集まった新入生だったが、やはり、花月の厳しい練習に耐えられず、1日が過ぎるごとに新入生は1人、また1人と去っていった。

 

「おらぁっ、竜崎! 声が出てねえぞ!」

 

「はい!!!」

 

新入生の1人である竜崎に空が激を飛ばす。この1週間、空は竜崎に対しては厳しく接していた。これは、空が竜崎に対し、期待を込めての行動である。

 

「室井君。腰が上がっているわよ。基本の姿勢を意識して!」

 

「はい!」

 

体育館の隅で、室井が腰を落としながらボールを突いている。その横で、姫川が指導をしている。

 

基礎トレーニングが終わると、ボールを使った練習に入り、それが終わるとゲーム形式の練習に移行するのだが、室井だけは別メニューを行っている。初心者である室井は、チーム練習にまだ参加させず、バスケの基礎を覚える事から始めていた。

 

指導を命じられたのは姫川。上杉はチーム全体の指揮を取らなければならない為、付きっきりで指導が出来ない。そこで…。

 

『姫川。室井の指導を任せる。4月中に奴を試合に出せるまでにしろ。出来るか?』

 

『任せて下さい』

 

上杉が尋ねると、姫川はニヤリとしながら了承した。

 

パス、ドリブル、シュート。その3つの指導を姫川が行っている。

 

「姫川。調子はどうだ?」

 

「はい。とても飲み込みが早いです。バスケの基本ルールは既に覚えてきたみたいですし、陸上出身者だけに身体を使ったプレーの飲み込みは特に早いです。後10日もあればチーム練習に合流出来ます」

 

「うむ。ならばよし」

 

姫川の言葉を聞き、上杉は満足そうに頷いた。

 

「室井は身長もあるし、パワーもある。インサイドプレーヤーとしてはうってつけだ」

 

「私も同じ意見です」

 

188㎝という身長に恵まれた体格。姫川も上杉と同意見である為、頷いていた。

 

「インターハイの県予選までに試合に出られるようにまでしたいものだな」

 

ドリブルの基礎練習を行う室井を見ながら、上杉は1人呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「今日の練習はここまでだ。各自、後片付けと戸締りはしっかり行ってから下校しろよ」

 

そう言い残し、上杉は体育館を後にしていった。

 

『ハァァァァァッ…!』

 

すると、溜息を吐きながら1年生達がその場で座り込んだ。バスケ部の練習に参加して早1週間。やはり、花月の練習はきつく、練習に付いていくだけで精一杯なのが現状である。

 

「ほな、マツ。ゴール下の1ON1でもやろか」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

天野と松永がボールを持ってリングの下へ向かっていった。

 

「僕は日課のシューティングをやろう」

 

「あっ、俺も」

 

ボールが入った籠を運んでいく生嶋。その後を帆足が追っていく。

 

「…先輩達はスゲーな。あれだけ練習をした後なのにまだ動けるのかよ…」

 

唖然とする1年生達。

 

ここからは個人の自主練の時間なのだが、1年生にはまだその余裕はまだない。一部を除いて…。

 

「さて、俺も…」

 

1ON1をしようと大地の姿を探す空。その時…。

 

「キャプテン」

 

空は声を掛けられ、振り返ると、そこには竜崎の姿があった。

 

「ん? 何かようか?」

 

「よろしければ、1ON1の相手、してくれないですか?」

 

左手で持ったボールを掲げながら頼む竜崎。空は少し考える素振りを見せ…。

 

「いいぜ、やろうか」

 

ニヤリとしながらその頼みを聞いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おっ? なんやなんや?」

 

「?」

 

ゴール下で1ON1をしていた天野と松永。辺りがざわつき始めた為、中断して事情を聞きに行く。

 

「1年が神城に1ON1を挑んだんだよ」

 

同じ3年生である菅野が眉を顰めながら答える。

 

「ほう? ウチの練習こなした後やのに、大した玉やないか」

 

「帝光中出身というのは伊達ではないみたいですね」

 

まだ花月高校バスケ部の練習に参加して1週間。にもかかわらず、空に1ON1を挑む体力と度胸に感心する天野と松永。

 

「…少し調子に乗り過ぎだろ。いきなり神城に挑むとかよ」

 

そんな竜崎を快く思わない菅野。

 

「まあええやないか。空坊も満更でもないみたいやしな」

 

菅野を窘めつつ、2人の勝負に注目したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

フリースローラインまで移動する空と竜崎。

 

「せっかくだから勝負形式でやるか。5本先取。どうだ?」

 

「いいですね。それでお願いします」

 

空の提案に、竜崎は快く承諾した。

 

「では、キャプテンからどうぞ」

 

そう言って、空にボールを渡す。

 

「いいぜ、そんじゃ、始めるか」

 

空がスリーポイントラインの外まで移動した。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを持った空。その目の前に立つ竜崎。

 

『…』

 

その様子を、体育館に部員達が固唾を飲んで見守っていた。

 

「…もし」

 

「…ん?」

 

「もし、この勝負で俺が勝ったら、スタメンになれたりするんですかね?」

 

唐突に竜崎が空に尋ねた。

 

「…スタメン決めるのは監督だから何とも言えないが、もし俺に勝ったら、監督にはその事は伝えるし、俺から監督に推薦はしてやるよ」

 

空は激昂した菅野を窘めつつ、竜崎の質問に答えた。すると、竜崎は空の言葉に満足したのかニコリと笑みを浮かべ…。

 

「ハハッ! その言葉を聞いたら俄然やる気が出てきましたよ。これで心置きなく本気でやれます」

 

「そう来なくちゃ」

 

同じく空も満足そうに笑った。

 

「…ちっ」

 

竜崎の言葉が癇に障ったのか、菅野が舌打ちを打った。

 

「次世代のキセキに自分が何処まで通用するか、挑ませていただきます」

 

「次世代のキセキ?」

 

「去年、キセキの世代の緑間先輩が所属する秀徳に勝利し、青峰先輩が所属する桐皇に、惜しくも敗北するも青峰先輩と互角にやり合ったキセキの次世代から現れたキセキ。キセキの世代の次世代なので次世代のキセキって呼ばれているんですよ。知らなかったんですか?」

 

「いや、知らなかった」

 

以前に雑誌でそう紹介された事で、空と大地の2人を『次世代のキセキ』として広まっていた。

 

「ふーん、ま、どうでもいいや」

 

自分自身がどう呼ばれているのか特に興味がなかったのか、空は聞き流した。

 

「そんじゃ、今度こそ始めるぞ。見させてもらうぜ。去年、帝光中を全中の覇者に導いた主将の実力をな…」

 

神城空と竜崎大成。

 

2人の勝負が、始まったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





無事、年越しを迎えられ、こうして投稿する事が出来ました。

新戦力の紹介と致しまして…。

竜崎大成

身長183㎝
体重71㎏

帝光中の昨年時の主将。物怖じしない性格で、言いたい事は先輩が相手でもはっきり言う。

室井総司

身長188㎝
体重89㎏

中学時代はあらゆる競技で表彰台、入賞を飾った陸上界の雄。昨年の花月対桐皇の試合を見てバスケに興味を持ち、花月高校のバスケ部の門を叩いた。
性格は寡黙でストイックな性格で、イメージ的にはアイシールド21の進清十郎。

この話からキセキの世代のラストイヤーが始まります。原作キャラよりオリキャラが多くなりますが、何とか魅力を出せるように出来たらと思います…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!



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第92Q~各校始動~


投稿します!

大急ぎで書き上げた、いろいろぶっこんだ話です。

それではどうぞ!



 

 

 

「…」

 

「…」

 

スリーポイントラインの外でボールを持って構える空。その目の前に立つ竜崎。

 

竜崎が空に挑んだ1ON1。2人の勝負が始まろうとしている。

 

『…』

 

各々、自主練をしていたバスケ部の部員達だったが、今では手を止め、2人の勝負に注目している。

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かしながら牽制する空。

 

「…」

 

竜崎は腰を落とし、空の動きに合わせながらディフェンスをしている。

 

「ほー、なかなかええディフェンスするやんけ」

 

勝負を見守っていた天野が竜崎のディフェンスを見て思わず唸る。

 

「よー鍛えられとるわ。そこらの実力者じゃ抜くのは難しいやろなぁ」

 

ディフェンスのスペシャリストである天野から賛辞の言葉が出る。

 

「帝光中出身は伊達ではないな」

 

松永も竜崎を見て同様の感想を持った。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う両者。

 

『…(ゴクリ)』

 

対峙する2人から発する緊張感に静まり返る体育館。

 

「……フー」

 

ゆっくり空が息を吐き…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そして動く。

 

「っ!?」

 

最初の1歩目で竜崎の横に並び、2歩目で後方に駆け抜けた。

 

 

――バス!!!

 

 

竜崎が振り返った時にはもう空はレイアップを決めていた。

 

「うおっ、はえー!」

 

あっという間に決めた空を見た1年生が思わず唸る。

 

「(とんでもない速さだ…。今の、中学時代に見た青峰先輩より速いんじゃ…!)」

 

目の前で駆け抜けた空の速さに驚きを隠せない竜崎。

 

「次、お前のオフェンスだぜ」

 

ボールを拾った空が竜崎にボールを渡す。

 

「は、はい!」

 

ボールを受け取った竜崎は慌ててスリーポイントラインの外側に移動する。

 

攻守が入れ替わり、竜崎。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

ゆっくりドリブルをしながらチャンスを窺う。

 

「遠慮はいらねえ、来いよ」

 

「…っ」

 

不敵に言い放つ空。そんな空から発せられるプレッシャーを受けて思わずたじろぐ竜崎。

 

「(これがキャプテンのプレッシャー…! …ビビるな…強気で攻めるんだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

竜崎がレッグスルーで仕掛ける。

 

「…これはなかなか」

 

1ON1を見守っていた大地がキレのある竜崎のレッグスルーを見て唸る。

 

「…ですが」

 

「…っ」

 

だが、空はこれに難なく対応。右手を伸ばして進路を塞ぐ。

 

「…なら、もう1つ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時にクロスオーバーで竜崎が逆に切り返す。

 

「甘い」

 

これにも対応。先回りで進路を塞いだ。

 

「…だったらこれでどうです!?」

 

ここで竜崎はボールを掴み、ターンアラウンドで反転する。その後、すぐにシュート態勢に入る。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

シュートを放った瞬間、空の手が現れ、ボールはブロックされた。

 

「(…っ、これでもダメか…!)」

 

逆を付いたつもりだったが、それでも空をかわす事は出来なかった。

 

「そんじゃ、次は俺のオフェンスな」

 

「…くっ! お願いします!」

 

ボールを拾って空に渡す。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

スリーポイントラインの外まで移動した空がゆっくりドリブルを始める。

 

「(今度こそ、止める!)」

 

腰を落とし、気合を入れてディフェンスに臨む竜崎。

 

「…」

 

空は3度ボールを突き…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

4度目でクロスオーバーで仕掛ける。

 

「…くっ!」

 

全神経を集中していたのにも関わらず、空に横をあっさり抜けられ、思わず声を上げる竜崎。

 

 

――バス!!!

 

 

慌てて空を追いかけるも、後ろに抜かれた空に追いつける事は出来ず、空は悠々とレイアップを決めた。

 

「(フェイクにかかったわけじゃないのに…、この人、スピードだけじゃない、アジリティーも桁違いだ!)」

 

今のワンプレー、竜崎は空の動きを予測し、対応しようとした。だが、動き出してから最高速に達するまでが速すぎる為、先読みしてもなお、止める事が出来なかった。

 

「これで2本目。次、始めようぜ」

 

そう言って、空がボールを放る。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

攻守が切り替わり、1ON1が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!」

 

強引に切り込んでレイアップに行った竜崎だったが、態勢に入った瞬間、空にボールを叩かれる。

 

続いて、空のオフェンス。

 

「(この人を止めるには次のプレーだけじゃない、動き出しのタイミングまでドンピシャで予測出来なきゃ今の俺じゃ止められない。読み切るんだ!)」

 

今度こそは気合を入れ直す竜崎。空の一挙手一投足に注意を払う。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「(…1、…2、…ここだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

3度目で空が動く。読みが的中した竜崎は遅れる事なく空に並走する。

 

「おっ」

 

空の動きに対応出来た事に天野が声を上げる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、空がバックロールターンで反転。竜崎の逆を付く。同時にシュート態勢に入る。

 

「…くっ、まだだ!」

 

何とかこれに対応し、ブロックに飛ぶ竜崎。

 

「…あっ」

 

ここで2人の勝負を見ていた帆足が声を上げる。ブロックに飛んだ竜崎。だが、空はフェイダウェイで後ろに飛びながらシュート態勢に入っていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

竜崎のブロックをかわした空がミドルシュートを決めた。

 

「あかんな。空坊はあれで修羅場を潜っとるからのう。実力以上にこの差が大きいで」

 

高校に進学してから夏と冬でキセキの世代と戦った経験に加え、ジャバウォックともフルに戦った空。帝光中出身の竜崎ではあるが、過ごした密度の差によって、実力以上の差が出てしまっている。

 

ボールが竜崎に渡り、3本目の竜崎のオフェンスが始まる。

 

「(このスピードと瞬発力は桁違いだ。多少逆を突いたくらいじゃ追いつかれる。とにかくこの人の裏を掻かないと…!)」

 

パワーやスピード、身体能力に頼ったプレーでは分が悪い。とにかく手数を出す事に決めた竜崎。

 

「…」

 

ボールを持って左右に振る。右…と見せかけて左…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

と見せかけて右から切り込む竜崎。

 

「ととっ…」

 

僅かに不意を突かれる空。

 

「(この程度の崩しじゃシュート態勢に入る頃には追いつかれる…、だから…!)」

 

ボールを掴んでシュート態勢に入る。これに空が対応しようとする。

 

「っ!?」

 

だが、竜崎はシュートには行かず、小さなポンプフェイクを入れた。空はこれにかかり、ギリギリで気付いて飛ばなかったものの、両腕を上げて膝を伸ばしてしまった。

 

「(かかった! これなら決められる!)」

 

フェイクにかかったのを確認し、改めてシュート態勢に入る竜崎。もはやブロックに飛べる態勢ではないのでシュートが決まるのを確信する。

 

「フェイクにかかりおったな。あれじゃ、もう止められへん。…並みの奴ならのう」

 

「ちいっ、けど、まだまだ!」

 

伸ばした膝を曲げ、再度ブロックに飛んだ。

 

「空坊のスピード、瞬発力、反射速度は尋常じゃあらへんねん。普通ならまず追い付けんタイミングでも空坊なら…」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「追い付いてまうねん」

 

「なっ!?」

 

ボールが手から放れた瞬間、下から伸ばされた空の手にボールが当たる。

 

「(あり得ない…。フェイクであれだけタイミングを外されてブロックが間に合う訳…)…くっ、まだだ!」

 

ボールは空の手に当たって真上へと跳ねた。コートに着地した竜崎はボールを確保すべく飛びついた。

 

「(ボールを確保したら1度距離を取って仕切り直しだ)」

 

リバウンドに飛んだ竜崎の両手にボールが収まる……直前…。

 

「ととっ、やらねえよ」

 

竜崎の両手を空の右手が追い越し、先にボールを奪い取った。

 

『うぉっ! スゲー瞬発力だ!』

 

フェイクにかかって尚ブロックをし、後にリバウンドに飛んだにも関わらず先のボールを触れてしまう瞬発力に1年生達が驚愕する。

 

「神城のブロックをかわすのは至難の業だ。去年の夏、自分より10㎝も高い、五将の実渕の天のシュートに、距離を取ってしかも足がコートに離れてからブロックに飛んで間に合うくらいだからな」

 

松永が空の恐ろしさを口にする。

 

「せやな。空坊から点取るには、後出しで追い付けん速さで仕掛けるか、空坊が届かへん高さから放るか、単純にパワーで押し通すか、未来を読んで完全な逆を突くか、や」

 

続いて、天野が解説をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

4本目の勝負は空が確実に決め、竜崎がクイックリリースからのスリーで不意を突いたが、リングに嫌われ、失敗する。

 

そして5本目、空のオフェンス。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルを続ける空。

 

「(止める! 1本だけでも!)」

 

これまで1度も止める事が出来ていない竜崎。せめて1本だけでもと気合を入れ直す。

 

「…フー」

 

「っ!?」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一息吐き、仕掛ける。タイミングを読み切った竜崎はこれに対応。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

空、直後に急停止し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ロッカーモーションで緩急を付け、再度切り込んだ。切り込んだのと同時に空はボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「抜いた!」

 

「いや、まだや」

 

「まだだぁ!」

 

空とリングの間に竜崎がブロックに現れた。

 

「タイミングはバッチリだ。止めたか?」

 

「…」

 

タイミング良くブロックに現れた竜崎を見て、帆足が予測する。だが、大地は無言でそれを見つめている。

 

「っ!?」

 

ここで、竜崎が目を見開く。

 

「(た、高い! 身長なら俺の方が高いはずなのに…!)」

 

ブロックに飛んだ竜崎。だが、ボールを掲げて飛んだ空の右手が、竜崎のさらに上へと伸びていく。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま空は竜崎の上からボールを持った右手をリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉっ、スゲー!!!』

 

空のワンハンドダンクが決まると、1年生達が歓声を上げた。

 

「…」

 

唖然とする竜崎。

 

「これで5本目。俺の勝ちだな」

 

ニコッとして告げる空。

 

「っしゃっ、さすが神城だぜ」

 

完全勝利を決めた空を見てガッツポーズをする菅野。

 

「性格悪いやっちゃなぁー」

 

そんな菅野を見て呆れる天野。

 

「なかなか楽しめたぜ」

 

そう言って、その場を後にする空。

 

「待ってください!」

 

「?」

 

空を呼び止める竜崎。

 

「あの、勝負は俺の負けですけど、このまま終わったら悔しいんで、もう少し付き合ってもらってもいいですか?」

 

ボールを拾って頼み込む竜崎。そんな竜崎を見て空はニコリと笑い…。

 

「いいぜ。気が済むまで付き合ってやるよ」

 

快く了承したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

それから何度となく1ON1を繰り返す空と竜崎。やはり、2人の力の差は大きく、竜崎は1度も決める事も止める事も出来なかった。そして…。

 

 

――バス!!!

 

 

竜崎を抜きさった空がレイアップを沈めた。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

体力を使い切った竜崎が息を切らしながらその場で大の字で倒れ込んだ。

 

「…よう、満足したか?」

 

ボールを人差し指で器用に回しながら空が竜崎に尋ねる。

 

「ハァ…ハァ…、はい。……ありがとう…ございました…」

 

呼吸を荒げながら竜崎は空に礼の言葉を述べた。

 

「勝負したけりゃ、いつでも受けてやるからよ、またやろうな」

 

笑顔で竜崎に告げ、空はその場を後にしていった。

 

「ハァ…ハァ…、マジでバケモンだ。…あれだけ練習をして、あれだけ1ON1をしたのに…、平然としてるなんて…」

 

もはや立ち上がる事も出来ない竜崎。平然としている空を見て驚きを隠せないでいた。

 

「…あの人、本物だ。あの人がいるなら、勝てるかもしれない…。ここ(花月)に来て、ホントに良かった…」

 

体育館の天井を見つめながら、竜崎はポツリと呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お疲れさん」

 

そう言って、天野が空にタオルを放った。

 

「ども」

 

タオルを掴んだ空が礼を言って汗を拭い始めた。

 

「で、どうやった? 期待のルーキーは」

 

「まさに期待どおりでしたよ。何度かヒヤリとした場面もありましたし」

 

天野の問いに、空が満足気に答えた。

 

「それに度胸もありますし、シックスマンとしてはうってつけだと思いますよ」

 

「確かにのう。…それと、気付いとったか? あいつ――」

 

「ええ、俺の事、試してましたね」

 

空がタオルを肩に掛ける。

 

「何や、気付いてたかんか。あの1年坊、お前の実力と主将としての器を計りよった」

 

天野が大の字で倒れ込む竜崎に視線を向けながら言う。

 

先輩であり、このチームの主将である空に1ON1を挑む事で実力を計り、挑発とも取れる発言をして主将としての器をも計った。

 

「全国の舞台で戦おうと思うなら、あのくらい生意気なくらいがちょうどいいですよ」

 

「ま、物怖じせんあの度胸は買いやな。……にしても、あいつを見とると、去年の誰かさんを思い出すのう」

 

懐かしみながら天野がポツリと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『三杉さん! もう1本! もう1本お願いします!』

 

『全く、あれだけ負かされてまだ挑む度胸があるとはな。…いいだろう。何度でも来いよ』

 

呆れながらも不敵な笑みを浮かべながら挑戦を受ける三杉。

 

『もちろん、勝つまで何度でも挑戦してやる!』

 

同じく不敵な笑みを浮かべながら空は三杉に挑んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「そういや、俺も何度も三杉さんに挑んでボロカスにやられましたね」

 

1年前の自分を思い出し、苦笑いをする空。

 

「去年の主力が全員残っていますし、いい新人も加入しました。高校最後の今年、全国の頂点、取りますよ」

 

「俺は最後やけど、お前らは後1年あるやろ?」

 

空の言葉に引っ掛かりを覚えた天野が怪訝そうな表情で尋ねる。

 

「高校の試合でキセキを冠する者達と戦えるのは今年で最後です。来年なんてどうでもいい。絶対に今年取ります」

 

「…なるほど、そういう事か。そら是非とも頂点掴んで有終の美を飾らんとのう」

 

言葉の意味を理解した天野は。笑みを浮かべたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

季節は春。4月を迎え、新たに新入生が加わり、新体制を迎えた花月。

 

迫るインターハイ県予選に向けて、猛練習を積んでチームを熟成させていく。

 

そして、キセキの名を掲げた全国の猛者達も、全国制覇に向けて、動き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

東京都、誠凛高校…。

 

「そこ! 足を止めないで!」

 

「はい!」

 

監督、リコの激が飛ぶ。

 

「行くぞ、火神!」

 

「来い、池永!」

 

ボールが新海から池永に渡り、池永が火神に1ON1を仕掛ける。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

池永がクロスオーバーからバックロールターンで火神の横を抜ける。そこからリングに向かって跳躍する。

 

「まだ抜けてねえぞ!」

 

横を抜かれた火神だったが、すぐさま追いつき、リングと池永の間にブロックに飛ぶ。

 

「はっ! あめーよ!」

 

ボールを掲げた池永は1度ボールを下げ、火神のブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

かわした所でもう1度ボールを構え、リバースレイアップ…ダブルクラッチで得点を決めた。

 

「っしゃぁっ! どうだ!」

 

「はっ! やるじゃねえかよ池永」

 

拳を握って喜びを露わにする池永。そんな池永を素直に称える火神。

 

「スゲーなあいつ、火神から点取りやがった」

 

今の勝負を見ていた降旗が思わず声を出す。

 

「1年前は全く勝負になってなかったけど、今では10回やり合えば1~2回くらい池永が決められるようになってきたし、急成長してるよな」

 

火神は今やキセキの世代と同格の選手であり、そんな火神から1ON1で得点を奪うのは至難の業である。

 

「何より、今までは試合に出れば自分勝手なプレーばかりしてたけど、それもなくなったよな」

 

今の池永を見て河原が言う。

 

これまで、自由気まま、自分勝手なプレーを繰り返し続けた池永。昨年の冬の都予選敗退も、それが1つの要因であった。だが、その敗退と卒業した前主将、日向の言葉を受けた池永は心を入れ替え、新人戦では別人かのようにチームプレーに従事していた。

 

「ここ最近になってさらに伸びたよな。先輩への口の利き方は相変わらずだけど…」

 

福田も池永の心身の成長を実感していた。

 

「おめーらそんな呑気に人の品評してる場合か?」

 

「「「あ、景虎さん!」」」

 

そんな3人の前に、今日、たまたま時間に余裕が出来て体育館に足を運んでいた監督、リコの父親である景虎がやってきた。

 

「リコ達の代がいなくなって最上級生になったからってうかうかしてられねえぜ。活きの1年が入ってきているし、何より、2年生もかなり力を付けてきているからな」

 

そう言って、景虎がコートを指差す。そこには、巧みにボールをキープしながらゲームメイクをしている新海。ゴール下で立ち塞がり、インサイドを死守する田仲の姿があった。

 

「火神と、新海、池永、田仲は現状、スタメンの頭角線上にいる選手だ。お前らこのままじゃスタメンはおろか、ベンチ入りすら怪しくなるぜ?」

 

ニヤっと笑みを浮かべながら3人に告げる景虎。

 

「「「っ!?」」」

 

その言葉を受けてドキリとさせる3人。

 

「俺、シュート練習してくる!」

 

そう言って、河原がその場を走り出す。

 

「俺も、インサイドの強化をしないと!」

 

「走り込みをして足腰を鍛え直さないと!」

 

続いて福田、降旗が走っていった。

 

「ハッハッハッ! そうでなくちゃな」

 

その光景を見て満足そうに笑う景虎。

 

「(これまでは明確な目標はあったが、競争が少なかった。去年の敗退の原因はそれと言ってもいい)」

 

誠凛バスケ部は、創部してから一貫して全国制覇を目標にしてきた。2年前の冬に創部2年での全国制覇を成し遂げて以後、目標を成し遂げてしまった事により、何処か気が緩んでいた。

 

「(単純な総合力は去年以上とも言ってもいい。それに、まだまだ伸びしろもある。後は、インハイ予選まで何処までチームを熟成させられるか、だな…)」

 

誠凛の選手達を見つめながら景虎は考えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

同じく東京、桐皇学園高等学校…。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

体育館内にバッシュのスキール音が鳴り響く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

ボールを持った福山が桜井を抜きさる。そのままドリブルを続け、もう1人抜きさる。

 

「らぁっ!」

 

ここでボールを掴んでリングに向かって跳躍する。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「させるわけねえだろ」

 

ボールを持った右手がリングに叩きつけられる直前、青峰がボールを弾き飛ばした。ルーズボールを今吉が拾い、フロントコートに走った青峰の縦パスを出す。

 

「行かせねえぞ!」

 

スリーポイントラインの直前で青峰に追いついた福山が青峰の前に立ち塞がる。

 

「てめえじゃ俺は止めらんねえよ」

 

左右に切り返しながら揺さぶりをかける青峰。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

急加速をして一気に福山の横を抜ける青峰。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままボールをリングに叩きつけた。

 

「ちっくしょう! 次だ! 次は絶対止めてやる!」

 

悔しさを露わにする福山。今度こそはと意欲を燃やす。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

「紅白戦は終了です。皆さん、水分補給を行ってください」

 

桐皇の監督、原澤が笛を吹き、指示を飛ばす。指示を受けた桐皇の部員達は各々水分補給を行う。

 

「青峰君」

 

「あん?」

 

水分補給を行っている青峰に原澤が話しかける。

 

「福山君はどうですか?」

 

「ゴクッ…ゴクッ……ま、いいんじゃねえの? 全国レベルでも止められる奴はそうはいねーと思うぜ」

 

「そうですか。…では、ディフェンスの方はどうですか?」

 

本命の質問であるディフェンスについて聞いた。

 

今年、主将に任命された福山。全国上位クラスのオフェンス力を誇る一方、ディフェンスに関してはザルと言っても過言ではない。昨年のウィンターカップでもそれが浮き彫りとなり、現在に至るまでディフェンスの強化に努めていた。

 

「話にならねえ」

 

ボトルを置いた青峰が言い放つ。

 

「…けどまあ、前よりはマシになったんじゃねえの? と言っても、ミジンコがアメンボになったくらいだけどな」

 

「…分かりました」

 

ひどく抽象的ではあるが、一応は褒めている青峰の言葉に、福山が成長を窺う事が出来た。

 

「…ふむ」

 

顎の手を当てて考え込む原澤。

 

昨年のスタメンが4人も残る今年。だが、インサイドの要であった若松が抜けた事により、その穴を埋めなければならない。戦力確保の為、インサイドを担う新戦力を確保したが、当然ながら、若松の穴を埋めるには至らない。

 

「…考えても仕方ありませんね」

 

ないものねだりをしても仕方がないので、原澤は現戦力の強化をしていこうと決めた原澤。

 

 

――ザシュッ!!! ザシュッ!!!

 

 

シューティング練習を続ける桜井。

 

 

――ダムッ!!! …ダムッ!!!

 

 

ドリブル練習をする今吉。

 

「おらぁっ、青峰! 1ON1付き合えよ」

 

「っせーな、何度やっても同じに決まってんだろうが…」

 

福山に指名された青峰。嫌々ながらも1ON1に付き合った。

 

「みんな、張り切ってますね」

 

「ええ。良い傾向です。全国制覇を目指すには、このくらいやらなければ成し遂げられませんよ」

 

原澤、マネージャーの桃井は、自主練習を続ける桐皇の選手達を見て頷く。

 

「今年こそは、頂点を取らなければいけませんね」

 

全国制覇を目指して練習を積む選手達を見て、原澤も気合を入れたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

同じく東京、秀徳高校…。

 

既に練習を終えたバスケ部。だが…。

 

 

――ダムッ!!! ダムッ!!!

 

 

カラーコーンを並べてドリブル練習をする緑間。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

器用にカラーコーンをかわし、ジャンプシュートを決めた。

 

「…ふぅ」

 

決まったのを確認し、腕で汗を拭う。

 

「ほれ」

 

そんな緑間にタオルを差し出す高尾。

 

「気合充分なのは分かるけどよ、オーバーワークには気を付けてくれよ」

 

猛練習を積む緑間に高尾が窘めるように言った。

 

「…まだだ。この程度では足らないくらいなのだよ」

 

だが、それでも緑間はやめようとしない。

 

ウィンターカップ終了後、緑間は、中谷に、スモールフォワードへのコンバートを提案した。昨年の花月との試合終盤。積極的に切り込んで得点を重ねた事で思う所があり、今では以前から日課であるシューティング練習に加え、ドリブル練習やインサイドプレーの練習も行っている。

 

「けどま、良い傾向だよな。真ちゃんに触発されて居残り練習する奴も増えたしな」

 

高尾が辺りを見渡すと、個人練習や、1ON1等を行っている部員達が大勢見られる。昨年までは、スタメンと1部のレギュラーくらいであったが、今年はレギュラーだけでなく、1軍のほとんどが自主練を行っている。

 

「…騒がしくて練習に身が入らないのだよ」

 

訝しげな表情をする緑間。

 

「まあまあ、あれでも真ちゃんに気を使ってんだぜ? 感謝しろよ。俺が真ちゃんの邪魔にならないように言い聞かせたんだからな」

 

自主練を始めるにあたって、高尾は、緑間の自主練の邪魔にならないよう、部員達に自主練スペースには気を遣うよう、指示を出していた。

 

「…ふん」

 

それを聞いて、緑間は照れ隠しするように鼻を鳴らす。

 

「今年は俺達最後の年だし、先輩達の悲願の全国制覇、取らないとなー」

 

淡々と宣言する高尾。だが、その表情は真剣なものであった。

 

「当然なのだよ。もう敗北はいらない。夏も冬も、勝つのは俺達なのだよ」

 

同じく、緑間も宣言したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

京都府、洛山高校…。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

「スピードを緩めるな! 正確にパスを出せ!」

 

全速で走りながらボールを回し続ける洛山の選手達。

 

「正確に出せと言ってるだろう! 練習で出来なければ試合でも出来んぞ!」

 

「はい!!!」

 

監督、白金が激を飛ばすと、選手は大声で返事をした。

 

「そこまで! 1分休憩!」

 

洛山選手達はその場でゆっくり歩きながら呼吸を整え始める。

 

「…」

 

練習風景を思い出しながら白金は考え込む。

 

新体制を迎えた洛山。だが、去年までの主力であった無冠の五将である実渕、葉山、根武谷の3人が抜けた事により、戦力ダウンが否めない洛山。だが、白金は全く悲観していなかった。

 

「休憩時間は終わりだ。行くぞ。次はシャトルランだ」

 

『はい!!!』

 

主将、赤司が指示を出すと、部員達が大声で応え、動き出す。

 

洛山の現状を誰よりも理解しているのは選手達であり、抜けた3人の穴を埋める為、選手達は日々、練習を積んでいた。

 

「(昨年の主力が3人も抜けたが、これが選手達に危機感を与え、より一層練習に打ち込むきっかけとなった)」

 

選手達1人1人が赤司を中心に、先に迫るインターハイに向けて練習に打ち込んでいる。

 

「(今年も昨年と同等…いや、それ以上のチームになる。これで優勝出来なければ、私の責任だな)」

 

選手達の練習風景を見ながら、白金は決意を固めたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

秋田県、陽泉高校…。

 

現在、紅白戦が行われている。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをとある選手がキープしている。その選手を、陽泉の選手達が注目している。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

一気に加速し、ディフェンスをしていた木下の横を高速で駆け抜ける。フリースローラインを僅かに越えた所でボールを掴んでリングに向かって跳躍する。

 

『た、高い!』

 

その選手は、周囲が驚く程の高さまで到達する。そこから一気にボールを持った手をリングに叩きつける。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「させないよ」

 

だが、その直前、紫原によってブロックされた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

「そこまでだ! 次にグループ、入れ!」

 

今、紅白戦を行っていた2チームがコートから出て、次の2チームがコートに入る。

 

「マサカ、ブロックサレルトハオモワナカッタ」

 

先程の選手がカタコトの日本語で喋る。

 

彼は、今年、セネガルから陽泉高校に留学してきた、アンリ・ムジャイ。陽泉高校は、外国からの留学生を積極的に受け入れており、特に、スポーツ交流が盛んに行われており、陽泉高校の運動部には1人以上の海外からの留学生が存在する。

 

バスケ部には去年まで、劉偉が在籍していた。彼が卒業し、新たにバスケ部にやってきたのがこのアンリ・ムジャイである。セネガルとの気候の違いに未だに慣れていないが、持ち前の陽気さによってチームに馴染みつつある。

 

「別にー、あのくらい普通だし」

 

褒められた紫原だったが、特に表情変えることなく返す。

 

「ソレニシテモ、キミトゴカクニタタカエルセンシュガマダ5ニンモイルナンテ。コノクニハスゴイナ」

 

先程自分をブロックをした紫原を見て、その紫原と同格の選手が5人もいる事に驚きを隠せないアンリ。

 

「タイセンスルノガタノシミダ」

 

そんな逸材と試合をするのを楽しみにするアンリ。

 

「やっと怪我も治ってあのめんどくさい筋トレも終わったし、今年は全部捻りつぶして絶対優勝してやる」

 

紫原にとって最後の年になる今年。有終の美を飾る為、意欲を燃やすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

神奈川県、海常高校…。

 

 

――ざわざわ…。

 

 

海常の選手達がざわつき始める。

 

それは、練習終了後の事である。各々が自主練を始めようとした時である。

 

『黄瀬君! ワシと勝負してくれんかのう!』

 

1人の男が黄瀬に勝負を挑んだのだ。

 

この男は4月に海常高校に3年生に転校してきた三枝海。新1年生が入学するのと同時にバスケ部にやってきた男である。3年次にやってきた三枝に部員達は物珍しさを覚えたが、一緒に練習を励んでいた。

 

新入生と三枝がやってきて数日が経過したある日、三枝が黄瀬に勝負を挑んだ。1ON1形式の勝負で、先に5本先取した方の勝ち。

 

『良いッスよ』

 

黄瀬は快く勝負を受けた。

 

勝負をした結果、黄瀬が勝利した。誰もが黄瀬のワンサイドゲームで終わる予想していたのだが、結果は5-1で黄瀬の勝利。だが、黄瀬は何本か三枝にブロックされていたし、決められたのは1本だが、他にも何本か危うい場面もあった。決して黄瀬の完勝ではなかった。

 

『ガッハッハッ! さすが、キセキの世代じゃのう! 平面じゃ敵わんのう。今度はこっちの土俵で付き合ってはくれんかのう』

 

不敵な笑みで言う三枝。三枝の言う勝負とは、ゴール下限定の1ON1である。

 

『構わないッスよ。それでも勝つのは俺ッス』

 

先程と同様、快く勝負を受け、2人は再び勝負を始めた。そして、2人の勝負に決着が着いた。

 

「嘘…だろ…」

 

「黄瀬さんが…負けた…」

 

部員達が信じられないと言った表情で呟く。

 

平面での1ON1では黄瀬に軍配が上がったが、ゴール下限定の1ON1では三枝に軍配が上がった。三枝はそのパワーを生かして黄瀬を圧倒し、5-3でこの勝負を制した。

 

「良い勝負じゃった! また頼むのう!」

 

「そッスね。このまま終わったら悔しいッスから、またお願いするッスよ!」

 

少々悔しかったのか、黄瀬は唇を尖らせながら再戦を約束したのだった。

 

「…ふう」

 

2回の勝負を終えた黄瀬がタオルで汗を拭う。

 

「黄瀬。最後の勝負、手を抜いたのか?」

 

黄瀬に監督の武内が近づき、尋ねた。

 

「そう見えたッスか?」

 

その質問に黄瀬はそう返した。

 

黄瀬は、今の勝負、パーフェクトコピーこそ使わなかったが、それ以外は決して手を抜かなかった。それは見ていた武内も理解していた。

 

「…」

 

ここで武内は考える。この先、三枝を試合で使うかどうかを…。

 

昨年、海常は、黄瀬のワンマンチームと揶揄され、成績も決して満足するものではなかった。それを受けて、武内は既存の部員達を徹底的に鍛え上げた。結果、バックラインに関して言えば、城ヶ崎中からやってきた小牧を筆頭に全国でも戦える程に成長した。だが、インサイドは不安を残す結果となった。

 

同じく城ヶ崎中からやってき末広も海常に入って成長したが、技巧派である彼ではインサイドを担うには少々不安が残る。真1年生にリクルートをかけたが、即戦力を担えるインサイドプレーヤーをリクルートする事は出来なかった。

 

以上の事から、戦力的な事を考えれば迷わず三枝を試合で使うべきなのだが、ここで頭を悩ますのが、体育会系の色が強い海常高校の風潮である。三枝をここでスタメンで使えば、入部からここまで頑張ってきた2、3年生からすれば面白くないと感じる者も出てくるだろう。チームの輪を壊すリスクを負ってまで三枝を使うべきか…。

 

「…黄瀬、お前の意見が聞きたい。奴を、試合で使うべきか?」

 

黄瀬に意見を求める。黄瀬も2年もこのチームに属しているので、チームの事情や色を含めて良く理解している。

 

「全国で優勝を目指すなら、使うべきッス」

 

尋ねられた問いに、黄瀬は迷わず答えた。

 

「…」

 

武内は少し考える素振りを見せ…。

 

「…末広」

 

となりに立っていた末広に声を掛けた。

 

「はい。俺は今日から、パワーフォワードにコンバートします」

 

意図を理解した末広は、尋ねられるより前に答えた。

 

「…うむ、頼む」

 

その言葉を聞いて、武内は頷いた。

 

結論から言うと、武内が危惧した不安は杞憂に終わり、三枝はその実力と人柄でチームを認めさせ、海常に馴染んでいったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

4月となり、各々が1学年進級し、さらに新1年生を迎えた。

 

新体制となり、各校が全国の頂点を目指し、猛練習を始める。

 

こうして、キセキの世代にとっての最後の1年の激闘が、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この話にて、新たにオリキャラを投入しました。

アンリ・ムジャイ。

身長 193㎝
体重  89㎏

陽泉高校に留学してきた、セネガルからの留学生。学年は2年。まだ、日本に来たばかりなので、日本語はカタコト。プレースタイルは後程…。


菅野肇

身長 177㎝
体重  66㎏

花月高校の3年生。上下関係に厳しい。花月で2年間鍛えられているので、基礎体力は高い。

という事で、キセキの世代のラストイヤーにして、この二次の新章的なものが本格的に始まりました。大雑把な展開は思いついているのですが、試合描写に不安が残っています…(^-^;)

今一度、原作及び、他のバスケ漫画や、バスケの試合動画を見直さなければ!

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第93Q~調整と不安と~


投稿します!

長期間投稿を停止してしまい、申し訳ありませんでした…m(_ _)m

それではどうぞ!



 

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

体育館内にスキール音が響き渡る。

 

「おらぁ! 足が止まってるぞ! そんな様では通用せんぞ!」

 

激しい練習によって動きが鈍くなった部員に上杉の檄が飛ぶ。

 

5月に入り、間近に迫ったインターハイ静岡大会に向けて、チーム練習は更に厳しさが増していった。

 

「行かせませんよ…」

 

「(っ!? ビクともしない、こいつ、とんでもないパワーだな…)」

 

ローポストでボールを受け取った松永。その後ろには室井。姫川の基礎練習を卒業した室井は本格的にチーム練習に合流した。現在、3ON3に参加している。

 

背中でゴール下まで押し込もうとする松永だったが、背中に立つ室井はピクリとも動かなかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スピンターンで反転し、室井の横を抜け、そのままゴール下を沈めた。

 

「…っ」

 

あっさり横を抜かれ、僅かに悔しそうな表情をする室井。

 

もともとの身体能力の高さと、姫川の指導もあり、バスケ選手としてある程度形になってきた室井だが、まだまだディフェンス…特に平面の勝負ではキャリアの差が大きく、抜かれる場面が多々見受けられていた。

 

「…ふむ」

 

そんな室井を見て、上杉は、少しずつチームの戦力として成長している事を認識した。

 

 

次の組、空、帆足、天野の組と、大地、竜崎、菅野の組の3ON3が始まった。

 

「…」

 

「…」

 

スリーポイントラインの外側でボールをキープするのは空。マークをするのは竜崎。天野には大地。帆足には菅野がマークをしている。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりとドリブルをしながらゲームメイクをする空。おもむろにボールを掴むと、頭上からハイポストに立つ天野にパスを出し、天野目掛けて走りこんだ。

 

「スイッチ!」

 

すれ違い様に天野から手渡しでボールを受け取り、そのままリングに突っ込む空。天野が進行の妨げになった竜崎は声を出す。

 

「行かせません」

 

「止める!」

 

リングに迫る空に、大地と菅野がヘルプに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

同時に空がノールックビハインドパスでボールを放った。

 

「あっ!?」

 

思わず菅野が声を上げる。菅野の横を抜けていくボールは、右サイドのスリーポイントラインの僅か内側に走りこんでいた帆足にボールが渡る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの帆足は落ち着いてジャンプシュートを決めた。

 

「ええで帆足!」

 

「ありがとうございます!」

 

天野が駆け寄り、背中を叩く。

 

「いいポジション取りだったぜ」

 

「神城君のパスが良かったんだよ」

 

続いて空が肩を叩いた。

 

「あーくそっ!」

 

悔しがる菅野。

 

「…っ」

 

若干苛立った表情で竜崎が菅野に視線を向けた。

 

 

攻守が変わり、ボールを竜崎がキープし、目の前には空。大地には天野。菅野には帆足がマークしている。

 

「…」

 

目の前の空にボールを奪われないよう気を付けながらゲームメイクをする竜崎。

 

「(…くそっ、あの人は何をやって…!)…ったく!」

 

苛立ちながら竜崎がドライブで仕掛ける。

 

「(おーおー、カッカしてんな)」

 

そんな竜崎を心中で苦笑しながらピタリと並んで追いかける空。

 

「こっちだ!」

 

帆足を振り切って中に走りこんできた菅野がボールを要求する。

 

「…」

 

急停止した竜崎がパスを出す。ボールは菅野…ではなく、左アウトサイドの大地に。

 

「行かせへん」

 

ボールが大地に渡ると、すぐさま天野がディフェンスにやってきた。

 

「…」

 

天野が目の前に現れると、大地は仕掛ける事なくボールを右へと流した。そこへ、竜崎が走りこんでおり、フリースローラインのやや後方でボールを受け取り、再び仕切り直しを始めた。

 

「おい! 何やってんだよ!? こっち寄越せ!」

 

自分にパスを出さない苛立ちを表に出した菅野がボールを要求する。

 

「…」

 

一瞬視線を菅野の方へ向ける竜崎。すでに15秒以上費やしているため、そろそろチャンスメイクをしたい。だが、自分が空をかわして得点を決めるのは至難の業。大地も天野をかわしてきれていない。

 

「…」

 

僅かに悩んだ末、竜崎は菅野にボールを渡す。

 

「っしゃぁっ!」

 

ボールを受け取った菅野はすぐさま構える。

 

「行きます!」

 

帆足が前に出て、ガンガンプレッシャーをかける。

 

「(…ちっ、こいつ、なかなかやるじゃねえか…!)」

 

思いのほかタイトにディフェンスをかけてくる帆足に驚く菅野。

 

「…だが、甘いぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一瞬の隙を付いて帆足を抜き去り、中へと切り込み、そのままシュート態勢に入る。

 

「させませんよ」

 

「うぉっ!?」

 

そこへ、空がブロックに現れる。

 

「くそっ!」

 

やむを得ず、菅野はブロックに飛んだ空の先に見えた大地にパスを出す。

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「甘いでスガ!」

 

だが、そのパスは天野にカットされてしまった。これにより、3ON3は終わった。

 

「5分休憩だ! 各自、呼吸を整えながら水分補給をしろ」

 

上杉が指示を飛ばすと、部員達は深く息を吐いた。

 

「はーい! 皆さんしっかり水分を摂ってくださいねー」

 

マネージャーの相川と姫川が部員1人1人にボトルとタオルを配ってまわる。

 

各自が汗だくの顔を拭いながらボトルの飲料水を口にしていく。

 

「あぁっ!? てめえもう1回言ってみろ!?」

 

その時、体育館内に怒声が響き渡る。部員達が一斉に視線を向けると、そこには竜崎に掴みかかる菅野の姿があった。

 

「さっきのなんスか? ディフェンスの時、綾瀬先輩のヘルプが間に合ったんですから行く必要はないでしょう。行くならせめて帆足先輩のパスコースを切るくらいの気配りをしてくださいよ」

 

「っ!?」

 

「オフェンスでは、綾瀬先輩をフリーにする為にスクリーンかけるとかしてくださいよ。あそこでボール貰ってもどうしようもないでしょう。挙句、みすみす中に切り込まされて、苦し紛れにパス出してターンオーバー…こんなの帝光中なら2軍の奴でも出来ますし、やらない事ですよ?」

 

淡々と告げていく竜崎。

 

「てめえ、帝光中出身だからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

後輩にダメ出しをくらい、皆の前で恥をかかされた怒りを加味された菅野が竜崎の胸倉を掴み上げた。

 

「おいスガ、その辺にしとき――」

 

ヒートアップしてしまった菅野を見かねた天野が2人の下へ駆け寄ろうとするが…。

 

「ちょっと熱くなり過ぎですよ、スガさん」

 

それよりも早く空が菅野を止めた。

 

「…ちっ!」

 

水を差され、舌打ちをしながら菅野は竜崎から手を放した。

 

「…率直に、スガさんには申し訳ないですけど、竜崎の言ってる事は尤もです」

 

「…っ!?」

 

『っ!?』

 

竜崎の言葉を認める発言をした空に思わず菅野が目を見開く。周囲にいたものを同様であった。

 

「さっきのプレーは少し迂闊だったと思います。結果論と言えばそれまでですけど、正直、咄嗟にそれくらい出来ないと、全国で優勝なんて狙えません」

 

「…っ」

 

主将であり、チームの司令塔である空に言われてしまい、返す言葉がなくなる菅野。

 

「ただ竜崎、相手は先輩だ。最低限の言葉遣いと礼儀には気を遣ってくれ。それさえ守ってくれれば、自由に意見を言ってもいいからよ」

 

「……分かりました。すいません、少し生意気でした」

 

自分でも言い過ぎたと感じていたのか、竜崎は頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。

 

「……おう」

 

視線を向けず、素っ気なくはあるが、菅野は返事をした。

 

「さて…、そろそろ休憩時間も終わりか……よし! 次はスクエアパスだ。行くぞ!」

 

『おう(はい)!!!』

 

空が指示を飛ばすと、部員達が大声で応えた。

 

「(なるほど、空らしい)」

 

「(ほう…、やるやないか)」

 

空の仲裁を見守っていた大地と天野が心中で感心したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も、厳しく、激しい練習は続いた。

 

それは他の部活動の練習が終わっても続いた。

 

「今日の練習はそこまで! 各自、速やかに片付けを行い、帰宅しろ!」

 

『ぶはぁぁぁっ!!!』

 

上杉がそう言うと、部員達は大きな溜め息を吐きながら返事をしたのだった。

 

「大地! 1ON1やろうぜ!」

 

「良いですよ。やりましょう」

 

 

――ザシュッ!!! ザシュッ!!!

 

 

生嶋は籠に入ったボールを運んで黙々とシュート練習を始める。

 

「松永先輩、ディフェンスの御指導してもらってもよろしいですか?」

 

「いいだろう」

 

室井が松永に声を掛け、2人でリングの方へ散っていった。

 

 

――ダムッ!!! ダムッ!!!

 

 

竜崎はカラーコーンを並べ、ドリブル練習を始めた。

 

「菅野先輩」

 

「おう、帆足! 1ON1でもやるか!」

 

帆足と菅野が2人で移動していった。

 

全体練習が終わり、個人自主トレが始まった。居残り練習は、教員が体育館に顔を出し、注意を受けるまで続けられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…」

 

練習が終わり、学校に備え付けられている自販機に前に立つ菅野。小銭を投入し、飲み物を選び、ボタンを押した。

 

「お疲れっす、スガさん」

 

取り出し口から飲み物を取り出そうとしたのと同時に空が話しかけた。

 

「おう」

 

一言そう返すと、菅野はプルタブを開け、飲み物を口にした。

 

「…」

 

続いて空が自販機に小銭を投入し、ボタンを押し、飲み物を取り出した。

 

「さっきはすいません」

 

「あん?」

 

「スガさんに恥かかすよう事しちゃって」

 

先程の言い合いの仲裁。その場を収めた空だったが、菅野のメンツを潰す真似をしてしまった事を気にしており、その謝罪をした。

 

「気にすんな。竜崎の言った事は間違ってねえからな。俺も少し頭に血が上り過ぎたわ」

 

頭が落ち着いていた菅野は、特に空に思うところはなく、手で制しながらそう言い、飲み物を口にした。

 

「…」

 

「…」

 

暫し、互いに壁に背中を預けながら並び、飲み物を口にする。

 

「…馬場先輩から主将に任命されて――」

 

「?」

 

「花月をどういうチームにしたいか。考えてきました」

 

「…」

 

「新人戦の時はまだ考えが纏まらなくて、去年のまま、勢いで自分なりにチームを引っ張ってきましたけど、1年生が入ってきて、改めて考えるようになりました」

 

「…答えは出たのか?」

 

黙って聞いていた菅野が訪ねた。

 

「俺達が目指すのは全国優勝。その為には、1人1人が勝つためにどうすればいいか、考えなければならない。だから俺は、花月が先輩後輩関係なく意見を言い合えるチームにしたいって思いました」

 

「…」

 

「だから俺は花月を同じ静岡の松葉や、去年試合した泉真館みたいなガチガチの縦社会の体育会系にはしたくなかった。あの2校は、それで成り立っているのかもしれないですけど、ウチでは無理だと思いますし、何より、楽しくないですからね」

 

「…」

 

「俺が考える理想のチームは、全国優勝を目標に、勝つ為に皆で死に物狂いで頑張って、時に衝突してでも先輩後輩関係なく意見を言い合って、そんで試合に勝ったらみんなで喜び合える。俺は花月をそんなチームにしたいです」

 

「……そうか」

 

今まで空の言葉を黙って聞いていた菅野は、ただ一言、そう答えた。

 

「なら、俺は花月にいない方がいいか?」

 

「いやいや、むしろ、スガさんにはいてもらわないと困りますよ」

 

唐突に菅野が言い出し、空が慌てて言葉を挟む。

 

「ガチガチの体育会系にはしたくないですけど、だからといって、締めるところはきっちり締めないと、なあなあになってしまいますからね。俺はそういうの苦手ですし、天さんもそういうキャラじゃないですから、スガさんがチームが緩まないようにこれからも今までどおりやってもらえると助かります。…正直、スガさんに嫌われ役を押し付けてしまって申し訳ないんですけど…」

 

「ハッハッハッ! そういう事なら任せろ。どうせ俺は、試合じゃあまりお前達の力にはなれないからな。優勝の為に俺が少しでも役に立てんなら、嫌われ役でも汚れ役でも喜んで引き受けてやらぁ」

 

「スガさん…」

 

「その代わり、お前は全力でチームを引っ張って花月を優勝に導け。いいな?」

 

「うす! もちろんです!」

 

空は菅野の願いに、敬礼をしながら答えた。

 

「…さて、明日も朝から猛特訓だ。さっさと帰って身体休めようぜ」

 

「そうっすね」

 

2人は同時にゴミ箱に空になった空き缶を投げ入れ、鞄を掴み、その場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

その場を去る2人を遠巻きで見つめる1人の男、竜崎。

 

先程の言い合い。やはり、後輩としてあるまじき行為だったので、改めて謝罪に来たのだが、空と話し込んでいたので顔を出す事が出来なかった。

 

「…ハァ」

 

溜め息が竜崎の口から零れる。

 

バスケの事になると相手が先輩だろうと思った事を口にしてしまう自身の悪い癖。過去にもこれがきっかけでトラブルになった事があり、高校進学を機に治そうと決めたのだが、ついそれが出てしまった。

 

「気を付けないとなぁ…」

 

昨年の最上級生であり、主将であった帝光中ならいざ知らず、今は花月の下級生。竜崎は改めて気を付けようと心に決めたのだった。

 

「…それにしても」

 

空と菅野の会話を聞いて、竜崎は考える。

 

実は、竜崎は、洛山から誘いを受けていた。だが、それを断り、花月高校に来た。その理由は、昨年のウィンターカップ、花月対桐皇の試合がきっかけだった。

 

その試合を見るまでは、洛山の誘いを受ける事に疑問はなかった。だが、花月が桐皇と互角に戦い、点差を付けても尚も食い下がり、最後はあと一歩のところまで追いつめた。

 

「…」

 

絶望的な状況でも諦める事無く戦うその姿を見て、竜崎の胸に1つの思いが生まれた。

 

 

――彼らと共に、キセキの世代を倒したいと…。

 

 

キセキの世代を敵に回す事がどれほどの事か、それが僅かな間なれどチームメイトであった竜崎は良く理解していた。現に帝光中出身者で、高校に進学した者は、プライドを守る為、無様に負ける事を恐れてバスケを辞めるか、キセキの世代の所属する高校に進学するかの2択である。

 

竜崎自身が洛山のスカウトを受けようとしたのも、他の彼らと同様であった。だが、諦める事なく戦う花月の試合を見て、竜崎は覚悟を決めた。

 

「神城先輩は、赤司先輩とも、あたりまえだけど新海とも違う…」

 

中学時代に見た2人の主将である赤司と新海、その2人と違い空はまた違った主将である事を竜崎は理解した。

 

「…あの人と…いや、あの人達となら……、ハハッ、やっぱここ(花月)に来て良かったぜ」

 

竜崎は笑みを浮かべながら、その場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

「基本の動作を忘れるな! 正しいフォームを意識しろ!」

 

この日も目の前に迫るインターハイに向けて猛練習を積んでいる。

 

「気を緩めるなと言っているだろ! 今の組、ダッシュ20本だ!」

 

『は、はい!』

 

気の抜けたプレーをした者には上杉から容赦なく厳しい声が飛ぶ。

 

「行くぞ」

 

「ええ」

 

現在、松永がボールを受け取り、目の前には大地。リングから離れて場所でボールを受け取った松永は大地と向かい合う形で対峙している。

 

「(こいつ相手に1ON1を仕掛けるのは無謀だが…あえて、その無謀に挑む!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

覚悟を決めて松永は一気に加速。ドライブを仕掛ける。大地はこれに送れずにピタリと並走する。その後、バックロールターンで反転し、逆を突いたのと同時にボールを掴み、シュート態勢に入った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

松永が放ったジャンプシュートがリングを潜り抜けた。

 

「ナイッシュー、松永!」

 

得点を決めた松永に賛辞の声が贈られる。

 

「?」

 

だが、当の本人は何処か腑に落ちない表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

ボールを持った空。目の前に立ってディフェンスするのは生嶋。

 

空が小刻みにボールを動かしながら牽制する。

 

「(くーはどう来るかな? 仕掛けてくるのか…それとも意表を突いてスリーか…)」

 

全国最速クラスのスピードと外がある空を相手に、身体能力で格段で劣る生嶋が止めるには動きをドンピシャで予測するしかない。

 

 

――ピッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、空が選択したのはドリブル突破でもなくスリーでもなく、パスだった。ハイポストにポジション取りをした菅野にパスを出した。ボールを貰った菅野はそこから強引にシュートを放ち、得点を決めた。

 

「ナイスパスだぜ!」

 

「いい感じですよ、スガさん」

 

空と菅野がハイタッチを交わした。

 

「…?」

 

その光景を、生嶋は、何処か不思議そうな表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

この日も猛練習、その後の自主トレを終え、部員達は早々に片付けと着替えを終えて帰路に着いた。

 

「……生嶋」

 

「なんだい、まっつん」

 

共に同じ道を歩いていた松永と生嶋。ふいに松永が話しかける。

 

「今日の綾瀬…いや、ここ最近の綾瀬、何処かおかしくないか?」

 

「ダイがかい?」

 

そう尋ねられ、ここ最近の大地の様子の記憶を辿る。

 

「やけに動きが悪い。今日3ON3で綾瀬とやりあってみたが、あまりにも呆気なさすぎる」

 

「…そう言われてみると、ダイにしてはあっさり点を取られていたね」

 

その時のやり取りを思い出した生嶋が頷く。

 

「疲労がピークなのかな?」

 

「あの綾瀬がか? あり得ないだろう。あいつが極端にパフォーマンスに影響が出るほどオーバーワークをするとは思えん」

 

「だよねー」

 

思いついた事を述べてみたが、松永が否定をし、生嶋も頷く。

 

「ダイもそうだけど、僕はくーも少しおかしいと思うんだよね」

 

「神城が?」

 

「うん。気付いたかい? 新人戦が終わってから、くーのドリブル突破が極端に減っている事に」

 

「……そういえば、練習試合や3ON3でも、パスを捌く事が増えたな」

 

生嶋に指摘され、ここ最近の空を思い出し、頷く。

 

「ドリブル突破から自ら決めるか、マークを集めてそこからのパスを出すのがくーのスタイル。最近は何というか、らしくないと言うか…」

 

「パスをするのが悪いわけではないが、あれはあいつの持ち味を生かし切れるスタイルではないな」

 

自ら勝負して活路を見出すのが空の持ち味。パス主体のゲームメイクは本来の空のバスケとは真逆である。

 

「主将に任命されて事で変に気負っているのではなければいいのだがな」

 

「くーとダイはうちの司令塔とエースだからね。心配だよね」

 

花月の主軸である空と大地を心配する松永と生嶋。

 

「大会までまだ多少の時間がある。監督とて、この事に気付いていないわけがない。もう少し、様子を見てみるか。俺達だって、余裕があるわけではないしな」

 

「あーそうだね」

 

松永の言葉に生嶋が苦笑を浮かべる。

 

昨年、インターハイではほとんど出番がなく、ウィンターカップでは空や大地、天野に頼り切りになる場面が多かったと自覚する2人。今年こそ花月の勝利に貢献したいと気合を入れている。

 

「お前ももう少し体力を付けないとな」

 

「そういうまっつんだって、もっと筋力付けないと」

 

互いの欠点を皮肉りながら、2人は帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それから日付は進んでいき、インターハイ予選が目の前へとやってきた。

 

「集合!」

 

上杉が部員全員を集める。

 

「インハイ予選まであと僅か。今年は例年以上に厳しい練習をお前達にさせてきた。ここまでよく耐え抜いた」

 

『…』

 

「俺はお前達を、全国の頂点を狙えるまで鍛え上げたつもりだ。キセキの世代を倒し、優勝を勝ちとるぞ!」

 

『はい!!!』

 

「心が折れそうになったら今日まで積んできた練習を思い出せ。それがお前達を奮い立たせてくれるはずだ」

 

『はい!!!』

 

「いい気合いだ。この気持ちのまま、大会に殴り込むぞ!」

 

『はい!!!』

 

上杉の言葉に、部員達は腹の底から声を出し、応えたのだった。

 

「今日の練習はここまでだ。これからは大会に向けて体調を整える練習に切り替える。自主練習もするなとは言わんが、ほどほどに切り上げろよ。では、解散!」

 

部員達にそう告げると、部員達はそれぞれ散っていった。

 

「その前に!」

 

『?』

 

踵を返した部員達だったが、振り返る。

 

「インハイ予選の前に中間テストがあるのは覚えているな? くれぐれも赤点を取るような愚行は犯すなよ」

 

「…」

 

その言葉に、空が顔を青くしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

後日…

 

「楽勝!」

 

返却された答案用紙を手にガッツポーズをする空。

 

「ギリギリセーフ…」

 

答案用紙を見てホッとする竜崎の姿があったのだった。

 

かくして、最後の関門(?)である中間テストを無事乗り越え、万全な態勢でインハイ予選に臨む花月。

 

キセキの世代の最後の年である、夏の大会の火蓋が、切って落とされるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





2月頭からリアルがバタついてしまった為、これまで執筆の時間が取れず、気が付けば3ヶ月も空けてしまったorz

まもなく平成が終わってしまう為、せめて平成最後の投稿をと思い、大急ぎで仕上げました…(^-^)

間に合って良かった…(>_<)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

ありがとう、平成!!! おいでませ令和!!!


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第94Q~新生花月~


投稿します!

令和最初の投稿です。

それではどうぞ!



 

 

 

日付は進み、ついに、インターハイ静岡県予選の時がやってきた。

 

「っしゃあっ! 行くぞ!」

 

大声でチームメイトを鼓舞する空を先頭に、花月の選手達は会場へと足を進めている。

 

「ふふっ、空は相変わらずですね」

 

「気合い充分だね」

 

「声でっかいのう…」

 

そんな空を見て笑みを浮かべる大地と生嶋。やや呆れ気味の天野。

 

「…よし」

 

「…」

 

「…ふー」

 

その後ろを、特別声を発するでもなく、松永、室井、竜崎が付いていく。

 

「…っし、やるぞ…!」

 

「…っ」

 

さらに後ろを、静かに気合いを入れる菅野とやや緊張気味の帆足。

 

空達2年生にとっては2度目のインターハイ予選。だが、三杉と堀田がいた去年と違い、今年は自分達がチームを引っ張る立場である。キセキの世代と戦える最後のインターハイ。花月の選手達は全員もれなく気合いが入っていた。

 

「俺達の試合時間は早い。早々に荷物を置いてアップを始めるぞ」

 

『はい!!!』

 

上杉の指示に、選手達は大声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

荷物を控室に置き、準備を整え、コート入りをする花月の選手達。その時…。

 

『来たぞ!』

 

同時に、会場にいた観客達が沸き上がった。

 

「おっ?」

 

あまりの歓声に、思わず空は辺りを見渡す。すると、観客席には、県予選の1回戦にも関わらず、8割近くの観客席が埋まっていた。

 

「おースゲースゲー。こんなに観客入ってるよ」

 

観客の多さに空は僅かに驚く。昨年は1回戦の時は席の半分も埋まっていなかった。

 

「どうやら、目当ては私達のようですよ」

 

観客席をキョロキョロとする空に、大地が話しかける。

 

「昨年、インターハイ優勝。そして、ウィンターカップで秀徳を倒し、桐皇を後一歩のところまで追いつめた我々は、今年の注目度は高いようです」

 

「みたいだな。…ハハッ! いいね、客が多ければそれだけやりがいがあるってもんだよ」

 

自分達の注目度の高さに、テンションを上げる空。

 

「それと、気付いていますか?」

 

「ん?」

 

「観客席には、私達の試合をただ見に来た者ばかりではないようです」

 

「……ああ、そういう事ね」

 

今一度観客席を見渡し、空は大地の言葉の意味を理解する。

 

観客席にはビデオカメラを構える者が多数いる。他にも、他校のジャージを着る者も…。注目度が高いという事は、それだけデータを取られてしまうという事でもある。

 

「…偵察か、ま、別に構わねえよ。データ取られたくらいで負けるようならそこまでだ。第一、今日のデータで分かるのは今日の俺達までだ。明日の俺達は今日を上回ってるんだから、関係ねえな」

 

常に自分達は進化を続けている自負している空は、偵察等気にもかけていない様子だった。

 

「同感です。明日の試合の弾みになるいい試合をしましょうね」

 

「おう」

 

空と大地は拳を突き合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

粛々とアップを済ませ、身体を温める花月の選手達。

 

「3分前!」

 

審判からコールと同時に花月の選手達はベンチへと戻っていく。

 

『…』

 

目前の試合に向けて、選手達は集中力を高めながら試合の準備を進めていく。

 

「……てい」

 

「いたっ!」

 

そんな中、空が大地の脳天にチョップを落とした。

 

「そ、空? 何を…」

 

「お前、それ付けたまま試合するつもりか?」

 

頭を押さえながら講義をする大地に、空はジト目で大地の足元を指さした。

 

「………あっ!? すっかり忘れてました」

 

空の指摘に何かを思い出した大地はベンチに座り、足首のマジックテープをベリベリと剥がし始め、足首に付けていたものを外し、ベンチにゴトリと音を立てながら置いた。

 

「ん? これは、パワーアンクルか?」

 

置いたものの正体に気付いた松永。

 

「ええ、下半身の強化をと思って、4月の中盤くらいから付けていました」

 

「ほう……っ!? 結構重いな。10㎏近くはあるんじゃないか?」

 

想像していた以上の重さに、松永の表情が驚愕に染まる。

 

「片方5㎏ずつです」

 

『…っ!?』

 

正確な重さを聞いた周囲の選手達は思わず目を見開いた。

 

「片方5㎏ってことは10㎏!? そんなの足に付けながらあの地獄の練習してたんですか!?」

 

思わず尋ねてしまう竜崎。

 

「はい。そうですが…」

 

尋ねられた大地は何をそんなに驚いているのかが理解出来ないかのような表情で答える。

 

「(どおりで最近動きが鈍かったはずだ。…いや、むしろ、5㎏のパワーアンクルを付けながらあれほどの動きをしていたのか…!)」

 

パワーアンクルを付けながら花月の猛練習に付いていき、実戦練習では松永の動きに付いていった。その事実に、松永は驚愕していた。

 

「全員、静かにしろ」

 

上杉がそう言うと、花月の選手達は私語を止め、上杉の方へ視線を向け、注目する。

 

「もうまもなく試合だ。まず、いいか。過去の実績は忘れろ。あんなものは所詮、過去のものだ。これから新たな栄光を掴むのに、過去の栄光など必要ない」

 

『…』

 

「これからインターハイ出場を賭けての戦いが始まる。お前達は昨年の実績もあり、追う者から追われる者となる。お前達は静岡県の……いや、全国の猛者達がお前達に注目している。だが、やる事は変わらん」

 

『…』

 

「ここまで積み上げ、創り上げたお前達のバスケをコートで出してこい!」

 

『はい!!!』

 

「よし、行って来い!」

 

「はい!!!」

 

上杉が檄を飛ばすと、選手達は大声で応えた。

 

「監督、何か指示はありますか?」

 

空が上杉に尋ねる。

 

「第1Qでケリを付けろ」

 

「ハハッ! 了解!」

 

昨年、三杉が尋ねた時と同じ答えを言われ、思わず吹き出した空。親指を立てながら返事をすると、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート上のセンターサークル内に集まる花月とその対戦相手のスタメンの選手達。

 

『来たぞ!』

 

『昨年のインターハイの覇者にして、ウィンターカップで秀徳を破り、桐皇を後一歩の所まで追いつめた花月高校!』

 

『この試合を見に来たんだよ!』

 

試合開始目前になると、観客達がざわめきたつ。

 

『…』

 

ジャージを着た者達は、花月の偵察の為、目を光らせる。

 

「これより、花月高校と藤田南高校の試合を始めます」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

センターサークル内に松永と藤田南のジャンパーとして立ち、その他の選手達は周囲に散らばる。審判がボールを頭上に高く上げ、ティップオフ!!!

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

松永がジャンプボールを制した。

 

「おし、ナイス、松永!」

 

空がボールを拾い、ドリブルを始める。

 

「行かせるか!」

 

藤田南のポイントガードが空の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…えっ?」

 

空は同時にクロスオーバーで一気に加速し、横を駆け抜ける。あいて選手はそのあまりの速さに棒立ちで抜かれ、茫然としていた。

 

ツーポイントエリア内まで侵入すると、空はボールを下から放り投げるようにしてリング付近に放る。すると、そこへ大地が走り込み、跳躍していた。

 

「ま、まさか…!?」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

大地が空中でボールを両手で掴むと、そのままリングにボースハンドダンクを叩きこんだ。

 

『…』

 

試合開始僅か10秒程の出来事に相手選手は言葉を失い、会場も静まり返る。

 

『お…』

 

『おぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

静まり返っていた会場が一気に沸き上がった。

 

「おーおー、いきなり派手にやってくれたねぇ」

 

「あなたがあそこに投げたからでしょう。…そもそも、自分で決める事も出来たでしょうに…」

 

空の掛けた言葉に、大地は呆れたような表情で返した。

 

「ま、これで錘外して浮足立った感覚も戻ったろ? そんじゃ、ここから一気に行こうぜ」

 

「えぇ」

 

空と大地はハイタッチを交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そこから試合は花月ペースで進んだ。

 

手始めのアリウープで浮足立った藤田南。得意のパスワークが上手く決まらず、不用意に出したパスをスティールされるか、シュートまで持って行けず、オーバータイムでオフェンス失敗を繰り返す。

 

空は、ドライブで切り込んで何本か決めると、そこからパスを捌き、味方の得点をアシストしていく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

生嶋がパスを受けて外からスリーを決め…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

松永がゴール下でボールを受け、ダンクを叩きこむ。

 

天野がスクリーンやポストプレーでチャンスを演出し、時に自ら得点を決める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地がドライブで一気に切り込む。

 

「は、速い!」

 

あっさり抜かれた相手選手は、思わず後ろを振り返る。

 

「…えっ?」

 

だが、振り返ると、そこに大地はおらず、思わず素っ頓狂な声が出る。

 

「う、後ろだ!」

 

味方選手が指を差す。それに釣られて振り返ると、先程大地がドライブを開始した位置より僅か後方に大地はいた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーとなった大地は悠々とジャンプショットを決めた。

 

「とんでもない速さで切り込んだかと思ったら、とんでもない速さでバックステップしやがった…。あんなのありかよ…」

 

目の前で起きた事実を目の前に、相手選手が茫然としていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合はそのまま花月ペースで進んでいった。

 

得意の機動力を生かしたオフェンスとディフェンスで相手を翻弄。藤田南はオフェンスではチャンスを作れず、ディフェンスは的を絞れず、得点を許してしまう。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了。

 

花月  46

藤田南  6

 

 

『ハァ…ハァ…!』

 

藤田南の選手達は、既に試合終了したかのように息を切らしながらベンチに戻っていく。

 

『つ、つぇー!!!』

 

『去年の冬の結果はマグレじゃねえぞ!』

 

圧倒的な試合展開と点差に、観客達も盛り上がる。

 

『勢いと運動量で戦ってた去年と違って、連携が深まっている…』

 

『スタメンも、かなり伸びてやがる』

 

偵察に来た他校の選手達も、想像を超える花月の強さに冷や汗を掻く者も。

 

「よし、緒戦の入り方としては上々だ」

 

腕を組みながら上杉が選手達を称える。

 

「ここからは選手を入れ替えながら試合に臨む。神城、天野、交代だ」

 

「なんや、もう交代かいな」

 

「ちぇ、もっと出たかったな」

 

交代を告げられた空と天野は物足りなそうな表情をする。

 

「代わりに竜崎。ポジションは1番だ。ゲームメイクはお前に任せる」

 

「はい。分かりました」

 

「天野のポジションには松永が入れ、空いたセンターは……室井。お前が入れ」

 

『っ!?』

 

松永を4番、パワーフォワードにポジションチェンジさせ、5番、センターのポジションに室井を置いた事に選手達の間に軽いどよめきが起きた。竜崎は同じ1年であるが帝光中出身という肩書きがあるので当然だが、室井は高校に入学して本格的にバスケを始めた言わば素人。あまりの速い実戦投入に選手達は驚く。

 

「勉強してこい」

 

「はい!」

 

上杉が掛けた言葉に、室井は力強い声で応えた。

 

「今日は全員試合に出場させるつもりだ。今、呼ばれなかった者もいつでも試合に出られるよう準備しておけ」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

OUT 空、天野

 

IN  竜崎、室井

 

 

空と天野がベンチに下がり、竜崎と室井がコートへとやってきた。

 

第2Qに突入しても、花月の勢いは止まらなかった。外から生嶋が、松永が切り込んで中から、大地が中と外から確実に得点を重ねていった。

 

「1本! 行きましょう!」

 

空の代わりにポイントガードを任せられた竜崎も、下級生ながら、司令塔として堅実にゲームを組み立てていった。

 

ボールがローポストに立っていた藤田南のセンターに渡る。

 

「(中には切り込ませない。身体を張って、ここで死守だ!)」

 

何とかゴール下まで押し込もうとする相手センターを、室井が身体を踏ん張って押しとどめる。

 

「(くそっ、こいつ! ビクともしない、だったら…!)」

 

押し込めないと見た相手センターはここでスピンターンでゴール下に切り込み、そのままシュート態勢に入った。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「(これは練習で散々体験したパターンだ。松永先輩のものに比べれば格段に遅い!)」

 

ボールが放たれると同時に叩き落とし、ブロックに成功する。

 

「いいぞ室井! その調子だ! …よし、速攻!」

 

ルーズボールを松永が拾い、前線へとパス。ブロックと同時に前へ走っていた大地にボールが渡る。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままワンマン速攻、レイアップを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qも、花月が終始、藤田南を圧倒。

 

時折、室井のポジションから崩される事もあったが、キャリアの浅さを持ち前の身体能力でカバー。申し分ない結果を残す。

 

第3Q、後半戦に突入すると、生嶋と松永がベンチに下がり、菅野と帆足がコートに入る。

 

「行くぜぇっ!!!」

 

「……よし…!」

 

気合いを入れてコートに入る菅野と、緊張しながらも静かに気合いを入れながらコートに入る帆足。

 

「帆足、行け!」

 

「ありがとうございます!」

 

菅野がスクリーンをかけ、帆足をフリーにする。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーになったところで竜崎がパス。帆足がボールを受け取り、そのままジャンプショットを決めた。

 

「や、やった…!」

 

自身公式戦初出場で初得点を決めた帆足は拳を握って喜びを露にする。

 

「帆足先輩、ディフェンス! 戻りましょう!」

 

「あっ! スマン!」

 

竜崎に促され、正気に戻ると、帆足はダッシュで自陣へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合はスタメンの大半がベンチに下がるも、花月は1度も点差を詰められる事なく試合を進めた。

 

「任せますよ」

 

「おう!」

 

第4Q中盤には大地と空がメンバーチェンジ。空がポイントガードに入り、竜崎がスモールフォワードに入った。

 

空は極力1ON1を仕掛けず、パスを散らしてチームメイトに積極的に点を取らせるゲームメイクに徹した。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴った。

 

 

花月  148

藤田南  36

 

 

100点以上の点差を付け、花月が1回戦を突破した。

 

『やっぱ花月つえー!!!』

 

『スタメンだけじゃねえ、ベンチも結構やるぞ!?』

 

スタメンの5人だけではなく、ベンチメンバーも試合に大いに貢献し、観客達はざわめいていた。

 

「引き上げるぞ! 片付けは迅速に行え。後の高校を待たせるな」

 

上杉が引き上げの号令をかけると、選手達は全員で荷物を纏め、ベンチを後にする。

 

『頑張れよー!』

 

『また全国でキセキを起こしてくれー!』

 

コートを去ろうとする花月に、観客から声援が掛けられた。

 

「おーおー、今年はえらい期待されてんなー」

 

「喜ばしい限りです。是非とも期待に添えたいですね」

 

観客達の声援を受けて胸を熱くさせる空と大地。花月への応援の言葉は、コートを去るまで送られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も、2回戦、3回戦と快勝し、順調に勝ち進んでいく。

 

昨年の運動量を生かしたバスケに加え、連携も巧みにこなし、個人技だけではなく、チームプレーもこなせる事を見せつけていく。

 

ベンチメンバーもスタメンの後を立派に引き継ぎ、勝利に貢献する。こうして花月は、決勝リーグに勝ち進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

決勝リーグまで勝ち抜いた花月高校。

 

 

Aブロック代表、花月高校

 

Bブロック代表、鬼羽西高校

 

Cブロック代表、福田総合学園高校

 

Dブロック代表、松葉高校

 

 

以下の4校が決勝リーグまで駒を進めた。この4校で、インターハイ出場の2枠を巡って試合を行う。

 

花月が決勝リーグで戦う相手はBブロックを勝ち抜いた鬼羽西高校。堅守が持ち味の決勝リーグ常連の強豪校である。

 

「スタメンはこれまでと同じ、神城、生嶋、綾瀬、天野、松永だ」

 

『はい!!!』

 

「鬼羽西高校は昨年同様、ここまでの全ての試合を40点以内に抑えて勝ちあがっています。それに付け加え、昨年以上のオフェンス力で得点を重ねています。今年に鬼羽西高校は、昨年の以上の強さと見ていいと思います」

 

姫川から鬼羽西高校の情報が選手達に伝えられる。

 

「ここからはこれまでのように行くと思うな。試合終了のブザーが鳴るまで全力を尽くせ!」

 

『はい!!!』

 

「よし、行って来い!」

 

「っしゃあっ! 行くぞ!!!」

 

上杉の檄を受け、空がさらに声を張り上げ、スタメンに選ばれた5人がコートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「(さっすが、堅守が売りだけあって、簡単にはパスは出させてくれないか…)」

 

パスターゲットを探しながらボールをキープする空。鬼羽西の選手達はパスコースを塞ぎながらディフェンスに臨んでいる。

 

「(パスが出せないなら自ら……けど、それじゃ面白くねえ…)」

 

あくまでもパスにこだわる空。ここで、空が天野に合図を出す。合図を受け取った天野が空をマークする選手にスクリーンをかけるべく動く。

 

「(ええで!)」

 

「(あざす!)」

 

天野がスクリーンをかけたのと同時に空がドライブ。中へと切り込んでいく。

 

「スイッチ!」

 

スクリーンにかかった鬼羽西の4番の選手だが、対応が早く、すぐさまマークチェンジ。天野をマークしていた7番の選手が空のヘルプに向かう。だが…。

 

「…えっ?」

 

次の瞬間、空は7番の選手の股下を通すようにボールを投げつける。股下を通ったボールはそこに駆け込んでいた大地に渡る。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った大地がそのままレイアップを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、オフェンスでは空が針に穴を通すようにパスを出し、鬼羽西の堅いディフェンスを突破。ディフェンスでは空と大地がその運動量とスピードを生かして相手を翻弄し、オーバータイムを誘発させていく。

 

空の単独突破を警戒していた鬼羽西だったが、空がパス中心のゲームの組み立てをしてきた事で予測を外され、常識では考えられない所からボールを通され、自慢のディフェンスも機能せず。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴った。

 

 

花月  83

鬼羽西 54

 

 

花月が順調に第1戦を制した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2戦…。

 

この日の花月の相手は静岡の強豪校が1校、松葉高校。松葉も花月同様、第1戦の福田総合を破り、勝ち星を上げている。

 

かつては静岡の覇権を握っていた松葉。だが、近年では福田総合、昨年時は花月が現れた事で王者の座から遠のいており、失った覇権を取り戻す為、気合い充分。

 

「行くぞ、勝つのは俺達だ!」

 

『おう!!!』

 

空を先頭に、花月もインターハイ出場がかかった試合の為、気合いは充分に入っていた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

大地が相手選手の上からダンクを炸裂させる。

 

「っ!?」

 

自分の方が身長が高いにも関わらず、上からダンクを決められ、松葉の選手は驚きを隠せない。

 

この試合でも空はボール回しに徹し、自身の突破は極力控え、アシストに徹する。空の単独突破を目当ての観客からは一部不満の声が出たが、偵察に来ていた他校の選手からは巧みなボール回しを目の当たりにして、空の司令塔としての力を認識した。

 

空がボールを回し、大地、生嶋、松永が得点を稼ぎ、天野がリバウンドを制し、相手エースを封殺した。そして…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了

 

 

花月 106

松葉  77

 

 

30点近い点差を付け、花月が快勝したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

インターハイ静岡県予選決勝リーグ最終戦。

 

「2勝しているからと言って気を抜くな。相手も死に物狂いでこの試合に臨んでくる。最後まで全力を尽くせ」

 

すでに2勝し、8割方インターハイ出場を決めた花月だったが、未だ確定している訳ではないので上杉は集中を促す。

 

相手は福田総合学園高校。松葉と同じく静岡の強豪であり、一昨年のウィンターカップではキセキの世代の黄瀬を擁する海常高校を後一歩のところまで追いつめた強豪である。

 

第2戦で鬼羽西を破り、この試合で点差を付けて勝利が出来ればインターハイ出場の希望がある為、気合いは充分入っていた。

 

「……あれ? やっぱり、灰崎祥吾はいないんだな」

 

空が、福田総合のベンチ内に灰崎がいない事に気付いた。

 

「えぇ、去年と同じく、ベンチにも入っていないわ」

 

姫川が空の疑問に答えるように補足した。

 

「気になって調べてみたのだけれど、灰崎祥吾はバスケ部に所属していないみたいなの。それどころか、学校にもいないみたい」

 

「はっ? どういう事だよ」

 

姫川から告げられた言葉に空が思わず声を上げる。

 

「何でも、もともと素行が良くなかったらしくて、ウィンターカップ終了後にバスケ部を退部になって、それから学校に来なくなったみたいで、行方を探っても退学処分になったとか、自ら退学届を出して辞めてしまったとかそんな話しか…」

 

「……そうか」

 

元キセキの世代にして、黄瀬涼太を追い詰めた逸材。1度、戦ってみたいと思っていた空は残念がる素振りを見せる。

 

「ま、考えても仕方ない。俺達がやる事は変わらない。全力で勝ちに行くだけだ」

 

そう言った空は気持ちを切り替え、目の前に迫る試合に向けて、集中するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合が始まり、福田総合はチーム一丸の全員バスケで花月にぶつかる。

 

序盤は得点のキーマンがおらず、チャンスがあれば全てのポジションから積極的にシュートを狙ってくる福田総合に食い下がられる場面がちらほら見られた。

 

「…福田総合のスタメンは全員3年生。ウチは全国経験者が揃っていると言っても主力の大半が2年生。その差が出ていますね」

 

なかなか点差が開かない展開に姫川は経験の差を挙げる。

 

「…ふむ、昨年の大仁田もそうだが、絶対的なエースがいるチームが必ず勝つとは限らん。それぞれが与えられた役割、出来る事を全力で行えば格上や絶対的な個がいる相手にも勝利する事もできるのがバスケだ」

 

ベンチで腕を組みながら告げる上杉。

 

「タイムアウトを取りますか?」

 

「……いや、いい。やり辛さを感じてはいるが、選手達は焦ってはいない。きっかけがあれば展開は変わる。今は様子を見る」

 

1度流れを切る為にタイムアウトを提案した姫川だったが、上杉は首を横に振った。そして、上杉の言葉は、現実のものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まると、空と大地が積極的に動き、スティールを連発し、そこから得意に速い展開に持ち込んだ。

 

福田総合は、花月の速い展開に付いていけず、じわじわと点差を付けられていき、第3Qが終わった頃には点差は20点以上に点差が付いていた。

 

第4Q中盤になると、空、大地、松永がベンチに下がり、竜崎、菅野、室井がコートへと向かった。

 

「最後まで攻めていきましょう!」

 

竜崎が懸命に声を出してチームを鼓舞しながらゲームを組み立てていく。主力が3人下がっても花月は福田総合に食らいつき、そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了

 

 

花月   86

福田総合 60

 

 

「いよっしゃぁぁぁぁっ!!! 優勝だぁぁぁっ!!!」

 

全勝でインターハイ出場1位突破を決め、喜びを露にする空。

 

「よう頑張ったで、1年生コンビ!」

 

「当然ですよ!」

 

「…いえ、自分なんてまだまだです」

 

竜崎と室井の肩に手を回しながら激励する天野。竜崎は胸を張りながら喜び、室井は表情変える事無く謙遜の言葉で返した。

 

「全国だよ、まっつん」

 

「ああ」

 

ハイタッチを交わす生嶋と松永。菅野が帆足の首に腕を回して喜び、帆足は苦しみながらも喜びを露にし、姫川と相川は手を取り合って喜んでいた。

 

隣のコートでは、松葉が鬼羽西を破り、残りの枠を松葉が獲得した。

 

こうして、花月は1位で静岡県予選大会を突破し、インターハイの舞台に足を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

静岡県予選を危なげなく突破した花月。

 

他県でも、京都の洛山高校、秋田の陽泉高校、神奈川の海常高校が同様に圧倒的な強さで予選大会を突破した。

 

全国一の注目の的にして、激戦区東京。

 

決勝リーグには誠凛、桐皇、秀徳、正邦が勝ち上がった。

 

結果は、誠凛、桐皇、秀徳の3校が2勝1敗で並び、得失点差で1位が誠凛。2位が桐皇。3位が秀徳という結果となり、この3校がインターハイ出場を決めた。

 

こうして、県予選が終わり、各県を勝ち抜いた強者達がインターハイの舞台へと駒を進めた。

 

そして、キセキ達の最後の夏の戦いが始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





静岡県予選の試合はほぼほぼダイジェスト。東京都の試合も省略致しました。理由としましては、事細かに執筆したら多分、それだけで今年が終わりますw

後は上手く執筆出来る自信がなかったのと、何より新世代の誠凛・桐皇・秀徳の秘密にしたかったので…(;^ω^)

恐らく、1話挟んでインターハイの執筆を始ます。インターハイの大まかな展開と結果はすでに決まっているのですが、肝心な試合描写がまだ固まっていない状況です。正直、これが1番の難関です…(>_<)

今一度、原作、他作品、現実のバスケの映像を見ながら構想を固めると思いますので、暫しお待ちを…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第95Q~夏の合宿~


投稿します!

いやー久しぶりです…(;^ω^)

いろいろあって間隔があいてしまいました。ブランクが長いので、ちょっと不安です…。

それではどうぞ!



 

 

 

インターハイ静岡県予選を全勝で突破した花月高校…。

 

花月の選手にとってインターハイ出場はあくまでも目標達成の為の通過点に過ぎず、喜びも早々に、翌日からインターハイに向けての猛練習を行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

日々は過ぎ、花月高校1学期の終業式が行われる数日前…。

 

「目の前に迫ったインターハイに向けて、終業式の翌日から最後の調整の為、合宿を行う」

 

終業式が行われる1週間前に上杉の口から選手達に発表される。

 

「来よったか…」

 

発表されると、天野の表情が曇る。

 

「? 天野先輩、どうかしましたか?」

 

その様子を目の当たりにした竜崎が尋ねる。

 

「地獄の合宿や。これまでの練習が温く思える程の猛練習が始まるで…」

 

げんなりしながら天野が口にする。

 

『……はぁ』

 

ふと、周囲を見渡すと、3年生が一斉に溜め息を吐いていた。

 

「でも、去年はインハイ前に合宿やりませんでしたよね?」

 

「去年は花月が毎年利用しとる宿泊施設が改修工事で使えなかったらしくてな。他に都合も付かなくて中止にしたらしいぜ」

 

疑問を抱いた空に、菅野が説明する。

 

「一昨年はインターハイに出られなかったから冬に向けての合宿だったが、…思い出しただけで吐き気が…」

 

合宿の思い出を振り返った菅野が顔面を蒼白にする。

 

「昨年の主力が全員残っているウチは、他校に比べて戦力ダウンが少ない。だが、裏を返せば大きな変化もないという事だ」

 

上杉が胸の前で両腕を組みながら言葉を続ける。

 

「当然、研究もされている。僅かに進歩したくらいでは全国では戦えない。ましてや、キセキを擁するチームに勝つなど、夢のまた夢だ」

 

『…』

 

「残された僅かな時間とて無駄には出来ん。インターハイの頂点を目指すなら、少しでも厳しい環境に身を置いて前へ進むという気持ちが大事だ。故に、より厳しい練習を合宿でお前達に課す。各々、準備と覚悟をしておけ」

 

『はい!!!』

 

選手達が上杉の言葉に大声で応えた。

 

そして、終業式を迎え、翌日、花月高校バスケ部の、合宿が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

早朝に校門に集合した花月の選手達と、監督である上杉とマネージャーの姫川と相川。

 

用意されていたバスに乗り込み、合宿所へと走り出した。

 

「スー…スー…」

 

「…」

 

「♪~♪」

 

「…(ポチポチ)」

 

移動中のバスの中では、睡眠を取る者、本を読む者、音楽を聴く者、スマホをいじる者などをしながら目的地到着までの時間を過ごしていた。

 

海沿いの道をすすんでいくバス。そして…。

 

「着いたぞ」

 

上杉がそう言うと、前方に宿泊施設が見えてきた。

 

「ふぁ~…、やっと着いたか…」

 

大きく伸びをし、あくびをしながら身体を起こす空。花月の選手達がバスから下車していく。

 

「…おっ、すげー! めちゃめちゃキレーな施設じゃん」

 

「そりゃ、改修工事したばかりやからのう」

 

新築さながらの宿泊施設を目の前に空が興奮を露にする。

 

「そこの山道を少し進むと体育館がある。…まずは全員、部屋に荷物を置いて着替えを済ませろ。すぐに練習を始めるぞ」

 

上杉の指示を受け、部員達は施設内へと向かっていく。その時…。

 

「……ん?」

 

遠くから微かに響くエンジン音に空が気付き、振り返る。

 

「どうしましたか?」

 

そんな空を見て大地が尋ねる。

 

「…いや、向こうから何か……おっ?」

 

質問に答えようとすると、先程空達がやってきた道から1台のバスが現れた。

 

「何だ、俺達以外の利用者か?」

 

「…おかしいな。他の部活動が宿泊する話なんて聞いてねえし、ここは花月御用達の施設だから他校が来る事もないはずなんだが…」

 

松永の言葉に答えるように菅野が言う。

 

「ああ、言い忘れていたが、今年は他校と合同の合宿を行う。同じ、インターハイ出場校だ」

 

部員達の疑問に答えるように上杉が説明する。やがてバスが止まると、中から人が降りてきた。

 

「…くぁ~、やっと着い――っ!? おめぇらは!?」

 

バスから降りてきた人物は、空達に気付き、驚いていた。

 

「どうかしましたか? 後ろが閊えているので早く進んで――っ!?」

 

続いて降りてきた人物も空達を見て表情が驚愕に染まっていた。そこから続々と人が降りてくると、皆が一様に表情を驚きに変えていった。

 

「…ハハッ! よりにもよって、合同の合宿相手があんた達とはね」

 

「…俺も、合同の話は聞いてたが、まさかお前らとはな」

 

「お久しぶりです。こうやってまともに顔を合わすのは、去年の夏以来ですね……火神さん」

 

「おう、久しぶりだな、神城」

 

空の目の前までやってきた火神が不敵に笑いながら声を掛けた。

 

お互いが合同の合宿相手を知り、両校の選手達は互いに驚愕していた。

 

「お久しぶりです、おじ様。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 

誠凛の監督であるリコが上杉の前までやってきて、挨拶をする。

 

「遠路はるばるすまんな。共に刺激をし合っていい合宿にしよう」

 

挨拶を返す上杉。

 

「トラの奴は…」

 

「えっと、パパは仕事の都合で…、ここには顔を出すとは言っていたので…」

 

「そうか。…部屋については事前に通達したとおりだ。部屋の鍵はフロントから受け取ってくれ」

 

「お気遣いありがとうございます。…みんな、部屋割りは出発前に渡した紙のとおりよ。部屋に荷物を置いたらすぐに準備をしてここに集まりなさい! 花月の方達を待たせるんじゃないわよ!」

 

『はい(うす)!!!』

 

リコが指示を飛ばすと、誠凛の選手達は大きな声で返事をした。

 

「んじゃ、また後でな」

 

そう声を掛け、火神は施設内へと向かっていった。

 

「神城! 綾瀬!」

 

「おー田仲!」

 

「お久しぶりです」

 

星南中時代のチームメイトである田仲が空と大地の下にやってきた。

 

「まともに顔を合わせんのは卒業以来か」

 

「そうだな。去年のインハイは結局話せなかったからな」

 

かつては共に全中で戦い、優勝まで勝ち進んだ3人。空と大地は花月高校に進み、田仲は親の都合で東京に引っ越し、誠凛高校に進んだ為、携帯でのやりとりこそあったが、こうして会うのは1年ぶりの事であった。

 

「聞いたぜ。予選じゃ、大活躍だったらしいじゃん?」

 

「俺なんて大した事ないよ。足引っ張ってばっかだよ」

 

「そう謙遜すんなよ。全中優勝校のキャプテンがよ」

 

「よせよ。それこそ、お前と綾瀬の2人おかげじゃないかよ」

 

謙遜する田仲に対し、空は意地悪気な表情をしながら田仲の腹を肘でグリグリする。

 

「おい、田仲。いつまでくっちゃべってんだよ。早く来いよ!」

 

2人が会話をしていると、施設の入り口に立っていた池永が田仲を呼ぶ。

 

「…っと、悪い! すぐ行くよ!」

 

「……ふん」

 

田仲がそう返すと、池永は空の方に視線を向け、1度鼻を鳴らして施設内へと入っていった。

 

「…相変わらず嫌味な野郎だな」

 

咎めるような物言いに、もともと池永に良い印象を持っていない空は悪態を吐いた。

 

「まぁそう言うなって。あれでも結構マシになったんだぜ?」

 

「あれでかよ。…つうか、結局のところ、あいつどうなんだ? 正直、中学時代もそうだが、高校に進んでからもあいつの良い噂は聞かないぜ?」

 

怪訝そうな表情で空が田仲に尋ねる。

 

「まあ、それは俺も否定はしないけど…」

 

空の指摘に、バツの悪い表情をする田仲。

 

「けどあいつ、冬の大会が終わってから変わったぜ。それまでは自分勝手なところが多かったけど、今ではそれもほとんどなくなったし、インハイ予選だって、かなり活躍してたしな」

 

「…ふーん」

 

田仲がそう説明しても、いまいち信じられず、目を細める。

 

「今のあいつはあの火神さんを相手にしてもたまに止めたり点を決めたりしてるから、神城でも簡単にはいかないと思うぜ」

 

「っ!? 火神さん相手に……それは、楽しみだな…」

 

「…っ、警戒が必要な選手になったみたいですね」

 

話を聞いて空は不敵に笑い、大地は真剣な表情で池永が入っていった施設の入り口に視線を向けたのだった。

 

「…? そう言えば、今回の合宿には黒子さんは参加されないのですね」

 

大地が施設内に向かう誠凛の選手達を見送りながら呟く。

 

「参加しますよ」

 

「っ!?」

 

突如、背後から話しかけられ、驚く大地。

 

「く、黒子さん、いつの間に……!?」

 

「? 普通にバスから降りてきただけなのですが…」

 

驚く大地に首を傾げながら説明する黒子。

 

「何言ってんだよ大地。火神さんの次に普通にバスから降りてきてたじゃん」

 

不思議そうな表情で大地を見つめながら空が説明する。

 

「……全く気付きませんでした」

 

「…それでは、お先に失礼します」

 

そう告げて頭を下げると、黒子も後に続くように施設に向かっていった。

 

「俺達も早く行こうぜ」

 

「……えぇ、そうですね」

 

空に促され、大地は施設に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

割り当てられた部屋に荷物を置き、着替えを済ませると、花月、誠凛の選手達は施設の傍にある体育館に集合した。

 

「これより、花月と誠凛の合同合宿を始める。俺は花月高校の監督、上杉剛三だ。今日より1週間、合宿の指揮を取らせてもらう。よろしく頼む」

 

『お願いします! (しゃす)!!!』

 

上杉が挨拶をすると、誠凛の選手達が頭を下げて挨拶をした。(誠凛の選手達は、リコから合同合宿する高校の監督の練習メニューを行う事を事前に聞いていた為、特に異論を放つ者はいない)

 

「ではこれより練習を始める。全員、靴を履き替えて外に出ろ!」

 

そう指示を飛ばすと、花月、誠凛の選手達は外へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

靴を履き替えて外に出ると、各自、入念に準備運動を始める。

 

「各自、インハイ直前にケガしたくなければ準備運動はしっかりやっとけよ!」

 

怪我の防止の為、入念に準備を促す上杉。

 

「全員、そのまま話を聞け、まずは走り込みから始める。コースはここから道なりに進んで、この辺一帯をぐるっと1周のコースだ。距離はおよそ3キロ程だ。5人ずつ間隔をあけてスタートしてもらう」

 

『…』

 

最初の練習メニューを両校の選手達は準備運動しながら頭に入れていく。

 

「この走り込みに時間制限を設ける。1周、10分以内に走り切れ。1周終えたら1分のインターバル後にスタートだ。その間、しっかり呼吸を整えながら水分補給をするように」

 

「10分か。結構きついな」

 

「ハァッ? 余裕だろ。花月の練習は随分温いんだな」

 

時間制限を聞いて息を飲む者もいる中、池永は鼻で笑っていた。

 

「これを12本行う」

 

『っ!?』

 

最後の言葉を聞いて大半の選手達が驚愕の表情で顔を上げた。

 

3000メートルを12本。つまり、今から36キロの距離を走らなければならない。それも、時間制限付きで。

 

「走り切るのに時間をかけ過ぎればそれだけ休憩時間がなくなる。死ぬ気で10分以内で走り切れ」

 

『…』

 

淡々と説明をする上杉。選手達の表情がどんどん曇っていく。

 

「…ちなみにちなみにコースは登りも下りもあるし、途中、足場の悪い山道もあるで。せやから普通に3キロ走るよりキツイで」

 

補足するように言う天野。それを聞いた選手達の表情はさらに曇ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

1組目、2組目が続々スタートしていく。

 

「3組目、並べ!」

 

「っしゃっ、次は俺達だな」

 

「頑張りましょう」

 

上杉に呼ばれ、空と大地がスタートラインに並ぶ。

 

「てめえらだけには負けねえ」

 

「…ふう」

 

池永が空と大地を睨みつけながらスタートラインに立ち、新海は呼吸を整えながらそれに続く。

 

「よろしく」

 

最後の1人、能面の顔をした男が空と大地に挨拶を交わす。

 

「ああ……えーっと…」

 

「朝日奈大悟。一応タメ。最後の年の全中には俺も出てたんだけどね」

 

顔と名前を知らなかった空が返事と同時に少し困った表情をすると、軽く自己紹介をした。

 

「へえー、もしかして、対戦した?」

 

「いや、当たる前に負けたから」

 

「そうか、さすがに試合したわけでもない奴の顔までは分からねえわ」

 

「別にいいよ。…この合宿中に覚えてもらうから」

 

そう言って、表情を変える事なく視線をコースの先に向けた。

 

「そうかい。楽しみにしてるぜ」

 

そう返すと、空もコースの先に視線を向けた。

 

「3組目、スタート!」

 

号令と共に上杉が笛を吹くと、5人が同時にスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

『…』

 

黙々とコースを走る5人。走るコースは先の天野説明にあったが、そこまで急でもないがアップダウンがあり、途中、足場が不安定な山道がある。

 

「(…少しペースを上げるか)」

 

空が心中でそう呟くとペースを上げ、5人の先頭に出る。同じ事を考えていた大地も2歩程遅れて前に出る。

 

「…ん?」

 

直後、池永がペースを上げ、空達の前に出る。

 

「おめえらに俺の前は走らせねえ。12本全部俺のケツでも拝んでろ」

 

嘲るような表情で2人に告げる。

 

「…カッチーン。上等。受けて立ってやる」

 

「…出来るものならやってみてください」

 

その言葉と表情に怒りを覚えた空と大地はさらにペースを上げていった。

 

「…あいつら、後11本走らなきゃならない事分かってんのかな?」

 

「…放っておけ。それより、無駄口を叩かない方がいい。呼吸が乱れるぞ」

 

能面のまま呟く朝日奈の言葉に、表情を変える事無く新海は返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「…おらぁっ! ゴールだ!」

 

「…分かってますから静かにしてください」

 

1本目を走り終えた空が声を上げながらゴールすると、横を走っていた大地が呆れながら空を諫める。

 

「足を止めるなよ。ゆっくり歩きながら水分補給をしろ。水はあまりがぶ飲みするなよ」

 

そう上杉に促され、2人は相川からドリンクを受け取り、歩きながら口にした。

 

「くそがっ! 次は負けねえ!」

 

遅れる事30秒程で池永がゴールする。その少し後を新海、朝日奈の順にゴールしていく。ゆっくり歩きながら水分補給を行う。やがて、1分のインターバルが過ぎ…。

 

「3組目、2本目、スタート!」

 

笛が鳴り、3組目がスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

それから、3本目、4本目と、選手達は走っていく。この辺りからペースが落ち、体力に自信がない者が10分が切れなくなっていく。

 

そして7本目8本目に進むと…。

 

「(…っ!? なんなんだよあいつらは…!?)」

 

「(……ちくしょう、…ちくしょう…!)」

 

「(…っ、化け物め…!)」

 

朝日奈は目を見開き、池永は悔しさを露にし、新海は歯を食いしばった。

 

現在3組目は9本目を走っている。既に、走行距離は24キロを超え、ハーフマラソン以上の距離を走っている。最初の何本かは3000メートル走を9分切って走っていた空、大地、池永。ペースを掴んだ新海と朝日奈は9分30秒から50秒のペースで走っていた。だが、5本目から池永は9分を切れなくなり、本数を重ねるごとにタイムが落ちていき、新海と朝日奈も、覚えたペースで走る事に苦しさを感じるようになっていった。

 

だが、空と大地は9本目に入っても変わらないスピードとペースを保ち、全ての本数を8分中盤程のペースで走り切っていた。そして、それ以上に3人を凍り付かせたのが…。

 

「…っしゃっ、来い!」

 

「言われなくとも、行きます!」

 

スタート地点の広場には、片面だがリングが1つ設置されている。そこで、空と大地は1ON1をしていた。2本目終了時、空がマネージャーの相川にボールを持ってきてもらうよう頼み、3000メートルを走り切った後に2人で勝負を始めた。さすがにこの行動に姫川が苦言を呈し、しっかり休むよう言ったのだが…。

 

『この走り込みって、10分間走り切れるスタミナを付けることと1分間のインターバルで呼吸を整える為の回復力を付けさせるのが目的だろ? 俺ら8分半くらいしか走ってないから、残りの1分半動かないと』

 

平然と言ってのける空。呆れて物も言えなくなった姫川。

 

『この走り込みはペース配分を身体に叩き込む意味も兼ねているのだが…、まあいいだろう。ただ、1分間は必ずインターバルを取れ。後、万が一、1本でも10分超えたらさらに特別なペナルティーを科すからな』

 

そう言って、上杉は2人の行動を承認した。

 

「「「…」」」

 

息も絶え絶えになって3000メートルを走り切った同グループの3人はその光景を見て言葉を失い、背中に冷たいをものを感じたのだった。

 

その後、12本の走り込みを終えた花月・誠凛の選手達。12本、全て10分切れたのは、花月では空、大地、天野、室井。誠凛では火神と新海だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「場所を移動するぞ。各自、呼吸を整えながらゆっくり俺について来い」

 

12本の走り込みが終わった後、呼吸を整えながらゆっくり移動を促す上杉。

 

『ハァ…ハァ…!!!』

 

すでに12本の走り込みを終えている両校の選手達は、空と大地を除いた全員が険しい表情をしている。歩く事20分。やってきたのは一面海。目の前には砂浜。

 

「姫川、相川」

 

「「はい!」」

 

砂浜に足を踏み入れ、上杉が合図を出すと、2人がカラーコーンを持って移動し、所定の位置に置いていく。カラーコーンは10メートルの間を開けて2つ置かれると、そこから30メートル程離れた場所に同じように10メートルの間を開けて置かれた。

 

「先程作った5人組、1組ずつそこに並べ。これからこのカラーコーンから向こうのカラーコーンまでダッシュしろ!」

 

『…っ』

 

そう指示を出す上杉。表情が引きつる選手達。

 

既に先の走り込みで乱れた呼吸はだいぶ整ってはいるが、かなり疲弊している。しかも砂浜は砂地故、足が取られ、走りにくい為、脚にかかる負担は補装された道路の比ではない。

 

「1組目、早く並べ!」

 

躊躇う選手達に上杉が檄を飛ばす。1組目がカラーコーンで作ったラインに並び、笛を合図にダッシュを始めた。続いて2組目も笛と同時にダッシュし…。

 

「3組目!」

 

笛が鳴ると、空と大地のグループがスタートする。

 

「おぉぉぉぉーーーーーっ!!!」

 

気合い充分にダッシュをする空。加速力のある空が先頭に立つ。その僅か後ろには大地。

 

「くっ…!」

 

「くそっ…!」

 

「…っ」

 

疲労と砂に足を取られ、2人に大きく離される新海、池永、朝日奈。1本目は、空が先頭でゴールし、2歩差で大地。少し距離が空いて3人がゴールした。

 

「こうやって走ると、中学時代を思い出すな」

 

「ええ。龍川監督の指示でよく走りましたね」

 

星南中時代に龍川の指導で地元の海岸で走り込みをしまくった2人。その為、砂浜を走る事には慣れており、さほど苦も無く砂浜を走っていた。

 

その後も、代わる代わるダッシュをし、歩きながら呼吸を整えてスタートラインに戻り、走るを繰り返した選手達。砂浜でのダッシュは合計100本行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

砂浜から体育館に戻ると、スリーメン、ファイブメンが行われる。1度でもミスをすれば1からやり直しルールで。

 

「おっ、やってるな」

 

そこへ、リコの父親であり、誠凛のコーチを引き受けている景虎が体育館に現れた。

 

「トラか。久しいな」

 

上杉の傍までやってきた景虎に視線を向ける。

 

「あいつらの様子を見るに、相変わらずしぼりまくってるみてぇだな」

 

体育館を苦しそうな表情で選手達を見ながら上杉に言う。

 

「…なるほど、誠凛、花月の選手の混合でのファイブメンか。一見意味がないように見えるが、相手のリズムと呼吸を瞬時に掴まなきゃならねえから難易度は上がる」

 

花月と誠凛。同じチームで試合をする事がない両校が交じってスリーメン、ファイブメン。チームメイトのリズムや呼吸を掴むのは確かに大事だが、試合中、必ずしも練習どおりのパスが出せるとは限らない。慣れたリズムや呼吸に合わせたパス練習も過ぎればルーティン作業となってしまう。

 

そこで、混合チームで、組み合わせを変えながら行い、絶えず呼吸とリズムが変わる状況を作る事で実戦で生きるパスワークを養わせる事がこの練習の目的である。

 

「トラよ」

 

「なんだ?」

 

「お前の要望どおり、誠凛の選手にも俺の練習メニューをやらせているが……知らんぞ? 潰れても」

 

他校の、それも、インターハイ出場校の選手達を指導する事に思うところがある上杉は、景虎に懸念を示す。

 

「ここで潰れちまうようなそれまでだ。どのみち、頂点には立てねえよ」

 

景虎はそんな懸念を鼻で一蹴する。

 

「ゴーの指導は根性論主体で、まあ、悪く言えば今の時代には合わねえ」

 

「…」

 

「今、あいつらに必要なものは分かりやすい必殺技を身に着けさせる事でも才能を伸ばす事でもなく、基礎能力を上げる事だ。単純なフィジカルアップを目指すなら、ゴーの指導はうってつけだ」

 

「…」

 

「まあ、お前の思うが儘、しごいてやってくれ。なに、もし万が一潰れても責任は俺が取るからよ」

 

「…いいだろう。とことんしごいてやる」

 

胸の前で腕を組みながら上杉は返事を返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も、厳しい練習は続き、両校の選手達は苦悶の表情を浮かべながら練習メニューをこなしていく。そして…。

 

「よし! 今日の練習はこれまでだ」

 

『はぁ~、…終わった…』

 

そう上杉から告げられると、両校の選手達はその場で崩れ落ちるように倒れこんでいく。

 

「各自、しっかりストレッチをやれ。後片付けは全員で行うように」

 

それだけ指示を出して上杉は体育館を後にしていった。

 

「ダメだ…、もう身体が動かない…」

 

「し、死ぬ…」

 

「…」

 

倒れ伏した状態で泣き顔になる福田、河原、降旗。

 

「さて…、さっさと片付けて自主練するか」

 

「そうですね」

 

空と大地は用具の片付けに動き出す。

 

「せやな。…あぁー! めっちゃしんどいわー」

 

よろよろと天野が立ち上がり、重い足取りで片付けに向かう。

 

「…ぜぇ…ぜぇ」

 

「…フー」

 

続いて生嶋と松永も立ち上がる。疲労の色が濃い中、花月の選手達が次々立ち上がり、片付けに向かっていく。

 

「…あれだけ練習した後なのに、もう動けるのか…」

 

多少、疲労の色が見えるも確かな足取りで片付けに入る空と大地。それに続くように重い足取りで片付けに入る花月の選手達を見て誠凛の選手は驚愕する。

 

「ぐっ…! 俺達も手伝うぞ。花月の奴に片付けを押し付けるな」

 

膝に手を置きながら強引に立ち上がった火神が同校の選手達に発破をかけるように指示を出す。

 

『お、おう(は、はい)…』

 

続くように誠凛の選手達はおぼつく足取りで片付けを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、片付けを終えた両校の選手達は宿泊施設へと戻った。選手達は部屋に戻るとそのまま大浴場に行って汗を流し、食堂へ向かった。

 

それぞれテーブル前に座り、カレーが並べられると、リコが前へとやってきた。

 

「みんな練習お疲れ様! 腕によりをかけて作ったからみんなお腹いっぱい食べなさい!」

 

『えっ!?』

 

リコがそう言った次の瞬間、誠凛の選手達の表情が凍り付く。

 

『?』

 

その表情を見て花月の選手達は頭に『?』を浮かべる。

 

「か、監督! この料理、もしかして監督が…」

 

恐る恐る火神が尋ねる。

 

「もちろん! ……って、言いたいけど、私はおじ様と練習メニューを考えるのに忙しかったから、花月のマネージャーの姫川さんと相川さんに任せっきりなっちゃったのよね」

 

『…ホッ』

 

その言葉を聞いて誠凛の選手達は胸をなでおろす。

 

「ごめんなさいね2人共。これだけの大人数の食事を任せちゃって…」

 

申し訳なさそうにリコが2人に頭を下げる。

 

「私も料理は得意じゃなくて、野菜を切っただけなので…。お礼は相川さんに…」

 

「いえいえ! 私もお役に立てて嬉しいです! こんなに大勢の食事を作ったのは初めてだったから楽しかったです!」

 

同じように申し訳なさそうにする姫川。相川は胸の前で拳を握りながら笑顔で返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

食事は大好評で、口々に絶賛された。特に誠凛の選手達に大好評で、花月の面々は羨ましがられた。

 

「あー食った食った…」

 

カレーを腹いっぱい食べた空は腹ごなしに散歩をしていた。

 

「しっかし、何か物足りねえなあ…。ひとっ走りしときたいぜ」

 

そうぼやく空。だが、上杉から今日これ以上の練習は禁じられており、許されてのは散歩のみであった。

 

「せっかく誠凛との合同合宿なんだから試合とかもしたいよなぁ…。明日にでも……ん?」

 

その時、空の視界にとある光景が飛び込んできた。そこには、チームメイトである竜崎と、誠凛の池永と新海であった。空は咄嗟に物陰に隠れ、様子を伺う。

 

「久しぶりだな、竜崎」

 

「…」

 

新海が声を掛けると、竜崎は返事を返すでもなく、無表情でその場を去ろうとした。

 

「おいおい、シカトはねえだろ。それが中学時代の先輩に対する態度か?」

 

その態度に癇に障った池永が竜崎の肩を掴んで注意する。

 

「…放してくれませんか? っていうか、俺はもう花月の人間です。先輩面しないでください」

 

掴んだ手を払いのける竜崎。

 

「…っ」

 

「…あ?」

 

それを見て新海はバツの悪そうな表情をし、池永はさらに表情を険しくする。

 

「…」

 

「「…」」

 

そこから暫し沈黙し、竜崎が口が開く。

 

「不作の世代……あんた達には似合いの名だ」

 

「っ!? てめえ!」

 

その言葉を聞いて池永がついに激昂し、竜崎の胸倉を掴み上げる。

 

「おい、やめろ!」

 

それを見て新海が慌てて池永を止める。

 

「お前ら、何やってんだ!」

 

物陰から様子を伺っていた空が慌てて飛び出し、2人を引き離す。

 

「放せ新海! お前だってムカついてんだろ!?」

 

「…っ」

 

一瞬、視線を逸らす新海だったが、それでも池永を押さえつける手を放さない。

 

「なんやなんや? 騒がしいのう」

 

「何騒いで……って、池永、またお前か!」

 

騒ぎを聞きつけた天野と火神が現場へとやってきた。

 

「ムカつきました? 相変わらず被害者面ですか? つくづく救えない人ですね」

 

「っ!? くそっ、てめえぶん殴って――っ!?」

 

思わず池永が拳を振り上げると、火神が腕を掴んで止める。

 

「いい加減しろよ池永。これ以上やんなら、俺がお前をぶん殴るぞ」

 

「…っ」

 

腕を掴み上げながら睨み付ける火神。そんな火神を見て池永は表情を曇らせる。

 

「…俺は…いや、俺達の代とその後輩達は、あんた達を許さない」

 

それだけ告げ、竜崎は踵を返し、その場を後にしていった。

 

「…」

 

「…ちっ」

 

俯く新海と、ある程度頭が冷えた池永は軽く舌打ちをした。

 

「わりーな、うちの後輩が」

 

「いえ、先に煽ったのはこっちですから」

 

頭を下げる火神。空はそれを手で制した。

 

「まあ、あいつには俺が後で言い聞かせます。合宿は明日からも仲良くやりましょう」

 

「そう言ってもらえると助かるぜ。…おら、部屋に戻るぞ!」

 

火神は池永の頭を叩きながらチームメイトに促す。やがて、部屋に戻っていった。

 

「にしても、なんや穏やかな様子やなかったのう?」

 

「そうですね」

 

「…行くんやろ?」

 

「ええ。話を聞かなきゃ、言い聞かせる事も出来ないですからね」

 

そう話し合うと、空と天野は竜崎の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

合宿1日目が終了し、それぞれが英気を養う中、かつての先輩後輩同士がいがみ合う現場を目撃した空。

 

中学時代に何があったのか…。

 

主将として花月を纏める為、空は、先輩の天野と、途中で合流した大地を引き連れ、竜崎の下に向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





主に練習の描写ばかりでしたが、正直、自分はスポーツ経験はありますが、弱小校での緩い学校での部活だったので、これがきついのか、それとも強豪校はもっとやっているのか分からないので、その辺が不安です…(;^ω^)

インターハイにこの合宿を1話だけ挟むつもりが、新海と池永の過去にばらまいた誠凛に来た謎について触れてなかったので、次話にて説明するつもりです。一応言っておくと、人によっては竜崎の逆恨みに感じたり、新海と池永も被害者のように感じたりすると思います。正直、ちょっとやり過ぎな内容になると思うので、もしかしたら批判もあるかと思います。ご了承を…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第96Q~真相~


投稿します!

この話で竜崎と新海、池永のいがみ合う理由が語られるのですが、その前にいくつか注意点を言います。

・まず、かなり荒唐無稽な話であり、少なくとも、現実ではまず起こりえない…仮に現実で起きたらワイドショーで取り上げられるかもしれないレベルの話です。

・キセキの世代が少し割を食い、原作で一瞬だけ出てきた名も知らぬ人物がかなりの悪者となっています。

・この話はあくまでも二次創作であり、フィクションです。

・恐らく、矛盾(知識不足によるものも含めて)があるかもしれません。

以上の事を踏まえてお読みください。

それではどうぞ!



 

 

 

「そんな事が…」

 

竜崎の下へ向かう途中、騒ぎ聞きつけ、一足遅くやってきた大地と合流、空が大まかな事情を説明する。

 

「正直、池永はムカつく奴だが、先にあいつを煽ったのは竜崎だ。その辺りは俺から注意する必要がある。…けど、あいつはまあ、先輩相手でも言いたい事ははっきり言う奴だが、無意味に喧嘩を吹っ掛ける奴でもないからな」

 

「そこは私も同意です。何か事情があるのだと思います」

 

「俺も同意見や。帝光中時代に何かあったんやろうな。説教は、その辺りの事情を聞いてからやな」

 

1年生ながら、竜崎はバスケが絡むと辛口になる印象を持つ空だが、好き好んでトラブルを起こす人物でもないと評しており、そこは大地も天野も首を縦に振る。

 

「ま、例によって主将に副主将が揃っとるから今からあいつのとこに――」

 

「――僕も同席させてもらってもよろしいでしょうか?」

 

3人で竜崎の下へ行こうと天野が提案しようとした瞬間、すぐ真横から声が聞こえてきた。

 

「っ!?」

 

「のわっ!? いきなり現れんやな! 心臓止まるかと思ったやないかい!」

 

突然現れた黒子。大地は声も出ない程驚き、天野は若干怒りを露にした。

 

「黒子さん」

 

「今から竜崎君のところへ行くんですよね? 僕も一緒に行かせてください」

 

再度、同席を願い出る黒子。

 

「3人は帝光中時代の僕の後輩ですから、その後輩同士がいがみ合うのは悲しい事です。ですから先輩として、彼らの間に入って仲を取り持ってあげたいんです」

 

表情は変わらないものの真剣な眼差しで言う黒子。

 

「それに、3人がいがみ合ってしまったのは、『僕ら』にも責任がありますから…」

 

悲しげな表情で黒子がそう続けた。

 

「…そうですね。黒子さんがいてくれた方があいつも話やすいだろうから、一緒にお願いします」

 

空は同席を了承し、空と大地と天野、黒子を引き連れ、竜崎の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

部屋の前に到着し、ドアをノックする。

 

「竜崎居るな? 入るぞ」

 

不在の有無を確認すると、ドアを開けた。

 

「…っ」

 

「先輩?」

 

入室すると、気まずそうに視線を逸らす竜崎と、突然の来訪に疑問を浮かべる室井。

 

「こんばんわ、竜崎君」

 

「っ!? 黒子先輩!?」

 

黒子が一緒に来た事は予想外だったのか、目を見開いて驚く竜崎。

 

「要件は……分かってるよな?」

 

「…はい」

 

そう尋ねられると、僅かに間を開けながら頷いた。

 

「……自分は少し外の空気を吸ってきます」

 

「悪いな」

 

何かを察した室井は一言そう告げて部屋を後にした。

 

「さっきの騒動。手を出そうとしたのは池永だったが、その前にあいつを煽ったのはお前だ。まあ、池永はいけ好かない野郎だが、それとこれとは話は別だ」

 

「…」

 

「その事は俺から説教させてもらう。……だが、その前に」

 

「?」

 

「お前は何の理由もなくああも突っかかる奴ではない。それは短い付き合いの俺でも分かる。あいつ…いや、あいつらと何があった? それを知らない事には、俺もお前に偉そうに説教出来ないからな」

 

空は、責めるでも問い詰めるでもなく、諭すように尋ねた。

 

「…」

 

だが、竜崎は深く目を瞑り、言葉を発さない。

 

「俺達には話したくないか?」

 

「…いえ、先輩達が尋ねてきたら話すつもりでしたので」

 

目を開けた竜崎が意を決して言った。

 

「それに、先輩達も無関係ではありませんから」

 

「「?」」

 

竜崎は空と大地にそれぞれ視線を向けながら言った。

 

「お話しします。全ては、2年前の全中大会終了後、そこから始まった事です」

 

ゆっくりと、竜崎は話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

2年前の全中大会決勝、空と大地の所属する星南中学と帝光中が決勝の舞台で激突し、死闘の末、星南中が勝利した。

 

歓喜に沸き、お祭り騒ぎとなった星南中の選手達とは対照的に、帝光中の選手達に待っていたのは、厳しい処遇だった。

 

バスケ部に多大な期待をしていた学校側…主に理事長だが、バスケ部を帝光中の広告塔に掲げており、部費や設備面においてバスケ部を過剰に優遇していた為、その怒りはすさまじかった。

 

試合に敗退し、学校の名に傷を付けたとして、バスケ部に対して割り当てられる部費の大幅な削減と、学校内の施設や設備の使用を大幅に制限したのだった。これにより、練習時間の減少、備品の購入も容易に出来なくなったり、バスケ部全員の移動する際にバス等が使えなくなったり、かなりの不便を強いられる事となった。

 

だが、バスケ部に対してした処遇はそれだけではなく…。

 

「俺は帝光中の主将としてチームを率い、全中大会を戦いました。…ですが、俺が主将になったのは、大会の1週間前なんです」

 

「1週間前? と言うと、それまでは別の奴が主将だったって事か?」

 

「はい。大会1週間前に突然倒れて…」

 

俯き、悲しげな表情で竜崎が話す。

 

「予兆はありました。3年に進級した辺りから笑わなくなって、何処か思いつめた顔するようになりました。気になって聞いてみても大丈夫としか言わなくて…」

 

『…』

 

「今でも無理やり聞き出さなかった事を後悔しています。あいつは人一倍真面目で責任感が強い奴だから、何があっても弱音や愚痴を吐くような奴じゃないって知っていたはずなのに…!」

 

後悔からか、拳をきつく握りしめながら吐露する。

 

「そこで初めて知りました。3年に進級した初日、あいつは理事長室に呼ばれ、理事長にこう言われたらしいです。『帝光中の看板を掲げる以上、負ける事は許さん。優勝以外は全て恥だ。その事を肝に銘じておけ。もし、試合に負けるような事があれば、分かっているな? 先輩達のようになりたくなければ死ぬ気で優勝しろ』と…」

 

「先輩? …と言うと、新海や池永の事やな。何かあったんか?」

 

「事情は2人から聞いているので、それは僕から話します」

 

疑問を口にした天野。その疑問に黒子が回答する。

 

「新海君と池永君。…いえ、彼らだけではなく、彼の代のバスケ部員達は、理事長の命令で内申点を不当に下げられて上、高校の受験の際に推薦をしないように圧力をかけたらしいです」

 

「…っ!?」

 

「ホンマかいな!?」

 

黒子の口から出た言葉を聞いて大地と天野は驚愕した。

 

「…えっと、つまりはどういう事?」

 

事の重大さが理解出来ない空はキョトンとする。

 

「高校受験で入試を受ける際、一般入試や推薦入試があります。他にもありますが今は置いておきます。一般入試は面接や筆記試験を受け、その結果から合否が決められます。最も多くの受験生が通る道です。それは分かってますね?」

 

「おう」

 

「推薦入試はそこから指定校推薦や公募推薦等様々な種類がありますが、基本的に推薦入試を受ける為には、所属している中学校の学校長から推薦をしていただく必要があります。推薦がいただけなければ、推薦入試は受けられません」

 

「…」

 

無言で大地の説明を聞く空。

 

「推薦入試を受けられれば一般入試より合格し易くなるんや。場合によっては免除もされるしのう。空坊は花月には推薦入試で入学した口やろ? ウチは偏差値結構高いんやで? 自分、一般入試やったら間違いなく落ちとったで」

 

補足するように天野が説明する。

 

「内申点を下げられれてしまえば、自己推薦でも不利になります。つまり、そのような事態になってしまえば、空の大嫌いな勉強を重ねて一般入試を突破しなければならなくなるということですよ。理解出来ましたか?」

 

「な、なるほど…」

 

2人の説明を受け、大雑把ではあるが、話を理解した空。

 

「けどのう…、理事長がいくら偉い言うても、そんな事出来るもんなんか? そんなん表沙汰なったら事やないか」

 

「出来るんですよ。過去にもいろいろやってたらしいですし、実際、あいつから話を聞いて俺や他の部員の親が抗議しましたが取り合ってももらえませんでした」

 

天野の懸念に竜崎は悲痛の表情で答えた。

 

「俺達バスケ部員に残された道は優勝するしかありませんでした。バスケ部を辞める事も考えましたが、それで逃れられると思いませんでしたし、何より、辞めた後の部員達の事を考えると、出来ませんでした。帝光中の理念は勝つ事ではありますし、それが間違いだとは思いません。…けど! こんなのはあんまりでした」

 

当時に事を思い出したのか、その目から今にも涙が溢れそうであった。

 

「…ひどい話やな。って言うか、バスケ部の顧問を何をしとんねん。こんな時こそ部員を守らなあかんはずやん!」

 

話を聞いていて共感した天野が怒りを露にする。

 

「何もしてくれませんよ。帝光中の先生は皆理事長に逆らえませんから。自分が入学する前いた監督は理事長に意見を言える人だったらしいですけど、その人がいなくなってからは皆理事長の言いなりでした」

 

「…」

 

その、唯一意見を言えた監督を知る黒子は何とも言えない表情になった。

 

「話は分かったで。…けど、それやと新海と池永をあそこまで敵視する理由が分からへんな。その話やと、あの2人も被害者やんけ」

 

竜崎の怒りを理解しつつ、天野が話を聞いて腑に落ちない疑問を尋ねる。

 

「天野先輩…というか、第三者からすればそう思えるかもしれませんけど、俺達後輩からすれば違いますよ」

 

天野の言葉を竜崎が否定する。

 

「神城先輩と綾瀬先輩の前ですけど、失礼を承知で言わせてもらいます。2年前の全中決勝、率直に言って、あの試合は帝光中が勝てる試合でした」

 

「…っ」

 

「…」

 

その言葉を聞き、空は僅かに眉を顰め、大地はリアクションする事なく耳を傾ける。

 

「確かにお二人は凄かったです。…ですが、今ほどとびぬけてはいませんでした。それに、お二人以外は戦術理解度こそ高かったですけどプレーヤーとしてそこまでではありませんでしたので、勝てる試合でした。…最初から真面目に戦ってさえすれば」

 

『…』

 

「俺は試合前に何度も真面目に戦うように言いました。ですが、あいつらは聞く耳を持たなくて、挙句、ふざけた試合をして点差を詰められ、慌てて本気を出した時には既に手遅れで、結局負けました」

 

『…』

 

「俺だって、全力で戦った結果の末の事なら何も言いませんよ。けど、あいつらは相手を舐めてかかって試合をした挙句負けて、そのシワ寄せを俺達後輩が受ける事になって…!」

 

話を続けるうちに竜崎がヒートアップしていく。

 

「それだけじゃない、あいつらは試合中に誰が1番点を取れるか競い合ったり、果ては対戦相手に暴言を吐いたり! おかげで、悪い評判が広がって、あの全中以降、練習試合を申し込んでも断られるようになりました」

 

「…それについては、僕達にも責任があります。僕達の代は結果こそ残しましたが、決して手本となる先輩ではありませんでした。後輩達がああなってしまったのは僕達の――」

 

「やめてください黒子さん。黒子先輩が悪いわけではありませんよ。悪いのは、あいつらです」

 

責任を感じた黒子が謝罪するも、竜崎はそれを途中で制した。

 

「…彼らも苦しみました。バスケを辞めてしまった者もいます。新海君と池永君も、推薦を受けられなくて、バスケのセレクションをやっている高校にいったのですが、受ける事すら出来なかったそうです」

 

高校によっては、スポーツの経験者を募集し、そこで実施されるテストに合格した者を入学させてもらえる高校がある。新海と池永もセレクションを実施している高校に行った。だが、セレクションの申し込みをした際、2人だけが別室に呼ばれ、そこで言われたのが…。

 

『せっかく来てくれたのに申し訳ないが、君達がここでどんな結果を出しても、我々は合格させるつもりはない。生憎と、君達…というか、帝光中に関して、良い噂を聞かないんだ。正直、悪い噂に目を瞑ってまで取る価値を見出せない』

 

という言葉だった。

 

帝光中の、特にスタメンの選手は、試合中の暴言等、相手選手を侮辱する行為をした事が噂となり、素行の悪さが広まっていた。キセキの世代のように、圧倒的な実力を持っていればある程度のデメリットは目を瞑れるが、2人に関して言えば、同世代に2人以上の選手、同格の選手、現時点で実力で劣っていても資質ではひけを取らない選手が多数存在した為、デメリットがある2人を取る価値を見出せなかったのだ。

 

他にもセレクションを受けに行ったが同様の理由で落とされ、これがきっかけで水内、河野、沼津はバスケを諦め、バスケとは無縁の高校に進んだ。

 

それでも諦めきれなかった新海と池永は、唯一、自分達を受け入れてくれそうなバスケ部が強い高校として、最近名を馳せた誠凛高校に進学したのだった。

 

「これが、2人から聞いた話です」

 

『…』

 

黒子からの話を聞いた空と大地と天野は言葉を失っていた。

 

「…その話は知ってます。あいつらに関しては自業自得としか思えません」

 

「……そうですか」

 

新海達の行く末を聞いても尚、竜崎は彼らを許す事は出来ず、黒子は肩を落とした。

 

「そういえば、竜崎君の前任の主将はどうなったのですか?」

 

気になった大地が尋ねる。

 

「…ある程度は立ち直ったんですが、もうバスケは出来なくなりました。バスケに関する映像やそれにまつわる物を見たり、音を聞くだけで吐き気や震えが止まらなくなったしまうみたいで、結局、バスケ部がない高校に進学しました」

 

「…そうですが。申し訳ありません、辛い事をお聞きして」

 

「気にしないでください。…あいつの事もあるから、余計に許せないんです。あいつは、誰よりもバスケな好きな奴でした。分かりますか? 大好きだったもので苦しまなくてはならなくなった奴の気持ちが!?」

 

その前主将の事を考え、激昂する竜崎。

 

「…っ」

 

黒子も、かつて、バスケの楽しさを教えてくれた親友がバスケに絶望してバスケを辞めてしまった事があった為、表情を歪ませる。

 

「死に物狂いで試合して、何とか優勝出来ましたが、嬉しさなんてなかった。ただ安堵しただけでした」

 

悲痛な表情で竜崎が当時の心境を語る。

 

「…帝光中の後輩達は今でも脅しをかけられてバスケをしているのですか?」

 

「…いえ、それは大丈夫です。実は、全中大会の後、たまたまお世話になったバスケ部のとあるOBと会いまして、相談したら動いてくれて、何をしたかは分かんないんですが、その少し後に理事長が更迭されたらしくて…」

 

「ほー、そら何よりや」

 

負の連鎖を断ち切られた事を知って天野が自分の事のように安堵する。

 

「……話は分かった。だがな、お前はもう花月の人間だ。どんな事情があっても、揉め事を起こすような真似は俺は許さない。さっきのは事は反省しろ。そんで、今後もするな」

 

「…はい」

 

事情を聞き、それでも空は先程の2人に対して煽った行為を諫めた。落ち着きを取り戻した竜崎は空の言葉を真摯に受け止めた。

 

「合宿はまだ続く。あいつらとも、仲良くしろとは言わないが、言葉には気を付けろよ」

 

「はい。本当にすいませんでした」

 

竜崎は深々と頭を下げたのだった。

 

「…さて、明日も練習があるし、いつまでも室井を外で待たせる訳にも行かないからこの話はこれまでにしますか」

 

「そうですね」

 

「せやな。…ふぁー、あかん、瞼が落ちそうや」

 

空の提案に大地が笑みを浮かべながら了承し、天野はあくびをした。

 

「黒子さんも、わざわざありがとうございます」

 

「気にしないでください。僕が臨んだ事ですから」

 

「…あー、後、池永の事ですが…」

 

「それは大丈夫です。火神君が諫めてくれると思いますので」

 

「それは何よりです」

 

言い辛そうに空が尋ねると、意図を理解した黒子が答えた。

 

「よし! なら部屋に戻るか。竜崎もゆっくり休めよ」

 

「それでは失礼します」

 

「ちゃんと歯ぁ磨いてから寝るんやで」

 

「竜崎君、また明日」

 

4人は、部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

無言で施設の通路を歩く4人。

 

「…中学生であんな重いもん背負わされて、大人にも頼らんで大した奴やで」

 

沈黙を嫌った天野が口を開く。

 

「俺は星南中時代の最後の1年は楽しくバスケが出来ました。あいつはきっとバスケが楽しくなかっただろうから、ただそれが可哀想でした」

 

遠くを見つめながら空が語る。

 

「楽しいバスケをさせてあげてください。君はきつい練習すらも楽しめる人です。ですから、元竜崎君の先輩としてお願いします。彼をお願いします」

 

「任せてくださいよ。最高の思い出にさせてやりますよ」

 

頭を下げる黒子に、空は胸を叩きながら了承した。

 

「それではこれで失礼します」

 

一礼をして、黒子はその場を後にしていった。

 

「俺は部屋こっちや。ほなな」

 

軽くを手を振りながら天野も後にする。

 

「…まだ早いけど、今日はもう寝るか」

 

「そうですね。明日に備えましょう」

 

そう言って、空と大地は部屋へと向かい、そして、合宿2日目を迎えるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





結局、過去の話の説明だけで1話が終わってしまったorz

竜崎の話をギュッと纏めると、星南中相手に舐めプして負けた事で、新海世代は推薦を受けられず、試合中の暴言や点取りゲームした為にセレクションも断られるあるいは落とされてしまった。後、キセキの世代にあやかって不作の世代という不名誉な名称をつけられてしまった。竜崎世代は、学校の設備や備品の使用を制限され、その状態で優勝を半ば脅迫同然に強いられ、結果、本来の主将がバスケが出来なくなった。

事前に予想される疑問をある程度予想して、ここに書きます。

・竜崎が憎むのは理事長であって、新海達ではない。

もちろん、理事長の事も憎んでいます。ですがやはり、舐めた試合をして負け、悪評をまき散らし、不利な条件で試合をさせられたきっかけを作った新海世代も等しく許せない。これが竜崎の思いです。

・バスケの強豪校は全都道府県を含めればかなりの数があるからその全てに断られる事等あり得ない。

もちろん、新海と池永は全ての強豪校に断られたわけではありません。もちろん、探せば2人を受け入れる高校はあると思います。ですが、新海達からすれば、入学してから受け入れられませんでしたでは話になりませんし、それを確かめるにも限界があります。池永に関しては、学力に関しては火神並なので、近場で強いところを探すと誠凛しかなかった(火神で入学出来るくらいなので、おそらく誠凛はそこまで偏差値は高くないのでしょう)。ちなみに、キセキの世代の所属する高校を受験したが全部落ちたという裏設定があります。新海に関しては、学力こそあり、その気になれば、キセキの世代のいる高校に一般入試で突破する事も可能でしたが、連覇を逃し、連勝を記録を途絶えさせたという負い目があり、会わせる顔がなかったので、キセキの世代のいる高校は避け、バスケ強豪校も前述の理由から有名な強豪校は選べず、バスケが強くて受け入れてくれそうなところを探したところ、誠凛に行き着いた。こんな感じです。

・理事長の対応があり得ない。

これに関しては、前書きにも書きましたが、これは二次創作であり、フィクションですとしか…(;^ω^)

正直、これを投稿した後の反響が怖くて、このあとがきを書いている現時点で、批判の感想やお気に入り登録の人数が減ったり、低評価を付けられるんじゃないかとかなりドキドキしております。もし、あまりにも不評の声が多ければ、この話は削除し、過去の伏線も修正して再投稿も検討しています。

書きたい事書くをモットーにしていますが、やはり反響が気になるビビりです…(;^ω^)

何か、過去最高あとがきになってしまいました…m(_ _)m

と、長々と言い訳をさせていただきました。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第97Q~合宿の終わり~


投稿します!

今回は少し短めです。

それではどうぞ!



 

 

 

花月、誠凛の2校による合宿。猛練習が行われ、その夜、かつての先輩後輩同士の竜崎と新海、池永の衝突。何かと激動な1日目が終わった。

 

「ふわぁ…」

 

時刻は早朝6時。目が覚めた火神が欠伸をしながら施設の通路を歩いている。7時起床となっている為、まだ余裕があるのだが、身体を解す為、早めに起き、着替えて部屋を出た。

 

「(っ! …さすがに昨日あれだけ動いたからか、筋肉痛で身体がきしみやがる。早めに起きて正解だったな…)」

 

歩きながら腕や肩を回し、身体の調子を確かめる。

 

「少し外でも走るか…」

 

玄関口で靴を履き替えていると…。

 

「あっちぃー!」

 

「ふぅ」

 

入り口のドアが開かれ、そこから空と大地が現れた。

 

「おう、はえーなお前ら……って、スゲー汗だなおい」

 

挨拶を交わす火神だが、2人の身体から流れる汗の量に驚きを見せる。

 

「あっ、火神さんちーす」

 

「おはようございます」

 

同じく火神に気付いた空と大地も挨拶を返した。

 

「毎朝軽く走るのがいつもの日課なもので、少々近くの駅まで…」

 

「日課って、昨日あんだけ走って、今日だって死ぬほど走らされるだろうによ」

 

「まあ、そうなんですけど、ずっとやってる事なんで、やっておかないとどうにも…」

 

事情を聞いた火神は半ば呆れ半分となった。

 

「…っと、もうこんな時間ですか。空、起床時間まであまり余裕がありません。急いでシャワーを浴びませんと…」

 

「うぉっ!? もうこんな時間か。ちょっとゆっくり走り過ぎたか。それでは火神さん、また後で!」

 

「失礼致します」

 

時間が迫っている事に気付き、2人は早々に会話を切り上げ、その場を後にしていった。

 

「…元気な奴らだな」

 

靴を履いた火神は部屋に向かう2人の背中を見つめながらボソリと呟くように言った。

 

「…さて、俺も少し外をブラブラ――」

 

「――火神君」

 

「どわっ! 黒子!?」

 

外に出ようとした瞬間、突然黒子に声を掛けられ、火神は思わず声を上げた。

 

「て、てめえ、心臓止まるかと思ったじゃねえか!」

 

黒子の頭を掴みながら抗議をする火神。

 

「こんな朝早くに大声を出さないでください。まだ寝てる人もいるんですから」

 

とうの黒子は特に悪びれる事もなく、淡々と言い放つ。

 

「それよりもさっきの2人…」

 

「ん? ああ、神城と綾瀬か。これから練習だっての大した奴らだよな」

 

「少し、話が聞こえたのですが、彼らは駅まで走りに行ったと…」

 

「あー、そういや、そんな事言ってたな。それがどうかしたのか?」

 

「駅って、僕達がこの施設に来る途中で見かけたあの駅ですよね?」

 

「じゃねえのか? この辺に他に駅は…っ!?」

 

ここで火神はある事を思い出す。

 

「正確な距離は分かりませんが、ここから駅までは10キロくらいはあったと思います」

 

「10キロ…てことは、往復で20キロ!? あいつら、朝っぱらそんな…、だからあんな汗だくだったのか…」

 

にわかには信じ難いがあの汗の量を見てしまえば信じざるを得なかった。

 

「普段から彼らはあれだけ走っているんでしょうね」

 

「…あいつらが化け物じみた運動量を誇る理由がよく理解出来たよ」

 

前日の疲労が残り、身体もきしむ火神と黒子。これから再び地獄の練習が始まるというのに早朝から長距離のジョギングをこなす2人を目の当たりにした黒子と火神は、もはや呆れを通り越し、恐怖すら感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

合宿2日目…。

 

この日も前日同様、厳しい練習が行われていた。

 

「…」

 

「…」

 

前日の夜にやり合った竜崎と池永だったが、双方の主将に言い含められた為、表立って争う事はなく、黙々と練習をしていた。

 

現在、合宿所周辺のコースを走っていた。

 

「……ん?」

 

ランニングコースを走っていると、空が何かを見つける。

 

「あれは誠凛の……おーい!」

 

木陰で木にもたれかかりながら座り込んでいる人影を見つけ、空が話しかける。

 

「ハァ…ハァ……あっ、どうも…」

 

空の声に気付いた人影は弱々しく顔を上げると、無理やり声を出した。

 

「どうかしたのか? えぇっと…」

 

「夜木さんでしたね。もしかして、体調が悪いのですか?」

 

名前を思い出せなかった空。同じくやってきた大地が様子を尋ねる。

 

「大丈夫…です…。少し…休んでるだけです…」

 

「いや、大丈夫そうに見えないぞ…」

 

顔を蒼白しながら答える夜木。そんな夜木を見て空が怪訝そうに返す。

 

「……熱中症ですね。速やかに身体を冷やして水分を補給するべきです」

 

症状を観察した大地が処置方法を指示する。

 

「ここからなら宿泊施設は目と鼻の先だ。急いで運ぼう。…よし、乗れ!」

 

指示を聞いた空が夜木の前に座り背中を向ける。

 

「し、心配いりません! す、少し休んだら自分で――」

 

「熱中症を甘く見るなって。船の上なら死んでるぞ?」

 

「…船?」

 

「良いから乗れ。ここで無理したらインターハイに出られなくなるぞ。……大地」

 

「はい」

 

空が合図を出すと、大地が夜木の腕を肩に回し、立ち上がらせると、そのまま空の背中に乗せた。

 

「少し揺れるかもしれないけど我慢してくれ。その代わり超特急で運んでやるからよ」

 

そのまま宿泊施設まで走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…10分を超えた…。神城と綾瀬が戻ってこないな。……むっ?」

 

ストップウォッチを見ながら唸る上杉。すると、背中に人を背負って走る空と、その横に連れ添うように走る大地が現れた。

 

「夜木君!」

 

空の背中でぐったりしている夜木の姿に気付いたリコが慌てて駆け寄る。

 

「熱中症のようです。すぐに部屋に運んであげてください」

 

「分かったわ!」

 

背負っていた夜木を降ろし、リコに託す。リコは夜木の腕を取って肩に回し、宿泊施設へと足を進めた。

 

「相川! 今の3000メートル走のタイムは?」

 

「えっ? えーっと、11分57秒だけど…」

 

「あっちゃー! 10分切れなかったか…!」

 

タイムを聞いた空が悔しがりながら頭を抱えた。

 

「でも、途中でおんぶしながら走ってきたんだから、仕方な――」

 

「次の1本で今の分取り戻さないとな」

 

顔力強くパチンと叩きながら気合いを入れる空。

 

「行くぞ大地! オーバーした1分57秒取り戻すぞ!」

 

そう言って空は走っていった。

 

「やれやれ…」

 

半分呆れながら大地はその後に続いていった。

 

「全国レベルの選手はやっぱすごいなぁ…」

 

「いや、あの2人はその中でも例外中の例外よ?」

 

その様子をリコに抱えながら見ていた夜木が、思わずそう呟くと、リコがそう返した。

 

※ ちなみに、2人はこの1本、8分フラットで走り切りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も、練習は続いた。

 

4日目に入ると、インターハイに備え、練習が軽くなり、もっぱら、ゲーム中心の練習メニューとなった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がペイントエリアにカットインする。リング付近まで切り込み、そこからボールを持って跳躍した。

 

「くっ! 行かせる――っ!?」

 

ヘルプに飛び出した田仲がブロックに飛んだが、空は田仲がやってくるのと同時にボールを真下に落とした。

 

「ふっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを受け取った大地がダンクを炸裂させた。

 

 

後半、残り2分24秒。

 

 

花月 36

誠凛 25

 

 

現在、前後半の紅白戦が行っている。後半戦残り2分半を過ぎ、花月が10点以上リードしていた。

 

合宿の疲労で思うように身体が動かない両校の選手、だが、その中でも空と大地の2人は縦横無尽にコートを走り回り得点を量産すると同時にディフェンスではブロックとスティールを連発していた。

 

『…くっ!』

 

試合は2人の独壇場で、疲労で思うように身体が動かず、さらに判断力も鈍り、2人に良いようにあしらわれている状況に、誠凛の選手達から思わず舌打ちが飛び出す。

 

「すごい…、あの2人、目の前で見るととんでもないスピードとキレだ」

 

2人のプレーをコートの外から見ていた降旗が思わず唸った。

 

「…あれでも全開ではないわ」

 

「えっ!?」

 

「前に見た2人はもっと速かったし、キレも鋭かったわ。さすがのあの2人であっても、この合宿の疲労の影響が出ているわね」

 

「あれで落ちているのか…」

 

「それでもそこらの選手より数段速い…」

 

リコの話を聞き、河原と福田は言葉を失う。

 

この紅白戦は、2人の活躍により、15点差を付けて花月が勝利したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

合宿も5日目に入ると、基礎能力アップの激しい練習から、インターハイに向けてのコンディション調整の練習に切り替わり、練習は緩くなった。

 

練習は時間も量も減り、紅白戦を数試合行い、残りは自由時間に充てられることとなった。

 

割り当てられた自由時間は各々が有意義に過ごし、合宿の疲労を抜いていった。

 

そして合宿最終日の7日目…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

この日のスケジュールは、ウォーミングアップをした後、紅白戦を2試合行って終了。その後、昼食を摂って各々の高校へと移動となっている。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをキープする新海。

 

「…」

 

目の前でディフェンスをするのは竜崎。

 

現在、試合は2試合目で、花月は空と大地が、誠凛は火神が試合に出場しておらず、コートの外から試合を見守っている。

 

 

――ピッ!!!

 

 

新海からローポストに立つ田仲へ矢のようなパスが出る。ボールを受け取った田仲は背中に張り付くように立つ松永に背中をぶつけ、押し込みながらゴール下の侵入を試みる。

 

「行かせん!」

 

松永は身体を張って侵入を阻止する。同時に田仲は左アウトサイドに立つ朝日奈にパスを出した。

 

「…っ」

 

シュート態勢に入る朝日奈に対し、生嶋がすかさず距離を詰めてスリーの阻止に向かう。だが、朝日奈はシュートを打たず、ボールを再び中に入れる。そこへ、走りこんでいた新海にボールが渡る。

 

「打たせるか!」

 

新海に並走しながらシュートを警戒する。新海は走りながら両手で押し出すようにボールを放った。

 

「(シュート…いや、違う!)」

 

一瞬、強引なシュートだと思ったが、ボールの軌道を見てすぐにそれを改める。ボールはリングを僅かに外れて山なりの軌道を取る。そこへ、池永が走りこんだ。

 

「まさか、アリウープか!?」

 

跳躍して池永が空中でボールをキャッチ。そのままリングに叩きつけた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「させへんよ」

 

直前に現れた天野の手がボールを弾き飛ばした。

 

「くそっ! 邪魔しやがって…!」

 

悔しさを露にしながら着地する池永。

 

この2試合目は、両校共にオフェンスに決め手を欠き、同点で終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

紅白戦が終わり、インターハイ前の合宿は終わった。

 

「良い経験をさせてもらったぜ」

 

「こちらこそ」

 

帰りの時刻。並ぶバスの前で空と火神が握手を交わす。それに倣うように花月と誠凛の選手達が握手を交わし、言葉を交わしていく。

 

「合宿での紅白戦は俺達の勝ち越しでしたが、本当の決着はインターハイで」

 

「おう。お互い勝ち進めば、当たるのは決勝だ。そこまで負けんじゃねえぞ」

 

「うす」

 

そう言葉を交わし、お互い手を放した。

 

「よし! 準備はいいな? 全員バスに乗れ!」

 

「忘れ物はないわね? みんなバスに乗って! 帰るわよ!」

 

両校の監督に促され、選手達がバスに乗車していく。

 

座席に着席し、変わりゆく景色を眺めながら合宿の余韻に浸る選手達。こうして、7日にも及ぶ合宿は、終わったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「く~~っ! やっと着いたー!」

 

花月高校に到着し、いち早くバスから降りた空は大きく伸びをする。

 

「そこ立っとると邪魔やで。早よ行きや」

 

乗車口に立っていた空の背中を押しながら天野がバスから降車する。続々とバスから降りてくる花月の選手達と監督とマネージャー2人。

 

「全員体育館に移動しろ。長時間の移動でだいぶ身体が固まっているからな。インターハイに影響を出さない為に軽く身体を動かすぞ」

 

『はい!!!』

 

上杉が指示を出すと、選手達は体育館に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後は、体育館で軽くランニングをした後、ストレッチをして固まった身体を解し、そこから部室に集まってミーティングをして解散となった。

 

インターハイまでの残りの日数は、疲労を残さないように軽いメニューと紅白戦形式の試合をする程度に止め、主な時間は姫川が各選手の動きやプレーを参考にして作成した改善点を下にミーティングを行った。

 

そして時間は過ぎ、インターハイ開催の日がやってきた。

 

空達にとって2回目の、そして、キセキを冠する者達の最後の夏の戦いが、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





インターハイ前に1話だけ挟むつもりが、結局3話にまでなってしまったorz

書いている内に過去に投げっぱなしだった伏線を思い出したり、未読の小説版に出てきた新キャラを思い出し、本屋を駆けずり回って小説を探し、読破したりで何かと間隔が空いてしまいました…(;^ω^)

まあ、ここからが本番なのですが、正直、大まかな結末はほぼほぼ固まっているのですが、肝心なそこまでの試合展開が決まっていない為、勉強する意味も含めて間隔が空いてしまうかもしれません。そうなれば、すみません…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第98Q~新たなる猛者~


投稿します!

キセキの世代、最後のインターハイの開幕です!

それではどうぞ!



 

 

 

――全国高等学校総合体育大会…。

 

 

高校の三大大会の1つである夏の大会。通称、インターハイ。

 

今年度の会場である広島県に、都道府県予選を勝ち抜いた全国の猛者達が集結していた。

 

「っしゃぁっ! 遂にこの日がやってきたぜ!」

 

インターハイの試合が行われる会場に到着すると、空が会場の目の前で気合いを入れる。

 

「毎度それやらんと気がすまへんのか?」

 

「空、ここにいるのは我々だけではないのですよ?」

 

そんな空を見て、天野は呆れ、大地は空を窘めた。

 

「そりゃ気合い入るだろ? これからまた激しい戦いが始まるんだぜ?」

 

不敵に笑いながら言う空。

 

「確かに、空程じゃないけど、身体が熱くなっちゃうかも」

 

「俺もだ。去年はほとんど試合に出られなかったからな。…早く身体を動かしたいものだ」

 

生嶋が耳からイヤホンを外しながら、松永は肩を回しながら言った。

 

「開会式まで時間に余裕はない。各自、あまり動き回るな。特に神城」

 

「…何で俺だけ名指しなんですか?」

 

上杉の名指しで注意を受け、空はジト目で抗議する。

 

「あなたには前科があるでしょう。今年のあなたは主将なんですから、勝手な行動は控えて下さいよ?」

 

「わーってるよ。…ったく、信用ねえな…」

 

大地にまで忠告され、口先を尖らせながら拗ねる空であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

開会式が行われ、昨年度の王者である花月から優勝旗が返還され、開会式はつつがなく終わった。

 

そして翌日、インターハイ1日目、1回戦の試合が始まった。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

試合が始まると、会場の観客席を埋め尽くす観客の歓声が会場内に響き渡った。

 

「いいかお前ら、片時も試合から目を離すな。しっかり研究し、学べるものは全て学んでいけ」

 

『はい!』

 

観客席にて、花月の選手達が一角に座り、試合を観戦している。

 

花月はシードの為、1回戦はない。その為、選手全員で試合の観戦に来ている。ちなみに、1回戦でキセキを冠する者が所属する高校同士の試合はない。

 

「今日は誠凛、洛山もシードだから試合がないのか」

 

「こればかりは仕方ありません。…しかし、この2校は他と比べて戦力の入れ替えが多いので、是非見たかったですね。誠凛はついこの間の合宿で紅白戦を致しましたが、試合ともなれば、また違ってくるでしょうし」

 

試合が見れない事を残念がる空。大地も同様の表情をする。

 

「ですが、注目すべき試合は他にもいくつもあります。しっかり研究致しましょう」

 

大地は表情を引き締め、コートに集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「桐皇と秀徳は危なげなく1回戦突破やな」

 

試合は進み、いくつかの試合は終了していく。

 

「しっかし、どっちも第2Q中盤で青峰も緑間も引っ込んじまってつまんねえなぁ」

 

背もたれに体重を預ける空。2校のエースであるキセキの世代のエースとシューターである青峰と緑間がすぐにベンチに下がってしまい。つまらなそうな表情をしている。

 

「ま、しゃーないな。インターハイ出場校言うても、地力の差は明らかやったからなぁ。無理して出る事もないやろ」

 

「ですが、収穫はありました。どちらも昨年の冬に戦った時より、確実にパワーアップしていました。特に緑間さんは、スリーは相変わらずの代物でしたが、それ以上に、積極的に中に切り込んでのミドルシュートや、リングから近い位置で得点を決めていました」

 

「確かに、試合で緑間が打ったスリーはたったの3本。後はカットインからのミドルシュートやゴール下、後は切り込んでディフェンスを自分に引き付けてからパスを捌いたり、これまでの緑間のイメージとはかなりかけ離れてたな」

 

大地の言葉を受けて、菅野が試合での緑間を思い出す。

 

「生粋のスラッシャータイプの選手のようなプレーだったな。あのドライブはスピードもキレも相当だった。後は切り込んでからのバリエーションも豊富だったな。相手センターを背中で押し込みながらの得点もあった」

 

空の指摘どおり、緑間はありとあらゆるパターンで得点を決めたり、得点をアシストをしていた。

 

「…こうして見ると、まるでオールラウンダーだな。シューターだってのを忘れちまいそうだぜ」

 

「…けどさ、わざわざ見せつける必要あったのかな? 今まで通りのスタイルでも充分勝てる相手だったしさ、別にやる必要は…」

 

「理由はいくつかある」

 

空の感じた疑問に、上杉が答える。

 

「東京都予選の映像を見たが、去年より中へ切り込む選択肢を選ぶ回数は増えていたが、基本は去年のプレースタイルと同じだった。恐らく、去年の冬にウチに負けてから今日の試合までバリエーションを増やす練習はしていたのだろう。インターハイ出場を決めてから急ピッチで練度を熟成させた。それをここで披露した理由は実戦で通用するかどうか試したかったからだろう。緑間の性格上、ぶっつけ本番は極力避けたいだろうからな」

 

『…』

 

「それと、駆け引きというのは何も直前まで隠す事だけではない。あえて見せる事も駆け引きの1つだ。選択肢が増えれば迷いも増える。迷いが生じれば付け入る隙も増える。そもそも、緑間が見せたのは分かりやすい必殺技のような類のものではなく、バスケにおいて、基本のテクニックに過ぎない。隠す程のものではない」

 

「なるほど」

 

上杉の説明を聞いて、空は納得する。

 

「それとお前ら、キセキの世代ばかりを気にしてるようだが、実際に試合をしたら戦うのはキセキの世代だけではないんだぞ」

 

キセキの世代にばかり目を向けている選手達を上杉が窘める。

 

「…そうですね。あの2人が目立っていたのでつい目を逸らしてしまいましたが、他の方々も注目するべきでしたね」

 

「そやな、実際、キセキの世代の2人が下がっても、点差詰められるどころか逆にリードを増やしよったからのう」

 

桐皇、秀徳の両校は早々にエースを下げたが、それでもチームは確実にリードを広げた。

 

「桐皇は、キセキの世代の擁するチームで1番昨年の主力が残ったチームで、スタメンの入れ替わりは昨年主将だった若松のポジションのセンターのみ。今年のセンターは…、見覚えがないな。もしかして、1年か?」

 

松永が桐皇の出場選手、自身の同じポジションであるセンターの選手を思い出す。

 

「俺、知ってます。去年の全中で戦いました」

 

花月の選手の中で、唯一見覚えがある竜崎。

 

「國枝清。昨年の全中でベスト5に選出された程の選手です。プレースタイルは技巧派センターと言った感じですが、パワーもかなりありました。試合は勝ちましたが、結構あいつのポジションからやられる事が多かったです」

 

去年の試合を思い出しながら竜崎が解説する。

 

「…桐皇のスタメンに選ばれるくらいだ。かなりの逸材なのだろうな」

 

「せやろうな。恐らく、中坊の時より伸びとるやろうしな」

 

「後は、今年の主将である福山さん」

 

次に大地が注目したのは、昨年時にスタメンに選ばれた現主将の福山零。

 

「去年以上のオフェンス能力にも驚きましたが、それ以上に驚いたのはディフェンスですね」

 

「せやな。まだまだ甘い所もあったが、かなり様になっとったのう。あれは全国レベルの選手でも、エース級やないと簡単には抜けへんやろなあ」

 

ディフェンスのスペシャリストである天野が福山のディフェンスを評価する。

 

「秀徳も、緑間がスモールフォワードにコンバートして、空いたシューティングガードに去年のまでの緑間の控えが入った。緑間のインパクトが強すぎて影に隠れがちだが、やはりそこは強豪、秀徳のユニフォームを勝ちとり、鍛えられた選手だ。レベルは当然高い」

 

新たに秀徳のスタメンに選ばれた選手を上杉が評価する。

 

「高確率でスリーを決めてた。そこに緑間さんが加われば…」

 

「晴れて、2本の長距離砲が並ぶと言う事か」

 

生嶋と松永が続いて言葉を放つ。

 

「他の選手達も確実にレベルアップしていました。桐皇、秀徳共に、もし試合をしたなら、去年と同じとはいかないでしょうね」

 

大地がそう評価し、締めくくった。

 

「…っと、来たぜ、次の目当てのチームが」

 

コートに注目していた空がニヤリと笑みを浮かべた。

 

『来た!!!』

 

同時に観客から歓声が上がる。コート上に現れたのは海常高校。キセキの世代の黄瀬を擁するチームである。

 

「盛り上がっとるのう。…けど、雑誌の評価は辛いみたいやな」

 

「どういうことだ?」

 

「見てみ」

 

天野が持っていた雑誌を菅野に見せる。

 

「なになに……海常高校。キセキの世代、黄瀬涼太を擁するも昨年は黄瀬頼りになる場面が多々あり、同じキセキの世代を擁するチームとの試合では特にそれが顕著であった。今年は、戦力補強もままならず、キセキの世代を擁するチームに勝利を収めるの非常に厳しく、初戦敗退もあり得る……って、ボロクソだな」

 

渡された雑誌に掲載されている海常高校の評価を読み上げる菅野。

 

「昨年にしても、他のキセキの世代のいるチームに敗れはしたが、好勝負を繰り広げたと言っても過言ではないんだがな」

 

内容に不満を持ったのは松永。

 

「…気に入らねえのは初戦敗退もあり得るってところだな。キセキ同士は1回戦ではぶつからない事はこれを掲載した時には分かっていたはずなのによくこんな内容書けんな」

 

海常高校を侮辱する内容にどこか苛立ちを覚える空。

 

「理由は、今日の海常の相手にあるからやろな。見てみ」

 

コート上の海常の対戦相手に花月の選手達は注目する。

 

「…えっ?」

 

「…おいおい、これはスゲーな」

 

コートの半面で、ハーフタイム中の練習をしている海常の対戦相手である、佐賀県代表の田加良高校。帆足と菅野が注目したのはその中の選手である。

 

「大型選手が4人いますね。見たところ、全員190センチ以上ありますね」

 

大地が、練習をする田加良高校の選手の中の4人のビッグマンに視線を向ける。

 

「田加良高校は、近年では珍しい、2番のポジションを置かず、フォワードセンターを置き、4人のビッグマンでインサイドを制圧するチームだ」

 

上杉が田加良高校の特色を説明する。

 

「インターハイ出場校の中でもトップレベルを誇るインサイドの強さ。そして、海常はインサイドが強いとは言えない。雑誌記者が海常の敗戦を匂わせる分析をしたのはこれが理由でしょうね」

 

姫川が両校を比較し、雑誌の意図を読み取った。

 

「ふーん。…ってことは、外がないって事だろ? いくらインサイドが強くても、外がなけりゃ――」

 

「――ところがや、そういう訳でもあらへんねん。…あいつや」

 

空の指摘を遮るように天野が口を挟み、1人の選手を指差す。

 

「田加良高校の4番。主将の胡桃沢。佐賀県ナンバーワンの司令塔であると同時に、佐賀県ナンバーワンシューターでもあるねん。あいつが4人のビッグマンに巧みにパスを出してインサイドを攻め、中を固めればあいつが外から沈める。外を警戒し過ぎれば中に切り込まれ、そこからパス…あるいはそのまま決めてまう。あいつが1番と2番を兼ねとるからより4人のビッグマンが生きる。これまで注目されんかったのが不思議なくらいや」

 

追加で天野が解説をする。

 

「となると、神城にとってもこの試合は目が離せない試合になるな」

 

「…」

 

松永に指摘に、空は特に答える事はなく、座席の肘掛け肘を突き、手を顎に当てながらコートに注目していた。

 

「海常は確か、生嶋さんの中学時代のチームメイトが在籍していましたよね?」

 

「うん。マッキーとスエ。城ヶ崎中時代にポイントガードとセンターをしていたチームメイトだよ」

 

「2人は今年、スタメンに選ばれていました。この試合は彼らが実に重要になりますね」

 

大地の指摘どおり、司令塔とインサイドが武器の田加良。2人の課せられた責任は重大である。

 

「けどま、結果なんてやらなくても知れてる。俺が見たいのは、黄瀬の実力と海常の総合力。後、『あの人』の実力だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

やがて、海常と田加良の試合がやってきた。

 

多数の観客達が海常勝利を予想するも、心の中では『番狂わせが起こるのでは?』と期待していた。田加良の選手達も負ける事など微塵も考えておらず、気負いも恐れもなく試合に臨んだ。

 

「……まさか、こんな結果になるとは」

 

「…これが、今年の海常」

 

 

試合終了

 

 

海常  117

田加良  34

 

 

番狂わせが起こる空気など微塵も見せず、圧倒的な点差を付けて海常が初戦を突破した。

 

「ったく、キセキの世代はどいつもこいつも、ホントバケモンだぜ」

 

「あのビッグマンのトリプルチームをものともしないパワーとスピードとテクニック。恐ろしい限りですね」

 

キセキの世代、黄瀬涼太のプレーを見て菅野と大地は驚愕する。

 

田加良高校は、当初、黄瀬にトリプルチーム。ボールを持っていない状態でも2人のビッグマンをマークを付けていた。だが、黄瀬は数人のマークを付けられようとお構いなしに突破、果てはパワーでも圧倒していた。

 

「黄瀬にも驚いたが、それ以上に驚いたのは、生嶋の元中の海常のポイントガード。確か、小牧だったか? あの胡桃沢を完全に抑え込みやがった」

 

アウトサイドシュートとゲームメイクに定評がある田加良高校主将胡桃沢。試合が始まると、序盤こそパスやスリーで翻弄するも、小牧はすぐに対応、第1Q終盤に差し掛かる頃には胡桃沢はろくにプレーをさせてもらえなかった。

 

「別に特に理由なんてありませんよ。ただ単純に、小牧が胡桃沢より優れているってだけです」

 

司令塔対決を制した小牧の勝因をそう言い除ける空。

 

「いやだって、相手は全国屈指のポイントガードの胡桃沢…」

 

「確かに、評判通りの実力はありましたけど、見てのとおり、あらゆる面で小牧が上回っていましたよ」

 

今大会でも指折りのポイントガードとして注目される胡桃沢。だが、空は小牧が上だと断言する。

 

「2年前の全中の時も、マッチアップした中で1番手こずったのが小牧だったからな。あれから海常に入って相当努力したんだろうな」

 

「意外ですね。俺はてっきり新海かと思ってました」

 

「あー、あいつもてこずったけど、それは、他のヘルプやカバーしながらだったからってのもあったからなぁ。個人で見たらあの時点では小牧の方が上だったぜ」

 

「実際、何度か抜かれてましたからね」

 

竜崎の指摘に空が思い出しながら答えると、大地はクスリと笑った。

 

「末広も、あのインサイドを相手にきっちり仕事をこなしていた。…だが、この試合で1番の脅威だったのが…」

 

「ああ、海兄だな」

 

空と松永がもっとも注目した選手。それは、海常の新戦力として現れた三枝海。この選手の存在が田加良の計算を大きく狂わせる結果となった。

 

「とんでもないパワーだった。4人のビッグマンを相手にインサイドを1人で制圧していた」

 

試合では、田加良のビッグマン達のインサイドからのオフェンスとディフェンスをことごとく跳ね返していた。

 

「黄瀬さんのトリプルチームを解いて海さんを何とか止めようと人数をかけて止めにきましたが、それでもお構いなしでしたからね」

 

「並大抵のパワーではあの人とは戦えない。昨年、桐皇の若松さんを相手に使ったハック戦術はあの人には通じないだろうな」

 

松永の口にするハック戦術とは、フリースローが苦手な選手に対してオフボールで故意にファールを繰り返し、フリースローを打たせる戦術。昨年の冬、桐皇の若松に対してこの戦術を仕掛け、それがハマり、点差を縮めるに至った。

 

しかしこの試合、田加良は得意のインサイドで活路を見出そうとしたが、三枝の存在によってそれも叶わず、果てはファールをしてでも止めようと試みたが、ファールをされてもお構いなしに相手を弾き飛ばしながら得点を決め、ボーナススローを獲得し、フリースローもきっちり決めていた。

 

「黄瀬と三枝。他の選手も全国で戦えるだけのレベルの選手に成長している。もはや、黄瀬のワンマンチームではない。今年の海常は、キセキの世代を擁するチームの中でも優勝候補と見てもいいだろう」

 

『…』

 

上杉の言葉に異を唱える者は1人もいなかった。

 

「…おっ?」

 

試合が終わり、ベンチからの引き上げ作業を終え、コートを後にしようとする海常。その中で小牧が観客席の空を見つけ、拳を突き出した。

 

「(全中の借りは今年返すぜ、神城!)」

 

心中で全中でのリベンジを誓う小牧。

 

「…ハッ! 次も勝たせてもらうぜ、小牧」

 

挑戦状を察した空が不敵に笑った。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

コートから去る海常。入れ替わるように陽泉の選手達がやってきた。

 

「インサイドに定評があると言われていた田加良高校。だが、陽泉とは比較にならんだろう」

 

ベンチに移動する陽泉選手に視線を向けながら上杉は言ってのける。

 

「1回戦の相手は、大仁田高校か」

 

「今年の大仁田も昨年と同じ、ポイントガードのスキルを持つ選手達による巧みなパスワークでゲームを進めるスタイルです。ただ、去年と唯一違うのは…」

 

試合の時間が近づき、先に大仁田高校のスタメンに選ばれた選手達がコート上にやってきた。

 

「今年大仁田高校に進学した1年生ルーキー。10番の伊達康隆。187センチの高めの身長と高い身体能力とテクニックで得点を量産するスコアラーです」

 

「…へぇ、結構やりそうだな」

 

姫川の説明を受けた空は、伊達から何かを感じとる。

 

「あいつも知ってます。ワンマンチームながらチームを全中まで引き上げた奴です。予選リーグであいつのチームは敗退してましたが、それでもかなり得点を重ねてました。1ON1スキルなら去年の全中出場選手の中で確実に五指の指に数えられる実力者だと思います」

 

見覚えがある竜崎から説明が入る。

 

「なるほど、彼の加入で昨年の大仁田高校の唯一の弱点であったエース不在の穴を埋めるわけですね」

 

昨年の冬、大仁田に苦しめられた花月。ここ1番で流れを変えられるエースがいなかった事が大仁田の敗因であった。その穴を埋めるのが今年スタメンに選ばれた伊達であると大地は指摘する。

 

「…だが、今年の相手が悪すぎる」

 

松永が神妙な表情でポツリと言った。同時に、陽泉のスタメンがコート上にやってきた。

 

『で、でかい!』

 

『やっぱり陽泉は半端ねー!』

 

スタメンに選ばれた陽泉の選手は、例年通り、紫原を筆頭に高身長の選手ばかりであった。

 

『…っ』

 

そのあまりの圧力に、大仁田の選手達も圧倒されていた。

 

「…っ、相変わらずデケーのが揃ってやがんな」

 

観客席からもその迫力が伝わった空は思わず冷や汗が流れる。

 

「2メートル選手が2人、190センチ代の選手が2人もいますからね」

 

スタメンは、主将を務める永野を除き、全員が高身長を誇る選手であり、その存在感を露にしていた。そして、センターサークル内で礼を済ますと、試合は開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

試合はすでに第4Q残すところ数分。花月の選手達は言葉を失っていた。

 

 

陽泉  82

大仁田  0

 

 

『…っ』

 

大仁田はボールを回し、得点チャンスを窺う。が、陽泉のディフェンスは一向に崩れる事はなく、シュートチャンスを作れない。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!』

 

遂に24秒過ぎても攻めきれず、オーバータイムがコールされてしまった。

 

「…またか、今日何度目だ?」

 

思わず菅野がぼやく。オーバータイムはこれが初めてではなく、この試合、何度かコールされている。

 

「なまじ、視野が広い選手が集まってるから、分かっちまうんだろうな」

 

仮にシュートを打ちにいってもブロックされてしまう。仮にブロックされなくとも焦って打ったシュートでは入る確率は低い。リバウンド勝負で陽泉に勝つのは至難の業。故に、ターンオーバーで失点をするくらいならと大仁田は無理に打たなかった。っと、空は分析した。

 

ボールは陽泉ボールになり、永野がボールを運び、パスを出す。

 

『来た!!!』

 

ここで観客が騒ぎ出した。

 

この試合、陽泉選手の中で紫原と同じ…いや、それ以上に存在感を醸し出している1人の選手に注目が集まる。

 

「…」

 

ボールは、左45度の位置に立っていたコート上唯一の黒人選手であるアンリ・ムジャイの手に渡る。

 

「…っ」

 

目の前でディフェンスをするのは、大仁田の1年生エースである伊達。

 

「…イクヨ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言すると同時に一気に切り込む。1歩目で伊達の横を抜け、2歩目で置き去りにした。

 

「っ!?」

 

そのあまりの速さに伊達は全く反応出来ず、あっさり抜かれてしまう。

 

 

――ダン!!!

 

 

ゴール下まで切り込んだアンリはボールを掴んでそのままリングに向かって跳躍した。

 

「くそっ!」

 

ヘルプに来た大仁田のセンターの選手がブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

だが、後に飛んだにも関わらず、大仁田のセンターの選手が先に落下を始めた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

アンリはそのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に観客席から歓声が上がる。

 

「…っ、とんでもないスピードとアジリティだ」

 

「それだけじゃないよ。あのジャンプ力も脅威だよ」

 

今のプレーを目の当たりにした松永と生嶋の表情が驚愕に染まる。

 

この試合、高い身体能力を駆使して得点を量産しているがこのアンリ・ムジャイ。

 

「秋田県予選でも、得点王を獲得しているわ。それだけじゃなくて、ディフェンスやリバウンドでも大きく貢献しているわ」

 

姫川からアンリに関する情報が語られる。

 

残り時間僅か、大仁田ボール。

 

「1本! 1本決めるぞ!」

 

大仁田のポイントガードが声を張り上げ、ゲームメイクを始める。敗北は既に確定しているが、せめて1本でも決めたい大仁田。ボールを回しをし、チャンスを窺う。そして、残り時間が5秒となったところで伊達にボールが渡る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受け取った伊達がドライブで切り込む。

 

「ムッ…?」

 

追いかけようとしたアンリだったが、スクリーンによって阻まれてしまう。

 

「この1本、絶対に決める!」

 

パス回しによってゾーンディフェンスが崩れており、伊達の周囲に陽泉のディフェンスはいない。チームメイトが作ってくれた最後のチャンス。何としても決めると決意を固める。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

アンリをかわした直後に急停止してジャンプショットを放つ。だが、そのシュートは紫原によってブロックされてしまう。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、試合終了のブザーが鳴った。

 

『…』

 

茫然とする大仁田選手達。最後の決死のオフェンスも陽泉から得点を奪う事は出来なかった。

 

「……強い」

 

観客席から試合を観戦していた空の口から最初に飛び出たのはこの言葉だった。

 

「今年の陽泉はおそらく、ここ数年を見ても最強の布陣と言えるだろう」

 

『…』

 

上杉の言葉に異を唱える者は1人もいなかった。

 

「絶対防御(イージス)の名は伊達ではない。生半可なオフェンスでは、陽泉からは得点は奪えない」

 

『…』

 

「だが、だからと言って、恐れていては勝てん。絶対に勝つと言う断固たる決意がなければ、陽泉には勝てん」

 

『…』

 

「行くぞ。インターハイの頂点を、真の意味で辿り着く為に、初戦の相手、陽泉を蹴散らすぞ!」

 

『はい(おう)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

インターハイ1日目…。

 

キセキを擁するチームは順当に勝利を収め、2回戦に駒を進めた。

 

2日目、2回戦。シード校の試合が始まる。誠凛、洛山。そして、花月の試合が始まる。

 

 

花月高校 × 陽泉高校

 

 

偶然にも昨年と同じ場所でこの2校が激突する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





予定ではもう少し進めるつもりでしたが、この時点でかなりのボリュームになってしまったので、一旦ここまでです。

さて、久しぶりの試合となるのですが、どのように展開させるか、未だ決めかねています。もしかしたら更新が遅くなるかもしれませんがご容赦を…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第99Q~スカウティング~


投稿します!

いい感じに投稿ペースが安定してきました…(^-^)

それではどうぞ!



 

 

 

インターハイ1日目の試合が終了し、その夜…。

 

「全員集まったな。これより、明日の試合相手である陽泉高校のスカウティングを始める」

 

花月高校の宿泊するホテルの一室に選手達と監督の上杉、マネージャーの姫川と相川が集まった。

 

姫川がリモコンを操作すると、正面のテレビについ先程行われた陽泉と大仁田の試合映像が流れ始めた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「始めに、陽泉高校の今年の主将、4番、ポイントガード、永野健司」

 

ボールを運びをする永野。冷静にドリブルをしながらゲームメイクを始め…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

目の前のディフェンスをドライブでかわし、中へ切り込んだ。

 

「…速い。去年よりスピードとキレが増してるな」

 

ドライブを見た空が昨年相手した時と比較し、そう答えた。

 

「それだけやない。視野も広がっとる。ええパス放るわ」

 

カットインをして相手ディフェンスを引き付けてからパスを出した永野を見て天野が言う。

 

「チームの軸となる為、この1年間自分を磨いてきたのだろう。こいつに如何に仕事をさせないよう抑える事が出来るか……神城」

 

「分かってますよ。去年同様、抑えてやりますよ」

 

名指しをされた空は不敵に笑いながらそう宣言した。

 

「次に、5番、シューティングガード、木下秀治」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

永野からのパスを受けた木下が外からスリーを放ち、ボールはリングを潜った。

 

「192センチの高い身長から放たれる打点の高いスリーは注意が必要です」

 

「去年も感じたが、長身のシューターってのは厄介だよな」

 

「…」

 

生嶋は真剣な表情で映像を見つめていた。

 

「どうです生嶋さん。明日の試合、この方をマークするのはあなたになるかと思いますが」

 

大地の指摘通り、明日の試合、ポジション的にも状況的にも木下とマッチアップするのは生嶋となる。

 

「身長差は10センチもある。厳しそうだね」

 

心配と不安を覚える帆足。

 

「心配ないよ。リングから距離があるスリーはゴール下程身長差の影響が出ないから」

 

不安そうな表情をする帆足を安心させる為に生嶋は笑みを浮かべながら言った。

 

「だが、それでも身長差があるのは事実だ。そのハンデを埋める為には相当体力を使う事になるぞ?」

 

「うん。分かってるよ。僕はシューターだ。シューターの事はよく理解しているよ。シューターが何を嫌がるか、よく知っている」

 

あくまでも心配ないと松永の懸念を払拭する生嶋。

 

「ま、あいつの相手は任せる。後、中が堅い陽泉ディフェンスを攻略する為にはお前のスリーが不可欠だ。あてにしてるぜ」

 

「どんどんボールを回してよ。全部決めてみせるから」

 

空の言葉に、生嶋は笑顔で答えた。

 

「次、9番、パワーフォワード。渡辺一輝」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

相手の放ったシュートを渡辺がブロックした。

 

「2メートルの身長を誇る、陽泉の選手の1人です」

 

「でっけーな。陽泉にはまだこんな奴がいたのか」

 

紫原に次ぐ高身長の渡辺を見て菅野の額から冷や汗が滴る。

 

「…」

 

映像に移る渡辺のプレーを松永は食い入るように見つめる。

 

「どうした松永? 何か気にかかった事でもあったのか?」

 

「…いや、そういう訳ではないんだが」

 

空の指摘に歯切れの悪い返事をする松永。

 

「…実は中学時代、こいつとは対戦した事がある」

 

「へぇー、結果はどうだったんだ?」

 

「…」

 

結果を空が問うと、松永は再び黙り込む。

 

「なんやねん、そんな押し黙る程ヤバい奴なんか?」

 

「…いえ、そう言う訳ではないんですが」

 

何かを言いよどむ松永。

 

「率直に言いますと、ただデカいだけの選手でした」

 

「…はぁ?」

 

松永の言葉に、天野が思わず声を上げる。

 

「中学3年の時に全中の予選で戦ったんですが、パワーは当時の俺でもやり合える程度でしたし、高さも、飛べば俺の方が高かったです。スピードとテクニックに関しては大したレベルではなかったです。正直、俺達世代最高身長の選手だったので覚えていましたが、それがなければ記憶に残っていたかどうか…」

 

「けどよ、試合を見た限り、そうは見えないぜ? 正直、陽泉以外ならスタメンセンターに選ばれてもおかしくないレベルだぜ、こいつは」

 

菅野の言う通り、試合では相手選手をインサイドプレーに対しても決して力負けしておらず、オフェンスではローポストからパワーとテクニックを駆使して得点を重ね、ディフェンスでは相手選手のシュートをブロックしていた。

 

「監督である荒木の影響かもしれんな。あいつはあの手の選手を鍛えるのが特に上手い。一昨年の主将の岡村を見れば分かるようにな。松永と試合をしてから2年もあったんだ。眠っていた資質を伸ばすには十分な時間だ」

 

ロングの試合映像から僅かに映る陽泉の監督である荒木の姿を見ながら上杉が言った。

 

「マッチアップすんのは、俺やな。こないなデカい奴相手すんのは初めてやな」

 

試合映像を見ながら天野がぼやく。

 

天野とて、193㎝の身長があり、高校生のバスケ選手としては決して低い方ではない。だが、渡辺はそんな天野より8㎝も高く、天野がこれまでマッチアップした選手の中でも最長の選手である。

 

「けどま、抑えな話にならんからのう。抑え込んだるわ」

 

右拳を左の手のひらでパチン! と当て、意気込みを見せた天野だった。

 

「次に、11番、スモールフォワード。アンリ・ムジャイ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを持ったアンリが高速のドライブで相手選手を一瞬で抜き去る。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままインサイドに切り込み、ワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

「…っ、とんでもないスピードとジャンプ力だな」

 

ドライブからダンクまでの一連のプレーを見て、松永が表情を曇らせる。

 

「あのスピードとアジリティはマジで青峰レベルじゃないのか?」

 

目の前の選手が反応出来ないレベルのスピードと加速力でドライブを披露したアンリを見て、菅野が思わずキセキの世代のエースである青峰と比較する。

 

「…体感はそれ以上に感じます。実際、目の前で目の当たりにしたのなら、もっと速く感じるかもしれません」

 

大地はアンリのドライブを見てそう感想を述べた。

 

「そっちも厄介だが、あのジャンプ力も厄介やで。あの高さと滞空時間は下手したら誠凛の火神クラスや。飛ばれたら終いや」

 

天野の指摘はもっともで、ヘルプに来た相手選手の上から、しかも、相手より先に飛んだにも関わらず相手より長く飛びながらボールをリングに叩きこんでいた。

 

「オフェンスもそうですが、ディフェンスでもこの身体能力は生かされます。チンタラしていたら、あっという間にヘルプに来るでしょうね」

 

空の指摘通り、大仁田がボールを回してフリーの選手を作り出してもこのアンリがあっという間に距離を詰め、シュートをブロックしてた。

 

「去年の劉は、典型的なパワー型のインサイドプレーヤーだったが、こいつはスピードとジャンプ力特化のスラッシャータイプの選手だ。…ポジション的に、大地、お前がこいつの相手だぜ?」

 

隣に座る大地に空が視線を向けながら問いかける。

 

「…確かに、あのスピードとアジリティから来るドライブは厄介です。ですが、青峰さんのような横の出入りはありません。私もスピードには自信があります。抑えてみせます」

 

覚悟を決めた表情で大地は返したのだった。

 

「最後に、6番、センター、紫原敦」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

十分にノーマーク放たれたと思ったミドルシュートを紫原が難なく追いつき、ブロックした。

 

「…マジかよ。今の完全フリーだったろ。あれに追いついちまうのかよ」

 

シュートを打つ直前、それなりの距離があったにもかかわらず、紫原はその距離を一瞬で潰し、ブロックしてしまう。

 

「あの身長と手足の長さであの反射神経とスピードは反則レベルだ。マジでツーポイントエリアから得点を奪うのは地獄だぜ」

 

圧倒的な紫原の守備範囲を見て空の背筋が凍る。

 

「荒木め、かなり紫原を鍛え上げたな。身体付きが去年とまるで違う」

 

映像に映った紫原の身体を見て上杉が唸る。

 

「去年は結局、堀田さんがオフェンスに参加するまで紫原から1点も取れなかったんだよな」

 

『…』

 

去年の陽泉との試合を思い出す空。空の言葉を受けて花月の選手は言葉を発せなかった。

 

「あん時はたけさんがディフェンスに専念しよった関係で4人で攻めとったからちゅうのもあるけどな。…けどま、それ抜きにしても今年の陽泉はあかんわ」

 

「ああ。氷室と劉が抜けて戦力ダウンするかと思ったが、これは下手すると去年以上かもしれないぜ…!」

 

天野の言葉に同意する菅野。

 

「ただやみくもに戦っては、勝つどころか大仁田と同じように1点も取れずに終わってしまうこともあり得る」

 

神妙な表情で松永が続ける。

 

その後も選手間で意見を出し合いながら陽泉選手の分析と対策を立てる。

 

『…』

 

ひとしきり話し合った後、再び室内が沈黙が包まれる。何か突破口が開ける何かはないか、真剣に考える。

 

「……全員、こっちを向け」

 

この沈黙を破ったのは、上杉だった。上杉は立ち上がると、テレビの横に置いたあったホワイトボードを選手達の前へ移動させた。

 

「これから、明日の作戦を説明する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日、インターハイ2日目…。

 

2日目からシード校の試合が始まる。この日、1番の注目カードは、花月高校と陽泉高校の試合である。

 

「っしゃっ!」

 

身体を解しながら気合いを入れる空。早々に会場入りした花月の選手達は各々、試合の準備を進めていた。

 

「ねえねえ、姫ちゃん知らない?」

 

柔軟運動をしていた空に相川が問いかける。

 

「姫川? そういやいねえな」

 

辺りを見渡しながら空が答える。

 

「どうしよう。テーピングの数とか相談したかったんだけど…」

 

「よっと、そんじゃ俺が探してきてやるよ」

 

空は姫川を探すべく立ち上がった。

 

「えっ、悪いよ。試合の準備だってあるんでしょ?」

 

「ちょうど喉が渇いてたから、ジュース買いに行こうと思ってから、そのついでに行ってくるだけだから気にすんなって」

 

「ごめんね。それじゃ、お願いね」

 

後ろ手に手を振って、空は姫川を探すべくその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「放してください」

 

「いーじゃんかよ。ちょっとぐらい付き合えよ」

 

会場の外。姫川はしつこいナンパにあっていた。

 

「急いでますので」

 

ナンパを無視して姫川はその場を後にしようとする。

 

「待てよ」

 

だが、ナンパ男は立ち去ろうとする姫川の肩を強引に掴む。

 

「お前の都合なんざ知らねえーんだよ。俺が付き合えっつってんだから付き合えよ」

 

「っ!」

 

ナンパ男は肩を掴んだ手に力を込める。すると、姫川の表情が苦痛に染まる。

 

「楽しいトコ連れてってやるからよ。一緒に遊ぼーぜ」

 

強引に姫川を自分の傍に引き寄せ、肩に腕を回した。

 

「っ、いい加減に――」

 

その時、ナンパ男目掛けて何かが飛来してきた。

 

「あん?」

 

それに気付いた男はそれを右手でキャッチした。飛んできた物は、缶ジュースだった。

 

「わりーな、手が滑った」

 

飛んできた先から、空が不敵な笑みを浮かべながら立っていた。

 

「その子、ウチのチームのマネージャーなんだわ。ナンパなら他当たってくんない?」

 

「放して!」

 

現れた空に気を取られている間に姫川は肩に回された腕を振りほどき、空の後ろまで駆けていった。

 

「神城君…」

 

「相川が探してたぜ? 早く行ってやれよ」

 

「でも…」

 

姫川は空と男を交互に見て戸惑う。

 

「いいから。早く行っとけ」

 

「……分かったわ」

 

一瞬考えた後、姫川はその場を後にしていった。

 

「…じゃ、そういう事で」

 

姫川が立ち去ったのを確認すると、空は踵を返し、後ろ手で手を振ってその場を去ろうとする。

 

「待てよ」

 

「っ!?」

 

 

――ブン!!!

 

 

男が引き留め、空が振り返ると、男は空の顔目掛けて拳を振るった。空は咄嗟に横に上半身を傾けてかわした。

 

「っと!」

 

拳をかわした空に対して追い打ちをかけるように男は蹴りを繰り出す。空は上半身を後ろに倒して蹴りをかわし、距離を取った。

 

「へぇ? 意外とやるな」

 

避けられると思わなかったのか、男は感心する。

 

「(…こいつ、本気で当てにきやがった)」

 

威嚇でも寸止めでもなく、本気で殴り掛かってきた男を見て空の表情が僅かに曇る。

 

「…お前、ジャージ着てここにいるって事は、選手だろ? こんな所で喧嘩していい立場じゃねえだろ」

 

この男が選手なら、つまり、インターハイの参加校と言う事になる。喧嘩をしてそれが表沙汰になれば、不戦勝だけではなく、その後の部活動にも差し障る事になる。

 

「知るかよ。俺はバスケなんざ何とも思ってねえからな。どうなろうと知ったこっちゃねえんだよ」

 

男は悪びれる事もなく空に言ってのける。

 

「あー気分わりー。人の楽しみ邪魔しやがってよ。てめえで憂さ晴らしてやるよ」

 

拳を握り、ジリジリと空に近寄る男。

 

「くっだらねえ。やりたきゃ他当たれ。こっちはお前の相手してる暇なんかねえ」

 

「…決めたわ。ここでお前殺してやるよ」

 

「やれるもんならやってみろ。腐れドレッド」

 

男は駆け出し、空に殴り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ハァ…ハァ……くそがっ!」

 

「…」

 

男が空の顔面目掛けて左右の拳を振るう。左拳をスウェーでかわし、右拳を掻い潜り、一定の距離を取った。

 

「ちょこまかちょこまかしやがって…!」

 

自身の振るう拳をことごとく避けられ、憤りを隠せない男。空は、殴り掛かってくる男の打撃を避けるあるいは払うをひたすら繰り返している。目の前の男は、空より体格に優れ、何より、人を殴り慣れている上に暴力を振るう事に抵抗がない。だが、空からすればそれだけであった。

 

空は、家業である漁を手伝う傍ら、海の治安維持の為、密漁者の見回りもしている。現場を見咎められれば大人しく退く者もいれば、中には折角手に入れた収穫物惜しさなのか、然るべく機関に通報される事を恐れてなのか、暴力手段に訴える者も多数いる。中には、喧嘩慣れしている者や、格闘技に精通している者、果ては凶器を振るう者もいる。

 

そのような輩を相手にしてきた経験がある空は、目の前の男はただ人を殴り慣れているだけで、喧嘩慣れしていない事にすぐに理解した。実際、体格に優れた厳つい男が何の抵抗もなしに暴力を振るってくれば恐怖でしかない。これまで男が殴ってきた者達は、抵抗も出来ずに殴られたか、最初こそやる気があっても、遠慮なく殴られた事で早々に戦意を喪失した者達ばかりなのだろう。

 

修羅場をそれなりに経験をしている空からすれば、純粋な喧嘩をほとんどした事がない男をあしらう事はさほど難しい事ではなかった。その気になれば叩きのめす事も出来るだろうが、当然、その選択肢は取れない。それをしてしまえば花月が出場停止処分になりかねないからだ。原因を作ったのも先に手を出してきたのも向こうなのだから本来は正当防衛なのだが、目撃者がいないこの状況で反撃すれば、まず間違いなく喧嘩両成敗で片付けられてしまう。

 

正当防衛に真実味を持たせる為にはある程度怪我を負わなければならないのだが、大事な試合を控える空からすればそこまでする義理もメリットもない。相手を組み伏せて拘束するにしても、体格では相手が上回っている為、振り解かれて下手したら怪我をしかねない為、それもやりたくない。

 

「(…さて、もう少しかな)」

 

打撃を避けながら空は何かを待っていた。

 

「こらぁっ! そこで何をしている!?」

 

その時、怒号のような声が2人の耳に入ってきた。声が聞こえてきた方角に視線を向けると、そこには警備員が2人の下に駆け寄ってきた。

 

空が待っていたのはこれであった。いくら人通りが少ない場所とは言っても、人の通りは皆無ではない。時間を稼げば誰かが通報してくれる。その為に、空はただただ相手の打撃をかわし続けていた。

 

「ちっ、邪魔が入ったか。…おいてめえ、覚えてろよ」

 

そう言い残し、男はその場を去っていった。

 

「おい君、大丈夫かい?」

 

「ええ。見ての通り、怪我1つありません」

 

無傷をアピールするように空は両腕を広げる。

 

「女の子が必死になって助けを求めてきたから、急いで来たのだが、見た所、怪我がないようだし、良かった良かった」

 

負傷の後がない空を見て警備員は安堵する。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

警備員が事情を説明すると、遅れて姫川がやってきた。

 

「神城君、怪我はない!?」

 

「心配いらねえって、言っただろ?」

 

息も絶え絶えに尋ねる姫川。空はあっけらかんとした表情で返した。警備員は無線で何処かに連絡を取っていた。無線での連絡を終えると、警備員室で事情の説明を求められたが、試合がすぐに控えている為、それを辞退。変わりにその場で空達と軽い事情聴取のような話し合いをした。

 

「物騒な者もいたもんだ。本部に警備の人員を増やすよう報告しておくよ。2度とこんな事が起こらないよう警備を強くする。けど、君達も一応用心しておいてね」

 

そう言い残し、警備員はその場を後にしていった。

 

「やれやれ、試合前にとんだゴタゴタに巻き込まれたもんだ。さて、みんな所に戻ろうぜ」

 

「…ええ、そうね」

 

そう言って、空と姫川はチームメイト達が待つ所へ向かっていった。

 

「(…あの男はやっぱり。…けど、あの人が何でこんな所に…)」

 

男に見覚えがあった姫川。だが、その男はこの場にいるはずがない男であったので、戸惑いを隠せない姫川なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月高校が集まる控室…。

 

『…』

 

試合時間が刻一刻と近づくにつれて、選手達の口数は減っていき、今では誰1人口を開こうとしない。

 

初戦の相手は陽泉高校。去年のインターハイでも戦い、勝利した相手だが、それは三杉と堀田の力によるものが大きいし、試合も接戦であった。

 

去年の冬、その2人抜きでキセキの世代を擁する秀徳に勝利し、桐皇を後一歩の所まで追いつめた経験もあるが、秀徳戦の勝利は相性の良し悪しと奇策がハマった事によるものが大きく、桐皇の接戦も、あらゆるものが花月に味方した事によるものが大きく、仮に再戦すれば敗北は必至である事は花月の選手が1番理解していた。

 

陽泉は、花月にとって相性がかなり悪い相手である。それが分かっている為、選手達はプレッシャーを感じている。後は、去年の冬に秀徳を撃破し、桐皇を後一歩まで追いつめた事で周囲のからの期待感も大きく。それがまた、選手達にプレッシャーとしてのしかかっている。

 

「時間だ。皆、準備は出来ているな?」

 

控室にやってきた上杉が選手達に問いかける。

 

「スー…フー……よっしゃ、行こうぜ!!!」

 

大きく深呼吸をした空が大きな気合いを入れた。

 

「やかまし! そないな声ださんでも聞こえとるわい!」

 

「空、みんな集中しているのですから、急に大声を出さないで下さい。心臓飛び出るかと思いましたよ」

 

大声にびっくりした天野が空に突っ込みを入れ、大地は苦笑いで空を窘めた。

 

「そりゃないぜ、イメトレしてたら葬式みたいな空気なってから俺が活を入れたってのに…」

 

良かれと思ってした行動を窘められ、軽く凹む空。

 

「大丈夫。ここまで来たら恐怖はないよ。ただ勝つだけだね」

 

「同感だ。今更怖いも何もない。全力で試合に臨み、勝ちに行くだけだ」

 

生嶋と松永が空に対して意気込みを露にする。

 

「覚悟をとっくに出来ています。後は、試合に臨むのみです」

 

「同感や。相手が何処やろうと、やる事は変わらへん。120%に力出して勝つだけや」

 

大地と天野も、意気込みを露にした。その他の選手達も、一様に覚悟が決まったのか、薄っすらと笑みを浮かべていた。

 

「よし。全員、戦う準備は出来ているようだな。では行くぞ!!!」

 

『はい(おう)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『来たぞ!!!』

 

花月、陽泉の両選手達がコートにやってくると、会場中の観客達が歓声を上げた。

 

観客達の目当ては、花月と陽泉の試合であり、この日最大のメインイベントであると目されている為、観客席はほぼ満員状態である。

 

下馬評では、陽泉有利で、花月の勝率は万に一つとまで言われている。だが、観客達は『番狂わせが起こるのでは?』と、期待に胸を膨らませていた。

 

「スタートは神城、生嶋、綾瀬、天野、松永だ。これに変更はない。相手は今大会最高の高さを誇る相手だ。だが、機動力ではこちらが上だ。やる事は変わらん。足りないものは相手の倍走って補え」

 

『はい!!!』

 

「行って来い!!!」

 

「っしゃっ! 行くぞぉっ!!!」

 

空を先頭に、スタメンに選ばれた選手達がコートに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両校のベンチから、スタメンに選ばれた選手達がコート中央へとやってくる。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

陽泉高校スターティングメンバー

 

4番PG:永野健司     181㎝

 

5番SG:木下秀治     192㎝

 

6番 C:紫原敦      211㎝

 

9番PF:渡辺一輝     201㎝

 

11番SF:アンリ・ムジャイ 193㎝

 

 

『で、でけぇー!!!』

 

190センチ代を2人、2メートルの選手を2人も揃えた摩天楼軍団の陽泉を見て、観客達が思わず声を上げる。

 

花月も全国的に見ても高さがないチームではない。だが、陽泉の選手達と並ぶと、どうしても低く見えてしまう。

 

「ふわぁ…」

 

両校の選手達が並ぶ中、紫原が気怠そうに欠伸をした。

 

「随分と余裕そうですね」

 

その様子が目に付いた空が紫原に話しかける。

 

「んー? 別に余裕かましてる訳じゃないよ。ただ、負ける気がしないってだけ」

 

話しかけられた紫原は興味なさ気に答えた。

 

「そんな呑気で良いんですか? 俺達これでも、同じキセキの世代の1人がいるチームに勝ってるんですけど?」

 

「知ってるよ。だから何? あんなマグレ臭い勝利が何度も続くと思ってんの?」

 

「続かないとも限らないっスよね?」

 

一向にこちらに興味を抱かない紫原に、空は煽るように言う。

 

「あるわけないじゃん。バスケはデカい奴が勝つように出来てる。どのポジションでも高さで負けてるお前達にどうやったら俺が負けるの?」

 

僅かに憤り始めた紫原が煽り返すようにそう返す。

 

「ぷはっ! アハハハハハ!」

 

すると、空が突然笑い始めた。

 

「どしたの? 現実思い知って狂った?」

 

「いやいや、まさか、キセキの世代で1番冗談が上手いのが紫原さんだとは思わなくて」

 

「?」

 

空の言ってる意味が理解出来ず、頭に『?』を浮かべる。

 

「あんたが言う事が正しいなら、一昨年も去年も、全部陽泉が優勝しているはずですよね? あんたが陽泉に来てから何回優勝しました?」

 

「っ!?」

 

その言葉を聞いて、紫原の表情が歪む。

 

「いつの時代の話してるんですか? デカい奴揃えれば勝てる時代はとっくに終わってるんだよ。そんな事言ってるから、自分より小さい奴に何度も負けるんだよ」

 

「あー去年も感じたけど、お前って、俺が嫌いな奴に似ててムカついてたんだよね」

 

そう言うと、紫原は空の頭付近まで手を伸ばした。

 

「適当にやって捻り潰すつもりだったけど、今決めたわ。お前、2度とバスケ出来ないようにここで全力で捻り潰してやるよ」

 

怒りの表情で紫原が空の頭に手を置こうとする。

 

「ホラホラ、整列ダヨ! チャント並バナイト!」

 

その瞬間、アンリが紫原の後ろから抱きしめながらそう促す。

 

「…っ、分かってるしー。っていうか、気持ち悪いからくっつかないでよ」

 

水を差された紫原は渋々整列した。

 

「君ノコトワ知ッテルヨ。グッドプレーヤーミタイダネ! 今日ハ楽シク試合ヲシヨウ!」

 

陽気に空に話しかけ、手を差し出すアンリ。

 

「もちろん。よろしく」

 

同じく手を出し、2人は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

センターサークル内に両校の選手達が並ぶ。

 

「これより、花月高校対陽泉高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

「去年の借りは返させてもらうぜ」

 

「させませんよ。今年も俺達が勝たせてもらいます」

 

両校の主将である空と永野が握手を交わす。センターサークル内にジャンパーである松永と紫原を残して周囲に散らばっていく。

 

「…」

 

「…」

 

センターサークルの中心で対峙する松永と紫原。審判がその間に立ってボールを構え、ボールを高く上げる。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

花月高校と陽泉高校の試合の火蓋が今、切られたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





アンリ・ムジャイの身長を196㎝から193㎝に修正しております。

さて、ついに試合開始がされ、次話から本格的に試合が始まります。正直、肝心な試合の中身が完全に固まっていないので、もしかしたら投稿間隔が空くかもしれませんのでご了承を…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第100Q~トラジションゲーム~


投稿します!

台風が吹きすさむ中、仕事も休みとなり、早めの投稿です。

遂にこの二次も100話目に到達!!!

それではどうぞ!



 

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

高く上げられたジャンプボール。ジャンパーの松永と紫原が同時にボール目掛けて飛んだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「くっ!」

 

松永より遥かに高い所で紫原がボールを叩いた。

 

「ナイスだ、紫原!」

 

ボールは、永野の立っていた所へと飛んでいく。永野がボールを掴む。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、永野がボールを掴む直前、空がそのボールに飛びついていち早く掴んだ。

 

「よっしゃっ! 行け!!!」

 

ボールを確保した空は、着地と同時にボールを前へと放り投げた。そこには、リング目掛けて走っている大地の姿があった。

 

『まさか、神城がボールを取るのを見越していたのか!?』

 

観客の考えている通り、大地は、ジャンプボールで紫原の叩いたボールの軌道と空のポジションを確認した上で空がボールを奪うと確信し、速攻に走っていた。

 

ボールを掴んだ大地はそのままリング付近までドリブルをし、そのままリングに向かって跳躍した。

 

『先制は花月だ!』

 

観客の誰もが花月の先取点を確信する。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

だが、その淡い期待は背後からやってきた黒い影に阻まれる。

 

「サセナイヨ!」

 

「っ!?」

 

ブロックに現れたのはアンリ。ブロックされるとは思わなかった大地は思わず目を見開いた。

 

「なっ!? 先頭を走る大地に追いついただと!?」

 

空も驚きを隠せなかった。

 

紫原がボールを叩いた後、大地が速攻に走ったのは確認していた。その大地に僅かに遅れてアンリが大地を追いかけて走っていったのも確認していた。

 

「アウトオブバウンズ、緑(花月)ボール!」

 

ボールはエンドラインを割ってコートの外に転がった。

 

「(先頭を走った大地に追いつけるのは俺くらいかと思っていたが…)」

 

スピードに絶対の自信がある大地。実際、スピードだけなら大地は高校生の中でもトップクラスである。そんな大地に後ろから追いついてしまったアンリのスピードに空は驚愕した。

 

「…ふぅ」

 

未だ、驚きを隠せない大地。思わずアンリに視線を向けた。

 

「サンキュー、アンリ!」

 

「フー、スゴイスピードダ。アトイッポオソカッタラオイツケナカッタ」

 

アンリ自身も余裕があった訳ではなく。同じくスピードに自信を持っていただけに、ギリギリまで追いつかせなかった大地のスピードに驚いていた。

 

「コレハ、クロウシソウダ」

 

大地に視線を向け、強敵である事を改めて確信するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ボールで試合は再開される。ボールは大地から空に渡される。

 

「1本! 止めるぞ!」

 

永野が声を張り上げ、気合いを入れる。

 

「…」

 

ボールをキープする空。陽泉のディフェンスはもはやお馴染みの2-3ゾーン。前のポジションに永野と木下。後ろのポジションに渡辺、紫原、アンリが立った。

 

平均身長190㎝以上の選手達によるゾーンディフェンス。中央に紫原を置いた事により、圧倒的なプレッシャーを放っていた。

 

「あんだけデカい奴らにゾーンを組まれると相当攻めづらいぞ」

 

「しかも、紫原さんが中央に立ってるから他の4人はさらに前にポジションを取っているから外も打ちづらい」

 

観客席で試合を観戦していた海常の小牧と末広が自身が試合をしている想定で感想を語る。

 

「あれがキセキの世代のセンターの紫原かい。えープレッシャー放つのう。是非とも相手してみたいもんじゃ」

 

圧倒的な存在感を放つ紫原を見て三枝は不敵な笑みを浮かべる。

 

「正直、あのディフェンスを崩すのは俺でも難しいっス。…花月はどう攻めるんスかね」

 

黄瀬は、花月のオフェンスの行方に注目したのであった。

 

「っし! 行くか!」

 

攻め手を決めた空はハイポストに立つ松永にパスを出した。

 

「よし!」

 

ボールを受けた松永はスリーポイントラインの外側に立つ生嶋にパスを出す。生嶋はすかさず中の天野にパスを出した。

 

花月は絶えずパスを出し続け、ボールを動かし続ける。

 

 

「へぇー、去年にはなかったパターンだな。去年は神城がパスを出すか、天野を中継してそこからシュートがほとんどだったのに」

 

「あれから半年以上月日が経っているのだ、この程度のパスワークなど、出来て当たり前なのだよ」

 

試合を観戦している高尾がパスワークを見て感心し、緑間は厳しい意見を出す。

 

「…けど、チーム全体が広い視野とパスセンスを持つ大仁田でもこのディフェンスは崩せなかった。果たして、得点を奪えるのかね」

 

高尾が囁くように言った。

 

 

ボールを絶えず動かし続ける花月。だが、陽泉のディフェンスは崩れず、シュートチャンスを作れない。

 

『もうすぐ20秒だぞ?』

 

ショットクロックは間もなく残り4秒に差し掛かろうとしており、早くシュートを打たなければオーバータイムを取られてしまう。

 

「…」

 

20秒に達したの同時に空がインサイドへと飛び込む。同時に右アウトサイドでボールを受け取った生嶋が空へとパスを出した。

 

『仕掛けるか!?』

 

動きを見せた空を見て、観客の注目が集まる。陽泉のディフェンスが空へと集まっていく。

 

 

――スッ…。

 

 

「なっ!?」

 

「っ!?」

 

ボールが空の手に収まろうとしたその時、空はボールを取る為に伸ばした手を引っ込め、ボールをスルーする。

 

「よし!」

 

スルーされたボールは、そのまま逆サイドに展開していた大地の手に渡る。

 

『あっ!?』

 

中へ走りこんだ空に釣られてしまった為、陽泉のゾーンディフェンスが乱れてしまう。大地はボールを受け取るのと同時にシュート態勢に入る。だが、そこに紫原のブロックが現れる。

 

「はぁ? それで俺を出し抜いたと――」

 

「――思っていませんよ」

 

大地はボールをリリースする。ボールはブロックに飛んできた紫原の横を通っていく。

 

「(この軌道、シュートじゃない。……っ!?)」

 

いち早く大地の放ったボールがリングの軌道を僅かに逸れている事に気付いた紫原。それと同時に、そのボールに向かって飛ぶ1人の選手に気付く。

 

「こっちが本命だ!」

 

『神城だぁっ!!!』

 

放られたボールに飛び込んだのは空だった。ボールをスルーした直後、陽泉選手の視線が大地に釘付けになっている隙に1度下がり、紫原がヘルプに飛び出したのを確認してから大地に合図を出し、リングに向かって飛んだ。

 

「…っ! 決めさせ――」

 

脅威の反射神経でこのパスに反応した紫原。再度ブロックに向かおうとしたが、阻まれる。

 

「っ! 通行止めや」

 

天野がスクリーンをかけ、紫原のヘルプを妨害する。これにより、紫原はヘルプに行けなかった。

 

ボールを空中でキャッチした空。そのままボールを構え、リングに向かってボールを叩きつける。

 

『先取点は、花月だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

その直前、空の右手に収まっていたボールは弾き飛ばされてしまう。

 

「フゥー、アブナイアブナイ」

 

間一髪でアンリが空のアリウープを阻止した。

 

「二重三重に絡めた奇策は見事だった。…1つ言っておく、アンリは紫原ほどのディフェンスエリアはないが、それでもかなり広い。ディフェンスエリア内であれば、アンリは一瞬でブロックに来るぞ」

 

両腕を胸の前で組みながら荒木が言った。

 

「ナイス、アンリ。キャプテン!」

 

ルーズボールを拾った渡辺が永野にボールを渡す。

 

「行くぞ、速攻だ!」

 

「ちっ、戻れ! ターンオーバーだ!」

 

オフェンスが失敗し、ディフェンスに戻る花月。陽泉選手達は全員フロントコートまで走っていく。

 

「っと!」

 

スリーポイントライン直前で空が永野を捉え、回り込む。同時に大地も戻っていた事もあり、永野は1度停止した。

 

「よこせ!」

 

フロントコートに走ってきた紫原がボールを要求した。

 

「あの紫原が序盤からオフェンスに来やがったのか!?」

 

観客席のかつて対戦経験のある誠凛の火神がその光景を見て驚く。

 

基本的に自陣のゴール下に留まり、ディフェンスに専念する事の多い紫原。第1Q序盤…それも、最初のオフェンスから参加する事はほぼ皆無な事である。

 

「どういう風の吹き回しだが知らないが、やる気を出してくれるってんならありがたい!」

 

永野は躊躇う事なくローポストにポジションを取った紫原にカットされないよう飛びながら高くボールを放ってパスを出した。

 

「捻り潰してやる」

 

背中に張り付くようにディフェンスに付いた松永。

 

「…ぐっ!」

 

ジリジリと背中でドリブルをしながら松永を背中で押し込みゴール下まで侵入する。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

リングの下に到達するとすかさずボールを掴んでリングにボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

『うおぉぉぉぉぉぉっ!!! スゲー迫力!!!』

 

「どう? お前ごときじゃ絶対止められな――」

 

 

――ピッ!!!

 

 

自分をマークしていた松永に言葉を吐きかけようとした紫原。松永はリングに叩きつけられたボールをすぐさま拾い、スローわーとなって天野にパスを出す。

 

「速攻や!」

 

ボールを受け取った天野はフロントコート目掛けてボールを投げた。そこには、すでにフロントコートまで走りこんでいた空と大地の姿があった。

 

「っ!? 戻れ!」

 

普段であれば紫原がディフェンスに専念している為、トランジッションゲームの警戒は必要ないのだが、今は紫原がオフェンスに参加している。その為、慌てて声を掛け、自陣へと戻る永野。

 

「くそっ、あいつらー…!」

 

苛立った表情で同様にディフェンスに戻る紫原。

 

「よし!」

 

スリーポイントライン目前でボールを掴み、そのままリングに向かってドリブル。そのままレイアップの態勢に入る。

 

「ウタセルカ!」

 

そこへ、シュートコースを塞ぐようにアンリが現れる。

 

『うわー! やっぱりはえー!!!』

 

「…知ってるよ」

 

空はレイアップを中断。ビハインドパスでボールを右に流す。

 

「ナイスパス!」

 

「っ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った大地がそのままレイアップを沈めた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

『早くも無失点記録が途絶えた!』

 

1回戦を0点に抑えて勝利した陽泉。無失点の記録を花月が試合開始1分経たずに破った事に観客が沸き上がる。

 

「くそっ…」

 

先取点を決めて早々に返され、悔しさを露にする永野。

 

「さっさとボールよこせ! 俺がもう1回捻り潰すからさあ!」

 

「お、おう!」

 

急かすようにボールを要求する紫原。珍しくオフェンスに意欲を示す姿に戸惑いを覚えながら永野はボールを受け取り、ゲームメイクを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

再び紫原のダンクが炸裂する。

 

「走れ!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

同時にフロントコートに走った空か大地にボールが渡され、どちらかが得点を決める。

 

試合が開始され、早くも3分が経過した。試合は、紫原が得点を決め、直後、速攻に走った空と大地が決め返す。

 

時折、紫原へのパスがカットされたり、空と大地のオフェンスが止められたりして得点が決まらない事もあったが、同じパターンを繰り返していた。

 

 

第1Q、残り6分58秒。

 

 

花月 10

陽泉 10

 

 

目まぐるしく攻守が切り替わる試合展開。ハイペースで試合は進行していた。

 

 

「なるほど、無視か」

 

試合を観戦していた赤司がポツリと呟いた。

 

「? どういうことだ?」

 

その言葉に疑問を覚えたチームメイトの四条が聞き返す。

 

「花月は紫原を止める事を放棄している。見ろ」

 

ローポストにポジションを取っている紫原にボールが渡る。松永は侵入を阻止する素振りを見せるが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ゴール下まで侵入した紫原がダンクの態勢に入ると距離を取り、ブロックには行かなかった。

 

「ホントだ。あの8番、マークには付いてるが、紫原がシュート態勢に入ってもブロックに向かう素振りすら見せてない」

 

「ローポストで紫原がボールを掴んだら花月に止める手段はない。ディフェンスでは、基本紫原にボールが渡らないよう徹底的にディナイをかける。もし、紫原にボールが渡ってしまったら無理にブロックに行かず、そのまま打たせる。そして…」

 

ボールをすかさず拾った松永がフロントコートにロングパス。そこには既に空と大地が走りこんでいた。

 

 

――バス!!!

 

 

空がそのままレイアップを決めた。

 

「紫原のダンクと同時に速攻に走っていた神城か綾瀬にパスを出し、陽泉のディフェンスが整う前に決めてしまう。如何に紫原でも、ゴール下で得点を決めたのと同時に速攻に走ったあの2人に追いつくのは不可能だ」

 

「なるほど、如何なる攻撃を跳ね返す盾も、構える前に攻撃されちまえば意味がない、か」

 

赤司の解説に納得が言った四条は頷いた。

 

 

 

「でもむっくん、どうしてムキになってオフェンスに参加するんだろ? いつもみたいに自陣でディフェンスに専念すれば防げるのに」

 

場所か変わって、同じく観客席で観戦していた桃井が思わず首を傾げる。

 

「恐らく、神城が何か言ったんだろ。あいつは紫原が嫌うタイプだからな。さっきも試合前に何か話してたからな」

 

疑問に答えるように青峰が答える。

 

「…けどまあ、このままじゃ少しヤバいかもな」

 

「花月が?」

 

「いや、ヤバいのは――」

 

 

「陽泉は自滅する?」

 

再び場所が変わり、誠凛の選手達が集まる観客席の一角。

 

「ええ。陽泉は花月のペースにハマっているわ」

 

コートに視線を向けたままリコが口を開く。

 

「このまま極端なトランジッションゲームをこのまま続けていけば、後半の勝負所の前に陽泉の足は止まってしまうわ」

 

「…けどよう、それは花月も同じなんじゃねえの?」

 

「池永君。あなた先週まで花月と合宿してたんだから知ってるでしょ? 神城君と綾瀬君がどれ程のスタミナを有しているのか」

 

「いやまあ、あいつらそうだけどよう、他の奴らは…」

 

「それについても問題ないわ見なさい」

 

リコが池永を促すようにコートの一角を指差す。紫原が得点を決め、空と大地がお馴染みの速攻に駆けあがる。

 

「…あっ」

 

ここで、ある事に気付いた降旗が声を上げる。

 

「そう。基本的に速攻からオフェンスに参加するのは神城君と綾瀬君のみ。残りの3人は2人の速攻が失敗した時のオフェンス、またはボールを奪われた時のカウンターに備えているわ」

 

天野、生嶋、松永は、花月のオフェンスに切り替わると、2人にパスをした後は、ゆっくりとフロントコートまで駆けあがっていた。

 

「得点を決めた紫原君と同じくインサイドが主体の渡辺君はこの速攻に対応出来ない。永野君と木下君も2人のスピードに付いていけない。ディフェンスに対応出来るのはアンリ君のみ。けど、規格外の身体能力を持つアンリ君でも2人の速攻を止めるのは困難だから他の3人は無理にオフェンスに参加する必要はないのよ」

 

ディフェンスに来るのがアンリだけと分かっている以上、空と大地以外の3人が体力を消耗してまで速攻に参加するメリットはさほどない。その為、3人はオフェンスを2人託し、速攻が失敗した時の次のオフェンスかボールを奪われた時のディフェンスに備えていると解説する。

 

「このままだと陽泉はドツボにハマるわ。何か手を打たないと…」

 

「打つみたいですよ」

 

割り込むように黒子が口を挟む。陽泉のベンチから1人の選手がオフィシャルテーブルに向かう。

 

「アウトオブバウンズ、白(陽泉)ボール!」

 

永野から紫原のパスを大地がカットし、ボールはラインを割った。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 白(陽泉)!!!」

 

陽泉のメンバーチェンジがコールされる。

 

「はぁっ!?」

 

交代を命じられたのは紫原。命じられた紫原は思わず声が出る。

 

「何で俺が交代なのさ!?」

 

納得がいかない紫原は監督の荒木に抗議する。

 

「交代だ紫原。早くベンチに戻れ」

 

そんな抗議には耳を貸さず、淡々と交代を命じる荒木。

 

「嫌だし。こいつら捻り潰すまで交代しねーし」

 

それでも駄々をこねて交代に応じない紫原。

 

「いいからさっさとベンチに戻れ紫原!!!」

 

言う事を聞かない紫原に遂に怒りを爆発させた荒木は語気を荒げながら紫原に向かって言った。

 

『スゲー迫力…!』

 

『こえー…』

 

「…ハッ!? …コ、コホン//」

 

思わず地が出してしまった荒木は誤魔化すように咳払いをした。

 

「おい紫原。これ以上監督怒らすと後が怖いぜ。今は大人しく従っとけって」

 

「…分かったよ」

 

永野に促され、渋々ながら紫原はベンチへと下がっていった。

 

陽泉は紫原に代わり、背番号12番、立花がコートに入った。

 

「さすが荒木。手を打つのが早いな」

 

ベンチから視線だけ相手ベンチの荒木に向け、感心する上杉。

 

紫原に代わってコートに入った立花が荒木の指示を他の選手達に伝える。荒木の指示は2つ、まずはポジションチェンジ。抜けた紫原のポジションであるセンターに渡辺が入り、パワーフォワードに立花が入った。

 

後は、主将であり、司令塔である永野への伝令である。内容は、ペースダウンとパスを全体に散らす事。

 

「珍しく紫原がのっけからやる気出してたからつい紫原一辺倒になっちまった。…よし、これからもっと時間を使って攻めるぞ。ボールも回すから全員集中しろよ」

 

『おう(はい)(ワカッタ)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…むぅ」

 

ベンチ下げられた紫原は不機嫌そうな表情でベンチに座った。

 

「頭を冷やせこの馬鹿者が。相手の安い挑発に乗って相手のペースにハマるなど言語道断だ」

 

「…別に、あのまま続けたって余裕だし」

 

注意を受けると唇を尖らせながら拗ねる紫原。

 

「けどさまさこちん。俺下げて大丈夫なの? どうなっても知らないよー」

 

「まさこちんと呼ぶなと言っているだろ! …心配するな。ウチはお前1人いなくなったくらいで崩れるようなやわなチームではない。大人しく試合を見ていろ」

 

竹刀で紫原の後頭部をひっぱたいた荒木はコートに視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本! じっくり攻めるぞ!」

 

立花のスローインからボールを受け取った永野が指を1本立てながらゲームメイクを始めた。

 

「(ペースを落としてきたか…)」

 

これまでの速い展開から一変、ペースダウンをした事を瞬時に察した空。

 

「(この1本は確実にモノにしたい。…なら、ここだ)」

 

攻め手を決めた永野はパスを出す。パスの先は…。

 

『来た!!!』

 

ボールを受けたのはアンリ。右45度付近のスリーポイントラインの外側でボールを受け取った。目の前に、大地がディフェンスとして立った。

 

「ヨウヤクデバンダ。イクヨ!」

 

「止めてみせます」

 

宣戦布告をするアンリ。それを受ける大地。

 

陽泉の黒い影が、花月に牙をむく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





気が付けば100話。我ながらよく続いたな驚いています…(;^ω^)

ひと通りオリキャラも出てきたので、そろそろかなり以前に書きかけだったオリキャラのデータ集を改めて作ろうかな…(>_<)

100話到達記念に何かしようとも考えたんですが、何も浮かばなかったのでとりあえず保留です。

試合が始まり、ここからどうするか……。原作、他作品、またはリアルバスケを見て研究せねば…(・ω・)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第101Q~シーソーゲーム~


投稿します!

最近投稿初期のペースを取り戻せてある種絶好調です…(^-^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り6分28秒

 

 

花月 12

陽泉 12

 

 

メンバーチェンジのより、紫原がベンチに下がり、試合は再開される。

 

「…」

 

「…」

 

ボールは陽泉。右斜め45度のスリーポイントラインの外側に立つアンリ。そのアンリをディフェンスをする大地。ボールを小刻みに動かしながら隙を窺うアンリに対し、一定の距離を保ち、ディフェンスを大地はしている。

 

「(…アイソレーション。それだけあの外人に信頼を置いとるわけやな)」

 

陽泉の選手達が左サイドによってアンリが勝負しやすいようスペースを空けた。

 

『…(ゴクリ)』

 

2人の勝負を目の前に、観客達が緊張感が走る。

 

『…』

 

それは、同じく観客席にいるキセキの世代と火神も同様であった。

 

「…」

 

「…」

 

両者、まるで居合の達人同士の立ち合いの如く睨み合う。

 

「(…………来る!!!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

仕掛けるタイミングを計った大地。アンリが仕掛けるのと同時に動き、ドライブに対応、並走する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

最初の1歩目は対応したが、2歩目で引き離し、大地を置き去りにする。インサイドに侵入したアンリはボールを右手で掴んでリングに向かって跳躍する。

 

「…ちぃ!」

 

ヘルプに走った松永がダンクを阻止するべくブロックに飛ぶ。だが…。

 

「…くそっ!」

 

アンリはブロックに飛んだ松永のさらに上を飛んでいた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

松永の上から右手で掴んだボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

『何だあの高さは!?』

 

『いや、その前のあのドライブ、は、はえー!!!』

 

アンリが繰り出したドライブのスピードとダンクの高さに驚愕する観客達。

 

 

「…っ、あのスピードとアジリティーは青峰以上じゃねえのか?」

 

「…いや、スピードとアジリティーに関して言えば、青峰とそう変わらない。速く見えるのは1歩の広さによるものだ」

 

四条の感想を受けて、赤司が解説を始める。

 

「彼が今見せたのは、ストライド走法と呼ばれる歩幅を広く取って走る陸上選手のスプリンターが使う走り方だ。脚が長く、バネのある筋肉を持つ彼が用いれば、青峰が3歩で届く距離なら2歩で届くだろう」

 

『…』

 

「通常より少ない歩数であのスピードとアジリティーでインサイドに侵入し、かつ、あの高さ。彼を止めるのは青峰や火神であっても容易ではないだろう」

 

「…っ! まさか、そんな奴が全国に現れるなんてな…」

 

赤司の解説を聞いて四条の表情が思わず曇った。

 

 

「…ハッ! なかなかやるじゃねえか」

 

今のプレーを見ていた青峰の口からこんな言葉が飛び出した。新たなライバルの誕生に心なしか表情に笑みが浮かんでいた。

 

「大ちゃん…」

 

そんな青峰を見て桃井は何処か微笑ましい表情をするのだった。

 

 

「…タツヤもドリブル突破が出来る選手だったが、リングから離れた位置から勝負するタイプだった。あいつはリングに近い位置で真価を発揮するタイプだ。…止められるのか?」

 

リングを潜ったボールを見つめる大地に視線を向けた火神は、そんな懸念をしたのだった。

 

 

「…」

 

ディフェンスに戻るアンリを一瞥する大地。

 

「あのスピードにあの高さは厄介極まりないで」

 

「そうですね」

 

天野が大地に声を掛ける。

 

「…けどのう、あいつのマーク出来るのはお前しかおらへんで」

 

「分かっています」

 

現状、アンリをマーク出来るのが大地しかいない為、発破をかける天野。

 

「チームの勝利の為、必ず止めてみせます」

 

力の籠った目付きで大地は言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスは花月に切り替わり、空がボールをフロントコートまで運ぶ。

 

「…」

 

陽泉のディフェンスは変わらず2-3ゾーン。紫原が抜けた事でポジションを先程よりインサイド気味に取っている。

 

「(…プレッシャーが格段になくなった。これなら外が撃ちやすい…)」

 

ツーポイントエリア全てをカバー出来るディフェンスエリアを持つ紫原がいない為、外へ取っていたポジションを中へと移動した陽泉。花月には生嶋と言う超高精度のスリーを打てる選手がいる。上手く生嶋をフリーにして外から狙うのがセオリー。

 

「(……けどまあ、ここで外に逃げるっていう選択肢は、ねえよな)」

 

空がパスを出す。ボールの先は…。

 

『来た!』

 

『早くもやり返すか!?』

 

右斜め45度。スリーポイントラインの外側に立っていた大地。目の前にはアンリ。先程と同じ形で両者が対峙した。

 

「…行きます」

 

「来イ!」

 

ボールを小刻みに動かす大地。そして…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速。仕掛ける。

 

『うわぁっ! こっちもはえー!!!』

 

『けど、アンリも付いていってるぞ!?』

 

ハイスピードで切り込んだ大地。だが、アンリは一瞬たりとも遅れずにピタリと並んで追いかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時に大地が高速反転。バックロールターンでアンリの逆を付く。

 

「見エテルヨ!」

 

だが、アンリはこれに反応し、逆を付いた大地の方へ身体を向ける。

 

「ッ!?」

 

しかし、そこには大地の姿はなかった。大地は、そこから数メートル後方へ高速でバックステップをし、距離を取っていた。

 

「ヌゥッ! マダダヨ!」

 

アンリ。距離を空けた大地にシュートを打たせまいと距離を詰める。

 

「なっ!?」

 

ベンチで試合を見守っていた竜崎が思わず立ち上がる。シュートを打つには十分な距離を空けたはずだった。だが、アンリの持つスピードとアジリティーはその距離を一瞬で潰してしまった。

 

「打タセナ――」

 

バックステップして距離を取り、その場で止まった大地。ここで打ってくると予測したアンリは何としてもそれを阻止するつもりだった。だが、大地はボールはまだ掴んではいなかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで大地は急発進。距離を詰めてきたアンリとすれ違う形で横を駆け抜ける。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

大地はアンリを抜きさったのと同時に急停止し、ヘルプが来る前にその場でジャンプシュートの態勢に入った。

 

「ッ! マダダ!」

 

すれ違い様に抜かれたアンリも急停止し、すぐさま反転。1歩で大地との距離を詰め、そこから跳躍。後方から手を伸ばし、大地のシュートコースを塞ぐ。

 

「(っ!? これに追い付くのですか!?)」

 

完全に振り切ったと思っていた大地は思わず目を見開いた。このタイミングであれば例え空であっても追い付くのは困難。だが、アンリはシュートコースを見事に塞いでしまった。このままシュートを打てば間違いなくブロックされる。

 

「後ろに戻せ!」

 

「っ!」

 

声が耳に入った大地はシュートを中断。ボールを後ろへと戻した。そこには、空が立っていた。中央付近のスリーポイントラインの外側でボールを受け取った空はすぐさまシュート態勢に入る。

 

「くそっ、打たせるか!」

 

スリー阻止の為、永野がブロックに飛ぶ。

 

「っ!?」

 

だが、空はボールを構えたまま、飛んではいなかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ブロックに飛んだ永野の横を抜けるように中へと切り込む。そんな空へを包囲するようにアンリと木下が寄ってくる。

 

 

――ピッ!

 

 

空は、完全に包囲される前にノールックビハインドパスでボールを左へと流した。

 

「あっ!?」

 

ボールの先には、生嶋が立っていた。左アウトサイド。スリーポイントラインの外側で生嶋はボールを受け取った。空へのヘルプで中を固めようとしてしまった為、生嶋はフリー。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークだった生嶋は確実にシュート態勢と縫い目を確かめ、スリーを決めた。

 

「ナイッシュー」

 

「ナイスパス」

 

空と生嶋がハイタッチを交わす。

 

「…ふぅ」

 

一息吐く大地。その表情は心なしか浮かない。

 

「(得点には繋がったが、さっきアンリが得点出来たのに対し、綾瀬は得点出来なかった。ここで負けを意識してしまうとここから先のパフォーマンス能力にも影響がでかねん)」

 

松永が1つの懸念をする。

 

「(…任しとき)」

 

天野と視線を交わす松永。松永の懸念を理解した天野が頷きながら目で制し、大地の下へ駆け寄った。

 

「ええ判断や。これで点差は逆転や。中に意識向けさせてくれたら外も打ちやすうなる。ガンガン切り込んでいき」

 

大地の肩を叩きながら激励する天野。

 

「あいつ(アンリ)は得点出来て、お前は得点出来なかった。最初の勝負は負けだな」

 

だが、天野と松永の懸念を他所に、空が大地にズバリ言う。

 

「(この阿呆! 敗北を意識させてどないすんねん!)」

 

心中で空に突っ込みを入れる天野。

 

「中に意識を向けさせる事しか出来ない程度じゃ今は良くても――」

 

「そうですね。紫原さんがコートに戻ってしまえば手詰まりになりますね」

 

紫原がコートに戻ってゴール下に陣取ってしまえば他の4人はより外を警戒するようになる。そうなれば、大地の脅威は薄くなる。

 

「そういうこった。お前が点取ってくれなきゃウチは波に乗れないんだ。…遠慮はいらねえ、ガンガンぶち抜いて点取ってけ。ヤバくなったら俺がフォローしてやっからよ」

 

ニコッと笑って空が大地の背中を叩いた。

 

「もちろんです。どんどんボールを回してください」

 

同じくニコッと笑って大地は答えた。

 

「(この2人、付き合い長いん忘れとったわ。いらん気ぃ回してしもたな)」

 

ディフェンスに戻る2人の背中を見ながら天野は胸を撫で下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合はティップオフ当初の激しいトランジションゲームからハーフコートバスケへと移行した。

 

花月は空と大地が中へと積極的に切り込み、そこから得点…あるいは外の生嶋にボールを捌いて得点を重ねていき、陽泉は中の渡辺、外から木下、アンリが中に切り込んで得点を重ねていった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

永野を抜いて空が中へカットインする。ヘルプに来るアンリに捕まる前にローポストの松永にパスを出した。

 

「…よし」

 

 

――ズン!!!

 

 

ボールを受け取った松永は背中を渡辺にぶつけ、押し込みながらドリブルを始める。

 

「行かせないぞ!」

 

背中をぶつけられて一瞬後ろへ押されるもすぐに堪え、松永の侵入を阻止する。

 

「(…こいつ、前に戦った時よりパワーが格段に上がっているな)」

 

過去に対戦した押し込んで得点出来たが、今はそれが困難であるほど渡辺のパワーは上がっていた。

 

「(ここでターン……いや、アンリのポジションが近い。ここはバックステップで距離を取ってから打つ!)」

 

松永は1度体重をかけるように背中をぶつけてからバックステップで距離を取り、そこからフェイダウェイの態勢でシュート態勢に入った。

 

「くっ! させるか!」

 

 

――チッ…。

 

 

距離が空くも諦めずに追いかけ、ブロックに飛んだ渡辺。伸ばした手の指先が僅かにボールに触れた。

 

「「リバウンド!」」

 

外れる事を確信した2人は咄嗟に叫ぶ。

 

『…っ!』

 

ゴール下に大地、天野、アンリ、立花が入り、リバウンドに備える。大地は背中で立花を外へと押しやり、リバウンドを取るのではなく、立花にリバウンドを取らせないように努めた。リバウンド勝負は天野とアンリの2人だけとなった。

 

「(…っ、スピードは確かにシャレにならんが、パワーはそれほどでもあらへん。ここ(リバウンド)なら俺の土俵や!)」

 

スクリーンアウトで最適のポジションを取り、両腕を巧みに使ってアンリを抑え込む。

 

「…グッ!」

 

アンリもどうにか強引にポジションを奪おうとするが、天野がそれを阻止する。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「もろたで!」

 

ポジション争いを制した天野がオフェンスリバウンドを制した。

 

「天さん!」

 

リバウンドボールを確保した天野は空にパスをした。空はボールを受け取るのと同時に外の生嶋にパスをした。

 

「打たせるか!」

 

生嶋のスリーをブロックするべく木下が距離を詰める。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

木下が距離を詰める前に生嶋はワンバウンドさせながらボールを中に入れる。ボールは再び松永に渡る。松永はすぐさまシュート態勢に入る。

 

「次も止める!」

 

再び渡辺がブロックに飛ぶ。

 

「…甘い」

 

松永はボールを右手に持ち替える。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま松永はボールを放り、バックボードにボールを当てながらフックシュートを決めた。

 

「…くっ!」

 

ブロック出来ず、悔しがる渡辺。

 

「ええ感じやで!」

 

「どうもです」

 

肩を叩いて労う天野。松永は淡々と礼を言い、ディフェンスに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ベンチの紫原。目に見えて不機嫌な表情になっている。自分がコートにいれば今の攻撃をブロック出来たという自信と確信があるからだ。

 

「頭を冷やせと言ってるだろう紫原」

 

そんな紫原に荒木が窘めるように言った。

 

「お前をベンチに下げたのはその熱くなった頭をクールダウンさせるのと、お前に勝つ為にどうすればいいかを考えさせる為だ」

 

「…考えるも何も、俺が相手を捻り潰して、それで止めればいいだけじゃん」

 

紫原は拗ねた表情でそう返した。

 

「花月を甘く見るな。三杉と堀田がいなくとも、全国の頂点を狙えるポテンシャルを持つチームだ。考えなしに戦えば負けるぞ。仮に勝てたとしても、そんな戦い方ではこれから先勝てない」

 

「…」

 

「ただ思うが儘プレー出来た去年と一昨年とは違う。もう陽泉には岡村も氷室もいない。全国の頂点に立つ為にはお前が陽泉の柱となって支えなければならないんだ。だから考えろ。試合に勝つ為にはどうすればいいかを。負けたくないのであればな」

 

「…っ! …分かったよ」

 

『負け』と言う言葉を聞いて一昨年、昨年の敗北を思い出した紫原は素直に荒木の言葉を聞き入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ハイスコアゲームからロースコアゲームに移行し、花月は空が巧みににパスを捌き、あるいは自ら切り込んで得点を重ね、陽泉ディフェンスに的を絞らせない。

 

対して陽泉はアンリを中心に得点を重ね、アンリにマークが集中すればそこからパス、外の木下や中から渡辺が得点を決める。

 

一方が決めればもう一方が決め返し、一方が止めればもう一方が止める。試合はシーソーゲームの様相となった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

外から放った木下のスリーが決まる。

 

「よーし!」

 

スリーを決めた木下が拳を握る。

 

 

第1Q、残り16秒。

 

 

花月 21

陽泉 22

 

 

今のスリーにより、陽泉が逆転、リードする。

 

「ラスト1本、止めて終わるぞ!」

 

『おう!!!』

 

残り時間からして花月の最後のオフェンス。リードのまま第1Qを終えたい陽泉は永野掛け声に気合い十分で応え、ディフェンスに臨む。

 

「…(チラッ)」

 

「…(コクッ)」

 

空が大地にアイコンタクトを送ると、大地が頷く。同時にハイポストに立つ天野にパスを出し、同時に動く。空はスリーポイントラインを沿うように走る。ボールを受けたすぐさまボールを空に戻す。動いた空を追いかける永野だったが…。

 

「っ!?」

 

スクリーンによって阻まれる。スクリーンをかけたのは大地。リターンパスを受けた空。目の前には…。

 

『おぉっ!!!』

 

ボールを受け取った空の目の前にはヘルプに向かったアンリの姿があった。

 

『今度は神城とアンリか!?』

 

『これも見物だ!』

 

「君トモヤレルトハネ」

 

「大地だけ美味しいとこ取りはズルいからな。今度は俺だ」

 

不敵に笑う両者。

 

「来イ!」

 

「ハッ! あんたぶち抜いてきっちり第1Q終わらせるぜ」

 

両者共臨戦態勢に入った。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりドリブルを始める空。

 

「…よし、エンジン全開、止められるもんなら止めてみな!」

 

空は両足で小刻みに飛びながらドリブルを始める。

 

「…?」

 

突然の行動に目の前のアンリは少々戸惑う。

 

 

――ダムッ…ダムッ…ダムッ!!!

 

 

小刻みの飛びながらボールを数度突き、最後に少し高めに飛び、両膝を曲げながら着地すると、低空姿勢のまま一気に加速。前のめりに倒れこみそうな程の態勢でドライブを慣行した。

 

「っ!?」

 

まさかの態勢から高速のドライブが飛び出し、一瞬面を食らうもすぐさま切り返し、空を追いかけるアンリ。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

アンリが目の前を塞ぐと、空は両足を曲げ、しゃがみ込むような態勢でその場で停止。

 

 

――ダムッダムッダムッ…!!!

 

 

その場で急停止した空はクロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを高速で繰り返しながらハンドリングを始める。

 

「…ッ! …ッ!」

 

左右に動きながら高速かつ時折膝を曲げて態勢を低くしながらハンドリングを繰り返す空。迂闊にボールに手を出せばその瞬間抜かれかねないと見たアンリは何としても抜かせまいとボールを見失わないよう必死に目で追いかける。

 

どんどんギアを上げ、ハンドダンクのスピードを上げていく空。懸命に空の動きに対応する。次の瞬間…。

 

「ッ!?」

 

アンリの視界から空の姿が消える。

 

「(ドコニ…!?)」

 

空の姿を見失うアンリ。

 

『抜いたぁぁぁぁっ!!!』

 

「ッ!?」

 

観客の声に反応して振り返るアンリ。そこには自身を抜き去ってリングに向かう空の姿があった。

 

 

「あれは!? 去年の冬に青峰さんを抜いた…!」

 

「…」

 

思わず前のめりになる桜井。青峰は無言でコートを見つめていた。

 

 

「…くっ!?」

 

アンリが抜かれたのを見て渡辺がヘルプに飛び出す。空がボールを持ってレイアップの態勢に入ったのを見て渡辺もブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

空はレイアップのフォームのままボールを放り投げる。ボールは渡辺のブロックの上を弧を描くように越えていく。

 

「(っ!? スクープショットか!?)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放ったボールはリングを潜り抜けた。

 

『うおぉぉぉぉぉぉっ! 技ありのスクープショットだ!』

 

『いや、その前のドリブルの方がやべーだろ!?』

 

一連の空のプレーを目の当たりにした観客が大歓声を上げる。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

「っし!」

 

きっちりアンリを抜き去り、得点を決めた空は静かに拳を握った。

 

「さすが空です」

 

「応よ!」

 

歩み寄った大地とハイタッチを交わす空。

 

「アノスピードトデタラメナ動キ、ナンテ奴ダ」

 

ベンチに戻っていく空を見つめるアンリ。

 

「ダガ、次ワ止メテ見セルヨ!」

 

決意を固めたアンリだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「終わって見れば花月が1点リードか…」

 

試合を観戦していた火神が背もたれに体重を預けながら言った。

 

「けど、紫原さん抜きで1点差だぜ? もう決まりだろ」

 

軽く鼻で笑う池永。

 

「紫原君がいないと言っても、それでも陽泉から得点を奪うのは簡単じゃないわよ」

 

嘲る発言をした池永を窘めるリコ。

 

「花月はオフェンスのバリエーションが増えたな」

 

「ああ、世代交代によるスタメンの入れ替えがなかった花月の強みだな」

 

朝日奈と新海が花月のオフェンスを目の当たりにした感想を言い合う。

 

「第2Q、紫原君は…」

 

「当然、戻ってくるでしょうね。冷静さを取り戻してるでしょうし、何より、第1Qの半分以上を温存したから、この試合、まず間違いなくスタミナ切れを起こす事はないでしょうから、花月にとってここからが正念場よ」

 

黒子の疑問を肯定したリコは、これからの花月の試練を呟くのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

1点リードで試合の4分の1を終えた花月。

 

第1Qの大半を体力温存とクールダウンに努めた紫原。

 

選手達はベンチに戻り、第2Qの激闘に備えるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





とりあえず、試合の4分の1が終了です。

ここから先、大雑把な試合展開は決めているのですが、細かい試合展開がまだ決まっていないので、次話からペースダウンするかもしれませんorz

大活躍のアンリ。一応、アンリは原作で言う氷室的立ち位置で、キセキの世代に近い、状況やシチュエーション次第ではキセキの世代と同格に戦える逸材です。ここから先、そこら辺りを上手く描写出来たらと思います…(;^ω^)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第102Q~厚み~


投稿します!

いろいろ頭を悩ませながらの投稿です…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q終了。

 

 

花月 23

陽泉 22

 

 

花月が1点リードで第1Qを終えた。

 

「お疲れ様です! ゆっくり身体を休めてください!」

 

元気な声と笑顔で選手達を迎えた相川。相川と姫川から選手達にタオルとドリンクが渡される。

 

「まずは1合目、本当の正念場はここからだ」

 

ベンチに座る選手達の前に上杉が立つ。

 

「試合開始早々に紫原を引っ張り出してこっちのペースに引き込んだんは予定どおりや。…やけど」

 

「紫原がベンチに引っ込むのは予定外でしたね」

 

天野が汗をタオルで拭きながら状況を口にすると、松永が後に続いた。

 

「贅沢を言えば、紫原さんをもっと消耗させたかったな」

 

「だな、紫原は第1Qの大半を温存させちまった。これで以前の秀徳の時みたいにスタミナ切れさせるのは無理そうだな」

 

大地の願望を空が肯定した。

 

「バスケに限らず、試合は予測どおりに行くものではない。一の矢が当たらなければ、二の矢を射ればいい」

 

気落ちする選手達を励ますように言う上杉。

 

「紫原を欠いてもなおリードは1点だ。第2Qからコートに戻ってくる事を考えると…」

 

菅野がこれから先の懸念を示す。

 

紫原がいなくとも陽泉ディフェンスは固かった。紫原が入ればその厚みは先程までとは比べ物にならなくなる。

 

「第2Q、生嶋は隙あらばガンガン外を打っていけ。ブロックされても気にするな。お前が外を決めれば中が攻めやすくなる。とにかく積極的に行け」

 

「はい」

 

「天野はリバウンド、そして、スクリーンを上手く使って紫原を足止めしろ。最初のスクリーン、得点には繋がらなかったが、上出来だった。周りをフォローしろ」

 

「任せとき!」

 

「松永は中だ。紫原相手はキツイだろうが、お前が何も出来なければ花月に勝機はない。出来る事を全力で行え」

 

「はい!」

 

「綾瀬は積極的に切り込んでいけ。外の警戒が緩ければ外も狙っていけ」

 

「分かりました」

 

「神城も同様だ。中と外、自在に組み立てていけ」

 

「はい!」

 

上杉から次々と指示が飛ぶ。

 

「とにかく走り、とにかく手数を打って流れをモノにしろ。縦で劣っているなら、横の動きでカバーしろ」

 

『はい!!!』

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第2Q開始のブザーが鳴る。

 

「行って来い!」

 

「っしゃぁっ! ガンガン走るぞ!」

 

『応!!!』

 

空の掛け声に選手達が応え、花月の選手達はコートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・

 

 

コートへと戻って来る両校の選手達。

 

「ま、そうだよな」

 

空は、紫原がコートへと入ったのを確認すると、納得するように頷いた。

 

「もうさっきみたいに点なんか取らせないから」

 

「へっ! もっと点差を広げてやるよ」

 

紫原の挑発に、不敵な笑みで返した空。

 

陽泉ボールから試合は再開された。

 

「よし、1本! 確実に決めるぞ!」

 

木下からボールを受け取った永野が指を立てながらボールを運び、ゲームメイクを始めた。

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりとドリブルをする永野。

 

「…」

 

「…」

 

目の前には空が立ち、ディフェンスをしている。

 

「(何処から来る…。第2Q最初のオフェンスだ。確実に決めたいはずだ。なら紫原か? いや、アンリも十分あり得る。それか木下の外か…)」

 

相手が何処から攻めるか予測を立てる空。永野の選択は…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

自ら切り込み、空の横を抜いた。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

「(よし! このまま――)」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、ボールは弾かれてしまう。

 

「残念、ここは簡単には通さねえよ」

 

空は背中から倒れこみそうな態勢から永野のキープするボールを叩いた。

 

「くそっ!(やけにあっさり抜けたと思ったが、こんな態勢から狙ってくんのかよ!?)」

 

常識外れの態勢からのスティールに永野は思わず悪態を吐いた。

 

「…っと」

 

転倒目前で空は両足を踏ん張って上体を起こし、態勢を整えると、速攻に走った。

 

「頼むぞ!」

 

転がるボールを拾った松永は前を走る空に向けてボールを放った。

 

「このまま一気に……っと」

 

「行カセナイヨ」

 

だが、スリーポイントライン目前でアンリが空を回り込み、前を塞ぐと、空は1度停止した。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

左右に高速で切り返しながら揺さぶりをかける。アンリもそれに対応し、抜かせまいとディフェンスをする。

 

「…」

 

 

――ピッ!!!

 

 

空は左右の揺さぶりをやめ、停止すると、ノールックビハインドパスでボールを右へと放る。するとそこには大地が走りこんでいた。

 

「ムッ!」

 

これにすぐに反応したアンリは大地のチェックに向かう。が、大地はボールを受け取るとすぐさまボールを前へと放った。

 

「ッ!?」

 

そこには空が走りこんでいた。空はパスと同時に前と走り、大地のリターンパスに備えていた。大地はすぐさま空の意図を理解し、パスを出した。

 

「っしゃっ!」

 

リターンパスを受け取った空はそのままボールを右手に持ち替え、リング目掛けて跳躍した。

 

『行けぇっ!!!』

 

ベンチから声が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前さあ、ちょっと調子に乗り過ぎだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、1本の腕が現れ、ダンクを阻んだ。

 

「紫原!?」

 

ブロックに現れたのは紫原。空の持つボールを右手で掴みこんだ。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「がっ!」

 

紫原のブロックによって後方に弾かれた空。何とか着地をし、持ち前のバランス感覚で態勢を立て直す。

 

「…はっ?」

 

態勢を整えて顔を上げた空の目に信じられない光景が飛び込んだ。紫原の右手にボールが収まっていたのだ。コートにほぼ同時に着地した2人。空は着地と同時に顔を上げたので時間的に紫原がルーズボールを拾う時間はない。にもかかわらず紫原の右手にボールが掴まれていると言う事は…。

 

「マジかよ…、空中でダンクに行った俺のボールを落とさずにそのまま奪いとっちまったのか…」

 

目の前で起こった事実を認識した空の表情が思わず引き攣る。

 

 

「おいおい、空中にあるボールを掴み取るのとは訳が違うんだぞ…!」

 

今のプレーを見た見た火神もこれには驚いていた。

 

かつてのチームメイトである木吉鉄平が得意技であるバイスクロー。リバウンドボールを片手で掴み取る荒業である。紫原もそれを見よう見まねで行っていたが、空中に舞ったボールを片手で掴むのとダンクに向かっているボールを掴みの取るのではレベルが違う。

 

 

「おそらく、日本であれが出来るのは大学、社会人、プロを含めても紫原だけだろう」

 

淡々と言葉にする赤司だったが、表情には出さないが心中では驚いていた。

 

 

「速攻だ、紫原!」

 

フロントコートに向けて走る永野。

 

「りょーかい」

 

紫原はボールを前方へと投げた。

 

「あかん! カウンターや、戻れ!」

 

「空! ディフェンス!」

 

「…あっ!」

 

大地の声で正気に戻った空は全速力でディフェンスへと戻っていった。

 

「…ちっ、やっぱり戻るのがはえーな」

 

そのままワンマン速攻が決められず、不満げな永野。

 

「ボールちょーだい」

 

ハイポストまで走りこんだ紫原がボールを要求。永野は迷わずパスを出した。

 

「…ちぃ!」

 

松永が紫原の背中に張り付く。

 

「…ん?」

 

ここで、紫原が違和感に気付く。

 

「手伝うで」

 

天野も並んで紫原の背中に張り付いた。

 

「お前ら2人程度で止められると思ってんの?」

 

ドリブルをしながらゴール下まで押し込んでいく。

 

「くっそ…」

 

「あかん、止まらへんわ!」

 

だが、圧倒的なパワーを持つ紫原の侵入を松永と天野の2人がかりでも阻止する事が出来ない。

 

「もーらい」

 

ゴール下まで侵入した紫原はボールを右手で掴んで反転。ボールを高く掲げてシュート態勢に入る。

 

「まだや!」

 

「何としても止める!」

 

2人は諦める事無くブロックに飛んだ。

 

「…と思ったけどやーめた」

 

「「っ!?」」

 

ここで2人は紫原がボールを右手で掴んでボールを掲げただけで飛んでいない事に気付いた。紫原は掲げたボールを右へと放り投げた。

 

「ナイスパス紫原!」

 

「あっ!?」

 

ボールは右アウトサイド、スリーポイントラインギリギリに立っていた木下に渡った。紫原の侵入に生嶋が気を取られた一瞬の隙を付いてマークを外したのだった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

慌ててブロックに向かった生嶋だったが、高さのミスマッチによってブロックは届かず、ボールはリングの中央を潜り抜けた。

 

「ナイスパス紫原。まさかお前がパスするとはな」

 

「別に、攻めるのがめんどくなっただけだし」

 

駆け寄った木下が労うと、紫原はそっぽを向きながら返した。

 

「…ちっ」

 

第2Qが始まって最初の得点チャンスを防がれ、逆に得点を決められ、舌打ちが飛び出る空。

 

「ごめん、迂闊だったよ」

 

マークを外してしまい、謝罪をする生嶋。

 

「過ぎた事をとやかく言っても仕方ねえ、取り返すぞ」

 

ボールを受け取った空はフロントコートまでボールを進める。

 

「…」

 

陽泉の代名詞である2-3ゾーンディフェンスで花月のオフェンスを待ち構える。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながら攻め手を窺う空。

 

 

――ダムッ…ダムッ…ダムッ!!!

 

 

1度…2度…3度目でスピードアップ。一気に加速し、ゾーンへとドライブ。すると、陽泉ディフェンスが動く、渡辺と木下が前方から、背後から永野が空を包囲にかかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、空は完全に包囲される前に高速のスピンムーブで密集地帯をすり抜けるように抜け出した。

 

「行くぞ、紫原!」

 

ゾーンディフェンスを突破した空はそのまま紫原の立つゴール下まで突き進んでいく。

 

「お前じゃ何度来たって同じなんだよ!」

 

事実上の挑戦状を叩きつける空。紫原は両腕を広げ、嫌悪感を抱いた表情をしながら空を待ち受ける。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

バックチェンジからのクロスオーバーで抜きにかかる空。

 

「その程度で抜けると思ってんの?」

 

左右に高速で揺さぶりをかける空。紫原は一切動じる事なく空の揺さぶりに付いていく。

 

「こっちが本命だよ!」

 

紫原が対応したのと同時にバックロールターンで反転。

 

「今度こそ決める!」

 

そのままリングに向かって跳躍した。

 

「甘いし。そんなんで俺から得点出来ると思わな――っ!?」

 

ブロックに飛んだ紫原。だが、ここである事実に気付いた。リングに向かって飛んだ空だったが、その伸ばした右手にはボールの姿形が何処にもなかったのだ。

 

「ナイスパスくー!」

 

ボールはマークを外していた生嶋の手元にあった。生嶋はすぐさまスリーの態勢に入る。

 

「あっ!?」

 

マークを外してしまった木下が慌ててブロックに向かう。ギリギリ追いつける距離だったが…。

 

「…くっ!」

 

生嶋は斜めに飛んでブロックをかわしながらスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「いい音だ」

 

スリーを決めた生嶋は拳を握って喜びを露にする。

 

「ボールをちゃんと追わないとね♪ さっきのお返しだ」

 

してやったりの表情で紫原に告げる空。先程、空はバックロールターンで反転しながらその遠心力で外の生嶋にパスを出していた。

 

「…あいつちょームカつく…!」

 

空の一言で目に見えてイライラとした表情になる紫原。

 

「アハハ! アイツワホントニ面白イ奴ダナ!」

 

笑い声を上げながら紫原に歩み寄るアンリ。

 

「ホラホラ、ムットシテナイデモット楽シク試合ヲシヨウ!」

 

笑顔で紫原に抱き着くアンリ。

 

「あーもう、分かったから! 暑苦しいから離れてよアンちん!」

 

鬱陶し気にアンリを遠ざける紫原。だが、多少頭が冷えたのか、表情は落ち着きを取り戻していった。

 

オフェンスは切り替わり、陽泉ボール。永野がボールを運ぶ。

 

「(…ちっ、さっきの見せつけられちまうと迂闊に切り込めねえな)」

 

先程の倒れこむ程の態勢からのカットが頭にチラつき、切り込む事に躊躇する永野。

 

「…来いよ」

 

腰を落としてドライブに備える空。

 

「(…っ、このプレッシャー、もはやキセキの世代と遜色がねえ。たった1年でとんでもない選手に成長したもんだぜ…)」

 

空から発せられるプレッシャーを受けて空の実力を肌で感じ取っていた。

 

「キャプテン!」

 

ローポストに立った渡辺がボールを要求すると、永野は空にカットされないよう頭上から高くボールを放った。

 

「よし!」

 

ジャンプしてボールを掴む渡辺。すかさず天野がその背中に張り付くようにディフェンスをする。

 

「…行くぞ」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

ドリブルをしながら背中で天野を押し込んでいく。

 

「(っ! このサイズだけあってパワーも相当やな。けど、こちとらディフェンスを売りにしとる選手や。止めたるわ!)」

 

腰を落として踏ん張り、渡辺の侵入を阻止する。

 

「(…くっ! この人、俺より小さいのにパワーがスゴイ! それにこの人、平面だけじゃなくてインサイドのディフェンスも上手い…!)」

 

インサイドでのパワー勝負なら自分に分があると思っていた渡辺はまったく押し込ませない天野のパワーとディフェンスの上手さに驚く。

 

「戻せ!」

 

先程パスを出した永野がボールを要求。天野を押し込めないと判断した渡辺はボールを戻す。

 

「っし!」

 

フリースローラインを少し越えた所でボールを受け取った永野はすぐさまシュート態勢に入る。

 

「させっか!」

 

後ろから空がブロックに飛ぶ。永野は素早くワンハンドジャンパーでボールを放った。

 

「(くそっ、神城に動揺して身体が流れた!)リバウンド!」

 

すぐさま天野と松永、紫原と渡辺がリバウンドに備える。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールがリングに弾かれる。

 

『っ!』

 

同時にリバウンドを制する為にゴール下の選手達がボールに向かって飛ぶ。

 

「(…よし。絶好のポジションや! これなら取れ――)」

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

天野がボールに手を伸ばそうとしたその時、背後から1本の手が飛び出し、ボールを掴み取る。

 

「(っ!? 紫原!?)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを掴んだ紫原はそのままリングにボールを叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「「っ!」」

 

ダンクの圧力に押されて天野と松永はバランスを崩し、コートに倒れる。

 

「ごめーん、ちょっと力入れ過ぎちゃった」

 

振り返った2人を見下ろしながら紫原が言い放つ。

 

「「…っ」」

 

圧倒的な高さと腕の長さでリバウンドボールを奪われ、圧倒的なパワーと圧力で吹き飛ばされた2人は思わず悔しさで歯を食い縛った。

 

「切り替えろ! 取り返すぞ!」

 

「…っ! 応!」

 

空の言葉に正気に戻った松永はボールを拾い、リスタート。空にボールを渡した。

 

「1本! 行くぞ!」

 

人差し指を立てた空がボールを運び、ゲームメイクを始める。

 

「…」

 

陽泉の選手達は既にディフェンスに戻っており、2-3ゾーンを敷いている。

 

「くそっ、戻りが早くなった。速攻が封じられたら点を奪うのは厳しいぞ…!」

 

ベンチの菅野が苦い表情で言う。

 

「…ちっ」

 

攻め手が見つからない空はボールを回す。スリーポイントラインに沿うように立つ花月の選手達。慎重にかつ素早くボールを回してチャンスを窺う。

 

「…っ!」

 

ボールが生嶋に渡ると木下がガンガンプレッシャーをかける。抜かれるのを覚悟でとにかく生嶋にスリーを潰しにかかる。

 

「…くっ」

 

こうもフェイスガードで付かれるとスリーは打てない。かと言って無理に中へ切り込んでもそこには紫原がいる為、生嶋では勝負出来ない。

 

たまらず生嶋はボールを空に戻す。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

だが、そのボールはアンリによってスティールされてしまう。

 

「速攻ダ!」

 

ボールを奪ったアンリはそのままワンマン速攻を仕掛ける。

 

「まずい、戻れ!」

 

速攻に走ったアンリを目の当たりにして焦ってディフェンスに戻る松永。

 

「行かせるか!」

 

「止めます!」

 

スリーポイントライン直前でアンリを捉えた空と大地が道を阻む。

 

「ムッ! サスガニ速イナ!」

 

今まで先頭で速攻に走って追いつかれた経験がなかったアンリは驚きながら足を止めた。

 

「こっちだ!」

 

後ろから走りこんできた永野がボールを要求。アンリはトスするように放って永野にボールを渡す。永野はそのままスピードを殺さずドリブルを開始する。

 

「ちっ、打たせねえ!」

 

空がドリブルをする永野を並走しながら追いかける。

 

「何度も止められると思うなよ!」

 

身体をぶつけながら強引に突破を図ろうとする永野。ゴール下まで侵入した永野はすぐさまボールを掴んでレイアップの態勢に入る。

 

「あめぇ!」

 

その後に空がブロックに飛び永野のシュートコースを塞ぐ。

 

「相変わらず楽させてくれねーな!」

 

悪態を吐く永野だったが、あらかじめ空がブロックに来る事を予測していた永野は動じる事なく右手に持ったボールを左手で押さえ、レイアップを中断。ボールを下に落とした。

 

「ナイスパース」

 

そこへ走りこんでいた紫原にボールが渡る。同時に紫原は両手でボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「…くっ!」

 

大地がブロックに飛ぶが。

 

「だから?」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

そんなブロックお構いなしにボースハンドダンクを叩き込み、大地を弾き飛ばした。

 

「どうせ無駄なんだから第1Qの時みたいに抵抗は止めた方がいいよ? 怪我するだけだから」

 

ボールを右手で拾った紫原は倒れこんだ大地を見下ろしながらボールを放りながら言った。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ、何とか……っ」

 

手を差し伸べる空。大地はその手を掴んで立ち上がった。

 

「ったく、シャレになんねえなあれ」

 

「まったくです」

 

弱音を吐く空に共感する大地。

 

「しょうがねえ、止められねえなら点取るしかねえ。やんぞ!」

 

「ええ!」

 

大地からボールを受け取った空はドリブルを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合はそこから陽泉ペースで試合は進む。

 

陽泉は紫原がインサイドを制圧し、中から紫原、外からアンリが切り込み、木下が外からスリーを放ち、渡辺が同じく中から攻め、時にポストプレーでパスを中継したり、スクリーンをかけて見方を援護、永野は4人にパスを捌き、隙を付いて自ら切り込んでいった。

 

花月は中から攻めきれず、外から攻めるが単発に過ぎず、流れに乗れない。

 

 

第2Q、残り6分49秒

 

 

花月 29

陽泉 34

 

 

流れに乗った陽泉が点差を5点にまで広げていた。

 

 

「点差が広がってきたな」

 

「ああ、やはり紫原がいるのといないとではインサイドの厚みが違う」

 

試合を見ていた洛山の四条と五河がじわじわと開いていく点差を見て口を開く。

 

「これまで花月は紫原をあえて無視する事で試合を進めてきた。だが、そんな奇策がいつまでも通用するはずがない」

 

「そうだな」

 

赤司の言葉に納得の表情で頷く四条。

 

「中で勝負出来なければ点差はこのまま広がり続けるだろう。花月が陽泉と対等に戦う為には紫原から得点を奪わなければならない」

 

『…』

 

「紫原から逃げていては、花月に勝機はない」

 

そう断言する赤司だった。

 

 

「…」

 

ベンチから無言で試合を観察する上杉。

 

赤司が懸念を示した事は上杉自身も良く理解していた。そして、ここまで試合を見守っていた上杉が動く。

 

「準備は出来ているな?」

 

「はい。いつでも行けます」

 

上杉に声を掛けられ、返事をする。

 

「次、時計が止まったら投入する。行って来い」

 

そう促され、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・

 

 

『アウトオブバウンズ、白(陽泉)ボール!』

 

永野からアンリへとパスを大地がカットし、ボールがサイドラインを割った。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 緑(花月)!!!」

 

ここでメンバーチェンジがコールされる。交代に指名されたのは松永。代わってコートに投入されたのは…。

 

「スー…フー……行くぞ」

 

背番号12番、室井総司であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ここまで何とか仕上がりました!

さて、ここからどうしましょうorz

最近考えるのは、話を書き続けられる人ってすごいなって思います。原作という確かな設定と世界観がある二次創作ですら話を考えるのに苦労するのに、オリジナルで長期に渡って書き続けられる事は素直に尊敬出来ます。このサイトの方でも市場に単行本で売り出している方でも長期に渡って連載を続けられてる方はプロアマ問わず尊敬の対象です。

いつかこの二次くらい長期連載出来るオリジナルを書きてぇ…。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第103Q~トライアングルツー~


投稿します!

だんだん自身のネタの引き出しがなくなってきたorz

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り6分38秒

 

 

花月 29

陽泉 34

 

 

花月、上杉が動く。松永に代わって室井を投入した。

 

「頼む、任せたぞ」

 

「はい。死力を尽くします」

 

コートが出る松永が室井をハイタッチを交わし、室井の肩と腰を叩きながら激励をした。

 

『交代はともかく、何で8番(松永)と交代なんだ? それじゃサイズダウンして余計ゴール下が薄くなるだろ…』

 

『代えるならせめて5番(生嶋)だろー』

 

観客席からこの交代策への疑問の声が飛び交う。松永の身長は196㎝。対して室井は188㎝。ただでさえサイズで劣る花月がサイズダウンさせる事は普通に考えてリスクが大きい。

 

 

「さつき、あいつの事、知ってるか?」

 

「ちょっと待って。えっと…」

 

青峰に尋ねられ、桃井は持っていた。鞄から1冊のノートを取り出し、めくり出す。

 

「室井総司。今年花月に入学した1年生。データがあまりないからどういう選手かは分からないけど、少なくともバスケを始めたのは高校に入学してからだし、きーちゃんのような才能もないから大ちゃんが注目する程の選手とは思えないけど…」

 

自身のノートを読みながら分かっている事を説明する桃井。

 

「ただ、中学時代は陸上の選手で、色んな競技で入賞や表彰台に上がった選手らしいから、身体能力はかなり高いと思うわ」

 

「ふーん」

 

一瞬興味を抱いた青峰だったが、桃井の話を聞いて興味をなくしたのであった。

 

 

陽泉ボールで試合が再開される。

 

「…」

 

ボールは木下から永野に渡る。依然として花月のディフェンスはマンツーマン。先程入った室井は松永がマークしていた紫原に付いている。

 

「(サイズダウンしてまで交代してきたんだ、12番(室井)は紫原対策なのは間違いない…)」

 

ローポストに立つ紫原。その背後でマークしている室井に視線を向けながら思考する。

 

「寄越せ!」

 

背後の室井を背負いながら紫原がボールを要求する。

 

「(あいつに紫原が止められるとは思えない。向こうが何をするつもりか、試してみるか!)」

 

意を決して永野が紫原にパスを出した。

 

「何のつもりかは知らないけど、お前じゃ俺は止められないよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

紫原はボールを突きながら背中で室井を押し込んでいく。

 

「…ぐっ!」

 

パワー勝負を仕掛ける紫原。室井はジリジリと押し込まれていく。

 

『そりゃそうだ! あのサイズで止められる訳がない!』

 

観客から溜息が漏れる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ゆっくり、確実にゴールへと近づいていく紫原。

 

「ダメか…!」

 

ベンチから悲痛の表情で呟く菅野。その時…。

 

 

――キュッ…。

 

 

紫原の侵入が止まった。

 

『なっ…!』

 

「何だと!?」

 

侵入が阻止された事に陽泉の選手及び荒木が驚愕の声が飛び出る。

 

「っ! ものすごいパワーだ。だが、止められない程ではない…!」

 

決死の表情で踏ん張り、紫原を押し止める室井。

 

「(…ちっ、力を込めても押し込めない)」

 

自分が押し止められている事に軽く苛立つ紫原。

 

「ふーん、意外とやるんだねー。…けどさ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで紫原は高速でスピンターンで反転、室井の裏を抜ける。

 

「っ!?」

 

押し返す事に全力を注いでいた室井はこの動きに対応出来なかった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま紫原はワンハンドダンクを叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「それで止めたとか思わない事だね。その程度じゃ俺は止められないから」

 

リングから手を放し、振り返った紫原は睨み付けながら室井に言い放った。

 

「(…ローポストからのオフェンスのパターンは松永先輩から教わっていたが、この人と松永先輩とではスピードとキレが比較にならない…!)」

 

何とか紫原の押し込みを阻んだ室井だったが、その後の動きに対応出来なかった。たださえ押し返す事に全力を注いでいるのに、そこにこのスピードで来られればバスケを本格的に初めて4ヶ月足らずの室井では対応出来ない。

 

室井の投入は紫原対策。その役を担い、役目を理解している室井は表情が若干曇る。

 

「よーやった室井」

 

そこへ、天野が駆け寄った。

 

「あの紫原の侵入を阻めただけでも上出来や。お前さんがパワーで対抗出来る事が出来るなら、後はやりようあるわ」

 

肩に手を置き、室井を激励した。

 

「そんじゃ、当初の予定通り行きますか」

 

「せやな」

 

やってきた空が天野に語りかけ、ニヤリと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

フロントコートまでボールを運ぶ空。

 

「…こい」

 

ディフェンスに立つ永野が気合い充分で待ち受ける。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速した空が中へと切り込む。

 

「…っ、行かせるか!」

 

空のドライブを読み切った永野はピタリと横に並びながら空を追いかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックロールターンで反転し、逆を付いて永野をかわす。

 

「ちっ!」

 

集中力を全開してもなお止められなかった事に悔しそうに舌打ちをする永野。

 

「止める!」

 

「サセナイヨ!」

 

渡辺とアンリがヘルプに飛び出し、空の進路を塞ぎにかかる。

 

 

――スッ…。

 

 

囲まれる前に空は頭上から真後ろにボールを放る。

 

「…あっ!?」

 

ボールの先、リングからほぼ正面のスリーポイントラインの外側に走りこんでいた生嶋にボールが渡る。生嶋をフリーにしてしまった木下は思わず声を上げる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーでボールを受け取った生嶋は悠々とスリーを決めた。

 

「さすがです。生嶋さん」

 

「これが僕の仕事だからね」

 

ハイタッチをしながら大地は労った。

 

 

「神城、広い視野をだいぶ生かせるようになったな」

 

一連のプレーを見ていた赤司がポツリと呟いた。

 

 

オフェンスは切り替わり、陽泉ボール。永野がぼーるを運ぶ。

 

「…おっ?」

 

「これは…!」

 

花月のディフェンスが変わった事に声を上げる永野と渡辺。

 

これまでマンツーマンでディフェンスをしていた花月。それが大地がアンリ、生嶋が木下をマークし、残りはインサイドでゾーンを組むいわゆるトライアングルツーに変わった。

 

「正気か? ウチの最大の得点源は紫原だぞ。普通やるなら2-3ゾーンだろ…」

 

花月の選択を理解出来ない永野は思わず本音が口から飛び出る。

 

トライアングルツーは永野の言う通り、得点力の高いインサイドプレーヤーがいる場合、効果は薄い。

 

「(さてどうするか。木下は……マークがきついな、ボールは渡せるだろうがあれじゃ外は打てねえ。ならアンリで外から切り込ませるか…)」

 

如何にアンリと言えど、大地は簡単にかわせる相手ではない。仮に抜けても中には3人のゾーンが待ち受けている。

 

「いつまでボール止めてんの? いいから俺にボール寄越せよ!」

 

ドリブルをしながらゲームメイクをしている永野に痺れを切らし、背中に立つ室井とポジション争いをしている紫原がボールを要求する。

 

「(…何かしらの策があるのは明白だが、だからと言ってそこを攻めない手はないか。その何かを早めに引きずり出した方が対策を考えられるし、何より紫原をどうにか出来るとは思えねえ!)紫原!」

 

素直に紫原にパスを出した永野。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

「ぐっ! 行かせん!」

 

腰を落として全身に力を込めて紫原の侵入を防ぐ室井。

 

「無駄だって言ってんの分かんないかなー」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

紫原はスピンムーブで室井をかわす。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

だが、その直後伸びてきた1本の手が紫原の持つボールを叩いた。

 

「良いんだよ。室井の仕事はあんたを押し止める事だからな。ゴール下に入られたら止めようがねえが、入られなけりゃ止める方法はある!」

 

ボールを叩いたのは空。スピンムーブでかわした直後の一瞬の隙を狙いうった。

 

「っ!? くそっ!」

 

空にボールをカットされた紫原は睨み付けるような視線を空に向ける。

 

「速攻!」

 

ボールを確保した空はすぐさま前線へとボールを放った。

 

「さすがです、空!」

 

前線に既に走っていた大地がボールを受け取り、そのまま速攻をかける。リング付近までドリブルした所でボールを掴み、跳躍する。

 

「打タセルカ!」

 

速攻に大地に追い付いたアンリがブロックに現れる。

 

『うわー! 速い上にたけー!』

 

大地より高く飛んだアンリに観客が悲鳴のような歓声を上げる。

 

「やはり来ました。ですが、想定済みです!」

 

 

――スッ…。

 

 

大地は掲げたボールを下げ、ブロックに現れたアンリをかわしながらそのままリングの下を通過する。

 

「ッ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

リングを通過した所でボールを再び掲げ、リングに背を向けたままボールを放る。ボールはバックボードに当たりながらリングを通過した。

 

『うおぉぉっ! こっちもスゲー!!!』

 

技ありのダブルクラッチで大地が得点を決めた。

 

「クッ!」

 

ブロック出来なかったアンリは悔しさを露にする。

 

「ドンマイアンリ! 取られたなら取り返そうぜ!」

 

「アァ、ソウダネ」

 

永野に声を掛けられたアンリは気持ちを切り替え、ボールを永野に渡したのだった。

 

 

「…」

 

再び陽泉のオフェンス。花月は先程と同様トライアングルツーで待ち受けている。

 

「(…ちっ、このトライアングルツーは紫原を止める為のものか…!)」

 

花月のこのトライアングルツーの意図に気付いた永野。

 

室井がそのパワーで紫原のゴール下への侵入を阻止し、そこからターンやムーブで動いた所を空か天野がすかさずボールを奪い去る。それがトライアングルツーに切り替えた目的だ。

 

 

「無茶苦茶に見えるけど、結構理に適っているかもしれないわね」

 

先程のディフェンスを見たリコが感想を話す。

 

「パワーに特化した室井君が紫原君の侵入を阻み、スピードに優れる神城君とディフェンスに優れた天野君がボールを奪う。外の木下君とアンリ君はしっかりカバーされてるし、万が一他から攻められても神城君と綾瀬君ならそこもカバー出来る」

 

『…』

 

「あの室井君。合宿の時に服越しから見たから正確な数値ではなかったけれど、全体の数値は火神君より高かったのは知っていたけど、まさか紫原君とパワー勝負が出来る程だったとはね。おじ様ったらとんでもない隠し玉を用意していたのね」

 

ベンチに座っている上杉に視線を向けるリコ。

 

「完全にではないけど、これで花月の懸念の材料が1つ減ったわ。後はもう1つね」

 

リコはコート上のある選手に視線を向けたのだった。

 

 

「(中に切り込んでもゾーンが待ち受けてる。神城が紫原対策で距離を取ってるから外は打てるが俺は外はあまり得意じゃねえし。何よりこの距離、神城なら一瞬で潰してくる)」

 

現状、永野はボールをキープしているが実質ノーマークの状態である。だが、空の放つプレッシャーを肌で感じており、ここから打っても切り込んでも止められる事を肌で理解していた。

 

「(だったらここだ。ウチは紫原だけじゃねえんだからな)」

 

ここで永野がパスを出す。ボールの行き先は…。

 

『また来た!』

 

アンリが右45度の位置でもボールを受け取る。

 

「今度こそ…!」

 

これまで何度もやられている大地。今度こそはと気合を入れる。

 

「無駄ダヨ。君ニ僕ワ止メラレナイ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

歩幅を広くとったストライド走法からの高速のドライブで大地を再び抜き去るアンリ。

 

「くっ!」

 

集中力を高めてもなお止められなかった事に大地は悔しさを露にする。

 

大地を抜き去ったアンリはボールを掴んでリングに向かって跳躍する。

 

「くっ、何度も決めさせへんわ!」

 

ヘルプに出た天野がリングに向かうアンリに向かってブロックに飛んだ。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

空中で両者が激突する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

同時に審判が笛を吹いた。

 

「…クッ!」

 

ダンクを阻まれたアンリ。苦し紛れにリングにボールを放る。だが、ボールはリングまで数㎝の所で落ちていった。

 

『ディフェンス! イリーガル、緑7番! フリースロー!』

 

ディフェンスファールが宣告され、陽泉にフリースロー2本が与えられた。

 

「…っ、俺も焼きが回ったもんや」

 

ディフェンスに定評がある天野がファールをする事でしかアンリを止められず、表情が曇る。

 

「…」

 

フリースローラインに立ったアンリが何度かボールを弾ませ、ボールの縫い目を確かめながら構え、1投目を放つ。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに嫌われる。

 

「ムゥ」

 

1投目を外し、落胆の溜め息を吐くアンリ。

 

 

――ガン!!!

 

 

続く2投目も外す。

 

「リバウンド!」

 

すかさず天野が動き、最良のポジションを確保する。

 

「おっしゃ! リバウンドは――」

 

手を伸ばしてリバウンドボールを抑えようとしたその時…。

 

「もーアンちん。ちゃんと決めてよー」

 

天野の後ろから紫原が手を伸ばしてボールが天野の手に収まるより早くボールを手中に収めてしまった。

 

「何やと!?」

 

リバウンドを取れたと思っていた天野は思わず声を出てしまう。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

着地を同時にもう1度飛び、右手に持ったボールをリングに叩きつけた。

 

「アリガトウ、助カッタヨ!」

 

「次はちゃんと決めてよ」

 

紫原に駆け寄ったアンリが笑顔で礼を言うと、ジト目で紫原は返した。

 

「あれを取ってまうんかい。冗談きついで」

 

自身の後ろからあっさりリバウンドボールを取ってしまった紫原の高さと腕の長さにげんなりする天野。

 

「ドンマイです、天野先輩」

 

天野に歩み寄った大地が激励する。

 

「スマンのう。ファールした挙句にリバウンドも取られてしもた」

 

「あれは仕方ありません。それに、今のファールのおかげでアンリさんを止める糸口が見つかりました」

 

「ホンマか!?」

 

「完全には難しいですが、これまでのように抜かれないようにする事は出来そうです」

 

「そら何よりや。紫原は俺達に任せとき。お前はあの外人を何とかしいや」

 

「任せて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。空がボールを運ぶ。

 

「…」

 

陽泉のディフェンスがより前へとプレッシャーをかけてきた。紫原を除く4人はとにかくスリーを要警戒、生嶋には特にプレッシャーをかけていた。万が一突破されても紫原のディフェンスエリアと能力を信頼しての選択だ。

 

「…フー」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

息を深く吐いた空は同時に一気に中へとカットインをした。グングン加速をし、ゴール下で待ち構える紫原に接近していく。

 

「なに? お前が来るの? いいよ。捻り潰してやるよ」

 

紫原が空を睨み付けながら待ち構える。

 

「(…チラッ)」

 

距離が詰まる直前に空が視線を左に向ける。同時に生嶋が動き、マークを外す。

 

「なーんだ、結局パスするんじゃん」

 

「何度もスリーが撃てると思うな!」

 

左アウトサイドに走る生嶋にいち早く気付いた木下が生嶋を追いかける。気付いたのが早かった為、生嶋はマークを外してきれていない。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、空はパスをする事無くリングへと突っ込んでいった。

 

「生嶋への視線はフェイクか!」

 

「つまんねー小細工したって無駄なんだよ!」

 

視線のフェイクに一瞬釣られるもすぐさま反応した紫原がリングを塞ぐようにブロックに飛んだ。

 

 

――フワッ…。

 

 

紫原がブロックに現れる直前に空はボールを右手で構え、紫原のブロックを越えるようにフワリとボールを押すよう放った。

 

「っ!?」

 

 

――ガガン!!! バス!!!

 

 

ボールはリングの縁に2度当たり、バックボードに当たってリングを潜った。

 

 

『スゲー! あいつ、紫原から点を奪いやがった!』

 

「…っ、ティアドロップ……いや、あれは…」

 

「ヘリコプターショットだ。それも紫原のブロックをかわす程の…!」

 

技ありの空のシュートを見て四条と五河が驚愕する。

 

空が見せたのはフィンガーロール、指先でボールに回転をかけながらボールを真上に上げながら放つヘリコプターショットと呼ばれるハイループレイアップである。

 

 

「俺ならいつでも止められると思った? 油断してると今みたいに足元掬われるぜ」

 

ドヤ顔で紫原に言い放つ空。

 

「…っ! 何度も決められると思うなよ。次は絶対捻り潰す!」

 

空に自身をかわして得点を決められるという屈辱を味わった紫原は一層闘志を燃やした。

 

「(…紫原の高さを想定して高いループのレイアップを練習してきたけど、想定と実物じゃ、プレッシャーがまるで違う。正直、今のは運よく入っただけだ。もう少し修正しねーとな)」

 

ブロックに来た紫原のプレッシャーで僅かに手元を狂わせてしまい、キレイに決められなかった空。紫原のスピード、高さ、反射神経を再度計算し直したのだった。

 

再び陽泉ボール。永野はゾーンディフェンスの中心にいる紫原を避け、アンリにボールを渡す。

 

「…」

 

「…」

 

再度対峙する大地とアンリ。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

大地は後方に下がり、アンリとの距離を取った。

 

これまでもアンリのドライブを警戒して通常より距離を取ってディフェンスをしていたが、大地はそこからさらに距離を取ったのだ。

 

『おいおい、いくらドライブが怖いからって、あれはやり過ぎだろ…』

 

『あれじゃドライブは防げても外から打たれたら止められないだろ』

 

この行動を理解出来なかった観客から批判の声が上がる。だが、観客の指摘はもっともで、身長差とアンリのジャンプ力を考慮しても、もし、アンリがスリーを放った場合、止めようがない。

 

「(いえ、大丈夫です。私の予想が正しければ、この方に外はありません。ドライブだけに集中していればいい)」

 

大地はこれまでの得点パターンと先程のフリースローを見てアンリに外がない事を予測し、外を捨て、ドライブのみを要警戒にした。

 

「…」

 

距離を取った大地を見て小刻みに動かしていたボールを止めるアンリ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

アンリは加速し、ドライブを仕掛けた。

 

『あくまでもドライブで勝負する気か!?』

 

「っ!」

 

だが、大地もこれに対応、瞬時に進路を塞ぎ、アンリを抜かせない。

 

「…クッ!」

 

突破を阻まれ、思わず声を上げるアンリ。

 

大地の予測は当たっていた。アンリは外からのシュートを得意としていないのだ。

 

中へ切り込んだ事で天野がヘルプにやってきた。

 

「アンリ! 1度戻せ!」

 

「…クッ!」

 

2人に包囲される前にアンリは永野へとボールを戻した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「迂闊だぜ!」

 

パスコースに割り込んだ空がボールをスティールした。

 

「速攻!」

 

「まずい、戻れ!」

 

間髪入れずに速攻に走る空。永野が声を出し、陽泉の選手達は慌ててディフェンスに戻る。

 

「クッ! コレ以上ハヤラセナイ!」

 

ブロックされたアンリだったが、その持ち前のスピードで空を捉え、スリーポイントライン目前で回り込んだ。

 

「っ! 簡単に追いついてくれやがって、嫌になるぜ…!」

 

自身のワンマン速攻に追い付かれる事がほとんどない空は思わず顔を顰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロスオーバーを仕掛け、アンリを抜きにかかる。

 

「遅イ!」

 

スピードに乗った空のクロスオーバーだったが、アンリはこれに反応。空の進路を塞ぐ。

 

「…ちっ」

 

抜けなかった空は舌打ちをし、ビハインドパスでボールを右へと流す。そこへ大地が走り込み、ボールを掴み、そのままリングに向かって飛んだ。

 

「よし! これで同点だ!」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら声を出す。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「ぐっ!?」

 

「お前もちょっと調子に乗り過ぎ。何度も決めさせるわけないじゃん」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前に紫原が大地の右手に収まったボールを弾き飛ばした。

 

「アリガトウ! 助カッタ!」

 

ルーズボールを拾ったアンリは紫原に礼を言うと、そのまま速攻に走った。

 

「ちぃ、戻れ!」

 

今度は空が声を上げ、花月の選手達はディフェンスに戻っていく。

 

「簡単に速攻決められると思うなよ!」

 

横を駆け抜けたアンリをすぐさま追いかけ、センターラインを越えた所で空がアンリを捉え、アンリの横に並ぶ。

 

「(ッ!? コンナニ早ク追イツカレタ!?」

 

同じくスピードに自信があるアンリ。先頭を走っていたにも関わらず早々に追い付いてしまった空を見て驚く。

 

「ダガ、コノママ行カセテモラウヨ!」

 

それでもアンリはお構いなしに強引に突破を図る。

 

「…ぐっ!」

 

全速力で走っている為、強引に突破を図るアンリがキープするボールをカット出来ない空。やがてフリースローラインを越えた所でボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

「…っ」

 

今追いついた大地は歯を食い縛る。

 

「負ケナイヨ。勝ツノワ僕達ダ」

 

リングを掴んでいた右手を放し、コートに着地すると、アンリは空と大地に振り返り、真剣な表情で言い放った。

 

「っ! 上等だ!」

 

「負けません。勝つのは私達です」

 

対して空は不敵に笑い、大地は睨むような表情で返したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





本当はもう少し進みたかったのですが、長くなったので一旦ここまでとします。

何と言うか、だんだん試合展開がワンパターンかしてきたなと自己嫌悪してきました…(;^ω^)

原作終了からさらに1年が経過した為、原作キャラがほとんど卒業し、現状全チームオリキャラが大半を占めているので、空気には出来ないし、かと言って注目を浴びせ過ぎても原作にいないキャラの描写なんて誰も求めていないのでは? と考えてしまいます。何と言うか、難しいですね…(>_<)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第104Q~リミッター~


投稿します!

過去最大のボリュームです…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り4分57秒。

 

 

花月 36

陽泉 40

 

 

室井がコートに入った事で紫原を抑える事に成功した花月。陽泉のもう1つの脅威であるアンリ。大地が1度は止めたものの、再びアンリの身体能力が火を吹いた。

 

「よし! 1本、きっちり決めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空がボールを運びながら声を出すと、他の選手達がそれに応えた。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながらゲームメイクをする空。

 

「(…ったく、俺が中から決めたんだから少しは中を固めてくれてもいいじゃねえかよ…)」

 

心の中でぼやく空。

 

依然として陽泉のディフェンスは紫原を中央に。他の4人の選手達は外に展開している。空の中からの失点に全く動揺していないのだ。

 

「(もうちょい中から点が欲しいな…)…よし!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して空が中へとカットインする。

 

「何度も行かせるか!」

 

「舐めるなよ!」

 

同時に永野、渡辺が空の包囲にかかる。

 

「…っ! さすがに何度も突破させてはくれないか」

 

自身への対応の速さに空は顔を顰める。空は完全に包囲される前にボールを外へと出した。

 

「よし!」

 

左アウトサイドでボールを受け取った生嶋がすぐさまスリーを放った。

 

「これ以上決めさせるか!」

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

木下の執念のブロックにより、指先に僅かにボールが触れた。

 

「「リバウンド!」」

 

外れる事を確信した生嶋と永野がリングに視線を向けながら声を出す。

 

『っ!』

 

ゴール下の天野、室井、紫原、渡辺がリバウンドに備える。

 

「…くっ!」

 

「ここは譲らへんで…!」

 

強引にパワーでポジションを取ろうとする渡辺をすぐさま絶好のポジションを確保した天野がパワーとテクニックでポジションを死守する。

 

「…っ! くっそ…!」

 

「あー鬱陶しいなー」

 

どうにかポジションを確保しようとする室井だったが、紫原がそれを許さない。パワーで紫原の侵入を防いだ室井だったが、リバウンドのポジション争いとなると、やはり紫原に分があり、ポジションを確保出来ない。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれ、ゴール下の4人が同時にボールに飛び付く。

 

「(絶好のポジションや。これなら――)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「もーらい」

 

「何やて!?」

 

絶妙なポジションに立っていた天野がボールに手を伸ばしたが、ボールがその手に収まるより早く紫原の手がボールを掴み、ボールを手中に収めてしまう。

 

「よし! 速攻だ!」

 

前へと走る永野に紫原が大きな縦パスを出す。

 

「通さねえ」

 

「…っ、もう追いついたのかよ。デタラメなスピードしやがって…!」

 

ボールを受けてすぐにドリブルを始めた永野だったが、僅かに進んだだけで回り込んでしまった空のスピードにげんなりする。

 

その場で停止し、ボールを止めた永野。その隙に花月はディフェンスを整える。

 

「(紫原かアンリか…いや、一辺倒になるのは良くねえ。ここは…)渡辺!」

 

ボールはローポストに立つ渡辺に渡る。背中にすぐさま天野が付く。

 

 

――ダムッ!!! …ダムッ!!!

 

 

ドリブルを始めた渡辺は、天野に背中をぶつけながら中へ押し込もうとする。

 

「…っ、行かせへん。ここは死守や!」

 

背中がぶつかった瞬間僅かに押し込まれたが、すぐさま腰を落として力を込め、侵入を阻止する。

 

「(くそっ、押し込めない!)…くっ!」

 

仕方なく渡辺は永野に視線を向け、ボールを戻そうとする。

 

「馬鹿者!!!」

 

その時、陽泉ベンチから荒木が怒声を上げた。

 

「逃げてどうする! 何の為に今まで厳しい練習をしてきたと思っているんだ。逃げるな!」

 

「そうだ。もうでかいだけと言われたあの時のお前とは違うんだ。自信を持て!」

 

荒木に同調した永野が檄を飛ばす。

 

「ダメでも俺が取り返す。強気で行け!」

 

続いて木下が声をかける。

 

「大丈夫! 君ナラ勝テルヨ!」

 

「…ハァ。こんな奴らにビビってないでさっさと蹴散らしてよー」

 

アンリが笑顔で声を掛け、紫原が面倒くさそうに声を掛けた。

 

「(…そうだ。俺はここ(陽泉)に入ってここまで頑張って来たんだ!)」

 

中学時代は自身の世代最長のビッグマンとして名を馳せ、荒木にスカウトによって陽泉高校に入学した渡辺。だが、陽泉に入学した彼に待っていたのは厳しい現実だった。

 

全国の強豪校である陽泉の練習は質も量も桁違いであり、中学時代とは比較にならず、その厳しい練習に付いて行けなかった。紫原や劉には何度も吹き飛ばされ、自分より身長の低い者にさえ当たり負けする始末だった。

 

『あいつただでかいだけじゃん』

 

こんな陰口は何度も叩かれた。1度はバスケ部を辞めようと荒木に退部届を出した。だが…。

 

『贅沢な悩みだな。でかいだけ? それの何が悪い? それはどんなに努力しようとどんな指導を受けようと得られないものだ。…1つ言っておくぞ。お前がただでかいだけの選手なら私はお前を獲得したりはしなかった。お前は確かなものを持っている。それは私が保証する。だから私を信じて頑張れ。もしそれでもダメだったらその時は私が責任を取ってやる』

 

そう言って、荒木は退部届を破り捨てた。

 

その荒木の言葉を信じて渡辺はがむしゃらに練習した。叩かれる陰口は日に日に減っていき、遂に昨年の冬にユニフォームを獲得。代替わりをした今年はスタメンの座を掴み取った。

 

「負けない。俺は絶対に負けない!」

 

そう叫んだ後、渡辺は再び天野にぶつかった。

 

「(っ!? 何や、こいつ、急にやる気になった思たら力が増しよった…!)」

 

当たりが力強くなった事に驚く天野。少しずつ中へと押し込まれ始めた。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

ある程度押し込むと、ボールを掴んで咆哮を上げながらリングに向かって飛んだ。

 

「こんのやらせるかい!」

 

ブロックに飛んだ天野の右手がボールにぶつかる。

 

「まだだぁぁぁっ!!!」

 

それでもお構いなしに強引にボールを放つと、ボールはリングに向かって飛んでいった。

 

 

――ガン!!!

 

 

だが、ボールはリングに弾かれた。

 

「くそっ!」

 

決める事が出来ず、悔しがる渡辺。すかさず天野と室井がリバウンドの態勢に入った。その時…。

 

「やれば出来るじゃん。後は任せてー」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

外れたボールを紫原が右手で掴み、そのままリバウンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に観客から歓声が上がった。

 

「いいぞ渡辺! この調子でガンガン行け」

 

「ありがとうございます!」

 

「ちょっとー決めたの俺なんだけどー」

 

強気で攻めた渡辺に永野が駆け寄り労うと、紫原は不満気に文句を言った。

 

「すいません」

 

「お前のせいちゃう。あれはどうにもならんわ」

 

失点の責任を感じた室井が謝罪をすると、天野は苦笑いをしながらそれを制した。

 

「(実際室井はよーやっとる。ゴール下で紫原と勝負に持ち込めとるだけでも大した奴や。…けど、あのパワーに高さと腕の長さが加わったら手ぇ付けられんわ…)」

 

先程のリバウンド。絶好のポジションを確保したにも関わらずその高さと腕の長さによってリバウンドボールを取れなかった。

 

「(リバウンドが取れんと点差は開くばかりや。どうにかせんと行かんわ)…室井、ちょい耳貸せ」

 

何かを思いついた天野は室井の傍に寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

室井がボールを拾い、空に渡し、花月のオフェンスが始まった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が中へと切り込む。同時に陽泉ディフェンスが動き、即座に空の包囲網が形成される。

 

「…ちっ」

 

突破は無理と判断した空は包囲される前にボールを外の生嶋に出した。

 

「打たせん」

 

「…っ」

 

生嶋にボールが渡るも木下に対応が早く、シュート態勢に入れない。仕方なくシュートフェイクを1つ入れてからローポストの室井にパスを出す。

 

「…よし!」

 

 

――ダムッ!!! …ダムッ!!!

 

 

ボールを受けた室井は背後に立つ紫原に背中をぶつけ、中へと押し込もうとする。

 

「何それ? それで押し込んでるつもりなの?」

 

「っ!?」

 

だが、紫原はビクともしなかった。リングから距離があるこの位置からではまだバスケ数ヶ月の室井に勝負する…ましてや、紫原相手に有効な手札はない。

 

「…くそっ」

 

やむを得ず室井は空にボールを戻した。

 

パスを回しながらチャンスを窺う花月。だが、鉄壁の陽泉ディフェンスの前に得点チャンスが作れない。やがて、ショットクロックが残り僅かとなった。

 

「あかん! もうすぐ24秒や! かまへんから早よ打つんや!」

 

「くっ!」

 

天野の声を聞こえてボールを持っていた大地は目の前のアンリをかわすように強引にシュートを放った。

 

 

――ガン!!!

 

 

だが、無理な態勢からリズムもシュートセレクションもバラバラで放ったシュートが入る訳もなく、ボールはリングに弾かれる。

 

「リバウンド!」

 

大地が声を出すと、再びリバウンド勝負となった。

 

「…ぐっ、おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

「…っ」

 

室井は声を張り上げながら力を込め、紫原をリングから遠ざけていく。

 

「あいつ、ボールを見てない? まさか…!」

 

ここで、木下が室井の狙いに気付いた。

 

「(そうや。悔しいが、紫原とまともにリバウンド競っても勝てへん。せやから、勝負せんかったらええ)」

 

ボールを取る事を捨てれば紫原と競えるパワーを持つ室井なら紫原を追い出せる。

 

「(後は俺が取るだけや!)」

 

渡辺を抑え込み、再び絶好のポジションを確保した天野がリングに弾かれたボールの飛び付く。

 

「…っ! お前もホントうざいなー…! お前ごときじゃ俺は止められないって言ってんだろ!」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「っ!? なん…やと…」

 

目の前で起きたあまりの出来事に天野は目を見開き、言葉を失う。

 

室井によって外へと押し出された紫原だったが、それでもその場でジャンプをし、右手をボールに向かって伸ばし、空中でボールを右手で掴み取ってしまった。

 

 

「木吉先輩のバイスクロー! ここで出しやがった!」

 

今、紫原が行った技の本家の使い手である木吉鉄平を思い出した火神が思わず声を上げる。

 

 

「っ! これでもあかんのかい!」

 

せっかく思いついた策も上手く行かず、悔しそうに声を上げる天野。

 

「速攻ダヨ! ボールチョーダイ!」

 

「はいよー」

 

速攻に走ったアンリに向かってボールを放る紫原。

 

「くっそ、カウンターだ! 戻れ!」

 

そんなアンリを追いかけるべく、空が声を出しながらディフェンスに戻っていく。

 

フリースローラインを越えた所でアンリはボールを持ってリングに向かって跳躍した。

 

「っ! させねえ!」

 

同時に追い付いた空がアンリとリングの間に割り込むようにブロックに飛んだ。

 

『うおっ! たけー!』

 

レイアップをするつもりで飛んでいたアンリは前への飛距離を重視して高さを出さなかった為、空にシュートコースを塞がれてしまう。

 

「…ムッ!」

 

空にシュートコースを塞がれると、ボールを下げてレイアップを中断し、再びボールを上げ、フックシュート気味にボールをリングに向けて放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜った。

 

『うおぉぉっ! 何だ今の!?』

 

『ジャンプの飛距離も滞空時間も半端ねー!』

 

滞空時間を利用したアンリのダブルクラッチに観客が盛り上がる。

 

「ちっ、飛ばれたらどうしようもねえ…!」

 

ジャンプ力に自信がある空だが、やはり身長差の壁は大きく、空中戦では分が悪い。だが、それより深刻なのが…。

 

「「…っ」」

 

俯きながら悔しそうに拳をきつく握る天野と室井。

 

攻守に渡ってリバウンドが取れない。試合においてこれは致命的な事であり、特にリバウンドに定評がある天野は自身のアイデンティティが崩れ去るような心境であった。

 

「…ハァ。あかんわ。あれもダメこれもダメ。ホンマどないしよ」

 

大きく溜息を吐きながら愚痴るように口を開く天野。

 

「…自分がもっとしっかりしていれば」

 

「やから自分のせいちゃうって言っとるやろ」

 

謝罪の言葉を述べる室井を遮るように天野が口を挟む。

 

このままリバウンドが取れなければ点差はどんどん開いていく。このまま陽泉に食らいついていく為にはこの問題をどうにかしたい。

 

「……室井。今度リバウンドになったらさっきと同じように紫原を外に追い出してくれないか?」

 

先程同様、室井にはリバウンドボールを取るのではなく、紫原にリバウンドを取られないよう身体を張るよう頼む空。

 

「? 構いませんが、自分では紫原さんを僅かに追い出すので精一杯ですよ? 恐らく同じ結果にしか――」

 

「心配するな。今度こそ大丈夫だ」

 

懸念を示す室井だったが、空は自信満々にそう返したのだった。

 

 

スローワーとなった室井から空がボールを受け取り、フロントコートまでボールを運ぶ。

 

『…』

 

相変わらず陽泉は強気に前にプレッシャーをかけながらディフェンスをする。

 

「(もうお前のドライブは怖くねえ。突破出来るものならやってみろ!)」

 

永野が気合十分で空を待ち受ける。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながら視線を動かしながらチャンスを窺う空。

 

 

――スッ…。

 

 

生嶋がコートの端、左アウトサイド、エンドラインギリギリに向かって動く。同時に天野がハイポストに移動する。この動きを受けて陽泉ディフェンスが動く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

『っ!?』

 

ゾーンディフェンスが乱れた一瞬の隙間を狙って空が発進。ゾーンディフェンスを切り裂くように突破する。だが、その先には紫原が待っている。

 

「(また俺に仕掛ける気? ホントこいつムカつく)…いいよ。今度こそ捻り潰してやるよ」

 

ゴール下で両腕を広げ、空を待ち構える紫原。

 

中に切り込んできた空に対し、距離を詰めないという選択肢を取った紫原。ある程度距離があっても紫原の反射神経と守備範囲ならばブロックが出来るという判断のよるものである。

 

「空!」

 

その時、空の横に走りこんできた大地がボールを要求。空はビハインドバックパスでボールを放る。

 

「はぁっ!? 結局逃げるんじゃん。無駄だし」

 

紫原はそのパスに反応し、パスコースに割り込む。だが…。

 

「っ!?」

 

空はボールを横にではなく、前へと落とした。落としたボールを拾い、すぐさまリングに向かって飛んだ。

 

「っ! ざけんな! 決めさせるかよ!」

 

同時に紫原も反応し、ブロックに向かう。

 

「遅ぇっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

最高到達点に達するまでの速さに勝る空が紫原がブロックに来るより早くボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「よっしゃ!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

「ドンマイ! 取り返すぞ!」

 

渡辺からボールを受け取った永野は気持ちを切り替えるべく声を上げる。

 

フロントコートまでボールを運ぶと、永野はそこから外の木下にパスを出す。

 

「打たせない」

 

「っ!」

 

膝下足元にまで潜り込んでディフェンスをする生嶋。これにより、木下は膝が曲げられず、スリーが打てない。

 

「ちっ!」

 

中に切り込んでもそこには空が狙い済ましている。仕方なく木下はハイポストの渡辺にパスを出す。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

ボールを受け取った渡辺が背中に立つ天野に身体をぶつけ、中へと押し込もうとする。

 

「…っ! もうお前には点は取らせへんよ…!」

 

歯を食い縛って渡辺の侵入を阻止する天野。

 

「(くそっ、ここからじゃリングが遠すぎる。何度もやらせてはくれないか!)…くっ!」

 

攻めきれず、渡辺はボールを永野に戻した。

 

「ちぃ!」

 

外でボールを受け取った永野はすぐさまアンリにボールを渡す。

 

「止めます!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ドライブで切り込んだアンリだったが、距離を大きく取った大地が突破を許さず、アンリはボールを止める。

 

「…クッ!」

 

突破するのは無理と判断したアンリは永野にボールを戻す。

 

そこからボールを回してチャンスを窺う陽泉。だが、花月は紫原へのパスは徹底的にシャットアウトし、他の4人に対してもシュートを打つチャンスを作らせないディフェンスをする。

 

「…くそっ」

 

オーバータイムが迫った為、永野は仕方なく外から得意ではないスリーを放った。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれた。

 

『リバウンド!!!』

 

『っ!』

 

ゴール下の4人がリバウンドに備える。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

咆哮を上げ、室井が紫原を外へと追いやっていく。

 

「…っ! 鬱陶しいな、無駄だって言ってんだろ!」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

右手を伸ばした紫原が再びボールを掴み取った。

 

『うわー! これがある限りやっぱり花月はリバウンドが取れねー!!!』

 

観客からは悲鳴に近い声が響く。

 

掴み取ったボールを懐へと引き込む。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ところがその直前、ボールは何者かに弾き飛ばされた。

 

「その技は映像で見た事がある。その技はより遠くのボールを掴み取れるけど、裏を返せば懐にボールを引き込むまでに僅かに時間がかかる。その無防備の時間を狙えば、例えリバウンドは取れなくてもボールを奪う事は出来る」

 

ボールを弾き飛ばした空はニヤリと笑みを浮かべた。

 

リバウンドの際、空は紫原のポジションを注視していた。紫原がボールを掴むタイミングを計り、紫原が掴み取ったボール目掛けて走り出し飛んで右手のボールを弾き飛ばした。これが空が紫原のバイスクロー対策に考え出した作戦である。

 

 

「簡単に言ってるが、そんな真似が出来るのは神城くらいだ。まさか、バイスクローをあんな方法攻略しちまうなんて…」

 

本家のバイスクローを何度も目の当たりしてきた火神が思わず苦笑いをする。

 

 

ルーズボールを大地が抑え、ワンマン速攻に走る。

 

「行カセナイ!」

 

だが、アンリがペイントエリアに到達した所で追いつく。

 

「…」

 

大地は動じず、ボールを後ろへと下げる。そこには、空が走りこんでいた。

 

「…よし」

 

スリーポイントラインの外側でボールを受け取った空はその場で停止し、スリーの態勢に入る。

 

「打たせるはずないだろ!」

 

そこへ、空の後ろから紫原がやってきて後ろからスリーを阻止するべくブロックに現れた。

 

 

――スッ…。

 

 

これを想定した空はスリーを中断し、ボールを左へと流した。そこには生嶋が走りこんでいた。

 

「ナイスパスくー!」

 

スリーポイントラインから2m程も距離があったが生嶋はスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに掠る事無く潜り抜けた。

 

「来た! さすが生嶋だぜ!」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら声を出した。

 

「あの距離から決めるのかよ…」

 

木下が驚愕の表情をしながら呟く。

 

「ドンマイ紫原。次は止められ――っ!?」

 

紫原を励まそうとした永野だったが、言葉を失った。

 

「…っ!」

 

その怒りに満ちた表情を目の当たりにした永野は、これ以上、声を掛ける事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後は一進一退の展開となった。

 

空のバイスクロー対策が功を奏し、完全とまでは行かないがリバウンドの不利が緩和された。アンリを中心に得点を重ねる陽泉に対し、花月は速攻による速い展開で得点を重ねるか、空が紫原をギリギリまで引き付けてパスを出し、得点を重ねていった。

 

3点差と5点差を繰り返し、試合は第2Q残り僅かとなった。

 

 

第2Q、残り12秒。

 

 

花月 43

陽泉 46

 

 

この第2Q最後のオフェンスとなるこの1本。永野は慎重にゲームを組み立てていた。

 

「(この1本はきっちり決めて折り返したい。どうする――っ!?)」

 

その時、ボールを持つ永野が何かに気付く。

 

「まさこちんに考えろ考えろって言われたけど、もー無理だわ」

 

そんな言葉を発する紫原。淡々とした言葉とは裏腹にその表情は険しかった。

 

『っ!?』

 

その紫原の変化は花月の選手達も感じ取っていた。

 

 

――ズン!!!

 

 

「っ!?」

 

紫原が室井に背中をぶつけ、押し込んでいく。

 

「(っ!? 力が増した!?)」

 

背中に立つ室井は突然増した紫原のパワーを感じ取った。

 

 

――ズシッ…ズシッ…!!!

 

 

渾身の力を込める室井だったが、紫原の侵入を阻止できない。

 

「…っ! あかん!」

 

状況を理解した天野が同じく紫原の背中に回り、侵入の阻止に回ったがそれでも紫原を止められなかった。やがて、ゴール下まで到達すると、そこで永野は紫原にパスを出した。

 

「「っ!?」」

 

ボールを持った紫原はその場で横の回転をしながら飛び上がった。

 

 

「遂に出たか。紫原の必殺ダンク…!」

 

 

 

 

――破壊の鉄槌(トールハンマー)!!!

 

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

「がっ!」

 

ブロックに飛んだ天野と室井だったが、回転の力を加えた紫原のダンクによって弾き飛ばされてしまった。

 

「考えてバスケをするのは性に合わない。やっぱりバスケするならこれが1番簡単だわ」

 

リングから手を放し、コートに着地した紫原が振り返り…。

 

「捻り潰す」

 

決して大きな声ではないが、それでも花月の選手達に聞こえるように言い放った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に、第2Q終了のブザーが鳴り、試合の半分が終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Q終了。

 

 

花月 43

陽泉 48

 

 

試合の半分が終了し、両校の選手達がベンチへと下がっていく。

 

『…っ』

 

点差だけ見れば5点差。だが、花月の選手達の表情は暗い。第2Q終了間際の紫原のダンクのダメージが点差以上に響いていた。

 

これより10分間ハーフタイムに入り、選手達は控室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

陽泉の控室…。

 

「戦況はまずまずだな」

 

控室にやってきた陽泉の選手達。各自が水分補給をしながら呼吸を整えている中、荒木が胸の前で腕を組みながら言う。

 

「…紫原」

 

「だって考えるとか性に合わねーし。要は勝てば良いんでしょー?」

 

ジト目を向ける荒木。紫原は拗ねた様子で返す。

 

「…ハァ。まあいい。今は良しとしてやる」

 

諦めた様子の荒木。

 

「第3Qもやる事は変わらん。紫原とアンリを中心に攻め立てる。木下は外。渡辺もボールを持ったら強気で攻めて行け。永野も上手く周りを見ながらボールを回せ。自分が仕掛ける事も忘れるな」

 

『はい(ハイ)!!!』

 

「しかし、終了間際にあの一撃はもったいなかったですね。折角のインパクトもハーフタイム中に――」

 

渡辺がボソリと言う。

 

「いや、そうでもない」

 

そんな渡辺の言葉を遮るように荒木が口を挟む。

 

「小細工なしの純粋なパワーには対策を立てようがない。考える時間のないプレー中ならば開き直ってプレーに没頭出来るだろうが、ハーフタイムの今、なまじ考える時間があるだけに悪いイメージばかりが付きまとってしまう」

 

『…』

 

「(さて、奇しくも去年のとは逆の展開となった。上杉さん、どう動きますか?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

花月の控室…。

 

「身体を冷やすな。水分補給をしながらゆっくり体力回復に努めろ」

 

選手達に上杉が指示を出すと、試合に出場した選手達はベンチに腰掛け、受け取ったタオルで汗を拭いながらボトルの飲料水を口にした。

 

「まさか、紫原がパワーアップするとはな」

 

タオルで汗を拭いながら空がポツリと呟くように口を開いた。

 

「…ふぅ、…すごい力でした。いくら腰を落として力を込めても押し返せませんでした」

 

目の前で紫原の力を体感した室井が俯きながら弱音を吐いた。

 

「(…っ、まだ数分しか試合に出てないのにすごい汗。それに、この呼吸の乱れよう、スタミナなら室井君は神城君や綾瀬君に匹敵するのに…、紫原さんとマッチアップそれだけ重労働なんだわ…!)」

 

室井の様子を見た姫川の表情が曇る。

 

「にしてものう、紫原にまだあないな力あったとはのう」

 

「今までは手加減してたのかよ…!」

 

同じく紫原の圧倒的な力を体感した天野は弱音を吐き、菅野は悔しそうに歯を食い縛る。

 

「いや、今までも手を抜いていた訳ではない。紫原は自身が無意識にかけていたリミッターを外したのだろう」

 

「リミッター?」

 

上杉の言葉に松永が聞き返す。

 

「紫原は試合では常にリミッターをかけている。体力を温存させる為か、相手を怪我をさせない為にな。膠着状態に痺れを切らした紫原はそのリミッターを外した」

 

『…』

 

「つまり、ここからが正念場って訳ですね」

 

解説を聞いた空が汗を拭いながらポツリと呟くように言った。

 

「(点の取り合いを挑むか? 松永をコートに戻すのも手だが、室井がいなくなれば紫原にパワーに対抗出来る者がいなくなる。中を強化する為に松永を入れるか? だが、誰を下げる? 神城は外せん。無論綾瀬も。消去法で生嶋だが、それでは外の脅威がなくなってしまう。さてどうするか…)」

 

顎に手を当ててこの後の戦術を考える上杉。だが、妙案は浮かばなかった。

 

「ディフェンスを変える。2-3ゾーンに切り替える。前に神城と綾瀬。後ろに天野、室井、生嶋だ。神城と綾瀬は外からの攻撃全域をカバーしろ。陽泉相手では厳しいかもしれんが、それでもやってもらう」

 

「「はい!」」

 

「室井は再び紫原を任せる。生嶋は紫原にディナイをかけてとにかく奴にボールを持たせるな。天野は紫原にボールが渡ったら即座にフォローに入れ」

 

「「はい!」」

 

「任しとき!」

 

「紫原は脅威だ。だが、決して受けに回るな。俺達の武器は堅守ではなく、オフェンスだ。止められなくとも気落ちするな。相手の倍走って倍点を取っていけ」

 

『はい(おう)!!!』

 

「っしゃぁっ!!! イージスの盾をぶっ壊して陽泉をぶっ潰すぞ!!!」

 

『おう(はい)!!!』

 

立ち上がった空が檄を入れると、選手達はそれに応えるように声を出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第3Q、後半戦が始まった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

「くっ!」

 

ボールを持った紫原がボースハンドダンクを叩き込み、天野と室井を吹き飛ばす。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

中にカットインをした空がスクープショットを放つも紫原によってブロックされてしまう。

 

試合は完全に陽泉ペースとなった。花月は紫原を止められず、紫原から点を取れない。

 

 

第3Q、残り6分13秒。

 

 

花月 45

陽泉 59

 

 

「開いたな」

 

観客席の火神が点差を見て思わず口に出す。

 

「くそっ…! 花月ー! 頑張れー!!!」

 

居ても立ってもいられなくなった元チームメイトの田仲が立ち上がった大声で声援を贈った。

 

「紫原!」

 

永野が空を上手くかわして紫原にパスを出した。

 

「くっ!」

 

ディナイをかけていた生嶋がボールをカットしようとするが届かず、生嶋の遙か上で紫原がボールを掴み取る。

 

「おっけー」

 

ボールを持った紫原が室井に身体をぶつける。

 

「来い、何が何でも止める!」

 

歯を食い縛った室井は腰を深く落とし、紫原の押し込みに備える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、紫原は軽く室井に身体をぶつけた後、ワンドリブルの後、即座にフロントターンで室井をかわす。

 

「何か押し返すのに全力出してるみたいだけど、そんなんで俺を止められる訳ないじゃん」

 

通り抜け様、嘲笑うような視線を向けながら室井に言い放つ紫原。ゴール下にまで侵入した紫原はボールを掴んでリングに向かって飛んだ。するとそこへ…。

 

「くっ! これ以上、点差を開かせる訳には…!」

 

大地がリングと紫原の間に割り込むようにブロックに現れた。

 

「大地! くそっ!」

 

それを見た空が慌てて走りこみ、ブロックに飛んだ。

 

「はぁっ!? お前らごとき何人来たって関係ないんだよ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

「がっ!」

 

2人のブロックもお構いなしに紫原はボールをリングに叩きつける。空と大地は為す術もなく吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ…!」

 

コートに倒れこんだ大地は苦悶の声を上げながら身体を起こす。その時…。

 

『ピピーーーー!!!』

 

『レフェリータイム!』

 

審判が笛を吹き、コールする。

 

「えっ?」

 

状況が理解出来ない大地は何が起こったかを理解する為、周囲を見渡す。

 

「っ!? あっ…、あぁ……」

 

それを見た大地は目を見開いて言葉を失った。

 

 

 

 

 

――コートに倒れ伏したまま動かない空の姿を見て…。

 

 

 

 

 

「空ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!」

 

コート上に、大地の悲痛の声が響き渡った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





あまりに長文だった為、2つに分ける事も考えたのですが、この話でここまではやりたかったのでそのまま投稿しました。

さて、今年も残すところ一ヶ月と少しとなりました。…いや、ほんとに早い…(>_<)

ついこの間新年度を迎えたと思ったら夏が来て、もう冬が来て…。このままあっという間に年月が過ぎていくんだろうなぁ……(-_-;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第105Q~限界~


投稿します!

リアルで体調を崩し、間隔が空きました…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

第3Q、残り6分2秒。

 

 

花月 45

陽泉 61

 

 

紫原のダンクが炸裂。同時にブロックに向かった空にアクシデントが起こった。

 

「空、空っ!」

 

倒れたまま動かない空に大地が傍に寄る。

 

「動かさないで! 頭を強く打った可能性がある。担架を、早く!!!」

 

悲痛の表情で縋るように声を掛ける大地の肩に手をかけて審判は静止し、担架を要請した。

 

 

「竜崎! すぐに準備をしろ。急げ!」

 

「は、はい!!!」

 

上杉に指示を出すと、竜崎は返事と同時にジャージを脱ぎ、準備を始めた。

 

駆け足でやってきた救護の人員がそっと空を担架に乗せ、コートの外へと運ばれていった。

 

「姫川、一緒に医務室へ行って神城を見ていてやれ」

 

「は、はい!」

 

そう指示が出されると、姫川は担架で運ばれていった空を追っていった。

 

 

「…っ」

 

運ばれていく空を茫然と見つめる大地。

 

「―せ、綾瀬!」

 

「っ!?」

 

茫然とする大地に天野が声を掛ける。その声に大地は正気に戻る。

 

「状況は最悪やが、俺らでどうにか立て直さんとあかん。行くで、気合い入れ直し」

 

「え、えぇ…」

 

何とか声を絞り出して返事をする大地。

 

「ボール回しは竜崎、任せるで。お前はシックスマンであると同時に空坊のバックアップのポイントガードでもあるんや。帝光中で培った経験を生かす時やで」

 

「はい! 任せて下さい!」

 

コートにやってきた竜崎に発破をかける。

 

「全員声出せや! こないな修羅場は去年も切り抜けてきたやろ! もういっぺん潜り抜けるでぇっ!」

 

『おう!!!』

 

次に選手達に発破をかけ、選手達がこれに応える。

 

「お前達もや!」

 

今度は花月ベンチの選手達を指差す。

 

「なに湿気た面しとんねん!? 葬式かい! 黙ってボーっと座っとらんでやれる事あるやろ! 声出して応援せんかい!」

 

「っ!? そうだな、全員、声を出せ! 花月!!! ファイ!!!」

 

『おー!!!』

 

発破をかけられたベンチメンバーは菅野が号令をかけると続いて声を出した。

 

「竜崎!」

 

スローワーとなった天野が竜崎にパスを出す。

 

「取り返すで! 全員、動けなくなるまで走るで!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールをフロントコートまで運ぶ竜崎。

 

「っ!?」

 

ボールを持った竜崎に永野がプレッシャーをかける。

 

「…くっ!」

 

ガンガンプレッシャーをかけてボールを奪いに来る永野。

 

「(すごいプレッシャーだ! くそっ! ボールをキープするだけで精一杯だ!)」

 

永野のディフェンスに竜崎は必死にボールを奪われないようにキープする。

 

「(キャプテンはこんな人を相手にしながらゲームメイクをしていたのか…!)」

 

空の凄さを改めて痛感する竜崎。

 

 

――ポン…。

 

 

永野の伸ばした手がボールを捉える。

 

「ちっ!」

 

すぐさま反応し、竜崎はボールを抑える。

 

「危なかった…」

 

ボールを抑えて一安心する竜崎。

 

「(ゲームに入り切れてねえから浮足立ってるな。それなら相手すんのは容易い!)」

 

竜崎の様子を見てそう判断する永野。

 

「(…ダメだ、今の俺じゃこの人相手にいつまでもボールをキープしてられない。ここは――)綾瀬先輩!」

 

ここで竜崎は大地にパスを出す。

 

「…」

 

「っ! ダイ!」

 

「…えっ?」

 

 

――バチン!

 

 

生嶋の声で顔を上げる大地。そこで初めてボールが来た事に気付き、手を出すがボールをファンブルしてしまう。

 

「綾瀬がファンブルだと!?」

 

らしくないイージーミスにベンチの松永も思わず声が出る。

 

「モラウヨ」

 

ファンブルしたボールをすぐさまアンリが抑え、速攻に走った。

 

「っ! あかん、カウンターや! 戻れ!」

 

慌てて天野が声を出し、ディフェンスに戻る花月の選手達。

 

「…くっ!」

 

どうにかスリーポイントラインの目前で大地がアンリに追い付き、回り込む。

 

「…ドウシタ? 集中出来テナイヨ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速したアンリが大地の横を高速で駆け抜け、抜き去る。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままボールを持って飛び、ボールをリングに叩きつけた。

 

「コノママダト負ケチャウヨ? モット集中シナヨ」

 

そう告げ、そのまま大地の横を通り過ぎるアンリ。

 

「……っ」

 

大地は下を向いたままただ拳をきつく握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運んだ竜崎は早々に大地にボールを渡した。

 

「(すぐに取り返さなければ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地が中へと切り込む。

 

「行カセナイヨ!」

 

アンリは大地の横を並走しながら追いかける。中へと切り込んだ大地はそのままボールを持ってリングに向かって跳躍した。

 

 

『まだ振り切れてないぞ!?』

 

 

「はぁ? 舐めてんの?」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

ダンクに向かった大地だったが、ヘルプにやってきた紫原によってブロックされた。

 

「綾瀬、無理をするな! 強引過ぎるぞ!」

 

無謀な選択にベンチの松永から声が出る。

 

「っとと、無謀やで! もっと大事に行かな」

 

ルーズボールを抑えた天野が大地に注意を促す。

 

「…っ、すいません」

 

晴れない表情で大地は謝罪をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「終わったな」

 

観客席の誠凛の池永が座席の背もたれに体重を預け、後頭部で両手を組みながら呟いた。

 

「っ!? まだ分からないだろ。時間はまだまだある」

 

そんな池永の言葉に苛立った表情で返す田仲。

 

「だが実際、花月のキーマンであり、精神的支柱の神城が抜けた穴はかなり大きい。その穴を竜崎に埋められるとは思えないな」

 

池永に同調するように新海が状況を分析した。

 

「リバウンドは取れない。紫原を越えられない上に止めらない。ここから花月に逆転の目があるとは俺も思えねえ」

 

同じように火神もそう分析していた。

 

「…正直、私ではここから花月が逆転出来る策は思い浮かばないわ。全てにおいて花月が不利なのは明白だから」

 

「そんな…」

 

監督のリコまでもがそう口にし、表情が曇る田仲。

 

「…けどまだ花月には綾瀬がいる。あいつならどうにか――」

 

「――残念だが無理だな」

 

田仲の希望を再び火神が一刀両断する。

 

「あいつは完全に試合に集中出来てねえ。明らかに動揺してやがる。そして何より――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ゾーンに入れない?」

 

桃井が聞き返すように言う。

 

「ああ。綾瀬はゾーンには入れねえ」

 

隣の席の青峰が答える。

 

「けど、綾瀬君って、才能なら神城君と同じくらいあるはずだよね?」

 

「そうだな。才能だけなら神城と同等だ。肝心なのはもう1つの方だ」

 

もう1つ、それはゾーンに入る為の条件である『バスケに全てをかけている事』である。

 

「去年の夏にも、冬に戦った時にも感じたが、あいつはどうも…上手く言えねえが、バスケに対して執着というか、熱を感じねえ」

 

「? どういう事?」

 

「だから上手く言えねえって言っただろうが」

 

その言葉が理解出来ず、聞き返す桃井に対し、ぶっきらぼうに返した。

 

「どのみち、今のあいつは雑念だらけでとてもじゃねえが試合に集中出来てねえ。ゾーン以前の問題だ。…このままなら、試合はもう覆らねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

各々の者が予想したとおり、花月は空の離脱によって更なる苦境に立たされた。

 

点が取れず、リバウンドが取れず、失点も防げない。そして何より…。

 

「…っ」

 

大地の不調により、更なる悪循環を繰り返していた。

 

 

第3Q、残り4分59秒

 

 

花月 45

陽泉 65

 

 

点差は20点にまで開いていた。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

大地が放ったジャンプシュートをアンリが叩き落とした。

 

「アウトオブバウンズ、緑(花月)」

 

ボールはサイドラインを割った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

ここで、上杉が申請したタイムアウトがコールされ、選手達がベンチへと戻っていった。

 

「…ハァッ!」

 

大きな溜め息と共に天野がベンチに腰掛けた。

 

「すいません、俺がしっかりゲームメイク出来ないばかりに…!」

 

申し訳なそうに竜崎が謝罪する。

 

「…いや、自分が役割を果たせていないせいです」

 

続けて責任を感じた室井が自分を責めた。

 

「やめぇ、2人共よーやっとる。自分を責めんのは後や。今はこの状況を何とかせんと」

 

責任を感じる2人を遮るように天野が口を挟んだ。

 

「…」

 

大地はタオルを頭からかぶり、俯いていた。

 

「…それにしても、くーがいなくなるなんて…」

 

『…』

 

ポツリと生嶋が言うと、花月の選手達が静まり返る。

 

「…くそっ! ツイてないぜ。よりにもよってあんな事故が起こるなんて――」

 

「…違います」

 

先程の事故を嘆く菅野の言葉を遮るように大地が口を挟んだ。

 

「あれは事故ではありません。空は私を庇ったんです。だから…」

 

そこで大地は口を閉じた。

 

紫原のダンクをブロックに行った大地。危険性を瞬時に察知した空は瞬時に大地を庇う為に同様にブロックに行き、大地を庇うように動いた。

 

本来なら担架で運ばれるのは自分だった。…いや、自分でなければならなかった。自分であるべきだった。その想いが大地を蝕んでいた。

 

「神城はお前の知ってのとおりバスケ馬鹿だ。そして勝利に対して貪欲でもある。あの状況、自分が欠けたら負ける判断したならあいつはそこで動かなかっただろう。だが、あいつはお前を庇った。その意味が分かるな?」

 

「…」

 

諭すように上杉が大地に語り掛ける。

 

「神城が目を覚ました時、何も出来ずに負けましたと報告するのか?」

 

「…」

 

「神城の期待に応えられるのはお前しかいない」

 

「…」

 

 

ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のコールが鳴る。

 

「ちっ、もう時間か。お前達、失点を防げないならそれ以上に点を取るしかない。空いたらとにかく打っていけ」

 

『はい!!!』

 

花月の選手達は返事と同時に立ち上がり、コートへと向かっていく。

 

「…」

 

未だ表情が晴れない大地。

 

「っ!?」

 

そんな大地を後ろから上杉が腕を回し、引き寄せた。

 

「去年の敗北を思い出せ。そこに答えはある」

 

それだけ伝え、上杉はベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ボールから試合は再開される。

 

「…」

 

ボールは天野から竜崎に渡される。

 

「(…リバウンドが取れない以上、1本の取りこぼしが命取りになる。確実に決めて行かないと…!)」

 

目の前の永野にボールを奪われないよう気を配りながら慎重にゲームメイクを始める竜崎。だが…。

 

「…くっ」

 

マークを外そうと動き回る生嶋だが、陽泉は生嶋の外を最警戒している為、なかなかフリーになれない。

 

「…っ」

 

ローポストで背中に紫原を張り付かせながら立つ室井。パスを出せない事もないが、身体能力こそキセキの世代と比類する室井だが、まだバスケを始めて4ヶ月足らずの素人。パワーで競えてはいても紫原と勝負が出来るわけもなく、ここも駄目。

 

「…」

 

未だ表情が晴れず、調子が測れない大地。

 

「…くそっ」

 

自ら行こうにも中が堅い為、切り込めない。

 

相変わらず鉄壁を誇る陽泉ディフェンスを前にシュートチャンスを作れず、焦りが生まれる竜崎。

 

「……しゃーないのう」

 

見かねた天野がハイポストの位置から駆け出し、スリーポイントラインの外側まで走る。

 

「こっちや!」

 

そこでボールを要求。

 

「天野先輩!」

 

攻め手が定まらない竜崎はとりあえず天野に一旦ボールを渡した。

 

「(この人はオフェンスではポストプレーやスクリーンでアシストするのが役割なはず。そんなところでボールを受けて何をするつもりだ?)」

 

これまで天野の背中でマークしていた渡辺の頭の中で疑問が生じた。

 

「(何が狙いにしろ、この人に外も切り込めるドライブ技術もない。この距離を保とう)」

 

外に展開した天野に対し、渡辺は距離を詰めず、ゾーンが崩れないように努めた。

 

「…ええんか? そない距離空けて」

 

「…えっ?」

 

突如、シュート態勢に入った天野。意表を突かれた渡辺は一瞬呆気に取られ、すぐにチェックに向かうも間に合わなかった。

 

「味方を生かすプレーが楽しゅーて今でこそロールプレーヤーしとるけど、中学時代はこう呼ばれとったんや」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「西の緑間ってのう」

 

「なっ!?」

 

リングに触れる事なく潜り抜けたボールを見て渡辺が驚愕した。

 

「木下先輩」

 

「ああ。かなりキレイなフォームだった。生粋のシューターと思わせるレベルだ」

 

陽泉のシューターである木下が思わず絶賛した。

 

 

「ナイッシュー、天野先輩」

 

「おおきに」

 

「驚きました。まさか先輩がシューターだったなんて…」

 

先程の会話が聞こえていた竜崎。

 

「阿呆、あんなんハッタリに決まっとるやろ」

 

賛辞の言葉を贈ろうとした竜崎の言葉を遮るように半笑いで言った。

 

「ええっ!? でも、シュートフォームめちゃめちゃ良かったじゃないですか!?」

 

「声がデカいねん! …まあ、中学時代はフォームだけはレイ・アレン並とか言われとったな」

 

「ちなみに成功率は?」

 

「3割や」

 

「……結構普通ですね」

 

飛び出るカミングアウトに竜崎は呆れ気味に言った。

 

「けどまあ、こないな状況や。ハッタリの1つ2つかまして通さんとどうにもならん。お前もボール持ったら積極的にシュート打っとき」

 

「っ!? ですけど――」

 

反論しようとした竜崎の言葉を制する天野。

 

「リバウンドが取れへんから慎重に行かなあかんお前の考えも分かる。けどなあ、陽泉のディフェンスは固い。いつ来るか分からんチャンスを待っとったら点は取れても追い付けん。リスク犯してでも点取らな逆転なんか夢のまた夢や」

 

「…」

 

「監督も空いたら打て言うとったやろ? 外した後の事は考えんでええ。どうせリバウンド取れへんのやからこうなったら開き直りや。自信持って打っていき。中学時代に比べたらそないプレッシャーかからんやろ?」

 

「っ! はい!」

 

この言葉を聞いた竜崎は頭の中を切り替え、返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉のオフェンス…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フロントコートまでボールを運んだ永野がインサイドへカットイン。

 

「っ! 行かせねえ!」

 

ドライブのタイミングを読み切った竜崎はピタリと並走し、抜かせない。

 

「(…ちっ、動きが良くなった。地に足が着いてきたか。まだ1年とは言え、さすが、帝光中を率いていただけの事はある)」

 

アクシデントにより急遽試合に出場した事もあり、浮足立っていたが、気持ちの切り替えが終わり、ようやく本来の実力が発揮出来るようになった竜崎。

 

切り込むのを諦め、下がって1度距離を取る永野。

 

「こっちだ!」

 

木下がスリーポイントラインの外側でボールを要求。永野は木下にパスを出す。

 

「打たせない!」

 

そんな木下に生嶋が距離を詰め、ディフェンスに向かう。

 

 

――ピッ!

 

 

木下は生嶋にカットされないよう飛びながら中へとボールを入れた。

 

『来た!!!』

 

ボールを紫原に渡る。

 

「いか…せない…!」

 

室井は腰を落とし、渾身の力を込めて紫原の押し込みに備える。

 

「いい加減、お前にも飽きてきたわ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高速のフロントターンで室井の横を抜けていく。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

「…くそっ!」

 

止める事はおろか相手にもならない自分自身に憤る室井。

 

 

「1本! 取り返しましょう!」

 

ボールを運ぶ竜崎が声を張り上げ、ゲームメイクを始める。

 

 

――ピッ!!!

 

 

フロントコートに辿り着くと、ハイポストに立つ天野にパスを出した。同時にパスを出した天野の下へ走り、直接ボールを受け取りに向かう。

 

「止める!」

 

ボールを受け取るであろう竜崎のカットインに備える渡辺。竜崎は天野の持つボールを受け……とらず、そのままUターンするように反転する。天野は持っていたボールをアウトサイドの生嶋に渡し、生嶋はスリーポイントラインの外側までUターンした竜崎にパスを出した。

 

「(空いた!)」

 

意表を突いたUターンにより、僅かにノーマークとなった竜崎はボールを受け取るのと同時にシュート態勢に入り、スリーを放った。

 

「なに!?」

 

迷う事なくスリーを放った竜崎を見て永野が驚く。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「(外れたらリバウンドは取れない。ターンオーバーになれば失点は免れないこの状況でこいつ…!)」

 

決め損なえば点差は開き、逆転への道は遠退く。勝利を目指すなら少しでも点差を縮める為に慎重に時間をかけて攻めるべきこの状況で竜崎の迷いのないスリー。

 

「帝光中の時は今よりプレッシャーがかかった状況で試合してたんだ。この程度のピンチでビビったりはしない!」

 

負ければ卒業後の進路が閉ざされる。そんな環境で試合をしてきた経験のある竜崎にとって、今の状況は物怖じする状況ではなかった。

 

「ええぞ竜崎!」

 

「うす!」

 

駆け寄った天野と竜崎はハイタッチを交わした。

 

 

陽泉オフェンス。永野がボールを運ぶ。

 

「(何処で攻めるか…)」

 

ボールをキープしながら攻め手を考える。

 

「(…紫原ばかりにオフェンスが偏るのは良くねえな。ウチには強力なスコアラーはもう1人いる)――アンリ!」

 

右寄りのスリーポイントラインの外側に立つアンリにパスを出す。

 

「ドンドン行クヨ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言と共にアンリが一気に加速。ドライブで仕掛ける。

 

「…っ!」

 

目の前で立つ大地。今度は遅れずにアンリに付いていく。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

アンリ、急停止する。ドライブの勢いを止め、そのまま後方に飛びながらシュート態勢に入る。

 

「…くっ!」

 

慌てて大地を距離を詰め、ブロックに向かう。

 

だが、ブロックは間に合わず、ボールはリングに向かう。

 

 

――ガン!!!

 

 

「ウッ!」

 

しかし、ボールはリングに嫌われてしまう。

 

「…ちっ」

 

ボールは紫原の高さと腕の長さをもってしても届かない場所に跳ね、紫原の口から舌打ちが飛び出る。

 

「もうけ。まだツキには見放されておらんようやのう」

 

リバウンドボールを抑えた天野は失点を防げた事とボールを保持出来た為、ほくそ笑む。

 

「もう1本、取りますよ!」

 

天野からパスを受けた竜崎が声を出してチームを鼓舞しながらボールを運ぶ。

 

「…っ!」

 

フロントコートまでボールを運ぶと、竜崎に対して永野が激しいプレッシャーをかけてきた。

 

「ちぃ! あくまでも外を防ぐつもりかい!」

 

思わず天野がぼやく。

 

ここに来て陽泉がこれまで以上に前へプレッシャーをかけてきた。先程の2本のスリーを警戒しての対応だ。

 

「5番(生嶋)以外のスリーが何度も決まるとは思わねえが、徹底的に潰させてもらうぜ」

 

したり顔で宣言する永野。

 

万が一中へ抜かれても中には紫原がいる。紫原への絶対的の信頼あっての選択である。

 

「くそっ!」

 

何とか永野のプレッシャーを掻い潜りながら生嶋にパスを出す。

 

 

――バチィン!!!

 

 

そのボールはパスコースに割り込んだアンリの伸ばした手に当たる。

 

『アウトオブバウンズ、緑(花月)ボール!』

 

ボールはサイドラインを割った。

 

「惜シイ!」

 

ボールはカットしたものの、ラインを割ってしまった為、悔しがるアンリ。

 

「(プレッシャーがきつくなってきた。俺はそこまで外は得意じゃない。今のままだと…)」

 

「(何とかスリー2本決めた。やが、陽泉相手にいつまでも外一辺倒やと限界が来る。もっと攻撃の幅を広げる為にも中から点が取れなジリ貧や…!)」

 

中から点を取りたい。だが、紫原がいるツーポイントエリアから得点出来たのは空と空を起点からのパスからのみ。だが、その空はコートにいない。

 

「…っ」

 

唯一、花月内で中から点を奪える可能性のある大地は未だ乱調から立ち直っていない。

 

「もう諦めたら?」

 

その時、紫原がそんな言葉をかけた。

 

「さっきから悪足掻きしてるけどさー、いい加減無駄なの理解してるでしょ?」

 

「何やと」

 

紫原の言葉を聞いた天野が険しい表情で振り返る。

 

「諦めないならそっちの口だけの身の程知らずのように捻り潰すから。どうなっても知らないからねー」

 

淡々とした口調で言い放ち、踵を返す紫原。

 

「っ! お前!」

 

口だけの身の程知らず。それは空の事を指している。故意ではないにしろ、怪我をさせた張本人である紫原の言葉に天野は声を荒げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「口だけ身の程知らず。…それは空の事ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、天野とは違う方向から声が届いた。

 

「そうだけど? デカい口叩いといてちょっと本気出しただけでいなくなったんだからホントの事――っ!?」

 

声が聞こえた方向に振り返る紫原。だが、振り返った紫原はある異変を感じ取って途中で言葉を止めた。

 

「っ!?」

 

近くにいた天野も異変を感じ取っていた。

 

紫原に声をかけたのは大地。だが、特徴的だったのはその表情だ。大地の表情は怒りや憎しみでもなければ悲しみの表情でもない、無表情。言わば能面のようであった。

 

「分かりました。それ以上は結構です」

 

言葉の途中ではあったが、紫原の真意を理解した大地は踵を返してその場を後にした。

 

「…な、なぁ」

 

大地の異変に未だ戸惑いを抱いている天野が恐る恐る大地に話しかける。

 

「ボールを下さい」

 

「?」

 

「外の警戒が強くなって来ました。中から点が取れなければ陽泉ディフェンスは崩せません。ですので――」

 

大地は天野に振り返り…。

 

「私が中から点を取ります」

 

変わらず無表情のまま、大地は静かにそう告げたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

空のアクシデントによる退場によって窮地に陥った花月。

 

外から積極的に決めて何とか食らいつくも限界が来て手詰まりとなった。

 

そこに紫原の言葉と、それを聞いた大地に異変。

 

試合は、更なる局面へと突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 





ここ2週間は、体調を崩す→休日寝込んで療養→だいぶ持ち直して仕事→ぶり返す。という感じでなかなか執筆の時間が取れず、さらに年末の忙しさもあって間隔が空きました。正直、年内までにこの試合だけでも終わらせたいけど、無理かもなぁorz

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第106Q~抗う現実~


投稿します!

試行錯誤しての投稿です。

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り4分20秒。

 

 

花月 51

陽泉 67

 

 

「私が中から点を取ります」

 

紫原の言葉を受け、調子を崩していた大地がそう告げた。

 

 

「(…なに今の? 今の感覚は、帝光中時代のあの時の赤ちんと1ON1した時の…)」

 

大地の言葉を聞こえ、振り返った時、紫原の背筋に一瞬寒気が襲った。それはかつて帝光中時代、練習の参加に嫌気がさし、赤司に反発した時の事だ。

 

紫原は赤司の指示に従う事に疑問を覚え、反発し、赤司と1ON1、5本先取の勝負をした。勝負は紫原が先に4本決め、逆に赤司のオフェンスを4本止め、完全に紫原がリードしていた。だが、トドメの1本を決めようとした時、赤司のもう1つの人格が現れ、紫原のボールをいとも簡単に奪い去った。

 

『少し調子に乗り過ぎたぞ、敦。あまり僕を怒らせるな。僕に逆らう奴は、親でも殺すぞ』

 

その時に発した赤司の言葉と威圧感。紫原は今でも覚えている。

 

そして今、大地に振り返った時、その時の赤司と似た感覚を大地から感じ取った。

 

「(ま、どうせ気のせいでしょ)」

 

引っかかりはあったものの、紫原は気のせいだと今の出来事を頭の片隅に追いやったのだった。

 

 

花月のリスタート。天野から竜崎にボールが渡り、竜崎はすかさず大地にボールを渡した。

 

「…」

 

スリーポイントラインの外側、右45度の位置でボールを受け取り、構える大地。

 

「(サッキマデト様子ガ違ウ。…来ル!)」

 

大地をマークするアンリも大地の変化を感じ取り、腰を落とし、集中力を全開にする。

 

「(アンリがマジになった。マジになったアンリを抜くのは至難の業だ!)」

 

集中しきったアンリを見て木下がこの1ON1はアンリが制すると確信した。

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かし、チャンスを窺う大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て大地が一気に加速。仕掛ける。

 

「(ッ!? 速イ!)」

 

これまで以上のスピードで仕掛けてきた大地に驚くも持ち前の身体能力で大地に食らいつくアンリ。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「クッ!」

 

大地はバックチェンジからのクロスオーバーでアンリを抜き去った。

 

『うぉぉっ! 速ぇ!!!』

 

アンリを抜いた大地はそのままリングへと突き進む。

 

「はぁ? 来いよ」

 

ゴール下で待ち構える紫原。

 

大地は紫原から僅かに距離を置いた所で急停止し、リングに視線を向けた。

 

「ちっ!」

 

直感でシュートを察知した紫原は大地との距離を一気に詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、大地は視線をリングに向けただけでボールを両手で保持してはおらず、距離を詰める紫原の横をドライブで駆け抜ける。

 

「…っ! このぉっ!」

 

これに反応した紫原はすぐさま反転。リングに向かう大地を追いかけようとする。だが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、大地はバックステップ。リングに振り返った紫原の横をバックステップで通り抜けた。そこでボールを掴み、シュート態勢に入った。

 

 

「…調子に、乗んな!」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

だが、これに反応した紫原は大地の後ろから腕を伸ばし、大地の放ったボールを叩き落とした。

 

「…っ!?」

 

決められると思っていた大地は思わず目を見開いた。

 

『紫原の反射神経と身体能力が勝った!』

 

「ナイス。助カッタヨ!」

 

ルーズボールを拾ったアンリは礼を言って永野にボールを渡した。

 

「あかん、戻れ!」

 

「…くっ!」

 

天野の声に、大地は悔しさを露にしながらディフェンスに戻っていった。

 

「アンリ!」

 

ボールを運んだ永野はアンリにパスを出す。

 

「行かせません…!」

 

アンリがボールを受け取ったのと同時に大地が目の前に回り込んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、切り込むアンリ。大地はこのドライブに遅れずにピタリと並走する。抜けないと見て急停止すると直後、大地が距離を詰めてガンガンプレッシャーをかける。

 

「…グッ!」

 

ボールを掴んだアンリ。大地の受けてシュート態勢に持っていけない。

 

「(サッキマデトワマルデ別人ダ! コレデワ打テナイ!)」

 

大地の変化を肌で感じ取り、戸惑いを隠せないアンリ。このままではボールをキープ出来ない。

 

「よこせ!」

 

その時、ローポストに立った紫原がボールを要求する。

 

「頼ム!」

 

ボールを頭上から放って紫原にパスを出した。

 

「…っ! いい加減鬱陶しいんだよ!」

 

ゴール下まで室井を押し込んだ紫原は両手でballを掴んでその場で横回転しながらリングに向かって飛び…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

「がっ!」

 

天野と室井を弾き飛ばしながらボールをリングに叩きこんだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

紫原のトールハンマーが炸裂し、観客が沸き上がった。

 

「スマン、次は止めて――っ!?」

 

失点を防げず、大地に謝罪をする天野。

 

「…もっと速く、もっと鋭く…!」

 

鬼気迫る表情で独り言を囁く大地。そんな大地を見て天野は息を飲むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。再びボールを受け取った大地は中へと切り込む。

 

「ッ!?」

 

後を追おうとしたアンリだったが、天野のスクリーンに阻まれる。

 

「また来るの? いいよ。捻り潰してやるよ」

 

中で待ち構えるのは当然紫原。それでもお構いなしに大地は中へと切り込み、ボールを掴んで飛んだ。

 

「無駄なんだよ!」

 

ボールを持って飛んだ大地に対して紫原がブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

紫原がブロックに現れると、大地はボールを下げ、空中で反転し、紫原に背中を向け、左手にボールを持ち替えてフワリと浮かせるようにしてリングにボールを放った。

 

「っ!?」

 

腕をボールに伸ばしてブロックに向かった紫原だったが紙一重で間に合わず。

 

 

――ガン!!!

 

 

しかし、ボールはリングに嫌われてしまう。

 

『あー! 惜しい!!!』

 

点が決まらず、観客から溜息が出る。

 

『ピピーーー!!!』

 

『ディフェンス、イリーガル! 白6番!』

 

レフェリーが紫原のファールをコールした。腕を伸ばした際に紫原の身体が大地に接触していたのだ。

 

「…ちっ」

 

ファールを宣告されると紫原は舌打ちを打った。

 

「(だが今のはファールがなければ決まっていた。あの紫原がブロック出来なかった。どうなってやがる…)」

 

絶対的なディフェンス力を誇る紫原がブロック出来なかった事に驚愕する永野。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地は落ち着いてフリースローきっちり2本決め、点差を再び16点にした。

 

 

陽泉のオフェンス。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを運んだ永野がリングに付近にボールを高く放り、そこに走りこんだアンリが空中でボールを掴み、そのままリングに叩きこんだ。

 

「…っ」

 

身長差がある大地ではアリウープを阻止出来ず、歯をきつく噛みしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地はボールを受け取ると高速のドライブでアンリを抜き去り、三度切り込んでいく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

紫原との距離がある程度縮まると急停止と同時に高速バックステップで下がり、紫原との距離を空けた。そのままボールを掴み、真後ろに飛びながらシュート態勢に入った。

 

「…っ! 調子に乗るなよ!」

 

 

――チッ…。

 

 

距離を詰めてブロックに飛んだ紫原の伸ばした手の指先にボールが僅かに触る。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールに触れられた事で軌道が僅かに逸れ、ボールはリングに弾かれた。

 

 

――ポン…。

 

 

だが、弾かれたボールを天野がタップで押し込んだ。

 

「ありがとうございます」

 

「礼なんていらんわ。当然の事やで」

 

礼を言う大地に対し、天野は当然の事と手で制した。

 

「(今のも紫原のブロックはかなりきわどかった。今までは確実にボールを叩いていたのに今のは辛うじて指に触れただけ。やはり間違いない。綾瀬のスピードとキレが増してきている…!)」

 

目の前で大地と紫原の攻防を見ていた木下は大地の変化に驚きを隠せなかった。

 

「まだです。…まだ足りない」

 

ディフェンスに戻りながら大地は自分に言い聞かせるように呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

「いいぞ。綾瀬のおかげで中で点を取れるようになってきた。これなら…!」

 

乱調から脱した大地の活躍もあり、花月が点を取れるようになった。可能性が出てきたと喜ぶ田仲。

 

「だが、点差は縮まっていない」

 

「あっ…」

 

新海の指摘にその事実に気付く田仲。

 

 

第3Q、残り2分56秒

 

 

花月 55

陽泉 71

 

 

確かに花月は中で点を取れていた。だが、陽泉のオフェンスを止める事も出来ていないのだ。

 

「強力なインサイドである紫原先輩。外から切り込んで点が取れるスラッシャータイプのアンリ。この2人を止める事は困難だ。5番の外があるから不用意に中も固められない。正直ジリ貧だ」

 

状況を冷静に分析する新海。

 

「…いや、やばいのはここからだ。恐らく――」

 

コートを見つめていた火神がおもむろに予言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(…しぶとい奴らだ。1本でもオフェンスをしくじったら流れを持っていかれちまう。ここは確実に――)」

 

この1本は慎重に攻めようと決めた永野。その時…。

 

「あーあ、いつまでも粘られる展開にも飽きてきた。けど、それ以上に、不愉快だわ」

 

「っ!?」

 

永野の横に並ぶ紫原。その表情を見て永野は思わず背筋が凍った。

 

「ボールちょうだい。いちいちパス待つのも面倒くさいから、俺が直接捻り潰すよ」

 

そう告げて、紫原はスリーポイントラインの外側、左45度のポジションに移動した。

 

「っ!」

 

迫力に押される永野。紫原が移動し、手を上げてボールを要求したのと同時にパスを出した。

 

「っ!」

 

ボールを受け取る紫原。目の前に大地が立った。

 

「…確か、綾瀬だっけ? 神城? とか言う奴も、みどちんに勝って、青ちんを追い詰めただけの事はあって、小さいけど確かに才能はあるみたいだね。それは認めてやるよ。…けど、これ以上お前らに調子に乗られるのは我慢出来ないわ」

 

ゆっくりとドリブルを始める紫原。

 

「もうお前には何もさせない。俺が直接捻り潰してやるよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言と同時に紫原が切り込んでいく。

 

「(…速い!)」

 

2メートルを優に超える巨体からは似合わないスピードとキレがあるドライブを仕掛けられ、驚愕するも大地はこれに対応する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、紫原はバックロールターンで反転。大地の後方へと抜けていく。

 

『スゲー、抜いたぁっ!』

 

大地を抜いた紫原はそのままリングに向かって突き進んでいく。

 

「くっ!」

 

慌てて室井がヘルプに飛び出す。

 

「…お前、パワーはあるけど、それ以外は話にならないよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

飛び出した室井をクロスオーバーで一瞬で抜き去った。同時にボールを右手で掴んでリングに向かって跳躍した。

 

「くっ! まだです!」

 

室井を抜き去る際にスピードが緩んだ隙に追い付いた大地がブロックに現れた。

 

「いい加減学べば? お前程度ブロックに現れても意味がないんだよ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐぅっ!」

 

紫原はブロック等お構いなしにボールをリングに叩きつける。ブロックに向かった大地は為す術なくコートに叩きつけられてしまう。

 

「ダイ! 大丈夫!?」

 

あまりの衝撃に生嶋が大地の下に駆け寄る。

 

「だい…じょうぶです。…っ」

 

一瞬苦痛で顔を歪ませるも大地は膝に手を置き、力を込めて立ち上がった。

 

「それよりオフェンスです。取り返しますよ」

 

大地は前を見据えながら言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。ボールを運んだ竜崎は生嶋にパスを出した。

 

「…打たせん!」

 

スリーポイントラインの外側で生嶋がボールを受け取ったのと同時に木下が激しくプレッシャーをかける。

 

「(くっそ…! ここまでプレッシャーが激しいとシュート態勢に入れない!)」

 

激しく密着させるようにディフェンスをする木下。その為、生嶋はシュートはおろかドリブルをする事もままならない。

 

「こっちです!」

 

そこへ、大地がボールを要求する。

 

「お願い!」

 

隙を付いて大地にパスを出した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを掴むのと同時にドライブ。目の前のアンリを抜き去る。

 

『おぉっ! また抜いたぁっ!』

 

同時に観客から歓声が上がる。

 

「(……おかしい)」

 

直後、大地はある違和感に気付く。

 

やけにあっさりと中へ切り込めた。アンリのディフェンスがあまりにもあっさり過ぎる。まるでわざと抜かせたような…。

 

そう思い当たった大地。この考えは当たっていた。陽泉の選手達がディフェンスに戻る際、紫原は…。

 

『みんな外だけ警戒してくれればそれでいいよ。アンリちんも、綾瀬がもし中に切り込んできても無理して止めなくていいから』

 

と、話していたのだ。

 

自分1人で大地を止める為、紫原は中から人を追い出し、事実上の大地との1対1を仕掛けたのだ。

 

「…来いよ」

 

ゴール下に立つ紫原が静かにプレッシャーを放つ。

 

「…っ!」

 

プレッシャーを受けて大地は僅かに圧倒される。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フリースローラインを越えた所で急停止からのバックステップ。同時にボールを掴んでシュート態勢に入った。

 

「お前のそれももう見飽きたよ」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールが放ったのと同時にブロックに現れた紫原によってボールは叩き落とされた。

 

「ナイスブロック、紫原さん!」

 

ルーズボールを渡辺が抑え、前方へ大きな縦パスを出した。そこには既にアンリが走りこんでいた。

 

「っ!? あかん、戻れ!」

 

すかさず叫ぶ天野。だが、他の花月の選手達も反応出来ず、シュートを打ちに行った大地は当然戻れるはずもなく…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ノーマークでボールを受け取ったアンリは悠々とダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「ヨシ!」

 

リングから手を放し、コートに着地をしたアンリは拳を握りながら喜びを露にした。

 

「……20点差」

 

ベンチの菅野が電光掲示板の得点を見て苦い表情で呟く。これまで16点~18点差を繰り返してきたが、ここに来て遂に均衡が崩れたのだ。

 

「…ちっ、まだや! 落ち着いて1本返すで!」

 

暗くなりかけた空気を天野が声を張り上げて払拭させようとする。

 

室井がボールを拾い、リスタート。竜崎がボールを運ぶ。

 

「(…くそっ! 外の警戒が強い。これじゃ外は打てない…!)」

 

隙あらば積極的に外を打つつもりだった竜崎だったが陽泉のディフェンスが打つ隙を与えてくれない。

 

「…あのさあ、もう諦めたら? まだ勝つ気でいるみたいだけどさ、もう状況は理解してるでしょ?」

 

未だ、戦意を捨てていない花月の選手達を見て紫原は冷めたような目付きで言い放つ。

 

「…俺は阿呆やからのう。教わっとらん事は出来へん。花月に来て2年以上経つが、監督から『諦める』言う言葉は教わった事は1度もあらへん。やから、最後まで勝ちに行くで」

 

睨み付けるように返す天野。生嶋と、竜崎と室井も同様の考えであり、試合を投げてはいなかった。

 

「…ふーん。だったら分からせてやるよ。希望も可能性もないのに足掻いた所で余計に痛い思いするだけだって」

 

天野の回答と他の選手達を見て紫原の目付きが再び鋭くなった。

 

ボールが大地に渡り、再び中へと切り込んだ。今度は下がらず、そのまま突き進み、バックロールターンで紫原をかわし、そのままリングん向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

だが、後ろから伸びてきた紫原の手によってブロックされてしまう。

 

『アウトオブバウンズ、緑(花月)ボール!』

 

ボールはラインを割ってコートの外へと飛び出た。

 

「見飽きたって言っただろ? お前がバックステップする時って僅かに上体が上がるしスピードも僅かに落ちてる。だから何度か見れば下がるか下がらないか見分けがつくんだよ」

 

「…っ!?」

 

紫原の指摘を受けて大地は目を見開いて驚愕する。

 

 

「…綾瀬君はバックステップを行う時は後ろに下がる為の力を確保する為に上半身を起こすからスピードも僅かに落ちてしまう…」

 

観客席の桃井がボソリと大地のドライブからの高速バックステップの解説をする。

 

高速のドライブから急停止するだけでも足腰にかかる負担は大きい。故に大地は負担を軽くする為に無意識にスピードを落とし、後ろに下がりやすい態勢を作っていたのだ。

 

「…」

 

隣の青峰も直感で理解していたのか、無言でコートを見つめていた。

 

 

「悪足掻きするって言うなら好きにすれば? そんな気も失せる程捻り潰すだけだから」

 

未だ希望を抱く花月の選手達の心を打ち砕くように放たれる紫原の言葉。

 

「何をしようが、どう足掻こうが、勝敗が覆る事はもうない。これが現実。もうお前達の負けだよ」

 

淡々と無慈悲な言葉を紫原は言い放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(……負ける?)」

 

紫原の放った言葉が大地の頭の中を反芻する。

 

「…っ!」

 

直後、大地の胸を張り避けるような激痛が襲い、そして走馬灯のように記憶が巡る。昨年のウィンターカップの敗北が…。

 

悔しさを露にする選手達の表情。最後の大会を敗北で終える先輩達の無念。そして…。

 

『…っ』

 

空の、チームを勝利させる事が出来なかった悔しさと無念の涙。

 

「(…………嫌だ)」

 

あんな思いは2度としたくない。

 

「(…………嫌だ)」

 

自身の1番の友であり、相棒である空の無念の思いで流す涙を見たくない。

 

「(もう負けたくない。あんな思いはもうしたくない! もう、試合に負けて流す皆の涙は見たくない!)」

 

敗北を強く否定する大地。だが、目の前で突き付けられた現実はとてつもなく非情なものであった。

 

自身の最大の武器はもはや通じない。この圧倒的な劣勢を覆すものはない。

 

考えれば考える程大地の脳裏を塗りつくし、浸食していく『敗北』という言葉が…。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」

 

大地は天を仰ぎ、雄叫びのような咆哮を上げた。

 

『…っ!?』

 

突然の大地の奇功に花月の選手達は動揺する。

 

 

「抗えない今の状況を目の前に発狂でもしたか? だが、これが現実だ。紫原の言葉を肯定するつもりはないが、圧倒的過ぎる才能は、時としてあらゆる努力を無にしてしまう」

 

咆哮を上げる大地を見て、その心情を理解し、それでも非情な現実を語る荒木。

 

 

花月がリスタートし、ボールを回してシュートチャンスを窺う。だが、シュートチャンスを作る事が出来ない。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

出されたパスをアンリによってスティールされてしまう。

 

 

「トドメを刺せ、アンリ」

 

荒木が静かにそう口にする。

 

 

ボールを奪取したアンリはそのままワンマン速攻をかける。

 

「くそっ! くそっ!」

 

悔しさを口にしながらアンリを追いかける竜崎。だが、アンリのスピードはすさまじく、ドリブルをしているのにも関わらず引き離されていく。

 

ここを取られてしまえば、脳裏の片隅に追いやっている『敗北』という言葉が決壊したダムの如く脳裏を支配してしまうだろう。だが、アンリに追い付く事は出来ない。

 

もう…、どうする事も出来ないのか……、誰もがそう思ったその時!

 

「ッ!?」

 

スリーポイントラインを越えようとした直前、1つの影がアンリを追い越し、回り込んだ。

 

「…」

 

現れたのは大地。アンリの進行を阻むように立ち塞がる。

 

「(追イ付カレタ? ケド、君デハ僕ハ止メラレナイ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

急停止したアンリはすぐさま一気に加速。自慢のスピードとアジリティを生かしたドライブを仕掛ける。

 

「ナッ!?」

 

直後、アンリの表情が驚愕に染まる。

 

高速のドライブを仕掛けたアンリ。対する大地は振り返らず、後ろ向きのままで下がりながらアンリに並走したからだ。

 

「クッ! ナラバ!」

 

抜けないと見て急停止し、ボールを掴んでシュート態勢に入った。

 

「(飛ンデシマエバ止メラレナイ!)」

 

ジャンプ力と滞空力に優れたアンリがシュート態勢に入ってしまえばブロックされる事はない。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

『ッ!?』

 

だが、アンリがボールを頭上に掲げようとした瞬間、アンリの持つボールを大地は叩き落した。

 

カットしたボールをすぐさま拾い、そのままドリブルを始めた。

 

「…ちっ、ここを止めて今度こそトドメだ!」

 

フロントコートまで進むと、永野が大地に立ち塞がる。

 

 

――キュッ!!!

 

 

その瞬間、大地は急停止。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時に急発進。緩急をもって永野を抜き去る。

 

「っ!? は、速い!?」

 

その規格外の緩急とスピードに目を見開く永野。

 

「…まだ足掻くの? 鬱陶しいなぁ。口で言っても分からないなら力で分からせてやるよ」

 

大地にうんざりする紫原。両腕を広げて立ち塞がる。

 

永野を抜き去り、中へと切り込む大地。

 

「(…上体が低い。このまま来る)」

 

大地の態勢を見て、突っ込んで来ると予測する紫原。

 

 

――キュッ!!!

 

 

だが、予測とは裏腹に大地は急停止した。

 

「(読みが外れた? けど、関係ない。この距離なら例え下がっても追い付ける!)」

 

すぐ後にくるバックステップに備えて紫原が大地との距離を詰める。

 

「あ…れ…?」

 

ここで、紫原は奇妙な感覚に襲われた。

 

距離を詰める為にゴール下から飛び出した紫原。だが、大地との距離が全く縮まらない。

 

大地はシュート態勢に入り、そのままボールを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

「…えっ? 何が起きたの?」

 

何が起きた分からない紫原の頭の中は混乱する。

 

「何て奴だ…!」

 

離れた位置から見ていた木下には今、何が起きたの理解していた。

 

大地がした事は今までと変わらない。ただ下がっただけ。ただ…。

 

 

――態勢を一切変えず、距離を詰める紫原と変わらないスピードで…。

 

 

「…負けません。もう負けるのは嫌です」

 

コートに着地した大地は静かな声で、それでいてよく通る声で静かに言葉を口にする。

 

「空は身体を張って私をコートに残してくれました。ここで負けてしまったら矮小な私を花月のエースだと言ってくれた空に合わせる顔がありません」

 

ここで大地が紫原に振り返る。

 

「っ!?」

 

振り返った大地を見て紫原が目を見開く。

 

「あなたは花月が負ける事が現実だと言いました。もし、それが現実だと言うなら、そんな現実は、私が変えてみせます!」

 

声高々とそう宣言する大地。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――大地が、ゾーンの領域へと足を踏み入れた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





当初、この試合は過去のキセキの世代の試合の中で1番短い試合になるかも? っと、思っていたのですが、もしかしたら1番長い試合になるかもしれません…(;^ω^)

正直、陽泉…というか、紫原との試合は描写が難しいです。原作での紫原のあの凄さを表現するのはまー辛い! こういう所で文才のなさが出て悔しいです…(>_<)

今年も残すところあと僅か、後1話、投稿出来たらと思います。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第107Q~翻弄~


投稿します!

今年最後の投稿となります!

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り1分35秒

 

 

花月 57

陽泉 75

 

 

中から大地が得点を取る事に成功し、逆転への活路を見出せたと思われたが、大地の最大の武器であるバックステップが紫原に攻略され、再び窮地に陥った。

 

だが、大地がゾーンの領域に突入し、再び紫原から得点を奪った。

 

 

「あれは!」

 

「間違いない」

 

「…ゾーンに、入りやがったか」

 

大地の変化に火神と赤司と青峰がいち早く気付いた。

 

 

『…っ!』

 

コート上の選手達も同様に大地の変化を感じ取っていた。

 

「…っ」

 

それは紫原も同様であった。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

永野がゆっくりとボールをフロントコートまで運んでいく。

 

「…っ」

 

横目で大地を観察する。別人のようなプレッシャーを放つ大地を見て思わず冷や汗が滴る。

 

「(…あいつの気迫が俺にまで伝わってきやがる。マジで半端ねえ!)」

 

マッチアップしている訳ではないのにも関わらずこのプレッシャー。ゾーンの恐ろしさを永野は肌で体感していた。

 

「(どう攻める…。…考えるまでもねえ、迷わず紫原だ。いくらゾーンに入ったっつっても、パワーで紫原に勝てる訳ねえ)」

 

身長差、体重差を考えれば当然の選択。

 

「(…だが、相手もそれは承知だ。簡単にパスを出させてくれねえか)」

 

自身をマークしている竜崎は積極的にガンガン前に出てプレッシャーをかけてきており、さらには天野もディナイをかけている。徹底して紫原にボールを持たせないようにしている。

 

この状況でパスを出してもカットされるのが関の山。

 

「こっちだ!」

 

その時、木下がスリーポイントライン上を沿うように走りながらボールを要求する。

 

「よし、木下!」

 

それを見て永野は頭上にボールを掲げて木下にパス。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

と、見せかけてドリブル。目の前の竜崎を抜き去る。

 

「っ!? くそっ!」

 

フェイントに引っ掛かり、抜かれてしまった竜崎は悔しがる。

 

「(よし、このまま俺が――)」

 

直接決める…。そう思った直後…。

 

「…」

 

大地がヘルプで現れ、永野の進路を塞いだ。

 

「(はえー! だが、まさかではねえ! 来ると思ってたぜ!)」

 

ヘルプにやってくるスピードには驚いたが、想定はしていた永野はボールを左へと流した。そこにはアンリがいた。

 

「ちぃ、あかん!」

 

大地がヘルプに出た事でフリーになっていたアンリ。天野が慌ててヘルプに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、アンリはボールを掴むのと同時に急発進。天野を一瞬で抜き去る。

 

「ハァッ!」

 

抜いたの同時に右手でボールを掴んだアンリはリングに向かって跳躍した。右手に持っていたボールをリングに叩きつけた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「ナッ!?」

 

しかし、ボールがリングに叩きこまれる直前、右手で掴んでいたボールは横から現れた1本の手にブロックされた。

 

『綾瀬だぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

「たとえ、高さで劣っていても、ダンクの瞬間にタイミングを合わせればブロックは可能です」

 

最高到達点でアンリに劣る大地だが、リングの高さが決まっている為、ボールをリングに叩きつける瞬間を狙えば大地でもブロックは可能。

 

「頼りになるで! 速攻や!」

 

ルーズボールを拾った天野は前方へ大きな縦パスを出した。すると、そこにはブロックと同時に速攻に走っていた大地の姿があった。

 

センターライン付近でボールを掴んだ大地はそのままドリブルで突き進んでいった。

 

「止メル! 今度ワコッチノ番ダ!」

 

アンリが追い付き、回り込んで立ち塞がる。同時に大地も足を止める。

 

「ナイスアンリ! ここは行かせねえ!」

 

続いて木下も追い付き、アンリと並んでディフェンスに入る。

 

「…」

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

大地は左右に身体を揺り動かしながらゆっくりボールを切り返す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

アンリと木下の間に僅かに隙間が出来ると、その瞬間に加速。2人の間を駆け抜けていった。

 

「っ! 綾瀬!」

 

2人を抜き去ると、既にディフェンスに戻っていた紫原が待ち受ける。

 

 

――キュッ!!!

 

 

大地は急停止する。

 

「(止まった! 今度こそ下がる!)」

 

バックステップと読んだ紫原はゴール下を飛び出し大地との距離を詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

読み通り大地はバックステップをし、距離を取った。

 

「次はない! 今度は――なっ!?」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

距離を詰めてブロックに向かった紫原だったが、大地はそこから急発進。紫原の横を高速で抜けていった。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

紫原を抜いた大地はそのままゴール下まで突き進み、レイアップの態勢に入った。

 

「決めさせるか!」

 

だが、そこへ渡辺のブロックが現れた。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

しかし、大地は冷静に掲げたボールを下げ、渡辺のブロックをかわし、リングを越えた所でボールを再度上げ、リングに背中を向けながらボールを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜った。

 

『スゲー! 4人抜きだぁっ!』

 

アンリと木下のダブルチームをかわし、その後の紫原を抜き去り、空中で渡辺をかわし決めた光景を見て観客が沸き上がる。

 

「くそっ! 慌てるな! 1本返すぞ!」

 

決められた事に舌打ちを打つも、永野は頭を切り替え、冷静にゲームメイクを始める。

 

「アンリ!」

 

フロントコートまでボールを進めた永野はアンリにパスを出す。

 

「…」

 

「…ッ」

 

アンリがボールを掴むと、目の前の大地が構える。その瞬間、アンリの脳裏に敗北のイメージが襲う。

 

「…クッ!」

 

ターンオーバーを避ける為、アンリは永野にボールを戻した。

 

「(アンリが退いただと?)」

 

練習でも果敢に紫原に勝負を挑んでいる姿を見てきただけに勝負を仕掛ける事なく退いたアンリを見て永野は驚いた。

 

「だったら、これで…!」

 

意を決した永野は唐突にスリーを放った。

 

「なっ!?」

 

突然のスリーに目の前の竜崎は虚を突かれた。

 

「(あんなリズムもフォームも崩れた状態で打ったスリーが入る訳がない!)リバウンド!」

 

外れると確信した竜崎が声を出す。

 

「別に入らなくたって構わねえんだよ!」

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールは予測どおりリングに弾かれる。

 

『っ!』

 

シュートが外れた事によりリバウンド争いが始まる。このリバウンドを…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

誰よりも高い位置でボールを掴んだ紫原がそのままリングに叩きこんだ。

 

『うおぉぉぉぉっ! そのまま押し込んだぁっ!!!』

 

「これなら誰にも止められねえだろ」

 

したり顔で言い放つ永野。

 

「くそっ!」

 

「…くっ!」

 

紫原を抑え込めなかった室井と自身の土俵であるリバウンドで勝てない天野は悔しさを露にする。

 

「ドンマイ。切り替えましょう。次も取りますよ」

 

そんな2人を励ますように大地が声を掛けた。

 

「(…なんや、めっちゃやる気やないかい…!)」

 

普段、こう言った声掛けは空か天野がやる事が多いのだが、普段はあまりやらない大地を見て天野の胸が熱くなるのを感じたのだった。

 

オフェンスが切り替わり、花月のオフェンス。

 

「(何処で攻めるか……なんて、考えるまでもない)…綾瀬先輩!」

 

竜崎は迷う事なくボールを大地に渡す。

 

『来た!!!』

 

先の2本のオフェンスで、大地の注目度が上がり、ボールを持っただけで観客がざわついた。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地がカットイン。

 

「サセナイヨ!」

 

タイミングを読み切ったアンリは大地に並走する。

 

 

――キュッ!!!

 

 

直後急停止、ドライブの勢いを一瞬で殺し、ボールを掴んでシュート態勢に入った。

 

「アノスピードヲ一瞬デ!? ケド、マダダヨ!」

 

アンリも停止し、シュートブロックに向かう。

 

「…クッ!」

 

だが、大地は後ろに飛びながらシュート態勢に入っており、アンリのブロックをかわしてシュートを放った。

 

 

「…っ!」

 

一連の動きを見て青峰は思わず目を見開いた。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイにリングを潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ドライブの勢いを一瞬で殺し、そのまま後ろに飛びながらのフェイダウェイシュート。派手なプレーではないがそのスピードとキレ味に観客は歓声を上げた。

 

「ナイッシュー綾瀬先輩!」

 

パチン! っと、竜崎とハイタッチを交わす大地。

 

「クソッ!」

 

止められなかった自分自身に苛立つアンリ。

 

「切り替えろアンリ! っしゃぁ! 第3Q、最後決めて終わらせるぞ!」

 

そんなアンリに声を掛け、さらにチームメイトに声を掛けて鼓舞する永野。

 

 

第3Q、残り14秒

 

 

花月 61

陽泉 77

 

 

第3Qも残り僅か。最後のオフェンスとなるこの1本。決めて最終Qに繋げたい永野は慎重にボールを運ぶ。

 

「…っ! 今度こそ!」

 

竜崎が永野に激しくプレッシャーをかける。先程のスリーからのリバウンドダンクを見せられた為、今度はシュートすら打たせないよう激しく当たる。

 

「…ちっ、頼む!」

 

ボールキープが厳しいとみた永野は左45度のアウトサイドの位置に立つ木下にパスを出す。

 

「打たせないよ」

 

「…ちっ!」

 

瞬時に木下の膝下に入りこんだ生嶋が張り付くようにディフェンスをする。足元に立たれている為、膝が曲げられず、スリーが打てない木下。

 

「くそっ!」

 

やむを得ず、スリーを諦め、中の渡辺に頭上からパスを出す。

 

「行くぞ!」

 

「行かせるかい!」

 

ミドルポストでボールを受け取った渡辺。その背中に天野が張り付くようにディフェンスに入った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ゆっくりドリブルを始め、背中で天野を押し込む渡辺。天野は歯を食い縛って進行を食い止め、押し止める。

 

「(…ぐっ! 駄目だ、これ以上は――)すいません!」

 

押し込むのは無理と判断した渡辺は永野にボールを戻した。

 

「(…ちっ! 綾瀬がゾーンに入った事で他の奴も息を吹き返しちまったか!)」

 

ここにきて花月の選手達の動きがよくなる。先程の絶望的な状況が大地がゾーンに入った事で希望が生まれたからだ。

 

「コッチ!」

 

そこへ、アンリが永野に近づきながらボールを要求した。

 

「よし、頼んだ!」

 

永野は近づくアンリにパスを出した。

 

「…」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

だが、そのパスを大地がパスコースに割り込んでカットした。

 

「ナッ!?」

 

「しまった!」

 

アンリと永野は思わず声を上げる。アンリの距離が詰まった事で気が緩み、緩いパスを出してしまったのだ。そのボールを大地は見逃さなかった。

 

ボールを拾った大地はそのままワンマン速攻をかける。

 

「クッ!」

 

そんな大地をアンリがすぐさま追いかける。

 

「待てよ!」

 

アンリのすぐ後を紫原が追いかけた。

 

スピードに自信がある大地。だが、同様に全国トップレベルのスピードを持つ紫原とアンリ。徐々に先頭を走る大地との距離を縮める。フリースローライン付近で大地と並んだ。

 

 

――キュッ!!!

 

 

直後、大地が急停止する。

 

「ッ!? ウグッ!」

 

「なっ!? ぐっ!」

 

急停止した大地を見て紫原とアンリも止まろうとしたが、全速力で走っていた為、止まり切れず前へつんのめってしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

バランスを崩した2人を他所に大地は悠々とボールを構え、ジャンプシュートを決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。

 

「っ! 綾瀬ぇっ…!」

 

その場で立ち上がった紫原が大地を睨み付ける。

 

「…」

 

大地はチラリと視線を紫原に向け、すぐさま踵を返し、ベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉ベンチ…。

 

『…っ』

 

試合の4分の3が終わり、リードは14点差。安全圏とは言えないが、多少、余裕のある点差。だが、選手達の表情は芳しくない。

 

「…っ!」

 

特に紫原はひと際険しい表情をしており、大地に良い様にあしらわれ、目に見えて不機嫌である。紫原がその鬱憤を晴らそうと足を振り上げようとしたその時…。

 

「物に当たるなよ」

 

紫原の眼前に竹刀の切っ先を向けた荒木が制止を促した。2年以上の付き合いで紫原の習性を良く理解している為、対応も早い。

 

「無駄なエネルギーをこんな所で使うな。大人しく呼吸を整えろ」

 

「…ちっ」

 

怒りのはけ口を失った紫原は舌打ちをしながらベンチに腰掛けた。

 

「…ふむ、状況は悪くない。が…」

 

「まさか、あそこで綾瀬がゾーンに入るとは…」

 

第3Q終盤、大地がゾーンに入った事で状況が一変し、最大で20もあった点差が詰められる結果となった。

 

「厄介極まりない。どうしましょう?」

 

監督の荒木に指示を求める永野。

 

「事、オフェンスで言えばやりようはある。奴は180㎝中盤のプレーヤーでしかない。如何にゾーンに入っても背が伸びたり高く飛べるようになる訳ではない。他のキセキの世代や火神でないならやりようはある」

 

「と言うと?」

 

発現の意図が理解出来なかった木下が思わず聞き返す。

 

「高さの利はこちらにある。ここからは紫原とアンリ主体で攻める。ゴール下でボールを掴めば綾瀬では止められない。よって、今後は2人にボールを集めろ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「お疲れ様です! ゆっくり身体を休めて下さい!」

 

ベンチに戻って来る選手達を相川が笑顔で出迎え、ドリンクとタオルを渡していく。

 

「何とか、盛り返せたわ。綾瀬には感謝の言葉しかないのう」

 

「…いえ」

 

窮地を救った大地に天野が賛辞に言葉を贈った。

 

「綾瀬。正直な所、有効な対応策が見つけられなかった。助かったと言わざるを得ない」

 

「当然の事です。…むしろ、遅すぎたくらいです」

 

もっと早く奮起していれば、ここまで点差は付かなかった。そして、空が負傷退場する事もなかった。

 

「…よし、問題はここからだ。恐らく向こうは、紫原とアンリを中心に攻めてくるだろう。高さとパワーの利を使って攻められれば今の綾瀬でも止める事は至難の業だ」

 

身長差に加え、もともとの身体能力も高い2人。大地でもそこを突かれれば手に負えない。

 

「ならば、その前で潰す。相手の4番(永野)がボールを持ったらダブルチームをかけろ。パスの供給源を潰す」

 

止める事が困難ならそうなる前に仕留めると指示を出す上杉。

 

「メンバーを変える。天野を下げる。そこへ松永、お前が入れ」

 

「はい」

 

「交代かいな。まだまだいけるんやけどなぁ」

 

前もって準備をしていた松永は力強く返事をし、天野は不貞腐れたような軽口を叩いた。

 

「松永、お前はパワーフォワードに入れ。そして、ディフェンスでは竜崎と共に4番にダブルチームをかけろ。天野もすぐにコートに戻す。集中を切らすなよ」

 

「はい!」

 

「了解や!」

 

「オフェンスは……分かっているな?」

 

そう言って、綾瀬の肩に手を置き…。

 

「綾瀬を中心に攻める。積極的にボールを集めろ」

 

『はい!』

 

「任せてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバルの終了のブザーが鳴り、両校の選手達がコートに戻ってきた。陽泉ボールから試合が再開され、最後の10分間が始まった。

 

「…っ!?」

 

永野にボールが渡ると、すかさず竜崎と松永がダブルチームをかけた。

 

「(監督の言う通り、来た!)」

 

必死にボールをキープする永野。

 

『永野。第4Q、ボールを運ぶお前へダブルチームをかけてくる可能性が十分にあり得る。もし、そう来ても冷静に対処しろ』

 

先程のインターバルでそう永野は助言をされていた為、動揺は少ない。

 

「こっちです!」

 

ノーマークとなった渡辺がハイポストの位置から永野の真横の位置まで走り、ボールを要求。

 

「任せる!」

 

すかさず永野は渡辺にボールを渡す。ボールを受けた渡辺はその場で飛びながらボールをスティールされないよう真上から紫原にパスを出した。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ゴール下まで押し込んだ紫原のダンクが炸裂した。

 

「…くっ!」

 

「仕方がない、切り替えろ!」

 

悔しがる室井に声を掛ける松永。スローワーとなった松永は竜崎にボールを渡し、フロントコートまでボールを運んだ竜崎は大地にボールを渡した。

 

『来た!!!』

 

大地にボールが渡ると、観客の視線が集まった。

 

「来イ!」

 

目の前に立つのはアンリ。腰を落とし、大地を待ち構える。

 

 

「さて、綾瀬のあの急停止からのバックステップにどう対応するか…」

 

観客席の四条もこの1本に注目する。

 

「人は左右の揺さぶりには対応出来ても、前後の揺さぶりには対応が難しい。進むか下がるか、読む事も困難となった今、彼(アンリ)でも対応するのは困難だ」

 

赤司が今の大地を止める事の難しさを口にする。

 

「なら、打つ手なしか?」

 

「…いや、あるにはある。恐らく、陽泉はそれをこれからするはずだ」

 

 

「…」

 

「…」

 

ボールを持つ大地と向かい合うアンリ。

 

『いいか、綾瀬がボールを持ったら無理に止める必要はない。中へと切り込ませても構わない。奴が中へと切り込んだら奴の後ろを塞ぐ。これで奴は下がれなくなる。密集地帯となれば奴の選択肢はさらに少なくなる。そうなれば止められる』

 

インターバル中の荒木からの指示を思い出す。この指示に紫原は特に難色を示したがどうにか窘め、従わせた。

 

「…」

 

アンリも本心では不本意ではないが、勝つ為、受け入れた。

 

「(サア来イ!)」

 

大地が来るのを集中力を全開にして待ち受けるアンリ。

 

 

――スッ…。

 

 

「…エッ?」

 

ドライブを警戒していたアンリだったが、大地は突如、スリーの態勢に入った。

 

「シマッタ!」

 

慌ててブロックに向かうも間に合わず、スリーを打たれてしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

『おぉっ! いきなり外を決めたぁっ!』

 

「クソッ、裏ヲカカレタ…!」

 

ドライブを警戒し過ぎ、悔しがるアンリ。

 

「切り替えろアンリ! やられた分はやり返せばいいんだよ!」

 

そんなアンリに永野が檄を飛ばす。

 

 

――バス!!!

 

 

続いて陽泉のオフェンスは大地の上からアンリがフックシュートを決め、得点に成功した。

 

変わって花月のオフェンス。ボールを受け取った竜崎がすぐさま大地にボールを渡す。センターライン付近でボールを受け取った大地はゆっくりボールを進めていく。

 

「(次ダ、次コソ止メテミセル!)」

 

ゆっくり近づいてくる大地を気合い充分で待ち受けるアンリ。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、大地はスリーポイントラインから1メートル程離れた所から唐突にシュート態勢に入った。

 

「なっ!? 打つのか!?」

 

「ッ!?」

 

またもや意表を突いた大地のスリーに驚き、なすがままの木下とアンリ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

再びボールはリングを潜り抜けた。

 

『おぉっ! 2連発!』

 

「…何であんな迷いなく打てるんだ…」

 

万が一外せばリバウンドは望めず、間違いなく失点のリスクを負ってしまう。にもかかわらず躊躇いもなく打つ大地に寒気を覚える木下。

 

「…うん。いい調子です。こんなに思い通りになるのは初めてです」

 

自身の手を見つめながら呟く大地。

 

「もう1メートル…」

 

薄っすらと笑みを浮かべる大地。

 

「(今、1メートルって言ったのか? 何の事だ?)」

 

微かに聞こえた大地の発現に混乱する木下だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

続くオフェンスも成功させた陽泉。スローワーの松永からボールを受けた竜崎はすぐさま大地にボールを渡した。

 

『…』

 

大地の一挙手一投足に集中する陽泉の選手達。

 

『…なっ!?』

 

再び陽泉の選手達の表情が驚愕に染まる事となる。先程決めた位置からさらに1メートルは離れた所から大地がシュート態勢に入ったからだ。

 

「(…っ!? まさか、さっき言ってたもう1メートルってのは!)」

 

ここで先程の大地の言葉の真意に気付いた木下。

 

もう1メートル…、それはさらに1メートル後ろから打つという意味である事を…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに掠る事なく潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

スリーの3連発。しかも、スリーポイントラインから2メートルは離れた所から決めた大地に歓声が上がる。

 

「決まりましたか。…それではもう1メートル遠くから行きましょうか」

 

したり顔で言う大地。

 

「(っ!? 嘘だろ…、まだ遠くから決められるのか!?)」

 

そんな大地の言葉に恐怖を覚える永野であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「スゲー、ゾーンに入ると、あんな事も出来るのか…!」

 

スリーを3本連続で決めた大地の姿を見て誠凛の朝日奈の表情がこわばる。

 

「…いえ、いくらゾーンに入っても、出来ない事が出来るようになるわけじゃないわ」

 

朝日奈の言葉を解説するリコ。

 

「…間違いないわ。彼は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「綾瀬君のデータを調べてる時に気付いた事があったの」

 

桃井が自身の鞄から取り出したノートを見ながら喋りだす。

 

「全中大会から今年のインターハイまで、綾瀬君のスリーの成功率は100%なの」

 

「…ほう」

 

その情報を聞いた青峰が思わず声を上げる。

 

「本数はそれほどでもないけど、それでも凄い確率だから彼のミニバス時代の情報を調べてみたら、彼はリングから離れた所から得点を量産するシューターだったわ」

 

『…っ!?』

 

その情報を聞いて桐皇の選手達が驚く。

 

「神城君が中に切り込んで決め、綾瀬君が外から決める。それが彼のミニバスのチームの特徴でした」

 

「あいつ、シューターだったのかよ…」

 

情報を聞いて福山が唸り声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・

 

 

ボールを運ぶ永野。その永野にダブルチームをかける竜崎と松永。

 

「こっちです!」

 

渡辺がボールを貰いにいく。

 

「…」

 

パスコースを塞ぐ為、大地が移動する。

 

「(空イタ!)」

 

ノーマークとなったアンリが動き、ハイポストに移動し、ボールを貰いにいく。

 

「(よし!)」

 

フリーとなったアンリを視認した永野が竜崎の頭上からハイポストに立ったアンリにパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、そのパスは大地にカットされた。

 

渡辺のパスコースに割り込むと見せかけ、永野の視線が大地から逸れた瞬間、踵を返し、アンリへのパスを予測してアンリのパスコースに割り込んだのだ。

 

カットしたボールを拾い、そのまま速攻をかける大地。

 

「まずい、カウンターだ! 戻れ!」

 

速攻をかける大地を追いかける陽泉の選手達。

 

 

「無駄だ。先頭を走った綾瀬を止める事は出来ない」

 

ポツリと赤司が言う。

 

 

追いかけるアンリ。

 

「(ドッチダ!? 下ガルノカ、ソレトモ…!)」

 

迷いが生じるアンリ。その迷いのせいでアンリは全速力で走れない。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

大地はそのままボールを右手で掴んでリングにボールを叩き込んだ。

 

『きたぁぁぁぁぁぁっ!!! 綾瀬のダンク!!!』

 

『これで点差が一桁になった!』

 

このダンクによって会場のボルテージはさらに上がった。

 

「クソッ…!」

 

止める事が出来なかったアンリの表情が悔しさで染まる。アンリがそのままスローワーとなって永野にボールを渡した。

 

「下がるな、当たれ!」

 

ここでベンチの上杉から指示が出された。同時に花月の選手達が高い位置でディフェンスを仕掛けた。

 

「オールコートマンツーマンか!?」

 

一斉にプレッシャーをかける花月の選手達。ボールマンの永野に竜崎がプレッシャーをかける。

 

「ここで仕掛けてきましたか、上杉さん…!」

 

嫌なタイミングで指示を出した上杉を見て表情が曇る荒木。

 

「(まずい流れだ。ここはタイムアウトを取って流れを切らねば!)」

 

そう思い立った荒木はすぐさまオフィシャルテーブルに向かい、タイムアウトの申請に向かった。

 

「上ダ! ケンジ!」

 

アンリが指を上に指しながらボールを要求する。

 

「っし、任した!」

 

永野はその場から飛び、頭上にからアンリにパスを出した。高い位置に出されたパスはカットされることなくアンリに渡る。

 

「ヨシ、コレデ――」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「アッ!?」

 

ボールを掴んで着地した瞬間、大地がボールを叩き、奪い去った。

 

「いつまでも調子に…!」

 

そんな大地と距離を詰める紫原。大地はボールを奪って急停止と同時にクィックモーションのフェイダウェイで放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

紙一重で紫原のブロックをかわし、大地がミドルシュートを決めた。

 

「コッチダヨ、カズキ!」

 

ここで、素早く切り替えをしたアンリがフロントコートに走り、ボールを要求。

 

「アンリ!」

 

これに反応した渡辺がボールを拾ってすぐさま前へ走るアンリに大きな縦パスを出した。

 

『素早い切り替えでオールコートマンツーマンをかわした!』

 

センターラインを越える目前でアンリがボールを掴み、そのままワンマン速攻…。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「ナッ…!?」

 

だが、速攻をかける最初のドリブルを、既にアンリに並んでいた大地にスティールされた。ゾーンに入って視野が広がっていた大地。シュートを決め、すぐさま速攻に走るアンリを追いかけていたのだ。

 

ボールを掴んだ大地はセンターラインより少し前でシュート態勢に入った。そこは、スリーポイントラインから3メートルは離れた所である。

 

「まずい、止めろ!」

 

先程の長距離からのスリーと大地の発言を聞いていた永野が声を出す。

 

「させるか!」

 

「何度モ打タセナイヨ!」

 

前から木下、後ろからアンリがブロックに飛んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

しかし、大地はスリーは打たず、そのままドリブルで切り込んでいった。

 

「これで充分にスペースが出来ました」

 

「まさか、今までのスリーとさっきの言葉は、外を警戒させてスペースを作り出す為か!」

 

ここで永野が大地の真意に気付いた。

 

強力な武器である大地のバックステップは密集地帯では使いづらい。ゾーンディフェンスを組んでいる陽泉が相手ならなおさらである。その為、大地はバックステップが使えるスペースを作り出す為、少しずつ距離を空けてスリーを決め、巧みに言葉を交わしてスペースを作り出した。

 

オフェンスに切り替え直後な上、大地のスリーにアンリと木下が誘い込まれ、スペースを作ってしまった陽泉ディフェンス。大地はそのまま中へと切り込んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

紫原がヘルプに飛び出すのと同時に急停止、バックステップ……と見せかけてロッカーモーションでフェイクをかけ、紫原の横を駆け抜ける。

 

『いっけぇぇぇぇぇぇっ!!!』

 

花月のベンチから声が上がる。

 

ボールを右手で掴んだ大地がリングにボールを叩きつける。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかしその直前、後ろから伸びてきた1本の腕にボールを弾き飛ばされた。

 

『紫原!?』

 

ブロックしたのは紫原。抜かれた直後にすぐさま反転し、後ろからボールを弾き飛ばしたのだ。

 

『アウトオブバウンズ、緑(花月)ボール!』

 

ボールはラインを割った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、陽泉!』

 

ここで、陽泉のタイムアウトがコールされた。

 

「…っ」

 

ベンチへと戻る選手達。その際、紫原を見て大地はある変化に気付いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よっしゃー! いい調子だぜ、お前ら!」

 

菅野が立ち上がりながら戻ってきた選手達を出迎える。

 

「…綾瀬、紫原…」

 

「…えぇ、あなたの考えているとおりです」

 

大地の隣に座った松永が尋ねると、質問の意図をすぐさま理解した大地が返事を返した。

 

「やはりか」

 

「はい、紫原さんは、ゾーンに入りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「タイムアウトは余計だったか?」

 

「んー? ちょっと一息入れたかったからちょうど良かったかも」

 

紫原がゾーンに入った直後のタイムアウト。集中が途切れる可能性を考慮し、尋ねた荒木だったが、紫原は特に気にする素振りを見せず、返事をした。

 

「それよりまさこちん」

 

「監督と呼べと言ってるだろ!」

 

思わず竹刀で頭を引っ叩く荒木。

 

「痛いなー。それよりも頼みが――」

 

紫原の言葉を遮るように荒木が眼前にヘアゴムを差し出す。

 

「これだろう? お前が欲しいのは」

 

「…うん。ありがとう」

 

受け取った紫原は後ろ髪を纏め、ヘアゴムで結った。

 

「正直、向こうがここまでやるとは思わなかった。ここからは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「申し訳ありません相川さん。ワセリンを出してもらってもよろしいですか?」

 

「いいよ! …けど、何に使うの?」

 

大地に頼まれた相川は救急箱に備えてあったワセリンを取り出しながら尋ねた。

 

「汗で前髪が目にかかってきたので、少し髪を上げようと思いまして」

 

受け取ったワセリンの蓋を開け、ワセリンを手で掬うと前髪に馴染ませ、やがてオールバックのように前髪を押し上げ、固定した。

 

「この先、小さなミスが命取りになりかねません。今の紫原さんが相手では、これまでのように行きません。ですから――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――全力で紫原さんを倒します」

 

「――全力であいつを捻り潰す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は大地がゾーンの領域に入った事で窮地を凌ぎ、さらには点差を7点にまで縮める事に成功した。

 

逆転への兆しが見えた直後、紫原がゾーンに突入し、試合の行方は再び分からなくなった。

 

花月が陽泉を捉えるか、それとも陽泉が逃げ切るか…。

 

試合はクライマックスへと突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 





どこまで書くかをあらかじめ決め、そこまで書いたら過去最大のボリュームとなってしまった…(;^ω^)

2つに分ける事も考えたのですが、それだと今年度までの投稿が間に合わないので、一挙投稿です。

まさか、ここまで長くなるとはorz

今年も残すところ約2日。さて、駆け抜けましょうか!

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第108Q~希望~


投稿します!

本年度初のこの二次の投稿です…(^-^)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り7分37秒。

 

 

花月 76

陽泉 83

 

 

ゾーンに入った大地の奮闘で点差を7点にまで縮める事に成功した花月。ターンオーバーからさらに点差を詰めようとしたその時、ゾーンに入った紫原にブロックされた。

 

ここで陽泉のタイムアウトがかかり、試合は1度中断された。そして、タイムアウトを終えた両校の選手達がコートへと戻ってきた。

 

『来た!!!』

 

試合はクライマックスに突入しており、会場のボルテージも最高潮である。

 

「綾瀬先輩!」

 

審判からボールを受け取った竜崎が大地にボールを渡す。

 

「っ!? …そう来ましたか」

 

スリーポイントラインの外側でボールを受け取った大地。その大地の目の前に…。

 

「もうお前には何もさせないよ」

 

紫原が立っていた。

 

ゴール下の要である紫原がゴール下を離れ、大地にマンツーマンでマークに付いている。他の4人はゾーンディフェンスを組み、陽泉はボックスワンにディフェンスを切り替えた。

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしてチャンスを窺う大地。紫原も腰を落とし、全神経を集中させてディフェンスに臨んでいる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…ダムッ!!!

 

 

バックチェンジで左へ切り返す。紫原もこれに対応。大地の進路を塞ぐ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時にクロスオーバーで逆を付き、紫原の左手側から駆け抜けていく。

 

『抜いたか!?』

 

「っ! この程度で!」

 

即座に紫原は反応し、大地に並走しながら追いかける。

 

 

――キュッ!!! …ダムッ!!!

 

 

並ばれるのと同時に大地は急停止、すぐさまバックステップをして紫原と距離を空け、シュート態勢に入る。

 

「…くっ! 何度も…!」

 

紫原もこれに反応して距離を詰めてブロックに向かう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

迫る紫原のブロックをフェイダウェイで後ろに飛びながらシュートを放ち、ブロックをかわしながら決めた。

 

「よし!」

 

得点を決めた大地は拳を握りながら喜びを露にする。

 

タイムアウト終了直後のオフェンスをものにした花月。続いて、陽泉のオフェンス。

 

『なっ、これは!?』

 

その光景を見て観客がどよめく。

 

ボールを持つのは紫原。だが、ゴール下ではなく、ゴール下から離れ、スリーポイントラインの外側まで移動した所でボールを所持している。

 

「…紫原に全て託すつもりか」

 

隣の相手ベンチに座る荒木に視線を向けながら呟く上杉。

 

「うち(陽泉)の柱は紫原だ。本気になったあいつに勝てる者はこのコート上…いや、今の高校生にはいない。そう信じている」

 

絶対的な紫原への信頼を寄せる荒木。故に、荒木は試合の命運を紫原に託したのだ。

 

「止めてみせます」

 

紫原の前に立ちはだかったのは大地。静かに気合いを込めてディフェンスに付いた。

 

 

「エース対決か…」

 

対峙する2人を見て火神がボソリと呟いた。

 

 

「…」

 

「…」

 

対峙する2人。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

紫原が一気に加速。クロスオーバーで切り込む。

 

「…っ!」

 

タイミングを読み切った大地は同時に動き、紫原と並走する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックロールターンで紫原が反転。大地の逆を付いた。直後、紫原がボールを右手で掴んでリングに向かって跳躍した。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…くっ!」

 

大地もブロックに飛ぶも、ブロックの上から紫原はボールをリングに叩きつけた。

 

「っしゃぁっ!」

 

大地に誇示するようにガッツポーズをする紫原。

 

「…っ」

 

そんな紫原を見て大地は悔しさを露にする。

 

変わって花月のオフェンス。リスタートするとすぐさま大地にボールを渡した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フロントコートまでボールを進め、紫原が立ち塞がるのと同時に大地は間髪入れずにすぐさま切り込んだ。

 

「…っ!」

 

僅かに意表を突かれるも、持ち前の反射神経ですぐさま反応し、大地を追いかける紫原。

 

 

――キュッ!!!

 

 

直後、大地は急停止する。その後、大地は重心を後方へと下げた。

 

「(下がるのか!?)」

 

重心が下がった事を見極めた紫原はバックステップを警戒する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、大地は下がらず、ロッカーモーションで下がるフェイクを入れて再加速。紫原をかわして中に切り込んだ。

 

「止めろ!」

 

永野が声出す。中で待ち構えているのは4人が集まったゾーンディフェンス。

 

「止められなくてもいい! 紫原が戻る時間を稼げ!」

 

ベンチから荒木が指示を出した。

 

「…」

 

待ち受ける4人のディフェンス。時間を稼がれれば紫原がディフェンスにやってきて得点チャンスを潰されてしまう。紫原を止める事が容易でない今、1本の取りこぼしが命取りになりかねない。

 

「…っ!」

 

意を決して大地はボールを抱えるように掴むと、大きくかつジグザグに動き、ゾーンディフェンスの隙間を縫うようにステップを踏んだ。

 

 

――バス!!!

 

 

1歩目でゾーンディフェンスの中心に入り込み、2歩目で駆け抜け、やや不安定な態勢ながらもリングに背を向けながら、リバースレイアップの形で得点を決めた。

 

『スゲー!!!』

 

『紫原をかわしたのもスゲーけど、その後のもスゲー! 何だ今の!?』

 

大地の見せたテクニックに観客は騒めいていた。

 

『…っ』

 

止める事はおろか紫原が戻る時間すら稼げなかった事に陽泉の4人は表情を歪めたのだった。

 

 

「あの不規則なのステップは…」

 

「ユーロステップだ」

 

思わず言葉が出た朝日奈、池永が答えるように口を出す。

 

「ジノビリがNBAで使った事で有名になった独特のステップだ。俺も紅白戦で火神を相手にする時に良く使う」

 

「ジノビリステップか。珍しくお前が猛練習して身に着けた奴だな」

 

「うるせーよ」

 

軽く茶々を入れる新海に対し、少し顔を赤らめながら突っ込み入れる池永。

 

「あいつ、あんなのも出来たんだな」

 

「少なくとも俺は初めて見るよ。どっちかと言うと、あの手のプレーは神城がやりそうなプレーだったんだけどな」

 

かつてのチームメイトである田仲も初見であり、イメージのない大地のプレーに面を食らっていた。

 

「咄嗟の思い付きでやったんだとしたら、あいつのセンスも計り知れねえな…」

 

改めて大地を見た火神は大地のセンスの高さに驚愕したのだった。

 

 

気落ちするも、すぐさまオフェンスに気持ちを切り替えた陽泉。迷わずボールを紫原に渡した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

レッグスルーからのクロスオーバーで切り込んだ紫原。

 

「…ぐっ!」

 

体格差と長い手足を生かして強引に中へと切り込み…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

大地を押し込みながらそのままワンハンドダンクを決めた。

 

「(…っ、中に入られたら私では止められない。その前に止めなければ…!)」

 

高さとパワーで大きく劣る大地ではインサイドで紫原と戦うのは分が悪すぎる為、中に切り込まれる前が勝敗を握る鍵だと判断した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

花月のオフェンスとなり、切り込んだと同時に急停止からのバックステップで大地と紫原の間にスペースを作り、大地はミドルシュートを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに中心を潜り抜けた。

 

「(…ちぃっ! 左右はともかく、高速で前後の揺さぶりがマジで厄介だ!)」

 

未だかつて味わった事のない高速での前後の切り返しで紫原は翻弄されていた。

 

試合は大地と紫原による戦いへと移行した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地が紫原をかわして決めれば…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

紫原が身体能力を生かして得点を決める。

 

試合の行方は、両校のエースに手に委ねられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「こうなってしまったわね。キセキの世代を擁するチーム同士がぶつかり合うと必ずこういう展開になると言われているけど、キセキの世代と同格の素質を持つ綾瀬君が相手なら同様の展開になってしまうのは必然だわ」

 

10年に1人の才能を持つキセキの世代の紫原。同等の才能を有する大地。互いがゾーンに入った今、この2人以外の選択肢はリスクしかない。故に、両校とも試合をエースに委ねる展開となった。

 

「…信じられねえ、あいつ(大地)、紫原先輩と互角にやり合ってやがる…!」

 

1歩も引かず、紫原と互角に渡り合っている大地を見て池永は驚愕する。

 

 

「…目の前で起こっているにも関わらず信じられないな。同じゾーンに入った者同士なら、紫原に分があると思ったんだが」

 

「確かに、本来、ゾーンに入った紫原を相手に対等に渡り合うのは同じゾーンに入った者でも至難の業だ。綾瀬大地がここまで渡り合えているのにはいくつか要因がある」

 

2人の対決を見て疑問を抱いた四条に応えるように赤司が解説をする。

 

「身体能力が勝敗を分ける大きな要因となるゴール下の攻防なら、圧倒的な身体能力と反射神経を持つ紫原に軍配が上がるだろうが、だが、リングから距離が離れた1ON1ならば話が変わってくる」

 

「…」

 

「平面での1ON1では、身体能力だけではなく、テクニックや駆け引きも重要だ。ゴール下が主戦場の紫原はあの距離に立つ経験はそこまで多くない。テクニックはセンスでカバー出来ても、駆け引きに関しては経験を重ねる事でしか磨かれる事はない。あの場所での勝負なら、普段からあの距離で戦っている綾瀬に軍配が上がるだろう」

 

「…」

 

「後はあの前後の切り返しだ。さっきも少し触れたが、あんな高速で前後に切り返しが出来る者などまずいない。左右と違って前後となると僅かな間となれど綾瀬の姿が視界から消える瞬間がある。姿が見えなければ紫原が如何に驚異的な反射神経を持っていても生かしきれない。常に後手に回ることとなる。そうなると、読みや駆け引きが苦手な紫原では止める事は困難だ」

 

「なるほど…」

 

赤司の説明を聞いて納得する四条。

 

「だが、2人の間に高さとパワーの面で大きなミスマッチがある事も事実。綾瀬はオフェンスでは僅かでも動きが鈍れば止められてしまうし、ディフェンスでは中に切り込まれてしまえば止める手立てはない」

 

「…」

 

「試合の流れは今や拮抗している。恐らく、先に止めた方に流れが傾くだろう」

 

「…なら、紫原が有利だな。高さとパワーの差はどうにもならないが、前後の揺さぶりに関して言えば、その内慣れてくる。そうなれば、紫原の身体能力がモノを言うはずだ」

 

話を聞いていた五河が紫原勝利を断言する。

 

「確かに、2人のスペックだけ見れば、紫原が優勢だろう。しかし、話はそう簡単ではない。何故なら――」

 

 

「――あいつには外があるからだ」

 

場所か変わって桐皇の選手達が集まる観客席。

 

「あいつはこの対決が始まる前に3本のスリーを見せてる。しかも、その内2本はかなり後ろからのスリーだ。紫原の頭にはあのスリーがこびり付いている。対して、紫原には外がねえ。万が一スリーを決められれば点差は縮まる。だから紫原は止めきれねえ」

 

青峰がコートに視線を向けながら解説をする。

 

「けどよ、2メートル離れてのスリーはさすがにハッタリだろ。あんなの何本も決められるわけ…」

 

「いや、あいつは決めてくる。…駆け引きにも好みがある。仮に神城なら博打やハッタリを打って狙って出来ねえ事をさもいつでも出来るかのように見せてくるかもしれねえが、あいつはリスクを犯してまでやるタイプじゃねえ。さっきのスリーも、目的はゾーンディフェンスのスペースを広げさせる事なんだろうが、スリーに関して言えば、決められる自信があったから打ったんだろうよ」

 

「マジかよ…」

 

青峰の解説を聞いて福山は思わず驚愕する。

 

「ここまでも、あいつは隙あらばスリーを打とうとはしてからな。外を意識させてあの前後の動きで揺さぶられれば、紫原と言えど止める事は至難の業だ」

 

「…この勝負、どうなりますかね?」

 

結果が見えない試合に桜井が尋ねる。

 

「…」

 

青峰は答える事なく、コート上の試合の行方を見続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを受け取った大地はフロントコートまでボールを運ぶ。当然、目の前には紫原が立ち塞がる。

 

「…」

 

「…」

 

まだフロントコートに入ったばかりだが、紫原はスリーポイントラインのやや内側でディフェンスをしている。

 

「……随分と距離を取っているようですが、良いのですか? そんなに距離を取っては私がここから打てばブロックに間に合いませんよ?」

 

含みを持った笑みを浮かべながら紫原に告げる大地。

 

「打ちたければ打ったらー? どうせ決めらんないでしょ?」

 

対して紫原は動じる事無く淡々と返した。

 

大地の現在立っている場所はスリーポイントラインから3メートルも離れている。先程2メートル程離れた所から決めた手前、決めてきそうなものだが、いくらゾーンに入っていると言ってもその距離では緑間のような特殊な才能がなければ決める事は至難の業。

 

「決められる自信があるならとっくに打ってるはずだろ? そうしないって事がお前がその距離では決められないっていう証拠――」

 

「――では遠慮なく」

 

言葉の途中で大地はその場からシュートを放った。

 

『なっ!?』

 

その瞬間、コート上の選手及び両校のベンチの選手達、さらには観客席の者達全員がその行動に驚愕した。

 

「…はっ?」

 

それは紫原も同様であった。

 

「(嘘…だろ!? その距離からでも決められるのか!?)」

 

まさかのスリーに紫原は茫然とボールを見送る。

 

 

――ダッ!!!

 

 

次の瞬間、紫原の横を大地が高速で駆け抜けていった。

 

「っ!? そういう事かよ!」

 

すぐさま大地の行動の真意に気付いた紫原は慌てて大地を追いかけた。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれてしまう。

 

『外れた!?』

 

「っ!? 外れた! リバウンドだ!」

 

弾かれたボールを見て永野が声を出す。それに呼応してアンリと渡辺がリバウンドの態勢に入る。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

『なっ!?』

 

その直後、大地が弾かれたボールを右手でリングに叩きこんだ。

 

『うおぉぉぉぉぉっ! 自ら押し込んだぁぁぁぁっ!!!』

 

「…っ! 綾瀬ぇっ…!」

 

「…ふぅ、さすがにあの距離を決めるのは簡単ではないですね」

 

一足遅くやってきた紫原が大地を睨み付けると、大地はコートに着地し、一息吐きながら自嘲気味に言った。

 

スリーが決まればそれでよし。決まらなければ自らが押し込む。それが大地の狙いであった。2度も通じない戦法ではあるが、最初1回目だけに関しては高確率で成功する確信があった大地がとった大胆な作戦であった。

 

 

「昔、どっかの誰かさんが一時使っていた技ね」

 

「…さすがに俺でもこの局面では使う気にはならないっスよ。不意を突いたから上手く行ったが、もししくじれば流れを持っていかれるってのに。…あいつ、なんて度胸してやがる…」

 

からかうように言うリコに、火神は戸惑いながら返したのだった。

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールを受け取った紫原がゆっくりドリブルを始める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

数度ボールを突いた所で紫原が発進。スリーポイントラインを沿うようにドリブルで突き進む。

 

 

――キュッ!!! …ダムッ!!!

 

 

左45度の地点から右45度地点まで進み、急停止。そこからクロスオーバーで切り返し、中へとカットインした。

 

「…っ!」

 

急停止とクロスオーバーの両方に対応する大地。中へ切り込む紫原を並走しながら追いかける。

 

「…ぐっ!」

 

中へ切り込むと体格差を生かして強引に突き進む紫原。大地は何とか止めようとするもそのパワーの差によって止めきれない。

 

フリースローラインを越えた所で紫原がボールを掴んだ。

 

「…っ! まだです!」

 

 

――ポン…。

 

 

強引に伸ばした大地の指がボールに触れる。ボールが紫原の手から零れる。

 

『ついに綾瀬が紫原を止めたぁっ!!!』

 

「ルーズボールを拾え!」

 

すぐさま松永が声を出す。

 

「…っ! 舐めんなぁっ!!!」

 

紫原は持ち前の反射神経で即座に反応し、零れたボールに左手を伸ばしてボールを掴み取った。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま跳躍してボールをリングに叩きこんだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

ここで、花月のタイムアウトがコールされた。選手達は、各々のベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り3分48秒

 

 

花月 84

陽泉 91

 

 

花月ベンチ…。

 

「全員、ゆっくり呼吸を整えろ。栄養補給と水分補給も忘れるな!」

 

ベンチに座る選手達に指示を出すと、姫川と相川がタオルとドリンクを配り、栄養補給の為のはちみつレモンが入ったタッパーを選手達の前に差し出していく。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

試合は第4Qの終盤。ここまで激闘を繰り広げてきた事もあり、選手達の疲労も激しい。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

その中でもひと際息を乱しているのは大地だった。

 

「…監督、自分に何か出来る事はありませんか?」

 

誰もが呼吸を整えている中、室井が上杉に尋ねる。

 

「このままでは綾瀬先輩の負担が大き過ぎます。何か、少しでも綾瀬先輩の負担が減らせるように――」

 

「――綾瀬の邪魔をしない事と邪魔を入れさせない事。これが今のお前に出来る最善の事だ」

 

尋ねられた上杉は視線を向けながらそう指示を出した。

 

「監督!」

 

指示に納得がいかなかった上杉に食って掛かろうとする。そんな室井の肩に天野が手を置く。

 

「気持ちはよー分かる。せやけど、それが今出来る事なんや」

 

窘めるように天野が室井に言い聞かす。

 

「皆同じ気持ちや」

 

「…っ」

 

その時、肩に置かれた手に力が籠る。

 

大地1人に負担が掛かっている事は全員承知の事である。誰もが何とかしたい。だが、ここで下手に手を出せば手助けどころか足を引っ張る結果になりかねない。大地と紫原の戦いはもはや別次元のレベルとなっており、同じ領域の者でなければ割って入る事は許されない。それが分かっているから誰しもが手出し出来ない。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「ありがとうございます。室井さん。そのお言葉だけでも力が湧いてきます」

 

頭からかぶっていたタオルを取りながら立ち上がった大地は室井に感謝の言葉を贈った。

 

「さあ、後もう少しです。絶対に勝ちましょう!」

 

笑顔で鼓舞をする大地。

 

「せやで。背中は見えとるんや。追い付き追い越しや!」

 

大地の言葉に続くように天野が言った。

 

「気持ちで負けるな。死に物狂いで戦い、そして勝ってこい!」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は花月ボールで再開される。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地が紫原をかわし、得点を決め、点差を5点差にした。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ゴール下に切り込んだ紫原が大地の上からリングにボールを叩きつけ、7点差に戻した。

 

試合が開始されると再び大地と紫原の一騎討ちの様相となった。その後も互いに1本ずつ決め、点差は変わらず5~7点差を行き来した。

 

「…っ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

前後の揺さぶりを入れず、大地は真っすぐドライブで切り込んだ。

 

「…ぐっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

紫原を抜き去った大地はそのままリングにボールを叩きつけた。

 

「よし!」

 

拳を握って喜びを露にする。

 

「(…チラッ)」

 

横目で残り時間を確認する大地。

 

「(…あまり時間もありません。そろそろ仕掛けましょう)」

 

そう決意した大地の瞳に力が籠ったのだった。

 

 

第4Q、残り2分41秒

 

 

花月 88

陽泉 93

 

 

「…」

 

「…」

 

ボールをキープする紫原。目の前に立つのは大地。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

スピードとキレのあるクロスオーバーで紫原が仕掛ける。大地もこれに対応する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、さらにクロスオーバーで反対側に切り返した。

 

『抜いたぁぁぁぁっ!!!』

 

大地を抜いた紫原はボールを掴んでリングに向かって跳躍する。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

会場中が歓声に包まれる。

 

 

『ピピピピッ!!!』

 

 

その時、審判が激しく笛を吹いた。

 

『オフェンスチャージング、白6番!』

 

審判はオフェンスファールをコールした。

 

『なっ!?』

 

これには陽泉の選手達だけではなく、観客も言葉を失っていた。

 

「はぁっ!? 何で――っ!?」

 

判定に納得が出来ない紫原だったが、ここである事に気付いた。

 

「……ふぅ」

 

コートに座り込みながら一息吐く大地。

 

抜かれるのと同時に後ろへ尻餅をつくように倒れた大地。僅かに身体も接触していたので審判はオフェンスファールをコールした。

 

「(ちょっと触れただけなのにこいつ…!)…ちっ、狡い真似してくれるじゃん」

 

苛立った表情で座り込む大地に手を差し出す。

 

「そう言わないで下さい。こっちもそれだけ必死なんですよ」

 

そう返し、その手を取って立ち上がった。

 

大地にしても賭けであった。これまで見てきた紫原の動くと審判の位置を図ってのファール。しくじればみすみす1本決められる事になるからだ。

 

ノーカウントで終わった陽泉オフェンス。これにより、第4Q途中から膠着していた試合に変化が訪れることとなった。

 

「…」

 

「…」

 

対峙する大地と紫原。

 

この1本、決めれば点差が3点となり、スリー1本分。花月が流れを掴む事になる。止めれば再び先程までの膠着状態に。花月からすれば是非ともものしたい1本であり、陽泉からすれば何としても止めたい1本である。

 

「…っ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロスオーバーで右から左へ切り返し、中へとカットイン。直後、ボールを掴んで斜め後ろへとステップを踏み、後ろに飛びながらシュート態勢に入った。

 

『ステップバックからのフェイダウェイシュート!?』

 

「…っ! ざっけんな!」

 

クロスオーバーに対応し、そこからのステップバックフェイダウェイシュートにブロックに向かう紫原。しかし、ボールはリングへと向かって行った。

 

『入れー!!!』

 

放たれたボールに願いを込める花月の選手達。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

『キタァァァァァァッ!!!』

 

5点差と7点差を切り返してきた均衡が遂に崩れた。

 

 

「遂に均衡が崩れた!」

 

「流れが変わる…!」

 

洛山の四条と五河が目を見開きながらコート上を見つめる。

 

「…あぁ、だが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉がリスタートし、ボールが紫原に渡される。

 

「ハァ…ハァ…」

 

肩で大きく息をする大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

紫原が仕掛ける。

 

「…っ!?」

 

即座に対応しようとした大地だったが、追いかけようとした瞬間、膝から力が抜け、その場で膝を付いてしまう。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

紫原はそのままボールをリングに叩きつけた。

 

「ようやく限界が来たか。よくここまで持たせたものだ」

 

陽泉ベンチの荒木が横目で視線を向けながら言った。

 

 

「何だ? 何処か様子が……っ!? まさか!?」

 

観客席の田仲がその場で膝を付いたまま動かない大地を見て異変に気付いた。

 

「遂に限界が来てしまったわね」

 

コート上の大地の身体の数値を見たリコが断言する。

 

「第3Qの終盤からここまでずっとゾーンに入って、しかもあの紫原とマッチアップしてきたんだ。それがなくてもあいつはここまで攻守で走り続けていたんだ。むしろ、ここまでもっただけでも大した奴だよ」

 

ゾーンに入った経験のある火神がここまでの大地を称えた。

 

「先に止めた方に流れが傾く。事実、流れは花月に傾いただろう。…だが、残り2分。最後まで綾瀬が持たなかった…」

 

淡々と実情を語る赤司。

 

「これでこの試合の結果は決まった」

 

 

『ハァ…ハァ…!』

 

残り2分。押し寄せる絶望を何とか押し込もうとするコート上の花月の選手達。

 

「ハァ…ハァ…! ま、まだ…です。…っ!」

 

膝に手を置き、何とか立ち上がろうとする大地。

 

「(まだ…、諦める訳には…行かない…! 試合に……勝つまでは…)」

 

再び試合に臨もうと全身から力を振り絞る。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 緑(花月)!!!」

 

その時、花月のメンバーチェンジがコールされる。交代をコールされたのは6番の大地。

 

「っ!? 待って…下さい。…私は…まだ…!」

 

交代を告げられても交代を受け入れられず、拒否をする大地。

 

 

――下がる訳にはいかない。逆転して試合を終えるまでは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらおら! いつまでそうやって駄々こねてるつもりだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、大地の耳にとても聞き慣れた声が聞こえ、コート上に響き渡った。

 

「…っ!?」

 

大地は慌ててその声が聞こえてきた方へ振り返った。そこには…。

 

「…ハハッ、ハハッ!」

 

その声の主の姿を目の当たりにした大地の顔から思わず笑みが溢れた。

 

そこには、大地が…、皆が待ち望んだ…。4番の背番号を着けた男が立っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





本当は先週投稿するつもりだったんですが、まさかのインフルエンザに感染し、寝込んでました…(>_<)

いやー、ホントきつかった。小学生の時以来でしたが、約2日間熱が39度台から下がらず、死ぬかと思いました。皆さんも風邪やインフルエンザには気をつけてください…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第109Q~速さ~


投稿します!

ここ最近の投稿からすれば短めの文章量です…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り2分1秒。

 

 

花月 90

陽泉 95

 

 

紫原のオフェンスファールを誘って失点を防ぎ、直後のオフェンスを成功させて点差を3点差にまで詰めた花月。しかし、ここで大地の限界が来てしまう。

 

絶体絶命の状況でメンバーチェンジがコールされる。チェンジに指名されたのは大地。交代要員に現れたのは空だった。

 

『来たぁぁぁぁっ!!! 神城だ!!!』

 

空が交代要員として現れると、会場中が歓声に包まれた。

 

第3Q途中で負傷退場となってコートから去った空。第4Q終盤の勝負所での復活となった。

 

「空…」

 

大地はゆっくりと立ち上がり、笑みを浮かべながらゆっくりと空の立つの方へ足を進める。

 

「さすがは俺の相棒だ。信じてたぜ。お前なら何とかしてくれるって」

 

同じく笑みを浮かべながら大地へと声を掛ける空。

 

「…空、後は――」

 

任せます…。そう告げようとした瞬間、空は大地の肩に腕を回し、引き寄せた。

 

「――」

 

耳元で一言囁くように呟くと、大地の肩をポンポンと叩き、コートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お疲れ様! 凄かったよ!」

 

ベンチへと腰掛けた大地は相川からタオルと飲み物を受け取った。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

息を切らした大地はタオルを頭から被り、ベンチに腰掛けた。

 

「…綾瀬。ラスト1分になったら再投入する。行けるか?」

 

大地の横に座った上杉がそう尋ねた。

 

「えっ? まだ試合に出すつもりですか!?」

 

「いくら何でももう限界ですよ!」

 

まだ行けるか否か尋ねた上杉の言葉に菅野と帆足が驚いた口調で言った。

 

「後は神城に任せれば……っ!? まさか…!」

 

ここで菅野がある事を予感し、途中で言葉を止めた。

 

「声がデカいねん。ちょい落ち着き」

 

そんな菅野を天野が諫めた。

 

「…で、実際の所どうやねん」

 

出来るだけ平静を保ちながら空と同時にベンチに戻ってきた姫川に尋ねる天野。

 

「…」

 

姫川は返事をする事なく真剣な表情でコートを見つめていた。

 

「スー…フー…」

 

その時、大地はゆっくり呼吸を整えていた。大地は残り1分を戦う力を回復させる為、体力回復に努めた。

 

 

――待ってるぜ。

 

 

先程空が大地にかけた言葉を頭の中で反芻させる。ベンチで上杉の言葉を聞いて大地は理解する。まだ、自分の役目は終わっていないと…。

 

「…けどよ、1分で回復出来るのか? ここまで歩いてくるのがやっとだったのによ」

 

既に限界を超えていた大地の様子を思い出した菅野の口から不安の言葉が飛び出した。

 

「スタミナに長けた者には大きく2種類ある。1つはより長い時間走れる者。神城がこれにあたる」

 

『…』

 

「後は、回復力に長けた者。僅かな時間の休息で疲弊した身体を回復出来る。綾瀬がこれにあたる」

 

『…』

 

「神城と綾瀬をインターバルなしで走らせれば、綾瀬が先に限界が来るだろう。だが、定期的にインターバルを取らせて走らせれば、神城の方が先に限界が来るだろう」

 

『…』

 

「1分あれば綾瀬なら残り1分戦う為の力を蓄えられる。それが出来るだけの練習をさせてきた。後は、選手を信じるだけだ」

 

決意を固めた表情で上杉は言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おらおら! たった5点差、時間もまだ充分ある! さっさと点差をひっくり返すぞ!」

 

声を張り上げて空が鼓舞をする。

 

『おう!!!』

 

先程まで絶望しかけていた花月の選手達の表情に希望が戻った。空の言葉に大きな声で応えた。

 

「ホント、しぶといねー」

 

そんな空に紫原が話しかける。

 

「何で俺が嫌いな奴に限ってこうしつこいのかなー」

 

嫌悪感を浮かべながら紫原が空に言い放つ。

 

「それはご愁傷様。勝つまで俺は諦めねえ。その為なら何度でもコートに戻ってくるぜ」

 

不敵な笑みを浮かべながら空はそう返す。

 

「…ハァ。だったら捻り潰すしかないね。…そんな気が2度と起きない程にね」

 

苛立ちながら紫原は空の目の前に立った。

 

『綾瀬に続いて今度は神城をマークするのか!?』

 

ゴール下に戻る事なく空のマークに付いた紫原を見て観客が騒めく。

 

「直々に相手してくれるとは、ありがたい限りだな」

 

ここで空はボールを受け取った。

 

「…」

 

「…」

 

スリーポイントラインの外側、中央付近で対峙する両者。

 

「(ここまで競った試合になったのは綾瀬がいたからだ。だが、その綾瀬はもういない。今更お前(空)が戻ってきた所で無駄だ。これでトドメだ!)」

 

横目で対峙する空と紫原を見て勝利を確信する永野。

 

「…」

 

「……フッ。ありがとよ」

 

突如、空が礼の言葉を言うと、ドリブルを始める。

 

「わざわざ俺の得意の場所まで来てくれてよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が紫原の足元に飛び込むと、そこから左右に高速で切り返し始めた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

クロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを高速で繰り返しながらハンドリングを続ける空。

 

「っ!? 足元でちょろちょろ! そんな小細工俺には――っ!?」

 

足元で左右に切り返し続ける空に苛立ちながら空が切り返した右へと視線を向けた。

 

「(なっ!? 消えた!? 何処に…!?)」

 

その時、紫原は空の姿を見失う。

 

「後ロダ、アツシ!」

 

「っ!?」

 

アンリの声に反応し振り返ると、そこには紫原の後ろに抜けた空がいた。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま空はリングに向けて突き進み、レイアップを決めた。

 

「分かってねえな。俺が何の為にコートに戻ってきたと思ってんだ? 俺は、トドメ刺しに来たんだよ」

 

『っ!?』

 

振り返った空を見た陽泉の選手達の表情が驚愕に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゾーンの扉を開いていた空の姿を目の当たりにして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、ボールを運ぶ永野。

 

「(コートに戻っていきなりゾーンに入るとか、マジ反則だろうがよ!)」

 

ゾーンに入り、圧倒的な存在感を醸し出す空を見て永野が冷や汗を流す。

 

「(くそっ、これじゃ試合はまだ予断を許さねえ。1本のミスが命取りになる…!)」

 

点差は再び3点。シュート1本差。残り時間を考えても何がきっかけで逆転される分からないこの状況。慎重にゲームメイクをする永野。

 

「よこせ!」

 

ここで、ゴール下から離れた紫原がボールを要求する。

 

「(……考えるまでもなかったな。ここに来てそこ以外の選択肢なんてあり得ねえ!)…紫原!」

 

迷いを捨てた永野は紫原にパスを出した。

 

「お前が来ても一緒だよ。俺は止められない!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言と同時に切り込む紫原。

 

「…ぐっ!」

 

同時に動いて追いかける空だったが、体格差とパワーを生かした紫原のドライブに苦悶の表情を浮かべた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

切り込んだ紫原はボールを右手で掴んでそのままリングにボールを叩きつけた。

 

「…ちっ」

 

思わず舌打ちをしてしまう空。

 

「お前が戻ってきても状況は変わらない。何をしようと無駄な足掻きだ」

 

すれ違い様、空にそう告げる紫原。

 

「…ハッ! 上等だぜ!」

 

不敵な笑みを浮かべながら空は紫原の背中に向けて言い放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

フロントコートまでボールを進めた空。目の前には紫原。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

先程と同様、紫原の足元に飛び込み、左右に高速で切り返しを始めた。

 

「くそっ、また足元に…!」

 

再び飛び込まれ、左右に高速で動かれて嫌がる素振りを見せる紫原。

 

 

「…なるほど、そういう事か」

 

「どうした、赤司?」

 

ポツリと呟いた赤司の言葉に反応する四条。

 

「目の前の相手を見失うあのドライブの謎が今分かった」

 

突然、目の前の相手を見失う空のドライブ。赤司はその謎の答えに辿り着いた。

 

「それは、死角から死角へ高速で移動する事がまず1つ」

 

『…』

 

「人間の視野というのは、離れた所はその目で捉えられるが、距離が近付けば近付くほど見える範囲が狭まる。神城はまず相手の足元まで切り込み、そこから左右の死角から死角へ高速で切り返し続ける」

 

『…』

 

「当然、目の前の相手は神城の姿を捉えようとして右か左に目を向けた瞬間――」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

その時、コート上では空がダックインで紫原の右手側から駆け抜けた。

 

「っ!?」

 

再び紫原は空の姿を見失い、為すがまま抜き去られてしまった。

 

 

「目が向いた方向と反対側にすかさずダックインする事で相手は神城が突然消えたように映ってしまう。これがあのドライブの謎だ」

 

「…赤司の解説を聞いても納得出来ないな。相手の目の動きに合わせて真逆にダックインとか、そんなの容易に出来る事じゃないし、仮に出来たとして、見失うものなのか? あの紫原が…」

 

解説を聞いても釈然としない四条は怪訝そうな表情をする。

 

「確かに、並の者がやっても一瞬消えたように見える程度だろう。だが、神城のスピードとアジリティーは凄まじい。あの青峰を凌ぐ程に。それと、神城はその持ち前のバランス感覚もあってダックインの際の姿勢が限りなく低い。神城のスペックにタイミングが合えばあの現象は引き起こす事は可能だ」

 

「…っ、恐ろしい限りだぜ」

 

補足を聞いた四条は背中に冷たいものが滴るものを感じた。

 

「(…このドライブの1番の肝はタイミングだ。僅かでもタイミングが狂えばこの現象は起きない。ならば彼はどうやって2度もタイミングを合わせた。それは俺の天帝の眼(エンペラーアイ)を以てしても容易ではない。…恐らく、彼は何か持っている。本人すらまだ気付いていない何かを…)」

 

 

――バス!!!

 

 

空が紫原を抜いて再びレイアップを決めた。

 

「いいぞ、神城!」

 

「ハァ…ハァ…おう!」

 

エールを贈る松永に空は笑顔で返す。

 

「(何だこの汗の量は? それにもう息を切らしているのか? あの神城がか?)」

 

常人を遙かに凌ぐスタミナを持つ空。そんな空の様子を見て松永が異変を感じ取った。

 

「…」

 

そして、その空を紫原が横目で観察していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ」

 

花月のベンチにて空の様子を見て胸の辺りを拳を当てながら表情を曇らせる姫川。

 

「(もうあんなに息を切らして…。やっぱり無茶だったのよ…!)」

 

空が担架で運ばれた折、一緒に付き添いとして付いていった姫川。

 

「(コートに戻って来る直前まで焦点が定まってなかった。止めないと!)監督!」

 

意を決して上杉に声を掛ける姫川。

 

「言いたい事は分かっている。これ以上無理だと判断したら即座に下げる」

 

コートから一切目を離さないまま上杉はそう返した。

 

「これ以上は無理です! すぐにでも――」

 

「――あいつが勝つ為に出る事を望んだ。ならば、あいつの目が生きている内は下げん」

 

「…っ」

 

あくまでも強行させる上杉の言葉を聞いて姫川の表情が悲痛に染まる。

 

「…責任は俺が全て取る」

 

覚悟を決めた表情で上杉は囁くように呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

フロントコートまでボールを運んだ永野から紫原にボールが渡される。

 

「ハァ…ハァ…」

 

目の前に立ち塞がるのは空。

 

「薄々そんな気はしてたけど、やっぱり無理してたんだね」

 

空の様子を見て紫原が断言するように言った。

 

「ま、だからと言って手なんて抜かないけど。俺の邪魔する限り何度でも捻り潰すから。さらに大怪我したくなかったらさっさとベンチに下がる事だね」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

紫原が一気に加速し、切り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(あーちくしょう、頭痛ぇー…)」

 

コートに入った直後は問題なかったのだが、ワンプレーしてからすぐに頭痛がするようになってきた。

 

「(吐き気もするし、視界もたまにぼやけやがる…)」

 

空のコンディションはまさに最悪だった。

 

「(…けど、それでも俺は勝つ為にやってやる! この後どうなろうと知ったこっちゃねぇ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

紫原が切り込む。

 

「(例えぶっ倒れようと…、這いつくばってでも勝つんだ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

紫原が切り込んだ直後、空が伸ばした腕がボールを捉えた。

 

「な…に…!?」

 

自身の手からボールが消え去り、目を見開いて驚く紫原。

 

『なっ!?』

 

陽泉の選手達も同様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「何が起こった!? あいつは何をしたんだ!?」

 

観客席の福山が立ち上がりながら声を荒げる。

 

「デケー声出すな。…見たまんまだ。あいつが紫原の持つボールをカットした。それだけだ」

 

コートに視線を向けながら青峰が答えた。

 

「それだけって、今のは…」

 

説明を受けても納得出来ない福山。

 

「ゾーンに入った時のあいつのスピードは尋常じゃねえ。最高速、加速力。…反射速度もな」

 

 

「一般的な反応速度は0.2秒から0.3秒程と言われている」

 

今のプレーを見て赤司が話し出す。

 

「キセキの世代の中でも反射速度に優れる紫原で0.15秒程だろう。…だが、今の神城の反射速度はそれを超えていた。測った訳ではないから正確には分からないが、恐らく、人間の限界の反応速度と言われる0.11秒に限りなく近い」

 

「なっ!?」

 

説明を聞いて四条は表情を強張らせる。

 

「驚異的な反射速度と瞬発力。これを持っていたが故に紫原の持つボールを捉える事が出来たのだろう」

 

「…っ! まさに、神速のインパルス…! いよいよお前達(キセキの世代)と遜色ない化け物になってきたな…」

 

表情そのままで四条はコート上の空を見つめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールが前に零れると、すかさず空がボールを拾いに向かう。

 

「(マズイ!)」

 

それを見たアンリは危機を察知し、動き出す。このまま速攻に走られれば点差は1点となってしまう。

 

 

――ドッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

ボールを掴んでドリブルを始めた瞬間、腕を伸ばして抱え込むような形で空に接触した。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

空が倒れこむのと同時に審判が笛を吹いた。

 

『アンスポーツマンライクファール、白11番!』

 

「っ!?」

 

審判のコールを聞いてアンリが目を見開く。

 

『っ!?』

 

陽泉の選手達も同様の表情となった。

 

『アンスポだぁっ!!!』

 

『どういう事?』

 

『故意にやったファールとして、2本のフリースローが与えられ、しかもその後花月ボールからスタートになるんだよ』

 

この判定を受けて観客も沸き上がる。

 

「よーし!」

 

「やった!」

 

コールと同時に松永と生嶋が喜びを露にする。

 

「先輩!」

 

倒れたまま起き上がらない空を見て室井が駆け寄る。

 

「ダ、大丈夫カ!」

 

それを見てアンリも駆け寄る。

 

「…心配いらねぇって」

 

声が掛けられると、むくっと立ち上がった空。

 

「アンスポ獲得した余韻に浸ってただけだ。騒ぐな騒ぐな」

 

おどけた表情で答える空。

 

「君、大丈夫か? プレーを続けられるか?」

 

様子を見ていた審判が空に駆け寄り、尋ねる。

 

「当然、余裕余裕」

 

「……分かった。危ないと判断したら即座に止めるからね」

 

少し考えるような表情をした後、審判は空から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「神城君…!」

 

居ても立っても居られない様子でコートを見守る姫川。

 

「…もう1分経ちましたよね?」

 

大地が頭にかぶっていたタオルを取りながら尋ねた。

 

「行けるか?」

 

「充分休ませていただきました。問題ありません」

 

上杉の問いに決意を固めた目で大地が答えた。

 

「行って来い」

 

「はい!」

 

大きな声で返事をし、大地はオフィシャルテーブルに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

フリースローラインに立つ空。2度程ボールを突いてボールを掴み、縫い目を確かめながら構える。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1投目、成功。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2投目も同じルーティンを繰り返しながら成功させた。

 

『来たぁぁぁぁっ!!!』

 

フリースローを2本成功させ、1点差まで詰め寄った。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

空は叫ぶように喜びを露にした。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 緑(花月)!!!」

 

ここで花月のメンバーチェンジがコールされる。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

同時に大歓声が上がる。歓声に包まれながらやってきたのは大地。

 

「俺もおるで」

 

それともう1人、天野。

 

交代を命じられたのは竜崎と室井の1年生コンビ。

 

「後は頼みます!」

 

「ここまでありがとうございます。後は任せて下さい」

 

ハイタッチを交わしながら言葉を交わす大地と竜崎。

 

「ようやった! 文句の付けようのない全国デビューやったで!」

 

「…勿体ない言葉です。後は頼みます」

 

賛辞の言葉でハイタッチを交わす天野。室井は複雑そうな表情で返事をしたのだった。

 

「よう、ちゃんと遅れずに戻ってきたな」

 

空の前に立った大地に不敵な笑みで告げる。

 

「言っておきますが、私はあなたに待たされた事はあっても待たせた事はありませんからね」

 

ジト目でそう返す大地。

 

「そういやそうだったな。…お前はいつも必ず時間通りに来てくれてた。絶対に遅れずに…」

 

「そういうあなたも、例え遅刻はしても、必ず来てくれてましたね。必ず…」

 

フッと笑みを浮かべながら2人は言葉を交わしていく。

 

「残りは1分。1点差。舞台は充分に整った」

 

「えぇ。後は勝つだけです。行きましょう!」

 

空と大地はコツンと拳をぶつけたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

スタミナ切れを起こした大地。入れ替わるように戻ってきた空。

 

空の奮闘で点差を1点にまで詰めた花月。残り1分。体力回復に努めた大地がコートに戻ってきた。

 

スターティングメンバーに戻した花月。この試合の結末を決める最後の1分が始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





まさかこの試合がここまでの長丁場になるとは思わなかった…(;^ω^)

試合終了まで一気に行こうかなとも思ったんですが、とんでもない文章量となるので区切りのいいここで一旦筆を止めました。

さて、次の投稿はどうなるかな…。私の大嫌いな花粉のシーズンがやってきたので、花粉シーズン中は投稿ペースが落ちるかもしれませんのであしからず…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第110Q~激闘の果て~


投稿します!

ついにこの試合に決着が…(^-^)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り1分1秒。

 

 

花月 96

陽泉 97

 

 

竜崎、室井 OUT

 

大地、天野 IN

 

 

残り時間1分に差し掛かった所でベンチに下がった大地と天野がコートへと戻ってきた。これにより、花月はスターティングメンバーに戻った。

 

 

「ここで綾瀬を再投入か。…さっきまで歩くのもままならなかった状態だったが、動けるのか?」

 

火神がコートに入る大地を見つめながら呟く。

 

「……さすがね。合宿の時から思ってたけど、彼の回復力の高さは異常だわ。あれなら残り1分、充分にもちそうね」

 

リコがその目で大地の身体の数値を見て確信する。

 

「けど、問題なのはもう1つ。一度は限界を迎えてベンチに下がったのも事実。その状況だと一流の選手でも集中が途切れがちになるわ。彼はどうなのかしら…」

 

意味深にリコは呟いたのだった…。

 

 

「1本! 絶対決めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

ボールをキープする空の掛け声に花月の選手達が応える。

 

フリースローを空が2本成功させ、さらにアンスポーツマンライクファールの為、花月ボールから再開される。

 

「(…こいつ、マジかよ。あの状態でたかだか1分の休憩だけで戻ってきただけでも驚きなのに集中が全く切れてねえ!)」

 

「(それどころか、未だにゾーンが解けてねえじゃねえか!)」

 

大地の状態を目の前で確認した永野と木下の表情が驚愕に染まる。

 

「この1本は死んでも死守だ! 気合い入れろ!」

 

『おう!!!』

 

主将の永野は自分とチームの嫌なムードを振り払うように声を出し、陽泉の選手達もこれに応える。

 

 

「ん? 陽泉のディフェンスが変わった?」

 

陽泉のディフェンスの変化に気付いた観客席の新海。

 

「ボックスワンから2-3ゾーン……いや、違うな、これは」

 

これまで大地、大地が空と交代してからは空に紫原がマンツーマンでマークし、残りの4人はゾーンを組んでいたのだが、今は紫原がマークを外し、元々の陽泉のゾーンディフェンスに戻したのだが、少し様子がおかしい事に気付いた田仲。

 

「2-1-2ゾーンか」

 

ポツリと火神が呟くように言う。

 

これまでの前に2人、後ろに3人の2-3ゾーンディフェンスではなく、前列に永野と木下。中央2列目に紫原。後列にアンリと渡辺の2-1-2ゾーンディフェンスとなっていた。

 

「英断ね。コート上に神城君と綾瀬君の2人がいる以上、マンツーマンでは止められない。これならカットインにも対応しやすくなるし、紫原君が通常より前を守る事になるから外に対応出来るようになる。2-1-2ゾーンは2-3ゾーンの派生のゾーンディフェンスでもあるから恐らくこの状況でも充分機能させられるはずだわ」

 

この選択にリコが賛辞の言葉を贈った。

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをキープする空は慎重にゲームメイクをする。

 

「……よし!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して空は中央にカットインする。

 

「…来いよ」

 

待ち受けるのは紫原。両腕を広げて迫りゆく空に備える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

紫原の目前でクロスオーバー。左に切り返して紫原の右手側から抜けようとする。

 

「…っ、その程度のフェイントで!」

 

このクロスオーバーに紫原は対応。横を抜けようとする空を反転して追いかけようとする。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、空はノールックビハインドパスでボールを右に流す。そこには大地が走りこんでおり、ドンピシャのタイミングでボールを受け取り、そのままリングに向かって切り込む。

 

「ちぃっ!」

 

これにも反応した紫原は大地を追いかける。切り込んだ大地はそのままリングに向かって跳躍した。

 

「決めさせるかよ!!!」

 

咆哮と同時にブロックに飛んだ紫原。大地のシュートコースをすっぽり隠すようにブロックに現れた。

 

『うわー! あれじゃ打てねえ!』

 

圧倒的な高さを誇るブロックに観客席から悲鳴が上がる。

 

「…分かっていましたよ。あなたが来る事くらい」

 

これを想定していた大地はボールを下げ、下に落とす。

 

「ナイスパス!」

 

そこに走りこんでいたのは空。ボールを受け取った空はリングに向かって飛ぶ。

 

「ざっけんな! 絶対に決めさせねえ!」

 

コートに着地した紫原はすぐさまブロックに向かう。

 

「態勢が不十分だぜ」

 

先程大地にブロックに向かったばかりの紫原。辛うじてシュートコースを手で塞ぐので精一杯となっていた。

 

 

――スッ…。

 

 

空はボールを下げて紫原の伸ばした腕を掻い潜るように空中で抜けていく。紫原のブロックをかわし、リングを通過した所で再びボールを上げ、リバースレイアップの態勢でボールをリングに放った。

 

『行けー!!! これで逆転だぁっ!!!』

 

逆転を確信した花月ベンチの選手達は立ち上がりながら声を上げる。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、その願いは叶わず。ボールを放った所で後ろから伸びてきた腕にボールを叩かれ、ブロックされてしまう。

 

『オレヲ忘レテ貰ッテワ困ル!』

 

「アンリ!」

 

突如ブロックに現れたのはアンリ。

 

「よーし! ナイスアンリ!」

 

ブロックが成功し、永野が拳を握りながら喜びを露にする。

 

「(…くそっ、察知出来なかった! 最悪のタイミングを狙われ……まさか!?)」

 

この時空はとある予感を感じた。

 

「…(グッ)」

 

「…(プイ)」

 

紫原に向けて親指を立てるアンリ。当の紫原はプイっと視線を外した。

 

今のブロックはただの偶然ではなかった。全ては狙い通りであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

それは空と天野がコートに入り、試合が再開される直前の事…。

 

『ねえ、アンちん』

 

『ドウシタ、アツシ』

 

アンリの傍まで歩み寄った紫原がアンリに話しかける。

 

『力、貸してくれない?』

 

『?』

 

『ここ決められると逆転されちゃうから止めたいんだけど、俺1人だとあの2人と同時に対応するのは難しいからさ、アンちんの力貸して』

 

『コノピンチワオレガ原因ダ。オレノ力デ良ケレバイクラデモ貸スヨ。…ダガ、オレデ役ニ立テルカ?』

 

空と大地に対して、ゾーンに入ってから全く対応出来てないアンリ。不安気に尋ねる。

 

『じゃなきゃ声かけてないよ。俺が2人を誘導するから、最後、お願い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

空か大地の一方だけなら紫原1人でも対応出来るが、2人同時には対応出来ない。そこで紫原は2-1-2ゾーンを上手く生かし、空と大地を誘い込んだ。

 

自身の身体能力と反応速度を駆使して2人を追い込み、最後のダブルクラッチまで誘導した。空がボールを1度下げてもう1度上げてボールを放る瞬間をアンリに狙わせた。

 

空中でしかもボールを放ってしまった後ならば空でもどうしようもない。ダブルクラッチで打点が低くなっている状態なら上手くタイミングさえ合えばアンリのスピードとアジリティーがあればブロック出来る。これが紫原が描いた作戦。

 

紫原の追い込みとアンリのタイミングが見事に合致し、ブロックに成功した。

 

「キャプテン!」

 

ルーズボールを拾った渡辺が永野にボールを渡す。

 

「行くぞ!」

 

永野の号令と同時に陽泉選手達が一斉にフロントコートに向かって走り出した。陽泉が一斉に速攻に駆けたのだった。

 

「あかん! 戻れ、ディフェンスや!」

 

慌てながら天野が声を張り上げながら戻る。

 

「くそっ! せっかくのチャンスを!」

 

「ドンマイ! 止めますよ!」

 

悔しがる空を大地が宥め、ディフェンスに戻っていく空と大地。

 

「行かせねえ!」

 

空がボールを持つ永野をスリーポイントライン目前で捉え、回り込む。

 

「相変わらずはえーな。だがな、遅ぇ!」

 

永野は動じずにボールを押し出すようなフォームでリング付近に高く放った。

 

「っ!?」

 

思わず空は目を見開く。永野がボールを放るのと同時に紫原が空の横を駆け抜けていき、ボール目掛けて飛んだのだ。

 

「…くっ!」

 

横を並走する大地も飛ぶが、ボールは紫原にしか届かない程の高い位置に放られた為、大地はボールをカット出来ない。

 

ボールが紫原の右手に収まる。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを掴んだ右手をそのままリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉぉぉっ!!!』

 

ダンクが決まるのと同時にこの日1番の歓声が会場を包み込んだ。

 

「っしゃぁっ!」

 

ダンクを決めた紫原は力一杯拳を握りながら誇示するように叫んだ。

 

 

「最悪だ。ベストメンバーに戻した直後のオフェンス失敗に加え、この失点。勝負あったかもしれねえ」

 

「…流れを止めかねない1本には間違いないわ。火神君の言う通り、残り時間を考えて、ここで気持ちを切り替えられないようなら決まりよ」

 

火神の感想にリコは半ば同意したのだった。

 

 

『…っ』

 

ターンオーバーによる失点を喫し、表情が曇る花月の選手達。残り時間1分切った中、勝利がさらに遠のく。

 

「ハッハッハッ…!」

 

そんな中、空が1人笑い声を上げた。

 

「さすが陽泉。一筋縄ではいかねぇな。…だからこそ、倒し甲斐がある」

 

ニコリと笑顔を浮かべながら空が言う。

 

「…フッ、そうですね。手強いからこそ勝った時の喜びも増しそうです」

 

同調するかのように大地が笑みを浮かべた。

 

「俺らが相手しとるんはキセキの世代を擁するチームや。こないなピンチに今更オタオタしておれんわな」

 

表情を引き締める天野。

 

「去年もそうだった。乗り越える」

 

松永は覚悟を決めた。

 

「まだ時間はある。最後の1滴まで出し切って勝ちに行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の檄によって気持ちが切り替わり、再び花月に集中力が戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

 

 

リスタートをし、空がフロントコートまでボールを運び、中央のスリーポイントラインの外側でボールをキープしている。

 

「…」

 

陽泉のディフェンスは先程と変わらず2-1-2のゾーンディフェンス。花月が勝利するにはこの1本を決め、変わる陽泉のオフェンスを止めてさらに決める必要がある。残り時間を考えればすぐさま点を取りに行きたいのだが、取りこぼせば敗北は確定。その為、空は逸る気持ちを抑えてボールをキープしている。

 

「…」

 

ここで空はボールを回す。ハイポストに立つ天野のボールを渡す。ボールを受けた天野は右45度の位置に立つ大地にボールを回す。ボールを受けた大地はすぐさま逆サイドのスリーポイントラインの外側に立つ生嶋にパスを出す。

 

「…っ」

 

これを見て木下が間髪入れず距離を詰めていく。

 

 

――ボム!!!

 

 

生嶋は迫る木下の足元でワンバウンドさせながら中へとボールを入れる。そこには空が走り込んでいた。

 

「止める!」

 

リングに背中を向けた形でボールを受けると、永野が背中に張り付くようにディフェンスに入った。

 

「…」

 

その時、大地が動く。ボールを直接受け取る為、空の正面からボールを受け取れるようグルっと円を描くように走り、空の下に向かっていく。

 

「(来るか!?)」

 

陽泉の選手達の警戒が大地に集まる。空がボールを右手に乗せて差し出す。ボールは大地の手に収まる……直前に空はボールを引っ込めて逆方向に身体を向けた。

 

『っ!?』

 

その時、陽泉の選手達は気付く。生嶋がスリーポイントラインから少し離れた位置でフリーになっている事に…。

 

「…ちっ、やらせ――っ!?」

 

木下が生嶋の下まで向かおうとするも、阻まれる。

 

「行かせへん…!」

 

そこには、天野がスクリーンをかけていた。陽泉の注目が大地に集まった一瞬の隙を付いて生嶋が天野に合図を出して移動し、それを受け取った天野がスクリーンをかけに向かった。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをしながら紫原がヘルプに向かう。幸い、2-1-2ゾーンディフェンスで普段よりポジションを前に取っていた為、すぐさまスリーを打たれたとしても間に合う。

 

 

――ピッ!!!

 

 

空はパスを出した。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、陽泉の選手達が目を見開いて驚く。

 

空は生嶋にパスを出すと見せかけ、ノールックビハインドでボールをリング付近に放ったのだ。そこには、先程ボールを受け取らずにそのまま走り込んでいた大地がいた。

 

「…っ!?」

 

生嶋のヘルプに出てしまった紫原は虚を突かれた事もあって対応出来ない。

 

「くそっ!」

 

1番近い場所にいた渡辺がブロックに向かう。

 

 

――バス!!!

 

 

しかし間に合わず。大地は空中でボールを掴み、そのままリングに放った。ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

再び会場を先程と同等の歓声が上がった。

 

「ディフェンス! 絶対止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が声を張り上げながら檄を飛ばす。この時、残り時間21秒。

 

「落ち着いて1本、行くぞ!」

 

再び1点差に詰め寄られるも永野は落ち着いてボールを進めた。

 

「…」

 

陽泉はスリーポイントラインの外側まで引いてボールを回す。とにかくリスクを避け、時間を使って攻めていく。花月は引いた陽泉とローポストに紫原が立っている関係でディフェンスを2-3ゾーンに変えている。

 

『パスで逃げて終わりかよー。男らしくねえぞ!』

 

『勝つ為だってのも分かるけどさ、やっぱ冷めるよなー』

 

引いてボールを回して時間を使う陽泉選手達を見て観客席からブーイングや溜め息に近いものがチラホラ飛び出す。

 

「(…俺達だってこんな事やりたい訳じゃねえ! だけど…)」

 

「(神城と綾瀬のプレッシャーがきつすぎて中にボールが出せないんだよ!)」

 

ブーイングが耳に入った陽泉の選手達は心中で反論する。

 

陽泉も当初、時間をかけつつもチャンスがあれば点を取ってトドメを刺しに行くつもりだった。だが、それが出来ない。それどころかまともに中にボールが出せないでいた。その原因は、空と大地にあった。

 

現在、花月のディフェンスは2-3ゾーン.前に空と大地が立っているのだが、ゾーンに入った2人のディフェンスエリアが広すぎるせいで迂闊に切り込む事はおろか中へのパスもスティールされるリスクが大き過ぎて出せないのだ。

 

「それでいい。焦って迂闊なパスを出すな。ここは我慢だ。一番焦っているのは相手なのだからな」

 

胸の前で腕を組みながら荒木はコートを見つめている。

 

「(…くっ! ここまで引かれては…!)」

 

何としてでもボールを奪いたい大地だったが、陽泉は外でボールを回し続けている為、チャンスがない。

 

「(中に紫原だけ残っとるから完全にはガンガン出られへん!)」

 

天野は心中で焦り露にする。中で紫原にボールを掴まれたら現状メンバーで止める術がない。つまりは紫原にボールを掴まれたらその時点で敗北は確定する。その為、花月は紫原の警戒を解けない為、積極的に外にプレッシャーをかけれない。

 

残り時間10秒…。試合終了時間は刻一刻と迫ってきている。

 

「キャプテン!」

 

渡辺がボールを永野に渡す。

 

「(時間がねえ! もう行くしかねえ、取る!)」

 

ここで空が前に出て永野に激しいプレッシャーをかける。

 

「そう来るのを待ってたぜ!」

 

永野は空が前に出たのを捉えた瞬間、右アウトサイドに立っていたアンリに高いパスを出した。

 

「ナイス! アツシ!」

 

ジャンプして高い位置でアンリはボールを両手で掴み、掴んだと同時に中の紫原の頭上にボールを両手で放った。

 

「…よし!」

 

アンリと同じく紫原はジャンプしてボールを掴んだ。

 

『最悪だ! その位置でボールを掴まれた!』

 

観客からも悲鳴に近い声が響く。

 

空が外に出た事により中でのスティールのリスクが減った為、永野は仕掛けた。インサイドでポジション取りをした紫原を止めるのは至難の業。その紫原にボールを渡す為、永野から渡辺…あるいはアンリからの空中からのパス回しはこのインターハイを優勝する為に用意したオフェンスプランの1つだった。

 

「…ぐっ! くそっ…!」

 

「あかん…!」

 

背中でゴール下まで押し込む紫原。背中で侵入を阻止しようとする松永と天野だったが全く歯が立たない。

 

「決めろ!」

 

『叩き込め!』

 

荒木、そして陽泉の選手達が期待の声を上げる。

 

「これで…、トドメだ!」

 

ゴール下まで侵入した紫原はボールを掴んで回転を始める。

 

紫原の規格外のパワーに回転力が加わる必殺のダンク。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――破壊の鉄槌(トールハンマー)!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりトドメはそれで刺しに来ましたね。良かったです。あなたがそれを選んでくれて…」

 

「…なっ!?」

 

次の瞬間、紫原の表情が驚愕に染まる。

 

回転を始めた瞬間、紫原の持つボールを目掛けて大地の手がグングン迫っていたのだ。

 

「あなたのそのダンクは撃たれれば私達では如何なる策を巡らせようと止める手立てはありません。…ですが、止める事は出来ずともボールを奪う事は出来ます」

 

「…っ!?」

 

「そのダンクは飛ぶ直前の回転をし始める瞬間にボールが無防備になる瞬間がある。そこを付けばボールは奪える!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

大地の手が紫原の持つボールを弾き飛ばした。

 

「馬鹿な! 隙などほんの一瞬だ。そんなもの、完全にタイミングを読み切らなければ不可能だ!」

 

有効であってもそれを実行するのは困難であると永野が声を上げる。

 

「読んだのではありません。賭けたのですよ!」

 

大地は決してタイミングを読んでいた訳ではない。紫原がゴール下に押し込んだタイミングでトールハンマーを選択してくると賭けただけなのである。そしてその賭けは成功した。

 

ボールが転々と転がっていく。転がったボールをサイドラインを割ろうとしている。

 

「(…くっ! この距離では追い付けない! しかし、ここでボールを奪えなければ時間もチャンスももうありません!)」

 

ボールがラインを割れば陽泉ボール。残り時間を考えてチャンスはもうない。

 

サイドライン手前でボールが跳ね、ラインを越える。

 

「(…っ! ダメだ、届かな――)」

 

大地が諦めかけたその時、ボールに1人の影が飛び付いた。

 

「…空!」

 

空が誰よりも早くルーズボールに反応し、ボールを追いかけていたのだ。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

ボールがコートの外でバウンドする直前に空はボールを叩き、コートの内側へと戻した。

 

 

――ガッシャァァァァッ!!!

 

 

勢い余った空は陽泉ベンチに激突した。

 

「空ぁっ!!!」

 

そのまま動かなくなった空を見て思わず声を上げる大地。そして、空が必死の思いでコートへと戻したボールを掴む。

 

「(…あなたはそうまでして私に…!)…っ!」

 

ボールを掴んだ大地はそのまま速攻をかけた。この時、残り時間4秒。

 

「これを決められなければ私は花月のエースを……あなたの相棒は名乗れません! 絶対に決めます!」

 

涙を堪えた大地は決死の覚悟でドリブルで突き進む。

 

「行け、綾瀬!」

 

「決めてまえっ!!!」

 

それを見た松永と天野がその背中に思いを託すように檄を飛ばす。

 

「くそっ!」

 

速攻をかけた大地の前に永野が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地は永野の目前まで進んだところで反転。バックロールターンで永野をかわした。

 

『いっけぇぇぇぇぇっ!!!』

 

永野をかわして目の前に障害となるものはない。リングまで無人の荒野となった事で花月ベンチの選手達が声を上げる。

 

「…ハァ…ハァ…!」

 

リングに向かって真っすぐ突き進む大地。その時…。

 

「っ!?」

 

大地の目の前に1つの大きな影が現れ、その進攻を阻んだ。

 

「よく追い付いた紫原!」

 

思わず声を上げるベンチの荒木。

 

紫原がスリーポイントラインを越えた所で追いつき、大地に立ち塞がった。

 

「これ以上負けはいらない。絶対に止める!」

 

勝利への執念が込められた表情で紫原が叫ぶ。

 

「(…くっ! どうする…!?)」

 

この時点で残り時間は1秒しかなく、味方のフォローを待ってる時間もなく、揺さぶりをかけて紫原をかわす時間もない。

 

「(やるしかない!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決した大地はクロスオーバーで仕掛ける。しかし、紫原はこれに難なく対応し、大地の進路を塞ぐ。

 

「(…っ! 分かっています。この程度ではあなたはかわせない!)」

 

大地が歯をきつく食い縛る。

 

「(…紫原さんをかわすには反応する事も触れる事も出来ない程の速さで仕掛けるしかない! …力を貸してください。この一瞬だけでいい。空、あなたの力を今この一瞬だけ私に!)」

 

ボールが収まる大地の左手に力が込められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――行け、相棒!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、幻聴か空耳か、大地の一番の親友であり、相棒の声が耳に入り、その左手にもう1本の手が添えられたような感覚があった。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

渾身の力を込めてさらにクロスオーバーで切り返した。

 

「っ!?」

 

体重が右足に乗っていた紫原は僅かに反応が遅れてしまう。

 

『抜いたぁぁぁぁっ!!!』

 

観客から大歓声が上がる。

 

残り時間0.6秒。大地が紫原を抜いた。

 

『決めろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

花月の選手達が全ての思いを込めて叫ぶ。

 

ボールを掴んだ大地は跳躍した。

 

「(ふざけんな! 何の為にやりたくもないトレーニングをやってきた!? 勝つ為だ!)」

 

紫原はここで走馬灯のように思い出す。陽泉高校に入学してから歩んできた自身の道程を…。

 

一昨年のウィンターカップ、最後の最後で足が動かず、黒子テツヤにブロックされて負けた。

 

昨年のインターハイ、強大な新戦力を率いて新たに現れた花月を相手に奮闘したが、最後までもたせる事が出来ず、負けた。ウィンターカップは、悲願を果たす為に猛練習をした結果、ウィンターカップで夏に痛めた膝の怪我が再発。怪我を推して試合に出るも最後までもたず、ベンチに下がり、そして負けた。

 

「(もう負けたくはない! 俺の最後の夏をこんな所で終わらせる訳にはいかないんだよ!!!)」

 

体重が乗った足を強引に力を込める。

 

「(まだ動く! 俺の足も身体もまだまだ動く! 絶対に勝つんだ!!!)…おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

渾身の咆哮と共に紫原は反転してリングに向かって飛び、ブロックに飛んだ。

 

「…なっ!?」

 

次の瞬間、紫原は目を見開きながら驚愕した。紫原の飛んだ先に大地の姿がなかったからだ。

 

「っ!?」

 

紫原が振り返ると、そこには、リングにではなく、後ろへと飛んでいた大地の姿があった。

 

「(あの勢いを一瞬で殺した上に後ろに飛んだだと!?)」

 

これには紫原もその目で見ても信じる事は出来なかった。

 

紫原が対応出来ない程の高速のクロスオーバー。スピードが乗ったその勢いを止めるだけでも足にかかる負担は大きい。さらに後ろに飛ぶとなるとさらに足にかかる負担は大きくなる。

 

リングに向かって飛ぶと思っていた紫原は完全に裏をかかれた。紫原と言えど、空中で方向転換する事は出来ない。

 

シュート態勢に入る大地。

 

「ウォォォォォーーーッ!!!」

 

そこに、後ろから追いついたアンリが大地の後ろから手を伸ばし、シュートを阻もうとする。アンリがボールに触れるよりも速く大地はボールをリリースした。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

大地がボールから指が放れるのとほぼ同時に試合終了のブザーが鳴った。

 

『…っ!?』

 

放たれたボールの行く先にコート上の選手達、ベンチの選手達、そして、会場の観客の注目が集まった。

 

ボールは弧を描いてリングに向かっていき、そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を射抜いた。

 

 

『ピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が長い笛を吹いた。

 

『…っ』

 

次に注目が審判に集まる。

 

大地がボールをリリースしたタイミングとブザーが鳴ったタイミングはほぼ同時。ブザービーターか否か、その判定に注目が集まる。

 

審判は笛を口から放し、右手を上げ、指を2本立て、そして降ろした。

 

この瞬間、この大激闘は終了を迎えたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





終わったー!!!

当初、やべー、この試合スゲー短くなりそう! と、思っていましたが、気が付けば11話。話数も1話1話のボリューム過去最高となってました…(;^ω^)

完璧には程遠く、内容も薄く、キャラもバスケもろくに書けてないとは思いますが、とりあえず、当初に構想していた展開どおりに話は進ませ、終わらせる事が出来ました。

とにかく終わらせられて良かった!

…さて、ここからですね…(;^ω^)

一応のこの先の大雑把な展開は決めているのですが、大まかな内容はまだ決まっていない状況です。内容が薄かったり、更新が遅れるかもしれませんが、長い目で見守っていて下さい…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第111Q~ライバル達と監督~


投稿します!

試合後の選手達の話です。

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了。

 

 

花月 100

陽泉  99

 

 

大地がミドルシュートをブザービーターで決め、逆転。長い激闘は花月が制した。

 

「いよっしゃぁぁぁっ!!!」

 

天野が両手を天に突き上げ、大声で喜びを露にする。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

拳を握り、喜びを表現するかのように咆哮する松永。

 

「ハハハッ、勝った…!」

 

笑みを浮かべながら勝利の喜びを噛みしめる生嶋。

 

「きゃあー! 勝ったよ姫ちゃん!」

 

「…うん! 良かった…!」

 

姫川を抱きしめながら喜ぶ相川と涙を流しながら笑顔を浮かべる姫川。

 

「勝った! 勝ったんだよ俺達!」

 

「ああ!」

 

ベンチの竜崎が室井の肩に腕を回しながら喜び、返事をしながら笑顔で室井も喜びを露にした。

 

「っしゃぁぁぁぁぁっ!!! 勝ったぁぁぁぁっ!!!」

 

「菅野先輩、痛いです…!」

 

大声で叫びながら帆足の頭を腕で締め上げる菅野と菅野の腕をタップしながらも笑顔で喜ぶ帆足。

 

「…」

 

「…くそっ!」

 

悲痛の表情で両目を閉じながら天を仰ぐ永野と負けた悔しさをコートを蹴ってぶつける木下。

 

「あぁ…! あぁ…!」

 

「ウワァァァァッ!!!」

 

溢れる涙を腕で拭いながら涙を流す渡辺とコートに膝を付きながら号泣するアンリ。

 

「……勝った」

 

決勝点を決めた大地。未だ勝利した実感が湧かないのか茫然としている。

 

「……っ! 空!」

 

ここで空の事を思い出した大地は空が倒れた陽泉ベンチに視線を向ける。するとそこには既に上杉の姿があった。

 

「神城!」

 

普段は凛とした表情の上杉が珍しく声を荒げ、空の下に駆け付けた。

 

「上杉さん。気を失っているだけです。脳震盪を起こした身体で無理をした事が原因でしょう。早く医者の下へ運ぶべきです」

 

「そうか。…担架を!」

 

上杉が呼ぶと、担架を持ったスタッフが2名駆け付け、慎重に空を担架に乗せ、搬送を始めた。

 

『凄かったぞ!』

 

『ナイスガッツだ!』

 

『早くまたお前のプレーを見せてくれよ!』

 

運ばれる空に対し、観客は惜しみない拍手と声援を贈った。

 

「…ふぅ、やれやれ、神城空。忌々しい奴だ」

 

「ん?」

 

「気を失ったというのに満足そうな笑いながら拳を握って…。まるで勝つのが分かっていたみたいではないですか」

 

溜息を吐きながら自嘲気味に言う荒木。

 

「…そういう奴だ。あいつは」

 

空に視線を向けながら上杉は返した。

 

「…またあなたに届かなかった。私達の負けです」

 

「少しこちらに運が向いていたというだけだ」

 

「去年と今日の借りは冬に全て返します」

 

そう言って荒木は右手を差し出した。

 

「また試合出来る日が来る事を楽しみにしている」

 

その手を握り、2人は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…」

 

自身のベンチへと戻る上杉の背中を見つめる荒木。

 

「神城空…、彼を見ていると上杉さん、あなたを思い出す。彼は現役時代のあなたそっくりだ。…良くも悪くも…」

 

上杉の背中に哀愁漂う表情で呟く荒木だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「100対99で花月高校の勝ち!」

 

『ありがとうございました!』

 

センターサークル内に集まった両校の選手達が礼をした。

 

「このまま勝ち続けろよ」

 

「当然。優勝したるわ」

 

永野と天野が握手を交わす。

 

「やっぱり、君は強いね」

 

「お前も強かった。また戦おう」

 

松永と渡辺が握手を交わす。

 

「悔しいが負けだ。だが、シューターとしては俺の方が上だからな」

 

「僕の方が上だよ。…とてもいい経験が出来ました。またお願いします」

 

生嶋と木下が握手を交わした。

 

「ウォォォォォン! 次ワ負ケナイカラナ!」

 

「こちらこそ、次も負けません」

 

大地とアンリが握手を交わした。

 

両校の選手同士が健闘を称え合い、握手を交わしていく。

 

「?」

 

その時、大地は紫原の姿がない事に気付いた。姿を探すと、紫原は最後の礼を交わしたの同時にベンチに戻っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

ベンチへ音を鳴らしながら紫原が腰掛けた。

 

「…っ」

 

タオルを頭から被った紫原。膝の上で両拳をきつく握り締めているが、その拳はブルブルと震えていた。

 

「……紫原」

 

そんな紫原に荒木が声を掛ける。

 

「……最後までもった。最後まで戦えた。…何でだよ!? …何で…!」

 

負けた事が納得出来ない紫原。堪えるものを抑えながら叫ぶ。

 

「……花月の方が強かった。それだけだ」

 

そんな紫原に淡々と告げる荒木。

 

「…っ!」

 

その言葉に納得出来なかった紫原は荒木を睨み付ける。

 

「負けたお前のせいではない。負けたのは全て私の責任だ」

 

「っ!?」

 

「良く頑張った。次は勝とう」

 

睨み付ける紫原を優しく諭すように荒木は声を掛けた。

 

「…っ、ちくしょう…、ちくしょう…!」

 

悔しさを噛みしめながら紫原は涙を流したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…まさか、勝っちまうとはな」

 

観客席の一角、誠凛の朝日奈が驚きの表情で呟く。

 

「…よし! スゲーよあいつら!」

 

空と大地の元チームメイトである田仲は自分の事のように喜んでいた。

 

「…花月とはつい最近合宿で共に過ごした仲だが、相手が陽泉じゃ勝ち目はないと思ってた。正直、どこまでやれるか、その程度の期待だった。…まさか、勝っちまうとはな」

 

あの陽泉を倒してしまった事に驚きを隠せず、思わず苦笑する火神。

 

「ようするに、ラッキーな方が勝ち上がったって事だろ? これで俺達の優勝がぐっと近付いたぜ」

 

鼻で笑いながら池永が言った。

 

「っ! お前…!」

 

「試合終わったし、トイレ行ってくるわ」

 

水を差すような言葉に田仲が口を挟もうとするも、池永はその場を後にしていった。

 

「ほっとけ」

 

「火神さん?」

 

釈然としない田仲の肩に火神が手を置きながら制止した。

 

「本気で言ってたなら説教の1つでもくれてやるつもりだが、そうでもないみたいだしな」

 

「えっ?」

 

「彼の目は驕りでも油断でもなく、真剣そのものでした。多分、池永君も花月の勝利を望んでいたのでしょう」

 

黒子が火神の言葉に補足するように池永のフォローを入れた。

 

「お前もあいつと同じ気持ちなんだろ? 新海」

 

「……俺は相手が誰であれ、自分の出来る事を全力で尽くすだけです」

 

突如、火神に振られたが、淡々と返す新海。その目は池永と同じく真剣そのもので、心なしか、笑みが浮かんでいた。

 

「さあみんな! 今日は私達も試合があるのよ。そろそろ準備を始めるわよ!」

 

『はい!!!』

 

リコの号令を出すと、誠凛の選手達は席から立ち上がり、試合の準備に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…陽泉が負けたか」

 

同じく観客席に座る洛山の選手達。まさかの結果に言葉を失っていた。

 

「…試合は終わった。これから試合前の最終ミーティングだ。皆、行くぞ」

 

赤司が静かに告げると、洛山の選手達は一斉に立ち上がり、移動を始めた。

 

「赤司も参加するのか? 監督が今日の試合、赤司の出場予定はないから他に気になる試合があるならこのまま残っていても良いって…」

 

「その予定だったが、今日の試合、俺も試合の頭から出してもらうよう監督に志願するつもりだ」

 

気を遣った四条が赤司に提案するが、赤司は首を横に振った。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「やはりインターハイの緒戦だけに、何が起こるか分からないからね。調子と会場の感触を確かめる意味も含めて試合に出た方がいいと判断したまでだよ」

 

意図を尋ねる四条に赤司は淡々と答えた。

 

「(…今言った事は嘘じゃないんだろうが、本当の所、今の試合にあてられたってのが理由か)」

 

先の試合の結果を受けて、感化されたのが大本の理由だろうと推理した四条。その根拠は、赤司の目に熱いものをみたからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

場所は変わって控室。海常の選手達が試合に向けて準備をしていた。試合を偵察していた者からの報告を受けて、選手達を言葉を驚きを隠せなかった。

 

「まさか花月があの陽泉を…」

 

結果を聞いても信じる事が出来ない末広。

 

「俺としては嬉しい限りだけどな。全中の借りを返したいからな」

 

小牧は花月の勝利を素直に喜んでいた。

 

「いやー驚いたッスよ。紫原っちに勝っちゃうんスから」

 

陽泉が圧倒的優勢と見ていた黄瀬はこの結果に驚いていた。

 

「あの2人は昔から信じられん奇跡を起こす奴らじゃ。ワシはやってくれると思っとった!」

 

豪快に笑いながら勝利を喜ぶ三枝。

 

「紫原っちに去年の借りを返したかったッスけど、仕方ないッスね」

 

同じキセキの世代を冠し、昨年の冬に敗れた陽泉と試合を熱望していた黄瀬は少し残念そうに笑った。

 

「(あの紫原っちのいる陽泉に勝った今、花月は俺達と同等…いや、それ以上ッスね。お互い勝ち上がってぶつかったなら、その時は全てを出し切る事になりそうッスね)」

 

ここで黄瀬は自身の座るベンチの横に置いてあるインターハイのトーナメント表に視線を移す。

 

「(ぶつかるのは準々決勝。…けどその1つ前。そこでもう1人借りを返さなきゃならない人がいるッス)」

 

トーナメント表の一角を見ていた黄瀬は胸の内に闘志を燃やしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「いやーまさかあの陽泉に花月が勝っちまうとはなー」

 

試合の準備を進めていた秀徳選手達。偵察班からの報せを聞いて選手達は驚いていた。

 

「去年とメンバー入れ替えがないとはいえ、今年の陽泉はもしかすればここ数年で最強かもしれないのに…」

 

同じく準備をしていた木村も思わず手が止まっていた。

 

『…』

 

他の選手達も一同に言葉を失っていた。

 

「…仮にも俺達に勝ったチームだ。簡単に負けられては困るのだよ」

 

静まり返る控室。その時、淡々と爪の手入れをしていた緑間が静寂を打ち破るように言葉を発した。

 

「狼狽える必要はない。何処が勝とうと関係ない。俺達は今日まで人事を尽くしてきた。故に、俺達は負けん」

 

最後の爪の手入れが終わった緑間は爪とぎを置き立ち上がった。

 

「例え奴等がこの先勝ち上がれたとしても、戦うのは当分先だ。それよりも、今は目の前の相手に集中する時だ。余計な事に気を回すな」

 

未だ動揺しているチームメイトに檄を飛ばした。

 

「ま、真ちゃんの言う通りだな。次の試合も勝って俺達も続こうぜ」

 

軽い口調で高尾が続いた。

 

「(…昨年の敗北は、自分の未熟さと共に新たな可能性を見つける事が出来た。その礼は雪辱を果たすと共に返す。その為にも俺は負けん。花月、お前達も必ず勝ち上がって来い!)」

 

真剣な目付きで緑間は心中で思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…目の前で見てたのにホント信じられねえわ」

 

観客席に座る福山が茫然とコートを見つめながら呟く。

 

「去年戦った時より遙かに強くなっていました。正直、ここまでとは…」

 

昨年の冬に勝利している桐皇。花月はその時とほとんど同じメンバー。だが、花月は新たな新戦力を得てさらに強くなっていた。その事を目の前で痛感した桜井。

 

「…勝ち上がったらもう1度アレとやらんかもしれんと考えると憂鬱やわ。あいつらの相手めっちゃしんどいねん」

 

思わず昨年の激闘を思い出してげんなりする今吉。

 

「…でもまあ、まだやるとしても先の話だ。今は目の前の試合に集中しねえとな! よしお前ら! そろそろ準備を始めるぞ!」

 

『はい!!!』

 

主将の福山の言葉に選手達が応えた。

 

「……ところで、青峰の奴は何処に行った」

 

「青峰さんなら試合が終わってすぐに何処かに……すいません!」

 

青峰がいない事に気付いた福山の表情が険しくなる。謝りながら桜井が説明した。

 

「…相変わらず集団行動が出来ねえ奴だ。まあいい、放っておいて行くぞ」

 

「ええのですか?」

 

「あいつの性格はいい加減理解してるよ。まだ時間はあるし、試合前にはちゃんと来るだろうからそれまで放っとけ」

 

「キャプテンがそう言うんやったらそうしますわ」

 

諦め顔の福山。今吉は特にものを言う事無く従ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…」

 

観客席の通路を1人歩く青峰。その表情は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「(…まさか、あの紫原に勝っちまうとはな)」

 

青峰の当初の予想では陽泉勝利で花月はある程度食らいついていくの精一杯だろうと言う程度だった。しかし、花月はその予想を裏切った。

 

「(想定外だったのはあの綾瀬がゾーンに入った事だ。正直、あいつには無理だと思ってた)」

 

才能はあってもバスケへの熱が薄かった大地。ゾーンの扉を開ける条件を満たせてなかった為、開けなかった。しかし、空の負傷退場を目の当たりにして熱を取り戻し、結果、扉を開いた。

 

「(…ハハッ! 次はもっと楽しめるってわけだ。最高じゃねえか!)」

 

今から再戦を待ち遠しく感じる青峰。

 

「(…ま、それは後だ。その前に黄瀬を倒さねえとな)」

 

思い出すのは花月の前に待ち受ける強敵の対戦。3回戦でぶつかるであろう自身と同じキセキの世代、黄瀬涼太と彼が海常高校。ここに勝たなくては花月との再戦は実現しない。

 

「(海常には黄瀬の他に気になる奴が1人。そいつも俺と何処までやれるか――)…あん?」

 

その時、青峰の視線に1人の男が映る。

 

「…」

 

手すりにもたれかかりながらコートに視線を送る1人の青年。

 

「試合に出てねえからどうしたもんかと思ったけど、あいつも結構やるじゃん」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながら独り言を呟く青年。

 

「大ちゃん!」

 

そこへ、青峰を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「もう! いつも勝手にいなくならないでって言ってるでしょ!」

 

不機嫌な表情でやってきた桃井が諫めるように青峰に言う。

 

「るせーな。試合までに戻るってるんだから別に構わねえだろ」

 

そんな桃井に対してげんなりしながら青峰は返した。

 

「ところでよ、あいつ何処の誰か分かるか?」

 

先程いた青年を指差しながら尋ねる青峰。

 

「? どの人?」

 

「あいつだよ。そこに……ちっ」

 

青年がいた方へ視線を向けるとそこには青年の姿がなく、舌打ちをする。

 

「いや、もういいわ」

 

興味をなくした青峰はその場を歩き出した。

 

「ちょっと大ちゃん! もうすぐ試合が始まるんだよ!?」

 

「分かってるよ。だから準備に行くんじゃねえか。デケー声出すな」

 

耳を小指ほじりながら青峰は桐皇の控室に向かった。

 

「(…かなりやる感じがしたんだがな、まあいい、期待どおりなら嫌でも名が挙がるだろうし、そうでなければその程度って事だ)」

 

青峰は試合の準備に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「脳震盪を起こした身体で無理をし過ぎたのが原因です。明日は絶対安静にさせて下さい。自覚症状と検査に異常がなければ早ければ明後日の試合には出場出来ると思いますので」

 

「ありがとうございます。それではよろしくお願いします」

 

医者の診断を受けた上杉は頭を下げ、医務室を後にした。

 

「…ふぅ」

 

医務室を出た上杉は軽く溜息を吐いた。

 

空の診断結果は明日1日は絶対安静。経過次第では明後日以降ならば試合出場可能という診断だった。特に大きな異常は確認出来ず、比較的軽い症状と言える診断であり、上杉は軽く安堵した。

 

「よう」

 

そこへ、1人の男がやってきて上杉に声を掛けた。

 

「…トラか」

 

やってきたのは上杉の旧知の仲であり、現誠凛の臨時の監督である相田景虎であった。

 

「まずは試合の勝利、おめでとうと言わせてもらうぜ」

 

先程の試合の勝利を労う景虎。

 

「それはわざわざすまないな。……それだけではないんだろう? お前がそんな事を言う為にわざわざここまで来るとは思えないからな」

 

「ご名答。本題はこっちだ。……ゴウ、今日の試合、何故神城を試合に出した」

 

「…」

 

普段の不敵な笑みから一変、真剣な表情で景虎は上杉に尋ねた。

 

「観客席から見てても一目瞭然だった。どう考えても神城は試合に出していい状態ではなかった。傍で見ていたお前にそれが分からねえはずはねえ。…何故だ?」

 

「勝つ為だ」

 

景虎の問いに対し、上杉は短くそう答えた。

 

「…確かに、監督の仕事は試合に勝たせる事だ。…だがな、それ以上に選手を守るのが監督の仕事であり努めだろうが。お前、選手を壊す気か?」

 

上杉の傍まで歩み寄った景虎は語気を荒げながら尋ねた。

 

「選手は時として冷静な判断が出来ない。ましてや高校生ならなおの事だ。そんな時に判断を下すのが監督の仕事だろ! 例え負ける事になっても――」

 

「捨てろと言うのか? 選手達が試合を諦めてない中、監督が最初に試合を捨てろと言うのか?」

 

「…っ!」

 

はっきりとした口調と真剣な眼差しで言い放つ上杉。

 

「お前が1番理解してるだろ!?」

 

遂に怒りが爆発した景虎が上杉に胸倉を掴み上げた。

 

「下手をすれば2度とバスケが出来なくなったかもしれねえ! もしここでそうなってたなら、神城は絶対後悔する。それをお前自身が理解してやれなくてどうすんだよ!」

 

「…」

 

景虎の激しい怒りを上杉は無言で受け止める。ハッとした景虎は手を放した。

 

「…悪い、今のは言い過ぎた。だがな、選手を最後に守れるのはお前なんだ。かつて、俺達の中でもっとも才能があり、NBA入りまで決まっていたのに、あの日、無理を推して試合に出たばっかりに勝利と引き換えにお前は現役を引退せざるを得なかった」

 

「…」

 

「プレイスタイルは違うが、神城はお前の現役時代にそっくりだ、どんな障害も強大な敵も、勝つ為なら例えその場で燃え尽きる事になっても戦い抜くあの姿はお前に瓜二つだ。…だがな、今のお前は選手じゃねえ、監督なんだ。そして神城はお前じゃねえ。それを忘れるな」

 

「…」

 

「言いたい事はそれだけだ」

 

そう告げて、景虎は踵を返してその場を歩き出した。

 

「…トラ」

 

上杉が呼び止めると、景虎は足を止めた。

 

「お前の言葉は肝に銘じる。助言感謝する」

 

「…」

 

「…後、俺は後悔していない。あの時俺は全てを出し切った。例え時間が戻っても俺は同じ事をするだろう」

 

「…そうか」

 

寂しそうな表情で返すと、景虎はその場を後にしていった。

 

「…まだインターハイは始まったばかりだ。ここからが正念場だ」

 

気合いを入れなおした上杉は選手達の待つ控室へと向かって行った。

 

 

――花月、緒戦突破…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





長い長い試合が終わり、次の試合に進むのですが、基本、花月以外の試合はほぼダイジェスト風に進むと思います。上手く書けないのと書いたらとんでもない話数になると思うので…(;^ω^)

次話は続く2回戦の話になると思います。…さて、ネタを集めねば…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第112Q~アクシデント~


投稿します!

2回戦の日程を全て消化します。

それではどうぞ!



 

 

 

花月対陽泉の試合は昨年の冬に続いて番狂わせを起こり、優勝候補の一角であった陽泉を花月が降した。

 

インターハイ2回戦はまだ始まったばかりで、花月に続き、シード校の試合が始まる。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

誠凛高校、火神のワンハンドダンクが炸裂する。

 

『キタァァァァァァッ! 誠凛火神の代名詞のダンク!』

 

ハイジャンプからのダンクに観客が沸き上がる。

 

シード校であった誠凛は1回戦がなく、2回戦である今日がインターハイ初試合である。相手は1回戦を勝ち上がった島根県代表の矢満田高校。だが、緊張はなく、先程の花月対陽泉戦に触発されたのか、誠凛の選手達は軒並み気合いが入っていた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

ボールを回す相手選手だったが、そのパスを新海がスティールした。

 

「速攻!」

 

スティールと同時に新海はそのままドリブル。速攻をかけた。

 

「くそっ! 決めさせるか!」

 

何とか新海の速攻に追い付いた相手選手が回り込み、進攻を阻んだ。

 

「4番(火神)をチェックしろ!」

 

新海の後ろから続いて速攻に走る火神を要警戒し、指示を飛ばす。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

ここで新海はパスを出す。左から走る火神……ではなく、右へとボールを弾ませながらパスを出した。

 

「ナイスパス! 誠凛は火神だけじゃねぇんだよ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを受け取った池永。池永はそのままボールを右手で掴んで跳躍し、そのままリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

2連続ダンクに観客がさらに沸き上がった。

 

「いいぞ池永! ナイスパスだ新海!」

 

「当然だろ!」

 

「うす」

 

得点とアシストをした池永、新海を労う火神。池永は不敵な笑みでガッツポーズをし、新海はそのまま表情で頷いた。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

相手センターのゴール下からのアタックを田仲がブロック。ルーズボールをすぐさま拾い、新海にボールを渡して速攻。ペイントエリアまで右へとボールを流した。

 

「ナイスパス」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取った朝日奈は即停止し、そこからジャンプショットを放つ。ボールはリングの中心を射抜いた。

 

『去年の主力がいなくなっても誠凛強ぇーっ!』

 

今年の誠凛は日向や伊月、木吉と言った昨年までの主力が抜け、新体制となっているのだが、昨年時の勢いそのまま…いや、昨年以上の勢いで試合を進めていた。

 

新海が巧みにボールを運び、火神、池永が得点を量産。朝日奈と田仲が上手くフォローしつつも着実に得点を重ねていった。

 

試合は完全に誠凛ペースで進み、相手チームに1度も流れを渡す事無く優勢に試合を進めている。

 

「(…うずうず)」

 

ベンチにて黒子がうずうずさせている。チームの皆が試合で活躍しているを見て自身も試合に出たくてたまらないのだ。

 

「黒子君。悪いけど今日は試合に出さないつもりだからそのつもりでね」

 

「分かっています。…けど、身体が疼いて仕方ありません」

 

リコが声を掛けて落ち着かせるが、黒子は理解しているのだが、身体を疼かせている。

 

「黒子、明日以降は出番があるんだしさ…」

 

「今は我慢しようぜ!」

 

「そうだよ。俺達と一緒に応援しようぜ!」

 

同学年の降旗、河原、福田が黒子に声を掛ける。

 

「言っとくけど、あなた達はすぐに試合なんだからいつでも試合に出れる準備をしておきなさないよ」

 

『えっ!?』

 

リコの言葉に3人は思わず声を失う。

 

「当たり前でしょ? 点差が付いたらスタメンは少しずつ下げて休ませるんだから、早ければこのQからでも投入するわよ」

 

『…』

 

まさかの言葉に3人の背中にプレッシャーがのしかかる。

 

「何ビビってんの! あなた達も試合に出る為に頑張ってきたんでしょ? なら、覚悟を決めなさい。…心配いらないわ。あなた達は今日まで私の練習に耐えてきたんだから充分やれるわ! それに、一昨年の赤司君のマッチアップに比べればなんてことないはずよ」

 

「っ! そ、そうだな」

 

「そうだよ。こんなん一昨年のウィンターカップの時と比べれば余裕だよな!」

 

「そうだ! 俺達も頑張らないと! さっそくアップを始めよう!」

 

胸にあった不安は薄まり、闘志が高まり始め、アップを始めた。

 

「……羨ましいです」

 

そんな3人を黒子は羨望の眼差しで見ていたのだった。

 

試合は誠凛が危なげなく快勝し、緒戦突破した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

同じくシード校の1校である洛山高校…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「よし!」

 

赤司からパスを受けた四条がジャンプショットを決める。

 

急遽先発出場した赤司が巧みにゲームメイクをし、洛山が圧倒的な力で滋賀県代表田岡高校を圧倒していった。

 

赤司のゲームメイクは完璧の一言で、相手に一切の追随を許さず、チームメイトの4人を存分に活かしながら試合を進めた。

 

第2Qが終わる頃には圧倒的な点差が開いており、赤司はここでベンチに下がった。第2Qが終わるとスタメンが2人下がり、第3Q中盤を回る頃にはスタメンは全員ベンチに下がっていた。

 

スタメンが下がり、何とか一矢報いて再びスタメンを引きずり出したい田岡高校だったが、控えであっても洛山の選手。点差を縮める事なく試合を進め、そして、洛山は緒戦を突破した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

緑間率いる秀徳高校と鹿児島県代表の大蔵高校との試合が始まる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

秀徳のポイントガードである高尾がボールを運び、広い視野を持つホークアイを生かしてボールを供給する。

 

「むん!」

 

緑間は自身の代名詞のスリーではなく、背中をぶつけて相手を押し込んでいく。

 

 

――バス!!!

 

 

ローポストまで押し込み、そこから反転し、距離を作って後方に飛びながらフェイダウェイでシュートを放ち、バンクショットで得点を決めた。

 

1回戦同様、緑間はスリーではなく、積極的に中に切り込み、ミドルショット、またはポストアップで押し込んでローポストからのアタックなど、バリエーション豊かなオフェンスを見せた。

 

他の秀徳の選手達も緑間に負けじと得点を重ね、リードを広げていく。広がりゆく点差を目の当たりにしてどんどん焦りを広げていく大蔵高校の選手達。

 

「あっ!?」

 

大蔵高校の選手の1人が声を上げる。

 

スリーポイントライン2メートル手前でボールを持った緑間。大蔵高校は中を固めてオフェンスに備えていた。しかし、緑間は中に切り込まず、そこからシュート態勢に入り、ボールを放った。

 

「…」

 

高いループで放たれた緑間のボール。放ったのと同時に踵を返し、ディフェンスに戻る緑間。言葉を失う大蔵高校の選手達。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは高いループから落下し、リングの中央を射抜いた。

 

『出たー!!! 緑間の代名詞、高弾道スリー!!!』

 

この日初めて飛び出した緑間のスリーに観客は興奮した。

 

「1本、止めるぞ! 気を緩めるな!」

 

『おう!!!』

 

緑間が檄を飛ばし、さらに気合いを入れた秀徳の選手達。試合は秀徳が圧倒的な優勢なまま勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

続いて始まったのは海常高校と宮城県代表、笹野高校との試合。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

小牧が一気に加速。中へとカットインする。

 

「囲め!」

 

中へ切り込まれたと同時に笹野の選手達が小牧を包囲する為に集まる。

 

 

――スッ…。

 

 

だが、小牧は慌てる事なく包囲される前にボールを外に出した。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った末広がゴール下を沈めた。

 

「ナイスパスッスよ!」

 

「どうもです!」

 

「いいぞ! その調子だ!」

 

「あざっす!」

 

アシストした小牧を黄瀬が、得点を決めた末広を三枝が労った。

 

この日は黄瀬、三枝以外の選手達が奮起。存在感を露にした。

 

『スゲーぞ! 今年の海常は黄瀬のワンマンチームじゃねえぞ!?』

 

周囲の選手達の奮闘を見て観客はその評価を改めた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

もちろん、黄瀬も要所要所で活躍を見せる。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

三枝も同様にインサイドからの攻撃をことごとくブロックし、その存在感をアピールした。

 

第2Q終盤には明日の試合に備え、黄瀬と三枝がベンチに下がった。後を引き継いだ選手達がそこからさらに奮闘し、リードを広げていった。

 

そして海常は1回戦同様圧倒的な力を見せつけ、2回戦を突破した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

ここは桐皇選手達の控室。観客の歓声が微かに響き渡る。

 

『…』

 

迫る試合に向けて選手達が準備を進める。

 

「……あん? …ちっ」

 

バッシュの靴紐を結んでいた青峰が舌打ちをする。

 

「さつきー」

 

「どうしたの?」

 

同じく試合の準備を進めていた桃井を呼ぶ青峰。

 

「バッシュの紐が切れた。替えの紐取ってくれ」

 

「はーい。……あった! はいこれ! …けど、そのバッシュってまだ買ってまもないよね? もう切れちゃったの?」

 

紐を渡しながら尋ねる桃井。

 

「ったくめんどくせえ…」

 

ポツリとボヤキながら切れた靴紐を外し、新しい靴紐を結ぶ青峰。

 

「おいおい、靴紐が切れるとか縁起わりーな、今日の試合で何か起きるんじゃねえか?」

 

横目で見ていた福山が半分茶化しながら尋ねる。

 

「ハッ! 馬鹿か。あの程度の雑魚相手に起こるわけねえだろ」

 

呆れながら返す青峰。

 

事前の情報と先程のハーフタイム中の練習を横目で見ていた青峰は、力の差が歴然である事を理解していた為、福山の言葉を一笑する。

 

だが、この時は誰も思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――福山が何気なく言った言葉が現実になるとは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

桐皇の試合が始まると、特攻隊長桜井のスリーを皮切りに桐皇の圧倒的なオフェンスが茨城県代表、馬原高校に牙を向く。

 

 

――バス!!!

 

 

青峰の無造作に投げたボールがバックボードに当たりながらリングを潜り抜ける。

 

つまらないと感じながらも、それでもエースとしての役割を果たし、得点を重ねていく。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

相手選手の不用意に出したパスを今吉がスティールする。

 

ディフェンスでも桃井のデータが健在。相手の動きを先読みし、相手はミスを連発。パスをカットされるか、ブロックされるかを繰り返していた。

 

試合は第1Qが終わる頃に既に点差は大きく開いていた。そして第2Q中盤、それは起こった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ピピーーーー!!!』

 

『レフェリータイム!』

 

審判が笛を吹き、試合を中断する。

 

「……ぐっ…!」

 

コート上の一角で、青峰が右足を抑えながら倒れていた。

 

「……っ」

 

目の前で相手選手の1人が茫然と座り込んでいた。

 

…事故だった。

 

第2Qに突入しても尚も広がっていく点差。

 

「(…俺が何とかしなくちゃ!)」

 

馬原高校の9番がこの流れを変えなければと焦り、動く。

 

この選手は2年生で唯一のスタメンに抜擢された選手で、先輩を差し置いての抜擢に大きなプレッシャーがのしかかっていた。

 

広がる点差。プレッシャーからくる使命感に駆られ、この流れを変える為に動いた。…最悪のタイミングで。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

中へと切り込む青峰。その青峰と止める為に慌ててヘルプに飛び出す9番。ここで不幸が起こってしまう。

 

青峰が加速し、ちょうどスピードが乗り切ったタイミングで青峰の死角、選手の影から飛び出る形で飛び出してしまった相手の9番。

 

 

――ドン!!!

 

 

激突してしまう青峰と馬原高校の9番。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

ファールと判断した審判が笛を吹いた。

 

笛が鳴り終えると、尻餅を付いたまま茫然とする9番と、右足を抑えながら蹲る青峰。

 

『アンスポーツマンライクファール、白9番!』

 

審判はアンスポをコールした。

 

「青峰!」

 

非常事態である事を察知した福山が青峰の下に駆け寄る。

 

「くそっ…! あの野郎…!」

 

痛みを堪えながら相手9番を睨み付ける青峰。

 

「とりあえず、ベンチまで運ぶぞ。國枝! 手伝ってくれ!」

 

「うす!」

 

福山は國枝を指名し、それぞれの肩に腕を回し、ベンチまで運んでいった。

 

「右足ですね? 青峰君、バッシュを脱がしますよ」

 

一言告げてから靴紐を解き、バッシュを脱がせる原澤。

 

「……新村君、すぐに準備を始めて下さい」

 

原澤は右足の様子を見てすぐにこれ以上の続行は不可能と判断し、交代を命じた。

 

『メンバーチェンジ!』

 

準備を終えた新村がコートへと入る。

 

直後、やってきた担架に青峰を乗せ、運ばれていった。

 

突如、青峰を失った桐皇。そのQ中は動揺もあり、リードが縮まったが、第3Qが始まる頃には気持ちを切り替え、試合に臨んだ。

 

エースを失ってもその桐皇は健在で、その後の試合は終始相手を圧倒し、桐皇が勝利したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

医務室に運ばれた青峰は医者の診断を受け、治療処置を受けた。

 

「捻挫ですね。足に負担がかからないように安静にして足を冷やして下さい。その際は凍傷にならないよう気を付けて――」

 

「んな事はどうでもいい。明日には治んだろうな?」

 

「ちょっと、お医者様に失礼でしょ!」

 

医者の言葉を遮りながら乱暴に尋ねる青峰に、医務室まで同行した桃井が諫める。

 

「るせーな。…で、どうなんだよ?」

 

「…残念ですが、この足では試合どころか歩く事さえ困難です。明日までにはとてもではありませんが…」

 

「ふざけんじゃねぇぞ! てめえ医者だろ!? 何とかしやがれ!」

 

診断に納得がいかなかった青峰は医者に掴みかかる。

 

「ちょ、ちょっと大ちゃん! やめなって!」

 

そんな青峰にしがみ付きながら止める桃井。

 

「青峰君、やめなさい」

 

そこへ、入り口から監督である原澤がやってきて青峰を制止した。

 

「…ちっ」

 

原澤に諫められ、渋々医者から手を放す青峰。

 

「監督! 試合は…」

 

「えぇ、試合は先程終わりました。無事、勝利しましたよ」

 

試合結果を聞いた桃井は結果を聞いて胸を撫で下ろした。

 

「遅れて申し訳ありません。…それで、診断の結果は?」

 

「捻挫です。全治は一ヶ月程でしょう。それまで、激しい運動は控えて下さい」

 

「…ふむ、そうですか。それは困りましたね」

 

診断結果を聞いた腹差は顎に手を当てながら思案した。

 

「やむを得ませんね。明日からは青峰君抜きで戦うしかありませんね」

 

「っ!? ふざけんじゃねぇぞ! 俺抜きで黄瀬に勝てる訳ねえだろうが!」

 

苦渋の決断をした原澤に青峰が激怒した。

 

「その足では致し方ないでしょう。…気持ちは分かりますが、堪えて下さい」

 

「冗談じゃねえ! 俺は出るぞ。俺がいなきゃあいつには勝てねえんだからな」

 

それでも試合を強行しようとする青峰。

 

「ふぅ。…やれやれ困りましたね。では言い方を変えましょうか。青峰君。まともに歩く事も出来ないあなたではかえって足手纏いです。大人しくベンチに下がって下さい」

 

「…っ! …ざけんじゃねえ…! こんなの認められる訳ねえだろ…! おい、ホントにどうにもなんねえのかよ?」

 

縋るような気持ちで青峰が医者に尋ねる。医者は首を横に振り…。

 

「残念ですが…」

 

青峰にとって非常の言葉を投げかけたのだった。

 

「ちくしょう…、何でこんな…! ちくしょうがぁっ!!!」

 

非情の結末に、青峰は悔しさからくる怒りを座っている椅子にぶつける事しか出来なかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「黒子! 医務室ってどっちだ!?」

 

「こっちです、火神君!」

 

火神と黒子が慌てながら医務室を目指す。

 

誠凛の試合が終わり、試合の反省会を兼ねたミーティングが終了後、他校の試合の観戦に向かった誠凛の選手達。そこで青峰がコートにもベンチにもいない事に気付き、疑問に思っていると、近くの観客同士の会話で事情を知り、居ても立っても居られなくなった火神と黒子は一目散に医務室へと向かっていた。

 

「あそこです!」

 

医務室を見つけた黒子が指差し、2人はそこへ向かう。同時に医務室から原澤が出てきた。

 

「おや? 君達は誠凛の…」

 

「すいません、青峰が運ばれたって聞いて! それで、青峰は!?」

 

血相を変えて原澤に容体を尋ねる。

 

「捻挫です。少なくとも、選手生命に関わるよう重い怪我ではありませんよ」

 

「…っ、そうですか」

 

軽症である事を聞いて胸を撫で下ろす火神と黒子。

 

「ですが、今年のインターハイの試合にはもう出場出来ません」

 

「っ!? そんな!」

 

「…っ!?」

 

続けて原澤の口から出た言葉に2人は言葉を失った。

 

「不本意ですが、仕方ありません」

 

残念そうな表情で原澤は首を横に振った。

 

「では、私は選手達を待たせているのでこれで失礼します。わざわざ彼を心配してここまで足を運んでいただきありがとうございます。では」

 

そう言い残し、原澤はその場を去っていった。それを見送り、火神が医務室のドアノブに手を伸ばそうとすると、黒子がその手を掴み、首を横に振った。

 

「…戻りましょう」

 

「戻るって、良いのかよ? 声かけていかなくて」

 

「そうしたいのはやまやまですが、それは青峰君も望んでいないでしょう。かえって青峰君を傷つける事にしかならないと思います」

 

「…っ、それもそうか」

 

青峰の立場に立ったのなら黒子の言う通りだろうと、火神は納得し、踵を返してその場を後にした。

 

「…高校最後の夏がこうなっちまうなんてな」

 

「…」

 

思わず火神の口から出た言葉に黒子は何も返す事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常控室…。

 

試合を無事快勝で終えた選手達は勝利の余韻を残しながら着替えをしていた。

 

「失礼します! 桐皇の試合が終わりました! 桐皇の勝利です」

 

偵察班が控室にやってきて結果を報告した。

 

「ま、当然ッスね」

 

報告を受けて黄瀬は当然のごとく頷いた。

 

「…それと」

 

『?』

 

何かを言いよどむ偵察班を見て他の選手達の注目を集める。

 

「試合は桐皇の勝利で終わったんですが、第2Q途中で青峰さんが相手選手と接触して、担架で運ばれて…」

 

「っ!?」

 

それを聞いた黄瀬が衝動的に部屋を飛び出そうとする。

 

「何処へ行くつもりじゃ?」

 

そんな黄瀬に三枝が声をかけて制止した。

 

「何処にって、青峰っちの所に――」

 

「行ってどうするんじゃ? 激励でもするのか? それとも同情の言葉でもかけるつもりか?」

 

「…っ」

 

その言葉を聞いて返す言葉がなく、立ち止まる黄瀬。

 

「情に駆られるなとは言わん。じゃが、情で動くな。今のお前は選手なのだからな」

 

「…」

 

その言葉を聞いてさらに言葉を失う黄瀬。

 

もし黄瀬が同じ立場であったなら、今1番会いたくないのは明日の対戦相手となるはずだった青峰だろう。そう理解してしまった黄瀬は青峰の下に向かう事は出来なかった。

 

「……一昨年の借りが返せると思ったんスけどね」

 

傍にあった椅子に座りこんだ黄瀬はそんな独り言を呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

インターハイ3日目、2回戦の試合が全て終わった。

 

花月が陽泉を相手に奇跡の番狂わせを起こした傍ら、キセキの世代のエース、青峰大輝が試合中の不幸な事故により、戦線離脱を余儀なくされた。

 

2回戦が終え、インターハイは4日目へと突入する。

 

翌日、8校の生き残りを賭けた激闘が、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





これで2回戦は終了です。

内容に恐らく納得出来ない方もいると思います。負傷による戦線離脱ではなく、真っ当に戦わせて負けでも良いのでは? という方もいると思いますが、そうなると、どうしても桐皇がそこそこの点差を付けられて負ける展開か、接戦にしても三枝が事実上のかませ犬となってしまう事が否めず、もちろん、話を上手く作れる人は双方立てながら上手く描写出来ると思いますが、自分の想像力では無理だったのですみません…m(_ _)m

さて、次から3回戦。ネタを探しながらの投稿となります。書けるかな…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第113Q~伏兵~


投稿します!

早くも3回戦です。

それではどうぞ!



 

 

 

翌日…。

 

インターハイ4日目、3回戦が始まる。

 

準々決勝進出をかけた16校が生き残りをかけた試合が行われる。

 

「行くぞ、お前ら!」

 

『はい!!!』

 

会場の手前で上杉が選手達に檄を飛ばし、選手達がこれに応えた。

 

「(今日も…いや、今日に限った話やあらへんけど、気合い入れな。昨日はあれやったが、今日はバンバンリバウンド取るでぇ!)」

 

「(僕が外を決めればチームが勢いづく。今日は1本も外さない気持ちで…いや、1本も外さない!)」

 

「(インサイドの要を担うはずの俺が昨日は役に立たなかった。同じ轍は踏まん!)」

 

天野、生嶋、松永が心中で気合いを入れる。

 

花月の選手達の中に、1人の選手の姿が見えない。そう、空の姿がない。昨日の試合で無理をし過ぎた為、今日1日は絶対安静を言い渡された為、空は旅館で静養している。

 

「(今日は俺がスターター…、それも司令塔だ。キャプテンの代わりは何としても俺が務める!)」

 

空不在の穴を埋める為に竜崎がスタメン予定の為、ひと際気合いを入れる竜崎。

 

「…」

 

無言で会場を見つめる大地。

 

いつもなら会場入りの際にはしゃぐ空を諫めているのだが、今日はその空がいない。

 

「(空、あなたがいないだけでこうも違うとは…)」

 

溜め息交じりで呆れながら空を諫めていたのだが、実はそれも悪くなかったと思い始めた大地。

 

『悪い、今日の試合は頼んだぜ。でもまあ、お前がいるから何も心配してないぜ。布団でグッスリしながら吉報を待ってるぜ』

 

旅館を出発前、空からそう声をかけられた大地。その様子を見て苦笑した大地だったが…。

 

「(あなたにそう言われてしまったなら、その期待に応えねばなりませんね…)」

 

相棒であり、親友の期待に応える為、大地は気合いを入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…(ざわざわ)』

 

会場入りをすると、この日も会場には観客席を埋め尽くさんばかりの観客で賑わっていた。

 

観客の目当てはキセキを冠する者達の試合。その中でも注目しているのが…。

 

 

 桐皇学園高校 × 海常高校

 

 

この2校の激突だ。

 

キセキの世代の青峰大輝を擁する桐皇学園高校。対するは黄瀬涼太が率いる海常高校。

 

しかし、昨日の試合で青峰が負傷退場している事は知れ渡っている為、今日の試合に出場するのか否か、注目されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月控室…。

 

『…』

 

目の前に迫る試合を前に、選手達は粛々と準備を進めている。

 

「全員、そのまま準備を進めながら話を聞け」

 

控室にやってきた上杉が選手達に声をかける。

 

「分かっているとは思うが、今日の試合、何があっても神城は出さん。ベンチにも入れさせん」

 

「当然やな。空坊には1日グッスリしてもらわんとな」

 

ストレッチをしながら天野が返す。

 

「昨日の試合は見事だった。…だが、それはもう忘れろ」

 

『…』

 

「そんなものはこの先…この試合には役に立たん。自分達はあくまでも挑戦者だという事を忘れるな」

 

『はい!!!』

 

「…うむ、それでは昨晩のミーティングの再確認だ」

 

選手達を見渡し、その表情を見て満足気に頷くと、試合前の最終ミーティングを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…」

 

ここは花月高校が宿泊する旅館。布団を被りながら天井を見つめる空。

 

「……ハァ」

 

溜息を吐く空。

 

今日1日静養を命じられている空だったが、昨日の試合から今までほとんど寝ていた為、目が冴えてしまい、眠る事が出来ない。その為、試合の事ばかりが気になってしまう。

 

「…ふぅ」

 

布団から上半身を起こす空。

 

「何処へ行くの?」

 

同時に部屋の脇から声をかけられる。声をかけたのは姫川。今日は試合には同行せず、空の監視と世話を兼ねて旅館に残っている。現在、自前のノートパソコンにイヤホンを指しながら他校の分析をしている。

 

「…別に、飲み物取りに行くだけだよ」

 

げんなりしながら答える空。眠れない理由の1つにこの姫川の存在である。ただでさえ目が冴えているのに、近くで人がいられては落ち着かない。一応、音が漏れないようにイヤホンで気を遣ってもらっているのだが、それでもだ。

 

「用があるなら私に言って。……はい。お茶で良い?」

 

「……サンキュ」

 

冷蔵庫から取り出したお茶を空は礼を言いながら受け取り、蓋を開けて一口飲み、再び横になった。

 

「…」

 

横にはなったものの、後頭部で両手を組み、目は閉じずに天井を見つめている。

 

「…そんなに試合が気になるの?」

 

そんな様子が目に入った姫川は声をかける。

 

「昨日だってあなたなしで立派に戦って見せたじゃない。それに今日の相手は今年初出場の無名校よ。あなたが気にする事は――」

 

「珍しいな。油断と驕りを嫌う姫川からそんな言葉が飛び出すなんて」

 

「…っ」

 

突然の空の指摘に姫川は思わずしまったと表情を曇らせ、視線を逸らした。

 

「わざわざ監視にお前を残すなんて何かあるなとは思ってたんだ。…今日の相手、何があるんだ? 教えてくれよ」

 

「…」

 

尋ねる空だが、姫川は口を閉ざした。

 

「喋んねえなら力付くでここから飛び出して試合会場まで行っても良いんだぜ?」

 

「……ハァ、分かったわ。教えるから大人しく安静にしてなさい」

 

ニヤリと悪い笑みを浮かべながら空を見て、姫川は観念して話し始める。

 

「さっきも言ったけど、今日の相手は岡山県代表、鳳舞高校今年の夏が全国初出場。それは間違いないわ。この高校は創立してまだ3年程度なのだけど、スポーツに力を入れているらしく、全国から選手達を集めているの」

 

「ふーん」

 

「それは中学生はもちろん、同じ高校生でも、様々な事情で部活を続けられない等の理由で部活を離れた者に関しても特別奨学金制度を用いて選手を集めているの」

 

「要するに引き抜きか」

 

「悪い言い方をすればそうね。そうやって集めた選手達を率いて今年、岡山県を勝ち進んで来たのだけど、その躍進の理由はとある選手を獲得した事が大きな理由なの。その選手は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『後半開始まで、10分間のインターバルに入ります。鳳舞高校、花月高校は、アップを開始して下さい』

 

コート上では第2Qが終わり、試合を行っていた選手達がベンチに下がり、控室に移動していった。入れ替わりに次の試合を行う高校の選手達が試合前の練習を行う為、コート入りした。

 

『来た来た! 待ってたぞ!』

 

『またスゲー試合見せてくれ!』

 

花月の選手達が現れると、観客が沸きだした。

 

昨年に続いてキセキの世代を擁するチームを撃破した事で今や注目度はインターハイ参加校の中でも指折りとなった花月高校。

 

『しゃす!』

 

エンドラインで一斉に礼をし、コート入りした花月選手達がウォーミングアップを開始した。

 

「来たな。昨日の試合結果が実力かそれともただのマグレか、見極めさせてもらうぜ」

 

観客席にて、試合時間までまだ時間がある誠凛の火神が不敵な笑みを浮かべながらコートを見つめていた。

 

「火神君、偉そうです。…やはり、神城君の姿はありませんね」

 

隣でいつもの表情でコートを見つめる黒子。

 

「うるせえ。…そりゃ、途中で担架で運ばれた上に最後にあんだけ無茶をしたんだ。仕方ねえな。…で、今日の相手は岡山の鳳舞高校。聞いた事ねえな」

 

「学校自体が創設してまだ3年で、バスケ部に至っては去年に出来て公式戦に参加したのが今年かららしいので、何処かうち(誠凛)と似てますね」

 

自身が所属する誠凛高校と酷似している事に親近感を覚える黒子。

 

「誠凛もキャプテン(日向)達が創設して1年目で決勝リーグまで進んでたが、いきなり全国か。どんな選手を集めて――っ!? 黒子! あいつ、見ろよ!」

 

鳳舞高校の選手達を1人1人観察していた火神がとある選手を見つけ、思わず指を指しながら声を上げた。

 

「っ!? そんな、どうして彼が…!」

 

火神が指差した先の選手を見て黒子も驚きを隠せなかった。

 

「去年姿を見なかったからてっきりバスケを辞めたかと思ってたが、こんなところにいやがったのか!」

 

そこにいたのは、かつて、ウィンターカップで海常高校と戦い、一時は海常を追い詰め、黄瀬を圧倒した…。

 

 

――灰崎祥吾だった…。

 

 

「…見て下さい。灰崎の隣の選手。彼にも見覚えありませんか?」

 

「あん? ……っ!? あいつ、丞成の…、確か、鳴海! なんでここに!?」

 

黒子が見つけたもう1人の選手。隣の灰崎より高い身長を誇る、かつて、ウィンターカップ予選で対戦した丞成高校に所属していた鳴海大介であった。

 

灰崎祥吾、鳴海大介。どちらも他県の別々の高校に所属していたはずの選手である。

 

「灰崎に鳴海。…恐らく、他の奴もヘボな訳がねえ。花月は今日神城がいないってのに、やべーぞ」

 

まさかの伏兵が現れ、火神は表情を曇らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バス!!! …バス!!!

 

 

花月の選手達はパスを出し、走ってボールを受け取り、レイアップを決める。各選手、ボールの感触、今日の調子を確かめながらウォーミングアップをしている。

 

「…っ!?」

 

大地の番となり、パスを出そうとした瞬間、何かを察知し振り返ると、大地目掛けて勢いのある威力でボールが飛んできた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

咄嗟に持っていたボールを手放した大地は飛んできたボールを右手で受け止めた。

 

「誰や!? 危ないやないか!」

 

あまりに危険な行為に天野が注意を飛ばす。

 

「あーわりぃわりぃ。手が滑っちまった」

 

そこには手をひらひらさせながら悪びれる様子もなく、ニヤニヤとしている男がいた。

 

『…っ』

 

反省の色のない態度。そもそも、今の事故などの類のものではなく、明らかにわざと…故意であるのは明白である為、花月の選手達の表情が険しくなる。

 

「…灰崎、祥吾さん」

 

大地はボールを投げつけた者の名前を呟いた。

 

「ボール、取ってくれよ」

 

「…」

 

先程飛んできたボールを要求され、大地は足元のボールを拾い、渡した。

 

「サンキュー。…そういやよー、ちょろちょろうるせー奴の姿がねえけど、何処にいるんだ?」

 

「ちょろちょろ……もしかして、空の事ですか? ここにいませんよ。昨日の怪我が癒えていませんので今日の試合は出場しません」

 

失礼な物言いに少々気に障った大地だったが、聞かれた質問に正直に答えた。

 

「あん? …チッ、聞けば、あのダイキとやり合ったつうから少し遊んでやろうと思ったのによー」

 

目当ての空がいない事に舌打ちをする灰崎。

 

「灰崎! てめえ他所にちょっかい出してねえでちゃんとアップしろ!」

 

その時、鳳舞選手の鳴海が灰崎に怒声を飛ばす。

 

「チッ、うるせーな。…言っとくがてめえらに興味なんざねえ。俺の目当ては明日の試合だ。ダイキがあの様じゃ試合に出られねえだろうから上がってくんのは間違いなくリョータだからな。せいぜいウォーミングアップ程度にはなってくれよ?」

 

それだけ告げ、灰崎は自身のチームが練習する片側のコートに戻っていった。

 

「灰崎祥吾。噂通り腐った性格しとるのう」

 

無礼の限りを尽くした灰崎を目の当たりにしてげんなりした表情をする天野。

 

「…ですが、実力はあります」

 

そうピシャリと言う大地。

 

「元はあのキセキの世代と同じ所に立っておった男や。腐っても鯛、やな」

 

「鳳舞は灰崎のワンマンチームではない。奴ばかり警戒していたら痛い目にあう」

 

「絶対的なエースに、他の4人も全国レベルの選手。キセキの世代を擁するチームと遜色ないね」

 

松永と生嶋も鳳舞を要警戒している。

 

「灰崎先輩…。俺が入学した時にはもうバスケ部にはいませんでしたから中学時代の事は俺もよく知りませんが、あの黄瀬先輩を一時は圧倒し、海常を後一歩まで追いつめた実力者…!」

 

思わず息を飲んだ竜崎。

 

「…ですが、恐れる事はありません」

 

灰崎に…鳳舞に飲まれそうになる選手達の不安をかき消すよう大地が言葉を発する。

 

「私達はあの陽泉に勝ったのですから。力を尽くして、必ず勝ちましょう」

 

笑顔で大地は告げた。

 

「ハハッ! せやな。そんで呑気に昼寝こいとる空坊に吉報を届けてやるとするかのう」

 

その笑顔に釣られるように天野が笑いながら言った。

 

「行くで! たかがキセキの世代落ちが相手や。勝って勢い付けようや!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

やがて練習を終え、コートを離れた両チームは控室へと戻っていった。その後、コートでの試合が終了する直前に再びコートへと戻ってきた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアップのブザーが鳴り、試合が終了した。

 

勝利の余韻に浸る時間も敗北の悲しみ暮れる時間も惜しみながら試合を行った2校のチームが素早く片付けを済ませてベンチから撤収し、コート上から去っていった。

 

両チームがそれぞれベンチに入り、試合の準備を始める。

 

「久しぶりだね~、上杉君」

 

そこへ、上杉に話しかける両手を腰の後ろで組んだ60歳近いニコニコした男が現れた。

 

「お久しぶりです。…まさか、あなたがまだ監督をしているとは思いませんでしたよ。織田先生」

 

挨拶を交わす上杉。

 

「うんうん。歳だから引退してたんだけど、頼まれちゃって。監督すればお小遣いくれるって言うから引き受けちゃった」

 

右手の親指と人差し指で丸を作りながらニコニコ答える織田。

 

「ハハッ、相変わらず変わらないですね」

 

苦笑する上杉。

 

「勝てばお小遣い増えるから、今日はほどほどにね~」

 

「えぇ。かつての知将の手腕、勉強させていただきます」

 

2人は握手を交わし、ベンチへと下がっていった。

 

「あちらの監督とは知り合いなんですか?」

 

やり取りを見ていた菅野がベンチに戻ってきた上杉に尋ねた。

 

「あぁ。お前らは知らないだろうが、かつては中学、高校、大学、社会人問わず、弱小のチームの監督を引き受けては軒並みチームを全国レベルまで引き上げ、何度も優勝に導き、優勝請負人とまで呼ばれ引っ張りだこだった監督だ。日本代表の監督経験もある方だ」

 

「…すごい人なんですね」

 

経歴を聞いて思わず引き攣る菅野。

 

「…だが、相手にするととにかくやり辛い。相手の嫌がる事をさせれば右に出る者はいない。選手のやる気と実力を引き出す手腕も優れている。とんだ食わせ者の狸ジジイだ」

 

やや表情を曇らせながら上杉は言葉を続ける。

 

「よし、全員こっちを向いて話を聞け」

 

話を中断した上杉は選手達の注目を集める。

 

「スターターに変更はない。1番から、竜崎、生嶋、綾瀬、天野、松永で行く。竜崎、今日はお前が司令塔だ。遠慮はいらん。強気でゲームを引っ張れ」

 

「はい!」

 

「コートリーダーは天野だ。チームを纏めろ」

 

「任しとき!」

 

「相手は強者から曲者まで揃っている。恐らく、奇をてらう事もしてくるだろう。だが、決して慌てるな。自分達のバスケを貫け」

 

『はい!!!』

 

「行って来い!」

 

『おう!!!』

 

上杉の檄に大声で応え、花月の選手達はコートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「みんな~、準備出来てる?」

 

「はい! 出来てます!」

 

監督、織田が声をかけると鳴海がいの一番に返事を返し、続いて選手達も返していく。

 

「灰崎君~、返事がないけどどうかね~?」

 

「うるせーよ。…必要はねえだろうけど、一応はやってやったぜ」

 

面倒くさげに灰崎は返事をした。

 

「今日の相手はあの陽泉に勝っちゃった花月だ。いいチームだね~。ウチと監督を変わってもらいたいくらいだよ」

 

「監督…」

 

本気と冗談とも付かない言葉に選手達は困惑する。

 

「けど、番狂わせを起こした直後は何処も緩むし、何より向こうは本来の司令塔がいないから付け入る隙もあるからみんな頑張ろうね~」

 

『はい!!!』

 

「うんうん。勝ったらまたみんなで美味しいものでも食べに行こう。…では、行っておいで」

 

『はい!!!』

 

満足そうに頷いた織田が選手達も送り出すと、選手達はそれに応えた。

 

「行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

「…チッ、うるせー」

 

コートに向かいながら鳴海が戦闘で声を出すと、鳳舞のスタメンの選手達が続きながら声を出した。灰崎だけが小指で耳をほじりながら面倒くさそうにしながら続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

続々とコートの中心に集まってくる花月、鳳舞の選手達。やがて、センターサークル内で両チームが整列した。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

10番PG:竜崎大成 183㎝

 

 

鳳舞高校スターティングメンバー

 

 

4番PF:大城義光 188㎝

 

5番 C:鳴海大介 197㎝

 

6番SF:灰崎祥吾 191㎝

 

8番PG:三浦祐二 174㎝

 

9番SG:東雲颯  171㎝

 

 

「これより、花月高校対鳳舞高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

「久しぶりだな、綾瀬」

 

挨拶を交わした直後、鳳舞の選手の1人が大地に話しかけた。

 

「お久しぶりです。三浦さん」

 

話しかけてきたのは相手のポイントガードである三浦祐二だった。中学時代、空と大地が全中地方予選の決勝で戦った選手の1人であった。

 

「鳳舞高校に入学していたのですね」

 

「ああ。故あってな。…やっぱり神城は…」

 

「…えぇ。昨日の試合の影響が残ってまして今日の試合は…」

 

予想していた事だが、返事を聞いて三浦は表情を曇らせる。

 

「そうか。…だが、お前がいるならそれでいいさ。中学時代の借りはここで返させてもらうぜ」

 

「望むところです」

 

そう言って2人は握手を交わし、散らばっていった。

 

「…」

 

「…」

 

センターサークル内に残されたのはジャンパーである松永と鳴海。ボールを持った審判が2人の間に入り、ボールを構えそして、ボールは高く放られ、ティップオフ!

 

「「…っ!」」

 

同時に2人がボール目掛けて飛ぶ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「くそっ!」

 

ジャンプボールを制したのは松永。

 

「オッケー! 1本、行きましょう!」

 

ボールは竜崎に渡り、ゆっくりとゲームメイクを始めた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをキープする竜崎。目の前に三浦。鳳舞のディフェンスはマンツーマンで、竜崎に三浦、生嶋に東雲、大地に灰崎、天野に大城、松永に鳴海が付いている。

 

「…」

 

最初の1本。竜崎は慎重に攻め手を思考する。

 

 

――スッ…。

 

 

その時、天野が動き、三浦の背後にスクリーンに入り、指で合図を出した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

合図と同時に竜崎はカットイン。

 

「…っ!」

 

後を追おうとした三浦だったが、天野のスクリーンに捕まってしまう。

 

「馬鹿やろ…! 声かけろよ!」

 

スクリーンの声掛けをしなかった事に苛立ちながら鳴海がヘルプに飛び出す。

 

「(来た! 俺にマークが集まった!)」

 

自分を包囲に来た事を確認した竜崎は完全に囲まれる前にボールを外に出した。

 

「ナイスパス!」

 

右アウトサイド、スリーポイントラインの外側に走り込んだ生嶋にボールが渡った。

 

「…空けてないよ!」

 

そこに素早く東雲がチェックに入った。それでもお構いなしに生嶋はシュート態勢に入る。

 

「っ! 打たせ――っ!?」

 

ブロックに飛んだ東雲だったが、生嶋は斜め右に飛んでブロックを交わしながらスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイにリングを潜り抜けた。

 

「ナイッシュー! ええで!」

 

「さすがです!」

 

決めた生嶋に天野が肩を叩き、竜崎が駆け寄って労った。

 

試合開始の最初の得点は花月。

 

「へー、いいな、…それ」

 

生嶋を見ながら灰崎がニヤリと笑うのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ここでまさかの人物が登場です。彼らが鳳舞高校にいる理由は次話にて説明するかもしれません。

ここ最近良い感じのペースになってきてちょっと自分の事ながら誇らしいです…(^-^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第114Q~強奪~


投稿します!

花粉症で画面が霞む中、投稿です…( ;∀;)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り9分44秒。

 

 

花月 3

鳳舞 0

 

 

試合が開始され、ジャンプショットを制した花月は竜崎がボールを運び、カットインと同時に外にパス。生嶋がスリーを決め、先制した。

 

「ディフェンス! 1本止めて流れに乗るで!」

 

『おう!!!』

 

素早くディフェンスに戻った花月は天野が声を出して鼓舞し、他の選手達がそれに応えた。

 

「よし、1本、返しますよ!」

 

スローワーとなった大城からボールを受け取った三浦がフロントコートまでボールを運んでいく。

 

「…」

 

「…」

 

三浦をマークするのは竜崎。花月のディフェンスも鳳舞同様マンツーマンで、それぞれ同ポジションの選手同士マークしている。

 

「(この人、確か、2年前の全中で戦った東郷中の…)」

 

「(こいつは帝光中の…)」

 

至近距離で対峙する2人。互いに記憶を認識した。

 

「三浦祐二。元東郷中の主将にして司令塔。これと言って欠点のない正統派のポイントガードか…」

 

ベンチの菅野が1冊のノートを捲りながら読み上げる。これは旅館から会場に出発する際に姫川から渡された物で、姫川が調べ上げた鳳舞高校の選手の詳細が記されている。

 

「こっち!」

 

三浦の右方向にまで下がってボールを要求した東雲にパスを出した。

 

「行かせない」

 

ボールを持った直後、生嶋がディフェンスに入った。

 

「東雲颯。スピードと豊富な運動量が武器のスラッシャータイプのシューティングガード。スピードを生かした切り込みとスティールが持ち味…」

 

続けてボールを持った東雲の情報を読み上げた。

 

「…」

 

「…ちっ」

 

事前に情報を得ていた生嶋は距離を取ってドライブを警戒しながらディフェンスに付いている。距離を取られている為、切り込みづらく、思わず舌打ちが飛び出る。

 

「中に入れろ!」

 

ハイポストに立った大城がボールを要求し、東雲は頭上からパスを出して大城にパスを出す。ボールを持ったと同時に背中に張り付くようにディフェンスに入る天野。

 

「大城義光。鳳舞主将で、リバウンドが得意の選手。パワーもあり、ガンガン押し込んでからのゴール下が得意パターンか…」

 

続けて大城の情報を口にする。

 

 

――ダムッ!!! …ダムッ!!!

 

 

ボールを受け取った大城は予想通りドリブルをしながら背中で天野を押し込みながら良いポジションまで侵入を試みた。

 

「行かせへんよ」

 

だが、天野が身体を張って侵入を阻止する。

 

「…」

 

リングまで距離があり、ポジションも悪い。強引に打ちに行っても外れるかブロックされるのが目に見えている為、打ちに行けない。

 

「いつまでもチマチマボール回してんじゃねえよ雑魚共! さっさと俺にボール寄越せ!」

 

この展開に苛立った灰崎がスリーポイントラインの外側、左45度付近でボールを要求した。

 

「…良いぜ。けど、決めろよ」

 

言われるがまま、大城は灰崎にパスを出した。

 

「おいおい、ビビッてんじゃねえよ! もっと強気で行けよ!」

 

パスを出した事に苦情を入れる鳴海。

 

「鳴海大介。元々は東京都の丞成の出身だが、1学年終了と同時に鳳舞に転校したパワーと高さを武器にゴリゴリのインサイドが売りの鳴海大介…」

 

ゴール下で松永をマークする鳴海の解説を読み上げる。

 

「ハッ! ちったぁ楽しませろよ?」

 

「…」

 

灰崎にボールが渡ると、大地がすかさず目の前に立ち塞がる。

 

「そして灰崎祥吾。帝光中出身で元キセキの世代。一昨年のウィンターカップでは海常に敗れるも途中まで黄瀬を圧倒し、海常を後一歩まで追いつめた逸材…」

 

最後の1人である灰崎の情報を読み上げた。

 

「……貰うぜ――」

 

「…っ!?」

 

突如、灰崎がシュートモーションに入った。大地がすかさずブロックに飛んだ。

 

「さっきのぉっ!」

 

「えっ!?」

 

「なに!?」

 

その瞬間、生嶋と松永が目を見開いた。灰崎は大地のブロックを斜め右に飛んでかわしながらスリーを放ったからだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールをリングを潜り抜けた。

 

「何やと!? 今のイクのスリーやんけ!」

 

チームメイトの生嶋のスリーを放った事に天野は声に出して驚いた。

 

「…へっ」

 

不敵な笑みを浮かべながら灰崎は右手の親指をペロッと舐めた。

 

「切り替えろ! 次も決めるぞ!」

 

ボールを拾った松永がスローワーとなって竜崎にボールを渡した。

 

「はい! 1本、行きましょう!」

 

竜崎がフロントコートまでボールを運んでいった。

 

「…」

 

「…」

 

目の前には変わらず三浦。

 

「綾瀬先輩!」

 

無理に切り込まず、竜崎は大地にパスを出した。

 

「ハッ! 来いよ」

 

ボールを掴んだ大地の前には灰崎が立ち塞がる。

 

 

「エース対決。ここでの勝敗…内容次第では今後の展開に影響するぜ」

 

「…」

 

先程得点を取られた直後の両チームの対決。火神、黒子も注目した。

 

 

「…」

 

ボールを小刻みに揺らしながらチャンスを窺う大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て大地が切り込んだ。

 

「何だ? その程度かよ」

 

灰崎はそのドライブに難なく付いていく。

 

 

――キュキュッ!!! …ダムッ!!!

 

 

直後、停止して左右に切り返しながら灰崎を揺さぶる。

 

「おいおい、ダル過ぎて欠伸が出んぞ!」

 

その揺さぶりにも惑わされる事無く灰崎は大地をピッタリディフェンスする。

 

『ダメだ、抜けない!』

 

「…」

 

ボールを止めた大地はビハインドパスでボールを横に流した。

 

「ナイスパス綾瀬先輩!」

 

L字カットで三浦のマークをかわした竜崎がボールを貰う。そのままリングに向かってドリブルをした。

 

「来いや1年坊が!」

 

そこへ、鳴海が立ち塞がる。

 

「そっちこそ!」

 

ボールを持った竜崎はそのまま跳躍した。

 

「舐めんな――っ!?」

 

 

――スッ…。

 

 

竜崎はリングから僅かに距離がある所からレイアップの態勢に入り、ボールをふわりと浮かせ、鳴海のブロックの上を越していった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「くそっ、スクープショット…! あんなの今まで使ってなかったじゃねえか…!」

 

「俺のとっておきだ。昨日は使う機会はなかったけど、全国に向けて覚えたキャプテン直伝の必殺技だ」

 

県予選終了後、インターハイに向けて自身の武器として猛練習して身に着けたのがこのスクープショットである。同じく得意の技である空に教えを請うていた。

 

『ビッと飛んでシュって投げる。これだけだ!』

 

「(と言っても、ほとんど理解出来なかったからお手本見せてもらって後は自己流で身に着けたんだけど…)」

 

空の抽象的な言葉による教えを思い出して苦笑いをした竜崎だった。

 

「速攻! 下さい!」

 

直後、前に走り出した東雲がボールを要求した。

 

「あかん! 速攻や、戻れ!」

 

慌てて花月の選手達。ボールを拾った大城が前に走る東雲に大きな縦パスを出した。

 

「ナイスパスキャプテ――っ!?」

 

そのまま速攻を駆けようと前を向いた瞬間、東雲は足を止めた。目の前には速攻を止めるべく回り込んでいた大地がいたからだ。

 

「(俺がボールに集中した一瞬で回り込んだのか。噂には聞いていたけど、何てスピードだ…)」

 

スピードを買われて鳳舞にスカウトされ、スタメンに抜擢されていた東雲。スピードには自信があったのだが、目の前の大地は自身を上回るスピードを持っていた。

 

「戻せ颯! 無理をするな!」

 

「……くそっ」

 

スピードで分が悪いのなら自分に勝機はない為、東雲は仕方なく三浦にボールを戻した。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…えっ?」

 

「っ!?」

 

ボールが三浦の手に収まる直前、そのボールを灰崎がカットした。

 

「小物がチマチマボール回してんじゃねえよ」

 

「おいコラァッ! 味方のパスをカットしてんじゃねえよ!」

 

身勝手な行動に後方で走っている鳴海が怒鳴った。

 

「チンタラ速攻に走ってる奴がうるせーんだよ」

 

そんな言葉にも聞く耳持たない灰崎。そのままドリブルを開始した。

 

「…」

 

大地は東雲から灰崎のマークに向かい、スリーポイントライン目前で灰崎の前に立ち塞がった。

 

「…ちょこまかボールをこねくり回して結局パスかよ。お前、ホントにアツシに勝ったのか?」

 

「…」

 

「まだ本調子じゃねえのか? それとも、てめえ如きに負ける程アツシは弱くなったのか? どちらにしろ、その程度で俺と戦うなんざ話にならねえんだよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ひとしきり話しかけた後、灰崎が仕掛ける。

 

「…っ」

 

同時に大地も動き、これに対応。

 

「…ハッ!」

 

鼻で笑った灰崎は停止し、左右に切り返し、揺さぶりをかける。

 

「…」

 

大地はその揺さぶりに惑わされる事なくピッタリとディフェンスをする。

 

「へっ」

 

バックチェンジで下がりながら距離を作りながらボールを掴むと、灰崎はシュート態勢に入った。

 

「…っ!」

 

打たせまいと大地がブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

灰崎はレイアップの態勢でボールをひょいと放り投げ、大地のブロックの上を越えていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

『今度はスクープショット! まるでキセキの世代の黄瀬だ!』

 

「…ちっ、あんなのと一緒にすんじゃねえよ」

 

観客の声が聞こえた灰崎は舌打ちをした。

 

「今のは俺の…」

 

「その前のドリブルは直前の綾瀬のやな。以前の海常との試合でも見せとったが、奴には黄瀬並のセンスがあるっちゅう事やな」

 

自身が苦心の末に身に着けたスクープショットをいとも簡単に真似され、落ち込む竜崎。天野も灰崎の実力を再確認した。

 

「昨日のミーティングで話した通り、あいつは乗せると面倒や。まだ中がちょい固めやからもうちょっと散らそか」

 

そう言ってチラッと生嶋に視線を向ける天野。

 

「任せて」

 

視線の意味を理解した生嶋はそう返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ボールをキープする竜崎。目の前の三浦にボールを奪われないよう気を遣いながらゲームメイクをしている。

 

「(…相変わらず中を固めているな。生嶋先輩のスリーが怖くないのか?)」

 

確率だけならあの緑間にも匹敵する生嶋のスリー。警戒が薄い事に疑問を感じる竜崎。

 

「(まあいい。外を空けてくれるならこっちとしては願ったり叶ったりだ!)…生嶋先輩!」

 

外に展開していた生嶋にパスを出した。

 

「よし!」

 

ボールを受け取る生嶋。すかさず東雲がディフェンスにやってきた。

 

 

――ピクッ…。

 

 

生嶋はスリーを打つ前にポンプフェイクを1つ入れる。これに釣られて東雲が両手を上げてしまう。この隙を付いて生嶋が東雲を避けるように横に飛んでスリーを放った。

 

「あーダメダメ。『それ』はもう俺のもんだ」

 

ニヤリと笑う灰崎。

 

「…ッ!!!」

 

スリーを放った瞬間、生嶋は表情を歪ませた。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれた。

 

「馬鹿な! 生嶋がスリーを外しただと!?」

 

スリーが外れた事に驚きを隠せない松永。

 

生嶋のスリーは多少態勢やリズムが乱れてもボールに触れられなければ外れない程の精度を誇る。実際、ブロック以外で生嶋のスリーが入らなかった事は高校に入って1度もない。

 

「いただき!」

 

リバウンドボールを大城が抑えた。

 

「…っ!? しもた!」

 

生嶋のスリーが外れた事に動揺し、その隙を付かれてポジションを取られてしまう天野。

 

「寄越せ!」

 

フロントコートへ既に走っていた灰崎がボールを要求する。

 

「灰崎!」

 

それを見て大城が大きな縦パスを出した。

 

「ハハッ! らぁっ!」

 

フリースローラインを越えた所までドリブルで進んだ灰崎はボールを右手で掴み、リングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「あん?」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、右手に収まったボールが弾き飛ばされた。

 

『綾瀬だぁっ!!!』

 

「させませんよ」

 

花月で唯一灰崎の速攻に対応出来た大地がブロックに成功した。

 

『アウトオブバウンズ、赤(花月)!』

 

ボールはサイドラインを割った。

 

「(この俺に追い付いた? あの距離からか?)」

 

いち早く速攻に走っていた灰崎。ボールを受け取る直前に見た限りではそれなりに距離があり、如何にドリブルをしていたとは言え、容易に追いつかれるような距離ではなかったので、灰崎は少々驚いていた。

 

「(仮にもアツシに勝ったわけじゃねえって事か…)…ちっ。パス出すのが遅ぇんだよこの下手くそ」

 

ブロックされたイライラを先程縦パスを出した大城の尻を蹴ってぶつける灰崎。

 

「人に当たってんじゃねえよ! てめえがチンタラドリブルしてっからだろうが!」

 

その行動に怒りを爆発させた鳴海が灰崎のユニフォームの胸倉を掴み上げる。

 

「止めろ鳴海。試合中だぞ!」

 

そんな鳴海を大城が止める。

 

「放せよ」

 

鬱陶し気に掴んだ手を振り払い、その場を去る灰崎。

 

「良いのかよ! あんな調子に乗らせて!」

 

「性格はどうあれ、あいつが優れているのは事実だ。多少の嫌味は大目に見てやれ」

 

「…っ、けどよ」

 

それでも納得出来ない鳴海。

 

「試合に勝てんならあのくらい我慢するさ。…その変わり、負けでもしたら今まで貯めてたツケを一気に返すけどな」

 

こめかみ部分にに血管を走らせながら大城が笑みを浮かべながら言った。

 

「(…っ! やっぱりムカついてんじゃねえかよ)」

 

軽く頬を引き攣らせた鳴海であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「どないしたんやイク? 汗で手元でも狂ったんか?」

 

自身の手元を見つめて茫然としている生嶋に駆け寄る天野。

 

「……分かりません。ただ、スリーを打った時、ノイズが走りました」

 

「ノイズ?」

 

独特な言葉選びをする生嶋の言葉に戸惑う天野。

 

「…」

 

そんな生嶋を見て大地が何やら考え込む素振りを見せたのだった。

 

 

鳳舞のリスタート。東雲から三浦にボールが渡る。そこから即座に灰崎にボールが渡った。

 

「ハッ! よく分かってんじゃねえか」

 

迷わず自分にパスを出した三浦に気を良くする灰崎。

 

「…」

 

そんな灰崎の正面に立つのは変わらず大地。

 

「てめえ如きがやる気出しても結果は変わらねんだよ」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

クロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを繰り返しながら左右に切り返しを始める。

 

「…っ」

 

この左右の揺さぶりにも惑わされずに対応する大地。

 

「…へっ」

 

鼻で笑った直後、自身の背後から股下にボールから大地の股下にボールを通した。

 

「…っ!?」

 

直後に大地の横を駆け抜け、ボールを拾った。

 

 

「っ! あれは、確か元海常のキャプテンの笠松が使っていた…!」

 

過去に見覚えのある技を見て火神が思わず目を見開いた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに向かって飛び、ボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

「これじゃ準備運動にもなんねえ」

 

「…」

 

大地の横を通り抜ける際、不敵に笑いながらボソリと灰崎は告げたのだった。

 

 

「(まずい、何とかしないと主導権を持ってかれる!)」

 

今の展開に焦りを覚える竜崎。何とか流れを変えたいと考える竜崎。だが…。

 

「…」

 

目の前で自身をマークしている三浦がそれをさせてくれない。昨日の相手であった永野程ではないにしても厄介な相手であった。

 

「(キャプテンなら自分でどうにかするんだろうけど…、いや、弱気になったらダメだ。俺の出来る範囲で何とかしないと…!)天野先輩!」

 

ハイポストに立った天野に頭上からボールを投げてパスを出し、同時に天野に向かって走り出した。

 

 

――スッ…。

 

 

すれ違い様にボールを手渡しで受け取り、そのまま飛び、レイアップの態勢でボールを放った。

 

「やろ…! またそれかよ!」

 

ブロックを予測して放ったスクープショット。ヘルプに来た鳴海の手の上を越えていった。

 

 

――ガン!!!

 

 

しかし、ボールはリングに嫌われ、弾かれてしまった。

 

「っ!?」

 

「残念だが、それも俺のもんだ」

 

不敵に笑う灰崎。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「今度は取らせへんぞ!」

 

「っ!?」

 

リバウンドボールを大城をスクリーンアウトで抑え込んだ天野がリバウンドを制した。

 

「もろた!」

 

着地と同時にシュート態勢に入る天野。

 

「くそっ!」

 

すかさずブロックに向かう大城。

 

「あっ!」

 

天野はシュートではなく、ポンプフェイクであり、そこから足元からゴール下に立った松永にパスを出した。

 

「よし!」

 

ボールを掴んだ松永はすぐさまシュート態勢に入った。

 

「くそが!」

 

慌ててブロックに向かう鳴海だったが…。

 

 

――バス!!!

 

 

間に合わず、松永がゴール下を沈めた。

 

「っしゃっ! ええで!」

 

天野と松永がハイタッチを交わした。

 

「すいません。助かりました」

 

「気にするな。今日の俺は絶好調だ。どんどん俺にボールを回せ」

 

「頼りにしています」

 

落ち込む竜崎の背中を松永がそっと叩いて励ましたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「始まったな、灰崎の強奪が」

 

「はい」

 

観客席の火神と黒子が神妙な顔で話している。

 

「外を封じられたのが痛いな。生嶋は花月のオフェンスの生命線の1つ。外の要だ。ここが機能しないと花月のオフェンス力は半減だ。…何で花月は対策しねえんだ…!」

 

今の展開に憤りを感じる火神。

 

「灰崎君は中学1年時の全中以降、公式戦には出場したのは一昨年のウィンターカップのみです。あの技も、使用した試合は海常戦だけでしたから無理はありません」

 

「とにかくあの灰崎をどうにかしねえとどうにもならねえ。それが出来るのは…」

 

ここで火神の視線がコート上の大地に移る。

 

「あいつ(大地)しかいねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は灰崎によって主導権を握られたかに見えたが、花月は食らいついていた。その要因となったのは…。

 

「くそっ…!」

 

「行かせん!」

 

松永の活躍が大きかった。松永が鳴海を抑え、ゴール下を制した為、生嶋のスリーを封じられてもズルズル放されずにいた。

 

「(こいつ、技巧派センターじゃなかったのか!? 結構パワーあんじゃねえか!)」

 

オフェンス、ディフェンス共に強引に向かっていったが、松永がことごとくはね返していた。

 

「(確かにパワーはある。…だが、紫原はもちろん、桐皇の若松に比べれば大した事はない!)」

 

昨年のウィンターカップでパワー不足を痛感した松永はウィンターカップ終了後からフィジカルアップに努めていた。成長期も相まって松永は去年に比べて飛躍的にパワーアップしていた。

 

「おぉっ!!!」

 

 

――バス!!!

 

 

背中をぶつけ、態勢を崩して隙を作り、そのまま右手でボールを持ってフックシュートで得点を決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q、終了。

 

 

花月 17

鳳舞 20

 

 

両チームの選手達がベンチへと下がっていく。

 

試合は均衡を保ったまま最初のQが終わりを告げたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





全話で灰崎と鳴海の移籍の経緯をこの話にて説明すると後書きで書いたのですが、すいません…m(_ _)m

次話にて必ず説明致します…(;^ω^)

花粉症とその薬の副作用のせいで執筆が辛い状況ですが、何とか投稿を続けていけたらいいな…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第115Q~劣勢~


投稿します!

これにて115話目、気が付けば黒バス二次の最多話数投稿者になっていた…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、終了。

 

 

花月 17

鳳舞 20

 

 

第1Qが終わり、両校の選手達がベンチへと戻っていった。

 

 

鳳舞ベンチ…。

 

「お疲れ様~。まずまずの立ち上がりだね」

 

ニコニコ笑顔を浮かべながら監督の織田が選手達を迎えた。

 

「イマイチ流れに乗り切れてないんだよねー。困ったねー」

 

「ハッ! 決まってんだろ。何処ぞの下手くそ共がゴール下で良い様にやられてっからだろ? …おら! チンタラしてねえでさっさとドリンク寄越せ!」

 

「は、はい!」

 

ベンチにドカッと腰掛けた灰崎は後輩に強い口調で命令した。

 

「…っ」

 

「てめえ、録にヘルプに来ねえ癖に…!」

 

灰崎の指摘に大城は口を噤ませ、鳴海は怒りを露にした。

 

「俺は向こうの大したことのねえエースと外潰してやっただろうが。こんだけやってやったんだから目の前の雑魚くれえてめえでどうにかしろボケ」

 

そんな鳴海にもお構いなしに灰崎は悪態を吐きながらドリンクを口にした。

 

「この野郎…! 1度ぶっ殺して――」

 

「ダメだよ鳴海君ー」

 

立ち上がろうとした鳴海の眉間を押さえる。すると鳴海は立ち上がれずにその場で止まった。

 

「喧嘩なら構わないけど暴力はダメだよ。試合中なんだから」

 

「うぐっ! …す、すいません」

 

諫められ、落ち着きを取り戻したのか、一言謝って頭を落ち着かせた。

 

「お前ら何回目だ? 少しは仲良く出来ないのか?」

 

呆れた顔で尋ねる大城。

 

「冗談だろ? こんな小物と」

 

「ざけんな! 何でこいつと!」

 

「…ハァ。少しは主将をやってる俺の身にもなれ」

 

2人の返事に思わず溜息を吐く大城。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

昨年の4月。進級に合わせて鳴海が…。2年時の2学期に灰崎が他校から特別奨学金制度によって転校してきたのだが、2人は顔を合わせた初日からこのような喧嘩をしていた。

 

 

――鳴海大介…。

 

高校1年時は東京都の丞成高校に進学した。彼の加入もあり、丞成高校はその年のインターハイ予選でベスト8まで進出する事が出来たのだが、その年に同時に進学してきたキセキの世代の青峰と緑間。そして火神の圧倒的な力を目の当たりにした。

 

丞成はその圧倒的なキセキ達の力とチームの総合力の前に大敗した。

 

鳴海は悩んでいた。先輩達が引退してチームの弱体化に加え、大物新人も同じ東京都の三大王者や新たに現れた誠凛や桐皇がいる為、望めない。他県に比べて全国大会の出場枠が多いとは言え、いずれの挙げられた高校を倒して全国大会に出場出来る可能性はほぼ0と言ってもいい。

 

そんな時、彼に声をかけたのが鳳舞のスカウトだった。強豪が犇めく東京都で実力がありながら燻っている鳴海に鳳舞は特別奨学金制度の話を持ち掛けてスカウトをかけた。鳴海は丞成の事も頭をよぎったが、全国出場の自身の目標と夢の為、何よりチーム全体が東京都の情勢に半ば諦めムードだったので、この話を受けたのだった。

 

 

――灰崎祥吾…。

 

福田総合学園高校に進学し、ウィンターカップではその力を遺憾なく発揮し、あの海常を後一歩まで追いつめる程の活躍を見せた。

 

だが、その一方で傍若無人の振舞をし、チームメイトからは反感を買っていた。元々は礼儀を重んじるチームであったのだが、灰崎の加入によってチームは変わってしまった。だが、当時の主将である石田はそれでもウィンターカップでキセキの世代のいるチームに対抗する為、チームの不満を抑えて何とかチームを纏めていた。結果、キセキの世代の黄瀬を擁する海常に敗れたものの、ベスト8まで勝ち進む事が出来た。

 

その後、石田達3年生は引退し、チームは新体制に移行するのだが、新体制を迎えたチームは灰崎を拒絶した。石田から主将を引き継いだ新しい主将は灰崎以外のチームメイトと話し合い、結果、灰崎の強制退部を監督に直訴した。やはり、これからも傍若無人の灰崎と共にバスケを続けるのに抵抗があったのだ。

 

選手達の意志は固く。強制退部を認めない場合は部員全員が辞めるとまで覚悟を見せたので、福田総合の監督は灰崎を退部とした。灰崎もこれを受け入れ、チームを去った。

 

2年に進級し、退屈な日々を何処か苛立ちながら過ごす中、そこへ…。

 

『君、暇そうだねー。良かったら僕と一緒にバスケしないかなー』

 

声をかけたのは監督の織田だった。灰崎がバスケ部を退部した話を聞き、織田が直接交渉に行ったのだった。当初は意地もあって灰崎はこの申し出を拒否していたのだったが、織田は根気強く…しつこく交渉し、灰崎は半ば口車に乗せられる形でこの話を受け、2年の2学期に合わせて鳳舞高校に転校したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

このような経緯から2人は鳳舞高校に転校したのだが、とある事が原因で2人は衝突し、絶えず喧嘩を繰り返す関係となった。

 

現在のスタメンの5人が昨年の2学期に集まったのだが、規定によって灰崎と鳴海が半年間公式戦に出場出来ない為、昨年1年は公式戦の出場を見送り、今年の夏の大会に照準を合わせて力を蓄える選択をし、今年、晴れてインターハイ予選岡山県大会を突破し、今に至る。

 

「さてさてー、休憩時間は短いから手短に対策を打たなきゃね」

 

手をパンパンと鳴らして選手達の注目を自分に向ける織田。

 

「とりあえず、目下の課題はゴール下だね。まさか鳴海君があそこまでやられるとは思ってなかったらねー。さて、困った困った」

 

「…ぐっ」

 

監督の織田にまで指摘されてしまい、言葉を失う鳴海。

 

「大丈夫大丈夫鳴海君。ちゃーんと手はあるから安心してね。これから僕の言う事よーく聞いといてね」

 

織田はにこやかな笑みを浮かべながら鳴海に秘策を授けた。

 

 

※ ちなみに、喧嘩の原因は灰崎が鳴海のエロ本パクった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「さて、何とか食らいついているが、決して良い状況ではないな」

 

選手達の前に立った上杉が両腕を胸の前で組みながら言った。

 

「イクのスリーが入らへんようになったのが痛いわ。どないなっとんねん」

 

「…ごめん、みんな」

 

苛立ち半分戸惑い半分の表情で天野が愚痴ると、生嶋が頭を下げた。

 

突如として、生嶋のスリーが決まらなくなったのだ。第1Qで最初の1本こそ決まったのだが、2本目以降、リングに嫌われ続けていた。生嶋のスリーはボールに触れられなければ百発百中の精度を誇る飛び道具なのだが、今日は見る影もない。

 

「入らなくて当然ですよ」

 

沈黙する花月のベンチ。その中で大地が口を開いた。

 

「何か分かったのか?」

 

「はい。生嶋さん。あなたのスリーは2本目以降、微妙にリズムが狂っています」

 

「…えっ?」

 

大地の指摘に生嶋が思わず声を上げる。

 

「これまであなたのスリーを練習でも試合でも何度も見てきたので私には分かります。今のあなたのスリーは私の知ってるあなたのスリーとリズムが微妙に異なっています」

 

「どういう事や!?」

 

思わず立ち上がりながら尋ねる天野。

 

「生嶋さんのスリーは…いえ、これは生嶋さんに限った話ではありません。優秀なシューター程ボールを受けてからシュートを放つまでのリズムは基本一定です。ですが、今日の生嶋さんのスリーはリズムが僅かに狂っています。ただでさえ、リングから距離のあるスリーでは僅かなズレが命取りになります。リズムが狂えば入らなくなるのは道理です」

 

「ちょっと待て綾瀬。例えそうだとしても、生嶋は多少リズムが狂った所で外れる代物ではないはずだ」

 

この指摘に松永が異を唱える。過去に生嶋はブロックをかわす為に不安定な態勢からや早いリズムでスリーを放ったりしている。

 

「それは正確ではありません。厳密には生嶋さんはリズムが乱れても決められるのではなく、直前に新たなリズムを組みなおしてスリーを決める事が出来るのです。ですから生嶋さんのスリーは基本外れません」

 

「せやったら…」

 

「ですが、もし、リズムを合わせる為の調律が狂わせられたとしたら?」

 

「…あっ」

 

この言葉に生嶋が声を上げる。

 

「リズムを組みなおす事が出来ませんからスリーは外れてしまう…。生嶋さんの言ったノイズとは、外的要因によってリズムが狂わされた事による、発生した不協和音なのでしょう」

 

「うん。ダイの言う言葉がしっくり来るよ」

 

これに生嶋も同意した。

 

「話は分かったで。その仮説が正しかったとして、いつや? イクのリズムはいつ狂わされたんや?」

 

「灰崎さんが生嶋さんのスリーを打った時ですよ」

 

天野の疑問に大地が答える。

 

「生嶋さんのスリーが外れだしたのはあれ以降です。…最初は半信半疑でしたが、竜崎さんのスクープショットが外れたのを見て確信しました。恐らく、彼は真似るの同時に多少リズムを変えて再現したのでしょう。それを見せられてしまった為、リズムが狂わされた。…この辺りは仮説ですが、間違いないかと」

 

「…ほならなにかい、灰崎に技真似られたら軒並みその技は使えへんようになる言うんかい?」

 

「えぇ。リングから離れたものや難易度の高い技程影響は大きいでしょうね」

 

大地は天野の疑問に頷いた。

 

「…では、これからどうする? どう攻めていく?」

 

神妙な顔で松永が尋ねる。

 

「…現状は松永さんを中心に攻めるのがベターかと。ここのマッチアップはこちらに分がありましたし、ゴール下ならば灰崎さんに踏み込まれなければ技が使えなくなる事はありませんし、仮に真似られてもダメージは最小限で済むでしょうから」

 

「決まりやな。第2Qからマツを中心に点取っていくで。無論、一辺倒やと読まれるからのう。周りもフォロー頼むで。外す事は気にせんでええ。俺がリバウンドは全部取ったるからのう」

 

『おう!!!』

 

右拳で左拳の手のひらに当てながら天野が意気込んだ。他の選手達もこれに応えた。

 

「イクはどないする? 菅野と代わるか?」

 

生嶋の外が入らないとなると、生嶋より身体能力とスタミナがあり、ディフェンスの上手い菅野の方が機能すると言える。

 

「いや、このまま出させてほしい。…もう少し、もう少し時間があれば…」

 

「…分かった。ほならこのまま続投や。…監督。何かありますか?」

 

「…」

 

竜崎が尋ねると、上杉は何か考える素振りを見せた。

 

「……いや、特に言う事はない。試合に動きがあればこちらからも動く」

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでインターバルが終了し、第2Q開始のブザーが鳴った。

 

「ほなら行くで! 花月ーーーっ!!! ファイ!!!」

 

『オゥッ!!!』

 

花月の選手達はコートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

両校の選手達がコートへとやってきた。双方選手交代はなく、試合開始時のメンバーがそのまま出てきた。

 

審判からボールが鳳舞の東雲に渡され、スタート。ボールは三浦に渡された。

 

「キャプテン!」

 

ここで三浦がハイポストに立った大城にパスを出した。

 

「東雲!」

 

ボールを受け取るとすぐさま大城は外の東雲にパスを出した。

 

「こっちだ颯!」

 

スリーポイントラインの外側、中央でボールを受けた三浦はすぐさまボールを中、ローポストの鳴海に入れた。

 

「来い!」

 

「言われなくても行ってやるよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

鳴海の背中に立つ松永。鳴海は松永を背中で押し込みながらドリブルを始めた。

 

「…っ! 絶対中には入れさせん!」

 

強引に押し込もうとする鳴海のポストアップに対して、松永も力を込めてこれを阻止する。

 

「(やはり来たか。だが、これでは第1Qの再現だ。第2Q最初のオフェンス。流れを持っていく為にも是非とも成功させたいはず。わざわざボールを回し、そこに入れて来たんだ。…何を用意している?)」

 

2人の対決を上杉が注視しながらも相手の狙いを考える。

 

「残念だったな。もうお前は俺には勝てねえ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

強くボールを突いたのと同時に松永の身体がグラつく。

 

「隙だらけだぜ!」

 

同時に鳴海がボールを右手で掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「っ!? くそっ!」

 

慌てて松永もブロックに飛んだが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…っ!」

 

態勢が不十分だった為、ダンクを阻止出来ず、ボールはリングに叩きつけられてしまう。

 

「分かったか? ここから先、お前が俺を止める事では出来ねえ」

 

拾ったボールを尻餅を付いた松永にヒョイと放り渡しながら鳴海が告げた。

 

「っ!? 上等だ…!」

 

この言葉を受けて松永の闘志に火が付いたのだった。

 

 

オフェンスが変わって花月ボール。竜崎がボールをキープする。

 

「来い!」

 

ローポストで松永がボールを要求する。

 

「頼みます!」

 

要求通り竜崎が松永にパスを出した。

 

「来いよクソガキ!」

 

「行くぞ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

背中で鳴海を背負いながら松永がドリブルを始める。

 

「どうしたどうした! その程度じゃ俺はビクともしねえぞ!」

 

松永のポストアップに耐えながら吠える鳴海。

 

「…ちっ、だが、パワー勝負だけがゴール下じゃない!」

 

押し込めないと見た松永はそこからバックステップをし、そこからフェイダウェイシュートの態勢に入った。

 

「(これなら…!)」

 

身体を強くぶつけてからバックステップした為、鳴海は反応出来ていない。松永はボールを放った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

しかし、そのシュートはブロックされた。だが、鳴海はこのフェイダウェイシュートに反応出来ていない。

 

「残念だが、敵は1人ではないぞ」

 

「(大城か!?)」

 

ブロックをしたのは大城だった。松永の動きに対応する為にすぐさま動いていた。

 

「ナイスキャプテン!」

 

ルーズボールをすぐさま東雲が拾った。

 

「さっさとこっちに寄越せ!」

 

「頼みますよ、灰崎さん!」

 

前に走りながらボールを要求する灰崎に東雲が縦パスを出した。

 

「…止めます」

 

すぐさま灰崎の横に並んで走る大地。

 

「ハッ! 懲りねえな。てめえじゃ俺の相手にならねえって言ってんだろ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

1度ロッカーモーションを入れてから再度前進する灰崎。

 

「…くっ!」

 

何とか止めようとする大地だが、強引に突き進む灰崎の身体に押されて止められない大地。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

強引に突き進んだ灰崎はそのままリングに向かって飛び、ボールをリングに叩きつけた。

 

「ちょろ過ぎだぜ、お前」

 

嘲りの言葉を大地に放ち、灰崎はディフェンスに戻っていった。

 

 

「第2Q最初のオフェンスを決められ、直後のオフェンス失敗からの失点。…まずいな。流れを持っていかれちまうぞ」

 

今の状況を見て悪い状況を懸念する火神。

 

 

「…こっちだ! 俺にくれ!」

 

オフェンスが切り替わり、松永がボールを要求した。

 

「(…嫌な予感がする。作戦では松永先輩を中心に攻めるって決めたけど、ここを失敗するとウチはかなりヤバい状況になる)」

 

インターバルを終え、第2Qは松永を中心にオフェンスを組み立てると決めた作戦が機能しないとなると早くもタイムアウトを取って作戦を練り直すしかなくなる。だが、インターバル直後に出来れば限りのあるタイムアウトは使いたくない。

 

「…っ」

 

他を見渡すが、大地は灰崎がしっかりマークしている為、パスが出せない。生嶋は現在外が封じられている為ここもダメ。天野はパスこそ出せるが天野自身のオフェンス力はこの状況では機能しにくい。自分で自ら行くにしても大地の言葉を信じるならスクープショットが封じられている為、確率は低い。

 

「(…当初の予定通り、任せるしかない!)…頼みます!」

 

意を決して竜崎は松永にパスを出した。

 

「次は決める!」

 

「何度来ても同じだ!」

 

 

――ダム!!! …ダムッ!!!

 

 

背中で押し込みながらドリブルを始める松永。だが、鳴海はビクともしない。

 

「…っ! ならば!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スピンターンで反転して鳴海をかわす。

 

「っ!? やろ…!」

 

鳴海をかわした松永はボールを掴み、リングを背にしながらリバースレイアップの態勢に入った。

 

「させんぞ!」

 

だがそこへ、大城のブロックが現れた。

 

「(来たか! だが、お前がヘルプに来たという事は、天野先輩が空くという事だ!)」

 

レイアップを中断した松永は天野のパスに切り替えた。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

「いただきだ!」

 

しかし、そのパスは東雲にスティールされてしまう。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁっ! また失敗だぁっ!!!』

 

「颯!」

 

ここで既に速攻に走っていた三浦がボールを要求した。

 

「おらっ! 頼む!」

 

すぐさま前に縦パスを出した。

 

「くそっ! させるか!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

出された縦パスに対して竜崎が走り込んで必死にジャンプしてボールを弾いた。

 

「…ちっ」

 

カウンターからのワンマン速攻が失敗し、軽く舌打ちを打つも急停止してすぐさまボールを拾った三浦。

 

その間に花月の選手達はディフェンスに戻り、速攻を防いだ。

 

「(…まあいい。なら、当初の予定通り、ここだ!)」

 

1度ボールを止め、直後、三浦がパスを出した。

 

「ナイスパース!」

 

パスの先はローポストに立つ鳴海。

 

「おらぁっ!」

 

ドリブルをしながら背中で松永を押し込みにかかる鳴海。

 

「…ぐっ、やらせるか…!」

 

歯を食いしばって鳴海の侵入を防ぐ松永。

 

「無駄だぁっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…がっ!」

 

鳴海の強い当たりに身体が仰け反ってしまう。

 

「いただき!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

その隙を付いて鳴海がボールをリングに叩きこんだ。

 

「いいぞ鳴海!」

 

「おっしゃぁっ!!!」

 

ハイタッチを交わす鳴海と大城。

 

「どうなってんだよ。さっきまで松永の優勢に戦ってたのに…」

 

突如として鳴海に圧倒され始めた松永を見て菅野が表情を曇らせる。

 

「…」

 

上杉は顎に手を当てて思案していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「うんうん。ちゃーんと言い付けを守ってくれてるみたいだねー」

 

コート上の選手達を見て満足そうに頷く織田。

 

織田がインターバル時に出した指示はインサイドの要である松永を封じる事。

 

純粋なパワーなら鳴海に分があるマッチアップである為、松永は中では鳴海をかわしにくる選択肢が自然と多くなる。そこで、松永にボールが渡ったら大城にはすぐさまヘルプに行けるよう指示を出していた。万が一鳴海が抜かれたら大城に止めさせる為である。

 

仮に空いた天野にパスを出された場合、そこを東雲にパスコースに入らせ、スティールする。

 

オフェンスの際はとある秘策を授け、鳴海に実戦させた。結果、得点を重ねる事に成功した。これが出した策の全容である。

 

現状、生嶋は外が封じられてるので多少空けても問題はないし、大地は灰崎がマークしている。竜崎もスクープショットが封じられている為、自ら決める得点力がない。

 

「さてさて、この第2Q、どれだけリードを作れるかな?」

 

笑みを浮かべながら呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「さて、みんな、行くッスよ!」

 

コートへと続く通路を先頭を歩く黄瀬が声を出した。

 

試合を控える海常。第2Q終了後のハーフタイムに合わせてコートへと向かっている。

 

「コートでは花月と鳳舞が試合してるんだよな?」

 

「ああ。確か予定表はそうだったな」

 

小牧の問いに末広が答えた。海常の選手達がコートのあるフロアへと足を運ぶと…。

 

「…なっ!?」

 

「これは!?」

 

点数が表示された電光掲示板を見て2人は驚愕したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

試合は第2Qに入ってから鳳舞に流れが傾いた。

 

当初の予定であった松永を中心に攻める作戦は開始早々に失敗し、1度タイムアウトを取って流れを切り、作戦を練り直した。だが、悪い流れを変える事は出来なかった。

 

やはり、生嶋が機能しなくなった事が響いており、オフェンスに決定打が欠けていた。大地が要所要所で得点を重ねるも点差はジワジワと開いていた。

 

 

第2Q、残り11秒。

 

 

花月 26

鳳舞 41

 

 

「何やってんだよ花月は…!」

 

点差を見て怒りを露にするのは海常とほぼ同時にコートのあるフロアにやってきた桐皇の福山。

 

「15点差か。…結構開いとるのう」

 

電光掲示板の点差を見ながら呟くように言う今吉。

 

「どうしたんでしょう。…やっぱり神城君がいない事が原因でしょうか?」

 

心配そうにコートを見つめる桜井。

 

「こんな様じゃあいつらに手こずった俺達の株が下がるじゃねえかよ…!」

 

かつて自分達を苦しめた花月の不甲斐なさに憤慨する福山。

 

「…」

 

色めき立つ桐皇の選手達。その中で松葉杖を付いた青峰だけが黙ってコートを見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

現在がボールは花月が保持している。最後の1本を確実に決める為、パス回してチャンスを窺っている。

 

「こっちです!」

 

右側スリーポイントラインから2メートル離れた場所で大地がボールを要求した。そこへボールを持っていた竜崎がすぐさまパスを出した。

 

 

――スッ…。

 

 

「あん?」

 

ボールを受け取った瞬間、大地はすぐさまシュート態勢に入り、素早くボールをリリースした。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に第2Q終了のブザーが鳴った。

 

「(…ふん、最後にやぶれかぶれに打ちやがって。…まあいい。この程度の雑魚なら第3Qにトドメを――)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! ブザービーターだ!』

 

最後に放ったシュートが決まり、観客は沸き上がった。

 

「…ちっ、運のいい奴だ」

 

既に自身のベンチの方角へと向かって行った大地の背中に対して舌打ちを打つ灰崎。…この時、灰崎は気付いていなかった。大地の表情に薄く笑みが浮かんでいた事に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

両校がベンチに戻り、10分間のハーフタイムの為、控室へと向かって行く。

 

「何だその様はよ? 仮にも俺達と互角やりあったチームが随分と無様な試合をしてくれるじゃねえかよ」

 

控室に続く通路に向かう途中、桐皇の選手達とすれ違う花月の選手達。

 

「やかましいわ! こっから盛り返したるから大人しい見とけや!」

 

この言葉に天野が反応し、ツッコミを入れるように言い返し、そのまま通り過ぎていった。

 

「…どういうつもりだ?」

 

横を通り抜ける瞬間、青峰が大地に問いかけた。

 

「…さて、何の事でしょうか?」

 

「…ふん」

 

質問の問いに満足せず、青峰は鼻を鳴らした。大地はそう返してすぐその場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

鳳舞の選手達も控室に向かって行く。リードがある為か、チームの雰囲気は明るい。

 

「…よう、リョータ」

 

「久しぶりッスね。ショウゴ君」

 

黄瀬の隣まで歩み寄った灰崎が軽く挨拶を交わした。

 

「去年、姿が見えなかったからてっきりバスケはもう辞めたものかと思ってたッスけど…」

 

「前にも言っただろ? ただの暇潰しだ。監督のジジイがうるせーから付き合ってやってるだけだ」

 

鼻で笑いながら黄瀬の問いに答える灰崎。

 

「まだキセキの世代の座に未練があるんスか?」

 

「ハッ! んなもんねえよ。あんな雑魚に負けちまう程度の名前なんかに興味沸くかよバーカ。ったく、あんなんに手こずったダイキと、挙句負けたアツシもシンタロウも地に落ちたもんだな」

 

「…」

 

「次はてめえだリョータ。せいぜい首洗って待ってるんだな」

 

ひとしきり言いたい事を言った灰崎は控室に続く通路へと向かって行った。

 

「……相変わらずッスね。けど、生憎ッスけど、俺は慣れない主将をやるのでいっぱいっぱいッスから。明日やるかどうか分からない相手の事に気を回す余裕なんてないッスよ」

 

既に灰崎が通路に消えた為、聞こえる事はないが、黄瀬は自嘲気味にそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって花月の選手達が宿泊する旅館。

 

「…」

 

姫川から鳳舞高校のひと通りの情報を聞いた空は布団の上で後頭部に両手を重ねながら天井を見つめていた。

 

「…なるほど」

 

それだけ感想を述べた。

 

「……それだけ?」

 

「何が?」

 

「いえ、私はてっきり、これを話したら試合会場まで飛んでいくと思ってたから…」

 

あまりに想定外の空の反応に面を食らう姫川。

 

「俺を何だと思ってんだよ…」

 

呆れ顔で返す空。

 

「それにな、姫川は花月を分かってねえよ」

 

「…えっ?」

 

「花月のキャプテンは俺だけど、花月は俺1人のチームじゃない。松永は去年の敗戦からさらにフィジカルアップに努めてもともとのテクニックと合わさって今ではそこらのセンターでは相手にならない程に成長してるし、生嶋の外は健在だし弱点だったスタミナも強化した。天さんのディフェンスとリバウンドは誰よりも頼りになるし、竜崎も帝光中で育っただけあって俺の代わりを任せるには申し分ない」

 

「…」

 

「それに大地がいる」

 

「えっ?」

 

「あいつは俺のもっとも頼りになる相棒だ。昨日の試合だってあいつがいたから勝てたようなもんだ。俺の1番の親友であり、相棒であり…、ライバルである大地がいる。だから――」

 

空は姫川の方へ振り返り…。

 

「何の心配もいらねえよ」

 

そう言ってニコッと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

両校の選手達がコートのあるフロアへと戻ってくると、観客が沸きあがった。各々がベンチに戻ると、選手達がコートへと向かって行った。

 

お互いにメンバーチェンジはなく、第2Q終了時のメンバーがコートへとやってきた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

後半戦、第3Qが開始される。

 

竜崎がボールを受け取り、ボールを運び、フロントコートに入るとボールを回す。竜崎から天野。天野から外の生嶋。生嶋から中の松永。松永から竜崎にボールが戻ると、大地にパスを出した。

 

「チマチマボール回しても結果は変わらねえんだからさっさと来いよ」

 

「えぇ、言われずともそのつもりですよ」

 

スリーポイントラインの僅か外側でトリプルスレッドの態勢でボールを構える大地。一息フゥッと息と吐き…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速。切り込んでいった。

 

「ハッ! そんな温いドライブで俺が抜けるかよ!」

 

同時に灰崎も動き、切り込んだ大地を並走する。だが、次の瞬間…。

 

「…っ!?」

 

灰崎の視界から大地の姿が消え失せた。

 

「(何処に行きやがっ――なっ!?)」

 

消えた大地の姿を探す灰崎。ふと振り返ると、先程ドライブを仕掛けた位置に大地はいた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

充分な距離を空けた大地は悠々と構え、スリーを沈めた。

 

「なん…だと…」

 

灰崎は信じられないものを見る目をして驚愕した。先程大地が切り込んだ時点では確かに大地の姿を捉えていた。だが、切り込む大地に対応しようと動いた瞬間、大地の姿を見失い、次にその姿を捉えたのはドライブで切り込む前の場所だった。まるで大地の時間だけが戻ったのようにそこにいた。

 

「これで9点差。…そうですね。第3Q、10分あれば充分ですね」

 

そう呟き、大地の瞳に力強いものが宿ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





前の試合と違い、この試合はサクサク進んで行きます…(;^ω^)

思えば黒子のバスケ連載当初、正直主人公の黒子の事があまり好きじゃなかったんですよね。理由として、必要な情報をチームメイトはおろか監督にすら教えない。自身の特性であるミスディレクションに時間制限がある事や、サイクロンパスの存在。理由は聞かれなかったから。正直これには( ゚Д゚)ハァ?ってマジで思いました。イグナイトパスに至っては教えても取れないから教えなかったみたいですし。特に敵の情報…それもキセキの世代の情報を教えないのはどうかと思ったんですよね。黄瀬は練習試合前に来た事もあってある程度情報を教えていましたが、緑間と青峰に関しては教えてる感じがしないんですよね。少なくとも、帝光中時代に緑間はハーフラインからはスリーを打っていたんですから教えておけばリコなら自軍のゴール下からスリーを打てる可能性に気付いたと思うんだけど…。青峰も、中学時代からあのスタイルのバスケをしてたんだから教えてあげればいいのに…。緑間の事ハーフタイム時の日向のセリフで、青峰の事は火神の反応で教えてない事は明白なのでなんだかなぁと思ってました。まぁ、秀徳戦は勝ちましたし、桐皇戦は教えても結果は変わらなかっただろうけど。

自分が完全に黒子の事を一時嫌いになったシーンは、秀徳の試合を観戦していた時、火神の『緑間の調子が良さそうだな』っていう言葉に対して『そうなんですか?』って返した所です。これ見て何だかんだ黒子も帝光中出身である事を鼻にかけて誠凛の連中の事舐めてんだなって思いました…(;^ω^)

原作が終えた今では好きなキャラです…!(^^)!

この二次だと出番少ないですが…(>_<)

長々と失礼しました…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第116Q~盗めないもの~


投稿します!

何とか書きあげました…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地が中へと切り込む。

 

「…ちっ!」

 

これに灰崎が反応し、対応する。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

直後、大地が急停止。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

すぐさま高速でバックステップ。灰崎との距離を空けた。

 

「(くそが! あのスピードのドライブの勢いを一瞬で殺した挙句、同じスピードで下がっただと!?)」

 

空いた距離を何とか詰めようとする灰崎。だが、間に合わず、大地はすぐさまボールを掴んでシュート態勢に入った。

 

「(…んなもん。俺にも盗めねぇ!)」

 

驚愕の表情で大地のミドルシュートを見送った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中央を潜り抜けた。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! また決めたぁっ!!!』

 

 

第3Q、残り4分28秒。

 

 

花月 45

鳳舞 50

 

 

第3Q、残り5分を越え、点差は5点にまで縮まっていた。

 

「1本! 止めるで!」

 

『おう!!!』

 

すぐにディフェンスに戻ると、天野が声を上げ、他の選手達が応えた。

 

「くそっ! ボール寄越せ! 早くしろ!」

 

苛立った灰崎がボールを要求する。

 

「(他は空いてない。仕方ない!)…頼みます!」

 

他に攻め手がなかった為、三浦は灰崎にボールを渡した。

 

「調子に乗んじゃねえぞ。てめえなんざ俺の敵じゃねぇんだよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう叫んだのと同時に灰崎がクロスオーバーで大地の右手側から切り込む。大地もすぐさま反転し、灰崎を追いかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

エンドライン目前で灰崎はバックロールターンで反転し、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

右手で掴んだボールをリングに叩きつける。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、そのダンクは大地に叩き落とされた。

 

「(あの態勢からブロックに間に合わせただと!?)」

 

この事実に灰崎は言葉を失った。ロール直後は態勢が悪かった為、そこから追いつかれる…ましてやブロックなどはないと考えていたからだ。

 

大地は灰崎は反転した直後、高速のバックステップで後ろに下がり、灰崎のダンクのタイミングを予測して振り返るのと同時にブロックに飛んだ。

 

「ええで綾瀬! 速攻や!」

 

「うす! 先輩!」

 

ルーズボールを拾った天野が竜崎にパスを出し、竜崎はそのまま速攻をかけた。

 

「くそっ、行かせるか!」

 

そんな竜崎を後ろから東雲が追走する。

 

「――えっ!?」

 

追いかける東雲の横をそれ以上の速さの大地が追い抜いた。

 

「下さい!」

 

「任せます!」

 

竜崎の僅か後ろで大地がボールを要求すると、竜崎はトスするようにボールを横に放った。放ったボールを大地が掴み、そのままドリブルを始めた。

 

「(マジかよ!? ドリブルしている相手に追い付けない!?)」

 

大地を追いかける東雲だったが、全速力で走っているのにも関わらずドリブルをする大地との距離を詰める事が出来なかった。スピードを買われて鳳舞にスカウトされただけに東雲は動揺を隠せなかった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

フリースローラインを越えた所までボールを進めると、大地はボールを右手で掴んで飛び、そのままリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! キタァァァァァァァッ!!!』

 

大地のダンクによって会場を沸き上がった。

 

「…くっ!」

 

ダンクを防がれ、カウンターでダンクを決められた事に悔しさを覚える灰崎だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「すげぇ、綾瀬の奴、あの灰崎を圧倒してやがる。前半戦までは押され気味だったのに…」

 

大地の活躍を見て驚きを露にする菅野。

 

「…昨日の陽泉戦から思ってたが、今の綾瀬はインターハイが始まる前までとはまるで別人だ。こんな僅かな時間でここまで成長するものなのか?」

 

「無論、そんな事はあり得ない」

 

菅野の疑問に答えるように口を挟む上杉。

 

「成長した訳ではない。これが綾瀬本来の実力だ。綾瀬は神城への過度の信頼があった為か、これまで力を出し切れていなかった。本人は全力のつもりでもせいぜい6割。追い詰められた状況下で7割程度の力しか出せていなかった」

 

「…」

 

「だが、昨日、神城が負傷退場した事で頼る者がいなくなり、追い込まれる事で本来持つ力を徐々に発揮出来るようになっていった。そこからさらに追いつめられる事で敗北を意識し、それに抗う事でゾーンに入り、あいつの持つ力を全て発揮出来るようになった」

 

「なるほど…」

 

説明を聞いて菅野は納得するように頷いた。

 

「それともう1つ。綾瀬はバスケに対するスタンスが変わった事が要因だ」

 

「バスケに対するスタンス?」

 

ピンとこなかった菅野は聞き返す。

 

「これまで綾瀬がしてきたバスケは『負けない為のバスケ』だった。だが、昨日の試合、神城がコートからいなくなってからは『勝つ為のバスケ』に変わった」

 

「? どういう意味ですか? 負けない事と勝つ事って違うんですか?」

 

意味を理解出来てなかった帆足が尋ねる。

 

「似ているようで違う。負けないバスケ。言い方を変えればリスクを恐れ、回避するバスケとも言える。例えば勝率や成功率が高い時には勝負を仕掛け、逆に低い時は勝負を避ける」

 

「…それは悪い事なんですか? 素人の考えで恐縮ですが、勝率が低い勝負を仕掛けるのは愚策かと思うのですが…」

 

思わず室井が聞き返す。

 

「確かに、もっとも意見だ。相手が格下ならばそれでもいいだろう。だが、相手が同格かそれ以上であれば話は違う。勝負は必ずしも避けられる訳ではない。そんな時、危険を承知で勝負が出来なければ勝つ事など不可能だ。何せ、賭けの出来ないプレーヤーの心理と言うのはとにかく読みやすいからな」

 

『…』

 

「これまでにも、世間に注目を浴びながら日の目を見ずに消えていった逸材達がいたが、それらの者達に共通していたのが勝つ為のバスケが出来なかった事だ。チームの事情や周囲からのプレッシャーによって後一歩踏み込んで勝利を掴み取る事が出来ず、消えていった。これは綾瀬にも共通している事だった。三杉にエースのバトンを託されて以降、エースの敗北がチームの敗北に繋がると考え、負けないバスケをするようになってしまった。高確率のスリーを打てるのにこれまで容易に打たなかったのはリスクを恐れていたからだ。陽泉戦で勝つ為に賭けを打つ内に綾瀬は自分に何が欠けていたかに気が付いた」

 

「…皮肉ですね。三杉さんが託したバトンが結果としてあいつの才能に蓋をする事になってしまったなんて」

 

嘆息気味に菅野が呟いた。

 

「…いや、あいつはこうなる事を承知の上で綾瀬にバトンを託したのだろう。恐らく、それが綾瀬の才能を完全に開花させる為に必要だったんだろう」

 

「…やっぱり三杉先輩はすごい。いなくなっても尚花月の力になってくれているみたいだ」

 

僅かな期間共に過ごした偉大な先輩である三杉を思い出した菅野はその凄さを改めて痛感した。

 

「もっとも、どこまであいつ(三杉)の狙い通りだったのかは分からんがな。…ともあれ、これでピースはハマった。前半戦は自身の力の使い方がまだ理解しきれていなかった故に確かめる意味も含めてあまり積極的に仕掛けなかったが、それも完了した。後は圧倒するのみだ」

 

上杉の目が鋭くなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「うーん、まずい状況だねー」

 

相変わらずのニコニコ顔だが、顎に手を当てながら弱音を吐く織田。

 

「予想はしてなかったわけじゃないけど、灰崎君がここまでやられちゃうなんてねー。困った困った」

 

そう感じられない言動と表情だが、確実に縮まっていく点差を見て焦りを覚える。

 

「外園くーん。準備出来てるー?」

 

「はい! いつでも行けます!」

 

声を掛けられた選手は元気よく返事をした。

 

「うんうん、よろしい。…それじゃ、行っといで」

 

「はい! スー…フー…っしゃっ!」

 

1度大きく深呼吸をして気合いを入れ、呼ばれた選手はオフィシャルテーブルに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

けたたましくスキール音がコート上で鳴り響く。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「…あっ!?」

 

東雲から三浦に出されたパスを竜崎が弾いた。

 

『アウトオブバウンズ、白(鳳舞)!』

 

しかし、ボールはサイドラインを割ってしまった。

 

「くそっ、惜しい!」

 

ボールを保持出来ず、悔しがる竜崎。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 白(鳳舞)!!!」

 

その時、鳳舞のメンバーチェンジがコールされた。対象は9番の東雲。コートに入ってきたのは11番の外園。

 

「頼む!」

 

「おう!!! 任せろ!!!」

 

気合い充分でコート入りしてきた。

 

「やかましいのが入ってきたのう」

 

「あの11番は姫川から詳しいデータがありませんね」

 

詳細なデータがない選手の登場で軽く困惑する花月の選手達。

 

「背丈は空坊くらいやのう。ま、ええわ。どないな選手かどうかはじっくり見て確かめよか」

 

 

試合再開。外園から三浦にボールが渡り、ボールをキープする。

 

「…」

 

外園をマークするのは東雲に引き続き生嶋。どのような選手か分からない為、その動向に注視する。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりドリブルをしながら攻め手を定める三浦。

 

「…よし!」

 

次の瞬間、スリーポイントラインの外側左45度付近の位置から外園が気合いと共に中へと走り込んだ。

 

「っ!? ス、スイッチ!」

 

追いかけようとした生嶋だったが、大城のスクリーンに阻まれてしまう。

 

ハイポストに外園が立った所で三浦がパスを出した。

 

『おっ! 早速来たぞ!』

 

交代直後にボールが渡り、観客の注目が集まる。スイッチでマークが変わり、目の前に天野が立ちはだかる。

 

「…行くぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言と同時に外園が背中をぶつけながらドリブルを始めた。

 

「(…なんやこいつ。このタッパでパワー勝負する気かい!?)」

 

まさかの行動に天野も困惑した。だが、すぐに頭を切り替え、対応する。やはり体格差が大きい為、天野はピクリとも動かない。

 

「…」

 

何度かボールを突きながら押し込もうとするも動かず、外園は三浦にボールを戻した。

 

「(…中で勝負をするタイプなのか? それにしては高さはないしパワーもそこまで…)」

 

冷静に目の前の選手、外園を分析しようとする生嶋。しかし、答えが出ないでいた。

 

三浦がハイポストに立った大城にパスを出す。

 

「…っ!?」

 

次の瞬間、ゆっくりとツーポイントエリアの外に移動しようとしていた外園が走り出す。左アウトサイド。エンドライン近くのスリーポイントラインの外側まで移動した。同時に大城がハイポストから外園にパスを出した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そこからスリーを放った外園。ボールはリングの中心を射抜いた。

 

「よーし!!!」

 

スリーが決まり、両拳を突き上げながら外園は喜びを露にした。

 

「なっ!? 決めよった!?」

 

まさかの結果に天野は声を上げて驚いた。

 

「…やられたね。始めのポストアップは外の警戒を緩める為か。今のフォーム、かなり打ち込んでる。この人、シューターだ」

 

ここで生嶋は外園の選手像の全容が見えてきた。

 

鳳舞はスラッシャータイプの東雲を下げ、シューターを投入してきた。これにより、外の脅威がある為、ディフェンスを広げざるを得ない。そうなれば中の鳴海がさらに生きる展開になる。

 

再び鳳舞に流れが傾くか…、と思った次の瞬間…!

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地がドライブからのバックステップでスリーポイントラインより1メートル後ろまで下がり、そこからスリーを放ち、決めた。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! そこから決めるかぁっ!?』

 

難しい距離からのスリーを決め、観客がどよめく。

 

「(…くそが! この俺がこうも…!)」

 

あっさりスリーを決め返され、灰崎は内心で悔しさを吐露する。

 

ここでも大地がエースの役割を果たす。流れを簡単には渡さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…何度見てもあのフルドライブからのバックステップには驚かされるぜ。普通あのスピードで切り込んだら下がる事はおろか止まる事だって出来ねえぞ」

 

とんでもない事を平然とやってのける大地を見て驚きを隠せない火神。

 

「あの灰崎君が第3Qに入ってから全く止めれていません。…今の綾瀬君はかつての彼ら(キセキの世代)を見ている気分になります」

 

中学時代にその才能を覚醒させ、最強の名をその手にしたキセキの世代と大地をだぶらせる黒子。

 

「それだけなら灰崎にだって止められない事はねえ」

 

その時、2人の背後から声が聞こえてきた。

 

「青峰!?」

 

声の正体は青峰だった。青峰は松葉杖を突きながらゆっくり2人の横まで歩み寄ってきた。

 

「…その松葉杖、そんなに足の容体が悪かったんですか?」

 

その姿を見て黒子が心配そうな表情で尋ねた。

 

「ハッ! ただの捻挫だよ。これがなくたって歩く事くれー何ともねぇんだけどよ、さつきの奴が早く治したいなら使えってうるせーからよ」

 

げんなりした表情で答える青峰。

 

「さすが桃井さんです。懸命な判断です」

 

「…つうかお前、この後試合だろ? 良いのか、こんなところにいてよ」

 

試合を目の前に控える青峰に火神が尋ねる。

 

「良いんだよ。どうせ試合にゃ出ねーからな」

 

「…っ、そうか」

 

僅かではあるが寂しげな表情で答えた青峰を見て気まずそうな表情をする火神。

 

「…さっきの話ですが、それだけなら止められない事はないと言うのは?」

 

暗くなった雰囲気を変えるべく、黒子が話題を変えるように尋ねた。

 

「言葉どおりだよ。あのバックステップだけなら慣れりゃお前(火神)にだって止められる。…肝心なのはその後だ」

 

「「…」」

 

「あいつのスリーはとにかく打つまでがはえー。あのバックステップで距離空けられた後に打たれたら灰崎じゃ止められねえ」

 

「確かに、あのスリーはお前のところのシューター並の速さだ」

 

火神が思い浮かべたのは青峰のチームメイトである桐皇の特攻隊長にしてシューターである桜井良である。

 

「いや、あいつのやってる事は良とは比べ物になるレベルじゃねー」

 

例えで火神が出した桜井に対し青峰は首を横に振った。

 

「良のスリーはリリースこそはえーがその分打つ前のタメが大きい。だがあいつはリリースだけじゃねえ、タメの動作もごく僅かだ。ドライブで切り込まれた直後にタメもモーションの少ないスリーを打たれりゃ止められねえ。スリーばかり気を取られりゃ最初のドライブか下がった後の再発進で抜かれちまう。後手に回った相手を見て対応出来っから常にペースを握れる」

 

「…なるほど」

 

青峰の解説を聞いて納得する火神。

 

「…仮に青峰君が相手をしたらどうですか? 止められますか?」

 

「止められるに決まってんだろ」

 

黒子の質問に青峰は即答で返した。

 

「…簡単には行かねえだろうがな」

 

と、補足して。

 

「(…去年の合宿の時にも片鱗はあった。俺をヒヤリとさせたあのスリーを組み込んだプレースタイル。ウィンターカップの時は縮こまって打ってこなかったが、昨日の紫原とのやり合いで化けやがったか)」

 

かつての合宿で大地との1ON1に付き合った青峰。その時に大地の才能に気付いていた。

 

「…灰崎、どう相手するつもりだ?」

 

視線をコート上の灰崎に向けた青峰だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おらぁっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

パワーで松永を押し込んだ鳴海がそのままボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

小細工なしで真っすぐ切り込んだ大地。バックステップを警戒し過ぎた灰崎はそのまま抜き去られてしまう。

 

「んのやろ!」

 

「ちっ!」

 

それを見てゴール下から鳴海が、ハイポストで天野をマークしていた大城がヘルプに飛び出した。大地がボールを持って飛ぶと、鳴海は大地の前から、大城は後ろからブロックに向かった。

 

 

――スッ…。

 

 

前後を塞がれると、大地はボールを1度下げ、ブロックをかわすようにボールを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『スゲー! 2枚のブロックをものともしねえ!』

 

2人のブロックをダブルクラッチでかわして決め、観客が沸きあがる。

 

「何やってんだ灰崎! てめえさっきから簡単に抜かれまくりやがってよ!」

 

「うるせーんだよ雑魚が! てめえは黙ってろ!」

 

「んだと!」

 

怒りに任せて鳴海が灰崎に掴みかかろうとする。

 

「いい加減にしろ鳴海。いちいち突っかかるな」

 

伸ばした手を掴んで諫める大城。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをして灰崎はその場を離れていった。

 

「状況考えろ鳴海。…次はねえぞ」

 

「…っ、分かったよ」

 

睨みを利かせながら言った大城を見て鳴海は軽く肩を竦ませながら返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、残り9秒。

 

 

花月 58

鳳舞 61

 

 

試合は第3Q残り僅かまで進んだ。花月は大地が中心となって得点を重ね、鳳舞は三浦が上手くボールを回し、灰崎だけではなく、チーム全員が得点を重ね、何とかリードを守っていた。

 

ボールは花月が保持しており、これがこのQ最後のプレーとなる為、竜崎は時間を目一杯使って慎重にボールをキープしている。

 

「こっちです!」

 

残り時間6秒となったところで大地がボールを要求。竜崎はすかさずボールを渡した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを掴んだのと同時に即ドライブ。

 

「くそが!」

 

このドライブに灰崎は何とか対応する。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

ここで大地は急停止。

 

「(…っ、下がるか、それともこのまま切り込みやがるのか…!)」

 

灰崎は必死に大地の動きを読もうと考えを巡らせる。

 

「(…チラッ)」

 

大地は視線をリングに向けた。

 

「(打つのか!?)」

 

リングに視線を向けられた事で灰崎の頭の中にシュートの選択肢が生まれる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!? ちくしょうが!」

 

新たな選択肢が生まれてしまった事で読み切れず、結局ドライブを選択した大地に対応出来ず、抜かれてしまう。

 

「囲め! 絶対に打たせるな!」

 

大城が大きな声で指示を飛ばし、鳴海、大城、外園が動き、大地の包囲にかかった。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

『っ!?』

 

大地はここでパスをする。ボールは左アウトサイドに出された。

 

「視界はバッチリだよ」

 

そこでパスを受けたのは生嶋。ノーマークでボールを受けた生嶋は悠々とシュート態勢に入った。

 

「無駄だ! てめえのスリーはもう――」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「なに!?」

 

外れると思われたボールがリングを潜り抜け、灰崎は驚愕する。

 

「ようやくリズムを組みなおせた。もう僕のスリーは外れない」

 

にこやかな笑顔で生嶋は言ってのけた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第3Q終了のブザーが鳴った。

 

最後の1本をきっちり決めた花月が遂に鳳舞の背中を捉えた。

 

試合は第4Q、最後の10分間に命運を託されたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





新型コロナが大変な事になってますね…。

自分の業種は規制の対象外となっていますが、それでもノーダメージとは行かず、影響を受けてます。1人でも感染者が出れば営業が止まるので手洗いうがい等、出来る事は何でもやって感染しないようにヒヤヒヤしております。

こんな時、自分の二次を見て元気が出してもらえればと言えるくらい文才があったら良かったんですが…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第117Q~結末と執念~


投稿します!

どんどん次へと進んで行きます…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

「お前達、戦う準備は出来ているな?」

 

コートへと繋がる通路を歩く海常の選手達。その監督である武内がコートに繋がるフロアの手前で選手達に問いかける。

 

『はい!!!』

 

「相手は桐皇だ。3年生にとっては因縁のある相手だ。…アップに参加していなかった事から今日の試合は青峰大輝は欠場するのだろう」

 

『…』

 

相手のキーマンであるキセキの世代のエース、青峰大輝の欠場。試合の勝敗の事を考えれば喜ばしい事であるのだが…。

 

「…」

 

「…」

 

無念の表情を浮かべる黄瀬と三枝の表情を見て他の選手達は表情を改める。2人…特に黄瀬は青峰を超える事を目標としており、一昨年のインターハイの舞台で果たせなかった雪辱を返したかった事は海常の選手達の全員が理解していたからだ。

 

「だが、それでも桐皇は強い。間違っても勝てる等と慢心はするな。試合終了のブザーが鳴るまで気を緩めるな」

 

『はい!!!』

 

「よし! 行くぞ!!!」

 

武内の掛け声と共に武内を先頭に海常の選手達がコートへと再び足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

コートのあるフロアに到着すると、観客が盛大に歓声を上げた。

 

「おぉっ! 盛り上がっとるのう!」

 

その盛り上がり様に三枝が思わず声を上げる。

 

「試合は終盤か。…残り時間は後5分くらいか…」

 

「折り返しの時点では鳳舞が10点以上リードしていたよな? どうなったっかな…」

 

小牧、末広が得点が表示されている電光掲示板に視線を向けた。

 

「……へぇ」

 

電光掲示板を見た黄瀬が思わず感嘆の声を上げた。

 

 

第4Q、残り5分17秒。

 

 

花月 72

鳳舞 67

 

 

「花月がリードしてる!?」

 

「あの点差をひっくり返したのかよ!?」

 

点差を見て小牧と末広が驚愕する。

 

「ハッハッハッ! そうでなくてはのう!」

 

この結果を見て満足気に笑う三枝。

 

「…むぅ、あの灰崎とかつて奴が在籍していた福田総合の戦力にも劣らない戦力にあの織田さんが率いる鳳舞を相手に神城抜きでこのスコアか…」

 

この結果に少なからず武内は驚いた。灰崎の恐ろしさは一昨年のウィンターカップで身を以て体験していたし、他の選手達も全国レベルの選手である上、何よりこのチームを率いているのは名将であり、曲者である織田だからである。明日の相手は鳳舞である可能性を大いに予測していただけに驚いていた。

 

 

「くそが! 俺がこんな所で…、こんな奴に!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

悔し気な表情をしながらドライブを仕掛ける。同時に急停止し、そこから後ろに飛びながらシュートを放った。

 

 

――チッ…。

 

 

ブロックに飛んだ大地の指先に僅かにボールが触れた。

 

「リバウンド!」

 

外れる事を確信した大地は声を出す。

 

「となれば俺の出番や!」

 

すかさずスクリーンアウトに入り、絶好のポジションに入る。

 

「ぐっ! …くそっ…!」

 

何とかポジションを奪い取ろうと試みる大城だったが、天野のパワーとテクニックがそれをさせない。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「もろたでぇっ!!!」

 

天野がリバウンドを制した。この日8本目となるリバウンドである。今日は天野が前日の鬱憤を晴らすように大城、鳴海に、松永がいるゴール下でリバウンドを量産する。

 

「よっしゃ! 速攻や!」

 

すぐさま天野は竜崎にボールを渡した。ボールを受け取った竜崎はそのままフロントコートまでボールを進めていく。

 

「これ以上やらせるか!」

 

スリーポイントライン目前で三浦が竜崎を捉え、立ち塞がる。

 

「(…この人もかなりの選手だけど、余裕がなくなった今なら俺でも戦える!)」

 

これまでボールを回してゲームメイクを続けてきた三浦。灰崎1人に頼り切らず、チーム全体にボールを散らす事で的を絞らせないようにした事が功を奏し、ここまで互角の展開となっていた。この試合の鳳舞の影の功労賞とも言える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

竜崎は思い切って三浦を相手に仕掛ける。

 

「…ちっ! 突破はさせないぞ!」

 

これに三浦も対応。竜崎のドライブに並走する。

 

 

――スッ…。

 

 

並ばれるのと同時に竜崎はボールを掴んで反転、ターンアラウンドで逆を付き、シュート態勢に入る。

 

「舐めるな! 外せてないぞ!」

 

ディフェンスをかわしてきれておらず、三浦がブロックに向かった。

 

「っ!?」

 

だが、竜崎はボールは掲げるだけで飛ばなかった。シュートフェイクに反応してしまった三浦は両腕を上げてしまう。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

シュートを中断し、三浦の股の下からボールを弾ませながらローポストの松永にボールを入れた。

 

「…行くぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

松永は背中に立つ鳴海に宣言し、左と見せかけて右からスピンムーブで鳴海を抜き去る。

 

「くそっ!」

 

直後にボールを右手で掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させんぞ!」

 

そこへ、ヘルプに飛び出した大城のブロックが現れる。

 

「分かっている!」

 

大城のブロックを予測していた松永はボールを下げ、ブロックをかわし、リングを通り抜けた所でボールを再び、リングを背にしながらボールを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『スゲー! あいつセンターだろ!?』

 

センターとは思えない繊細なテクニックに観客が沸きあがる。

 

「ちっ!」

 

「(…まずいな。このパターンも読まれるようになってきた)」

 

鳴海は思わず舌打ちをし、大城は焦りを覚えた。当初こそ鳴海のサポートのディフェンスで松永のオフェンスをシャットアウト出来たが、回数をこなす内に松永も対応出来るようになり、パスを捌いたり、遂には抜かれるようになってしまった。

 

「(この流れを何とか変えんとまずい…)」

 

現状に不安を抱く大城だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

直後の鳳舞のオフェンス。三浦が不意を突くスリーを放り、ボールはリングを潜り抜けた。

 

「よーし!」

 

値千金のスリーを決めて喜びを露にする三浦。

 

「しまった。外を無警戒にし過ぎた…!」

 

時間をかけて慎重に攻めてくると予測していた為、突然のスリーに対応出来なかった竜崎は表情を曇らせる。

 

「ドンマイ」

 

そんな竜崎の肩に手を置いた大地が竜崎に声を掛ける。

 

「慌てる事はありません。落ち着いて次の1本を決めましょう」

 

「綾瀬先輩…」

 

にこやかな笑顔で大地はそう告げ、前へと走っていった。

 

 

ボールを運ぶ竜崎。

 

「(…では、頼らせてもらいますよ!)」

 

コーナー付近に立っていた大地にボールを渡した。

 

「来いよ」

 

「…」

 

小刻みにボールを動かし、牽制する大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して大地が仕掛ける。灰崎もこれに対応、大地に並びながら追いかける。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

ここで大地が急ブレーキ。ドライブの勢いを一瞬で殺した。

 

「(このガキ、打つ気か!?)」

 

シュートを警戒した灰崎がシュートチェックに出た。だが…。

 

「…っ!?」

 

大地はシュートには行かなかった。動きは確かに止まったのだが、ボールは両手で掴んでいなかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

再度大地が発進。今度こそ灰崎を抜き去った。

 

「…っ!」

 

リングに近づくと大地はボールを右手で掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「おらぁっ! させっかよ!」

 

ヘルプに飛び出した鳴海がブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

しかし、大地は鳴海のブロックの上からボールをリングに叩きつけた。

 

『スゲー! あの身長差で上からかましやがった!!!』

 

10センチの身長差を物ともせずにブロックの上からダンクを叩き込み、観客は大興奮。

 

「魅せつけてくれるで!」

 

「…っと」

 

喜びを露にしながら大地の首に腕を回す天野。

 

「…っ!」

 

そんな2人の姿が横を通り過ぎる中、灰崎がきつく拳を握りしめる。

 

「(くそが! この俺があんなカス共に…!)」

 

灰崎の心中は屈辱に塗れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

これは第3Q終了時のインターバル…。

 

『くそっ!』

 

荒々しくベンチに座り、ひったくるようにドリンクを受け取る。イライラを隠せない灰崎。

 

『どうやら、灰崎君より相手のエースの方が上みたいだねー』

 

『あぁっ!?』

 

織田のその言葉に灰崎は怒りを隠しきれず、思わず立ち上がって織田に詰め寄る。

 

『君は相手の6番の技を盗めない。ここまでは君が今まで盗んだ技を駆使して戦ってきたが、さすがは上杉君の所で育った選手だ。能力はもちろん、洞察力も大したもんだ。ここに来て君に対応し始めた』

 

『…あぁっ!? 適当言ってんじゃねえ!』

 

思わず灰崎は織田に掴みかかる。

 

『君はかつては彼の前を走っていた。だけど、彼はもう君の前を走っている』

 

『…っ!?』

 

『それを認めないと君は彼に…そしてこの試合に勝てないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「(…俺があんなガキに劣るだと? あいつら(キセキの世代)じゃねえ、リョータでもねえ奴にこの俺が…!)」

 

その事実を認められない灰崎は怒りで頭が占めていく。

 

「(ふざけんじゃねえ! そんな認められるかよ!)」

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 白(鳳舞)!!!」

 

ここで鳳舞のメンバーチェンジがコールされる。交代に指名されたのは大城。代わりに投入されたのは東雲。

 

「うん。大城君のリバウンドはもったいないけど、点が取れないと話にならないからねー」

 

ジワジワリードが広がり、点差を詰めたい織田は突破力とスピードがある東雲を再投入する。大城のリバウンドとインサイドは勿体ないが、そもそもリバウンドもインサイドも天野に制圧されている為、ならばと東雲を投入した。織田は最後の賭けととして花月の点の取り合いを挑んだのだ。

 

コートに入った東雲から鳳舞の選手達に指示が飛ぶ。ディフェンスは大地に灰崎が、生嶋に東雲が付き、残りは中でゾーンを組む。つまり、トライアングルツーに変更するという事だった。

 

 

試合は開始され、鳴海がスローワーとなってリスタート。三浦にボールが渡り、フロントコートまでボールが運ばれる。

 

「行くぞ!」

 

「…ちっ!」

 

ここが勝負所と見た竜崎がガンガン前に出てプレッシャーをかけていく。三浦はボールを奪われないようかわしながらボールをキープする。

 

「(灰崎さんは……ダメか、マークが厳しい。…なら、ここだ!)」

 

頭上から竜崎のディフェンスをかわしながらボールをローポストに立つ鳴海に渡した。

 

「ここで流れを変えてやるよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

ドリブルをしながら背中で松永を押し込みにかかる鳴海。松永は歯を食い縛ってそれに耐える。

 

「てめえじゃ俺は抑えられないんだよ!」

 

鳴海はさらに身体をぶつけてきた。

 

「(来た!)」

 

試合開始当初は鳴海を抑えられていたが、第2Qからパワー負けし始めた。人が突然パワーアップする事はあり得ない。ならば何かからくりがあるはず。

 

松永は重心を今よりさらに下げた。

 

「っ!?」

 

この行動に鳴海が目を見開いた。

 

「もう俺がパワー負けし始めたからくりには気付いている。あんたは押し込む見せかけて俺の懐深くまで潜り込んで上体を無理やり上げさせただけだ」

 

松永はパワー負けし始めたからくりに気付いていた。鳴海は押し込む際にわざと深く潜り込むように松永の懐に入り、背中で強引に松永の上体を上げさせ、膝を伸ばさせた。そんな棒立ちの態勢ではポストアップに耐え切れず、たちまち力負けしてしまう。これがからくりであった。

 

「ならば、あんたよりさらに重心を下げればいい」

 

鳴海がそれを仕掛けるタイミングは自らやられ続けた事で理解していた。後はそのタイミングに合わせて鳴海以上に重心を下げれば上体を上げられる事はないしこれ以上押し込まれる事もない。

 

「くそっ!」

 

目論見が外れた鳴海は距離を取って仕切り直しを図ろうとする。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「手元が留守だぜ」

 

それを行う直前に松永が鳴海の持つボールを叩く。ボールが鳴海の手元から零れる。

 

「まだだ!」

 

ルーズボールを先程コートに入った東雲が飛び込むように確保する。

 

「灰崎さん!」

 

ボールを掴むとすぐさま灰崎にパスをした。

 

「…っ!」

 

「止めます」

 

ボールが灰崎に渡るのと同時に大地が目の前に立ち塞がった。

 

「ふざけんな…。てめえごときが俺より上なんてあり得ねえんだよ…」

 

怒りに震えながら口にすると、灰崎がグッと構えた。

 

「お前の技。…貰うぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、切り込む灰崎。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

急停止し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックステップで距離を空けた。

 

「…っ!?」

 

下がった瞬間、灰崎の表情が曇る。

 

「おぉっ!」

 

だが、すぐさまシュート態勢に入った。

 

 

『おぉっ! 灰崎が綾瀬の技を奪った!』

 

「……いや」

 

観客の言葉を黄瀬が首を横に振りながら否定する。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「っ!? なん……だと…」

 

そのシュートはブロックに現れた大地の手に当たって阻まれ、言葉を失う灰崎。

 

「まだだ! ルーズボール、抑えろ!」

 

ベンチから大城が声を出す。ボールは手に当たったのと同時に上へと舞っていた。

 

「くそっ……っ!」

 

ボールを抑えようと飛ぼうとした灰崎だったが、膝を曲げると苦悶の表情を浮かべた。

 

「…っと」

 

着地をした大地が再度飛び、ルーズボールを抑え、掴んだのと同時にボールを後ろに落とし、松永に渡す。着地と同時に前へと走り、前を指差して合図を送る。

 

「綾瀬!」

 

その合図を受けて松永は前へと大きな縦パスを出した。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

縦パスを受けた大地がそのまま突き進み、ディフェンスに戻る鳳舞のディフェンスを引き離しながらそのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

大地による連続のダンクを目の当たりにして観客のボルテージは最高潮となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「勝負あった、ッスね」

 

「えっ? まだ時間と点差を見ても鳳舞にもチャンスはありそうですけど…」

 

黄瀬がポツリと呟いた言葉に末広が聞き返す。

 

「残り時間と点差だけを見ればそうッスね。けど、多分、もう鳳舞は逆転出来ないッス」

 

「何でですか?」

 

「あの灰崎という男、足を痛めたのう」

 

末広の質問に黄瀬の代わりに三枝が答えた。

 

「足を? …そんな場面あったか?」

 

答えを聞いていた小牧が末広に尋ねるも末広も首を横に振った。

 

「奴が大地の技を盗もうとした時じゃ」

 

「あの時ですか?」

 

「フルドライブのスピードを一瞬で止めるだけでも足にかかる負担は相当なもんじゃ。それをさらに下がろうとすれば、常人なら止まりきれずに前に倒れるか、無理に下がろうとすれば足を痛める。下手をすれば足の神経を痛めかねん」

 

「…っ!? 言われてみれば」

 

三枝の説明を聞いて納得する小牧と末広。

 

「高い身体能力とセンスが仇となったのう。大地のあの技はリョータですらコピーするのを避ける代物じゃからのう」

 

「えっ!? マジすか!?」

 

その事実を聞いて末広が驚愕する。

 

「技自体は単純ッスからコピーするのは容易いッス。ただ実際やるとなると完成度を落として足の負担を減らすか、身体への負担を覚悟でコピーするかッスね」

 

もともと強靭な下半身を持つ綾瀬が花月に来てさらに鍛え上げ、実戦で使えるまでに昇華させた綾瀬だけの武器。他の者が真似たり盗もうとすればリスクが伴う。

 

「(ショーゴ君のセンスは正直俺達(キセキの世代)と同格と言ってもいいッス。…けど、今日の相手が悪かったッスね…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

黄瀬と三枝の予想は的中していた。以降、目に見えてパフォーマンス能力が低下した灰崎。時折、苦悶の表情を浮かべる場面もあった。

 

試合はもう花月の優勢が覆る事はなかった。

 

リバウンドは天野の独壇場であり、生嶋も狂ったリズムを調律に成功し、決まるようになり、1度は劣勢を強いられた松永も相手のからくりを見抜いた事によって再び主導権を握った。竜崎も立派に空の代わりを務めた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

もはや、コート上に大地を止められる者はいなかった。

 

それでも最後まで勝負を諦めない鳳舞の選手達。必死に食らいついていく。だが、それでも花月が鳳舞を上回った。

 

「――3…2…1…」

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

マネージャー、相川のカウントダウンと共に試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了。

 

 

花月 86

鳳舞 75

 

 

花月が試合に勝利し、ベスト8進出を果たした。

 

「よー空坊の代わりを果たした!」

 

「うす! ありがとうございます!」

 

竜崎の傍に駆け寄った天野が功を労った。

 

「よし!」

 

「勝ったね」

 

松永と生嶋が拳を突き合わせた。

 

「やった! 勝った!」

 

「おう! さすがだぜ!」

 

「先輩方、竜崎も、見事です」

 

ベンチの帆足、菅野、室井もそれぞれ喜びを露にした。

 

「良かった! …あっ!? 姫ちゃんにも教えてあげないと!」

 

勝利を喜んだ相川だったが、姫川の事を思い出し、さっそく姫川に勝利の報告を送っていた。

 

「……ふー」

 

無事、試合に勝利し、軽く一息吐く大地。そっと花月ベンチに視線を送る。

 

「(…グッ)」

 

上杉が胸の辺りで拳を握り、頷いた。

 

「……よし!」

 

それを見て人知れず喜びを露にした。

 

 

「くそっ! くそっ!」

 

対して鳳舞の選手達、鳴海が悔しながら床を拳で叩きつける。

 

「…っ!」

 

「…負けた」

 

下を向いて拳を握りながら唇を噛む三浦と茫然とする東雲。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

天を仰ぎながら涙を流す外園。

 

「……届かなかった」

 

ベンチで座り込みながら両目を瞑る大城。

 

 

「86対75で、花月高校の勝ち! 礼!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内で互いに礼をし、両チームの選手同士が握手をし、検討を称え合った。そんな中、灰崎だけが整列の後、すぐにベンチに足を向けていた。

 

「…っ!」

 

だが、足に激痛が走り、その場で倒れこむ。

 

「…ちっ、仕方のねえ奴だな」

 

倒れこみそうになる灰崎を鳴海が腕を掴み、そのまま自分の肩を貸した。

 

「…触んな。暑苦しいんだよ」

 

そんな鳴海の気遣いを他所に、灰崎は鬱陶し気に鳴海の腕を払い、自分の足でベンチに戻っていった。

 

「みんな、お疲れ様。試合には勝てなかったけど、最後まで立派に戦えていましたよ。…では、次のチームを待たせてもいけませんから皆さん速やかにベンチを空けますよ」

 

戻ってきた選手達の労いもそこそこに、織田が撤収の指示を出した。指示を受けて選手達が荷物を纏め、引き上げの支度を済ませていく。

 

「…」

 

そんな中、灰崎は頭から倒れを被りながらベンチに座っていた。

 

「…灰崎君」

 

「…」

 

「君の才能はとても素晴らしい。あのキセキの世代と劣らない程に…」

 

「…」

 

「君は確かにあの綾瀬君の前を走っていた。…だけど、足を止めてしまえばいずれ、走り続けた者に抜かれてしまうのは道理です」

 

「…っ」

 

「また走りましょう。その燻った気持ちがなくならないように…」

 

「うるせー! ……クソジジイ…」

 

そう言って、そっと灰崎の肩に手を置いた。灰崎は拳をきつく握り、肩を震わせたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――花月高校、ベスト8進出!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ベンチの引き上げ作業が終わった花月。それぞれが荷物を持ってコートから移動を開始する。

 

「…」

 

そんな中、大地が相手側のベンチに視線を向ける。そこには、海常の選手達がベンチ入りをしていた。

 

「おいてめえ」

 

「…?」

 

そんな大地に桐皇の主将である福山が話しかけた。

 

「言っておくが、勝つのは俺達だ。明日の試合も俺達が勝つ。忘れんな」

 

睨み付けながら大地に告げる福山。

 

「そうなっていただければこちらも去年の雪辱を果たす機会が出来て光栄の限りです。リベンジマッチの舞台を是非とも作って下さい」

 

「…ふん」

 

大地の返事を聞いた福山は鼻を鳴らしながら横を通り抜けていった。

 

「…やるようになったじゃねえか」

 

次に大地の傍にやってきたのは青峰だった。

 

「あなた方(キセキの世代)に勝つ為、今日まで必死に練習してきましたから」

 

「…ようやくてめえも扉を開きやがったか。……遅ぇーんだよ(ボソリ)」

 

最後の一言だけ大地の耳に届くか届かないかの小さな声で呟き、青峰はベンチへと向かって行った。

 

「(…福山さんの気迫…、彼だけじゃない、他の選手達全員、昨年私達と試合をした以上の気迫でした。…これは、何か起こるかもしれませんね…)」

 

桐皇の選手達の気迫をその身で受けた大地はそんな予感をしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月、鳳舞の選手達がコートのあるフロアから去り、入れ替わりでそれぞれのベンチに海常、桐皇の選手達がベンチ入りした。

 

両校は粛々と試合の準備を進め、遂に、試合開始3分前となった。

 

「集まれ!」

 

海常の監督である武内が選手達を集める。

 

「スタメンに変更はない。序盤から攻め立てて主導権を取りに行け」

 

『はい!!!』

 

「三枝。今日はお前のポジションが狙い目の1つとなるだろう。頼んだぞ」

 

「ハッハッハッ! 任せといてくれぃ!」

 

豪快に笑いながら返事をした。

 

「…黄瀬、青峰がおらずとも、手を抜くな」

 

「分かってるッスよ。俺は今は海常のキャプテンッスからね。気合い入れてチームを引っ張るッスよ!」

 

黄瀬の調子を心配した武内だったが、黄瀬の表情を見て杞憂だったと心中で安堵する。

 

「他の者達も、海常はもはや黄瀬1人のワンマンチームではない。ここまで努力を重ね、勝ち抜いた立派な戦力だ。胸を張って全力で戦え!」

 

『はい!!!』

 

「よし、行って来い!」

 

「皆、行くッスよ!」

 

『おう!!!』

 

黄瀬の声を合図に海常の選手達はコートにあるセンターサークルへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート上のセンターサークル内に集まる両校のスタメンに選ばれた選手達。

 

 

海常高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:黄瀬涼太 193㎝

 

5番SG:氏原晴喜 182㎝

 

8番PG:小牧拓馬 178㎝

 

10番PF:末広一也 194㎝

 

12番 C:三枝海  199㎝

 

 

桐皇学園高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:福山零  191㎝

 

6番SG:桜井良  177㎝

 

7番PF:新村守  189㎝

 

9番PG:今吉誠二 179㎝

 

10番 C:國枝清  192㎝

 

 

「…」

 

黄瀬が桐皇のベンチの一角に座る青峰の方へ視線を向ける。

 

「よろしく」

 

その時、声を掛けられ、正面を向くと、桐皇の主将である福山が手を差し出していた。

 

「よろしくッス」

 

同じく挨拶を返した黄瀬はその手を握った。

 

「…っ!」

 

その時、福山は握手を交わすと同時にその手に力を込めた。

 

「この試合では余所見してる余裕なんざやらねえからな」

 

低い声で睨み付けるように福山が黄瀬に告げ、その手を放した。

 

「そうでなくちゃ困るッスよ」

 

相手の気迫をその身で感じた黄瀬は不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

センターサークル内に海常は三枝、桐皇は國枝がジャンパーに入り、残りの選手達はその周囲に広がった。

 

審判がボールを2度突くと、ジャンパーの2人の間でボールを構え、ボールを高く上げ…。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

ジャンパーが同時に飛ぶ。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

ジャンプボールは國枝よりさらに高い位置で三枝が叩いた。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! たけー!?』

 

「ナイス海さん!」

 

ボールは小牧の立つ所へと向かって行った。小牧はボールを掴む。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「えっ!?」

 

「おらぁぁぁっ!!!」

 

だが、それよりも早く福山が気合いの雄叫びを上げながらボールに飛び付いた。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

ボールの確保に成功すると、福山はそのまま単独でドリブルで突き進んだ。

 

「させないッスよ!」

 

スリーポイントライン目前で黄瀬が追い付き、回り込んで進路を塞いだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

それでも福山はお構いなしに強引に突き進む。

 

「…っ!」

 

まさかの選択に意表を突かれるも黄瀬は身体を張って並走しながら食らいつく。

 

「おらっ!」

 

フリースローラインを越えた所でボールを掴んだ福山は強引に飛び、リングに強引にボールを放った。

 

「いくら何でもそれは強引っスよ!」

 

 

――チッ…。

 

 

同時にブロックに飛んだ黄瀬。伸ばした指先にボールが触れる。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれ、外れてしまう。

 

「取る!!!」

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

外れたボールを後ろから走ってきた新村が掴み取った。

 

「行け!」

 

「サンキュー!」

 

リバウンドボールを制した新村すぐさま福山にボールを渡す。

 

 

――クィッ…。

 

 

ゴール下でボールを受け取った福山はポンプフェイクを1つ入れ、再び飛ぶ。

 

「何度やっても――」

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――バス!!!

 

 

再びブロックに来た黄瀬だったが、福山は強引に得点を決めた。

 

『スゲー気合い! 先制点は桐皇だ!!!』

 

「よっしゃー!」

 

得点を決めた福山は國枝とハイタッチをし、ディフェンスに戻っていく。

 

「今の気合い、今の執念…」

 

「うむ。あれはエース抜きで何とかする等と生易しいものではないのう」

 

ジャンプボールから得点に至るまで、黄瀬と三枝は桐皇の選手から放つプレッシャーを感じていた。

 

「青峰っち抜きでも勝つ。そんな想いがひしひし感じるッス」

 

昨日の試合のアクシデントによって今日の試合を欠場せざるを得なくなった桐皇。だが、選手達の士気は下がるどころか最高潮であった。

 

「かぁぁぁぁぁぁーーーーつ!!!」

 

自陣で振り向いた福山の咆哮がコート中に響いたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





久しぶりの花月以外の試合です…(>_<)

前の試合が長すぎた為、今回はコンパクトに纏めました…(;^ω^)

どんどん進んで行きますよー…(^-^)/

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第118Q~不屈~


投稿します!

何とか今日中に書き終わった…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り9分44秒

 

 

海常 0

桐皇 2

 

 

試合開始、最初に得点を決めたのは桐皇。主将の福山が強引に得点をもぎ取った。

 

「ディフェンスだ! 1本止めて流れを掴むぞ!」

 

『おう!!!』

 

福山が檄を飛ばし、他の選手達がそれに応えた。

 

「1本! 返しましょう!」

 

ボールを受け取った小牧がボールを運びながらゲームメイクを開始した。

 

「よろしゅー頼むで」

 

「…っ!」

 

そんな小牧をマークするのは同ポジションの今吉。小牧がフロントコートに侵入すると、今吉は激しくプレッシャーをかけた。

 

「(スゲー圧力かけてきやがる! イメージと事前の情報と違うじゃねーか!)」

 

事前の情報とかけ離れた今吉のプレーに戸惑いを覚える小牧。

 

「事情が事情や。今日は何もさせへんで」

 

「…っ! 舐めんな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

挑発にも似た今吉の言葉を受けて、小牧は強引に仕掛け、今吉をかわす。

 

『抜いた!』

 

「…ま、そう来るわな」

 

抜かれた今吉がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「…っ」

 

「行かせねえよ」

 

その直後、まるで切り込むを見越したかのようなタイミングで福山がヘルプに現れ、小牧のキープするボールに手を伸ばす。

 

「(やけにあっさり抜けたと思ったが、罠かよ! だが、この人(福山)のディフェンスはそれほどでもない。そのまま行ける!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ヘルプに福山が現れた事に一瞬動揺するも、すぐさま平静を取り戻し、バックロールターンで反転し、逆を付き、福山の伸ばした手をかわす。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…あっ!?」

 

「残念やけど予測通りや」

 

バックロールターンで反転した直後、後方から今吉が小牧の持つボールを叩いた。

 

「小牧拓馬君。スピードとキレのあるドライブと確率の高いアウトサイドシュートが武器のかつての笠松さんを彷彿させる選手。ドライブ直後にディフェンスが現れるとバックロールターンで切り返す癖があります」

 

ベンチの桃井が自身のノートを持ちながら呟く。

 

「ホンマはドライブ直後にキャプテンがボールを奪ってくれたら御の字やったんけど、そこはキャプテンやからのう」

 

「一言多いんだよてめーは! おらっ! 速攻!」

 

辛辣な言葉をぶつける今吉に突っ込みを入れながらボールを拾った福山はボールを前に走る今吉にパスを出した。

 

「戻れ!」

 

海常のベンチから武内が立ち上がりながら声を上げる。ここを決められてしまうと流れを一気に持っていかれかねないからである。

 

「…っと、とうせんぼ」

 

「…早いのう」

 

先頭で速攻に駆けた今吉だったが、スリーポイントライン手前で氏原に追い付かれる。

 

「ほな、頼んます」

 

停止した今吉はボールを右へと流した。そこには直後にやってきた桜井の姿があった。

 

「すいません!」

 

ボールを受け取った桜井はすぐさま自身の得意技であるクイックリリースでのスリーを放った。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「えっ!?」

 

だが、そのスリーは後方から伸びてきた1本の腕によってブロックされた。思わず桜井が振り返ると…。

 

「すまんのう。ここで流れはくれてやれんでのう」

 

ブロックしたのは三枝だった。

 

「(さっきまでゴール下にいたのに、そこから僕に追い付いた!?)」

 

桜井は今吉が小牧のボールを叩いたのと同時に前へと走っていた。その時点では確かに三枝は自陣のゴール下にいたのを確認していた。そこからブロックに追い付かれた事に驚きを隠せなかった。

 

「これで終わりじゃねえぞ!」

 

ブロックによって零れたボールを福山がすぐさま拾い、そのままリングに向かって突き進む。

 

「らぁっ!!!」

 

リングに近付いたのと同時に福山がリングに向かって飛んだ。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「2度は無いッスよ!」

 

「くそが!」

 

ダンクに向かった福山だったが、黄瀬によってブロックされてしまう。

 

『アウトオブバウンズ、黒(桐皇)ボール!』

 

ボールはサイドラインを割ってアウトとなる。

 

「勝ちたいのは君達だけじゃない、こっちだって一緒ッスよ」

 

「…ちっ、上等だ!」

 

指を指しながら言う黄瀬に、福山は睨み付けながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…あいつ」

 

「えっ?」

 

「あの12番、かなりやるな」

 

ベンチから試合を見ていた青峰がポツリと言った。

 

「12番……三枝海さん。今年の4月に海常高校に転校。それ以前はスペインの高校でプレーをしていた選手…」

 

桃井がノートに記載してある三枝の情報を読み上げていく。

 

「高い身長と鍛え上げられた肉体に、その体格からは見合わないテクニックを擁した選手で、3番から5番まで幅広くこなせる選手。スペインでは既にリーガACBにも注目されている程の逸材…」

 

「ほう…」

 

情報を聞いて青峰が感心の声を上げる。

 

「スペインと言えばアメリカに次ぐバスケット大国。その国のプロリーグに注目されているとなるとかなりの選手。…國枝君では荷が重いかもしれませんね」

 

昨年センターを守っていた若松に代わり、今年からセンターのポジションを任された1年生の國枝清。資質はあるもまだ三枝と戦うのは早いと断ずる原澤。

 

「…」

 

青峰がコートを見つめている。

 

そして試合はその三枝の存在によって苦しめられる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

ローポストでボールを受けた三枝が背中で國枝を押し込みながらドリブルを始める。

 

「むん!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ゴール下まで押し込んだ三枝はそこからボールを掴み、そのまま両手でリングにボールを叩きつけた。力を振り絞ってブロックに向かうも吹き飛ばされてしまう。

 

「…くそっ」

 

ブロック出来ず、悔しがる國枝。彼の脅威はオフェンスだけに留まらなかった。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

ペイントエリアに僅かに侵入した所でフェイダウェイシュートを放った福山だったが、三枝のブロックに阻まれてしまう。

 

「こっちじゃ!」

 

ブロックと同時に前へと走る三枝。そんな三枝に大きな縦パスを出す小牧。

 

「行くぞ!」

 

ボールを受け取った三枝はそのままドリブルで突き進んでいく。そのままドリブルでボールを運び、フリースローラインを越えるとボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「打たせっかよぉっ!!!」

 

直前で追いついた福山がブロックに飛び、三枝の前を塞いだ。

 

 

――スッ…。

 

 

だが、三枝は動じず、ボールを下げ、下からリングに向かって放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『スゲー! あいつパワーだけじゃねぇぞ!?』

 

攻守に渡って活躍をする三枝に観客達の注目度も高まってきた。そして、海常の脅威なのは三枝だけではない。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬の小刻みにステップ入れてからのダックインによるドライブ。

 

「…くっそぉっ!!!」

 

あっさり抜き去られ、悔しさを露にする福山。このドライブが直前に福山が使用したテクニックでもあった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

福山を抜いた黄瀬が直後に停止してジャンプショットを決めた。

 

そう、海常には言わずと知れたキセキの世代、黄瀬涼太の存在があった。黄瀬もまた桐皇を追い詰めていく。

 

『…っ』

 

明らかに不利な状況に表情が曇る桐皇の選手達。

 

黄瀬か三枝にどちらかだけならまだ止められたかもしれない。だが、この2人が同時にコートにいる事で力の差が如実に表れていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

小牧がドライブで切り込む。

 

「させへん――」

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

追いかけようとした今吉だったが、末広のスクリーンによって邪魔される。

 

「(あかん! ええタイミングでかけよるやないか!)」

 

抜群のタイミングでのスクリーン。中学時代からのチームメイトであった2人ならではの阿吽の呼吸。

 

「…ちっ」

 

迫りくる小牧に対し、國枝は三枝のパスコースを消しながらヘルプに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

だが、小牧はそこからシュートを打たず、ボールを右へと流した。

 

「ナイスパス」

 

そこには、氏原が駆け込んでいた。

 

「そいや」

 

エンドライン近く、スリーポイントラインの外側からシュートを放った。

 

「(っ!? ダメだ、これ、入る!)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイにリングに中央を射抜いた。

 

桜井の予想通り、スリーは決まった。それよりも桜井が気になったのは…。

 

「て言うか今の、ツーハンドシュート!?」

 

氏原は今のスリーを従来の片手のワンハンドではなく、ツーハンドで放ったのである。女子バスケでは良く見られるが、男子バスケでは珍しい光景である。

 

海常は去年までの黄瀬のワンマンチームと言われるチームではなく、三枝に加え、小牧、末広、氏原も全国レベルに恥じない選手であり、決して無視は出来ない選手である。

 

 

エース青峰の不在が攻守に渡って桐皇を追い詰めていく。

 

「…っ、あかん、時間あらへん!」

 

第1Q残り僅かとなり、ボールをキープしていた今吉がスリーポイントラインから3メートル程離れた場所からシュートを放った。

 

「(リズムもガタガタな上にこの距離だ。入るわけねぇ!)」

 

不意を打ったスリー。入る訳ないとボールを見送る小牧。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

破れかぶれに放ったスリー。しかし、このスリーは見事にリングの中央を潜り抜けた。

 

「なっ!? マジかよ…」

 

予想だにしない結果に目を見開く小牧。

 

「咄嗟に打ってもうたけど、案外入るもんやのう」

 

決めた今吉は薄く笑みを浮かべた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時にここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

海常 21

桐皇 14

 

 

起死回生の今吉のスリーで何とか点差を一桁で終わらせる事に成功した桐皇。

 

『…っ』

 

だが、劣勢は明らかであり、選手達の表情は暗い。

 

「おら! しけた面してんじゃねぇ!」

 

思わず顔が下を向く選手達。そんな選手達に活を入れるかのように声を荒げた。

 

「まだたった10分終わっただけだ。点差も大した事ねえ。まだ逆転出来んぞ」

 

前を向きながら真剣な表情で告げる福山。

 

「キャプテン…」

 

「俺にボールを集めろ。俺が決めてやる」

 

決意に満ちた表情で福山はチームメイトに告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まり、海常は黄瀬が確実にミドルシュートを沈めた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーポイントラインの外側、右45度に位置でボールを受けた福山が目の前に立つ黄瀬に対して仕掛ける。

 

「行かせないッスよ!」

 

しかし黄瀬、これに難なく付いていく。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

黄瀬のマークは外れていないにも関わらず、福山はボールを掴んで飛び、不安定な態勢で強引にシュートを放った。

 

「リバウンド!」

 

外れる事を確信した小牧は咄嗟に声を上げる。

 

 

――ガン!!!

 

 

予想を通り、このボールは外れた。その瞬間、ゴール下では三枝と國枝、末広と新村がリバウンドに備える。ボールは末広が立つ方に流れる。

 

「くそっ…!」

 

末広は身体を張ってきっちりスクリーンアウトで新村を抑え込み、ボールに向かって飛んだ。

 

「…えっ!?」

 

だが、ボールが末広の両手に収まる直前、後ろから1本の腕が現れた。

 

「入ってろぉっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

リバウンド争いをしていた2人の後ろから福山が強引にボールをリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! 強引に叩き込んだ!!!』

 

「おらっ! まだまだこれからだ!」

 

拳を握りながら福山は誇示するように叫んだ。

 

劣勢を強いられるも福山の活躍と檄によって桐皇の士気は上がり、奮闘する。だが、エース青峰不在の穴は大きく、それでも点差は着実に広がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

三枝のボースハンドダンクが炸裂した。

 

 

第3Q、残り5分39秒。

 

 

海常 60

桐皇 41

 

 

桐皇は今吉が巧みにパスを捌き、桜井が外から決め、福山が中あるいは外から決め、國枝も苦戦しながらも奮闘し、新村も今日の試合にスタメン投入された意地を見せた。しかし、点差は20点近くまで広がっていた。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

やはり、オフェンスではここぞという所で攻めきれず、ディフェンスでは桃井のデータによる先読みがあるものの、黄瀬と三枝が止めきれず、点差を一向に縮める事が出来ない。

 

「…っ!」

 

怒りのあまり、いても立ってもいられなくなった青峰がジャージを脱ぎ捨て、立ち上がった。

 

「何処へ行くつもりですか?」

 

「決まってんだろ。試合に出る。さつき、バッシュ出せ」

 

冷静に尋ねる原澤。青峰は苛立ちを抑えながら答えた。

 

「何言ってんの!? そんな足で出られるわけないでしょ!?」

 

慌てて桃井が止めに入る。

 

「るせーよ。そもそもこんな怪我大した事ねぇーんだよ。俺が出れば逆転なんざわけねえ。早くバッシュ持ってこいよ」

 

「ダメです。今日の試合はあなたは出さないと言ったはずです。それに、まともに歩く事も出来ないその足で何が出来ますか? 座っていて下さい」

 

「んなのやって見なきゃわかんねーだろ! こんな所で負けるくれーなら歩けなくなった方がマシだ」

 

「いい加減にしなさい。あなたは――」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「何度も決めさせっかよぉっ!!!」

 

「っ!?」

 

その時、コート上では黄瀬のジャンプショットを福山がブロックしていた。

 

「マジかよ!?」

 

まさかの状況に小牧が驚愕した。

 

「ナイス福山君!」

 

「よこせ!」

 

ルーズボールを桜井が拾うと、ブロック直後にすぐさま前へと走った福山がボールを要求。桜井はそこへパスを出した。

 

「やるッスね。けど、ここまでッスよ」

 

「…ちっ」

 

ワンマン速攻をかけた福山だったが、スリーポイントライン目前で黄瀬が追い付き、立ちはだかった。

 

「(…くそっ、俺でも黄瀬相手にまともな勝負じゃ勝てっこねえ! だったら!)」

 

福山は遅れて走り込んだ今吉にパスを出した。同時に中へと走りボールを要求。パス&ゴーでローポストでボールを受けた。その背後にすかさず黄瀬が付いた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

ドリブルを始めるのと同時に福山は背後の黄瀬に背中をぶつけ、押し込み始めた。

 

「…くっ!」

 

その圧力に黄瀬が表情を歪ませる。

 

「ファールだ!」

 

海常ベンチから声が上がるも審判は笛を吹かず。ノーファールと判断した。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

ゴール下まで押し込んだ所で福山がボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「この…!」

 

それを見て黄瀬もブロックに飛んだ。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

空中で2人が激突する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹いた。

 

 

――バス!!!

 

 

福山が放ったボールをバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「ディフェンス! 白4番! バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『スゲー! キセキの世代相手にバスカンもぎ取りやがった!』

 

まさかのプレーに観客が湧き上がった。

 

「青峰! この試合てめえの力なんざ必要ねぇーんだよ! 大人しく座ってろ!」

 

ベンチの青峰を指差しながら叫ぶ福山。

 

「っ! ……ちっ」

 

それを聞いて舌打ちをしながら青峰はベンチに腰掛けたのだった。

 

「まだ行けるぞ! 全員、死ぬ気で食らい付け!」

 

「おう!!!」

 

檄を飛ばした福山。桐皇の士気はさらに上がっていった。

 

「福山…零…」

 

そんな福山を見て黄瀬が思わず名前を呟いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボーナススローのフリースローをきっちり決めた福山。点差を縮める事に成功した。

 

「…むぅ、福山零。侮っていた訳ではなかったが、ここまでの選手だったとは。オフェンスだけならもはやキセキの世代に匹敵するやもしれん…」

 

チームを引っ張る福山を見て思わず武内は唸ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は刻一刻と進んで行った。

 

福山の奮闘によってこれ以上になく士気が上がった桐皇。しかし、それでも劣勢を覆すまでには至らなかった。

 

 

第4Q、残り3分4秒。

 

 

海常 85

桐皇 60

 

 

「25点差か、やはり開いたか…」

 

次の試合の為、コートにやってきた洛山。四条が電光掲示板を見て呟いた。

 

「いや、青峰不在を考えればこれでも大健闘だと思うぜ?」

 

横に立っていた五河が続いた。

 

「…」

 

赤司は口を開く事なく試合を見ていた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

ボールをキープするのは黄瀬。目の前には福山。

 

点差と状況を見れば試合の勝敗は99%…もはや100%と言ってもいいほど決まっている。

 

「…まだ勝てる気でいるんスか?」

 

「あぁ?」

 

目の前の福山に対し、黄瀬が尋ねた。

 

「残り時間3分でこの点差。もう君達に勝ち目はない。それでもまだ勝つ気でいるのはどうしてッスか?」

 

決して馬鹿にしてる訳でもなければ圧倒的な有利な状況から嘲笑っている訳でもなく、黄瀬は尋ねた。

 

「うるせーよ。どれだけ点差が付こうと、お前らがどれだけ強かろうと、勝つのを諦める理由にはなんねぇーんだよ。俺はこのチームのキャプテンだ。試合が終わるまで勝利を諦める気はねぇ!」

 

確かな強い目で福山は返した。

 

「…」

 

決して今の状況が分からない訳ではない。ただの義務感で言ってる訳でもない。それでも本心から言ってる事を黄瀬は理解した。

 

「…フフッ」

 

思わず黄瀬の口から笑みが零れた。

 

「てめえ!」

 

「っと、悪い。違うッスよ。決して馬鹿にした訳じゃないッスよ」

 

怒りを露にした福山。黄瀬はすぐさま訂正した。

 

「俺は笠松主将から早川主将。その後に俺が主将を受け継いだんスけど、正直、主将としてどう振舞っていいか分からなかったッス。とりあえず2人がやってきた事を見様見真似でやってきたけど、しっくりこなかった」

 

「…」

 

「今でもまだ分かった訳ではないッス。…けど、チームの為に主将と言うのがどういう存在でならなきゃいけないか、少し理解したッス」

 

「っ!?」

 

その時、黄瀬の変化に福山が理解した。

 

「理解したから…、教えて貰ったから中途半端な真似はしないッス。残り時間、俺の全てを君達にぶつけるッスよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

驚異的な緩急とスピードで目の前の福山を抜き去った。

 

「(この動きは!)」

 

この動きを見て福山は目を見開いた。

 

「くそっ…!」

 

それを見て慌てて國枝がヘルプに飛び出し、シュート態勢に入った黄瀬のブロックに向かった。

 

 

――スッ…。

 

 

それを見て黄瀬がシュートを中断してボールを下げた。

 

「っ!?」

 

ボールを下げ、下からボールをリングに向かって放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

無造作に投げられたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『…っ!?』

 

一連のプレーを見て桐皇の選手達は理解した。今の動きは青峰の動きのそれだと…。

 

「パーフェクトコピーか…!」

 

キセキの世代のプレーを再現出来る黄瀬最大の必殺技、パーフェクトコピー。それをここに来て披露した。

 

「ここからは出し惜しみなしッス。全力を以て君達を倒すッスよ」

 

黄瀬は桐皇の選手達に告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

「がっ!」

 

ゴール下に侵入した黄瀬がそこから回転。紫原のトールハンマーのコピーでブロックに来た國枝と新村を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

『ここに来てパーフェクトコピーかよ!? 黄瀬えげつねー!』

 

『青峰の不在の桐皇に追いすがられてプライドに障ったか?』

 

観客から悲鳴交じりの歓声が響き渡る。

 

「違うな。黄瀬は応えたんだ」

 

「えっ?」

 

これまで無言で試合を見ていた赤司が口を開いた。

 

「点差が開いても尚勝ちに行く姿勢を崩さなかった桐皇と試合に出られなかった青峰に報いる為、黄瀬はパーフェクトコピーを出した。それが黄瀬に出来る桐皇への敬意の払い方なのだろう」

 

「あの黄瀬が…」

 

赤司の口からそれを聞いた四条はにわかに信じる事が出来なかった。黄瀬は自身が認めた者以外の者には良くも悪くも無関心な一面があるからだ。かつての黄瀬であれば特に何も思う事無く淡々とプレーをしていただろう。

 

 

残り時間3分。黄瀬のパーフェクトコピーは猛威を振るい続けた。オフェンスでは黄瀬を止められず、ディフェンスは黄瀬の牙城を崩す事が出来なかった。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

残り時間僅か。苦し紛れに放った福山のシュートが決まった。勝敗は既に決まっていたが、福山が意地を見せた。

 

 

――スッ…。

 

 

得点が決まった直後、ボールを受け取った黄瀬が自陣深くから突如腰を落とし、シュート態勢に入った。

 

『っ!?』

 

それを見た桐皇の選手達が目を見開いた。

 

深く腰を落とした溜めた黄瀬がそこから頭上高く大きな軌道を以てボールをリリースした。

 

『…』

 

コート上の選手達、ベンチの選手、監督、会場の全てがボールの軌道に注目する。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中央を的確に射抜いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴った。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

 

試合終了。

 

 

海常 101

桐皇  64

 

 

優勝候補同士のチームの戦いがこれで終わった。

 

「101対64で、海常高校の勝ち! 礼!」

 

『ありがとうございます!』

 

審判の号令に合わせ、両校の選手達が礼をした。

 

「ありがとよ、黄瀬」

 

「こっちこそ、戦えて良かったッス」

 

主将同士である黄瀬と福山が握手を交わした。続いて健闘を称え合った選手達が握手を交わした。

 

 

――パチパチパチパチ…!!!

 

 

観客席から拍手が上がった。

 

『桐皇! 最後まで凄かったぞ!』

 

『青峰いたら勝ててたぞ! 冬は絶対勝てよ!』

 

試合を制した海常より、最後まで諦めなかった桐皇の選手達への拍手の方が多かった。

 

「顔を上げろ! 最後まで情けねえ姿を見せるな!」

 

込み上げるものを我慢しながら福山が選手達に言った。

 

『…っ』

 

それに応えるように他の選手達も顔を上げた。

 

「すまねえ! 勝てなかった!」

 

ベンチに辿り着いた福山が青峰に頭を下げた。犬猿の仲とも言える2人。そんな福山が頭を下げる事など考えられない事だった。

 

「…俺がいねーんだから当たり前だろうが」

 

そんな福山から視線を逸らしながら素っ気なく返す青峰。

 

「…まだ終わりじゃねえ。冬は勝つ。足引っ張んなよ」

 

「…おう!!! たりめーだ!!!」

 

悪態を吐きながら言った青峰の言葉に対し、福山が決意に満ちた表情で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「清々しい相手じゃった」

 

「ホントッスね」

 

ベンチに戻った海常の黄瀬と三枝が言葉を交わす。

 

「点差以上に厳しい相手じゃった。もし相手のエースがおったら…、考えたくはないが、逆の結末じゃったかもしれんのう」

 

「かもしれないッス」

 

桐皇がどれだけ強かったかは対戦した海常の選手達自身が1番理解していた。

 

「これで終わりじゃないッスよ。明日は、今日以上に厳しい試合になるッス」

 

「じゃのう。ワシの弟分達との試合じゃ。腕がなるのう!」

 

激闘が終わり、次に待ち構える強敵を前に、三枝は不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も他の3回戦の試合が始まった。

 

洛山は順当どおり、後半戦から主力を温存しながらも快勝。続く秀徳も圧倒的な力で試合を制した。

 

誠凛も終始リードを保ちながら試合を進め、主力と入れ替わりに黒子テツヤを投入。ベンチメンバーが中心ながらもミスディレクションを駆使してボールを中継し、リードを保持しながら試合を終わらせた。

 

これにより、3回戦が終了した。

 

激闘を勝ち抜いた8校が翌日、準決勝進出をかけて再び激闘を繰り広げる。

 

 

 花月高校 × 海常高校

 

 

この2校が明日、激突する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





決戦前夜まで行きたかったんですが、長くなったので一旦ここで止めます。

さて、これから次の試合の為のネタを集めないと…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第119Q~準々決勝前夜~


投稿します!

毎度恒例の試合前のアレです…(^-^)

それではどうぞ!



 

 

 

インターハイ4日目、3回戦を終え、花月高校の選手達及び監督とマネージャーが旅館へと帰ってきた。

 

「ハグハグ……おー、お疲れさん」

 

バスから降り、旅館の入口へと向かうと、入り口横に備え付けてある木製の和風の長椅子でかき氷を食べていた空が出迎えた。

 

『…』

 

その姿を見て言葉を失う。

 

「このドアホが…。人が激闘繰り広げとる時になに呑気にカキ氷食っとんねん!」

 

思わず天野が突っ込みを入れる。

 

「まあまあ、これでもさっきまで寝てたんスよ? 時計見たらそろそろ帰ってくる時間だったから腹ごなしを兼ねて出迎えに…」

 

「…くー、いくら良くなったからって昨日倒れて運ばれたんだから大人しく寝てようよ」

 

呆れながら生嶋が空に言う。

 

「生嶋さんの言う通りですよ。それ食べ終わったら部屋に戻って下さいね」

 

「分かった分かった。……っと、そういや大地、ついさっき、『あいつ』が尋ねてきたぜ」

 

「あいつ?」

 

「ほら、あのバカ」

 

「……あー、彼ですか」

 

誰の事か見当の付いた大地。

 

「そーそー、たまたまインターハイの試合を見に来てたらしくてな。ついでに俺の様子見に来た」

 

「そういえば彼とは久しく会っていませんでしたね。……まさかとは思いますが」

 

「心配いらねーよ。勝負挑まれたけど断った。あまりにもせがんで来たから拳骨で黙らせたけど」

 

「それなら良いのですが…」

 

『?』

 

空と大地が何やら2人だけにしか分からない会話しており、他の者達は頭に『?』を浮かべていた。

 

「いた! こんな所で何やってるの!?」

 

旅館の中から空の姿を探していたと思われる姫川が空を見つけ、肩をいきり立たせながら近づいてきた。

 

「今日は1日安静にしろって言われてたでしょ! 早く部屋に戻りなさい!」

 

「イタタ! 分かった、分かったって! 戻るから!」

 

耳を引っ張られた空は涙目になりながら姫川に訴えた。姫川に引っ張られて歩き出した空だったが、立ち止まると皆の方へ振り返り…。

 

「そうだそうだ。肝心な事を聞き忘れた。試合には勝ったか?」

 

こう尋ねた。

 

すると天野は親指を立て、生嶋はピースサインを出し、松永は拳を握り差し出した。その他の者も各々笑顔でポーズを取った。

 

「明日は準々決勝ですよ」

 

大地も笑顔で拳を空に向けた。

 

「…ハハッ! 当然の結果――痛い痛い痛い!!!」

 

「早く部屋に戻るわよ!」

 

「分かった! 分かったから! 自分の足で歩けるからこれ以上引っ張らないで!」

 

耳を引っ張られながら連れていかれた空なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

それぞれがあてがわれた部屋に戻り、着替えを済ませ、旅館自慢の温泉で汗と疲れを落とし、その後夕食を済ませると、旅館の一室、プレーヤー機器が備え付けてある部屋に選手達が集まった。

 

「これより明日の対戦相手である、海常高校のスカウティングを始める」

 

『はい!!!』

 

部屋の前に立った上杉が告げると、均等に並んだ椅子に腰掛けた選手達が大声で返事をした。

 

「だがその前に…、神城、お前が何故ここにいる」

 

座席の先頭で座っていた空に上杉がジト目で尋ねた。

 

「良いじゃないです。別に激しい運動する訳でもないし。そもそも俺だって明日は試合に出るんですから参加させて下さいよー」

 

抗議するかのように唇を尖らせながら懇願する空。

 

「明日の試合にお前を出すとは決まっていないぞ」

 

「そりゃないですよ!? 今日だって我慢したんですから明日の試合は絶対出ますからね!」

 

「騒ぐな。試合に出すかどうかは医者の許可が出たらだ。……まあいい。終わったら部屋で大人しくしてろよ? …コホン! では改めて、始めるぞ。…頼む」

 

「はい」

 

咳ばらいをしながら促すと、姫川がデッキを操作して1枚のDVDをセットした。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

そこに映し出されたのは先程行われた海常対桐皇の試合映像だった。

 

「海常とは初対戦となる。各選手の特徴をしっかり頭に入れろ」

 

『…』

 

花月の選手達は試合映像に注目する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

8番の背番号を付けた選手が目の前の相手である今吉を抜き去った。

 

「8番、小牧拓馬。ポジションは1番(PG)。生嶋君と同じ城ヶ崎中学出身。スピードとキレのあるドライブ技術とアウトサイドシュートが武器の選手です」

 

姫川が自身のデータが記載されたノートを片手にプロフィールを述べていく。

 

「…っ、速いですね。映像からでも分かります。この人、陽泉の永野さんより速いですよ」

 

映像でドライブを見た竜崎が正直な感想を言う。

 

「桐皇と戦った事のあるお前らなら分かると思うが、桐皇はオフェンス重視のチームであるが、マネージャーの桃井のデータによる先読みがある。今吉はそのデータがあっても尚抜かれた。それだけこの選手のドライブ技術は高いという事だ」

 

補足で上杉が続く。

 

「マッキーはミニバスからの付き合いだけど、1年生の時から試合出てたから実力は折り紙付きだよ」

 

かつてのチームメイトである生嶋が小牧の事を語った。

 

「城ヶ崎言うたら中学じゃ全国区の名門や。そこで1年から試合に出てた言うんやからそらやるわな」

 

天野がボソリと言った。

 

「外もあるから迂闊に距離は空けられん。明日の試合この選手をマークするのは…」

 

「俺ですね。当然、明日は完封してやりますよ」

 

不敵な笑みを浮かべる空。

 

「竜崎、お前も相手をする事があるかもしれん。イメージを固めておけ」

 

「はい!」

 

「いや、明日は俺が試合に出ますって」

 

返事をする竜崎に空が文句を言うように突っ込みを入れた。

 

 

――バス!!!

 

 

10番の選手が背中にいるディフェンスを避けるようにフックシュートを決めた。

 

「10番、末広一也。ポジションは4番(PF)。派手なプレーではなく、堅実なプレーでチームに貢献する技巧派の選手です」

 

「…ええ選手や。周りが派手な奴ばかりやからあまり目立たんが、脇役に徹して立派にチームに貢献しとる。こういう選手がおるとチームが引き立つんや」

 

映像を見た天野が末広を称賛する。

 

「だが、決して地味なだけの選手ではない。身体能力も高い。自ら仕掛けて戦局を打開するだけの力も持っている。脇役だけでなく、時に主役にもなれる選手だ」

 

「…確か、彼は中学時代はセンターをやってましたよね?」

 

「うん。3年の時はね。2年の時まではパワーフォワードだったから問題なくこのポジションをこなせるはずだよ」

 

大地の質問に生嶋が答えた。

 

「こいつの相手は天野に任せる」

 

「了解や。年季の違いを見せたるわ!」

 

拳をパチンと鳴らしながら天野が不敵な笑みを浮かべながら返事をした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

左45度のアウトサイドから5番の選手がスリーを決めた。

 

「5番、氏原晴喜。ポジションは2番(SG)。アウトサイドシュートを得意とする選手です」

 

「ツーハンドシューターか。珍しいのう」

 

氏原は一般的なワンハンドではなく、両手でボールをリリースしていた。

 

「…ツーハンドの選手は今まで相手した事がないからタイミング取るのに苦労しそうだ」

 

映像を見た生嶋が神妙な表情で感想を述べた。

 

「女子バスケでは当たり前に見られるツーハンドのリリースだが、女子バスケのスリー成功率は馬鹿に出来ん。しかも、両手でリリースする分手の負担が両手に均等に分散されるから試合後半でも確率が落ちにくい」

 

上杉がツーハンドの利点を挙げていく。

 

「マークするのはイクや。止めてもらわんと困るで」

 

「任せて下さいよ。スリーでは僕は負けないよ」

 

薄っすらと笑みを浮かべながら生嶋は答えたのだった。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

12番の選手が桐皇の福山のダンクをブロックした。

 

「12番、三枝海。ポジションは5番(C)。高い身体能力に加え、抜群のテクニックも有する選手であり、3番(SF)から5番(C)までこなせる選手です」

 

「海兄か…」

 

映像の三枝を見て空がボソリと名前を呟く。

 

三枝はオフェンスでは持ち前の身体能力を駆使してゴール下から得点を量産。時にリングから離れた場所からも仕掛けていた。ディフェンスでは福山や同ポジションの國枝のローポストからの攻撃をことごとくはね返していた。

 

「…っ、これはかなりの選手だぜ。身体能力が尋常じゃねえ。こいつならあの紫原相手でも1人で対等にやり合えるじゃねえか?」

 

思わず菅野が冷や汗を掻きながら感想を言葉にした。

 

「さすがに身体能力なら紫原の方が上やろ。…やけどこいつ、身体の使い方が抜群に上手いわ。紫原もセンス任せにやっとった当初に比べてだいぶ無駄がなくなっとたけどまだ拙い部分もあった。けど、こいつの身体の使い方は俺から見て満点に近いで。たけさん級や」

 

天野が知る最高のインサイドプレーヤーである堀田を引き合いに出して三枝を評価する。

 

「純粋なセンスと身体能力なら紫原に勝てる者は少なくとも今の高校生にはいないだろう。圧倒的な質を誇る紫原に対してこの選手は質では紫原に譲っても紫原以上に手広くこなせる器用さとテクニックを持っている。この選手はある意味紫原を相手にするより手強い」

 

同じく上杉も三枝を高く評価した。

 

紫原よりもプレーの幅が広く、こなせるものが多い三枝。身体能力にしても紫原程ではないにしろ、並の選手を遙かに凌駕する。同じ止められないなら引き出しの多い三枝の方が厄介であると上杉は解説した。

 

「…マツ。こいつの相手はお前さんがする事になる予定やが、どうや?」

 

「…」

 

横に座る松永に尋ねる天野。尋ねられるも無言で映像を見つめる松永。

 

同じポジションである松永。選手のタイプも似通う部分もある選手同士でもある。

 

「マツには悪いがのう、正直、マツとのマッチアップは分が悪いで。試合は流れやシチュエーション次第で格上でもどうにかやり合える事もあるやろ。けどなぁ、相手が自分の上位互換やと力の差をひっくり返すのは難儀やで」

 

天野が懸念を示した。

 

特性が同じで自分より優れた選手。長所と短所が似通う者同士のマッチアップは結果が定まりやすい。

 

「俺が海常の監督ならここを狙う。突破口には違いないからな」

 

「…っ」

 

上杉も同様の見解を示し、松永は表情を曇らせた。

 

「だったら、思い切って室井をぶつけるってのはどうだ? あの紫原相手でも善戦したパワーを持ってんだ。もしかすれば――」

 

「残念ですけど、それはむしろ逆効果だと思いますよ」

 

菅野の提案を空が却下した。

 

「確かに室井なら海兄のパワーに充分対抗出来るでしょうけど、テクニックに差があり過ぎる。室井には悪いが、パワー勝負を避けられてテクニックでいなされるのが目に見えてます」

 

「私も空の意見に同感です。己の力に絶対の自信とプライドを持っていた紫原さんはムキになってある程度は室井さんの土俵で戦ってくれましたが、海さんは自身のプライドより試合の勝つ事を優先出来る方です。敗北の目が出来る勝負は仕掛けてこないかと」

 

空の意見に大地も賛同する意見を取った。

 

「せやったら無難にゾーンディフェンスで対策するのが1番なんちゃうん? 2-3ゾーンで前2人を空坊と綾瀬を置けばゾーンディフェンスの弱点もカバー出来るしのう」

 

次善策として天野が提案したのはゾーンディフェンスだ。人数をかけて中を全員でカバー出来る為、三枝対策はもちろん、中へのカットイン対策にもなる。前に空と大地を置けば2人のスピードと運動量で弱点である外からのスリーにも対処出来る。

 

「…これしかないか。それじゃあ、明日の試合はゾーンディフェンスで――」

 

「待て」

 

菅野が意見を纏めようとした時、上杉が待ったをかけた。

 

「松永。お前はどうしたい?」

 

下を向いて歯を食いしばっている松永に上杉がそう尋ねた。

 

「試合前に出来るのは予測までだ。バスケはデータや数値だけで勝敗を決められる程簡単ではない。ゾーンディフェンスは悪い言い方をすれば逃げの対策に過ぎない。お前がやれると言うなら俺はお前の意志を尊重する。どうする?」

 

「…」

 

そう尋ねられ、松永は僅かな間考えを巡らせ、そして…。

 

「やります。やらせてください」

 

顔を上げ、真剣な表情でそう答えた。

 

「…分かった。スタートはこれまでどおりマンツーマンで行く」

 

確固たる意志を松永から感じ取った上杉はそう結論付けた。

 

「うちのインサイドの要は松永だ。相手が海兄だろうと関係ねえ。やってやれ」

 

「フッ、言われるまでもない」

 

不敵な笑みで発破をかける空。松永は薄く笑みを浮かべながら答えた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ここで、映像は4番の背番号を付けた選手が豪快にボールをリングに叩きつけた。

 

「4番。黄瀬涼太。ポジションは3番(SF)。今年の海常高校の主将であり、言わずと知れたキセキの世代の一角…」

 

「今更説明されるまでもないわ。言われでもよー理解しとるわ」

 

説明途中ではあったが、天野が姫川を遮るように口を挟んだ。

 

『…』

 

黄瀬のプレーを選手達は無言でも見つめている。…正確には言葉を発する事が出来ない。

 

「…何と言うか、やっぱりキセキの世代はいつ見ても言葉を失うね」

 

ようやく生嶋がそう感想を漏らした。

 

「キセキの世代の中でも黄瀬涼太は1番付け入る隙がない。何でも出来て何にでも対応出来る。…まさにオールラウンダー。ある種、バスケ選手の理想形だ」

 

続けて松永がそう解説をした。

 

「黄瀬の代名詞とも言えるコピー。これが厄介だ。目の前で見せた自分の得意技をそれ以上のスピード、パワー、キレで再現してくる。灰崎の強奪も大概だが、このコピーも厄介だ。得意技とはすなわちこれまでの練習で積み上げてきた自身の1番の武器だ。それを目の前で自分以上の動きで再現されればメンタルに負うダメージは大きい」

 

これまで自分が苦労して築き上げてきたものを即座に目の前でそれ以上のものを築き上げられ事の精神的なダメージは大きい。

 

「そして、黄瀬の何より厄介なのはこれだ」

 

 

――バス!!!

 

 

下から無造作に投げられたボールがバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「パーフェクトコピー…」

 

空がポツリと呟いた。

 

その後もシュート態勢に入った相手選手との距離を一瞬で詰め、ブロックしたり、センターラインよりかなり後ろから高弾道のシュートを放ち、リングに掠る事無く決めたり、切り返しで目の前の選手にアンクルブレイクを起こさせたりと黄瀬のプレーは続いた。

 

「キセキの世代のプレーを完璧に再現した黄瀬最大の模倣。…正確には完全に同じではないが、それでも本家と比べても遜色ない程の再現度だ」

 

『…』

 

「これがある限り、例え試合終盤で多少の点差を付けたとしても容易に点差をひっくり返される。海常を降すには、使われても尚逆転出来ない程に点差を付けるか、このパーフェクトコピーを攻略するか…」

 

2つの選択肢が出されたが、前者はほぼ不可能に近い。黄瀬と三枝と言うトップレベルの選手がいる上に他の選手も全国レベルの選手だからだ。今年の海常相手に点差を付ける等不可能に近い。ならば、黄瀬のパーフェクトコピーを攻略するしかない。

 

「…大地。責任重大だぜ」

 

明日の試合、黄瀬のマークを担う事になる大地に空が声を掛けた。

 

「率直に言えば、黄瀬さんは今日の相手である灰崎さんより上の相手です。正直、その灰崎さんでもまともに相手するのに時間も苦労もありましたから、明日はさらに苦労させられますね」

 

これまで黄瀬のプレーを無言で見つめていた大地が口を開いた。

 

「ですが、止めて見せます。黄瀬さんを…、それこそ、パーフェクトコピーも…」

 

意志のこもった目で大地がそう答えた。

 

「うむ。黄瀬の相手を出来るのは綾瀬、お前だけだ。任せるぞ」

 

「はい。任せて下さい」

 

上杉の言葉に大地はそう返事をした。

 

「ま、俺だってやれるけど、今回は大地に譲るぜ」

 

負けじと空がそう口を挟んだ。

 

「…よし、各選手の分析が終わった所で、ここからは細かな戦術の説明を始める」

 

静かに上杉が選手達にそう告げたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

時を同じくして、海常高校の選手達も明日の試合の対策会議をしていた。

 

「これが明日の相手である花月高校だ」

 

試合映像を流し終えると、武内は映像を止めた。

 

「…っ、あの灰崎がいる鳳舞相手に危なげなく完勝か」

 

今日行われた花月対鳳舞の試合を見た氏原。2年前、灰崎を擁する福田総合との試合を知る氏原は結果を見て思わず顔が引き攣る。

 

その試合も黄瀬の負傷と言うアクシデントもあったが、結果はギリギリと言えるものだった。今年の鳳舞はその福田総合と総合力では同等かそれ以上の戦力であり、そんな鳳舞を相手に完勝した花月に驚きを隠せなかった。

 

「去年と主力の入れ替わりがないのが大きな強みですね。それぞれがレベルアップをしていた、さらに戦術の幅が増えてます」

 

インターハイ出場校の中で唯一昨年の戦力の入れ替わりがない花月。それがアドバンテージとなると末広が分析する。

 

「問題はこの綾瀬だ。正直、去年とはまるで別人だ。ガンガン切り込んで仕掛けるスラッシャータイプかと思ったが、これを見る限り、生粋のシューターと呼んでも差し支えない選手だ」

 

昨年のインターハイ、ウィンターカップではスピードを生かしたドライブが持ち味だった大地だったが、今日の試合はスリーを打つ回数も多い上、成功率もかなり高い。それも、灰崎がマッチアップの相手であるのにも関わらずだ。

 

「うーむ。ワシからすると珍しい光景ではないんだがのう。昔はそれこそ外を主体にしておったから、この姿の方がしっくりするのう」

 

顎に摩りながら三枝が言う。かつて、共にバスケをした事がある大地を知る三枝にとって違和感のない姿であったのだ。

 

「他の選手のレベルも高い。ディフェンスとリバウンドのスペシャリストの天野に、外の生嶋と中の松永。あの上杉に育てられただけの事はある」

 

大地以外の選手も高く評価する武内。

 

「…そしてこれに神城が加わるかもしれない」

 

ポツリと小牧が呟いた。

 

今日の試合に空は出場していない。チームの主将であり、精神的支柱である空を欠いてこの結果なのだ。

 

「…うむ。神城が加われば試合のテンポが上がり、攻守共に戦力が倍増する。あの陽泉から100点奪う程なのだからな」

 

全国屈指のディフェンス力を誇る陽泉から100点も奪った花月。陽泉がここまで失点を喫したのは過去を振り返っても記憶にない事である。

 

「明日の試合には出てくんのかな…」

 

「間違いなく出てくるのう。例え止められようとあいつはそれこそ死ぬ事になってもあいつは出てくる。そういう男じゃ」

 

誰かが漏らした疑問に三枝が断言する。

 

「小牧。もし試合に出てきたら相手をするのはお前だ。任せたぞ」

 

「任せて下さい! 俺はあいつに勝つ為に今日まで練習してきたんです。絶対に勝ちます」

 

中学時代に煮え湯を飲まされた星南中。そして空。小牧の闘志は誰よりも燃えてきた。

 

「明日の相手は強敵だ。各自、分かっているとは思うが、油断等言語道断だ。死に物狂いで試合に臨め」

 

『はい!!!』

 

武内の言葉に選手達は大声で応えた。

 

「…」

 

再び流れた映像を無言で見つめている黄瀬。映像では大地が灰崎はかわして得点を決めた。

 

明日の試合、自身がマッチアップする事になるであろう大地。過去にも黄瀬は花月の試合をその目で見た事はあるし、昨年は共に数日間合宿で過ごした事もあった。

 

「(正直、あの時はまだ中学生っぽさが残ってたッスけど…)」

 

このインターハイで大きく化け始めた大地。今日の試合で自分の力を完全に把握し、灰崎を圧倒した。

 

「(綾瀬大地。…そして神城空。この2人を擁する花月は強い。もしかしたら、今日まで勝ち残った何処の高校よりも…。けど、負けないッス。その為に俺は主将になったんスから)」

 

花月を強敵と認めた黄瀬。密かに明日の試合への闘志を燃やしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

こうして激闘を勝ち抜いた花月と海常の夜が終わった。

 

それぞれが明日の試合に向けて研究をし、明日の試合に備えて眠りに付いた。

 

そして夜が明け、激闘の準々決勝の舞台の幕が上がるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





試合には欠かせない対戦相手のスカウティング。あまりやり過ぎるとくどいのか…orz

次話から試合(おそらく)になるかと思いますが、中身がなかなか固まらない…(;^ω^)

さてと、どうしようか…。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第120Q~挨拶~


投稿します!

遂に試合まで漕ぎつけました…(^-^)

それではどうぞ!



 

 

 

「…」

 

「……ふむ」

 

3回戦を終えた次の日の朝、空が監督の上杉と共に会場近くの診療所で検査を受けていた。2回戦…花月にとっては初戦である陽泉にて、空は紫原をブロックに向かった際に転倒、頭を強く打って脳震盪を起こし、途中退場し、その後ラスト2分で再度試合に出場し、再度倒れた為、続く3回戦は欠場となった。

 

医者からは1日の絶対安静を命じられ、その翌日の検査結果次第で準々決勝の試合の参加が決められる。

 

「…っ」

 

検査結果が記載されたカルテを無言で読み込む医者。椅子に座りながら結果を待つ空。

 

「……おめでとうございます。結果は良好です」

 

カルテを読み終えた医者から笑顔でそう告げられた。

 

「脳波に特に異常は見られませんし、事前に行った簡易検査でも問題は見られませんでした。後遺症等も心配もありません。今日の試合、存分に出場して下さい」

 

「いよっしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

医者からの試合参加のお墨付きを貰い、空はその場で立ち上がり、両拳を突き上げながら喜びを露にした。

 

「ここは病院だぞ。静かにしろ」

 

「あいた!」

 

迷惑を省みずに大声ではしゃぐ空を上杉が拳骨を落として諫めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

インターハイの試合が行われている試合会場。今日もここで始まる試合を求めて観客達が無数に来場している。

 

「…」

 

会場の前に青峰が1人で立っていた。

 

2回戦で負傷退場し、翌日の試合で桐皇は黄瀬を擁する海常に負けてしまった。現在、青峰は激しい運動を禁じられており、暇を持て余しているので会場に足を運んでいた。

 

「ちょっと大ちゃん! 1人で勝手に出歩かないでって言ってるでしょ!?」

 

そこへ、遅れて後ろから桃井が現れた。青峰のお目付け役を桐皇の監督である原澤に頼まれており、一緒に行動している。

 

「うるせーよ」

 

そんな桃井を小指で耳の穴をほじりながら鬱陶し気にあしらう青峰。

 

「今日はきーちゃんのいる海常と花月との試合だね。どっちが勝つかな?」

 

「さあな」

 

桃井に予想を聞かれると、青峰はぶっきらぼうに答えた。

 

「(てっきりきーちゃんが勝つって言うかと思ったけど、…それだけ花月を認めてるのね)」

 

心中で青峰の返事に驚く桃井。

 

「あれー? 青峰っちと桃っちじゃないッスかー!」

 

声を掛けられ2人は振り返ると、そこにはジャージ姿の黄瀬がいた。

 

「きーちゃん!」

 

「…ちっ、なんでお前がここにいんだよ」

 

笑顔で名前を呼び返す桃井。対して青峰は嫌そうな顔で舌打ちをした。

 

「いや青峰っち、その反応はないッスよ! ていうか、これから試合やるんスからいるのは当たり前じゃないッスか!」

 

反応の悪い青峰に黄瀬が口を尖らせて抗議した。

 

「相変わらずうるせー奴だな。…まだインターハイが終わってもいねーのに勝った奴が負けた奴の前にのこのこ顔出すんじゃねーよ」

 

勝者が敗者にかける言葉はない。これは青峰が常に心掛けている事でもある。

 

「別に勝ったと思ってないッスよ。青峰っち抜きの試合っスから。本当の決着は冬に付けるッスよ」

 

「たりめーだ。冬に勝つのは俺だ」

 

昨日の試合後に交わせなかった言葉を黄瀬と青峰が交わしていく。

 

「…っと、それじゃそろそろ行くッス。そんじゃまた!」

 

「頑張ってね、きーちゃん!」

 

時計で時刻を確認した黄瀬は手を振って黄瀬は2人の前を後にする。

 

「……黄瀬」

 

「?」

 

2人の前を去ろうとする黄瀬を青峰が呼び止めると、黄瀬はその声で振り返った。

 

「つえーぞ、花月は」

 

「…分かってるッスよ」

 

そう返すと、黄瀬は改めてその場を後にしていった。

 

「……お前の思っている以上にな」

 

「?」

 

去っていった黄瀬に届かない声量で青峰が呟いた。ちょうどその瞬間に吹いた一陣の風によって隣に桃井にもその声が届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

会場入りした花月の選手達と監督とマネージャー。

 

『…』

 

選手達は控室で粛々と試合に向けて準備を進めていた。

 

「…っ、…っ!」

 

会場入りするまでははしゃぐ姿を見せていた空も今では入念に柔軟運動をして身体を解していた。

 

「もうすぐ第2Qが終わる。コートへ向かうぞ」

 

控室の扉を開けてやってきた上杉が選手達に告げた。

 

「来たか。…よっと」

 

試合前の練習時間がやってきた事を告げられると、空は反動を付けて立ち上がる。

 

「っしゃぁっ!!! 行くぞぉっ!!!」

 

『おう!!!』

 

控室全体に響き渡る程の声量で空が言い放つと、それに負けない声量で選手達が応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

コート入りすると、コート上では第1試合が行われていた。

 

「…っと、向こうも来たみたいだな」

 

花月の選手達がやってきた入り口とは反対側から海常の選手達がコート入りした。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第2Q終了のブザーが鳴った。

 

「よし! 行くぞ!」

 

空の号令をきっかけに花月の選手達がコートへと足を踏み入れた。

 

「それじゃ、行くッスよ!」

 

同時に黄瀬の号令で海常の選手達がコート入りをした。

 

 

――バス!!! …バス!!!

 

 

パスを出して走り、ボールを受け取ってレイアップ。花月の選手達は粛々と身体を温めていた。

 

『おぉっ!』

 

その時、観客が歓声を上げた。

 

『?』

 

思わず花月の選手達が全員、対面の海常の選手達がいる方に視線が向いた。その時、三枝がリターンパスを貰い、ローポスト付近でボールを右手で掴んでリングに向かってジャンプ。その時に反時計回りに1回転し…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そこからボールをリングに叩きつけた。

 

『スゲー! 360度ダンクだ!』

 

高校生の試合ではまず見られない大技に観客が驚く。

 

「ハッハッハッ! 向こう(スペイン)もええが、日本もええ観客じゃ! やりがいがあるのう!」

 

会場を盛り上げると共に観客を味方付ける為にやったのだが、その効果に満足する三枝。

 

「ほれ。お前らも何か見せんかい」

 

拾ったボールを相手コートに放り投げる。

 

「…っと」

 

放ったボールの先に空がおり、ボールを掴む。

 

「しゃーねーなぁ。大地、1つ派手なやつ頼むぜ」

 

悪態を吐くもニヤリと笑みを浮かべた空は後ろ向きボールを投げる。

 

「やれやれ、仕方ありませんね」

 

溜息を吐きながら大地がボールに向かってダッシュした。

 

「…っ!!!」

 

ボールを掴んだ大地はそのままステップを踏んでボールを右手掴んでリングに向かってジャンプ。

 

 

――スッ…。

 

 

直後、空中でボールをぐるりと回し…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

その後、リングに叩きつけた。

 

『こっちもスゲー! ウィンドミルのダンクだ!』

 

お返しとばかりの大地のダンクに再度観客が沸きあがった。

 

「おー! 大地の奴、魅せてくれるのう! ハッハッハッ!」

 

これを見て三枝が満足そうに笑い声を上げた。

 

「へぇー」

 

同じく今のダンクを見ていた黄瀬が感心しながら頷いた。

 

『3分前!』

 

審判が第3Q開始の残り時間をコールした。

 

「よし! 下がるぞ! 急げ!」

 

「急いで片付けるッスよ!」

 

両チームの主将が指示を出し、速やかにコートから両チームが引き上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

控室に戻ってきた花月の選手達。迫る試合に向けてそれぞれ備えていく。

 

「神城。調子の方はどうだ?」

 

「問題なし。感覚取り戻す為にアップもきつめにしておいたんで、試合開始からエンジン全開で行けますよ」

 

体調を尋ねられた空は上杉に不敵な笑みを浮かべながら返した。

 

『…』

 

試合時間が刻一刻と近付いていくと、選手達の口数は少なくなっていった。

 

既にキセキを擁する選手が所属する相手と対戦するのは初めてではないのだが、それでも試合前の緊張感は何度経験しても慣れるものではなく、強敵を目の前に選手達の緊張感は高まっていく。

 

「時間だ。皆、準備は出来ているな?」

 

時計を確認した上杉が選手達に告げた。

 

「今更言うまでもないだろうが、あえて言わせてもらう。自分達は挑戦者だと言う事を忘れるな。受け身になるな。常に前を見て攻め立てろ」

 

『はい!!!』

 

「ミスを恐れるな。空いたら迷わず打て。慎重になり過ぎて機を見失うな。全員、常に得点を意識しろ」

 

『はい!!!』

 

「よし、行くぞ!」

 

「花月ーファイ!!!」

 

『オー!!!』

 

上杉の後に空が号令をかけ、選手達が続いて応えると、控室を出てコートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

再びコートのあるフロアにやってくると、コートでは残り時間僅かながら激闘を繰り広げていた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

そして試合終了のブザーが鳴り、試合が終わった。一方は勝利を噛みしめながら、一方は悔しさに塗れながらベンチを速やかに引き上げていった。

 

『来たー! 昨年に続き、今年もキセキの撃破を成し遂げた、進撃の暴凶星改め、不屈の旋風、花月高校!』

 

『神城復活で遂にフルメンバーの本気の姿が見れるぞ!』

 

昨年の冬に秀徳、今大会で陽泉を撃破した花月高校。その注目度はもはやキセキを擁するチームと同等であり、大歓声が彼らを出迎えた。

 

『キセキの世代、黄瀬を擁する海常だ!』

 

『強力な新戦力と全国レベルの生え抜きの選手を擁する攻守に渡って高水準かつ隙のない今大会の優勝候補の一角、青の精鋭、海常高校!』

 

言わずと知れたキセキの世代、黄瀬が主将を務める海常高校。昨年は黄瀬のワンマンチームと揶揄されたが、スペインからやってきた三枝海に加え、昨年の敗北をバネに他の選手も全国の舞台で戦うに相応しい実力を身に着け、今大会前は低評価だったが、今では優勝候補とまで称されている。

 

「久しぶりだな、ゲン」

 

「お前とこうして戦える日が来るとはな」

 

両チームの監督である上杉と武内が互いのベンチの中間の所で挨拶を交わす。

 

「それにしても、何だその身体は? 現役を退いたからと言って弛み過ぎだぞ」

 

「大きなお世話だ。…今日勝つのはワシの教え子達だ」

 

「ぬかせ。勝ちは譲らんぞ」

 

2人は固く握手を交わし、それぞれのベンチに下がっていった。

 

「スタメンに変更はない。神城、生嶋、綾瀬、天野、松永で行く。ベンチにいる者達もいつでも試合に出れる心構えをしておけよ」

 

ベンチに座ってそれぞれ試合に備える選手達。上杉が選手達の前に立って指示を出していく。

 

「作戦も昨夜のミーティングで話した通りだ。試合でのゲームの組み立ては神城に一任する。任せたぞ」

 

「うす!」

 

「よし! 行って来い!」

 

「っしゃぁっ!!! 行くぞ!!!」

 

花月のスタメンに選ばれた5人はコート中央へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「これより、花月高校対海常高校の試合を始めます! 礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

海常高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:黄瀬涼太 193㎝

 

5番SG:氏原晴喜 182㎝

 

8番PG:小牧拓馬 178㎝

 

10番PF:末広一也 194㎝

 

12番 C:三枝海  199㎝

 

 

「よろしくお願いします!」

 

「どうもッス」

 

両チームの主将である空と黄瀬が挨拶を交わす。

 

「こうやって顔を合わせるのは去年の夏の合宿以来ッスね」

 

「言われてみれば。コートでは今日が初めてですけど」

 

「昨日は休んでたみたいだけど、身体は大丈夫スか?」

 

「心配ご無用。絶好調ですよ」

 

「それを聞いて安心したッス。…では改めて、よろしく頼むッスよ」

 

「…」

 

「? どうかしたッスか?」

 

再度黄瀬が差し出した手を茫然と見つめる空。

 

「…いや、今まで戦ったキセキの世代の奴らは、どこか俺達の事舐めてたり、油断が見えたりしたんですけど、まさか、ここまで俺達の事を対等に見てくれるとは思わなくて…」

 

「……アッハッハッハ! そう言う事スか」

 

空の言葉を聞いて黄瀬が笑い出す。

 

「緑間っちと紫原っちに勝利して、青峰っちを後一歩の所まで追いつめた君達を侮るなんてあり得ないッスよ。…こっちはそんな余裕なんてない。君達は俺達と同等…いや、格上を相手にするつもりで戦うつもりッスよ」

 

途中で表情を真剣なものに変えて黄瀬が空に言った。

 

「……ハハッ! それはありがたい。油断に付け込んで勝っても嬉しくないですからね。全力で来るならこっちはその全力を超えて勝つだけだ」

 

「望むところッスよ」

 

2人が右手を差し出し、握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

 

 

整列を終えた選手達は両チームのジャンパーを残してセンターサークルの周囲に散らばっていく。

 

「よろしゅー頼むのう」

 

「こちらこそ」

 

センターサークルの中央で対峙する三枝と松永が軽く挨拶を交わし、ジャンプボールに備える。

 

「…」

 

審判がジャンパーに立つ2人の中央に立ち、ボールを構える。

 

『…』

 

試合開始目前の緊張感に包まれる中、選手達がコート中央のジャンプボールに注目する。やがて、審判がボールを頭上高くに放った。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「…っ!」

 

「むぉっ!」

 

松永と三枝が同時に飛ぶ。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「ちぃっ!」

 

ジャンプボールを制したのは三枝。松永よりも高い位置でボールを叩いた。

 

「ナイス海さん!」

 

「あっ!?」

 

ボールを確保した小牧。それを見た生嶋が思わず声を上げる。

 

三枝がジャンプボールを制すると確信していた小牧はティップオフと同時に前へと走っていた。それを見た三枝が小牧に向かってボールを落とした。

 

「先制点は貰うぞ!」

 

「させねーよ」

 

開幕速攻を仕掛けようとした小牧に対し、すぐさま空が立ち塞がる。小牧が動いたのを見て空もまたすかさず動いていた。

 

空が現れても止まる事なく突き進む小牧。

 

「あえて行かせてもらうぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の目前で小牧がクロスオーバーで切り返す。

 

「ハッ! その程度で…!」

 

これに空は遅れる事なく対応する。

 

「…らぁっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

クロスオーバーで左に切り返した直後にすぐさま逆の右に再び切り返し、空を抜き去った。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

空を抜き去った小牧はそのままリングに向かってドリブルで突き進む。

 

「させませんよ」

 

フリースローラインを踏んだ所で大地が小牧を捉え、横に並ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

それと同時に小牧はボールを後ろへと戻した。

 

「ナイスパス拓馬!」

 

そこには末広が走り込んでいた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取った末広はすぐさまジャンプシュートを放つ。ボールはリングの中心を射抜いた。

 

『先制は海常だ!』

 

「海常に来てから全中決勝でお前が見せたあれをイメージして磨きに磨きをかけた俺のダブルクロスオーバーだ。正直、まだキラークロスオーバーまでには程遠いけどな」

 

かつて全中の決勝で空が見せた事のあるダブルクロスオーバー。小牧はあれを理想として海常に入学してから特訓を重ねていた。

 

「まずは1本。全中での借りは返したぜ」

 

ディフェンスに戻る際のすれ違い様、したり顔で小牧が空に告げた。

 

「やってくれるじゃねーか」

 

それを聞いて空はニヤケながら悪態を吐いた。

 

「空…」

 

「わりぃ、油断や調子が悪い訳じゃなかったんだが、俺の思った以上にクロスオーバーのスピードとキレが鋭かったんでな」

 

「えぇ。私にも分かりました。これまで見せてはこなかったみたいですし、奇襲からの初見であれを止める事は困難でしょう」

 

謝る空に大地がフォローする。これまで見せて来なかった事から、空に対しての切り札としてこれまで隠してきたのだろう。

 

「切り替えましょう。1本、決め返しましょう」

 

「あぁ。とりあえず事前に決めた作戦通り……行きたい所なんだけど…」

 

「?」

 

「やられたままってのも気にくわねえ。作戦実行の前にやり返す」

 

ディフェンスに戻っていく小牧の背中を見ながら空が言い放った。

 

「そう言うと思ってましたよ。どうせ止めてもやるのですからあえて止めません。存分にやって下さい」

 

そう言い出すと予測していた大地は半分呆れながらも空のやる事に同意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「っしゃぁっ!!! 1本、行くぞ!!!」

 

フロントコートまでボールを進めた空が指を1本立てながらゲームメイクを始める。

 

海常のディフェンスはマンツーマン。生嶋には氏原。天野には末広。松永に三枝。大地には黄瀬がマークをしている。

 

「…」

 

空には小牧がディフェンスをしている。

 

 

『神城が試合に出場する場合、神城を中心に攻めてくる可能性が大いにある。パスがある神城には迂闊にダブルチームもヘルプも出来ん。つまり、神城はお前1人で止めなくてはならん』

 

『上等ですよ。何が何でも止めて見せます!』

 

 

事前のミーティングで武内が小牧に対して言った言葉である。

 

「(俺がこいつを止める。その為にここまで練習してきたんだ)」

 

中学時代。キセキの世代が卒業した後の中学司令塔で注目されていたのは1年時から試合経験のある城ヶ崎中学の小牧に、2年で全国の舞台を経験した東郷中学の三浦、赤司から主将と司令塔の座を継いだ新海の3人だった。だが、蓋を開けてみれば頂点に立ったのは無名の初出場校の空だった。

 

自分の実力に自惚れていた訳ではなかったが、それでも試合に負け、司令塔としても上を行かれた空にライバル意識を持った小牧は、空との再戦を熱望し、今日まで腕を磨いてきた。その集大成を果たすチャンスが巡ってきた今、小牧の気合いは最高潮であった。

 

「…」

 

そんな小牧の気合いを空は肌で感じ取っていた。

 

ドライブを警戒してか、小牧は空に対して僅かに距離を取ってディフェンスをしている。空には外もあり、事実、全中時代に手痛い1発を貰っている為、小牧自身もそれを良く理解しているのだが…。

 

「(まさか、パスや外で逃げたりはしないよな?)」

 

不敵な笑みを浮かべながら空と対峙している。

 

「(心配すんなって。リクエスト通り、真っ向勝負してやるからよ…)」

 

小牧の心中を察した空は不敵な笑みで返した。

 

 

――ダムッ…ダムッ…ダムッ!!!

 

 

ゆっくりボールを突いていた空。突如加速した。

 

「(来た!!!)」

 

タイミングを計っていた小牧。空の動きに合わせて対応する。加速した空は小牧との距離を一気に詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「なっ…!?」

 

距離を詰めたの同時にそこからクロスオーバーで切り返しながらダックイン。さらに加速した空は一瞬のうちに小牧を抜き去った。

 

「(タイミングはドンピシャだった。フェイクにかかったわけでもないのに抜かれた。こいつ、速すぎる!)」

 

距離を取ってタイミングを計りながらのディフェンスだったが、空のドライブはその上を行った。小細工なしのスピードとアジリティーで小牧を抜き去った。

 

小牧を抜いた空はそのまま突き進み、フリースローラインを越えた所でボールを掴んで飛んだ。

 

「させんぞ空ぁっ!!!」

 

そこへ、三枝がヘルプに飛び出し、ブロックに現れた。圧倒的な高さで空とリングの間に割り込む。

 

「…っ」

 

 

――スッ…。

 

 

三枝がブロックに現れると、空はボールを手のひらに乗せ、指で転がすようにスナップを利かせながら放った。

 

「ぬぉっ!?」

 

ボールは三枝のブロックの上を越え…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

空の大技に観客が沸き上がる。

 

「…っ、フィンガーロールか…!」

 

スクープショットやティアドロップの派生とも言えるフィンガーロール。それを目の当たりにして目を見開く小牧。

 

「返したぜ」

 

すれ違い様、空がしたり顔で小牧に言った。

 

「(中学時代から桁違いに伸びてやがる…)」

 

自身の成長を遙かに凌駕する空の成長に悔しさを露にする小牧。

 

「拓馬…」

 

そんな小牧を見て末広が声をかける。

 

「心配すんな一也。こんなんで心が折れたりはしねーよ。例え個人では敵わなくとも、試合は譲らねえからよ」

 

心配を一蹴するように小牧が末広に言った。

 

「ドンマイ。さあ、オフェンスッス。頼むッスよ、司令塔」

 

黄瀬が小牧にボールを渡し、笑顔でそう告げた。

 

「うす! 1本、返しましょう!」

 

ボールを受け取った小牧は声を出してゲームメイクを始めた。

 

 

「…」

 

「…」

 

スリーポイントラインの僅か外側で対峙する空と小牧。

 

 

――ダムッ!!! …ダムッ!!!

 

 

再びダブルクロスオーバーを仕掛けるが…。

 

「2度も抜かせるかよ」

 

「…ちっ!」

 

同じ技で2度も抜かせる程空は甘くなく、冷静に対応した。

 

「こっちだ!」

 

「頼みます!」

 

左アウトサイド、エンドラインスレスレで氏原がボールを要求。小牧はすかさず氏原にパスを出した。

 

「させないよ」

 

「…ちっ」

 

氏原がボールを掴んだのと同時に生嶋が氏原の懐に入り込む。これでは膝を曲げられず、シュート態勢に入れない。かと言って生嶋を抜いて中に切り込んでもすぐに天野がヘルプに行ける位置にいる為、それも出来ない。

 

「こっちじゃ!」

 

その時、ローポストで松永を背中に張り付かせた形の三枝がボールを要求した。

 

「頼む!」

 

頭上に掲げていたボールをそのままの態勢でインサイドの三枝にパスを出した。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「迂闊だぜ!」

 

そのボールを空が飛び込みながらカットした。

 

「なっ!? あいつのポジションは把握していた。あの距離を一瞬で詰めたのか!?」

 

パスを出す際、氏原は周囲のポジションを確認していた。パスを出す直前では空との距離は確かにあった。にも関わらず空はそのパスをカットした。

 

「読み通り!」

 

ローポストの三枝へのパスを予測した空は氏原が自分から目を切ったのと同時にパスコースに割り込んだのだ。

 

「速攻!」

 

ボールを奪った空はそのまま自ら速攻をかけ、突き進む。

 

「…っと、戻りが早いな」

 

だが、フロントコートに入った所で小牧が目の前に立ち塞がる。

 

「今度こそ止める!」

 

再び気合いを露にしながら小牧がディフェンスに臨んだ。

 

小牧が目の前に現れた所で足を止める空。その隙に海常の選手達も自陣に戻り、ディフェンスを整える。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながらゲームメイクをする空。その時、前日のミーティングでの上杉の言葉を思い出す。

 

 

『明日の試合、序盤でのオフェンスの選択肢は2つ。まず、神城が試合に出る事を想定した場合、神城を中心に点を取る事だ。ここのマッチアップはうちに分がある。ここが1番狙い目だろう』

 

『当然ですね』

 

ニヤリと笑みを浮かべながら答える空。

 

『もう1つ。ここは極めてリスクが大きい。…だが、開ければ大きい。ハイリスクハイリターンだ。それは――』

 

 

「(監督にはどちらを選ぶかは俺に任せるって言われたけど、んなもんハナから決まってる。ここで行くに決まってんだろ!)」

 

ここで空はパスを出す。同時に花月の選手達が動く。

 

『…なっ!?』

 

『なにぃぃぃぃぃぃぃっ!!!』

 

花月の選手達の行動に観客達が声を上げた。

 

空は右45度付近に立っていた大地にパスを出した。同時に大地以外の4人は逆サイドに寄り、スペースを空けた。それはすなわち…。

 

「…おいおい、野郎、黄瀬とやり合う気か?」

 

それを見て観客席の青峰が驚き半分の表情で呟いた。

 

花月はアイソレーション。つまり、大地が1ON1し易いようスペースを作った。大地をマークするのは当然黄瀬。つまり、黄瀬との真っ向勝負を挑みかけたのだ。

 

「正気かゴウ!?」

 

この選択にベンチの武内も驚きを隠せなかった。

 

 

「監督、良いんですか? 確かに綾瀬で攻める事は昨日のミーティングで選択肢の1つとして決めましたが、アイソレーションをするとまでは…」

 

ベンチの菅野が上杉に問いかける。

 

アイソレーションを仕掛けるという事は、もはや大地は黄瀬と1ON1を仕掛ける以外に選択肢がない。つまり、やるかやられるかしかないのである。

 

「現場の神城の判断だ。ならば構わん」

 

腕を胸の前で組みながら返す上杉。空の判断を尊重した。

 

 

「へぇー、自信があるって事スか?」

 

事実上の真っ向勝負を挑まれた黄瀬は目の前の大地にそう尋ねた。

 

「自信があると言えば嘘になります。まさか、こうなるとは思いませんでした」

 

苦笑いをしながら大地はそう返した。

 

大地で攻める事はもちろん、事前に大地も聞いている。だが、アイソレーションをする事は大地も聞いていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合前の控室にて、大地が席を外している時…。

 

『今日の試合、序盤大地で行く。大地にボールが渡ったら大地の為にスペースを空けてくれ』

 

空は大地以外のスタメンの3人を集めてそう告げた。

 

『アイソレーションするんか? けど、ええんか? それやと綾瀬の責任重大になるで。変にプレッシャー与えんでも…』

 

『これで良いんですよ。中途半端に逃げ道残すより、全部塞いで真っ向勝負させた方があいつは力を発揮しますから』

 

天野の懸念を空が一蹴した。

 

『うちのエースに一蓮托生。面白くないですか?』

 

そう言って空は笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

大地のいない所でそんな話し合いが行われ、了承された事など知る由もない大地。

 

「…ですが、チームの皆が私にここまで期待をかけてくれると言うなら、それに応えるしかありませんね」

 

「…なるほど、何だかんだ言って自信ありって事ッスね。上等ッス。その勝負、受けて立ちますよ」

 

返事をした大地の表情を見て自信と覚悟を感じ取った黄瀬は、集中力を最大限に高め、大地に立ち塞がるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

遂に花月と海常の試合の火蓋が切られた。

 

開幕、かつての対戦相手同士であった空と小牧がやり合い、互いに得点を奪い合った。

 

互いに挨拶を終えると、試合はエース対決に移行する。

 

試合の勝敗を左右する両チームのエース対決が今、始まろうとしている……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ここまでは何とか出来た。…けど、ここからどうしよう…(;^ω^)

理想としては陽泉戦くらい個人的に盛り上げたいんですが、とりあえずネタ集めしないと…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第121Q~第1ラウンド~


投稿します!

ネタのストックがまだあるので週1投稿です…(^-^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り9分5秒

 

 

花月 2

海常 2

 

 

試合開始直後、海常が小牧からのパスを末広が決め、その後のオフェンスで空が自ら決め返した。

 

次の海常のオフェンスは空のスティールによって失敗に終わり、花月のオフェンスに切り替わった直後、試合は動いた。

 

「…」

 

「…」

 

右45度のスリーポイントラインの外側のポジションにて、ボールを持った大地と黄瀬が対峙している。残りの4人は反対側に移動して1ON1し易いようにスペースを空けている。つまり、花月は大地に完全に委ねた形である。

 

「…っ」

 

「…っ」

 

大地が小刻みにボールを動かして牽制すると、黄瀬もそれに合わせて動きを見せる。

 

『(…ゴクッ)』

 

先程まで騒いでいた観客達は2人の対決の行方を固唾を飲んで見守っている。

 

2人はまるで居合の達人同士の立ち合いの如く睨み合っている。時間にして僅か数秒、決して長い時間ではないが体感では数分にも思える時間が経ったその時、2人の勝負の火蓋が切られた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地が黄瀬の左手側から切り込んだ。黄瀬もタイミングを読み切り、大地に遅れる事なくピタリと並走して追いかけていく。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

直後、大地は急停止。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

1度ボールをボールを右から左。さらに右へとクロスオーバーで切り返し…。

 

 

――スッ…。

 

 

バックステップで下がり、黄瀬との間に距離を作った。

 

「(…っ! 姿勢を変えないでそのまま態勢でバックステップ。紫原っちをも出し抜いた彼の得意技。目の前で見せられて初めてその凄さが分かる。けど、読めてるッスよ!)」

 

下がって距離を空けた大地に合わせて黄瀬もその距離を詰める。大地は既にボールを掴み、シュート態勢に入ろうとしている。

 

「(バックステップからのフェイダウェイシュート。…ドンピシャッス。これなら追い付け――なっ!?)」

 

ブロックに充分間に合うと思ったその時、大地は黄瀬がブロックに来るよりも早くボールをリリースした。

 

「(黄瀬さんのブロックに焦って無理に打たされた。これは外れる!)…リバウンド!」

 

外れると予想した末広は声を出し、リバウンドに備えた。

 

「…むっ」

 

「…っ!」

 

ゴール下では三枝が松永を、末広が天野をスクリーンアウトで抑え込み、絶好のポジションを確保し、リバウンドに備える。ボールの行方にゴール下の選手及び全ての選手が注目する。

 

 

――バス!!!

 

 

「うそ!?」

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『うおぉぉぉーーーっ!!! 決めたぁぁぁっ!!!』

 

「ハハッ! 魅せてくれるじゃねーか」

 

「どうも」

 

近寄った空が大地の肩を叩いた。

 

「…ふぅ」

 

思わず黄瀬が溜息を吐いた。

 

「ドンマイ黄瀬さん。今のは運が悪かっただけですよ。次、お願いします」

 

駆け寄った末広が黄瀬をフォローした。

 

「(……運が悪かった、か。わざわざバンクショットで決めといてそれはないッスよ)」

 

黄瀬は理解していた。バンクショット…。バックボードに当てて決めるシュートはバスケの基本ではあるが、あの状況でやる必要性は低い。バックボードにボールを当てて決めるには角度調整が必要な為、咄嗟の判断力が求められる。普段から積極的に実戦でやっているならまだしも、そうでないならあの状況では直接リングを狙った方が確率は高い。

 

「(…要するに、それだけの余裕があるって言うアピール。つまりは誇示ッスね)」

 

今のバンクショットにどんな意味が含まれているのか、黄瀬はすぐに理解した。

 

「一昨日の紫原っちとの試合で自分の殻を破り、昨日のショーゴ君との試合で完全に自分のバスケを確立させたって所ッスか。…こうも見せつけられちゃったら、こっちもやり返さないとダメッスよね」

 

黄瀬の目に闘志が溢れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを拾った末広が小牧にボールを渡し、小牧がボールを運んだ。

 

「来いよ」

 

立ち塞がるのは当然空。意気込みを露にしてディフェンスに臨む。

 

「(…やり返したい所だが、ここは……ここしかないよな!)」

 

やり返したい自らを自制し、小牧はパスを出す。同時に他の海常の選手達が動いた。

 

「…そう来ましたか」

 

海常の選手達の動きを見て大地がボソリと呟いた。

 

『来た来たぁっ!!!』

 

『そう来なくちゃ!!!』

 

これを見て観客達は興奮する。

 

ボールは小牧から黄瀬に渡り、他の選手達は反対側に寄ってスペースを作った。つまり…。

 

「お返しはきっちりさせてもらうッスよ」

 

アイソレーション。海常も黄瀬の1ON1を仕掛けてきたのだ。

 

「ありがたい限りです」

 

これを見て大地は薄く笑みを浮かべる。

 

「…」

 

ボールを掴んで小刻みに動かしながら機を窺う黄瀬。大地は距離を詰めてタイトにディフェンスをしている。

 

「…っ!」

 

『うぉっ!? スゲー当たり!』

 

激しい大地の当たりに黄瀬の表情が時折歪む。

 

「気合い入ってるッスね。序盤から張り切って体力は大丈夫はなんスか?」

 

「この程度で体力切れを起こすようなやわな練習はしてません。心配なさらずとも、最後までお相手致しますよ」

 

軽口で尋ねる黄瀬に対し、大地は薄く笑みを浮かべて返した。

 

「…っ、確かに凄い圧力ッス。けど、甘い!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地のディフェンスに出来た僅か隙を突き、黄瀬は大地の背後に抜けた。

 

『抜いたか!?』

 

中へと切り込んだ黄瀬はそのままボールを掴んで飛んだ。

 

「まだです!」

 

だがそこへ、黄瀬とリングの間に割り込むように大地がブロックに現れた。

 

黄瀬が背後に切り込んだのと同時に大地は背中を向けたまま背後に下がり、そのままブロックに飛んでいた。スリーもドライブも超一流である黄瀬に対してタイトにフェイスガードを仕掛けたのはこのバックステップがあっての選択であった。

 

『スゲー! これは止めたか!?』

 

ブロックのタイミングはバッチリ。ブロックが成功するかと誰もが思ったその時…。

 

 

――スッ…。

 

 

両手で掴んでいたボールを右手に持ち替え、そこから指でボールを転がすようにスナップを利かせ、放った。

 

「っ!?」

 

ボールはブロックに飛んだ大地の上を弧を描きながら越えていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地のブロックをかわして放ったボールはそのままリングを潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『ていうか、今の!?』

 

「フィンガーロール…。俺がさっき見せた技じゃねえか!」

 

空が思わず声を出した。

 

これは先程空が小牧を抜いた直後、ヘルプに来た三枝をかわす為に放ったショットである。

 

「かわいい後輩がやり返したいのを我慢して俺にボールを回してくれたッスからね。代わりと言ってはあれッスけど、軽く意趣返しをしておいたッスよ」

 

「キャプテン…」

 

黄瀬の心遣いに思わず感動する小牧。

 

「(私がブロックに来た時の反応は明らかに予測の範囲外でした。咄嗟のリカバリーにあれを放ったという事ですか…)」

 

ヘルプのブロックを想定しての空と違い、今の黄瀬は咄嗟のもの。素早い判断力と驚異的なテクニックがなければ出来ない芸当である。

 

「止められると思ったッスか? 悪いけど、まだまだッスよ」

 

ドヤ顔で言い放つ黄瀬。

 

「何か腹立つなー。あの技、かなり練習してようやく出来るようになったってのによー」

 

練習を重ねて身に着けた空はあっさり真似されて思わず不機嫌になる。

 

「ボールをどんどん集めて下さい」

 

「大地?」

 

「あなたの分も含めて、私がやりますので」

 

そう空に告げて、大地はその場を後にした。

 

「…ハハッ! いいねいいね。あんな大地を見たのは久しぶりだ」

 

そんな大地の姿を見て空は満足気に笑う。

 

「言われずともそのつもりだ。任せたぜ、相棒」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そこから試合は本格的にエース対決が始まった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロスオーバーを仕掛ける大地。直後、バックロールターンで逆に反転しながら黄瀬の裏を取りに行く。黄瀬もこれを読み切って対応する。

 

 

――スッ…。

 

 

反転直後、ボールを掴んで大地は時間を巻き戻すように後ろへと反転し、その後、ステップバックで距離を取り、フェイダウェイで後ろに飛びながらシュート態勢に入る。

 

「…っ」

 

ブロックに向かう黄瀬だったが大地がボールを放つのが紙一重に早く、シュートを許してしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを的確に射抜いた。

 

「よし!」

 

得点を決め、拳を握りながら喜ぶ大地。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

攻守が入れ替わり、黄瀬がクロスオーバー→バックロールターンを仕掛け、直後に後ろに再び反転。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そこからステップバックからのフェイダウェイで得点を決めた。

 

「お返しッスよ!」

 

「…っ!」

 

直前に見せた技をそのまま披露され、悔しがる大地。

 

 

続いて花月のオフェンス。ボールを大地に託し、大地がバックチェンジからロッカーモーションでバックステップを意識させた後、ゴール下まで切り込み、そこでボールを掴んで飛んだ。

 

「外せてな――っ!?」

 

大地とリングの間に割り込んでブロックに飛んだ黄瀬だったが、大地は空中でロール、黄瀬をかわしながら飛び、そこからリングに背中を向けながらボールを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

バックボードに当たりながらボールをリングを潜った。

 

 

――バス!!!

 

 

海常のオフェンス。やはり黄瀬は先程の大地と同じ技で切り込み、同じ動きで飛んで得点を決めた。

 

その後も大地が決めれば、黄瀬が決め返す。どちらも退かず、互角の戦いを繰り広げていった。

 

『うぉぉぉーーっ!!! どっちも退かねえ!?』

 

『あの黄瀬と互角にやり合ってるぞ!?』

 

エース同士のしのぎを削る戦いに観客のボルテージはどんどん上がっていく。

 

「(分かっていた事ではありますが、やはり手強い。紫原さん程身体能力や高さがあるわけではありませんが、テクニックの幅やバリエーションがあり、的を絞り辛い!)」

 

「(スピードとキレは一級品。何より、あのバックステップとそこからシュートモーションに入ってからボールを放つまでが速過ぎる。やり合ってみて、紫原っちをあそこまで苦しめた理由がよく分かるッス!)」

 

互いが互いを認め合う2人。

 

「…ですが」

 

「…だけど」

 

「勝つのは私です!」

 

「勝つのは俺だ!」

 

互いに闘志をぶつけ合い、一歩も引かない2人だった。

 

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

大地がバックチェンジで2度切り返し、そこからバックステップ。距離を取って視線をリングに向ける。

 

「…っ」

 

シュートを警戒した黄瀬はすぐさま空いた距離を詰める。だが、大地はボールを両手で掴んではおらず、構えてはいなかった。大地の視線のフェイクが黄瀬にシュートを警戒させた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬が前に詰めたのと同時に大地が発進。すれ違うように駆け抜けた。

 

「…っ、この…!」

 

負けじと黄瀬が後ろに手を伸ばし、バックチップを狙う。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

大地はこれを予測していたのか、発進直後に急停止と同時にボールを掴み、黄瀬の手をかわした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そこからジャンプシュートを放ち、得点を決めた。

 

 

 

――ダム…ダムッ!!!

 

 

2度のバックチェンジからのバックステップ。先程の大地と同じムーブで後ろへと下がり、距離を作る。

 

「…っ」

 

すかさず大地が距離を詰めると、黄瀬は発進。これも先程の大地と同じプレーである。しかし…。

 

「っ!?」

 

すれ違う直前、大地は急停止し、バックステップで並走しながら黄瀬を追いかけた。

 

「まだッスよ!」

 

黄瀬はボールを掴んで止まると、そこからターンアラウンドで反転し、そこからフェイダウェイで後ろに飛び、クイックリリースでシュートを放った。

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ大地の指先に僅かにボールが触れた。

 

「リバウンド!」

 

外れる事を確信した大地が叫ぶ。同時にゴール下の4人が構えた。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉どおりボールはリングに嫌われ、弾かれた。ここからゴール下でのリバウンド勝負が始まった。

 

「(…くっ! 良いポジションが取れん!)」

 

三枝が松永を抑え込み、絶好のポジションを確保する。

 

「(あの12番、パワーもあって身体の使い方も俺から見ても相当や。やけど、紫原のような高さもウィングスパンもあらへん。ここは絶対取ったる!)」

 

末広を抑え込んでポジションを確保した天野。松永を抑え込んでポジションを確保している三枝をチラリと見て心中で意気込みを露にする。

 

「ふぬっ!」

 

リングにボールが弾かれたのと同時にボール目掛けて4人が飛ぶ。ボールは三枝の伸ばした両手に収まろうとしたその時…。

 

 

――ポン…。

 

 

「むっ!?」

 

宙に舞うボールを突如下から伸びてきた1本の手によって弾かれた。

 

「リバウンドは譲らんで!」

 

右手を伸ばした天野が誰よりも先にボールに触れ、弾いた。

 

「小癪な真似を――っ!?」

 

着地して再度リバウンドを図る三枝だったが…。

 

「ナイス天さん!」

 

弾いたボールを誰よりも早く空が掴み取っていた。

 

天野が先にボールに触れる事を予測した空はボールの軌道を予測してそこへ飛び込んだのだ。

 

「さすがです、天野先輩、空! …下さい!」

 

前へと走っていた大地がボールを要求する。

 

「おらっ、速攻!」

 

走る大地目掛けて空が前方へ大きな縦パスを出した。

 

「まずい、戻れ!」

 

カウンターを食らった海常。氏原が声を出して急いで戻ろうとする。

 

「よし」

 

ボールを掴むのと同時にドリブルを始める大地。

 

「させないッスよ」

 

直後、大地のすぐ背後から黄瀬の声が聞こえてきた。海常で誰よりも大地の速攻を察知していた為、速攻に対応出来たのだ。

 

大地のドリブルスピードもかなりものだが、やはりボールを持たない黄瀬のスピードは速く、フロントコートに入った辺りで大地に迫る勢いであった。そして、黄瀬が大地の横に並ぼうとしたその時!

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

スリーポイントライン手前で大地が速攻の勢いを一瞬で殺し、その場で急停止した。

 

「なっ!?」

 

全速力で走っていた黄瀬は立ち止まる事が出来ず、思わず数歩前に出てしまった。急停止した大地はすぐさまスリーの態勢に入る。

 

「…くっ!」

 

何とか停止した黄瀬は反転して大地のスリー阻止の為、ブロックに向かった。

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

黄瀬の伸ばした手の指先に僅かにボールが触れた。

 

「(触れた! これは外れる!)」

 

手応えがあった黄瀬は外れる事を確信する。

 

 

――ガン!!!

 

 

予想通り、ボールはリングに弾かれた。

 

「ナイスキャプテン! リバウンド抑え――」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

『なにぃぃぃぃぃぃぃっ!!!???』

 

次の瞬間、選手及び観客達が度肝を抜かれる。

 

「2人の勝負に水差すつもりはなかったが、外れたんだからいいよな?」

 

ニヤリと笑みを浮かべる空。弾かれたボールを空がそのままリングに叩きこんだのだ。

 

『うおぉぉぉーーーっ!!! リバウンドダンク決めやがった!!!』

 

「あいつさっきまでゴール下にいたじゃねーかよ。どんなスピードしてんだよ…」

 

信じられないものを見る目で空を見つめる小牧。ついさっきのリバウンドを取った直後、空は確かにゴール下付近にいた。小牧はリングから離れたフリースローライン付近に立っており、空が大地に縦パスを出したのと同時に自陣へと戻っていた。だが、空はそんな小牧をあっという間に追い抜き、あまつさえ外れたボールをダンクで押し込んだのだ。

 

「(あのスピードは青峰っち以上…。そして…)」

 

黄瀬が視線を空から大地に向ける。

 

「(全速力で走っていたあのスピードを一瞬で殺す脚力。何よりそこからシュート態勢に入ってから打つまでのあの速さ…。この2人に先頭で速攻を仕掛けられたら止めるのは至難の業だ…!)」

 

緩急が凄まじい大地と、最高速に達するまでが凄まじい空。速攻に走った際の2人を黄瀬は危険視した。

 

「助かりました、空」

 

「なに、昨日休んだ分走っただけさ。この後もガンガン走らせてもらうぜ」

 

パチン! っと2人はハイタッチを交わす。

 

「何はともあれ、均衡は崩れた。これで主導権は――」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

その時、ボールがリングを潜り抜けた。

 

「「っ!?」」

 

空と大地が視線を向けると、自陣のリングの下でボールが転々とバウンドしていた。次に2人が真後ろを振り返ると…。

 

「主導権は……何スか? まさか、取ったと思ったッスか?」

 

そこには、シュートを放った態勢を取っている黄瀬の姿があった。

 

「本気で戦うつもりで試合に臨んだつもりッスけど、まだ認識が甘かったみたいッス。出し惜しみして勝てる相手じゃなかった。今度こそ、正真正銘本気ッスよ」

 

確かな決意が籠った目で黄瀬が2人に告げる。

 

「…っ、ここで出してきましたか」

 

「パーフェクトコピーか…!」

 

キセキの世代の技の再現をも可能とする黄瀬最大の切り札、パーフェクトコピー。その圧倒的な力が、花月に牙を向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

大地が左右に揺さぶりをかけた後、バックステップで距離を取ってそこからフェイダウェイで後ろに飛びながらシュートを放った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、そのシュートは黄瀬にブロックされた。青峰のコピーで瞬時に距離を詰め、紫原のコピーでボールを叩き落とした。

 

「…くっ!」

 

零れたボールをすぐさま黄瀬が拾い、そのまま単独で速攻に走った。

 

「行かせませんよ!」

 

しかし大地もすぐさま反転し、黄瀬を追いかける。スリーポイントライン手前で黄瀬に追い付き、捉える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬は青峰のチェンジオブペースを再現し、一気の加速して中へと切り込み、即座にシュート態勢に入った。

 

「まだです!」

 

抜かれかけるも大地もブロックに飛び、シュートコースを塞ぐ。

 

 

――スッ…。

 

 

大地が目の前に現れると、黄瀬はボールを下げて右手に持ち替え、その態勢からブロックをかわしながらリングに向かって下から放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

放り投げられたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『青峰のフォームレスシュート! これはもう止められないぜ!』

 

「…っ」

 

目の前で青峰の技を見せられ、思わず表情を曇らせる大地。

 

 

続くオフェンスも黄瀬によってブロックされてしまう。小牧がルーズボールを拾い、黄瀬にボールを渡す。そして黄瀬の前に大地が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

黄瀬が左右にボールを切り返し、揺さぶりをかけ始める。

 

「…ぐっ!」

 

2、3度ボールを切り返すと、大地はバランスを崩して座り込んでしまう。大地の片足に体重が乗っかった瞬間に切り返し、アンクルブレイクを引き起こしたのだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地が倒れこむと、黄瀬は悠々とボールを掴んで構え、ジャンプシュートを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後黄瀬はパーフェクトコピーを披露し続けた。

 

花月の攻撃はことごとく防がれ、対して海常…黄瀬は全てのオフェンスを成功させた。

 

『…っ』

 

黄瀬のパーフェクトコピーに為す術も出ない花月。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

パーフェクトコピーを使い始めてから2分が経過したその時、上杉がタイムアウトを申請。コールされる。

 

 

第1Q、残り5分58秒。

 

 

花月 10

海常 18

 

 

1度はリードした花月だったが、黄瀬の活躍によって点差が付けられていた。

 

「…ふぅ」

 

ベンチに座った大地は深く溜息を吐いた。黄瀬を止められず、点も取れず、良い様にやられてしまっている状況だからである。

 

「綾瀬」

 

「…はい」

 

そんな大地に上杉が声を掛ける。

 

「良くやった」

 

「?」

 

その言葉の意味が理解出来ず、大地は目を丸くする。

 

「黄瀬からパーフェクトコピーを引きずり出した。それだけでもお前は十二分に仕事を果たした」

 

「それは、パーフェクトコピーの使用時間を減らした事がですか?」

 

生嶋が上杉の言葉の意図の予想を言葉にした。

 

黄瀬のパーフェクトコピーはその身体にかかる負担の大きさから使用時間に限りがあり、使用すればそれだけ残り時間は減っていく。

 

「それもある。…だが、1番の成果はパーフェクトコピーを直に体感出来た事だ」

 

『…』

 

上杉の言葉に選手達は耳を傾ける。

 

「この試合、昨夜も言ったが、パーフェクトコピーの攻略が必須だ。だが、終盤まで温存されてしまえば対抗策を考える時間がなくなる。そうなれば攻略は困難。仮に出来ても時間切れで終わりだ」

 

『…』

 

「だが、今体験した事でそれだけ対策に時間を掛けられる。それだけではなく、パーフェクトコピーに対しての耐性も出来、落ち着いて対応出来るようにもなる」

 

「…なるほど、確かに監督の言う通りやわ。綾瀬、よーやった!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

背中を叩く天野、大地は戸惑いながら感謝の言葉を口にした。

 

「ここからだが、点差は付けられたが、これは想定の範囲内の事だ。変に焦って取り返しに行く事もない。…だが、時間をかけてじっくりチャンスを作って攻めるのもうちのスタイルではない。攻撃をリズムを崩さず、足を動かし、空いたら打つ。これを忘れるな」

 

『はい!!!』

 

「オフェンスはそれで良いとして、問題はディフェンス。…黄瀬のパーフェクトコピーがこれからどれだけ続くか…」

 

「昨日の試合で使用した後の黄瀬の様子を見る限り、奴がパーフェクトコピーを使える時間は精々7分と言った所だろう」

 

「…と言う事は、後5分はあれが来るのか」

 

上杉の言葉を聞いて空が溜息を吐いた。

 

「タイムアウト後は一旦止めて残り時間は今度こそ試合の勝負所まで温存するだろう。…恐らく、ここから向こうは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方、海常ベンチ…。

 

「出だしはまずまずだ。…黄瀬は返事はせんでいい。頷くだけでいいから静かに呼吸を整える事に集中しろ」

 

「…(コクッ)」

 

武内の言葉に黄瀬は静かに頷いた。

 

パーフェクトコピーによる身体の負担を気遣っての指示である。

 

「とりあえず、主導権は握った。スタートとしては悪くない。だが…」

 

ここで1度言葉を切った。

 

「あえて悪く言えば、パーフェクトコピーを使わされたとも言える」

 

「すいません、少し焦り過ぎたかも――」

 

「いやいい。あそこでやらねば相手に主導権を渡していた恐れがあった。それを考えればお前の選択は正しかった」

 

途中で黄瀬を制した武内は黄瀬の選択を支持した。

 

「だが、パーフェクトコピーは一旦ここまでだ。後は終盤の勝負所まで温存しておけ」

 

この提案に黄瀬は了承し、頷いた。

 

「タイムアウト後はどう攻めて行きますか?」

 

司令塔である小牧が武内に攻め手を尋ねた。

 

「ふむ。ここまで黄瀬一辺倒だったが、ここからはうちのもう1つの強みを使って攻めていく」

 

「もう1つの強み…」

 

この言葉を聞いた末広がとある人物に視線を向けた。

 

「もちろん、全てと言う訳ではない。あくまでも中心にして攻めると言う事だ。…準備は出来ているな、三枝」

 

指名された三枝は飲料水を口にし、容器を置いて口元を手で拭った。

 

「ハッハッハッ! リョータと弟分の熱い戦いを見せつけられて身体の滾りが抑えられんかった所じゃ! 存分に暴れちゃるわ!」

 

豪快に笑った三枝がその身体から熱を溢れだしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合開始と同時に始まった両チームのエース対決。

 

花月が均衡を破り、主導権を握ろうとした瞬間、黄瀬がパーフェクトコピーによって強引に奪った。

 

タイムアウトを取って流れを切った花月。

 

空と大地の兄貴分である三枝の牙が今、突き立てられようとしている……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





今回の投稿で合計文字数が100万文字を超えました…(>_<)

我ながらよくここまで書けたと思います。正直、学生時代に書いた文字数を超えてるかも…(^-^)

前話の投稿で、一時的にですが久しぶりに日間ランキングの29位に記載され、かなりテンションが上がりました。この二次に立ち寄っていただき、ありがとうございました…m(_ _)m

コロナの影響で外出機会が少なくなった為、執筆時間とネタの構想を練る為のバスケの動画を見る時間が増えましたが、まだまだ練り上がらないのが現状です。久しぶりに書店に行きたいな…( ;∀;)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第122Q~格付け~


投稿します!

何とか書きあがりました…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

「ホラアツシ、急イデ急イデ!」

 

「あーもう、暑苦しい! …あと押さないでよアンちん!」

 

観客席に続く通路で紫原の背中を押しながら急かすアンリ。

 

花月対海常の試合観戦の為に会場にやってきた2人だったが、会場の目前で紫原がごね始め、アンリが強引に観客席まで連れてきたのだ。

 

「モウ試合ワ始マッチャッテルヨ。一緒ニ花月ヲ応援シヨウ!」

 

「はぁ? 嫌だし。何で俺が花月なんかの応援しなくちゃならないんだよ」

 

文句を言う紫原をアンリは無理やりコートを観戦出来る観客席まで連れて来た。

 

「ヨカッタ。マダ第1Qダ」

 

「…」

 

観客席に辿り着くと、紫原はまずスコアが表示されている電光掲示板に視線を移した。

 

 

第1Q、残り1分47秒。

 

 

花月 18

海常 24

 

 

コート上では空がボールを運んでいる。

 

「随分ト遅イテンポデ試合ヲシテイルネ」

 

「…けど、その割には結構点入ってる」

 

一見してディレイドオフェンスをしているのだが、その割に両チーム得点を重ねている為、展開が読めない。

 

「よう、紫原」

 

そこへ、紫原に話しかける者が現れた。

 

「あれー、峰ちんじゃん」

 

「むっくん!」

 

話しかけたのは青峰であった。傍には桃井の姿があった。

 

「お前も試合に見に来たのか」

 

「…別にー。暇だから来ただけだし」

 

青峰の質問にそっぽを向きながら答える紫原。

 

「ワオ! 君ワアツシト同ジキセキノ世代ダネ! 会エテ嬉シイヨ!」

 

話しかけてきた者が紫原と同じキセキの世代と分かったアンリは駆け寄って青峰の手を取って感激した。

 

「……黄瀬以上に暑苦しい野郎だな」

 

「それについては俺も同感」

 

げんなりする青峰にそれに同意する紫原。

 

「試合はどんな感じに進んでるの?」

 

「序盤はきーちゃんと綾瀬君のエース対決が始まって、途中までは互角だったけどきーちゃんがパーフェクトコピーを使ってからはきーちゃん優勢になって、花月が途中でタイムアウトを取ってからは両チーム時間をかけて点を取るようになったみたい」

 

紫原の質問に桃井が答えた。

 

「へー、あいつ、黄瀬ちんからパーフェクトコピー出させたんだ」

 

「伊達にお前に勝った訳でじゃねーってこったな」

 

「別に負けてねーし」

 

口を挟んだ青峰に対し、ムッとしながら返す紫原。

 

「フフッ、…今は花月は特定の選手じゃなくて全員が点を取りに行って、海常はあの12番の選手を中心に攻めてるわ」

 

「……あいつ」

 

桃井に促され、海常の12番、三枝に視線を向けて瞬間、紫原が一瞬険しい表情になった。

 

「知り合いか?」

 

「……かなり昔、バスケ初めて間もないくらいに時に1回だけ試合で戦った事がある」

 

「へー、むっくんが覚えてるなんて珍しいね。結果はどうだったの?」

 

「…」

 

桃井の問いに紫原は答えなかった。

 

「かなりやるな。俺が見た限り、お前とあの堀田を除けばあれ以上はいねぇ」

 

紫原の心中を察した青峰は特に追及せず、三枝の評価を口にした。

 

「木吉さんや根布谷さんよりも?」

 

「ああ。あいつは俺達に限りなく近い位置にいる」

 

キセキの世代と渡り合う事が出来る無冠の五将、木吉鉄平と根布谷永吉。共に全国トップクラスの選手である。

 

「黄瀬だけならいざ知らず、あいつがインサイドを支配してるとなると、花月はかなり苦戦するだろうな」

 

「「…」」

 

青峰の解説を聞いて、紫原とアンリはコートを食い入るような視線を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

ボールをキープしているのは空。目の前には小牧。小牧の動向に注意を払いながら空はゲームメイクをしている。

 

「スー…フー……っし」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

1度深呼吸をした後、空は一気に中へと切り込んだ。

 

「っ! 行かすか!」

 

タイミングを読み切った小牧が並走しながら空を追いかける。ペイントエリアまで侵入した空は強引にシュート態勢に入る。

 

「舐めるな!」

 

そこへ、ヘルプで飛び出した末広がブロックに現れ、空のシュートコースを塞ぎにかかる。

 

 

――スッ…。

 

 

空はシュートを中断し、ノールックで真後ろへとボールを戻した。

 

「ナイスパス!」

 

スリーポイントラインの外側。リング正面に位置に走り込んだ大地がボールを受け取り、すぐさまシュート態勢に入る。

 

「させないッスよ!」

 

そこへ黄瀬がブロックに現れた。だが、黄瀬がブロックに現れるよりも早く大地はボールをリリースした。

 

 

――ガン!!!

 

 

「…くっ!」

 

しかし、ボールはリングに嫌われてしまう。黄瀬のプレッシャーに僅かに手元を狂わせてしまった。

 

「(緑間っちじゃないんスから百発百中はあり得ないッスよね…)リバウンド!」

 

「任せい!」

 

松永を抑え込んだ三枝が誰よりも高い位置でボールを掴み取った。

 

「ハッハッハッ! 速攻じゃ!」

 

リバウンドボールを抑えた三枝は前を走る小牧にボールを投げ、速攻に走った。

 

「あかん! 戻れ、カウンターや!」

 

思わず天野が声を出す。

 

「させませんよ」

 

「俺達相手に速攻なんて出来ると思うな!」

 

素早くディフェンスに戻った空と大地が速攻を阻止する。

 

「ちっ! 速過ぎなんだよ!」

 

戻りの速い空と大地に悪態を吐く小牧。

 

「こっちだ!」

 

そこへ続いて走り込んだ氏原がボールを要求。すかさずそこへパスを出す。

 

「打たせない!」

 

右45度付近のスリーポイントラインの僅か外側でボールを掴んだ氏原。同時に戻った生嶋がスリーを阻止するべく距離を詰めてディフェンスに臨む。

 

 

――ボムッ!

 

 

生嶋がハンズアップしながら距離を詰めたのと同時に氏原はボールを中へと入れた。

 

「ナイスパスじゃ!」

 

そこへ走り込んだ三枝がボールを受け取った。

 

「止める!」

 

同時にディフェンスに戻った松永が目の前に立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

三枝は松永を押し込むようなドリブルを始める。

 

「…ぐっ! この…!」

 

背中をぶつけ、ローポストでアタックを続ける三枝。松永は苦悶の表情を浮かべながら侵入を阻止する。

 

「ハッハッハッ! ええのう、以前に見た冬の映像よりだいぶパワー付けたみたいやのう。…じゃけん」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「そんなに耐えるの必死でこれに対応出来るのかのう!」

 

ドロップステップでクルリと反転し、松永の背後に回りこんだ。

 

「くっそ…!」

 

侵入を阻止するのに力の全てをかけてしまっていた松永にこれが対応出来なかった。

 

「やらせるかい!」

 

ボールを掴んでリングに向かって飛んだ三枝に対してディフェンスに戻った天野がブロックに向かう。

 

「じゃっかぁしい!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

天野のブロックの上からボールをリングに叩きこんだ。

 

「ええ闘争心じゃ。バンバンこんかい」

 

ボールを拾って天野の足元に放る三枝。

 

「…くっ」

 

「言ってくれるやんけ…」

 

不敵な笑みを浮かべて告げる三枝。松永は悔しさを露にし、天野は睨み付けながら返した。

 

「天さん、松永! 1本返すぞ!」

 

空がそんな2人に声を掛ける。そしてスローワーとなった天野からボールを受け取る。

 

「そんじゃそろそろ、俺達の本領と行こうか。…行くぞ、走れ!!!」

 

掛け声と同時に花月の5人が走り出す。

 

『っ!?』

 

今までのハーフコートバスケから一転、得意のラン&ガンのオフェンスに切り替わる。

 

「そう簡単にやらせると思うな!」

 

ボールを持つ空に小牧がチェックに入る。

 

「止められるもんなら止めてみろ!」

 

ここで空が左右に高速でハンドリングを始める。

 

「…くっ…ちぃっ…!」

 

あまりに速すぎる空の高速の切り返しの連続に小牧はボールを見失わないように懸命にディフェンスをする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

小牧の重心が右足に傾いた瞬間、そこを狙って空が逆にクロスオーバーで切り返して抜きさった。

 

「来いや空ぁっ!!!」

 

両腕を広げ、大きな咆哮を上げて威嚇をする三枝。

 

「っしゃおらぁっ!!!」

 

それに怯む事なく突っ込んでいく空はボールを掴んでそのままリングに向かって飛んだ。

 

「2度もやらせんぞ!」

 

三枝は空のティアドロップ、フィンガーロールを要警戒してブロックに飛んだ。結果、空のシュートコースを塞がれてしまう。

 

「こっちです!」

 

空の左側で大地がボールを要求した。空は掲げていたボールを下げ、パスの態勢に入った。

 

「残念、ここは空いてないッスよ」

 

だが、そこに黄瀬が現れ、パスコースを塞いでしまう。

 

「「っ!?」」

 

空がパスを出す。しかし、その瞬間、黄瀬と三枝が目を見開いた。空は左の大地ではなく、逆。右アウトサイド、エンドラインとサイドラインが重なるポジションに立っていた生嶋にパスを出したのだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

不意を突かれた氏原。ほぼフリーでボールを受け取った生嶋は危なげなくスリーを決めた。

 

「ナイスパスくー!」

 

「ナイッシュー」

 

ハイタッチを交わす空と生嶋。

 

「(1ON1スキルが目立ち過ぎて曇りがちだが、こいつ、視野の広さとパスセンスも桁違いだ…!)」

 

ディフェンスに戻っていく空を見て心中で驚愕する小牧。シュートコースを塞がれ、パスコースも塞がれ、八方塞のあの状況ですぐさま生嶋のパスに切り替えたパスセンスと判断の速さ。どれをとってもハイレベルである。

 

「これは個人の能力だけじゃない、司令塔としても赤司っちに確実に迫りつつあるかもしれないッスね」

 

今のを目の当たりにした黄瀬が空を再評価したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

花月 21

海常 26

 

 

その後も双方、攻め立てるが、得点には繋がらなかった。攻めきれずに小牧がボールをキープしていた所でインターバルに突入した。

 

「お疲れ様! どうぞ!」

 

姫川と相川が試合に出場した5人にタオルとドリンクを配っていく。

 

「何とか5点差か…」

 

「途中で主導権取られた事を考えれば悪ない結果や」

 

安堵とも焦りとも付かない表情で呟く空に天野が励ますように言った。

 

「あそこでムキになって焦って点差を詰めに行かなかった事が功を奏した」

 

「昔の空なら間違いなく無理に点を取りに行ってましたからね」

 

空を褒める上杉とクスリと笑う大地。

 

「俺だって成長しているつもりなんだけどな…」

 

何処かで腑に落ちない表情をする空。

 

「とは言え、問題はここからだ。現状、バックラインはうち。インサイドは向こうが支配している状況だ」

 

空が巧みにボールを運んでいる為、安定して点を取れているが、肝心なインサイドが三枝によって支配されてしまっている。

 

「あんまええ状況とは言えんのう。向こうの小牧も空坊相手に手も足も出えへん訳やないからのう」

 

天野が語るように小牧は空にやられてはいるが一方的な訳ではない。何とか空に付いてきてはいる。

 

「…っ」

 

これを聞いて松永の表情が曇る。

 

現状、松永は三枝に一方的にやられていると言っても過言ではない。パワーで押されるか、抗おうとすればテクニックでいなされている。

 

「とは言え、こればかりは松永を責められないぜ。正直、海さんに対抗出来る奴なんて今年のインハイ出場校の中だと紫原くらいだと思うぜ」

 

コート上で2人の戦いを見ていた空が松永をフォローする。松永は弱いのではなく、三枝が強すぎるのだと。

 

「言い訳にはならん。俺があの人を止めなければならないんだ…!」

 

拳をギュッと力一杯握りこんで悔しさを露にする松永。

 

「インサイドを強化するか? ゾーンディフェンスに切り替えるか、あるいは生嶋を代えて室井を投入するとか…」

 

「正直、ゾーンディフェンスはリスクも大きいです。向こうには外がある選手が3人もいますから。それと、生嶋を外すと外がなくなってしまいます。大地は黄瀬がマークしているから高確率で決めれないでしょうし、俺にしたってそこまで確実には…」

 

菅野が代案を出すが、空がそれを否定した。

 

「だったらもう、天野を付けてダブルチームで――」

 

「…俺がやる」

 

選手達が意見を出し合う中、松永がはっきりとした口調で言った。

 

「俺がやるって、まっつん1人で相手するって事?」

 

「あぁ。俺がやらなくてはならない事だ」

 

生嶋の問いに松永は真剣な眼差しで返した。

 

「…責任感じてるのかもしれないがよ、無茶だぜ。ここはダブルチームで確実にあいつを――」

 

「天野先輩が来てしまえば末広がフリーになってしまいます。あいつを自由にさせてしまえばそれこそ海常の連携を活性化させる事になってしまい、点差はもっと開いてしまいます。俺が止めるしかないんです」

 

末広は個人技だけでなく、味方を生かすプレーも優れている。そんな末広がフリーとなり、スクリーン等の汚れ役に徹してくれば外を連発されてしまう事になる為、松永は1人で止めると豪語した。

 

『…』

 

静まり返る花月ベンチ。松永の提案が妥当であるかどうか思案している。

 

「うちの正センターは松永だ。お前の覚悟に免じて今はお前に任す」

 

口を開いたのは上杉。松永の提案を受け入れた。

 

「ま、ここまでうちのインサイドを支えてきたのは松永だ。ひとまずはそれで行こうぜ」

 

続いて空が賛同した。

 

「頼りにしていますよ。海さんを倒して下さい」

 

笑顔で肩に手を置きながら大地も賛同した。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでインターバル終了のブザーが鳴り、第2Q開始の合図がされた。

 

「っしゃぁっ!!! ここからも足を動かしまくって点を取りまくるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声を合図にスタメンの5人がコートへと足を踏み入れていく。

 

「松永」

 

その時、コートに足を踏み入れようとした松永を上杉が呼び止めた。

 

「インサイドは引き続きお前に任す。それは変わらん。…1つ言っておく」

 

「…」

 

「『自分が勝てなければ花月は負ける』そんな考えは止めろ。お前の出来る事、やれる事、そして役割を忘れるな」

 

「…はい」

 

そう返事をし、松永はコートへと向かった。

 

「竜崎、室井」

 

「はい」

 

「何でしょう?」

 

「ここから先、いつでも試合に出れる準備をしておけ」

 

スタメンの5人がベンチを出ていった後、上杉が2人に声を掛け、そう告げた。

 

「は、はい!」

 

「分かりました」

 

2人は返事をし、ベンチから立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

第2Qが始まり、再び会場は熱気に包まれる。

 

「中に入れい!」

 

ローポストに立った三枝がボールを要求し、そこへ小牧がボールを入れた。ボールが渡ると、その背中に松永が張り付くようにディフェンスを始めた。

 

「あくまでも1人でワシとやる気かい。ええじゃろう。向かってくるなら相手しちゃるわい」

 

ドリブルを始めた三枝は背中で押し込み始める。

 

「ぐっ! …くっ…!」

 

腰を深く落とし、ポストアップに何とか耐えようとする松永。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スピンムーブで突如反転し、松永の裏を抜けていく。そしてすぐさまボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「…っ! させん!」

 

これに松永も何とか対応。得点を阻止するべくリングと三枝の間に腕を差し込む。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、三枝はボールを下げ、空中でリングを通過していく。

 

 

――バス!!!

 

 

リングを通り過ぎた所で再びボールを上げ、リバースレイアップの態勢でバックボードに当てながらボールをリングに潜らせた。

 

『うめぇ! あいつ本当にセンターかよ!』

 

「くそっ!」

 

「ドンマイ! 次、オフェンスだ。取り返すぞ!」

 

悔しがる松永に空が声を掛けた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを運んだ空がそのまま小牧を抜いて中へと切り込んでいく。直後にボールを掴んでシュート態勢に入る。

 

「絶対打たせねえ!」

 

そこへ末広がヘルプに飛び出し、ブロックに現れた。

 

「残念!」

 

同時に空はシュートを中断してボールを足元で弾ませながら中へとボールを入れた。

 

「ナイスパス空坊!」

 

ボールを受け取った天野はすかさずシュート態勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なんやと!?」

 

だが、ボールをリリースした瞬間、後ろから現れた1本の腕にブロックされてしまう。

 

「残念じゃが点はやれんのう」

 

「あざっす海さん!」

 

ブロックしたのは三枝。マークを外して打たせてしまった末広が礼の言葉を言った。

 

「ちぃ、大地!」

 

ルーズボールをすぐさま拾った空はスリーポイントラインの外側、僅か左側に立っていた大地にパスを出した。

 

「…っ!」

 

ボールを受け取った大地はその位置からすぐさまシュート態勢に入った。

 

「させないッスよ」

 

スリーを防ぐべく、黄瀬がすぐさまチェックに入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「やっば…!」

 

しかし、大地はスリーを中断。黄瀬がチェックに入ったのと同時に加速。すれ違うように大地は黄瀬を抜いた。抜いたのと同時にシュート態勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

「ええ動きじゃ。じゃけん、ワシを忘れたらいかんのう」

 

大地をブロックしたのは再び三枝。

 

「(何処から…!?)」

 

完全フリーと思って放ったシュート。しかし、三枝は大地の死角から近付き、シュート態勢に入るのを予測してブロックした。

 

「ちっくしょう、これもかよ!」

 

再度ブロックされて思わず悪態を吐く空。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

気持ちを切り替えて空が中に切り込んでいく。

 

「何度もやらせるかよ!」

 

これに小牧も何とか付いていき、目の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

僅かに中に切り込み、何度か左右に切り返したところで空はボールを右へと流した。

 

「ナイスパスだ!」

 

そこへローポストに立っていた松永が戻ってボールを受け取った。

 

「来てみぃ」

 

「…っ、言われなくとも…!」

 

三枝と向かい合う形でボールを受け取った松永。ドリブルを始めると左右に揺さぶりをかける。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

クロスオーバーの後、そこからバックロールターンで三枝の後ろへと抜けた。

 

「おぉっ!」

 

そこでボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「動きもキレもなかなかやのう。じゃけん、ワシには話にならん」

 

これも後ろから三枝がブロックした。

 

『うぉぉぉーーっ!!! 3連発ブロック!!!』

 

『花月のフロントラインが壊滅だ!』

 

「なんて様や!」

 

「くそっ!」

 

「…っ」

 

この事実に天野と松永は悔しさを露にし、大地も僅かに表情を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も、三枝がインサイドを支配し続ける事で流れは海常に傾いていった。

 

「ふん!」

 

小牧が放ったシュートが外れ、リバウンド争いとなったゴール下。三枝がパワーとテクニックを駆使して強引にボールをもぎ取る。

 

「(あかん! 紫原はでたらめな高さとジャンプ力とリーチの長さでリバウンドを取りまくっとったが、こいつはちゃう。パワーだけやない、テクニックも一級品や!)」

 

リバウンドに定評がある天野。その天野が認める程、三枝のテクニックは優れていた。

 

「何をやっているんだ俺は!」

 

絶好のポジションを奪われ、リバウンドも取られた松永は自身の不甲斐なさに怒りを覚えた。

 

 

第2Q、残り6分19秒。

 

 

花月 25

海常 36

 

 

点差はじわじわと開いていき、遂には二桁までに達していた。

 

「監督、ここはタイムアウトを取って流れを断つべきでは?」

 

「…」

 

そう提案する姫川。上杉は返事を返さず、無言で思案する。

 

流れを断つ案は上杉からしてももっともなのだが、既に1度タイムアウトを使っている為、このタイミングで使うべきか否か考えている。

 

「…」

 

現在、小牧がボールをキープしている。目の前には空がおり、何もさせないつもりでディフェンスをしている。

 

「(…ちっ、相変わらずプレッシャーかけてきやがる。迂闊に仕掛ければボールを奪われかねない…)」

 

ドリブル突破はもちろん、シュートも打てない。フリーの選手もいない為、攻めあぐねている小牧。

 

「(…ちと速いが、そろそろ格付けを済ますかのう)こっちじゃ!」

 

ローポストに立っていた三枝が突如その場を離れ、小牧の横にまで移動した。

 

「頼みます!」

 

すかさずそこへ小牧がパスを出した。

 

「(ゴール下を離れた? 何をするつもりだ?)」

 

三枝を追いかけた松永。三枝の狙いを考えている。

 

「(空いたゴール下にパスか? いや、違う!)」

 

ここで松永は確信した。三枝の狙いは、この位置から1ON1を仕掛ける事だと。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりドリブルを始めた三枝。腰を落として集中力を極限まで高めながら待ち受ける松永。

 

「…いくぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

キレのあるクロスオーバーで松永を抜き去る。

 

「ここは行かせんで!」

 

すかさず天野がヘルプに飛び出す。ここで三枝は立ち止まり、シュート態勢に入る。

 

「(フェイクやろ、それ)」

 

フェイクと読んだ天野は両腕を上げるもジャンプはしなかった。読み通り、三枝はターンアラウンドで反転し、改めてシュート態勢に入った。

 

「ドンピシャや!」

 

ここで天野はブロックに飛んだ。だが…。

 

「っ!?」

 

ここでも三枝はシュートを打たず、再度逆回転に反転した。

 

 

――バス!!!

 

 

そこでシュートを放ち、得点を決めた。

 

「よーし!」

 

拳を握って喜びを露にする三枝。

 

 

「こっちだ神城!」

 

続く花月のオフェンス。松永がローポストから離れ、ボールを要求した。

 

「…」

 

一瞬悩む空だったが、松永にパスを出した。

 

「行くぞ!」

 

宣言と共に松永がドリブルを始める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

得意のクロスオーバーからのバックロールターンで抜きにかかる松永。

 

「温い、温いのう!」

 

これに三枝はきっちり対応。進路を塞ぐ。

 

「…くっ、これならどうだ!」

 

ここでボールを掴んでターンアラウンドで反転し、フェイダウェイで後ろに飛びながらシュートを放った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「ええ動きじゃ。じゃが、ワシを相手にするのはまだ未熟じゃ!」

 

しかし、そのシュートはブロックされてしまった。

 

『アウトオブバウンズ、赤(花月)!』

 

ボールはラインを割った。

 

「…」

 

流れが悪いと見た上杉がタイムアウトを申請する為、立ち上がった。

 

「くそっ! 何をやっているんだ、俺は!」

 

不甲斐ない自分自身に腹を立て、自身の足を叩く松永。

 

「…松永」

 

そんな松永に空が歩み寄った。

 

「率直に言わせてもらうぜ。今のお前じゃ海兄には勝てねえ」

 

「っ!?」

 

「今ので分かった。今の時点じゃ、海兄の方が1枚も2枚も上だ。これはもうどうにもならねえ」

 

「だが! 俺がやらなければ試合には勝てない。俺がやらなければ――」

 

「本当にそうか?」

 

空の遠慮のない言葉に松永が熱くなったが、それを遮るように空が言葉を続ける。

 

「お前が海兄に勝てなければ花月は負けちまうのか?」

 

「……それはどういう意味だ?」

 

言葉の意味が分からない松永は思わず聞き返す。

 

「俺も同じ事を思ってたよ。俺がキセキの世代に勝てなければ花月は勝てないって。主将になってからもそれは同じだった」

 

「…」

 

「けどな、陽泉の試合、途中で俺が抜けて、それでも花月は勝った。昨日の試合も俺がいなくとも勝った」

 

「…」

 

「それで分かった。俺が花月の全てを背負い込む必要なんてないんだって事を。俺は試合に勝つ為にはどうすればいいか。今はそれしか考えてない」

 

「…」

 

「例えお前が海兄に勝てなくとも、花月は負けたりはしない。バスケは力を合わせればミスを帳消しに出来るしチャンスも作り出せる。誰かが勝てなくても試合には勝てるんだよ。だからよ、1人で戦うな。一緒に勝とうぜ。もちろん、俺もどうにもならなくなったらお前を頼らせてもらうからよ」

 

ポンっと、肩に手を置いて空はその場を離れていった。

 

「……スー…フー」

 

松永は大きく深呼吸をした。

 

「まさか、あいつに諭されるとはな」

 

かつては個人の感情で動く事が多かった空に諭された事に自嘲気味に笑った。

 

「(…だが、空の言う通りだ。俺は俺が三枝さんに勝てなければ花月は負けると思い込んでいた。周りが確実に結果を出し、俺だけが不甲斐ない結果ばかりで焦っていたのかもしれないな)」

 

チームのインサイドを任されていながらやられる事が多かった松永。戦う相手が悪かったと言えばそのとおりなのだが、生来の真面目な性格が災いしてか、本人はかなり焦っていたのだ。

 

「(俺は三枝さんには勝てない。それはもう認めよう。だが…)」

 

ここで松永は三枝の方に視線を向けた。

 

「試合の勝利だけは譲らん」

 

決意に満ちた表情で言ったのだった。

 

「(ええ表情しよるのう。ここで心へし折っちゃるつもりやったが、ここまで見せつけて折れるでもなく自暴自棄にもならんとはのう。なかなか骨のある男じゃ)」

 

ここに来て闘争心が衰えない松永を見て、その心の強さを称える三枝。

 

「ならとことんまで相手しちゃるわ」

 

松永の視線を受けて不敵な笑みを浮かべた三枝だった。

 

 

「……申し訳ない。タイムアウトは取り消させてもらう」

 

1度はオフィシャルテーブルに来てタイムアウトを申請した上杉だったが、空と松永のやり取りとその後の松永を見てタイムアウトは不要と判断し、申請を取り消したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は三枝を中心に攻め立てた海常に流れが傾き、点差が広がっていった。

 

松永を圧倒する三枝。この事実に熱くなる松永だったが、空の言葉を受けて自身を見つめなおし、冷静さを取り戻した。

 

しかし、依然として海常優位に試合は進んでいる。

 

花月の試練は、まだまだ続いていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ネタ切れ感が半端ないorz

リアルが忙しくなり、ネタ切れも相まって執筆意欲が沸かず、時間を作れても動画を見たり原作を見直すだけで終わる事が多くなってきた…(>_<)

…これ、ウィンターカップの時みたいにインターハイだけで今年も終わるかも…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第123Q~不可視~


投稿します!

ネタがある程度煮詰まったので1ヶ月ぶりの投稿です…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り6分1秒。

 

 

花月 25

海常 38

 

 

黄瀬のパーフェクトコピーで海常が主導権を奪い、その後は三枝を中心に攻めていった。三枝をマークする松永が何とか対抗しようとするも、力及ばず、点差はジワジワと開いていった。

 

熱くなった松永が意地になり、やり返そうとした所、空が声を掛けた事により、冷静さを取り戻した。

 

「…」

 

生嶋がリスタートで空にボールが渡る。ボールを受けた空はゆっくりドリブルしながらゲームメイクをする。

 

「…止める」

 

空をマークする小牧は気合い入れてディフェンスに臨む。

 

「……よし」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

攻め手を定めた空は一気に中へ切り込んだ。

 

「行かせね――」

 

空を追いかけようとした小牧だったが、何かに阻まれる。

 

「ここは通行禁止やで」

 

天野がスクリーンをかけており、小牧の追走を阻んだ。

 

「来いやぁ、今度こそ止めちゃるわ」

 

中に切り込んだ空の前に立ち塞がるのは三枝。

 

「(直接来るなら空得意のティアドロップかフィンガーロールじゃ。この2つを警戒したらええだけじゃ…)」

 

ジャンプショットやダンクは選択肢から消した三枝。空の得意技に備える為、タイミングを計る。リング近くまで侵入した空がボールを掴んでレイアップ態勢に入った。

 

「させんぞ!」

 

タイミングを計った三枝がブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

ここで三枝は目を見開いた。右手を伸ばした空だったが。その右手にボールがなかったからだ。

 

「残念」

 

右手で撃ちに行くと見せかけて左手でボールを持った空はそこからビハインドパスでボールを右へと流した。

 

「おっ? 見せ場やな。ほな行くで!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ピック&ロールで走り込んでいた天野がボールを受け取り、そこからワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

「気合い入ってますね。普段はダンクなんてやらないのに」

 

「出来へん訳やないからのう。たまにはええやろ」

 

空と天野はパチン! とハイタッチを交わした。

 

「ドンマイ! 取り返しましょう!」

 

ボールを拾った末広がスローワーとなり、小牧にボールを渡した。

 

「1本、行きますよ!」

 

小牧がフロントコートまでボールを運んでいく。

 

「何もさせねえぜ」

 

ボールを運んだ小牧の前に空が立ち塞がった。

 

「……ちっ」

 

舌打ちが飛び出る小牧。得意のドライブで中に切り込んで行きたい所なのだが、空がそれを許してくれない。迂闊に仕掛ければたちまちボールを奪われてしまう。

 

「(…行け!)」

 

その時、末広が動き、空にスクリーンをかけた。

 

「(サンキュー、一也!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

合図を受け取った小牧は一気に加速し、中へと切り込んだ。

 

「…なっ!?」

 

「生憎と、お見通しだ」

 

カットインした小牧だったが、空はスクリーンをロールでかわし、小牧に追走していた。

 

「(死角だったはずなのに、こいつ!)」

 

末広は空の死角に立ってスクリーンをかけていたので空には見えないていないはずだった。にも関わらず、空は平然と末広のスクリーンをかわした。

 

「(やべぇ、このままじゃ取られる、どうする!?)」

 

このまま撃ちに行けば間違いないなくブロックされてしまう。かと言って中の密集地帯でボールを止めればたちまち囲まれてしまう。

 

「拓馬! こっちだ!」

 

その時、右サイドから末広が声を掛けた。スクリーンをかけた後、すぐさま走り込んでいたのだ。

 

「頼む!」

 

頭上から末広にパスを出した。

 

「よし!」

 

ボールを掴んだ末広はそこからシュート態勢に入った。

 

「させっかよ!」

 

小牧のディフェンスをしていた空が末広にすぐさまチェックに向かった。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ジャンプショットを放った末広だったが、ボールを放った瞬間、現れた空のブロックに阻まれた。

 

「ナイス神城! 速攻だ!」

 

ルーズボールを拾った松永が前線へとボールを放った。そこには既に大地が走っていた。ボールを受け取った大地はそのままリングに向かってドリブルをし、そのままリングに向かって跳躍した。

 

「させないッスよ」

 

「…っ」

 

そこへ、黄瀬がブロックに現れた。ブロックに飛んだ黄瀬は大地とリングの間に現れ、シュートコースを塞ぐ。

 

 

――スッ…。

 

 

大地はダンクを中断し、ボールを後ろへと落とした。

 

「ナイスパス!」

 

そこに走り込んでいたのは空。

 

『なっ!? あいつさっき自陣のリング近くでブロックしてたのにもうそんな所に!?』

 

あまりの空のディフェンスからオフェンス参加のスピードが速過ぎる為、観客からは驚きの声が響いた。

 

「いただき!」

 

ボールを受け取った空がそのままシュート態勢に入る。

 

「…っ、させないッスよ!」

 

大地のダンクのブロックに飛んだ黄瀬だったが、着地と同時にすぐさま空のブロックに向かった。

 

「残念♪」

 

しかし、空はシュートには行かず、前にボールを落とすように放った。

 

「っ!? またッスか!?」

 

これには黄瀬も予想外だったのか、思わず声を上げていた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを受け取った大地はそこからリバースダンクをリングに叩きこんだ。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! 2連発!!!』

 

「ナイスパス、空」

 

「いいぜ、その調子で頼むぜ」

 

ゴツンと拳を突き合わせた。

 

「…」

 

そんな2人に視線を向ける黄瀬。さすがの黄瀬でも2人を同時に止めるのは困難であった。

 

「すいませんキャプテン!」

 

「俺のせいで…」

 

ターンオーバーからの失点の責任を感じてか、小牧と末広が黄瀬に頭を下げた。

 

「ドンマイッス。まだリードしてるんスからそんな辛気臭い顔する必要ないッスよ」

 

2人に笑顔を向けながら黄瀬は激励した。

 

「空と大地の守備範囲は広い。チンタラしとるとすぐにヘルプに来る」

 

「「…はい」」

 

「ボール持ったら遠慮なくワシに持ってこい。ワシがガンガン決めちゃるわ!」

 

「「うす!」」

 

握り拳を向けた三枝。小牧と末広は大声で返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

再び海常のオフェンス。小牧がボールを運ぶ。

 

「頼みます!」

 

言われた通り、小牧はローポストに立つ三枝にパスを出した。

 

「…行くぞ」

 

静かではあるが、圧の籠った言葉で三枝が自身をマークする松永に向けて言い放った。

 

「マツ! 止めるで!」

 

「はい!」

 

ポストアップを始めた三枝に対し、天野も加わり、2人がかりで侵入の阻止にかかった。

 

「2人がかりかい! じゃけん、2人で足りるのかのう?」

 

三枝が力を込め、強引に押し込んでいく。

 

「「…っ」」

 

突如、とんでもない重量が2人に襲い掛かる。

 

「踏ん張れマツ! 2人なら行けんで!」

 

「はい!」

 

グッと腰を落とし、三枝の侵入を阻む天野と松永。それが実り、三枝の侵入は止まった。

 

「なかなかやるのう!」

 

「こちとら一昨日にとんでもない化け物とやっとるんでのう。それに比べればこの程度、訳あらへん」

 

健闘を称える三枝に苦悶の表情で侵入を阻止しながら返す天野。

 

「キセキの世代の紫原か! なるほどのう、『あれから』あ奴もとんでもない逸材に進化したようじゃのう! しかしのう…」

 

「「っ!?」」

 

突如、押し込みを止めた三枝はボールを掴んで反転しながら2人と距離を作るようにステップバックし、そこから後ろに飛びながらシュート態勢に入った。

 

「じゃからと言ってワシが止められると思わん事じゃ」

 

 

――バス!!!

 

 

フェイダウェイで放ったシュートはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「こちとらパワーだけやないからのう。このとおり、引き出しは盛沢山じゃ。止められるものなら止めてみぃ」

 

力を誇示するように言い放ち三枝はディフェンスに戻っていった。

 

「…っ」

 

それに思わず圧倒される2人。

 

「ドンマイ」

 

そんな2人に空が駆け寄り、声を掛けた。

 

「そんな辛気臭い顔すんなって。ポストアップすら止められなかった紫原の時と違って今回は2人がかりなら止められたんだ。それならやりようはいくらでもあんだろ?」

 

「…せやな」

 

「あぁ。そうだな」

 

空が陽泉戦の折の紫原と比較して希望を持たせる。それを聞いて希望を見出した天野と松永。

 

「そんじゃ、1本、決め返すぞ」

 

「あぁ、頼む」

 

声を掛けた空に松永がボールを渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、花月は空を起点に得点を重ね、海常は三枝を中心に得点を重ねていった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

天野と松永のダブルチームを突破した三枝がダンクを叩き込んだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空からのパスを受けた大地がジャンプショットを決める。

 

ターンオーバーで連続得点を挙げてから9点差と11点差を繰り返し、試合は再び膠着状態になった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、海常!』

 

ここで海常の監督、武内がタイムアウトを申請、コールされた。

 

 

第2Q、残り2分37秒

 

 

花月 35

海常 44

 

 

選手達がベンチへと下がっていった。

 

花月ベンチ…。

 

「ゆっくり呼吸を整えろ。水分補給を忘れるな」

 

戻ってきた選手達に上杉が指示を出す。

 

「点差が一向に縮まらんで」

 

天野が思わず愚痴を零す。パーフェクトコピーという最大の切り札を海常を残している為、試合終盤に使ってくると予想するにしても最悪それまでに点差を詰めておかないと厳しい展開になる。

 

「点は取れています。後はどうやって止めるか、ですね」

 

互いに失点を防げないこの状況でどうやって点差を詰めるか…。

 

「海兄だな。海兄をどうにか出来なきゃ点差が詰められねえ」

 

海常は三枝がゴール下を支配しているおかげで良いリズムを生み出している。その為、他の選手も伸び伸びさせてしまっている。

 

「リングから離れてくれたら俺1人でも相手出来るんやけど…」

 

ポツリと天野が呟く。平面でのディフェンスに定評がある天野。しかし、ローポストからの攻められるとパワーで劣る天野ではどうしても後手後手になってしまい、引き出しの多い三枝にやられてしまう。

 

「…」

 

顎に手を当てながら上杉は策を巡らせている。

 

「…海常は自ら切り込める得点力の高い司令塔、独特のリズムで打つアウトサイドシューター、中から点も取れて起点になれるパワーフォワード、インサイドの絶対的な要のセンター、そして、最強のオールラウンダー。インターハイ出場校の中でもとりわけ高水準でバランスの取れたチームです」

 

姫川の指摘通り、強力なインサイドプレーヤーが揃っている陽泉とは違い、海常は全体的にバランスの取れたチームであり、欠点と言える欠点がないチームである。それだけに付け入る隙が少ないのである。

 

「静まれ」

 

上杉がそう声を掛けると、話し合いをしていた選手達が静まり、上杉に注目した。

 

「悲観するな。陽泉戦と違ってこっちは点を取れているんだ。焦れているのは向こうも同じだ」

 

『…』

 

「ディフェンスは引き続き、相手の12番(三枝)には引き続き、天野と松永の2人で当たれ」

 

「了解や!」

 

「はい!」

 

「神城は空いた10番(末広)にいつでもヘルプに出れるようにしておけ」

 

「うっす!」

 

「綾瀬は黄瀬だ。現状五分五分。だが、抑えて見せろ」

 

「はい!」

 

「生嶋は相手のシューターに外を打たせるな。外さえ打たせなければ多少中に切り込まれても構わん。とにかく外を打たせるな」

 

「はい!」

 

それぞれに指示を飛ばしていく。

 

「オフェンスはあえて複雑な指示は出さん。相手の倍点を取れ」

 

『はい!!!』

 

花月の選手達の声が響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常ベンチ…。

 

「状況は悪くない。点差こそ開いていないが、大きく詰め寄られたりもしていない。…だが、少し相手のペースに乗せられてしまっている。受け身になるのはまずいが、相手のペースに引き摺られるな」

 

ベンチに戻ってきた選手達に武内が声を掛ける。

 

『…ふぅ』

 

座りながら水分補給をしながら呼吸を整える海常の選手達。普段の試合と違い、心なしか息が弾んでいる。それだけ消耗している事が窺える。選手達の消耗具合を見越してのタイムアウトでもあった。

 

「…しかし、昨日の試合は神城が不在だったが、加わるとオフェンスもディフェンスもここまで厚みが出るのか…」

 

溜息を吐きながら氏原が言う。

 

空が加わった今日の試合、オフェンスでは自らの得点力に加え、広い視野と独特のパスセンスを生かしたゲームメイクによって得点を重ね、ディフェンスでは自身のマークしてる小牧に極力仕事をさせず、驚異的なスピードと運動量を駆使してスティールを連発し、選手がフリーになってもすぐさまヘルプに向かっていた。

 

リードしているのは海常であるが、きっかけ1つで追いつかれてしまう点差でもあるので楽観視は出来ない。

 

「すいません、俺がしっかりマーク出来ないから…」

 

タオルをきつく握りしめながら小牧が悔しさを露にする。

 

「こんな言葉をかけても慰めにならんと思うが、お前は良くやっている。…ただ、相手が悪すぎた。恐らく、仮に笠松であっても結果は変わらなかっただろう」

 

一昨年の海常の主将を務めた笠松幸男。海常で監督をしている武内がここ数年で司令塔の中で特に優れていると思う選手を引き合いに出して小牧を慰める。

 

それだけ空の相手をするのは至難の業だという事である。

 

「今日の空は万全じゃ。昨日の試合の欠場の影響は全くないと見てええじゃろう。これ以上あいつを自由にさせてしまうのはまずいのう」

 

空を称えると同時に危険性も唱える三枝。

 

「うむ。オフェンスはとりあえずこのままで行く。ディフェンスを少し変更する。良く聞け――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウト終了のブザーが鳴り、選手達がコートに戻ってくる。両チームとも選手交代はなし。

 

海常ボールから試合再開。末広から小牧へとボールが渡り、ゆっくりとボールを進める。

 

「…」

 

小牧から左45度付近のスリーポイントラインの外側に立つ氏原にボールが渡り、生嶋がチェックに入るとハイポスト立った末広にボールが渡る。末広に対して空が急速に距離を詰める。それを見て小牧にボールを戻し、小牧から黄瀬にボールを渡った。

 

「…」

 

黄瀬にボールが渡るとすぐさま大地がディフェンスに入った。

 

「…っ!」

 

ボールを掴んだ瞬間、黄瀬がすぐさまシュート態勢に入った。これを見て大地がすぐさま距離を詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、これはフェイク。黄瀬はシュートを中断し、ドリブルで中に切り込んだ。

 

「させません!」

 

だが、大地もフェイクを読み切り、距離を詰めてもハンズアップのみでブロックには飛ばなかった。すぐさまバックステップで黄瀬を追いかける。

 

「っ!?」

 

バックステップしようとしたその時、何かに阻まれる。振り返ると、そこにはスクリーンをかけた末広が立っていた。

 

「あかん! 声掛け怠ったわ!」

 

三枝に気を取られた天野が慌ててヘルプに走る。が…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

それよりも早く黄瀬がジャンプショットを放ち、得点を決めた。

 

「助かったッスよ」

 

「役に立てたなら何よりです」

 

スクリーンをかけた末広を黄瀬が労った。

 

「(オフェンスは特に大きな動きはない。強いて言うならボールを回して慎重に攻めたくらいか…)」

 

ベンチの上杉は何か手を打ってくる可能性も視野に入れていたが、海常のオフェンスにさほど動きはなかった。

 

オフェンスでは動きはなかった。動きを見せたのは、ディフェンスだった。

 

「なっ!?」

 

「何やと!?」

 

素早くリスタートし、空がボールをフロントコートまで運ぶと、海常が動きを見せた。それを見て松永と天野が驚愕した。

 

「おっ♪」

 

「これは…」

 

空は目をキラキラさせ、笑みを浮かべ、大地は戸惑いの声を上げた。

 

「……そう来たか」

 

静かに唸るように呟いた上杉が相手ベンチの武内の方へチラッと視線を向けた。

 

海常のディフェンスが変化する。生嶋には氏原、松永には三枝。ここは変わらないのだが、大地に小牧と末広がダブルチームでマーク。そして…。

 

「ハハッ! まさか、あんたが相手してくれるとはね」

 

笑い声を上げながら喜びを露にする空。

 

「相手のエースを止めるのも大事ッスけど、君達の場合、エースを止めるより司令塔を止めた方が有効だって監督に言われたんでね」

 

空の目の前には黄瀬が立っていた。

 

「とりあえず、ここからは俺が相手するッス。よろしく」

 

「この試合は同ポジションの大地に花を持たせるつもりだったけど、…良いね。テンション爆上がりしてきましたよ!」

 

最強のオールラウンダーである黄瀬が自身のマークをしにやってきた事で、空のテンションが一気に最高潮にまで跳ね上がった。

 

「今まで随分目立ってたッスけど、俺がマークに付いた以上、ここからは君に何もさせないッスよ」

 

「…言ってくれますね。やれるもんならやってみろよ」

 

「俺はこれでも君みたいなタイプの選手は結構得意なんスよ。少なくとも、そっちのエースを抑える事に比べれば断然楽ッス」

 

不敵な笑みを浮かべながら黄瀬が空に告げる。

 

空を過小評価するかのような言葉を吐く黄瀬。

 

「(君の性格は今まで見てきた試合と去年、合宿で相手した事で良く理解してるッス。こう言えば君は…)」

 

「…ハッ! 上等だよ。その挑発に乗ってやろうじゃねえかよ!」

 

不敵な笑みを浮かべながら空は目付きを鋭くしながら黄瀬に告げたのだった。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりドリブルをしながら目の前の黄瀬と対峙する空。

 

「……っし!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決した空はここで動き、黄瀬との距離を詰めた。

 

「(来た!)」

 

空が動きを見せたの同時に黄瀬が集中力を高める。距離を詰めたの同時に空は左右に大きく切り返しながらハンドリングを始めた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

「…っ」

 

黄瀬の目の前で高速で左右にクロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを混ぜ込み、時折膝を曲げて態勢を下げながら左右に切り返しまくる空。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

時は今日の昼前…。

 

診療所で空が試合出場のお墨付きを貰った直後、診療所を出ると空の容体が気になった大地が待っていた。診療結果を聞き、胸を撫で下ろすと、空は大地を近くの公園に誘った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

身体の調子の確認がてら、空は大地に1ON1勝負を誘った。その時、空は大地を相手にある技を披露した。

 

「っ!? これは!?」

 

あまりの衝撃に目を見開いて驚く大地。大地は空の姿を突如見失い、気が付いたら背後の抜かれていた。

 

「っしゃ成功だ!」

 

大地の背後に抜けた空は喜びを露にした。

 

「今まで何となくやってからここぞって時しか出来なかったけど、遂に完成したぜ」

 

「…直接受けてみて、驚きを禁じえません。本当に目の前から姿を見失ってしまいましたよ」

 

技を受けた張本人大地は未だに衝撃を受けていた。

 

「これでようやく実戦で積極的に使えるな。…そうだな、どうせならこのドリブルに名前を付けるか。名付けて、消えるドライブ!」

 

「……そのままですね」

 

あまりの安直なネーミングに思わず突っ込む大地。

 

「…だよな。だったら、うーん…、消えるから、バニシングドライブとか!」

 

妙案とばかりに言い放つ空。

 

「その名は確か、誠凛の黒子さんのドリブルと同じだったかと思うんですが…」

 

「…うぉっ! そうだった!? だったら! だったら……うーん…」

 

何か良いネーミングは出来ないかと必死に知恵を巡らせる空。

 

「でしたら、こういうのはどうです? これは先程のバニシングドライブと似た意味を持つのですが…」

 

そう言って大地は思いついたネーミングを空に伝える。

 

「おぉっ! それ良いな! 響きがカッコいいし、それに決定! このドリブルの名前は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――インビジブルドライブ(不可視のドライブ)!!!

 

 

「っ!?」

 

空の姿を見失った黄瀬は棒立ちで抜き去られる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

黄瀬が振り返ると、既にシュート態勢に入っており、空は悠々とジャンプショットを決めた。

 

「どうだ。俺も結構やるだろ?」

 

振り返った空は黄瀬に指を差し、不敵な笑みを浮かべながら言ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





気が付けばこの二次を投稿し始めて5年が経っていました…(^-^)

我ながら、よくエタらずに続いたなと思います…(;^ω^)

この調子で投稿が続けられたら……言いんだけどなぁ…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第124Q~気付かぬ枷~


投稿します!

うーん、雨が鬱陶しい…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り1分58秒。

 

 

花月 37

海常 46

 

 

タイムアウト終了後、海常が落ち着いて得点を決め、直後の花月のオフェンス。黄瀬が空をマークした事で花月の選手達を驚かせた。黄瀬の挑発にあえて乗った空は真っ向勝負を挑み、自身の必殺技とも言えるインビジブルドライブで黄瀬を抜き去り、得点を決めた。

 

「…」

 

「…」

 

空が得点を決めた姿を観客席から見ていた青峰と紫原。双方共、過去の試合で同じ技を受け、抜き去られている。

 

「ココカラ見テイテモスゴイナ…」

 

同じく、一昨日の試合で抜き去られているアンリが驚いている。

 

「…去年に試合をした時から思ったけど、神城君って、大ちゃんに似てるよね?」

 

「あぁ? あんなバカと一緒にすんじゃねえよ」

 

鬱陶し気に反論する青峰。

 

「…」

 

コート上で不敵に笑う空に視線を向ける青峰。そんな空を見て、青峰の奥底にある記憶が蘇って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それは今から8年前…。

 

とあるバスケのリングがある公園で、青峰が1人、バスケのボールで遊んでいた時の事。

 

「?」

 

視線を感じた少年青峰が振り返ると、ジーっと自分を見ている1人の少年の姿があった。

 

「よう、俺に何か用か?」

 

そんな少年に青峰が近寄り、話しかけた。

 

「迷った。親父とはぐれた。何処だここ?」

 

話しかけられた少年は何故か胸を張りながらそう答えた。

 

「お前迷子か?」

 

「そうとも言えるな!」

 

何故か偉そうに答える少年。

 

「じゃあ、今暇なんだな? ならよ、俺とバスケしよーぜ!」

 

生粋のバスケバカでもある青峰が1人で退屈をしていた所に渡りに船とばかりにバスケに誘う。

 

「やる!」

 

少年も乗り気満々で誘いを受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「スゲー! 何でそんなのが入るんだ!?」

 

「お前、なかなかやるじゃねえかよ!」

 

1ON1を始めた2人。互いの名前すら知らない同士にも関わらず、互いに笑いながら勝負をしていた。

 

「お前、かなりセンスあるぜ。同い年くらいで俺と互角にやれる奴なんてほとんどいなかったからな」

 

「海兄にバスケを習ったからな!」

 

2人の勝負は僅かに少年青峰に軍配が上がるものの、互角の様相を見せていた。その時…。

 

「…ん?」

 

「あっ!? 親父だ!」

 

少年の名を呼ぶ1人の大人が現れた。

 

「スゲー面白かった! ありがとな!」

 

「俺も楽しかったぜ。いつか試合で戦おうな!」

 

そう言って、少年は父親の下に駆け寄っていった。父親の傍まで駆け寄ると、父親に盛大な拳骨を落とされ、涙目になった。父親がペコリと頭を下げると、2人は去っていった。

 

「お待たせ大ちゃん!」

 

そこへ、桃井がやってきた。

 

「遅ぇーぞさつき」

 

「ごめんごめん! …今の子は誰?」

 

「分かんねー。暇してからバスケに誘っただけだ。…あいつ、かなりやるぜ。いつか俺と本気でやり合う時が来るかもな」

 

そう言って、少年青峰は去っていった少年の遠くなった姿を見つめたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…そうか、始めた見た時から何処かで会った気がしてたが、あの時のガキか」

 

かつて体験した既視感の正体が分かった青峰はポツリと呟いた。

 

「何の話ー?」

 

「何でもねえよ。ただの独り言だ」

 

声が耳に入った紫原が尋ねるも、ぶっきらぼうに返した。

 

「それにしても、きーちゃんが神城君をマークするなんて…」

 

「ま、良い判断じゃねぇの? あいつ(空)にダブルチームしても意味がねぇどころか無駄にノーマークの選手を作るだけだからな。それならいっそ黄瀬を付けて綾瀬にダブルチームした方がマシだ」

 

桃井の言葉に青峰が解説をした。

 

「…でも、きーちゃんでもあのドライブは止められなかったね」

 

「(…黄瀬の野郎、やけにあっさり抜かれたな。…わざとか?)」

 

指摘を受けて青峰が考え込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……ふぅ」

 

黄瀬が思わず溜息を吐いた。

 

「キャプテン…」

 

そんな黄瀬を見て心配そうに駆け寄る小牧と末広。

 

「何て顔してるんスか? 俺なら心配いらないッスよ。タイムアウト中に言ってた事忘れたんスか?」

 

笑顔を見せながら返事をする黄瀬。

 

 

『とりあえず、しばらくは神城君は俺が相手するッス。ひとまず最初、彼を挑発して1ON1に持ち込む。場合によっては抜かれるかもしれないッスけど、そうなっても慌てないでほしいッス』

 

 

これが、タイムアウトが終わる直前に黄瀬がチームメイトに向かって言った言葉である。

 

「例のドライブ、目の前で見せてもらったのは幸いだった。正直、俺にあれのコピーは出来ないッスね」

 

「そんな…」

 

「だから何て顔してるんスか。大丈夫ッス。技の仕組みはだいたい掴めたッスから。少し時間があれば対応策は練れそうッス」

 

「っ!? ホントですか!?」

 

朗報を聞いて小牧が驚く。

 

「だからこっちの心配いらないッス。君達は自分の役割に全力を尽くしてくれればそれで良いッスよ」

 

「うす! 分かりました!」

 

「さぁ、反撃ッス。取り返すッスよ」

 

「「はい!!!」」

 

ボールが小牧に渡され、リスタートがされた。

 

 

「っしゃぁっ! 1本、止めるぞ! このQ中にリードを縮めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声に、花月の選手達が大声で応えた。

 

「…」

 

小牧がボールを運ぶと、空がチェックに入る。

 

「…(チラッ)」

 

末広のポジションにも気を配りながら空はディフェンスに臨んでいる。

 

「(…俺と一也を同時に相手に抑えるつもりかよ。くそっ!)」

 

片手間で相手をされている事に憤りを覚える小牧。

 

「(だが、仕方ねぇ。俺と神城の差は高校でどうにもならない程に開いちまった)」

 

中学時代も空の方が上回っていたが、その時は頭1つ抜けた程度であり、そこまで差はなかった。高校に進学し、別々の道を歩いてきた2人が再びぶつかり合った時、差は歴然と開いていた。悔しくもあるが、小牧は力の差を受け入れた。

 

「(それでも負けねえ! 絶対に勝つんだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して小牧が中に切り込む。

 

「甘い!」

 

そのドライブに空は難なく付いていく。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

それでもお構いなしに小牧は強引に打ちにいった。

 

「舐めんな、決めさせる訳ねぇだろ!」

 

小牧のシュートコースを塞ぐように空が小牧を遙かに超える高さでブロックに飛んだ。

 

『うぉっ! た、高い!?』

 

「(分かってるよ! 本命はこっちだ!)」

 

シュートを中断した小牧はボールを下げ、後ろへとボールを放る。小牧の後ろには、氏原が走り込んでいた。

 

「(頼みます!)」

 

「(任せろ!)」

 

胸の前で両手を構え、捕球態勢に入る氏原。小牧はボールから手を放した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「なっ!?」

 

パスをした小牧とボールを待っていた氏原が驚愕した。

 

「…そう来たか。だが、俺には通じねえよ」

 

何と、ブロックに飛んだ空が小牧がボールを放る直前、空中でロールしながら小牧の持つボールを叩いたのだ。

 

「(バカな!? 読んでいたのか!?)」

 

空は小牧がシュートを中断した瞬間、後方に走り込む氏原の姿を視認し、即座に反応し、手を伸ばしてスティールした。ひとえに、空の反射速度で為しえた事である。

 

「(ちくしょう、俺ではこいつ相手には何も――)」

 

「まだだ、諦めるな!」

 

心が折れかけた小牧に対し、末広が声を張る。ルーズボールを末広が抑えたのだ。同時にすぐさまシュート態勢に入る。

 

「ちっ!」

 

着地した空は間髪入れずに末広との距離を詰め、ブロックに飛んだ。だが、末広はそれよりも速くボールをリリースした。

 

「(外れる! …いや違う。これは!)」

 

咄嗟にこのシュートは外れると判断した空だったが、すぐさま改める。これはシュートではなく…。

 

「…っ!」

 

ボールの軌道はリングの僅か横付近。その軌道上に小牧が走り込み、空中でボールを掴んだ。

 

「(着地してから打ちに行ったんじゃブロックされる。だったら!)…おぉっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

小牧はボールを空中でボールを掴み、そのままシュートを放った。ボールはバックボードに当たりながらリングを潜りぬけた。

 

「っしゃぁっ!」

 

得点を決めた小牧はガッツポーズと共に喜びを露にした。

 

『スゲー! アリウープだ!』

 

『あいつも負けてねえぞ!』

 

「ナイッシュー、拓馬!」

 

「おう!」

 

ハイタッチを交わす小牧と末広。

 

「良いぞお前らぁっ!!!」

 

バチン! と、2人の背中を叩いて労う三枝。

 

「った!? うす!」

 

2人は痛がりながら礼の言葉を言った。

 

「舐めんなよ神城。絶対負けねえからな」

 

ディフェンスに戻る際、空の横を通り抜ける折に小牧が空に告げた。

 

「…ハッ! さすがだな。だが、それはこっちだって同じだぜ」

 

告げられた空は笑いながら小牧と末広の背中に呟いたのだった。

 

 

変わって花月のオフェンス。

 

「…っ」

 

空がボールを運ぶと、黄瀬が激しくプレッシャーをかけてきた。

 

「(…ちっ、インビジブルドライブどころか、俺に何もさせねえつもりか…!)」

 

激しすぎる黄瀬の当たりに空は思わず圧倒される。

 

「ちぃっ!」

 

舌打ちをした後、空は後ろに倒れこむように上体を倒し、そのままの態勢で右サイドに展開する大地にパスを出した。

 

「止めるぞ一也!」

 

「おう!」

 

大地にボールが渡ると、小牧と末広がダブルチームで大地にプレッシャーをかけた。

 

「…」

 

2人からの激しいプレッシャーを受けるも、大地は表情を変えず、落ち着いてボールをキープする。

 

 

――スッ…。

 

 

ここでバックステップをして2人との距離を作る大地。

 

「(まずい、スリーを打たれる!)…させるか!」

 

スリーを阻止するべく、小牧がすかさず距離を詰める。

 

「(隙間が出来た!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで大地が仕掛ける。小牧が距離を詰めた事でダブルチームに前後の隙間が出来、切り込んだ直後にクロスオーバーで切り返しながらその隙間を縫うように通り抜け、2人を抜き去った。

 

「「っ!?」」

 

あっさりと抜き去られた2人は思わず目を見開いてしまう。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

抜いた直後に急停止。ボールを掴んで視線をリングに向けた。

 

「ぬぅっ! させん!」

 

それを見て三枝がヘルプに飛び出し、シュート態勢に入ろうとしている大地に向けてブロックに飛んだ。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

だが、大地はボールを頭上に掲げた所で中断し、三枝が飛んだ足元にボールを弾ませるようにしてローポストに立っている松永にパスを出す。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った松永が落ち着いてゴール下から得点を決めた。

 

「ナイスパス」

 

そう言って手を差し出した松永。

 

「良いポジションにいてくれて助かりました」

 

その手を大地はパチンと叩いた。

 

「「…くっ」」

 

大地を抑える事が出来なかった小牧と末広は悔しさを露にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、次のオフェンスは互いに成功させる。

 

「ふん!」

 

ローポストでボールを受け取った三枝が背中に立つ松永に対してポストアップを行い、強引にゴール下まで押し込もうとする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「ぐわっ!」

 

背中で激しく当たる三枝。その衝撃に松永が後方に倒れこむ。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『オフェンスチャージング、青12番!』

 

このプレーに対し、審判がファールを取った。

 

「ちぃっ!(この男…!)」

 

思わず松永を睨み付ける三枝。当たりに対して倒れ方が大袈裟である為、三枝は気付いた。松永がわざと倒れた事に。

 

「ええで、止めたもん勝ちや」

 

「っす」

 

手を差し出して労う天野の手を取って立ち上がる松永。

 

「…」

 

時計が止まり、空が電光掲示板に視線を向ける。

 

 

第2Q、残り13秒。

 

 

花月 41

海常 48

 

 

「(残り時間を考えて、次がラストワンプレーここを決めて次のQに繋げる!)」

 

決意をした空が集中力を高める。

 

「気合い入ってるッスね」

 

そんな空に黄瀬が話しかける。

 

「次がこのQのラストプレーッスからね。まぁ、決めて次に繋げたいッスよね」

 

「…」

 

空は特に返事を返す訳でもなく、視線をチラリと向けただけでボールを受け取りに向かう。

 

「…さっきの君のドライブ」

 

「?」

 

「もし、あれを止める事が出来るって言ったら、どうするッスか?」

 

「っ!?」

 

その言葉を聞いて思わず足を止め、黄瀬に振り返る。すると、黄瀬は不敵に笑みを浮かべたまま…。

 

「楽しみにしてるッスよ」

 

そう告げて、ディフェンスに戻っていった。

 

「(俺のインビジブルドライブを止めるだと…!)」

 

空が思わず黄瀬を睨み付けた。

 

青峰と紫原をも抜き去り、この試合前に遂に完成させた空の必殺のドライブ。

 

「ただのハッタリか、それとも本当に止められる方法を見つけたのか、それとも他に何かあんのか知らねえが、良いぜ、その挑発に乗ってやる」

 

ボールを受け取った空はフロントコートまで運ぶ。そして目の前に黄瀬が現れる。

 

「…行くぜ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言と共に空が黄瀬との距離を詰め、足元付近まで踏み込む。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

そこから高速でクロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを繰り返し、時折態勢を下げながら左右に大きく切り返し続ける。

 

「(黄瀬の視線が……外れた!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬の視線が右に向いた瞬間、空はその逆にダックインしながら切り返した。

 

「っ!?」

 

その瞬間、空の表情が驚愕に染まる。黄瀬がバックステップをして距離を取っていたのだ。

 

「そのドライブの種は死角から死角への高速移動し、君の姿を探そうと視線を右か左かに向けた瞬間に瞬時に逆にダックイン。これッス」

 

「…っ」

 

「だったら、わざと視線を外して下がって距離を空けてしまえば君の姿は死角から捉えられる」

 

距離を取って視野を広げれば空の姿はその目で捉えられる。しかも、視線を外した瞬間に切り込んでくるのでタイミングと方向の予測も容易に出来てしまう。

 

「丸見えッス。君の姿が」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

空の持つボールを黄瀬が叩いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に第2Q終了のブザーが鳴った。

 

「…っ!」

 

転々と転がるボール。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! あの無敵のドライブを止めたぁぁぁっ!!!』

 

「どんな手品も、種が知れてしまえば案外あっけないもんッス。もう俺にはそのドライブは通用しないッスよ」

 

そう空に告げて、黄瀬は海常ベンチへと下がっていった。

 

「……ちっくしょう…!」

 

思わず空は拳をきつく握りしめた。必殺のインビジブルドライブを止められ、その表情は怒りに満ち溢れていた。

 

「……空、ハーフタイムです。下がりますよ」

 

「…あぁ」

 

大地に促され、空は怒りの表情のままベンチに戻り、そのまま控室に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「凄い、きーちゃん、あのドライブ止めちゃった」

 

前半戦終了間際の攻防を見て桃井は驚く。

 

「黄瀬は相手の技を瞬時にモノに出来るから。つまりは、技の仕組みを瞬時に理解出来るって事だ。ま、既にあのドライブは何度も見せてんだから対策の1つや2つ、黄瀬でなくても考えつくだろ」

 

淡々と話す青峰。過去に自身も抜き去られるているドライブである為か、若干複雑そうであった。

 

「結局7点差かー。けど、黄瀬ちんまだパーフェクトコピーの使用時間に余裕あるんでしょー? 海常が断然優勢じゃない?」

 

つまらなそうな表情で分析する紫原。

 

「きーちゃんはパーフェクトコピーを第1Qに2分間使っただけだから、まだ5分は使えるだろうから、花月は少なくとも第4Qの残り5分までに追い付かないと…」

 

「いや、それじゃ足らねえな。確実に勝つなら10点以上のリードが最低条件だ。それが出来なきゃ9割方海常の勝ちだ。…だが、今までの試合を見る限り、その可能性は期待出来ねえけどな」

 

桃井の分析に青峰が補足して解説をした。

 

「司令塔の神城が今まさに必殺技を破られてっからな。その影響は良くも悪くも確実に出る。…ま、ハーフタイム中にどれだけ切り替えられるか、だろうな」

 

「ムムム、俺ハソレデモ花月ヲ応援スルゾ。頑張レ、花月!!!」

 

話を聞いていたアンリが花月の応援をする。

 

「…ちっ、コートに花月いねえのにうるせー奴だ。おい紫原、こいつ何とかしろ」

 

「俺に言わないでー…んぐんぐ…」

 

抗議をする青峰。紫原は聞く耳持たず、スナック菓子を食べていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常の控室…。

 

「よーし! 黄瀬、良くやった!」

 

控室に戻るなり、氏原が黄瀬の肩を抱きながら喜びを露にした。

 

「当然っスよ!」

 

黄瀬も満更でもなかったのか、握り拳で返していた。

 

「これであいつ(神城)も少しは大人しくなる。この試合、行けますよ!」

 

「(…だと良いんスけどね)」

 

手応えを感じて喜ぶ後輩に対し、黄瀬は心中では希望程度に留まっていた。

 

「静まれ!」

 

その時、武内が声を張り上げ、選手達を制した。この声に反応し、選手達は会話を止め、武内の方を向いた。

 

「何を浮かれている。お前達はもう試合に勝ったつもりでいるのか? まだ試合は半分。7点差。たかがアドバンテージを1つ手にしたに過ぎない。もう勝ったつもりでいる奴は今すぐ考えを改めろ!」

 

『…っ』

 

この言葉に浮かれかけていた選手達はバツの悪そうな顔をしながら表情を改めた。

 

「恐らく、あの程度では神城は大人しくはならんだろう。むしろ、さらに火が付いたとワシは見る」

 

武内はそう予想する。武内から見た空は武内の良く知る選手に似ているからだ。かつて、もっとも頼りになり、今では最大の敵となったあの男に…。

 

「ワシも同感じゃのう。あ奴の負けん気の強さと往生際の悪さはワシの知る限り他に知らん。後半戦、空はとんでもない事をしてくるかもしれんのう」

 

同じく三枝がかつての誼から同じ意見を出した。

 

「うむ。よし、皆、今あるリードはないものと思え。第3Qからはこれまで通り動いて相手の出方を窺う。動きがあればこちらから指示を出す。良いか、試合終了のブザーが鳴るまで気を抜くな。最後まで攻め立てろ!」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月の控室…。

 

『…ふぅ』

 

控室に戻った選手達。試合に出場した選手達は椅子に座って水分を摂りながら呼吸を整えていた。

 

「さーて、こっから先、どないしよ?」

 

開口、口を開いたのは天野だった。

 

『…』

 

沈黙が支配する控室。この問いに誰も口を開く事が出来なかった。

 

点差だけ見れば7点差。まだ試合の半分を残している為、残り時間だけ見ればまだそこまで悲観する状況ではない。しかし、第1Qから黄瀬のパーフェクトコピーで点差を付けられてから点差があまり詰められていないのだ。

 

要所要所で手を打ち、僅かに点差を縮めてはいるのだが、所詮は単発。贔屓目に見ても花月と海常は互角である。黄瀬がパーフェクトコピーを使っていない状況で…。

 

この試合に勝つには、今の時点で互角では話にならないのである。

 

『…』

 

誰もが現状を打破する策を考えている。そんな中、口を開いたのは…。

 

「どうもこうもないでしょ」

 

空だった。タオルで顔の汗を拭い、肩に掛けると、椅子から立ち上がった。

 

「点を取らなきゃ点差は縮まらなねえ。だったらガンガン点取りに行くだけだろ」

 

「そりゃそうだが、相手のオフェンスを止めなきゃそれこそ点差は――」

 

「知ったこっちゃねぇ」

 

菅野の懸念を空はバッサリ切り捨てた。

 

「もとよりウチは陽泉みたいな堅守のチームじゃないし、洛山やそれこそ海常のようなオフェンスもディフェンスも器用にこなせるチームじゃないだろ。俺達の持ち味は俺達の足を生かしたオフェンス特化のチームだ。100点、それこそ200点取られたなら101点、201点取り返せば良いんだよ」

 

「んな無茶苦茶な…」

 

空の物言いに菅野は呆れたような声を出す。

 

「いや、神城の言う通りだ」

 

その時、空の言葉に同意するように上杉が言った。

 

「花月は相手の倍走って全員で点を取りに行くスタイルだ。俺はそういう練習をさせてきた。陽泉に勝った事で油断や驕りこそなかったが、昨日…特に今日の試合は過剰に余裕を持ち過ぎたきらいがあった」

 

『…』

 

「確かにそれで鳳舞には勝てた。だが、海常相手にはこのままでは勝てん。ではどうするか? ならば、原点に立ち返ればいい」

 

「原点…」

 

その単語を松永が繰り返す。

 

「昨年の冬の秀徳戦を思い出せ。お前達は不格好でもガムシャラに走り続けて勝利を掴んだだろう? お前達はあくまでも挑戦者だ。胸を貸すだとか迎え撃つ等は似合わん」

 

「…せやな。そない昔の事やあらへんのに、忘れとったで。海常が同じ目線でかかってくるもんやからつい勘違いしとったわ」

 

「だね。改めて考えると、今の僕達って、どこか背伸びしてたのかもね」

 

「だな。いつの間にか、俺達は俺達自身を見失っていたのだな」

 

上杉の言葉に天野、生嶋、松永も何処か噛み合わなかった歯車が噛み合ったかのように自分達の原点を思い出していた。

 

「走りましょう。試合終了後、倒れて動かなくなるまで…」

 

「おう。次の試合の事はこの試合の後に考えりゃいい。後半戦、これまで以上に走る。全員、気合い入れようぜ!」

 

『おう!!!』

 

主将である空が檄を飛ばし、選手達は全員が応えた。

 

「…にしてものう、前半戦終了直前にあのドライブ防がれたばかりやのに、空坊がえらい落ち着いて驚いたで。お前も立派に成長しとったんやなぁ」

 

チームの主将らしくチームメイトを引っ張る空の姿を見て、天野は軽く茶化しながら褒めたたえた。

 

「…」

 

「…空?」

 

「……落ちつける訳ないだろうがぁぁぁっ!!!」

 

突然、沈黙したかと思えば、身体をワナワナと震わせ、持っていたタオルを床に叩きつけ、発狂したかのうように叫び始めた。

 

「せっかく完成させて名前まで付けた俺の必殺技だったのに! 披露して2回目で破るとかどんだけなんだよぉぉぉっ!!! ぜっっっっったい、後半ぶち抜いてやっからぁぁぁっ!!!」

 

「…やっぱりキレとったんかい」

 

呆れながら天野がツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ハーフタイム終了の時間がやってくると、花月、海常の選手達がコートへと戻ってきた。

 

両ベンチに控えの選手、監督、マネージャーが座り、第3Qから出場する両チームの選手達がコートへとやってきた。海常の選手交代はなし。しかし…。

 

「……むっ? 10番(竜崎)が試合に出すのか。代わりにベンチに下がったのは……なに? 5番(生嶋)だと?」

 

花月は生嶋をベンチに下げ、代わりに竜崎を投入した。

 

「…ふむ、確かにディフェンスと身体能力、高さなら10番(竜崎)の方が優れている。ほぼ外一辺等の5番(生嶋)よりプレーの幅は広いが、あの外を捨ててまで出すのか?」

 

総合的に見れば、選手として優れているのは竜崎かもしれない。しかし、生嶋のスリーは機械のように正確で、打たれればボールに触れられない限り外れる事はまず期待出来ない。故に強力な武器であり、相手に与えるプレッシャーは計り知れない。

 

「…守りを重視してきたか? いや、ゴウがこの状況でそんな保守的な選択をするとは到底思えん。では何を考えている。…相変わらず読めん男だ」

 

ベンチで胸の前で両腕を組んで座っている上杉に武内は視線を向けながら相手の手を思案したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ!」

 

コートに足を踏み入れるや否や、空は黄瀬を睨み付ける。

 

「何かすっごいこっち睨んでくるんスけど…」

 

空の視線を感じた黄瀬が苦笑しながら肩を竦める。

 

「ハッハッハッ! あのドライブを止められた事がよほど悔しかったんじゃろうなぁ!」

 

そんな空を見て三枝が笑い声を上げる。

 

「じゃけん、ああなった空は良くも悪くも何しでかすかよー分からん。注意せーよ」

 

「もちろんッスよ」

 

審判から氏原がボールを受け取り、小牧にパスを出して第3Qが開始された。

 

「1本! 止めるぞ!」

 

空の掛け声と共に花月がディフェンスを始めた。

 

「…っ!?」

 

ボールを運んだ花月のディフェンスの変化を見て目を見開いた。

 

これまでマンツーマンでディフェンスをしていた花月が2-3ゾーンディフェンスに変わったのだ。前に空と大地。後ろに右から天野、松永、竜崎の順番に並ぶ。

 

「中を固めに来たのか? …だが、うちを相手にゾーンディフェンスは悪手だ」

 

そう言い切る武内。

 

2-3ゾーンに限らず、ゾーンディフェンスは外からの攻撃に弱いのはある種の常識。海常にはシューター氏原に加え、黄瀬も小牧もスリーを得意としている。外を得意とする選手が3人もいる海常にゾーンディフェンスは最悪と言っても差し支えない。

 

ボールを回す海常。空と大地は一定の距離を保ってディフェンスをし、中にボールが入るとすぐさま包囲網を敷く。海常はスリーポイントラインの外側でボールを回し、時折中にボールを入れながらチャンスを窺っている。

 

「(向こうが中を固めてくるなら遠慮なく外を打たせてもらうだけ)…来い!」

 

ハイポストの末広にボールが渡ると、氏原が右45度付近のスリーポイントラインの外側でボールを要求し、ボールを貰う。

 

「っし!」

 

ボールを受け取るのとほぼ同時に膝を曲げ、ボールを頭上へと掲げた。

 

「…っ!」

 

同時に大地が氏原に向けて走り出し、空いていた距離を瞬時に詰め、ブロックに飛んだ。

 

「(…ちっ、相変わらずとんでもねえスピードだ。だがな)…あめぇーよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地がブロックに現れると、氏原はシュートを中断。中へと切り込んだ。

 

「(これでゾーンディフェンスが崩れる。まずは1本――)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

しかし、切り込んだの同時に氏原の保持していたボールが横から伸びてきた1本の手に弾かれた。

 

「そっちがな」

 

ボールを叩いたのは空だった。

 

「(…くそっ! 綾瀬のブロックは中に切り込ませる為の罠だったのか!?)」

 

氏原の推測は当たっていた。大地は氏原にボールが渡ると、わざとドリブルに切り替えられるタイミングでブロックに飛んだのだ。その場所に空が移動し、抜いた直後のボールを狙い打った。

 

「っしゃ、ボールを貰い。頼むぜ!」

 

すぐさま空がボールを拾うと、竜崎にボールを渡した。ボールを受け取った竜崎は左手の人差し指を立て…。

 

「1本! 行きますよ!」

 

ゲームメイクを始めた。

 

『なっ…』

 

『なにぃぃぃぃぃぃっ!!!???』

 

この出来事に観客達が驚愕した。

 

「神城じゃなくて、竜崎がボールを運ぶのか!?」

 

それは海常の選手達も一緒であり、小牧が戸惑いを見せた。

 

ハーフタイム中、上杉が出した指示は大きく2つ。まずはディフェンスを2-3ゾーンディフェンスに変更する事。その際に…。

 

『向こうのスリーは神城と綾瀬で全て潰せ。多少、中に切り込まれても構わん。絶対にスリーを打たせるな』

 

空と大地にこう告げられる。

 

2つ目は、ポジションチェンジ。ポイントカードつまりボール運びは竜崎が務め、生嶋のポジションであるシューティングガードには空を置き、上杉は空にこう指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――点を取りに行け。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ一言、そう指示を出したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





スポーツ漫画において、必殺技が破られるのはある種のお約束。…まあ、名前が付けられた次の話というのは早すぎるとは思いますが、技自体は結構前から出てましたからね…(;^ω^)

全中大会編で密かに出していた伏線をここで回収。(ウィンターカップで出し忘れたとは決して言えないorz)

ネタもある程度固まってきたので、時間とモチベーションさえあれば順調に投稿…出来る…といいなぁ…( ;∀;)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第125Q~接戦~


投稿します!

寒天ゼリー美味い…(*^_^*)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り9分42秒。

 

 

花月 41

海常 48

 

 

試合の後半戦が開始される。

 

 

OUT 生嶋

 

IN  竜崎

 

 

第3Q頭から花月は生嶋に代わり、竜崎を投入。ディフェンスもマンツーマンから2-3ゾーンディフェンスに切り替わった。

 

後半戦最初の海常のオフェンスを止め、オフェンスが切り替わると…。

 

「1本! 行きますよ!」

 

竜崎にボールを渡し、竜崎がボールを運び、ゲームメイクを始めた。

 

「…」

 

ボールを持った竜崎の目の前には氏原。海常はこれまでどおりのマンツーマンディフェンス。ただし、大地には小牧と末広がダブルチームで付いている。

 

「…よし、行くぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

攻め手を定めた竜崎は意を決して切り込んだ。

 

「…っ、行かせね――っ!?」

 

追いかけようとした氏原だったが、天野のスクリーンによって阻まれてしまう。

 

「…むっ? いかんのう、奴は確か…」

 

ここで三枝がある事を思い出す。昨日の試合で竜崎がスクープショットを見せていた事に。三枝は自身がマークしている松永のマークを外さず、あえてヘルプには行かず、竜崎の動向に備えた。

 

 

――スッ…。

 

 

ペイントエリアの侵入した所で竜崎はボールを外に出した。

 

「ナイスパス!」

 

ボールの先は空。中に走って竜崎に駆け寄る振りをし、タイミングを見てカットし、左アウトサイド、スリーポイントラインの外側、サイドラインとエンドライン交わる隅に向けて猛ダッシュして黄瀬のマークを外し、辿り着いたと同時にボールを受け取り、黄瀬がディフェンスに来る前にそこからスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空が放ったスリーはリングの中心を的確に射抜いた。

 

「っしゃぁっ!」

 

見事にスリーを決めた空は拳を握って喜びを露にした。

 

『後半戦最初に決めたのは花月だ!』

 

「…ちっ、7点ビハインドでの第3Q最初の攻撃、流れを掴む為に普通なら慎重に攻める所を迷いなく打ちやがった」

 

出来れば決めたい最初のオフェンス。空の思い切りの良さに海常の選手達は戸惑う。

 

「1本! 次も止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が声を上げて檄を飛ばし、花月の選手達が応えた。

 

「…ちっ」

 

ボールを運ぶ小牧が思わず舌打ちを飛ばす。

 

2-3ゾーンディフェンスの花月は僅かではあるがゾーンの先頭の空と大地が距離を取ってディフェンスをしている。通常であればスリーを狙ってみてもいいのだが…。

 

「…(ピクッ)」

 

スリーに意識を向けようとすると空と大地がすぐさま飛び出せる備えをしてくる。その為、迂闊にスリーを放てば入る入らない依然にブロックされてしまう。切り込もうにも空と大地が距離を取ってディフェンスをしている為、それも困難。

 

「(…どうする)」

 

八方塞になる小牧。

 

「…へい!」

 

その時、黄瀬がスリーポイントラインの外側、右45度付近でボールを要求。

 

「頼みます!」

 

攻め手がなかった小牧は迷わず黄瀬にボールを渡した。

 

「…」

 

黄瀬がボールを掴むと、目の前には大地。集中力全開で黄瀬の動きに備える。

 

「…」

 

「……ふぅ」

 

対峙する2人、黄瀬が何気なく息を吐くと…。

 

「…っ!?」

 

大地が思わず目を見開いた。突如、黄瀬との距離が広がっていたからだ。

 

「(…いつの間に!?)…くっ!」

 

思わず大地は距離を詰めるが…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

距離が詰まる前に黄瀬がスリーを放ち、確実にリングを射抜いた。

 

「今の、確か誠凛の前主将が使ってた、不可侵のシュート(バリアジャンパー)やないか!?」

 

技の正体を思い出した天野が思わず声を出す。

 

今のは昨年まで誠凛の主将を務めていた日向が使っていた、相手に気付かれずにディフェンスとの距離を空ける技、不可侵のシュート(バリアジャンパー)である。

 

「(聞きしに勝る技。…いえ、これは、使い手の身体能力と技量の差…)」

 

瞬発力がなくても速さが出せるこの技をある者が使えばその威力は当然跳ね上がる。

 

「止まっている状態なら俺でも君みたいに下がる事は造作もないッスよ」

 

勝ち誇った表情で大地に告げ、ディフェンスに戻っていく黄瀬。

 

「…ふぅ」

 

得意のコピーを見せられ、大地は一呼吸して気持ちを落ち着けたのだった。

 

 

花月のオフェンス、再び竜崎がボールを運ぶ。

 

「こっちです!」

 

フロントコートまでボールが進むと、リングの正面、スリーポイントラインの外側に立つ竜崎の真横、左方向まで下がった大地がボールを要求。

 

「綾瀬先輩!」

 

大地に迷わず竜崎はパスを出した。

 

「止める!」

 

「今度こそ!」

 

立ち塞がるのは小牧と末広。第2Q終盤同様、ダブルチームで大地をマークする。

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かしながら隙を窺う大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

折を見て大地が仕掛ける。一気に加速して中に切り込む。

 

「…速い!? だが止める!」

 

「おぉっ!」

 

小牧と末広も何とかこれに反応、対応する。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

だが直後、大地は急停止。ドライブの勢いを一瞬で殺す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時にバックステップ。先程立っていた場所より僅かに後ろまでドライブと変わらぬスピードで下がった。

 

「「っ!?」」

 

一瞬で距離を空けられた2人は思わず目を見開く。大地は距離が空いたのと同時にシュート態勢に入る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

スリーポイントラインから1メートル以上離れてはいたが、大地は落ち着いてスリーを決めた。

 

『出たぁっ!!! 綾瀬の代名詞、バックステップからのスリー!』

 

『これはもう外れる事を祈るしかないぜ!?』

 

高難度の技に観客が沸き上がる。

 

「やるぅ、あれは俺にも出来ねえ」

 

「どうも」

 

ディフェンスに戻りながら空と大地がハイタッチを交わす。

 

「(…映像で見た綾瀬のバックステップからのスリー…。こんなの俺じゃあ止められっこねぇ…)」

 

「(ドライブ1つでも厄介なのに、その勢いを一瞬で殺しちまう強靭な足腰。なおかつドライブと変わらないスピードでのバックステップ…。しかも、スリーもモーションに入ってから打つまでが速過ぎる。こんなのどうしろって言うんだよ…!)」

 

1本の大地のプレーで絶望の淵に陥る2人。止めるどころかブロックにすら行けなかっただけに、そのショックは計り知れない。

 

「おらぁっ! シャンとせぇっ!!!」

 

「「った!」」

 

気落ちする2人の背中を三枝が手のひらでバチンと力強く叩いた。

 

「さっきまで闘志はどうした? まさか今ので怖気づいたんか?」

 

「「…っ」」

 

この言葉を聞いて2人はバツの悪そうな顔をする。

 

「…ならば、またリョータ1人に戦わせるか?」

 

「「っ!?」」

 

続いて発した三枝の言葉に2人はハッとした。

 

「(そうだよ。俺は何の為に練習してきた!?)」

 

「(黄瀬さんと一緒に優勝する為じゃないか!)」

 

昨年、黄瀬1人に全てを背負わせ、果ては黄瀬のワンマンチームとまで揶揄された海常。そんな不名誉な名を払拭し、黄瀬と共に海常を優勝に導く為に今日まで練習してきた。その悔しさを思い出した2人の目に再び闘志が宿った。

 

「「絶対に勝つ!」」

 

「よし! それでええ! 行くぞ!」

 

再び三枝は2人の背中を叩いて活を入れたのだった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

オフェンスが海常に切り替わり、小牧が積極的に仕掛け、中に切り込んで行く。

 

「もう2度と抜かせねえ!」

 

これに空は対応、小牧に並走し、抜かせない。

 

「…むっ?」

 

抜けないと見ると小牧は急停止し、ボールを掴むとボールを頭上に掲げる。

 

「マークが外れてねえのに打たせる訳ねえだろ!」

 

シュートと見た空は両腕を上げる。だが小牧は打たず、両手で掴んだボールを右に放る。

 

「ナイスパス拓馬!」

 

ハイポストに立っていた末広にボールが渡る。

 

「させへん!」

 

そこにすかさず天野が背中に張り付くようにチェックに入る。

 

 

――スッ…。

 

 

それを見て末広はリングを背にしたままオーバヘッドパスでボールをローポストの三枝に入れた。

 

「ええパスじゃ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを掴んだ三枝はそのままボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

「まだまだこれからだ!」

 

「城ヶ崎コンビを舐めんなよ!」

 

拳を握りながら宣言する2人。

 

「ハハッ! そうこなくちゃな!」

 

それを聞いて空は不敵に笑ったのだった。

 

 

「こっちだ! 俺に持ってこい!」

 

花月のオフェンスになると、今度は空がボールを要求。

 

「頼みますよ、キャプテン!」

 

要求どおり、竜崎は空にパスを出した。

 

「今度はさっきみたいに打たせないッスよ」

 

空がボールを掴むと、目の前に黄瀬が現れた。

 

「今度はあんたをぶち抜いて決めてやるよ」

 

「させると思ってるんスか? 君のあのドライブはもう俺には通用しないッスよ」

 

あのドライブ。空のインビジブルドライブは第2Q最後に黄瀬に攻略されている。

 

「…ハッ、舐めんなよ。あれは俺の武器の1つに過ぎねえ」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

ここで空が動き、クロスオーバーを仕掛ける。黄瀬もこれに追走し、対応する。

 

「ボールをこねくり回すだけが俺のバスケじゃねえ。俺の1番の武器は――」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「スピードだ!」

 

左へのクロスオーバーの直後、すぐさま逆にクロスオーバーで切り返した。

 

「っ!?」

 

最初のクロスオーバーに対応する為に体重が右足に乗ったところをすぐさま逆に切り返された為、黄瀬は空に抜き去られてしまう。

 

「まだやぁっ、空ぁっ!!!」

 

中に切り込むと、ヘルプに飛び出した三枝が現れた。

 

「…っ」

 

三枝が現れると、空はすぐさまボールを掴んだ。ボールを掴み、三枝の目の前に1歩目の左足を踏み込んだ。

 

「(右か!?)…決めさせん!」

 

左足を踏み込んだ際、空の膝が左を向き、上体も左に傾いたのを見て三枝は自身の右側から抜けると予測し、右に飛んだ。

 

「っ!?」

 

しかし、空はその逆、三枝の左側に大きく踏み出した。

 

 

――バス!!!

 

 

ステップで三枝をかわした空はその態勢からボールを放った。ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『黄瀬と三枝の2人をかわして決めたぁぁぁっ!!!』

 

ビッグプレーに観客が盛大に沸き上がった。

 

「(…速い、今のスピードは青峰っちよりも…!)」

 

空の最速を体感してそのあまりの速さに驚きを露にする黄瀬。

 

「キラー…クロスオーバー…」

 

思わず小牧が口にする。

 

かつて見たダブルクロスオーバー。自身が理想としたドリブル。それをさらに進化させた小牧の思う究極のドリブル。

 

「最後のはジノビリステップ…、陽泉戦で綾瀬が使っていた技! …神城も使えるのか!?」

 

苦々しい表情で氏原が口にする。

 

得点を決める際に空が行った独特のステップはジノビリステップ。

 

「もともとは空が使っていたのを見て私が咄嗟に真似ただけですので、空が言わば本家ですよ」

 

補足するように大地が説明する。

 

「インビジブルドライブを止めただけで俺を攻略したと思わない事だ。俺にはまだ武器はたくさんあるんだぜ」

 

黄瀬に指を差しながら告げ、空はディフェンスに戻っていった。

 

 

海常のオフェンス。

 

「(…キャプテンがやられた直後のオフェンスだ。ここは落としたくない)」

 

ボールを運ぶ小牧が心中で考える。

 

絶対的エースからの失点。直後のオフェンスを落とせば相手に流れを持っていかれかねない。

 

「(中の海さんは…ダメだ。あれじゃパスは出せない。…なら、ここしかない!)」

 

攻め手を定めた小牧はパスを出す。

 

『来たっ!!!』

 

『早速やり返すか!?』

 

ボールは黄瀬に渡った。

 

「っしゃ大地! ここを止めて流れ変えてやれ!」

 

「…そうですね。ここは何としてでも止めませんと」

 

空から発破をかけられ、大地の集中力が高まる。

 

「悪いけど、簡単に流れはくれてはやれないッスよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで黄瀬が動き、クロスオーバーを仕掛ける。

 

「…っ!」

 

これに大地も対応。遅れる事なく黄瀬に付いていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「くっ!?」

 

直後、黄瀬が逆に再びクロスオーバーで切り返し、大地を抜き去った。

 

『うぉぉっ! 早速やり返した!』

 

先程の空のお株を奪うダブルクロスオーバー…、キラークロスオーバーを披露した。

 

そのままリングに向かって直進……と、思ったその時。

 

「っ!?」

 

大地を抜いた直後、黄瀬の左側から1本の腕がボール目掛けて伸びてきた。

 

「俺の技までパクりやがって! だが、もう1陣あるぜ!」

 

現れたのは空。抜いた直後を空が間髪入れずに狙い打ったのだ。

 

「…っ、この程度、切り抜けられきゃキセキの世代は名乗れないんスよ!」

 

 

――スッ…。

 

 

そこから黄瀬は反転。バックロールターンで空の手をかわした。

 

『これもかわしたぁっ!!!』

 

「…やろ! まだ安心するのは速いぜ!」

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

黄瀬の表情が驚愕に変わる。黄瀬の持つボールを空に叩かれたからだ。

 

空はスティールをかわされた直後、両足を滑らせるように前に出し、そこから倒れこむように身体を後ろに倒し、そこから手を伸ばしてボールを狙い打った。

 

「そんな態勢から狙ってくるんスか!?」

 

そのあまりの不安定な態勢からボールを狙われた事に思わず声が出る。

 

「さすが空です。…速攻!」

 

「既に走ってるぜ!」

 

ボールをカットした直後、空は倒れる事なく態勢を立て直し、すぐさま前線に向けて駆けだしていた。

 

「しかももう先頭に!?」

 

これにはもう黄瀬は頭を抱えるしかなかった。常人ならまず倒れこむ態勢でボールをカットし、にもかかわらず倒れる事なく態勢を立て直しただけではなく、誰よりも速く速攻に走っていたからだ。

 

「ナイスパース!」

 

先頭でボールを受け取った空はワンマン速攻を仕掛ける。

 

「戻れ!」

 

海常ベンチから声が出されるが、ボールを持っているにも関わらず、先頭を走る空に追い付くどころか逆に離されていく。

 

「っしゃ行くぜ!」

 

フリースローラインを超えたところで空はボールを掴み、そこからリングに向かって飛ぶ。そして…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま右手で持ったボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『これでワンゴール差だ!』

 

『スリーなら逆転だぞ!?』

 

「おらぁぁぁっ!!!」

 

ダンクを決めた空は鼓舞するように拳を突き上げて喜びを露にする。

 

「ナイスだ神城!」

 

それに応えるように松永が拳を突き上げる。

 

遂に海常の背中を捉えた花月。チームの士気は最高潮にまで上がる。

 

『…っ』

 

決められたくない失点を喫した海常の選手達の表情が苦いものに変わる。

 

「…ふぅ、やれやれ、しんどい相手ッスね」

 

思わず溜息を吐く黄瀬。

 

「それも2人」

 

大地の方を見て、ボソリと呟く。黄瀬は改めて敵の強大さを痛感したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後は一進一退の攻防が続いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

海常が決めれば。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

花月が決め返す。2~4点差を繰り返し続けていた。

 

 

第3Q、残り6分37秒

 

 

花月 55

海常 57

 

 

「なかなか均衡が崩れないな…」

 

花月のベンチの菅野が思わずそう口に出す。

 

先程のターンオーバーで流れを掴んだかと思いきや、海常は動じる事なく淡々と点を取り返してきた。今や百戦錬磨の黄瀬がチームを落ち着かせ、自ら取り返してきたのだ。

 

「…」

 

「…」

 

両チームの監督もこの状況をベンチから座して見守っていた。

 

「…っ」

 

今の状況に何とか平常心を保とうとする小牧。

 

現状、外は打てない。空と大地のチェックが速過ぎる為、迂闊に打ちにいけばブロックされてしまう。そうでなくてもシュートセレクションが乱れてしまう為、外れる可能性が高い。

 

2人が最優先で外を潰しに来る、その為、比較的ゾーンディフェンスに隙間が出来るので中から点が取れている。しかし、それも決して余裕がある訳ではない。前述のとおり、空と大地のヘルプが速い為、時間をかけ過ぎるとたちまち囲まれてしまう。

 

『…っ』

 

海常はまだ追い付かれたわけではない。一見、淡々と点を取っているように見える。だが、胸中では焦っていた。

 

点差は僅か2点。花月に常に背中を追いかけられている為、ミス1つで同点…最悪、逆転されてしまう。ジワジワ詰め寄られる時間が続く今の状況でミスが出来ない状況にある為、焦りはかなりのものであった。

 

対して花月も決して余裕がある訳ではなかった。何故なら、海常は黄瀬のパーフェクトコピーという最大の切り札があるからだ。未だ、止める算段が出来ていない以上、いずれ使ってくる試合終盤までに何とか逆転してリードを広げておきたい。

 

現状、試合は花月、海常共に点差も精神面もほぼ互角状況である。

 

「こっちだ!」

 

ここで氏原がスリーポイントラインからさらに2メートル程離れた場所まで動き、ボールを要求。

 

「…」

 

それを見て大地が急速に氏原との距離を詰める。

 

「よし、こっち!」

 

大地が氏原の動きに釣られて中のスペースを空けたの見て、黄瀬が中に走り込み、ボールを要求した。

 

「頼みます!」

 

すかさず小牧が中に切り込んだ黄瀬にボールを入れた。

 

「むっ!? 待て!」

 

直後、何かを察した三枝が制止をかける。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

思わず小牧が声を上げる。

 

小牧がパスを出すのと同時に大地が急停止し、バックステップで急速バックしながら下がり、黄瀬の手に収まる直前のボールを弾いたのだ。

 

「ええで綾瀬! ほれ!」

 

ルーズボールを天野がすかさず拾い、竜崎にボールを渡す。

 

「速攻!」

 

ボールを受け取った竜崎が声を出し、ドリブルを開始。それに合わせて他の花月の選手達もフロントコートに向けて走り出す。

 

「行かせるか!」

 

センターラインを越える直前、氏原が竜崎の前に立ち塞がる。

 

「こっちだ!」

 

そこへ、走り込んだ空がボールを要求。竜崎に空にボールを渡す。

 

「…ちっ!」

 

空にボールが渡ると、氏原は空のチェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「くっ…そ…!」

 

氏原がチェックに来ると、空は1度止まり、クロスオーバーで氏原の右側から抜き去る。氏原を抜き去った空はそのまま突き進み、ツーポイントエリアに切り込む。

 

「何度も決めさせると思うな空ぁっ!!!」

 

その時、咆哮を上げながら三枝が空の前に立ち塞がった。氏原を抜き去る際に立ち止まった隙にディフェンスに戻っていた。

 

「…」

 

目の前に三枝が現れると、空は三枝に背を向けるように振り返った。

 

「(振り返った? 何をする気じゃ!?)」

 

動きの予測を立てられない空。三枝は空の次の行動に注視する。

 

 

――スッ…。

 

 

空は三枝に背中を向けると、そのままリングに向かってボールを放った。

 

『っ!?』

 

すると、松永が走り込んできて、空が放ったボール目掛けて跳躍した。

 

「させんぞぉぉっ!!!」

 

しかし、三枝もこのパスに反応し、ブロックに飛んだ。

 

「勝てなくてもいいとは言ったがよ、負けっぱなしってのも癪だよな?」

 

空中で松永がボールを両手で掴む。

 

「純粋なパワーなら海兄には敵わないかもしれない。だが、助走の勢いが付いた松永に対して海兄は態勢が不十分。パワーの差を覆すには充分だ」

 

ゴール下まで走り込んでスピードと勢いのある松永に対し、三枝は空のパスに松永が飛び付いたのを見て慌てて後ろに飛びながらブロックに飛んでいる為、態勢が悪く、力が乗り切れていない。

 

「ぶちかましてやれ!」

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

三枝のブロックもお構いなしに松永は両手で掴んだボールをリングに叩きつけた。やはり不安定な態勢ではブロックし切れず、吹き飛ばされてしまう。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『あのブロックを弾き飛ばしてアリウープを決めやがったぁっ!!!』

 

派手なビッグプレーで観客は大歓声を上げた。

 

「うぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

アリウープを決めた松永は珍しく拳を握りながら咆哮を上げた。やられ続けた三枝に対して一矢報いる事が出来、興奮が抑えきれなかったのだ。

 

遂に海常の背中を捉えた花月。今のアリウープによって士気も最高潮。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クソがっ…! おどれやってくれたのう…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、床に膝を付いていた三枝からとても低く、それでいて良く通る声で確かにそう聞こえた。

 

「…っ!?」

 

その声に反応した松永が視線を声のした方に向けると、思わず心臓を鷲掴みされたかのような感覚に襲われた。

 

「ワシがおとなしゅーしとったら調子腐りよって…」

 

三枝が静かに、ゆっくりと顔を上げ…。

 

「しごうしちゃるわ…!」

 

怒りの形相に、血走った目でそう告げたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「彼(三枝)のデータを集める為にスペイン時代の事を調べたんだけど、こんなデータがあったの…」

 

そう言って桃井は自身の調べ上げたデータが記載されているノートを広げた。

 

「スペインでもここまでと同じく、基本的に恵まれた体格と身体能力、その姿からは似つかわしくないテクニックで戦う選手なんだけど、突然、人が変わったみたいにプレースタイルが変わる事があるの」

 

「…」

 

青峰がコートに視線を向けたまま桃井の話を聞く。

 

「それまでとは打って変わって身体能力任せの激しいプレーをするようになって、スペイン人のインサイドプレーヤーと激しくぶつかって、時には負傷退場者も出す事も…」

 

ここで桃井がノートをめくる。

 

「その姿はスペインではこう呼ばれているの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ベルセルク…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ある程度、リアルが落ち着き、執筆の時間が取れて来たのでゆっくりネタ集めが出来る…(ノД`)・゜・。

新たに姿を見せた三枝のモード・ベルセルク。イメージはテニプリのデビル赤也です(ただし、最初の目が赤くなるだけのバージョンの方です)。狂戦士が花月に牙を向く…、っと、珍しく次回予告…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第126Q~ベルセルク~


投稿します!

あ、暑い…(;゚Д゚)

梅雨明けしたっぽいが、この暑さはヤバい。熱中症、マジ注意だわ…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り6分20秒

 

 

花月 57

海常 57

 

 

花月はターンオーバーからのカウンターで、空からパスを受けた松永のアリウープによって遂に同点に追い付いた。しかし…。

 

「ワシがおとなしゅーしとったら調子腐りよって……しごうしちゃるわ…!」

 

目を血走らせ、松永を鬼の形相で睨み付ける三枝。三枝の秘めていた顔が現れた。

 

「っ!? …やっべ、海兄キレた」

 

その変化に気付いた空が顔を強張らせる。

 

「何やねんあれ!? めっちゃ怖いねんけど!」

 

三枝の表情を見て顔を引き攣かせる天野。

 

「…海兄は基本、懐がデカくて大抵の事には寛容なんだけど、逆鱗に触れるとあーなっちまう事があるんですよ」

 

空は思い出す。以前に三枝が同じようになった時の事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それは今から6年程前の事…。

 

空と大地、三枝がまだ3人一緒の地域に住んでいた時の事。3人は遊びのほとんどをバスケをして過ごしていた。ある時、バスケのリングが設置してある公園で遊んでいた時の事。突然そこにやってきたガラの悪い高校生達3人が自分達がリングを使うのでそこをどけと一方的に言ってきたのだ。

 

しっかりルールと順番を守って遊んでいた3人からすればそんな横暴な言葉に従う理由がないので断る。すると、高校生達は3ON3で勝負を負けた方がコートを譲るという条件の勝負を提案してきた。

 

相手は高校生。体格は当時小学生だった空達より遙かに優れている。恐らく経験者なのか、それなり実力もあるのだろう。普通に考えれば空達が圧倒的に不利な勝負なのだが、空達はその勝負を受けた。

 

勝負は体格面で空達が不利を強いられたが、そこは稀有な才能を持った3人。高校生が相手でも徐々に圧倒。勝負は空達に軍配が上がっていった。しかし、小学生達に負ける事を嫌った高校生達は突然、悪質なプレーをし始めた。遂には…。

 

『1回戦はお前達の勝ちで良いぜ。次は2回戦の喧嘩だ』

 

と、力付くでコートを奪いに来たのだ。

 

『ふざけんな! きたねーぞ!』

 

横暴過ぎる高校生達の言葉に空が反発した。

 

『うるせーんだよクソガキ!』

 

高校生の1人が空を蹴り飛ばした。体格の小さかった空は後ろに蹴り飛ばされる。

 

『…おどれ、誰の弟分に手ぇだしとんのじゃ。…おどれら全員、しごうしちゃるわ!』

 

そこには、怒りの形相と目を赤く血走らせた三枝がいた。これまでの横暴な仕打ちに加え、空への暴力で完全に堪忍袋の緒が切れた三枝が空を蹴り飛ばした高校生を殴り飛ばした。

 

高校生達もこれを見て応戦するが、当時から体格に優れていた三枝に次々と殴り飛ばされていく。

 

『スマン! 悪かった! コートはお前らが使っていいからもう勘弁してくれ!』

 

一方的に三枝に殴られまくった高校生達は地面に座り込みながら詫びを入れた。

 

『これは喧嘩じゃ。タイムアップもギブアップも存在せん。じゃけん、ワシが飽きるまで辛抱せぇ』

 

しかし、その言葉は聞き入れられる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「バスケやっててああなった所は見た事ないけど、多分、かなりヤバい事になるかもしれない」

 

「ヤバい事て、まさかラフプレーでもしてくるんとちゃうやろな?」

 

空の言葉を聞いて天野はとある懸念をする。

 

「さすがにそれはしてこないと思いますけど、…ただ、プレーが荒くなるのは間違いないと思います」

 

「…基本的にマッチアップする事になるマツが心配やな。俺もすぐにヘルプに出れるようしとくわ」

 

「頼みます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常のオフェンス…。

 

「ワシに持ってこいや!」

 

「っ!?」

 

ボールを運ぶ小牧に、ローポストに立つ三枝が今までにない程にボールを要求する。その殺意とも呼べそうな威圧感が味方である小牧に突き刺さった。

 

「た、頼みます!」

 

その圧力に圧倒されながらも小牧はカットされないよう飛びながら高くボールを放ってパスを出した。三枝はジャンプして手を伸ばして掴み、着地した。

 

「…行くぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

低く、それでいて良く通る声で宣言すると、三枝がドリブルをしながら背中に立つ松永を押し込み始める。

 

「…ぐっ!」

 

強烈なアタックに思わず松永は苦悶の声を上げる。

 

「(何だ!? 力が増した!?)」

 

ここで三枝がターンをしてゴール下に侵入する。

 

「がっ!」

 

松永は三枝のパワーに押されて尻餅を付いた。

 

「はぁっ!」

 

気合い一閃、三枝がボールを右手で掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるかい!」

 

ここで天野がヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

リングに振り下ろしたボールに対して手を伸ばしてブロックした。が、少しずつリングに押されていく。

 

「…っ!? あ…かん…!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

天野のブロックもお構いなしに三枝がリングにボールを叩きつけた。

 

「うがっ!」

 

ブロックに向かった天野は床に倒れ込んだ。

 

「のけぃ、ワシを阻むなら誰じゃろうとめがすぞ」

 

「…っ」

 

リングを掴んでいた右手を放し、床に降りると、血走った目で見降ろしながら天野に告げた。

 

 

オフェンスが変わり、竜崎がボールを運ぶ。

 

「…っ」

 

先程のダンクを見て、三枝の変化を肌で感じ取った竜崎は何とか平静を保ちながらボールを運んでいく。

 

「…」

 

「…」

 

空と大地がそれぞれをマークする相手を外そうと動きを見せる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで竜崎はどちらにもパスをするでなく、ドライブで一気に切り込んだ。

 

「花月は先輩達(空と大地)だけじゃない。俺だって…!」

 

中に切り込んだ竜崎はフリースローラインを越えた所でボールを掴み、飛んだ。

 

「調子こくなガキィ! しごうするで!」

 

それを見た三枝がヘルプに飛び出し、ブロックに現れた。

 

「(…来た!)」

 

 

――スッ…。

 

 

三枝のヘルプをあらかじめ予測していた竜崎はレイアップの態勢からボールをフワリと浮かせ、リングに放った。竜崎の武器であるスクープショットを放ったのだ。

 

「よせ、竜崎!」

 

「えっ?」

 

後ろから空が制止をかけたが既にシュートモーションに入っていた為、中断出来なかった。

 

「……なっ!?」

 

しっかりタイミングを計って打った為、入ると確信していた竜崎の表情が驚愕に染まった。

 

「(想定していたより速い! それだけじゃない、高い!)」

 

ベンチから三枝の身体能力と高さ、ヘルプ対応に来るスピードを計って頭に入れていた竜崎。しかし、三枝の動きはその計算を遙かに上回っていた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

放られたボールは三枝に手に豪快に叩かれた。

 

「ナイス海さん!」

 

弾かれたボールはセンターラインを越えて転がった。すると、既に走り込んでいた小牧がボールを拾い、そのままワンマン速攻に走った。

 

「っ!? くっそ!」

 

慌ててディフェンスに戻る空だったが、もともとの距離があり過ぎたことと小牧とてスピードには自信がある選手の為、追い付けず。

 

 

――バス!!!

 

 

小牧はそのまま速攻でレイアップを決めた。

 

「よし!」

 

得点を決めた小牧は拳を握って喜びを露にする。

 

「すいません、迂闊過ぎました」

 

「気にすんな。積極的に攻めたミスなら仕方ねえ」

 

謝罪する竜崎に対し、空は宥める。

 

「オフェンスは俺か大地に任せろ。今は俺達で何とかする」

 

浮足立つ花月の選手達を落ち貸せるように空が声を掛ける。

 

「声出せ! 1本、取り返すぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が声を出してチームを鼓舞し、選手達がこれに応えた。

 

 

竜崎がボールを運び、目の前に立つ氏原に注視しながらゲームメイクを始めた。

 

「…」

 

同点に追い付いた直後、点を取られ、その後のオフェンスも失敗してターンオーバーからの失点を喫した為、慎重になる竜崎。

 

「こっちだ!」

 

空がボールを要求、竜崎がパスを出す。

 

「…っ」

 

ボールを持ったのと同時に空をマークする黄瀬が激しくプレッシャーをかける。

 

「(…ちぃっ! 最悪、中に切り込まれても構わねえって事か…!)」

 

積極的にプレッシャーをかけ、ボールを奪いにくる黄瀬。抜かれてもゴール下には三枝がいる為、構わないという、黄瀬の三枝に対する信頼の現れであった。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「やべ!」

 

黄瀬の手が空の持つボールを叩いた。

 

「あっぶね」

 

すぐに空がボールを拾い、ピンチを防ぐ。

 

「おしい」

 

カウンターを奪えず、悔しがる黄瀬。再び空にプレッシャーをかける。

 

「…っ、やろう…、いい加減に…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「しろ!」

 

隙を見て空は黄瀬の脇を抜けていった。

 

「来いやぁぁぁぁっ!!!」

 

中に切り込むと、そこには三枝が待ち受けており、大きな咆哮と共に空を迎え撃つ。

 

「…」

 

ここで三枝から点を奪うにはティアドロップかフィンガーロールしかないのだが、現状で三枝の迎撃エリアと身体能力を計り切れていない為、打ちに行ってもブロックされるか、されなくても外しかねない。

 

「こっちです!」

 

その時、大地が小牧と末広のマークを振り切り、中に走り込んでボールを要求した。すかさず空が大地にパスを出す。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

しかし、そのパスはカットされてしまう。

 

「残念。…悪いけど、通行料はタダじゃないッスよ」

 

ボールをカットしたのは黄瀬。黄瀬が空の後ろから手を伸ばしてカットした。

 

「速攻ッスよ!」

 

黄瀬が声を上げてそのままフロントコートに駆けあがっていく。

 

「くっそっ! 迂闊過ぎた!」

 

それを見て空も慌ててディフェンスに戻る。

 

「行かせませんよ」

 

「っと、相変わらず戻るの速いッスね」

 

フロントコートに到達にした所で大地が黄瀬を捉え、回り込んでディフェンスに入る。これを見て思わずフゥっと一息吐く黄瀬。

 

「…」

 

「…」

 

足を止めて大地と対峙する黄瀬。その間に花月の選手達はディフェンスに戻る。

 

「…」

 

黄瀬は視線を動かし…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速、カットインした。

 

「…っ、行かせません!」

 

大地もこれに対応、黄瀬に並走する。黄瀬はカットインしてすぐに急停止、ボールを掴んで飛んだ。

 

「(フルドライブからストップからのシュート!)…させません!」

 

これにも大地は反応し、ブロックに飛んでシュートコースを塞ぐ。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、黄瀬はシュート中断し、ボールを右手で掴んでその手を降ろした。

 

「フェイクかい! 中、来るで!」

 

天野が声を出し、松永が備える。

 

「甘ぇーよ!」

 

ここで空がローポストに立つ三枝のパスコースに走り込み、カットを狙う。黄瀬はボールを放った。

 

『っ!?』

 

その時、花月の選手達は全員目を見開いて驚愕した。ボールはローポストに立つ三枝……にではなく。

 

「ナイスパスだ、黄瀬!」

 

左アウトサイドに立っていた氏原にビハインドパスを出したのだ。三枝を警戒する花月の選手達の裏をかいた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークから得意のツーハンドで放たれたスリーはリングを的確に射抜いた。

 

「っ!? ちくしょう…!」

 

外の警戒を忘れ、みすみすスリーを打たせてしまい、悔しがる空。

 

 

「(…まずい、悪い流れだ)」

 

ボールを運ぶ竜崎が心中で考え込む。オフェンス失敗からの連続得点。しかもスリーを決められてしまった。中に外にと海常のオフェンスを活性化させてしまっている。何とか1本決めて悪い流れを止めたい。

 

「…っ」

 

この状況を何とかしたいと考える竜崎だったが、自分にはその手札がない。

 

「(…若いな)」

 

目の前の氏原は表情から竜崎が何を考えているのか手に取るように理解した。

 

「竜崎さん!」

 

ここでスリーポイントライン沿いに走る大地がボールを要求した。

 

「お願いします!」

 

自分ではどうしようもない竜崎は大地にボールを預けた。

 

「打たせねえぞ」

 

「止める!」

 

ボールが大地に渡ると、小牧と末広がディフェンスに入った。

 

「…」

 

2人は大地に対してとにかくプレッシャーをかけてきた。とにかく大地に外を警戒し、中に切り込まれても最悪仕方ないという考えだ。

 

「(海さんの変化を見て開き直りましたか…)」

 

外から打って返したかった大地だったが、こうも外を警戒されてしまえば大地と言えど打てない。

 

「(仕方ありませんね…)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーを諦め、大地は隙を見て中に切り込んだ。

 

「来てみぃ、大地ぃっ!!!」

 

カットインして待ち受けるのは当然三枝。両腕を広げて咆哮を上げながら大地を待ち受ける。

 

「…」

 

プレッシャーを受けてなお大地は怯まずゴール下に切り込んでいく。リングが近付くと、大地はボールを掴んで飛んだ。

 

「ええ根性しとるのう!」

 

不敵な笑みを浮かべた三枝がチェックに入る。

 

 

――スッ…。

 

 

大地は三枝がチェックに来るとすぐさまボールを放った。

 

『シュート……じゃない! これは!』

 

ボールの軌道は僅かにリングを逸れている。すると、空が走り込み、そのボール目掛けて飛んだ。

 

「ナイスパース!」

 

ボールは飛んだ空の右手に収まった。空はそのままリング目掛けてボールを掴んだ右手を振り下ろした。

 

『アリウープだ!』

 

一連の狙いを理解した観客が沸き上がる。

 

「100年速いわ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「ぐわっ!」

 

しかし、そのアリウープは三枝によってブロックされてしまう。

 

「…ぐっ!」

 

バランスを崩した空はコートに転がる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、イリーガル、青12番!』

 

だが、このブロックはファールをコールされる。

 

「…ってぇ」

 

倒された空が起き上がり、痛みに顔を歪めながら三枝を睨み付ける。

 

「なんじゃい、何か文句でもあんのかい?」

 

睨み付けられた三枝が不敵に笑いながら空を見下ろす。

 

「この借りは絶対返してやっからな」

 

「そうこなくちゃのう」

 

座り込む空に三枝が手を差し出し、空はその手を掴んで立ち上がった。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

フリースローが2本与えられ、フリースローラインに立つ空。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1本目を落ち着いて決め…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2本目もきっちり決めた。

 

「っしゃぁっ!」

 

フリースローを成功させた空は拳を握って喜びを露にした。

 

 

「とは言え、ファールだったとしてもブロックされたのは事実だ。これじゃ、流れは変わらねえ」

 

戦況を見て冷静に分析する青峰。

 

 

その言葉通り、海常は勢いに乗ってオフェンスを仕掛ける。スリーポイントラインの外側でボールを回しながらチャンスを窺う。

 

「「…」」

 

一定の距離を保ってディフェンスをする空と大地。先程手痛いスリーを打たれている為、ボールの行き先に全神経を集中させる。

 

「…」

 

ボールが外を行き交う中、ここで黄瀬がスリーポイントラインから距離を取った。

 

「キャプテン!」

 

そこへ小牧がパスを出した。

 

「…ちっ!」

 

舌打ちをしながら空が黄瀬との距離を詰める。リングからかなり距離があるが、黄瀬なら決めかねない。万が一ここで決められてしまえば点差はさらに広がってしまう。

 

シュート態勢に入る前に何とか黄瀬に…、そう考えたその時!

 

「っ!?」

 

ボールを受け取った黄瀬はシュート態勢ではなく、ドッジボールのような構えをした。

 

 

――バチン!!!

 

 

そこから力一杯ボールを投げ、猛スピードで一直線に花月のディフェンスの隙間を縫って通り抜け…。

 

「ナイスパスじゃ!」

 

ゴール下まで移動した三枝の手に収まった。

 

「くっ!」

 

「しまった!」

 

みすみすパスを通させてしまい、悔しがる空と大地。

 

「らぁっ!!!」

 

三枝はボールを両手で持ってリングに向かって飛んだ。

 

「…っ、何度も決めさせると思うな!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

松永がこのダンクに対し、両手で振り下ろされるボールにブロックした。それだけではなく、やや前方に飛び、その力も上乗せさせる。

 

「力の差がある相手に立ち向かうその根性には敬意を表してやるがのう…」

 

「っ!?」

 

ブロックに向かった松永だったが、少しずつ押されていく。

 

「それは勇猛ではなく、ただの無謀じゃ!」

 

「(これでもダメなのか!?)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

松永のブロックもお構いなしに三枝はボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

「がっ!」

 

為す術もなく松永は吹き飛ばされてしまう。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

この豪快なダンクに観客が沸き上がる。

 

「レフェリータイム!」

 

審判が笛を吹いてレフェリータイムをコールした。

 

「くそっ…」

 

ここで皆の視線が松永に向けられる。松永の眉間付近から血が滴っていたのだ。

 

「マツ!」

 

それを見て天野が駆け寄る。

 

「…いかん、室井、すぐに試合に出る準備をしろ」

 

「はい!」

 

ベンチで上杉が指示を出すと、室井は来ていたシャツを脱ぎ、準備を始めた。

 

「問題ありません。やれます」

 

起き上がった松永は試合続行の意志を示す。

 

「ダメだ。その出血では試合の続行は認められない。意識や視界ははっきりしているようだが、プレーを続けるにしても1度コートを出て治療を受けなさい」

 

審判は続行の許可を出さず、ベンチに下がるよう促す。

 

「松永、気持ちは痛いほど分かる。だが、今はベンチに下がれ」

 

駆け寄った空が松永に力強い口調で告げる。

 

「…っ、分かった」

 

主将であり、緒戦で負傷退場した経験を持つ空に促され、松永は渋々ベンチへと下がっていった。

 

 

「室井」

 

「はい」

 

準備を終えた室井に上杉が近寄る。

 

「お前のやる事は一昨日の陽泉戦と同じだ。12番、三枝を止める事に全力を尽くせ」

 

「はい!」

 

そう指示を出し、室井は返事をしてコートに向かった。

 

「…頼む。俺が戻るまで、踏ん張ってくれ」

 

入れ違いでコートから出る松永。その際に松永は室井の肩に手を置き、その手に力を込めながら室井に言った。

 

「…任せて下さい。やってみせます!」

 

松永の無念を感じ取った室井は気合いを込めて返事をし、コートに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「すごい…、今までとは別人みたい…」

 

コート上の三枝のプレーを見て驚きを隠せない桃井。

 

「あれって、ゾーン……じゃないよね?」

 

「ああ、違う。あれはゾーンとは別物だ」

 

桃井の予測を青峰が否定する。

 

「…」

 

紫原が無言でコート上の三枝に注目している。そして思い出す。これまで記憶の片隅に追いやっていたとある記憶を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

これはまだ紫原が小学生だった頃…。

 

学校のクラスメイトから誘われ、紫原はミニバスのチームに誘われ、特に断る理由もなかった為、バスケを始めた。小学生離れした体格と後にキセキの世代と呼ばれるセンスを持ち合わせていた紫原は、チーム加入後、すぐにスタメン入りし、たちまちチームの主力となった。

 

試合に出ても紫原を止められる者はおらず、たちまち敵なしとなっていった。そんな状況につまらなさを感じていた紫原だったが、他に特にやる事もなかったので、惰性でバスケを続けていた。

 

ある日の試合の対戦相手、そのチームは強力なインサイドプレーヤーがいる評判のチームだった。これを聞いて紫原は、少しは関心を示した。整列をした時、すぐに気付いた。自分とほとんど変わらない体格をした1人の選手がいたからだ。その相手は不敵に笑いながら紫原を見ていた。

 

これまでとは少し違う試合になるかも。…そう思った紫原だったが、試合が始まれば紫原がその選手を圧倒した。チーム全体の総合力も紫原のいるチームの方が優れていた為、点差はみるみる開いていった。

 

…この程度か。少し楽しみにしていた紫原はガッカリし…。

 

『少しはやれるって聞いたから期待してたけど、雑魚じゃん。ちょーガッカリ』

 

試合中、ボールを持ったその選手の背中に張り付くようにマークに付いた時、紫原は思わずそんな言葉が飛び出た。

 

決して紫原は悪気があった訳ではない。ただ思った事をそのまま口にしただけである。

 

『…このガキィ、少しばかり出来る程度で調子腐り寄って…』

 

その言葉を聞いたその選手はゆっくり振り返った。そして、赤く血走った目を向けながら紫原にこう告げた。

 

『しごうしちゃるわ…!』

 

その後はこれまでとは打って変わり、相手選手のオフェンスはほとんど止められず、逆に紫原のオフェンスはほとんどブロックされた。リバウンドもオフェンス・ディフェンス共にほとんど取らせてもらえず、ゴール下は相手選手に支配されていった。

 

点差を縮めてはいったが、試合はそれまでのリードの貯金と2人以外の選手達との差もあり、紫原のチームが勝利した。

 

『…っ』

 

しかし、紫原の胸中では悔しさが占めていた。試合は確かに勝利したが、個人の勝負ではどちらが上だったかは明白だったからだ。

 

試合終了後の整列の折、そこには勝者の顔をした敗者と敗者の顔をした勝者の姿があったのだった。礼をした後、選手達がベンチへと戻る中、紫原が相手をした選手に視線を向けると、その背中に三枝の文字。その名を目の焼き付けた。

 

紫原の記憶にある1番古い屈辱的な記憶であり、惰性でやっていたバスケに熱中するきっかけにもなった出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…っ」

 

眠っていた記憶を思い出し、手摺を握っていた手に力がこもる紫原。

 

「アツシ? ドウカシタノカ?」

 

そんな紫原に気付いたアンリが声をかける。

 

「…ちょっと花月を……いや、なんでもない」

 

「?」

 

何かを言いかけた紫原だったが、途中でやめたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

同点に追い付いた矢先、突然の変貌を遂げた三枝。

 

その三枝の猛威により、再び点差が開き始めた。

 

さらに負傷によって松永が一時離脱を余儀なくされ、さらにピンチに陥る事となった。

 

試合は、新たな局面へと移行していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





一応ここまで。

紫原の過去について補足説明させていただきますと、紫原が過去に三枝と戦った時点では紫原はバスケを始めてすぐの事であり、ほぼ素人同然で、対して三枝はこの時点ではバスケのキャリアはそれなりにあり、結構な経験者。身長もこの時点ではほとんど差がなく、紫原は黄瀬のような器用さもないので、このような結果になった次第です。まあ、紫原は原作時点でもインサイドではほぼスペックだよりだったので、スペックに差がない状態でやりあえば仕方のない事だと思います…(;^ω^)

本格的に夏がやってきたので、皆さんもコロナだけではなく、熱中症にもお気を付けてお過ごしください…(^_^)/

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第127Q~やれること~


投稿します!

給水のペースが半端ない…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り3分57秒

 

 

花月 59

海常 66

 

 

OUT 松永

 

IN  室井

 

 

松永が負傷によりベンチに下がり、代わりに室井がコートに入った。

 

「さて、ここからどないする?」

 

空に歩み寄った天野が尋ねる。

 

「海兄を止められない事も問題ですが、それ以上に問題なのは点が取れない事です。ここでまた点差が広がるのはまずい」

 

顎に手を当てながら思案する空。すぐにでも広がりつつある点差をどうにか出来なければまずい。対処が遅れれば花月の敗北は必至である。

 

「(松永下がる以上、とにかく点を取る必要がある。生嶋をコートに戻してもらうか? …いやダメだ。現状で下げられる奴がいない。くそっ、うちにも黒子さんみたいなパスの中継が出来る奴でもいれば……黒子さん?)」

 

ここで空の頭の中にとあるアイディアが浮かんだ。

 

「…」

 

「? キャプテン、どうかしましたか?」

 

考え込む空を見て竜崎が怪訝そうな顔で尋ねる。

 

「……竜崎」

 

「何ですか?」

 

暫し考えた後、空は同じく傍まで来ていた竜崎を呼んだ。

 

「ここからのオフェンスだが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンスが始まり、竜崎がボールを運ぶ。

 

「…」

 

海常のディフェンスは変わらず、大地にダブルチームでマークし、コートに入った室井には三枝がマークしている。

 

「…っ」

 

ゆっくりドリブルをしながらゲームメイクをする竜崎だが、攻め手が定まらない。厳密にはパスは出せるのだが、得点に繋げる事が出来ないのだ。

 

「(さっき、キャプテンはああ言ったけど…)」

 

ここで、先程空が竜崎に出した指示を思い出す。だが、実行するのが躊躇われる。

 

「(…いや、信じよう。キャプテンが言った事なら間違いないはずだ!)」

 

 

――ボムッ!!!

 

 

迷いを消した竜崎は中に無造作にボールを放った。そこは味方のいない場所であった。

 

『パスミスか!?』

 

「(連携ミスか? いずれにしても、いただきだ!)」

 

末広がボールを拾いに向かう。

 

「(…この感じ、どこかで――っ!?)」

 

黄瀬がボールの行方に視線を向けた瞬間、目の前から何かが通り過ぎた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

末広がボールを拾うとしたその時、それよりも早く空が手の平で叩き、ボールの軌道を変え、大地の手に収まった。

 

「…えっ?」

 

何が起こったか頭で処理出来ていない小牧は思わず声を上げた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地はそこからミドルシュートを放ち、得点を決めた。

 

『……おっ――』

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

何が起きたか理解した観客が歓声を上げた。

 

「…今のは…!」

 

「何驚いてんだ? 2番のポジションは点を取るだけが仕事じゃねえ、ポイントガードの補佐をするのも仕事だろ?」

 

茫然とする小牧に対し、空はニヤリと笑みを浮かべながら告げた。

 

「パスの中継……今のはまるで、誠凛の黒子テツヤの!?」

 

今、行われた事の詳細を理解した氏原が驚きを声を上げた。

 

今のは帝光中の幻のシックスマンであり、現誠凛の黒子テツヤの十八番であるパスの中継プレーである。

 

「いや、ありえないッス。あれは黒子っちの影の薄さとミスディレクションがなければ出来ないはずッス!」

 

黒子を良く知る黄瀬がそれを否定する。

 

「落ち着け! 所詮は付け焼き刃だ。冷静になれば対処出来る」

 

ベンチから立ち上がった武内が選手達に声をかける。

 

「ベンチから奴(空)の姿ははっきり見えていた。ただの思い付きのプレーに過ぎん」

 

再びどっしりベンチに腰掛け、呟いた。

 

 

海常のオフェンス…。

 

「(そうだ。焦る事はない。点差は僅かであれどこっちがリードしてるんだ。それに…)」

 

ボールを運ぶ小牧。ここでチラリと室井の方に視線を向ける。

 

「(大きな穴も1つ出来たんだ。ここで攻めれば問題ない!)」

 

小牧はパスを出した。ボールの先は…。

 

「容赦はせん。おどれもさっきの奴同様、しごうしちゃるわ!」

 

「…っ、やれるものならなってみろ」

 

ローポストでボールを掴んだ三枝。その背中に室井がディフェンスに入る。血走った目で言い放つ三枝に対し、室井は力強い目で言い返した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

リングに背を向けながら三枝がドリブルを始める。

 

「…っ」

 

ポストアップで室井を押し込んでゴール下に侵入しようとする三枝。

 

「…むっ?」

 

しかし、三枝はゴール下に進む事が出来ない。室井は腰を落として侵入を阻止していた。

 

「大したパワーじゃ! じゃけん、それがどうしたぁっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで三枝がフロントターンで反転。ゴール下に切り込んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

直後にボールを右手で掴み、リングに叩きつけた。

 

「パワーだけでワシを止められると思ったら大間違いじゃ」

 

「…」

 

室井にそう告げ、三枝はディフェンスに戻っていった。

 

「スマン、ヘルプ遅なってしもうた。次からはもっと早く――」

 

「いえ、大丈夫です」

 

駆け寄った天野の提案を室井は遮るように否定した。

 

「あの人は俺1人で止めます」

 

「1人でやと? 何言うてんねん。マツでもどうにもならへんかったのをお前1人で――」

 

「確かに、三枝さんは俺では勝てない。ですけど、今の三枝さんなら俺1人でもやれそうな気がするんです」

 

強がりではなく、ある程度の根拠をもって室井はそう答えた。

 

「分かった。存分にやれ」

 

その時、空が室井の言葉を了承した。

 

「ただし、言い出したからには絶対止めて見せろよ」

 

「はい! 任せて下さい!」

 

天野がボールを拾い、ボールを竜崎に渡し、リスタートした。

 

「ええんか空坊。正直、無謀な賭けやで」

 

フロントコートに進む際、天野が空に尋ねた。

 

「あいつがハッタリであんな言葉を吐くとは思えないですし、何より、何となく室井ならやってくれそうな気がするんで」

 

天野の心配をよそに空はあっけらかんとした表情で答えた。

 

「さてオフェンスです。行きますよ」

 

そう言って、空はポジションに付いた。

 

 

竜崎がフロントコートにボールを運び、花月の選手達がポジションに付いた。

 

『…』

 

海常の選手達はそれぞれマークする選手を気にしながらも空の動向に注目していた。

 

「…」

 

ドリブルをしながらゲームメイクをする竜崎。今度は自身の横にボールを放った。

 

『っ!?』

 

ボールが放られるのと同時に空が黄瀬のカットで振り切り、ボールに向かって走り出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

再び空はボールを叩き、ハイポストに立つ天野にボールを中継した。

 

「ナイスパスや!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの天野は落ち着いてそこからジャンプショットを決めた。

 

『スゲー!? またとんでもねーパスが出たぞ!?』

 

「……これは…!」

 

先程に続いて竜崎のパスを空が中継、そこからの得点。

 

「ミスディレクションの代わりにスピードと瞬発力で再現しているのか…!」

 

ベンチから武内が唸るように呟く。

 

誠凛の黒子テツヤのお株を奪うパスの中継。空が竜崎にこう指示を出していた。

 

『もし、パスの出し手に困ったら、俺の位置を確認して、俺の近くの空いてるスペースにボールを出せ』

 

この指示の通り、竜崎は空のポジションを把握し、ボールを放った。後は竜崎がボールを放るタイミングに合わせ、空がスピードと加速力を駆使して黄瀬のマークを外してボールに向かい、元々の広い視野で瞬時にパスコースを割り出し、タップをしてパスを中継した。

 

空の身体能力とパスセンスがあってのプレーであった。

 

「厄介ッスね…」

 

思わずぼやく黄瀬。黒子テツヤのように姿を見失う訳ではない。だが、空のスピードは今や高校最速。黄瀬以上である。つまり、姿を捉えたりパスコースから先読みすればある程度防げる黒子と違い、空のパスの中継は防ぐのはまた違った意味で困難。

 

「ドンマイ! 1本確実に返しましょう!」

 

スローワーの末広からボールを受け取った小牧がチームメイトに声を出した。

 

「1本! 止めるぞ!」

 

ディフェンスに戻った空が声を上げる。

 

「…むっ?」

 

ベンチの武内が唸り声を上げる。花月のディフェンスが変わったのだ。

 

「っ!? マンツーマン?」

 

花月は2-3ゾーンディフェンスからマンツーマンディフェンスに変わったのだ。

 

小牧には空。氏原には竜崎。末広には天野。黄瀬には大地。そして…。

 

「ええ度胸じゃ、と、言いたいがのう、ちぃとばかし調子に乗り過ぎじゃのう…!」

 

自身の背中に立った室井を見て、若干声色を荒げて言う三枝。

 

「止める。止めて見せる!」

 

怯む事無く室井は言い返す。

 

「(あくまでも海さんを1人で止める気か…)こっちとしては好都合だ。遠慮なく行かせてもらうぜ」

 

小牧はローポストに立つ三枝にパスを出した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ポストアップに立った三枝が室井を押し込み始める。

 

「おぉっ!」

 

それを室井は腰を落として堪える。

 

「無駄じゃと言っとるじゃろうが!」

 

先程同様三枝がターンで反転し、室井の背後に抜ける。そのままボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「うおぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

咆哮を上げた室井が三枝とリングに間に割り込み、ブロックに飛んだ。

 

「むぉっ!?」

 

予想外の出来事に三枝は一瞬驚いたが、すぐさま右手で持ったボールをリングに放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはリングの上を何度か弾みながらリングを潜り抜けた。

 

「(今の、結構危なかったぞ!?)」

 

2人の勝負の行方を見ていた末広は、何とか決まったのを見て懸念を示した。

 

「くそっ! 今度こそ…!」

 

失点を防げなかった室井は悔しがる。

 

「いいぞ室井。海兄はこのままお前に任せる。存分にやれ」

 

「はい!」

 

空が室井の傍まで駆け寄り、声をかけると、室井は大声で応えたのだった。

 

 

フロントコートまでボールを運ぶ竜崎。

 

「(落ち着け、自分のマークをきっちりするんだ!)」

 

「(姿は見えているんだ。冷静に対処すれば…!)」

 

海常の選手達は空の動向に気を配りつつ、自身のマークをきっちりこなしている。

 

「…」

 

落ち着いてボールを運ぶ竜崎。

 

「(傾向は見えてきたッス。彼(竜崎)は神城君の近くの空いたスペースにパスを出してくる。恐らく思い付きだからそれが限界。それさえ分かれば…!)」

 

過去にも本家とも言える黒子を相手にした経験がある黄瀬は、自身の洞察力も加わってパスの仕組みを見抜き備える。

 

 

――スッ…。

 

 

ここで竜崎が動く。パスを出そうとボールを掴んだ。

 

「(来た! パスの先は……そこだ!)」

 

パスの先を特定した黄瀬。読み通り空がその場所へ移動を開始した。

 

「何度も同じ手は食わな――っ!?」

 

追いかけようとした黄瀬だったが何かに阻まれた。

 

「さすが2度もやればいい加減見抜かれるやろな。そこで俺の出番や」

 

黄瀬に対して天野がスクリーンをかけていた。このスクリーンによってフリーになった空は出されたパスの先に移動した。

 

「(しっかりパスのルートを塞げば問題ない!)」

 

各海常の選手達はそれぞれが受け持つマークをきっちりこなし、パスの出された地点から見えるパスルートを塞ぎにかかる。

 

「確かにそれでは空でもパスの中継は出来ないでしょう。ですがよろしいのですか? ボールを持つのは空なのですよ?」

 

薄く笑みを浮かべながら大地が呟く。

 

「…こりゃパス出せねえな。なら、仕方ねえ」

 

パスの中継を諦め、ボールを掴む空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そのままリングまで一直線に突っ込み、そのままリングに向かって飛んだ。

 

「ぬぅっ! おのれ!」

 

慌てて三枝がヘルプに向かうが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

それよりも早く空はリングにボールを叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

「っしゃぁっ!」

 

ダンクを決めた空は拳を握って喜びを露にした。

 

「…っ、考えが甘かった…!」

 

思わず拳をきつく握る小牧。

 

黒子と同じ感覚で考えていた海常の選手達。しかし、黒子と違って空はドリブルもシュートもこなす。しかも、同じ特性を持った黛と違って身体能力もテクニックの桁が違う。

 

「切り替えろ! オフェンスを確実にモノにするんだ!」

 

浮足立つ選手達に武内がベンチから檄を飛ばした。

 

 

「(そうだ。いくら相手を止められなくても、こっちがきっちり決めれば点差は変わらないんだ。今は自分の役割をちゃんとやるんだ!)」

 

迷いを振り切った小牧はゲームメイクに集中する。

 

「…っ!?」

 

その時、小牧は目を見開いた。空が突然小牧の持つボールを狙い打ったからだ。

 

「くっ…そ…!」

 

グングンボールに迫る空の手。

 

「舐めるな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意表を突いた空のスティールだったが、小牧はバックロールターンで反転し、ギリギリの所でその手をかわした。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

「残念やが、二段構えや」

 

空のスティールをかわした直後、現れた天野によってボールをスティールされてしまった。

 

「(ええ読みやで空坊!)」

 

天野は心の中で親指を立てた。

 

突然の空のスティールは計算されたものである。小牧が突然の状況ではバックロールターンでかわす癖がある事を見抜いての行動。動く前に空は天野に合図を出し、天野は空の合図の意図を即座に理解し、空のスティールが成功すればそれでよし。かわされれば天野が抜いた直後を二段構え。

 

「下さい!」

 

スティールを見て速攻に走っていた大地がボールを要求する。

 

「さっすが相棒! 速攻!」

 

即座に空がボールを拾い、速攻に走る大地に縦パスを出した。

 

「くそっ! 戻れ!」

 

慌ててディフェンスに戻る海常の選手達だが、先頭を走る大地には追い付けない。

 

『大チャンスだ!』

 

『ダンクを見せてくれ!』

 

完全なノーマークで先頭を走る大地に観客からリクエストが飛び交う。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

スリーポイントライン目前で大地が急停止する。

 

「(勢い付けるダンクはさっきの空のもので充分でしょう。申し訳ありませんが、今は点差を縮めるのが最優先です)」

 

急停止直後、大地がそこからスリーを放った。

 

『っ!?』

 

この選択に海常のみならず、花月の選手、観客までもが目を見開いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『トランジションスリー! 決めやがったぁっ!!!』

 

観客からはどよめきに似た歓声が上がった。

 

ワンマン速攻からのスリー。いくらノーマークでもスリーとなれば決められるとは限らない。外せばみすみす確実に決められた2点を失う事になる。

 

「(あそこでスリー打つのは緑間っちくらいだ。去年までの彼なら考えられない選択だ…)」

 

スリーを沈めた大地に視線を向ける黄瀬。

 

「ナイス大地!」

 

「ナイスパス空」

 

ハイタッチを交わす2人。

 

「ディフェンスだ! ここを止めて流れを掴むぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が声を張り上げ、選手達が応える。

 

『ディーフェンス! ディーフェンス!』

 

それに呼応するようにベンチからも声が上がった。

 

 

「海さん!」

 

海常のオフェンスとなり、小牧がローポストに立つ三枝にボールを託す。

 

「止める!」

 

背中に立ってポストアップに備える室井。

 

「調子腐るな! トーシロにしてやられる程はワシはぬるないんじゃボケ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フロントターンで反転して室井の背後を抜け、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「(来た!)」

 

ここまで何度も見せてきた三枝のオフェンス。タイミングを学習し、ターンに合わせてブロックに飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

三枝がリングに振り下ろしたボールに室井の右手が互いの手でボールを挟み込む形になる。

 

「なんのぉっ!!!」

 

それでもお構いなしに三枝はリングに向かって右手を振り下ろしていく。

 

「(…っ! 確かに俺はまだ素人だ。この舞台に立ってる者に比べればキャリアは浅い。だが…!)」

 

「っ!?」

 

振り下ろされた右手が徐々に押されていく。

 

「(俺には陸上で培ったキャリアがある。一瞬の力の引き出し方はこのコートに立つ誰よりもよく知っている。そして、身体能力なら誰にも負けない!)…おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

咆哮を上げながらブロックに行った右手に力を集約させた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

三枝の右手に収まったボールを掻きだした。

 

「止めたぁっ!!!」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら拳を握った。

 

「やるやないかムロ! 大成!」

 

ルーズボールを天野が拾い、竜崎にボールを渡す。

 

「よし、速攻!」

 

先頭を走る竜崎がボールを受け取ってすぐにフロントコートまで駆け上がる。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままレイアップを決めた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『再び花月が海常の背中を捉えたぁっ!!!』

 

「よーし!!!」

 

同点の速攻を決めた竜崎は拳を握って喜びを露にした。

 

『…っ』

 

再び同点に追い付かれた海常の選手達は表情を歪めた。

 

「…っ」

 

黄瀬がベンチに座る武内に視線を向ける。

 

「…(フルフル)」

 

意図を感じ取った武内は首を横に振った。

 

「残り5分まで我慢だ黄瀬。まだ振り出しに戻っただけだ。慌てる状況ではない」

 

パーフェクトコピーの使用許可を求めて視線を送った黄瀬に対し、我慢を強いた武内。

 

「…仕方ないッスね」

 

許可が下りず、嘆息する黄瀬であった。

 

 

ボールを運ぶ小牧。

 

「へい!」

 

黄瀬がボールを要求。小牧は黄瀬にパスを出した。

 

「…」

 

「…」

 

右45度付近で対峙する大地と黄瀬。

 

 

「ここで黄瀬を止められれば流れは完全に花月に向く」

 

対峙した2人を見て青峰が言う。

 

「(パーフェクトコピーはまだ使えねえ。そして平面では恐らく黄瀬と綾瀬はほぼ互角。…どうする)」

 

勝負の行方に青峰が注目したのだった。

 

 

「…」

 

「…ふぅ」

 

対峙する最中、黄瀬が一息吐く。

 

「思ったとおり、やるッスね。なら、こんなはどうッスか?」

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

ドリブルを始める黄瀬。だが、黄瀬はボールは今まで以上に強く突き始めた。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

『…っ!』

 

そのあまりの轟音は観客席にも響き渡る。

 

「(っ!? これは!?)」

 

大地は理解した。黄瀬がこれから何をしようとしているのかを。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

ボールを勢いよく叩きつけながら黄瀬は切り込んだ。

 

「…くっ!」

 

意表を突かれるも大地は何とかこれに対応。斜めに下がりながら食らいついた。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

が、直後、黄瀬は瞬時にクロスオーバーで切り返し、逆を付いて大地を抜き去った。

 

「っ!?」

 

体重が右足に乗っていた時に瞬時に逆に切り返されてしまい、大地はこれに対応出来なかった。そのままリングに向かって突き進む黄瀬。ペイントエリアに侵入すると、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるかい!」

 

黄瀬とリングの間に割り込むように天野がヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、黄瀬は天野の上からボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

「今のは…!」

 

「…えぇ、見覚えがあります。昨年の夏、五将の葉山さんが見せた、雷轟のドリブル(ライトニングドリブル)です」

 

たった今、黄瀬が大地を抜き去ったドリブルは、去年まで洛山に在籍していた無冠の五将の葉山小太郎が得意としていた雷轟のドリブルであった。

 

「そうだ。しかも、直後には俺のキラークロスオーバーで切り返しやがった」

 

ぼやくように空が言う。

 

雷轟のドリブルで切り込んだ直後、黄瀬は大地の体重が片方の足に乗っかったのを見計らってクロスオーバーで切り返した。

 

「そッス。彼(葉山)の技に君(空)の技を組み合わせた、名付けるならライトニングキラークロスオーバーって所っスかね」

 

「「…」」

 

「俺のバスケのキャリアはそれほど多くない。けど、引き出しは結構多いんッスよ? パーフェクトコピー以外にも切れる手札はある。技同士を組み合わせれば、パーフェクトコピーに匹敵する威力になったりもする。俺の本領はまだまだこれからッスよ」

 

ドヤ顔で2人に告げると、黄瀬はディフェンスに戻っていった。

 

「…ちっ、キセキの世代の技をコピー出来るんだから五将の技だってコピー出来るわな。…行けるか?」

 

「何とかしますよ。と言うより、出来なければ話になりません。結局あれも手札の1つに過ぎないのですから」

 

尋ねる空に対し、大地は真剣な顔で返事をしたのだった。

 

 

「(…残り時間を考えて、これがこのQの最後の攻撃。何としても同点で…!)」

 

第3Q残り僅か。決めて同点で終わりたい竜崎は慎重にボールを運ぶ。

 

「竜崎!」

 

空が竜崎の横の位置まで移動してボールを要求。黄瀬もすぐさま追いかける。

 

「キャプテン!」

 

空を呼んだ竜崎。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、竜崎はパスを出さず、中に切り込んだ。

 

「っ!?」

 

目の前の氏原はその声掛けに騙され、パスを警戒した為、抜き去られてしまう。

 

そのままリングに向かう竜崎。空の動きに釣られて黄瀬が外に連れ出されてしまった為、中は手薄になっていた。

 

「無駄だ。お前では中からは点は取れない!」

 

確信を以て小牧が言い放つ。ゴール下には三枝が待ち構えている為、まともな攻めでは竜崎では点は奪えない。だが…。

 

「行け!」

 

その時、室井が身体を張って三枝をゴール下から追い出し、スペースを作る。

 

「…っ、おのれ!」

 

ヘルプに向かいたい三枝だったが、室井が身体を張って抑えている為、行けない。

 

 

――バス!!!

 

 

室井が身体を張ってスペースを作り、三枝を抑え込んでくれた為、竜崎は邪魔される事なくレイアップを決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了…。

 

 

花月 72

海常 72

 

 

「ナイス室井! クリアアウトなんていつの間に覚えたんだ!?」

 

喜びを露にしながら竜崎が室井に駆け寄り、ハイタッチと同時に尋ねた。

 

「俺はオフェンスでは役に立てる事は少ない。俺にも出来る事をやったまでだ」

 

特に表情を変える事なく淡々と答える室井。

 

「よくやった2人共!」

 

駆け寄った空が2人の肩を叩いて労った。

 

「キャプテンが黄瀬先輩を引き付けてくれたおかげで助かりました」

 

「このQをイーブンで終われたのはデカい。まだまだ頼むぜ」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

かくして、試合の4分の3が終了し、試合は再び振り出しに戻った。

 

まだ切り札を残している海常。状況は決して喜ばしいものではない。

 

両チームの選手達はベンチへと下がり、この試合最後のインターバルに入る。

 

試合は、最後の10分へと突入するのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





何度か消しては書いて消しては書いてを繰り返し、だんだん何が良いのか分からなくなる現象に陥ってしまった…(;^ω^)

ネタを集める為にバスケ動画を見ているのですが、見ている内にバスケの奥深さを知れてちょっと感激しています(今更)。

試合は次話から最後の第4Q。クライマックスになるので、陽泉戦にも負けないものにしたいんですが、出来っかなぁ…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第128Q~打ち合い~


投稿します!

だいぶ暑さにも慣れてきた…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q終了…。

 

 

花月 72

海常 72

 

 

第3Qが終わり、両チームの選手がベンチへと戻っていく。

 

花月ベンチ…。

 

「ナイス竜崎! 室井も、よくやった!」

 

「うす!」

 

「いえ、まだまだです」

 

ベンチに戻るなり、菅野は2人の肩を叩きながら労った。

 

「さて、問題はここからだな。黄瀬の奴、五将の技まで使ってきやがった」

 

タオルとドリンクを受け取った空はベンチに座りながら目先の問題点を口にした。

 

無冠の五将の葉山のコピーをしてきた黄瀬。彼らの技もキセキの世代のコピーと同じく厄介な代物である。

 

「…綾瀬、実際のとこ、どうなんや?」

 

神妙な面持ちで天野が黄瀬をマークする大地に尋ねた。

 

「率直に個々の技なら止められない事もないのですが、複合で使われると…」

 

現状での素直な感想を述べる大地。

 

「じゃ、仕方ねえな」

 

あっけらかんとした表情で空がそう言うと、ドリンクを口にした。

 

「『仕方ねえな』や、あらへんやろ! 止めな話にならへんやん!」

 

そんな空に突っ込みを入れる天野。

 

「実際どうしようもないんですからしょうがないでしょ。…止められないなら、相手以上に点を取るだけですよ」

 

ドリンクを置いた空が目をぎらつかせながら返した。ここで上杉が口を挟んだ。

 

「うむ、神城言う通りだ。…天野。まだ走れるな?」

 

「当然やないですか。この程度でへばる程やわやないですよ」

 

「竜崎、室井も問題ないな?」

 

「うす、途中から試合に出といて泣き言は言えませんよ」

 

「神城と綾瀬は、あえて聞かんぞ」

 

「何十分でも走れますよ」

 

「任せて下さい」

 

試合に出場した選手それぞれに尋ねる上杉。

 

「ここから方針はこれまでどおりオフェンス主体だ。ガンガン走って点を取りに行け」

 

『はい!!!』

 

「相手がこっちのペースを嫌ってペースダウンしてきたらオールコートで当たれ。スピードと運動量に長けた現メンバーならやれるはずだ。室井、練習試合や紅白戦で試した戦術だ。公式戦では初めて試す事になるが、落ち着いてこれまでどおりやればいい」

 

「はい!」

 

「お前らのオフェンスは最強の矛を持つ桐皇にも引けを取らず、あの最強の盾をも貫いた。お前達は強い。俺が保証する。自信を持って行って来い!」

 

『はい!!!』

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでインターバル終了のブザーが鳴った。

 

「全員、集まれ!」

 

空が声を掛けると、選手達全員が円陣を組んだ。

 

「泣いても笑っても後10分。当然、笑うのは俺達だ。死ぬ気でガンガン走るぞ!」

 

『おう!!!』

 

「っしゃぁっ! 花月ー!!! ファイ!!!」

 

『おう!!!!!!』

 

円陣から空の掛け声を合図に選手達がそれに応え、コートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両チームの選手達がコートへと戻ってきた。両チーム共、選手交代はなし。

 

「1本、行きましょう!」

 

竜崎にボールが渡り、第4Qが開始された。

 

『最後の10分! こりゃどっちが勝つか分からねえぜ!』

 

互角の様相を見て観客のボルテージも上がっていく。

 

「…」

 

ドリブルしながら慎重にゲームメイクを始める竜崎。

 

「(第4Q最初のオフェンス。ここは確実に決めたい…)…綾瀬先輩!」

 

右45度付近、アウトサイドに展開していた大地にとりあえずボールを渡す。

 

「(よし、俺が中に切れ込んでディフェンスをかく乱して…)…えっ?」

 

中に走り込もうとした竜崎。しかし、大地が選んだ行動に困惑した。

 

「なっ?」

 

「しまっ…!?」

 

ボールを受け取った大地は即座にシュート態勢に入ったのだ。慎重に時間をかけて攻めてくると踏んでいた小牧と末広は目を見開いて驚愕し、茫然とそのスリーを見送った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたスリーはリングの中心を的確に射抜いた。

 

「…よし!」

 

スリーを決めた大地は拳を握って喜びを露にした。

 

「綾瀬先輩、心臓に悪いですよ。入ったからいいですけどもう少し慎重に攻めても…」

 

「だからこそですよ。相手もそう考えていましたからこうして無警戒で打たせてもらえました。チャンスと見たら即打つ。陽泉戦の時もそうだったでしょう?」

 

にこやかに笑みを浮かべながら大地は竜崎にそう話した。

 

「(だからって普通この状況で普通打てないぜ。…この人、やっぱスゲー!)」

 

淡々と簡単に言い放つ大地に竜崎は改めてその凄さを思い知ったのだった。

 

 

海常のオフェンス…。

 

「…」

 

ボールを運ぶ小牧。

 

「へい!」

 

中に走り込んだ黄瀬がボールを要求。小牧は黄瀬にボールを渡した。

 

「…」

 

「…」

 

ハイポストで黄瀬の背中に張り付くようにディフェンスに入った大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬はドリブルを始め、大地を背中で押し込み始める。

 

「…っ!」

 

体格で勝る黄瀬のポストアップ。大地は歯を食いしばってこれに耐える。

 

「(へぇー、割とパワーあるみたいッスね)…けど」

 

ここで黄瀬はボールを右手で持ち、頭上に掲げながらその場で飛んだ。

 

「それじゃあこれには対応出来ない」

 

頭上に掲げたボールを手首のスナップを利かせて放った。大地も必死にブロックに飛んだが届かず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「…フックシュートですか」

 

ポツリと呟く大地。

 

体格と高さで勝る黄瀬にこれをやられると大地はかなり厳しい状況に追いやられる。今のポストアップにしても耐えるだけで精一杯だったからだ。

 

「今のは仕方あらへん。次あの手で来たら俺がフォローしたるわ」

 

「お願いします」

 

大地の肩を叩いて励ます天野。大地は静かに返事をしたのだった。

 

 

変わって、花月のオフェンス…。

 

ボールを運ぶ竜崎。

 

「…」

 

ここで空が動く。

 

「(パスの中継か!?)」

 

それを見て黄瀬が空を追いかける。しかし、竜崎はパスを出さない。その直後、大地が動いた。大地が逆サイドへと走り出した。

 

「っ!? 行かせ――」

 

追いかけようとした小牧だったが、阻まれる。

 

「った! …残念だが通行止めだ」

 

先程走り込んだ空が小牧に対してスクリーンをかけたのだ。

 

「くそっ!」

 

慌てて追いかける末広だったが、小牧とは逆側にいた末広は対応に遅れてしまう。

 

「スイッチ!」

 

末広が声を出して指示をする。

 

「俺が行く!」

 

空を追いかけていた黄瀬がスイッチに応じ、大地のマークに向かった。

 

「…」

 

「…」

 

左アウトサイドで向かい合う大地と黄瀬。

 

「こっちだ!」

 

ここで、スクリーンをかけていた空がピック&ロールで中に入ってボールを要求する。大地が頭上からパスを出す。

 

「…っ!」

 

これに反応し、パスコースに手を伸ばして塞ぎにかかる黄瀬。だが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地は右手で投げようとしたボールを左手で押さえ、パスを中断し、中にカットインした。

 

「やるッスね、けどまだ!」

 

これにも黄瀬は対応し、中に切り込んだ大地を追いかける。

 

 

――キュキュッ!!! …ダムッ!!!

 

 

が、大地はカットインと同時に急停止。そこからバックステップで元居た位置より後ろまで下がった。

 

「っ!?」

 

追いかけようとした黄瀬は即座に止まり、再度反転して大地を追いかける。大地はバックステップと同時にボールを掴み、そこからステップバックで斜め後ろに下がり、そこからスリーを放った。

 

「あー」

 

放たれたボールを見てベンチの生嶋が思わず唸り声を上げた。

 

「外れるのか?」

 

その生嶋の反応を見た菅野が思わず尋ねた。

 

「違いますよ。スリーには自信があるけど、ダイを見ていると嫉妬しちゃうかな」

 

スリーに絶対の自信とプライドを持つ生嶋は、理解出来てしまった結末を複雑そうな表情で見送った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『なっ!?』

 

スリーポイントラインから1メートル以上離れていたが、大地は的確にリングを射抜いた。

 

「バックステップからのステップバックスリー。あんな離れた所から決めちまうのかよ…」

 

茫然とする小牧。

 

「さすが大地だぜ。昔から勝負所になるときっちり決めてくる。…ちくしょう、やっぱりスコアラーとしてはお前には敵わねえかもな」

 

そんな大地を見て思わず本音が飛び出る空。

 

「…ふぅ。やっぱり、楽はさせてくれないか」

 

大地に駆け寄って声を掛ける空。そんな2人を黄瀬は溜息を吐いた。

 

『無冠の五将の技とて、負担は決して軽くない。乱発し過ぎればパーフェクトコピーの使用時間にも影響する。使い所を間違えるな』

 

インターバル時に武内から黄瀬に告げられた指示。

 

「あんまり好きな言葉じゃないけど、場合によっては根性でどうにかしなきゃいけなくなりそうッスね」

 

ある種の覚悟を黄瀬はしたのだった。

 

 

海常のオフェンスとなり、小牧は黄瀬にボールを渡した。

 

「…」

 

「…」

 

この試合、何度目となるか2人の対決。

 

 

――スッ…。

 

 

突如、大地と黄瀬との間に距離が出来る。

 

「(っ!? バリアジャンパー!)」

 

先程見せられた相手との間合いを広げる誠凛の元主将日向の技。距離を広げると、黄瀬は即座にシュート態勢に入った。

 

「させません!」

 

1度見せられた技。大地はすぐさま距離を詰めてブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

ここで大地は目を見開いた。黄瀬はボールを頭上に構えたまま飛んでいなかったのだ。

 

「いただき」

 

 

――ドン!!!

 

 

ブロックに飛んだ大地にぶつかりながら黄瀬はスリーを放った。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が指を3本立てながら笛を吹いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、緑6番! バスケットカウント、ワンスロー!』

 

『来たぁっ!!! バスカンだぁっ!!!』

 

「4点プレー…、今のは五将の実渕の…」

 

見覚えのあるかつて自身も味わった技を見て思わず茫然とする空。

 

ファールを貰いながらスリーを決めるプレー。これは無冠の五将の実渕の得意技の1つ、『地』のシュートである。

 

「…っ」

 

みすみすボーナススローを献上させてしまい、大地は悔しがる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローをきっちり決め、黄瀬は4点プレーを成功させた。

 

「これで同点。また振り出しッスよ」

 

空と大地を指差しながら告げる黄瀬。

 

「上等だぜ」

 

「この借りは必ず返します」

 

2人の闘志にさらに火が付いたのだった。

 

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

「ぬぅっ! このトーシロが…!」

 

花月のオフェンス、ローポストにて、室井が三枝を力付くでクリアアウト。突破口を作り出す。

 

「サンキュー室井!」

 

室井が抑え込んだのを見て空は中に一気に切り込み、リングに向かって飛んだ。

 

「えぇーい、邪魔じゃあ!!!」

 

強引にロールして室井の前に出てリングに向かって飛んだ空のブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

シュートコースを塞ぐ三枝だったが、やはり後手後手。空はボールを下げて三枝のブロックを掻い潜り、直後にリングに背を向けた状態でボールを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「っしゃぁっ!」

 

「ナイッシュー、キャプテン」

 

手を差し出した室井。空はその手をパチン! と叩いた。

 

「クソがっ!!! あのガキィ…!」

 

苛立ちを隠せない三枝。

 

「…」

 

そんな三枝を見て黄瀬が少し表情を険しくした。

 

 

「寄越せ拓馬!」

 

ローポストに立った三枝がボールを要求する。

 

「頼みます!」

 

そこへ迷わず小牧がパスを出した。

 

「ガキが、しごうしちゃるわ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

背中に室井を背負う形で三枝がドリブルを始め、ポストアップを始める。

 

「…おぉっ!!!」

 

気合いを込めた室井はそのポストアップに耐え、中に押し込ませない。

 

「小癪な…!」

 

「…今のあなたなら、俺でもどうにかなる!」

 

「っ!? このガキが!」

 

 

――ドン!!!

 

 

室井の言葉に頭に血を昇らせた三枝が力を込め、強引に室井にぶつかる。

 

「…ぐっ!」

 

あまりの当たりに強さに室井は後方に倒されてしまう。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『オフェンスチャージング! 青12番!』

 

しかし、強引過ぎた当たりだった為、審判はファールをコールした。

 

「っ!? これでファールじゃと!?」

 

判定に不服を感じた三枝が審判を睨み付ける。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、海常!』

 

ここで海常が申請したタイムアウトがコールされた。

 

「海さん! タイムアウトです。下がりましょう!」

 

駆け寄った末広がいきり立って審判に食って掛かりそうな三枝をベンチへと誘う。

 

「…ちぃっ」

 

未だ納得出来ていない三枝だったが、渋々ベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常ベンチ…。

 

「おのれぃ!」

 

ベンチにドカッと座り、怒りを露にする三枝。

 

「海さん、お、落ち着いて――」

 

怒りを露にする三枝に末広が恐る恐る声を掛けるが…。

 

「じゃかぁしぃ! …あのガキィ、今度こそめがして――」

 

 

――バシャァッ!!!

 

 

その時、三枝の頭に水がかけられた。

 

「少しは頭冷えたッスか?」

 

三枝の背後に立った黄瀬が手に持っていた飲み物が入った容器を逆さにして頭からかけていた。

 

「何すんじゃワレ――」

 

これに怒りを爆発させた三枝が立ち上がって黄瀬に掴みかかろうとしたが、逆に黄瀬に胸倉を掴まれる。

 

「俺達が何の為に戦ってるか、知ってるッスよね? 俺達は志半ばで負けた先輩達の悲願を果たす為に戦ってんだよ」

 

「…っ!?」

 

黄瀬の鋭い眼光に三枝の表情が変わる。

 

「何の為にあんたをユニフォームも渡して、何の為にあんたを試合に出してると思ってるんだ? 海常を優勝させる為だろうが! 優勝する為にはあんたの力が必要だと思ったからこそ海常の皆は新参のあんたにそのユニフォームを託したんだよ。皆の期待を無駄にしてんじゃねえよ!」

 

「…っ」

 

「皆の気持ちも理解出来ないならもうあんたには試合は任せられない。そのユニフォーム脱いでさっさとここから消えてくれ」

 

ベンチに突き飛ばすように黄瀬は掴んでいた胸倉から手を放した。

 

『…』

 

初めて見る黄瀬が怒った姿に海常の選手達は誰も言葉を発せずにいた。

 

「……リョウタ」

 

その沈黙を最初に破ったのは三枝だった。三枝はベンチから立ち上がり、床に膝を付いて座ると、上半身を後ろに下げ…。

 

 

――ゴッ!!!!!!

 

 

床に思いっきり頭を打ち付けた。

 

『っ!?』

 

そのあまりの音の大きさに海常の選手達や花月の選手達だけではなく、観客席にまで響き渡り、会場中が注目した。

 

「すまんかった。ワシは大事な事を見失っていた。こんな事を言う資格はないのは分かっとる。ワシにもう1度チャンスをくれ。チャンスをくれるならこの試合の後にワシのクビを切ってくれても構わん。頼む」

 

頭を上げ、額から血を滴らせながら三枝は懇願した。

 

「…」

 

黄瀬は返事をしない。

 

「俺からもお願いします」

 

そこへ、末広が頭を下げた。

 

「ここから先、海さん抜きで花月のオフェンスは抑えられるとは思えません。お願いします」

 

「失礼な話ですけど、この状況で海さんの代わりを務められる人はいないと思います。この試合に勝つ為にもお願いします」

 

続いて小牧も頭を下げた。

 

「失敗や間違えは誰にでもある。俺や皆はもちろん、お前にだって。後輩がここまで言ってるんだ。俺からも頼むよ」

 

黄瀬の肩に手を置きながら氏原もお願いした。他の海常の選手達も同じ考えであり、一様に黄瀬に視線を向けていた。

 

「……ふぅ」

 

一息吐いた黄瀬は三枝の目前まで歩み寄った。

 

「皆にここまで言わせたんだから、期待しても構わないッスよね?」

 

「もちろんじゃ! 死んでも応えちゃるわい!」

 

「なら、引き続き頼むッスよ」

 

三枝の肩に手を置いて黄瀬は告げた。

 

「って言うか、皆マジな空気になり過ぎッスよ。海っちも、頭から血ぃ流して笑えないッスよ」

 

突如黄瀬が肩を竦め砕けた言い方で口にした。

 

「頭に血を昇らせた海っちを落ち着かせる為に笠松先輩の真似してみたッスけど、やっぱしんどいッスよ。ほら海っち、昇らせた血を流してどうするんスか? 頭冷える前に貧血起こすッスよ」

 

『ハハハッ!』

 

緊張の緩和で海常の選手達が笑い声を上げた。

 

「(…まさかあの黄瀬がな。入学した頃の黄瀬からは信じられん事だ。主将となって精神的にもしっかり成長したようだな…)」

 

傍から一連の光景を見ていた武内は黄瀬の成長を軽く笑みを浮かべながら見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「すっげぇ音してたな」

 

「こっちまではっきり聞こえたわ。力加減どないなっとんねん」

 

三枝の床への頭突きが聞こえ、花月ベンチも軽く騒然していた。

 

「全員、話を聞け」

 

上杉が言葉を発し、注目を集める。

 

「まず、室井、メンバーチェンジだ」

 

「えっ? 室井を下げるんですか?」

 

この言葉に菅野が難色を示した。現時点で三枝を上手く抑え込んでいる為、ここで交代する必要性に疑問を感じたのだ。

 

「あぁ。ここまではよく抑えてくれた。だが、ここからはそうは行かないだろう」

 

「ですね。海兄は恐らくさっきので冷静さを取り戻した。さっきまではキレて狭まった視野で力任せに攻めてきたから抑えられたが、ここからはテクニックも絡めてくる。もう、室井では今までようには行かないでしょうね」

 

補足するように空が言葉を続ける。

 

「…けど、そうなると代わりに誰を投入するんですか? 他には――」

 

「俺ですね」

 

ベンチの横から割り込むように声が聞こえてきた。

 

「まっつん!」

 

そこに現れたのは松永だった。額に包帯を巻いて松永が戻ってきた。

 

「室井、俺が偉そうに言える事ではないが、ここまで良くやってくれた。ありがとう」

 

「いえ、自分は出来る事をしただけです。後は任せます」

 

「おう!」

 

パチン! と2人はハイタッチを交わした。

 

「頭はもう大丈夫なんだな?」

 

「バッチリよ! しっかり止血して治療したから!」

 

空の質問に相川が変わりに笑顔で答えたのだった。

 

「よし、なら問題ねえな。…それと、監督」

 

松永の調子を確認した後、今度は上杉に話しかけた。

 

「一緒に生嶋をコートに戻してもらってもいいですか? もっと点を取りに行きたいんで」

 

「生嶋を投入するとなると、代わるのは竜崎か。そうなると、ボール運びはお前がするのか?」

 

空の提案に菅野が反応する。

 

「はい。得点もゲームメイクも同時にこなします。ま、所謂コンボガードって奴ですね」

 

「良いだろう。俺も同じ事を考えていた。…生嶋、準備は出来ているか?」

 

「もちろんです。試合に出たくてうずうずしていましたよ」

 

上杉に尋ねられた生嶋は笑顔で答え、着ていたシャツを脱いだ。

 

「後は頼みます。生嶋先輩」

 

「任せて」

 

パチン! とハイタッチを交わした。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでタイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「俺から出す指示は特にない。先程のインターバルと同じ、ガンガン走って相手以上に点を取れ!」

 

『はい!!!』

 

「っしゃぁっ! 行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空を先頭に花月の選手達がコートに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り7分52秒。

 

 

花月 80

海常 78

 

 

OUT 竜崎 室井

 

IN  生嶋 松永

 

 

『花月はスタメンに戻して来たぞ!』

 

コート上に選手が戻って来ると、観客が沸き上がった。

 

「行くぞ!」

 

空がボールを受け取り、試合は再開された。

 

ここから試合は点の取り合いに移行した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

タイムアウト後の最初のオフェンス。空から大地にボールが渡り、ダブルチームをかわして確実に得点を決めた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

続く海常のオフェンスは、黄瀬がスクリーンを上手く使って大地のマークを引き剥がし、得点を決めた。

 

「おぉっ!!!」

 

「ぐっ、あぁっ!!!」

 

ゴール下の攻防、松永の末広のぶつかり合い。

 

「ちぃっ!」

 

押し込めないと見ると三枝はボールを戻した。

 

「(さっきやり合った時より迫力も圧力もない。これなら…!)」

 

コートに入った松永。ゴール下で三枝とやり合い、手応えを感じていた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

肩で大きく息をしている三枝。かなり疲弊していた。その為、ゴール下の攻守に専念せざるを得なく、そこに残った体力を注いでいた。

 

空を起点に大地を中心に得点を重ねる花月に対し、海常は黄瀬を中心に、他の者達が黄瀬を補助しながら得点を重ねていった。

 

 

第4Q、残り5分12秒。

 

 

花月 91

海常 86

 

 

互いに決めたシュートの本数は同じなのだが、点差はじわりじわりと開いていった。ここに来て大地の調子がピークにまで上がったのか、スリーを確実に決め続けた。対して黄瀬も負けじと得点を重ねるが、大地が特にスリーを警戒してマークした為、外から狙えず、結果2点を積み重ねた為だ。

 

「9、8、7…」

 

「(? いったい何を数えて…)」

 

現在、花月のオフェンス。空がボールをキープしているのだが、大地の目の前に立つ黄瀬が小声で何かを呟いている、良く聞いてみると、何かを数えているのだ。

 

「大地!」

 

ここで空が大地にボールを渡す。

 

「…よし!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックステップのフェイクを入れ、スリーを警戒させ、大地は中へと切り込んだ。抜いた直後に急停止し、そこからシュート態勢に入った。

 

「(決める!)」

 

覚悟を持ってストップ&ジャンプショットを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…0。…ようやくッスか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

突如、大地の目の前に黄瀬が現れ、ジャンプショットをブロックした。

 

「(抜かれた直後、シュート態勢に入るまでに回り込んだアジリティとブロックの迫力。…まさか!?)」

 

松永が咄嗟に電光掲示板に視線を向けると、残り時間4分58秒を表示していた。

 

「パーフェクトコピー…」

 

生嶋がボソリと呟いた。

 

「よくここまで踏ん張った。黄瀬も、よくここまで耐えた。行け。残り時間の5分。花月を蹂躙しろ」

 

ベンチで武内が静かに檄を飛ばした。

 

 

「残り時間5分を切った!」

 

同じく黄瀬の変化に気付いた桃井が声を上げる。

 

「5点差か」

 

「あってないような点差だねー」

 

青峰と紫原も黄瀬に注目していた。

 

 

ルーズボールを末広が拾い、すかさず小牧にボールを渡した。小牧がフロントコートまでボールを運ぶ。

 

「(選択肢なんてここ1択だ。この試合、もらった!)…キャプテン!」

 

小牧は迷わず黄瀬にボールを渡した。

 

「っ!?」

 

ボールが黄瀬に渡った瞬間、黄瀬は目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、…準備は出来てるな?」

 

「えぇ、いつでも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄瀬の目の前に立つのは2人の選手。

 

「…そう来たッスか」

 

これを見て黄瀬の口元が綻ぶ。

 

「覚悟しろ黄瀬。日本最強コンビの登場だ」

 

「ここであなたの全力を止めてみせます」

 

真剣な表情で言い放つ2人。

 

 

――空と大地…。

 

 

2人のコンビが、黄瀬のパーフェクトコピーに立ち向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





試合は遂にクライマックスへ。とりあえず一旦ここまでです。

最近、youtubeでNBAの試合を詳しく解説しながら紹介してくれる動画を見つけ、勉強中です…(^-^)

身体がようやく夏モードになり、仕事も捗るようになりました…(>_<)

仕事終わりにキンキンに冷えた部屋で飲むコーラうめぇ…(*^_^*)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第129Q~最強のコンビ~


投稿します!

試合は佳境。盛り上がるかどうかは……自分次第か…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り4分58秒。

 

 

花月 91

海常 86

 

 

試合時間残り5分を切り、遂に黄瀬が最大の切り札であるパーフェクトコピーを再び使用してきた。上杉が講じた黄瀬のパーフェクトコピー対策。それは空と大地2人によるダブルチームであった。

 

「覚悟しろ黄瀬。日本最強コンビの登場だ」

 

「ここであなたの全力を止めてみせます」

 

その黄瀬の前に空と大地の2人が立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よし、行くぞ!」

 

その直前、次に行われる試合の為、誠凛の選手達がコートのあるフロアへとやってきた。

 

「ちょうどクライマックスか。点差は……っ!? 花月がリードしてるのか…」

 

電光掲示板の得点表を見て火神は軽く驚いた。

 

「マジかよ……おい、夜木!」

 

同じく点差に驚いた池永が先に偵察に行っていた夜木を呼ぶ。

 

「えっと、第4Qが始まった時点では同点だったけど、そこから花月が少しずつ点差を広げていって…」

 

呼ばれた夜木はこれまでの状況を簡潔に説明していく。

 

「それから――」

 

「いやいい。後は説明がなくても充分だ」

 

ある程度説明を聞いた新海はそこで夜木を制した。

 

「残り5分で点差は5点。あの海常相手にここまでリードで迎えられたのは大したもんだが…」

 

「…恐らくここから黄瀬君は試合終了までパーフェクトコピーで攻めてくる。逃げ切りを狙うにはあまりにも心もとない点差ね」

 

コートを見つめる火神とリコ。状況を察した2人は花月の分の悪さを予想する。

 

「あの赤司君でさえもパーフェクトコピーを使った黄瀬に対してはボールを持たせないという方法を取ったわ。一昨年私達が戦った時は結局黄瀬君を止められなかった。ここからどう凌ぐのかしら…」

 

「……ん? 黄瀬さんをマークしているのは、神城と綾瀬?」

 

コート上でボールを持っているのは黄瀬。その黄瀬の前に空と大地が立ち塞がっているのを見つける田仲。

 

「あの2人ならもしかしたら…!」

 

かつてのチームメイト2人を見て田仲が期待を膨らませたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「「…」」

 

右45度付近のアウトサイドで睨み合う黄瀬、そして空と大地。

 

「……無駄ッスよ。例え君達でも俺は止められない」

 

そう宣言すると黄瀬はドリブルを始めた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

黄瀬が左右に切り返し、揺さぶりをかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…うぉっ!?」

 

何度か切り返した直後、黄瀬が強めに切り返すと、空がバランスを崩し、後ろに倒れ込む。同時に青峰のコピーで一気に加速し、中に切り込んだ。

 

「…っ」

 

一気に加速して切り込んだ黄瀬だったが、大地が進路を塞いだ。振り返らずに高速のバックステップで追いかけた為、抜かれる事無く回り込めたのだ。

 

「(…いや待て、何かおかしい)…っ!?」

 

咄嗟に黄瀬がボールを切り返した。

 

「っだ! おしい!」

 

後ろから伸びてきた腕と共に聞こえてきた声。振り返るとそこには後方に倒れ込んだ態勢で腕を伸ばした空の姿があった。

 

「…忘れてたッス。確かに君には――」

 

ここで黄瀬がある事を思い出した。

 

「俺にはアンクルブレイクは通用しねえぜ」

 

したり顔で言い放つ空。空はかつて本家の赤司のアンクルブレイクにも悠々と態勢を保ちながらプレーをしていた。限りなく本家に近いとは言ってもコピーでしかない黄瀬のものでは通用しないのは必然である。

 

「だからどうしたッスか? たった1つ通用しなくても俺を止めた事にはならない!」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

黄瀬は再び赤司のコピーで切り返し、そこから青峰のコピーでドライブを仕掛けた。

 

「だから俺には通用しねえって言ってんだろ!」

 

バランスを崩す事なく空は黄瀬は追いかけた。ハイポスト付近に侵入すると、黄瀬はそこでボールを掴んでシュート態勢に入った。

 

「まだマークは外せてねえぞ!」

 

これに反応した空はブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

シュート態勢に入った黄瀬は上半身を後方に寝かせ、上体を反り始めた。

 

『青峰のフォームレスシュートだ!?』

 

空のブロックをかわしながら黄瀬はボールを放った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、放ったボールは後方から現れた1本の手に弾かれた。

 

「私を忘れてもらっては困ります」

 

ブロックしたのは大地。赤司のコピーでバランスを崩した振りをして黄瀬の背後から狙い打ったのだ。

 

「おっしゃナイス大地! おらっ、速攻!」

 

すかさずボールを拾った空は前に大きな縦パスを出した。すると、先程ブロックをした大地がすでに速攻に走っており、ボールを掴むとそのまま速攻に走った。

 

「…っ! まだだ、決めさせるかよ!」

 

すぐさま反転した黄瀬が大地を追いかける。

 

「っ!?」

 

縦パスのボールを確保した折にスピードが緩んだ間に黄瀬がスリーポイントライン目前で大地を捉えた。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

黄瀬に追い付かれるのと同時に大地が速攻の勢いを一瞬で殺し、急停止した。同時にスリーの態勢に入る。

 

「…っ」

 

同じく急停止した黄瀬が反転して大地のブロックに向かった。

 

 

――スッ…。

 

 

だが、大地はスリーを打たず、ビハインドパスでボールを右に放った。

 

「っしゃぁっ!」

 

そこに後ろから走り込んだ空がボールを掴み、そのまま中に切り込んで行った。

 

「らぁっ!!!」

 

フリースローラインを越えた所で空が気合い一閃、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「まだだ!」

 

すると、空の後ろから1本の腕が伸びてきた。

 

「っ!? これにも追い付くのかよ!?」

 

意表を突いたと思っていた空は後ろから現れた黄瀬のブロックに驚愕した。

 

「だったらもう一の矢!」

 

 

――バゴッ!!!

 

 

空はダンクを中断。強引に腕を動かしてボールをバックボードに当てた。

 

「っ!?」

 

ボールが跳ね返ると、空の後ろから大地が飛んでいた。大地が空中でボールを掴むと、そのままリングにボールを振り下ろす。

 

「くっそ…!」

 

着地した黄瀬が再びブロックに向かうが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

間に合わず、大地はボールをリングに叩きこんだ。

 

『うおぉぉぉぉーーーっ!!! 決めたぁっ!!!』

 

「っしゃぁっ!」

 

「はい!」

 

パチン! っと2人はハイタッチを交わした。

 

 

「いや、点を決めた事よりも、あいつら、パーフェクトコピーを使った黄瀬を止めやがった…!」

 

完全無欠であるパーフェクトコピー。未だかつてまともに破られた事はない最強の必殺技。それを空と大地を止めたのだ。

 

「あの2人、黄瀬君のパーフェクトコピーを止めるには絶好のコンビかもしれないわね」

 

一連のプレーを見ていたリコが口を挟む。

 

 

「…っ」

 

1本決めて止めるはずが逆に止められ、決められてしまい、歯を食いしばって悔しがる黄瀬。

 

「まだ1本止められただけじゃ」

 

気落ちする黄瀬に声をかけたのは三枝。

 

「無敵の技なんぞない。どんな技もいつかは破られる。それがたまたま今だったというだけじゃ」

 

「えぇ、分かってるッスよ。ていうか、まだ俺のパーフェクトコピーは破られてないッス。まだまだこれからッスよ」

 

目をギラつかせながら黄瀬は三枝に返したのだった。

 

海常のオフェンス。ボールは黄瀬に託された。

 

「「…」」

 

「…」

 

先程と同じ構図である、空・大地対黄瀬の対決。

 

「「っ!?」」

 

すると、黄瀬はバリアジャンパーで距離を空け、すぐさまシュート態勢に入った。

 

「っ! 緑間のコピーか!? させるか!」

 

シュートフォームに入られる前に空が距離を詰め、ブロックに飛んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、黄瀬はスリーを中断。青峰のコピーで中に切り込んだ。

 

「ちっ」

 

「行かせませんよ」

 

舌打ちをする空。しかし、大地がバック走行で黄瀬を追いかけ、ディフェンスをする。

 

「邪魔だ!」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

「っ!?」

 

片足に重心が乗った所で急速に切り返し、大地はアンクルブレイクを起こして後ろに倒れ込んでしまう。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

大地を抜き去った黄瀬はそのまま突き進む。

 

「まだだ!」

 

ローポスト付近まで侵入した直後、空が目の前に現れた。アンクルブレイクを起こさせる為に立ち止まり、切り返した間に回り込んだのだ。

 

「さすがにしつこいッスね。けど、ここまで来てしまえばもう俺は止められない!」

 

その時、黄瀬がボールを掴んで回転を始める。

 

 

「あれって、むっくんの!?」

 

「…」

 

持ち前のパワーに遠心力を上乗せさせてリングにボールを叩き込む紫原の必殺技、トールハンマー。

 

 

「まずい、あれを打たれたらいくら神城でも!?」

 

花月ベンチから悲鳴のような声を菅野が上げる。

 

体格とパワーの差がある空ではあの技は止められない。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

その時、黄瀬の手からボールが弾かれてしまう。

 

「その技は本家のものを何度も見させてもらいました」

 

ボールを弾いたのは大地。アンクルブレイクで態勢を崩したものの、何とか床に手を付いて転倒を防いだのだ。

 

「紫原さんよりも15㎝以上も身長が低い上に足りない力を補う為により回転に入る際のモーションが大きいので、タイミングはより計りやすい」

 

黄瀬の後方から紫原のコピーであるトールハンマーに入るのを予見した大地がタイミングを計って黄瀬の持つボールを狙い打った。

 

「さっすが相棒、頼りになるぜ!」

 

零れたボールをすぐさま抑えた空はそのまま速攻に走った。

 

「くそっ! ここは通さねえ!」

 

速攻に走った直後、海常の選手の中で1番後ろにいた小牧が立ち塞がる。

 

「いーや、ここは通らせてもらうぜ」

 

そう宣言した直後、空は両足を滑らせたかのように反転して背中から倒れ込んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

倒れ込む直前にスピンムーブで高速反転し、小牧を抜き去った。

 

「っ!? これは神城が得意としてた…!?」

 

持ち前のバランス能力を生かしたスリッピンスライドフロムチェンジの応用技。咄嗟の変則フェイントに小牧はまったく反応出来なかった。

 

後方にいた小牧を抜き去った空はそのままワンマン速攻で突き進んだ。

 

「まだッス! こんな所では終われないんスよ!」

 

「…っ、速いな!」

 

思わず愚痴が飛び出る空。フロントコートまで進み、スリーポイントライン越えた所で黄瀬が空に並ぶ。小牧を抜き去る際にスピードを落とした事で追いついたのだ。

 

「空!」

 

その時、空から見て左。サイドライン沿いを走っていた大地がボールを要求した。

 

 

――スッ…。

 

 

空はボールを掴んでビハインドバックパスを出した。

 

「(ここでスリーはまずい!)…させないッスよ!」

 

このパスに反応した黄瀬が右腕を後ろに伸ばしてパスコースを塞ぐ。

 

 

「ダメだな」

 

「えっ?」

 

これを見た青峰がボソリと呟き、桃井が聞き返すように声を上げた。

 

「完全に後手だ。神城の勝ちだ」

 

 

「っ!?」

 

後ろに手を伸ばしてパスカットを狙った黄瀬だったが、空がビハインドバックパスを中断。ボールを後ろに回した腕を強引に戻し、そこからリングに向かって飛んだ。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままレイアップで空は得点を決めた。

 

『うわー! 何だ今の!?』

 

ビハインドバックパスをフェイクに入れたプレーに観客は大興奮。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

得点を決めた空は拳を振り回しながら狂喜乱舞した。

 

「…っ!」

 

再びの失点に表情が曇る黄瀬。

 

『…っ』

 

海常の選手達の表情にも焦りが生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「マジかよ…。黄瀬のパーフェクトコピーを止めてやがる…」

 

試合を見ていた火神の表情は驚愕に染まっていた。

 

かつて大苦戦を強いられ、結局は止める事が出来なかったパーフェクトコピー。それを2度も止めた空と大地に驚きを隠せなかった。

 

「…あの2人を相手にパーフェクトコピーはもしかしたら相性が悪いのかもしれないわね」

 

顎に手を当てながらリコが解説する。そのリコに誠凛の選手達が注目する。

 

「黄瀬君のパーフェクトコピーを止めるには、黄瀬君が誰のコピーをしてくるのか予測する必要があるわ。けど、神城君にはアンクルブレイクが通じない。崩しが効かないからタメの大きい緑間君のコピーも使えない。となると、必然的にアウトサイドにいる時は青峰のコピーを使わざるを得ないわ」

 

『…』

 

「ゴール下でも紫原君のコピーは綾瀬君にタイミングを完全に見抜かれているわ。となると、もう残されてるのは青峰君のコピーのみ。けど、それも綾瀬君が少し引き気味にディフェンスをしてバックで下がりながら対応する事で防いでいる。例え止めきれなくても神城君が戻るまで粘る事は出来るわ」

 

『…』

 

「パーフェクトコピーは足りない要素を他のもので補って限りなく本人のものに近いものになってるけど、それでも本人には僅かに及ばない。1つに限定されてしまえば今のあの2人には止められてしまうわ」

 

キセキの世代の技全員のコピーを可能とするパーフェクトコピー。それを同時に使用してくる事で的が絞れない事が最大の脅威。だが、選択肢を絞られ、尚且つ相手が同じキセキの世代を相手に対等に戦える者2人が相手では分が悪い。

 

「ディフェンスでも、いくら青峰君と紫原君の複合でも、相手が超高速でしかもコンビネーション抜群の2人では止めきれるものではないわ。現に、私達の時も止められずとも点が取れなかった訳ではなかったから」

 

「…無敵の技なんてねえ。パーフェクトコピーにしても、いつかは破られる日が来るとは思っていたが、まさか今とはな…」

 

かつて手も足も出なかっただけに火神は複雑そうな表情をした。

 

「まあ、それでもあくまでもあの2人が同時に相手だからこそ今の結果であって、どちらかが1人で相手をしたら止められない事には変わりないから、驚異的な技には変わりないのだけれどね」

 

フォローをするようにリコが言葉を続ける。

 

「点差が開いてきたわ。切り札であるパーフェクトコピーを以てしても点差が広がるようではこの試合、決まってしまうでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ダブルチームってのはディフェンスが足し算で強まる訳じゃねえ。責任の所在が曖昧になっから連携の取れてねえダブルチームなんざマンツーマンより突破しやすくなる」

 

「あの2人のダブルチームはどうなの?」

 

青峰の解説に桃井が疑問を尋ねる。

 

「息はこれ以上になく合ってる。互いの特性を理解し合って、互いに穴をしっかり埋めてる。少なくとも、あれ以上のダブルチームは俺は見た事がねえ」

 

百戦錬磨の青峰からも空と大地のダブルチームに称賛を贈る。

 

「他の奴のコピーは? 黄瀬ちん他にもコピー出来るんだから何も俺達の技にこだわる必要もないんじゃない?」

 

「相手が神城か綾瀬のどっちか1人ならそれでいけんだろうが、2人同時にするには裏を掻かねえ限り徒労に終わる。それに、残り時間少ねえ今の状況じゃ試す時間もねえ」

 

紫原の案を青峰を否定した。

 

「けど、きーちゃん何でパス出さないのかな? 2人のマークが自分に集中してるんだからパスを出せば点取れそうだけど…」

 

「立て続けに止められて1度も点が取れてない状況でパスしても逃げたようにしか映らねえ。それで仮に点が取れてもチームの士気は落ちる」

 

「なるほど…」

 

桃井の疑問に青峰が答えた。

 

「ま、体力も集中力も落ちてる終盤で、残り時間と点差を考えればオフェンスが失敗出来ない上、スピードとディフェンスエリアが広い神城と綾瀬がヘルプに飛んでくるこの状況で、パーフェクトコピーが止められ続けた事実を目の当たりして積極的に点なんざ狙える訳がねえ。黄瀬もそれが分かってるからパスが出せねえ」

 

「三枝さんは? インサイドで彼にボールが渡ればあの2人が来ても関係ないんじゃ…」

 

「ありゃもう駄目だ。さっきまでの反動か知らねえが、完全にガス欠起こしてやがる」

 

再び桃井が疑問を投げかけるも青峰が否定した。

 

「さっきまでは手も足が出てなかった8番を相手するので精一杯だ。期待は薄いだろうな」

 

「きーちゃん…」

 

青峰の解説を聞いて、桃井は心配そうにコート上の黄瀬に視線を向けた。

 

「(どうすんだ黄瀬。このままだともう後がねえぞ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(俺が…、俺が何とかしないと!)」

 

黄瀬が中にカットインした。

 

「これならどうスか」

 

フリースローライン目前でボールを掴むと、黄瀬はボールを胸元に構えた。

 

 

「あれは!? 黒子のファントムシュート!」

 

「っ!?」

 

黄瀬が打とうとしているシュートの正体に気付いた火神が思わず声を上げ、黒子は目を見開いた。

 

「黒子と違って黄瀬には身長も高さがある上、初速を上げて再現してるから笠松がやったファントムシュート破りは通用しない!」

 

かつて1度止められているファントムシュートだが、使用者が黄瀬の場合、使えない。

 

 

「これで、どうだ!」

 

黄瀬がボールを胸元から押し出すようにボールを放った。

 

「それ知ってるぜ。黒子さん奴だろ?」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

ボールが放たれるまさに瞬間、空がボールを上から抑えた。

 

「合宿の時に黒子さんに1度見せてもらった。理屈分からねえがブロックしようとするとボールが消えちまう。だったら、シュートを打つのと同時に上から抑えちまえば消えようが関係ねえ」

 

放たれたボールは姿を見失ってブロック出来ない。ならば放つ直前に照準を合わせてブロックすれば止められる。これが空が考えた攻略法であった。

 

「…」

 

あまりの衝撃に言葉を失う黄瀬。

 

「速攻!」

 

ボールを拾った大地がそのまま速攻に走った。

 

「くそっ! 戻れ、戻れ!」

 

悲痛の表情で声を上げ、ディフェンスに戻る小牧。

 

「っ! まだだ! まだ俺は!」

 

歯をきつく食い縛りながら黄瀬が全速力でディフェンスに戻る。そして、フロントコートに侵入した所で大地を捉える。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

スリーポイントライン目前で大地が急停止、ボールを構えた。

 

「打たせるか!」

 

黄瀬も何とか停止し、スリー阻止に向かう。

 

「いえ、ここは決めさせていただきます」

 

大地は黄瀬がチェックに来ると、ボールをリングにではなく、サイドラインとエンドラインが交わるコートの左隅付近にボールを放った。

 

「ったく大地の奴、とんでもねえパス出しやがって!」

 

すると、放ったボール目掛けて空が全速力で向かって行った。

 

「厳しくて申し訳ありませんが、ここしかありませんでしたので…」

 

「限度があんだろが!」

 

愚痴を零しながら空がボールに向かって走っていく。そして…。

 

「あっぶねえ!」

 

ラインを割る目前でボールを掴み、何とか自身もラインを越える事なく踏みとどまった。そして、その位置からスリーを放った。

 

『っ!?』

 

ボールの行方に花月、海常の選手のみならず、この会場にいる全ての者が注目した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

『キタァァァァッ!!! ここで値千金のスリーだぁっ!!!』

 

この成功したスリーに観客のボルテージが最高潮となった。

 

「12点差…」

 

信じられないと言った表情で電光掲示板に視線を向ける氏原。

 

 

第4Q、残り3分42秒。

 

 

花月 98

海常 86

 

 

このスリーが決まった事で点差は遂に二桁の12点にまで広がってしまったのだ。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

両膝に手を付きながら肩で大きく息をする黄瀬。切り札であるパーフェクトコピーを3度防がれ、状況は絶望的である。

 

「……くそっ」

 

黄瀬の口から思わずそんな言葉が飛び出した。

 

海常のオフェンス。小牧がボールを運んでいる。

 

「(どうする…)」

 

ゲームメイクをする小牧。しかし、その頭の中は焦りが占めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(何をやってるんだよ俺は…!)」

 

下向き、拳をきつく握りしめながら黄瀬は胸中で不甲斐ない自身に苛立っていた。

 

「(俺は何の為に海常に来たんだ! 海常を優勝させる為だ…!)」

 

特別な思入れがあって海常に進学した訳ではないが、それでも自分の手で海常を優勝させるという思いはあった。

 

一昨年も昨年も届かなかった。自分が不甲斐なかったばっかりに。

 

『後は頼んだぞ黄瀬。必ずお前達の手で海常を優勝に導いてくれ』

 

『お(れ)達や先輩達が届かなかった海常の全国制覇。黄瀬、お前達に託したぞ!』

 

笠松と早川。そして、共に戦った先輩達がその無念を黄瀬とその後輩達に託して卒業していった。

 

「(俺はまだ何も成し遂げてはいない。もうこれ以上負けたくない!)」

 

「キャプテン!」

 

小牧が黄瀬にパスを出した。

 

「次も止めてやる」

 

「ここを止めてさらに突き放します」

 

黄瀬がボールを掴むと空と大地がディフェンスに入った。

 

「俺は負けない。海常を優勝させるまで、俺はもう誰にも負けない」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

その時、2人の間を高速で黄瀬が突き抜けた。2人を抜きさった黄瀬はそのまま突き進み、リングに向かって飛んだ。

 

「させへん!」

 

「止める!」

 

天野と松永が同時にブロックに現れた。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

「がっ!」

 

2人のブロックを物ともせず、黄瀬は咆哮を上げながらボールをリングに叩きつけた。

 

「今のは…!」

 

「まさか!?」

 

空と大地を抜きさったテクニックは間違いないなく青峰のコピー。しかし、これまでのものとはスピードとキレが違っていた。

 

「俺は…俺達はこんな所では終われない」

 

リングを掴んだ手を放して黄瀬が床に降りると、静かだがそれでいて通る声で言葉を発する黄瀬。

 

「海常を優勝させるまで絶対負けない。それを阻む奴はどんな相手でも俺が倒す!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…峰ちん」

 

「あぁ」

 

何かを確認するように紫原が話しかけると、内容を察した青峰はただ返事をした。

 

「黄瀬の奴、入りやがった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





とまあ、一旦ここで切ります。もう少し進みたかったのですが、長くなりそうだったので…(;^ω^)

原作最強とも呼び声高い、パーフェクトコピー+ゾーンの黄瀬。実際かなりヤバいですね。もしかしたら本家のゾーン状態に近いのかもしれませんね。たどしたら反則レベルですが…(;゚Д゚)

そろそろ終わりが見えてみたこの試合。結末は既に決めていますが、さて、どうなるか…。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第130Q~最強のキセキ~


投稿します!

いくらか暑さが和らいできた……かな?

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り3分29秒。

 

 

花月 98

海常 88

 

 

試合時間残り5分を切った所で黄瀬が自身の切り札であるパーフェクトコピーを仕掛けていた。しかし、空と大地がダブルチームでこれを封殺。逆に点差を広げた。

 

点差が12点のまで開き、海常に絶望の影が差し掛かったその時、黄瀬がダブルチームを突破、ブロックに飛んだ天野、松永を吹き飛ばしながらダンクを叩き込んだのだった。

 

 

「……くっ!」

 

ボールをキープする空。その表情に余裕は一切なかった。目の前には黄瀬。その黄瀬から発せられるプレッシャーに圧倒されているのだ。

 

「(まずい、このプレッシャー半端ねぇ! 少しでも気を抜いたら取られる!)」

 

必死にボールをキープする空。だが、今の黄瀬を目の前にして、それが精一杯だった。

 

「空!」

 

その時、大地が空のいる横の列まで下がり、ボールを要求した。

 

「(仕方ねえ、一旦大地にボールを渡して中に切り込む。いくら今の黄瀬でも俺と大地を同時にマークする事は出来ない)…頼む!」

 

ボールを掴んだ空が大地にパスを出す為にボールを掴んだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

パスを出そうとボールを掴んだ瞬間、黄瀬が空の持っていたボールを叩いた。

 

 

「あれは、赤司のコピー!?」

 

火神が目を見開く。

 

 

 

今のは赤司のコピーをディフェンスで応用したのだ。弾いたボールをすぐさま黄瀬が拾い、そのままワンマン速攻に走った。

 

『行けー!!!』

 

海常ベンチから黄瀬に向けて声援が贈られる。

 

「行かせません!」

 

フロントコートに入り、スリーポイントライン目前で大地が追い付き、回り込んで立ちはだかった。

 

「…」

 

黄瀬も大地が現れると一旦足を止めた。

 

「くそっ、せめて失点だけでも防いでやる!」

 

僅かに遅れて空も戻り、再びダブルチームで黄瀬のディフェンスに入る。

 

「止められるものなら止めてみろ!」

 

そう宣言し、黄瀬が動く。

 

 

――ダムッ!!! …ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

黄瀬がドリブルを始める。青峰のプレースタイルをコピーして仕掛けているのだが…。

 

「(…っ! 元の速さが上がってるだけじゃねぇ!?)」

 

「(この荒々しいハンドリングは…、青峰さんの動きに葉山さんのドリブルを複合させているのですか!?)」

 

異常とも言える黄瀬の激しいドリブル。青峰の動きをコピーしつつ、ボールを突く度に轟音がコート一帯に鳴り響いているのだ。青峰+葉山の複合。ただでさえ黄瀬本人が素早く変則的に動くのに、ボールはあり得ない程速く動き回っているのだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速した黄瀬は2人の間を高速で駆け抜け、抜きさり、ボールを掴んだ。

 

「…くそっ!」

 

「まだです!」

 

それでも空と大地は諦めず、抜かれてもすぐさま追いかけ、ブロックに飛んだ。

 

「「っ!?」」

 

ここで再び2人は驚愕した。直前で黄瀬の前に回り込めた2人だったが、ボールを掴んだ黄瀬は回転しながら飛んでいたのだ。

 

「(これは、ドリブルしながらのトールハンマー!?)」

 

技の正体に気付いた大地。従来のゴール下から回転するのではなく、ドリブルしながらボールを掴んで回転してのトールハンマーだった。

 

「おぉっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「がっ!」

 

「ぐっ!」

 

空と大地がブロックに来てもお構いなしにボールをリングに叩きつける黄瀬。2人は為す術もなく吹き飛ばされた。

 

「…」

 

床に着地した黄瀬は2人に一瞥もくれる事無くディフェンスに戻っていった。

 

「「…っ」」

 

思わず歯を食い縛る空と大地。

 

ドリブルしながらトールハンマーを打たれてしまえばタイミングを掴んでいた大地でもどうしようもなく、ひとたび飛ばれてしまえば2人がかりでもブロックは出来ない。

 

「…まだだ、まだ逆転された訳じゃねえ」

 

自分に言い聞かすように呟きながら立ち上がる空。

 

「今の黄瀬さんを止めるのは困難。ならば、こっちも同じく点を取るしかありませんね」

 

同じく立ち上がる大地。

 

「行くぞ!」

 

スローワーとなった大地からボールを受け取った空は声を出し、その声に反応した花月の選手達が一斉に走り始めた。

 

 

「はぁっ!? ここでラン&ガンとか何考えてんだ!?」

 

花月の取った戦法に池永が思わず声を出す。

 

「…残り時間を考えてもここは時間を使って確実に攻めるべきだ。少なくとも、俺ならそうする」

 

同様の意見であった新海が胸の前で腕を組みながら言った。

 

「確かに、今の黄瀬君を考えればそれが無難な選択だけれど…」

 

顎に手を当てながら思案しながら言うリコ。

 

「守り切るんじゃなくて、あくまでも点を取って逃げ切るって事か…」

 

花月の選択の真意を読み取った火神。その選択の行き先を見守るのだった。

 

 

「(チマチマ攻めてたらいつ黄瀬に捕まるか分からねえ。迂闊に対峙したらボールを取られかねねえ。だったら、時間をかけず、そうなる前に決める!)…大地!」

 

フロントコートに入るのと同時に空が大地にパスをする。

 

「…っ!」

 

大地にボールが渡ると、すかさず黄瀬がチェックに入る。

 

「空!」

 

黄瀬に完全に捕まる前に大地が空にリターンパスを返す。

 

「行かせねえ!」

 

「止める!」

 

空にボールが渡るのと同時に小牧と末広がディフェンスにやってくる。

 

「(この密集地帯じゃこのダブルチームを突破するのに時間がかかっちまう…)」

 

ツーポイントエリアでボールを受けた空。しかし、スペースが少なすぎて2人を抜きさるにはボールを止めて揺さぶりをかける必要がある。しかしそれでは黄瀬に捕まる。

 

「こっちです!」

 

同じく中に走り込んだ大地がボールを要求した。

 

「…」

 

空はそちらに視線を向け、パスを出した。

 

『っ!?』

 

ここで、海常の選手達が目を見開いた。ボールは、走り込んだ大地にではなく、生嶋に出したからだ。

 

「ナイスパスくー!」

 

左アウトサイドでボールを受けた生嶋はすぐさまスリーの態勢に入った。

 

「くそっ、打たせるか!」

 

近くにいた氏原がすかさずブロックに飛んだ。しかし…。

 

「あっ!?」

 

生嶋はボールを頭上に掲げただけでシュートは打たなかった。真横に1歩スライドした生嶋はそこでシュート態勢に入った。

 

「っ!? 待て、生嶋!」

 

その時、空が制止をかけた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…えっ!?」

 

ボールを放った瞬間、突如現れた1本の手によってボールは叩かれた。

 

「ウチはリョウタだけで試合しとるんちゃうんじゃ!」

 

ブロックしたのは三枝だった。小牧と末広がダブルチームに入った瞬間、密かにフリーとなる生嶋とその生嶋に一瞬視線を向けた空の姿を目の当たりにし、ゴール下から飛び出して一目散に走っていた。自身がマークしていた松永をフリーにするのは賭けだったが、三枝はイチかバチか賭けを打った。結果、賭けに勝った。

 

「ナイス海! …黄瀬!」

 

ルーズボールを抑えた氏原がすぐさま黄瀬にパスを出した。

 

「くそっ、裏を掻いたのに読まれちまった…! 戻れ!」

 

悪態を吐いた後、空が声を上げる。

 

「…っと」

 

フロントコートに入った所で黄瀬が立ち止まる。大地がここで黄瀬を捉え、ディフェンスに入っていたからだ。三枝がヘルプに飛び出したのを視認した大地はカウンターの可能性を予期して戻っていたのだ。

 

「(止められなくてもいい、最悪、ファールしてでも…!)」

 

味方がディフェンスに戻る時間だけでもと集中力を高めてディフェンスに臨む大地。

 

「…」

 

目の前の大地を見て黄瀬は無理に仕掛けず、足を止めた。

 

「すまねえ大地!」

 

直後に大地の横に並ぶ空。続いて花月、海常の選手達が次々とフロントコートに走り込んできた。

 

「「…」」

 

「…」

 

睨み合う空・大地と黄瀬。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを突いていた黄瀬。突如として動き出し、仕掛けた。

 

「行かせ――」

 

切り込んできた黄瀬を追いかけるべく反転した空。しかし、そこに黄瀬の姿はなかった。

 

「っ!?」

 

振り返ると、先程立っていた位置よりさらに下がった位置に黄瀬はいた。

 

「(これは大地の!?)」

 

今起きた事の全容を理解した空。そう、これは自身の相棒である大地のコピーだ。

 

下がった位置でボールを掴んだ黄瀬はそこからシュート態勢に入った。センターラインギリギリにまで下がった為、空ではもうブロックには間に合わない。

 

「させません!」

 

黄瀬のバックステップをすんでの所で気付いた大地が今まさにシュートを放とうする黄瀬との距離を詰める。黄瀬がシュート態勢に入ると、大地はブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ大地。ここで大地は自分の目を疑った。シュート態勢に入ったはずの黄瀬が、飛んでいなかったからだ。

 

「(フェイク!?)」

 

ここで大地は初めて黄瀬がシュートフェイクをかけた事に気付いた。

 

「一気に点差を詰めさせてもらうッスよ」

 

 

――ドン!!!

 

 

シュート態勢に入った黄瀬。ブロックに飛んだ大地にぶつかりながらボールを放った。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が指を3本立て、笛を吹いた。

 

ボールは高くループし、落下。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのままリングの中心に落下し、潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

一連のプレーを見て観客が沸き上がる。

 

『ディフェンス、緑6番! バスケットカウント、ワンスロー!』

 

『っ!?』

 

花月にとって非情のコールを審判がする。

 

『キタ! スリーだぁっ!!!』

 

『しかもバスカン! これを決めれば4点差。もう射程圏内だ!』

 

スリーに加えてボーナススローを獲得。海常は一気に点差を詰めてきた。

 

『いいぞいいぞ黄ー瀬! いいぞいいぞ黄ー瀬!!!』

 

ベンチからもエールが贈られた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローも黄瀬がきっちり決め、4点プレーを成功させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「すごい…」

 

一連の黄瀬の躍動を見て桃井がただただ感嘆していた。

 

「高精度のフェイクを見せてさも切り込んだように見せてバックステップする事で綾瀬のプレーを再現しやがった。実際切り込んだ訳じゃねえがそう思い込ませる事が出来れば結果同じ事だ」

 

青峰が今のプレーの解説をする。

 

「最後、ミドリンのコピーの前…」

 

「五将の地のシュート。その前に高精度…紫原ん所の片目レベル…いや、それ以上のシュートフェイクを入れた。ここからでも引っ掛かりそうになったレベルだ。コートにいる奴らじゃ判別は無理だろうな」

 

「その前はむっくんのダンクの隙を無くす為に助走付けながらモーションに入って、さらにその前は大ちゃんのコピーに同じ無冠の五将の葉山さんのドリブルを複合させた…」

 

ゾーンに入ってからの黄瀬のプレーを振り返り、その凄さを改めて痛感した。

 

「ムムムッ、サッキマデ12点モリードガアッタノニモウ4点差ダ。ドウニカシナイト…!」

 

「無理だな」

 

アンリの言葉を遮るように青峰が否定した。

 

「今の黄瀬を止められる奴はいねぇ。例え、俺達(キセキの世代)でも、あの三杉や堀田だろうとな」

 

黄瀬を止める事が出来なければもはや試合は勝てない。だが、青峰はそれは無理だと断定する。

 

「…」

 

紫原は何も言わない。普段の彼であれば反論の1つでも入れただろう。だが、紫原自身も今の黄瀬を止める事が出来ないと理解していた。

 

「もう決まりかな?」

 

「あぁ。99%な」

 

桃井の質問に青峰はほぼ断定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ」

 

ボールを運ぶ空。その表情は険しかった。

 

「…」

 

目の前には黄瀬。一時は12点もあった点差があっという間に4点に。現状、黄瀬を止められず、さらに黄瀬から点が取れない。そろそろ攻守どちらかで突破口を開かないと敗北は必至。

 

「(敵は黄瀬だけじゃねえ。黄瀬の躍動でどいつも息を吹き返しちまってる。これじゃ迂闊にパスも捌けねえ…!)」

 

頼りの黄瀬が立て続けに止められて1度は士気が落ちかけた海常。しかし、黄瀬が躍進し始めて士気は今や最高潮だ。

 

「(俺が…俺が何とかしないと――っ!?)」

 

空が攻め手を定めていたその時、突然黄瀬が動いた。空のキープするボールを狙い打ったのだ。

 

「うおっ!?」

 

咄嗟に空は上半身を後方に倒しながらボールを横に流した。これを見た大地がその場から下がり、ボールを掴んだ。

 

「…っ!」

 

ボールを掴むと、小牧と末広が大地に対して激しくプレッシャーをかけた。

 

「…くっ!」

 

バチバチと身体がぶつかる程密着させ、ディフェンスをする2人。これではとてもじゃないがスリーは打てない。

 

「(……空いた!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

隙を伺っている大地。一瞬の隙が出来た瞬間、大地はロールしてダブルチームを突破した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

次の瞬間、大地の持つボールを横から伸びてきた1本の手に叩かれた。

 

「視野が狭まってるッスよ。点差がなくなって余裕がなくなったッスか?」

 

ボールを叩いたのは黄瀬だった。

 

「(…まさか、トラップディフェンス!?)」

 

ここで大地は気付いた。先程のダブルチームに出来た隙は意図的なもので、全ては黄瀬が待ち受ける方向に切り込ませる為の罠。

 

「ハハッ! 俺達にだってこれくらい」

 

「ただやられるだけじゃないぜ」

 

したり顔で小牧と末広が言った。

 

「俺を意識してくれるのは嬉しいッスけど、海常は俺1人のチームじゃないッスよ!」

 

ルーズボールをすぐさま抑えた黄瀬はそのまま速攻に走った。

 

『来るか!? 4連続得点!』

 

立て続けの海常の得点に観客が沸き上がる。

 

「くそっ! これ以上は!」

 

「何としてでも!」

 

フロントコートに突入した黄瀬。持ち前のスピードで誰よりも速くディフェンスに戻った空と大地が黄瀬を待ち構える。

 

「…試合終盤まで全く落ちないそのスピードには正直脱帽するッス。けど…」

 

 

――ボムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

2人の間にボールを叩きつけ、リング付近にボールを弾ませると、黄瀬がさらに加速して2人の間を抜け、フリースローラインからボールに向かって飛んだ。

 

『まさか…!?』

 

『レーンアップ1人アリウープ!?』

 

一部の観客が立ち上がりながら叫ぶ。

 

「んなのさせっかよ!」

 

「おぉっ!」

 

空と大地が反転し、黄瀬とリングの間にブロックに飛んだ。

 

「はぁっ!!!」

 

 

――ガシャン!!!

 

 

「なっ!?」

 

「っ!?」

 

ボールを右手で掴んだ黄瀬はそこからリングに向かって上からボールを投げつけた。ボールはリングの中心を猛スピードで通過し、床に叩きつけられて大きくバウンドした。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

その直後、会場が揺れる程の大歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…火神君!」

 

「…あぁ。今のは、メテオジャムだ」

 

今のプレーを見た黒子と火神が思わず目を見開いた。そう、今黄瀬が披露したのは火神最大の必殺技であるリングの上からリングに向かってボールを叩きつける流星のダンク(メテオジャム)であった。

 

「…ドリブルしながらやる従来のと違って、あらかじめボールを弾ませておいて助走のスピードを付ける事で足りないジャンプ力を確保した」

 

技の本来の使い手である火神はドリブルしながら踏み切って行うが、黄瀬はボールを弾ませ、ボールを持たずに助走を付ける事で再現した。ドリブルしながらよりボールも何もない状態で助走を付けて飛べばある程度高く飛ぶ事が出来るからだ。

 

「とんでもないセンスだわ。もはや手の付けようもないわ」

 

冷や汗を流しながらリコが分析した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り2分1秒。

 

 

花月 98

海常 96

 

 

「……ちっ!」

 

「……くっ!」

 

点差はこれで2点。スリーを決められれば逆転。この状況に思わず空は苦々しく舌打ちをし、大地は心痛な面持ちとなった。

 

「君達は強い。資質なら俺より上かもしれない。けど、俺には勝てない」

 

2人の方に振り向いた黄瀬が口を開く。

 

「俺は海常に来て、先輩達を見てきた。その先輩達が志半ばで無念の思いを抱えて引退してきた姿を見てきた」

 

「「…」」

 

「君達はまがりなりにも去年の夏を優勝して、その年の冬は緑間っちのいる秀徳に勝って青峰っちのいる桐皇を後一歩まで追いつめてる。引退した君らの先輩達だって満足してたんじゃないッスか? けど、俺の先輩達は違う」

 

「「…っ」」

 

黄瀬の言葉に2人は表情が曇る。

 

卒業していった花月の先輩達とて決して悔いはなかった訳ではない。だが、花月が急激に強くなったのは空達が入学してきてからだ。過去の実績から考えればこれ以上にない大健闘であり、悔い以上に満足な思いがあっただろう。しかし、海常が違う。全国常連の実績があり、全国の頂点に目指す彼らは優勝以外では満足出来ない。

 

「俺はその先輩達の無念をこのキャプテンマークと一緒に背負ってるんスよ。俺は誓った。引退していった先輩達に必ず海常を優勝させるって。だから俺は負けない。ただ勝ちたいだけの君達には絶対に負けない」

 

そう言い放ち、黄瀬は2人の横を通り抜けた。

 

「……ただ勝ちたいだけか」

 

黄瀬に言われた言葉を口に出す空。

 

「それの何が悪い?」

 

「…?」

 

空の言葉が聞こえた黄瀬は足を止め、振り返った。

 

「俺はあんた程の思いは背負ってないかもしれない。それでも、花月を優勝させたい気持ちは誰にも負けるつもりはねぇ」

 

「私達も誓ったのですよ。必ずあなた達キセキの世代を倒すと」

 

「誓った? 誰にスか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「俺(私)達自身にだ(です)!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

その時、2人の変化に黄瀬が気付いた。

 

「このまま終わらせねえ。勝つのは俺達だ」

 

「もう負けはいりません。絶対に勝ちます」

 

黄瀬の目をしっかり見据えながら空と大地はそう宣言した。

 

「…ふぅ、やれやれ。ホント君達は楽させてくれないッスね」

 

溜息を吐きながらやや自嘲気味に黄瀬が言う。

 

「上等ッスよ。ここまで来たら実力も実績も何もない。より勝ちたいと思う方が勝つ。だったら、勝つのは俺達だ!」

 

真剣な表情に改めた黄瀬が空と大地及び花月の選手に言い放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は遂に最大の佳境を迎える。

 

高校最強の敵となった黄瀬の猛威が襲い掛かり、2点にまで点差を詰められた花月。

 

そんな黄瀬率いる海常を倒す為、再び同時に扉を開いた2人が立ち向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





少し短めですが、キリがいいので一旦ここまでです。

次話にて決着……出来るかも…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第131Q~選択~


投稿します!

遂にこの試合も決着。かなり長くなりましたが、区切る所もないので、切らずに投稿。まあ、前話が短かったので…(;^ω^)

先に、とある有名作品のオマージュがあります。

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り2分1秒。

 

 

花月 98

海常 96

 

 

試合時間残り5分を切った所で黄瀬が切り札であるパーフェクトコピーを使って畳みかけるも、空と大地のダブルチームが封殺。逆に点差を12点にまで広げた。

 

しかし、黄瀬がゾーンに入り、パーフェクトコピー+ゾーンで攻め立て、12点もあったリードもたちまち2点にまで縮める事に成功した。

 

絶望が花月を支配しかけたその時、空と大地がゾーンの扉を開いたのだった。

 

 

「…」

 

ボールを運んでいるのは空。ゆっくりとボールを進めていく。

 

「…」

 

その2メートル程横を大地が並んでいる。

 

「…」

 

フロントコートに到達すると、ボールを持つ空に黄瀬がディフェンスにやってきた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬がやってくると、空が突如加速。クロスオーバーで切り返しながら仕掛ける。

 

「…っ!」

 

これに黄瀬が対応、遅れる事なくピタリと並走する。

 

 

――スッ…。

 

 

同時に空がバックロールターン……しながら後ろにパス。スリーポイントラインから1メートル離れた位置に立っていた大地にパスを出した。

 

「…っ」

 

その位置からシュート態勢に入る大地。すかさず黄瀬は青峰のコピーで空いた距離を一気に詰める。

 

『は、はえー!?』

 

 

――ピッ!!!

 

 

大地はシュートを中断し、ボールをリング付近に放る。するとそこに空が走り込んでいた。

 

「…っ!」

 

黄瀬は急停止して再び反転。ボールを持った空を追いかける。リングに向かって飛んだ空の前に回り込み、ブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

目の前に黄瀬が現れると、空はボールを斜め後ろに放った。

 

「っ!?」

 

そこに大地が走り込み、飛びながらボールを掴んだ。

 

 

――バス!!!

 

 

大地は空中で掴んだボールをそのまま放り、ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「よし!」

 

パチン! と空と大地がハイタッチを交わす。得点が止まっていた花月にとっての大望の得点。花月の選手達の頬も綻んだ。

 

「…」

 

ディフェンスに戻る空と大地を無言で見つめる三枝。自身がバスケを教えたかつての弟分である2人。2人の持つ才能の誰よりも気付いていたのが三枝であり、いつかは自分を超える日が来る事は分かっていた。

 

「つよなったのう」

 

思わずそんな声が漏れていた。その瞬間が来て嬉しくもあるが、状況が状況の為、複雑な心境であった。

 

「海っち」

 

そんな三枝に黄瀬が声を掛ける。

 

「ボール貰っていいスか? それと、サポートお願いするッス。俺でもあの2人を同時に相手するのはきつそうスから」

 

ボールを要求しながら黄瀬がサポートを頼んだ。

 

「任せい。残り時間全てお前に託すぞ。ワシも…いや、ワシ達は全力でリョウタのサポートしちゃるわ」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら三枝は返したのだった。

 

海常のオフェンス。ボールは小牧から黄瀬に渡される。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「…くっ!」

 

フロントコートまで進み、空と大地がダブルチームでやってくると、黄瀬が仕掛ける。赤司のコピーをし、大地がアンクルブレイクを起こす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、黄瀬が加速。青峰のコピーで切り込む。

 

「…っ」

 

アンクルブレイクが効かない空がこれに反応。持ち前のスピードで黄瀬を追いかけ、右腕を伸ばして黄瀬の進路を塞いだ。

 

「…」

 

空の右手に阻まれると、黄瀬は急停止。

 

「…っ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何かを察知した黄瀬が咄嗟にボールを右から左に切り返す。すると、背後から大地が伸ばした手が空を切った。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

ボールを切り返した瞬間、今度は空がボールに手を伸ばし、指先がボールを捉えた。

 

「…っと」

 

ボールが黄瀬の手から離れたが、すぐさま黄瀬がボールに手を伸ばし、再びキープした。

 

「(…ゾーンに入ってスピードと集中力が増しただけじゃない、2人のコンビネーションにも磨きがかかってる。一瞬でも隙を見せればボールを奪われる…!)」

 

紙一重でボールを抑えた黄瀬は心中で警戒心を高めた。

 

「(…これでもダメか。迂闊にボールを狙えばその瞬間抜かれちまう)」

 

「(空と2人がかりで抜かせないだけで精一杯とは。一瞬たりとも集中を切らせばその瞬間抜かれてしまう…)」

 

空と大地はゾーンに入り、それでも尚容易にボールを奪えない事に驚きを隠せなかった。

 

「…」

 

ゆっくり下がりながらドリブルをし、隙を窺う黄瀬。視線を2人から僅かに逸らしたその時…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

再び加速。今度は揺さぶりなしで切り込んだ。

 

「…ちっ」

 

青峰のチェンジオブペースで切り込む黄瀬。再び追いかけようとした空が思わず舌打ちをした。末広がスクリーンをかけており、それを察知した空だったが、スクリーンをかわす為に距離が膨らみ、遅れを取ってしまう。

 

「…っ」

 

大地が1人黄瀬を追いかける。並走しながらボールを奪うチャンスを窺う。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

フリースローライン付近で黄瀬がボールを掴んで急停止。直後にシュート態勢に入った。

 

「…っ!」

 

大地も黄瀬の前に回り込みながら急停止し、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

ここで大地が目を見開いた。黄瀬が飛ぶのを見計らってブロックに飛んだ大地だったが、黄瀬は右方向に、大地のブロックを避けるように飛んでいた。

 

 

――バス!!!

 

 

横っ飛びしながらリングに放り投げられたボールは、バックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『うぉぉぉーーっ!!! 何であれが入るんだぁっ!!!』

 

本家顔負けのフォームレスシュートに観客が沸き上がった。

 

「…っ」

 

失点を防げず、思わず悔しさが表情に現れる大地。

 

「切り替えろ大地。肝心なのはオフェンスだ。きっちり決めりゃ問題ねぇーんだからよ」

 

真剣な表情で黄瀬を見据えながら大地に声を掛ける空。

 

「えぇ、そうですね」

 

その言葉に同調し、同じく黄瀬を見据えた。

 

「さっきと同じだ。合わせろよ」

 

「もちろんです」

 

スローワーとなった松永からボールを受け取った空は大地と並びながらフロントコートまで進んで行った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フロントコートまで進んだ空は一気に加速。正面から突っ込んで行った。

 

「…」

 

当然、立ちはだかるのは黄瀬。両腕を広げて待ち受ける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スピードが乗ったまま空が黄瀬の手前でクロスオーバーで切り返した。黄瀬もこれに対応すべく空を追走する。

 

 

――スッ…。

 

 

直後、空はボールを後ろへと放る。するとそこに大地が走り込み、ボールを掴んだ。

 

「…っ!」

 

大地にボールが渡ったのを見て黄瀬が大地のチェックに向かう。

 

「…あっ!?」

 

ベンチの姫川が思わず声を上げる。大地にボールが渡ると、大地をマークしていた小牧と末広が空のマークに付き、ディナイをかけてパスコースを塞いだのだ。これにより、大地は即座に空にパスを出せず、空が2人のマークを外す頃には黄瀬に捕まっている。空以外の選手で点を取るのは現状難しい為、ここは大地が1人で点を取りに行くしかない。

 

「…」

 

ゾーンに入っていた大地は即座に現状を把握、バックステップでスリーポイントラインのやや内側まで下がり、距離を取った。

 

「(この距離なら間に合う! 仮にパスやドリブルに切り替えられても対応出来る!)」

 

即座に予測を立てた黄瀬。

 

「(まずい、このまま打ちに行ってもブロックされる!)」

 

同じく予測を立てた大地は自身の最悪の未来を予見してしまう。パスもドリブルもダメ。

 

「(こうなったら…!)」

 

八方塞の大地はイチかバチかの賭けに打って出た。

 

「っ!?」

 

大地の行動を見て黄瀬が目を見開いた。大地はバックステップを踏んだ足で後ろに飛び、シュート態勢に入ったのだ。バックステップしながらのフェイダウェイ。大地との距離がさらに生まれた。

 

「くっ!」

 

それでも青峰のコピーで距離を詰めて紫原のコピーでブロックに飛ぶ黄瀬。しかし、先のバックステップからの即座に片足でのフェイダウェイ。それにプラスしてクイックリリースで放たれたボールに紙一重で届かなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは見事にリングを潜り抜けたのだった。

 

「っし!」

 

得点を決めた大地は拳を握り、小さく声を出しながら喜びを露にした。

 

「やるじゃねえか」

 

駆け寄った空が大地を労う。

 

「以前から練習はしていましたが、練習でも成功確率は3割程度だったので、これまではやりませんでしたが、やはり、賭けを打つのは心臓に悪いですね」

 

軽く苦笑しながら大地は返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「何だ今の? バックステップで下がった足で後ろに飛んでシュートを打ちやがった」

 

今のプレーを見ていた朝日奈が驚いている。

 

「ノヴィツキーの得意技だ」

 

火神が口を挟んだ。

 

「ダーク・ノヴィツキー。NBAの名プレーヤーで、その代表技がステップを踏んだ足でそのまま後ろに飛びながら打つ片足フェイダウェイよ。213㎝の高身長の彼がこれを武器に得点を量産してその名をNBAに轟かせたわ」

 

続けてリコが解説をした。

 

 

「あんな隠し玉がまだあったのか。大した奴だ」

 

青峰も今のプレーを絶賛した。

 

「花月はきーちゃんがゾーンに入ってから得点が止まってたけど、神城君と綾瀬君がゾーンに入ってからまた得点が出来るようになってきたね」

 

「とは言え、どれも紙一重だけどな。さっきのも、次やっても入る保証はねえ」

 

桃井の感想に青峰が解説を入れる。

 

「(とは言っても、もう時間がねえ。どうすんだ黄瀬。そろそろ何か手を打たねえと手遅れになんぞ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り1分4秒。

 

 

花月 102

海常  98

 

「…」

 

黄瀬にボールを託し、海常のオフェンス。ボールを運びながら黄瀬は攻め手を定めている。

 

「…」

 

「…」

 

当然、黄瀬の目の前には空と大地がダブルチームで付いている。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬が青峰のコピーで仕掛ける。黄瀬から見て右側に立つ空のいる方向から切り込んだ。

 

「行かせねえ!」

 

遅れずにピタリと並走し、大地はバックステップで後ろに下がり、黄瀬の進路を先回りで塞いだ。直後、黄瀬がボールを掴んだ。

 

「(どういうつもりだ? まだマークは外せてねえぞ…)」

 

「(パスコースもありません。いったい何を…)」

 

その行動に空と大地が怪訝そうな表情をする。すると、黄瀬がステップバックを踏んでスリーポイントラインの外側まで移動した。

 

「…っ!?」

 

「まずい!」

 

ここでようやく黄瀬の狙いに気付いた2人が慌ててチェックに入る。黄瀬はステップバックをした足でさらに後ろに飛びながらシュート態勢に入った。

 

「ちっ!」

 

「くっ!」

 

ブロックに飛んだ2人だったが、もともと身長差がある上に距離を空けられてから後ろに飛ばれた為、届かず、放たれたボールは2人の伸ばした手の上を越えていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを的確に射抜いた。

 

『きたぁぁぁぁーーーっ!!! ここでスリー!!!』

 

『遂に均衡が崩れたぞ!!!』

 

起死回生のスリーに観客が盛大に沸き上がった。

 

「…っ!」

 

視線をリングから黄瀬に向ける大地。

 

「さっきはいいもの見せてもらったッスからね。早速使わせたもらったッスよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら黄瀬は大地に告げ、ディフェンスに戻っていった。

 

「…っ」

 

拳をきつく握りながら悔しさを露にする大地。自身が練習に練習を重ね、ようやく実戦で使えるレベルにまで達したものの、未だ不完全な技。それを見ただけで、しかもスリーでコピーされた事にあらゆる感情が入り混じっていた。

 

花月のオフェンス。空がボールを運び、黄瀬がチェックに来る前に大地にパスを出した。

 

「…っ」

 

左アウトサイド、スリーポイントラインの僅か外側でボールを持った大地。ボールを持ったのと同時に小牧と末広が大地に激しく当たってきた。身体がぶつかる程の激しいディフェンス。とにかく大地のスリーを警戒し、最悪抜かれても構わないという覚悟である。

 

「ヤバい、強引に切り込んでもそこを黄瀬に狙われてしまう!」

 

最悪の未来を予想した竜崎。黄瀬は空を見つつもいつでも大地のカットインに対応する準備が出来ている。このダブルチームを突破しても直後に狙われかねない。

 

「生嶋! お前がボールを貰いに行け!」

 

ここでベンチから菅野が指示を出した。これを聞いた生嶋がボールを貰いに行く。

 

「させねえ!」

 

当然、生嶋をマークする氏原が追いかける。

 

「…くっ!」

 

思わず表情を歪める生嶋。これではボールを貰ってもシュートにまで持っていけない。

 

「…おぉっ!」

 

その時、大地が動いた。

 

「なっ!?」

 

「何だと!?」

 

何と、大地は2人の激しいチェックを受けながら強引に打ちに行ったのだ。

 

「っ!?」

 

「マジか!?」

 

これには黄瀬はもちろん、空でさえも驚いていた。

 

「リバウンド!!!」

 

海常ベンチから声が上がった。

 

「黄瀬に自身のコピーをされて冷静さを失ったか。三枝! ここは絶対抑えろ!」

 

同じくベンチの武内から指示が出る。

 

「任せい!」

 

ゴール下には三枝と天野と松永。三枝が天野をパワーとテクニックで強引に抑え込み、ポジションを確保する。

 

「(っ!? あかん…、ええポジションが取れへん!)」

 

不意を突かれた天野はポジションに入るが遅れ、絶好のポジションを奪えない。

 

「(天野先輩はダメだ。俺が取るしかない!)」

 

抑え込まれた天野を見て松永が覚悟を決める。自分が絶対にこのリバウンドを制すると。

 

『…っ!』

 

ボールの行方に会場にいる全ての者が注目する。試合の行方を左右しかねないこのボール。だが、次の瞬間、会場中の全ての者が驚愕に包まれる事となった。

 

 

――バス!!!

 

 

『…』

 

ボールがバックボードに当たりながらリングを潜り抜け、会場が静まり返る。

 

『おっ…』

 

何者かが状況を理解し、声を上げると…。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

同時に会場が割れんばかりの歓声に包まれた。

 

『何であれが決まるんだよ!?』

 

『あり得ねえ!!!』

 

ビックショットが決まり、観客はとんでもないものを見たとばかりに声を上げる。

 

『…っ』

 

あまりの出来事に言葉を失う海常の選手達と監督の武内。花月にとっては希望の1本も海常にとっては絶望の1本。残り時間1分を切ってこのスリーは致命傷とも言える1本だからだ。

 

「返しましたよ」

 

黄瀬にそう告げる大地。

 

「……ふぅ」

 

とうの黄瀬は溜息を吐くしかなかった。

 

「…そういや、ああ見えて大地は俺と同じくらい負けず嫌いだったけな」

 

自身の相棒である大地の内面を思い出す空。

 

「ホント、あいつが敵じゃなくて良かったぜ」

 

頼もしいと思うのと同時にその才能に苦笑する空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「走れ!」

 

海常のリスタート後、早々にボールを受け取った黄瀬が声を出し、時間をかける事無く突き進んでいった。他の海常の選手達も黄瀬に続いて一斉に走り出した。

 

「絶対に死守だ! 何が何でも止めるぞ!」

 

花月は空が声を出す。

 

フロントコートまで進んだ黄瀬は空のチェックが入る直前に横を走る小牧にパス。ボールを受け取った小牧はすかさず黄瀬にリターンパスを出した。

 

「行かせません!」

 

ツーポイントエリアに侵入した黄瀬。強引に進もうとする黄瀬を大地が身体を張って阻止する。

 

「…っ」

 

大地の健闘によりリングに近付けない。これ以上強引に行けばファールを取られる可能性がある為、行けない。

 

「ナイスだ大地!」

 

そこへ、空が黄瀬の背後から襲い掛かる。

 

「(だったら!)」

 

黄瀬は強引に中には行かず、そのまま前に進んでいく、やがて、エンドラインが目の前にやってくる。

 

『抜けてないぞ!?』

 

『追い込んだか!?』

 

依然として大地を抜けてはおらず、すぐ傍には空が来ている。

 

「「っ!?」」

 

ボールを掴んだ黄瀬はエンドライン目前で飛びながら背中を床に向けた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

その態勢のままボールを高く放り投げた。

 

「しまっ…!」

 

「くっ!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

エンドラインを越えた所から高く放り投げられたボールはバックボードの後ろから真っすぐリングに向かって落下し、その中心を通過した。

 

『うぉぉぉーーっ!!! ここで本家顔負けのフォームレスシュートだぁっ!!!』

 

リスタートしてすぐに黄瀬が青峰のフォームレスシュートを決め、点差を2点に再び戻した。

 

 

第4Q、残り16秒。

 

 

花月 105

海常 103

 

 

「最後の勝負だ! 力を振り絞れ! 絶対に止めろ!」

 

『おう!!!』

 

ベンチの武内が立ち上がり、選手達に声を張り上げて鼓舞する。

 

『ディーフェンス!!! ディーフェンス!!!』

 

海常ベンチの選手達も腹の底から声を出し、コート上の選手達の応援をしている。

 

『…』

 

ボールを花月ボール。それぞれのマークを激しくディフェンスをしている。花月の選手達は引いてボールを回し、時間を浪費していく。

 

「(…ちっ、1本決めてトドメ刺してーが、迂闊に攻めればボールを奪われかねねえ…!)」

 

普段の花月がすれば実に消極的な選択。だがこれは、望んでの事ではなく、海常の選手達の気迫がそうさせているのだ。

 

「…くそっ!」

 

「ちぃっ!」

 

一刻も早くボールを奪いたい海常の選手達の表情に焦りの色が出る。

 

 

「…花月は時間を使い切る選択をしたか」

 

「当然だな。この状況なら普通はそうだ。俺でもそうするさ」

 

若干不満気に口にする池永に対して、新海はこの選択を支持した。

 

 

「(…っ、速くボールを奪わないと!)」

 

残り時間10秒を切り、さらに焦りが加速する末広。

 

「(考えろ…、考えるんだ。ボールを奪う方法を…)」

 

必死に思考を巡らせる小牧。

 

「(こんな所では終われない! 絶対にボールを奪って黄瀬に…!)」

 

何としてでもボールを奪って黄瀬に渡そうと意気込む氏原。

 

「(ただ待っていても勝機はやってこん。勝機はワシらの手で手繰り寄せるんじゃ!!)」

 

勝利の為、がむしゃらに動く三枝。

 

「(黒子っちや火神っち、誠凛は何度も奇跡を起こしてきた。今度は俺達が起こすんだ!)」

 

自らの手で奇跡を起こす為、黄瀬は走り回る。

 

隙を見せず、ボールを奪うチャンスを窺う海常の選手達。外に展開していた天野から同じく外の右45度付近に移動した生嶋にパスを出す。

 

「うぉぉぉーーっ!!!」

 

パスが出される直前に三枝がゴール下を離れ、生嶋目掛けて猛ダッシュ。一気に距離を詰める。

 

「っ!?」

 

この行動に動揺を見せる生嶋。

 

「(来た!? シュート……ダメだ。まっつんもパスコースを潰されてる!)」

 

突然の事に生嶋の頭が軽くパニックを起こす。

 

「くっ!」

 

ここで生嶋は視界に入った空にパスを出す。

 

「(ここだ!)」

 

「っ!?」

 

残り時間7秒。黄瀬が勝負をかける。センターラインの僅か前に立つ空に生嶋からパスが渡った瞬間、黄瀬が一気に距離を詰め、チェックに入った。

 

「しまっ…くー!」

 

三枝のチェックに動揺したのか、僅かに緩めにパスを出してしまった生嶋。このパスを見逃さなかった黄瀬が走り、空が次にパスを出す前にチェックに入った。

 

「…ぐっ!」

 

ファールスレスレの激しい当たり。パスコースもスペースもない為、ボールをキープするだけ精一杯である。

 

「(ボールは渡さねえ! 死んでも渡さねえ!)」

 

必死に黄瀬の手をかわし、ボールをキープし続ける空。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを狙う黄瀬の手をかわす為に後ろにボールを引いたその時、空の手からボールが弾かれる。

 

「ハハッ、どうだ!!!」

 

ニヤリと笑う小牧。

 

「よくやった小牧!」

 

ベンチから武内が声を出す。

 

ボールを弾いたのは小牧。黄瀬からボールを死守するのに必死で周囲にまで気を配る余裕がなかった空は忍び寄る小牧に気付けなかった。

 

「助かったッスよ!」

 

すかさず黄瀬がボールを拾った。この時、試合時間残り5秒。

 

『よっしゃぁぁぁっ!!! 行け黄瀬ぇぇぇっ!!!』

 

零れたボールが黄瀬に渡り、海常ベンチの選手達、監督が立ち上がりながら拳を握った。

 

「これで…!」

 

センターラインの僅か手前でボールを拾った黄瀬はすぐさまシュート態勢、緑間のコピー、超ロングレンジのスリーで逆転を狙いに行く。

 

「黄瀬!!!」

 

「っ!?」

 

その時、氏原が大声を上げる。その声に反応した黄瀬は、スリーを中断した。

 

「ちっくしょう!!!」

 

すると、黄瀬の後ろから飛び上がった1つの影、空の姿があった。ボールを奪われた空だったが、すぐさまボールの行方に切り替え、ブロックに飛んでいたのだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

氏原の声でそれに気付いた黄瀬はスリーを中断してそのままドリブルを始めた。今度こそスリーを……と、思われたその時!

 

「させません!」

 

ドリブルを始めた直後、大地がやってきて、黄瀬の横に並んだ。

 

「…っ」

 

大地がやってきて、しかも利き手である右手側からチェックに来た為、再度緑間のスリーは放てず、黄瀬はドリブルを続行した。

 

「(止める! 絶対に止めて勝つんです!)」

 

チームの勝利の為、何としてもと執念を燃やす大地。

 

もうまもなくスリーポイントラインがやってくる、海常が逆転するには3点が必要。だが、大地が横にいる今の状況、しかももう揺さぶりをかける時間がない状況でスリーを打つのは極めてハイリスクだ。しかし、2点を狙って延長戦に望みをかける選択ならば比較的リスクは低くなる。

 

 

――1発逆転か…、それとも延長戦か…。

 

 

黄瀬が選ぶ選択は…。

 

 

――キュッ…。

 

 

スリーポイントライン目前で黄瀬のスピードが僅かに緩んだ。

 

「(っ! スリー!?)」

 

それを察知した大地がスリーの要警戒態勢に入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、黄瀬は僅かにスピードを緩めた直後、再度加速をして中に切り込んだ。

 

「(くっ! フェイク…!)」

 

黄瀬は中に切り込んで確実に2点を取る方を選択した。スピードを緩めた事で大地はスリーを警戒して同じくスピードを緩めてしまった。スリーを警戒させ、確実に2点を取る為に黄瀬はスピードを緩め、スリーを意識させて大地の足を緩めさせた。

 

「まだです! まだ終わりではありません!」

 

僅かに距離が空いたが、それでも大地は諦めずに黄瀬を追いかける。

 

中に切り込んだ黄瀬がフリースローラインを踏み、さらにもう1歩踏み込み、そこでボールを掴んだ。

 

「(追い付いた!)」

 

同時に大地は黄瀬に追い付いた。

 

リングに向かって飛ぶ為、踏み込んだ黄瀬の足に力が籠る。

 

「(止める! ここを止めて――)」

 

黄瀬がリングに向かって飛んだ。…だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――大地は飛んでいなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

その場で足を止めた大地を見た黄瀬の目が見開く。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

阻む者が何もない黄瀬はそのままリングにボールを叩きつけた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に第4Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第4Q終了。

 

 

花月 105

海常 105

 

 

時間内に決まった黄瀬のダンクのよる得点が加点される。

 

『……お』

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

同時にこの日1番の大歓声が会場中に響き渡った。

 

「ハァ…ハァ…」

 

リングから手を放し、床に着地した黄瀬が振り返る。

 

「…」

 

下を向いていた大地が顔を上げ、黄瀬と視線を合わせる。そして、大地は踵を返して歩き出した。

 

「キャプテン!」

 

「黄瀬!」

 

小牧と氏原が興奮が冷めやまない様子で黄瀬に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…大地」

 

ゆっくり歩み寄った空が声を掛ける。

 

「すいません空」

 

「いやいい。それより延長戦だ。あともう少し働いてもらうぜ」

 

「もちろんです」

 

謝罪をする大地を制し、空はニコリと笑いながら冗談交じりに言うと、大地もニコリと笑いながら返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『同点に伴い、これより延長戦を開始します!』

 

会場内に放送される。

 

『あそこで同点に追い付くあたり、さすがキセキの世代だよな』

 

『最後何でブロックに行かなかったんだ?』

 

『直前に黄瀬が入れたフェイクにかかったからだよ。俺には分かったぜ』

 

観客達が各々先程の感想を言い合っていた。

 

「…」

 

コートを見つめていた青峰が踵を返して歩き始めた。

 

「ちょっと大ちゃん! 何処行くの!?」

 

そんな青峰を見て桃井が思わず話しかける。

 

「…帰る」

 

「帰るって、これから延長戦だよ?」

 

「もう結果は決まった。誠凛も秀徳も洛山も、番狂わせはねえだろうから、これ以上見る価値はねえ」

 

止める桃井。しかし青峰は構わず会場の外に向かって歩き始めた。

 

「俺も帰るわー。じゃーね峰ちん、さっちん」

 

「アツシ! 君モカイ!?」

 

続いて紫原もその場を後にし、アンリが慌てて追いかけていった。

 

「(…最後、あいつらの1ON1。文字通り勝敗を左右した)」

 

歩きながら青峰は大地と黄瀬の最後に対決を振り返っていた。

 

黄瀬にはスリーを決めて1発逆転を狙う選択肢と2点を取って延長戦に望みをかける2つの選択肢があった。黄瀬はスリーポイントライン目前で僅かにスピードを緩め、大地にスリーを意識させた。スリーを決められれば逆転されてしまう為、当然大地は無視出来ない。大地の意識にスリーが刷り込まれ、迷いが生まれたのを見て黄瀬は中に切り込み、2点を取った。

 

「(2点を取って延長戦に向かう。そう思わせる事が黄瀬の本当の狙いだった。黄瀬はフェイクをかけて中に切り込む際、わざと直前に綾瀬を追い付かせた)」

 

あの時、スリー阻止の為にスピードをかなり落とした大地では、僅かにスピードを緩めただけの黄瀬に追い付く事などあり得ない事だった。では何故追い付けたのか。それは、黄瀬本人がスピードを落として追い付かせた事に他ならない。では、何故追い付かせたのか…。

 

「(黄瀬の本当の狙いは、焦ってブロックに来たあいつ(大地)からファールを受けながら得点を決める事だった…)」

 

ファールを受けて得点を決めてバスカンをもぎ取り、フリースローを決めて逆転。それが黄瀬の思い描いたシナリオだった。

 

黄瀬は理解していた。チームの状態、そして自身の限界を。延長戦を向かった際の結果を…。故に、ここで逆転し、試合を終わらせたかった。

 

直前にそれに気付いた大地はブロックに飛ばず、延長戦で決着を付ける選択をした。

 

「…ちっ、俺のいねえ所で楽しみやがってよ」

 

嫉妬に駆られた苛立ちを胸に抱きながら青峰は会場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

延長戦が開始されると、すぐさま両ベンチの監督が動いた。

 

花月は天野と松永を下げ、竜崎と室井を投入。海常は黄瀬をベンチに下げた。この行動に、主に海常の武内の判断に疑問を抱いた者は多かったが…。

 

「ハァ…ハァ…」

 

ベンチに入るなり呼吸を大きく乱しながら座る黄瀬。その姿を見て如何に黄瀬が消耗していたのかを理解した。

 

黄瀬はもう限界…いや、限界をとうに超えていたのだ。パーフェクトコピーを使いながらゾーンの扉を開いたので当然の事であった。むしろ、ここまでもたせた事自体が奇跡と言っても過言ではないのだ。

 

武内は黄瀬を下げた。だが、これは黄瀬を休ませる為の処置。延長戦の5分の内、2分。途中タイムアウトも行使して計3分を黄瀬の休息に当て、その間、とにかく時間をかけて攻め、ディフェンスはファールを覚悟で当たる事で時間を浪費し、失点を最小限に抑え、試合時間残り3分で黄瀬を再投入し、逆転。逃げ切る作戦だった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地のジャンプショットが決まり、末広がボールを拾い、スローワーとなって小牧のボールを渡した。その時、花月が動いた。

 

「当たれ!!!」

 

花月ベンチに座る上杉が大声で指示を出すと、花月の選手達が一斉にオールコートマンツーマンを仕掛け、海常の選手達に激しくディフェンスに当たった。

 

『っ!?』

 

この行動に海常の選手達は驚きを隠せなかった。既に1試合分の時間が終了しており、限りなくスタミナが消耗している状態でこの選択。この選択が海常を追い詰めていく。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

花月のオールコートマンツーマンによりスティールを連発し、ボールを奪って行く。

 

上杉は分かっていた。黄瀬が既に限界を迎えている事。黄瀬を下げて休息させ、その間、時間をかけて攻めて来る事を。それを見越して試合開始から出ずっぱりだった天野と1度は負傷退場したものの格上の三枝とマッチアップをしてスタミナが削られていた松永を下げた。もともとの運動量が豊富な空と大地に、交代を駆使してスタミナ消耗がそれほどでもない生嶋、竜崎、室井ならばこの局面でもオールコートマンツーマンを仕掛けても何ら問題はない。

 

作戦は的中。既に1試合分、それも両チーム100点を超える試合を戦い抜いた海常は突破出来ず、花月はスティールを連発して連続得点を重ねていった。途中、海常はタイムアウトを取って対策を立てたが、気休め程度にしかならなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

延長戦2分が経過した所で黄瀬を再投入。黄瀬が得点を重ねていき、再び花月との点差を詰めていく。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

黄瀬が再投入され、1分半が経過した所で海常が花月を捉え、逆転を果たした。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

しかし、ここでベンチに下がって蓄えた黄瀬の僅かな体力が底を尽きた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬の横を高速で駆け抜ける大地。黄瀬はそれに反応は出来たが、鉛のように重くなった身体は動かなかった。

 

 

――バス!!!

 

 

逆転に成功した海常だったが、瞬く間に逆転されてしまった。縦横無尽に動く空と大地。外から狙い打つ生嶋。その3人を竜崎と室井が全力でフォローし、花月が得点を重ねていく。そして…。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

気合い一閃。黄瀬が自陣のゴール下から残った力を振り絞って緑間のコピーである超ロングレンジスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了。

 

 

花月 121

海常 118

 

 

黄瀬の最後のスリーが決まり得点が加算されるも、逆転には至らず、長い長い激闘を花月が制し、花月が準決勝進出を果たしたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー、終わった…(>_<)

何気にこの試合投稿し始めたのは5月下旬。まぁ、この世界の時間軸の去年のインハイの時と比べれば速いペースか…(^-^)

前話投稿して、普段、投稿した週のUAはせいぜい2000くらいなんですが、今週は何故か4000と普段の倍になってて驚いた。ランキングに乗ったわけでもないのに何が起こった…(;^ω^)

おかげでこの試合の結末がこれで良いのか迷った。賛否両論…恐らく否が多くなりそうで怖いですが、正直、結末は試合に勝って勝負に負けたこの展開が1番だと自分では判断しました。原作最強のパーフェクトコピー+ゾーンの黄瀬は超えてはいけない。しかし、花月を勝たせる展開にしたいので、結果、こうしました。

1つの山が終わり、そしてまた次に山が来るんですが、正直、先の陽泉戦、今回の海常戦以上にネタがないんですよね…Orz

これまでは運よく浮かびましたが、次はガチで厳しい。

大丈夫かな…(ノД`)・゜・。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第132Q~次なる山~


投稿します!

急に気温が下がったな…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了。

 

 

花月 121

海常 118

 

 

延長戦を含む、計45分の長い戦いが終わった。

 

「……ふぅ」

 

「…」

 

激闘を制した空と大地だが、勝利に歓喜するでも涙するでもなく、ただ安堵していた。

 

土壇場での海常…黄瀬の猛追にただただ圧倒された。試合でも結局全力の黄瀬を2人がかりでも止める事が出来なかった。

 

『…』

 

それは他の花月の選手達も同様で、緒戦で陽泉に勝利した時のムードはなく、試合に勝てた事に胸を撫で下ろしていた。

 

「…っ」

 

悔しさで下を向き、きつく拳を握りしめる小牧。

 

「くそっ! くそっ!」

 

膝を付いて床を叩きながら悔しさを露にする末広。

 

「…くっ!」

 

涙を流しながら悔しさを噛みしめている氏原。

 

「…」

 

腰に手を当て、目を瞑りながら天井に顔を向ける三枝。

 

海常ベンチも、監督の武内は無念の表情で目を瞑り、控えの選手達は涙する者、茫然とする者など様々であった。

 

「…」

 

ゴール下で立ち尽くす黄瀬。無双と呼んでも差し支えない実力で花月を圧倒し、最後まで花月を苦しめた。

 

「(…また届かなかった。…っ!)」

 

歴代の先輩達、そして、自分達の悲願を果たす事が出来ず、悔しさが込み上げる。

 

「みんな、整列ッスよ」

 

自身が主将である事を思い出した黄瀬は悔しさを噛みしめ、チームメイトに声をかけていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「121対118で、花月高校の勝ち! 礼!」

 

『ありがとうございました!』

 

センターサークル内で整列した両校の選手達が挨拶を交わした。各選手達がその後握手を交わし、一言二言言葉を交わしていった。

 

「…強かったッスよ」

 

挨拶を済ますと、黄瀬が空と大地の元に歩み寄った。

 

「結局あんたを止められなかった。今まで戦ったキセキの世代の中で1番凄かったですよ」

 

「…それはどうも。試合に勝てなきゃ意味ないッスけどね」

 

素直な感想を述べる空。黄瀬は皮肉交じりで返した。

 

「上には上がいる事を思い知りました。ありがとうございました」

 

「当然ッスよ。個人的に負けたつもりはないッスからね」

 

礼の言葉と共に頭を下げる大地。黄瀬はそう返事をした。

 

「空、大地」

 

「海兄」

 

「海さん」

 

そこへ、三枝がやってきた。

 

「つよーなったやないか。正直、悔しさもあるが、そこは誇らしく感じとるぞ」

 

「海兄も強かったぜ」

 

「海さんと試合が出来て、光栄でした」

 

元兄貴分として、2人の成長を喜ぶ三枝。そんな三枝に2人は健闘を称え合った。黄瀬は2人の肩に手を置き…。

 

「俺達の分まで頑張るんスよ。神城っち、綾瀬っち」

 

ただ一言そう言った。

 

「次は負けないッスよ!」

 

ニコリと笑顔を作って2人に告げた。

 

「このまま優勝せーよ。無様に負けでもしたら承知せんからのう!」

 

「いたっ! おう!」

 

「っ! はい!」

 

三枝も2人の背中を叩きながら笑顔でそう伝えたのだった。

 

「これで終わりじゃねーぞ。冬にまとめて借りは返すからな!」

 

「次こそは負けない。……優勝しろよ」

 

続いて小牧と末広が2人に声を掛けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「全員、整列!」

 

黄瀬が選手達に大声で指示を出す。

 

「応援、ありがとうございました!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

海常の選手達が並び、黄瀬が観客席に頭を下げると、選手達もそれに続いた。

 

『強かったぞ!』

 

『次は勝てるぞ!』

 

『また見に来るからな! 冬も来いよ!』

 

そんな海常の選手達に観客達は声援を贈った。

 

 

「さあ、引き上げだ。まだ後に試合は残ってるんだ。迅速に済ませろ」

 

花月ベンチで上杉が選手達に指示を出した。

 

「「…」」

 

荷物を持った空と大地が海常ベンチ…、黄瀬に視線を向けている。

 

「(俺は選手として、ましてや主将としてもまだまだだ。いつか必ず…!)」

 

「(私はまだ未熟。託されたエースの名に恥じないようにもっと強くならなければ…!)」

 

最大の強敵の背を見て、2人は胸に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「黄瀬が…、海常が負けたか…」

 

終盤からではあるが、試合の行方を最後まで見届けた火神。

 

『テクニック、身体能力。確かに勝敗を分ける重要なファクターだ。だがな、拮抗した試合において、スタミナ…運動量が勝敗に強く影響しちまうなんてことはよくある話だ。相手より長く走れる。それだけのことでな』

 

昨年のインターハイの決勝の折、景虎が言った言葉を思い出していた

 

勝敗を分けたのは文字通りスタミナ。最後まで走り切った空と大地、最後の最後で力尽きた黄瀬。

 

「陽泉、鳳舞、海常を退けた花月の力は本物よ。もはや、決勝に辿り着いても何ら不思議ではないわよ」

 

リコが考えこんでいる火神を見て告げた。

 

「番狂わせは2度も起きない。三杉と堀田がいなくなった花月がここまでのチームになるなんてな」

 

靴紐を結び直しながら新海が続いて言った。

 

「決勝まで辿り着いたら、相手は花月かもしれないな」

 

新海の言葉が聞こえた田仲が続いた。

 

「どうかな。準決勝の相手は間違いなく高校最強のチームだ。あれに花月が勝てるとは思わないけどな」

 

そんな中、池永が水を差す。

 

「はいはい! 無駄話はそこまで! すぐに試合が始まるんだから余計な事考えないで集中しなさい」

 

雑談をする選手達を諫めるリコ。

 

「準々決勝。これまでのように上手くは行かないわ。けど、それでもやる事は一緒よ。さぁ、行って来い!」

 

『はい(おう)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

海常の控室…。

 

『…』

 

敗戦の悔しさが残る中、選手達が片付けを済ましていく。やがて、支度が出来た選手から次々と部屋を後にしていく。

 

「悪いッスけど、ヘトヘトで動けそうにないスから、すこし休んでから行くから、先行っててくれないスか?」

 

「大丈夫ですか? 何だったら何か飲み物でも買ってきて――」

 

「分かった。監督には俺が伝えとく。ゆっくり休んでから来いよ」

 

気を遣った小牧を遮るように氏原が口を挟んだ。

 

「いいから、行くぞ」

 

小牧を引きずるように氏原は部屋を後にしていった。やがて、控室は黄瀬1人となった。

 

「……ふぅ」

 

1人となった1人溜息を吐いた。

 

「…っ」

 

そして、これまで堪えてきたものが込み上げてきた。

 

…試合に勝つ事が出来なかった。また海常を優勝に導く事が出来なかった。

 

「くそっ!」

 

最後までもたせる事が出来なかった自分自身に苛立った黄瀬は自身の膝を強く叩いた。

 

「俺が最後までもてば試合に勝つ事が出来た。たった1分ちょっともたせる事が出来れば…!」

 

走り込みが足りなかった。練習が足りなかった。そんな後悔が黄瀬を襲った。

 

 

――キィッ…。

 

 

その時、控室の扉が開いた。

 

「…悪いけど、今は――っ!?」

 

来客を追い返そうと顔を上げたその時、黄瀬の言葉を詰まらせた。

 

「笠松……先輩…」

 

やって来たのは、黄瀬が1年時に海常の主将を務めていた笠松だった。

 

「よう」

 

黄瀬を見た笠松は右手を上げて軽く挨拶をした。

 

「見に来てたんスか?」

 

「おう。試合前に集中を乱すと悪いから顔出さなかったけどな。…惜しかったな」

 

軽く笑顔で言葉を交わした後、笠松は表情を改めて労いの言葉を贈った。

 

「すいません、負けちまったッス」

 

苦笑しながら後頭部を右手で摩る黄瀬。

 

「どういう訳か俺が主将なんて任されちゃったッスけど、これかなり大変ッスね」

 

「…」

 

「俺には向いてないって言うか、合ってないって言うか、やっぱり俺は気軽にエースやってるくらいがちょうどいいッスよ」

 

砕けた口調で、笑みを浮かべながら黄瀬は行った。

 

 

――叱ってほしかった…。

 

 

『バカ野郎! 仮にも主将を任されたお前がそんなんでどうすんだ!!!』

 

黄瀬の知る笠松ならきっとこう言って活を入れてくれる。そうすれば自分は気合いを入れ直してこの先も主将として戦える。

 

笠松は黄瀬の下まで歩み寄り、肩にそっと手を置いた。

 

「よく頑張ったな、黄瀬」

 

「…えっ?」

 

昔のごとくきつく活を入れてくれると予想していた黄瀬は笠松のかけた言葉にただただ茫然とした。

 

「今日のお前は立派に海常を率いていたぜ。入学したばかりの頃のお前なら考えられねえ事だ」

 

微笑みながら笠松が言った。

 

「…っ」

 

「試合は負けちまったが、お前のその姿が見られて良かった。これなら安心して海常高校の主将を任せられる」

 

そんな言葉を笠松は黄瀬に贈った。

 

「笠松…先輩。…俺…、俺…!」

 

黄瀬が予想していた事と全く違う。そんな言葉をかけられてしまったら…。

 

「勝ち…たかった…! 海常を…優勝させたかった…!」

 

これまで抑えていたものが溢れだした。これまで堪えていた涙が両の瞳からとめどなく溢れだした。

 

「まだ終わりじゃねえだろ。まだお前には最後の冬が残ってる。そこで今度こそお前達の手で海常を優勝させろ」

 

「はい…! はい…!」

 

涙を流す黄瀬の横に座り、頭に手を置きながら笠松は激励の言葉を贈ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

コート上では準決勝進出をかけて戦いが行われている。

 

「らぁっ!」

 

 

――チッ…。

 

 

ジャンプショットを放つ相手選手に対してブロックに飛んだ池永。伸ばした指先に僅かにボールが触れた。

 

「リバウンド! 取れよ!」

 

「任せて!」

 

外れる事を確信した池永はゴール下に立つ田仲に声を出す。田仲はあいて選手をスクリーンアウトで抑え込み、きっちりリバウンドボールを抑えた。

 

「こっちだ!」

 

「頼む!」

 

リバウンドを制して前を向くと、既に新海と河原が走っており、田仲は新海に向けて大きな縦パスを出した。

 

「行かせねえ!」

 

カウンターを警戒して事前に戻っていた相手選手が新海の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

目の前に相手選手が現れると新海は冷静にビハインドパスでボールを右に流し、河原にパスを出す。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取ったノーマークの河原は落ち着いてレイアップを決めた。

 

「よっしゃー! 良いぞ、新海、河原!」

 

ベンチから火神が首にタオルをかけながらエールを贈った。

 

試合は第3Q中盤。火神は第1Q終了と同時にベンチに下がり、後を任せている。

 

『くそっ…!』

 

悔しがる相手選手。エースを早々に下げて温存策に出た誠凛。それでも尚確実に開き続ける点差を見て動揺を隠せない。

 

「新海君と田仲君を下げるわ。降旗君、福田君。出番よ。すぐに出られる準備をして」

 

「は、はい!」

 

「分かりました!」

 

リコから指名を受けた2人はユニフォームの上から来ていたシャツを脱いで準備を始めた。

 

「頼んだぜ、フリ、福田!」

 

「頑張って下さい」

 

そんな2人に火神と黒子がエールを贈った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

次にボールデッドと同時に申請していた交代がコールされた。

 

「後はお願いします!」

 

「頑張って下さい!」

 

コートを去り際、新海と田仲がハイタッチを交わした。

 

「スー…フー…、よし、行こう!」

 

「あぁ!」

 

降旗と福田はコートに入り、降旗は司令塔として、福田はセンターとして試合に臨んだ。

 

試合は速攻主体のハイスコアゲームから時間を使って確実に点を決めるロースコアゲームへと変化した。

 

「池永、無理はするな! 1度戻して仕切り直すんだ!」

 

降旗は上級生の司令塔として的確に指示を出し、オフェンスではミスを拾いながら確実に点を決め、ディフェンスでは相手選手のスクリーンやそれに伴うスイッチディフェンスの指示を出した。

 

「やらせないぞ!」

 

福田はゴール下で身体を張って懸命に相手選手を抑えていく。

 

「くそっ! こんな控えなんかに…!」

 

次々とスタメンがベンチに下がり、それでもなかなか縮まらない点差を見て憤る相手選手。

 

「ウチで今日まで頑張ってきた選手よ。今では立派なウチの主力よ」

 

フフンと笑みを浮かべるリコ。

 

誠凛はメンバーを入れ替えながら試合を進める。スタメンが下がって点差が縮まる場面もあったが、それでも追い付かせず点差を保っていく。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合は序盤のリードを誠凛が守り切り、87対79で準決勝進出を決めた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

続いて行われた試合。秀徳の試合が行われている。緑間は第1Qにスリー1本とミドルシュートとゴール下から得点を決めた後、早々にベンチへと下がった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「ナイッシュー!」

 

試合は高尾が巧みにゲームメイクをして得点を重ね、緑間が下がってもリードを広げ続けた。

 

歴戦の強豪である秀徳は例え控えであっても高いレベルの選手を擁しており、層の厚さを見せつけた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合は秀徳が安定の強さを見せつけ、91対73で制し、準決勝進出を果たした。そして、準決勝の最後の一枠をかけた試合がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「来たぜ、洛山!」

 

試合後の反省会を兼ねたミーティングが終わり、観客席にやってきた花月の選手達。コート上では京都代表、洛山高校対中宮南高校の試合が始まろうとしていた。

 

「くーとダイは今日の試合フル出場したんだから先に宿に戻って休んでても…」

 

「心配いらねえよ。戻っても試合が気になってそれどころじゃないだろうしな」

 

「大丈夫です。先程入念にストレッチをしてケアをしましたから問題ありませんよ」

 

今日の試合、花月で唯一交代なしでフル出場した空と大地を労わる生嶋だったが、2人はそれを制した。

 

「開闢の帝王、洛山高校。去年に決勝で戦って勝ったけど、三杉先輩と堀田先輩がいてもギリギリの勝利だったよね…」

 

昨年時の試合を思い出す帆足。

 

「その年のウィンターカップでは俺達に勝った桐皇に勝利して優勝を果たした」

 

松永が続いて冬の事を口にした。

 

「けどよ、去年の主力だった五将の3人がいないんだから戦力ダウンは免れないはずだぜ。陽泉と海常を倒した俺達なら――」

 

「その考えはどうですかね?」

 

菅野の言葉を遮るように竜崎が口を挟んだ。

 

「今年の洛山も強いですよ。個人的な意見ですけど、俺は今年の洛山は去年以上だと思ってます」

 

神妙な面持ちで私見を述べる竜崎。

 

「洛山を舐めてる訳じゃねーけど、五将の3人がいた去年より強いと思う根拠は何だ?」

 

「それは試合を見て貰えば俺がここで説明するより分かると思います」

 

あえて空の質問には答えない竜崎。やがて、両校の選手達がコートにやってきた。

 

 

洛山高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:赤司征十郎 175㎝

 

5番SG:二宮秀平  186㎝

 

6番SF:三村彰人  189㎝

 

7番PF:四条大智  193㎝

 

8番 C:五河充   202㎝

 

 

「サイズはうち等とそこまで変わらへんな」

 

「全体的にポイントカード以外は私達より少し高いくらいですね。陽泉を相手にした時のような大きなミスマッチはありません」

 

強いて挙げるなら松永のポジションが気になる所だが、それでも勝敗に強く直結する程のものではないとする大地。

 

「お前らよく見ておけ、明日の相手となる者達の試合を…」

 

上杉が選手達に告げると、コートでは整列が終わり、ティップオフが為された…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

試合は進み、第2Qに突入した。洛山は速いパスワークでボールを回していく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを回してシュートクロックが残り3秒になった所でノーマークで三村の手に収まり、ジャンプショットを決めた。

 

「っし!」

 

得点を決めた三村は拳を握って喜びを露にしながらディフェンスに戻っていった。

 

「きっちりボールを回してフリーの選手を作っての得点が多いな」

 

「何と言うか、派手さがないと言うか…」

 

これまで試合を見ていた菅野と帆足が各々感想を述べていく。

 

「竜崎があんだけ言うからどれほどのもんかと思ったがよ、これなら陽泉や海常の方がまだ――」

 

「いや、ヤバいですよ」

 

菅野の言葉を遮る空。その表情は神妙であった。

 

「完璧なパスワークだ。時間内にきっちりノーマークの選手を作って確実に得点を重ねてる」

 

「け、けどよ、ボール回しなら去年の大仁田戦で経験してるだろ?」

 

昨年、花月はスタメン全員がポイントカードの適正を持った選手達による巧みなパスワークを経験している。

 

「菅野先輩。今の時点で相手チームのブロックとスティール数、分かりますか?」

 

2人が会話している中、大地が質問形式で言葉を挟んだ。

 

「あん? ……数えてなかったから分かんねえけど、どっちも2・3本くらいか?」

 

何とか記憶を辿って思い出そうとする菅野。

 

「0です」

 

「…は?」

 

「洛山はブロック、スティール共に未だに1本もされてないのですよ」

 

「っ!? マジかよ…」

 

答えを聞いて表情を青ざめさせながら驚愕する菅野。

 

県予選の弱小校との試合ならいざ知らず、全国の、それもベスト8まで勝ち上がったチームを相手に1度もブロックもスティールをさせないという異常である。

 

「敵だって決まった動きをする訳じゃない。いくらパスワークに長けていても普通何処かでミスは出る」

 

1人1人見えているもの、見ているもの、考えているものが違う以上、動きを連動させれば当然何処かで綻びが出てしまうもの。

 

「事前にある程度パターンはいくつか決めてはいるんでしょうけど、それを各自が状況を見て修正出来るなんて普通出来ねーよ」

 

「出来るんですよ」

 

空の考える常識を否定する竜崎。

 

「それが出来るのが今年の洛山なんです」

 

「どうして言い切れるんだ?」

 

断言する竜崎に尋ねる松永。

 

「二宮さん、三村さん、四条さん、五河さん。この4人は全員、帝光中出身なんですよ」

 

「…はっ? そうなの?」

 

その答えを聞いて空は思わず声を上げた。

 

「中学時代から遡って今日に至るまで5年以上同じチームで過ごしています。司令塔である赤司先輩の考えややり方は全員理解しています。そこらのチームとは連携の練度の格が違うんですよ」

 

「5年も同じチームかいな。そら息も簡単に合うわな」

 

引き笑いをしながら頷く天野。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

コート上で三村が相手選手をキレのあるドライブで抜きさる。そのまま突き進み、リングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

そこに相手センターがヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

三村はレイアップの体勢からボールを下げ、ボールを持った腕を伸ばしてパスに切り替えた。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

パスを受けた五河がゴール下のシュートをきっちり沈めた。

 

「良いチームだな」

 

黙って試合を見ていた上杉が口を開いた。

 

「これほど監督のし甲斐のあるチームは他にないな」

 

視線を洛山ベンチに座る監督の白金に向けながら言った。

 

「パスワークで得点が取れないと判断すれば各自の判断で個人技を仕掛けて点を取りに行っている。パスで目立たないが、選手関係なく個人技で得点している」

 

「全員がパスもドリブルも出来て、中からでも外からでも点が取れ、恐らくポジションも1番から5番までこなせる。個々の実力もあの無冠の五将に引けを取らない程に…」

 

「おいおい、五将と同格ってのはいくらなんでも大袈裟じゃないのか?」

 

冷静に分析する竜崎を見て菅野が一石を投じた。

 

「…まぁ、個々の能力は五将の方が上かもしれないですけど、あの4人は出来る事が多い上にチームプレーを重視出来るので、俺からすれば五将以上に手強い相手だと思ってますよ」

 

それぞれに圧倒的な得意技を持っていた五将に対し、大きな武器はないものの、幅広くものがこなせてチームプレーが出来る4人を高く評価した竜崎。

 

「こうも生で見せられたら竜崎の言葉は大袈裟にやないのはよー分かる。…せやけど、あない実力があるなら何で中学時代に名が上がらんかったんや? あれだけやれるんなら少しは名が広がりそうなものやけどのう」

 

「キセキの世代がいたからですよ」

 

天野の抱いた疑問に竜崎が明確に答えを出した。

 

「帝光と言えば誰もがキセキの世代の名を挙げます。キセキの世代の名が有名になり始めた当初はまだその上の先輩達がいましたし、3年になった時は学校の広告の為にキセキの世代を試合に必ず試合に出場させていた事もあって、基本的に控えが試合に出るのは既に勝敗が決していて温存策を取る時だけでした」

 

『…』

 

「その為、その状況でいくら活躍しても評価をされず、キセキの世代の影に埋もれる結果になってしまったんです」

 

「…何とも言えない話だな」

 

実力も活躍も見てもらえず、見向きされない。その事に同情を覚える松永。

 

「無冠の五将のように敵として現れれば、多少不名誉ではあっても少なくとも名は上がるし実力も評価されただろうにな」

 

同じく菅野が何とも言えない感情を抱いた。

 

「キセキの世代は後輩の俺にとっても偉大な存在です。ですが、こういった弊害を生んでしまったのも事実です」

 

悲し気な表情で竜崎は言ったのだった。

 

「…おっ? 相手のディフェンスが変わったぞ」

 

空の言葉を聞いてコート上に視線を戻す花月の選手達。すると中宮南のディフェンスがマンツーマンディフェンスからゾーンディフェンスに変わった。

 

「マンツーマンじゃいつの間にか速いパス回しでノーマークの選手を作られてしまっている。それを避ける為にゾーンディフェンスですか」

 

「いいぜ、あのパス回しにゾーンディフェンスがどんだけ効果を及ぼすか、見させてもらうぜ」

 

大地の解説に、空はその効果を確かめる為に注目した。

 

 

――ピッ!!!

 

 

再び洛山のパス回しが始まる。中宮南の選手達は上手く連携を組んでフリーの選手を作らせない。

 

「効果ありか?」

 

菅野がそう口に出したその時…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

外でボールを受け取った三村がスリーを決めた。その後も、中宮南のゾーンディフェンスに対して外を中心に攻め立てた。時折外れても洛山のフロントラインがきっちりリバウンドボールを抑え、セカンドチャンスをものにしている。

 

「…どうやら、ゾーンディフェンスの対策もバッチリのようですね」

 

「ゾーンディフェンスには外。セオリーではあるが、こうもバンバン決めちまうとはな」

 

苦笑を浮かべる空と大地。中を固める中宮南だったが、それを嘲笑うかのように洛山の選手達は外を中心に攻め立て、得点を重ねていった。

 

「しかもポジション関係なく、センターの五河さんでさえもスリーを決めてた。言葉が出ないとはこの事だね」

 

5人が例外なく外を決める光景を見て乾いた笑いしか出ない生嶋。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで中宮南がたまらずタイムアウトを取った。

 

「タイムアウトを取ったがこの状況で策なんてあるのか?」

 

頭を巡らせる空だったが、空には何も浮かばなかった。タイムアウトが終わり、選手達がコートへとやってくる。

 

「今度はそう来たか」

 

タイムアウト後の中宮南の動きを見て空が思わず前のめりになる。中宮南はディフェンスをマンツーマンに戻した。そして…。

 

「赤司先輩にダブルチーム…」

 

洛山の主将であり、司令塔の赤司に2人マークを付けたのだ。

 

「こうも点差が開いてしまっては中宮南が逆転をするには賭けに出るしかない。チームの主軸である赤司を止めてチームの全体のリズムを崩して逆転を狙いに来た」

 

中宮南の作戦の意図を見抜いた上杉。

 

開きゆく点差を見て中宮南がイチかバチかの博打に打って出た。だが…。

 

 

――バス!!!

 

 

赤司は淡々とパスを出し、他の4人の選手がきっちりと得点を奪っていった。赤司のダブルチームなど無意味と言わんばかりに。そして…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

ダブルチームを単独で突破した赤司。直後に来たヘルプをギリギリまで引き付け、空いた選手にパス。さらに得点を追加した。

 

「決まったな。赤司を止めても無駄だと知らしめた上にそもそもダブルチームでは止められない事を見せつけた。これ以上人数を割いても逆効果でしかない」

 

結末を予見した上杉。心なしか、コート上の中宮南の選手達の表情に絶望の影がよぎっているに見えた。

 

「番狂わせはなしか。ま、分かってたけどな」

 

背もたれに体重を預けながら言う空。

 

試合は第3Q開始直後に赤司と四条がベンチに下がり、第3Q半ばにはスタメン全員がベンチへと退いていた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合は洛山の控えの選手達がリードを守り、109対59で洛山が準決勝進出を果たした。

 

「これが明日の相手だ。全員、戦勝に喜ぶのもここまでだ。すぐに気持ちを切り替えろ」

 

『はい!!!』

 

「ホテルに戻ってこの試合映像を基に明日の対策を立てる。すぐに戻る準備をしろ」

 

上杉がそう指示を出し、花月の選手達は席から立ち上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ベスト4をかけた準々決勝。激闘を制した花月が準決勝へと駒を進めた。

 

1つの山を越え、次にまた大きな山がやってくる。

 

 

 花月高校 × 洛山高校

 

 誠凛高校 × 秀徳高校

 

 

明日、勝ち残った4校が決勝進出をかけ、再び激闘を繰り広げるであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





一気に準々決勝を終わらせました。

次の花月の相手は洛山。無冠の五将が抜けて新たに高校最強を気付きあげた超万能集団。東京の中学出身の選手が何故4人も京都の洛山に!? っていうツッコミはなしでお願いします…(;^ω^)

やはり洛山は最強でないと盛り上がりませんからね…(^_^)

ただ、それだけに試合は難産になりそうですがorz

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第133Q~決意~


投稿します!

足を痛め、足が快方に向かい始めた瞬間、今度は腰やったorz

それではどうぞ!



 

 

 

準々決勝終了後、準決勝前夜…。

 

「…改めて見ても、言葉が出ないな」

 

場所は花月の選手達が泊まるホテルの一室。ホテルに戻った選手達は各々汗を流し、夕食を終えた後、明日の試合のスカウティングの為に集まっていた。

 

「率直に、今年の洛山は付け入る隙が見当たりません。海常も攻守共にバランス取れたチームでしたが、チーム単位で見れば、洛山は海常を凌いでいます」

 

情報を纏めた自身のノートを見ながら姫川が説明をしていく。

 

「スタメン全員が外からでも切り込んで中からでも点が取れる上、連携も抜群。そして身体能力もテクニックも全国上位レベルと来たもんだ。去年もそうだが、相変わらず洛山は反則レベルだな…」

 

苦笑する菅野。

 

万能型のオールラウンダーを揃えた洛山。その高い総合力と連携は全国随一。

 

「圧倒的な個で戦う去年の洛山の方がまだやりようがあった。ここまでのチームの練度は俺も長い事高校バスケを見てきたが今までに見た事がない。恐らく、大学、社会人を見渡してもあるかどうか…」

 

上杉も洛山を高く評価した。

 

「バスケに限らず、学生スポーツでは短所を直すより長所を伸ばすのが一般的やけど…」

 

「中学時代にはキセキの世代、高校に入ってからは無冠の五将と、圧倒的な才能を持った選手がいたので長所を伸ばすより短所をなくして試合出場機会を増やすようにしたのでしょう」

 

大地が自身の考察を口にした。出来る事が多く、欠点がなければ試合出場の機会にも恵まれやすくなる。

 

「…さて、どう戦うか。これだよな」

 

空が本題を口にする。

 

『…』

 

この問いかけに、誰も答えを口にする事は出来なかった。

 

「とりあえず序盤は綾瀬を中心に戦うってのはどうだ? 神城には恐らく赤司が付くだろうし、黄瀬と互角に戦った綾瀬ならいけるんじゃないのか?」

 

室内に沈黙が占める中、菅野が代案を口にした。

 

「…まぁ、それも1つの手ですよね」

 

賛同はするものの、何処か乗り気ではない空。

 

「何か気にかかる事があるのか? お前ならてっきり賛成かと思ったんだがな」

 

大地を強く信頼する空が渋った表情をしているを見て、松永が疑問を口にした。

 

「いや、大地ならこの洛山の誰が来ても勝てるとは思うぜ。けどよ、向こうがそれを予想してこないと思うか?」

 

賛同しきれない理由を空が述べる。

 

「それに、どのみち大地一辺倒じゃ早いうちに対策を敷かれる事は間違いないでしょうから、大地と、他に何かと併用して攻めたい所だな」

 

『…』

 

再び室内を沈黙が支配する。その後も各自が意見を出すが、決定打になるような作戦を出なかった。

 

「…」

 

空がおもむろに立ち上がると、部屋を後にしようとした。

 

「何処へ行くの?」

 

そんな空を見て姫川が尋ねる。

 

「ちょっと外歩いてくる」

 

そう返し、空は部屋を後にした。

 

「ちょっと、神城君!」

 

部屋を出ていった空を追いかけようとする姫川。

 

「構わん。行かせておけ」

 

追いかけようとした姫川を制止する上杉。

 

「ですが…」

 

「今は気分転換をさせておきましょう。明日の試合、空が負う責任は重大ですから」

 

尚も気に掛ける姫川に対し、大地が言葉をかける。

 

「そっか、くーは主将だし、何より、明日くーが相手するのは間違いなく…」

 

ここで生嶋は言葉を止める。

 

明日の試合、空がマッチアップするのは間違いなくあの赤司である。昨年はどうにか食らいつくので精一杯で、力の差を見せつけられた相手。今回は三杉と堀田の助力はなく、自身の手でどうにかしなければならない。

 

「うちは何だかんだ空坊の調子に左右される所があるからのう。せめて開き直ってもらわんとな」

 

ケラケラ笑いながら天野がその場を和ませたのだった。

 

「ふぅ、とりあえず、ミーティングはここで一旦中断だ。1時間後にもう1度この部屋に集合だ。それまでは各自自由時間とする」

 

上杉がそう言って部屋を後にする。

 

『…』

 

これに続いて部屋を後にする者、再度試合映像に目を通す者と別れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

部屋を出て、ホテルの外を出た空は辺りを散歩していた。

 

「…さて、どうすっかな」

 

誰に言ったのではなく、1人呟く空。

 

これまで空がマッチアップを担当してきた相手は、空自身自分の方が上だと言う自負があった。しかし、明日の相手は赤司。実績、テクニック面では間違いなく格上の相手である。

 

「…」

 

赤司を相手に昨年と同じ結果になれば間違いなく花月は負ける。今日の試合で1人で何かも背負い込む事はないと松永に言った空だったが、それでも自分には責任があると考える。

 

「さて…」

 

自販機を見つけた空は小銭を取り出して硬貨を投入口に入れ、ボタンを押した。ガチャン! の音と共に落ちてきた飲み物を取り出し、蓋を開けて口にした。

 

「まっず! やっぱ冒険なんかするもんじゃねえな…」

 

地元では見た事のない飲み物があったので物珍しさで買ってみたものの、あまりの不味さに思わず吹き出した。

 

「何やってんだお前?」

 

そんな空に話しかける声が聞こえた。

 

「あん? ……っ!? あんた、青峰大輝?」

 

薄暗くて当初は姿を確認出来なかったが、建物の影から現れたのは青峰だった。

 

「ちっ、呼び捨てかよ。俺のが1個上だ。ちったぁ言葉に気を付けろ」

 

呼び捨てにされた青峰は軽く眉を顰める。

 

「あんた偉そうに人に言葉遣いを注意出来るような玉じゃねえだろ。去年のあんたらの主将にメチャメチャタメ口聞いてたじゃねえか」

 

「あいつは別に良いんだよ。うるせーだけの奴だったからな」

 

「…あんたみたいな後輩絶対持ちたくねえ」

 

傍若無人の振舞いに空はげんなりしたのだった。

 

「つうか、何であんたこんな所にいるんだよ。確か地元東京だろ?」

 

既に桐皇は3回戦で敗退している。チームは当然地元に帰省しているはずなのだが…。

 

「これだよ。東京に戻ってもこの足じゃバスケは出来ねえからな。そんで暇だから、さつき……俺ん所のマネージャーの親戚の家が近くにあっからそこに泊まりながら試合観戦してんだよ」

 

足元のサンダルの下のテーピングを指差しながら事情を説明する青峰。

 

「んで? お前はこんな所で何しょぼくれてんだ?」

 

「あぁ? 誰がしょぼくれて――」

 

「洛山の試合でも見てビビったのか?」

 

「っ!? 誰がビビるかこらぁ!」

 

確信に近い事を言い当てられ、思わず怒鳴る空。

 

「図星か。情けねえ奴だ」

 

「だからちげーって言ってんだろが!」

 

「デケー声出すな。時間考えろ」

 

小指で耳をほじりながら青峰は自販機で飲み物を購入した。

 

「洛山か、確かに、少しばかりは手こずりそうな相手だな」

 

「…そういや、今年の洛山のスタメンは全員帝光出身なんだってな?」

 

「赤司以外の奴はよく知らねえな。そういやいたような気がすっけどな」

 

「あんた、とことんいい性格してんな」

 

かつてチームメイトの顔すら忘れている青峰に呆れる空。

 

「所詮その程度の奴等って事だ。そんな相手に何ビビってんだ? 昔のお前はそんなビビりじゃなかっただろ」

 

「昔の俺って、あんたに俺の何が…! ……ん? そういえば…」

 

この言葉に何か記憶に引っ掛かるものを覚えた空。

 

「………あっ!? 思い出した! あんた、昔東京で迷子になった時にストリートバスケのコートにいたガングロか!?」

 

ここで昔の記憶が蘇った空。

 

「思い出した。今思い出した! あんたのせいで俺は親父に拳骨食らったんだぞ!」

 

「それはてめえの自業自得だ。都合の良い様に記憶を変えてんじゃねえ」

 

呆れた表情で言い返す青峰。

 

「相変わらずうるせーバカだ。そんなバカでよく司令塔やってんな」

 

「誰がバカだ! あんたには言われたくねえ!」

 

「…ふん」

 

鼻で返事をして青峰は飲み物を一口飲んだ。

 

「洛山に勝つには赤司を止める事が必須だ」

 

「あん?」

 

表情を改めた青峰が不意に語り出した。

 

「マークすんのはお前だろ? 止められんのか?」

 

「止めるに決まってんだろ」

 

睨み付けながら返事をした。

 

「…てめえには無理だな」

 

「何だと?」

 

即答で否定され、カチンときた空。

 

「あいつは中学から今まで全ての大会で予選から決勝まで戦ってきた。お前とは経験値がまるで違う」

 

「…」

 

全中三連覇。高校に進学しても、これまで全ての大会で決勝まで勝ち上がってきており、キャリアの面では空とはかなりの差がある。

 

「スピードしか能がねえお前の何処に勝機があるってんだ?」

 

「んなもんやってみなきゃ分かんねえだろうが」

 

「ふん、行き当たりばったりか。そんなんじゃ結果は知れてるな」

 

「うるせーよ」

 

持っていた飲み物を投擲し、ゴミ箱に投げ入れた。

 

「戦うのにグダグダ理屈なんざ必要ねえ。要は俺が赤司を…俺達が洛山を超えて勝てばいいだけの話だ」

 

そう告げると、空は元来た道を歩き始めた。

 

「あんた、明日も試合見に来るんだろ? だったら見せてやるよ。俺が赤司を倒してナンバーワンの司令塔になる所を。そして、俺達が勝つ所をな」

 

そう言い残し、空はその場を去っていった。

 

「…いちいちイラつく事言いやがって」

 

悪態を吐く空。だが、その表情は霧が晴れたように爽やかなものとなっていた。

 

「見てろよ。俺が絶対赤司を超えてやるよ」

 

誰にでなく、自分自身にそう宣言し、走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃん」

 

空が去った後、物陰から桃井が現れた。

 

「んだよさつき。先帰ってろって言っただろうが」

 

「怪我人ほっといて帰れるわけないでしょ」

 

鬱陶しい気な顔する青峰。桃井は口を尖らせながら返した。

 

「道を歩いている神城君を見つけたと思ったら…、随分お節介焼きなんだね」

 

「そんなんじゃねえよ。…見るからに余計な事グダグダ考えてこんでる顔してやがったからな。仮にも黄瀬と紫原に勝った奴に無様な姿をさらされでもしたら腹が立って仕方ねえんだよ」

 

「明日はテツ君とかがみんとミドリンも試合するんだよね。どっちが勝つかな?」

 

「誠凛と秀徳は予想が付かねえな。ま、五分五分だろ。洛山と花月は、どういう見方しても優勢なのは洛山だな」

 

桃井の疑問に青峰が私見を述べた。

 

「…だが」

 

「?」

 

「花月の力は未知数だ。特に神城と綾瀬は試合をする事に進化してやがる。明日の試合中の間でも化ける可能性はある」

 

「…」

 

「さっきも言ったが、洛山に勝つには赤司を止める必要がある。赤司とは性格もタイプも歩んできた道も対極に近い神城なら、万が一の事が起こる可能性は、あるかもな」

 

飲み終えた缶ジュースを握り潰した青峰は、後ろ手でゴミ箱に投げ入れ、歩き出した。

 

「ちょっと大ちゃん! 先歩いて行かないでよ!」

 

その後を桃井が追って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

1時間後、先程の部屋に選手達が戻ってくる。しかし、空の姿だけまだなかった。

 

「綾瀬、神城には連絡したんだろうな?」

 

「えぇ。1時間後に再集合とは連絡はしておきました」

 

松永に尋ねられた大地はそう返した。

 

「ったく、仮にも主将やねんから、その辺りはしっかりしてもらいもんやで」

 

苦笑しながら愚痴る天野。その時…。

 

「すいません、戻りました!」

 

勢いよく扉が開かれると、空がやってきた。

 

「遅いねん! それともうちょい静かに扉開け――って、何やその大量の汗は?」

 

入室してきた空は全身汗まみれとなっていた。

 

「上手く考えが纏まらなかったので、少しその辺走ってました」

 

「…元気だねー。今日は試合開始から延長戦までフル出場したのに」

 

そんな空を見て呆れ顔となる生嶋。

 

「それで、答えは出たのですか?」

 

そんな空に大地が尋ねる。

 

「あぁ。別に難しく考える事はなかった。俺達が洛山に勝つには、洛山を超えればいい。それだけだ」

 

真剣な表情で言う空。

 

『…』

 

冗談でも何でもなく言った空の真剣な言葉にその場にいた者達は言葉を失う。

 

「フフッ、空らしいですね」

 

最初に大地が吹き出し、沈黙を破った。

 

「あははは! マジな顔して何言うとんねん! …けどま、詰まる所、それしかないやろな」

 

続いて笑い出した天野。その後、頷いていた。

 

「フッ、どうやら俺達は戦う前から負けてたようだな」

 

「くーらしいね。…だけど、僕達はいつでもそうだったよね」

 

表情が晴れた松永と生嶋。見渡すと、花月の選手達全員、これまで固かった表情が柔らかくなっていた。

 

「(どうやら、試合前に乗り越えなくてはならないものを乗り越えたようだな…)」

 

選手達を見て頷く上杉。

 

圧倒的な選手達とそれを従える天才。抜群の連携を誇る最強のチーム、洛山。絶対に勝つという断固たる決意がなければ勝機すら生まれない。

 

「(…フッ、あの問題児だった神城が立派に主将の顔をするようになったじゃないか。三杉。これもお前は予想していたのか?)」

 

かつて花月に在籍していた異国に旅立った天才を思い出す上杉。

 

「よし、全員こっちを向け」

 

そう言って選手達の注目を集める上杉。

 

「仕切り直して再び洛山のスカウティングを始める」

 

再び資料映像を再生、スカウティングを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって、花月が泊まるホテルは別のホテルの一室…。

 

『…』

 

洛山のレギュラーに選ばれた選手達が集まり、一同が花月の試合の映像に注目していた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで試合終了のブザーが鳴った。

 

「これが今年の花月だ」

 

そう選手達に告げて洛山の監督である白金が映像を停止させた。

 

「良いチームだな。得点力とパスセンスのある司令塔に絶対的なエース。正確無比のシューターにディフェンスの強いリバウンダーに万能型のインサイドプレーヤー」

 

まず感想を述べたのは四条。

 

「オフェンスは機動力を武器としたラン&ガン。ディフェンスは基本はマンツーマンだが、状況に応じてゾーンディフェンスを組んだりもする」

 

続いて意見を言ったのが五河。

 

「2年生が主体の若いチームだけあって流れに乗った時のオフェンス力は凄まじいな」

 

神妙な表情で言ったのが三村。

 

「ディフェンスは生嶋と松永の所が狙い目だな。そこを主体に攻めた方がいい」

 

映像を指差しながら意見を言うのは二宮。

 

「だが、狙われてるのが分かれば向こうもすぐにヘルプが来るようになるだろう。そうなればそこのポジションがフリーになるから声掛けは徹底しよう」

 

映像を見直しながら花月の分析をしていく。

 

「とりあえずの方針は決まったな。問題は、花月と戦う上で重要となる、この2人だ」

 

白金が映像の空と大地を差し棒で差した。

 

「…っ、これだけのメンバーが実績の少ない花月に集まっただけでも驚きだが、1番驚きなのがこの2人だ。こんな逸材がいただけでなく、同じチームにいるとは…」

 

眉を顰めながら映像に映る2人を見つめる四条。

 

「まずは花月の得点源である綾瀬だ。ポジション的にはマークするのは三村、お前になるが…」

 

「…」

 

二宮に聞かれ、映像を見つめ続ける三村。

 

「俺がダブルチームで付くか? 天野は得点能力はそこまで高くない。無視は出来ないが俺が――」

 

「いや、俺にやらせてくれ」

 

ダブルチームを提案する四条だが、三村はそれを制した。

 

「綾瀬は特性上、外から打ってくる事も多い。お前がマークに付いちまうとインサイドの負担が五河に集中しちまう。それは避けた方がいい。他は空ける事はリスクの方が多い。なら、俺が1人でマークした方がいい」

 

あらゆる面を考慮した三村が1人で大地をマークする事を志願した。

 

「いいだろう」

 

ここで、今まで言葉を発せずに映像を見ていた赤司が口を開いた。

 

「ディフェンスに長けたお前だ。綾瀬は任せる。止めて見せろ」

 

「任せろ!」

 

赤司に任命され、三村は右拳を左の手のひらでパチン! とぶつけ、音を鳴らしながら返事をした。

 

「もう1人。神城は…」

 

「無論、俺がマークする」

 

「だよな。そこは特に言う事はない。頼んだぜ」

 

もう1人のキーマンである空は、同じポジションである赤司が担当する事で話は決まった。

 

「基本方針は決まった。ならば、ここからは試合に向けてのプランを決める。まずは――」

 

白金が試合を進めるにあたってのプランの話を始めた。

 

「…」

 

映像に映る空に視線を向ける赤司。

 

「(…珍しいな、赤司があんな顔をするなんてな)」

 

赤司の表情の変化に気付いた四条。赤司は薄っすらと笑みを浮かべていたのだ。洛山入学時の圧倒的な実力からくる不敵な笑みではなく、何処か嬉しそうな表情である。

 

「(洛山に入学した時の赤司なら考えられない事だな。まるで全中二連覇したあの時に戻ったみたいだ…)」

 

かつての母校である帝光中。その時の赤司を思い出した四条。

 

その後もミーティングは続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして勝ち残った各校が準決勝に向けて準備をし、眠りに付いた。そして…。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

翌日、ほぼ満員にまで埋まった観客席に座る観客達が試合開始を今か今かと待ち構えている。。

 

 

第1試合 花月高校 × 洛山高校

 

第2試合 誠凛高校 × 秀徳高校

 

 

ここまで勝ち残った4校。ファイナルへの切符をかけてこれから激闘が繰り広げられようとしている。

 

『…』

 

コートへと続く通路を歩く花月の選手達。誰も口を開く事なく、コートへと足を進めていた。通路の終着点であるコートに出る手前で先頭を歩いていた上杉が足を止めた。

 

「ここからは戦場だ。お前達、戦う準備は出来ているな?」

 

「当然!」

 

「はい! もちろんです!」

 

空が不敵な笑みを浮かべながら返事をすると、続いて大地が返事をした。

 

「今日もガンガンリバウンド取るでー」

 

「何十本でもスリーを決めるよ」

 

「インサイドは俺が支える」

 

天野、生嶋、松永も気合充分で返事をした。他の選手達も同様の表情をしていた。

 

「ならばいい。…では、行くぞ」

 

満足のいく返事を聞けた上杉はコートに続くフロアへと足を踏み入れた。

 

「っしゃぁっ!!! 行くぞぉっ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の大きな掛け声を合図に、他の選手達がその声に応え、コートに続くフロアへと足を踏み入れた。

 

 

『来た!!!』

 

『一昨年の誠凛に次ぐキセキの世代を撃破した不屈の旋風、花月高校!』

 

花月の選手達がコートに現れると、観客達の歓声が上がった。歓声をその背に受けながら花月の選手達はコートへと向かって行く。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

続いて歓声が上がる。すると、歓声のその先には、洛山高校の選手達の姿があった。

 

『高校最強の名を取り戻し、再び王の座を手に入れた開闢の帝王、洛山高校!』

 

『無冠の五将が抜けて、戦力ダウンするどころか、今年の洛山はここ10年で最強と呼び声高い布陣だ!』

 

続いて洛山高校がコートへとやってきた。上がる歓声を前に動じる事もなく集中した顔付きでコートへと向かって行った。

 

『これより、洛山高校、花月高校はアップを開始して下さい』

 

『しゃす!』

 

双方のエンドラインに並んで選手達が礼をすると、両校の選手達がコート入りした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって誠凛の選手達が待機している控室。

 

「…そろそろ花月と洛山の試合が始まる頃合いか」

 

柔軟運動をしていた田仲がこの控室にまで届いた歓声を聞いてふと呟いた。

 

「どっちが勝つかな…」

 

素朴な疑問を降旗が口にした。

 

準決勝に勝利すれば決勝で戦う事になる相手。当然、気になる事である。

 

「洛山に決まってんだろ」

 

身体を曲げながら池永が断言した。

 

「お前いつもそれだな。そこまで行くともはや花月に勝ってほしいとしか聞こえないぞ」

 

呆れた顔をする新海。

 

「けどさ、実際どっちが勝つか気になるよな。準決に勝ったら戦う相手になるんだからさ」

 

腕をクロスさせながら朝日奈が口を挟んだ。

 

「あなた達、試合が気になるのは分かるけど、決勝云々はまずこの準決勝に勝たなければならない事を忘れんじゃないわよ」

 

目先の決勝の話で盛り上がる選手達に活を入れるリコ。

 

「控室にいる間くらいいいじゃねえか。試合までには切り替えるからよ。それより監督はどう見てるのか教えてくれよ」

 

僅かに怒ったリコを宥め、逆に質問をして誤魔化した池永。

 

「ったくもう。…そうね」

 

唇を尖らせて呆れると、リコは顎の手を当てて予測を始めた。

 

「率直に、洛山有利ね。花月は立て続けに強敵を撃破して勢いに乗ってるけど、裏を返せば手の内をさらけ出したとも言えるし、何より、…黒子君。今年の洛山のスタメンは全員帝光中出身なのよね?」

 

「そうです。僕の中学の同級生です」

 

尋ねられた黒子が答えた。

 

「準々決勝の試合を少し見たけど、あのチームワークの練度は異常だわ。いくら指導者が優秀でもあそこまで出来るものではないわ」

 

試合の関係で試合は見られなかったリコだが、後に映像で見て背筋を凍らせた。

 

「しかも1人1人のレベルもあの五将に引けを取らない実力者で、何でもこなせる器用さを兼ね備えてる。監督からすれば1度でも率いてみたいくらいだわ」

 

リコから見ても理想のチームだと発言。

 

「そしてそんな4人を従えているのが…」

 

「キセキの世代、赤司…」

 

ここまで無言を貫いていた火神が口を開く。

 

「完璧なチームを完璧なゲームメイクが出来る司令塔が操る。攻守において隙がない、高度な精密機械のようなチームよ」

 

『…』

 

リコの解説を聞いて誠凛の選手達が言葉を失う。

 

「これから花月はそんなのを相手にするんですか…」

 

思わずそんな言葉が漏れる夜木。

 

「けどね、私は花月にもチャンスはあると思うわ」

 

続いてリコが発した言葉に誠凛の選手達が顔を上げる。

 

「洛山はやっぱり赤司君の調子によって左右される面があるのは否めない。その赤司君をマークするのは神城君。さっき、精密機械って言ったけど、神城君はその精密機械を狂わせるだけの力と意外性を有しているわ」

 

試合で赤司をマークするであろう空を引き合いに出すリコ。

 

「それに花月は完璧ではなくとも、スペシャリストを有する選手が多いチーム。それぞれが力と特性を十二分に生かしきれれば、花月にも勝機が生まれるわ」

 

「つまりは、この試合の勝敗を分けるのは互いの主将であり、司令塔でもある赤司と神城次第ってわけか」

 

リコの解説を聞いてそう結論付けた火神。

 

「正直、百戦錬磨の赤司君を相手に神城君はかなり苦しめられると思います。…けど、彼には困難を乗り越える強さと何かを成し遂げる為の何かを持っている選手です。きっと赤司君が相手でもやり遂げると思います」

 

黒子はそう言って、歓声が聞こえるコートの方向に視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

コート上では花月と洛山の選手達がアップをしている。

 

 

――バス!!! …バス!!!

 

 

淡々とレイアップを決め続ける洛山の選手達。

 

 

――バス!!! …バス!!!

 

 

同じくレイアップを決める花月の選手達。

 

二校がコートにやってきた当初はこれから始まる激闘に期待と興奮で胸を膨らせて歓声を上げていた観客だったが、アップをしている選手達の緊張感が伝わったのか、今では鳴りを潜めている。

 

『…』

 

試合前の練習時間で調子と身体を整えていく両校の選手達。

 

「…っ」

 

空は身体から沸き上がる力が抑えきれないのか、身体をうずうずさせている。

 

「そろそろラストか。…よし」

 

時間を確認し、何かを決意した空はドリブルを始め、リングへと突き進んでいく。フリースローラインを越えた所でボールを掴み、リングに向かって跳躍。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

右手で持ったボールをリングに叩きつけた。

 

『うぉっ!? 相変わらずあの身長でスゲー!』

 

空のダンクによって観客が沸き上がった。

 

「試合前に無駄な体力使いよって…」

 

「いえ、違いますよ」

 

呆れる天野。横に立っていた大地が否定する。

 

「きっと、力が有り余って仕方ないのですよ。少しでも発散させる為にああやって力を解放したんです」

 

「なるほどのう…」

 

大地の説明を聞いて納得する天野。

 

 

試合開始まで僅かとなり、コートから両校の選手達がベンチへと下がっていく。

 

「随分と気合が入っているようだね」

 

ベンチに下がる最中、赤司が空へと話しかけた。

 

「どうも。そりゃ、ファイナルの切符がかかった試合だからな。…それに」

 

「?」

 

「現時点で最強のポイントガードはあんただ。この試合でナンバーワンポイントガードの称号が手に入るかもしれないって考えたら、気合が入らない訳ないでしょ」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら赤司に告げた。

 

「なるほど。…だが、俺が求めているのはこの試合の勝利だ。生憎と、そんな称号など、どうでもいい」

 

「そうかい」

 

返事を聞いた空はつまらなそうに返事をし、踵を返した。

 

「…だが」

 

「?」

 

「もし仮に、この手の中にナンバーワンポイントガードの称号があるとするなら、それを君が手にするのは100年速い」

 

赤司が言葉を続けると、空は振り返る。そして空に赤司はそう告げた。

 

「100年か。生憎と、俺はせっかちでね。そんなに待てねえよ。だから、今日頂いていくわ」

 

不敵な笑みを浮かべながら空はベンチへと戻っていった。

 

「面白い」

 

それを聞いた赤司も不敵な笑みを浮かべ、ベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「スタメンは神城、生嶋、綾瀬、天野、松永に変更はない」

 

ベンチに座る選手達、その前に立った上杉が選手達に伝える。

 

「今日はこれまでの試合とは一味違う。1度でも相手に主導権を握られてしまえば簡単には手放さないだろう」

 

『…』

 

「故に、こちらが先手を取る。まずは先取点だ。必ず奪い取れ。もし奪われれば7割方こっちが負けると思え」

 

『はい!!!』

 

「よし、行って来い!」

 

「全員集まれ」

 

空が皆に声を掛けると、ベンチの前で円陣を組むように集まった。

 

「相手は洛山。はっきり言ってつええ。…だが、俺達のやる事は変わらねえ」

 

周囲を見渡し、1人1人視線を向ける空。

 

「全力で攻めて、全力で守って、全力で走る。それだけだ。行くぞ!!! 花月ー、ファイ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声を合図に選手達が大声で応え、スタメンに選ばれた選手達はコートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

センターサークル内に集まる両校の選手達。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

洛山高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:赤司征十郎 175㎝

 

5番SG:二宮秀平  186㎝

 

6番SF:三村彰人  189㎝

 

7番PF:四条大智  193㎝

 

8番 C:五河充   202㎝

 

 

「…」

 

「…」

 

センターサークル内で握手を交わす両校の主将の空と赤司。既に先程挨拶を済ませている為、握手をするだけで特に挨拶は交わさなかった。

 

「これより、花月高校対洛山高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

整列が終わると、選手達が散っていく。センターサークル内にジャンパーである松永と五河だけが残った。

 

『…』

 

審判がジャンパーの間に入り、2人の顔に視線を向ける。そしてボールを構えると、ボールは高く上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ティップオフ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決勝進出をかけた試合の火蓋が、切って落とされた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





どうにか試合開始まで漕ぎつけました…(;^ω^)

ただここから大雑把なプロットしかなく、はっきり言ってネタ不足です。もしかしたら投稿がかなり遅れるかもしれません。

こんな時未経験なのが痛い…(>_<)

後腰も痛い…(T_T)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第134Q~ライバル~


投稿します!

一瞬ではありますが、日間ランキングに載ってました。やったぜ…(^_^)v

それではどうぞ!



 

 

 

審判によってボールが高く上げられ、試合が開始された。

 

「「っ!」」

 

高く上げられたボールにジャンパーである松永と五河が同時に飛び付く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

身長で勝る五河が先にボールを叩いた。

 

「…くっ!」

 

ジャンプボールをものに出来ず、思わず悔しがる松永。五河が叩いたボールは赤司が確保した。

 

「…おらぁっ!」

 

すると、すかさず空がディフェンスに入り、激しくプレッシャーをかける。

 

『うぉっ!? スゲー当たり!』

 

身体がぶつかる程の激しい空のディフェンスを見て観客も思わず声を上げる。

 

「…」

 

ボールを奪おうとする空の手をかわしながらボールをキープする赤司。

 

「赤司!」

 

見かねた二宮が赤司に駆け寄り、直接ボールを受け取りに行く。駆け寄る二宮に赤司がボールを差し出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

すれ違う瞬間、差し出したボールを引っ込めた赤司が空の脇を抜けていく。

 

『上手い!』

 

「っ!?」

 

だが、その赤司に対し空が後方に倒れ込みながらボールを狙い打つ。

 

『マジか!? あの態勢であり得ねえ!』

 

 

――スッ…。

 

 

赤司は動じる事なくバックロールターンで反転。空のスティールをかわす。

 

「ちっ」

 

スティールをかわされて舌打ちをするも、空は身体を回転させて態勢を瞬時に立て直し、反転した赤司の前に右腕を伸ばして進路を塞いだ。

 

「…」

 

道を塞がれた赤司は足を止め、すぐさま頭上からオーバーヘッドパスでボールを中に入れた。すると、そこに三村のスクリーンで天野のマークを引き剥がした四条が走り込みボールを受け取った。

 

「あかん! マツ!」

 

「やらせん!」

 

リングに迫る四条に松永がヘルプに向かう。四条はボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

その四条に対してブロックに向かう松永。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

松永がブロックに現れると、四条はボールを下げて松永のブロックをかわす。そのままリングを越えた所で再びボールを上げ、リングに背を向けた態勢でボールをリングに放った。

 

『絶妙のダブルクラッチ! 先制点は洛山だ!』

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

しかし、ボールを放られた瞬間、そこに現れた1つの影がボールを叩き、ブロックした。

 

『神城!?』

 

ブロックに現れたその影の正体は空。思わずボールを放った四条と観客が声を上げた。

 

「おぉっ!」

 

ブロックによってバックボードに跳ね返ったボールを先程スクリーンをした三村が瞬時に抑え、そこからすかさずシュート態勢に入った。

 

「させっかぁぁぁーーーっ!!!」

 

 

――チッ…。

 

 

先程四条のブロックをした空が着地と同時に三村のジャンプシュートにブロック。伸ばした指先にボールが触れた。

 

「よっしゃー! 今日の神城はいつもより気合い入ってるぜ!」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら叫ぶ。

 

「(さっき四条のブロックしたばかりだろ! 紫原かよ!)」

 

あまりの空のヘルプの速さに心中で驚く三村。

 

「リバウンド!」

 

「任しとき!」

 

 

――ガン!!!

 

 

シュートは外れ、リングに弾かれる。

 

「「…っ!」」

 

リバウンドボールにゴール下に立った天野、松永、四条、五河がボールに飛び付く。

 

「もろたで!!!」

 

このリバウンド争いを制したの四条をスクリーンアウトで抑え込んだ天野。

 

「天さん!」

 

天野がリバウンドを制すると予測していた空は既に速攻に駆けあがっていた。

 

「頼む!」

 

それを確認した天野は大きな縦パスを出した。

 

「っ!?」

 

ボールを受け取って前を向いた空が目を見開いた。

 

「ここは行かせないよ」

 

目の前に赤司が立ち塞がっていたからだ。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う両者。

 

「……っ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決した空が一気に加速。自身の最速で赤司に仕掛けた。

 

「甘い」

 

これに赤司も対応。ピタリと並走しながら空を追いかける。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

スリーポイントライン目前で急停止。視線をリングに向け、ボールを掴んで頭上へと掲げる。

 

「むっ?」

 

これを見て赤司が右腕を上げる。

 

 

――スッ…。

 

 

空はポンプフェイクを入れ、そこからビハインドバックパスでボールを左へと放る。すると、そこへ大地が走り込んでおり、大地がボールを受け取る。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

しかし、ボールが大地の手に渡る瞬間、赤司がそのボールを弾いた。

 

「君のスリーには打ち気がなかった。何より、ボールを掴む直前、綾瀬のポジションを確認していた。詰めが甘いな」

 

シュートフェイクからのパスを見破った赤司がパスカットしたのだ。

 

「赤司!」

 

ターンオーバー直後、ターンオーバーで返した赤司。ボールを要求する二宮に赤司がパスを出す。

 

「させない!」

 

ボールを受けた二宮の前に生嶋が立ち塞がる。

 

「お前では俺は止められないよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ポンプフェイクを入れてスリーを意識させた後、一気に中に切り込んだ。

 

「(ここで行かせたら先取点を取られる。それだけは!)」

 

 

――ドン!!!

 

 

抜かせまいと生嶋が強引に右手を伸ばし、二宮のドリブルを止めた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『イリーガル! 赤5番(生嶋)!』

 

審判がファールをコールした。

 

「…ちっ」

 

得点チャンスを潰された二宮は思わず舌打ちをした。

 

「今のは仕方ねえ。次だ」

 

「うん」

 

生嶋の肩を叩きながら空が労った。

 

「今のファール、全く迷いがなかったな」

 

「あぁ」

 

何としても突破させない為にファールで止めた生嶋。その思い切りの良さに三村と四条が目を見張った。

 

「ディフェンス! 止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声に応える花月の選手達。

 

『ディーフェンス!!! ディーフェンス…!!!』

 

花月ベンチに選手達も声を張り上げて応援をしている。

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司にボールが渡され、試合再開。赤司が二宮にパス。ボールを受けた二宮が即座にパス。そこから矢のようなボール回しを始める洛山の選手達。

 

『うぉっ!? スゲーボール回し!』

 

ボールが飛び交うコート上。チャンスを作るべく、洛山の選手達がボールを回す。

 

『あっ!?』

 

観客が声を上げる。エンドライン沿い、ペイントエリア手前の位置でフリーで四条にボールが渡ったからだ。

 

「よし!」

 

シュートチャンスと見た四条がジャンプショットを放った。

 

「させるかい!」

 

 

――チッ…。

 

 

「くそっ!」

 

即座に反応して距離を詰めた天野が懸命に手を伸ばす。辛うじてボールが指に触れた。

 

 

――ガン!!!

 

 

賢明なブロックが功を奏し、ボールはリングに弾かれた。

 

「よし!」

 

「ちぃっ」

 

リバウンド争い。松永をスクリーンアウトで抑え込んだ五河だったが、ボールが遠くに跳ねて飛んだ為、五河の手を越え、松永がリバウンドボールを確保した。

 

「こっちだ!」

 

「頼む!」

 

ボールを要求した空に松永がパスを出す。

 

「速攻!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声と共に花月の選手達が走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も双方、得点を狙いに行くも、花月、洛山共に先取点を奪えなかった。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

大地が三村のチェンジオブペースからのドライブ、急停止からのジャンプショットを読み切り、ブロック。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

ゴール下の松永が外の生嶋にパスを出したが、四条に読まれ、パスカットされてしまう。

 

試合開始されて既に1分が経過したが、未だに両チームに得点が決める事が出来ないでいた。

 

『試合開始してもう1分…。未だ点が入らねえ…』

 

『これは先に先取点を決めた方に流れが傾くぞ…!』

 

双方固いディフェンスを敷いて失点を阻止している展開。見ていた観客も先取点の重要性を理解していた。

 

「もらった!」

 

生嶋のマークを振り切った二宮がシュート態勢に入った。

 

「(ファールは出来ない。だったら!)」

 

シュート態勢に入った状態でファールをしてしまえばフリースローを与えてしまい、先取点を奪われてしまう。ここで生嶋が奇策に打って出る。

 

「っ!?」

 

突如、視界が塞がり、目を見開く二宮。生嶋はブロックに飛んだのだが、ボールを叩くのではなく、手を伸ばして顔の前に手を翳し、二宮の視界を奪ったのだ。

 

 

――ガン!!!

 

 

突如、目標であるリングが見えづらくなった二宮は動揺して力が入り過ぎてジャンプショットを外してしまう。

 

「らぁっ!」

 

リバウンドボールを天野が気合いで抑えた。

 

『うぉっ!? また点が入らねえ!』

 

「今度こそ頼むで!」

 

「任せろ!」

 

抑えたボールを空にパスし、そのままドリブルを始める空。

 

「先取点は、取らせん!」

 

やはり赤司が立ち塞がり、空の進攻を阻みに現れる。

 

「ここは意地でも行かせてもらうぜ!」

 

赤司が現れるも、空は強引に突き進む。

 

「…ちっ」

 

体格で劣る赤司。それでも身体を張って空に密着しながら進攻を阻む。

 

「…っ」

 

スリーポイントラインを越えた所で赤司が隙を見つけ、ボールに手を伸ばした。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

赤司が手を伸ばしたのと同時に空がボールを背後に弾ませた。すると、そこに大地が走り込んでいた。

 

「よし!」

 

ボールを受け取った大地はすぐさまシュート態勢に入った。

 

「打たせるか!」

 

そこへ、背後から三村がブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

すると、大地はシュートを中断。ボールをフワリと浮かせるように目の前の赤司の頭上を越えるように放った。

 

「ナイスパス!」

 

そこには先程後ろへパスを出した空がそのまま走り込んでいた。空はそこから飛んでボールを掴み、右手で構えた。

 

「打たせるかぁっ!!!」

 

同時に、四条がそこへ走り込み、空とリングの間に飛び込み、シュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

『うわぁっ! これじゃ打てねえ!』

 

絶妙なタイミングで現れた四条を見て観客が悲鳴を上げる。

 

「(ここで仕切り直しても点が取れる保証はねえ。イチかバチか!)…おらぁっ!」

 

このチャンスをものにしたい空は身体を捩じって態勢を変え、ボールを持った右腕を強引に外に伸ばしてボールをフックシュート気味に放って四条の伸ばした手の上を越えるように放った。

 

「っ!?」

 

ボールは四条の手の上を越え、リングへと向かっていった。

 

 

――ガガン!!!

 

 

リングを数度跳ね、リングの周りをクルクルとボールが回り始めた。

 

「決まりやがれ!」

 

『入ってくれー!!!』

 

回るボールに向かって空が叫ぶと、ベンチの選手達も立ち上がりながら願いを込める。

 

『…っ!』

 

コート上の選手及びベンチに座る選手達。そして、会場でこの試合を見ている者全てがこのシュートの結末に注目する。

 

ボールはゆっくり回転するスピードが弱まり、そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

ボールがリングを潜るのと同時に観客が沸き上がった。

 

 

第1Q、残り8分47秒。

 

 

花月 2

洛山 0

 

 

「っしゃおらぁっ!!!」

 

次にこのショットを決めた空がガッツポーズを取りながら天に向かって叫び、喜びを露にした。

 

『よっしゃー!!!』

 

ベンチの選手達も決勝点を決めたかの如く喜び、叫んだ。

 

念願の先取点。主導権を洛山に取らせない為にも何としてでも取りたかった1本。主導権を賭けた最初の1本を、花月が手に入れた。

 

『…っ』

 

先取点を奪ってペースを掴み、突き放したかった洛山の選手達は軽く表情を歪めた。花月は勢いのあるチーム。1度波に乗せてしまうととことん勢い付く相手。出鼻を挫く意味でもこの先手を取りたかった。

 

「狼狽えるな」

 

『っ!』

 

そんな中、洛山の中で唯一動じていなかった赤司が選手達を静かに一喝した。

 

「仮にも帝光から洛山へと渡り歩いた者達がこの程度の事で動揺してどうする。卒業していったあの先輩達ならばこの程度の事で動じたりはしなかったぞ」

 

昨年まで洛山の主力だった無冠の五将の3人を引き合いに出す赤司。

 

「俺達のやる事は変わらない。さっさと切り替えてオフェンスだ」

 

それだけ告げ、赤司は両手を前に出してボールを要求した。

 

「あぁ、すまん」

 

ボールを拾った五河がスローワーとなり、赤司にパスをし、リスタートしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本! ここも止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が檄を飛ばし、選手達が応える。

 

先取点を奪った直後のディフェンス。ここを止めて本当の意味でも主導権を握りたい花月はこれまで同様、気合いを入れてディフェンスに臨む。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ赤司。目の前には空が立ってディフェンスをしている。

 

「マークしっかり確認しろ! 絶対フリーの選手を作るな!」

 

空が味方にディフェンスの指示を出す。

 

抜群のチームワークからくるパスワークは破壊力が凄まじい。今までは何とか失点を防げたが、ここからも上手くは行かない。赤司は序盤から積極的に仕掛ける選手ではない。僅かでもフリーになった選手に的確にボールを供給してくるだろう。

 

だが、この目論見はこの後すぐに外れる事になる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

僅かな隙を突いて赤司が空の横を一気に駆け抜けた。

 

「っ!?」

 

空が振り返ると、赤司はそのままリングに向かって突き進んでいく。フリースローライン付近で赤司はボールを掴んで飛んだ。

 

「くそっ、決めさせるか!」

 

ヘルプに飛び出した松永が赤司とリングの間に現れ、ブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

右手でボールを構えた赤司はフワリと浮かせるように放り、松永の伸ばした手の上を越えていく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは弧を描くようにブロックを越え、リングの中心を潜り抜けた。

 

『うおぉぉぉーーーっ!!! あっさり返した!!!』

 

主導権を掴んだと思われた直後、赤司が単独で得点を奪い返し、主導権を取り返した。

 

かつて、昨年のインターハイ決勝にて、三杉誠也が奪われた主導権を無冠の五将の3人を抜きさって決め、力技で主導権を奪い返した。この赤司のプレーはまさにそれを彷彿させるものであった。

 

「ティアドロップ…」

 

技ありのティアドロップであっさり得点を奪った赤司。思わず声が出てしまう空。

 

「何だその顔は? 俺がボールを回して確実に点を取りにくる。…とでも思ったか?」

 

呆ける空に向かって赤司がすれ違い様に足を止めて話しかける。

 

「その気になれば点なんていくらでも取れる」

 

そう告げると、赤司は自陣へと戻っていった。

 

「上等だ…!」

 

この赤司の言葉に空の闘志がさらに燃え上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールをフロントコートまで運ぶ空。

 

「…」

 

目の前には赤司がディフェンスをしている。

 

『…』

 

その他の選手もそれぞれマークする選手のパスコースをしっかり塞ぐようにマークしている。

 

「…」

 

赤司が現れると空は足を止め、チャンスを窺う空。

 

「(赤司を抜く事なんて出来るわけない。きっちりパスコースを塞いでれば神城は手詰まりになる!)」

 

絶対的な信頼を置く赤司。自ら仕掛けてペースを握るのが空のプレースタイル。ドリブルもパスも出来なければ何も出来ないと断ずる四条。

 

しかし、その考えはすぐさま改める事となった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、クロスオーバーを仕掛ける空。空のアジリティと最大スピードも相まって切れ味鋭いドライブであった。

 

「…」

 

だが、赤司もこれを読み切り、すぐさま対応する。

 

「無駄だ。いくら速くても赤司から逃れられない」

 

この勝負の結果を確信する三村。

 

「…らぁっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、すぐさま逆にクロスオーバーで左から右へと切り返し、赤司を抜きさる。

 

「っ!?」

 

さすがにこれには赤司も驚いたのか、僅かに両目が見開いた。

 

『出た! 神城のキラークロスオーバー!』

 

昨日の試合から空の代名詞の1つになった空のダブルクロスオーバー…、通称キラークロスオーバーが披露され、観客が沸き上がる。

 

そのまま空は突き進み、ゴール下目前でボールを右手で掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「調子に乗るな!」

 

ここで五河がヘルプに現れ、ブロックに向かう。

 

「おらぁっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

五河の上からボールをリングに叩きつけた。

 

『何だそりゃぁっ!!!』

 

『2メートルを超えた奴の上から叩き込みやがったぁっ!!!』

 

20㎝の身長を物ともせず、その上からダンクを決めた事に観客は大興奮。瞬発力のある空は瞬時に最高到達点に達した為、五河のブロックが間に合わなかったのだ。

 

「くそっ…!」

 

身長が大幅に下回る空に上からダンクを叩き込まれるという屈辱を受けて五河が思わず空を睨み付ける。

 

「…ふぅ」

 

リングから手を放し、床に着地する空。そのまま自陣へと戻っていく。その途中…。

 

「俺ならいつでも止められると思ったか?」

 

赤司とすれ違い様に足を止めた空。

 

「ご覧の通り、この程度の事、やろうと思えばいつでも出来るぜ」

 

したり顔でそう告げると、空は自陣へと戻っていった。

 

「…フフッ」

 

それを聞いた赤司から思わず笑い声が出た。

 

「(これまで理解は出来ても共感する事は出来なかったが、黄瀬や火神と戦っている時の青峰はこんな気持ちだったのか…)」

 

強者を求め、白熱する勝負を求める青峰。その相手が目の前に現れた時の青峰も気持ちを漠然と理解した赤司。これまで、自身を脅かす敵はいたが、自身と同じ土俵で対等に戦える相手がいなかった赤司。今、目の前に自身のライバルになるかもしれない相手が現れた。

 

「この胸に燻るこの気持ちは悔しさではない。そうかこれが……、面白い」

 

振り返り、自陣に戻る空の背中に視線を向けた赤司の口から、そんな言葉が飛び出した。その表情には笑みが浮かんでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合が始まると早々、先取点を巡った白熱した主導権争いが繰り広げられた。

 

先取点を奪ったのは花月。花月が試合の主導権を握った……かに見えたが、赤司がすぐさま単独で主導権を奪い返した。

 

しかし、空も負けじと単独で得点を奪い返した。

 

ナンバーワンポイントガードとなるべく奮闘する空。その空をライバルと認め、始めて自分と同じ土俵で対等に戦える相手が現れ、喜ぶ赤司。

 

試合開始僅か2分。激闘は始まったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





日間ランキング入りしてテンション上がって何とか投稿に漕ぎつけました…(;^ω^)

ただこれで完全にネタのストックが尽きましたOrz

どうしよ…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第135Q~ペース~


投稿します!

ネタが降りてきたー!!!

と言う事で行きます…(^_^)v

それではどうぞ!



 

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

会場は大歓声が上がり、盛り上がりを見せている。

 

 

――ピッ!!!

 

 

洛山の選手達が高速でボールをパスを回し、チャンスを窺っている。

 

『…っ』

 

何とかこのボール回しに対応しようとしている花月の選手達。しかし、絶えず高速で動き回るボールに四苦八苦。少しでも気を抜けばボールを見失ってしまう。

 

「…」

 

ボールが赤司の手元に戻って来る。

 

 

――ピッ!!!

 

 

次の瞬間、ボールを前に勢いよく投げるように放った。

 

「っ!?」

 

ボールは空の顔スレスレを通り抜けていった。

 

「あっ!?」

 

投げられたボールは松永のマークをかわし、ゴール下に走り込んだ五河の手元に収まった。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま五河はボースハンドリバースダンクを叩き込んだ。

 

『スゲー! 絶妙過ぎる!』

 

選手がフリーになった瞬間、その選手の手元に的確かつ高速のパスを届けた赤司。そのパスの正確さ的確さに観客がどよめいた。

 

 

「1本! 落ち着いて返すぞ!」

 

人差し指を立てながら空がボールを運びながらゲームメイクを始めた。

 

「…」

 

ゆっくりボールを運びながら攻め手を定める空。

 

「…」

 

目の前には赤司。ボールを突きながら時折一方の足に重心をかけたり、踏み込む素振りを見せたり等、牽制しながらドリブルをしている。

 

「……ふぅ」

 

一息吐いた空。直後…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックチェンジでボールを左に切り返し、スライドするように身体を移動させる。

 

「…」

 

当然、赤司もこれに対応、ピタリと後を追う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

もう1度バックチェンジで今度は右に切り返す。赤司も追いかける。

 

「…」

 

「…」

 

無言で睨み合う両者。

 

「(去年やった時からも分かっていたが、やっぱり赤司相手にセオリー通りのバスケやっても埒が明かねえ…)」

 

最高峰のテクニックに、恐らくキセキの世代の中でもっとも洞察力、頭脳が優れているであろう赤司。純粋な読み合いや駆け引きで勝負を挑んだら空が分が悪い。

 

「(なら、ここは俺らしく。…頼むぜ、みんな)」

 

心中で願掛けをする空。同時に両足を後ろに滑らせるよう下げ、前のめりに倒れ込むような態勢を取る。

 

「?」

 

この、空の突然の行動に赤司も面を食らう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

すると、空は倒れ込む程の低い態勢から急発進。地面スレスレを滑走するかのように前へと突き進み、中へと切り込んだ。

 

「っ!?」

 

常識では考えられない空の低空ドライブ。予測の範囲外のドライブに赤司は抜きさられてしまう。

 

「くそっ、デタラメな奴め!」

 

「何度もやらせるか!」

 

動揺しつつも洛山の選手達の対応は早く、四条、五河がすぐさまヘルプに飛び出し、中で空を囲いにかかる。

 

「空!」

 

同時に中に走り込んだ大地がボールを要求。

 

「ここは通さねえ!」

 

しかし、大地をマークする三村がパスコースを塞ぐように並走していた。

 

「神城、1度戻して仕切り直せ!」

 

ベンチに菅野が大声で指示を出す。

 

「…」

 

行動が遅れれば中で囲まれてしまう。ここで空が取った行動は…。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

空はパスを出す。走る三村の股下でボールを弾ませながら大地に通したのだ。

 

 

――バス!!!

 

 

まさかの所からパスを出され、これには誰も対応出来ず、大地は悠々レイアップを決めた。

 

『何だ今のパス!? あり得ねえ所通しやがった!?』

 

『それもスゲーけどその前のドライブなんだよ!? 何であんな動きが出来んだよ!?』

 

意表を突くドライブとパスに、先程と同じように観客がどよめいた。

 

 

半ば始まったナンバーワンポイントガード対決。早くも両者の間で火花が散っていた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

味方だけではなく、敵すらも巧みに操り、高速のパス回しの中でも冷静にフリーの選手を見つけ、抜群のタイミングと場所にボールを届ける赤司。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

エンドラインとサイドラインが交わるコートの端でフリーとなった二宮にボールが渡り、的確にスリーを決めた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

オフェンスが花月に変わり、何度かボール交換をした後、自身の足で赤司を振り切った空が中へと切り込み、フリースローラインを越えた所でボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「何度も決めさせねえぞ!」

 

そこへ五河がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んでシュートコースを塞ぐ。

 

 

――スッ…。

 

 

五河がブロックに現れると、空はボールを下げ、ブロックを掻い潜るようにかわす。

 

 

――ピッ!!!

 

 

そこからリングに視線を向けると、空はリングにではなく、右方向にボールを放った。

 

「なっ!?」

 

すると、ダブルクラッチを警戒してヘルプに来ていた二宮が声を上げた。

 

「ナイスパスくー!」

 

ボールは二宮がヘルプに飛び出した為、フリーとなっていた生嶋に渡った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

先程の二宮と同じポジションでフリーとなった生嶋が悠々とスリーを決めた。

 

 

その後花月は空、洛山は赤司を起点に得点を重ねていった。

 

赤司がハイポストに立つ四条にパスを出し、直後に四条に向かった走り、ボールを直接貰いに行った。

 

「ちっ、スイッチ!」

 

四条がボールを差し出し、そのボールを受け取る赤司。ボールを渡すのと同時に空へのスクリーンもこなし、空は追走の邪魔が入り、指示を出す。

 

「今度こそ!」

 

その指示に松永が動き、ヘルプに入る。

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを受け取ったすぐさま赤司はボールを掴み、膝を曲げた。

 

「(打ってくる!? またフローターか!?)」

 

先程ブロックを越えて決められたティアドロップを警戒する松永。赤司のボールを放つ瞬間に照準を合わせる。そして赤司が飛んだ。

 

「打たせ――っ!?」

 

タイミングを合わせてブロックに飛んだ松永。しかし、目を見開く。右手を頭上に構える赤司だったが、その右手にボールはなかった。左手で持ったボールを横へトスするように放った。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ、先程ハイポストで赤司への中継とスクリーンをした四条が走り込んでいた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに向かって飛んだ四条がワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

「…くそっ」

 

ティアドロップを警戒し過ぎてパスを許してしまった松永は悔しさを露にする。

 

「今のはしゃーない。切り替え、取り返すで」

 

松永の胸にコツンと拳を当てながら天野が励ます。

 

 

花月のオフェンスに変わり、空がボールを運ぶ。

 

「…」

 

赤司の目を見据えながらドリブルをしている。

 

 

――キュッ!!!

 

 

左足を踏み込み、牽制を入れ、直後、ボールを掴んで右へと飛ぶ空。

 

 

――ピッ!!!

 

 

飛びながら中へとループの高いパスを放った。

 

「っ!?」

 

松永が経つローポストに放られたボール。松永が咄嗟に腕を伸ばすがボールは伸ばした手の上を越えていった。

 

『うわーもったいねえ、パスミスだ!』

 

パスを受け取れなかったのを見て観客から溜息が漏れる。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

『っ!?』

 

だがその直後、観客は度肝を抜かれた。ボールがバックボードに当たる直前、抜群のタイミングで走り込み、飛んだ大地がボールを右手で掴み、そのままリングに叩きこんだのだ。

 

『嘘だろ!?』

 

パスミスかと思われた空のパスが実は大地へのパスだった事が分かり、観客は驚きを隠せなかった。

 

「あー焦ったー」

 

「ったく、心臓に悪い」

 

それは観客ばかりではなく、パスミスだと思った生嶋と松永も同様であった。

 

「ナイス。よく走り込んでくれた」

 

「あなたとは長い付き合いですからね。何となくそこに走り込めばパスが来る気がしました」

 

ハイタッチを交わす空と大地。事前に打ち合わせをした訳でもなければ合図を出した訳でもない。長い付き合いの2人だから出来る阿吽の呼吸であった。

 

「…」

 

そんなやり取りをする2人を、赤司が無言で視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山のオフェンス。赤司がフロントコートまでボールを運ぶ。

 

「…止める」

 

待ち受けるのは空。集中力を高めた空が腰を落としてディフェンスに臨む。

 

「…いいディフェンスをするようになった。去年はまだ粗削りでセンス任せであったが、…なるほど、さすがは上杉の教え子だ。よく鍛えられている」

 

相手ベンチに座る上杉に視線を向けながら称賛する洛山の監督である白金。

 

「…」

 

ゆっくりとドリブルをしながら攻め手を定める赤司。

 

『スゲーディフェンス。あれじゃ抜けねえぞ…』

 

空のディフェンスの上手さを感じ取った観客が声を上げる。

 

「……甘いな」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一言そう呟くと赤司は空の横を駆け抜けていった。

 

「っ!?」

 

抜きさられた空は目を大きく見開きながら振り返る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

直後に急停止し、ヘルプが来る前にクイックリリースのジャンプショットを決めた。

 

「…今の、キャプテンに隙でもあったか?」

 

ベンチで見ていた竜崎が思わず立ち上がりながら呟く。

 

「赤司には見えたのだろう」

 

胸の前で腕を組みながら上杉が言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

花月 17

洛山 21

 

 

両チームの選手達がベンチへと下がっていく。

 

 

「…おっ? ちょうど第1Qが終わった所か」

 

第1Q終了のブザーと同時に青峰と桃井が会場入りをした。

 

「青峰っちー! 桃っちー! こっちッスよー!」

 

観客席に座っていた黄瀬が2人を見つけ、呼んだ。

 

「おーサンキューな黄瀬」

 

「2人共遅いッスよー。たださえ檄混みなのに1人で3人分席取ってたから超睨まれたんスよ?」

 

到着の遅い2人に抗議をする黄瀬。

 

「ちょっと聞いてよきーちゃん! 大ちゃんたらひどいんだよ!? せっかく早めに会場に付いたのに突然何処かに寄り道しだしたと思ったら、わざわざ本屋探して写真集買いにいってたんだよ!?」

 

肩をいきり立たせながら桃井が黄瀬に愚痴る。

 

「写真集って、もしかして青峰っちの大ファンのあの娘のッスか? そんなの後でいくらでも買いに行けるじゃないッスか」

 

それを聞いた黄瀬は呆れていた。

 

「売り切れるかもしんねえだろうが。って言うか、どうせ第1Qじゃ特に動きなんてねえだろうから見なくてもいいだろ」

 

抗議と呆れの言葉を小指で耳を掻きながら鬱陶し気に返す青峰。

 

「まあ、確かに派手な動きはなかったッスけど、それでも見所はあったッスよ? 最初の先取点争いとか…」

 

「…」

 

黄瀬が第1Qの試合内容をダイジェストで話す中、青峰は得点掲示板に視線を向けた。

 

「…4点差か」

 

「点差自体は大した事ないッスけど、試合は完全に洛山ペースッスよ。花月はペースを握られてるけど、それでも神城っちは赤司っちを相手にしながらよくやってるッス」

 

「ほう」

 

黄瀬の説明を聞いて青峰が唸るように返事をする。

 

「赤司っちは相変わらずッスけど、他の選手もかなりやるッスね。個々の力はかなりものッスよ」

 

「お前がそこまで言う程か」

 

「って言うか、二宮君も三村君も四条君も五河君も中学時代の同級生で元チームメイトだからね?」

 

他人事のように言う2人に桃井がツッコミを入れる。

 

「そのはずなんスけど、俺いまいち覚えてないんスよねー。あれだけ実力があったなら顔くらい覚えてるはずなんスけど…」

 

「まあ大ちゃんは中学の途中から練習に一切顔ださなくなったし、きーちゃんもサボりがちだったから。…でも、当時から今ほどじゃないけど上手かったよ? 多分、中学最後の年の全中大会は仮に大ちゃん達(キセキの世代)がいなくても優勝出来たくらいには」

 

桃井が当時を思い出しながら語っていく。

 

「洛山に入学してからかなり伸びたみたいで、実渕さんや葉山さんや根布谷さんがいたから出場機会は少なかったけど、それでも1年生の時からベンチ入りしてたし、私の調べた限りだとあの4人の総合的な実力はその3人に引けを取らない程に強くなってる」

 

「…ふん」

 

鞄からノートを取り出して説明をする桃井。青峰は鼻を鳴らした。

 

「パス回しがとにかく凄いッス。ビュンビュンボール回して気が付いたらノーマークの選手にボールが回って点が決まるんスよ。ここから見てたら圧巻ッス」

 

「…」

 

「観客席から見てても戸惑うくらいッスから、コートで戦う花月にはそれ以上の衝撃のはず。でも、俺は花月を応援するッスよ。なんせ俺達に勝ったチームなんスから。何としてでも勝ってもらわないと」

 

「俺は負けてねえ。むしろ勝ってんだよ」

 

冷ややかにツッコミを入れる青峰だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「悪くねえぞ。充分あの洛山と張り合えてるぜ!」

 

戻ってきた選手達を菅野がタオルと飲み物を渡しながら労った。

 

「……ふぅ」

 

ベンチに腰掛けるなり空がタオルを被り、大きく息を吐いた。

 

「…やっぱり、赤司先輩の相手はきついですか?」

 

その様子を見た竜崎が尋ねる。

 

「それもなくもねえが、何と言うか、今日の試合はやけにやり辛い。そこまで点が入ってる訳じゃねえのにいつもより疲れるというか…」

 

汗をタオルで拭う空。

 

「赤司だな」

 

空の言葉に上杉が口を挟んだ。

 

「赤司に試合をコントロールされている。今の試合のペースは完全に洛山のペースだからな」

 

花月のバスケは機動力を生かしたオフェンス型のハイスピードバスケ。だが今はその足が止められ、自分達のペースに持ち込めていない。

 

「このままこのペースのまま試合を続ければ点差は大きく開く事はないかもしれないが、確実に開いちまう」

 

ボクシングで例えるなら花月が得意とするのは互いに足を止めての殴り合い。つまりインファイト。花月のオフェンス力を生かした存分に生かしたスタイルだ。だが、この試合では互いに足を使って一定の距離を保ちながら拳を交換し合う言わばアウトボクサーの戦い方。洛山の得意としているスタイルである。

 

選手全員がオールラウンダーである洛山相手に今のまま試合が進めば点差は自ずと開いていく。

 

『…』

 

何かこの流れを変える一手がないかと考える花月の選手達。

 

「第1Qを見ていて分かった事があります」

 

沈黙の中、姫川が口を開く。

 

「昨日の試合もそうでしたが、洛山の選手達はパスを出すのに迷いがないんです」

 

「迷いがないやて?」

 

口を挟む天野。姫川は説明を続ける。

 

「はい。あまりにも迷いがなさ過ぎる。つまり、あのボール回しはかつての大仁田のような広い視野とパスセンスによるものではありません」

 

「それじゃあ、あのボール回しはどういう絡繰りなんだ? あんなハイスピードのパス回しが毎回上手く行くはずが――」

 

「セットオフェンス、ですね」

 

ここで大地がそう発言した。

 

「そうか、予め決められていた動きをしていたのか。…けどよ、俺の勘違いでなければ洛山の連中の動きは毎回違ってなかったか?」

 

1度は納得した菅野だったが、再び疑問に行き着き、尋ねた。

 

「ナンバープレーか」

 

その疑問の答えが分かった空が答えを言った。

 

「…そういえば、赤司はボールを運ぶ度に変な動きをしていた気がする」

 

ここで空も赤司の違和感を覚える動きを思い出した。

 

「そう。昨日の試合映像をミーティングの後確認してみると、赤司さんが何らかのハンドシグナルを合図に洛山の選手達が動き出し、得点まで繋げています。今日の試合もここまでは昨日と同様です」

 

「と言う事は、赤司の出すサインとそこからの動きのパターンを見破ればいいわけか! それが分かれば――」

 

「ところが、そう簡単には行きそうにはありません」

 

光明が見えてテンションが上がる菅野だったが、姫川が表情を暗くしながら遮った。

 

「昨日の試合と今日の試合、ここまでの洛山の動きは全て違っていました。赤司さんのサインについても、昨日出したものと同じサインもあったのですが、動きは異なっていました。私がサインを見落としているのではなければ昨日と今日とではサインのパターンが変わっているのだと思います」

 

「マジかよ…」

 

姫川の言葉を聞いて菅野が頭を抱える。

 

「ちなみにパターンはナンボあったん?」

 

「正確な数かは分かりませんが、私が確認出来ただけでも10パターン以上は…」

 

「嘘やろ!?」

 

動きのパターンの数を聞いて思わず立ち上がる天野。

 

「ありえん話ではない」

 

ここで話を聞いていた上杉が口を開いた。

 

「洛山はもともと、圧倒的な運動量と、培ってきた経験と戦略で優勝を重ねてきたチームだ。それこそセットプレーの数は10や20程度ではないだろうな」

 

「っ!?」

 

上杉の話を聞いて菅野は言葉を失った。

 

「…洛山はもれなく全員が中からでも外からでも点が取れるからのう。的が絞れんと来とる。厄介やのう」

 

溜息を吐く天野。

 

「…どうする?」

 

松永が皆に問いかける。

 

「…」

 

暫しの無言の末、空が口を開いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ…。

 

「点差は4点と食いつかれたが、想定内だ。ここまでは事前に立てたプランどおりだ」

 

ベンチに座る選手達。選手達の前に立つ白金。

 

「…さすが、あいつら(キセキの世代)と対等にやり合っただけの事はある。1ON1スキルはもはや遜色ねえ」

 

タオルで汗を拭いながら四条が印象を語った。

 

「驚いたのは神城だ。正直、スコアラー型のポイントガードかと思ったが、しっかりゲームの組み立てが出来てる」

 

「しかも動きも考えも読めない。あんなタイプは初めてだな」

 

二宮と五河が司令塔としての空を称賛する。

 

「赤司、神城の相手はどうだ?」

 

「あぁ、今までマッチアップした事がないタイプだが、問題ない」

 

「そうか、聞くだけ野暮だったな」

 

調子を尋ねた三村。赤司は淡々と答えた。

 

「第2Q、予定通り次のプランに移行する。細かい指示は赤司に任せる」

 

「分かりました。……ふぅ」

 

第2Qからの指示を出す白金。

 

「(…赤司の息が弾んでいる。まだ第1Qを終えたばかりだと言うのに。やはり、赤司と言えど神城の相手をするのは簡単ではないと言う事か)」

 

僅かに息を弾ませている赤司を見た白金。

 

「(…なるほど、お前の所で育っただけの事はある。なかなかに厄介な相手だ)」

 

相手ベンチに視線を向ける白金。そこに立つ旧知の仲である上杉に視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両チームの選手達がコートへと戻ってくる。両チームともメンバーチェンジはなし。

 

「っしゃ行くぞぉっ!!!」

 

『おう!!!』

 

気合い充分の空が声を出し、選手達が応えた。

 

審判から生嶋にボールが渡され、生嶋が空にパスを出し、第2Qが始まった。

 

「…」

 

「…」

 

対峙する空と赤司。洛山のディフェンスは変わらずマンツーマンディフェンス。マッチアップの変更もない。

 

「…」

 

空は何か仕掛ける事もなく、大地にパスを出した。

 

「…来たか」

 

ボールの先、マッチアップをしている三村が集中力を高めながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

インターバルが終わる直前の事…。

 

『大地、任せていいか?』

 

空がそう口を開いた。

 

『このままじゃジリ貧だ。ここは俺が何とかしてやる。…って、カッコ付けたい所だけど、正直、赤司を相手にしながらだとしんどい。だから、任せていいか?』

 

『えぇ、もちろんです。あなたばかりに重荷は背負わせません。私がこの状況を打破してみせます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(やっぱり綾瀬で来やがったか…)」

 

三村が心中で呟く。

 

『恐らく、花月は綾瀬にボールを集めてくる。マークはお前だ。任せるぞ』

 

インターバルの時に赤司にそう言った。

 

「止めてやる。お前には仕事はさせないぜ」

 

腰を落とし、近過ぎず、遠過ぎずのドライブとスリーの両方に対応出来る距離を取り、三村はディフェンスに臨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「三村彰人君。何でも出来るオールラウンダーだけど、赤司君を除けば4人の中でもっともディフェンスが上手い選手だわ」

 

「確かに、良いディフェンスしてるッスね」

 

黄瀬の目からもそのレベルの高さを窺えた。

 

 

「…」

 

「…」

 

コートでは、大地が小刻みにボールを動かしながら牽制し、三村はこれに対応している。

 

 

「…ふーん、さつきが言うだけの事はあるかもな」

 

2人の対峙を見ながら青峰が呟く。

 

「けどまあ、今のあいつ(大地)相手じゃ意味ねえだろうけどな」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て大地が切り込んだ。

 

「(速い! だが、この程度!)」

 

切り込む速さに一瞬面を食らったものの、タイミングを読み切った三村は並走して追いかける。

 

 

――キュキュッ!!! 

 

 

直後、大地は急停止し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高速バックステップ。三村との間に距離が生まれる。

 

「(なっ!? あのスピードを一瞬で殺すだけじゃなく、あんなスピードで下がるのか!?)」

 

ドライブを仕掛けた大地を追いかけようとした瞬間、大地の姿を見失い、気付いた時には大地は1メートル以上離れた場所にいた。

 

「…くっ!」

 

慌てて距離を詰める三村。大地はボールを掴み、フェイダウェイで後ろに飛びながらクイックリリースでジャンプショットを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『出た!!! 綾瀬の高速バックステップからのクイックリリース!!!』

 

『あんなの止められねーよ!!!』

 

今や大地の代名詞となっているドライブ→急停止からのバックステップ→クイックリリースでのフェイダウェイシュートが決まり、観客が沸き上がった。

 

 

「うはー、いきなり大技で決めてきたッスねー。しかもバンクショット。相変わらず派手っスねー」

 

苦笑しながら黄瀬が感想を述べる。

 

「…けど、わざわざあんな大技見せる必要あったのかな? 自信があったにしても外れる可能性だってあるのに」

 

「ふん。あいつ、勝負ってものをよく理解してやがるな」

 

1つの疑問を口にした桃井。青峰が背もたれに体重を預けながら話し始めた。

 

「早々に格付けを済ませたんだよ」

 

「格付け?」

 

「最初から大技で力の差を見せつけた。今のプレーはあの6番(三村)じゃまず止められねえ。それを理解させる事で戦意を奪いに行った」

 

「「…」」

 

黄瀬と桃井は青峰の説明に耳を傾けた。

 

「高速のパスワークってのは5人の歯車を嚙合わせるのが必須だ。だが、1つでも歯車が狂えばチーム全体に影響が出る。そうなれば、ディフェンスでもアドバンテージが取れる」

 

「なるほど…」

 

解説を聞いて桃井が納得する。

 

「目の前の相手は潰せる時に潰すのが定石だ。チマチマ出し惜しみして機会を逃すなんざバカのやる事だ。…なるほど、紫原、灰崎、それにお前(黄瀬)とやり合って一皮剥けたみたいだな」

 

コート上のディフェンスに戻る大地を青峰は見つめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

コート上の三村は下を向きながら拳を強く握りしめていた。

 

「(…っ、またあの領域の人間か…!)」

 

あの領域…、それはキセキの世代の立つ領域の事である。かつて、中学時代のチームメイトであるキセキの世代の立つ領域。1度は自分を絶望の淵まで落とす事となった絶大なる壁。

 

「…っ」

 

思わず叫び出しそうになったが、顔をパンパンと強く叩き、どうにか堪えた。

 

「…フー、っしゃ、オフェンスだ。取り返すぞ」

 

1度深く深呼吸をして心を落ち着け、三村はオフェンスへと参加していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

洛山のオフェンスに切り替わり、赤司がボールを運ぶ。

 

「…来い」

 

待ち構えるのは空。一言そう告げて、ディフェンスに臨む。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

右手でドリブルをする赤司。おもむろに左手を上げる。

 

「っ!?」

 

その動きに空が注視する。

 

「…フッ、どうやら俺達のパスワークのカラクリには行き着いたようだね」

 

「おかげさまでな。うちには優秀なマネージャーがいるんでね」

 

空の反応を見てハンドシグナルでセットオフェンスの指示を出していた事を気付かれた事に気付いた赤司。

 

「姫川梢。女子バスケットにおける2人の天才の1人か。もう1人に才能では後れを取るものの努力と相手の分析を重点にする事でその差を埋めた選手か」

 

チラリと花月ベンチに視線を向け、赤司は姫川の姿を確認した。

 

「ならば、もうコソコソサインを出す必要はないな。ここからは堂々とサインを出そう」

 

「良いね。こっちとしてはありがたい限りだ。どれだけパターンがあるか知らねえが、全部止めてやるぜ」

 

薄く笑みを浮かべる赤司。対する空も不敵な笑みを浮かべながら宣言する。

 

「ではやってみるといい――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――53」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤司がセットプレーのナンバーをコールした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





試合の4分の1が終了です。今回の試合は準々決勝程長引かずにパッパッと終わるかも…ってこれ毎回言ってるな…(;^ω^)

個人のテクニックならまだしも、チーム戦術となると、経験者ではない自分ではかなりハードルが高いです。戦術をググっても頭で映像として浮かばず、この辺が辛いです…(>_<)

またこれからバスケのお勉強です…(^_^)/

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第136Q~ナンバープレー~


投稿します!

広げ過ぎた風呂敷が広すぎて畳み方を見失っている作者です…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り9分47秒。

 

 

花月 19

洛山 21

 

 

「(今、何て言った?)」

 

「(確かに、53と聞こえました…)」

 

赤司が口にしたナンバーを聞いて空と大地が戦慄を覚えた。次の瞬間!

 

 

――ピッ!!!

 

 

「っ!?」

 

赤司が矢のようなパスをハイポストに立つ四条に出した。ボールを受けた四条は間髪入れず右45度付近のスリーポイントラインの外側に移動した三村にパスを出した。

 

『っ!?』

 

そこから矢継ぎ早にパスが繰り返される。

 

「(あっかん…、パスが速すぎる…!)」

 

「(パスのスピードが上がった!?)」

 

「(くそっ、チェックが追い付かん!)」

 

さらにスピードが増したパスワークに花月の選手達は困惑を隠せない。

 

「あっ!?」

 

思わず生嶋が声を上げる。生嶋の視線の先、二宮が左45度付近のスリーポイントライン外側でフリーでボールを受けた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

慌ててチェックに向かった生嶋だったが間に合わず、二宮がスリーを決めた。

 

『うわぁぁぁっ!!! 何だこのパスワークは!?』

 

『何が何だか分からないうちに決まっちまった!?』

 

あまりのパスワークとパススピードに観客からもどよめきが上がっていた。

 

「1ON1だけがバスケではない。こういったパスも極めれば強力な武器になる」

 

ディフェンスに戻る際、赤司が空の横で立ち止まる。

 

「これは俺ではなく、絶望しても尚立ち上がり、勝つ為に死に物狂いで身に着けた彼らの武器だ。止められるものなら止めてみるといい」

 

そう告げると、赤司はディフェンスに戻っていった。

 

「赤司は確かに53って言いやがった。てことは、洛山にはセットオフェンスのパスルートが少なくとも53もあるって事か…っ!」

 

拳をきつく握り込む空。

 

試合中に50を越えるパスルートを特定し、かつ見破って先回りするのは不可能に近い。

 

「ちっ」

 

思わず舌打ちが飛び出る空。第2Q早々にエースで先手を取りに行った花月だったが、すぐさま洛山に取り返されるのだった。

 

 

花月のオフェンス…。

 

「もう見切りを付けやがったか…」

 

ボールを運ぶ空。大地に三村と四条がダブルチームでマークをしている。

 

「(せめてこのQくらいは粘ってくれると思ったが、決断が速い。さすがは歴戦の王と言った所か…)」

 

ベンチに座る上杉が心中でその決断の速さを称賛した。

 

ダブルチームはディフェンスの1つであるが、極論を言えばその対象を1人では止められないとマッチアップする選手に告げるようなものである。実力やプライドの高い選手程受け入れられるものではない。だが、洛山の選手は1度の攻防で力の差を認め、選手自らの決断でダブルチームを敷いた。

 

「(だが、2人で今の大地を止められるかよ!)」

 

構わず、空は大地にパスを出した。

 

『来た! 綾瀬だ!』

 

大地にボールを渡り、観客が声を上げる。

 

「っ!?」

 

すると、すかさず三村と四条がチェックに入ったのだが、そのディフェンスを見て大地が目を見開いた。

 

四条は大地の前で適度な距離を保ってディフェンスをしているのに対し、三村は大地の右側…やや後ろに立ってディフェンスをしているのだ。

 

『何だよあれは!?』

 

『それじゃディフェンスの意味がねえだろ!』

 

奇功ともいえる三村のディフェンスに観客席からも野次のような言葉が飛ぶ。

 

「何のつもりだ!?」

 

ベンチの菅野も三村のディフェンスに疑問を抱いた。

 

この会場にいる大半の者が三村のこの行動に疑問を抱いている。だが、実際目の前でディフェンスを受けている大地は本人は…。

 

「…っ」

 

僅かに表情を曇らせていた。

 

「(やり辛いですね。右側に立たれると…)」

 

かなりやり辛さを感じていた。右側に立たれている為、利き手の右手が使いづらい。強制的に左手でのプレーが強いられる為、窮屈さを感じていた。

 

「…」

 

目の前の四条にしても、純粋な1ON1ならまだしも、利き手に制限がある状況で容易く降せる相手ではない。

 

「大地!」

 

見かねた空が中へ走り込み、ボールを要求する。

 

「任せます!」

 

大地はすかさず空へとパスを出す。

 

「っと」

 

空がボールを掴むとすぐさま赤司が立ち塞がる。すると空はボールを後ろへと放った。

 

「ええパスや!」

 

そこへ走り込んでいた天野がボールを掴み、シュート態勢に入った。

 

「ちっ、打たせるか!」

 

舌打ちをしながら四条がヘルプに行き、ブロックに飛んだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

しかし間に合わず、ジャンプショットが決まった。

 

「ナイス天さん!」

 

「おおきに!」

 

空と天野がハイタッチを交わす。

 

「くそっ…」

 

「いい、気にするな」

 

得点を防げず、悔しがる四条、赤司が肩を叩きながら励ました。

 

 

「27!」

 

 

――ピッ!!!

 

 

洛山のオフェンスが始まると、フロントコートにボールが運ばれたのと同時に赤司がセットプレーのナンバーをコールし、今年の洛山の代名詞である高速のパスワークが始まる。

 

「…くっ!」

 

「目が追い付かんわ!」

 

矢継ぎ早にボールを人が行き交う洛山のパスワークに翻弄される松永と天野。

 

「(フィニッシュは誰で来る!? そいつさえ分かれば!)」

 

ボールの動きを注視しながら空がラストパスの相手、得点を決めにくる選手を探る。その時…。

 

「っ!?」

 

五河が松永のマークを外し、フリーになっている事に気付いた。

 

「(お前か!)」

 

ショットクロックが残り9秒になった所で二宮にボールが渡り、それと同時に空が五河と二宮のパスコースに割り込んで塞いだ。

 

「…っ」

 

すると、二宮がボールを掴んでパスを止めた。

 

「(ドンピシャ、ここだ!)」

 

好機と見て空が二宮との距離を詰める。

 

「46だ!」

 

ここで赤司が新たなナンバーをコールした。

 

 

――ピッ!!!

 

 

これを聞いた洛山の選手達が新たな動きを見せた。赤司が中へと走り込んだ。

 

「くそっ、やらせ――」

 

赤司を追いかけようとした空だったが、四条のスクリーンに阻まれてしまう。二宮から赤司にボールが渡り、フリースローラインを少し越えた所でボールを掴んで構えた。

 

「あかん、させへんで!」

 

慌てて天野がヘルプに走り、ブロックに飛んだ。だが、赤司はシュートを放たず、ゴール下に立った五河にパスを出した。

 

「ちぃっ!」

 

それを見た松永がシュートを打たれる前にチェックに向かう。しかし、五河はシュートを打たず、逆サイドに走り込んでいた三村にパスを出した。

 

「打たせませんよ」

 

そこにすかさず大地が目の前に立ち、ディフェンスに入る。三村はこれに動じず、ボールを横へと出した。そこへ、先程スクリーンをした四条がハイポスト付近に走り込み、ボールを掴み、シュート態勢に入った。

 

「…くっ」

 

すぐさまブロックに向かう大地。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

四条は後ろに飛び、大地のブロックを避けながらフェイダウェイシュートを放ち、得点を決めた。

 

「よーし!」

 

得点を決めた四条は拳を握りながら喜びを露にした。

 

「くっそ、確かに最後のパスターゲットは読んだのに、セットプレーのナンバーを変えてきやがった…」

 

パスコースを塞いだ際の二宮を反応を見て、最後は五河で得点を決める事になっていたのは間違いなかった。だが、赤司がすぐさま新たなナンバーをコールし直した。

 

「(実際の所、セットプレーの数がいくつあるかは分からねえが、それを読み切るなんざ不可能だ。だったら…)…失点が防げねえならその倍点取るだけだ。走れ!」

 

『おう!!!』

 

スローワーとなった松永からボールを受け取った空は檄を飛ばし、花月の選手全員がフロントコート目掛けて走り出した。

 

「強引にこっちのペースに引き込むだけだ!」

 

「やってみるといい。出来るものならね」

 

「っ!?」

 

フロントコートに突入した所で空の目の前に赤司が現れる。

 

「…ちっ」

 

思わず足を止めた空。その間に続々と洛山の選手達が自陣に戻り、ディフェンスを敷いた。

 

「神城の速攻に追い付いた!?」

 

「いえ、赤司さんはパスを出したのと同時に戻っていました。恐らく、神城君がラン&ガンを仕掛けてくる事が読まれていたのかと…」

 

驚く菅野に姫川が私見を口にする。姫川の考えは当たっていた。赤司は空が今のペースを嫌って得意の速いペースに切り替えてくる事を予測し、得点が決まる前に戻っていたのだ。

 

「あくまでも自分達のペースでやらせようって事かよ」

 

自分達の得意のペースに持ち込めず、苛立つ空。

 

「…」

 

「…」

 

赤司に足とボールが止められ、洛山のディフェンスが構築され、攻め手を定める。が、洛山の堅い守りを前に有効的な攻め手が決まらない。

 

「(…だったら、自分の手で作り出すだけだ!)」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

意を決して空が高速のハンドリングを繰り出し始めた。

 

『出た、神城の必殺のドライブ!』

 

キセキの世代すら出し抜いた空の必殺ドライブ、インビジブルドライブ。

 

「…」

 

目の前で左右に高速で切り返し続ける空。

 

 

――キュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

後ろへと下がって距離を取った赤司。広がった視野で空の姿を捉えた。

 

「…ちっ、これもダメか」

 

破られた事を悟った空は切り込まず、その場でボールを掴んでシュート態勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、シュートを放とうとボールを頭上にリフトさせようとした瞬間、距離を詰めた赤司がボールを叩いた。

 

「くそっ!」

 

空の背後に零れるボールを空が倒れ込みながら右手を伸ばして強引に手中に収め、ボールを左サイドにいる生嶋にビハインドパスで渡した。

 

「打たせねえよ」

 

生嶋にボールが渡ると、すかさず二宮がチェックに入った。

 

「っ!?」

 

密着する程の二宮の激しい当たりに生嶋はボールをキープするので精一杯になる。

 

「イク! こっちや!」

 

ハイポストに立った天野がボールを要求。声を掛けた。

 

「お願いします!」

 

何とか二宮のディフェンスを掻い潜って天野にパスを出した。ボールを受け取った天野は反転してリングの方向に身体を向けてシュート態勢に入った。

 

「させるか!」

 

大地をダブルチームでマークしていた四条がヘルプに向かい、ブロックに飛んだ。だが、ブロックは紙一重で間に合わなかった。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!? しもた! リバウンド!」

 

ヘルプに来た四条に動揺し、速いリズムで打たされた為、指が掛かり過ぎて外れてしまう。

 

「おぉっ!」

 

「…ぐっ」

 

リバウンド争い、五河がスクリーンアウトで松永を抑え込み、絶好のポジションを確保した。

 

「っしゃぁっ!」

 

気合い一閃で五河がリバウンドボールを確保した。

 

「赤司!」

 

「よくやった。速攻だ!」

 

五河から赤司のボールが渡り、赤司が号令を出し、洛山の選手達が駆け上がった。

 

「あかん! 戻れ!」

 

悲痛に叫ぶ天野。

 

「ここは行かさねえ」

 

「止めます」

 

空と大地が誰よりも速くディフェンスに戻り、洛山の選手達を待ち構えた。

 

「19!」

 

速攻に走りながら赤司がセットプレーのナンバーをコールした。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールを回しながら速攻に駆け上がる洛山の選手達。

 

「落ち着け! 自分のマークを絶対に外すな!」

 

空が大声で鼓舞をする。

 

「そうだ。マークを外さなきゃシュートは打てないんだ」

 

「だが、話はそんなに簡単ではない」

 

祈りながらポツリと呟いた帆足。だが、上杉が顎に手を当てながら低い声で呟いた。

 

「高速で動くボールを追いながらマークをし続けるのは簡単な事ではない。パスを1つ出す度にマークが遅れる。そしてその遅れが積み重なれば…」

 

ボールがゴール下に走り込んだ五河に渡る。

 

「ノーマークの選手を作り、致命的な隙となる」

 

「くそっ!」

 

ゴール下から得点を狙いに行く五河。慌てて松永がブロックに向かう。

 

 

――ドン!!!

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『プッシング! 赤8番(松永)!』

 

ボールを放つ直前、ブロックに向かった松永と接触。ファールがコールされた。ボールはリングのクルクルと回り、リングの外側に零れ落ちた。

 

『フリースロー!』

 

審判はフリースローをコールした。

 

「すいません」

 

「今のは仕方あらへん。得点を阻止出来ただけでもよしとしようや」

 

気落ちする松永の肩を叩きながら励ます天野。

 

 

――ザシュッ!!! …ザシュッ!!!

 

 

「くそっ、きっちり決めやがった!」

 

きっちりフリースローを2本決めた五河。それを見て菅野が悔しがった。

 

「1本! 取り返すぞ!」

 

ボールを運ぶ空が指を立てながら声を出した。

 

「むしろ、深刻なのはディフェンスよりオフェンスです」

 

ベンチの竜崎が口を開く。

 

洛山のディフェンスはマンツーマン。大地に三村と四条がダブルチームで付いており、天野が空いている状態だ。

 

「天野先輩に打たせるように仕向けています」

 

コートでは、他の4人にはピタリとマークしているのに対し、天野にボールが渡るとよほどリングに近いポジションでない限りチェックには消極的であった。

 

「けどよ、天野は別にシュートが下手な訳じゃねえんだぞ?」

 

菅野が口を挟む。

 

「はい。…ですが、失礼ながら、そこまで長けている訳でもありません。多少チェックが遅れてもプレッシャーをかけてタフショットを打たせてしまえば確率はそこまで高くありません」

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!? ちぃっ!」

 

フリーとなった天野がジャンプショットを放つもリングに嫌われてしまう。

 

「そして、天野先輩がシュートを打ったと言う事はリバウンド争いには参加出来ません」

 

「よーし!」

 

「くそっ!(…パワーだけじゃない、スクリーンアウトも天野先輩並みに上手い…!)」

 

リバウンドボールを松永を抑え込んだ五河が抑えた。

 

「ディフェンスでは止められず、オフェンスでは確率の低いシュートを打たされ、リバウンドは取れない。このままではマズイです」

 

深刻な表情で竜崎が告げた。

 

「走れ、速攻だ!」

 

五河からボールを受け取った赤司は掛け声と共にフロントコートへ駆け上がる。

 

「ディフェンス! 絶対止めんぞ!」

 

ディフェンスにいち早く戻った空が声を張り上げる。

 

「55だ!」

 

赤司がセットプレーのナンバーをコールする。

 

「ちっくしょう、まだ上があんのかよ!?」

 

赤司の口から出た数字を聞いてその数に文句を言う空。コート上では洛山の選手達が自在に動き回りながらボールを動かしている。

 

「(自分のマークは絶対外さへん!)」

 

「(パスに惑わされるな、ボールと自分のマークから目を離すな!)」

 

自分自身の言い聞かせるようにしながらディフェンスに臨む天野と松永。ショットクロックが残り6秒になった所でボールが左45度付近のスリーポイントラインの外側に走り込んだ二宮に渡った。

 

「打たせないよ」

 

シュート態勢に入る前に生嶋がチェックに入った。

 

「よっしゃ止めた!」

 

打たれる前にディフェンスに入った生嶋を見て菅野が拳を握った。

 

「あぁ、だが…」

 

だが、上杉は胸の前で腕を組みながら神妙な表情をしていた。

 

二宮はポンプフェイクをいれてからドリブルで中に切り込んだ。

 

「…っ、行かせない」

 

生嶋は僅かにフェイクに反応するも二宮を追いかける。直後、二宮がボールを掴んでターンアラウンドで反転し、シュート態勢に入った。

 

「っ!?」

 

ハンズアップをした生嶋。しかし、二宮はまたもやポンプフェイクを入れた。生嶋が両腕を上げたのを見て後ろに飛びながらジャンプショットを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「よし!」

 

放たれたボールはリングを射抜いた。

 

「あっ…」

 

「例え何とかマークし続けられたとしても、奴らには独力で決められるだけのテクニックがある」

 

得点を決められ、気落ちする菅野。上杉がさらに厳しい現実を突きつけた。

 

「マズイですよ。オフェンスかディフェンス。どちらか1つでも突破口を開かないと点差は開き続けます」

 

真剣な表情だが焦りを含ませた声で竜崎が言った。

 

 

続く花月のオフェンス…。

 

「空!」

 

ボールを運ぶ空に向かって大地が直接ボールを貰いに行く。空はすれ違い様に手渡しでボールを渡し、さらに追いかける三村のスクリーンの役目も果たした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空からボールを受け取った大地は直後に身体をリングに向け、スリーポイントラインから1メートル程離れた所からスリーを放ち、決めた。

 

「良いぞ大地!」

 

パチン! と空と大地がハイタッチを交わした。

 

「所詮は単発だ。何度も続かない。きっちり返すぞ」

 

あくまでも赤司は動じず、選手達に冷静に指示を出した。

 

 

――ピッ!!!

 

 

再び洛山の高速でのパスワークが始まる。

 

『…っ』

 

困惑しながらも花月の選手達は歯を食い縛りながらこの素早いボール回しに付いていく。パスコースが読めている訳ではないが、何度も見せられてある程度このパスワークに適応し始めていた。

 

「…なるほど、伊達に陽泉や鳳舞、海常に勝った訳ではないと言う事か」

 

がむしゃらながらパスワークに対応する花月の選手達に賛辞の言葉を贈る赤司。

 

「だが甘い。その程度で止めたと思わない事だ」

 

 

――ピッ!!!

 

 

ここで赤司はボールをリングに向かって放り投げた。すると、ボール目掛けて三村が走り込み、飛び付き、両手で掴んだ。

 

『まさか!?』

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

両手で掴んだボールをそのままリングに叩きこんだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

三村のアリウープに観客が盛大に沸き上がった。

 

『…』

 

リングを掴んだ手を放して床に着地する三村。その光景を茫然と見つめる花月の選手達。

 

「パスコースは下だけではない。上にもあると言う事だ」

 

そう空に告げ、赤司はディフェンスに戻っていった。

 

「…っ」

 

空は両手の拳をきつく握りしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ベンチの上杉が立ち上がり、オフィシャルテーブルに向かい、タイムアウトの申請をした。だが、タイムアウトは時計が止まらなければコールされない。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空から天野を中継して松永にボールが渡るも、五河にブロックされてしまう。ボールが奪われ、ターンオーバーとなり、洛山の速攻。

 

 

――ピッ!!!

 

 

高速のパスで花月のディフェンスを翻弄しながらチャンスを窺う洛山。中に走り込んだ三村にボールが渡った。

 

「…っ」

 

慌てて大地がチェックに向かう。しかし、三村はボールを掴むとすぐさま後ろへとボールを放った。すると、リングから正面付近のスリーポイントライン外側で赤司がボールを掴み、スリーの体勢に入った。

 

「させっかよぉっ!!!」

 

 

――チッ…。

 

 

賢明にブロックに飛んだ空の指先に僅かにボールが触れた。

 

 

――ガン!!!

 

 

赤司が放ったスリーはリングに弾かれた。

 

「「リバウンド!」」

 

空と赤司が同時に声を出す。

 

「…くっ!」

 

苦悶の声を上げる天野。四条はボールは二の次で天野を身体を張ってリングから遠ざけていた。

 

 

――ポン…。

 

 

弾かれたボールを五河がタップで押し込んだ。

 

「くそっ!」

 

悔しがる松永。

 

「(早く…、お願い、止まって!)」

 

開いていく点差を見て姫川が祈る。

 

続く花月のオフェンスも失敗し、ターンオーバーしてしまう。

 

 

――ドン!!!

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ホールディング! 赤6番(大地)!』

 

見かねた大地が三村に接触、ファールがコールされる。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

同時に上杉が申請していたタイムアウトがコールされた。

 

 

第2Q、残り5分26秒。

 

 

花月 24

洛山 34

 

 

『ハァ…ハァ…』

 

翻弄され続けた花月の選手達疲弊しながらベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ…。

 

「悪くない。プラン通りだ」

 

ベンチに座る洛山の選手達。白金が選手達の前で労った。

 

「タイムアウト後もプランに変更はない」

 

続いて白金が指示を出した。

 

「このまま突き放す。花月を相手に点差はいくら開けても安全とは言えない。最後まで攻め立てて点を取りに行くぞ」

 

『おう!!!』

 

白金の後に赤司が指示を出した。

 

「(去年、一昨年の洛山は私が受け持った中で最強と呼べるチームであった。だが、今年の洛山は私が受け持った中で最高のチームかもしれないな…)」

 

頼もしい選手達を見て白金が心中で思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

ベンチに戻った花月の選手達。その表情は暗い。

 

『…』

 

ベンチの選手達もかける声が見つからない。突破口の見えない現状に沈黙するしかなかった。

 

「あーつえーな。やっぱり洛山はつえー」

 

沈黙を破ったのは空。タオルで顔の汗を拭いながら喋り始めた。

 

「けど何故だろうな。スゲーワクワクする」

 

タオルを降ろして首にかけると、空は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ワクワクしとる場合ちゃうぞ。この手詰まり状況、何か考えあるんか?」

 

そんな空に呆れながら天野が尋ねた。

 

「とりあえず、メンバーとディフェンスを変える。監督、いいですか?」

 

「考えがあるんだな?」

 

上杉が尋ねると、空はコクリと頷いた。

 

「まずは、生嶋、交代してくれ」

 

「僕?」

 

自分を指差しながら尋ねる生嶋。

 

「あぁ。代わりに、室井、入ってくれ」

 

「…自分ですか?」

 

指名を受けると思わなかった室井は思わず尋ね、上杉の方へ視線を向ける。すると、上杉は無言で頷いた。

 

「ポジションはセンターだ。松永は急で悪いが3番(スモールフォワード)に入ってくれ」

 

「3番? …分かった、とりあえず従おう」

 

意図は理解出来なかったが、松永は了承した。

 

「大地は2番(シューティングガード)だ。そんで、ディフェンスはマンツーマンディフェンスから2-3のゾーンディフェンスに変える。前に左から俺と大地。後ろは左から天さん、室井、松永だ」

 

「2-3ゾーンって、相手は全員外があるんですよ? 大丈夫なんですか!?」

 

思わず竜崎が尋ねた。ゾーンディフェンスは中が厚くなる分外からの攻撃が弱点となるディフェンスである。洛山相手にゾーンディフェンスは無謀であり、事実、昨日の試合では中宮南が失敗している。

 

「心配はいらない。向こうの外は俺と大地で全てシャットアウトする」

 

『っ!?』

 

この言葉に花月の選手達は目を見開いた。

 

「やれるな、大地?」

 

「…やるしかないみたいですね。ならばやりましょう。任せて下さい」

 

大地は苦笑しながら了承した。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のコールが鳴る。

 

「さあ行くぜ、洛山に目にモノ見せてやる」

 

不敵な笑みを浮かべながら空が立ち上がり、コートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「点差開いてきたッスね」

 

背もたれに体重を預ける黄瀬。

 

「ま、もともと戦力に差があるからな」

 

その言葉に答えるように口を開く青峰。

 

「けどまあ、それ以上に今の状況を作り出してるのは、偏に、司令塔の差だ」

 

「赤司君と神城君?」

 

青峰の言葉を聞いて尋ねる桃井。

 

「攻守で的確に指示を飛ばしてる赤司に対して、神城は完全に後手後手だ。その差は一目瞭然だな」

 

「厳しいッスね。あれでも赤司っち相手によくやってると思うんスけどね」

 

辛い評価を付ける青峰に対し、黄瀬が擁護する言葉をかけた。

 

「よくやったじゃ意味ねえんだよ。負けたら終わりなんだ。どんなに努力しようが健闘しようが、勝てなきゃ意味がねえ」

 

「「…」」

 

それでも厳しい言葉をかける青峰に黙り込む黄瀬と桃井。

 

「それに赤司はまだ指示を出してるだけでまだ派手な動きはしてねえ。このまま何も出来なきゃ花月は完敗する」

 

断言する青峰。

 

「…赤司君相手じゃ今の神城君じゃ無理かな」

 

「…普通に考えりゃな」

 

ここでタイムアウトのブザーが鳴った。

 

「このままならな…」

 

青峰は、不敵な笑みを浮かべながらコートに入ってくる空に視線を向けながら呟いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第2Qに入り、洛山が猛威を振るい始めた。

 

あらゆるパターンの素早いパスに翻弄される花月の選手達。

 

劣勢を強いられる花月。空のアイディアでメンバーとディフェンスを変える。それが吉と出るか凶と出るか。

 

再び試合が再開される……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





戦術が高度になればなるほど迷走していく…(;^ω^)

スポーツは経験してみないと分からない事がある。今まさにそこに直面している気分です。

ていうか、洛山の選手達は設定上は無冠の五将的な立ち位置なのに、キャラをほとんど掘り下げてないせいで、何か異常に強いモブみたいになってるな…。その辺り少し後悔してきたorz

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第137Q~スピード~


投稿します!

急に寒くなってきた…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り5分26秒。

 

 

花月 24

洛山 34

 

 

タイムアウトが終了し、両校の選手達がコートに戻ってきた。

 

 

OUT 生嶋

 

IN  室井

 

 

「ん? 5番を下げた?」

 

選手交代に気付いた二宮が声を上げた。

 

「中を固めるつもりか?」

 

「向こうは何を考えている。…だが、これで花月に外がオプションが1つなくなった。こっちとしては好都合だ」

 

相手の意図を考える三村。四条は好機と判断した。

 

「…」

 

赤司は花月選手…その中で不敵に笑う空に視線を向けたのだった。

 

 

審判から二宮にボールが渡され、赤司にパスを出し、試合が再開された。

 

「…むっ?」

 

『っ!?』

 

試合が始まると、花月が2-3ゾーンディフェンスを敷く。それを見て赤司は疑問を声を上げ、他の選手達は目を見開いた。

 

「…うちにはゾーンディフェンスはもっとも相性が悪いディフェンスだと言うのが分からない訳がないだろう」

 

ベンチの白金が顎に手を当てながら呟いた。

 

ゾーンディフェンスは外からの攻撃に弱い。そして、洛山の選手達は5人全員が外から打てるプレーヤー。普通に考えればこの選択は悪手である。

 

「何を考えている…」

 

白金は視線を相手ベンチの上杉に向けながら呟いた。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながらゲームメイクする赤司。

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司は左45度付近のスリーポイントライン手前に立つ二宮にパスを出す。

 

「…っ」

 

すると、即座に空が動き出し、二宮の1メートル程前に移動した。

 

「? チェックに行かないのか?」

 

距離を詰めない空に疑問の声を上げる五河。

 

「(何を考えてんだこいつ。止める気がないのか?)」

 

依然として距離を詰めてくる様子がない空を見て戸惑う二宮。

 

「(…なら、遠慮なく打たせてもらうぜ)」

 

二宮が視線をリングに向け、ボールを掲げようとした。

 

「(…ピクッ)」

 

「っ!?」

 

すると、空がこれに反応し、1歩踏み込んだ。

 

「(まさかこいつ…!)」

 

ここで二宮は理解した。空が距離を詰めないのは今立ってる位置からでも届くからだと。

 

「(思い出した。こいつは去年、実渕さんのスリーを距離を放した状態でブロックしてたんだ…)くっ!」

 

こうも距離を取られてしまえば切り込む事も出来ない。二宮はスリーを諦め、ボールを赤司に戻した。

 

「…」

 

赤司にボールを返ってくると、空も当初のポジションに戻った。

 

「…」

 

今度は右アウトサイドの三村にパスを出す。すると、大地が動き、空同様、距離を空けてディフェンスに入った。

 

「…っ」

 

ボールを掴んだ三村だが、打ちに行く事も中に切り込む事も出来ないでいた。

 

「…スリーを打って来ないな。こっちとしてはありがたいが、打てないもんなんだな」

 

ベンチでヒヤヒヤしながら見守る菅野。

 

「シュートは距離が離れれば離れる程繊細さが求められますからね。プレッシャーをかけられるだけで打ちづらくなります」

 

『…』

 

生嶋の解説にベンチの選手達が耳を傾ける。

 

「ディフェンスの時と違ってオフェンスでは天先輩がいる上、今は中を固められているからリバウンドは難しい。そもそも、洛山の方達はあくまでスリーが打てるだけで純粋なシューターではないから、これだけ悪条件が揃った状況で打てないでしょうね」

 

キセキの世代のシューターである緑間や、それこそ生嶋のような練習や試合でスリーを打ち続け、決めてきた選手なら思い切って打てるかもしれないが、彼らにはそれがない。その為、分の悪いスリーを打ちにいけるだけの自信と勇気が持てないのだ。

 

「…ちっ」

 

三村は無理に打ちに行けず、赤司にボールを戻した。

 

『スゲーぞ、花月はあの2人だけでスリーを封じてやがる』

 

ボールが戻ってきた赤司。表情を変える事なく再びゲームメイクを始める。

 

「…」

 

すると、赤司は突如としてシュート態勢に入った。

 

「っ!?」

 

これを見て空が一気に赤司との距離を詰め、ブロックに飛んでシュートコースを塞いだ。

 

『うぉっ! あっという間に距離を潰しやがった!』

 

「…」

 

目の前に空が現れ、シュートコースが塞がれると、赤司はボールを下げ、ビハインドパスの体勢に入った。

 

「あっ!?」

 

その時、ベンチに竜崎が声を上げた。赤司の左方向に二宮がパスを貰う為に移動していたのだ。

 

「…っ」

 

これに気付いた大地が二宮に向かって走り始めた。

 

「止まれ!」

 

「っ!?」

 

次の瞬間、空が大声で大地を制止した。すると、ボールは左方向ではなく右方向に向かって行った。

 

「エルボーパス!?」

 

ベンチの竜崎が立ち上がりながら驚愕した。赤司は右手でビハインドパスを出すのと同時に左肘を後ろに突き出し、当てて反対方向に跳ね返したのだ。

 

「ナイスパス!」

 

赤司の右方向に移動した三村にボールが渡る。ボールを受け取った三村はすぐさまシュート態勢に入った。

 

「…っ」

 

大地は空の制止の声を聞いて急停止し、バックステップしながら反転して三村のいる所へ駆け寄った。

 

 

――チッ…。

 

 

「なっ!?」

 

猛ダッシュで距離を詰め、ブロックに飛んだ大地。伸ばした指先に僅かにボールが触れた。

 

「リバウンド!」

 

このスリーが外れる事を確信した大地は声を飛ばした。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通り、ボールがリングに弾かれた。

 

「となれば、俺やな!」

 

「任せて下さい!」

 

リバウンド争いの為、ゴール下に入る天野と室井。四条と五河。

 

「(…くそっ、やっぱりこいつのリバウンドは…!)」

 

強引に良いポジションを奪おうとする四条だったが、天野がパワーとテクニックで抑え込んだ。

 

「(っ!? こいつ、何てパワーだ! それに身体の使い方も上手い、素人じゃないのか!?)」

 

同じくポジション争いをする室井と五河。10㎝以上も身長差がある2人だが、身長で劣る室井が五河を身体を張って抑え込んでいた。

 

「室井君は確かに高校からバスケを始めた。まだまだ拙い所はあるけど、身体を使ったプレーに関しては例外です。陸上部出身の彼はどうすれば無駄なく力を引き出せるかをよく理解しています。ボールを持たないプレーに関して言えば彼は黄瀬さん相当のセンスを持ってます」

 

入学時から室井の世話係をしていた姫川。陸上で培ったノウハウを生かし、スクリーンアウトの技術をいち早く習得した。持ち前の身体能力も相まって室井の武器となった。

 

「おぉっ!」

 

ポジション争いで勝った室井がリバウンドを制した。

 

「良いぞ室井!」

 

ベンチの菅野が自分の事のように喜んだ。

 

「速攻だ! くれ!」

 

「頼みます!」

 

速攻に走った空がボールを要求。室井は空目掛けて大きな縦パスを出した。

 

「まずい、戻れ!」

 

カウンターを食らい、慌ててディフェンスに戻る洛山の選手達。

 

「っと」

 

ボールを掴んで前を向く空。すると、赤司が既にディフェンスに戻っていた。

 

「さすが、戻りが速い。…けど、今度は一味違うぜ」

 

その時、大地が空の横を駆け抜けた。

 

「今度は2枚だ」

 

空は飛びながら前を走る大地にパスを出した。大地はボールを掴んでリングに向かい、レイアップの体勢に入った。

 

「…っ」

 

赤司は反転して大地を追いかけ、レイアップの阻止に向かった。

 

 

――スッ…。

 

 

大地はボールをリングにではなく、後方へとふわりと浮かせるように放った。するとそこには空が飛んでいた。

 

「…ちっ」

 

思わず舌打ちが飛び出る赤司。ボールを掴んだ空に対してブロックに飛んだ。

 

「俺があんたに勝ってるものがスピード以外にもう1つある」

 

右手で掴んだボールをリングに振り下ろす。

 

「ジャンプ力だ」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

振り下ろしたボールを赤司の上からリングに叩きつけた。

 

『うぉぉぉぉぉーーっ!!! 綾瀬から神城へのアリウープだ!!!』

 

「っしゃぁっ!!!」

 

コートに着地し、拳を頭上で振り回しながら喜びを露にする空。

 

「ドンマイ、赤司」

 

励ましながら五河がボールを拾い、赤司にボールを渡そうとしたその時!

 

「当たれ!」

 

空が大声で指示を飛ばす。すると、花月の選手達はディフェンスに戻らず、室井が五河の前に駆け寄り、両腕を上げて立ち塞がる。空が赤司、大地が二宮、松永が三村、天野が四条に激しく当たり始めた。

 

『ここでオールコートマンツーマンか!?』

 

「これならセットプレーもくそもねえだろ」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら空が目の前の赤司に告げた。ボールをフロントコートに運ばせなければセットプレーは行えない。空の考えた対策の1つである。

 

「生嶋を下げたのはインサイドを強化するだけじゃなくて、この為か!?」

 

交代の意図を理解した四条が声を上げる。対洛山においては室井のオフェンス力は限りなく低いが、ディフェンスにおいては高さもパワーもあり、スピードもスタミナもある為、打って付けの人材である。

 

「舐めんなよ、こっちは帝光から洛山に渡り歩いてるんだ。この程度でオタオタする訳ねえだろ!」

 

三村がそう叫び、洛山の選手達が動き始める。

 

「赤司!」

 

五河が目の前でハンズアップをする室井の隙を突いて赤司にボールを渡す。

 

「っしゃ止めてやる!」

 

赤司にボールが渡ると、すぐさま空が激しくプレッシャーをかけ始めた。

 

「…」

 

空の激しいプレッシャーを受けながらも一切動じない赤司。

 

 

――スッ…。

 

 

隙を突いて左方向からスピンターンをする。

 

「させっか!」

 

これに空が反応し、左手を伸ばして阻止する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

次の瞬間、赤司が逆方向にターンして空の後ろを抜けていった。

 

「…ちっ、んのやろ!」

 

左からターンすると見せて右へのターン。赤司の巧みなジャブステップに引っ掛かり、抜かれてしまい、思わず舌打ちをし、すぐさま赤司を追いかける。空が再び赤司の前に立ち塞がろうとした瞬間、赤司が前へと走る二宮に縦パスを放った。

 

「っし!」

 

ボールを受け取った二宮はそのまま速攻に駆け上がった。

 

『うわー! オールコートが失敗した!』

 

観客からは溜息のような悲鳴が響いた。

 

「まだ終わりじゃねえんだよ」

 

ここで空がニヤリと笑う。

 

「っ!?」

 

スリーポイントラインの目前で大地が追い付き、二宮の前に立ち塞がった。

 

「これならセットプレーは使えないでしょう?」

 

「…っ」

 

大地がボソリと告げると、二宮は僅かに表情を顰めた。

 

今の時点でオフェンスに参加出来ているのは二宮のみ。セットプレーを行う為には洛山の選手が全員攻め上がるまで待たなければならない。だが、そうなれば花月の選手もディフェンスに戻ってしまう為、速攻のチャンスを失う事になる。

 

「このまま仕掛けるか、それとも味方を待って5人で再び仕掛けるか。…もっとも、私なら前者を選びますが」

 

「…っ!」

 

挑発とも取れる大地の言葉に二宮の表情が僅かに歪む。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

二宮が仕掛ける。クロスオーバーで大地を抜きにかかった。

 

「行かせませんよ」

 

スピードも切れ味もあるクロスオーバーだが、大地はピタリとディフェンスをする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、さらにクロスオーバーで切り返し、大地の横を抜けていった。

 

「へぇー、結構スピードもキレもあるな…」

 

キレ味鋭いドリブル技術を見て感心する空。

 

「さすが洛山のスタメン。…だが、相手が悪かったな」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

リングに向かってレイアップの体勢に入った瞬間、後ろから大地がボールを叩いた。

 

「その程度じゃ大地はかわせないぜ。…速攻!」

 

ボールを拾った空が声を出し、そのまま花月の選手達は攻め上がった。

 

「しっかりマークするんだ! 慌てるな!」

 

ディフェンスに戻りながら四条が声を上げた。

 

「…っと、やっぱり簡単にはワンマン速攻を決めさせてくれないか…」

 

空の前に立ち塞がる赤司。同時に空は足を止めた。

 

「スマン赤司、助かった!」

 

速攻を止めた赤司に礼を言う二宮。その間に洛山の選手達も自陣に戻り、各自マークに付いてディフェンスに入った。

 

『さすが洛山、戻りがはえー!』

 

『せっかくのターンオーバーだったのに…』

 

ワンマン速攻を阻止した洛山のディフェンスの構築の速さに驚きの声を上げる観客達。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合うように対峙する空と赤司。両チームの選手達も2人の動向に気を配る。

 

「(こいつ(室井)が出来るのは補佐くらいだ。多少マークを甘くしても問題ない。いつでも神城のペネトレイトに対応出来るようにしておこう…)」

 

五河は目の前の警戒を解き、いつでもヘルプに出れる準備をする。

 

「空!」

 

その時、大地が空の下に駆け寄る。三村と四条のダブルチームをかわす為、自ら直接ボールを受け取りに行った。

 

 

――スッ…。

 

 

駆け寄る大地に手渡すようにボールを差し出す空。

 

「っ!? 五河!」

 

ここで何かに気付いた赤司が声をかける。

 

「遅ぇ!」

 

 

――ピッ!!!

 

 

そう言葉を発するのと同時に空が差し出したボールを引っ込め、矢のようなパスをゴール下に投げた。

 

「あっ!?」

 

思わず五河が声を上げる。そして、ここでようやく気付いた。

 

「ナイスパスキャプテン!」

 

ゴール下に移動していた室井がボールを掴んだ。

 

「…ちっ!」

 

慌ててチェックに向かう五河。

 

「おぉっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

だが間に合わず。室井は両手で掴んだままリングに向かって飛び、ボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

このダンクに観客は沸き上がった。

 

「ええで、よー動いたムロ」

 

駆け寄った天野が室井の肩に手を置きながら労った。

 

「相手が俺から意識を逸らしたのが分かりましたので。…ですが、凄いのはキャプテンです。俺がゴール下に移動したら即座にパスが来ました。あの赤司って人を相手にしながら周囲に気を配って、タイミングもバッチリで…」

 

「それが空坊や。今やあいつは赤司とナンバーワンポイントガードの座を争うだけの力を持っとるで」

 

天野は空の事を高く評価し、称賛の言葉を贈ったのだった。

 

「これで終わりじゃねえぜ、当たれ!」

 

スローワーとなるべく五河がボールを拾うと、空が再びオールコートで当たる指示を出した。

 

「…ちっ」

 

五河の目の前で室井がハンズアップしながら立ちはだかり、これを見て五河が舌打ちをする。

 

「五河!」

 

その時、三村がフロントコートに向けて走り、ボールを要求した。それを見て五河が持っていたボールを振りかぶった。

 

「…っ」

 

これを見て五河が縦パスの阻止する為、室井がその場で飛んだ。しかし…。

 

「っ!?」

 

振りかぶったボールを五河が左手で抑え、冷静に室井の足元にボールを弾ませながら五河に駆け寄った二宮にボールを渡した。

 

「同じ手が何度も通用すると思うよ!」

 

そう叫んだ二宮は赤司にボールを渡し、フロントコート目掛けて走り出した。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールを回しながら駆け上がる洛山の選手達。

 

「42だ!」

 

フロントコートに全員が攻め上がると、赤司がナンバーをコールした。

 

「…っ、ゾーンディフェンスでもお構いなしかい!」

 

変わらずお家芸のセットプレーのナンバーコールに顔を顰める天野。

 

「っ!? 来るぞ! ボールを見失うなよ!」

 

セットプレーが始まり、空が檄を飛ばした。

 

『…っ』

 

絶えず動き続ける選手とボール。花月の選手達は得点チャンスを作らせないようにボールと相手選手に気を配る。

 

「…」

 

「…」

 

そんな中、空と大地が冷静に周囲を観察しながらディフェンスをしている。

 

 

――スッ…。

 

 

シュートクロックが残り6秒になった所で二宮がハイポストから方向転換し、ツーポイントエリアから離れ、左45度付近のスリーポイントライン外側まで走り、リングがある方向に反転した。それに合わせるようにローポストでボールを受けた四条が二宮にパスを出した。

 

「よし!」

 

ボールを掴んだ二宮は同時にシュート態勢に入った。

 

「させません!」

 

ボールを掴んだ二宮に対して大地がすぐさま距離を詰めてシュートチャンスを潰しに向かう。

 

「残念だったな」

 

スリーを打とうとボールを掲げた二宮。頭上にボールを上げた所でボールを止め、パスに切り替えた。

 

『っ!?』

 

ボールは右サイド、サイドラインとエンドラインが交わる所に走り込んでいた三村に向かって行った。2-3ゾーンディフェンスで中を固めていた花月だったが、セットプレーによるボール回しでゾーンが左にズレてしまっていたのだ。

 

「もらうぜ!」

 

シュートクロック残り2秒。三村がシュート態勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

しかし、放たれたシュートはブロックされた。

 

「残念だったな!!!」

 

ブロックしたのは空。二宮にパスが出された瞬間、右方向に走る三村を見過ごさず、ブロックが間に合うギリギリのポジションに移動していたのだ。

 

『アウトオブバウンズ、白(洛山)!』

 

ボールはラインを割った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、洛山!』

 

同時に洛山が申請したタイムアウトがコールされた。

 

「なるほど、さすが白金。決断が速いな」

 

上杉は白金を見て決断の速さを称賛した。

 

「…」

 

白金は、ベンチの前で無言で立ちながら選手達を待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「よく止めた神城!」

 

「うす!」

 

戻ってきた花月の選手達。菅野が空を労い、2人はハイタッチをした。

 

「それにしてもくー、よくブロック出来たね。はい、水とタオル」

 

「サンキュ」

 

ベンチに座った空は生嶋から水が入ったボトルとタオルを受け取った。

 

「セットプレーのパスのルートが分かったんですか?」

 

「んなもん分かる訳ねえだろ」

 

質問する竜崎。空は首を振った。

 

「そもそもパスルートなんて分かんなくたっていいんだよ。誰が最後に打ってくるかさえ分かればな。それが分かればそいつに気を配ればいい」

 

「なるほど。…ですが、どうやってそれを知ったんですか?」

 

「ゾーンディフェンスですよ」

 

質問に答えた空に対し、竜崎がさらに質問をすると、大地が代わりに答えた。

 

「ゾーンディフェンスにした本当の理由は、相手の動きの流れを分かりやすくする為だったんですよ」

 

「流れ?」

 

「こちらがゾーンディフェンスを敷けば、相手は外から仕掛けて来ます。ですが、それが困難と分かればゾーンディフェンスを崩しに来ます。絶えずマークマンを追いかけるマンツーマンディフェンスと違い、ゾーンディフェンスは特定の相手にマークをしませんから崩すとなれば特定のスペースを作りに来ます」

 

『…』

 

「その時作り出したスペースに走り出す選手が高確率でシュートを打ってくる選手です。シュートクロックが残り少なければ尚の事です」

 

「解説サンキュ。俺はどうもその手の説明が苦手だったからな」

 

分かりやすく説明をしてくれた大地に空が感謝の言葉を告げた。

 

「とりあえず、完璧とは言えないが、向こうのナンバープレーを止める手立ては出来た。さて、向こうはどう来るかな…」

 

ボトルの水を口にしながら空は呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ…。

 

『…』

 

2度に渡るオフェンス失敗と連続失点に気落ちする選手達。

 

「…ふぅ」

 

赤司はタオルで汗を拭いながら呼吸を整えていた。

 

『滑稽だな』

 

その時、赤司の中にいるもう1人の赤司が話しかけた。

 

『見るに堪えないとはこの事だ。いつまでも無様な試合をするつもりだ?』

 

「(そう見えるか? 俺はこれでも力を尽くしているつもりだが…)」

 

『やる気がないなら僕と代われ。これ以上は見ていて不愉快だ。僕自ら花月に引導を――』

 

「(…フフッ)」

 

『何が可笑しい?』

 

「(いやなに、気付いているか? 一昨年のウィンターカップ以降、俺とお前は入れ替わった。いや、正確には戻ったか。それはいい。以前もお前が自ら表に出ようとした時、目の前には神城空がいた事に…)」

 

『っ!?』

 

「(神城空の潜在能力の高さに誰よりも早く気付いたのは誰でもない、お前だ。だから去年、お前は彼が自身の最大の障害となる前に引導を渡そうとした。違うか?)」

 

『…戯言を』

 

「(まあいい。そこまで彼と戦いたいならばやるといい。だが、くれぐれも油断しない事だ。彼は去年とは比較にならないぞ)」

 

ここで赤司は目を瞑った。

 

「…ふん、下らない事を」

 

「…赤司?」

 

おもむろに一人事を呟いた赤司に対し、二宮が声を掛けた。

 

「なんでもない。それよりも、この体たらくは何だ?」

 

立ち上がり、選手達に振り返る赤司。

 

『っ!?』

 

その時、洛山の選手達は気付いた。赤司の雰囲気が変わっている事に。

 

「充。油断をした挙句、マークを外すとは何事だ。洛山のインサイドを任されている者がそんな様でどうする。交代させられたいのか?」

 

「…っ、スマン」

 

見下ろすように睨み付ける赤司の視線に身体を強張らせながら謝罪をした。

 

「大智。お前の仕事は点を取るだけではない。お前が天野に良い様にリバウンドを取られているせいで流れに乗り切れていない。いつまでも永吉がいた去年とは違う事に気付け」

 

「…っ! あぁ」

 

同じく謝罪をする四条。

 

「秀平、彰人。お前達もリバウンド争いが不利になったくらいで消極的になりすぎた。何の為に今日まで練習をしてきた。ここで決める為だろう」

 

「…スマン」

 

「…あぁ、その通りだ」

 

続いて2人も謝罪をした。

 

「無冠の五将と称されたあの3人と資質では決して劣らないものを持ちながら最後まで彼らからスタメンを奪えなかったのはそのお前達の弱さにある。頂点を目指しながら心はまだ屈したままだ。中学時代の時のようにな」

 

『っ!?』

 

「お前達はもう敗北者ではない。僕が言える筋合いはないだろうが、お前達はもう、僕ら(キセキの世代)と戦い、頂点を目指せるだけの強さを持っている。それは僕が保証する。だから、心の弱さと甘さはこのベンチに置いていけ。それが出来ないなら交代を申し出ろ」

 

『…』

 

「僕からは以上だ。…監督、すいません、貴重なタイムアウトの時間を」

 

「構わん。細かい指示は出せなかったが、充分意義はあった」

 

頭を下げる赤司に対し、白金はそれを制したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のコールが鳴った。選手達がコートへと戻って来る。両チームとも交代はなし。

 

「…ふーん、このタイムアウト中に何があったかは知らないが、ここからまた一味違って来そうだな」

 

タイムアウト前と明らかに顔付きが違う洛山の選手達を見て何かを感じた空。

 

審判から三村がボールを受け取り、赤司にパスを出して試合が再開された。

 

「っ!?」

 

ボールをキープする赤司の前に立ち塞がる空。空は赤司の変化に気付いた。

 

「なるほど、お出ましか」

 

ニヤリと笑みを浮かべる空。

 

「ここまでこの僕に歯向かったんだ。ただでは済むと思わない事だ」

 

「上等。実質、去年凹ませされたのはあんたの方だ。まずはあんたからぶっ潰してやる」

 

表情を改める空。

 

「不可能だ。お前程度では僕には届かない」

 

そう言って、赤司は目を見開いて左右にボールを切り返し始める。

 

「…っと、俺にはアンクルブレイクは効かねえ。まさか忘れてねえだろうな?」

 

僅かに崩れたバランスをすぐさま立て直す空。

 

「無論、覚えているさ。今のは眼の試運転をしただけだ。…充分だ。次でお前の横を抜ける」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

再び左右に切り返す赤司。

 

「っ!?」

 

空の重心が左足にかかった瞬間、赤司が一気に加速。空の右手の方向から切り込み、空を抜きさった。

 

「…んのやろう!」

 

左足に重心がかかってしまっている空は追いかける事が出来ない代わりに後方に倒れ込みながらバックチップを狙いに行った。

 

「無駄な足掻きだ」

 

 

――スッ…。

 

 

直後、赤司はボールを掴んでターンアラウンドで反転。空の伸ばした手をかわした。

 

「そのまま地べたで僕を見上げていろ」

 

赤司はリングに視線を向け、シュート態勢に入った。

 

「…っ! 調子に乗ってんじゃねえ!」

 

空は伸ばした右手を床に付け、力を込めて強引に立ち上がると同時にその場で飛び上がった。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

赤司が思わず目を見開いて。赤司がジャンプショットに空がブロックに伸ばした指先に触れたのだ。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールが触れた事で軌道が変わり、リングに弾かれた。

 

「おらぁ!」

 

リバウンドボールを天野が気合いと共に抑えた。

 

「…ちっ!」

 

睨み付けるように空に振り返る赤司。

 

「何驚いてんだよ。あんたの言ったままだ。…足掻きだよ」

 

空は不敵に笑みを浮かべたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





つい数週間前までTシャツ短パンで過ごせてたのに特に朝の冷え込みが半端ない。日中は結構ポカポカして暖かいのに…(・ω・)

お気に入りのジーンズとベルトが同時に逝きました。買いに行かんと。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第138Q~ガムシャラに~


投稿します!

太った…、痩せんとorz

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り4分3秒

 

 

花月 28

洛山 34

 

 

「何驚いてんだよ。あんたの言ったままだ。足掻きだよ」

 

後方に倒れ込んだ態勢から強引に立て直し、赤司のジャンプショットをブロックした空。

 

「…っ」

 

不敵に笑みを浮かべる空を見て、赤司は不快感を露にしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…青峰っち」

 

「…あぁ。明らかに赤司の様子が変わった。…出て来やがったな」

 

黄瀬の問いかけに、青峰が頷いた。

 

「ここからまた展開が変わりそうッスね」

 

「だろうな」

 

「あの赤司君が相手だと、どうなるのかな?」

 

桃井が尋ねるように言った。

 

「テクニックなら赤司、身体能力なら神城が上だろうな。…だが、司令塔としては赤司の方が上だ」

 

「なら、赤司君の方が優勢?」

 

「どうだかな。ただ、神城にはアンクルブレイクは効かねえ。あの赤司は恐らく神城とは相性が良くはねえだろうからな。付け入る隙は、あるかもな」

 

青峰は2人の対決の予想をこう評した。

 

「去年は正直あの2人の戦いは赤司っちの完勝とも言っていい結果だったスけど、今年はどうなる事やら。楽しみッスね」

 

2人の戦いに期待に胸を膨らませた黄瀬であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「速攻!」

 

赤司のジャンプショットが外され、天野がリバウンドを奪った。天野からボールを受け取った空は号令と共にフロントコートに駆け上がった。

 

「…っと、戻りが速くなったな」

 

既にディフェンスに戻っていた洛山の選手達。各自がしっかり自身のマッチアップ相手をマークしていた。

 

「…来い」

 

そして空の目の前には赤司。赤司が静かに空に告げた。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを突きながら静かに睨み合う両者。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して空が発進。一気に加速してクロスオーバーで仕掛けた。赤司はエンペラーアイでタイミングを読み切り、ピタリと後を付いていく。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

仕掛けた直後、空はバックチェンジを2度繰り返し、左から右へとスライドした。

 

『スゲー! 今の、ベイク&シェイクか!!!』

 

高度なテクニックに観客が沸き上がる。直後、ボールを掴んでシュート態勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、空がシュート態勢に入ろうとボールを上へリフトさせようとした瞬間、赤司が狙い済まして払うように横薙ぎした左手がボールを捉えた。

 

「大したスピードとキレだ。だが、僕のこの眼の前では意味を為さない」

 

申し分がない空のフェイントであったが、赤司のエンペラーアイの前では意味を為さず、スティールされてしまった。

 

「走れ、速攻だ!」

 

ボールを奪った赤司がそう叫び、駆け上がった。

 

「…ちっ、これでもダメか!」

 

スピードで振り切ろうとした空だったが、赤司の未来予知を超える事は出来なかった。

 

「だが、これ以上はさせねえぜ」

 

全速力でディフェンスに戻った空が赤司の前に立ち塞がった。

 

「…なるほど、スピードだけは一級品のようだな」

 

「スピードだけじゃねえぞ俺は!」

 

赤司の発した言葉に反応した空が怒鳴るように反論した。

 

空が目の前に現れると、赤司を足を止めた。その間に花月の選手達も自陣に戻り、ディフェンスを構築した。

 

「…」

 

「…」

 

攻守が入れ替わって睨み合う空と赤司。

 

「(落ち着け、入れ替わって何かが大きく変わる訳じゃねえんだ。俺をかわして中に切り込んだ所で今はゾーンディフェンスだ。密集地帯で捕まるだけだ。そこからパスを捌いてもいつでもヘルプに出れる。とにかくスリーを警戒だ!)」

 

集中力を高め、赤司の一挙手一投足を見逃さないように集中する空。

 

「…」

 

ここで赤司がボールを掴んだ。

 

「(来るか!?)」

 

空はさらに集中力を高めた。

 

「赤司!」

 

二宮が外に展開し、ボールを要求。赤司が視線をそちらに向けた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

その時、赤司が矢のようなパスを出した。

 

「っ!?」

 

ボールは空の顔スレスレを通過した。

 

「ナイスパス!」

 

赤司が放ったパスは、ローポストの五河の手元に一直線に向かって行った。

 

「くっ!」

 

ボールを受け取った五河はすぐさまシュート態勢に入る。すると室井は慌ててブロックに飛んだ。

 

「ムロ、フェイクや!」

 

「っ!?」

 

咄嗟に声を掛けた天野だったが一足遅く、室井はブロックに飛んでしまった。五河はボールをポンプさせただけで飛んではいなかった。

 

 

――バス!!!

 

 

室井がブロックに飛んだのと同時にボールを下げ、室井をかわすようにステップを踏んで再びゴール下からシュートを放ち、得点を決めた。

 

「…くそっ」

 

あっさり決められてしまい、悔しさを露にする室井。

 

「ディフェンスは才能だけではなく、経験も左右するから、バスケを始めて半年足らずのムロでは選択肢の多い相手とのマッチアップをするのは辛いだろうね」

 

今のやり取りを見ていた生嶋がこの2人の分の悪さを口にした。

 

転がるボールを室井が拾い、スローワーとなったその時!

 

「当たれ!」

 

赤司が号令をかける。直後、洛山の選手達がオールコートで当たり始めた。

 

『洛山もオールコートディフェンスをやり返してきた!!!』

 

つい先程の花月のお株を奪うオールコートマンツーマンディフェンスに観客がどよめく。

 

「っ! …くそっ」

 

スローワーとなった室井の前には五河がハンズアップしながら立ち塞がっていた。

 

「(まずい、室井の奴、さっきのディフェンスで浮足立っちまってる!)」

 

先程の得点を決められた事による動揺が解けていない室井は突然のオールコートマンツーマンディフェンスに対応出来ていなかった。

 

「…ちっ」

 

何とかボールを貰いに行こうとした空だったが、赤司がピタリとマークに付いており、ボールを渡す隙を作れない。

 

「あかんムロ! もうすぐ5秒や! はよ放れ!」

 

スローインに入った選手は5秒以内にスローインをしなければバイオレーションとなり、相手ボールになってしまう。その5秒が目の前に迫っていた。

 

「室井さん!」

 

その時、大地が室井に駆け寄り、ボールを貰いに来た。

 

「綾瀬先輩!」

 

大地の姿が目に入った室井は目の前に立つ五河を掻い潜ってパスを出した。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールが大地の手に収まる直前、横から三村が手を伸ばし、ボールを叩いた。ボールはそのままサイドラインの方へ転がり、ラインを割ろうとしていた。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

全速力でボールに向かっていった三村はボールに飛び付き、ボールがラインを割る前にコートへとボールを戻した。

 

「ナイスガッツだ三村!」

 

三村が必死の思いでコートに戻したボールを四条が確保した。

 

「急に泥臭くなりよってからに!」

 

ボールを掴んだ四条に天野がすぐさまチェックに向かった。だが、四条はシュートを打たず、ボールを左へと放った。そこには二宮が移動していた。

 

「ナイスパス!」

 

スリーポイントラインの外側でボールを掴んだ二宮。そこからすぐさまシュート態勢に入った。

 

「…くそっ!」

 

空が慌ててヘルプに飛び出し、ブロックに飛んだ。しかし、二宮は空がブロックに来るより早くボールをリリースした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「っしゃぁっ!」

 

スリーを決めた二宮は拳を握り込みながら喜びを露にした。

 

「ここからガンガン突き放す。俺達を舐めんなよ!」

 

三村がディフェンスに戻りながら花月の選手達に叫んだ。

 

「上等だ…!」

 

これを聞いた空は洛山の選手達を睨み付けながら返した。

 

オフェンスが花月に切り替わり、空がボールを運ぶ。フロントコートまでボールを進めると、赤司がディフェンスにやってきた。

 

「…ちっ」

 

赤司のエンペラーアイの間合いに入られ、舌打ちをする空。やむを得ず大地にパスを出した。

 

「…来い」

 

「止める!」

 

大地にボールが渡ると、正面に四条、右側に三村が立つ変則のダブルチームでディフェンスを始めた。

 

「…っ」

 

タイムアウト前とは気合いの入りが違う2人。大地は嫌なものを感じて無理に仕掛けず、逆サイドの松永にパスを出した。

 

「来いよ」

 

松永にボールが渡ると、二宮がディフェンスに立ち塞がった。

 

「…くっ!」

 

センターとは違い、向かい合ってのマッチアップ。決して不得意のシチュエーションではないが、目の前の二宮のディフェンスを前に仕掛けられず、空へとボールを戻した。

 

「(この赤司相手に小細工は通用しねえ。だったら、未来が見えても追いきれない程のスピードでかわすしかねえ!)」

 

ボールを受け取った空は目の前の赤司相手に最小限の動作と最大限の加速で仕掛ける。

 

「無駄だ」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、仕掛けた直後、赤司が伸ばした手が空の持つボールを捉えた。

 

「速さなど無意味だ。この僕の前では」

 

無情の表情で赤司がそう空に告げ、零れたボールを拾い、そのまま速攻に走った。

 

「くそったれ!」

 

それでも空はすぐさま反転し、赤司を追いかける。

 

「…行かせませんよ」

 

スリーポイントライン目前で大地が赤司に追い付き、立ち塞がった。

 

「お前が来ようと変わらない。…いや、お前ではこの僕の前に立つ事すら許されない」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

「道を開けろ」

 

「…ぐっ!」

 

左右に切り返す赤司。これに対応しようとした大地だったが、アンクルブレイクを起こし、座り込んでしまう。赤司は大地の横を抜け、ジャンプショット…と見せかけ、ポンプフェイクをした。

 

「がっ! ちくしょう!」

 

すると、赤司の後方でジャンプショットをブロックしようと飛んでいた空の姿があった。

 

「無駄な徒労だな」

 

見下すようにそう呟き、赤司は左へとボールをトスした。

 

「ナイスパス!」

 

するとそこへ、四条が走り込み、ボールを受け取った。

 

「らぁっ!」

 

ボールを掴むのと同時に四条はリングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「させへんわ!」

 

リングに振り下ろされたボールを天野がブロックした。

 

「ちっ! だらぁっ!」

 

「何やと!?」

 

ブロックされ、宙に舞ったボールを四条が再び飛んで抑えた。

 

「(あいつら(キセキの世代)のように華やかでなくてもいい、泥臭かろうが何だろうが勝つんだ!)…おぉっ!!!」

 

 

――バス!!!

 

 

直後、背中で天野を押し込み、強引に押し込んで得点を決めた。

 

「しゃあっ!!!」

 

得点を決めた四条は拳を握り込みながら喜びを露にした。

 

「ちっ!」

 

再び失点を喫し、悔しがる空。

 

「理解したか? これが今年の洛山だ。お前達が如何に優れた資質を持っていようと、僕達には及ばない」

 

「「…」」

 

赤司にそう告げられ、黙り込む空と大地。

 

「ナンバーワンポイントガードか。なりたければなるがいい。…僕のいない来年にね」

 

最後に空にそう告げ、赤司はディフェンスに戻っていった。

 

「…っ!」

 

空は何も言い返す事が出来ず、ただただ悔しさから拳をきつく握りしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「あなた達、分かっているとは思うけど、今日の相手は秀徳。予選で戦った相手ではあるけど、今日の秀徳はその時の比じゃないわ。気を引き締めて行きなさい」

 

場所は変わってコートへと続く通路。先頭を歩くリコが後ろを歩く選手達に告げる。

 

「うす!」

 

「はい」

 

すぐ後ろを歩く火神が気合いの入った返事をし、隣を歩く黒子が返事をした。

 

「うーす」

 

「…」

 

その後ろで池永が気のない返事をし、その隣の新海が静かに頷いた。

 

「…っ」

 

「…っし」

 

緊張で強張った表情の田仲と、静かに気合いを入れる朝日奈。

 

『…っ』

 

残りの選手達も緊張を誤魔化しながら歩いて行く。

 

「さあ、行くわよ!」

 

誠凛の選手達がコートへと足を踏み入れた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

コートへとやってくると、観客の大歓声が彼らを出迎えた。だが、それは彼らに対してではなく…。

 

「やってるな。さて、どうなっているか…」

 

火神が得点が表示された電光掲示板に視線を向けた。

 

 

第2Q、残り25秒。

 

 

花月 32

洛山 47

 

 

「点差は15点。開いたな」

 

第1Q終了時に聞いていた点差より点差が広がっていた。

 

「…っ、あの花月を相手にたった32点に抑えたのか。凄いディフェンス力だな」

 

オフェンス特化の花月。その花月を少ない失点で抑え込んだ洛山の力の驚く朝日奈。

 

「神城…綾瀬…」

 

心配そうにかつてのチームメイトの名を呼ぶ田仲であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ちくしょう!」

 

必死にディフェンスをする空。

 

タイムアウト終了後、空は赤司に抑えられていた。セットプレーに何とか対策を見出した花月だったが、赤司が巧みにパスを捌き、そのパスを受けた他の4人が確実に決め、得点を重ねていった。

 

対して花月は、空が赤司に抑えれてしまい、大地も何とかダブルチームの隙を突いて得点を決めるも単発。他の3人も良い様にやられていた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

高速でパスが飛び交い、花月のディフェンスを翻弄する。

 

『…っ』

 

恐らくこのQ最後の洛山のオフェンス。何としてでも止めたい花月の選手達は必死でディフェンスに臨んでいる。

 

 

――スッ…。

 

 

残り時間が13秒になった所で三村がボールをリング付近に放った。

 

『っ!?』

 

するとそこへ、赤司が既に舞っていた。

 

『まさか…』

 

『アリウープ!?』

 

第2Q最後のオフェンスで大技で得点を決められればその精神的ダメージは大きく、第3Q以降にも確実に影響を及ぼしてしまう。

 

「これでトドメだ」

 

赤司の伸ばした右手にボールが収まり、そして、リングに振り下ろした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

その時、ボールとリングの間に1本の腕が現れ、リングに振り下ろされようとしていたボールを阻んだ。

 

「やらせねえ!!!」

 

『神城!』

 

直前にブロックに飛んだ空がアリウープを阻んだ。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

ブロックに飛んだ空が赤司の手に収まるボールを弾き飛ばした。

 

「よくやった神城!」

 

ベンチから立ち上がりながら上杉が叫んだ。

 

「ルーズボール、絶対に抑えろ!」

 

「もちろんやぁっ!!!」

 

続いて叫びながら指示を出す上杉。それに応えるように天野が咆哮を上げながらルーズボールを抑えた。

 

「天さん!」

 

「最後、景気よく決めてや!」

 

速攻に走る空。その空に天野が縦パスを放った。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを掴んでそのままワンマン速攻に走ろうとドリブルを始めた瞬間、横から伸びてきた手にボールを弾かれた。

 

「赤司!」

 

手を伸ばしてきたのは赤司。速攻に走る空を察知して追いかけていたのだ。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをしながら慌ててボールを抑えた空。

 

「しぶといな。…だが、ここを止めれば同じ事だ」

 

淡々と赤司が空の前に立ち塞がりながら空に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「正念場だな」

 

観客席の青峰がおもむろに口を開いた。

 

「残り10秒、最後の1本ここを決めれば後半戦に向けて士気は上がる。…だが、ここを取れなきゃ所詮、首の皮1枚繋いだだけで終わる。第3Qに今度こそトドメ刺されて終わりだ」

 

「つまり、この最後のオフェンスが勝敗を分けるかもしれないって事ッスね」

 

青峰の解説に、黄瀬が頷きながらコートに注目したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(ラスト1本、何としても決めねえと…!)」

 

空も直感で理解していた。この1本の重要性を。この1本が試合の勝敗を左右しかねない1本である事を…。

 

「(イチかバチか打つか? …ダメだ、確実にシュート態勢に入る前にカットされちまう…)」

 

必死に思考を巡らせて策を考える空。だが、残り時間は刻一刻と減っていく。

 

「(もう迷ってる余裕はねえ。行くしかねえ!)」

 

残り時間に焦りを覚えた空は覚悟を決め、仕掛ける事を決意した。

 

「(来るか…)」

 

仕掛ける気配を察知した赤司がエンペラーアイで空の動きの先読みを始めた。

 

「(右から左へのクロスオーバー…仕留める!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がクロスオーバーで切り込む、同時に左手に収まろうとするボール目掛けて赤司が手を伸ばした。

 

「(やべぇ! 完全に読まれた、このままじゃ取られる!?)」

 

開き直って仕掛けた空だったが、すぐさまボールをカットされる未来を悟ってしまう。

 

「(再度切り返し……間に合わねえ!)」

 

尚も迫る赤司の手。まもなくボールに到達しようとしている。

 

「(くそったれがぁっ!!!)」

 

 

――ゴッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「いぎっ!」

 

赤司の伸ばした手がボールを捉えようとしたその時、空の額に赤司の額が激突した。その結果、赤司の伸ばした手が僅かにボールに届かなかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、ロールしながら赤司をかわし、そのままリングへと突き進んだ。

 

「っしゃ!」

 

フリースローラインを越えた所でボールを掴み、シュート態勢に入った。

 

「くそっ!」

 

「止める!」

 

赤司が抜かれるまさかの事態に動揺しつつも四条と五河がヘルプに入り、ブロックに飛んだ。

 

「「っ!?」」

 

しかし、ここで2人は目を見開く。空はボールを掲げたものの、飛んではいなかったのだ。

 

 

――スッ…。

 

 

2人が飛んだのを確認すると、2人を間を抜けるようにステップを踏んだ。

 

「(フェイク!?)」

 

「(アップ&アンダー!?)」

 

気付いた時にはもう遅かった。

 

 

――バス!!!

 

 

ステップを踏んだ足でリングに向かって飛び、レイアップを決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に、第2Q終了のブザーが鳴った。審判が指を2本立てて降ろし、花月の得点に2点加算された。

 

「ちょっと待ってくれ! 今のファールじゃないのか!?」

 

得点に納得が出来ない二宮が額を指差しながら審判に抗議した。抗議の内容は直前の空と赤司の額が激突した事だ。二宮は空が故意にぶつけたと物言いをする。

 

「いや、今のはファールではないよ」

 

しかし、審判は首を横に振った。ボールをカットしようと突っ込んだのは赤司の方である為、審判は事故による激突と判断し、笛を吹かなかった。

 

「…っ! くそ…!」

 

額を手で抑えながら赤司が空を睨み付ける。

 

赤司は気付いていた。ボールを奪われる事を理解した空が咄嗟に右足を外に伸ばして足を広げる事で赤司以上に低く構え、かつ額を突き出す事で額をぶつけ、カットを防いだ事に。

 

「ちっ、…皆、戻るぞ。いつまでもここにいても時間の無駄だ」

 

踵を返した赤司は審判に抗議する選手達にそう言い、ベンチへと戻っていった。

 

『…っ!』

 

赤司に窘められ、空を睨み付けながら4人は赤司に続いてベンチの向かって行った。

 

「そんなに睨まないでくれよ。こっちだっていてぇーんだよ」

 

涙目になりながら額を擦る空。

 

「笛は吹かれてねえーんだから言いっこなしだぜ。…こっちだって必死なんだ。勝つ為に頭使っただけだぜ」

 

洛山の選手達の背中に空は真剣な表情で言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お久しぶりです。…と、言った方がいいですか?」

 

控室へと戻る道中、誠凛の選手達と相対した洛山の選手達。黒子が赤司に声を掛けた。

 

「そうだね。その挨拶が一番しっくりくる。久しぶりだね。…テツヤ」

 

「っ!? …やはりそうですか」

 

返事を聞いて改めて確信した黒子。

 

「お互い1勝1敗同士。慎太郎とやるのも面白いが、是非ともお前達と白黒付けたいものだな」

 

過去、誠凛と洛山は2回試合をしており、一昨年のウィンターカップでは誠凛が勝利し、去年のインターハイでは洛山が勝利している。

 

「まだやり合うとは限んねえだろ。正直、余裕かましてられる点差だとは俺には思えねえけどな」

 

そこへ、火神が前に出て口を挟んだ。

 

「なるさ。勝つのは僕達洛山だ。第3Q始まればすぐに分かる事だ」

 

 

――スッ…。

 

 

そう宣言し、赤司は火神の肩に手を置いた。

 

「っ!? てめ、何しやがる!?」

 

反射的に火神は赤司の手を振り払った。2年前のウィンターカップの準決勝の洛山と秀徳の試合のハーフタイムの折、赤司に地面の強制的に座らされた事を思い出したのだ。

 

「…フッ、何を狼狽えている。ただの冗談だ。この程度の事で慌てふためくようでは、慎太郎が擁する秀徳に勝つなど、夢のまた夢だぞ」

 

軽く微笑を浮かべると、赤司は控室に続く通路へと歩いて行ったのだった。

 

「っ! あの野郎…!」

 

恥を掻かされた火神は赤司が歩いて行った方向を睨み付ける。

 

「まあまあ、落ち着いて下さい火神君」

 

いきり立つ火神を黒子が宥めた。

 

「…っ」

 

「…赤司、先輩」

 

赤司をすぐ傍で目の当たりにして新海と池永が息を飲んでいた。

 

「なにお前ら、もしかしてビビッた?」

 

その様子に気付いた朝日奈が尋ねる。

 

「てめえには分かんねえだろうけどな。帝光中出身の奴にとってキセキの世代…その中でも赤司先輩は特別なんだよ…」

 

「去年も顔を合わせたが、その時とは様子が違っていた。…いや、正確には俺らの知ってる赤司先輩に戻ったって所か。未だに慣れないな。あの人を刺すような視線の赤司先輩には…」

 

池永と新海は顔を強張らせながら言ったのだった。

 

「「「…っ」」」

 

一昨年のウィンターカップで僅かな時間ではあるが赤司とマッチアップした降旗、河原、福田はその言葉の意味が理解出来た為、表情を強張らせていた。

 

「あなた達! いつまでそこでくっちゃべってるの!? 時間は限られているのよ、早く来なさい!」

 

先を歩いていたリコがいきり立ちながら誠凛の選手達を呼んだ。それを聞いて選手達は慌てながらコートへと駆けていったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よっ、久しぶりだな」

 

「どうもっす」

 

一方で、花月の選手達は控室に戻る道中、秀徳の選手達と相対していた。

 

「どうしたよ? 随分と辛そうじゃん」

 

「今だけです。必ず後半でひっくり返してみせますよ」

 

茶化しながら尋ねる高尾に対し、横にいた大地が返事をした。

 

「そうなればよいのだがな。その様では期待は薄そうだな」

 

そんな空を見て緑間が冷めた目で言い放つ。

 

「期待して待ってりゃいいですよ。…って言うか、そっちはどうなんですか? 今日の相手は誠凛ですよ。確か、予選では負けたって聞きましたけど?」

 

「…確かに、予選では俺達は負けた。それは覆しようのない事実なのだよ」

 

空の言葉に緑間は僅かに溜めながら言葉を発した。

 

「負けたのはあくまでも予選の俺達だ。今、この場に立っている俺達は予選で負けた時より遙かに成長している。故に、俺達は負けん」

 

眼鏡のブリッジを押しながら緑間は真剣な表情で言い放った。

 

「…なるほど、そいつは楽しみだ。そんじゃ、お互い決勝で会いましょう」

 

後ろ手で手を振りながら空は控室へ続く通路へと消えていった。空に続くように花月の選手達も消えていった。

 

「ハハッ、相変わらず、あの自信は何処から出てくるのかね」

 

空の様子を見て高尾は笑いながら言う。

 

「無駄口はここまでだ。まずは目の前の試合に集中するのだよ。全員、気持ちを切り替えろ」

 

「分かってるぜ真ちゃん。おっしゃ! それじゃ皆、行こうぜ!」

 

『おう!!!』

 

緑間の檄に続いて高尾が号令を出し、秀徳の選手達がそれに応え、コートへと向かって行ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

波乱の準決勝は洛山リードで前半戦を終えた。

 

第2Q終了間際、空が咄嗟の奇策によって士気を保ち、後半戦へと続けた。

 

続くもう1つの準決勝のカードである誠凛と秀徳が試合前の練習を始める中、両チームは控室で後半戦に向けての準備を始めるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





なんでだろうな、仕事中に限ってこの二次のネタが浮かぶ。むしろ、家にいる時の方が浮かばない気がしてきた…(;^ω^)

気が付けば今年ももう2ヶ月を切り、もうすぐ年の瀬、今年はこれまでの人生の中でもあらゆる意味で激動だったなぁ…。

ネタを探しつつの投稿の上、これから年末という事でリアルが忙しくなってくるので、これまでの投稿ペースで投稿出来るか分かりませんが、最後まで駆け抜けたらなと、後書きで1つ意気込みを…(^_^)v

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第139Q~天帝の眼対策~


投稿します!

今回は会話文多めです。

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、終了

 

 

花月 34

洛山 47

 

 

試合の半分が終わり、ハーフタイムとなり、花月、洛山共に控室へと戻っていった。コート上では次の試合の誠凛と秀徳の選手達がウォーミングアップの練習をしている。

 

「花月は最後決めて終われたッスね。…しかしまあ、神城っちはホント驚かせてくれるッスね」

 

苦笑しながら黄瀬が背もたれにもたれ掛かった。

 

「あの赤司をここまでコケにした奴はあいつが初めてだろうぜ」

 

青峰は愉快そうに笑みを浮かべる。

 

「とりあえず花月は後半戦に向けて士気を保てはしたけど、それでも劣勢である事には変わらない。何か手を打たないと点差は広がって保てた士気もすぐに落ちる」

 

「…あぁ、そうなるだろうな」

 

黄瀬の分析に頷く青峰だったが、何かを考えるよう素振りをしている。

 

「? 何か気にかかる事でもあるんスか?」

 

「赤司の事だ。どうにもらしくねえ」

 

「らしくない?」

 

青峰の言葉に桃井が言葉を繰り返すように尋ねる。

 

「あの赤司は相手の可能性を1つずつ摘み取って相手の勝機や戦意を奪いながら戦うのがあいつの戦い方だ。…だが、今日の赤司は違う。出てきて早々一気に畳みかけてきた」

 

「言われてみるとそうッスね。今日の赤司っち…と言うか、あの赤司っちは早々に勝負を付けようとしているように見えたッスね」

 

これに同感した黄瀬が頷いた。

 

「どうしたんだろう赤司君。何か理由があるのかな?」

 

「フッ、まあ、何となく理由は理解出来るけどな」

 

理由を考える桃井。青峰は直感的に理由を察し、フッと笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「状況は悪いが、とりあえず最悪の結果を避ける事は出来た。神城、よくやった」

 

「…ハッ! 当然ですよ!」

 

第2Q終了間際の空のブロックと得点を労うと、空は胸を張りながら返事をした。

 

「とは言うても、点差開いてもうたしなぁ。何か手ぇ打たんと…」

 

点差が13点。絶望的な点差ではないとは言え、洛山を相手に逆転を計るとなると、このままではジリ貧である。

 

「まずは…、室井、交代だ。ここまでよくやった」

 

「…っ、はい」

 

交代を告げられ、一瞬表情が歪むも、すぐに受け入れた室井。

 

タイムアウト終了後、洛山のオフェンスは明らかに室井のポジションから仕掛けていた。身体能力こそ全国トップレベルでもあっても、まだバスケを始めて半年足らず。ただでさえオフェンスが有利と言われるバスケにおいて、ディフェンスでものを言うのは経験。その経験が少ない室井ではバスケのエリート集団である洛山に1ON1を仕掛けられると分が悪い。

 

「生嶋、第3Qの頭から入ってもらう。頼んだぞ」

 

「はい。ガンガン外を決めて見せます」

 

指名された生嶋は笑顔で返事をした。

 

「ポジションは従来通り、1番(ポイントガード)に神城、2番(シューティングガード)に生嶋、3番(スモールフォワード)に綾瀬、4番(パワーフォワード)に天野、5番(センター)に松永だ」

 

「スタメンに戻す訳やな。やけど、そうなると向こうは…」

 

「当然、セットプレーで攻めてくるでしょうね」

 

天野の懸念する事を松永が代弁した。

 

「やる事は変わらないですよ。これまでどおり2-3ゾーンで俺と大地で外を抑える。…ただ、そうなると今度は確実に生嶋が狙われる事になる」

 

「だろうね。外からオフェンスならまだしも、中のディフェンスはそこまで得意じゃないから、フォローお願いします」

 

素直に自分の欠点を認めた生嶋はチームメイトに頭を下げた。

 

「少しは頑張ってほしい所やけど…、まあええわ。イクには代わりに点を取ってもらうからのう。その分決めてや」

 

「もちろんです!」

 

ジト目で生嶋に視線を向けた天野。その後に発破をかけ、生嶋がそれに応えた。

 

「問題はオフェンスだ。向こうのオフェンスが止めきれない以上、その差をオフェンスで埋めねばならない」

 

続いての問題点を松永が口にする。

 

「洛山はディフェンスも堅いです。綾瀬君もダブルチームで上手くボールを持たせないようにしていますし、神城君も赤司さん相手で点を取らせてもらえません。となれば、2人以外で点を取らなければならないのですが…」

 

とにかく空と大地を要マークしている洛山。2人以外で点を取ろうにも洛山のディフェンスがそれをさせてくれず、言葉に詰まる姫川。

 

「だったらよ…」

 

選手達が沈黙する中、菅野が口を開く。

 

「生嶋じゃなくて、竜崎を投入するのはどうだ? それで竜崎にボールを運ばせて神城と綾瀬の2人を中心に点を取りに行けば…」

 

続けてそう提案した。菅野の案は昨日の準々決勝の折に実行した空をスコアラーに専念させ、的を絞らせず、得点を狙いに行く作戦である。

 

「…」

 

この案を聞いて空は渋い顔をする。

 

「どうしたよ、行けるだろ?」

 

「…スガ、盛り上がっとるとこ悪いんやけど、恐らくアカンやろな」

 

菅野の案を天野が否定する。

 

「仮にそれやったとして、恐らくボールを運ぶ竜崎には赤司が付くはずや。もしそないなったら…」

 

ここで天野は竜崎に視線を向け、首を逸らした。

 

「正直、赤司先輩相手に俺は何もさせてもらえないでしょうね」

 

気まずそうな表情で首を横に振った。

 

「赤司からすれば神城をマークし続けるより、ボールの供給源を潰した方が遙かに楽ですからね。竜崎がボール運びをすれば十中八九そうしてくるでしょう」

 

「そうか……くそっ!」

 

ナイスアイディアだと思っていた菅野だったが、天野と松永から理由を聞いて思わず舌打ちをした。

 

「(せっかく後半戦に良い感じに繋げられる終わり方が出来たんだ。流れは確実にこっちに傾きかけてるはずだ。ここでこの流れを途切れさせたら終わりだ…)」

 

依然として花月が不利である事を理解している空。流れがこちら側に気かけている以上、上手くこの流れに乗ってリードを縮めていかなければ勝機はない。

 

「(考えろ…、考えろ! くそっ、こんな時、三杉さんだったら絶対に最良の案を出してくるはずだ!)」

 

かつての空の尊敬する偉大な先輩の事を思い出しながら自問自答する空。

 

「………っ!? あった」

 

頭を抱えながら思考していた空が突如顔を上げた。

 

「いきなりなんやねん、ビックリさせよって!」

 

突然隣で声を上げた空に口を尖らせながら抗議する天野。

 

「何か良い案が思い付いたんですね」

 

表情を見て悟った大地が尋ねる。

 

「あぁ。1つ思い付いた。これなら洛山を……赤司を出し抜けるかもしれねえ」

 

ニヤリと笑みを浮かべた空がその思い付いた案を説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート上では次の試合をする誠凛と秀徳の選手達がウォーミングアップを終え、粛々とコートから撤収をしていた。

 

『来た!!!』

 

そして、花月と洛山の選手達が戻り、両校の選手達がコートへと再び足を踏み入れた。

 

 

OUT 室井

 

IN  生嶋

 

 

「予想通り、12番を下げて来たか」

 

「ま、第2Qの終盤はそこを中心に点を取ってたからな。当然だろう」

 

室井が下がって生嶋がコートに入った事を確認した二宮と三村。あらかじめ予想していた為、納得の表情をしていた。

 

「そうなると、外の脅威が出てくる。二宮、頼むぜ」

 

「おう、任せろ!」

 

四条に発破をかけられ、応える二宮。

 

「交代しても花月の穴は変わらない。向こうが変わらずゾーンディフェンスを敷いてきたら徹底的に5番の所を中心に攻める。皆、行くぞ」

 

『おう!!!』

 

赤司の檄に、洛山の選手達は大声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ピーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判がスローワーの二宮にボールを渡し、笛を吹くと、第3Q開始が開始された。

 

「行くぞ、7番だ」

 

二宮からボールを受け取った赤司はゆっくろボールを運び、セットプレーのナンバーをコールした。

 

 

――ピッ!!!

 

 

同時に洛山の選手間を矢のようなパスが駆け巡った。

 

『後半戦開始早々出た!!!』

 

『…っ』

 

このパスワークに何とか対応しようと花月の選手達はディフェンスをする。

 

「っしゃ!」

 

「…くっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

ショットクロックが残り10秒となった所でゾーンディフェンスの中の生嶋が僅かに孤立し、二宮が生嶋を抜きさってそのまま決めた。

 

『さすが洛山、あっさり決めてきた!』

 

 

「特に何かしてくるでもなく、これまでどおりの動きで決めてきたッスね」

 

淡々とボールを回して得点を決めた洛山。

 

「欲を言えば、花月はこの1本を止めるか、せめて手こずらせて終わりたかった」

 

「あぁ。…だが問題オフェンスだ。ここを決められなきゃ流れには乗れねえ」

 

第3Q最初の花月のオフェンス。ここが1つのターニングポイントになると青峰は予想したのだった。

 

 

オフェンスが切り替わり、花月ボール。空がフロントコートまでボールを運んでいく。

 

「…」

 

目の前には当然赤司。赤司がディフェンスに入った。

 

「…」

 

この1本の重要性は空も充分理解しており、慎重にボールを運ぶ。

 

「…よし」

 

覚悟を決めた空。そう宣言し、ボールを掴むと生嶋にパスを出し、中へと移動をした。

 

「?」

 

これにはマークをしている赤司も戸惑いながらも空を追いかけた。

 

『何をする気だ?』

 

この行動の意図が見えない観客の中から疑問の声が出る。

 

ハイポスト付近にまで移動すると、空は振り返り、ボールを要求した。

 

「くれ!」

 

「くー!」

 

生嶋はハイポストに立った空にパスを出した。空は赤司を背負う形でボールを受け取った。

 

「…行くぜ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう宣言した空は背中をぶつけながら攻め込み、中へと押し込み始めた。

 

『な…』

 

『なにぃぃぃっ!?』

 

この行動に観客からは驚きの声が響き渡った。

 

「神城のポストアップだと!?」

 

これには洛山の監督である白金も驚愕していた。

 

後半戦に際し、空が思い付いた策、それが自身がポストアップで中から仕掛ける事であった。向かい合っての1ON1を仕掛ければエンペラーアイの餌食になる。赤司を背負ってのポストアップならばボールの位置がもっとも近くなる向かい合わせの勝負と違い、ボールがもっとも遠くなる上、押し込みに耐えなければならない為、エンペラーアイの影響は受けにくくなる。

 

そして何より、ほとんどポジションで高さで下回る花月だが、唯一ポイントガードのマッチアップに限り、花月が身長で上回っており、ある種の勝算あっての仕掛けでもあった。

 

「馬鹿め、いくらデカいと言ってもたかだか5㎝程度だ、その程度なら赤司は跳ね返すぜ」

 

無謀だと断ずる四条。赤司への信頼から出た言葉だ。

 

「神城の思い付きには俺も驚かされたが、その思い付きに俺が何の勝算もなしにGOサインを出すと思ったのか?」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…くっ!」

 

2度目のドリブルで赤司の身体が僅かに仰け反った。

 

「奴がウチに入学してから今日まで俺が鍛え上げた。同程度の身長の選手を押し返せない程やわではない」

 

上杉が胸の前で両腕を組みながら言ったのだった。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

赤司の身体が仰け反ったのを確認した空はここでターンし、ボールを掴んだ。

 

「…ちっ」

 

シュート態勢に入った空に赤司が軽く舌打ちをしながらブロックに向かった。

 

 

――バス!!!

 

 

フックシュートのような構えでブロックをかわしながらボールを放ち、得点を決めた。

 

「っしゃぁっ!」

 

得点を決めた空が咆哮を上げるように喜びを露にした。

 

「…っ」

 

空に得点を許してしまった赤司。睨み付けるような視線を空に送った。

 

「フックシュートならトリプルスレッドの体勢に入らずとも放てる。…なるほど、考えたな」

 

奇策とも言えるこの策に白金が賛辞の言葉を贈った。

 

「赤司…」

 

心配そうな表情で赤司の下へ駆け寄る洛山の選手達。

 

「狼狽えるな」

 

駆け寄る選手達を手で制止する赤司。

 

「問題ない。お前達は各々の役割を果たしていればいい」

 

『…っ』

 

鋭い眼光をさせながらそう言われ、洛山の選手達は何か声を掛けるどころか、これ以上駆け寄る事も出来なかった。

 

 

洛山のオフェンス。

 

 

――ピッ!!!

 

 

これまで通り赤司がフロントコートまでボールを運び、そこからパスが繰り出される。

 

「(…ナンバーコールをしなかったな。何か合図を出した素振りもなかった。作戦を変えたのか? こっちとしてはありがたいが…)」

 

洛山のオフェンスが変化に気付いた空。

 

パスも、これまでのハイスピードのパスワークではなく、ボールを掴んだ選手がマッチアップの選手を牽制してからパスを出している。明らかにディレイドオフェンスに切り替わっている。

 

十数秒程ボールが回されると二宮に渡った所でボールが止まる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

シュートフェイクで生嶋の両腕を上げさせ、すかさず切り込んだ二宮。その後すぐさまシュート態勢に入った。

 

「何度も打たせるか!」

 

そこへ、ヘルプに向かった空がブロックに飛び、二宮のシュートコースを塞いだ。

 

「(…ヘルプが速い、さすがに連続で打たせてもらえる程甘くはないか…!)」

 

二宮はシュートを中断し、ビハインドパスでボールを左へと放った。そこへ、赤司が現れ、ボールを掴んだ。

 

「打たせません」

 

すると、すかさず大地が目の前に現れ、フェイスガードでピッタリとディフェンスに入った。

 

「…っ」

 

こうも密着されてしまえばシュートは打てず、例えかわそうと試みても既にツーポイントエリアに侵入している為、囲まれてしまうだけ。

 

「…ちっ」

 

仕方なく赤司はボールをさらに左へと放った。

 

「ナイスパス!」

 

左45度付近のアウトサイド、そこに立っていた三村がその位置からシュート態勢に入った。

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

「打たせへんわ!」

 

チェックに向かった天野の決死のブロック。伸ばした指先に僅かにボールが触れた。

 

「落ちるで、リバウンド!」

 

外れる事を確信した天野が声を出す。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通りボールはリングに弾かれた。

 

「おぉっ!」

 

弾かれたボールに松永が飛び込む。

 

 

――ポン…。

 

 

松永の後ろから五河が腕を伸ばし、タップで押し込んだ。

 

『うわー! 惜しい!』

 

「くそっ…」

 

「ドンマイ、今のは運が悪かっただけだ。ウチは売りはオフェンスだ。点取るぞ」

 

「おう!!!」

 

悔しがる松永に空が声を掛け、松永は気合いが籠った返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

代わって花月のオフェンス。再び空がハイポストで赤司を背中で背負う形でボールを受け、ポストアップで押し込み始めた。

 

「同じ手がこの僕に通用すると思うな!」

 

空が押し込もうとした瞬間、それに合わせて赤司は後ろに下がって距離を取った。

 

「うぉっ!?」

 

押し込もうとした空がすると突如寄りかかるものがなくなり、バランスを崩してしまう。

 

「今だ、ボールを奪っちまえ!」

 

チャンスと見た三村が声を出す。赤司が空のキープするボールに手を伸ばした。

 

「なんてな♪」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

バランスが崩れた体勢から高速のターン。赤司の伸ばした手が空を切り、背後に抜けた。直後にシュート態勢に入った。

 

「くそっ!」

 

慌ててローポストにいた五河がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

目の前に五河のブロックが現れると、空はボールを下げ、足元からゴール下へとボールを放った。

 

「あっ!?」

 

「ナイスパスだ神城!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そこに走り込んだ松永がボールを掴み、これまでの鬱憤を晴らすように豪快なボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

一連のプレーを見た観客が沸き上がった。

 

「派手に決めたな」

 

「さすがだ」

 

空と松永がハイタッチを交わした。

 

「くそっ…」

 

得点を決められ、悔しさを露にする五河。

 

「今のは僕の責任だ。…オフェンスだ。リスタート、急げ」

 

「お、おうすまん」

 

赤司に励まされると同時に急かされ、五河は慌ててボールを拾って赤司に渡した。

 

「…」

 

ボールを受け取り、振り返った赤司。その視線の先には空の姿があった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「へぇー、意外と様になってるッスね。咄嗟の思い付きとは思えないッスよ」

 

2度の空のポストアップを見て黄瀬が称賛の言葉を口にした。

 

「スピードとテクニックがあるガードプレーヤーの彼がポストアップなんて覚える必要はないはずッスけど…」

 

「神城にはお前(黄瀬)程の器用さもフィジカルもねえからな。間違いなく事前に覚えたんだろうよ」

 

空の動きを見て努力の成果が見えた黄瀬と青峰。

 

「赤司君のエンペラーアイ対策の1つにポストアップでマッチアップする事は考えていたけど…、もしかして、今日の為に?」

 

「いや違うな。もしそうならあの赤司が出てきた時点で試してるはずだ。あれは間違いなくハーフタイム中に考えた作戦だ」

 

事前に考えた作戦だと考えた桃井だったが、青峰が否定した。

 

「(あの単純バカ(空)にそんな知恵があるとは思えねえな。あの監督(上杉)が仕込ませたなら同様にあの赤司が姿を現した時点でやってるはず。…となると…)」

 

ここで青峰に思い当たる1人の人物の顔が浮かんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ええで空坊。俺から見てもあのポストアップは合格点上げてもええくらいの出来や。突然言い出すだけの事はある。何処であれ覚えたんや?」

 

ディフェンスに戻りながら天野が尋ねる。

 

「…」

 

ここで空は以前の記憶を辿り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

遡る事1年程前…。

 

『違う、もっと腰を落とせ。前のめりになるな。上体を上げろ』

 

花月の高校の体育館にて、三杉が空の後ろに立って指導していた。

 

『間違ったフォームを覚えても無意味だ。早く身体に正しいフォームを染みつかせろ』

 

『三杉さん、俺ガードだし、こんなの覚えても使い道ないですよ。それよかもっと実用性のあるテクニックを覚えたいですよー』

 

使い道が見られないポストアップの練習に空は不満顔で三杉に抗議する。

 

『確かに、お前の場合、ポストアップを覚えてももしかしたら使い道はないかもな』

 

『だったら…』

 

『だがな、だからと言って覚えなくていい理由にはならないぞ』

 

『…ブー』

 

抗議が受け入れられず、益々不満顔になる空。

 

『バスケってのは面白いもんでな。一見必要がないと思っていたものが意外な所で役立ったりする事があるんだ。これは俺の実体験でもある。今は必要がなくとも、いつか役に立つ時が来るかもしれないぞ?』

 

『…』

 

『よし、もう1度だ。言っておくが、今日はこれを覚えるまで1ON1は無しだ。俺と勝負したけりゃ早くこれを覚えるんだな』

 

『分かりましたよ! さっさと覚えて1ON1だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「まさか、ホントに役立つ時が来るとは思いませんでしたよ」

 

「? 何の話や?」

 

ボソリと独り言を言った空に思わず聞き返す天野。

 

「まあええわ、それより、お前の考えた作戦、ええ感じにハマってるやん」

 

「…まあ、今の所は…、ですけど」

 

歯切れの悪い返事をする空。

 

「何や不満そうやのう。何か気に入らん事でもあったんか?」

 

「そりゃ、せっかくエンペラーアイ対策の為にポストアップで仕掛けたのに当の本人が肝心なエンペラーアイを使ってこないんですから不満の1つも出ますよ」

 

「っ!? ホンマか!?」

 

この事実を聞いた天野が声を上げて驚いた。

 

「本当です。赤司がエンペラーアイ使った時、全てを見透かされてるみたいな嫌な感覚が身体を襲うんですが、今の2本にはそれがなかった。まず間違いなくエンペラーアイは使ってません」

 

「…空坊が言うなら間違いないんやとしたら、どういうつもりなんやろか。使っても無駄やと判断して諦めたんか、それとも何か理由があるんかな」

 

相手の目的を必死に探る天野。

 

「ま、ここで考えても答えは出ないでしょう。それよりディフェンスですよ。リバウンド、期待してますよ」

 

「せやな、任せとき、全部拾ったるわ!」

 

話を切り上げ、天野に期待をかけると、天野は大声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

五河からボールを受け取った赤司。その赤司に二宮が駆け寄った。

 

「赤司、俺もお前と一緒にボールを運ぶ」

 

「必要ない。これまで通りのポジションに付け」

 

ボール運びを申し出た二宮の言葉を拒否する赤司。

 

「だが、監督の指示は――」

 

「必要ないと言っているだろう。これ以上、無駄口を叩くな」

 

「…っ、分かった」

 

睨み付けられながら赤司に語気を強めて言われ、二宮は怯みながらその場を離れていったのだった。

 

「…」

 

洛山の選手達が各ポジションに立った。

 

「…っ」

 

赤司はゲームメイクをしながらハーフタイム中の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「ちっ、神城の野郎、反則紛いの事やりやがって…!」

 

第2Q終了直前の額の接触の件を思い出し、いきり立つ三村。

 

「赤司、額は大丈夫か?」

 

「…問題ない、大丈夫だ」

 

四条が尋ねると、赤司はタオルを被り、下を向いたまま返事をした。

 

「そうか、スゲー音したからよ。一応これで冷やして……って、おい、何だよその汗の量は!?」

 

マネージャーから受け取った氷嚢を赤司に渡そうとした四条だったが、赤司の身体から滴る汗の量を見て思わず声を上げた。まだ試合の半分が終わっただけだと言うのに掻いた汗の量が尋常ではないのだ。

 

「どうかしたのか?」

 

その声を聞いて選手達が注目しだした。

 

「エンペラーアイを使い過ぎたな」

 

同じく異変に気付いた白金が赤司に歩み寄り、声を掛けた。

 

「スピードと運動量が桁違いの神城を抑える為に赤司はかつてない程エンペラーアイを使った。これはその代償だ」

 

「代償?」

 

白金のとある言葉を繰り返す五河。

 

「相手の動きの未来が見えるエンペラーアイ。相手の僅かな筋肉の動きはおろか、呼吸や心拍数、汗の動きさえも見抜き、あらゆる動きを先読み出来る。だが、使用の際には極限の集中力が求められる為、かなり精神的疲労が求められる。そんな代物を神城をマークしながら短いスパンで乱発すれば体力が削られるのは自明の理だ」

 

『っ!?』

 

この言葉を聞いて洛山の選手達は驚きを隠せなかった。

 

「力の差を見せつけて早々に格付けを済まそうとしたのが仇となったな」

 

「…」

 

白金に咎めるように言われた赤司だったが、赤司は何も反論しなかった。

 

「…監督、赤司を1度下げるんですか?」

 

恐る恐る尋ねる二宮。

 

「その必要はない。確かに消耗はしているが、それはあくまでも『いつもの試合よりは』と言う程度だ。このまま試合に出る」

 

交代の言葉を口にした二宮を制するように

 

「もちろん赤司にはこのまま出てもらう。…だが、少しプランを変える。第3Qは二宮、お前も赤司と一緒にボール運びをしろ。得点機会が少なくなっても構わんから赤司の補佐に努めろ」

 

「は、はい!」

 

補佐を命じられた二宮。

 

「セットプレーは最初の1本のみ。以降はディレイドオフェンスで時間をかけて確実に得点を積み上げて行け」

 

『はい!!!』

 

出された指示に選手達が返事をする。

 

「赤司」

 

「…はい」

 

名指しされ、赤司が顔を上げる。

 

「第3Qに限り、エンペラーアイは使用するな。お前ならそれでもやれるはずだ。後は今話したプラン通りに進めろ」

 

「…監督、僕は――」

 

「赤司、コート中からしか見えないものがあれば、コートの外からしか見えないものもある。終盤の勝負所にお前が力を発揮出来ないのでは困る」

 

「…っ」

 

異議を申し立てようとした赤司だったが、白金に諭されてしまう。

 

「この指示に従えないのであればベンチに下がってもらう以外にない」

 

「……分かりました」

 

渋々、赤司はこの指示に了承したのだった。

 

「こちらには心もとないが、13点もの貯金がある。第3Qはこの貯金を有効に使う。点差は縮まるだろう。もしかしたら逆転されるかもしれんが、仮にそうなっても決して慌てるな。最初の10分は我慢の10分だ。ここを凌いで最後の10分でトドメを刺す。いいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

これがハーフタイム中に白金から出された指示である。

 

「…っ」

 

赤司は苛立っていた。自滅同然でプランを変える事態を引き起こしてしまった自分自身に…。

 

「神城…、空…」

 

誰に聞こえない声量で自身のマッチアップ相手である空の名前を呼んだ赤司。その胸の内に漂う感情に、ただただ怒りを覚えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

後半戦が始まり、淡々と得点を決めた洛山に対し、花月は空がポストアップをするという奇策に出た。

 

そんな中、洛山に飛び出す不穏な空気。勝負を急いだ赤司がスタミナを削られてしまうというアクシデントが発生。

 

試合は、また新たな方向へと進んで行くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





エンペラーアイに関しましては、NARUTOの写輪眼のように発動すれば問答無用で相手の動きや先が見えるものではなく、一時的に超集中状態になって相手のあらゆる動きを読み取り、その情報を基に相手がどう動くを瞬時に解析するという位置づけです。その為、使用する際はかなり精神的な疲労を要するという設定です。キセキの世代は中学時代に全力を出す事を禁じられていたと原作でもあり、赤司はそう言った事情からエンペラーアイを使わなかったのかなと思っています。

正直、素人の思い付きによるエンペラーアイ対策。原作で実行する描写がないので実際の効果はどうなのかは謎です…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第140Q~落とし穴~


投稿します!

先週、季節外れの扇風機を持ち出すくらいの気候だったのに、ここ最近は寒いですね…(;゚Д゚)

それではどうぞ!



 

 

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

観客の大歓声が会場に響き渡る。

 

 

――ピッ!!!

 

 

洛山の選手達がパスでボールを動かし、チャンスを窺っている。

 

「っし!」

 

フリーでボールを受け取った三村がシュート態勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、ボールを放った瞬間現れた大地によってブロックされた。

 

「速攻!」

 

「既に走ってるぜ!」

 

ルーズボールを拾った大地が速攻の指示を出す。すると、ブロック直後に既に走っていた空がボールを要求し、大地がパスを出した。

 

「行かせるものか」

 

ボールを掴んで前へと身体を向けた直後、空の目の前に赤司が現れた。

 

『あの距離じゃポストアップは使えない…!』

 

『しかも、既に赤司に間合いに入られている!』

 

空が立っている場所はスリーポイントラインの外側。ここではポストアップは使えない。しかも、赤司は腕を伸ばせばボールに届く距離にいる為、エンペラーアイを使われればたちまちボールを奪われてしまう。

 

「…しゃーねえな」

 

ここで空は両手で持ったボールを頭上に掲げ、そのまま背中側へと落とした。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後にロールしながら落としたボールを掴み、そのまま切り込んだ。

 

「無駄だ。その程度、眼を使うまでもない」

 

この空の変則的なドライブに赤司は冷静に対応、ピタリと空を追走する。

 

「だろうな。…だが、これならどうだ」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

赤司が再び目の前に現れると、空は左右に絶えず高速で切り返し始めた。

 

『出た、神城の必殺のドライブ!』

 

相手の目の前で縦の変化を付けつつ高速で切り返し続け、相手が空の姿を見失い、左右どちらかに視線を向けた瞬間にダックインで抜きさる空の必殺のドライブ、インビジブルドライブ。

 

「…僕をあまりイラつかせるな。既に破られたドライブが通用すると思うな」

 

僅かに苛立ちの表情を見せた赤司が空の姿を捉えようと後ろに下がって距離を取った。だが…。

 

『あっ!?』

 

ここで洛山の選手達が声を上げた。距離を取った赤司だったが、空はドライブで切り込んではおらず、先程ドライブを仕掛け始めた位置でボールを掴んでいたのだ。

 

「1度完璧に止められりゃ、次善策くらい考えるっつうの。わざわざ空けてくれたんだ。遠慮なく打たせてもらうぜ」

 

空と赤司の間に距離が出来た事で空がスリーを打つ体勢に入った。

 

「…ちっ」

 

「させるか!」

 

舌打ちをしながら赤司が距離を詰め、後ろから四条がブロックに飛んだ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

しかし、空は頭上にボールを掲げようとした瞬間、ボールを右へと放った。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ大地がボールを受け取る。と同時にスリーポイントラインから1メートル弱程離れたポジションではあるが、スリーの体勢に入った。

 

「打たせるか!」

 

目の前でマークをしていた三村がブロックに飛んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、大地はシュートを中断、中へと切り込んだ。

 

「くそっ!」

 

スリーに釣られてブロックに飛んでしまった三村が悔しさを露にする。

 

そのままリングへと向かって突き進む大地。ペイントエリアに侵入した所でボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「決めさせん!」

 

そこへ、ヘルプに動いた五河がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

五河がブロックに現れたの同時に大地はボールを下げ、ブロックをかわす。そのままリングを通り抜けた所でボールを上げ、リングに背を向けたままボールを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

放ったボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『来た! 絶妙のダブルクラッチ!』

 

「やるじゃねえか」

 

「あなたも、ナイスパス」

 

コツンと互いの拳を突き合わせた空と大地。

 

続く洛山のオフェンス。ここでもボールを回しながらチャンスを窺う。

 

「…ちっ」

 

ボールを掴んだ二宮が舌打ちをする。目の前には生嶋が。スリーこそ打たせてもらいそうにないが、抜きさるのは容易い。だが…。

 

「…」

 

ポジションが違う大地が目配せをしており、すぐにでもヘルプに飛び出せる体勢に入っている。仮に生嶋を抜きさっても直後に大地のヘルプに捕まってしまうだろう。

 

「くそっ…」

 

切り込むのを諦め、二宮は赤司のボールを戻した。

 

「迂闊だぜ!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

瞬時にパスコースに割り込んだ空が手を伸ばしてボールをカットした。

 

「っ!? しまった!?」

 

大地のばかり気を取られ、空のポジションを疎かにしてしまい、緩めのパスを出してしまった二宮は思わず声を上げた。

 

「おら、速攻!」

 

零れたボールを空がすぐに抑え、速攻の掛け声を共にフロントコート目掛けてドリブルを始めた。

 

「…くそっ!」

 

「追い付けねえ…!」

 

先頭を走る空を追いかける二宮と三村だが、空は追い付かせるどころか逆に引き離していく。

 

「いっただきー!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンマン速攻で駆け上がった空はフリースローラインを越えた所でボールを掴んで飛び、そのまま右手で持ったボールをリングに叩きつけた。

 

『キタキター!!! 神城のダンク!!!』

 

「っしゃおらぁっ!!!」

 

床に着地した空は拳を突き上げながら咆哮を上げた。

 

『…っ』

 

2度のターンオーバーからの失点を喫し、悔しさが表情に出る洛山の選手達。

 

 

第3Q、残り4分52秒

 

 

花月 53

洛山 59

 

 

後半戦が始まって既に5分が経過。試合の流れは花月に向いており、洛山の背中をジワリジワリと迫っていた。

 

「…監督。ここは1度タイムアウトを取って流れを切った方が…」

 

ベンチに座っていた選手の1人が白金にタイムアウトの申請を進言する。

 

「我慢だと言ったはずだ。まだ追い付かれた訳ではない」

 

しかし、白金はベンチから動かず、胸の前で腕を組み、微動だにせずこの進言を退けた。

 

「(…フルフル)」

 

「(…コクッ)」

 

コート上の赤司がベンチの雰囲気を感じ取ったのか、ベンチの白金に視線を向け、首を横に振ると、その意図を理解した白金は分かっていると言わんばかりに首を縦に振った。

 

 

「1本、行くぞ」

 

ボールを運びながら赤司が静かに声を出す。

 

「来やがれ」

 

フロントコートまでボールを運んだ赤司の前に空が立ち塞がった。

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながら隙を窺う赤司。空は腰を落として赤司の一挙手一投足に注意を払い、ディフェンスをしている。

 

『スゲー…』

 

『あれじゃ簡単には抜けないよ』

 

目の肥えた観客から空のディフェンスを評価する声がチラホラ飛び出る。

 

「…甘いな」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

その言葉と同時に赤司が突如加速。クロスオーバーで空の横を駆け抜けた。そのまま赤司はフリースローラインを越えた所でボールを掴んで飛んだ。

 

「ちぃっ、させへんわ!」

 

リングに向かって飛んだ赤司に対してヘルプに飛び出た天野がブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、赤司が右手で掲げたボールを下げた。

 

 

――ドン!!!

 

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ天野と赤司が空中でぶつかる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に審判が笛を吹いた。

 

「…っ」

 

体勢を崩しながらも赤司は左手に持ち替えたボールをリングに向かって放った。

 

 

――バス!!!

 

 

放られたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、赤7番(天野)、バスケットカウント、ワンスロー!』

 

洛山の得点が加算され、さらにフリースローがコールされた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

赤司の一連のプレーを見て観客が沸き上がった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

与えられたフリースローも赤司は落ち着いて決め、3点プレーを成功させた。

 

「…」

 

ディフェンスに戻る赤司は一瞬だけ空に視線を向け、戻っていった。

 

「野郎…!」

 

その行為をまるで力の差を誇示されているように取った空は自身の闘志を更に燃え上がらせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さすが赤司っち、嫌な所で嫌な決め方してきたッスね」

 

今の赤司の3点プレーを見て黄瀬が苦笑しながら絶賛する。

 

「ああ。…だが、それでも流れを変えるには至らねえだろうな」

 

黄瀬の言葉に賛同しつつも流れは変わらないと断ずる青峰。

 

「ッスね。勢いに乗った時の花月は凄まじい。多分、その時の勢いだけなら全国随一かもしれないッスからね」

 

昨日、試合をした黄瀬だからこそ語れる言葉である。

 

「けど、洛山が何も手を打って来ないのが腑に落ちないッスね。赤司っちも、この第3Q入ってからエンペラーアイを使ってる様子もないし」

 

「花月に流れが向いてる今、動いても効果がないどころか逆効果って事もあり得るだろうからな」

 

洛山が動きを見せない事に疑問を感じる黄瀬に対し、理由を語る青峰。

 

「赤司がエンペラーアイを使わねえのも、第2Qの時に使い過ぎたからだろうよ。あれは恐らく、むやみやたらに乱発すると体力をかなり削られる代物だろうからな」

 

「…やっぱ、そんな理由ッスか」

 

赤司についても青峰が理由を語ると、黄瀬は内心で理解していたのか、静かに頷いた。

 

「(…確かに、この状況で動いても効果は得られねえ。だが、それでも赤司なら何かしらの動きは見せるはず。だが、目立つ動きを見せたのは今の3点プレーだけだ)」

 

「(青峰っちの言った事は薄々分かってはいた。…けど、それにしても赤司が流れが切れるまで耐えるだけってのは納得出来ない…)」

 

今、青峰が語った事は一般的な試合のセオリー。だが、赤司ならそのセオリー通り進めながらも手を打ってくるはずと考える2人。

 

「(手を打てない程今の花月の勢いが凄まじいのか…)」

 

「(それとも既に…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「赤司の奴、嫌な決め方してくるぜ…!」

 

ベンチの菅野が赤司を見て険しい表情をしながらぼやく。

 

「ですが、それでもうちの勢いは止まらないと思いますよ。今の先輩達の勢いは凄いですから!」

 

竜崎がそんな菅野を励ますように言った。

 

「…」

 

ベンチ内で士気が上がる中、上杉が顎に手を当てながら神妙な表情で考え込んでいる。

 

「監督、どうかしましたか?」

 

そんな上杉に気付いた菅野が声をかける。

 

「監督?」

 

「……いや、何でもない」

 

返事がない上杉に再度話しかける菅野。だが、上杉は何もなかったかのようにコートへと視線を戻した。

 

「?」

 

そんな上杉を見て菅野は頭に『?』を浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「取り返す、行くぞ!」

 

ボールを受け取った空が声を張り上げ、ボールを運ぶ。

 

「…来い」

 

フロントコートまで進むと、赤司が静かに待ち受ける。

 

「言われなくとも、行ってやらあ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

1度立ち止まり、その後、一気に加速。クロスオーバーで切り込む。だが、赤司もこれに対応。空の進路を塞ぐ。

 

「やっぱりな。この感じ、エンペラーアイを使ってる気配がねえ。1つ言っておくぜ…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「手抜きで俺に勝とうなんざ舐め過ぎだぜ!」

 

そこから空が高速でクロスオーバーで更に逆に切り返し、赤司を抜きさった。

 

「ちっ」

 

抜かせるつもりがなかった赤司の口から思わず舌打ちが飛び出た。

 

「だらぁ!!!」

 

フリースローラインを越えた所で空はボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「調子に乗るなよ。何でもダンクを決めさせる訳ないだろ!」

 

そこへ、四条がヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。

 

 

――ドン!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを叩こうとした四条だったが、寸前で空がボールを迫る四条から遠ざける。その結果、空の身体と四条の身体が接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

これを見て審判が笛を吹いた。

 

「…ちっ」

 

空中で接触を受けてバランスが崩した空だったが、何とか態勢を立て直し、リングにボールを放った。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールは1度リングに当たり、その後、リングの周囲をグルグルと回り、そしてリングの外側に零れ落ちた。

 

『ディフェンス、プッシング、白7番(四条)!』

 

ファールが宣告され、フリースローが2本与えられた。

 

「くそっ、決められなかった…!」

 

先程の赤司と似たシチュエーション。しかし、赤司は得点を決め、自身は得点を決められなかった事に悔しさを覚える空。

 

「仕方ありませんよ。切り替えて行きましょう」

 

「あぁ、分かってるぜ」

 

励ます大地に空は気持ちを切り替えながら返事をしたのだった。

 

 

「…」

 

フリースローラインでボールを構える空。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1本目を決め。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2本目もきっちり決め、フリースローを2本成功させた。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

右拳を突き上げながら喜びを露にする空。

 

「…フッ」

 

そこから赤司に振り返り、突き上げた拳を胸の前に持っていき、不敵な笑みを浮かべた。

 

「…ふん」

 

明らかに先程の意趣返しに、赤司は鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ガンガン走って止めるぞ! この第3Qで試合をひっくり返す!」

 

『おう!!!』

 

洛山のオフェンスに始まり、空が声を出して鼓舞すると、花月の選手達がそれに応えた。

 

「…ちっ」

 

その光景を見て舌打ちが飛び出る三村。ハーフタイム中に白金からこの状況を示唆する事を言われたが、実際その状況になってしまうのは面白くない。

 

「熱くなるな。今は全てが花月に都合よく転がっているだけだ。ここを耐えれば必ずチャンスは来る」

 

そんな三村や他の選手達が心情が見て取れた白金は静かに選手達を諫めた。

 

洛山の選手達はボールを回し、時間をたっぷり使いながらチャンスを窺っている。

 

「思い切りがねえな。ズバッと攻めて来いよ」

 

「…」

 

挑発のような言葉をかける空だったが、赤司は反応する事なく淡々とボールを回す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ショットクロックが残り7秒になった所で三村が中へと切り込んだ。

 

「…っ」

 

追いかけようとした大地だったが、四条がスクリーンをかけており、出来なかった。

 

「あかん、声掛け怠ってしもた!」

 

自身の失態を悔やみながら天野がヘルプに走った。

 

「来たな」

 

 

――ピッ!!!

 

 

天野が自身にヘルプに来たのを見た三村がパス。外に展開していた二宮にパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

右アウトサイド、サイドラインとエンドラインが交わる位置でボールを受け取った二宮。

 

「っ!?」

 

三村が切り込んだ事でディフェンスを収縮させる為に中に移動していた生嶋が目を見開く。1番近い位置にいた天野もヘルプに向かってしまった為、フリーでボールが渡ってしまった。

 

「よし!」

 

悠々と二宮はシュート態勢に入った。しかし、その時…。

 

「なに余裕ぶってんだよ。簡単に決めさせると思うな!」

 

二宮に向かって空が急速に距離を詰めていた。

 

「っ!?」

 

これに二宮は驚きながらもボールをリリースした。

 

「らぁっ!」

 

 

――チッ…。

 

 

「なっ!?」

 

猛ダッシュで走り、飛び付いて伸ばした空の手の先に僅かにボールが触れた。

 

「っ! 触れた、落ちるぞ!」

 

外れる事を確信した空が声を出す。

 

「任せろ!」

 

その声を聞いた松永がすかさずスクリーンアウトを行い、絶好のポジションの確保に入る。

 

「(いや、これは…)」

 

リングに近付くボールを見て何かを感じ取る天野。

 

「もらった」

 

その隙を突いて四条が天野の前に出てポジションを確保した。

 

「っ!? ならば俺がリバウンドボールを抑えるだけだ」

 

ポジションを取られた天野を見て自分が抑えるしかないと判断した松永は覚悟を決める。

 

 

――ガン!!!

 

 

目論み通り放たれたボールはリングに弾かれた。だが…。

 

「「「っ!?」」」

 

弾かれたボールがリングから遠くに跳ね、ゴール下でポジション争いをしていた松永、四条、五河は眼を見開いた。

 

「いただきや!」

 

ただ1人、天野だけがこれに反応し、リバウンドボールを確保した。

 

「(やけに張り合いがないと思ってたが、まさか!?)」

 

リバウンド争いに天野が消極的だった事に引っ掛かっていた四条だったが、その答えに今気付いた。

 

「思った通り遠くに跳ねよったわ。…リバウンドは俺の土俵や。ここは譲らんで。ほれ、速攻や!」

 

したり顔で言う天野は確保したボールを空へと渡した。

 

「さっすが天さん! 速攻だ。全員走れ!」

 

号令と共にドリブルで駆け上がる空。

 

『おう!!!』

 

それに応えてフロントコートに走る花月の選手達。

 

「っと、やっぱりあんただけは簡単には行かせてくれないか」

 

洛山で唯一赤司だけがディフェンスに戻っており、スリーポイントライン目前で空の進攻を阻んだ。

 

「だが、いくらあんたでも1人で俺達の速攻を止められるかよ」

 

そう言って空はビハインドパスでボールを右に放った。そこへ大地が走り込み、ボールを掴んだ。

 

「…っ」

 

ボールを掴んでそのままシュート態勢に入る大地。赤司がすぐさまブロックに向かったが、赤司が来るより早く大地はボールをリリースした。

 

「(…っ、短い!)…リバウンド、お願いします!」

 

赤司のブロックをかわす為に素早くリリースした事でリリースしたボールがショートした事を確信した大地は声を出した。

 

「「…っ」」

 

いち早くゴール下に走り込んだ二宮と三村がリバウンドに備えた。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通り、ボールはリングの手前で弾かれ、外れた。

 

「あっかーん。これじゃポジション争いはでけへんわ」

 

後ろから走る天野が思わず声を上げる。

 

「やけどな、リバウンドちゅうのはこういう取り方もあるんやで!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

リバウンドボールに手を伸ばした二宮と三村だったが、それよりも早く、天野がボールをチップアウトした。

 

ポジション争いに間に合わなかった天野はタイミングを見て助走を付け、2人に僅かに遅れて飛びながらも助走の勢いを利用して高く速く飛び、右手を伸ばしてボールをチップしたのだ。

 

「頼りになるぜ天さん!」

 

天野がチップしたボールを空が素早く確保した。

 

「誰に言うてんねん! 俺やで!」

 

ドヤ顔で返事をした天野。空が天野にパスを出す。

 

「くそっ!」

 

慌てて二宮がパスコースに手を伸ばして割り込む。だが…。

 

「っ!?」

 

パスを出そうとした瞬間、空がパスを中断した。そこからノールックビハインドパスに切り替えた。

 

「ナイスパスくー」

 

パスの先は右アウトサイドの深い位置に移動していた生嶋。

 

『っ!?』

 

完全のフリーの生嶋を見て目を見開く洛山の選手達。生嶋は悠々とその位置からスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングに掠る事無く潜り抜けた。

 

『うおー! ここでスリーが来た!』

 

値千金のスリーが決まり、観客が沸き上がった。

 

「ええとこおったやないか!」

 

「天先輩もナイスリバウンドです」

 

ハイタッチを交わす生嶋と天野。

 

「戻れ、ディフェンスだ! 次も止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も花月の勢いは止まらず、洛山を圧倒し続けた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地がミドルシュートを決めれば…。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

後半戦から調子が出始めた天野が相手選手のシュートをブロック。リバウンドもオフェンス・ディフェンス共にもぎ取っていった。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

三村をかわして大地が放ったジャンプショットがリングを潜り抜けた。

 

 

第3Q、残り17秒

 

 

花月 65

洛山 64

 

 

遂に花月が逆転に成功する。

 

『おぉっ! 逆転だぁっ!!!』

 

「…っ」

 

沸き上がる観客。そっと大地が拳を握った。

 

「っしゃ遂に捉えたぞ!」

 

大地の下へ駆け寄り、肩を引き寄せながら喜ぶ空。

 

「よし、最後のディフェンスだ。ここを止めて次のQに繋げるぞ!」

 

『おう!!!』

 

第3Q残り僅か。恐らくこれがこのQ最後のオフェンス。リードしたまま終わりたい花月は集中力を高める。

 

『…』

 

フロントコートまでボールを運んだ赤司はそこからパスを捌き、その後はパスを繋ぎながらチャンスを窺っている。時間いっぱいまで使い切ってこのオフェンスを終える算段であった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

残り5秒になった所で赤司にボールが渡り、中へ切り込んだ。

 

「行かせねえよ!」

 

このカットインの空が対応、赤司を追いかける。しかし…。

 

「っ!?」

 

ここで空の目が見開く。赤司がボールを持っていなかった。

 

「…ちっ!」

 

空が視線を右へと向けると、スリーポイントラインやや内側に立っている四条にボールが渡っていた。

 

「野郎…、カットインと同時にパス出してやがったのか!」

 

赤司はカットインと同時にビハインドパスを出していたのだ。

 

「打たせるかい!」

 

シュート態勢に入る四条。1番近くにいた天野がチェックに向かった。

 

「(しめた! これならギリギリ間に合うで!)」

 

ボールを掴んだポジションがスリーポイントラインに近かった事もあり、通常のミドルショットよりモーションを大きい為、ギリギリ間に合うと見て距離を詰める天野。

 

「止めたるわ!」

 

そう叫び、天野がブロックに飛んだ。その時…。

 

「(…ニヤリ)」

 

ボールを持った四条がニヤリを笑みを浮かべた。

 

「っ!?」

 

四条はシュートには飛ばず、ポンプフェイクを入れただけであった。

 

 

――ドン!!!

 

 

直後、飛んだ四条と天野が接触した。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹き、口から笛を放すと…。

 

『ディフェンス、プッシング、赤7番(天野)!』

 

ディフェンスファールをコールした。

 

「何やと!?」

 

これに驚く天野。

 

「っ!?」

 

思わず立ち上がる上杉。その視線はオフィシャルテーブルに向いていた。そこには4の数字が記載された旗が。それはつまり…。

 

「天さん、4つ目か…!」

 

状況を理解した空が目を見開いた。

 

4ファール。つまり、後1回ファールをしてしまったら退場となってしまう。

 

「しもた…!」

 

思わず悲痛な表情で額に手を当てる天野。第4Qをまるまる残した状態での4ファールはあまりにも辛い状況である。

 

「全てが上手く行っている時は総じて足元が見えなくなるものだ」

 

「っ!?」

 

声が聞こえた方角に空が顔を向けると、そこには赤司の姿が…。

 

「僕らがただただお前達の猛攻に耐えているだけだと思ったか? 奪われた得点と引き換えにお前達の生命線と言えるものをいただいた」

 

「…っ!」

 

この言葉にハッとした姫川がスコアブックのとある箇所に視線を移す。そこには…。

 

「…神城君と綾瀬君1つ。生嶋君が2つ、松永君が…っ!? 3つ…!?」

 

スコアブックを見ながら姫川が数え上げる。それは各選手のファールの数である。

 

天野に次いでファールが多いのは松永の3つ。決して予断を許されない状況。つまり、花月のインサイドを支える2人がファールトラブルに陥っていたのだ。

 

『っ!?』

 

これを聞いた花月の選手達が驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

不幸中の幸いと言えるのか、審判は四条がシュート態勢に入れなかったと判断し、フリースローにならなかった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

プレーを開始してすぐに第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了。

 

 

花月 65

洛山 64

 

 

選手達が各ベンチへと戻っていく。

 

「機は熟した。後は蹂躙するだけだ」

 

赤司が静かにそう宣言したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合の後半戦が始まり、花月の猛攻が始まった。

 

洛山も奮闘するも、花月の勢いを止める事は出来ず、花月は遂に逆転に成功した。

 

しかしその直後、天野がファール4つ目。松永も3つのファールを犯しており、花月のインサイドを担う2人がファールトラブルに陥ってしまった。

 

花月は逆転と引き換えに耐え難い代償を負ってしまったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





コロナが第三波がやってきて、体調管理に気を遣うようになりました。ちょっとでも体調が悪いと本当に不安になります…(;^ω^)

皆さんも体調管理、手洗いうがい、出来る事はしっかりやっていきましょう…!(^^)!

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第141Q~暗雲~


投稿します!

朝の冷え込みがシャレにならないレベルになってきた…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q終了。

 

 

花月 65

洛山 64

 

 

第3Qが終了し、ベンチへと戻って来る花月の選手達。

 

「くそっ! 何やっとんねん俺は…!」

 

ベンチに座るなり頭を抱えながら自分自身に憤る天野。コート上の花月の最上級生であり、インサイド及びディフェンスとリバウンドの要である天野が一時離脱する事でチームに与える影響は大きい。

 

「…すまない。これは俺のミスだ」

 

選手達に謝罪をする上杉。赤司にフリースローを与えてしまったファールの時点でこの状況は頭によぎっていた。しかし、流れが花月に向いているこの状況で天野を引っ込めてしまっては良い流れを壊しかねない。その為、交代を見送ったのだ。しかし、それが裏目に出てしまった。

 

「謝らんといて下さい! 悪いのは俺ですわ!」

 

謝罪する上杉を慌ててフォローする上杉。

 

「天野、交代だ。一旦お前を下げる。…竜崎、すぐに出られる準備をしておけ」

 

「…えっ、俺ですか?」

 

指名された竜崎が思わず疑問の声を上げる。

 

インサイドの要の天野を引っ込めるなら室井を投入し、松永にパワーフォワードにし、室井をセンターに置くのが最良のはず。

 

「室井も既に2つファールをしている。ここで出せば確実に狙われるだろう。そうなればインサイドは完全に瓦解する。それだけ避けなければならん」

 

天野と松永程深刻ではないが、室井もファールを2つ犯しているのだ。試合に出せばディフェンスの穴としてだけではなく、ファールも狙ってくるだろう。もし、室井までファールトラブルに陥れば花月のインサイドは完全に死んでしまう。それを防ぐ為、上杉は竜崎を指名したのだった。

 

「っ!? すぐに準備をします!」

 

状況を理解した竜崎がすぐにユニフォームの上に来ていたシャツを脱いで準備を始めた。

 

「ディフェンスはこれまでどおり、2-3のゾーンディフェンス。前に神城と綾瀬。後ろに生嶋、松永、竜崎だ」

 

『はい!』

 

「松永、しばらくお前の負担が増えるだろうが、踏ん張ってくれ」

 

「はい、任せて下さい!」

 

任せられた松永は気合いの籠った返事をした。

 

「竜崎、向こうが綾瀬に引き続きダブルチームで来るようならお前がフリーになる機会も増える。これまでと同じ、空いたら即座に狙っていけ」

 

「はい!」

 

「綾瀬、恐らく赤司は第4Qからエンペラーアイを解禁してくるだろう。そうなれば神城は赤司を相手するだけで手一杯になるだろう。お前もダブルチームで苦しい状況だが、今の状況を打破出来るのはお前しかいない。任せたぞ」

 

「はい。やってみせます」

 

真剣な表情でしっかりと大地が返事をした。

 

「ちぇ、赤司が相手でもやってやるのに…」

 

ただ、空は拗ねたような口調でボヤいていた。

 

「まあいいや。…なんにせよ、逆転した事には変わりない。残りはたった10分。天さんだってもう試合に出られない訳じゃない。まだ俺達に流れは残ってる。最後まで走って洛山を倒すぞ!」

 

『おう!!!』

 

ベンチから立ち上がった空が選手達に振り返り、檄を飛ばすと、選手がこれに応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ…。

 

「よーし、良くやったぞ四条!」

 

「あいつには何度も煮え湯を飲まされたからな。このくらいは…。それにこれは俺の手柄じゃなくて…」

 

天野を4ファール目に追い込むきっかけを作った四条に対し、二宮が労う。四条は謙遜しつつ視線をとある人物に向けた。

 

「予定通り、向こうの生命線の1つである天野をファールトラブルに追い込めた。四条、…そして赤司、良くやった」

 

白金が四条と赤司を労った。

 

実は天野をファールトラブルに追い込むプランは試合前に進めるはずだったプランにはなかった事である。全ては第2Q終了後のハーフタイムの時の事…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「こちらには心もとないが、13点もの貯金がある。第3Qはこの貯金を有効に使う。点差は縮まるだろう。もしかしたら逆転されるかもしれんが、仮にそうなっても決して慌てるな。最初の10分は我慢の10分だ。ここを凌いで最後の10分でトドメを刺す。いいな」

 

『はい!』

 

そう白金が選手達に指示を出した後の事…。

 

「監督」

 

赤司が白金に話しかけた。

 

「何だ赤司。何か不服でもあるのか?」

 

この指示に納得していない事を悟っていた白金は棘のある物言いで赤司に返事を返す。

 

「いえ、そういう訳ではありません。…ただ、みすみす相手に点差を縮められ、得点を与えるだけというのはあまりにも芸がありません」

 

「ほう」

 

「相手の生命線をコートから追い出します」

 

低く返事をした白金に対して赤司が続けて言葉を続ける。

 

「生命線と言うと、神城か綾瀬を狙うのか?」

 

生命線と聞いて、花月のキーマンである空と大地の2人の名前を挙げる三村。

 

「違う。あの2人ももちろん替えの効かない生命線だが、その2人と同等かそれ以上に重要な役割を持つ選手がいるだろう」

 

「あの2人以外で…」

 

なぞなぞのように問いかけられ、二宮が頭を巡らせる。

 

「天野か…」

 

その答えに行き着いた四条が呟いた。

 

「そうだ。奴は神城と綾瀬と同等…いや、それ以上に花月に欠かせない選手だ。奴をベンチに退けばそれだけで花月の戦力は落ちる」

 

ディフェンスとリバウンド。オフェンスではスクリーンとポストプレー等、天野のチームにもたらす貢献度は高い。

 

「奴をファールトラブルに追い込む。それはこの僕がお膳立てをしよう」

 

自らの胸に手を当て、役割を担う事を宣言する赤司。

 

「天野のファール数は今の時点で2つ。後、センターの松永も2つのファールが記録されてますが、どうしますか?」

 

スコアブックを読み上げながら尋ねる洛山の記録係。

 

「奴は1つ取れれば充分だ。それ以上は無理に取りに行かなくてもいい」

 

そう返事を返す赤司。

 

「…うむ。却下する理由は見当たらないな。良いだろう。その案を採用する」

 

顎に手を当てながら今挙げられた案を吟味し、白金は採用した。

 

「では第3Qは相手の勢いを受け止めつつ、天野を狙う。細かい指示は赤司に任せる。いいな」

 

『はい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

これが、ハーフタイム中に急遽決まった事であった。

 

「向こうは確実に天野を終盤の勝負所まで下げてくるだろう」

 

「そうなると、代わりに出てくるのは室井か…」

 

「いや、恐らく出てくるのは竜崎だろう。松永も予断を許されない状況だ。もしファールをしてしまえば花月のインサイドは終わりだ。私なら出さない。向こうの監督もそうするだろう」

 

室井と交代を予想した三村だったが、白金が否定した。

 

「どうする? 松永も狙うか?」

 

狙う…、つまり4ファールに追い込むと言う事である。五河が尋ねる。

 

「いや、無理に狙わなくていい。取れても劇的な効果は得られないだろう。優先すべきは再び逆転し、リードを広げる事だ」

 

五河が出した提案を却下する赤司。

 

「第4Qは花月にトドメを刺す。充と大智は中から積極的に狙っていけ」

 

「おう」

 

「分かった」

 

「秀平と彰人も、中に注意が向けば外の警戒は緩くなる。僅かでも外でフリーでボールを保持したなら積極的に打っていけ。外しても構わない。決まるまで何度でも打て」

 

「了解」

 

「任せろ」

 

赤司が選手達に指示を出していった。

 

「僕の失態によって逆転されてしまったが、ここまで良く踏ん張ってくれた。感謝する」

 

そう言って赤司が頭を下げた。

 

『…っ』

 

この赤司を知る選手達からすればあり得ない光景に思わず驚く。

 

「残りは第4Qの10分だ。力の差を見せつけ、僕達が最強である事を証明するぞ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さすが赤司っち。ただでは転ばなかったッスね」

 

花月の勢いをただ受け止めてるだけかと思っていた所に天野を始めとしたインサイド陣のファールトラブルに追い込んだのを見て感心する黄瀬。

 

「もしかして、第3Qからエンペラーアイを使わなかったのもわざと?」

 

「いや違うな。神城に対抗しようと乱発したのは間違いなく赤司のミスだ」

 

桃井の推測を青峰が否定する。

 

「だが、赤司はそのミスすら利用した。花月の勢いを逆手に取って天野をコートから追い出した」

 

「昨日の準決勝の試合を見直して気付いたんスけど、あの天野って人、地味に活躍してたんスよね。俺も結構彼のディフェンスには苦労させられたし」

 

黄瀬は昨日の試合での天野の感想を述べた。

 

「大ちゃんも去年、最初はそれなりに抑えられてたよね」

 

「まあ、確かにやる気がなかったとは言え、俺相手にそこそこやってやがったな」

 

青峰はかなり素直ではないが、天野を評価した。

 

「だが、あいつがしばらく引っ込むとなると、花月はかなり追い込まれるだろうな」

 

「「…」」

 

「あいつがベンチにいる間は確実に点差は開く。花月はどこまで傷口を浅く抑えられるかにかかってる」

 

「けど、花月には神城っちと綾瀬っちがいるッスよ! あの2人なら…!」

 

花月の劣勢を断ずる青峰に対し、黄瀬は空と大地に希望を見出す。

 

「…いや、恐らくあいつらがいても点差は開く。ま、見てりゃ嫌でも分かるだろうよ」

 

その希望も青峰は否定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両校の選手達がコートへと戻って来る。

 

 

 

OUT 天野

 

IN  竜崎

 

 

『やっぱり7番(天野)を下げて来た!』

 

『けど、代わりに出るのは、10番(竜崎)?』

 

天野が1度ベンチに下がる事は予想していたが、代わりに竜崎が出てくる事は予想外だった為、軽く会場がざわつく。

 

「っしゃ行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の気合いの籠った檄に、続く選手達が応える。

 

「…」

 

生嶋が審判からボールを空のパスを出し、第4Qが開始された。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『泣いても笑っても最後の10分! どっちが勝つんだ!?』

 

同時に観客が沸き上がった。

 

「…」

 

ボールを運ぶ空。スリーポイントライン1メートル程の所までボールを運ぶと、赤司が立ち塞がった。

 

 

「最終Q最初の攻撃。第3Qまでの流れを切らさない為にもここは時間をかけて慎重に確実に決めたいトコッスけど…」

 

「…」

 

黄瀬も青峰も注目している。

 

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う空と赤司。

 

『…っ』

 

その光景を固唾を飲んで見守る観客達。

 

「…っ」

 

ここで空が動いた。

 

『なっ、なにぃぃぃっ!!!』

 

それを見て観客達が驚愕の声を上げる。

 

『っ!?』

 

これには洛山の選手達も同様であった。

 

空はボールを回すでも、ドリブルで切り込むでもなく、シュート態勢に入ったのだ。天野がいないこの状況。外せばリバウンドは期待出来ない。それだけにこの選択は誰しも予想外だった。…ある1人を除いて。

 

「そうだね。こんな状況だからこそお前は強気で来る」

 

「っ!?」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

ボールを掲げようとした瞬間、赤司が手を伸ばして頭上へとリフトさせようとしたボールをカットした。

 

「意表を突けたと思ったか? 残念だが、僕のこの眼の前では無意味だ」

 

空の手から零れたボールをすかさず赤司が拾い、そのまま速攻に走った。

 

「…くそっ!」

 

強気が裏目に出た空は思わず悪態を吐きながら赤司を追いかける。

 

「ここは行かせません!」

 

フロントコートに進んだ所で大地が赤司を捉え、立ち塞がる。

 

「さすが綾瀬! よく追い付いた!」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら声を上げる。

 

「(いくら赤司さんでもここからでは打ってこない。アンクルブレイクに注意していれば…!)」

 

アンクルブレイクを要警戒した大地は距離を取ってディフェンスを始める。

 

「…」

 

赤司は大地が前に立ち塞がるのと同時に立ち止まり…。

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを右方向へと放った。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ三村がボールを掴み、そのままリング向かってドリブルを始めた。

 

「…くっ!」

 

その三村を大地が追いかける。三村がリング近くまでドリブルすると、レイアップの体勢に入った。

 

「決めさせませんよ!」

 

大地がギリギリで三村に追い付き、ブロックに飛んでシュートコースを塞いだ。

 

『うわー! 綾瀬はえー!?』

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

三村はレイアップ中断し、ボールを後ろへと落とすように放った。そこへ走り込んだ赤司がボールを掴み、シュート態勢に入った。

 

「まだ…、間に合う!」

 

先程ブロックに飛んだ大地が着地と同時に再び赤司の放つシュートのブロックに飛んだ。だが…。

 

「っ!?」

 

赤司はボールをリングではなく、真上に放った。

 

「ナイスパスだ!」

 

そこへ走り込んだ五河が空中でボールを両手で掴んだ。そしてそのままリングへと振り下ろした。

 

「まだだ!」

 

その時、リングと五河の間に空がブロックに割り込んだ。

 

「よく追い付いた神城!」

 

再び菅野が立ち上がる。

 

「無駄だ。ブロックに間に合った所で、お前では止められない」

 

赤司が無情に言葉を吐く。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

空のブロックをものともせず、五河は空を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 65

洛山 66

 

 

『第4Q初っ端からアリウープだ!』

 

派手なアリウープダンクを見て観客が沸き上がった。

 

「大丈夫ですか空?」

 

吹き飛ばされて座り込んでいる空に大地が手を差し出す。

 

「…あぁ、すまね――」

 

その手を取ろうとしたその時、赤司が空の下までやってきた。

 

「ここまで僕を愚弄したんだ。地に這いつくばるだけでは済むと思うな。2度と歯向かう気すら起きない程の屈辱をお前には味合わせてやろう」

 

座り込む空を見下ろしながら告げる赤司。

 

「っ!?」

 

その言葉を聞いて空はすぐさま立ち上がり、赤司の傍に寄って顔を近付けながら睨み付けた。

 

「やれるもんならやってみろよ」

 

赤司を見下ろしながら空はそう言い返した。

 

「君達、何をしている!」

 

不穏な空気を2人の間から感じ取った審判が駆け寄りながら注意を促す。

 

「…」

 

それを見て赤司は踵を返し、ディフェンスへと戻っていった。

 

「何かトラブルか?」

 

「いえ、大丈夫です。このまま続行して下さい」

 

審判に問い掛けられると、空は素っ気なく返事を返した。

 

「…熱くなる方向を間違えないように」

 

そう空に告げ、審判は離れていった。

 

「もう勝った気でいやがるのかよ。…上等だ…!」

 

挑発染みた赤司の言葉を聞いた空はさらにその胸の内の闘志を燃え上がらせた。しかし…。

 

 

「…ちっ」

 

ボールを運んだ空の目の前に赤司が立ち塞がる。だが、先程のスティールがある為、強気で攻める事を躊躇ってしまう。

 

「…くそっ」

 

下がって距離を取り、ビハインドパスを出した。

 

「よし!」

 

左45度付近のスリーポイントライン手前で竜崎がボールを受け取った。

 

「(空いた!)」

 

フリーでボールを受け取った竜崎はすぐさまスリーを放った。

 

「フリーだったとは言え、この状況でスリーを打てるその胆力には称賛する。だが…」

 

 

――ガン!!!

 

 

「…あっ!?」

 

「決められるかどうかは話は別だ」

 

ボールがリングに弾かれてしまう。

 

「おぉっ!」

 

リバウンドボールを五河が抑えた。

 

「くそっ!」

 

パワーとテクニックで劣り、しかもファールを恐れて強引に行けない松永は悔しがる。

 

「リバウンドが期待出来ないこの状況で実績のあるシューターでもない者が影響が出ないなどあり得ない」

 

「速攻!」

 

ボールを掴み取った五河が声を出し、前を走った赤司にパスを出した。

 

「くそっ、戻れ! ディフェンスだ!」

 

慌てて空が声を出し、選手達もディフェンスに戻る。

 

 

「あいつ(天野)がいなくなって1番影響が出るのがまずリバウンドだ」

 

青峰が口を開く。

 

「リバウンドの有無は勝敗の有無に直結する。これまではあいつがリバウンドを制していたから競っていけたが、リバウンドが取れないとなりゃ、シュートを外せなくなる。そうなれば無理なシュートは打てなくなる上に打ててもプレッシャーで確率は下がる。試合も終盤となれば尚の事な」

 

「「…」」

 

解説をする青峰の言葉に聞き入る黄瀬と桃井。

 

「そんで、もう1つの問題はディフェンスだ」

 

 

「…くっ!」

 

何とか空が赤司を食い止め、味方がディフェンスに戻る時間を稼いだが、ローポストに立った四条にボールが渡ると、四条はポストアップで竜崎を背中で押し込み始めた。

 

身長差が10㎝もあるミスマッチのマッチアップ。竜崎ではこのポストアップに耐える事が出来なかった。

 

「…っ」

 

「…くそっ」

 

これを見て空と松永がヘルプに飛び出し、フォローに向かう。

 

 

「10番(竜崎)じゃ、あの7番(四条)は止められねえ。当然、ディフェンスは収縮させざるを得ない」

 

青峰の言葉通り、空と松永が四条の包囲に動いた。

 

 

「「っ!?」」

 

しかし、四条はそんな2人を嘲笑うかのようにボールを外へと出した。

 

「ナイスパス!」

 

空が中に来てしまった為にアウトサイドに展開していた二宮がフリーでボールを受け取ってしまう。

 

「ちくしょう!」

 

慌ててチェックに向かう空だったが距離を放し過ぎた為、間に合わず。二宮は悠々とスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「よし!」

 

打ったスリーが決まり、拳を握りながら喜ぶ二宮。

 

 

花月 65

洛山 69

 

 

「ここまではあの天野って奴がインサイドの抑えと同時にあの洛山の7番、四条って奴を抑えてからディフェンスもバランスが取れてた。だが、いなくなった事でその四条の抑えがなくなり、自由度が増した」

 

「「…」」

 

「さっきも言ったが、あの10番、竜崎だったか? あいつじゃ止められねえ。ゾーンディフェンスであっても誰かしらがフォローに向かう必要が出てくる。だが、フォローに向かえば誰かしらがフリーになる。となりゃ、選手全員が外からでも中からでも洛山相手じゃ手詰まりだ」

 

「…だったら、もうファールトラブル覚悟で11番の室井君を出すしかないんじゃ…」

 

「同じだ。あいつは縦の動きはそれなりだが横の動きは素人に毛が生えた程度だ。みすみす抜かれんのがオチだ」

 

代案を出した黄瀬だったが青峰はピシャリと否定した。

 

「だったらどうすれば…」

 

「知るかよ。…ま、止められねえならそれ以上に点取るしかねえだろうな」

 

打つ手を尋ねる桃井。青峰はオフェンスでカバーするしかないと判断。

 

「それしかないッスよね…」

 

黄瀬も同じ考えしか浮かばず、思わず溜息が漏れた。

 

「神城が赤司をどうにか抑える事が出来りゃ何とかなるかもしれねえが…」

 

ここで青峰が空に視線を向けた。

 

 

「…っ」

 

空がボールを運ぶと、当然、赤司がディフェンスにやってきた。

 

「竜崎!」

 

無理に仕掛けず、ハイポストから外へと移動した竜崎にパスを出した。

 

「っ!?」

 

ボールを受け取った竜崎は目を見開いた。スリーポイントライン手前でボールを受け取った竜崎に対し、誰もチェックに来ないのだ。

 

「(俺には外がないと思われてる?)…だったら!」

 

空いたら打てという指示の下、竜崎はスリーを放った。

 

「(…っ、ダメだ、肩に力が入り過ぎてる。あれじゃ…!)」

 

竜崎のフォームに異常を感じた生嶋。

 

 

――ガン!!!

 

 

予想通り、竜崎の放ったスリーはリングに弾かれてしまった。

 

「…あっ」

 

半ばフリーでのスリーを外してしまい、力のない声が漏れる竜崎。

 

『あぁ…、ここで決まらないのは痛い!』

 

観客からも悲鳴のような声が響く。

 

 

「あからさまに打たされてリズムが悪すぎる。あれじゃ入らないのは当然ッスね」

 

苦笑しながら黄瀬が言う。

 

 

「よし!」

 

コート上では五河が松永を抑え込み、四条が悠々とリバウンドを制した。赤司にボールが渡り、ボールを運んでいく。

 

「29だ」

 

赤司のナンバーコールと共に洛山の高速のパスワークが始まる。

 

『ここで洛山のお家芸のナンバープレーだ!』

 

ボールが絶え間なく動き回る。

 

「ここに来てパススピードが上がった!?」

 

ベンチの菅野が声を上げた。

 

ナンバープレーによるセットオフェンスが行われてからこの日1番のパススピードでパスワークを行う洛山の選手達。

 

ショットクロックが10秒を切った所でハイポストに立った二宮にボールが渡った。

 

『っ!?』

 

パス交換でゾーンディフェンスが乱され、フリーの状態で二宮にボールが渡ってしまう。

 

「…くっ!」

 

シュート態勢に入る二宮。慌ててブロックに向かった大地。

 

 

――チッ…。

 

 

間一髪、大地の伸ばした手の指先にボールが触れる。

 

 

――ガン!!!

 

 

決死の大地のブロックによってボールがリングに弾かれた。

 

「リバウンドや!」

 

ベンチから天野が声を張り上げる。しかし…。

 

「よーし!」

 

その願いも実らず、五河によってリバウンドを取られてしまう。

 

「ふん!」

 

リバウンドを制して着地した五河はすぐさまシュート態勢に入った。

 

「させんぞ!」

 

そうさすまいと松永がブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

ここで松永が目を見開いて驚愕する。五河はポンプフェイクを入れただけでシュートに行っていなかったのだ。

 

「あかん!」

 

五河の狙いに気付いた天野が立ち上がりながら声を上げた。五河の狙いは松永からファールを貰う事。ブロックに飛んでしまった松永にはもう為す術もない。

 

「もらうぜ」

 

そう松永に告げ、再度五河はシュート態勢に入る。飛んだ松永にぶつかるように…。

 

 

――ドン!!!

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹き、笛を口から放し…。

 

『ディフェンス、プッシング、赤10番!』

 

ファールをコールした。だが、ファールを宣告したのは松永ではなく…。

 

「ふぅ、間一髪…」

 

腕で汗を拭う竜崎。

 

そう、ファールを宣告されたのは竜崎。松永と五河の身体がぶつかるよる前に竜崎が五河にぶつかるようにブロックに向かったのだ。

 

「ようやったで! ファインプレーや大成!」

 

喜びを露にする天野。

 

五河には松永と竜崎が接触したのだが、竜崎の方が僅かに早かった。バスケは2人同時にファールを取られる事はない。この場合、先にファールを犯した竜崎にファールが宣告される。

 

「助かったぞ、竜崎」

 

「スリー2本外してますんで、このくらいは…」

 

礼を言う松永に対し、竜崎は苦笑しながら返事をした。

 

「…ちっ、邪魔が入ったか」

 

松永をファールに追い込めず、悪態を吐く五河。

 

「ドンマイ。ここは可愛い後輩のナイス判断を褒めよう。それよりフリースローだ。決めろよ」

 

そんな五河を励ます四条。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースロー、1本目を決め…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2本目も五河はきっちり沈めた。

 

「よっしゃ!」

 

フリースローを2本成功させた五河は拳を握りながら喜びを露にした。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

ここで、花月のタイムアウトがコールされたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q開始して間もなく、花月がタイムアウト。

 

意気揚々とベンチに下がる洛山の選手達に対し…。

 

『…っ』

 

第3Q時とは打って変わって表情が暗い花月の選手達。竜崎の咄嗟の起点で最悪の事態は防げたが、未だ、状況は変わらない。

 

天野がファールトラブルをきっかけに試合は洛山に流れが傾いた。

 

花月には容易に晴れる事のない暗雲が漂うのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





正直、書いていて調子が出ず、悪い癖の試合よりも会話重視の話になってしまったorz

もはやこの試合に関してはネタ切れが半端なく、盛り上がるはずのクライマックスが1番盛り上がらなくなるかも…(>_<)

2020年も残り1ヶ月を切り、この準決勝共々残り僅か。共に勢いのまま突っ走って……行きたい!

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第142Q~譲れないもの~


投稿します!

試合での得点を分かりやすくする為、点が入ったらその都度記載する事にしてみました…(^_^)/

演出上の都合で記載しない事もありますが、これからは基本的に記載します。書いてる自分が分からなくなる事があるので…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

残り時間、8分14秒。

 

 

花月 65

洛山 71

 

 

花月が申請したタイムアウトがコールされ、両校の選手達がベンチへと戻っていった。

 

「完全に流れは洛山に向いたッスね。花月としては流れをもう1度引き戻す為に何か欲しい所ッスけど…」

 

観客席の黄瀬が視線を竜崎に向けた。

 

「彼(竜崎)では無理そうッスね。昨日の試合を見た限り、器用で卒なく幅広く対応出来る選手。状況を維持したり繋いだりするには適役ッスけど、流れを変えられる選手ではない」

 

黄瀬が竜崎を評する。

 

「あの12番(室井)も、インサイドのディフェンスが出来るだけでそれ以外は大してやれる事がない。この悪い流れを変えられる選手が花月にいたら良かったんスけど…」

 

「テツ君、みたいな?」

 

流れを変えられる選手と聞いて桃井が黒子の名前を出した。

 

「だが、花月にはテツはいねえ。今ある戦力で切り抜けなくちゃならねえんだよ」

 

眉を顰めながら青峰が言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

『…』

 

ベンチに戻ってきた選手達。しかし、その表情は暗いものであった。

 

「…監督、俺をコートに戻して下さい!」

 

立ち上がった天野が上杉に懇願する。

 

「俺がインサイドもリバウンドも抑えたります。頼んます!」

 

「…ダメだ」

 

少し考えてから上杉が却下した。

 

「このままやったらジリ貧ですやん! リスク覚悟で押し通さんと負けまっせ!?」

 

普段なら上杉の指示を聞き分ける天野が今は食い下がる。

 

「まだお前を投入するには早い」

 

「やけど!」

 

「天野、今は耐えてくれ。流れはもう1度必ずうちに来る。その時にお前がコートにいなければ意味がない。…だから我慢だ」

 

食い下がる天野を強い口調で上杉は告げた。

 

「~~っ!」

 

納得が行かない天野は歯を食い縛りながら渋々聞き分け、ベンチに座った。

 

「ここからどうしよう…」

 

生嶋がポツリと囁くように呟いた。

 

第4Qに入って未だ花月は得点は0。あっという間に逆転され、今は6点のビハインドを背負っている。

 

「止められないのなら点を取るしかあるまい」

 

対抗策を考える選手達に上杉がそう指示を出した。

 

「ディフェンスはスリーを要警戒で中からのある程度の失点は覚悟する。松永はノーファールでディフェンスに努めろ。竜崎は先程同様、止める事が困難ならファールでも構わん。恐れずに行け」

 

「分かりました」

 

「はい!」

 

ノーファールの指示を受けた松永、対してファールで止める事を指示出された竜崎が返事をした。

 

「オフェンスは速い展開に持ち込む。向こうのディフェンスが整う前に決める」

 

「ラン&ガンですね」

 

大地が上杉の指示に頷く。花月本来のスタイルである。

 

「そうだ。相手がそれを嫌ってディレイドオフェンスを仕掛けてきたら即座にオールコートを仕掛けろ」

 

『はい!』

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでタイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「行って来い!」

 

上杉の檄と同時に選手達が立ち上がった。

 

「行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空が声を声を出し、選手達がこれに応えた。

 

「頼む。俺が戻るまで粘ってくれ!」

 

ベンチから天野が願うように言った。

 

「(俺が赤司を抑えられれば勝てるんだ。絶対に俺が赤司を倒す!)」

 

胸の内側で闘争心を燃やす空。

 

「…」

 

そんな空を大地が心配そうな表情で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コートへと戻って来る両校の選手達。両校共に交代はなし。

 

スローワーとなった生嶋から空にボールが渡り、試合は再開された。

 

「…」

 

空の前に立ち塞がり、無言でプレッシャーをかける赤司。

 

「…っ」

 

対して空は僅かに怯んだ表情を見せる。

 

 

「…あのバカ、完全に雑念だらけになっちまってるな」

 

空の様子を見て何かを悟る青峰。

 

「大方、終盤でミスが出来ねえとか考えちまっていつもの思い切りの良さがなくなっちまってやがる」

 

呆れた表情でコート上の空を見つめる青峰。

 

「(バカが。未だに赤司に勝とうとか考えてやがるのか? 身の程を知れってんだよ…)」

 

内心で怒りを覚えた青峰だった。

 

 

「…ちっ」

 

意を決して仕掛けようとする空。

 

「(…ピクッ)」

 

「っ!?」

 

赤司が空が動くのと同時に反応を示した。これを見て空はギリギリの所で動作を止めた。

 

「(ほう。並の者ならあそこまで動いていては止められなかった。さすがだな。だが…)」

 

言葉には出さないが空に称賛の言葉を贈る赤司。

 

「…くそっ!」

 

仕掛ける事を諦めた空はその場で飛んで頭上からハイポストに立つ竜崎にパスを出した。

 

「この距離なら!」

 

フリーでボールが渡る竜崎。即座にシュート態勢に入る。

 

「…ちっ」

 

これを見て五河がヘルプに飛び出した。

 

 

――スッ…。

 

 

五河が現れると、竜崎はシュートを中断。飛び出した事でローポストでフリーになった松永にパスを出した。

 

 

――バス!!!

 

 

松永は落ち着いてそこからジャンプショットを決めた。

 

 

花月 67

洛山 71

 

 

『よーし!』

 

第4Qが始まってようやく花月のスコアが動いた事に花月ベンチの選手達が喜びの声を上げた。

 

「スマン」

 

「今のは仕方ない。次だ、行くぞ」

 

謝罪をする五河に対し、赤司は次を促し、ボールを受け取った。

 

「44だ」

 

フロントコートに赤司及び洛山の選手達が進んだのと同時に今年の洛山のお家芸である高速のパスワークが始まった。

 

『…っ』

 

どうにかパスカットを狙う花月の選手達だったが、洛山のパスワークはパススピードが速く、しかもパスコースも巧み考えられており、その隙を与えてくれない。

 

「来い!」

 

突如、左隅のアウトサイドへと走り出した四条がボールを要求した。

 

「…っ、させるかよ!」

 

その四条に対して空が猛スピードで走って距離を詰めていく。

 

「キャプテン!」

 

同時に竜崎が慌てた声を上げる。

 

「っ!?」

 

その声の意図に気付いた空だったが、もう遅かった。

 

「っしゃ!」

 

ボールは四条にではなく、左45度付近のスリーポイントライン手前に移動した二宮にボールが渡ったのだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーでボールを受け取った二宮はすかさずスリーの体勢に入り、決めた。

 

 

花月 67

洛山 74

 

 

「くそっ!」

 

スリーを要警戒と言われていたのにも関わらず、決められてしまい、悔しがる空。

 

「(どうしたんだ? いつものキャプテンなら簡単に気付きそうなものなのに…)」

 

何処か様子がおかしい空に竜崎が違和感を覚えた。

 

「神城!」

 

ボールを拾った松永がスローワーとなって空にボールを渡す。

 

「よし、決め返すぞ。全員走れ!」

 

号令と同時に花月の選手達がフロントコートへと雪崩れ込んだ。

 

『ここに来て花月はラン&ガン!?』

 

『洛山と点の取り合いをするつもりか!?』

 

花月の行動に驚愕の声を上げる観客達。

 

ボールを回し、足を絶えず動かしながら速い展開に持ち込もうとする花月。

 

「空!」

 

大地がボールを要求する。

 

「頼む!」

 

その声を聞いて空は大地にパスを出した。

 

「止める!」

 

「お前には何もさせないぜ!」

 

ボールが大地に渡ると、利き手である右手でのプレーに制限をかける為に大地の右側に立つ三村と正面に四条の変則のダブルチームでディフェンスに付いた。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

大地はバックステップで後ろに下がり、自分をマークする2人を正面に見据えれるポジションに移動した。

 

「(今だ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

三村を右側から正面にかわした事で右手の制限がなくなったタイミングで大地は仕掛ける。一気の加速して三村を抜きさり、次の四条をクロスオーバーで抜きさった。

 

「「っ!?」」

 

一瞬で抜きさられた2人は目を見開きながら後ろを振り返った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

その時にはもう大地はシュート態勢に入っており、大地はきっちりとジャンプショットを決めた。

 

 

花月 69

洛山 74

 

 

『スゲー! 一瞬であの2人を抜いちまった!』

 

これには観客も驚きの声を上げていた。

 

「さすが大地だぜ!」

 

ディフェンスに戻る大地に駆け寄った空が称賛の言葉を贈った。

 

「ありがとうございます。それより空…」

 

「任せろ。俺の方も何とかする。絶対に赤司を倒してやるからよ」

 

大地が言い終える前に空は大地にそう告げ、前を走っていった。

 

「空…」

 

意気込む空を見て大地はただ名前を呼ぶ事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今度こそ止める!」

 

赤司がボールを運ぶと、空は意気込みを露にしながらディフェンスに付いた。

 

「無駄だ。お前では僕を止める事は出来ない」

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりと空の目の前で左右に切り返しながら揺さぶりをかける赤司。

 

「…っ」

 

切り返しに合わせて空は左右へと足を踏み込みながら赤司の仕掛けに備える。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

数度切り返すと、赤司がテンポアップして一気に切り込んだ。

 

「っ!?」

 

テンポアップした最初の右から左への切り返しに身体が反応してしまい、右足に体重をかけてしまい、直後のクロスオーバーに為すが儘で対応出来ず、横を抜けられてしまう。

 

「くっそっ…!」

 

それでも空は動かない身体を強引に後方に倒し、倒れ込みながらボールに手を伸ばす。

 

「さっきは不覚を取ったが、所詮は足掻きだ」

 

空の伸ばした手がボールに届く直前、赤司はパスを出した。

 

「ナイスパス赤司!」

 

パスを出した先に三村が走り込み、ボールを掴んだ。三村はそのままドリブルで進み、リングに向かって飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

そこへ、松永がブロックに現れ、三村とリングの間へと割り込む。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

松永がブロックに現れると、三村は上げたボールを下げ、ブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックをかわした後にボールを放り、バックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「よっしゃ!」

 

ダブルクラッチで得点を決めた三村は四条とハイタッチを交わす。

 

「…くっ!」

 

「…っ」

 

みすみす抜きさられた空は悔しさから拳を握りしめ、ブロック出来なかった松永は歯をきつく食い縛った。

 

「ドンマイ! それよりオフェンスだ! 切り替えろ!」

 

そんな2人の様子を見た菅野が立ち上がりながら声を出した。

 

「…そうだ、取られたなら取り返せばいいだけだ。ボールをくれ。行くぞ!」

 

松永からボールを受け取った空は勢いのままフロントコートへと突き進んでいった。

 

「…ちっ」

 

洛山のディフェンスが整う前に仕掛けたかったが、既にディフェンスへと戻っており、舌打ちをする空。仕方なくボールを回す。

 

ボールを回してチャンスを窺う花月だったが、洛山のディフェンスがそれを許さず、ボールを回し続ける。

 

「…っ」

 

大地はダブルチームで徹底マークをされており、ボールを掴めない。

 

「…くっ!」

 

フリーの竜崎も、ヘルプが速く、ツーポイントエリア内ではシュートへと持ち込めない。結局シュートチャンスを作る事が出来ず、空の下へボールが戻って来る。

 

『スゲー、終盤になっても洛山の足が全く止まらねえよ…』

 

疲労もピークとなる第4Q。洛山はピタリと花月の選手をマークし続けている。

 

「どうした、仕掛けて来ないのか?」

 

煽るように赤司が空に問い掛ける。

 

「…うるせえ」

 

苛立ちを抑えながら空はそう返した。

 

「(大地にはボールが通らねえ。他の奴でも得点チャンスが作れねえ。だったら、俺がやるしかねえだろ!)」

 

自らの手で活路を見出す覚悟をした空。

 

「(…来るか。若いな)」

 

その覚悟は赤司にまで伝わり、その分かりやすさに内心で皮肉った。

 

「(どうせ俺の動きはエンペラーアイで見抜かれるんだ。フェイクや揺さぶりは無意味。だったら、俺の最速でぶち抜く!)」

 

空は力を込めて一気に加速。仕掛ける。

 

「無駄だ」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

動き出そうとした瞬間、赤司の伸ばした手が空の持つボールを捉えた。

 

「何度も同じ事を言わせるな。お前が何をしようと、僕のこの眼の前で無力だ」

 

そう見下すように赤司が空に告げると、零れたボールをすぐさま拾い、そのまま速攻に走った。

 

「くそっ!」

 

空はすぐさま反転し、赤司を全速力で追いかけた。

 

「これ以上はやらせねえ! 絶対止めてやる!」

 

ツーポイントエリアに赤司が侵入した所で空が赤司を捉え、横に並んだ。

 

『あの体勢から追いつくのかよ!? やっぱりスピードだけはスゲー!』

 

決して遅くはない赤司をシュートを打つ前に追い付いた空のスピードに観客が驚嘆した。

 

「それがどうした?」

 

だが、そんな事に赤司を意にも介さず、ボールを斜め後ろへと放った。

 

「…っ!」

 

空が振り返ると、そこには二宮が走り込んでおり、スリーポイントライン手前でボールを受け取った。そしてすぐさまスリーの体勢に入った。

 

「させません!」

 

次の瞬間、大地が後ろからブロックに現れた。しかし、二宮はそれよりも早くボールをリリースした。

 

「(外れ――違う、これは!?)」

 

ボールの軌道を見て外れると予想した大地だったが、すぐさま気付いた。リングに向かって走っている三村の姿を見て…。

 

「おっしゃ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

走り込んだ三村が空中でボールを掴み、そのままリングに叩きこんだ。

 

 

花月 69

洛山 76

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

二宮のリリースしたボールはスリーではなく、三村へのパスだったのだ。

 

『…っ』

 

ターンオーバーからの失点。それも大技を決められ、悔しさを露にする花月の選手達。

 

「これが現実だ。お前も花月も、僕達には勝てない」

 

ディフェンスに戻る赤司。空とすれ違い様に立ち止まる。

 

「ナンバーワンポイントガードか。なるがいいさ。僕のいない来年にでもな」

 

そう言い、赤司はディフェンスに戻っていった。

 

「…ちくしょう」

 

その赤司の言葉に、空は何も言い返す事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あの神城君でも、赤司君のエンペラーアイからは逃れられなかった」

 

絶対的にスピードに定評がある空。その空ならばもしやと期待をしていた桃井だったが、結果を見て残念がる。

 

「おかしいッスね。俺とやった時はもっと速かった。あれが神城っちの全速ではないはず」

 

首を傾げ、眉を顰めながら黄瀬が言う。

 

「…あのバカ。完全に飲まれてやがる」

 

溜息を吐きながら青峰が呟いた。

 

「速く動く事を意識し過ぎるあまり身体に余計な力が入りまくってる。あれじゃ、動き出しが遅くなる上にスピードも乗り切らねえ」

 

空の動きの問題点を指摘する青峰。

 

「挙句、雑念だらけで集中出来てねえ。あんな様じゃ、ゾーンどころか、赤司相手にまともな相手も出来やしねえだろうよ」

 

「同感ッスね。もう時間もない。このままだと…」

 

黄瀬はこれ以上言葉を続ける事が出来なかった。

 

「(あの赤司がここまでお前(空)を潰しに来てる。つまり、赤司にも余裕がない。それだけ必死だって事だ。その事にいい加減気付けバカが…)」

 

口には出さないが、青峰は苛立ちながら空を睨み付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「っしゃぁっ! 行くぞお前ら!」

 

もう1組の準決勝に勝ち残った1校である誠凛の選手達が次の試合の為にコートへとやってきた。

 

『…』

 

相手はキセキの世代緑間擁する秀徳高校。激闘は避けられない。自ずと選手達の中にも緊張感が漂っていた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

コートのあるフロアへやってくると、会場は歓声に包まれていた。

 

「なっ!?」

 

「これは!?」

 

点数が表示されている電光掲示板に視線を移すと、誠凛の選手達の表情が驚愕に染まった。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

絶えず、両校の選手達が足を動かしている。試合は完全に洛山のペースとなっていた。タイムアウトを取っても流れを変える事は出来なかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の横を赤司が駆け抜ける。

 

赤司が完全に試合を支配し、自在に味方を操り、花月を翻弄していく。

 

「…っ」

 

空も、エンペラーアイを再び使い始めた赤司に抑えられ、精彩を欠いていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

時折大地がダブルチームをかわして得点を決めるも単発。流れを変える事は出来なかった。

 

 

第4Q、残り4分18秒。

 

 

花月 73

洛山 86

 

 

試合時間残り5分を切った所で、点差は13点にまで開いていた。

 

『…っ』

 

じわじわと開いていく点差を見て花月の選手達の表情が曇っていく。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

現在、洛山のオフェンス。ボールは赤司がキープしている。

 

 

「ここが正念場だ」

 

コートに視線を向けながら青峰が喋り出す。

 

「ここを決められれば点差は15点。残り時間と戦力、今の現状を考えて、洛山に逃げ切られる」

 

「何か…、何かこの状況を変える何かがあれば花月にも勝機があるんスけど…」

 

苦い表情しながら考える黄瀬。

 

 

「止める…!」

 

真剣な表情で赤司に対峙する空。ここが正念場だと言う事は空自身も理解しており、気合いが入る。

 

『…っ』

 

他の花月の選手達も理解しており、ディフェンスに全神経を注いでいる。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをする赤司。

 

「(パスか…、それとも仕掛けてくるか…、どっちが来ても止めてやる!)」

 

赤司の次のプレーに備える空。

 

「……フッ」

 

「?」

 

ふと、空を見て赤司が含みのある笑みを浮かべる。次の瞬間…。

 

『っ!?』

 

赤司がシュート体勢に入った。赤司がいた場所はスリーポイントラインから2メートル近く離れている。そこからのまさかのスリーに花月のみならず、洛山の選手達も意表を突かれていた。

 

「…っ」

 

まさかの行動に空は反応出来ず、その姿を目を見開いたまま見送ってしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは、リングの中心の吸い込まれるように向かって行き、潜り抜けた。

 

 

花月 73

洛山 89

 

 

『うおー!? あんな離れた所から決めやがった!!!』

 

まさかの赤司のスリーに観客は大歓声を上げた。

 

『…っ』

 

ここ1番の状況で最悪の1発を決められ、言葉を失う花月の選手達。

 

「…」

 

それは空も同様であった。

 

「…」

 

値千金のスリーを決めた赤司は、空には一瞥もくれず、踵を返してディフェンスに戻っていった。

 

 

「決まったな」

 

この1本を見て青峰が断言をした。

 

 

「スゲーな赤司。よく決めたな」

 

「自信があったのか?」

 

驚いたのは洛山の選手達も同様であった為、四条と五河が声をかけた。

 

「まさか。真太郎じゃあるまいし、自信があった訳ではない。奴(空)が無警戒だったから打っただけだ」

 

聞かれた赤司は淡々と返事を返した。

 

「驚いたな。絶対が口癖の赤司が入るか分からないシュートを打つとはな」

 

皮肉交じりに四条が言うと…。

 

「例え外れても、お前達が『絶対』取ってくれたのだろう?」

 

フッと笑みを浮かべながら赤司はそう返した。

 

「赤司…」

 

赤司からの信頼が感じられる言葉を聞いた四条は、思わず込み上げるものを抑えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

茫然と立ち尽くす空。

 

「…空」

 

そんな空に大地が歩み寄り、話しかけた。

 

「空。もう認めましょう。今のあなたでは赤司さんには敵いません」

 

「…なに?」

 

自身の信頼する相棒である大地にそう告げられ、思わず苛立つ空。

 

「そんなつまらない事にこだわってる場合ではないでしょう。そんな事より――」

 

「そんな事だと?」

 

その言葉に空が怒りを覚え、掴みかかった。

 

「お前こそ分かってんだろ!? 俺が赤司に勝てなきゃ――」

 

「勝てなければ何ですか?」

 

掴んだ空の手をバッと手で払いのけた大地は逆に空のユニフォームを掴んだ。

 

「あなたが勝てなければ花月が負けるとでも言うつもりですか?」

 

「…っ」

 

「あなたがそんなつまらない事にこだわっていたら、私達は負けるんですよ。あなたは赤司さんだけではない、試合にすら負けるつもりですか!?」

 

普段感情を露にする事がない大地が語気を荒げて言い放つのを見て軽く怯む空。

 

「あなたは花月の司令塔で、キャプテンなんですよ。天野さんもいない今、この状況を覆せるのはあなただけなんですよ! 大事な事を見失わないで下さい!」

 

突き飛ばすようにしながら大地はユニフォームを掴んでいた手を放し、その場を離れていった。

 

「(そうだよ。俺は何を勘違いしていた? 俺は、俺が赤司に勝てなきゃ洛山には勝てないって思っていた…)」

 

大地の言葉が胸に突き刺さり、ここである事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『お前が海兄に勝てなければ花月は負けちまうのか?』

 

『俺も同じ事を思ってたよ。俺がキセキの世代に勝てなければ花月は勝てないって。主将になってからもそれは同じだった』

 

『けどな、陽泉の試合、途中で俺が抜けて、それでも花月は勝った。昨日の試合も俺がいなくとも勝った』

 

『それで分かった。俺が花月の全てを背負い込む必要なんてないんだって事を。俺は試合に勝つ為にはどうすればいいか。今はそれしか考えてない』

 

『例えお前が海兄に勝てなくとも、花月は負けたりはしない。バスケは力を合わせればミスを帳消しに出来るしチャンスも作り出せる。誰かが勝てなくても試合には勝てるんだよ。だからよ、1人で戦うな。一緒に勝とうぜ。もちろん、俺もどうにもならなくなったらお前を頼らせてもらうからよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それは昨日の海常との試合の折に三枝とのマッチアップで苦しんでいた松永に空がかけた言葉だった。

 

「(…ハハッ! 偉そうな事人に言っておいて、俺が1番分かってなかったじゃねえかよ)」

 

かつて松永にかけた言葉が自分に返ってきて、思わず自嘲気味に笑ってしまった空。

 

「スー…フー…」

 

空は目を瞑り、大きく深呼吸をした。

 

「神城…」

 

ボールを拾い、スローワーとなった松永が歩み寄ってきた空に心配そうに声をかけた。

 

「いろいろ情けない姿を見せちまったな。わりぃ。けどもう大丈夫だ。吹っ切れた」

 

ニコッと笑顔を浮かべながら返事をする空。ボールを受け取ると、ゆっくりボールを運び始めた。

 

「…」

 

フロントコートへと進むと、空の前にやってきたのは当然赤司。

 

「認めるぜ」

 

「?」

 

突然空に話しかけられる赤司。

 

「俺はあんたには勝てねえ」

 

「…」

 

「大事な事を見失う所だった。ナンバーワンポイントガードの称号はあんたものでいい。…今は」

 

ここで空が動き始める。

 

「(来るか。…右から左へのクロスオーバー!)」

 

エンペラーアイを発動させた赤司は空がボールを左手に切り返したのと同時にボールに手を伸ばした。

 

「(取れる、貰った!)」

 

スティールを確信する赤司。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

次の瞬間、赤司の伸ばした手が空を切り、目の前にいた空が姿を消した。

 

「っ!?」

 

振り返ると空は赤司の後ろを抜けていた。

 

「…ちっ」

 

すかさず三村がヘルプに飛び出し、チェックに入った。

 

 

――スッ…。

 

 

目の前に三村が現れると、空はバックロールターンであっさりと抜きさった。

 

「打たせん!」

 

「おぉっ!」

 

フリースローラインを越えた所で空が視線をリングに向け、ボールを掴んで頭上に掲げると、四条と五河が目の前で空の視界を塞ぐようにブロックに現れた。

 

 

――スッ…。

 

 

「「っ!?」」

 

しかし、空は飛ばず、掲げたボールを下げ、ブロックに飛んだ2人の間を抜け、そこから改めてボールを掲げ、右手でリングに放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 75

洛山 89

 

 

『…』

 

静まり返る会場内。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

直後に大歓声が響き渡った。

 

赤司、三村、四条、五河の4人を抜きさって得点にこの日1番の歓声が空に贈られた。

 

『っ!?』

 

この空のプレーを見て洛山の選手達が驚愕の表情で空を見つめた。

 

「ナンバーワンポイントガードの座は今日の所は諦める。…だがな、この試合の勝利と優勝だけは譲らねえ」

 

赤司の下まで歩み寄った空が目の前でそう告げた。

 

「そうです。それでこそ空ですよ」

 

その空の姿を見て大地が微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――空が、ゾーンの扉を開いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「前言撤回だ。試合は分からなくなった」

 

空の変化に気付いた青峰がそう言い放つ。

 

「みたいッスね。ここからまだドラマが起きるかもしれないッス」

 

同じく気付いた黄瀬が続いて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…真ちゃん」

 

誠凛と同じく迫る準決勝の為にコートのあるフロアに来ていた秀徳の選手達。高尾が緑間に話しかける。

 

「あぁ。花月の目はまだ死んでいない。そして、花月はここからが手強いのだよ」

 

かつて戦い、敗北を味わった緑間がそう断言する。

 

試合は、クライマックスへと突入しようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー、年末は忙しい…(>_<)

仕事は年末の最後の追い込みが来て、家に帰ってもやる事があったり、年末特番でみたいものがあったりで執筆時間が取れなくて困ります…(;^ω^)

ここ最近反響がなくて悲しいな…なんて…(ノД`)・゜・。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第143Q~未来を越える~


投稿します!

迫る年越しに向けて、今からスパート!!!

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、4分3秒。

 

 

花月 75

洛山 89

 

 

最悪の1本を赤司に決められ、花月が絶体絶命に陥った直後、空が4人を抜きさり、得点を奪った。

 

「ゾーンか…」

 

空の身に纏う空気が変わった事に気付いた赤司が呟く。

 

「(だがそれは驚く所ではない。奴がゾーンに入ったのは数度見ているからな…)」

 

脅威ではあるがそこに特別驚きはなかった。

 

「(今奴は何をした? 僕のこの眼は確かに奴の未来が見えていた。だが…)」

 

エンペラーアイを発動させ、空の動く未来を捉えていた。空がキープするボールに手を伸ばした次の瞬間、空の姿が視界から消え、気が付いたら空は後ろにいた。

 

「(確かめる必要があるな。奴が今何をしたのかを…)」

 

赤司は空を睨み付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「天野、行くぞ」

 

ベンチで沈黙を保っていた上杉が口を開いた。

 

「遅すぎですって、何でもっとはよう出してくれへんかったんですか!?」

 

ようやく出た上杉からのGOサインに天野が不満気に尋ねた。

 

「状況が変わったからですよ」

 

上杉の言葉を代弁するかのように姫川が説明を始めた。

 

「これまでは見ての通り、私達が劣勢を強いられ、ただ押されていました。ここで天野先輩を出してもただ引きずり出されただけ、例え退場とならなくても劇的な変化は起こらず、何も変わらなかったと思います」

 

「…」

 

「監督は天野先輩を最高のタイミングで送り出せるきっかけを探していました。試合の流れを一変させるきっかけを…」

 

「それが今の空坊の1発かいな」

 

「そのとおりです」

 

答えを言った天野に回答を示した姫川。

 

「これでお膳立ては整いました。後は天野先輩。お願いします」

 

「おう! 任せとき!」

 

期待をかけられた天野は親指を立てながら応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ赤司。

 

「…」

 

フロントコートまでボールを運ぶと、空は付かず離れずの距離でディフェンスを始めた。

 

「(今更ゾーンに入っても遅いぜ。この残り時間とこの点差、もうひっくり返せる訳がねえ!)」

 

勝利を確信する四条。

 

「…」

 

赤司がゆっくりドリブルをしながら攻め手を定めている。

 

「(ここで勢いに乗られると厄介だ。乗せる前に叩く!)」

 

エンペラーアイを駆使して空を抜きさろうと1歩踏み込んだ。

 

「っ!?」

 

その時、赤司の身体を言い知れぬ悪寒が襲った。

 

「(何だ、今のは…!?)」

 

エンペラーアイで何かを見た訳でもない。何かを予見した訳でもない。今、赤司に漠然とただ、仕掛けたら取られるような予感がした。

 

「…っ、45番だ」

 

踏み込んだ足を戻した赤司はナンバーコールをしながら二宮にパスを出した。

 

「(気のせいか、今、赤司が仕掛けようとして退いた?)」

 

二宮の目にはそう見えた為、疑問に思いながらパスを受けた後にすぐにハイポストの四条にパスを出した。

 

そこから目まぐるしくボールは動き回り…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

四条がミスマッチを突いてジャンプショットを決めた。

 

 

花月 75

洛山 91

 

 

『うおっ!? 手堅く決めて来た!』

 

空がゾーンに入った影響を微塵も感じさせず、淡々と洛山はボールを回し、確実にチャンスを作って得点を決めた。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 赤(花月)!!!」

 

ここで花月のメンバーチェンジがコールされた。交代を告げられたのは10番の竜崎。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『待ってたぞ!』

 

やってきたのは7番、天野。

 

「ええやんけ。まるで遅れて来たヒーローやんけ」

 

歓声で迎えられ、ご満悦の天野。

 

「ファイト―! 天野先輩ー!」

 

ベンチから相川がエールを贈った。

 

「任せてーや茜ちゃん!」

 

エールをくれた相川に笑顔で手を振った天野。

 

「すいません、代わり、務められませんでした。後は頼みます!」

 

集中的に狙われ、リードを広げてしまった責任から悔しさを噛みしめながら後を託す竜崎。

 

「よーやったで大成。後は俺に任しとき」

 

そんな竜崎に労いの言葉をかけながら肩を叩き、コートへと足を踏み入れた。

 

「待ってましたよ天さん」

 

コートに入ると、空がニヤリとしながら天野に声を掛けた。

 

「待たせてすまんのう。遅らせばながら主役の登場や」

 

親指を立てる天野。

 

「これで役者は揃った。後は点差をひっくり返すだけだ」

 

不敵に笑いながら空が言う。

 

「手はあるんか?」

 

「ある。天さんはリバウンド、頼みます」

 

「任せとき、ここから全部取ったるわ!」

 

拳を握りながら天野が応えた。

 

「大地、耳貸せ」

 

「?」

 

大地を呼んで何やら耳打ちをする空。

 

「……っ!? そんな事が可能なんですか?」

 

「心配すんな。俺とお前なら出来る」

 

一瞬目を大きく見開いて聞き返す大地に、空はニヤリとしながら返事をした。

 

「今のあなたがそう言うならそうなんでしょう。分かりました。やりましょう」

 

その空の笑顔を見た大地は僅かに生まれた迷いがなくなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。空がボールを運ぶ。

 

「そんじゃ、いっちょ景気よく、スー…」

 

大きく息を吸い込み…。

 

「行くぞ!!! ひっくり返すぞ!!!」

 

声を張り上げながら空が檄を飛ばした。

 

『おう!!!』

 

その声に応えるように花月の選手達も大声で応えた。

 

『スゲー気合いだ!』

 

『まだ花月は諦めてないぞ!』

 

その気合いを見て観客達も圧倒された。

 

「威勢のいい事だ。だがそれだけ逆転出来る程、僕達は甘くない」

 

そんな花月を見て嘲笑うように赤司が空に告げる。

 

「出来るさ。今からそれを見せてやる」

 

ゆっくりとボールを突きながら空は赤司に近付いていく。

 

 

「うそ! 赤司君の間合いに入っちゃった!?」

 

「うはー、何考えてんスかね…」

 

エンペラーアイを持つ赤司の間合いに簡単に足を踏み入れた空を見て桃井は驚き、黄瀬は苦笑した。

 

これまで空は何とかエンペラーアイの射程から逃れながらパスを捌いていた。だが、今は無造作に踏み込んでいったのだ。

 

「…」

 

青峰はこの空の行動を無言で見守っていた。

 

 

「(ゾーンに入った程度でこの僕に対等に渡り合えるとでも思っているのか? …舐めるな!)」

 

この空の行動に軽く憤りを覚えた赤司はエンペラーアイを発動させた。

 

「(…右から左へのクロスオーバー。さっきと同じだ。今度こそ、殺(と)る!)」

 

空が動き出したのと同時に赤司が動く。空がボールを右手から左手に切り返し所に手を伸ばした。

 

「(やはり僕のこの眼に狂いはない。今度こそ間違いなく、取れ――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールをカット出来ると確信した赤司だったが、次の瞬間、空の姿が赤司の視界から消え失せた。

 

「っ!?」

 

振り返ると、空は既に赤司の後ろに抜けていて、ボールを右手で掴んで飛んでいた。

 

「うおぉぉぉっ!!!」

 

ローポストに立っていた五河がすかさずヘルプに飛び出し、空のシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、空は右手の手首のスナップを利かせ、指でボールを転がすように放った。

 

「なっ!?」

 

空の得意のフィンガーロール。ボールは放物線を描きながら驚愕する五河のブロックを越えていき…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 77

洛山 91

 

 

『すげー! またあの赤司をぶち抜いた!』

 

続けて赤司を抜きさって得点を決め、観客が再び沸き上がった。

 

「(…バカな、こんな事が!?)」

 

赤司は目を見開きながら空に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あの赤司っちが動きを読み違えた!?」

 

今のプレーを見た黄瀬が立ち上がりながら声を上げた。

 

「大ちゃん、神城君は何をしたの?」

 

思わず桃井が青峰に尋ねた。

 

「別に何もしてねえよ」

 

青峰はただそう回答した。

 

「なら、赤司っちが読み違えたって事スか?」

 

「それも違う」

 

黄瀬の言葉を青峰は否定した。

 

「あいつはただ持ち前のスピードで赤司を抜きさった。それだけだ」

 

続けて青峰が言った回答は、シンプルなものであった。

 

「さっきまでのあいつは雑念だらけで無駄な力があったせいで本来のスピードを発揮出来てなかった。だが、ゾーンに入った事で無駄な力がなくなり、さらにあいつの持つ最大のスピードが出せるようになった」

 

「「…」」

 

「最小の動きで最速の動きをした事で、あいつはエンペラーアイを使った赤司ですら追い付けない速さを披露した」

 

「うそ…」

 

この青峰の説明を聞いて桃井は言葉を失った。

 

「それが本当なら、今の神城っちは…」

 

「…あぁ。純粋なスピードだけなら、あいつの右に出る奴はいねえ」

 

黄瀬の言葉を遮るように青峰は言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山のオフェンス…。

 

「…」

 

赤司がボールを運ぶと、空が待ち受ける。

 

「…」

 

目の前に赤司が近付いてくると…。

 

 

――スッ…。

 

 

空は後ろへと下がり、距離を取った。

 

 

「あっ? あいつ、何考えてんだ?」

 

この行動に池永が疑問を覚えた。

 

「一昨年に火神君が赤司君をマークした時と同じですね」

 

「あぁ。俺ほど距離を取っちゃいねえけどな。だがあれは、赤司のエンペラーアイに対応する為のものだ」

 

2年前のウィンターカップ決勝の折、火神は赤司のエンペラーアイでアンクルブレイクを起こされるのを防ぐ為、敢えて距離を空けてディフェンスに臨むという方法を取った。だがこれは当時の火神にアンクルブレイクを防ぐ事が出来なかったからであり、持ち前のバランス感覚で立て直せる空がやる意味はない。

 

「となると、あれには別の意味があるって事だ。黒子、分かるか?」

 

「…分かりません。何の意味があるのか、見てみましょう」

 

少し考え、答えが分からなかった黒子はその答えを見守る事にした。

 

 

「…」

 

対峙する赤司も空の狙いを理解出来なかった。

 

この状況でドライブを仕掛けるのは下策。スリーを打つにしても空のスピード、瞬発力、反射神経が相手では打てない。

 

「…30」

 

ドリブルとシュートを諦めた赤司はナンバーコールをし、パスを出した。

 

「(来た!)」

 

洛山のパスワークが始まると、待ってましたと言わんばかりに空が動き出した。

 

ボールを止めず、絶えず動かし続ける洛山の選手達。

 

三村にボールが渡ると、左45度付近のスリーポイントラインの外側でフリーになっている二宮に視線を向けた。

 

「…っ」

 

それを見て大地がすぐさま距離を詰めに走った。

 

「(残念だが、本命はこっちだ!)」

 

三村は視線とは違う方向。ローポストに立つ五河にパスを出した。

 

「っ!?」

 

フィニッシャーを読み違えた大地は目を見開いた。五河もまた僅かにフリーになっており、松永のポジションも悪かったのだ。

 

「…っ」

 

これを見て松永が五河の下へ急ぐ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールが五河の手に収まる瞬間、横から伸びて来た1本の手にボールはスティールされた。

 

「ドンピシャだ」

 

スティールしたのは空。空はしてやったりの表情でボールを奪い去った。

 

「まさか、パスのパターンが読まれた!?」

 

空のしてやったりのスティールを見て思わず四条が声を出した。

 

「速攻!」

 

ボールを奪った空は指示を出し、そのまま速攻に走った。

 

『おう!!!』

 

その空の声に花月の選手達が応える同時に一斉にフロントコート目掛けて走り出した。

 

「戻れ! ディフェンスだ!」

 

慌てて洛山の選手達がディフェンスに戻る。幸い、赤司、二宮、三村がアウトサイド及びアウトサイド付近にいた為、アウトナンバーにならずに済んでいる。

 

「っと」

 

ドリブルで突き進む空の横を赤司が並走する。

 

「あっぶな」

 

赤司がボールを狙うと、空は立ち止まり、バックチェンジでかわした。

 

「ここは取らせん」

 

「いーや、取らせてもらう…ぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう言い返し、空が切り込んだ。赤司もピタリと空を追いかける。

 

「っ!?」

 

次の瞬間、空の手にボールがない事に気付き、目を見開く赤司。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは空の右方向に走り込んだ大地に渡った。スリーポイントラインの外側、1メートル程離れた所でボールを掴んだ大地はすぐさまスリーの体勢に入った。

 

「打たせるか!」

 

「させねえ!」

 

すぐさま大地の前後から三村と四条がブロックに飛んだ。大地はそれよりも速くボールをリリースした。

 

「(シュートセレクションは乱した。しかもこの距離、外れる!)…リバウンド!」

 

外れると確信した三村が声を上げる。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通り、大地の放ったスリーは外れた。

 

『あぁっ…!』

 

観客からは溜息に近い声が漏れる。

 

「外れたって構いません。何故なら今は…」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「天野先輩がいます」

 

ニコッと笑顔を浮かべる大地。

 

「ここ(リバウンド)は俺の土俵やぁっ!!!」

 

リバウンドボールを天野が抑えた。

 

「(ちぃっ! やはりこいつのリバウンド能力は…!)」

 

あっさりとポジションを奪われ、オフェンスリバウンドを取られた五河が苦悶の表情をした。

 

「もろた!!!」

 

着地後、すぐさまシュート態勢に入る天野。

 

「くそっ!」

 

決めさせまいと同じく着地した五河がすぐさまブロックに向かった。だが…。

 

「っ!?」

 

天野はボールを頭上に掲げただけで飛んではいなかった。

 

 

――ピッ!!!

 

 

そこからボールを左方向へとパスを出した。

 

「ナイス天さん!」

 

左のサイドラインとエンドラインが交わる左端で空がボールを受け取った。

 

「…ちっ」

 

スリーの体勢に入った空に対し、赤司が舌打ちをしながらチェックに向かうも空はそれよりも早くスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールは今度はリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 80

洛山 91

 

 

「決めたぁっ!!!」

 

「いいぞ神城ぉっ!!!」

 

ベンチの竜崎と菅野が立ち上がりながら声を張り上げた。

 

「戻れ、ディフェンスだ! 次も止めて一気に点差詰めんぞ!」

 

『おう!!!』

 

自陣に戻りながら空が声を出し、それに花月の選手達も呼応する。

 

「…」

 

ボールを受け取った赤司がボールを運んでいく。

 

「っしゃ来い!」

 

待ち受けているのは当然空。先程同様、距離を取ってディフェンスをしている。

 

「…」

 

赤司はどう攻めるか考える。距離を空けられているのでドライブは悪手。かと言って空が相手では距離を空けられていてもスリーも危険。となれば、後はボールを回すしかないのだが…。

 

『…』

 

先程、ナンバープレーによるボール回しは空に止められた。数十にもあるナンバープレーのパスワークを試合中に全て見抜く等まず考えられない。かと言って、今の空を前にまぐれや偶然で片付けてしまうのも危険。

 

「(ならば、もう1度確かめて見ればいい…)13番だ!」

 

ナンバーコールをした赤司はパスを出した。リスクを覚悟で赤司は本当に空にパスワークが通じないかどうか確かめに来たのだ。

 

「(俺達の50以上もあるセットプレーを見抜くなど不可能だ。さっきの偶然…)三村!」

 

ボールを受け取った四条がすぐさま三村にパスを出した。そこから絶えずボールを動かし続け、花月のディフェンスを切り崩しにかかる洛山。

 

「…」

 

パスが続く中、空がフリーになるべく動こうとしている三村に向かって走り出した。

 

「(バカめ、三村は囮、本命は五河なんだよ。やっぱりさっきのはたまたま、神城はパスコースを見抜いていない!)」

 

ボールを掴んだ二宮。今回の13番のフィニッシャーは五河。三村はディフェンスのスペースを広げさせ、五河へのパスコースを開けさせる為の囮だったのだ。

 

「よし、三村!」

 

敢えて本命だと思わせる為に三村の名前を呼び、ローポストの五河へとパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

ボールが五河の手に収まる直前、そのボールを1本の手がスティールした。

 

「もらいますよ」

 

『今度は綾瀬だぁっ!!!』

 

ボールをカットしたのは大地。1度は二宮と五河のパスコースを通り過ぎた大地だったが、二宮がパスを出す直前に急停止、そこから反転、バックステップをしてパスコースに手を伸ばし、ボールを奪ったのだ。

 

「なるほど、空の指示通りでしたね」

 

ニコリと笑みを浮かべる大地。

 

「っしゃ、さすが大地だぜ」

 

立てた親指を大地に向ける空。

 

「(まさか、今のは神城の指示!?)」

 

「(やっぱり俺達のパスコースが見抜かれているのか!?)」

 

ここで洛山の選手達の疑念が確信にまで高まった。

 

「空!」

 

ボールを奪った大地が速攻に走る空に縦パスを出した。

 

「っし、速攻!」

 

ボールを掴むとすぐさまドリブルで進み始めた。

 

「…っ! またあんたか!?」

 

ドリブルを始めた空を邪魔するように赤司が空の横に並んだ。

 

「よくあのパスを見抜いた。だが、これ以上点はやらない」

 

「…ちっ、しゃーねえな!」

 

ここで空は赤司のいない右側にボールを放った。

 

「次は外すなよ」

 

そう囁く空。そこには大地が走り込んでいた。

 

「2度も外しませんよ」

 

スリーポイントライン1メートル程手前。先程外した場所から大地がスリーを放った。

 

『っ!?』

 

放たれたスリーを茫然と見送る洛山の選手達。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を射抜いた。

 

 

花月 83

洛山 91

 

 

「よし!」

 

「頼りになるぜ相棒!」

 

笑顔で駆け寄った空が大地をハイタッチを交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「凄い…、あそこから決めちゃった」

 

距離のあるスリーを走り込んだ勢いを瞬時に殺して決めた大地に驚く桃井。

 

「そこも凄いッスけどそれよりもその前っスよ。またあのパスをカットした」

 

黄瀬が驚きながら声を出した。

 

「やっぱり神城君にはパスコースを見えているの?」

 

「…さすがにそれはねえだろ。さつきにも出来ねえ事をあのバカが出来る訳がねえ」

 

桃井の予想を青峰が否定した。

 

「ここから見てて、神城の動きが明らかにおかしかった。ただボールとマークマンを追ってる動きじゃなかった」

 

「と、言うと…?」

 

「これまであいつは、ナンバープレーの最後のフィニッシャーを嗅ぎ分ける事は出来ていた。恐らくあいつはフィニッシャーを特定した後、敢えてパスコースを開けさせる事でパスを誘導してそこをカットした」

 

黄瀬の疑問に、青峰が解説を始めた。

 

「…けど、それでもカット出来るものなの? 洛山は最後にパスする選手を変える事だって出来るんだし、いくらゾーンに入った神城君でもそれは難しいんじゃ…」

 

桃井が青峰の解説に引っ掛かりを覚え、尋ねた。

 

「神城1人なら無理だ。だが、もう1人いれば不可能じゃねえ」

 

「もう1人と言うと、綾瀬っちッスか?」

 

「神城がちょくちょく指示みたいなものを出しているのがここから見えた。その指示に従って綾瀬が動いて誘導を完全なものにしたんだろう。さっきは綾瀬が誘導役で神城がボールを奪う役。今はその逆だ」

 

「凄い、まるで霧崎第一の花宮さんの蜘蛛の巣みたい…」

 

ここで桃井がスティールの名手である無冠の五将の1人、花宮真の名前を出した。

 

「ま、似てはいるな。ただ、あのカス(花宮)とあの2人とじゃ身体能力が違い過ぎっから比較にもなんねえだろうがよ」

 

手酷く五将の花宮を下げる青峰。

 

青峰の解説は当たっていた。空が洛山のセットプレーによるパスをスティール出来たのは、最後のパスを誘導していたからだ。空が何度かのパス交換の際の敵と味方の動きの流れを見ながら直感でフィニッシャーを特定し、そこから大地に目線やハンドシグナルでサインを出し、誘導あるいはカット役の指示を出し、後はボールを奪う。これが洛山のパスワークからボールを奪った種である。

 

「そうなると、洛山は残りの時間、あのナンバープレーは使いづらくなるッスね」

 

「あぁ。通用するかもしれねえが、明らかにスティールされる確率の方がたけーからな。となると後は…」

 

「個人技で突破するしかないッスね」

 

「…っ」

 

3人の視線が赤司に向いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ赤司。

 

「次も止めるぜ」

 

当然、待ち受けるのは空。空が不敵な笑みを浮かべながら距離を取ってディフェンスをしている。

 

「…」

 

2度もパスカットされている今の現状、ここで再びナンバープレーで攻めるのは躊躇われる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ならばと赤司は仕掛け、空との距離を詰めた。

 

「例えゾーンに入っていようと、この眼を持つ僕を止める事は出来ない!」

 

エンペラーアイを発動し、空の僅かな動きを読み取ろうとする赤司。

 

「(っ!? 動かない? 何を考えている…)」

 

赤司がエンペラーアイで見た空は、微動だにしないものであった。エンペラーアイを前に動きを欺くのは不可能。

 

「(何を考えている知らないが、ならば遠慮なく通るだけだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

動かない空の横を赤司は抜けていった。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

「エンペラーアイを味わい続けて分かった事がある。あんたのエンペラーアイは目の前の1人の動きの未来しか視る事が出来ない」

 

「っ!?」

 

赤司の視界から空の姿が消えた瞬間、赤司の背後から空がボールに手を伸ばした。

 

「死角から仕掛けりゃ、あんたでもどうしようもねえだろ!」

 

グングンボールに空の伸ばした手が近付いていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の手がボールを捉えようとした瞬間、赤司は左手から右手へとボールを切り返し、その手をかわした。

 

「それがどうした? たとえ未来は見えずとも、お前の動きくらい容易に予測出来る」

 

そんな空を嘲笑うかのように告げる赤司。

 

「…ハッ! だろうな。この程度で俺も取れるなんざ思っちゃいねえよ。だが、死角からなら『予測』しか出来ない」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ここでボールを狙う為に伸ばした左手を止め身体を横に倒して右手に切り返したボールを狙い打った。

 

「俺があんたを素通りさせたのは何でだと思う? 下手に対応しようとしてエンペラーアイで重心が偏った所を狙われるとせいぜい倒れ込んでスティールを狙う事くらいしか出来ねえからさ」

 

重心が片方の足に乗ってしまえば空と言えどもすぐには後を追えず、せいぜい倒れ込んでのスティールが関の山。しかし、それさえなければゾーンに入った空のスピードと瞬発力、さらに、赤司がエンペラーアイの死角に入った瞬間に動ける反応速度を持つ空なら苦も無く追う事が出来、抜かれた後からでも追い付く事も可能。

 

「俺が後ろから狙えば当然ボールを切り返してかわしにかかる。俺でも分かる未来だ。体勢さえ万全ならさっきまではせいぜい次しか続かなかったものが次の次までいける。いくらあんたの予測でも、これはかわせねえだろ」

 

エンペラーアイの死角からのダブルアタック。しかも、咄嗟の行動をしてしまった状態では赤司でもかわす事は出来なかった。

 

「空坊!」

 

「もう走ってますよ!」

 

ルーズボールを拾った天野。空は既に速攻に走ってボールを要求していた。

 

「頼むで!」

 

前を走る空に天野が縦パスを出した。

 

「くそっ! 戻れ!」

 

懸命に声を出してディフェンスに戻る洛山の選手達だったが、先頭を走る空には追い付けない。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

ボールを掴んでドリブルを始めた空はスリーポイントライン目前で急停止し、スリーを放った。

 

 

――スッ…。

 

 

同時に空は踵を返し、自らが放ったスリーの行く末を見届ける事なくディフェンスに戻り始めた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 86

洛山 91

 

 

『来た!!! スリー3連発!!!』

 

『これで5点差! スリー2本で逆転だ!!!』

 

立て続けのターンオーバーからの3連続スリーを決めた事によって詰まった点差を見て観客は盛大に沸き上がった。

 

『…っ』

 

急速に詰まっていく点差を見て洛山の選手達の表情にも焦りが見えた。

 

「…っ」

 

赤司の表情にも僅かに変化が窺えた。それは焦りではなく、怒りにも似た表情…。

 

「あ、赤司…」

 

流れは完全に花月にあるこの状況。どうするべきかを聞く為に洛山の選手達が赤司の周囲に集まる。

 

「スー…フー…、充、ボールを寄越せ」

 

1度大きく深呼吸をした後、赤司が五河にボールを要求した。

 

「赤司?」

 

「早くしろ」

 

「…っ」

 

決して大きな声ではないが、赤司が発した声の迫力に五河が身体をビクつかせ、言う通り赤司にボールを渡した。

 

「…っ!」

 

突如カッと目を見開いた赤司は加速をし、1人フロントコートにドリブルで突き進み始めた。

 

『1人赤司が攻め込んだぞ!?』

 

『何をする気だ!?』

 

その突然の赤司の行動に観客も戸惑いの声を上げた。

 

「なんだか知らねえが、受けて立つ!」

 

フロントコートに侵入した赤司。花月のディフェンスの先頭に立つ空が赤司を待ち構える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の目の前で赤司がクロスオーバーを仕掛ける。先程同様、空は何もせず、赤司を素通りさせる。

 

「何度やっても同じ――っ!?」

 

赤司のエンペラーアイの死角に入ったギリギリで動き出して後ろからボールを狙おうとした空だったが、赤司は既に先程よりさらに前に進んでおり、ダブルアタックどころか、最初のカットすら手が届かなかった。

 

「…くっ!」

 

空が抜かれたのを見て大地がヘルプに向かい、赤司に立ちはだかった。

 

「どけ、邪魔だ」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

「…なっ!?」

 

高速で赤司が数度切り返すと、大地は崩れ落ちるように床に膝を付いてしまう。

 

「なんやそれは!?」

 

「止める!」

 

続いて天野と生嶋が同時に現れる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

一瞬視線をリングに向け、シュートを意識させた後、バックロールターンで反転しながら2人を抜きさった。直後、ボールを掴んで飛んだ。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

次の瞬間、松永が咆哮を上げながら赤司とリングの間にシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

松永が目の前に現れると、右手で持って掲げたボールを指でなぞるように動かし、フィンガーロールで松永のブロックを越えるように高くボールを放った。

 

「っ!?」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

目を見開いた松永が振り返ると、ボールはリングを潜り抜けた。

 

『…』

 

茫然とする花月の選手達。静まり返る会場。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

すぐに会場は歓声に包まれた。

 

「…5人抜き」

 

ベンチで茫然と呟く竜崎。

 

「何が…、起こったんだ…」

 

同じく茫然とする菅野。

 

「…っ!」

 

ゆっくりと自陣へと戻っていく赤司に身体を向ける空。

 

「ここまで僕達を追い詰めたお前達の健闘は認めよう。…だが、ここまでだ」

 

センターライン付近まで歩いた赤司が振り返った。

 

「ここから先は僕自らお前達を蹂躙する。2度と歯向かう気すら起きない程の力の差を見せてやる」

 

『っ!?』

 

赤司の発したプレッシャーを受けた花月の選手達は全てを理解したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「火神君!」

 

「あぁ、間違いねえ…!」

 

変化に気付いた黒子が火神に問い掛ける。

 

 

「青峰っち!」

 

「あぁ、赤司の奴、入りやがった」

 

同じく気付いた黄瀬が青峰に問い掛ける。

 

 

「赤司…!」

 

緑間が赤司の名を呼んだ。

 

 

「ゾーンか…!」

 

空が呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――赤司征十郎が、ゾーンの扉を開いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





まさか前話が日間ランキングに入っていて目玉飛び出た…(゚Д゚;)

しかも一時過去最高の17位にこの二次があった時は五度見しました。翌朝には幻だったかのようにランキングから消えてましたが…(;^ω^)

おかげでテンション爆上がりでただでさえクソ忙しい年末にも関わらず、睡眠時間削りまくって1話仕上げちゃいました…(^_^)v

今年最後にランキングに乗れて、感無量です…(ノД`)・゜・。

と言う訳で……寝ます…(=_=)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第144Q~信頼~


投稿します!

年末ラッシュがピークの中、舟をこぎながら投稿です…(-_-)zzz

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り2分14秒。

 

 

花月 86

洛山 93

 

 

花月の3連続ターンオーバーからの3連続でスリーで洛山の背中が見えて瞬間、赤司が花月の選手を5人抜きさり、得点を決めた。

 

「ここから先は僕自らお前達を蹂躙する。2度と歯向かう気すら起きない程の力の差を見せてやろう」

 

赤司が花月の選手達に振り返りながら言い放つ。

 

「ゾーンか…!」

 

様子が変わった赤司を見て空が苦々しい表情で呟いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「赤司…」

 

他の選手達同様、赤司の変化に気付いた洛山の選手達が赤司に駆け寄る。

 

「ここからは僕がやる。お前達はディフェンスに専念しろ。オフェンスでは僕がプレーしやすいようにスペースを作ってくれればいい」

 

駆け寄ってきた選手達に赤司がそう指示を出す。

 

「赤司!」

 

納得が行かなかった四条が赤司に詰め寄る。

 

「勘違いするな。お前達はここまでよくやってくれた。この言葉は世辞でも偽りでもない」

 

『…』

 

「だが、ここから先はお前達に踏み込める領域ではない」

 

『…っ』

 

無情にも告げられた赤司の言葉。洛山の選手達は表情を曇らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。

 

『っ!?』

 

フロントコートに花月の選手達が侵入すると、やや深めの位置でディフェンスをしている赤司の放つプレッシャーに目を見開いた。

 

「…ちっ!」

 

それはボールを運んだ空も例外ではなく、思わず舌打ちが出る。

 

「(なんだこのプレッシャーは!? 赤司がゾーンに入ると、ここまでヤバいのか!?)」

 

フロントコートに足を踏み入れ赤司が放つプレッシャーをその身に浴びた瞬間、空はすぐに理解した。赤司の守備範囲の広さに。

 

ゾーンに入った者を相手にするのは初めてではない。ここまでに相手した紫原や黄瀬はもちろん、昨年時の冬も青峰を相手にしている。同年の夏に赤司もゾーンに入っている。だが、あの時は空は眼中になく、敵意の全てが三杉や堀田に向いており、その赤司を相手にしたのは三杉だったので実感がなかった。

 

今、赤司の敵意の大半が空に向けられており、その圧倒的なプレッシャーに圧倒された。

 

「(…ピクッ)」

 

「っ!?」

 

空が1歩踏み込もうとした瞬間、赤司が僅かに動きを見せた。

 

「(…ダメだ、これ以上距離を詰めたら取られる…!)」

 

現在、空と赤司の距離は2メートル強。空は直感的に理解した。これ以上踏み込まれれば赤司にボールを取られる事を…。

 

 

「赤司っちのプレッシャーがここからでも伝わるッスね」

 

観客席の黄瀬が苦笑しながら試合を観戦している。

 

「ゾーン状態でエンペラーアイを使った赤司の迎撃エリアはかなり広い。あの距離も本来なら赤司の迎撃エリア内だ。ゾーンに入った神城でなけりゃとっくに取られてるだろうよ」

 

同じくゾーンに入っている空のスピード、反射速度、集中力がなければとうに取れていると断ずる青峰。

 

「…神城っちは、今の赤司っちをどう相手にするか」

 

「…赤司がゾーンに入った今、これまではスピードでどうにか相手に出来たが、ここからは後出しの反射では予知には勝てねえ」

 

「俺も同意見ッス。…けど、それでも俺達に勝った花月が赤司っちに一泡吹かせてほしいッス」

 

祈るように黄瀬が試合に集中したのだった。

 

 

「…っ」

 

全神経を集中させ、赤司と対峙する空。少しでも集中を乱せば即座にボールを取られてしまう。今現在の空と赤司の間合いはあくまで、完全集中状態の空がギリギリ赤司の動きに対処出来る距離。それは空自身が一番理解していた。

 

「(どう攻める。残り時間と点差を考えて、取りこぼしは命取り。この赤司をかわして決めるにはどうすれば…)」

 

どう仕掛けるか思考したその時!

 

「っ!?」

 

赤司が一気に間合いを詰め、空のキープするボールを狙い打った。

 

「(やっば…!)」

 

思考の海に没頭し、僅かに赤司に対する集中が欠けたその一瞬を狙い打ったのだ。

 

「(取られる!)」

 

ほんの僅かに出来た空の隙。その隙を突いた赤司のカットに空はボールを奪われるてしまうと予感する。

 

「…っ!」

 

 

――ボムッ!!!

 

 

赤司の手がボールを捉える瞬間、空がボールを右方向へと弾ませるように放った。

 

「(頼む、誰か取ってくれ!)」

 

心中で叫ぶように願う空。

 

「ナイスパス!」

 

その願いがかなったのか、そこに走り込んだ大地がボールを掴んだ。

 

「助かったぜ!」

 

心の底から安堵した空。

 

今のパスはそこに大地がいたから出したのではなく、赤司にボールを奪われない為の咄嗟の行動であり、周囲を見渡す余裕がなかった空の苦肉の策。ここで赤司にボールを奪われて速攻に走られるくらいなら他の選手にボールを取られるか、ボールデッドしてディフェンス態勢を整える時間を作って相手ボールにした方がまだマシと咄嗟に判断したに過ぎない。

 

それでも相手ボールになったら花月の危機である事には変わりなく、ツキがあった事に喜んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを掴んだ大地はそのままカットイン。ペイントエリアに足を足を踏み入れた所でボールを右手で掴み、リングに向かって飛んだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

右手で掴んだボールをリングに叩きつけようとした瞬間、直前にやってきた赤司によってブロックされた。

 

「なんやと!?」

 

「綾瀬のカットインに追い付いた!?」

 

このブロックに天野と松永が驚愕した。大地のスピードは空と引けを取らない。その大地に追い付き、ブロックしてしまったのだ。

 

「あかん! リバウンド抑えるんや!」

 

ルーズボールに備え、声を出す天野。

 

「入ってろ!」

 

 

――ポン…。

 

 

バックボードに跳ね返ったボールを空がタップする。

 

 

――バス!!!

 

 

タップしたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 88

洛山 93

 

 

『おぉっ! すぐに押し込んだ!』

 

「ふぅ、危ねえ…」

 

何とか得点に繋げる事が出来て安堵する空。

 

「まあいい。どのみちここから全て決めれば同じ事だ。お前では僕は止めれれない。僕の勝利は絶対だ」

 

「…っ」

 

失点を防げなかったものの、さほど気にしていない赤司。対して空は顔を歪ませた。今のはギリギリ。次も決められる保証はない。そして、逆転する為には赤司を止めなければならない。止めるイメージが空には出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スローワーの五河からボールを受け取った赤司が単独で花月のディフェンス陣を相手に仕掛けてくる。

 

「(何としてでも止めるんだ! 俺が!)」

 

ドリブルで突き進む赤司の前に空が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

最初の切り返しに反応し、左足を踏み込んだ直後、逆に切り返され、空の右側を抜けていく赤司。

 

「んのやろう!!!」

 

左足に体重が乗ってしまい、動けない空は何とか身体を後ろに倒して赤司の持つボールに手を伸ばす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だがそれも、赤司が瞬時に切り返され、かわされてしまう。

 

「今度こそ!」

 

直後、今度は大地が立ち塞がった。

 

「どけ、これは命令だ」

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「ぐぅっ!」

 

大地が現れた直後、赤司は数度切り返すと、大地はアンクルブレイクを起こし、前のめりに崩れ、両膝を付いてしまう。

 

「僕の前では何人たりとも前に立つことを許さない」

 

膝を付く大地を見下ろしながらボールを掴んだ赤司がシュート態勢に入った。

 

「まだだ!」

 

後ろから空がブロックに現れ、手を伸ばす。

 

「遅い」

 

だが、紙一重で赤司がボールを放つのが速かった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 88

洛山 95

 

 

再び点差が7点に開く。

 

 

「やっぱり、神城っち以外だと勝負にもならない…」

 

アンクルブレイクをかけられた大地を見て黄瀬が呟く。

 

「だが、その神城にしても止められねえ。アンクルブレイクにかからなかった所で同じ事だ」

 

持ち前のバランス感覚でアンクルブレイクが効かない空だが、赤司は重心が片方の足にかかったその瞬間に逆に切り返してかわしている。その為、空であってもその状態ではどうにか動かせるのは上半身だけ。

 

「何よりの問題は――」

 

 

「…っ」

 

フロントコートまでボールを運んだ空は赤司の放つプレッシャーをその身に浴びる。残り時間と今の状況を考えると1本の取りこぼしが命取り。

 

「…ちっ」

 

思わず舌打ちが出る。少しでも集中を緩めたり、意識を逸らせば赤司は即座にボールを狙ってくる。その為、迂闊にパスターゲットも探せないでいるのだ。

 

「(くそっ、だったら!)」

 

スリーポイントラインの1メートル程離れた所から空がボールを右手で持ち、後ろに飛んだ。

 

 

「あのフォーム、まさか、青峰っちのフォームレスシュート!?」

 

その構えまさに青峰を彷彿させるシュートフォームであった。

 

「…」

 

それを見て青峰を眉を顰めた。

 

「確かにあのシュートならトリプルスレッドに入らねえが…」

 

「あの距離から決められるのか!?」

 

池永と新海が思わず声を上げる。2人の疑問はもっともで、空がシュート態勢に入った場所はリングからかなり離れている。本家の青峰でさえそこからは打った記憶がないからだ。

 

 

「(あの距離からダイキの? ……いや違う!)」

 

一瞬、青峰の技が頭によぎった赤司だったが、すぐさまそれを否定した。

 

 

――ブォン!!!

 

 

空がボールをリング目掛けて放り投げた。

 

「…ちっ」

 

今度は赤司が舌打ちをした。空が投げたボールはリングから僅かに軌道が逸れていたのだ。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「よし!」

 

リングのすぐ傍で大地が空中でボールを掴んだ。

 

『っ!?』

 

これを見て洛山の選手達が目を見開いた。大地は空がシュート態勢に入った瞬間にリングに向かって走り、飛んでいたのだ。

 

 

――バス!!!

 

 

空中でボールを掴んだ大地はそのまま放り、ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 90

洛山 95

 

 

『すげー! 何であんなパスが出来るんだよ!?』

 

『パスもスゲーけど、あれを決める方もスゲーよ!』

 

今の一連のプレーは事前の打ち合わせはおろか、空からは何の合図も出ていない。にもかかわらず、咄嗟の空のアドリブの行動に大地が合わせ、決めた。その事に驚きを隠せないのだ。

 

「…まあいい、こんなプレーがいつまでも続けられる訳がない。例え出来たとしても問題はない」

 

失点は防げなかったものの、赤司は特に動じる事はなかった。

 

「(あんな博打染みたプレーが何度も通じる訳がねえ…!)」

 

得点を決めたものの、空の表情は晴れない。

 

今のも、その前のも、運よく得点に繋がっただけであり、2度も赤司に通じる代物ではない。それに所詮は博打であり、例え赤司の裏を掻けたとしても何度も成功させられるものではない。

 

「(オフェンスよりも問題はディフェンスだ…)」

 

空が頭を悩ますのはオフェンス以上に問題なのはディフェンスであった。いくら点を決められても赤司を止められなければ点差は縮まらない。洛山の選手達がスリーを要警戒している以上、スリーは望めないので点差を詰めるには赤司を止めるしかない。

 

「(だがどうやって止める…。素通りさせたら赤司には追い付けねえ。かと言って反応しちまったらせいぜい次に一手しか繋げられねえ。それじゃあ赤司は止めらねえ!)」

 

試合の残り時間が刻一刻と無くなっていく今、次のオフェンスを止めないと逆転出来ない。

 

「(どうする…! どうやったら赤司を止められるんだ!?)」

 

両の拳を握り、必死に対策を考える空。

 

 

――ポン…。

 

 

その時、空の肩に何者かの手が置かれた。

 

「?」

 

振り返ると、そこにいたのは大地だった。

 

「また1人で戦うつもりですか?」

 

大地は怒りでも失望でもなく、薄く笑みを浮かべながら空にそう告げた。

 

「大地…」

 

「1人でダメだと言うなら私も力になります。私では頼りになりませんか?」

 

そう尋ねる大地。

 

「(…そうだよ、何で俺は赤司を止める気でいたんだ。俺にはこんなにも頼りになる相棒がいるじゃねえか…!)」

 

ここまで勝ち残り、今日もここまで洛山と競えたのは大地がいたからだ。

 

「(あー俺はほんっっっっとにバカ野郎だ!)」

 

自分自身のバカさ加減に思わず苦笑する空。

 

「力を貸してくれ、相棒!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを受け取った赤司がそのまま駆け上がっていく。

 

「っ!?」

 

フロントコートに侵入すると、赤司の表情が変わった。これまで通り、赤司を待ち受ける空。そしてもう1人…。

 

『綾瀬だぁっ!!!』

 

大地が空と共に赤司を待ち受けていた。

 

『っ!?』

 

空と大地のダブルチームに見る者全ての注目が集まる。

 

「(赤司さんと勝敗にこだわる空を私は叱った。…ですが、そうさせてしまったのは私達の責任…)」

 

つい先程、赤司との勝敗にこだわり過ぎて熱くなっていた空を叱った大地。

 

「(空が赤司さんを相手にする事は私が他のキセキの世代を相手にする事では意味が違う。空と私とでは背負っているものが違うのだから…)」

 

チームのエースとしてコートに立つ大地と、チームを纏める主将であり、チームを指揮する司令塔である空とでは同じキセキの世代でも戦う意味合いから勝敗の重さが変わってくる。

 

「(だから、もうあなた1人重荷を背負わせる事はしません。私も共に背負い、あなたと戦います!)」

 

スッと大地が瞑っていた目を開けると、大地に纏う空気が変わった。

 

 

「っ!? 綾瀬っちもゾーンに入った!」

 

その変化に気付いた黄瀬が思わず立ち上がった。

 

「…」

 

同じく青峰も気付き、注目をする。

 

『…っ』

 

火神、緑間も同様に気付き、2人がどうやって赤司を止めるかに注視し始めた。

 

 

「…」

 

ボールをキープする赤司も当然、大地がゾーンに入った事には気付いた。

 

「例えお前がゾーンに入ったとて、何も変わらない。再び同時に抜きさって完全なトドメを刺す」

 

だが、それでも赤司は足を止める事無く突き進んでいく。

 

「…」

 

グングン迫って来る赤司。

 

 

――スッ…。

 

 

大地は空の後ろへと下がり、距離を取った。

 

『何だ!? ダブルチームじゃないのか!?』

 

その行動に観客席から疑問の声が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「まさか、綾瀬の奴、前に黒子がした事と同じ事をするつもりか!?」

 

大地が何をしようとしているのか気付いた火神が目を見開いた。

 

かつて、2年前のウィンターカップ決勝で、ゾーンに入った赤司を止める為に取った火神の黒子の変則のダブルチーム。それは、赤司が火神を抜いた直後に火神の動きを先読みし、その逆に動いて目の前に現れた赤司のボールを奪うと言うものである。

 

「けどあれは、並外れた観察眼がある黒子だから出来た事で、いくらなんでも…」

 

降旗が黒子以外の者には無理だと口を挟んだ。

 

「出来るかもしれません」

 

誰しも同意見だと口を噤む中、田仲が唯一出来ると断言した。

 

「神城と綾瀬はそれこそかなり昔からの付き合いです。当然、綾瀬は神城の事はよく知っている。神城に限定すれば、出来るかもしれません」

 

「…もし、本当に出来るとするなら、ゾーンに入っている綾瀬と黒子とではスピードも瞬発力も比較にならない程差がある。赤司を止められるかもしれないな」

 

再びコートに注目する火神。

 

「…」

 

黒子も同様にコートでの結末にただただ注目するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

空の後ろに大地が立つ変則のダブルチーム。当然、赤司も2人が何をするつもりかは理解している。かつて、自分がボールを奪われた忌まわしきコンビプレーであるからだ。

 

過去の教訓を生かすからパスを出して勝負を避けるべきである。大地が黒子のように上手くやれない可能性をもあるが、もし、完璧なタイミングでボールを狙いに来たならば…。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

赤司はそれでもパスは出さず、自ら行く選択をした。

 

「…来い」

 

グングン空との距離が詰まっていく。

 

「…っ!」

 

空とも距離が詰まった所で赤司がエンペラーアイを発動させる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

エンペラーアイで空の重心が右足に乗った所を赤司が逆へと切り返し、空をかわした。その直後。

 

『赤司!』

 

洛山の選手達が鬼気迫る表情で赤司の名を呼んだ。赤司が空を抜いたのと同時に大地が赤司の持つボールに間髪入れず狙い打ったのだ。

 

 

「タイミングは完璧だ!」

 

ドンピシャと言わんばかりのタイミングで動いた大地を見て黄瀬が拳を握った。

 

 

『いっけぇぇぇぇっ!!!』

 

花月のコート上の選手からベンチメンバーが願いを声に乗せて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あまり僕をイラつかせるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地の手が赤司の持つボールを捉える瞬間、赤司がレッグスルーで股下を通して切り返し、その手をかわした。

 

『なっ!?』

 

完璧なタイミングだったにもかかわらず、かわされた事に言葉を失う花月の選手達。

 

「過去に煮え湯を飲まされた奇策。例え使い手がその時より優れていようと、同じ手で同じ失態を犯す程、愚かではない」

 

空を抜いた後に大地が空の動きを予測してすぐにボールを狙いに来ると分かっていた赤司はタイミングを計ってかわしたのだ。

 

「2人で来ようと今の僕は止められない。これで終わりだ」

 

無情に言い放つ赤司。

 

『ダメか…!』

 

誰しもがそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

突如、赤司の持つボールが叩かれ、赤司は目を見開きながら驚愕した。

 

「大地が俺の動きを先読み出来るなら、その逆もしかりだぜ!」

 

『神城だぁっ!!!』

 

ボールを捉えた者の正体を知った観客が大歓声を上げた。

 

赤司の背後から空がボールを狙い打ったのだ。

 

 

「何で!? ……っ! まさか!?」

 

何故空が赤司のボールを捉えられたか疑問に感じたが、すぐさま理解した。

 

「…ハッ! あのバカ(空)、赤司に抜かれた直後、背後で動く綾瀬の動きを先読みしやがった」

 

思わず笑い出した青峰が言った。

 

前に立つ空の動きを先読みした大地は空とは逆に動いて空を抜いて来るであろう赤司を狙い打った。しかし、それを予測していた赤司は切り返して大地をもかわした。だが、それで終わりではなかった。1度抜かれた空が背後で動く大地の動きを先読みし、それに合わせて赤司の持つボールを狙い打ったのだ。

 

「さすがの赤司も、先読みした未来の先、そのさらに先までは予測出来なかったみたいだな」

 

愉快そうな笑みを浮かべた青峰であった。

 

 

「速攻!」

 

すかさずルーズボールを抑えた大地がそのまま速攻に駆け上がった。

 

「いかん! 止めろ! ここは絶対に死守しろ!」

 

ベンチに座る白金が思わず立ち上がり、叫ぶように指示を出した。

 

「くそっ!」

 

すぐさま二宮が大地の前に立ち塞がった。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

すると、大地は急停止し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

すぐさま再加速。緩急を使って二宮を抜きさり、そのままリングに向かっていった。

 

「……この僕が2度も同じ失態を。……っ!」

 

怒りの形相で振り返った赤司が猛ダッシュでディフェンスへと戻った。

 

「…っ」

 

スリーポイントラインを越える目前で赤司が大地を捉え、回り込んで迎え撃った。

 

 

「速い! 綾瀬が急停止した合間に追い付きやがった!?」

 

スピードのある大地に追い付き、回り込んで迎え撃った事に驚く火神。

 

 

「…」

 

それでも大地はスピードを緩める事無く突き進んでいく。

 

「(止める! 2度も同じ愚を犯すものか!)」

 

エンペラーアイを発動させた大地を迎え撃つ。大地が赤司の目前で切り返してかわす。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

切り返そうとしたその瞬間、赤司の手が大地の持つボールを捉えた。

 

「(やはり僕のこの眼が絶対だ。今度こそトドメを――)」

 

ルーズボールを赤司が抑えようとしたその時!

 

「1人じゃねえんだよ!」

 

赤司がボールを捉え、零れた直後に空がそのボールを抑えた。

 

「よくやった神城!」

 

ベンチの上杉が立ち上がりながら叫んだ。

 

ボールを抑えた空はそのまま赤司の背後に抜け、リング付近にボールを放った。するとそこには、大地が既に飛んでいた。

 

 

「あいつ! 神城がルーズボールを抑えてそこにパスをくれると信じて飛んでたのかよ!?」

 

その事実に高尾が驚いていた。

 

 

空が放ったボールが大地の伸ばした右手に収まった。

 

「ふざけるな! 2度もあのような屈辱を味合わされてたまるか!」

 

アリウープを阻むように赤司がブロックに現れた。

 

『赤司!』

 

ブロックに間に合った赤司に思わず安堵する洛山の選手達。

 

「いえ、ここは絶対に決めます。…そうでしょう?」

 

尋ねるようにそう口にする大地。すると、後ろからもう1本手が現れた。

 

「神城!?」

 

その手の正体を見て思わず声を上げる赤司。

 

「そうとも! 絶対に決める!」

 

大地の右手に収まるボールに空の左手が重なる。

 

『決めてくれぇぇぇぇっ!!!』

 

花月の選手達全員が願いを込めた。

 

「「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空と大地が赤司を吹き飛ばしながらダンクを決めた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

同時にこの日1番の歓声が地鳴りのように会場に響き渡った。

 

「っしゃぁぁっ!!!」

 

パチンと空と大地がハイタッチを交わした。

 

「…」

 

吹き飛ばされ、座り込む赤司。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、洛山!』

 

ここで洛山の申請したタイムアウトがコールされた。

 

「…っ」

 

赤司が止められた直後、白金はすぐさまタイムアウトの申請をした。もし、赤司が止められた直後、失点でもしようなら、赤司は大きく調子を崩してしまう。かつて、誠凛との折ではもはや茫然自失と言わんばかりの所まで崩れていた。

 

残り時間と点差を考え、白金は即座に決断したのだ。

 

タイムアウトのコールを鳴り、両校の選手達がベンチへと戻っていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この話で洛山戦の終了まで行きたかったんですが、想像以上に長くなりそうだったので、ここで一旦切ります…(^_^)/

これで2020年の最後の投稿となります。いやー、今年はかつてない程のペースで投稿した気がします…(;^ω^)

数えてみると、今年はこの二次を37話投稿してました! ちなみに2019年は17話で、2018年は14話。実に2倍以上です…(*^_^*)

個人的に良いペースで投稿出来たと思います。色々あった2020年。まだまだ色々続きそうですが、来年はいい年になりますように…。

感想アドバイスお待ちしております。

それでは、よいお年を…(^^)/~~~

それではまた!


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第145Q~もう1つの扉~


投稿します!

新年、あけましておめでとうございます!!!

2021年もよろしくお願いします…m(_ _)m

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り1分7秒。

 

 

花月 92

洛山 95

 

 

赤司が空と大地の変則ダブルチームによってボールが奪われ、ターンオーバーとなり、空と大地が赤司のブロックを吹き飛ばして得点を決めたのと同時に洛山が申請したタイムアウトがコールされた。

 

 

洛山ベンチ…。

 

ベンチに戻った赤司はタオルを被りながら荒々しくベンチに腰掛けた。

 

「…っ!」

 

両の拳をこれでもかと言う程きつく握りしめている。それほど悔しさに怒りを感じているのだろう。

 

「(…以前のような崩れ方はしてはいない。…だが、冷静さを失っているのは事実。さて、残り1分弱、どう戦うか…)」

 

赤司の様子を確認した白金が作戦を考えるべく、頭を働かせる。

 

「赤司」

 

その時、赤司の下に歩み寄った出場選手の4人。その中から四条が声を掛けた。

 

「俺達も戦わせてくれ」

 

「…必要ない。引き続き僕のフォローとディフェンスに尽力しろ」

 

だが、赤司はチームメイトの四条の提案を突っぱねた。

 

「分かってんだろ!? 神城と綾瀬のコンビプレーは赤司でも止められなかった。だったら俺達も力を合わせるしかないだろ!」

 

その言葉に納得出来なかった五河が食い下がる。

 

「邪魔だと言っているんだ。大人しく僕の言う事が聞けないのなら――」

 

「赤司!」

 

「…っ」

 

食い下がる四条に苛立ちを覚えた赤司だったが、四条が赤司の胸倉を掴み上げた。

 

「俺達の中で1番偉いのはお前だ。1番上手いのもお前だ。けどな、このチームはお前1人のチームじゃねえんだよ!」

 

叫ぶように四条が赤司に言った。

 

「俺達はキセキの世代にはなれない。キセキの世代に勝つ事も。…けどよ、力にもなれないなら、俺達の存在はなんなんだよ!?」

 

四条の横に立っていた三村が心の底から吐露するように叫んだ。

 

「勝つ事も負ける事も黙って見ている事しか出来なかった俺達がようやくお前らと同じコートに立てたんだ。だから頼むよ。俺達にも戦わせてくれ! お前の背負ってる負担を少しでも背負わせてくれよ!」

 

続けて二宮が叫ぶ。その表情はもはや悲痛に満ちたものであった。

 

キセキの世代の圧倒的な力に絶望し、半ばその存在を否定された元帝光中の4人。それでもコートに立つ道を選んだ。今、再びその存在を否定されようとしている事実にもはや黙っている事は出来なかった。

 

「頼む、今度こそ俺達にも戦わせてくれ!」

 

「「「赤司!」」」

 

「お前達…」

 

4人の心からの願いを聞いた赤司が4人に視線を向ける。

 

 

『見るに堪えないとはこの事だな』

 

その時、内にいるもう1人の赤司が喋り始めた。

 

「(…っ、何の用だ? 言っておくが、僕はここで代わったりは――)」

 

『そのつもりはない』

 

「(なに?)」

 

『そのつもりはないと言ったんだ。ここで代わるくらいなら俺は始めからお前に代わったりはしない。俺は少なくともこの試合中は表に出るつもりはない。この試合がどのような結末を迎えようともな』

 

「(…)」

 

『だが、その様では結果はもはや決まったようなものだな』

 

「(なんだと…)」

 

内にいる赤司の言葉に憤りを覚える赤司。

 

『いつまで下らない意地とプライドにこだわっているつもりだ?』

 

「(っ!? 下らないだと?)」

 

『下らないさ。少なくとも俺からすればな。勝利と天秤にかける価値もない代物だ』

 

「(…っ)」

 

『高校に進学し、誠凛に負けて、黄瀬も緑間も変わった。青峰も、あの紫原でさえも変わった。お前くらいだ。未だに変わりきれていないのは』

 

「(っ!? 黙れ!)」

 

思わず叫ぶ表の赤司。

 

『どうするつもりだ? ここにいるチームメイトは、試合に勝つ為に死に物狂いで残りの時間をお前と共に戦う覚悟を持っているぞ?』

 

「(…)」

 

『どうするかはお前が決めろ。あくまでもお前1人でこのまま戦うか、それとも…』

 

 

「赤司!」

 

赤司の周囲で赤司の言葉を待つ4人。

 

「全く、お前はいつまでも…」

 

自嘲気味に呟く赤司。

 

「秀平、彰人、大智、充、僕はどうやら熱くなって周りが見えていなかった。すまなかった…」

 

立ち上がると、そう言って頭を下げた赤司。

 

「赤司…?」

 

その様子を見て茫然とする四条。

 

「この試合に勝つ為に、お前達を頼らせてもらう。力を貸してくれ」

 

「…っ! あぁ! もちろんだ!」

 

その言葉を待っていた4人は歓喜した。

 

「だが、お前達が言い出した事だ。出来なかったでは済まさんぞ」

 

「分かってる! ダメだったらクビにするなり目玉抉り取るなり好きにしろ!」

 

赤司の言葉に覚悟を示す四条。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでタイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「時間か。では手短に話す。聞け」

 

赤司は4人に指示を出し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「点差はたった3点差だ! 行けるぞ!」

 

「頑張って!」

 

タイムアウト終了のブザーが鳴ってコートへと向かう花月の5人に菅野と相川が声援を贈った。

 

「(点差は3点。流れも勢いも俺達にある。…けどなんだこの胸騒ぎは?)」

 

確実に良い流れが来ているはずの状況にも関わらず、空は胸騒ぎが起きていた。

 

「(相手は王者洛山だ。このままあっさり行ける訳はねえ。油断せずに全力で戦う!)」

 

顔をパンパンと叩いて気合いを入れ直した空がコートへと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ボールから試合は再開。赤司がボールをキープする。

 

「っしゃ来い!」

 

「止める!」

 

赤司の前に再び空と大地が立ち塞がった。

 

「…」

 

2人が現れると足を止める赤司。

 

 

――スッ…。

 

 

赤司は切り込まず、パスを出した。

 

「パスだと?」

 

その選択に少し虚を突かれる空。赤司から二宮にボールが渡ると、すかさずハイポストに立つ四条にパスを出した。

 

「(この土壇場でセットプレーか! だが、こっちとしては好都合だぜ!)」

 

先程赤司を止める事が出来たが、次、また上手く行く保証はない。空にとってはセットプレーの方が都合が良かった。

 

絶え間なく動く回るボール。

 

「(…見えた、このボールと人の動き、フィニッシャーは三村だ!)」

 

フィニッシャーを特定した空は大地にハンドシグナルで指を3本立てた。これは、空が大地にチェックに向かわせる為のサインだ。

 

「(三村さんですね。分かりました)」

 

この合図を受けて大地が現在ボールを持つ四条と三村のパスコースに向かった。そして、空は三村にパスが出せなかった時の保険兼囮要因として特定した二宮。三村へのパスを誘発させる為に四条と二宮のパスコースを潰した。

 

「(ボールを奪って点差を詰める!)」

 

「…」

 

四条がパスを出す。

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

その時、空と大地が声を上げた。ボールは三村でなければ二宮でもない、ゴール下に走り込んだ五河に渡ったのだ。

 

「っ!?」

 

直前にスピンして松永をかわしてゴール下に五河。虚を突かれた松永は目を見開いた。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを掴んだ五河はそのままゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 92

洛山 97

 

 

「空が、読み違えた?」

 

フィニッシャーを見誤ったのかと大地が空に視線を向ける。

 

「(バカな! あの一連の動きは間違いなく三村へのパスの動きだった。何で五河なんだよ!?)」

 

空自身、確信していただけにショックが隠せなかった。

 

「(それに、今のパスは何かおかしかった。咄嗟のリカバリーで出したパスじゃなかった…)」

 

今のパスに違和感を覚えた空。四条はフリーだった五河にパスを出したのではなく、まるで五河がゴール下でフリーになる事が分かっていたかのようにパスを出した。現に、直前まで五河は松永がしっかりマークしていた。

 

 

「なんスか今の?」

 

黄瀬も何か違和感を感じ、思わず声を出る。

 

「今のは…」

 

同じく何かを感じた青峰がその何かを考えている。

 

 

「(くそっ! 点差がまた開いて…!)…取り返すぞ、走れ!」

 

ボールを受け取った空はそのままボールを運ぶ。

 

『おう!!!』

 

それに続くように花月の選手達も走り出した。

 

「…」

 

フロントコートに進むと、赤司が空を待ち受ける。

 

「(何だ…、さっきまでとは何か違う…!)」

 

何か嫌なものを感じた空は、赤司の射程に入る前に右を走る大地にパスを出した。

 

「空!」

 

ボールを受け取った大地はすかさず空にリターンパスを出した。

 

「っしゃ!」

 

パスを出した直後に中へと走り込んだ空はフリースローライン付近でボールを受け取った。

 

「らぁっ!」

 

そこから踏み切り、リングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

そこへ、五河がシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

「見えてんぜ」

 

ブロックに現れる事が分かっていた空は動じる事無くボールを右へと放った。

 

「ナイスパス!」

 

そこには先程リターンパスを出した大地が走り込んでいた。ボールを受け取った大地が今度はリングに向かって飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

そこへ、四条がブロックに現れた。

 

『うぉー! 洛山のディフェンス堅い!?』

 

「…っ」

 

 

――スッ…。

 

 

だが、大地はボールを下げ、ブロックに現れた四条をかわす。

 

「ゾーンに入った綾瀬を止められるかよ!」

 

ベンチから菅野が声を上げる。

 

大地はリングを越えた所で再びボールを上げ、リングに背中を向けながらボールを放った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「決めさせるかよ!!!」

 

放られたボールをちょうどそこへ飛んで来た三村がブロックされた。

 

「っ!?」

 

「何だと!?」

 

決まると思っていた空と大地は驚きを隠せなかった。

 

「(神城と綾瀬の高速連携を何故防げる!?)」

 

これにはベンチの上杉も思わず立ち上がる。

 

「どないなっとんねん! 何であない示し合せたかのように動けんねん!」

 

事前に空と大地の動きを予測するなどまず不可能。だが、洛山の選手達は咄嗟に合わせたかのように動いていた。

 

「速攻だ!」

 

ルーズボールを抑えた赤司が声を出し、ドリブルを始める。

 

「…っ、戻れ! 絶対に死守だ!」

 

決死の表情で空が声を出し、ディフェンスに戻る。

 

「行かせねえ!」

 

「ここは何としても!」

 

スピードに定評がある空と大地がいち早くディフェンスに戻り、速攻を防ぐ。その間に他の花月の選手達もディフェンスに戻った。

 

「行くぞ」

 

赤司がパスを出した。そこから洛山の高速のボール交換が始まる。

 

「(っ!? このパスは…! さっきまでとは違う!?)」

 

「(決められたルートを通っていた今までのパスワークではない!?)」

 

パスが変わった事に気付いた空と大地。

 

 

「まさかこれって!?」

 

先程感じた違和感の正体に気付いた黄瀬が思わず立ち上がった。

 

「っ!?」

 

同時に先程分からなかった何かを理解した青峰も同様に立ち上がった。

 

「何だよこのパス…。真ちゃん!」

 

「まさか…、あり得ないのだよ…!」

 

高尾に呼ばれた緑間が目を見開きながら身体を震わせている。

 

「火神君! あれは…!」

 

「あぁ、間違いねえ!」

 

黒子も火神も思わず声を上げてしまった。

 

「…ハハッ、よりにもよってよ…。1番ねえと思ってたあの赤司が開けちまうかよ」

 

自嘲気味に青峰が笑いながら呟いた。

 

 

「認めよう。お前達は強い。僕1人では敵わない程に…」

 

赤司が突如、話始める。

 

「下らない意地とプライドは捨てる。ここからは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――僕達全員で戦おう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『世話の焼ける…』

 

胸の内にいる赤司が苦笑する。

 

『この試合、俺は手出しも口出しもするつもりもなかったが……全く、出来の悪い弟を持つと、こんな気持ちなのかな…』

 

立ち上がった内にいる赤司が歩き出した。

 

『去年の夏の決勝、最後に力を貸してくれた分はこれでチャラだ。さあ行け、これが選別だ』

 

後ろにあった扉に手をかけると、そっとその扉を開けたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ゾーンの扉が開かれる、その状態から集中力が増していくと更に水底へ向かって沈んでいく。

 

底に到達すると、自身の実力の100%の力を引き出せるようになり、目の前に更なる扉が現れる。

 

その扉の前には姿の見えない門番のような人影が立っており、容易にはその扉を開く事は出来ない。

 

その堅牢の扉が開かれた時、ゾーンの真なる力が姿を現す。

 

ゾーンを超えたゾーン…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――直結連動型ゾーン(ダイレクトドライブゾーン)が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『…っ』

 

この試合、一番のスピードで洛山の選手間でボールが行き交っている。それでも洛山の選手達はパスミスはおろか、ファンブルすら起こす様子がない。

 

50を超える洛山のナンバープレー。これはそのどれにも属さないパスであり、パスルートも、フィニッシャーも分からない。だが、洛山の選手達は迷う事なくパスを繰り出し続けている。

 

『ボールを回して攻める。だが、僕は敢えてナンバーコールはしない』

 

『どういう事だ?』

 

意味が理解出来なかった二宮が聞き返した。

 

『パスルートの指定はしないと言う事だ』

 

『つまり、普通にボールを回すって事か?』

 

『違う。それでは花月のディフェンスは崩せない』

 

五河の言葉を赤司が否定する。

 

『これまで同様、高速でボールを回す。だが、ルートを決めず、各自が咄嗟の判断で動き、ボールを回すんだ』

 

『なっ!? そんな事出来るのかよ!?』

 

赤司からの無理難題に四条が声を上げる。これまで高速でボールを回せたのは事前に打ち合わせて決めて置いたパスのルート通りに動いていたからだ。それをアドリブで行うなど無謀にも等しい。

 

『先程あれほどタンカを切ったんだ。やってもらうぞ』

 

『…』

 

確かに赤司の力になる為に覚悟を示した。だが、それでもこの無謀の挑戦に自信が持てない4人。

 

『心配するな。絶対成功する』

 

そんな4人の不安を振り払うように赤司がそう告げる。

 

『僕達がどれだけの長い年月を同じチームで過ごした思っている。絶対に出来る。…難しく考える必要はない。ボールが欲しい所へ動き、いてほしい所へパスを出すだけだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

タイムアウト終了直前に赤司が出した指示はこれだけだった。

 

「(こっちにくれ!)」

 

「(ここにいてくれよ!)」

 

アドリブで高速でパスを回すと言う荒業。にも関わらず、洛山の5人はミスもファンブルもせず、スティールもされる事なくボールを回し続けている。

 

5年を超える年月を同じチームで過ごした5人。その5人が力を合わせた事で強い信頼感が結ばれ、不可能とも言えるアドリブでの高速のパスワークを成功させた。

 

 

「勝負あったな」

 

立ち上がった青峰が座りながらそう言った。

 

「残り時間を考えて、ここで洛山を止められなければ花月の負けは決まる。だが、今の洛山を花月は止める事は出来ねえ」

 

「「…」」

 

「…いや、今の洛山はどこも止める事は出来ねえ」

 

 

ショットクロックが残り4秒になった所で中央、スリーポイントラインとフリースローラインの中間で赤司にボールが渡った。

 

『っ!?』

 

しかし、高速のボール回しによってディフェンスが乱れに乱され、誰も赤司にマークが付いていない状態だった。

 

「ちくしょう! ちくしょう!!!」

 

それでも空は諦めず、チェックに向かった。

 

「感謝する。新たなる好敵手よ。おかげで僕達はまた1つ強くなれた」

 

そう言いながらシュート態勢に入る赤司。

 

「ここで眠れ。そしてまた同じコートで相見えよう」

 

赤司の手からボールが放たれる。

 

「…っ!」

 

必死にボールに手を伸ばす空だったが、僅かにボールに手が届く事はなかった…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

事実上の決勝点が決まり、大歓声が上がった。

 

「勝った…」

 

四条がそう呟いたその時…。

 

「まだだ!」

 

空がフロントコートに向かって走り出した。

 

「空!」

 

すぐさまボールを拾った大地が走る空に向かって縦パスを出す。走りながらボールを掴んだ空はそのままドリブルで進み始めた。

 

「…っ」

 

後ろから空を追いかける赤司。だが、先頭を走る空に追い付く事は出来ない。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま空はレイアップを決め、ワンマン速攻を成功させた。

 

「当たれ!」

 

同時に空がオールコートマンツーマンディフェンスに指示を出す。その声に呼応して駆け上がった花月の選手達が一斉に当たり始めた。

 

「…ちっ」

 

スローワーとなった五河。目の前で両腕を広げてパス出しを妨害する松永に舌打ちをする。

 

「もうすぐ5秒だ。急げ!」

 

時間が迫り、洛山ベンチの選手達が声を上げた。

 

「こっちだ!」

 

ここで四条がボールを貰いに動いた。

 

「行かせへ――」

 

追いかけようとした天野だったが…。

 

「…っ」

 

赤司のかけたスクリーンによって阻まれてしまった。

 

バイオレーションギリギリで五河は四条にパスを出し、そこからパスを回しながら攻め上がった。

 

『オールコートディフェンスが突破された!!!』

 

ボールは先頭を走る三村に渡った。

 

「これで終わりだ!」

 

フリースローラインを越えた所でボールを右手で掴んで踏み切り、リングに向かって飛んだ。そして右手で掴んだボールをリングに振り下ろした。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「決めさせません!!!」

 

リング目前で大地が三村のダンクをブロックした。

 

「速攻だ!!!」

 

ルーズボールを拾った空が声を出してそのまま攻め上がる。

 

「止めろ! 絶対に決めさせるな!」

 

ディフェンスに戻りながら赤司が声を出した。

 

空と大地が並びながら攻め上がると、三村を除いた4人が既に戻っており、ディフェンスを整える。

 

「行くぞ!!!」

 

赤司の目の前で空が大地にパスを出した。

 

「空!!!」

 

すぐさま大地がリターンパスを返した。

 

『っ!?』

 

そこから空と大地が高速でボールを交換しながら洛山のディフェンスを突破していく。そのパスは先程の洛山のパスを彷彿させるものであった。

 

最後、大地がボールを叩くようにボールをリング付近に上げると、そのタイミングでボールに向かって飛んだ空の右手にボールが収まった。

 

「決めさせるか!!!」

 

そこへ、赤司が空とリングの間にブロックに現れた。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

ボールを掴んだ空は咆哮を上げながらボールをリングに向かって振り下ろした。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

赤司の上から空がボールをリングに叩きこんだ。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

審判が指を2本立て、降ろすと、花月の得点に2点が加算された。

 

 

――ダン…。

 

 

「…っ」

 

リングから手を放し、床に降りた空が歯をきつく食い縛り、目を深く瞑りながら顔を上へ上げた。

 

 

試合終了

 

 

花月 96

洛山 99

 

 

決勝進出を賭けた熱い激闘の幕が、降ろされたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





年末年始はゆっくり休むつもりだったんですが、前話投稿時点で6割方書き終えていたのでそのまま仕上げました!

これにて花月対洛山の試合は終了です。出来れば2020年の内に終えたかったのですが、まあ、当初、ネタ不足であっさり試合を終わらせると思っていた所、自身が納得出来る終わり方が出来たのでよしとします…(;^ω^)

とりあえず、ここから正月休みに入ります。1月中には再び投稿致しますのでそれまで…(^^)/~~~

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第146Q~進化~


投稿します!

2021年2回目の投稿ですが、こちらは初なので改めまして…。

あけましておめでとうございます!

こちらの二次もよろしくお願いします…m(_ _)m

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了。

 

 

花月 96

洛山 99

 

 

ファイナルへの切符をかけた両校の準決勝の激闘が終わった。

 

「…くっ!」

 

拳をきつく握りしめ、悔しさを噛みしめながら涙を流す生嶋。

 

「…っ」

 

自分への不甲斐なさから床を叩く天野。

 

「くそっ!」

 

頭を抱えながら悔しさを口にする松永。

 

『…っ』

 

花月ベンチ内も、絶叫しながら太もも叩く菅野。茫然している帆足。下を向きながら涙を流す竜崎。叫び出したい気持ちを抑えながら歯を食い縛る室井。

 

「…っ」

 

口元を抑えながら涙を流す相川。

 

「…」

 

上杉は、胸の前で腕を組みながら深く目を瞑っていた。

 

「…」

 

大地は無表情のままリングの下に立つ空を見つめていた。

 

「…っ」

 

空は、両拳をグッと握り、下を向きながら身体を震わせていた。

 

『…』

 

一方、洛山の選手達は誰1人歓喜の声を上げている者はいない。まだ1つの山場を越えたに過ぎず、明日には決勝という最後の試練が残っているというのもあるが、それ以上に花月を相手に勝利で終えた事に安堵していた。

 

『…っ』

 

試合で戦った者達がその事を誰よりも理解しており、勝利への歓喜より、その恐ろしさから背中に冷たいものが滴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「99対96で、洛山高校の勝ち。礼!」

 

『ありがとうございました!』

 

センターサークル内に整列した両校の選手達が審判の号令で礼を交わした。

 

『…』

 

空と赤司を除く4人が特に言葉を交わす事無く、互いの健闘を称え合う握手を交わした。

 

「…」

 

「…」

 

目の前で対峙する空と赤司。互いに距離を詰めながらも無言で視線をぶつける両者。

 

「…」

 

「……俺の…、俺達の負けだ。試合も、キャプテンとしても、司令塔としても…」

 

1歩踏み込んだ空が先に沈黙を破った。

 

「だが、次は負けねえ。ここでの雪辱は冬に絶対果たす。覚悟しておけ!」

 

そう宣言した空はその場を後にし、ベンチへと向かって行った。

 

「?」

 

この時、赤司は自分が無意識に右手を差し出している事に気付いた。これまでの赤司は例え自身が認めた相手であったとしても…、認めた相手だからこそ握手を交わしたりはしなかった。そんな赤司が知らず知らずのうちに握手を交わそうとしていた。

 

「…フッ」

 

そんな自分を皮肉交じりに鼻で笑った赤司だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ベンチへと戻ってきた洛山の選手達。

 

「次の試合が控えている。すぐに荷物を纏めて引き上げるぞ」

 

そう選手達に白金が指示を出す。

 

『…』

 

無言でベンチへと座る二宮、三村、四条、五河。

 

「どうかしたか?」

 

そんな4人に白金が声を掛ける。

 

「…試合に勝ちましたが…」

 

「何とか逃げ切れた感じでしたし…」

 

「何と言うか、勝ててホッとしたというか…」

 

「正直、気持ちの整理が付きません」

 

4人が今の心境を言葉にした。

 

『…』

 

辛くも試合に勝利したという自負があり、赤司のおかげで勝てたという自覚がある4人は今の感情を上手く表現出来なかった。

 

「ならば、素直に喜んだらどうだ?」

 

『えっ?』

 

白金の口から出た言葉に4人は驚きを隠せなかった。決勝戦を勝利で終えるまで慢心を決して許さない監督である事を理解していたからだ。

 

「事情は理解している。これでも私はお前達の気持ちを汲んでやれる度量は持ち合わせているつもりだ」

 

『…っ』

 

「無論、まだ明日の決勝が残っている。当然、それまでには切り替えてもらう。だが、今だけは目を瞑ろう」

 

そう言って、白金は4人に背を向けた。

 

「……うおぉぉぉっ!!!」

 

「勝った、勝った!!!」

 

「やったぞ!!!」

 

「っしゃぁぁっ!!!」

 

4人は立ち上がりながら拳を突き上げ、絶叫しながら喜びを露にした。

 

例年であれば、煌びやかな道を歩けるはずだった4人。だが、同チーム、同年代にキセキの世代と呼ばれる10年に1人の逸材が5人がいた為にその道を閉ざされたばかりか、実力も、実績も、努力すら否定された4人。

 

絶望のあまり、1度はバスケを辞める事も考えた。それでも尚、バスケを続け、キセキの世代と戦う事を選んだ。無論、この試合でキセキの世代に勝利した訳ではない。だが、キセキの世代に勝利した花月に勝利した事は4人にとってそれと同等の意味を持ち合わせていた。

 

胸に秘めていた悲願が果たされた今、4人は人目をはばからず、喜びを表現したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さすがお前の創り上げたチームだ。良いチームだな」

 

花月と洛山のベンチのちょうど中間の所で上杉と白金が言葉を交わしていた。

 

「なに、良い選手達に恵まれただけだ」

 

称賛の言葉を贈った上杉に対し、白金は肩を竦めた。

 

「謙遜を…」

 

「フッ、お前なら私の気持ちを理解してもらえると思ったのだがな」

 

「……フッ、そうだな」

 

皮肉交じりに上杉が返すと、白金は同じく皮肉交じり返し、上杉は思わず笑った。昨年、三杉と堀田と言う、圧倒的な力を持った選手を抱えてインターハイを制した花月。上杉は白金の心中を痛いほど理解出来たのだ。

 

「相変わらず、お前の率いるチームと戦うと寿命が縮まる思いだ。だが、次も勝たせてもらうぞ」

 

「抜かせ。次こそ俺の教え子達が勝たせてもらう」

 

そう言葉を交わした2人は握手を交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「引き上げるぞ。全員、速やかに作業に入れ」

 

ベンチへと戻ってきた選手達を出迎えた上杉は選手達にそう指示を出した。悔しさを噛みしめながら粛々と荷物を纏めた選手達はベンチを後にしていく。

 

「全員、顔を上げろ」

 

悔しさから下を向いてコートを後にしようとする選手達。その中で空がそう声を出した。

 

「情けねえ姿は見せるな。堂々とコートを去るぞ」

 

顔を上げ、胸を張って前を歩く空。

 

『…っ』

 

その空の声を聞いた花月の選手達は顔を上げ、堂々と空の後に続いて歩いて行った。

 

『惜しかったぞ!』

 

『冬も楽しみにしてるからな!』

 

『今度こそ優勝しろよ!』

 

その堂々した花月の選手達を見た観客から惜しみない声援と拍手が贈られた。その声援と拍手を背に、花月の選手達はコートを後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃんの言ったとおり、最後は洛山が勝ったね」

 

コートを去っていく花月と洛山の選手達を見つめながら桃井がそう呟いた。

 

「珍しいな黄瀬。お前の事だから花月びいきで見てたんだろ? てっきり、愚痴の1つでも零すと思ってたんだがな」

 

青峰が頭の後ろで両手を組みながら視線を向けた。

 

「…もちろん、赤司っちには悪いッスけど、花月に勝ってほしかったッスよ? 何と言っても、俺達に勝ったんスから」

 

溜息を吐きながらそう言う黄瀬。

 

「けど、今日の赤司っち…いや、洛山を見て、仮に俺達が戦ってたとしても、正直、勝てる自信がないッス」

 

「「…」」

 

「海常に入って、練習試合で黒子っちと火神っちのいる誠凛に負けて、皆と力を合わせて戦う事の大切さを知ったつもりだったッスけど、それでも何処かで、俺がしっかりすれば試合に勝てるって思ってた。けど、今日の試合で洛山の皆は最高のコンビネーションで花月に勝った」

 

「「…」」

 

「最後に見せたあのパスワークは、俺1人がどれだけ頑張って止められない。チーム全体が噛み合って実現出来る究極のパスワークッス。多分、あれがチームプレーの理想的な姿。うちのチームであれを実現出来るかって言われると正直…」

 

そこで黄瀬は肩を竦めながら言葉を止めた。

 

「…ハッ! 俺なら1人で点なんざ取れるし、あんなチマチマしたパスなんざ止めてやるよ」

 

「大ちゃん…」

 

青峰が不敵に笑うと、桃井が優しく笑みを浮かべた。

 

「青峰っちは相変わらずッスね。…それより花月は立ち直れるんスかね」

 

黄瀬が青峰の言葉に苦笑すると、神妙な表情でコートを去っていく花月の選手達を見つめた。

 

「点差は3点だけど、内容は完敗もいい所ッス。今日の負けはミスで負けたとか、次やれば勝てるって言える負け方じゃない。それは直接やり合った本人達が一番理解してるはず。時間が経てば経つほど身に染みて実感してくる」

 

「きーちゃん…」

 

「冬はどうなる事やら…」

 

「それこそいらねえ心配だろが」

 

そんな黄瀬の懸念を青峰が一蹴する。

 

「ここで凹んだまま立ち直れねえようなやわな連中じゃねえよ。奴らの負けず嫌い加減はあのテツ以上だからな」

 

昨年の冬の敗北を経て、どれだけ成長したかは青峰自身が理解しており、余計な心配だと言う。

 

「人の心配する前にまずはてめえの心配でもしたらどうだ?」

 

「分かってるッスよ! 青峰っちこそ、冬までにきっちり足完治させるんスよ? 怪我で力を出せなくて負けたとか言い訳にならないスからね」

 

「余計なお世話だボケ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あぁ、ちくしょう…」

 

コートのあるフロアから通路へと入ると、空が嗚咽のように言葉を漏らす。

 

「全力を尽くした。それでも届かなかった…」

 

「…」

 

そんな空を無言で見つめる大地。

 

「もっと…、強くなりてぇ…」

 

そう漏らしながら空は涙を流した。

 

「空…」

 

そんな空の姿を見た大地が声を掛けようとすると…。

 

「強くなれるよ」

 

大地より先に姫川がそう声を掛けた。

 

「次は勝てるよ。だから、頑張ろう」

 

ふと見ると、空と同様に涙を流しながら姫川がエールを贈りながら励ましていた。

 

「(強く…、私ももっと強くならなければ。今度こそ、勝てるように…!)」

 

グッと涙を飲み込んだ大地は心中で決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『来たぞ! もう1つの準決勝、注目のカードだ!』

 

激闘を繰り広げた花月と洛山の選手達がコートを去ると、入れ替わりに誠凛と秀徳の選手達がコート入りした。

 

『同じ東京都、過去に何度も戦い合った強豪。こっちも目が離せないぜ!』

 

両校とも東京都の高校と言うこともあり、何度も試合をした経験があり、共に全国区のチームという事もあってか、認知度、注目度は高い。

 

「来たッスね。こっちも目が離せないッスよ!」

 

もう1つの準決勝が今まさに始まろうとしている中、黄瀬がテンションを上げる。

 

「テツ君とミドリンが高校に入学してからこれまで公式戦で試合したのは5回。結果は3勝1敗1引き分けで誠凛が勝ち越してる」

 

「誠凛と秀徳もそうだけど、何より火神っちと緑間っちの相性が悪いッスからね」

 

黄瀬の言葉通り、過去2年間、単純な戦力なら秀徳が優れているにも関わらず、誠凛との対戦成績は悪い。その理由として、秀徳がアーリーオフェンスをあまり得意としていないことと、緑間にとって火神の相性が悪いからだ。

 

「確か、予選じゃ誠凛が勝ってるんスよね?」

 

「うん。僅差ではあるけど勝ってるよ」

 

「となると、誠凛有利は否めないッスかね」

 

そう断言する黄瀬。

 

「…」

 

青峰は言葉を挟む事無くコートを見つめていた。

 

『来たぞ!』

 

コート上に両校のスタメンに選ばれた選手、各5人がベンチからセンターサークル内に向かって行った。

 

 

誠凛高校スターティングメンバー

 

 

4番PF:火神大我  194㎝

 

9番PG:新海輝靖  183㎝

 

10番SG:朝日奈大悟 185㎝

 

11番SF:池永良雄  193㎝

 

12番 C:田仲潤   192㎝

 

 

秀徳高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:緑間真太郎 197㎝

 

5番PG:高尾和成  178㎝

 

6番SG:斎藤宏   180㎝

 

7番 C:戸塚徳親  193㎝

 

8番PF:木村孝介  192㎝

 

 

スターティングメンバーの各5人がセンターサークル内に整列する。

 

「去年と違って今年の誠凛は長身選手が揃っている事が特徴だね」

 

桃井の言う通り、3番(スモールフォワード)から5番(センター)まで190㎝オーバーの選手が揃っており、1番(ポイントガード)新海、2番(シューティングガード)朝日奈にしてもそのポジションとしては大きめである。

 

「あれー、黒子っちベンチスタートッスか。誠凛は随分と余裕なんスね」

 

「バカか。テツが中学時代に何て呼ばれてたのか忘れたのか?」

 

「失礼ッスね。覚えてるに決まってるじゃないスか。幻のシックスマ……あぁ、そういう事ッスか」

 

青峰の物言いに一瞬唇を尖らせた黄瀬だったが、すぐにその意味が理解出来た。

 

「本来、テツはスタメンスタートさせるタイプじゃねえ。ミスディレクションは時間が経てば経つほど効果が薄くなる。何度も試合をすればそれは顕著になるからな」

 

黒子の特性をよく理解している青峰が解説する。

 

「スタメンの大半がいなくなった誠凛だけど、長身選手揃いなのは分かったスけど、実力はどうなんスか?」

 

「単純なテクニックと身体能力なら去年を上回ってるよ。去年まではかがみん以外は個人の特性を最大限生かしながら戦ってる感じだったけど、今年は多分、全てのポジションから真っ向勝負出来る選手が揃ってるよ」

 

「なるほど、黒子っちをシックスマンに置いて戦えるだけの戦力が揃ってるって訳スか…」

 

誠凛のスタメンの選手を見ながら黄瀬が呟く。いずれも全国の舞台でスタメンに立つに相応しい選手達である。

 

「秀徳は…、確か、緑間っちはスモールフォワードにコンバートしたんスよね?」

 

「うん。インターハイに入ってからは全ての試合でスモールフォワードで試合に出場してるわよ」

 

「…で、代わりに空いたポジションに入ったのが6番スか」

 

桃井に尋ねた後、黄瀬は視線を6番、斎藤に向けた。

 

「斎藤宏。去年まではミドリンのバックアップとしてベンチ入りしていたわ」

 

「…で、実力はどうなんスか?」

 

「秀徳内ではミドリンに次ぐシューターで、全中出場経験もあるから実力は確かだよ。多分、秀徳じゃなかったら大体のチームでスタメン入り出来るかも」

 

自身の調べたデータが載っているノートを開きながら説明する桃井。

 

「緑間っちがいるんじゃ、シューターは厳しいッスね」

 

苦笑しながら黄瀬が言う。

 

「それと戸塚君。同じく去年まではバックアップのセンターでベンチ入りしていて、今年からスタメンセンターに抜擢。身長はセンターとしてはそこまで大きい方ではないけど、とにかくフィジカルが強くて、多分だけど、去年のウチの主将の若松さんとも張り合えるかも」

 

「去年までの……あぁ、あの凄い声の大きい…、なら、相当ッスね」

 

記憶を巡らせ、行き着いた黄瀬は頷いた。

 

「情報を聞いただけじゃ結果は読めないッスね。…そうなってくると、双方のエース同士の対決。これを制した方が優勢になるけど…」

 

神妙な表情で黄瀬は火神と緑間に視線を向けた。

 

「やっぱり秀徳が不利なんスかねぇ…」

 

しみじみと結論付ける黄瀬。

 

「…どうだかな」

 

その時、青峰が口を挟んだ。

 

「昨日の試合を見た限り、黄瀬と緑間。どっちがやり辛いかと言われれば緑間だ」

 

「…むっ」

 

そう告げた青峰。それを聞いた黄瀬は少し眉を顰める。

 

「去年までならともかく、今年の緑間はちげー。もしかしたら火神は喰われるかもな」

 

意味深に青峰がそう言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『これより、誠凛高校対秀徳高校の試合を始めます。礼!』

 

『よろしくお願いします!!!』

 

審判の号令に合わせ、頭を下げる両チームの選手達。

 

「今日も勝たせてもらうぜ」

 

「勝つのは俺達だ」

 

両チームの主将の火神、緑間が火花を散らせながら握手を交わした。

 

「よろしくお願いします」

 

「…おう」

 

センターサークル内にジャンパーの田仲、戸塚だけが残り挨拶を交わす。残りの選手達はセンターサークルを中心に広がっていった。

 

「…」

 

審判がジャンパーの中心に立ち、双方に視線を向け、ボールを構える。そしてボールは高らかに上げられた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

ティップオフと同時にジャンパーの2人がボール目掛けて飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っし!」

 

「…くっ!」

 

先にボールを叩いたのは戸塚。戸塚がジャンプボールを制した。

 

「ナイス徳親!」

 

ボールは高尾の下に向かい、確保した。そのままドリブルを始めた。

 

「行かせないですよ」

 

スリーポイントライン目前で高尾の前に立ち塞がった新海。

 

「関係ねえな」

 

それでも高尾は強引に中へとドリブルで突き進む。

 

「…っ!」

 

強引に中へと切り込む高尾を身体を張って止める新海。

 

「なんてな♪」

 

ある程度中に切り込んだ所で高尾が後ろへとボールを弾ませた。そこへ、緑間が走り込み、ボールを掴んだ。

 

「緑間!」

 

同時に火神が緑間の前に回り込み、立ち塞がった。

 

「…」

 

「…」

 

スリーポイントラインの外側、右45度付近で睨み合う2人。2人が対峙する間に両チームの選手達が配置に付いた。

 

『来た来た! いきなりエース対決だ!』

 

両チームのエース同士のぶつかり合いに注目を集める観客達。

 

「(ポジションが変わってもこいつの武器は変わらねえ。スリーの体勢に入ったら即座に叩き落してやる!)」

 

緑間の代名詞であるスリーを要警戒した火神。

 

「…」

 

トリプルスレッドの体勢でボールを構える緑間。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、緑間はスリーを打つでもドリブルを仕掛けるでもなく、高尾にボールを戻した。

 

「(緑間が勝負もせずに逃げた?)」

 

この行動に火神は面を食らう。

 

『なんだよ、勝負しないのかよ…』

 

この行動に観客からガッカリとした言葉が飛び出る。しかし…。

 

「っ!?」

 

緑間はパスと同時に中へと走った。これに火神は意表を突かれるも即座に緑間を追いかけた。

 

「へい!」

 

ハイポストに立った緑間はボールを要求。

 

「ほらよ真ちゃん!」

 

その緑間に躊躇わず高尾がリターンパスを出した。

 

「行くぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

自身の背中に立つ火神に告げると、背中をぶつけながらドリブルを始めた。

 

「なっ!?」

 

これには火神の口から思わず声が出た。

 

「いつか来るとは思ってたけど、いきなりとはね」

 

ベンチのリコが声を上げる。スリーが代名詞のはずの緑間が外からではなく中、それもポストアップを仕掛けてきた。事前情報はあったが、それでも驚きは隠せなかった。

 

 

「うは! マジすか…!」

 

観客席の黄瀬も同様の反応であった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ジリジリと背中をぶつけながらゴール下へと押し込むようにドリブルをする緑間。

 

「…っ!」

 

必死に歯を食いしばって侵入を阻止しようとする火神だったが、少しずつ押し込まれていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

1度背中をぶつけると、一瞬、火神が僅かによろけた。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

その瞬間、ボールを掴んだ緑間がやや後方にターンをし、シュート体勢に入った。

 

「くそっ!」

 

慌ててブロックに飛ぶ火神。だが、緑間は後方にブロックを避けるように飛んでいた為、追い付けず。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ブロックを避けるようにフェイダウェイで放った緑間のシュートはリングを潜り抜けた。

 

『早速秀徳が先制点を決めて来た!』

 

 

誠凛 0

秀徳 2

 

 

「…ちっ!」

 

「何を驚いている。こんなもの、バスケの基本のプレーに過ぎないのだよ」

 

睨み付ける火神に対し、緑間は淡々と告げ、ディフェンスに戻っていった。

 

『…っ』

 

いきなりかつての緑間にはなかったプレーを見せつけられ、動揺する誠凛の選手達。

 

「(予選の決勝リーグじゃ、ポジションこそスモールフォワードだったが、プレーは以前より中に切り込む回数が増えたくらいだった。…なるほど、今日は前とは違うって事かよ…!)」

 

以前との緑間との変化に戸惑う火神。

 

「分かってた事だろが! とっとと取り返そうぜ!」

 

緑間のプレーに飲まれそうになる自分と周りに苛立った池永が声を上げる。

 

「ハッ! お前に言われるまでもねえよ」

 

「分かってる」

 

火神は鼻で一笑し、新海は池永に言われたくないとばかりに舌打ちをした。

 

「頼むぜ」

 

「任せろ」

 

スローワーとなった田仲からボールを受け取った新海がボールを運び始めた。

 

「ゾーンディフェンスか…」

 

新海がポツリと呟く。

 

秀徳はマンツーマンディフェンスではなく、2-3のゾーンディフェンスを敷いてきた。誠凛にスリーに特化した選手がいない事を見越しての選択。

 

『火神に渡せ! やり返せ!』

 

観客から火神と緑間の勝負を期待する声が飛ぶ。

 

「期待されてるわね。火神君もやり返したいだろうけど、最初はここよ」

 

リコがそう言うのと同時に新海がパスを出した。パスの先はハイポストに立った朝日奈。その背中に戸塚が立った。

 

「こっちも行かせてもらうよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言と同時に朝日奈がドリブルを始め、戸塚を押し込み始めた。

 

『おいおい、誠凛もやり返す気か!?』

 

先程の緑間の意趣返しとばかりにポストアップを始めた朝日奈に観客が声を上げた。

 

「朝日奈君は高校に入ってからシューティングガードにコンバートしたけど、中学時代はパワーフォワード。この手のプレーはむしろ十八番よ」

 

フフンと笑みを浮かべながら呟くリコ。

 

「…くっ!」

 

そこまで身長とパワーがない斎藤。踏ん張って侵入を防ごうとするもみるみる押し込まれてしまう。

 

「…ちっ」

 

「させるか!」

 

それを見て木村と戸塚が朝日奈を囲いにかかる。

 

「(来た!)」

 

それを見た朝日奈は新海にボールを戻す。ボールを受け取った新海はすぐさまゴール下にボールを投げるように放る。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ゴール下に走り込んだ田仲がボールを掴み、そのままゴール下から得点を決めた。

 

 

誠凛 2

秀徳 2

 

 

『鮮やかな連携! 全国優勝メンバーが抜けても今年の誠凛はやるぜ!』

 

中→外→中とパスを繋いでの得点に唸る観客。

 

「ま、そのくらいやってくれないと張り合いがないってもんだぜ。だよな、真ちゃん?」

 

「当然なのだよ」

 

ボールを運ぶ高尾が緑間に問うと、緑間は問答無用とばかりに返事をした。

 

「そんじゃ、こっちも行くぜ!」

 

フロントコートまでボールを運んだ高尾がハイポストに立った木村にパスを出した。ボールを受けた木村も即座にパス。目まぐるしく絶えずボールを動かし続ける秀徳。

 

『っ!?』

 

ショットクロックが残り10秒となった所で右サイド、スリーポイントラインから1メートル程離れた所に立った緑間にボールが渡った。ボールを掴んだ緑間は即座にスリーの体勢に入った。

 

「(来たか! だが、ここからなら追い付ける!)」

 

フリーでボールが渡るも火神とさほど距離は離れておらず、この位置からならブロックに間に合うと踏んだ火神。すぐさま距離を詰めてブロックに飛んだ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ブロックに間に合うと踏んでいた火神の目が見開いた。火神がブロックに来るより早くリリースしたからだ。

 

「(バカな!? 速過ぎる!?)」

 

今の緑間のリリーススピードは過去に対戦時のリリーススピードとは比較にならない程速かった。それこそ、桐皇の桜井、いや…。

 

「(花月の綾瀬並のリリーススピード…!)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

 

誠凛 2

秀徳 5

 

 

「ナイッシュー真ちゃん」

 

駆け寄った高尾が緑間の腰を叩きながら労った。

 

「シュート体勢に入ってから打つまでがメチャメチャ速くなかったか?」

 

ベンチの降旗が思わず声を出した。

 

「リリーススピードだけではありません。今のスリー、ループの高さもいつもと違いました」

 

「っ!? そう言えば…」

 

黒子に言われて気付いた。緑間のスリーの特徴は高弾道で放たれる事によってループの高さが異常である事。だが、今のスリーのループの高さは一般的なスリーのループの高さと同じであった。

 

「俺だけ何も変わっていないとでも思ったのか? 考えが甘いのだよ」

 

「っ!?」

 

そう緑間が言い放ち、思わず振り返る火神。

 

「敗北を糧に今日まで俺は人事を尽くしてきた。故にもう俺達は負けん!」

 

鋭い目付きで緑間が宣言する緑間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――新たに進化した緑間真太郎が、誠凛の前に立ち塞がった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





決勝をかけたもう1つの対戦カードである誠凛対秀徳。こちらも大雑把ながらやってきたいと思います。

すみません、ここで1つ謝罪と釈明をさせていただきます。この第146Qを読んだ方は多分気付いたかもしれませんが、緑間のクイックリリースのスリーに関して、別作品を投稿されている方とネタ被りしてしまいました。止めるか変えるかするかを考えたのですが、緑間の進化を考えた時、行き着く先がそこしかなく、これがないと緑間がキセキの世代の中で精神面以外で成長が窺えないと言う事と、テクニックそのものは従来のバスケに基づくテクニックであり、現実のプレーヤーでも行っている選手がいるものである為、修正なしでこのままにしました。苦しい言い訳になりますが、断じてパクリではなく、投稿しようとしたネタを先出しされてしまっただけなので、そこのところ、ご容赦ください。

と、新年早々申し訳ございません…m(_ _)m

今年も自身の二次作品をよろしくお願いします!

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第147Q~チーム~


投稿します!

大雑把に誠凛対秀徳をお届けします…(^_^)/

それではどうぞ!



 

 

 

「…ちっ!」

 

シュート体勢に入ろうとしている緑間に対し、火神が慌てて距離を詰め、ブロックに飛んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、緑間は火神がブロックに現れるとシュートを中断、ドリブルに切り替えて中へと切り込んだ。

 

「くそっ!」

 

フェイクにかかった火神は思わず悪態を吐いた。

 

「…っ! 緑間先輩!」

 

直後、ヘルプに飛び出した池永が緑間の前に立ち塞がる。

 

 

――スッ…。

 

 

同時に緑間は急停止。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(ロッカーモーション!?)…くっ!」

 

すぐさま再加速。緩急で池永を抜きさった。池永を抜きさった緑間はそのままドリブル。ハイポスト付近で止まり、ボールを掴んだ。

 

「…くっ、おぉっ!!!」

 

これを見た田仲は打たれる前にと飛び出し、ブロックに飛んだ。だが、緑間はシュートを打たず、田仲の足元にボールを弾ませるようにパスを出した。

 

「だらぁっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ゴール下でボールを受け取った戸塚はそこからボースハンドダンクでボールをリングに叩きこんだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

「ナイスパス緑間!」

 

ダンクを決めた戸塚が緑間を労う。

 

 

第1Q、残り5分4秒

 

 

誠凛 6

秀徳 13

 

 

第1Qがもうすぐ半分が過ぎようとしている。試合は秀徳ペースで進んでいた。

 

「(くそっ! 的が絞れねえ!)」

 

緑間をマークする火神は大いに苦しんでいた。

 

「嘘だろ…、火神にとって緑間は相性が良い相手のはずなのに…」

 

劣勢を強いられている火神を見てベンチの河原が表情を強張らせる。

 

「確かに、河原君の言う通り、緑間君にとって火神君は最悪の相性だったわ。事実、そのおかげでうちは今日まで秀徳相手に勝ち越しが出来ていた」

 

『…』

 

「けどそれは、緑間君の高身長から放たれる高弾道のスリーを火神君がブロック出来たことと、緑間君が狂信的にスリーにこだわっていたからよ」

 

打点が高い緑間が最高到達点放ったスリーをブロックが出来るのは確認出来ているだけでも火神のみ。故に、緑間にとって火神は相性の悪い相手であった。

 

「例えパスを捌くようになっても、プレーの中心がスリーであった緑間君だったから火神君は過去の試合において優勢に進められた。けど、今日の緑間君は違う。積極的に中に切り込む上、中から積極的に点を取りに行っているわ」

 

リコの言う通り、ここまで緑間の得点の内訳はスリーが1本。後は中から得点かアシストであった。

 

「けど! 火神はあの青峰のドリブルだってある程度止めてるんですよ? いくら中でのプレーが増えたと言っても止められないものなんですか?」

 

全国屈指のアジリティとスピード。予測の出来ないプレーをする青峰を引き合いに出して福田が尋ねた。

 

「確かに、緑間君のドリブル技術は黄瀬君やそれこそ青峰君に比べればそこまで脅威ではないわ。火神君なら容易くとは言わないまでも止められない事はないわ」

 

「だったら…!」

 

「それが出来ない為の布石は最初の2つのプレーで打たれているのよ」

 

「…どういう事ですか?」

 

その意味を理解出来なかった夜木が聞き返す。

 

「緑間君の最初のオフェンスで中からのプレーがあることとそれが付け焼き刃ではなく、熟練されたものである事を印象付けた。次のオフェンスではのクイックリリースでのスリー。この2つの得点のせいで火神君がディフェンスで的を絞れないのよ」

 

緑間のスリーは言わずと知れた、打たれればボールに触れれない限りまず決められてしまう。その為、シュート体勢に入ったら即座にチェックに向かわなければならない。だが、ドリブル技術も黄瀬や青峰程ではないにしてもそれでも全国トップレベルであり、インサイドでのプレー技術も同様である為、火神は狙いを絞れず、翻弄されてしまっているのだ。

 

「容易く行けるなんて露程も思ってなかったけど、これは予想外ね。正直、ドリブルもインサイドでのプレーもスリーをより打ちやすくする為のものだと思ってたから。緑間君がここまでスリーのこだわりを捨てたとなると、火神君1人では止められないかもしれないわ」

 

顎に手を当て、神妙な表情で呟くリコ。

 

「…黒子君、予定では出番はもう少し後のつもりだったけど、早まるかもしれないわ。いつでも行ける準備はしておいて」

 

「分かりました」

 

そう指示を出された黒子はベンチを立ち上がり、準備を始めた。

 

「(とは言え、このままただ黒子君を試合に出す事だけは避けたいわ。これでは引きずり出されただけ。試合に出すにしても何かきっかけがほしいわ。何か良いきっかけが…)」

 

コートに視線を移したリコは何かヒントはないかと探し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ボールを運ぶ新海。秀徳はゾーンディフェンスで中を固めていた。

 

「…っ」

 

外でボールを掴んだ火神だったが、目の前の緑間のディフェンスに攻めあぐね、ボールを新海に戻した。

 

「俺にくれ! 俺が決めてやる!」

 

逆サイドに立つ池永が痺れを切らしてボールを要求した。

 

「…」

 

少し考えた後、新海は池永にパスを出した。

 

「行くぜ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

宣言と同時に加速。ドライブで目の前の木村の横を一気に駆け抜けた。

 

「おらぁ!」

 

中へと切り込んだ池永はボールを右手で掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「調子にのんなよおらぁ!!!」

 

決めさすまいと戸塚がブロックに現れた。

 

「どけぇっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んで来た戸塚の上からリングにワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『誠凛には火神以外にもあんな奴もいるのか!?』

 

派手なダンクを見た観客が沸き上がった。

 

 

誠凛 8

秀徳 13

 

 

「たりめえだ。帝光中の元エースで、誠凛の影のエースは俺だぜ」

 

歓声を受けてドヤ顔で言う池永。

 

「良く決めた池永。…だが、くれぐれも1人でやれるなんて考えんなよ。また去年みたいに勝手なプレー繰り返したらベンチに下げるからな」

 

「わーってるよ! 俺だっていつまでも同じじゃねえんだよ」

 

調子に乗らないように褒めつつも釘を刺す火神に、鬱陶しがりながらも素直に聞き分けた池永だった。

 

「…ちっ、伊達に帝光中でレギュラーを張ってた訳じゃないって事か…」

 

あっさり中に切り込まれた木村が悔しがる。

 

「去年は自分勝手な性格でチームの足引っ張ってたけどよ、それでもテクニックは相当だった。油断すんなよ」

 

「はい! すいません!」

 

油断禁物と高尾が木村の横っ腹に拳を突きながら注意を促すと、木村は頭を下げながら謝罪をした。

 

「派手に決めてくれちゃってよ…」

 

ボールを運ぶ高尾。平静を装っていたが、それでも目の前で派手なダンクを決められた事が癪に障っていた。その時、木村が火神にスクリーンをかけ、緑間が動き出した。

 

「やり返してやれよ真ちゃん!」

 

高尾がパスを出す。

 

「こんなんでフリーにさせっかよ!」

 

木村のスクリーンをかわした火神が緑間を追いかけた。

 

「なんてな♪」

 

だが、高尾は緑間へのパスを中断。逆サイドの斎藤にノールックビハインドパスを出した。

 

「よし!」

 

ボールを掴んだ斎藤。スリーポイントラインの少し後ろの位置からシュート体勢に入った。

 

「ちっ」

 

意表を突かれ、斎藤のマークを外してしまった朝日奈が慌ててチェックに向かった。しかし、紙一重で朝日奈のブロックは間に合わなかった。

 

 

――ガン!!!

 

 

だが、ボールはリングに嫌われ、弾かれた。

 

 

「さっきの派手なダンクを意識し過ぎたのか、力んだッスね」

 

シュートフォームから身体に余計な力が入っていた事を見抜いた黄瀬が呟いた。

 

 

『リバウンド!』

 

各ベンチから指示が出る。

 

「よし!」

 

リバウンドボールを田仲が抑える。

 

「速攻!」

 

ボールを新海に渡し、新海がそう声を出し、誠凛の選手達は速攻に駆け上がった。

 

「っと、行かせねえよ」

 

スリーポイントライン僅か手前で高尾が新海を捉え、立ち塞がり、新海は足を止めた。その間に秀徳の選手達はディフェンスに戻り、ディフェンス態勢を整えた。

 

『秀徳はゾーンディフェンスを組んでるから中が固い。外がない誠凛はキツイぞ』

 

観客席からそんな声がチラホラ飛び交う。昨年時までは日向鉄平と言う、強力なシューターがいたが、今年の誠凛にはシューターがいない。その為、ディフェンスを外に広げられない。

 

「外がない? 甘いわね」

 

リコがそう呟くと、新海が右45度付近スリーポイントラインの外側に立っていた朝日奈にパスを出した。

 

「っ!?」

 

ボールを掴んだ朝日奈はすぐさまそこからスリーを放った。外の警戒を緩めていた斎藤はそれを目を見開きながら見送った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたスリーはリングを潜り抜けた。

 

 

誠凛 11

秀徳 13

 

 

「っしゃ!」

 

スリーを決めた朝日奈は拳を握りながら喜びを露にした。

 

「コンバートするにあたって朝日奈君には練習後にスリー300本をノルマに課したわ。さすがに日向君程とまでとはいかないけど、今では武器と呼べるレベルまでになっているわ」

 

フフンと笑みを浮かべるリコ。

 

「…くそっ」

 

悔しがる斎藤。

 

「ドンマイ! 取り返そうぜ!」

 

高尾がそう声を出し、ボールを運ぶ。フロントコートまでボールを運ぶと、右45度付近のスリーポイントラインの外側に立つ斎藤にパスを出した。

 

「今度こそ!」

 

願いを込めてスリーを放った。

 

「…っ」

 

放たれたボールの軌道を見て緑間が眉をひそめる。

 

 

――ガン!!!

 

 

「…あっ」

 

しかし、願いは叶わず、ボールはリングに嫌われた。

 

 

「雑念が入り過ぎた。対抗しようと打ったスリーなんざ緑間でもねえ限り入らねえ」

 

欠伸をしながら青峰が呟く。

 

 

『…っ』

 

ゴール下では火神、田仲、池永。緑間、戸塚、木村がリバウンドに備える。

 

「(ぐっ! こいつ、去年までガードプレーヤーだったはずなのに、スクリーンアウトが上手ぇ!?)」

 

良いポジションを取ろうとする火神だったが、緑間が抜群の身体の使い方でポジションをキープし、許さない。

 

「おぉっ!!!」

 

リバウンドボールを緑間が強引に確保した。着地と同時に即座に斎藤にアウトレットパスを出した。

 

「…っ」

 

ボールをフリーで掴んだ斎藤だったが、先程外したスリーが頭にチラつき、躊躇う。

 

「打て!」

 

緑間が叫ぶと、斎藤は再度スリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

今度は的確にリングを射抜いた。

 

 

誠凛 11

秀徳 16

 

 

「決まった…」

 

今度こそ決まり、胸を撫で下ろす斎藤。

 

「外れたらなどと考えなくていい。俺が何度でもボールを拾ってやる。だから躊躇わず打てばいいのだよ」

 

そう言って斎藤の肩を叩きながら緑間が励ました。

 

「真ちゃんはお前の事、信頼してるんだぜ? 言ってたぜ、スモールフォワードへのコンバートに踏み切れたのはお前がいたからだってな」

 

「高尾…」

 

「ガンガン打ってけよ。馬鹿みたいにスリー決めまくる真ちゃんが異常過ぎるだけなんだから、別に外したって何とも思わねえからよ」

 

肩に手を置きながら斎藤を励まし、高尾はディフェンスに戻っていった。

 

「緑間…、高尾…」

 

中学時代は県でも指折りのシューターとして鳴らしていた斎藤。当時、シューターが弱かった秀徳で一花咲かせる為に入学したものの、緑間という天才が同時に入学してしまったが為に控えに甘んじていた。3年になり、緑間がコンバートした為、後釜としてスタメンに収まったものの、コンプレックスを抱いていた。だが、今の言葉を聞き、斎藤の中にあったモヤモヤはなくなった。

 

「よし!」

 

斎藤は気合いを入れ直したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あれならもう大丈夫そうだな」

 

「ふん。俺はあんな事は言った覚えはない」

 

緑間に並んだ高尾が斎藤の様子を聞かせると、緑間は鼻を鳴らしながら返した。

 

「良いじゃねえか。事実だろ?」

 

ニヤニヤしながら尋ね返す高尾。

 

「…フン」

 

緑間はただ鼻を鳴らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

スランプに陥りそうだった斎藤が緑間と高尾の言葉で立ち直った。ここからさらに秀徳がペースを握るかと思われたが…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ここから誠凛のスリーが決まり始める。朝日奈だけでなく、池永も続けてスリーを決める。この事から、秀徳はゾーンディフェンスを外に広げざるを得ず…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ」

 

火神が緑間を抜きさり、着後にジャンプショットを決めた。

 

外から中からと決め、リズム良く誠凛が得点を重ねる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「くそっ!」

 

一方、秀徳も緑間が火神を翻弄。立て続けに得点、または起点となって得点を重ねる。

 

チーム全体で得点を重ねる誠凛と、緑間を中心に得点を重ねる秀徳。試合は序盤の秀徳ペースから互角の様相を呈した。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

誠凛 21

秀徳 25

 

 

選手達がベンチへと下がっていった。

 

 

「4点差。点差だけ見ればそこまで差はないッスね」

 

「だが、秀徳ペースだ。今は上手くスリーが決まってるが、それは流れが来てるからに過ぎねえ。途切れれば、入らなくなる。そうなれば、さらに点差は開く」

 

最初の10分を振り返る黄瀬と青峰。

 

「問題は、火神っちと緑間っちッスね。今の所、火神っちはほとんど対応出来てない。火神っちが緑間っちを止められない限り、点差は開き続けるだけッスね」

 

「なら、秀徳有利?」

 

2人の解説を聞いて尋ねる桃井。

 

「ああ。…だが、誠凛はまだテツを出してねえ」

 

「そうッスね。黒子っちが出れば流れは確実に変わる。誠凛にもチャンスはあるッスよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まり、誠凛ボールでスタート。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

新海が隙を付いて自ら決め、最初の攻撃を成功させた。続いて、秀徳のオフェンス。

 

「…」

 

高尾が緑間にパスを出すと、火神がディフェンスに入った。

 

「(読み合いでは緑間に勝てねえ。だったら…)スー…フー…」

 

第1Qでは後手後手となり、緑間にやられ続けた火神。大きく深呼吸をすると、四肢の力を抜き、自然体の構えを取った。

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かしながらチャンスを窺う緑間。

 

 

――スッ…。

 

 

突如として、緑間がシュート体勢に入った。

 

「…っ!」

 

これに火神が反応し、ボールに右手を伸ばす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかしこれはフェイク。ボールを頭上にリフトさせると、緑間はドライブで切り込んだ。

 

『抜いたか!?』

 

「っ!?」

 

だが、火神も同時に緑間を追いかけ、並走する。

 

「…っ!」

 

中に切り込んだ直後、緑間がボールを掴み、僅かに左方向へとステップバック。火神と距離を空けた。

 

「…ちっ!」

 

距離を取られた火神はすぐにその空いた距離を詰める。だが、緑間のその前にシュート態勢に入った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フェイダウェイで後ろに飛びながらクイックリリースで放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

『うおー! あんなプレーまであるのか!』

 

「くそっ!」

 

ブロック出来ず、悔しがる火神。

 

「だが、今のは結構危なかったぞ。真ちゃんの動きに追い付いてた」

 

何とか得点に繋げたものの、紙一重であった事に驚く高尾。

 

「なるほど、野生か」

 

緑間がそう呟いたのだった。

 

 

「何とかしろよ。お前が緑間先輩止めなきゃ話にならねえだろうが」

 

「うるせぇ黙ってろ。あと少しで…」

 

文句を言う池永を遮り、さらに集中を高める火神。

 

 

続くオフェンス。新海は火神へとボールを託した。

 

「…行くぜ」

 

そう目の前の緑間に告げると、火神が動いた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、切り込む。

 

「…っ、甘い!」

 

緑間もこれに対応。火神に並走しながら追いかける。

 

 

――スッ…。

 

 

直後、火神はボールを掴んでターンアラウンドし、シュート体勢に入った。

 

「…っ!?」

 

ブロックに向かった緑間。火神のシュートコースを塞いだのだが…。

 

「(くそっ!)」

 

後に飛んだはずの緑間が先に床へと落ちていく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

障害がなくなったと同時に火神はボールをリリースし、ジャンプショットを決めた。

 

『うおー! 何だ今の!?』

 

『いつまで飛んでんだよ!?』

 

その長い滞空時間に観客がどよめいた。

 

「ここからだぜ。覚悟しな」

 

緑間に振り返り、宣言する火神。

 

「面白い」

 

眼鏡のブリッジを押し上げながら緑間はただそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ここから試合は両チームの主将、火神と緑間によるエース対決が繰り広げられる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

火神が決めれば…。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

緑間が決め返す。一進一退の試合展開となった。

 

 

誠凛 27

秀徳 31

 

 

「互角ッスね」

 

「あぁ」

 

火神はそのジャンプ力と勝るフィジカルを駆使し、ガンガンボールを叩き込み、緑間はドリブル、ターンなど、バリエーションを駆使して攻め立てている。

 

「これは、このエース対決を制した方が流れを持っていきそうッスね」

 

 

「緑間!」

 

「火神!」

 

両者共に退くことなくぶつかり合い、均衡を保っている。エース対決が始まって3分程が経過したその時、その均衡が揺れ動いた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

火神が緑間の横を抜け、そのままリングに向かって飛んだ。

 

「まだなのだよ!」

 

懸命に火神の後ろから腕を伸ばし、ダンクを阻む。

 

「らぁっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

そんな緑間のブロックを弾き飛ばしながら火神はボールをリングに叩きつけた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、バスケットカウント・ワンスロー!』

 

審判が笛を吹き、ディフェンスファールがコールされ、フリースローが与えられた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

値千金の豪快なダンクに観客が大歓声。

 

「っしゃ!」

 

決めた火神は拳を握りながら喜びを露にした。

 

「…っ」

 

緑間は歯を食い縛りながら立ち上がった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

与えられたフリースローを火神が落ち着いて決め、3点プレーを成功させた。

 

「よし!」

 

フリースローを決めた火神は拳を握りながらディフェンスへと戻っていった。

 

 

「今の良い1発ッスよ。流れを変えるには充分――」

 

誠凛に流れが傾くと黄瀬が言おうとしたその時…。

 

 

「何を得意げな顔をしているのだよ。流れが変わるとでも思ったか?」

 

『っ!?』

 

その時、誠凛の選手達の目に移ったのは、自陣のリングの下でボールを構える緑間の姿。

 

「もう忘れたのか? 俺のシュートエリアを」

 

「しまっ――」

 

火神が振り返った時には既に遅く、緑間はシュート態勢に入り、大きなループを描くように高い軌道でボールを放っていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングに触れる事無くリングを通り抜けた。

 

『…』

 

静まり返る会場。

 

『おっ…』

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

静まり返った会場が再び大歓声。先程の火神のダンクを上回る大歓声が会場を包み込んだ。

 

「そう簡単に流れは渡さん。勝つのは秀徳(俺達)だ」

 

緑間は、誠凛の選手達に向けて言い放ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ベンチで試合の様相を顎に手を当てながら見守っていたリコ。

 

「……黒子君。準備は出来てるわね」

 

「はい。いつでも行けます」

 

指名された黒子が返事をした。

 

「時計が止まったら投入するわ。頼むわよ」

 

「はい、任せて下さい」

 

リストバンドを腕に巻きながら黒子が立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…来たか」

 

オフィシャルテーブルに向かう黒子を見ながら呟く青峰。

 

「遂に真打登場ッスね。黒子っちの投入で変わらなかった流れは変わる」

 

期待を込めた視線を黒子に贈る黄瀬。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 白(誠凛)!!!」

 

ボールデッドと同時にメンバーチェンジがコールされた。

 

 

OUT 池永

 

IN  黒子

 

 

「俺かよ!? …ちぇっ、黒子先輩、頼みます」

 

「任せて下さい」

 

交代を命じられてへそを曲げる池永だったが、黒子に声を掛けて渋々ベンチへと下がった。

 

「池永君。集中を切らさないでよ。まだあなたには試合に出てもらうつもりなんだから」

 

「わーってますよ。これで終わりじゃシャレになんないからな」

 

「任せたわよ、黒子君」

 

リコは黒子に期待を込めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「すまねえ黒子。引きずり出される形でお前を出させちまった」

 

緑間を止められず、その不甲斐なさから火神が黒子に謝った。

 

「今日の緑間君は僕の知る彼とは大きくかけ離れていました。そんな緑間君相手にここまで健闘してくれた火神君が謝る必要はありませんよ」

 

謝る火神を制する黒子。

 

「倒しましょう2人で緑間君を。勝ちましょう、皆で」

 

『おう(はい)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

黒子がコートに入り、試合が再開される。

 

「秀徳のディフェンスが変わった」

 

「やっぱりそう来たわね」

 

ディフェンスの変化に気付いた池永。リコは予想していたのか、頷いていた。

 

「よう。やっとコートで会えたな」

 

「よろしくお願いします」

 

黒子の前に立って挨拶する高尾とそれに応える黒子。

 

「ボックスワン…!」

 

降旗が声を上げた。

 

高尾が黒子にマンツーマンでマークし、他の4人はゾーンディフェンスを組んだ。

 

ホークアイでミスディレクションで姿を見失う事無くマークが出来る高尾を黒子に付け、他の4人は中を固めた秀徳。

 

「…」

 

高尾の顔を覗きながら機会を窺う黒子。機を見て黒子が動いた。

 

「何度も試合してんだ。逃がしは――っ!?」

 

黒子の後を追おうとした高尾だったが、何かにぶつかり、阻まれた。

 

「さすがに黒子先輩の姿を追いながらスクリーンに気を配るのは無理みたいですね」

 

身体を張って高尾を食い止めながら言い放つ朝日奈。

 

「何度も試合してるのよ。対策は万全よ!」

 

したり顔でリコが言う。

 

黒子のマークに有効な高尾。その対策としてリコが用意したのは、高尾にスクリーンをかける事だった。如何にコート全体が見えるホークアイを持っていても、影の薄い黒子を追うとなるとその瞬間は黒子に集中しなければならない。そうなれば他の者の警戒は緩くならざるを得ない。

 

新海からパスを受けた黒子はタップで軌道を変え、ゴール下の田仲にパスを通した。

 

 

――バス!!!

 

 

田仲は落ち着いてゴール下から得点を決めた。

 

『出た! 誠凛の魔法のパス!』

 

新海から黒子。そこから田仲に中継し、得点に繋げた。

 

「…っ」

 

黒子にパスを中継させてしまい、悔しがる高尾。

 

「黒子…!」

 

そんな黒子を忌々しく睨み付ける緑間。

 

「ここからです。最後の夏ですので、そう簡単には譲れません」

 

2人に向けて、黒子が言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qに入り、エース対決が始まるも、均衡は崩れる事はなかった。

 

誠凛は遂に切り札である幻のシックスマン、黒子テツヤを投入。

 

試合は、新たな局面に突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





イマイチオリキャラを活躍させられんな…(;^ω^)

正直、困っている事が2つ。1つ目はこの試合の結末です。当初は決めていたのですが、この緑間を見ていると、勝たせてあげたいんですよね~(>_<)

もう1つは、緑間のゾーンはどうしたらいいのか…(T_T)

スリーは既に完成してるし、これ以上パワーアップさせるともうチートだし…(-_-;)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第148Q~止まらない~


投稿します!

緑間の扱いに四苦八苦しています…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

「誠凛対秀徳。どないなってんやろ」

 

「ちょうど第4Qが始まったくらいかな」

 

通路を歩きながら会話をする天野と生嶋。

 

先程まで洛山と決勝進出をかけて激闘を行っていた花月の選手達。控室でのミーティングを終え、もう1つの準決勝を見に観客席に向かっていた。

 

「ま、今となっちゃ、どっちが勝っても関係ないな。気になるのはどれだけ強いかだ」

 

「空…」

 

勝敗に興味なさ気の空。そんな空に苦笑する大地。空の目は赤く。先程まで涙にくれていた事が窺い知れる。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

観客席に到着すると、コートは大歓声に包まれていた。

 

「盛り上がってるみたいですね。点差は…」

 

得点が表示されている電光掲示板に竜崎が視線を向ける。

 

 

第4Q、残り8分45秒。

 

 

誠凛 74

秀徳 75

 

 

「よし!」

 

コート上では緑間が拳を握り、喜びを露にしている姿から、緑間が得点を決めた事が理解出来た。

 

「互角やな」

 

「…両者の今年の戦力から、誠凛有利かと思ったが…」

 

高さがあり、個人の実力も火神を始めとして高く、更に黒子と言う切り札がある誠凛が有利と見ていた松永はこの結果に少なからず驚いていた。

 

「よう」

 

その時、空に話しかける人物がいた。

 

「お前、小牧か?」

 

「おう。今日は惜しかったな」

 

話しかけたのは海常の小牧だった。

 

「…お世辞はやめろ。どう見ても完敗だっただろ」

 

「そんな事ねえよ」

 

不機嫌になりながら空が言うと、小牧は苦笑する。

 

「何でここにいるんだ?」

 

「他のチームメイトは今日の朝に帰ったけど、キャプテン…黄瀬さんが残って試合を見ていくって言うから、俺も無理言って残らせてもらったんだ。試合もそうだがお前と赤司さんの戦いも気になったからな」

 

この会場にいる経緯を放す小牧。

 

「代わりに監督に準決勝のレポート提出と次の練習の筋トレ2倍になっちまったけどな」

 

「そりゃご愁傷様。…てか、黄瀬さんもいるんだ」

 

「あそこにな」

 

後ろ手で小牧が指を差すと、その先、僅かに離れた所で黄瀬の姿が。その隣に青峰と桃井の姿もあった。

 

「青峰!?」

 

黄瀬だけではなく、青峰もいた事に驚く空。

 

「最初はキャプテンの後ろで試合見てたんだけど、インターバル中にトイレに行って戻ったら青峰さんがいて、…さすがにあそこには戻り辛いわ」

 

ハハッと乾いた笑い声を浮かべる小牧。

 

「…」

 

2人が並ぶ席に視線を向ける空。

 

「どないしてん空。てっきり1発かましに行くと思てんけど」

 

「……いやいいです。あの2人に今は顔合わしたくないんで」

 

からかうように尋ねる天野。空は不機嫌そうに2人から視線を逸らした。

 

昨日の試合の対戦相手であり、勝利した相手である黄瀬。同じく前日の夜にタンカを切った相手である青峰。空はその2人に合わす顔はなく。敢えて声をかけに行かなかった。

 

「…で、試合はどんな感じ?」

 

「第1Qは秀徳ペースだったな。何と言っても緑間さんがスゲー。従来の高弾道のスリーじゃなくて、お前ん所の綾瀬のようなクイックリリースで決めてたぜ」

 

「大地の?」

 

大地のスリーはモーションに入ってから打つまでがとにかく速い、ジャンピングシュートによるクイックリリース。かつて見た緑間の高弾道のスリーとは対照的なものだ。

 

「それだけじゃねえ。カットインやそこからのポストアップでも点を取ってた。つうか、序盤はスリーより2点プレーの方が圧倒的に多かったぜ」

 

「へぇ…」

 

以前に見た秀徳の試合で緑間が披露していたのを見ていたが、誠凛…それも火神相手にそこまで多様出来るレベルになっていた事に思わず声が出る。

 

「第2Qから緑間さんと火神さんとエース対決が始まったけど、そこはほとんど互角だった。途中で黒子さんが出て、一時は誠凛ペースでリードが広がったけど、第3Qであのスリーが出た」

 

「あのスリー?」

 

「高尾さんのパスを空中で取ってそのままスリーを打つあのスリーだ」

 

「…あれか」

 

空は思い出した。シュートモーションに入った緑間の手元に高尾が寸分の狂いもない正確なパスを出し、緑間がそのままスリーを放つ、空中装填式(スカイ・ダイレクト)スリーポイントシュート。去年、花月も大いに苦しめられた技だ。

 

「それがきっかけで秀徳が再び盛り返して、高尾さんが上手くパスを捌きながら秀徳が追い付いた。新海もよくやってっけど、キャリアの差が大きいな」

 

高尾をマークする新海。個々のスペックは高尾を上回っているが、司令塔対決では高尾に軍配が上がっていた。

 

「それでまた秀徳が逆転したんだけど、1度ベンチに下がった黒子さんが第4Qからコートに戻って、今に至るってわけだ」

 

試合の流れを小牧は簡潔に説明した。

 

「正直、どっちが勝つか予想付かねえな。お前はどう見る?」

 

「…どっちが勝とうと関係ねえよ」

 

「……そうかい」

 

試合の予想を尋ねた小牧だったが、空の顔を見てコート上の試合に視線を移したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ」

 

新海がボールを運び、中へとパスを入れる。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

黒子がパスをタップし、中継。軌道を変える。

 

「ナイスパス黒子先輩!」

 

右アウトサイドやや深めの位置でボールを掴んだ池永がそのままスリーを放つ。

 

「打たせるか!」

 

スリーを阻止する為に木村がすかさずブロックに飛んだ。だが、それよりも速く池永はリリースした。

 

「(ちっ、短ぇ!)リバウンド!」

 

短いと判断した池永が声を出す。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通り、ボールがリングに弾かれた。

 

『おぉっ!!!』

 

ゴール下に立った選手達がリバウンドを制する為にボールに飛び付いた。

 

「ちっ!」

 

緑間に絶好のポジションを奪われてしまった火神。

 

「まだだ!」

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

リバウンドボールを火神が外からその驚異的なジャンプ力で無理やり奪い取った。

 

「おらぁ!!!」

 

リバウンドボールを確保した火神はすぐさまリングに向かって飛ぶ。

 

「調子に乗るなよ火神!」

 

ダンクを阻止する為、緑間が同時にブロックに飛んだ。

 

「関係ねえ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ブロックなどお構いなしに緑間の上からボールをリングに叩きつけた。

 

 

誠凛 76

秀徳 75

 

 

再び誠凛が逆転した。

 

変わって秀徳のオフェンス。

 

「真ちゃん!」

 

フロントコートに入って早々に高尾が緑間にボールを渡す。

 

「緑間!」

 

ボールが渡るのと同時に火神がチェックに入った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

火神が目の前に現れると、クロスオーバーで火神の左手側から仕掛ける。

 

「…っ、抜かせねえ!」

 

これに火神も対応、遅れずに追いかける。

 

 

――スッ…。

 

 

クロスオーバー直後、緑間はボールを掴み、ターンアラウンドで反転。スリーポイントラインから2メートル程離れたポジションからシュート体勢に入った。

 

「打たせねえ!」

 

火神もすぐさまブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

しかし、緑間はブロックから遠ざかるように後ろ飛び、さらにクイックリリースでボールを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

 

誠凛 76

秀徳 78

 

 

「やろ!」

 

ボールがリングを潜ると、火神はリングから緑間に視線を移し、睨み付ける。

 

「勝つのは俺達だ。俺のスリーは誰にも止めさせはしない!」

 

睨み返すように緑間は言い放ったのだった。

 

「ナイッシュー真ちゃん!(とは言え今の、あの距離でのあのスリーは練習でも確率はそこまで高くなかった奴だ。あれを出したって事はそこまで真ちゃんも追いつめられてるって事か…)」

 

最強のシューターである緑間でも100%の確信の持てないスリー。それを出した事に今の状況を直視する高尾。

 

「…とは言っても、今の真ちゃんならなに注文しても決めちまいそうだけどな」

 

ハハッと笑い声を上げながら高尾は緑間にエールを贈ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛のオフェンス、ボールを運んだ新海が意表を突いてスリーの体勢に入った。

 

『この状況で打つ気か!?』

 

終盤の勝負所の大事な場面でのこの行動に観客も驚く。

 

「(今日俺はスリーを打ってない。無警戒なら俺でも…!)」

 

これまでパスとカットインから中からの得点しかしていなかった新海。それを逆手に取ってスリーを打ちに行った。

 

「(やべっ!? 完全に油断しちまった!)」

 

慌ててブロックに向かうもドライブを警戒して距離を取っていた為、間に合わない。それに加えて身長差もあり、新海は悠々とスリーを放った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、その放たれたスリーは高尾の後ろから現れた1本の手に弾かれた。

 

「緑間先輩!?」

 

ブロックしたのは緑間。まさかの人物に新海は驚いた。

 

「(どうして俺のスリーが読まれた!?)」

 

現れたタイミング的に打つ前にスリーを打つと読んでいなければ間に合わない。

 

「お前からスリーを打つ気配を感じた。だからブロックに向かった。それだけなのだよ」

 

淡々と当たり前のように語る緑間。

 

決して新海が分かりやすいサインや仕草をした訳ではない。理屈ではなく、あの瞬間、緑間は新海からスリーを打つ気配を察知した。これはスリーにこだわり続け、狂信的に追及し続けた緑間だからこそ察知出来たのだ。

 

「さっすが真ちゃん! 速攻だ!」

 

ルーズボールを高尾が拾い、そのまま掛け声と同時に駆け上がった。

 

「ヤバい、戻れ!」

 

ここでターンオーバーからの失点を避けたい火神がディフェンスに戻りながら声を出す。

 

「これ以上は行かせない!」

 

「…っと、相変わらず戻りはえーな」

 

スリーポイントライン手前で新海が高尾を捉え、目の前で立ち塞がる。高尾が立ち止まり、その間に誠凛が戻り、ディフェンスを整える。

 

「てめえは絶対に空けねえぜ」

 

「…」

 

すかさず緑間を火神がマークする。

 

「…」

 

高尾がホークアイで全体を見渡しながら攻め手を定める。

 

「…っ」

 

その時、木村が動く。火神に対し、スクリーンをかける。同時に緑間が動く。

 

「火神!」

 

「分かってるよ!」

 

中に向かった緑間を追うように火神が動く。池永がスクリーンの存在を知らせると、火神は返事と同時にロールしながら木村のスクリーンをかわし、緑間を追いかけ

 

「頼んだぜ!」

 

高尾が振りかぶるようにボールを投げ、パスを出した。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、誠凛の選手達全てが目を見開いた。

 

「ナイスパスだ高尾!」

 

ボールは緑間ではなく、中へ走り込んだ緑間に気を取られた田仲の隙を付いてゴール下に走り込んだ戸塚に渡った。

 

「しまっ――」

 

慌ててチェックに向かう田仲だったが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

豪快なボースハンドダンクを戸塚が叩き込んだ。

 

 

誠凛 76

秀徳 80

 

 

「ウチは緑間だけじゃねえぞ! 余所見してんじゃねえ!」

 

自分の存在をアピールするかのように戸塚が叫んだ。

 

「ごめん…!」

 

「今のはそもそも俺のミスから始まった事だ。切り替えるぞ」

 

責任を感じる田仲に対し、新海が声を掛け、励ました。

 

「ディフェンスだ! 1本、止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

緑間が檄を飛ばし、選手達が応えた。

 

「…」

 

ボールを運ぶ新海。流れが秀徳に傾こうとしている今、ここのオフェンスを失敗すると本格的に流れを秀徳に持っていかれかねない為、慎重にゲームメイクをする。

 

「どうした? 来てみろよ」

 

挑発するように高尾が新海に話しかける。高尾は再び距離を取り、ドライブを警戒。

 

「…ちっ」

 

新海はそんな高尾に対して苛立ち交じりに舌打ちをした。

 

明らかにスリーを誘っている。先程のブロックが頭に残る新海はスリーを打つ選択肢を選べない。

 

「(だったら!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ならばと新海は警戒されているドライブを敢えて選択。切り込んだ。

 

「こんだけ距離取ってりゃチョロいな」

 

距離があった為、高尾は容易にこのドライブに対応、新海の進路を塞ぐ。

 

「…っ」

 

1ON1を得意とする新海であっても、高尾を…それも距離を取っていた状態で抜くのは難しく、表情を顰める。

 

「新海君!」

 

その時、新海の耳に自分を呼ぶ声が聞こえ、その方角にパスを出した。ボースの先には黒子。

 

 

――バァァァァン!!!

 

 

飛んで来たボールを掌底で加速させながらボールの軌道を変えた。

 

「っしゃ!」

 

リング付近に飛んだボールを火神が右手で掴んだ。

 

「させないのだよ!」

 

その時、リングと火神の間に緑間がブロックに現れた。

 

「だろうな。来ると思ってたぜ!」

 

緑間のブロックを予測していた火神。右手で掴んだボールを左手で抑え、パスに切り替えた。

 

「よし!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

落とすように出されたパスの先に新海が走り込み、そこからジャンプショットを放ち、決めた。

 

 

誠凛 78

秀徳 80

 

 

「これも外してたら殺してたぜ」

 

「外すかよ」

 

茶化しながら肩を叩く池永を鬱陶し気にあしらった新海。

 

「上等だ。こっちも決め返すぞ!」

 

高尾がボールを受け取り、ボールを運ぶ。

 

「…」

 

緑間が高尾に向かって走り、直接ボールを受け取りに走ると、高尾が差し出すようにボールを出した。

 

「来るのか!?」

 

池永が緑間を警戒する。

 

「…なんてな♪」

 

緑間が目の前を通る瞬間、高尾はボールを引っ込め、斎藤へのパスに切り替えた。

 

「やっべ!」

 

緑間を警戒し過ぎたあまり、斎藤の警戒が緩くなり、ノーマークでボールを受けさせてしまい、思わず声が出る池永。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの斎藤は落ち着いてスリーを決めた。

 

 

誠凛 78

秀徳 83

 

 

「っしゃ!」

 

スリーを決めた斎藤はガッツポーズをした。

 

 

「上手いですね。緑間さんを使って上手くパスを散らせて得点を重ねています」

 

秀徳で1番存在感のある緑間。この緑間を上手く利用している事に関心する大地。

 

「緑間ばかりに気を取られとったらそらそうなるわ。緑間が目立ち過ぎて曇りがちやが、他の奴らもきっちり仕事をこなせるだけの力量もっとるからのう」

 

当然とばかりに天野が言う。

 

「高尾も、1年生の時から歴戦の王者、秀徳でスタメンポイントガードを任せられた選手だ。視野の広さ、パスセンスなら神城を上回る」

 

「…っ」

 

上杉の言葉に反論したかった空だったが、表情を顰めるだけに留めた。

 

 

その後、誠凛と秀徳が激しくぶつかり合う。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

秀徳は緑間が、あるいは緑間を使って高尾がボールを散らして得点を重ね。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

対して誠凛は黒子がパスを中継し、得点を重ねていったが、徐々に黒子の動きに対応出来るようになってくる同じ東京都という関係上、対戦回数も多い両校。途中、黒子を下げてミスディレクションを慣れさせないようにしたが、それでも黒子への耐性が付くのも早かった。

 

 

第4Q、残り3分37秒。

 

 

誠凛 82

秀徳 90

 

 

試合時間残り4分を切った時、点差はじわりじわり開いていた。

 

「開いてきたな」

 

得点が表示されている電光掲示板を見て空が呟く。

 

「…緑間さんの存在が大きいですね。失礼ながら戦力は誠凛に分がありますが、緑間さんがその差を埋め、さらに周りを生かしています」

 

身長が高く、個々の能力も優れた選手の多い今年の誠凛だが、緑間が火神とのエース対決を優勢に進めていた。

 

「それだけではない。緑間に目が生きがちだが、高尾が緑間を上手く生かしながらパスを散らしている。秀徳の影の功労者と言っても差し支えない」

 

上杉が高尾を評価した。

 

高尾が緑間を上手く使いながらパスを捌いて的を散らしながら得点を重ねていた。

 

「パスセンスとゲームメイク能力、流れを読む力はさすがです。赤司さんの次に優れたポイントガードは高尾さんかもしれません」

 

姫川も同様の評価をした。

 

「…ふん」

 

それを聞いた空は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「ま、空坊は1ON1特化の司令塔やから赤司とも高尾ともタイプがちゃう。一概にどっちが優れとるとは言えんかもしれへんけどな」

 

不貞腐れる空を天野がフォローを入れた。

 

「仕方ありません。高尾さんには司令塔としてのキャリアがありますからね。そのは中学の3年から司令塔にコンバートした空には厳しいハンデでしょう」

 

続いて大地もフォローした。

 

「司令塔対決となると、新海は厳しい。高尾がプレイメーカー型の司令塔なら、新海は全てを卒なくこなすオールラウンダー型の司令塔だ。何でも出来ると言えば聞こえはいいが、高尾相手では器用貧乏な印象を受ける。キャリアが劣る神城が去年に高尾相手に優勢に戦えたのは1ON1スキルが飛びぬけていたからだ」

 

「ん?」

 

ここまで試合を見ていた松永がボソリと言うと、空が耳を傾ける。

 

「…神城、お前が誠凛のポイントガードだったらこの局面、どうする?」

 

上杉が空に尋ねる。

 

「俺だったらガンガン切り込んで点を取りに行きますね」

 

空の迷う事無くそう答えた。

 

「俺も同意見かな」

 

横で聞いていた小牧も頷いた。

 

「突破力と得点力のあるお前達ならそうするだろう。だが、新海にはそれが出来ない。何でも器用に出来ると言うのは、見方を変えればここ一番で縋る武器がない。つまりは突破口がない。赤司程全てをこなせれば別だろうがな」

 

「…なら、この試合は秀徳の勝ちですか?」

 

「あぁ。…このままならばな」

 

空の質問に、上杉はそう答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(…くそっ!)」

 

試合の残り時間が無くなるにつれてジワジワと開いていく点差にボールを運ぶ新海は胸中は焦っていた。

 

「(どう攻める、俺が仕掛けるか? それともパス? だが誰に…)」

 

必死に突破口を模索する新海。

 

「…っ!? 新海君!」

 

何かに気付いた黒子が大声を上げる。

 

 

――ポン…。

 

 

「…えっ?」

 

次の瞬間、新海がキープするボールが叩かれた。

 

「考え事か? 手元がお留守だぜ!」

 

したり顔で高尾が新海からボールを奪った。

 

黒子をマークしていたはずの高尾だったが、新海の警戒が薄くなっていた事を察知し、一気にボールを狙いに行ったのだった。

 

「頼んだぜ真ちゃん!」

 

高尾がボールを拾うと、既に前へと走っていた緑間にパスを出した。

 

「良くやった高尾」

 

パスを受けた緑間はそのままワンマン速攻を仕掛け、スリーポイントラインの手前で止まってシュート体勢に入った。

 

「何やってんだよバカ野郎――っ!?」

 

悪態を吐きながらディフェンスに戻る池永だったが、その瞬間、池永の横を何者かが追い越した。

 

『決めろぉっ!!!』

 

秀徳ベンチからの声援を受けながら緑間がボールをリリースした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

リリースした直後、後ろから現れた何者かがボールを叩き落とした。

 

『アウトオブバウンズ、白(秀徳)ボール!』

 

ボールはそのままサイドラインを割った。

 

「緑間。お前はスゲーよ。これまでも凄かったが、今日はさらに別格だ」

 

「…っ」

 

表情を変えて緑間が振り返る。

 

「今の俺じゃ勝てねえかもしれねえ。だが、それでも負けられねえんだよ。お前がどれだけ俺の上に行こうとも、俺が勝つ!」

 

「火神…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「この感じは…! …空!」

 

「あぁ。…間違いない、ゾーンに入った」

 

火神の変化に気付いた大地が空に声を掛けると、空は静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――火神大我が、ゾーンの扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

秀徳のリスタート。緑間にボールが渡ると、ターンアラウンドからフェイダウェイでのスリーを放つも、火神のブロックに叩き落された。

 

「火神君!」

 

ルーズボールを拾った黒子がすぐさま火神へとパスを出した。

 

「…ちっ!」

 

「行かせるか!」

 

ボールを持った火神に対し。木村と斎藤が目の前に立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

しかし、火神は左右にフェイクを織り交ぜながら切り返し、それで出来た2人の間を一気に駆け抜けた。そのままドリブルで進むと、ボールを掴んでフリースローラインからリングに向かって飛んだ。

 

「火神!」

 

そこへ、木村と斎藤を抜きさる間に戻った緑間がブロックに飛んだ。

 

 

――ガシャン!!!

 

 

火神は緑間の上からリングに向かってボールを叩きつけた。

 

『出た! メテオジャム!!!』

 

無敵のダンク、メテオジャムが炸裂し、観客が沸き上がった。

 

第4Qに入り、秀徳がペースを掴み、ジワジワとリードを広げてきたが、ここに来て火神がゾーンの扉を開いた事で形勢が変わった。

 

「…」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

オフェンスではこれまで火神を翻弄しながら得点を重ねていた緑間だったが、火神に立て続けにブロックされる。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ディフェンスでは火神を止める事が出来なくなった。

 

ゾーンに入った火神は攻守に渡った活躍し始め、秀徳は為す術もなく追い詰められていく。

 

 

――バチィン!!!

 

 

新海からのパスを黒子がリング近辺に手で弾く。するとそこへ、狙いすましたかのように火神が現れ、右手でボールを掴んだ。

 

「おぉっ!!!」

 

そこへ、緑間が決死の表情でブロックに現れる。

 

「らぁっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

しかし、それでもお構いなしに火神はボールをリングに叩きつけ、緑間を吹き飛ばしながらダンクを決めた。

 

 

第4Q、残り2分4秒。

 

 

誠凛 93

秀徳 92

 

 

「「「逆転だぁっ!!!」」」

 

遂に点差をひっくり返し、ベンチで降旗、河原、福田が立ち上がりながら歓喜した。

 

『…っ』

 

秀徳の選手達は逆に士気が落ちていた。

 

 

「決まった……スか?」

 

「……かもな」

 

コートを見つめる黄瀬が尋ねると、青峰はコートを見つめながら頷いた。

 

火神の勢いは凄まじく、止められる気配がなく、断定するには充分だった。

 

 

「ハァ…ハァ……っ!」

 

肩で息をする緑間。立ち上がりながら歯をきつく食い縛った。

 

高尾がボールを運び、フロントコートまでボールを運ぶ。

 

「(改めて、ゾーンに入った火神はマジ化け物だ。どうする!?)」

 

先程の余裕はもうなく、心中は焦りが占め始めていた。

 

「止める!」

 

「…ちっ!」

 

新海が激しく当たりながら高尾のディフェンスに入る。

 

「(火神がゾーンに入った事でこいつ(新海)も吹っ切れやがった!)」

 

1度は追い詰められた新海だったが、火神の活躍で逆転した事で迷いがなくなった。もともとのスペックは新海が優れている為、高尾は大いに苦しんでいる。

 

「高尾!」

 

その時、緑間がハイポストからスリーポイントラインを越え、高尾の横まで移動してボールを要求する。

 

「頼む!」

 

そこしかパスの出し手がおらず、願いを込めてパスを出した。

 

「もうお前には何もさせねえ!」

 

すかさず火神がチェックに入る。

 

「…っ!」

 

激しく緑間をマークする火神。

 

『スゲー当たりだ!』

 

『何もさせない気か!?』

 

身体がぶつかる程密着してディフェンスをする火神。激しい火神のディフェンスに緑間はボールを奪われないようにするだけで精一杯になる。

 

「(…くっ! こうもプレッシャーが強くては抜きさる事は出来ん。スリーを打とうにも体勢が整えられないどころかリングが見えん…!)」

 

火神を抜きさる事は出来ない。スリーを打とうにもリングに背を向けているので大勢が悪いばかりかリングの位置や距離すら掴めない。

 

「まずい、もうすぐ5秒だ! 真ちゃん、早くボールを戻せ」

 

迫りくるヴァイオレーションに焦る高尾。

 

「…っ」

 

しかし、ゾーンに入った火神のプレッシャーは凄まじく、パスすらも容易に出せないでいた。

 

「(…いかん、これではボールを奪われる。仮に奪われずとも、ヴァイオレーションを取られる!)」

 

何か行動を起こしたくとも火神がそれを許さず、時間が刻一刻と迫っていた。

 

「っ!?」

 

その時、緑間の視界に一瞬だけリングが映った。

 

「(僅かにリングが見えた! 距離は……っ! ならば!)…おぉっ!!!」

 

「なにっ!?」

 

火神が驚きの声を上げる。

 

スリーポイントラインから2メートルは離れた位置から緑間が体勢も碌に整わなければ満足にリングも見えない態勢から乱れに乱れたシュートフォームから強引にスリーを放ったからだ。

 

「(ヴァイオレーションに焦ったか。いくら緑間でもこの距離であんな崩れた体勢で強引に打ったスリーが入る訳ねえ!)…リバウンド!」

 

外れる事を確信した火神は声を出す。

 

『…っ!』

 

すかさずゴール下でリバウンド勝負の準備が始まる。ボールはリングへと向かって行き…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中心を通り抜けた。

 

「はぁ!?」

 

外れると思ったスリーが決まり、思わず声を上げる。

 

「…ちっ、ツイてねえ」

 

運悪く決まってしまったと断定し、悪態を吐く火神。

 

「ツイてない? まさかお前、今のがたまたまだと思っているのか?」

 

火神の声が聞こえた緑間が尋ねる。

 

「狙ったとでも言いてえのか? あんなリングも碌に見れない体勢から決められる訳がねえだろ」

 

あり得ないと火神が言う。

 

「何故断言出来る。お前はいつから俺の限界を理解した気になっている。リングの位置と距離が分かれば今の俺には充分なのだよ」

 

「なに?」

 

言った言葉が理解出来ず、聞き返す火神。

 

「舐めるな火神。まだ勝負は付いていない。俺の進化はまだまだ止まらないのだよ!」

 

吠える緑間。加速する緑間の進化に、試合は予断を許さないのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





決着まで進めようかと思いましたが、長くなったのと思う所があったのでここで止めます。

緑間のゾーンに付いてはやっぱり悩みますね…(;^ω^)

入れないといろいろ不都合が多すぎて…(>_<)

ただ、仮に入れてもスリーには制限はかけると思います。例を挙げるとコート上のどこからでもクイックリリースでスリーを打てるなんて事は絶対にないです。これやっちゃうといよいよ緑間が人間辞めるんで(既に辞めてる?)。

次話にて決着です。結末は……乞うご期待!

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第149Q~執念と結末~


投稿します!

駆け足で話が進みます…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

「舐めるな火神。まだ勝負は付いていない。俺の進化はまだまだ止まらないのだよ!」

 

逆転を許した秀徳だったが、緑間の起死回生のスリーで再び逆転に成功した。

 

 

第4Q、残り1分52秒。

 

 

誠凛 93

秀徳 95

 

 

『スゲー! 緑間のスリーは何でもありか!?』

 

スリーポイントラインからさらに離れた所からのタフショットに観客が沸き上がった。

 

「マジすか…。よくあんなの決められるッスね…」

 

黄瀬も驚愕しており、表情は引き攣っていた。

 

「もしかしてミドリン、ゾーンに入ってる?」

 

「いや、そんな感じはねえな。だが、緑間に限って言えば、スリーに関しては常にゾーンに入ってるようなもんだけどな」

 

桃井の疑問に否定するも、青峰は緑間のスリーをそう評した。

 

 

「スゲーぜ真ちゃん! いつの間にあんなの出来るようになったんだよ!?」

 

大はしゃぎで高尾が駆け寄る。

 

「なってないのだよ」

 

対して緑間は表情を変える事なく返す。

 

「イチかバチかやってみせただけだ。あんな芸当、何度も上手くはいかないのだよ」

 

「マジかよ…」

 

この返事を聞いて高尾の表情が曇る。

 

「…だが、今の火神を相手にするには賭けを打つのもやむなしだ。勝つ為ならどんな危険な橋だろうと渡ってやる…!」

 

決意に満ちた表情で緑間が宣言したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(キセキの世代はホントに飛んでもない事をやってのける。嫌になるぜ…!)」

 

ボールを運ぶ新海。先程の緑間のビッグショットの衝撃が未だ残っていた。

 

「(だが、例え緑間さんと言えども、火神さん相手に何度もあんなシュートを決められるはずがない。残り時間、選択はここ一択だ!)…火神さん!」

 

意を決して新海が火神にパスを出した。

 

「行くぜ」

 

「…来い」

 

右45度付近のスリーポイントラインを挟んで睨み合う両者。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを動かしながら牽制した後、火神が仕掛ける。

 

「…っ」

 

緑間もこれに何とか食らいつく。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、火神はバックロールターンで反転し、緑間の反対側から駆け抜ける。

 

「…ぐっ、おぉっ!!!」

 

逆側を抜けようとする火神を強引に身体を動かしてボールに手を伸ばす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、火神はその手をボールを切り返してかわした。そのままリングに向かって飛んだ。

 

「(まだだ、まだ終わっていない!)」

 

伸ばし手を床に付け、強引に転倒を防ぎ、そのまま立ち上がる緑間。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――ドン!!!

 

 

ダンクに向かう火神に対して後ろからブロックに飛んだ緑間。その際に火神と接触する。

 

「…っ!」

 

後ろから接触され、表情を歪める火神。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

これを見て審判が笛を吹いた。

 

『ディフェンス、プッシング、白4番! フリースロー!』

 

審判が緑間のファールをコールした。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

肩で息をしながら立ち上がる緑間。

 

「(こいつ、あの体勢から…。がむしゃらにブロックに来やがった…)」

 

泥臭く自分を止めに来た緑間に驚く火神。

 

 

――ザシュッ!!! …ザシュッ!!!

 

 

フリースロー2本。火神はきっちり決めた。

 

 

誠凛 95

秀徳 95

 

 

「っしゃ! この調子ならもう貰ったも同然だぜ」

 

勝利を確信し、表情を緩めながら火神に近寄る池永。

 

「バカな事言ってんじゃねえぞ。まだ同点だ。気を抜いてんじゃねえ」

 

そんな池永に怒りの表情をぶつける火神。

 

「キセキの世代の恐ろしさはお前もよく知ってんだろ。追い詰められたキセキの世代はあり得ない事も平気でしてくる。試合が終わるまでそんな甘い事は口にするな」

 

そう説教すると、火神は緑間のマークへと向かった。

 

「…ちっ、分かってるっての」

 

苛立ち交じりにそう呟くも、顔を叩いて表情を改める池永であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳のオフェンス。

 

「(ここはアレしかねえ!)」

 

何かを決めた高尾。

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを保持していない緑間がシュートの構えを始めた。

 

「来るか、させねえぞ!」

 

「っ!」

 

2人の狙いに気付いた火神、黒子が動く。

 

…空中装填式(スカイ・ダイレクト)スリーポイントシュート。ボールを持たずにシュート態勢に入った緑間の手元に高尾が正確無比なパスを送り、そのままシュートを放つ2人の連携技。

 

「(何度も見せつけられたんだ、今度こそ止める!)」

 

火神が高尾のパスに注意を払う。しかし…。

 

「っ!?」

 

緑間は空中に飛ぶのではなく、前へと走り出した。

 

「フェイクか!? くそっ!」

 

まんまと騙された火神は慌てて緑間を追う。

 

「もう遅ぇぜ!」

 

中に走り込んだ緑間に高尾がパスを出す。ボールを受け取った緑間はそのままリングに向かって飛んだ。

 

「止める!」

 

「おぉっ!」

 

そこへ、池永と田仲がブロックに現れた。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「がっ!」

 

「ぐっ!」

 

だが、緑間はお構いなしに2人を弾き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! 豪快なダンクだぁっ!!!』

 

 

誠凛 95

秀徳 97

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

ダンクを決め、着地した緑間は肩で息をしながらディフェンスに戻っていった。

 

「2人のブロックもお構いなしかよ…」

 

190㎝を超える2枚のブロックを吹き飛ばしたダンクに朝日奈が言葉を失う。

 

「緑間君がダンクをしてきたという事は…」

 

「あぁ。プライドも何かもかなぐり捨てて勝ちに来てる。だが、俺達だって負けねえ。勝つのは俺達だ!」

 

緑間の執念に中てられ、火神の闘志にも火が付いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ゾーンに入った火神とがむしゃらに勝利を目指す緑間がぶつかり合う。

 

だが、それでもゾーンに入った火神が緑間の上を行き、緑間は火神を止める事が出来ない。しかし、オフェンスではチームメイトがカバーに入り、何とか得点を奪う。

 

激しくぶつかり合う両校。タイムアップの時間は刻一刻と近付いていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

第4Q、残り14秒。

 

 

誠凛 99

秀徳 99

 

 

緑間の放ったシュートが火神のブロックによってリングに嫌われるも戸塚がタップで押し込んだ。

 

『土壇場で同点に戻したぞ!』

 

いよいよクライマックス。迫る決着を前に観客のボルテージは最高潮であった。

 

「走れ! 最後の1本、決めて終わるぞ!」

 

「歯を食い縛れ! ここを止めて逆転するのだよ!」

 

両校の主将が声を上げる。

 

互いに延長戦を考えておらず、この第4Qで決める覚悟だ。

 

「「…っ!」」

 

ボールを運ぶ新海に激しく当たる斎藤。新海も必死にボールをキープする。

 

「おぉっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

咆哮を上げながら新海が強引にカットインする。

 

「っ!?」

 

追いかけようとする斎藤だったが、何かに阻まれる。

 

「…いつつ! くそが!」

 

池永がスクリーンをかけていた。

 

『嘘だろ!? あの池永がスクリーン!?』

 

この行動にベンチの選手達が驚いていた。

 

自分勝手で自分本位だった池永が仲間を活かすために身体を張った汚れ役を引き受けたのだ。

 

「させねえ!」

 

カットインすると、すぐさま木村がヘルプに飛び出し、新海の前に立ち塞がった。同時にボールを掴んだ。

 

「(この位置であの体勢でシュートはない。パスしかない…!)」

 

ハイポスト付近で立ち止まった新海。ここで打てるのはジャンプショットのみ。それならば木村でも止められる。残された選択肢はパスしかいない。ならばパスターゲットは…。

 

「(んなの、火神しかねえだろ!)」

 

誰で決めてくるか、秀徳の選手達の予想は一致した。

 

 

――火神だ!!!

 

 

新海が動く、火神に視線を向け、パスを出した。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、秀徳の選手全員の表情が驚愕に染まった。パスの先は火神ではなかったからだ。ボールは、黒子の手に収まった。

 

「(ここで黒子だと!?)」

 

「(この試合、1度も打ちに行かなかったのは全て布石だったのか!?)」

 

この試合……いや、黒子は予選から今に至るまでほとんど言っていいほどシュートを打ってこなかった。得意ではないが、黒子にも得点手段はある。それでも黒子はパスの中継に徹してきた。

 

黒子がボールを胸の位置に構える。得意のファントムシュートの構えだ。誰もが秀徳選手の誰もが火神に気を取られ、黒子への意識がなかった為、ヘルプに行けない。そう思われたその時!

 

「黒子ぉっ!!!」

 

秀徳の選手の中でただ1人、黒子のシュートコースを塞ぐように緑間がブロックに現れた。

 

『緑間(先輩)(キャプテン)!!!』

 

緑間が現れた事に秀徳の選手達が歓喜した。

 

『どうして緑間が!? まさかこれを読んでいたのか!?』

 

まさかの人物が現れた事に観客も驚いている。

 

火神をマークしているはずの緑間。その緑間がもっともマークを外してはいけない相手のマークを外し、黒子のヘルプに来ていた。

 

緑間が黒子のシュートコースを塞ぐようにブロックをし、誰もが緑間のブロックを確信した。

 

「さすが緑間君です。『やっぱり』、来ましたね」

 

黒子が顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボクは影だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時に黒子の手から放たれるボール。だが、その軌道はリングから逸れていた。

 

「っ!?」

 

ハッとして緑間が振り返ると、そこに1つの影が現れた。

 

『火神!!!』

 

タイミング良く現れた火神の右手にボールが収まった。

 

『行けぇぇぇぇぇーーーっ!!!』

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

右手に収まったボールを火神がリングに叩きつけた。

 

 

第4Q、残り3秒。

 

 

誠凛 101

秀徳  99

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

同時に観客がこの試合1番の歓声を上げた。

 

「まだ試合は終わってねえぞ! 緑間のマークは絶対に外すな!!!」

 

リングから手を放して着地した火神がすぐさま指示を出した。

 

残り時間はたった3秒。しかし、それだけあれば緑間には充分過ぎる時間。池永と新海がすかさず緑間に張り付くようにマークする。

 

「…」

 

この時、誰もが気付いていなかった。緑間の表情が焦りや決死の表情ではない、完全な集中状態である事に…。

 

「真ちゃん!」

 

2人のマークもお構いなしに高尾が緑間にパスを出した。

 

「「っ!?」」

 

高尾は池永と新海には届かず、緑間がだけが取れる高さにパスを出し、緑間のボールを届けた。

 

「くそっ! 打たせるか!」

 

「何としてでも!」

 

着地した池永と新海はすぐさまディフェンスに入った。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

しかし、緑間はワンドリブルで2人を同時に抜きさった。直後、緑間はシュート体勢に入った。

 

「これで終わりだ緑間ぁっ!!!」

 

その時、後ろから火神がブロックに現れた。アリウープを決めた直後に緑間の下に向かった火神。ジャンプしてボールを掴み、2人を抜きさった僅かな時間に緑間に追い付いた。

 

『頼む、火神!!!』

 

決死の緑間のブロックに願いを込める誠凛の選手達。しかし…。

 

「っ!?」

 

火神の表情が驚愕に染まった。何と、緑間はシュート体勢に入っていなかった。

 

「(今確かにシュート体勢に入って…! 今のフェイクは、タツヤ並…いやそれ以上!?)」

 

確かにシュート体勢に入ったと思い込んだ火神。ゾーンに入った火神すら出し抜いた緑間のフェイクに火神は驚きを隠せなかった。

 

ここで改めてボールを掴んだ緑間がシュート体勢に入る。しかし…。

 

「…っ!」

 

緑間の持つボールを狙う1つの影が現れた。

 

『黒子!?』

 

そう、黒子だ。黒子もまた、火神同様緑間の下へと走っていた。最後の最後に狙ってくるであろう緑間を止める為に。

 

『頼む、止めてくれ黒子!!!』

 

最後の要である黒子に期待と共に願いを込める誠凛の選手達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――だろうな。お前は来ると思ったのだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

シュート体勢に入ろうとした緑間は上へとリフトしようとしたボールを止め、ターンアラウンドで反転しながら黒子の手をかわした。

 

『っ!?』

 

最後の要の黒子がかわされ、絶望の表情に染まる誠凛の選手達。阻む障害がなくなった緑間は今度こそシュート体勢に入り、ボールをリリースした。

 

『…っ!』

 

高い軌道を描いてリングへと向かうボールに選手のみならず、試合を見つめる全ての者が注目する。ボールが落下を始め、リングへと向かい、そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リングの中心を射抜いた。

 

緑間がフォロースルーに掲げていた右手を力強く握ると、同時に秀徳ベンチのいる全ての者が立ち上がり、コート上の選手達が緑間の下へ駆け寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――秀徳が土壇場で逆転に成功した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

その時、審判の笛が鳴った。

 

『っ!?』

 

会場が静まり返り、何事かと審判に注目が集まる。審判は両腕を交差し、左右に掲げると…。

 

『タイムアップ!!! ノーカウント!!!』

 

そうコールした。

 

『タイムアップ!!!???』

 

大歓声に包まれる会場。

 

緑間がボールを放つほんの僅か前に、試合は終わっていた。

 

「っしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

大声で絶叫した池永が両拳を突き上げる。

 

「勝った…のか…」

 

「終わった…」

 

少しずつ事実を理解しだした新海と田仲が嘆息する。

 

「タイム…アップ…」

 

審判の言葉が耳に入るも頭に入らない火神が独り言のように呟く。

 

「ハァ…ハァ…」

 

肩で息をしながら得点が表示されている電光掲示板を見つめる黒子。

 

 

試合終了。

 

 

誠凛 101

秀徳  99

 

 

「…」

 

緑間が両目を深く瞑りながら天を仰いだのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「誠凛が勝ったか…」

 

観客席で試合を見守っていた上杉がポツリと呟いた。

 

「秀徳は、後1秒…いや、0.5秒あったら勝ってた。ツイてないね」

 

生嶋がラストショットを放った緑間に感情移入させる。

 

「…違う」

 

そんな生嶋の言葉を空が否定する。

 

「最後、スリーを打って決めるだけの時間は充分あった。誠凛がその時間を稼いだ。これは誠凛の勝利への執念の結果だ」

 

「空…」

 

しみじみと語る空を見つめる大地。空は踵を返し、歩き出した。

 

「空坊、何処行くねん!?」

 

「…帰ります。今、無性に身体を動かしたいんで…」

 

そう言って、空は出口に向かって歩き出した。

 

「ったく、あいつ自分がキャプテン言うの忘れとんちゃうか?」

 

呆れる天野だったが、空の心情を理解出来たのか、空を咎める事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「誠凛が最後は勝ったッスね」

 

試合が終わり、背もたれにもたれ掛かる黄瀬。

 

「惜しかったね。後もう少し時間があれば…」

 

「結果が全てだ。勝たなけりゃ意味がねえ」

 

厳しい現実を口にする青峰。

 

「…最後の緑間っち、入ってたッスね」

 

「…あぁ」

 

確認するように黄瀬が言うと、青峰は頷きながら返事をした。

 

「…あん?」

 

ふと、青峰が視線を通路に向けると、出口に向かう空と視線があった。

 

「…」

 

「…」

 

数秒視線を交わす2人。空はすぐさま視線を逸らし、改めて出口へと空は歩き出した。

 

「…ふん」

 

鼻を鳴らした青峰は立ち上がり、その場を後にした。

 

「帰るんスか?」

 

「たりめえだろ。試合終わったのにもうここには用はねえ」

 

そう返し、青峰は歩き出した。

 

「ちょっと大ちゃん! それじゃきーちゃん、またね! 今日はありがとう! 大ちゃん、先行かないでよ!」

 

黄瀬に礼を言いながら桃井は青峰を追って行った。

 

「俺も行くとしますか。…そういえば、拓馬君、何処言ったんスかね」

 

ここで一緒に試合を見に来た小牧の存在を思い出した黄瀬は小牧に連絡を取り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激闘準決勝が終わり、洛山高校と誠凛高校がインターハイ、ファイナルへと勝ち進んだのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

インターハイの決勝、夏の覇者を決める試合が行われた。

 

 

 誠凛高校 × 洛山高校

 

 

共に激闘の準決勝を勝ち抜き、ここまで来た猛者達。試合前の予想では洛山有利。やはり、赤司率いるハイレベルのオールラウンダーが揃いの洛山が勝利と予想する者が多く、ある程度点差が開く展開もあり得るとの声もあった。

 

そんな予想がされる中、試合は始まった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

大歓声が会場を包む中、両校が激しくぶつかり合う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

火神が三村と四条のダブルチームを抜きさり、カットインした。

 

「…っ!」

 

中に切り込まれたのを見て五河がヘルプに飛び出る。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

五河が前に出て来たのを見計らって火神はボールを弾ませるようにしてパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ゴール下でノーマークでボールを掴んだ田仲が落ち着いてゴール下を沈めた。

 

 

第4Q、残り3分23秒。

 

 

誠凛 81

洛山 67

 

 

試合は終盤、誠凛が点差を大きく広げていた。

 

下馬評を大きく覆す点差。今日の洛山はとにかく精彩を欠いていた。序盤こそ洛山得意のボール回しで得点を重ねていったのだが、第2Q後半に入ってから状況が変わったのだ。

 

『ハァ…ハァ…』

 

肩で大きく息をする洛山の選手達。

 

「ハァ…ハァ…」

 

それは赤司も同様……いや、赤司が特に顕著であった。

 

第2Q後半から赤司が失速し始めた。目に見えて動きが鈍くなり、赤司らしからぬミスも出始めた。赤司が不調になった事で洛山の歯車が狂い始め、さらには他の洛山の選手達も失速を始めた。

 

「(…今日の赤司先輩からは全く怖さを感じない)」

 

赤司のマッチアップを命じられた新海。その責任は重大であり、覚悟を持って試合に臨んだのだが、そのプレッシャーに圧倒されたのは最初だけで、後半戦に入ると、赤司は別人のように失速した。

 

「(くそっ! 赤司が本調子だったら…!)」

 

「(本来ならもう試合に出ていられる状態じゃないんだ。昨日のあの様子では…)」

 

二宮、四条が思い返す。昨日の試合終了後の事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『…くっ!』

 

コートから通路に入ると、突如赤司が苦悶の表情と共に壁にもたれ掛かり、膝を付いた。

 

『赤司、どうした!?』

 

様子がおかしい事にいち早く気付いた四条が赤司に駆け寄る。

 

『赤司!』

 

同じく赤司の様子に気付いた白金が赤司に駆け寄り、身体を抱えた。

 

『…っ!? まずい、呼吸困難を起こしている。誰でもいい、医務室へ行って医者を、担架を持ってくるんだ!』

 

『分かりました!』

 

傍にいた選手が急いで医務室へと向かった。

 

『赤司、一旦ここに座れ』

 

長いタオルを敷き、そこへ赤司を座らせた。

 

『ハァ…ハァ…』

 

苦しそうに呼吸をする赤司。

 

『いったい何が…』

 

突然の赤司の容体の変化に混乱する選手達。

 

『……神城をマークし続けたからだ』

 

白金が要因となったものを口にした。

 

『スピード、運動量が桁外れな上、動きの予測が出来ない神城を赤司は今日、1人でマークし続けた。エンペラーアイも過度に駆使してな。そのツケが今出たのだ』

 

赤司は空を止める為にかなり無理をしていたのだと白金は説明する。

 

『勝負の内容は赤司の完勝と言ってもいいかもしれない。だが、赤司も死に物狂いだったのだ』

 

苦悶の表情で白金は口にしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日、赤司は試合開始ギリギリまで回復に努め、何とか試合に出られるまでは回復したのだが、やはりコンディションは最悪であり、試合の頭から出場したが、第2Qの中盤に差し掛かる頃には肩で大きく息をし始めていた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

新海が仕掛け、赤司の横を抜ける。カットインした新海はそのままシュート体勢に入ると、洛山の選手達が新海を止める為に中へと寄ってくる。

 

 

――スッ…。

 

 

それを見越したかのように新海は外にパスを出した。

 

「よし!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

スリーポイントラインの外側でパスを受け取った朝日奈がスリーを決めた。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

両膝に手を付き、苦しそうに赤司は呼吸をしていた。

 

「…」

 

そんな赤司に視線を向ける火神。

 

「…火神君」

 

「あぁ、分かってる。手心を加えるつもりはねえ。こっちだって余裕はねえし、残り時間とこの点差じゃ、何が起こるか分からねえからな」

 

火神の様子を見た黒子が話しかけるが、火神は手で制止ながらそう告げた。

 

「気を抜くな! 最後まで攻めまくるぞ!」

 

『おう!!!』

 

ディフェンスに戻った火神が檄を飛ばすと、誠凛の選手達が応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(こうも身体が思い通りに動かないとは…)」

 

鉛でも背負ったかのように身体が重く感じる赤司。

 

「(他の者達も似たようなものか。やれやれ、状況は最悪か…)」

 

思わず悪態を吐きたくなる赤司。

 

「(それでも諦める訳にはいかない。例え絶望的な状況であろうと、『彼ら』は諦めなかった)」

 

赤司が顔を上げる。

 

「あ、赤司…」

 

「情けない顔をするな。まだ試合は終わっていない」

 

心配そうに赤司の名を呼ぶ四条に赤司が檄を飛ばす。

 

「まだ時間はある。最後まで戦うんだ」

 

『赤司…』

 

前を向き、誠凛の選手達を見据える。

 

「(諦めてなるものか。黒子は自身の最大の武器を失い、それでもなお戦い、活路を見出した。神城は勝敗が決してもなお最後まで戦った。まだ希望が残っているのに、諦めてなるものか!)」

 

「行くぞ、洛山はまだ終わっていない。勝つのは俺達だ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

暗雲が差し掛かった洛山だったが、赤司の一言で蘇った。

 

「おぉっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

疲労を感じさせない動きで誠凛を追い詰める。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

一方、誠凛も点差が付いても気を抜かず、持てる力を全て洛山にぶつける。

 

両校の意地とプライドがぶつかり合い、たった1つしかない頂点の座を巡ってぶつかり合う。そして…。

 

 

第4Q、残り11秒。

 

 

誠凛 89

洛山 80

 

 

赤司がボールを運んでいる。

 

『洛山!!! 洛山!!!』

 

観客席のベンチ入り出来なかった洛山の選手達が必死に声を張り上げて応援している。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して赤司がドライブ。目の前の新海を抜きさる。

 

「行かせるか!」

 

「止める!」

 

カットインしてきたのを見て火神、黒子がヘルプに飛び出し、赤司の進路を塞ぐ。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、赤司はパス。ボールを外の二宮に出した。フリーでボールを受け取った二宮はすぐさまシュート体勢に入った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれスリーはリングの中心を射抜いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴り響いた。インターハイの覇者がこの瞬間、決まった。

 

 

試合終了。

 

 

誠凛 89

洛山 83

 

 

「やったぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

ベンチから誠凛の選手達が飛び出し、コート上の誠凛の選手達に抱き着き、喜びを露にした。

 

「勝った…!」

 

嬉しさを噛みしめる新海。

 

「ひぐっ! やった…」

 

涙を流しながら喜ぶ田仲。

 

「…勝った。優勝…」

 

茫然と状況を理解しようとする朝日奈。

 

「ハハッ…!」

 

無事、チームを優勝させる事が出来たリコは涙を流しながら笑顔で喜んでいた。

 

『…っ』

 

対して洛山の選手達は、拳をきつく握りしめている者、床に膝を付いている者など、一様に涙を流しながら敗戦を悔しがっていた。

 

「…」

 

赤司は無念の表情で両目を瞑り、天を仰いでいた。

 

「…ふぅ、勝ったか」

 

「優勝です、火神君。日向先輩達の悲願を果たす事が出来ました」

 

勝利に安堵する火神と昨年引退した先輩達が為しえなかった夏の制覇を黒子は喜んでいた。

 

「おめでとう。お前達の勝ちだ」

 

そんな2人に赤司が歩み寄り、勝利を称えた。

 

「勝った気がしねえよ。本調子に程遠いお前らに勝ってもな」

 

不満気に火神が返す。

 

「関係ないさ。勝負とはそういうものだからな」

 

割り切った表情で赤司が火神に告げる。

 

「…まあいい、とりあえず、今日の所は勝ちって事にしてやる。だが、本当の決着は冬に付ける。正真正銘、俺達の最後の大会でな」

 

「あぁ。冬はこうは行かない。今度こそ勝たせてもらうよ」

 

そう言って、火神と赤司は握手を交わした。

 

「黒子。冬も戦える事を楽しみにしてるよ」

 

「はい。今日よりももっと強くなります。また戦いましょう」

 

黒子と赤司が握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

優勝

 

誠凛高校

 

 

準優勝

 

洛山高校

 

 

 

ベスト5

 

 

赤司征十郎 PG 洛山高校

 

二宮秀平  SG 洛山高校

 

緑間真太郎 SF 秀徳高校

 

火神大我  PF 誠凛高校

 

五河充    C 洛山高校

 

 

 

得点王

 

 

火神大我 誠凛高校

 

 

MVP 

 

 

赤司征十郎 洛山高校

 

 

 

こうしてキセキの世代の最後の夏の熱い激闘は終わった。戦いは次なるステージ、キセキ達の最後の戦いへと進むのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





決勝戦がこんな形で終わってしまい、申し訳ございません…(;^ω^)

準決勝はどちらを勝たせるか悩んだ結果、やはり当初の予定どおり原作主人公チームを勝たせる事にしました。オリ主チーム以外の試合はどうしてもモチベーションが上がらず、細かく描写するとやはり長くなるので、短く纏めました。一応、当初のプロットどおりに進んでおります。

後、過去の話を見られた方は覚えておられるかもしれませんが、この二次での1年前、インターハイで3位決定戦をやっているんですが、それをすると花月対秀徳の試合を行わなければならないので、過去の話(第50Q)を修正し、現実どおりインターハイでは3位決定戦を行わない事にしました。つきましては、過去のインターハイ時の3位決定戦の描写は削除し、別の話に差し替えましたので悪しからず…m(_ _)m

さて、ここから遂に最後の大会に向けて話が進むのですが、大雑把な展開は決まっているも、細かい描写は未だ白紙です。これからバスケを再びもう勉強しなければ…(;^ω^)

その為、もしかしたら投稿が遅れるかもしれませんのでご了承ください…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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~ キャラ紹介 ~


投稿します!

登場人物がひと通りで出たのでここいらで登場キャラを纏めます。

それではどうぞ!

※ オリキャラのみで原作登場キャラは省いています。例外として、原作に登場はしているが、出番がなかったり、多媒体(小説)のみに登場したキャラのみ記載しています。

※ 一部、ネタバレがあるので、最新話を読んでから読んで頂く事をお勧めします。


 

 

 

――花月高校

 

 

 

神城空(かみしろそら) -1

 

身長:177㎝(中学時)→179㎝(高校入学時)→180㎝(高校2年時)

 

体重:68㎏(中学時)→70㎏(高校入学時)→72㎏(高校2年時)

 

得意ポジション:PG SG

 

必殺技:天性のバランス感覚 野生 ゾーン 時空神の眼(クロノスアイ)

 

 

高い身体能力を誇り、その中でもスピード、ジャンプ力に優れており、10㎝以上の身長差をものともしない。スピードと加速力は青峰を凌ぐ。

プレースタイルは家業の漁で培ったバランス感覚を生かし、あり得ない体勢でドリブル、パス、ディフェンスをこなし、その動きは『分類不能』とまで言われる。

当初は熱くなりやすく、周りが見えなくなったりする事もあったが、主将を命じられてからは落ち着くようになった。考え込むとプレーに影響が出たり、調子のムラが大きいが、考えが纏まったり、頭を空っぽにして無心になるとあっと驚くプレーや作戦を考えたりもする。

 

 

 

 

身体能力:9

技術  :9

スタミナ:10

精神力 :10

特殊能力:9

 

 

 

 

 

綾瀬大地(あやせだいち) -1

 

身長:179㎝(中学時)→182㎝(高校入学時)→185㎝(高校2年時)

 

体重:69㎏(中学時)→70㎏(高校入学時)→73㎏(高校2年時)

 

得意ポジション:SG SF

 

必殺技:高速バックステップ ゾーン

 

 

空と同じく高い身体能力を誇り、スピードは最高速なら空に匹敵し、ジャンプ力も悠々ダンクをこなし、ある程度の身長差のある相手でもブロック出来てしまう程。

アジリティ、その中でも減速力に優れており、フルドライブからスピードを落とさずバックステップが出来る程の強靭な下半身を有しており、これを巧みに生かして得点を量産する。

基本的に冷静で落ち着いてプレーをするが、意外と負けず嫌いでここ一番で熱くなる事も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(注)ここから少し本編からネタバレです。

 

もともとはシューターであったが、中学時代に先輩の嫌がらせによってバスケ部を干され、空と1ON1をするようになり、空に勝てなくなったのでドライブを中心としたスタイル切り替えている。

高校入学し、エースを担う事になってからは、空への過度の信頼から実力を出し切れず、エースの重圧から確率の低いプレーを避けるようになり、キセキ級を相手にすると勝てなかったが、高校2年時の陽泉戦で空が負傷退場し、一時はスランプで調子を崩すも、立て直し、勝利への執念から実力をフルに引き出せるようになった。

避けていたリスクの高いプレー、スリー等も積極的に打つようになり、フルドライブのバックステップからのスリー、スリーを意識させて切り込む等、新たなスタイルを確立させた。

 

 

 

 

身体能力:9

技術  :10

スタミナ:10

精神力 :9

特殊能力:9

 

 

 

 

 

生嶋奏(いくしまかなで) -1

 

身長:180㎝(中学時)→181㎝(高校入学時)182㎝(高校2年時)

 

体重:67㎏(中学時)→68㎏(高校入学時)→69㎏(高校2年時)

 

得意ポジション:SG

 

必殺技:変則リリース

 

 

 

外から確実に決めるピュアシューター。身体能力は高くないが、バスケの人生をスリーに注ぎ込んだだけあり、多少バランスやリズムが崩れてもブロックやアクシデントが行らない限りスリーを決められる精密機械。

バスケを始めた頃は何の才能もなく、ミニバスコーチから向いていないと宣告された程。スリーがネットを潜り抜ける音に聞き惚れ、スリーを磨き、修練の末、正確無比のシューターとなり、全中強豪の城ヶ崎中学でエースシューターを任せられる程に成長する。

当初はスタミナ不足が懸念されたが、花月での圧倒的な練習である程度克服した。

人に変な渾名を付けて呼ぶ癖がある。

 

 

 

身体能力:6

技術  :8

スタミナ:5

精神力 :8

特殊能力:8

 

 

 

 

 

松永透(まつながとおる) -1

 

身長:194㎝(高校入学時)→196㎝(高校2年時)

 

体重:77㎏(高校入学時)→80㎏(高校2年時)

 

得意ポジション:C PF SF

 

 

 

センターでありながら高い1ON1スキルを持つ技巧派センター。中学入学時は身長がそれほど高くなく、スコアラーを務めていたが、急激な身長の増加とチーム事情からセンターにコンバートした。

木吉鉄平の後輩で、キセキの世代に蹂躙されながらも心が折れなかった事から一目置かれていた。

寡黙な性格でそれでいて負けず嫌い。当初は急激な身長の増加によって身体が付いていかず、パワー負けする事が多々あったが、花月で鍛え上げた事である程度克服した。

 

 

 

身体能力:8

技術  :8

スタミナ:7

精神力 :9

特殊能力:5

 

 

 

 

 

天野幸次(あまのこうじ) ±0

 

身長:192㎝(高校2年時)→193㎝(高校3年時)

 

体重:80㎏(高校2年時)→82㎏(高校3年時)

 

得意ポジション:PF

 

 

 

花月のインサイドを支えるプレーヤーで、リバウンドとディフェンスに長け、チームを支える。オフェンスではポストプレーやスクリーンを駆使して味方をフォローするロールプレーヤー。

関西出身である為、大阪弁を喋り、チームを盛り上げるムードメーカー。コート上では最上級生と言う事もあり、チームが危機の時は積極的に声を出して味方を鼓舞する。

中学時代からキセキの世代に影に隠れてはいたものの注目されており、洛山を含めた強豪校からも声がかかっていたが、花月の監督である上杉を慕い、花月高校に入学した。

 

 

 

身体能力:9

技術  :7

スタミナ:9

精神力 :9

特殊能力:6

 

 

 

 

 

馬場高志(ばばたかし) +1

 

身長:187㎝

 

体重:78㎏

 

得意ポジション:C

 

 

 

空、大地入学時の花月の主将。3年時は出番が少ないのを知ったうえサブのインサイドプレーヤーとしてチームに残った。

 

 

 

身体能力:7

技術  :6

スタミナ:7

精神力 :7

特殊能力:4

 

 

 

 

 

真崎順二(まさきじゅんじ) +1

 

身長:176㎝

 

体重:66㎏

 

得意ポジション:PG

 

 

 

空、大地入学時に花月の副主将。インターハイ終了後もチームに残り、熱くなって調子を崩した空の代わりに司令塔を務めた。

 

 

 

身体能力:6

技術  :6

スタミナ:7

精神力 :7

特殊能力:4

 

 

 

 

 

竜崎大成(りゅうざきたいせい) -2

 

身長:183㎝

 

体重:71㎏

 

得意ポジション:1番から4番までこなせる

 

 

 

帝光中学で3年時に主将を務めた選手。花月と桐皇の試合を見て花月入学を決めた。帝光中時代は直前に主将が倒れた事で代理で主将を務め、2年時に全中決勝で負けた事で厳しい環境下で半ば脅迫めいた条件を付きつけられ、劣悪な環境ながらチームを纏め、帝光を優勝に導いた。

各種ポジションをこなせる事が出来、ポジションに応じた幅広いプレーが出来る。精神的に負担のかかる環境で戦っていた経験もあってか、試合終盤や勝負所の手が竦む状況下でも臆せずプレーが出来る精神力を持つ。

バスケの事となると先輩問わず遠慮なく思った事を口にする為、チームメイトと衝突する事もしばしば。

 

 

 

身体能力:7

技術  :7

スタミナ:7

精神力 :8

特殊能力:5

 

 

 

 

 

帆足大典(ほあしだいすけ) -1

 

身長:170㎝

 

体重:61㎏

 

得意ポジション:SG

 

 

 

体力を付ける為に高校からバスケを始める。一時はバスケを辞める事を考えたが、天野の説得によって踏みとどまる。

地獄とも言える花月の練習を耐え抜いた事もあり、空は曰く、県の中堅校クラスの選手が相手なら何とかやり合えるレベルらしい。

 

 

 

身体能力:5

技術  :5

スタミナ:6

精神力 :6

特殊能力:3

 

 

 

 

 

室井総司(むろいそうじ) -2

 

身長:188㎝

 

体重:89㎏

 

得意ポジション:C

 

 

 

中学時代は陸上部に所属しており、あらゆる競技で表彰台や入賞を果たしていた。中学3年時に誘われて見に行った花月対桐皇の試合を見てバスケをやってみたくなり、周囲の反対を押し切って花月高校に入学した。

初心者ではあるが、キセキの世代相当の身体能力を有しており、ボールを持ったプレーこそ拙さが残るが、身体を使ったプレーの飲み込みは早く、猛練習を経てバックアップセンターの座を掴み取る。

 

 

 

身体能力:10

技術  :3

スタミナ:10

精神力 :8

特殊能力:3

 

 

 

 

 

菅野肇(すがのはじめ) ±0

 

身長:177㎝

 

体重:66㎏

 

得意ポジション:SF

 

 

 

ガッツあふれるプレーが持ち味のチームのムードメーカー。上下関係に厳しい事からチームメイトと衝突する事もしばしばあるが、チームを思っての事と皆理解している為、大きなトラブルにはならない。

ベンチから積極的に声を出して選手達を鼓舞し、インターバルやハーフタイムの時は積極的にサポートに回っている。

 

 

 

身体能力:7

技術  :6

スタミナ:7

精神力 :7

特殊能力:4

 

 

 

 

三杉誠也(みすぎせいや) +1

 

身長:190㎝

 

体重:88㎏

 

得意ポジション:センター以外は全部こなせる

 

必殺技:支配 誘導 確定予測(アカシックレコード) 野生 ゾーン

 

 

 

圧倒的なテクニックを有し、そのフェイクはキセキクラスですら引っ掛かってしまうレベル。パス、ドリブル、シュート等、何でもこなせるオールラウンダー。

身体能力はキセキ級の中でもそこまで高くはないが、古武道やスポーツ科学を応用し、動きの省略化や筋肉を操作してより力を発揮出来るようにするので、見た目の数値より高い身体能力を誇る。

高いIQを誇り、相手の動きや心理、試合全体の流れを読む力も長けており、花宮以上の頭と今吉(翔)以上の心理を読む力、桃井と同じデータを持ち合わせている。

普段は冷静で落ち着いたプレーをするが、ゾーンに入ると本来の自分が出て、内に秘めていた野生が表に出る。

より高いレベルのバスケを求め、強豪校ではなく、留学制度のある花月高校付属中学に進学し、花月高校の姉妹校であるアメリカの高校に留学していた。何度か帰国要請があったが帰国しても得るものないと拒否していたが、キセキの世代の存在を知って腕試しと成長を促す為に帰国を決意した。

 

 

 

身体能力:10

技術  :10

スタミナ:10

精神力 :10

特殊能力:10

 

 

 

 

 

堀田健(ほったたけし) +1

 

身長:204㎝

 

体重:110㎏

 

得意ポジション:C

 

必殺技:ゾーン

 

 

 

圧倒的な身体能力を誇り、その中でもパワーはアメリカ人のインサイドプレーヤーとも互角以上に張り合える程。

駆け引きや試合の流れを読む力に長けており、ポジショニングやプレッシャーの掛け方で紫原並のディフェンスエリアを守れる。握力が100㎏を超えている為、体勢が不十分でもボールに指先がかかっていればダンクを防げる。

圧倒的過ぎる才能を有した為、試合では相手になる者がおらず、力を持て余していたが、同じ境遇である三杉に声を掛けられ、共に花月高校付属中学に入学し、留学制度を利用してアメリカに留学した。何度か帰国要請があるも断っていたが、キセキの世代の存在を知り、その中でも紫原と戦う為に帰国を決意した。

 

 

 

身体能力:10

技術  :10

スタミナ:10

精神力 :10

特殊能力:10

 

 

 

 

 

姫川梢(ひめかわこずえ) -1

 

身長:166㎝

 

体重:??

 

現役時のポジション:SF

 

 

 

かつて、女子バスケ界で2人の天才と称された1人。相手を良く分析し、的確に隙を突くバスケ。

もう1人の天才に対抗する為、血の滲むような努力をした結果、足を負傷し、現役を引退する事になってしまった。

バスケを諦められず、花月にてマネージャー兼監督補佐を務める。

自分が出来なくなったバスケを楽しそうにやり、自分と同じように血の滲むような努力をする空に当初はかなり強く当たっていたが、後に和解した。

 

 

 

 

育成力    :8

分析力    :7

采配     :6

カリスマ性  :6

現役時代の能力:10

 

 

 

相川茜(あいかわあかね) -1

 

身長:153㎝

 

体重:??

 

 

 

花月高校のマネージャー。雑用や選手のサポートなど、マネージャー業務を引き受けている。

彼女のオリジナルのスポーツドリンクは大好評で、明るい笑顔でチームに笑顔をもたらしている。

 

 

 

 

 

上杉剛三(うえすぎごうぞう) 監督

 

身長:185㎝

 

体重:75㎏

 

現役時のポジション:SF

 

 

 

花月高校の監督。空の代が入学する前は全国出場こそしていないが、その地獄のような練習をさせる事で良くも悪くも有名だった。去る者は追わず来る者は拒まずで、辞めたくなったらいつでも辞めていいというスタンスで、上杉自身も『例え1日であってもここでの経験が今後の人生で生きればいい』という考え。

練習内容はとにかく基礎練習重視で、試合に勝つ事より選手の才能を支える土台を徹底的に鍛えさせる方針。前述どおり地獄のような練習量を課す為、経験者や体力自慢であっても付いていけない者も多く、全滅する年もあったりする。だがその甲斐あってか、花月で3年間育った選手は全国に出れずとも大学で活躍している選手もいる。

現役時代は天才と称され、NBA入りの話まで来ていたが、とある日の国際試合で無理をした為に現役を引退する事となった。その事もあってか、同世代の相田景虎達にとっては特別な存在である為、上杉をバカにした発言をされると本気で怒ったりする事もある。

 

 

 

育成力    :10

分析力    :7

采配     :7

カリスマ性  :8

現役時代の能力:10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――誠凛高校

 

 

 

田仲潤(たなかじゅん) -1

 

身長:187㎝(中学時)→190㎝(高校入学時)→193㎝(高校2年時)

 

体重:76㎏(中学時)→77㎏(高校入学時)→80㎏(高校2年時)

 

得意ポジション:C

 

 

 

星南中学時代の空と大地のチームメイトで、2人をバスケ部に引き戻した、主将としてチームを纏め、全中制覇に導いた。

基本に忠実で、派手なプレーは行わず、堅実なプレーをこなす。伸びしろが大きく、中学時代の監督である龍川やリコからもその潜在能力は認めている。

ここ1番での爆発力があり、力を発揮する。

 

 

 

 

身体能力:8

技術  :6

スタミナ:6

精神力 :8

特殊能力:4

 

 

 

 

 

新海輝靖(しんかいてるやす) -1

 

身長:178㎝(中学時)→180㎝(高校入学時)→183㎝(高校2年時)

 

体重:65㎏(中学時)→66㎏(高校入学時)→68㎏(高校2年時)

 

得意ポジション:PG

 

 

 

帝光中出身で、キセキの世代引退後に主将と司令塔を任された。輝かしい未来が待っているはずだったが、空と大地を擁する星南中に4連覇を阻まれ、一転苦難の道を歩む事となった。

オールラウンダー型の司令塔で、パス、ドリブル、シュート何でも器用にこなせる。

終始安定感があり、爆発力はないが調子の極端の変動も少ない。

 

 

 

 

 

身体能力:7

技術  :8

スタミナ:7

精神力 :6

特殊能力:6

 

 

 

 

 

池永良雄(いけながよしお) -1

 

身長:190㎝(中学時)→191㎝(高校入学時)→193㎝(高校2年時)

 

体重:75㎏(中学時)→76㎏(高校入学時)→78㎏(高校2年時)

 

得意ポジション:PF

 

 

 

帝光中出身の自称エース。当初は驕りやすく侮りやすい、キセキの世代以外で自分より上はいないと本気で思い込んでおり、自分勝手なプレーを繰り返していた。熱くなりやすい性格もあり、上手く行かなくなるとさらに悪循環で調子を崩す為、チームにとっては取り扱いが難しい爆弾のような扱いだった。その性格が災いして1年時にウィンターカップ出場を逃す大きな要因を作ってしまった。

派手なプレーを好み、ガンガン積極的に1ON1を仕掛けていく。高いオフェンス力を有しており、火神を相手にしても時折得点を奪えるレベル。自分勝手なプレーもチームの敗北と先輩達の涙と檄が効き、2年時には言動は相変わらずだが試合では控えるようになった。

 

 

 

 

 

 

身体能力:8

技術  :8

スタミナ:7

精神力 :5

特殊能力:6

 

 

 

 

 

朝日奈大悟(あさひなだいご) -1

 

身長:180㎝(高校入学時)→185㎝(高校2年時)

 

体重:75㎏(高校入学時)→77㎏(高校2年時)

 

ポジション:SG PF

 

 

 

火神に憧れて誠凛高校に入学した全中経験のある実力者。当初はフォワードであったが、誠凛でのフォワードの層の厚さに対し、シューティングガードの層が薄かった為、リコの提案でシューティングガードにコンバートした。

中学時代のポジションとは真逆のポジションながらも練習終了後にスリーを猛練習した為、急ピッチでのコンバートながら、全国で戦えるレベルにまで成長。インサイドでのプレーもこなせる為、日向順平程の爆発力と得点力こそないが、不得意分野の少ない選手となった。

小説登場キャラであり、小説では生意気な発言したりするのだが、この作品では同年代の池永がそれ以上にひどい為、逆に大人しくなっている。

 

 

 

身体能力:8

技術  :7

スタミナ:7

精神力 :7

特殊能力:5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――秀徳高校

 

 

宮地裕也(みやじゆうや) +1

 

身長:190㎝

 

体重:76㎏

 

ポジション:SF

 

 

 

大坪の世代が引退後に主将に任命された選手。1つ上に兄の清志がおり、彼が在学中は後1歩及ばなかったが、3年時には兄に引けを取らない選手にまで成長した。

兄と同じく厳しく、選手としてのタイプも兄と同系統の選手。

原作に僅かであるが登場しています。

 

 

 

身体能力:8

技術  :8

スタミナ:8

精神力 :9

特殊能力:5

 

 

 

 

 

支倉圭太郎(はせくらけいたろう) +1

 

身長:197㎝

 

体重:83㎏

 

ポジション:C

 

 

 

秀徳で大坪が引退後にスタメンセンターを任せられた選手。高さとパワーは大坪に劣るも、シュートエリアとテクニックは上と言われる程。

厳しく後輩達とぶつかる主将の宮地裕也に対し、支倉は後輩達のケアや宮地裕也のフォローに当たる役割をこなしている。

 

 

 

身体能力:8

技術  :8

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:4

 

 

 

 

 

斎藤宏(さいとうひろし) ±0

 

身長:180㎝

 

体重:67㎏

 

ポジション:SG

 

 

 

中学時代は県で注目される程のシューターで、当時、シューターが弱かった秀徳で一旗上げる為に秀徳に入学するも緑間がいた為、3年になるまでは緑間のバックアップのシューティングガードとしてベンチに控えていた。3年時に緑間がスモールフォワードにコンバートした為、スタメン入りを果たす。

当初は実力ではなく、緑間のコンバートによって空いた後釜としてスタメン入りした事にコンプレックスを抱いていたが、高尾のフォローがあり振り払う事が出来た。

同じくチームに緑間と言う比較対象がいるせいで目立たないが、全国区の強豪である秀徳でスタメンに選ばれるだけの実力は有しており、緑間がコンバートに踏み切れたのは要因にはこの選手がいた事もあったからであった。

 

 

 

身体能力:6

技術  :8

スタミナ:7

精神力 :7

特殊能力:5

 

 

 

 

 

戸塚徳親(とづかのりちか) ±0

 

身長:193㎝

 

体重:87㎏

 

ポジション:C

 

 

 

緑間3年時の秀徳のスタメンセンター。身長は特筆して高い方ではないが、高いフィジカルを有しており、それは桐皇の若松と張り合える程とも。

フィジカルを活かしてパワフルなプレーをし、ガンガンゴール下から得点を重ねる選手。

 

 

 

身体能力:9

技術  :7

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:4

 

 

 

 

 

木村孝介(きむらこうすけ) -1

 

身長:189㎝(高校入学時)→192㎝(高校2年時)

 

体重:80㎏(高校入学時)→83㎏(高校2年時)

 

ポジション:PF

 

 

 

かつて秀徳に在籍していた木村信介の弟で、入れ替わりで秀徳に入学。資質は兄以上と期待された。期待通り兄の抜けた穴を埋めた。

選手としてのタイプは兄と同系統で派手なプレーよりリバウンドやスクリーンを駆使してチームを支えるロールプレーヤー。

 

 

 

身体能力:8

技術  :8

スタミナ:9

精神力 :8

特殊能力:4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――桐皇学園高校

 

 

 

福山零(ふくやまれい) ±0

 

身長:189㎝(高校2年時)→191㎝(高校3年時)

 

体重:76㎏(高校2年時)→77㎏(高校3年時)

 

ポジション:SF

 

 

 

全国屈指のオフェンス力を有し、スピードとキレのあるドライブ技術、アウトサイドシュート、中から身体をぶつけながら泥臭く決められるなど、中からでも外からでも点が取れ、桐皇で2番目のオフェンス力を持っている。反面、ディフェンスにかなり難があり、ディフェンス時には良く狙われる傾向があり、諏佐佳典からは『ディフェンスさえ良ければ昨年(原作年)でもスタメンだった』と言われ、今吉翔一からは『ディフェンスがまともだったら無冠の五将と同等の評価を得ていた』と言われた。

2年時のウィンターカップ終了後、主将に任命され、その責任感から苦手だったディフェンスを猛練習。ある程度は克服した。オフェンス力も磨きがかかり、オフェンス力だけならキセキの世代並とまで称されるようになった。

青峰をライバル視しており、度々衝突するが、若松程嫌ってはいない為、大きなトラブルには至っていない。

 

 

 

身体能力:9

技術  :9

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:5

 

 

 

 

 

新村守(しむらまもる) ±0

 

身長:189㎝

 

体重:75㎏

 

ポジション:PF C

 

 

 

桐皇の控えのインサイドプレーヤー。ディフェンスを固める際に福山に代わって試合に出場する事もある。

堅実なプレーが売りで、オフェンス重視の桐皇において唯一スクリーンやリバウンドを徹するロールプレーヤー。スタメン入りこそ出来ないがチームに欠かせないベンチウォーマー。

 

 

 

身体能力:7

技術  :6

スタミナ:7

精神力 :6

特殊能力:4

 

 

 

 

 

今吉誠二(いまよしせいじ) -1

 

身長:177㎝(高校入学時)→179㎝(高校2年時)

 

体重:65㎏(高校入学時)→66㎏(高校2年時)

 

 

 

原作の桐皇の主将である今吉翔一の従弟。中学時代は全中出場経験こそないが、弱小校を全中出場手前まで導いた実績があり、今吉翔一の紹介で桐皇にスカウトされた。

基本に忠実で、瞬時に確率の高い選択肢を割り出し、確実なゲームメイクを行う選手。

先輩相手でも物怖じせずに発言出来る胆力があり、特に福山には先輩であるにも関わらずかなり毒舌めいた事も言ったりする。時折それが行き過ぎて怒りを買う事も…。

 

 

 

身体能力:6

技術  :8

スタミナ:7

精神力 :8

特殊能力:5

 

 

 

 

 

 

國枝清(くにえだきよし) -2

 

身長:192㎝

 

体重:79㎏

 

ポジション:C

 

 

 

若松と入れ替わりで桐皇に入学したセンタープレーヤー。全中出場経験があり、帝光中に敗れたものの、その名を知らしめた。

1年生だけに伸びしろもあり、技巧派ながら、フィジカルもかなりあり、空いたセンターのポジションを掴み取った。

 

 

 

身体能力:8

技術  :7

スタミナ:7

精神力 :7

特殊能力:5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――陽泉高校

 

 

 

永野健司(ながのけんじ) ±0

 

身長:180㎝(高校2年時)→181㎝(高校3年時)

 

体重:68㎏(高校2年時)→69㎏(高校3年時)

 

ポジション:PG

 

 

 

紫原と同学年の司令塔。1年時にはレギュラー入りをしており、ドライブ技術だけなら当時のスタメンポイントカードであった福井より上だったが、その代は2m代のインサイドプレーヤーが3人スタメンにいた為、ドライブ技術が生かしづらいチームであった為、控えに回った。

スピードとキレ味抜群のドライブで積極的にカットインし、そこから中のインサイドプレーヤー、あるいは外のシューターにパス、または自ら決め、チームの起点を担う。

3年時には主将を任され、チームを纏める。

 

 

 

身体能力:7

技術  :8

スタミナ:7

精神力 :8

特殊能力:5

 

 

 

 

 

木下秀治(きのしたひではる) ±0

 

身長:192㎝

 

体重:73㎏

 

ポジション:SG

 

 

 

紫原と同学年のシューティングガード。1年時にはスタメン入りをしていたが、氷室の加入で控えに回った。

緑間に次ぐ高身長シューターで、高い打点からスリーを量産するピュアシューター。

 

 

 

身体能力:7

技術  :8

スタミナ:8

精神力 :7

特殊能力:5

 

 

 

 

 

渡辺一輝(わたなべかずき) -1

 

身長:201㎝

 

体重:95㎏

 

ポジション:PF C

 

 

 

キセキの世代が3年時にスタメン入りをした選手。中学時代は空世代のもっとも身長の高い選手として注目され、陽泉入りをした。

中学時代はその高い身長である程度通用していたのだが、陽泉に入ってからは紫原や劉と言った自分より高さもパワーもある選手を前に相手にならず、自分より身長が低い身長の者にすら勝てず、ただデカいだけの選手と陰で蔑まれており、1度はバスケを辞める事も考えたが、監督の荒木の説得で踏みとどまった。

陽泉で1年間みっちり鍛えられ、フィジカルやテクニックが大幅に成長し、全国区のインサイドプレーヤーにまで成長を果たした。

 

 

 

身体能力:8

技術  :7

スタミナ:7

精神力 :6

特殊能力:5

 

 

 

 

 

アンリ・ムジャイ(あんり・むじゃい) -1

 

身長:193㎝

 

体重:89㎏

 

ポジション:SF

 

必殺技:ストライド走法

 

 

 

セネガルからスポーツ留学で陽泉にやってきた選手。日本語はまだ片言だが、持ち前の人懐っこさですぐにチームに溶け込む。

高い身体能力を有しており、青峰並のスピードとアジリティと広い歩幅から繰り出せれる高速ドライブでガンガン中に切り込み、火神並のジャンプ力と滞空力、セネガル人の特融のバネでガンガンダンクを叩き込む。この身体能力はディフェンスでも行かされ、紫原程ではないが、広いディフェンスエリアを持っている。

ちなみに同じセネガル人であるパパとは顔見知りと言う設定。

 

 

 

身体能力:10

技術  :8

スタミナ:9

精神力 :9

特殊能力:8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――海常高校

 

 

氏原晴喜(うじはらはるき) ±0

 

身長:182㎝

 

体重:69㎏

 

ポジション:SG

 

 

 

黄瀬と同学年のシューティングガードで、男子バスケでは珍しいツーハンドでボールをリリースするシューター。かかる負担が両手に分散する為、スリー成功率が試合開始直後と終盤で確率がほとんど変わらず、抜群の安定感を持っている。

不器用ながら主将を務める黄瀬を陰ながら支え、フォローしている。

 

 

 

身体能力:6

技術  :8

スタミナ:8

精神力 :7

特殊能力:6

 

 

 

 

 

三枝海(さえぐさかい) ±0

 

身長:199㎝

 

体重:102㎏

 

ポジション:SF PF C

 

必殺技:モードベルセルク

 

 

 

空と大地の幼馴染で、2人にバスケを教えた師匠であり、兄貴分。父親の仕事の関係で国内外を転々としており、その時に2人とは出会った。関西出身の為、関西弁を話す。

小学校卒業と同時にスペインに転校。スペインの猛者に揉まれながら大きく成長し、スペインのプロでもあるリーガACBからも注目され、エスパニョーラバロンセスタのチームからも誘いが来るほど。

圧倒的なパワーでインサイドを掌握し、ブロックとリバウンドを量産する。見かけによらず、高いドリブル技術も有しており、外から中へと切り込むドライブ技術や、器用なシュートも打てる。圧倒されるとベルセルクと言われるモードが入り、これに入ると爆発的に身体能力が増大するが、視野とシュートエリアが狭まり、熱くなりやすくなってしまうというデメリットがある。

 

 

 

身体能力:10

技術  :9

スタミナ:9

精神力 :8

特殊能力:8

 

 

 

小牧拓馬(こまきたくま) -1

 

身長:173㎝(中学時)→178㎝(高校2年時)

 

体重:62㎏(中学時)→65㎏(高校2年時)

 

ポジション:PG

 

 

 

全中強豪城ヶ崎中学の司令塔で、海常に入学し、1年生の夏にレギュラー入りを果たし、その年の冬にスタメン入りを果たした。

スリーとドライブを得意とするスコアラー型の司令塔で、ドライブのスピードとキレは笠松に匹敵する程。

全中大会で負けた空をライバル視しつつも選手として尊敬しており、全中決勝で見せたキラークロスオーバーを理想として練習に励み、自分の武器にまで昇華させた。

 

 

 

身体能力:8

技術  :8

スタミナ:8

精神力 :7

特殊能力:5

 

 

 

末広一也(すえひろかずや) -1

 

身長:191㎝(中学時)→194㎝(高校2年時)

 

体重:74㎏(中学時)→76㎏(高校2年時)

 

ポジション:PF C

 

 

 

全中強豪校の城ヶ崎中学でセンターで、小牧と花月の生嶋の元チームメイト。1年生の夏にレギュラー入り、バックアップセンターとなり、2年時にスタメン入りを果たした。

技巧派のセンターでインサイドプレーヤーとしては決して高くないフィジカルをテクニックでカバーする。ミニバスからの付き合いである小牧とのコンビネーションは抜群で、試合では阿吽の呼吸でコンビプレーを駆使し、チームに貢献する。高校2年時は三枝が加入した事でパワーフォワードにコンバートした。

全中で敗退した空と大地、中学時代のチームメイトのいる花月をライバル視している。

 

 

 

身体能力:7

技術  :8

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――洛山高校

 

 

 

二宮秀平(にのみやしゅうへい) ±0

 

身長:186㎝

 

体重:72㎏

 

ポジション:SG

 

 

 

帝光中から洛山へと進学した選手。その実力は無冠の五将に匹敵するレベルとも言われる。パス、ドリブル、シュート全てを高いレベルでこなせる選手で外からでも中からでも得点が狙えるオールラウンダー。

例年なら注目される程の実力を有していたが、同年代の同じチームにキセキの世代がいた為、その実力も結果も努力すらも評価される事はなく、脚光を浴びる事はなかった。それでも腐る事なく洛山でキセキの世代と共にキセキの世代と戦う道を選んだ。

何でも器用にこなせるが、その中でもアウトサイドシュートが得意。

 

 

 

身体能力:8

技術  :9

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:7

 

 

 

 

 

三村彰人(みむらあきと) ±0

 

身長:189㎝

 

体重:75㎏

 

ポジション:SF

 

 

 

帝光中から洛山へと進学した選手。パス、ドリブル、シュートを高いレベルで習得しており、中からでも外からでも得点が取れ、その実力は無冠の五将相当。

二宮と同じく、同じチームの同学年にキセキの世代がいた為、不遇の扱いを受けるも、キセキの世代と共にキセキの世代を倒す道を選ぶ。

何でも器用にこなせるが、その中でもディフェンスが得意。

 

 

 

身体能力:8

技術  :9

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:7

 

 

 

 

 

四条大智(しじょうだいち) ±0

 

身長:191㎝(高校2年時)→193㎝(高校3年時)

 

体重:76㎏(高校2年時)→77㎏(高校3年時)

 

ポジション:PF

 

 

 

帝光中から洛山へ進学した選手。パス、ドリブル、シュートを高いレベルでこなし、中からでも外からでも得点が取れ、その実力は無冠の五将相当。

同じく同学年にキセキの世代がいた為、不遇の扱いを受けるもキセキの世代と共にキセキの世代を倒す道を選んだ。4人の中で唯一2年時にスタメンに選ばれている。

何でも器用にこなせるが、その中でもドライブが得意。

 

 

 

身体能力:9

技術  :8

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:7

 

 

 

 

 

五河充(いつかみつる) ±0

 

身長:200㎝(高校2年時)→202㎝(高校3年時)

 

体重:95㎏(高校2年時)→97㎏(高校3年時)

 

ポジション:C

 

 

 

帝光中から洛山に進学した選手。パス、ドリブル、シュートを高いレベルでこなし、センターながらフリーならスリーも決めてくる。その実力は無冠の五将に匹敵する。

同じく同学年にキセキの世代がいた為、不遇の扱いを受けるも、キセキの世代と共にキセキの世代と戦う道を選ぶ。

何でも器用にこなせるが、その中でもインサイドのプレーが得意。

 

 

 

身体能力:9

技術  :8

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――鳳舞高校

 

 

 

大城義光(おおしろよしみつ) ±0

 

身長:188㎝

 

体重:87㎏

 

ポジション:PF

 

 

 

鳳舞高校主将。1年時は他県の高校の選手だったが、家庭の事情で退学を余儀なくされたが、鳳舞高校の特別奨学金制度の話を受け、転校した。

リバウンドが得意で、自慢のフィジカルを活かしてゴール下からガンガン押し込んで攻め立てるのが得意のパターン。

何かと衝突する灰崎と鳴海の間に入って仲裁し、チームを纏めている。灰崎の横柄な態度もある程度寛容に受け入れているが、本音ではムカついている。

 

 

 

身体能力:9

技術  :7

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:4

 

 

 

 

 

三浦祐二(みうらゆうじ) -1

 

身長:171㎝(中学時)→174㎝(高校2年時)

 

体重:62㎏(中学時)→64㎏(高校2年時)

 

ポジション:PG

 

 

 

全中強豪校の東郷中出身の司令塔。鳳舞高校の監督である織田に声を掛けられ、鳳舞高校に入学する。

これと言って欠点がなく、ミスの少ないゲームメイクとバスケをする。

3年生の仲の悪さに頭を悩ませつつもその実力には多大な信頼を寄せている。

 

 

 

身体能力:6

技術  :7

スタミナ:7

精神力 :7

特殊能力:4

 

 

 

 

 

東雲颯(しののめはやて) -1

 

身長:171㎝

 

体重:61㎏

 

ポジション:SG

 

 

 

鳳舞高校のシューティングガード。鳳舞高校は地元に出来た新設校だったので進学した。

スピードと運動量が武器で、速攻時は先頭を走ってワンマン速攻を成功させ、ディフェンスではそのスピードを活かしてスティールを連発する。

三浦とは同学年と言う事で打ち解けている。

 

 

 

身体能力:7

技術  :6

スタミナ:9

精神力 :7

特殊能力:5

 

 

 

 

 

外園伸也(ほかぞのしんや) -1

 

身長:173㎝

 

体重:63㎏

 

ポジション:SG

 

 

 

鳳舞高校のシューティングガード。シューターだが、意表を突いてポストアップを仕掛ける等、意外性のある選手。

気合いのあまり声を張り上げる事が多く、試合の流れを変えるシックスマン的なポジションでもある。

他県から特別奨学金制度を利用して鳳舞に転校してきた。

 

 

 

身体能力:6

技術  :7

スタミナ:6

精神力 :8

特殊能力:5

 

 

 

 

 

織田一誠(おだいっせい) 監督

 

身長:170㎝

 

体重:58㎏

 

現役時代のポジション:PG

 

 

 

鳳舞高校の監督。高齢で1度は監督業から身を引いたものの、鳳舞高校から要請を受け、引き受けた。

かつては中学、高校、大学、社会人問わず監督を引き受け、全国強豪に押し上げ、何度も優勝をさせた事から、優勝請負人と呼ばれ、日本代表の監督経験もある。

飄々としていて掴みどころがなく、相手チームの嫌がる所や弱点を的確に突き、チームを纏める手腕にも長けている。

 

 

 

育成力   :8

分析力   :9

采配    :9

カリスマ性 :9

現役時の能力:7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その他

 

 

――大仁田高校

 

 

 

綾辻博之(あやつじひろゆき) +1

 

身長:173㎝

 

体重:61㎏

 

ポジション:PG

 

 

 

大仁田高校の司令塔。小林圭介の後を継いで司令塔を務める。

 

 

 

 

 

風間孝明(かざまたかあき) ±0

 

身長:191㎝

 

体重:81㎏

 

ポジション:PG C

 

 

 

大仁田高校のセンター。もともとはポイントガードだったが、同じチームに小林圭介がいた為、コンバートする。

 

 

 

 

 

寺沢裕(てらさわゆう) ±0

 

身長:176㎝

 

体重:63㎏

 

ポジション:PG SG

 

 

 

大仁田高校のシューティングガード。もともとはポイントガードだったが、同じチームに小林圭介がいた為、コンバートする。

 

 

 

 

 

内海譲(うつみじょう) +1

 

身長:182㎝

 

体重:67㎏

 

ポジション:PG SF

 

 

 

大仁田高校のスモールフォワード。もともとはポイントガードだったが、同じチームに小林圭介がいた為、コンバートする。

 

 

 

 

 

大沢介司(おおさわかいじ) ±0

 

身長:188㎝

 

体重:72㎏

 

ポジション:PF

 

 

 

大仁田高校のパワーフォワード。もともとはポイントガードであったが、同じチームに小林圭介がいた為、コンバートする。

 

 

 

 

 

伊達康隆(だてやすたか) -2

 

身長:187㎝

 

体重:76㎏

 

ポジション:SF

 

 

 

中学時代、ワンマンチームながらチームを全中大会出場まで押し上げた実力者。高い身体能力とテクニックを兼ね備え、1ON1スキルは当時の全中出場選手の中で五指に数えられる程。

エース不在の弱点を埋める為に大仁田高校に加入した。

 

 

 

 

 

――田加良高校

 

 

 

胡桃沢博(くるみざわひろし)

 

身長:175㎝

 

体重:66㎏

 

ポジション:PG

 

 

 

佐賀県ナンバーワンの司令塔にしてナンバーワンシューター。チームメイトの4人のビッグマンを自在に操り、中を固めればアウトサイドシュートを打ち、自分に警戒が集まれば中のビッグマンにパスを捌くのが必勝パターン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――緑川高校

 

 

 

一ノ瀬京志郎(いちのせきょうしろう) ±0

 

身長:185㎝

 

体重:76㎏

 

ポジション:PG

 

 

 

元帝光中出身の選手。抜群のパスセンスとゲームメイク能力。1ON1スキルにも優れ、外からでも相手にぶつかりながらバスカンをもぎ取れる身体の強さも併せ持ち、その実力はキセキの世代も認める程。

監督も兼任しており、急遽加入した荻原や井上を率い、急造チームながらチームをまとめ上げ、県大会決勝で花月を苦しめた。

左目が見えないというハンデがあり、これが影響で3年最後の冬の大会まで公式戦に出られなかった。

 

 

 

身体能力:8

技術  :9

スタミナ:9

精神力 :10

特殊能力:8

 

 

 

 

 

桶川文吾(おけがわぶんご) ±0

 

身長:179㎝

 

体重:67㎏

 

ポジション:SG

 

 

 

緑川高校のアウトサイドシューター。これまでの緑川の2枚看板の1人で、安定したスリーが持ち味。

チームのムードメーカー的存在で、実力がありながら試合に出場出来なかった一ノ瀬を励まし、3年最後の夏の県大会終了後、監督が辞めた後に荻原をチームに加入させ、一緒に来た井上の試合参加の為にチームメイトを説得した。

 

 

 

身体能力:6

技術  :7

スタミナ:8

精神力 :7

特殊能力:5

 

 

 

 

 

城嶋則之(じょうじまのりゆき) ±0

 

身長:190㎝

 

体重:73㎏

 

ポジション:C

 

 

 

緑川の2枚看板の1人で、中を支える選手。技巧派タイプのインサイドプレーヤーで、テクニックを駆使して得点を重ねる。

寡黙な選手で、何かと対照的な桶川のツッコミ的な役割をこなす。

 

 

 

身体能力:7

技術  :8

スタミナ:8

精神力 :8

特殊能力:4

 

 

 

 

 

 

 

 

 





名前の横の+-表記は学年を意味し、キセキの世代と同学年なら±0となっています。

黒フェスを参考に10段階で評価しました。空と大地の数値が高いと感じられた方もあられるかと思いますが、この数値は空、大地世代が2年のインターハイ終了時の数値ですので、キセキの世代も黒フェス記載の数値よりも上がっております。

独断と偏見で突貫で作り上げたので、もしかしたら変更もあるかもしれません…(;^ω^)

過去に話を読み直してデータ化するのは結構大変でした。この二次も着実にクライマックスに近付いているのでラストスパートをかけます…!(^^)!

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第150Q~乱入者~


投稿します!

長い長ーい話になりましたが、投稿です…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

夏の激闘が終わり、激闘を繰り広げた猛者達が自分達の所属する県へと戻っていった。空達花月高校の選手達も静岡に帰り、次の戦いに備えていた。

 

「あざーす」

 

そんな中、空が職員室から出て来た。その手には1枚の用紙があった。

 

『短期留学申請書』

 

「…よし」

 

用紙を確認した空が頷いた。

 

「空」

 

そんな空に話しかける人影が現れる。

 

「…大地か。これを貰いに行ったんだよ」

 

空は持っていた用紙を大地に見せた。

 

「短期留学制度…」

 

「インターハイでキセキの世代との力の差を思い知った。去年はガムシャラだったから実感なかったけど、今年の夏はそれが良く分かった」

 

「…」

 

「陽泉や海常には勝ったが、個人では完敗だったし、洛山は試合も完敗だった。インターハイでキセキの世代の勝利への執念を思い知った。冬まで同じ事しててもこの差は埋まらねえ。だから俺はアメリカに行く。キセキの世代との差を埋める『何か』を掴むために」

 

真剣な表情で大地に説明をした。

 

「……フフッ」

 

それを聞いた大地が笑い始めた。

 

「?」

 

笑い始めた大地を見た空が怪訝そうな表情をする。

 

「…いえ、すみません。考える事が同じで驚いただけです」

 

そう言って大地が1枚の用紙を空に見せた。それを空が今しがた貰ってものと同じ、短期留学制度の申し込み用紙だった。

 

「ハハッ! お互い、考える事は同じか」

 

用紙を見た空が同様に笑い始めた。

 

「ただ練習をしてもキセキの世代との差は埋まらないでしょう。ならば、違う鍛え方をするしかないでしょう。となれば、本場のバスケを体感する以外にありません」

 

「だよな! 早速これ書いて理事長に承認貰いに行こうぜ!」

 

嬉々として空が歩き始めた。

 

「…ところで、この留学制度は学力が高い者から選出されると言うのご存じですか?」

 

「…」

 

歩き始めた空だったが、ピタリと歩みを止めた。

 

花月高校の留学制度は希望者の人数が多い場合は成績順で選出される。ちなみに、花月高校はかなりの進学校でもあるので、毎年は希望者は成績優秀者ばかり。

 

「…空、1学期の期末考査の結果は?」

 

「…」←全教科赤点ギリギリ

 

沈黙する空。それが全てを物語っていた。

 

「…い、一応、行くだけ行ってみましょう。可能性は0ではないでしょうし」

 

「…い、いざとなったら土下座してでも…!」

 

空と大地は顔を引き攣らせながら用紙を記入し、理事長室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

理事長室にて、記入された短期留学制度の用紙に理事長が目を通していく。

 

「「…」」

 

その様子を固唾を飲んで空と大地が見守っている。

 

「……ふぅ」

 

理事長が一息吐くと、記入用紙を机に置いた。

 

「「…(ゴクリ)」」

 

息を飲む2人。

 

「神城空さん、綾瀬大地さん」

 

「「はい!」」

 

「短期留学制度の件、お二人とも了承致します」

 

笑顔で理事長が了承の判を押した。

 

「えっ!?」

 

断れる事を覚悟していた空は思わず声を上げた。

 

「どうかしましたか?」

 

「あの…その、成績優秀者が選ばれるって聞いたんでてっきり…」

 

空の言葉を聞いた理事長がニコリと笑みを浮かべ…。

 

「昨年のインターハイ優勝。ウィンターカップベスト8。そして今年のインターハイベスト4。立派な成績優秀者ではありませんか」

 

「「…」」

 

この言葉を聞いた空と大地は互いに顔を見合わせ…。

 

「「ありがとうございます!」」

 

揃って理事長に頭を下げたのだった。

 

 

※ ちなみに、空に承認の許可が下りたのは、今年に限り、短期留学制度を希望する生徒の定員が割れていたと言う理由があった事はお約束…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「へぇー、それじゃ、くーとダイはアメリカに姉妹校に行くんだ」

 

「あぁ。今よりもっと強くなって帰ってくるぜ」

 

事情を聞いた生嶋が感心しながら言った。

 

「そうなると国体はどうするんだ? お前達には確実に声が掛かるだろう」

 

松永が国体の事を2人に尋ねた。

 

国体は県で選抜チームを結成し、秋に開催される高校生の三大大会の1つだ。

 

「来ても辞退する。出ればそれなりに得るもんあんだろうが、正直、夏と結果は変わらねえだろうし」

 

「インターハイから開催期間が短いですからね。冬に備えたいので私も辞退します」

 

2人の返事は辞退だった。

 

「残念ですね。自分としてはまた先輩達がキセキの世代とぶつかる姿が見たかったですけど」

 

辞退を聞いて室井が残念がった。

 

「となると、国体は東京、京都、神奈川、秋田のいずれかが優勝するのは確実ですね」

 

竜崎が今挙げた県は言わずと知れたキセキを冠する者が在籍する県だ。

 

「東京は青峰の怪我の調子もあるが、仮に辞退したとしても火神と緑間の2人がいるし、個々の戦力と層の厚さなら1番だろう」

 

松永が最初に挙げたのは東京都。キセキを冠する火神と緑間。誠凛、桐皇、秀徳は全国で指折りの選手が揃った高校である為、青峰が欠場したとしてもその総合力は1番。

 

「けど、京都、神奈川、秋田は確実に洛山、海常、陽泉の選手が主軸になりますから、連携面でアドバンテージが取れるはずです。戦力と層の厚さだけでは一概に語れませんよ」

 

急造チームとなる東京都と違い。他の3県は普段から一緒に練習をしている選手同士が主軸となる為、連携は抜群だと竜崎が意見を述べた。

 

「強い選手が集まったチームが強いとは限らないからね。結果はやっていないと分からないね」

 

予想が出来ないと生嶋が結論付けた。

 

「他人事にように話ってけど、松永や生嶋は国体に選ばれる可能性が充分にあるし、そうなりゃ、いずれの4校と戦う可能性はあるだろ」

 

結果予想をしている3人に対し、空が投げかける。

 

「…うん」

 

「…うむ」

 

空に尋ねられると、生嶋と松永が表情を曇らせた。

 

「…そう言えば、天野先輩の姿が見えませんが」

 

話題を変えるべく、大地がこの場にいない天野の事を尋ねた。

 

「何や呼んだか?」

 

そこへ、天野が話の輪に加わるようにやってきた。

 

「やっと来たか! 何か監督に呼ばれてたみたいだが、何のな話だったんだ?」

 

僅かに事情を知っていた菅野が尋ねた。

 

「俺ん所に国士台大学の監督が来とってのう」

 

「国士台って言ったら…、去年のウィンターカップ前に練習試合した大学か」

 

思い出しながら菅野が言う。

 

「そや。そこの監督に呼ばれたんや。ほんで、ウチに来ぇーんかって誘われたんや」

 

「国士大大学と言ったら、関東1部の大学ですね。去年の練習試合でも私達がもっとも苦戦した相手です」

 

大地が知ってる限りの情報を口にしていく。

 

「それで、天さんはその話を受けたんですか?」

 

結論を空が聞くと、天野はニコッと笑い…。

 

「そら受ける決まっとるやろ。向こうも練習試合で1番俺を評価してくれとっての、今年のインターハイ見て決めたらしいからのう。これで進路を気にする事なく練習に打ち込めるで!」

 

自身に高い評価をしてくれた国士大大学の監督に感謝しながら天野が喜んだ。

 

「そんな事よりもや、空坊と綾瀬はアメリカ行くらしいやないか。聞いたで」

 

「えぇ。もっと強くなる為にはキセキの世代と同じ事をしても勝てないと思ったので…」

 

「俺がいない間、チームの事は天さんに任せますよ」

 

申し訳なさそうにする大地と、花月の事を空は笑顔で託していた。

 

「大事な時期にキャプテンとエースがのう…まあええわ。そのかわし、絶対つよなって帰ってくるんやで」

 

「「うす(はい)!!!」」

 

2人の肩を叩く天野。空と大地は決意に満ちた表情で返事をしたのだった。

 

こうして、空と大地はアメリカへの姉妹校への短期留学が決まり、早々に荷物を纏め、アメリカへと旅立った。

 

…だが、その前にとある場所でちょっとした出来事が起こった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「着いた着いた、ここだな」

 

1人の男が目の前の校舎を見上げながら1人呟く。

 

「えっと…きり…こう…、間違いねえ、ここだな。…待ってろよ」

 

校門前の学校名が表示されているプレートを読み上げ、目当ての場所だと言う事が確認出来たその男は満足そうに頷きながら学校へと足を踏み入れた。

 

 

――桐皇学園高等学校。

 

 

言わずと知れたキセキの世代、青峰大輝を擁する桐皇に、突如として騒動の芽がやってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇の体育館…。

 

「…ふっ、ふっ…!」

 

「…っ! …っ!」

 

練習開始予定時間前だが、各々選手達が早めに体育館に足を運び、柔軟運動をして身体を解す者、シュート練習をする者、走り込みをする者等、各自自主練を行っていた。

 

「…っと、まだ時間はあるな。って、青峰は…来てねえか」

 

準備運動を終えた桐皇の主将が青峰の姿を探すも見つからず。

 

「青峰さんなら病院によってから来るそうなので、多分、少し遅れて来ると思いますよ」

 

「…そういやそうだったな」

 

事情を説明する桜井。記憶を辿り、思い出した福山は納得した。

 

「あいつの足の調子は聞いてるか?」

 

「桃井さんの話だと、経過は順調らしくて、もしかしたら今日からでも復帰出来るかもしれないって」

 

「そりゃいい。そろそろあいつと1ON1やりたかった所だし、…そんじゃいっちょ、病み上がりの青峰へこまして喝の1つでも入れてやるか」

 

「逆に凹まされるだけやろ」

 

早期の復帰を望む福山は青峰が復帰するのを今か今かと待ちわび、そんな福山に今吉が茶々を入れた。

 

「よっと」

 

転がっていたボールを拾い、ジャンプショットを放つ福山。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれてしまった。

 

「っと、俺も少し気が抜きすぎちまったか」

 

外れたボールを追いかける福山。その時…。

 

「?」

 

体育館の入り口付近に転がったボールを1人の男が拾った。

 

「…あっ? 誰だお前」

 

身に覚えのない男。身長は福山より僅かに低く、ジャージはおろか、制服すら着ていないその男に怪訝そうに話しかける福山。

 

「…」

 

ボールを拾ったその男はニヤリと笑うと、福山目掛けてドリブルを始めた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

その男は福山の目の前でクロスオーバーで切り返し、抜きさった。そのまま男は反対側のリング目掛けてドリブルで突き進んでいく。

 

「そいつを止めろ!」

 

抜かれた後、正気に戻った福山が声を出した。その声に反応して桜井と今吉が男の前に立ち塞がる。

 

 

――スッ…。

 

 

「「っ!?」」

 

今吉を急停止してロッカーモーション、緩急で抜きさり、続く桜井をバックロールターンで反転して抜きさった。

 

「(嘘やろ!? 早過ぎるわ!)」

 

「(このスピードとキレは!?)」

 

その圧倒的なスピードに今吉と桜井は驚愕した。

 

「っしゃっ!!!」

 

リング近辺まで到達した男は気合い一閃、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

そこへ、國枝がブロックに現れた。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

ブロックもお構いなしに、國枝の上からダンクを叩き込んだ。

 

「(こいつ!? 俺よりタッパがないのに俺の上から!?)」

 

リングから手を放し、男は着地した。

 

『…』

 

突然現れた来訪者に体育館が静まり返る。男は転々とするボールを拾い…。

 

「ここにはキセキの世代ってのがいるんだろ? 俺と勝負しろよ」

 

不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 

「お前、ウチの生徒じゃないな? いきなり乱入して、どういうつもりだ!」

 

思わず駆け寄った新村が男に掴みかかる。

 

「どういうつもりって、今言ったじゃん。キセキの世代と勝負しにきたんだよ」

 

掴みかかれた男は鬱陶し気にそう答えた。

 

「勝負しに来たって、礼儀知らずにも程があるやろ」

 

その物言いに今吉は呆れながら言った。

 

「わざわざクソ遠いここまで小遣いはたいて来たんだよこっちは。充分礼儀正しいだろ」

 

「知らんがな」

 

思わず今吉はツッコんだ。

 

「そんな事はいいんだよ。それよりキセキの世代を出せよ! 俺と勝負しろ!」

 

「うるせー奴だな。青峰ならいねーよ。来たとしても怪我が治ってねえから勝負出来ねえよ」

 

あまりのしつこさに辟易しながら福山が事情を話す。

 

「あぁ、怪我だぁ? んだよ、それじゃ勝負出来ねえじゃねえかよ…」

 

勝負出来ない事を知って愕然とする男。

 

「…ハァ。同じキセキの世代のチームにボロ負けしたって聞いたからキセキの世代の格下かと思って来てみたけど、なるほど、怪我でいなかったからか、納得」

 

溜め息を吐きながら肩を落とす男。

 

「あーあ、来て損したわ、帰ろ」

 

男はボールを放ると踵を返し、出口へと向かって行った。

 

「…待てよ」

 

そんな男を福山が呼び止める。

 

「今お前、俺達のことバカにしただろ」

 

険しい表情で福山が男に聞く。

 

「ようやっと帰ろうとしたのにキャプテンが呼び止めてどないすんねん…」

 

ツッコミながら今吉が額に手を乗せた。

 

「…ん?」

 

福山に声を掛けられ、男は振り返る。

 

「青峰のとやかく言うならともかく、俺達の事をバカにするのは許せねえ」

 

「…それで?」

 

「ちょっとばかしバスケが出来るから調子に乗ってるみてーだから、その鼻っ柱とへし折ってやる。…俺と勝負しろ」

 

福山は男に勝負を提案した。

 

「…」

 

勝負を挑まれ、どうするか思案する男。

 

「俺はディフェンスよりオフェンスが得意なんだよ。オフェンスなら青峰に張り合えるだけのものは持ってる。だから俺とやれ。まさか、もう時間がねえとは言わねえよな?」

 

勝負を断られないように福山は挑発するように尋ねた。男は少し考え…。

 

「勝負挑みに来といて、挑まれた勝負を断るのは筋が通らねえわな。いいよ、やろうぜ」

 

不敵に笑った男は勝負を受けた。

 

「1ON1、5本先取だ。さっきのオフェンスはサービスで1本にしてやる。だから俺からオフェンスだ。今吉、審判やれ」

 

「もう勝手にしいや」

 

呆れながら今吉は審判を引き受けた。

 

「ハッ! いいぜ。少しは楽しませてくれよ」

 

満足そうに笑みを浮かべながらディフェンスに入る。

 

「クソ生意気な後輩を持った若松先輩の気持ちがようやく理解出来たよ…。楽しんで行けよ。そんな余裕があったらな」

 

睨み付けながら福山はオフェンスに入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方その頃…。

 

「うむ。経過は良好。もう完治しているよ」

 

「…やっとかよ」

 

医者から完治のお墨付きを貰った青峰が愚痴る。

 

インターハイで足を負傷し、母校に戻ってからも安静をし続けた青峰。その甲斐もあり、ようやく完治に至ったのだ。

 

「とは言え、捻挫は癖になりやすいからね。いきなり激しい練習をすると再発する事もあるから、少しずつペースを上げながら治療で落ちた筋肉を取り戻して……って、いない。やれやれ、最後まで困った患者だ」

 

既に席を立って診察室から出ていた青峰を見て医者は溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃん、どうだった?」

 

診察室から青峰が出てくると、外で待っていた桃井が尋ねた。

 

「治ったってよ。これでもうこんな辛気臭ぇ所とはおさらばだよ」

 

溜息を吐きながら青峰が告げながら出口に向かった歩き始めた。

 

「ホントに?」

 

「嘘ついてどうすんだよ。さっさと行くぞ」

 

再度尋ねる桃井に辟易しながら青峰が靴を履き替えて診療所の外に出ていった。

 

「ちょっと大ちゃん、待ってよ!」

 

慌てて桃井は青峰を追いかけた。

 

「大ちゃん、何処に行くの?」

 

「学校に決まってんだろ。思ったより早く診察が終わったからな」

 

視線を合わさないまま青峰が答えた。

 

「学校って、今から練習に参加するの?」

 

「わりーかよ?」

 

「ううん、全然」

 

嬉しそうに桃井は頷いた。

 

「…」

 

つい最近行われたインターハイを見届けた青峰。そこで青峰は自分と同じキセキの世代、それと火神や空や大地の試合を見て、その成長ぶりに青峰なりに脅威に感じていた。

 

僅かとは言え、怪我で練習が出来なかった期間があり、身体は恐らく鈍っており、実戦の勘も僅かに鈍っている。冬に優勝を果たす為には少しでも早くブランクを取り戻し、さらに自分を進化させなければならない。その為、今は少しでも早く練習がしたいと青峰は思っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「急いで大ちゃん! 間に合わないよ!」

 

「るっせーな」

 

急かす桃井に顔を顰める青峰。急いで自宅に戻って着替え、荷物を持って学校の体育館に向かった2人。もう間もなく練習開始時間になろうとしていた。

 

「…あっ?」

 

体育館に近付くと、中から何やらどよめいている声が耳に入った青峰。

 

『…』

 

中に入ると、部員達が何やら一点を無言で見つめていた。

 

「…良、何があった?」

 

傍にいた桜井に青峰が事情を尋ねた。

 

「あ、青峰さん! 実は…」

 

事情を桜井が話そうとすると…。

 

「あんた、ディフェンスは大した事ねーけど、オフェンスはスゲーな!」

 

聞き覚えのない声が青峰に聞こえてきた。視線を声の方向に移すとそこには…。

 

 

――満足そうに笑っている見知らぬ男と、両膝を突いて愕然としている福山の姿があった。

 

 

「…」

 

その傍らで小さなホワイトボードを持っている部員の姿があり、ボード内には5-2と書かれており、2人と周囲の様子からどちらが勝ったかは一目瞭然。

 

「(ディフェンスはともかく、あのバカ(福山)のオフェンスを止められる奴はそうはいねえ。あいつは3本も止めたって事か…)」

 

福山のオフェンス力は青峰も買っており、3本も止めた事に少なからず驚いていた。

 

「あの人が突然やってきて――」

 

「いやもういい」

 

説明をしようとした桜井を制し、青峰はその男に近付いていった。

 

「なかなかやるみてーじゃねえか」

 

「あん? 何だあんた――っ!?」

 

青峰に話しかけられた男は振り返ると青峰から何かを感じ取った。

 

「…ハハッ! 分かった。あんたがキセキの世代、青峰だな?」

 

目当ての人物が現れた事に喜ぶ男。

 

「だったらなんだよ?」

 

「俺はあんたに会いに来たんだよ。俺と勝負しろ!」

 

指を差して男は勝負を挑んだ。

 

「…ハッ! いいぜ。やってやるよ」

 

その挑戦を青峰は受けた。

 

「ちょっ! 大ちゃん、まだ病み上がりなんだよ? いくらなんでも…」

 

「勘と調子を戻す為にちょうど相手が欲しかった所だ。そこのバカ(福山)に勝つくらいならそれなりにやるって事だろ?」

 

故障明けの青峰を心配する桃井だったが、青峰は構わず準備を始めた。

 

やがて準備が終わると、青峰は男の前に向かった。

 

「5本先取だ。お前から来いよ」

 

ボールを男に渡して青峰はディフェンスに入った。

 

「ハハッ! 行くぜ!」

 

ボールを受け取った男は楽しそうにドリブルを始めた。

 

「…」

 

「…」

 

真剣な表情で対峙する2人。

 

「(普通に考えりゃ青峰が負ける訳がねえが、青峰は故障明けでブランクがある。何より、こいつは只者じゃねえ。この勝負、下手したら、あり得るぞ…)」

 

今しがたこの男と勝負をした福山が万が一の可能性もあり得ると心中で予想した。

 

体育館中の部員達が見守る中、男は動いた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何度か切り返した後、一気に加速し、クロスオーバーで青峰の横を駆け抜けた。

 

『抜いた!?』

 

そのままリングに突き進み、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「いただき!」

 

ダンクが成功すると確信した男は嬉々としてボールをリングに向かって振り下ろした。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ダンクが決まる直前、男の手に収まるボールをブロックされた。

 

「遅ぇーよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら青峰は男に向かって言った。

 

「次は俺のオフェンスだ」

 

「マジかよ…、あそこから追いつくのかよ…」

 

未だかつてあのシチュエーションからブロックされた経験がなかったのか、男は驚いていた。

 

「…」

 

「…」

 

ドリブルを始める青峰。男は腰を落とし、備える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

数度ボールを突いた後、青峰が一気に加速。高速で男の横を抜けた。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

男が振り向いた時には青峰がボールをリングに叩きつけていた。

 

「うはっ! はっえー!」

 

その青峰のあまりの速さに男は苦笑した。

 

「てめえがおせーんだよ。次はお前の番だぜ」

 

ボールを拾った青峰は男に放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、2人の1ON1は青峰が力の差を見せつけた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

男があの手この手で攻めるも、ブロックされるか、シュートに行く前にボールを叩かれる。

 

 

――バス!!!

 

 

対して青峰は男を抜きさってダンク、あるいはフォームレスシュートで男のブロックをかわしながら決めた。

 

「さすが青峰さんだ。力の差は歴然だ」

 

「ブランク明けでこれとかホントに化け物だな」

 

圧倒的な実力を示す青峰に部員達は感嘆する。

 

「(…いや、そうでもねえ。回数重ねるごとに危うくなってはきていた。何より、青峰がストリートのバスケを出したのは出さなきゃヤバいって判断したからだ)」

 

1人、福山が冷静に分析していた。

 

「これで4本目だ。次、決めなきゃてめえの負けだ」

 

男にボールを放る青峰。現在4-0。次の5本目を決められなければ男の敗北は濃厚。

 

「たっはー! 噂は本物だ。ここまでとは恐れ入ったぜ!」

 

一方的な展開ながらも男はその事実を受け入れるどころか楽しんでいた。

 

「こりゃ勝てねえな。とは言え、このまま一方的ってのも癪に障るし…」

 

ドリブルをしながら何やら独り言を始める男。

 

「『アレ』行くか。禁止されてっけど、おやっさんいねえし、これは試合でもなければ相手はキセキの世代だから大丈夫か。っしゃ、行くぜ!」

 

何かを決めた男は気合いを入れ直した。

 

「(…空気が変わった。こいつ、何かやるつもりだな)」

 

男の空気の変化に気付いた青峰は集中力を高め、警戒を強めた。

 

「…っ」

 

男が一歩踏み出した次の瞬間!

 

「っ!?」

 

青峰の表情が驚愕に染まった。男が一歩踏み出した瞬間、2メートルは離れていたはずの男が気が付いたら青峰の横を駆け抜けようとしていたのだ。

 

『抜かれた!?』

 

青峰が抜かれた事に桐皇の部員達が思わず声を上げた。

 

「野郎!」

 

慌てて振り返った青峰は男を追いかける。男はボールを掴んでリングに飛んでいた。

 

「させっかよ!」

 

1度は抜かれた青峰だったが、すぐさま追い付き、男とリングの間にブロックに飛んだ。

 

『間に合った!』

 

ブロックを確信する部員達。

 

「どけぇ! だっしゃおらぁ!!!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

男は青峰のブロックもお構いなしにボールをリングに叩きつけた。

 

「嘘だろ!? 青峰を吹き飛ばしやがった!」

 

この事実に福山は驚きを隠せなかった。身長やフィジカルは確実に青峰の方が勝っていたからだ。

 

「っしゃっ!!!」

 

ダンクが決まり、両拳を突き上げて喜ぶ男。

 

「ファールですよ」

 

その時、入り口からこんな声が聞こえてきた。そこには、桐皇の監督の原澤が立っていた。

 

「少し強引過ぎですね。今の大抵の審判がオフェンスファールを取るでしょうね」

 

「誰、あんた?」

 

声が聞こえた方向に男が怪訝そうに視線を向けながら尋ねる。

 

「桐皇学園高校バスケ部の監督の原澤です。白熱している所、恐縮ですが、これより練習を始めますので、部外者はご退場していただけませんか?」

 

「…ちぇっ、もう終わりか。けどま、楽しかったぜ!」

 

勝負を途中で止められて不満そうにするが、それでも青峰と勝負出来た事には満足し、男は体育館を後にしようとした。

 

「待てよ。名前くらい名乗っていけよ」

 

帰ろうとする男を青峰が呼び止め、尋ねた。

 

「そういや名乗ってなかったな」

 

自己紹介してなかった事に今更気付いた男。そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は陸。神城陸だ。また勝負してくれよな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男はそう名乗ると、笑顔で手を振り、体育館を後にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

練習の合間の休憩時間。桃井が練習の合間に先程の男の可能な限りの情報を説明始めた。

 

「神城陸。星南中学の2年生」

 

「あいつ中坊なのか。星南中って言えば、一昨年帝光倒して全中優勝した所か」

 

話に参加していた福山が桃井の情報に聞き入る。

 

「はい。星南中は優勝メンバーが抜けた後は大きく戦力ダウンして、新人戦を2回戦敗退したんだけど、翌年には再び全中出場を果たしました。その原動力になったのが…」

 

「さっきのガキか」

 

話の途中で青峰が割り込んだ。

 

「そう。彼のおかげで星南中は翌年も全中出場出来たみたい。ただ、彼が集中的にマークされてあまり活躍できなくて星南中はリーグ戦で負けちゃったみたいだけど」

 

ここで桃井が手に持ったノートのページをめくる。

 

「けど、今年も徹底マークされながらも得点を量産して星南中にとって2回目の全中優勝を果たした」

 

「マジか!? …まあ、青峰相手にあそこまでやれりゃ中学レベルじゃ止められねえわな」

 

優勝させた事に驚いた福山だったが、すぐさま納得した。

 

「あの、さっきの神城陸って名乗ってましたよね? 神城ってもしかして…」

 

「うん。花月高校の神城空君の弟だよ」

 

桜井の予感に桃井が肯定した。

 

「…あいつの弟か。そりゃやる訳だ。今の思えば顔もあのデカい態度もそっくりだ」

 

その実力に納得する福山。

 

「…」

 

青峰は先程の勝負。最後の陸のオフェンスを思い出していた。

 

「(あの時、俺は最大限警戒していた。にもかかわらず、あいつは一瞬で俺の横を抜けた。あの距離を一瞬で潰しやがった…)」

 

足を踏み出し、僅かに身体が沈み込んだ瞬間、陸は青峰のすぐ真横まで切り込んでいた。青峰は相手の動きが見えなかった。

 

「(消えるドライブや姿の見えないドライブは俺も覚えがある。だが、さっきのはそいつらとは違う)」

 

相手の視線を誘導し、その隙に切り込む黒子のバニシングドライブ。高精度のシュートフェイクで視線を上げさせ、切り込む三杉のドライブ。相手の目の前で高速で左右に切り込み、相手の視線が右か左に向いた瞬間、逆に切り込む空のインビジブルドライブ。先程の陸のドライブの種はそのどれにも属さないと青峰は推測。

 

「…」

 

どれだけ考えても答えは出なかった。

 

「(そういや、あいつ、何処かで会った気がしたが、インターハイの会場で見かけた奴か…)」

 

ここで青峰は思い出した。インターハイで花月対陽泉の試合終了後に見かけた、出来る匂いを放つ男だった事に。以降、試合で見かけることはおろか、会う事もなかったのでその事を記憶の片隅に追いやっていたのだが。

 

「…ハッ、おもしれー奴は後からどんどん出てくるじゃねえか。やっぱ、バスケはこうでなきゃな」

 

最強は自分であり、その自分とまともに戦えるのはキセキの世代のみだと思っていた。だが、火神を始め、次々と青峰と対等に戦える者が現れた。その事に青峰は愉快そうに笑った。

 

「…」

 

一方で、桃井の話を聞いていた原澤は何かを思案していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「ったく、なんだってんだよ…」

 

1人愚痴りながら職員室に走る空。練習中に校内放送で呼び出されたのだ。

 

「失礼しまーす!」

 

「来たね神城君。君に電話だ」

 

職員室で出迎えた先生が受話器を渡した。

 

「もしもし?」

 

『お忙しい所、わざわざお呼び出して申し訳ありません。私は桐皇学院高校のバスケ部の監督をしている原澤と申します』

 

電話の相手が丁寧に謝罪と共に挨拶をした。

 

「桐皇…監督……、あぁ…」

 

記憶を辿った空は若々しい姿の監督を思い出す。

 

『実はですね――』

 

ここで原澤が桐皇学園高校の体育館に陸が来た事と何があったかを話した。

 

「あのバカ…! ホントにすいません! すぐにでもあのバカ引っ張って謝りに行かせますんで!」

 

事情を知った空は電話口で頭を下げながら謝罪をした。

 

『いえいえ、今日は苦情の電話を入れに来た訳ではないので悪しからず。今日のあなたの弟さんの報告と、…1つお尋ねしたい事があったからです』

 

「?」

 

「あなたの弟の陸さんは、進路は決めているのですか?」

 

原澤がそう空に尋ねた。

 

「進路ですか? あいつはまだ2年生ですし、ここ最近は碌に話もしてないですけど、多分あいつの事がだから何も考えてないと思いますよ」

 

『そうですか。でしたら是非、あなたの弟の陸さんを桐皇学園へのスカウトさせていただきたい』

 

「っ!? あいつを…。けど、さっきも言いましたが、あいつはまだ2年生ですよ?」

 

陸のスカウトの話に空は表情を変える。

 

『存じております。まだ先の話ではありますが、彼は今の内に獲得に乗り出すだけの価値があります』

 

「…」

 

『とは言え、当人が不在の所でこれ以上は無粋ですので、不躾なお話ですが、是非とも、この事を弟さんにお伝えいただけるとこちらも助かります』

 

「…はぁ、とりあえず、伝えるだけ伝えてはおきます」

 

「感謝します。遠からず、弟さんも下へ直接挨拶に行かせていただきます。本日は忙しい所、お時間をいただきありがとうございます。それでは…」

 

そう言って、通話は切れた。空は受話器を戻し、職員室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

体育館に戻りながら空は先程の電話の内容を思い出していた。弟の陸へのスカウトの話も驚いたが、それ以上に驚いたのは…。

 

「あいつがあの青峰から1ON1で得点を奪った?」

 

事情を説明する中で原澤はそう言った。←ファールだった事は伏せられていた。

 

「インターハイの時に陣中見舞いに来た時に久しぶりに顔を合わせたが、いつの間にか俺より身長が伸びただけじゃなくて、そこまで成長してやがったのか」

 

陸とは家庭の事情で年に数度しか顔を合わせていなかったのだが、その成長ぶりに驚きを隠せなかった。

 

「才能があるのは知ってたが、もうそこまでになってやがったのか。…俺もうかうかしてられねえな!」

 

弟の成長を聞いた空は新たに気合いを入れ直し、体育館に走っていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





二分割しようとかと思いましたが、本編にそこまで絡む話ではないので一挙に投稿しました。ここから最後の大会に向けての準備の話に入りますが、自分もまた試合描写の準備に入らないといけません…(>_<)

気が付けば、総文字数でも黒子のバスケ二次の中で1番になっていました…(^-^)

再び黒子の二次に活気が戻りますように…。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第151Q~目標~


投稿します!

遂に来た。花粉症のシーズンが…(/ω\)

それではどうぞ!



 

 

 

「遂にこの日が来たな!」

 

「空、声が大きいですよ。周りに人がいる事を忘れないで下さいね」

 

興奮する空を大地が窘める。

 

現在、2人は空港のラウンジにて、これから乗る飛行機の搭乗時間を待っていた。更なる高みを目指し、アメリカへの留学を決めた2人。出発の時間を今か今かと待ちわびていた。

 

「にしても、見送りはなしか。薄情だよなー」

 

「あなた、自分で見送りはいらないって言ったんじゃないですか」

 

ボヤく空に呆れる大地。

 

「見送りはなくとも、皆さんからのエールはちゃんと送られてるんですからいいではないですか」

 

スマホを取り出して操作する大地。その画面には、チームメイトからのたくさんの応援のラインがきていた。

 

「みんな、私達の成長を心待ちにしています。皆さんの期待は裏切れませんよ」

 

「だな。絶対強くなってやる。それこそ、キセキの世代以上にな」

 

同じくスマホのラインを応援を見て気合いを入れる空。

 

「…っと、時間ですよ空。行きましょう」

 

「っしゃ! 待ってろよ!」

 

搭乗の時間が来た2人は、アメリカ行きの飛行機に乗り込んだのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「足を止めるな! この程度で動けん奴は試合で使わんぞ!」

 

『はい!!!』

 

上杉の檄に選手達が大声で応えた。

 

「よし! 5分休憩だ! 各自、水分補給はしっかり行え」

 

「みんな! こっちでタオルとドリンクを受け取って下さい!」

 

相川が笑顔で選手達を誘導する。

 

『ハァ…ハァ…』

 

休憩時間になり、選手達は息も絶え絶えになりながら相川の下へ向かい、タオルとドリンクの入ったボトルを受け取っていく。

 

「きょ…今日も…、一段と厳しいですね…!」

 

床に座り込み、タオルで汗を拭いながら水分補給をする帆足。

 

「んぐ…んぐ…ぷはぁ! ま、当然じゃねえの? 夏は力の差を見せつけられて負けちまったからな」

 

ボトルのドリンクを飲み、口元を拭いながら帆足の言葉に菅野が答えた。

 

「後は…」

 

チラリと菅野が視線を向ける。

 

「ハァ…ハァ…、マツ、走り込みが足らんで。それじゃあ終盤までもたへんぞ」

 

「うす!」

 

「タツ君、素早くリリースする事に意識が向きすぎててフォームが崩れてるよ。もう少しフォームを意識してみて」

 

「はい。ありがとうございます!」

 

天野が松永、生嶋が竜崎にアドバイスしていた。

 

「あいつらは国体が控えてるからな。それもあるんだろうよ」

 

先日、国体の静岡選抜メンバーが発表され、天野、生嶋、松永が選ばれた。空と大地が辞退した事で、竜崎が選ばれたのだ。

 

「去年は国体を辞退したからな。天野にとっては最後の国体だ。気合い入ってるだろうな」

 

「国体か…。雲の上の話だなぁ」

 

「俺もだ」

 

選抜メンバーに選ばれなかった帆足と菅野は思わず上を向いた。

 

「とは言え、俺らも頑張らねえとどんどん先に行かれちまう。俺はこれでもスタメンを諦めた訳じゃねえからな」

 

「菅野先輩…」

 

「っと、もうすぐ5分か。っしゃ、行くぞ帆足!」

 

「はい!」

 

菅野の声で帆足は立ち上がり、歩き出した。

 

「(神城君と綾瀬君はもうアメリカに着いたかな?)」

 

体育館の窓から見える青空を見た帆足は、異国の地に旅立った2人の事を考えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「や、やっと着いた」

 

飛行機から降りた空がげんなりしながらぼやいた。

 

「ずっと座りっぱなしだからケツがいてぇ。これなら船で移動した方がマシだぜ…」

 

「お疲れ様です」

 

そんな空に大地が労いの言葉をかけた。

 

2人はゲートで荷物を受け取った。

 

「この後どうすんだっけ?」

 

「確か、理事長は私達に迎えの方を手配してくれてると言う話でしたが…」

 

辺りをキョロキョロとしながらそれらしい人物を探す2人。その時…。

 

「よう! 久しぶりだな」

 

2人に対して話しかける者が現れた。

 

「「三杉さん!?」」

 

現れたのは三杉誠也。かつて、2人を花月へと誘い、僅かな期間ではあるが、2人を指導した先輩である。

 

「理事長から連絡を受けてな。俺がお前達の案内役を兼ねて迎えに来たって訳だ」

 

「久しぶりっす三杉さん!」

 

1年ぶりに尊敬する先輩と再会し、歓喜しながら三杉の手を取る空。

 

「話は移動しながらだ。付いてこい」

 

そう促され、空と大地は三杉の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「三杉さん、車の免許持ってたんですね」

 

2人は三杉の車に乗り込み、移動していた。

 

「あぁ。こっちは免許費用も車も日本より安いし、あると何かと便利だからな」

 

軽快なハンドル捌きで車を操る三杉。

 

「お前達がアメリカに留学に来た理由は分かってる。キセキの世代との差を感じてそれを埋める為に来たんだろ?」

 

「はい。そのとおりです」

 

留学の理由を察していた三杉が尋ねると、大地が頷いた。

 

「俺と健を指導してくれたコーチに話は付けてある。アメリカでも有名な指導者だ。宿舎に荷物を置いたらお前達を紹介しよう」

 

「話が早いッスね。それも理事長から?」

 

とんとん拍子で進む話に思わず空が尋ねる。

 

「いや、前々からコーチには話はしてあった。俺がアメリカに戻った後、お前達はキセキの世代に限りなく近付く事は予想出来た。後一歩及ばない事も」

 

「「…」」

 

「その差を埋める為に、アメリカに来るだろう事も予想出来たからあらかじめ了解を取り付けておいた。感謝しろよ? 本来ならアメリカ人でもなかなか指導してもらえない人なんだからな」

 

「大変光栄話ですが…」

 

「三杉さんはどこまで俺達の事、お見通しなんですか…」

 

三杉の慧眼に空と大地は畏怖を覚えた。

 

「覚悟しておけよ。あのコーチの練習は質も量も尋常じゃない。実際、あの人の指導で才能を開花させた以上に潰れて選手を諦めた者もいる。生半可な覚悟じゃ死ぬぜ?」

 

「ハッハッハッ! 望むところですよ!」

 

「今の私達にはそれくらい必要ですので、ありがたい限りです」

 

脅し同然の三杉の言葉に、2人は笑って意気込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

時は進み、10月…。

 

『おぉぉぉぉぉーーっ!!!』

 

某県にて、国民体育大会、通称国体が行われていた。各県から選抜された選手達がしのぎを削り合っていた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを持っていた火神がドライブで相手ディフェンスを抜きさり、中へと切り込んだ。

 

「…っ!」

 

リングへと突き進む火神を見て松永がヘルプに飛び出した。

 

「らぁっ!」

 

ボールを掴んだ火神がリングに向かって飛ぶ。

 

「くそっ!」

 

それを見て松永がブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

松永の上から火神がダンクを叩き込んだ。

 

現在、コート上では静岡選抜チームと東京選抜チームが試合をしていた。

 

 

第3Q、残り3分45秒

 

 

静岡 30

東京 68

 

 

『…っ』

 

開いていく点差を見て静岡選抜の表情が曇る。

 

静岡選抜は国体予選を勝ち抜き、国体本選の初戦で東京選抜とぶつかった。花月のメンバーを主軸に戦う静岡選抜に対し、東京選抜は誠凛、桐皇、秀徳の選手達の混合チーム。連携面に不安があるものの、層の厚さでそれをカバーしていた。

 

「…」

 

顎に手を当てながら考え込む東京選抜の監督であるリコ。

 

試合は序盤から東京選抜が優勢に進めていた。連携に不安があるとはいえ、層の厚さは恐らく全ての県の中で1番。青峰が辞退したとは言え、火神と緑間の二大エースがいる為、盤石な布陣を敷いていた。

 

「…桜井君、池永君、準備して」

 

「は、はい!」

 

「おっしゃ出番来た!」

 

指名された2人は準備を始めた。

 

「火神と緑間を下げるのか?」

 

コーチとして参加していた秀徳の監督である中谷がリコに尋ねる。

 

「はい。充分な程リードは作れましたし、せっかくこれだけ選手の層が厚いんですから使わない手はありません」

 

「うん。もっともな意見だ。…だが、変な気を回さなくても構わんぞ?」

 

リコの回答に中谷が尋ねる。自チームの選手ならいざ知らず、他チームから預かった選手、特に緑間のようなエースを怪我させるのは他チームの監督のリコの立場から避けたい所であるだろうし、せっかく選抜された選手をベンチに置いたままと使わないのも選手の気持ちを考えれば避けたいだろう。

 

「もちろん、それもないとも言いませんが、神城君と綾瀬君不在の今日の静岡選抜なら、後は選手入れ替えながらでも充分戦えます」

 

「…そうか」

 

返事を聞いて中谷は納得するように頷いた。

 

「他のみんなもいつでも出れる準備をしておいて。今日は全員出すわよ!」

 

リコは選手達に指示を出した。

 

「(…それにしても、神城君と綾瀬君がいないとは言え、それでも多少の苦戦は覚悟していたのだけれど…)」

 

想像以上に優勢に試合が進んだことにリコは引っ掛かりを覚えるも、そのまま試合を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『あーあ、点差が付いて来たな』

 

『神城と綾瀬を見に来たのになぁ…』

 

『あの2人いなきゃ相手にもならないだろ』

 

一方的な展開を見て観客席からチラホラそんな声が飛び交う。

 

「…やはり、あの2人が不在なのが響いていますね」

 

マネージャーとして帯同していた姫川が険しい表情で呟く。

 

試合は東京選抜の司令塔である高尾が巧みにパスを捌き、他の選手達が水を得た魚のように得点を決めている。対して静岡選抜は現在司令塔をしている竜崎が高尾に抑えられ、さらに決定力に欠けている為、得点が伸び悩んでいた。

 

「…」

 

胸の前で腕を組みながら静岡選抜の監督である上杉が試合を見つめている。

 

「(こうも差が出ているのは何も神城と綾瀬がいないからだけではない…)」

 

この展開を見て、上杉は空と大地がいないだけが原因ではないと考えていた。

 

「(冬に向けての課題が見えて来たな…)」

 

顎に手を当てながら上杉は次の戦いを見据えた。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 白(東京選抜)!!!」

 

ボールデッド共にメンバーチェンジがコールされた。

 

 

IN  桜井 池永

 

OUT 緑間 火神

 

 

「…っ、向こうは火神さんと緑間さんを下げてきましたね」

 

交代人員を見て姫川は僅かに表情を歪める。交代の理由は2人の温存である事は明白であり、つまりは、もうエースを代えても問題ないと判断されたと言う事に他ならないからである。

 

「当然の判断だな。向こうは層も厚い。俺でもそうするだろう」

 

上杉は1度視線をオフィシャルテーブルに向けただけで特に表情を変える事はなかった。

 

「…何か策はないのでしょうか?」

 

「…」

 

姫川の言葉に、上杉は何も答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は東京選抜がエース2人を下げると、拮抗した試合展開となった。

 

「絶対足止めたるな! 意地見せるで!」

 

天野が必死に声を張り上げて味方を鼓舞する。時折、連携不足によるミスを突いて得点を奪うも、交代策を駆使して戦う東京選抜は常に万全の状態にぶつかってくる。

 

『ハァ…ハァ…』

 

対して静岡選抜は花月のメンバーが中心に戦っている為、疲労の色は隠せず。それでも必死に食らいついていった。だが…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了

 

 

静岡 51

東京 97

 

 

結局、静岡選抜は追い付く事はおろか、もう一度エース2人をコートに引き摺り出す事も出来なかった。

 

『…っ』

 

悔しさに打ちひしがれる静岡選抜。

 

「撤収するぞ。急いで荷物を纏めろ」

 

ベンチに戻ってきた選手達に上杉が指示を出す。

 

こうして、花月の選手達の国体は、苦い結果で終わったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

国体は東京、京都、秋田、神奈川がそれぞれ準決勝まで勝ち進んだ。

 

 

――準決勝

 

 

 東京選抜 × 神奈川選抜

 

 京都選抜 × 秋田選抜

 

 

キセキの世代を擁する4県がぶつかり合った。

 

東京選抜と神奈川選抜の試合は火神、緑間を中心に試合序盤は東京選抜が優勢に進めていったが、後半戦に入ってから海常が主体となる神奈川選抜が連携面の利が出てくるようになる。

 

「ふん!」

 

インサイドを三枝が支配している事も多く。火神、緑間を相手にしてもなおリバウンドを量産し続けた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

第4Qに入ると黄瀬のパーフェクトコピーが爆発し、どんどん点差を詰めていった。火神と緑間が必死に黄瀬をマークするも抑えられず…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

東京  83

神奈川 88

 

 

神奈川選抜が東京選抜を降し、決勝へと駒を進めた。

 

もう1つの準決勝のカードである京都選抜と秋田先発の試合。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

陽泉が主体である秋田選抜はアンリが積極的に中に切り込み、得点を量産。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

対して洛山が主体である京都選抜は赤司が自在にボールを散らし、中と外とどこからでも点が取れる洛山の4人が得点を重ねていく。

 

鉄壁を誇る紫原のディフェンスを赤司が巧みなゲームメイクで穴を作り出し、無効化する。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

京都 70

秋田 66

 

 

試合終盤間際、紫原に詰め寄られるも、京都選抜が最後は逃げ切る形で勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そして決勝…。

 

京都選抜と神奈川選抜…、実質、洛山対海常の試合が始まった。共に攻守において隙が無い万能型のチーム。

 

第1Q、第2Qこそ拮抗した試合展開だったが、第3Qに入ってすぐに試合は動いた。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

黄瀬が第3Q入ってすぐにパーフェクトコピーを使い、点差の引き離しにかかった。パーフェクトコピーを使った黄瀬の勢いは凄まじく、みるみる点差は広がっていった。

 

「…」

 

しかし、赤司はこれに動じる事無く、黄瀬のパーフェクトコピーを歯を食いしばって耐え、その後、少しづつ点差を詰めていった。

 

「…」

 

点差が開いていく中、京都選抜の監督の白金はタイムアウトを取らず、表情を変える事無く試合を見守っている。

 

『…っ』

 

洛山主体の京都選抜。それも、帝光時代から共にしているチームメイト同士。連携はプロのチームすら舌を巻くレベル。1度は広がった点差も確実に詰めていった。

 

「(花月はどれだけ引き離そうとも食らいついてきた)」

 

「(この程度は今更動じないぜ!)」

 

花月と戦った経験が京都選抜の選手達に心に余裕を与えていた。

 

試合時間残り2分となり、京都選抜がリードを10点に広げた。しかし…。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

ここで黄瀬がパーフェクトコピーを再度発動。再び追撃を始めた。無敵の黄瀬のパーフェクトコピー。これで試合は神奈川選抜が制すると思われた。

 

「っ!?」

 

試合時間残り30秒を切った直後、黄瀬が失速し始めた。

 

「(どうして!? まだ使用限界はまだのはずだ!)」

 

パーフェクトコピーの使用限界時間は7分。黄瀬は第3Qに入って5分使ったのみ。試合終了までギリギリもつはずだった。

 

「過信し過ぎたな」

 

失速した黄瀬に赤司が言い放つ。

 

赤司は罠を仕掛けた。パーフェクトコピー使用時間はあくまでも黄瀬の現状の体力と筋力からフル出場した際の疲労を考慮して算出した時間。黄瀬の負担や消耗が増えれば自ずと使用時間は短くなる。

 

「やられた…!」

 

神奈川選抜の監督の武内は表情を歪めた。第3Qに入って京都選抜がタイムアウトを取らなかった事に不自然さを感じたが、それが黄瀬に休憩時間を与えない為だと言う事に気付いた。

 

黄瀬に対し、赤司はとにかく消耗させるべく、オフェンスは積極的に仕掛けさせ、ディフェンスは中に誘い込んでポストアップで攻め立てた。向かい合っての1ON1が得意の黄瀬は背中をぶつけられるディフェンスは苦手ではないが得意でもない。無意識の内に体力を削られていたのだ。

 

「まだだ! まだ終わらないッスよ!」

 

それでも黄瀬は残り少ない体力を振り絞って攻め立てる。

 

「無駄だ。今のお前のそれは完璧な模倣ではない。姿形を似せただけの贋作だ」

 

黄瀬の最後のオフェンスも赤司によって止められてしまった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

京都  84

神奈川 82

 

 

ここで試合終了し、国体は、京都選抜が優勝を果たした。インターハイ優勝を逃した洛山の選手達がその力の差を見せつける形で国体は幕を閉じたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方、その頃アメリカに渡った空と大地は…。

 

「「ハァ…ハァ…!」」

 

身体全体汗まみれになり、息を切らしながら膝を床に付いていた。体力には絶対の自信がある空と大地が限界目前まで消耗していたのだ。

 

「ヘイ! どうした下手くそな日本人共! この程度へばったか!」

 

脇で2人を見ていた高い背丈に屈強な体付きの金髪のアメリカ人コーチから罵声が飛んだ。

 

「くそっ…!」

 

「まだ…まだ…!」

 

2人は強引に立ち上がり、走り始めた。

 

「チンタラ走ってんじゃねえ! 10本追加だ!」

 

「…っ! 上等だ!」

 

「負けません!」

 

無情の追加に空と大地は怒りを覚えるも負けず嫌いの為、歯を食い縛って走り出した。

 

「ヘイ、スティーブ!」

 

「おーセイヤか!」

 

そこへ、陣中見舞いに三杉がやってきた。

 

「どうだい2人は?」

 

「どうもこうもねえ…」

 

2人の様子を尋ねるとスティーブは手を広げて首を横に振り…。

 

「とんでもねえ逸材だ。サイズが少し物足りねえが、それを補って余りあるセンスがある。特にスピードは絶品だ」

 

満面の笑みで2人を称賛した。

 

「セイヤとタケシ以外にも、ジャパンにはまだあんな逸材がいるんだな!」

 

「まだまだいるさ。俺の知る限り、6人程ね」

 

興奮するスティーブに三杉が不敵な笑みを浮かべながらそう返した。

 

「それが本当なら、近々日本人が世界を席巻する時代が来るかもな」

 

「来るさ。必ず」

 

実現させると三杉は宣言した。

 

「見た所、もう本格的なトレーニングを始めているようだね」

 

「あぁ。本来なら俺様式のトレーニングを始める前に必要な基礎体力を付けさせるんだが、あいつらにはそれが十二分に備わってやがる。あれだけ才能がありゃ普通は才能任せになりがちだが、みっちり鍛えられてる。あいつらのジャパンの指導者は余程優秀か、変わり者かのどっちかだな」

 

「どちらかと言えば後者かな?」

 

三杉は苦笑しながら答えた。

 

「もし、俺様のトレーニングに潰されなければ、あの2人はかなり化けるぜ。それこそセイヤやタケシのようにな」

 

「やれるさ。あいつらのタフさと負けん気の強さは俺以上だからね」

 

ニヤリとスティーブ言うと、三杉はニヤリと返した。

 

「下手くそなジャパニーズ共! 上手くなりたきゃ俺様のトレーニングをこなしてみせろ!」

 

「やってやらぁ!」

 

「はい!」

 

確かな強い目で空と大地は返事を返した。

 

「頑張れよ。お前達はもっと強くなれる」

 

疲弊しながらも前を向いて走る空と大地を見ながら三杉はエールを贈ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって日本…。

 

「…」

 

国体を終え、静岡に戻った上杉が自室にてインターハイでの花月試合、国体での試合映像を無言で見つめている。

 

「…ふぅ」

 

溜息を吐くと、上杉はテレビの電源を落とした。

 

「…よし」

 

そして1人呟くと、何か覚悟を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

渡米して間もなく2ヶ月。順調にトレーニングを積む空と大地。当初は慣れないアメリカでの生活に戸惑いもあったが、今ではすっかり馴染んでいた。

 

「大地! トレーニングの時間まで1ON1でもやらねえか!」

 

大地の部屋を訪ねた空はバスケットボールを見せながら大地を誘う。

 

「これから練習があると言うのに。…それより空、忘れていませんよね?」

 

「何を?」

 

「ウィンターカップの事ですよ」

 

「忘れる訳ないだろ。っていうか、ウィンターカップは12月なんだから別に焦る必要はないだろ」

 

そう返事をすると、大地は呆れるように溜息を吐いた。

 

「…ハァ。空、昨年私達はインターハイを優勝したので県予選が免除になりましたが、今年は準決勝で敗退したので県予選を勝ち抜かなければならないのですよ」

 

「……あっ」

 

ここで空はようやく思い出した。

 

「ももも、もちろん覚えてるに決まったんだろ。なな、なに言ってんだよ…!」

 

声を震わせながら空は弁明した。そこへ…。

 

「ヘイソラ、ダイチ! お前達に日本から国際電話だ!」

 

2人が寝泊まりする宿泊施設の職員が電話の取り次ぎにやってきた。

 

「えぇっと……電話、電話ね! オッケー、すぐに行くよ!」

 

単語とジェスチャーで内容を悟った空は慌てて部屋を後にした。

 

「やれやれ、全く空は…」

 

呆れながら大地は空の後を追った。

 

「もしもし! 電話変わりました! …あっ、監督! お久しぶりです!」

 

受話器を取った空は電話越しで頭を下げた。

 

「ウィンターカップの県予選!? もちろん覚えてますよ! これから荷物を纏めて……えっ!? それって――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

時期は11月…。

 

「花月ーファイ!!!」

 

『おー!!!』

 

天野の掛け声に合わせ、選手達が声を出し、走っている。国体は苦い結果に終わったが、終わればすぐに次の戦いが待ち受けている為、いつまでも引きずってはいられず、選手達は次の戦いに備えて猛練習をしていた。

 

「各自、二人一組になって柔軟運動せえ、しっかり身体解すんやで!」

 

そう言って、各自がペアを組んで柔軟運動を始めた。

 

「もう11月だね」

 

「あぁ。間もなく冬の戦いが始まる」

 

松永の背中を押しながら生嶋が話をする。

 

「全員、準備運動は出来てるな?」

 

その時、監督の上杉が体育館にやってきた。

 

「全員集合や!」

 

天野の号令と同時に選手達が上杉の下に駆け寄った。

 

「冬の県予選はもう目の前だ。これから最後の追い込みに入る。各自、怪我には充分注意しろ」

 

『はい!!!』

 

その後、上杉から今日の練習内容に付いて説明が行われる。

 

「ではこれより練習を始める。散れ!」

 

「あ、あの…!」

 

上杉の号令で練習が始まろうとしたその時、帆足が手を上げた。

 

「神城君と綾瀬君はいつ頃帰国するんですか?」

 

帆足が上杉に尋ねた。

 

「確かに、時差や連携の事とかあるからな」

 

菅野も気になっていた。

 

「そうだな。その事も話しておかなくてはならないな。神城と綾瀬の帰国は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――12月だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

上杉の回答を聞いて選手達は驚く。

 

「12月って、それじゃ予選に間に合わないじゃないですか!?」

 

当然の事を竜崎が口にする。

 

「…っ!? まさか!?」

 

ここで生嶋がある考えに辿り着いた。

 

「ウィンターカップの県予選は、神城と綾瀬抜きで戦う。全員、覚悟しておけ」

 

上杉の口から、まさかの言葉が飛び出したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

空と大地の留学。国体での敗戦。

 

キセキの世代の最後の戦いが迫る中、上杉からまさかの発言が飛び出した。

 

絶対的な司令塔とエースを欠いた辛い激闘が始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





国体はほぼダイジェストで終わりにしました。まあ、空と大地が不在ですので…(;^ω^)

ここから本腰を入れて冬の戦いに移行するのですが、今回は予選にも力を入れようと思います。さてと、試合のネタを集めますか…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第152Q~試練~


投稿します!

アカン、花粉症がヤバい…(ノД`)・゜・。

それではどうぞ!



 

 

 

『ハァ…ハァ…!』

 

花月の選手達が迫るウィンターカップの県予選に向けて猛練習を積んでいた。

 

「次は3ON3だ。各自配置に付け!」

 

『はい!!!』

 

監督の上杉の指示に選手達が大声で応え、移動する。

 

昨年はインターハイを優勝した事もあり、県予選は免除されたが、今年は準決勝で敗退してしまった為、県予選を勝ち抜かなければならない。そして、その道は決して平坦な道ではない。

 

「(勝ち抜く為には僕の役割は重大だ。何十本でもスリーを決めないと!)」

 

「(冬の県予選、必ずしも俺がセンターとは限らない。場合によっては3番も考えられる。ドリブルの練習も増やさなければ!)」

 

「(俺がどれだけリバウンド取ってどれだけ相手のエースを抑えられるかで試合はかかっとる。全部と取って全部止めるで!)」

 

「(多分、県予選は俺が司令塔を務める機会が増える。俺がチームを引っ張るつもりで戦う!)」

 

「(恐らく、俺の出番は増える。俺自身が成長しなければ!)」

 

選手達は鬼気迫る表情で練習に励んでいた。

 

『ウィンターカップの県予選は、神城と綾瀬抜きで戦う。全員、覚悟しておけ』

 

先日、上杉から告げられた言葉。アメリカに留学した空と大地は呼び戻さず、残ったメンバーだけで戦うと宣言した。つまり、絶対的な司令塔とスコアラー抜きで県予選を戦わなくてはならない。

 

ウィンターカップにおける、静岡県の出場枠はたった1つ。つまり、1つの負けも許されない。夏は全勝で突破したが、それは空と大地の力によるものが大きい。頼れる2人抜きで勝ち抜けるよう選手達は死に物狂いで練習に励んでいた。

 

「バスケ部内の空気が変わりましたね」

 

練習風景を眺めながら姫川がそう呟いた。

 

「そうでなくては困る」

 

「神城君と綾瀬君の帰国をウィンターカップ本選にまで伸ばしたのは2人はもちろん、花月全体の能力アップを促す事が理由ですよね?」

 

空が大地がいないとなれば県予選を勝ち上がるのは容易ではない。選手1人1人が更にレベルアップをしなければならない。

 

「それもある。1番の理由は意識改革をさせる事にある」

 

「意識改革?」

 

「インターハイで洛山に敗れたのは神城と綾瀬がキセキの世代に及ばなかったからだけではない」

 

選手達に視線を向ける上杉。

 

「先のインターハイ…。勝ち進むにつれて神城と綾瀬は成長していった。成長と共に他の者達は2人をより信頼するようになった。だが、結果として、これが敗因となってしまった」

 

「…敗因、ですか。しかし、チームの主将であり、司令塔でもある神城君とエースの綾瀬君が信頼されるのは当然なのでは?」

 

「あぁ。そのとおりだ。『信頼』ならば問題ない。だが、『依存』となれば話は変わってくる」

 

「依存…」

 

上杉から出た言葉を繰り返すように呟く。

 

「チームとは、選手1人1人が『自分がチームを勝たせる』と言う意識を持って初めてその力を十全に発揮される。窮地や勝負所で何かに縋る選択しか出来ないようでは力を発揮される事はない」

 

「…何故そうなってしまったのですか?」

 

花月の選手達は空と大地を筆頭にキセキの世代を倒す為、練習が地獄だと有名な上杉が監督を務める花月に来た。今日までバスケ部に残った者達にはチームを勝たせる強い覚悟があるはず…。

 

「キセキを冠する者達の才能に触れてしまったからだ」

 

上杉の口から答えが出る。

 

「大きすぎる才能は知りたくもない自分の才能に気付かされる。何度も手を合わせるうちにその力の差を嫌と言う程思い知らされる」

 

「…」

 

「キセキの世代の圧倒的な才能に触れて神城と綾瀬がその才能を開花させた。そして開花した2人の才能に追従するかのようにキセキの世代もその才能をさらに引き出した。共鳴するように互いに刺激し合ってキセキを冠する者達は高みへと昇っていき、結果、キセキ以外の者達はその高みに付いていく事が出来なくなった」

 

「…っ」

 

姫川の表情が歪む。自身も妃由香里と言う圧倒的な才能によって身を滅ぼしてしまった経験があるからだ。

 

「それが特に顕著に出たのは国体だった。東京選抜はキセキの世代の緑間とその緑間と同等の資質を持つ火神を筆頭に選手層と総合力ならば選抜チームの中でトップだった。だが、急造チームだけに付け入る隙もあった。花月を主体にした静岡選抜ならばもっと競った試合が出来たはずだった。だが出来なかった…」

 

「…」

 

「既に心が敗北していたからだ。先のインターハイで神城と綾瀬抜きではキセキの世代には敵わないと…。故に、国体では力を出し切れず、不甲斐ない結果となった」

 

「……分かる気がします」

 

酷評する上杉。姫川も同意なのか、頷いていた。

 

「今の現状では例えあいつら(空と大地)が強くなって帰って来たとしても夏の二の舞となる。さっきも言った2人への依存に加え、夏以降の選手達には決定的に足りないものがあったからだ」

 

「足りないもの…」

 

「危機感だ。神城と綾瀬に期待し過ぎるあまり、どいつこいつも気が緩んでいた。キセキを擁するチームはキセキ頼りのチームではない。夏も、自分達の役割をこなしつつチームを勝たせようとしていた。今のチームの状態では戦う以前の問題だ」

 

「…」

 

「敢えて神城と綾瀬抜きで戦う事で危機感を促し、県予選大会を自らの力で勝ち抜いて全国を決める事でチーム全体の能力アップを促すと共に無くしかけている自信を取り戻させる。正真正銘、最後のキセキとの戦いに勝つ為に…」

 

並々ならぬ決意で上杉が口にする。

 

「私も力になります。もう、悔しさで涙を流すのは嫌ですから」

 

姫川も上杉の決意に応えるように言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

主将とエース抜きで県予選を戦うと告げられてから花月の選手達は練習に没頭した。2人抜きで勝ち上がるのは容易な道のりではない事もそうだが、アメリカで今も死に物狂いで練習をしている2人に負けてウィンターカップには出られませんでしたとは言わない為に…。

 

 

――ガン!!!

 

 

「おぉっ!」

 

「くっ!」

 

リングに弾かれたボールを天野が室井を抑え込んでリバウンドを制した。

 

「もっとボールの流れを見ーや! 後ポジション取りが甘いねん! それじゃどないパワーがあってもリバウンド取られへんぞ!」

 

「はい!」

 

ゴール下で天野が室井に厳しめに指導する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

「バカ野郎、あっさり抜かれてんじゃねえぞ! そんなザルじゃどんなに点取れてもそれ以上に取られちまうぞ!」

 

生嶋を抜きさった菅野が檄を飛ばす。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

「…っ! …っ!」

 

並んだカラーコーンの間を松永がドリブルで駆け抜けていく。

 

「ぜぇ…ぜぇ…! 帆足先輩、後10本行きましょう!」

 

「あ、あぁ!」

 

走り込みをしている竜崎と帆足。竜崎が声を出し、帆足が応えた。

 

冬の県予選は目の前。迫る激闘を前に選手達は最後の追い込みをかけていた。

 

「…」

 

練習風景を見つめる上杉。手に持っているボードを見つめながら考える。考えているのは県予選を戦うにあたってのスタメンである。

 

「…」

 

無論、相手に応じてスタメンを変えて試合に臨むが、それでも主軸である5人は決めなければならない。

 

「…うむ」

 

選手の名が書かれたシールが貼られたマグネットを見ながら唸り声を上げる上杉。

 

「(パワーフォワードの天野は外せん。これは決まりだ。シューティングガードも、少々ディフェンスに不安があるが、生嶋でいいだろう…)」

 

マグネットを置きながら次々とスタメンを重ねていく。そして考えるのは残りのポジション。

 

「(ポイントガードは、竜崎しかいない。経験の浅さがネックとなるが、帝光を率いた経験に加え、物怖じしない度胸の強さがある…)」

 

決まっていくスタメンのポジション。最後に悩ませるのはスモールフォワードとセンターだ。本来のスタメンである松永をセンターに置いた場合、スモールフォワードは菅野に置く事になる。だが…。

 

「…」

 

ここで上杉の視線が室井に向く。

 

「…っ!」

 

天野や松永を相手に必死に食らいついてディフェンスをしている姿が目に映った。

 

「(室井の成長も著しい。曲がりなりにも全国屈指のセンターである紫原と三枝とマッチアップした経験もある…)」

 

センターに室井を置いた場合、松永はスモールフォワードに置く選択肢が出来る。だが、松永は過去にスモールフォワード経験があるが、それは3年以上も前の話であり、ブランクもある。現在、松永は急ピッチでドリブル技術を磨いているが果たして県予選までに間に合うか…。

 

「…」

 

県予選を現状のメンバーをどのように起用し、戦い抜くか頭を悩ませる上杉。月日は過ぎ去り、遂にその日はやってきたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「行くぞ、お前ら!」

 

『はい!!!』

 

会場の前で上杉の檄に応える選手達。

 

遂にウィンターカップ出場を賭けた県予選がやってきた。100を超える静岡県の参加校からウィンターカップに参加出来るのは1校。まさに狭き門である。

 

「とは言っても、俺達の試合は3回戦からなんですよね」

 

「あぁ。俺達はシード校だからな」

 

今年の夏にインターハイに出場した花月はスーパーシード枠に組み込まれているので1回戦2回戦は免除となっている。

 

「しっかり研究せんとな。俺らかて余裕は一切あらへんからな」

 

試合がない事に僅かに気が抜けてる帆足と菅野に緩やかに喝を入れる天野。花月の選手達は会場へと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーっ!!!』

 

試合が始まると、県予選ながら、観客はそれなりに入っており、歓声が会場を包み込んでいた。コート上では花月の初戦の相手になる2校が試合をしていた。

 

「第3Q入って点差が広がってきましたね。この分だと明日の相手は八重樫高校で決まりそうですね」

 

コート上で試合をしている2校。前半戦までは2点差とシュート1本分の点さであったが、第3Q入って八重樫高校がリードを広げ始めた。

 

「よー鍛えられとるのう。序盤から飛ばし気味の相手を淡々と受け止めてから相手がペースが落ち始めてから確実に流れをモノにしとる」

 

「そうですね。特定キーマンはいませんが、スタメン全員で点を取りに来るスタイルです。…ある意味やり辛いですね」

 

天野の分析に竜崎が頷いた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで相手チームのセンターのファールがコールされた。

 

「決まりだな。これまであのセンターがチームを支えてきたが、ここで限界が来た」

 

「そうだね。これでファール3つ目。何より、もう足にきてる。これ以上は…難しいね」

 

今のファールで試合の流れが八重樫にある事を悟った松永と生嶋。

 

試合は花月の選手達の予想通り、八重樫高校が74対61で勝利した。これにより、花月の初戦の相手が決まったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌週…、遂に花月の冬の県予選の初戦の日がやってきた。

 

『…』

 

控室では既にひと通りの準備が終わり、各自、試合に備えていた。

 

「便所行って来るわ」

 

天野が立ち上がると、そう言って控室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(…でーへんな。さっき行ったしのう…)」

 

トイレの個室に入った天野。

 

「(柄にもあらへんな。まさか、おったらおったで世話焼かされるあの2人がおらんだけでこうなるとはのう…)」

 

主将とエース不在の冬の県予選。コートリーダーと同時にチームのムードメーカーを担う天野が過去最大に緊張していた。

 

負ければその瞬間、天野は引退。チームはキセキの世代の最後の戦いが出来ず、空と大地は事実上、留学が無駄となる。

 

「(あーアカンアカン。出れるもんでーへんのに嫌な事ばかり出てくるわ。さっさと切り替えて――)…ん?」

 

その時、トイレに新たな来客がやってきた。

 

「あーあ、よりにもよって花月が相手かよ。せっかくここまで勝ち上がったのによー」

 

「だよなー」

 

「(……八重樫の連中か?)」

 

会話の内容から入って来たのが八重樫の選手だと断定する天野。

 

「おい聞いたかよ!」

 

「(うるっさいのう…)」

 

その時、新たにやってきた八重樫の選手の声にイラつく天野。

 

「花月のメンバーに神城と綾瀬いないらしいぜ!」

 

「ハッ? どういう事だよ?」

 

「相手のメンバー表に神城と綾瀬の名前がなかったんだってよ」

 

嬉々として報告する八重樫の選手。

 

「いないって、怪我でもしたのか?」

 

「知らねえ。とにかく今日の試合には出てこない事は確定だぜ」

 

「マジかよ! じゃあ今日楽勝じゃん!」

 

「だよな! 花月なんてあの2人以外知らねえし」

 

「今日は20点差は目標しないとな」

 

「30点だろ」

 

八重樫の選手達は足取り軽やかにトイレを後にしていった。

 

「……言いたい事言ってくれたのう」

 

声を殺しながら個室にいた天野。

 

「ここまで舐められるとけったクソ悪いわ。やったろうやないかい!」

 

自身を侮る発言をした八重樫に敵意を爆発させた天野だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

時間は進み、遂に花月の試合の時間がやってきた。

 

「初戦だ。特に指示はない。存分にやって来い」

 

『はい!!!』

 

上杉から指示が出ると、選手達は大声で応えた。

 

「みんな、ちょい集まれや」

 

天野が選手達を集める。

 

「どうやらのう、花月は空坊と綾瀬のチームらしい。さっき便所行った時、連中言っとったわ。空坊と綾瀬おらんかったら花月は楽勝やってのう」

 

『…っ!』

 

先程のトイレでの会話の内容を天野が話すと、花月の選手達の顔色が変わった。

 

「奴等、どないする?」

 

「決まってんだろ! ぶっ潰すんだよ!」

 

即座に菅野が答えた。

 

「だね。くーとダイは頼りにしてるけど、…これにはカチンときたね」

 

「あぁ。目のもの見せてやらんとな」

 

生嶋と松永も目の色を変えて答える。

 

「やってやりましょう! 俺達の強さを思い知らせてやりましょう!」

 

「同意見です」

 

竜崎と室井も同様であった。

 

「ほな決まりや。…行くで!!!」

 

『おう!!!』

 

円陣を組みように集まった花月の選手達は天野の掛け声に応え、スタメンに選ばれた選手達はコートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート内のセンターサークル内に集まる花月と八重樫の選手達。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番SF:松永透  196㎝

 

10番PG:竜崎大成 183㎝

 

12番 C:室井総司 188㎝

 

 

『神城と綾瀬がいないぞ?』

 

『ベンチにもいない、どうなってんだ?』

 

『おいおい、あの2人を見に来たのに…』

 

観客席から空と大地がいない事に戸惑いと落胆の声が飛び交う。

 

「これより、花月高校対八重樫高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

整列が終わると、八重樫の主将が天野の前に歩み出た。

 

「よろしく。神城と綾瀬のいない静岡王者さん」

 

小馬鹿にするかのような表情で手を差し出す八重樫の主将。

 

「おう。よろしゅー頼むで」

 

「…っ!」

 

天野は不敵な笑みを浮かべながらその手を掴むと、力一杯握った。八重樫の主将は表情を歪めながら手を慌てて引っ込めた。

 

「…」

 

「…」

 

センターサークル内にジャンパーである松永と相手選手が残る。

 

「…」

 

審判が2人を交互に見渡し、ボールは高く上げられた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ」」

 

同時に両校のジャンパーがボール目掛けて飛んだ。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールは松永が相手選手の上で叩かれた。

 

「ナイス松永先輩! 1本、行きましょう!」

 

叩かれたボールは竜崎がすぐさま確保し、すかさずボールを運んだ。

 

「行かせるかよ1年坊!」

 

スリーポイントライン手前で相手選手が竜崎の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

竜崎はボールを止め、右45度付近のスリーポイントラインの外側に立っている生嶋にパスを出した。

 

「…よし」

 

生嶋にボールが渡る。

 

「そいつにスリーを打たせんなよ!」

 

相手ベンチから指示が出て、ボールを持った生嶋に対してきつめに当たる生嶋のマッチアップの選手。

 

「ハハッ、スリーしかない相手だと楽でいいぜ」

 

フェイスガードでディフェンスしながら呟く相手選手。

 

「…」

 

生嶋は表情変える事無くそこから強引にスリーを放った。

 

「焦ったな、リバウンド!」

 

ムキになってやぶれかぶれに打ったと判断した生嶋のマッチアップの選手が声を出し、速攻に備えた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『なっ!?』

 

しかし、ボールはリングに触れる事無く潜り抜けた。

 

「…ちっ、まあいいたまたまだ」

 

スリーを決めた生嶋に囁く相手選手。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

生嶋のスリーを皮切りに、試合は花月ペースで進められた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「もらうで、いったれ!」

 

相手選手のキープするボールを奪う天野。零れたボールをすぐさま天野が拾い、竜崎に渡す。

 

「さすがです。速攻!」

 

ボールを受け取った竜崎はそのまま速攻に走った。

 

「くそっ、これ以上やらせるかよ!」

 

竜崎に追い付いた相手選手がディフェンスに入る。

 

「(ここでパスしか出来ないようならキャプテンの代わりは務まらない!)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ディフェンスに道を塞がれるも竜崎はクロスオーバーからターンアラウンドで反転してディフェンスをかわし、そのままジャンプショットを決めた。

 

「くそっ!」

 

ターンオーバーからの失点に苛立ちながらスローワーがパスを出す。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

「ちょっと熱くなり過ぎかな」

 

不用意に出されたパスを生嶋がカットする。そのままシュート態勢に入る。

 

「させるか!」

 

これを阻止する為に慌てて相手選手がブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、生嶋はシュートを中断。ボールを前へと弾ませながら落とした。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ室井がボールを受け取り、リングに向かって飛んだ。

 

「叩き落してやる!」

 

相手センターがブロックに飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「がっ!」

 

室井はブロックもお構いなしにそのままボースハンドダンク。相手を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

「ええでムロ!」

 

「うす」

 

得点を決めた室井の頭を掴みながら天野が労った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も花月は八重樫を圧倒。終始相手にペースを握らす事無く戦った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了

 

 

花月  96

八重樫 41

 

 

危なげなく花月は初戦を突破した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も、花月は快進撃を続ける。続く2戦目、3戦目と順調に勝利を重ねていった。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

続く4戦目、準決勝…。

 

「…っ」

 

花月は苦戦を強いられていた。

 

相手は福田総合学園高校。かつては静岡県の最強の一角であったが、ここ1年以上は全国出場を逃している強豪校。この大会にかける思いは強い。

 

「自分のマークをしっかり確認せえ!」

 

天野が指示が飛ぶ。スタメン全員が3年生の福田総合はパスを中心に攻め立て、得点を重ねている。

 

「あっ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

室井の背後を取った福田総合のセンターがゴール下を決めた。

 

「くそっ…」

 

「ドンマイ」

 

悔しがる室井を励ます生嶋。

 

第1Q、第2Qこそ生嶋と松永を中心に得点を重ね、リードを保ってきた花月だったが、第3Qに入って福田総合が対応し始め、徐々に点差を詰められていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そして試合時間、残り15秒、花月は逆転を許してしまう。

 

『よーし!!!』

 

逆転に成功した福田総合の選手達は喜びを露にする。

 

「(落ち着け…、こんな時だからこそ落ち着くんだ。残り時間はまだ充分にある。逆転するには充分だ)…スー…フー…」

 

ボールを受け取った竜崎は落ち着くよう自問自答した後、深く深呼吸をし、ゆっくりボールを運び始めた。

 

「時間ねえぞ、早くボールを運べ!」

 

残り時間がなくなっていく焦りでベンチの菅野が声を出す。

 

「黙っていろ菅野」

 

そんな菅野を上杉が諫める。

 

「…」

 

残り時間が10秒を切り、竜崎が花月の選手達に視線を向けながらゲームメイクをする。その時…。

 

 

――スッ…。

 

 

松永が竜崎の下に直接ボールを受け取りに走る。

 

「打たせるな!」

 

指示と同時に松永をマークする選手が松永を追いかける。松永が竜崎とすれ違い様…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

竜崎はボールを渡そうと差し出した手を引っ込め、中に切り込んだ。

 

「読めて――っ!?」

 

予測したプレーであった為、相手選手が竜崎を追いかけようとしたが、何かにぶつかった。

 

「通さへんぞ」

 

天野がスクリーンをかけており、竜崎の追走を阻んだ。竜崎はそのまま切り込み、フリースローラインを越えた所でボールを掴み、シュート体勢に入った。

 

「させるか!」

 

「勝つのは俺達だ!」

 

次の瞬間、竜崎の後ろからブロックが2人現れた。2人共、竜崎のシュートコースを塞ぐようにブロックに飛んだ。

 

「うわぁ!?」

 

この状況にベンチの帆足が悲鳴を上げる。

 

「…」

 

しかし、竜崎は動じる事無く、予測の範囲内だったのか、頭上に掲げたボールを下げ、前へと落とした。

 

「「っ!?」」

 

このプレーにブロックに飛んだ2人が目を見開いた。ボールはゴール下に走り込んだ室井の手に渡った。

 

『打てぇぇぇぇぇっ!!!』

 

花月のコート上の選手及びベンチから張り上げるような声が出る。

 

「おぉっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

声を上げながら室井がゴール下を決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴った。

 

 

花月   79

福田総合 78

 

 

「っしゃぁぁぁっ!!!」

 

ベンチの菅野が両拳を突き上げながら咆哮を上げる。

 

「やったね姫ちゃん!」

 

「うん。けど、まだ安心出来ないよ」

 

ハイタッチを交わす相川。姫川はハイタッチに応えつつ気を引き締めた。

 

「ナイスショット!」

 

ブザービーターを決めた室井に竜崎が飛び付く。

 

「あれくらい…」

 

恥ずかしながら室井は返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「勝てると思ったんだけどな」

 

「全国に忘れ物があるからのう、ここで負けられんよ」

 

センターサークル内に整列した選手達。右手を差し出す福田総合の主将と握手を交わす天野。他の選手達も握手を交わしていた。

 

「それはこっちも同じだが…、なら俺達分まで、勝てよ」

 

「任せとき」

 

そう言って、2人は手を放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「急いで荷物を纏めろ。すぐに隣の会場に移動するぞ」

 

上杉が指示を飛ばす。

 

「そうか、隣の会場では決勝の相手になるチームが試合してるんだよね」

 

荷物を纏めながら帆足が思い出す。

 

「何処と何処がぶつかっとるんやっけ?」

 

「松葉高校と緑川高校です」

 

天野が尋ねると、姫川が答えた。

 

「松葉はともかく、緑川は知らないな」

 

聞き覚えのない学校名に首をかしげる松永。

 

「緑川高校は今年の夏は予選のトーナメントの準決勝で福田総合学園に敗れてるわ。今年の夏を基準にするなら、松葉高校が決勝の相手になるかもしれないわ」

 

「ありがとう。…言葉通りなら、決勝の相手は松葉高校か」

 

「今日の福田総合と同じで、総合レベルの高い選手と抜群のチームワークで押してくるチームですから、手強いですね」

 

各々、決勝の試合相手の予想をしながら荷物を纏めていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

『…っ』

 

試合を終えて急いで隣の会場の試合観戦に向かった花月の選手達。その試合光景を見てその表情は驚愕に染まっていた。

 

 

試合終了

 

 

松葉 61

緑川 83

 

 

「松葉が…負けた…」

 

電光掲示板に表示されているスコアを見て呟く帆足。

 

第3Qの終盤から会場にやってきた花月の選手達。試合は終始緑川ペースで進み、そして終わった。

 

「あの14番と15番が特に目立っとったな」

 

天野が注目したのは試合中に特に活躍していた緑川の14番と15番だった。

 

 

「やった、決勝だ!」

 

コート上で抱き合う選手達。

 

「(やったぞ黒子! 後1つだ。後1つ勝てばお前と同じ舞台に立てる!)」

 

「(勝った。…今更お前の前に立っても罪滅ぼしにもならない事は分かってる。だが、例え自己満足であろうと、青峰。俺はもう1度、お前の前に立つ!)」

 

14番が拳を握りながら喜び、15番は何かを決意している。そんな2人を中心に緑川の選手達は勝利の喜びを分かち合うのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

辛くも決勝へと駒を進めた花月。

 

しかし、決勝には更なる強敵が待ち受けていた。

 

主将とエース不在の最後の難所にして強敵が、花月の前に現れたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





サクッと決勝まで飛ばしました…(;^ω^)

決勝戦だけはこれまでどおりある程度描写したいと思っています。現状、ある程度しか考えていないので、かなり難産になると思いますが…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第153Q~難敵~


投稿します!

花粉症に悩まされるか薬の副作用で眠気に悩まされるか…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

「思わぬ伏兵が現れたのう…」

 

準決勝が終わり、学校の部室へと戻った花月の選手達。決勝の相手である緑川高校と松葉高校の試合の映像を見ながらスカウティングをしていた。

 

「あの松葉があんな負け方するなんてな」

 

試合結果を見て菅野が神妙な表情をする。

 

静岡の強豪である松葉高校。空達の世代が加入する前は静岡は福田総合学園と松葉高校が覇権を握っていた。全国区の石田と灰崎が抜け、戦力ダウンした福田総合はまだしも、松葉は例年と変わらない実力を有しており、去年と今年の夏は全国出場を果たしていた。

 

「もともと、緑川高校はピュアシューターの桶川さんと好センターの城嶋さんを擁するチームで、他の選手は、悪い言い方をすれば県レベルのチームでした」

 

自身のノートを広げながら解説する姫川。

 

「しかしのう、この14番と15番は間違いなく全国レベルの実力者や。そやのに、この2人は今日まで静岡で見た事あらへん」

 

3年間静岡で戦ってきた天野も見覚えのない選手だった。

 

「……この2人、何処かで見た覚えが…」

 

「僕も。何処だっけな…」

 

松永と生嶋は記憶の何処かに覚えがあるのか、必死に記憶を巡らせている。

 

「…」

 

花月の選手達が緑川の研究をしている中、姫川はそっと部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「失礼します」

 

部室の隣の部屋の扉をノックした姫川は一声掛け、入室した。そこには上杉が椅子に座っていた。

 

「上杉監督、お願いがあります。神城君と綾瀬君を呼び戻して下さい」

 

入室すると、姫川は上杉にそう願い出た。

 

「決勝戦は神城君と綾瀬君抜きでは危険です!」

 

「…」

 

だが、上杉は沈黙を保っている。

 

「緑川の14番と15番ですが、見覚えがあったので調べてすぐに分かりました。14番は荻原シゲヒロさん、15番は井上智也さん。どちらも全中強豪校の明洸中学と上崎中学で1年生からエースだった選手です。監督もあの2人が加入し、緑川高校が勝ち上がってくることは想定外だったのではないですか?」

 

姫川自身も、空と大地の帰国が12月と聞かされた時、驚きはしたが、それでも勝ち上がれると踏んでいた。緑川高校の試合を見るまでは…。

 

「お願いします。2人を帰国させて――」

 

「ダメだ」

 

しかし、上杉は姫川の言葉を遮るように言った。

 

「ここであいつらを呼び戻してしまっては12月まで留学を伸ばした意味がなくなる」

 

「監督…」

 

「決勝戦、勝てなければウィンターカップも勝てん。今度こそ頂点を取る為に、この局面、乗り切らなければならん」

 

決意に満ちた表情で上杉は宣言したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お前ら、もう1度、決勝の相手である緑川のスカウティングを始めるぞ」

 

部室に戻ってきた上杉と姫川。部室のテレビの前にやってきた上杉がリモコンを操作し、試合をティップオフまで戻した。

 

「まずは5番、桶川文吾さん。ポジションはシューティングガード。アウトサイドシュートを得意としている緑川の得点源の1つです」

 

紹介された5番の選手がスリーを決めた。

 

「かなり打ち込んでるね。体幹もしっかりしてるから多少のディフェンスでは簡単には外してこないだろうね」

 

同じシューターである生嶋がそう評価する。

 

「外を決められるとチームを勢いづかせるきっかけとなる。…生嶋、責任重大だぞ」

 

「任せてよ。止めてみせるよ」

 

松永に促され、生嶋は頷いた。

 

「次に6番、城嶋則之さん。ポジションはセンター。緑川のゴール下を支えるインサイドの要です」

 

映像ではターンでディフェンスをかわし、ゴール下を決めた。

 

「見た所、技巧派センターですね」

 

身体をぶつけるパワー勝負よりテクニックとスピードで攻めるパターンが多い事から竜崎がそう分析する。

 

「…」

 

室井が言葉を発する事無く城嶋を観察している。もしセンターとしてスタメン出場したならマッチアップするのは室井。相手はキャリアの短い室井の苦手とする技巧派タイプの選手。

 

「なかなかやりよるな。ゴール下での駆け引き、テクニックは相当や。ムロやと荷が重いかもしれへんな」

 

単刀直入に天野が言った。

 

「もしかしたらまっつんが相手をする事になるかもしれないね」

 

「ああ。肝に銘じておこう」

 

松永は自分がマッチアップを想定し、プレーを観察した。

 

「今年のインターハイ静岡県予選までは外の桶川さんと中の城嶋さんの二枚看板のチームでした。ですが、今回は新たに2人の新戦力が加わっています」

 

映像に14番のユニフォームを着た選手が映し出される。

 

「初めに14番から。荻原シゲヒロ。スモールフォワード」

 

相手チームのパスをスティールし、そのまま速攻、レイアップを決めた。

 

「ええ選手やな。際立って身体能力が高いわけでも高さがあるわけやない、テクニックもまあ全国標準レベルやが、ここ一番の勝負強さはかなりもんやな」

 

イチかバチか自身のマークを外してスティールを狙い、結果ボールを奪い、得点に繋げた。

 

「声もよー出とる。こないな奴が1人いるだけでチームは活性化しよるからのう。こいつ乗せたらエライ目に合うで」

 

「ある意味、決勝はこいつを如何に黙らせられるかが勝敗を左右するかもしれないな。要注意だ」

 

県予選ではスモールフォワードで試合出場している松永。自分がマッチアップする可能性もあるので、気を引き締めた。

 

「次に15番、井上智也。パワーフォワード」

 

ボールを受けると、ドライブで一気にカットイン。そのままダンクを決めた。

 

「こいつ、ポジション4番の癖に1ON1スキルスゲーな」

 

抜群のドリブル技術に菅野が称賛する。

 

「高さもあるし、全国レベルで見てもエース級の実力者だね」

 

生嶋も実力の高さを評価した。

 

「14番と15番。どっちもかなりの実力者やな。何で今まで静岡県内だけでも知れ渡っとらんかったやろな」

 

「14番の荻原さんは高校2年生の夏に緑川高校に転校したので静岡での試合出場記録がなく、1年時の時も、調べてみたのですが見つかりませんでした。15番の井上さんは、バスケ部に入部したのが今年のインターハイ静岡県予選後だったので、同じく記録はありません」

 

「どっちも高校入って公式戦に出てねーのか」

 

姫川の説明に頷く菅野。

 

「ですが、中学時代はどちらも結果を残しています。荻原さんは2年時に全中ベスト4。3年時には準優勝しています。井上さんは1年時にベスト4、2年時にベスト8で帝光中に敗れていますが、1年時にまだ才能が大きく開花する前だったとはいえ、あの青峰さんと互角の勝負をしています」

 

「っ!? あの青峰とかいな…」

 

この情報に天野は素直に驚いていた。

 

「…思い出した。この2人、明洸中と上崎中のエースだった人だ」

 

ここでようやく生嶋が辿っていた2人の記憶に行き着いた。

 

「っ! そうか、どおりで何処かで見た覚えがあるはずだ」

 

ここで全中出場経験のある松永も思い出した。

 

「明洸中と上崎中って言ったら、どっちも中学の全中強豪校じゃねえか! そこのエース張ってたならあの実力も頷けるな」

 

「どういう経緯でこの2人が緑川にいるかは分かりませんが、全国区の選手が揃った緑川は手強い相手です」

 

姫川はそう締めくくった。

 

「残りの1人はどないな感じなんや?」

 

スタメンで説明がない最後の1人の解説を求める天野。

 

「ポイントガードを務めるのはスタメンで唯一の2年生の北条勇さん。堅実でミスの少ないバスケをする選手です」

 

「…見た所、特筆してテクニックがある訳ではないな。他の4人に的確にパスを届ける選手か」

 

「見た感じ、大した事なさそうだな。決勝は竜崎にこいつの所から攻めさせるのもありじゃねえか?」

 

冷静に分析する松永。菅野は与しやすいと見て竜崎を吹っ掛ける。

 

「一理あるかもしれないですね。決勝では点も取っていきます」

 

乗せられたわけではないが、竜崎は分があると踏み、意気込みを見せた。

 

「…あれ? そう言えば、緑川って、監督がいないんですね」

 

インターバルでベンチの戻る緑川の選手達。そこに監督の姿はなく、1人の選手が出迎えた。

 

「緑川の監督はインターハイ静岡県予選終了後に監督を辞めたらしく、今は1人の選手が選手兼任監督を務めているみたいです」

 

緑川のベンチでは4番のユニフォームを着た選手がベンチに座る試合に出場している選手達の前に立ち、何やら指示を出している。

 

「誠凛も去年までは女子高生が監督してたが、現役選手が監督とは珍しいな」

 

このような感想を抱いた松永。

 

「なっ!?」

 

その時、竜崎が声を上げて立ち上がった。

 

「いきなりどないしてん!?」

 

突然声を上げた竜崎に天野が驚きながら尋ねる。当の竜崎は信じられない表情を浮かべている。

 

「まさか、あの人は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって神奈川、海常高校。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

既に全国出場を決めている海常高校は12月のウィンターカップ本選に向けて激しい練習に励んでいた。

 

「よし! 5分休憩だ!」

 

監督の武内が指示を出した。

 

「ふー」

 

黄瀬がタオルで汗を拭いながら一息吐いた。

 

「気合い入っとるのう!」

 

そこへ、三枝が隣にやってきた。

 

「三枝っち。そりゃ、高校最後の大会だし、国体で火神っち緑間っちには借りを返したッスけど、まだ返してない人がたくさん残ってるッスからウィンターカップで全員にお返しするッスよ!」

 

黄瀬がウィンターカップの意気込みを語った。

 

「そうか! だがまあ、怪我だけはするんやないぞ!」

 

バンバン! っと黄瀬の背中を叩く三枝。

 

「痛っ! 分かってるッスよ。もう怪我で泣くのは懲り懲りッスからね」

 

背中を叩かれて痛がりながら2年前の冬を思い出した黄瀬。

 

「そう言えばキャプテン、冬の県予選で花月の話、知ってます?」

 

そこへ、小牧がやってきて、黄瀬に尋ねた。

 

「何の事っスか?」

 

「何でも、神城と綾瀬が静岡県予選で試合出場どころかベンチにいなかったらしいんですよ。これ見て下さい」

 

小牧が持っていた月バスの雑誌を開き、黄瀬に見せた。

 

「……ホントッスね」

 

開かれたページにはウィンターカップ県予選の注目チーム特集であり、海常も特集されている。

 

「ふむふむ…、花月のキープレイヤーの空と大地が謎の欠場…、監督にインタビューするもノーコメント…。確かに、みたいやのう」

 

三枝が記事を読み上げる。

 

「怪我とか病気とか、そういうんじゃけりゃいいんですけね」

 

ライバル視している空と大地を心配する小牧。持っていた月バスをそっと閉じる。

 

「……ちょっと待った!」

 

月バスを閉じようとしたその時、何かを見つけた黄瀬が血相を変えて小牧から雑誌を奪い去るようにして再び開いた。

 

「…」

 

先程のウィンターカップ県予選の静岡の特集を見つめる黄瀬。

 

「……一ノ瀬っち」

 

記事の一角を見て何かを呟く黄瀬。

 

「どうかしたのか?」

 

黄瀬の様子を見て三枝が尋ねる。

 

「……高校に進学してから影も噂も聞かなかったけど、まだバスケを続けていたんスね」

 

三枝の心配を他所に、黄瀬は何やら語り始めた。

 

「あの時、彼が俺に言った言葉。今なら良く理解出来る。あの時の事を謝りたいッスけど…、今更ッスよね」

 

自嘲気味に呟く黄瀬。

 

「?」

 

黄瀬の様子に戸惑いつつ小牧が雑誌に視線を移すと、そこには緑川高校の4番のユニフォームを着た選手が載っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

さらに場所は変わって緑川高校…。

 

「…あぁ、決勝まで辿り着いた。後1つ勝てば全国出場だぜ」

 

『頑張って下さい。出来れば応援に行きたかったんですが、その日はどうして行けなくて…』

 

「気にすんなよ! っとと、そろそろ休憩時間が終わりだ。それじゃ、12月に会おうぜ黒子!」

 

電話をしていた青年が電話を切った。

 

「よーシゲヒロ! もしかしてこれか?」

 

後ろから肩に腕を回し、小指を立てながらシゲヒロと呼んだ青年にニヤケながら尋ねた。

 

「いてーよ文吾! そんなんじゃねえよ、ダチに電話してたんだよ」

 

「何だ、つまらん」

 

回答を聞いて興味をなくす桶川。

 

「もうすぐ練習再開だろ? 早く体育館に戻ろうぜ!」

 

「だな」

 

荻原がそう促すと、桶川はそれに従った。体育館に戻ると、1人の青年がシュート練習をしていた。

 

「おい智也。休む時はしっかり休もうぜ」

 

休憩時間を削って練習をしていた井上に呆れながら注意を促す桶川。

 

「休んでなんかいられねえよ。ブランクもあるからな」

 

注意されるも当の本人はその手を止める事無くシュート練習を続けた。

 

「て言うか則之、お前もパス出ししてねーで止めろよ」

 

「言って止まるならそうしてるよ。オーバーワークにならないように見てんだろが」

 

ボールを拾って井上にパスをしていた城嶋に桶川が制止するように言うも、城嶋は呆れながらそう返した。

 

「井上、また休憩時間に練習してたのか? 感心しないな」

 

その時、体育館に新たな青年がやってきた。

 

『一ノ瀬!』

 

その場にいた者達がやってきた者の名を呼んだ。

 

「決勝は目前なんだ。今はコンディションを整える方に重点を置いてほしいんだけな」

 

「そう言われてもな、俺はバスケを4年近くも離れていたんだ。せめて全盛期の実力くらいは取り戻さねえと…」

 

「それについても言ったはずだぞ。お前は身体能力は成長期と合わさってお前の言う全盛期を超えているし、テクニックもとうにブランクを解消して中学時代を上回ってる。体力も特別メニューで1試合戦える程になっている。お前は既に全盛期を超えているってな」

 

「…イマイチ実感が湧かないんだがな」

 

一ノ瀬に説明されて尚も納得しない井上。

 

「まあまあ、うちの監督がそう言ってんだから、素直に聞き分けとけって」

 

「…分かったよ」

 

肩を叩きながら言う桶川が言うと、井上は渋々聞き入れたのだった。

 

「にしても、俺達が県予選の決勝までくるなんてな。入学当時からは考えられなかったよな」

 

しみじみと城嶋が呟く。

 

緑川高校バスケ部は静岡県でここ数年で頭角を現したチームで、徐々に力を付けるも松葉や福田総合学園と言った強豪校に及ばず、全国出場を逃していた。

 

「ま、全部あのバカ監督のせいだけどな。あいつさえいなけりゃもっと早く全国出れたんだよ」

 

桶川が苛立ちながら悪態を吐いた。

 

「そう言うな。あの人だって必死にやってただろ」

 

そんな桶川を一ノ瀬が諫める。

 

「今更庇う事ねえだろ。第一、一ノ瀬、お前が一番キレていいはずだぜ。あいつは最後までお前の実力を認めずに干し続けたんだからよ」

 

「…」

 

「挙句、インターハイの県予選終わってすぐに俺達裏切って他県の強豪校に転任しやがったしよ。グダグダ御託並べてやがったけど要はここ(緑川)より強いチームに行きたかっただけじゃねえかよ」

 

前任の監督に対し憤る桶川。

 

「あの監督が着任してウチが強くなったのは事実だ。それにもう終わった事だ」

 

あくまでも前任の一ノ瀬は監督を庇う。

 

「今はそんな昔の事より、先の事を見るべきだ。3年最後の大会でようやく全国出場が手の届く所まで来たんだぜ」

 

暗くなった空気を変えるべく、一ノ瀬は話題を変えた。

 

「だな。…正直、これだけのメンバーが緑川に揃った事は奇跡に近い」

 

周囲にいるメンバーを見渡す城嶋。

 

「文吾にはマジで感謝するよ。一度は入部を断られた俺を受け入れてくれただけじゃなくて、スタメンにまで抜擢してくれて」

 

荻原が自身をバスケ部に誘ってくれた桶川に礼を言った。

 

「お前程の実力者を戦力にしない手はねえよ。むしろ、手土産に智也を連れてきてくれた事に感謝するよ」

 

当社、転校の関係で入部が2年の終わりだった為、前任監督に断られたのだが、その前任の監督がいなくなった事で桶川が再度荻原を誘い、更に試合に出られるように部員全員に頭を下げて説得した背景があった。

 

井上も、当初は入部する意思はなかったのだが、荻原の説得を受けて一緒に入部したのだった。

 

「俺も感謝してるよ。一度はバスケを辞めて、二度とする気はなかった。けど、何処かで燻っていた。荻原が俺に声をかけてくれて、俺にはまだやらなきゃならない事があった事に気付かせてくれた」

 

「井上…」

 

「必ず全国に行って、『あいつ』の前に立たなきゃならない。例え、その結末がどうであれ、それをしなきゃ、俺のバスケは終われねえ」

 

何か思い詰めた表情をしながら井上が胸の内を語った。

 

「それでいい。ここにいるのは俺含めて本気で全国出場を目指したバスケ馬鹿共だ。高校最後の大会、県予選を突破して全国制覇してやろうぜ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「一ノ瀬京志郎。帝光中時代の2つ上のキセキの世代と同学年の先輩で、かなりお世話になった先輩です」

 

竜崎が緑川の選手兼任監督を務める一ノ瀬の説明を始めた。

 

「キャプテンと綾瀬先輩、それと天野先輩には話しましたよね。俺が帝光中にいた時の事」

 

「おう、もちろん覚えとるで」

 

インターハイに向けての夏合宿の折、竜崎と誠凛の新海、池永といざこざが合った際の事を思い出す天野。

 

「全中を優勝して、何とか責任を果たせましたが、新しい代の後輩の事が気掛かりで、けど何にもしてやれなくて、その時、たまたま帝光中に顔を出した一ノ瀬先輩と再会して、その事を相談したんです」

 

『…』

 

「一ノ瀬先輩は俺の話を親身になって聞いてくれて…『良く頑張ったな。俺に任せろ』って励ましてくれて、後は、あの時、話した通りです」

 

「ほー、あの時言うとったOBはこの緑川の選手兼監督やったんか」

 

「…さっきから何の話だよ?」

 

「後で話したるから今は口挟まんとけ」

 

話に付いて行けず、説明を求める菅野を制する天野。

 

「それだけじゃなくて、俺達の代は一ノ瀬先輩に指導してもらいました。3年の時に優勝出来たのはこの時の指導があったからです」

 

「お前って確か1年の時は2軍だったよな? ならこいつも2軍の選手なのか?」

 

映像を指差しながら菅野が尋ねた。

 

「俺が入学した時は2軍ではあったんですが、けどそれは、実力がなかったからではありません。…洛山にいた4人の帝光中のメンバーは覚えていますよね?」

 

「それはもちろん。忘れられる訳がないよ」

 

敗北を喫した相手である為、当然と答える生嶋。

 

「一ノ瀬先輩もまた、キセキの世代がいたせいで脚光を浴びる事が出来なかった悲運の実力者です」

 

「…つまり、こいつも洛山の4人と同格の実力者と言う訳か」

 

無冠の五将にも引けを取らない実力を有した洛山の4人の選手達。その手強さは手を合わせた松永自身が良く理解していた。

 

「いえ、違います」

 

しかし、竜崎は首を横に振った。

 

「一ノ瀬先輩に限って言えば、5人の中で頭1つ抜けています。もし、赤司先輩がいなかったら、一ノ瀬先輩がキセキの世代と呼ばれていてもおかしくない程の実力を有していると俺は思っています」

 

きっぱりと竜崎は断言した。

 

「…っ、他の4人にしたって手強いのに、そんな奴まで相手にしなきゃならないのかよ…」

 

「それも、神城君と綾瀬君抜きで…」

 

菅野と帆足が表情を曇らせながら弱音を吐いた。

 

「…それでも勝たなあかんねん。高校最後の大会、こんな所で終いは御免やで」

 

暗くなる部員達。それでも天野は勝利を渇望する。

 

「ですね。僕も、優勝はおろかキセキの世代と戦えずに終わるのは、嫌だな」

 

「当然だ。何としてでも勝つ」

 

生嶋も続き、松永もまた勝利を望んだ。

 

「…だな。こうなりゃとことんやってやるだけだ!」

 

「…俺も、まだ先輩達とバスケがしたいです!」

 

沈みかけていた菅野と帆足も顔を上げた。

 

「それでいい」

 

選手全員が勝利を目指して戦う意思を示すと、これまで沈黙を保っていた上杉が口を開いた。

 

「相手は強敵だ。だが、お前達はそれ以上の強敵と戦ってきたはずだ」

 

『…』

 

「お前達なら勝てる。ここまでお前達を鍛え上げてきた俺が保証してやる。県予選の最後の関門、突破するぞ!」

 

『はい!!!』

 

「もう一度最初から試合を見直す。各自、自分の相手となる相手の弱点や癖をその目でしっかり焼きつけろ」

 

上杉がリモコンを操作し、緑川と松葉の試合を最初から流したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

迫るウィンターカップ出場をかけた決勝戦。

 

竜崎から語られる緑川の切り札の存在。

 

そして戦いの舞台の幕が開けるその日は、やってきのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





懐かしのキャラが登場です…(^-^)

花月にとっての最大の難関。空と大地の不在のハンデは計り知れず…(>_<)

……とまあ、またまた大きな風呂敷を広げちゃいました…(;^ω^)

ちょっとリアルが少し大変になっているので、半ば現実を忘れる為に執筆活動に勤しんでいます。…マジで心身ともにヤバイかもなあ…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第154Q~司令塔~


投稿します!

リアルの事情で週1投稿を崩してしまいました…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

――ピィッ!!!

 

 

『っ!』

 

笛が鳴ると同時に誠凛の選手達が全力ダッシュをする。

 

「5分休憩よ! 皆、水分しっかり捕球しなさい!」

 

ここは誠凛高校の体育館。迫るウィンターカップを前に猛練習をしている。

 

『ぜぇ…ぜぇ…!』

 

インターハイ優勝チームと言う事で誠凛は東京都予選はなく、無条件で本選出場が決まっている。夏と冬の連覇がかかっている為、士気は高い。

 

「…」

 

そんな中、黒子ただ1人が、体育館の入り口から青空を眺めている。

 

「どうしたのか黒子?」

 

その様子に気付いた火神が話しかける。

 

「……そろそろだと思って」

 

「そろそろ? ……あぁ」

 

黒子が何の事を言っているか理解した火神は軽く頷いた。

 

「そうか、今日はお前の親友の…」

 

今日は静岡県でウィンターカップ出場をかけた試合が行われる日。かつて黒子にバスケを教えてくれた荻原シゲヒロがいる緑川と花月の試合の日であった。

 

「気になるなら見に行けば良かったじゃねえか。頼み込めば監督だって…」

 

「…いえ、高校最後の大会は目の前ですから、今は練習をサボる訳にはいきません」

 

火神の言葉に黒子が首を横に振った。

 

「…そうかよ。ま、正直、黒子の事を考えればその親友が勝ってもらいてーけど、俺としては神城と綾瀬と戦いてーから、…どっちも応援しづれーな」

 

「火神君らしいですね」

 

複雑な心境を口にする火神。そんな火神を見て黒子がクスリと笑った。

 

「噂じゃ神城と綾瀬が試合に欠場してるらしいし、勝ち上がってくるかもな」

 

そう言ってポンと黒子の肩を叩くと、火神はその場を後にした。

 

「(祈ってます荻原君。今度こそ、コートで君と会えると…)」

 

遠く離れた場所で激闘を行う親友に対し、青空を見つめながら祈ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

同日、静岡県。某試合会場前…。

 

『…』

 

これから始まるであろう激闘を前に花月の選手達は静まり返っている。

 

「…行くぞ!」

 

『はい!!!』

 

監督の上杉を先頭に花月の選手達が会場入りをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

緑川高校控室…。

 

『…』

 

刻一刻と迫る試合を前に選手達は準備を進めている。

 

「…」

 

その時、一ノ瀬が立ち上がり、控室の外へと歩き出した。

 

「一ノ瀬トイレ?」

 

「そんな所だ」

 

荻原が尋ねると、一ノ瀬は後ろ手に手を振りながら部屋を後にした。

 

「…」

 

控室を出た一ノ瀬はそのままトイレ…通り過ぎ、歩いて行った。そのまま会場の外に出た。

 

「わざわざ試合前にすまないな」

 

外に出ると、そこに1人の男が待ち受けていた。

 

「ホントだぜ。既にウィンターカップ出場が確定しているお前と違ってこれから試合に勝たなきゃならないんだ」

 

謝る男に対し、一ノ瀬は悪態を吐いた。

 

「そうだな。本当にすまない」

 

「本気にするな。この程度で調子を崩す程柔じゃない。…で、何の用だ、赤司?」

 

ここで自身を呼び出した者の名を呼んだ。

 

「どうしても言っておきたい事があってな。…後輩達の事、礼を言っておこうと思ってな」

 

「礼?」

 

「あぁ。2軍に降りてまで後輩達の事を指導してくれた事。そして、学校の都合で苦しんでいた後輩達を救ってくれた事をね」

 

「…別にお前が謝る必要はない。俺が勝手にした事だからな」

 

礼を言う赤司に一ノ瀬は僅かに表情を曇らせながら返した。

 

「俺に礼を言うくらいなら後輩達に頭を下げてきたらどうだ?」

 

「…っ」

 

この言葉に赤司の表情が曇った。

 

「お前達が全中三連覇を成し遂げた翌年、帝光中が王者から陥落したのはお前達のせいだ」

 

一ノ瀬が単刀直入に言い放つ。

 

「練習をサボろうが試合で遊ぼうが、試合に勝ちさえすれば許される。お前が作ったルールだ。このルールに逆らうどころか意見すら言えない当時の帝光中だった」

 

「…そうだな」

 

「試合もお前達が蹂躙し尽くし、戦意すらない相手としか試合が出来ず、まともな経験が詰めなかった。こんな環境で育った後輩達がまともに育つわけがない」

 

「…っ」

 

返す言葉のない赤司。

 

「赤司、お前は全中三連覇と言う偉業の代償に帝光中を壊しかけた。お前は選手としては一流だ。だが、主将としては最低だ」

 

「…あぁ、言い訳はしない。お前がいなかったら、帝光は崩壊していた」

 

反論はせず、赤司は認めた。

 

「……ふぅ。まあ、後輩達が負けた一番の要因は後輩達にあるし、当時の帝光の体制は学校の責任でもあった。何より、俺にだって責任の一端はある。言いたい事も言えたし、もう充分だ」

 

「一ノ瀬…」

 

「高校でお前達を止めるつもりだったが、それも黒子に先を越されてしまったし、ったく、俺も人の事は言えないな」

 

自嘲気味に一ノ瀬が口にする。

 

「まだ終わりではないのだろ?」

 

「当然だ。高校最後の大会でようやくチャンスが巡ってきた。今日ここで花月を倒して全国に行き、お前達(キセキの世代)も黒子も倒し、全国制覇をする」

 

赤司の問いに、一ノ瀬は真剣な表情で答えた。

 

「お前としては複雑か?」

 

「そうでもない。お前と戦ってみたいという気持ちもあるからね。…それに、ここで負けるようならそれまでだ」

 

「そうかい」

 

意地悪そうな表情で一ノ瀬が尋ねると、赤司は淡々と返した。

 

「…さて、そろそろ行かせてもらうよ」

 

「試合にすまなかったな」

 

「それじゃ、全国で会おう」

 

そう言って、一ノ瀬は後ろ手に手を振りながら会場内に戻っていった。

 

「緑川…、一ノ瀬の存在もそうだが、これだけの戦力が揃っているとはね。はっきり言って、神城と綾瀬抜きでは10回やって1度勝てればと言う所だが、どうなるかな…」

 

独り言にように赤司は呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月控室…。

 

『…』

 

試合目前。強敵を前に選手達は押し黙って集中している。

 

「時間だ、行くぞ」

 

そこへ、上杉が控室にやってきて選手達にそう告げた。

 

「ほな、行こうか」

 

天野が立ち上がると、続けて他の選手達も立ち上がり、控室を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーっ!!!』

 

コートのあるフロアに入ると、歓声が選手達を出迎えた。県予選と言えど、決勝ともなれば観客の数も多い。

 

『やっぱり神城と綾瀬がいないぞ!?』

 

『おいおい、負けたら元も子もないんだぞ!?』

 

やはり、空と大地のいない事への落胆が大きく、花月を不安視する声もチラホラ飛び交っていた。

 

「スタメンはこれまでどおり、1番竜崎、2番生嶋、3番松永、4番天野、5番室井だ。コートリーダーは天野に任せる」

 

ベンチに集まると、上杉が選手達に告げた。

 

「ここで負けたら終わりだ。次はない」

 

『…』

 

選手達の前で話をする上杉。選手達は真剣な表情で耳を傾ける。

 

「緑川は強い。だが、俺は今日勝てるだけの練習をお前達にさせてきた。今日まで積み上げてきたものがこの試合で発揮されるはずだ」

 

『…』

 

「行って来い。全国への切符はお前達の手で掴み取れ!」

 

『はい!!!』

 

上杉の檄に選手達が応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月、緑川の両チームのスタメンがセンターサークル内に整列した。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番SF:松永透  196㎝

 

10番PG:竜崎大成 183㎝

 

12番 C:室井総司 188㎝

 

 

緑川高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:一ノ瀬京志郎 185㎝

 

5番SG:桶川文吾   179㎝

 

6番 C:城嶋則之   190㎝

 

14番SF:荻原シゲヒロ 183㎝

 

15番PF:井上智也   192㎝

 

 

「これより、花月高校対緑川高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

「よろしゅー頼むわ」

 

「こちらこそ」

 

整列が終わると、コートリーダーである天野と緑川の主将である一ノ瀬が挨拶と同時の握手を交わした。

 

「…」

 

「…」

 

ジャンパーの松永、桶川を残してコートに散らばる両校の選手達。

 

『…』

 

審判がジャンパーの2人を交互に視線を送るとボールを構え、高く上げ、ティップオフ!!!

 

「「…っ」」

 

同時にジャンパーの2人がボール目掛けて飛ぶ。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

ボールを叩いたのは松永。

 

「よし、1本行きましょう!」

 

すかさず竜崎がボールを抑えた。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを進める竜崎。緑川のディフェンスはマンツーマン。生嶋には桶川、松永には荻原、天野には井上、室井には城嶋、そして…。

 

「まさか、お前とやり合う事になるとはな」

 

竜崎の目の前には一ノ瀬が。

 

「中学時代はお世話になりました。一ノ瀬先輩には恩義はありますが、この試合は譲れないですよ」

 

「当然だ。遠慮なんていらない。全力でかかって来い」

 

帝光中時代の先輩後輩の間柄の2人が挨拶を交わした。

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをし、一ノ瀬は牽制しながらゲームメイクをする竜崎。

 

「(…全員、マークを外せてない。いつ来るか分からない機を待つくらいなら!)」

 

「(…来るな)」

 

自ら仕掛けようと決めた竜崎。その意思を感じ取った一ノ瀬が集中を高める。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

左右にボールを切り返し、小刻みに身体を動かし、ステップを踏みながら隙を窺う竜崎。

 

「(…ここだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

僅かに一ノ瀬の重心が右足に乗った瞬間、竜崎が仕掛ける。クロスオーバーでボールを左手から右手に切り返しながら一ノ瀬の横を抜けた。

 

『抜いた!?』

 

完全に隙を突いた竜崎のクロスオーバー。

 

「(抜けた! このまま――)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

次の瞬間、竜崎の右手からボールが消える。

 

「甘いぜルーキー君」

 

一ノ瀬を抜いた直後、その瞬間を狙いすましたかのように桶川がボールをスティールした。

 

「いいぞ桶川、パスくれ!」

 

既に速攻に走っている一ノ瀬がボールを要求する。

 

「(っ!? やけに簡単に抜けた思ったけど、今のはトラップディフェンス!?)」

 

あまりにも速すぎる速攻を見て竜崎は確信した。一ノ瀬はわざと竜崎に対して隙を作り、左手側から抜かせた。そのタイミングに合わせて桶川にヘルプに飛び出させ、ボールを奪った。

 

「りょーかい、先制点、頼むぜ!」

 

ボールを拾った桶川が前を走る一ノ瀬に大きな縦パスを出した。

 

「くそっ!」

 

パスを受け取った一ノ瀬はそのままドリブルを始める。それを見て慌ててディフェンスに戻る竜崎。

 

「よし!」

 

フリースローラインを越えた所でボールを掴んだ一ノ瀬はボールを掴み、レイアップの体勢に入った。

 

「決めさせるかい!」

 

そこへ、動きを察知してディフェンスに戻った天野がブロックに現れた。

 

「…」

 

しかし一ノ瀬、天野のブロックに動じる事無くボールを下げ、後ろへと落とした。そこには井上が走り込んでおり、ボールを掴むのと同時にリングに向かって飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

その井上を阻むように今度は室井がブロックに現れた。

 

『うおっ! 花月戻りはえー!?』

 

 

――スッ…。

 

 

井上は室井がブロックに現れるとボールを下げ、室井のブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

その後、再度ボールを上げボールを放ると、バックボードに当たりながらボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 0

緑川 2

 

 

『ダブルクラッチ!』

 

『あの15番やるぞ!?』

 

先制点を緑川に取られてしまう。

 

「…くっ」

 

ボールを拾ってスローワーとなった室井が竜崎にボールを渡す。

 

「…っ! あかん、大成!」

 

「…えっ?」

 

何かに気付いた天野が声をかける。次の瞬間!

 

「…っ!?」

 

ボールを掴んだ竜崎に対し、一ノ瀬と荻原が激しくプレスをかけ始めた。

 

「まさか!」

 

「オールコートゾーンディフェンス!?」

 

ベンチの菅野が立ち上がり、姫川が思わず声を上げた。ボールマンの竜崎に対し、一ノ瀬と荻原が激しくプレス。コートの隅へと徐々に押し込んで行く。

 

「…くっ!」

 

意表を突かれたオールコートゾーンディフェンスに面を食らい、動揺する竜崎。

 

「お前の性格はよく理解している。序盤に躓くとゆっくりペースを作り直そうとする。だが、そうはさせない」

 

ニヤリと笑いながら告げる一ノ瀬。

 

「あかんはよパスを出せ! 時間あらへんぞ!」

 

ヴァイオレーションの時間が近付いている事に焦りを覚えた天野が慌てて声を出す。

 

「くっ…そ…!」

 

僅かに見えて味方を頼りにどうにか強引にパスを出す竜崎。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「もらうぜ」

 

松永にボールを渡る瞬間、井上が飛び込みながらボールをカットした。

 

『うわぁ! 通らねえ!』

 

ボールを掴んだ井上はそのままカットイン、中へと切り込んでいく。

 

「ここは通さへん!」

 

シュート体勢に入る前に天野が井上の前に立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

左右にボールを切り返しながら井上が天野を牽制。天野は動じる事なくディフェンス。

 

「(…こいつ、データ通りディフェンスが上手いな。だったら!)」

 

抜く事を諦めた井上がボールを掴み、頭上に掲げる。

 

「(打つんか!?)」

 

シュートを警戒して天野が両腕を上げる。が、井上は頭上に掲げたボールを下げ、天野の脇の下からボールをゴール下に走り込んだ城嶋へと放るようにパスを出す。

 

「ナイスパス!」

 

ボールを掴んだ城嶋はすぐさまフックシュートのような構えでシュート体勢に入る。

 

「今度こそ!」

 

すかさず室井がブロックに飛んだ。

 

「違う、フェイクだ!」

 

「っ!?」

 

慌てて指示を出した松永だったが一足遅く、室井は既にブロックに飛んでしまった。

 

 

――バス!!!

 

 

頭上に掲げたボールを下げ、フロントターンで室井をかわし、リバースレイアップで城嶋が得点を決めた。

 

 

花月 0

緑川 4

 

 

間髪入れずに失点を喫する花月。

 

「…くそっ」

 

悔しさを口にしながらボールに駆け寄る室井。

 

「待てや!」

 

そんな室井の肩を掴んで制止させる天野。

 

「浮足立っとるお前がスローワーになったら同じ事の繰り返しや。お前は前に走ったれ」

 

そう小声で指示を出す天野。

 

「…っ、分かりました」

 

指示を受けた室井は言われたとおり前へと走った。

 

「(…クィッ)」

 

「(…コクリ)」

 

天野が松永に顎でサインを出すと、頷いた松永は室井に続くように前へと走った。

 

「っしゃ!」

 

それを見た天野が大きく振りかぶるようにボールを構えた。

 

「…っ、まずい、戻れ!」

 

カウンターを警戒した桶川が声を出し、慌てて戻る。

 

「…させねえ!」

 

荻原が縦パスを阻止する為に両腕を上げながら天野の前で飛ぶ。

 

「なんてな」

 

右手で持ったボールを左手で抑え、パスを中断。

 

「っ!?」

 

飛んだ荻原の足元から竜崎にパスを出した。

 

「よし、これなら!」

 

マークが1人減った事で竜崎は悠々とボールを掴み、ボールを運んだ。

 

「慌てる事ないで。試合は始まったばかりや。いつものように堂々と司令塔やったらええんや」

 

ボールを運ぶ竜崎に並んだ天野が肩を叩きながらそっと声をかけた。

 

「天野先輩…、よし!」

 

この言葉で落ち着きを取り戻した竜崎は気合いを入れ直したのだった。

 

「(…花月で唯一の3年だけあって、さすが場数を踏んでいるな)」

 

慌ただしい空気を即座に変えた天野を見て一ノ瀬が心中で呟く。

 

「(タイプは違えど、シチュエーション次第ではあいつら(キセキの世代)と同等の活躍が出来る天野。奴がいる限り、例え神城と綾瀬がいなくとも油断は出来ないな…)」

 

一ノ瀬は天野に対し、高い評価をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「こうなったか…」

 

観客席から試合を観戦している赤司がボソリと呟く。

 

 

第1Q、残り4分23秒。

 

 

花月 8

緑川 12

 

 

試合が開始して6分が経過し、緑川が二桁目の得点を決めた。試合は完全にロースコアゲーム。互いに得点は伸び悩んでいた。

 

「普段なら常に100点ゲームの花月だが、速攻主体のラン&ガンを好む神城とスコアラーの綾瀬がいないから当然の結果か」

 

機動力と運動量を活かして戦うのが花月の十八番だが、その肝となる空と大地がいない為、竜崎自身が慎重にゲームを組み立てるディレイドオフェンスが好む事もあり、得点の伸びは芳しくない。

 

「おぉっ!」

 

ボールを持った松永が荻原をポストアップでローポストに追い込み、そこからボールを掴んでバックステップ→フェイダウェイからのジャンプショットを放つ。

 

「くそっ!」

 

慌ててブロックに向かう荻原だったが、体勢を崩されていた上に身長差もあり、届かない。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「打たすか!」

 

しかし、横から井上が手を伸ばし、ブロックした。

 

「速攻!」

 

ルーズボールを拾った一ノ瀬が声を出し、そのままボールを運んだ。

 

「これ以上は…!」

 

竜崎がスリーポイントライン手前で一ノ瀬の横に並び、並走する。

 

 

――スッ…。

 

 

直後、一ノ瀬はボールを掴み、ノールックビハインドパスでボールを左へと放る。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ井上がボールを掴む。

 

「…っ!」

 

井上の目の前に生嶋が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…あっ!?」

 

視線をリングに向け、僅かにポンプフェイクでスリーを意識させた後、ドライブで切り込み、生嶋を抜きさった。

 

「っしゃ!」

 

直後にボールを掴み、シュート体勢に入った。

 

 

――チッ…。

 

 

「決めさせん!!!」

 

「…くそっ!」

 

井上がボールをリリースした瞬間、横から現れた松永の伸ばした手の指先にボールが触れた。

 

 

――ガン!!!

 

 

指に触れた事で軌道が逸れ、ボールはリングに弾かれた。

 

「と来れば、俺やぁぁぁっ!!!」

 

リバウンドボールを天野が抑えた。

 

「(…くそっ! こいつ!)」

 

天野に絶好のポジションを抑えられ、リバウンドボールを奪われた城嶋が心中で悪態を吐いた。

 

「取り返すで!」

 

抑えたボールを竜崎に渡した。

 

 

「試合はディフェンス主体のロースコアゲーム。花月は同じ3番のポジションのマッチアップによる縦ミスマッチから得点を重ねている」

 

ここまでの花月の得点は松永がハイポストから荻原をポストアップで押し込んでの得点、あるいは他のディフェンスを引き付けてのパスによるアシストから得点を重ねている。

 

「対して緑川は5番のポジションからの得点。言うなれば、キャリアのミスマッチからの得点が中心」

 

緑川は城嶋にボールを集め、ムーブやステップを駆使して得点を重ねている。

 

「互いに狙いははっきりしているが、互いにそこは上手くカバーしている」

 

狙いがはっきりしてからはそれぞれ松永、城嶋にボールが渡るとすぐにヘルプへと向かっていった。

 

「赤司っち、来てたんスね」

 

その時、赤司に話しかける者が現れた。

 

「黄瀬か」

 

「久しぶりッス。夏以来ッスね」

 

軽く挨拶を交わすと、黄瀬は赤司の横に並んだ。

 

『なぁ、あの2人って…』

 

『嘘!? まさかキセキの世代!?』

 

あらゆる意味で目立つ黄瀬が現れた事で観客の一部が2人の気付き、軽くどよめき始めた。

 

「いやー、会場探すのにすっかり迷って試合開始に間に合わなかったッス。…で、今はどんな状況ッスか?」

 

黄瀬が赤司に尋ねると、赤司が大まかにこれまでの試合展開を話した。

 

「なるほど、ディフェンス先行となると、緑川が有利な感じスか? 花月には神城っち綾瀬っちがいないから状況を打開する突破口がないし、緑川にはあの黒子っちの友達の14番と言い動きしている15番がいるみたいだし」

 

ディフェンス先行で得点が伸び悩む試合の場合、個々の力で状況を打開出来る選手いるチームがいる方が有利に事が運ぶ場合が多い。緑川には荻原と井上がいる為、緑川が有利と黄瀬は予想する。

 

「そこはあの天野幸次がいい働きをしている。彼がリバウンドの大半を抑え、あの15番、井上智也を抑え込んでいる為に花月は何とか食らいついている」

 

花月が不利な中で花月が緑川に食らいついていけているのは天野の尽力によるものが大きい。攻守に渡ってリバウンドを抑え、緑川のキーマンの1人である井上を抑え、コートリーダーとしてしっかりチームを纏めているからだ。

 

「…となると、試合は何かきっかけがない限りこの状況が続きそうッスね」

 

「あぁ。……だが」

 

「こういう時に仕事をするのが、一ノ瀬っち。スね」

 

2人はコート上の1人の選手に注目した。

 

 

「…」

 

それから試合は進み、第1Q、残り2分となった所で一ノ瀬がボールを運んでいる。

 

「止める!」

 

一ノ瀬をディフェンスをする竜崎が気合いを入れてディフェンスに臨む。

 

「…」

 

表情を変えず、視線で左右を確認しながらゲームメイクをしている一ノ瀬。

 

「京志郎!」

 

桶川が一ノ瀬に向かって走りながらボールを要求する。

 

「…」

 

「(5番にパスか!?)」

 

竜崎がパスを警戒する。

 

 

――ブォン!!!

 

 

「っ!?」

 

その時、一ノ瀬は桶川…ではなく、竜崎の顔面スレスレの僅か横にボールを投げるように放った。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは、室井の裏を取り、ゴール下に走り込んだ城嶋にボールが渡った。

 

「っ!?」

 

桶川に一瞬気を取られた室井。気付いた時には既に遅かった。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

ボールを掴んだ城嶋はボースハンドダンクでリングに叩きつけた。

 

 

花月 10

緑川 16

 

 

「よーし!」

 

ダンクを決めた城嶋に荻原が駆け寄り、ハイタッチを交わす。

 

「…くそっ」

 

「ドンマイ、今のは仕方あらへん」

 

悔しがる室井に駆け寄った天野が肩を叩きながら励ます。

 

「マークを外した一瞬に…」

 

図ったかのように矢のようなパスを一瞬で城嶋に届けた一ノ瀬に目を見開く竜崎。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

パスをしながら隙を窺い、最後は竜崎が狙ったが、後ろから現れた手にブロックされた。

 

「いいぞ京志郎!」

 

竜崎のレイアップをブロックした一ノ瀬に労う桶川。

 

「速攻!」

 

ボールを掴んだ一ノ瀬の掛け声と共に緑川の選手達が速攻に駆け上がる。

 

「あかん、戻れ!」

 

ターンオーバーからの速攻を見て慌てて声を出す天野。一ノ瀬はそのままワンマン速攻を仕掛け、レイアップの体勢に入った。

 

「させん!」

 

そこへ、追い付いた松永がブロックに現れた。

 

「よく戻った松永!」

 

追い付いた松永に喜ぶ菅野。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、一ノ瀬はレイアップを中断。肩越しに後ろへとボールを落とした。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを落とした所に走り込んでいた荻原がそのままレイアップを決めた。

 

試合はここから一ノ瀬が支配し始めた。司令塔である一ノ瀬が巧みにゲームをコントロールし、花月を圧倒していく。

 

 

第1Q、残り34秒。

 

 

花月 12

緑川 22

 

 

ボールを運ぶ一ノ瀬。

 

「…っ」

 

良い様に試合をコントロールされ、悔しさを滲み出しながらディフェンスに臨む竜崎。

 

「(…くそっ、今度はどう攻めてくる!? 誰で決めてくる!?)」

 

狙いを絞れない竜崎の頭の中は混乱している。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、一ノ瀬はパスを出さず、中にカットイン。竜崎を抜きさり、そのままリングに向かっていく。

 

「ここで自ら来るんかい!」

 

これを見て天野が慌ててヘルプに飛び出す。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

シュート体勢に入った一ノ瀬。ブロックに飛んだ天野だったが、一ノ瀬はボールをフワリと浮かせるように放り、天野の伸ばした手の上を越えていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

一ノ瀬の技ありのティアドロップがリングを射抜いた。

 

「…っ、あんなのもあるのか…!」

 

目の前で見せられた高等技術に驚く竜崎。

 

動揺しつつも第1Q、最後のオフェンスに臨む花月。

 

「タッツー! 頂戴!」

 

天野のスクリーンでマークを引き剥がした生嶋がボールを要求する。

 

「させるかよ!」

 

これを見て井上がヘルプに向かう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

スリーポイントラインから1メートル離れた所でボールを受け取った生嶋は井上がブロックに現れる前にシュート体勢に入り、ボールをリリースし、スリーを決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

花月 15

緑川 24

 

 

『…っ』

 

リードされた花月、最後にスリーを決められてしまった緑川は悔しがりながら各ベンチへと戻っていった。

 

「お疲れ様です! これ受け取って下さい!」

 

戻ってきた選手達を相川がタオルとドリンクを配りながら出迎える。

 

「くそっ!」

 

荒々しくベンチへと座る竜崎。自分が止めなければならない一ノ瀬に良い様にやられてしまっている為、その悔しさは計り知れない。

 

『…っ』

 

他の選手達も状況を理解してか、表情は硬い。

 

「……さて」

 

選手達の前に立った上杉が声を上げると、選手達が注目する。

 

「状況は…、良いとは言えないな」

 

気休めを言うでもなく、単刀直入にそう言った。

 

「一ノ瀬京志郎。大した選手だ。あれほどの選手がまだ静岡にいたとはな。ゲームの組み立てだけなら神城を凌ぐだろうな」

 

今の状況の立役者である一ノ瀬を称賛する上杉。

 

「このまま今の状況を黙って見ているつもりはない。こちらも動くぞ」

 

『…』

 

この状況を打破する為、どんな指示を出すか、黙って耳を傾ける選手達。

 

「…準備は出来てるな?」

 

上杉は、1人の選手にそう声をかけた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ウィンターカップ出場をかけた試合が始まり、緑川の猛攻に苦しめられる花月。

 

劣勢であるこの状況。上杉は1人の選手に声をかけた。

 

声をかけられた選手とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この試合はテンポ良く行きたいですね…(;^ω^)

正直、重要キャラを出し過ぎて上手く活躍と描写が出来る心配です…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第155Q~この時の為~


投稿します!

熱かったり寒かったり、今はとにかく寒い…((+_+))

それではどうぞ!



 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

第1Q終了後のインターバルが終わり、両校の選手達がコートへと戻って来る。

 

 

花月 15

緑川 24

 

 

「っしゃぁっ!!! 行くぞおめーら!!!」

 

花月の選手の先頭を歩く選手がコート全体に響き渡る程の声量でチームを鼓舞しながらコート入りをした。

 

 

OUT 室井

 

IN  菅野

 

 

「…ん? 12番(室井)を下げたのか?」

 

花月がメンバーチェンジをした事に気付いた桶川が思わず声を上げた。

 

「代わりに入ったのは9番(菅野)か」

 

「となると、8番(松永)がセンターに入って、空いた3番に9番(菅野)が入るのか…」

 

城嶋と井上が選手交代を見てその意図を探る。

 

「(…穴となっていた室井を下げてその穴を松永に埋めさせるのは理解出来る。だが、そうなると逆に第1Qまでの得点源を失う事にもなる…)」

 

顎に手を当てながら一ノ瀬が思案する。

 

これまで、室井と城嶋に位置から崩され、得点される事が多かった花月。松永がセンターに入り、城嶋をマークすれば失点を減る。しかし、松永はここまでスモールフォワードのポジションから縦のミスマッチを突いて得点を重ねてきた。センターに入ってしまえば得点源を失う事になる。

 

「(…あの9番(菅野)、確か、3回戦の初戦で途中出場して、スタッツは確か、4得点、2アシスト、スティールが1つ。決めた得点は速攻からのレイアップとフリーでボールを受けてのジャンプショットの2つ。これと言って特徴はなかった。味方の補佐に徹するつもりか?)」

 

限られた情報から選手交代の意図を必死に導き出そうとする一ノ瀬。

 

「同じポジションだし、とりあえず俺があいつをマークする。体格差で攻めて来た8番(松永)よりやり易そうだし、任せてくれよ」

 

一ノ瀬の肩を叩きながら荻原が告げる。

 

「頼む。だが、くれぐれも油断はするなよ」

 

「おう!」

 

考えても答えは出なかったので、一ノ瀬は荻原に託した。

 

「(まあいい、どのような狙いがあるかはすぐに分かる事だ。今はこの流れをキープしたまま点差を広げていくだけだ)」

 

そう結論付けた一ノ瀬は試合に集中したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「花月はメンバー変えてきたッスね。…ただ、あの9番は少なくともインターハイじゃ見た事ないッスね」

 

「あぁ。この交代の意図はセンターから出来た穴を埋めるだけのものではないだろう。他にもある」

 

見覚えのない選手がやってきた事で首を傾げる黄瀬。赤司は攻守に渡って狙いがあると断定した。

 

「同感ッスね。注目なのは、あの9番に何が出来るか、スね」

 

黄瀬はコート入りした菅野に注目したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合が再開。第2Qが始まった。

 

「…」

 

ボールを受け取った一ノ瀬はゆっくりとボールを運ぶ。

 

「スー…フー…、来い」

 

1度大きく深呼吸をした竜崎が一ノ瀬の前に立ち塞がる。

 

「(…落ち着きを取り戻しているな。もう1度崩して歯車を狂わせてみるのもありだが…)」

 

ここで一ノ瀬は視線を動かして各ポジションを確認する。

 

「(まずはここだ。ここで空けられればさらに波に乗れる!)」

 

攻め手が定まった一ノ瀬がパスを出す。パスの先は…。

 

「…そこから来たか」

 

上杉が唸るように呟く。

 

「行くぞ」

 

「来い」

 

ボールはローポストに立っていた城嶋に渡る。その背中に張り付くように松永がディフェンスに入る。

 

 

――ダムッ!!! …ダムッ!!!

 

 

ポストアップで松永に背中をぶつけながら押し込むようにドリブルをする城嶋。

 

「…っ、行かせん」

 

歯を食い縛りながらポストアップに耐える松永。

 

「(…っ、技巧派と聞いていたが、存外パワーあるな)」

 

容易に押し込ませてくれない松永にパワーに軽く驚く城嶋。

 

「(…だが、俺の真骨頂はパワーではない!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て城嶋はスピンターンで松永の背後に抜ける。

 

『抜いた!』

 

背後に抜けた城嶋はそのままリングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「させん!」

 

次の瞬間、松永が背後からブロックに現れ、リングに叩きこまれようとしていたボールをその手で阻んだ。

 

「…ちぃ!」

 

ブロックされ、零れたボールをすかさず抑える城嶋。

 

 

――スッ…。

 

 

再度得点を狙おうとポンプフェイクを1つ入れる。だが、松永は釣られず、ハンズアップするだけに留まる。

 

今一度、次はフックシュートのようにボールを構え、ボールを掲げた。

 

「っ!? おぉっ!」

 

これを阻止する為、松永はブロックに飛んだ。

 

「甘いな!」

 

しかし、城嶋はこれを中断。ボールを下げて飛んだ松永の横を抜けていく。

 

「今度こそ!」

 

そのままボールを掲げ、リバースレイアップの体勢でボールを放った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

「そないゴール下でチマチマ時間かけて攻めたらあかんで」

 

ブロックしたのは天野。天野がしたり顔でそう告げた。

 

「ナイスです天野先輩! 速攻!」

 

ルーズボールを拾った竜崎が掛け声と共に速攻に駆け上がった。

 

「戻れ、ディフェンスだ! ここは絶対取らせるな!」

 

指示を出しながらディフェンスへと戻る一ノ瀬。試合の節目であるインターバル終了直後にターンオーバーからの失点はせっかくの良い流れを途絶えさせかねない。何としてでもここで失点は避けたい緑川。

 

「ここは止めさせてもらうぜ」

 

「…っと、さすがに戻りが速いですね」

 

スリーポイントライン手前で竜崎に並んだ一ノ瀬が回り込んで立ち塞がった。

 

「頼みます!」

 

一ノ瀬が立ち塞がると、竜崎はすぐさまパスを出した。ボールは左45度付近のスリーポイントライン手前に立っていた菅野の下に。

 

「来たな。ここは取らせないぜ」

 

菅野の前に荻原が立ち塞がる。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かし、右足を動かしながら牽制する菅野。揺さぶりに対応しながらディフェンスをする荻原。

 

「…」

 

ひとしきり牽制をすると、菅野は頭上からローポストに立っている松永にパスを出した。

 

「パス!?」

 

勝負する事なくパスをした事に驚きと同時に拍子抜けする荻原。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

パスを受けた松永は背中に立つ城嶋をポストアップで押し込み始めた。

 

「…ちっ、この程度で…!」

 

先程のお返しとばかりにポストアップ。城嶋は歯を食いしばって侵入を阻止する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ある程度押し込んだ所で松永はスピンターンで城嶋の背後に抜け、そのままボールを掴んでリバースレイアップの体勢に入った。

 

「舐めるな。決めさせるか!」

 

背後を取られた城嶋だったが、すぐさま反応し、松永の背後からボールを叩き落とすべく、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

しかし、ブロックに飛んだ城嶋はすぐさま目を見開きながら驚愕する。松永はボールを頭上にこそ掲げていたが、飛んではいなかった。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

城嶋が背後でブロックに飛んだのを見計らって再度フロントターンで城嶋の背後に抜ける。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックをかわしながらリバースレイアップを決めた。

 

 

花月 17

緑川 24

 

 

「ええぞマツ!」

 

「うす!」

 

松永と天野がハイタッチを交わす。

 

「(…ちっ、1個下とは言え、伊達に全国の猛者達とやり合ってきた訳ではないと言う事か)」

 

洗練された松永の動きを見て城嶋が目の色を変えた。

 

 

「…凄いな」

 

一連の攻防をベンチから観察していた室井。自身がテクニックでいなされ続けた相手を止め、さらには得点を決めた松永に感心していた。

 

「よく2人の動きを見て学べ。お前の出番はまだある。何が足らず、何が必要か考えるんだ」

 

「…はい!」

 

上杉が室井に声をかけると、室井は試合に今まで以上に集中するのだった。

 

 

「(…決められてしまったか。だがそれは仕方ない。それよりも…)」

 

一ノ瀬が菅野に視線を向ける。

 

「(仕掛けて来なかった。やはりチームのアシストや補助が目的なのか?)」

 

勝負する事無くパスで逃げた菅野を怪訝そうに見つめる一ノ瀬。菅野の存在と目的がさらに分からなくなるのだった。

 

 

「…」

 

攻守が入れ替わり、ゆっくりとボールを運ぶ一ノ瀬。

 

 

――スッ…。

 

 

ハイポストに立つ井上にパスを出し、同時に井上目掛けて走り、直接ボールを受け取りに向かった。

 

「…っ、スイッチ!」

 

井上がボールを差し出して渡したのと同時に竜崎に対してスクリーンの役割をこなし、マークを引き剥がす。これを見て竜崎が指示を出した。

 

「ここは取らせん!」

 

リングに迫り、レイアップの体勢に入る一ノ瀬に対して松永がヘルプに飛び出す。

 

「…」

 

目の前に松永のブロックが現れると、一ノ瀬はレイアップの体勢から肩越しに背後にボールを落とすように放った。

 

「ナイスパス!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

先程ボールをトスすると同時にスクリーンをこなした井上にボールが渡り、天野のブロックが来る前にジャンプショットを決めた。

 

 

花月 17

緑川 26

 

 

「あかん、マーク外してもうた! スマン、俺の責任や!」

 

自身のマークをフリーにしてしまった天野が頭を下げた。

 

 

「1本、行きましょう!」

 

人差し指を立てながら竜崎がボールを運ぶ。

 

「…よし」

 

意を決した竜崎がパスを出す。パスの先は再び菅野。

 

「っと、またお前か」

 

すかさず荻原がディフェンスに入る。

 

「(…さて、今度は何をする? パスか? それとも…)」

 

菅野の行動に注視する一ノ瀬。

 

『…』

 

一ノ瀬だけではなく、他の緑川の選手達も菅野の一挙手一投足に注目している。

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かし、右足を動かしながら牽制する菅野。

 

「(3年最後の大会で遂に出番が来た…)」

 

花月高校に進学し、バスケ部に入部した菅野。同級生がその厳しい練習に耐えきれず、次々と辞めていく中、菅野はバスケ部に残った。1年時にレギュラー入りを果たし、試合に出場するも当時の静岡の強豪校である福田総合や松葉を相手に敗北した。来年こそはと意気込んだ菅野だったが…。

 

『星南中出身、神城空です。ポジションはPGです。よろしくお願いします!』

 

『同じく星南中学校出身、綾瀬大地です。ポジションはSFです。よろしくお願いします』

 

『城ケ崎中出身、生嶋奏です。ポジションはSGです。よろしくお願いします』

 

『照栄中出身、松永透です。ポジションはF、Cやれます。よろしくお願いします』

 

全中で活躍し、ベスト5に選ばれた空達が花月に加入。さらに、花月高校の姉妹校であるアメリカの高校から三杉と堀田が加入した事で出番はさらに減る事となった。それでも菅野は腐らず練習を続け、自分を磨き続けた。

 

『帝光中出身、竜崎大成。ポジションは何処でもやれます! よろしくお願いします!』

 

『水鏡中学出身、室井総司です。よろしくお願いします』

 

翌年、自身最後の年、スーパールーキーとも言える2人が加入した。チームの役割や事情を考えればこの2人の加入は菅野の出番はほとんどなくなる意味合いもあった。

 

 

――何の為に3年間厳しい練習に耐えてまでバスケ部に居続けたのか…。

 

 

時折、菅野の脳裏にチラつく疑問。その疑問を振り払うように菅野はチームの為に献身的にサポートに回り、声を出してチームを鼓舞し続けてきた。

 

3年最後の冬の大会。上杉から告げられた、空と大地抜きで県予選を突破を果たすと言う目標。そしてその最後の試合で現れた緑川と言う強敵。

 

「(ああ、分かったぜ。俺が何の為に今日まで花月でバスケを続けてきたのか…)」

 

小刻みにボールを動かし、目の前の荻原が重心が片足に乗ったのを見て菅野が動く。

 

「(そうだ、全ては――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――今日この時の為だ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

一気に加速し、目の前の荻原の横をドライブで駆け抜ける菅野。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

抜いた直後にボールを掴み、ジャンプショットを決めた。

 

 

花月 19

緑川 26

 

 

『おぉぉぉぉぉーーっ!!!』

 

ジャンプショットが決まるのと同時に歓声が上がる。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

シュートが決まったのを見て菅野が拳を握りながら喜びを露にした。

 

「やるやないかスガ」

 

「たりめーだろ!」

 

パチンとハイタッチを交わす天野と菅野。

 

「…っ!? 今のドライブは…!」

 

一連の動きを見た井上が驚愕する。

 

「ハハッ、さすが。ドライブ技術だけなら、キャプテンと綾瀬先輩を除けばチームで1番のものを持ってるだけはありますね」

 

期待通りの役目をこなした菅野に対して賛辞の言葉を贈る竜崎。

 

「(かなりキレのあるドライブだった。まさか、花月にこんなスラッシャーがいるとは…!)」

 

荻原を抜きさったドライブを見て一ノ瀬は目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「へぇー、彼、結構やるッスね」

 

観客席の黄瀬も今のドライブを見て感心していた。

 

「なるほど、あの9番、菅野を投入したのはそういう事か」

 

今のプレーを見て赤司が菅野投入の意図に気付いた。

 

「神城と綾瀬のいない花月は外の生嶋、中の松永を主体に得点を重ねるチーム。だが、外の生嶋が徹底マークで封じられている為、松永がミスマッチを突いて得点を重ねて来た」

 

「…」

 

「だが、一辺倒の攻撃がいつまでも通用するはずがない。そこで外から中に切り込めるだけのドライブ技術を持つ菅野を投入した」

 

「あれだけのドライブを持っているとなると、彼を無視出来ない。流れが変わるかもしれないッスね」

 

試合の流れが変わる予感を感じながら黄瀬は試合に注目したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

代わって緑川のオフェンス…。

 

「おらおらおらぁ!!!」

 

「っ!?」

 

ボールが荻原に渡ると、菅野が激しくプレッシャーをかけ始めた。

 

『スゲー迫力!?』

 

『まるで試合終盤の勝負所ような当たりだ!』

 

身体がぶつかりそうな程のタイトな菅野のディフェンスに観客からも声が上がる。

 

「…くっ…そ…!」

 

激しすぎる菅野の当たりに荻原はボールをキープするので精一杯な状態になる。

 

「…ちぃ!」

 

やむを得ず荻原は一ノ瀬にボールを戻した。

 

「スゲー気合い入ってんな!」

 

「たりめーだ。全国出場がかかってんだからな!」

 

思わず話しかける荻原。菅野は当然とばかりに返す。

 

「けどよ、いくら途中出場だからって、そんなんじゃ最後までもたないぜ?」

 

「余計なお世話だ」

 

皮肉交じりに告げる荻原に対し、菅野は鼻で一笑する。

 

「(百も承知だそんな事。それでも構わねえ! ここが俺にとっての高校最後の見せ場だ。ぶっ倒れるまで動いてやる!)」

 

覚悟に満ちた表情をする菅野だった。

 

「(…体力度外視の言わば特攻のようなディフェンス。あの手のタイプは実力関係なく怖い。荻原でもかなり苦しめられるかもしれないな…)」

 

執念のような菅野のディフェンスを評価する一ノ瀬。

 

「(ならばここは…)」

 

一ノ瀬は左手で拳を握り、それをこめかみに当てた。

 

「(…っ! ハンドシグナル。デザインプレーか!?)」

 

今の行動を何らかの指示と見た竜崎は周囲の緑川の選手達の動きにも気を配った。

 

次の瞬間、井上が生嶋に対してスクリーンをかけ、桶川をフリーにする。

 

「こっちだ!」

 

フリーとなった桶川がパスを要求。すかさず一ノ瀬がパスを出す。

 

「させるか!」

 

これを見てすぐさま竜崎がパスコースを塞ぎにかかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、一ノ瀬はパスを中断。竜崎の伸ばした手が空を切ると、そのままカットインした。

 

「今度こそ!」

 

「次は空けんで!」

 

松永がヘルプに飛び出し、天野がパスに対応するべく動く。中に切り込んだ一ノ瀬はそのままシュート体勢に入った。

 

「決めさせるか!」

 

これを見て松永がブロックに飛んだ。

 

 

――ドン!!!

 

 

空中で松永と一ノ瀬がぶつかる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に審判の笛が鳴る。

 

「…っと」

 

空中で体勢を整えた一ノ瀬はリングに向かってボールを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

「っ!?」

 

無造作に放られたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンスファール! 緑8番(松永)、バスケットカウント、ワンスロー!』

 

ディフェンスファールがコールされ、フリースローが与えられた。

 

「…くそっ」

 

「ドンマイ、今のは仕方あらへん、切り替えていこか」

 

悔しがる松永の肩を叩きながら天野が励ます。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローを一ノ瀬がきっちり決め、3点プレーを完成させた。

 

 

花月 19

緑川 29

 

 

「…くっ、やっぱり一ノ瀬先輩は凄い」

 

周りが奮闘する中、自分が良い様にあしらわれている現状を見て悔しさが沸々沸き上がる竜崎。

 

「キャプテンがいないんだ。俺が何とかしないと――」

 

その時、竜崎の肩に手が置かれる。

 

「スガ先輩?」

 

「俺にボールを回せ。俺が何とかしてやる」

 

そう言って、菅野はその場を後にした。

 

「…言いましたね。なら、頼らせてもらいますよ」

 

竜崎にとって菅野は何かと普段は突っかかれる事のある先輩。だが、今ではその姿が頼もしく見え、思わず笑みが零れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

花月のオフェンス。竜崎がボールを運び、菅野にパスを出すと、再びドライブで荻原を抜きさり、カットインした。

 

「ちっ、2度も決めさせるか!」

 

今度は緑川が素早く対応、城嶋がヘルプに現れた。

 

「スガ先輩!」

 

その時、竜崎がボールを要求する。

 

「任せた!」

 

すかさず菅野が竜崎にパスを出す。

 

「よし!」

 

ボールを掴むのと同時に飛び、シュート体勢に入った。

 

「させるか!」

 

そこへ、ヘルプに飛び出した井上のブロックが現れた。

 

 

――スッ…。

 

 

竜崎はレイアップの体勢からボールをフワリと浮かせ、スクープショットで井上のブロックを越える。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 21

緑川 29

 

 

「いいぞ竜崎!」

 

「痛っ! 叩かないで下さいよ」

 

駆け寄った菅野が竜崎の背中を強く叩きながら労うと、竜崎は痛さのあまり抗議した。

 

「…なるほど、当たり前の話だが、確実に成長しているな」

 

かつての後輩の成長に喜びを感じつつ、一ノ瀬はボールを受け取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月が菅野を投入し、試合に動きが見え始めた。

 

「らぁっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

菅野が荻原をクロスオーバーで抜きさり、その後、自ら決めるか、ヘルプディフェンスを引き付け、フリーになった選手にパスを出し、その選手が得点を決める。

 

 

「花月が盛り返してきたッスね。…にしてもあの9番(菅野)、意外にやるッスね。キレはともかく、スピードはそれほどでもないのに」

 

幾度と荻原を抜きさり、得点を演出する菅野に黄瀬が感心する。

 

「インバートドリブルか」

 

菅野のドリブルを見て赤司が呟く。

 

「? いんば…何スかそれ?」

 

「インバートドリブルだ。ボールを切り返した方とは逆にステップを踏んで相手を翻弄するドリブルのテクニックだ。青峰が良く使うドリブルだ」

 

言葉が分からなかった黄瀬に赤司が説明する。

 

「あーそれスか。だからさっきからあの黒子っちの友達が逆を行かれてるんスね」

 

説明を受けた黄瀬が納得する。

 

「追い風の要因はあの9番、菅野だけではない。あの8番、松永にもある」

 

 

「はぁ!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

ローポストからポストアップを仕掛けた松永が城嶋が体勢を崩した瞬間にターンでゴール下に切り込み、そのままボースハンドダンクを決めた。

 

 

「緑川のセンターは全国レベルの実力を有しているが、全国で紫原や三枝といった猛者とやり合った経験を持つだけの事はある」

 

荻原から城嶋にマッチアップの相手が変わった松永だったが、城嶋を攻守の両方で圧倒していた。

 

「後は、あの7番、天野の力も大きい」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「取らせへんで!!!」

 

桶川の放ったスリーが外れ、リバウンドボールを天野が抑えた。

 

 

「ここまでオフェンス、ディフェンス共にほとんどリバウンドを抑えている。後、緑川の得点源の1つであるあの15番(井上)を抑え込んでいる事も大きい」

 

ここまで天野は、リバウンドの大半をもぎ取り、さらには井上を抑え込み、得点を防いでいる。

 

「ディフェンスとリバウンドはホント凄いッスね。そう言えば、俺達との試合でも結構取られてたッスね」

 

インターハイでの試合を思い出した黄瀬。

 

「リバウンドが取れるのは大きい。おかげで花月は思い切りよくシュートが打て、結果良いリズムを作り出す事が出来ている」

 

追い上げムードの花月。それは天野がリバウンドを制している為だと赤司が断定した。

 

 

第2Q、残り1分21秒。

 

 

花月 39

緑川 43

 

 

「点差は4点。残り時間を考えても逆転も充分可能な時間帯ッス。だけど…」

 

「あぁ。この状況下で仕事をしてくるのが、奴だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ゆっくりとフロントコートにボールを運んだ一ノ瀬。

 

「…さすが、3度全国を経験をしたチームだ」

 

「?」

 

不意に一ノ瀬が口を開いた。

 

「一筋縄では行かない。だからこそ――」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(…来た!)」

 

言葉の途中で一ノ瀬が仕掛ける。ドライブでカットインしてきた一ノ瀬に竜崎が食らいつく。

 

「――倒し甲斐がある」

 

 

――スッ…。

 

 

中に切り込み、竜崎が食らいつくのと同時に一ノ瀬が反転、バックロールターンで竜崎を抜きさった。

 

「今度は俺や! 決めさせへんで!」

 

ヘルプに飛び出す天野。ボールを掴んだ一ノ瀬がリングに向かって飛んだ。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

天野と一ノ瀬が空中で激しく交錯する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に審判が笛を吹いた。

 

「…っ!」

 

接触しながらも一ノ瀬は空中で体勢を立て直し、ボールを構えてリングに向かって放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンスファール、緑7番(天野)、バスケットカウントワンスロー!』

 

「なっ!?」

 

ファール覚悟のプレーだったが、得点を決められ、フリースローを与えてしまい、言葉を失う天野。

 

「…ふぅ」

 

コートに尻餅を付きながら安堵の溜息を吐いた一ノ瀬。

 

「ナイス一ノ瀬!」

 

「おう」

 

駆け寄った荻原が手を差し出し、その手を借りて立ち上がる一ノ瀬。

 

「結構派手に行ったはずやのに…」

 

交錯の際、それなりの衝撃の手応えがあった天野。にもかかわらず体勢を立て直せるフィジカルの強さに驚きを隠せなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローを決め、3点プレーを成功させた。

 

 

花月 39

緑川 46

 

 

『…っ』

 

追い上げムードに水を差す1本に花月の表情が歪む。

 

 

――ガン!!!

 

 

その後、今の1本が後を引いたのか、続くオフェンスを失敗。リバウンドも奪えず、ボールを緑川に渡してしまう。

 

「死守や! ここは死ぬ気で抑えるで!」

 

残り時間を考えても第2Q最後の緑川のオフェンス。ここを取られたくない花月は天野が声を張り上げ、檄を飛ばした。

 

「おぉっ!」

 

ボールを運ぶ一ノ瀬に対し、竜崎が激しく当たる。

 

「…っ」

 

身体が接触すスレスレの激しい当たりに一ノ瀬も嫌がる素振りを見せる。

 

 

――スッ…。

 

 

だが、一ノ瀬は動じず、僅かに出来た一瞬の隙でビハインドバックパスでボールを左へと放った。

 

「よっしゃ、ナイスパース!」

 

左45度付近のスリーポイントライン手前に移動していた桶川にボールが渡った。

 

「っ! 打たせない!」

 

スリーは絶対に打たせまいと生嶋が桶川との距離を詰める。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

しかし、桶川はスリーを打たず、中にボールを入れた。そこには、先程ビハインドバックパスをした一ノ瀬が中に走り込んでいた。

 

「…っ!? スイッチ!」

 

ロールしながら竜崎の後ろへと抜けた一ノ瀬。追いかけようとした竜崎だったが、城嶋のスクリーンに阻まれてしまう。ボールを中で掴んだのと同時にシュート体勢に入る。

 

「させん!」

 

得点を阻止すべく、松永がヘルプに飛び出し、距離を詰めた。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

だが、一ノ瀬はそれを見透かしたかのようにボールを投げ、松永の股下を抜けていった。

 

「っ!?」

 

股下を抜けたボールはゴール下に走り込んだ井上に渡った。

 

「くらえ!」

 

ボールを右手で掴んだ井上はリングに向かって飛び、ボールをリングに叩きつけた。

 

「うわぁ!」

 

ベンチの帆足が頭を抱えながら悲鳴のような声を上げた。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、右手に収まったボールをブロックされた。

 

「阿呆、決めさす訳ないやろ!!!」

 

天野が間一髪の所ででブロックに現れ、ダンクを防いだ。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に第2Q終了のブザーが鳴った。

 

ベンチに戻る両校の選手達。試合の半分が終わり、これよりハーフタイムとなり、それぞれ控室へと戻っていった。

 

「…ふぅ、やれやれ、さすが静岡の王者だ。簡単には行かせてくれないか」

 

思い描いた通りに試合が運ばず、溜息を吐く一ノ瀬。

 

「まあいい、ここまで大きく予想を超えていない。許容範囲だ」

 

そう意味真に呟き、コートを後にしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合の半分が終わり、緑川リードで試合は前半戦が終わった。

 

点差は7点。花月は菅野の投入で流れを掴みかけるも一ノ瀬によって乗り切る事が出来なかった。

 

残すは後半戦。試合は折り返し地点に進むのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ここ最近は週1投稿でやってきましたが、リアルの変化、モチベーションの低下、ネタ不足から投稿が遅くなっております…(>_<)

状況次第ではしばらくこんな感じになると思います。

いやホント、マジでいろいろ…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第156Q~暗闇からの光~


投稿します!

いやー、ペースが落ちて来た…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q終了

 

 

花月 39

緑川 46

 

 

試合の半分が終わり、ハーフタイムとなり、両校の選手達が控室へと戻っていった。

 

 

花月の控室…。

 

「何とか最後の1本止めて終われたが、前途は多難やのう」

 

控室にある備え付けのベンチに腰掛けた天野が口を開いた。

 

「向こうの4番、一ノ瀬が厄介だな。ここ一番で嫌な所で決めてくる」

 

松永がタオルで汗を拭いながら言う。

 

「すいません! 俺が止められないせいで…!」

 

タオルを被りながら竜崎が頭を下げた。

 

「お前はよーやっとる。正直、あれは空坊でも手こずる相手や」

 

そんな竜崎を天野が励ました。

 

「…くーとダイのありがたみが身に染みて痛感するね」

 

ポツリと生嶋がそんな言葉を口にする。

 

攻守に渡ってこれまで花月を支えていた空と大地。この2人がいない事で突破力、得点力が大きく激減しただけではなく、ディフェンス面でも2人の大きなディフェンス力に加え、その広大なディフェンスエリアによってこれまであった2人のカバーがなくなった。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

そんな中、菅野がタオルを頭から被りながら1人肩で大きく息をしていた。

 

「…っ、大丈夫ですか?」

 

その様子に気付いた相川が心配そうに話しかける。

 

「…へっ、心配…いらねえよ。後輩に俺以上に動いて1試合どころか延長戦まで走り切る奴がいるんだ。この…程度で、へばってられるかよ」

 

菅野は強気に笑いながら啖呵を切った。

 

「(…途中出場とはいえ、ここまで全力で動いて来たのだから無理もないわ)」

 

姫川が菅野の様子を見て状態を察した。

 

ここまでスタミナ度外視で動いて来た菅野。マッチアップ相手の荻原にしても本来は格上の相手。少しでも動きが鈍ればたちまち抜かれてしまう。その為、スタミナを無視して当たるしかなかった。

 

「(…少しでも長く粘ってやる。これが俺にとって最後の活躍の場なんだ。少しでも長くチームに長く貢献するんだ…!)」

 

鬼気迫る表情で菅野が心中で覚悟を決めるのであった。

 

「…」

 

選手達の様子を見ながら思案する上杉。

 

「(やはり、劣勢なのは否めないな…)」

 

点差は7点ではあるが、実際の実力差はそれ以上にある。情報にない交代策と奇策で何とか食らいついているに過ぎない。

 

「(一ノ瀬京志郎、大した選手だ。広い視野にパスセンスも抜群。1ON1スキルも高い。司令塔としては神城を凌ぐ逸材かもしれん。…だが、ならば何故ここまで名が挙がる事がなかったのだ? 竜崎に言わせれば、人格に問題がある選手でもないと言う話だが、何故だ?)」

 

この静岡でも一切名前が挙がる事がなかった一ノ瀬。何故今日まで無名だったのか疑問を覚える上杉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

緑川の控室…。

 

「よしよし! 前半戦はリードで終われた。やれてるぞ俺達!」

 

控室に入るや否や桶川が歓喜する。

 

「たかが7点差だぞ。喜んでいられる点差か」

 

そんな桶川を冷めた表情で諫める城嶋。

 

「スマン! 俺が全く活躍出来なくて!」

 

荻原が頭を下げた。

 

「お前はよくやっているだろ。何も出来ていないのは俺だ」

 

頭を下げた荻原を励ます井上。だが、その表情は苦悶の表情であった。

 

「2人共気にするな」

 

そんな2人を一ノ瀬が励ます。

 

「荻原。あの9番に手こずっているが、長くはもたない。もって第3Qまでだ。奴がボールを持ったら距離を取って対応しろ。奴にスリーはない。仮に決められても気にするな。実力はお前の方が上だ。自信を持っていけ」

 

「ああ!」

 

「井上。相手は全国レベルでも屈指のディフェンス力を持つ天野だ。1人ではやれないかもしれないが俺達がフォローする。強気で攻めていけよ」

 

「スマン、分かった」

 

落ち込む2人に一ノ瀬がフォローした。

 

「油断は禁物だ。だが、必要以上に気負う事もない。花月にはあの9番以上の交代策はない。打てる奇策にも限りがある。このまま一気に押し切るぞ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『来た!!!』

 

ハーフタイム終了の時間が近付き、選手達がコートのあるフロアへと戻ってきた。両校がベンチに戻ると、選手がコートへと向かった。

 

「ほんじゃ、行くで!!!」

 

『おう!!!』

 

天野を先頭に花月の選手が戻って来る。

 

「行くぞ、勝利を掴み取るぞ!」

 

『おう!!!』

 

緑川は一ノ瀬を先頭にコート入りをする。両校共に選手交代はなし。

 

「…」

 

審判からボールを受け取った生嶋が竜崎にボールを渡し、第3Q、後半戦が始まった。

 

「…」

 

ボールを受け取った竜崎がゆっくりドリブルをしながらゲームメイクを始める。

 

「こっちだ、来い!」

 

左45度付近のウィングの位置で菅野がボールを要求する。

 

「頼みます!」

 

とりあえず竜崎が菅野にパスを出した。

 

「っしゃ!」

 

ボールを受けるのと同時に気合い一閃、構える。

 

「…」

 

「……そう来たか」

 

菅野をマークする荻原。菅野にボールが渡ると、距離を取ってディフェンスに入った。

 

「(…あかん、スガの外の確率はかなり悪いからのう、あない距離取られたら八方塞や…!)」

 

焦りを覚える天野。

 

スリーを得意としていない菅野にとって距離を取られ、ドライブを封じられるのは痛い。

 

「…だが、俺にはこれしかねえんだ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

それでも菅野は得意のドライブを仕掛けた。

 

「なんの!」

 

切れ味鋭い菅野のドライブ。しかし距離を取っていた荻原は悠々とこれに対応する。

 

「…くっ!」

 

インバートのクロスオーバーで切り返すも、荻原は釣られる事無く菅野の進路を塞いだ。

 

「あかん、スガ、一旦戻すんや!」

 

「くそっ!」

 

仕方なく菅野は竜崎にボールを戻した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「迂闊だぜ」

 

しかし、そのパスをパスコースに割り込んだ井上にカットされてしまう。

 

「速攻!」

 

奪ったボールをすぐさま一ノ瀬に渡し、速攻に走った。

 

「させませんよ!」

 

フロントコートに入ったのと同時に竜崎が一ノ瀬に並び、ディフェンスに入った。

 

「残念だが、お前では俺は止められないよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

並走する竜崎だが、一ノ瀬はお構いなしに強引に突き進んでいく。フリースローラインを越えた所でボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「…っ! まだだ!」

 

そう叫び、竜崎はブロックに飛び、一ノ瀬とリングに間に割り込んだ。

 

 

――ドン!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

一ノ瀬と竜崎が激突すると、竜崎は弾き飛ばされ、一ノ瀬はそのままレイアップを決めた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンスファール、緑10番(竜崎)、バスケットカウントワンスロー!』

 

「っ!?」

 

審判が笛を吹き、ディフェンスファールとフリースローをコールすると、竜崎が起き上がりながら目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「一ノ瀬っち、エンジンかかってきたッスね」

 

「ああ。用心深い一ノ瀬は前半戦は慎重にゲームを進める傾向がある。もう充分に相手の様子を見て取れた」

 

黄瀬の言葉に赤司が同意した。

 

「赤司っちに勝るとも劣らないゲームメイク能力。高いテクニックに広い視野にパスセンス。そして、赤司っちにはない、空中でぶつかりながら尚も決められる強靭な肉体…」

 

「まず間違いなく、この第3Q、点差が広がる」

 

予言のような言葉を赤司が呟くのだった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

コート上で一ノ瀬がボーナススローをきっちり決め、3点プレーを成功させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

赤司の予言通り、試合は緑川に流れが傾いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

一ノ瀬が竜崎を抜きさり、そのままジャンプショットを決めた。

 

「くそっ、何度もやられっぱなしでいられるか!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

代わって花月のオフェンス。焦りに駆られた竜崎が強引に仕掛ける。

 

「司令塔が熱くなったらダメだろ」

 

溜め息交じりにそう呟きながら一ノ瀬が竜崎を追いかける。

 

「…っ、だったら!」

 

振り切れず、竜崎はボールを掴み、ターンアラウンドで反転し、すぐさまシュート体勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「見え見えだ」

 

ボールを頭上にリフトさせようとした瞬間、一ノ瀬がボールを叩いた。

 

「…ちぃ、これ以上はさせへんわ!」

 

ボールを拾って速攻に走る一ノ瀬。嫌な気配をいち早く感じていた天野がディフェンスに戻っており、立ち塞がった。

 

「…」

 

1度立ち止まった一ノ瀬、天野を相手に無理に仕掛けず、ボールを右へと放った。

 

「よっしゃ!」

 

ボールはそこへ走り込んだ荻原に渡った。

 

「行かせねえぞ!」

 

同時に菅野がディフェンスに入った。

 

「…っ! 相変わらずしつこいな、…だが!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「動きにキレがなくなってきたぜ」

 

僅かな隙を突いて荻原が菅野を抜きさった。

 

「スガ! …くっ!」

 

抜かれたのを見て天野がすかさずヘルプに向かった。しかし、そんな天野を嘲笑うかのように荻原はパスをした。

 

「ようやく空けてくれたな」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

天野がヘルプに出た事でフリーになってしまった井上がワンハンドダンクを決めた。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

両膝に手を付いた菅野が肩で大きく息をしていた。

 

「(あかんな、スガはもう限界近いで…)」

 

菅野の様子を見て天野が危惧する。

 

決して菅野はスタミナがない訳ではない。地獄と言われる程の花月の練習を3年間耐え抜いただけあってむしろそこらの選手よりスタミナがある方である。しかし、格上の荻原を抑える為に常に全力でプレーをしてきた為、そのツケが遂に来たのだ。

 

「…なに辛気臭い顔してんだ天野。俺はまだやれんぞ」

 

その様子に気付いた菅野が天野を睨み付けながら言う。

 

「…当然や。お前にはまだコートにいてもらわんと困る。もう少し働いてもらうで」

 

「ハッ! 当然だ!」

 

皮肉交じりに言い放つ天野。その言葉を聞いた菅野は不敵な笑みを浮かべながら返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

何とか息を吹き返す菅野。だが、それでも緑川の勢いを止める事が出来なかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「っしゃぁっ!!!」

 

スリーを決めて拳を突き上げる桶川。第3Qに入ってようやくの当たりが出る。

 

「…っ」

 

みすみすスリーを決められてしまい、桶川をマークする生嶋の表情が曇る。

 

「ダメ…、点差がどんどん広がっちゃう…!」

 

胸の辺りに拳を当てながら悲鳴のように声を出す相川。

 

 

第3Q、残り2分23秒。

 

 

花月 43

緑川 62

 

 

緑川は一ノ瀬を起点に得点を重ねていった。一ノ瀬が自在にパスを捌き、得点を演出。他の選手の警戒が強ければ自ら決める。不用意にヘルプに出ようものなら即座に空いた選手にパスを捌かれてしまう。

 

ディフェンスでも、一ノ瀬が竜崎を封じ込め、菅野のドライブも荻原が対応出来るようになった事もあり、生嶋は桶川が徹底マーク。松永は人数をかけて当たり、得点を抑えていた。

 

「…」

 

険しい表情をする上杉。1度タイムアウトを取って流れを切りにかかったが、それでもこの流れを変える事は出来なかった。

 

「(勝てる! 神城と綾瀬のいない花月なら勝てる!)」

 

勝利を確信した桶川が胸中で叫ぶ。

 

「(決して手は抜かない。最後まで全力で戦い、勝つ!)」

 

点差はあれどそれでも気を引き締め直す城嶋。

 

「(待ってろ黒子! 後少しでお前の所に辿り着ける!)」

 

荻原が約束の場所に行ける手応えを感じ取る。

 

「(勝つ! もう1度、青峰と戦う為に!)」

 

勝利に猛進する井上。

 

『いいぞいいぞ緑川! いいぞいいぞ緑川!』

 

ベンチ及び観客席のレギュラー入り出来なかった緑川の選手達の応援の声が響き渡る。

 

『…っ!』

 

開いて行く点差を前にその胸中は焦りで締め付けられていた。

 

主将とエース不在のウィンターカップ県予選。先のインターハイでは空と大地に頼り切りとなり、結果、準決勝で敗れ、続く国体では散々な結果であった。

 

『あーあ、やっぱ神城と綾瀬のいない花月はダメだな』

 

ふと、観客席からそんな声が漏れた。

 

「…」

 

ボールを運ぶ一ノ瀬。

 

「(点差は一応は安全圏だが、きっかけ1つでひっくり返る可能性がある。花月にこれ以上、策があるとは思えないが、何か起こる前にトドメを刺す!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

チェンジオブペースで竜崎を抜きさる一ノ瀬。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

もはや限界ギリギリの菅野。傍から見ても立っているだけでも辛そうな状態である。

 

「(冗談じゃねえ…。こんな所で終われねえ。終われねえんだよ!)」

 

身体に鞭を打って菅野がヘルプに飛び出した。

 

「(阿呆! お前が出てもうたら14番が空いてまうやろ!?)」

 

一ノ瀬に向かった菅野を見て天野が胸中で叫んだ。菅野が飛び出した事で荻原がフリーになる。外のある荻原のマークを外すのは自殺行為である。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、菅野の手が一ノ瀬のキープするボールを捉えた。

 

「…っ!? よ、ようやったスガ!」

 

一瞬、驚いた天野だったがすぐさま正気に戻ってルーズボールを拾った。

 

「天野先輩!」

 

速攻に走っていた竜崎がボールを要求した。

 

「よー走っとったタイセイ!」

 

すかさず竜崎に大きな縦パスを出す天野。

 

「まずい、戻れ!」

 

ターンオーバー、慌ててディフェンスに戻る緑川の選手達。

 

 

――バス!!!

 

 

しかし、先頭を走る竜崎に追い付けず、竜崎はレイアップを決めた。

 

 

花月 45

緑川 62

 

 

「…今のは」

 

今のプレーを見て顎に手を当てる上杉。

 

あまりのあっさりとした菅野のスティール。菅野のプレーは正直、迂闊な動きと言わざるを得ない。空いた荻原にパスを出すか、そもそも菅野をかわす事も容易かったはず。

 

「(不意を突いたものでもなければ死角から狙ったものでもない…。今のはまるで…)」

 

同じように姫川も疑問を感じていた。そもそも、姫川は一ノ瀬のプレーに兼ねてより違和感を感じていた。しかし、その違和感の正体に気付く事が出来なかった。さっきまでは…。

 

「……相川さん、ちょっとビデオを見せてもらってもいい?」

 

試合を撮影していた相川からビデオを受け取り、これまでの一ノ瀬のプレーを見直したのだった。

 

 

「一ノ瀬…」

 

「そんな顔するな城嶋」

 

心配そうに声を掛ける城嶋を手で制する一ノ瀬。

 

「大丈夫だ。これまでどおり行くぞ」

 

そう返し、一ノ瀬はその場を離れていった。

 

 

代わって緑川のオフェンス…。

 

「…っ」

 

顔を顰める竜崎。右45度付近でボールをキープする一ノ瀬。緑川の選手達は片側に寄る事でスペースを空ける。ここまでも度々行われているアイソレーションで一ノ瀬で勝負する緑川の戦法である。

 

「…」

 

何かを考える姫川。これまでは厄介な戦術としか思わなかったこの布陣が今では何処か引っ掛かりを覚えるようになった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

急発進でカットインする一ノ瀬。

 

「…くっ!」

 

抜かせまいと追いかける竜崎。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

直後に急停止。ボールを掴み、後ろに飛びながらジャンプショットを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 45

緑川 64

 

 

「ナイッシュー!」

 

桶川が一ノ瀬に駆け寄り、ハイタッチを交わした。

 

「…くそっ、くそっ!」

 

どうしても一ノ瀬を止める事が出来ず、悔しさを隠しきれない竜崎。

 

「あんなシュート決めてくるなんて…、こんなのどうすれば――」

 

「…おかしいです」

 

ベンチで弱音を吐く帆足。だが、それを遮るように姫川が呟く。

 

「どうして一ノ瀬さんはあんな効率の悪い場所からシュートを打ったのでしょうか…」

 

姫川が抱いた疑問はこれだった。バスケにおいて、スリーポイントラインのやや内側の位置はもっともシュートを決める確率が低く、効率の悪い位置とされている。

 

「決める自信があったからじゃないの?」

 

「アイソレーションでスペースが空いている状態でわざわざリスクを犯してまであそこから打つ理由はありません。一ノ瀬さんにはぶつかりながら決められる身体の強さもあります。今のはゴール下まで切り込んだ方がリスクは低いですし、巡りが良ければバスカンも狙えるはずなのに…」

 

1度疑念を抱くと、ここまでは何とも思わなかった事が疑問となっていく。

 

「…」

 

考え込む姫川。姫川の頭の中で抱いた疑問がパズルのピースの組み合わさっていく。

 

「…っ!? もしかして…」

 

ここで姫川が何かに気付いた。とある可能性に。

 

「(そう考えればここまでの疑問全てに説明が付く…!)…監督!」

 

姫川が上杉の下に駆け寄り、何かを告げる。

 

「……なるほど。それなら合点が行く」

 

話を聞いた上杉は同意した。

 

「第4Qから仕掛ける。室井!」

 

「はい!」

 

「いつでも出られる準備をしておけ」

 

「はい!」

 

指名された室井はジャージを脱ぎ、準備を始めた。

 

「帆足!」

 

「は、はい!」

 

呼ばれると思わなかった帆足が慌てて返事をした。

 

「第4Q頭から出す。すぐに準備を始めろ」

 

「…えっ!?」

 

まさかの上杉の言葉に驚く帆足。

 

「聞こえなかったのか? すぐに準備を始めろ」

 

「は、はい!」

 

ここでようやく言葉を理解した帆足はジャージを脱ぎ、準備を始めた。

 

「(ここで帆足君を…)」

 

菅野はもう限界に近い。第3Q終了と同時に下げる事は確実だろう。普通に考えれば松永を3番のポジションに戻し、空いた5番に室井を入れ、スタメンに戻すのが王道と言える。だが、上杉は帆足を投入すると言った。姫川は上杉の真意を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了

 

 

花月 47

緑川 64

 

 

両校の選手達がベンチへと戻っていく。

 

試合の4分の3が終了し、残すところ、第4Qのみ。

 

選手達は最後のインターバル。残り10分を戦う為の力を蓄え、作戦を立てる為のインターバルが始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





今回は短めです。

普段の、特にキセキ世代との試合は何気に10話くらいやるんですが、今回は何とか1Q1話のペースで進めています。何とか後1~2話くらいでこの試合を終えたいです…(>_<)

ようやく花粉が落ち着いてきて、薬なしで外に出られるようになってきて、外も過ごしやすい気温になってきており、人知れず春を感じられるようになりました。今のコロナの現状もいずれはあの時はと話せるようになってほしいですね…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第157Q~弱点と奥の手~


投稿します!

遂にゴールデンウイーク! ……だけど、このご時世ではねえ…(T_T)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q終了

 

 

花月 47

緑川 64

 

 

第3Qが終わり、インターバルとなり、選手達がベンチへと戻っていく。

 

 

花月ベンチ…。

 

「ハァ…ハァ…! ぐっ!」

 

ベンチに辿り着くや否や、菅野が倒れ込むように崩れ落ちた。

 

「菅野先輩、大丈夫ですか!?」

 

その様子を見て慌てて竜崎が駆け寄る。

 

「心配…いらねえ。…と言いてえが、少し無理し過ぎちまった。…ハァ…ハァ…!」

 

手を振りながら無理やり笑みを浮かべる菅野。

 

「…っ」

 

駆け寄った竜崎が気付く。菅野は完全にスタミナ切れを起こしている事に。

 

「情けないのう。たかだか試合の半分しか出てへんのに。空坊と綾瀬を見習えや」

 

「うるせえ! こっちはアクセル全開で突っ走ったんだよ! 俺以上のスピードと運動量で1試合どころか延長戦まで走り抜けちまうあの2人が異常なんだよ!」

 

空と大地を引き合いに出して茶化す天野に対し、キレ気味に返した。

 

「菅野。ここまでよくやった。後は任せてゆっくり休め」

 

上杉が菅野の下に歩み寄り、声を掛けた。

 

「準備は出来ているな?」

 

「は、はい!」

 

声を掛けられ、帆足が返事をした。

 

「スガに代わって帆足を入れるんでっか?」

 

「あぁ」

 

意表を突かれた交代に天野が尋ねると、上杉は頷いた。

 

「残りは後10分だ。良いかお前ら。俺の話を良く聞け」

 

選手達の注目を集める上杉。最後の10分で試合をひっくり返す為の作戦を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

緑川ベンチ…。

 

「よっしゃ! 悪くねえぞ!」

 

ベンチに戻ってきた桶川が歓喜する。

 

「まだ試合を決定付けられる程の点差ではないぞ」

 

呆れ顔で城嶋が桶川を諫める。

 

「みんな、点差はあるが、第4Qも変わらず点を取りに行こう」

 

「だな。ここで点差を守りに入ったらみすみす向こうを勢いづけるだけだからな」

 

一ノ瀬が注目を集め、これまでどおり点を取りに行く事を提案すると、荻原が賛同する。

 

「全国行ってキセキの世代を相手にするんだからな。もっと派手に行かないとな」

 

桶川も頷いた。

 

「こんな所で足踏みしてられないんだ。一気に畳みかけてトドメ刺してやろうぜ!」

 

井上は立ち上がりながらそう叫んだ。

 

「俺達の3年間と、荻原と井上の思いを最後の10分にぶつけてやろうぜ」

 

続くように城嶋が言った。

 

「ガンガン攻め立てて俺達の力を見せつけてやろうぜ!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両校の選手達がコートへと戻ってきた。

 

『来た!!!』

 

全国出場を賭けた最後の10分が始まり、観客達も注目を集めている。

 

「行くでぇっ!!!」

 

『おう!!!』

 

天野の号令に他の選手達が続く。

 

「行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

対して緑川は一ノ瀬の号令に続いた。

 

 

OUT 菅野

 

IN  帆足

 

 

「(9番(菅野)が下がったのは分かる。だが、何故12番(帆足)なんだ?)」

 

この交代に疑問を覚える一ノ瀬。

 

「てっきり、11番(室井)を戻してくるかと思ったが…」

 

同じく城嶋も疑問に感じていた。

 

「この局面に出して来たって事は何かあるって事だろ? 引き続き俺がディフェンスするよ」

 

菅野との交代と言う事で荻原がディフェンスに名乗り出たのだった。

 

 

「…」

 

審判から桶川がボールを受け取り、一ノ瀬にパスを出し、第4Qが始まった。

 

『っ!?』

 

緑川のオフェンスに入ると、緑川の選手達の表情が変わった。

 

「…ゾーンディフェンスか」

 

花月のディフェンスが変わる。マンツーマンディフェンスから2-3ゾーンディフェンスへと変わった。前を竜崎と帆足。後ろを生嶋、松永、天野が立った。

 

「らぁっ!」

 

「…っ」

 

ボールをキープする一ノ瀬に対し、竜崎が激しくプレッシャーをかける。

 

「…ちっ」

 

身体と身体がぶつかる程に激しい竜崎の当たりに嫌がる素振りを見せる一ノ瀬。

 

「舐めるな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

隙を突いて一ノ瀬が竜崎をかわし、中へと切り込んだ。

 

「(竜崎が前に出た事でスペースが出来た。打てる!)」

 

竜崎が前に出た事で前と後ろで隙間が出来、チャンスと見た一ノ瀬がボールを掴んでシュート体勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし次の瞬間、ボールを頭上に掲げようとしたボールを叩かれてしまう。

 

「残念やけど、打たせへんで」

 

「(天野!?)」

 

ニヤリと笑う天野。

 

「ナイスです。天野先輩!」

 

ルーズボールをすかさず帆足が拾う。

 

「よし、そ、速攻!」

 

そう声を出し、帆足はそのままドリブルを始めた。

 

「ちっ、行かせねえぜ!」

 

フロントコートに入った所で荻原が追い付き、立ちはだかった。

 

「…っ」

 

目の前に荻原が現れると、帆足は立ち止まった。

 

「(さて、どんなもんか、お手並み拝見させてもらうぜ!)」

 

両腕を広げ、ディフェンスに集中する荻原。

 

「…うっ」

 

荻原の放つプレッシャーに圧倒される帆足。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

パスターゲットを探そうと周囲に視線を向けたその時、荻原が帆足のキープするボールを叩いた。

 

「もらい!」

 

すかさずルーズボールを抑える荻原。

 

「(隙だらけだったから思わず狙ったけど、こいつ…)」

 

一見して罠かと思う程隙を見せていた帆足。試しに狙った結果、あっさりボールを奪えてしまった。

 

「(ドリブルは高いし足も遅い。こいつ、大した事なくないか?)」

 

荻原は今のやり取りで帆足の実力を計った。

 

「帆足先輩! 固くなり過ぎですよ。リラックスして下さい!」

 

そう告げると、すぐに竜崎がディフェンスに戻り、荻原の前に立ち塞がった。

 

「ご、ごめん!」

 

謝りながら帆足もディフェンスに戻った。

 

「…ちっ、一ノ瀬!」

 

ここで無理をせず、荻原は一ノ瀬にボールを渡した。

 

「おぉっ!」

 

ボールが一ノ瀬に渡ると、先程同様、再び竜崎が激しくプレッシャーをかけた。

 

「…っ」

 

明らかに嫌がる素振りを見せる一ノ瀬。目の前の竜崎を抜きさる事は容易いが、先程のスティールがチラつき、躊躇う。

 

「こっちだ!」

 

「頼む!」

 

そこへ桶川がボールを要求。そこへ一ノ瀬はパスを出す。

 

「もう打たせませんよ!」

 

「こんの…!」

 

桶川にボールが渡ると、生嶋はすぐさま膝を曲げさせないように足元に入り込み、ディフェンスをする。

 

「(うっざ! 足元でべったり付きやがるからシュート体勢に入れねえ! かと言って中に切り込んだらゾーンディフェンスに捕まっちまう!)」

 

生嶋のディフェンスのせいでスリーは打てず、中に切り込めば囲まれてしまう為、八方塞となる。

 

「こっちだ! 俺に持ってこい!」

 

「スマン! 頼む!」

 

ローポストに立った城嶋がボールを要求し、桶川はそこにパスを出した。

 

「させん!」

 

背中に張り付くように松永がディフェンスに付く。

 

「…ちっ!」

 

ポストアップで押し込もうとする城嶋だったが、松永は歯を食い縛って耐え、リングの近くへと押し込ませない。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スピンムーブで松永の背後に抜け、直後にボールを掴み、リバースレイアップの体勢で得点を狙う。

 

「打たせるか!」

 

しかし、松永がリングと城嶋の間からブロックに現れ、シュートコースを塞ぐ。

 

「(くそっ、このまま打ったらブロックされる!)」

 

シュートコースは完全に塞がれ、焦る城嶋。

 

「こっちだ!」

 

そこへ、中に走り込んだ一ノ瀬がボールを要求する。

 

「頼む!」

 

その声に反応した城嶋は何とかレイアップを中断し、一ノ瀬にパスを出した。ボールを受け取った一ノ瀬はすぐさまシュート体勢に入った。

 

「天野先輩、ブロックに間に合いますよ!」

 

「っ!?」

 

その時、後ろから竜崎の声が一ノ瀬の耳に入る。

 

 

――ガン!!!

 

 

この言葉に動揺したのか、一ノ瀬に放ったジャンプショットはリングに嫌われてしまう。

 

「ハハッ、もうけや!」

 

リバウンドボールを天野が抑えた。

 

「…くそっ」

 

苛立ち交じりに一ノ瀬が舌打ちを飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さっきの天野のスティールに今のイージーミス…」

 

一連のプレーを見ていた上杉が唸るように言う。

 

「はい。これで確信に変わりました。間違いありません。一ノ瀬さんは、左目がほとんど見えないか、全く見えていません」

 

姫川が真剣な表情で断言した。

 

「第3Q最後の菅野先輩とさっきの天野先輩スティール。一ノ瀬さん程の実力者なら難なくかわせるはず。スティールされた時のあの表情。まるで見えていないかのようでした」

 

『…』

 

「気付かなかった。つまりは見えていなかったからかわす事が出来なかったんです」

 

「今のジャンプショットも、竜崎の声で死角を意識してしまい、動揺した。見えていればあんな声で動揺したりはしないからな」

 

続けて上杉が補足した。

 

「試合を振り返ってみると、オフェンスでアイソレーションを仕掛けてきたのは一ノ瀬さんが左側にいる時だけでした。あれはマッチアップの優位性からのものではなく、弱点となる死角を補う為。ディフェンスでも、右側から仕掛けられた時はディフェンスしていたのに対し、左側から仕掛けられた時はトラップディフェンスで後ろからの味方に任せていた」

 

さらに姫川は補足していく。

 

「あれだけの実力を持ちながら今日まで公式戦の出場機会に恵まれなかったのは、それが原因だったのだろう」

 

「…では、ここからは――」

 

「あぁ。司令塔の歯車が狂えばチーム全体の歯車が狂う。一ノ瀬を攻め立てるぞ」

 

そう宣言し、上杉が天野に合図を出すと、コート上の天野が頷いた。

 

「……あの」

 

その時、室井が声を上げた。

 

「それが有効な手段だと言うのは理解しています。ですが――」

 

「お前の気持ちは理解出来る。仮に神城がいたなら、絶対に従わなかっただろう」

 

「…」

 

「だが、今のうちにはそんな余裕はない。何せリードされているのだからな。バスケに限らず、勝負において相手の弱点、例え、それが不本意なものであっても、そこを徹底的に突くのは勝負の鉄則だ。負ければそれで終わりだ。チームのユニフォームを着ているなら、甘さは捨てろ」

 

「……はい」

 

上杉の言葉を聞いた室井は真剣な表情で頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(今ので恐らく俺の目の事は気付かれたな…)」

 

胸中で断言する一ノ瀬。

 

姫川の推測は当たっていた。一ノ瀬は左目が見えていない。帝光中時代はそのハンデを死に物狂いの努力でカバーし、結果を出し、帝光中が実力主義だった事もあり、3年時にキセキ世代の卒業後の帝光中の未来を憂いて後輩の指導の為に2軍に降りるまでは冷遇される事はなかった。

 

だが、緑川高校に進学し、当時の監督が一ノ瀬の目の事を知ると、その監督は一ノ瀬に試合はおろかレギュラーにすら指名する事もなかった。どれだけ実力を示そうと結果を出そうと偶然の産物と認める事はなかった。

 

「(まあいい。いつかは気付かれる事だ。やりようはある。あの9番(菅野)下がった今、花月のオフェンスは限られている。きっちり止めて確実に得点を重ねれば勝てる!)」

 

来るべき時が来ただけと一ノ瀬は気持ちを切り替え、ディフェンスに臨んだのだった。

 

「…」

 

ボールを運ぶ竜崎。

 

「(俺がマークしている限り、こいつ(生嶋)にスリーは打たせねえ。どんなに正確な飛び道具も、打たせなけりゃ怖くねえ!)」

 

生嶋をマークする桶川。これまで徹底マークで生嶋のスリーを封じている。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルしながらゲームメイクをしている竜崎。

 

「…っ」

 

その時、生嶋がカットの動きをし、自身をマークしている桶川を振り切ってフリーになろうとする。

 

「スクリーン!」

 

生嶋を追いかけようとした桶川の耳に荻原からの声を届く。

 

「…っ!」

 

桶川の目の前にはスクリーンをかけている帆足の姿があった。

 

「(スクリーンのかけ方があめーよ。そんなに引っ掛かって――)…えっ!?」

 

帆足のスクリーンをかわした桶川。次の瞬間、生嶋の姿を見失う。

 

「…ハッ!?」

 

桶川が振り返ると、左アウトサイドの深い位置で生嶋がフリーでボールを受け取っていた。

 

「…うん。良い景色だ」

 

そう呟いて生嶋はスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングに触れる事無くその中心を潜り抜けた。

 

 

花月 50

緑川 64

 

 

「ええでイク!」

 

「はい!」

 

生嶋に駆け寄った天野とハイタッチを交わした。

 

「くそっ…」

 

「ドンマイ! 今のは仕方ねえ」

 

悔しがる桶川に対し、荻原が肩を叩きながら励ます。

 

「…」

 

今のプレーを見て、一ノ瀬は渋い表情をしていた。

 

代わって緑川のオフェンス。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「らぁっ!」

 

「っ!?」

 

ローポストでボールを受け取った城嶋。強引に押し込み、シュートまで持っていったが、松永がそのシュートを叩き落した。

 

「マツもええ調子やで!」

 

ルーズボールを拾った天野。すぐさま竜崎にボールを渡し、攻守が切り替わった。

 

「…」

 

天野からボールを受け取り、フロントコートまでボールを運んだ竜崎。

 

「っ!?」

 

先程同様、カットの動きで桶川を振り切ろうとする生嶋。それを追いかける桶川だったが、再び生嶋の姿を見失ってしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーになった生嶋が再びスリーを決めた。

 

 

花月 53

緑川 64

 

 

「桶川、大丈夫か?」

 

「…分からねえ。気が付いたら生嶋の姿を見失って…」

 

駆け寄った城嶋が問いかけると、桶川が戸惑いながら答えた。

 

「…1つ覚えがある。今のは誠凛の黒子の――」

 

「違うな」

 

1つの可能性に行き着いた荻原がそれを告げようとしたが、一ノ瀬が否定した。

 

「あれは観察眼と生まれついての影の薄さが組み合わさって初めて可能となるテクニックだ。彼(生嶋)がやった所で一瞬視線から外せる程度で見失うレベルのものは出来ないだろう」

 

「…だったら――」

 

「カラクリは何となくだが見えている。次で恐らく看破出来る。今はオフェンスだ。きっちり点を取っていけば問題ない」

 

何か言いたげだった桶川だったが、とりあえず一ノ瀬は話を中断し、目の前のオフェンスに集中させた。

 

「…まさか、花月にまだこんな隠し玉があるとはな」

 

ポツリと一ノ瀬は呟いたのだった。

 

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ一ノ瀬。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フロントコートまで進み、竜崎がディフェンスにやってくると、すぐさまカットイン。中へと切り込んだ。

 

「囲め!」

 

天野の指示に従い、カットインした一ノ瀬の包囲する。

 

 

――ピッ!

 

 

しかし、一ノ瀬は完全に包囲される前にパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取った荻原がミドルレンジからジャンプショットを決めた。

 

 

花月 53

緑川 66

 

 

「ナイッシュー荻原」

 

「おう!」

 

ハイタッチを交わす一ノ瀬と荻原。

 

「オフェンスをきっちり決めれば向こうがどれだけ小細工をしてこようと関係ないんだ。俺が必ず得点を演出する。全員、集中しとけよ」

 

『おう!!!』

 

ディフェンスに戻りながら一ノ瀬が檄を飛ばし、他の選手達が応えた。

 

「…さすが、一筋縄では行かんのう」

 

ノーマークの選手に正確にパスを出され、思わず溜息が漏れる天野。

 

『…っ』

 

気落ちしかける花月の選手達。

 

「関係ないよ」

 

その時、生嶋が口を開く。

 

「向こうがどれだけ点を取ってきても関係ないよ。だって僕が必ずスリーを決めるから」

 

「生嶋…」

 

自信満々に言い放つ生嶋に、松永は頼もしさを感じたのだった。

 

 

代わって花月のオフェンス。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

再び生嶋が桶川にマークをかわし、スリーを決めた。

 

 

花月 56

緑川 66

 

 

「例えどれだけ向こうが点を取ろうとも関係ない。こっちは僕がスリーを必ず決めるんだから。そのうち必ず追い付ける」

 

フォロースルーで掲げていた左手を下げながら生嶋が言い放った。

 

『スゲー! スリー3連発だ!』

 

3本連続でスリーを決め、観客が沸き上がった。

 

「ちっくしょー、どうなってんだよ!」

 

相変わらず生嶋にマークを振り切られ、スリーを許してしまった桶川が頭を抱える。

 

「落ち着け。まだ追い付かれた訳ではない」

 

取り乱す桶川に駆け寄り、声をかける一ノ瀬。

 

「今のではっきりした。お前が生嶋の姿を見失うカラクリが見えた」

 

「分かったのか!?」

 

その事実に思わず桶川が詰め寄る。

 

「ああ。それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「分かったんスか?」

 

「あぁ。緑川の5番(桶川)が生嶋を見失ってしまう理由が分かった」

 

観客席の黄瀬。不自然に桶川が生嶋を見失う姿に首を傾げていたが、赤司がその全容に気付いた。

 

「12番(帆足)だ」

 

赤司がコート上の帆足を指差した。

 

「12番って、第4Qから試合に出て来たパッとしない選手スか?」

 

これまであまり印象に残る活躍をしていない帆足だけに黄瀬が怪訝そうな表情をする。

 

「彼(帆足)がブラインドの役割をこなしていたんだ」

 

「ブラインド?」

 

「帆足が桶川に対してスクリーンをかける。だがこれは生嶋のマークを引き剥がす為だけのものではなく、桶川の視界から生嶋を隠す為のものだったんだ」

 

まず、帆足が桶川にスクリーンをかけ、生嶋が帆足の身体で桶川の視界から消える位置に移動する事で一時的に姿を見失ってしまう。

 

「原理はこんな所だ。黒子のミスディレクションと違い、姿を見失うのはほんの僅かだ。だが、それだけあれば充分だ。スリーを打たせてもらえるほんの僅かな時間を稼げれば」

 

これまで桶川の徹底マークでスリーを打たせる機会は少なかったが、打てさえすれば生嶋なら決められる。

 

「なるほど。…けど、そんな有効な奥の手があるならなんでもっと早く切らなかったんスかね?」

 

もっと早くに切っていればここまで点差が広がる事もなかったと黄瀬は続ける。

 

「いくら有効な手でも、相手の動きや癖をある程度把握していなければあれは出来ない。それに、奥の手は文字通り奥の手、最後の切り札だ。ひとたび切ってしまえば後はない。切るにはここぞと言うタイミングで切る必要がある。最後のインターバル終了後の第4Q、切るタイミングとしてはベストだ。俺でもここで切っただろうな」

 

黄瀬の疑問に赤司は私見を交えて解説した。

 

「赤司っちならどう止めるッスか?」

 

「止めるだけなら簡単だ。帆足をマークしている荻原にスイッチすればいい。桶川以外には生嶋の姿は見えているのだから1番近い位置にいる彼なら追い付ける」

 

「なるほど。…あの様子だと、一ノ瀬っちも気付いたみたいッスね」

 

コート上で何やら集まって会話をしている緑川の選手達。ここからでは何を話しているかまでは分からないが、一ノ瀬が荻原に何かを説明している様子が見て取れた。

 

「(確かに、あれを止めるだけなら簡単だ。止める『だけ』なら…)」

 

赤司は試合の行く末に注目したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

緑川のオフェンス…。

 

 

――ピッ!

 

 

これまでの一ノ瀬を起点にしてのオフェンスから一変。絶えずボールを動かし、素早いパスワークでのオフェンスに切り替える。

 

「っしゃ!」

 

 

――バス!!!

 

 

シュートクロックが残り10秒になった所で井上がジャンプショットを決めた。

 

 

花月 56

緑川 68

 

 

「今のはしゃーない。オフェンスや。切り替えていくでぇっ!!!」

 

手を叩きながら天野がチームを鼓舞する。

 

「1本! 行きましょう!」

 

スローワーとなった松永からボールを受け取った竜崎が左手の人差し指を立てながら声を出し、フロントコートまでボールを運んだ。

 

「…」

 

フロントコートまでボールを進めると、竜崎は足を止め、攻め手を定める。

 

「…」

 

目の前には一ノ瀬が立ち、ディフェンスをしている。

 

「…」

 

荻原がチラチラと生嶋に視線を向ける。

 

『荻原。あの12番がスクリーンを仕掛けたらすかさずスイッチして生嶋のチェックに行け』

 

生嶋の姿を見失うトリックを一ノ瀬から簡単に説明を受け、その対処法として出された指示がこれだった。

 

「(タネが分かれば何て事はない。次は止めてやる!)」

 

胸中で意気込む荻原。

 

「…」

 

竜崎がボールを運び、少し経つと、帆足が動き始め、桶川にスクリーンをかける。同時に生嶋が左手アウトサイド、サイドラインとエンドラインが交わう位置に向けて走り出した。

 

「…っ! スイッチ!」

 

「任せろ!」

 

桶川の声に反応して荻原がすぐさま生嶋を追いかける。

 

「(よし、間に合う。シュート体勢に入る前に止めてやる!)」

 

スリーの阻止を確信する荻原。

 

ボールをキープする竜崎がパスを出した。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、緑川の選手達が一斉に目を見開いた。ボールは生嶋ではなく…。

 

「よし!」

 

先程スクリーンをかけた帆足へと渡った。

 

「なっ!?」

 

生嶋を追いかけた荻原が思わず声を上げながら振り返る。

 

右45度付近。スリーポイントラインの僅か外側でフリーでボールを掴んだ帆足はそこからボールを構え、シュート体勢に入り、ボールをリリースした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『っ!?』

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 59

緑川 68

 

 

『キタ! 4連続スリー!!!』

 

『遂に点差が一桁だ!!!』

 

「(こいつ、ドリブルは下手くそだけど、今のはスリーは…!)」

 

今のスリーを見て何かを感じ取った桶川。

 

「なに狐に鼻つままれた顔してんねん」

 

驚いている緑川の選手達を見て天野が口を開く。

 

「これでもこいつは経験者も逃げ出すウチで死に物狂いで練習してきた奴や。舐めとったらあかんで」

 

帆足の肩に手を置きながら天野が告げた。

 

「……ふぅ。一筋縄では行かないと言う訳か」

 

深い溜息を吐きながら一ノ瀬は一言漏らしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

最後の10分が始まり、花月が早々に奥の手を出した。

 

生嶋と帆足の活躍によって点差は遂に9点差にまで詰め寄った。

 

たった1つの全国への切符をかけた激闘は、クライマックスを迎えようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この話で試合終了まで行きたかったんですが、思いのほか長くなったのでここで一旦切りました。次話にて試合終了まで行けたらと思います…(>_<)

思い切って原作キャラを登場させたのはいいんですが、ほとんど掘り下げが出来ていないので、……どうしようかな…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第158Q~たった1つの切符~


投稿します!

遂にゴールデンウイークが終わってしまった!

…と言うか、今年何もしてないな…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り7分18秒。

 

 

花月 59

緑川 68

 

 

『おぉぉぉーーーっ!!!』

 

大歓声が響き渡る試合会場。第3Q終了時までは一ノ瀬を中心に緑川が圧倒していた。しかし、菅野に代わり、帆足が投入されると、試合は一変した。

 

帆足が絶妙なアシストで生嶋をフリーにし、生嶋がスリーを決めていき、点差はじわじわと縮んでいった。

 

「良いリズムだったよ」

 

「ありがとう」

 

スリーを決めた帆足に生嶋が声をかえ、ハイタッチを交わした。

 

『…っ』

 

伏兵投入から、タネを見抜き、対応策を実行した直後にその伏兵から更なる1発を決められ、表情が険しくなる緑川の選手達。

 

生嶋は、1年目のウィンターカップこそ、その正確無比のスリーでチームに貢献し、秀徳撃破と桐皇との善戦の原動力となったが、今年のインターハイと国体では徹底マークにあい、大きな活躍は出来なかった。

 

帆足は、バスケ未経験の身で花月のバスケ部に入部。地獄とも言える練習に耐え抜くも、花月の大きな選手層と大きな目標に1度はバスケ部を退部も考えた。

 

打てば決められるスリーも打たせてもらえなければ役に立たない。しかし、生嶋には大地のように相手をかわしてスリーを打つテクニックもスピードもない。そこで生嶋が磨いたのはカット…、フリーになる為のプレーだ。

 

かつて、自分の参加した全中大会で、星南中の空と大地のチームメイトの森崎が帝光中を相手に巧みにマークを振り切り、スリーを決めていた事を思い出し、その動きを研究。その過程で協力者が必要になり、帆足と共に猛練習し、身に着けたものだった。

 

「…」

 

緑川でただ1人、一ノ瀬だけは表情を改め、真剣なものになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

遂に点差を一桁までに詰めた花月。

 

『ディーフェンス! ディーフェンス!!!』

 

花月ベンチからも選手達が大きな声で声援を贈る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『っ!?』

 

その時、その声援をかき消すかのようにボールがネットを潜り抜ける。

 

 

花月 59

緑川 71

 

 

「…っ!」

 

思わず竜崎がとある方向に視線を向ける。そこには、ボールをリリースした直後の一ノ瀬の姿があった。

 

「何を驚いているんだ? 俺に外がないとでも思ったのか?」

 

見下ろすかのような表情で一ノ瀬が口を開く。

 

「例えお前達がいくら3点を積み重ねようが、こっちも3点を積み重ねてしまえば点差は縮まらない」

 

そう告げ、一ノ瀬は踵を返し、ディフェンスへと戻っていった。

 

「…くそっ、せっかくの良い流れが…!」

 

みすみすスリーを打たせ、決めさせてしまった竜崎が悔しがる。

 

「…片目が見えないはずなのに」

 

「片目塞がると遠近感掴めへんとはよー言われるけど、意外とそうでもあらへんからのう。…それに、あいつが目ぇ見えへんようになったんわ昨日今日の話やあらへんからな」

 

思わずぼやく帆足。天野が嘆息しながら言う。

 

「望むところだよ」

 

その時、生嶋が真剣な表情で口を開く。

 

「だったらこっちもスリーを打ち続けるだけだよ。向こうが決め続ける事が出来ればこっちの負け。ここから試合終了まで決め続けられると言うなら、やってみればいい。僕は絶対に外さないけど」

 

そう自信満々に言ってのけた。

 

「…せやな。こっちには緑間も認めるシューターがおる。向こうが外の打ち合いで勝負する言うなら、やったろうやないかい」

 

生嶋に同調するかのように天野がニヤリと笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

代わって花月のオフェンス。

 

「…」

 

慎重にボールを運びながらゲームメイクをする竜崎。

 

「(…見たところ、ディフェンスに特に変化はない)」

 

さっきの緑川の動きを見て生嶋がフリーになれるカラクリは見抜かれている事はまず間違いない。にもかかわらず、相手に何の動きもないのはおかしい。

 

「(考えたって答えが出るではないんだ。これまでどおり、外から狙っていくんだ!)」

 

帆足が動き、桶川にスクリーンをかける。同時に生嶋が動き、マークを外す。これに合わせて荻原がスイッチし、生嶋を追いかけた。

 

「(来た!)…帆足先輩!」

 

先程同様、フリーになった生嶋に対して荻原がスイッチし、帆足がフリーとなり、竜崎が帆足にパスを出した。

 

「…よし」

 

先程の位置でフリーでボールを掴んだ帆足はすかさずスリーを放った。

 

 

――ガン!!!

 

 

「…あっ!?」

 

ボールはリングに嫌われ、外れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ディフェンスはどうする? 何だったら、俺がヘルプに行くか?』

 

そう提案する井上。

 

『いやいい。お前が出ると中が手薄になる。打ちたければ打てばいいさ』

 

『おいおい、良いのかよ!?』

 

まさかの言葉に荻原が反発する。

 

『生嶋ならともかく、あの12番(帆足)なら問題ない。そう何度も決められるものでもない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ディフェンスに戻りながら話し合った内容。

 

「(一ノ瀬の言う通り、外れた!)」

 

スリーが外れ、リバウンドに備える井上。

 

緑間や生嶋と言ったシューターがいるせいで忘れられがちだが、本来、スリーとは決まり辛いものであり、確率50%でも一流と呼ぶに充分。高校生…しかも、高校からバスケを始めた帆足であるなら、如何に今日までスリーを重点的に磨いてきたとしても、限界がある。

 

「(外一辺倒で来るならむしろ望むところだ。生嶋に打たせなければ後はリバウンドを――)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「こんの!!!」

 

強引にポジションを奪った天野がリバウンドボールを抑えた。

 

「ダイスケ!」

 

抑えたボールを再度帆足に渡す。

 

「今度こそ!」

 

再び帆足がスリーを放つ。

 

 

――ガン!!!

 

 

だが、ボールは再度リングに弾かれてしまう。

 

「リバウンド!」

 

それを見て一ノ瀬がゴール下に立つ城嶋と井上に檄を飛ばす。

 

「よっしゃ!」

 

自分の所へ弾かれたボールに井上が両手を伸ばす。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

「リバウンドは……譲らへんぞ!」

 

井上の手にボールが収まるより早く天野がボールを叩く。

 

「ちぃっ!」

 

弾かれたボールに今度は城嶋が手を伸ばす。

 

 

――ポン…。

 

 

「なっ!?」

 

「取らせんへん言うとるやろ!」

 

なんと、再び天野がボールを伸ばした指先で引っ掛けた。

 

「ナイス天野先輩!」

 

舞ったボールを松永が抑えた。

 

「帆足!」

 

ボールを掴んだ松永は帆足にパスを出した。

 

「打てますよ!」

 

「…っ」

 

竜崎の声に反応し、帆足が3度目のスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは今度こそリングを潜り抜けた。

 

 

花月 62

緑川 71

 

 

『マジかよ!? 5連続スリー!!!』

 

『もう止まらねえよ!』

 

5回連続でスリーが決まり、観客は盛り上がる。

 

「ええで、よー打った」

 

帆足の下に駆け寄った天野。

 

「打てる思たら何本でも打ったらええ。外しても俺が何本でもリバウンドしたるわ」

 

「はい!」

 

そう告げ、天野は帆足の背中を叩いた。

 

 

「スマン!」

 

ディフェンスリバウンドを抑えられなかった城嶋が頭を下げる。

 

「謝る必要はない。天野は全国で屈指のリバウンダーだ。あいつからまともにリバウンドを取れるのは紫原くらいだろう」

 

謝る城嶋を制する一ノ瀬。

 

「やる事はインターバルの時に決めた事と変わらない。こっちも攻めて攻めて攻めまくる。確実に得点を重ねれば勝てるんだ。全員、点の取り合いを仕掛けるぞ!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ一ノ瀬。フロントコートまでボールを運ぶと、荻原にパスを出した。

 

「っしゃ!」

 

「っ!?」

 

ポンプフェイクで目の前の帆足を飛ばさせ、その後にターンアラウンドで反転し、すぐさまシュート体勢に入った。

 

「打たせん!」

 

「ちぃっ!」

 

しかし、ヘルプに飛び出ていた松永がブロックに飛び、シュートコースを塞いだ。仕方なく荻原は身体を捻ってボールを一ノ瀬に戻した。

 

「…よし」

 

フリースローラインの僅か後ろでボールを受け取った一ノ瀬がシュート体勢に入った。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「打たせませんよ!」

 

だが、横から現れた竜崎の決死のブロックによってボールは弾かれた。

 

「(くそっ、死角から!)」

 

左目の死角からのブロックの為、察知出来ず、胸中で悔しがる一ノ瀬。

 

「よーやったタイセイ!」

 

「ハハッ! やられっぱなしじゃないですよ! 速攻!」

 

褒めたたえる天野。ルーズボールを拾った竜崎がそのまま速攻に走った。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「行かせん!」

 

「…っ!」

 

フロントコートに突入した所で一ノ瀬が後ろから竜崎のキープするボールを叩く。零れたボールを何とか抑えた竜崎。

 

「竜崎君!」

 

横から走り込んだ帆足がボールを要求した。

 

「頼みます!」

 

すかさず帆足にパスを出した。ボールを受け取った帆足はスリーポイントラインギリギリまでドリブルをし、ボールを掴んだ。

 

「打たせねえぞ!」

 

後ろから荻原がスリーは打たせまいとシュートコースを塞ぎにかかった。

 

「…」

 

帆足はスリーは打たず、ボールを横へと流した。

 

「ナイスパスだよ」

 

そこには生嶋が立っていた。生嶋はボールを掴むのと同時にシュート体勢に入った。

 

「打たすかぁっ!!!」

 

スリーを阻止するべく、桶川がブロックに飛んだ。

 

「シュート体勢に入った時点で僕の勝ちだよ」

 

生嶋は斜めに飛んでブロックをかわしながらスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを綺麗に潜り抜けた。

 

 

花月 65

緑川 71

 

 

『6連続!!!』

 

遂に第4Q、6本目のスリーが決まり、点差はスリー2本分まで縮まった。

 

「っしゃぁっ!!! よー決めた!!!」

 

「当然だよ」

 

ハイタッチを交わす天野と生嶋。

 

『…っ』

 

17点もあった点差が6連続スリーと言うデタラメな得点で縮められ、表情が曇る緑川の選手達。

 

「…っ」

 

それは一ノ瀬も例外ではなく、ベンチにタイムアウト合図を出すと、北条がオフィシャルテーブルに申請に向かった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、白(緑川)!』

 

次の緑川のオフェンスで、桶川から城嶋へのパスを天野がカットし、その際にボールがラインを割り、緑川が申請したタイムアウトがコールされ、選手達はベンチへと下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「花月が巻き返してきたッスね」

 

観客席の黄瀬が選手達がいなくなったコートを見つめながら呟く。

 

「流れは完全に花月にきている。それに加え、一ノ瀬の支配力に陰りが見え始めた。この先、花月が点差をひっくり返す可能性は充分にある」

 

そう分析する赤司。

 

「…っ」

 

落ち着かない様子で複雑な表情をする黄瀬。

 

「どうした? 俺はてっきり、お前は花月との再戦を望んでいる思っていたが…」

 

「そりゃ、花月とはもう1回戦いたいッスよ。夏の借りもあるし。けど…」

 

「…」

 

「正直、今勝ってほしいのは緑川ッス。一ノ瀬っちとは1度戦ってみたかったッスから」

 

赤司の問いに黄瀬が悲痛な表情で答え、かつての記憶を思い起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『黄瀬。また練習をサボるつもりか?』

 

これは黄瀬が帝光中の3年時の事。全中予選大会の1ヶ月前の事。

 

『…何か用スか?』

 

一ノ瀬に話しかけられた黄瀬は鬱陶し気に返事をする。

 

『スタメンが確約されてるからって随分と余裕だな』

 

『何が言いたいんスか? 1軍の主将の赤司っちや監督だって認めてる事っスよ。1軍ですらないあんたにとやかく言われる筋合いはないと思うけど?』

 

『…別に俺はお前に指図するつもりはない』

 

若干表情を曇らせるもすぐに元の表情に戻す一ノ瀬。

 

『だったら――』

 

『…だが、チームメイトとして敢えて言わせてもらう。目の前の全中大会はどうでもいい。どうせうちが負ける事は100%ないだろうからな』

 

『…』

 

『お前は天才だ。才能だけならあいつら(キセキ世代)の中でもトップレベルだ。だがこの先、高校に進学してもバスケを続けるつもりなら、才能に胡坐をかいた今の状態じゃ、他の4人には絶対勝てないぞ』

 

真剣な表情で一ノ瀬は黄瀬に告げた。

 

『…言いたい事はそれだけッスか?』

 

若干不快な表情をしながら黄瀬が尋ね返す。

 

『他の4人ならともかく、あんたにそんな偉そうな口利かれたくないんだけど? 何年バスケしてきたか知らないッスけど、バスケ始めて1年程度の俺より下手な癖に。偉そう事言わないでくれないッスか?』

 

一ノ瀬の傍まで歩み寄った黄瀬は一ノ瀬を見下ろしながらそう言った。

 

『指図するつもりないと言っただろ? ただ思った事を言っただけだ。後はお前の好きにすればいい』

 

そう告げて、一ノ瀬はその場を後にした。

 

『キセキ世代は正直、敵に回したら勝つのは至難の業だ。けど、お前に限って言えば、負けると思った事は1度もない』

 

『…』

 

『お前は所詮ただの天才だ。どれだけ点が取る事が出来ても、チームを勝たせる存在じゃない。この意味が分からなきゃ、お前はこの先、天才と呼ばれても頂点には立てないよ』

 

そう最後に言い、一ノ瀬はその場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「(あの時は負け惜しみとしか思わなかった。…けど、海常に入って火神っちに負けて、直後のインターハイで青峰っちに負けた。一ノ瀬っちの言ったとおり、俺はチームを勝たせるエースにはなれなかった…)」

 

奇しく一ノ瀬言葉通りになってしまった海常の1年目。

 

「(3年に上がって主将に任命されて、一ノ瀬っちの言ってた事を思い返すようになった。もっと早く耳を傾けていれば…)」

 

チームを率いる存在となった黄瀬。思い返すのは帝光中時代の一ノ瀬の言葉。

 

「(今になって、一ノ瀬っちにもっとバスケを教わりたいって思うようになった。だから…!)」

 

黄瀬は、かつてのチームメイトの勝利を願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

しかし、試合は黄瀬の願いとは裏腹に、赤司の予測通り、花月に流れが傾いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

生嶋の外が健在。帆足も合わせて2つの長距離砲が緑川に襲う。その為、緑川はやむを得ずディフェンスを外へと広げざるを得なくなる。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

ディフェンスが外へと広がると中が手薄となり、待ってましたとばかりに松永がボースハンドダンクが炸裂する。

 

帆足の投入でスリーが決まるようになり、花月に良いリズムが生まれるようになった。

 

 

――ガン!!!

 

 

「…くっ!」

 

起死回生のスリーを放つもリングに嫌われ、悔しがる桶川。

 

対して緑川には悪い流れが現れる。スリーを立て続けに決められ、急速に縮まる点差を見て焦り、スリーを狙うも決める事が出来ない。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

外れたボールを天野がかっさらう。

 

花月に勢いをもたらしているのは、天野のリバウンドだった。オフェンス、ディフェンス問わず、天野がリバウンドを取りまくる。その為、花月は外れる事を気にせずシュートが打て、結果シュートが決まる。逆に緑川はリバウンドが取れず、思い切りよくシュートが打てず、結果得点から遠ざかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何とか一ノ瀬が個人技で盛り返そうとするも、一ノ瀬の動きに対応出来るようになった竜崎を始め、花月の決死のディフェンスによって得点が伸びず、単発で終わる。

 

第4Qに入り、流れは完全に花月に傾き、勢いと共に試合は完全に花月のペースとなった。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

竜崎がジャンプショットを決めた。

 

 

第4Q、残り2分3秒

 

 

花月 74

緑川 73

 

 

「っしゃぁっ!!!」

 

握り拳を作り、竜崎が喜びを露にする。遂に花月が緑川を捉え、逆転に成功した。

 

『…っ』

 

逆転された緑川の選手達は一転して表情が曇っていた。

 

「けどまだや。まだ時間はある。全員気を抜かんと集中せえよ!」

 

『おう!!!』

 

気が緩まないよう、天野が活を入れ、選手達が応えた。

 

「…」

 

同じく険しい表情をする一ノ瀬。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

咆哮と共に切り込み、目の前の竜崎を抜きさり、カットインする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

カットインした一ノ瀬を包囲しようとゾーンディフェンスを縮小させるも、一ノ瀬はスピンムーブでこれを突破した。同時にボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

そこへ、松永がブロックに飛んだ。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

ブロックもお構いなしに一ノ瀬がリングにボールを叩きつけた。

 

 

花月 74

緑川 75

 

 

『…おっ――』

 

『おぉぉぉーーーっ!!!』

 

リングから手を放し、コートに着地すると、観客が大歓声を上げた。

 

『一ノ瀬!』

 

気落ちしかけた所に一ノ瀬の1発に、緑川の選手達が安堵する。

 

「負けるかよ。俺達はこの最後の大会に全てを賭けてんだ。絶対に勝つぞ!」

 

『おう!!!』

 

一ノ瀬の檄に、緑川の選手達が応えた。

 

「…流れがこっちに傾いとった所に水を差してくれたのう」

 

チームの士気を上げる豪快な1発に顔を顰める天野。

 

「やけど、賭けとるんはこっちも一緒や。ここからは実力は関係あらへん。どっちの気持ちが上かや」

 

「ですね。でも、気持ちなら絶対に譲らないよ」

 

天野の言葉に生嶋が続く。

 

「全国だけは絶対に譲らん。絶対に勝つ」

 

松永が静かに意気込んだ。

 

「俺だって、こんな所で終わりたくない」

 

「行きましょう! 勝つのは俺達だ!」

 

帆足と竜崎も決意を露にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。竜崎がボールを運ぶ。

 

「…」

 

帆足が動き、桶川にスクリーンをかける。同時に生嶋がフリーになるべく動いた。だが…。

 

「…っ!?」

 

桶川は生嶋を見失う事無くピタリと生嶋を追いかけ、マークをした。

 

「いい加減、慣れて来たぜ! もう見失わねえ!」

 

不敵な笑みを浮かべる桶川。

 

 

「時間切れだ。原理は黒子のミスディレクションと変わらない。時間が経てば自ずと慣れ始める。黒子と違い、その効力はさらに短い」

 

赤司がポツリと呟く。

 

立て続けにブラインドの為のスクリーンを仕掛けた帆足。度々仕掛けられていた桶川に遂に耐性が生まれ、生嶋の姿を見失う事がなくなった。

 

 

「…やべーぞ。遂に来やがった。これじゃこっちは外が打てねえ」

 

ベンチの菅野が頭を抱える。

 

マークを振り切れなければ生嶋はスリーを打てせてもらえない。帆足のスクリーンに気を配る必要がなくなれば荻原は帆足のマークに集中出来る。帆足では荻原を相手に抜きさる事はもちろん、スリーも打たせてもらえない。外が打てなくなれば自ずとディフェンスを外に広げる必要がなくなる。

 

 

――ポン…。

 

 

「…あっ!?」

 

帆足のスクリーンが通じなくなった事実を目の当たりにした一瞬の動揺を一ノ瀬は見逃さず、竜崎のキープするボールを捉えた。

 

「速攻だ!」

 

すかさずボールを拾った一ノ瀬がそう叫び、速攻に走った。

 

「戻れ! 戻れ!」

 

ベンチから必死に声を出す菅野。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま一ノ瀬が速攻を決めた。

 

 

花月 74

緑川 77

 

 

「ナイス一ノ瀬!」

 

駆け寄った桶川と一ノ瀬がハイタッチを交わした。

 

『…っ』

 

ここに来て花月の切り札の効力が切れた事に動揺する選手達。スリーが打てなくなれば花月のオフェンスの選択肢は狭まり、得点チャンスが減る。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『メンバーチェンジ!』

 

その時、花月のメンバーチェンジがコールされた。オフィシャルテーブルに立っていたのは室井。交代を告げられたのは帆足。

 

「交代…か…」

 

残念がる帆足だったが、スクリーンが効かなくなり、自身もスリーを打たせてもらえない今の状況ではコートに立っていても役に立たない事はすぐに理解した為、交代を受け入れた。

 

「後は、頼んだよ」

 

そう告げ、室井の肩に手を置く帆足。

 

「…っ」

 

肩に置いた手に込められた力と帆足の表情を見て、室井は帆足が悔しがっている事に気付いた。

 

「…後は任せて下さい」

 

そう返し、決意に満ちた表情で室井はコート入りをした。

 

「よくやったぞ帆足!」

 

タオルを渡しながら帆足を称える菅野。

 

「ありがとうございます」

 

そう返事をした帆足はタオルを頭に被り、ベンチに座った。

 

「…っ」

 

ベンチに座った帆足は下を向き、膝の上で拳をきつく握り、歯を食い縛った。

 

花月のバスケ部に入学し、自分がチームに貢献が出来るチャンスが来たこの試合。最後まで試合に貢献出来ず、最後は役立たずとなってコートを去った事に悔しさを堪える事が出来なかった。

 

「顔を上げろ」

 

そんな帆足に上杉が声を掛ける。

 

「お前はチームに良い流れをもたらした。お前のおかげでここまで戦う事が出来た」

 

「監督…」

 

「お前が花月にいてくれて良かった。よくやった」

 

静かにそう告げた。

 

「……はい…!」

 

顔を上げた帆足は静かに涙を流したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「12番(帆足)が下がって11番(室井)が来たか」

 

コート入りをする室井を見つめる一ノ瀬。

 

「試合開始前に戻っただけだ。オフェンスでは俺に任せてくれ」

 

「頼んだぜ」

 

ボールを要求する城嶋に荻原が肩に手を置きながら託したのだった。

 

 

花月のオフェンス。室井が投入された事でセンターに室井が入り、松永が再びスモールフォワードに入った。

 

「へい!」

 

その時、ローポストで背中に城嶋を背負った形の室井がボールを要求した。

 

「(…珍しいな)」

 

ボールを運ぶ竜崎が驚く。普段ならマークを振り切った時にしかボールを要求しなかった室井がポストアップを仕掛けようとしているからだ。

 

「(…何かあるんだよ)…任せた!」

 

何かを感じた竜崎が室井にボールを渡した。

 

「…行くぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう宣言すると同時にボールを突き始める室井。

 

「…っ!? こいつ!?」

 

その、室井の圧力を受けて城嶋が圧倒される。

 

「(このパワーは…、松永とは比較にならない!)」

 

ジリジリとゴール下まで押し込まれる城嶋。その圧倒的なパワーを前に侵入を防ぐ事が出来なかった。

 

「おぉっ!」

 

ゴール下まで押し込んだ室井はボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「調子に、乗るな!」

 

城嶋がブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ブロックもお構いなしに室井がブロックを吹き飛ばしながらボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 76

緑川 77

 

 

「こっちだ!」

 

緑川のオフェンス。城嶋がボールを要求した。

 

「お前に俺は止められない」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ローポストでボールを受け取った城嶋はそう告げ、いくつかフェイクをいれた後、反転し、室井の背後に抜け、そのままリングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「なん…だと…!」

 

「それは何度も見させてもらった!」

 

しかし、背後から現れた室井によってボールは叩き落された。

 

「よっしゃぁぁぁっ!!!」

 

室井の豪快なブロックにベンチの選手達が立ち上がりながら喜びを露にした。

 

室井はただベンチに下がっていた訳ではなかった。これまで止められなかった城嶋の巧みなムーブやフェイクを織り交ぜたフェイントの対応策を姫川が映像を確認しながら授けていた。

 

「紫原さんや三枝さんとマッチアップ経験のある室井君です。パターンを覚えてしまえば彼ならやれます」

 

指導が実り、笑みを浮かべる姫川。

 

「速攻!!!」

 

ボールを拾った竜崎が速攻に走った。

 

「ここは決めさせん!」

 

フロントコートに入った所で一ノ瀬が追い付き、並走するようにディフェンスをする。

 

「…っ」

 

一ノ瀬が現れると、竜崎は足を止め、ボールを掴むと頭上から右へとボールを放った。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだのは先程ブロックをした室井。室井はそのままドリブルで突き進み、フリースローラインを越えた所でボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

「調子に乗んじゃねえ!」

 

その時、室井に追い付いた城嶋と井上がブロックに現れた。

 

『うわー! これじゃ打てねえ!?』

 

190㎝を超える2枚のブロックに悲鳴を上げる観客。

 

「行け、室井。確かにお前には経験もテクニックもない。…だが、お前にはこのコートで1番優れているものをもっている」

 

ベンチから室井に後押しをする上杉。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

「…がっ!」

 

現れた2枚のブロックも室井はお構いなしにぶつかり、2人を弾き飛ばしながらボースハンドダンクでボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 78

緑川 77

 

 

『うぉぉぉぉーーーっ!!! スゲーダンクだ!!!』

 

ブロックを吹き飛ばすそのパワーに観客が沸き上がった。

 

「すっげーパワー…」

 

室井から発せられたパワーに言葉を失う竜崎。

 

「(…っ、あの11番のパワーは…!)」

 

表情には出さなかったが、室井のパワーに一ノ瀬も動揺していた。

 

「残った力振り絞れ! 絶対に死守するで!」

 

『おう!!!』

 

天野の檄に選手達が応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

残り時間、後1分。花月が再度逆転に成功した。

 

「ディーフェンス!!! ディーフェンス!!!」

 

花月ベンチからも声を張り上げながら声援が贈られる。

 

「…くそっ!」

 

「打たせないよ」

 

右45度付近のスリーポイントラインの外側でボールを掴むも生嶋のディフェンスでスリーが打てず、苦悶の声を上げる桶川。

 

「こっちだ!」

 

「頼む!」

 

ローポストの城嶋の声に反応し、そこへパスを出す。

 

「止める。絶対に止める!」

 

「っ!?」

 

ぶつかってもびくともしない室井。フロントターンで反転して裏に抜けようとするも室井がそれを許さなかった。

 

「くれ!」

 

その時、井上がボールを要求。すかさず城嶋は井上にパスを出した。

 

「決めさせへんで!」

 

「…っ」

 

目の前に現れたのは天野。鉄壁のディフェンスで井上を抑え込む。

 

 

――分かってねえよ、お前。自分がどんだけ化け物か。いるわけねえだろ。お前とやれる奴なんて。…嫌味かよ。

 

 

かつて、自身がライバル視していた存在にかけた言葉。

 

自分のちっぽけなプライドを守る為にかけた心無い言葉。中学1年時に互角の勝負を繰り広げたライバル。次こそは練習に練習を重ね、迎えた2年時の全中大会。しかし、差はもはや覆しようがない程広がっていた。

 

半端に才能を持っていただけに思い知る自分の限界と相手との差。自分の努力、才能を嘲笑われたように感じ、咄嗟に出てしまった言葉。自分はライバルではなく、ただの転がっていた石にしか過ぎなかったと知った中学2年の夏。

 

その大会を境に井上はバスケ部を辞めた。バスケに対して熱が冷めてしまったからだ。その大会から1年が経った翌年の全中大会。何気なく見た帝光中のかつてのライバルの姿を見て井上は愕然とした。

 

『何だよ…、これ…』

 

かつては楽しそうに目の前に相手に向かって行くかつてのライバルの姿はそこになく、心底つまらなそうに試合をするその姿に、井上は言葉を失った。

 

『俺の……せいなのか…』

 

ライバルの変わってしまった姿に井上は自分を責めた。高校に進学し、再びその姿を見ても何も変わっていなかった。

 

だが、自分に何が出来るか。何も出来ない。再びバスケを始めて彼の目の前に立った所で何も出来ない。…だが、彼を変えてしまった罪悪感に常に苛まれていた。

 

そんな時、たまたまストリートバスケコートでたまたま落ちていたボールでシュートやドリブルをしていた姿を見た荻原に声を掛けられ、共にバスケへと誘われた。当初はそれを断ったいたが…。

 

『燻ってものがあるんだろ? だったらやろうぜ! 遅すぎる事なんてないんだからさ』

 

自分の胸の内にある気持ちを見透かされた井上は再びバスケを始めた。

 

「(もう1度、あいつの前に立つんだ。無駄でもいい。自己満足でもいい! 青峰の前に!!!)」

 

強引に天野を抜きさろうとする井上。だが…。

 

「絶対に通さへん!」

 

天野の鉄壁のディフェンスがそれを許さない。

 

「…くっ!」

 

「こっちだ!」

 

道を阻まれ、苦悶の表情を浮かべていると、荻原がボールを要求した。

 

「頼む!」

 

すかさず井上は荻原にボールを渡した。

 

「止める!」

 

ボールを持った荻原に立ちはだかるのは松永。

 

「(勝つんだ。勝って全国に行って、今度こそ黒子と…!)」

 

中学時代に対戦を熱望し、運命の悪戯か、結局叶う事がなかった2人の約束。1度は心を折られ、バスケを辞めたが、それでも捨てる事が出来ず、かつて戦う約束をした親友の姿を見て、改めて再選の約束を交わした。

 

親の転勤等が重なり、約束を果たす事が出来なかったが、高校3年の最後の大会で、そのチャンスはやってきた。

 

「(今度こそ、約束を守る為にも、この試合に勝って全国に行くんだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何とか切り込もうとする荻原。

 

「行かせん!」

 

しかし、松永がそれを許さない。

 

「…くっ!?」

 

半端な位置でボールを止めてしまった荻原。このままではゾーンディフェンスの餌食になってしまう。

 

「荻原!!!」

 

その時、一ノ瀬の声が荻原の耳に入り、すかさずパスを出した。

 

「(3年間、待ちに待ったチャンスがようやく来たんだ…)」

 

かつてのチームメイトの暴走を止める為、高校でもバスケを志した一ノ瀬。帝光中を出て緑川にやってくるも、自身の左目が原因で試合出場から遠ざかり、出番が来る事がなかった3年間。

 

「(やっと巡った最初で最後のチャンスなんだ! 勝って、もう1度、あいつらと――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

目の前の竜崎をクロスオーバーで抜きさる。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

その直後に現れた生嶋と松永を左右に切り返し、出来た隙間を一気に駆け抜けた。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

同時にボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「させへんわ!!!」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、天野によってボールは叩き落された。

 

「ルーズボール、絶対に拾え!」

 

決死の表情で一ノ瀬が声を出す。

 

「おらぁっ!!!」

 

零れたボールを荻原が何とか抑える。と、同時に振り返り、身体をリングの方へと向けた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

その時、試合終了のブザーが会場に鳴り響いた。

 

静岡県の、たった1つの全国への切符をかけた激闘が、今、終わったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





非情に長くなり、2つに分けようとも考えたんですが、先に話を進めたかったので一挙に決着まで行きました。

我ながらあっさりとした決着で、しかも、各キャラの掘り下げがあまり出来ず、申し訳ありませんでした…m(_ _)m

…さて、話は遂に次のステージに向かうのですが、差し当たって悩んでいるのが、空と大地のアメリカでの話をどうするか、です。一応、構想はあるんですが、結構長くなりそうで、下手すると、それだけで今年の夏が終わりそうなんですよね…(;^ω^)

とは言え、ある程度書かないと繋がらないので、長過ぎずあっさりし過ぎないように出来たらと思います。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第159Q~清算~


投稿します!

だいぶ気温が上がってきましたね…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了

 

 

花月 78

緑川 77

 

 

たった1つの全国への切符をかけた激闘が終わった。

 

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

両拳を突き上げながら喜びの咆哮を上げる天野。

 

「やった…!」

 

静かに拳を握り、喜びを露にする生嶋。

 

「よし!」

 

同じくガッツポーズで喜ぶ松永。

 

「勝った!」

 

満面の笑みで喜ぶ竜崎。

 

「…っ」

 

喜びを噛みしめ、静かに拳を握る室井。

 

「よっしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

ベンチでは菅野が立ち上がりながら喜びの雄叫びを上げ、コート上の選手達に向かって走り出した。

 

「……グス! …ヒグッ!」

 

帆足はベンチに座りながら涙を流していた。

 

「きゃぁぁぁっ! 姫ちゃん! 勝ったよ! また全国に行けるよ!」

 

「…うん! おめでとう、みんな…!」

 

涙を流しながら姫川に抱き着く相川。姫川は涙を拭いながら笑顔を向けたのだった。

 

 

「……届かなかった」

 

下を向き、敗北の事実を痛感している城嶋。

 

「あぁ! …あぁ!」

 

両膝を床に付け、叩きながら悔し涙を流す桶川。

 

「……くそっ」

 

チームを勝たせる事が出来なかった不甲斐なさに憤る井上。

 

「……また、約束…守れなかった…!」

 

両拳を握り、必死に涙を堪える荻原。

 

「…」

 

両目を瞑り、天を仰ぐ一ノ瀬。その表情は無念そうであった。

 

「……整列だ」

 

敗北の悔しさに打ちひしがれているチームメイトに一ノ瀬が何とか喉から声を振り絞って指示を出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『78対77で、花月高校の勝ち。礼!』

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内に集まった両校の選手達が審判の号令に合わせ、頭を下げた。

 

「強いな、お前達は」

 

「次やったら勝てる気せーへんわ」

 

「…勝てよ。俺達の分まで」

 

天野と井上が握手を交わした。

 

「ったく、お前のスリーはスゲーな」

 

「僕にはこれしかないからね」

 

「負けんじゃねえぞ。絶対優勝しろよな」

 

生嶋と桶川が握手を交わす。

 

「さすが、全国経験者は伊達じゃないな」

 

「これでもまだ足りないくらいです」

 

「…俺達に勝ったんだ。みっともない負け方すんなよ」

 

松永と荻原が握手を交わした。

 

「とんでもないパワーだな」

 

「自分にはそれしかありませんから」

 

「お前はもっと凄い選手になれる。頑張れよ」

 

室井と城嶋が握手を交わした。

 

「…強くなったな」

 

「先輩のおかげですよ。先輩がいなかったら、今の俺はきっとありませんでした」

 

「そう言ってもらえると、お前を指導した甲斐があった」

 

「やっぱり先輩は凄いです。まだまだ今の俺じゃ全然敵わないくらいに。今日まで、ありがとうございました!」

 

竜崎と一ノ瀬が握手を交わした。

 

各々が言葉を交わし終えると、選手達はベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…最後は花月が逃げ切ったッスか」

 

「あぁ。今日の花月であれば、10回戦えば9回は緑川が勝つだろう。…いや、今後、何度戦おうと、緑川が勝つ」

 

残念そうにつぶやく黄瀬。赤司が続くように言う。

 

「…一ノ瀬っちが全国で活躍する姿、見たかったッスね」

 

「あぁ。…この世界に神がいるなら、あまりに残酷だ。左目のハンデさえなければ、俺達と同じステージで同じ評価を得ていた逸材であったのに…」

 

一ノ瀬の資質を認める赤司と黄瀬。その雄姿と姿をその目に焼き付け、その場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わってアメリカ…。

 

「大地ぃぃぃっ!!!」

 

大きな声が響き渡ると、大きな音を立てながらドアが開かれた。

 

「勝った! 勝ったぜ!!!」

 

現れた空が携帯の画面を見せながら大地に報告する。

 

「時間を考えて下さい空。皆寝ているんですよ?」

 

呆れながら空を窘める空。

 

「私も存じておりますよ」

 

そう言って、大地も携帯の画面を見せた。

 

『無事、優勝。12月に待ってる』

 

2人の画面にそう表示されていた。

 

「ま、勝ってもらわないと困るんだけど。とにかく、これで全国であいつらにリベンジ出来る」

 

「えぇ。私達の我が儘を許していただいただけではなく、我々抜きで県大会を勝ち抜いてもらった皆さんには感謝しかありません」

 

キセキの世代に勝つ為、アメリカの姉妹校に短期留学した2人。ネット情報で緑川の存在を知った大地が一時帰国する事を空に提案したが…。

 

『…いや、監督が俺達を呼び戻さないって事は、勝算があるって事だろ。なら、俺達は皆を信じて俺達は今出来る事をやろうぜ』

 

首を振りながら空はそう言った。

 

「帰国までもうそんなに時間がない。最後の追い込みだ。もっと強くなってみんなの期待に応えられるようにならないとな」

 

「そうですね」

 

不敵な笑みで言う空に、大地は笑顔で頷いた。

 

「そうと決まれば、明日…て言うか、今日の練習に備えてもう一休みと行きますか」

 

「寝坊しても起こしに行きませんからね」

 

「しねーよ」

 

そう返し、空は部屋を後にしていった。

 

「…ふぅ。さて…」

 

空が部屋からいなくなると、大地はベッドに横になり、布団を被る。

 

「……果たして寝られるか。空の事、言えなくなるかもしれませんね」

 

苦笑する大地。未だ花月がウィンターカップ出場を決めた興奮が冷めない大地。迫るキセキの世代との対決を夢見ながら、大地は両目を閉じたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――ピリリリリリ…!!!

 

 

場所は変わって東京の某所。

 

「っ!?」

 

誠凛の黒子テツヤの携帯電話が鳴った。着信の相手は荻原シゲヒロ。

 

「…もしもし」

 

すぐさま電話に出る黒子。時間的に試合はもう終わっている時間。

 

『……黒子』

 

「……荻原、君?」

 

期待を胸に電話を取った黒子だったが、自身の名を呼ぶ荻原の声を聞いて嫌な予感がする。かつての中学2年時の全中大会の折の彼の電話を彷彿させるものであったからだ。

 

「…試合、どうでした?」

 

よぎった嫌な予感が外れている事を祈り、本命の内容を尋ねる。

 

『……悪い、また約束、守れなかった…』

 

「…っ!?」

 

1番聞きたくない、親友からの言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

誠凛高校の体育館では迫るウィンターカップに向けて練習が行われていた。

 

「…あっ」

 

スリーメンの練習中、黒子がパスを取り損ね、ファンブルする。

 

「黒子君! 集中が足りないわよ! また最初からやり直し!」

 

「うへー…」

 

苦い表情をしながら池永が元の位置に戻っていく。

 

「すみません…」

 

頭を下げながら元の位置まで向かう黒子。

 

「…」

 

その表情は何処か浮かない表情をしていた。

 

「今日の黒子はミスが多いな」

 

その様子を見ていた降旗が呟く。

 

「3ON3でもかなりパスミスがあったしな」

 

続くように福田が今日の黒子を思い出す。

 

「…やっぱり、黒子の友達がいるチームが負けたから、だよな」

 

その原因を河原が口にする。

 

思い当たる節は先日行われたウィンターカップ静岡県予選の決勝、花月対緑川の試合結果。黒子の友達、荻原シゲヒロがいる緑川高校が花月高校に負けた報せを荻原自身から直接聞いた事であった。

 

「確か、いつか試合をするって約束してたんだよな?」

 

「あぁ。中学時代は結局いろいろあって実現出来なかったって前に黒子が話してくれたっけ」

 

「高校に入っても実現出来なくて、今回が最後のチャンスだったんだから、そりゃ落ち込むよな」

 

気持ちを理解する3人は黒子に同情の視線を向けた。

 

「…監督」

 

「えぇ、分かってるわ」

 

リコに話しかける火神。その内容を察したリコは静かに頷いた。

 

黒子はメンタルの良し悪しがプレーに顕著に表れる傾向にある。目の前のウィンターカップで勝ち抜き、優勝を果たす為には黒子の力は必須。大会が始まる前に立ち直ってほしいと言うのがリコの本音であり、皆の真意でもあった。

 

「…」

 

遠目から黒子を見つめるリコ。

 

「……よし!」

 

何かを決めたリコは大きく頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「練習試合?」

 

「そう、突然だけど、今日は練習試合を組んだから、そのつもりでね」

 

その週の日曜日の朝。リコから選手達に通達される。

 

「突然過ぎるぜ監督さんよぉ。こっちにだって準備ってもんがあるんだぜ?」

 

「お前はそんなデリケートな性格してないだろ」

 

ジト目で抗議する池永に、新海が溜息を吐きながらツッコむ。

 

「相手は?」

 

「それは秘密♪ ただ、ウィンターカップを想定しての試合だから当然、強いわよ。そこは肝に銘じておきなさい」

 

対戦相手を火神が尋ねると、リコはいたずらっ子の表情でそう返した。

 

「監督が言うくらいだから強いんだろうな。正邦とか泉真館とかかな?」

 

対戦相手に予想し合う誠凛の選手達。

 

「…」

 

相手が何処か誠凛の選手達が盛り上がる中、黒子は1人、浮かない顔をしていた。

 

『チュース!!!』

 

その時、体育館の入り口から新たな来客の声が響き渡った。

 

「来たわね!」

 

お待ちかねの者達が現れ、笑みを浮かべるリコ。

 

「…えっ!?」

 

その現れた練習試合の対戦相手を見て黒子は動揺を隠せなかった。

 

「よう! 黒子!」

 

「荻…原…君?」

 

対戦校の先頭に立った1人の男が黒子の名を大きな声で呼んだ。

 

続けて、一ノ瀬、桶川、城嶋、井上の4人が現れた。

 

「おめーら!? …監督、今日の練習試合の相手って…!」

 

「そう! 緑川高校よ!」

 

驚愕の表情で火神がリコに尋ねると、リコは不敵な笑みで答えた。

 

「ハハハッ! 久しぶりだな黒子!」

 

駆け寄った荻原が黒子の肩に腕を回した。

 

「荻原君! …どうして?」

 

「誠凛の監督から練習試合の申し込みあってな。それでここまで足を運んだんだよ」

 

状況が掴めない黒子が尋ねると、荻原が大まかな経緯を説明した。

 

「今日はわざわざこんな遠くまで来てくれてありがとう」

 

「いえ、こっちとしても不完全燃焼でく燻っていた所だったのでむしろありがたい申し出でした」

 

兼任監督である一ノ瀬にリコが挨拶をした。

 

インターハイの優勝により、ウィンターカップ東京都予選が免除の誠凛。リコはそれによる実戦経験不足を補う為、当初より本大会前に試合を組む事は決めていた。黒子の様子を鑑みて対戦相手をダメ元で緑川高校に練習試合を申し込んだ所、相手側が二つ返事で了承したのだった。

 

「それじゃ、緑川高校の人達の着替えが終わったら一緒にウォーミングアップをしてから試合をするわよ! 火神君、緑川高校の方達を控室に案内してあげて」

 

「うす! それじゃ、緑川高校の皆は俺に付いてきて下さい」

 

頼まれた火神が緑川高校の選手達を案内する。

 

「それじゃ、また後でな」

 

「はい!」

 

黒子と話していた荻原も会話を打ち切って着替えへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

着替えが終わり、ウォーミングアップを終えると、早速練習試合が開始される。両校のスタメンがセンターサークル内に集まった。

 

 

誠凛高校スターティングメンバー

 

 

4番PF:火神大我  194㎝

 

8番 ?:黒子テツヤ 169㎝

 

9番PG:新海輝靖  183㎝

 

11番SF:池永良雄  193㎝

 

12番 C:田仲潤   192㎝

 

 

緑川高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:一ノ瀬京志郎 185㎝

 

5番SG:桶川文吾   179㎝

 

6番 C:城嶋則之   190㎝

 

14番SF:荻原シゲヒロ 183㎝

 

15番PF:井上智也   192㎝

 

 

「言っておくが、お前達に花を持たせるつもりはないからな。こっちは負けたモヤモヤをぶつけるつもりだからな。負けて調子狂っても恨むなよ」

 

「ハッ! 上等だぜ!」

 

一ノ瀬がそう告げると、火神が不敵な笑みで返した。

 

「真剣勝負だぜ黒子!」

 

「はい。負けませんよ」

 

互いに挨拶を交わすと、試合は開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

ボールをキープしているのは新海。

 

「どうした新海! この程度か?」

 

「…くっ!」

 

その新海をマークしているのは一ノ瀬。

 

「(全く隙がない。かなりやる事は分かっていたが、これほどとは…!)」

 

かつては同じ帝光中でプレーをしていた2人。新海にとって一ノ瀬の評価は1つ上の代の2番手のポイントガードと言う認識であった。今の自分であれば互角以上に戦えると思っていたが、実際は新海がかなり押されていた。

 

「これじゃ元帝光中の主将の名が泣くぞ。お前の後輩の竜崎の方がまだ歯ごたえがあったぜ」

 

「…っ!? 舐めるな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

不敵な笑みを浮かべながら挑発をする一ノ瀬。これに怒りを覚えた新海が一気に加速。カットインした。

 

「(抜いた! このまま――)」

 

「やべー!? 止まれ新海!」

 

何かに気付いた池永が大声で制止を促した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

カットインした直後、新海の手からボールが消えた。

 

「隙だらけだ!」

 

抜いた直後の無防備な所を井上が狙いすました。

 

「頭に血を昇らせて冷静さを欠いちゃ司令塔失格だぜ。…速攻!」

 

緑川のターンオーバー。ボールを奪った一ノ瀬がそのまま速攻に走った。

 

「バカ野郎が!」

 

「くそっ!」

 

罵声を浴びせる池永。新海は悔しさを滲ませながらディフェンスに戻った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

フロントコートに入り、スリーポイントライン目前の所で一ノ瀬がキープするボールが叩かれた。

 

「すいませんが、ここは行かせません」

 

謝りながら黒子がボールを叩いた。

 

「(読んでいたのか? ホントにこいつは…!)」

 

これでも百戦錬磨の黒子。リスクを悟って前もってディフェンスに戻っていたのだ。

 

「目の前で見るとホントにスゲーな。気が付いたらどっか行っちまうんだもんな…」

 

黒子をマークする荻原。神出鬼没でいつの間にか姿を消し、あらぬ所に現れる黒子を見て感心をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ふぅ、一筋縄では行かねえな」

 

汗を拭いながらぼやく火神

 

第2Qが終わり、ハーフタイムに突入。両チームはベンチに戻り、水分補給をしながら休憩中。前半戦を終えた現時点でのスコアは42対37で誠凛がリードしている。

 

「スタメンの5人全員が粒揃いの実力者です。恐らく、そこらの全国出場チームより手強い」

 

前半戦を戦い終えた感想を田仲が口にした。

 

「…その中でも一ノ瀬先輩だ。あの人が巧みにゲームメイクをしているから他の4人が生きる。同時に一ノ瀬先輩自身が生きてくる」

 

自分がマッチアップをしている一ノ瀬を新海が評価した。

 

「彼は間違いなく全国区…それも、トップクラスのポイントガードよ」

 

リコもお墨付きを出した。

 

「…花月は神城と綾瀬抜きでよくあのチームに勝ったな」

 

ベンチから見ていた朝日奈も緑川の強さを痛感。改めて先の花月の快挙を称えた。

 

「泣き言言わないの! 大会前に負けでもしたら明日からの練習、いつもの4倍行くからね!」

 

気落ちしかける誠凛の選手達にリコが活を入れた。

 

「とりあえず、黒子君交代ね」

 

「…えっ?」

 

選手交代を告げるリコ。指名を受けた黒子は目を丸くする。

 

「これは大会前の調整も兼ねてるんだからいろいろ試すのは当然でしょ? それに、どのみち黒子君のミスディレクションは切れかけてるんだからこれ以上はコートには置けないわ」

 

「……分かりました」

 

ぐうの音も出ない理由を聞き、黒子は肩を落としながら了承した。

 

「そんな顔しないの。また後で出番はあるから。…それじゃ、朝日奈君、お願いね」

 

「はい」

 

代わりに指名を受けた朝日奈が返事をし、準備を始めたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さすが、インターハイ優勝校だ」

 

対して緑川ベンチ。城嶋が感想を口にした。

 

「こっちは全力でやってんのにそれでも5点ビハインドか。いやー強いね」

 

続けて桶川が誠凛を評価した。

 

「群を抜いているのは火神だ。正直、追いすがるだけで精一杯だった」

 

火神をマークしている井上が弱音を吐く。

 

「黒子もスゲーぜ! 気が付いたら目の前から消えていつの間にかパスが通ってるんだぜ。とんでもねえよ!」

 

興奮しながら黒子を評価する荻原。

 

「敵に回すと黒子は本当に厄介だ。…まぁ、そろそろ一旦下げてくるだろうけどな」

 

「…そっか、残念」

 

一ノ瀬の予想を聞いて荻原が残念がる。

 

「…とは言え、俺達インターハイ優勝校ともやれてるぜ。3年間は無駄じゃなかったんだよ。このまま逆転して有終の美を飾ろうぜ!」

 

「簡単に言いやがって。…だが、同感だ」

 

勝利を目指す桶川に嘆息しながらも同意する城嶋。

 

「この試合が俺達の高校の最後の試合だ。悔いの残らない試合にするぞ!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は後半戦に突入。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

黒子がベンチに下がった事で神出鬼没のオフェンスではパスの中継、ディフェンスではスティールがなくなり、緑川は攻守共に安定し始める。

 

 

――バス!!!

 

 

対して誠凛は黒子がいなくなった事で攻守の安定感がなくなり、得意の点の取り合いを仕掛ける。

 

試合はトラジッションゲームによる激しい点の取り合いへと移行する。取られたら取り返す息を吐く暇のない試合内容。

 

「おぉっ!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

火神の豪快なダンクが炸裂する。

 

「(…っ、何だこいつの跳躍力は!? 飛ばれたらもう止めようがねえ!)」

 

その圧倒的な跳躍力を誇る火神に驚きを隠せない井上。

 

点の取り合いとなると、火神のいる誠凛が優位に試合が進む。

 

「オラオラ! 俺を忘れんなよ!」

 

「…決める」

 

「はぁっ!」

 

池永、朝日奈、田仲も奮闘、攻守に渡って活躍。

 

「…」

 

司令塔である新海も一ノ瀬を相手にしながら巧みにゲームを組み立てた。

 

前半戦…それこそ、第3Qまでは何とか均衡を保っていた試合。しかし、第4Qに入ると地力の差が出始める。

 

 

――パン!!!

 

 

終盤戦になると黒子を再度投入。その勢いは止まる事がなかった。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ブザーが鳴り、試合は終了した。

 

 

試合終了

 

 

誠凛 106

緑川  93

 

 

「…ふぅ。さすが、強いな」

 

「おめーらも強かったぜ」

 

試合が終わり、主将である火神と一ノ瀬が握手を交わした。それに続くように互いに健闘し合った選手達が握手を交わしていく。

 

「いやー負けた負けた! …でも、楽しかったぜ!」

 

「僕も楽しかったです。今日はありがとうございました」

 

黒子と荻原が握手を交わした。

 

「思い残す事はなくなった。これで心置きなく引退出来る」

 

「…っ、そう…ですか」

 

ウィンターカップ本選を控える黒子達と違い、県大会決勝で負けた緑川の3年生にはこの先、公式戦はない。その事実を認識し、黒子は悲し気な表情をする。

 

「そんな顔すんなって。バスケはこれからも続けるからさ。今度こそ、ちゃんとした試合で勝負しようぜ」

 

「…はい! 楽しみに待ってます!」

 

こうして、誠凛と緑川の練習試合は終わったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「いやー、強かったな誠凛!」

 

「そうだな。インターハイ優勝の実績は伊達じゃないな」

 

帰り道、桶川と城嶋が駅に向かいながら試合の感想を言い合っていた。

 

「…」

 

試合の感想に盛り上がる中、井上だけが何か思い詰めながら歩いていた。

 

「……悪い、野暮用を思い出した。皆は先に帰っていてくれ」

 

そう告げると、井上は1人何処かへと走っていった。

 

「おい井上! 何処行くんだよ!」

 

そんな井上を制止しようとする桶川。

 

「行かせてやれ。あいつにも清算しなきゃならない事があるんだよ」

 

一ノ瀬が走っていく井上を見守りながら桶川を制止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…ふわぁ」

 

場所は変わり、練習を終えた青峰が1人帰路に着いていた。

 

「青峰」

 

「…あん? …っ!?」

 

誰かに名を呼ばれて振り返る青峰。そこに立っていた意外な人物に目を見開いた。

 

「久しぶりだな」

 

「……井上」

 

驚いた青峰は絞り出すようにその者の名を呼んだ。

 

「…」

 

「…」

 

無言で見つめ合う2人。

 

「……すまなかった」

 

先に沈黙を破ったのは井上だった。井上が頭を下げながら青峰に謝った。

 

「…何のつもりだ?」

 

「いつか謝らないと行けないと思っていた。…全中大会での事を」

 

かつて試合で戦った全中大会。ライバル対決と目されていた戦いは才能を覚醒させた青峰に全く歯が立たなかった。その悔しさから来る憤りから井上は青峰に心無い言葉をかけてしまった。

 

「自分の力のなさを棚に上げて、あんな言葉をぶつけちまって。今更遅いかもしれないけど、すまなかった!」

 

そう言って、再度井上は頭を下げた。

 

「……今更なんだよ」

 

そう返した青峰は頭を下げる井上の横を抜けて歩いて行った。

 

「…っ」

 

頭を下げたまま井上は歯をきつく食い縛る。当然の対応だ。あれから4年以上も過ぎているのだ。青峰からすれば今更頭を下げられても迷惑以外の何物でもない。

 

「…なあ」

 

横を通り過ぎた青峰が井上に声を掛ける。

 

「時間あんなら、1ON1、やらねえか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

近くのバスケのリングのある公園に移動した2人。5本先取の1ON1を始めた。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

対決は終始青峰が圧倒。才能を開花させ、そこからさらに伸ばした青峰に井上は手も足も出なかった。

 

「これで4本目だ。もう勝負は決まったようなもんだ。…止めるか?」

 

対して井上は全て青峰に止められて0本。2人の勝負は事実上決まったようなもの。

 

「ああ、やっぱり強いなお前は」

 

そんな青峰に自嘲気味に返す井上。

 

「…だが、まだ勝負は終わってねえ。例えどんだけ力の差があろうと、途中で投げ出すのはダサい事だろ」

 

不敵な笑みを浮かべながら続ける井上。

 

「…っ! そうかよ」

 

そう返し、井上の最後のオフェンスが始まる。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

だがやはり、井上は青峰を抜けず、ブロックされてしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

続いて最後の青峰のオフェンスは青峰がきっちり決め、2人の1ON1は青峰の圧勝で終わった。

 

「…ふぅ。ありがとな青峰」

 

勝負を終え、井上が青峰に礼を言う。

 

「…別に、暇だったから誘っただけだ」

 

そんな井上に対し、鼻を鳴らしながら返す青峰。

 

「そんじゃ、俺は帰るぜ」

 

荷物を持ってその場を後にしようとする青峰。

 

「(ありがとう、青峰。これで思い残す事はない。これで心置きなくバスケを――)」

 

「次は、また試合でやろうぜ」

 

青峰はそう井上に告げ、歩いていった。

 

「…次、か。…そうだな。いつかまた、コートの上で、今度は勝ってやるからな!」

 

バスケへの思い残しを解消した井上。これでバスケを辞めるつもりだったが、青峰のこの言葉に井上は再びバスケを、これからもバスケを続ける事を決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

12月の上旬…。

 

季節はすっかりと冬。白い息が口から吐き出る中、迫るウィンターカップに向けて練習を重ねる花月の選手達。

 

「ただいま帰ったぜ!」

 

「こんにちは」

 

そこへ、見知った大きなが声が体育館に響き渡った。

 

「空坊、綾瀬! ようやっと帰って来よったか!」

 

その声に気付いた天野が練習を中断して2人の下へと駆け寄った。

 

「お帰りなさいくー!」

 

「待ちかねたぞ」

 

続くように花月の部員達が2人の下に駆け寄っていった。

 

「何や手土産はなしかい?」

 

「後で皆に配りますよ。…それよりも、そっちは大変だったみたいですね」

 

「それはそうだよ。ホントにギリギリだったよ」

 

県大会での激闘を2人に話していく。

 

「ようやっと主役が揃ったのう。後はウィンターカップを――」

 

「――待ってください」

 

盛り上がる中、竜崎が制止を促した。

 

「俺は2人がウィンターカップに出場する事は反対です」

 

『っ!?』

 

そんな竜崎の口から飛び出た言葉に周囲の部員達は驚愕した。

 

「お前、何言うてんねん!?」

 

「普通に考えて、チームの主将とエースが大会に出ないで独自にトレーニングってあり得ないでしょう」

 

「けどそれは、ウィンターカップで勝ち抜く為に…」

 

「でも、それで県大会で敗退したら意味ありませんよね? 現に、決勝はギリギリでした。次やったら間違いなく勝てません。勝ったのがある意味奇跡な内容だったじゃないですか」

 

空と大地をフォローしようとする生嶋だが、竜崎はそれを一蹴する。

 

「県大会は俺達が力を合わせてそれこそ死に物狂いで勝ち取ったものです。それをその間トレーニングに勤しんで、戻ってきて大会に参加とか虫が良すぎとは思いませんか?」

 

「「…」」

 

その言葉に空と大地は返す言葉がなかった。

 

「おいおい、気持ちは理解出来るけどよ、この2人抜きで大会は勝ち抜けねえんだからよ」

 

「そうだよ。俺は特に気にしないからな」

 

菅野と帆足も何とか2人の肩を持とうとする。

 

「県大会を勝ち抜けたのは2人の力あっての事です。キャプテンと綾瀬先輩が大会に参加すれば出番がなくなるんですよ? 菅野先輩は出場機会は限りなくなくなりますよ。最後の大会を自身の勝手な都合で出なかった2人の為に出番を譲って納得出来るんですか?」

 

「「…」」

 

竜崎のもっともな意見に言葉を失う2人。

 

「ならば、お前はウィンターカップには2人は参加させるべきではない。…と言う事で良いのか?」

 

これまで沈黙を保っていた上杉が口を挟んだ。

 

「…ウィンターカップは2人抜きで勝ち抜ける程甘くない事も分かっています。だから、2人にも俺達が潜り抜けて来た修羅場と同じだけのものを潜ってもらいましょう」

 

「どういう事だ?」

 

真意が理解出来ない松永が尋ねる。

 

「確か、今日は花月の付属中学のバスケ部と合同練習でしたよね? 最後の紅白戦で2人には中学生チームを率いてもらって、俺達高校生チームに勝ったら参加を認めます」

 

『っ!?』

 

その提案を聞いて周囲の者達は目を見開く。

 

「…それは少し無茶とちゃうんか?」

 

天野が口を挟む。

 

花月付属中学は静岡県でもその実力は甘めに見積もってもどうにか中堅レベル。如何に空と大地がいても厳しいと判断した。

 

「それくらいやってもらわないと。俺達はそれ以上の修羅場を潜ったんですから」

 

尚をも提案を引っ込めない竜崎。

 

「どうします? この提案突っぱねて主将権限行使して無理やり大会に参加しますか? もっとも、俺の知るキセキの世代なら二つ返事で引き受けるだろうし、このくらい修羅場なら突破するでしょうけどね」

 

挑発するように竜崎が続けた。

 

「もちろん、受けるぜ」

 

空はその提案を笑顔で引き受けた。

 

「竜崎さんの言う事はもっともです。チームから離れていた我々がすんなり大会に参加するのは虫の良い話。あなたの言う修羅場、潜ってみせましょう」

 

続いて大地もこの提案を受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

こうして、しばらくして中学生達がやってきて、合同練習が始まった。そして練習の最後、予定通り紅白戦が開始される。

 

『…』

 

コート上には高校生チームと中学生チームが集まる。高校生チームは県大会の折のスターティングメンバーで、中学生チームはポイントガードとスモールフォワード以外は中学生のメンバー。

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「一緒に試合が出来て、光栄です!」

 

緊張気味に空と大地に声を掛ける中学生達。

 

「ハッハッハッ! そう固くなるな。一緒に頑張ろうぜ」

 

「リラックスして、いつも通り試合に臨んで下さい」

 

空は笑いながら、大地は優しく声を掛けた。

 

『…』

 

高校生チームは表情が硬い。

 

試合は各8分の前後半制。中学生に合わせたルール。

 

『言っておくが、手加減はするな。明らかな手加減が見て取れたら例え中学生チームが勝っても参加は認めさせん』

 

試合は前に上杉から高校生チームに告げられた言葉。

 

「(こうなったらやるしかあらへん!)」

 

「(本気で勝ちに行く。だから…!)」

 

「(勝ってよ、くー、ダイ!)」

 

胸中で天野、松永、生嶋が願う。

 

「これより、高校生チームと中学生チームの紅白戦を始める」

 

中学生チームの顧問が審判となり、運命の紅白戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

紅白戦終了のブザーが鳴り響く。

 

「…うん、何とか行けるな」

 

「どれだけ修正出来るかにかかってますね」

 

コート上で会話をする空と大地。

 

「ハァ…ハァ…、嘘やろ?」

 

肩で息をしながら驚愕する天野。

 

『…っ』

 

他の者達も同様であった。

 

 

紅白戦終了

 

 

高校生チーム 24

中学生チーム 38

 

 

紅白戦は、中学生チームの勝利で終わった。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

両膝に手を置きながら呼吸を整えている竜崎。

 

「……ハハッ! さすがですよキャプテン、綾瀬先輩」

 

顔を上げた竜崎は思わず笑い出した。

 

「お帰りなさい。活躍、期待してますよ」

 

そう2人に言葉を贈ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

激闘の県大会が終わり、主力である空と大地がチームへと合流した。

 

竜崎の反発で2人の参加をかけて行われた紅白戦が始まり、無事、空と大地は勝利した。

 

かくして選手全員が揃った花月高校。目の前のウィンターカップに向けて、最後の追い込みが始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





大会前の緑川や花月のイベントを一挙に終わらせました。ここからウィンターカップが始まるんですが、その前に空と大地のアメリカでのエピソードですよね…(;^ω^)

構想通りの事をやると地味に長くなるんですが、いろいろ空白だったり知識不足のものがあるので、投稿は少し遅れるかもしれません…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


キャラ紹介に緑川高校の選手を追加しました。


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第160Q~アメリカでの出来事 side大地~


投稿します!

ウィンターカップ前に空と大地のアメリカでの出来事の一部をやっておきます。

それではどうぞ!



 

 

 

「今でも信じられへんわ。まさか、中学生チームに負けてまうとはのう」

 

その日の練習が終了し、自主練とその後の片付けが終わり、その帰り道。空と大地を囲んで部員達は帰路に着いていた。

 

「アメリカではどんなトレーニングしたんですか!?」

 

興奮気味に2人に尋ねる竜崎。先程、2人のウィンターカップ参加に異議を唱えた事などなかったかのように尋ねた。

 

「…まあ、いろいろ事やったけど、結構きつかったよな?」

 

「…確かに、質も量も桁違いでしたね」

 

げんなりしながら尋ねる空。同様の表情で大地が答えた。

 

「…お前達がそこまで言う程の事をやったのか」

 

全国随一の練習量を誇る花月の練習。その練習を平然とこなし、自主練もこなす2人を花月に入学してから目の当たりにしていた松永は驚いていた。

 

「斬新なものだったり、変わった練習だったり、いい経験になったよ。向こうにいた時は成長があまり実感出来なかったけど」

 

懐かしみながら空が語る。

 

「向こうで何か面白かった話とか教えてよ」

 

生嶋が尋ねる。

 

「そうだなー」

 

「そうですね…」

 

つい最近まで暮らしていたアメリカでの思い出を辿る空と大地。

 

「私が記憶に残っているはあれですかね」

 

大地がその時の事を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それはアメリカにやってきて1ヶ月程経過した時の事…。

 

「せっかくの休みの日にスマンな」

 

「気になさらない下さい」

 

大地はとある体育施設で用具の手入れをしていた。普段はコーチであるスティーブの指導を受けているのだがこの日は休み。

 

『休む事も立派なトレーニングだ。良く動いた後は良く休め』

 

そうスティーブに告げられていた。空は不服そうだったが、渋々聞き入れていた。

 

「…」

 

ボールを磨く大地。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

その視線は目の前で行われている光景に釘付けであった。

 

現在、目の前ではアメリカの姉妹校である高校のバスケ部の練習が行われていた。大地はその補佐に来ていた。

 

「(凄まじいですね。テクニックは当然ながら高校の全国平均を遙かに凌駕している。身体能力はキセキの世代に匹敵…、純粋なパワーやスピードならもしかしたら…)」

 

「フフッ、アヤセ、手が止まっているぞ?」

 

「…あっ、すいません!」

 

指摘され、慌ててボール磨きに集中する大地。

 

「なかなかだろう? このチームは州でナンバーツーを誇るチームだからな」

 

横で同じようにボールの手入れをしていた用務係のスタッフ、ジャンが自慢げに語った。

 

「明日に大事な試合が控えているからな。気合いの乗りも一味違うぜ」

 

「大事な試合ですか…」

 

横でこのチームの話をするジャンの言葉に耳を傾ける大地。

 

「…」

 

その後も練習の補佐をする傍ら、チーム練習に視線を向ける大地。紅白戦が始まった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

相手ディフェンスをかわし、ジャンプショットを決める選手。

 

大事な試合を控えているだけあって紅白戦であってもチームの士気の高さが伺える。試合が徐々に激しさが増していく。その時!

 

「…あっ!?」

 

思わず大地が声を上げる。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

大地の視線の先では、1人の選手が足を抑えて蹲っていた。

 

「大丈夫だ。このくらい――くっ!」

 

駆け寄り、心配する選手達を手で制するも、1歩踏み出しただけで激痛が走るのか、顔を歪ませる。

 

「無理をするな。…おい! 誰か、肩を貸してやれ!」

 

1人の選手がそう指示を出すと、紅白戦をコートの外から見ていた選手が慌てて駆け寄り、そのまま医務室へと運んでいった。

 

「明日の試合、大丈夫なのか?」

 

「…自力で歩けない程痛めたみたいだからな。まず無理だろう」

 

「おいおい、明日の試合どうするんだよ!? あいつ抜きで戦うのか!?」

 

先程の選手がチームの主力選手であった為か、他の選手達の動揺は激しい。

 

「仕方のない事だ。今からあいつ抜きのチーム戦術を構築するしかない」

 

「簡単に言ってくれるけどよう…」

 

後々に分かる事なのだが、このチームは実力あるスタメン選手が集まっているが、控えの層が薄く、スタメン以外は選手の実力がガクッと落ちる。これが、州のチャンピオンチームになれない要因でもあった。

 

「…」

 

狼狽する選手達を無言で見守っている大地。

 

「…アヤセ。出てみるか?」

 

「…えっ?」

 

突然のジャンの言葉に申し出に思わず声を上げる大地。スタッフはニヤリを笑みを浮かべ…。

 

「へい! 選手に困っているならこいつを加えてやってくれないか!」

 

返事を待たずにジャンがコート上に集まる選手達に向かって叫んだ。

 

「…なに?」

 

『?』

 

あまりに突然の事に選手達も理解が追い付いていない。

 

「加えるって、あのジャパニーズをか?」

 

「おいおい、冗談が過ぎるぜ」

 

何をバカなと思う者から笑えない冗談だと肩を竦める者と、二分していた。

 

「…」

 

その中の1人の選手、おそらく主将と思われる選手が大地を値踏みするかのように見つめ、何かを思案…計っていた。

 

「……彼に参加資格はあるのか?」

 

「それは問題ない。彼は日本の姉妹校から留学生。うちのハイスクールに在籍している生徒だからな」

 

「分かった。…そこのジャパニーズ!」

 

確認を終えると、その選手は大地を呼ぶ。

 

「すぐに着替えてアップをしてくれ。終わり次第、紅白戦に参加してもらう」

 

「…」

 

そう指示を受け、僅かに考える素振りを見せた後…。

 

「分かりました」

 

そう返事をし、着ていたジャージを脱ぎ始めた。

 

「おいおい、気でも狂ったのかロバート? 本気であのジャパニーズを参加させるのかい?」

 

決定に納得出来ない選手がチームの主将であるロバートに問い掛ける。

 

「良いんじゃねえのか。面白そうだし」

 

「役に立たないならそれまでの話だ」

 

問い詰める選手を窘める主将の周囲にいた選手達。その選手達も大地から何かを感じ取っていた様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ジャージを脱ぎ、アップを終えた大地はビブスを受け取り、コート入りをした。

 

「お前はBチームだ。ポジションは……シューティングガードで良いか?」

 

「大丈夫です」

 

「よし、それじゃ、紅白戦を続けるぞ!」

 

ロバートが指示を出すと、再び紅白戦は開始された。

 

「……くっ!」

 

ボールを運ぶBチームのハンドラー。主力選手が中心のAチーム。実力の劣る控え選手中心のBチームでは相手にならない。

 

「こっちです!」

 

攻め手に悩むハンドラー。その時、大地がパスを要求した。

 

「(ジャパニーズに何が出来……ちっ、他にパスが出せない。せめて、ボールを取られるなよ!)」

 

大地を信用していないハンドラー。ボールのキープも他にパスの出し手もないので仕方なく大地にパスを出した。

 

「…」

 

右45度付近のスリーポイントラインの外側でボールを受け取った大地。

 

「…」

 

目の前には同ポジション選手がディフェンスに入った。

 

「(こいつを見た時、何か予感がした。その予感が正しいかどうか、確かめさせてもらうぜ)」

 

大地から何かを感じ取った目の前の選手は集中を高め、腰を落として大地を待ち構えた。

 

「(アメリカに1ヶ月。私がどれだけ成長したのか……私の力がアメリカで通用するのか、今ここで確かめます!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

覚悟を決めた大地がボールを小刻みに動かしながら牽制した後、ドライブで中に切り込んだ。

 

「(速い! だが、追い付ける!)」

 

一瞬、大地のドライブスピードに面を食らうも、即座に反応し、追いかけた。

 

「(…さあ、ここからどうする――)…なに!?」

 

次の瞬間、大地を追いかけた選手が声を上げた。振り返って大地を追いかけようとした瞬間、大地の姿を見失ったからだ。

 

「っ!?」

 

振り返ると、大地は先程ドライブで切り込む直前の位置に立っており、ディフェンスとのスペースが出来た事で悠々とジャンプシュートを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を射抜いた。

 

「何だ今のは…!」

 

一連のプレーを見ていたロバートは驚きを隠せなかった。

 

「(スピードにも驚いたが、それ以上に驚いたのはあのスピードを一瞬で殺し、同等のスピードで元の一までバックステップしたあの脚力だ…)」

 

大地が見せた驚異的な緩急の鋭さに皆言葉を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も大地の活躍は止まらず、相手チームを圧倒。得意の急ブレーキとバックステップで得点を量産した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

オフェンスだけではなく、ディフェンスでも目の前のマッチアップ相手を抑え、要所要所でブロックもこなし、貢献した。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

紅白戦は終了した。結果は惜しくも大地のいるBチームが僅差で敗れたが、元々の戦力差を考えれば大健闘と言える。

 

「ファンタスティック! まさかこれほどのジャパニーズがいるとはな!」

 

興奮気味にロバートが大地の元へ歩み寄ると、肩を叩いた。

 

「いきなりで悪いが、頼む! 力を貸してくれ!」

 

その後、頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

バスで1時間程揺られ、移動していた。着いた先は、大きな施設。今日ここで、試合が行われる。

 

「…」

 

当日に渡されたユニフォームに袖を通す大地。

 

大地は今日、留学先のバスケ部の選手として試合に参加する。今日の試合はチームにとって重要な試合らしく、負傷した選手の代わりとして試合に参加してくれるよう頼まれた。絶対に負けられない試合である事と同時に頭を下げられた大地は助力する事に決めたのだ。

 

ウォーミングアップをしていると、今日の対戦相手がやってきた。

 

「よう。相変わらず陰気な顔してんな」

 

その中の1人が大地の参加するチームのロバートに歩み寄り、ニヤニヤしながら話しかけてきた。

 

「お互い様だろ」

 

対して、特にリアクションするでもなしに返事をした。その後も相手チームの選手は挑発交じりに話しかけ、ロバートはあしらいつつも返事をしていく。

 

「…あぁ? 何だこのジャパニーズは?」

 

大地に気付いた相手選手が大地を一瞥しながら尋ねる。

 

「うちの選手さ」

 

「選手だぁ? まさか、こいつも試合に出るとは冗談は言わねえだろうな?」

 

「そのつもりだが?」

 

そう答えると、相手選手は笑い始めた。

 

「ハッハッハッ! 遂にバスケ後進国のジャパニーズに頼る程に落ちたか! 笑わせてくれるぜ!」

 

「「…」」

 

名指しで侮蔑の笑い声を上げる相手選手。大地とロバートは無言のまま。

 

「こりゃ、今日は試合になんねえかもしれないな!」

 

笑い声を上げたまま相手選手はそのまま離れていった。

 

「…随分と失礼な方ですね」

 

「あいつは相手チームのキャプテンのダニエル。奴は昔からああさ」

 

表情を変えずに静かに憤る大地。ロバートは嘆息する。

 

「…だが、実力は確かだ。何せ、州のチャンピオンチームを率いているのだからな」

 

表情を改めたロバートが大地に告げる。

 

「そのようですね」

 

「他の4人も要注意だ」

 

ダニエルの下に集まった4人の選手を指差す。

 

「気を付けろ。向こうのバスケはとにかく荒い。うちの州じゃ、バッドボーイズと呼ばれる程だからな」

 

「…」

 

大地の視線の先では、相手チームの選手達がゲラゲラと笑いながら会話をしていた。

 

「特にディフェンスは、ファールスレスレのプレーでゴリゴリ仕掛けてくる。あのチームと対戦すると怪我人が絶えない為、試合を断るチームもあるほどだ」

 

「…分かりました。用心しましょう」

 

ロバートの言葉を胸に刻む大地であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ウォーミングアップが終わり、試合開始時間がやってきた。

 

『…へっ』

 

『…』

 

センターサークル内に集まる両チームの選手達。嘲笑うかのような対戦相手。大地のいるチームは皆真剣な表情。整列が終わると、選手達はコートへと散らばっていく。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

ティップオフがされると、大地のいるチームのジャンパーがジャンプボールを制し、ロバートが司令塔としてボールを運んだ。

 

「アヤセ!」

 

ボールを運んだロバートはすかさず大地にパスを出した。

 

「カモーン」

 

大地をマークする相手選手がニヤニヤとしながらディフェンスをする。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何か言い返すでもなく、大地は無言でドライブで切り込んだ。

 

「っ!?」

 

想定を凌駕する大地のドライブスピードに相手選手は目を見開いたまま抜きさられる。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

直後に急停止し、ボールを掴んで両足を揃える。

 

「…ちっ、打たせるか!」

 

これを見て相手チームはすぐさまヘルプに飛び出す。しかし、大地はそれよりも速くクイックリリースでジャンプショットを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

「いいぞアヤセ!」

 

駆け寄ったチームメイトと大地がハイタッチを交わす。

 

「…ちっ」

 

「…ふん、単なるオマケではない訳か」

 

舌打ちをする相手選手と鼻を鳴らす選手。

 

相手チームのオフェンス…。

 

「こっちだ!」

 

大地がマークする選手がボールを要求。

 

「サクッとやり返しちまいな!」

 

相手チームのハンドラーがそこへパスを出す。

 

「恥を掻かせやがって…、さっきは油断しちまったが、今度は俺様の番だ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう叫ぶのと同時にドライブで切り込む。

 

「…っ!」

 

これに大地は反応、すかさず並走し、進路を塞ぐ。

 

「…っ! これならどうだ!」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

相手選手はクロスオーバーの後バックチェンジで切り返し、強引に大地の前に出る。

 

「おら!!!」

 

そこでボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

「させませんよ」

 

しかし、リングにボールが叩きつけられる瞬間、大地のブロックが炸裂する。

 

「あの体勢から追いついただと!?」

 

背後に抜かれ、不十分な体勢であったにも関わらずブロックに追い付いてしまった大地のスピードに相手選手は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そこから大地は攻守に渡って活躍を続けた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

得意の高速ドライブ→高速バックステップを駆使して得点を量産。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

ディフェンスでも自身のマークを抑え込んだ。第2Qに入っても大地の活躍は続き、大地のいるチームリードで前半戦を終えた。

 

「くそっ!」

 

楽勝と思われた試合。リードされて前半戦が終わり、悔しさを隠せなかった。

 

「…ふん。あのジャパニーズ、なかなかやるみたいだな」

 

当初、穴と思われた大地の活躍を見て認識を改めるダニエル。

 

「奴を抑え込む必要があるな。…おい、あれやるぞ」

 

「あれって、まさか…!」

 

ダニエルの指示に1人の選手が反応する。

 

「おいおい、相手はジャパニーズだぜ?」

 

「そのジャパニーズに俺達はやられてんだよ」

 

『っ!?』

 

作戦に反対する選手達にダニエルが睨みを利かせる。

 

「あのジャパニーズは強い。もはや国籍なんざあてにならねえって事だ。この試合、負けられねえんだ。黙って従え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「っ!?」

 

第3Qに入り、相手チームのディフェンスが変わった事に大地が気付く。ボールを持っていない大地に対して周到にマークが付いている。

 

「…こっちです!」

 

激しいマークが大地を襲うが、何とかカットの動きでマークを引き剥がし、ボールを受け取る。

 

「…っ」

 

大地にボールが渡ると、大地に対してダブルチームを仕掛けた。

 

「認めるぜジャパニーズ。お前を全力で潰してやるぜ」

 

そう宣言するダブルチームの1人であるダニエル。

 

「(パスは…出せそうにありませんね。ならば、仕掛けるしかありません!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して大地はダブルチームに対して仕掛ける。ボールを小刻みに動かし、ジャブステップで牽制し、ダブルチームに出来た僅か隙間を縫うように突破する。

 

「(よし、このまま――)」

 

 

――ドン!!!

 

 

このままリングに向かおうとしたその時、大地に身体に衝撃が襲う。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンスファール! 黒5番!』

 

倒れ込む大地。同時に審判がディフェンスファールをコールした。

 

「おっと、悪い悪い」

 

顔を上げた大地に対し、相手選手がニヤニヤしながら謝罪した。

 

「大丈夫かアヤセ!」

 

「…っ! 大丈夫です」

 

慌てて駆け寄ったロバートが手を差し出すとその手を取って大地は立ち上がった。

 

「遂に出して来たか」

 

相手チームを見つめながらロバートが呟く。

 

「あれは強力なスコアラーがいる時に仕掛けてくるディフェンス戦術の1つだ。特定のスコアラーを例えファールしてでも止める。向こうがバッドボーイズと呼ばれる所以の1つだ」

 

「…」

 

「これから向こうはお前に対してラフプレー紛いのディフェンスを仕掛けてくるだろう。こっちも可能な限りアヤセの負担が減るように動くが、最悪はお前をベンチに下げて――」

 

「大丈夫です」

 

急遽この試合に参加する事になった大地を気遣うロバートだったが、大地は手で制した。

 

「望むところです。私とて、生半可な気持ちでこの試合に参加した訳ではありません。身体を張ってでもチームに貢献します」

 

真剣な表情で大地は言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も相手のラフなディフェンスが大地を襲う。

 

「…っ!」

 

徹底的なマークにあい、大地の得点は激減した。対して、ペースを掴んだ相手チームは流れを引き寄せた。

 

第3Q終了時には、逆転され、点差は12点にまで開いていた。

 

「すいません」

 

第3、第4Q間のインターバル。大地がチームメイトに頭を下げた。

 

「アヤセのせいではない。むしろ、お前がいなければ点差はもっと開いていた」

 

責任を感じる大地にロバートが励ます。

 

『…』

 

開いていく点差を前にチームの士気が下がっている。

 

「全員、気合いを入れ直せ」

 

その時、ロバートが活を入れる。

 

「助っ人のアヤセがこんなにも身体を張ってくれているんだ。俺達が彼を助けてやらないでどうするんだ」

 

『…っ!』

 

この言葉にハッとする選手達。

 

「アヤセばかりに負担を押し付けるな。俺達の手で勝利を掴むんだ!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ロバートの言葉に火が付き、逆襲が始まる。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

これまで大地を中心にオフェンスを組み立てていたが、チーム全員で得点を重ねる本来のバスケに切り替えた。

 

「くそっ…」

 

これにより、大地1人に集中する訳にもいかず、大地のマークが緩む事となった。

 

「これで楽に動けるようになりました」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

自身のマークを振り切った大地はスリーを決めた。

 

チーム全体が勢い付き、相手チームを圧倒していく。試合時間残り3分の時点でその背中を捉えた。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

しかし、ここで相手チームがハンドラーのパスからダニエルのアリウープが決まる。

 

「舐めるな! 勝つのは俺達だ!」

 

何としてでも勝ちたい相手チームが意地を見せる。

 

「怯むな! 勝つのは俺達だ!」

 

決して負けまいとロバートが声を張る。

 

そこから試合は取って取られてのシーソーゲームに発展していく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

こちらが決めれば…。

 

 

――バス!!!

 

 

相手チームが決め返す。試合は1~3点差を繰り返していった。

 

そして試合時間、残り15秒。ロバートがジャンプショットを決め、1点差となった。

 

『…』

 

相手チームは引き気味でボールを回し、残り時間を減らしていく。

 

『くそっ!』

 

一刻も早くボールを奪って逆転したい為、焦りを募らせる。

 

「…」

 

残り時間7秒。大地はボールを持つ選手とダニエルのパスコースを塞ぎにかかる。

 

「(バカめ!)」

 

その時、大地がマークしていた選手がチャンスとばかりに中へと走ったハイポストの位置まで走り、ボールを要求した。

 

「トドメを刺してやれ!」

 

これを見たハンドラーはフリーとなったその選手にパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

しかし、そのパスはロバートによってカットされた。

 

「なに!?」

 

これには相手チームも驚きを隠せなかった。

 

「決めろアヤセ!」

 

ボールを奪ったロバートは速攻に走っている大地に大きな縦パスを出した。

 

「…っ」

 

フロントコートに突入した所でボールを掴んだ大地はそのままワンマン速攻を仕掛ける。

 

「させるか!」

 

スリーポイントラインを越えた所でダニエルが大地を捉え、横に並ぶ。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

同時に大地が急停止。ボールを掴んで頭上にリフトさせる。

 

「止まるのは分かっているんだよ!」

 

これを読んだダニエルも急停止し、ブロックに飛んだ。

 

「いいぞダニエル!」

 

ブロックを確信したチームメイトが思わず拳を握る。

 

「っ!?」

 

次の瞬間、ダニエルの表情が驚愕に染まった。大地はボールを頭上に掲げたが、飛んではいなかったのだ。

 

『なに!?』

 

この大地のフェイクに他の選手達も驚きを隠せなかった。

 

ダニエルがブロックに飛んだ後、今度こそシュート体勢に入る大地。阻む者は何もなく、悠々とジャンプショットを放った。

 

『っ!?』

 

コート上の全ての選手がボールをの行方に注目する。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴った。

 

「勝った! 勝ったぞ!」

 

勝利が決まった瞬間、チームメイトが大地に雪崩れ込んだ。

 

『…っ』

 

敗北した相手チームは茫然としていた。

 

もみくちゃにされる大地。

 

「ありがとう。今日の勝利はアヤセ、君のおかげだ」

 

そんな大地にロバートが駆け寄り、握手を求めた。

 

「これは皆さんと一緒に掴んだ勝利です」

 

そう返し、大地は握手を交わした。

 

「…」

 

大地の所に相手チームのダニエルが歩み寄る。

 

「エクセレント。負けたぜジャパニーズ」

 

ダニエルは悔しそうな表情を一変させると、そう大地に告げた。

 

「やるじゃねえかよ」

 

「なかなかタフだったぜ」

 

その後も大地の下にやってきた相手選手が労いの言葉を贈った。

 

「この借りは必ず返す。また何処かでな」

 

そうダニエルが締めくくり、その場を後にしていった。

 

「清々しいチームですね」

 

「ああ。バッドボーイズと呼ばれているが、それでもバスケに賭ける気持ちは本物だ。それ故、地元でも愛されているチームだ」

 

ラフプレーも確かにあったが、度を超えるものやスポーツマンシップに欠けるレベルの事は決して行わなかった相手チーム。バスケに対する真摯さを感じ取った大地。

 

こうして、大地が急遽参加する事となった試合は無事、勝利と言う形で締めくくる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後、大地はしっかり身体を休めろと言うスティーブの忠告を無視した事でたっぷり絞られる事となったのは別の話。

 

この一件で縁が出来た大地はロバート達に練習参加を乞われ、度々練習に参加する事となった。スティーブも渡りに船とばかりにこれを許可し、久しく行ってなかったチーム練習に精を出した。

 

そしてロバート達との交流は、大地が日本に帰国するまで続いたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





本当は背景とか交流の描写とかきっちりやるべきなんですが、原作キャラが一切出てこない話を長々書くのもあれだけと思ったのでギュッと縮めて1話にまとめました。唐突過ぎて訳の分からない話かと思いますが、すみません…(;^ω^)

次話は空の話となります。少々ネタバレしますと、アメリカと言えばの人物が出てきます…(^-^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第161Q~アメリカでの出来事 side空~


投稿します!

少しずつ暑くなってきましたね…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

「どうしてこうなった…」

 

空は困惑していた。

 

『おぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

現在、空はストリートバスケの会場に来ていた。コート上に立つ空。その周囲は大勢の観客が大いに盛り上がっていた。

 

「…」

 

突如渡されたユニフォームに着替えて訳も分からずコートに立つ空。それ以上に困惑しているのは…。

 

「おいサル。足引っ張りやがったらぶち殺すからな」

 

「それがわざわざ助っ人に来てやった奴に言う言葉か?」

 

「ハッ! 調子に乗んじゃねえ。てめえなんざ数合わせに決まってんだろ」

 

「あぁっ!?」

 

話しかけられ、悪態を吐いた白人のアメリカ人に掴みかかろうとする空。

 

「ストップだ! 悪い、あいつは少し口が悪いんだ。こらえてくれ。…おい、無理やり連れて来たんだから少しは抑えてくれよ」

 

衝突仕掛ける2人の間に入って仲裁に入る1人の黒人。

 

「…ふん」

 

「…ちっ」

 

間に入られ、渋々矛を収める2人。

 

「おいおい、シルバーは来ねえわその穴埋めに来たのはこんなジャパニーズな上に目に見えてナッシュとは馬が合わねえ。こんなんで勝てるのか?」

 

「全くだぜ」

 

一連の様子を見ていた白人のアメリカ人ニックと、黒人のアメリカ人のザックが溜息を吐く。

 

現在、空はジャバウォックのユニフォームを着て今まさに始まろうとしている試合に出場しようとしている。何故そうなったのかと言うと、話は1時間程前に遡る…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「休みかー。と言っても、何をしたらいいのやら…」

 

スティーブから練習の休みを告げられた空。暇を持て余した空は外へと足を運んでいた。

 

「今日までバスケ漬けだったからな。…何か楽しそうな所は…」

 

面白い物目当てに辺りを散策する空。未だ、英語での会話は上手く出来ず、ジェスチャーと片言の単語で何とか乗り切っている空。携帯やガイドブック等に目を通しても読めないので適当にブラついている。

 

「…おっ?」

 

しばらく歩いていると、バスケットのリングが設置されている小さな公園に辿り着いた。そこでは地元の子供達がストリートバスケを楽しんでいた。

 

「楽しそうだな。…これは、行くしかねえだろ」

 

目を輝かせながら公園内に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あぁっ? シルバーが来ねえだと?」

 

場所は変わってストリートバスケ会場。ナッシュが苛立ち交じりに言う。

 

「電話にも出やがらねえ。ったく、何してんだよあいつ…」

 

少々焦りながら電話をかけ続けるザック。

 

「あのバカ野郎が…!」

 

今にも怒りを爆発させそうなナッシュ。

 

ナッシュが所属するストリートバスケチームのジャバウォックはストリートバスケの大会に参加しており、その決勝戦が1時間後に迫っていた。しかし、同じく所属する選手のジェイソン・シルバーいつまで立っても会場に来ず、連絡も取れないのだ。

 

「そういえばあいつ、昨日飲みに行くとか言ってたな…」

 

思い出したかのようにニックが呟く。

 

「あいつの酒癖の悪さ知ってんだろ。何で止めなかった!?」

 

「俺が言って止まる奴じゃねえだろ!」

 

思わずニックに掴みかかるナッシュ。ニックは手を振りながら返事をした。

 

「今は喧嘩してる場合じゃないだろ。どうする? 正直、シルバー抜きであいつら相手はきついぜ?」

 

アレンが仲裁に入り、対応策を尋ねた。

 

「……仕方ねえ。代わりになりそうな奴を捕まえてくるしかねえ」

 

苦い表情をしながらナッシュが決断する。

 

「お前らは準備してろ。俺はその辺のストリートバスケ場で使い物になりそうな奴を探してくる」

 

そう指示を出したナッシュはその場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ちっ!」

 

苛立ち交じりに舌打ちをするナッシュ。代わりの選手を探し回っていたが、戦力になりそうにない者ばかりで、いっそ4人で試合をした方がマシなレベルの者しか見つからなかった。

 

「時間がねえ。次の場所で捕まえるしかねえ」

 

試合の時間が刻一刻と近付き、未だ、シルバーがやってきた連絡も来ていない。試合時間を考えて次のストリートバスケ場が最後となった。

 

「…」

 

バスケコートがある場所に足を運ぶナッシュ。そこには…。

 

「ハハハッ! やるじゃないか!」

 

無邪気にバスケを楽しむ者達。その中で…。

 

「…っ!?」

 

1人の日本人が一際活躍をしていた。

 

「(なんだあいつは…、見たところサル(日本人)か…)」

 

ナッシュが侮蔑する日本人。巧みにボールを操り、コート上で飛びぬけて存在感を表していた。

 

「(…ちっ、サルなんざ興味ねえ。他にマシそうな奴は…)」

 

矜持に障る為、他の適任の選手を探すナッシュ。だが、単純な体格ならまだしも、身体能力やテクニックに関して、遙かに質が劣る選手しかいない。

 

「(…もう時間がねえ。イラつくが仕方ねえ)…おい、そこのサル!」

 

「…あっ?」

 

もはや悩んでいる時間がないナッシュはそのコート上の日本人に声を掛けた。

 

「何だてめえいきなり――っ!? お前は、ナッシュ・ゴールド・Jr!?」

 

振り返った日本人はいきなりな物言いに怒りを露にしたが、その顔を見て表情を変えた。

 

「…あん? てめえ何処かで――っ!? てめえは…!」

 

ナッシュも何処か見覚えがあり、記憶を辿り、行き着いた。

 

「てめえ確か、セイヤとタケシのいたチームにいたサルか」

 

「何であんたがこんな所に…」

 

まさかの再開に驚く2人。

 

「時間がねえ。話は後だ。俺と一緒に来い」

 

「あん? ……来いって言ってんのか? 何処にだよ!?」

 

単語を拾って何とか言葉を理解する空。

 

「良いから黙って付いて来いサル! 時間がねえって言ってんだろ!」

 

「それが人にモノを頼む態度かよ! 痛ぇな、放しやがれ!」

 

痺れを切らしたナッシュは空の首根っこを掴み、無理やり連れて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「「…ちっ」」

 

互いに舌打ちをし、そっぽを向く空とナッシュ。

 

ナッシュに引き摺られるように連れてこられた空。ナッシュが日本人を助っ人に連れて来た事に驚いたジャバウォックの選手達だったが、いがみ合う空を宥めながら片言ながら日本語が喋れるアレンが事情を説明。

 

・現在、ジャバウォックはストリートバスケの大会に参加しており、今はその決勝である事。

 

・どういう訳かシルバーが来ず、決勝の相手は今いる控えのメンバーでは力不足である事。

 

・その穴埋めとして空を連れて来た事。

 

以上の事を空は説明を受けた。当初はナッシュの態度を見て断ろうとしたが、アレンが必死に頭を下げたので渋々参加を決めたのだった。

 

「ようナッシュ」

 

その時、今日の決勝の相手チームの1人がナッシュに歩み寄り、話しかけた。

 

「あのデカブツの姿が見えねえな。まさか怖気づいて逃げたのか?」

 

「…んな訳ねえだろ。てめえら如き、あいつ抜きでも充分なんだよ」

 

ニヤニヤしながら話しかける相手チームの選手。対してナッシュは鼻を鳴らしながら返す。

 

「相変わらずだな。さすが、わざわざジャパンに行ってハイスクールのチームに無様に負けちまうような恥知らずは違うぜ。俺なら恥ずかし過ぎて自殺ものだけどな」

 

「…っ! てめえ、殺されてえのか」

 

この言葉にナッシュが怒りを露にする。

 

「…おっとこれは禁句だったか」

 

ナッシュの反応を見て満足そうに肩を竦める。

 

「ストリートバスケチーム最強だとかメディアに取り上げられて調子に乗ってるみたいだがよ。それも今日限りだ。……ん?」

 

その時、踵を返してチームメイトの下に戻ろうとした時、空の姿に気付いた。

 

「何だそのジャパニーズは? まさか、こいつが試合に参加するとか冗談言わねえよな?」

 

「…」

 

その質問に対し、ナッシュは何も返さない。

 

「ハッハッハッ! ジャパニーズに負けた挙句そのジャパニーズに加入させたか!? 遂に落ちる所まで落ちたな!」

 

これを見て相手選手は肯定と見てゲラゲラと笑い始めた。

 

「こりゃ今日は楽勝だな。せめてもの慈悲だ。お前達がこれ以上無様にならねえように手加減してやらねえとな!」

 

そう言って、相手選手はその場を後にしていった。

 

「クソ雑魚が…!」

 

言われたい放題言われたナッシュは目に見えて怒りを露にしていた。

 

「…あんたら(ジャバウォック)も大概だが、あいつらも相当だな」

 

一連の会話を近くで聞いていた空は嘆息していた。

 

「あいつらは最近結成したストリートバスケチームだ。アメリカの強豪のハイスクールのエース崩れを集めてメキメキと頭角を現したチームだ。今では俺達に次ぐストリートバスケチーム……中にはあいつらが最強だと推すメディアもいるくらいだ」

 

アレンが相手チームの説明をした。

 

「今日は事実上の最強のストリートバスケチームを決める勝負だ。だから負けられないのさ」

 

「…なるほど」

 

空が相手チームに視線を向けると、空と目が合った選手が空を指差しながらゲラゲラと笑い始めた。

 

「…相当舐め腐ってるな。さっきも何言ってるか全部は分からなかったけど、バカにされてるって事だけは分かった。正直、試合の勝敗はどうでも良かったが、気が変わった。あいつら絶対ぶちのめしてやる」

 

静かに怒りを露にする空であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そして試合開始時刻となり、両チームの選手達がセンターサークルの周囲に散らばっていく。

 

『…』

 

ジャンパーはジャバウォック側はシルバーが不在た為、ザックが任された。

 

「…」

 

審判が両チームのジャンパーの間に立ち、ボールを構え、ティップオフがされた。

 

「「…っ」」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

ティップオフされたボールをジャンパーが同時に叩かれ、弾かれる。

 

「オーライ――」

 

弾かれたボールが相手チームの方へに飛んでいき、その選手がボールを保持しようとしたその時…。

 

「いただきだ!」

 

それよりも速く空が横っ飛びでボールを確保した。

 

「おぉっ! やるじゃねえか!」

 

これにニックが歓声を上げる。

 

「っしゃぁっ! 1本――」

 

「なにボール運ぼうとしてんだクソザル! さっさと俺にボール寄越せ!」

 

いつものようにゲームメイクを始めようとした空だったが、ナッシュの罵声に水を差される。

 

「…そういや、俺ポイントガードじゃねえんだった」

 

試合前にポジションを決める時に…。

 

『サル。お前は2番に入れ』

 

と言われていたのを思い出した。

 

「…ちっ、しゃーねえ、ナッシュにボールを運ばせてやるか」

 

仕方なく空がナッシュにパスを出そうとしたその時…。

 

「ヘイ! カモン、リトルモンキー!」

 

空の目の前に立った相手選手が挑発交じりに空に向けて言い放った。

 

「……あっ?」

 

さすがに何を言われているか理解した空はこめかみ付近に青筋を立てる。

 

「…良いぜ、やってやらぁ!」

 

宣言と同時に空は相手選手の間合いに踏み込んだ。

 

「おいサル! さっさとパスを出さねえか! …ちっ、あの野郎、何か余計な言いやがったな」

 

空と相手の表情から2人の間で何があったかを察し、苛立つナッシュ。

 

「…確か、これストリートバスケの大会だったな。…ならこういうのはどうよ」

 

その場で空がクロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを繰り返すハンドリングを始める。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

そのハンドリングスピードはどんどんと上がっていく。

 

「…っ、…っ!?」

 

どんどん上がる空のハンドリングスピードに当初はニヤついていた表情から一変、余裕がなくなる。

 

「遊んでねえでさっさと俺にボール――」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

高速ハンドリングで牽制する空に苛立ったナッシュが再度ボールを要求しようとしたその時、突如ナッシュ目掛けてボールが飛んでいき、咄嗟に右手でキャッチした。

 

「ほらよ。これでいいんだろ?」

 

鼻を鳴らしながら空がポツリと呟いた。

 

『うぉっ!!! 何だ今の!?』

 

『とんでもねえスピードでドリブルやり出したと思ったら気が付いたらパスしてやがった!』

 

今のプレーに観客が大興奮し始めた。

 

空はハンドリングの途中で背中で弾ませたボールを肘をぶつけ、ナッシュにパスを出していたのだ。

 

「ちっ、サルが…」

 

悪態を吐きながらナッシュはドリブルを始めた。

 

「…」

 

最初の1本、どう攻めるか考えるナッシュ。

 

「来いよナッシュ」

 

ナッシュの目の前に立った選手が指をクイッとさせながら挑発する。

 

「……ふん」

 

それを聞いたナッシュは鼻を鳴らし…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ノーモーションのクイックパスを出した。

 

「お、おいナッシュ!?」

 

このパスを見てアレンが慌てる。ナッシュのパスの先は同じジャバウォックのチームメイトではなく、空だったからだ。予備動作がほとんどない上にパススピードが尋常ではないこのパスはある程度の慣れがなければ味方ですら容易に取れない。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「…っと!」

 

しかし、空はこのパスを右手で掴み取った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

直後にジャンプショットを放ち、得点を決めた。

 

「嘘だろ!? あのサル、ナッシュのパスを1発で掴みやがった…!」

 

事前の練習はおろか打ち合わせもなく空がナッシュのパスを取った事に驚きを隠せないニック。

 

「あいつ…、もしかしたら…」

 

アレンは空を見て何かを予感していた。

 

「「…」」

 

空とナッシュは特に言葉を交わすでもなくディフェンスに戻っていく。

 

「…ナッシュはあのサルが最初からあのパスを取れる事を分かっていたのか?」

 

疑問を覚えるザック。

 

「(…ちっ、顔面ぶつけて黙らせてやるつもりだったのによ)」

 

「(このクソ野郎、俺の顔面に当てようとしやがったな)」

 

実際はナッシュはただ空を黙らせようとしただけであり、空はそれに気付いていた。もっとも、最初に空がナッシュにボールをぶつけようとしたのだが…。

 

「これはもしかしたら…」

 

一連のプレーを見ていたアレンは何か可能性を感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第1Qはジャバウォックペースで試合は進んだ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ナッシュが得意のパスでボールを散らし、そのパスを受けた選手が得点を決める。空も得意のスピードを駆使して試合に貢献した。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ブザーが鳴り、第1Qはジャバウォックリードで終わった。

 

「ヘイ! お前、なかなかやるじゃねえか!」

 

健闘した空をニックが肩を叩きながら称えた。ザックやアレンも空に好意的に声を掛けていた。

 

「(…ふん、少しはマシになったみたいだな)」

 

ナッシュだけは離れた位置で鼻を鳴らしていた。

 

「ナッシュ。第2Qはどうする?」

 

「とりあえず変更はなしだ。俺がボールを散らす。これまでどおり点を取りに行け」

 

「分かった」

 

作戦を尋ねるアレン。ナッシュは現状維持を指示した。

 

「っしゃ、ガンガンボール寄越せよ」

 

やる気を見せる空。

 

「てめえはスクリーンかけてフォローだ。余計な事はするな」

 

「おい! ポジション的に俺の役割じゃねえだろ! 第1Qの活躍忘れたのか!?」

 

納得が出来ない空はナッシュにかみつく。

 

「調子に乗んなクソザル。さっきまで上手くやれたのはてめえが舐められてた上にデータがなかったからだ。警戒されりゃてめえは何も出来ねえんだから大人しくしてろサル」

 

「てめえ――」

 

「喧嘩してる場合じゃないだろ。悪いがここはナッシュの顔を立ててくれないか?」

 

「…ちっ」

 

掴みを始めそうだった2人の間にアレンが割って入り、空を宥めると、空は渋々聞き入れただった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

インターバルが終わり、第2Qが始まると相手チームが動きを見せた。

 

「(…ん? マンツーマンからゾーンディフェンスに変えたのか?)」

 

これまでのマンツーマンディフェンスから1-1-3のゾーンディフェンスに変わった事に空が気付く。

 

「…」

 

ボールを運ぶナッシュ。ゾーンを組まれている為、迂闊に中に切り込めず、慎重にボールを運ぶ。

 

「(こっちだ!)」

 

ニックがボールを貰う為に動きを見せると、ナッシュがノーモーションクイックパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なにっ!?」

 

しかし、そのパスは相手チームのスティールで阻まれてしまう。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを奪った相手選手はそのままワンマン速攻を決めた。

 

「ドンマイナッシュ。たまたまだ」

 

スローワーとなったザックがナッシュに声を掛けた。

 

「…ハッ!」

 

相手選手はナッシュ達を見て不敵に笑った。

 

「?」

 

そんな相手を空は怪訝そうな表情で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も異変が続いた。ナッシュが繰り出すパスがことごとくスティールされてしまうのだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

カウンターから相手選手のジャンプショットが決まる。

 

「ナイス」

 

ハイタッチを交わすあいて選手。

 

「どうなってんだ? ナッシュのパスが通らねえ…」

 

立て続けのパスミスからのオフェンス失敗にあっという間に逆転を許し、茫然とするザック。

 

「…っ!」

 

当のナッシュが1番悔しそうな表情をしている。

 

「…おい、流れは最悪だ。1度タイムアウトを取って流れを――」

 

「うるせえ!!! 俺に話しかけんじゃねえサル!!!」

 

流れを切る為にタイムアウトを提案した空にナッシュが激昂する。

 

「…ちっ!」

 

怒りを露にしながらナッシュはボールを運ぶ。

 

その後もナッシュのパスは上手く行かず、時折通ったパスから何とか得点に繋げてはいた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が中に切り込み、ゾーンディフェンスが収縮するタイミングを狙ってパスを捌き、アシストをする。

 

健闘を続ける空だったが、それでも点差は開いていく。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

第2Q残り僅か。ナッシュのパスが再びスティールされ、カウンターから速攻に走られた。

 

「ハッ! くらえ!」

 

相手選手はボールを掴んでリングに向かって飛び、リングに向かってボールを振り下ろした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「させっか!!!」

 

直前、空がボールを叩き落とした。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に第2Q終了のブザーが鳴った。

 

「ふぅ、助かった…」

 

胸を撫で下ろすニック。

 

両チームの選手達はベンチへと下がっていった。

 

「まずいな、どうする?」

 

ベンチに戻り、開口一番アレンが口を開く。

 

『…』

 

悪い状況に他の選手達も口を閉じる。

 

「無様な姿晒しやがって」

 

そんな中、空が苛立ち気味に口を開いた。

 

「…てめえは黙ってろ」

 

「てめえに言ってんだよナッシュ」

 

「…あっ?」

 

空の指名され、怒りながら立ち上がるナッシュ。

 

「てめえのパスのタイミングとパスコースが読まれてるなんざ一目瞭然だろうが。馬鹿の一つ覚えにパス捌きやがって。勝つ気あんのか?」

 

「ぶっ殺されてえのか!?」

 

遂にいかりが爆発したナッシュが空に掴みかかる。

 

「何の為に日本人嫌いのてめえが俺入れてまでこの試合に臨んだんだ? 勝つ為じゃねえのか? 視野狭めて自滅する気か?」

 

「…っ」

 

怯まず、眼光を鋭くして言い放つ空を見てユニフォームを掴んだ力が僅かに緩む。

 

「どうすんだ? このままだと負けんぞ」

 

「……ちっ」

 

舌打ちをすると、ナッシュは掴んでいた手を放した。

 

『…』

 

2人のやり取りによって険悪な空気となるベンチ。

 

「……ふん、俺のパスコースとタイミングだけじゃねえ、お前らの動きも読まれてやがる」

 

落ち着きを取り戻したのか、ナッシュが冷静に状況を分析する。

 

「ならどうする? パスはやめて1ON1を仕掛けるか?」

 

「それも分が悪いな。向こうはゾーンディフェンス…それも、マッチアップゾーンディフェンスだからな」

 

アレンの提案をナッシュが退ける。

 

「ならどうするんだよ?」

 

万策が浮かばないザックがナッシュに尋ねる。

 

「…」

 

顎に手を当て、何かを考えるナッシュ。そして、舌打ちを打つと、空の方を振り向いた。

 

「サル」

 

「あん?」

 

「さっきは俺に舐めて口利きやがったんだ。てめえ、分かってんな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ハーフタイムが終わり、第3Qが始まる。

 

「…」

 

ボールを運ぶナッシュ。相手はこれまでと変わらず1-1-3のマッチアップゾーンディフェンスでハンドラーのナッシュにのみディフェンスに付いている。

 

「…」

 

慎重にゲームメイクをするナッシュ。

 

 

『やる事はこれまでと変わらねえ。俺がボールを回す』

 

『けどよ、俺達の動きやパスコースとタイミングは読まれてんだろ?』

 

『ああ。…だが、唯一読まれずに使えるパスコースがある。そこを使う』

 

 

「……ちっ」

 

自分で提案した作戦に苛立ち交じりに舌打ちをするナッシュ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

そして得意のノーモーションクイックパスを出す。

 

「(バカめ、お前のパスコースはお見通し――なっ!?)」

 

スティールを狙う相手選手だったが、次の瞬間、表情が驚愕に変わる。

 

「っしゃぁっ!」

 

ボールはハイポストに移動した空の手に渡る。

 

ジャバウォックの選手達の動きを入念に研究していただけあり、ナッシュのパスのタイミングやコース、他の選手の動きは読まれていた。だが、唯一空だけは動きが読まれず、これまでもパスが通っていた。

 

 

『動きが読まれてねえサルを経由してボールを動かす。…サル。ファンブルしたりその後ミスったりしたら殺すからな』

 

『殺してみろ』

 

 

これが、ナッシュが即席で立てた作戦だった。

 

「…っし」

 

ボールを受け取った空はすかさずゴール下付近にボールを放った。

 

「おぉっ! ナイスパス!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

そこへ走り込んでいたザックがそのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

「ナイスパスだ!」

 

「当然」

 

見事にパスを繋げた空をザックが称える。

 

その後も、ジャバウォックは空を起点にボールを回し、得点に繋げた。

 

「決めろ!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

中で空がナッシュのパスを受け、そこから外のアレンにボールを捌き、スリーを決めた。この作戦に切り替えてから目に見えてジャバウォックに良い流れをもたらした。

 

「にしてもよ、あいつよくナッシュのパスを平然と何度も受けられるな」

 

ファンブルせずにパスを受ける空に驚きを隠せないニック。

 

「もともと日本でやり合った時に片鱗はあったぜ。…それとあいつ(空)はナッシュと…」

 

アレンが抱いた可能性は確信へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qで1度は開いた点差だったが、空がパスを中継するようになってから点差は確実に縮まっていった。しかし…。

 

「…っ」

 

ボールを貰おうと動き空だが、瞬時にパスコースを塞がれてしまう。

 

第4Qに入ってから相手チームが空の動きに対応出来るようになってきたのだ。

 

「(…ちっ、さすがにサル一辺倒のオフェンスがいつまでも通用する訳がねえ)」

 

作戦の限界が遂に来てしまい、表情には出さないが焦りを覚えるナッシュ。点差は縮まったものの、まだ逆転に至っていない。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

ローポストでボールを掴んだザックがポストアップで無理やり得点を狙うが、ブロックされてしまう。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

そのままターンオーバーからのカウンターを食らい、速攻を決められてしまう。

 

「…ちっ」

 

再び状況が悪くなり、空も焦りを覚える。

 

『…っ』

 

それが他の選手達も同様であった。

 

もはや万策は尽き、絶体絶命。その時!

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 黒(ジャバウォック)!!!」

 

ジャバウォックの選手交代がコールされた。

 

「ハッハッハッ! 待たせたな!」

 

選手達がオフィシャルテーブルに視線を向けると、そこにはジェイソン・シルバーの姿があった。

 

「おぉっ!」

 

「やっと来たのか!?」

 

「おせえよ!」

 

絶好のタイミングで現れたシルバーの姿に歓喜するジャバウォックの選手達。

 

「…この馬鹿野郎が!!! 今まで何処で何してやがった!!!」

 

唯一ナッシュは激怒しながらシルバーに詰める。

 

「わ、悪い、昨日飲みすぎちまってよ…」

 

あまりのナッシュの勢いにシルバーが圧倒されながら理由を話す。

 

「…ちっ」

 

理由を聞いて舌打ちをするナッシュ。

 

「(お役御免か…)」

 

シルバーがやってきて、正規のメンバーが揃った事で空はベンチに戻ろうとする。

 

「…待てサル」

 

そんな空をナッシュが引き留める。

 

「?」

 

「下がるのはニックだ」

 

「俺か!?」

 

まさかの指名に驚くニック。

 

「2度も言わせんな。言う通りにしろ」

 

「お、おう…」

 

睨み付けるように告げられ、ニックは素直に言う通りにベンチへと下がっていった。

 

「おいおい、何でサルが試合に出てんだ? 何でサルを残すんだよ?」

 

理由が理解出来ないシルバーがナッシュに尋ねる。

 

「てめえが来ねえからこんなサルを使う羽目になったんだろうが! てめえは汚名返上する事だけ考えてろ」

 

シルバーの質問にそう返事をするナッシュ。

 

「(ムカつくが、ボール運びとパスセンスがあるこのサルを残した方が今は懸命だ。…くそっ、この俺がサルなんかに…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

シルバーがコートに入った事で状況は一変した。

 

「おらぁっ!!!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

シルバーがその圧倒的な身体能力を駆使して得点を重ねる。そのシルバーを止めようとマークが集中すると他が手薄となり、他の選手が得点を決める。

 

停滞しかけた流れが再びジャバウォックに向き、点差はみるみる詰まり、残り時間10秒の地点で1点差の所まで縮まった。

 

「決めさせるな! ここを止めれば俺達の勝ちだ!」

 

相手選手も力を振り絞り、必死にディフェンスに努める。

 

「…っ」

 

懸命なディフェンスに攻め手が定まらないナッシュ。ここをしくじれば負けは必須。刻一刻と試合終了の時間が近付き、ナッシュは焦りを覚える。

 

「…」

 

その時、ナッシュと空の視線がかち合う。

 

「(ここに出せ!)」

 

空がアイコンタクトでナッシュにとある場所にボールを要求した。

 

「(……上等だ。もし決められなかったらぶち殺すからな!)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

意を決してナッシュがノーモーションクイックパスを出した。

 

「うぉっ!!!」

 

ローポストのシルバーが手を伸ばすもボールは手の上を越えていった。

 

「パスミスだ! 俺達の勝ちだ!」

 

パスミスと見た相手選手は勝利を確信する。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

『っ!?』

 

次の瞬間、リング付近に放られたボールを空がそのままリングに叩きこんだ。

 

「っしゃぁっ!」

 

着地した空が拳を突き上げながら喜びを露にした。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に、試合終了のブザーが鳴った。

 

「勝った!!!」

 

「よくやった!!!」

 

起死回生のアリウープが決まり、歓喜するジャバウォックの選手達。

 

「マジかよ、ナッシュのあのパスをアリウープで決めやがった…」

 

これにはシルバーも驚いていた。

 

「…やっぱりだ。あの日本人、カミシロとナッシュは、もしかしたら相性バツグンなディオかもしれない」

 

アレンはこれまで抱いた可能性を確信に変え、口に出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合が終わり、ストリートバスケの大会を無事優勝で終えたジャバウォック。

 

「ギャハハハハッ!!!」

 

飲み屋で打ち上げをするジャバウォックの選手達。

 

「…帰りてえ」

 

空も連れてこられ、打ち上げに参加させられていた。今日の試合で空の実力を認めたジャバウォックの選手達は親しく空と接していた。

 

「…サル、付いて来い」

 

その時、ナッシュが空を呼び、店の外へと連れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「何処まで歩かせるつもりだよ?」

 

店を出て10分程歩かされ、悪態を吐く。やがて、ストリートバスケのコートがある公園に辿り着いた。

 

「今日の試合、あの程度の相手に手こずったのはてめえが役に立たねえからだ」

 

「……あっ?」

 

公園に連れてこられ、開口一番そんな言葉を言われた空は怒りを露にする。

 

「全く、これだからサルはムカつくんだよ。下手過ぎて目を当てられねえ」

 

「てめえ…、無理やり試合に引っ張った挙句、あんだけチームに貢献した俺に向かって…! やっぱり1度ぶん殴って――っ!?」

 

その時、空の手元にバスケットボールが飛んできて咄嗟に空はボールを掴んだ。

 

「来い。てめえに本物バスケを教えてやる」

 

挑発交じりにナッシュが空に向かって告げる。

 

「…上等だ。逆に俺がてめえを凹ませてやるよ!」

 

上着を脱ぎ捨てた空はナッシュの下へと向かって行った。

 

「ハハッ!」

 

バスケを始める2人。そんな2人を後を付けていったアレンが微笑ましいで表情で見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「とまあ、こんな感じですかね」

 

2人は体験談を話し終えた。

 

「…おもろい話やなあ。なんやかんやでお前らも向こうで修羅場潜っとったやな」

 

話を聞いて思わずそんな感想を述べる天野。

 

「大地なんか帰りの空港で留学先のバスケ部に引き留められたんだぜ? 一緒に全米のチャンピオンチームを目指そうって」

 

「そういうあなたはジャバウォックの方々から正式にメンバー入りしていたではありませんか」

 

帰りの空港での出来事を話す空と大地。

 

「…州のナンバーツーのチームにジャバウォック。改めて、とんでもない2人ですね」

 

驚きを隠せない竜崎が2人に圧倒される。

 

「ま、何はともあれ、こうして無事帰国してウィンターカップに参加出来る。後は、優勝するだけだ」

 

「キセキの世代と戦えるのはこの冬が最後です。今度こそ、彼らを倒しましょう」

 

空と大地が意気込みを露にする。

 

「せやな。この2人がおって負けたら俺らの責任や。…もう大会は目の前や。やれる事全部やって、優勝や!」

 

『おう!!!』

 

冬の寒空の中、花月の選手達が心を1つにし、迫るウィンターカップに向けて意気込みを露にしたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





これにて、アメリカでの2人出来事は終わりです。本来ならもう少し掘り下げながらやるべきかと思うんですが、原作キャラが出てこない話をダラダラ続けるのはどうかと思ったので…(;^ω^)

次話から本格的にウィンターカップに突入するのですが、ここからまた試合でのネタを集めなければなりません…(>_<)

もしかしたら投稿間隔が空くかもしれないので悪しからず…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第162Q~進化の花月~


投稿します!

遂にこれからウィンターカップ編に入ります!

それではどうぞ!



 

 

 

空と大地が日本に帰国し、チームに合流し、目の前のウィンターカップに向けて最後の追い込みを開始する。

 

「足を止めるな! プレーの1つ1つを意識して動け!」

 

監督の上杉からも厳しく指導の言葉が飛ぶ。

 

数ヶ月とは言え、空と大地がチームを離れた事により、僅かながらに連携にズレが生じている。そのズレを本選までに解消する為、現在ではチーム練習を重点的に行っている。

 

「良い感じになってきましたね」

 

練習風景を見守っていた姫川がポツリと言う。

 

「神城君と綾瀬君はアメリカでの留学で才能を伸ばしました。他の選手達も2人抜きで県予選を勝ち抜いた事で成長と共に自信を取り戻しました」

 

「うむ」

 

「2人とチームの間に未だズレがありますが、それも大会までには充分間に合います。このままなら最高の形でウィンターカップを迎えられそうですね」

 

チームの状態を見て満足そうに頷く姫川。

 

「だが、油断は禁物だ。高校最後の大会であるキセキの世代の士気は高い。死に物狂いで勝ちに来るだろう」

 

「…はい」

 

「敵はキセキの世代だけではない。油断や驕り、己自身にも存在する。そして何より、まだ知らぬ猛者とて存在するだろう」

 

「ですね」

 

昨年、キセキの世代を擁するチームばかりに注目したばかりに大仁田高校相手に苦しんだ経験がある。

 

「ウィンターカップまで残り少ない。それまでに最高のチームを作り上げる。練習もこれまで以上に厳しくする。…今度こそ、勝たせてやらねばならんからな」

 

並々ならぬ覚悟で口にする上杉。昨年のウィンターカップに今年のインターハイ。志半ばで敗退した事を上杉自身も負い目に感じており。今度こそはとその想いを口にしている。

 

ウィンターカップまでの残り少ない日数を猛練習に注ぎ込む花月の選手達。そしてその日はやってきた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

12月某日…。

 

東京の某所の会場にて、県予選を勝ち抜いた猛者達が終結した。開会式が終わり、各県の代表校同士の激闘が間もなく始まる。

 

「お久しぶりです」

 

「…よう」

 

会場の外の一角にて、誠凛の黒子と火神が挨拶をする。

 

「久しぶりッス! 国体以来っスね」

 

「あー黒ちんだー。…やっぱり火神もいるんだー」

 

「ようテツ、火神」

 

「遅いのだよ」

 

そこには笑顔で挨拶を返す黄瀬、淡々としている紫原、不敵に笑う青峰、眉を顰める緑間の姿があった。そして…。

 

「やあ。来たね」

 

同時に赤司がやってきた。

 

「おせーよ赤司。呼び出した本人が遅れんなよ」

 

「すまない。主将の仕事があったものでね」

 

訝しげに抗議する青峰に対し、赤司は苦笑しながら謝罪した。

 

「まあまあ。…青峰っちは分からないかもしれないッスけど、キャプテンって結構やる事多いんスよ?」

 

「その通りだ。気楽に選手をやっている奴はこれだから困るのだよ」

 

「全くだ」

 

そんな青峰に黄瀬、緑間、火神が赤司の肩を持つ。

 

「…ふん」

 

それを見て青峰が鼻を鳴らす。

 

「ハムハム…」

 

「紫原っち、珍しいッスね。ガム噛んでるんスか?」

 

「うん。本当はお菓子食べたいけど、試合前に食べると力出せなくなるらしいから大会1ヶ月前からこれ(ガム)で我慢してる」

 

溜息を吐きながらガムを噛む紫原。

 

「さて…」

 

赤司が周囲を見渡す。

 

「俺達にとって高校最後の大会。こうして誰も欠ける事なく集まれたのは僥倖と言える」

 

キセキの世代と黒子と火神。キセキを冠する者達が擁するチームがウィンターカップ出場が決まり、素直に喜ぶ赤司。

 

「どのようなシナリオが用意されているかは分からない。だが、確実に言えるのは、この大会で頂点に立っているのはこの中の誰か、と言う事だけだ」

 

『…』

 

赤司の言葉に集まった面々が真剣な表情となる。

 

「そうとは限らないんじゃねえの?」

 

その時、赤司の言葉に口を挟む者が現れた。

 

「…ふん」

 

「…来やがったか」

 

「久しぶりだな!」

 

「おー! 夏以来ッスね!」

 

「やれやれ、つくづくおは朝占いは当たるのだよ」

 

「…」

 

現れた者を見て青峰は鼻を鳴らし、火神は不敵な笑みで挨拶をし、黄瀬は笑みを浮かべ、緑間は肩を竦め、紫原は無言で視線を向けた。

 

「突然の無礼、申し訳ありません」

 

横に立っていたもう1人の男が頭を下げた。

 

「まさかここで会えるとは思わなかった。久しぶりだね。神城君、綾瀬君」

 

現れた2人を赤司は歓迎するように迎えた。

 

「ども、今回は邪見にしないよな?」

 

不敵に笑みを浮かべながら空が青峰に対して告げる。昨年のインターハイの折、キセキの世代と火神が集まった際、その時も空は宣戦布告のような言葉をぶつけたが、その時は青峰に敵として歓迎されなかったのだ。

 

「……へぇ、何処で何してたか知らねえが、夏からさらに伸びたみてーだな」

 

2人を交互に見定めた青峰が不敵に笑いながら2人の成長を確認した。

 

「シナリオなんてもう決まってんだよ。頂点に立つのは俺達だ」

 

親指で自身を指差しながら空が告げた。

 

「…その様子じゃ、県予選の欠場は怪我や病気ではないみたいだね」

 

県予選の2人の欠場を知る赤司は不幸が起こった訳ではない事を知って微笑んだ。

 

「はい。今度こそ優勝する為に、今日まで死に物狂いでやってきました」

 

大地が答えるように告げる。

 

「…ふっ、良いだろう。君達ももはや俺達と同格。優勝を競い合うライバルに充分たり得る」

 

赤司は空と大地をライバルと称した。

 

「言いたい事は各々あるだろうが、敢えて言うのはやめよう。言いたい事は皆同じだろうし、それはコートの上で示すべきだからね」

 

この場の全員を見渡しながら赤司が告げる。

 

「改めて、神城君と綾瀬君を含めて顔合わせる事が出来て良かった。試合が始まってしまえばこのように穏やかにとは行かないからね。…それでは次は、コートの上で会おう」

 

そう赤司が言い放つと同時に、その場にいた8人の天才と1つの影は、各々歩き出したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「聞いたかよ? あいつら、優勝する気らしいぜ」

 

その場所から死角の位置で話を盗み聞きをしていたウィンターカップ出場チームの選手と思しき選手が口を開いた。

 

「可哀想に。高校最後の大会、あの中で誰も優勝出来ねえってのに」

 

尋ねられたもう1人の選手がニヤリと笑いながら返事をした。

 

『あれが10年に1人の逸材とか言われてるキセキの世代か。…大した事なさそうだな』

 

隣にいた1人の外国人がニヤニヤしながら感想を口にした。

 

「お前がいれば優勝間違いなしだ。頼むぜ」

 

その外国人選手に期待の言葉をかける。

 

「調子に乗ってられんのも今の内だけだ。全中の借りは何倍にもして返すぜ、キセキの世代…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「っしゃぁっ! 気合い入れて行くぜ!」

 

遂にウィンターカップ1回戦が開始される時がやってきた。シード枠から漏れた花月は1回戦から試合があり、インターハイではキセキの世代を擁するチームに勝利してのベスト4と言う事もあり、注目度は高い。

 

「よし、行くぞお前ら!」

 

『おう!!!』

 

上杉の檄に応えた選手達はコートへと足を踏み入れた。

 

『おぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

花月の選手達がコートにやってくると、会場が割れんばかりに歓声が上がった。今や優勝候補の一角に数えられる花月高校。キセキを擁するチームの中で最初の試合と言う事もあり、会場のボルテージもグングン上がっていく。

 

「スタメンは神城、生嶋、綾瀬、天野、松永だ、変更はない」

 

「久しぶりのベストメンバーでの公式戦やな」

 

国体とウィンターカップ県予選では空と大地が欠場した為、夏以来のベストメンバーに思わず懐かしむ天野。

 

「そうだね。凄く懐かしい感じがするね」

 

「フッ、数ヶ月とは言え、色々あったからな」

 

生嶋と松永も同様の感想であった。

 

「こっちもいつでも行ける準備はしておくんで」

 

「頼みます」

 

「速攻で試合決めちまえよ!」

 

「頑張って!」

 

スタメンに選ばれなかったベンチの選手達がエールを贈った。

 

「初戦だけに何が起こるか分からない。だが、遠慮は無用だ。オフェンスでもディフェンスでもガンガン走って攻めてて行け」

 

『はい!!!』

 

「行って来い!」

 

「行くぞ!!! 花月ーファイ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声に選手達が続き、スタメンに選ばれた選手達がコートへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両校の選手達がコート上のセンターサークル内に集まる。花月の1回戦の相手は三重県の代表校である鎌田中央高校。

 

「…ん?」

 

整列する両校の選手達。その時、空が何かに気付く。

 

「同じ顔だ」

 

相手チームである鎌田中央のスタメン選手に瓜二つ顔が2人いる事に気付いた。

 

「…前日のミーティングで相手チームのスタメンに佐々木と言う双子の選手がいると姫川さんが言っていたでしょう」

 

事前情報の話をしっかり覚えていた大地が空の耳元で囁くように説明した。

 

「そういや、そんな事言ってたような…」

 

おぼろげな空。

 

「…で、あれが例の留学生のアメリカ人か」

 

その中でひと際存在感を醸し出す、190㎝を超える留学生選手を見ながらポツリと空が呟いた。

 

「アンディ・ドガ―。アメリカからの留学生で、本場仕込みの選手ですので、油断は出来ませんね」

 

大地は警戒をしたのだった。

 

「さて…」

 

空が主将同士の挨拶の為に前に出る。鎌田中央の主将である双子の1人が前に出て、握手を交わした。

 

「よう。少しは楽しませてくれよ」

 

すると、双子の1人が空に話しかけた。

 

「善戦してくれれば楽しめると思うぜ」

 

皮肉な言葉に空も皮肉交じりに返した。

 

「言っとくが、こっちはお前らなんて眼中にねえんだよ。俺達にとってお前らはあくまでも明日の試合の予行練習に過ぎねえんだよ」

 

ニヤニヤしながら空に向かって告げる。

 

「へぇー、もう次の大会に向けて練習試合組んでんだ」

 

対して空は鼻であしらいながら返した。

 

「…っ! …良いぜ、1つ予言してやるよ。この試合、第3Qに入る頃には試合は決まる。その時、お前はコートには立ってないだろうよ」

 

一瞬ムッとした後、空に向けてそう言ってから握手を交わした手を放した。

 

整列が終わると、選手達はコートに散らばり、ジャンパーの選手だけがセンターサークル内に残った。

 

「…」

 

花月のジャンパーは松永。鎌田中央はセンターのポジションの選手がジャンパーに立った。

 

「いよいよッスね!」

 

「見せてもらうのだよ」

 

最初の試合だけにキセキの世代や火神だけではなく、ウィンターカップ出場校全てが花月の初戦に注目していた。

 

「…」

 

審判がボールを構え、ジャンプボールに備える両校の選手に視線を向け、ボールは高く上げられた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ」」

 

両ジャンパーが同時にボールに飛び付く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…くっ!」

 

松永が先にボールを叩き、ジャンプボールを制した。

 

「っしゃ! ナイス松永!」

 

ボールを確保した空。試合は花月ボールで開始された。

 

「…フッ、来いよ」

 

すかさずボールを運ぶ空の前に双子の1人、佐々木翔太がディフェンスに入った。

 

「(…啖呵切った割に大した選手には見えねえな)」

 

目の前に立つ相手選手の実力を推し量る空。それなりのキャリアと勘を持つ空は実際にやり合わずとも相手のだいたいの実力は見抜く事が出来る。その空から見て、目の前の相手はそれほどの選手とは思えなかった。

 

「(ま、いいや。とりあえず1本、行くぜ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

最初の1本を決める為、空が加速。中にカットインした。

 

「ぐわ!」

 

空とすれ違い様に、佐々木翔太が尻餅を付いた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『オフェンスチャージング、緑4番!』

 

審判がファールをコールした。

 

「…あっ? 今こいつに触れたか?」

 

コールされたファールに訝し気な表情をする空。切り込んだ際、空はせいぜい肩が軽く相手に触れた程度に接触しただけでファールを取られる程ものではなかったからだ。

 

「ハハッ、ナイス」

 

倒れた兄を弟の颯太が手を貸しながら称える。

 

「…」

 

その姿を大地がジッと見ていたのだった。

 

 

花月の最初のオフェンスが失敗に終わり、鎌田中央のオフェンス。相手のポイントガードがボールを運ぶ。

 

「カモン!」

 

フロントコートにボールを運んだ所でアンディがボールを要求し、すかさずパスを出した。

 

「…」

 

アンディには大地がディフェンスに入った。

 

 

「さつき、あの外人はどんな奴だ?」

 

試合を観戦していた青峰が桃井に尋ねる。

 

「えっと、彼はアメリカから来た留学生で、アメリカではその州の強豪校に所属していた選手みたい」

 

ノートを手に取りながら解説する桃井。

 

「マジか!? なら相当やるんじゃねえかあいつ!?」

 

それを聞いた福山は驚きを隠せなかった。

 

「…」

 

説明を聞いた青峰は何を言葉を発せず、試合に注目した。

 

 

「…」

 

ディフェンスに入り、相手の動きに注視する大地。

 

「……ハッ!」

 

アンディが大地を見て不敵に笑うと…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、仕掛けて来た。

 

「…っ」

 

これに大地も反応し、並走する。

 

「you can't beat me!(お前では俺に勝てない!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

並走されるのと同時にバックロールターンで反転…と見せかけて再度突き進み、大地を抜きさった。

 

『うぉっ!!! スゲースピードとキレ味だ!』

 

一連のプレーを見て観客が沸き上がる。

 

「ハッ!」

 

直後にボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

そこへ、松永がブロックに現れた。

 

「それでブロックのつもりか?」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

松永のブロックの上からアンディがダンクを叩き込んだ。

 

『ダンクもスゲー!?』

 

「…っ」

 

ブロックをものともしないダンクに松永は思わず舌打ちをする。

 

「おいおい、この程度でこの国では強豪と呼ばれるのか? 俺の国なら小学生でも勝てるぜ」

 

嘲笑の言葉を浴びせながらアンディはディフェンスに戻っていった。

 

 

「1本、行くぞ!」

 

ボールを受け取った空がボールを運ぶ。

 

「…ハッ!」

 

待ち受けるのは先程同様、兄翔太。

 

「…」

 

空は無理に切り込まず、大地へとパスを出した。

 

「今度はお前か? 来いよ」

 

大地の前に立ち塞がるのは弟の颯太。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何かを考える素振りをした後、大地は切り込んだ。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『オフェンスチャージング、緑6番!』

 

同時に倒れ込む颯太。審判は大地のファールをコールした。

 

「(…今のは)」

 

先程の空同様、大地もこのファールに違和感を覚えた。

 

「いいぞ颯太」

 

「ああ」

 

兄の手を取って立ち上がる颯太。

 

「(全中の時に負けたのは化け物が同じチームに5人もいたからだ。だが、その化け物も各地に散らばった)」

 

「(あれからファールを貰う技術に磨きをかけた。俺達がキセキの世代をコートから追い出しちまえばアンディを止められる奴はいない。優勝はいただきだ!)」

 

勝利を確信し、双子の2人は不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「出たッスね。彼らの十八番が…」

 

2つのファールを見て、黄瀬は全中での試合の事を思い出した。

 

「鎌田西中学出身の佐々木兄弟。合気道を応用してマークマンからファールの貰うのが得意な選手です。県予選でも相手のキーマンやエースを数多くファールトラブルでベンチに追い込んでいます」

 

桃井が佐々木兄弟の解説をする。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

コート上ではアンディがジャンプショットを決めた。

 

「県予選では彼が得点を量産して三重の県予選を勝ち抜いてるわ。県予選での得点の平均は40点を超えています」

 

「正攻法ではなく、搦め手で勝負するチームか。しかも、得点を荒稼ぎ出来る外国人もいるとなりゃ、…これは、あり得るかもしれないな」

 

番狂わせの可能性を示唆する福山。

 

「ふん、本気でそれ言ってんならめでてー頭してんな」

 

「あっ?」

 

青峰の物言いに福山がムッとした表情をする。

 

「この試合の結果なんざ興味ねえ。俺があるのは、1つだ」

 

コートに視線を向けたまま青峰がそう口にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お前のスピードもリズムも掴んだ。お前からファールを貰う事なんざいつでも出来るぜ」

 

ボールを運ぶ空に対し、翔太が嘲笑交じりに言い除ける。

 

「ふーん。…じゃあ、やってみろよ」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

そう言ったの同時に空がその場で高速でハンドリングを始めた。

 

「無駄だ! てめえのリズムは掴んで――っ!?」

 

空からファールを貰うべく呼吸を合わせようとする翔太。

 

 

 

「ファールを貰う、ね。あの恐ろしく速い上に恐ろしく変則的なリズムの神城っちに呼吸を合わせられるなら大したものッスけどね」

 

黄瀬がポツリと呟いた。

 

 

 

「(何だよこれは!? 速すぎる! しかもリズムがバラバラ過ぎて合わせられねえ!?)」

 

ファールを貰うべく空の呼吸に合わせようとする翔太だったが、全く合わせられずにいた。

 

「…」

 

「(っ!? ここか!?)」

 

空の挙動を見て咄嗟に倒れ込む翔太。

 

「残念」

 

しかし、空は切り込んでおらず、当然、審判から笛が鳴る事はない。

 

「その程度の小細工でやられる程、俺は柔じゃねえ」

 

「っ!?」

 

座り込む翔太を見下ろしながら空はボールを掴み、ジャンプショットを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは的確にリングの中心を潜り抜けた。

 

「くっ、くそっ…!」

 

ファールを貰えず、悔しがる翔太。

 

 

「ふん、点だったら俺が50点でも60点でも取れるから問題ない」

 

鎌田中央のオフェンス。早々にアンディにボールを渡し、アンディがすぐさま仕掛けた。

 

「行かせません」

 

しかし、大地がピタリとディフェンスをする。

 

「…っ! お前など敵ではない!」

 

ボールを掴んでターンアラウンドで反転し、すぐさまジャンプショットの体勢に入った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールを頭上にリフトさせようとした瞬間、大地がボールを叩き落とした。

 

「残念ですが、その程度は私は崩れません」

 

そう言ってルーズボールを抑えると、そのまま速攻を仕掛けた。

 

「行かせるかよ!」

 

スリーポイントライン目前で大地に追い付いた颯太が大地の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

これを見て大地は停止する。その間に鎌田中央の選手達がディフェンスに戻った。

 

「(来い、ファール取ってベンチに引っ込めてやるよ!)」

 

ファール狙いの颯太は、大地の動きに注視する。

 

「…」

 

大地は膝を曲げる。

 

「(来る! すれ違い様に――)えっ!?」

 

仕掛ける大地の備える颯太だったが、大地との距離が縮まるではなく、広がった事に思わず声を上げた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

距離が空いた事で大地は悠々とスリーを打ち、決めた。

 

「うそ…だろ…」

 

一瞬の内に距離を空けられ、茫然とする颯太。

 

 

 

「あいつのバックステップのスピードは並の奴の切り込みより遙かに速い。あの双子程度の身体能力と高さじゃ、来ると分かってても止められねえだろうよ」

 

今の大地のプレーを見て青峰がそう断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合が始まって、当初は鎌田中央の佐々木兄弟のファールとアンディの連続得点で主導権を掴んだかに見えたが、すぐさま空と大地が主導権を取り返した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が高速かつ独特のリズムで双子に兄、翔太のディフェンスを突破し、中に切り込む。

 

 

――バス!!!

 

 

そこからパスあるいは自ら決めて得点に繋げた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地もバックステップで距離を取ってスペースを作り、そのままシュート。バックステップを警戒して距離を潰してきたら前進して弟颯太を抜きさり、そのまま得点を決めた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「うっ!?」

 

強引にダンクを狙ったアンディだったが、大地によってブロックされてしまう。

 

 

「「くっ…、くそっ!」」

 

得意の技術で空と大地をファールトラブルに追い込めず、悔しがる佐々木兄弟。

 

「そんな…。俺が日本人なんかに…」

 

本場仕込みのバスケのアンディも大地の抑えられ、茫然とする。

 

当初は苦戦も予想された試合だったが、花月はその不安を払拭し、鎌田中央を圧倒。前半戦が終わった時点で56ー23と、大差を付けていた。

 

「あーあ、出番は終わりか。久しぶりの公式戦だからフル出場したかったなぁ」

 

「まあまあ。先輩達や後輩達もいるんですから…」

 

拗ねる空を大地が窘める。

 

「ちくしょう…、余裕こきやがって…!」

 

ベンチに下がった2人の姿を見て一層悔しがる佐々木兄弟。奇しくも試合開始前に予告した展開にある意味同じになってしまい、その屈辱は計り知れない。

 

 

 

「…」

 

試合を見ていた青峰は立ち上がり、その場を後にした。

 

「おい青峰、何処に行くんだよ?」

 

「便所だよ。もう結果は知れてんだ。これ以上見てても意味がねえ」

 

福山の問いにそう返し、青峰はそのまま歩き出した。

 

「まるっきり本気じゃなかったが、…なるほど、確かに伸びてんな」

 

前半戦のみだが、空と大地は実力のほとんどを見せないままベンチへと下がったが、それでもその一挙手一投足から2人の成長を感じ取った青峰。

 

「良いね。今度は前よりさらに楽しめそうだ」

 

進化した2人を見た青峰は満足そうに笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「くそっ! もう1度お前らをコートに引き摺り出してやる!」

 

主力を温存させられた事で屈辱を味合わされた佐々木兄弟は2人を再度投入させる為に奮闘を試みる。しかし…。

 

「ファール狙いって分かってるのに馬鹿正直に仕掛けませんよ」

 

空の代わりにコートに入った司令塔の竜崎は慎重にボールを回し、得点を重ねる。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!? お前なんかに…!」

 

「確かにやるみたいやけど、キセキの世代に比べたら楽やな。五将の方がまだマシや」

 

大地に代わってマークに付いた天野がアンディを抑え込む。

 

空と大地が下がり、得点は減り、失点は増えたのだが、それでも花月は鎌田中央を相手に優位に試合を進めていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

生嶋が外からスリーを決め、ディフェンスを広げさせる。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

松永がボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

「おぉっ!」

 

リングに弾かれたボールを室井が相手選手を抑え込み、リバウンドボールをもぎ取る。

 

「らぁっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

得意のドライブで菅野が中に切り込む。

 

「行ってください!」

 

帆足も得意のスクリーンで味方をサポート。隙を突いてフリーになって2本のスリーを決めた。

 

『おいおい、神城と綾瀬下がってもつえー!』

 

『そりゃ、県予選をあの2人抜きで突破したんだからな』

 

空と大地のいない花月であっても試合を優位に進めている事に観客も歓声を上げる。

 

「そんな…」

 

「キセキの世代相手ならまだしも、こいつらなんかに…」

 

既に試合は終盤。点差はもはやひっくり返りようのない程にまで開き、茫然とする佐々木兄弟。

 

「今の日本人は、こんなにもレベルが高いのか…」

 

県予選の結果から日本人を見下していたアンディ。しかし、自分のバスケが全く通用せず、表情を強張らせている。

 

「強さは健在ッスね」

 

改めて花月の強さを認識する黄瀬。

 

「ふーん」

 

興味なさげなリアクションをするもしっかり花月の実力を見据える紫原。

 

「そうでなくては倒し甲斐がないのだよ」

 

眼鏡のブリッジを押し上げながら緑間が呟く。

 

「良いね。燃えてきたぜ」

 

テンションを上げる火神。

 

「面白い」

 

赤司は薄っすらと笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あのアメリカ人、最初は結構やるかと思ったがよ、そこまでもねえな? 本当に州の強豪チーム出身なのか?」

 

「…それは間違いないんだけど、向こうではスタメンはおろか、ベンチ入りも出来なかったらしくて」

 

福山の疑問に桃井がおずおずと答えた。

 

「そういう事かよ。向こうじゃ通用しねーからってこっちで一旗揚げようとしたって訳か。舐められたもんだぜ」

 

それを聞いて鼻を鳴らす福山。

 

「…でも、あれだけ実力があってもアメリカではベンチにも入れないんですね。日本なら全国区のチームであってもスタメンになれそうな実力なのに…」

 

それでも高い実力を誇るアンディを見て桜井はアメリカの実力を知ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合はそのまま花月優勢で進んだ。ベンチに下がった空と大地は以降、試合に出る事はなく。ベンチワークを駆使して試合を進めた。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

そして試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

 

花月   98

鎌田中央 62

 

 

ウィンターカップ初戦を花月が無事、勝利で飾った。

 

「っしゃぁぁぁっ!!!」

 

「…ふぅ」

 

3年最後の大会にして全国デビューを飾った菅野。同じく全国の舞台で試合に出場した帆足。菅野は絶叫しながら喜び、帆足は試合に貢献出来た事に喜んだ。

 

「まずは初戦、勝利出来ましたね」

 

「うむ。だが、ここからだ」

 

喜びも他所に上杉は次を考え、表情を改めた。

 

「勝ったな」

 

「ええ」

 

そう言って、軽く手を叩き合う空と大地。

 

「明日だ。ようやく去年の借りを返せる」

 

「必ずや、リベンジを果たしましょう」

 

2人はそう宣言したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

無事、花月が1回戦を突破した。

 

シード枠の洛山、誠凛、桐皇は試合がなく、海常、秀徳、陽泉は危なげなく1回戦を突破した。

 

翌日、2回戦及びシード枠の試合が始まる。

 

 

 花月高校 × 桐皇学園高校

 

 

その中での注目の対戦カードがこの試合。今年の夏に実現しなかった対戦カードである。

 

昨年のウィンターカップで煮え湯を飲まされた相手である桐皇学園高校。

 

リベンジマッチの火蓋が明日、切られるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





と言う訳で、一気に大会初日終了です。

帝光過去編でおなじみのあの双子が登場です。何処かで出そうと思っていたのですが、満を持してここで登場です…(^-^)

留学生のアンディ・ドガ―。名前の由来はUnderdogからです…(;^ω^)

さて、ここからが本題となるので、今から試合のネタ集めに入ります。自分的に過去の試合が出来過ぎかと思っているので、それに負けない試合にしたいですね…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第163Q~リベンジマッチ~


投稿します!

遂に本題が始まります!

それではどうぞ!



 

 

 

「……よし!」

 

時刻は早朝、外は完全には日が昇っていない時間。ジャージ姿に着替えた空は旅館の庭で軽く身体を解し、気合いを入れた。

 

「早いですね」

 

走り出そうとした時、ちょうど旅館から出て来た大地が声をかけた。

 

「おう。今日は激戦になるからな。早めに身体を動かしておかねーとな」

 

「考える事は同じですね。…近くの公園までどうです?」

 

そう大地が尋ねると、空はニヤリを笑い…。

 

「良いねえ。負けた方はジュース奢りな」

 

その提案を受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ふぅ、私の勝ちですね」

 

「ちっくしょう! 途中の車さえ来なけりゃ俺勝ってたのに!」

 

旅館から公園までの競争は大地の勝利で終わった。空は傍の自販機で飲料水を買い、大地に手渡した。

 

「ほらよ」

 

「どうも」

 

大地に飲み物を渡すと、2人は蓋を開け、口にした。

 

「…いよいよだな」

 

「ええ。去年の雪辱を返す時が来ました」

 

本日、ウィンターカップ2回戦。花月は桐皇と激突する。昨年のウィンターカップは準々決勝で戦い、敗退した。

 

「去年戦った時は、力の差は歴然だった。結果は1点差だったとは言え、次やり合えば間違いなく点差を付けられて負ける程に…」

 

紙一重での敗北ではあったのだが、奇策がハマったり、あらゆるものが花月を味方した。しかし、それでも勝つ事が出来なかった。

 

「桐皇はキセキの世代を擁するチームの中でもっとも昨年の主力が残ったチーム。唯一代替わりをした國枝さんも、身体能力では若松さんに後れを取りますが、それでも決して大きく劣っている訳ではありません。経験値以外は総合的に見てもそこまで差はないですからね」

 

去年のスタメンが4人も残り、経験豊富な選手が残り桐皇。去年の主将であった若松の穴を埋める國枝も、技巧派ながらパワーもそれなりにあり、総合的には引けを取らない。

 

「オフェンスは特に厄介ですね。青峰さんを始め、主将の福山さんや、シューターの桜井さん等、得点能力の高い選手が揃っています」

 

桐皇の特徴はその圧倒的なオフェンス力。東京都予選でも100点ゲームを連発し、下馬評ではオフェンス力ナンバーワンとも言われている。

 

「厄介なのは、向こうは俺達の動きを先読みしたディフェンスをしてくる事だ」

 

もう1つ。桐皇と言えば、全国屈指のオフェンス力を持つチームであるが、ディフェンスも曲者である。桐皇のマネージャーであり、参謀でもある桃井さつきによるデータ収集能力。これにより、相手のオフェンスは先を読まれ、後手に回される。

 

「試合は間違いなく点の取り合いになる。…責任重大だぜ?」

 

空は大地を見ながらニヤリと笑う。

 

前日のミーティングにて、青峰のマークはスタートから大地がする事になった。ポジションや身長を考えたら天野の方が適任ではあるのだが、キセキの世代の中でも指折りのスラッシャータイプでも青峰を相手にするには、多少のミスマッチであってもスピードがある大地が適任となったのだ。

 

「前回は食らいつくのがやっとでしたが、私とて去年とは違います。必ず、勝ってみせます」

 

力強く、確かにな目をしながら大地が宣言した。

 

「なんや。お前らも来とったんか」

 

そこへ、2人に話しかける者が現れた。

 

「天さん!」

 

「おはよう、くー、ダイ」

 

「相変わらず早いな」

 

現れたのは天野。その後ろに生嶋と松永が続いて挨拶をした。

 

「水臭いのう。俺らも誘えや」

 

「申し訳ありません。起こすのも悪いと思ったので…」

 

茶化すように言う天野に対し、大地は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「みんな早いな。もしかして寝られなかったのか?」

 

「阿呆。こちとらお前らと違って昨日フル出場しとんねん。グッスリや」

 

昨日、花月で唯一フル出場した天野は空の問いにツッコミを入れるように返した。

 

「普段なら緊張してあまり寝られないんだけど、今日は何故か良く眠れたよ」

 

「俺もだ。強敵を前にここまで万全に朝を迎えられるのは久しぶりだ」

 

生嶋と松永もしっかりと睡眠が取れ、コンディションは万全であった。

 

「そりゃ心強い。今日は頼りにさせてもらうぜ」

 

それを聞いた空は満足そうに微笑んだ。

 

「先輩達、早いですね」

 

「おはようございます」

 

そこへ、竜崎と室井がやってきた。

 

「考える事はみんな一緒みてーだな」

 

「…ふぅ、菅野先輩、置いてかないで下さいよ」

 

続いて菅野と帆足もやってきた。

 

「なんや、結局いつものメンバー勢ぞろいかい。ほなら、せっかく揃っとるやし、朝飯前に軽くチーム連でもやろか」

 

「っしゃ! まずはランニング…は、既に皆ここまで走り込んでるからいいか。んじゃ、スリーメンでもやるか」

 

空を先頭に、揃った花月の選手達はチーム練習を行った。その後各々自主練をし、軽くシュートを打ち込んだりする者、軽めに1ON1等をする者。あるいはそのサポートと、各々取り組んだ。

 

「…もう時間やな。そろそろ旅館に戻って飯にしようや」

 

ひとしきり練習を行っていると、時刻は朝食時。日も完全に昇っており、天野が切り上げるように指示を出す。

 

「…ですね。あー腹減った!」

 

こうして花月の部員達は旅館へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

旅館に戻り朝食を取る(前に上杉から軽く説教)、と、選手達は準備をして会場まで移動した。

 

『おぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

試合前の練習の為、花月と桐皇の選手達がコートに現れると、会場が割れんばかりの歓声に包まれた。

 

『…』

 

両校の選手達は淡々とアップをしている。

 

『…なんつーか、凄い緊張感だな』

 

両校の選手達の緊張感が観客にも伝わり、当初は沸き上がっていたのだが、徐々に収まっていった。

 

「下がるぞ!」

 

「撤収だ、急げ!」

 

やがて時間になり、両校共にコートから下がる準備を始める。

 

「よう」

 

その時、空に対し、青峰が話しかけた。

 

「随分と大人しいじゃねえかよ。まさか、ビビってんじゃねえだろうな?」

 

不敵に笑いながら青峰が尋ねる。

 

「そんな訳ねえだろ。むしろ、待ち遠し過ぎて武者震いするくれーだよ」

 

そう言って空は胸の辺りを掴む。

 

「あんたは初めて試合で負かされた相手だからな。ひとたび顔を合わしちまったら、…抑えられそうにねえから必死に抑えてんだよ」

 

「…へぇ」

 

それを聞いて青峰は満足気に笑う。

 

「焦らなくても試合になったら全開でやるつもりだからよ。それまで待ってろよ」

 

「ハッ! ちったぁ、マシな顔するようになったじゃねえか。せいぜい楽しませろよ」

 

そう言って、青峰は踵を返し、チームメイトの下へと向かって行った。

 

「1つ言い忘れた」

 

「あん?」

 

戻ろうとした青峰は空の言葉に振り返る。

 

「機会があればやり合うつもりだがよ、今日あんたが相手するのは、こっちだ」

 

「…ほう」

 

「…」

 

親指で指差した先に、大地の姿があった。

 

「言っとくが、大地はつえーぞ。少なくとも、去年の俺より遙かにな」

 

ニヤリと笑いながら空が青峰に告げる。

 

「…へぇ、てめえが今日俺をマークすんのか」

 

「はい。今日、あなたを倒す為、腕を磨いてきました」

 

力強い口調、力強い目で大地が青峰に告げた。

 

「…ハッ! 去年はお前(空)か関西弁の奴のどっちかがいなけりゃ相手にならなかった奴が、何処までやるようになったか、楽しみにしてるぜ」

 

そう皮肉交じりで返し、青峰は今度こそその場を去っていった。

 

「…ああ言ったからには、もう後には引けないぜ?」

 

「引くつもりありません。今日、私は青峰さんを倒します」

 

「ハッハッハッ! それでこそ花月のエース。そして、俺の相棒だ」

 

満足そうに空は笑うと、2人もコートを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

控室にて、桐皇学園高校…。

 

『…』

 

刻一刻と試合時間が近付く中、試合に向けて着々と準備を進めていた。

 

「…って、青峰はまだ戻らねえのか」

 

控室にて唯一青峰がいない。1度は合流したのだが、控室に入らず、1人何処かに行ってしまったのだ。

 

「えっと…まだ戻ってません。さすがに試合前には戻ると思うけど…」

 

不安そうに桃井が言った。

 

「ハハッ。青峰はんは相変わらずマイペースやのう」

 

「気取った言い方すんな。あんなのただの自己中だ自己中」

 

いつもの様子の青峰を見て今吉が笑うと、福山は口先を尖らせる。

 

「さつき。ドリンクくれ」

 

その時、控室の扉が開かれると、青峰がやってきた。

 

「青峰、いい加減勝手に別行動するんじゃ……って、スゲー汗だなおい!」

 

1人別行動を取る青峰に一言文句を言おうとした福山だったが、青峰の身体から滝のような汗の量を見て驚いた。

 

「…あん? 少しきつめにアップしただけだよ」

 

そう青峰が返すと、受け取った飲み物を口にした。

 

「(…それだけ青峰さんは花月を警戒してるんだ)」

 

桜井が青峰の胸中を察した。

 

青峰の特徴の1つにスロースターターと言う一面がある。試合開始直後は調子が出ず、同じキセキ級の選手がいるチームと戦うと良くて拮抗、場合によってリードを許してしまう事が多々あった。このきつめのアップは試合開始直後に全開で戦えるようにする為。つまり、青峰はそれだけ花月を認めているのだ。

 

「そんな様で試合後半でバテたりすんなよ」

 

「それは大丈夫だと思うよ。大ちゃん、怪我治ってから毎日練習後に走り込んでたから」

 

「余計な事喋ってんじゃねえよ」

 

心配する福山に対し、桃井が弁明すると、青峰が諫めるように口を挟んだ。

 

「ほう? あの基礎連嫌いの青峰が自主的に走り込みねぇ…」

 

「ド下手なディフェンスするてめえの尻拭いするとなると体力はどれだけあっても足りねえんだよ」

 

「んだと!?」

 

茶化す福山に青峰が呆れ顔で返すと、福山は怒りを爆発させた。

 

「わーわー! 落ち着いて下さい!」

 

それを見て桜井が慌てて止めに向かった。

 

「キャプテンと青峰先輩は相変わらずですね」

 

「いい加減見飽きたわ」

 

嘆息する國枝に対し、今吉は慣れたのか、ニヤニヤと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方、花月の控室…。

 

『…』

 

選手達は黙々と試合に向けて準備を進めていた。

 

「(…凄い空気を重い)」

 

誰も言葉を発せない控室。相川がズシッと何かを感じていた。

 

「準備は出来ているな?」

 

そこへ、上杉が控室にやってきて選手達に尋ねた。

 

「もう時間ですか?」

 

「間もなくだ。そろそろ試合に向けて気持ちを入れ替えろ」

 

その言葉を聞き、選手達は移動の準備を始めた。

 

「っしゃぁっ! 行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声を合図に選手達が応え、コートのあるフロアへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

『来た!!! キセキの世代撃破を成し遂げた不屈の旋風、花月高校!!!』

 

『今回も奇跡を起こしてくれよ!!!』

 

花月の選手達が改めてコートに現れると、観客が割れんばかりの声援を贈った。

 

『対するは、キセキの世代エース、青峰大輝を擁する新鋭の暴君、桐皇学園高校!!!』

 

『力の差を見せつけろよ!!!』

 

続いて桐皇の選手達が現れると、同様に声援を贈った。

 

『どっちも高いオフェンス力を誇るチームだ。まず間違いなく点の取り合いになるぞ!』

 

キセキの世代を擁するチームとキセキの世代を撃破した実績のあるチームとの激突。注目度は高い。

 

「おっ? 来たな。さて、どうなるかな」

 

観客席の高尾が注目する。

 

「真ちゃんの予想は?」

 

「…予想は出来ん。どっちが勝ってもおかしくはないのだよ」

 

尋ねられた緑間はそう答えた。

 

「去年の試合前予想は桐皇に圧倒的優勢だったけど、今年は読めないな」

 

観客席の別の場所で海常の小牧が予想を立てるも答えが出なかった。

 

「……インターハイでの花月を見れば、花月が優勢ッスかね」

 

直接最近の花月と手合わせをした黄瀬は花月の優勢を予想した。

 

「ただ…」

 

「?」

 

「青峰っちが何処まで強くなったか次第ではこの予想はあてにならないッス」

 

続いてそう言葉を続けた。

 

「青峰はインターハイでの負傷で途中で欠場したが、後に引き摺る程ではなかったはず。夏の時と大して変わらなければ花月が優位だろうが…」

 

ここで赤司は言葉を止める。

 

「昔の青峰ならいざ知らず、あの青峰が今日までただ日々を過ごすとは思えねえ」

 

「同感です。もともと、青峰君は負けず嫌いで日々の努力を怠らない人でもありましたから、きっと夏より進化していると思います」

 

青峰の性格を汲み取る火神。黒子も頷いていた。

 

「インターハイデハ残念ナ結果ニナッテシマッタカラ楽シミダ!」

 

アンリが今か今かと試合を待ち望む。

 

「本気になった峰ちんを止めるのは面倒なんだよねー」

 

紫原も青峰を脅威に感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「スタメンに変更はない。神城、生嶋、綾瀬、天野、松永だ」

 

『…』

 

選手達の前に立った上杉が告げる。

 

「今更細かい作戦を言うつもりはない。相手の倍走り、空いたら即座に得点を狙い、相手の倍点を取れ」

 

『はい!!!』

 

「…少なからず去年の敗北を引きずっている者もいるだろう。いいか。お前達は強い。今のお前達なら例え桐皇であっても真正面からぶつかって倒せるだけの力を持っている。それだけの練習をお前達にさせてきた」

 

『…』

 

「俺の監督人生において、もっとも厳しい練習をさせたのがお前達だ。お前達が今日まで積み上げて来たものが今日の試合で発揮出来るはずだ」

 

『…』

 

「月並みだが、自分を信じろ。もう1度言う。お前達は強い!」

 

『はい!!!』

 

「よし! 俺からは以上だ」

 

「全員集まれ!」

 

上杉の話が終わると、空が立ち上がり、皆を集める。選手達は円陣を組むように集まった。

 

「リベンジマッチだ。俺はこの日を待ちわびた。他と潰し合う前にぶつかれた事に感謝しかねえ」

 

『…』

 

「正真正銘、最後の大会だ。もう次はない。今度こそ、俺達が頂点に立つ」

 

「せやな。負けは充分味わったからのう。もうよういらんわ」

 

「だね。目指すのは優勝。それだけだね」

 

「ああ。その為に花月に来たのだからな」

 

空の言葉に天野、生嶋、松永が賛同する。

 

「その為の今日の試合です。昨年の雪辱を晴らしましょう」

 

大地が意気込みを露にした。

 

「スー…フー…、よし、それじゃ、花月ー!!! ファイ!!!」

 

『おう!!!』

 

「行くぞ!!!」

 

掛け声と同時にスタメンに選ばれた5人がコートへと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート上のセンターサークル内に花月、桐皇のスタメンの選手が集合する。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

桐皇学園高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:福山零  191㎝

 

5番PF:青峰大輝 195㎝

 

6番SG:桜井良  177㎝

 

9番PG:今吉誠二 179㎝

 

10番 C:國枝清  192㎝

 

 

「これより、花月高校対桐皇学園高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

審判の号令と同時に挨拶を交わす両チーム。

 

「よろしく頼むぜ!」

 

「こちらこそ」

 

主将の空と福山が握手を交わした。そして、ジャンパーの松永と國枝を残し、コートに散らばっていった。

 

「っしゃ! 9番(今吉)!」

 

「6番(桜井)」

 

「4番(福山)や!」

 

「10番(國枝)」

 

花月の選手達がナンバーコールをする。

 

「5番(青峰)」

 

最後に大地がコールした。

 

 

「ナンバーコールしたって事は、マンツーマンで行くのか」

 

「って事は、真っ向勝負で挑むつもりか」

 

ナンバーコールを聞こえ、新海と池永がそう解釈した。

 

「青峰は綾瀬が相手するのか」

 

「英断なのだよ。福山は中と外で勝負が出来る選手だが、どちらかと言うとゴリゴリ身体をぶつけて中から仕掛ける事を好む選手だ。天野の方が適任なのだよ」

 

ポツリと呟く高尾。緑間がこの決断を評価した。

 

 

「…」

 

「…」

 

ジャンプボールに備える松永と福山。

 

「…」

 

審判がジャンパーの2人を交互に視線を向け、ボールを構え、高くボールを上げた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

同時にジャンパーの2人がボールに飛び付く。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…ちぃっ!(こいつ、結構飛ぶ!?)」

 

思わず舌打ちをする松永。ボールを先に叩いたのは國枝。

 

「おおきに!」

 

今吉がボールを抑え、そのままボールを運びを始めた。

 

「……来な」

 

そんな今吉の前に空が立ち塞がった。

 

「うはっ! ホンマかいな…」

 

思わず今吉が吹き出す。

 

「(たった1年でここまで変わるんか…。まるで別人やんけ…)」

 

空から放たれるプレッシャーを受け、今吉がたじろぐ。

 

「(あかんわ。去年はまだ付け入る隙もあったんやが、今回はワシでは話にならんわ。まともに仕掛けんのは避けんと…!)」

 

力の差を理解した今吉はすかさず左45度付近のスリーポイントライン手前に立つ桜井にパスを出した。

 

「打たせないよ」

 

すぐさま生嶋が密着マークでディフェンスに付いた。

 

「(…っ! 凄いプレッシャーだ! けど!)」

 

隙を突いて桜井がターンアラウンドで反転し、生嶋をかわす。

 

「すいません!」

 

直後、得意のクイックリリースのスリーを放った。

 

「っ!? あかん! ストップや!」

 

「…えっ?」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

咄嗟に制止をかける今吉だったが一足遅く。ボールがリリースされるのと同時に横から現れた1本の手にブロックされた。

 

「桐皇の最初のオフェンスの大半はあんたからだからな。簡単には打たせねえよ」

 

「(神城君!?)」

 

ブロックに現れたのは空だった。

 

「(そんな…、あれだけ距離があったのに……ハッ!?)」

 

ここで桜井はある事を思い出す。

 

『神城君と綾瀬君のディフェンスエリアはとにかく広く、気が付くとあっという間にヘルプに来るので注意して下さい』

 

事前のミーティングで桃井に言われた言葉。

 

「しまった、打たされたのか…」

 

ここでもう1つ気付く。ターンアラウンドをした事で僅かではあるが空がいる側に移動させられてしまった事に。生嶋はわざとターンアラウンドを誘発させたのだ。

 

「よし! 先取点貰うぜ!」

 

ルーズボールを抑えた空がボールを運ぶ。

 

「っと、戻り早いな」

 

サクッと1本速攻を決めるつもりだったが、桐皇がいち早くディフェンスに戻り、速攻を阻まれてしまう。

 

「…何処までやれるか分からんけど、全力で止めさせてもらうで」

 

今吉が空の前に立ち塞がった。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながら攻め手を定める空。

 

「……フッ、ま、最初はここしかねえだろ」

 

そう呟き、パスを出した。

 

「っ!? おいおい、いきなりかよ!」

 

この選択に高尾は驚いた。

 

「正気とは思えないぜ」

 

同様に小牧も驚いていた。

 

「良い度胸じゃねえか。…来いよ」

 

目の前に立つ青峰がニヤリと笑いながら告げる。

 

「行きますよ」

 

ボールを掴んだ大地がそう返した。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かし、小刻みに右足を動かし、ジャブステップを踏みながら牽制する大地。

 

「…っ」

 

「(…来る!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して大地がドライブを仕掛ける。仕掛ける気配を察した青峰が大地に並走するように追いかける。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

直後、大地が急停止…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックステップで下がり、距離を空けた。

 

「(急停止して下がるんだろ? そのくらい…!)」

 

これも予測した青峰も急停止し、すぐさま大地との間に出来た距離を潰す。下がったのと同時にボールを掴んだ大地はステップバックを踏んでジャンプシュートの体勢に入る。

 

「(その程度で俺を出し抜いたつもり――っ!?)」

 

追い付けると踏んだ青峰だったが、次の瞬間、驚愕する。大地はステップバックをした左足でそのまま後ろに飛び、かつ速いリリースでボールを放ったのだ。

 

「っ!?」

 

思わず青峰が振り返り、ボールの行方に注目する。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 2

桐皇 0

 

 

『おぉぉぉーーーーーっ!!! いきなり決めたぁっ!!!』

 

『ステップバックをした足でそのままジャンプして決めやがった!』

 

『何であんな速いリリースで決められんだよ!?』

 

いきなりの大地の大技に観客は大歓声を上げた。

 

 

「…片足でのフェイダウェイからのクイックリリース。あの様子じゃ、完成させたんスね」

 

インターハイでの対戦時に目の前で決められた黄瀬。当時は確率の低さを感じていたが、今の様子を見てきっちり仕上げてきた事を理解した。

 

 

「去年とは違います。必ず、今日あなたを倒します」

 

そう青峰に告げ、大地はディフェンスに戻っていった。

 

「…なるほど、やるようになったって訳か」

 

去年は相手の動きを見て止める事も出来たが、今回はある程度動きを予測していたにも関わらず止める事が出来なかった。全国屈指のドライブ技術を持ち、確率の高いスリーも併せ持つ大地。迷いが出たり、どちらも止めようと考えてしまうともはや止める事は至難の業。

 

「良いね。勝負ってのはそうでなくちゃ面白くねえ…!」

 

目の前で大地の成長を見せつけられた青峰は、その成長を見て心を躍らせ、ニヤリと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

変わって、桐皇のオフェンス。

 

「…」

 

ボールを運ぶのは司令塔である今吉。

 

「…」

 

目の前に立ち塞がるのは空。

 

「……そんな睨まんでや。言われんでもそのつもりやって」

 

そう呟き、今吉はパスを出した。

 

 

「だろうな。あいつがやられっぱなしで黙ってる訳がねえ」

 

ボールが渡った先を見て火神がニヤリを笑った。

 

 

「…止めます」

 

「ハッ! やれるもんならやってみろよ」

 

意気込みを露にする大地。対して青峰は不敵に笑う。

 

「…」

 

右45度付近のスリーポイントラインの外側で対峙する2人。大地は腰を落とし、青峰の仕掛けに備える。屈指のドリブラーである青峰。大地にも決して劣らないスピードに加え、驚異のアジリティを併せ持っている。しかもそこから型にハマらないストリートバスケのムーブに加え、従来のセオリーから外れたフォームレスシュートを放ってくる。

 

「(とにかく抜かせない事が先決。中に切り込まれると体格の劣る私が不利…)」

 

万が一にも中に切り込まれ、ダンクを狙われると体格差のある大地では止めるのは困難。その為、何としてもそれを避ける為、大地は距離を取って青峰のドリブルに備えた。

 

「(この日を想定して空に仮想青峰さんの練習をしてもらいました。絶対に止めてみせます!)」

 

組み合わせを見て桐皇と戦う事を理解した大地は空を相手にこの日の為に練習を積んでいた。

 

『…』

 

会場にいる全ての者がこれから始まる勝負に注目している。

 

「…」

 

大地も集中力を高め、青峰の一挙手一投足に細心の注意を払う。

 

「……ハッ!」

 

そんな大地を見て一笑する青峰。次の瞬間…。

 

「……なっ!?」

 

青峰の行動に大地が思わず声を上げる。

 

『なっ!?』

 

これには桐皇を除くコート上及びベンチの選手。観客全てが同じリアクションを取った。

 

青峰は得意のストリートバスケのドリブルアクションではなく、その場からシュート体勢に入り、スリーを放ったのだ。

 

「っ!?」

 

思わず振り返る大地。距離を取っていた上に、スリーに対し無警戒だった為、為すが儘に見送ったスリー。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 2

桐皇 3

 

 

『マジかよ!? スリー打ちやがった!?』

 

『前にはなかったよな!?』

 

過去にデータのない青峰のスリーに観客は驚愕した。

 

 

「マジかよ…」

 

これには火神も驚いていた。

 

 

「何驚いてんだよ。こんなの、放り投げて決めるより遙かに簡単なんだよ」

 

「っ!?」

 

そう言い放つ青峰に振り返る大地。

 

「てめえの成長は認めてやる。だがな、俺に勝てる思ってんなら、考えがあめー。…俺に勝てんのは、俺だけだ」

 

最後にそう告げ、青峰はディフェンスに戻っていった。

 

「やられたな」

 

大地に歩み寄った空が話しかける。

 

「青峰の性格を考えて、あのスリーはハッタリじゃねえだろうな。さすがに緑間や生嶋程決めてこないだろうが、距離を空けりゃガンガン打ってくるだろうよ」

 

そう分析した空。

 

「…それでも、私が彼を抑えなければなりません」

 

顔を上げる大地。

 

「過去にも、容易く打倒出来たキセキの世代はいませんでした。この程度は覚悟の上です。…大丈夫。必ず倒してみせます」

 

確固たる決意に満ちた表情で大地は空に告げた。

 

「そうこなくちゃ。ガンガンボールを回す。ガンガン決めろよ」

 

そう言って、空は大地の肩に手を置いたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

遂に始まったリベンジマッチ。

 

互いのエースが互いの進化を見せつける形で試合は始まった。

 

どちらのエースがエース対決を制するのか…。

 

試合は、ここから激化していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





気が付けばUAが50万を超えてました・・・(^^)/~~~

コツコツ積み上げ、遂にここまで来たと言う感じです。次の目標はお気に入り登録数1000人ですかね…(;^ω^)

満を持して始まったリベンジマッチ。これはキセキの世代との試合が始まると毎回言ってるんですが、大雑把な内容以外、試合展開が白紙です…(>_<)

これから先の試合展開にも負けないようネタを練らなければ…(T_T)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第164Q~真っ向勝負~


投稿します!

試行錯誤しながらの投稿です…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り9分16秒

 

 

花月 2

桐皇 3

 

 

試合が開始され、ジャンプボールを制した桐皇が特攻隊長桜井で攻めるも、空のブロックに阻まれた。ターンオーバーからのオフェンス、大地が青峰と1ON1を仕掛け、得点を決める事に成功した。

 

直後の桐皇のオフェンス。先程の借りを返さんばかりに青峰と大地の1ON1。変則のドリブルに備える大地だったが、青峰が意表を突くスリーを放ち、度肝を抜いた。

 

「来いよ」

 

「言われなくとも…!」

 

花月のオフェンス、空は大地にパスを出し、再びエース対決が始まる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、仕掛ける大地。同時にバックチェンジで右から左へとボールを切り返し、スライドするように身体を左へと移動させる。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

それと同時に急停止する大地。

 

「…っ」

 

大地が上体を前に沈める。

 

「(…来るか!?)」

 

そのまま仕掛けて来ると見た青峰はドリブルに対応する為に重心を後ろにかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、大地は進まず、バックステップで再び距離を空けた。

 

「(ちっ! あの体勢から下がんのかよ…!)」

 

裏を掻かれた青峰。すぐさま大地との距離を詰める。

 

 

――スッ…。

 

 

下がった直後にボールを掴んだ大地はそこからステップバックでスリーポイントラインの外側にステップし、すぐさまクイックリリースのスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたスリーはリングを潜り抜けた。

 

「野郎…」

 

重心を後ろにかけてしまった事が仇となり、ブロックに間に合わず、悪態を吐く青峰だったが、その表情は笑っていた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

次いでの桐皇のオフェンス。ハンドラーの今吉はすぐさま青峰にボールを託す。ボールを受けた青峰は視線を1度リングに向けたと同時にドライブで切り込んだ。

 

「…っ!」

 

先程スリーを決められてしまった為、距離を取れない大地。目線のフェイクによって僅かに反応が遅れてしまう。

 

大地の横を抜けたと同時にボールを掴み、飛ぶ青峰。

 

「…っ! まだです!」

 

得意のバックステップで下がりながら青峰を追いかけ、ボールを放つ前にシュートコースを塞ぐ大地。

 

『あの体勢から追いついた!?』

 

「…それで止めたつもりか?」

 

「っ!?」

 

 

――スッ…。

 

 

青峰は大地が現れるのと同時に青峰は持っていたボールを下に下げ、そのまま下からボールをリングに向かって放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「…ふぅ」

 

得点を決められた大地。だが、その表情に焦りはなく、落ち着いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『うぉー!!! 綾瀬がまた決めた!!!』

 

『青峰も負けてねえ!?』

 

その後もエース同士のぶつかり合いが繰り広げられる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ロッカーモーションでバックステップと見せかけ、青峰を抜きさる大地。

 

「決めさせるか!」

 

リングに向かって飛ぶ大地に対し、國枝がヘルプに飛び出し、ブロックに現れた。

 

 

――ドン!!!

 

 

大地と國枝が空中で接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に審判が笛を吹く。

 

「…っ」

 

空中で何とか体勢を立て直した大地は持っていたボールをリングに向かって放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、イリーガル、黒10番! バスケットカウントワンスロー!』

 

審判がディフェンスファールとフリースローをコールした。

 

「なっ!?」

 

コールされると國枝がリングに振り返りながら驚愕した。

 

『スゲー! 当たりながら決めやがった!』

 

「…ふむ、去年の彼(大地)ならば、決められなかったでしょうね」

 

「はい。せいぜいリングに向かって投げるのが精一杯だったと思います」

 

今のプレーを見た原澤と桃井が言葉を交わす。

 

「なるほど。この1年……いや、インターハイが終わってからかなりフィジカルアップを果たしたみたいですね」

 

大地の姿を見てその成長ぶりを原澤は再確認した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローを決め、大地は3点プレーを成功させた。

 

「くそっ…!」

 

「気にすんな。すぐに取り返すぞ」

 

悔しがる國枝を福山がフォローする。

 

 

「…」

 

「…」

 

桐皇のオフェンス。再び大地と青峰の1ON1が始まる。

 

「(…私の知る青峰さんなら先程抜かれて決められたままで黙っていられる性格をしていません。ここは抜きに来るはず…)」

 

抜きに来ると読んだ大地はドライブを警戒。

 

「…」

 

「…っ!?」

 

大地の読みとは裏腹に青峰はスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを的確に射抜いた。

 

「…ふん」

 

鼻を鳴らす青峰。

 

「(抜きに来ませんでしたか…。今日の青峰さんは勝負を楽しむ事以上に勝ちに来ている…)」

 

有効と見てスリーを打つようになった青峰。過去の試合で打ってこなかったのはドリブルで相手を抜きさってそこから決める方がバスケや勝負を楽しめるからだろう。だが、スリーを躊躇わらず打ってきた事から、今日の青峰は試合に勝つ為に有効かつ最善の選択をしてくると言う事だ。

 

「矜持を捨ててまで勝ちに来るとなると、いよいよ一筋縄では行きそうにありませんね」

 

一息吐く大地。改めて今日の相手の強大さを痛感したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(あの野郎…、あからさまに外の警戒を解きやがって。試しやがったな…)」

 

僅かに苛立つ青峰。先程の大地は敢えてスリーの警戒を解いた事に気付いたからだ。挑発とも取れる大地のディフェンス。

 

「(ぶち抜いときゃ良かったぜ…)」

 

軽く青峰は後悔していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今のスリー。間違いねえ。青峰のスリーはまぐれじゃねえな」

 

きっちり2本スリーを決めた青峰を見て火神は頷く。

 

「青峰君の性格上、ハッタリや博打で打つ事はないでしょうから、練習したんでしょうね」

 

中学時代から青峰を知る黒子が口にする。

 

「(俺に止められるか? スリーも選択肢に入った青峰を…)」

 

自分がマッチアップする事を想定した火神は背中に冷たいもの滴るのだった。

 

 

「まさか、あの青峰っちが…」

 

同じく青峰を中学時代から知る黄瀬も今日の青峰に驚いていた。

 

「ったく、また一から青峰っちのコピーをし直さなきゃならないッスね…」

 

愚痴る黄瀬。だが、その表情は僅かに笑みが浮かんでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「練習の成果が出ているようですね」

 

桐皇ベンチの原澤が満足そうに頷く。

 

「大ちゃんは乗り気ではありませんでしたけど」

 

苦笑する桃井。

 

今年のインターハイ。試合での負傷が原因で大事な試合を欠場し、敗北を喫した桐皇。自分が出ていれば勝てた、と思う一方で、その後の試合を見届けた青峰にある考えがよぎった。

 

 

――もし、仮に自分が試合に出ていれば、勝てたのか…。

 

 

緑間は狂信的なこだわりを持っていたスリーを捨て、ドライブ技術やポストアップ等のリングに近い位置でオフェンス。さらにスリーに磨きをかけた。

 

紫原はフィジカルアップを果たし、キセキの世代屈指のポテンシャルを誇る身体能力に磨きをかけるのと同時にその継続時間を増やすまで鍛え上げた。

 

赤司は自身のみならず、チーム全体の連携を磨き上げ、高校生のレベルを超えたチームを作り上げた。

 

火神や黄瀬も、主将としてチームを率いる立場となった事で勝利への執着心を見せつけた。

 

そんなキセキの世代と鎬を削る事で空と大地はその才能を遺憾なく発揮し、勝利した。

 

自身のライバル達が頂点に立つ為にそれぞれが進化を遂げたり、新たな武器を身に着けた。青峰自身、昨年のインターハイで三杉とマッチアップした際に自身のバスケの欠点を知り、パスを組み込むようになったが、それでも他の者程変わった訳ではない。

 

「インターハイでの彼の負傷は残念な事ではありましたが、結果的に自分を見つめ直すいいきっかけになったのかもしれませんね」

 

そう結論付ける原澤。実際、その言葉は正しかった。もし、アクシデントが起こらず、黄瀬や他のキセキ級の者達と戦っていたなら、例え敗れたとしても今のままのスタイルを貫き続けていただろう。だが、負傷し、考える時間と自分を見つめ直す時間が出来た事で青峰は自分が更なる進化を遂げるにはどうすれば良いかを考えるようになった。

 

その結果、練習後の走り込みでスタミナをアップを図り、スリーを身に着ける事でオフェンスでの選択肢を増やし、ディフェンスに迷いを生ませる結果となった。

 

「もちろん青峰君だけではありません。他の4人も青峰君同様、目まぐるしい成長をしてくれました。そろそろ桐皇が頂点に立ってもいい頃合いです」

 

確信めいたように原澤は口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は両校のエース対決をきっかけに激しい点の取り合いとなった。だが、桐皇の司令塔である今吉はエース一辺倒ではなく、随所でボールを散らしていた。

 

「らあっ!」

 

福山が力強い切り返しで天野を翻弄し、中へと切り込んで行く。

 

「…っ! やるやんけ、やがその程度じゃ抜かせへんわ!」

 

キレのあるクロスオーバーに一瞬息を飲むも天野はこの動きに付いていく。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

福山は急停止し、ボールを掴んでジャンプシュートの体勢に入った。

 

「甘いわ、外せてへんで!」

 

これに反応した天野はブロックに飛び、シュートコースを塞いだ。

 

 

――スッ…。

 

 

天野がブロックに現れると福山はジャンプシュートを中断。フックシュートに切り替え、天野のブロックを越えるようにボールを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放られたボールは天野のブロックを上を越えながらリングを潜り抜けた。

 

「しゃあ! うちは青峰だけじゃねえぞ!」

 

咆哮を上げるように福山が拳を握りながら叫んだ。

 

「決められてもうた!」

 

決められた天野は頭を抱えながら天を仰いだ。

 

「(天さん相手にあっさり決めた。あいつ、オフェンスだけならキセキの世代とタメ張るかもしれねーな…)」

 

全国屈指のディフェンス力を誇る天野からこうもあっさり点を取った福山を見て空は高く評価した。

 

 

「オラオラどうした! その程度じゃ俺は抜けねえぞ!」

 

変わって花月のオフェンス。大地のマークがきつかった為、天野にボールを渡した空。天野が福山に対して仕掛けるも福山のディフェンスに阻まれ、シュートまで持っていけない。

 

「(…っ! 様になっとる。去年とはまるで別人や!)」

 

オフェンスにさほど長けている訳ではない天野だが、それでも去年はディフェンスがザルな福山から点を取らせてもらえたのだが、今日の福山は点どころか碌にシュートまで持っていけない。

 

 

「桐皇に入学して長所を伸ばし続けた福山君ですが、主将に任命してから短所にも目を向けました。例え全国レベルの選手であっても、オフェンスが不得手な選手相手なら今の彼は止められますよ」

 

そう語る原澤。青峰と絶えず1ON1をし続けた結果。今では全国レベルの選手で抑えられるレベルに成長していた。

 

 

「天野先輩、こっちです!」

 

手詰まりとなる天野に対し、ローポストに立っていた松永がボールを要求した。

 

「スマン、頼むで!」

 

すかさずそこへパスを出した。

 

「来い!」

 

ボールが松永に渡ると、背中に張り付くように國枝がディフェンスに入った。

 

 

――キュキュッ…。

 

 

松永が左からターン…と見せかけて右からターンをし、そのままシュート体勢に入る。

 

「(読めてる!)」

 

これを読んだ國枝はリングとの間へブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

が、松永は飛んではおらず、ボールを頭上にリフトさせたのみで、そこから更に左へターンし、改めてシュート体勢に入った。

 

 

――バス!!!

 

 

冷静に松永がゴール下から得点を決めた。

 

「よー決めた!」

 

駆け寄った天野と松永がハイタッチを交わす。

 

「くそっ…!」

 

フェイクにかかり、得点を許してしまった國枝が悔しがる。

 

 

「若さが出ちまったな。恐らくあのマネージャーのデータで先読みしたんだろうけどよ」

 

桃井のデータに従い、松永の動きに対応しようとした國枝だったが、右へのターン後のシュートフェイクについかかってしまった。

 

「花月の今年の強みの1つだな。去年は若松にスペックで完全に押されてほぼ何も出来なかったが、今年の桐皇のセンターはスタメンに選ばれるだけあって結構やるが、それでも松永の方が1枚か2枚上だ」

 

火神はセンター同士のマッチアップは松永に分があると断じた。

 

 

「寄越せ!」

 

桐皇のオフェンスに切り替わると、青峰がボールを要求し、ボールを運ぶ今吉が言われるがままボールを渡した。

 

「…」

 

「(……来る!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰がクロスオーバーで切り込む。

 

「…っ」

 

これに大地は反応、咄嗟に横に1歩踏み出し、進路を塞ぐ。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

次の瞬間、青峰は1歩踏み出した大地の股下にボールを投げつけ、リング付近にボールを高く弾ませた。

 

「「っ!?」」

 

突如、リング付近に高く舞ったボールを見てゴール下に立っていた松永と國枝が驚く。

 

「(パス? ……いや違う!)」

 

國枝へのパスを一瞬思い浮かべた大地だったが、すぐにその考えを改めた。ボールを弾ませた青峰がすぐさまそのボールに向かって行ったからだ。

 

『うぉっ! 青峰の1人アリウープだ!』

 

ボールに飛び付く青峰を見て青峰が何をする気かを知った観客が沸き上がる。

 

「…ちっ!」

 

ブロックに飛ぼうとした松永だったが、國枝が身体で松永を抑え込んだ為、それが出来ず、舌打ちをする。

 

青峰の手にボールが収まり、そのままリングに向かってボールを振り下ろした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「させませんよ!」

 

その瞬間、リングと青峰の間に現れた大地がブロックに現れ、リングに振り下ろされたボールを抑えた。

 

「あそこから間に合うのかよ!?」

 

思わず福山が声を上げる。完全に虚を突かれた大地。しかし大地はバックステップで追いかけ、そのまま青峰のアリウープを防いだ。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

ブロックの甲斐があり、青峰の手からボールが零れる。

 

「ちっ」

 

アリウープが防がれ、舌打ちをする青峰。しかし、すぐさま零れたボールを再度空中で掴み取り、左方向へと無造作に放り投げた。

 

「すいません!」

 

青峰がボールを投げた方向、左アウトサイドに桜井が走り込んでおり、ボールを掴んだ桜井はそのままスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「よし!」

 

スリーを決めた桜井は拳を握る。

 

 

「あそこからパスに切り替えやがった。青峰の奴、視野も相当広がってやがるな…」

 

1人呟く火神。狙って出したならまだしも、咄嗟のリカバリーでパスに切り替えた青峰。広い視野を持ち合わせていなければ出来ない芸当である。

 

更なる青峰の進化を目の当たりにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合開始し直後から得意の激しい点の取り合いを繰り広げる両校。

 

 

第1Q、残り1分53秒。

 

 

花月 23

桐皇 25

 

 

『とんでもない点の取り合いだ!』

 

『試合開始直後からもはや殴り合いだ!』

 

目まぐるしく攻守が切り替わり、得点を奪い合う試合展開を見て観客は大盛り上がる。

 

「今の所は互角かな?」

 

「ああ。去年は花月リードで第1Qを終えていたが、それは情報不足や青峰のスロースターター等が加味しての事だ」

 

高尾の予想に緑間が頷いた。

 

「今回はスタートから青峰はほぼ全開状態。桃井のデータも機能している。それを踏まえてのこの結果。互角と言わざるを得ないのだよ」

 

「桐皇はエースの青峰はもちろん、福山、桜井がきっちり点を取ってる。國枝もやや劣勢ながらもきっちり仕事をこなしている。花月はエースの綾瀬に、生嶋と松永も要所要所できっちり点を取ってる。天野も点こそ取れてねえけどポストプレーやスクリーンを駆使して得点に貢献してる」

 

両校の選手共にきっちり得点を上げ、得点に貢献していると高尾が口にする。

 

「エース対決は真ちゃんから見てどうよ?」

 

「…差はだいぶ……いや、ほとんど縮まっているのだよ。綾瀬は夏から今日まで相当レベルアップをしている。青峰とある程度張り合えるまでのフィジカルアップ、しかもそれでいて持ち前のスピードも落ちていない」

 

フィジカルアップを急ピッチで行うとスピードが落ちてしまう事があるが、それもないと緑間は断ずる。

 

「だが、それを考慮してもまだ青峰の方が上だ。経験、体格差、総合的なアジリティ。この辺りで青峰が優位に立っているのだよ」

 

「やっぱかー。まあ、去年の結果を考えれば1年でここまで差を縮めただけでもスゲー事なんだけどさ」

 

緑間の分析に苦笑する高尾。

 

「だが、これだけなら互角の試合展開にはならないのだよ。ここまで競った試合展開になっているのは――」

 

「神城、だろ?」

 

2人の視線がコート上の空に向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながらボールを運ぶ空。

 

「(来るで…、チェンジオブペースからのクロスオーバー…)」

 

空をマークする今吉が事前に桃井から聞いたデータを基に空の次の動きを先読みする。

 

「(1…2…3…ここや!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

タイミングを読み切り、空が動くのと同時に今吉も動く。しかし、空の持ち前のスピードと加速力であっさりちぎられてしまう。

 

「(あっかん…、もはや実力やない、ワシとは格がちゃうわ!)」

 

いつ、何を仕掛けてくるかドンピシャで予測したのにも関わらずあっさり振り切られ、表情を曇らせる今吉。

 

「止める!」

 

中にカットインした空に対し、國枝がすかさずヘルプに飛び出す。

 

「…」

 

直後に空はボールを掴み、ジャンプシュートの体勢に入った。

 

「おぉっ!」

 

これを見て國枝がブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

目の前に國枝が現れると、空はジャンプシュートを中断。ボールを右手に持ち替え、手首のスナップを利かせるように放った。

 

「っ!?」

 

ボールは國枝が伸ばした手の上を放物線を描くように越えていき…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのままリングを潜り抜けた。

 

 

花月 25

桐皇 25

 

 

「っしゃ」

 

得点を決めた空は小さくガッツポーズをした。

 

「…フィンガーロール」

 

技ありのフィンガーロールを決められ、思わず空を睨み付ける國枝。

 

「ちっ…、突き放してもすぐに食らいついてきやがる…!」

 

序盤からシーソーゲームを繰り広げ、崩れない均衡に顔を顰める福山。

 

「泣き言ほざいてんじゃねえよ」

 

そんな福山に悪態を吐く青峰。

 

「食らいついてくるなら出来なくなるまで突き放しゃいいだけだ。…誠二、ボール寄越せ」

 

「どうぞ」

 

ボールを要求した青峰に言われるがままボールを渡す今吉。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受け取った青峰は振り返ると、1人ドリブルを始め、フロントコートに突っ込んでいった。

 

「お、おい! 1人で行くんじゃねえよ!」

 

そんな青峰を見て慌てて追いかける他の4人。 

 

「(この状況でパスはありません。ここは何としてでも…!)」

 

フロントコートに入った青峰。その青峰の前に大地が立ち塞がる。

 

「伊達に黄瀬や紫原と互角にやり合った訳じゃねえみてーだな。認めてやるよ」

 

大地が現れるのと同時に急停止した青峰。

 

「だがな、まだ俺とやり合うにはあめー」

 

「っ!?」

 

そう告げるのと同時に青峰は後方でドリブルを始めた。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

次の瞬間、大地はボールを見失う。同時に大地の横を駆け抜ける青峰。

 

「くっ!」

 

ここで初めてボールの所在を知った大地。青峰は後方でドリブルをし、途中で背中からボールを放り、大地の後ろにボールを落としていたのだ。

 

放ったボールを掴んだ青峰はそのままリングに向かって飛んだ。

 

「舐めんなおらぁっ!!!」

 

そこへ、ヘルプに向かっていた空がブロックに現れた。

 

「よっしゃ! よく追い付いた!」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら拳を握る。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、青峰は空が現れると空中でロールしながら空をかわす。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

その後、ボールをリングに叩きつけた。

 

『うわー! 何だそりゃー!!!』

 

ビッグプレーに観客が頭を抱えながら驚愕する。

 

「いまいち調子が出なかったが、ようやくエンジンがかかってきたぜ」

 

リングから手を放し、コートに着地した青峰。

 

「まだ足りねえな。俺を倒してーんなら、もっと死ぬ気で来な」

 

「「…っ」」

 

不敵に笑いながら青峰は空と大地に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ、青峰さんのスピードとキレが増した。まだ全開ではなかったの…!?」

 

驚きを隠せない姫川。

 

「スロースターターと言うのは簡単に解消されるものではない。事前にアップをきつめに行う事で試合前に調子を限りなく万全に上げてきたのだろうが、それでもまだ全開には至らなかった。それだけの話だ」

 

特に動揺する事無く淡々と口にする上杉。

 

「…どうしますか?」

 

タイムアウトを取って流れを変えるか、それとも青峰に対してダブルチームを仕掛けるか…。

 

「このまま続行だ」

 

しかし、上杉は動かない。

 

「この程度は想定の範囲内だ。相手はうちと同じオフェンス主体のチーム」

 

『…』

 

「真っ向勝負だ」

 

確固たる意志でそう口にしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

遂に始まったリベンジマッチ。

 

開始当初から点の取り合いの激しいシーソーゲームが繰り広げられる。

 

全開と思われた青峰だったが、さらに上を見せつけ、空と大地を圧倒。

 

そんな状況で上杉が口にしたのはあくまでも真っ向勝負。

 

試合は、両者の矛が、ぶつかり合う……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





前話投稿後、まさかの日間ランキング入りをし、1人歓喜しました…(^_^)/

空前のネタ不足の為、次話以降、大雑把な試合展開が未定の為、もしかしたら投稿が遅れるかもしれませんが、お待ちいただければ幸いです…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第165Q~激突~


投稿します!

暑い…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り1分28秒

 

 

花月 25

桐皇 27

 

 

オフェンスに定評がある花月と桐皇の試合は互角の展開で進んだ。

 

「…っ」

 

表情を曇らせる大地。ここまで互角の勝負を繰り広げた双方のエースである大地と青峰。自身のスロースターターを解消するべく試合開始前からきつめにアップをする事でエンジンをかけてきた青峰だったが、それでも完全にはかかりきっておらず、ここに来てようやく完全にエンジンがかかってきた。

 

「…」

 

僅かに動揺しつつも表情には出さず、淡々とボールを運ぶ空。

 

「(動揺……してへん訳ないわな。何とか漬け込みたいのう…)」

 

空のディフェンスに入っている今吉が考えを巡らせる。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(来よった!)」

 

一気に加速してカットインした空。これを読み切った今吉は先手で動いて追走。食らいつく。

 

「(自ら決めに来る……と、見せかけて…)」

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

空が急停止。

 

「(國枝の裏取ろうとしとる松永にパスやろ…!)」

 

急停止した空はドッジボールのような構えでボールを構えた。空の視線の先には、ターンで國枝の背後に回り、ゴール下に向かう松永の姿が。

 

「(ドンピシャや! 冷静に立ち返ろうとする心はやっぱ読みやすいで!)」

 

読みが的中し、内心でほくそ笑む今吉。パスコースに手を伸ばし、スティールを狙う。が…。

 

「っ!?」

 

空はパスを中断。右手で構えたボールを左手で抑える。そこからビハインドバックパスに切り替えた。

 

「あっ!?」

 

思わず声を上げる桜井。左45度付近のスリーポイントライン手前でフリーの生嶋にボールが渡った。生嶋をマークしている桜井は天野のスクリーンに阻まれ、ディフェンスに行けない。

 

「くそっ!」

 

スクリーンにかかった桜井に代わり、福山が慌ててヘルプに向かう。

 

「よし!」

 

スリーの体勢に入る生嶋。

 

「打たせっかよ!」

 

そうはさせまいとブロックに飛ぶ福山。

 

「なっ!?」

 

ブロックに飛んだ福山が声を上げる。スリーの体勢に入った生嶋だったが、福山のブロックを避けるように斜め横に飛んでいたのだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 28

桐皇 27

 

 

「小癪な真似を…!」

 

スリーを決められた福山がワナワナと身体を震わせる。

 

「いや、あいつの変則のスリーは以前からあったやん」

 

半分呆れながら告げる今吉。

 

「いつまでもベラベラ喋ってねえでボールを寄越せ」

 

ボールを貰いにやってきた青峰。

 

「…ちっ、すまねえ青峰」

 

謝罪しながら青峰にボールを渡す福山。

 

「気にすんな。…お前のディフェンスには最初から期待してねえ」

 

そう言い放ち、青峰はドリブルを始めた。

 

「あんの野郎…! 他に言い方あんだろうが…!」

 

遠慮のない物言いに苛立ちながら福山は青峰に続いた。

 

「今度こそ…!」

 

気合いを入れ、青峰を待ち構える大地。

 

「良いぜ、もっと気合い入れて来いよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら青峰は大地の前で止まった。

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながら仕掛けるタイミングを計る青峰。

 

 

――ダムッ…ダムッ…ダムッ!!!

 

 

レッグスルーやバックチェンジを幾度か繰り返した後、青峰は加速した。

 

「(来た!!!)」

 

青峰の加速に合わせて大地はバックステップで下がりながら青峰を追いかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、得意のストリートの独特のムーブで大地を翻弄する。

 

「…っ」

 

何とか抜かせずに食らいつく大地。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

左方向へサイドステップを踏んだ青峰が急停止し、ボールを掴む。

 

「(打たれる!)」

 

すぐさま大地も青峰の目の前に移動し、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

しかし、青峰は右方向に飛びながら大地のブロックをかわし、そのままリングに向かってボールを放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

投げられたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 28

桐皇 29

 

 

『うおー!!! いつ見てもスゲー!!!』

 

『何であれが決まるんだよ!?』

 

「青峰の奴、完全にエンジンがかかってきやがった…!」

 

動きのキレの増した青峰を見て火神が確信する。

 

 

「…ちっ、当たり前の話だが、去年よりスピードもキレも増してやがる…」

 

調子を上げる青峰を見て空が呟く。

 

「…っ」

 

得点を防げず、1人悔しがる大地。

 

 

「1本! ここ取ってこのQ終わるぞ!」

 

オフェンスが花月に切り替わり、空がゆっくりドリブルをしながらボールを運ぶ。

 

「…」

 

残り時間を考えてこれが第1Q最後のオフェンス。決めればリードで終われる為、慎重にゲームメイクをする空。

 

「下さい!」

 

右ウイング付近のポジションで大地がボールを要求する。

 

「…」

 

チラリと視線を向け、パスを出すか考える空。

 

「(……分かったよ。きっちり決めろよ)」

 

真剣な視線を向ける大地の熱意に押され、空は大地にパスを出した。

 

『来た来た! エース対決!』

 

大地のボールが渡ると、観客が歓声を上げる。

 

「…っ!?」

 

ボールを掴んだ瞬間、大地に強烈なプレッシャーが襲う。

 

「(…っ、これが完全に集中した青峰さんのプレッシャー!?)」

 

目の前に立ってディフェンスをする青峰が発するプレッシャーに気圧される大地。

 

「大地!」

 

何かに気付いた空が声を上げる。

 

「…っ!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

僅かに意識を切った瞬間、青峰の伸ばした手が大地の持つボールを捉える。

 

「いただき!」

 

ルーズボールを福山が拾い、そのまま速攻に向かった。

 

「あかん! 戻れ!」

 

先頭を走る福山を見て天野が声を上げる。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

そのままワンマン速攻を仕掛けた福山はフリースローラインを越えた所でボールを掴み、そのままリングに向かって飛んだ。

 

「おらぁっ!!!」

 

右手で構えたボールをリングに振り下ろした。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「んが!」

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる瞬間、横から現れた1本の手にブロックされた。

 

「…ふぅ」

 

ブロックしたのは大地。ダンクを阻止出来て思わず一息吐いた。

 

『うぉー!!! 阻止した!!!』

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

花月 28

桐皇 29

 

 

『スゲー、第1Qから点の取り合いだ!』

 

『双方100点超えるペースだ。こんなのもはや殴り合いだぜ!』

 

ハイペースで加算される得点を見て観客は大盛り上がりである。

 

 

「最後に青峰の件があるから一概にも言えないかもしれないが、互角だな」

 

最初の10分は互角と断ずる火神。

 

「去年は花月リードで終わったけれど、それは油断やデータ不足が重なった結果に過ぎないわ。けど、今年の桐皇は最初から全力で試合に臨んでいるわ。その上でこの結果。双方の実力は互角と言っても良いかもしれないわね」

 

同様の意見をリコが出した。

 

「この先のカギになりそうなのが、エース対決の有無と神城っちの支配力って所ッスかね」

 

「どっちも強いのう! ワクワクしてきたぞ!」

 

以降の展開の重要な要素を口にする黄瀬。横で三枝が満足そうに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「…ちっ、逆転出来なかったか」

 

不満気に空がベンチに座った。

 

「お疲れ様です! 皆さん、しっかり休んで下さい!」

 

相川が試合に出場した5人にドリンクとタオルを配って回った。

 

「…ふぅ。疲れるのは毎度の事やけど、今日は特にやで…」

 

疲れた様子で汗を拭う天野。

 

「…ふぅ」

 

「…っ」

 

生嶋と松永も軽く肩で息をしていた。

 

「(消耗が激しい…。あれだけ攻守の切り替えが速い中で点の取り合いしていれば無理もないわ)」

 

たった10分とは思えないスタメン選手達の消耗を見て姫川が胸中で呟く。

 

「ようやく青峰が本性を出してきやがったな」

 

空がポツリと言う。

 

「さすがキセキの世代のエースと言った所やのう。一筋縄では行かへんわ」

 

溜息を吐きながら言う天野。

 

「…」

 

ここからどうするかを各々考える中、大地は黙々とタオルで汗を拭っている。

 

「大丈夫か綾瀬?」

 

その様子に気付いた松永が話しかける。

 

「ええ。大丈夫ですよ」

 

話しかけられた大地は笑顔を浮かべながら返事をした。

 

「けどよ、実際どうすんだ? 今の状況じゃ青峰にダブルチームはかけられねえぞ」

 

菅野が現状を告げる。

 

スリーのある桜井のマークは外せない。高いオフェンス力を誇る福山も然り。司令塔の今吉やインサイドの要である國枝のマークも外す事が出来ない。

 

「いえ、心配いりません。引き続き私が青峰さんを抑えます」

 

青峰をマークする大地に対してどう助け舟を出すか、考えていると大地はそれを制し、そう宣言した。

 

「その為に私はアメリカで練習をしてきました。今がその成果を出す時。止めてみせます」

 

「綾瀬…」

 

確かな決意の下、言う大地を心配そうに見つめる菅野。

 

「んぐっ…んぐっ……ぷはぁ! ……もとより、青峰は大地に任せるつもりだ。やってみせろよ」

 

ドリンクを口にした空がニコリと笑いながら大地の肩を叩いた。

 

「うむ。青峰のみならず、3年生の福山と桜井はもちろん、今吉も去年からかなり伸びている。國枝にしても、侮れる相手ではない。…綾瀬、お前がやるんだ。いいな?」

 

「はい!」

 

上杉の言葉に大地が大きな声で返事をした。

 

「細かい指示は今は出さん。桐皇のオフェンスは凄まじいがこちらも決して引けを取っていない。引き続きこちらも真っ向勝負。点の取り合いを仕掛けろ」

 

『はい!!!』

 

「神城。現状ではお前の所も狙い目の1つだ。ゲームメイクだけでなく、積極的に点を取りに行け」

 

「うす! そうこなくちゃ!」

 

指示を受けた空は満足そうに笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇ベンチ…。

 

『…ふぅ』

 

肩を軽く上気させながらベンチに座り、汗を拭う選手達。

 

「……ふぅ。さっすが、夏に陽泉と海常を倒しただけの事はある。去年と比較になんねえぜ」

 

深く溜息を吐きながら汗を拭う福山。花月の成長ぶりを肌で感じ取っていた。

 

「…ハハッ! 良いぜ。このくらいやってくれねえと戦い甲斐がねえ」

 

青峰は満足そうに笑っていた。

 

「(大ちゃん楽しそう…。けど、もうこんなに汗が…)」

 

楽しそうに試合に臨む青峰に満足する反面、その消耗ぶりを心配する桃井。

 

「お疲れ様です。しっかり水分を摂り、呼吸を整えながら話を聞いて下さい」

 

監督の原澤が選手達の前にしゃがみ込みながら告げた。

 

「今大会唯一、去年の主力が全員残っているチーム。やはり、チームの練度と成長ぶりは福山君が口にした通り、さすがの一言ですね」

 

『…』

 

「ですが、これは事前のスカウティングで分かっていた事です。花月は恐らく、引き続き今の勢いのままこちらへ向かってくるでしょう」

 

『…』

 

「非常にペースの速い試合ですが、向こうは今の勢いのまま来るでしょう。花月の恐ろしい所はこのペースを試合終了まで維持してくる事です。僅かでも守勢に回れば後手に回され、勢いに飲まれてしまうでしょう。苦しいでしょうが、彼らとは引き続き真っ向から立ち向かって下さい」

 

『はい!!!』

 

「ハッ! こちとら全国随一のオフェンス力を謳ってんだ。点の取り合いで負けっかよ!」

 

返事をする選手達。福山は立ち上がりながら意気込みを露にした。

 

「キャプテン…、気持ちは分かるけど今は呼吸を整えんと…」

 

そんな福山に苦笑する今吉。

 

「今吉君。第1Qの内容から見て、恐らく次のQからあなたからのオフェンスの機会が増えると思います。1番の負担を強いる事になると思いますが、頼みます」

 

「ま、せやろうな…。…ハァ。しゃーない。何としてでもやったりますわ」

 

予想していたのか、今吉は深い溜息を吐いた後、気合いを入れ直したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両校の選手達がコートへと戻ってきた。両校共に選手交代はなし。

 

「っしゃ! 行くぞ!」

 

ボールを受け取った空がそう声を発し、第2Qが開始された。

 

「……いや、確かにワシの所を突いて来るのは予想しとったけどや、ここまで露骨にせんでもええやん…」

 

ボヤくように口にする今吉。中央に立つ空。花月の選手達は左右に寄り、スペースを空けた。これは空が1ON1し易いようにする為。つまりはアイソレーションである。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながら仕掛けるタイミングを計る空。

 

「(桃井はんのデータのおかげで幸い、仕掛けるタイミングは読める。前半戦でやりたないけど、最悪はファールで止める事も考えんとのう…)」

 

ある種の覚悟を決める今吉。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりボールを突く空。

 

「(……来る!!!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう予測したのと同時に発進する空。ドンピシャのタイミングで今吉も動き、空のカットインに対応する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

今吉が並走してきた瞬間、空はバックロールターンで反転し、今吉を抜きさった。

 

「(っ!? ホンマ嫌になるで! タイミング読み切ってファール覚悟で止めに行ったのに、それでも触る事で出来へんのかい!)」

 

異常とも言える空のスピードに細い目を見開く今吉。中に切り込んだ空はボールを掴んで飛んだ。

 

「くそっ…、決めさせるか!」

 

それを見た國枝がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、空はこれを見越してボールをレイアップの体勢から高く放った。

 

「っ!?」

 

ボールは國枝の伸ばした手の上を越えていく。

 

『スクープショットだ!』

 

「…っ」

 

手応えを感じた空。次の瞬間…。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

國枝の後ろから現れた1本の腕がボールを叩き落とした。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ。簡単に決めさす訳ねえだろ」

 

「青峰!?」

 

ボールを叩き落としたのは青峰。それを見てベンチの菅野が思わず立ち上がる。

 

「しまった! くそっ、警戒を怠っちまった…!」

 

今吉を抜きさると同時に國枝のヘルプを予想し、スクープショットで決めるプランを描いたが、高速の青峰のヘルプによってそのプランは頓挫した。

 

「寄越せ!」

 

「はい!」

 

ルーズボールを拾った桜井がすかさず青峰にボールを渡した。

 

「あかん! ディフェンスや戻れ! ここは止めなあかんで!」

 

必死に声を出す天野。第2Q最初のオフェンス。これを失敗し、ターンオーバーからの失点を喫してしまえば流れを桐皇に渡す事になりかねない。その為、何としてでも止めたい1本。

 

「行かせませんよ」

 

先頭で速攻に走る青峰を大地が捉え、並走する。

 

「おーおー、スピードはあの神城と並んで大したもんだな」

 

追い付かれた青峰は動じる事無くそのスピードを評価した。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

スリーポイントライン目前で青峰は急停止した。

 

「…っ!」

 

同時に大地も急停止し、ディフェンスに入った。

 

 

「…っ、よくあれだけのスピードで走りながら一瞬で止まれるもんだな」

 

トップスピードを一瞬で殺せる2人のアジリティに驚く火神。

 

 

「(さて、どう仕掛けて来ますか…)」

 

青峰の前に立ち塞がる大地が次の青峰の動きに予測を立てる。従来の型にハマらない青峰のバスケは本来予測は限りなく不可能に近いが、それでもある程度は予測を立てなければまともに相手に出来ない。幸い、この試合や過去のデータがあるのである程度の予測は立てられる。

 

「(集中です。…タイミング、動きを読み切る!)…スー…フー…」

 

腰を落とし、集中力を全開にする大地。

 

「…」

 

それを感じ取る青峰。青峰の次のプレーは…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

小細工無しで一気の加速して大地の横を駆け抜けた。

 

『うおー!!! 今日の試合で1番はえー!!!』

 

最速をもって仕掛けた青峰。そのままボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させません!」

 

しかし、大地もバック走行で青峰の後を追い、青峰が掴んだボールに右手を伸ばした。

 

「…ちっ」

 

追い付かれると思わなかった青峰は現れた大地に舌打ちをするも咄嗟に右手で掴んだボールを左手で抑え、体勢を立て直し、上半身を後方に倒しながらシュートを放った。

 

「っ!?」

 

咄嗟にフォームレスシュートに切り替えられ、驚くも、放たれるボールに手を伸ばす大地。幸い、大地は青峰の前方ではなく、横からブロックに飛んでいたので空いている左手は辛うじて届く。

 

「…っ」

 

しかし、青峰は素早くボールをリリースした。ボールはリングへと向かって行った。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれた。

 

 

「外した!?」

 

「いや違う。外れたんスよ。綾瀬っちの指に僅かに触れたんスよ」

 

青峰が外したと考えた小牧。しかし、横に黄瀬がそれを否定。

 

 

「リバウンド!!!」

 

大地が叫ぶ。黄瀬の予想通り、僅かに大地の指がボールに触れていたのだ。

 

「となれば俺やな!」

 

後ろから走ってきた天野がリバウンドボールに飛び付いた。

 

「どっせぇぇぇぃ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

しかし、突如天野の横から現れた福山が腕を伸ばし、強引にボールを奪い去った。

 

「何やと!?」

 

これに驚く天野。

 

「おらぁっ!!!」

 

着地した福山がすかさずシュート体勢に入る。

 

「…っ!? させへんわ!」

 

これに反応し、ブロックに飛んだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

福山が放ったボールが天野の伸ばした手に当たる。

 

「にゃろう!」

 

弾かれたボールを再度抑える福山。

 

「っ! 俺の前で何本もリバウンド取り寄って…!」

 

得意のリバウンドを続けて抑えられ、憤る天野。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

「…くっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

再び打ちに行く福山。再度ブロックに天野が飛んだが間に合わず、決められてしまう。

 

 

花月 28

桐皇 31

 

 

「よっしゃ!!! どうだ青峰!!!」

 

青峰に向けてガッツポーズをする福山。

 

「その程度の事で威張るんじゃねえよ。後うるせーよ。若松かてめえは」

 

そんな福山にげんなりしながら返す青峰。

 

 

「…あの男、福山か。オフェンスに対する執着心は相当なものじゃのう」

 

続けてリバウンドを抑え、得点を決めた福山を評価する三枝。

 

「あのオフェンスリバウンドを取る姿は早川先輩を思い出します」

 

オフェンスリバウンドをもぎ取る姿を海常の前主将である早川と重ねる末広。

 

「もはやオフェンスはキセキの世代と比べても遜色ねえ」

 

火神も福山に高い評価を付けた。

 

 

「スマン! 止められへんかったわ!」

 

「今のは仕方ないです。元を辿れば悪いのは俺ですし」

 

頭を下げる天野に対し、手で制する空。

 

「しかしまあ、青峰がディフェンスエリアを広げてるとなると、もう少し慎重に攻める必要があるんですが…」

 

チラリと空は花月ベンチ、上杉に視線を向ける。

 

「…ま、それは性に合わないですし、監督も指示を変えるつもりはなさそうですし、…引き続きガンガン行きましょう!」

 

「せやな。次はリバウンド取ったるわ!」

 

空の言葉に天野は意気込みを露にした。

 

 

「行くぞ!」

 

ボールを受け取ったのと同時に花月の選手達はフロントコート目掛けて一斉に走っていった。

 

「正気かいな…。最初のオフェンスとちって流れ取られかけとるんからここは普通慎重に攻めへんか!?」

 

この行動に呆れ半分、驚き半分の表情をする今吉。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

フロントコートに入り、ディフェンスに現れた今吉の足元に飛び込んだ空は左右に大きく切り返しながらハンドリングを始めた。

 

「(来よった! 例の消えるドライブや!)」

 

空の必殺技のインビジブルドライブ。空が今吉の死角から死角へと高速移動を始めた。

 

 

――スッ…。

 

 

これを止める為、今吉が空の姿を捉える為に距離を取った。しかし、空は切り込まず、その場で止まってスリーの体勢に入った。

 

「そう来よったか! けど、それも予測済みやで」

 

その時、空に向かって距離を詰める1人の姿が。

 

「打たせっか!!!」

 

左右にハンドリングを始めた段階で福山が空に向かってヘルプに向かっていたのだ。

 

 

『インビジブルドライブは死角から死角へ高速で切り返して、姿を捉えようと左か右へと視線を向けた瞬間に反対方向にダックインして消えたように見せるドライブ。下がってしまえばその姿は丸見えになります』

 

前日のミーティングで桃井から解説された言葉。

 

『万が一、ドライブせずにスリーに切り替えられても、ヘルプに向かえる時間は充分にありますから1番近いポジションにいる方があのドライブを始めた段階でヘルプに向かって下さい』

 

続けて桃井がそう解説した。

 

 

「…ちっ」

 

抜く事もスリーを打つ事も出来なかった空は舌打ちをしながらスリーを中断。ビハインドパスでボールを右へと放った。

 

「来いよ」

 

ボールの先は大地。目の前には青峰が立ち塞がった。

 

「…」

 

「…」

 

右ウイング位置で睨み合う両者。

 

 

――スッ…。

 

 

大地は仕掛ける…と思わせ、体重移動を駆使してバックステップ。青峰から距離を取った。

 

「あめえ」

 

これに反応した青峰はすかさず距離を詰める。

 

「…っ」

 

距離を詰める青峰の動きに合わせ、大地が仕掛ける。

 

「…っ!」

 

ドライブに備え、青峰が急停止した。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、大地は仕掛けず、さらにバックステップして距離を取った。距離を空けた大地はシュート体勢に入った。

 

「ちっ!」

 

まんまとフェイクにかかった青峰は舌打ちをしながら距離を詰める。

 

 

――ピッ!

 

 

迫りくる青峰。大地は下がった足でさらに後ろに飛び、片足で踏み切ってフェイダウェイでスリーを放った。

 

「っ!?」

 

リングのある方へ振り返る青峰。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 31

桐皇 31

 

 

『マジかよ!? 何であれが入るんだよ!?』

 

「引くつもりはありませんよ」

 

そう呟く大地。青峰が大地の方へ振り返る。

 

「吐いた言葉を曲げるつもりはありません。今日私はあなたを倒します。必ず」

 

「上等だ…!」

 

確固たる覚悟を以って宣言する大地。これを見て青峰は満足気に笑ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

始まった第2Q。

 

最初の花月のオフェンスが失敗し、ターンオーバーから失点を喫して流れを持って行かれたかに見えた。

 

しかし、直後のオフェンスで大地が青峰から得点を奪い、同点に追い付いた。

 

全国随一のオフェンス力を誇る花月と桐皇。

 

ぶつかり合うプライド。試合は加速していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ネタ不足と戦いながら何とか投稿です…(;^ω^)

過去のキセキの世代との戦いが思いの外長くなった事もあり、この試合も何とか引き延ばさなければ! と言う思いに取りつかれ、なかなか筆が進まないorz

今回の試合は本当に過去の試合に比べて短くなるかもしれません。これも毎度言ってるような気がしますが…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第166Q~3年生の執念~


投稿します!

約1ヶ月ぶりの投稿です…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り9分15秒

 

 

花月 31

桐皇 31

 

 

第2Q最初の花月のオフェンスは青峰に止められ失敗。ターンオーバーからの失点を喫し、流れを奪われたかのように見えた。しかし、直後のオフェンス、大地が青峰のディフェンスからスリーを決め、流れを引き戻した。

 

「…ほな、1本行こか」

 

人差し指を立てながら今吉がボールを運ぶ。

 

「っしゃ! 来い!」

 

フロントコートまでボールを進めると、待ち受けるのは空。気合いを発しながら両腕を広げてディフェンスに臨む。

 

「…」

 

今吉は上手く間合いを計りながら慎重に攻め手を定める。

 

「(……とまあ、悩んだフリしとるけど、ここ一択やろ)…頼んまっせ!」

 

ここで今吉はパスを出す。ボールの先は…。

 

『来た! エース対決!』

 

右ウイング位置でボールが青峰に渡り、大地が立ち塞がると、観客が沸き上がった。今日数度目となるエース対決。数を重ねる事に注目度は上がっていく。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かし、ジャブステップを踏みながら牽制する青峰。隙を作らないように対応する大地。

 

「(…チラッ)」

 

ここで青峰がリングに視線を向けた。

 

「(スリー? ……いや違う!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、青峰がカットイン。切り込んだ。

 

「…っ!」

 

ギリギリの所で読み切った大地が青峰に食らいつく。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

それと同時に青峰は急停止し…。

 

「(パス!?)」

 

左方向へパスを放る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

と、見せかけてロールしながら左へとスライド。

 

「…くっ!」

 

強引に身体を動かし、抜かせまいと大地も横へスライド。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

これを見て青峰は再度右へと切り返し、直後にボールを掴んでシュート体勢に入った。

 

「…くっ…そ…」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

何とかブロックに飛んだ大地だったが、僅かに届かず、青峰の放ったジャンプシュートはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 31

桐皇 33

 

 

『おぉっ! 青峰も負けてねえ!』

 

 

「視線のフェイクでスリーを意識させられた事でほんの僅か、0.1秒程反応が遅れた。その後のパスのフェイクで更に0.1秒。計0.2秒程後手に回された。他の者ならいざ知らず、青峰に相手にこの0.2秒の対応の遅れは命取りなのだよ」

 

一連の2人の対決を見た緑間は青峰の駆け引きを口にした。

 

 

「…っ」

 

得点を奪われ、表情を曇らせる大地。

 

「気にすんな。取られたら取り返す。切り替えろ!」

 

そんな大地に発破をかける空。

 

「もちろんです。どんどんパスを回してください」

 

空の言葉に表情を引き締め、走っていった。

 

 

「走れ!」

 

そう叫ぶと同時にフロントコートに花月の選手達が走り込んだ。

 

「っ! ラン&ガンかい! あくまでもワシらに点の取り合いを挑むつもりかいな」

 

花月の選択に僅かに面を食らう今吉。

 

「っしゃ!」

 

ドリブルで突き進む空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーポイントライン目前に立つ今吉の目の前でクロスオーバーで右から左へと切り返す。

 

「読めとるわ!」

 

次の行動とタイミングを読み切った今吉は空が切り返したボールに手を伸ばした。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、今吉の手がボールを捉える前に空が逆へと切り返し、今吉を抜きさった。

 

「(アッカンわ…! やっぱり話にならへん!)」

 

桃井のデータを基に先を読んだ今吉だったが、スピード、アジリティ、反応速度が段違いの空が相手ではそれでも追い付けず、思わず苦笑してしまう。

 

「っしゃ!」

 

中に切り込んだ空はボールを掴み飛ぶ。

 

「くそっ、何度もやらせるか!」

 

これを見た國枝がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んでシュートコースを塞いだ。

 

「っと」

 

シュートコースを塞がれた空はボールを下げ、右方向に視線を向ける。そこには青峰のマークを振り切った大地の姿があった。

 

「(パスか!?)」

 

同時に大地の姿に気付いた國枝が左手を伸ばし、パスの阻止にかかる。

 

 

――スッ…。

 

 

空はパスを出す。

 

「っ!?」

 

しかし、ボールは大地のいる右方向ではなく、左方向へと放られた。

 

「ナイスパスや!」

 

そこに走り込んでいた天野がボールを掴んだ。

 

「もろたで!」

 

ボールを掴んだ天野は即座にリングに向かって飛んだ。

 

「ぶち込め!!!」

 

ベンチから菅野が声を出す。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールがリングに叩きこまれる直前、横から伸びて来た1本の手によってボールは叩かれた。

 

「決めさす訳ねえだろこらぁ!!!」

 

咆哮を上げるように叫ぶ福山。

 

「お前かい!」

 

ブロックに現れた人物に驚く天野。

 

「おいおい、今のファールじゃねえのか!?」

 

ベンチから立ち上がりながら抗議する菅野。

 

『…』

 

しかし、審判は笛を吹かない。

 

「ファールなんかするかよ! おら、速攻だ!」

 

ルーズボールを拾った福山が今吉にボールを渡す。

 

「(よー言うわ。こっからやとディフェンスファールなのが丸わかりや。ま、今はもうけもんと思とこか…)」

 

偶然、審判の位置から見え辛い位置であった為、笛を吹かれなかったのだが、今吉はツキが向いたと判断し、そのままドリブルを始めた。

 

「…ちっ、ツイてねえ。だが、簡単には速攻は決めさせねえぜ」

 

「…っ!? ホンマに、どない規格外なスピードしとんねん…!」

 

先頭でボールを掴んで速攻に走った今吉だったが、シュートはおろか、スリーポイントラインを越える前に空に回り込まれ、苦笑した。

 

「こっちだ、寄越せ!」

 

続いて横から走ってきた福山がボールを要求した。

 

「ほな、頼んまっせ」

 

今吉は横に放るにボールを投げ、福山にボールを渡した。

 

「ハッハッ! ぶちかますぜ!」

 

そのまま中に切り込んだ福山がボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「調子に、乗んな!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

リングに振り下ろされるボール。空が後ろからブロックに飛び、これを阻んだ。

 

「うおっ!?」

 

現れた空に驚く福山。ボールを弾かれ、宙に舞った。

 

「何の、まだまだ!!!」

 

宙に舞うボールを福山が着地と同時にもう1回飛び、もぎ取る。

 

「くそっ!」

 

ルーズボールを抑えたかった空だったが、ボールが飛んだ位置が悪く、それが出来ず、思わず舌打ちをする。

 

「おらぁっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを掴んで着地をした福山はポストアップをし、背中で空を押し込み、ゴール下へと向かう。

 

「…ちっ!」

 

何とか堪えようとする空だったが、体格差を覆す事が出来ず、徐々に押し込まれてしまう。

 

 

――バス!!!

 

 

ゴール下まで侵入した福山はそのままゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 31

桐皇 35

 

 

「っしゃ!」

 

得点を決めた福山は拳を握りながら喜びを露にし、ディフェンスに戻っていった。

 

「スマン、俺のせいや」

 

ボールを拾った天野がスローワーになって空にパスを出しながら謝る。

 

「天さんだけのせいじゃないですよ。…っし、きっちり取り返しましょう!」

 

ボールを受け取った空はそう返し、フロントコートに向かってドリブルを始めた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フロントコートまで進んだ空はカットインし、中に切り込んだ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

同時に前方から國枝が、横から福山が包囲にかかるのを見てボールを左方向へと放った。

 

「ナイスパスくー!」

 

そこには生嶋がフリーになって立っていた。

 

「あっ!?」

 

生嶋をマークしている桜井。空のカットインに釣られ、僅かに生嶋のマークを外してしまっており、慌ててディフェンスに付く。

 

「…」

 

スリーの体勢に入る生嶋。距離を空けてしまった為、もはやフェイスガードは間に合わない。

 

「(来る! 彼のブロックをかわしながら打つスリーが…!)」

 

桜井が脳内で確信する。生嶋得意の変則リリースによるスリー。例えブロックに間に合ってもブロックを避けるように飛んでスリーを放ち、しかも確実に決めて来る。

 

シュート体勢に入る生嶋。

 

「(良く見るんだ。彼の重心を…)」

 

試合前のミーティングで桃井から渡されたデータを思い出す桜井。

 

『生嶋君がシュート体勢に入ったら見るべきはボールではなく重心です。ブロックをかわすために横に飛ぶ際、どちらかの左右どちらかに重心が傾きます』

 

「(重心は……左!)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

右足に生嶋の重心が傾いたのを確認した桜井は左に飛び、放たれたボールをブロックした。

 

「生嶋のスリーが読まれた!?」

 

ひとたびシュート体勢に入ってしまえばブロックが困難な生嶋のスリーがブロックされ、驚く松永。

 

「ホンマ、頼りになる先輩達でっせ!」

 

ルーズボールを今吉が抑え、そのまま速攻に走った。

 

「だーちくしょう、上手く行かねえな!」

 

「…やっぱり追い付かれてまうんやな。もうすっかり慣れてしもたわ」

 

速攻を成功させる遙か手前で空に追い付かれてしまう事実を受け入れる今吉。

 

「…」

 

空を相手に無理な仕掛けはせず、味方が攻め上がるまで足を止めてボールキープに努める今吉。

 

「こっちだ。俺に持って来い!」

 

ハイポストの位置からスリーポイントラインの外側まで走ってボールを要求する福山。

 

「今調子良さそうみたいやし、頼んまっせ!」

 

絶賛波に乗っていると見た福山にパスを出す今吉。

 

「ド阿呆、何度も決めさせ――っ!?」

 

移動する福山を追いかけようとする天野だったが、何かにぶつかり、阻まれる。

 

「…っ」

 

そこには、國枝がスクリーンをかけていた。

 

「マジかよ!?」

 

個人技主体の桐皇がやらないプレー。少なくとも去年は見られなかったプレーに驚く菅野。

 

「別に禁止されとる訳あらへんからのう。國枝君はこういうのもやってくれるんやで」

 

ニヤリと笑う今吉。

 

「アカン、スイッチや!」

 

「…ちっ」

 

スイッチの声に松永が反応し、福山を追いかけ、立ち塞がる。

 

「お前が相手か。残念だが、お前じゃ俺は止められねえぜ」

 

「っ!? 舐めるな!」

 

侮るかのような福山の言葉に激昂する松永。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合うように対峙する両者。

 

 

――スッ…。

 

 

突如、福山がスリーの体勢に入る。これを見てすかさず松永が両腕を上げる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかしこれはフェイク。ボールを頭上にリフトさせると、福山は飛ばずにそのままドリブルで切り込んだ。

 

「それで出し抜けると思うなよ!」

 

松永もこれに反応。スリーはフェイクだと読み切った松永はフェイクにかかったフリをして福山を追走する。

 

「…言ったろ。お前じゃ俺は止められねえって!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

直後にクロスオーバーで切り返し、松永を抜きさった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

松永を抜きさった直後にボールを掴み、ジャンプショットを決めた。

 

 

花月 31

桐皇 37

 

 

『うおー!!! 連続得点!!!』

 

『桐皇のキャプテンは伊達じゃねえぞ!?』

 

観客が一様に福山に注目する。

 

『点差が開いて来た。このままジリジリ放されるのか!?』

 

第1Q終わった時点で1点だった点差が6点にまで開いてしまう。

 

『…っ』

 

花月の選手達に僅かに焦りの色が出る。

 

「…」

 

ベンチで胸の前で腕を組みながら試合を見守っていた上杉が立ち上がり、オフィシャルテーブルに向かう。オフェンス特化の桐皇をこれ以上波に乗せてしまうと去年同様、たちまち点差を放されてしまう。流れを切る為にタイムアウトの申請に向かう。

 

「タイムアウトを――」

 

『おぉぉぉーーーっ!!!』

 

その時、観客席から大歓声が上がる。

 

「?」

 

この歓声に反応し、視線をコートに向ける上杉。そこには、右手を頭上に掲げ、そして振り返って自陣に戻る空の姿が。ボールはリングの下で転々と跳ねていた。

 

『スリー決めやがった!!!』

 

「スリー?」

 

観客から聞こえた言葉を口に出す。

 

 

攻守が切り替わり、ボールをゆっくり運ぶ空。

 

「(どうにか流れを変えなあかんこの状況。確実に決めたいこの状況で不確定要素の大きいエース(大地)には任せんやろ…)」

 

大地をマークしているのは当然青峰。ここを開ければ当然大きい。だが、リスクが大き過ぎる。その為、ここはないと踏む今吉。

 

「(そうなるとや、ここは自ら取りに来るはずや。流れを変える為の派手な1本を取りに。ほならやる事は1つ。切り込んできたらファールでもかまへんから止めたる。これでこの流れを維持出来る!)」

 

方針が決まった今吉は目の前の空に発進に備える。

 

「…」

 

しかし、ここで空が選んだ選択は…。

 

『っ!?』

 

突如シュート体勢に入る空。スリーポイントラインから1メートル程離れた位置からスリーを放った。

 

「嘘やろ!?」

 

無警戒だった為、空のスリーを見送った今吉が振り返り、ボールの行方を追う。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールをリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 34

桐皇 37

 

 

「俺達は去年とは一味も二味も違うんだ。簡単に流れは渡さねえよ」

 

「っ!?」

 

背中から聞こえた空の声に振り返る今吉。空がしたり顔でそう告げ、ディフェンスに戻っていった。

 

「…ハァ。まさかスリー打って来るとはのう」

 

まさかの選択。そして見事に決めてしまう空に溜息を吐く今吉。

 

「まぁ、同じシチュエーションやったら翔兄も同じ事したやろうなぁ」

 

ここで今吉は自身の従兄であり、かつての桐皇の主将を務めた今吉翔一のあくどい笑みを思い出す。

 

「前途は多難や」

 

自身のマッチアップ相手にげんなりするも今吉は気合いを入れ直したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ふむ、まさかスリーを打って来ましたか」

 

桐皇ベンチで前髪を弄りながら呟く監督の原澤。

 

「去年の……いえ、今年のインターハイ時での神城君なら間違いなく突破してダンクを狙いにいったと思います」

 

横で自身のノートを見ながら補足する桃井。

 

「チームに勢い付ける1発を狙うのではなく、こちらの勢いを止めに来ましたか。…なるほど、インターハイから今日にかけて、司令塔としてまた1つ成長したようですね」

 

派手に花形のダンクを決められればチームに勢いをもたらすかもしれない。しかし、リスクが大きい上、成功しても流れは変わらないかもしれない。だが、スリーと言う嫌な1本を決めれば桐皇にもたらされた勢いに水を差す1本となりえる為、得られる価値は大きい。目の前の今吉は外に無警戒である為、ブロックを気にする必要はない為、外のある空からすればローリスクである。

 

「贅沢を言えば出来ればここでリードを広げたかった所ですが、去年のように行ける程、甘くはないようですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

スリーを決めた空を見つめる上杉。

 

「申し訳ない。タイムアウトは取り消す」

 

オフィシャルテーブルに振り返った上杉は取りかけたタイムアウトを取り下げた。

 

「…フッ、今は選手達に任せてみるとしよう」

 

そう呟き、上杉はベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さて…」

 

攻守が変わり、ボールを運ぶ今吉。

 

「(これから追い上げムードに入るはずが、ええ感じに水差されてもうたからのう。ここは1つエースに派手に決めてもらいたい……所やけど…)」

 

チラリと視線を青峰の方へ向ける。

 

「(さっすが、伊達にエースは張っとらんわ。空けてけーへんわ)」

 

青峰には大地がピッタリマークをしており、パスを出せる隙間がない。

 

「どうした、来ないのか?」

 

「そう焦らんでくれや」

 

目の前でディフェンスをしている空が問いかけると、今吉は苦笑しながら返した。

 

「(一瞬でも気ぃ抜いたらボールを奪われて即カウンターや。早いとこ考え纏めんと――)」

 

「いつまでチンタラボールキープしてんだ! 俺に寄越せ!」

 

その時、痺れを切らした福山が今吉に駆け寄りながらボールを要求。

 

「ほなら任せまっせ」

 

今吉の後ろを走り抜ける際に背後にボールを差し出し、福山はそれを受け取る。

 

「(ったく、神城と言い、綾瀬と言い、天才ってのは嫌な事や信じらねえ事を平気でしてきやがる…)」

 

ボールを掴んだ福山は胸中で愚痴る。

 

「けど負けねえ! この大会が最後の大会なんだ。1度も頂点に立たずに終われるかよ!」

 

叫びながらドリブルをし、そのままリングへと飛ぶ福山。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

ボールがリングに叩きつけられる瞬間、横から現れた1本の腕がこれを阻止する。

 

「阿呆が。最後のなのはお前だけちゃうわ!」

 

「天野!」

 

天野がブロックに現れ、ダンクを阻止し、ボールは高く舞った。

 

「…っ、ルーズボールを抑え――っ!?」

 

着地をした天野がボールを抑えようとしたその時…。

 

「…取らせませんよ」

 

國枝が天野の前に立ち、スクリーンアウトで飛ばせないよう抑え込んだ。

 

「いいぞ國枝。よくやった!」

 

天野が飛べなくなった事で福山が悠々とボールを抑えた。

 

「もういっちょ!」

 

再度福山が得点を狙いに行く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

ボールを頭上にリフトさせようとしたその時、後ろから伸びて来た1本の手にボールを叩かれる。

 

「2度も打たせるかよ」

 

手の正体は空。空が後ろから福山の持つボールを叩いていた。

 

「…ちっ!」

 

慌てて零れたボールを抑える福山。

 

「もう打たせへんぞ」

 

「ここは止める」

 

天野が福山に張り付き、ディフェンスに入る。空も福山を包囲するようにディフェンスをする。

 

「(くそっ! 最悪な位置でボールを止めちまった!)」

 

ピッタリとディフェンスをされている為、シュートもドリブルも出来ず、焦る福山。このままではヴァイオレーション取られてしまう為、焦る福山。

 

「福山さん、こっち!」

 

その時、ボールを要求する声が福山の耳に届く。

 

「頼む、良!」

 

右アウトサイドでボールを要求した桜井にすかさずパスを出す福山。

 

「打たせないよ」

 

ボールが桜井に渡ると、すかさず生嶋がフェイスガードでディフェンスに入る。

 

「(…っ、相変わらず、シューターにとって嫌なディフェンスをしてくる)」

 

スリーそのものを打たせないよう張り付くようなディフェンスをする生嶋。

 

「(けど僕は負けない。この大会が最後なんだ。絶対に勝つんだ!)」

 

ディフェンスをものともせず、桜井は強引にスリーを放った。

 

「(っ!? これは!?)」

 

振り返った生嶋がボールの軌道を見て何かを確信する。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 34

桐皇 40

 

 

「なっ! 決めよった!」

 

無理やり放ったスリー。リバウンドに備えていた天野だったが、見事に決められ、思わず声を上げる。

 

「…よし!」

 

スリーを決め、拳を握る桜井。

 

「國枝! お前もナイスフォローだったぞ!」

 

桐皇ベンチに座る新村が國枝にエールを贈る。最後の年の最後の大会。昨年時からベンチ入りもするもスタメン入り出来ず、それでも腐る事無く1年生でスタメン入りをした國枝に指導をした新村。

 

「…っ」

 

そんな新村に國枝は拳を握って応えた。

 

「…ふぅ。これが3年生の執念か」

 

執念でガムシャラにプレーをする桐皇の3年生。負けたら次はないと言う現実が資質や実力を越えて花月の選手達を襲い掛かる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

続く花月のオフェンス。空はボールを運ぶと一気に加速して目の前の今吉を抜きさり、カットインした。

 

「それでも負けられねえんだよ。キセキの世代のいない『次』に用はねえんだ!」

 

切り込んだ空はボールを掴んでリングに目掛けて飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

「決めさせるか!」

 

ヘルプに飛び出した福山と國枝が空の前にブロックに飛び、立ち塞がる。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、空がボールを下げ、ブロックに飛んだ2人を空中でかわす。

 

「「っ!?」」

 

 

――バス!!!

 

 

その後にボールを放り、バックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 36

桐皇 40

 

 

『うおぉぉぉっ!!! 空中で2人かわしながら決めやがった!!!』

 

技ありのダブルクラッチを決め、観客が沸き上がる。

 

「…ちっ」

 

みすみす得点を奪われた福山は思わず舌打ちをする。

 

「ホンマ、あれで同い年なんか? 嫉妬してまうわ」

 

苦笑しながらボールを運ぶ今吉。

 

「(4点なんてあってないようなものや。下手に拮抗してまうと体力削れて終盤に響いてまう。ここは――)」

 

「寄越せ誠二!」

 

その時、今吉の耳にそんな声が届く。

 

「…くくっ、もちろんや。言われんでもそのつもりでっせ」

 

大望の声を聞いて今吉は含み笑いをしながらそこへパスを出す。

 

「ったく、どいつもこいつも熱くなりやがって、良まで乗せられやがって、暑苦し過ぎんだよ」

 

ボールを受け取った青峰が溜息を吐きながらぼやく。そして、目の前に立つ大地の目を見据える。

 

「やるようになりやがったな。お前も、神城も」

 

「…」

 

「もう少し楽しむつもりだったが……止めだ。こっからは本気で勝ちに行ってやる。お前らに、力の差ってやつを教えてやるよ」

 

「っ!?」

 

そう宣言する青峰。同時に明らかに青峰に雰囲気が変わった事に大地は気付いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「青峰に纏う空気が変わった…!」

 

火神も青峰の変化に気付いた。

 

「ここからが青峰の本領発揮なのだよ」

 

同じく緑間も気付く。

 

「過去にも青峰が本気でプレーした事はあった。けど、それでも何処かで試合を楽しんでいた」

 

赤司が青峰を見て喋り出す。

 

「どうなるんスかね。あの青峰っちが100%試合に勝ちに行ったら…」

 

未だ見た事ない自身のライバルの姿を見つめる黄瀬。

 

「…」

 

紫原は何も言葉を発する事無く試合を見つめていた。

 

3年生が執念を見せつけた桐皇。その執念も空が力でねじ伏せていった。

 

しかし、その執念に中てられた青峰の闘志に火が付いた。

 

キセキの世代のエース。その牙が花月に突き刺さろうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー空いてしまいましたorz

理由と致しまして、ネタ切れとこの暑さによるモチベーションの低下です…(;^ω^)

この先も未だネタが固まっていない為、投稿が遅れるかもしれませんがお待ちいただけると幸いです…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第167Q~暗雲~


投稿します!

暑い…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り6分51秒

 

 

花月 36

桐皇 40

 

 

「もう少し楽しむつもりだったが……止めだ。こっからは本気で勝ちに行ってやる。お前らに、力の差ってやつを教えてやるよ」

 

ボールを持った青峰がそう宣言する。

 

「(来る…!)」

 

青峰の目の前に立つ大地。青峰の変化に気付く。

 

「(俺にまで伝わってきやがる。青峰の集中力が増しやがった!)」

 

離れた位置にいる空も肌で感じ取っていた。

 

「…」

 

右のウィングの位置でボールを小刻みに動かしながら牽制する青峰。

 

「(僅かにでも気を抜けば外から打たれる。型にハマらないストリートバスケによるハンドリングはもはや予測不能。とにかく集中して食らいつかなければ…!)」

 

青峰の一挙手一投足に最善の注意を払うように神経を集中させた大地。

 

『…っ』

 

互いに張り詰める程に集中して対峙する2人。その緊張感は観客にも伝わり、思わず息を飲む。

 

「(…何を考えてんのか一目瞭然だな。だが…)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰は突如として加速し、一気に切り込んだ。

 

「…っ!」

 

突然の青峰の急発進。しかし、集中状態でディフェンスをしていた大地は遅れる事無くバックステップしながら反転し、並走する。

 

「(読みどおり…、後はここからの急停止とストリートのテクニックに警戒して――)」

 

「あめーよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、青峰は止まるでも切り返すでもなく、そのままリングへと突き進み、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「…くっ!」

 

大地もブロックに飛ぶ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

青峰は大地の上からボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 36

桐皇 42

 

 

『うおぉぉぉっ!!!』

 

「ボールをこねくり回すだけが俺のバスケだとか思ってんのか?」

 

リングから手を放し、着地した青峰が口を開く。

 

「そんな面倒くせー事しなくても点なんざ取れんだよ」

 

そう言い放ち、青峰はディフェンスに戻っていった。

 

「ようやく本性出してきたな」

 

空が大地に近寄りながら話しかける。

 

「…ええ。さすがは青峰さんです」

 

「どうする?」

 

と、空が尋ねると…。

 

「もちろん、こちらも負けていられません。真っ向勝負を挑みます」

 

真剣な表情で答える大地。その答えに満足した空はニヤリと笑みを浮かべ…。

 

「そうこなくちゃな。相手が誰だろうと関係ねえ。花月(うち)のエースはお前だ。ぶちかましてやれ」

 

そう語り掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンスとなり、空がボールを運ぶ。フロントコートまでボールを進めると、空は迷う事無くパスを出した。

 

「そこで来るとは薄っすら予想しとったけど、…正直おすすめせんで?」

 

「うちのエースをなめんなよ。エンジンかかってきたのはそっちのエースだけじゃねえんだよ」

 

苦笑しながら忠告をする今吉に対し、空はそう返した。

 

「そうでなきゃ面白くねえ、来いよ」

 

「言われずとも」

 

笑みを浮かべながら言う青峰に対し、真剣な表情で返す大地。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かしながら牽制する大地。その動きに合わせて対応する青峰。

 

『(…ゴクッ)』

 

対峙しながら睨み合う両者。その緊張感が周囲の者及び観客にも伝わり、思わず息を飲む。

 

「…」

 

チャンスを窺う大地。時間にして数秒だが、その間に両者の間で緻密な駆け引きが行われている。そして…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

次の瞬間、大地が動く。一気に加速し、カットインする。

 

『行った!!!』

 

「…っ」

 

一気に切り込んだ大地に並走しながら追いかける青峰。

 

『さすが青峰! 簡単には抜かせねえ!』

 

『けど、綾瀬にはここから前後の緩急があるぜ!』

 

もはや大地の代名詞となっている全速のドライブからの高速バックステップ。同じキセキの世代さえも出し抜いた大地の必殺技。しかし…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地は下がらず、そのまま前進した。

 

『下がらねえぞ!?』

 

『まさか、やり返す気か!?』

 

先程の青峰が小細工無し。持ち前のスピードとアジリティで得点を見ていた観客が同じ事をやり返そうとしているのか、と期待し、思わず沸き上がる。

 

「ハッ! やれるもんならやってみろ!」

 

並走しながら青峰が言い放つ。

 

リング付近まで切り込んだ大地はボールを掴み、飛ぶ。それに合わせて青峰もブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

しかし、ここでブロックに飛んだ青峰が目を見開いた。大地はボールを掴んだ後、リングにではなく、直角に右方向へと飛んでいたからだ。

 

「…ちっ!」

 

思わず舌打ちをし、青峰が懸命に手を伸ばす。

 

 

――バス!!!

 

 

しかし届かず。大地は右斜めに飛びながらボールをリリースし、バックボードに当てながら得点を決めた。

 

 

花月 38

桐皇 42

 

 

「こちらも引く気はありません。あなたを超えるまでは」

 

「上等だ、そうこなくちゃな」

 

先程のお返しとばかりに言い放つ大地に対し、青峰はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ここから、試合は両校のエース同士の対決に移行する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受け取った青峰は得意のストリートバスケによる変則ドリブルを始める。

 

「…っ!」

 

大地はこのドリブルに食らいつきながらディフェンスをする。青峰がバックチェンジで左から右へと同時にボールを掴み、シュート体勢に入る。

 

「…っ」

 

これに反応し、バックチェンジと同時にスライドするように移動した大地はブロックに飛び、シュートコースを塞ぐ。

 

「っ!?」

 

次の瞬間、青峰が上半身を後方に寝かせるように倒し、その体勢からボールをリリースした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはブロックの為に伸ばした大地の手の上を越えていき、リングを潜り抜けた。

 

 

花月 38

桐皇 44

 

 

『出た! 青峰のフォームレスシュート!』

 

『何度見ても信じられねえ! 何であれが入るんだ!?』

 

「いい反応するようになったじゃねーか。だがまだあめーよ」

 

「…っ」

 

挑発するように青峰が大地に告げる。

 

 

「やり返してやれ!」

 

変わって花月のオフェンス。空がボールを運び、早々に大地にボールを託す。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

ボールを受け取った大地はチェンジペースからのクロスオーバーで青峰の横を抜ける。

 

「…っ」

 

タイミングを読み切った青峰は抜かせる事無く大地の動きに反応する。

 

 

――キュキュッ!!! …ダムッ!!!

 

 

直後に大地は急停止し、同時に高速でバックステップをして下がった。

 

「…ちっ!」

 

舌打ちをしながらも青峰も停止し、反転して再度大地を追いかける。

 

 

――ピッ!!!

 

 

バックステップと同時にボールを掴んだ大地は同時にステップバックで右へとスライドし、シュート体勢に入った。

 

「…っ!?」

 

ブロックに飛んだ青峰だったが、大地はフェイダウェイで後ろに飛びながら、かつクイックリリースで素早くリリースした為、僅かに届かなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

 

花月 40

桐皇 44

 

 

『こっちも負けてねえ!!!』

 

『あんなスピードを一瞬で殺して、しかもあのスピードで下がった挙句にステップバックされたら止めようがねえよ!!!』

 

「再び4点差です」

 

「…」

 

お返しとばかりに告げる大地。

 

 

「…っ、相変わらず寒気がするぜ。あのドライブのスピードを一瞬で殺しちまうだけでも異常なのに、そのドライブと同等のスピードでバックステップ、そこからステップバックしてフェイダウェイしながらクイックリリース。普通あんなの入らねえ…ていうかそもそも出来ねえよ」

 

今のプレーを見て高尾が冷や汗を掻く。

 

「それだけではない。ドリブルからシュートまでの繋ぎが夏の時と比べてスムーズになった。もはやあれは高校生レベルでは止める事は不可能なのだよ」

 

緑間が補足するように言ったのだった。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

得意のストリートのムーブで大地を翻弄する青峰。

 

「…っ!」

 

抜かせまいと大地も必死に青峰の動きに付いていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

僅かに大地の右足に体重が乗った瞬間、青峰はボールを左から右へと切り返し、大地の左手側を抜ける。

 

「…っ! まだです!」

 

大地はバックステップで下がりながら反転し、青峰を追いかける。

 

「なっ!? あの体勢から追いつけんのかよ!?」

 

不十分な体勢にも関わらず青峰に食らいついた大地に驚く福山。

 

ボールを掴んだ青峰が飛ぶ。

 

「っ!? …くっ!」

 

リングとは逆方向に飛ぶ青峰。狙いにすぐさま気付いた大地もすぐさまブロックに飛んだ。

 

 

――バス!!!

 

 

飛んだ後、ボールを右手に構えた青峰は放り投げるようにリングに向かってボールを投げた。大地も懸命に手を伸ばすが届かず、ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

「青峰っちも譲らないッスね」

 

「…むぅ、夏に戦えんかったのは残念じゃったが、実際戦ってたら考えると寒気がするのう」

 

黄瀬が呟くと、三枝は複雑な表情をした。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受け取った大地は目の前の青峰に対し、ボールを小刻みに動かしたり、ジャブステップを踏みながら牽制し、その後、切り込んだ。

 

「…っ」

 

「…っ」

 

身体を張ってディフェンスをする青峰。大地は強引に突破を図る。リングの近くまで切り込んだ大地はボールを掴んで飛んだ。

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ青峰だったが、目を見開いて驚いた。大地は前方のリングに向かってではなく、後ろへと飛んでいたからだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フェイダウェイで青峰のブロックをかわした大地はそのままジャンプショットを決めた。

 

 

「出タ! アツシヲカワシテ決メタアノジャンプダ!」

 

インターハイ時のトドメの1発を思い出すアンリ。

 

「…ふん」

 

紫原はただ鼻を鳴らした。

 

 

桐皇のオフェンス。ボールを運んだ今吉はやはり青峰にボールを渡した。

 

「(スピードとリズムにだいぶ慣れてきました。ここを止めて一気に流れを――っ!?)」

 

ボールを奪い、連続得点を決めて流れをものに…そう考えた大地だったが、ここである失策をしていた事に気付く。

 

スリーの体勢に入る青峰。

 

「…くっ!」

 

ドリブルを意識過ぎたあまり、無意識に僅かに距離を取り、重心を後方に向けてしまい、対応が遅れてしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

僅かにブロックが間に合わず、放たれたスリーは無情にもリングを射抜かれる。

 

『ここでスリーキター!!!』

 

「…ちぃ! ここで打ってくるんかい!」

 

思わず舌打ちが飛び出る天野。4点差と6点差を来る返していたエース対決。その均衡が崩れた。その影響が少なからず影響が出るだろう。

 

『…っ』

 

エース対決に際し、青峰に1歩リードされてしまい、表情が曇る花月の選手達。

 

「切り替えろ! 1本、行くぞ!!!」

 

そんな不安をかき消すように空が声を張り上げ、ボールを運ぶ。

 

「大地!」

 

フロントコートに入ると同時に空は大地にボールを渡す。

 

「(今のスリーの影響が出るのは確実や。青峰はん必ず止める。仮にここ決められても関係あらへん。均衡が崩れた事には変わらへんからのう)」

 

胸中でほくそ笑む今吉。

 

「予想以上に白熱しとったけど、エース対決は終いや。結局最強は青峰はん――」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空に振り返って勝ち誇った表情をした今吉だったが…。

 

「はっ?」

 

リングの方へ視線を向けると、リングの下で転々と跳ねるボール。

 

「っ!?」

 

続いて大地の方へ振り返ると、ゆっくりと右手を降ろす大地の姿。

 

『……おっ――』

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

一瞬の静寂の後、観客は大歓声を上げた。

 

大地は空からボールを受け取った直後、すぐさまその場でシュート体勢に入り、ボールを放った。青峰はまだ完全にマークに来ていなかった為、半ばフリーの状態。

 

「そんな…、信じられない…」

 

桜井が言葉を失う。大地がスリーを放ったのはスリーポイントラインから2メートル近く離れた位置。しかも、自身のクイックリリースよりも速いリリースで決めてしまったのだ。

 

「何か言ったか?」

 

「…っ!」

 

笑みを浮かべながら空が今吉に告げる。

 

「これで元通りです」

 

「…」

 

そう告げる大地を無限で視線を向ける青峰。

 

青峰とてスリーを想定していなかった訳ではない。むしろ警戒していたくらいである。だが、あの距離から打ってくる事が想定外であった。

 

 

「あいつ…、いくら青峰が無警戒だったからって緑間じゃあるまいし、普通打たねえぞ」

 

大胆なスリーを見て火神も驚いていた。

 

「綾瀬君にとっても賭けだったのでしょうね。…けど、賭けを打った甲斐はあったと言えるわ」

 

傾きかけた流れを引き戻す事に成功し、賭けは成ったとリコは断じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

始まったエース対決。互いに互角の様相を呈していた。

 

「あの青峰と互角か…」

 

「また1つ格を上げやがったな…」

 

観客席の洛山高校の三村と四条が2人の勝負を見て驚愕している。

 

「…」

 

他の選手の同様の表情をしている中、赤司だけは表情を変える事なく2人の勝負を見つめていた。

 

「何か気になる事でもあるのか?」

 

そんな赤司に気付いた二宮が尋ねる。

 

「…少し思う所があってね」

 

「?」

 

赤司はただそれだけ返事をしたのだった。

 

 

「なるほど、伊達に黄瀬や紫原に勝った訳じゃなさそうだな」

 

ボールを受け取った青峰が目の前の大地に向かって告げる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時に青峰が仕掛ける。

 

「…っ!」

 

相変わらずのスピードとアジリティを誇る青峰のドライブ。大地も何とか食らいつく。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

ロールと同時に青峰がボールをリングに向かって放る。大地はボールに手を伸ばすも僅かに届かず。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「けどな、例えあいつらに勝てても俺には勝てねえ」

 

「…っ」

 

大地の方に視線を向ける事無く青峰は告げ、ディフェンスに戻っていった。

 

 

続く花月のオフェンス。これまで同様、空はフロントコートにボールを運ぶと同時に大地にボールを託す。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合うように対峙する2人。

 

「(スリーは……当たり前ですが、打たせてもらえそうにありませんね。…ならば!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーは無理と見て大地が仕掛ける。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

一気に加速した大地は青峰の横を抜け、そのままリングへとドリブルをし、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「いっけぇぇぇーーーっ!!!」

 

ベンチに菅野が声を張り上げる。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールがリングに叩きこまれる直前、後ろから伸びて来た青峰の手でブロックされた。

 

「青峰先輩!」

 

ルーズボールを拾った國枝がブロックと同時に速攻に走った青峰に縦パスを出した。

 

「あかん! カウンターや、戻れ!」

 

慌てて天野が声を張り上げながら自陣へと戻る。

 

「…ちっ、ここは行かせねえ!」

 

フロントコートに入った辺りで空が青峰に追い付き、並走する。

 

「俺に追い付くかよ。相変わらずのスピードだなおい」

 

皮肉交じりに空を称賛する青峰。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

スリーポイントライン目前で急停止する青峰。

 

「…っと!」

 

空も直後に急停止するも全速力で走っていた事もあり、軽く足元が踊る。

 

「…っ!?」

 

振り返ると視線をリングに向ける青峰の姿が映り、慌てて距離を詰める空。

 

「(やっば!!!)」

 

同時に空は失策に気付く。青峰は視線をリングに向けてはいたが、ボールは保持していなかったのだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこから再加速し、青峰は空の横を抜けていった。

 

「ここは止めて見せます!」

 

リングに向かって飛んだ青峰。空との攻防の隙に追い付いた大地がブロックに現れた。

 

「よー追い付いた! 止めてまえ!」

 

青峰とリングの間に割り込むようにブロックに飛んだ大地。

 

「っ!?」

 

しかし、青峰はダンクするでも放るでもなく、そのままエンドラインを越える青峰。

 

 

――スッ…。

 

 

エンドラインを通り過ぎた青峰はバックボードの裏からボールを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

バックボード裏から放られたボールは嘲笑うかのようにリングを潜り抜けた。

 

 

花月 45

桐皇 53

 

 

『うぉぉーーっ!!! 決めたぁっ!!!』

 

「「っ!?」」

 

空と大地の2人を抜きさって決めた青峰。

 

『…』

 

それを目の当たりにして茫然とする花月の選手達。

 

「ドンマイや。取り返したらええねん!」

 

気落ちする選手達を見て天野が声を出し、鼓舞する。

 

「当然、取り返すぞ!」

 

空も呼応するように声を張り上げた。

 

「…」

 

ボールを運ぶ空。

 

「どないしたん? おたくのエースにパス出さへんの?」

 

不敵に笑いながら今吉が空に尋ねる。

 

「…ちっ」

 

そんな今吉の表情を見て空が苛立ち交じりに舌打ちをする。

 

「…フー」

 

一呼吸吐いた空はボールを掴む。

 

 

――ピッ!!!

 

 

同時にパスを出す。

 

「っ!?」

 

しかし、パスの先は大地……ではなく。

 

「ナイスパス!」

 

國枝の裏を取った松永だった。

 

「なっ!?」

 

空のまさかの選択に國枝も予想外の反応を見せる。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った松永はそのままゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 47

桐皇 53

 

 

「なんや、勝負避けるんかい。つまらんのう」

 

思わず愚痴る今吉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も空はこれまで大地一辺倒のオフェンスを止め、他の選手にボールを散らす…あるいは自ら得点を決めるゲームメイクに切り替えた。それが功を奏したのか、点差は開くことなく試合は進んだ。

 

 

第2Q、残り12秒。

 

 

花月 56

桐皇 63

 

 

「…」

 

第2Q、恐らくこれが最後の花月のオフェンス。この1本はきっちり決めて終わりたいと考える空。

 

「下さい!」

 

空に対してボールを要求する大地。

 

「…」

 

悩む空。先程のターンオーバー以降、大地には一切パスを出さなくなった空。やられっぱなしのまま勝負を避けるのはチームの士気に関わる上、大地のモチベーションにも影響が出かねない。

 

「……よし」

 

覚悟を決めた空は大地にパスを出した。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを構える大地。

 

「(必ず決めます。その為に皆さんに迷惑をかけてまでアメリカに行ったのですから)」

 

胸中で意気込みを露にする大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、仕掛ける。

 

「(抜い――いやおかしい…)」

 

青峰の横を抜けた大地だったが、違和感を覚える。手応えがない。あっさり過ぎるのだ。

 

「っ!?」

 

その時、大地は気付く。青峰が自身のすぐ後ろにいる事に。

 

 

「やけにあっさり抜かせた思うたが、わざとか」

 

観客席の三枝は気付いた。青峰の狙いに。

 

 

「…くっ!」

 

前にいるとはいえ、闇雲に得点を狙いにいけば青峰にブロックされてしまう。

 

「ならば!」

 

ボールを掴んだ大地は真横に飛び、得点を決めにいく。

 

 

「…ダメだ。他の選手……いや、他のキセキの世代なら決められたかもしれない」

 

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

真横に飛んだ大地に反応し、大地が放ったボールに指先が触れる青峰。火神の予言通り、青峰にブロックされてしまう。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールに触れられた事でリングに嫌われるボール。

 

 

――ポン…。

 

 

そのボールを空がタップで押し込んだ。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q終了。

 

 

花月 58

桐皇 63

 

 

「フー」

 

何とか得点を決めて終わり、深く息を吐く空。

 

「…っ」

 

対して大地の表情は曇っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合の半分が終わり、点差は5点。

 

試合開始直後にぶつかり、この試合2度目のエース対決。再び互角の戦いと思いきや、その勝負に変化が現れた。

 

点差だけ見ればほぼ互角であるが、エース対決は青峰に軍配が上がり始めた。

 

花月に本格的に牙を向き始めた青峰。試合は後半戦へと進んで行く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ネタが浮かばず、それが原因でモチベーションが下がり、今やスランプの状態です…(>_<)

去年まではネタが次から次へと浮かんだのになぁ…(/ω\)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第168Q~エースと勢い~


投稿します!

9月に入って一気に気温が下がりましたね…(^-^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q終了

 

 

花月 58

桐皇 63

 

 

試合の半分が終わり、ハーフタイムとなり、両校の選手達は各ベンチから控室へと移動していく。入れ替わりに次の対戦校が試合前の練習を行う為にコートへとやってくる。

 

「点差は5点。競った展開だな」

 

「ああ。…だが、最後は少しきな臭い終わり方だったな」

 

コートから離れていく花月と桐皇の選手達を見つめながらここまでの感想を語り合う二宮と三村。

 

「赤司、どう見る?」

 

四条が横に座る赤司に尋ねる。

 

「ああ。青峰の調子が完全にピークになった」

 

問いに対し、赤司がそう返事をする。

 

「知っての通り、青峰はスロースターターだ。過去の試合では序盤のエース対決で後れを取る事もしばしばあった。本人もそれを自覚しているからそれを解消する為にきつめにアップをして試合に臨んだのだろう」

 

『…』

 

「その甲斐もあって普段よりエンジンのかかりが早かったようだが、それでも完全ではなかった。…だが、2度のエース対決を経てようやく完全となった」

 

「なるほど」

 

赤司の解説に四条が納得の表情で頷く。

 

「試合の後半戦、赤司の予想は?」

 

「そうだね。1つだけ言えるのは、ここからのエース対決は一方的になる」

 

五河の問いに赤司がそう回答する。

 

「2度目のエース対決が始まった時点でその兆しはあった。綾瀬は自身の大技を連発や、博打紛いの長距離スリーで得点を奪った。だが、裏を返せば大技や博打を打たなければ得点が出来なかったとも言える。そしてそれらの技にも対応し始めた」

 

『…』

 

「対して青峰はスリーを打ってはきたが、青峰からすればそれは切り札と呼ぶ程のものではなく、あくまでも自身のストリートのバスケをより生かす程度に過ぎない代物。そして、綾瀬はほとんど対応出来ていなかった」

 

『…』

 

「それが分かっていたから神城は途中からエース対決を避けた。後々の事を考えればエース対決を避けるのは得策ではないのだが、ここで格付けを済まされてしまうよりは傷口は浅くて済む」

 

勝負を避けて退いてしまえばそれは負けを認めた事になり、大地の調子やメンタルに影響が出る。かと言ってムキになって挑み続け、結果ターンオーバーを繰り返せば点差は開き、チームの士気は落ち、結局同じ事になる。それを避ける為に空はボールを大地以外に散らして攻める選択をした。

 

「なるほど。…だが、いつまでもエース対決を避ける事も出来ないだろうし、青峰を止められなければ点差は開く一方じゃないのか?」

 

「ああ。このハーフタイムにどれだけ立て直しと対策を立てられるかにかかっている」

 

赤司はそう言って花月の選手達が歩いて行った通用口に視線を向けた。

 

「(神城は司令塔として、綾瀬はエースとして一皮剥けた。だが、青峰はその上だ。さあ、どうする…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇控室…。

 

「よーし! 悪くねえ、悪くねえぞ!」

 

控室にて、福山が歓喜する。

 

「部屋狭いんやからそないデカい声出さんといてや」

 

すぐ横にいた今吉はげんなりしながら言う。

 

「福山君。今はしっかり体力回復に努めて下さいね」

 

そんな福山を窘めるように原澤が声を掛ける。

 

「では皆さん。ここからの話を始めます。第3Qは――」

 

「俺が決める。…で、いいでしょ?」

 

原澤の言葉を遮るように青峰が口を挟む。

 

「ちょっと大ちゃん!」

 

あまりの物言いに桃井が青峰を諫める。

 

「うるせーなさつき。ようやく身体が温まってきたんだ。ここらで力の差をあいつら(花月)に教えてやらねえとな」

 

とうの青峰は身体を解しながらどこ吹く風となっていた。

 

「…」

 

そんな青峰に福山が歩み寄った。

 

「あん? 何か文句でもあんのか?」

 

「……ハァ。お前はホント変わらねえな」

 

溜息を吐きながら福山が告げる。

 

「ねえよ。…今吉、第3Qは青峰にボールを集めろ。ここからは青峰中心で行くぞ」

 

『っ!?』

 

「っ!? ……嘘やろ」

 

まさかの発言に今吉だけではなく、桐皇の選手全員が驚く。それは作戦の事ではなく、福山がそれを言ったからである。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

これには青峰も怪訝そうに尋ねた。福山のオフェンス意識の高さは青峰と同等かそれ以上。ましてや、福山は入部してから青峰をライバル視して何かと張り合い、時に衝突したりもした、そんな福山だからこそ、信じられない発言なのである。

 

「正直、今でもお前の事は好きになれねえ。その自分勝手な性格もそうだが、お前さえいなきゃ俺は桐皇のエースを張れたんだ」

 

「…」

 

「いや、あのディフェンスじゃ無理やろ」

 

「…今吉先輩、今は静かにしてましょう」

 

無言で話を聞く青峰。ツッコミを入れる今吉を制する國枝。

 

「お前からエースの座を奪い取る為に死に物狂いで努力した。桐皇に来てからの3年間は誰にも文句は言わせねえ。自分でも言うのも何だが、よくやったと思ってるよ。けど、結局お前には全く敵わなかった」

 

そう言うと、福山はフッと一息入れ、薄く笑みを浮かべた。

 

「お前がいたおかげで俺はここまで強くなれた。お前がいなけりゃ、ただのチームのエース止まりだっただろうよ」

 

「…ふん」

 

話を黙って聞いていた青峰は鼻を鳴らす。

 

「要するにだ、俺はお前の事、認めてはいるんだよ。このチームのエースはお前だ。この試合、お前に託すぜ」

 

『…』

 

己のプライドを捨て、チームの命運を託した福山を選手達は無言で見つめていた。

 

「…だが、1つだけ言っておくぜ」

 

「?」

 

「お前の周りには俺達がいる。お前が1人で無理そうなら俺達が全力でフォローしてやる。その事を忘れるな」

 

「……たりめえだ。お前らにも働いてもらうつもりだからな。気が向いたら情けでパスを出すかもしれねえから集中だけはしておけよ」

 

青峰は視線を逸らしながら小指で耳穴を掻きながらぶっきらぼうの返す。

 

「青峰…!」

 

「…良」

 

「俺じゃねえのかよ!」

 

思わずツッコむ福山。

 

「ハハッ! 見事なオチでしたで」

 

そのやり取りを見て今吉は愉快そうに笑った。

 

「…ちっ、監督、勝手に決めてすいません。これでいいですか?」

 

「ええ、どちらにしろそのつもりでしたから問題ありません。ここからは青峰君を中心に攻めます。他の4人は青峰君を全力でフォローして下さい」

 

『はい!!!』

 

桐皇の作戦は決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月の控室…。

 

『…』

 

控室では選手達は誰1人口を開く事なく押し黙っていた。

 

「……さて、どないする?」

 

沈黙を破ったのは天野だった。

 

点差は5点ビハインド。ここまでの試合展開だけ見ればほぼ互角と言ってもいい。…ある1点を除いて。

 

「…」

 

頭からタオルを被り、俯く大地。前半戦では2度に渡って青峰とエース対決を繰り広げた。1度目は五分五分で渡り合ったが、2度目の激突は終盤、青峰が大地を圧倒していた。

 

「…恐らく、桐皇は第3Qからは青峰さんを中心に攻めて来るのは間違いないでしょう」

 

神妙な面持ちで姫川が口にする。

 

「…もう1人、青峰に誰か付けるか?」

 

菅野がそう提案する。

 

「得策ではありません。福山さんをフリーにする事はリスクが大き過ぎるので天野先輩は行かせる事は出来ませんし、外のある桜井さんもインサイドの要である國枝君もマークを外せない。神城君も今吉君もマークしなければならないので…」

 

姫川が菅野の提案を悲痛の表情で却下した。

 

『…』

 

再び沈黙が控室を支配する。

 

「私がやります」

 

その沈黙を、大地が破った。

 

「青峰さんを止めるのは私の役目です。私が止めなければなりません。ですから、私がやります」

 

被っていたタオルを取った大地が覚悟に満ちた表情でそう口にした。

 

「…分かった。ひとまず青峰はお前に任せる」

 

大地の覚悟に免じたのか、空がその提案を受け入れた。

 

「それしかないわな。青峰は綾瀬に任せるで。…オフェンスはどないする?」

 

「…」

 

空が顎に手を当てながら思案する。

 

「…ボールを散らします。これまで同様、全員で点を取りに行きましょう」

 

暫し考え、空がそう提案する。

 

「空――」

 

その空の提案に大地が異を唱えようとする。

 

「お前の言いたい事は分かってる。ただ勘違いすんな。あくまでも全員で点を取りに行くって俺は言ったぜ。それは当然お前も含まれてんだからな」

 

「…っ」

 

「お前の考えてる事は分かる。県予選を欠場してチームに迷惑かけてまで修業留学したんだ。にも関わらず青峰を止められない事に焦りを感じてるんだろ? 俺は同じ立場だから偉そうに言えねえが、お前を咎める奴はこの場にいねえよ」

 

そう言って、空は周囲の花月の選手達を見渡す。

 

「ダイは青峰さん相手によくやってるよ」

 

「ああ。綾瀬でなければあそこまで競れなかっただろうし、綾瀬がいなければ点差はもっと開いていただろう」

 

生嶋と松永が大地を励ます。

 

「お前が全部背負い込む事ないで。俺らもお前の負担背負ったるわ」

 

「天野先輩…」

 

そう言って天野は大地の背中を叩いた。

 

「話は纏まったな」

 

これまで沈黙を貫いていた上杉が口を開いた。

 

「第3Qからは神城を起点に点を取りに行く。天野は――」

 

上杉が細かいオフェンスのパターンを説明していく中…。

 

「…っ」

 

大地は曇った表情で俯いていた。

 

「…」

 

そんな大地に空は視線を向けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『来たぞ!』

 

ハーフタイム終了の時間が近付き、花月、桐皇の選手達がコートのあるフロアへと戻ってきた。両チームの選手達が各ベンチに集まると選手達がコートへとやってきた。両チーム共に交代はなし。

 

「っしゃ!!! 行くぞ!!!」

 

空の号令と共に空を先頭に花月の選手5人がコート入りをする。

 

「おらぁっ!!! 行くぞ!!!」

 

続いて福山の檄と共に桐皇の選手達がコート入りをした。

 

「ほな、1本行こか」

 

審判から桜井がボールを受け取り、桜井が今吉にパスを出し、第3Q、後半戦が始まった。

 

「…」

 

ボールを運んでいると、空がディフェンスにやってくる。

 

「後半戦最初の大事なオフェンスや。ここで行くで」

 

薄っすら笑みを浮かべながら今吉がパスを出す。パスの先は…。

 

『来た!!!』

 

青峰にボールが渡ると、観客が沸き上がる。

 

「ちったぁ気合い入れ直してきたかよ」

 

ボールを掴んだ青峰は目の前でディフェンスをする大地に問い掛ける。

 

「止めてみせます」

 

大地はただそう返した。

 

「集中しろよ。じゃねえと――」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「この10分でケリ付いちまうぞ」

 

青峰が加速し、切り込んだ。

 

「…っ!」

 

大地もこれに反応し、追いかける。

 

青峰が得意のストリートのハンドリングテクニックで大地を翻弄する。

 

「(付いて行けないスピードではありません。動きを読めさえすれば…!)」

 

必死に大地は青峰を追いかけながら動きの予測を立てようとする。

 

「あまり俺をガッカリさせんな」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…くっ!」

 

逆を付かれ、大地の横を青峰が駆け抜ける。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままボールを掴んで飛び、リングに叩きつけた。

 

 

花月 58

桐皇 65

 

 

「去年に比べりゃ、確かに大した進歩だ。紛いなりにも黄瀬や紫原と対等にやりあったってのも頷ける。だが、俺には通用しねえ」

 

ディフェンスに戻り際、大地の横を通り抜けながら青峰がボソリと告げた。

 

「…っ」

 

その言葉に何も言い返す事が出来ず、大地はただ拳をきつく握って身体を震わせた。

 

 

「っしゃ! 行くぞ!」

 

攻守が切り替わり、空がボールを運ぶ。

 

「…」

 

「どうしたん? おたくのエースはんにボール回さへんの?」

 

空の目の前に立った今吉が嘲笑を浮かべながら告げる。

 

「…」

 

「そら回されへんよな。力の差は明確や。頼りになるエースがおるとホンマ助かる――」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

今吉が口を開いている最中、空はシュートモーションに入り、スリーを決めた。

 

 

花月 61

桐皇 65

 

 

「わりぃ、隙だらけだったんでな。後、話なげーから全然聞いてなかったわ」

 

見下すような表情で空が今吉に告げ、ディフェンスに戻っていった。

 

「噓やろ…」

 

呆気に取られる今吉。

 

「下らねえ事してんじゃねえ」

 

そこへ、福山が今吉に声を掛けた。

 

「今の神城とお前とじゃ格がちげーんだよ。つまんねえ小細工してる暇があったら死ぬ気で当たれ」

 

パシン! と頭を叩き、その場を離れていった。

 

「…フー、みたいやな」

 

福山の言葉を受け入れ、スローワーとなった國枝からボールを受け取り、ボールを運びを開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、試合は激しい攻防が続いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

チーム全体で得点を狙う花月に対し…。

 

 

――バス!!!

 

 

桐皇は青峰にボールを集め、得点を量産していた。

 

 

花月 65

桐皇 69

 

 

「今の所は拮抗しているな」

 

試合を観戦している四条がそう感想を漏らした。

 

「だが、流れや勢いがどちらに向いているかは一目瞭然だ」

 

そう断言する二宮。

 

ボールを散らしてチームで得点を稼ぐ花月に対し、桐皇は青峰がとにかく得点を量産している。大地も全く止めきれておらず、勢いや流れが花月に味方をしている事は明白である。

 

 

――バス!!!

 

 

大地をかわした青峰がフォームレスシュートを決める。

 

『うおー! 青峰止まんねえ!!!』

 

第3Qが始まって立て続けに決める青峰に観客が沸き上がる。

 

「…っ」

 

全く青峰を止める事が出来ず、大地の表情が悔しさで歪む。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

花月のオフェンスとなり、空が大地にパスを出すと、大地が青峰に仕掛ける。

 

「おっしゃ抜いた!」

 

ベンチの菅野が歓喜の声を上げる。青峰を抜いた大地はそのままリングへと向かい、飛んだ。

 

「(いや違う、まさか!?)…大地!!!」

 

何かに気付いた空が声を掛ける。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

レイアップで得点を狙いに行こうとした瞬間、後ろから伸びて来た腕にブロックされる。

 

「舐めてんのか? その程度で俺をかわせると思うなよ」

 

「っ!?」

 

空中で青峰が大地に囁く。

 

「寄越せ!」

 

着地した青峰がボールを要求する。

 

「頼みます!」

 

ルーズボールを拾った國枝が前へと走る青峰に縦パスを出した。

 

『ターンオーバーだ!』

 

「…ちっ」

 

ワンマン速攻をかける青峰を空が追いかけ、スリーポイントライン目前で捉え、回り込んだ。

 

「相変わらず、スピードだけは大した奴だな」

 

「スピードだけじゃねえぞ俺は!」

 

皮肉交じりに称賛する青峰に対し、空はしかめっ面で言い返す。

 

「今度はお前か。良いぜ、相手してやるよ」

 

そう空に告げ、青峰が揺さぶりをかけ始める。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

得意のストリートバスケによる変則ドリブルで左右に切り返しながら揺さぶりをかけていく青峰。

 

「(…ちっ、直接相手をしてると分かる。こいつ、去年よりスピードもキレも上がってやがる!)」

 

何とか食らいつく空。

 

「(これにスリーも混ぜられちゃ、…なるほど、大地が止められねえわけだよ…)」

 

青峰に進化に空は胸中で驚きを隠せなかった。

 

「…っ」

 

「っ!? やべ!」

 

ボールを掴んで横っ飛びをする青峰。慌てて飛んで追いかけるも僅かに反応が遅れてしまい、シュートブロックに間に合わない。

 

「させません!」

 

しかしそこへ、大地が現れ、青峰のシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

「サンキュー大地!」

 

「ハッ、お前の存在は忘れてねえよ」

 

青峰は横っ飛びでボールを構えた体勢からビハインドパスに切り替え、ボールを横へと流した。

 

「「っ!?」」

 

放られたボールは左45度付近のスリーポイントライン手前に立っていた桜井の手に渡った。

 

「打たせない!」

 

すぐさま生嶋がチェックに入る。しかし、桜井はスリーは打たず、ボールを中へと入れた。

 

「ナイスパス桜井はん」

 

ボールは中に走り込んでいた今吉に渡った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

今吉はボールを掴むのと同時にジャンプショット放ち、決めた。

 

 

花月 65

桐皇 71

 

 

「これだ。今の青峰にはパスがある。マークが集まればフリーの選手が出来てしまう」

 

得点までの一連の流れを見て赤司がそう言葉にする。

 

「それだけエースの1本と言うのは価値がある。チーム全体に勢いをもたらし、良い流れを作り出す」

 

この赤司の言葉通り、試合の流れは、桐皇へと傾いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

青峰が大地を抜きさり、ヘルプに来た松永の上からダンクを叩き込んだ。

 

「…ぐっ!」

 

「くそっ!」

 

悔しがる大地と松永。

 

調子がピークとなった青峰は止まらず、得点を量産し続けた。迂闊にヘルプやダブルチームを作ればたちまちパスを出されてしまう為、基本大地1人が相手をしている。が、青峰を止めきれないでいた。

 

「…っ」

 

ボールを運ぶ空も難色を示していた。当初はハーフタイムで決めた作戦通りボールを散らしてオフェンスを組み立てていたが、パスを出しても各花月の選手達は得点まで繋げられなくなった。

 

「(ダメだ、打てない!)」

 

「(くそっ、動きを読まれて…!)」

 

ボールを受け取った生嶋と松永はシュートまで持って行けない。動きが読まれ、先回りされているからだ。

 

「ふむ、ようやく対応出来るようになりましたね」

 

「はい」

 

桐皇ベンチの原澤が尋ねると、桃井が返事をした。

 

 

「遂に本格的に出て来たな。マネージャー桃井のデータによる先読みのディフェンスが」

 

「はい」

 

火神が呟くと、黒子が頷いた。

 

 

桃井による桐皇の先読みのディフェンスは桐皇のもう1つの強みと言ってもいい。的確かつ正確で、その選手の癖はもちろん、未来まで予測する桃井のデータ収集能力が相手チームに与える衝撃波計り知れない。

 

「…」

 

ボールが空の手元に戻って来る。

 

「…ちっ」

 

 

――バス!!!

 

 

仕方なく空が単独で仕掛け、得点を決める。

 

 

第3Q、残り6分38秒

 

 

花月 69

桐皇 80

 

 

「開いてきたな」

 

四条が点差を見て言う。

 

「改めて、青峰が凄すぎるぜ。あんなのどうやって止めんだよ」

 

縦横無尽に活躍する青峰を見て五河が愚痴る。

 

「お前達も覚えていると思うが、青峰は中学2年での全中大会後、練習に一切参加する事がなくなった。それでも尚、キセキの世代のエースと称され、俺達(キセキの世代)と肩を並べていた逸材だ」

 

『…』

 

「高校1年の冬に敗北を知り、再び努力する事を始め、翌年の夏に個人での敗北を知った事で自分に足りないものを知り、取り入れる事で更なる進化を遂げた」

 

「恐ろしいぜ…、今更お前達(キセキの世代)を見ても驚かないと思っていたが…」

 

青峰の活躍を見て表情を強張らせる二宮。

 

「あの綾瀬にしたって一筋縄では行かない相手だぜ? ここまで一方的になるのかよ」

 

大地を相手に得点を重ね続けている事に驚きを隠せない三村。夏に三村が相手した際、全く止める事が出来ずにいただけにその衝撃は大きい。

 

「実際、青峰と綾瀬の間にそこまでの力の差はない」

 

「そうなのか?」

 

赤司の分析に首を傾げる四条。

 

「ここまで一方的になっているのは偏に相性によるものだ」

 

『…』

 

「青峰の動きを読む事は困難だ。三杉誠也程の分析力と対応力がなければね。あのスピードとアジリティに加え、ストリートのバスケにパス。更にはスリー出されてしまえば先読みする事はもはや不可能と言ってもいい」

 

「だよな…」

 

赤司の言葉に納得する二宮。

 

「ディフェンスでも、青峰はスリーを要警戒し、中へのドライブは半ば放置している」

 

「どういう事だ?」

 

「敢えて中に切り込ませ、綾瀬の後ろからブロックを狙っている。後ろなら綾瀬は下がる選択肢はなくなるし、左右に飛ばれても即座に対応出来る」

 

「…そんな攻略法があったのか」

 

感心しながら赤司の説明を聞く三村。

 

「口での言うのは簡単だが、実際、綾瀬のスピードは全国トップレベルであり、その緩急は凄まじい。最高峰のスピードとアジリティ、そして野生の勘を持つ青峰だからこそ出来る事だ。他の者では不可能だろう」

 

『…』

 

「兎にも角にも、花月は青峰を止める事だ。青峰を止めてこの勢いを止めなければ点差は一方的に開いていくだけだ」

 

赤司がそう断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(何て様ですか…!)」

 

胸中で悔しがる大地。

 

「(キセキの世代との力の差を埋める為に皆さんに迷惑をかけてまでアメリカに行ったと言うのに、これでは…!)」

 

ウィンターカップ本選出場をかけた県予選は紙一重であり、ボタン1つ掛け違えば負けていた可能性もあった。それだけの迷惑をかけてまでアメリカに行った事に罪悪感と責任感を持っている大地。

 

「(何の為にアメリカへ…! エースと言う大役を任された私がこうもチームの役に立てないのであれば、花月の皆さんに申し訳が立ちません!)」

 

 

――キュッ!!!

 

 

スリーポイントラインの外側でボールを持った青峰が視線をリングに向けた。

 

「(スリー!?)」

 

ここでスリーを決められた時のダメージは大きい。思わず大地が1歩足を前に踏み出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし青峰はスリーを打たず、一気に加速して大地の横を駆け抜けた。

 

「(しまったフェイク!)」

 

焦りによって冷静な判断が出来なかった大地。

 

「けど、まだです!」

 

強引にバックステップをしながら反転し、青峰を追いかける。ボールを掴んでリングに向かって飛んだ青峰に対し、紙一重でブロックを割り込ませた。

 

「あの体勢で追いつくかよ。お前も大したもんだよ」

 

目の前に現れた大地に賛辞の言葉を贈る青峰。

 

「だがな、そんな不安定な体勢で止められるかよ」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐぅっ!」

 

ブロックもお構いなしに青峰は大地を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 69

桐皇 82

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

豪快なダンクに観客が沸き上がった。

 

「くそっ…」

 

「青峰が止まらねえ…!」

 

ベンチの竜崎と菅野が苦悶の声を上げる。その時…。

 

『レフェリータイム!』

 

審判が笛を吹き、コールした。

 

「あ、綾瀬!」

 

慌てて松永が大地の下に駆け寄る。

 

「くっ…!」

 

大地の額から血が滴っていた。先程のダンクで吹き飛ばされた際に額をぶつけた事によって出血したのだ。

 

「大丈夫か?」

 

そんな大地に声をかける青峰。

 

「不本意な結果だがよ、俺の勝ちだ。お前じゃ俺には勝てねえ」

 

そう言い残し、青峰は踵を返していった。

 

「っ!?」

 

慌てて立ち上がる大地。

 

「君、1度コートを出て治療を受けなさい」

 

「いえ、大丈夫です。このまま続けさせて下さい」

 

治療を促す審判を拒む大地。

 

「ダメだ。治療を受けなさい」

 

「ここで私が外れる訳には行かないんです! このまま試合を再開して下さい!」

 

「もう1度試合に出るにしても治療を受けてからだ。こちらの言う事が聞けないのであれば退場処分にする事になるよ?」

 

食い下がる大地に対し、審判が無情の言葉をかける。

 

「…っ!」

 

納得が出来ず、言葉を発する事が出来ない大地。

 

『…っ』

 

大地の悔しさが理解出来るだけに声を掛ける事が出来ない花月の選手達。

 

「下がれ大地」

 

その時、空が大地にそう言葉をかけた。

 

「ですが…!」

 

「このまま駄々を捏ねても退場させられるだけだ。どの道、冷静さを失っているようじゃいても同じだ。いいから下がれ」

 

「…っ!」

 

空にそう言われ、悔しさを表情に滲ませながらベンチへと向かい始めた大地。

 

「…任せろ。お前が戻って来るまで俺が繋いでやる」

 

「空…」

 

戻り際に空が大地にそう告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

OUT 大地

 

IN  竜崎

 

 

治療の為、大地はベンチに下がり、代わりに竜崎がコートへやってきた。

 

「…」

 

花月のオフェンスとなり、空がボールを運ぶ。

 

「(チャンスや。エースが急遽不在となって動揺しとるはずや。ここで一気に――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が一気に加速し、今吉を抜きさる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのままジャンプショットを決めた。

 

 

花月 71

桐皇 82

 

 

「嘘やろ!? 時間かけずに来よった…!」

 

エース不在の最初の1本。時間かけて慎重に攻めてくると予想していた今吉は見事に裏を掻かれた。

 

「まあええわ。こっちが有利なんわ変わらへんからのう」

 

驚いた表情をすぐさまもとに戻し、ボールを運んだ今吉はすぐさま青峰にボールを渡した。

 

『おぉっ!』

 

次の瞬間、観客が沸き上がった。

 

「へぇ、今度の相手はお前か、神城」

 

ボールを持った青峰の目の前に空が立っていた。

 

「去年からどこまで成長したか試してやるよ」

 

挑発交じりに告げる青峰。

 

「…」

 

対して空は何も言葉を返さない。

 

「(大地の気持ち、無念は俺も痛い程理解出来る…)」

 

エースの務めを果たせず、コートを去った大地の気持ちを汲み取った空。

 

「(今年のインターハイの陽泉戦、俺は途中でコートを去った。だけど大地は俺が戻って来るまで繋いでくれた)」

 

今年の夏のインターハイでの陽泉。空は途中で負傷退場をし、試合終盤までコートを去っていた。

 

「(大地がやってくれたんだ。今度は俺の番だ!)…スー…フー…」

 

大きく息を吸い、大きく息を吐いた。そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゾーン強制開放!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

突如、空からのプレッシャーが跳ね上がり、表情を変える青峰。

 

「ここまで随分暴れてくれたな。だが、そこまでだ。ここからは俺が暴れさせてもらうぜ」

 

空が親指で自分を指しながら青峰に告げたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

始まった後半戦。

 

調子がピークに達した青峰の牙が花月に突き刺さり、点差を広げていく。

 

食い下がる大地だったが止められず、遂にはトラブルで負傷し、無念の中コートを去っていった。

 

絶望的な状況の中、青峰に前に立った空。

 

その空が、強引にゾーンに扉をこじ開け、立ち塞がったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ネタを何とか捻出しながらの投稿です…(;^ω^)

最近はメジャーリーグの大谷選手の活躍を楽しみに日々生きています。もはやバスケではない…(>_<)

本日、ワクチン接種の1回目を行いました。数時間経った現在、今の所は副反応はありませんが、明日がちょっと怖いです…(/ω\)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第169Q~繋ぐ~


投稿します!

久しぶりの週一投稿…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り6分10秒

 

 

花月 71

桐皇 82

 

 

「ここまで随分暴れてくれたな。だが、そこまでだ。ここからは俺が暴れさせてもらうぜ」

 

突如としてゾーンの扉をこじ開けた空が空が親指で自分を指しながら青峰に告げた。

 

 

「あの感じは…!」

 

「…っ!? 自らの手で、ゾーンの扉を開いたと言うのか…!」

 

その姿を目の当たりにした火神と緑間が目を見開きながら驚いた。

 

 

「行くぜ」

 

宣言と同時に空は青峰との距離を一気に詰め、激しくプレッシャーをかけた。

 

「っ!? …ちっ!」

 

空か発せられるプレッシャーに圧倒される青峰。

 

「スゲー、これがキャプテンの本気…」

 

ボールをキープするだけで手一杯となっている青峰を見て竜崎が驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

大地が治療の為にベンチに下がり、竜崎が代わりにコートにやってきた時の事…。

 

『監督からの指示ですが、ここからのディフェンスですが――』

 

『青峰は俺がマークする』

 

上杉からの指示を竜崎が伝えようとした所、空が遮るように青峰のマークを買って出た。

 

『今度は空坊が相手する言うんかい』

 

『はい。この中で今の青峰のマークが出来るのか俺だけでしょうし、何より、俺がやらなきゃいけない事ですから』

 

覚悟を持った表情で空が告げる。

 

『分かりました。それではそうしましょう』

 

与えられた指示の説明の途中だったが、竜崎がそう言った。

 

『監督からの指示は良いの?』

 

『監督からは、キャプテンが青峰先輩のマークを買って出たらそれで行け、と言う指示も受けていたので』

 

竜崎が続けて補足する。

 

元々言おうとした指示は、2-3ゾーンディフェンスでインサイドを固めると同時に青峰と福山の突破力を抑え、空と竜崎が外をケアすると言うもの。しかしこれは受けるダメージを最小限に抑える為の苦肉の策に過ぎない。やはり調子絶頂の青峰をどうにか出来なければ問題を先送りにしかならない。

 

現状、青峰を1対1で相手出来るのは空のみ。空が自ら相手を志願したならそれに賭けると言うのが上杉が考えたもう1つの策であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

絶えず激しく青峰にプレッシャーをかけ続ける空。

 

「(…くっ! そういや、こいつも野生持ちだったな…!)」

 

ゾーンの扉を開いた事でより前面に出る空の野生。そんな空に苦戦する青峰。

 

「こっちだ青峰! 一旦出せ!」

 

福山がボールを要求する。しかし、青峰はパスを出さない。

 

『パス出さねえぞ?』

 

『意地だよ意地。ここで引く訳には行かねえだろ』

 

パスを出さない青峰を見て、真っ向勝負をする為に逃げないのだと推察する観客。

 

「(こいつ…!)」

 

しかし実際は、パスを出す余裕がないのだ。少しでも気を抜けば…、それこそ、パスターゲットに意識を割けば次の瞬間にはボールを取られる。それだけ空のプレッシャーが激しかったのだ。

 

「…っ!」

 

機を見た空がボールに左手を伸ばした。

 

「…っ、調子に乗ってんじゃねえ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

左手がボールを捉える直前、青峰はロールしながら空の左手をかわした。

 

「やった! さすが青峰さん!」

 

空をかわした青峰に歓喜する桜井。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

次の瞬間、青峰の表情が驚愕に変わった。

 

「抜いたと思った? 残念!」

 

背中が床に付く寸前まで後方に倒れ込んだ体勢から空が青峰のボールを捉えた。

 

『うおぉぉぉっ!!! あんな体勢でカットしやがった!!!』

 

「いいぞ神城!」

 

ルーズボールを松永が拾う。

 

「松永先輩!」

 

速攻に走っていた竜崎がボールを要求。松永はすかさず竜崎に縦パスを出した。

 

「行かせへんで」

 

ボールを掴んでそのままドリブルをする竜崎。そんな竜崎の前にいち早くディフェンスに戻っていた今吉が竜崎の前に立ち塞がった。

 

「ここは決める!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ディフェンスに戻れているのは今吉のみ。竜崎は意を決して仕掛けた。

 

「まあまあやな。けどあかんわ」

 

クロスオーバーを読んだ今吉がすかさず進路を塞ぐ。

 

「…っ! ならば!」

 

ここで竜崎はボールを掴む。

 

「ターンアラウンドからのジャンプショット。…やろ?」

 

言葉通り、竜崎はターンアラウンドで反転した。

 

「(っ!? 読まれてる!?)」

 

「残念やけど、控えのあんさんのデータもちゃんと把握しとるで」

 

ニヤリと笑う今吉。ジャンプショットの体勢に入る前に距離を詰められ、シュート体勢に入る事なく止められてしまった。

 

「(しまった! 最悪な体勢でボールを止められた!)」

 

足元に入られ、頭上に掲げたボールを必死に死守する竜崎。

 

「こっちだ!」

 

その時、竜崎の横から空がボールを要求する声が聞こえた。

 

「た、頼みます!」

 

渡りに船とばかりに竜崎は空にパスを出した。

 

「やってくれたじゃねえかよ」

 

左ウィング付近でボールを掴んだ空。その空の前に青峰が現れた。

 

「来たか。そうこなくちゃな」

 

それを喜ぶように空がニヤリと笑う。先程、青峰の相手を任された空。その後、竜崎の口からもう1つ言葉が伝えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『そんなキャプテンにもう1つ、監督からの伝言です』

 

『?』

 

続けた竜崎の言葉に耳を傾ける空。

 

『この第3Qはキャプテンに委ねる。だそうです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「ここからは抑えていた分、存分にやらせてもらうぜ」

 

本来、我が強く、気性の荒さは青峰に匹敵する程の空。チームの主将であり、司令塔である為、自分を抑え、ゲームの組み立てとバランスを取る事に尽力してきた。

 

「大地には悪いが、いない間は派手に行くぜ」

 

桐皇に敗れた昨年のウィンターカップ。もっとも悔しさに塗れたのは空。借りを返す意味でも青峰とやり合いたかったが、大地が役目を買って出た為、自分の役割を考慮して我慢をした。だが、その大地は現在コートにいない。チームのピンチではあるのだが、空はこの状況を楽しんでもいるのだ。

 

「ほんじゃ……、行きますか!」

 

そう言った次の瞬間、空はドリブルをしながら飛び跳ね始めた。

 

「?」

 

その突然の行動に疑問を覚える青峰。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

数度飛び跳ねながらドリブルをした後、空はボールを強く地面に叩きつけ、同時に大きく飛び跳ねながら両膝を曲げた。

 

「(何をする気だ?)」

 

ますます空の行動が読めず、戸惑う青峰。

 

力強く叩きつけたボールが高くジャンプをし、空中で両膝を曲げた空の右手に収まる。次の瞬間…。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

「っ!?」

 

大きな轟音と同時に青峰の視界から空が消え失せた。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま空はボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 73

桐皇 82

 

 

『…』

 

静寂に包まれる会場。

 

『……おっ』

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

思い出したかのように観客達が歓声を上げ、会場を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「何だよ今の…」

 

「青峰先輩を一瞬で…!」

 

観客席の池永、新海は驚きを隠せないでいた。

 

「あの青峰が全く反応出来てなかったぞ…」

 

同じく観客席の二宮は目を見開いて驚いていた。

 

「あのドリブル、スゲー音したぞ。まるで葉山先輩のライトニングドリブルみたいだ」

 

同様に三村も驚いていた。

 

「理屈は同じだ」

 

赤司が口を挟む。

 

「ドリブルの直前に高く飛び上がり、指の力だけではなく、落下の勢いもボールに伝えていた。威力は恐らく5本の指以上になるだろう」

 

『…』

 

「神城のスピードとアジリティは葉山さんとは比較にならない。しかも見たとおり、恐ろしく低い体勢から仕掛けてくる。恐らく、あれを止められる者は皆無だろう」

 

「っ!? マジかよ!?」

 

その言葉に驚きを隠せない二宮。

 

「ああ。…だが、通用するのはこれっきりだ」

 

「どうして断言出来るんだ?」

 

止められる者はいないと口にしていながら、2度と通用しないと矛盾する言葉を吐いた赤司に尋ねる五河。

 

「仕掛けるまでにモーションが大き過ぎる。来るのが分かっていれば事前に防ぐ事は容易いからだ」

 

事前に大きく飛び跳ねる今のドライブは、仕掛け動作の長さが弱点だと赤司は指摘した。

 

「青峰は動きが読めない上、動きを見てから止めるのは不可能。その為、綾瀬では相性が悪い相手だったが、読みよりも直感で動く神城ならば噛み合う。ここから先は、どうなるか…」

 

赤司でさえも読めない先の展開。赤司は試合を見届けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おぉっ!」

 

「っ!?」

 

ボールを運ぶ今吉に対し、竜崎が激しくプレッシャーをかける。

 

「(俺は綾瀬先輩が戻るまでの繋ぎだ。ここで全て出し切る!)」

 

体力度外視でディフェンスに尽力する竜崎。

 

「(特攻同然のディフェンスかいな。これは厄介やで!)」

 

実力的には今吉の方が優れているマッチアップだが、体力度外視となると話は変わる。しつこく激しくプレッシャーをかける竜崎に圧倒される。

 

「(これはあかんわ!)…頼んまっせ!」

 

たまらず今吉は青峰のパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「いただくぜ」

 

しかし、出されたパスは高速でパスコースに割り込んだ空にカットされてしまう。

 

「嘘やろ!? 速すぎるで!」

 

今吉とて竜崎の密着マークを受けてはいたが空のポジションを確認していなかった訳ではない。

 

 

「うはっ! とんでもない反応の速さッスね…」

 

「それだけやない。スピードとアジリティも段違いやのう」

 

パスが出される直前に反応し、そこから青峰の手にボールが収まるまでにボールに到達してしまう空のスピードと加速力に驚く黄瀬と三枝。

 

 

「やべー、戻れ!」

 

慌てて声を出す福山。

 

「…ちっ」

 

カットしたボールを抑え、そのままワンマン速攻を仕掛けた空を青峰が追いかける。

 

「っ!? …まさか、そんな…!」

 

次の瞬間、桜井が言葉を失う。

 

「青峰が、追い付けねえだと…!」

 

ドリブルをしながら先頭を走る空。ボールを持たずに後ろを追いかけている青峰。しかし、その距離が縮まらないのだ。

 

「…っ」

 

スピードで追いつけない空に対し、表情が険しくなる青峰。

 

 

――バス!!!

 

 

空はそのままレイアップを決め、速攻を成功させた。

 

 

花月 75

桐皇 82

 

 

「…」

 

「…ちっ」

 

すれ違い様に一瞥をくれる空。そんな空に舌打ちをする青峰。

 

 

「あの青峰を振り切るかよ…」

 

火神でさえ、かつてボールを持った青峰にちぎられた経験がある為、その青峰を追い付かせない空に驚きを隠せない。

 

「神城君に先頭を走られれば得点を防げない。ここから桐皇は迂闊にパスやカットインは出来なくなるわね」

 

いつ何処から空が現れるか分からず、多少の距離なら一瞬で潰す空がいる為、不用意なパスは出せない。ドライブにしても、切り込んだ瞬間を空に狙われる可能性がある為、これも迂闊に出来ないと断ずるリコ。

 

 

「俺にボール寄越せ」

 

ボールを拾ったスローワーとなった國枝にボールを要求する青峰。

 

「青峰はん?」

 

「ビビッて縮こまったてめえに任せるくれーなら俺がボール運んだ方がマシだ。いいから寄越せ」

 

「…っ、さよでっか、ほな頼んまっせ」

 

あまりの言葉だが、事実な為、今吉は受け入れた。

 

「…」

 

ボールを受け取った青峰はフロントコートまでボールを運んでいく。

 

「あんたがボール運ぶのか。ま、そっちの方が分かりやすくて俺としてはありがたいぜ」

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ」

 

直接、自らの手でボールを運ぶ青峰に対してニヤリと笑みを浮かべる空。青峰は険しい表情でそう返した。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりドリブルをしながら隙を窺う青峰。

 

「…」

 

「…」

 

 

――ダムッ…ダムッ…ダムッ!!!

 

 

暫し睨み合っていると、青峰がテンポアップ。得意のチェンジオブペースで仕掛ける。

 

 

「予測不能の青峰のプレーにアジリティが加われば、例えゾーンに入っていたとしても止めるのは困難だ」

 

火神が言う。

 

いくらゾーンと言えど、裏を掻かれれば抜かれてしまう。ましてや、予測不能な上に全国トップレベルのスピードとアジリティを持つ青峰だ。後追いでは不利である為、ある程度の動きの予測が必須。

 

「…っ!」

 

変則のハンドリングで揺さぶりをかける青峰。

 

「…」

 

空は青峰のドリブルに合わせてステップを踏みながら対応。

 

 

――ダムッ…。

 

 

徐に、青峰が踏み込んだ足とは逆方向にボールを弾ませた。

 

「…」

 

弾ませたボールに空が手を伸ばす。次の瞬間…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰がそのボールに手を伸ばし、クロスオーバーで切り返し、仕掛けた。

 

 

「出た! 青峰さんの変則のチェンジオブペース!」

 

思わず池永が声に出した。

 

 

「っ!?」

 

だが直後、すぐさま空が目の前に現れ、進路を塞いだ。

 

「悪いな、ここは通行止めだ」

 

「…ちっ」

 

目の前に空が現れると青峰は停止し、右手でボールを構えながら飛んだ。

 

「打たすかよ!」

 

これにも空はすかさず反応し、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

あまりの反応の速さに青峰は目を見開く。咄嗟にボールをリングにではなく、左方向へと放った。

 

「ナイスパス!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールの先にいた福山がそのままジャンプショットを決めた。

 

 

花月 75

桐皇 84

 

 

「なんだよパスかよ。これは読めなかった」

 

「うるせーよ。文句あんのか?」

 

空の言葉に苛立ち交じりで返す空。

 

「ねーよ。…ていうか、どうしたよ? 得点を演出した割に、随分とご機嫌斜めだな」

 

「…ちっ」

 

指摘の言葉に青峰が表情を険しくする。

 

形だけ見れば見事なアシストだが、実際は咄嗟のリカバリーの為に出した苦し紛れのパスであり、言わば無理やり出さされたパスである為、本来得点意識が強く、パスを好まない青峰からすれば不本意な形である。

 

 

「さあ行くぜ!」

 

ボールを受け取った空は声高々に叫び、ボールを運んだ。

 

「…」

 

そんな空の前に立ち塞がるのは当然青峰。

 

 

「神城っちは青峰っちとはまた別系統に変則な上、スピードも加速力も桁違いッスからね」

 

「うむ、あ奴を平面で止めるのは至難の業じゃ」

 

かつての対戦経験から黄瀬がそう分析し、三枝は頷いた。

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりドリブルをしながら機を窺う空。

 

「…」

 

そんな空を前に集中を全開にして迎え撃つ。

 

「スー…フー…」

 

軽く深呼吸を入れた空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

一気に加速し、青峰の横を高速で駆け抜け、抜きさった。

 

「野郎、打たせるか!」

 

「止める!」

 

青峰を抜いたと同時にリングに視線を向けた空に対し、福山と國枝がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んだ。

 

「「っ!?」」

 

しかし、ここで2人は空がボールを保持していない事に気付いた。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックに飛んだ2人をバックロールターンでかわし、そのままレイアップを決めた。

 

 

花月 77

桐皇 84

 

 

「スゲーフェイク。て言うか、その前に青峰先輩を小細工無しで…」

 

ベンチの菅野は切り込んでから得点までの一連の空の動きを見て言葉を失っていた。

 

「いや、いくらゾーンに入っているとはいえ、小細工無しで抜きされる程、青峰は甘い相手ではない」

 

菅野の言葉に上杉が口を挟む。

 

「神城と青峰とのマッチアップ。切り込む直前の僅かな時間に緻密な駆け引きが行われていた」

 

「駆け引き、ですか?」

 

ピンと来ない帆足が聞き返す。

 

「切り込む直前の最後のドリブル。手からボールを離れ、その手に戻って来るまでの僅かな瞬間、神城は小刻みにステップや肩の動きで牽制した。その牽制に反応した青峰の動きに合わせ、抜きさった」

 

「あんな僅かな瞬間に…。ここからでは全く分からなかった…」

 

説明を聞いて驚く室井。

 

「一瞬の間でのやり取りだ。実際、目の前に立ってもそれこそキセキの世代クラスの実力者でなければそもそも認識すら出来んだろう」

 

「確か、裏拍子って奴か…。にしても、ホントあいつはスゲーな。変則抜きでも基本的なテクニックでもあいつが使えば必殺技になんのか…」

 

ドリブルを得意としている菅野もこれには驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バス!!!

 

 

変わって桐皇のオフェンス。青峰が空のディフェンスを掻い潜ってパスを出し、國枝がゴール下から得点を決めた。

 

「凄いな、あれだけしつこいディフェンスを受けながらしっかりパスを出してる」

 

きっちりアシストをする青峰に感心する降旗。

 

「いや、いくらパスをする事を覚えたからって、本来の青峰のオフェンス意識はキセキの世代の中でも群を抜いて高い。する必要がなければパスなんか絶対出さねえ奴だ」

 

降旗の言葉に火神がそう言葉にする。

 

「火神君の意見に賛成です。そんな青峰君がパスを出したと言う事はつまり、そうせざるを得ない程に追い込まれていると言う事です」

 

黒子がそう補足した。

 

「けどさ、青峰も自力でゾーンに入れるんだろ? どうして入らないんだ? そうすれば互角……もしかしたそれ以上に…」

 

「それは悪手だからよ」

 

福田の指摘にリコが答える。

 

「確かに福田君の言う通り、ここでゾーンに入れば神城君と互角以上に戦えるでしょう。けど、第4Qまるまる残している状況でゾーンに入ってしまえば最後までもたない。勝負所でガス欠起こしてトドメを刺されるのがオチよ」

 

「なるほど…」

 

説明に納得した池永が頷いた。

 

「青峰君がゾーンに入らず、如何に傷口を最小限に抑えるかに勝負はかかっているわ。一時は大勢は決したと思ったけど、また分からなくなってきたわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「スマン…」

 

マークを外してしまい、得点を許してしまった松永が謝る。

 

「ドンマイドンマイ! 決められたら決め返せばいいんだよ」

 

そんな松永を空が励ます。

 

「ガンガン行くぜ。ようやく、楽しくなってきたからな」

 

静かに笑みを浮かべながら空がボールを運ぶ。

 

「…っ」

 

再び青峰が空のディフェンスに入る。

 

「……よし」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

今度は小細工無しで切り込んだ。

 

「小細工なしかよ、舐めてんじゃねえぞ!」

 

フェイク一切無しの空のカットインに軽く苛立ちながら対応する青峰。

 

「真っ向勝負が気に入らねえならお望み通りに小細工してやるよ」

 

そう宣言するのと同時に空は両足を滑らせるように前方へと動かし、仰向けに倒れ込むような体勢になった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後に倒れ込む体勢からボールを右から左へとバックチェンジで切り返し、滑り込みながら青峰の横を滑り抜けた。

 

「っ!? デタラメな野郎が!」

 

空の動きに面食らうも青峰は追いかける。

 

 

――スッ…。

 

 

青峰が横に並ぶと、空は体勢を直し、バックロールターンで反転し、青峰の逆を駆け抜けた。

 

「っしゃ!」

 

同時に空はボールを掴み、飛んだ。

 

「そんなんで俺は抜けねえぞ!」

 

次の瞬間、青峰がブロックに現れ、空のシュートコースを塞いだ。

 

「おっしゃ、いいぞ青峰!」

 

ブロックを確信した福山が拳を握る。

 

「…」

 

青峰がブロックに現れると空はボールは下げ、そのままエンドラインを越えていく。

 

 

――ブォン!!!

 

 

そこから真横にボールを放り投げた。

 

「あっ!?」

 

その時、桜井が声を上げる。

 

「良い景色だ」

 

ボールの先、左アウトサイドのサイドラインとエンドラインが交わる位置に生嶋がノーマークでボールを掴んだ。空のプレーに注視するあまり、マークを緩めてしまったのだ。

 

「くっ!」

 

慌ててチェックに入る桜井。しかし、距離があった為、間に合わず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

生嶋が悠々とスリーを決めた。

 

「ナイスパスくー!」

 

「良い所にいてくれたぜ」

 

空と生嶋がハイタッチを交わす。

 

「今の俺はスコアラーであると同時に司令塔でもあるんだ。マークを開けたら遠慮なく行くぜ」

 

ニヤリと笑う空。

 

『…っ』

 

そんな空を見て表情を険しくする桐皇の選手達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ここから花月……いや、空の独壇場であった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空が自ら得点を決める。

 

迂闊にマークを外せば次の瞬間にはパスが飛ぶ為、迂闊にヘルプに行けない。青峰であっても、ゾーンに入った空を止める事は出来ないでいた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

青峰からパスを受けた福山がダンクを仕掛けた瞬間、横から高速でやってきた空にブロックされてしまう。

 

「っしゃ速攻!」

 

ルーズボールを抑えた天野が空にボールを渡し、そのまま速攻に向かった。

 

神出鬼没の空。多少の距離なら一瞬で潰してしまう空の存在のせいで桐皇の得点は停滞し始めた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま空がワンマン速攻からダンクを決めた。そして…。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了。

 

 

花月 88

桐皇 90

 

 

「凄い…。一時は二桁まで点差が開いたのに、シュート1本分で第3Q終えた」

 

花月の猛追に驚く田仲。

 

「…けど、その代償も決して軽くないわ」

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

肩で大きく息をする空。

 

ゾーン状態で攻守に渡って縦横無尽に活躍した空。その代償に体力を大きく削られていた。

 

「……ふぅ」

 

一息吐いて呼吸を整えた空はベンチに向かって拳を伸ばした。そこには…。

 

「綾瀬!」

 

額に包帯を巻き、治療を終えた大地の姿があった。

 

「ダイ! もう大丈夫なの?」

 

「ええ。この通り、しっかり治療を施していただきました。問題ありません」

 

心配する生嶋に対し、笑顔で答える。

 

「頭は冷えたみたいだな」

 

「おかげさまで」

 

皮肉交じりに話しかける空。大地は苦笑しながら返した。

 

「しっかり繋いでやったぜ。休んでた分、きっちり働いてもらうぜ」

 

拳を突きだす空。

 

「もちろんです。その為に戻ってきたのですから」

 

その拳に大地は拳を突き合わせたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

点差は開き、エースが一時不在となった第3Q。

 

空がゾーンの扉を自力で開き、ゲームを支配して点差を縮め、最高の形でこのQを終わらせた。

 

代償として大きく体力を削られた空。しかし、エースである大地が戦線に戻って来る。

 

互角の展開で第3Q。試合は、勝敗を分ける最後の10分を、残すところとなったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





気が付けば1年の4分の3を終えようとしている。時間経つのはえー…(>_<)

9月に入った急に気温が下がり、過ごしやすくなりました。けど、何気に猛暑で熱くなった身体を冷房に当たりながらアイスを食べるのも気に入っていたり…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第170Q~虎視眈々~


投稿します!

とうとう今年も2ケ月を切りましたね。今年も……何もなかったorz

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q終了。

 

 

花月 88

桐皇 90

 

 

一時は11点まで点差が開いたが、空がゾーンの扉を開き、試合を支配する程の活躍を見せた結果、2点差、シュート1本分で第3Qを追える事が出来た。

 

 

花月ベンチ…。

 

「よく踏ん張ってくれた神城」

 

「ま、当然ですよ」

 

活躍を労う上杉。空は当然とばかりに親指を立てた。

 

「……っ」

 

しかし、その代償は軽くはなく、目に見えて消耗しているのが見て取れた。

 

「…おっ?」

 

その時、空の首の後ろに冷たい物が当たり、思わず声を上げる。

 

「茜ちゃん、神城君に栄養補給を」

 

「分かった!」

 

姫川が指示を出すと、相川は鞄からはちみつレモンの入ったタッパーを取り出し、空に渡した。

 

「足を出して」

 

空の足元まで移動した姫川は空のマッサージを始めた。

 

「後10分。あなたにはコートにいてもらわないと困るわ。だから、気休め程度だけど、回復させるわ」

 

「…サンキュ」

 

「…マネージャーなんだから当然でしょ。喋らないで、第4Q始まるまで呼吸を整えていなさい」

 

静かに礼を言う空。姫川は僅かに顔を赤らめながらマッサージを続けた。

 

「綾瀬、大丈夫なんだな?」

 

「治療はしっかり施してもらいました。お医者様からのお墨付きです。任せて下さい」

 

松永が敢えてもう1度尋ねた。理由は怪我の有無だけではなく…。

 

「……そのようだな」

 

確認した松永はフッと笑みを浮かべそう返した。

 

コートから去る前の大地はかなり熱くなっており、冷静さを失っていた節があった。しかし、今は頭が冷えて落ち着いており、それを確認出来た松永は満足そうに頷いた。

 

「とりあえず空坊のおかげで何とか背中捉えて終えたけど、この後はどないしよか?」

 

天野がそう切り出す。

 

「青峰先輩の脅威は去った訳ではないですからね」

 

「何だかんだ、ギリギリ追いつけずに終わったからな」

 

竜崎と菅野の懸念、それは青峰の存在だ。青峰はゾーンに入った空を相手にし、圧倒されるも逆転を許す事はしなかった。空が元の状態に戻るとなると、再び青峰の脅威が復活する。

 

『…』

 

残り10分。この試合を勝利する為にどうすればいいか考える花月の選手達。

 

「考えるまでもないだろう」

 

沈黙を破ったのは上杉だった。

 

「ここで小器用に相手をあしらうような戦い方を俺は教えてはいない。俺がお前達に叩き込んで来たのは相手より走って相手より点を取る。これだけだ」

 

「……ハハッ、そうだよな。考えるまでもなかった」

 

上杉の言葉に頷きながら空が笑った。

 

「俺達の原点に立ち返ろうぜ。この試合の後にぶっ倒れて動けなくなっても構わねえ。死ぬ気で走ろうぜ」

 

立ち上がりながら空が皆に問い掛ける。

 

「座ってなさい!」

 

そんな空を姫川が強引に座らせ、マッサージを続ける。

 

「せやな。俺らのバスケは走って攻めてナンボや。日本一の機動力、見せたろうや」

 

天野が賛同する。

 

「走りましょう。そして、勝ちましょう」

 

大地が続いて賛同した。

 

「よし。俺からの指示はとにかく走れ。そして、空いたらとにかく打って行け。いいな」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両校の選手達がコートへと戻って来る。

 

 

OUT 竜崎

 

IN  大地

 

 

『来た来た!』

 

『エースの復活だ!』

 

大地がコートに足を踏み入れ、観客が沸き上がる。

 

「…はっ?」

 

コートに足を踏み入れた空が思わず声を上げる。

 

『おいおい、どうなってるんだよ…』

 

同じく観客達も戸惑いの声を上げた。

 

 

OUT 青峰

 

IN  新村

 

 

「青峰さんがベンチに下がった?」

 

ベンチに座っている青峰を見て戸惑いを隠せない大地。

 

「…」

 

ベンチに座る青峰は頭からタオルを被り、下を向きながら座っている。

 

「何処か故障でもしたんか?」

 

「いや、それは多分ないかと思います」

 

考えを口にした天野。しかし空はそれを否定する。

 

「ならば、スタミナ切れか?」

 

「…いや、消耗はしてるだろうけど、ベンチに下がる程とは思えない」

 

別の考えを松永が口にするが、これを空は否定する。

 

「考えるのは後だ。青峰がいないとなれば、桐皇の攻撃力は落ちる。今の内に逆転してリードを広げよう」

 

「そうだね」

 

松永の言葉に生嶋が賛同した。

 

「…」

 

しかし、空は何かを考えながら桐皇ベンチを見つめている。

 

「空」

 

「…あぁ、分かってる。今はただ攻め立てるだけだ」

 

大地に話しかけられると、空はそう返し、コートの中へと歩いて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

審判から生嶋がボールを受け取り、スローワーとなった生嶋が空にパスをし、第4Qが開始された。

 

「…おっ?」

 

空にボールが渡ると、今吉がディフェンスに入り、激しくプレッシャーをかける。

 

「(気合い入ったディフェンスにし始めたな。インターバルの間に何があったんだ…)」

 

これまで今吉は桃井のデータと自身の分析によってはじき出した確率を基に相手の先を読んでディフェンスをしてきた。しかし今は、何もさせないとばかりに激しく当たってきている。

 

「(ディフェンスはマンツ―マン、大地には7番(新村)か…)」

 

今吉のプレッシャーを受けながら周囲に視線を配り、確認。

 

「(なら、ここだろ!)」

 

空は大地の方へ身体を向け、パスを出す。

 

「…っ!」

 

これを見た新村が警戒を強める。だが、空は大地のパスを途中で中断し、ノールックビハインドパスで逆サイドの生嶋にパスを出した。

 

「…っ」

 

ボールを掴んだ生嶋だったが、桜井の素早いチェックに表情を歪める。

 

「(桃井さんのデータ通り、彼(空)はあからさまなパスを出さない!)」

 

桜井は空が大地にパスを出そうとした段階でパスターゲットが大地ではなく、生嶋であると判断、すかさず生嶋にチェックに入っていたのだ。

 

「…くっ!」

 

激しい桜井のディフェンスに生嶋はスリーはおろか、ボールキープに手一杯となる。

 

「イク! こっちや!」

 

ハイポストに立った天野がボールを要求。

 

「頼みます!」

 

すかさず生嶋は天野にボールを入れる。

 

「天さん!」

 

ボールが渡った天野に空が走って近付き、すれ違い様にボールを受け取る。

 

「っしゃ!」

 

空はボールを掴むと、そのままリングへ向かってドリブル。

 

「ちぃっ!」

 

 

――ドン!!!

 

 

これを見て新村が空のチェックに入り、ぶつかる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ブロッキング、黒7番(新村)!』

 

審判がすかさず笛を吹いた。

 

「ってぇ…」

 

衝突によってバランスを崩した空は腕を擦りながら立ち上がった。

 

「悪い」

 

当の新村は軽く謝罪の言葉を述べた。

 

「(迷いなくファールをして止めに来ましたね。それよりも…)」

 

大地が空に視線を向ける。

 

「(やはり、かなり消耗しているみたいですね。普段の空であればファールをされる事無くシュートまで持って行けたはず…)」

 

ファールで止められた空を見て、大地は空が消耗している事を実感する。

 

試合が再開され、再び空にボールが渡る。

 

「空!」

 

大地が空に走り寄り、自らボールを受け取りに行く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

大地はボールを受け取ると同時に急停止し、バックステップで下がりながら方向転換し、自身のマークマンである新村を一瞬でかわした。

 

「打たすか!」

 

ボールを掴み、スリーの体勢に入ったのを見て福山がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし大地はスリーを打たず、アップ&アンダーで福山のブロックをかわしながら中に入り、そこからジャンプショットを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを射抜いた。

 

 

花月 90

桐皇 90

 

 

『おぉっ! 早速同点だ!』

 

「いいぞ綾瀬!」

 

ベンチから菅野がエールを贈った。

 

「…ちっ!」

 

「ドンマイ、今のは仕方あらへん。それよりも…」

 

「あぁ、分かってるぜ」

 

悔しがる福山に今吉が近付いて声を掛けた。

 

「…」

 

その様子をベンチから見ていた上杉が何かを考える素振りをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ほな、1本行こか」

 

ボールを受け取った今吉がゆっくりボールを運んでいく。

 

「頼んまっせ」

 

フロントコートまでボールを運んだ今吉は桜井にボールを渡す。桜井にボールが渡ると、生嶋がすぐさまディフェンスに入る。

 

「打たせないよ」

 

「…」

 

暫しボールをキープし、ドリブルをする桜井。

 

「すいません!」

 

そう言いながら桜井は中へボールを放った。

 

「よし!」

 

ハイポストの位置で福山がボールを受け取る。

 

「勝負や!」

 

すかさず天野がディフェンスに入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

背中に天野を背負う形でボールを掴んだ福山はポストアップで背中で天野を押し込みながらドリブルを始める。

 

「…っ! 打たせへんで!」

 

歯を食い縛りながら侵入を阻む天野。

 

「…」

 

数度ボールを突いた後、今吉にボールを戻した。

 

 

「? …桐皇にしちゃやけに慎重だな」

 

火神が思わず口にする。

 

桐皇のオフェンスは本来はテンポが速く、隙さえあればとにかく得点を狙ってくる。だが、今の桐皇のオフェンスはとにかく慎重…言うなれば消極的。

 

「…」

 

これを見てリコは顎に手を当て、何かを思案した。

 

 

そこから桐皇は積極的に得点は狙いにこず、ボールを回し、時間をかけてオフェンスをした。シュートクロックが残り5秒となった所で…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

今吉が矢のようなパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

ボールはゴール下に走り込んだ國枝に渡った。

 

「っ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

ロールで松永の裏を取った國枝がそこからリバースレイアップで得点を決めた。

 

 

花月 90

桐皇 92

 

 

「…ちっ、ドンマイ! 次、行くぞ!」

 

ボールを受け取った空がそう声を出し、ボールを運んだ。

 

「…」

 

フロントコートまでボールを運ぶと、先程同様、今吉が空のディフェンスに現れ、激しくプレッシャーをかけた。

 

「…っ」

 

少し嫌そうな素振りを見せるも空は大地にパスを出した。

 

「…おぉっ!」

 

ボールを持った大地に激しくプレッシャーをかける新村。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地は動じる事無く隙を見て中へと切り込んだ。

 

 

――ドン!!!

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ホールディング! 黒4番(福山)!』

 

すかさず福山が大地と衝突、ファールがコールされた。

 

「またか…」

 

空は、2度目の迷いのない桐皇のファールを見て思わず言葉にする。

 

「(ファールで止めに来るってんなら…)」

 

「っ!?」

 

ボールを受け取った空は間髪入れずにシュート体勢に入った。

 

「アカン!」

 

これを見て今吉が慌ててブロックに飛んだ。

 

「食いついたな」

 

ニヤリと笑った空はシュートを中断し、ビハインドバックパスで生嶋にパスを出す。

 

「っ!?」

 

スリーを警戒した桜井が慌てて距離を詰める。

 

 

――スッ…。

 

 

生嶋はスリーを打たず、ボールを中へと入れる。そこへ大地が走り込み、ボールを掴んだ。

 

「くそっ!」

 

ボールを持った大地に新村が迫る。大地はボールを掴むのと同時に背後にボールを放る。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ空がボールを掴んだ。

 

「ちぃっ!」

 

國枝が舌打ちをしながら空のチェックに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

ブロックに飛んだ國枝を、スクープショットでかわしながらボールを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは弧を描きながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 92

桐皇 92

 

 

桐皇のオフェンス…。

 

やはり桐皇はゆっくりボールを運び、時間をかけて攻めて来た。

 

 

――バス!!!

 

 

シュートクロック残り7秒で福山が天野をマークに背負うも強引に打ちに行き、決めた。

 

「スマン!」

 

「今のは仕方ありません。それよりも…」

 

「今のもさっきのも、らしくなく時間かけて攻めてきよった。狙いは――」

 

「時間稼ぎ…」

 

天野が回答を言う前に空が答えを言った。

 

「オフェンスはとにかく時間をかけ、ディフェンスはファール覚悟で止めて来るみたいですね」

 

「…薄々予感はしとったが、シナリオが見えてきたのう」

 

辿り着いた考えに表情を険しくする天野。

 

「となると、今の内に出来るだけ点差を付けておかないとヤバいですね」

 

そう言って、空は首をコキコキと鳴らした。

 

「ディフェンスはオールコートで当たってとにかくスティール狙っていきましょう」

 

「名案や……と、言いたいが、空坊は大丈夫なんか?」

 

心配そうに尋ねる天野。空は第3Qで大地が負傷の治療で下がった際にその場を繋ぐ為にゾーンの扉を開いて試合に臨んだ事で残りのスタミナが気掛かりなのである。

 

「大丈夫ですよ。泣き言言ってられないですからね。ぶっ倒れるまで走ってやりますよ」

 

表情を改め、空は覚悟を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本、行くぞ!」

 

人差し指を立てながら空がボールを運ぶ。

 

「(顔付きが変わりよった。…ま、さすがに気付くわな)」

 

空の顔を見て察する今吉。

 

「…」

 

ドリブルをしながら攻め手を定める空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て空が切り込む。

 

「っ!」

 

タイミングを読み切った今吉は遅れずに空の動きに付いていく。

 

 

――キュッ!!!

 

 

直後に急停止し、頭上からローポストに立つ松永にパスを出す。

 

「…っ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを掴むのと同時にスピンムーブで背中に張り付く國枝をかわす。

 

「おぉっ!」

 

そこからリバースレイアップを仕掛ける。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「させるか!」

 

ボールを放った直後に新村がブロックした。

 

「(ええ塩梅や。急かすあまりリズムが単調やで)」

 

内心でほくそ笑む今吉。

 

「ちぃっ!」

 

弾かれたボールを天野が確保する。

 

「打たせねえぜ!」

 

ボールを確保した天野にすかさず福山が張り付く。

 

「(アカン! いくらこいつ(福山)がディフェンスに長けてへん言うても、俺もオフェンスは得意やあらへんから打たれへん!)」

 

すぐにでも得点を決めたい場面で焦りを加速させる天野。

 

「天さん、1度戻して!」

 

焦る天野に対して空が声を掛ける。

 

「頼む!」

 

やむなく空にボールを戻した。

 

「焦り過ぎた! もっと自分達のリズムで落ち着いて攻めろ!」

 

ボールを受け取った空が皆に言い放つ。

 

比較的オフェンスのテンポが速い花月だが、今回は焦りのあまり小細工なしで仕掛けた為、あっさり止められてしまった。それを見かねて空が檄を飛ばした。

 

「(チンタラはしてらねえが、焦る必要もねえ。いつものペースを貫きゃいい!)」

 

自らに言い聞かせるように自制する空。

 

「(神城の言う通りだ。焦ればそれこそ相手の思う壺だ…)」

 

「(空坊に言われてまうとはのう。…よし、俺ららしくや!)」

 

空の言葉に焦る気持ちを自制させる松永と天野。

 

「(…ホンマ、去年とは違うのう。前戦った時のこいつ(空)なら自らガンガン仕掛けて来よっただろうに…)」

 

逸る気持ちを律し、チームを落ち着かせる空を見て今吉は胸中で舌打ちをする。

 

「…」

 

ボールをキープしながら攻め手を定める空。

 

「……こっちです!」

 

その時、大地が中に走り込み、ボールを要求した。

 

「くっ!」

 

一瞬で新村の背後に抜け、マークを振り切った。同時に空は大地の手元にボールを贈った。

 

ボールを受けた大地はそのままリングに突き進み、飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

それを見て國枝がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んだ。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックが現れると大地はボールを下げ、ブロックをかわし、ダブルクラッチで得点を決めた。

 

 

花月 94

桐皇 92

 

 

「…ちっ」

 

舌打ちをしながら國枝がスローワーとなる為にボールを拾う。

 

「当たれ!」

 

同時に空が大声で指示を出した。

 

「っ!?」

 

スローワーとなった國枝の前に松永が両手を広げて立ち塞がる。

 

『来た!!!』

 

花月がオールコートマンツーマンディフェンスを仕掛けた。

 

「やはり来ましたね」

 

ベンチの原澤は予想通りだったのか、動じずに呟く。

 

「…」

 

青峰はタオルを被ったままコートを見向きもせず、ジッとしている。

 

「(慌てるな! 向こうがオールコートを仕掛けてくるのは予測の範囲内だ!)」

 

インターバル時、桐皇が時間をかけてオフェンスを仕掛けて来る事が見抜かれれば花月は必ずオールコートマンツーマンディフェンスを仕掛けて来ると事前に指示を受けていた國枝はすぐに冷静さを取り戻す。

 

「…っ」

 

國枝は1歩後ろに下がり、距離を取る。

 

「こっちだ!」

 

「下さい!」

 

それに合わせて福山と桜井が前へと走る。それを見て國枝がボールを構えて大きく振りかぶる。

 

「…ちっ」

 

縦パスを阻止するべく、松永がその場からジャンプする。…が。

 

「っ!?」

 

松永が飛ぶと、國枝は構えを中断、松永の脇の下からボールを放った。

 

「上出来やで國枝。…ほな、頼んまっせ!」

 

ボールを受けた今吉は前走る福山に大きな縦パスを出した。

 

『うわー! あっさりオールコートマンツーマンが破られた!』

 

観客席から悲鳴のような声が飛び出る。

 

「おっしゃ、いただき――」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

次の瞬間、今吉の出した縦パスに対し、大きくジャンプした大地によってカットされた。

 

「ナイス大地!」

 

パスカットに成功した大地に対し、空が歓喜する。

 

「…よし」

 

ボールを掴んだ大地はそのままリング目掛けてドリブルを始めた。

 

「あれをカットするとか反則やで!」

 

高さを付けてパスを出したつもりだったが、それでも届かせてしまった大地に対して思わずボヤキが漏れ出る今吉。すぐさま大地の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

今吉が目の前に現れると大地は目の前で急停止し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

すぐさま再加速し、今吉を抜きさった。

 

「(っ!? アカン、信じられん緩急とスピードや。動きが読めるとかそんなの関係あらへん。もはや次元が違うで!)」

 

最悪ファールしてでも止めようとしたがそれすらも叶わわず、棒立ちで抜かれてしまう。

 

「くそっ…!」

 

次に新村がディフェンスに現れる。

 

「…」

 

大地は新村が現れるもお構いなしに突っ込む。

 

『おいおい、ぶつかるぞ!?』

 

迷いなく新村に突進していく大地を見て観客が思わず声を上げる。

 

 

――キュキュッ…ダムッ!!!

 

 

しかし、大地はぶつかる直前に急停止…バックステップで距離を空けた。

 

「っ!?」

 

ぶつかると思った新村は寸前に身構えてしまい、身動き出来ず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

事実上のフリーとなった大地は悠々とジャンプショットを決めた。

 

 

花月 96

桐皇 92

 

 

『相変わらずあのバックステップえげつねえ!!!』

 

『…っ』

 

開き始めた点差を見て焦りの色が見え始めた桐皇の選手達。

 

「…っ」

 

ボールを拾い、スローワーとなった國枝の前に再度松永が立ち塞がる。

 

「…あくまでも続ける気ぃかいな」

 

「当然だ。思惑はどうあれ、ここが突き放すチャンスなんだからな」

 

げんなりする今吉。空はニヤリと返す。

 

ヴァイオレーションとなる前に何とか今吉にボールを渡した國枝。

 

「何もさせねえぞ」

 

その今吉の前に空が立ち塞がる。

 

「(…第3Qに確かに消耗しとるはずやのに、まるでキレが落ちとらんやんけ!)」

 

全く隙を見せずにディフェンスをする空に驚く今吉。

 

「(…行け!)」

 

その時、新村が空にスクリーンをかけ、合図を出した。

 

「(助かりまっせ、新村はん!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

新村の援護を受けて今吉がドリブルを始める。

 

「あめーよ」

 

空はスクリーンをロールしながらかわし、今吉を追いかける。

 

「一瞬マークが外れれば充分や!」

 

スクリーンをかわす際に出来た僅かに空のマークが外れた隙に今吉は前にパスを出した。

 

「おっしゃ今度こそ!」

 

先頭を走る福山にボールが渡る。

 

「…っ!」

 

しかし、すぐさま大地がスリーポイントライン目前で先回りし、立ち塞がった。

 

「…こちとら、毎日青峰と1ON1してんだ。オフェンスなら負けっかよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう叫び、福山が仕掛ける。

 

「…」

 

仕掛けて来た福山を追走する大地。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

クロスオーバーで左へ切り返し、すぐさまバックチェンジで反対に切り返すと同時にボールを掴み、ジャンプショットを狙った。

 

「……バカが」

 

ベンチの青峰が呟く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを頭上にリフトさせようとした瞬間、大地がボールを叩き落とした。

 

「(阿呆! 早打ちをするなって言われとったやろ!)」

 

勝負を仕掛けた福山を胸中で叱りながらルーズボールを追いかける今吉。

 

「さすが大地!」

 

先にボールを確保したのは空。

 

「おら、派手にかませ!」

 

空は前へ大きな縦パスを出す。そこには…。

 

「嘘!? もうあんな所に!?」

 

思わず声を上げる桜井。先頭を走っていたのは先程福山のボールを奪った大地だったからだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

先頭でボールを掴んだ大地はそのままリングに突き進み、ボールを叩き込んだ。

 

 

花月 98

桐皇 92

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「(この調子です。青峰さんがいない内に確実に点差を――っ!?)」

 

チラリと桐皇ベンチに視線を向けた大地は心臓を掴まれるような感覚に襲われた。ほんの一瞬、青峰と目が合った大地。その青峰のギラついた視線に大地は身体を震わせた。

 

「(…いつ青峰さんが戻るか分かりませんが、それまでに点差を付けなければまずそうですね…!)」

 

予想ではなく、確信した大地だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も花月は桐皇に対し、猛攻を仕掛ける。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

とにかくボールを回して時間をかけようとする桐皇の逆手に取り、スティールする。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを奪うと大地が確実に得点を決める。

 

 

第4Q、残り7分9秒

 

 

花月 100

桐皇  92

 

 

第4Qが始まり、もうすぐ3分が経とうしている。花月の得点は3桁の100点に到達した。

 

『…っ』

 

着実に開きゆく点差を見て桐皇の選手達は焦りを隠せない。

 

「止めろ! 止めるんだ!」

 

声を張り上げ、チームを鼓舞する福山。

 

「…」

 

ボールをキープしながらゲームメイクをする空。

 

 

――ピッ!!!

 

 

横にスライドした空はリングに向かってボールを押し出すように放った。

 

「(シュート……いや、ちゃう!)」

 

目の前の今吉はすぐさま違う事に気付く。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

リング付近に放られたボール。そこへ飛び込んだ大地が空中でボールを掴み、リングに叩きこんだ。

 

『うおぉぉぉっ!!!』

 

空と大地のビッグプレーに観客のボルテージが最高潮に上がる。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 黒(桐皇)!!!」

 

ここで桐皇のメンバーチェンジがコールされた。

 

「…来ましたね」

 

オフィシャルテーブルに立つ人物を見て大地が口を開く。

 

「出て来たな。化け物がよ…!」

 

新村と入れ替わりにコートをやってきた青峰。

 

『…っ』

 

その青峰から発せられる気迫を見て花月の選手全てが理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――青峰がゾーンの扉を開いている事に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





本日、ワクチン接種2回目を終えました。経過はこの話を投稿する現在、特に副反応はなく、1回目は翌日に少し影響が出たので、戦々恐々としながら経過を見守っています…(>_<)

しかし、コロナが終息しないと毎年ワクチンを打つハメになるかもなんですねよね。いやー怖い怖い…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第171Q~最強のエース~


投稿します!

ワクチン接種2回目。副反応で死にました…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q終了後のインターバル時の桐皇ベンチにて…。

 

「お疲れ様です。ゆっくり呼吸を整えながら水分補給と栄養補給を行って下さい」

 

『…っ』

 

ベンチに座る試合出場していた選手達。その表情は険しい。

 

「…ちっ」

 

その中でも青峰は機嫌悪そうにしていた。

 

「…ふむ。それでは第4Qの指示を出します。まずは…」

 

選手達の前に立った原澤が青峰の方に視線を向け…。

 

「青峰君。一旦交代です」

 

『っ!?』

 

この指示に選手達は驚きを隠せなかった。点差を2点にまで詰め寄られたこの状況でエースを下げると言う選択が理解出来なかったからだ。

 

「…あっ? 冗談じゃねえよ。こんな状況で下がれっかよ。この程度でバテる程柔でもねえんだよ」

 

この指示を受け入れる事が出来ない青峰は不満顔で異を唱える。

 

「無論、理解しています。青峰君が1年時のウィンターカップ終了後…特に、今年のインターハイ終了後からは練習後に念入りに走り込みをしていたは知っていますので」

 

「…っ!? …ちっ。だったら――」

 

影でしていた努力が見られていた事に一瞬恥ずかしがる青峰。

 

「ですが、少しオーバーペースです。第4Qから綾瀬君がコートに戻って来る事を考えると、まず間違いなく、終盤の勝負所で失速は免れません」

 

スロースターターを解消する為に試合前のきつめのウォーミングアップ。攻守に渡っての活躍に、第3Qではゾーンに入った空を相手にしながらオフェンスを支えた。これでは重要な場面でもたないと原澤は判断した。

 

「ざけんな! 俺は絶対に――」

 

「勝つ為です」

 

「…っ」

 

立ち上がって指示を一蹴しようとした青峰に原澤は真剣な表情で返した。この言葉に青峰は言葉を続ける事が出来なかった。

 

「だー!!! 監督が言ってんだからお前は黙って従え!」

 

指示を受け入れようとしない青峰に福山が言い放つ。

 

「それまで俺達が何とか繋いでやる。お前はしっかり力蓄えてそれから思う存分暴れやがれ!」

 

「……ちっ、うるせーな分かったよ」

 

げんなりした表情で青峰は渋々指示を受け入れた。

 

「よろしい。青峰君に代わって新村君、コートに入って下さい」

 

「はい」

 

「オフェンスは早打ちは厳禁です。必ず15秒以上時間を使って下さい。ディフェンスでも時間を使わせて…最悪はファールでも構いません。相手のオフェンス機会を減らして下さい」

 

『はい!!!』

 

「3分が経過したら再び青峰君をコートに戻します。逆転を許し、点差は開くかもしれません。それでも慌てず、今言った指示を守って下さい」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第4Qが始まって間もなく3分が経過しようとした時…。

 

「…青峰君。準備はいいですか?」

 

「おせーよ。準備も何も、そもそも最初から休憩なんざ俺には必要なかったんだからよ」

 

「それは結構。次の交代のタイミングで投入します。思う存分暴れて下さい」

 

「ハッ! 了解」

 

被っていたタオルを外した青峰。目をぎらつかせ、不敵な笑みを浮かべながら立ち上がり、オフィシャルテーブルへと向かって行ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り6分58秒

 

 

花月 102

桐皇  92

 

 

最終Q、3分が経過した所で桐皇の絶対的なエースにしてスコアラー、青峰がコートに戻ってきた。

 

『…っ』

 

その青峰から発せられる圧力に花月の選手達は皆一様に圧倒されていた。

 

「インターバル含めてきっちり5分休んでの投入かい。ワンチャン、集中切れとる事期待しとったけど、あの分じゃなさそうやな」

 

コート入りする青峰を見て天野がげんなりする。

 

「集中が切れてないどころか、ゾーン状態…、しかも、きっちり底まで到達しての登場ですよ」

 

「底?」

 

空が言う、抽象的な表現を理解出来ず、天野は思わず尋ねる。

 

「ゾーンは普通は出せない100%の力を引き出す事が出来るんですが、扉を開いてすぐに100%の力が出せる訳じゃないんですよ。扉を開いてゆっくりと沈んでいって、底に到達してようやく100%の力が出せるようになるんです」

 

「要は、集中力が増す事でより引き出せる力が増えて行くと言う事です」

 

抽象的に説明する空に大地が補足して解説した。

 

「解説おーきに。ポテンシャル全開の青峰が登場って訳かいな」

 

説明を聞いた天野が苦笑する。

 

「ベンチにいる間にゾーンに入って、そこからひたすら集中力を高めていたんでしょう」

 

「しっかり休憩されましたからね。ここから試合終了まで全開の青峰が来ますよ」

 

引き攣った笑みを浮かべる空。

 

「…10点差なんてあってないようなもんやな」

 

「まず守り切れません。乱打戦に持ち込んで打ち勝つしかない」

 

「あの青峰とかいな。…けど、それしかあらへんな」

 

天野は覚悟を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

青峰がコートに入り、桐皇ボールでオフェンスが始まる。

 

「頼んまっせ」

 

ボールを運んだ今吉は早々に青峰にボールを渡した。

 

「(…っ、凄いプレッシャーだ…。気を抜けばそれだけで後ろに倒されてしまう程の…!)」

 

青峰の目の前に立った大地。その青峰から放たれるプレッシャーを一身に受け、気圧されるのを堪えていた。

 

「(パーフェクトコピーとゾーンを併用した黄瀬さんも圧倒的でしたが、青峰さんはまた別方向で圧倒的。…私に止められるのか…いや、それでも止めなければ…!)」

 

先のぶつかり合いで相性の悪さを露呈した大地。ゾーンに入った青峰を前に自信を失いかけるも負傷欠場した穴を埋めてくれた空及びチームの為に奮い立たせる。

 

「…」

 

ボールを持った青峰がゆったりと動きを見せる。そして…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、大地の横を高速で駆け抜ける。

 

「(っ!? 速い!)」

 

集中力を全開にして待ち構えていた大地。青峰の揺さぶりに僅かに左足に体重が乗った瞬間、逆方向から切り込まれ、一瞬で抜かれてしまう。

 

「このやろ…!」

 

大地が抜かれる事を見越してか青峰が動きのと同時にヘルプに走った空が直後に青峰の前に立ち塞がる。

 

「スピードは相変わらずか。…けどな、ゾーンに入れなくなったてめえに俺が止められるかよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

クロスオーバーで空を抜きさる青峰。

 

「ちぃっ!」

 

ヘルプに飛び出す松永。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐぉっ!」

 

ダンクに向かった青峰に対してブロックに飛んだ松永だったが、吹き飛ばされてしまう。

 

 

花月 102

桐皇  94

 

 

「…」

 

床に着地した青峰は一瞥もくれずにディフェンスへと戻っていく。

 

「(スピード、アジリティもさることながら、キレも半端ねえ。こりゃ反射じゃ話になんねえぞ…!)」

 

「(速い…。ほんの一瞬出来た隙を突かれて…、正確に相手の動きとタイミングを読み切らねば勝負にもならない…!)」

 

たったワンプレーで圧倒的な力を見せつけた青峰。空と大地はその力に圧倒される。

 

 

「1本! 行くぞ!!!」

 

大声を張り上げながら空がボールを運ぶ。

 

「(…現状、確率が高いのはローポストの松永か俺自ら仕掛けるのが良い。…だが、ちっ、青峰はやや内側に陣取りながら大地をマークしてやがる…)」

 

大地をマークしている青峰は内側にポジション取りをしている。つまり、自ら仕掛けるにしても松永にパスするにしてもすぐさま青峰がヘルプやってくると言う意味でもある。

 

「(……悪いな。やっぱり、今はここしか考えられねえわ)」

 

フッと笑みを浮かべ、パスを出した。

 

「…へぇ」

 

ボールの行き先を見て青峰が声を上げる。

 

「…」

 

右ウイングの位置で大地がボールを掴んだ。

 

「良い度胸だ。…来いよ」

 

勝負を仕掛けて来た事に喜びつつ青峰が構えた。

 

「…っ!」

 

青峰から放たれるプレッシャーに耐えながら構える大地。

 

「…」

 

「…」

 

ジャブステップを踏み、ボールを小刻みに動かしながら牽制する大地。

 

「(今更隙を見せる事はあり得ません。ならば!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

僅かな隙も見せない青峰を見て、自ら仕掛けて隙を作り出す選択をした大地。

 

「…」

 

全国トップレベルのスピードを誇る大地のドライブ。青峰は平然と付いていく。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

大地はレッグスルーで切り返し、そこからバックステップでスリーポイントラインの外側まで下がり、距離を空けた。

 

「…っ」

 

直後にボールを掴んだ大地はステップバックで後ろに下がり、ステップバックを踏んだ左足で後ろに飛びながらスリーの体勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

しかし、飛びながらボールを頭上に掲げようとした瞬間、一気に距離を詰めた青峰によってボールは叩き落された。

 

「(速…すぎる!)」

 

「おせーんだよ」

 

零れたボールを青峰がすぐさま確保し、そのまま速攻に走った。

 

「アカン、戻れ!」

 

天野が声を張り上げながらディフェンスに戻る。が、ドリブルをしながらでも尚圧倒的なスピードを誇る青峰には追い付けない。

 

「…ちぃっ!」

 

それでも唯一、空のみが青峰に追い付き、スリーポイントライン目前で青峰を捉え、横に並んだ。

 

「今のお前じゃ、何度来ても同じだ」

 

そう囁き、青峰は急停止した。

 

「っ!?」

 

これを見て空も慌てて停止し、振り返る。すると、青峰がボールを構えた。

 

「(くそっ、スリーか!?)」

 

スリーを決められればダメージは大きい。慌てて空はシュートチェックに向かう。

 

「(っ!? これは…!)」

 

ここで空は気付いた。確かに足は止まり、ボールも腰の付近で一瞬止まっていたが、両手で掴んではいなかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰は再度急発進し、空の横を高速で駆け抜けた。

 

「…が! こんの野郎…!」

 

それでも空は上半身を後方に大きく倒し、諦めずに青峰の持つボールに右手を伸ばし、狙い打つ。

 

「くそっ、ダメか!」

 

しかし、伸ばした右手は空を切った。

 

ここで青峰はボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「まだです!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

次の瞬間、大地が青峰とリングの間に現れ、ブロックをした。

 

「あいつ! 青峰が動きを止めた一瞬に!?」

 

圧倒的な青峰のスピードに追い付いた大地に福山が思わず声を上げる。

 

「無駄なんだよ!」

 

「っ!?」

 

青峰のダンクをブロックした大地だったが、徐々に押されていき…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐぅっ!」

 

大地を吹き飛ばしながら青峰は強引にボールをリングに叩きこんだ。

 

 

花月 102

桐皇  96

 

 

「大地!」

 

床に倒れ込んだ大地に駆け寄る空。

 

「だ、大丈夫です。…っ」

 

そんな空を手で制し、大地は立ち上がった。

 

 

花月のオフェンス、空がゆっくりとボールを運ぶ。

 

「…」

 

慎重に攻め手を定める空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

視線だけで周囲を見渡した後、空が一気に加速し、仕掛けた。

 

「っ!?」

 

目の前の今吉を一瞬で抜きさった空はそのままリングに向かって突き進む。

 

「…っ」

 

これを見た青峰がヘルプに飛び出し、空の前に立ち塞がった。

 

「(来た!)」

 

青峰がヘルプに来る事を想定していた空はここでボールを掴み、ノールックビハインドパスでパスを出す。パスターゲットは左アウトサイドに展開した生嶋。

 

 

――バチィ!!!

 

 

右手で持ったボールを背中からパスを出した空。同時に左肘を背中に突き出し、ボールの軌道を左から右へと変えた。

 

『エルボーパス!?』

 

左アウトサイドの生嶋にパスをすると見せ、本当のパスターゲットは右アウトサイドの大地だった。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

「見え見えなんだよ」

 

不意を突いたはずのパス。エルボーパスで逆方向に跳ね返ったボールは青峰がスティールされてしまう。

 

空がパスの動作に入った瞬間、青峰は瞬時にこれはフェイクで大地へのパスであると嗅ぎ分けた。仮に外れても生嶋相手ならば桜井で大丈夫だと判断し。

 

『連続でターンオーバーだ!』

 

「ちくしょう!」

 

再び青峰にボールを奪われ、空は悪態を吐きながら青峰を追いかける。

 

「…くっ!」

 

先頭を走る青峰に何とか追い付いた大地。

 

「お前と言い、神城と言い、ゾーンに入った俺に追い付くそのスピードだけは敬意を表してやるがよ…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

瞬時に逆に切り返す青峰。

 

「…っ!」

 

何とか大地は歯を食い縛りながら食らいつく。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

「…あっ!?」

 

直後にバックチェンジからのレッグスルーで切り返され、大地はアンクルブレイクを起こして倒れ込んでしまう。

 

「何度も何度も決めさせるかよ!」

 

大地が時間を稼いだ隙に追い付いた空。ボールを掴んでシュート体勢に入ろうとするのを見てブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ空。しかし、青峰はそのブロックを避けるように横っ飛びし、ドッジボールのような構えをした。

 

「させへんわ!」

 

そこへ、天野がタイミング良くブロックに現れた。

 

「ナイス天野! よく追い付いた!」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら叫ぶ。

 

「っ!?」

 

しかし、天野が現れるのと同時に青峰はボールを下げ、下から上へ放り投げるようにして天野のブロックをかわしながらボールを放り投げた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放られたボールは高く上がり、落下しながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 102

桐皇  98

 

 

『うおぉぉぉっ!!! 青峰連続得点!!!』

 

『あっという間に4点差だ!』

 

『もう止まらねえよ!!!』

 

みるみる縮まっていく点差を見て観客のボルテージが上がっていく。

 

『…っ』

 

花月の表情はさらに険しくなる。

 

状況は最悪と言ってもいい。失点はある程度覚悟し、点の取り合いを挑むはずだったが、その肝心な点が取れない。全国トップレベルのスピードとアジリティを持った青峰にディフェンスはそのエリアと共に脅威であり、そこを何とか避けても他も桃井のデータを持った選手達。抜く事は困難である。

 

 

「天さん!」

 

花月のオフェンス。空はハイポストに立った天野にパスを出し、すかさず天野に向かって走り出し、すれ違い様にボールを手渡しで受け取る。

 

「野郎!」

 

天野の背中に張り付くようにマークしていた福山は空を追いかける。が、既に加速していた空には追い付けず。

 

「おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

福山をスピードでちぎった空はボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「調子に乗んな!」

 

「(来た!)」

 

ダンクに行った空。そこへ青峰が高速でヘルプに飛び出し、空のダンクをブロックしにやってきた。

 

「(ギリギリだ。ギリギリまで青峰を引き付けて…)」

 

高速でやってきた青峰をギリギリまで引き付け…、パスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは、國枝の裏を取ってゴール下に走り込んだ松永に。

 

「おぉっ!」

 

両手でボールを掴んだ松永はリングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「青峰だけじゃねえって言ってんだろ!」

 

ボールがリングに振り下ろされる直前、そこへ飛び込んだ福山にボールを叩き落とされた。

 

「おぉっ! キャプテンのギャンブルブロックが決まりよったわ」

 

感心する今吉。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、イリーガル黒4番(福山)! フリースロー!』

 

審判が笛を吹き、指を2本立てながらファールをコールした。

 

「…相変わらずええオチ付けてくれるで」

 

苦笑する今吉。ブロックの際、福山の手が松永の手に触れていたのだ。

 

「だーちくしょう!」

 

頭を抱えて悔しがる福山。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをする空。

 

フリースローを貰える結果にはなったが、流れを変える為に欲を言えばきっちり決めておきたい場面であった。

 

「…」

 

フリースローラインに立った松永はボールを2度突き、縫い目を確かめながらボールを掴み…。

 

「……フー」

 

1度深く息を吐き…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1投目を成功させ…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2投目もきっちり決めた。

 

 

花月 104

桐皇  98

 

 

「よー決めたマツ!」

 

フリースローを2本成功させた松永の背中を叩きながら天野が労う。

 

「ちっ、決めやがったか…」

 

これを見て福山が舌打ちをする。

 

「まぁ、しゃーないわ。けどまあ、決められた所でもはや関係あらへんけどな」

 

スローワーの國枝からボールを受け取った今吉が青峰に視線を向ける。そこには、選ばれた者にしか醸し出せないオーラを放っている青峰が。

 

「もはや疑う余地もあらへん。…疑った事なんか1度もあらへんけど、最強は青峰はんや…!」

 

ニヤリと笑い、青峰にボールを渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

青峰がゾーンに入ってからようやく得点を加算させた花月。しかし、空の思った通り、流れを変えるには至らない。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

シュートブロックに来た大地を1度ボールを下げ、ボールを風車のように回しながらフックシュートに切り替え、決める。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!』

 

次の花月のオフェンス。ボールを回して慎重に攻めるも攻めきれず、オーバータイムをしてしまう。

 

 

――バス!!!

 

 

変わって桐皇のオフェンスは、青峰が大地のブロックをかわすようの飛びながらボールを放り、決めた。

 

続く花月のオフェンスも、青峰のブロックに捕まり、失敗。青峰がワンマン速攻を成功させた。

 

 

花月 104

桐皇 104

 

 

『とうとう背中を捉えたぞ!』

 

この1本で桐皇は同点に追い付いた。

 

「1本! 取り返すぞ!」

 

続く花月のオフェンス。焦りを感じながらもそれを隠しながらボールを運ぶ空。

 

「大地!」

 

フロントコートまでボールを運んだ空が大地にボールを渡す。

 

「…っ」

 

大地はボールを保持するものの、青峰を前にボールを奪われないようにするのに精一杯。仕方なく空にボールを戻す。

 

「ほな、行きまっせ」

 

ボールが戻って来ると、今吉が空に激しくプレッシャーをかけた。

 

「…ちっ」

 

身体がぶつからんばかりに激しく当たる今吉。

 

「遠慮せんと、突破したらよろしいやん。ワシは別に通行止めしとる訳やあらへんで?」

 

ボソリと囁く今吉。

 

今吉はとにかく空のスリーのみを警戒している為、それ以外は無警戒。空ならば突破は容易い。しかし…。

 

「(青峰は一瞬でやってくる。同じパターンが2度も通用する程、桐皇は甘くねえ!)」

 

迫り来る青峰をギリギリでかわし、パスを捌くパターンは先程見せたパターン。青峰のヘルプを逆手に取って大地にパスをしようにもパスコースのケアは先程もしっかり行われていた。

 

「(ここでボールを止めても仕方ねえ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

やむなく空はカットインする。

 

「…」

 

中に切り込んだ空を見て青峰が動く。

 

「(来やがった! さて、ここからどうする!?)」

 

切り込んだ瞬間の0コンマ何秒で攻め手を思考する。生嶋も松永もマークがきつい。天野は若干マークは甘いが、青峰が近い位置にいる為、使えない。

 

「空!」

 

その時、空の後ろから大地の声が聞こえた。青峰がヘルプに動いたのと同時に空の真後ろまで移動したのだ。

 

「頼む!」

 

その声に従い、空は大地にパスを出した。

 

「あっかんわ」

 

パスをカット出来ず、大地の手にボールが渡るのと同時に今吉がディフェンスに入る。

 

「…」

 

大地はボールを掴むのと同時にポンプフェイクを入れ、横へとスライドするように移動し、シュート体勢に入る。

 

「読めとるわ!」

 

これを読んだ今吉は大地のスライドに合わせて自身もスライド。シュートブロックに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

今吉がシュートブロックに入ると、大地はシュートを中断。ターンアラウンドで元居た位置に戻り、今吉をかわす。改めてシュート体勢に入った。

 

「やっぱ、ワシでは敵わんで。…けどまあ」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「これだけ時間が稼げたら充分やろ」

 

今吉をかわす僅かな時間に青峰が再度ヘルプに向かい、大地のシュートを叩き落とした。

 

 

「凄イ、今ノハアツシト同ジ、イヤモシカシタラ!」

 

アンリがチームメイトの紫原を彷彿させるブロックを見て声を上げる。

 

「いや、スピードは紫原を遙かに凌駕してるぞ…!」

 

永野はスピードはそれ以上と評価した。

 

「…峰ちん」

 

これには紫原も僅かに表情を険しくしていた。

 

 

零れたボールを青峰自ら抑え、そのまま速攻に走った。

 

「…くっ!」

 

大地が青峰を追いかける。スリーポイントライン目前で青峰に並ぶも青峰は構わず強引に突破を図る。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ブロックに飛んだ大地だったが青峰はその上からボールをリングに叩きこんだ。

 

 

花月 104

桐皇 106

 

 

『来たぁっ!!! 遂に逆転だ!』

 

遂に桐皇は逆転に成功した。

 

「(もろたで。もうワシらの勝ちや!)」

 

密かにほくそ笑む今吉。

 

「やった!」

 

拳を握る桜井。

 

「っしゃぁぁっ!!!」

 

咆哮を上げながら喜ぶ福山。

 

 

「決まったな」

 

観客席の池永がボソリと結論付けた。

 

「神城…、綾瀬…!」

 

田仲が祈るように試合を見守っている。

 

 

『…っ』

 

遂に逆転を許し、花月の選手達の表情にもはや余裕は一切ない。

 

「…っ」

 

大地が苦悶の表情で汗を拭う。

 

「やべーな…」

 

横に並ぶように歩み寄った空が呟く。

 

「絶体絶命だ」

 

「…」

 

空のこの言葉に大地は何も返す事が出来ない。

 

「……けど何でだろうな。絶体絶命なのに、ワクワクしてる自分もいるんだ」

 

「?」

 

「中学時代に見たキセキの世代は当時の俺達じゃまるで歯が立たない程実力差があった。けど今は、そのキセキの世代をここまで追いつめてんだ」

 

「…」

 

「勝ちてーよな」

 

空がそう言った。

 

「勝ちたい……そうですね。勝ちたいですね。空と、皆で勝ちたいです」

 

その言葉に、大地が反応するように勝利を望んだ。

 

「――」

 

その時、大地の視界に映る景色が変わる。

 

「空」

 

「あん?」

 

「次の1本、ボールを貰いに行きますので私にパスを下さい。パスを出したらその場から動かないで下さい」

 

「? 分かった」

 

意図は分からなかったが、空は頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ空。

 

「1本! 絶対止めんぞ!」

 

士気の高い桐皇。福山が大声で鼓舞し、チームを盛り立てる。

 

「空!」

 

フロントコートまで空がボールを運ぶと、大地が空の駆け寄りながらボールを要求する。

 

「…あん?」

 

大地の動くのと同時に青峰が追いかけるように動く。

 

空に駆け寄った大地はすれ違い様にボールを受け取り、バックステップの後にステップバックで横にスライドし、スリーポイントラインから1メートル離れた場所まで高速移動した。

 

「打たせ――っ!?」

 

スリーをブロックしようとした青峰だったが、間に空が阻むように立っていた為、かわすようにしてブロックした。

 

「ちっ!」

 

空をかわす僅かな時間によってブロックが間に合わず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたスリーはリングに射抜いた。

 

 

花月 107

桐皇 106

 

 

『うぉーっ!!! ここでスリーで返しやがった!!!』

 

「…てめえ」

 

スリーを決めた大地に振り返る青峰。そして気付いた。

 

「負けられません。2度も届かなかったんです。これが最後。絶対に勝つんです」

 

「…ハハッ! そう来たかよ。そうでなくちゃ、面白くねえ」

 

そう宣言する大地を見て、青峰は不敵に笑った。

 

 

――大地が、ゾーンの扉を開いた。

 

 

「俺をスクリーンに使いやがって」

 

「すみません。事前に知らせると悟られると思ったので…」

 

壁に使われた空は、唇を尖らせながら文句を言うと、大地は苦笑しながら謝った。

 

「綾瀬、ようやくかいな」

 

駆け寄った天野。大地の変化に気付き、声をかける。

 

「待ちかねたで! これで――」

 

「…残念ですが、私では青峰さんには敵いません」

 

希望の光が見えた事に喜ぶ天野だったが、大地はそれを遮るようにそう宣告した。

 

「嘘やろ…、ゾーンに入ったんやろ?」

 

「ゾーンに入ったからこそ、分かってしまうんです。私の特性は青峰さん特性とは相性が悪いです。恐らく、まともにぶつかり合えば勝ち目はありません」

 

ゾーンに入った事で冷静に戦力差を分析出来てしまう為、結果が見えてしまう。

 

「ほなら、どないすんねん」

 

この大地の言葉に頭を抱える天野。

 

「心配いりません。あくまでも私が青峰さんに敵わないと言うだけです。例え敵わなくとも、試合は譲りません。……空」

 

気落ちする天野に対して笑みを浮かべる大地。その後、空に振り返った。

 

「あなたの力を貸して下さい。あなたと2人なら、青峰さんと戦えます」

 

「……フッ、良いぜ、全力でフォローしてやるぜ」

 

頼られた空は満足そうに頷いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第4Qが始まって3分。

 

1度ベンチに下がった青峰はベンチで力を蓄え、ゾーンの扉を開いてコートに戻り、花月を圧倒した。

 

遂には逆転を許した花月。その時、大地がゾーンの扉を開いた。

 

3度目となる花月と桐皇の激闘。遂に、クライマックスへと突入するのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー、1回目が大した事なかったんで、油断していたら、打った翌日に高熱、頭痛、倦怠感に襲われ、ほぼ1日中ダウンしました。翌日はそれが嘘だったかのように快調しました…(;^ω^)

正直、また打ったらまたあれが待ってるかと思うと、次回が怖いです…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第172Q~相棒~


投稿します!

寒くなってきましたね…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り4分7秒

 

 

花月 107

桐皇 106

 

 

最終3Q終了と同時に1度ベンチに下がった青峰が第4Qが3分経過した所でゾーンの扉を開いてコートへ戻り、花月を圧倒した。

 

花月も点の取り合いを挑んだが、青峰のオフェンスは止められず、逆に花月のオフェンスが青峰と桐皇のディフェンスに阻まれ、遂には逆転を許してしまった。

 

絶体絶命のピンチに陥ったその時、大地がゾーンの扉を開き、起死回生のスリーを決めて再度逆転した。

 

「あなたの力を貸して下さい。あなたと2人なら、青峰さんと戦えます」

 

「……フッ、良いぜ、全力でフォローしてやるぜ」

 

試合は、クライマックスへと突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ボールを運んだ今吉が青峰にボールを渡す。

 

「…」

 

その青峰の前に大地が立ち塞がる。

 

「ゾーンに入ったてめえとやるのは初めてだな。良いぜ、何処までやれるか、試してやるよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

嬉々とした表情で青峰が仕掛ける。

 

「…っ」

 

これに大地も反応、その動きに対応する。

 

「(なるほど、これに反応するか。ゾーンに入っただけの事はあるな。…だがな!)」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

得意のストリートバスケのムーブで高速で切り返し、大地を翻弄する。

 

「…っ、…っ!」

 

ここに来てさらに変則過ぎるムーブで揺さぶりをかける青峰。大地は歯を食いしばってその動きに付いていく。

 

 

――スッ…。

 

 

背中からボールを前へ通し、大地の後ろへ青峰が抜ける。

 

「…っ!」

 

前へ抜けた青峰を大地が追いかける。…が、青峰は強引に突破。フィジカルの差も相まって突破を防げず。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

強引に大地を振り切った青峰がそのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 107

桐皇 108

 

 

「やった!」

 

「っしゃぁぁっ!!! ゾーンに入ったって結果は変わらないぜ!」

 

桜井が喜びを露にし、福山が拳を握った。

 

「っ!? 戻れ!」

 

その時、青峰が声を張り上げる。

 

「あっ!?」

 

國枝が気付いた。青峰が叩き込んだボールを松永がすぐさま拾い、大きな縦パスを出した事に。そして…。

 

「アカン!」

 

今吉が目を見開いて自陣に駆け戻る。

 

その視線の先には空と大地が速攻に走っていた。

 

「ちっ!」

 

その2人を青峰が舌打ちをしながら追いかける。

 

「よし!」

 

ボールを掴んだ大地。スリーポイントライン手前で両足を揃えながらボールを掴んで急停止し、スリーの体勢に入った。

 

「ざけんな!」

 

シュート体勢に入った大地の構えたボールに青峰が後ろから手を伸ばした。

 

『うおぉぉぉっ!!! 青峰はえー!?』

 

ゴール下から一瞬の内に追い付いた青峰に対して観客が驚愕する。

 

「…」

 

しかし、大地は青峰が現れるとスリーを中断、ボールを下げて前へと落とした。

 

「ナイスパス!」

 

そこにいた空がボールを受け取り、そのままリングに向かってドリブルをし、レイアップの体勢に入る。

 

「空坊!」

 

天野が大声で叫ぶ。

 

「マジかよ、速過ぎるだろ!?」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら叫ぶ。

 

先程大地のスリーのブロックに向かったはずの青峰がもう空のブロックに来ていた。

 

「…」

 

空はボールをリング…にではなく、真後ろへとフワリと浮かせるように放った。そこには、既に大地が飛んでいた。

 

「…っ!」

 

着地した青峰が再度大地のブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

しかし、青峰がブロックに来るより早く大地がボールをリングに叩きこんだ。

 

 

花月 109

桐皇 108

 

 

『スゲー連携だ!!!』

 

「やられたのう。…けど、2度も通じへんわ。國枝。次、青峰はんが決めたらパスを遅らせるんや。後手にさえ回らへんかったら青峰はんなら止められるからのう」

 

「分かりました」

 

今のワンプレーで狙いに気付いた今吉が國枝に指示を出した。

 

「青峰はん!」

 

桐皇のオフェンス。今吉から青峰にボールが渡される。

 

「俺を倒すんじゃなかったのか? 結局仲間の手ぇ借りんのかよ」

 

「…」

 

見下すように尋ねる青峰。これに対し、大地は何も答えない。

 

「…拍子抜けだ。その様じゃ、てめえは一生そこ止まりだ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで青峰が加速し、仕掛ける。

 

「…っ」

 

左右に高速で切り返しながら揺さぶりをかける青峰。大地はピタリとその動きに付いていく。

 

 

――スッ…。

 

 

ひとしきり揺さぶりをかけた後、青峰はボールを掴んで後ろに飛んだ。

 

「っ!?」

 

これを見て大地がブロックに飛んだ。

 

 

――ブォン!!!

 

 

力強く放り投げられたボール。大地の伸ばした手の上を高速で通り抜ける。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 109

桐皇 110

 

 

『うおぉぉぉっ!!! 止まんねえよ!!!』

 

「…くっ!」

 

ボールを拾ってスローワーとなる松永。

 

「…っ」

 

速攻を封じる為、國枝が松永の前でハンズアップをする。

 

「松永!」

 

速攻に走らなかった空がボールを貰いにいく。

 

「ちぃっ!」

 

仕方なく空へボールを渡した。

 

「大地!」

 

フロントコートまでボールを運んだ空は大地にパスをした。

 

「…来いよ」

 

ボールを掴んだ大地の目の前に青峰が立ち塞がった。

 

「(後手にさえならんかったら青峰はんなら止められる。もろたで!)」

 

勝利を確信してほくそ笑む今吉。

 

「…」

 

ボールを下げ、小刻みにステップを踏み、ボールを動かしながら牽制する大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して大地がドライブで仕掛ける。

 

『うぉっ!? はえー!?』

 

「…っ」

 

これに青峰は反応、即座に対応する。その後も左右に高速で切り返しながら揺さぶりをかけていく。

 

『ダメだ、抜けない!』

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

中に切り込んだ所で大地が急停止。これを見て青峰も同時に停止する。

 

「ゾーンに入った綾瀬先輩でもダメなのか…!」

 

抜ける気配のない2人の1ON1を見て竜崎の表情が曇る。

 

「…」

 

次の瞬間、大地はロールしながら青峰の後ろに駆け抜ける。

 

「(こいつは…!)」

 

しかし、青峰はすぐに気付く。大地はロールしながらパスを出した事に。

 

 

――バチィン!!!

 

 

ボールは、大地の左へと移動していた空の下へ。空は大地から出されたボールを手で弾き、リング付近へと飛ばした。

 

「っ!?」

 

高速で出されたタップパス。しかし、そのパスにタイミングを合わせたかのように大地が飛んでおり、伸ばした右手にボールが収まった。

 

「…ちっ!」

 

これを見て舌打ちをしながらブロックに向かう青峰。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

しかし間に合わず。大地がボールをリングに叩きこんだ。

 

 

花月 111

桐皇 110

 

 

『うぉーっ!!! 何だ今の!?』

 

『飛んでもねえ速さの連携だ!!!』

 

高速パスからのアリウープ。観客は歓声を上げた。

 

「空」

 

リングから手を放し、コートに着地した大地はディフェンスに戻りながら空の横に並ぶ。

 

「パスのスピードをもう少し速くして下さい」

 

「悪い、慎重になり過ぎてパスのスピードが遅かった。後、もう数㎝パスも修正する」

 

「お願いします」

 

そんなやり取りをする2人。

 

「(何の話をしとるんや?)」

 

2人の会話が聞こえた天野。意味が理解出来ない訳ではない。もし、聞いた通りの意味であるなら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

変わって桐皇のオフェンス。今吉はやはり早々に青峰にボールを託した。

 

「こんなもんかよ、お前の実力はよ」

 

「…」

 

「俺を倒すんじゃなかったのか?」

 

「…」

 

挑発するかのように尋ねる青峰。しかし、大地は何も答えない。

 

「…ふん、所詮てめえもその程度だったって事か。仲間に頼らなきゃ戦えねえ奴が、俺に勝てると思うなよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう告げるのと同時に青峰が切り込んだ。

 

「…っ」

 

『また青峰が抜いた!!!』

 

一気に加速した青峰は大地の横を一瞬で駆け抜け、そのままリングへと突き進む。

 

「待てや!」

 

「ここは行かせん!」

 

リングに近付くと、天野と松永が待ち受けていた。

 

『これは!?』

 

ここで観客が何かに気付く。

 

 

「罠か!」

 

火神が声を上げる。

 

青峰の前方に天野と松永が待ち受け、大地が後ろから迫り来るこの状況。先程大地は抜かれたのではなく、わざと抜かせたのだ。青峰を追い込む為に。

 

 

リングに向かって飛んだ青峰。

 

「止めたる!」

 

「おぉっ!」

 

ブロックに飛んだ天野と松永がシュートコースを塞ぐ。

 

「…っ」

 

後ろから大地が二の矢の如くブロックに飛んだ。

 

「止めろ!!!」

 

ベンチの菅野が拳を握りながら立ち上がり、叫ぶ。

 

「…無駄だ、てめえら程度で俺が止められるかよ!」

 

ボールを持った右手を目一杯伸ばし、バックボードの裏からボールを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放られたボールはバックボード裏からリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 111

桐皇 112

 

 

『マジか!? バックボードの裏から決めやがった!!!』

 

「てめーにはガッカリだ。てめーは一生俺には勝てねえよ」

 

着地した青峰は鼻を鳴らしながらディフェンスに戻っていった。

 

「…」

 

その言葉に、大地は言い返すでもなく、表情を変える事無く見送った。

 

 

「大地!」

 

ボールを運んだ空がフロントコートに入る直前に大地にボールを渡す。

 

「…来いよ」

 

ドリブルをする大地の先に、青峰が待ち受ける。

 

「…」

 

青峰の射程に入る直前、大地は右へとボールを放った。

 

「(来た!)」

 

パスの先には空。大地はパスと同時にリングに向かって走っていた。

 

「(さっきは連携で意表を突いたから得点に繋がったが、次はあれではダメだ…)」

 

大地に的確かつ正確なパスを届けるのが空の役目。

 

「(大地の最大スピードに合わせたパス。パスのスピード…軌道…ここだ!)」

 

 

――バチィン!!!

 

 

空はボールを右手で弾くようにして叩き、ボールをリング付近へ高速のパスを出した。

 

「っ!?」

 

パスをカットしようと青峰が手を伸ばすも、僅かに届かなかった。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

ボールは大地が伸ばした左手に収まった。

 

 

「っ!?」

 

その時、これを見た観客席の黒子が立ち上がった。

 

「…黒子?」

 

立ち上がって驚愕の表情をしている黒子に対し、火神が声を掛けた。

 

 

「…っ」

 

 

――バス!!!

 

 

空中でボールを受け取った大地はそのままシュートを放ち、バックボードに当てながら得点を決めた。

 

 

花月 113

桐皇 112

 

 

『うおぉぉぉっ!!! またスゲーのが決まった!!!』

 

「…てめえ」

 

着地した大地を睨み付ける青峰。

 

「試合前にあなたを倒すと言った言葉、あれに偽りはありません。ですが、今の私ではあなたにまだ及ばないようです」

 

「…」

 

「ですが、試合まで譲る事は出来ません。私とあなたの勝負はあなたの勝ちでいい。この試合だけは譲れません。私と空で、あなたを倒し、試合に勝ちます」

 

横に並んだ空と共に決意に満ちた表情で告げる大地。

 

「…」

 

その大地の顔から何かを思い出す青峰。

 

「(その目はテツと同じ…、そうか、お前も同じって事かよ…)」

 

かつての自身の相棒と呼べる存在であった黒子テツヤ。仲間と力を合わせる事で無類の力を発揮する幻のシックスマン。その彼と同じ目をしていた。

 

「…」

 

以前の青峰であったなら鼻で一笑して事だろう。

 

「…いいぜ、それがてめえの戦い方ってなら、受けて立ってやる。そんなてめえらも、俺が粉砕してやるよ」

 

不敵な笑みでその言葉を受け、青峰は迎え撃つと返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

続く桐皇のオフェンス…。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

これまで同様、青峰に全てを託し、攻める桐皇。

 

「…っ」

 

大地も青峰を相手に必死に食らいつく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを狙い打った大地を間一髪でバックチェンジでかわす青峰。

 

「っ!?」

 

その時、切り返した青峰のボールに1本の手が迫り来る。

 

「隙ありだぜ!」

 

空が2人の勝負に割って入り、ボールを狙いに行ったのだ。

 

目の前の大地との勝負に熱中していた青峰は空に対する認識が僅かに遅れた。

 

「…っ、舐めんな!」

 

咄嗟に左手に収まったボールを駆使し、ボールを左へと流した。

 

「ナイスパスだぜ青峰!」

 

そこには福山の姿が。咄嗟に青峰はパスで切り替え、対応した。

 

ボールを掴んだ福山はそのままリングに向かってドリブルを開始する。

 

「おぉっ!」

 

リング付近まで進んだ福山はそこからリングに向かって飛んだ。

 

「させません!」

 

その時、リングと福山の間に大地がブロックに現れた。

 

「(マジかよ!? てめえさっきまで青峰の相手してやがったじゃねえか!)」

 

高速でヘルプに現れた大地。その大地が福山を阻む。

 

「(やべー! このままじゃブロックされる。どうする!?)」

 

今のままではブロックされるのは必至。ここでのターンオーバーは命取りになりかねない。その時!

 

「っ!?」

 

福山の視界に青峰の姿が映る。その青峰は指を上に指していた。

 

 

――スッ…。

 

 

その姿を見て福山はリング付近にボールをフワリと浮かせるように放った。

 

「おぉっ!」

 

その姿を見た今吉が思わず声を上げる。

 

空中でボールを右手で掴む青峰。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

掴んだボールをそのままリングに叩きつけた。

 

 

花月 113

桐皇 114

 

 

ドスン! と、コート着地する青峰。

 

『…』

 

静まり返る会場。

 

『……おっ』

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

次の瞬間、会場が大歓声に包まれた。

 

『今度は桐皇だ!!!』

 

『スゲーのが飛び出しやがった!!!』

 

「……ハハッ、あの2人が…」

 

今のを目の当たりした桜井が思わず笑う。

 

高校入学と同時にライバル関係(福山の一方的な)であった2人。決して良いとは言えない2人の関係であったが、そんな2人から飛び出したコンビネーション。

 

「どうよ、ナイスパスだったろ?」

 

「下手くそなパス出しやがって、もう2度とてめえには頼らねえ」

 

「んだと!」

 

いがみ合いながらディフェンスに戻る2人。

 

「大ちゃん…、福山君…」

 

そんな2人を桐皇ベンチの桃井が薄っすら笑みを浮かべて見届けていた。

 

 

「人には散々言っておいて、自分も頼ってんじゃねえか」

 

2人を見てぼやく空。

 

「それだけ向こうも必死と言う事です。…やはり、一筋縄では行きませんね」

 

フゥと一息吐く大地。

 

「だが負けねえ。あんな付け焼き刃の連携じゃねえ、本当のコンビネーションを見せてやろうぜ!」

 

「えぇ、頼りにしてますよ」

 

不敵な笑みを浮かべる空。大地はそれに笑顔で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。やはり空はボールを大地に託す。

 

「…」

 

ボールを受け取った大地はいくつか青峰に対して揺さぶりをかけた後、空にパスを出し、先程同様、パス&ランでリングに向かって走った。

 

「(さっきのパス、パススピードは完璧だったが、パスの軌道が理想のパスから数㎝逸れた。今度こそ完璧に修正する)」

 

自身の理想のパスコースを描き切れなかった空。次こそはと理想のパスコースを割り出し…。

 

 

――バチィン!!!

 

 

「(イメージ通り、今度こそ完璧だ!)」

 

その割り出したコースと寸分も狂いもないパスを贈った。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

リングに付近に送られたパスはそこに伸ばした大地の右手に収まった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

右手に収まったボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 115

桐皇 114

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「っしゃっ!!!」

 

「バッチリです、空!」

 

ハイタッチを交わす空と大地。

 

「…っ」

 

そんな2人を青峰は唇を噛みながら睨み付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…とんでもないな」

 

観客席で試合を観戦している秀徳の斎藤が驚きの表情をしている。

 

「あんな高速のパスに良く合わせられるな」

 

ハイスピードでボールを中継している空。そんな空のパスに平然と合わせる大地に木村が驚きを隠せなかった。

 

「…ちげーよ。確かに綾瀬もスゲーが、1番スゲーのは――」

 

 

「神城?」

 

「はい。神城君は全速の綾瀬君が取れるギリギリのパスを彼の手元に正確に届けています。まさにこれ以上にない、理想のパスです」

 

パスのスペシャリストである黒子が解説する。

 

「極端な事を言えば、綾瀬君はドンピシャで伸ばした手に来たパスに合わせただけです。それも確かに凄いですが、本当に凄いのはその作業だけで済むパスを出した神城君です」

 

通常、アリウープは出されたパスに対して得点を決める者がある程度修正するのだが、空はその修正作業がいらないパスを出しているのだ。

 

「…スゲーな。形はちげーが、秀徳の高尾と緑間のあのスリーみたいなものか」

 

火神が秀徳の2人のスカイ・ダイレクト・スリーと重ね合わせた。

 

「…いえ、あの2人の連携以上よ」

 

火神が口にした言葉に対し、リコが口を挟んだ。

 

「緑間君のスリーはリズムも高さも一定だから、それでも難しい事には違いないけど、正確なパスセンスがあれば練習を積み重ねれば可能よ。けど、今のは高速で…、しかもゾーンに入った青峰君をかわしながら動く綾瀬君に合わせたパス。当然、毎回リズムは違うし高さも変わる。そんな彼に修正作業のいらないパスを届けるのは至難の業よ」

 

『…っ』

 

その解説を聞いて思わず息を飲む誠凛の選手達。

 

「センスと才能だけでは説明出来ないわ。それ以上の何かがあるわ」

 

「…もしかして、ゾーンの2つ目の扉って奴か?」

 

その何かに付いて、池永が知る可能性を口にする。

 

「いや違う。俺もあれについて詳しく知る訳じゃねえが、少なくともそれは違うって断言出来る」

 

かつてその扉を開いた経験がある火神が否定した。

 

「ええ違うわ。恐らくだけどあれは――」

 

 

「分かるのか、赤司?」

 

「恐らくだが、俺の知る限り、2人のあの連携はそれで説明が出来る」

 

尋ねる四条に赤司が答える。

 

「あれは、コンビネーション中でも最高峰に位置する究極のコンビネーション。シンクロ(同調)だ」

 

「シンクロ? シンクロって、水泳でのあれか?」

 

「一般的にはその競技か有名だが、それとは違う。サインはおろか、アイコンタクトすら必要としない、真に信頼し合った者同士で起こり得る奇跡と呼べる究極のコンビネーションだ」

 

『…』

 

赤司の解説を言葉を発する事なく耳を傾ける洛山の選手達。

 

「スピードに長けたあの2人のコンビネーションだ。ゾーンに入った青峰であっても、止める事は不可能に近い。この試合、まだ予断を許さない展開になった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は点の取り合いへと突入した。

 

 

――バス!!!

 

 

青峰が個人技を駆使して得点を決めれば…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空と大地が連携を駆使して得点を決める。

 

互いが得点を決め合い、互いが相手の盾を矛で貫き、逆転を繰り返していく。これの繰り返し。試合はどちらが勝つか、誰にも予想の付かない展開となった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

青峰がフォームレスシュートで得点を決めた。

 

 

第4Q、残り14秒

 

 

花月 119

桐皇 120

 

 

残り時間、14秒を残して桐皇が逆転、リードした。

 

「この1本、絶対決めるぞ! 全員、死ぬ気で足を動かせ!!!」

 

「この1本は絶対死守だ! 死ぬ気で止めろ!!!」

 

両チームの主将が声を張り上げる。

 

「(後の事なんか知らん。この後倒れようとも、しがみ付いてでも止めたる!)」

 

ボールを持つ空に対し、残る力を振り絞る今吉。

 

「止める!」

 

「勝つんだ!」

 

「おぉっ!」

 

福山、桜井、國枝も、目の前の相手を必死にマークしている。

 

「もうてめえには何もさせねえ」

 

「…っ」

 

何とか青峰のマークを振り切ろうとする大地。しかし、青峰がそれを許さない。

 

「…」

 

刻一刻と残り時間なくなっている中、空は冷静にボールをキープしていた。

 

「……フー」

 

一旦、1歩下がり、一息吐いた空。この時点で試合の残り時間は5秒。空いた距離を今吉が潰そうとしたその時…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

空が突如、矢のようなパスをリング付近に出した。

 

「…っ」

 

このパスに向かって大地が走り出した。

 

「っ!?」

 

そんな大地を追いかけようとした青峰だったが、天野のスクリーンが道を阻む。ゾーンに入っている青峰にスクリーンが通じる訳もなく、ロールしながら天野のスクリーンをかわす。…が、これにより加速が遅れ、僅かに大地のマークが外れてしまう。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

ボールが空中の大地の手に収まった。後はこのボールをリングに潜らせるだけ。しかし…。

 

「決めさせっかよ! 勝つのは俺達だ!!!」

 

そこへ、青峰が現れ、大地を阻んだ。

 

「良く追い付いた青峰!」

 

これを見て福山が拳を握る。

 

 

「青峰っちのアジリティが勝った!」

 

黄瀬が前のめりになった。

 

 

「(空がくれた最高のパス。これを決めない訳にはいかない!)…おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

大地はフックシュートのような体勢で強引にボールを放つ。同時に大地と青峰がもつれるような形となった。

 

「ファールや!」

 

思わず天野がアピールするも、審判は笛を吹かない。ノーファールとジャッジした。

 

「っ!?」

 

ボールはリングに向かって飛んでいく。

 

 

――ガガン!!!

 

 

ボールは数度リングの上を跳ねる。

 

『決まってくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』

 

コート上の花月の選手達。ベンチに座る花月の選手達が立ち上がりながらボールの行方にに願いを込める。

 

ボールはクルリとリングの縁を1周し、転がり落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――リングの…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――外側に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(勝った!)』

 

勝利を確信する桐皇の選手達。

 

「(俺達の勝ちだ!)」

 

同様に勝利を確信する青峰。今のボール。実は青峰の指先に僅かに触れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――紙一重で桐皇が再び逃げ切った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

次の瞬間、青峰の目が大きく見開いた。その視線の先、リングの外に零れ落ちようとしているボールに飛びこむ1人の姿が映ったからだ。

 

『神城!?』

 

それは空。空がボールに向かって右手を伸ばしていた。

 

「入ってろぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――ポン…。

 

 

ボールを右手でタップし、押し込む。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

タップされたボールはリングの中へと押し込まれた。

 

 

『ピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が長い笛を吹いた。

 

空がボールに触れたのと試合終了のブザーが鳴ったのはほぼ同時。試合の勝敗は審判のジャッジに委ねられた。

 

『…っ』

 

会場にいる全ての者が審判の一挙手一投足に注目する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――審判は右手を上げ、人差し指と中指の2本の指を立てると、その2本の指を降ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間、花月と桐皇による、大激闘の幕が、降ろされたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





と言う訳で、決着です。少々呆気ない結末かもしれませんが、自分に考え得る展開に出来たと思います…(^_^)/

正直、メインキャラ以外を生かせず、掘り下げられなかった無念はあります。この先はもっと全員を生かせる試合展開に出来たらと思います…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第173Q~エースの在り方~


投稿します!

朝が肌寒くなってきましたね…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

審判の吹く長い笛と、その直後に降ろされた2本の指と共に長い激闘に幕を下ろされた。

 

 

試合終了

 

 

花月 121

桐皇 120

 

 

空が右手の拳をそっと突き上げると…。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

静まり返っていた会場が観客の大歓声によって割れんばかりに包まれた。

 

「空坊!!!」

 

「くー!!!」

 

そんな空に天野と生嶋が飛び付くように抱き着いた。

 

「神城ぉぉぉっ!!!」

 

「うわぁぁぁぁっ!!!」

 

ベンチから飛び出した菅野と帆足も空に抱き着いた。

 

「勝った! 勝った!」

 

「おう!」

 

ベンチでは竜崎と室井が抱き合っていた。

 

「うぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

松永が咆哮を上げながら喜びを露にした。

 

「やった! 勝ったよ姫ちゃん!」

 

「うん! 皆、おめでとう…!」

 

相川は涙を浮かべながら歓喜して姫川に抱き着き、姫川は涙を流しながら祝福した。

 

「勝った…」

 

茫然とリングを見つめる大地。

 

「勝ったぞ大地! リベンジ達成だ! …っておい、大地!?」

 

大地の下に駆け寄った空。その時、大地の異変に気付いた。

 

「お前、血が出てんぞ!?」

 

「…えっ?」

 

指摘されて大地が額に触れる。触れた手に自身の血が付着していた。

 

「…っと、どうやら、傷口が開いてしまったようですね」

 

当の本人は他人事のように呟いていた。

 

「綾瀬、はよ手当し直した方がええで」

 

「…はい。もちろんです。ですが、その前に整列です」

 

天野の心配を他所に大地が得点掲示板に視線を向ける。そこには121-120のスコアが表示されている。

 

「勝った…!」

 

そして、喜びを噛みしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

対して、桐皇の選手達は皆茫然としていた。

 

「…くっ!」

 

桜井は両膝に手を付きながら悔しさを堪えている。

 

「負けた…」

 

茫然と呟く今吉。その瞳から涙が溢れていた。

 

「くそっ!」

 

國枝は自身の不甲斐なさに腹を立て、自身の足を叩いている。

 

「ちくしょぉぉぉぉぉっ!!!」

 

福山は大粒の涙を流しながら絶叫していた。

 

「…負けた?」

 

青峰は茫然と呟く。

 

「…そうか、負けたのか」

 

現実を受け入れたかのように再度呟いた。

 

試合は最後の花月の放ったシュートを青峰がブロックに行き、そのブロックがボールに触れ、そのシュートは外れた。ここまでは去年と同じであった。違うのは、外れるはずだったボールを空が押し込んだ事だ。

 

「……そうか」

 

ここで青峰は何かを思い出し、理解した。

 

一昨年のウィンターカップ。最後は火神のリバウンドダンクをブロックしたが、その直後の黒子のパスからのアリウープで敗退した。

 

頼れる相棒の存在によって青峰は負けた。それは青峰がかつて捨ててしまったものだ。

 

「(結局俺は、てめえで捨てちまったものに負けたって事か…)」

 

 

――俺に勝てるのは俺だけだ…。

 

 

そう考え、仲間に頼る事を止めたかつての自分。そんな自分を打ち負かされた事で、仲間と力を合わせる事の大事さを取り戻した。…だが、頼れる相棒の存在だけは取り戻す事は出来なかった。

 

「…っ」

 

悔しさを噛みしめながら天を仰ぎ、拳をきつく握った青峰だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「121対120で花月高校の勝ち! 礼!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内に集まった両校の選手達が整列をし、礼をした。

 

「強かったぜ、お前ら」

 

「お前もや。キセキの世代以外でここまでやられる思わんかったわ」

 

「…絶対優勝しろよ」

 

天野と福山が握手を交わす。

 

「…おめでとうございます」

 

「試合には勝ったけど、今日はあなたにほとんど仕事をさせてもらえませんでした。そこは悔しいです」

 

「当然です。…だって僕の方が上手いんだから」

 

「いや、僕の方が…」

 

どちらが上か、言い合いながら生嶋と桜井が握手を交わす。

 

「完敗です。試合も、個人でも…」

 

「容易な相手ではなかった。来年にはどうなるか分からん。少なくとも、去年の俺ならば勝てなかったかもしれない」

 

「そう言ってもらえると、少しは救われます。…来年こそ、試合でも個人でも勝たせてもらいます」

 

「楽しみに待っているぞ」

 

松永と國枝が握手を交わす。

 

「…ホンマ、たった1年でつよーなり過ぎやで」

 

「お前も去年と比較ならないくらいやり辛かったぜ」

 

「…あないボコボコしといてそれ言われても嫌味にしか聞こえんで。…ほな、ワシら分まで勝ってや」

 

「おう!」

 

空と今吉が握手を交わす。

 

「…」

 

「…」

 

無言で見つめ合う大地と青峰。

 

「昨年の敗北から…」

 

大地が先に口を開いた。

 

「あなたに勝つ為に死に物狂いで努力してきたつもりでした。ですが、それでもあなたには追い付く事は出来なかった…」

 

「…」

 

「完敗です。あなたと戦えて良かったです」

 

そう言って、大地は右手を差し出し、握手を求めた。

 

「…バカが、俺がどれだけてめえに勝っても、試合に勝てなきゃ意味ねえんだよ」

 

そんな大地を青峰は鼻で一笑した。

 

「っ!?」

 

青峰は大地の首に腕を回し、自身に引き寄せた。

 

「俺達に勝ったんだ。無様に負けでもしたらぶっ殺すからな」

 

耳元でそう言い、腕を放した。

 

「強かったぜ、お前ら」

 

ニコッとそう言い残し、青峰はベンチへと戻っていった。

 

「ホント、キセキの世代は化け物揃いだな」

 

大地が振り返ると、そこには空が立っていた。

 

「空…」

 

「これからも試合は続く。意地でも優勝してやろうぜ」

 

「そうですね」

 

2人は、青峰の背中を見つめながら改めて誓い合ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

荷物を纏め、ベンチから引き揚げ、通路を歩く桐皇の選手達。

 

『…』

 

試合に敗北した選手達の表情は一様に暗かった。

 

「…さつき」

 

「なに?」

 

通路を歩く道中、青峰が横を歩く桃井に話しかけた。

 

「もう…、終わりなんだよな」

 

「……うん」

 

青峰の囁くような問いに、桃井がそっと頷いた。

 

「…1度も頂点には立てなかった。結局俺は、チームを優勝させられなかった」

 

「大ちゃん…!」

 

悲痛な表情で言う青峰を見て桃井の瞳から再び涙が溢れて来る。

 

「…青峰!」

 

その時、福山が青峰の肩に手を置いた。

 

「…お前とは色々あった。楽しい事ばかりじゃなかった。それでも、俺はお前と3年間バスケが出来て良かった」

 

「…」

 

「ありがとよ」

 

そう言い、福山は青峰の前を歩いて行った。

 

「……気持ちわりーんだよ」

 

そんな福山に対し、青峰は聞こえるか聞こえないかの声で悪態を吐いた。

 

「グスッ! 青峰…さん。僕、青峰さんと、一緒にバスケ出来て…良かったです…!」

 

涙を流しながら桜井が青峰に感謝の言葉を伝えた。

 

その後も青峰と苦楽を共にしたチームメイトが次々と青峰に声を掛け、感謝の言葉を告げていった。

 

「青峰君」

 

次に監督の原澤が声を掛けた。

 

「あなたのこの桐皇での3年間は、これから先、あなたのバスケ人生にきっと良い影響を与えてくれるでしょう」

 

「…」

 

「桐皇に来てくれて、桐皇を選んでくれて、ありがとうございました」

 

そう最後を締めくくった。

 

「…次から次へと…、鬱陶しいんだよ」

 

そんなチームメイト達にも悪態を吐く青峰。

 

「……俺も、もっと、お前らと…!」

 

身体を震わせながら皆に聞こえないようにそう絞り出した青峰。その瞳からは、涙が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「桐皇が負けたか…」

 

観客席の火神がコートから去った桐皇の選手達を見送りながら呟いた。

 

「決して番狂わせと呼べる試合ではないわ。去年から見て分かっていると思うけど、花月は優勝を狙えるだけのポテンシャルを持ったチームよ。この勝利は、決して奇跡ではないわ」

 

リコがこの試合をそう締めくくる。

 

「さあ皆! これから試合が控えているのよ。準備を始めるわよ!」

 

そう指示を出し、選手達は動き出す。

 

「あー、これから試合かー」

 

肩を動かしながら移動を開始する池永。

 

「おめでとう、神城、綾瀬」

 

試合の勝利を祝福する田仲。

 

「…」

 

選手達が移動を開始する中、黒子だけがその場でコートを去ろうとする桐皇の選手達…その中の1人に視線を向けていた。

 

「青峰君…」

 

かつてのチームメイトであり、自身の光と呼べる存在であった青峰。そんな彼の敗北を悲痛な表情で見つめる黒子。

 

「黒子」

 

そんな黒子に気付いた火神が声を掛ける。

 

「気持ちは察する。だが――」

 

「分かっています」

 

火神の声掛けに、黒子は遮るように言葉を挟んだ。

 

「まだ僕達の戦いは終わってません。試合までには必ず気持ちを切り替えますから」

 

「……それなら良い」

 

そう言い残し、火神はリコ達の後に続いた。

 

「…」

 

青峰がコートから去るまで見つめた黒子は、チームメイトの後を追ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「桐皇が消えたか…」

 

試合結果を見て、赤司がそう感想を呟く。

 

「今年の桐皇も、オフェンス力なら今大会ナンバーワン筆頭と呼べるチームだった…」

 

「そんな桐皇を相手に点の取り合いで勝利した花月。こりゃ、ぶつかったらまた激戦になりそうだな」

 

洛山の選手達も各々感想を言い合っていた。

 

「試合を控えている。移動を開始するぞ」

 

立ち上がった赤司が選手達にそう促した。

 

「各自、準備はしっかり行え。決して驕る事も侮る事なく試合に臨め。…勝負に、絶対等ないのだからな」

 

そう選手達に告げ、赤司はその場を後にしていった。

 

「…まさか、赤司からそんな言葉が聞けるなんてな」

 

そう四条が呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、後の試合が行われた。

 

「らぁっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

誠凛の試合。火神の代名詞とも言えるダンクが炸裂する。

 

それぞれが連携及び個人技を駆使して相手チームを圧倒。交代策を駆使し、完勝した。

 

 

「…フッ」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

緑間のスリーが決まる。

 

秀徳の試合。高尾が巧みにゲームメイクをし、緑間以外の選手達も得点を重ねていく。

 

安定したゲーム運び秀徳が試合に勝利した。

 

 

「はぁ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

黄瀬のワンハンドダンクが炸裂。黄瀬が圧倒的な存在感で相手チームを圧倒。

 

「フン!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

三枝もブロックを連発。インサイドを制圧し、試合を支配。

 

圧倒的な強さで海常が試合に勝利した。

 

 

「させないし」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

紫原が相手のジャンプショットを叩き落とす。

 

圧倒的な存在感で紫原が相手チームのシュートをブロックし、相手のオフェンスを無効化する。

 

「ソレ!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

アンリもその身体能力を駆使して攻守に渡って活躍。

 

陽泉も、絶対的な守備力で相手チームを圧倒し、試合に勝利した。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

赤司からパスを受けた二宮がジャンプショットを決めた。

 

洛山は赤司による完璧なゲームメイクで攻守において安定かつ圧倒的な支配力で試合を進める。

 

第1Qが終わった時点で赤司はベンチに下がり、その後も時間を置いてスタメン選手達がベンチへと下がっていく。第4Q開始時点ではスタメン全員がベンチに下がっていたが、それでも開闢の帝王。ベンチメンバーも層が厚く、リードを保って試合を終わらせた。

 

こうして2回戦が終わり、桐皇学園高校がその姿を消した。

 

他のキセキを擁するチームは危なげなく勝利し、その日は終えた。そして、翌日、3回戦を迎えるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日、ウィンターカップ3回戦…。

 

「っしゃっ!!! 行くぞ!!!」

 

気合いの入る空を先頭に、花月の選手達がコート入りをする。先日の大激戦を終えたばかりだが、大会はまだ終わりではない。戦いが終われば次の戦いが待ち受けている。

 

「やかまし! 聞こえとるわ!」

 

そんな空に対し、げんなりした表情で怒鳴り返す天野。

 

「もうすぐ試合が始まるんだから気合いが入るのは当然!」

 

対して空は気にする素振りは見せず…。

 

「と言う訳で、大地、お前は今日お休みな」

 

「分かっていますよ。…それより、何でそんな嬉しそうなんですか…」

 

苦笑する大地。

 

大地は昨日の試合での怪我の影響で今日の試合はスタメンから外された。決して深い傷ではないのだが、大事を取って上杉からベンチスタートを命じられた。

 

「インターハイの時は俺が欠場した試合でお前は大活躍したんだから、次は俺の番だ。俺の時はベンチにも座らせてくれなかったからな」

 

夏を思い出して鼻を鳴らす空。

 

「落ち着け馬鹿者」

 

「あいた!」

 

はしゃぐ空の頭を叩いた上杉。

 

「皆、良く聞け。昨日話した通り、今日の試合、綾瀬はベンチスタートだ。展開次第で出場させるが、それでも第3Q中盤以降のつもりだ。そのつもりでいろ」

 

『はい!!!』

 

「スタメンは、神城。生嶋。松永。天野。室井の5人だ。3番(スモールフォワード)に松永。5番(センター)に室井。後はいつものポジションに入れ」

 

「大役だぜ。頑張れよ」

 

「あぁ」

 

スタメンに抜擢された室井に竜崎が激励する。

 

「室井。お前のスタメン起用は今後を見据えての選択だ。しっかり勉強してこい」

 

「はい!」

 

花月のバックアップセンターを任されている室井。キャリアの薄さで過去に幾度となく煮え湯を飲まれた場面があった。そんな室井の成長を促す為のスタメン抜擢であった。

 

「今日の相手は大仁田高校だ。去年、辛くも勝利を収めた相手だ。当然、今大会…ひいては今日の試合に賭ける思いは大きい。昨日の試合の勝利に浮かれたままで勝てる相手ではない」

 

『…』

 

「決して驕る事無く試合に臨め。いいな」

 

『はい!!!』

 

「よし、それでは行って来い!」

 

「っしゃっ!!! 花月ーファイ!!!」

 

『おー!!!』

 

空が先頭で号令を発し、後ろに続く花月のスタメンに選ばれた4人が応えながら5人はコートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

場所は変わって誠凛の選手達がいる控室。

 

「盛り上がってんなー」

 

柔軟運動をする池永。控室にまで届いた歓声に反応する。

 

「今コートで試合してるのは花月と大仁田か…」

 

対戦表を思い出す新海。

 

「大仁田結構つえーからな。負けてっかもな」

 

ケラケラと笑いながら言う池永。

 

「…」

 

試合に向けて黙々と準備をする田仲。

 

「いつもみたいに池永を注意しないの?」

 

かつてのチームメイトいる花月に対しての悪態に何も口出ししない田仲に尋ねる朝日奈。

 

「いつもの事だからね。あいつがああ言う時はむしろ勝って欲しいって思ってる時しかないって事は理解したよ」

 

かれこれ2年近くの付き合いとなる池永。その池永の性格をいい加減理解してきた田仲。

 

「あなた達ねぇ、もうすぐ試合なのよ? 雑談は控えてしっかり準備しなさい」

 

気が緩んでいると思われる誠凛の選手達を見てリコが注意する。

 

「監督、花月と大仁田の試合、どうなってますかね?」

 

それでも試合の行方が心配な田仲がリコに尋ねた。

 

「そうねぇ…」

 

尋ねられたリコは顎に手を当てて予想をする。

 

「花月は神城君を筆頭に機動力を駆使してラン&ガンで速い展開で点を取りに行くチーム。対して大仁田はボール回し主体のディレイドオフェンスを得意とするチーム。はっきり言って花月にとって相性は悪いチームよ。去年もギリギリの勝利だったし」

 

『…』

 

「大仁田は去年のリベンジに燃えて士気は恐らく高い。対して花月は昨日の試合で去年の敗北の雪辱を果たしている。どんなに気を引き締めていても何処か緩んでいると思うわ。うちもかつてそうだったもの」

 

一昨年のウィンターカップ。誠凛はその年のインターハイの東京都の決勝リーグで大敗を喫した桐皇を相手に勝利した翌日の試合。雪辱を果たした事による気の緩みによって苦戦を強いられた過去があった事を話す。

 

「それと、事前情報で綾瀬君はベンチスタートと言う話だわ。多分、昨日の負傷の事で様子を見ての事。対して、大仁田は去年の唯一の弱点であったエースが加入しているわ」

 

『…』

 

「それらを考慮しても花月が優勢だと思うけど、番狂わせが起こる可能性は、充分あると思うわ」

 

「……そうですか」

 

リコの予想を聞いて気落ちする田仲。

 

「心配いらねえよ」

 

その時、話を黙って聞いていた火神が口を開いた。

 

「あの桐皇に勝ったチームだ。例え相性が悪かろうとエースが不在だろうと負けるチームじゃねえよ」

 

そう言って、田仲の肩に手を置いた。

 

「火神さん…」

 

「コートに行けば全て分かるんだ。それまで楽しみにしとけ。今は試合に向けてしっかり準備しておけ」

 

「…っ、はい!」

 

火神の言葉に返事をする田仲。

 

「大差付けられたりしてな」

 

「お前はもう黙ってろ…」

 

茶々を入れる池永。新海は呆れながら諫めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

場所は変わり、コートへと向かう通路…。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「おっ? 会場はスゲー盛り上がってんな」

 

通路を歩く秀徳の選手達。その中の高尾がコートの会場から届く歓声に感想を漏らす。

 

「今コートでは花月と大仁田が試合をしてるのか…」

 

「花月にとっては相性最悪の相手だな」

 

「確か、花月は綾瀬がベンチスタートって話だったな」

 

コートへと足を進めながら秀徳の選手達が会話をする。

 

「無駄口を叩くな。すぐに試合だ。全員、気を引き締めるのだよ」

 

会話に弾むチームメイトを主将である緑間が諫める。秀徳は緑間を先頭にコートのあるフロアへと足を踏み入れた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

秀徳の選手がコートのあるフロアに足を踏み入れると、再び歓声がコート中を包み込んだ。

 

「やってんな。さてさて、試合はどうなってるか――っ!? おいおい、マジかよ…」

 

得点が表示されている電光掲示板を目にした高尾が驚きの表情を見せる。

 

 

第4Q、残り4分15秒

 

 

花月  83

大仁田 48

 

 

「35点差…、随分開いたな…」

 

試合終盤、もはや覆す事もほぼ不可能まで開いて点差を見て斎藤が表情を強張らせる。

 

「去年は1点差でギリギリ逃げ切ったんでしたよね…」

 

これを見て木村も驚く。

 

相性が悪いと言われている相手、それもエース不在でこの点差なのだから秀徳の選手達は驚きを隠せなかった。

 

「試合はどんな感じなんだ?」

 

偵察に行かせていた部員に高尾が尋ねる。

 

「とにかく神城が凄いの一言です」

 

偵察班から出た感想はこれだった。

 

「スコアシートを見せてくれ」

 

緑間が偵察班が付けていたスコアシートに視線を移す。

 

「……ほう」

 

「どれどれ……うはっ! スゲーなマジかよ…」

 

横からスコアシートを除きこんだ今現在の空の成績を見て空の高尾が思わず吹き出し、苦笑する。

 

 

――得点33、リバウンド2、アシスト18、スティール14、ブロック3。

 

 

これが空がここまでで叩きだしたスタッツであった。

 

 

――ピッ!

 

 

大仁田が得意のパスワークでチャンスを窺う。

 

「来たぞ! 各自、自分のマークをしっかりチェックしろ! 声掛け忘れんな!」

 

パスワークが始まると同時に空が檄を飛ばす。

 

時間を使ってボールを回し、得点チャンスを窺う大仁田。花月の選手達は各々のマッチアップ相手をきっちりマークし、シュートチャンスを作らせない。

 

 

「おーおー、去年あれだけ苦しんだあのパスワークにしっかり対応してやがる」

 

大仁田の代名詞のパスワークに対応する花月を見て感心する高尾。

 

「形は違えど、花月は夏に洛山の高速のパスワークを経験し、曲がりなりにも止めている。今更動揺したりはしないだろう」

 

広い視野とパスセンスによるものと、あらかじめ決められたパターンで動くと言うちがいはあれど、花月は夏に高速のパスワークを経験しており、その甲斐もあって対応が出来ていると断ずる緑間。

 

 

「よう。来いよ」

 

ボールが大仁田の1年生エース、伊達に渡ると、空が目の前に立ち塞がる。大地がいない花月はエースのマークは空に一任されていた。

 

「…っ」

 

空が目の前に現れると、伊達の表情が強張る。今日の試合、空の徹底マークを受けた伊達のここまでの得点は僅か2点。それも、フリースローによるものだ。

 

ボールを小刻みに動かし、ステップを踏みながら隙を窺う伊達だったが、空は隙を見せる事無くディフェンスをしている。

 

「伊達、時間がないぞ!」

 

シュートクロックが残り僅かに迫り、チームメイトが声を掛ける。

 

「…くそっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

仕掛けるチャンスが訪れず、仕方なく伊達が仕掛ける。

 

「行かせねえぜ!」

 

切り込んだ伊達にピタリと追いかける空。

 

「(ダメだ、抜けない!)」

 

幾度か左右に切り返してかわそうとするも空を一向に振り切れない。

 

「…くっ!」

 

空を抜く事を諦めた伊達はボールを掴み、フェイダウェイで後ろに飛びながら素早くジャンプショット放とうとする。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、頭上にリフトしようとしたボールを空が叩き落した。

 

「(速…過ぎる!)」

 

ジャンプショットどころかシュート体勢にも入らせてもらえず、一瞬で距離を潰した空の瞬発力に伊達は声も出なかった。

 

「速攻!」

 

すかさずルーズボールを抑えた空がそのまま先頭で速攻に走る。

 

「も、戻れ!」

 

慌てて声を出しながらディフェンスに戻る大仁田の選手達。

 

「…っ!?」

 

先頭の空を追いかける伊達が絶望する。ドリブルを空に追い付く所かグングン距離を離されているからだ。

 

 

――バス!!!

 

 

誰にも追い付かれる事無く空がそのままレイアップを決めた。

 

『…っ』

 

大仁田の選手達の表情が険しくなる。オフェンスは得意のパスワークは対応され、得点に繋がらず、頼みの伊達も空に抑えられている。ディフェンスは空を止められない。かつて空を翻弄したトラップディフェンスは罠にかかる前にノーマークの選手にパスを捌かれてしまうか、罠を食い破ってそのまま自ら決めてしまうかで全く機能していなかった。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

膝に手を付きながら肩で息をする伊達。その表情はもう戦意を失っていた。中学での実績を買われ、栃木の強豪、大仁田にスカウトされ、1年生ながらエースと言う大役を任された伊達。しかし、インターハイでは陽泉相手に何も出来ず、今日も空を相手に完全に抑えられている。

 

「…っ」

 

もはや考える事は早く試合が終わってほしい。一刻も早くコートから立ち去りたい。それだけであった。

 

「…随分としけた面してんな」

 

そんな伊達に空が話しかける。

 

「如何にももう諦めましたって言わんばかりの顔だな」

 

「…っ」

 

胸中を読まれた伊達は動揺する。

 

「良いのか? 諦めちまって…」

 

「…」

 

「お前の先輩達は、まだ試合を投げ出しちゃいないぜ?」

 

「…えっ?」

 

その言葉を聞いて伊達が周囲を窺う。

 

「ハンズアップ! ハンズアップ!」

 

「声出せ! 声掛け忘れるな!」

 

選手同士、檄を飛ばし合う大仁田の選手達。もはや勝敗は決した言っても過言ではない。それでも未だ戦意は失われていなかった。

 

「他の奴らは誰1人下を向いていない。なのに、エースのお前が真っ先に試合を投げ出すのか?」

 

「っ!?」

 

その言葉に伊達の表情が強張る。

 

「先輩達…」

 

誰1人として顔を下げず、前を向いている伊達の先輩達。

 

「…っ」

 

それを目の当たりにした伊達の表情に再び戦意が溢れだした。

 

「下さい!」

 

伊達がボールを要求する。

 

「頼む!」

 

すかさずそこへパスを出した。

 

「…」

 

「(…いいね、どうやらやる気を取り戻したみたいだな)」

 

吹っ切れた伊達の表情を見てほくそ笑む空。

 

「おぉっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

咆哮と共に伊達が一気に加速、仕掛ける。

 

「…あの10番(伊達)、ここに来てスピードとキレが戻りやがった!」

 

先程までと様子が違う伊達に気付くベンチの菅野。

 

「(いや、戻っただけじゃない、むしろ…)」

 

大地も変化した伊達の姿に気付く。

 

そのままリングに向かって突き進み、リングに向かって飛んだ。

 

「やる気出してくれて何よりだ。…だがな、点までプレゼントしてやるほど、こっちもお人好しじゃないぜ!」

 

伊達がシュート体勢に入ると、すぐさま空がブロックに現れ、シュートコースを塞いだ。

 

「(っ!? やっぱり俺ではこの人から点は取れない…!)」

 

改めて力の差を痛感する伊達。

 

「(点が取れないなら!)」

 

ここで伊達はボールを下げ、シュートを中断。パスに切り替えた。

 

「キャプテン、打てます!」

 

「…っ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

言われるがまま、ジャンプショットを決めた。

 

「ディフェンス、1本止めましょう!」

 

ディフェンスに戻りながら伊達が檄を飛ばす。

 

『伊達…』

 

そんな伊達の姿に心を揺り動かされる大仁田の選手達。確かに今の時点で戦意は失っていなかった。だがそれは、ユニフォームを着て試合に出場している事の義務感と高校最後の試合を後悔する形で終わらせたくないと言う感情によるもの。勝利は既に諦めていた。

 

「……フッ、うちのエースがまだ頑張っているんだ。残り時間、一泡吹かせてやろうぜ」

 

『おう!!!』

 

エースの伊達に感化された大仁田の選手達の闘志に火が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「させるか!」

 

「っ!?」

 

伊達が竜崎のシュートをブロックする。

 

大仁田の選手達の動きが変わった。オフェンスでは代名詞であるパスワークに加え、ポジション関係なくスクリーン等を駆使してチャンスを作る。

 

「頼みます!」

 

エースの伊達も、自ら得点出来ないまでもスクリーンやアシストを駆使して得点を演出していた。

 

『良いぞ大仁田!』

 

『最後まで頑張れ!』

 

当初は結果の見えた試合に感心を失っていた観客だったが、いつしかその奮闘する姿を見て観客が大仁田の選手達にエールを贈っていた。

 

 

第4Q、残り7秒。

 

 

花月  90

大仁田 58

 

 

ボールは伊達が保持している。この試合、最後となるプレー。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

伊達が仕掛ける。

 

「行かせ――」

 

追いかけようとする空。しかし、そこには大仁田が仕掛けたスクリーンが。

 

「あめー、そんなのに俺が――っ!?」

 

スクリーンをかわす空だったが、かわした先にさらにスクリーンがあり、かからないまでも減速してしまう。

 

『決めろ、伊達!!!』

 

「おぉっ!」

 

ラストプレー、伊達がボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「させん!」

 

そこへ、松永がヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。

 

「…っ」

 

 

――スッ…。

 

 

伊達はボールを下げ、松永のブロックを掻い潜る。

 

 

――バス!!!

 

 

掻い潜った後に再度ボールを放り、ダブルクラッチで得点を決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴り、試合が終了した。

 

 

試合終了

 

 

花月  90

大仁田 60

 

 

「っしゃっ!!! 準々決勝進出だ!!!」

 

ベンチで菅野が歓喜の声を上げる。他の選手達やマネージャーも勝利を喜び、上杉は頷いていた。

 

「やった!」

 

「おう」

 

生嶋と松永がハイタッチを交わす。

 

「よーやった!」

 

「はい!」

 

天野が竜崎の背中を叩きながら労い、室井は静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

整列が終わり、両校の選手達がベンチへと戻っていく。

 

「あの!」

 

「ん?」

 

その時、大仁田の伊達が空に話しかけた。

 

「ありがとうございました!」

 

空の前に立った伊達は空に頭を下げながら感謝の言葉を述べた。

 

「神城さんが発破をかけてくれなかったから、俺、試合を投げ出してました。あの時、早く試合を終わらせてこの場から去りたい。それしか考えてませんでした」

 

「…」

 

「あそこで試合を投げ出してたら、一生後悔してたと思います。だから、ありがとうございました」

 

「俺はただ、戦う気がなくなった奴と試合したって面白くないから喝を入れてやっただけだよ」

 

感謝の言葉をかける伊達に対し、空は気恥ずかし気にしながら手をフリフリさせた。

 

「……エースで1番大事なのは、最後まで諦めないで戦い抜く事。そう思ってる」

 

「…」

 

「お前は最後まで諦めず、俺達に立ち向かった。それがチームに勢いと力を与えた。エースってのは、そうでなくちゃな。今日のお前や、うちのエースみたいにな。もっとも、今日は出番なかったけどな」

 

親指でベンチにいる大地を指差しながらニコッと笑う空。

 

「それが綾瀬さんなんですね。出来れば戦いたかったな」

 

儚げな表情で大地を見つめる伊達。

 

「次は一泡だけじゃない、勝ってみせます。今日はありがとうございました!」

 

「おう! 楽しみにしてるぜ」

 

そう言葉を交わし、2人は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お疲れ様です」

 

ベンチに戻った空に、大地がタオルを渡しながら労う。

 

「今日の試合、お前の出番がなかったな。ざまーみろ」

 

ケラケラと笑う空。

 

「何で嬉しそうなんですか…。どのみち、私は今日の試合を出るつもりなければ、出る展開にもならないと、そう思ってましたよ」

 

「何で?」

 

「それは、コートには頼れる司令塔がいるからですよ」

 

薄っすら笑みを浮かべながら言う大地。

 

「……サンキュ」

 

タオルで顔の汗を拭い、照れ隠しをする空。

 

「これで3つ目だ。頂点まで後3つだ。一気に突っ走るぞ」

 

「はい!」

 

2人は拳をコツンと突き合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――花月高校、3回戦突破…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月高校と大仁田高校の試合が終わり、次の試合が始まろうとしている。

 

「全員、準備は出来ているな?」

 

緑間が選手達に問いかける。

 

「当然っしょ。皆いつでも戦えるぜ」

 

高尾がその言葉に応えると、選手達も一様に真剣な表情で頷いていた。

 

「ならばいい。油断も驕りも慢心も全て捨て、コートに入る。では行くぞ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「皆、行くッスよ!」

 

黄瀬が選手達に声を掛ける。

 

「ワシにとっては最初で最後のウィンターカップじゃ。必ず勝つぞ!」

 

気合いの籠った声で三枝が返事をする。

 

「俺達や先輩達の悲願、今度こそ必ず達成する。行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月が無事3回戦を突破を果たした。

 

次にコートではこの日1番の目玉の対戦カードが行われる。

 

 

 秀徳高校 × 海常高校

 

 

歴戦の王者と青の精鋭が、ここに激突する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





と言う訳で、一気に花月の3回戦は終わりです。久しぶりに執筆が進み、この二次1番の文章量ながら週1投稿です…(^_^)/

そろそろ花月以外のキセキの世代同士の激突が始まりますが、メインが花月である為、どうしても描写は薄くなるかもですが、最後の大会なので、出来るだけ描写出来たらと思います。また、ネタ集めの為、投稿が空くかも…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第174Q~老獪~


投稿します!

緑間と言う選手をぶっ壊す…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

『待ってました!!!』

 

『今日はこの試合を見に来たんだ!』

 

コートにこれより始まるチームの選手達が足を踏み入れると、観客のボルテージが上がった。

 

 

秀徳高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:緑間真太郎 197㎝

 

5番PG:高尾和成  178㎝

 

6番SG:斎藤宏   180㎝

 

7番 C:戸塚徳親  193㎝

 

8番PF:木村孝介  192㎝

 

 

海常高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:黄瀬涼太 193㎝

 

5番SG:氏原晴喜 182㎝

 

8番PG:小牧拓馬 178㎝

 

10番PF:末広一也 194㎝

 

12番 C:三枝海  199㎝

 

 

「これより、秀徳高校対海常高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

センターサークル内に両校のスタメン選手達が整列した。

 

「2年前のリベンジッスよ、緑間っち」

 

「…あの時言ったはずだ。勝負はお預けだと」

 

両校の主将である緑間と黄瀬が前に出る。

 

「あの時とは違うッスよ。何てったって、今日の試合は俺がいるッスからね」

 

「関係ない。お前がいようと、返り討ちにするだけなのだよ」

 

互いに宣戦布告をし合う2人。その後、フッと笑みを浮かべた2人は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「間に合ったな」

 

ちょうどその時、会場の観客席に青峰が現れた。

 

「もう、もう少し早く来れば花月の試合も見られたのに…」

 

青峰に対し、唇を尖らせながら抗議する桃井。

 

「見る必要ねえだろ。俺達勝った奴らが大仁田程度に負けるかよ」

 

抗議を受けても意にも返さない青峰。

 

「…」

 

コート上では今まさにティップオフが行われようとしており、青峰は無言で2人の対決を見守り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

整列が終わり、両校のジャンパーを残して選手達が周囲に散らばる。

 

「…」

 

「…」

 

秀徳のジャンパー戸塚と海常のジャンパー三枝が睨み合うように対峙する。

 

「…」

 

審判が両者の間に入り、ジャンパーの2人にそれぞれ視線を向け、ボールを構え、そして高く上げられた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

ティップオフと同時にジャンパーの2人が同時にボールに飛び付く。

 

「(…くっ! 高い!)」

 

「ほれ!」

 

身長で勝る三枝が戸塚より高い位置でボールを叩き、ジャンプボールを制した。

 

「さすが海さん! 1本、行きましょう!」

 

ボールを掴んだ小牧が指を1本立て、ゲームメイクを始める。

 

試合は、海常ボールでスタートした。

 

「ナンバーコール! 4番(黄瀬)!」

 

「あいよ、8番(小牧)!」

 

「5番(氏原)!」

 

「10番(末広)!」

 

「12番(三枝)!」

 

緑間の号令と同時に秀徳の選手達が各々がマークするべく選手達の背番号をコールする。

 

 

「マンツーマンか…」

 

秀徳の各選手がマークを請け負う姿を見て呟く青峰。

 

海常には三枝と言う絶対的なインサイドプレーヤーがいる。その為、ゾーンディフェンスも予想していたのだが、秀徳は強気の選択をした。

 

 

「…」

 

ベンチで顎に手を当てながら試合を見守る中谷。

 

本音を言えばゾーンディフェンスで迎え撃ちたかったのだが、海常にはシューターの氏原がおり、他にも黄瀬や小牧も外がある為、やむを得なくマンツーマンを選択したのだ。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを運ぶ小牧の前に高尾が立ち塞がる。

 

「(…隙が無い。さすが、赤司さんに次ぐポイントガードなだけはある)」

 

切り込み辛く、スリーも打ちにくい、絶妙な距離を保ってディフェンスをする高尾を高く評価する小牧。

 

「(最初の1本だ。俺が無理に仕掛ける必要はない。まずは、ここだ!)」

 

左右に1度切り返した後、頭上からボールを放り、中へとパスを出した。

 

「ナイスパスじゃ!」

 

ボールはローポストに立つ三枝に渡った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ローポストでボールを受けた三枝はポストアップで押し込み始めた。

 

「(…ぐっ! とんでもないパワーだ。だが、行かせん!)」

 

背中から伝わる圧力に顔を歪ませる戸塚。だが、腰を落とし、歯を食い縛りながら三枝のポストアップに対抗する。

 

「(ほう。こやつ、なかなかのパワーじゃ。じゃけん…)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「これには対抗出来んじゃろ!」

 

「っ!?」

 

何とか三枝を押し止めた戸塚だったが、直後のフロントターンに対応出来ず、裏に抜けられてしまう。

 

「もろた、先取点!」

 

抜いたと同時にボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「ぬぅっ!?」

 

ボールがリングに叩きつけられて直前、突如現れた1本の手にブロックされてしまう。

 

「ナイス真ちゃん!」

 

「(緑間じゃと!?)」

 

黄瀬をマークしていたはずの緑間にブロックされ、驚く三枝。

 

「っしゃ、速攻!」

 

ルーズボールを抑えた高尾がボールを運ぶ。

 

「真ちゃん!」

 

フロントコートに入る直前に高尾は緑間にパスをする。ボールを掴むのと同時にフロントコートに足を踏み入れた緑間。そこから2メートル進んだ所でシュート体勢に入った。

 

「マジすか!?」

 

味方はおろか、敵すらまだゴール下にいない状況でスリーの体勢に入った緑間に驚く黄瀬。すぐさまブロックに向かうが…。

 

「…っ」

 

素早くリリースされたボールにブロックは間に合わなかった。

 

『っ!?』

 

ボールがリリースされたのと同時にゴール下に辿り着いた三枝と末広がスクリーンアウトでポジション取りをしてリバウンドに備える。

 

「無駄なのだよ。今日の俺は今に至るまで人事を尽くした。ラッキーアイテムもしっかり持ってきた。故に、俺のスリーは、落ちん!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『っ!?』

 

ボールはリングに掠る事無く潜り抜けた。

 

 

秀徳 3

海常 0

 

 

「いきなりッスか…」

 

従来の高弾道スリーではなく、今年のインターハイの誠凛戦で見せた、通常ループのクイックリリースによるスリー。試合開始の最初のオフェンスで披露され、驚く黄瀬。

 

「黄瀬。才能ならば、お前は俺より確実に上だろう。だが、それでも勝つのは俺達だ」

 

眼鏡のブリッジを押し上げながら緑間が黄瀬に告げ、ディフェンスに戻っていった。

 

「…上等ッスよ…!」

 

その後ろ姿を見て、黄瀬は静かに闘志を燃やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、開始当初の海常優勢の予想を覆し、秀徳ペースで進められた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…くっ!」

 

ハイポストでボールを受けた緑間がポストアップで黄瀬を押し込み始めた。これに何とか耐える黄瀬。

 

 

――スッ…。

 

 

ある程度押し込んだ所で緑間はボールを掴んでターンアラウンドで反転し、シュート体勢に入った。

 

「させないッスよ!」

 

打たせまいと黄瀬がブロックに飛ぶ。しかし…。

 

「…あっ!?」

 

緑間はボールを頭上に掲げていたものの、飛んではいなかった。ブロックに飛んだ黄瀬を再度ロールをしながら掻い潜り、改めてジャンプシュートの体勢に入った。

 

「させんわぁっ!!!」

 

だがそこへ、三枝のブロックが現れた。

 

「…」

 

しかし緑間は動じず、ジャンプシュートを中断し、三枝の足元から中へと弾ませながらボールを入れる。

 

「っ!?」

 

「ナイスパス!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ゴール下でボールを受けた戸塚がボースハンドダンクでボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「いいぞ徳親! 真ちゃんもナイスパス!」

 

2人のプレーを労う高尾。

 

 

「勝負ッス、緑間っち!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ハイポストでボールを受けた黄瀬がポストアップで緑間を押し込み始めた。

 

『これは!?』

 

『出た、黄瀬のコピー!!!』

 

先程の緑間のプレーをそのままやり返す黄瀬。

 

 

――スッ…。

 

 

ここからターンアラウンドで反転…直後に再度ロールで元の位置に戻り、シュート体勢に入る。

 

「お前のそのみた技をすぐさまコピー出来るセンスには素直に敬意を表す。だが…」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「センスだけで真似たお前の技が、幾度もなく反復練習をして磨き上げた俺の技と同等だと思わない事なのだよ!」

 

「っ!?」

 

緑間が黄瀬のシュートを叩き落とした。

 

『うぉぉぉぉーーーっ!!! 黄瀬のコピーを止めたぁっ!!!』

 

「速攻だ、走れ!」

 

ルーズボールを抑えた緑間が前線に走る高尾のパスを出した。

 

「ちぃっ!」

 

舌打ちをしながらディフェンスに戻る三枝。

 

「(まずい…、このままじゃ完全に秀徳に…!)」

 

緑間に完全に流れを持って行かれ、焦る黄瀬。パーフェクトコピーを使えば強引に流れを引き戻せるかもしれないが、時間制限がある。そうでなくても、早々に切り札を切るのではなく、切らされるのはチームの全体の士気に関わる。

 

「行かせない!」

 

スリーポイントライン目前で小牧が高尾に追い付き、回り込んだ。

 

「おっ、さすが、スピードに自信があるだけはあるな」

 

先頭を駆ける自分に追い付いた小牧のスピードを称える高尾。

 

「言っとくが、ドライブが得意なのはお前や神城だけじゃないんだぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

1度左にボールを切り返した後、高尾がクロスオーバーで加速し、小牧を抜きさった。

 

「来いやぁっ!!!」

 

中に切り込むと、既にディフェンスに戻っていた三枝が両腕を大きく広げ、咆哮を上げて威嚇しながら待ち受けていた。

 

「海さん! (海さんなら止められる! パスに警戒だ!)」

 

高尾では三枝から点は取れないと判断し、パスの警戒をする小牧。

 

「…ハッ! 俺を舐め過ぎだぜ!」

 

そんな空気を一笑した高尾は構わず突っ込み、ボールを掴んで飛んだ。

 

「調子に乗るなや!!!」

 

同時にブロックに飛ぶ三枝。

 

 

――スッ…。

 

 

レイアップの体勢からボールをフワリと浮かせて放り、三枝のブロックの上を弧を描くように越えていく。

 

「(スクープショットか!?)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「ちょっと厳しいディフェンスが来たらパスしか出来ないようじゃ、芸がないだろ?」

 

したり顔で言い放つ高尾。

 

「おのれぃ…!」

 

そんな高尾を忌々しく睨み付ける三枝。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、海常!』

 

ここで海常のタイムアウトがコールされた。

 

 

第1Q、残り4分18秒

 

 

秀徳 13

海常  8

 

 

両校の選手達がベンチへと戻っていく。

 

 

海常ベンチ…。

 

「ちぃっ!」

 

完全に押されている展開に三枝が苛立ちながらベンチに座った。

 

「ゴクッ…ゴクッ…ふぅっ! …緑間真太郎、さすがリョータと同じ10年に1人の逸材と呼ばれるだけはあるのう」

 

水分を摂って気持ちを落ち着かせた三枝が緑間を評価する。

 

「舐めてた訳じゃない。けど、正直、まだ甘かったみたいッス」

 

素直に油断を認める黄瀬。緑間の代名詞であるスリーさえ警戒すればどうにかなると踏んでいた黄瀬。しかし、緑間は開幕1発目こそスリーは打ってきたが、以降は中での勝負か、アシストで得点に貢献していた。

 

「どうします?」

 

打開策を小牧が尋ねる。

 

「とりあえず、俺がパーフェクトコピーで強引に流れを取り返すッス。それで――」

 

「待て黄瀬」

 

黄瀬の提案に監督の武内が待ったをかける。

 

「まだ早い。例えそれで逆転出来たとして、パーフェクトコピーを使わされた事には変わらん。そのツケは後半に響いてくる」

 

「でも…!」

 

「落ち着けと言うとるじゃろ。まだ序盤。点差も5点だ。まだ焦る必要はない」

 

納得しない黄瀬を落ち着かせる。

 

「現状、黄瀬のマークが厳しい。ならば、うちのもう1つの強みで攻める」

 

「ワシじゃな!」

 

武内の言葉に三枝がニヤリと笑う。

 

「シュートがあまり外れんから目立たなかったが、インサイドはうちの方が有利。向こうがミドルレンジやアウトレンジから攻めてくるなら、こっちはインサイドから攻め立てろ」

 

『はい!!!』

 

「末広、お前もうちの立派なオフェンスオプションの1つだ。フォローだけじゃなく、自分から決めにも行け」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳ベンチ…。

 

「フー。…出だしはまずまずと言った所か?」

 

ベンチに座った高尾が一息吐きながら言う。

 

「うむ。リードこそしているが、要所要所で向こうもきっちり決めてくる。この辺りはさすがと言った所かな」

 

中谷が海常を称賛する。

 

「スマン! 俺が相手を抑えられないせいで…!」

 

謝罪の言葉を述べる戸塚。インサイドを三枝に抑えられているせいでリバウンドが取れず、流れに乗り切れなかったからだ

 

「ありゃ仕方ねえよ。実際対戦してみると相当だ。多分、紫原でも簡単には行かねえんじゃねえの?」

 

気落ちする戸塚を高尾が励ます。

 

「さて…、向こうはどう出るかな。パーフェクトコピーで一気に点差を詰めにきたりしてな」

 

「それならばむしろ好都合なのだよ。相手に手札を切らせ、使用時間も減らせるのだからな」

 

高尾の予想に緑間が都合が良いと頷く。

 

「恐らく、向こうは中から攻めて来るだろう。現状、ここが1番の攻め手だろうからね」

 

「…っ」

 

有効なマッチアップであるセンター…、戸塚の所から攻めて来ると中谷は予想。これに戸塚の表情が歪む。

 

「ゾーンディフェンスで対抗するか?」

 

「いや、それはリスクがデカいぜ。向こうには外が打てるのか3人もいるんだからな」

 

「だったらどうする?」

 

対応策を考える秀徳の選手達。

 

「…戸塚。引き続き12番のマークは任せる。良いか?」

 

「監督…」

 

選手達が思考する中、中谷が戸塚に託す。

 

「大坪や支倉から学んだ事があるはずだ。それをここで出してみろ」

 

「っ! はい!」

 

「頼むぜ徳親。…所で、真ちゃんの方はどうだ? 今の所は順調そうだがよ」

 

「黄瀬は才能だけではない、適応力においても俺達(キセキの世代)の中で随一だ。今は以前の俺と今の俺のスタイルの違いに戸惑っているが、恐らく第2Q…速ければこの第1Q中に対応してくるだろう」

 

緑間に調子を尋ねた高尾。一見順調そうだが、緑間はすぐに対応されると踏む。

 

「タイムアウト終了後、黄瀬に対し楔を打ち込む。こっちも仕掛けるのだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウト終了のブザーが鳴り、両校の選手達がコートに戻って来る。両校共に選手交代はなし。

 

「よし、1本、行きましょう!」

 

審判からボールを受け取った氏原がスローワーとなり、小牧にボールを渡し、試合が再開される。

 

「海さん!」

 

再会早々、小牧はローポストに立つ三枝にパスを出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受けた三枝がポストアップで押し込み始める。

 

「(来た!)」

 

ボールを持った三枝の背中に立った戸塚。腰を落とし、歯を食いしばって全力で三枝の侵入を阻む。

 

「(押し込めんようになった。…なるほど、覚悟の出来たこの面構え、パワーだけでは倒すのは難儀じゃのう。ならば!)」

 

ゴール下まで押し込む事を諦めた三枝はボールを掴んでロールしながら戸塚の背後に回り込み、シュート体勢に入る。

 

「打たすか!」

 

これを見て戸塚がブロックに飛ぶ。

 

「っ!?」

 

しかしこれはフェイク。三枝はボールをリフトさせただけで、飛んではいなかった。

 

 

――バス!!!

 

 

再度逆方向にロールして戸塚をかわした三枝はそのまま得点を決めた。

 

 

秀徳 13

海常 10

 

 

「くそっ!」

 

監督の中谷やチームメイトに三枝のマークを託されたにも関わらず、止められなかった事に悔しがる戸塚。

 

「気にすんな! 1本、取り返すぞ!」

 

ボールを受け取った高尾が戸塚を励ましながらボールを運ぶ。

 

「(身体能力なら俺の方が上。落ち着いて相手の動きを予測出来れば、止められる!)」

 

フロントコートまでボールを進めた高尾のディフェンスに入る小牧。

 

「ここまで良い様にやられたッスから、これ以上はやらせないッスよ」

 

緑間のマークに付く黄瀬。

 

「…」

 

スリーポイントラインから2メートル離れた位置で足を止めてゲームメイクをする高尾。海常は各々がマンツーマンでマークに付き、しっかりパスコースを塞いでいる。

 

「…」

 

黄瀬も緑間にボールを掴ますまいとピッタリ張り付くようにマークする。

 

「…」

 

足を止めて数秒が経過したその時!

 

「…っ!」

 

突如、緑間が動く。ボールを運ぶ高尾の下へ駆け寄る。

 

「(自らボールを貰いに行くつもりッスか!?)…させないッスよ!」

 

当然、黄瀬もすぐさま緑間を追いかける。

 

高尾の後ろを通り過ぎる緑間。すれ違い様に高尾は後ろにトスするようにボールを放る。放られたボールを受け取った緑間は…。

 

「…なっ!?」

 

次の行動に黄瀬が思わず声を上げる。ボールを受け取るや否や、緑間はシュート体勢に入ったのだ。

 

「…くっ!」

 

すかさずブロックに飛ぶ黄瀬だったが、高尾や小牧が障害となりブロックに遅れ、間に合わず。

 

「(この距離で、しかもあんな身体も泳いでリズムもバラバラの状態で…、いくら緑間っちでも!?)」

 

スリーポイントラインからはかなり離れている上、ボールを掴んですぐにシュート体勢に入った為、シュートフォームもリズムも大きく乱れた状態でのスリー。決められる訳がないと振り返る黄瀬。

 

 

――ガン!!!

 

 

予測通り、ボールはリングに弾かれた。

 

「ふん!」

 

リバウンドボールを三枝が抑え、秀徳のオフェンスは失敗に終わる。

 

『緑間がスリーを外した!?』

 

『いやさすがにあれは無茶だろ!』

 

「…」

 

当の本人は気にする素振りは見せず、眼鏡のブリッジを押しながらディフェンスへと戻っていく。

 

「(今日の緑間っちは訳分かんないッスよ。普段ならこんな序盤であんな無茶なタフショットは絶対に打たない。…それとも、今のを決められる自信があったって事っスか?)」

 

あまりに黄瀬の知る緑間とはかけ離れたプレーをされ、混乱する。

 

 

「ミドリン…、何であんな無茶なスリー打ったんだろう。まだ序盤で秀徳がリードしてるのに…」

 

桃井も緑間の行動が理解する事が出来なかった。

 

「…」

 

青峰はそんな緑間を無言で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ターンオーバーからのオフェンスを海常が再び三枝が決め、成功させる。続く、秀徳のオフェンス…。

 

「頼むぜ!」

 

再び、ハンドラーの高尾に向かって緑間が自らボールを貰いに走る。

 

「(…っ、ハーフコートで緑間っちに時間を与えたらダメだ!)」

 

僅かにでも間を与えてしまえば緑間のクイックリリースでスリーを打って来る。その為、黄瀬はボールを掴んだ緑間に対してすぐさまチェックに入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

シュートフェイクを入れた後、緑間はカットイン。僅かにフェイクにかかった黄瀬を抜きさる。

 

「させんぞ!」

 

カットインした緑間に対してヘルプに飛び出す三枝。

 

 

――バス!!!

 

 

緑間はボールを掴み、左手に持ち替え、ベビーフックで得点を決めた。

 

 

秀徳 15

海常 12

 

 

「…っ」

 

再び緑間に決められ、歯を食い縛る黄瀬。

 

 

「ミドリン、あんなのまで。また中でのパターンが増えてる…」

 

かつては打たなかったベビーフック。緑間の中でのバリエーションが増えた事に驚く桃井。

 

「…そういう事か」

 

「…えっ?」

 

突如、青峰が口を開く。

 

「あの緑間が何で無茶なスリーを打ったか…、黄瀬に自分のスリーをより意識させる為だ」

 

青峰が解説をする。

 

「緑間は入る見込みねえスリーは基本打たねえ。高校最初の夏に火神に負けてから多少考えは変わったみたいだが、試合終盤で余程追い詰められた状況じゃない限り緑間は確率の低いスリーは打たねえ」

 

「…」

 

「黄瀬も同じ認識をしていた。だが、緑間が無茶なスリーを打った事でその認識に揺らぎが生じた。今日の緑間は僅かでも間があれば確率が低くともスリーを打ってくるってな」

 

「でも、確率が低いならきーちゃんは無理してブロックに行く必要ないんじゃない? リバウンドだって、海常が有利なんだから」

 

桃井のもっともな指摘。

 

「そこらのシューターならそれでもいいかもしれねえが、打つのはあの緑間だ。確率は低いと言ってもそれなりの確率で沈めてくる」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

コート上で緑間がタフショットでのスリーを決めた。

 

「そうなると黄瀬は嫌でも緑間がボールを持てばスリーを意識させられる。なんせ今の緑間はかつての高弾道スリーじゃなくてクイックリリースで打って来るからな。間が空くと打たれかねねえから常に後手に回される事になる」

 

「なるほど…、あのミドリンが外れる事を覚悟してスリーを打つなんて…」

 

かつての緑間を知る者ならまず信じられない選択である。

 

「こうなると緑間の独壇場だ。後手に回されて勝てる相手じゃねえからな」

 

青峰はそう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は緑間が起点となって試合を進めた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

だが、海常もやられっぱなしではなく、三枝がインサイドを支配し、得点を重ねた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

こうして、第1Q、最初の10分が終了した。

 

 

第1Q終了

 

 

秀徳 24

海常 18

 

 

インターバルとなり、両校の選手達がベンチへと戻っていく。

 

海常ベンチ…。

 

「…っ」

 

黄瀬が悔しそうにベンチに腰掛ける。ここまで緑間に良い様にやられているからだ。

 

「さすがは秀徳と言った所か。緑間には驚いたが、予測の範囲内だ」

 

選手達の前に立った武内が選手達に声をかける。

 

「三枝の活躍で充分に中に意識を向けられた。ならば外だ。氏原はもちろん、小牧も――」

 

武内が選手達に指示を飛ばしていく。

 

「(…青峰っちが夏に言っていた意味が良く理解出来たッス)」

 

『黄瀬と緑間。どっちがやり辛いかと言われれば緑間だ』

 

夏に誠凛対秀徳戦を観戦した時に青峰が言った言葉だ。

 

「(こだわりや執着を捨てた緑間っちがここまでとは。…けど、負けないッスよ。これが最後のなんだ。絶対に負けない!)」

 

タオルを被った黄瀬。その中で瞳をギラ付かせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳ベンチ…。

 

「ふむ、やはり一筋縄では行かないねえ」

 

選手達の前に立った中谷が顎に手を当てながら呟く。

 

「すいません…!」

 

責任を感じた戸塚が謝る。

 

「戸塚が責任を感じる事はない。三枝海。彼は良い選手だ。恐らく、大坪や支倉でも手に余る相手だ」

 

そんな戸塚を中谷が励ます。

 

「…とは言え、相手の切り札の事を考えると、ここいらで少し突き放したい所だね。さて…」

 

黄瀬のパーフェクトコピーがある海常にとって、6点差などあってないような点差である。

 

「監督。第2Q、あれで行かせて下さい」

 

緑間がそう提案する。

 

「あれか…」

 

その提案を聞き、中谷が思案する。

 

「練習試合や紅白戦で試したあれか。…けど、まだ第2Qだぜ?」

 

仕掛けるにはまだ早いのではと高尾が疑問視する。

 

「先の事を考えれば黄瀬のパーフェクトコピーをなるべく使わせる必要がある。となれば、あれしかない」

 

完全無欠の黄瀬のパーフェクトコピー。極力使わせて使用時間を消耗させるか、使われても持ちこたえられるだけの点差を付ける必要がある秀徳。その一手をここで切るべきと緑間が推す。

 

「…うん。良いだろう。許可しよう」

 

暫し考えた結果、中谷は了承した。

 

「第2Qはあれで行く。…とは言え、あれは緑間に大きく負担をかける。高尾がしっかりフォローしろ」

 

「任せて下さい!」

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでインターバル終了のブザーが鳴る。

 

「よし、行って来い!」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両校の選手達がコートへと戻って来る。両校共に選手交代はなし。試合は秀徳ボールで再開される。

 

「(まずは落ち着くんだ。例え緑間っちが何をしてきても冷静に――)…えっ?」

 

再開される試合。直後、黄瀬が自分の目に飛び込んで来た光景に思わず声を上げてしまう。

 

『なっ…』

 

『なにぃぃぃぃぃぃっ!!!』

 

それは観客も同様であった。

 

 

「これはさすがに俺も驚いた。今日の緑間は、ホント何してくるか分かんねえな…」

 

青峰もその光景に苦笑する。

 

 

コート及び会場の観客がその目を疑った光景、それは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――緑間がボールは運び、ポイントガードをしている姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、1本行くのだよ」

 

人差し指を1本立てながら緑間が静かに言ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





だんだん魔改造が進む緑間。方向性間違えると深淵となるので気を遣いますが、少し楽しくなってきた…(^-^)

やれる事を増やす方向で緑間を進化させています。その方が緑間的にも先の事を考えれば有益そうですし…(>_<)

やはり、悩むのは試合展開と結末。さてさて、どうしようかorz

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第175Q~存在感~


投稿します!

奇跡的にネタが降り注ぎ、週1投稿です…(^^)/~~~

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り9分57秒

 

 

秀徳 24

海常 18

 

 

最初の10分が終わり、秀徳リードで始まった試合。第2Q開始早々秀徳が動いた。何と、緑間がポイントガードと言う奇策を打った。

 

「…」

 

「…っ」

 

淡々とボールをキープする緑間。黄瀬は戸惑いながらも緑間のディフェンスに付いている。

 

 

「ミドリンがポイントガードって、やってる所見た事ないけど…」

 

桃井のデータにもない緑間のポイントガード。

 

元々の緑間のポジションであるSG(シューティングガード)は時としてポイントガードに代わってボール運びをする事もあるポジションでもあるが、あくまでもボール運びであり、ゲームメイクを担うのはポイントガード仕事である。ましてや、帝光中時代は赤司、現秀徳では高尾と言う、全国屈指のポイントガードがいた緑間にとって、ゲームメイクを担う機会は皆無に等しい。

 

「お前も緑間の性格は知ってんだろ。あいつは出来ねえ事はやらねえ奴だ」

 

青峰はそう言い、試合を見守った。

 

 

「(今日の緑間っちにはホント驚かされてばかりッスね。さて、何が狙いか…)」

 

気持ちを切り替え、緑間の動きに要警戒する黄瀬。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

突如、緑間が加速、仕掛ける。

 

「(…来た!)」

 

緑間のドライブに黄瀬もすかさず反応、付いていく。

 

 

――スッ…。

 

 

直後に急停止した緑間は頭上からパスを出す。

 

「ナイスパス!」

 

中でボールを受け取った高尾はすぐさまシュート体勢に入る。

 

「させん!」

 

これを見て三枝がブロックに現れる。

 

「残念♪」

 

しかしボールを頭上に掲げるだけで飛んではおらず、その体勢から飛んだ三枝の足元から弾ませるようにゴール下へパスを出す。

 

 

――バス!!!

 

 

ゴール下でボールを受け取った戸塚がそのまま得点を決めた。

 

 

秀徳 26

海常 18

 

 

「よし!」

 

得点を決め、拳を握る戸塚。

 

『いいぞいいぞ戸塚! いいぞいいぞ戸塚!』

 

同時に秀徳の部員達がエールを贈る。

 

「あの男…、なかなかの曲者じゃのう。本来の司令塔だけあって視野も広い」

 

緑間のパスからアシストを演出した高尾を評価する三枝。

 

「…1回だけじゃ狙いは見えてこないッスけど、とりあえず様にはなってるみたいッスね」

 

黄瀬が緑間の今のプレーを見た感想を口にする。

 

「直に狙いは見えて来る。じゃけん、今はオフェンスじゃ。点とらんと肝心な点差は縮まらん」

 

「もちろんッス。…ボール欲しいッス。いい加減、やられてばかりじゃ癪っスから。そろそろお返ししないと」

 

そう呟くと、黄瀬の表情が一変したのだった。

 

 

「頼みます!」

 

海常のオフェンス。ボールを運んだ小牧は早々に右ウィングに立つ黄瀬にパスを出す。

 

「覚悟するッスよ!」

 

「…来い」

 

高らかに宣言する黄瀬に対し、静かに答える緑間。

 

「…」

 

「…」

 

ジャブステップを踏み、ボールを小刻みに動かしながら牽制する黄瀬。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して黄瀬が仕掛ける。

 

「…っ」

 

これに対して緑間も遅れずに対応する。

 

「おぉっ!」

 

緑間に肩を触れながら強引にカットインする黄瀬。緑間も中に切り込ますまいと身体を張る。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

ハイポストで停止した黄瀬はそこでボールを掴み、バックステップ。その際に下がりながらフェイダウェイシュートを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

慌てて緑間がブロックに飛ぶも届かず、決められてしまう。

 

 

秀徳 26

海常 20

 

 

「今のは花月の綾瀬の…!」

 

黄瀬が披露した技に驚く高尾。今のは大地が使う片足でのフェイダウェイシュートであった。

 

「せっかく覚えた技ッスからね。…きっちりお返しさせてもらったッスよ。緑間っちと違ってパスで逃げたりせずに、ね」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら言う黄瀬。

 

「…」

 

言われた緑間は何か言い返すどころか表情すら変える事なかった。

 

 

秀徳のオフェンス…。

 

緑間がボールを運び、中に切り込む素振りをみせつつ外の斎藤にパス。斎藤はチェックが来る前に中に走り込んだ高尾にパス。高尾が自らに走り寄る緑間にボールを手渡し…する直前にボールを引っ込め、逆のハイポストに立つ木村にパスを出し…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

その木村がその位置からジャンプシュートを決めた。

 

 

秀徳 28

海常 20

 

 

「ナイッシュー木村!」

 

ジャンプシュートを決めた木村に高尾が駆け寄り、肩を叩きながら労った。

 

「(…挑発には乗らないッスか。以前の緑間っちだったらやり返しにきてた所ッスけど)」

 

見た目に反して負けん気も強ければプライドも高い緑間。黄瀬の挑発を仕掛けても全く乗っては来なかった。

 

「(緑間っちのゲームメイクは丁寧で実に教科書通り。…けど、これなら高尾君に任せても同じ…いや、むしろ緑間っちの負担が増えるだけ…)」

 

現状、オフェンスはハンドラーが変わっただけで変化はない。ならば緑間にポイントガードをやらせる狙いは何かと考える黄瀬。

 

「…そろそろ始めるのだよ」

 

そんな黄瀬を他所に緑間は1人呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常のオフェンス。小牧が中の三枝にパスを出す。

 

「…むっ?」

 

三枝がボールを掴んだ瞬間、戸塚、木村、斎藤の3人が三枝を囲むようにディフェンスに入った。

 

『うぉっ!? 三枝にトリプルチーム!?』

 

「来おったかい! じゃけん、お見通しじゃあ!」

 

予想の範囲内であった三枝は動じず、頭上から外の氏原にパスを出す。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

「だろうな。中に人が集まりゃ、外にパスを捌くってな」

 

パスコースに割り込んだ高尾がボールをカットした。

 

「ほらよ真ちゃん!」

 

ボールを奪った高尾はすかさず緑間にパスを出した。

 

「さすがに単純過ぎたッスね。…けど、これ以上はさせないッスよ」

 

いち早くディフェンスに戻った黄瀬が緑間に立ち塞がった。

 

「…」

 

「…」

 

黄瀬が現れ、緑間は無理をせず、足を止めた。

 

「(行って下さい!)」

 

ここで木村が黄瀬にスクリーンをかけて合図する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

合図を受けて緑間がカットイン。

 

「甘いッスよ」

 

しかし黄瀬はスクリーンを読み切り、ロールしながらスクリーンをかわし、緑間を追いかける。

 

「来いやぁっ!!!」

 

前方では三枝が咆哮を上げ、両腕を広げながら待ち受ける。すぐ横には黄瀬が並走。

 

「…」

 

緑間は無理をせず、後ろにいる高尾にボールを戻した。

 

「オッケー」

 

ボールを受けた高尾はすぐさまボールをコーナーに放る。

 

『っ!?』

 

するとそこには緑間がおり、海常の選手達が全員が目を見開いた。

 

「しまった!」

 

慌ててチェックに向かう黄瀬だったが…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

緑間のリリースの方が早く、悠々とスリーを決めた。

 

 

秀徳 31

海常 20

 

 

「ナイス真ちゃん!」

 

「お前もナイスパスなのだよ」

 

肩を叩いて労う高尾。緑間は眼鏡のブリッジを押しながら高尾を労う。

 

「くそっ…」

 

悔しがる黄瀬。緑間はパスを出すのと同時にスペースの空いたコーナーへ全速力で移動していたのだ。パスを出して一瞬意識が自分から離れた隙に。

 

そこから、秀徳のオフェンスが猛威を振るい始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

緑間がこれまで通りボールを運び、中に切り込むかあるいはパスを出す。

 

「…っ」

 

同時に緑間がフリーのスペースに移動し、そこからスリーを決める。他の秀徳の選手達もスクリーンをかけたり緑間のパスと同時にインサイドにポジションを移動してマークを中に引きつける等してスペースを作るお膳立てに徹していた。

 

 

「なるほどな」

 

「えっ?」

 

試合を見守っていた青峰が納得するように頷いた。

 

「緑間にポイントガードをやらせた理由はこの形を作り出したかったからだ」

 

青峰が秀徳のオフェンス戦術について解説を始めた。

 

「緑間はポイントガードとしてボール運びをしてはいるが、実質的なゲームメイクはこれまで通り5番(高尾)に任せてる」

 

「…」

 

「自ら仕掛ける事で海常のディフェンスを掻きまわす。その後、自ら決めるか、出来なければ5番にボールを戻す。直後に黄瀬のマークを引き剥がしながら空いてるスペースに移動してそこから緑間が決める。これが秀徳の基本戦術だ」

 

「…けど、それなら他の選手がミドリンにディナイをかけてボールを持たせないようにすれば…」

 

「言ったろ。実質的なゲームメイクは5番に任せてるってよ」

 

コート上で桃井の指摘通り、中に切り込んで高尾にパスを出して空いてるスペースに移動する緑間に対して末広がパスコースを塞ぎにかかった。

 

「…あっ!?」

 

しかし、高尾はコーナーに移動した緑間ではなく、パスコースを塞ぐ為にフリーにしてしまった木村にパスを出した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

木村はフリーでボールを受け取り、そのまま得点を決めた。

 

「緑間にマークが集中すりゃ他が空いて決められちまう」

 

「なるほど…」

 

解説を聞いて納得する桃井。

 

「そして、緑間が与える影響はこれだけじゃねえ」

 

 

次の秀徳のオフェンス。中に切り込んだ緑間が外の高尾にキックアウト。そこからコーナーの空いてるスペースへとすぐさま移動した。

 

「…良い感じだぜ」

 

ニヤリと笑う高尾がパスを出す。

 

『っ!?』

 

高尾がパスを出したのは右コーナーに向かった緑間ではなく、左ウィングの位置に立っていた斎藤であった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受けた斎藤が確実にスリーを決めた。

 

 

「これだ。緑間が動けば当然緑間に意識が向かって今みたいに空いてるスペースが出来ちまう。結果、フリーの選手が空いたスペースを有効に使って決められちまう」

 

「凄い…」

 

解説を聞いた桃井から出た言葉はこれの一言だった。

 

「緑間のオフェンス力と存在感を巧みに利用した秀徳のチームオフェンス。さすがの黄瀬も緑間1人ならどうにか出来てもチーム戦術までには手が回らねえ。…こりゃ、このままだとさらに点差が開くかもな」

 

予言めいた言葉を青峰が呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(まずい…、このままだとまずいッスよ…)」

 

危機感を募らせる黄瀬。

 

 

第2Q、残り3分12秒。

 

 

秀徳 47

海常 28

 

 

第2Qが残り3分になろうとしている今、点差はもうすぐ20点差にまで開こうとしていた。

 

インサイドで三枝と言う強みを持つ海常だが、秀徳が徐々に対応してきているのだ。

 

 

――ガン!!!

 

 

氏原が放ったスリーがリングに弾かれる。

 

「おぉっ!」

 

「…っ」

 

ゴール下でのリバウンド争い。戸塚は背中で相手を抑え込む従来のスクリーンアウトではなく、相手に向かい合い、両腕を胸の前で揃えて三枝をゴール下から追い出しにかかった。

 

「おのれぃ…!」

 

戸塚を睨み付ける三枝。パワーではある程度拮抗していた2人だが、高さとテクニックで三枝が勝っていた為、これまでリバウンド争いを制していたが、戸塚がリバウンドを取る事を諦め、三枝に取らせない事に専念し始めた事で状況が変わってきた。

 

「よし!」

 

2人がリバウンド争いから外れた事で残った木村と末広がリバウンド争い。木村が末広を抑え込み、リバウンドを制した。

 

これにより、ゴール下でのパワーバランスが拮抗し始め、ますます不利になった海常。黄瀬も得点を決めてはいるが、緑間とマッチアップしている為、そこまで得点チャンスを得る事が出来てはいなかった。

 

「(監督、このままじゃヤバいッス。パーフェクトコピーを使わせて下さい!)」

 

黄瀬がディフェンスに戻りながらベンチの武内に目線を向けて懇願する。

 

「…」

 

その目線を受け、黄瀬が何を求めているのかを瞬時に悟り、顎に手を当てながら思案する。

 

「(確かにこのまま点差が広がるのは望ましくはない。秀徳のチームオフェンスに対応出来てない今、やむを得ないか…)」

 

残り時間を見て武内が決断する。

 

「(分かった。許可する)」

 

「(…コクッ)」

 

黄瀬に目線を合わせて合図する武内。メッセージを受け取った黄瀬は頷いた。

 

 

秀徳のターンオーバー。これまど通り、緑間が海常ディフェンスを掻きまわし、他の選手が緑間をフリーにする為に動く。右ウィングの位置でボールを掴んだ緑間がスリーを放った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

放たれたスリーは横から現れた1本の腕にブロックされた。

 

「さすがにこれ以上点差を開かせる訳には行かないッスからね」

 

「黄瀬…!」

 

黄瀬にブロックされた事を悟った緑間。同時に黄瀬の変化にも気付く。

 

「反撃返しッスよ」

 

青峰のアジリティと紫原のディフェンスでブロックした黄瀬。黄瀬のパーフェクトコピーを発動された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ここから黄瀬が猛威を振るい始めた。

 

 

――バス!!!

 

 

青峰のコピーで緑間のブロックをかわしながらボールを放り投げて黄瀬が決める。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

ディフェンスでは紫原のコピーで秀徳のオフェンスをシャットアウトした。

 

「マジ半端ねえ。オフェンスもディフェンスも手が付けられねえよ…!」

 

「キセキの世代全員を相手してるようなものだぜ…」

 

完全無欠の黄瀬のパーフェクトコピー。キセキの世代の技が秀徳を苦しめ、思わず弱音を吐く戸塚と斎藤。

 

「狼狽えるな」

 

浮足立つ選手達を緑間が一喝する。

 

「黄瀬が全員のキセキの世代の技が使えると言っても、キセキの世代全員を相手にしている訳ではない。如何に黄瀬でもこちらのオフェンスを止めるにも限度があるのだよ」

 

「ではどうします?」

 

木村が尋ねる。

 

「やる事は変わらないのだよ。これまで通り、俺がディフェンスを掻きまわす。…高尾、お前も国体で1度は目の前でパーフェクトコピーを経験したはずだ」

 

「ああ。ちょっと面食らったけどよ、ようやく少しだけど慣れてきた。何とかボール回すぜ」

 

緑間に尋ねられ、返す高尾。

 

「行くぞ。何も恐れる事はない。これまでやって来た事をやるだけだ。…行くぞ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

緑間の声掛けによって落ち着きを取り戻した秀徳の選手達。

 

「…」

 

それを見ていた中谷。

 

「すまない。タイムアウトは取り消させてもらうよ」

 

オフィシャルテーブルで申請したタイムアウトを取り消した。

 

「ここが正念場だ。ここを耐えれば再びこちらに流れが来る。月並みだが、踏ん張れ」

 

そう呟きながらベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳はこれまで通り、緑間を中心としたチームオフェンスで黄瀬のパーフェクトコピーに対抗した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

外主体の秀徳のオフェンスは如何にパーフェクトコピーを使った黄瀬でも完全に止める事は出来ず、要所要所で得点を重ねた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

しかし、黄瀬のパーフェクトコピーの破壊力は凄まじく。秀徳は止める事は叶わなかった。

 

 

第2Q、残り10秒

 

 

秀徳 51

海常 43

 

 

黄瀬の活躍によって、一時は20点近く開いた点差も一桁にまで縮まっていた。

 

「よーし!」

 

点差を一桁にしたダンクを決めた黄瀬とハイタッチを交わす三枝。

 

「ディフェンス! ここ止めて終わるッスよ!」

 

『おう!!!』

 

黄瀬が声を出すと、海常の選手達が応えた。

 

「(欲を言えばもっと点差は縮められなかったッスけど、充分ッス。この勢いのまま後半戦――)…えっ?」

 

自陣に戻る黄瀬の目にとんでもない光景が飛び込んで来た。

 

「よもや、忘れた訳ではないだろうな? 俺の『本来』のシュートエリアを…」

 

自陣ゴール下でボールを構える緑間。

 

『っ!?』

 

遅れて気付いた海常の選手達が目を見開く。

 

「フォームをクイックリリースに替えてから狭まった俺のシュートエリアだが、従来のシュートフォームに戻せば元通りだ」

 

ゆっくりボールの縫い目に指をかけながら沈み込む緑間。

 

「しまっ――」

 

気付いた時には既に遅かった。膝を曲げて沈み込んだ緑間はそこからボールをリリース。放られたボールは高弾道。大きな放物線を描きながら向かいのリングへと飛んでいく。

 

「忘れていたのならその目に焼き付けろ。俺のシュートエリアを。そして俺のシュートは、落ちん!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

高々と上げられたボールがリングの中心に落下し、潜り抜けた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q終了

 

 

秀徳 54

海常 43

 

 

「緑間っち…!」

 

「最後の最後で油断したな。簡単に良い流れ、良い形で終わらせる程甘くはないのだよ」

 

そう黄瀬に告げ、緑間はベンチへと戻っていった。ハーフタイムの為、両校の選手達は控室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳控室…。

 

「よーし! 何とか被害を最小限にとどめたぞ!」

 

控室に入ると、斎藤が喜びを露にした。パーフェクトコピーを使われ、点差が縮まったが、それでも二桁の点差で折り返す事が出来た為、戦果としては上々であった。

 

「…けど、あまり楽観視出来ないね。黄瀬のパーフェクトコピーの使用時間は優に残っているからね」

 

喜ぶ選手達を他所に、中谷は冷静に今の状況を見つめていた。

 

「同感です。最後の奇襲で何とか点差を二桁で終われましたが、この先、あのような愚は2度と犯さないでしょう」

 

同じく緑間も危機感を募らせる。

 

「後半戦もあの戦術プランを続けるとして、真ちゃん、スタミナの方は大丈夫か?」

 

「無論、問題ないのだよ。俺は今日まで人事を尽くしてきたのだ。最後まで走り抜くのだよ」

 

心配する高尾に対し、緑間は真剣な表情で返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常の控室…。

 

「最後の最後でしてやられたわい」

 

ドカッとベンチに座る三枝。

 

「最後の最後で油断したッス。今後は2度と打たせないッス」

 

同じく座りながら黄瀬が謝罪した。

 

「…ここからどうする?」

 

氏原が本題を切り出す。

 

海常は秀徳のチームオフェンスは止めきれていないのが現状。黄瀬がパーフェクトコピーで何とか止めてはいたが、パーフェクトコピーは終盤の勝負所まで残しておく必要がある。となれば、どうにか止める必要がある。

 

『…』

 

選手達が対抗策を考える。

 

「……皆、ちょっといいスか?」

 

静まり返る控室。その沈黙を黄瀬が破り、皆が注目する。

 

「俺に考えがあるんスけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ハーフタイムが終わり、コートに両校の選手達が戻って来ると、観客の大歓声が選手達を出迎えた。

 

各ベンチに戻ると、それぞれ5人の選手達がコートへと足を踏み入れる。両校共に選手交代はなし。

 

『…』

 

海常ボールからの再開。審判からボールを受け取った氏原がパスを出し、第3Qが開始された。

 

「…なっ!?」

 

『なにぃぃぃぃぃぃっ!?』

 

試合が再開されると同時に観客から声が上がった。

 

 

「マジかよ…」

 

苦笑する青峰。

 

 

「さあ、1本行くッスよ!」

 

声高々に宣言してボールを運ぶ黄瀬。何と、黄瀬がポイントガードをやり始めたのだ。

 

「どういうつもりなのだよ」

 

ボールを運ぶ黄瀬の前に立った緑間が思わず尋ねる。

 

「どういうつもりも何も、緑間っちなら分かるっしょ?」

 

淡々と返す黄瀬。

 

「付け焼き刃でやれるとでも思っているのか?」

 

「出来なきゃ海常が負けるッスね。…これでも俺は一応オールラウンダーって呼ばれてるッスからね。出来る出来ないじゃない。やってやるッスよ」

 

真剣な表情で答える黄瀬。

 

「…なるほど、覚悟は出来てると言う訳か」

 

黄瀬の表情を見てただの思い付きによる奇策ではなく、相応の覚悟を感じ取った緑間。

 

「良いだろう。やってみるのだよ。そして思い知らせてやるのだよ。勝つのは俺達だと」

 

同じく真剣な表情で緑間が告げたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合の半分が終わり、秀徳リードで後半戦が開始された。

 

1度は大きく開いた点差も黄瀬のパーフェクトコピーで点差を縮めた海常。良い流れで海常が第2Qを折り返すと思いきや、緑間がこれに待ったをかけた。

 

そして始まった第3Q。海常は黄瀬がポイントガードを務め、緑間のお株を奪うと言うとんでもない作戦に打って出た。

 

この作戦が吉と出るか凶と出るか、試合は、後半戦に突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





緑間をいじるのが楽しくなってきた…(;^ω^)

ただ1つ間違えるととんでもない事になるので、戦々恐々もしてたりします…(-_-;)

さて、この試合もそうなんですが、この先のウィンターカップの試合を考えるにあたって頭を悩ませています。さて、どうするか…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第176Q~人事を尽くす~


投稿します!

諸事情により投稿が遅れました…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

「あー、こってり絞られてもうたな」

 

げんなりしながらぼやく天野。

 

「仕方ないですよ。僕達が気を抜いてしまった事は事実ですし」

 

そんな天野に苦笑しながら声を掛ける生嶋。

 

3回戦を無事突破した花月だったが、試合終盤で大仁田に追い上げられた事に対し、選手達は上杉からお説教を受けていたのだ。

 

「天さん達はまだいいじゃないですか。俺なんか2年連続で説教受けたんですよ」

 

同様に苦い顔をする空。

 

「去年は自業自得やろ。今年にしても空坊がいらん発破相手にかけよるからやないか」

 

そんな空にジト目を向ける天野。

 

試合終盤の追い上げは大仁田が奮起した事が要因だが、その要因となる引き金となったのが空が相手エースに発破をかけた事によるものであったのだ。

 

「まあまあ、私達が終盤に油断をしていたのは事実ですし、実際そこは反省すべき所でしょう」

 

空と天野を宥める大地。

 

「スマンな。綾瀬は試合に出ていないのに半ば連帯責任のような形を負わせてしまったな」

 

大地に謝る松永。大仁田戦に出場しなかった大地だったが、他の選手達と同じように説教を受けたのだ。

 

「お気になさらず。私の中にも少なからず、桐皇戦に勝利した事による慢心はありました。それを払拭するいいきっかけになりましたから」

 

そんな松永を大地は手で制した。

 

「しっかし、もう秀徳と海常の試合はとっくに始まっちまってるよな。もしかして、もう終わっちまったか?」

 

「いえ、時間的に、第4Qが始まったばかりのはずです」

 

空の疑問に、大地が時間を確認しながら答える。

 

「空坊の予想はどない感じや?」

 

「そうですね…」

 

天野が尋ね、空が顎に手を当てながら考える。

 

「緑間さんは去年に俺達とやり合った時とプレースタイルがかなり変わってるから未知数な部分があるんですが、仮にここは黄瀬さんと互角として、インサイドに海兄がいる分、海常が有利だと思います」

 

「ほうほう」

 

「そこを踏まえて、5点から10点差くらいで海常リードって所ですかね」

 

空の予想に耳を傾ける天野と。

 

「ただ、黄瀬さんにはパーフェクトコピーがある。さすがに試合終盤までまるまる温存出来るはずはないでしょうけど、それでもそれなりに使用時間は残しているはずですから、最後は海常が逃げ切って勝利…って、所ですかね」

 

「無難な予想だね。僕も同意見かな」

 

生嶋が頷きながら空の予想に同意した。

 

「私も同じ予想ではあるのですが、やはり気になるのが緑間さんの存在です」

 

大地も同意しつつも緑間について言及する。

 

「今日の試合、緑間さんが凄い事をやる。そんな気がしてならないのです」

 

「そこなんだよな。俺もそんな気がするんだよ」

 

緑間の存在について、大地の意見に空が同意した。

 

「…まあ、ここで予想してもしょうがねえわな。全てはコートに行けば分かる事だ」

 

そう締め、空達はコートが一望出来る観客席のあるフロアに足を踏み入れた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「…おっ、スゲー盛り上がり」

 

観客席にやってくると、会場は大歓声に包まれていた。

 

「点数はっと、…っ!? …なるほど」

 

点数が表示されている電光掲示板を見て空は一瞬目を見開き、そして頷いた。

 

 

第4Q、残り8分51秒

 

 

秀徳 76

海常 67

 

 

「秀徳がリードしとるやないか」

 

秀徳リードの展開に驚く天野。

 

「…おっ? 高尾さんじゃなくて緑間さんがボール運んでる」

 

点数に驚いていた空だったが、ボール運びを従来のポイントガードである高尾ではなく、緑間がしている事に気付く。

 

「そう、これが今日の秀徳が敷いて来た戦術なのよ」

 

先に観客席で観戦していた姫川が説明する。

 

「第2Q入ってから秀徳は緑間さんがボール運びをするようになったわ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを運んだ緑間がカットインを仕掛ける。直後に高尾にパス。同時にダッシュでフリースペースまで移動する。移動した緑間に高尾が的確にパスを出す。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

黄瀬のマークを振り切った緑間がジャンプシュートを決めた。

 

「…なるほど、ボール運びをしてるって言っても、ゲームメイクそのものは高尾さんに任せてんのか」

 

今のカットインから得点までの一連の流れを見た空が仕組みに気付く。

 

「外もあって中に切り込める緑間さんにボール運ばせて、自分で決められればそれでよし。出来なければ高尾さんに渡して自分はフリーになる為に動いて決める。他の奴もそのケアしっかりやってる。万一にパス出せなくても緑間さんがディフェンス乱してくれるし、高尾さんが瞬時に別のノーマークの選手にパス入れてくれるからかなり厄介なオフェンスだな」

 

「…今のワンプレーで分かったの?」

 

あまりの空の戦術理解度の高さに驚く姫川。

 

「…ん? ここからなら選手全員の動きが見れるし、向こう(アメリカ)に行った時に司令塔としての訓練の一環で色んな試合を解説付きで見まくったからな」

 

アメリカでの体験を口にした空。

 

「……海常は黄瀬さんがボールを運んでいるようですね」

 

オフェンスが海常に切り替わると、今度は黄瀬がボールを運び始めた。黄瀬がカットインを仕掛け、小牧にパス。同時に緑間のマークを引き剥がしながらフリースペースに移動し、決めた。

 

「見た所、海常も秀徳と同じオフェンスをしているみたいだな」

 

先の秀徳と似た攻め方、得点の仕方を見て松永が断言する。

 

「秀徳のこのオフェンスで1度は20点近く点差が開いて、黄瀬さんがパーフェクトコピーを使って10点差にまで詰めたの。その後、第3Q開始と同時に秀徳と同じオフェンスで攻めるようになったわ」

 

「凄いですね。個人の技のコピーならいざ知らず、戦術をコピーしてしまうとは…」

 

事前に練習を重ねてきた秀徳とは違い、海常はハーフタイム内で打ち合わせをした程度。それで点差を均衡に持って行った黄瀬及び海常の選手達に驚く大地。

 

「奇策がハマってそれでも試合は拮抗状態。さて、どうなるか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(策は上手くハマった。俺も上手くやれてる。それなのに追い付けない…!)」

 

「(忌々しい奴だ。俺が…いや、俺達がこの戦術を完成させるのにどれだけ鍛錬を重ねた思っている。黄瀬め…!)」

 

一方は点差が縮められず、一方はリードを広げられず、焦りを露にする黄瀬と緑間。時折連続得点やスリーで点差が変動するもすぐさま返され、点差は均衡を保っていた。

 

「(今は耐えるんだ。残り5分までこの均衡を保てれば、そこから逆転出来る!)」

 

パーフェクトコピーと言う切り札を残る黄瀬。それに望みをかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り5分2秒

 

 

秀徳 83

海常 72

 

 

試合はその後も均衡が崩れる事無く時間が過ぎていった。

 

「(残り時間5分。ようやくッスね!)」

 

遂に来た黄瀬にとっての大望の時。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「っ!?」

 

黄瀬が左右にボールを切り返すと、緑間がアンクルブレイクを起こし、尻餅を付く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時にカットイン。一気に加速。そのままボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「くそっ!」

 

「ちぃっ!」

 

カットインした黄瀬を見て戸塚と木村がヘルプに飛び出す。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

2人のブロックもお構いなしにその上からダンクを叩き込んだ。

 

 

秀徳 83

海常 74

 

 

「黄瀬!」

 

圧倒的なダンクを見て氏原が歓喜しながら駆け寄る。

 

「フー、待ちかねたッスよ。これでようやく我慢の時間が終わりッス」

 

一息吐いた黄瀬が緑間に振り返る。

 

「ここからは俺の時間ッス。この試合、貰うッスよ」

 

そう宣言する黄瀬。

 

「…」

 

緑間は何も言い返さず、ただ立ち上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳のオフェンス…。

 

「…おっ? 高尾がハンドラーに戻ったで」

 

司令塔が緑間が高尾に戻った事に気付く天野。

 

「パーフェクトコピーを使った黄瀬相手にボール運びは難しい…ていう判断か?」

 

その真意を菅野が予想する。

 

 

「…」

 

緑間はスリーポイントラインから数メートル離れた所に立っている。

 

「…どうしたんスか? もう司令塔は廃業スか?」

 

目の前に立つ黄瀬。緑間に対して茶化すように尋ねる。

 

「…」

 

それに対して緑間は特に反応を示さない。

 

「(どういうつもりかは分からないが、再びこの人(高尾)がボール運びをするなら、今度こそ俺が止めて見せる!)」

 

意気込みを内心で露にする小牧。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(来た! 止め――っ!?)」

 

カットインする高尾を追いかけようとした小牧だったが、木村の仕掛けたスクリーンに阻まれる。

 

「ちぃっ! 貴様かい!」

 

切り込む高尾に対し、三枝がヘルプにやってくる。

 

「…っと」

 

三枝がやってくると、高尾はビハインドバックパスでボールを左へと放る。するとそこには先程スクリーンを仕掛けた木村が走り込んでいた。

 

 

――バス!!!

 

 

パスを受けた木村がそのままレイアップを決めた。

 

 

秀徳 85

海常 74

 

 

「ナイス、孝介」

 

「うす」

 

ハイタッチを交わす高尾と木村。

 

「くそっ…、ピック&ロールか」

 

高尾と木村の連携に悔しがる小牧。

 

「気にせんええ! 直に追いつく。しっかり集中せえ!」

 

手を叩きながら三枝がチームを鼓舞する。

 

 

続く海常のオフェンス…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを持った黄瀬が青峰のコピー。チェンジオブペースで中に切り込む。

 

「…っ」

 

本家顔負けのカットインに緑間は歯を食い縛って対応。黄瀬を追いかける。

 

「打たせるか!」

 

切り込んだ先には戸塚が待ち受ける。

 

「決めさせてもらうッスよ!」

 

ボールを掴んだ黄瀬は回転をしながらリングに向かって跳躍する。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

「うぁっ!」

 

紫原の技であるトールハンマーで緑間と戸塚を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

 

秀徳 85

海常 76

 

 

「(…おかしい)」

 

黄瀬は何処か腑に落ちない何かを感じ取った。やけに呆気なさ過ぎる。自身のパーフェクトコピーに対して何か対策をしてくるかと思いきや、その様子が見られないからだ。

 

「(今度は何考えてるんスか。俺を止めなきゃ勝てないッスよ…)」

 

胸中で黄瀬は緑間に忠告したのだった。

 

 

変わって秀徳のオフェンスも、再び高尾がボールを運び、緑間は先程同様、スリーポイントラインから数メートル離れた位置に立った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

今度は氏原が木村のスクリーンでマークを引き剥がし、ジャンプシュートを決めた。

 

 

――バス!!!

 

 

続くオフェンスも、黄瀬が自ら決めた。

 

 

再び秀徳のオフェンス。緑間はこれまでのポジションに…。

 

 

「なるほど、考えたな」

 

何かに気付いた青峰が頷きながら納得する。

 

「あの位置に立っちまえば黄瀬はパーフェクトコピーを生かせねえ」

 

「…あっ!? そっか!」

 

桃井も気付き、頷いた。

 

黄瀬は紫原のコピーで本家と同等のディフェンスエリアを再現している。しかし、本家のポジションと陽泉のチームディフェンスによってゴール下に立つ紫原はディフェンスの1番最深部にいる為、全選手の動きが把握出来るのでツーポイントエリア内全域のブロックが可能だが、スリーポイントラインから離れた位置に立つ緑間をマークする黄瀬は秀徳の選手全ての動きを把握出来ない上、一瞬でも緑間に間を与えてしまえばスリーを打たれてしまう為、長く意識を外せない。

 

「ボール運びをホークアイを持つ5番(高尾)に戻してるから迂闊に緑間のマークを外してブロックに行けば即座にパスを出される。これなら例え黄瀬を止められなくとも点は取れる。点さえ取れれば点差は縮まらねえ」

 

「秀徳にしか出来ないミドリンを生かしたきーちゃんのパーフェクトコピー対策。大ちゃん言う通り、ミドリンって凄い」

 

「…」

 

感心する桃井。青峰は試合の行方を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(くそっ! 点差が縮まらない!)」

 

黄瀬は焦っていた。

 

試合時間残り5分を切って満を持してパーフェクトコピーを再解放した黄瀬。点を取る事には成功しているが、秀徳のオフェンスを止める事が出来ていなかった。

 

 

――バス!!!

 

 

三枝の裏を取った戸塚にすぐさま高尾がパスを出し、リバースレイアップを決めた。

 

「…」

 

海常オフェンスになり、黄瀬がボールを掴む。

 

「(…っ、やっぱりスリーは打たせてもらえない…!)」

 

点は取れてる黄瀬だが、緑間はスリーだけは要警戒しており、如何にパーフェクトコピーでも要警戒されてしまえば打てるものではない。

 

「…くそっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

仕方なく青峰のコピーで中に切り込み、そのままフォームレスシュートを決めた。

 

秀徳のオフェンス…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

高尾がボールを運び、秀徳の選手達がボールを回し、チャンスを窺う。

 

「ちぃっ!」

 

何とか止めようと奮闘する三枝だったが、1ON1ならいざ知らず、チームプレーには対応しきれない。

 

「…っ」

 

その状況を離れた位置で歯を食い縛りながら見ている黄瀬。試合終了が迫る中、一刻も早く逆転したい海常。しかし、黄瀬が動けば緑間がフリーとなってしまう。

 

「(こんな所で…、こんな所で…!)」

 

耐え切れず、黄瀬が動いた。

 

「そう来るのを待ってたぜ!」

 

待ってましたとばかりに高尾が緑間にパスを出した。

 

「決めろ緑間!」

 

フリーでボールを掴んだ緑間に戸塚が叫ぶ。緑間はすぐさまスリーの体勢に入る。

 

「(負けれないんスよ。これが最後なんだ。チームを1度も優勝させずに終わらせるなんて…)出来ないんスよ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

フリーと思われた緑間。黄瀬が猛烈な速さで距離を詰め、緑間の放ったボールを叩き落とした。

 

「やべぇ!」

 

思わず叫ぶ高尾。緑間の後方に零れたボールを黄瀬がすぐさま拾い、そのままワンマン速攻。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままダンクを決めた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「絶対に勝つ。これが最後なんだ。絶対勝って優勝するんスよ!」

 

『っ!?』

 

気迫の籠った宣言をする黄瀬。その迫力に圧倒される秀徳の選手達。

 

 

「空!」

 

「…ああ。間違いねえ、黄瀬さんが、入りやがった」

 

声かけた大地に空が答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――黄瀬涼太が、ゾーンの扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

変わって秀徳のオフェンス。高尾の出したパスを黄瀬がカット。そのまま再び速攻に走った。

 

「…黄瀬!」

 

そんな黄瀬の前に、緑間が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

緑間がディフェンスにやってくると、黄瀬は青峰のコピーに五将の葉山のライトニングドリブルを複合させ、緑間を抜きさり、そのまま決めた。

 

「…くっ!」

 

焦りの色が隠せない緑間。黄瀬がゾーンの扉を開いてから立て続けにオフェンスは失敗。ターンオーバーからの失点を喫し続け、みるみる点差は縮まっていった。

 

「…っ」

 

黄瀬のマークを引き剥がすべく動いていた緑間だったが触れきれず、立ち止まった緑間はボールを持たないままシュート体勢に入った。

 

「あれは緑間と高尾のスカイダイレクトスリー!!!」

 

ボールを持つ高尾。高尾の横に移動した緑間が2人の究極連携である空中装填式(スカイダイレクト)スリーポイントシュートの構えに入った。

 

「真ちゃん!」

 

タイミングを合わせて緑間の手元に正確無比なパスを送る高尾。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

しかしそのパスはパスコースに割り込んだ黄瀬にカットされる。

 

「焦ってるんスか? 身長のない赤司っちならともかく、俺ならタイミングさえ合えばカット出来るんスよ」

 

かつての赤司は20㎝以上のミスマッチであった為、ダブルチームとエンペラーアイを利用して高尾のパスをカットしたが、身長差がない黄瀬。ましてやパーフェクトコピー+ゾーン状態である黄瀬は即座に青峰のアジリティに紫原のディフェンスをコピーした黄瀬ならばよほど不意や意表を突かれなければ止める事は可能なのだ。

 

「…っ」

 

再びオフェンスを失敗し、窮地に陥る秀徳。

 

「止めろ! ファールでもいい、止めるんだ!」

 

ベンチから指示を飛ばす中谷。

 

「止める。何としてでも…!」

 

集中力を最大にして黄瀬の前に立ち塞がる緑間。

 

「…」

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールを止めた黄瀬は青峰のコピーで独特のハンドリングを始める。

 

「(青峰のコピーか!?)」

 

ドライブに警戒する緑間。しかし…。

 

「っ!?」

 

右ウィングの位置に立つ黄瀬だったが、突如としてボールを掴んだ。

 

「忘れたんスか? 今の青峰っちには『これ』があるんスよ」

 

そう言ってスリーを放つ黄瀬。

 

「しまった!」

 

完全に意表を突かれ、そのスリーを見送ってしまう緑間。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたスリーはキレイにリングを潜り抜けた。

 

 

第4Q、残り2分39秒

 

 

秀徳 89

海常 92

 

 

このスリーで遂に海常が逆転した。

 

『遂に逆転だ!!!』

 

歓喜する海常ベンチ。

 

『…っ』

 

対して静まり返る秀徳ベンチ。

 

 

「…決まったか?」

 

試合展開を見て松永がポツリと呟く。

 

「かもな。ゾーン状態でパーフェクトコピーを使用した黄瀬は俺と大地が2人がかりでも止められなかった。点も取れねえ上に止められねえんじゃ秀徳に勝ち目はねえ」

 

今年の夏に今の状態の黄瀬とやり合った空にはこの黄瀬の恐ろしさは痛い程理解している。その上でそう結論付けた。

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

下を向きながら呼吸を荒げる緑間。何とか黄瀬を止めようと奮闘するも歯が立たず、窮地に陥っていた。

 

「(今日まで人事を尽くしてきた。それでも届かないと言うのか…!)」

 

こだわりを捨て、新たな武器を死に物狂いで身に着けた緑間。しかし黄瀬はそれを嘲笑うかのようにコピーし、遂には自分を圧倒…追いつめていた。

 

「(…ふざけるな。ふざけるな!)」

 

それでも緑間の中に諦め等なく、その胸中は怒りで占めていた。

 

「(秀徳は…、俺達は今日まで皆人事を尽くしてきたのだ。こんな所で負けられないのだよ!)」

 

今、コートに立っている選手達。ベンチ及びベンチに入れなかった秀徳の選手達。その者達が全員、全国制覇を果たす為に今日まで努力してきた事を緑間は誰よりも知っている。そんな者達の努力が報われない事など、あってはならない。

 

「――」

 

その時、緑間の視界が変わる。

 

「高尾。ボールをくれ」

 

「お、おう」

 

スローワーとなった高尾がすぐさま緑間にボールを渡す。

 

「…」

 

ボールを運ぶ緑間。

 

「(流れはうちにある。ここを止めて一気にトドメ――)…っ!?」

 

緑間のディフェンスに入ろうとした黄瀬だったが、フロントコートに入った瞬間、緑間がクイックリリースでスリーを放ち、目を見開いて驚愕する。

 

『っ!?』

 

まさかの行動に海常の選手だけではなく、秀徳の選手達も驚き、ボールの行方に注目した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

「…っ!」

 

驚きながら黄瀬が緑間に振り返る。

 

「勝ちたいのがお前達だけだと思うな。俺達は今日まで皆人事を尽くして来たのだ。勝つのは、俺達だ!」

 

気迫の籠った声で言い放つ緑間。

 

『っ!?』

 

その迫力に海常の選手達は圧倒。そして気付いた。

 

「…ハハッ、やっぱり緑間っちは一筋縄では行かないッスね」

 

そんな緑間を見て黄瀬が苦笑しながら呟いた。

 

 

「大ちゃん!」

 

「…ああ。緑間の奴、入りやがった」

 

青峰が呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――緑間真太郎が、ゾーンの扉を開いたと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ここから試合はゾーンの扉を開いた緑間と黄瀬のぶつかり合いとなった。

 

「緑間っち!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

赤司のコピーで緑間にアンクルブレイク起こさせ、直後に青峰のコピーで抜きさり、ダンクを決める黄瀬。

 

「黄瀬ぇっ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

スリーポイントラインをなぞるようにドリブルをした緑間が身体が横に流れながらもクイックリリースでスリーを放ち、決めた。

 

ゾーンに入った者同士、勝負は互角……ではなく…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

パーフェクトコピーを使用している黄瀬が僅かに押しており、未だ黄瀬を止められない緑間に対し、黄瀬は緑間のブロックに成功していた。

 

 

「…やはり、ゾーンに入っても黄瀬さんの方が優勢のようですね」

 

「…ああ。だが…」

 

黄瀬優勢と断ずる空と大地だったが…。

 

 

「…くっ!」

 

ハイポストでポストアップをしながらチャンスを窺う緑間だったが、目の前の黄瀬の牙城に四苦八苦していた。ゾーンに入ってある程度拮抗し始めたが、それでもパーフェクトコピーを使用する黄瀬に届かない緑間。

 

「…っ」

 

ここで緑間は前に前進。リングから離れるようにドリブルで前進する。そしてスリーポイントラインを越えると…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールを掴み、飛びながらリングに振り返り、フェイダウェイのような体勢でスリーを放った。

 

「っ!?」

 

黄瀬もブロックに向かうも僅かに間に合わず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

緑間の放ったスリーが決まった。

 

「(黄瀬…、恐ろしい男だ。ゾーンに入って尚届かないとは…)」

 

「(スリーは要警戒してる。それでも緑間っちは決めてくる。化け物ッスよ)」

 

互いに認め合う2人。

 

「(…だが!)」

 

「(…でも!)」

 

「「(勝つのは俺なのだよ(だ)!!!)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後もぶつかり合う緑間と黄瀬。2点で確実に決める黄瀬。2回に1回は止められるもスリーで猛追する緑間。試合はキセキの世代同士のぶつかり合いとなっていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

緑間がスリーをフェイクに中からジャンプシュートを決めた。

 

 

第4Q、残り28秒

 

 

秀徳 100

海常 102

 

 

残り時間30秒を切り、点差は海常が2点差でリードしていた。

 

「ここは死守だ! 絶対死守しろ!」

 

ベンチから中谷が立ち上がりながら選手達に指示を出した。

 

『…っ』

 

慎重にボールを回しながら得点チャンスを窺う海常。

 

『…っ』

 

ここを止められなければ敗北がほぼ確定する秀徳は死に物狂いでディフェンスをしていた。

 

「…」

 

「…」

 

黄瀬をマークする緑間。決してフリーにさせまいと必死に食らいつく。

 

「……へい!」

 

試合時間が残り時間が20秒となった所で黄瀬が中に走り込み、ボールを要求した。

 

「…っ」

 

即座に追いかけようとした緑間だったが、目の前には末広のスクリーンがあり、これをロールしながらかわし、追いかける。が、これによって僅かに黄瀬がフリーとなってしまった。

 

「これでトドメッスよ!」

 

ローポストに立った黄瀬。その背中に緑間が張り付くように立つ。黄瀬がボールを掴むと…。

 

『っ!?』

 

回転しながら黄瀬がリングに向かって飛んだ。

 

『あれは紫原のトールハンマー!?』

 

『パワーなら黄瀬の方が上だ! 決まったか!?』

 

インサイドでボールを掴んだ黄瀬は紫原のトールハンマーを選択した。

 

「…っ!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

緑間がブロックに飛び、両手でトールハンマーをブロック。抑え込んだ。

 

「っ!?」

 

やはりパワーでは黄瀬が勝り、少しずつリングに向かって押されていく。

 

「頼む緑間!」

 

『止めてくれぇっ!!!』

 

必死に緑間に想いを託す秀徳の選手達。

 

「(今日まで皆人事を尽くしてきたのだ。振り絞れ! 俺の身体の全ての力を!!!)…おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

咆哮を上げながら身体から力を振り絞る緑間。

 

 

――バチィィン!!!

 

 

「…っ!?」

 

緑間は黄瀬の両手に収まるボールを掻きだした。

 

『よっしゃぁぁぁぁっ!!!』

 

秀徳ベンチの選手達が同時に立ち上がりながら咆哮を上げた。

 

「ルーズボール! 抑えるんだ!」

 

中谷も興奮しながらも選手達に指示を飛ばす。

 

「さっすが真ちゃんだぜ!!!」

 

ルーズボールを高尾が抑えた。残り時間15秒となった所で秀徳がボールを奪った。

 

「止めろ! 何としてでも止めるんだ!」

 

今度は海常ベンチの武内が選手達の指示を飛ばした。

 

「…」

 

ボールを奪った秀徳。高尾は焦って攻めたりはせず、冷静にゆっくりボールを運びながらゲームメイクをしていた。点差は2点。2点と取って延長戦に望みを繋げるか、スリーで逆転を狙うか…。

 

『…っ』

 

試合時間が刻一刻となくなっていく試合。会場にいる全ての者がその結末を固唾を飲んで見守っていた。

 

 

「…秀徳はどう攻めるかな?」

 

青峰に尋ねる桃井。

 

「緑間がスリーでトドメ刺しに行くだろうな」

 

そう断言。しかし…。

 

「もっとも、俺の知る緑間だったらな…」

 

そう補足した。

 

今日の緑間は青峰の予想をことごとく裏切ってきており、もはや予測は困難。スリーと見せて2点と取って延長戦を迎えるか、あるいは緑間以外で決める可能性もある。

 

「…」

 

緑間をマークする黄瀬。

 

「(絶対緑間っちが決めてくる。絶対にマークは外さない!)」

 

フィニッシュは緑間と断じてピタリとマークする。

 

誰もが結末を予想出来ないこの試合。試合時間が残り8秒となったその時!

 

「こっちだ高尾ぉぉぉぉっ!!!」

 

その時、斎藤が右アウトサイドのコーナーに移動し、ボールを要求した。次の瞬間、この会場にいる全ての者が驚愕に包まれることとなった。

 

「打たせ――っ!?」

 

斎藤を追いかけようとした氏原だったが、スクリーンによって阻まれた。

 

『緑間がスクリーン!?』

 

予想は困難なれど誰しもが緑間が決めに来ると思っていた。だがその予想を覆され、まさかの緑間が斎藤をフリーにする為にスクリーンをかけた。

 

「させるか!」

 

すぐさま末広がヘルプに飛び出し、斎藤に詰め寄る。そして高尾がパスを出した。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、再び会場は驚愕に包まれることとなった。高尾は外の斎藤……にではなく、中にパスを出したのだ。そしてボールを掴んだのは…。

 

『緑間!?』

 

先程スクリーンをかけた緑間が中でボールを受け取ったのだ。

 

 

「ピック&ロールかい!?」

 

天野が叫ぶ。

 

 

緑間はスクリーンと同時に中に走り込み、パスを受けたのだ。斎藤が声を張り上げ、自分で決めに来ると印象付け、海常の選手達の意識を自分へと向けるファインプレーを見せ、その間に緑間が中に走り込む。

 

「「っ!?」」

 

小牧と氏原はもはや対応に間に合わず…。

 

「っ!?」

 

末広は斎藤にヘルプに釣られ…。

 

「…おのれぃ!」

 

戸塚が三枝を背中で抑え込む。

 

 

――緑間の前には阻む者は何もなかった。

 

 

そのはずだったが…。

 

その時、ゴール下に黄瀬が現れた。

 

「よく戻った黄瀬!!!」

 

ベンチで叫ぶ武内。

 

誰しもが斎藤の声で緑間から一瞬意識を外してしまったが、黄瀬だけは別だった。黄瀬だけが緑間の動向に注意を払っており、1人戻っていた。

 

それでも緑間はボールを掴んでレイアップの体勢に入った。

 

 

「延長戦狙い!?」

 

まさかの決断に桃井が驚く。

 

「いや…ちげぇ!」

 

青峰が前のめりになる。

 

 

「おぉっ!!!」

 

黄瀬がブロックに飛ぶ。

 

「俺はスリーへの執着は捨てても、こだわりまでは捨てた覚えはないのだよ!」

 

 

――ドン!!!

 

 

空中で緑間と黄瀬が交錯する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に鳴り響く審判の笛。

 

緑間の手から離れたボールはリングの縁をクルクルと回り…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

「3点。これでトドメなのだよ」

 

緑間が眼鏡のブリッジを押しながら呟いた。

 

『っしゃぁぁぁぁっ!!!』

 

同時に大歓喜する秀徳ベンチの選手達。

 

「真ちゃん!!!」

 

「緑間!!!」

 

緑間に駆け寄るコート上の選手達。

 

緑間の狙いはスリーでの逆転でなければ2点と取って延長戦に繋げる事でもなく、ファールによるフリースローによるボーナススローでの逆転だった。黄瀬だけは必ず最後に立ちはだかる予測した緑間が描いた究極のシナリオ。

 

 

「決めやがった…」

 

「何て人だ…」

 

この結末に空も大地も驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀徳と海常の激突は、緑間の手によって秀徳の勝利――

 

 

『ピピピピピピ!!!』

 

 

と思われたその時、審判が笛を吹いた。

 

 

『オフェンスチャージング!!!』

 

 

そうコールした。

 

『っ!?』

 

このコールに会場全ての者が耳を疑った。

 

「なんだと!?」

 

これには緑間も同様であった。

 

「どういう事だよ!? 今のディフェンスのファールだろ!?」

 

納得が行かない高尾が審判に詰め寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ。あー心臓に悪い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

その声にハッと振り返る緑間。

 

「お前、まさか…!?」

 

その緑間の問いに、黄瀬はニヤリと笑みを浮かべたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





リアルでトラブルが続いたのと年末の多忙により、投稿が遅れました。まだトラブルの方は完全には解決していないのですが、とりあえず合間を縫って投稿です。

と言う事で、秀徳・海常戦の集結です…(;^ω^)

賛否はあるかと思いますが、こういう結末と致しました。

原作では何かと不遇な者(かたやチート能力も持ってしまったが故、かたや原作者に嫌われてしまった故)同士の激突。緑間の成長は書いていて面白かったのですが、やはり原作での黄瀬の無念を果たしてあげたかったので、この結末です。…本音は、これ以上緑間に試合をさせると収拾が付かなくなると言うの理由なのは内緒です…(;^ω^)

これから先もまだまだ別の試合があるので、ここからさらに試合展開を考えなければなりません。頑張れ俺…(^_^)v

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第177Q~好敵手を前に~


投稿します!

遂に年越し2週間を切りました。早いですねぇ…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

残り時間30秒を切って海常が2点リードでのオフェンス。黄瀬の紫原のコピーによるトールハンマーを緑間が起死回生のブロック。

 

緑間がスクリーンからのピック&ロールとチームメイトが必死のフォローを受けて中でボールを受け、得点チャンスを得た。

 

しかし、海常の誰しもが意表を突かれる中、黄瀬だけが緑間から目を離さず、ゴール下で待ち受けていた。だが…。

 

緑間も黄瀬が立ち塞がる事を予想しており、黄瀬のブロックを逆手に取って黄瀬からファールを貰い、同点…からのフリースローで逆転を狙った。

 

審判が笛を吹き、緑間の放ったレイアップはリングを潜り抜けた。緑間の狙い通り。誰しもが秀徳の勝利を確信したが、審判はオフェンスファールとジャッジ。

 

誰しもが耳を疑ったが、ただ1人、黄瀬がニヤリと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

オフェンスファールとなり、海常ボールとなり、再開と同時に試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

 

秀徳 100

海常 102

 

 

『勝ったぁっ!!!』

 

歓喜に沸く海常ベンチ。

 

『…』

 

敗北と言う事実を前に打ちひしがれる秀徳ベンチ。

 

「…ふぅ」

 

「…はぁ」

 

勝利の喜びよりも安堵の方が大きいのか、コート上の海常の選手達は皆一様に溜息を吐いていた。

 

「…っ」

 

「…くそっ!」

 

秀徳の選手達は悔しさを噛みしめる者、涙を流す者など、敗北の事実を痛感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「102対100で、海常高校の勝ち。礼!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内で整列した両校の選手達が審判の号令で挨拶を交わし、この試合が終わった。

 

激闘を繰り広げた者同士がそれぞれ握手を交わし、健闘を称え合う。

 

「まさか、お前も狙っていたとはな」

 

黄瀬と緑間が歩み寄り、緑間が先に声を掛ける。

 

「咄嗟の思い付きッスけどね。…正直、勝った気がしないッスよ」

 

苦笑しながら黄瀬が返す。

 

「…少々気に入らん結末ではあるが、結果が全てだ」

 

苦い表情をしながら緑間が皮肉る。互いにファールを狙った最後の攻防。審判がオフェンスファールをコールした事で海常に軍配が上がった。その事に緑間は理解はしても納得が行かない思いもあるのだ。

 

「今日の緑間っち相手に延長戦したくはなかったからああするしかなかったんスよ。運…と言えばそれまでッスけど、強いて言うなら、これのおかげッスね」

 

そう言って黄瀬は、緑間に右手首に付けた青のリストバンドを見せた。

 

「? …それがいったい何の――そういう事か」

 

黄瀬の意図に最初は理解出来なかったが、すぐに理解した。緑間が崇拝するおは朝占い今日の双子座のラッキーアイテムの事を…。

 

「俺は緑間っち程信じてる訳じゃないッスけど、相手が相手ッスからね。縋れるものに縋らせてもらったッスよ」

 

ニコリと笑う黄瀬。

 

「…フッ、そうか、お前も人事を尽くしていたのだな」

 

それを聞いて緑間は自嘲気味に笑った。

 

「お前の、勝ちなのだよ」

 

そして改めて黄瀬にそう告げた。

 

「緑間っちとはまた何処かで戦いたいッス。次も負けないッスよ」

 

「抜かせ。次勝つのは俺なのだよ」

 

そう言って、互いに握手を交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「全員、顔を上げろ」

 

ベンチに戻った秀徳の選手達。敗北の悔しさで皆俯く中、緑間がそんな選手達に向かって告げる。

 

「情けない姿を見せるな。最後まで顔を上げ、胸を張ってコートを去るのだよ」

 

そう言って、緑間は秀徳のベンチ入りを果たせなかった部員が集まる観客席の前に移動する。緑間に続いて他の選手達も続き、緑間の横に並ぶ。

 

『応援、ありがとうございます!!!』

 

選手達が一斉に頭を下げた。同時に絶え間ない拍手と声援が秀徳選手達に贈られる。

 

『…っ』

 

敗戦直後で当然未だ悔しさもある部員達だが、顔を上げ、胸を張りながらコートを去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

通路を無言で歩いて行く秀徳の選手達。誰もが沈黙を保っている。

 

「……あっという間の3年間だったよな」

 

その沈黙を、高尾が破った。

 

「入部したのが昨日の事に思えるくらいあっという間の3年間だったぜ」

 

『…』

 

努めていつもの明るい口調で喋る高尾。

 

「…もう、終わり…なんだよな…。もっと、ここ(秀徳)で…バスケがしたかったな…」

 

感情が溢れ、今まで堪えていたものが溢れだした。

 

『…っ』

 

それをきっかけに他の選手達も悔し涙を流し始めた。

 

「…」

 

選手達の最後尾を緑間が歩いている。俯く事無く淡々と足を進めていた。

 

「緑間」

 

そんな緑間に対し、監督の中谷が緑間の肩に手を置きながら声を掛けた。

 

「すまなかったな」

 

「……何故、監督が謝るのですか」

 

謝罪の言葉を告げた中谷を理解出来ない緑間。

 

「今日、勝たせてやれなかったのは……いや、お前が加入してから1度たりとも優勝させてやれなかったのは、私の責任だ」

 

「…っ! そんな、事…!」

 

責任を感じている中谷の言葉を否定しようとする緑間。

 

「今日まで秀徳を引っ張ってくれて感謝する。ありがとう」

 

「……こちらこそ、今日までご指導ご鞭撻、ありがとうございました…!」

 

堪えていたものが両の瞳が溢れだす緑間。絞り出すように感謝の言葉を告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「海常が勝ったね」

 

「…」

 

桃井が声をかけるが、青峰は返事を返さない。

 

「最後のファール、オフェンスファールを取られたけど、大ちゃんから見てどうだった?」

 

勝敗を分けた最後のファールに付いて尋ねる。桃井の目から見ると最後のはディフェンスファールに見えたからだ。

 

「さあな。ここでどんだけ議論しても意味なんてねえだろ」

 

結果だけを受け止め、審判のジャッジには興味を示さない青峰。

 

「それにしてもきーちゃんはどうして最後ファールを狙ったんだろう。結果的にはオフェンスファールになったけど、もしかしたらディフェンスファールを取られてかもしれないのに…」

 

結果的にはオフェンスファールだったが、審判によっては…、あるいは審判が見ていた角度が違っていれば判定が逆だったかもしれないファール。半ばギャンブル紛いのファールを狙った黄瀬の考えが桃井は分からなかった。

 

「夏に延長戦で負けてるからな。夏より余力があったとは言え、今日の秀徳相手に延長戦をやりたくなかったんだろ。もし、秀徳にまだ隠し玉があったら延長戦の短い時間じゃ逆転は不可能だからな」

 

秀徳がさらに切り札を隠し持っていた場合、1度流れを持って行かれて点差を開けられれば逆転は困難。今日の秀徳にはまだ切り札を持っていると思わせるだけの不気味さがあった。

 

「…ミドリン、悔しいだろうね」

 

悲し気に言う桃井。勝敗を分けたのが審判のジャッジであり、視方を変えれば運に恵まれずに負けたとも取れるからだ。

 

「…例え結末が審判のジャッジによるものでも、黄瀬もファールを狙った結果だ。運が悪かったから負けたんじゃねえ。黄瀬の方が強かったから勝った。それだけだ」

 

「……そっか」

 

青峰の言葉に桃井は納得するように頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「秀徳が負けたか」

 

上杉がポツリと呟く。

 

「相変わらずキセキの世代はどいつもこいつも化け物やで。開いた口が塞がらんわ」

 

両者の激闘を見た天野が冷や汗交じりにそう感想を漏らす。

 

「こりゃ、海常とまた当たる事もあり得そうだな…」

 

「…覚悟をしておくべきでしょうね」

 

菅野の言葉に松永が頷く。インターハイでは辛くも勝利した相手だが、内容は紙一重。次は勝敗がひっくり返りかねない相手だった。

 

「…ま、今更でしょ。何処が相手でも全力を尽くして勝つ。それだけだ」

 

「あなたらしいですね。…ですが、同感です」

 

特に動じる事無く言う空に、大地は頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳と海常の激闘後も残った試合が行われた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

火神のダンクが炸裂。

 

誠凛も火神を中心にお馴染みのオフェンス力で相手を圧倒。危なげなく3回戦を突破。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

陽泉も鉄壁のディフェンスで相手の攻撃をシャットアウト。相手のオフェンスを封殺し、順当に勝利。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

洛山も抜群のチームプレーで相手を圧倒。完璧な試合運びで開闢の帝王の実力を発揮し、勝利。

 

3回戦が終わり、この日、秀徳高校がその姿を消した。翌日の準々決勝に続くのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「はぁっ…! やっぱこの季節はさみぃ…!」

 

時刻は20時。既に日は落ち、辺りは夜の帳に包まれる中、空は1人夜道を歩いていた。

 

「…おっ! あったあった」

 

目当ての公園に辿り着いた空は小脇に抱えていたボールを地面に付きながら公園内に入り、リングのある広場まで移動する。

 

「…っし、らぁっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

リングに辿り着いた空はドリブルしながら助走を付け、右手でボールを掴んで飛び、リングにボールを叩きつけた。

 

「…ふぅ」

 

自身の試合後の秀徳対海常戦での緑間と黄瀬の激突。それを見てから空は身体の疼きが抑えられないのだ。

 

「あんな熱い戦い見せつけられたら我慢出来ねえ! 早く明日にならねえかな!」

 

興奮しながらスリーを放つ。

 

 

――ガン!!!

 

 

力み過ぎたのか、ボールはリングに弾かれてしまう。

 

「っと」

 

弾かれたボールを追いかける空。すると…。

 

「?」

 

転がったボールの先に人影が現れ、ボールを拾った。闇夜な上、現在、月を雲が覆っている為、その姿は分からない。

 

「奇遇だね」

 

「っ!? お前は!?」

 

同時に月を覆っていた雲が晴れ、月明かりが公園内を照らし出し、今まで見えなかった姿を照らし出した。

 

「…赤司、征十郎」

 

現れたのはキセキの世代、洛山高校の赤司だった。

 

「あんたもこんな時間に散歩か? それとも、ここにバスケでもやりに来たのか?」

 

「ただの散歩だよ。バスケがしたいならわざわざここまで来ずともうち(洛山)には専用の体育館がある」

 

「ふーん。それよりも…」

 

空が目を細めて赤司を注視。

 

「今日はそっちのあんたか。やたら尊大で偉そうな方の」

 

違う赤司である事に気付く空。

 

「…相変わらず口の利き方を知らない奴だ。僕の方が年長だ。言葉遣いに気を付けろ」

 

空の口の利き方に引っ掛かりを覚えた赤司は目付きを鋭くしながら警告する。

 

「んなもん俺に期待すんなよ。生憎と、あんたと違って育ちは良くねえんだよ。…つうか早くボール返せ」

 

「…ふん」

 

威圧する赤司に物ともせず、空は飄々と言い返す。赤司は鼻を鳴らしながら空にボールを放った。

 

「せっかく偶然にも顔を合わせたんだ。いっちょ、『明日の試合』前の前哨戦を兼ねて1ON1やらないか?」

 

ニヤリと笑みを浮かべながらもう1度赤司にボールを渡した。

 

「断る。結果の見えた勝負に興味はない」

 

「つれねえな」

 

再び赤司がボールを返すと、空は踵を返し、ゆっくりリングの方へドリブルしながら進んで行った。

 

「桐皇に勝ったようだが…」

 

赤司に背を向ける空。赤司はそんな空に向かって喋り始める。

 

「1つ尋ねる」

 

「?」

 

突然の赤司の言葉に思わず振り返る空。

 

「桐皇での試合。あれがお前達の全力か?」

 

「……あん?」

 

質問の意図が分からず、聞き返す。

 

「もしそうだと言うなら、お前達は明日、絶対に僕達には敵わない」

 

「っ!?」

 

その言葉に空が目を見開く。

 

「ではな。『明日の試合』、楽しみにしているよ」

 

そう告げ、赤司はその場を後にする。

 

「待てよ」

 

そんな赤司を空は呼び止める。

 

「桐皇は強かった。全身全霊全力を尽くしてやっとの事で勝てた。それは事実だ」

 

「…」

 

空が呼び止めると、赤司はその場で足を止め、振り返る事無く空の言葉に耳を傾ける。

 

「だが安心していいぜ。例えその時の俺達があんた達に勝てなくとも、それはあくまでもその時の俺達だ。明日の俺達はその時より強い」

 

「ほう?」

 

その言葉に赤司は不敵な笑みを浮かべながら振り返る。

 

「ついでに、明日の俺はひと味違うぜ? 何せ、相手はあんただからな。とびっきりのものを見せてやる。そんで勝つ。楽しみにしてな」

 

そう言ってニヤリと笑う空。

 

「面白い」

 

そう言って空の傍まで歩み寄る赤司。

 

「夏は君達との試合の影響で優勝を逃した。僕達にとってあの試合は負けにも等しい結果だった」

 

「負けた俺からすれば嫌味にしか聞こえねーぞ」

 

表情を険しくする空。

 

インターハイの準決勝で花月に快勝した洛山だったが、激闘が祟ったのか、洛山のスタメン選手達は軒並みコンディションが悪く、赤司に至っては最悪と言ってもいい状態だった。結果、優勝を逃した。

 

「今度こそ完膚なきまでに叩きのめす。その上で優勝し、絶対が僕達である事を証明しよう」

 

「おもしれー。今度こそあんたも洛山も叩きのめしてやる」

 

不敵に笑みを浮かべながら空は赤司に宣戦布告をした。

 

「…」

 

「…」

 

暫しの間、睨み合う両者。次の瞬間…。

 

「?」

 

赤司が右手を差し出した。

 

「へぇー、あんたもそんな殊勝な事するんだな」

 

「勘違いするな。ただの気まぐれだ。敵と握手を交わすのはこれが最初で最後だ」

 

ニヤニヤする空に対し、赤司はやや不機嫌そうに返す。

 

「そうかい。…そんじゃ、明日はよろしく」

 

「楽しみにしているよ。…空」

 

2人は握手を交わしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

本日行われるウィンターカップ準々決勝。

 

 

 第1試合   花月高校 × 洛山高校

 

 

 第2試合 多岐川東高校 × 田加良高校

 

 

 第3試合   海常高校 × 陽泉高校

 

 

 第4試合   誠凛高校 × 鳳舞高校

 

 

ここまで勝ち残った8つの高校が準決勝進出をかけて鎬を削り合う。

 

『第1試合から熱い試合だ!』

 

『花月は夏のリベンジ達成なるか!?』

 

『第3試合も熱いぜ!』

 

『海常と陽泉。どっちが勝ってもおかしくねえ!』

 

『第4試合も注目だぜ』

 

『鳳舞も戦力的には誠凛に引けを取らない。番狂わせは大いにあり得るぜ!』

 

試合開始前から観客席はほぼ満員。既に観客達は各々今日行われる試合の予想をし合っている。

 

「うわー、凄い人の数」

 

「…」

 

観戦にやってきた青峰と桃井。観客の多さに驚く桃井。

 

「もー、大ちゃんがもう少し早く来てくれれば座って試合見れたのに…」

 

「何処で見たって同じだろ」

 

口先を尖らせる桃井。対して青峰は気を咎める事無く返す。

 

「今日はどの試合も注目だね。大ちゃんの予想は?」

 

「海常と陽泉は予想が付かねえな。誠凛と鳳舞はまあ、誠凛が勝つだろ。2試合目はどっちが勝とうと興味ねえ」

 

尋ねられた青峰が大雑把に予想を口にする。

 

「洛山と花月は?」

 

「…俺達とやった時の花月と比較すんなら洛山だな」

 

「へぇー」

 

自分達に勝った花月の肩入れするかもと思っていた桃井だったが、先入観無しの予想に感心する。

 

「だがまあ…」

 

「?」

 

「正直結果は分かんねえ。花月は良くも悪くも予想を遙かに超えて来るからな。…テツ達みてーにな」

 

「…そうだね」

 

続く青峰の言葉に桃井は薄っすら笑みを浮かべながら頷いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月の控室…。

 

『…』

 

迫る試合を前に、選手達は黙々と準備を進めていく。

 

「…フゥ」

 

柔軟運動を終えた空が一息吐く。

 

「何や空坊。やけに落ち着いとるやんけ。いつもみたいに喧しく叫ばへんのか?」

 

「今日はそんな気分じゃないんで。…フゥー! 早く試合の時間来ないかな…!」

 

「…っ」

 

茶化し気味に声をかけた天野だったが、普段は荒い気性を抑えつつも内で轟々と燃えている空の闘志を感じ取り、思わず圧倒される。

 

「(空…)」

 

そんな空を見てこの試合に賭ける覚悟を傍で見ていた大地も感じ取っていた。

 

「全員、しっかり汗は流せているな?」

 

その時、控室の扉を上杉が開けて入ってきた。

 

「もう時間ですか?」

 

「間もなくだ。すぐに移動を開始するぞ」

 

その言葉を聞いて選手達及びマネージャー2人は移動の準備を開始する。

 

「っしゃっ!!! 夏のリベンジマッチだ。気合い入れて行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声に選手達が応える。

 

「結局叫ぶんかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『来た!!!』

 

『誠凛に続いてキセキ撃破を成し遂げた、不屈の旋風、花月高校!!!』

 

花月の選手達がコートのあるフロアにやってくると、観客達が歓声を上げた。

 

『圧倒的な実力と全国ナンバーワンのチームワークを誇る開闢の帝王、洛山高校!!!』

 

続いて洛山の選手達がやってくると、同様に歓声を上げた。

 

「前日のミーティングどおり、スタメンの変更はない。スターターは神城、生嶋、綾瀬、天野、松永で行く」

 

ベンチにやってきた花月の選手達。選手達の前に上杉が立つ。

 

「相手は高校最強、洛山だ。夏と同じでは絶対に勝てん」

 

『…』

 

「夏のお前達を…、洛山を超えて来い!」

 

檄を飛ばす上杉。

 

「全員集まれ」

 

空が立ち上がると、選手達及びマネージャーが円陣を組むように集まる。

 

「遂に来たぜこの時が。2回戦では去年負けた桐皇と、そして今日は夏に負けた洛山。バスケの神様ってのがいるなら、俺は感謝するぜ。他と潰し合う前にこの2校と戦れて」

 

『…』

 

「ここまでやれる事はやってきた。この場に立っているのは、キセキの世代打倒って言う、敢えて困難な道に足を踏み入れ、それでも勝つと覚悟を決めた大馬鹿野郎達だ。後は勝つだけだ」

 

『…』

 

「洛山をぶっ倒す! 行くぞ!!! 花月ー!!! ファイ!!!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合開始目前となり、花月、洛山のスタメン選手達がコートに足を踏み入れ、センターサークル内に集まる。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

洛山高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:赤司征十郎 175㎝

 

5番SG:二宮秀平  186㎝

 

6番SF:三村彰人  189㎝

 

7番PF:四条大智  193㎝

 

8番 C:五河充   202㎝

 

 

「これより、花月高校対洛山高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

「…」

 

「…」

 

無言で見つめ合う空と赤司。昨晩に互いに言いたい事を言い合った2人に今更話す事はなく、無言で検討を称え合った。

 

ジャンパーの松永と五河を残してコートに広がる両校の選手達。

 

「…」

 

ジャンパーの間に立って交互に視線を向ける審判。ボールを構えると、高々とボールは上げられた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ティップオフ!!! 準決勝進出をかけたリベンジマッチの幕が、切って落とされた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





遂に開始される花月の試合。正直、大雑把な展開は決めているんですが、肝心な試合内容の方がほぼほぼ白紙で、今からじっくり考えなければいけません…(;^ω^)

もしかしたらこれがこの二次の今年最後の投稿になるかもしれません。何とか間に合うよう今からネタ集めに奔走したいと思います…m(_ _)m

年末となり、リアルも忙しくなり、今年の最後の追い込みがやってきました。季節もすっかり冬となり、朝が凄まじく寒い…((+_+))

皆さま、体調には気を付けて残り少ない2021年を過ごして下さい…(^_^)v

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第178Q~流れ~


投稿します!

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます…(;^ω^)

何とか投稿に漕ぎつけました…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

――アメリカ某所…。

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

開かれたノートパソコンから漏れ出す大歓声。

 

「おっ? アレン、何見てんだ?」

 

「ジャパンハイスクールのバスケのネット中継さ」

 

「ジャパン? …おいおい、ジャパニーズの試合の何が面白い――って、ソラじゃねえか!」

 

肩を竦めながらパソコンの画面に視線を移すニック。コートに立つ空の姿を発見する。

 

アメリカでの短期留学の折、アメリカのストリートバスケチーム、ジャバウォックと交流した空は、ジャバウォックのメンバーにも一目置かれる存在となっている。

 

「全国大会の準々決勝だ」

 

「へぇー、…だがよ、ソラがいるなら楽勝だろ」

 

「そうとも限らないぜ。ソラが言ってただろ? ジャパンにはソラと同等の才能を持つ逸材がまだまだいるって。今日はその1人がいるチームが相手らしい」

 

「あのソラと互角以上にやれる奴が他にもいるって話か。にわかに信じられない話だ」

 

僅かな期間とは言え、空とバスケをしたニックは空の実力をよく理解している。それ故、空と同等以上の実力者が日本に他にもいる事が信じられなかった。

 

「何かと思えば、サル同士の試合なんざ見てんじゃねえよ」

 

「「ナッシュ」」

 

そこへ、ナッシュが現れた。

 

「見ろよナッシュ。ソラが出てるぜ」

 

「興味ねえ」

 

場面を指差すニック。しかしナッシュは一瞥もくれず、椅子に座る。画面上では花月、洛山のスタメン選手達がコート中央へと移動していた。

 

「…」

 

アレンとニックの後ろから何気なくパソコンの画面に視線を向けるナッシュ。ナッシュは画面に映る空と…。

 

「…」

 

白のユニフォーム。洛山の4番のユニフォームを着た選手、赤司に注目したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

審判によって高く上げられたボール。

 

「「…っ!」」

 

ジャンパーの両選手が同時にボールに飛び付く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…ちっ」

 

ジャンプボールは五河が制した。

 

「…」

 

叩かれたボールは赤司の下へ向かい、赤司がボールが掴み、洛山ボールから試合が開始された。

 

「っしゃ! 1本止めるぞ!」

 

空が両腕を広げながら檄を飛ばした。

 

 

「花月のディフェンスは、前に2人、後ろに3人のゾーンディフェンスだね」

 

ディフェンスに入る花月。その布陣を桃井が口にする。

 

花月は従来のマンツーマンディフェンスではなく、前に空と大地。後ろに生嶋、松永、天野の2-3ゾーンでディフェンスに入った。

 

 

「…」

 

ゆっくりとボールを進める赤司。

 

「83番だ」

 

コールと同時に赤司がパスを出す。

 

「オッケー!」

 

ハイポストでパスを受けた四条がすぐさまボールを捌く。

 

 

『来た! 洛山のナンバーコールからのデザインプレー!』

 

『80番台って、またパターンを増やしたのか!?』

 

今年の洛山のお家芸である司令塔、赤司からナンバーコールが発せられ、それを受けたたの選手達が絶えず足を動かす。コールナンバーの大きさに観客は驚く。

 

 

『…っ!』

 

選手とボールが目まぐるしく動き回り、花月の選手達は何とか食らいつく。

 

 

――ピッ!!!

 

 

シュートクロックが残り5秒を切った所で赤司が左アウトサイドに移動した二宮に向けて矢のようなパスを放つ。

 

「…っ」

 

すかさず生嶋がチェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

二宮はスリーのフェイクを入れ、すぐさまドライブ。生嶋を抜きさる。

 

 

「まずい! あのパス回しでゾーンディフェンスが乱されてやがる!」

 

思わず立ち上がる菅野。これまでの一連のパス回しで花月のゾーンは右側へと偏っており、生嶋をかわした二宮の前には阻む者はなかった。

 

「ちぃっ!」

 

これを見て松永がすかさずヘルプに飛び出し、リングに向かって飛んだ二宮に対してブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

しかし、松永がブロックに現れると、二宮は1度ボールを下げ、そのブロックを掻い潜る。リングを越えて所で再度ボールを構え、リングに背を向けた状態でボールを放った。

 

『先取点は洛山――』

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

誰もが洛山の先取点を確信した瞬間、放たれたボールが突如現れた1本の手に叩き落とされた。

 

『神城だぁっ!!!』

 

ブロックしたのは空。赤司のパスと同時に乱されたゾーンにいち早く気付き、即座に動いていたのだ。

 

「っしゃ、速攻だ!」

 

「ええで空坊!」

 

着地と同時に声を出し、速攻に走る空。ルーズボールを拾った天野が走る空に縦パスを出した。

 

「っと…」

 

ボールを掴んでそのまま速攻に走った空だが、フロントコートに数歩足を踏み入れた所で足を止める。

 

「良く止めた。だが、先取点はやれないな」

 

赤司が目の前に立ちはだかり、空は無理に仕掛けず、1度その場で足を止めたのだった。その間に洛山の選手達はディフェンスに戻り、花月の選手達も各ポジションに付いた。

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながらゲームメイクをする空。

 

洛山のディフェンスはマンツーマンディフェンス。空には赤司、生嶋には二宮。松永には五河。大地に三村と四条がダブルチームでマークし、天野がフリーの状態である。

 

「(自ら仕掛けてくるか、それとも…)」

 

空の一挙手一投足に注目する四条。ダブルチームの傍ら、いつでもヘルプに飛び出せるように備える。

 

「…」

 

目の前の赤司を注視しながらドリブルをする空。

 

 

――スッ…。

 

 

突如ボールを掴んだ空は頭上からオーバーヘッドパスで赤司にブロックされないようハイポストに立つフリーの天野にパスを出した。

 

「…っ」

 

パスと同時に天野に向かって猛ダッシュする空。すれ違い様に天野は差し出すようにボールを出し、空がそのボールを受けてそのままリングに向かって突き進む。

 

「決めさせん!」

 

天野からボールを受け取ったのを見て五河がヘルプに向かい、空の前に立ち塞がる。

 

「(ダンクやジャンプショットなら問題なく防げる。警戒すべきはフローターやフィンガーロール!)」

 

自ら空が決めに来ると読んだ五河。空がジャンプショットやダンクをしてくれば五河ならブロック出来る。そんな安易な選択を空がしないと見越した五河。相手のブロックをかわすフローターとフィンガーロールに狙いを絞り、タイミングを合わせる。

 

「…」

 

リングから少し離れた位置でボールを掴んだ空はそこから飛ぶ。

 

「(…ここだ!)」

 

タイミングを合わせて五河がブロックに飛ぶ。

 

「よし! ナイスタイミングだ!」

 

絶妙なタイミングでのブロックに他の洛山の選手達はブロックを確信する。

 

 

――スッ…。

 

 

しかしここで空はボールを下げ、ビハインドバックパスに切り替える。

 

「(パスか!?)」

 

右手でボールを持った空。左アウトサイドには生嶋の姿が。これを見て五河がすかさず右手を伸ばしてパスコースを塞ぐ。

 

 

――バチィ!!!

 

 

右手で放られたボール。

 

「なっ!?」

 

パスコースを塞いだ五河だったがここで目を見開く。右手で放られたボールは左方向で右方向へと飛んでいったからだ。

 

「(エルボーパス!?)」

 

右手で背中からパスを出した瞬間、空は左肘を突きだしてボールを当て、パスの方向を変えたのだ。ボールは逆サイド。右アウトサイドに立った大地のいる方向へ。

 

『っ!?』

 

意表を突かれたエルボーパス。フリーの大地にボールが渡れば先取点を確実。誰もが花月の先取点を確信した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、大地の手にボールが収まる直前、突如現れた手に阻まれた。

 

『赤司だぁっ!!!』

 

パスをスティールしたのは赤司。空が走り込んだ直後、マークを外してフリーの位置に動く大地を視認し、動いていたのだ。

 

「(あのアイコンタクト余計だったな…)」

 

胸中で呟く赤司。空は天野にパスを出す直前、大地に一瞬視線を向け、合図を出していた。これを見た赤司は大地へのパスを読み切ったのだ。

 

「ナイス赤司! 速攻!」

 

ルーズボールを拾った五河が前方に大きな縦パスを出す。そこには既に二宮が速攻に走っていた。

 

「っしゃ!」

 

ボールを掴んだ二宮はそのままワンマン速攻に走る。

 

「…っ」

 

スリーポイントライン目前で立ち止まる二宮。

 

「先取点は決めさせません」

 

二宮の前を大地が立ち塞がった。ボールが赤司にカットされたのと同時に速攻に走る二宮を見つけ、即座に大地はディフェンスに戻っていたのだ。

 

「くそっ!」

 

速攻のチャンスを潰され、悪態を吐く二宮。大地が相手では分が悪いと見て無理に仕掛けず、味方が攻め上がるのを待ち、赤司にボールを渡す。その間に花月もディフェンスに戻り、ゾーンディフェンスを形成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

コート上をスキール音が響き渡る。強豪同士の激突に当初は盛り上がっていた観客だったが、今では静まり返っている。

 

『…っ!』

 

息を飲む観客。

 

『点が、入らねえ…!』

 

 

第1Q、残り8分13秒。

 

 

花月 0

洛山 0

 

 

試合が開始されてもうすぐ2分。両チームとも未だスコアを動かす事が出来ていなかった。

 

洛山は赤司が的確に指示を飛ばし、他の選手達も抜群のチームワークでフリーの選手を作らせず、花月のオフェンスをシャットアウト。

 

花月も空が赤司に負けじと指示を飛ばし、足りない部分は勘と自らのスピードを駆使し、他の選手達も止めるか空か大地のヘルプが来るまで時間を稼ぎ、洛山のオフェンスをシャットアウトしていた。

 

「…夏の時と同じ展開だね」

 

今年のインターハイで激突した両校。その時も試合開始直後から主導権を得る為に両校が死に物狂いで先取点を奪いにいく展開であった。

 

「そうだっけか?」

 

「そうだよ! もう、あの時大ちゃんが寄り道するから…」

 

記憶のない青峰に対し、桃井が唇を尖らせる。

 

 

※ 夏の試合では青峰が推しの写真集を買いに寄り道した為、第1Qは見ていない。

 

 

「うっせーな。…けどまあ、こうなっちまったら、先取点取った方に流れが行くだろうな」

 

「そうなると、洛山有利?」

 

「そうとも限らねえ。洛山にしても点は取れてねえからな。この場合、半端なチームワークより、1人でどうにか出来る奴がいた方が今の状況を打開出来る」

 

「つまり、カギを握るのは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山のオフェンスは天野の執念のブロックに失敗。再び空がボールを運ぶ。

 

「…」

 

目の前の赤司を警戒しながら空がゲームメイクをする。

 

「(試合が始まって2分…)」

 

「(先取点が欲しいこの状況…)」

 

「(となれば必ず…)」

 

二宮、三村、四条の視線が1人の選手に集まる。

 

「…」

 

ボールをキープする空と自身をマークする三村と四条を交互に視線を向ける大地。洛山の選手のみならず、観客の注目も大地に集まっていた。

 

試合が始まって大地は未だにボールに触れていない。試合開始当初から洛山は大地を警戒し、常にダブルチームで大地をマークし、ボールを持たせないよう努めていた。

 

「…ふぅ」

 

一息吐く空。ここまで空はパスを捌いて得点チャンスを窺うも実らず、自ら得点を狙おうにも赤司がそれを許さなかった。

 

「…」

 

次の瞬間、大地が動く。

 

「「っ!?」」

 

空に向かって走り出した。

 

「(直接ボールを貰いに行くつもりか!?)…スイッチ!」

 

三村が声を出す。

 

急速に空との距離を詰める大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし空はボールを渡さず、大地が赤司の目の前で両腕を胸の前でクロスして急停止するのと同時に切り込んだ。

 

「スクリーン!? だが、赤司にスクリーンが通じると思うな!」

 

まさかの行動に驚く四条だったが、すぐに表情を改める。言葉通り、赤司は大地のスクリーンをロールしながらかわし、空を追いかけた。

 

「っ!?」

 

ここで赤司の目が見開く。空の目の前に立った赤司だったが、空の手にボールがなかったからだ。

 

「充!」

 

ボールの所在をすぐさま察知した赤司が指示を飛ばす。

 

「よし!」

 

ボールはローポストに立つ松永の手に渡っていた。赤司がスクリーンをかわす為にロールしたその瞬間に空はパスを出していたのだ。

 

「空けてないぜ!」

 

不意は突かれたものの、五河はすぐさま松永の背中に張り付くようにディフェンスに入った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

松永は五河に背中をぶつけ、押し込み始める。

 

「(パワーも高さも俺が上。何も出来ずに外にパスを捌くはず!)」

 

実力差を見て五河はそう予測する。しかし…。

 

「おぉっ!」

 

「なに!?」

 

予測に反して松永はスピンムーブで一気にゴール下まで進み、強引にシュートを打ちに行った。

 

「ちぃっ!」

 

慌ててブロックに向かう五河。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

激しく交錯する2人。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

「…ぐっ!」

 

ぶつかりながらも強引にシュートを放つ松永。

 

 

――ガン!!!

 

 

だがボールはリングに弾かれた。

 

『ディフェンス、プッシング、白8番(五河)!』

 

審判はディフェンスファールをコールし、フリースローが与えられた。

 

「…ちっ」

 

是が非でも先制点が欲しかった今の状況。きっちり決める事が出来ず、思わず舌打ちが飛び出る松永。

 

「よし」

 

ベンチに座る上杉が今のプレーを見て満足そうに頷く。

 

「(くそっ…、まさか強引に打ちに来るとはな…)」

 

夏に戦った時はどこか消極的で真っ向勝負は避ける傾向があった松永。

 

「(純粋な能力アップだけじゃない。神城と綾瀬抜きで一ノ瀬率いる緑川を倒した事で自信を付けたという事か…)」

 

五河は松永の認識を改めた。

 

 

「…」

 

フリースローラインに立ち、じっくりボールの縫い目を確かめる松永。

 

「……よし」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1投目を決め…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2投目もきっちり決め、フリースロー2本成功させた。

 

 

花月 2

洛山 0

 

 

『遂にスコアが動いた!』

 

『これで流れが変わるか!?』

 

 

変わって洛山のオフェンス…。

 

『…っ』

 

これまで同様、流れるようなパスワークで花月を翻弄、しかし…。

 

『うぉっ、はえー!?』

 

先程までとパスのスピードから人の動きがまた一段早くなったのだ。

 

「アウトサイドは俺と大地でカバーする。きっちりインサイド抑えろ!」

 

空が指示を飛ばす。

 

 

――ピッ!!!

 

 

息の付く間もない程の高速のパスワークで花月のゾーンディフェンスを翻弄する。

 

「…っ!?」

 

その時、赤司が中へと切り込み、ボールを貰いに動く。これを見て空が赤司との距離を詰める。

 

「甘いな」

 

「っ!? …ちぃっ!」

 

ボソリと呟く赤司。直後、空が気付く。二宮が赤司の動きに呼応して右アウトサイドに移動していた事に。

 

「っ!?」

 

すかさず出されるパス。大地もコーナーに釣り出されており、チェックに間に合わない。

 

「くそっ!」

 

放たれるスリー。慌てて空が距離を詰めてブロックに飛ぶも紙一重で間に合わず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 2

洛山 3

 

 

「よーし!」

 

無事スリーを決めた二宮はガッツポーズ。

 

『さすが洛山!』

 

『先制点直後に鮮やかに返した!』

 

「だー、ちくしょう!」

 

自身の失態で先制点直後の止めて流れに乗りたい相手のオフェンスをみすみす決められてしまい、頭を抱える空。

 

「今のは仕方ありません」

 

「そや、しゃーない。中まで気にかけんでええ。その為のゾーンディフェンスや。空坊はスリーだけに警戒しいや」

 

「うす!」

 

悔しがる空を大地と天野がフォローする。

 

 

続く、花月のオフェンス…。

 

これまで通り、空はゆっくりボールを運ぶ。

 

「…」

 

フロントコートまでボールを運ぶと、空はノールックビハインドパスで左アウトサイドに展開している生嶋にパスを出す。

 

「打たせん!」

 

スリーを阻止する為、すぐさま二宮がタイト気味にディフェンスに入る。

 

「…むっ?」

 

しかし、生嶋はボールを掴むのと同時にすぐさま中にパス。そこにはパスと同時にハイポストのポジションに走り込んでいた空が。

 

「行くぜ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ハイポストで赤司を背負うような形でボールを受け取った空。そのままドリブルを始め、背中で赤司を押し込み始めた。

 

「来やがったか! だが赤司だって夏から相当鍛え上げたんだ。そんな小細工通用しないぜ!」

 

洛山ベンチの選手が叫ぶ。

 

「百も承知だ。だが、神城とて夏は違う」

 

花月ベンチの上杉が胸の前で腕を組みながら呟く。

 

「…っ」

 

僅かに表情を歪ませる赤司。何とかポストアップを堪えようとする赤司だったが、ジリジリと押し込まれていく。

 

「アメリカでかなりフィジカルアップをしたようですからね。それに、三杉先輩の教えを思い出しながらポストアップしていた夏の時とは違い、きっちり姿勢から覚え込みましたから一味違いますよ」

 

姫川が続けて言う。

 

「…ちっ」

 

これを見て二宮がヘルプに動く。

 

「待て、秀平!」

 

制止をかける赤司。

 

「っ!?」

 

直後、二宮の顔スレスレをボールが通過する。

 

「絶好の景色だ」

 

フリーでボールを掴む生嶋。

 

「しまっ――」

 

振り返った時には既に遅く、生嶋は悠々とスリーを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

 

花月 5

洛山 3

 

 

「お返しだ」

 

「…」

 

鼻高々に告げる空。対して赤司は一瞥くれるのみ。

 

「くそっ!」

 

悔しがる二宮。空は二宮が自身のヘルプに来るのと同時にリングに視線を向けたままパスを出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「やっぱりポストアップで攻めて来たね」

 

「ああ。この間やり合った時にも感じたが、あいつ(空)、相当鍛え上げてきた。赤司も貧弱な訳じゃねえが、それでも堪えるだろうな」

 

桃井の言葉に頷く青峰。

 

「後はエンペラーアイにポストアップが有効かどうかだね」

 

「有効とまでは行かねえだろうが、悪くはねえだろうな」

 

予測を立てる桃井。青峰はこれにも頷く。

 

「向かい合っての1ON1と違ってボールが遠くなる上、ポストアップに耐えなきゃならねえからボールを奪いにくるタイミングも限られる。他の奴ならいざ知らず、神城の反射神経なら紙一重でかわせる…かもな」

 

「なるほど…」

 

「このままポストアップを受け続ければジリジリスタミナを削られる。かと言って迂闊にヘルプに飛び出せば今みたいにパスを出される。…どうする赤司」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山のオフェンス…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

再び洛山の高速のパスワークが花月を襲う。

 

「(今度は惑わされねえ、スリーのみ警戒だ!)」

 

中のオフェンスは後ろの3人に任せ、アウトサイドに展開する選手に警戒を絞る空。

 

「…」

 

10秒程ボール交換が行われると、外の赤司から中にパスが出される。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…ぐっ」

 

ボールはハイポストに立った二宮に出された。二宮は生嶋を背中に背負いながらポストアップで押し込み始める。

 

『うおー! やり返す気だ!』

 

「やらせるか!」

 

決してフィジカルの優れていない生嶋を狙われ、松永がヘルプに飛び出す。

 

「こっちだ!」

 

「頼む!」

 

その時、赤司が中に走り込み、二宮がそこへパスを出す。

 

「させるかい!」

 

その赤司へは天野が対応に向かう。

 

 

――バチン!!!

 

 

出されたパスに対し、赤司は両手で弾くように叩き、その軌道を変える。

 

「「あっ!?」」

 

思わず声を上げる松永。ボールはゴール下、そこへ走り込んだ五河に。松永と天野が飛び出してしまった事で空いてしまっていた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを掴んだ五河はそのままボースハンドでダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 5

洛山 5

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「うがっ! スマン!」

 

「ドンマイ! 取り返しましょう!」

 

頭を抱える天野を空が励ます。

 

 

花月のオフェンス。先程同様、空がボールを運び、パスと同時に中に走り込むが…。

 

「っ!?」

 

ハイポストに空が立つと、赤司はボールマンと空の間にポジション取りし、空に背中を預けるように立った。

 

「…ちっ!」

 

背中をぶつけるようにマークされ、やり辛そうにする空。

 

「(ポストアップのお手本のようなディフェンスや。さすがは赤司、もう対応してきよったか!)」

 

高さとパワーで劣る選手がポストアップする際の最適なポジション取りとディフェンスをする赤司に思わず胸中で称賛の言葉を贈ってしまう天野。

 

「…っ」

 

生嶋が赤司の頭を超えるように高さのあるパスを空に出すが…。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

フワリと浮かせた事が仇となり、四条にパスをカットされてしまう。

 

「アウトオブバウンズ、赤(花月)!」

 

そのボールはラインを割ってしまう。

 

「…ちっ」

 

「ドンマイ、ナイスカット四条」

 

マイボールに出来ずに舌打ちをする四条を三村が肩を叩いて励ます。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

同時にブザーが鳴り、花月のタイムアウトがコールされた。

 

『早くも花月がタイムアウトを取ったぞ!』

 

選手達はベンチへと下がっていった。

 

 

花月ベンチ…。

 

「フー…」

 

ベンチに座るや否や、空は大きく息を吐きながらタオルで汗を拭う。

 

『…っ』

 

他の選手達も同様に、やや疲労の色を見せている。

 

「(いつもの攻守の切り替えが激しい点の取り合いじゃないにも関わらず消耗している。それだけ神経をすり減らしているんだわ…)」

 

息の詰まるような展開が続き、精神的疲労が激しさを感じ取る姫川。

 

「プハー! 相変わらず楽させてくれへん相手や!」

 

「スコア的には互角だけど、何かきっかけが欲しいよね」

 

今の展開に愚痴る天野。この流れを変えるきっかけを求める生嶋。

 

「今は何とか食らい付けている。だが、洛山相手に今のペースで戦えばいずれジワジワと放されて行くのは目に見えてる。…どうする?」

 

生嶋と同様の見解を示す松永が尋ねる。

 

「どうするもこうするも、今の状況で下手に動いても逆効果だ。今はとりあえず我慢だな。今大事なのはリバウンドをきっちり抑えないとな」

 

空の口から飛び出したのは我慢…つまりは現状維持の言葉だった。

 

「(神城の口からそんな言葉が出るとはな…)」

 

比較的焦れ性の空の言葉に菅野が驚く。

 

「とは言え…、ただ黙って迎え撃つのも性に合わねえ。……おい」

 

その時、空がおもむろに声をかける。

 

「随分と大人しいじゃねえか」

 

尋ねた相手は大地。

 

「ここまで大した活躍はなし。エースがそれじゃあ困るんだが?」

 

「それはすみません、これでもパスを待っていたのですが?」

 

「今日のお前の相手はキセキの世代じゃねえんだ。弱音も言い訳も聞きたくないぜ?」

 

「言いませんよ」

 

互いに視線を合わせずに会話をする空と大地。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでタイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「…っと、そんじゃ行くか。…さあ、エースの時間だぜ」

 

ニヤリと空が笑ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合が始まり、両者が激突。

 

試合は互いに膠着状態となり、スコアが伸び悩み、ロースコアゲームとなった。

 

同じみの横綱相撲で花月を迎え撃つ洛山。

 

タイムアウト終了後、これまで沈黙を保っていた花月のエースが立ち上がるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ネタ不足に陥り、そこからモチベーションが低下し、気が付けば前回投稿から実に一月半経過していました…(>_<)

正直、今でもネタを集めながら執筆しているので、これまでの週一投稿が難しく、不定期投稿となるかと思いますので、投稿をお待ちいただいている方、おりましたら申し訳ありません…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第179Q~ロースコアゲーム~


投稿します!

2ヶ月ぶりの投稿、お待たせいたしました…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り6分55秒

 

 

花月 5

洛山 5

 

 

タイムアウトが終わり、両チームの選手達がコートへと戻ってくる。花月、洛山共に選手交代はなし。

 

「よっしゃ行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空が檄を飛ばし、選手達がそれに応える。

 

「…」

 

審判からボールを受け取った生嶋。生嶋が空にパスを出し、試合が再開される。

 

 

『待ってました!!!』

 

試合開始と同時に待ちかねた観客が声を上げた。

 

「…っと」

 

ボールを持った空が思わず声を上げる。

 

「…っ」

 

注目の先は大地。

 

「(共に拮抗しているこの状況…、流れを渡さない為にもこいつだけには…!)」

 

「(最悪7番(天野)にやられても構わない。ここでエースのこいつ(大地)だけには得点させん!)」

 

大地に対し、三村と四条がべったりマークに付いていた。

 

 

「…っ、やはりですが、綾瀬君は空けてきませんね」

 

ベンチの姫川が表情を険しくする。この状況でエースの大地によって得点を取られれば流れが変わる可能性があるからだ。

 

「おいおい、あれじゃ得点どころかボールすら掴めねえぞ…、どうするんだよ!?」

 

流れに乗る為にエースの1発が欲しいこの状況。しかし得点どころかパスを出す事すら困難なこの状況に菅野がぼやく。

 

「監督!」

 

思わず竜崎が上杉に声をかける。

 

「狼狽えるな」

 

『っ!?』

 

浮足立つベンチの選手達に向けて上杉が静かに…それでいて良く通る声で窘める。

 

「問題ない。あの2人ならばな」

 

そう言って、腕を胸の前に組みながらコートに注目したのだった。

 

 

「…」

 

ボールを持ってゲームメイクをする空。

 

「…」

 

そんな空の前に赤司が立ち、ディフェンスをしている。

 

『スゲーディフェンス…あれじゃ突破もシュートも難しい…』

 

『頼みのエースにもパスが出せない。せっかくタイムアウトを取っても八方塞か…』

 

観客にも今の状況は充分に伝わり、ちらほら声が上がる。

 

「…」

 

ボールを掴んで数秒、空と赤司が睨み合いが続く。空がいつ、どのような動きを見せるかこの試合を見守る全ての者が注目を集めている。しかし次の瞬間、空が動いた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

突如として空が矢のようなパスを出した。ボールの先は…。

 

『っ!?』

 

ここで洛山の選手達が同時に目を見開く。ボールは大地に渡った。2人のマークを振り切ろうと動いた大地。その動きに合わせるかのように空がパスを出したのだ。

 

 

「っしゃぁっ!!! ボールさえ持っちまえばこっちのもんだぜ!」

 

無事、大地にボールが渡った事で拳を握って喜びを露にする菅野。

 

「…喜んでる所になんですが…」

 

「あっ?」

 

ボールが無事、大地の手に渡ったが、竜崎は表情を険しくしている。

 

「三村さんにしても四条さんにしても実力はあの五将にも引けを取りません。むしろ、長年同じチームでプレーしてだけにあの2人のダブルチームは五将の2人を同時に相手にする事以上に困難かもしれません」

 

「っ!?」

 

懸念を口にする竜崎。それを聞いて表情を強張らせる菅野。

 

「如何に綾瀬先輩と言えど、突破出来るんですかね…」

 

 

「(…ちっ、ボールを持たせちまったか。だが…!)」

 

「(ここを止めれば同じ事。夏からレベルアップしたのはお前だけじゃない。止めてやる!)」

 

気持ちを切り替え、ディフェンスに集中する三村と四条。

 

「…」

 

右足を小刻みに動かし、ジャブステップを踏みながら牽制する大地。

 

 

「三村君に四条君。ディフェンスだけならあの五将に匹敵…三村君はそれ以上かも。綾瀬君と言えど、一筋縄じゃ…」

 

2人の詳細なデータを持つ桃井がコート上の大地に注目する。

 

「…ハァ。ズレた事言ってんじゃねえぞさつき」

 

隣に座っていた青峰がやれやれと言った表情で後頭部を掻く。

 

「仮にも俺や黄瀬、紫原と張り合った奴だぞ。今更五将レベルでどうにかなる訳ねえだろ」

 

 

「(私にはスピードはあれど空のような一瞬で相手を置き去りに出来るようなダッシュ力はありません。それはアメリカ、そしてキセキの世代を相手にして身を以て知りました。ならば!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで大地が一気に加速。仕掛ける。

 

「(来た! タイミングはピッタリ、見えているぞ!)」

 

タイミングを計っていた三村は大地が仕掛けるタイミングを読み切り、ドライブと同時に大地を追いかける。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

直後に一瞬でブレーキ、急停止をする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そのまま高速でバックステップで先程仕掛けた位置より後ろまで下がる。

 

「(…っ、あの勢いを一瞬で…! 相変わらずデタラメな奴だ。だが、分かっていれば止められる!)」

 

急停止からのバックステップを読み切った四条は下がる大地に対して距離を詰める。

 

 

――スッ…。

 

 

バックステップで距離を取った後、すぐさまボールを掴んだ大地はステップバックで更に距離を空ける。

 

「「っ!?」」

 

ステップバックを踏んだ足でそのまま後ろに飛びフェイダウェイで…しかもクイックリリースでボールを放った。

 

『っ!?』

 

洛山の選手及び観客全てがボールの行方に注目する。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

 

花月 7

洛山 5

 

 

『うぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『出た! 綾瀬の代名詞、必殺の高速バックステップからの片足フェイダウェイ!』

 

『あんなの止められっこねえよ!?』

 

ダブルチームから得点を決めた大地に対して歓声が上がる。

 

「さっすが。何度見ても鳥肌が立つ技だ」

 

大地に駆け寄った空がハイタッチを交わす。

 

「私にはあなたのような加速力はありませんからね。それでも相手をかわして点を取る為には試行錯誤するしかないのですよ」

 

苦笑しながら空に言う大地。

 

「嫌味か? 俺にはお前程器用さはねえから自分の武器を磨いて最大限生かすしかねえんだよ」

 

同じく苦笑する空。

 

「フフッ、それこそ嫌味ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「凄い…」

 

今のプレーを見た桃井はただただ感嘆していた。

 

「ほう、今のを見る限り、しっかり完成させてきたみてーだな」

 

今の一連のプレーを見た青峰がそう断言する。

 

「NBAを席巻した片足フェイダウェイ。本家とは仕様が違うけどそれでも…」

 

本家のは213㎝と言う高身長から繰り出し、ブロックを届かせない究極の技。だが、本家程身長がない大地は事前に高速のドライブとそこからバックステップを組み込み、更にクイックリリースで放つ事でブロックを間に合わせない技となっていた。

 

「今の…」

 

「あぁ。読みが外れたとかフェイクにかかったとかそんな話じゃねえ。分かっていても止められなかった。あいつらじゃ、もう止められねえ」

 

無情な宣告を青峰はしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「「…っ」」

 

拳をきつく握り、悔しさを露にする三村と四条。

 

この2人が今日の試合で与えられた仕事の1つは大地を止める事。これまで徹底マークでボールを掴ませない事には成功していたが…。

 

「まさか、今ので心が折れた訳ではあるまいな」

 

そんな2人に赤司が声を掛ける。

 

「今のお前達であれを止めるのは至難の業だ。…諦めるか?」

 

「…ハッ! 冗談きついぜ赤司。今更こんなんで心が折れる程、俺達は柔じゃねえ」

 

「例えあいつ(大地)が俺達より上でも、試合だけは譲らねえ!」

 

赤司の問いに、三村は鼻で一笑し、四条は強気に答えた。

 

「それでいい。…オフェンスだ。取り返すぞ」

 

『おう!!!』

 

赤司の檄に選手達が応え、洛山のオフェンスに切り替わる。

 

 

「71番だ!」

 

ボールを運んだ赤司がナンバーコールをし、パスを出す。

 

 

―ピッ!!!

 

 

そこから洛山選手達が縦横無尽に動き回り、ボールを掴んでは即座に矢のようなパスを出し、高速のパスワークで花月をかく乱していく。

 

「っ!?」

 

シュートクロックが残り5秒となった所でローポストに立っていた五河がアウトサイドへと向かって行った。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

追いかけようとした松永だったが、四条のスクリーンに捕まってしまう。

 

「よし」

 

左アウトサイド付近でボールを掴んだ五河はすぐさまスリーを放つ。

 

「…ちっ」

 

すかさず空がチェックに向かう。

 

「遅い!」

 

しかし距離があった上に20㎝の身長差があった為、ブロックが間に合わず、打たれてしまう。

 

 

――ガシュッ!!!

 

 

ボールはリングを擦りながらも潜り抜けた。

 

 

花月 7

洛山 8

 

 

『センターがスリーを決めた!』

 

センタープレーヤーのスリーに沸く観客。

 

「(危ねえ、あの距離を一瞬で…しかもあの身長であの高さ、侮れねえ…)」

 

スリーを決めた五河だったが、離れた距離を一瞬で潰した空のスピードと身長差を覆しかねないジャンプ力に思わず僅かに手元を狂わした。結果入ったが肝を冷やしていた。

 

「…ジェネラリストのいやらしい所が出よったで」

 

パス、ドリブル、シュート。果てはスリーさえも打ててしまう万能選手を有する洛山。その真価を改めて目の当たりにし、眉を顰める天野。

 

「今のは仕方ありません、切り替えましょう」

 

大地の言葉で気持ちを切り替え、オフェンスを開始する。

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりボールを運ぶ空。その目の前にはやはり赤司。

 

「「…っ!?」」

 

ダブルチームを受ける大地が先程同様、急な方向転換からのダッシュでダブルチームを引き剥がす。だが…。

 

「…」

 

先程とは違い、空は大地にパスを出さない。

 

「? 呼吸が合わなかったか?」

 

一瞬ノーマークとなった大地にパスを出さなかった空を見て首を傾げる菅野。

 

「…いえ、出さなかったのではなく、出せなかったんです」

 

一連を動きを見ていた姫川が口を開く。

 

「…ふん」

 

思わず鼻を鳴らす空。

 

「さすがは赤司って所か…」

 

青峰が呟く。

 

ダブルチームを引き剥がした大地。しかしその瞬間、赤司がパスコースを塞ぐ気配を出した為、空は大地にパスを出せなかった。もし出していれば赤司によってカットされていただろう。

 

「(たった1本で対応してきやがったか。仕方ねえ…)」

 

大地へのパスを諦め、左アウトサイドに展開している生嶋にパスを出した。

 

「…っ!」

 

ボールを受けた生嶋はすぐさまスリーの体勢に入る。

 

「お前には打たせん!」

 

打たせないと二宮がすぐさまチェックに入る。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

しかし生嶋は打たず、中へとボールを入れる。

 

「よし、行くぞ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ローポストで五河を背負う形でボールを受け取った松永がポストアップで五河を押し込み始める。

 

「…っ、2度も同じ手は喰わんぞ!」

 

腰を落として松永のポストアップに耐える五河。

 

「(まだだ! 恐れるな! もっと力強く…!)」

 

背後に立つ五河を押し込む為に松永が更なるアタックを仕掛ける。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかしその瞬間、松永がキープするボールが叩かれる。

 

「時間を掛け過ぎだぜ」

 

ボールを叩いたのは四条。松永にボールが渡るや否やダブルチームを解いてすかさず松永の持つボールを奪いに向かっていたのだ。

 

「よし、速攻!」

 

ルーズボールを掴んだ二宮がそう叫び、ドリブルを開始する。

 

『うわー! ここでのターンオーバーはきつい!』

 

花月びいきの観客が頭を抱える。

 

「くそっ、スマン!」

 

ボールを奪われた松永がディフェンスに戻りながら謝る。

 

「そんなん後でええ! 今はディフェンスや!」

 

そんな松永を窘めながらディフェンスに戻る天野。

 

「…っ!?」

 

「みすみす速攻なんざ決めさせねえよ」

 

速攻に走る二宮。いち早くディフェンスに戻った空が待ち受ける。

 

「(このまま仕掛けるか、それとも…)」

 

現時点でディフェンスに戻れているのは空のみ。このまま得点を狙いに行くかどうか思考する二宮。

 

「戻せ、秀平!」

 

後ろから赤司が指示を出す。

 

「…くっ!」

 

悔しそうな表情をしながら二宮。このまま仕掛けても点は取れないと赤司は判断したのだだろう。渋々後ろを走る赤司にボールを戻した。

 

「…」

 

ボールを受け取った赤司は足を止め、ゆっくりボールを運び始めた。

 

「1本、止めるぞ!」

 

花月の選手全員がディフェンスに戻ると、空が声を出し、鼓舞する。

 

「42番だ!」

 

ナンバーコールと同時に赤司がパスを出す。そこから洛山の選手達が縦横無尽に入れ代わり立ち代わり走り回り、ボールを受け取っては即座にパスを繰り返し、花月のディフェンスを乱していく。

 

「ふん!」

 

「っ!?」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

シュートクロックが残り10秒を切った所でローポストでボールを受け取った四条が背中で天野を押し込み始める。

 

「アホかい、この程度で押し込まれる程柔ちゃうわ!」

 

天野は身体を張って四条の侵入を阻止する。

 

 

――スッ…。

 

 

ある程度、ポストアップでアタックをした後、四条はボールをハイポスト放る。

 

「ナイスパス!」

 

そこには三村が走り込んでおり、ボールを掴むのと同時にすぐさまシュート体勢に入った。

 

「今度は決めさせねえぞ!」

 

そこへ一気に距離を詰めた空がブロックに飛び、シュートコースを塞いだ。

 

「(嘘だろ!? 後から飛んだ俺より高く――)くそっ…!」

 

完全にシュートコースを空に塞がれてしまい、三村はシュートを中断し、逆サイドに走り込んだ二宮にパスを出した。

 

「残念♪」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…あっ!?」

 

したり顔の空。出されたパスはパスコースに割り込んだ大地によってスティールされてしまう。

 

「よし、速攻!」

 

ボールを奪った大地はそのまま速攻に駆け上がった。

 

「…っ」

 

そのままフロントコートまで駆け上がった大地。その大地の前に赤司が立ち塞がる。

 

「大地、ストップ!」

 

そんな大地に後ろから空が制止をかける。

 

「……分かりました」

 

それを聞き、大地は足を止め、後ろの空にボールを戻した。

 

「…」

 

ボールを受け取った空はゆっくりドリブルをしながらゲームメイクを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は双方共に時間を使いながら攻める展開となった。花月は空、洛山は赤司がゲームを組み立て、オフェンスに臨んだ。

 

しかしこの試合、双方共にディフェンスが光る展開となった。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

花月は空と大地が外全域をカバーし、他のメンバーがインサイドに注力する事で洛山の得点を抑え…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

洛山は赤司が的確に指示を飛ばし、他の4人がそれぞれのマークする選手を抑える。

 

 

第1Q、残り14秒

 

 

花月 12

洛山 15

 

 

試合は両チーム共に得点が伸び悩み、ロースコアゲームの様相を見せていた。

 

『点が伸びねえ…!』

 

『やっぱりこうなったか…』

 

観客もこの展開を一部予想しつつも驚いていた。

 

花月は速い展開を得意とし、機動力を生かしたオフェンス特化のチーム。自ずと試合は点の取り合いの展開になりやすく、実力が近いチームとぶつかると毎回100点ゲームになる。しかし、ここまでの展開は100点ペースを遙かに下回っている。

 

 

「ま、これは赤司の思惑通りだな」

 

「そうなの?」

 

青峰の言葉に桃井が聞き返す。

 

「素人目には分かんねえだろうが、赤司が低いスコアになるように持って行ってんだよ」

 

「へぇー、けど、花月を相手にするなら正解かも」

 

桃井は青峰の言葉に頷きながら自論を口にする。

 

「神城君と綾瀬君を筆頭に花月は運動量が多くて試合終盤になるにつれて強いからそれまでに点差を付けようとつい得点を取りに行きがちなるけど、それは結果として花月のペースに引き摺られる事になっちゃうから」

 

ディフェンス特化型の陽泉でさえ花月のペースにハマり、結果として敗北を喫することとなった。過去のキセキ世代を擁する相手の試合を振り返っても、ほとんど花月のペースに巻き込まれ、敗北しているのだ。

 

「意図的に遅い展開に持って行けるなら、それは花月にとってもっとも有効な策だと思う」

 

「長い司令塔のキャリアを持つ赤司だからこそ出来る事だ。…花月はここまでどうにか隙を見つけて食らいついちゃいるが、パスもドリブルもシュートもそれなりに出来る奴を揃えてオフェンスパターン多い洛山相手に今の展開が続けば直にじわじわ点差は開いていくのが目に見えてんな」

 

青峰は今の展開は花月に不利と予想したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さて…」

 

ゆっくりボールを運ぶ空。

 

「(こうして改めてやり合って見て分かる。赤司のゲームメイクはスゲー、何とか速い展開に持って行こうとしたが、どうにも上手く行かねえ…)」

 

ゆっくり時間をかけて攻めるオフェンスにやり辛さを覚え、何とかペースを変えようと試行錯誤したが、全て上手く行っていない。

 

「(最初はまあアメリカでの特訓の成果を試す意味でも悪くなかったが、さすがに飽きて来たな…)」

 

そろそろこの遅い展開に痺れを切らし始める空。

 

「(……残り10秒か…、)」

 

残り時間を横目で確認した空。

 

 

――スッ…。

 

 

空が左手を上げて人差し指を立てると、立てた指を左右に振った。すると、その合図に応じて他の花月の選手達が動き始めた。

 

『なっ…!?』

 

『なにぃぃぃぃっ!!!』

 

次の瞬間、観客席が驚愕に包まれた。

 

 

「うっそ…!」

 

これを見て桃井も口に手を当てながら驚く。

 

「…相変わらず、あいつはとんでもねえ事をしやがる」

 

青峰は苦笑していた。

 

 

スリーポイントラインの外側のトップの位置に立っている空。他の4人はそれぞれ左右に広がって中央にスペースを作った。即ちこれは…。

 

「アイソレーション…!」

 

動いた生嶋を追った二宮が呟く。

 

「…また何か企んでいるのか?」

 

空の指示からの選手達の動きを見て赤司が空に尋ねる。

 

「企んでるも何も、見たまんまだ」

 

そんな赤司に対して淡々と返す。

 

「ここまでのあんたのペースと型にハメられてストレス溜まってたからな。第1Q最後のオフェンスは小細工なし。真っ向勝負だ」

 

不敵に笑う空。

 

「この僕を相手にか? その決断、高く付くぞ」

 

「百も承知だ。元よりあんたら相手に危険な橋の1つや2つ渡れずに勝てる相手だと思ってねえ」

 

「……フッ、面白い。ならば渡ってみろ。渡れるものならな」

 

「渡ってやるさ」

 

不敵に笑う赤司。空は真剣な表情で告げるのだった。

 

「…」

 

「…」

 

刻一刻と第1Q終了の時間が近付く中、互いに集中力を高めていく空と赤司。

 

『(…ゴクリ)』

 

2人の真剣勝負の前に静まり返る観客達。

 

「(バカめ、赤司を相手に1ON1…しかも、アイソレーションでだと? 無謀にも程があるぜ)」

 

「(エンペラーアイがある赤司が抜かれる訳がねえ!)」

 

攻守において有効である相手の動きの未来が読めるエンペラーアイを持つ赤司。そんな赤司の勝利を信じてやまない四条と五河。

 

「(神城の事だ、何か企んでる可能性もある。だがもし本当に仕掛けてきたならカウンターで得点を奪うまで!)」

 

空の裏を探りつつ速攻のタイミングを窺う三村。

 

「…」

 

残り時間が5秒になろうとしたその時!

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が動く。クロスオーバーでボールを右から左へと切り返し、仕掛ける。

 

 

『動いた!』

 

『高速のクロスオーバー!』

 

「……いや」

 

2人の勝負が始まり、ざわめく観客。しかしそんな中1人ボソリと呟く青峰。

 

 

「(本命は直後のクロスオーバー。…ここだ!)」

 

エンペラーアイで先の動きを読んだ赤司が1発目のクロスオーバーで左手に収まったボールに手を伸ばす。

 

「…っ」

 

グングンと迫る赤司の手。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『馬鹿かこのクソザル』

 

『あっ!?』

 

アメリカに留学していた時の事。ナッシュが空に対して悪態を吐く。

 

『何がトップクラスのスピードだ。だからてめえはサルなんだよ』

 

『んだとてめえ!』

 

あまりのナッシュの物言いに空が激昂する。

 

『身長がねえ上に大してテクニックもねえてめえじゃ『トップクラスのスピード』じゃ意味がねえんだよ』

 

呆れ顔で告げるナッシュ。

 

『もし、この先ここ(アメリカ)でやって行こうなんざバカで無謀な事考えてんだったら、それじゃ無理だ』

 

『…じゃあどうすりゃ良いんだよ?』

 

『トップクラスじゃねえ、トップ(頂点)に立つんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空が左から右へ再度高速で切り返すと、赤司の伸ばした手が空を切った。

 

『っ!?』

 

この結果に洛山の選手達も驚愕する。赤司を振り切った直後にボールを掴み、シュート体勢に入った空に対し、慌ててブロックに向かうも間に合わず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 14

洛山 15

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に第1Q終了のブザーが鳴った。

 

『…』

 

リングを潜り抜けたボールが弾む音が響き渡るコート。

 

『……おっ――』

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

1人が歓声を上げたのを皮切りに、観客達が大歓声を上げ、コート上は熱気に包まれた。

 

「…勝ち!」

 

拳を握って勝利をアピールする空。

 

「…」

 

そんな空に対して一瞥くれる赤司。

 

「うそ…だろ…」

 

この結果を目の前で見ていたにも関わらず信じる事が出来ない二宮。

 

「…な、なあ赤司、今のはわざと抜かせたん……だよな?」

 

傍まで歩み寄った四条が恐る恐る尋ねる。

 

「……そう見えたか?」

 

この問いに、赤司は淡々とそう返した。

 

「…っ!?」

 

その答えに顔を引き攣らせる四条。

 

見えなかったのだ。そもそも、この状況で空にわざと抜かせて得点を与えてもみすみす相手に流れと勢いを与えてしまうだけ。抜かせる意味がない。

 

「インターバルだ。ベンチに戻るぞ。時間を無駄にするな」

 

そう集まった4人に告げた赤司は洛山ベンチへと向かっていく。

 

『…っ』

 

促された4人は軽く動揺しつつも赤司の後に続いた。

 

「…」

 

ベンチに向かう最中、赤司がチラリと空の方に視線を向ける。

 

「…」

 

そこには同じくちょうどこちらへと視線を向けていた空と視線が合った。

 

「……フッ」

 

そんな空の姿を見た僅かに笑みを浮かべた赤司。

 

「…」

 

そんな赤司を見た空は何か考え込みながらベンチへと戻っていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第1Q終了のブザーが鳴り、試合の4分の1が終わった。

 

試合は互いに時間をかけたオフェンスで試合を運び、互いのディフェンスが光った為、互いにスコアが伸びないロースコアゲームの様相を見せていた。

 

そんな第1Q最後の花月のオフェンス。空がアイソレーションを指示し、赤司と真っ向勝負の1ON1を挑んだ。

 

無謀とも言えるこの勝負。しかし、軍配が上がったのは空だった。

 

勝負を制し、意気揚々とベンチに戻る花月の選手達に対し、洛山の選手達は僅かに曇りを見せながら戻っていく。

 

しかし、空と赤司の表情だけはどこか対照的なのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー長らくお待たせして申し訳ありません…m(_ _)m

言い訳をさせていただきますと、以前に報告したネタ不足もそうなんですが、4月に入ってリアルの仕事で異動となり、その準備やら異動先での業務やらを覚えるので時間を取られ、投稿出来ませんでしたorz

とりあえずネタが集まり、時間にある程度余裕が出来たので満を持して投稿出来る事となりました。

ただ、依然としてネタ不足には変わらないので、次、いつ投稿出来るかは未定です…(;^ω^)

必ず早めに投稿出来るよう努めますので、こんな二次でもお待ちいただけると幸いです…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第180Q~膠着~


投稿します!

再び空いて1ヶ月…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q終了

 

 

花月 14

洛山 15

 

 

両校のディフェンスが光り、ロースコアゲームの様相を見せたこの試合。第1Q最後に空が赤司を相手にアイソレーションで1ON1を仕掛け、赤司を抜いて得点を決める事に成功した。

 

拮抗していた展開を変える為、空が渡った危険な橋。見事乗り越えた空だったが、当の赤司はそんな空に対し、不敵な笑みを浮かべるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…なかなか見応えのある試合じゃねえか」

 

アメリカにて、試合中継を見ていたジャバウォックの面々。最初の10分を見たアレンがそう感想を漏らした。

 

「ああ。正直、ソラと、ソラと同レベルの奴以外は大した事ないかと思ったが、これはなかなか…」

 

ニックも想定を超えた試合のレベルに驚いていた。

 

「ソラのいるチーム、あの6番(大地)、なかなかの逸材だ。あのスピードとブレーキング能力はアメリカでも通用するぞ」

 

「ソラの対戦相手、全員がなかなかのオールラウンダーだ。特にあの4番(赤司)。テクニックもさることながら、ゲームメイク能力も相当だ。下手したらナッシュ並だぞ」

 

空と同格の大地。キセキの世代の赤司。ニックとアレンがそれぞれ称賛していく。

 

「寝言言ってんじゃねえぞアレン」

 

それを後ろで聞いていたナッシュがアレンを睨み付ける。

 

「…あ、いやさすがにお前並は言い過ぎたがよ」

 

慌てて訂正をするアレン。

 

「…ふん、相手が低レベルのサルだから良い様に出来てるだけじゃねえか。所詮、通用するのは同じサルだけだ」

 

ナッシュは酷評をする。

 

「相変わらずジャパニーズには厳しいな」

 

そんなナッシュを見てニックが苦笑する。

 

「…」

 

そんな2人を他所に、ナッシュはベンチへと戻っていく両校の選手達。その中で洛山の赤司に視線を向けた。

 

「(あの4番。間違いなく奴は相手の動きを見えていた動きをしていた。奴も持っていやがるな。俺と同系統の眼を…)」

 

赤司の動きを見てナッシュが自身と同じ、未来を視えている眼を持っている事を確信する。

 

「(対象は目の前の1人程度だが、まさか、あの眼を持つ奴がジャパンにいるとはな…)」

 

口では悪く言っていても内心では空の実力を認めているナッシュだったが、空が口にした、自分と同等の実力と才能を持つ者が日本にはまだまだいると言う言葉は半信半疑だった。

 

「(アレンの言う通り、白い方の4番(赤司)、それなりにやるみたいだな。…あのサル(空)じゃどうなる事やら…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

洛山ベンチ…。

 

「してやられたな」

 

選手達がベンチに座ると、監督白金がそう呟く。

 

「申し訳ありません」

 

赤司がタオルで汗を拭いながら謝罪する。

 

「……まあいい。それより、ここから先の事だが…」

 

それ以上、何を咎めるでもなく話を早々に切り上げた白金が話題を変える。

 

『…』

 

第1Q最後に赤司が抜かれた事に僅かながら動揺している他の選手達。白金の指示に耳を傾ける。

 

「特に変更点はない。これまで通りに試合を進めろ」

 

『っ!?』

 

ハッと顔を上げる選手達。何か特別な指示を出すと思っていただけにこの現状維持の指示を理解出来なかったのだ。

 

「最後にやられたと言っても、試合運びは決して悪いものではなかった。ここでジタバタ動く必要はない。自信を持て。これまで通り、どっしり構えて花月を迎え撃つ」

 

『はい!』

 

「ゲームメイクは赤司に任せる。頼んだぞ」

 

「はい。任せて下さい。…全員、集まれ」

 

しっかりと返事をした赤司は全員を集める。

 

「…」

 

選手達に指示を出す赤司に視線を向ける白金。

 

「(動揺は一切ない…が、今日の赤司は何か引っ掛かる。杞憂でなければよいが…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「よしよし! よくやったぞ神城!」

 

ベンチに戻ると、菅野が歓喜しながら出迎えた。

 

「どうぞ! しっかり身体を休めて下さい!」

 

相川と姫川が試合に出場した5人にタオルとドリンクを渡す。

 

「ゴクッ…ゴクッ…! プハァ! …まだ逆転出来た訳やない。けどまあ、ええ終わり方やで」

 

ドリンクを口にして水分補給をした天野。

 

「これで赤司も動揺するはずだ。ここで一気に――」

 

「――それはどうですかね?」

 

士気を上げようと盛り上がる菅野に対し、空が言葉を挟む。

 

「ここに戻る前にチラッと赤司の様子を確認したんですが、動揺してるようには見えなかったですね。正直、余裕綽々でしたよ」

 

つまらなそうな表情を告げる空。

 

拮抗している流れを変える為、リスクを承知で赤司との1ON1を挑んだ空。見事、赤司を抜きさって得点を決めた。これで少しは動揺を誘えるかと目論んでいた空だったが、赤司から芳しい反応は見られなかった。

 

「ハッタリちゃうんか? 悟られへんようポーカーフェイスしただけちゃう?」

 

「多分違うかと。俺からするとあの赤司は結構分かりやすいですからね。…間違いなく、動揺してません」

 

天野の懸念に空は断言した。

 

「なら、最後の1ON1はわざと取らせたって事? …正直、そんな事する意味って…」

 

「ないな」

 

真意を探ろうとする生嶋だったがこれまた空が断言した。

 

「何れにしろ、神城が赤司を抜きさって決めた事も事実。第2Qもこれまでどおり試合を進める。何か動きがあればベンチから指示を出す」

 

そう上杉が選手達に指示を出した。

 

「(何を考えてやがる…。思えば今日の…いや、昨晩から赤司は何処か違和感を感じた。言葉に出来ねえが確実に以前までの赤司と何か違った。何か企んでるのか、それとも別の…)」

 

言い知れぬ何かを感じた空はインターバル終了のブザーが鳴るまで考え続けたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両校の選手達がコートへと戻ってきた。両チーム共に交代はなし。

 

『待ってました!!!』

 

選手達がコートへ戻ると、観客が沸き上がる。

 

審判から生嶋がボールを受け取り、空に渡し、第2Qが始まった。

 

「1本、行くぞ!!!」

 

空がボールを運ぶ。

 

「…」

 

「…」

 

空の前には赤司が立ち塞がる。両社が対峙する。

 

「…」

 

ダブルチームを受ける大地。

 

「「っ!?」」

 

突如、大地が空に向けて走り出し、ダブルチームを引き剥がす。空と大地がすれ違い、ボールを交換…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

と、見せかけ、空がカットイン。

 

「…」

 

しかし、赤司はこれに惑わされる事無く、空のドライブに対応する。

 

「だろうな」

 

空も、予測済みであり、直後にボールを掴み、通り過ぎた大地へとパス。

 

 

――スッ…。

 

 

かに見せて、大地が移動した事で空いたスペースに走り込んだ生嶋にパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、そのパスは赤司に読まれ、スティールされてしまう。

 

「甘いな」

 

そう吐き捨てる赤司。

 

誰しもが空と大地の動向に気を取られる中、赤司だけは冷静に他のポジションの動きを把握していたのだ。

 

「くそっ、戻れ、ディフェンスだ!」

 

慌てて声を出し、ディフェンスに戻る空。他の選手達もこれに続く。

 

「…」

 

だが、赤司はボールを奪ってもすぐに速攻に駆け上がる事はなく、ゆっくりとボールを運んでいた。

 

「(速攻を仕掛けなかった? こっちからしたら助かったが…)…っしゃ、1本、止めるぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空が両腕を広げながら檄を飛ばすと、選手達がそれに応えた。

 

「…」

 

「…」

 

ボールをキープする赤司の前に空が待ち受ける。

 

「(赤司が何を考えてるかなんて俺の頭じゃいくら考えても答えなんて出ねえ。この1本止めて、ミスを取り戻して流れを完全に掴む!)」

 

「…」

 

赤司がゆっくりとボールを運ぶ。

 

「(どう来る? 速攻でフィニッシャーを特定して――)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

「っ!?」

 

誰で決めて来るか思考したその時、空の顔すぐ横を高速でボールが通過した。

 

「よし!」

 

『っ!?』

 

ボールは松永の裏を取った五河に渡った。

 

「っ!? しまっ――」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

松永が気が付いた時は既に遅く、五河はボースハンドダンクでボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 14

洛山 17

 

 

『第2Q開始早々決めたぁっ!!!』

 

『何だ今の!? 花月のディフェンスを一瞬でボールがぶった切った!?』

 

 

「…ちっ!」

 

思わず舌打ちをする空。これまで通り時間をかけて攻めてくると予想した空の逆を突かれ、出来ればやられたくなかった失点を時間をかけずに取られると言う嫌な形で決められてしまった。

 

「くそっ…!」

 

松永が自身の失態に悔しがりながらボールを拾う。

 

「ドンマイ、今のは俺のミスだ。取り返すぞ」

 

「お、おう…」

 

駆け寄った空がボールを受け取り、ボールを運んだ。

 

「…」

 

「…」

 

空がフロントコートまでボールを運ぶと、赤司が空の前に立ち塞がる。

 

「(……ん? 大地の警戒が甘い? これなら…パスを出せる!)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

これまでと変わらず三村と四条がダブルチームで付かれる大地。大地がマークを振り切ったその瞬間に間髪入れずに絶妙なタイミングでパスを出した。

 

「(ここで流れをこちらへ持って来る為にもここは…!)」

 

ボールを掴んだ大地は腰を落とし、ドライブ……と、見せかけ…。

 

 

――スッ…。

 

 

バックステップで距離を取り、スペースを作り、即シュート体勢に入った。

 

「おぉっ!!!」

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

しかし、大地の放ったシュートは即ブロックに飛んだ三村の指先を掠めた。

 

「(しまった、読まれた!?)…リバウンド!」

 

外れる事を悟った大地は即座に声を上げた。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通りボールはリングに嫌われ、弾かれた。

 

「こんの…あかん!」

 

リバウンド争い。オフェンスリバウンドを抑えたい天野だったが、大地が動くのと同時に四条がスクリーンアウトに入っており、リバウンド度外視で天野を身体を張ってボールから遠ざける。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「よーし!」

 

「ちぃっ!」

 

リバウンドボールは五河が抑えた。

 

 

『うわー! 花月痛恨のオフェンス失敗!』

 

観客も頭を抱える。

 

 

「(今のは何だ? 大地のブロックと言い、リバウンドと言い、まるでそうなるのが分かっていたみたいじゃねえかよ!)」

 

ダブルチームでも大地を容易には止められないのは第1Qで分かっている。止めるにはそれこそ赤司のような眼でも持っていない限り…。

 

「よし! 行け赤司!」

 

コートに着地した五河が既に速攻をかけていた赤司に大きな縦パスを出した。

 

「っ!? そういう事かよ!」

 

何かを悟った空が悪態を吐きながら赤司を追いかけるべく全力で走った。

 

一連の攻防は全ては赤司が作り上げたシナリオ。第2Q開始早々の時間をかけないオフェンス。そこから大地のブロックとリバウンド。全てが赤司の指示によるもの。その考えは当たっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

先程のインターバルにて…。

 

『第2Q最初のオフェンス。花月はこちらが時間をかけて確実に得点を狙いに来ると予測してくる。それを逆手に取り、迅速に取りに行く』

 

『…』

 

赤司の指示を無言で聞き入れる選手達。

 

『直後のディフェンスだが、敢えて綾瀬のマークを緩くする』

 

『…』

 

『ボールを持てば綾瀬は必ず即下がってスペースを作ってシュートを撃ってくる。彰人はすぐにブロックに向かえ。失敗しても構わない』

 

『分かった』

 

『次にリバウンド。大智は綾瀬が動くのと同時に天野を抑え込め。充がリバウンドを抑えるんだ』

 

『『おう!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

これがインターバル時に赤司が出した指示。半ば予言に近い指示。いくら赤司のエンペラーアイでもこれほどの試合展開を視るのは不可能だ。普通に考えれば苦言の1つでも呈したいと考える所だが…。

 

『(赤司がそうなるって断言したんだ。その通りになるんだろ)』

 

他の4人は赤司への絶対的な信頼から疑う事も迷う事もなく忠実にその指示に従った。

 

「行くぞ」

 

ボールを掴んだ赤司がそのままリングへとドリブルを始める。

 

「野郎、逃がすかよ!」

 

グングン加速する空。距離を考えれば到底追い付けない程開いているのが…。

 

「(これならギリギリ…!)」

 

距離はあっと言う間に縮まり、リング目前で赤司の背中を捉える。

 

 

「…赤司のスピードだって決して遅くねえ。相変わらずデタラメなスピードしてやがるな」

 

赤司に追い付いた空のスピードに感心する青峰。

 

 

ボールを掴んでリングに向かって飛ぶ赤司。

 

「打たせっか!!!」

 

背後からブロックを狙い空。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

しかし、赤司は空がブロックに現れるのと同時にレイアップの構えを中断し、ボールを右方向へと放った。

 

「ナイスパス!」

 

そこには二宮が走り込んでおり、スリーポイントラインの外側でボールを掴んだ二宮がスリーの体勢に入る。

 

「っ!?」

 

しかしここで再び驚愕に包まれる。二宮はスリーを打たずボールを頭上に掲げる直前にボールを左へと流した。すると、スリーをブロックにしようとしていた大地の手が空を切った。

 

「よっしゃ!」

 

ボールはリング正面、スリーポイントラインの外側に走り込んだ三村の手に渡る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの三村は悠々とスリーを放ち、決めた。

 

 

花月 14

洛山 20

 

 

『ここでスリー!?』

 

『第2Q始まって早々の連続失点!』

 

『これは痛い!』

 

これまで膠着状態だった試合に始めて変化が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「インターバル直後の僅かな緩みと、そこから生まれた動揺に付け込んだ。…ま、この辺が赤司の怖い所だな」

 

一連のプレーが全て赤司によってデザインされたものだと悟った青峰。

 

「花月は痛い所を突かれたね」

 

「痛いで済めばいいけどな」

 

桃井の懸念に青峰はさらに言葉を続ける。

 

「この試合は如何にチャンスを掴むかより、如何にミスをしないかがカギだ。早々に立て直さねえと文字通りこのミスが致命傷になるかもな」

 

青峰が警鐘を鳴らした。

 

「点差は6点。ここで落ち着いて決めて立て直せれば――」

 

「――これで終わりなわきゃねえだろ」

 

「えっ?」

 

「第1Qはまだしも、第2Q以降は勝機と見ればとことん仕掛けるのが赤司だ。…この奇襲はまだ続く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(ちくしょう…、俺達がやりたかった事を見事にしてやられた!)」

 

胸中で悔しがりながら空がスローワーとなった松永からボールを貰いに向かう。

 

「(冷静に、まずは1本。1本取ってペースを――)」

 

「っ!? 神城!」

 

空にパスを出した松永が思わず声を上げる。

 

「っ!?」

 

ボールを掴んだ空。直後に目を見開く。二宮と三村がボールを持った空に対して2人がかりでプレッシャーをかけてきたのだ。

 

「っ!? これは!?」

 

ベンチの菅野が思わず立ち上がる。

 

『オールコートゾーンプレス!?』

 

ここで洛山がディフェンスで仕掛ける。オールコートゾーンプレスでボールを奪いに来たのだ。

 

「…っ! ここでかよ!?」

 

激しく空に当たる二宮と三村。

 

「(くそがっ…! 考え事し過ぎて不意を突かれちまった! これじゃ益々赤司の思う壺じゃねえか!)」

 

冷静に立ち返ろうとしたその刹那。そうはさせまいと洛山のオールコートゾーンプレス。気持ちの切り替えを完全に出来ていなかった空は動揺を隠せなかった。

 

「…野郎、この程度でオタオタする程俺は甘くねえんだよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

動揺した心をダブルチームを受けながらも立て直し、スピンムーブしながら2人を抜きさった空。

 

「(……待て、何で二宮と三村なんだ? 赤司は何処行った?)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

そう疑問を抱いた瞬間、突如現れた1本の手によってボールを叩かれた。

 

「甘いな」

 

ボールを叩いたのは赤司だった。ダブルチームをかわした直後の僅かに出来た隙を狙い打たれたのだ。

 

零れたボールをすぐさま拾った赤司はハイポストに立っていた四条にパスを出した。

 

「貰った!」

 

パスを受けた四条はボールを掴んだの同時にシュート体勢に入った。

 

「あかん!」

 

突然のオールコートゾーンプレスで四条のマークを外してしまっていた天野が思わず声を上げる。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

横から伸びて来た1本の手によってブロックされ、思わず目を見開く四条。

 

「な、ナイス綾瀬先輩!」

 

ベンチの竜崎が立ち上がる。ブロックしたのは大地。大地だけは冷静に四条のポジションを捉えていたのだ。

 

「(…ちっ、取れねえか…)」

 

弾かれたボールを追いかけた二宮だったが、サイドラインを割った。

 

「まだまだ!」

 

その時、二宮の横を高速で何かが駆け抜けた。

 

『神城!?』

 

その正体は空。空はラインを割ろうとしていたボールに飛び付き、ボールをコートに戻した。

 

 

――バチッ!!!

 

 

「…あっ!?」

 

 

――ピピッ!!!

 

 

『アウトオブバウンズ、赤(花月)!』

 

空がコートに戻したボールは同様にルーズボールを追いかけていた二宮の足に当たり、再度コートの外へ。審判は花月ボールをコールした。

 

「……ふぅ。…うし」

 

何とか3連続失点を阻止、マイボールに出来た空はホッと一息し、静かに喜んだ。

 

「ナイスガッツ、空」

 

そんな空に歩み寄った大地が手を差し出す。

 

「そっちこそ、ナイスブロック。助かったぜ」

 

その手を取って空は立ち上がった。

 

「お互い、見事にしてやられちまったな」

 

「…えぇ、さすがは赤司さんです」

 

双方、苦笑しながら赤司を称える。

 

「開いた点差を詰めたい所ですがとりあえず今は…」

 

「立て直して1本決めねえとな」

 

「行きましょう」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…秀平」

 

「…っ、スマン、少し気を緩めちまった」

 

咎めるような赤司の視線を受けて二宮はバツが悪そうな表情で謝った。

 

「大智もだ」

 

「…っ」

 

今度は四条に視線を向ける赤司。

 

「多少点差が出来て緩んだか? オーバータイム目前ならいざ知らず、時間がたっぷり残ったあの状況で迂闊に仕掛けるな。あれでは綾瀬でなくともああなるぞ」

 

そもそも発端のブロックをされた四条を咎める赤司。

 

「……赤司の言う通りだ。スマン」

 

返す言葉がなく、四条は赤司の言葉を受け止め、謝罪した。

 

「この試合、例えどれだけ点差が出来ようと気を緩めるな。相手は花月だ。最後まで死に物狂いでボールに食らい付け」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ボールで試合が再開。

 

「…」

 

ボールをフロントコートまで運ぶ空。

 

「…」

 

そんな空の前に立ちはだかるのは当然赤司。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

赤司が立ちはだかるや否や、空が一気に加速して仕掛ける。

 

「っ!?」

 

ボールを狙い打った赤司だったがこれもその手が空を切った。

 

『うおぉぉぉっ!!! また抜いたぁっ!!!』

 

赤司を抜きさった空はそのまま突き進み、リングに近付いた所でボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「ちぃっ! …おぉっ!」

 

リングに向かって飛んだ空に対し、五河がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

横から五河が現れると空は右手で掴んだボールを1度下げる。

 

 

――ドン!!!

 

 

同時にブロックに現れた五河の身体と空中で衝突する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に鳴り響く審判の笛。

 

「…っと」

 

体勢が崩れながらも空はボールをリングに向かって放り投げる。

 

 

――バス!!!

 

 

放り投げたボールはバックボードに当たってリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、白8番(五河)、バスケットカウントワンスロー!』

 

ディフェンスファールと共に審判がフリースローをコールした。

 

『っ!?』

 

これに洛山の選手達も目を見開いた。

 

 

『赤司を抜いただけじゃなくて、バスカンまでもぎ取った!?』

 

これには観客も驚いていた。

 

 

「よーやった空坊!」

 

「うす!」

 

そんな空に駆け寄った天野が空の頭を叩きながら労った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローもきっちり決め、3点プレーを完成させた。

 

 

花月 17

洛山 20

 

 

「…スマン」

 

責任を感じた五河が頭を下げる。

 

「…いや、今のは僕のミスだ。お前のせいではない」

 

そんな五河を赤司を制する。

 

「慌てる事はない。きっちり次の1本を決める。それだけだ。…行くぞ」

 

ボールを受け取った赤司はボール運びを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを運んだ赤司はエンペラーアイで空の身体の軸を乱して抜きさり、中へと切り込んだ。

 

「打たせるな!」

 

ベンチから菅野が指示のような声を出す。

 

カットインした赤司に対してゾーンディフェンスを敷いていた花月は赤司を包囲するようにディフェンスを収縮させる。

 

 

――スッ…。

 

 

完全に包囲される前に赤司をノールックビハインドパスでボールを横に放った。その先、右アウトサイドの深めの位置に走り込んだ四条の手にボールが渡る。

 

「…っ!?」

 

大地は抜群のタイミングでかけた三村のスクリーンに捕まり、追走出来ず。

 

『っ!?』

 

空はもちろん、ディフェンスを中に収縮させてしまった為、誰もヘルプディフェンスに向かえず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの四条は悠々とスリーを決めた。

 

 

花月 17

洛山 23

 

 

「これで元通りだ」

 

ディフェンスに戻る際、通り過ぎ様に赤司が空にボソッと告げる。

 

「…あーそうかい」

 

そんな赤司に対して苛立ち気に返した空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後は再び膠着状態が続く。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

一方が決めれば…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

もう一方が決め返す。試合は第1Q同様、拮抗した試合が続く。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、洛山!』

 

ここで洛山が申請したタイムアウトがコールされた。

 

 

第2Q、残り6分38秒

 

 

花月 21

洛山 27

 

 

『リードしてる洛山がタイムアウト!?』

 

特に劣勢でもないリードを保っている洛山。ここで貴重なタイムアウトを申請した事に観客達は困惑している。

 

 

「スマンな、タイムアウトを取らせてもらった」

 

ベンチで腕を組みながら選手達を出迎えた白金が赤司に言う。

 

「…いえ、緊迫した試合展開で集中が途切れかねない状況でした。プラン修正をする意味でもありがたかったです」

 

赤司も絶好のタイミングだと思っていたのか、異を唱える事はなかった。

 

「現状でも悪くない…が、もう少し外を意識させてみようか。如何に神城と綾瀬のスピードと運動量が脅威であれ、全てのスリーを2人で止める事が出来る訳がない。外を意識させて再び相手のディフェンスを乱す。いいな?」

 

『はい!!!』

 

白金が大まかな指示を出すと、細かいプランをここから指示を引き継いだ赤司が出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ちっ、点差が縮まらねえ」

 

第2Q最初の奇襲で開いた点差が縮まらず、苛立つ空。

 

「相変わらずダイが機能しないのが痛いね」

 

生嶋がボヤく。

 

大地はダブルチームで徹底マークされており、事実上封殺されているに等しい。空がかき回して何とか点は取れているが、いまいち波に乗り切れていない。

 

「何とかせな。…けど、どないしよか」

 

必死に考える天野。

 

「メンバーを変える」

 

そんな中、上杉が言葉を発する。

 

「天野、交代だ」

 

「俺でっか!? 分かりました」

 

指名された天野は驚きつつもその言葉を受け入れた。

 

「(ディフェンスとリバウンドの要である天野先輩を下げるのか…)」

 

この選択に驚きつつも誰もがコート入りするのか呼吸を整えながら聞き入る松永。

 

「……準備は出来ているな? 行くぞ」

 

そう指名すると、12番のユニフォームを着た男がジャージを脱いだのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





変わらずネタ不足…(>_<)

投稿したい気持ちはあるのですが、ネタがないとモチベーションも上がらず、どうしても執筆意欲が落ちます。正直、気分転換にまた新たな二次を、とも考える事もあるのですが、これやるとどっちも中途半端になる上、エタる事が目に見えてるんですよねぇ…(;^ω^)

また軽い短編でも考えるか…。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第181Q~百戦錬磨~


投稿します!

3ヶ月ぶりの投稿です…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り6分38秒

 

 

花月 21

洛山 27

 

 

「6点差…、大ちゃんの言った通り、ミスした分だけ点差が開いてるね」

 

電光掲示板を見た桃井が呟く。

 

「赤司君も崩れる様子が見られないし、やっぱり洛山が優勢?」

 

状況を見て桃井が青峰に尋ねる。

 

「…どうかな?」

 

問いに対し、青峰は否定する。

 

「確かに今は赤司が試合を支配しているように見えるが、赤司は赤司で、神城を止め切れてる訳じゃねえからな」

 

「…あっ」

 

ここで桃井が思い出す。回数こそ少ないが、赤司は空から抜かれている事に。

 

「それがこの先、どう影響するか、だな」

 

そう青峰は結論付けた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでタイムアウト終了のブザーが鳴り、両チームの選手達がコートへと戻って来る。

 

「…えっ?」

 

その時、桃井が思わず声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

OUT 天野

 

IN  帆足

 

 

洛山はメンバーチェンジはなし。しかし、花月は天野を下げ、代わりにコートに入ったのは何と帆足。

 

「(…ゴクリ!)」

 

思わず息を飲む帆足。タイムアウト中、天野が交代を命じられ、その代わりにコート入りした帆足。タイムアウトの少し前から既に上杉から指示が下され、準備はしていたが、いざその時が来ると自身に膨大なプレッシャーがのしかかった。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

コートに足を踏み入れると、観客の大歓声に包まれた。

 

「っ!?」

 

思わず身体が竦み上がる帆足。

 

「(俺があの洛山相手に…!)」

 

緊張で身体が強張る帆足。試合経験がない訳ではない。本選でも1回戦と3回戦に僅かながら試合に出場しているし、先の県予選の決勝では流れを変える切り札として試合に出場している。だが、1回戦と3回戦では既に点差が付いており、プレッシャーのかからない展開であったし、県予選の決勝ではガムシャラでそれどころではなかった、何より…。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ここまで観客はいなかった。

 

「(っ!? やばいやばい! 心臓が破裂しそうだ!)」

 

ここで帆足の緊張がピークに達する。膝が笑い出し、もはやパニックに近い状況に陥ってしまった。

 

 

――ポン…。

 

 

「…ひっ!?」

 

その時、帆足の肩が叩かれ、思わず声を上げてしまう。振り返ると、空がニヤニヤとしながら肩に手を乗せていた。

 

「監督の指示、覚えてるか?」

 

空は肩に手を乗せたまま尋ねる。

 

「(っ!? そうだ、指示! ……あれ? 何だっけ!? 分からない!?)」

 

タイムアウト中に自身に出された指示を思い出そうとするも思い出せず、さらに頭がパニックとなる。

 

そんな帆足に様子に気付いた空はケラケラと笑いながら…。

 

「指示は2つだ。1つ目は、空いたら打て」

 

「空いたら……打つ…」

 

繰り返すように空の言葉を呟く。

 

「もう1つは、全力でやれる事をやれ、だ」

 

「全力で、やれる事を…」

 

空の言葉を呟きながら頭に染み渡らせる。

 

「県予選の決勝と同じように、お前が救世主になるんだ」

 

「……俺が」

 

「俺が保証する。お前ならやれる。お前は今日まであの地獄の練習を耐え抜いたんだからな」

 

「神城君…」

 

「っしゃ行くぜ。またヒーローなれ」

 

そう告げ、帆足の背中を叩き、走っていった。

 

「…空いたら打つ。全力でやれる事を……よし!」

 

空の言葉で緊張が和らいだ帆足はもう1度指示を復唱し、気合いを入れ直すと、続いて走っていったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…何だあのパッとしねえ奴は?」

 

コート入りを果たす帆足。そんな帆足を視ながら青峰は首を傾げた。

 

『誰だあいつ?』

 

『何で天野(7番)を下げるんだよ。あいつはリバウンドとディフェンスの要だぞ?』

 

『サイズダウンしちまうじゃねえか!』

 

観客からも疑問の声がチラホラ聞こえた。

 

「えっと…」

 

桃井が自身の鞄からノートを取り出し、ペラペラと捲り始めた。

 

「帆足大典君。高校からバスケを始めて、それ以前は特にスポーツ経験はなし。スリーが得意なのと、スクリーンを駆使して味方をフォローするプレーヤー…」

 

「…」

 

「あの練習が厳しい花月で2年間過ごして来ただけあってそこらの2年目の選手と比べれば基礎能力、基礎体力は高い方だけど、正直…」

 

ここで桃井は言葉を濁す。一線級の選手が揃う洛山相手にするのは力不足だと断じていた。

 

「ふーん、帆足(あいつ)、シューターなのか」

 

頬杖を突く青峰。

 

「…つう事は、花月は今、外が打てる奴がコート上に4人いるって事か」

 

「っ!?」

 

その言葉にハッとした桃井がコート上に視線を移す。

 

 

「1本、行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

コートではボールを運ぶ空が檄を飛ばし、他の選手達がそれに応える。

 

『これは!?』

 

観客達が思わず声を上げる。コートでは松永がローポストに立ち、それ以外の4人はスリーポイントラインの外側にポジションを取っていた。

 

 

「4アウト!?」

 

これに桃井が驚く。

 

生嶋は言わずもがな、大地も外が得意な選手であり、空も外が打てる。そしてたったいまコートに入った帆足。4人のシューターがアウトサイドに陣取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『っ!?』

 

「…」

 

このポジション取りにコート上の赤司を除いた洛山の選手達が驚愕する。現在、ローポストに松永。左右のアウトサイドの端に生嶋と帆足。トップの位置でボールを保持する空と、右45度付近に大地が立っている。

 

「「…っ」」

 

洛山の選手の中でも特に、三村と四条は特に困惑している。大地のダブルチームに徹している2人。天野はそこまで得点力がなかったのに加え、主な役割は味方のフォローとリバウンドであり、ハイポストに立つ事が主だった為、いざとなれば四条や五河のヘルプで対応出来た。

 

しかし、アウトサイドに立った帆足ではヘルプ対応が間に合わない。スリーが得意と言う情報も当然、洛山選手達にデータとして入っている為、このままダブルチームで大地に付いたままで良いのか判断に迷う三村と四条。

 

「(1本、様子を見る。これまでどおり綾瀬に付け)」

 

「「(…コクッ)」」

 

赤司に視線を向ける三村と四条。赤司は作戦継続のサインを出し、2人は頷いた。

 

「…」

 

ゆっくりボールをキープする空。

 

 

――スッ…。

 

 

数秒、空がボールをキープしていた所で帆足が動く。大地へ近付くように移動していく。

 

「(来た!)」

 

「(スクリーンをかけて綾瀬を自由に……動いた!)」

 

帆足の動きに呼応して大地が中へと走り込む。

 

「三村、四条、スクリーン!」

 

「分かってる!」

 

「任せろ!」

 

五河が声を掛けると、2人は返事をし、それぞれ対応していく。

 

「(俺だけではもはや綾瀬は相手に出来ない、だが、四条が来るまで時間稼ぎは出来る。密集地帯のツーポイントエリアなら俺達でも…!)」

 

出来る事に全力を注ぐ決意をする三村。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ここで空がパスを出す。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、洛山の選手達は驚愕する。空がパスを出した先は中に走り込んだ大地ではなく…。

 

「よし!」

 

帆足だった。

 

「しまった、ゴーストスクリーンか!?」

 

ここで四条は気付いた。帆足は大地にスクリーンをかけに行ったのではなく、そのまま駆け抜けてフリーとなり、ボールを受けに行ったのだと…。

 

「打て!」

 

ベンチから上杉が指示を出す。

 

「(空いた! 打てる!)」

 

すぐさまスリーの体勢に入った帆足。

 

「くそっ!」

 

慌てて四条がチェックに向かうも間に合わず、紙一重で間に合わず、スリーを許してしまう。

 

「(入れ!)」

 

リングに向かうボールに願う帆足。

 

 

――ガン!!!

 

 

「あっ!?」

 

しかし、願いは届かず、ボールはリングに嫌われてしまう。

 

「(そんなホイホイスリーを決められてたまるかよ!)…リバウンド!!!」

 

四条が声を出す。

 

「来たで! 死ぬ気で抑えたれ!」

 

ベンチから天野が声を出す。

 

「上等!」

 

「行きます」

 

空と大地がゴール下へと向かう。

 

「おぉっ!」

 

「ちぃっ!」

 

松永は五河を向かい合い、胸の前で腕を重ねて五河をゴール下から遠ざけていく。

 

「ナイス松永! 俺達じゃ、ゴール下のポジション争いじゃ勝てねえが…」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「空中戦なら負けません!」

 

大地がリバウンドボールを抑えた。

 

 

――バス!!!

 

 

リバウンドボールを抑えた大地はフックシュートを決めた。

 

 

花月 23

洛山 27

 

 

「っしゃ!」

 

「はい!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

「ディフェンス! ここ止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

ディフェンスに戻ると、空が声を張り上げて檄を飛ばし、周囲がそれに応えた。

 

「49だ!」

 

フロントコートまでボールを進めると、赤司がナンバーコールをし、同時に洛山の選手達が一斉に走り出し、高速のボール交換が行われる。

 

 

――ピッ!!!

 

 

絶え間なく動き回るボールと人。シュートクロックが残り5秒となった所で…。

 

「っ!?」

 

ボールは左アウトサイドに移動していた三村の手に。

 

『あぁっ!?』

 

『やばい!』

 

観客が思わず声を上げる。

 

ボールが渡った三村の近くには帆足がおらず、他の4人はこれまでのボール回しで右サイドに寄せられてしまっていたのだ。

 

「おぉっ!!!」

 

気合い一閃で帆足が三村のチェックに向かう。

 

「っと、スゲー気迫だな」

 

身体がバチバチと音が鳴りそうな程に激しく密着するかのようなディフェンスをする帆足。

 

「だがな…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「それだけじゃ、俺は止められねえぜ」

 

一瞬の隙を突いて三村が帆足を抜きさる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

抜くと同時にボールを掴み、そのままジャンプショットを決めた。

 

 

花月 23

洛山 29

 

 

「よーし!」

 

ジャンプショットを決め、拳を握る三村。

 

『やっぱり狙われたか』

 

『交代は失敗だったんじゃないか?』

 

明らかな帆足狙いのオフェンスを見た観客から溜息が漏れる。

 

「…っ、ごめん」

 

「気にすんな。お前は自分が出来る事を全力でやればいいんだよ」

 

「そうですよ。さっきも得点に繋がったのですから、自信を持って下さい」

 

落ち込む帆足を空と大地が慰めた。

 

「やり返すぞ! 1本!」

 

『おう!!!』

 

オフェンスが切り替わり、空がフロントコートまでボールを運ぶ。

 

「…」

 

先程同様、帆足が動き、大地の方向へと移動していく。

 

「(またか!?)」

 

「(次はどう来る!?)」

 

大地の為にスクリーンをかけるのか、それとも先程のようにフリだけで空いてるスペースに駆け抜けるのか…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

空がパスを出す。

 

「…っ」

 

ボールは中に走り込んだ大地へ。四条は帆足のスクリーンに完全にかからなかったものの、しっかりと追走を阻まれ、大地に振り切られる。

 

「(時間を稼ぐ。最悪ファールでもいい!)」

 

ダブルチームで唯一大地を追いかけた三村が大地に立ち塞がる。

 

「…」

 

大地はボールを掴むと、三村に対して仕掛けず…。

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを外へと出した。

 

「なに?」

 

仕掛けなかった事に声を上げる三村。ボールは左アウトサイド45度付近にパスと同時に移動した空の下に。

 

「…」

 

ボールを掴んだ空はそのままノールックビハインドパスで左アウトサイド、左隅にパスを出した。

 

「今度こそ!」

 

そこには帆足。

 

『っ!?』

 

中でパスを受け取った大地に注目が集まった隙に移動していた帆足。フリーでボールを掴み、再びスリーを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

スリーは今度こそリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 26

洛山 29

 

 

「やった!」

 

無事、スリーを決めた帆足がガッツポーズ。

 

「ナイス帆足ぃっ!」

 

バチンと背中を叩いて労う空。

 

「痛っ!? ああ!」

 

痛がるがすぐに笑顔になる帆足。

 

「良い流れです。この調子で行きましょう」

 

続いて大地が声を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

帆足がコート入りした事でオフェンスに良いリズムが生まれるようになった花月。ディフェンスでは止めきれずに失点する場面が増えたが、確実に得点は重ねていた。

 

 

――ガン!!!

 

 

松永が放ったジャンプショットをブロックに飛んだ五河の指が触れ、外れる。

 

「絶対取るぞ!」

 

「ええ!」

 

これを見て空と大地がリバウンドに参加した。

 

 

「ふーん、考えたな」

 

青峰が今のプレーを見て感心する。

 

「普通にリバウンド勝負したら身長とパワーで劣る神城や綾瀬じゃまず取れねえ。だが、4アウトで双方が外に散らばってる状況なら、唯一中に入る五河(8番)さえリバウンド争いから追い出しちまえば、誰よりも速くボールに近付ける上にジャンプ力のあるあの2人が有利だ」

 

「けど、もしリバウンドを抑えられなかったら…」

 

ガードの空がリバウンドに参加してしまっている為、カウンターを食らった時の危険性を示唆する桃井。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「よし!」

 

運悪くボールが2人を避けるように跳ね、五河がリバウンドボールを抑えた。

 

「こっちだ!」

 

「行け!」

 

五河がリバウンドを抑えるのと同時に速攻に走っていた二宮がボールを要求。五河は二宮に大きな縦パスを出した。

 

 

「あっ!」

 

今まさに危惧していた事が起こり、声を上げる桃井。

 

「確かに、リバウンドを抑えられなかったら、カウンターで点を奪われる可能性がある」

 

ボールを掴んだ二宮がそのままゴール下までドリブルで進み、レイアップの体勢に入る。

 

「もっとも、シュート打つまでにあいつらから逃げ切れれば、だけどな」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

放ったボールを後ろから伸びてきた手にブロックされ、目を見開く二宮。

 

「逃がす訳ねえだろ」

 

二宮の後ろから空がしたり顔で囁く。

 

「バカな!?」

 

リバウンドに参加していた空が誰よりも速く速攻に走った二宮のレイアップをブロックした事に驚きを隠せない五河。

 

「ナイスブロック、空!」

 

ルーズボールをすぐ後ろを走っていた大地が抑えた。

 

「綾瀬もか!?」

 

「速過ぎる…!」

 

理不尽なまでな2人のスピードに唖然とする三村と四条。

 

 

「そっか、例えリバウンドを抑えられなくても、あの2人なら追い付ける!」

 

青峰が感心した真意をここで理解した桃井。

 

もっと速く速攻に走れば例え空と大地でも間に合わないだろう。だが、速攻に備えるにしても味方がリバウンドを抑えるまでは走れない為、花月にしか出来ない理不尽な作戦とも言える。

 

「しかも、あれを何回でもやれるだけのスタミナも持ち合わせてるとなりゃ、手ぇ焼くだろうよ」

 

軽く洛山に同情する青峰であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

再び花月のオフェンスとなり、空がトップの位置でボールをキープする。

 

「…」

 

帆足が大地の下へと走っていく。

 

「(来た! スクリーンをかけるのか、それともゴーストスクリーンか!?)」

 

「(くそっ! ボールを持ってもスリー以外は何も出来ない奴に振り回される事になるとは…!)」

 

身長も身体能力もテクニックも、秀でたものは持ち合わせていない。キャリアすらも、高校入学と同時にバスケを始めて帆足にはない。そんな選手にかき回されている今の状況に苛立つ洛山に選手達。

 

「こんな言葉がある」

 

ベンチの上杉が口を開く。

 

「ボールを持って仕事が出来る者は一流。ボールを持たずとも仕事が出来る者は超一流、と…」

 

『…』

 

「派手なテクニックや華麗なテクニックだけがバスケではない。あのように楔となり、汚れ役となってチームを支えるプレーもまたバスケには必要だ」

 

「同意見やな」

 

上杉の持論と同じ考えを持つ天野が同調する。

 

「高校入学からバスケを始めた帆足がそれでもチームの役に立つ為に辿り着いた答えだ。今や立派な戦力だ」

 

「ホンマ、あいつ努力しよったからなあ」

 

花月のバスケ部の中で唯一、辞めようとした事を知る天野。残る道を選び、チームの力になる為に出来る事を必死に考え、その為に死に物狂いで努力し、結果、今大会の県予選決勝では勝利の原動力となり、今でもあの洛山相手に活躍している。

 

「お前が積み上げたもんが今出とるで。目に物見せたれや」

 

コート上で必死に走る帆足に天野がエールを贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを回し、チャンスを窺う花月。

 

「…っ!」

 

生嶋がスリーポイントライン沿いを走って中央へと向かう。

 

「スクリーン!」

 

追いかけようとする二宮に対し、五河がスクリーンの存在を教える。

 

「(何度も喰らってりゃいい加減慣れるぜ!)」

 

帆足のスクリーンを避け、生嶋を追いかける二宮。

 

「に、二宮!」

 

その時、三村が慌てた声で名前を呼ぶ。

 

「…っ!?」

 

スクリーンをかけた帆足を避けて生嶋を追ったその時!

 

「(いない!? 何処だ!?)」

 

二宮の視界から生嶋の姿が消え失せる。

 

「…ハッ!?」

 

周囲を探して二宮がその姿を見つけた時には、フリーで生嶋の手にボールが渡っていた。

 

「(しまった、情報は頭に入っていたはずなのに失念していた。この2人には…!)」

 

フリーで生嶋は悠々とスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を寸分の狂いもなく通過した。

 

 

花月 31

洛山 32

 

 

『キター! 生嶋(5番)帆足(12番)の連携スリー!』

 

『これで1点差! 遂に背中を捉えた!』

 

「(くそっ! 生嶋(5番)帆足(12番)の連携は事前情報で聞いていたはずなのに…、何をしてんだよ俺は!)」

 

頭の片隅にでも留めて置けば防げたかもしれないスリー。自身の不甲斐なさに苛立つ二宮。

 

「秀平」

 

「っ!?」

 

そんな二宮に赤司が声をかけると、二宮は思わず身体をビクつかせ、恐る恐る振り返る。

 

「いつまでも過ぎた事でクヨクヨするな」

 

振り返ると、赤司は怒りでも非難でもなく、ただそう励ました。

 

「だが、同じ愚は犯すな。行くぞ」

 

そう言って肩を叩き、赤司はボール運びを始めた。

 

「赤司…」

 

きつい言葉をかけられるか、最悪、交代も覚悟した二宮だったが、気落ちする自分へのフォローの声掛けをされた事に驚いていた。

 

「…っし、よし!」

 

顔を叩き、気合いを入れ直すと、二宮はオフェンスへ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本! ここ止めるぞ!」

 

空が声を張り上げる。帆足のフォローもあり、遂に1点差にまで詰め寄った花月。このままの流れを維持しながら逆転したい。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『っ!?』

 

リングの中心をボールが通過する音と共に会場が静まり返る。

 

 

花月 31

洛山 35

 

 

「…っ」

 

空が振り返ると、そこにはシュート放った体勢の赤司がおり、すぐさま両腕を下ろすと、そのままディフェンスへと戻っていった。

 

『お…』

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

ここで会場が割れんばかりの歓声に包まれる。

 

ディフェンスに切り替わった花月。洛山のナンバープレーに備えていたのだが、赤司はパスはおろか、ナンバーコールすらせず、スリーポイントラインから2メートル以上離れた所にボールを進めたと同時にそこからスリーを放ったのだ。

 

 

「さすが赤司だな。嫌な所できっちり決めやがった」

 

徐々に点差が詰まり、後シュート1本で逆転の所まで点差が詰まり、追い上げムードの花月に対して水を差す1本を決めた赤司に感心する青峰。

 

 

「…ちっ」

 

これには思わず空の口から舌打ちが出る。一瞬の隙を突かれたとは言え、その隙を作ってしまったのは空自身であったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(流れは確実に花月(うち)に来つつあるんだ。何としてもものに…!)」

 

ボールを運ぶ空。トップの位置で赤司が立ち塞がる。

 

「(行くぞ!)」

 

空が赤司に対して仕掛ける。

 

 

「ダメだな」

 

仕掛けた空の様子を見て青峰がポツリと呟く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

動いたのと同時に赤司の手が空がキープするボールを叩いた。

 

「余計な力が入り過ぎだ。これまでにしてもギリギリで何とかかわせてたに過ぎねえ。少しでもタイミングがズレるか、軸がブレてスピードが鈍れば、たちまち天帝の眼(エンペラーアイ)の餌食だ」

 

 

叩いたボールを掴んだ赤司がそのままワンマン速攻で先頭を駆け抜ける。

 

「くそっ!」

 

振り返った空は全速力で赤司を追いかける。

 

『相変わらずスゲースピードだ!』

 

『あの赤司に後ろから追いついちまうぞ!?』

 

後ろから赤司を追いかける空。みるみる赤司との距離を詰めていく空のスピードに観客も驚く。

 

「追い付けるぞ。止めろ神城! ここを決められると面倒だぞ!」

 

ベンチの菅野が必死に声を出す。

 

ゴール下までボールを進めた赤司がレイアップの体勢に入る。

 

「(分かってる! ギリギリで追いつける!)」

 

一足遅れて空も後方からブロックに飛ぶ。

 

「(このまま叩き落して――)」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールに手を伸ばそうとした空だったが、中断して両腕を上げるような体勢を取って赤司のレイアップ見逃した。

 

 

花月 31

洛山 37

 

 

「…」

 

「…ふん」

 

着地した後、空に視線を向ける赤司。空は拗ねたように鼻を鳴らしながら視線を逸らした。

 

 

「ディープスリーの奇襲を受けた直後のオフェンスを失敗して、ターンオーバーからの失点。このままだと…」

 

再び洛山がリードを広げてしまう事を懸念する桃井。

 

「ああ。…だが、最悪な事態を避けた程度にはまだ周りは見えてるみてーだな」

 

「?」

 

「赤司の奴、あの状況でわざと神城を追い付かせて、ファールを誘ってやがった」

 

青峰が解説する。

 

「っ!? そっか、だから神城君はブロックを中断したんだ」

 

赤司を捉えた空がブロックを中断した事に引っ掛かっていた桃井だったが、これを聞いて納得した。

 

「夏の神城だったら間違いなくファールを食らってバスカンだっただろうよ」

 

インターハイからの成長を見据える青峰。

 

「ここで焦らずに慎重にゲームを進めれば、とりあえずは点差は広げずに済むだろうが…」

 

「やっぱり追い付くのは難しいよね」

 

赤司…そして、洛山の強かさを改めて痛感した桃井だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ふぅ、悪い、ちょっと焦り過ぎたわ」

 

「いえ、あれは仕方のない事です」

 

深呼吸をして気分を落ち着かせた後、自身の失態を謝罪する空。大地はそんな空を手で制した。

 

「とりあえず、点は取れてるから、少なくともこのQはきっかけを掴むまでは慎重にボールを回していく」

 

「異論はありません。幸い、帆足さんのおかげで私もボールに触れられるようになりました。空いたら私に回して下さい。決めてみせます」

 

「頼りにしてるぜ。…っしゃ、行くか!」

 

スローワーとなった大地からボールを受け取った空はゆっくりとボールを運んでいったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

天野に代わり、帆足を投入した花月。

 

その甲斐もあり、オフェンスで良いリズムが生まれるようになり、順調に得点を重ねていく。

 

リードが縮まり、後1点差までに届いた所で赤司の奇襲のスリー。焦った空のドライブを止め、更に追加点を上げ、再び6点差にまでリードが広がってしまった。

 

花月へと流れ始めた良い流れも、赤司がそれを断ち、百戦錬磨の手腕を見せつけていく。

 

試合の膠着状態は、尚も続いていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





大変長らくお待たせいたしました…(;^ω^)

どうにか仕上がった為、満を持しての投稿です…(>_<)

依然としてネタ不足であり、今はもう1つの二次の執筆が楽しい為、次話の投稿は未定です。なるべく早く投稿に努められればと思います…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第182Q~タイミング~


投稿します!

涼しくなってきましたね~…(^_^)/

それではどうぞ!



 

 

 

「行くぞ!」

 

コートへ続く通用口を、次の試合を控えた田加良高校の選手達が主将の胡桃沢を先頭にコートのあるフロアへと足を踏み入れた。

 

 

――おぉぉぉぉー--っ!!!

 

 

次の瞬間、観客の大歓声と同時に熱気が田加良高校の選手達を襲った。

 

「…」

 

胡桃沢が点数が表示されている電光掲示板に視線を向ける。

 

 

第2Q、残り31秒。

 

 

花月 38

洛山 44

 

 

コート上では赤司がボールをキープしており…。

 

「33番だ!」

 

ナンバーコールと同時にパスを出す。これを聞いた他の選手達が動き始め、高速のボール回しを始める。

 

『っ!?』

 

洛山のお家芸であるナンバーコールからのボール回しを見て田加良高校の選手達は思わず息を飲んだ。

 

ボールは絶えず選手間を飛び回っており、選手達も、絶えず走り回っているのだが、選手、ボール双方共にスピードが桁外れなのだ。

 

「(これが噂の洛山のナンバープレーか…!)」

 

胸中で胡桃沢はそのボール回しに圧倒されていた。選手達はボールを掴んだら1秒もボールをキープする事無くすぐにパスを出す。出すパスもかなりのスピードを有していた。選手も猛スピードでダッシュしながらポジションチェンジを繰り返しているにも関わらず、正確に手元にボールを送り届けているのだ。

 

「っし!」

 

シュートクロックが残り3秒となった所でスリーポイントラインの外側、右45度付近でフリーとなっていた二宮にボールが渡り、すぐさまスリーの体勢に入った。

 

「(…入る)」

 

シュートフォーム、力の抜け具合、リズムを見て胡桃沢はこのスリーが入る事を確信する。

 

「おぉっ!」

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

ボールをリリースした瞬間、すぐさま距離を詰めてブロックに飛んだ空の指先がボールに触れる。

 

「(あれに追い付くのか!?)」

 

胡桃沢は驚愕した。ボールを掴んだ時点では二宮は間違いなくフリーだった。1番近い位置にいた空にしても、2メートル以上は離れていた。にもかかわらず、空は一気にその距離を埋め、ボールに触れてしまった。

 

「落ちるぞ! 松永!」

 

「任せろ!」

 

落ちる事を確信した空がゴール下の松永に檄を飛ばすと、松永はその檄に応えながらスクリーンアウトで五河を抑えながらリバウンドに備える。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールは言葉通りリングに弾かれる。

 

「「おぉっ!」」

 

同時に松永と五河がボールに飛び付く。

 

「(…っ、ポジションが悪い。これでは取れん! ならば!)」

 

 

――ポン…。

 

 

「…くっ」

 

松永はボールが取れないと見るや、右手を伸ばし、ボールを叩き、チップアウトした。

 

「頼む!」

 

「任せろぉっ!!!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

チップアウトしたボールに空がいち早く飛び付き、リバウンドボールを確保した。

 

「空!」

 

ボールの確保と同時に速攻に走った大地がボールを要求。

 

「行け!」

 

空はその声に反応し、振り返るのと同時に前線に大きな縦パスを出した。

 

「ちぃっ!」

 

フロントコートに入るのと同時にボールを受け取った大地の前に、危機を察して素早く自陣に戻った三村が待ち構える。

 

「…」

 

 

――キュッ!!!

 

 

大地は三村の1メートル手前で急停止し、視線をリングに向けた。

 

「(打つのか!?)」

 

外があり、スリーポイントラインからある程度離れた位置からでも決めて来る大地。三村はすぐさま大地との距離を詰めようとする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ」

 

しかし、大地は三村が距離を詰めるべく1歩踏み出した瞬間再加速し、三村を抜きさった。その後、ツーポイントエリアに侵入した所で大地はボールを掴み、シュート体勢に入る。

 

「うおぉぉぉー-っ!!!」

 

すると、後ろから四条がブロックするべく、飛んで来た。だが…。

 

「っ!?」

 

大地は飛んでおらず、ボールを掴んだまま四条のブロックをかわす。四条が通り過ぎたのを確認してから改めてシュート体勢に入った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを頭上にリフトしようとしたその時、大地の持つボールが何者かに叩かれた。

 

「(赤司さん!?)」

 

叩いたのは赤司。大地の後方から手を伸ばし、ボールを叩いたのだ。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

転々と転がるボール。同時に第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q終了

 

 

花月 38

洛山 44

 

 

第2Qが終了し、これより、10分間のハーフタイムとなった。

 

「…っと、練習を始めるぞ! 準備急げ!」

 

息の詰まる試合に思わず見入っていた胡桃沢だったが、すぐに目的を思い出し、選手達に指示を出し、コートへと向かった。

 

『…』

 

コートへと向かう途中、控室へと向かう花月の選手達が正面からやってくる。

 

「(あれが花月の神城、それと、綾瀬か…)」

 

花月高校の2年生ながら主将を任された選手であり、キセキの世代と互角に渡り合い、今も赤司と対等に渡り合っている実力者。そのすぐ後ろには同じく、キセキの世代と互角に渡り合い、この試合でも洛山の猛者の厳しいディフェンスも物ともせずに得点を量産している実力者。

 

「(これが、次世代のキセキか…!)」

 

ある程度、実力がある者であるなら、対峙しただけでその者の実力を推し量る事が出来る。胡桃沢とて、佐賀では指折りの実力者。空と大地から発せられるオーラのようなものを肌で感じ、思わず圧倒されてしまう。

 

「…っ」

 

先頭を歩く空とすれ違ったその時、胡桃沢は思わず息を飲んだ。空は胡桃沢…及び、田加良高校の選手達に一瞥もくれず、通り過ぎていったのだ。仮にも、今日勝ち抜けば明日、戦うかもしれない相手。にもかかわらず、何の関心も示さなかった。

 

だが、それは自分達への侮りのものではない事はすぐに理解した。

 

…そんな余裕がないのだ。

 

そもそも明日の試合等、今日勝てなければ意識しても意味がない。集中を切らさず、呼吸を整える。目の前の相手を倒す為、今出来る事を最大限従事しているのだ。

 

「…ふぅ」

 

空達が通り過ぎると、思わず息を吐く胡桃沢。そして今一度、電光掲示板に視線を向ける。

 

「(あの2人を有する、スペシャリスト揃いの超攻撃的チームの花月。連携抜群のハイレベルのオールラウンダーの選手とそれを余すことなく指揮する司令塔を擁する洛山…)」

 

圧倒的なオフェンス力を有する花月と、攻守に渡って隙が無い洛山。

 

「(花月を38点に抑えた洛山と、洛山相手に6点差で食らいつく花月。どっちが凄いのか…いや、両方か…)…ん?」

 

その時、胡桃沢は反対側のコートからこちらへ向けられた視線に気付く。それは、対戦相手の多岐川東高校の主将、若林のものであった。

 

「…」

 

2人の視線が合うと、若林は苦笑しながら肩を竦めた。

 

「…フッ、そっちも同じか」

 

向こうも、今、自分が感じたものと同じものを感じ取ったのだとすぐに理解し、釣られるように肩を竦めた。

 

「時間を無駄にするな! まずはシュート練習から始めるぞ!」

 

振り返った胡桃沢は指示を飛ばし、試合前の練習を始めたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月の控室…。

 

「ここまでは悪くない。逆転は叶わなかったが、想定内だ」

 

控室に戻り、各々が呼吸を整えながら身体を休める中、上杉が選手達を労う。

 

「夏よりデザインプレーのパターンが増えた上に、パススピードも上がってる。厄介だね」

 

生嶋が汗をタオルで拭いながらここまでの感想を口にする。

 

「全員が中からも外からも打って来る。それだけにオフェンスパターンは多彩だ。的が絞り切れん」

 

松永がその後に続く。

 

「とは言っても、こっちだって点は取れてんだ。あのボール回しに対応出来りゃ、6点差なんてすぐに逆転出来るぜ!」

 

気落ちしかけている選手達を鼓舞するように菅野が声を出す。

 

「それが出来ひんから苦労しとるんやろが」

 

呆れた口調で天野がツッコミを入れた。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

後半戦の作戦を考えている中、試合に出ていた帆足がタオルを頭から被り、大きく肩を揺らしながら息を荒げていた。

 

「だ、大丈夫、帆足君!?」

 

その様子に気付いた相川が声を掛ける。

 

「…だ、大丈夫」

 

心配させまいと帆足は無理やり笑顔を作って取り繕った。

 

「僅か7分足らずで…。帆足先輩は決して体力がない訳ではないのに…」

 

第2Qが終わって時間が経って尚、呼吸が整わない帆足を見て室井が驚く。

 

「しゃーないわ。たかが7分言うても、強敵相手に常に集中、常に全力出しとったんや。しかも、この大舞台、大観衆の中でや。かかるプレッシャーは、県予選の決勝や、大量リードで守られた1回戦とは比較にならへん」

 

決して少なくない体力が枯渇するには仕方のない状況だと天野が説明する。

 

「…ふむ。帆足、交代だ」

 

「…えっ?」

 

上杉が出した最初の指示は、帆足の交代。

 

「天野をコートに戻す。準備は出来てるな?」

 

「いい加減、尻がいとーて仕方あらへんかったで!」

 

コート入りを命じられた天野は意欲を見せながら意気込みを露にする。

 

「体力の限界もそうだが、得意のスクリーンとスリーが対応されかけている。神城がそれを逆手に取ってゲームメイクをしていたが、それもそろそろ限界が来ている。このハーフタイム中に完全に対応してくるだろう。もう潮時だ」

 

「そう…ですか……っ」

 

自身の自慢の武器がもう使えない状態だと言われてしまえば反論も出来ず、受け入れるしかない。切り札として投入されながら、結局点差を詰められず、帆足の中で悔しさが募っていく。

 

「帆足、お前の頑張りのおかげで、点差を広げられる事なく試合を折り返す事が出来た。よくやってくれた」

 

項垂れる帆足を、上杉が労いの言葉を贈った。

 

「…は、はい! ありがとうございます!」

 

この言葉を聞き、帆足を頭を下げたのだった。

 

「ところで、キャプテンと綾瀬先輩は大丈夫ですか?」

 

「ん?」

 

「?」

 

竜崎が空と大地に尋ねると、2人はキョトンと返事をする。

 

「いえ、キャプテンは赤司先輩と常にマッチアップしていますし、綾瀬先輩はダブルチームを受けていましたから…」

 

他にも、ディフェンスでは2人が積極的にヘルプに出ている事で、相対的に負担は大きくなる。竜崎は消耗具合を心配していた。

 

「まだ試合の半分しかやってねえんだぜ? 余裕だっつうの」

 

「問題ありません。試合終了まで走り切るだけの体力は十二分にありますよ」

 

鼻を鳴らしながらアピールする空と、にこやかに返事をする大地。

 

「(呼吸はもう整ってる。…っていうか、よく考えたら控室(ここ)に戻ってきた時には平然としてたな。相変わらずスゲー体力だよこの2人…)」

 

厳しい環境と役割をこなしているにも関わらず、誰よりも平然としているこの2人に改めて驚愕する竜崎だった。

 

「…続けるぞ」

 

「っと、すいません!」

 

話の腰を折った形になってしまい、謝る竜崎。

 

「逆転する為には、点を取る事が1番重要だが、やはり、何処かで洛山のナンバープレーを破る必要が出て来る」

 

現在、2-3ゾーンで対応しているが、止めきれていないのが現状だ。

 

『…』

 

この試合、1番の課題にぶち当たり、閉口する選手達。そんな中、空が口を開く。

 

「その事なんですが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山の控室…。

 

「結局、リードを広げられなかったか…」

 

ベンチに腰掛けると、二宮が悪態を吐く。

 

「引き離そうとも食らいついてきやがる。相変わらずのしつこさだ」

 

「…だが、向こうの手札を1つ切らせた。もう帆足(12番)の動きにも慣れてきた。それだけでも充分、収穫があったと言えるだろ」

 

花月のしつこさに辟易する三村だが、そんな三村を励ます五河。

 

「赤司、ここからどうする? ……赤司?」

 

第3Qからの戦術プランを尋ねた四条。だが、赤司はタオルを頭から被り、俯いたまま。

 

「おい赤司、大丈夫――」

 

反応がない赤司を不審に思い、肩を叩こうとした四条を白金が止め、首を横に振った。

 

「赤司は今、後半戦に向けて集中を切らさないよう努めながら呼吸を整えている。今は声を掛けるな」

 

「スー…ハー…」

 

赤司は俯きながらゆっくり深呼吸をしている。

 

「(ペース配分を誤ったインターハイの時とは違い、冷静に試合を進めている。それでもここまで消耗させるのか…!)」

 

回復に神経を注ぐ赤司を見て改めて空の強大さを痛感する四条。

 

「皆、聞け。第3Q、恐らくは花月は帆足(12番)を下げ、天野(7番)を戻してくるだろう。オフェンスの脅威が1つ減る代わりにディフェンスとリバウンドが固くなる。そこで――」

 

白金が選手達に指示を出していく。

 

「…スー…ハー」

 

赤司は着実に力を蓄えていたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「もうすぐ始まるね」

 

「…ん、もうそんな時間か」

 

桃井の言葉に、何やら考え事をしていた青峰が意識をコート上に戻す。

 

「何を考えていたの?」

 

「大した事じゃねえ」

 

質問をはぐらかす青峰。

 

『来たぞ!』

 

コート上に花月、洛山の選手達が戻って来ると、観客達が沸き上がる。

 

「この後の予想は?」

 

「さあな。…だが、プレッシャーをより強く感じてるのは洛山だろうな」

 

そう断定する青峰。

 

「リードしてるっつってもたったの6点だ。第2Qでも、要所要所で詰められかけてたのを赤司の機転で何とか凌いでたが、それでもリードは大きく広げられなかった」

 

「…」

 

「洛山からすりゃ、背中の僅か後ろからジリジリと詰め寄られてるようなもんだからな。この時間があまり長く続くようなら、洛山はごっそり体力を削られる。もっとリードを広げるか、いっその事、追い付かれちまった方が楽かもしれねえな」

 

「なるほど。…花月はやっぱり、天野君を戻してきたね」

 

ジャージを脱いだ天野に対し、逆にジャージを着こんだ帆足を確認する桃井。

 

「当然だろ。終盤、帆足(12番)は役に立ってなかったからな。オフェンスで機能出来ねえならこれ以上はただの足手纏いにしかならねえ」

 

「そうなると、オフェンスはどうするんだろ? ここまでは帆足君のスクリーンとスリーで得点に結びつけてたけど…」

 

「問題はむしろディフェンスだ。何処かであのボール回し攻略しなきゃ点差は詰まらねえ」

 

「確かに、スタメン全員が外からでも中からでも決められて、パスも出せる。そんなチームを赤司君が統率してるから、正直、私も具体的な対策は…」

 

未来のデータを予測出来る桃井でさえも、洛山のナンバープレーへの対応策を思い付く事が出来なかった。

 

「1つ、分かる事があるとすれば…」

 

「?」

 

「この第3Qで、まず間違いなくどちらかに流れが傾くって事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

それぞれのベンチに各チームが戻り、選手達がコートへと足を踏み入れた。

 

 

OUT 帆足

 

IN  天野

 

 

花月はメンバーをスタメンに戻し、洛山は交代はなし。

 

審判から二宮がボールを受け取り、赤司にパス。第3Q、後半戦が始まった。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

後半戦が始まり、観客が大歓声を上げた。

 

「…」

 

赤司の前に立ち塞がる空。花月はこれまでと変わらず、2-3ゾーンでディフェンスをしている。

 

「68番!」

 

ナンバーコールと同時に赤司がパスを出し、そこから洛山のお家芸である高速のボール回しが始まる。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

絶え間なく動く回る人とボール。花月の選手達もボールを持った相手に時間を与えないよう、すかさずチェックに入る。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ローポストの五河にパスが入り、すぐさま外の二宮にパス。二宮が中の三村にパスを出した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

一連のボール回しでフリーとなった三村がジャンプショットを決めた。

 

 

花月 38

洛山 46

 

 

『第3Q、開始早々洛山が手堅く決めた!』

 

『やっぱりあのパス回しはえげつねえ!?』

 

「よし!」

 

得点を決めた三村は拳を握る。

 

「…」

 

そんな三村を観察するように見つめる空。

 

「(何だ? 今のは…)」

 

赤司だけが、今の1本に違和感を感じていた。

 

 

「1本、行くぞ!!!」

 

オフェンスが切り替わり、空がボールを運ぶ。

 

「…」

 

「…」

 

空の前に当然、赤司が立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『第3Q、オフェンスは当然、うちのエースに任せる』

 

そう言って、大地の肩に手を乗せる。

 

『言うてものう、これまでもそうするつもりやったけど、出来ひんかったんちゃうんか?』

 

空の提案に天野が突っ込むように口を挟む。大地はダブルチームで徹底マークを受けており、なかなかボールを持たせてもらえず、得点機会を奪われていた。

 

『ここまで大地にパスを出せなかったのは、ダブルチームのせいじゃなくて、どっちかと言うと俺の問題だったんですよ』

 

『どういう事だ?』

 

言葉の意図が理解出来ず、松永が尋ねる。

 

『赤司にタイミングをズラされていたせいでここまでは上手くパスを出せなかったが、ようやく目途(・・)が立った。…大地、行けるな?』

 

『もちろんです。いつでも来てください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをキープする空。

 

「…」

 

赤司が一定を保って空の前で対峙している。

 

 

――ダムッ…。

 

 

ボールが床から手元に戻ると…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

同時に空が矢のようなパスを放った。

 

「「っ!?」」

 

ボールは瞬間的にダブルチームを引き剥がした大地の手元に収まった。

 

『綾瀬にボールが渡った!』

 

「…」

 

ボールを掴んだ大地が構え、ジャブステップを踏みながらボールを小刻みに動かしながら牽制する。

 

「「…っ」」

 

集中力を高めた三村と四条が身構える。

 

 

――ピッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

2人が僅かに両腕を下げ、距離を空いた瞬間、大地はすぐさまシュート体勢に入り、クイックリリースでジャンプショットを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

慌ててブロックに飛んだ2人だが間に合わず、ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 40

洛山 46

 

 

『鮮やか!』

 

『相変わらずとんでもない速さのリリースだ!』

 

「ナイス」

 

「どうも」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

 

「なるほど、いくらダブルチームでガチガチにマークしてるっつっても、一瞬、引き剥がすだけなら可能だ。その瞬間にパスを通せんなら、この先、いくらでも点が取れる」

 

今のプレーを見た青峰がそう結論付ける。

 

「…が、問題はディフェンスだ。止めれなきゃ、点差は縮まらねえ。どうするつもりだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バス!!!

 

 

続く、洛山のオフェンス。洛山のナンバーコールからの高速のボール回しが行われ、五河がゴール下を沈めた。

 

 

「…」

 

試合映像を見つめるナッシュ。

 

「おい、ナッシュ、何処へ行くんだ?」

 

椅子から立ち上がったナッシュをアレンが呼び止める。

 

「トイレだよ」

 

「試合が始まったって言うのに、見なくていいのか?」

 

「どうせ、数分は試合は動かねえ。それまでは見る必要ねえよ」

 

鼻を鳴らしながら返すナッシュ。

 

「俺の予測通りなら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――第3Qが折り返すまでに、花月(サル達)が試合をひっくり返すだろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





モチベーション下がり気味の今日この頃ですが、何とかネタを絞り出しての投稿です…(;^ω^)

やっぱりペースは上がらんなー…。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第183Q~曲者と切れ者~


投稿します!

非常事態が起きた…(゚Д゚;)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り8分15秒

 

 

花月 42

洛山 48

 

 

その後も1本ずつ、花月は大地が、洛山は今やお家芸とも言える赤司の号令によるナンバーコールからナンバープレーによるボール回しでフリーの選手を作り出し決めた。

 

「19番だ!」

 

 

――ピッ!!!

 

 

号令と同時に赤司がハイポストに立った四条にパスを出す。

 

『…っ』

 

目まぐるしく動くボールと人。花月の選手達の表情が苦悶のものとなる。

 

 

――バス!!!

 

 

シュートクロックが残り5秒となった所で示し合わせたかのようにゴール下でフリーとなった五河にボールが渡り、得点を決めた。

 

 

花月 42

洛山 50

 

 

『うおぉぉぉっ! 鮮やか!!!』

 

『こんなのどうやって止めんだよ!?』

 

興奮する観客と頭を抱える観客。

 

「1…4…2…3――」

 

何かを考えながらぶつぶつと呟く空。

 

「空坊、まだかいな!」

 

そんな空に天野が焦りの表情で話しかける。

 

「後少し、後少しで目途が立ちそうなんです。それまで粘って下さい」

 

天野を落ち着かせるように空が返事をする。

 

「(何を考えている…)」

 

そんな空を、赤司が怪訝そうな表情で視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本!」

 

攻守が切り替わり、空が人差し指を立てながらボールを運ぶ。

 

「…」

 

そんな空の前に赤司が立ち塞がる。

 

「「…」」

 

大地の前にはダブルチームでマークする三村と四条。

 

「…」

 

右45度付近のスリーポイントラインの外側に立っていた大地。

 

「「っ!?」」

 

ダブルチームを引き剥がすように更に外へと駆け出し、展開。

 

 

――スッ…。

 

 

その動きに呼応するかのように空がボールを掴み、後方に倒れ込むかのように上体を寝かせ、背中がコートに付くスレスレで右手でボールを構えた。

 

「…させん」

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きの未来を読んだ赤司がパスコースに手を伸ばした。

 

「残念♪」

 

赤司がパスコースに割り込んだのと同時に空はボールを頭上で両手でガッチリ掴みなおし、中へとボールを高く放った。

 

『なっ!?』

 

するとそこには、大地が飛び込んでいた。大地は外に展開してマークを引き剥がした直後、すぐさま中へと猛ダッシュし、ジャンプ。そこへタイミング良く空からのパスが飛んで来たのだ。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

飛び込んだ大地の右手に収まるボール。大地はそのままボールを振り下ろした。そこには…。

 

『っ!?』

 

既に走り込んでいた空が。赤司の手をかわすように中へと高くボールを放った直後、空は両足を滑らせるように後ろへとスライドさせて体勢を立て直すとすぐさま中へと猛ダッシュ。大地の手から振り下ろされたボールを掴んだ。

 

「っしゃぁっ!」

 

ボールを掴むのと同時に空がリングに向かって飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

そんな空に対し、五河がブロックに飛び、空とリングの間に割り込む。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

空は1度ボールを下げて五河のブロックを掻い潜る。

 

 

――バス!!!

 

 

直後に再度ボールを掲げて放る。ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 44

洛山 50

 

 

『何だ今のリターンパス!?』

 

『洛山もスゲーけどこっちもスゲー!』

 

洛山の高速のボール交換とは違う、2人の連携に舌を巻く観客達。

 

「…」

 

やや、不機嫌気味な表情で空に視線を向ける赤司。

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きの未来を読んだ赤司、しかし、赤司から遠ざかるように出そうとしたパスに対してはどうしても普通のパスをスティールするよりタイムラグが生まれてしまい、選択を変える時間が出来てしまう。

 

もっとも、それは驚異的な反射速度を持つ空だからこそ出来る芸当ではあるが…。

 

「パスだけでなくて、連携まで仕掛けてくるか…」

 

「桐皇戦に見せたあいつらのシンクロによるパスか。実際、味わうとマジで面倒だな」

 

思わず愚痴が零れる二宮と三村。

 

ナンバープレーのような決められた動きをするのと違い、今のは完全にその場のアドリブによるパス交換。それを事前の打ち合わせも無しでこなしてしまう空と大地。

 

「狼狽える必要はない。それよりもオフェンスだ。確実に決めていけば追い付かれる事もないのだからな」

 

赤司が選手達を落ち着かせる。

 

「分かってる。次もきっちり決めて行こうぜ」

 

『おう!!!』

 

二宮の言葉に他の選手達が応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「50番だ!」

 

赤司の号令から始まる洛山のボール回し。

 

『…っ』

 

必死にボールと相手選手を追って対応に努める花月の選手達。

 

「…」

 

ボールと洛山の選手達が目まぐるしく動く中、空が右隅に向かっている二宮の後を追う。

 

「33番!」

 

ここで赤司がコールナンバーを変更する。

 

「(となれば…)」

 

ナンバーの変更を聞いて二宮から視線を外し、他の選手達の動きに注視する。

 

 

――ピッ!!!

 

 

中から外、また更に中へとボールが大きく動く。

 

「よし!」

 

ボールは左アウトサイド、ややコーナーよりの場所に移動していた四条の手に渡る。

 

「あっ!?」

 

1番近い位置にいた生嶋が慌ててチェックに向かうが…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

それよりも速く四条が放ったスリーがリングを潜り抜けた。

 

 

花月 44

洛山 53

 

 

『ここでスリー!』

 

『点差が開いた! 流れが変わるか!?』

 

「よし、よし!」

 

スリーを決めた四条は喜びを露にする。

 

「しまった、中に釣り出された…!」

 

外に展開していた四条に気付かず、思惑通り、中に動かされてしまった生嶋が悔しがる。

 

「…生嶋」

 

「ごめん。次は絶対外は打たせないから」

 

生嶋に話しかけた空。生嶋は申し訳なさそうに謝る。

 

「いやいい。それより、もう十分だ」

 

ニヤリとしながら空が言う。

 

「おっ? 遂に行けるんか?」

 

「次から行けそうです。…それじゃ、反撃開始と行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりと空がボールを運ぶ。

 

「…」

 

首は動かさず、周囲を目を配りながらゲームメイクをする。

 

「…」

 

赤司のディフェンスの射程内に入ると、空は足を止め、赤司に集中する。

 

「「…」」

 

大地をマークする三村と四条は今度こそボールを持たせまいと大地の一挙手一投足に注視する。

 

「……ふぅ」

 

空は一息吐くと…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

今回はパスを出さず、クロスオーバーで切り込んだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、右から左へと切り返した直後のタイミングで赤司がボールをカットした。

 

『抜けない!』

 

『流れは洛山か!?』

 

観客が頭を抱える。

 

「甘い」

 

空の後方へと弾かれたボールに赤司が手を伸ばす。

 

「…ちぇっ、さすがに何度も突破させてくれないか」

 

赤司がボールを抑えるより速く空がコートに背を向けた体制で飛んだ状態で右手を伸ばし、ボールを抑えた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールを抑えると同時に体制を立て直し、そのまま右手を振り、パスを出す。

 

「よし!」

 

ボールはゴール下に移動した松永に手に渡る。

 

「打たすか!」

 

すぐさま五河がディフェンスに入る。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

松永は1度シュートフェイクを入れて五河をブロックに飛ばしてから外にボールを捌く。

 

「ナイスパス、まっつん」

 

ボールは外に展開していた生嶋に。

 

「…くっ」

 

生嶋をマークしていた二宮は天野のスクリーンに捕まっていた。フリーとなった生嶋がシュート体勢に入る。

 

「…ちっ!」

 

仕方なく1番近くにいた三村がヘルプに走り、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ三村。タイミングもギリギリ間に合っていた。しかし、生嶋は斜めに飛びながら三村のブロックをかわすようにリリースした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 47

洛山 53

 

 

『花月もスリーキター!!!』

 

「…くそっ」

 

生嶋(あいつ)にだけは打たせちゃいけなかったのに…!」

 

要警戒の生嶋のスリー。みすみす決められてしまい、悔しがる二宮と三村。

 

「気にすんな。すぐに取り返せばいいんだよ!」

 

そんな2人を四条が励ます。

 

「オフェンスだ。秀平、彰人。後悔している暇があるなら次のオフェンスに切り替えろ」

 

「ああ!」

 

「分かってる!」

 

赤司の檄に2人は気持ちを切り替えながら返事をした。

 

 

ボールを受け取った赤司フロントコートまでボールを運ぶ。

 

「…」

 

フロントコートに到達と同時に洛山の選手達が所定の位置に立ち、赤司のコール指示を待つ。花月もこれまで通り、2-3ゾーンディフェンスを敷く。

 

「…」

 

赤司の目の前には不敵に笑う空の姿が…。

 

「(…このオフェンスで何かを仕掛けてくるか)」

 

第3Qが始まってから、空が洛山のボール回しを観察し、何か機を計っている事に赤司は気付いていた。空の表情でここで何か仕掛けて来る事を理解した。

 

「(何か突破口見つけたか…、いいだろう、何を企んでいるか、見せてもらう…)…89番だ!」

 

 

――ピッ!!!

 

 

コールと同時にハイポストに立つ四条にパスを出す。同時に洛山の選手達が動き出す。

 

『来た! 洛山のナンバープレーが!』

 

絶えず足とボールを動かし、花月のゾーンディフェンスをかき乱していく。

 

『…っ』

 

花月の選手達はフリーの選手を作らせまいと必死に対応を続ける。が、徐々にゾーンディフェンスを乱されていく。シュートクロックが残り5秒となった所でマークを振り切った二宮が右隅へと向かい、ボールを保持していた三村がパスモーションに入る。

 

「天さん! 二宮(2番)だ!」

 

「任せぇ!」

 

すかさず天野が二宮の下へ向かう。

 

「(残念だったな。本命はこっちなんだよ!)」

 

三村はパスモーションを中断。左アウトサイド45度付近のスリーポイントラインの外側に移動した四条へとパスを出した。

 

「(これでまた9点差だ!)」

 

四条がボールをキャッチする。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールが四条の手に収まる瞬間、それよりも速く、突如現れた手にボールをカットされた。

 

「ドンピシャだ」

 

したり顔でニヤリと笑う空。

 

『っ!?』

 

これに洛山の選手達は一様に目を見開いた。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを奪った空がそのままワンマン速攻をし、レイアップで得点を決めた。

 

 

花月 49

洛山 53

 

 

『と、止めたぁぁぁぁぁぁー--っ!!!』

 

ボールを奪ってからレイアップを決めるまで静寂に包まれた会場。レイアップが決まるのと同時に会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

 

「よーやった空坊!」

 

「うす!」

 

ディフェンスに戻る空を天野が頭を叩きながら労う。

 

「あ、赤司…!」

 

この一連のプレーに僅かに動揺を見せた三村が赤司に声を掛ける。

 

「…」

 

赤司は暫し考える素振りを見せ…。

 

「もう1回仕掛ける。それで見定める」

 

そう指示を出し、スローワーとなった五河からボールを受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運んだ赤司からコールナンバーが発せられ、再びお家芸の高速のボール回しが行われる。

 

『…っ』

 

これまで通り、足とボールを高速で動かして花月のディフェンスを翻弄する。

 

 

――ピッ!!!

 

 

十数秒ボール回しでディフェンスをかき乱した所で本命の三村へとパスが出される。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「無駄だぜ!」

 

しかしこれも、空によってカットされた。

 

「(またカットされた!?)」

 

「(偶然ではない!?)」

 

先程と同様、再びボールを奪われ、洛山の中で動揺が走る。

 

「っしゃぁっ!」

 

ボールを奪った空が再びワンマン速攻に走る。

 

「っと」

 

しかしその直後、空が足を止める。

 

「2度も行かせん」

 

引き気味にポジション取りをしていた赤司がいち早くディフェンスに戻っていたのだ。

 

「さっすが赤司、対応が早い」

 

対応の早さに空は素直に感心する。

 

「ナイス赤司!」

 

速攻を防いだ赤司。空が足を止めた間に洛山の選手達がディフェンスに戻る。

 

「2度も速攻決めさせてくれる程、甘くはないか。…まあいい、お得意のナンバープレーにはもう慣れた。じっくり逆転させてもらうぜ」

 

速攻のチャンスを潰された空だったが、気落ちはなく、悠々とゲームメイクを始めたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「凄い、洛山のナンバープレーを止めちゃった」

 

観客席の桃井が口元に手を当てながら驚いていた。

 

「…」

 

隣に座る青峰は特に表情を変える事無く試合を観戦している。

 

「けど、100近くもある洛山のデザインプレーのパスコースを神城君はどうやって…」

 

「花宮っていただろ?」

 

「去年まで霧崎第一高校にいた、無冠の五将の?」

 

桃井の疑問に青峰が答え始める。

 

「やってる事はあいつがやった事と変わらねえ」

 

「けどあれって、あらゆる試合のデータを基にパスコースを割り出してたんだよね? 神城君にそんな事…」

 

無冠の五将の1人、悪童、花宮の得意技の1つでもある、相手のパスコースを読み切ってスティールをする、通称、蜘蛛の糸。

 

「あの如何にも頭の悪そうな単細胞にそんな真似出来る訳がねえ」

 

鼻を鳴らしながら酷評する青峰。

 

「なら、どうやって…」

 

「まあ、慣れと、後は勘だろ」

 

「慣れと勘って、そんなので出来るの!?」

 

まさかの解説に桃井も驚きを隠せなかった。

 

「夏にもあのパス回しは経験してるからな。形は違えど大仁田のパス回しにも対応してたみてーだからな」

 

過去の経験故に出来ると断ずる青峰。

 

「けど、コート上にいる洛山の選手達って、皆、中からでも外からでも決められるんだよ? いくらパスコースが読めても神城君1人で対応出来る訳…、ましてや、指揮してるのは赤司君なのに…」

 

苦手プレーのない、万能な選手達で構成されている洛山の5人。それ故にオフェンスパターンも豊富である為、いくら空がパスコースを読み切れても全てのパスに対応出来る訳がないと桃井が疑問を持つ。

 

「言っただろ。やってる事は花宮と一緒だって。あいつの蜘蛛の巣のカラクリをよく思い出せ」

 

面倒くさそうに言い放つ青峰。

 

「えっと、確か……っ!? そうだ、確か、蜘蛛の糸はパスコースを限定するサポート役がいるんだった」

 

ここで桃井は蜘蛛の糸の仕組みを思い出す。花宮だけではパスコースは読めてもスティール出来ないパスがどうしてもある。そのパスコースを塞ぎ、パスコースを限定する役割を持った選手がいた事に…。

 

「その役割を果たしてんのが、綾瀬だ」

 

そう言われ、桃井がコートに視線を移すと、大地が空が対応出来ない選手のパスコースを塞ぐようにディフェンスをしていた。

 

「あいつは神城の考えをある程度、理解出来るみてーだからな。得意のシンクロで連動で動いて神城のサポートをしている」

 

空が対応出来ない選手にはすぐさま対応出来るよう動いている為、大地がいる近辺にはパスが出せず、仮にパスが通ってもすぐさま大地によって対応され、とてもではないがシュートまで持って行けない。

 

「後、花宮のとちげーのは、あくまでもボールをスティールするのは花宮の役割だったが、あいつらは――」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

二宮から四条に出されたパスを大地がスティールした。

 

「綾瀬がサポートだけじゃなくてスティールにも回る点だ」

 

状況に応じて、スティール役とサポート役を入れ替え、ボール奪取する役を変更している所が本家の蜘蛛の糸と違う所だと解説する。

 

「スティール役とサポート役を随時変更する事で、精度を上げてる。後は、神城と綾瀬の運動量、スピード、反射速度は花宮とは比較にならねえ。これがナンバープレーに対応出来ている理由だ」

 

「なるほど…」

 

青峰の解説に聞き、驚きながらも納得する桃井。

 

「(さて、このままじゃジリ貧だ。どうすんだ赤司?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バス!!!

 

 

ローポストの松永にパスが通り、松永が強引にゴール下に押し込み、得点を決めた。

 

 

第3Q、残り5分7秒

 

 

花月 57

洛山 57

 

 

『追い付いたぁっ!!!』

 

「よーし!」

 

「ええでマツ! よー決めた!」

 

拳を握る松永。そんな松永の背中を叩きながら労う天野。

 

『…っ』

 

遂に背中を捉えられた洛山。選手達の表情が曇る。

 

「…」

 

赤司だけは、表情を変える事無くディフェンスに戻る空に視線を向けていた。

 

 

「14番だ!」

 

赤司のナンバーコールから洛山の高速のボール回しが始まる。

 

「(しょーこりもなくナンバープレーかよ。芸がないぜ!)」

 

空がボール回しに合わせて動き出す。その動きに合わせて大地も動く。

 

「(奴らの動きとボールの動きから、最後、打ってくるのは……、お前だ!)」

 

20秒と、長い時間、ボール回しをした洛山。その動きからパスコースを割り出し、空が動く。

 

「(そこですね)」

 

大地が他の選手のパスコースに割り込み、パスコースの限定に動く。

 

 

――ピッ!!!

 

 

トップのポジションでボールを掴んだ三村が左アウトサイドの深めのポジションに立つ二宮にパスを出した。

 

「(今度もドンピシャ。これで逆転だ!)」

 

読み通り、空が二宮のパスコースに手を伸ばして割り込んだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールは空が伸ばした手に弾かれる…、はずだった。それよりも速く、また新たに現れた手によってカットされた。

 

「赤司!?」

 

現れた手の正体は赤司。空がスティールするより先に赤司がそのボールをカットしたのだ。

 

『っ!?』

 

これには洛山の選手達も驚いていた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールをカットした赤司はすぐさまローポストの五河にパスを出した。

 

「打て!」

 

「おぉっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを掴んだ五河はそこからリングの方へ反転、シュートを決めた。

 

 

花月 57

洛山 59

 

 

「…っ!」

 

思わず空が赤司の方へ振り返る。

 

「それで出し抜いたつもりなら、考えが甘い。洛山を…僕達を舐めるな」

 

挑発するように赤司が空に告げ、ディフェンスに戻っていった。

 

「…ハハッ! やっぱ、一筋縄じゃいかねえな。…そうこなくちゃな」

 

その言葉に、空は不敵に笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ハッ! そう来るかよ」

 

一連のプレーを見ていた青峰が思わず笑う。

 

「大ちゃん、今のって…」

 

「ああ。花宮を相手にした時にテツがやったのと同じだ」

 

一昨年のウィンターカップ県予選の霧崎第一の試合の折、花宮真の蜘蛛の巣の餌食になった誠凛。その突破口を開いたのが黒子が独断でパスコースを変更させた事にあった。

 

「これをやられると神城でも早々スティールは出来ねえ。1度は花月に流れは行きかけたが、これでまた試合は荒れんだろうよ」

 

愉快そうに笑いながら解説する青峰。

 

「これでまた元通りだ。…どうすんだ神城」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は再び膠着状態に入った。1度はオフェンスの決め手を失いかけた洛山だったが、赤司の奇策によって復活。

 

一方、流れを掴みかけた花月だったが、これで再びディフェンスでの決め手に暗雲が込み上げた。

 

 

第3Q、残り15秒

 

 

花月 65

洛山 65

 

 

試合は拮抗し、両者共に決め手を失い、スコアは均衡を保っていた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

洛山のオフェンス。これまで通り、ナンバープレーによるデザインプレーで花月のディフェンスを攻め立てている。

 

 

――ピッ!!!

 

 

三村へと出されるパス。

 

「…っ」

 

すかさず大地がパスコースを塞ぎにかかる。しかし、それよりも速く、赤司がパスコースに割り込む。割り込んだ赤司が最後のパスコースを変更する。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

その時、赤司が目を見開いた。

 

「だったら、更に割り込むまでだ」

 

ニヤリと笑う空。何と、空は、パスコースに割り込んだ赤司より更に早く割り込み、ボールをスティールしたのだ。

 

『っ!?』

 

これに、他の洛山の選手達も驚いていた。

 

「と、止めろ!」

 

ボールの奪取と共に速攻に走る空。三村が慌てて声を出し、空を追いかける。…だが、先頭を走る空に追い付く事は出来ず…。

 

「らぁっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま空は右手で掴んだボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 67

洛山 65

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

同時に会場が歓声に包まれる。

 

「遂に逆転だぁ!!!」

 

ベンチの菅野が両腕を張り上げながら絶叫する。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了

 

 

花月 67

洛山 65

 

 

遂に逆転に成功した花月は、意気揚々とベンチに戻っていく。

 

「…」

 

「…」

 

その際、視線が絡み合う空と赤司。

 

「…フッ」

 

勝ち誇った表情を空は赤司に向けた。

 

「…」

 

赤司は何か返すでなく、ベンチへと戻っていったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合の4分の3が終わり、遂に花月が逆転に成功する。

 

洛山のナンバープレーの攻略に成功した花月。

 

試合は、最後の10分、クライマックスへと進んで行くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





1ヶ月半振りの投稿…、久しく間隔を空けてしまった…(>_<)

自分は執筆した話をUSBメモリーに記録しているのですが、過去に投稿した話の確認しようと過去の話を開いたら、まさかの文字化けしていたorz

最初、呪われたのかと思って思わず後ずさりしてしまいました…(;^ω^)

おかげで、ここ2年分のデータが見事にダメになりました。幸い、最新2話くらいと、更に以前の話は無事だったので良かったですが、…まぁ、かれこれ10年以上使用しているUSBだったから、もう寿命かなぁ…、パソコンが寿命だったらガチで泣くかな…(ノД`)・゜・。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第184Q~勝敗の鍵~


投稿します!

ホント、朝が寒くて布団から出れない…(-_-)zzz

それではどうぞ!



 

 

 

アメリカ某所…。

 

「ナッシュの言った通り、ソラのチームが逆転したな」

 

第3Qが終了し、試合を見守っていたジャバウォックの面々。ニックが画面を指差しながらナッシュに視線を向ける。

 

「フン、第3Q終了ギリギリまで逆転出来ねえ所が(サル)のヘボさだな」

 

当初の目論見では第3Q中盤頃には逆転出来ると予測していたナッシュ。予想以上に時間がかかってしまった事に酷評する。

 

「相変わらず、ソラに対しては手厳しいよな。…けどよ、あの白い方の4番はかなりやるぜ。仕方ねえんじゃねえか?」

 

そんなナッシュに対し、溜息交じりでフォローするアレン。

 

「…フン」

 

それに対し、ナッシュは鼻を鳴らす。

 

「(確かに、ここまで(サル)が手こずったのはあの赤司(4番)の影響がデカい。身長とスペックはともかく、テクニックはなかなか、頭も相当切れやがる)」

 

ナッシュは空が相手をする赤司を高い評価を付けていた。

 

「(まだ互いに切り札を残している状態だが、恐らく、切るタイミングはほぼ同時。その後の優劣で試合の勝敗は決まるだろうが…)」

 

ここでナッシュは背もたれに体重を預ける。

 

「(試合を見る限り、そこで試合は終わらねえ。まだまだ荒れるかもな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両チームの選手達がコートへと戻って来る。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

勝敗が決まる最後の10分がまもなく始まり、観客達のボルテージは上がる。両チーム共に交代はなし。

 

「…」

 

生嶋が審判からボールを受け取り、空にパスを出し、第4Qが始まった。

 

「…しゃっ!」

 

気合いを入れた空は、ゆっくりとドリブルをしながらゲームメイクを開始した。

 

「さて…」

 

第4Q、最初の1本。ペースを掴む意味でも是非とも成功させたい。

 

「…」

 

目の前の赤司がプレッシャーをかけながら立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

その場でゆっくりドリブルをし、チャンスを窺う空。

 

「…っ」

 

「(……来る!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロスオーバーで仕掛ける空。天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きの先を読んだ赤司が同時に動き、右から左へと切り返されるボールに手を伸ばす。

 

「…っ!」

 

空は咄嗟に上半身を低くし、額を前に付きだし、ガードを図る。

 

読めて(・・・)いるぞ!」

 

夏の試合の折、痛手を被った額でのガード。自身の額と空の額がぶつかる直前に停止し、空よりも上体を低くし、掻い潜るように再度、空のキープするボールを狙い打つ。

 

「…ハッ! 見えて(・・・)はいなかったみたいだな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

赤司の手がボールを捉えるより早く、空はボールを逆に切り返してかわす。額の激突は回避出来たものの、停止した事で出来た僅か時間が出来た事で切り返す時間が出来てしまった。

 

「悪ぃな、アメリカで偶然、同種の眼を持つナッシュ(クソ野郎)とバスケする機会があってな、対策済みだぜ!」

 

『抜いたぁっ!!!』

 

赤司を抜きさった空はそのまま中へと切り込んだ。

 

「くそっ、赤司がこうも…!」

 

これを受けて洛山のディフェンスが中へと収縮する。

 

「…よし」

 

ボールを掴んでリングへと飛ぶ空。

 

「おぉっ!」

 

「させねえ!」

 

そんな空の目の前に四条と五河がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

「「っ!?」」

 

空は空中でレイアップのようにボールを構えなおすと、手首のスナップを利かせながら5本の指でボールをなぞるようにボールをブロックを超す放る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはブロックの上を弧を描くように超え、リングを潜り抜けた。

 

 

花月 69

洛山 65

 

 

「っしゃぁっ!」

 

第4Q開始1本の目のオフェンス。赤司を抜きさって空が技ありのフィンガーロールで決めた。

 

 

「ボールをくれ。早く」

 

「お、おう」

 

淡々とリスタートを要求する赤司。その様子に若干気圧されながらも五河がスローワーとなり、ボールを渡す。

 

「…」

 

赤司は表情を変える事無く、ボールをフロントコートまで運ぶ。

 

「1本、止めんぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が声を張り上げ、檄を飛ばすと、選手達が応える。

 

「(やり返してくるか、それともまたナンバープレーか、どちらにしろ、止める!)」

 

最初の1本を決め、直後のディフェンス。止めて流れを掴みたい空は気合いを入れる。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ赤司。次の瞬間…。

 

「230番だ!」

 

そうナンバーコールをした。

 

「(…ハッ? 何だそのデカい数字は。そんなにパターンがあるのか!?)」

 

これまでで1番…それも大きなナンバーコールに空は戸惑う。

 

「…っ!?」

 

ここで空の目が見開きながら驚愕する。赤司はナンバーコール後、パスではなく、シュート体勢に入ったからだ。

 

「くそっ!」

 

慌てて距離を詰めてチェックに向かうが…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

それよりも速く赤司はボールをリリースした。

 

「…っ」

 

すぐさまリングの方へ振り返る空。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを掠る事無く潜り抜けた。

 

 

花月 69

洛山 68

 

 

『マジか!? ここでスリーを決めた!?』

 

『第4Q最初のオフェンスだぞ!?』

 

まさかの赤司の選択に観客からも驚愕の声が出る。

 

「不用心だな」

 

「っ!?」

 

ポツリと呟かれた赤司の言葉に振り返る空。

 

「…」

 

赤司は空を一瞥した後、ディフェンスに戻っていった。

 

「…」

 

「おい空坊、あつーなるなよ? 勝負所なんやからな?」

 

拳を握りながら険しい表情をしている空を宥めるように声を掛ける天野。

 

「……ハッ、ハハッ!」

 

空は握っていた拳を解くと、笑い始めた。

 

「さすが赤司、そうこなくちゃな」

 

ひとしきり笑った空は不敵な笑みを浮かべたまま赤司を睨み付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールを回しながらチャンスを花月。

 

「…」

 

空にボールが戻って来ると、空はボールを止める。

 

「…来い」

 

「上等!」

 

目の前に立つ赤司が空に告げる。空はそれに応えるように返す。

 

「「…っ!」」

 

空が動くと、赤司が天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きを読み取り、ほぼ同時に動く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

2人の激突。赤司の手が空の持つボールを捉え、弾き飛ばした。

 

「よし! 赤司の勝ちだ!」

 

赤司がボールをカットし、勝負を制した事に四条が拳を握る。空の後方に弾かれたボールを赤司が確保する。

 

「っ!?」

 

しかし、赤司がボールを確保するよりも速く、ボールを掴む者がいた。

 

『綾瀬!?』

 

ボールを掴んだ大地。ボールが弾かれたのと同時に空の後方で確保していたのだ。

 

「空!」

 

大地は掴んだボールを中へと入れた。そこには既に空が中へと走り込んでいた。

 

『何で神城が中に!?』

 

『綾瀬がルーズボールを拾うのを確信していた!?』

 

『まさか、始めからそのつもりだったのか!?』

 

一連の空達の動きを見て観客達が騒めき出す。

 

「そのとおり!」

 

したり顔でボールを掴む空。

 

「くそっ! 次は決めさせねえ!」

 

「同じ手は喰わんぞ!」

 

ディフェンスが中に収縮。四条が空のチェックに向かい、五河はフィンガーロールやティアドロップを警戒しながら空との距離を詰める。

 

 

――スッ…。

 

 

空はそれを見透かしたかのように外へとパスを出した。ボールは右アウトサイドに移動していた生嶋の手に。

 

「お前は空けてないぜ!」

 

生嶋がスリーを放つより早く二宮がチェックに入る。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

生嶋はスリーを打たず、ボールを弾ませながら再び中へと入れた。

 

「ナイスパス!」

 

中で大地がボールを受け取り、そのまま切り込み、ボールを掴んでリングに向かってレイアップの体勢で飛ぶ。

 

「おぉっ!」

 

そこへ、シュートコースを塞ぐように三村がブロックに現れた。

 

 

――スッ…。

 

 

ブロックでシュートコースを塞がられると、大地はボールを下げ、右腕を回すようにしてパスを出す。

 

「よし!」

 

 

――バス!!!

 

 

ゴール下でボールを受け取った松永がそのままゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 71

洛山 68

 

 

「ナイッシュー松永!」

 

「おう!」

 

空と松永がハイタッチを交わす。

 

「ええでマツ!」

 

「うす!」

 

天野が松永の背中を叩き、松永が応える。

 

『こっちのコンビネーションも負けてねえ!』

 

『いいぞ!』

 

観客からもエールが贈られる。

 

 

続く、洛山のオフェンス…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

これまで同様、赤司のナンバーコールから高速のボール回しが行われる。

 

「(肝になるのは赤司だ。赤司にさえ注意しておけば…)」

 

ある程度の慣れや経験もあり、このボール回しにも対応出来るようになってきた空。赤司の想定外のパスコースの割り込みに注意を図る。

 

「(…よし、このままラストパスを三村(3番)に追い込んで――)…っ!?」

 

三村へのパスコースに割り込む空。その時、空は赤司の姿を見失ってしまい、目を見開く。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

次の瞬間、空がボールに触れるよりも前に赤司が現れ、ボールをタップしてその軌道を変えた。

 

「っと」

 

ボールはゴール下に走り込んでいた五河に渡る。

 

 

――バス!!!

 

 

五河はそのままゴール下を沈めた。

 

 

花月 71

洛山 70

 

 

「っしゃぁっ!」

 

「ナイス!」

 

五河と四条がハイタッチを交わす。

 

「おーおー次から次へと、引き出しの多いこって」

 

苦笑する空。

 

「だがまあ、背中は既に捉えてんだ。さっさと追い越して引き離してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今のってテツ君の…」

 

「…ああ」

 

桃井の言葉に頷く青峰。

 

ミスディレクションによる視線誘導によって相手に自身を見失わせ、パスの中継を行う、誠凛の黒子テツヤの代名詞とも言える技である。

 

「赤司君、そんな事も出来たんだ…」

 

「俺も初めて見る。…まあ、天帝の眼(エンペラー・アイ)を応用すれば赤司でも可能だろうよ」

 

「けど、あれってテツ君みたいに影の薄さがなくても出来るの?」

 

桃井が疑問を抱く。同じコートに立っていても存在を忘れてしまいそうな程、影が薄い黒子。その特性とミスディレクションを駆使して練り上げたのが黒子のスタイル。

 

「出来る訳ねえだろ。いくら天帝の眼(エンペラー・アイ)がある赤司であっても精々、一瞬、姿を消すので精一杯だ。神城相手じゃ、ほとんど意味を為さねえ」

 

いくら赤司であっても無理であると断ずる青峰。

 

「だが、コート上の選手とボールの動きを図りながらプレーしてる今の神城相手なら、その一瞬でも時間がありゃ充分だろうよ」

 

「なるほど。…さすが赤司君だね。試合終盤になってもまだ手札がなくならない」

 

豊富な引き出しを持つ赤司に感心する桃井。

 

「(見方を変えりゃ、今までやってこなかったものに縋らなきゃならねえ程に追い込まれているとも取れる。今のにしても、神城相手じゃ、対応されんのも時間の問題だ。使える手札にしたって限りがある。どうすんだ赤司?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

青峰の予想通り、次とその次のオフェンスは赤司が空をミスディレクションでかわした後にパスコースに割り込んでパスを中継する事で成功させる。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…っ」

 

「ようやく、それにも慣れて来た」

 

赤司がボールを中継したボールを空が叩き落す。

 

「ナイス空坊! 速攻や!」

 

ルーズボールを拾った天野が前方に大きな縦パス。

 

 

――バス!!!

 

 

先頭を走る大地がボールを掴み、そのままレイアップを決め、ワンマン速攻を成功させた。

 

 

花月 77

洛山 74

 

 

「いつまでも同じ手品を繰り返すだけ。随分と、らしくねえじゃんか」

 

「…なに?」

 

空が横に立つ赤司に話しかける。

 

「夏の時のあんたはもっと手強く感じたんだけどな。それこそ、ホントに勝てんのか? って思わされたくらいにはな」

 

「…」

 

「今のを通じなくなるまで使い続けた辺り、もうネタ切れかい? だったらこの試合、このままいただくぜ」

 

そう告げ、空はディフェンスへと戻った。

 

「…」

 

赤司は何も返さなかった。だが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その表情は、怒気に溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

『っ!?』

 

洛山のオフェンス。これまで通り、高速のボール回しで揺さぶりをかけつつ機を窺ったが、空に呆気なくボールをスティールされてしまう。

 

「大地!」

 

スティールと同時に速攻に走っていた大地に空が縦パスを出す。

 

「っ!?」

 

ボールを掴んでドリブルを開始した大地。前方を向くと、そこには赤司の姿があった。

 

「(攻撃が失敗すると見越して戻っていた? …ここは味方が攻め上がるまで待って慎重に……いえ、それはあり得ませんね)」

 

点差はまだ3点。流れもまだ引き寄せたとは言い難い。慎重に攻めて機を先延ばしにするより、ここを強気で攻め、流れを掴み取る選択を大地は選ぶ。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

大地は赤司から2メートル、スリーポイントラインから1メートル程離れた位置で急停止した。

 

「(決める!)」

 

そこからすかさずシュート体勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

大地がボールを頭上にリフトさせようとした瞬間、赤司の右手がボールを叩き落とした。

 

「随分と驕った言葉を吐くようになったじゃないか」

 

ルーズボールを拾った赤司が喋り出す。

 

「ならば今一度、味合わせてやろう。敗北と言う絶望を…!」

 

『っ!?』

 

コート上に立つ者。そして、この試合を見守る者、全てが気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――赤司征十郎が、ゾーンに入っている事に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言と共に赤司が急発進。

 

「行かせへんでぇ!」

 

「止める!」

 

天野と生嶋が赤司の前に立ち塞がる。

 

「僕の前に立つ事は許さん。…跪け」

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「「っ!?」」

 

赤司が左右にボールを切り返すと、2人は糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。

 

「…っ!」

 

天野と生嶋を抜きさり、次に松永が待ち受ける。

 

「…」

 

赤司が視線をリングへと向ける。

 

「(打つのか!?)」

 

打って来ると判断した松永はブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

しかし、赤司はボールを掴んではおらず、バックロールターンで松永をかわす。その後、ボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「打たせっかよ!」

 

そこへ、空が現れ、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

次の瞬間、空は気付く。赤司はボールを掴んではいたが、飛んではいない事に。

 

 

――ドン!!!

 

 

赤司は空にぶつかるようにしながら飛ぶ。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹いた。

 

 

――バス!!!

 

 

ぶつかりながら赤司がボールを放り、ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、ブロッキング、赤4番! バスケットカウント、ワンスロー!』

 

審判が口から笛を放し、コールした。

 

「っ!?」

 

空は思わず目を見開いた。

 

『うぉぉぉぉー--っ!!! ここでバスカンだ!!!』

 

これに観客は沸き上がる。

 

「お前の言う、小細工はここまでだ。ここからはただ力で蹂躙するのみだ」

 

空に一瞥くれながら赤司が告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボーナススローであるフリースローを赤司が決める。

 

 

花月 77

洛山 77

 

 

『また振り出しに戻った!』

 

『このまま決めるか!?』

 

『…っ』

 

これに、花月の選手達の表情が曇る。

 

 

「…」

 

オフェンスが切り替わり、空はゆっくりボールをフロントコートまで運び、ハイポストに立つ天野にパスを出す。

 

そこからボールを回しながらチャンスを窺う。

 

「…よし!」

 

シュートクロックが残り5秒となった所で、生嶋がボールをゴール下に放ると、そこへ走り込んでいた松永がボールを掴む。

 

「おぉっ!」

 

松永は右手でボールを掴んで飛び、リングに向かってボールを叩きつける。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

その瞬間、右手で掴んでいたボールが叩き出される。

 

「嘘やろ!?」

 

天野の口から思わず声が出る。松永のダンクをブロックしたのは赤司。身長差を容易に覆した。

 

「ナイス赤司! 速攻!」

 

ルーズボールを拾った四条が、既に速攻に走っている二宮に大きな縦パスを出す。

 

「っしゃ、これで逆転――」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「――なっ!?」

 

ドリブルを開始した直後、そのボールが奪われてしまう。

 

「…っ」

 

ボールを奪われた二宮が思わず振り返る。

 

「ハハッ! いいねえ、ようやく本気を出して来たか」

 

そこには、ゾーンに入った赤司に対し、嬉々としている空の姿が。

 

「そうでなくちゃ、面白くねえ!」

 

『っ!?』

 

これを見て、コート上の選手及び、試合を見守る者達が気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――空が、ゾーンに入っている事に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

二宮が空の後ろからボールに手を伸ばす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

後ろから狙って来た手を、バックチェンジで切り返してかわし、空がそのまま発進する。

 

「野郎!」

 

「止める!」

 

突き進む空の前に、三村と四条が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

2人が現れると、空は停止して左右に大きくスライドしながらボールを数度切り返す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

左右に切り返した事で2人の間に僅かに隙間が出来、その隙間を地面に倒れるスレスレに低さまで上体を倒し、コートを滑空するかのように発進し、高速で通り抜けた。

 

「…くっ!」

 

その直後、ヘルプに向かっていた五河が立ち塞がる。

 

 

――スッ…。

 

 

空はコートに背中を向けるように反転し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

その状態でボールを左右に切り返し、五河をかわす。

 

『出た! 神城得意の変則のスリッピンスライドフロムチェンジ!』

 

『いつ見てもスゲー!!!』

 

「っ!?」

 

低い位置からの変則のスリッピンスライドフロムチェンジに、五河は分けも分からないまま抜きさられてしまう。

 

そこから空はボールを右手で掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、花月の選手達が目を見開いた。リングに向かって飛んだ空に対し、赤司がブロックに飛んでいたからだ。

 

『赤司が来たぁっ!!!』

 

赤司がボールを掴んだ空の右手に手を伸ばす。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

空は動じる事無く、赤司の手から逃れるようにボールを持った右手を外側に伸ばし、その状態で右手の手首と指のスナップを利かせるようにボールをリングに向かって放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 79

洛山 77

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

『5人もかわして決めやがった!!!』

 

これに観客が盛大に沸き上がった。

 

「こっちも本気だ。どっちが上か、決めようぜ!」

 

不敵に笑いながら空が赤司に告げる。

 

「いいだろう。力の差を思い知らせてやろう。勝つのは僕だ」

 

赤司も笑い返しながら空に返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃん!」

 

桃井が興奮しながら青峰の肩を叩く。

 

「…ああ。赤司も神城も互いにゾーンに入った。正真正銘、最後の激突だ。そして――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――この激突を制した方が、試合に勝つ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は佳境…。

 

遂に、両チームの主将であり、司令塔の空と赤司がゾーンの扉を開いた。

 

互いの全てをぶつけ合う空と赤司。

 

試合の命運は、2人の激突に委ねられたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





4回目のコロナワクチン接種で、先週は副反応でダウン…(ノД`)・゜・。

恐らく、あれは何度も打っても慣れないと思います…(;^ω^)

今年も残すところ、1ヶ月半を切りましたので、リアルが忙しくなってきました。何とかモチベーション上げんとなぁ…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第185Q~覚醒~


投稿します!

ワールドカップ日本初戦、大金星に歓喜…!(^^)!

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了時間が迫り、次の試合を控えている多岐川東、田加良の両チームがコートにあるフロアへとやってきた。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

会場は、先程、ウォーミングアップの練習前の試合の折り返し直前以上に盛り上がっていた。

 

『…』

 

会場の熱気に中てられながらも点数が表示されている電光掲示板に視線を向ける。

 

 

第4Q残り6分57秒

 

 

花月 79

洛山 77

 

 

「点差はほぼ無し、か…」

 

双方のスコアを確認した胡桃沢が再びコートへと視線を戻す。

 

「「…っ!」」

 

コート上では、空と赤司が鎬を削っていた。

 

『…っ』

 

2人が放つ気迫、プレッシャーがコートの外にいる両校にも伝わる。

 

両校、どちらの選手達も何か言葉を話すでもなく、試合の行方を見守るのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

ボールを保持する赤司。天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きを見極めながらハンドリングを繰り返す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

高速のハンドリングで空の軸をずらし、その一瞬の隙を突いて空を抜きさる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

直後にジャンプショットを放つ。空もブロックに飛ぶが間に合わず、ボールはリングを潜り抜けた。

 

「よし!」

 

赤司が拳を握る。

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

花月のオフェンス。空がフロントコートまでボールを進めると、当然、赤司が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きを読んだ赤司が空のキープするボールに手を伸ばす。が、赤司の手がボールを捉えるよりも速く、空が切り返し、その手をかわして赤司を抜きさった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

赤司を抜きさったのと同時にボールを掴み、ジャンプショットを決めた。

 

「しゃらぁっ!!!」

 

先程のお返しとばかりに空が拳を握る。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

これに合わせるように観客達が歓声を贈る。

 

試合は、空と赤司がゾーンに入った事をきっかけに、2人のぶつかり合いとなった。互いにチームの司令塔に試合の行方を託した。…いや、託すしかなかった。迂闊に手を出せば、手助けどころか下手をすれば足を引っ張る事になりかねないからだ。

 

 

「神城ぉっ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

赤司が決めれば。

 

「赤司ぃっ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空が決め返す。

 

2人の激突は、拮抗していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『スゲー!!! どっちも退かねえぞ!?』

 

ゾーンに入った者同士のぶつかり合いに観客は沸き上がっていた。

 

「凄い…」

 

2人の激突を見届けていた桃井がただただ圧倒されていた。

 

「赤司君は天帝の眼(エンペラー・アイ)を使っているはずなのに…」

 

「ゾーンに入った事で神城は単純なスピードだけじゃねえ、反射速度も上がってる」

 

そう解説する青峰。

 

相手の未来の動きを読む赤司。空は持ち前のスピードをフルに生かすだけでなく、反射速度も人間の限界とも言われている0.11に限りなく近付いており、赤司の先読みにスピードで対抗している。

 

「…けど、これまでゾーンに入った赤司君を1ON1で止める事が出来たのは三杉さんだけ。その三杉さんにしても、高精度のデータで赤司君の動きを先読み出来たから、やっぱりこのまま赤司君が…」

 

「…」

 

桃井の予想に青峰は何も答えず。

 

「(確かに、普通に考えりゃ、赤司が負ける訳がねえ。一見、あいつらの勝負も互角に見える。だが…)」

 

青峰は口に出さなかったが、2人の勝負に何かを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

赤司が左右に高速でハンドリングを繰り返し、空の隙を窺う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

右から左へと切り返した赤司に対応しようとした空。しかし、直前のドリブルで身体の軸が乱されていた為、反応は出来ても身体が対応出来なかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「…ちっ」

 

体勢を立て直してブロックに行くも、間に合わず、ジャンプショットを決められてしまう。

 

 

花月 83

洛山 83

 

「(ゾーンに入って、スピード…特にキレが半端ねえ。だが、手に負えない程じゃねえ。問題なのは、左右の切り返しの際に軸を乱されちまう事だ…)」

 

天性のバランス感覚があるおかげでアンクルブレイクが通じない空だが、それを理解している赤司は天帝の眼(エンペラー・アイ)を使って空の身体の軸を乱している。赤司はステップや切り返しを駆使して空の体重が左右どちらかの足に乗った瞬間を狙っているのだ。その為、空は赤司の動きに反応は出来ても身体が対応出来ないのだ。

 

「(なまじ、全部に対応しようとすると軸を乱されちまう。だったら…)」

 

何かを思い付いた空は不敵に笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。当然、空がボールを運び、目の前には赤司が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

『…っ! また赤司の間合いに躊躇なく踏み込んだ…!』

 

空は天帝の眼(エンペラー・アイ)等、お構いなしに赤司との距離を詰める。

 

「…っ!」

 

「(来る!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(バックチェンジで右から左!)」

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きの先を読む。読み通り、空はバックチェンジでボールを背中側で右から左へと切り返した。

 

赤司の右手が左へと切り返されるボールに伸びる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

しかし、赤司の手がボールに触れるより早く、空が再度バックチェンジで逆に切り返してかわし、そのまま赤司の手をかわすのと同時に赤司を抜きさった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

その直後にジャンプショットを放ち、決めた。

 

 

花月 85

洛山 83

 

 

「(僕の眼は間違いなく()の動きの未来を視ている。にもかかわらず追い付けないとは…!)」

 

赤司の天帝の眼(エンペラー・アイ)は空の動きの未来を的確に視ている。だが、空のスピードはその上を行っていた。

 

「(僕の眼は絶対だ。必ず、次こそは必ず()る!)」

 

目付きを鋭くしながら空を睨み付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

赤司がボールを運ぶと、空が待ち構える。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

小刻みにステップを踏みながらボールを切り返し、空を崩しにかかる。

 

「っ!?」

 

赤司は目を見開いて驚愕する。空は赤司のどの動きにも反応を見せず、その場でジッとしていたからだ。

 

「(どういうつもりだ。僕のこの眼を誤魔化す事は誰であっても不可能だ…!)」

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)は目の前の相手の僅かな動き、呼吸でさえも見逃す事はない。動きの僅かな挙動を視れないと言う事はつまり、空は全く動くつもりがないと言う事である。

 

「…」

 

空を見据える赤司。もちろん、空は諦めている訳ではない。空は先程より僅かに距離を取ってはいるが、空の集中が高まっている事は目の前の赤司が1番感じ取れている。何か策が思い浮かび、実行に移そうとしている事は明白。

 

「(…いいだろう。何を企んでいたとしても、僕の眼を欺く事は出来ない。止められるものなら止めてみろ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して赤司がクロスオーバーで仕掛けた。

 

「…」

 

赤司が一気に距離を詰めてくるが、空は動かない。

 

「…」

 

更に赤司が進み、空の横に足を踏み入れる。だが、空はまだ動かない。

 

「(何を考えて……いや、もういい。このまま――っ!?)」

 

意識を空からリングへと移そうとしたその時…。

 

「おっ…らぁっ!!!」

 

空が赤司の後ろからボールに手を伸ばし、狙い打った。

 

「…っ、甘い!」

 

一瞬、驚いて目を見開いた赤司だったが、即座にボールを掴んでターンアラウンドで反転し、冷静に対処。すぐさまシュート体勢に入った。

 

『上手い!』

 

赤司がクイックリリースでボールをリリースした。

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

「まだだぁっ!!!」

 

素早く体勢を立て直した後、咆哮と共にブロックに飛んだ空。その伸ばした手の指先に僅かにボールが触れた。

 

「っ! 触った、落ちるぞ!」

 

手応えを感じた空がすぐさま指示を飛ばす。

 

「となれば、俺やな!」

 

ゴール下に立った天野がリバウンドに備える。

 

「…くっ!」

 

良いポジションを取ろうとする四条だったが、天野にスクリーンアウトで抑え込まれ、出来ず。

 

「(くそっ、こいつ…!)」

 

同じく、リバウンドに備える五河だったが…。

 

「(俺では五河(こいつ)相手にリバウンド勝負は不利。ならば、取るのではなく、取らせない事に全力を注ぐ!)」

 

松永は、リバウンドボールを抑える事は始めから諦め、天野がリバウンドを制してくれる事を信じ、胸の前で両腕を束ね、五河をゴール下から身体を張って追い出しにかかった。

 

 

――ガン!!!

 

 

空の言葉通り、ボールはリングに弾かれ、外れた。

 

「「…っ!」」

 

天野と四条が外れたボールに飛び付く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「もろたでぇっ!!!」

 

「っ!?」

 

リバウンドボールを天野が抑えた。

 

「天さん!」

 

既に速攻に走っていた空がボールを要求。

 

「させるか!」

 

空に縦パスを出そうとした天野に対し、すぐさまチェックに入る三村。

 

「うぉっ!?」

 

密集地帯で縦パスを妨害され、驚きで声を上げる天野。

 

「天野先輩!」

 

その横で、大地が声を出す。

 

「頼む!」

 

その声に反応した天野はすぐさま大地にパスを出した。

 

「空!」

 

ボールを受け取った大地はそのまま空に大きな縦パスを出した。

 

「っしゃぁっ! …っと」

 

大地からのパスを受け取り、ドリブルを始めた空。

 

「行かせん」

 

三村のチェックの間にディフェンスに戻っていた赤司が空の前方に立ち塞がった。

 

「いーや、行かせてもらうぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空はクロスオーバーでボールを右から左へと切り返した。

 

『なっ!? あんな離れた所で!?』

 

観客が戸惑いの声を上げる。空は赤司と2メートル程も離れた位置でクロスオーバーを仕掛けたからだ。

 

「…また奇策か! だが、2度目はない!」

 

クロスオーバーを仕掛けた空に対応すべく、赤司が自身の右へと切り返す空に詰め寄る。

 

「だっらぁっ!!!」

 

ボールが左手に収まるのと同時に空は再度ボールを切り返す。左手に力を込め、かつ右斜め前方に倒れ込んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空はコートに付くギリギリまで身体を倒し、その体勢のまま加速し、赤司を抜きさった。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

『何だよ今の!?』

 

「おぉっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

赤司を抜きさった空はそのままリングへと突き進み、ボールをリングへと叩き込んだ。

 

 

花月 87

洛山 83

 

 

「おらぁぁぁぁっ!!!」

 

ダンクを決めた空はガッツポーズを取りながら咆哮を上げた。

 

『っ!?』

 

遂に均衡が崩れ、洛山の選手達に動揺が走る。

 

「ボールを寄越せ。早く!」

 

「お、おう」

 

赤司はボールを拾った五河に対して素早くリスタートを求める。

 

「…っ!」

 

スローワーとなった五河からボールを受け取った赤司は表情を険しくし、そのままドリブルを始めた。

 

 

「来い!」

 

「行くぞ!」

 

ドリブルで突き進み赤司の前に空が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

赤司は素早くハンドリングを繰り返しながら空を翻弄する。

 

「…」

 

しかし、空は先程同様、赤司のこれからの仕掛けに対し、身動きを取らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ハッ! 相変わらず、あいつは常識外れの作戦を取りやがる」

 

青峰が苦笑する。

 

「…大ちゃん、神城君が何をしたか分かったの?」

 

「ああ。…あいつはこれまで、赤司の動きの全てに反応していた。そこを赤司に付かれ、軸を崩されたからこれまでは止められなかった」

 

「…」

 

「だからあいつは反応をするのを止めた。動こうとしなければ赤司の天帝の眼(エンペラー・アイ)には何も視えねえ。赤司が天帝の眼(エンペラー・アイ)の範囲外を抜けてから動けば赤司でも神城の動きは視えねえ」

 

「嘘!? でも、それってわざと抜かせるって事だよね? そんな事して止められるの?」

 

解説を聞いた桃井は驚きの声を上げ、尋ねた。

 

「ま、普通の奴なら無理だな。赤司が天帝の眼(エンペラー・アイ)の範囲外に移動したギリギリを狙える反射速度とその赤司に追い付けるスピード。更にかわされてもすぐさま対応出来るだけのバランス感覚がなけりゃ、な」

 

「っ!? それって…!」

 

「ゾーンに入った神城以外には出来ねえ作戦だ」

 

青峰が提言する条件を全て満たした空だからこそ、実行出来る作戦であった。

 

「赤司も運がねえ。あの赤司(・・・・)からすれば、神城はもはや天敵だ。…ここで決まるかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

 

 

―――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

小刻みにハンドリングとステップを繰り返しながら空の隙を窺う赤司。

 

「…」

 

空は自身のスペックで後追いで赤司の動きに対応していく。

 

「…」

 

何とかシュートまで持っていこうとするが、その前に空が追い付き、出来ない。

 

「…っ」

 

 

――スッ…。

 

 

赤司が切り返しと同時にノールックビハインドパスでハイポストに走り込んだ三村にパスを出した。

 

 

「っ!?」

 

このパスに観客席の青峰が反応する。

 

 

「ナイスパス赤司!」

 

ボールと掴んだ三村がそのままリングへと突き進み、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「残念だったな!」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、現れた空が三村の右手に収まるボールを叩きだした。

 

「いいぞ神城!」

 

松永がルーズボールを拾い、すぐさま空に渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

空が高速で左右に切り返し、隙を窺う。

 

「(未来は視えている。今度こそ!)」

 

左から右へと切り返されたボールを狙い打つ赤司。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空はボールに触れられるより早くボールを再度切り返し、赤司の手をかわす。

 

「…っ! まだだ!」

 

自身の左方向から抜けようとしている空に対し、右足を踏ん張って強引に方向転換をし、切り返した空のボールを再び狙う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかしこれも、空はバックチェンジで切り返してかわした。

 

「…くっ!」

 

再度食らいつこうとした赤司だったが、バランスを崩し、その場で尻餅を付いてしまう。

 

『赤司がアンクルブレイク!?』

 

赤司を抜きさった空がリングへと進み、ボールを掴んだ。

 

「うぉぉぉぉー--っ!!!」

 

「決めさせるかよ!!!」

 

その空に対し、四条と五河がヘルプに行き、ブロックに飛んだ。しかし…。

 

「「っ!?」」

 

ボールを掴んだ空だったが、ボールを頭上にリフトさせただけで、飛んではいなかった。

 

 

――スッ…。

 

 

掲げたボールを下げた空はそこから2人のブロックを下から潜り抜けるようゴール下にステップする。

 

 

――バス!!!

 

 

そこから再度ボールを掲げ、リバースレイアップで得点を決めた。

 

 

花月 89

洛山 83

 

 

『…おっ――』

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

次の瞬間、観客が爆発したように大歓声を上げた。

 

「ナイス空!」

 

「おう!!!」

 

パチン! と、ハイタッチを交わす空と大地。

 

『…』

 

その光景を、洛山の選手達は茫然と見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「決まったな」

 

「えっ?」

 

青峰が断言するように言う。

 

「神城は決めて、赤司はパスを出させられた。これで勝負は付いた」

 

「で、でも、まだ時間は残ってるし、そう決めつけるのは――」

 

「――見ろ」

 

反論をする桃井、青峰は赤司に視線を促した。

 

「……あっ!?」

 

赤司に視線を移した桃井がある事に気付いた。

 

「赤司のゾーンが解けてる。解け方としては最悪の解け方だ。このまま押し切られて終わりだ」

 

「……洛山が、赤司君が、負ける…」

 

桃井は茫然とコートを見つめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

続く洛山のオフェンスは失敗し、ターンオーバー。赤司は空を止める事は出来ず、その空に対応しようと人数をかけて空に当たった所、大地にパスを捌かれ、決められてしまう。

 

 

花月 91

洛山 83

 

 

『点差が開いてきたぞ!?』

 

『これはもう決まったか!?』

 

花月が点差を伸ばしていき、観客は花月の勝利を確定する者が現れてきた。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

開いていく点差を止める事が出来ず、洛山の選手達の表情は疲労も相まって益々曇っていった。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

洛山の士気が確実に下がっている状況に、赤司は何も声をかける事が出来ず、ただただ下を向いて項垂れていた。

 

「(…いかん!)」

 

洛山の監督の白金がたまらずタイムアウトの申請をしにオフィシャルテーブルに向かった。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

『っ!?』

 

ボールを回してチャンスを窺っていた洛山だったが、空によってパスをカットされてしまう。

 

『うぉぉぉぉー--っ!?』

 

『来るか4連続!?』

 

度重なる攻撃失敗を見て、観客が沸き上がる。

 

ボールを奪った空がそのまま攻め上がる。

 

「…」

 

そんな空の前に、赤司が立ち塞がった。

 

「(もうあんたには俺は止められない。これでトドメだ!)」

 

空はここで雌雄を決する為、赤司に対して仕掛けるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『こうなってしまったか…』

 

もう1人の赤司。本来の赤司が呟く。

 

『分かっていた事だ。今の神城と僕が戦えば、こうなる事は…』

 

現在、表に出ている赤司がそう返す。

 

『ならばどうする?』

 

本来の赤司が尋ねる。表の赤司は暫しの沈黙の末…。

 

『……さよならだ』

 

『……それしか無いのか』

 

その言葉に、本来の赤司が悲しそうに返す。

 

『もはや神城は僕でもお前でも敵わない。…ならば、天帝の眼(エンペラー・アイ)を完全なものにするしかない』

 

『…っ! だがそれは…!』

 

それが何を意味するのか理解してしまっている本来の赤司は反論しようとする。

 

『僕が消え、僕達が2人になってしまった事で分かれてしまったものを1つにすれば、究極のパスを出す為のコートビジョンと未来を視る天帝の眼(エンペラー・アイ)を融合させれば、この状況を打開出来る』

 

『それで本当に良いのか? それしか無いのか?』

 

『僕は本来、生まれるはずがなかった存在だ。最後に我が儘を聞いてもらった。悔いはない』

 

フッと笑みを浮かべながら表の赤司が答える。

 

 

我が儘…それは試合前日の事。たまたま外を歩いていた時、1人、自主練をしている空を見つけた時の事。

 

『明日の試合、スタートから僕にやらせてほしい』

 

『…フッ、それは相手が神城空だからか?』

 

今では珍しくない。空を相手にすると普段は見せない負けん気を出すもう1人の赤司の特徴。

 

『頼む。最後(・・)の我が儘だ』

 

 

これが、表に出ている赤司の言う最後の我が儘の内容である。

 

『最後に最高の(ライバル)と全力でぶつかり合えた。餞別としては充分だ』

 

『…っ、そう…か』

 

歯を食い縛り、何かを堪える本来の赤司。

 

『後は、頼んだ。――ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…」

 

赤司が目を開け、前を見据える。そこには、空が迫っていた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

ダブルクロスオーバー。キラークロスオーバーで赤司を抜きにかかる空。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

2度目の切り返される直前のボールを赤司に叩かれてしまう。

 

『っ!?』

 

これには花月の選手達も驚愕していた。

 

ボールを奪った赤司がそのまま攻め上がる。

 

「くそっ、戻れ!」

 

慌てて空が声を出し、ディフェンスへと戻り、赤司の前に立ち塞がる。幸い、花月はまだ攻め上がる前だった為、すぐさまディフェンスを整えられた。

 

「(ああ、視える…)」

 

赤司の眼には視えていた。全て(・・)が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……えっ?」

 

誰かが呟いた。何が起こったのか、理解出来ていなかった。赤司が持っていたボールが、スリーポイントラインの外側、ウィングの位置に移動していた三村の手に渡っていた。

 

「っ!?」

 

大地は理解出来なかった。三村にはもちろん、気を配っていた。しかし、気が付けば三村の手にボールが渡っていたのだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

三村はすかさずスリーを放ち、決めた。

 

 

花月 91

洛山 86

 

 

『…』

 

静まり返る会場。

 

『――お』

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

1人が声を発すると、それに反応するように観客達が沸き上がった。

 

「なんやねん。何が起こったんや?」

 

怒った事が理解出来ない天野が頭を抱える。

 

「(さっきの動き、今のパス。まさか!?)」

 

一連の赤司の動き。空には今の動きにとある答えが頭に浮かんでいた。

 

「オフェンスだ。切り替えろ! まだ点差はあるんだ。慌てるな!」

 

ベンチから菅野が声を出す。

 

「神城!」

 

スローワーとなった松永が空にボールを渡す。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ空。フロントコートまでボールを進めると、赤司がやってきた。

 

「…」

 

「…っ」

 

目の前に立ち、赤司と対峙する空。空は、目の前の赤司の変化を直感で感じ取っていた。

 

「(さっきの動き、もし、俺の予想通りなら…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

自身の予想を確かめるべく、空は赤司に対し、仕掛けた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

高速のハンドリングで赤司を翻弄する空。しかし…。

 

『抜けないぞ…!』

 

これまでは抜きさる事が出来た空のドライブ。しかし、此度は抜く事が出来ない。

 

「…くそっ!」

 

ひとしきり仕掛けるが、赤司を抜く事が出来ず、空はマークを外して動いた大地にパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

しかし、そのパスは四条にスティールされてしまった。

 

「(バカな!? 大地がマークをかわすのに合わせてパスを出した。赤司ならまだしも、どうして四条(こいつ)に!?)」

 

立て続けに起こる出来事に、空はもはや驚きを隠せないでいた。

 

「赤司!」

 

「よし、行くぞ!」

 

奪ったボールを赤司に渡し、洛山の選手達が攻め上がる。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ここで洛山はお家芸である、高速のパス回しを始めた。

 

「ここでパス回しか!?」

 

突然のボール回しに驚く松永。

 

「(…けど、今、ナンバーコールがなかった…!)」

 

洛山のボール回しは赤司のナンバーコールから始まる。だが、今、赤司はナンバーコールをしなかった事に戸惑う生嶋。

 

 

――ピッ!!!

 

 

絶え間なく人とボールが動き回り、花月のディフェンスを乱していく。

 

「なんやねん。ここに来てパスのスピードが上がりよった!?」

 

激しく動き回るボールと人。そのスピードがこの試合で1番のものとなり、戸惑う天野。

 

「(スピードが上がっただけじゃない。このパスは今までと違う!)」

 

空はこのボール回しに別の何かを感じ取っていた。

 

「あっ!?」

 

ボールは、いつの間にかフリーになっていた四条に渡っていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーでボールを受けた四条はジャンプショットを決めた。

 

 

花月 91

洛山 88

 

 

『出た! 洛山のお家芸!』

 

「…そうか、そういう事か…!」

 

空は、今の洛山の動きの違和感に気付いた。

 

『…』

 

『っ!?』

 

ディフェンスに戻った洛山の選手達が花月の選手達に振り返る。次の瞬間、花月の選手達は気付いた。

 

 

――洛山の選手全員が、ゾーンに入っている事に…。

 

 

「まさか、赤司さんの味方をゾーンに入れるパス!?」

 

大地が思わず声を上げる。

 

「…ああ。だが、問題はそれだけじゃねえ。今のパス、そしてその前のディフェンス――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

続く花月のオフェンス。空は再び赤司を抜く事が出来ず、パスを出させられる。ボールを回している内に再びスティールされてしまう。

 

「行くぞ!」

 

赤司の号令と共にパスを出される。

 

「(くそっ! このパスはこれまでの決められたパターンで動くナンバープレーとは違う!)」

 

縦横無尽に高速で動き回るボールと人を見て空は確信する。

 

「(そうだ。これは今までのとは違う!)」

 

「(インターハイで花月(お前ら)との試合の最後に1度だけ出来た…!)」

 

「(あの後、どれだけ練習しても出来なかった…!)」

 

「(だが、今の俺達なら出来る!)」

 

洛山の選手達は、決められた動き、決められた人物にパスを出すのではなく、ただいて欲しい所にパスを出し、ボールが欲しい所に動いている。

 

「今の俺達なら出来る。長年、バスケを共にした俺達なら。ただ互いを信じ、一瞬の閃きを共有して出す究極のパス――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――閃きのパス(フラッシュ・パス)!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チームメイトを信じて出されるボール。洛山の選手達は一糸乱れる事無くボールを回し続ける。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

やがて、フリーの選手が作り出し、その選手が決めてしまう。

 

 

花月 91

洛山 90

 

 

『洛山が追い上げて来た!!!』

 

『…っ』

 

遂に1点差まで詰まり、花月の選手達は、焦りを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃん!」

 

「…っ」

 

口元を両手で抑える桃井。青峰は身体を乗り出して驚いていた。

 

「あれって、今年の夏に花月との試合の最後に見せたパスワークだよね?」

 

「…間違いねえ」

 

桃井の予測に青峰が断定する。

 

「って事は…!」

 

「ああ。赤司はゾーンのもう1つの扉を開きやがった」

 

椅子に座り直した青峰が苦笑する。

 

「各選手達が独自の閃きに応じて動いて高速でボールを回すパスワーク。こんなの…」

 

「止められる訳がねえ」

 

冷や汗を流しながら青峰が言った。

 

「しかも問題はそれだけじゃねえ。赤司の眼が変化した。明らかに目の前の相手以外の未来を視ているような動きをしていた。それを直結連動型(ダイレクトドライブ)ゾーンで共有してやがるからディフェンスでも隙がねえ」

 

「…っ」

 

「この試合はもう、赤司の…洛山の勝ちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「おいナッシュ! ソラ達のチームが押され始めたぞ!?」

 

アメリカで試合の生放送を見ているニックが慌てる。

 

「なあ、あの白い方の4番の動き、あれは――」

 

「…ああ。あいつ、明らかにコート全体の未来を視ていた」

 

アレンの言葉にナッシュは神妙な顔で答えた。

 

「それに応じて洛山(白い方)のチーム全体の動きが変わった。もう、サル達の負けだ」

 

ナッシュがそう断言した。

 

「な、なあ、もうどうしようもないのか?」

 

縋る気持ちでアレンがナッシュに尋ねる。

 

「俺に聞いても仕方ねえだろ。もうどうしようもねえよ。点は取れねえ、相手は止めらねえ。もう、詰み(チェックメイト)だ」

 

「マジかよ…、良いところまで行ったのによう」

 

ニックが頭を抱えた。

 

「……だがまあ、サル達がこの状況をひっくり返せる可能性があるとすれば――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あのサルが、あの眼(・・・)を使いこなせれば、あるかもしれないな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





久しぶりに文字数1万文字を超えました…(^_^)v

今年も残すところ1ヶ月ちょっと。無事、駆け抜けたい…(-_-)zzz

しかし、日本戦は今年1番、テンション上がりましたわ…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第186Q~時~


投稿します!

ワールドカップ、日本悲願のベスト8入りならず…(T_T)

それではどうぞ!



 

 

 

時は僅かに遡る。

 

「タイムアウトを」

 

チームの劣勢、赤司のゾーンが解かれた事を見て白金がオフィシャルテーブルにてタイムアウトの申請をした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

コートに視線を向ける白金。そこには、赤司が空からボールを奪っている姿があった。

 

ボールを奪った赤司はそのまま攻め上がり、空が目の前に対峙すると足を止める。

 

「…」

 

「…っ」

 

空を見据えながらドリブルをする赤司。先程のスティールの動揺が残っているのか、僅かに表情が曇っている空。

 

「(ここは抜かせねえ。仮にパスを出したなら、また奪ってやるだけだ…!)」

 

目の前の赤司に全神経を集中させる空。

 

「…」

 

数秒程、睨み合う両者。そして赤司が動いた。

 

「……えっ?」

 

思わず声を上げたのは大地。三村が大地から距離を取った正にその瞬間、三村の手にボールが収まっていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

慌ててチェックに向かう大地だが間に合わず、三村はスリーを決めた。

 

『――お』

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

一瞬、静まり返った会場が沸き上がる。

 

「(…フルフル)」

 

ディフェンスに戻っていく赤司がオフィシャルテーブルの傍に立っていた白金に振り返り、首を横に振った。

 

「…」

 

その様子を見て、白金は何かを感じ取り…。

 

「(…コクッ)」

 

首を縦に振り、頷いた。

 

「申し訳ない、タイムアウトの取り消しを頼む」

 

1度申請したタイムアウトを取り消した。

 

「(…そうか、赤司、お前は――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あ、赤司…」

 

ディフェンスに戻る最中、赤司に話しかける二宮。

 

「まだ試合は終わっていない。集中を切らすな」

 

『っ!?』

 

口を開く。その赤司を見て、洛山の選手達は気付いた。

 

「赤司、お前は――」

 

「話は後だ。今は試合に勝つ事だけを考えろ」

 

三村の言葉を遮るように赤司が口を挟む。

 

「これまで通り、パス回していく。…あれ(・・)をやるぞ」

 

「っ!? あれって、まさか、閃きのパス(フラッシュパス)の事か?」

 

赤司の提案に、四条が驚きながら聞き返す。

 

「だがあれは、結局、インターハイ以降、1度も上手く行かなかったじゃないか」

 

五河が赤司の提案に難色を示した。

 

「出来る。今なら出来る」

 

インターハイの折に1度、偶発的に出来た究極のパスワーク。再び再現しようとインターハイ終了後に試みたが、結局1度として上手く行かず、結局、断念した為、五河以外も難色を示したが、そんなチームメイトを余所に赤司は断言した。

 

「俺達は難しく考えて過ぎていたんだ。ただ仲間を信じればいい。それだけで良かったんだ」

 

「信じる…」

 

赤司の言葉を反芻させるように呟く三村。

 

「俺達は5年以上も同じチームメイトとして過ごした。勝利も敗北も、栄光も挫折も共に味わった」

 

『…』

 

「自分と…そして仲間を信じて動き、仲間を信じてパスを出す。今の俺達なら出来るはずだ」

 

赤司がチームメイトを見据えながら言った。

 

「そういう事か…。分かった、やってやろうぜ」

 

二宮がその言葉に頷いた。

 

「思えば、俺達、すっかり腐れ縁になっちまったな」

 

過ごして期間を思い出し、苦笑する三村。

 

「迷った事はあっても、お前らは疑った事は1度たりともなかったよ、俺は」

 

ウィンクをしながら笑みを浮かべる四条。

 

「見せてやろうぜ、俺達にしか出来ない、究極のチームワークを」

 

拳を握る五河。

 

「では行くぞ。史上最高の洛山の姿を、見せつけるぞ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…っ!」

 

洛山のボール回しが始まり、表情を曇らせる空。

 

『…っ』

 

それは、他の花月の選手達も同様であった。

 

これまでの決められたルートを通るパスとは違い、各選手が理想の位置に走り、理想の位置にパスを出す。それが噛み合った結果、パスコースを読む事も追う事も出来ず、気が付けばフリーの選手が生まれ、シュートを打たれてしまう。

 

「(くそっ! パスコースが限定出来ねえ!)」

 

今までは大地と連携してパスコースを限定…誘導出来たのでスティールが狙えたが、閃きのパス(フラッシュパス)が始まってからはそれが出来なくなり、苦悶の表情を浮かべる空。

 

「…っ! そこか!」

 

赤司から三村へと出されたパスに空が反応。パスコースを塞ぎにかかる。

 

「(くそっ! 間に合わねえ!!!)」

 

パスコースに手を伸ばした空だったが、ボールは伸ばしての数十センチ前を通過していく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取った三村がジャンプショットを決めた。

 

 

花月 91

洛山 92

 

 

『逆転! 再び洛山がリードだ!!!』

 

花月によってひっくり返された試合が今度は洛山によってひっくり返された。

 

「くそっ!」

 

悔しさのあまり、空は自身の太腿を叩く。

 

「無駄だ」

 

そんな空に対し、赤司が話しかける。

 

「パスコースを限定、先読み出来たナンバープレーとは違う」

 

「…っ」

 

「俺達の5年間の集大成がこの閃きのパス(フラッシュパス)だ。このパスは、お前がどれだけのスピードを有しようが、止める事は出来ない」

 

それだけ告げ、赤司はディフェンスへと戻っていった。

 

「言いたい事言いやがって…!」

 

その物言いに空の表情は険しくなる。

 

「それでも俺にはこれしかねえんだ。俺には赤司やナッシュのような眼もなければ、三杉さんみたいに正確に相手の動きを読む頭もねえ。俺にはスピード(これ)しかねえんだよ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

花月のオフェンス、ボールを運んだ空が赤司に対して仕掛ける。

 

「…っ」

 

しかし、空がどれだけフルスロットルで加速しても、赤司を抜く事が出来ない。

 

「(さっきまでは未来を読んでも追いつけなかった。だが、敵味方全ての未来が視える今なら、全体の動きを視て先のさらに先まで視える。もうお前のスピードに遅れる事はない…!)」

 

「…くそっ!」

 

仕方なく空は生嶋にパスを出す。

 

「打たせん!」

 

「…っ!?」

 

生嶋にボールが渡るのと同時に二宮がディフェンスに付く。

 

「(…ダメだ! こうも厳しく張り付かれたら何も出来ない…!)」

 

身体がバチバチとぶつかる程の激しい当たりをしながらディフェンスを二宮の前に生嶋はスリーはおろか、ボールをキープするだけで手一杯になる。

 

「…っ、まっつん!」

 

たまらず、生嶋のボールを中に入れる。

 

「…ちぃっ!」

 

ローポストでボールを受けた松永。その背中に張り付くように五河がディフェンスに入る。

 

「(くそっ! ビクともせん!)」

 

ポストアップでゴール下まで押し込もうと試みた松永だったが、五河はビクともしない。

 

「ならば…!」

 

 

――スッ…。

 

 

ここで松永はボールを掴んでフェイクを織り交ぜながらフロントターンを仕掛ける。

 

「それで仕掛けてるつもりか?」

 

「っ!?」

 

しかし、五河は翻弄されず、松永にシュートチャンスを与えない。

 

「松永君! もうすぐ3秒よ!」

 

ベンチの姫川がオーバータイムを知らせる指示を飛ばす。

 

「こっちや!」

 

「…っ」

 

やむを得ず、松永は天野の声の方にパスを出した。

 

「打たせん!」

 

「…っ」

 

天野がボールを掴むと、すかさず四条がディフェンスに現れた。

 

「(あっかん!? もともとオフェンスが得意やあらへん俺では何も出来ひん!)」

 

四条の厳しいディフェンスを前に、天野もまた、ボールをキープする事に追われてしまう。

 

その後も花月はボールを回していくが、一向に得点チャンスを作る事が出来ない。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!』

 

シュートクロックが0になり、オーバータイムがコールされてしまう。

 

『うわー! 結局シュート打てず!』

 

観客が頭を抱える。

 

『…っ』

 

得点どころかシュートすら打てず、表情が曇る花月の選手達。

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

続く洛山のオフェンスでも、洛山の閃きのパス(フラッシュパス)によるボール回しが行われる。

 

『っ!?』

 

正確かつ高速のボール回し。花月の選手達はシュートを打たせまいと必死に食らいつく。だが…。

 

『っ!?』

 

気が付けば、フリーの選手が出来てしまう。フリーとなった四条にパスが出される。

 

「ちくしょうがぁっ!!!」

 

空が四条に出されたパスコースへと走り込み、手を伸ばす。

 

「無駄だ!」

 

四条の言葉通り、ボールは空の伸ばした手の先を無情にも通過していく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを掴んだ四条がジャンプショットを決めた。

 

 

花月 91

洛山 94

 

 

「よーし!」

 

四条と五河がハイタッチを交わす。

 

「くそっ!」

 

悔しさのあまり、空が自身の太腿を叩く。

 

「(もっとだ。もっと集中しろ! もっと速く…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も洛山の猛攻は収まらなかった。

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司から始まる洛山の閃きのパス(フラッシュパス)によるボール回し。

 

「おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

空が雄叫びを上げながらボールにダイブしながら手を伸ばすがやはり届かず、コートに倒れ込んでしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボール回しでフリーとなった五河にゴール下を決められてしまう。

 

「くそぉっ!!!」

 

悔しさから、空はコートを激しく叩きつけた。

 

 

「…大ちゃん」

 

「見ての通りだ。もう、洛山の勝利は揺るぎようがねえ」

 

試合を見守っていた青峰と桃井。2人も試合の行方を予測出来てしまっていた。

 

「せめて、綾瀬にボールを渡せりゃ、得点は取れるかもしれねえが…」

 

青峰がそう言葉にするが…。

 

 

「…っ」

 

コート上で表情も曇らせる大地。

 

…大地にボールを渡す事が出来なかったのだ。

 

生嶋、天野、松永では得点を奪えない。空も、目の前の赤司を抜きさる事が出来ず、得点を奪えない。頼みの綱はエースである大地だけなのだが…。

 

「…っ!」

 

その大地にボールを掴ませる事が出来ない。これまでは空が大地の動き出しに合わせてパスを出せていたが、赤司の天帝の眼(エンペラー・アイ)が進化してからはそのタイミングをも潰されるようになった。

 

大地が直接ボールを受け取りに行ったが、その場合はマークを赤司にスイッチし、赤司が大地のディフェンスに入った。

 

「…っ」

 

もとより、空以外では天帝の眼(エンペラー・アイ)を持つ赤司とはまともに相対出来ない。空にリターンパスを出そうにも…。

 

「くそっ!」

 

悔しがる空。

 

空でさえ、赤司を前に大地にパスを出せない状況である為、大地では尚の事、空にパスが出せない。

 

『…っ』

 

空以外から大地へパスを中継しようにも、そのパスコースは確実に塞がれてしまう為、これも出来ない。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

大地が赤司に対して仕掛けるが、動いたその瞬間を狙われ、ボールを叩かれてしまうのだった…。

 

 

第4Q、残り1分36秒

 

 

花月 91

洛山 98

 

 

点差は着実に広がっていた。

 

『これはもうダメだ…』

 

『オフェンスもディフェンスも凄すぎて手が付けられない…』

 

『花月がダメなんじゃない…、洛山が凄すぎるんだ…!』

 

観客達もその洛山の完璧な攻守のバスケに圧倒されていた。そして試合の勝敗も既に結論付けていた。

 

 

 

――ウィンターカップの優勝は洛山以外ありえない、と…。

 

 

 

もはや、洛山が今年にウィンターカップを制する未来まで結論付ける者もいた。

 

 

 

「監督! 1度タイムアウトを!」

 

姫川が上杉にタイムアウトを取るよう提案する。

 

「…」

 

しかし、上杉は険しい表情をしながらベンチから動かない。

 

「(仮にタイムアウトを取ったとして、何を指示する…!)」

 

上杉もこの状況を打破する策を思い付く事が出来なかった。花月が申請できるタイムアウトは後1回。その事実も、上杉がタイムアウトを渋る要因となっていた。

 

「(何かきっかけはないのか…。この状況は打開できるきっかけが…!)」

 

上杉は必死に頭を巡らせたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ハァ…ハァ…!』

 

花月の選手達は目の前で突き付けられた現実を振り払い、必死に抗っていた。切れそうになる集中を必死に繋ぎ合わせていた。

 

「…」

 

空は神経を更に尖らせていた。

 

「(もっとだ! もっと集中するんだ! もっともっと! もっともっともっとモットモットモット――)」

 

空の意識が更に深い集中に沈んでいく。

 

「――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ターンオーバーから洛山のオフェンス。全員がフロントコートに駆け上がると、洛山のボール回しが始まる。

 

『…っ』

 

必死に食らいつく花月。これを決められれば洛山は大台の100点目となる。残り時間を考えれば、これ以上、失点をすれば試合を決定付けてしまう。しかし…。

 

『っ!?』

 

無情にも閃きのパス(フラッシュパス)によってフリーの選手が作り出されてしまう。

 

「(これで終わりだ!)」

 

フリーとなった二宮に、五河がパスを出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――誰もがこのパスで試合の勝敗を決定付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――青峰や桃井も…。

 

 

 

 

 

 

 

 

――観客も…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――選手達でさえも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利を決定付ける、パスが、繋がる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――はずだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

『っ!?』

 

五河から二宮へと出されたパスがその手に渡る前にカットされた。

 

「(バカな!?)」

 

赤司が目を見開いて驚愕する。

 

「(取れるはずがない! そうならようにボールを回したんだ。如何にお前が驚異的なスピードを有しようが、俺と同じ眼(・・・・・)を持たない限り、不可能だ!)」

 

ボール回しは赤司の眼から視ても緻密に構築されていた。時間を惜しみなく使って人とボールを動かし、特定のスペースを創り出し、そこへ特定の選手を走り込ませる。そのパスは、空であってもカット出来ない。そうなるようにボール回しをしていたのだ。

 

「――」

 

零れたボールを空が拾う。

 

「戻れ! ディフェンスだ!」

 

それでも冷静さを失わなかった赤司が選手達に指示を飛ばす。

 

『…っ』

 

その声に正気を戻した洛山の選手達がディフェンスへと戻っていった。

 

「――」

 

ボールを拾った空がそのままボールを運んでいる。

 

「(例えマグレでパスをカット出来ても無駄だ!)」

 

「(綾瀬にはボールを掴ませない。それ以外の奴には何もさせない!)」

 

「(寿命が少し伸びただけ。次で決まりだ!)」

 

空の前にディフェンスへと洛山の選手達が待ち受ける。

 

「――」

 

正面を見据える空。次の瞬間…!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……えっ?」

 

コート上で声を上げたのは二宮。二宮が視線を自身がマークする生嶋へと向けると、そこにはボールを掴んだ生嶋の姿があった。

 

「しまっ…!」

 

慌ててチェックに向かう二宮だったが…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

それよりも速く生嶋がスリーを放ち、ボールはリングを潜り抜けたのだった。

 

 

花月 94

洛山 98

 

 

『っ!?』

 

生嶋にスリーを決められ、目を見開いて驚愕する洛山の選手達。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

同時に沸き上がる観客。

 

「何が…起こったんだ?」

 

状況が掴めない三村。

 

「気が付いたら生嶋(5番)パスが通って…」

 

四条も同様であった。

 

「俺は確かに生嶋(5番)をマークしていた。何が起こったんだ…!?」

 

1番近くでマークしていた二宮にも状況が掴めていなかった。

 

「何だよ今の。今のはまるで赤司と同じ…!」

 

五河も驚きを隠せないでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(何が起こっているんだ?)」

 

空は周辺の変化に驚いていた。

 

 

 

――周囲のボールと人がビデオのスローモーション映像みたいにゆっくり動いていたのだ。

 

 

 

「(二宮(5番)がフリーに…! 五河(8番)からパスを出そうとしている…!)」

 

空の視界では、ゆっくりと創り出されたスペースに走り込む二宮と、そこへパスを出そうとしている五河の姿が確認できた。

 

「(追い付ける!)」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

パスコースへと移動した空が五河から出されたボールを手で弾いた。ゆっくりと零れるボールを空が抑え、そのままフロントコートまで運んだ。

 

「――」

 

いち早くディフェンスを構築する洛山。空は自身の変化への戸惑いもあり、ワンマン速攻を仕掛けなかった。

 

「(大地へは…出せそうにないな。天さんや松永も出せない…)」

 

相変わらず敵味方問わず、空の視界ではゆっくりと動いている。大地、天野、松永へはパスが出せない事が確認出来た。

 

「(……ん? 生嶋がマークを外そうとしてるな。二宮(5番)の意識はこっちに向いてる。…そこなら通せそうだ)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

すかさず空は生嶋へとパスを出した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを掴んだ生嶋は二宮が認識するより早くスリーを放ち、決めた。

 

「(ホントに何が起こってるんだ?)」

 

空は自分の目の前で起きている現象に戸惑っていた。

 

「(過去にも似たような事はあった。まるで周囲が止まったように見えて――そうか…!)」

 

ここで空は自身に起きている現象に気付いた。

 

「(止まっているように見えたのか! …よし、これなら…!)」

 

「――ら、空!」

 

「…ん、大地か」

 

大地に肩を揺すられ、ここで始めて大地に話しかけられた事に気付いた。

 

「空、あなたは――」

 

「大丈夫だ。今は試合だ。もう心配いらねえ。…この試合、勝てるぞ」

 

心配そうに話しかける大地。しかし空はそんな大地を余所に、笑顔でそう返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃん!」

 

一連の空の動きを見て、桃井は思わず青峰の肩を揺すった。

 

「…っ!」

 

青峰も思わず立ち上がっており、その表情が驚愕していた。

 

「…なに、今の神城君の動き? 動きもそうだけど、動くまで(・・・・)速過ぎる。…まるで赤司君みたい。…もしかして、神城君も赤司君と同じ――」

 

「いや、あり得ねえ。神城は赤司のような眼は持ってねえ。それは何度もやり合った俺自身が1番よく解る」

 

桃井の仮説を青峰が否定する。

 

「じゃあ、今のはいったい…」

 

「分からねえ。だが、今の動き、まるで神城の時間だけがズレてる(・・・・・・・・・)かのような動きだった…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おいナッシュ! 何だ今のは!?」

 

アメリカで試合中継を見ている今のを見ていたニックが思わずナッシュに尋ねた。

 

「もしかして、ソラもナッシュやあの赤司(4番)と同じ――」

 

「違う。俺や赤司(4番)のとは別物だ」

 

アレンの言葉をナッシュが否定する。

 

「今、(サル)とそれ以外では時間の流れがズレてる」

 

「? どういう事だ?」

 

説明が理解出来なかったアレンが聞き返す。

 

「今、(サル)の視界では、周囲一帯がスローに視えてるはずだ」

 

「「…」」

 

「流れてる時間感覚が違うから、見え方が変わる。…高速の乗り物の中と外とじゃ、景色の見え方が変わんだろ? 理屈はそれと同じだ」

 

「な、なるほど。……そうか! だから、ソラは初見にも関わらず、ナッシュのパスに反応出来たり取れたりしたのか! その眼があったから!」

 

アメリカに空が短期留学した際、偶然、参加したジャバウォックの試合で、何の練習も打ち合わせも無しにナッシュのパスを取った事を思い出したニック。

 

「スゲーな。そんな眼があるなら、ソラは無敵じゃねえか!」

 

説明を聞いたニックが興奮する。

 

「(…いや、そうでもねえ)」

 

興奮するニックの言葉を、ナッシュは胸中で否定する。

 

「(あの眼を発動させるには集中力を100%の状態にする必要がある。だが、人間は余程の事がねえ限り、100%の状態、それも長い時間、集中力を維持するのは不可能だ)」

 

ここでナッシュは背もたれに体重を預ける。

 

「((サル)がこれまで自覚無しに偶発的にしかあの眼を発動出来なかったのはその為だ。今はゾーンの扉を開いて底にまで到達し、かつ試合終盤の危機的状況という、この2つの条件が揃わなきゃあの眼は発動出来ねえだろうな)」

 

ここでフンっとナッシュは鼻を鳴らす。

 

「(この俺が直々にテコ入れしてやってあの体たらくだ。今度あの(サル)が戻って来やがったら本格的に……ちっ、何でこの俺が…!)」

 

画面に映る空を苛立ち交じりに睨み付けるナッシュ。

 

「にしても、周囲と時間の流れがズレる眼ってのも凄いな。まるで神話みたいだな」

 

説明をひとしきり聞いたニックがそんな感想を漏らす。

 

「言い得て妙だな。仮に、あの眼に名前を付けるなら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――時空神の眼(クロノスアイ)…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山のオフェンス。赤司がフロントコートまでボールを運んで行く。

 

「スー…フー…」

 

待ち受けるのは空。空が大きく深呼吸をしながら集中力高め…。

 

「…っ」

 

赤司を見据える。空から発せられるプレッシャーを受け、赤司は胸中で圧倒される。

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司がパスを出す。同時に洛山の選手達が動き出し、閃きのパス(フラッシュパス)が始まる。

 

「(見える…。集中力が高めると、周りがゆっくり動いて見える…)」

 

先程同様、空以外の時間がゆっくりと動き出す。

 

「(ボールを回しながらゾーンディフェンスを乱し、フリーのスペースと選手を創り出す洛山の閃きのパス(フラッシュパス)…)」

 

空は冷静に洛山の選手達の動きを注視する。

 

「(見える…、視えるぜ、洛山(お前ら)の動きが。ラストパスは――)」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「(お前だ!)」

 

三村へと出されたパスを空がカットした。

 

『っ!?』

 

完璧と思われた洛山の閃きのパス(フラッシュパス)を、空に再びカットされ、洛山選手達は驚愕する。

 

「(パスは完璧だったはずだ!)」

 

「(何故取られるんだ!?)」

 

意志疎通は完璧で、決められたルートではなく、それぞれが独自に動き、独自にパスを出すパス。止められるはずがないパスを取られ、驚きを隠せない二宮と三村。

 

「速攻!」

 

ボールを拾った空がそのまま速攻をかけていく。

 

「行かせん!」

 

フロントコートまで駆け上がると、いち早くディフェンスに戻っていた赤司が待ち受ける。

 

「(これ以上はやらせん! お前の動きの先の…さらにその先を視る!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

赤司に対し、空はクロスオーバーを仕掛ける。

 

「…っ」

 

このクロスオーバーに赤司はすぐに対応。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後にすぐに反対にクロスオーバーで切り返す。

 

「キラークロスオーバー!!!」

 

ベンチの菅野が叫ぶ。

 

「(視えているぞ!)」

 

これを視えていた赤司が再度切り返されたボールに手を伸ばす。

 

「(赤司の勝ちだ!!!)」

 

切り返されたボールに伸ばす赤司の手を見て、四条が赤司の勝利を確信する。

 

「(これに反応するか。さすが赤司だぜ)」

 

高速で行われた空の2度のクロスオーバー。2度目の切り返しのボールに手を伸ばす赤司を見て、称賛の言葉を胸中で贈る空。

 

「(よく使われる、ありきたりな言葉だが、言わせてもらうぜ――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――止まって見えるぜ、赤司!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこからさらに切り返し、赤司の手をかわし、抜きさった。

 

「っ!?」

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)で先の先まで読んだ赤司。それでも空にかわされ、目を見開きながら驚愕した。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままリングまで突き進み、レイアップを決めた。

 

 

花月 96

洛山 98

 

 

『うおぉぉぉぉっ!!! 再び花月が食らいついて来た!!!』

 

『これはもう分かんねえよ!?』

 

目まぐるしく展開が変わる試合に、観客のボルテージこの試合、最高潮に上がる。

 

「よっしゃぁっ!!!」

 

バチン! と、大地とハイタッチを交わす空。

 

「(今ので確信した。今の動き、進化した俺の眼をも上回るその動き、奴は、俺と違う時間軸にいる…!)」

 

このワンプレーで、赤司も空に起こっている変化の正体を掴んだ。

 

「……ふぅ」

 

一息吐いて頭と精神を落ち着ける。

 

「(眼を1つにしても尚、圧倒出来ないか。さすが、俺達(・・)の好敵手だ。だが――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

赤司がゆっくりボールを運んで行く。

 

「(また閃きのパス(フラッシュパス)で来るか、それとも自ら仕掛けるか…。だが、無駄だぜ…)」

 

集中力を高め、集中の海の底へと沈んで行く。

 

「(…来た。周囲がゆっくりと動き始めた。今なら、どんなプレーや動きにも反応出来る)」

 

空が周囲一帯の時間がゆっくりと流れ始めた。

 

「(さあ来い、赤司!)」

 

「…」

 

100%集中し切った空のプレッシャーをその肌で受ける赤司。

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司がパスを出す。同時に動きだす洛山の選手達。

 

「(それ(フラッシュパス)で来たか。今の俺にはもう通じないぜ。どれだけ緻密に素早く動こうと…!)」

 

入れ替わり立ち代わり、絶えず動き回る洛山の選手達。ボールを回しながら時間をシュートチャンスを創っていく。

 

「(視えるぜ。最後、得点を決めて来るのは――っ!?)」

 

フィニッシャーを特定し、チェックに行こうとした空だったが、その最短コースを塞ぐように敵味方が密集していた。

 

「大した眼だ。こと1ON1なら俺の天帝の眼(エンペラー・アイ)より優れていると言ってもいい。だが…」

 

「しまっ――」

 

ボールを掴んだ赤司はスリーポイントラインのやや内側からジャンプショットを放った。

 

「どれだけコート全体の動きが視えていようと、どれだけ素早く反応出来ようと、先が視えている訳ではないのなら、やりようはある」

 

フォロースルーで掲げていた左手を下げる。

 

「勝つのは、俺達だ」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 96

洛山 100

 

 

『うぉぉぉぉー--っ! 赤司も譲らねえ!?』

 

『遂に大台の100点目!!!』

 

『残り1分を切ってこの状況での失点は痛い!!!』

 

起死回生の赤司の得点に、興奮する者、釘付けになる者、頭を抱える者と多種多様な観客達。

 

『…っ』

 

絶対に避けたかった失点を喫し、言葉を失う花月の選手達。

 

「…」

 

その場で立ち尽くす空。

 

赤司は今回の閃きのパス(フラッシュパス)で味方だけではなく、敵すらも操り、自身のシュートチェックを妨害する為のバリケードを作り上げていたのだ。

 

「…空」

 

立ち尽くす空を見かねて大地が声を掛ける。

 

「………ハハッ!」

 

「っ!?」

 

気落ちしていると思っていた大地だったが、予想に反し、空は笑い始めた。

 

「さすが赤司だ。そうでなくちゃ、面白くねえ」

 

「空…」

 

ひとしきり笑うと、大地に振り返る。

 

「まだ時間は残ってる。後一歩の所まで来てるんだ。絶対に勝つぞ」

 

一点の陰りもない表情で宣言する空。

 

「…フッ、当然です。勝ちましょう」

 

その言葉に笑顔で返す大地。今の1本で全く動揺していなかった訳ではない。空への声掛けは、自分自身の動揺を紛らわす為のものでもあった。だが、空の迷いも疑いもない屈託の笑みに、大地の中の不安と動揺を全て吹き飛ばした。

 

「おっしゃ! まずは次決めて次を止める。その次を決めて逆転だ。…行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の檄を飛ばすと、花月の選手達は会場中に響き渡る程の声で応えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

両チームの司令塔である空と赤司…。

 

2人の覚醒により、試合は絶えず傾きを変えるシーソーゲームとなった。

 

残り時間が1分を切る中、赤司が空を出し抜き、点差を伸ばした。

 

1歩前に出る赤司と洛山。不敵に笑う空と後を追う花月。

 

試合の勝敗を決める為の攻防が、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





コスタリカ戦の敗北でモチベーションが一気に下がり、続くスペイン戦の勝利でモチベーションが爆上がりしたのですが、週一投稿間に合わず…(;^ω^)

いやー惜しかった。ベスト8の壁は大きい。ですが、日本代表は胸を張って日本に帰ってきてほしい…っと、ワールドカップの話ばかりになってしまいましたね…(・ω・)

だいぶ昔から構想していた今回の話、正直、過去にもプロットと変更した所もあるのですが、今回の話はプロット通りやりました。賛否両論あるかもしれませんが、ご了承くだm(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!



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第187Q~ターニングポイント~


投稿します!

一気に寒くなってきましたね…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り43秒

 

 

花月 96

洛山 100

 

 

赤司の眼の覚醒により、窮地に陥る花月。しかし、空もまたその窮地によって覚醒し、再び食らいつく。花月が再び背中を捉えるかと思われたその時、赤司が空の隙を突き、点差を広げた。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを運ぶ空。当然、空の前には赤司が立ち塞がる。

 

「…ちっ」

 

思わず、空の口から舌打ちが飛び出る。

 

「(…くそっ、さっきまでのディフェンスと違う…!)」

 

赤司のディフェンスの変化に気付いた。変わらず赤司からのプレッシャーは感じるが、今までのボールを奪う為のディフェンスではなく、抜かせない事を第一と考えるディフェンスに切り替えたのだ。

 

如何に今の空であっても、天帝の眼(エンペラー・アイ)を進化させた赤司にドライブを警戒されてしまえば抜く事は至難の業。

 

「(時間がねえ、どうする!?)」

 

逆転する為には後2本決める必要がある為、一刻も早く得点を決めたい。しかし、目の前の赤司が抜けない。シュートを打とうにも、崩しも無しにシュートを打とうすればたちまちボールを奪われてしまうだろう。

 

「(…ちぃっ、何か手は――)」

 

「…」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

その時、空がキープするボールが赤司の手によって叩かれる。

 

「…っと!」

 

零れたボールを慌てて抑える空。

 

「(くそっ、ボールを奪う気は無くとも、ちょっとでも隙を見せればこれだ。嫌になるぜ…)」

 

パスターゲットを探そうと意識を僅かに周囲に向けた空。その僅かに生まれた隙を赤司は狙い打ったのだ。

 

「(マジで時間がねえ、どうする。イチかバチか仕掛けるか…どうする!?)」

 

試合の残り時間が30秒を切ろうとしていて、より一層、焦りが大きくなる空。

 

「…」

 

その様子を見て、空の焦りを感じ取った大地。

 

「空!」

 

大地が中へと走り込み、ボールを要求した。

 

「させるか!」

 

すぐさま四条が空と大地のパスコースを塞ぐ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

空はこのタイミングでノールックビハインドパスを出す。しかしボールは中へ走り込んだ大地ではなく、誰もいない真横に出した。

 

「(綾瀬へのパスではないのか!?)」

 

このパスを見て四条は意図を理解出来ず、混乱する。

 

「っ!? これは綾瀬へのパスだ!」

 

赤司が叫ぶ。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

大地が急停止をし、高速バックステップで後ろへと下がった。

 

『っ!?』

 

下がった大地はドンピシャのタイミングで空の放ったボールを掴んだ。

 

「しまった!」

 

「くそっ!」

 

慌てて三村と四条が大地のチェックに向かう。

 

 

――ピッ!!!

 

 

大地はブロックに飛んだ三村と四条の手から逃れるように後ろに飛びながらジャンプショットを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 98

洛山 100

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

『残り時間29秒で花月が決めたぁっ!!!』

 

起死回生の1本を決めた大地。同時に観客が沸き上がる。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、洛山!』

 

ここで、洛山のタイムアウトがコールされた。

 

「…ちっ、さくっとボールを奪ってもう1本行きたかったが、そうはさせてくれないか」

 

このタイムアウトを受けて、空は舌打ちをしながらベンチへと下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「妥当な判断だな」

 

このタイムアウトの判断を青峰は称賛する。

 

速くボールを奪ってもう1本決めなきゃいけない花月がオールコートディフェンスを仕掛けて来るのは自明の理。その阻止の意味も含め、ここでのタイムアウトは妥当だと青峰は見た。

 

「残り時間は30秒を切ってる。洛山はやっぱり…」

 

「まず間違いなく、24秒きっちり時間を使って攻めて来るだろうな」

 

桃井の予想に青峰は頷きながらそう断言した。

 

「…裏を掻いて早打ちしてくる可能性は?」

 

「洛山が負けてるならそれもありだろうが、リードしている今の状況ではそれはねえ。外せばみすみす花月に時間を与える事になるし、仮に決まっても、もうタイムアウトが残ってねえ洛山は神城と綾瀬の速攻で1本と、その後のオールコートで決められるリスクがあるからな」

 

「…だよね」

 

「洛山は…赤司は間違いなく、きっちり時間を使い切るまで打ってこねえだろうな」

 

24秒、きっちり使い切れば試合時間は残り5秒程しか残らない。赤司の性格を鑑みて、リスク覚悟でトドメを刺す選択より、確実に相手の勝機を潰す選択を取ると青峰は予想する。

 

「(何とか1本決めたが、依然として窮地なのは変わらねえ。…どうする? 神城)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウト終了のブザーが鳴り、選手達がコートへと戻って来る。

 

 

OUT 生嶋

 

IN  竜崎

 

 

洛山はメンバーチェンジ無し。花月は生嶋を代え、竜崎がコートに入った。

 

「(生嶋(5番)を代えて竜崎(10番)を投入してきたか…)」

 

横目で花月のメンバーチェンジを確認する赤司。

 

目的はディフェンス力のアップ。竜崎は生嶋より身体能力も運動量も高く、ディフェンスも上手い。

 

両チームの選手達がスローワーの二宮を残してコートに散らばっていく。

 

「ナンバーコール! 赤司(4番)!」

 

二宮(5番)!」

 

三村(6番)!」

 

四条(7番)!」

 

五河(8番)!」

 

空が声を上げると、それに続いて各選手達がそれぞれ背番号をコールをし、コールした選手をマークした。

 

「(ゾーンディフェンスからマンツ―にディフェンスを変えた?)」

 

花月はこれまでの2-3ゾーンディフェンスから各選手がそれぞれマークするマンツーマンディフェンスに切り替えて来た。

 

「…」

 

審判から二宮がボールを受け取る。二宮が赤司にパスを出すと、試合が再開された。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールを受け取った赤司はすぐにパスを出さず、ボールキープに努めた。

 

 

――24…23…。

 

 

「…っ」

 

赤司に対し、空が激しくプレッシャーをかける。

 

「…」

 

 

――ピッ!!!

 

 

プレッシャーをかけてディフェンスを空をかわしつつ、赤司は二宮にパスを出す。

 

 

――20…19…。

 

 

「おぉっ!」

 

二宮にボールが渡るのと同時に竜崎がチェックに入る。

 

「(…っと、試合に出たばかりなだけあって、気合い充分、動きにもキレがある。だが…!)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

竜崎の頭上から二宮がハイポストに立つ四条にパスを出す。

 

 

――17…16…。

 

 

「打たせへん!」

 

ボールを持った四条の背中に張り付くように天野がディフェンスに入る。

 

「…」

 

四条はポストアップで2、3度ドリブルをした後、ボールを外の三村に渡した。

 

 

――13…12…。

 

 

「…っ!」

 

三村にボールが渡ると、大地がすぐさまチェックに入る。

 

「…っと」

 

大地が迫ってくると、三村はすかさずボールを赤司に戻した。

 

『花月のディフェンス、スゲー気合い入ってる!』

 

『……けど』

 

『ボールが奪えない!』

 

打たせる間を与えないとばかりに花月はボールを持った洛山の各選手達に激しいプレッシャーをかけていくが、刻一刻と試合時間が減っていく中、ボールを奪えないでいた。

 

 

「やっぱり時間を使ってきた!」

 

桃井が声を上げる。

 

当初の予想通り、洛山は24秒をきっちり使い切る選択をしてきた。

 

 

「(…ちっ! 簡単にはボールを奪わせてくれないか!)」

 

ボールをキープする赤司。その赤司からボールを奪おうと激しいプレッシャーをかけるが、赤司はボールをキープし続ける。

 

 

――7…6…。

 

 

シュートクロックが確実に0へと近付いていく。

 

「…っ!」

 

空は時折、赤司にドライブ、あるいはシュートを打たせるようわざと隙を作って誘い出すも…。

 

「(その挑発には乗らない。きっちり時間は使い切る)」

 

「…ちっ」

 

誘いに乗って来ない赤司に思わず舌打ちをする空。

 

 

――5…4…。

 

 

「(赤司先輩にあそこまで引かれたらいくらキャプテンでも…。もはやファールも出来ない。こうなったら…!)」

 

確実に残り時間を浪費させられているこの状況に痺れを切らした竜崎がイチかバチか、赤司にダブルチームを仕掛ける。

 

「動くな!」

 

「っ!?」

 

竜崎が1歩踏み出そうとした瞬間、空が大声で制止する。

 

「余計な事はするな! しっかりマークしていろ!」

 

「…っ」

 

咎めるように空が告げる。

 

言い方はきついが、仕方のない事である。ダブルチームを仕掛けると言う事は、1人フリーにすると言う意味でもある。今の赤司、洛山にそれをすればたちまちフリーの選手にボールを繋げられてしまう。

 

「(諦めるな! 絶対に!)」

 

決死の表情で空はディフェンスに臨んだ。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

その後も赤司はボールキープを続けた。空が必死にボールを奪おうとするも赤司はそれを許さなかった。そして…。

 

 

――3…2…1…。

 

 

『ビビーーーーーーー!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!!!』

 

シュートクロックの数字が0になり、オーバータイムがコールされた。

 

『オーバータイムだ!!!』

 

『24秒使い切られた!?』

 

観客席から頭を抱えながら絶叫が上がる。

 

得点こそ許さなかったが、これで試合時間は残り5秒となってしまった。

 

「(よし! これで残り時間は後僅か、この試合、もらった!)」

 

勝利を確信した四条が拳を握る。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

その時、花月のタイムアウトがコールされた。

 

「…フゥ」

 

タイムアウトがコールされ、空がホッと一息吐いた。

 

「(っ!? そういう事か…!)」

 

それを見て、赤司は自分の失態に気付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『きっちり時間使われちまったな』

 

『残り時間たったの5秒だぜ?』

 

『もう決まったな』

 

ベンチに戻っていく選手達を見ながら、観客達は各々話し出す。口から出る内容は試合の結末。洛山勝利を確定するものばかりである。

 

「…」

 

口に出さないが、桃井も同じ感想なのか、無言でコートを見つめている。

 

「いや、まだ分からねえ」

 

「…えっ?」

 

しかし青峰は、そう断言した。

 

「今のオーバータイムで、試合は分からなくなった」

 

「どういう事?」

 

言葉の意味が理解出来ず、桃井が聞き返す。

 

「オーバータイムになれば時計が止まる。時計が止まればタイムアウトが取れる。そうなりゃ、どうなるよ?」

 

「えっと、タイムアウトが申請されれば1分間の休憩と作戦会議の時間が取れて――あっ!?」

 

そこまで口にした桃井は、ある事に気付いた。

 

「そうだ。タイムアウト終了後は、ハーフコート(・・・・・・)から試合が再開される」

 

通常、オーバータイム直後は、自陣のゴール下から試合が再開されるのだが、タイムアウト後は、ハーフコート、つまり、コートの真ん中から試合が再開される。それはボールをフロントコートまで運ぶ時間を省略出来ると言う事だ。

 

「赤司はシュートを外した時のカウンターのリスクを考えて、シュートクロックギリギリにシュートを打つ選択を選ばなかった。この選択が仇になるかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り時間5秒

 

 

花月 98

洛山 100

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウト終了のブザーが鳴り、選手達が戻って来る。

 

 

OUT 竜崎

 

IN  生嶋

 

 

花月はメンバーチェンジ。竜崎を下げ、再び生嶋を投入してきた。

 

「(やはり生嶋(5番)を戻して来たか…)」

 

タイムアウト時の作戦会議の予想した通りの交代を確認する赤司。

 

花月のスローワーとなる選手が審判からボールを受け取りに向かう。

 

『…っ!?』

 

スローワーとなった選手を見て、洛山の選手達は僅かに驚く。スローワーとなったのは、空だった。

 

「…」

 

受け取ったボールを空が手元で回していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(…予想していなかった訳ではないが、まさか神城にスローワーをやらせるとはな…)」

 

洛山のベンチの白金が花月ベンチの上杉に視線を向ける。

 

「(現役の頃から変わらんな。ここ一番でとんでもない奇策を選ぶお前の勝負師のような采配は…)」

 

かつては同じ全日本のユニフォームを着て世界と戦った2人。劣勢や窮地に立たされた時、上杉が提案をする作戦はいつも奇をてらうものばかりであった。

 

「(だが、その奇策は、何度もその苦難を打開するきっかけとなった。今回もまた思いもよらない手を打って来るはずだ)」

 

視線をコートに移し、顎に手を当てながら思案する。

 

白金が選手達に出した指示は、空か大地を徹底マーク。万が一、いずれかにボールが渡った場合、赤司以外の選手はファールで止める。であった。

 

「(間違いなく、決めに来るのは神城か綾瀬だ。仮に他の3人にボールが渡っても、シュートチャンスさえ与えなければ、少なくとも、残り時間を使い切れる…)」

 

ならば問題は、如何に空か大地にボールを掴ませ、シュートまで持って行くか…。

 

「(やれやれ、王道を好む私にとって詭道はもっとも不得手な道。私の経験では答えは出せん、か。…ならば、余計な指示は出さず、選手達に委ねる他ないか…)」

 

白金は指示を出さず、選手達を信じる選択をしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「2点差で残り5秒…。逆転するにはスリーかファールを貰って3点プレーが必要だけど…」

 

コートを凝視しながら呟く桃井。

 

「試合終盤とは言え、ここでみすみすフリースローをくれてやるほど洛山も馬鹿じゃねえだろ」

 

この状況で致命的なミス犯さないと青峰。

 

「だよね。…2点なら同点、延長だから最悪――」

 

「ダメだな。花月は化け物染みたスタミナを持っている神城と綾瀬がいる上、第2Qの大半、天野(7番)を温存させちまってる。対して、洛山はスタメン全員、試合開始から出ずっぱりだ。まず間違いなく、延長戦を戦い抜くだけの体力は残ってねえ」

 

延長戦イコール洛山の負けだと青峰は断言。

 

「2点か3点か…、どっちを選ぶかは分からねえが、決めにくるのは間違いなく、神城か綾瀬だ」

 

青峰は残り時間、5秒を残した両校の激戦の結末に注目したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

会場は、これまでの盛り上がりが嘘のように静まり返っている。この試合を見守る全員がその結末を固唾を飲んで見守っている。

 

「…」

 

スローワーとなった空がボールを構える。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

バッシュのスキール音が会場に響き渡る。花月の選手達が動き回り、洛山の選手達がそれを追ってマークする。

 

「…」

 

「…」

 

大地をマークするのは赤司。天帝の眼(エンペラー・アイ)を使って片時も大地のマークを外さず、空からのパスを貰う隙を与えない。

 

 

『(…ゴクリ)』

 

観客の1人が唾液で喉を鳴らす。

 

 

――キュッ!!!

 

 

その時、大地が動く。ハイポストの位置から一気にスリーポイントラインの外側へと猛ダッシュで移動する。

 

 

――ピッ!!!

 

 

大地の動きに合わせ、空がパスを出す。

 

動いた大地へのパスコースを、赤司が瞬時に塞ぎにかかる。

 

『っ!?』

 

その時、花月の選手達は目を見開いて驚愕する。

 

「っ!?」

 

赤司も同様であった。

 

空が出したパスは、手を伸ばしても届かない程の高い位置に出されたからだ。

 

「…っ」

 

高く上げられたボールに対し、大地はジャンプで飛び付きながら右手を伸ばす。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

大地の右手にボールが収まる。

 

 

――ブォン!!!

 

 

そのまま右手を振り下ろし、ボールを中へと投げ下ろした。投げ下ろされたボールの先には…。

 

『っ!?』

 

そこには、大地にパスを出した空がいた。空がハイポスト付近でボールを掴んだ。

 

「…くっ!?」

 

ここで赤司は花月の狙いに気付く。

 

空がスローワーとなれば当然、赤司は大地のマークに付く。花月で空を除けば唯一怖い存在だからだ。天帝の眼(エンペラー・アイ)を以てすれば、僅かなパスコースを開ける事も許さない。だが、如何にその赤司であっても、大地が届くギリギリに出されたパスは、例え視えていても、身長とジャンプ力で劣る赤司には取れない。

 

そうして、赤司を大地に釘付けにする事で空を赤司から引き離した状態でボールを掴ませた。

 

 

――4…。

 

 

「(ファールで止めるんだ!)」

 

四条が動く。タイムアウトで指示されたとおり、空に対し、ファールで止めにかかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ファールを狙う四条。空は目線のフェイクを入れた後、切り込んで四条をかわす。

 

「(ファールがダメなら、せめて、赤司が来るまで…!)」

 

続けて五河が空に迫る。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

四条をかわした直後、空はボールを掴み、ジノビリステップで五河をかわした。

 

 

――3…。

 

 

「…っ!」

 

シュート体勢に入る空。

 

 

――2…。

 

 

そんな空に、赤司が迫る。

 

四条と五河が、ボールを奪えないまでも、時間を稼いだ為、ギリギリ間に合う位置まできていた。

 

「(打つ前に追い付ける。フェイクなら見抜ける。俺の勝ちだ!!!)」

 

勝利を確信する赤司。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、空はシュートを中断し、リングに視線を向けたままパスを出した。

 

「(っ!? このパスコースは!?)」

 

赤司の自身の横を通過しようとするボールに右手を伸ばす。

 

「…っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――しかし、ボールは、赤司の伸ばして右手の指先の、僅か数㎝前を通過していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

ボールは、先程、空中で空にリターンパスを出した後、逆サイドのスリーポイントラインの外側まで移動した大地の手元に渡った。

 

 

――1…。

 

 

大地がボールを頭上へとリフトさせる。

 

「「…っ!」」

 

二宮と三村がボールを掴んだ大地の下へ一気に駆け寄り、ボールに対して手を伸ばす。

 

 

――ピッ!!!

 

 

大地は後ろへ飛び、二宮と三村のブロックの手をかわしながらボールをリリースした。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

リリースと同時に試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

 

 

 

審判が指を3本立てる。

 

 

 

 

 

放たれたボールの行方が、試合の勝敗を分ける。

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

会場にいる全ての者が、このボールの行方に注目を注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

ボールは弧を描いてリングへと向かい、落下。そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場に、ネットを潜り抜ける快音が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間、両校の激闘の幕が、閉じたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





何とか今年中にこの試合を終わらせる事が出来ました…(;^ω^)

って言うか、この試合の執筆始めたのって、まさに去年のこの時期なんですよね。まぁ、サボったものですorz

何もともあれ、書き終えられて良かった…(>_<)

気が付けば今年も後1週間…。今年もあっという間に残り僅かに…。恐らく、これが今年最後の投稿となると思います。次の投稿は、来年の、1月中に出来たらと思っています。今年もこの二次を読んでいただき、ありがとうございました…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!




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第188Q~脇役の矜持~


投稿します!

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします…m(_ _)m

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了

 

 

花月 101

洛山 100

 

 

大地のスリーが放ったスリーが決まり、両校の激闘は、花月の勝利で幕を閉じた。

 

 

『花月が勝った!!!』

 

『花月が夏のリベンジを果たしたぞ!!!』

 

『最強洛山を、花月が破った!!!』

 

この結末に、観客は大盛り上がりし、興奮している。

 

 

「うおぉぉぉぉっ!!!」

 

「勝ったぁっ!!!」

 

菅野と竜崎が抱き合いながら喜びを分かち合っている。

 

「やりましたよ、帆足先輩!」

 

「ヒック…ヒック…! よがっだ…!」

 

歓喜の表情で帆足の肩を叩く室井。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら帆足は勝利を喜んだ。

 

「きゃぁぁっ!!! 勝った! 勝ったよ姫ちゃん!!!」

 

「…うん! 良かった…!」

 

大興奮で姫川に抱き着く相川。対する姫川は薄っすら涙を浮かべながら喜びを噛みしめた。

 

「…よし。よくやった」

 

ベンチに腰掛けたままの上杉。両拳を握りしめながらポツリと選手達を労ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「やった…!」

 

コート上では、生嶋が両拳を握りしめながら勝利を喜び…。

 

「よーし!!!」

 

松永はガッツポーズをしながら喜びを露にした。

 

夏の敗戦。試合後に自分達の責任だと自らを責めた2人。その雪辱を果たせた喜びもあり、ひと際、喜びを露にしていた。

 

「はぁー…、何とか勝ったな」

 

深く溜息を吐く天野。勝利の喜びより、安堵の方が勝り、その表情は安心の表情であった。

 

「そうですね」

 

大地も同様であり、薄っすらと笑みを浮かべているが、それは勝利の笑みではなく、安堵の笑みであった。

 

「……空?」

 

ここで、大地は空に視線を移したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

茫然とする二宮。

 

「……くそっ!」

 

コートに両膝を突きながら床を強く叩き、悔しさを露にする三村。

 

「くっ…!」

 

両膝に手を突き、涙を流す四条。

 

「負けた…」

 

茫然とする五河。

 

それぞれが、負けた事を痛感し、悔しさを露にしていた。

 

「…」

 

赤司は腰に手を当てながら両目を瞑り、天を仰いでいた。

 

「届かなかった…か…」

 

ポツリと呟き、自身が負けた事実を噛みしめたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『101対100で、花月の勝ち! 礼!』

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内に集まった両校の選手達が整列し、挨拶を交わした。

 

「俺達の負けだ。…負けるなよ」

 

「はい! ありがとうございました!」

 

生嶋と二宮が握手を交わす。

 

「俺達に勝ったんだ、絶対優勝しろよ」

 

「もちろんです。ありがとうございました」

 

大地と三村が握手を交わす。

 

「悔しいが、俺達の負けだ。…勝てよ」

 

「当然や」

 

天野と四条が握手を交わす。

 

「夏の時とは見違える程、強くなっていた。この調子で優勝を掴み取ってくれ」

 

「はい。ありがとうございました!!!」

 

松永と五河が握手を交わした。

 

「…」

 

「…」

 

空と赤司が対峙している。両者共、無言で見つめ合っている。

 

「……随分と、不満そうな顔をしているな」

 

先に口を開いたのは赤司。試合に勝利したはずの空。その顔は不満そのもので、とても勝利した者の顔ではない。

 

「…試合には確かに勝った。だが、正直、あんたに勝ったとは思えねえ」

 

不満顔の理由を空が語る。スコア上では勝ったが、試合内容……個人の戦い、司令塔としては赤司が上回っていると思っている為、空は試合の勝利を素直に喜べないでいるのだ。

 

「試合の勝利は司令塔の勝利と言っても過言ではない。司令塔としても、紛れもなくお前の勝ちだよ」

 

そんな空に対し、赤司は苦笑しながら告げる。

 

「…」

 

その言葉を聞いても納得しない空。

 

「頑固な男だ。それ以上は俺を…、何より自分自身を侮辱するのと同じだ」

 

「…だー! 分かったよ。今日の所は俺の勝ちって事にしといてやるよ」

 

窘めるように言い放った赤司の言葉に、空は渋々納得したのだった。

 

「何はともあれ、これで1勝1敗だ」

 

「? 1勝2敗だろう?」

 

空の言葉に赤司が問いかける。

 

花月と洛山は空が入学してから3試合行われており、昨年の夏に花月が勝利し、今年の夏は洛山。今日の試合での花月の勝利。

 

「去年の夏のはノーカンだ。あれは三杉さんと堀田さんの力みたいなものだからな。だから1勝1敗だ。言っておくが、ここは譲らねえぞ」

 

「…フッ、分かったよ」

 

睨み付けながら言う空を見て、赤司は苦笑しながら了承した。

 

「また何処かでやろうぜ。そして次も勝つ。試合でも…、司令塔としてでもな」

 

そう言って、空は右手を差し出した。

 

「もちろんだ。次は負けない。司令塔としても…、試合でもだ」

 

差し出された右手を握り、握手を交わした。

 

こうして、健闘を称え合った2人。ベンチへと向かって行く赤司。

 

「…なあ、もう1人のあんたは――」

 

背中から赤司に尋ねる空。

 

「……最後に君と最高の戦いが出来て、満足していったよ」

 

赤司は立ち止まり、背中を向けたまま答えた。

 

「……そうか」

 

その言葉の真意を読み取った空は、ただただそう返した。

 

「負けるなよ、神城」

 

「言われるまでもねえよ。…あんたとやりあえて良かった。ありがとうございました、赤司さん(・・・・)

 

「…少しは年長者を敬えるようになったんだな」

 

皮肉交じりに告げる赤司。

 

「俺を何だと思ってるんだよ」

 

苦笑しながら返す空。

 

「フッ」

 

僅かに笑みを浮かべると、赤司は改めてベンチへと向かったのだった。

 

「…ああ負けねえよ。このまま頂点まで突き進んでやる」

 

赤司の背中に誓うように告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ。試合に出場した5人がベンチに戻って来る。

 

『…』

 

敗戦直後のベンチ。試合に出場した選手、控え問わず、表情は暗く、誰も口を開かない。

 

「今日の試合。負けた責任は全て俺にある」

 

最初に口を開いたのは赤司だった。

 

「俺が最後、オーバータイムを選んだ事が敗因の全てだ」

 

敗戦の責任を、赤司が全て引き受ける発言をした。

 

「お前1人の責任の訳がないだろ!」

 

その言葉に最初に反論したのは二宮。

 

「お前がいなきゃ、ここまで競る事も出来なかった」

 

「俺だって不甲斐ないプレーばかりだった」

 

「お前にそれを言われちゃ、ダブルチームでもまともに綾瀬を止められなかった俺なんてもっと立場がない」

 

「そうだ。お前の1人の責任じゃない」

 

二宮に続くように三村、四条、五河が続けた。他の選手達も同意見であり、同様の表情をしていた。

 

「皆の言う通りだ」

 

対戦相手の監督である、上杉との挨拶を済ませ、話を一部始終聞いていた白金がやってきた。

 

「例え、チームの主将であろうと、司令塔であろうと、お前1人が敗戦を責任を背負う等、烏滸がましいにも程があるぞ」

 

「…っ」

 

やや咎めるような白金の言葉に、赤司はバツの悪い表情をする。

 

「今日の試合の敗戦の責任は、全て監督である私にある」

 

赤司の前に立った白金がそう口にする。

 

「本来、このような言葉は好ましくないのだが、今日のお前達は強かった。花月はもちろん、今大会に参加しているどのチームより…、私がこの洛山高校の監督に就任してから見て来た中でどの代よりもだ」

 

『…』

 

「私がそんなお前達のポテンシャルを生かす事が出来なかった。故に、責任は全てこの私にある。…だから胸を張れ。お前達は、最高のプレーをしたのだ」

 

諭すように、白金は選手達に向けて言ったのだった。

 

「…っ、…はい…!」

 

その言葉に、赤司はその目に涙を浮かべながら返事をしたのだった。

 

「まだお前達の仕事は終わっていない。お前達の背中の後押しをしてくれた部員や観客達への挨拶が残っているぞ」

 

「…はい! 行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

白金に促され、赤司の号令と同時に試合に出場した選手及びベンチに座っていた選手達が観客席へ駆け寄り、横一列に並んだ。

 

「応援、ありがとうございました!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

赤司の声に続き、選手達が挨拶をし、頭を下げた。

 

『最高の試合だったぞ!』

 

『ナイスファイト!!!』

 

『感動する試合をありがとう!!!』

 

洛山の選手達に対し、観客席から惜しみない拍手と声援が贈られた。

 

『…っ』

 

暖かい拍手と声援を受け、選手達の瞳から再び涙が溢れだした。その拍手と声援を受けながら、洛山の選手達はコートから去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

コートのあるフロアから通用口を歩く洛山の選手達。

 

「赤司。今言う事じゃないかもしれないが…」

 

歩きながら、ふと、四条が口を開く。

 

「俺はな、キセキの世代(お前達)の事を恨んでいた」

 

「…」

 

「同じ世代に、何をどうしようと届かない化け物がいて、どんなに頑張ってもスタメンは奪えない。どんなに結果を出しても評価をされない、見向きもされない。どうして、あんな化け物達と同じ世代に生まれちまったんだって」

 

「…」

 

「だが、今は感謝してる。俺は、お前と…キセキの世代(お前達)とバスケが出来て良かった」

 

「同感だな。いつの間にか、恨みつらみなんかなくなって、夢中でバスケしてたな」

 

同調するように二宮が言う。

 

「ありがとな。お陰様で、張り合いのあるバスケ人生だったぜ」

 

笑みを浮かべながら三村。

 

「今までありがとう。今度は敵か、それとも味方かは分からんが、またバスケをしよう」

 

中学時代から今に至るまで、共に戦った4人の選手達が、赤司に感謝の言葉を述べた。

 

「…」

 

その言葉を胸に刻む赤司。

 

「…中学で、最強のチームメイトを得た」

 

『…』

 

「洛山に来て、頼りになるチームメイトを得た」

 

『…』

 

「…そして、最高の仲間を得た」

 

『…っ』

 

「ありがとう。共に長年、戦ってくれた事、研鑽を積んだ事、感謝の言葉しかない。…ありがとう」

 

赤司は、涙を流しながら、戦友達に感謝の言葉を贈ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

激闘を終えた両チームがコートを去った。それでも尚、拍手や声援が治まる事はなかった。

 

「凄い試合だったね」

 

観客席の桃井が青峰に対して呟く。

 

「…」

 

その感想に対し、青峰は特に答えなかった。

 

「試合の勝敗を分けたのって、やっぱり――」

 

「――ああ。あのオーバータイムだ」

 

桃井の言葉を割り込むように青峰が答える。

 

「赤司はカウンターのリスクを恐れて敢えてシュートを打たなかった。だが、もし打ってりゃ決まってたかもしれねえ。決まらずとも、リバウンドを抑えられれば勝っていた。仮にリバウンドボールを抑えられても、シュートを放ってからボールを確保するまでに1秒、場合によっては2秒は時間を浪費出来てただろうからな」

 

「…」

 

「最後のタイムアウトで、残り5秒を使って延長の策と逆転の策の2つを用意出来た花月が最後に洛山を上回った」

 

ラスト5秒。赤司から引き離した空にボールを掴ませた時点で花月の勝利はほぼ確定していた。仮に最後、赤司が空のチェックに向かわなかったら空がそのまま決めて延長戦。余力を残す花月が押し切っていたからだ。

 

「だがこんなのものは、ただの結果論だ。試合が終わった後のたらればに、毛程の価値もありゃしねえよ」

 

青峰はそう吐き捨てた。…まるでそれは、半ば自分に言い聞かすかのように。

 

「今日勝った花月の次の対戦相手は、これから始まる第2試合の勝者…」

 

コートに視線を向ける桃井。コート上では、多岐川東高校と田加良高校の選手達がそれぞれベンチに集まっていた。

 

「どっちが勝ち上がろうが、今の花月には同じだろ。…くぁ、さつきー、この次の試合が始まったら起こしてくれ」

 

第2試合の内容や結末には一切興味ない青峰。眠たそうに欠伸をすると、持っていた雑誌を広げて顔を覆い、寝始めた。

 

「もう! 大ちゃんたら!」

 

そんな青峰にプンスカ怒る桃井であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

第2試合が始まり、コート上では多岐川東と田加良の選手達がぶつかり合っている。

 

 

第3Q、残り6分16秒

 

 

多岐川東 32

田加良  38

 

 

現在、6点差で多岐川東がリードしている。

 

「Zzz…」

 

「…」

 

横で寝息を立てる青峰を余所に、桃井は試合を観戦している。

 

「(どっちもスコアが伸び悩んでる。この調子だと、さっきの試合みたいにならないかも…)」

 

先の花月と洛山の試合は、序盤こそロースコアゲームだったが、中盤からペースが上がり、最後は両チーム100点の大台に乗せるまで得点を重ねていた。今現在、コートで行われている多岐川東と田加良の試合はそうはならないと桃井は予想する。その根拠は…。

 

 

――ガン!!!

 

 

両校共、試合のペースが速くないのに加え、とにかくリングに嫌われる場面が多く見受けられる事が要因である。プロの試合でも、シュートが決まらず、スコアが伸び悩む事はままある事であり、学生バスケなら尚の事である。

 

「…」

 

試合を見つめる桃井だったが、会場のとある空気の変化を感じ取っていた。

 

 

――会場の熱が引いている。

 

 

眼に見えて会場の熱が冷めているのだ。もちろん、盛り上がっていない訳ではない。多岐川東にしても、田加良にしても、全国で戦うのに相応しい実力を兼ね備えている。だがやはり、キセキを擁するチーム同士が激突する試合に比べると、どうしても盛り上がりが欠けてしまう。

 

キセキの世代が現れて以来、バスケ人気が高まった。そのキセキの世代を打倒出来る誠凛や花月が続けて現れた事で更に加速した。キセキを冠する者達の、素人玄人問わず、プロと同等がそれ以上に見る者を圧倒あるいは魅了していた。

 

だが、その影で弊害も生んでいた。その弊害を受けたのは、キセキを冠する者のいないチームである。

 

 

――キセキなくして栄光はあり得ない。

 

 

この3年間で言われてきた言葉だ。キセキと言う、個で試合の流れどころか勝敗をも容易に変えてしまう存在。そんな存在に対抗出来るのは同じキセキを冠する者だけであり、それ以外の者では二人掛かり、はたまた三人掛かりでも止めらない。チーム全体の戦略すら無にしてしまう。

 

その為、キセキを冠する者のいないチームにとって、如何にキセキを擁するチームに当たらないかが全てであり、当たれば事実上の敗北である。

 

そしてこの会場の空気。先程の花月と洛山の試合に比べ、目に見えて盛り上がりの欠ける試合。どちらが勝とうと、次の花月に負ける事が予想出来る両チーム。キセキを擁する選手がいない者同士の試合で近年見られる光景。先程の試合の感想を語り合う者。スマートフォンを操作する者。食事やトイレ休憩の為に席を離れる者。キセキ人気に釣られて試合会場に来た者達の行動が多々見られる。

 

もちろん、両チームに対して歓声や声援を贈る者達も当然いる。むしろそちらの方が多いのだが、どうしても先の者達の方が目立ってしまい、その者達に影響されて熱が冷めてしまうのだ。

 

「(…やり辛いだろうなぁ)」

 

試合を観戦している桃井は、胸中で同情したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ガン!!!

 

 

コート上では、胡桃沢の放ったスリーがリングに嫌われた。

 

「…っ」

 

思わず表情を歪める胡桃沢。普段なら高確率で決めていたポジションからのスリーが今日は決まらない。

 

「(…ったく、嫌な空気だ)」

 

思わず胸中で毒づく胡桃沢。

 

会場の空気を一番に感じ取っているのは試合を行っている選手達であり、それがプレーにも顕著に表れていた。期待も関心もない。それがもろに伝わり、調子を下げる要因となっているのだ。

 

 

――ガン!!!

 

 

リバウンドを多岐川東が抑え、カウンター。多岐川東の主将であり、スコアラーでもある若林が強引に切り込み、強引に打ちにいったが、激しいブロックに阻まれ、決まらず。

 

「…っ」

 

影響を受けているのは多岐川東も同様であり、やはり何処か調子に乗り切れていない様子であった。

 

「(…ふぅ、この空気、何度体験しても慣れないな)」

 

袖で汗を拭いながら胸中で愚痴る若林。

 

昨年時から全国の舞台での試合出場経験のある若林。この試合の空気は過去にも経験済みだが、未だ慣れる事はない。

 

『…っ』

 

会場を覆う独特の空気を身に浴びて各自、苦々しい表情をする多岐川東、田加良の両選手達。

 

『たーきかわ!!! たーきかわ!!!』

 

『たーかーら!!! たーかーら!!!』

 

その時、会場の一角から一際大きな応援の言葉が上がり始めた。それは、両チームのベンチ入り出来なかった選手達及びその関係者達の一角だ。コートで試合している者達を鼓舞しようと、声を張り上げて応援していた。

 

『…っ!?』

 

その応援を一身に受け、思わずその一角に視線を向ける両校の選手達。そして思い出す。自分達は、コートはおろか、ベンチ入りも出来なかった者達の代表で試合に出ている事に。全国出場を果たせなかった県の代表チームとしてコートに立っている事に。それだけではなく、ここまで戦った全国の猛者達の無念と想いを背負っている事に…。

 

『…っ!』

 

次の瞬間、選手達の表情が変わった。

 

あらゆる無念と想いを背中に背負っている事を自覚した選手達。ここから、試合の流れが変わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

多岐川東の主将、若林のジャンプシュートが決まる。

 

「しゃぁっ!!!」

 

拳を握る若林。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

変わって田加良のオフェンス。主将胡桃沢の得意ポジションからのスリーが決まる。

 

「よーし!!!」

 

チームメイトとハイタッチを交わす胡桃沢。

 

 

第4Q、残り5分14秒

 

 

多岐川東 61

田加良  60

 

 

試合は激しい点の取り合いに変わっていた。

 

「(試合の空気が変わった…)」

 

これまでの停滞していた空気から一転、試合は目まぐるしく動いていた。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

選手達の熱を浴びてか、これまで関心のなかった観客達も試合に熱中し始めていた。

 

「…あん? 試合終わったのか?」

 

その空気を受けてか、青峰が顔から雑誌を取りながら起き始めた。

 

試合は両チームの主将を中心に、がむしゃらに勝利に向けてプレーしていた。

 

「1本! 絶対に決めるぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

「ディフェンス! 死んでも止めるぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

両主将の檄に、それぞれの選手達が応える。

 

…多岐川東。高知県の雄であり、全国常連の強豪校。ここ3年、成績だけなら一部のキセキを擁するチームを上回る。くじ運が良かっただけと揶揄される事もあるが、それでもキセキを擁するチーム以外なら勝ち切れるだけの強さがあるチーム。

 

…田加良高校。佐賀県の古豪であり、過去に全国出場実績のあるチーム。今年は佐賀県ナンバーワンシューターの胡桃沢を中心に、190㎝越えの選手4人を従えた陽泉に次ぐ強力のインサイドを誇る史上最強の布陣。

 

共に実力は全国出場するに恥じないチームであり、この時代でなければ全国の頂点に立てたかもしれないチーム同士。

 

「(負けねえ! 何が何でも!!!)」

 

「(勝つ! 花月と戦うのは俺達だ!!!)」

 

主将同士のマッチアップ。それぞれの意地がぶつかり合う。

 

…キセキを擁するチームが相手なら負けても悔しさは残っても何処か諦めも付く。だが、今現在の相手は条件は互いに同じ。それ故、絶対に負けたくない相手。

 

「おぉっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

若林の個人技からのダンクが炸裂すると…。

 

「フッ」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

お返しとばかりに胡桃沢のスリーが決まる。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

互いの全てを賭けた者同士のぶつかり合い。キセキを冠する者達のように派手さや美しさはないが、泥臭くとも勝利に向かってがむしゃらに邁進するその姿は、いつしか観客達の心を掴んでいった。そして…。

 

 

第4Q、残り9秒

 

 

多岐川東 74

田加良  75

 

 

残り時間は僅か。多岐川東のオフェンス。決めれば多岐川東が…、止めれば田加良の勝利である。

 

「はぁっ!!!」

 

中へ切り込んだ若林がハイポストのポジションでジャンプシュートを放つ。

 

『決めろぉっ!!!』

 

ベンチ及び観客席から願いを込めた魂の叫びが放たれる。

 

「させるかぁぁぁっ!!!」

 

それを阻止しようと胡桃沢が執念のブロックに飛ぶ。

 

リングに放たれるボール。勝敗を占うシュートがリングに向かって行く。

 

『…っ!』

 

そのボールの行方に、会場中の注目が集まる。

 

 

――ガン!!!

 

 

しかし、ボールはリングに嫌われてしまう。

 

「「まだだ!!! リバウンド、抑えろ!!!」」

 

両チームの主将から指示が飛ぶ。

 

『おぉっ!!!』

 

弾かれたボールに対し、ゴール下で集まる選手達が一斉に飛び付く。まだ試合終了のブザーは鳴っていない。多岐川東がこれを抑えればまだ逆転のチャンスは残っている。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

激しく身体をぶつけ合い、リバウンドを抑えたのは……田加良高校。

 

多岐川東の選手達がボールを奪おうとリバウンドを抑えた選手に群がる。だが、決してボールは渡すまいと田加良の選手は抗う。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

 

多岐川東 74

田加良  75

 

 

準決勝の2つ目の席に駒を進めたのは、田加良高校。試合の勝敗はリバウンドであり、全国で指折りのインサイドを誇る田加良高校が勝利を手繰り寄せた。

 

『75対74で、田加良高校の勝ち。礼!』

 

『ありがとうございました!!!』

 

健闘を称え合った両校が整列し、互いに挨拶を交わした。

 

「強かったぜ。言っとくが、準決勝、負けて当然の試合なんかしやがったらぶっ殺すからな」

 

「当たり前だ。俺達はまだ優勝を諦めた訳じゃねえんだからな」

 

互いにきつく握手を交わした。

 

 

『応援、ありがとうございました!!!』

 

自身の背中の後押しをしてくれた観客達に挨拶をする多岐川東の選手達。

 

「行くぞ。前座の俺達がいつまでもコートに居座るな」

 

自嘲気味に皮肉を交わすように指示を出す若林。

 

『良い試合だったぞ!!!』

 

『胸を張れ!!!』

 

『来年もまた来いよ!!!』

 

コートを去る直前、観客達から盛大にエールを贈られる多岐川東の選手達。

 

『…っ』

 

そのエールを受け、多岐川東の選手達は涙を流しながらコートを去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「良い試合だったね」

 

桃井がこの試合の感想を漏らす。

 

「…ふん。どうせ次で負けんだから興味ねえよ」

 

毒づく青峰だったが、今の試合の熱気に当てられたのか、何処か身体を疼かせていた。

 

「それより次だ」

 

「うん。海常と陽泉。きーちゃんとムッ君の対決」

 

続く第3試合。これから始まるのはキセキの世代、黄瀬が率いる海常高校と、紫原を擁する陽泉高校の試合。

 

「どっちが勝つかな? 去年は陽泉が勝ったけど…」

 

昨年の冬にも激突した両校。その時は陽泉勝利で終わった。

 

「去年はチームメイトに足を引っ張られて負けた感じだったからな。…まっ、黄瀬もただで負けなかったが…」

 

海常は、洛山に及ばなかったものの、黄瀬は紫原に傷跡を残しており、それが原因となり、陽泉は洛山に敗北した。

 

「戦力的にはほぼ互角だな。鍵になんのは、黄瀬と紫原。後は、あの2人だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ヤット試合ダヨ!」

 

陽泉のベンチにて、まだかまだかとはしゃぐアンリの姿が。

 

「アンリは相変わらずだな」

 

「ハハッ」

 

そんな姿に苦笑する永野と微笑ましく笑う渡辺。

 

「♪…♪」

 

ベンチに座ってボールを回しながら指の感触を確かめる木下。

 

「…」

 

その横で、紫原はタオルを頭に被りながら集中力を高めていた。

 

「そのままで良いから全員、話を聞け」

 

監督の荒木が注目を集める。

 

「相手は海常。言うまでもなく、強敵だ」

 

『…』

 

「スタメン、試合プラン共に変更はない。全身全霊を以て叩き潰せ」

 

『はい!!!』

 

荒木の指示に、選手達は大声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「良い試合じゃったのう。互いに意地をぶつけ合った本気のぶつかり合い、ワシらそうありたいものじゃ」

 

海常ベンチ…。多岐川東対田加良の試合の終盤を見ており、その熱に三枝も当てられていた。

 

「あんな試合見せらちゃ、熱くならなきゃ嘘だ」

 

「同感だな」

 

同様に小牧と末広もその熱に浮かされていた。

 

「…っ、…っ、…ふぅ」

 

その横で、氏原が屈伸運動をしながら身体を解していた。

 

「全員、こっちに注目しろ」

 

海常の監督である武内がベンチの前に立つ。

 

「今日の試合はこれまでとは違う。…まぁ、今更儂が言う事でもないがな」

 

『…』

 

「スタメンと作戦は前日のミーティングで決めた通り、変更はない。…三枝」

 

「ういッス!」

 

「作戦通り、紫原はお前に任せる。この試合の勝利の鍵は、お前にあると言っても過言ではない。…やれるな?」

 

視線を三枝に向け、尋ねる武内。

 

「ハッハッハッ! 当然じゃとも! 儂が陽泉諸共しごうしちゃるわい!」

 

拳をパチンと鳴らしながら三枝は返した。

 

「フッ、愚問だったな。では行くぞ。同じ相手に負けはいらん。行って来い!!!」

 

『おう!!!』

 

武内の檄に、選手達は応えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

激闘の第1試合、白熱の第2試合が終わり、遂に注目の第3試合がやってきた。

 

互いにキセキの世代を擁する海常と陽泉。

 

更にそのキセキの世代に追随する実力を誇る選手をも擁している。

 

この両校による、ベスト4を賭けた試合が、今始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





と言う訳で、2023年1本目の投稿です。

第2試合を半ばダイジェストでお送りしました。書きたい事を入れ込んだら思ったより長くなりましたが…(;^ω^)

次話から海常と陽泉の試合。大まかな展開は決めている者の、細かな試合描写がまだ練り込めていません。可能な限り早く投稿出来るように致します…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第189Q~下克上に向けて~


投稿します!

今週、えっぐい程に寒かった…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

第1試合、第2試合が終わり、注目の第3試合、海常高校対陽泉高校の試合がやってきた。

 

 

海常高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:黄瀬涼太 193㎝

 

5番SG:氏原晴喜 182㎝

 

8番PG:小牧拓馬 178㎝

 

10番PF:末広一也 194㎝

 

12番 C:三枝海  199㎝

 

 

『来た!!!』

 

『キセキの世代、黄瀬涼太を擁する、青の精鋭、海常高校!』

 

『ここまで攻守に渡った圧倒的な安定感で勝ち上がってきた強豪校だ!』

 

 

陽泉高校スターティングメンバー

 

4番PG:永野健司     181㎝

 

5番SG:木下秀治     192㎝

 

6番 C:紫原敦      211㎝

 

9番PF:渡辺一輝     201㎝

 

11番SF:アンリ・ムジャイ 193㎝

 

 

『対するは、同じキセキの世代、紫原敦を擁する、絶対防御(イージス)、陽泉高校!』

 

『ここまで無失点で勝ち上がってきた最強のディフェンス力を持つ、こちらも強豪校だ!』

 

盛り上がる観客。

 

 

スタメンに選ばれた両校の選手達がセンターサークル内に集まった。

 

「これより、海常高校対陽泉高校の試合を始めます」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

整列を終えると、黄瀬が紫原の下へ歩み寄る。

 

「コートの上で会うのは1年振りッスね、紫原っち」

 

「そーだねー」

 

黄瀬に話しかけられた紫原だったが、ぶっきらぼうに答える。

 

「今日は勝たせてもらうから、覚悟しておいてくれッス」

 

「…勝つのは俺だし」

 

宣戦布告をした黄瀬に対し、視線を黄瀬に向けながら紫原は返したのだった。

 

「ハッハッハッ! 久しいのう!」

 

そこへ、豪快に笑いながら三枝がやってきた。

 

「…」

 

紫原は三枝に視線を向ける。

 

「この試合を楽しみにしておったんじゃ。よろしゅーのう!」

 

そう言って、右手を差し出した。

 

「…あっそ。俺、お前に興味ないし」

 

その差し出された右手を無視し、紫原はその場を離れる。

 

「つれないのう。…まあよい。素質と口だけ(・・・・・)じゃった貴様が、どれほどマシになったか、見せてもらうとするかのう」

 

その言葉に、紫原は足をピタリと止める。

 

「…あっ?」

 

そして、三枝を睨み付けながら振り返った。その様子を見て三枝はニヤリと笑う。

 

「良いチームメイトじゃ。実に頼もしい者達が揃っておる。良かったのう。きっとまたお前を助けてくれるぞ?」

 

尚も三枝は挑発を続ける。

 

「…っ!」

 

この言葉にかつて、試合をした時の屈辱を思い出し、三枝の眼前に歩み寄る。

 

「うわぁ…それ紫原っちに絶対言っちゃダメな奴ッスよ」

 

過去に紫原と試合をした事を三枝から聞いていた黄瀬は三枝の挑発の言葉を聞いてハラハラとさせた。

 

「木吉鉄平とか、神城空とか、過去にもイラつく奴はいたけど、お前はその中でも飛びぬけて1番だわ」

 

三枝の傍まで歩み寄った紫原。

 

「――捻り潰す」

 

眼前で鋭い形相で睨み付けた。

 

「ハッハッハッ! ええ顔になったわ! …やれるもんならやってみぃ」

 

不敵な笑みを浮かべながら三枝も眼前に顔を寄せ、返した。

 

『…っ』

 

顔が触れ合う程に近付ける2人。まさに一触即発。喧嘩でも始めかねない空気を醸し出している両者の睨み合いに、海常、陽泉両選手達が思わず息を飲む。その時…。

 

「ヤアヤア! 君ト戦ウノヲ楽シミニシテタンダ。今日ハヨロシクネ!」

 

張り詰めた空気を余所に、アンリが黄瀬の下に駆け寄ると、にこやかに挨拶をすると同時に黄瀬の手を取ってブンブンとさせた。

 

「よ、よろしくッス」

 

周囲の空気にそぐわないアンリの行動に、黄瀬は戸惑いながらも挨拶を返した。

 

「…ちっ」

 

そんなアンリに水を差されたのか、紫原は舌打ちをしてその場を離れた。

 

「ハッハッハッ! なかなか面白い外国人じゃのう!」

 

対して三枝は特に気にする素振りはなく、アンリの行動を見て豪快に笑っていた。

 

「海っち~、試合前にああいうテンションは勘弁してくれッス」

 

咎めるように黄瀬が三枝に言う。

 

「ただの挨拶じゃ、あんなもん。…あ奴は気分屋なのじゃろう? 最初から本気でも来てもらわんとのう」

 

「…ハァ。とにかく、喧嘩は絶対ダメッスからね」

 

「心配せんでも喧嘩なんかせんわい。…何せ、センター同士の戦いは、喧嘩とは比較にならん程熱い戦いじゃ。そっちの方が断然の楽しめるってもんじゃ」

 

三枝が再度不敵に笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今、ムッ君と三枝君の空気がおかしかったけど、何があったんだろう」

 

観客席で紫原と三枝の一連の動きを見ていた桃井。

 

「何がって、見たまんまだろ。あの三枝って奴が、紫原に喧嘩売ったんだろ」

 

桃井の疑問に青峰がぶっきらぼうに答える。

 

「喧嘩売ったって、何の為に…」

 

「さあな」

 

分からないと答える青峰。

 

「(2年前の木吉や、今年の夏の神城の時みてーな作戦の為の挑発じゃねえ。あれはただ単に紫原に本気を出させる為だけに喧嘩売りやがったな)」

 

三枝の行動の意図を察した青峰。

 

「過去に対戦経験がある2人だけど、その時は試合ではムッ君のチームが勝ったみたいだけど、個人戦では三枝君が優勢だったんだよね」

 

自身の情報がまとめてあるノートをめくる桃井。

 

「つっても、ミニバス時代…それも、紫原がバスケを始めて間もない時の話だろ? 参考になるかよ」

 

過去の勝敗はあてにならないと情報を一蹴する青峰。

 

「(あの堀田って奴以外に、紫原と真っ向からやり合える奴がいるとは思えねえが、何処までやるかな…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

遂に試合開始の時が来る。センターサークル内に、両チームのジャンパー、紫原と三枝が審判を挟んで立つ。

 

「…」

 

「…」

 

三枝を睨み付ける紫原とその視線を受けて不敵に笑う三枝。

 

「…」

 

審判が双方に視線を配り、ボールを構え、高く上げられた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

ボールが上げられると同時にジャンパーの2人がボールに飛び付く。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

ジャンプボールを制したのは……紫原。

 

「(ぬぅっ!? さすがに高いのう!)」

 

身長もジャンプ力もある三枝だが、紫原はその更に上を行っており、三枝の上でボールを叩いた。

 

「ナイス紫原! …っし、行くぞ!」

 

ボールを抑えた永野がそのままドリブルを開始する。

 

「行かせませんよ!」

 

その永野に対し、すぐさま小牧が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

立ち塞がる小牧に対し、永野はクロスオーバー、レッグスルーを繰り出しながら揺さぶりをかけていく。

 

「…っ、…っ!」

 

永野の揺さぶりに付いていく小牧。

 

「(簡単には抜かせてくれないか…)…やるな」

 

「こっちは花月の神城を想定して練習してきたんでね。この程度じゃ抜かせませんよ」

 

互いに不敵に笑う。

 

「頼む!」

 

小牧を抜く事を諦めた永野がパスを出す。

 

 

『来た来た!』

 

『この試合注目のマッチアップが早速来た!』

 

パスの先を見た観客が沸き上がる。

 

 

「ハハッ! 勝負ダヨ!」

 

ボールを掴んだのはアンリ。

 

「よろしく。どのくらいうやるか、見せてもらうッスよ」

 

そのアンリに立ち塞がるのは、黄瀬。

 

「…」

 

「…」

 

楽しそうに笑みを浮かべるアンリと、不敵に笑う黄瀬。

 

 

――キュッキュッ…。

 

 

小刻みにボールを動かし、右足でジャブステップを踏みながら牽制するアンリと、アンリの一挙手一投足に合わせて身体を反応させる黄瀬。

 

「(ハハッ、凄イ! 隙ガ全然ナイヤ。ダッタラ…!)」

 

「(…来る!)」

 

意を決したアンリと、仕掛ける気配を感じ取った黄瀬。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

腰を落としたアンリが急発進、一気に加速し、仕掛ける。

 

「…っ」

 

同時に動き、アンリの動きに合わせて追走する黄瀬。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

1歩目はアンリの動きに付いていった黄瀬。しかし、2歩目、更に加速したアンリは、持ち前の歩幅を広くとるストライド走法で黄瀬をちぎり、振り切った。

 

 

『抜いたぁっ!!!』

 

『ファーストコンタクトはアンリの勝ちか!?』

 

 

黄瀬を抜いたアンリはグングンリングへと突き進み、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「(黄瀬さんが抜かれた!? だが、先取点はやらない!)…おぉっ!」

 

ヘルプに飛び出した末広がリングに向かったアンリのブロックに向かう。しかし…。

 

「(っ!? 嘘だろ!? 後に飛んだ俺が先に落ちる!?)」

 

アンリより後に飛び、ブロックに飛んだはずの末広。だが、依然として空中に舞っているアンリに対し、末広は落下を始めていた。

 

「先取点ハ、頂キダヨ!」

 

右手で掴んだボールをリングに叩きつける。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「…エッ!?」

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる直前、そのボールを叩き出されてしまう。

 

「貴様やるのう! じゃが、先取点はやれんのう」

 

「海さん!」

 

既に着地していた末広が笑みを浮かべる。

 

アンリがダンクするタイミングに合わせて、三枝がアンリの後ろからボールを叩き出したのだ。

 

「海さんナイスブロック! …速攻!」

 

ルーズボールを拾った末広が小牧にボールを渡し、海常のカウンター。

 

「(アンリをブロックするか!)…戻れ、ディフェンスだ!」

 

アンリのダンクを防いだ三枝に驚愕するも冷静に指示を出す永野。

 

「ここは通さん!」

 

先頭でボールを運ぶ小牧の前に、スリーポイントラインの手前でいち早く追い付いた永野立ち塞がる。

 

「行くぞ!」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

宣言と共に小牧は永野の手前で右から左へとクロスオーバー、直後に再度右へとクロスオーバーで切り返した。

 

「…っ!?」

 

スピードに乗った状態での小牧が得意の左右へのダブルクロスオーバー。しかし、永野は翻弄されず、冷静に1歩踏み出しながら左手を伸ばして進路を塞ぎ、小牧の足を止める。

 

「その程度か? 神城のはスピードもキレは今の比じゃねえぞ?」

 

不敵に永野は笑った。

 

小牧はワンマン速攻を諦め、その場でボールをキープしながら味方が攻め上がるのを待つ。海常の選手が攻め上がるのと同時に、陽泉の選手達も戻り、ディフェンスを構築する。

 

「1本、止めるぞ!!!」

 

陽泉のお家芸である2-3ゾーンディフェンスが敷かれるのと同時に主将の永野が両腕を広げながら声を上げ、チームを鼓舞する。

 

「(…さすが、190㎝代が2人に2m代が2人のゾーンディフェンス、映像でも感じたが、実際、目の当たりにすると半端じゃない迫力だ…)」

 

今大会ナンバーワンの平均身長を誇る陽泉のスタメン5人。高校バスケ随一のディフェンスを誇る陽泉のディフェンスからくる圧力に思わず圧倒される小牧。

 

「(うちの最初のオフェンス。ここを決めて流れは掴んでおきたい。何処から攻めて――っ、分かりました、では、頼みます!)」

 

どう攻めるか、ゲームメイクをしていた所、とある人物がボールを要求。一瞬、躊躇うも、小牧は意を決してパスを出した。

 

 

『おぉっ!!!』

 

パスが出された先を見て観客が沸き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「行くぞ!!!」

 

「来いよ、捻り潰してやる!」

 

小牧からローポストの三枝にボールが渡る。三枝の背中に張り付くように紫原がディフェンスに入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

三枝が背中をぶつけ、パワーで押し込み始める。

 

「…っ」

 

ポストアップの圧力に紫原の表情が僅かに曇る。

 

 

『うぉっ! スゲー当たり!』

 

気迫溢れる当たりに観客がどよめく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

再び背中をぶつける。

 

「…っ! 調子に乗るなよ…!」

 

激しい三枝の当たりに、紫原はその場で踏ん張って侵入を許さない。

 

「やるのう、ならば…!」

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

フロントターンで一気に侵入し…。

 

「ふん!」

 

そこからシュートを狙う。

 

「はぁっ!? それでかわしたつもりかよ!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

すぐさま紫原がブロックに飛び、ボールを挟んで2人の右手と右手がぶつかる。

 

「ちぃっ!」

 

足元に零れたボールをすぐさま三枝が拾う。

 

 

――スッ…。

 

 

直後にポンプフェイクを入れ、再びシュートを狙う。

 

「無駄だって言って――っ!?」

 

フェイクを見抜き、2度目のリフトに合わせてブロックに飛ぶ紫原。しかし、これもフェイク。三枝は飛んでいなかった。

 

「ふん!」

 

紫原が飛んだその後に三枝は改めてシュートを狙った。

 

「…っ! 決めさせるかよ!」

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

フェイクにかかっても尚、ブロックに飛ぶ紫原。空中で2人は激しく交錯する。

 

 

『ピピー------ッ!!!』

 

 

同時に審判が笛を吹く。

 

「…っ!」

 

 

――バス!!!

 

 

交錯して体勢を崩しながらも三枝はリングに向かってボールを放る。ボールはリングに当たり、その後、リングの周辺をクルクルと回り、リングの中心を潜り抜けた。

 

『ディフェンス、プッシング、白6番! バスケットカウントワンスロー!』

 

2人が着地したすぐ後に、審判が笛を口から放し、紫原のファールをコールした。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

『いきなりキセキの世代から得点を奪いやがった!?』

 

先制点をもぎ取った三枝に驚愕の声が上がる。

 

 

「…ちっ」

 

得点を防げず、しかもボーナススローまで与えてしまい、思わず舌打ちをする紫原。

 

「よーし!!!」

 

「ナイス海さん!」

 

三枝と末広がハイタッチを交わす。

 

「彼モ凄イ。アノアツシカラ得点ヲ奪ウトハ…」

 

先制のダンクを阻止され、直後に紫原から得点を奪った三枝に驚く隠せないアンリ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボーナススローをきっちり決め、3点プレーを三枝は成功させた。

 

 

海常 3

陽泉 0

 

 

『火神や神城、綾瀬だけじゃない…』

 

『紫原から得点を決めた三枝と、その前の黄瀬を抜いたアンリもスゲー!!!』

 

『この試合、キセキの世代だけじゃないぞ!?』

 

キセキの世代同士の戦いに当初、注目した観客達。その目当ての者を圧倒した2人の逸材に注目をし始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

その後も試合は白熱していく。中でも圧倒的な存在感を醸し出しているのは…。

 

 

――チッ…。

 

 

「…っ!」

 

小牧からハイポストでパスを受けた黄瀬が、ボールを掴んだのと同時にリングに向かって反転し、後ろに飛びながらクイックリリースでジャンプシュートを放つ。

 

「サセナイヨ!」

 

しかし、横から現れたアンリの伸ばした手の指先に僅かにボールが触れる。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールに触れた事で軌道が僅かにズレ、ボールはリングに弾かれた。

 

「おぉっ!」

 

リバウンドボールを末広を抑え込んだ渡辺が掴み取った。

 

「ナイスリバウンドダヨ、カズキ!」

 

「アンリこそ、ナイスブロック!」

 

ディフェンスリバウンドを制した渡辺にアンリが親指を立てながら労うと、渡辺も軽く手を振りながら返した。

 

「(マークは引き剥がしたつもりだったんスけど、まさか、あそこから間に合うんスか…)」

 

急旋回しながらカットの動きで自身をマークしているアンリを引き剥がした黄瀬だったが、シュート体勢に入ってボールをリリースした時には既にアンリのブロックがシュートコースを塞いでいた。

 

「(これが外国人特有の身体能力とバネ、と言った所ッスか…)」

 

 

ボールは渡辺から永野の渡り、永野がボールを運んで行く。

 

「紫原!」

 

フロントコートまでボールを運ぶと、永野はローポストに立った紫原にパスを出した。

 

「来いやぁっ!!!」

 

ボールを受けた紫原。その背中に立つのは三枝。威嚇するように三枝が声を張り上げた。

 

「うるさいな。言われなくても…!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを掴んだのと同時にドリブルを始める紫原。背中で三枝を押し込み始める。

 

 

『うぉっ! スゲー迫力!?』

 

その圧倒的な身長と身体能力でポストアップをする紫原のパワーは、傍から見ている観客にも伝わり、思わず歓声が上がる。

 

 

「…っ!?」

 

紫原の放たれる圧力に表情が一変する三枝。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

絶えず、ポストアップを続ける紫原。数々のディフェンスを蹴散らし、無にしてきた紫原の圧倒的なパワー。ダブルチーム…時にはトリプルチームさえ物ともしなかった紫原の単純にして最強のパワー。しかし…。

 

 

『…お、押し込めない…?』

 

観客からの戸惑いの声が上がる。

 

 

ポストアップでゴール下まで押し込む紫原だったが、三枝はその場で紫原を押し止めていた。

 

「…ぬ、おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

腰を落とし、表情を歪ませながらも侵入を食い止める三枝。

 

「…っ! うっざいな…、だったら!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

押し込めない事に痺れを切らした紫原はスピンムーブで反転、三枝の後方へと躍り出た。その後、ボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「それでかわしたつもりか!」

 

ボールをリングに叩きつける直前、後方から三枝が腕を伸ばし、ボールを叩き落とした。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

 

「ナイス海さん! …速攻!」

 

ルーズボールを拾った小牧がボールを運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合が始まり、内容は激闘を予想させる展開であった。その中でも存在感を露にしているのは、キセキの世代の2人ではなく、三枝とアンリであった。

 

『スゲー、陽泉の外国人、あの黄瀬を圧倒してるよ』

 

『海常の三枝だって、紫原を1人で相手にしてるぜ?』

 

『もしかして、互いにキセキの世代が下克上される展開もあり得るか!?』

 

双方、キセキの世代のマークを任された三枝とアンリがまさかの優勢で思わぬ期待が膨らむ観客達。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

海常 16

陽泉 14

 

 

海常が僅かのリードで第1Qが終了し、両校の選手達はそれぞれのベンチへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常ベンチ…。

 

「悪くない試合展開だ」

 

試合に出場した選手達がベンチに腰掛ける。その選手達の前に立った武内が選手達を労う。

 

「海さん、最高ですよ! あの紫原を圧倒していますよ!」

 

「ハッハッハッ! キセキの世代がなんぼのもんじゃい!」

 

三枝にタオルとドリンクを渡しながら労う海常の選手。三枝は豪快に笑い、周囲の者達を沸かせていた。

 

「(…まだ試合の4分の1が終わっただけなのに凄い汗の量ッス。余裕なんて全くないッスね)」

 

周囲が盛り上がる中、隣に座っていた黄瀬だけは冷静に三枝を見ていた。

 

余裕を振りまいている三枝だったが、黄瀬は気付いていた。三枝に余裕は全くなく、それどころかいっぱいいっぱいである事に…。

 

「安心せい」

 

そんな黄瀬の視線に気付いた三枝が、黄瀬だけに聞こえる声量で話しかけた。

 

「試合が終わるまで何としてでもあ奴はワシが抑えちゃるわ。じゃけぇ、そんな顔をしていらん心配させるな」

 

誰よりも状況を理解している三枝。上がっているチームの士気を下げない為にも黄瀬を窘める三枝。

 

「…っ、そうッスね」

 

そんな三枝の意図を察し、男気を理解した黄瀬は表情を改めた。

 

「それよりも、あの外人に随分と気前良くやられとるみたいじゃのう」

 

「いやいや、昨日のミーティングでも、第1Qは相手の力を測る為に様子を見るって言ったじゃないスか」

 

茶化すように咎める三枝に対し、黄瀬は唇を尖らせながら返す。

 

「ハッハッハッ! そうじゃったな、スマンスマン。…それで、どうなんじゃ?」

 

「それなら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉ベンチ…。

 

「順調とは言い難いが、悲観する事はない。想定の範囲内だ」

 

ベンチに座る陽泉の選手達。その前に立った荒木が指示を出していく。

 

「アンリ、あの黄瀬相手に見事だぜ」

 

「スゲーよお前!」

 

黄瀬をマッチアップしているアンリを労う永野と木下。

 

「任セテヨ! コノママ下克上? シテミセルヨ!」

 

次々と称賛の声をアンリにかけていく。

 

「(前二見タ彼ハコンナモノジャナカッタ。キット大変ナノハコレカラダ)」

 

当のアンリは、黄瀬がまだ本気ではない事を理解しており、笑顔を振りまきながらも気を引き締めていた。

 

「紫原、大丈夫か?」

 

「…んー、何がー?」

 

ドリンクを口にする紫原に、荒木が声を掛ける。

 

「三枝だ。かなりやられてるようだが?」

 

「…何その言い方ー? 最初の10分は様子を見ろって指示出したのまさこちんじゃん」

 

荒木の言い方にムッとしたのか、紫原は不機嫌そうに返事をした。

 

「まさこちんって呼ぶんじゃねえって言ってんだろ! …で、どうなんだ?」

 

自身の呼び名に激昂した荒木が持っていた竹刀で紫原の頭をしばいた。

 

「いたっ! …あー、それなら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ちょろいッスね」

 

「――あいつ、大した事無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

遂に火蓋が切られたこの日、もう1つの注目の試合である海常対陽泉の試合。

 

試合は双方の主力である、三枝、アンリがキセキの世代を圧倒する展開となった。

 

しかし、その双方共に、ここから先の激闘の予感を既にしていた。

 

ここから試合はどのように進み、どのような結末を迎えるのか…。

 

試合は、第2Qへと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





メインの試合ではないとは言え、キセキの世代を擁するチーム同士の対決。程々に話数で収めたいが、どうなる事やら…(>_<)

とりあえず、少し前の海常対秀徳戦程度か、出来ればもう少しギュッと纏めたいですね…(;^ω^)

紫原を見て改めて思ったのですが、正直、陽泉って、紫原のパワーと単独でやり合える奴がいないとメチャメチャ不利ですよね。最高到達点が火神以上の時点で、ディナイが通じず、ローポストに立たれた時点でほぼほぼ詰みで、ポストアップで押し込まれてダンクされたらどうしようもない。これで周囲が紫原以外雑魚なら人数かけまくってどうにか出来るかもしれませんが、残念な事に、原作では他にも2m代が2人に、単純な実力はゾーンに入っていないキセキの世代クラスの氷室がいる。これ、どうやって勝ったら良いんですかね…(;^ω^)

ぶっちゃけると、花月の室井総司ってキャラは、花月を陽泉に勝たせる為に考えたキャラでもあります。紫原のポストアップに耐えられるキャラがいれば、エクストラゲームでシルバーにやった対策が取れるからです。原作の紫原の、面倒くさがりで気が向くか本気にならないとオフェンスに参加しないと言う設定、当初は良いキャラ付けだなって思ったけど、今に思うと、紫原が緑間みたいに生真面目な性格で、試合開始から終了までオフェンスに参加されたら何処も勝てないからそのキャラ付けにしたんじゃって今は思っています…(;^ω^)

っと、こんな事を考える今日この頃です。この話を投稿が、再びネタを集めねば…(ノД`)・゜・。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第190Q~彼らのように~


投稿します!

雪凄かったなー…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

「~~っ! やっと終わったぁ…!」

 

大きく伸びをしながら歩く空。

 

花月の選手達はコートで行われている試合を観戦出来る観客席に向かって歩いている。

 

「お疲れです。…でも、1時間も反省ミーティングするのは予想外でしたね」

 

げんなりする空を横で励ます竜崎。

 

「勝利したとは言え、反省点がなかった訳ではありませんでしたからね。忘れない内に反省点を洗い出す事は大切な事です」

 

同じく空を励ます大地。

 

「お前早々に船漕いでたやないかい。…ところで、多岐川東と田加良の試合はどないなったんや?」

 

ジト目で空を見つつ、次の対戦相手を決める試合結果が気になる天野。

 

「田加良が勝ったみたいですよ」

 

「ほー、多岐川東負けたんかい。となると、準決の相手はあの摩天楼チームかい。明日も俺はしんどい試合になりそうやなー」

 

結果を松永から聞いた天野は顔を顰める。相手が高身長の選手が揃った田加良となると、その負担を受けるのはインサイドの一角を担う天野だからだ。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

 

その時、観客席に出る通路の先から、歓声が響き渡った。

 

「おー、盛り上がってんなー。今は第3試合だから、海常対陽泉の試合か」

 

「時間的に、今は第3Qの半ばくらいかな?」

 

空の言葉に、時計を見ながら補足する生嶋。

 

「どちらも強敵。キセキの世代と、その彼らと対抗出来る選手を擁するチーム。試合予想は、難しいですね」

 

夏に双方と戦った花月。その経験から経過を予測しようとした大地だったが、答えは出なかった。

 

「ま、どないな試合になっとるか、この目で確かめたろうやないか」

 

天野の言葉と同時に、花月の選手達はコートが一望出来る観客席のあるフロアに足を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

 

大歓声がコートを包み込む。

 

「…」

 

空が得点が表示されている電光掲示板に視線を向ける。

 

 

第3Q、残り4分33秒

 

 

海常 39

陽泉 42

 

 

「(3点差か…)…おっ?」

 

点差を確認した空は、ミーティングには参加せず、第2、第3試合のデータを取りにいち早く観客席に来ていた姫川を発見する。

 

「どんな感じ?」

 

「拮抗しているわ。どっちも流れを掴めない、掴ませない。きっかけが掴めないから完全にロースコアゲームよ」

 

となりに並んだ空に対し、姫川はコートに視線を向けたまま大まかな試合展開を説明する。

 

「…見た所、黄瀬にはアンリが、紫原には海兄が付いているのか。ここは?」

 

「第1Qこそ、キセキの世代が押されていたのだけれど、第2Qに入ってからは逆に2人が抑え込まれているわね」

 

「…っ、あの2人でもそうなのか」

 

三枝にしろアンリにしろ、その実力は確かであり、それは直接手を合わせた空自身が良く理解していた。

 

コート上では現在、陽泉のオフェンス。アンリがスリーポイントラインの外側、右45度付近に位置でボールを受けていた。そのアンリの目の前には黄瀬。

 

「さて、お手並み拝見させてもらいますかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「どうしたんスか? 打つなり抜くなりしたらどうスか?」

 

不敵な笑みを浮かべながら煽るように挑発する黄瀬。

 

「…クッ!」

 

対してアンリは表情は苦悶に満ちている。

 

アンリをマークをする黄瀬。ここで黄瀬は若干であるがアンリから距離を取る。

 

「打ちたいなら打っても構わないッスよ?」

 

スリーを打つように促す黄瀬。

 

「…ッ」

 

だが、アンリは打たない。いや、打てない。アンリはスリーは不得意であり、成功確率が低いからだ。

 

「そんなに俺を抜いて決めたいんスか? なら、望み通り…」

 

そう言うと、今度は黄瀬はアンリと距離を詰めた。

 

「ッ!? 舐メルナ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬の行動に激昂したアンリは感情のまま仕掛ける。

 

「またそれッスか? いい加減、見飽きたッスよ」

 

持ち前のアジリティーとスピードを活かしたドライブ。しかし、黄瀬は悠々と付いていく。

 

「…ッ! ダッタラ…!」

 

ここでボールを掴んでターンアラウンドで反転、ジャンプシュートの体勢に入る。

 

「そのスピードとアジリティーにジャンプ力。青峰っちと火神っちの良い所取りしたような身体能力は確かに脅威ッス。けど…」

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「ッ!?」

 

「君には火神っちのように外がなければ青峰っちのように左右の動きもない。慣れてしまえば止めるのは簡単ッス」

 

ボールを頭上にリフトさせようとした瞬間、黄瀬がボールを叩き落とした。

 

「身体能力頼りの一辺倒のオフェンスがいつまでも通用する程、バスケは甘くないッスよ。いっそ、陸上競技にでも転向したらどうッスか?」

 

零れたボールを拾いながら黄瀬は嘲るような言葉をアンリにかけた。

 

「…」

 

この言葉に、茫然とした表情となった。

 

「アンリ、ディフェンスだ! 戻れ!」

 

そんなアンリに渡辺が声をかける。

 

「(…紫原さんもきつい言葉を使う時はある。けど、あの人は悪意はない。だがこの人は…!)」

 

黄瀬に不快感を覚える渡辺。過去に、紫原に同等の言葉をかけられた事はあるが、紫原はその時その時に思った事を口に出すだけで、それ以上の感情はない事は理解していた。だが、黄瀬は明確に悪意を以てアンリを貶める言葉を吐いてる。どちらが質が悪いかはともかく、渡辺はそんな黄瀬の傲慢な態度と言葉に苛立ちを覚えた。

 

「…っ」

 

キッと黄瀬を睨み付ける渡辺。

 

「(…そんな睨み付けないでほしいッス。俺だって正直、気分は良くないッスから)」

 

そんな渡辺の視線を感じ取った黄瀬は思わず苦笑する。

 

黄瀬とて、アンリを貶めたいからでもなければ力を誇示して悦に入りたいた訳でもないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉のオフェンス。ローポストで紫原がボールを受ける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ」

 

紫原の背中に立つ三枝。紫原のポストアップを歯を食い縛りってその場で押し止め、ゴール下への侵入を阻止していた。

 

「…よく頑張るねー。…けど」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「無駄だけどね」

 

スピンムーブで三枝の背後へと高速で抜け、ボールを掴んだ。

 

「っ!? まだやぁっ!!!」

 

即座に反転し、紫原を追いかけ、ブロックに飛んだ。

 

 

『あの体勢から追いついた!?』

 

観客が騒めく。

 

 

紫原のダンクを阻止しようとする三枝。しかし…。

 

「っ!?」

 

紫原は右手でボールを掴むと、回転しながらリングに向かってジャンプする。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐおっ!」

 

ボールをリングに振り下ろす紫原。三枝のブロックを吹き飛ばしながらボールをリングへと叩きつけた。

 

 

『うおぉぉぉぉっ!!! 何だ今の!?』

 

そのダンクに観客が頭を抱えながら沸き上がった。

 

 

「今のお前じゃ相手にならないし。怪我する前に諦めるんだねー」

 

リングから手を放し、着地した紫原は、コートに尻餅を付いた三枝を見下すような表情でそんな言葉をかけ、ディフェンスに戻っていった。

 

「大丈夫ッスか?」

 

そんな三枝に駆け寄り、手を差し出す黄瀬。

 

「スマン! 次は絶対に抑えちゃるわい!」

 

手を取って立ち上がった三枝は謝罪をした。

 

「……見た事のないダンク。また厄介な技を出して来たもんッスね」

 

自陣に戻る紫原の背中を見つめながら呟く黄瀬。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

「…」

 

フロントコートへと駆け上がる三枝。その身体からは大量に汗が流れ、呼吸も乱れていた。そんな三枝を見やる黄瀬。

 

第1Qからは一転、紫原に抑え込まれ、止めきれない三枝。どちらが優れているかは誰の目から見ても明らか。

 

キセキの世代の中でも随一の資質を持つ紫原。インサイドに限定すれば、他のキセキの世代、それこそ火神を含めても、勝負にならないだろう。そんな紫原に対し、勝てないまでも勝負に持ち込めている三枝はそれだけでも充分過ぎる働きである。

 

もし、三枝がいなければ、点差はもっと開いていただろう。それだけではなく、黄瀬自身もかなりの消耗を強いられていた。去年の敗戦もそれが要因であった。その為、紫原を1人で相手取っている三枝に対し、感謝こそすれ、文句や不満は黄瀬に一切ない。

 

だが、今のままでは三枝はいつまで持つか分からない。三枝がコートに立てなくなった時点でリードがなければ昨年の二の舞になってしまう。だからこそ、黄瀬はアンリに対し、煽りや心無い言葉をぶつけ、ムキになって向かって来たアンリを叩き潰し、自分には勝てない事を心身に刻み付ける事で潰そうとしたのだ。

 

「もっとも、紫原っちも同じ考えっぽいッスけど…」

 

敢えて新技を出した紫原の狙いは自身と同じだと黄瀬は判断。

 

「…けど、やらせないッスよ。同じ相手に2度負けるのは御免被るッスからね」

 

集中を入れ直した黄瀬は、オフェンスへと向かったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…やっぱり、キセキの世代はスゲーな」

 

観客席の花月の選手達が集まる一角。菅野が冷や汗を流しながら感想を呟く。

 

「アンリにしろ、三枝にしろ、相当苦労したよな?」

 

「はい。アンリさん身体能力は規格外でした。途中でシュートエリアが狭い事を知って多少は楽になりましたが、それでも簡単な相手ではありませんでした」

 

「三枝さんは、身体能力もそうですが、テクニックも多彩で、正直、室井が消耗させてなければ相手になりませんでした」

 

菅野の問いかけに、マッチアップをした大地、松永がその時の事を思い出し、感想を口にする。

 

「あのアンリを完璧に抑え込んでる黄瀬もスゲーが、紫原のあのダンク…」

 

「恐らく、紫原さんの破壊の鉄槌(トールハンマー)を改良した新しい技、でしょうね」

 

今し方見せた紫原のダンク。姫川が私見を口にする。

 

「ローポストのポジションからスピンムーブでディフェンスの背後を取り、そこから回転しながらダンク。従来のボースハンドダンクとは違ってワンハンドダンクだからパワーは落ちるけど、落ちたパワーはスピンムーブの勢いを利用する事で補っています」

 

『…』

 

「それでもやはり片手だから従来よりパワーは落ちますが、相手は紫原さんのポストアップに耐えるのに全力を注いでいるからブロックに対応出来ない。仮に対応出来ても体勢は不十分になるからあのダンクは防げない…」

 

「…よー出来た技や。少なくとも、直に紫原をマークしとる奴はまず止められんやろな」

 

姫川の分析を聞いて天野が実に理に適っていると険しい表情で頷く。

 

「改良型と言えば、ドリブルの勢いを利用してよりパワーを加えた奴もありましたが、あれは使用できるシチュエーションがどうしても限られますが、これなら使い勝手が良さそうですね」

 

大地も天野の言葉に頷いた。

 

「先を見据えた技なのだろうな。このウィンターカップを勝ち抜くだけではなく、卒業後も見据えた、な」

 

『監督!』

 

そこへ、遅れて上杉がやってきた。

 

「この試合、勝敗の鍵を握るのは、キセキの世代ではなく、そのキセキの世代をマークする、アンリと三枝だろう」

 

胸のまで腕を組みながら意見を口にする。

 

「最後まで心が折れるか、あるいは体力の限界を迎えるか。いずれにしろ、先にコートに立てなくなったチームが負ける」

 

上杉はそう結論付けたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了

 

 

海常 47

陽泉 49

 

 

両チームの選手達がそれぞれのベンチへと向かって行った。

 

 

海常ベンチ…。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

息を切らしながらベンチに座る三枝。

 

「三枝! アイシングだ。後、栄養補給、すぐに準備しろ!」

 

三枝の様子を見た武内が迅速に指示を飛ばす。

 

「(…消耗が激しい、もはや限界寸前…いや超えているかもしれん。ここは1度ベンチに下げて回復に――)」

 

「…監督」

 

武内が控えの選手に準備をさせようとすると、三枝が制止する。

 

「監督も分かっちょるでしょう? ここで儂が下がったら負ける言う事は…」

 

「…っ」

 

三枝の指摘に武内は言葉を詰まらせる。

 

ここで三枝がいなくなれば紫原を抑えられる者が黄瀬しかおらず、その負担は黄瀬に降りかかる事になる。如何に黄瀬でも、紫原とこれまでマークしていたアンリの両方を相手取るのは困難であり、三枝がいない時間帯にリードを広げられるだけではなく、体力を大きく削られてしまう。

 

攻守においてバランスが取れている海常高校。強いて弱点を挙げるならインサイドである。技巧派の選手が多く、陽泉のようなシンプルな高さとパワーでゴリゴリに攻めて来るチームとは相性が悪く、昨年の敗因はインサイドで対抗出来なかった事に尽きる。

 

しかし、三枝の加入によって弱点はなくなり、むしろ強力な武器に変わった。それだけ、三枝の存在は今の海常には替えの効かない存在となっている。

 

「楽しなるのはここからじゃ。最後まで楽しませてもらわんとのう」

 

不敵に三枝は笑った。

 

『…っ』

 

その様子を見て、言葉を詰まらせる他の選手達。やせ我慢をしているのは傍から見ても明らか。だが、ここで三枝が下がれば海常はかなり不利になる。その為、何も言う事は出来なかった。

 

「(紫原敦、つよーなったもんや。ここまで資質に差があるとはのう。…じゃが絶対に諦めん。最後まで食らいつく。そうじゃろ? 空、大地…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉ベンチ…。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

選手達はベンチに座ると、水とタオルを受け取り、呼吸を整えながら水分補給をし、汗を拭っている。

 

「(状況は悪くはないが、きっかけ1つで良くも悪くもひっくり返りかねない。さて…)」

 

顎に手を当てながら残り10分をどう戦うか、監督の荒木が指示を出そうしたその時…。

 

「…アンリ?」

 

渡辺が隣に座るアンリに対し、心配そうに声をかける。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

大きく呼吸を乱しているアンリ。

 

「…っ、スゲー汗じゃねえか!?」

 

尋常じゃない、滝のように流れる汗を見て目を見開く永野。

 

「…っ、スタミナ切れか」

 

表情を曇らせながら呟く荒木。

 

「スタミナ切れって、アンリは決してスタミナが無いわけでは…!」

 

荒木の言葉を信じられない木下が疑問の声を上げる。

 

「…それだけ黄瀬のマークが効いたのだ」

 

その疑問に、荒木は苦々しい表情をしながら言葉を続ける。

 

「格上をマークすると言う事はそれだけ集中力を求められる。しかも黄瀬は要所要所でアンリを挑発していた。頭に血が上ると、普段と同じ動きをしているつもりでも無駄な力が入り、知らず知らずのうちに消耗させられる」

 

『…』

 

「しかも恐ろしいのは、頭に血が上っている間は自身の無駄な動きを自覚出来ないばかりか、限界を超えたとしても気付かない。頭を冷やすか、集中が切れた瞬間、身体は思い出したかのようにその代償を自覚してしまう」

 

『っ!?』

 

この言葉に選手達は目を見開く。

 

「(一時的にアンリを下げるか…、だが、アンリが下がって影響が出るのはオフェンス以上にディフェンスだ…)」

 

2-3ゾーンディフェンスが基本の陽泉のディフェンス。ゾーンディフェンスはスリーに弱い。海常にはスリーを打てる選手がシューターの氏原に加え、黄瀬もそこらのシューターよりスリーが打て、小牧にもスリーがある。

 

普段なら紫原のディフェンスエリアを信頼して前目にプレッシャーをかけているのだが、三枝と言う、紫原と1対1で対抗出来る選手がいる為、紫原はディフェンスエリアを狭めている。その狭めたディフェンスエリアをアンリが補っていたのだ。

 

「(やむを得ないか…)…立花――」

 

「…待ッタ!」

 

荒木が控えの立花に準備をさせようとした時、アンリがそれを制止した。

 

「ダイジョブダイジョブ。チョット休メバ動ケル。心配イラナイ」

 

笑みを浮かべるアンリ。

 

「最後マデ戦ウヨ。キセキノ世代ハ絶対抑エル。…任セテ!」

 

努めて明るく、普段と同じようにアンリは皆に告げた。

 

「……分かった」

 

その言葉に荒木は頷き、了承した。

 

「(負ケナイ。最後マデ諦メナイ。ドンナニ絶望的ナ状況デモ、ドンナニ身体ガボロボロデモ、諦メズニ戦ッタ空と大地(彼ラ)ノヨウニ…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両チームの選手達がコートへとやってくる。両チームとも選手交代はなし。

 

 

「ふん!」

 

「…っ」

 

ローポストでボールを受け取った三枝が背後に立つ紫原に背中をぶつけ、ポストアップを仕掛ける。

 

「おぉっ!」

 

フロントターンで強引に紫原の背後に移動し、シュート体勢に入る。

 

「はぁっ!? 無駄なんだよ!」

 

素早くこれに反応した紫原がブロックに向かう。

 

「っ!?」

 

しかし、三枝はボールを頭上にリフトさせた所でボールを止め、再度反転、フロントターンする前の位置まで戻り、再びシュート体勢に入る。

 

「無駄だって、言ってんだろ!」

 

フェイクに釣られた紫原だったが、持ち前の反射速度でこれに対応、再びブロックに飛び、三枝のシュートコースを塞いだ。

 

「なっ!?」

 

しかしこれもフェイク。再びフロントターンで紫原の背後に抜ける。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま三枝はゴール下に侵入し、得点を決めた。

 

 

海常 49

陽泉 49

 

 

『よーし!!!』

 

海常ベンチに選手達が立ち上がりながら拳を握る。

 

「ドリームシェイクか!?」

 

渡辺が目を見開きながら呟く。

 

多彩なムーブとステップワークで相手を翻弄する、かのNBAのレジェンドプレーヤーが使い、その名を文字って名付けられた技。

 

「もはや、資質ではお前さんには敵わんのう。…じゃが、バスケでは負けん…!」

 

「…っ、三枝…!」

 

得点を奪われた紫原は苦々しい表情で三枝を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

代わって、陽泉のオフェンス。永野がボールを運び、そこからアンリへ。

 

「…」

 

アンリが得意のスリーポイントラインの外側、右45度のポジションに立つアンリ。

 

「…」

 

目の前に立ち塞がるのは当然黄瀬。

 

「…っ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決したアンリが一気に加速、仕掛ける。

 

「懲りないッスね!」

 

ドライブを仕掛けたアンリに並走しながら追いかける黄瀬。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

直後にアンリが急ブレーキ。停止する。

 

「(止まった! 打たせ――っ!?)」

 

フルドライブからの急ブレーキ、そこからシュートと見た黄瀬がチェックに向かった。だが、アンリは腰の辺りでボールを一瞬止めただけでボールを掴んではいなかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ」

 

ここで再度急発進。シュートチェックの為に距離を詰めていた黄瀬はこれに対応出来ず、抜かれてしまう。

 

「ハァッ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

黄瀬を抜いた直後にボールを掴んでリングに向かって飛び、ボールを叩きつけた。

 

『いいぞアンリ!!!』

 

豪快なダンクに思わず陽泉ベンチの選手達が立ち上がる。

 

「負ケナイ。勝ッテモウ1度、決勝デ花月ト戦ウンダ!」

 

「…フゥ」

 

睨み付けながら告げるアンリ。黄瀬は思わず溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…はぁ、しぶといねー」

 

「…ふぅ、一筋縄では行かないッスね」

 

黄瀬と紫原が別々の場所でそれぞれ一息吐く。

 

「(黒ちんや火神、それに空と大地(あいつら)と同じ目…)」

 

「(どうやら、心を折るのは無理そうッスね)」

 

「(だったら――)」

 

「(それなら――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(試合に勝つしかないッスね(試合に勝つしかないねー))」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海常対陽泉の試合は、クライマックスに向かって激化していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





試合は一気に第4Qへ。長々とは書く訳にもあっさりと流す訳にも行かず、3話目に…(>_<)

何か、この試合の主役はキセキの世代ではなく、三枝とアンリになってる感が凄い。でもまあ、たまには良い……よね…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第191Q~限界ギリギリの…~


投稿します!

とうとう、花粉症のシーズンが来てしまったorz

目の痒み、鼻水、くしゃみと戦うか、薬の副作用で猛烈な眠気と倦怠感と戦うか、選ばなきゃならないとは…(>_<)

それではどうぞ!



 

 

 

『…』

 

コートへと続く通路を歩く選手達。

 

「行くわよ。今日の試合はこれまでとは違うわ。全員、もう1度気を引き締めなさい!」

 

先頭を歩く監督であるリコが後ろの選手達に向けて喝を入れる。

 

通路を歩いているのは誠凛の選手達。迫る目の前の試合の為にコートへと向かっていた。

 

「へいへい、昨日から耳が痛くなるほど聞いたっつうの」

 

そんなリコの喝に小指で耳の穴をほじりながらげんなりした表情で返事をする池永。

 

「てめえが1番心配なんだよ」

 

「いって!」

 

そんな池永の後頭部を叩く火神。

 

「…」

 

「…っ」

 

淡々と歩きながら集中力を高める新海と、緊張の面持ちで足を進めている田仲。

 

誠凛は今日の第4試合、鳳舞高校と対戦する。鳳舞高校は元キセキの世代、灰崎祥吾を擁する新設校であり、その他にも諸事情でバスケを続ける事が出来なくなった選手や、ワンマンチームで日の目を浴びる事の出来ない選手を集めて結成されたチームであり、創部2年、公式戦初参加で全国出場を果たしたチームである。

 

ここまでは危なげなく勝ち上がってきた誠凛高校であるが、準々決勝にて、全国でも指折りのチームとぶつかる事もあり、緊張感を高めている。

 

 

――おぉぉぉぉー--っ!!!

 

 

その時、通路の先、コートのあるフロアから観客の大歓声が漏れ響いた。

 

「盛り上がってますね…」

 

歩みを進めると共に徐々にボリュームが大きくなる歓声を聞いて朝日奈がポツリと呟く。

 

「海常と陽泉の試合だよな…」

 

「黄瀬と紫原のぶつかり合いか。どっちが上なんだろ?」

 

「他にも海常には三枝、陽泉にはアンリって、キセキの世代に匹敵する選手をそれぞれ擁してるんだよな」

 

降旗、河原、福田が予想とも感想とも取れる話をしている。

 

「…」

 

黒子は言葉を発せず、何やら思案している。

 

「あんた達、これから試合だって言ってるでしょ?」

 

そんな4人を窘めるリコ。

 

「(…けど、気になるのも無理ないわね。私も正直気になるし)」

 

今日の試合、勝てばいずれかと翌日に戦う為、リコも本音では気になっていた。

 

誠凛選手達は、各々思案しながらコートのあるフロアへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

 

通路を抜けると、会場の大歓声に込められた熱気が誠凛の選手達の肌をビリビリと震わせた。

 

 

第4Q、残り4分21秒

 

 

海常 58

陽泉 60

 

 

「…点差はほとんどねえな」

 

電光掲示板を見て、僅か2点差で陽泉がリードしている事を確認する火神。

 

「…」

 

黒子も一瞬、電光掲示板に視線を向けた後、すぐさまコートへと視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

ローポストでボールを受けた三枝が後方に立つ紫原に背中をぶつける。

 

「…っ」

 

その衝撃に僅かに歯を食い縛るも、ポストアップに耐え、その場で押し止める紫原。

 

「…むん!」

 

ボールを掴んで素早くフロントターンで反転、フックシュートの体勢に入る。

 

「っ!? この…!」

 

 

――チッ…。

 

 

ブロックに向かう紫原。先のドリームシェイクで翻弄された事もあり、僅かに反応が遅れるも、指先にボールが触れる。

 

 

――ガン!!!

 

 

紫原のブロックが功を奏し、ボールはリングに弾かれる。

 

「…ちぃっ!」

 

決め切れず、悔しがる三枝。

 

「任せるッス!」

 

 

――ポン…。

 

 

弾かれたボールに黄瀬が飛び込み、タップで押し込んだ。

 

 

海常 60

陽泉 60

 

 

『よーし!!!』

 

黄瀬のリカバリーに、海常ベンチの選手達が立ち上がりながら拳を握る。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

代わって陽泉のオフェンス。右45度、得意のポジションでボールを受けたアンリがドライブを仕掛ける。

 

「…っ」

 

このドライブに黄瀬は対応、遅れずにピッタリと付いていく。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

直後に急停止し、そこからボールを掴んでターンアラウンドで反転。すぐさまフェイダウェイで後方に飛びながらシュート体勢に入る。

 

「…っ、おぉっ!」

 

 

――チッ…。

 

 

逃げるようにジャンプシュートを放つアンリ。ブロックに飛んだ黄瀬が手を伸ばすと、指先に僅かにボールが触れた。

 

 

――ガン!!!

 

 

その甲斐もあり、ボールはリングに嫌われる。

 

「…よし! リバ――」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ゴール下でポジション取りに現れた末広がリバウンドを抑えようとしたその時、誰よりも先に紫原がボールを空中で掴み、そのままリングに叩きこんだ。

 

 

海常 60

陽泉 62

 

 

『よっしゃー!!!』

 

リバウンドダンクを叩き込んだ紫原。陽泉ベンチの選手達が立ち上がった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一進一退、両校一歩も引かない試合展開…。

 

「ぬおぉぉぉっ!!!」

 

ポストアップでゴール下まで押し込もうとする紫原。対して三枝は雄叫びを上げながらその場で押し止める。

 

「(…っ!? こいつ…!?)」

 

渾身の力で背中をぶつける紫原だったが、押し込む事が出来なかった。

 

 

『紫原が押し込めない!?』

 

『パワーなら紫原が上なのに…!』

 

『もう三枝の体力だって限界なはずなのに何処にあんな力が!?』

 

規格外のパワーで仕掛ける紫原のポストアップを押し返す三枝を見て驚きを隠せない観客達。

 

「…っ、ベルセルク? けど、あれは…」

 

桃井が三枝を見てある考えに辿り着く。

 

…モードベルセルク。

 

試合中に突如として力任せのプレースタイルに切り替わった三枝を指す相称。しかし、このプレースタイルは身体能力が増す代わりに視野が狭くなる上に熱くなりやすく、繊細なテクニックが出来なくなるデメリットもある。

 

しかし、ここまでの三枝は試合当初からのテクニックも健在で、周りも見えており、とてもではないが熱くなり過ぎている様子もない。

 

「確かに、あのモードは一長一短だ。夏の花月との試合ではまさにその欠点を突かれる形となった」

 

海常ベンチの武内が胸の前で腕を組みながら喋り出す。

 

「その失敗と敗戦を経て、三枝は普段の状態のままあのモードを融合させる事が出来るようなった。だから儂は、紫原を三枝1人に任せたのだ」

 

 

「紫原! もうすぐ3秒だ!」

 

オーバータイムが迫り、永野が声を出す。

 

「…くそっ!」

 

悔しがりながら仕方なくボールを永野に戻す。

 

 

『ビビーーーーーーー!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!!!』

 

このオフェンスでは陽泉は攻めきれず、オーバータイムとなった。

 

 

オーバータイムにより、オフェンスが切り替わり、海常のオフェンス。早々に黄瀬にボールを託す。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

持ち前のテクニックで目の前のアンリを抜きにかかる黄瀬。

 

「(…テクニックデハ勝負ニナラナイ。読ミ合イデモ勝テナイ。ダッタラ、何モ考エズニ集中シテ食ライツク!)」

 

考える事を止め、ただただ自身の身体能力のみで食らいつくアンリ。

 

「…っ」

 

揺さぶりをかける黄瀬だったが、アンリの無心の策が功を奏し、抜き切れずにいた。

 

 

「…あの黄瀬が攻めあぐねとるな」

 

揺さぶりをかけてはいるが、一向にアンリを抜きにかからない黄瀬を見て天野が呟く。

 

「…っ、スゲー気迫だ。もしかしてよう、アンリの奴、ゾーンに入ってんのか?」

 

黄瀬を躊躇わせるアンリに菅野が思わず口にする。

 

「いえ、あの感じはゾーンに入ってる訳じゃないですね。…ですが、ゾーン並に集中はしてますね」

 

ゾーンは否定するも、集中力の高さを指摘する空。

 

「…なるほど、あれは仕掛け辛いですね」

 

アンリのディフェンスを見て、大地がポツリと感想を述べた。

 

「彼は読み合いを捨て、相手の動きを見て食らいつくディフェンスに切り替えたようです」

 

「空坊がよくやるやつやな。けど、あれはアホみたいなスピードと反射速度がある空坊やから出来る芸当ちゃうんか?」

 

「確かに、アンリさんには空程の反射速度はありません。ですが、彼には空より身長がありますし、何より、驚異的なアジリティーに跳躍力、それにバネがあります。それで補っているのでしょう」

 

天野の疑問に大地が答えていく。

 

「充分にマークを引き剥がすか、しっかり崩せないとたちまち距離を詰められてしまいますから迂闊にシュート体勢に入れません。…もっとも、空の場合は引き剥がそうとも崩そうともすぐに詰めてきますが」

 

皮肉交じりの苦笑をしながら空に視線を向ける大地だった。

 

 

「…」

 

アンリの身体能力を押し出したディフェンスに苦戦する黄瀬。

 

「(埒が明かないッスね。…だったら!)」

 

意を決してボールを掴む黄瀬。

 

 

――スッ…。

 

 

すると同時に、黄瀬とアンリとの間にスペースが出来る。

 

 

「あれって、日向先輩の不可侵のシュート(バリアジャンパー)!?」

 

見覚えのある技に誠凛の降旗が思わず声を上げる。

 

 

――不可侵のシュート(バリアジャンパー)…。

 

 

誠凛の前主将、日向順平の得意技であり、重心移動を利用して自身とディフェンスとの間にスペースを作り、シュートチャンスを作り出す技。

 

「ッ!?」

 

驚愕の表情のアンリ。

 

瞬発力が特別ある訳ではない日向でも脅威であるこの技、黄瀬が使えばより破壊力が増す。アンリとの間にスペースが出来た事で黄瀬はシュート体勢に入る。

 

「…ッ、オォォォォォッ!!!」

 

しかし、アンリは雄叫びと共に生まれた距離を潰し、ブロックに飛ぶ。

 

「っ!?」

 

持ち前のアジリティーとバネでアンリに一瞬で距離を潰され、シュートコースを塞がれた黄瀬。

 

「…っ」

 

完全にシュートコースを塞がれた黄瀬はやむを得ず、パスに切り替えた。

 

 

『ビビーーーーーーーッ!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!!!』

 

結局、海常は決め切れず、オーバータイムとなってしまう。

 

 

『うわー! 攻撃失敗!』

 

『どっちも譲らねえ!』

 

互いに得点を許さない強固なディフェンスに観客は思わず溜息。

 

「スゲー、キセキの世代と互角やり合ってる…!」

 

三枝とアンリがそれぞれ紫原と黄瀬の攻撃を止めた事を驚く福田。

 

「……いや」

 

その言葉に、火神は眉を顰めながら否定する。

 

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

紫原がスピンムーブで三枝の背後に抜ける。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「がっ!!!」

 

そのままボールを掴み、回転しながらリングに向かって飛び、ブロックに来た三枝を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

海常のオフェンス。ボールを受けた黄瀬が仕掛ける。

 

「…ッ!」

 

即座にアンリが黄瀬を追いかける。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

仕掛けた直後に黄瀬が急停止。ボールを掴んで後方にステップバック。ステップバックを踏んだ足で後方に飛びながらシュート体勢に入った。

 

「…クッ!」

 

すぐさま距離を詰めるアンリだったが…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

クイックリリースで放たれたフェイダウェイシュート。アンリの伸ばした手は間に合わず、放たれたボールがリングを潜り抜けた。

 

 

「確かに、三枝もアンリもキセキの世代相手に健闘してる。…だが、それでも黄瀬と紫原には届かねえ」

 

火神が鋭い視線をコートに贈る。

 

「高校進学直後のキセキの世代だったら、まだ付け入る隙はあったかもしれないけど、キャリアを積んで、名実共にチームを背負っている今の彼ら相手では、同格の選手でなければ張り合えない」

 

リコも火神の言葉に賛同する。

 

「どっちも1歩も引かない。この試合、どっちが勝つんだろう…」

 

純粋な疑問を投げかける田仲。

 

「…」

 

リコは顎に手を当て、暫し考えた後…。

 

「正直、こればっかりは、試合が終わってみるまで分からないわ」

 

答えは出ず、すぐ先に出る結果に答えを委ねたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も海常、陽泉共に1歩も引かない試合展開のまま、試合は終盤まで進んだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

小牧がスリーポイントラインのやや内側でジャンプシュートを決めた。

 

 

第4Q、残り16秒。

 

 

海常 70

陽泉 70

 

 

「いいぞ小牧!」

 

「うす! キャプテンもナイスパスです」

 

得点を決めた小牧に対し、氏原が肩を叩きながら労う。小牧は黄瀬に対し、親指を立てる。

 

黄瀬がアンリを抜きさり、そのまま切り込んで紫原をギリギリまで引き付けてから小牧にパスを出し、そのパスを受けた小牧がそれを確実に決めたのだ。

 

「ディフェンスだ! 全員、力を振り絞れ!」

 

ベンチの武内が立ち上がり、大声で選手達に檄を飛ばした。

 

「…っ!」

 

「…っ!」

 

ボールを運ぶ永野に対し、小牧が激しくプレッシャーをかける。

 

『…っ!』

 

他の選手達も、疲労が溜まっている身体を奮い立たせ、動き回る。

 

この陽泉のオフェンスを止める事が出来なければ海常の負けはほぼ決定する。その為、集中力を最大にしてそれぞれ当たっている。

 

「(行って下さい!)」

 

その時、渡辺がスクリーンに向かい、永野に合図を出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(サンキュー渡辺!)」

 

「っ!?」

 

中に切り込む永野。小牧はスクリーンに捕まってしまう。

 

「くそっ!」

 

すかさず末広がヘルプに飛び出す。

 

 

――スッ…。

 

 

切り込んだ永野は末広に駆け寄られる前に外にパスを出す。

 

「っし!」

 

スリーポイントラインの外側に展開していた木下にボールが渡る。

 

「させっか!」

 

スリー阻止の為、氏原がすぐさま木下との距離を詰める。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

氏原がやってくると、木下はボールを弾ませながら中にボールを入れた。

 

 

『来た!!!』

 

観客が騒めき立つ。

 

 

ボールはローポストに立っていた紫原の手に渡る。

 

「(まずい!?)」

 

黄瀬が慌てて紫原のチェックに向かう。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

紫原には三枝が付いてはいるが、もはや限界ギリギリ…いや、超えている。そんな三枝では紫原は防げない。

 

「(…チラリ)」

 

その時、紫原がチラリとアンリに視線を向ける。

 

「っ!?」

 

これに、黄瀬が僅かに足を止めてしまう。ここでフリーにしたアンリにパスを出されてしまえばいくら黄瀬でも間に合わない。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、紫原は直後にスピンムーブで三枝の背後に抜けた。

 

「(しまった!?)」

 

ここで黄瀬は自身の失態に気付いた。

 

紫原の性格を考えれば、試合最終版、それも試合を決定付ける場面でパスを出す事はあり得ない。普段の黄瀬であれば気付いていただろうが、疲労が溜まっているこの局面で判断能力が落ちていたのか、紫原の視線にフェイクに反応してしまい、足を止めてしまった。

 

 

『うわー! もう紫原は止められない、決まった!!!』

 

観客も陽泉の勝利を確信する。

 

 

ボールを掴んだ紫原が回転しながらリングに向かって飛ぶ。

 

「…っ! 決めさせるかい!!!」

 

三枝が反転、ブロックに向かう。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

新型の破壊の鉄槌(トールハンマー)…。紫原の右手と三枝の左手がボールを挟んでぶつかり合う。

 

「っ!?」

 

やはり、紫原のパワーが上回っており、徐々にリングの方へボールが押されていく。

 

「(…これを決められたら終いじゃ! 何としてでもこのダンクを止めるんじゃ!)」

 

全身から力をかき集める三枝。

 

「(捻りだすんじゃ、例え、チームに在籍した日数は少なくとも、試合に賭ける思いは同じ! 動けんようなってもええ! 最後の1滴まで力を捻り出すんじゃ!)」

 

紫原に振れていた均衡が止まる。

 

「おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

 

――バチィン!!!

 

 

「っ!?」

 

雄叫びを上げながらブロックに伸ばした左手に力を集約、絞り出した三枝。ボールは紫原の手から零れ落ちた。

 

 

――ガン!!!

 

 

零れたボールはリングに弾かれた。

 

「「リバウンド!!!」」

 

両ベンチの監督、武内と荒木が声を張り上げる。

 

「…っ」

 

「ちぃっ!」

 

リバウンド争いを始めた末広と渡辺。ポジション争いは体格に勝る渡辺に軍配が上がる。

 

「「…っ!」」

 

両者、弾かれたボールに向かって飛ぶ。やはり、絶好のポジションを取った渡辺の方がボールに近く、ボールに両手を伸ばす。

 

「(ここを取られたお終いだ! 何としてでも…!)…おぉっ!!!」

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

ボールが渡辺の両手に収まるより先に、末広は右手を伸ばしボールに触れ、チップアウト。ボールは別の所へ飛んでいく。

 

「ナイス一也! キャプテン!」

 

ルーズボールを抑えた小牧はすぐさま前線へ縦パス。

 

「みんな最高ッスよ!」

 

そこには、既に速攻に走っていた黄瀬の姿があった。

 

『っ!?』

 

まさかのターンオーバー。速攻に走る黄瀬にボールが渡り、陽泉の選手達の目が見開かれる。オフェンスに参加していた陽泉の選手達は誰もディフェンスに戻れていない。

 

『よっしゃー!!!』

 

残り時間3秒。ノーマークで黄瀬にボールが渡り、先程、紫原にボールが渡った際に絶望していた海常の選手達の表情が歓喜に変わる。

 

 

『起死回生のブロック!!!』

 

『まさかの逆転劇だ!!!』

 

ジェットコースターの二転三転する展開に観客のボルテージはこの日最高潮に。

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

誰もが今度こそ雌雄を決したと思われたその時、1つの影が黄瀬の横に並ぶ。

 

 

『アンリだぁっ!!!』

 

陽泉で1人、ディフェンスに戻り、黄瀬の背中を捉えたアンリに観客が一部、立ち上がりながら声を上げる。

 

 

「決メサセナイ! 絶対ニ止メル!!!」

 

決意を露にするアンリ。

 

「悪いけど、これで終わりッスよ!」

 

ボールを掴んだ黄瀬がリングに向かって飛ぶ。

 

「オォッ!!!」

 

すぐさまアンリもブロックに飛ぶ。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

空中で2人の身体が交錯する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に審判が笛を吹いた。

 

「…っ!」

 

バランスを崩しながらも黄瀬はリングにボールを放った。

 

「グッ!」

 

アンリはバランスを立て直す事が出来ず、そのままコートに倒れ込んでしまう。

 

 

――バス!!!

 

 

黄瀬が放ったボールは、バックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「やった! 勝った!!!」

 

海常ベンチの選手達が勝利の声を上げる。

 

 

『ピピピピピピピ!!!』

 

 

しかしここで、審判が激しく笛を吹く。審判が口から笛を下ろすと…。

 

『オフェンス、チャージング、青4番(黄瀬)! ノーカウント!!!』

 

『……なっ!?』

 

「マジすか!?」

 

この審判の判定に、海常選手達は勿論、得点を決めた黄瀬すらも驚愕した。誰もがアンリのディフェンスファール、海常の逆転を確信していたからだ。

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! まさかのオフェンスファール!?』

 

観客が頭を抱える。

 

 

「…ハハッ! ヤッタ…!」

 

コートに倒れ込んだアンリはそのままの体勢で拳を握りながら喜びを露にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

結局、海常の得点はコールされず、試合が再開。同時に第4Q終了のブザーが鳴った。

 

 

『決着付かず!!!』

 

『延長戦に突入だ!!!』

 

 

40分の激闘が終えたが、試合の勝敗を付ける事が出来なかった。

 

 

第4Q終了

 

 

海常 70

陽泉 70

 

 

『…っ』

 

疲労が色濃く出る両チームの選手達。各々のベンチへと戻っていく。

 

 

「延長、ですか…」

 

ポツリと呟く大地。

 

「しかし、さっきのファール…」

 

「きわどい所だな。アンリが後僅かでも戻るのが遅かったらディフェンスファールだっただろう」

 

空の呟きに、上杉が私見を述べた。

 

「まさかの延長かいな。夏に経験したから俺もよー分かるけど、両チームとも辛いやろな」

 

夏の準々決勝での延長戦を思い出す天野。

 

「ああ。そして――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常ベンチ…。

 

「三枝、最後のブロック、見事だった。おかげで儂ら救われた」

 

起死回生ブロックでチームを救った三枝に感謝の言葉を贈る武内。

 

「…じゃが、ここまでだ。交代させる。異論は認めん」

 

「仕方ないのう…。この様じゃからのう」

 

タオルを頭から被りながら力無く答える三枝。ベンチに戻る際も末広に肩を借りてようやく辿り着けた程であり、先程のブロックの後も立ち上がる事が出来なかったのだ。

 

「空いたセンターには末広が入れ。代わりにコートには小平、入れ」

 

「はい!」

 

交代を指名された選手がジャージを脱いでユニフォーム姿となった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバルが終了し、延長戦開始のブザーが鳴った。

 

「あと一息じゃ。辛いのは向こうも同じ。今までの練習を思い出せば勝てる。行って来い!!!」

 

『はい!!!』

 

武内の檄に応え、選手達はコートへと向かって行く。

 

「…涼太、スマンのう」

 

「? …何の事ッスか?」

 

謝罪の言葉を黄瀬に言う三枝。黄瀬も何の事か分からず、キョトンとする。

 

「最後までコートに立つとほざいておいて、この様じゃ。我ながら情けない! ホントなら張ってでも試合に出たいが、迷惑かけるだけじゃからのう。…ホントにスマン!」

 

無念の表情で黄瀬に頭を下げる三枝。対して黄瀬はニコリと笑い。

 

「情けなくなんかないッスよ。むしろ、感謝の言葉しかないッス。あの紫原っちをここまでよく抑えてくれたッス。海常に来てくれて、ありがとうッス」

 

「…っ、涼太…!」

 

その言葉に、三枝は思わず歓喜しそうになった。

 

「今度は俺の番ッス。後は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉ベンチ…。

 

「水分補給、栄養補給はしっかり摂れ。各自、返事はいい。ゆっくり呼吸を整えながら私の指示に耳を傾けろ」

 

選手達に指示を飛ばしていく荒木。

 

「…アンリ、交代だ。最後のブロックは見事だった。おかげで延長戦に繋げる事が出来た。…だが、ここまでだ」

 

「…ウン。ショウガナイネ」

 

無念の想いながら、自身の交代を受け入れたアンリ。

 

それから荒木は選手達に延長戦を戦う為の指示を出していく。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

そして、2分のインターバルは終了する。

 

「私は延長戦を戦えないようなやわな鍛え方をお前達にはしていない。後もう少しだ。蹴散らしてこい!」

 

『はい!!!』

 

荒木が檄と共に選手達は送り出した。

 

「…アツシ」

 

「んー?」

 

コートに選手達が向かう中、アンリが紫原を呼び止める。

 

「…ゴメン。モット試合ニ出タイケド、モウ身体動カナイ。後ハ任セルヨ」

 

自身の想いを紫原に託すアンリ。

 

「アンリちんは最後の俺のミスを帳消しにしてくれたし、それに面倒な黄瀬ちんも相手も引き受けてくれたし、充分だよ。…ねー、まさこち…」

 

荒木を呼ぼうとした紫原だったが、無言で竹刀を構える荒木を前に途中で言葉を止める。荒木は竹刀をそっと下げると、代わりにヘアゴムを紫原に渡す。紫原は後ろの髪を束ね、渡されたヘアゴムで纏めると…。

 

「結構、楽させてもらったからねー。後は任せてよー。ここからは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――俺がやる!」

 

「――俺に任せてー」

 

2人は、ゾーンの扉を開いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

40分の激闘を終えた海常と陽泉…。

 

それでも決着を付ける事が出来ず、延長戦に突入する。

 

両チーム、それぞれのキーマンがベンチへと下がっていく。

 

試合は、両チームのキセキに、託され、そして、激突するのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





終わらなかったかー…(>_<)

短く纏めきれず、ダラダラ長文、長引かせる悪い癖が出てしまったorz

何か、話の切れ目でコートあるいはコートが一望出来る選手達を書いて時間を飛ばすのが自分の中であるあるになってきた。上手い人はもっといい演出で落とし込めるんだろうなぁ…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第192Q~才能対資質~


投稿します!

花粉症ヤベー…(ノД`)・゜・。

それではどうぞ!



 

 

 

海常対陽泉…。

 

試合は40分では勝敗が付かず、延長戦へと突入した。

 

両校共に、キセキの世代をマークしていたキーマン、三枝とアンリが体力の限界によりベンチへと下がった。

 

既に1試合分の戦い終えた両校だが、残る力を振り絞り、準決勝進出への椅子を賭け、ぶつかるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――おぉぉぉぉー--っ!!!

 

 

盛大に沸き上がる会場…。

 

「…っ!」

 

ボールをキープするのは黄瀬。わき目を振らず、リングへと突き進む。

 

「…っ!」

 

待ち受けるのは紫原。両腕を広げ、黄瀬に相対する。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

高速で左右に切り返しながら揺さぶりをかける黄瀬。対して紫原はそのムーブに翻弄される事無く、ピタリと付いていく。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

ここで黄瀬がボールを掴み、ステップバックで下がって距離を作り、ボールを頭上にリフトさせる。

 

「っ!? ちぃっ!」

 

これを見て紫原もすぐさま距離を詰める。

 

「おぉっ!」

 

しかし黄瀬はシュートを中断。左方向へと高速で横っ飛びをし、ボールをリング目掛けて放り投げる。

 

「…っ、この!」

 

これに反応した紫原が僅かに遅れて同方向に飛んで追いかけ、手を伸ばすが…。

 

 

――バス!!!

 

 

紙一重でブロックが間に合わず、ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『うぉぉぉぉーーーーっ!!! 青峰のフォームレスシュート!?』

 

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

代わって陽泉のオフェンス。インサイドでボールを受けた紫原に、黄瀬が背中に張り付くようにディフェンスに入る。ボールを受けたのと同時に紫原はポストアップでじりじりとゴール下へと押し進んでいく。

 

「…ぐっ!」

 

背中越しから、黄瀬に驚異的な圧力が襲う。腰を落とし、歯を食い縛り、紫原のポストアップに立ち向かうも、そのパワーに少しずつ押されていく。

 

 

――スッ…。

 

 

ゴール下まで侵入した紫原がボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「…っ!」

 

これを見て黄瀬がブロックに飛ぶが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ブロックもお構いなしに黄瀬を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、キセキの世代である黄瀬と紫原のぶつかり合いとなった。

 

「紫原っち!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを掴んで飛んだ黄瀬がブロックに飛んだ紫原を空中でロールしながらかわし、ボールをリングに叩きつける。

 

 

「黄瀬ちん!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

持ち前の高さと腕の長さを生かし、ボールを頭の後ろまで持って行き、その状態から両腕で掴んだボールをリングに勢いよく振り下ろし、黄瀬の上からボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

黄瀬はパーフェクトコピーによる、キセキの世代のコピーを用い、スピードと多彩な技で得点を重ね、紫原は持ち前のパワーと高さで得点を重ねていった。試合は一進一退。どちらも退かず、互角のせめぎ合いを演じていた。

 

 

「…っ、どっちも、スゲー…!」

 

観客席で2人の激突を見守っていた花月の選手達。激しくぶつかり合う両者を見て、菅野が思わず引き攣った表情で呟いた。

 

「正直、あの2人が本気のぶつかり合いをしたら、黄瀬に分があると思ったが…」

 

夏に両方と試合をし、対戦経験のある松永。空と大地が2人がかりでも結局、止める事が出来なかったゾーン状態でのパーフェクトコピー。その経験から当初は黄瀬優勢と予想していた。

 

「キセキの世代の技をコピー出来る黄瀬の才能も凄まじい。トータルでは黄瀬の方が上かもしれん。だが、ことインサイドでは、資質で大きく上回る紫原にはその黄瀬でも太刀打ち出来ん」

 

上杉が2人の激突に対して感想を述べる。

 

「ただでさえ、バリエーションが豊富な黄瀬のパーフェクトコピー、しかもゾーン状態だ。紫原を以てしても止めきれねえ。対して、紫原のパワーはあの堀田さんとすら肉薄した程だ。あの身長と高さじゃ、ディナイも意味ねえから黄瀬でも止めきれねえ」

 

「互いの矛が互いの盾を貫いている状況ですね」

 

空と大地。互いに拮抗している状況を示唆する。

 

「まさに、才能(最強)資質(最強)のぶつかり合い。三枝とアンリがコートから去った以上、半端な援護は寧ろ、足を引っ張りかねん。勝敗は、あの2人に委ねられた」

 

腕を組みながら上杉が解説。

 

「監督は、どうなると思います?」

 

天野が尋ねる。

 

「こればかりは終わって見るまで分からん。まさに、神のみぞ知る、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…やはり、こうなってしまったわね」

 

コートのすぐ傍で次の試合に備える誠凛の選手達。同様に試合を見守っていたリコが口を開く。

 

「「…っ」」

 

黄瀬と紫原。2人の後輩である新海と池永。2人の激突を目の当たりにし、ただただ圧倒され、言葉を失っている。

 

「…火神君。今の2人、君なら止められますか?」

 

黒子が横に立つ火神に尋ねる。

 

「たりめえだろ! って、言いてえが、正直、自信ねえな」

 

苦笑しながら返事をする火神。

 

「…夏に花月はあの2人に勝ってるんだよな?」

 

「ついさっき、夏に負けた洛山にリベンジを果たしたし…」

 

「とんでもないな…」

 

降旗、福田、河原が、夏にこの2校に勝った花月の事を思い出し、その凄さを改めて実感していた。

 

「…今日勝ったら、次に待ち受けるのはあの2人のどっちかか…」

 

朝日奈が確定している事実を口にする。

 

「(…ゴクリ)」

 

田仲は、試合を見ながら固唾を飲んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…リョータ、…アツシ…!」

 

灰崎が2人の名を呟く。

 

『…っ』

 

誠凛とは別の場所で試合を観戦していた鳳舞の選手達。その全ての選手達が、ぶつかる2人に圧倒されていた。

 

「うんうん。凄い選手だ。日本のバスケの未来は明るいねえ」

 

監督の織田だけが、にこやかに2人の戦いを見守っていた。

 

「…ざけんな。勝つのは俺だ。調子に乗んじゃねえぞ…!」

 

2人に…半ば、自分に言い聞かせるように灰崎は呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

互いに退く事無くぶつかる2人。

 

『どっちも、退かねえ…!』

 

『何だよこれ…』

 

『2人共、高校生のレベルじゃねえ…!』

 

『大学…社会人…いや、もしかしたら、プロのレベルすら超えてるんじゃないか!?』

 

結果が見えない2人のぶつかり合い。他と隔絶する程の実力を持つ2人のぶつかり合い。その2人の激突に、当初は白熱しながら観戦していた観客だったが、徐々にその熱が下がっていった。決して冷めた訳ではない。ただただ2人の迫力に圧倒されているのだ。

 

 

「(とんでもない身体能力ッス。マジで手が付けられないッスよ!)」

 

「(あーもう、バリエーション多すぎてマジウザ過ぎ!)」

 

互いに自身を上回る能力に対し畏怖を感じる2人。

 

「(けど…!)」

 

「(けど…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「勝つのは、俺ッス(俺だ)!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

その後も、2人のぶつかり合いはどちらも退かず、試合は、そのまま終盤まで進んで行った。

 

 

延長戦残り18秒。

 

 

海常 86

陽泉 86

 

 

延長戦も残り時間僅か。海常ボール。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

「ハァ…ハァ…!」

 

延長戦開始から死闘を繰り広げて来た黄瀬と紫原の表情には疲労が色濃く滲み出ていた。

 

 

「(パーフェクトコピーとゾーンの合わせ技でプレーしている黄瀬、リミッターを外してゾーン状態…、そもそも、自分のパワーに抗える奴と40分やり合って体力を削られてた紫原。どっちも限界寸前だな)」

 

2人の様子を見て、双方、限界は目前である事に気付く青峰。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

ボールを運ぶ小牧。試合開始から出場し続けている小牧の表情も疲労の色が強い。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

小牧だけではなく、延長戦から試合に出場した、小平と立花以外も疲弊していた。プレー時間は既に1試合分を超えているので、当然である。

 

「おぉっ!」

 

「っ!?」

 

そんな中、ボールを運ぶ小牧に対し、永野が残り少ない体力を振り絞り、激しく当たるようなディフェンスをする。

 

「(くっ!? 何てプレッシャー…! まだこんなに動けるのか!?)」

 

ボールを止められ、必死にボールをキープする小牧。延長戦も終盤に入っても尚、ここまで動ける永野に驚きを隠せなかった。

 

「(この大会が最後なんだ。もう次はない。絶対に勝って、優勝するんだ!!!)」

 

胸中で絶叫する永野。永野とて、限界寸前。高校最後の大会であるウィンターカップを制する為、その執念が身体を動かしていた。

 

「…くっ!」

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

必死にボールを死守する小牧とがむしゃらにボールを狙う永野。

 

 

――バチィン!!!

 

 

「あっ!?」

 

永野の執念が実り、小牧が死守するボールを、永野の指先が捉え、ボールが零れる。

 

「っ!? ルーズボール、抑えろ!!!」

 

ベンチから立ち上がった武内が思わず声を張り上げる。

 

「ナイスカット、キャプテン!」

 

転がるボールに1番近くにいた渡辺が駆け寄る。ボールに手を伸ばしたその時!

 

「させるかぁぁぁぁっ!!!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

渡辺がボールを拾おとした直前、ボールに手を伸ばしながら飛び込んだ氏原が先にボールを弾いた。

 

「最後なのはお前達だけじゃねえんだよ!!!」

 

再び零れるボールは。ボールは…。

 

 

『黄瀬にボールが渡った!!!』

 

転々としたボールを黄瀬が拾った。

 

『海常、命拾いだ!』

 

辛うじてターンオーバーを防ぎ、観客が溜息を吐く。

 

「…いや、拾ってねえ」

 

だが、青峰は険しい表情でコートを見つめていた。

 

 

「…っ」

 

何とかボールを掴んだ黄瀬だったが、その位置はローポスト。背中に紫原を背負う形となってしまった。

 

 

「…最悪だな。あのポジションじゃ、紫原が有利だ」

 

火神がポツリと言う。

 

これまで、黄瀬は紫原と向かい合う(・・・・・)形で1ON1を仕掛けていた。その為、黄瀬の能力を十全に生かす事が出来た為、紫原から点を取れていた。しかし、ローポストで紫原と背負い込む(・・・・・)形での1ON1となると、身体能力に分がある紫原が有利。

 

「まずい! もうすぐ24秒だ! 急げ!」

 

海常ベンチからオーバータイムを知らせる声が出る。

 

「(仕切り直す時間はない。イチかバチか、行くしかない!)」

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

意を決した黄瀬は紫原に背中をぶつけながらドリブルを始めた。

 

「…っ!」

 

激しくぶつかる黄瀬。しかし、紫原の身体は微動だにしない。

 

 

『うわー! やっぱりビクともしない!?』

 

押し込む事が出来ない黄瀬を見て頭を抱える観客。

 

 

「(…俺のパワーじゃ、紫原っちを押し込めない。だったら、これならどうッスか!?)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬が再びボールを突き、紫原に背中をぶつける。

 

「っ!?」

 

その時、紫原の身体が僅かにグラついた。

 

「(今だ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

これを機と見た黄瀬はスピンムーブで一気に紫原の背後へと抜け、ゴール下へと侵入すると、すかさずボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。

 

 

『っ!? あれは!?』

 

『紫原の新型のトールハンマー!?』

 

観客が思わず声を上げる。

 

 

ボールを右手で掴んだ黄瀬は回転しながら飛び上がる。これは今日、紫原が見せた、ゴール下までポストアップで押し込めなかった時を想定したトールハンマーの改良型だった。

 

「…っ! ざけんな! やらせるかよ!!!」

 

すぐさま振り返った紫原はブロックに飛び、黄瀬とリングの間に割り込んだ。

 

 

『あの体勢からもう追いついた!?』

 

これに観客がさらに声を上げる。

 

 

「(相変わらず、信じれない反射速度っスね。…けど、負けられないんスよ。俺は海常として、いろんなものを背負ってるんスから…!)」

 

黄瀬の脳裏に、かつての先輩達の顔を呼び起こされる。全国の頂点を目指し、死に物狂いで練習し、それでも辿り着けずなかった先輩達の無念。そして、託された想い。

 

「(勝つんだ!!! チームの優勝の為に!!! 託してくれた先輩達に報いる為に!!!)…おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

咆哮と共に振り下ろされた右手は、紫原のブロックを吹き飛ばし、リングにボールを叩きつけた。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

ダンクが決まるのと同時に、観客の一部が興奮のあまり立ち上がりながら大歓声を上げた。

 

 

海常 88

陽泉 86

 

 

「凄い…、あのムッ君を…!」

 

両手で口を覆いながら驚く桃井。

 

「あの体勢から追いついちまう紫原もさすがだが、あの不十分な体勢じゃ、止めるのは無理だったみてーだな」

 

苦笑しながら青峰。

 

 

「ディフェンス!!! 絶対止めるッスよ!!!」

 

『おう!!!』

 

陽泉のオフェンス。黄瀬が檄を飛ばし、選手達が応える。

 

残り時間僅か。ここを止めれば海常の勝利。逆に決められれば再延長、3点なら逆転負けである。

 

「…っ」

 

「…っ!」

 

外からの1発逆転がある木下を氏原が徹底マーク。

 

「紫原に絶対ボールを持たせるな!!!」

 

武内がベンチから指示を出す。この指示を受け、徹底して紫原へのパスコースを塞ぐ。

 

「残念だが、紫原にボールを届ける事は、陽泉(うち)にとっては造作もない」

 

そう荒木が呟くと、ボールを運んでいた永野が逆サイドに高めにボールを放った。

 

「よし!」

 

そこへ駆け込んだのは渡辺。渡辺がジャンプしながらボールを両手で掴む。

 

「頼みます!」

 

ボールを掴んだ渡辺は空中で掴んだボールをそのまま中へ入れた。

 

 

『あっ!?』

 

観客が声を上げる。

 

 

ボールはローポストに立つ紫原に。渡辺のパスに、紫原はジャンプしてボールをキャッチし、着地した。

 

『っ!?』

 

最悪の位置で紫原にボールを掴まれ、海常の選手達の表情が曇る。

 

渡辺に対し、高いパスを出し、そのパスをジャンプで掴んだ渡辺が空中でローポストに立つ紫原に再び高いパスを出し、紫原がそのパスを空中で掴む。2mを超える渡辺を使い、空中で経由する事でパスカットのリスクを削ぎ、確実に紫原にローポストでボールを掴ませる為に用意した陽泉のパスワーク。

 

 

「ムッ君にボールが渡った! …けど、あの位置じゃ、きーちゃんがファールでもしない限り、同点止まりじゃ…」

 

「同じゾーン状態でも、パーフェクトコピーと併用してる黄瀬の方が消耗は遙かに激しい。再延長に持ち込めば、陽泉の勝ちだ」

 

桃井の疑問に、青峰が答える。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

「…っ!」

 

ポストアップで押し込み始めた紫原。圧倒的な衝撃が黄瀬に伝わる。

 

「黄瀬! 後もう少しだ、踏ん張れ!」

 

延長戦の終了時間が刻一刻と迫る中、武内が黄瀬に檄を飛ばす。

 

「分かって…るッスよ…!」

 

最後の力を振り絞り、重心を深く落とし、ゴール下への侵入を食い止める黄瀬。

 

「黄瀬ちん…! けど無駄だよ。ここで俺にボールを掴ませた時点で、もう終わりなんだよ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで、紫原が高速のスピンムーブで黄瀬の背後に抜け、ゴール下まで躍り出る。

 

 

『出た!!!』

 

観客が思わず声を上げる。

 

 

紫原がスピンムーブを行うのと同時にボールを掴み、そこから回転しながらリングに向かって飛んだ。

 

 

『新型のトールハンマー!!!』

 

この試合、紫原が幾度と見せた、ローポストからのポストアップで体勢を崩させ、直後にスピンムーブでゴール下に侵入し、その勢いも利用した改良型のトールハンマー。三枝も黄瀬も1度も止めきれていない必殺のダンク。

 

「…っ!」

 

黄瀬は青峰のコピーですぐさまゴール下まで戻ると、すぐさまブロックに飛び、紫原とリングの間に割り込んだ。

 

 

『スゲー!!! あの状態から追いついた!?』

 

『けど…!』

 

「パワーじゃ、紫原の方が上だ」

 

無情にも青峰が告げる。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

紫原が振り下ろしたボールを掴んだ右手と、ダンクに割り込み、ブロックの為に伸ばした右手がぶつかる。

 

「おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

「おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

両者が咆哮を上げながら空中でせめぎ合う。

 

「(もう悔しい思いをするのは充分だ! 絶対に勝つ!!!)」

 

振り下ろした右手に渾身の力を込める紫原。

 

中学時代からキセキの世代と呼ばれ、称されるも、漠然とバスケをしてきた紫原。バスケなど、紫原からしたら欠陥スポーツだと蔑み、ただ才能に恵まれ、向いていたから続けてきた。そう思っていた。高校1年の冬に、自身にとって、初めて、試合での敗北を喫する事で、負ける悔しさと共に、自分がバスケを好きであった事を知った。2年目の夏に、自身を上回る逸材と戦い、個人で負ける悔しさを知った。その後も、頂点には立てず、高校、最後のウィンターカップ。これを逃せば、もう、次はない。最後の大会で頂点を掴むため、今日まで努力を重ねて来た。

 

「行ケ! アツシ!!!」

 

『決めろぉぉぉぉっ!!!』

 

ベンチのアンリ、そして、選手達、監督の荒木も、紫原に声援を贈る。

 

「(このまま押し切る! これを決めて、再延長でトドメを――)――っ!?」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

その時、紫原の右手からボールが零れる。

 

『っ!?』

 

これに、コート上の選手達、及びベンチの選手達、監督、観客、全ての者が驚愕に染まった。

 

 

――ガン!!!

 

 

零れたボールがリングにぶつかる。ボールがリングの上で1度跳ねた後、ボールは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――リングの外側へと、落ちていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

同時に延長戦終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

 

海常 88

陽泉 86

 

 

そして、45分間にも渡る、長い長い激闘の決着が、付けられた。

 

『海常が勝った!!!』

 

『準決勝に駒を進めたのは、海常だ!!!』

 

試合終了のブザーが鳴り、決着が付くのと同時にコート上を大歓声が包み込んだ。

 

「キャプテン!!!」

 

「黄瀬!!!」

 

勝利の立役者である黄瀬に、コート上の選手達、ベンチの選手達が一斉に駆け寄った。

 

「うおぉぉぉぉー--っ!!!」

 

力を使い果たした三枝は、ベンチに座りながら、両手を天に突き上げ、歓喜した。

 

「さすがじゃ黄瀬! 他の選手達も、よくやった!!!」

 

武内も、試合を決めた黄瀬と、勝利の為に死に物狂いで励んだ選手達を激励した。

 

 

「…」

 

「くそっ! …くそっ…!」

 

「…っ」

 

永野は敗北を噛みしめながらきつく目を瞑り、木下は床を叩きながら悔しさをぶつけ、渡辺は、床に突っ伏しながら涙を流していた。

 

「アァァァァァァァァーーーッ!!!」

 

ベンチのアンリは、天を仰ぎながら号泣した。

 

「…っ」

 

監督の荒木も、無念とばかりに、右手で顔を覆った。

 

「…っ!」

 

紫原は、身体を震わせながら下を向き、拳をきつく握りしめたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「海常が勝ったか…」

 

試合が終わり、観客席の空がポツリと呟く。

 

「まさか、あの土壇場で黄瀬のパワーが紫原を上回るなんてな」

 

直前のダンクと最後のブロック。それを見た松永がそう感想を漏らす。

 

「……松永さん」

 

「…ん?」

 

コートを見つめながら何かを考えていた大地が松永に話しかける。

 

「今年の夏の3回戦に試合をした、鳳舞高校の鳴海さんを覚えていますか?」

 

「? …もちろん覚えているが、それがどうし――っ!? そうか、そういう事か…!」

 

大地の言葉に、松永をとある事を思い出した。

 

「どないしてん?」

 

「海常が逆転した黄瀬さんの最後のダンク。その直前のポストアップで、パワーで上回る紫原さんがなんでバランスを崩したか、分かったんです」

 

「…それは俺も驚いたが、何やカラクリがあったんか?」

 

松永の言葉に興味を持った天野が尋ねる。

 

「鳳舞のセンター、鳴海さんが俺とのマッチアップの時に使った技を使ったんですよ」

 

自身の経験を思い出しながら松永が説明していく。

 

インターハイの3回戦で花月が戦った鳳舞高校。そのセンターを務めていた鳴海大介。松永とマッチアップした際、鳴海はポストアップで背中をぶつけるのと同時に相手の懐に深く入り込み、背中で相手の上体を無理やり上げさせ、棒立ちにさせる事で体勢を崩し、力を出し切れないようにした。黄瀬はこれをコピーし、紫原の体勢を崩し、グラつかせたのだ。

 

「…そうか、だから紫原は直前にバランス崩してグラついたんやな。…やけど、その後のブロックはなんでなんや? 青峰のコピーで体勢こそ崩さんかったみたいやけど、それでもパワーなら紫原の方が上やろ?」

 

松永の説明に納得はしたが、今度はその後のブロックに疑問を持った。最後の攻防は小細工無しのパワー勝負。ならば、紫原に分があるはずである。

 

「さすがにそれは…」

 

答えが出ず、苦笑する松永。

 

「火事場のクソ力とか、主将を背負った事の責任感って奴が黄瀬に力を貸したのか?」

 

思い付く理由を菅野が口にしていく。

 

「…」

 

各々が理由の予想を口にしていく中、1人、大地は顎に手を当てながら考え込む。

 

「(……もしかして――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「88対86で、海常高校の勝ち。礼!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内に整列した両チームの選手達が礼をする。各選手達が、各々握手を交わし、一言二言、言葉を交わしていく。

 

「ハァ…。延長戦はこれで2度目ッスけど、ホント、もう勘弁ッスよ」

 

軽口を叩きながら黄瀬が、紫原の下に歩み寄る。

 

「……ホント、今日程、黄瀬ちんの事、嫌になった日はないよ」

 

不機嫌になりながら後ろ髪を止めていたヘアゴムを外す紫原。

 

「最後の俺の奴。まさか、模倣(・・)されたんじゃなくて、盗まれた(・・・・)とは、思わなかったよ」

 

愚痴るように言う紫原。

 

最後の新型のトールハンマー。本来であれば、ブロックに来た黄瀬を吹き飛ばしながら決められるはずだった。そうなるのが当然であった。だが、紫原は技を仕掛けた後、奇妙な感覚に襲われた。歯車が合わない、何かが噛み合わないちぐはぐな感覚に。直後には気付かなかったが、すぐに答えに辿り着いた。黄瀬は、自分の新型のトールハンマーを、模倣したのではなく、盗んだのだと。

 

盗む…。それは、かつて帝光中時代に、黄瀬が入部する以前にスタメンに名を連ねていた、同学年の灰崎祥吾の得意としていたものである。黄瀬同様、その目で見た相手の技を真似る。ここまでは一緒だが、違うのはその際、リズムやテンポだけを我流に変えてしまい、それを見せられた選手は、無意識に自分本来のリズムを見失ってしまい、その技を使えなくなってしまう。その為、最後の紫原の新型のトールハンマーは、力が上手く入りきらず、パワーの劣るはずの黄瀬にブロックされてしまったのだ。

 

「たまたまッスよ。イチかバチか、紫原っちの技をコピーしてはみたんスけど、ぶっつけ本番だったせいか正確にコピー出来なくて、偶然、リズムとテンポだけがコピー出来なかったんスよ」

 

肩を竦めながら説明する黄瀬。

 

「ホント、運が良かったッス。もし、完璧にコピー(・・・・・・)出来てたら、最後のダンクは止められなかった。そうなれば、負けてたのは俺達だったッスね」

 

苦笑しながら説明する黄瀬。

 

これは謙遜でも何でもなく、事実であった。今日、始めて見た紫原の新型のトールハンマー。如何にキセキの世代随一の才能を持つ黄瀬であっても、練習無しで完璧にコピーする事は出来なかったのだ。その結果、偶然にも灰崎祥吾の強奪と同等の効果をもたらす事となったのだ。

 

「……あっそ。どっちにしても、負けた事には変わりないから、どうでもいいし」

 

半ば拗ねた紫原は、踵を返してベンチへと戻っていった。

 

「強かったッスよ、紫原っち。また何処かでやるッスよ」

 

紫原の背中に向かって告げる黄瀬。紫原は一瞬、歩みを止めると…。

 

「…運よく、俺とミドちんには勝ったみたいだけど、それが最後まで続けばいいねー」

 

皮肉とも声援とも取れる言葉を残し、紫原は再び歩き始めたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よく頑張った。立派だったぞ」

 

ベンチに戻ってきた紫原に、荒木がそう声を掛けた。

 

「…ハァ? 負けたんだけど?」

 

嫌味のような言葉を返す紫原。

 

「それでもだ。今日、勝てなかったのは私の責任だ。…お前は、最高の試合をした」

 

そう言って、紫原の頭にタオルを被せた。

 

「…っ」

 

同時に、紫原の身体が震え始めた。

 

「……ごめん。勝てなかった」

 

声を震わせながら紫原がそう言葉を紡いだ。

 

「私にはまだ次がある。だから気にするな。今日と…そして、陽泉(うち)に来てから今日まで、お前がしてきた経験が、きっとこの先、お前を助けてくれるはずだ。…3年間、ごくろうだったな」

 

肩に手を置いてそう言葉をかけると、荒木は他の選手達の下へと向かって行った。

 

「ちくしょう…! ちくしょう…!」

 

人目をはばからず、紫原は涙を流したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「海常が勝ったね」

 

「…ああ」

 

観客席の桃井が呟くと、青峰が返事をする。

 

「それにしても、まさかきーちゃんが灰崎君の技をコピーするなんて…」

 

「まあ、たまたまだろ。黄瀬と灰崎の関係を考えりゃ、コピー出来てもおいそれと使いたくはねえだろうが、今の黄瀬だったら、勝つ為にコピーする事は躊躇わねえはずだ。最後の最後まで使わなかった事を考えれば、今はまだコピー出来ねえって事だ」

 

青峰も最後のやり取りの真意に予測が付いており、桃井の感想にそう返した。

 

「…次は、誠凛対鳳舞。勝った方が明日の海常対戦相手だね」

 

コート上では、誠凛と鳳舞の選手達が試合に備えて準備を始めていた。

 

「…まあ、誠凛が無難に勝つだろ。火神と灰崎、戦力を比べてみても、誠凛の方が上だろうからな」

 

興味が次の試合へと移った2人。青峰は当初の予想通り、誠凛勝利の予想を推した。

 

「やっぱり?」

 

「ああ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――余程の事がなけりゃ、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

海常対陽泉の激闘。

 

延長戦の末、海常が陽泉を降した。

 

次に始まるのは、ベスト4の最後の椅子をかけた誠凛対鳳舞の試合。

 

キセキならざるキセキを擁する火神を擁する誠凛と、元キセキの世代の灰崎を擁する鳳舞との試合が、始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





1年でもっとも嫌いな2月下旬からマックス5月頭までの花粉症シーズン。年々飛散量が増えているせいか、薬飲んでも発症する時があるからマジでしんどい…(>_<)

そのくせ、薬の副作用はしっかりあるから目の痒み、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、眠気、ガチに場所関係なくその場で眠りたくなる時があります…(;^ω^)

あー克服したい…((+_+))

と言う事で、思ったより長くなった海常対陽泉戦はこのように決着を付けました。納得の有無はあるかと思いますが、お手柔らかに…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第193Q~ミスマッチ~


投稿します!

暑くなったり寒くなったり、天候バグってんな…((+_+))

それではどうぞ!



 

 

 

1戦目、2戦目に続き、第3戦目…。

 

海常高校対陽泉高校。共にキセキの世代を擁するチームの激突は、延長戦にまでもつれ込んだ末、海常高校が勝利を掴み取った。

 

激闘を終えた両校の選手達は、ベンチの荷物をを早々に片付け、コートを離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「いやー、ホントに申し訳ないッス」

 

コートから去る海常の選手達。その中で黄瀬は、肩を借りて歩いている。延長戦での紫原との激突に全てを出し切った結果、自分の足だけでは歩けない程、疲弊していのだ。

 

「ハッハッハッ! 気にするな!」

 

申し訳なそうにする黄瀬に対し、肩を貸す三枝は豪快に笑った。

 

「いや海さんだって疲れてるんですから、俺達に任せて下さいよ」

 

「そうですよ!」

 

そんな三枝を心配するのは小牧と末広。三枝とて丸々1試合、紫原をマークし、疲弊具合は黄瀬に匹敵する程のはずであるからだ。

 

「ええからワシに任せい! お前達が戦ってる間、じっくり休んでおったらからのう。このくらいの事はさせい」

 

しかし、三枝は最後までコートに立つ事が出来なかった事に不甲斐なさを感じており、2人の気遣いを断った。

 

「――ハッ! 情けねえ姿だな。…リョータ」

 

道中、第4試合に備えて待っていた鳳舞の選手達…、その中の灰崎祥吾が横を通り抜けようとした黄瀬に話しかける。

 

「延長までアツシとご苦労なこった。そんな様で、明日()れんのかぁ?」

 

ニヤニヤと笑いながら続ける灰崎。

 

「…」

 

立ち止まる黄瀬。

 

「…あぁ、ショーゴ君ッスか」

 

ここで初めて灰崎の姿に気付いた黄瀬。

 

「試合前に何か用ッスか? 悪いけど、こっちはヘトヘトだから、話は今度にしてほしいんスけど」

 

溜め息交じりに返事をし、再び歩き始める黄瀬。

 

「ハッ! 随分行儀よくなっちまったなぁ。前みたいにちったぁ噛み付いて来いよ。それとも、柄にもなくキャプテンなんざやって噛み付く歯ごと全部抜けちまったか?」

 

尚も挑発を続ける灰崎。

 

「確か、灰崎じゃったか? 中学時代のお友達みたいじゃが、今は勘弁せえ」

 

そんな2人に、三枝が割り込む。

 

「あれだけの試合の後じゃ。こっちは明日の誠凛(・・・・・)との試合に備えて身体を休めなければならんのでのう」

 

「……あっ?」

 

眉を吊り上げて振り返る灰崎。三枝はそれだけ告げ、その場を後にしていった。

 

「…クソが。調子に乗りやがって…!」

 

黄瀬の反応と三枝の言葉に灰崎は苛立つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両チームがベンチに入り、スタメンに選ばれた各5名の選手達がコート中央へとやってきた。

 

 

誠凛高校スターティングメンバー

 

 

4番PF:火神大我  194㎝

 

9番PG:新海輝靖  183㎝

 

10番SG:朝日奈大悟 185㎝

 

11番SF:池永良雄  193㎝

 

12番 C:田仲潤   192㎝

 

 

鳳舞高校スターティングメンバー

 

 

4番PF:大城義光 188㎝

 

5番 C:鳴海大介 197㎝

 

6番SF:灰崎祥吾 191㎝

 

8番PG:三浦祐二 174㎝

 

9番SG:東雲颯  171㎝

 

 

「これより、誠凛高校対鳳舞高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

「よろしく頼む」

 

「応! こちらこそ」

 

両チームの主将である、火神と大城が握手を交わす。

 

「よう、テツヤはベンチかよ」

 

そこへ、灰崎が現れ、尋ねた。

 

「…ああ。ヤバくなったら出て来る、かもな」

 

灰崎に嫌悪感を覚えている火神は、表情には出さないが、皮肉を交えて答えた。

 

「…ちっ、どいつもこいつも舐めやがって。いいぜ、すぐに引きずり出して、テツヤ共々潰してやるよ」

 

火神の答えに軽く不機嫌になるも、そう返し、その場を離れていった。

 

「…」

 

そんな灰崎を、火神は表情はそのまま、一瞥をくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

センターサークル内にジャンパーの田仲、鳴海を残し、他の選手達はその周囲に散らばった。

 

「…」

 

「…」

 

腰を落とし、ジャンプボールに備える田仲と鳴海。

 

「…」

 

ジャンパーの双方を視線を往復し、2人の間でボールを構える審判。そしてボールは高々と上げられた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

同時にボールに飛び付く2人。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…くっ」

 

先にボールを叩いた鳴海がジャンプボールを制した。

 

「よし、1本、行きましょう!」

 

ボールを三浦が拾い、鳳舞ボールで試合は始まった。

 

「…」

 

立ち上がり、ゆっくりとボールを運ぶ三浦。

 

「…」

 

目の前には新海。

 

東雲には朝日奈、大城には池永、鳴海には田仲。

 

「…」

 

「…」

 

そして、灰崎には火神と、誠凛はマンツーマンでディフェンスに臨んだ。

 

「(…新海)」

 

目の前の相手、新海。中学時代に全中で対戦した事のある相手。その折、屈辱的な負け方をした事もあり、三浦にとっては因縁のある相手。

 

「(全中の借りを返したい気持ちはある。…だが!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して仕掛ける三浦。

 

「止める!」

 

これに遅れずに付いていく新海。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「(それはこの試合に勝って返す!)」

 

直後、三浦は急停止、すかさず頭上から中へとボールを通す。

 

「ナイスパス!」

 

ボールはローポストに立つ鳴海へと渡った。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

ボールを掴んだ鳴海は後ろに立つ田仲に背中をぶつけながらドリブルを始めた。

 

「…っ!」

 

腰を落とし、歯を食い縛って鳴海のポストアップに耐える田仲。

 

「おらぁ!!!」

 

 

――バス!!!

 

 

強引に押し込んだ後、右手でボールを掴み、フックシュートを決めた。

 

 

誠凛 0

鳳舞 2

 

 

「っしゃぁっ!!!」

 

得点を決めた鳴海は拳を握りながら喜びの声を上げた。

 

「今日は勝たせてもらうぜ…(ボソリ)」

 

ディフェンスへと戻る直前、三浦は新海にだけ聞こえるような声で告げる。

 

「…」

 

新海は何も返さず、ただディフェンスに戻る三浦を見送った。

 

 

「(最初のオフェンスは、灰崎君ではなく、鳴海君で来た…)」

 

顎に手を当てながら思案するリコ。

 

「(予想通り、真正面からは来ないわね)」

 

視線を相手チームのベンチの織田に向けた。

 

「…ん? あはっ♪」

 

リコの視線に気付いた織田はにこやかにリコに手を振った。

 

「…っ、ホント、食えない人だわ」

 

その行動に戸惑うリコ。ここで、試合前に父である景虎の言葉を思い出す。

 

『気を付けろ、織田の爺さんはな、普段は飄々とした調子のいい爺様だが、対戦相手となると、恐ろしく性格悪くてやり辛いクソジジイだからな』

 

かつて、彼の下でバスケをした事がある景虎の言葉。

 

「(望む所だわ。相手が名伯楽だろうと、受けて立つわ)」

 

コートの外でも、監督同士、火花を散らすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

代わって誠凛のオフェンス。

 

「…」

 

司令塔である新海がボールを運ぶ。

 

「…」

 

その新海の目の前に立つのは三浦。

 

鳳舞もマンツーマンでディフェンスに入り、それぞれのマッチアップも、先程の誠凛のマッチアップ相手がそっくりそのまま入れ替わる形となった。

 

「(…来い!)」

 

腰を落とし、集中を高めながら新海の動きを注視する三浦。

 

「…」

 

 

――ピッ!!!

 

 

ゆっくりとボールを運んでいた新海が突如動く。

 

「っ!?」

 

矢のようなパスを放ち、三浦の顔面横スレスレを通し、ローポストの田仲にパスを出す。

 

「おっしゃ来い!!!」

 

背中に張り付くように立つ鳴海が威嚇するように声を上げる。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

しかし、田仲は仕掛けず、ボールを左方向へと弾むようにパスを出す。

 

「おっしゃ、ナイスパース!」

 

そこへ走り込んだのは池永。左アウトサイド、スリーポイントラインの外側でボールを受ける。そして、すぐさまシュート体勢に入る。

 

「なに!?」

 

スリーを放った池永。すかさずブロックに飛んだ大城だったが間に合わず。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに潜り抜けた。

 

 

誠凛 3

鳳舞 2

 

 

「…ちっ、あいつ、外もあるのか」

 

みすみすスリーを打たせ、決めさせてしまった大城が思わず舌打ちをする。

 

「ナイス判断じゃねえか」

 

「お前こそ、練習後の秘密特訓の成果が出たな」

 

不敵に笑いながら告げる池永に対し、淡々と新海は返した。

 

「は、はぁ!? 俺はただ、練習だけじゃ物足りねえからやってただけだよ」

 

焦りながら言い訳する池永。

 

「そうか。良い所にポジション取ればパスを出す。また昔みたいに悪い癖を出すなよ」

 

「うっせ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合が始まり、両チーム、得点に成功する。その後も両チーム攻め立てていくのだが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…くっ!」

 

ローポストで新海が三浦を背中で背負う形でボールを受け、ポストアップで攻め立てる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

再度背中をぶつけると、三浦は僅かにバランスを崩す。これを見て即座に新海がシュート体勢に入る。

 

「野郎、打たせるか!」

 

ゴール下にいた鳴海がヘルプに飛び出す。

 

 

――スッ…。

 

 

鳴海がヘルプに来たのを確認した新海はジャンプシュートを中断し、パスに切り替える。

 

「あっ!?」

 

鳴海が目を見開きながら声を上げる。ボールはゴール下でフリーになった田仲の下に。

 

 

――バス!!!

 

 

フリーでボールを受けた田仲が確実にゴール下を沈めた。

 

「ナイスパス」

 

「ああ」

 

田仲と新海がハイタッチを交わす。

 

「くっそ…!」

 

プルプルと悔しがる鳴海。

 

 

続く鳳舞のオフェンス。三浦がボールを運ぶ。

 

「(灰崎さんは……ダメか)」

 

チラリと灰崎に視線を向けると、火神が灰崎へのパスコースを塞ぐようにマークしていた。

 

「(なら…)…颯!」

 

ならばと三浦は左アウトサイドの東雲にパスを出す。

 

「よし、らぁっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受けた東雲は、目の前の朝日奈相手に早々に仕掛ける。

 

「(来た、速い!)」

 

スピードを自慢としている東雲のドライブ。朝日奈はその速さを感じながらも追走する。

 

「(デカい図体なのに付いて来るか。さすが天下の誠凛のスタメン。だけど…!)」

 

 

――スッ…。

 

 

「こっからが俺の本領だ!」

 

仕掛けた直後にボールを掴んだ東雲はターンアラウンドで反転し、その後、後ろに飛びながらシュート体勢に入った。

 

「(確かに、スピードだけは大したものだ。だけど…)」

 

 

――チッ…。

 

 

「技のキレなら池永、それこそ火神先輩と比べれば、大した事無い!」

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ朝日奈の指先にボールが掠める。

 

「リバウンド!」

 

外れる事を見越した朝日奈が叫ぶ。同時にゴール下敵味方の選手が集まる。

 

「(っ!? こいつ…!)」

 

絶好のポジションを取りに行った鳴海だったが、田仲がスクリーンアウトで鳴海を抑え込み、強引にポジションを掴み取る。

 

「…んが!」

 

池永もリバウンド争いに参加するも、大城に抑え込まれてしまう。

 

「(ったく、スクリーンアウトは相変わらずか…)」

 

あっさりポジションを取られた池永に呆れる新海。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールがリングに弾かれる。

 

『…っ!』

 

弾かれたボールに一斉に飛び付く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

リバウンドを制したのは…。

 

「おっしゃ!」

 

外からボールに飛び付いた火神だった。

 

「よし、速攻!」

 

リバウンドを抑えた火神は新海にパスを出し、そのままオフェンスへと走った。

 

「灰崎! お前もリバウンドに参加しろよ!」

 

リバウンド争いに参加しなかった灰崎に文句を言う鳴海。

 

「はぁ? なんで俺がそんな事しなきゃならねえんだよ。…つか、そんな雑魚に抑え込まれたてめえが言うな」

 

当の灰崎は気にする素振りを見せず、どうでもいい、とでも言うような表情で返す。

 

 

「行かせないぜ」

 

「…っと」

 

速攻をかけた新海だったが、三浦がスリーポイントライン手前で追いつき、回り込むと、新海は足を止める。

 

「…」

 

足を止め、ゲームメイクを始める新海。足を止めてる間に鳳舞の選手達もディフェンスに戻る。

 

 

――ピッ!

 

 

ここで新海がパスを出す。

 

「っし」

 

ボールはハイポストに立った朝日奈に。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

背中に東雲を背負う形でボールを受けた朝日奈は、ポストアップで中へと押し込み始める。

 

「…くっ!」

 

身長差約15㎝。元パワーフォワードでもある朝日奈のポストアップに苦悶の表情を浮かべる東雲。必死に耐えているが、みるみる押し込まれていく。

 

「…ちっ」

 

見かねた大城がヘルプに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

ここで朝日奈はボールを掴んでターンアラウンドで反転し、シュート体勢に入る。

 

「「っ!?」」

 

これを見て、東雲と大城がブロックに飛ぶ。朝日奈は2人のブロックを避けるようにフェイダウェイ、後ろに飛びながらボールをリリースした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「よし!」

 

シュートを決めた朝日奈は拳を握りながら喜びを露にする。

 

「いいぞ、良く決めた!」

 

そんな朝日奈を火神が尻を叩きながら労う。

 

「あざす!」

 

そんな火神の言葉に応え、朝日奈はディフェンスに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、誠凛ペースで進む。誠凛のガードの2人がミスマッチを突きながら得点を重ねる。

 

「(うーん、誠凛(向こう)は火神君ではなく、ガードの2人にボールを集めてるね~)」

 

鳳舞ベンチの織田が顎に手を当てながら思案する。

 

「(ガード陣のポストアップは去年にはなかったパターンだね)」

 

去年、ポイントガードをしていた伊月は鷲の目(イーグル・アイ)を生かしたパス回しの特化の選手。シューティングガードの日向はスリーが中心の選手であった。

 

「(夏の時と比べて、オフェンスのパターンも増えてる。さすがリコちゃんに景虎君だ)」

 

ここまでのチームを作り上げたリコと景虎に賛辞の言葉を贈る織田。

 

「(…なるほど、灰崎君のスキルを恐れて、序盤は火神君は灰崎君のマークに専念か。うんうん。そうだよね)」

 

灰崎の得意とする強奪(スナッチ)。相手の技を真似、その際にリズムやテンポを我流に変え、それを見せられたその技本来の持ち主に技を使えなくさせる技。

 

「(灰崎君は……ちょっと今の展開にイライラしてるね~。けど、ごめんね~。彼にはもうちょっと我慢してもらおうかな~)」

 

現状、灰崎はボールをほぼほぼ持たせてもらえず、目に見えてイラついた様相を見せている。

 

「(序盤からあまり離され過ぎるのもいただけないね~。…うん、少し相手を困らせようか…)…外園く~ん。すぐ試合出れる~?」

 

「もう出番!? いつでも出られるように準備は出来てます!」

 

指名を受けた外園が元気よく返事をする。

 

「おっ、えらいねー。それじゃ、行こうかー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『アウトオブバウンズ、鳳舞()

 

「くそっ!」

 

パスカットした池永だったが、ボールがラインを割り、悔しがる。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 鳳舞()!!!」

 

ここで、鳳舞の選手交代がコールされる。

 

 

OUT 東雲

 

IN  外園

 

 

「頼む!」

 

「応! 任せろ!」

 

ハイタッチを交わし、コートを出る東雲と、コート入りする外園。

 

「(外園君、シューターを入れて来た。外から攻めるつもり?)」

 

外から中へと切り込む東雲から、外からスリーを決める外園に交代させた鳳舞。外園は集まった選手達に何やら指示を出している。

 

「(…どんな狙いがあるにしろ、今は現状維持ね。マークは引き続き、朝日奈君に任せるわ)」

 

リコが朝日奈に視線を向け、目が合うと、リコは頷く。

 

「(…コクリ)」

 

その意図に気付いた朝日奈も同じように頷いた。

 

 

鳳舞のオフェンス。

 

「(…来た!)」

 

ボールを運ぶ三浦。すると、大城が朝日奈にスクリーンをかけ、外園がフリーとなるべく、動く。

 

「スイッチ!」

 

「おらぁ、任せろ!」

 

スクリーンに捕まった朝日奈が指示を出し、池永が外園のマークに向かう。

 

 

――ピッ!

 

 

三浦がパスを出す。

 

『っ!?』

 

ボールはスクリーンを使ってフリーとなった外園…ではなく、スクリーンと同時に中へと走り込んだ大城。

 

「(ピック&ロールか!?)」

 

まさかの選択に目を見開く新海。

 

ハイポスト付近でボールを掴む大城がシュート体勢に入る。

 

「…くっ!」

 

これを見て田仲がヘルプに向かうが、完全に後手。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

田仲がヘルプに来ると、大城はシュートを中断。ボールを弾ませるようにさらに中へとパスを出す。

 

「ナイスパース!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ゴール下でフリーでボールを掴んだ鳴海がそこからボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

豪快なダンクに観客が沸き上がる。

 

 

続く、誠凛のオフェンス。

 

「っ!?」

 

ハイポストでボールを掴んだ朝日奈。これまで通り、ポストアップで押し込もうとした時、交代で入った外園だけでなく、大城と鳴海もディフェンスに入った。

 

「トリプルチーム!?」

 

これにはリコも驚く。

 

「…くっ!」

 

外園だけでなく、自分より大きな選手2人に囲まれ、ボールキープに必死になる朝日奈。

 

「いったん戻せ!」

 

見かねた新海が近付きながら声を出し、声のした方向へ朝日奈が何とか強引にパスを出す。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、そのパスは三浦によってスティールされてしまう。

 

「戻れ、ディフェンスだ!」

 

慌てて声を張り上げ、ディフェンスに戻る新海と誠凛の選手達。何とか速攻に走る三浦を捉え、足を止めさせ、ディフェンス体系を整えるが…。

 

「(…また!?)」

 

再び、大城が朝日奈にスクリーンをかけ、外園がフリーのポジションへと動く。

 

「またかよ!」

 

悪態を吐きながら池永が外園を追いかける。

 

 

――ピッ!

 

 

しかし、ボールは外園ではなく、再び大城の下へと出された。

 

「っ!?」

 

中でボールを掴んだ大城。田仲がヘルプに出るか迷う。行けば鳴海をフリーにしてしまうからだ。

 

「任せろ!」

 

ここで新海が大城へのヘルプに向かう。

 

 

「あーあ、完全に後手後手だな」

 

観客席の空が呟く。

 

 

――ピッ!

 

 

大城がパスを出す。ボールはフリースローライン付近の三浦の下に。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取った三浦は即座にジャンプシュートを放ち、決めた。

 

「よーし!」

 

得点を決めた三浦がガッツポーズ。

 

「…くそっ」

 

悔しがりながらスローワーとなった田仲がボールを掴んでリング下のエンドラインの外側に立つ。その時!

 

「っ!?」

 

鳴海が田仲の前に両手を上げて立ちはだかった。同時に、他の選手達がそれぞれ、誠凛の選手達をマークする。

 

 

『おいおい、ここでオールコートマンツーマンかよ!?』

 

鳳舞のこの選択に、思わず観客が声を上げる。

 

 

「(選手達が浮足立ってるこの状況で…っ!? まさか、これも指示!?)」

 

ここでリコは、外園がコートに入った際、何やら鳳舞の選手達を集めて指示を出していた事を思い出す。

 

「もうすぐ5秒だ。早く出せ!」

 

オーバータイムが近付き、池永が田仲を急かす。

 

「くそっ!」

 

そうなる前に田仲は目の前の鳴海の後ろに僅かに見えた火神にパスを出す。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

しかし、そのパスは大城にカットされてしまう。

 

「あっ!?」

 

「だーくっそ! 打たせねえ!」

 

唖然と声を上げる田仲。池永が慌てて大城の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

大城は無理に打たず、ボールを三浦に渡した。三浦は、ボールをその場でキープしながらゲームメイクを始めた。

 

 

「誠凛ペースから一転、鳳舞に傾き始めましたね」

 

試合を見守っていた大地がボソリと呟く。

 

「…織田さんの本領発揮か。今年の夏にインターハイを制したと言っても、火神以外はまだ2年生。しかも、去年の冬は全国に出られなかった上に2年生は全員が控えだった。誠凛が高さのミスマッチを突いたなら、織田さんはキャリアのミスマッチを突いて来た」

 

一転した試合展開に、上杉が解説する。

 

「…完全に浮足立ってんな。この程度の奇策で情けねえな」

 

「お前が言うなや」

 

叱責の言葉をかける空に、天野がツッコんだ。

 

 

「監督、このままだとまずいんじゃ!?」

 

試合展開に焦った降旗がリコに提案する。

 

「…」

 

暫し、思案したリコ。そして立ち上がる。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

コート上では再び大城が朝日奈にスクリーンをかける。

 

「またかよ! いい加減、しつこいんだよ!」

 

文句を言いながら池永が大城のピック&ロールに備える。

 

 

――ピッ!

 

 

三浦からパスが出される。

 

『っ!?』

 

大きく目が見開かれる誠凛の選手達。ボールは、大城ではなく、スクリーンで朝日奈のマークを引き剥がした外園に。

 

「やった、いただき!」

 

フリーでボールを受けた外園が嬉々としてスリーを放った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…えっ!?」

 

誰もがやられた! っと、思ったその時、リリースされたボールは突如、現れた1本の手に叩き落された。

 

「火神!?」

 

思わず鳴海が叫ぶ。ブロックしたのは火神。織田の指示通り、進んでいたはずだったが、それを火神が咄嗟の機転で防いだ。

 

『アウトオブバウンズ、鳳舞()

 

叩かれたボールはそのままラインを割った。

 

「バカ野郎! この程度の事でオタオタしてんじゃねえ! これはウィンターカップの準々決勝だぞ!? これくらい仕掛けてくんのは当たり前だろうが!」

 

浮足立つ誠凛の選手達を見かねた火神が選手達に檄を飛ばす。

 

『…っ』

 

この言葉に、他の4人はバツの悪い表情となる。

 

「何か特別な事をする必要はねえ。練習通り、これまで通りやればいいんだよ。分かったら全員、頭冷やしやがれ」

 

『…』

 

一言目の叱責するような声から一転、諭すような二言目に、4人の2年生達は落ち着きを取り戻した。

 

 

「火神君…」

 

火神の檄に、落ち着くを取り戻した選手達を見て、リコはオフィシャルテーブルに向かうとした足を止め、ベンチへと座った。

 

「あの生意気だった火神君が、少しは主将らしくなったじゃない」

 

精神的にも成長した火神を見て、リコは微笑んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

1度は鳳舞に傾きかけた流れを、火神が咄嗟の機転と檄で引き戻した。試合はそのまま、第1Qまで進んだ。

 

 

第1Q、残り11秒

 

 

誠凛 21

鳳舞 14

 

 

誠凛ボール。新海がボールをキープしている。

 

「…よう、全然ボール回してもらえてねえな」

 

右ウィングの位置でマークをしている火神に話しかける灰崎。

 

キセキの世代(あいつら)に勝ったって言うから、どの程度かと思ったが、俺にビビッて仕掛けてこれねえのか? ハッ! この程度の奴に負けたあいつらもヤキが回ったか?」

 

煽るようにトラッシュトークを仕掛ける灰崎。

 

「…うるせー野郎だ。…新海、寄越せ!」

 

ボソリと返事をした火神は、ボールを要求した。

 

「…えっ!?」

 

これに戸惑う新海。

 

「…火神君?」

 

リコも同様であった。

 

序盤、誠凛は火神以外、新海と朝日奈を中心に攻めるのが試合前に決めた作戦であり、火神は後半戦に備え、灰崎を抑える事と技を盗ませない事に専念していた。

 

「良いから寄越せ!」

 

再度、ボールを要求する火神。

 

「…」

 

ボールをキープする新海は暫し考え、火神にパスを出した。

 

「ようやくやる気になったかよ。サクッと止めてやるよ」

 

ニヤリとさせながらディフェンスに入る灰崎。

 

「そうかよ。やれるもんならやってみろ。…出来るならな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

仕掛ける火神。

 

「へっ!」

 

これに反応。追走する灰崎。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フルドライブの後、高速ロールでリングに向かって反転し、そこからボールを左手で掴み、リングに向かって飛んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…っ」

 

ブロックに飛んだ灰崎だったが、火神は灰崎の上からボールをリングに叩きつけた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

『第1Q最後にエース対決! 火神が制した!』

 

 

「…ちっ」

 

舌打ちをする灰崎。

 

「…」

 

リングから手を放し、着地した火神は、灰崎を一瞥をした後、ベンチへと戻っていった。

 

「(…何処かで見た技かと思ったが、前にリョータとやり合った時に使ってた技に似てんな。なるほど、あの技は火神(こいつ)からコピーしたのか…)」

 

既視感のある火神のムーブ。一昨年のウィンターカップで、黄瀬が使っていた技と記憶が一致した灰崎。

 

「(こいつが本家本元って訳か…)…いいなあ、それ」

 

不敵に笑いながら灰崎は自身の右手の親指をペロッと舐めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おら、さっさとドリンク寄越せ!」

 

ベンチにドカッと座った灰崎が命令する。

 

「えっらそうに…」

 

そんな灰崎をげんなりした目で睨む鳴海。

 

「みんなお疲れ~。それじゃ、ここからの作戦だけど――」

 

織田が選手達に指示を出そうとしたその時。

 

「…ハッ! いらねえよ、んなの。俺にボール回せ」

 

遮るように灰崎が言葉を挟む。

 

「チマチマ小細工なんざする必要ねえんだよ。俺がさっさと決めてやる」

 

「てめ、また自己中な事言いやがって…!」

 

我が儘な物言いに怒りを露にする鳴海。

 

「あの程度の雑魚共に手こずるてめえらはあてにならねえって言ってんだよ」

 

「相手はあの火神だぞ? お前、やれるのか?」

 

淡々と尋ねる大城。

 

「余裕に決まってんだろ。つうか、あんなただ高く飛べるだけの雑魚にそこまで警戒する神経が俺には理解出来ねえよ」

 

火神を危険視する鳴海と大城を嘲笑う灰崎。

 

「…」

 

顎に手を当てながら思案する織田。

 

「…うん。いいよ。それじゃ、ここからはとりあえず灰崎君に任せようかな」

 

織田は灰崎の言葉に賛同した。

 

「っ!? 良いんですか監督!?」

 

納得出来なかった鳴海が食い下がる。

 

「いいよいいよ。本音はもうちょっと我慢してほしかったけど、思ったより点差付いちゃったし、これ以上ズルズル行かれるより、ここは灰崎君に頼っちゃおうかな」

 

「…分かりました」

 

監督の織田にそう言われてしまい、鳴海は渋々納得した。

 

「…てめえがどんな技を持とうと、全て俺の物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…火神君」

 

作戦を半ば無視した火神をジト目で睨むリコ。

 

「すんません。やれると思ったんで」

 

火神はその視線を受けながら申し訳なさそうに謝罪した。

 

「…ハァ。まあいいわ」

 

溜息を吐きながらリコはこれ以上、言わなかった。

 

「…なあ、黒子」

 

「なんでしょう?」

 

水分を摂りながら、火神はすぐ近くで立つ黒子に話しかけた。

 

「夏の花月対鳳舞の試合のスコア、覚えてるか?」

 

「? …確か、86対75だったと思います」

 

記憶を辿り、伝える黒子。

 

「……11点差か」

 

ボソリと呟く火神。

 

「監督、ちょっといいスか? 頼みがあるんですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

始まった第4試合、誠凛対鳳舞の試合。

 

試合は当初、ペースを握ると、鳳舞が選手交代と奇策でペースを奪い、再度、誠凛がペースを握り返した。

 

第1Q終了目前、火神と灰崎がぶつかり、ここは火神が制した。

 

試合は、第2Qへと進んでいくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





実際、灰崎の才能ってどの程度なんだろう?

原作では、高校に進学して真っ先に誠凛に負けて、心を入れ替えた黄瀬を相手に、2年生の全中前にバスケ部を辞め、恐らく、高校1年のウィンターカップ目前まで練習をしなかってであろう灰崎がパーフェクトコピーを使うまで追いつめているので、実力があるのは確かですが、あの時の黄瀬って、オーバーワークで足を怪我してるんですよね。もし、万全だったらどう結果が変わったのか気になりますし、赤司は灰崎に黄瀬の才能には及ばないと断じている。これは灰崎の才能は黄瀬の才能に及ばないと言葉通りの意味なのか、それとも実際才能面は変わらないが、灰崎がガチで努力出来る性格ではないので、それを見越しての言葉だったのか。実際、努力出来るのも才能の1つなので。自分の中で永遠の謎です。ただ、ファンブックでのパラメーターの数値の合計は火神と変わらないですよね…(;^ω^)

恐らく氷室よりは上でしょうが、実際はどうなんでしょうかね。…まあ、もし、灰崎の才能が黄瀬と同等だったなら、赤司以外はお手上げになりそうな気がしますが…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第194Q~切り札~


投稿します!

遂に新年度に突入。今年も平穏に暮らせるか…((+_+))

それではどうぞ!



 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバルが終了し、両校の選手達がコートへと戻って来る。誠凛、鳳舞共に、選手交代はなし。

 

「…」

 

審判からボールを受け取った朝日奈が新海にパスを出し、第2Qが開始される。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ新海。鳳舞のディフェンスはこれも変わらず、マンツーマンディフェンスを敷いている。

 

「こっちだ、来い!」

 

どう攻めるか、ゲームメイクをしていると、池永がボールを要求する。

 

「速くボール寄越せ! おらっ!」

 

尚も激しく主張しながら池永がボールの要求を続ける。

 

「…ハァ、分かったよ」

 

あまりに自己主張を続ける池永に、新海はげんなりしながらパスを出した。

 

「おっしゃ、第2Q、早々にかますぜ」

 

「…来い」

 

右ウィングの位置でボールを受けた池永。その前に大城が静かに対峙する。

 

「…」

 

「…」

 

右足でジャブステップを踏み、ボールを動かしながら大城を牽制する。

 

 

「ジャブステップか? にしては、随分ステップが大きいな」

 

「ボールも凄い動かしてる」

 

池永の動きに、菅野と帆足が反応。池永はかなり大きく右足を動かし、ボールは頭上から足元へと大きく動かしているのだ。

 

 

「…っ」

 

その大きな池永のムーブにやり辛さを覚える大城。

 

「らぁっ!」

 

大きく前に右足を動かし、大城を下がらせると、池永はシュート体勢に入る。

 

「…ちっ」

 

すぐさま距離を詰め、ブロックに向かう大城。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、これはフェイク。池永はボールを頭上にリフトさせると、そこからドライブ。大城を抜きさる。

 

 

『おぉっ! あいつ、口だけじゃないぞ!?』

 

 

「たりめえだろうが!」

 

観客のどよめきに半ばツッコミを入れながらリングへと突き進む池永。

 

「来いや!!!」

 

その先に待ち受けるのは鳴海。

 

「言われなくとも!!!」

 

叫びながらボールを掴んだ池永。

 

「(右か!?)」

 

左足の1歩目のステップを踏んだ池永を見て、自身から見て右から攻めると読み、警戒する鳴海。

 

「残念!」

 

「っ!?」

 

しかし、読みとは異なり、池永は2歩目は左へとステップを踏み、鳴海をかわす。

 

「いただき♪」

 

鳴海をかわした池永は悠々とレイアップの体勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…はっ?」

 

「雑魚が調子に乗ってんじゃねえよ」

 

ボールを放った瞬間、後ろから現れた灰崎によってボールはブロックされた。

 

「寄越せ!」

 

「は、はい!」

 

ルーズボールを拾った三浦。ブロックをしてすぐさま速攻に走り、ボールを要求した灰崎にすぐさまパスを出した。

 

「行くぜ」

 

ボールを受けた灰崎はそのままドリブルを開始した。

 

「来いよ」

 

いち早くディフェンスに戻っていた火神が待ち受ける。

 

「…っ」

 

灰崎は火神が立ち塞がってもお構いなしに強引に突き進み、火神は身体を張って阻む。

 

「…もらうぜ、さっきの!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言と共に灰崎は高速ロールでリングに向かって反転し、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

 

『うおーっ! さっきの火神の技だ!』

 

第1Q終了目前に火神が披露した、フルドライブからの高速ロールワンハンドダンク。動きそのままの技に、観客が沸き上がる。

 

 

灰崎がボールをリングに叩きつける。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

両目を見開く灰崎。ボールがリングに叩きつけられる直前、そのボールは叩き落された。

 

「来ると思ったぜ。馬鹿の一つ覚えにパクりやがって、んなもん、決めさすかよ」

 

 

『おぉぉぉぉー--っ! 火神止めたぁっ!!!』

 

今度は火神のブロックに沸き上がる観客。

 

 

「ナイスキャプテン! 速攻!」

 

ルーズボールを拾った朝日奈はボールを新海に預け、そのまま前線へと走った。

 

「…ちっ」

 

ダンクが決まると思っていた灰崎は軽く不機嫌そうに舌打ちをする。

 

「こっちだ!」

 

フロントコートまでボールを運ぶと、火神がボールを要求する。

 

「頼みます!」

 

新海は躊躇う事無くパスを出した。

 

「俺には渋ったくせに何で火神には躊躇なく出すんだよ」

 

軽く愚痴る池永。

 

「伊達にリョータ達には勝ってねえみてーだな。次は止めてやるよ」

 

腰を落とし、集中力を高める灰崎。

 

「…」

 

ジャブステップを踏みながら牽制する火神。

 

 

――スッ…。

 

 

火神がボールを揺らしながら1歩踏み出してスペースを作り、その後、後ろに飛びながらジャンプシュート体勢に入った。

 

「バカが、そんな甘い崩しにかかる訳ねえだろ!」

 

空いたスペースをすぐさま詰めた灰崎がブロックに飛んだ。

 

「……っ!?」

 

ブロックを確信し、1度は不敵に笑った灰崎の表情が一変、驚愕へと代わる。

 

「(届…かねぇ…!?)」

 

踏み込んで飛んだはずの灰崎のブロック。しかし、火神が掲げたボールはその更に上にあった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

灰崎の上から放ったフェイダウェイシュートは、リングを的確に射抜いた。

 

 

「へぇ…」

 

一連のムーブからのフェイダウェイ。これを見て青峰は唸り声を上げる。

 

「火神君のフェイダウェイシュート。シンプルだけど、ジャンプ力のある火神君が使えばそれだけで相手からすれば脅威だね」

 

桃井が今のプレーの効果を口にする。

 

「今の1本は楔になる」

 

「楔?」

 

「今後、火神が同じようにムーブやステップを見せれば、今のフェイダウェイがちらつく」

 

「…」

 

「あいつはドライブもあっから、迂闊に距離を詰めればたちまち抜かれる。…灰崎じゃあ止められねえ」

 

断言する青峰と、納得する桃井。

 

「…次のプレーで盗んでくるかな?」

 

「あいつの性格を考えればな。技自体は単純だから盗むのは簡単だ。もっとも――」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「盗んだ所でブロックされんのがオチだがな」

 

青峰の言葉通り、オフェンスが鳳舞に切り替わり、ボールを受け取った灰崎が先程の火神の技を盗もうとしたが、リリースしたボールを火神に再び叩き落された。

 

「っ!?」

 

コート上では灰崎が目を見開いていた。

 

「火神が使う技はどれもバスケの基本的なテクニックで特別、派手でもなければ難度もそこまで高くもねえ。だが、火神のジャンプ力(‥‥‥‥)が加わった瞬間、その技は必殺技に変貌する。まともに止めるのは俺でも多少、手を焼く程度には厄介だ」

 

「うん。大ちゃんに勝ってるだけあるよね」

 

「…1ON1なら俺の方が上だ」

 

「フフッ」

 

負けん気を見せる青峰に対し、微笑ましく笑う桃井。

 

「エース対決が火神君に分があるなら、やっぱり大ちゃんに言う通り、誠凛が優勢、だよね?」

 

「そう言ってんだろ。…見たとこ、火神以外の所も誠凛が上みてーだからな。何もなければ(・・・・・・)、このまま誠凛が押し切って終わりだ」

 

「…何もなければ」

 

ここで桃井は視線を鳳舞ベンチ…、にこやかにベンチに腰掛ける織田に向ける。

 

「高校大学問わず、長い監督キャリアで幾度となくチームを優勝まで押し上げ、全日本代表の監督経験もある織田さん。監督に任命されて1年で鳳舞を全国出場に導いた名伯楽…」

 

「…要するに古狸か。確かに、何処ぞの腹黒メガネみてーに悪そうな性格してそうだな」

 

かつての桐皇の主将、今吉翔一と照らし合わせる青峰。

 

「またそういう事言う…。原澤監督もそうだけど、中学時代に途中まで監督だった、白金監督もお世話になった事がある程の人だよ」

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、鳳舞()!』

 

ここで、鳳舞のタイムアウトがコールされた。

 

「…ふん、いいタイミングだな。灰崎(あのバカ)が熱くなりかけた所で取ったか。…さて、今の誠凛相手にどんな手打って来るか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

鳳舞のタイムアウトがコールされ、1分間の時間の後、選手達がコートに戻ってくる。

 

「…」

 

「(明らかに熱くなってた灰崎が落ち着きを取り戻してやがるな。何を言ったか知らねえが、あの爺さん、さすが、監督が警戒するだけあるな…)」

 

冷静さを取り戻している灰崎を見て、百戦錬磨は伊達ではないと相手監督を意識する。

 

「祐二!」

 

外園が三浦にボールを渡し、試合が再開される。

 

「(…タイムアウト直後の1本、どう来る?)」

 

読みを働かせつつ、目の前の相手に集中する新海。

 

「頼みます!」

 

ボールを捌く三浦。

 

「…いいぜ、何度でも相手になってやるよ」

 

出されたパスは灰崎に渡る。

 

「…」

 

「…」

 

スリーポイントラインの外側、右ウィング付近で睨み合う火神と灰崎。

 

 

――スッ…。

 

 

その時、大城が動き、火神の背後で両腕を胸の前でクロスして立つ。

 

「っ!? スクリーンだ!」

 

動きを見た池永が火神に知らせる。直後に灰崎が1歩踏み出す。

 

「(チームプレーで来るか。だが、やらせねえ!)」

 

ドライブに備える火神。

 

「っ!?」

 

しかし、火神の読みとは裏腹に、灰崎はシュート体勢に入る。

 

「…ちっ」

 

これを見て、火神は舌打ちをしながらブロックに飛ぶ。だが、その手がボールに触れるより速くボールはリリースされる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

「…余計な事してんじゃねえよ」

 

ディフェンスに戻る最中、灰崎が不機嫌そうに大城に抗議する。

 

「監督の指示だ」

 

対して大城は、淡々と返した。

 

「今のは…」

 

ブロックに間に合わなかった火神。今の灰崎のスリー。火神には見覚えがあった。

 

 

「あれって、桜井君の…!」

 

「ああ。良のスリーだ」

 

同様に、桃井も気付いた。今の灰崎のスリーは、チームメイトである桜井のクイックリリースと同じであったのだ。

 

「フン、なるほど、事前に灰崎に色々盗ませてたって訳か」

 

鳳舞ベンチにて、ニコニコしながら試合を見つめている織田に視線を向ける青峰。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そこから、灰崎は、持ち前の強奪の技術で得た技を披露していく。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

スリーポイントラインの外側で、シュート体勢に入る灰崎。ボールを両手で掴み、下から放り投げるようにリリースする。

 

「(ちっ、今度は海常の…!)」

 

ブロックに飛んだ火神だったが、タイミングが合わず、ボールはリングへと向かって行く。

 

 

「…あんなに回転がユニークなスリーは初めて見るよ」

 

安定しないボールの回転を見て思わず感想を漏らす生嶋。

 

「入らんか?」

 

「…ううん。入るね」

 

首を横に振る生嶋。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは言葉通り、リングを潜り抜けた。

 

「…っ、あんな汚ねえ回転でも入っちまうんだな。つうか、灰崎が使ったって事は、過去にあの打ち方してた奴がいるって事だよな? 良くあれで決められるな…」

 

「…ま、シュートなんて、結局の所、入れば良い訳ですし」

 

苦笑する菅野。空はあれはあれでありだと頷く。

 

 

――スッ…。

 

 

中に切り込んだ灰崎がボールを掴んで飛ぶ。

 

「…っ」

 

火神がブロックに飛ぶ。すると…。

 

「っ!?」

 

灰崎は、レイアップの体勢で火神のブロックを越えるようにボールを放り投げた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ブロックの上を弧を描くように越えたボールがリングを通過する。

 

「…かつてのチームメイトの技まで」

 

リコが顎の手を当てながら呟く。

 

今のスクープショット。これはかつて、灰崎が福田総合に所属していた頃のチームメイトであった、望月の技である。

 

「盗品の大盤振る舞いね」

 

思わずリコがそう感想を漏らす。

 

「…」

 

黒子は、そんな灰崎に対し、無言で視線を向けていた。

 

 

灰崎が強奪した技で得点を重ねていく。しかし、灰崎一辺倒では攻めず…。

 

「あっ!?」

 

思わず声を上げる池永。池永の背後を取った大城がハイポストでボールを掴む。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そこからジャンプショットを放ち、決める。

 

「…おいおい、自分のマークから目を離すなよ」

 

「あーあー、悪かった悪かった!」

 

呆れた視線を向ける朝日奈。池永はバツが悪そうにしながら謝罪をする。

 

「(とは言え、抜群のタイミングだったな…)」

 

同時に、安定して灰崎が得点を重ねている中、池永の注意が大城から逸れている事に察してパスを出した三浦を胸中で称賛する朝日奈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「へぇ…」

 

抜群のタイミングでの三浦のパスに同じく感心する空。

 

「灰崎さんが調子良く得点出来ている中で、池永さんに僅かに出来た隙を突いてのパス。…あなたならあの状況で出せましたか?」

 

「いや、俺なら自分で突破して決めてた」

 

「……でしょうね」

 

尋ねた大地だったが、斜め上の空らしい答えに苦笑する。

 

「しかし、中学時代にやり合った時から思ってけど、あいつ、良い司令塔だよな」

 

全中大会の地域予選決勝でマッチアップした経験のある空。その実力は認めていた。

 

「それはそうだよ」

 

その言葉に、生嶋が口を挟む。

 

「キセキの世代が全中を三連覇した後の新人戦で、注目を浴びた司令塔が3人にいたんだ」

 

「ほうほう」

 

空はその頃、バスケ部に所属しておらず、その辺りの事情は知らない。事情を知る生嶋の話に興味を示す。

 

「1人は僕と同じ、城ヶ崎中の小牧(マッキー)、それと、2人目は帝光中の新海君、3人目は――」

 

「三浦って訳か。なるほど」

 

いずれも実力者であり、納得する空。

 

「3人共、司令塔としてはタイプが異なりますね。小牧さんはドライブ技術も外もある1ON1に長けた選手、三浦さんは広い視野とパスセンスに長けたプレイメーカー、新海さんは得点も出来てパスも出来るオールラウンダー…」

 

異なる特性を持っている事に着目した大地。

 

「僕達が3年の時の全中大会は、その3人の司令塔対決も1つの注目の対象だったんだよ。…もっとも、勝者はくーだった訳だけど」

 

「そうか、神城はその3人とマッチアップしたんだったな」

 

東郷中、城ヶ崎中、帝光中と、その3人が所属するチームと中学で戦い、その全てに勝ったのが空のいる星南中。その事実を思い出す松永。

 

「今、コートにいる三浦と新海は、全中では新海が勝っていたが…」

 

「とは言えあれは、こう言ったら悪いが、他の4人の力の差が大き過ぎた。味方を生かせない状況じゃ、三浦は不利だろ」

 

全中で戦った帝光中対東郷中は、大差で帝光中が勝利したが、司令塔対決だけに注目した場合、それだけでは勝敗は測れないと空が言う。

 

「だが、今回はだいぶその力の差は埋まっているように見えるが?」

 

「どうかな」

 

今度こそ、2人の司令塔対決に優劣が付く、と、考えた松永だったが、空は首を横に振る。

 

「あれを見ろよ」

 

空が電光掲示板を指差す。

 

 

第2Q、残り2分11秒

 

 

誠凛 43

鳳舞 34

 

 

「灰崎が決めだして、鳳舞が押し出したように見えっけど、点差は縮まってねえぜ」

 

「…っ、そういえば」

 

コート上の雰囲気で気付かなったが、点差を見て、松永は第2Qが始まってから点差が縮まっていない。むしろ、僅かに広がっている。

 

「やはり、総合力では誠凛が上か」

 

ここで上杉が口を挟む。

 

「灰崎が状況に応じた技を使い出した事で、エース対決は均衡し始めたが、それ以外では誠凛が優位に動いている」

 

言葉通り、朝日奈はマッチアップ相手が代わっても変わらず、体格差を生かしたポストプレーで、新海も同様に高さのミスマッチを突き、池永は1ON1スキルを活かし、田仲は堅実なプレーで、鳳舞を圧倒していた。

 

「織田さんの采配で何とか食らいついているが、それでも追いすがるのが現状やっとだ。鳳舞が逆転するには、何か強力な切り札(・・・・・・)のようなものがなければ厳しいだろうな」

 

胸の前で両腕を組みながら上杉が試合を解説する。

 

「強力な切り札、か…」

 

空が1人、呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

火神のジャンプショットが決まる。

 

 

誠凛 45

鳳舞 34

 

 

「(これで11点差…)」

 

電光掲示板で得点を確認する火神。

 

「…クソが!」

 

タイムアウトを取り、その際の織田の言葉で落ち着きを取り戻し、火神から得点が出来るようになった灰崎だったが、着実に開いていく点差にイラつきを隠せなかった。

 

「……ふぅ」

 

一息吐いて、頭を落ち着かせる灰崎。

 

「(まさか、テツヤのいねえ誠凛(こいつら)がここまでやるとはな。…仕方ねえ、リョータとやるまで使わねえつもりだったが…)」

 

ここで灰崎がベンチの織田に視線を向ける。

 

「…?」

 

「(ジジイ、あれ(・・)、使うぜ)」

 

織田に向けて、合図を出す灰崎。

 

「うーん…」

 

その合図を見て、その内容を組んだ織田が思案する。電光掲示板に視線を向け、残り時間を確認した後…。

 

「(いいよー)」

 

右手の親指と人差し指で丸を作り、オッケーのサインを出した。

 

「(ハハッ! そうこなくちゃな)…寄越せ!」

 

スローワーとなった鳴海に対し、ボールを要求する灰崎。

 

「あん?」

 

怪訝そうにする鳴海。

 

「良いから早くボール寄越せボケ!」

 

「まさかてめえがボール運ぶのか? あー分かったよ! 取られんじゃねえぞ」

 

仕方なく鳴海は灰崎にボールを渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ディフェンス、止めるぞ! 各自、しっかりマークしろよ!」

 

『おう!!!』

 

火神が鼓舞し、選手達が応える。自陣に戻った誠凛の選手達が、鳳舞のオフェンスに備える。

 

「…ちょっと舐めてたぜ。いいぜ、少し本気になってやるよ」

 

『?』

 

自陣のリングの少し前でボールを保持している灰崎。ボールをフロントコートに運ばない姿を怪訝そうに見つめる誠凛の選手達。

 

「っ!?」

 

ボールを胸の前へとリフトさせた所で火神が気付いた。

 

灰崎が深く膝を曲げて沈み込む。

 

「…まさか!?」

 

「っ!?」

 

ここでリコと黒子も気付く。

 

 

――ピッ!!!

 

 

次の瞬間、灰崎は高く飛びながらボールをリリースする。

 

『っ!?』

 

これに、コート上の他の選手達も驚愕する。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

高くループしたボールはその後、落下し、リングの中心を通過した。

 

『…』

 

静まり返る会場。ボールが転々とする音だけが響き渡る。

 

「何、驚いてんだ? リョータに出来て、俺に出来ねえわけがねえだろうが」

 

静まり返る中、灰崎が口を開く。

 

「俺のものだ」

 

不敵に笑った灰崎が、自身の右手の親指をペロッと舐めたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





やっぱりと言うか、長くなったorz

まあ、この先のネタ集めも完璧ではないので、ま、いっか…(;^ω^)

とりあえず、早く花粉シーズン終わってくれ……って、過去の前書き後書き見返すと、この季節、自分はそればっかりだと気付いた今日この頃…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第195Q~見てきたもの~


投稿します!

日中は暑いですね…(>_<)

花粉症のせいで窓が開けられないので、扇風機を投入、しかし、朝は寒いので横にストーブが鎮座していると言う、奇妙な状況…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

「…っ!」

 

シュート体勢に入った灰崎に対し、火神がブロックに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

火神がシュートコースを塞ぐと、灰崎はボールを右手に持って下げ、下からリングに向かって放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

投げられたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「ハッ!」

 

灰崎はニヤリを笑いながら右手の親指の腹を舐める。

 

 

「もらった!」

 

誠凛のオフェンス。新海がボールを運び、朝日奈にパス。朝日奈が意表を突き、スリーの体勢に入る。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!? 何処から!?」

 

僅かなフリーの瞬間を狙って打ったはずのスリー。

 

「んなもん、不意を突いた内に入らねえんだよ」

 

突如として現れた灰崎によってリリースと同時にボールを叩き落とされた。

 

「速攻!」

 

ルーズボールを拾った三浦が声を出し、そのままドリブルを始めた。

 

「くそっ、戻れ!」

 

慌ててディフェンスに戻りながら新海が声を出す。

 

「寄越せ!」

 

フロントコートまでボールを進めると、灰崎がボールを要求する。

 

「頼みます!」

 

迷う事無く三浦は灰崎にパスを出す。

 

「止める!」

 

「来いや!」

 

灰崎の前に、田仲と池永が立ち塞がる。

 

「雑魚が何人来ても同じなんだよ」

 

ゴール下まで切り込んだ灰崎がボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。田仲と池永もブロックに飛ぶ。

 

「「っ!?」」

 

回転しながらジャンプする灰崎。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

「…がっ!」

 

2人のブロックを弾き飛ばしながら灰崎がボールをリングに叩きつけた。

 

「怪我したくなきゃ、ゴール下で俺がボール持ったら近寄らねえ事だ。どうせてめえら雑魚共じゃ何をしても無駄なんだからな」

 

「「…っ!」」

 

床に尻餅を付いた2人に対し、リングから手を放して着地した灰崎が見下ろしながら言い放った。

 

 

『おいおい、今のダンクとその前のブロック、まるで紫原だ!』

 

『その前のフォームレスシュートは青峰じゃねえか!?』

 

『最初のは緑間の超ロングスリーだったぜ!?』

 

『まさにキセキの世代! 黄瀬以外にキセキの世代の技を再現出来る奴がいるのかよ!?』

 

立て続けに披露されるキセキの世代の技を目の当たりにし、驚きを隠せない観客。

 

 

「(どうする…!)」

 

攻守が代わり、ボールを運ぶ新海。だが、その胸中は焦りで占めていた。

 

「(中に切り込んでもさっきのブロックが待ってる。なら、スリーを狙うか? だが、どうやってシュートチャンスを作る…!?)」

 

必死にゲームメイクに頭を働かせる新海。

 

「…」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「目の前の相手を無視して考え事か? 隙だらけだぜ」

 

新海がキープしていたボールに三浦が手を伸ばし、弾いた。

 

「速攻!」

 

零れたボールをすかさず確保した三浦が号令と共にドリブルを開始した。

 

「くそっ、何をやってるんだ俺は!?」

 

ボールを奪われる失態をし、自身を罵倒する新海。

 

「灰崎さん!」

 

フロントコートに駆け上がった所で三浦が灰崎にパスを出す。

 

「ハッ! もう一丁!」

 

ボールを受けた灰崎はそのままリングへと突き進む。

 

「こんの、舐めてんじゃねーぞ!」

 

そこへ、池永が後方から駆け寄り、距離を詰める。

 

「っ!? 池永、行くな!!!」

 

後ろから火神が池永に制止をかける。

 

「うおぉぉぉっ!!!」

 

だが、その制止も届く事はなく、灰崎がダンクに飛ぶのと同時に池永が背後からブロックに飛んだ。

 

 

「あーあ」

 

思わず嘆息する空。

 

 

――ドン!!!

 

 

池永の身体が灰崎に背中に接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹く。

 

「…ってぇな」

 

悪態を吐いた灰崎。同時にボールを背後へと回し、背中からスナップを利かせてボールをリングへと放る。

 

「っ!?」

 

リングへと向かって行くボールを目を見開いて茫然と見つめる池永。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのボールは、無情にもリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、プッシング、白11番(池永)! バスケットカウントワンスロー!』

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁっ!!! 何だ今の!?』

 

頭を抱えながら歓声を上げる観客。

 

 

「…ワンスロー…」

 

みすみすボーナススローを与えてしまい、茫然とする池永。

 

「まるでキセキの世代そのものだ…!」

 

それ以外の形容詞が見つからず、思わず口にしてしまう朝日奈。

 

「…」

 

新海は、もはや言葉を発する事も出来なかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

灰崎は与えられたフリースローを決め、3点プレーを成功させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q終了

 

 

誠凛 45

鳳舞 44

 

 

怒涛の2分間が終わった。

 

『11点差あったのに、2分でワンゴール差まで詰めちまったよ』

 

『あの灰崎(6番)、まるで黄瀬涼太みたいにキセキの世代の技を真似してたよな?』

 

『誠凛が勝つと思ってたけど、これは万が一もあり得るぞ!?』

 

第2Q、終了2分前に灰崎が見せた衝撃に、観客もざわついていた。

 

試合の半分が終わり、これよりハーフタイム。誠凛、鳳舞の選手達は、ベンチから離れ、控室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

鳳舞控室…。

 

「よしよし! 俺達やれてんぞ!」

 

1点差で折り返しを迎える事が出来た鳳舞。鳴海が開口一番喜びを露にする。

 

「この調子だ」

 

「ああ。頑張ろうぜ」

 

三浦と東雲が気合いを入れる。

 

「お疲れッス! あれ、いつの間に出来るようになったんですか?」

 

灰崎に駆け寄った外園が尋ねる。

 

「ああん? んなもん、やろうと思えば余裕なんだよ」

 

鼻を鳴らしながら灰崎が答える。

 

「ご苦労様、灰崎君。練習メニューをこなした成果が出てくれて僕も嬉しいよー」

 

ニコニコしながら織田が灰崎を労う。

 

「…関係ねえよ。ただの暇潰しだあんなん」

 

そっぽを向きながら灰崎が返す。

 

「とりあえず、あれは身体に負担がかかるから、後は試合終盤の勝負所まで取っておいてねー」

 

「…ふん」

 

「照れちゃってー。…じゃあ、後半戦の指示、出していくよー」

 

織田がそう言うと、選手達は織田に注目する。

 

「灰崎君が頑張ってくれたおかげで点差は1点。試合の流れは僕達に向いている」

 

『…』

 

「この流れはハーフタイムでは途切れないだろうから、僕達は、この流れに乗らせてもらうかな」

 

ニヤリと笑う織田。

 

「大城君、1度下がって休憩しようか。代わりに東雲君。行くよー」

 

「はい」

 

「分かりました!」

 

淡々と大城は頷き、大声で東雲は返事をする。

 

「ここからガンガン仕掛けていくよー。失点は気にしなくていいから、外園君は外から、鳴海君は中から、東雲君は積極的に外から中へ、三浦君は状況見てパスを支給してあげてね。たまに自分で仕掛ける事も忘れないように」

 

『はい!!!』

 

「灰崎君は臨機応変にお願いね。どう仕掛けるかは君に任せるから。…あー1つだけ、大城君いないから、リバウンド、手伝ってあげてね」

 

「…ちっ、面倒くせー。ま、そこの雑魚はあてにならねえからやってやるよ」

 

面倒くさそうに灰崎が答える。

 

「いちいち余計な嫌味言ってねえで黙って頷けよ!」

 

嫌味の交じった返事を聞き、鳴海がキレる。

 

「こんな所かな? 状況に合わせてテコ入れしていくから、第3Qからはこれで行くよー」

 

『はい!!!』

 

第3Q方針が決まり、選手達は大声で応えた。

 

「誠凛は、どう来ますかね?」

 

三浦が、尋ねる。

 

「灰崎さんの恐ろしさを目の当たりにしたんだから、ガンガン仕掛けてくるんじゃないか?」

 

隣に座っていた東雲が答える。

 

2分間で10点も詰めた灰崎。試合終盤に再度仕掛けてくる事は容易に予想は出来、それまでに逃げ切れるだけの点差を付けて来るのではと他の者も予想する。

 

「そうきてくれたらこっちは楽なんだけどねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛控室…。

 

『…』

 

鳳舞の控室とは対照的で、静まり返っていた。

 

「……ちっ」

 

飲料水を口にした池永が舌打ちをする。

 

「…まさか、灰崎さんがキセキの世代(先輩達)の技を使ってくるなんて…」

 

未だに動揺を隠しきれない新海。

 

「…だけど、黄瀬がキセキの世代のコピー出来る時間に限りはあった。だったら、灰崎だって限りはあるはずだ」

 

朝日奈が断言する。

 

「監督。灰崎さんがキセキの世代の技を後どれだけ使用出来るか分かりますか?」

 

田仲がリコに尋ねる。

 

「そうね。…ユニフォーム越しだから正確には測れなけど、第2Q終了直後の消耗具合から見て、後3分って所かしら?」

 

顎に手を当て、灰崎の様子を思い出しながらリコが割り出す。

 

「…っ、あれがこの先、後3分も襲ってくるわけか」

 

僅かに表情を引き攣らせる新海。

 

「だが、おいそれとは使ってこないはず。次に使って来るのは、第4Q終盤の勝負所だろう」

 

そう朝日奈は予測する。

 

「だったら、それまでに逆転不可能なまでに点差付けるしかねえだろ。2分で10点詰められたんだから、単純計算で15点以上。ここからはガンガン仕掛けて点取りに行って――」

 

「静まれ!」

 

『っ!?』

 

パン! と、力一杯手を叩く音共にリコの声が控室に響き渡る。

 

「全く、まだ逆転された訳でもないんだから、この程度の事でオタオタしないの。ついさっき火神君に言われたばかりでしょ」

 

動揺が抜け切れていない2年生達を一喝するリコ。

 

『…っ』

 

その言葉に、2年生達はバツが悪そうな表情をする。

 

「……ん? 悪い夜木、そこのドリンク取ってくれ」

 

「は、はい、どうぞ!」

 

持っていた水筒が空になり、夜木から新しいドリンクを手渡され、口にする。

 

「つーか、あんたは何でそんな平然としてられんだよ?」

 

ハーフタイム以前から今に至るまで、一切動揺が見られない火神に対し、怪訝そうに尋ねる池永。

 

「ゴクッ…ゴクッ…プハァ! …あん? 誠凛に来てからどれだけキセキの世代とやり合って来たと思ってんだ? 今更この程度の事で驚くかよ」

 

ゆっくり水分を摂ると、火神は淡々と返事をする。

 

「マジかよ。…何か対抗策でもあんのか?」

 

「さーな。ま、何とかなんだろ」

 

池永の懸念も、どこ吹く風とばかりに再び飲料水を口にする火神。

 

「なあ黒子。前の黄瀬みたいに、灰崎が何を使ってくるか予測したり、どうにか誘導したり出来ないか?」

 

2年前のウィンターカップ準決勝で黄瀬のパーフェクトコピーに対抗した事を思い出した降旗が黒子に尋ねる。

 

「…ちょっと難しいです。中学時代、黄瀬君とは、彼が1軍に上がってから卒業まで、それなりに一緒に過ごしていましたからある程度は彼の癖や傾向を掴めました。ですが、灰崎君とは、僕が1軍に昇格してから彼が2年の全中大会前に退部する僅か数ヶ月しか過ごしていない上に、彼は練習をサボりがちでしたし、出ても手を抜いていましたので、以前の黄瀬君のように予測や誘導するのは困難です」

 

黒子は申し訳なさそうに首を横に振った。

 

『…っ』

 

黒子の観察力に望みを賭けていた2年生達の表情が再び曇る。

 

「ハイハイ、下を向かないの。…それじゃ、第3Qからの指示を出していくわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「思わぬ展開になったものだな」

 

観客席で試合の再開を待つ、松永が思わず呟く。

 

「空坊が誠凛の立場やったら、ここからどうゲームを組み立てるつもりや?」

 

天野が空に尋ねる。

 

「あれだけ派手にやられたんだ。後半戦開始早々にすぐにでも反撃……って、行きたい所ですけど、あそこまでやられた後だと、何か上手く行かない気がするんで、とりあえず慎重にボールを運んで、しばらくは我慢ですかね」

 

胸の前で両腕を組みながら空が自分が誠凛の立場であった場合の想定を口にする。

 

「ほう? 空坊にしては意外な答えやな」

 

せっかちな性格で、速い展開を得意とし、好みとしている空からの意外な回答に感心する天野。

 

「俺を何だと思ってるんですか…。俺だっていい加減、勢いだけじゃどうにもならない事もあるって学びますよ。…おっ? 戻ってきた」

 

そうこうしているうちに、誠凛、鳳舞の両選手達がコートに戻ってきた。

 

「さて、どうテコ入れして来るか…」

 

両チームの動きに注目する空。

 

 

OUT 大城

 

IN  東雲

 

 

「鳳舞は大城さんを下げて、攻撃力の強化をしてきましたね」

 

鳳舞の選手交代を見て、その意図を察する大地。

 

「大城さんはインサイドに強く、リバウンドに強い、うちで言ったら天野先輩に近い選手。ですが、オフェンス力はゴール下なら別ですが、そこまでもありません」

 

「外から中へ仕掛けられる東雲を戻してオフェンスを強化。第2Q終盤で掴んだ流れに乗じてディフェンスを捨てて一気に攻勢に、って所か」

 

大地と空が交代した選手の特徴と、交代の意図を説明。

 

「注目なのは誠凛だ。ここでの出方次第じゃ、最悪の結果もあり得るからな」

 

誠凛の動くに注目する空。

 

『っ!?』

 

誠凛の選手達に注目していた花月の選手達が目を見開いて驚愕する。

 

 

OUT 新海 朝日奈 池永

 

IN  降旗 河原 福田

 

 

「これは…!」

 

「主力の2年生を下げて、3年生を投入してきた?」

 

大規模な選手交代に驚きを隠せない菅野と竜崎。

 

 

『おいおい、誠凛は何考えてんだよ!?』

 

『状況分かってんのか?』

 

『まさか、試合を諦めて3年生の思い出作りに出したのか?』

 

『いやいや、まだ逆転された訳でもないのにそれはありえねーだろ』

 

この選手交代は花月だけではなく、観客達にも物議を醸していた。

 

 

「(…ふむ。そう来ましたか)」

 

鳳舞ベンチにて、顎に手を当てながら織田がリコのいる誠凛ベンチに視線を向ける。

 

ペースダウンの意味を込めて、リスクヘッジに長けた降旗を投入してくる事は予想できた。しかし、主力の池永と朝日奈を下げ、河原と福田まで出してくる事は予想外であった。

 

「監督…」

 

「うん。どんな意図があるかは分からないけど、とりあえず、ハーフタイムで決めた通りに行って様子を見ようかなー」

 

大城の懸念を込めた言葉に、織田は作戦変更は無しで様子見を決めた。

 

「フフン♪」

 

誠凛ベンチのリコは、楽しそうに笑みを浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「これは…」

 

この交代劇に戸惑っているのはコート上の鳳舞の選手も同じであった。

 

「ま、こっちとしては、大城が下がってサイズダウンしてっから、むしろありがたい限りだろ」

 

インサイドを担う鳴海は、この交代をプラスに捉えていた。

 

「(鳴海さんの言う通りだ。これで高さの不利はなくなった。3年生とは言え、俺の相手は、新海に比べればそれほど脅威ではない)」

 

その鳴海の言葉に、三浦も戸惑いはなくなり、むしろ、マッチアップの負担が減った事に心理的に余裕が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合再開、鳳舞ボールから始まる。

 

「…」

 

ボールを運ぶ三浦。

 

「…っ」

 

目の前に立つのは降旗。

 

誠凛のディフェンスはこれまで通りのマンツーマンディフェンス。降旗が三浦、河原が東雲、福田が外園、火神が灰崎、田仲が鳴海をマークしている。

 

「(…やっぱり、実際に対峙しても、そこまでの力は感じない。ここからはガンガン仕掛けて点を取りに行くのが俺達の方針。だったら!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(俺も強気に仕掛ける!)」

 

「…あっ!?」

 

ドライブで切り込む三浦。降旗の横を抜ける。

 

「っ!?」

 

抜いたと同時にシュート体勢に入る三浦。これを見て田仲がヘルプに飛び出す。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

ヘルプに飛び出した田仲が両腕を上げると、三浦はボールを弾ませながら更に中へとパスを出す。

 

「ナイスパース!」

 

ボールはローポストの鳴海へ。田仲がヘルプに出てしまった事でフリーとなり、悠々とシュート体勢に入る。

 

「くっ!」

 

慌てて福田がブロックに向かうが…。

 

 

――バス!!!

 

 

間に合わず、鳴海の放ったシュートが決まる。

 

 

誠凛 45

鳳舞 46

 

 

「っしゃぁっ!!!」

 

拳を握って喜ぶ鳴海。第3Q開始早々、鳳舞が逆転する。

 

「ご、ごめん!」

 

失点の原因を作ってしまった降旗が謝る。

 

直後の誠凛のオフェンス。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!?」

 

火神が灰崎をかわし、フェイダウェイで放ったシュートがリングに嫌われる。

 

「よっしゃ!」

 

外れたボールはゴール下でポジション取りをしていた田仲から離れた所に飛んでいき、そこを鳴海が抑えた。

 

 

「外した火神さんと言い、今のリバウンドと言い、やっぱり流れは鳳舞に来てるな」

 

一連のプレーを見て、試合の流れが鳳舞にある事を確信する空。

 

 

鳳舞のオフェンス。フロントコートまでボールを運んだ三浦が東雲にパスを出す。

 

「…っ」

 

立ち塞がるのは福田。

 

「…悪いけど」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「あんたじゃ俺は止められない!」

 

「っ!?」

 

一気に加速し、仕掛けた東雲。福田の横を高速で駆け抜ける。

 

「くそっ!」

 

グングンリングへと近付く東雲を見てたまらず河原がヘルプに向かう。

 

「河原、行くな!」

 

火神が制止を促す。

 

「あっ!?」

 

思わず声を上げる河原。河原が東雲のヘルプに来たのと同時に東雲はパス。ボールは…。

 

「よっしゃ!」

 

外の外園。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーの外園はスリーを放ち、決めた。

 

 

誠凛 45

鳳舞 49

 

 

「来た来た!!!」

 

この試合、始めての当たりが来て喜ぶ外園。

 

 

『連続得点! 流れは完全に鳳舞だ!』

 

『おいおい、これはマジで番狂わせもあり得るぜ!?』

 

『つうか、誠凛は大丈夫なのか? 新しく入ってきた奴、全然機能してねえじゃん!』

 

『さっさとスタメンに戻した方がいいんじゃねえか!?』

 

第3Q開始早々、連続得点を決めた鳳舞に沸き上がる観客。同時に、コートに入った3人への心無い言葉も放たれる。

 

「「「…っ」」」

 

この言葉に、3人の表情が曇る。

 

全国の舞台で試合をするのはこれで初めてではない。1年時にも出番はあったし、今年も夏と冬にも、スタメン選手達の後を継いで試合にも出た。しかし、1年時は一時的に役割を果たす為だけの起用であったし、今年も、点差が付いて主力を休ませる為の起用だったので、プレッシャーは少なかった。しかし、今回の起用は、劣勢の場面での起用でしかも、終盤の勝負所に向けて、重要な役割を担っての起用。プレッシャーは今までの比ではない。

 

 

――パチン!!!

 

 

「「「っ!?」」」

 

そんな様子を見かねてか、火神が3人の背中を叩く。

 

「ビビる必要なんかねえよ。お前らだって今日まで頑張ってきたんだ。それをぶつけてやれ」

 

「「「火神…」」」

 

「木吉先輩を思い出せ。木吉先輩ならこんな時、こういうはずだぜ。『楽しんで行こうぜ』ってな」

 

そう言って、ニカっと笑みを浮かべ、拳を突き出す火神。

 

「「「火神…!」」」

 

その言葉にプレッシャーが薄まり、身体が軽くなった3人は、出された拳に自身の拳を突き合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「監督さんよー。ホントに大丈夫なのか?」

 

ベンチで不貞腐れながら座る池永がリコに尋ねる。

 

「観客の言う事ももっともだぜ。これ以上、離される前に俺らが戻った方がいいんじゃねえの?」

 

「…」

 

「聞いてんのか監督さんよー!」

 

「…あーもう! ぶつくさうるさいわね!」

 

1度は聞き流したリコだったが、しつこい池永に怒鳴った。

 

「まだ試合再開したばかりでしょ。黙って見ていなさい!」

 

「……だけどよー」

 

「私は伊達や酔狂で彼らを出した訳じゃないわ。今の展開に彼らが打ってつけだったから試合に出したのよ」

 

『…』

 

この言葉に池永だけではなく、新海と朝日奈も耳を傾ける。

 

「あなた達…と言うか、特に池永君はあの3人を軽視してるようだけど、よーく見ておきなさい。あの3人は、入部してから今日までうちで頑張ってきた選手なんだから」

 

交代を志願する池永の言葉を退けるリコ。

 

「心配せずに見守ってあげて下さい。彼らの頑張りは、僕が保証しますから」

 

「黒子先輩…」

 

黒子のフォローに、池永は一応の納得をし、試合に注目したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ降旗。

 

「(…よし、行くぞ!)」

 

降旗がボールをキープしながら各選手達にアイコンタクトを取る。

 

『(…コクッ!)』

 

そのアイコンタクトを受け取った選手達は頷き、動く。

 

「河原!」

 

右側45度付近に移動した河原にパスを出す。同時に降旗は右コーナーに向かって走る。

 

「(っ!? 何をする気だ!?)」

 

この行動に三浦は戸惑う。空いてるスペースや逆サイドに向かうならまだしも、わざわざボールのあるサイドのコーナーに向かう理由が分からなかったからだ。

 

「…よし!」

 

45度付近でボールを受けた河原。

 

「へい!」

 

「頼む!」

 

ローポストにポジションを取った福田がボールを要求し、そこへすかさずパスを出す。

 

「やらせないよ!」

 

その背中に、外園が張り付くようにディフェンスに入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受けた福田は背中に外園を背負いながらドリブルを始める。

 

「「…っ」」

 

その動きに呼応した降旗が逆サイドのコーナーへと走っていき、同様に河原もインサイドへ切れるように移動する。

 

「…えっ!?」

 

左右から移動していく2人に戸惑いを覚える外園。

 

「(今だ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

移動した2人に気を取られた事を背中越しに察した福田がターンで外園の背後に抜ける。

 

「あっ!?」

 

思わず声を上げた外園だったがその時に既に遅く…。

 

 

――バス!!!

 

 

福田はゴール下から得点を決めた。

 

 

誠凛 47

鳳舞 49

 

 

「やった!」

 

得点を福田は拳を握って喜びを露にする。

 

「くそっ…」

 

「ドンマイ、気にすんな! 取られたら取り返せば良いんだよ!」

 

悔しがる外園に発破をかける鳴海。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

オフェンスが代わり、三浦が仕掛ける。

 

「(…今度は抜けないか…!)」

 

しかし、降旗はしっかりとディフェンスをし、三浦を抜かせなかった。

 

「(確かに上手いけど、前に戦った海常の笠松さん、それこそ、赤司に比べれば…!)」

 

試合出場経験は少なくとも、実力の相手とのマッチアップ経験は豊富な降旗。火神の言葉と先程の得点で固さが取れ、プレッシャーもなくなった降旗が過去の経験を生かしてディフェンスに尽力する。

 

「スマン、頼む!」

 

仕方なく三浦は外に展開していた東雲にパスを出す。

 

「(こいつには外はない。距離を取って守るんだ!)」

 

スピードがあり、ドライブが得意な東雲に対し、距離を取って守る河原。

 

「…っ」

 

露骨に距離を取られ、得意のドライブを出せない東雲。打とうと思えばスリーを打てるが、確率が低い為、躊躇する。

 

「こっちこっち!」

 

攻めあぐねている東雲を見て、逆サイドの外園がボールを要求。

 

「外園!」

 

無理に打たず、東雲は外園にパスを出した。

 

「…うわ!」

 

ボールを受けた外園だったが…。

 

「(こいつは生粋のシューターだ。スリーを打たせないようにとにかくべったり張り付くんだ!)」

 

外園の懐に入り込むかのようにべったりフェイスガードでディフェンスをする福田。

 

「…っ!」

 

べったり張り付かれ、膝を曲げる事も困難な為、スリーを打つ事も出来ず、やり辛そうにする外園。

 

「(鳴海さん!)」

 

仕方なくローポストの鳴海へとパスを出す外園。

 

「(甘いぜ!)」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

しかし、そのパスは火神によってカットされる。

 

「ナイス火神!」

 

「おう! フリ、頼む!」

 

ボールを奪った火神は降旗にボールを託す。

 

「…」

 

ボールを受けた降旗は速攻に走らず、これまで通り、ゆっくりボールを運ぶ。

 

 

――ピッ!

 

 

先程同様、降旗は45度付近に移動した河原にパスを出し、コーナーへと走る。

 

「同じ手は喰わん!」

 

東雲は、ボールを受けた河原のチェックに敢えて向かわず、福田の前方に立ち、ディナイの動きでパスコースを塞ぐ。

 

「…」

 

福田へのパスコースを塞がれた河原は、ボールをコーナーへと移動した降旗にパスを出す。パスを出した河原は逆サイドのコーナーへと切れて行く。

 

 

「これは…」

 

この動きに、観客席の大地が何かに気付く。

 

 

「…っし」

 

コーナーでボールを受けた降旗。その降旗を追いかけた三浦がディフェンスに入る。

 

 

――スッ…。

 

 

その三浦に対し、福田がスクリーンをかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

これを見て、降旗が膨らむような軌道で中へと切り込む。

 

「…っ」

 

三浦は福田のスクリーンに捕まる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーとなった降旗がジャンプショットを決めた。

 

 

誠凛 49

鳳舞 49

 

 

「やった…!」

 

「いいぞフリ!」

 

喜ぶ降旗の背中を叩き火神。

 

 

『おぉっ! 連続得点!』

 

『何かよく分からない動きで得点決めたぞ!』

 

福田、降旗の得点を見て、先程の言葉とは一転、称賛の言葉がチラホラ観客席から出だす。

 

「調子が出て来たなあの3人。…にしてもあの動き…」

 

3人の動きに注目する菅野。

 

「…なるほど、トライアングルオフェンスか」

 

その動きの正体に気付いた上杉がポツリと呟く。

 

「…っ、そうか! 何処かで見たと思ったけど、それか!」

 

誠凛の動きに引っ掛かりを覚えた空だったが、上杉の言葉で解消された。

 

「トライアングルオフェンスって、何ですか?」

 

「簡単に言えば、選手間でトライアングル、三角形になるようにポジション取りをし、そこから状況を見ながらパスを捌いて得点を決めるオフェンス戦術だ。チーム全体で点を取りに行くこのオフェンスは、守る側からすれば的を絞り辛く、火神と言う、絶対的なスコアラーがいる誠凛には効果的なオフェンス戦術だ」

 

帆足の質問に、上杉が簡潔に答える。

 

「なんか凄そうですね。…けど、動きは複雑そうですし、やるとなると難しそうですね」

 

「ある程度、動きはパターン化しているとはいえ、実戦で使うとなると、確かに難しい。だが、効果は絶大だ。何せ、この戦術が使われ出してから約20年間、NBAにおいて、チームは違えど、11回、このオフェンス戦術を取り入れたチームが優勝しているからな」

 

「まさか、こんな隠し玉があるとはな。…誠凛もやっぱおもしれ―な」

 

ワクワクしながら空が試合を眺め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(くそっ、的を絞れない!)」

 

誠凛が第3Qから使い始めたトライアングルオフェンス。これに対応しきれず、焦りを覚える三浦。

 

「(灰崎さん以外のマッチアップは俺達の方に分があるはずなのに、リードを伸ばせない!)」

 

個々の実力は現状、鳳舞に分がある。にもかかわらず、誠凛に食いつかれている今の現状に戸惑いを隠せない東雲。

 

「(ちっくしょう、何でだよ! 相手は補欠だぞ!? 少しでもリードを広げてー所なのによ!)」

 

苛立ちを隠せない鳴海。

 

「(確かに俺達は大した事はない。スタメンだって、2年生達に明け渡した)」

 

「(黒子のように、一芸に秀でている訳でもない。俺達は、他の奴等みたいに何も持っていない)」

 

「(だけど、死に物狂いで練習して、死に物狂いで試合に臨む先輩達や火神や黒子の姿をこの目で焼き付けてきた!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

――例え、才能で負けていても、見て来たものは大きさでは負けない!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

第3Q終了のブザーが鳴る。

 

 

第3Q終了

 

 

誠凛 62

鳳舞 64

 

 

『…っ』

 

2点リードで第3Qを終えた鳳舞だったが、その表情は暗い。

 

第2Q終了目前に流れを掴んだ鳳舞。その勢いを利用して、出来る限りリードを広げておきたかった。しかし、リード出来たのはたったの2点。セーフティには程遠い点差。

 

「やったな!」

 

「ああ!」

 

「上手く行って良かった!」

 

ハイタッチを交わし合う降旗、河原、福田の3人。

 

対照的に、誠凛の選手達の表情は明るい。流れを奪われた状況で2点差で第3Qを終えられたのは上出来と言えるからだ。

 

 

「どうなる事かと思いきや、蓋を開けてみれば、2点ビハインドか」

 

多少の懸念を覚えた空だったが、結果を見て胸を撫で下ろす空。

 

「さすがは誠凛で鍛えられた選手達や。控え言うてもどいつも曲者揃いやな」

 

天野も同様であった。

 

「試合の展開を見る限り、流れは誠凛がある程度、取り戻したと見て良いよな?」

 

「はい。そう見て差し支えないと思います」

 

菅野の問いに、竜崎が断言する。

 

「試合は後10分。残りの心配事は灰崎が使って来るキセキの世代の技だな」

 

残った誠凛にとっての懸念を口にする菅野。第2Q終了目前に灰崎が突如として使用したキセキの世代の技。これによって誠凛は一気に10点も点差を詰められた。この脅威は、後3分程続く事が予想出来る。

 

「大地」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――この試合、勝負あったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





メチャメチャ長くなった…(>_<)

本来ならこの試合、2話くらいで済ますつもりだったのですが、思い付いた事をひたすらぶち込んだ結果、まさかの4話目に突入orz

途中、灰崎が大人し過ぎ、と思った方もおられるかと思いますが、描写がないだけでそれなりに活躍してるのと、マークしているのは火神なので…(;^ω^)

戦術に関しては、素人が動画と解説を聞いて描写したので、分かりにくかったら申し訳ありません…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第196Q~fake~


投稿します!

朝は寒くて日中は暑い。早朝にストーブ、日中に扇風機と、おかしな事になってます…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q終了

 

 

誠凛 62

鳳舞 64

 

 

試合の4分の3を終え、鳳舞が2点リードで最終Qを迎えた。

 

 

誠凛ベンチ…。

 

「降旗君、河原君、福田君、良くやった!」

 

ベンチに戻ってきた選手達。第3Qの功労者とも言える3人をリコが労う。

 

「「「はい!」」」

 

褒められた3人は照れながら返事をする。

 

「おめーらやるじゃねえかよ!」

 

続けて池永も3人の傍に駆け寄り、労った。

 

「先輩だバカ野郎!」

 

「あいた!」

 

後輩らしからぬ物言いに火神が池永の頭を小突く。

 

「第3Q、文句の付けようがないわ。後は、残りの10分、全力に勝ちに行くのみ! 降旗君、河原君、福田君、改めて、良くやってくれたわ」

 

再度、3人に労いの言葉をかけた後、視線を2年生達に向ける。

 

「行くわよあなた達。先輩達がここまで頑張ったのよ。ちゃんとそれに応えなさい」

 

「はい!」

 

「もちろんです」

 

「応よ!」

 

落ち着くを取り戻し、3年生の奮闘で火が付いた3人が返事をする。

 

「…これで残りの心配事は、灰崎のキセキの世代の技だけですね」

 

残りの懸念を口にする降旗。

 

第2Q終了目前に11点あった点差を1点にまで縮められ、更に流れを鳳舞に明け渡すきっかけとなった灰崎のキセキの世代の技。まだ使用出来る時間が3分程、想定されている。

 

「その事はもう考えなくてもいいわ」

 

しかしリコは、強気の表情で首を横に振ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両チームの選手達が戻って来る。

 

 

OUT 降旗 河原 福田

 

IN  新海 朝日奈 池永

 

 

OUT 外園

 

IN  大城

 

 

誠凛、鳳舞共に選手交代を行い、双方、スターティングメンバーに戻した。

 

 

「1本、行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

新海がボールを運び、人差し指を立てながら声を上げ、他の選手達が応える。誠凛ボールから第4Qが始まる。

 

「…」

 

ボールを運ぶ新海の前に三浦が立ち塞がる。鳳舞のディフェンスはこれまで通り、それぞれがマンツーマンでマークしている。

 

「(…行け!)」

 

「(…コクッ)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

朝日奈が三浦にスクリーンをかけ、それに呼応するように新海が仕掛ける。

 

「(ガードがスクリーン!?)…スイッチ!」

 

スクリーンに捕まった三浦がすぐさま指示を出す。

 

「任せろ!」

 

その指示を受け、東雲が新海を追う。スリーポイントラインを沿うようにコーナーへと切り込む新海。

 

「っ!?」

 

コーナーでボールを掴み、スリーの体勢に入る新海。これを見て、東雲がすかさずブロックに向かう。

 

「まずい、ミスマッチだ!」

 

ベンチから外園が叫ぶ。

 

マークが切り替わっても、新海と東雲の間には10㎝以上の身長差があり、既にシュート体勢に入った新海には届かない。

 

「…させん」

 

この状況を想定していた大城が既にヘルプに来ており、ブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

大城がブロックに現れると、新海はスリーを中断。ボールを下げ、腕を回しながらボールを中に入れる。

 

「ナイスパース!」

 

ハイポストでボールを受けた池永。

 

「いただき!」

 

すぐさまリングに振り返り、ボールを頭上にリフトさせる。

 

「野郎、打たせるかよ!」

 

打たせまいと鳴海が池永のヘルプに飛び出す。

 

「なんてな」

 

しかし、池永は頭上にボールをリフトさせただけで飛ばず、ボールを外へと放る。そこへ、朝日奈が駆けて来る。

 

 

――バチン!!!

 

 

朝日奈は来たボールを両手で弾くように再度、中へと入れる。

 

「あっ!?」

 

横を通り過ぎるボールを視線で追いながら思わず声を上げる鳴海。振り返ると、ゴール下まで移動していた田仲の手にボールが収まる。

 

 

――バス!!!

 

 

フリーでボールを受けた田仲が落ち着いてバンクショットを決めた。

 

 

誠凛 64

鳳舞 64

 

 

『おぉっ! 誠凛が早速連携を駆使して決めた!』

 

 

「よし!」

 

小さく拳を握って喜ぶ田仲。

 

「ドンマイ、取り返しましょう!」

 

スローワーになった鳴海からボールを受け取った三浦が声を上げ、ボールを運ぶ。

 

「っ!?」

 

フロントコートまでボールを運ぶの当時に立ちはだかった新海。

 

「(ここに来て凄いプレッシャーだ。動揺していたさっきまでとは大違いだ!)」

 

積極的にボールを奪うようにディフェンスをする新海。その気迫に圧倒される三浦。

 

「…くっ、大城さん!」

 

何とか隙間を縫ってハイポストに立つ大城のパスを出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大城がボールを掴むと、その背中に立つ池永。大城はポストアップで押し込み始める。

 

「…っ! だっらぁ! 入れさせねえぞ!」

 

歯を食い縛りながら侵入を阻む池永。

 

「…っ!?」

 

背中をぶつける大城だったが、一向に押し込む事が出来ない。

 

「ちっ」

 

仕方なくボールを三浦に戻す。

 

その後もボールを回してチャンスを窺うも、ことごとく誠凛のディフェンスに阻まれる。

 

「…っ」

 

ボールをキープしている東雲の表情が曇る。

 

「…」

 

朝日奈は東雲から距離を取り、それにプラスして東雲より体勢を低くして守っている。

 

「ヤバい時間! 24秒!」

 

シュートクロックが残り数秒となり、ベンチの外園が知らせる。

 

「…くっ」

 

仕方なく東雲はスリーを放つ。

 

 

――ガン!!!

 

 

しかし、放たれたボールはリングに弾かれた。

 

「おぉっ!」

 

「くっ、てめえ…!」

 

リバウンドボールを、鳴海を抑え込んだ田仲が抑える。

 

「速攻だ!」

 

「頼む!」

 

田仲がリバウンドを制した同時に前へと走る新海。すかさず田仲が新海へ縦パスを出す。

 

「行かせるかよ!」

 

ワンマン速攻を駆ける新海の横を並走しながら追いかける三浦。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

新海はスリーポイントライン目前でビハインドパスでボールを横に流す。

 

「ナイスパース、っしゃぁっ!!!」

 

次いで駆け上がった池永がボールを受け取り、そのままドリブルを開始する。

 

「行かせん」

 

その横を大城が並走する。

 

「関係ねえ、行くぞ!」

 

フリースローラインを越えた所で池永がボールを右手で掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「舐めるな!」

 

これに合わせて大城もブロックに飛ぶ。

 

「どけぇぇぇぇぇ―――――っ!!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ブロックもお構いなしに池永は大城にぶつかりながらも右手のボールをリングへと振り下ろした。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に審判が笛を吹く。

 

『ディフェンス、プッシング、大城(黒4番)、バスケットカウントワンスロー!』

 

「っ!?」

 

審判がディフェンスファールをコールすると、目を見開きながら審判に振り返る大城。

 

 

『うおぉぉぉっ!!! 捻じ込んだ!!!』

 

『しかもバスカン! 3点プレーだ!!!』

 

派手なダンクに盛大に沸き上がる観客。

 

 

「っしゃぁっ!!!」

 

歓声に応えるように右拳を突き上げる池永。

 

「やった!」

 

「よーし!」

 

「良いぞ、池永!」

 

ベンチの降旗、河原、福田も立ち上がりながら喜んだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローも無事決め、3点プレーを成功させた。

 

 

『誠凛! 誠凛!』

 

派手なダンクからのバスカンに、観客も誠凛ムードに沸き上がる。

 

「…っ」

 

ボールを運ぶ三浦。流れが誠凛に傾いてる事を受け、表情が曇る。

 

「(こうなったら…!)…頼みます!」

 

意を決して三浦がパスを出す。

 

 

「おっ? 来たな」

 

ボールの先を見て、空が呟く。

 

 

「…」

 

ボールを受けた灰崎。

 

「…来いよ」

 

立ち塞がるのは火神。

 

 

「この状況でのエース争いは、勝敗に直結するかもしれませんね」

 

2人の勝負の重要性を解く大地。

 

 

ステップを踏みながら牽制する灰崎。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

仕掛ける灰崎。レッグスルーを2度繰り返した後、スピンムーブ、瞬間、自身の股下からボールを放り、さらに火神の股下を通し、そのまま背後へと駆け抜けていった。

 

「止める!」

 

直後、田仲がヘルプに飛び出し、灰崎の前に立ち塞がる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

灰崎は田仲の目の前で立ち止まり…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ロッカーモーションで抜きさった。

 

 

『おぉっ!』

 

火神と田仲を抜きさり、観客が沸き上がる。

 

 

同時にボールを右手で掴んでリングに向かって飛び、そのままリングに振り下ろした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールがリングに叩きつけられる瞬間、右手で掴んだボールが叩き出される。

 

「火神さん!」

 

ブロックしたのは火神。

 

「野郎、一瞬立ち止まった隙に…!」

 

鳴海が思わず叫ぶ。田仲を抜く際に僅かに立ち止まった隙に火神が追い付いたのだ。

 

「速攻だ!」

 

ルーズボールを拾った新海が声を出し、そのまま速攻に走った。

 

「戻れ! 止めるんだ!」

 

大城がディフェンスに戻りながら叫ぶ。

 

第4Q開始早々に2度のオフェンス失敗。ここを止めなければ流れを完全に誠凛に持って行かれてしまう。

 

「行かせるか!」

 

先頭を走る新海の横を並走する三浦。

 

「突破させてもらう!」

 

並走する三浦をものともせず、強引に突破する新海。

 

「おぉっ!」

 

フリースローラインを越えた所で新海がリングに向かって飛ぶ。

 

「させるかぁぁぁっ!!!」

 

そこへ、追い付いた鳴海がブロックに飛んだ。

 

 

――ガン!!!

 

 

強引にレイアップを放った新海。しかし、鳴海のブロックが功を奏し、ボールはリングに嫌われる。

 

「やった!」

 

レイアップが外れ、喜ぶ外園。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

リバウンドを抑えたのは田仲。

 

『っ!?』

 

これに、鳳舞の選手達の表情が曇る。

 

 

――スッ…。

 

 

リバウンドボールを抑えた田仲がそのままシュート体勢に入る。

 

「っ!? おぉっ!?」

 

着地した鳴海がすかさずブロックに飛ぶ。

 

「っ!?」

 

しかし、田仲はボールを頭上にリフトさせた所でボールを止める。フェイクである事に気付いた鳴海の表情が驚愕に染まる。

 

 

――バス!!!

 

 

鳴海のブロックをずらした田仲は落ち着いてゴール下からバンクショットを決めた。

 

「やった!」

 

拳を握って喜ぶ田仲。

 

「よく決めた!」

 

火神が駆け寄り、田仲の頭に手を乗せながら労った。

 

『…』

 

開き始めた点差を受けて、鳳舞の選手達の表情が曇る。

 

 

「再び開き始めたな」

 

試合を見届けていた上杉が口を開く。

 

「もともと、チームの総合力は誠凛の方が上だった。灰崎によって点差は引き戻されたが、それでも1度は11点まで広げていた」

 

『…』

 

「織田さんの采配と流れの勢いを利用してここまで何とか食らいついて来たが、ごまかし(・・・・)が通用しなくなれば、文字通り力の差がそのまま点差に直結する」

 

『…』

 

「浮足立っていた誠凛の2年生達も落ち着きを取り戻した。このまま誠凛が押し切るかもしれないな」

 

上杉が断言したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

上杉の言葉通り、誠凛が押し始めた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

朝日奈がジャンプショットを決め…。

 

 

――バス!!!

 

 

続くように田仲もゴール下から決める。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

鳳舞の攻撃は、ブロックされてしまう。

 

完全に誠凛が試合の流れをものにしていた。

 

 

第4Q、残り4分20秒

 

 

誠凛 79

鳳舞 68

 

 

『点差が開き始めた!』

 

『これはもう決まったか!?』

 

開いていく点差を見て、観客も試合の行方を予想し始めていた。

 

 

『…っ』

 

タイムアウトを取ろうと、策を講じようと、開いていく点差を縮められず…。

 

「…っ」

 

果ては、エースの灰崎さえも抑えられ、鳳舞の選手達の表情は少しずつ曇っていた。

 

 

――ガン!!!

 

 

「…あっ」

 

再び試合に出場した外園が放ったスリー。しかし、そのスリーもリングに嫌われ、その表情に焦りが見え始めた。

 

「踏ん張れ!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

始まるのはゴール下でのリバウンド勝負。リバウンド争いを制したのは、大城だった。

 

「(こいつ…!)」

 

「っ!?」

 

身長では勝っている池永と田仲。リバウンド争いを制した大城に驚く2人。

 

「おぉっ!」

 

着地と同時に再び飛び、シュートを放つ大城。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックに飛んだ池永だったが、大城は強引に得点を決めた。

 

「耐えろ! 今は耐えるんだ! ここを耐えれば、後は灰崎が決めてくれる!」

 

気落ちしている選手達を励ますように大城が鼓舞する。

 

「っ!?」

 

その言葉に、灰崎が目を見開いた。

 

大城は鳴海のように灰崎に食って掛かったりしないが、内心では自分を快く思っていない事は灰崎も理解していたからだ。

 

「出来るよな灰崎?」

 

灰崎に振り返った大城が尋ねる。

 

「出来ないならコートを出ろ」

 

「…ハッ! 誰にモノ言ってんだよこの下手くそがよ」

 

そんな大城に対し、不敵な笑みを浮かべながら返す灰崎。

 

この2人のやり取りを受けて、他の選手達も落ち着きを取り戻したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛ペースで始まった第4Q。劣勢の中、鳳舞も土俵際さながらの粘りを見せる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

試合終盤で拾うも色濃く出る中、鳳舞の奮闘により、両チームのスコアは凍り付いたように動かない。そして…。

 

 

第4Q、残り3分2秒

 

 

誠凛 79

鳳舞 70

 

 

『(来た!!!)』

 

大望の時間がやってきて、表情が明るくなる鳳舞の選手達。

 

残り時間3分となり、9点リードで試合を迎えていた。

 

「灰崎さん!」

 

ボールをキープしていた三浦が灰崎にパスを出す。

 

「ここまで随分と調子に乗ってくれたじゃねえか。今度はこっちがその余裕な面を変えてやるよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら目の前に火神に灰崎は告げたのだった。

 

 

「残り時間3分。ここから灰崎がキセキの世代(みんな)の技を使って来る。さっきは2分で10点も点差縮めたから、もしかしたら――」

 

「…寝言言ってんじゃねえぞさつき」

 

横で考えられる可能性を口にする桃井。その横で青峰が気怠そうに口を挟んだ。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

独特のリズムでハンドリングを刻む灰崎。

 

 

『出た!!!』

 

『このムーブは青峰のストリートのバスケだ!!!』

 

披露した青峰の技術に、観客が歓声を上げる。

 

 

――スッ…。

 

 

左右に高速で切り返したの同時にボールを掴んでシュート体勢に入る灰崎。上半身を後方に倒しながらボールをリリースした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

しかし、そのフォームレスシュートは、火神によってブロックされた。

 

 

「俺の技が、あんなとれーはずがねえだろ」

 

青峰がそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「止めた!?」

 

火神のブロックを見て、松永が驚く。

 

「そう言えばさっきくーは、勝負あったって言ったよね。あれってどういう意味なの?」

 

第3Q終了と同時に呟いた空の言葉を覚えていた生嶋が尋ねた。

 

「どういう意味も何も、…なあ大地、第2Q終了目前にキセキの世代の技を使った灰崎。お前、止められるか?」

 

質問を受けた空が、隣の大地に尋ねた。

 

「…直接やり合った訳ではないので、想像の域を出ませんが、ここから見せていただいた感想を言わせていただくなら、止められないイメージ(・・・・・・・・・・)は抱きませんでした」

 

『っ!?』

 

その回答に、周囲の花月の選手達は驚愕した。

 

「だよな」

 

その回答に頷く空。

 

「ホンマかいな…」

 

「だってあいつの技は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さっきも思ったが、確かに今の動き、青峰にそっくりだぜ。初めてやり合った時の青峰(・・・・・・・・・・・・)の動きに、な」

 

「…っ」

 

着地と同時に灰崎に告げる火神。

 

「…っ」

 

ルーズボールを抑えた三浦。そこからボールを回しながら機を窺う鳳舞。

 

「灰崎さん!」

 

東雲がパスを出す。スリーポイントラインから2m程離れた位置に移動した灰崎に。

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを受け取ったのと同時に沈み込み、シュート体勢に入った灰崎。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「今度は緑間か。だがな、そんなタメが長すぎる上に打点も低いシュートなんざ、打たせる訳ねえだろ」

 

これも火神にブロックされてしまう。

 

 

『うぉぉぉぉぉーーーーっ!!! 火神が連続で止めたぁぁぁっ!!!』

 

火神の連続ブロックに驚きを隠せない観客。

 

 

――バス!!!

 

 

ルーズボールを拾った新海。鳳舞最後方の灰崎がブロックされた為、誰も追いつけず、新海はそのまま速攻を駆け、レイアップを決めた。

 

 

誠凛 81

鳳舞 70

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

キセキの世代の技を使った灰崎を連続ブロック。からの得点に観客が沸き上がった。

 

直後の鳳舞のオフェンス。

 

「寄越せ!」

 

インサイドにポジションを取った灰崎がボールを要求する。

 

「…クソが!」

 

ボールを受けた灰崎。そこから回転しながらリングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

回転のエネルギーを利用した紫原の破壊の鉄槌(トールハンマー)。両手で振り下ろされたダンクを、火神が両手でブロックした。

 

「話にならねえよ!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかしこのダンクも、火神にブロックされてしまう。

 

「パワーが全然足りてねえよ」

 

着地した火神が告げる。

 

「青峰は辛うじて見所があったがよ、緑間と紫原のは話ならねえ。赤司のは、使ってこねえ所を見ると、盗む事も出来ねえようだな」

 

「っ!?」

 

この指摘に、目を見開く灰崎。

 

「お前の技は、本物(オリジナル)には遠く及ばねえ。黄瀬の模倣(コピー)にもだ。お前のそれは、ただの紛い物だ。何を使って来るか予測出来ない俺でさえ止められる程度のな」

 

そう告げ、火神はオフェンスへと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…っ』

 

鳳舞の士気は完全に低下していた。灰崎のキセキの世代の技が連続で止められ、最後の望みの綱が断たれた。もはやこの劣勢を覆しようがない。

 

「…」

 

ボールを受けた灰崎。しかし、その表情には余裕がない。

 

「(…結局は俺は、紛い物でしかなかったって事かよ…!)」

 

怒り込み上げる灰崎。思い出すのは、帝光中時代に赤司に告げられた言葉。

 

『お前は黄瀬には勝てない』

 

その言葉通り、2年前に黄瀬と戦い、そして負けた。

 

「…っ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

仕掛ける灰崎。火神もこれに追走する。

 

「(もうどうなろうが…!)」

 

灰崎の目の色が変わった。

 

 

「(まさかあの野郎!)」

 

この変化に、青峰がいち早く気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「っ!?」

 

ベンチの東雲が目を見開く。

 

鳳舞のメンバーの中でも、比較的、灰崎と接する機会が多かった東雲。主に遣いパシリばかりで良い事ばかりではなかったが、それでも、灰崎が何をしようとしているかを何となく察する程度には理解していた。

 

「(まさか…!?)」

 

東雲は隣に座る織田に振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

仕掛けた灰崎に対し、遅れる事無くディフェンスをする火神。それでも灰崎は強引に1歩踏み出す。

 

「(っ!? こいつ…!)」

 

ここで火神が気付く。灰崎の踏み出した足が、自身の左足に向かっている事に。

 

「…くっ!」

 

かつて、2年前に黄瀬と戦った灰崎は追い詰められ、苦し紛れに黄瀬の足を狙い、負傷した足をさらに悪化させていた。これを思い出した火神が慌てて左足を引く。

 

「(もう遅えよ。このままぶっ潰して――)」

 

 

――キュッ!!!

 

 

踏み込んだ灰崎。その足は火神の左足の上……ではなく、その奥に踏み込まれた。

 

「…なっ!?」

 

自分の足を狙ってくると思っていた火神は驚く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そのままリングへと突き進む灰崎。

 

「しまった!」

 

狙われていると思って足を引いていた火神は体勢が悪く、追いかける事が出来ず…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま灰崎はボールをリングに叩きつけた。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ! 灰崎がやり返した!』

 

今のプレーで何が起こっていたか分からない観客はただただ火神をかわして決めた灰崎に驚く。

 

 

「(フェイクだったのか?)」

 

てっきり足を狙って来ると火神は予想したが、その予想が裏切られ、拍子抜けする。

 

「…っ」

 

表情を歪めた灰崎は、脇目をふらず、ディフェンスへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ふぅ」

 

想像していた最悪の行動を取らなかった灰崎を見て、ホッと胸を撫で下ろす東雲。

 

「大丈夫だよ」

 

そんな東雲に対し、隣の織田が東雲の肩に手を置いた。

 

「灰崎君は、君の考えているような事はしない。絶対にね」

 

ニコリと笑いながら告げる織田。

 

「さっき言ったけど、灰崎君は、インターハイで負けてから、僕の課した練習メニューを全てこなした。それだけじゃない。彼は練習後に自主的にトレーニングもしていたんだよ」

 

「えっ!? あの灰崎さんがですか?」

 

この言葉に、東雲は驚いた。

 

「驚くのは無理がないよねー。影の努力が1番似合わないだろうからね」

 

その反応にケラケラ笑う織田。

 

「それだけインターハイの敗北が悔しかったんだろうね。それまではサボりも目立った灰崎君だったけど、怪我が治ってから僕のメニューにプラスして自主トレもするようになった。今の灰崎君は他のみんなと同じ、バスケットボーラーの血が流れてる。真のバスケットボーラーは卑劣な事も卑怯な事もしない。だから、安心していいよ」

 

そう優しく東雲に告げた。

 

「…」

 

とてもではないが信じられる言葉ではなかったが、織田の言葉には信じられるだけの重みがあった。

 

全国各地から集まった鳳舞のメンバー。粒揃いではあったが、結成当初は纏まりがなく、灰崎と鳴海は顔を合わせれば衝突し、大城も、そんな2人に怒りを露にする場面も多々あった。全国出場どころか試合すらままならないこのチームを纏め上げ、全国でも勝てるまでのチームにしたのが鳳舞の監督になったこの織田だった。そんな織田が言った言葉である為、東雲の中の不安は拭い取られたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(どうして踏まなかった…!)」

 

自問自答する灰崎。

 

最後の切り札であったキセキの世代の技は通じず、鳳舞がここから逆転するには、火神を潰すしかない。先程も、気付くのに遅れた火神の足を狙うのは容易であったし、審判の目も出し抜ける自信もあった。

 

「(なのに何故!?)」

 

ここで、灰崎の脳裏に、息を切らす自分の姿が浮かんだ。

 

織田の出されたメニューを文句を言いながらこなす自分。そして、暗くなった夜道で走り込みをしている自分の姿が…。

 

「まだ追い付けるぞ! 三浦、灰崎にガンガンボール回して行け!」

 

「は、はい!」

 

「鳴海、灰崎のフォローしろ!」

 

「…ちっ! 分かったよ!」

 

その指示に、嫌々ながらも了承する鳴海。

 

「外園、もっと積極的にスリー打ってけ! 外しても俺が絶対拾う。ディフェンスを外に広げろ!」

 

「はい!」

 

必死に指示を飛ばしながらチームを鼓舞する大城。

 

「…っ」

 

その光景を見て、これまで抱いた事のない感情に支配される灰崎。

 

帝光中時代は、1年目に全国制覇をしたが、後にキセキの世代と呼ばれる実力者が4人もいた為、自分1人が頼りにされる事はなかった。福田総合では、その実力を信用はされていたが、信頼はされていなかった。

 

「…」

 

決して自分が快く思われていない事は灰崎自身がよく理解している。鳴海とは喧嘩が絶えなかったし、大城は内心では嫌っている事も、三浦や東雲、外園は自分を敬遠している事も。だが今は、自分が頼りにされている。

 

「…クソが、気持ち悪いんだよ」

 

そんな悪態を吐き、灰崎は最後の力を振り絞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

残り時間3分、誠凛と鳳舞は激しくぶつかり合った。

 

切り札を破られて尚も食らいつく鳳舞。チームが一丸となって誠凛にぶつかる。

 

誠凛有利、鳳舞はダークホース程度の予想でしかなかったが、それでも最後まで抗い、奮闘した。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

試合終了

 

 

誠凛 87

鳳舞 74

 

 

両校の激闘が終わり、誠凛高校が、準決勝へと、駒を進めたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





まさかの4話…(;^ω^)

当初は2話くらいでさっさと終わらせるつもりだったのが、思い付く事を盛り込んだ結果、前の試合の海常対陽泉と同じ話数になってしまった。ま、でもいっか…(^_^)v

未だネタの貯蔵が充分ではない事と、来週から忙しくなる事で次の投稿がいつになるかは分かりませんが、出来る限り早く投稿出来るよう努めます…m(_ _)m

後、久しぶりに日間ランキング入り出来て嬉しかった…(´▽`*)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第197Q~余韻~


投稿します!

思ったより早く書きあがりました…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了

 

 

誠凛 87

鳳舞 74

 

 

準々決勝第4試合、誠凛高校対鳳舞高校の試合は、誠凛高校の勝利で幕を閉じた。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

高く拳を突き上げる池永。

 

「やった!」

 

「ああ」

 

ハイタッチを交わす田仲と朝日奈。

 

「…ふぅ」

 

無事、勝利で終え、ホッと一息吐く新海。

 

「勝った!」

 

「うおぉぉぉっ!!!」

 

「準決勝進出だ!」

 

この試合の立役者である3年生、降旗、河原、福田もそれぞれ肩を組み合って喜んでいた。

 

「よし!」

 

リコは胸の前で腕を組みながら笑みを浮かべながら満足気に頷いた。

 

 

「…っ」

 

俯きながら拳をきつく握り、悔しさを露にする三浦。

 

「…あぁっ! あぁっ!」

 

床に両膝を突け、涙を流す外園。

 

「ちくしょう! …ちくしょう…!」

 

悔しさを口にする鳴海。

 

「…」

 

腰に手を当てながら手を仰ぎ、敗北を噛みしめる大城。

 

「くそっ!」

 

ベンチの東雲は、自身の不甲斐なさを呪い、その悔しさから自身の太腿を叩き、ぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「87対74で、誠凛高校の勝ち。礼!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内に整列し、審判の号令で挨拶をし、その後、それぞれ握手を交わして健闘を称え合う両チームの選手達。

 

「…」

 

そんな中、灰崎は1人、その場で立ち尽くしていた。

 

「(…何だってんだよ)」

 

胸中で愚痴るように呟く灰崎。灰崎にとって、今、自分の頭を占める感情に戸惑っていた。

 

2年前、海常に…、黄瀬に敗北した時は、とにかく怒りが沸き上がり、どうにかなりそうだった。今年の夏の時は怒りこそなかったが、悔しさが支配していた。しかし今は…。

 

「(不思議と怒りはねえ。…だが、この気持ちわりぃ感情は…)」

 

怒りとは別の何かが込み上げており、それが何なのか分からず、ただただ戸惑っていた。

 

「灰崎君」

 

その時、灰崎に声をかける人物が現れた。

 

「…テツヤ」

 

声を掛けたのは、黒子であった。

 

「…へっ! 結局、お前を引きずり出せずじまいかよ」

 

自虐風に笑いながら黒子に返事をする灰崎。

 

「…すいません」

 

そんな灰崎に対し、申し訳なそうに謝る黒子。

 

「いちいち謝ってんじゃねえよ」

 

謝る黒子に対し、頭を掻きながら顔を顰める灰崎。

 

「…よう」

 

そんな2人に火神が歩み寄り、声を掛けた。

 

「…ふん、伊達にリョータ達に勝った訳じゃねえみてーだな」

 

「てめーこそ、思ったよりやるじゃねえかよ」

 

双方、口調こそ悪いが、互いに認めるような言葉を贈る。

 

「…」

 

「…」

 

それから暫し、無言で視線を交わした後…。

 

「またやろうぜ」

 

火神が右手を差し出した。

 

「…」

 

灰崎はその右手に一瞬、視線を向けると。

 

「…ハッ、嫌なこった」

 

そう言い、その手を握る事はしなかった。

 

「マジになってバスケをすんのは、これで最後だ」

 

「っ!?」

 

「…辞めんのか?」

 

灰崎の口から出た言葉に、黒子は目を見開き、火神はそう聞き返した。

 

「もともと、やるつもりはなかったんだよ。あの織田(ジジイ)がうるせーから仕方なくやってただけだ。もうこれ以上、こんな汗くせー事するなんざごめんだ」

 

そう言い、灰崎は踵を返す。

 

「じゃあな」

 

後ろ手で手を軽く振り、灰崎はベンチへと戻っていった。

 

「…あいつ、ホントに辞めちまうつもりなのかよ」

 

歩く灰崎の後姿を見ながら呟く火神。

 

「…分かりません。ですが、中学時代にバスケ部を辞めた時とは違うみたいです」

 

帝光中時代、赤司に退部を言い渡され、バスケ部を去る際、黒子が灰崎を引き留めた事があった。

 

「あの時は、何処か燻っていた感じがあったように見えましたが、今の彼は、とても晴れやかに見えました。恐らく、自分なりに区切りは付いたのだと思います」

 

今の灰崎を見て、そう感じ取った黒子。

 

「きっと、今後も何らかの形でバスケを続けていくと思います。だって彼は――」

 

「――ああ。あいつ、夏から今日まで相当練習してきたみてーだからな。…ま、機会があったら、ストリートのバスケでも付き合ってやっても良いかもな」

 

2人は灰崎の背中を見届けると、自分達もベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今日は対戦、ありがとうございました」

 

「こちらこそ。ありがとねー」

 

鳳舞ベンチにて、リコが足を運び、相手監督の織田に挨拶をしていた。

 

「良いチームだ。さすが、2度も全国優勝に導いたリコちゃんが監督をしているだけあるよ」

 

「そんな事…。良い選手に恵まれただけですよ」

 

褒められたリコは照れながら謙遜した言葉を返す。

 

「今日の采配、実に見事だったよ。ベンチで選手達を信じて堂々と座っている姿は、昔の景虎君を見ているようだったよ」

 

リコの父親、相田景虎の監督時代の姿を知っている織田は、今日のリコの姿を景虎と重ねていた。

 

「織田先生こそ、噂に違わない采配でした。私だったら、たった2年足らずであのメンバーを纏め上げる事はきっと出来ません。最後まで気を抜けない、厳しい試合でした」

 

チームの完成度、試合での采配に感銘を受けたリコ。

 

「あっはっはー。長い事、監督やってるからねー」

 

自身の後頭部を撫でながら照れる素振りをする織田。

 

「明日は武内君のチーム、それに勝てば多分、上杉君のチームと戦う事になると思うけど、どっちも強いよ?」

 

「はい、良く分かっているつもりです」

 

「だよねー。なら、僕達の分まで頑張ってねー」

 

「はい。今日は、ありがとうございました!」

 

最後に挨拶と同時に頭を下げ、リコは自身のチームのベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「はいはい、皆、お疲れ様ー。負けちゃったけど、良い試合だったよー」

 

『…っ』

 

織田からの労いの言葉に、敗戦、悔しさ、悲しさを噛みしめながら耳を傾ける鳳舞の選手達。

 

「荷物をホテルに置いたら、残念会に行くよー。美味しい焼肉のお店知ってるから。皆でお腹いっぱい食べよう」

 

「焼肉!? マジかよ!!!」

 

焼肉と言うキーワードを聞き、先程まで敗戦で落ち込んでいた鳴海の表情が明るくなる。

 

「僕の奢りだから、好きなだけ食べていいよー」

 

「いよっしゃぁぁぁっ!!! あざーす!!!」

 

両拳を天に突きあげ、外園が喜びを露にした。

 

「…」

 

選手達が焼肉で盛り上がる中、灰崎は自分の荷物を肩に下げると、1人、ベンチを後にしようとしていた。

 

「おい灰崎、何処行くんだよ!?」

 

「あん?」

 

そんな灰崎を鳴海が呼び止めた。

 

「話聞いてただろ? これから皆で残念会行くって決まったんだから、てめえも来るんだよ」

 

「はぁ? 何で俺まで…」

 

「言っておくが、拒否権はないぞ」

 

横から呼び止めたのは大城。

 

「お前には兼ねてより言いたい事が山ほどある。…焼肉食いながら言わせてもらうぞ」

 

言葉とは裏腹に薄く笑みを浮かべながら告げる大城。

 

「行きましょうよ灰崎さん」

 

「タダ飯ッスよ!? 行かなきゃ損ですよ!」

 

「そうですよ!」

 

三浦、外園、東雲も続いて催促した。

 

「……ちっ、しょうがねえな、ちょうど腹減ってっから、付き合ってやるよ」

 

そう言って、灰崎は鳳舞の選手達の下へと戻っていった。

 

「それじゃ、しゅっぱーつ」

 

織田の音頭と共に、鳳舞の選手達は荷物を纏め、歩き出す。

 

「てめー、皆の肉焼けよ」

 

「焼く訳ねえだろ。つうかてめえが焼け。ま、勝手に奪って食うけどな」

 

「やれるもんならやってみろコラァ!」

 

「わーわー! 俺が皆の分も焼きますから!」

 

口喧嘩を始める灰崎と鳴海。その間に入る東雲。鳳舞の選手達は、試合の疲れも敗戦もなかったかのような明るいムードのまま、コートを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「どうかしましたか?」

 

鳳舞ベンチに視線を向けていた火神。そんな火神に気付いた黒子が尋ねる。

 

「…いや、思ったより雰囲気明るいっつうか、てっきりギスギスしてんのかと思ってたけど…」

 

選手同士…灰崎も含めて、明るいムードで談笑している姿を意外に捉えた火神。かつて火神が見た、灰崎が所属していた福田総合のムードは、主に灰崎の態度のせいで最悪だったのだ。

 

「それはきっと、織田先生のせいね」

 

2人の話を聞いていたリコが話に加わる。

 

「パパに聞いた話だけど、織田先生は、あなた達も今日体験したと思うけど、相手の嫌がる事や、相手の弱点を的確に突いてきて、とにかく嫌らしい監督なんだけれど、味方となれば、これ以上に頼もしい存在はいないって」

 

「へぇー」

 

頷く火神。

 

「監督になって最初に教わるのは、バスケを楽しむ気持ち。勝っても負けても、最後には皆で笑い合える、織田先生が監督を務めると、どんなチームもあんな感じになっちゃうんだって」

 

「良い監督なんですね」

 

つい今し方、試合に負けたばかりなのに、今では監督と選手同士、明るく談笑している姿を見て心が打たれた黒子。

 

「…ま、監督の私からしたら、敵に回したら、勉強にはなるけれど、厄介極まりないわ」

 

結果こそ快勝だが、決して楽な試合ではなかった。ここまで競った試合になったのは、織田の手腕によるものが大きく、リコは肩を竦めた。

 

「…さ、いつまでもお喋りしてないで、あなた達も早く荷物を纏めなさい!」

 

「「はい!」」

 

そうせっつかれ、2人は身支度を整え、ベンチを後にした。

 

「黒子、今日は悪かったな。お前も試合に出たかっただろ?」

 

歩き始めると、火神が黒子に謝罪をした。

 

「そうですね。僕も出たかったです。火神君の事を少し、恨みます」

 

視線を向けず、進行方向を見ながら黒子が言う。

 

事の話は、第1Q終了後のインターバルの事…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『この試合、黒子君抜きで戦いたい?』

 

『はい。いいスか?』

 

火神がリコに対し、1つの提案をした。それは、この試合に黒子は出さないでほしいというもの。

 

『……理由は?』

 

『率直に、個人的な挑戦…いや、我が儘です。夏に花月は神城抜きで鳳舞に勝った。だから俺もそれに挑戦する意味で、黒子抜きで鳳舞に勝ちたいんです』

 

素直な気持ちをリコに伝えた。

 

『…』

 

顎に手を当てながら考えるリコ。

 

『いいな、それ。花月の奴らに俺達に強さを見せつける意味も込めて、やってやろうぜ』

 

横で聞いていた池永が賛同する。一部、3年生から不安そうな顔も見られるが、特に異を唱える者はいない。

 

『…分かったわ。私としても、黒子君を出さないで済むならそれに越したことはないから。でも、もし、試合がどうにもならないようなら…』

 

『監督がそう判断したらその時は、出してもらって構いません。あくまで、俺個人の我が儘ッスから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「いやホントに悪かったって! 今度マジバでバニラシェイク奢るからよ!」

 

火神の方を向かず、前を見ながら淡々と返事をした黒子に慌てて手を合わせて謝る火神。

 

「……半分冗談です」

 

フッと薄く笑みを浮かべる黒子。

 

「試合に出たかったというのももちろん嘘ではないのですが、1度、拮抗した相手(・・・・・・)との試合をする皆を、ベンチからじっくり観察したかったので、そういう意味ではちょうどよかったです」

 

「…?」

 

「今日、出られなかった分は、明日ぶつけたいと思います」

 

「そうしろそうしろ。何せ、明日の相手は黄瀬だ。否が応でも出番があるだろうよ」

 

明日の相手は強敵、黄瀬涼太を擁する海常高校。その強さや恐ろしさは身を以て理解している為、黒子を出す事になるのは必至であろうと火神。

 

「それと、もう1つの目標、達成出来て良かったですね」

 

話題を変える黒子。

 

「点差、狙っていたのでしょう? 夏の花月より多く点差を付けて勝つって」

 

第1Q終了時にインターバルの折、火神が黒子に夏の花月対鳳舞の試合のスコアを尋ねた事で、火神がただ勝つのではなく、点差も意識していた事を察していた。

 

「ああ。どうせだから、黒子抜きで勝つ事ともう1つ、花月よりも点差付けて勝ってやるってな」

 

夏に花月は鳳舞に11点差で勝利した。今日の誠凛は87対74の13点差。つまり、目標は達成されていた。

 

「けどまあ、途中から、勝つのに必死で、すっかり忘れてたけどな」

 

ニカッと笑う火神。

 

「これで後2つだ。2つ勝てば、夏と冬の連覇と、先輩達の悲願も果たせる。やってやろうぜ」

 

そう言って、黒子に拳を突き出す火神。

 

「はい。もちろんです」

 

その出された拳に対し、黒子は笑顔で拳を突き返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃんの言ったとおり、誠凛が勝ったね」

 

試合が終わり、桃井が青峰に声をかける。

 

「だから言っただろ。よっぽどの事がなけりゃ、誠凛が勝つって。…くわぁ」

 

欠伸をしながら返事をする青峰。

 

「試合も全部終わった事だし、帰るぞさつき」

 

そう言って立ち上がり、その場を後にする青峰。

 

「ちょっと、待ってよ大ちゃん!」

 

慌てて荷物を持って桃井は青峰を追いかけた。

 

「…」

 

歩きながら、コートのあるフロアから去ろうとする鳳舞…その中の灰崎に視線を向ける青峰。

 

「(もう少し早くマジになってりゃ、今日も、夏も、2年前の黄瀬との試合も、違った結果だったかもしれねえのにな…)」

 

青峰は、灰崎の性格は快く思っていなかったが、その実力は認めていた。それだけに、その性格故に、高校での灰崎に結果を僅かに残念に思っていた。

 

「(…ま、俺が言えた義理でもねえけどな)」

 

そう胸中でボヤくと、青峰は会場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「順当通り、誠凛勝利で終わったな」

 

試合を見守っていた花月の選手達。松永が口を開く。

 

「決勝は、誠凛か海常。…かー! どっちが来ても手強いで」

 

苦笑する天野。

 

「ですね。…けど、その事はとりあえず、明日勝ってから考えましょうか」

 

肩を竦める空。

 

「…そやな。俺とした事が、今の言葉は忘れてや」

 

油断や明日の相手の軽視とも取れる発言をした事を恥じた天野が表情を改める。

 

「神城の言う通りだ」

 

ここで上杉が口を開き、皆が注目する。

 

「全国の試合、それも、準決勝まで勝ち上がってきたチームに、容易い相手などいない」

 

『…』

 

「明日の試合の田加良高校も今日と同じ、勝つ為に死に物狂いで挑んで来る。まだ辿り着いてもいない決勝の事を考えている奴は考えを改めろ」

 

『はい!』

 

上杉の檄に、選手達は表情を改めて返事をする。

 

「帰ったらすぐにミーティングだ。行くぞ」

 

そう締めくくり、上杉はその場を後にする。選手達もそれに続いた。

 

「…」

 

その途中、空はコートを去ろうとする誠凛の選手達に視線を向けた。

 

「(あの鳳舞を黒子さん抜きで…、しかも、今日の鳳舞は夏の時より遙かに強かった…)」

 

チーム全体の総合力アップに加え、チーム戦術の向上、灰崎の進化。確実に夏の鳳舞より進化していた。

 

「(あのキセキの世代を1度は全員倒している火神さん。…ハハッ! こりゃ、何が何でも決勝に辿り着かねえとな!)」

 

待ち受ける強敵を前に、笑みが零れる空。

 

「全く。自分で言っておきながら…」

 

空の表情を見て、何を考えているか察した大地。

 

「別に良いじゃねえかよ。むしろ燃えてんだぜ? 明日絶対に勝たなきゃなって」

 

そんな大地に対し、唇を尖らせながら抗議する空。

 

「それに大地だって、同じ事考えてたんじゃねえのか? …俺には分かるぜ。身体の中がグツグツと煮えたぎってんのがよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら大地の胸を右拳でコツンと叩く空。

 

「やれやれ…」

 

心の内を長年の相棒に見透かされた大地は苦笑する。

 

「…明日、勝ちましょう」

 

「たりめーだ!」

 

コツン、と、2人は拳を突き合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「いやー、なかなか見所ある試合だったな…」

 

場所は変わってアメリカ。準々決勝のネット生中継を観戦していたジャバウォックのメンバー達。全試合を見終わると、ニックが感想を漏らす。

 

「サイズとかフィジカルはあれだけどよ、スピードとか戦術は結構いい感じじゃねえかよ」

 

ザックも好評の感想を口にした。

 

「…ハッ! 下らねえ。こんな低レベルな試合でよ」

 

そんな中、ナッシュだけは相変わらずの酷評をしていた。

 

「ナッシュだって、途中からマジで試合見てたじゃねえかよ」

 

「気のせいだ」

 

からかうように指摘するニックに対し、視線を逸らすように返事をするナッシュ。

 

「…けど、ナッシュだって、ソラや、同じチームメイトの大地(6番)。後はソラの対戦相手の赤司(4番)とか、他にも気になる選手はいたんじゃないか?」

 

「…」

 

アレンがそう指摘すると、ナッシュは返事をする事無く黙る。

 

「確かに、あのヨウセンだっけか? あのチームの紫原(6番)は、下手したらシルバーともタメ張れるレベルだったよな?」

 

「その対戦相手の黄瀬(4番)も、アメリカでもそうそうお目にかかれねえレベルだったな。最後の試合の勝った方の火神(4番)も…」

 

ニックとザックが、口々にキセキの世代の紫原と黄瀬、火神を評価する。

 

「見てくれ。興味深いものが映ってるよ」

 

アレンがそう言ってノートパソコンの画面を指差すと、ニックとザックが画面に顔を近づける。指差したその画面には、観客席が映っていた。

 

「こいつ、見た事ないか?」

 

「……うおっ!? こいつ確か、何処かの強豪カレッジのスカウトじゃねえか!?」

 

その指差された者の正体に気付いたニックが驚きの声を上げる。

 

「その下の奴も確かそうだ。見た事あるぜ!」

 

他にもザックが気付き、同様に声を上げる。

 

「その少し離れた所にいる奴も見覚えがある。記憶通りなら、リーガACBチーム所属のスカウトだったはずだ」

 

アレンが更に指差した先にいた人物を説明する。

 

「…スペインのプロチームがわざわざこんな東洋の島国まで試合見に行ってんかよ」

 

頭を抱えて驚愕するニック。

 

アメリカでもNBA選手を多く輩出している大学のスカウトや、アメリカに次ぐバスケ強豪国にプロチームのスカウトまでもが日本の選手に興味を示していると言う事だからだ。

 

「満足そうに頷いてる姿を見るに、もしかしたら、誰か獲得に乗り出す可能性もあるって事だよな?」

 

ザックが指摘する。今挙げられた者達は、画面越しからでも分かる程に試合に満足している。

 

「ソラの話だと、後、あれらと同レベルの選手が後2人もいるって話だ。俺達が日本で試合した、セイヤ・ミスギやタケシ・ホッタも、アメリカのカレッジでの活躍を耳にする。…もしかしたら近い将来、NBAでこれらの日本人達が席巻する事になるかもしれないな」

 

アレンがそう予想する。

 

「…」

 

そのアレンの言葉を、ナッシュも否定する事無く聞いていた。

 

「こうしちゃいられない!」

 

何かを思い立ったアレンが立ち上がり、何処かへと急ぎ足で向かっていく。

 

「何処行くんだよ!」

 

「日本行きのチケットを抑える。今から抑えれば、ファイナルの試合に間に合うだろうからな」

 

ニックの問いに、アレンが笑顔で答える。

 

「マジかよ! だったら俺も行くぜ!」

 

「なら俺もだ!」

 

ニックとザックも乗り気の姿勢を示す。

 

「ナッシュはどうする?」

 

「…あっ? どうして俺がサルの試合なんざ――」

 

「分かった。ついでに抑えておくよ」

 

「――って、おい! ……ちっ」

 

そう言って部屋を後にしたアレン。ナッシュはただただ舌打ちをした。

 

「シルバーはどうする?」

 

「一応、確認しておこうぜ。後が怖いからな」

 

ニックとザックが、そんな会話をしながら続いて部屋を後にする。

 

「…」

 

未だ、日本の試合中継を映してるノートパソコンに視線を向けるナッシュ。

 

「(…アメリカンドリームは、そう甘くはねえぜ。…ジャパニーズ共)」

 

ナッシュは立ち上がると、ノートパソコンの電源を切って閉じると、部屋を後にしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

激闘の準々決勝が終わった。

 

勝ち上がったのは、花月高校、田加良高校、海常高校、誠凛高校の4校。

 

 

準決勝…。

 

 

第1試合 花月高校 × 田加良高校

 

第2試合 海常高校 × 誠凛高校

 

 

優勝を賭けた、決勝進出への席を巡った戦いが明日、始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





準決勝に行く前に書いておきたかった試合後の背景。…まあ、お約束って奴です…(;^ω^)

遂に長い長い準々決勝が終わり、次話から準決勝。確か、準々決勝を書き始めたのが1年以上前だから、随分とかかりましたね…(>_<)

準決勝はそこまでかけずに書きあげます。…多分、メイビー…(´▽`*)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第198Q~期待(プレッシャー)


投稿します!

遂にゴールデンウイーク! …まあ、自分には関係ないんですけどね…(T_T)

それではどうぞ!



 

 

 

準々決勝、翌日…。

 

「ふわぁ…」

 

時刻は早朝、ジャージに着替えた空が欠伸をしながらホテルの外へとやってくる。

 

「随分と眠そうですね」

 

そこへ、続いて大地もやってくる。

 

「何か、スゲー目がシュパシュパする…」

 

細目にしながら返事をする空。

 

「昨日は終盤、あれだけ眼を行使しましたからね」

 

「ま、走ってりゃ、その内に治るだろ。…っし、準備運動を終えたらひとっ走り行こうぜ!」

 

「ええ、そうですね」

 

2人は屈伸運動や柔軟運動を一通り済まし、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ウィンターカップ、試合会場…。

 

 

――ざわ…ざわ…。

 

 

ウィンターカップ5日目。これより、決勝の椅子を賭けた準決勝が始まる。

 

 

第1試合 花月高校 × 田加良高校

 

第2試合 海常高校 × 誠凛高校

 

 

『今日の試合も目が離せないぜ!』

 

『何処が決勝に上がって来るかな?』

 

『1つは花月で決まりだろ。何せ、あの桐皇と洛山に勝ってるんだからな』

 

『注目なのは2試合目の誠凛対海常の試合か…』

 

『勝つのは海常だろ。キセキの世代の黄瀬に加え、あの紫原と対等にやり合った三枝がいるんだぜ。それ以外の選手だってレベルが高いし』

 

『誠凛だって、チーム全体のレベルなら引けを取ってない。控えも充実してるし、俺は誠凛を推すぜ』

 

今日も会場は観客席を埋め尽くす程の観客がやってきており、各々が試合結果を予想しながら今か今かと試合を待ち望んでいる。

 

 

『来たぞ!!!』

 

通用口から花月高校、田加良高校の両選手達がコート入りをする。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

観客の1人が声を上げると、それに続くように他の観客達が歓声を上げる。

 

「おーおー、満員御礼やな」

 

割れんばかりの歓声に天野が笑みを浮かべる。

 

「…っしゃ、さっさとアップを始めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の号令と共に選手達が応え、コートに入り、試合前の始める。

 

 

『花月ー! 今日もスゲー試合を見せてくれよ!』

 

観客の1人が花月にエールを贈る。

 

「うわぁ…、凄い歓声…」

 

自分達に贈られる歓声を受け、相川が感嘆の声を上げる。

 

これから始まる第1試合。やはり、観客の目当ては花月高校。立て続けにキセキ撃破を果たしているだけに、注目度は高い。

 

「スゲー声援…」

 

「…っ」

 

自分達に向けられている観客の声援を受け、菅野は驚き、帆足は息を飲むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

観客席の通路の一角に、今日も会場に足を運んでいた青峰の姿があった。

 

「お前も来ていたか」

 

「…緑間か」

 

そこへ、同じくやってきた緑間が青峰に声を掛けた。

 

「桃井は一緒ではないのか?」

 

「さつきは何か学校の用事があるんだと。…つうか、何で俺に聞くんだよ」

 

緑間の質問に、ぶっきらぼうに答える青峰。

 

「…」

 

「…」

 

青峰の横に並び、コートへ視線を向ける緑間。

 

「…やはり、花月の注目度は高いな」

 

しばらく無言でコートを見つめていると、緑間が口を開いた。

 

「この歓声が、花月にとっての敵になり得なければ良いのだがな」

 

「…」

 

「第1試合、花月が負けると予想している者は恐らく1人もいないだろう。勝って当たり前が前提の声援は、場合によっては枷になる事もある」

 

緑間自身も、帝光中時代の2年目の全中大会で経験した事がある。前年度に全中制覇を果たし、その高い期待度からの声援が重圧となり、ある程度プレーに影響を及ぼした。

 

「花月にとって、ここまで期待を背負って試合をした事は恐らくない。舞台はウィンターカップの準決勝。花月は2年生主体の戦力。対して、田加良は3年生が主体の戦力な上、これほど期待が薄ければ開き直って試合に臨める。…一見、花月が安泰に見えても、不安要素はあるのだよ」

 

「…今更あいつらがその程度の事で躓くか?」

 

緑間が口にする懸念に苦言を呈す青峰。

 

「神城や綾瀬、本来のスタメンは問題ないだろうが、それ以外の者(・・・・・・)はどうかな?」

 

「…」

 

「杞憂であればいいのだがな」

 

眼鏡のブリッジを押し上げる緑間。青峰は返事をする事無く、コートに視線を向け続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合開始時間となり、花月、田加良両校のスタメンの選手達がコート中央へとやってくる。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:神城空  180㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

10番SG:竜崎大成 183㎝

 

12番 C:室井総司 188㎝

 

 

田加良高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:胡桃沢博 175㎝

 

5番SF:定岡正明 191㎝

 

6番PF:宮本琢朗 193㎝

 

7番CF:小野誠人 195㎝

 

8番 C:神原亮真 196㎝

 

 

花月は普段のスタメンを変更し、生嶋の代わりに竜崎。松永の代わりに室井をスタメンに抜擢された。

 

『遂に試合だ!』

 

『今日もスゲーの見せてくれ!』

 

これから始まる試合を前に、観客達は、主に花月への声援を贈っている。

 

「「…っ」」

 

その声援を受け、竜崎と室井の背中に、ズシリと重い何かが乗っかったような感覚が襲う。

 

「(凄いプレッシャーだ。帝光中時代とはまた違った…!)」

 

「(何だ…、声援を受けているはずなのに…)」

 

いつもなら力を与えてくれる声援が今日の2人にはある種の枷のようになっていた。

 

 

「これより、花月高校対田加良高校の試合を始めます!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

「よろしく」

 

「こちらこそ」

 

両校の主将である、空と胡桃沢が試合前の挨拶共に握手を交わす。

 

「人気者だな」

 

「おかげさまで」

 

「下馬評通りの試合にするつもりはないぜ」

 

「望む所です」

 

互いに不敵な笑みを浮かべながら挨拶を交わし、握手を交わした手を放した。

 

 

「…」

 

「…」

 

ジャンパーを残してセンターサークルの周囲に広がる選手達。花月のジャンパーは天野。田加良のジャンパーは神原。

 

「…」

 

2人の間に入った審判が両者を視線を向けた後、ボールを構え、高く放った。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

同時に2人がボールに飛び付く。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

高く上げられたボールは2人が同時に叩く。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

2人に挟まれたボールが弾かれる。

 

「っと!」

 

零れたボールを竜崎が抑える。

 

「(よし、このまま行ける!)」

 

チャンスと見た竜崎はそのままドリブルを開始する。

 

「行かせるかよ」

 

「…っ」

 

スリーポイントラインを越えようとした所で胡桃沢が竜崎を捉え、立ち塞がる。

 

「(キャプテンや赤司先輩がいる事あって目立たないが、この人も全国でも指折りのポイントガード…)」

 

佐賀県代表、田加良高校の主将であり、佐賀ではナンバーワンシューターとも称される実力者。

 

「(いったんキャプテンに…いや、この人は高さも無いし身体能力もそこまででもない。ここは強気で…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して竜崎は胡桃沢に対して仕掛ける。

 

「…っ」

 

体格差を生かして強引に切り込む竜崎。

 

「おぉっ!」

 

強引にゴール下まで切り込んだ竜崎がリングに向かって飛び、レイアップを放つ。

 

「…って、おい、行くな!」

 

何かに気付いた空が制止をかけたが一足遅く…。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

放ったのと同時にボールが後方から叩かれる。

 

「ゴール下からそう易々と決めさすかよ」

 

ニヤリと笑うブロックをした小野。

 

「速攻!」

 

ルーズボールを拾った胡桃沢がそのままドリブルを始める。

 

 

「普段なら、あいつはあんな考えなしに仕掛ける奴ではないんだがな…」

 

「うん。ちょっと冷静さを欠いてるかも」

 

竜崎の様子がおかしい事に、ベンチに座っている松永と生嶋が気付く。

 

この試合、昨日の疲労の為という理由もあるが、今日の相手がビッグマン揃いのチームである事から、生嶋の代わりに身長と身体能力で勝る竜崎を、身長こそ劣るが、身体能力で勝る室井をスタメンに抜擢した。

 

 

「…っと」

 

「通さねえぜ」

 

速攻を駆ける胡桃沢を、空が捕まえ、回り込んで立ち塞がる。

 

「…」

 

 

――ピッ!

 

 

ボールを止め、味方が攻め上がるのを待った後、胡桃沢はパスを出す。

 

「…っ、止める!」

 

ボールは竜崎の目の前の選手、定岡の手に渡る。

 

「(…ニヤリ)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

アウトサイドでボールを受けた定岡は、ニヤリと笑った後、ドライブを仕掛けた。

 

「(ビッグマンが小細工無しでドライブ!?)…舐めるな!」

 

前情報では、定岡はポストプレーを中心に点を取る選手であると頭に入れている竜崎。にもかかわらず、外からドライブを仕掛けられた事から自身が侮られている考え、激昂しながらコースに入る。

 

 

――ドッ!!!

 

 

「っ!?」

 

肩から身体をぶつけるような定岡の強引なドリブルを受け、竜崎は吹っ飛ばされてしまう。

 

「っ!? …くっ!」

 

そのままゴール下へ迫る定岡。それを見て室井がヘルプに飛び出す。

 

「アカン、出るなムロ!」

 

天野が制止をしたが遅く…。

 

 

――ピッ!

 

 

室井が迫っているのを確認した定岡はその裏側にパスを出す。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

フリーでボールを受けた神原がボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月  0

田加良 2

 

 

『豪快なダンク!?』

 

『田加良の先取点だ!!!』

 

まさかの田加良の先取点にざわつく観客達。

 

「今の、ファールでは?」

 

直前の竜崎の転倒を見た室井が審判に詰め寄る。

 

「いや、ファールじゃないよ」

 

審判はただ首を横に振った。

 

「ですが…!」

 

「止めやムロ」

 

納得が行かず、再度詰め寄ろうとした室井の首に天野が自身の腕を回し、無理やり引き剥がした。

 

「ぶつかったのは肩や。あの程度の当たりやったら基本的に笛は吹かれへんねん」

 

「…っ、そうなんですか」

 

説明を受けた室井は平静さを取り戻す。

 

「言い方は悪いが、あの程度で吹っ飛んでまうタイセイが悪いねん。今後は俺がフォローしたるから。お前は自分の相手に集中せえ」

 

「…分かりました」

 

天野に言い聞かされ、室井はその場を離れていった。

 

「(…けどまあ、タイセイの身長とガタイやと、長身でゴリゴリに来る相手はキツイかもしれへんな…)」

 

苦い表情をしながらオフェンスへ向かう竜崎を見て、天野は胸中で呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

花月のオフェンス。空がゆっくりとボールを運ぶ。

 

 

『神城ー! 今日も魅せてくれよ!』

 

ボールを持つ空に対し、期待の声がかかる。

 

 

「1本、止めるぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

主将の胡桃沢が檄を飛ばし、他の選手達が大声で応えた。

 

田加良のディフェンスは、前を胡桃沢と定岡。後ろに宮本、神原、小野の2-3ゾーンディフェンス。190㎝オーバーの選手を4人も擁する田加良のディフェンス。

 

「さて…」

 

何処から攻めるか狙いを定める空。

 

「(…チラッ)」

 

ふと、空がリングへと視線を向ける。

 

「(っ!? 打つのか!?)」

 

すかさず距離を詰める胡桃沢。

 

 

――ピッ!

 

 

「っ!?」

 

胡桃沢が動いたの同時にその顔面横スレスレを高速で通過するボール。耳元をボールのカザキリ音が鳴り、目を見開く胡桃沢。

 

ボールは、ローポストに立つ室井に渡る。

 

「(…よし!)」

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

神原を背中で背負う形でボールを受けた室井。ポンプフェイクやステップを踏みながら崩しにかかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て室井が仕掛ける。

 

「…甘い」

 

「っ!?」

 

しかし、小野は崩れる事無く、手を伸ばして室井の進路を塞ぐ。

 

「(…っ、だったら…!)」

 

ここでボールを掴んでフロントターンでゴール下まで躍り出る。

 

「(練習通りに…!)」

 

そこで室井はシュート体勢に入る。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを頭上にリフトさせたその時、室井の持つボールが叩かれた。

 

「ゴール下で時間を掛け過ぎだぜ」

 

ニヤリと笑うのは、室井のボールを叩いた宮本。

 

「速攻!」

 

ルーズボールを拾った胡桃沢がそのまま速攻に走る。

 

 

『またオフェンス失敗だ!』

 

『おいおい、何やってんだよ!?』

 

『スタメンに戻した方がいいんじゃねえのか!?』

 

2回連続の花月のターンオーバーに、観客からある種の指示のような言葉が飛び交う。

 

 

「「…っ」」

 

その声は当然、対象である竜崎と室井の耳にも入り、表情が曇る。

 

「…っ」

 

フロントコートに侵入と同時に空が胡桃沢の前に立ち塞がり、足を止める。

 

「(もう追いつかれた。スリーで突き放して一気に流れを持っていきたかったんだが…)」

 

想定より遠い位置で足を止められ、空の足の速さに驚く胡桃沢。

 

「亮!」

 

すぐに切り替えた胡桃沢は、ローポストに立った神原にパスを出した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ローポストでボールを受けた神原。その背後に室井。神原は室井に背中をぶつけ、ポストアップで押し込みにかかる。

 

「…ふん!」

 

室井はその場で踏ん張り、神原のゴール下への侵入を阻止する。

 

「(紫原さんや三枝に比べればパワーは大した事ない…!)」

 

その場で大地に根を下ろした大木の如く、神原を押し返す室井。

 

「(…なるほど、パワーは大したもんだ。その一点なら俺より遙かに上。…だが!)」

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

押し込む事を止めた神原はボールを掴み、フロントターンで反転しながら室井の背後へと躍り出る。

 

「させるか!」

 

これに反応した室井が同時に反転し、進路を塞ぎにかかる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、室井が現れるのと同時に神原は再度反転。逆に反転して室井をかわし、ゴール下に侵入した。

 

「もらった!」

 

室井をかわした神原はそこで右手でボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。

 

「(これで一気に流れを!)」

 

神原は右手のボールをリングに振り下ろした。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

ボールが振り下ろされる直前、そのボールが叩かれた。

 

『アウトオブバウンズ、(田加良)!』

 

そのままボールはラインを割った。

 

 

『うぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『神城スゲー!!!』

 

ダンクを阻止したのは空。身長差、16㎝を覆した空のブロックに会場が沸き上がる。

 

 

「(高さもそうだが、あの距離を一気に詰めて最高到達点に達するスピードと瞬発力も常軌を逸している…!)」

 

空の身体能力を目の当たりにし、驚愕する胡桃沢。

 

「すいません、助かりました」

 

失態の尻拭いをしてくれた空に頭を下げる。

 

「俺も、先輩の代わりを果たせなくて…」

 

同時に竜崎も頭を下げる。

 

 

――ドス!!!

 

 

すると、空は室井の脇腹に拳を突き入れ…。

 

 

――ドス!!!

 

 

同じのを竜崎の脇腹にも入れた。

 

「「っ!?」」

 

拳を突き入れられ、驚く2人。

 

「お前ら、何を相手にしてんだ?」

 

呆れ顔で2人を説く空。

 

「俺達の相手はこのコートの中にしかいない。外野の声なんかにいちいち気にしてんじゃねえよ」

 

「「…すいません」」

 

もっともな言葉に小さくなって謝る2人。

 

「室井は県予選の時の事を思い出せ。普段だって、松永を相手に練習してんだ。それを生かせ」

 

「はい!」

 

「竜崎。体格的にキツイだろうが、気合いでどうにかしてみせろ。少しでも時間を稼いでくれりゃ、俺か大地がどうにかする」

 

「は、はい!」

 

2人に指示を出す空。

 

「とりあえず、1本止めるぞ」

 

そう言い、空はディフェンスへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

田加良のリスタート。胡桃沢がボールをキープする。

 

「(…あの1年生コンビ、落ち着きを取り戻したか。…だが、俺達が勝つには、あの2人を崩して仕掛けなければ勝機はない。もう1回、崩れてもらうぜ)」

 

胡桃沢は定岡にパスを出す。

 

「(来た!)」

 

右ウィングの位置で定岡にボールが渡り、集中力を高める竜崎。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

再び、定岡がドライブを仕掛ける。

 

「…んが!」

 

歯を食い縛り、転倒しないよう踏ん張る竜崎。

 

「(…ちっ、簡単には抜かせてくれないか…!)」

 

「(ボールを奪うのは度外視だ。とにかく時間を稼いで、後は任せます!)」

 

強引に突破しようとする定岡、身体を張って耐える竜崎。

 

「正明、来てるぞ!」

 

胡桃沢が声を出す。

 

「っ!?」

 

その声で、空が自分に接近している事に気付く定岡。

 

「…ちっ!」

 

空に近付かれる前に定岡はボールを掴み、強引にジャンプショットを放つ。

 

「(リズムもシュートセレクションもバラバラ。外れる!)…リバウンド!」

 

外れると確信した竜崎が声を出す。

 

「(構わん! 外れてもリバウンドなら、こっちが有利!)」

 

インサイドと高さに自信がある田加良。多少強引であっても敢えて打ち、リバウンド勝負に持ち込む。それが田加良の戦術の1つであった。

 

 

――ガン!!!

 

 

目論みどおり、リングに弾かれるボール。

 

「ふん!!!」

 

気合いと共にスクリーンアウトでポジションを確保する室井。

 

「(こいつ! ボールを持ったプレーは拙いが、スクリーンアウトは上手い。しかも、パワーがある!)」

 

強引に…、あるいはテクニックを駆使してポジションを確保しようとした小野だったが、室井はそれをさせなかった。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「よし!」

 

室井がリバウンドを制した。

 

「ええぞムロ!」

 

「はい!」

 

称賛を贈る天野。ボールを確保した室井は空にパスを出した。

 

「さて…」

 

ボールを受け取った空はゆっくりとボールを運ぶ。

 

「(中は固い。そして、今は生嶋はいない…)」

 

ゾーンディフェンスは外から打って崩すのが定石の1つであるが、花月屈指のシューターである生嶋はベンチに座っている。

 

「まずは、風通しをよくするとしますか」

 

そう呟く空。

 

「(…来る!)」

 

空の纏う空気が変わった事に気付いた胡桃沢。空の仕掛けに十全の注意を払う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、切り込んだ空。

 

「っ!?」

 

集中していたはずの胡桃沢。にも関わらず、あっさりと抜かれてしまう。

 

「囲め!」

 

中に切り込んだ空に対し、田加良ディフェンスはゾーンの収縮させ、包囲にかかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

完全に包囲される前にスピンムーブで包囲網の隙間から抜け出す。

 

「っしゃ!」

 

包囲網を抜けた空がボールを掴んで飛んだ。

 

「ちっ!」

 

これを見た小野がブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

小野がブロックに現れると、空は手首のスナップを利かせ、ボールをふわりと浮かせる。

 

「っ!?」

 

ボールはブロックに飛んだ小野の手の上を超えながらリングへと向かい…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

 

花月  2

田加良 2

 

 

『あの包囲網を突破しやがった!?』

 

『神城必殺のフィンガーロールだ!!!』

 

ゾーンディフェンスを切り裂き、かわして決めた空に観客が歓声を上げる。

 

「すっげー…」

 

あっさりとビッグマン揃いのゾーンディフェンスを破り、驚く竜崎。

 

ここから、花月の勢いに火が付き始める…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が再び田加良ゾーンディフェンスに対して仕掛ける。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ディフェンスをかわし、空が得点を決める。

 

 

「おぉっ!」

 

ハイポストでボールを受けた小野がポストアップで強引に押し込み、シュートを放つ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「残念やったな。その程度じゃ点はやれんのう!」

 

したり顔で天野がブロックした。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

花月のターンオーバー。空が再度仕掛ける。

 

「来たぞ! 素早く包囲するんだ!」

 

胡桃沢の指示と同時に田加良ディフェンスがすかさず空の包囲にかかる。

 

「いいね。そうこなくちゃ!」

 

 

――ピッ!

 

 

ニヤリと笑い、囲まれる前に空がパスを出す。

 

「ナイスパスキャプテン!」

 

ボールは、スリーポイントラインのやや内側の竜崎に渡る。

 

『っ!?』

 

目を見開く田加良の選手達。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーでボールを受け取った竜崎は悠々とジャンプショットを決めた。

 

 

『うおぉぉぉっ!!! 花月のエンジンがかかってきた!!!』

 

花月の連続得点に沸き上がる観客。

 

 

『…くっ!』

 

苦悶の声を上げる田加良の選手達。

 

空を止められない。止めようと人数をかければパスを捌かれる。試合は、完全に花月のパターンにハマっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合はスタートの田加良のペースから一転、花月がペースを掴み取った。

 

 

第1Q、残り44秒

 

 

花月  25

田加良 10

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを運ぶ空が仕掛ける。

 

『…っ!』

 

突破を防ごうとディフェンスを収縮させる田加良ディフェンス。

 

「なんてな♪」

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

仕掛けるのと同時に足を止め、ステップバックでスリーポイントラインの外側まで下がり、スリーを放った。

 

『っ!?』

 

無警戒のスリー。ここでスリーを決められれば致命的な為、表情が曇る。

 

「…あっ」

 

 

――ガン!!!

 

 

声を上げた空。同時にボールはリングに弾かれた。

 

「おぉっ!」

 

リバウンドボールを定岡が抑え、田加良が窮地を凌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

ここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

花月  25

田加良 10

 

 

その後は双方得点が決まる事無く終わる。

 

「…ふぅ」

 

順調な花月に対し…。

 

『…っ』

 

早くも点差を付けられた田加良の選手達の表情は暗い。

 

「良い感じだな」

 

そう言って空にドリンクを渡す松永。

 

「おう」

 

返事と共にドリンクを空が受け取った。

 

「…空」

 

「…あん?」

 

水分補給をしている空に対し、大地が話しかける。

 

「第2Q、私にボールを回してくれませんか?」

 

「随分とやる気出してんな。どういう風の吹き回しだ?」

 

珍しく自己主張する大地に対し、ニヤリと笑いながら尋ねる空。

 

「あなたばかり仕掛け過ぎなんですよ。少しは私にも出番を下さい」

 

苦笑しながら答える大地。

 

「ハッハッハッ! エースはそうでなくちゃな。…良いぜ、ここからマークがきつくなりそうだし、任せるぜ」

 

空は了承したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まると…。

 

「…っと、そう来るよな」

 

空の目の前には胡桃沢と定岡が。田加良はチームの起点である空を潰しにかかった。

 

「そんじゃ、任せるぜ相棒」

 

そう言って、空は大地にパスを出した。

 

 

『来た!』

 

『次は綾瀬が来るか!?』

 

左ウィングの位置で大地にボールが渡り、盛り上がる観客。

 

 

「(第1Q、最後のスリー。あれだけ無警戒なら、普段のあなたなら決めていた。やはり、今日の空は本調子ではないようですね)」

 

薄々確信していた大地だったが、最後のスリーで疑念が確信へと変わった。

 

「(昨日はあなたにだいぶ負担をかけてしまいました。対して、私はエースとは名ばかりの活躍しか出来ませんでした。その汚名、ここで晴らさなければなりません)」

 

昨日の洛山戦、大地は自身の結果に満足しておらず、空に負担をかけ過ぎた事を気にしていた。

 

「(明日の為にも、空を休ませる為にも、この第2Qで決めてしまいましょう)」

 

ジャブステップを踏んで牽制していた大地がおもむろにスリーを放った。

 

「っ!?」

 

慌ててブロックに飛んだ小野だったが、大地のリリースが早く、ボールに触れず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「しっかしスゲーな。よくあんなの決められたな」

 

いきなりのスリー…しかも、クイックリリースで決め、驚く空。

 

「どんどんボールを回して下さい。今日は、調子が良さそうなので」

 

空に対し、さらのボールの要求をする大地。その言葉通り、ここから大地が爆発が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

再びコート内にネットを潜る音が広がる。

 

ステップバックをする為に退いた足で後ろに飛びながらクイックリリースでボールを放つ大地。事前にドライブを仕掛け、直後にバックステップをして距離を取っているので、田加良のブロックは間に合わない。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!? くそっ!」

 

胡桃沢もスリーをやり返すが、リングに嫌われる。

 

 

「綾瀬のスリーを意識し過ぎて肩に力が入り過ぎだ。あれでは入らないのだよ」

 

緑間が眼鏡のブリッジを押し上げながら呟く

 

 

第2Qは、大地が中心に得点を重ねていった。その姿はもはや蹂躙と言っても差し支えない姿だった。スリーを警戒すればそのまま中に切り込まれ、ドライブを警戒すればスリーを打たれる。空もいるので迂闊に人数をかける事も出来ず、田加良には為す術がなかった。そして…。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q終了

 

 

花月  52

田加良 22

 

 

点差は試合の半分が終わった時点で既に30点差。更に伸ばしていた。

 

 

『スゲー、花月が強いのは知ってたけど、ここまで強かったのか…』

 

『田加良だって決して弱くはないはずだぜ?』

 

『とにかく神城と綾瀬が凄すぎるよ…!』

 

第2Q終了時点でのこの結果に観客もどよめいていた。

 

第1Q、空が起点となって流れを引き寄せ…、第2Qでは大地が爆発、このQだけで19点も決めていた。

 

 

「杞憂だったな」

 

「そのようだな」

 

試合を見ていた青峰と緑間。試合前の緑間の懸念は杞憂に終わった。

 

「決まりだな。後は…」

 

青峰と緑間は、ハーフタイムの練習の為にコートに来ていた誠凛と海常の選手達に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「順調そうッスね」

 

「ども」

 

控室に向かう花月の選手達。その途中、次の試合の練習にやってきた海常高校の選手達。その中の黄瀬が空に声を掛けた。

 

「決勝の相手は君らで決まりそうッスね」

 

「まだ分からないですよ」

 

確信を以て発現する黄瀬に対し、空は肩を竦める。

 

「神城っちとしては、うちらと誠凛、どっちに勝ち上がってほしいッスか?」

 

「そりゃ強い方に、ですよ」

 

ニヤリとそう答えると、空はそのままその場を後にし、他の選手達も後に続いた。

 

「期待通りの言葉っスね」

 

予想通りの空の回答に苦笑する黄瀬。ハーフタイム中のコートに、次の試合を戦う誠凛と海常の選手達が、練習を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も花月の勢いは止まらなかった。

 

「1本、行きましょう!」

 

第2Q終了と同時に空がベンチに下がり、代わりにゲームを組み立てるのは竜崎。試合開始当初は浮足立っていたが、落ち着きを取り戻した竜崎は冷静にゲームメイクに努めた。第3Qが終了すると大地もベンチに下がり、その2人を除いたメンバーの総力戦で試合に臨む。

 

田加良も意地を見せ、得意のインサイドに加え、胡桃沢のスリーで追い上げを図るが、前半戦に付けられた点差は大きかった。そして…。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

試合終了

 

 

花月  86

田加良 64

 

 

「っしゃぁっ!!! 決勝進出だぁぁぁっ!!!」

 

コート上の菅野が拳を突き上げる。

 

「やった!」

 

「おう」

 

生嶋と松永がハイタッチを交わす。

 

「よーやったで、タイセイ、ムロ!」

 

「はい!」

 

「うす!」

 

2人の肩に腕を回す天野。

 

「遂に決勝だ…」

 

ベンチに座る帆足は勝利を噛みしめていた。

 

『…っ』

 

対して田加良の選手達は、涙を流す者、悔しがる者、深く目を瞑る者と敗北の対して反応を見せていた。

 

 

「よし勝った! 後は…」

 

「どちらが相手になるか、ですね」

 

手を叩き合う空と大地。その視線を、決勝のもう1つの椅子をかけてこれから戦う、誠凛と海常の選手達にそれぞれ視線を移したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

控室で今日の試合の反省会をしている花月。

 

「…反省会はここまでとする」

 

「今日は随分と短いですね?」

 

早々に終わった反省会に空が思わず尋ねる。

 

「続きはホテルに帰ってからだ。…試合が気になるだろう?」

 

今、コート上では誠凛と海常が戦っている。勝った方が明日の相手になる為、気になるのは必然。その為、上杉は気を利かせたのだ。

 

「よっしゃー! そんじゃ、そうと決まれば!」

 

鞄を掴んだ空は我先にと部屋を後にしていった。

 

「元気だねぇ」

 

その空の姿に、呆れ顔で生嶋が囁いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

コートが一望出来る観客席へと走る空の耳に、ブザーの音が聞こえて来た。

 

「何だよ、走って損した」

 

観客席に辿り着くと、ちょうど第1Qが終わったばかりであった。

 

「……っ!? マジかよ…!」

 

視線をスコアボードに移すと、そこには空が驚く数字が表示されていた。

 

 

第1Q終了

 

 

誠凛  8

海常 24

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





花月の準決勝は一気に終わらせました!

準々決勝の海常対陽泉、特に誠凛対鳳舞の試合が想像以上に長くなってしまったので、かなり巻き増した。おかげでかなり文字数がかさみましたが…(;^ω^)

投稿ペースが再び安定してきましたが、何処まで続くか。…ネタさえ、あれば…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第199Q~最後の椅子~


投稿します!

まず最初に、いろいろ申し訳ない…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q終了

 

 

誠凛  8

海常 24

 

 

誠凛高校

 

 

4番PF:火神大我  194㎝

 

9番PG:新海輝靖  183㎝

 

10番SG:朝日奈大悟  185㎝

 

11番SF:池永良雄   193㎝

 

12番 C:田仲潤    192㎝

 

 

海常高校

 

 

4番SF:黄瀬涼太 193㎝

 

5番SG:氏原晴喜 182㎝

 

8番PG:小牧拓馬 178㎝

 

10番PF:末広一也 194㎝

 

12番 C:三枝海  199㎝

 

 

 

「16点差…!」

 

反省会終了と同時に誠凛対海常戦を見に観客席まで走った空。第1Q終了時点でもう16点も開いている事に驚く。

 

「さて……いた」

 

空は、既にこの試合のスカウティングに来ている姫川の姿を探し、見つける。

 

「状況は?」

 

姫川の隣に座った空が状況を尋ねる。

 

「ティップオフと同時に海常が仕掛けたわ。黄瀬さんのパーフェクトコピーで一気に先手を取ったの」

 

尋ねられた姫川が記録を付けていたノートを空に渡す。

 

「……黄瀬さんがパーフェクトコピーを使用した時間は?」

 

「およそ4分よ」

 

ノートを見ながら空が質問をし、姫川が答える。

 

「…4分か、…ありがと」

 

受け取ったノートに目を通し終えると、空はノートを返す。

 

「何か気にかかる事でもあった?」

 

「…ん、少しな」

 

姫川の言葉に空は僅かに言葉を濁した後、視線をコートに移したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まると…。

 

「っ!?」

 

ボールを運ぶ新海に対し、小牧が激しくプレッシャーをかける。

 

「(…っ、まるで終盤の勝負所のような当たりだ…!)」

 

身体と身体がぶつかり合う音が聞こえてきそうな程の小牧のディフェンス。新海は思わずボールを止めてしまう。

 

「おらぁ!」

 

「…くっ!」

 

隙あらばボールに手を伸ばし、奪いにいく小牧。新海は必死にボールを奪われまいと死守する。

 

「新海!」

 

「…っ! 頼む!」

 

右ウィングの位置で朝日奈がボールを要求し、すかさず朝日奈にパスを出す。

 

「…ちっ」

 

パスを受けた朝日奈がすぐさまスリーの大勢に入ると、氏原が距離を詰め、チェックに入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

氏原がシュートチェックに来ると、朝日奈はスリーを中断。ドリブルで切り込み、氏原を抜きながら中に切り込む。

 

「させるか!」

 

これを見た末広がヘルプに飛び出し、距離を詰める。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

中に切り込んだの同時にボールを掴み、視線をリングに向けると、ボールを末広の足元を弾ませながらさらに中へとパスを出す。

 

「ナイスパス!」

 

ゴール下でパスを受けた田仲は同時にリングに振り向きながら飛び、シュートを放つ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「ふん!」

 

「っ!?」

 

しかし、ボールをリリースするのと同時に三枝にボールを叩き落とされる。

 

「ナイス海さん。…速攻!」

 

ルーズボールを拾った小牧がそのままフロントコートに駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qに入っても、海常の勢いは止まらなかった。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

小牧が得意のキラークロスオーバーで新海を抜きさり…。

 

 

――ピッ!

 

 

ディフェンスを引き付けて外へとパス。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

外でボールを受けた氏原が得意のツーハンドリリースでスリーを決めた。

 

 

第2Q残り4分47秒

 

 

誠凛 14

海常 34

 

 

「っしゃぁっ!!!」

 

スリーを決めた氏原がガッツポーズ。

 

 

『ここでスリー!!!』

 

『もう20点差だ!!!』

 

『海常つえー! これはもう決まったか!?』

 

確実に開いていく点差。観客達がざわつき始める。

 

 

「…」

 

試合を頬杖を突きながら観戦する空。

 

花月(うち)と同じ、オフェンス重視の桐皇。その対局のディフェンス重視の陽泉。攻守のバランスが取れている洛山と秀徳。今年の海常は多少、オフェンスに比重は傾いているけど、攻守のバランスが取れたチーム。対して誠凛は、オフェンス重視のチーム」

 

「…」

 

「両チームの力の差はさほどないはず。にもかかわらず、この第2Qでこの点差…」

 

広がる点差を目の当たりにし、驚きを隠せない姫川。

 

「試合開始直後の黄瀬さんのパーフェクトコピーによる奇襲もあるんだろうが、要因は2つ。1つは海兄だな」

 

空は視線を三枝に向ける。

 

「海兄がインサイドを制してるのがデカい。紫原とやり合える身体能力に、あのテクニック。田仲の奴も頑張ってるが、正直、分が悪い」

 

センターである三枝をマッチアップするのは同じポジションである田仲。格上相手のマッチアップにかなり苦戦している。

 

「もう1つは、運動量だな」

 

続いて、2つ目の要因を口にする。

 

「私も同感よ。海常は相手へのチェック、抜かれた後のヘルプがとにかく速い。まるで試合終盤の勝負所を思わせる動きと集中力だわ」

 

海常は、とにかくシュートチャンスを与えないよう、素早いチェックとヘルプを心掛けている。それが功を奏し、失点を僅か14点に抑えている。

 

「この調子を最後(・・)まで維持出来れば、このまま海常が押し切れるけれど…」

 

歯切れの悪い姫川。

 

「ああ、最後までもつわけがねえ」

 

空が断言する。

 

「私もそう思うわ。今の海常は、スタートと同時にスパートをかけているようなハイペース。こんなペースを開始から終了まで維持出来るのはあなたと綾瀬君くらいだわ」

 

姫川も頷く。

 

「どうして海常は、こんな無茶な作戦を取ったのかしら?」

 

その疑問に姫川は行き着いた。

 

昨年時、花月も、スタミナ度外視、運動量任せのラン&ガンで勝負を仕掛けたが、それは、チームの熟練度と個々の能力で花月がキセキの世代を擁するチームを相手に対等に戦い、勝利するにはこれしかなかったからだ。実行に至れた背景には、空と大地と言う膨大なスタミナを持った選手がいた事と、そこに至るまでに上杉が殺人的な練習を選手達にこなさせて実行出来るだけの下地を仕込んでいたからだ。

 

「まあ、無茶をしてでも点差を付けておきたかった何かがあるんだろ」

 

「何か…」

 

空の言葉を聞き、その何かを考える姫川だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…よし!」

 

スリーが決まり、拳を握るベンチにて試合を見守っている武内。

 

「(ここまでは予定通りだ。しかし…)」

 

視線を相手ベンチに座るリコに向ける。

 

「(点差はジワジワ広がり、もう20点だ。なのに何故動かない…)」

 

リコが何も動きを見せない事に疑問を覚える武内。

 

ここまでリコは、タイムアウトはおろか、選手交代すらせず、ただベンチに座って試合を見守っているだけであった。

 

「(例え、こっちの狙いに気付いていようと、そうでなかろうと、今の状況は誠凛にとって良くはない。それが分からないと言う事もないはず。では何故…)」

 

事前のプラン通り試合が進んでいる。にも関わらず、一向に動きを見せないリコに、武内は不気味な何かを感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

第2Q終了のブザーが鳴る。

 

 

第2Q終了

 

 

誠凛 20

海常 44

 

 

『海常強い!!!』

 

『試合の半分が終わった時点で点差24点! これはもう決まっただろ!!!』

 

『誠凛どうした!? 相手になってないぞ!』

 

第2Q終了時点でのこの点差に、観客達は驚きの声や、果ては誠凛への野次等、飛ばす者も現れた。

 

 

「この第2Qで点差が24点にまで開いたわね」

 

スコアブックを纏めながら呟く姫川。

 

「…」

 

空は特に感想を口にする事もなく、コートを見つめている。

 

「(あの後も、一見すると海常が押せ押せのムードに見えたが、点差は4点しか広がってねえ)」

 

第2Qが半分過ぎた時に点差を20点に広げた海常。その後も激しく攻め立てていたが、第2Q終了時点で広げられた点差は4点。誠凛も要所要所できっちり得点を決めていた。

 

「(それに…)」

 

視線を、控室へと向かう両チームの選手達にそれぞれ移す。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

海常の選手達は、かなり呼吸を荒げていた。まるで、もうひと試合終えた後のように。

 

『…ふぅ』

 

対して、誠凛の選手達は、ある程度の消耗は見られるも海常程深刻ではなく、表情も点差程、深刻には見えない。

 

「この第2Qで分かった事もあるわ。海常が異常なハイペースで無理に点差を広げに来たのは――」

 

「――ああ。昨日の陽泉との試合の影響を引きずっているからだ」

 

姫川の言葉に被せるように空が口にする。

 

昨日、陽泉と激闘を繰り広げた海常。試合は40分では決着は付かず、延長戦の末、紙一重で海常が競り勝った。試合は両者死力を尽くしたせ末の決着。昨日の今日で影響がない訳がない。

 

「コンディションが悪い状況では当然、パフォーマンス能力は落ちる。それだけではなく、それを補おうと余計にスタミナはさらに消耗する。そんな状況で真正面から挑めば終盤にひっくり返されてしまう。だから海常は、スタミナがある内に仕掛けて点差を広げに来た。終盤に逃げ切れるだけの点差を付ける為に…」

 

ひとたび、逆転を許してしまえば海常に勝ち目はない。その為、海常には逃げ切るだけの点差が必要だった。

 

「誠凛もそれが分かってたから、徹底した攻め方をした」

 

「あら、気付いていたのね」

 

「そりゃ、あれだけ露骨だったらな」

 

姫川の指摘に、空が苦笑。

 

誠凛は、とにかくオフェンスではポストアップを中心に組み立てた。フィジカルにおいては、センターのポジションを除いたポジションで誠凛に分がある。身体を張る必要があるポストアップのディフェンスはとにかくスタミナを消耗する上、押し込まれてしまえば他の選手はヘルプに向かわずを得ず、他の選手のスタミナも奪える。

 

「…とは言え、誠凛の監督のリコさんが何も動きを見せなかったのは気になるわね」

 

「それは俺も思った。仕込みはしたにしても点差は24点だ。足が止まるであろう後半戦に逆転を狙うにしても、海常から24点の点差をひっくり返すのは容易じゃねえ。タイムアウトは相手を休ませる事になるから使わなかったにしても、選手を入れ替えてテコ入れしても良さそうな気もしたんだけどな」

 

ここまで、リコは動きと言う動きをほぼほぼ見せず、ベンチで試合を見守っていた。普段の海常であれば、24と言う点差は絶望的。選手を入れ替えるなどして、もっと点差を抑える策を取るべきだったのではと空が口にする。

 

「何にせよ、ここからだな。誠凛はこの点差をひっくり返さなきゃならねえし、海常は、この点差を守り切らなきゃならねえ」

 

「誠凛と海常、どちらに言えるのは、無策では逆転は出来ないし、点差を守り切る事も出来ない。何かしらの策を講じなければ…」

 

そう2人は結論付けた。

 

「(けどまあ、最大の切り札(・・・・・・)を残してる誠凛が有利なのは否めないか。海常の表情を見るに、もっと点差を付けておきたかったんだろうけど…)」

 

空は、誠凛選手達の1人、一際影の薄い(・・・・・・)、1人の選手に視線を向けたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Qが始まると…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ」

 

表情を顰める黄瀬。ハイポストでパスを受けた火神が、背中に張り付く黄瀬に対し、ポストアップを仕掛けたのだ。

 

「…随分と、つまらないバスケをするようになったッスね」

 

「…あっ?」

 

突然話しかけられ、怪訝そうな表情で返事をする火神。

 

「こんなの、火神っちがやりたいバスケじゃないんじゃないッスか? 例えこれでこの試合勝ったとして、火神っちは嬉しいんスか? 火神っちの先輩達は満足してくれるんスか?」

 

「…」

 

「もっと、互いに真正面からやり合わないッスか? それとも、自信がないんスか?」

 

嘲笑するような表情で提案する黄瀬。

 

「…お前に言う事ももっともだ。正直、気持ちの良いバスケじゃねえし、窮屈で仕方がねえ。良いぜ、やってやるよ。…って、言いてえ所だけどよ」

 

火神が表情を改める。

 

「生憎と、今の俺はチームを背負ってるんでな。俺が気持ちよくバスケをする事より、チームを勝たせてえ。だから、お前の挑発(・・・・・)には乗ってやれねえな。今のお前なら、俺と同じ立場(・・・・・・)のお前なら、分かるだろ?」

 

「っ!?」

 

その言葉に、黄瀬はギクリとする。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

直後に火神をボールを止め、後ろに飛びながらジャンプシュートの体勢に入った。

 

「…っ」

 

これを見てブロックに飛んだ黄瀬だったが…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ブロックが間に合わず、ジャンプシュートを決められてしまう。

 

「っしゃ!」

 

得点を決め、拳を握る火神。

 

「……ふぅ」

 

深く溜息を吐く黄瀬。

 

「(去年までのエース(・・・)の火神っちだったら、挑発だって分かってても乗ってくれたと思うけど、キャプテン(・・・・・)である今の火神っちは乗ってくれないッスか…)」

 

エースとキャプテン。チームにおいての背負い方が違う事は、去年まではエースであり、今はキャプテンである黄瀬も痛い程理解している。互いに、悔しい思いもしているのだから猶更である。

 

「…これは、いよいよしんどくなりそうっスね」

 

誰にも聞こえないように黄瀬は呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

ボールを運ぶ小牧がダブルクロスオーバーで新海に抜きにかかる。

 

「…甘い!」

 

「っ!?」

 

2回の切り返しに反応した新海が腕を広げて進行を阻む。

 

「(慣れてきたにも加え、スピードとキレがだいぶ落ちて来た。だいぶスタミナが削られたみたいだな。…なら、一気に仕掛ける!)」

 

「…くっ!」

 

ここで距離を一気に詰め、激しくプレッシャーをかけるようにディフェンスに入る新海。小牧はボールを死守する為にボールを止めてしまう。

 

「くそっ、頼む!」

 

ボールを狙う新海の手をかわしながら小牧はハイポストに立つ末広にパスを出す。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「残念無念ってなぁ!」

 

末広の手にボールが収まる直前、池永がパスコースに手を伸ばし、スティールする。

 

「ナイスカット。…来い!」

 

「おらよ!」

 

パスと同時に前へと走っていた新海。その新海に池永が縦パスを出す。

 

「行かせるか!」

 

フロントコートに入り、スリーポイントライン目前で氏原が追い付き、新海の前に立ち塞がる。

 

「…っと」

 

新海は足を止め…。

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを横へと放った。

 

「ナイスパース!」

 

そこへ、池永が走り込み、ボールを掴むとそのまま中へと切り込み…。

 

「おらぁ!」

 

フリースローラインを越えた所でボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「調子に乗るな、小僧ぉっ!!!」

 

そこへ、三枝がブロックに現れ、新海の掲げたボールを狙う。

 

「来てんだろ? 分かってんだよ!」

 

 

――スッ…。

 

 

ここで池永はボールを下げ、三枝のブロックをかわす。

 

「っ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

三枝のブロックを潜り抜けた所で再度ボールを上げ、バックボードに当てながらリバースレイアップを放ち、決めた。

 

「こちとら、毎日火神を相手にしてんだ。この程度の事でおたおたしねえよ」

 

不敵に笑う池永。

 

「…ちぃっ」

 

思わず舌打ちをする三枝。

 

 

「むぅ…」

 

海常ベンチの武内が思わず唸り声を上げる。

 

第3Qに入り、やはり点差は縮まっていく。これは予想の範囲内であるのだが…。

 

「(点差が縮まるペースが予想以上に速い。選手達の足取りも重い。前半戦に想定以上にスタミナを削られてしまったか…)」

 

目に見えて海常の選手達の消耗が著しい。点差を犠牲に誠凛が仕掛けた消耗作戦がボディブローのようにジワジワと確実に選手達に浸食していた。

 

「(もっと点差を付けていれば話は違っていただろうが、今のままでは間違いなく逃げ切る事など出来ん)」

 

逃げ切りを図る為に無茶を承知でパーフェクトコピーを始めとした、ハイペースとも言えるスタートダッシュで点差を付けた海常。だが、やはり誠凛を相手には想定通りには行かない。

 

「(やはり、逃げ切るには守るのではなく、攻めるしかない。…黄瀬に負担をかける事になるが、やむを得ないか…)」

 

武内が立ち上がり、1歩前に出ると、黄瀬にサインを出す。

 

『(…コクッ)』

 

サインを受け取った選手達が頷き、実行に移す。

 

「1本、行くッスよ!」

 

黄瀬が指を立て、ボール運びを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あれは…!」

 

「秀徳戦に見せたフォーメーションか」

 

海常が動きを見せ、それに緑間と青峰が反応する。

 

3回戦で、海常と秀徳がぶつかった折に見せたチーム戦術。もともとは秀徳が実行した戦術であり、緑間のシュート力、テクニック、存在感をまんべんなく生かした戦術である。海常はこれに対抗する為、即席でその戦術を真似ていた。

 

「即席で見せた秀徳戦でもそれなりに形にはなってはいた。あれから時間もあった事も考えれば、さらにマシなものに仕上がってはいるだろうな」

 

「…」

 

ボールを運ぶ黄瀬を見つめる青峰。緑間は、苦労したチーム戦術をあっさり真似た黄瀬を、複雑な表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おぉっ!」

 

黄瀬が中に切り込み、そのまま突き進む。

 

 

――スッ…。

 

 

マークが集まった所でパスを出す。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

自身にマークを引き付けた事でフリーとなった三枝がボースハンドダンクをリングに叩きつけた。

 

「よーし!」

 

黄瀬と三枝がハイタッチを交わす。

 

第3Q半ばに実行した黄瀬をハンドラーに据えたチーム戦術により、均衡を保ち始めた。このまま点差を維持したい。

 

 

――ピッ!

 

 

誠凛のオフェンス。池永がスリーを放つ。

 

『っ!?』

 

「俺には外があるんだぜ!」

 

フリーでパスを受けた池永がすかさずスリーを打った。

 

「しまった!」

 

池永をマークする末広。無警戒でスリーを打たせてしまい、思わず声を上げる。

 

 

――ガン!!!

 

 

「んが!」

 

しかし、そのスリーはリングに嫌われる。

 

『…っ』

 

外れた事でほっと胸を撫で下ろす海常の選手達。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「決めろバカ野郎!」

 

外れたボールを火神がそのままリングに押し込んだ。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

 

「こういう時に決められきゃ意味ねえだろ」

 

「いって! うるせー!」

 

池永の頭を叩く火神。文句を言いながら池永はディフェンスに戻っていった。

 

『…っ』

 

表情を曇らせる海常の選手達。現状、このチーム戦術は機能している。にも関わらず、点差を維持するのが現状精一杯。気を抜けば今のように手痛い1本を決められてしまう。

 

「…ふぅ、全国優勝の壁は、高いッスね」

 

汗を拭いながら、黄瀬もぼやくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

第3Q、終了のブザーが鳴る。

 

 

誠凛 46

海常 56

 

 

第3Qが始まってから誠凛の逆襲が始まり、点差は10点にまで縮まっていた。

 

「よっしゃ! 行けるぞ!」

 

ベンチで自らを鼓舞するように叫ぶ池永。

 

この第3Qで点差を14点も縮めた誠凛の士気は高い。

 

『ぜぇ…ぜぇ…!』

 

対して、海常の選手達の消耗は大きく。とてもリードしているチームの様子ではなかった。

 

「…っ」

 

思わず頭を抱えたくなる武内。

 

昨日の陽泉戦で消耗し過ぎた海常。対して、苦戦はしたものの、主力の2年生を半ば休ませていた誠凛。最悪のコンディションの中、それでも勝つ為にはこの作戦しかなかった。

 

「…」

 

くじ運が悪かったと言う他ない。海常と誠凛の組み合わせが逆であったなら、また違った結果であっただろう。

 

「良い感じッスよ!」

 

そんな中、黄瀬が声を上げる。

 

「後10分ッス。後10分頑張れば俺達の勝ちッス。最後の1滴まで振り絞るッスよ!」

 

努めて明るく振舞う黄瀬。

 

消耗具合であれば、先の陽泉戦から鑑みても、黄瀬が1番消耗している事は想像が付く。それでもチームの勝利の為、それを隠してチームを鼓舞している。

 

「ハッハッハッ、その通りじゃ! 残り10分。誠凛に目にもの見せてやるかのう!」

 

その黄瀬の鼓舞に、三枝が乗っかるように応える。

 

「辛いの相手だって同じだ。…いや、リードされてる分、精神的には誠凛だって辛いんだ。俺達の底力、見せてやろうぜ!」

 

『おう!!!』

 

最後に氏原が声を上げ、海常は士気を高揚させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Qが始まる。第3Qを様子から見て、誠凛がすぐに背中を捉える。誰もがそう予想していた。

 

「おぉっ!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

三枝が田仲と池永を押しのけ、オフェンスリバウンドを制する。

 

「リョータ!」

 

リバウンドを制し、着地した三枝がコーナーに展開していた黄瀬にパスを出す。

 

「ちっ!」

 

慌てて火神がチェックに向かう。

 

 

――ピッ!

 

 

しかし、黄瀬はスリーを打たず、横へとパスを出す。

 

「ナイスパス黄瀬!」

 

そのボールをウィングの位置に立つ氏原が掴む。

 

「あっ!?」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

朝日奈が声を上げた時には既に遅く、氏原がスリーを決めた。

 

 

第4Q、残り5分18秒

 

 

誠凛 56

海常 66

 

 

試合終盤。未だ、海常がリードを保っていた。

 

「ナイッシュー氏原さん!」

 

小牧が氏原に駆け寄りハイタッチを交わす。

 

海常が気力を振り絞り、点差を維持していた。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをする池永。先程までは楽観視していた池永にも焦りの色が見え始めた。海常が消耗している事は間違いない。もはや限界寸前…いや、もう限界はとうに超えているはず。にもかかわらず、海常は逆転はおろか、点差を縮める事も許さない。

 

『…っ』

 

一向に縮まらない点差に、池永だけではなく、他の選手達にも焦りの色が出る。点差は未だ二桁。どうにか流れを掴み、一気に逆転したい。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

その時、オフィシャルテーブルからブザーが鳴る。

 

『メンバーチェンジ、(誠凛)!』

 

オフィシャルテーブル内の掲示板に、交代を告げられた背番号10、朝日奈と、コート入りをする背番号8が表示される。

 

「待たせてしまったわね」

 

「はい。待ちくたびれました」

 

オフィシャルテーブルにて、リコに声を掛けられ、返事をしながら自身のリストバンドを手首に通す。

 

「機は熟したわ。行ってきなさい!」

 

「はい!」

 

背中を叩いて発破をかけるリコ。その発破に応え、背番号8番。幻のシックスマン、黒子テツヤがコートに足を踏み入れた。

 

 

OUT 朝日奈

 

IN  黒子

 

 

「頼みます」

 

「任せて下さい」

 

コートを出る際、交代を告げられた黒子と朝日奈がハイタッチを交わす。

 

「待ってましたよ黒子さーん!」

 

歓喜の表情の池永。

 

「大一番だ。頼んだぜ」

 

「はい、任せて下さい」

 

火神の言葉に応える黒子。そして、試合は再開される。

 

 

「…」

 

ボールを運ぶ新海。先程までは動揺が見られたが、黒子が入った事で落ち着きを取り戻している。

 

「ようやく来たッスね、黒子っち。けど、無駄ッスよ。黒子っちが入っても、何も変わらない。黒子っち対策はある。それに、黒子っちは――」

 

「それはどうかな? お前は改めて味わう事になるぜ。黒子の恐ろしさをな」

 

そう言って、火神は不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

『…』

 

呆然とする海常の選手達。

 

 

試合終了

 

 

誠凛 76

海常 72

 

 

「なん…なんスか、それ…」

 

それは黄瀬も同様であった。

 

「…今までの黒子っちとは違う。それにあれは――」

 

目を見開く黄瀬。

 

「これが新たな僕の姿です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

決勝への最後の椅子をかけた準決勝。

 

その最後の椅子に腰を掛けたのは、夏の覇者、誠凛高校。

 

 

 

決勝戦…

 

 

 花月高校 × 誠凛高校

 

 

 

共にキセキの世代を擁するチームを全て降したチーム。

 

そのチームが明日、頂点をかけ、ぶつかる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





準々決勝をあれだけのボリュームと話数でお届けしておきながら、準決勝は共に1話ずつ。ホントに申し訳ないです…m(__)m

当初のプロットでは、誠凛が陽泉と海常を降し、決勝に進ませるつもりだったんですが、現誠凛の戦力で、特に陽泉をどう勝たせればいいかが思い付かず、結局海常と潰し合う形になってしまいました。夏から遡っても誠凛は半ば棚ぼた状態であり、誠凛ファンやさっと雑に終わらせる形となってしまい、海常ファンの方々には申し訳ないです…(;^ω^)

言い訳をすると、決勝へのネタバレを防ぐ為とだけ、させていただきます。

およそ、現実時間で2年前から始まった県予選及びウィンターカップも遂に決勝。プロットの骨組みは出来ているんですが、細かい装飾がまだなので、これからしっかり固めたいと思います。最後が盛り上がらない展開だけは避けたい…(T_T)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第200Q~前夜のミーティング~


投稿します!

祝、200話!!!

総数話的にはこれで201話ですが、遂に200話の大台に乗りました…(^_^)/

それではどうぞ!



 

 

 

試合終了

 

 

誠凛 76

海常 72

 

 

『誠凛の逆転勝ちだ!』

 

『まさか、キセキの世代が決勝の舞台に1人もいないとは…』

 

『だが…!』

 

『決勝戦に辿り着いた誠凛、花月共に、キセキの世代の全員を降したチーム!』

 

『これは盛り上がる事間違いなしだ!』

 

『すぐに取材に行くぞ!』

 

試合の撮影をしていた記者達が一斉に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「76対72で、誠凛高校の勝ち。礼!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

試合が終わり、センターサークルに集まった両チームの選手達が整列をし、礼をし、それぞれ選手達が握手を交わす。

 

「はぁ~~! 負けちまったッス」

 

火神の下へ歩み寄った黄瀬が大きな溜め息を吐く。

 

「手放しには喜べねえよ。一昨年は怪我で、今日は、陽泉のおかげで勝てたようなもんだからな」

 

複雑な表情で返す火神。

 

「こっちも勝てると思ったんスけどね。て言うか、第4Q中盤、まさか、あそこから黒子っちにひっくり返されるとは思わなかったッスよ」

 

チラリと視線を火神の横に向ける。

 

「紙一重でした。正直、ヒヤヒヤしました」

 

視線を向けられた黒子が苦笑しながら言う。

 

「黒子っちの対策はバッチリしてきたつもりだったッスけど、…甘かったッスよ」

 

「このウィンターカップは僕達にとって、最後の大会です。それに、先輩達の悲願を果たす為にも、僕だけ変わらないままでいられませんから」

 

「なるほど…、そうッスよね」

 

そう言って、黄瀬は肩を竦める。

 

「決勝は覚悟した方が良いッスよ。強いッスよ。花月は」

 

右手を差し出す黄瀬。

 

「言われるまでもねえよ」

 

その差し出された右手を握る火神。

 

「無様に負けないでほしいッス。俺達に勝ったんスから」

 

「もちろんです。絶対に優勝します」

 

黒子とも握手を交わした。

 

「それじゃ2人共、また何処かで。次は負けないッスよ!」

 

笑顔でそう告げ、黄瀬はベンチに向かって歩いていった。

 

「何度戦っても、恐ろしい奴だよ黄瀬は」

 

「はい」

 

昨日の激闘の消耗を引きずり、半ばハンデを背負って戦った海常。そのハンデを突く戦いをしながら紙一重の勝利で終わったこの試合。

 

「これで後1つだ。次が最後、高校最後の試合だ。絶対勝とうぜ」

 

火神が右拳を突き出す。

 

「はい!」

 

その拳に、黒子が拳をコツンと突き合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…っ』

 

試合に敗北し、悔しさと悲しみに暮れる海常の選手達。

 

「…ふぅ」

 

一息吐いてベンチに腰掛ける黄瀬。

 

「…っ」

 

首からかけたタオルをきつく握りしめる。

 

「(負けた…。笠松先輩や早川先輩から託された夢を、叶えられなかった…!)」

 

悔しさが込み上げ、身体が震える。

 

海常に入学し、世話になった先輩達が目指し、しかし届かず、託された全国制覇の夢。後2つの所で届かなかった。

 

「…っ!」

 

自身の不甲斐なさから右拳を振り上げ、太腿へと叩きつける。

 

 

――スッ…。

 

 

「…っ」

 

振り下ろそうとした時、右手首を掴まれ、阻まれる。

 

「まだ終わっとらん。ワシらにはまだやる事が残っとる」

 

いつの間にか後ろに立っていた三枝が黄瀬の手首を掴んでいた。

 

「そう…ッスね…」

 

三枝が窘め、そっと手首から手を放すと、黄瀬は力なく拳を下ろした。

 

まだ試合は残っている。共に明日、同じく準決勝で敗退した田加良高校を相手に3位決定戦が行われる。だが、今となっては黄瀬に何の感慨もない。

 

「勝って終われるチャンスが残っとるだけ、ワシらはまだ幸運じゃ。せめて、有終の美を飾らんとな」

 

上を向きながらそう言葉を続ける。座ってる黄瀬からはその表情は窺い知る事は出来ない。だが、察する事は出来てしまう。

 

黄瀬は思い出す。2年前のウィンターカップも同じ場所で同じ相手に負けた。その時の主将である笠松は、秀徳を相手に、黄瀬を欠いた状況で皆を奮い立たせ、堂々と戦った事を…。

 

「…っ」

 

自身の頬を2回、パンパンと叩き気持ちを切り替えると共に気合いを入れ直し、立ち上がる。

 

「皆、まだ明日の3位決定戦が残ってる。気持ちを切り替えるッスよ。最後の試合、勝って終わりにするッスよ!」

 

出来るだけ明るく見えるよう、皆を鼓舞する黄瀬。

 

『…っ』

 

最後、と言う言葉に胸を詰まらせる選手達。黄瀬を始めとした3年生はこのウィンターカップが高校最後の試合となる。今日の試合に負けてしまった為、もう、次はない。

 

「…はい! 絶対に勝ちましょう!」

 

「決勝の試合を食う程の試合にしてやりますよ!」

 

優勝する最後のチャンスを失った3年生達。その悔しい気持ちを汲んだ次世代の小牧と末広がその檄に応える。

 

「その意気だ。負けたのは無念であったが、まだ終わった訳ではない。気の抜けた試合などワシが許さん。明日の試合も全力で臨むぞ」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「すいません! もう1枚お願いします!」

 

パシャパシャと焚かれるフラッシュ。現在、花月は、急遽決まった雑誌の取材を受けている。

 

「(まさか本当に、彼らがここまでたどり着くとは…)」

 

シャッターを切る記者がファインダー越しに空と大地を覗く。

 

2年前の全中大会決勝戦の取材の折に見つけた2人の逸材。無名の中学校に所属し、あの帝光中の4連覇を阻止し、栄光を掴んだ空と大地。あの全中決勝で2人に魅入られ、追い続けた若手の記者。2人が高校に進学した最初のインターハイで優勝を果たしたが、三杉誠也や堀田健の力によるものが大きく、空と大地に実力は懐疑的な意見が多かった。その後のウィンターカップ。三杉と堀田を欠いた花月高校の注目度は低く、誰もがキセキの世代を擁するチームには勝てないだろうと予想していた。だが、花月はその予想を覆し、秀徳を破り、桐皇を後一歩の所まで追い詰めた。翌年のインターハイでも快進撃は止まらず、陽泉、海常を打ち破り、洛山には敗退したものの、その実力を示した。そしてこのウィンターカップ。去年の冬と今年の夏に敗れた桐皇、洛山にリベンジを果たし、決勝の舞台に足を踏み入れた。

 

「(夢のようだ。あの時、感じた直感を信じて彼らを追って良かった…!)」

 

記者の注目選手が大舞台に辿り着き、感動のあまり、思わず込み上げるものを抑えるのであった。

 

「お疲れの所、申し訳ありません。明日は決勝を控えておりますので、インタビューは手短に致しますので」

 

「お気遣いあざっす」

 

空が返事をする。

 

「では、ここまでで1番印象に残ってる試合は?」

 

「うーん…」

 

質問され、顎に手を当てて考える空。

 

「キセキの世代がいるチームとの試合は基本そうだけど、やっぱ、今年の夏の準決勝の洛山戦と、去年の準々決勝でやった桐皇戦かな」

 

「…おや、勝った試合ではないのですか? 両方共負けた試合のようですが…」

 

以外な回答に思わず聞き返す記者。

 

「試合で勝たなきゃいけないのは当たり前だからね。俺の場合、どうしても、悔しい思いをした試合が印象に残っちゃうんだよね」

 

「なるほど…、では、次の質問です。明日の決勝戦の抱負をお聞かせください」

 

「もちろん勝つよ。相手にとって不足なし!」

 

「ありがとうございます。…次に綾瀬君。決勝の相手である誠凛高校。ズバリ、注目している選手は?」

 

別の記者が今度は大地に質問する。

 

「誠凛高校の選手は全員、優れた資質を選手ばかりですので、全員に注目しております。…ですがやはり、その中でも火神大我さんを意識してしまいますね」

 

誠凛の選手、全てを挙げる中、強いて火神の名を挙げる大地。

 

「ありがとうございます」

 

その後も、選手1人ずつに質問をしていく記者達。指名された各選手がその質問に答えていく。

 

「ありがとうございました! 今日はお疲れの中、ありがとうございます。では取材はこれで――」

 

「――あー、私からも質問いいかな?」

 

取材を終了しようとしたその時、40代程の1人の男性記者が遮るように前に出て手を上げた。

 

「何ですか?」

 

空が了承の返事をする。すると記者はニヤニヤとしながら質問を始める。

 

「では…、高校バスケと言えば、今やキセキの世代の名は有名だ。ですが、残念な事に、今年のウィンターカップ決勝にはそのキセキの世代が1人もいない。SNS等を見ても、『決勝でキセキの世代同士の試合が見たかった』や、『決勝は消化試合』、はたまた、『キセキの世代不在の低レベル争い』なんて声も上がってるんですが、その事についてどうお思いです? やっぱり、彼らのファンに対して引け目とか、申し訳なさとか、あったりします?」

 

『…っ』

 

ニヤニヤとしながら質問をする記者。その質問に、今まで和やかであった空気が一変し、ピリッとしたものに変わる。

 

「(…ハァ、やっぱりこういうのもやってきたか)」

 

胸中で嘆息する記者。

 

記者とて、全員が好意的な者ばかりではない。中にはこう言った、面白い記事=失言やゴシップと言う考えを持つ記者もおり、このような礼儀知らずな質問を投げかける記者もいる。本来ならこのような…ましてや、学生スポーツの選手に対してこのような質問をぶつける記者は淘汰されるべきなのだが、彼らの書く記事に対して一定の支持層がいるので、このような記者はいなくならず、対象の知名度が上がれば、自ずとこのような記者がやってくる機会や可能性も高くなるのだ。

 

「引け目とかそういうのは一切ないな。俺達は正々堂々、力の限り戦ったし、キセキの世代だってそれは同じだからな」

 

特に気にする事無く質問に答える空。

 

「ハハッ、そうだよねー。負けた彼らが悪いんだから、そんな事言われても困るよねー。全ては期待外れだった彼らが悪い。そういう事だよね?」

 

表情をさらにニヤニヤとさせながら質問を重ねる記者。

 

『…』

 

失礼極まりない、死闘を繰り広げたキセキの世代に対して敬意も欠片もない質問に花月の選手達も嫌悪感を覚える。

 

「(同業ながら、聞くに堪えないな…)」

 

それは件の記者も同様であった。

 

明らかな拡大解釈で回答を悪い方に捉えているのは明白。この記者の狙いは怒りの感情を煽ってその状態での言動を記事にするのが狙いだ。

 

何か助け船を出そう…、記者がそう考えていると、空が口を開く。

 

「期待外れかどうかは、戦った俺達はもちろん、試合を見に来ていた人には分かっているはずだから、わざわざここで答えるまでもないかな。…ところでおじさん、今回のウィンターカップの試合は見に来た事ある?」

 

空がその記者に逆に質問をした。

 

「…いえ、私は普段は日本や海外のプロリーグが専門なので…」

 

記者の回答を聞くと、空はニコリと笑い…。

 

「だったら、明日の決勝、見に来てくれよ。そこにおじさんの聞きたい答えが全部ある。試合が終わった時、さっきおじさんが言ってた、ファンってのが言ってた感想を言う奴は1人もいないはずだ。だよな? 大地」

 

大地の方へ視線を向けた空がウィンクをしながら尋ねる。それを受けた大地はニコリと笑い…。

 

「ええ。明日は私達と誠凛高校の皆さんとで最高の決勝戦をお見せいたします」

 

「そのうえで、俺達が勝つ!」

 

拳を突き出しながら空がそう締めくくった。

 

『おー!』

 

空の堂々たる言葉に記者陣から思わず感嘆の声が上がった。

 

「…回答、ありがとうございました」

 

目当ての回答は得られず、また、取材の空気も変わってしまった為、記者はつまらないと言わんばかりの顔をしながら質問を終わりにし、居心地の悪さを覚えたのか、その場から去っていった。

 

「それでは、以上で取材の方を終わりします。本日はお疲れの中、ありがとうございました!」

 

こうして、花月高校の取材が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ええ啖呵やったで! 見たか、あのおっさんの顔。圧巻やったで!」

 

記者たちが撤収作業をしている中、天野が空の首に腕を回していた。

 

「(本当に、大きな存在になったものだ)」

 

機材を片付けながら、花月の選手達の中の空と大地に視線を向ける記者。

 

「(…だが、きっとこれで終わりじゃない。彼らはもっと大きな存在になる。日本のバスケを変えてしまう程に…)」

 

そんな期待を抱いた記者は、おもむろにカメラを構え、2人の姿をシャッターに収めたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「さあ、決勝戦に向けてのミーティングを始めるわよ!」

 

リコが胸の前で腕を組みながら告げる。

 

準決勝が終わり、外は既に日が沈んだ時分。誠凛高校の監督、選手達が火神が住んでいる住居に集合した。

 

「まずは、今日はお疲れ様! 皆、よくやってくれたわ!」

 

リコが無事、海常に勝利した選手達に労いの言葉を贈った。

 

「ホントお疲れだぜ。監督はえっらそうにベンチ踏ん反り返ってたけど、黒子さん出てなきゃマジでやばかったじゃねえかよ」

 

唇を尖らせながら池永が抗議の声を上げる。

 

「あのね、監督の私がベンチでオロオロしてたらそれこそ問題でしょ。例えどんな状況でも堂々している事で相手にプレッシャーを与えられる事もあるのよ」

 

「へーへーそうですかー」

 

リコの返事に池永は小指で耳を掃除しながら聞き流していた。

 

「…監督、そろそろ本題に入らないッスか?」

 

「…そうね。それじゃ、始めるわよ」

 

話が脱線しそうになっている気配を察した火神が口を挟み、DVDプレーヤーを操作する。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

DVDが再生させると、そこには花月の試合が映し出された。

 

「1人1人スカウティングしていくわよ。まずはシューティングガード、生嶋奏」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

映像では、生嶋から放たれたスリーがリングを潜り抜けた。

 

「彼の武器は何と言っても、正確無比のスリーよ」

 

「…凄い、何でバランスも乱れてリズムもバラバラなのに外れないんだ…」

 

リングの中心を的確に射抜いたスリーに引き攣りながら驚く福田。

 

「それには同意ね。ブロックをかわす為にタイミングやリズムをずらしたり、後ろや斜め横に飛んだりもするわ。それでも外れる気配が微塵もない。彼のスリーは精度だけなら緑間君並かそれ以上。つまり、打たれた終わり。そう考えるべきよ」

 

「スリーは確かにすげえけど、ディフェンスは大した事ねえな。身体能力も高くねえし、狙い目じゃね?」

 

思った感想を口にする池永。

 

「一理あるわ。花月が想定通りのスタメンで来た場合、生嶋(ここ)を狙うのはうちとしては有効ね。…朝日奈君」

 

ここでリコは当日、生嶋をマークする事になる朝日奈を呼ぶ。

 

「序盤は朝日奈君にボールを回していくわ。得意のプレーでガンガン攻め立ててちょうだい」

 

「はい」

 

「ディフェンスでも、とにかくスリーを最優先に止めてちょうだい。最悪、中に侵入されても構わないから。皆も、スクリーンの声掛けを忘れないように。いいわね」

 

『はい!』

 

「次に、センター、松永透」

 

 

――バス!!!

 

 

映像では松永がローポストからステップで相手を翻弄してゴール下に侵入し、決める。

 

「彼の特徴はとにかく、プレーの幅が広い事よ」

 

映像では、松永がローポストから離れ、相手と向き合う形でボールを受け取り、ジャブステップを踏んで相手を崩した後、相手を抜きさった。

 

「鉄平の話じゃ、もともとはスモールフォワードだったみたいだし、県予選でも、スモールフォワードで起用が多かったみたいだから、センター以外の動きもこなせるわ」

 

「…」

 

松永の動きを、明日、マッチアップする事になる田仲が注意深く観察する。

 

「田仲君。明日はゴール下以外でディフェンスをする機会が増えるわよ。今日の試合を思い出して。彼の動きは三枝君と似ているから、今日の経験を生かしてちょうだい」

 

「はい!」

 

「次に、パワーフォワード、天野幸次」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

映像で、天野がリバウンドを制している。

 

「彼は典型的なロールプレーヤーよ。オフェンスではスクリーンを駆使して味方をフリーにしたり、中からパスを中継してボールを回していくのが基本運用ね。もちろん、得点能力がないわけじゃないから、その点は注意して」

 

『…』

 

「けど、彼が1番真価を発揮するのはディフェンスとリバウンドよ。ディフェンスでは、1ON1でまともに得点出来たのはキセキの世代と無冠の五将、後は、氷室君と三枝君ぐらい。あの青峰君も、エンジンがかかる前と言え、ある程度、止められているわ。後は、リバウンド」

 

天野がゴール下でスクリーンアウトで絶好のポジションを確保し、リバウンドボールを掴み取っている。

 

「とにかくオフェンス・ディフェンス問わず、リバウンドを取りまくるわ。1試合平均、14.3のリバウンド数から分かるように、花月のアキレス腱的な存在よ」

 

「じゅ、14.3…」

 

その数字に福田の表情が引き攣る。

 

「彼と純粋なリバウンド勝負をしてリバウンドを奪えたのは紫原君と三枝君だけ。まともにリバウンド勝負をしたらうちの方が分が悪いわ」

 

『…っ』

 

ゴクリと喉を鳴らす音が響く。

 

リバウンドは試合の勝敗にも直結する重要なもの。リバウンドを制されると当然、不利になる事は必然。

 

「…どうすれば」

 

思わず降旗の口から弱気な口調で尋ねる。

 

「勝負しなければいいのよ」

 

「…えっ?」

 

リコの口から出た言葉に、河原から驚きの声が上がる。

 

「リバウンドになったら、とにかく彼を抑え込んで飛ばせない事だけに力を注いで、他でリバウンドを奪い取ればいいのよ。天野君とリバウンド勝負をする事になったら、ボールは無視してフルフロントで天野君をゴール下から追い出しなさい」

 

そう言って、リコはリモコンを操作する。

 

「控えの選手もなかなか粒揃いよ」

 

リモコンの早送りを止める。

 

「竜崎大成君、主に、神城君のバックアップのポイントガードする事が役割だけど、2番(SG)のポジションを任される事もあるし、4番(PF)での運用される事もある、オールラウンダー的存在よ。帝光中を主将として率いて優勝した経験もあるから、度胸も充分。彼が出てきたら要警戒よ」

 

再びリモコンを操作するリコ。

 

「次に、室井総司君。花月のバックアップセンターよ。彼の特徴はとにかくその規格外の身体能力よ。パワーはあの紫原君のポストアップに耐えられる程、スピードもジャンプ力あり、スタミナも豊富。元陸上選手なだけあって、身体能力だけならキセキの世代と同等以上に張り合えるレベルよ。バスケキャリアが短いからボールを持ったプレーは拙いけど、ボールを持たないプレーの質はもう全国レベル。ゴール下が主な主戦場だから、決して油断しないように」

 

解説を終え、リモコンを操作。

 

「後は、菅野肇君は、ドライブ技術に長けたチームのムードメーカー的存在。帆足大典君は味方にスクリーンをかけてフリーの選手を生み出し、自らは外からスリーで決める。去年までは正直、スタメン頼りのチームである事が否めなかったけど、今年の花月は、コート上でしっかり役割を担える選手が揃っているわ」

 

控えの選手の解説をしたリコ。

 

「さて、ここからがメインディッシュよ」

 

ニコリと笑みを浮かべたリコ。

 

「メインディッシュの1人、スモールフォワード、綾瀬大地」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

映像では、大地がフェイダウェイでディフェンスをかわしながら得点を決めている。

 

「彼の武器は何と言っても、青峰君相当のスピードと、そのスピードの勢いを一瞬で殺してしまう強靭な足腰にドライブと変わらないスピードで行えるバックステップ。前後の緩急で相手を揺さぶってくるわ」

 

「…っ、マジでどんな足腰してんだ。普通、あのスピードでドライブしたら一瞬で止まれないぞ」

 

映像に注目ている朝日奈が引き攣りながら呟く。

 

「仮に止まれても足腰を痛めるだけよ。現に、夏に彼の技を盗もうとした灰崎君も痛めていたし、黄瀬君もコピーを避けていたぐらいだしね」

 

リコが続けて解説する。

 

「とにかく彼の強靭な足腰で行われる前後の緩急が厄介極まりないわ。それこそ、キセキの世代でさえ出し抜ける程の代物なのだから」

 

驚異的なスピード。そのスピードから繰り出される前後の緩急。左右や上下の動きはバスケでは珍しくないが、前後の動きは、ステップバックなどでシュートスペースを創り出す為に用いられる事があるが、それでも高校生レベルではなかなかお目にかかれるものではない。

 

「以前は前後の緩急を駆使したスラッシャータイプの選手だったけど、陽泉戦の途中からスリーも積極的に打つようになったわ。緑間君のようにクイックリリースで打って来るし、後はバックステップとステップバックを踏んだ足での片足でのフェイダウェイで打ってきたり、スリーポイントラインから2m離れた所からでも決めた事もある。もともと資質はあったけど、今年の陽泉戦の途中から本格的にキセキの世代(彼らの領域)に足を踏み込んだわ」

 

テレビ画面に、青峰をかわして決める大地の姿が映る。

 

「…火神君。綾瀬君のあなたに任せるわよ」

 

「うす。任せて下さい。って訳だから、我慢しろよ池永」

 

「わーったよ。いちいち聞くんじゃねえよ」

 

リコに大地に相手を託された火神。不満そうな表情の池永に釘を刺しながら返事をする。

 

「最後に、ポイントガード、神城空」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

映像では、空が一瞬の加速で相手を置き去りにする程のスピードで一瞬で相手を抜きさる。

 

「…はえーな。映像からでも分かる。あのスピードと加速力はマジで青峰以上だ」

 

青峰と何度も対戦経験がある火神がそう評価した。

 

「花月のオフェンスは神城君が起点となるわ。神城君が中に切り込み、とにかく得点を決めまくる。自身にマークが集まればそこからパスが出される。…去年までは正直、パスが出せるスコアラーって言う印象だったけど、今では一流のポイントガードて称しても差し支えないわ。それこそ、あの赤司君とナンバーワンポイントガードを争える程に…」

 

『…っ』

 

リコの評価に対し、異論や反論する者はいない。

 

「…新海君」

 

ここでリコが新海の名を呼ぶ。

 

「火神君が綾瀬君の相手をする以上、神城君の相手は基本、あなたがする事になるわ。いざとなったら池永君とダブルチームで当たらせるけど、それは本当にどうしようもなかったらよ。…やれるわね?」

 

キーマンである空の相手を一任された新海。リコの口調も自ずと重いものとなる。

 

「任せて下さい。止めて見せます」

 

はっきりと、それでいて力強い口調で新海は返事をした。

 

「止められなきゃ俺が代わってやるよ」

 

「余計なお世話だ」

 

茶々を入れる池永に対し、強めに断る新海。

 

「花月はオフェンス特化のチームである事は間違いないけど、ディフェンスも脅威よ。先の天野君もそうだけど、何より脅威なのは…」

 

映像では、スクリーンを使って生嶋のマークを引き剥がした相手選手がスリーを打とうとシュート体勢に入る。すると空が一瞬で距離を詰め、シュートコースを塞いでしまった。

 

『…っ』

 

シュートコースを塞がれた相手選手だったが、すぐに空が外したマークの選手がボールを貰いに行き、そこへのパスに切り替える。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

しかし、そのパスも、パスコースに割り込んだ大地によってスティールされてしまう。

 

「これよ。花月はとにかく神城君と綾瀬君のヘルプが速いのよ。もたもたシュート体勢を作っていたらあっと言う間に2人が飛んでくるわよ」

 

その言葉に偽りはなく、空と大地が目まぐるしく動いて相手のシュートチャンスを潰していく。

 

「後の脅威は速攻。相手の速攻は大抵のワンマン速攻はこの2人が追い付いてしまうから通用しない。対して、相手側の速攻はこの2人のいずれかに走られたら正直、止めようがないわ。…つまり、花月には速攻が通じず、かつ、速攻に走られたら終わり。そして、この2人はこれだけの動きを1試合まるまる続けるだけのスタミナを擁しているわ」

 

『…っ』

 

誠凛選手達、全員の表情が曇る。ただでさえ、運動量が豊富なだけで厄介なのに、それを行うのがチームのキーマン、司令塔とエースなのだから。

 

「となると、明日の試合は今日の試合で海常がやったように、先行逃げ切りを図った方がいいって事ですか?」

 

降旗がおずおずと手を上げ、尋ねる。

 

スタミナが豊富と言う事は、疲労が溜まる終盤に強いと言う意味でもある。それまでに逃げ切るだけの点差を稼ぐ。と言うのが降旗の考え。

 

「…いえ、それはむしろ悪手よ」

 

しかし、リコはその提案を退ける。

 

「点を取りに行くと言う事はつまり、花月のペースで戦うと言う事でもあるわ。これまで、キセキの世代を擁するチームのほとんどが花月のペースに付き合わされて敗北したわ。つまり、花月とがむしゃらに点の取り合いをするのは危険よ」

 

秀徳を始めとして、海常も陽泉も花月のペースに付き合わされ、敗北した。桐皇は去年の冬こそ勝利したが、今大会でリベンジを果たされた。洛山も序盤こそ洛山のペースで戦い、翻弄したが、最後には花月のペースで戦って敗北した。

 

「うちも花月と同じ、オフェンス重視のチームではあるけれど、花月と違って人ではなくボールを動かすチーム。ハイペースの花月と同じ土俵で戦うのは危険よ。もちろん、点は取りにいくけど、それはあくまでもこちらのペースでの話。理想はこっちのペースに引き摺り込む事よ」

 

試合の基本方針をするリコ。それから更にミーティングは続く。

 

「具体的な話はこんな所ね。ここから更に花月の選手の深堀をしていくわ。…皆、試合後に疲れている所に申し訳ないけど、もう少し付き合ってちょうだい。皆も分かっているとは思うけど、花月はそれだけの相手なのよ。何と言っても、あのキセキの世代を擁するチーム、全てに勝っているのだから」

 

今や、高校バスケの代名詞とも言えるキセキの世代。花月は誠凛以外でそれを成し遂げた唯一の相手。

 

『…』

 

リコのお願いに、文句を言う者は誠凛の選手の中には1人もいなかった。

 

その後も、決勝に備えて、対花月のスカウティングは続いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやはやまさかの200話目に突入しましたよ…(>_<)

当初はここまでの長丁場になるとは思いませんでした。継続は力なりで文章力がアップしないのがあれですが…(;^ω^)

話は誠凛のミーティングだけで終わりましたが、花月もこの話でするとえらく長くなりそうだったので一旦切りました。次話でする予定ですが、もしかしたらカットするかも…((+_+))

当初のプロットでは、誠凛に陽泉と海常を撃破して決勝の辿り着かせる予定だったんですが、現誠凛のメンバーで、特に陽泉を、違和感なく勝つ試合内容が浮かばなかったんですよね…(;^ω^)

原作では途中でベンチに下がりはしましたが木吉がいましたし、マジでどうすればいいのか分からなかった。決勝の隠し玉をここで出す訳にも行かなかったので、泣く泣く海常と潰し合いをする結果となりました。正直、漁夫の利的な面も否めない事と思いますが、原作でもラスボスの洛山は秀徳しか戦ってませんし、誠凛は海常にプラスして灰崎のいる鳳舞とも試合してるので、…まあいっかっと…(>_<)

さてさて、これから決勝戦ですが、決勝が1番盛り上がらなかったと言う結果にならないようにしないと行きませんね。っと言うか、マジでなりそうで今からビクビクしています…(T_T)

…さあ、ネタ集めしますか!!!

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第201Q~ウィンターカップファイナル~


投稿します!

入れたい事盛り込んだらめっちゃ長くなった…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

「(…ズズズ)」

 

既に日は沈み、暗くなった夜道を空は歩いている。

 

花月の選手達は、誠凛対海常の試合を見届け、取材を終えてホテルに戻るとすぐにホテルの一室に集まり、決勝の相手である誠凛のスカウティングをした。スカウティングを終えると、空は散歩をする為にホテルを出ていた。

 

「(本調子ではなかったとは言え、あの海常を倒した誠凛…)」

 

道中で購入したホットミルクを飲みながら明日の相手である誠凛の事を考える空。

 

「(1番の問題は火神さんだ。マジであのジャンプ力は反則級だ。ひとたび飛ばれたらどうしようもねえ…)」

 

火神の代名詞であるジャンプ力と滞空力。スピード、パワー、テクニックであるなら、対策はいくらでも立てようがある。だが、高さだけは取れる対策が限られる。

 

「(後は、…黒子さんか…)」

 

空が火神と同等に警戒しているのが黒子テツヤ。幻の6人目(シックスマン)と称される元帝光中、現誠凛のシックスマン。

 

「(第4Qの勝負所で出てきて、事実上、海常にトドメを刺した準決勝の功労者だ)」

 

試合開始からパーフェクトコピーをも駆使して一気に点差を付け、そこで付けたリードを守り切る作戦に出た海常。限界を超えても尚、気力を振り絞り、第4Qまでは海常がリードしていた。だが、そこで黒子が出場し、試合をひっくり返した。

 

「(…ズズズ)」

 

ここで一口飲み物を口にする。

 

「……で、何で付いて来てんだ?」

 

空は後ろを歩く人物に話しかける。

 

「お目付けよ。目を離すと練習しかねないから」

 

問い掛けられた空の後ろを歩く姫川が答える。

 

「しねえよ。つうか、サンダルでする訳ねえだろ」

 

空は自身の足元を指す。空は現在、運動靴ではなく、サンダルを履いている。

 

「このクソ寒い時期にサンダルで外歩かせやがって。どんだけ信用ねえんだよ」

 

「ある訳ないでしょ。去年のインターハイの決勝前夜も止められるまで練習してたんだから」

 

文句を言う空に対してピシャリと一蹴する姫川。去年のインターハイ決勝戦の前も試合後に空は激しい練習していた。その前科があった為、姫川は外に出ようとする空に敢えてサンダルを履かせて、自身も後を追うように続いていたのだ。

 

「…それで、何を考えていたの? やっぱり決勝の事?」

 

「まあな」

 

尋ねると同時に姫川は空の横に並ぶ。

 

「誠凛でもっとも警戒すべきなのは火神さんと黒子さん。その中でもひと際不気味なのが黒子さんだ」

 

「…確かにね。黒子さんは今大会、スタメン出場はないし、試合出場時間もかなり短いわ。今日の試合でも終盤に出て試合の流れを完全に変えて見せた。海常も、既に疲労が限界を超えていた事もあって、完全に足が止まっていて対応が出来ていなかったわね」

 

今日の試合を思い出しながら語る姫川。

 

「(…姫川の言う通り、確かに海常は黒子さんに対応出来ていなかった。だが、それは疲労だけが原因なのか?)」

 

改めてミーティングで誠凛対海常の試合映像を見た空は、何か引っ掛かりを覚えていた。

 

「(誠凛の試合で黒子さんを見てから胸騒ぎ収まらねえ。何かとんでもない何かがある。俺の勘が告げて――)」

 

「あっ? てめえは!?」

 

「…ん?」

 

考え事しながら歩いていると、突如、声が聞こえ、空が声の方へ顔を向ける。

 

「…誰かと思えば、誠凛の池永と新海か」

 

空が振り返ったそこには、見知った顔がいた。

 

「おーおー、決勝前夜にデートかい? 良い御身分じゃねえの」

 

空の横に立っている姫川を見て茶化す池永。

 

「そんなんじゃねえよ。ただ散歩してるだけだ。姫川は勝手に付いて来ただけだ。つうか、お前らこそ夜遊びしてんじゃねえかよ」

 

茶化す口調の池永に鬱陶し気に返す空。

 

「そんな訳がないだろう。さっきまでミーティングをしていたんだよ。お前達に勝つ為にな」

 

「へー」

 

説明する新海に対し、返事をしながら飲み物を口にする。

 

「ようやくてめえらに借りが返せる時が来たからな。全中の屈辱、明日てめえらをズタボロにして晴らしてやる」

 

睨み付けながら告げる池永。

 

「あっそ、俺は終わった全中の事なんざ興味はないんでね。ま、頑張って」

 

手をヒラヒラさせながら他人事のように返すと、空はそのまま歩き始めた。

 

「あっ!? 待てよこのやろう!」

 

その態度に怒りを覚えた池永が空に詰め寄る。

 

「やめろ」

 

歩み出た池永を右腕を伸ばして止めながら制止する新海。

 

キセキの世代(先輩達)に勝った今、俺達なんて眼中にないって事か。それならそれでもいい。その油断と驕りが命取りになるって事を明日思い知らせるだけだ」

 

池永を抑えながら鋭い目付きで新海が告げる。

 

「さすが、その油断(・・)驕り(・・)で全中負けた奴が言うと重みが違うねー」

 

空が新海に自身に向けられた皮肉を返すように皮肉った。

 

「っ!?」

 

その言葉に、新海の顔が歪む。空が足を止めると…。

 

「言っとくが、俺は別にお前らを舐めてはねえよ。決勝で戦う相手のマッチアップ相手を知らなかったどっかの司令塔や、対戦校の名前すら知らなかったどっかの誰かさんと違ってな」

 

「「っ!?」」

 

その言葉に表情が引き攣る2人。

 

全中大会決勝の折、空は試合前に通路ですれ違った際に空を全く認知していなかった新海と、相手の学校名すら覚えていなかった池永を皮肉った。

 

「リベンジに燃えんのは結構だが、それに囚われてせっかくの決勝白けさせんなよ」

 

そう2人に告げ、空は踵を返し…。

 

「…あっ、後田仲によろしくー」

 

手をヒラヒラさせながらそう言い残してその場を後にしていった。

 

「…ちっ、腹立つ野郎だ」

 

空の物言いに頭に血が昇る池永。

 

「…同意見ではあるが、俺達とて、以前は同じだった」

 

「…っ」

 

顔を顰める池永。

 

「俺達がするべきは、誠凛に来て学んだ事を決勝であいつらに見せつける事だけだ」

 

「…ああ。目にモノ見せてやるよ」

 

池永は空が消えていった方角を睨み付けながら呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「……なんだよ」

 

無言で歩く空と姫川。姫川のジトっとした視線を感じ取った空が声を掛ける。

 

「…別に、随分と性格悪くなったなって」

 

「先にかましてきたのはあいつらだからな。1度言い返してやりてえって思ってたんだよ」

 

依然としてジト目の姫川に弁解する空。

 

「さっきは終わった事とか言ってたのに、随分と根に持ってるのね」

 

「当たり前だろ。対等の相手に舐められたらムカつくに決まったんだろうが」

 

持っていた飲み物を一気に飲み干した空は数メートル離れたゴミ箱にシュート放つフォームで放り、入れた。

 

「一応言っとくけど、あいつらの事、舐めてたりはしてねえからな。全中でも手こずった相手だし、何より、火神さんと黒子さんだけで勝ち上がれる程、ウィンターカップは甘くねえってのは俺もよく分かってるからな」

 

「それが分かってるならいいわ」

 

聞きたかった言葉を聞けたので、姫川はこれ以上、この件への追及を止めた。

 

「…ねえ」

 

「…ん?」

 

暫く無言で歩いていると、姫川が口を開いた。

 

「1つ、聞きたい事があるんだけど」

 

「何だ?」

 

「あなたの夢って、何?」

 

「どうした? 藪から棒に」

 

「…別に、ただ気になっただけ」

 

空から疑問に、目線を逸らすように返す姫川。

 

「んなもん、決まってんだろ」

 

空は夜空を指差し…。

 

「NBA選手だ。NBAで俺の名が残るプレーヤーになる事だよ」

 

そう宣言し、ニカッと笑った。

 

「NBA…そう…」

 

「何だよ。無理だとか言うんじゃねえだろうな」

 

ジト目で聞き返す空。

 

「…いえ、ただ、羨ましいなぁって」

 

「羨ましい? ……っ」

 

そこまで口にして空は以前に姫川が話してくれた足の話を思い出す。

 

「…」

 

何処か悲し気に俯く姫川。

 

「選手だけがバスケじゃねえだろ」

 

「えっ?」

 

空の言葉に姫川は顔を上げて空の方を振り向く。

 

「監督とか指導者とか、バスケにいろんな関わり方があるんだ。案外、姫川は監督とか向いてんじゃねえの? 欠点とか見つけるの上手いし、練習メニューとか、試合の作戦とか、今では姫川もかなり関わってんだろ? 誠凛の監督だって女なんだし、目指してみたらどうだ?」

 

「監督…か」

 

空の提案に考える素振りを見せる姫川。

 

「…うん、考えてみる」

 

軽く頷きながら姫川は薄く微笑んだ。

 

それから2人共無言で歩いて行く。

 

「…とうとう、辿り着いたね、決勝」

 

「ああ」

 

口を開いた姫川。

 

「後1つ。明日も頑張って――いえ」

 

言いかけた姫川だったが、途中で止める。

 

「存分に暴れなさい、神城君」

 

ありきたりな言葉ではなく、空が好みそうな言葉に言い換えた姫川。空はニヤリと笑い…。

 

「おう!」

 

親指を立ててそう答えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌朝…。

 

「っしゃ遂に来たぜ!」

 

夜が明け、ジャージに着替えた空が叫ぶ。

 

「まだ早朝なんですよ。声を抑えて下さい」

 

未だ時刻は早朝。同様にジャージ姿の大地が空を諫める。

 

「朝っぱら相変わらず喧しい奴やなあ」

 

「おはよう、くー、ダイ」

 

「フッ、気合い充分だな」

 

ホテルのフロント前、既に集まっていた天野、生嶋、松永が挨拶を交わす。

 

「3人共、はえーな」

 

「早くに目ぇ覚めてもうてな」

 

「居ても立ってもいられなくて」

 

「そういう事だ」

 

考える事が同じであった為か、自ずと表情が綻ぶ。

 

「軽く準備運動して、近くの公園に行こうぜ」

 

空を先頭に、ホテルの外へと出る5人。

 

「あっ、先輩達!」

 

「おはようございます」

 

「おはよう!」

 

「何だお前らもかよ」

 

外に出ると、竜崎、室井、帆足、菅野の4人が待ち受けていた。

 

「ハハッ、皆、考える事は同じって訳か」

 

選手達が勢ぞろいした事にニヤリと笑う空。

 

「やっと決勝まで来たんだぜ! 気合い入らねえ訳がねえよ!」

 

「声デカいねん。空坊がお前は」

 

気合いが入り過ぎてボリュームが大きくなった菅野を天野が諫める。

 

各々が準備運動を済ませると…。

 

「それじゃ、公園まで軽く走るとしますか」

 

「空、程々にですよ」

 

「分かってるよ」

 

大地が釘を刺し、空を先頭に選手達は公園までジョギングを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「朝から元気いっぱいだね!」

 

選手達の出発の光景を見ていた相川がにこやかに感想を口にした。

 

「…ハァ。これから決勝戦だと言うのに」

 

呆れた表情で溜息を吐く姫川。

 

「お前達は準備を進めておいてくれ。俺は…、やれやれ、お目付け役をせんとな」

 

フッと苦笑した上杉は空達の後を追って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ※ ※ ※

 

 

――ざわざわ…。

 

 

場所は変わって、試合会場入り口前の広場。ウィンターカップ決勝戦の観戦の為、大勢の観客が期待に胸を高鳴らせながら会場に向けて歩いていた。

 

「スゲー賑わってんな」

 

「さすが、決勝、それも、キセキの世代にとって、高校最後のウィンターカップなだけあるな」

 

「懐かしいな。こうやってここに来ると、俺達(・・)代の決勝戦を思い出すよ」

 

同じく会場に向かっているのは、かつて、誠凛高校バスケ部に所属し、創部2年で全国制覇を成し遂げた、OB達であった。

 

「俺らの代が抜けて、正直、不安もあったけど、杞憂だったな」

 

日向が会場を見据えながら発言する。

 

「俺達の代で届かなかったインターハイを制して、今日勝てば、夏・冬の連覇だからな」

 

後輩達が達成した結果を頼もしそうに口にする伊月。

 

「…あれ? あれって、元桐皇の今吉と諏佐に若松じゃね?」

 

少し離れた場所を歩いている元桐皇の3人に気付いた小金井。

 

「さっき、海常の笠松とか、陽泉の岡村や秀徳の大坪も見かけたよ。もしかしたら、キセキの世代に関わった奴全員、今日の試合に見に来てるのかもな」

 

小金井の言葉を聞いて思い出した土田が会話に参加する。

 

土田の指摘は正しく、この会場にはかつて、自分達がしのぎを削り合った、キセキの世代が所属していた高校の選手達、OB、現役問わず、会場に集結していた。中には誠凛が戦った東京都の高校の選手達の姿もあった。

 

「しかしまあ、お前まで決勝を見に来るとは思わなかったけどな」

 

日向が、自身の横を歩く者へ話しかける。

 

「去年は結局、試合どころか日本に帰国する事も出来なかったからな。今日はその分も応援するつもりだ」

 

そこには、一昨年、誠凛のゴール下を支え、ウィンターカップ優勝に大きく貢献した木吉鉄平がいた。

 

「けど、決勝の相手がキセキの世代じゃないって事に1番驚いてるよ」

 

伊月が今日の対戦校を思い出す。キセキの世代を擁するチームは準決勝までに全て敗退している。

 

「普通ならラッキー! って、言いたいけど…」

 

「ああ。相手は、そのキセキの世代全てを倒した花月高校だ」

 

小金井の感想に、続いて補足しながら日向頷いた。

 

「最初の秀徳戦はまあ、作戦がハマったのと、多少の油断もあったのも大きいと思うけど、他は間違いなく、実力によるものだからな」

 

キセキの世代を擁するチームを撃破する事が如何に困難であるかは試合をした自分達が良く理解している。それだけに花月が成し遂げた偉業に驚いている。

 

「神城空、綾瀬大地。去年の夏は資質はあったが、実力はキセキの世代には届かなかった。今や、キセキの世代と同格の評価を得てるからな」

 

「俺達も無冠の五将を3人も擁した洛山や、キセキの世代とほぼ同格の氷室を擁した陽泉と試合したけど、キセキの世代クラスを2人も擁したチームとは試合した事なかったよな」

 

1人いるだけでもチームを優勝候補に押し上げるキセキの称号を持つ者。今回、その者達が2人もいるのだ。

 

『…』

 

決して容易ではない相手に表情が暗くなる元誠凛の選手達。

 

「…ん?」

 

その時、小金井の肩に手が置かれる。

 

「(…フルフル)」

 

振り返ると、水戸部がフッと笑みを浮かべながら首を横に振った。

 

「えっ、なになに? 心配はいらないって?」

 

言葉を発さないが、何を言いたいかを理解した小金井。

 

「水戸部の言う通りだ。後輩達ならきっとやってくれるさ。だから、俺達は精一杯応援してやろうぜ」

 

にこやかに木吉が言う。

 

「…だな。あいつらは俺達が成し遂げられなかった夏を制したんだ。今年の誠凛は、俺達がいた頃の誠凛を超えてるはずだからな」

 

表情を戻した日向。

 

「試合前に激励にでも行く?」

 

「いや、やめとこうぜ。きっと、試合に集中したいだろうからな」

 

小金井の提案を断る日向。

 

「けどまあ、何かメッセージだけでも送っとくか。さて、何と送るか…」

 

携帯を取り出した日向が操作を始める。

 

「長文で送るのもあれだから、シンプルにあれでいいんじゃないか?」

 

伊月が木吉を見ながらニコリと笑う。日向は伊月の意図に気付くとフッと笑い…。

 

「…だな」

 

携帯を操作し、メッセージを打って送信した。

 

「おいおい、何て送ったんだよ?」

 

送った内容に唯一分からない木吉が尋ねる。

 

「自分の胸に聞け」

 

敢えて答えず、日向はそのまま会場へと向かった。

 

 

――楽しんで行こうぜ。

 

 

ただこれだけを沿え、メッセージを送ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

沸き上がる試合会場。現在、コート上では海常高校と田加良高校による、3位決定戦が行われている。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

『っ!?』

 

黄瀬の豪快なワンハンドダンクが炸裂。その迫力に田加良の選手達も目を見開く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

田加良、神原のゴール下からのシュートを三枝が叩き落す。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

氏原が得意のツーハンドリリースによるスリーを決め…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

司令塔である小牧が得意のドライブで中に切り込み、マークが集まるとそこからパス。

 

 

――バス!!!

 

 

小牧にディフェンスが集まった事でフリーとなった末広がゴール下から得点を決めた。

 

 

第2Q、残り3分45秒

 

 

海常  43

田加良 20

 

 

試合は完全に海常優勢で進んでいた。連戦による疲労の色も見られる海常だが、それでも試合は圧倒的であった。

 

『決勝、どっちが勝つかな?』

 

『誠凛だろ。あの火神は止められないって』

 

『花月だろ。何と言っても、あの洛山に勝ったんだからな』

 

ハーフタイムが近付くにつれ、観客の興味が決勝へと移っていく。キセキの世代不在の決勝戦。だが、それで熱は冷める事はなく、むしろ、共にキセキの世代全てを撃破したチームである為、関心が尽きる事はない。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

ここで第2Qが終了し、海常、田加良の両選手、監督達が控室へと向かって行く。

 

『後半開始まで、10分間のインターバルに入ります。花月高校、誠凛高校は、アップを開始して下さい』

 

会場にアナウンスがされる。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

同時に歓声が上がる。

 

『しゃす!!!』

 

花月、誠凛の両選手達がそれぞれのエンドラインに並び、同時に挨拶をし、コートに足を踏み入れた。

 

 

――バス…バス…!!!

 

 

両チーム、パスを出してから走り、中でボールを受け、レイアップを決める練習をしている。

 

『…』

 

黙々と練習を続ける花月、誠凛の選手達。

 

『(…ゴクリ)』

 

選手達の緊張感が観客にも伝わったのか、一部の者が思わず息を飲む。

 

「(さて…)」

 

淡々と練習を続ける選手達だったが、空が時間を確認する。

 

「っしゃ!」

 

空がパスを出して走り、リターンパスを受け、そのままリングに向かって飛ぶ。

 

「らぁっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクをリングに叩き下ろした。

 

 

『うぉーっ!!! 出た!!!』

 

空のダンクに沸き上がる観客。

 

 

「(続けよ)」

 

空がニヤニヤしながら次の大地に何やらジェスチャーする。

 

「(…ハァ、分かりましたよ)」

 

その意図に気付いた大地は胸中で溜息を吐きつつ頷き、パスを出す。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

空と同様、ワンハンドダンクを炸裂させる。

 

 

『今度は綾瀬だ!』

 

 

「しゃーないのう」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

その後、天野が続き…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

次いで、松永も続き、ボースハンドダンクを叩き込む。

 

「ムロもいったれ」

 

「分かりました、やってみます」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

天野に促された室井がボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

『スゲー!!! 5連続ダンク!!!』

 

立て続けに炸裂されるダンクに一気に会場が沸き上がった。

 

 

――ガン!!!

 

 

「やっべ!」

 

力が入り過ぎたのか、菅野がレイアップを外してしまう。

 

「オッケー任せろ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

零れ落ちるボールを空がそのまま叩き込んだ。

 

「試合前のデモンストレーションとしては充分だろ」

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

空がそう呟くのと同時に観客が沸き上がる。

 

 

「…ん?」

 

しかしここで、空は、歓声が自分達だけに向けられている訳ではないと言う事に気付いた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

出されたパスを黒子が叩きながらリング付近へと浮かせる。

 

「よっしゃ!」

 

そこへ走り込み、空中でボールを掴んだ火神。

 

 

――スッ…。

 

 

同時にボールを股下から潜らせ…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そこからリングへとボールを叩き込んだ。

 

「こんなものか」

 

着地をした火神がニヤリとする。

 

 

『スゲー!!! 何だよ今の!?』

 

火神が魅せた大技に会場中が溢れんばかりの歓声に包まれた。

 

 

「空中でレッグスルーからのアリウープ。…なるほど、化け物か」

 

「そのようですね」

 

ニヤリと笑う空と大地だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

アップの時間が終わり、引き上げる花月と誠凛の選手達。

 

「同じコートに立つのは夏の合宿以来だな」

 

「そうですね」

 

そんな中、火神が空に声を掛けた。

 

「まさかとは言わないぜ。夏にお前らが陽泉に勝ったあの日から、この日が来ると思ってた」

 

「俺は、夏に誠凛が優勝した時、冬の決勝は誠凛だったら面白いなって思ってました」

 

火神の言葉に応える空。

 

「最高の決勝戦にしようぜ。そんで、勝つのは俺達だ」

 

火神と、その背後で誠凛の選手達が空達を見据える。

 

「もちろん。…だけど、1つ違うのは、勝つのは俺達だって事だ」

 

空と、背後の花月の選手達が誠凛の選手達を見据えた。

 

「それじゃ」

 

「後でな」

 

そう言葉を交わし、両チームは戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

その後もコートで行われている海常と田加良の3位決定戦。試合は既に第4Q中盤。海常が大量リードで進めている。

 

「(これで最後ッスか…)」

 

ベンチに座る黄瀬が胸中で呟く。黄瀬は第3Q開始してすぐにベンチに下がっている。三枝と氏原も同様にベンチに下がっており、コート上では2年生以外は控えの選手達が試合をしている。

 

「…」

 

黄瀬は海常に来てからの事を思い出す。先輩達と過ごした日々と、自身が主将を任されてからの事…。

 

「(…もう、終わりなんスね)」

 

海常の選手として役目も間もなく終わってしまう事に、黄瀬は胸に詰まるものを感じていた。

 

「…」

 

そんな黄瀬に視線を向ける監督の武内。

 

「…黄瀬、準備をしろ」

 

すると武内が、黄瀬に声を掛ける。

 

「…えっ?」

 

武内の言葉に思わず声を上げる黄瀬。

 

「三枝と氏原もだ。第4Q、残り2分になったら投入する。すぐに出られる準備をしろ」

 

続けて、三枝と氏原にも声を掛けた。

 

「「…?」」

 

武内に言葉の意図が分からず、首を傾げる三枝と氏原。試合は完全に海常優勢。もはや覆りようがない。自分達が出る必要性がないからだ。

 

「高校最後の試合終了のブザーは、ベンチより、コートの上で聞きたいだろ?」

 

そう言って、フッと笑みを浮かべた。

 

「「「…っ!」」」

 

その言葉に、この起用が、武内の粋な計らいである事に気付いた3人。

 

「ハッハッハッ! ありがたい限りじゃ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「…ハハッ、ご指名みたいッスから、行くとしますか」

 

3人はジャージを脱ぎ、準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! (海常)!!!」

 

試合時間、残り2分を切った所で、海常の選手交代。黄瀬、三枝、氏原がコート入りをする。

 

「おいおい、トドメ刺しにでも来たのか? 容赦ねえな」

 

苦笑する田加良の胡桃沢。その表情は絶望ではなく、何処か嬉しそうであった。

 

「高校最後の試合、存分に魅せるッスよ!」

 

コート入りをした黄瀬がチームを鼓舞したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

残り時間2分。黄瀬は最高のパフォーマンスを見せつけた。大量リードからの主力の再投入だが、それに付いて声を上げる者はいなかった。

 

『凄かったぞ黄瀬!』

 

『これからもキセキの世代(お前達)の試合、見に行くからな!』

 

コート上で試合をする黄瀬に観客から声援が贈られる。

 

「(ホントに、3年間、ありがとうッス!)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

感謝の言葉と同時に繰り出される黄瀬のダンク。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

同時に、試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

 

海常  98

田加良 54

 

 

3位決定戦は、順当通り、海常の勝利で終わった。

 

『…』

 

センターサークル内で握手を交わし、健闘を称え合うと、両チームは、コートを去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

3位決定戦が終わると、始まるのは決勝戦。ウィンターカップの王者を決める試合が間もなく始まる。

 

それぞれのベンチに集まる選手達。試合が始まるその時を、今か今かと待ちわびている。

 

 

「…時間か、っしゃ行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の大声による檄に、選手達が同様に大声で応えた。

 

『誠凛ー、ファイ!!!』

 

『おう!!!』

 

続けて、誠凛のベンチからも火神の掛け声からの選手達の声が轟いた。

 

 

『試合に先立ちまして、両チームの紹介を行います』

 

会場にアナウンスが響き渡る。

 

『始めに、赤のユニフォーム。花月高校、コーチ、上杉剛三』

 

アナウンスがされると、上杉が立ち上がり、一礼をした。

 

『マネージャー、姫川梢』

 

同様に立ち上がり、姫川は一礼をした。

 

『続きまして、スターティングメンバーの紹介です。8番、松永透』

 

「…よし!」

 

紹介された松永は自身の顔を2回叩き、コートへと足を踏み入れた。

 

 

「3番から5番をこなせるユーティリティプレイヤー。今日のマッチアップ的に、出番は多いかもな」

 

観客席の元秀徳、支倉が口ずさむ。

 

 

『7番、天野幸次』

 

「今日もガンガンリバウンド取るでー!」

 

肩を鳴らしながら天野がコートに足を踏み入れた。

 

 

「リバウンドを取りまくる花月の心臓。誠凛は、如何にこいつを相手にリバウンドを抑えるか、だな」

 

元桐皇、若松がかつて戦った経験を思い出し、呟く。

 

 

『6番、綾瀬大地』

 

「さあ、行きましょう」

 

ゆっくりとコートに足を踏み入れる大地。

 

 

「外からでも中からでも点が取れるスコアラー。…ほんと、俺とやった時とは別人に強くなってんじゃん」

 

かつて、夏の決勝でマッチアップをした葉山が大地を見据える。

 

 

『5番、生嶋奏』

 

「今日も良い音鳴らすよ」

 

にこやかにコート入りをする生嶋。

 

 

「リズムが狂おうがバランスを崩そうが絶対に外さない、精度だけなら全国屈指。こいつのマークは絶対外せない」

 

対戦した経験を思い出しながら木下が呟く。

 

 

『4番、キャプテン、神城空』

 

「おっしゃ暴れるぜ!!!」

 

ぴょんぴょんと跳ねながら空がコートに足を踏み入れた。

 

 

「花月の起点。こいつを如何に抑えるかが花月を攻略するカギだぜ」

 

ニヤリとする秀徳の高尾。

 

 

『続いて、白のユニフォーム。誠凛高校、引率教諭、武田健司』

 

紹介を受けた初老の男性が立ち上がり、そっと一礼をした。

 

『コーチ、相田リコ』

 

紹介を受けたリコが立ち上がり、ペコリと一礼をした。

 

 

「一昨年のウィンターカップを制し、今年はインターハイを制した。もはや、名監督と呼んでも差し支えないな」

 

リコを見て、陽泉の監督、荒木がそう評した。

 

 

『続きまして、スターティングメンバーの紹介です。12番、田仲潤』

 

「(ここまでの練習の成果と経験を全部出すんだ!)」

 

緊張しながらも自らを奮い立たせ、コート入りをする。

 

 

「頑張れよ田仲ー!」

 

「星南魂、見せてやれ!」

 

会場に駆け付けた、かつてのチームメイト、森崎と駒込が田仲にエールを贈った。

 

 

『11番、池永良雄』

 

「おっしゃ、ぶっ潰すぞ!」

 

気合い一閃、池永がコートに足を踏み入れる。

 

 

「大ポカすんじゃねえぞ!」

 

「帝光の恥晒すんじゃねえぞ!」

 

「一応、応援してやっからな!」

 

同様に応援に駆け付けた、かつてのチームメイト、沼津、水内、河野が、野次のような声援を贈った。

 

 

『10番、朝日奈大悟』

 

「スー…フー…、行くぞ」

 

深呼吸をした後、コートに足を踏み入れた。

 

 

「高校バスケではあまり見かけない、フィジカルに長けたシューティングガード。パワーのミスマッチを突く場面は多そうだ」

 

洛山の二宮がマッチアップを見てそう断言する。

 

 

『9番、新海輝靖』

 

「(この日が来た。俺の全てを今日、出し切る!)」

 

静かに気合いを入れ、コートに足を踏み入れる。

 

 

「ある意味、今日のキーマンだ。何せ、相手はあの神城だからな。何も出来なきゃ、誠凛は負ける」

 

鳳舞の三浦が新海を見ながら呟く。

 

 

『4番、キャプテン、火神大我』

 

「…よし!」

 

火神が気合いを入れながらコート入りをする。

 

 

『キセキの世代と対等に戦った実力者!』

 

『飛ばれたらもう終わりだぜ!』

 

紹介を受けた火神に観客達が盛り上がるのであった。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

誠凛高校スターティングメンバー

 

 

4番PF:火神大我  194㎝

 

9番PG:新海輝靖  183㎝

 

10番SG:朝日奈大悟 185㎝

 

11番SF:池永良雄  193㎝

 

12番 C:田仲潤   192㎝

 

 

紹介が終わり、両チームのスターティングメンバーが、センターサークル内に並んだ。

 

『これより、ウィンターカップファイナル、花月高校対誠凛高校の試合を始めます』

 

『礼!』

 

『よろしくお願います!!!』

 

アナウンスに合わせて審判が号令をすると、選手達が挨拶を交わした。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

同時に、会場を観客達の歓声が響き渡った。

 

 

整列を終え、選手達が各チームのジャンパーを残して散らばっていく。

 

『っ!?』

 

ここで花月の選手達が目を見開いて驚く。

 

「…まさか、あなたが来るとは予想外でした」

 

「よろしくな」

 

苦笑する松永。誠凛のジャンパーはいつもの田仲ではなく、火神だった。

 

『…』

 

ジャンパーの間に立った審判がそれぞれ、交互に視線を向ける。

 

「「…」」

 

ジャンプボールに備える松永と火神。

 

審判がボールを構え、頭上に高くボールが上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ファイナルティップオフ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィンターカップの王者を決める戦いの火蓋が今、切って落とされた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





これでも一部削ったり、次話に持ち越したりしたんですが、それでも1万字を優に越してしまったorz

自身のボキャブラリーのなさに少し自己嫌悪しております…(T_T)

遂に試合開始、大まかな内容は決まってるも、細かい部分は未だ未定、次の投稿は未定となります。もしかしたら来週かもしれませんし、下手したら1ケ月後と言う可能性もあるので気長にお待ちいただければと思います…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第202Q~開幕勝負~


投稿します!

梅雨真っ最中ですが、晴れの日はもはや夏ですなー…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

「遂に始まるね」

 

試合開始目前、青峰と並んで座る桃井が声を掛ける。

 

「…」

 

青峰は返事をせず、ただただ視線をこれから冬の覇者を賭けて戦うコート上の選手達に向けていた。

 

「誠凛と花月、共に俺達を倒したチーム同士の試合だ。興味は尽きないな」

 

「別に、どっちが勝っても興味ないしー」

 

「行儀が悪いのだよ。駄菓子を食べ散らかすな」

 

その周囲には、赤司、紫原、緑間と、キセキの世代の3人の姿もあった。

 

 

『見ろよ、キセキの世代だぜ』

 

『うわマジだ。オーラ半端ねえ…!』

 

キセキの世代が集まった一角は一際異彩なオーラを放っており、周囲の観客達がざわついていた。

 

 

「…何でお前らと試合見なきゃなんねえんだよ」

 

「仕方がないだろ。何処も席は埋まっているのだからな」

 

観客達の視線を感じ取った青峰が顔を顰めると、緑間が溜息を吐きながら返した。

 

コート上では、センターサークル内に整列する。

 

「…皮肉なものだな」

 

間もなくティップオフ。その時、緑間がコートを見つめながら呟く。

 

「俺達、キセキの世代と呼ばれた者達がそれぞれ高校に進学した時、優勝するのは俺達のいる高校のどれかだと言われていた。だが、その集大成となる高校最後の大会の決勝の舞台に、誰1人として立っていない」

 

10年に1人の逸材と呼ばれたキセキの世代。キセキの世代を擁したチームは全て、優勝候補と評された。それ故、その自分達がこの決勝のコートの上に立っていない事に対し、自嘲気味に皮肉った緑間。

 

「今、決勝の舞台、たった1つの優勝の席を争っているのは、キセキの世代(俺達)を倒した俺達とは違う道、違う代から現れた新たなキセキ」

 

赤司がその後に続く。

 

「…どっちが勝つかな?」

 

詳細なデータを持つ桃井であっても、試合の結果予想までは出来ず、尋ねる。

 

「さあな。だが、有利なのは花月だろうな」

 

桃井の質問に、青峰が答える。

 

「司令塔とスコアラーに俺達と同格の2人がいる上、こいつらは終盤は特につえー。それにリバウンドもつえーからな。高さとフィジカル面で有利って言っても、曲がりなりにも陽泉に勝った花月が相手じゃ、大してアドバンテージにならねえだろうからな。ある程度は拮抗出来ても、終盤にトドメ刺されて終わりだ」

 

『…』

 

青峰に予想に、異論を挟む者はいない。

 

「…だがまあ、これは、テツがいなければ(・・・・・・・・)、の話だ」

 

その後にそう補足を加えた。

 

「誠凛がこの予想をひっくり返すとするなら、必ずテツがカギになる」

 

そう断言した。

 

「そう言えば、今日もテツ君はベンチスタートだね」

 

誠凛のベンチに座る黒子に視線を向ける桃井。

 

「当然の選択だろう。本来、黒子はスタメンで起用するより、流れを変える為にシックスマンとして起用するのが1番、黒子を生かせるからね。黒子をスタメンで使わざるを得なかった去年と違い、今年は主力が充分に育っているのだから無理にスタメンで起用する必要はない」

 

「なるほど…」

 

赤司の解説に納得する桃井。

 

「…これが大きな理由だろう。もっとも、今の黒子は起用するべきではない(・・・・・・・・・・・・・・・)けどね」

 

「…えっ? それってどういう――」

 

「――始まるぞ」

 

赤司の最後の言葉の理由が分からず、尋ねようとした桃井だったが、緑間の言葉で視線をコートへと戻した。コート上では、既に整列を終えた両選手達がジャンパーを残して散らばり、まさに試合が開始されようとしていた。

 

ジャンパーを務めるのは、花月は松永、誠凛は火神。審判は2人の間に立ち、交互に見据えた後にボールを構え、2人の頭上に高く放った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「「…っ」」

 

ティップオフと同時にボールへと飛び付く2人。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

ボールが最高点に達したの同時にボールが叩かれる。

 

「(くっ、高い!)」

 

ジャンプボールを制したのは火神。松永の遙か上でボールを叩いた。

 

「よし!」

 

新海がボールを掴み、誠凛ボールで試合が開始される。

 

「こっちだ、寄越せ!」

 

既に前へ走っていた池永がボールを要求。新海がボールを右手構えて振りかぶる。

 

「させっかよ」

 

その直前、空がパスコースを塞ぐように手を伸ばす。

 

「やはり来たか、大した反射速度だ」

 

そう言って、新海は振りかぶったボールを左手で抑え、パスを中断。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「だが、その反射速度が命取りだ!」

 

直後にドリブル。空の脇の下からドリブル、後ろへと抜ける。

 

「ちっ」

 

咄嗟の行動が裏目に出て、思わず舌打ちをする空。

 

「行け!」

 

空の抜きさると、改めて前走る池永の縦パスを出す。

 

「ナイスパース!」

 

ボールを抑えると、そのままドリブルを開始し、フリースローラインを越えた所でボールを掴む。

 

「おらぁ!」

 

そのままリングに向かって飛ぶ。

 

「させませんよ!」

 

池永がリングに向かって踏み切るのと同時に追い付いた大地が池永とリングの間に割り込むようにブロックに飛んだ。

 

「あーはいはい、来てるだろうと思ってたよ」

 

リングに向かっていた池永はダンクを中断し、ボールを頭上にふわりと浮かせるように放った。

 

「開幕1発目は譲ってやるよ」

 

ニヤリを笑う池永。

 

「っ!?」

 

大地が目を見開く。そこには…。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

池永が放ったボールを後ろから新たに現れた選手が右手で掴み取った。

 

 

『火神だ!』

 

『もう追いついた!』

 

ざわつく観客。

 

 

そこに現れたのは火神。池永がトスするように放ったボールを右手で掴み取った。高さもタイミングも充分。後はボールをリングに振り下ろすだけ。しかし…

 

「まだだぁっ!!!」

 

咆哮と共にまた新たに現れた選手が火神とリングの間に割り込むようにブロックに現れた。

 

 

『神城!?』

 

『今度は神城だ!』

 

『マジか!? あそこからもう追いついたのかよ!?』

 

驚きの声を上げる観客。空は先程、新海の縦パスのフェイクにかかって飛ばされてしまっていた為、普通なら追い付けるはずがない。しかし、空のスピードはそんな常識は通用しない。

 

 

「……っ!?」

 

ブロックに飛び、アリウープを阻止を計った空だったが、次の瞬間、その表情が驚愕に染まる。

 

「(うっそだろ!? いつまで飛んでやがるんだ!?)」

 

火神より後に飛んだ空。しかし、先に落下を始めたのは空だった。

 

「(言葉は理解出来てもいまいちピンとこなかったが、実際味わえば嫌でも分かる。これが、エアウォーク!!!)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

リングの目前から障害物()がいなくなり、火神は右手で掴んだボールをリングへと振り下ろした。

 

 

花月 0

誠凛 2

 

 

『うぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

『いきなりアリウープキタァァァァァーーーーッ!!!』

 

決勝戦、最初の得点。その1発目が豪快なアリウープ。観客が割れんばかりの歓声に包まれた。

 

 

「ナイスキャプテン!」

 

「次は俺だからな」

 

新海と池永とハイタッチを交わす火神。

 

「挨拶代わりだぜ」

 

ディフェンスに戻る途中、空とすれ違い様に火神がニヤリとしながら呟く。

 

「…ハッ! おもしれー…!」

 

その言葉に、空は不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よし!」

 

火神のアリウープによって先制点を取り、拳を握るベンチのリコ。

 

「文句なし、100点満点の奇襲よ!」

 

大満足のリコ。

 

「次は…」

 

視線を火神から空へと移す。

 

「花月の調子は、良くも悪くも神城君に引っ張られる傾向がある。決勝の大舞台で最初に派手な1本を決められてどう出るか…」

 

同じように派手な1本で決め返すか、それとも慎重に時間を掛けて確実に決め返してくるか…。

 

「最初のディフェンス。相手の出方と結果次第では、この試合の行く末を左右するかもしれないわよ」

 

リコは次の1本の行く末に集中したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ボールを受け取った空はゆっくりとボールを運ぶ。

 

「(来たな…!)」

 

フロントコートまでボールを運ぶと、待ち受けるのは新海。新海は空の前に立ち塞がると、気合いを入れる。

 

誠凛のディフェンスは、空に新海、生嶋に朝日奈、大地に火神、天野に池永、松永に田仲のマンツーマンディフェンス。

 

「(集中だ。(こいつ)は今やキセキの世代(先輩達)と対等にやり合える選手。俺より遙かに格上。少しでも気を抜けば即抜かれる…!)」

 

両腕を広げ、腰を落とし、息を深く吐きながら空の一挙手一投足に注視する。

 

「(こいつのプレーは全中決勝(あの日)以降、試合の度に何度も何度も見直した。動きや癖、タイミングの全てが正確に読み取れるように…)」

 

通過点に過ぎなかった中学最後の全中大会。その認識が、全中を落とし、その後の自分のキャリアと後輩達に影響を与える事になった。

 

「(俺の役目はこいつを止める事。スタミナなんて考えない。俺の全身全霊を以てこいつを止める!)」

 

鋭い目付きで空を睨み付ける新海。

 

「(…へぇ)」

 

新海からの決死の気迫がボールをキープする空にも伝わり、思わず胸中で感嘆の声を上げる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「(チェンジオブペース、仕掛けるのは――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(3つ目!)」

 

立ち止まってから3度目で仕掛けると読んだ新海。読み通り、空は仕掛け、新海は先回りするような形で腕を広げ、空の進路を塞ぐ。

 

「…っと」

 

仕掛け先を先回りで待ち構えられ、思わず声を上げる空。

 

「(次は…、クロスオーバーで切り返す!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

次の読みも当たり、クロスオーバーでの切り返しを読まれ、目を見開く空。

 

「(読み通り…! タイミングも、事前の研究結果と実物の齟齬もない、行ける!)」

 

今日この日の為に研究に研究を重ねた空のプレー。空の動きを読み切り、先回り出来た事で、新海は手応えを感じた。

 

「…」

 

空は下がり、1度立て直しを図る。

 

「くー!」

 

ここで、エンドライン近くの右アウトサイドに展開していた生嶋がボールを貰いに後ろへと下がってくる。

 

「…ちっ」

 

空は軽く舌打ちをし、身体を僅かに生嶋の方へ向けると、パスを出した。

 

「っ!?」

 

次の瞬間、新海の目が大きく見開かれる。ボールは生嶋にではなく、新海の顔の僅か横スレスレを高速で通り抜けたからだ。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

放たれたボールは矢のように一直線に斬り裂き、ゴール下にポジションをしていた松永の手に渡る。

 

「…えっ?」

 

自身の横を通り抜けたパスに反応出来なかった田仲が、茫然と声を上げ、振り返る。

 

 

――バス!!!

 

 

その時には松永がゴール下から得点を決めていた。

 

 

花月 2

誠凛 2

 

 

『うおぉぉぉぉっ!!! スゲーパスが来た!!!』

 

スリーポイントラインの外側から一気にゴール下まで通されたパスに驚きの声を上げる観客達。

 

 

「お返し」

 

不敵に笑いながら火神を指差し、空はディフェンスに戻っていく。

 

「…ごめん」

 

自身のマークを外してしまった責任を感じて謝る田仲。

 

「いや、今のは俺の責任だ」

 

そんな田仲をフォローを入れる新海。

 

「ドンマイ、田仲今のはしょうがねえ、切り替えろ」

 

続けて歩み寄った火神が田仲を励ます。

 

「新海」

 

「…はい」

 

試合の行く末を左右する最初のディフェンス。止める事が出来れば流れを掴めたかもしれない。それが出来なかった責任を感じ、叱責を覚悟する新海。

 

「上出来だ」

 

「…えっ?」

 

しかし、火神の口から放たれた言葉は、叱責ではなく、称賛だった。

 

「いや、俺、パスを許して――」

 

「だが、抜かせなかった。神城相手にそれが出来れば充分だ」

 

そう言って、ポンっと肩を叩いた。

 

「オフェンスだ。ゲームメイク、頼むぞ」

 

火神はフロントコートへと走っていった。

 

「火神さん…、よし!」

 

気落ちしていた新海だったが、火神の言葉で立ち直り、気持ちが切り替わる。

 

「新海」

 

スローワーとなった田仲が新海にパスを出す。

 

「…行くぞ」

 

新海はボールを運びを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おっしゃ来い!」

 

フロントコートまでボールを進めると、空が待ち受ける。

 

「…」

 

慎重にボールを運ぶ新海。空は付かず離れずの距離でディフェンスをしている。

 

「(さて、どう来るか…)」

 

新海のゲームメイクの予測を立てる空。

 

 

――ピッ!

 

 

ここで、新海はパスを選択。ボールは、ハイポストに立った朝日奈に。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…くっ!」

 

リングに背を向け、生嶋を背負う形でボールを受けた朝日奈はポストアップで生嶋を押し込みにかかる。

 

「やっぱり狙ってきよったか!」

 

天野が声を上げる。

 

生嶋は線が細く、激しいフィジカルコンタクトを得意としない。対して、中学までパワーフォワードのポジションを務めていた朝日奈にとって、ポストアップは得意な部類に入る。生嶋とのパワーのミスマッチを突いたオフェンス。事前のミーティングでも想定されていた。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

パワーの差に加え、不慣れなポストアップのディフェンスに、生嶋はみるみる押し込まれていく。ローポスト付近まで押し込んだ所で朝日奈はボールを掴み、フックシュートの体勢に入った。

 

「させん!」

 

ここでヘルプに飛び出した松永がブロックに飛び、シュートコースを塞ぐ。

 

「…」

 

朝日奈は松永がブロックに来ると、振りかぶったボールをリングにではなく、僅か横へと落とした。そこへ走り込んだ新海がボールを掴む。

 

「打たせねえ!」

 

すかさず目の前に空が回り込む。

 

「残念だったな」

 

ボールを掴むのと同時に新海がノールックビハインドパス。ボールはコートの右隅に移動した火神の下へ。

 

「…っ、させません!」

 

スリーを警戒した大地がすぐさま距離を詰める。

 

 

――ピッ!

 

 

しかし、火神はスリーを打たず、ボールをキャッチしてすぐにボールを左方向へと放った。

 

「ナイスパース!」

 

ボールは、右アウトサイド45度、ウィングの位置に移動していた池永へ。

 

「あかん!」

 

田仲のスクリーンに捕まっていた天野は対応出来ず。

 

「っだ! くそっ!」

 

次に近い位置にいた空が慌ててチェックに向かう。

 

「もう遅ぇ!」

 

空がブロックに来る前に池永はスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたスリーはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 2

誠凛 5

 

 

「ハッハッハッ! ダンクも良いが、スリーも悪くねえな!」

 

ニヤリと笑う池永。

 

「…そういや、あいつ、外もあるんだったな」

 

基本、ダンクやダブルクラッチなど、リングに近い場所で得点が多かった印象の池永だったが、ここ2試合でスリーも打っていた事を思い出す空。

 

「ごめん、僕のせいだよね?」

 

「えーえー、あれはしゃーない。もともと想定しとったしのう」

 

謝る生嶋に対し、天野は手で制す。

 

「やはり、一筋縄では行きませんね」

 

「せやな。主力の大半は空坊や綾瀬と同じ2年生、去年は基本、ベンチ要因やったが、全員が全中経験者や。キャリアもあるしそれなりに修羅場も潜っとる」

 

大地、天野共に、誠凛の強さを痛感する。

 

「どうする?」

 

松永が尋ねる。

 

「んなもん、決まってんだろ」

 

空がニヤリとしながら視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ空。

 

「…」

 

フロントコートまでボールを進めると、集中力を高めた新海が待ち受ける。

 

「気合い充分だな。それで最後までもてば良いけど」

 

「余計なお世話だ。お前こそ、パスで逃げないで、いつものように自分で仕掛けたらどうだ?」

 

互いにトラッシュトークを交わす。

 

「…ハッ! 望み通り、やってやるよ」

 

1歩足を踏み出した空。

 

「(…来るか!?)」

 

全神経を空の動きに集中させる新海。

 

「…っと、言いてえが、生憎と、俺は司令塔なんでね。その役目は、…任せるぜ」

 

 

――ピッ!

 

 

そう言って、空はパスを出した。

 

 

『おっ! まさかこれは!?』

 

『キタキタキタ!』

 

『待ってました!』

 

ボールの行き先に、観客達が胸を躍らせる。

 

 

「来たか。インターハイ前の合宿から、どれだけ強くなったか、見せてもらうぜ」

 

「…ええ、お見せします。花月を優勝させる為に今日まで精進してきた私の力を…!」

 

大地にボールが渡ると、火神が立ちはだかった。

 

『…』

 

同時に、花月の選手達が動きを見せる。

 

「なっ!?」

 

「これは…!」

 

これに、田仲と朝日奈が思わず声を上げる。左45度付近のスリーポイントライン手前でボールを持った大地。他の4人は右側へと寄ってスペースを空けたのだ。

 

「アイソレーションだと」

 

ボソリと呟く新海。

 

「…へっ!」

 

目の前の空はニヤリと笑う。

 

「調子に乗りやがって、火神は俺でも相当手こずるレベルだってのによ」

 

「せやったら楽そうやけどのう」

 

「んだとコラァ!?」

 

鼻を鳴らす池永に天野がツッコミ、それに対して池永が怒りを露にする。

 

「…」

 

「…」

 

大地はボールを小刻みに動かし、火神を牽制し、隙を窺う。

 

 

――キュッ!!!

 

 

右足を大きく踏み込み、ボールを頭上から回すように下へと降ろす。

 

「(来るか!?)」

 

ドライブを警戒した火神が僅かに下がって距離を取る。

 

 

――スッ…。

 

 

直後に大地は再びボールを頭上に掲げ、シュート体勢に入る。

 

「(ちっ、打つのか!?)」

 

慌てて火神はシュートチェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、これもフェイク。大地は中へと切り込んだ。

 

「(速ぇ! だが、初速は青峰程じゃねえ、追い付ける!)」

 

辛うじてブロックを踏みとどまった火神はドライブを仕掛けた大地を追いかける。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

直後に大地は急停止。バックステップで高速で元居た位置まで下がる。

 

「っ!?」

 

目を見開いた火神。すぐに反転して下がった大地との距離を詰める。

 

大地は直後にボールを掴み、ステップバックでさらに後ろへと下がり、ステップバックを踏んだ足でそのまま後方へと飛びながらシュート体勢に入り、ボールをリリースした。

 

「くっ!」

 

ブロックに飛び、ボールに手を伸ばした火神だったが、大地は素早くボールをリリース。火神のブロックは、紙一重でボールには届かず…。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 5

誠凛 5

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

『出た! 綾瀬のバックステップからの片足フェイダウェイ!!!』

 

『しかもスリー! あのクイックリリースで何で決められるんだよ!?』

 

大地の大技に観客が沸き上がる。

 

 

「良い音だったよ、ダイ!」

 

「ありがとうございます」

 

駆け寄って来た生嶋とハイタッチを交わす大地。

 

「(あのスピードのドライブを一瞬で…、それだけでも信じられねえのに、そこからそのドライブと変わらないスピードで下がってフェイダウェイとクイックリリースを組み合わせたスリー。しかも、バンクショットのおまけ付き。夏の合宿の時とはマジで別人だ…!)」

 

ディフェンスに戻る大地に視線を向ける火神。

 

「おい、火神、大丈夫なんだろうな!?」

 

火神に駆け寄る池永。

 

「たりめえだろ。俺の心配なんざ100年早えよ」

 

そんな池永をあしらう火神。

 

「(マジでキセキの世代(あいつら)並みに苦労しそうだぜ。しかも、他に同格の神城までいやがるんだからな。…とは言え)」

 

ここでフゥッと一息吐く。

 

「今更だよな。こいつらは、俺達が倒した時より強いキセキの世代と戦って勝ったんだからな」

 

夏の合宿の時のイメージが抜けてなく、認識が甘かった火神。改めて花月を強敵と再認識したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛のオフェンス…。

 

「新海、こっちだ!」

 

新海がボールを運ぶと、火神がボールを要求。

 

「もちろん、頼みます!」

 

躊躇わず、新海は火神にパスを出した。

 

 

『今度は火神だ!』

 

『やり返せ!!!』

 

火神にボールが渡ると、再び観客が沸き上がった。

 

 

「恐ろしい選手になったもんだ。そんじゃ、次は俺の番だ」

 

「止めて見せます」

 

宣言する火神。火神の前で立ち塞がる大地が答える。

 

「…」

 

「…」

 

先程の大地がしたように、火神が右足で小刻みにジャブステップを踏み、ボールを動かしながら大地を牽制する。

 

 

「曲がりなりにも綾瀬は黄瀬や青峰を止めている。正直、青峰ようなアジリティや黄瀬のようなバリエーションもない火神に綾瀬は抜けるのか…」

 

観客席の元桐皇の若松がひとつの懸念をする。

 

「…正直、平面での1ON1は5分5分って所だろうな」

 

2人の勝負をそう分析する青峰。

 

「まぁ、火神(あいつ)なら、そもそも抜く必要もねえだろうがな」

 

 

「っ!?」

 

火神は大きくステップを踏んで僅かに大地とのスペースを創ると、そこから後ろに飛びながらシュート体勢に入る。

 

「…っ」

 

それを見て大地がブロックに飛ぶが…。

 

「…くっ!」

 

懸命に手を伸ばす大地だったが、ボールにその手が届かず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 5

誠凛 7

 

 

『あっさり決め返した!!!』

 

『いつ見ても高ぇ!!!』

 

打点の高い火神のジャンプシュートに観客が沸き上がる。

 

「ほう…」

 

「火神も考えているようだな」

 

今のプレーに、青峰、緑間が頷く。

 

「どうしたのー? 別にただのフェイダウェイじゃん」

 

2人のリアクションに紫原が尋ねる。

 

「紫原からすればそうだろうが、綾瀬からすれば事情が違う」

 

2人に代わって赤司が説明を始める。

 

「火神と綾瀬の間には、身長差以上に高さのミスマッチがある。今のプレーは確実に綾瀬の脳裏に刻まれた。以降、火神がボールを持ったら常にあのフェイダウェイを警戒しなければならない」

 

「…」

 

「高さとそれを生かした技を見せつけ、楔を打つ事で主導権を奪いに来た。今後、火神からすれば攻めやすく、綾瀬からすれば守りにくくなる」

 

「ふーん、なるほど」

 

説明を受けて紫原は頷いた。

 

「最近のかがみんに良く見られるパターンだね」

 

桃井も自身のノートを見ながら補足する。

 

 

「…」

 

ディフェンスに戻る火神に視線を向ける大地。

 

「どうよ、火神さんは?」

 

そんな大地の下へ歩み寄った空が尋ねる。

 

「見ての通り、ですよ」

 

苦笑する大地。

 

「俺もさっき味わったが、あのジャンプ力はマジでヤベーな」

 

パワー、スピード、テクニックなら打てる手立てもあるし、実際どうにかしてきた。…だが、高さだけはどうにもならないのが現実。

 

「…ま、先は長いんだ。今は点取る事を考えようぜ。点さえ取れりゃ、とりあえず離される事はねえ。お前にボールを集めっから頼むぜエース」

 

拳を握ってコツンと軽く胸を叩く空。

 

「えぇ、任せて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も、エース対決が続く。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

早々にボールを受け取った大地は、ドライブと同時に急停止。重心を後ろに下げる。

 

「(バックステップか!?)」

 

火神はバックステップを警戒し、大地との距離を詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、大地は下がらず、再度発進。火神を抜きさった。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままリングに突き進み、レイアップを決めた。

 

「っしゃぁっ! ナイス大地ぃ!!!」

 

駆け寄った空と大地がハイタッチを交わした。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

代わって誠凛のオフェンス。ボールを掴んだ火神がジャブステップで牽制し、中にドライブで切り込む。

 

「…くっ!」

 

並走しながらディフェンスをする大地だが、火神は横の大地などお構いなしに強引に切り込む。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままゴール下まで切り込んだ火神はそのままボールを掴んでワンハンドダンクを叩き込んだ。大地もブロックに飛んだが届く事はなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地が決めれば…。

 

 

――バス!!!

 

 

火神が決め返す。エース対決は、一進一退の様相を呈していた。

 

 

『スゲー! いきなりバチバチだ!!!』

 

『どっちも退かねえ! 勝負は互角だ!』

 

2人のエース対決に会場は興奮に包まれる。

 

 

「……いや」

 

しかし、赤司は神妙な表情で呟く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

コート上では、大地が火神を抜きさり、中へと切り込み、ゴール下付近でボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「っ!? 大地!!!」

 

「…っ!」

 

その時、大地の耳に、空からの声が届く。大地は頭上に掲げたボールを下げた。

 

「…ちっ!」

 

すると、大地の背後から、ボールを狙った手が空を切る音と共に舌打ちが聞こえた。

 

 

――バス!!!

 

 

直後、再度ボールを掲げてリリースし、得点を決めた。

 

 

「勝負は一見互角に見えるが、現状、打つ手が見いだせない綾瀬と違い、火神は綾瀬を捉え始めている。このまま続けば、火神が勝つ」

 

赤司は2人の対決の行方をそう断言した。

 

 

「…綾瀬」

 

ディフェンスに戻る途中、天野が駆け寄って大地に声を掛けた。

 

「危のうなってきたな」

 

「…」

 

天野の問いに、大地は答えない。

 

「1番の課題はディフェンスやで。あの高さとフィジカルは、正直、どうにもならへんやろ。…マーク代わろか?」

 

マッチアップの交代を天野が提案した。天野ならば火神と身長差はほとんどなく、フィジカルにおいても差は軽微。

 

「…いや、正直、天さんでも結果は変わらないと思います」

 

その提案を、空が否定した。

 

「なら、どないすんねん?」

 

「ひとたび飛ばれたら、今の俺達に止められる手段はない。つまり、飛ぶ前(・・・)に止めなけりゃならない。つまり――」

 

そう言って空はニヤリと笑い…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ新海。

 

「っ!?」

 

フロントコートまでボールを進めると、新海は目を見開いて驚く。自分の目の前には、空ではなく、大地が立っていたからだ。

 

「…っ」

 

新海が視線を火神の方へ向ける。そこには…。

 

「おもしれー!」

 

不敵に笑う火神。

 

「次は俺だぜ」

 

対して空は、ニヤリと笑うのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

決勝戦が始まり、早々に始まったエース対決。

 

当初は互角の勝負を演じていたが、徐々にジャンプ力とフィジカルで勝る火神が優勢になり始めた。

 

その直後、火神の前に、空が立ち塞がるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ネタを探しつつ投稿、いやはや、今はyoutubeのおかげもあって、ネタ探しが捗るので便利ですなぁ。…まあ、おススメの全く関係ない動画の誘惑に負けてしまうんですけどね…(>_<)

休みの日にエアコンの掃除をして、試運転がてら起動したのですが、夏の猛暑日に冷房でキンキンに冷えて部屋で昼寝。これぞ我が至高。同士はいますかね…(^_^)v

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第203Q~電光石火~


投稿します!

あっつい!!!

梅雨明けはしていませんが、すっかり夏のように蒸し蒸しとしてきましたね…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q残り5分56秒

 

 

花月 11

誠凛 11

 

 

試合が開始し、早々にぶつかった両チームのエースである大地と火神。

 

2人の対決は、当初、互角の様相を見せていたが、徐々に高さとフィジカルで勝る火神が優勢となっていった。火神が大地を捉えようとしたその時、火神の前に、空が立ち塞がった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「見ろよ、ソラが火神(4番)をマークしているぞ!」

 

観客席の一角に座る、ひと際目立っている外国人の1人が空を指差しながら声を上げる。そこに座っているのはアメリカのジャバウォックのメンバー達。前日の夜に来日し、ウィンターカップの決勝戦を見に会場まで来ていた。

 

「オイオイ、ソラじゃさらにミスマッチになっちまうんじゃねえか?」

 

「…いや、アリなんじゃないか? あの火神(4番)、シルバー並みのジャンプ力だ。他の奴がマークしてもその差は埋まらない。なら、持ち前のスピードと瞬発力でジャンプする前にカットを狙えるソラは適任かもしれない」

 

空の選択に疑問の声を上げるニック。アレンはその選択をありと判断した。

 

「つうか狭ぇーな! 何でこの国の席はこんなに狭ぇーんだよ!」

 

「シルバーがデカすぎるんだよ! つうか、席2人分も使ってんだから文句言うなよ」

 

席の小ささに文句を言うシルバーに対し、ザックが窘める。

 

「てかよ、ナッシュの奴は何処行ったんだ?」

 

姿を見かけないナッシュの姿を探してニックが周囲を見渡す。

 

「ついさっき、ドリンク買いに行くってどっか行ったぞ」

 

ザックがそう答えると…。

 

「せめてインターバルまで待てばいいのによ…」

 

自由に動き回るナッシュに呆れるニックだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

 

――ガシャン!

 

 

自販機の前に立つ1人のアメリカ人が、ボタンを押して飲み物を取り出していた。

 

「もしやと思ったが、やはり君か」

 

取り出したペットボトルの蓋を開けようとした時、そのアメリカ人に英語で話しかける者が現れた。

 

「久しぶりだね、ナッシュ・ゴールド・Jr」

 

「…ふん。こんな所でお前に会うとはな」

 

大事な後輩達(・・・・・・)の試合だからね。見に行くのは当然さ。健も来ているよ」

 

その人物に対し、不機嫌に鼻を鳴らすナッシュ。

 

「…で、その後輩とやら試合の真っ最中だってのにわざわざ俺に何の用だ。……セイヤ・ミスギ」

 

「君の姿を見かけたのでね。最後に会ったのは、日本でのあの試合以来だ。アメリカ(向こう)では、空も世話になったようだから、その礼も兼ねてね」

 

薄く笑みを浮かべる三杉。

 

「いらねえよ。俺はお前らとはコートの上以外で会いたくもねえんだよ」

 

そう言って、飲料を一口口にしたナッシュは三杉の横を通り過ぎてその場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

ナッシュがコートを見渡せる観客席に戻ると、観客が大歓声を上げていた。

 

「…」

 

コートに視線を向けるナッシュ。そこには、火神をマークしている空の姿があった。

 

「…へえ、相変わらず面白い事をする奴だ」

 

隣に立った三杉が笑みを浮かべながら空に視線を向ける。

 

「付いてくんじゃねえよ」

 

「俺も席がこっちなのさ。それより、君はあのマッチアップどう見る? 試合は最初から見ていたのだろう?」

 

険しい表情をするナッシュ。三杉は気にする素振りもせず、尋ねた。

 

「知るかよ」

 

そんな三杉を無視し、ナッシュは自分の席へと戻っていった。

 

「フフッ、どうやら、相当あの空に入れ込んでいるようだな」

 

ナッシュの様子を見て、クスクスと笑う三杉。

 

「空とナッシュのバスケスタイルはこれ以上になく噛み合うだろうからな。…ま、ウマはそれ以上に合わないだろうが…」

 

三杉も自身の座っていた席に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「監督!」

 

ベンチに座る降旗がリコに声を掛ける。

 

「…ホント、彼は大胆な行動をしてくるわね」

 

火神の前に立つ空を見て、リコが顎に手を当てる。

 

「(このマッチアップ変更の理由は明白。火神君を止める為のものであるのは間違いないのだけれど…)」

 

考えるリコ。大地よりさらに身長が低い空だが、瞬発力と反射速度は上。狙いは、火神がシュート体勢に入る前に仕留める事。

 

「…」

 

ここはそれでも火神で攻め立てるのが定石。直前、大地を止める目前まで追い詰めていたし、ここを決めれば、火神は止められないと花月に印象付ける事も出来る上、花月の生命線である空を崩す事も出来る。流れを掴む意味でも、ここは火神で攻めるべきである。

 

「…」

 

だが、リコはその選択に戸惑いが生まれていた。理由は、空が何の勝算も無しに火神のマッチアップを買ってでる訳がないだろうし、何より、一昨年のウィンターカップ序盤のシチュエーションに似ているのだ。その時も、赤司が火神のマッチアップをし、結果、火神を止めて見せた。その時は、水戸部のフォローや、日向達、頼れる先輩もいた為、最悪の事態は避けられたが、今の誠凛は、火神がチームの主将であり、大黒柱でもある。そんな火神がここで止められれば、チームに動揺が走り、流れを一気に持って行かれるリスクもある。

 

「(寄越せ新海。ここを決めれば、流れを一気に掴める!)」

 

コート上では、火神がアイコンタクトで新海にボールを要求している。

 

「…」

 

判断に踏み切れない新海がチラリとベンチのリコに視線を向ける。

 

「……よし!」

 

リコは決断し、立ち上がり、こちらを見る新海に対し、頷いて見せた。

 

「(…コクリ)」

 

それを見た新海は頷き、火神にパスを出した。

 

「良いんですか?」

 

降した選択に、降旗が心配そうに尋ねる。

 

「リスクは百も承知。けど、チャンスでもあるわ。確かに、神城君は高校入学時からとてつもない速さで成長したわ。けど、それは火神君も同じ。ここは、リスクを取るのではなく、チャンスを取るわ」

 

胸の前で腕を組みながらリコが言う。

 

「…」

 

降旗の隣で、黒子がジッと火神に視線を向けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「っしゃ!」

 

左45度付近、アウトサイドラインの外側で火神はボールを掴んだ。

 

「来た来た、そう来なくちゃ♪」

 

希望通り、火神にボールが渡り、喜ぶ空。

 

「そんじゃ、行くぜ…!」

 

「(っ!? これは…!?)」

 

空が気合いを入れ直し、構えると、火神の顔色が変わる。

 

 

「気を付けろよ、そいつも持ってるぜ」

 

青峰がボソリと呟く。

 

「驚いたな。あの少年もタイガと同じ…。と言うか、去年の夏に見た時とはホント別人だな。あの時から才能は感じていたが、さっきの大地(6番)と言い、ジャパンもここまで逸材が次々と現れるようになったか」

 

アレックスも驚いていた。

 

 

「…」

 

「…」

 

ボールを掴んだ火神と空が対峙する。

 

「(プレッシャーはビンビン伝わるが、前に出て来る気配はねえ。やっぱりこいつの狙いは、俺が飛ぶ前にカットする事か…)」

 

空は、プレッシャーこそかけているが、距離を詰めて当たりに行く気配はない。その事で、火神は空の狙いを理解する。

 

「(確かにこいつのスピードは尋常じゃねえが、赤司のように未来が見えている訳じゃねえ。タイミングさえ外せれば、問題ねえ!)」

 

 

――スッ…。

 

 

火神は、すぐさまシュート体勢に入った。

 

「――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

時は、決勝の早朝まで遡る。

 

「おっ、いたぜ! へい、ソラ!」

 

「…ん?」

 

ホテルの近くの公園で柔軟運動をしていると、英語で空を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

「…うおっ!? おめーら、何でここに!?」

 

空を呼んだ人物を見て、空は驚く。そこには、アメリカで一時過ごした、ジャバウォックのメンバーの5人がいたのだ。

 

「久しぶりだな!」

 

「試合、見に来たぜ!」

 

「アメリカから来てやったぜ!」

 

駆け寄った空に、ニック、ザック、アレンがハイタッチを交わしていく。

 

「ガハハハッ! わざわざクソ遠い所まで来てやったぜ。ま、俺は遊びのついでだけどよ!」

 

「いでででっ!!! 放しやがれコノヤロー!!!」

 

シルバーが空の頭を腕で決め、締め上げると、空は苦悶の声を上げながらシルバーの腕をタップする。

 

「…おい、このサル借りるぞ。シルバー、運べ」

 

「オーライ!」

 

ナッシュが唖然としている花月の選手達に一声かけると、リングのある方へと歩いて行った。

 

「いってぇーよ、いい加減、放せ筋肉ゴリラ!」

 

依然として頭を決められている空はシルバーに向かって叫ぶ。

 

「…話には聞いとったが、ホンマに仲良うなったみたいやな。夏の時はあない悪態吐いとったけど。…で、何て?」

 

「アメリカでは途中から一緒にバスケをしましたからね。…どうやら、何か指導でもするようですね。任せておいても大丈夫でしょう。…多分」

 

天野の問いに、大地は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「いってぇな、何だってんだよ!?」

 

先程の位置から少し離れた場所に無理やり連れていかれた空。シルバーの腕を何とか外し、怒り心頭でナッシュを睨む。

 

「…ちっ、相変わらず喧しいサルだ」

 

「おい、聞こえてんぞ」

 

ボソリと呟くように愚痴ったナッシュだったが、空の耳にはしっかり聞こえており、ジトっとした視線を向ける。

 

「眼を使ったようだな」

 

「眼? ……ああ、あれか! つうか、何でお前がそれ知ってんだよ?」

 

ナッシュの言葉を聞いて暫し考え、準々決勝で洛山戦での事だと思い至る空。

 

「ナッシュは俺達と一緒にネット中継を見てたからな」

 

アレンがこっそり空に耳打ちで教える。すると空はニヤニヤし始め…。

 

「良い心がけじゃねえかよ。今ならお前なんか目じゃね――『シルバー』…いでででっ!!!」

 

言い終える前にナッシュがシルバーに命令し、シルバーが再び腕で空の頭を決める。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞクソザル。あんな追い詰められなきゃ使えねえ眼なんざ、目の前のサル程の価値しかねえんだよ」

 

見下すかのような表情でナッシュが吐き捨てる。

 

「いちいち煽り文句入れなきゃ会話出来ねえのかてめーは。…おーいて」

 

遠慮も欠片もないナッシュの物言いに文句を言うも、決められた頭を自分の手で撫でる空。その横でシルバーはゲラゲラ笑っている。

 

「けどよ、あの日以来、使いたくても上手く行かねえんだよ。どうしようも――」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

言い終える前にナッシュが空にボールを投げつけ、空は咄嗟にキャッチする。

 

「それを今からレクチャーしてやる。時間がねえみたいだからな。そのスッカスカの頭でしっかり理解しろよ」

 

鼻を鳴らすナッシュ。

 

「へぇ、お前が直々にねえ…」

 

短いとは言え、ナッシュと一時過ごした空からすれば、わざわざアメリカから試合を見に来るだけではなく、試合前に自分に指導するナッシュに訝しげな視線を向ける。

 

「お前のチームが負けようがどうでもいいが、何を気が狂っちまったか、てめえなんかをチームに入れちまったからな。お前が負けると俺の株まで下がるんだよ」

 

そっぽを向きながら溜息を吐くナッシュ。

 

「あーはいはい、そう言う事にして、ありがたく指導を受けてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「――なっ!?」

 

頭上にボールをリフトさせようとした火神。しかし、その瞬間、空の伸ばした手がボールを捉えた。

 

「何だと!?」

 

「バカな…!?」

 

これには池永と新海を目を見開きながら驚いていた。

 

 

『なにぃぃぃぃぃっ!?』

 

『速い! あいつ、火神がシュート体勢に入ったのと同時にボールを叩きやがったぞ!?』

 

あまりの空のカットの速さに、観客からも驚きの声が上がっていた。

 

 

「(何だ今のは!? 天帝の眼(エンペラーアイ)を使った赤司並だ!)」

 

ノーフェイクでシュート体勢に入った火神。あまりの空の速さにかつて戦った赤司の姿を思い起こしていた。

 

 

「何だ、今の速さは…!」

 

「…っ!?」

 

同様に、緑間も驚愕の声を上げ、青峰も目を見開きながら前のめりになっていた。

 

「凄い…、今の、まるで赤司君みたい…」

 

桃井も驚き、横の赤司を見て感想を呟く。

 

「…」

 

赤司は無言で何かを考えながらコート上の空を見ていた。

 

「…火神が動いてから反応したにしては速過ぎる。偶然、タイミングでも合った?」

 

速過ぎる空の反応速度。紫原はそう推測する。

 

「…フッ、なるほど、どうやら、ある程度、使いこなせる(・・・・・・)ようになったみたいだな」

 

ある考えに行き着いた赤司がフッと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おぉっ! 空の奴、あの4番を止めたぞ!?」

 

ニックが火神を止めた空を見て興奮しながら声を上げる。

 

「…ふん」

 

同時に、ナッシュが席に戻って来る。

 

「何処行ってたんだよナッシュ?」

 

「飲み物買いに行くって言っただろ」

 

尋ねるザックに対し、ぶっきらぼうに答えるナッシュ。

 

「それよりナッシュ、ソラの奴がやりやがったぜ」

 

「ああ。見てた」

 

「あの速さ。やっぱりあの眼(・・・)を使ったんだよな?」

 

「ふん、どうやら、あのレクチャーは無駄にはならなかったみてーだな」

 

言葉を交わすナッシュとアレン。

 

「ほう! あれがおめーらが言ってた、時空神の目(クロノスアイ)って奴か」

 

シルバーが感心しながら呟く。

 

「改めて生で見るとスゲーな。まるで魔王の眼(ベリアルアイ)を使ったナッシュ並の速さだ。…っていうか、今更だけどよ、どうやってソラにあの眼を使いこなせるようにしたんだ? あれって、ナッシュの眼みたいに、自在に発動出来る代物じゃねえんだろ?」

 

ザックがナッシュに尋ねる。

 

「…要は集中力の問題だ。それが最大になんなきゃ、あの眼は発動出来ねえ。その条件を満たせるのが、ゾーンの扉を開いて、最深部にまで到達する事と、試合終盤の勝負所で追い詰められてる事だ。だから、普段は、どんなにあの眼を使おうとして発動する事はねえ」

 

『…』

 

ジャバウォックのメンバーは黙ってナッシュの解説に耳を傾ける。

 

「だが、1つだけ、瞬間的にだが、集中力を最大にする方法がある」

 

「何だよそれは?」

 

思わず聞き返すアレン。

 

「――ゾーンの強制開放だ」

 

その答えをナッシュが口にする。

 

「あれは、ゾーンに入る為に瞬間的に集中力最大に高めてトリガーを強引に引く技だ。あれを応用すれば、不完全ではあるが、1秒から2秒程度なら発動出来るはず。…今のを見た限り、その理屈は正しかったみてーだな」

 

「ゾーンの強制開放か…。あれも確か、ナッシュが教えたんだよな? そういや、今思い出したが、以前に行きつけのジムでソラをシルバーと同じリングに上げてスパーリングやらせてたが、あれも眼を使いこなす為の仕込みだったのか?」

 

空がアメリカにいた頃の事を思い出したニック。

 

「あれはただの嫌がらせだ」

 

『…』

 

はっきりとそう答えるナッシュに、他のメンバーは言葉を失う。

 

「(…まあ、あの眼の確認の意味もあったけどな)」

 

当たってはいたが、内心では頷いたナッシュであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今のは…」

 

一部始終、プレーを見ていた三杉。

 

「ようやく戻ったか。何処に行っていた」

 

席に戻った三杉に対し、堀田が尋ねる。

 

「懐かしい顔を見かけてね。…それより、空が火神君を止めたみたいだね」

 

「ああ。あれは、勘や偶然の類のものではないだろう」

 

「だろうね」

 

堀田と話をしながら席に腰掛けた三杉。

 

「(空の奴、眼を使ったな。だが、あの眼は、容易に発動させられる類の代物ではないが……なるほど、ゾーンの強制開放を利用したか…)…フフッ」

 

思わず笑いが込み上げる三杉。

 

「(空ではその考えには行き着くまい。特殊な眼をとは無縁のチームメイトや監督、姫ちゃんも同様にだ。…フフッ、ナッシュめ、随分と空を買ってるようだな)」

 

時空神の眼(クロノスアイ)を使えるよう空に施した人物に思い至り、三杉は笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「っしゃ!」

 

火神の背後に零れたボールをすかさず抑えた空はそのまま速攻に駆け上がる。

 

「くそっ! 戻れ!」

 

慌てて声を出し、空を追いかける火神。

 

『…っ!』

 

続いて誠凛の選手達も追いかけるが…。

 

「(…っ、追い付けねえ…!?)」

 

ドリブルしている空に追い付く事が出来ない火神。それどころか、むしろ距離が開いていく。

 

 

――空と大地に速攻に走られたら終わり…。

 

 

前日のミーティングでのリコの言葉を思い出す火神。その言葉を今、痛感した。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンマン速攻を駆けた空がワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 13

誠凛 11

 

 

『おぉぉぉぉー--っ! ダンクキタァァァァァッ!!!』

 

 

「うし!」

 

拳を握って喜ぶ空。

 

「(出来た…! 2秒程度だが、準々決勝の終盤同様、周囲の時間がゆっくり流れた…!)」

 

火神が動きを見せた瞬間、まるで空以外の時間がスローモーションになったかのようにゆっくりと流れた。空は、コマ送りのようにゆっくりとシュート体勢に入ろうした火神のボールに手を伸ばし、捉えた。

 

「(感謝するぜ、ナッシュ(てめえ)の指導ってのが気に入らねえが、ありがとよ!)」

 

空は、観客席の一角にいる、ジャバウォックのメンバー達に向け、親指を立てた。それを見たジャバウォックのメンバー達は親指を立てて応えた。

 

「…ふん」

 

鼻を鳴らしたナッシュは親指を立て、下に向けて下ろした。

 

「(あいつはいつか殺す!)」

 

空はナッシュを睨み付けながらディフェンスへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛のオフェンス。新海がボールを運ぶ。

 

「…っ」

 

フロントコートまでボールを運んだ新海は火神にパスを出す。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを掴んだ火神。立ち塞がるのは再び空。

 

「(さっきの動き、まさか、準々決勝で見せた(こいつ)のあの眼か…。監督の話じゃ、赤司みてえに自由自在に使いこなせるものではないって話だったが…)」

 

自分が動いたの同時にボールを捉えたあの動きは紛れもなく眼を使ったなのだと確信する火神。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

小刻みにステップを踏み、ボールを動かし、牽制する火神。

 

「(だが、赤司のように未来が視えてる訳じゃねえ。どうやって眼を発動させたが知らねえが、ゾーンに入ってねえ状態じゃ、あの眼を発動出来るのは精々数秒程度のはず。フェイクやステップを駆使して呼吸とタイミングさえ外せれば――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(出し抜けるはずだ!)」

 

「っ!?」

 

再び時空神の眼(クロノスアイ)を発動させてボールを狙った空だったが、フェイクで外させてしまい、その手は空を切り、火神は空を抜きさった。

 

「おっしゃ!」

 

空を抜きさったのを見て、池永が拳を握る。

 

 

「俺の天帝の眼(エンペラーアイ)のように、未来が視えている訳ではない。1度に発動出来るのが2秒程度では、こういう事も起きる」

 

赤司が解説をする。

 

 

「(行ける! このまま突っ込んで――)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「――なん…だと…!」

 

思わず火神が声を上げる。空を抜きさった直後、ボールを叩かれたのだ。

 

 

「だが気を付ける事だ。俺と違って、彼は即座に2撃目も来るぞ」

 

助言のように呟く赤司。

 

 

「空中ならともかく、平面じゃ好きにはさせねえぜ」

 

不敵に笑う空。

 

「(っ!? しまった、こいつにはこれもあった。アンクルブレイクに耐えられるバランス感覚を使ったスティールが…!)」

 

思わずギョッとする火神。そこには、床に背中が倒れ込みそうな態勢で腕を伸ばし、ボールを叩いた空の姿があったからだ。

 

「ええで空坊!」

 

ルーズボールを天野が拾った。

 

「天野先輩!」

 

「行ったれ!」

 

速攻を駆ける大地。天野はすかさず縦パスを出した。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを掴んだ大地はそのままレイアップを決めた。

 

 

花月 15

誠凛 11

 

 

『神城がまた火神を止めたぁっ!!!』

 

2度の空のスティールに観客が沸き上がる。

 

 

「うし!」

 

「ナイスカット空!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

『…っ』

 

2度も火神が止められ、言葉を失う誠凛の選手達。

 

 

誠凛のオフェンス。ボールを回していき、再び火神にボールが渡る。

 

「(例え、1撃目をかわせても、すぐさま2撃目が来る。俺1人じゃ、まともな方法じゃこいつは抜けねえ…!)」

 

目の前の空に対し、圧倒される火神。

 

「(だったら!)」

 

何かを思い付いた火神はボールを新海に戻す。同時に中へと走り込む。

 

「来い!」

 

ハイポストでボールを要求する火神。すかさず新海は火神にパスを出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

リングに背を向けた形でボールを掴んだ火神。背中に張り付くようにディフェンスに入る。ボールを掴んだ火神はポストアップで空を押し込み始めた。

 

「これなら、眼があってもどうにもならねえだろ」

 

「がっ! …くそっ…!」

 

必死に腰を落として踏ん張る空だったが、体格に大きな差がある空はみるみる押し込まれていく。

 

「もらった!」

 

空を押し込んだ火神はボールを掴んでフックシュートの体勢に入る。

 

ポストアップ(それ)をやられると、眼なんざ役に立たねえし、俺じゃ抑え込めねえ。…だが良いのか?」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「中でそんなチンタラ攻めてたら、大地(相棒)が飛んでくるぜ」

 

「っ!?」

 

ニヤリと笑う空。目を見開く火神。フックシュートを放とうする前に、大地がボールをカットした。

 

 

『綾瀬だぁっ!!!』

 

『誠凛、3連続でオフェンス失敗。これは痛い!』

 

頭を抱える観客。

 

 

「…っと」

 

ボールを拾った速攻を駆けた大地だったが、今度は新海、朝日奈、池永がいち早くディフェンスに戻っており、足を止めた。花月の選手達が攻め上がって来ると、空にボールを渡した。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを受け取った空。目の前には新海。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て空が仕掛ける。

 

「(タイミングは予測出来ている!)」

 

空の動きとタイミングを読み切った新海は空を並走しながら追いかける。空はそれでもお構いなしに中に切り込み…。

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを背後にトスするように放る。そこへ走り込んだ大地がボールを掴むと、そのままリングに向かって飛ぶ。

 

「させるか!」

 

そこへ、火神がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、大地はボールを下げ、腕を回してパスに切り替える。ボールは、アウトサイドライン手前、左側のコーナー付近に立った生嶋の手に渡る。

 

「打たせないで!」

 

「分かってます!」

 

リコの指示を出す前に動いて朝日奈がチェックに向かう。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

しかし、生嶋はスリーを打たず、中へとボールを弾ませながら入れた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

中に出されたボールを、空がボールをタップするように手の平で叩き、ゴール下の松永にボールを中継した。

 

 

――バス!!!

 

 

ゴール下でボールを受けた松永がそのまま得点を決めた。

 

 

花月 17

誠凛 11

 

 

『花月連続得点!』

 

『点差が開いて来たぞ!?』

 

 

『…っ』

 

3連続攻撃の失敗によって点差が開き、表情が曇る誠凛の選手達。

 

 

「(まずい…!)」

 

危機感を抱くボールを運ぶ新海。火神が3連続で止められ、焦りを必死に隠してボールを運んでいる。

 

「(他で攻めるか? だが、何処で――)」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

必死にゲームメイクをする新海。だがその時、自身をマークしている大地が新海のキープするボールを捉えた。

 

「っ!?」

 

考えを巡らせ過ぎて隙を作ってしまった新海は目を見開く。

 

『アウトオブバウンズ、(誠凛)!』

 

しかし、ボールはそのままサイドラインを割ってしまう。

 

「…ふぅ」

 

4連続攻撃失敗と言う、最悪の事態が免れ、胸を撫で下ろす新海。

 

「(…くそっ、綾瀬にしても、少しでも気を抜けばこれだ。これ以上、花月を調子づかせるとまずい…!)」

 

しかし、依然として攻め手が定まらない新海。このまずい流れを断たなければ、点差はさらに開いていく。序盤とは言え、これ以上点差を離されるのは避けたい。

 

「(だがどう攻める? 火神さんも止められた。他で攻めるにしても、池永も田仲も現状きつい。唯一、分があるのは朝日奈だが、ここは1番警戒されている。どうする!?)」

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

その時、オフィシャルテーブルからブザーが鳴る。

 

『メンバーチェンジ、(誠凛)!』

 

メンバーチェンジが告げるコールがされる。交代を告げられたのは朝日奈。

 

『っ!?』

 

「…ふぅ」

 

誠凛の選手達は、コート入りする選手を見て目を見開き、火神は一息吐いた。

 

「すいません、頼みます」

 

「任せて下さい」

 

朝日奈と入れ替わりにコートに入り、その際にハイタッチを交わす。

 

「悪ぃな。俺が不甲斐ねえばかりに、こんな形で出すハメになっちまった」

 

謝る火神。

 

「火神君の責任ではありませんよ。もちろん、みんなの責任でも。相手はキセキの世代を倒した花月です。手強いのは当然です。…行きましょう」

 

そう言って、リストバンドを手首に巻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――背番号8番、黒子テツヤが、コートに足を踏み入れた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





日中は冷房付けんと過ごせんわ…(>_<)

この二次ではホントに影が薄い原作の主人公が登場です。原作では物語の展開上、やられる場面も多々ありましたが、敵で出てきていたらホントに恐ろしそう…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第204Q~幻の6人目(シックスマン)


投稿します!

すっかり季節は夏ですね。皆さん、熱中症にはご注意を…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り4分42秒

 

 

花月 17

誠凛 11

 

 

空の連続スティールによって流れを手繰り寄せた花月。花月が尚も攻勢をかけようとしたその時、誠凛がメンバーチェンジ。黒子テツヤがコートへと足を踏み入れた。

 

「遂に黒子の出番だ! 頑張れ黒子ぉっ!!!」

 

コートに入る黒子を見て、観客席の荻原が立ち上がり、大声で声援を贈る。

 

「…っ」

 

大歓声の会場だが、それでも微かに黒子の耳に届いた親友の声援。しかし、この広い会場の観客席では、その姿をすぐに見つけるのは困難。

 

「(荻原君…。君の声は確かに届きました。見ていて下さい)」

 

かつて譲り受けた荻原のリストバンドを付けた黒子は、胸の中に闘志を秘め、コートの中へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「遂にお出ましか!」

 

コート入りをする黒子を見て、空がニヤリと笑う。

 

「夏合宿の時に一時、共に過ごしましたが、ほとんど手の内を隠されましたから、本当の意味であの方の本領を見るのは、これが初めてと言う事になりますね」

 

大地が真剣な表情で黒子を見つめる。

 

「マークはどないする?」

 

歩み寄った天野が尋ねる。

 

「…とりあえず、生嶋に任せるわ」

 

「分かった。やってみるよ」

 

黒子のマークを生嶋に任せ、集まった花月の選手達は散らばり、各々のマーク選手の下へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

選手交代が終わり、誠凛ボールで試合が再開される。

 

『…』

 

マンツーマンでディフェンスをする花月。注目するのはやはり黒子。

 

「(黒子テツヤさん…。噂は嫌と言う程耳にした。パス回しに特化した、帝光中の幻の6人目(シックスマン)…)」

 

黒子をマークしている生嶋。目の前の黒子に注視している。

 

「(夏の合宿を見た限り、身体能力はそこまで高くない。むしろ低いくらいだ。姿を見失わないようにしっかりマークさえ出来れば――っ!?)」

 

その時、生嶋は黒子の姿を見失う。

 

「(なっ!? 目の前から消え…何処に!?)」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

黒子の姿を探そうとする生嶋。その時、生嶋の背後で黒子がボールをタップした。

 

『っ!?』

 

ボールを運ぶ新海が無造作に中へと出したパスが突然軌道が変わり、驚く花月の選手達。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはゴール下に走り込んでいた田仲へと渡り、そのまま得点を決めた。

 

 

花月 17

誠凛 13

 

 

『出た! 誠凛の魔法のパス!』

 

『ボールが曲がった!? 何が起きたんだ!?』

 

通の観客からはお馴染みのパスに歓喜し、始めて目の当たりにする観客からは驚愕の声が上がった。

 

 

「ホンマに、いつの間にか最深部までボールが移動しよったで。…イク」

 

知覚出来なかった天野。

 

「目を離さないでマークしてたはずなのに、気が付いたら姿が消えてて…これが黒子さん…」

 

過去の噂はもちろん、試合での姿も何度も見ていた。生嶋なりに対策も立てていたが、それでも黒子の姿を見失ってしまった。

 

「ま、しゃーないわ。ちょっと研究したくらいで対応出来るようならとうに止められとるはずやからな」

 

「切り替えてオフェンスです。しっかり決めれば点差が縮まる事はありません。行きましょう」

 

大地が励まし、話を終わらし、花月の選手達は散らばっていく。

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。得点チャンスを窺う為、ボールを回していく。

 

「おぉっ!」

 

「…っ」

 

ローポストでボールを受けた松永がポストアップで田仲を押し込もうとするが、田仲は歯を食い縛って侵入を阻む。

 

「(…ちぃっ! こいつ、意外とパワーがある。何より、身体の使い方も上手い…!)」

 

事前のスカウティングでは、タイプ的には技巧派で、身体能力はそこまで高くないと言う印象だった。実際、それは的外れと言う程でもなく、基本に忠実、教科書通りのディフェンスで身体能力の差をカバーしていた。

 

「マツ! 囲まれんで!」

 

「…っ」

 

天野が声をかける。ボールを持つ松永に池永と火神が包囲をかけようとしていた。

 

「…くっ」

 

仕方なく、松永は外でフリーになっていた生嶋にパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

目を見開く生嶋。ボールが生嶋の手に収まる直前、突然伸びて来た手にカットされたのだ。

 

「(何処から!? マークは外したはずなのに!)」

 

フリーだと思っていた生嶋は軽くパニックに陥る。

 

 

「お見事」

 

「ああ。松永に人数をかけようとした際、わざと生嶋へのパスコースだけを空けていた」

 

一連のプレーを見た三杉は賛辞の言葉を贈り、堀田は解説をする。

 

「黒子君も、生嶋は認識出来ていなかったが、死角からしっかりマークをしていた。彼の特性を生かした素晴らしい…花月にとっては嫌らしいディフェンスだ」

 

続けて補足するように三杉が解説を入れた。

 

 

「黒子さん!」

 

速攻に走る新海がボールを要求。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

前方へと反転しながら黒子はボールを弾き、新海にパスを出す。

 

「あかん、戻れ!」

 

天野が声を出し、花月の選手達がディフェンスへと戻る。

 

「…ちっ」

 

フロントコートに到達した所で足を止め、舌打ちをする新海。

 

「行かせませんよ」

 

いち早くディフェンスに戻った大地が新海の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

誠凛の選手達が攻め上がるのと同時に、花月の選手達もディフェンスに戻り、各々のマークに付く。

 

「(相変わらず戻りが速い、だが、もはや関係ない)」

 

先程まで、火神を止められ、八方塞になりかけていたが…。

 

「(今、このコートには、この人がいる!)」

 

新海が中にボールを放る。すると…。

 

『っ!?』

 

目を見開いて驚く花月の選手達。ボールが出された場所に、黒子の姿があった。

 

「…」

 

黒子が右手を掌打を打つように引き構えた。同時に、池永がリングに向かって走りながらボールを要求する。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

池永に向けて黒子がボールを加速させながら中継させた。

 

「っと!」

 

加速しながら迫るボールを池永が右手で掴む。

 

「っりゃ!」

 

同時にリングに向かって飛んだ。

 

「ちぃっ!」

 

松永が舌打ちをしながらすぐさまヘルプに向かい、ブロックに飛んで池永とリングの間に割り込む。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、池永は松永がブロックに現れると、ボールを下げ、松永のブロックを掻い潜りながら通り抜ける。

 

「っ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

目を見開く松永。池永はブロックをかわすのと同時に再度ボールを上げ、リングに背を向けた大勢でボールを放り、バックボードに当てながら決めた。

 

 

花月 17

誠凛 15

 

 

「ちょろいな」

 

「…っ」

 

したり顔の池永。その言葉が聞こえた松永は表情を僅かに歪ませる。

 

「ナイスパス、黒子さん!」

 

ディフェンスに戻りながら新海が黒子に駆け寄り、ハイタッチを交わす。

 

 

――ドクン!!!

 

 

「っ!?」

 

その時、黒子の背中に悪寒のようなものが走った。何かに見られているような、覗かれているような視線を感じた。

 

「…っ」

 

黒子は周囲をキョロキョロ見渡す。

 

「? 黒子さん?」

 

その様子を見て怪訝そうに声を掛ける新海。

 

「…いえ、何でもありません」

 

周囲を見渡しても、その奇妙な視線の正体は見つからず、何事もなかったかのように新海に返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…くっ!」

 

フロントコートまでボールを運んだ空。急加速のドライブで新海を抜きさり、カットイン。

 

 

――スッ…。

 

 

その直後、空のキープするボールに、1本の手が迫る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っとぉ!」

 

その手がボールに触れる寸前にボールを切り返してかわす。

 

「…っ」

 

「油断も隙もないですね、…黒子さん…!」

 

切り返すのと同時にボールを掴み、ジャンプシュートの体勢に入る。

 

「おぉっ!」

 

ヘルプに飛び出した田仲がブロックに飛び、シュートコースを塞ぐ。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、空はシュートを打たず。ボールを右方向の斜め下に放る。そこへ、大地が走り込み、ボールを受け取る。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受けた大地がそのままレイアップで得点を決めた。

 

 

花月 19

誠凛 15

 

 

「よーし!」

 

「ナイスパス、空」

 

パチンとハイタッチを交わす。

 

「ドンマイ、気にすんな! 取り返すぞ!」

 

火神が声を出し、鼓舞する。

 

「…」

 

その鼓舞に選手達が気持ちを切り替える中、ベンチのリコだけは、顎に手を当てながら何かを思案していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

新海がフロントコートまでボールを運び…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地がディフェンスにやってくると、早々に仕掛ける。

 

「…」

 

中へ切り込む新海。大地はすかさず反応し、ピタリと後を追う。

 

 

――スッ…。

 

 

すると、新海はノールックで背中からボールを後方へと放る。するとそこには…。

 

『っ!?』

 

右手を引いて構えた黒子の姿があった。

 

「黒子!」

 

その動きに合わせて、火神が中へと走り込み、ボールを要求。黒子は火神目掛けて、ボールを加速させながら中継――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ビンゴ、ここだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

させようとしたその時、黒子と火神のパスコースの間に、空が割り込んできた。

 

「っ!?」

 

ミスディレクションで虚を突いはずの黒子。ボールを中継するより速くパスコースを塞がれ、眼を見開く。

 

「…っ」

 

黒子は加速する(イグナイト)パスを止め、ボールをキャッチした。

 

 

「テツ君の姿を捉えた!?」

 

桃井が声を上げて驚く。

 

 

「…さっきまでの視線はやはり、君でしたか」

 

黒子が空に対して言う。先程までの視線の正体が空であると黒子は断言した。黒子はボールを新海へと戻した。

 

「…やっぱり、こうなってしまったわね」

 

リコが苦々しい表情で呟く。黒子を投入してから、リコは空に注目していた。他の花月のメンバーが黒子の姿を見失っている中、空だけは黒子の姿をその目で追い続けていたのだ。

 

「どうして!? ミスディレクション破りの対策はしてきたはずなのに…!?」

 

河原が信じられないとばかりに声を上げる。

 

過去にも、黒子のミスディレクションに対応された事はある。パスコースから逆算したり、黒子の姿ではなく、黒子に対してパスを出す者の視線でその姿を見つけたり、鷲の目(イーグルアイ)や、鷹の目(ホークアイ)のような、俯瞰で黒子の姿を追ったりなど。その全てに対して対応策は講じてきた。

 

「ミーティングの時に黒子君が言ってたでしょ?」

 

「…あっ」

 

リコの言葉に、河原は昨日のミーティングでの事を思い出した。

 

『様々な人間を観察してきた事で分かった事があるんですが、極稀に、ミスディレクションの影響を受けにくい人がいます。夏合宿を見た限り、神城君などがそれに該当します。恐らく、彼には早々に姿を捉えられる可能性があります』

 

「…どうしますか。黒子を引っ込めますか?」

 

福田が指示を仰ぐ。リコは暫し考え…。

 

「いえ、現状、黒子君の姿を捉えているのは神城君だけだし、彼は火神君をマークしているからおいそれとはヘルプに出れないはずだから、このまま出すわよ」

 

リコは黒子を下げず、このままで行く決断をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(こいつ…、俺だけじゃなくて、黒子まで…)」

 

目の前で自分をマークする空に視線を向ける火神。

 

「(伊達に赤司に勝った訳じゃねえって事か。赤司が切れ者なら、こいつは曲者って所か…)」

 

読みと頭脳で相手を追い詰める赤司に対し、その場の閃きと嗅覚で追い詰める空。

 

「(だが、俺と黒子の両方同時に相手は出来ねえだろ。なら俺は…!)」

 

火神は外一杯に広がり、コーナーへと移動する。

 

「(黒子さんから距離を取ったか…)」

 

黒子から離れた位置に移動した火神の意図に気付いた空。自分を黒子から引き離す事で少しでも黒子に対応出来る時間を遅らせるのが狙い。

 

「…」

 

ボールをキープする新海。シュートクロックも残り僅か。オーバータイムとなる前に攻め手を定めたい。

 

「…」

 

ここで黒子が動く。自身をマークする生嶋をミスディレクションで視線を逸らし、その瞬間を狙ってフリーの位置に移動する。

 

「(来た!)」

 

黒子が動いたのをいち早く察知した空が黒子の下へ急行する。

 

「(神城も動いた! なら、火神さんがフリーになる!)」

 

空が黒子の動きに対応する。それはつまり、火神がフリーになると言う事。

 

「…っ!」

 

火神にパスを出そうとしたその時…。

 

「(させませんよ。黒子さんの動きは追えませんが、空の動きなら分かりますからね)」

 

空の動きに呼応し、大地が新海と火神のパスコースを塞いだ。その為、新海は火神へのパスを中断する。

 

「(構いません。僕に下さい)」

 

アイコンタクトでボールを要求する黒子。

 

「(頼みます!)」

 

それを受け、新海は黒子のパスを出した。

 

「…っ」

 

マークを引き剥がし、フリーとなった黒子が右手を引き、構える。

 

「(火神さんが動いた。…よし、間に合う!)」

 

黒子の動きに連動して動いた火神を視認した空は、ゴール下へ向かう火神と黒子の間へと右腕を伸ばす。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

掌打に構えた右手をボールに撃ち込み、加速させながらボールを中継させる。

 

「甘いぜ! パスは通さ――」

 

 

――バチィン!!!

 

 

「っ!!!」

 

パスコースに右手を割り込ませ、ボールのカットを狙った空。しかし、その右手は弾き飛ばされてしまう。

 

 

加速する(イグナイト)パス・廻!」

 

腕を弾き飛ばされた空を見た桃井が声を上げる。

 

「そのパスは、腕だけじゃ止めらねえぜ」

 

かつて、このパスに空同様、弾き飛ばされた経験を持つ青峰が呟く。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

空の腕を弾き飛ばしたボールはそのまま突き進み、ゴール下に走り込んだ火神の右手に収まる。

 

「らぁっ!」

 

そこからリングに向かって飛ぶ。

 

「させん!」

 

1番近い位置にいた松永がすぐさまブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐあっ!」

 

しかし、火神はブロックなどお構いなしにそのままリングにボールを松永を吹き飛ばしながら叩きつけた。

 

 

花月 19

誠凛 17

 

 

『出た! 誠凛の魔法のパスからの火神のダンク!!!』

 

『パスもダンクも半端ねえ!?』

 

派手なプレーの複合に観客は沸き上がる。

 

 

「マツ、平気か?」

 

「…っ、大丈夫です」

 

松永の調子を確かめながら手を差し出す天野。松永は僅かに顔を顰めながらその手を取り、立ち上がった。

 

「いっつ…!」

 

同じく、空が顔を顰めながら弾き飛ばされた右手をヒラヒラさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス、空がボールを運ぶ。

 

「?」

 

花月ベンチの姫川、何か違和感を抱く。

 

「…」

 

ゆっくりボールを運びながらゲームメイクをしている。

 

「…っ」

 

何処か集中が欠けている…いや、何かを気にかけている(・・・・・・・・・・)様子の空。

 

「(まさか…!)…監督!」

 

ここで、姫川はそれを確信し、上杉に伝えるべく声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ!」

 

空に対し、距離を詰めて激しくプレッシャーをかける新海。

 

「(黒子さんおかげで流れはうちにある。ならば強気に仕掛ける!)」

 

好機と見た新海は積極的に空のボールを奪いにいく。

 

「…ちっ!」

 

前に出て来る新海に、空は露骨に表情を不機嫌なものに変える。

 

「(…ん? あいつ…)」

 

ボールを奪いに前にプレッシャーをかける新海をかわしながらボールをキープする空に何か気付いた火神。

 

「(さっきから、右手を全く使ってねえ(・・・・・・・・・・)…)」

 

そう、空はさっきから、ボールを前後に行き来させているが、不自然に左手のみでドリブルをしていて、右手を全く使っていないのだ。

 

「(そう言う事か!)…池永、お前も神城に当たれ!」

 

「あん?」

 

火神が指示を飛ばすと、池永が怪訝そうに声を上げる。

 

「良いから当たれ!」

 

再度火神が指示を飛ばす。

 

「(気付け、神城の違和感を!)」

 

尚も視線で訴える火神。

 

「(…っ、そう言う事か!)」

 

ここで火神の意図に気付いた池永が動き、空にダブルチームをかけた。

 

「おらおらおらおらぁ!!!」

 

「…ちっ!」

 

新海に加え、池永も激しくプレッシャーをかけ、ボールを奪いに来る。空は思わず舌打ちをする。

 

「どうしたどうした!? いつもみたいに抜いてみろよ! 出来るもんならな!」

 

不敵な笑みを浮かべながら挑発をする池永。

 

「調子に、乗ってんじゃねえ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

苛立った空はクロスオーバーで切り返しながらダブルチームを抜きさった。

 

「なっ!?」

 

「(野郎、右手は使えねえんじゃねえのかよ!?)」

 

まさかの左から右への切り返しに、2人は眼を見開きながら驚いた。

 

「残念だったな――っ!?」

 

してやったりの空の表情が次の瞬間、驚愕に染まる。

 

「…っ」

 

切り返した直後のボールに、黒子の右手が迫っていた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

黒子の右手がボールを捉え、空の手から零れ落ちた。

 

「さっすが黒子先輩!」

 

ルーズボールを拾った池永。

 

「よっしゃ! これで同点――」

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

速攻をかけようとしたその時、池永と接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、プッシング、赤大地(6番)!』

 

接触した大地にファールが宣告される。

 

「てめえ…!」

 

「…っ、すいません」

 

速攻を阻まれ、思わず大地を睨む池永と謝る大地。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『メンバーチェンジ!』

 

同時に、ブザーが鳴り、交代が告げられる。オフィシャルテーブルには竜崎が立っており、交代の対象は空。

 

「俺!?」

 

思わず自身を指差す空。

 

「今は下がって下さい。理由は、分かっているでしょう?」

 

不服そうな空の傍に歩み寄った大地がボソリと宥め、交代に従うように促す。その為に大地は時間を止めたのだ。

 

「…しゃーねーな」

 

渋々ながら空は了承し、交代に従った。

 

「…ん?」

 

コートの外へと移動しようとしたその時、竜崎の横に、降旗と朝日奈が立っており、誠凛も選手交代していた事に気付いた。

 

「(交代は、新海と…火神さん?)」

 

オフィシャルテーブルにて竜崎の横に立っているのは降旗と朝日奈。交代を告げられたのは新海と火神であった。

 

「…」

 

竜崎とハイタッチを交わしながらコートを出た空。その表情は怪訝そうなものであった。

 

「(新海の交代はまあ分かるが、何で火神さんまで…)」

 

チームの主将であり、精神的支柱であり、エースでもある火神を下げた意図が分からず、思わず誠凛ベンチに視線を向けた空。

 

「…フフン」

 

そこには、何やら意味深に笑みを浮かべるリコの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「右手、痛めたか?」

 

ベンチに戻った空に声をかける上杉。

 

「いえ、ボールに触れた瞬間にヤバいと思って咄嗟に手を引いたんで…、と言うか、わざわざ引っ込める程のものでも――」

 

右手をヒラヒラさせて健在ぶりをアピールする空。

 

「やせ我慢しないの。痛めてはいなくとも、まだ手の痺れは引いてないでしょ? だから、黒子さんのスティールをかわせなかったんじゃない」

 

「…っ」

 

姫川の指摘に、空は言葉を詰まらせる。姫川の指摘は的を射ており、ダブルチームを抜いた直後に狙われたとは言え、空は黒子のスティールに反応は出来ていた。だが、右手の痺れていたせいで、かわす事が出来なかったのだ。

 

「第2Qまでこのまま下げる。いいな?」

 

「…うす」

 

上杉の言葉に返事をする空。

 

「マッサージするから早く座って。…相川さん」

 

「はい♪」

 

「おぉっ?」

 

空をベンチに座らせて姫川は右手のマッサージを始める。呼ばれた相川が空のアイマスクのようなものを付け、空は思わず声を上げた。

 

「なんだこれ、温いな。…ていうかよ、これじゃ試合が見れねえよ」

 

仄かに暖かいアイマスクを装着されて抗議をする空。

 

「あの眼を使ったんでしょう?」

 

マッサージをしながら尋ねる姫川。

 

時空神の眼(クロノスアイ)は眼の負担が大きい。それは昨日の試合のあなたを見れば一目瞭然よ。少しでも回復させる為に、今は我慢しなさい」

 

「…バレてたか。ナッシュのおかげで一時的にだが使えるようになったが、結構ヤバいわ。迂闊に乱発出来ねえ」

 

時間にして2秒。眼を使った回数は2回。瞬間的に集中力を最大に高めた事で目と頭に負担がかかった事を自覚していた空。

 

「しばらくは使うのは控えるわ。…それより気になるのは誠凛交代だ。新海の交代はともかく、火神さんまで引っ込めるなんてな」

 

新海を下げた理由は偏に、スタミナ温存の為だろう。ここまで空に対し、全力で仕掛けて来た新海。このままハイペースで試合に出続ければ間違いなく最後までもたない。空が下がった今、休ませる為にベンチに下げた。火神も同様の理由だろうが、火神が下がれば大地に対抗出来る者がおらず、インサイドの弱体化にも繋がる。

 

「恐らく、自信があるのだろう。お前がいない今、例え、火神を下げても、少なくとも、今の点差を維持できる自信がな」

 

両腕を胸の前で組みながら口を挟む上杉。

 

「黒子さんか…」

 

その自信の源である黒子の名を口にする空。バスケ選手としてはかなり異色なプレーヤー。しかし、その実績は充分。

 

「改めて、見させてもらうぜ、幻の6人目(シックスマン)とやら実力をな」

 

胸のまで両腕を組んだ空。

 

「…いや、見えねえじゃん」

 

アイマスクのせいで何も見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「2人共お疲れ。2人に疲労が回復出来るものを」

 

「はい!」

 

リコがベンチに戻ってきた火神と新海に労いの言葉をかけると、テキパキと指示を飛ばす。

 

「…けど、新海はともかく、火神まで下げちゃって良かったんですか? いくら黒子を投入したからって、これだと、綾瀬をマーク出来る奴がいなくなるんじゃ…」

 

河原が火神を下げた事で起きる懸念を口にする。

 

「ある程度は覚悟の内よ。その穴はオフェンスで埋めるわ」

 

「オフェンスで…、つまり点の取り合いでって事ですか?」

 

「もちろんよ」

 

リコがニコリと笑みを浮かべながら返事をする。

 

「…大丈夫なんですか?」

 

不安そうな表情で福田が尋ねる。

 

誠凛はオフェンス重視のチームではあるが、それは花月も同様。しかも、同じくオフェンス重視の桐皇相手に攻め勝ち、鉄壁のディフェンスを誇る陽泉の絶対防御(イージスの盾)を貫く程のオフェンス力だ。その花月相手に、いくら空がいないとは言っても、こちらもキセキの世代と同格の資質を持つ火神がいない状態で戦うのはかなり不安が残る。

 

「お前ら、今日まで何を見てきたんだ?」

 

そんな不安を抱える2人に対し、火神が口を挟む。

 

「俺達が誠凛に来てから、黒子の凄さは嫌って程見てきただろ。あいつがいなかったら、一昨年のウィンターカップも、今年の夏も優勝出来なかった」

 

「「火神…」」

 

「見てろって。あいつは俺達の期待は裏切らない。俺達は、今コートで戦っている黒子とフリと、後輩達を信じて応援してやろうぜ」

 

そう言って、火神はニコッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月が流れを掴み始めると、誠凛は黒子テツヤを投入し、たちまちスコアをシュート1本差にまで詰め寄った。

 

自身の影の薄さとミスディレクションを駆使して暗躍する黒子に対し、空が対応するも、黒子の加速する(イグナイト)パス・廻を止めようとスティールを試み、右手を弾き飛ばされた事で一時的に右手が使えなくなり、ベンチへと下がった。

 

同時に誠凛も火神と新海を下げ、スタミナの温存策を計る。

 

第1Qも残り僅か、期待を託された黒子テツヤ。

 

帝光中3連覇に貢献し、高校では誠凛を1年時にはウィンターカップ、3年時にはインターハイ制覇に導き、10年に1人の逸材、キセキの世代にも認められ、一目置かれた幻の6人目(シックスマン)が、花月に牙を向く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この二次にしては珍しく、第1Qを長々と描写している気がする。普段はあっさり1話くらいで済ましているんですが…(;^ω^)

苦戦は主人公及び主人公チームの宿命ですが、その宿命から外れた原作主人公。屈指の実力者と屈指の搦め手を擁する誠凛。…ハードル爆上がりだぁ…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第205Q~光と影~


投稿します!

アイス食い過ぎて腹壊したorz

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、残り3分2秒

 

 

花月 19

誠凛 17

 

 

花月

 

IN  竜崎

 

OUT 空

 

 

誠凛

 

IN  朝日奈 降旗

 

OUT 火神 新海

 

 

黒子の加速するパス(イグナイト)パス・廻をスティールしようとした空にアクシデントが起こり、ベンチへと下がった。それと同時に誠凛も火神と新海をベンチへと下げた。

 

「神城君、やっぱり右手が…」

 

「だがまあ、弾かれ方が不自然なまでに派手だったからな。多分、咄嗟に手を引いてただろうから、大した事にはならねえだろ」

 

心配する桃井。青峰は一連の空を見て、大事はないと判断する。

 

「誠凛はかがみんを下げちゃうなんて。新海君はまだ分かるけど…」

 

予想外の火神の交代に疑問が尽きない桃井。

 

「これから試合は激化するのは目に見えている。ただでさえ、終盤に強い神城と綾瀬がいるのだ。幸い、誠凛は以前と違って控えの層も厚い。温存出来る時に温存しておくべきなのだよ」

 

緑間は正しい判断だとする。

 

「けど、綾瀬君のマークはどうするんだろ。かがみん以外にマーク出来る人なんて…」

 

「いないだろうな。ならば、点を取りに行く。と言う事なのだろう」

 

赤司が割り込むように解説する。

 

「それだけテツを信頼してるって事だ」

 

エースである火神不在での点取り合い。それを可能とする黒子の存在を挙げる青峰。

 

「テツ君を…、そう言えば赤司君、試合前にテツ君は、スタメンに起用すべきではないって言ったけど、それどういう意味なの?」

 

試合開始前、赤司が呟いた言葉。その時はティップオフ直前だった為、聞けなかったが、桃井は改めて尋ねる。

 

「…一昨年のウィンターカップの決勝、黒子の影の薄さがなくなった事は覚えているね?」

 

「うん。けど、あれは元に戻ったんじゃ…」

 

「ああ。その後、影に徹し、消えるドライブ(バニシングドライブ)や、幻影のシュート(ファントムシュート)と言った、目立つ技を控える事で影の薄さはある程度(・・・・)は戻ったが、完全に戻るまでには至らなかった」

 

赤司が断言する。

 

「昨年のインターハイで早々に洛山(俺達)に、ウィンターカップに関しては、出場する事すら叶わなかったのは、当時の2・3年生のモチベーションの低下、木吉鉄平が離脱した事によるインサイドの弱体化、経験不足の1年生など、原因はいくつかあるが、1番の原因は、黒子のミスディレクションの稼働時間が減少した事だ」

 

昨年の不振の要因を挙げる赤司。

 

「去年の夏に戦った時、1度試合で対戦した事や、去年まで同じチームに同系統の選手がいた事である程度、耐性があった事を差し引いても、明らかにミスディレクションの稼働時間が短かった。それは、予選で戦う機会が多かったお前達が1番理解しているはずだ」

 

「「…」」

 

赤司に尋ねられた青峰と緑間は、返事をしなかったが、それは肯定である事は誰の目から明らかだった。

 

「だからこそ、黒子はスタメン出場させるべきではないと言う訳だ」

 

「そういう理由が…なら、尚の事、かがみんを下げるべきじゃなかったんじゃないかな? 制限時間もそうだけど、いくらテツ君がいるからって、かがみん抜きで花月と点の取り合いでやり合えるとは…」

 

「桃井の懸念ももっともだ。ミスディレクションの稼働時間に関しては、桃井も知っている事だろうが、ベンチに戻せば慣れが薄まるから、第1Q終了後か、遅くとも第2Q早々にでもベンチに戻せば再び活躍させる事は可能だろう。だが、今の花月は黒子と言えど、いくら神城がいないからと言って、火神抜きで点取り合いで凌げるような相手ではない」

 

赤司はそう言い切る。

 

「俺達の知る黒子であったのならば、ね…」

 

「…えっ?」

 

続けて言った赤司の言葉に思わず声を上げる桃井。

 

「今の黒子は、俺達の知らない何かがある。俺はそう考えているよ。恐らくそれが、ここから火神抜きで花月と対等にやり合う原動力となる」

 

そう言って、赤司は試合に集中したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本、大事に行こう!」

 

コートに入った降旗がボールを運び、ゲームメイクを始める。

 

『…』

 

降旗の動きに合わせ、誠凛の選手達も動き始める。

 

「(この人は確か、ディレイドオフェンスを得意とするポイントガード。リスク管理が上手い選手だが、新海さん程のテクニックや身体能力はない。だったら、強気で行く!)」

 

このマッチアップに分があると見た竜崎は強めにプレッシャーをかける。

 

「っ!?」

 

身体をぶつけるように前に出て来た竜崎に身構える降旗。

 

「(確かこの人は、帝光中出身で、全中優勝経験もある選手。俺と違って、バスケのエリート!)」

 

自分とは歩んで来た道が違う竜崎。

 

「(けど、そこまで怖さを感じない。海常の笠松さんや、秀徳の高尾、何より、キセキの世代の赤司に比べれば、怖くない…!)池永!」

 

落ち着いて降旗は池永にパスを出す。

 

「おーおー、俺にパス出すなんざ、分かってるじゃねえかフリ」

 

ボールを受け取り、満足気な池永。

 

「…」

 

そんな池永に対し、大地がディフェンスに入る。

 

メンバーチェンジに伴い、ポイントガードには降旗、パワーフォワードには朝日奈が入っている。

 

「ようやくてめえに借りが返せれる時が来たぜ」

 

目の前に因縁の相手である大地がやってきて、不敵に笑う池永。

 

「今度はしっかり相手が見えているようで、何よりです」

 

対して大地は、表情を変える事無く、淡々と返す。

 

「…思い出すだけでムカッ腹が立つが、全中の時は明らかに油断と驕りが原因だ。誠凛(ここ)に来ても、結局変われなくて、チームに迷惑かけちまった」

 

表情を僅かに歪ませる池永。

 

「今は違うぜ。…まあ、てめえらにリベンジしてえ気持ちは相変わらずだが、優先すんのは、誠凛を優勝させる事だ。それが、志半ばで散っていった亡き先輩達に出来るせめてもの弔いだからな」

 

 

「死んじゃいねえぞ」

 

ツッコミを入れる観客席の日向。

 

 

「つうか、人に偉そうに説教かましてるけどよ、お前の方は俺の事、見えてんのか?」

 

「言っている意味が分かりませんね。今は、目の前のあなたに集中していますが…」

 

「フン、どうだかな…」

 

大地の返事に鼻を鳴らす池永。

 

「お前、俺に負けるなんざ露程も思ってねえだろ?」

 

「…」

 

その質問に、大地は答えない。

 

「だろうよ。てめえは優等生ぶっちゃいるが、結局の所、火神以外はその辺の石ころ程度にしか見ちゃいねえ。なら今度は、俺達がてめえらに目にモノ見せてやるよ!」

 

「(…来る!)」

 

仕掛ける気配を感じ取った大地が身構える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

次の瞬間、大地の目が見開かれる。

 

「何やと!?」

 

同時に天野が声を上げる。

 

「何が起こった!?」

 

アイマスクで状況が把握出来ない空が突如、沸き上がったどよめきに思わず尋ねる。

 

「綾瀬君が、抜かれた…」

 

呆然と答える姫川。

 

「…はぁ? マークしてたの池永だろ? そんな訳…」

 

火神ならいざ知らず、池永に抜かれた事が信じられない空。

 

「…くっ!」

 

すぐさま反転した大地が中に切り込んだ池永を追いかけ、すぐさま横へと並んだ。

 

「もう追いつきやがったか! キセキの世代(先輩達)も大概だが、てめえも規格外だな! だがな、先手さえ取れちまえば、こっちのモノだ!」

 

大地が追い付いたのと同時に池永はボールを掴み、頭上から外へとパスを出した。

 

「…よし」

 

外で朝日奈がボールを掴む。

 

「止めたる!」

 

朝日奈に対し、天野がすぐさま距離を詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

天野が来るや否や、朝日奈はドライブで中に切り込む。

 

「フェイクもなしで抜かせ――うがっ!」

 

ドライブに対応しようとした天野だったが…。

 

「…ぐっ!」

 

田仲の張ったスクリーンに捕まってしまう。

 

「(くそっ、抜かれた綾瀬に動揺して声掛けを怠ってしまった…!)…ちぃっ!」

 

胸中で舌打ちをしながら松永がリングに迫る朝日奈に対してヘルプに飛び出す。

 

 

――スッ…。

 

 

松永が迫ってくると、横へとパス。中に走り込んでいた降旗がフリースローライン付近でボールを掴み、シュート体勢に入る。

 

「させるか!」

 

後方から追いついた竜崎がブロックに飛ぶ。しかし…。

 

「っ!?」

 

降旗は飛ばず、ボールを頭上に掲げた体勢で中断。ボールをさらに中へと入れる。

 

「ナイスパース!」

 

ゴール下でパスを受けた池永。そこからすぐさまリングに向かって飛び、右手で掴んだボールをリングに叩きつける。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「させませんよ!」

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる直前、大地がブロックに現れ、ダンクを阻む。

 

「せっかくの見せ場を…!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

両者の手がボールを挟むようにぶつかり、挟まったボールが2人の手の間から零れる。

 

「リバウンド!」

 

降旗が指示を飛ばす。

 

『おぉっ!!!』

 

その声に反応した天野、松永、朝日奈、田仲がルーズボールに飛び付く。

 

 

――ポン…。

 

 

先にボールに触れたのか田仲。田仲が伸ばして右手がボールに触れ、そのままリングの中へと押し込まれた。

 

 

花月 19

誠凛 19

 

 

「やった!」

 

得点を決めた田仲は拳を握りながら喜ぶ。

 

「…くっ」

 

自身の武器とするリバウンドで競り負け、悔しがる天野。実際、天野は絶好のポジションを取っていた。しかし、ボールを確保しなければならなかった天野と押し込むだけでいい田仲の差によって、競り負けたのだ。

 

 

「…」

 

胸の前で両腕を組みながら考え込む空。

 

「なあ、大地が抜かれた時の様子ってどんな感じだった?」

 

「そうね…、ここからだと、反応出来てなかったと言うか、為すがまま抜かれたように見えたわ」

 

尋ねた空の横にいる姫川が様子を思い出しながら答える。

 

「(…大地が反応出来ない程のスピードとキレを池永が見せた? …いや、あり得ねえな。大地は黄瀬さんや青峰さんの動きにも付いていってた。つうか、普段、俺の動きにも対応しているんだ。その線はないな)」

 

可能性の1つを空が否定する。

 

「(だったら後は…)…大地が抜かれた時、黒子さんが何処にいたか分かるか?」

 

次に尋ねたのは黒子の所在。池永が大地を出し抜いたのは、黒子が試合に出場したからだ。ならば、黒子にその答えがあると空は考えた。

 

「黒子さん…、ごめんなさい、分からないわ」

 

黒子の位置までは把握しておらず、謝る姫川。

 

「私、分かるよ!」

 

その時、相川が話に参加する。

 

「えーっと、コートの後ろの方の……あっ、ここだよ!」

 

説明しようとした相川に、説明しやすいように姫川が普段、作戦会議に使うバスケコートを書かれたマグネット入りのボードを開くと、相川が指差す。

 

「(フロントコートの後ろの方か。…確か、大地が抜かれたのは…)」

 

アイマスクを指で伸ばしながら確認する空。相川が指差した黒子の位置と、大地が抜かれた位置を照らし合わせ、頭を巡らせる。

 

「(何か引っ掛かる所はあるが、答えが出ねえな。ただでさえ、黒子さんプレーヤーとしてはかなり異色だから、余計にだ。こういうのは俺の本分じゃねえから分かんねえよ。三杉さんや大地とかなら何か気付くんだろうが…)」

 

直感で何かは引っ掛かりを覚えはしたが、それが何なのかは掴めなかった空。

 

「相川さん、今から、他はいいからとにかく黒子さんの動きだけ見といて」

 

「分かった! 後で説明出来るようにしっかり覚えておくね!」

 

笑顔で相川は返事をした。

 

「…」

 

「(昨晩も話していたけど、神城君は余程黒子さんを警戒しているのね。だけど、今はその意味が良く分かるわ。…ごめんなさい。私も警戒していたつもりだったけど、認識が甘かったわ。この第1Qが終わるまでにからくりを解いて見せるわ)」

 

横で考えを巡らせる空を見て、姫川は胸中で再度謝罪をし、試合に集中したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ドンマイ! 切り替えましょう!」

 

ゲームメイクを務める竜崎が落ち着かせる為に声を出す。

 

「っ!?」

 

スローワーとなった松永がボールを掴んでエンドラインに立ったその時、目の前に田仲が両手を広げて立っていた。

 

 

『まさか、ここでオールコートディフェンスか!?』

 

自陣に戻らず、それぞれ花月の選手にマンツーマンに付いた誠凛の選手を見て観客達がどよめく。

 

 

「当然! 考える時間なんて与えないわよ。好機と見たらディフェンスでもガンガン行くわよ!」

 

ニヤリと笑みを浮かべるリコ。田仲がタップで押し込んだ後、リコは即座に決断し、ベンチから立ち上がって選手達に指示を出していた。

 

「(オールコートマンツーマン…! だけど、この程度で今更動揺はしない。むしろ、望む所だ!)」

 

即座に頭を切り替えた竜崎が動き出した。それに呼応するように他の選手達も動き出した。

 

「こっちです!」

 

「頼むぞ!」

 

マークを外した竜崎がボールを受ける。

 

「(落ち着いて…、この1本を決める。その為には…ここだ!)」

 

前を向き、パスを出す。パスの先は大地。

 

 

「あーあ、そこじゃねえだろ」

 

呆れ顔で呟く青峰。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

ボールが大地の手に渡ろうとしたその時、横から伸びて来た手にスティールされてしまう。

 

 

「火神がコートにいないこの状況で、花月にとって1番、得点確率が高いのは綾瀬だ。だが、それ故、読まれやすいのだよ」

 

「ここは、綾瀬に頼るにしても、慎重にボールを回すべきだった。生粋のポイントガードではない竜崎()に、浮足立った今の状況でその気配りを要求するのは酷な話ではあるが…」

 

緑間が解説し、赤司がさらに補足した。

 

 

「黒子!」

 

黒子がボールを奪うと、降旗がボールを要求。すかさず降旗にボールを渡した。

 

「フリ、こっちだ! パスパース!」

 

中に走り込む池永が自身を指差しながらボールを要求する。

 

「頼む!」

 

降旗は池永…ではなく、外に展開した朝日奈にパスを出した。

 

「コラァ! こっちだろ!?」

 

「(しょうがないだろ。そこはマークがきついんだから…)」

 

文句を言う池永に対し、胸中で溜息を吐いた降旗。

 

「…よし」

 

「止めたる!」

 

ボールを掴んだのと同時に静かに意気込む朝日奈と構える天野。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを構えて機を窺う朝日奈。腰を落として朝日奈の動きに備える天野。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、仕掛ける朝日奈。

 

「っ!?」

 

天野は抜きされてしまう。

 

「(天野先輩まで!?)…ちぃっ!」

 

天野が抜かれてのを見て、驚きながらも松永がヘルプに出る。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

しかし朝日奈は、それを見計らっていたかのようにボールを弾ませながら空いた田仲にパスを出す。

 

「もらった!」

 

ボールを掴んだ田仲がすぐさまシュート体勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…えっ!?」

 

ボールをリリースした瞬間、横から伸びて来た手にボールが叩かれた。

 

「またてめえかよ!?」

 

ブロックしたのは大地。そんな大地に思わず悪態を吐く池永。

 

「…ふぅ」

 

着地をした大地は一息吐いた。

 

「綾瀬先輩、助かりました!」

 

ルーズボールを拾った竜崎が胸を撫で下ろしながら礼を言う。

 

「落ち着いて下さい。まだ第1Q、慌てる時間ではないですよ」

 

ニコリと笑みを浮かべながら竜崎を諭すように大地が告げる。

 

「誠凛はスローペースで攻めてきています。ですので、無理してハイペースで攻める必要はありません。ゆっくり確実にゲームを組み立てて下さい」

 

「分かりました!」

 

大地の忠告に、竜崎はこれまでのペースで攻めようとした事を反省し、ゆっくりボールを運び始めた。

 

 

「これまでは、浮足立ったりした時は、神城が落ち着かせる役割で、綾瀬はプレーで引っ張る事が多かったが、ここに来て、エースの風格が出て来たか?」

 

竜崎を落ち着かせる大地を見て、高尾は感心する。

 

 

「…相川さん、黒子さんは?」

 

「あの辺りにいたよ!」

 

姫川に尋ねられ、相川がコートの一角を指差す。

 

「(……もしかして)」

 

ここで、姫川の頭の中でこれまでの情報がパズルを組み立てるよう重なり、1つの答えに辿り着いた。

 

 

「これって…」

 

同じく答えに辿り着いた観客席の桃井。

 

「なるほど、これが新たな黒子の技か」

 

同様に答えに辿り着いた緑間が感心するように呟く。

 

「さすが黒子と言った所か。修正し切れなかった欠点(・・・・・・・・・・・)すら、武器に変えてしまうとはね」

 

「? 黒ちんが何をしたか分かったの?」

 

称賛する赤司に、未だ、理解が出来ていない紫原が尋ねる。

 

「さっきも言ったが、黒子は消えるドライブ(バニシングドライブ)や、幻影のシュート(ファントムシュート)と言った、派手な技を覚えたせいで、自らのスタイルを支える最大の長所である、影の薄さを失った。正確には、僅かな光が生まれてしまった、と言った方が正しいか」

 

「…」

 

赤司の解説に耳を傾ける紫原。

 

「その僅かな光を、黒子は自分を律して目立つプレーを控えたり、ミスディレクションのパターンを定期的に変える事でその光を消し、従来の幻の6人目(シックスマン)としてのプレーを行っていたのだが、黒子はその光を敢えて消さずに放った」

 

『…』

 

「忽然と現れた光に、どうしても一瞬、意識がそっちに向けられてしまう。その光を、ボールを受けたプレーヤーが仕掛けるタイミングに合わせてそのプレーヤーが対峙している相手に見せる事によって空白の時間を作り出し、結果、反応が僅かに遅れて抜かれてしまった」

 

「それって、ミスディレクション・オーバーフローだっけ? あれに似てるような気がするけどー」

 

似た現象を引き起こす技を思い出した紫原。

 

ミスディレクション・オーバーフローとは、黒子のミスディレクションの稼働時間が完全に切れた時、自身に視線が集まった事を利用し、特定の味方に消えるドライブ(バニシングドライブ)と同じ効果を与える黒子の最大の切り札。

 

「原理は一緒だ。だが、あくまでも僅かな光で引き付けているに過ぎないから、オーバーフローのように、消えるドライブ《バニシングドライブ》の効果を与えるまでには至らない。せいぜい、一瞬、相手の反応を遅らせる程度の代物だ。だが、問答無用で相手を後手に回らせる事が出来るから、連携を上手く絡めて駆使すれば強力な武器になりえる。何より、オーバーフローと違って、ミスディレクションの稼働時間を切れさせる都合上、試合終盤にしか使えないと言う制約もない上、1度でも使用した相手に2度とミスディレクションが通用しないと言うリスクもない。効果がなくなってもベンチに下げれば再び使えるようにもなる。オーバーフロー程の破壊力を持たない代わりに、リスクを無くし、使い勝手を良くしたのが最大のメリットだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さすが綾瀬君、一筋縄では行かないわね」

 

大地のブロックによって得点には至らず、ぼやくリコ。

 

「去年のインターハイでの敗北、ウィンターカップ東京都予選での敗北。黒子君は誰よりも責任を感じていたわ」

 

昨年の不振。インターハイでは2回戦で洛山に敗北し、ウィンターカップに至っては、出場する事すら叶わなかった。

 

「当初、黒子君は失われた影の薄さを取り戻す術を模索していたわ。けれど、以前のような影の薄さを取り戻すまでには至らなかった」

 

1年時のインターハイの東京都予選、その決勝リーグで桐皇の敗北し、自身のバスケスタイルに限界を感じた黒子は、消えるドライブ(バニシングドライブ)を身に着け、幻影のシュート(ファントムシュート)を習得した。その結果、自身のスタイルを支える影の薄さを手放す事となってしまった。

 

「苦心しても消す事が出来なかった僅か光、黒子君はこれを逆に利用する事にしたのよ」

 

フフンとしたり顔のリコ。

 

「普段は自分から視線を逸らす為に使われるミスディレクション。僅かな時間であれば消す事が出来る光を敢えて見せる事で逆に視線を自身に引き付ける。言うなれば、これは『光のミスディレクション』よ」

 

逸らすのではなく、自身に向ける為のミスディレクション。影ではなく光。

 

「光と影を用いて仲間を援護する。これが黒子君の新しいスタイルよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ゆっくりボールを運んだ竜崎。

 

「竜崎さん!」

 

大地が竜崎に向かって走り、自らボールを貰いに行く。

 

 

――スッ…。

 

 

大地とすれ違う直前に竜崎がボールを差し出すと、大地は受け取り、そのままドリブル。

 

「がっ! スイッチ!」

 

ボールを差し出すと同時にスクリーン役も担った竜崎。そのスクリーンに大地をマークしていた池永が捕まり、引き剥がされる。

 

「…っ!」

 

スクリーンに捕まった池永に代わり、スイッチで大地のディフェンスに入った降旗は、すぐさま距離を詰めて大地にフェイスガードで当たる。

 

「(俺の身長とジャンプ力じゃ、シュート体勢に入られたら止められない、激しく当たらないと!)」

 

身長差を鑑みて激しく当たる選択肢を取った降旗。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし大地は、降旗のフェイスガードを意にも返さないかのようにドライブで抜きさる。

 

「っ!?」

 

その瞬間、大地の持つボールに1本の手が迫り来る。

 

「いいぞフリ! 行け、黒子!」

 

誠凛ベンチから声援を贈る福田の声。

 

自分の実力では大地を止める事は不可能だと考えた降旗は、スリーを阻止するのと同時にわざと黒子のいる方へ抜かせたのだ。

 

「…っ」

 

黒子が手を伸ばし、ボールを狙い打つ。黒子の手がボールに直前…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

レッグスルーで切り返し、黒子の手をかわす。

 

「っ!?」

 

目を見開く黒子。

 

「やはり来ていましたか。切り込んだとの同時に狙われる事を想定して正解でした」

 

黒子のスティールを念頭に置いていた大地。その甲斐もあり、スティールを狙った黒子の手をかわす事が出来た。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

直後にボールを掴んだ大地はジャンプシュートを決めた。

 

 

花月 21

誠凛 19

 

 

「頼りになるエースやで!」

 

「どうも」

 

ハイタッチを交わす天野と大地。

 

「今のしょうがねえ、切り替えろ!」

 

火神がベンチから鼓舞する。

 

「1本、取り返そう!」

 

ボールを受け取った降旗は、落ち着きながらゆっくりとボールを運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も、互いにペースを落とした、ディレイドオフェンスで試合が進む。

 

「焦るな池永、もっとボール回して! 朝日奈と田仲ももっとフォローして!」

 

誠凛は、司令塔であり、コート上の3年生の1人である降旗が指示を飛ばしていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

対して花月は、大地が持ち前の個人技で誠凛ディフェンスを突破する。

 

エースである大地がその力で打開し、誠凛はチームワークで互いに足りない部分を補って戦う。両校共にディレイドオフェンスと言う事で、時間をたっぷり使って攻めた事で、互いに攻撃回数は減ったが、着実にスコアを積み上げた。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

そして、第1Q、最初の10分が終わった。

 

 

第1Q、終了

 

 

花月 25

誠凛 23

 

 

点差は2点。花月のリードで第1Qが終わり、両チーム、ベンチへと戻っていった。

 

「点差は2点。スコアだけ見れば互角か」

 

試合を観戦していた元海常の森山。

 

「ああ。だが、花月は誠凛のペースに付き合わされた形だからな。第2Q、神城がコートに戻れば、どうなるかは分からねえ」

 

第1Qを見て、笠松は予断は許さないと予測。

 

「誠凛も、途中から火神抜きで戦っている。花月は、神城がいないとは言え、絶対的エースである綾瀬がいてこのスコアだ。正直、ホントに予想出来ない展開だな」

 

小堀も笠松と同様、先の予想が出来ない展開と断じた。

 

 

誠凛ベンチ…。

 

「皆、良くやったわ! 早く座って、体力回復に努めなさい」

 

ベンチに戻ってきた選手達を労うリコ。

 

「黒子君、良くやってくれたわ。降旗君も、慣れないコートリーダーをさせてしまったけど、しっかりやれていたわ。グッジョブよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

リコに褒められた降旗は、薄っすら涙を浮かべながら歓喜した。

 

「2人はここで一旦交代よ。けど、試合から気持ちを離しちゃダメよ。火神君、新海君、行くわよ!」

 

「はい!」

 

「待ちくたびれたッスよ」

 

交代を告げられた黒子と降旗。指名を受けたのはスタメン出場していた火神と新海。

 

「ここからが本番よ。黒子君はしばらくベンチに下げなければならないから、少なくとも、第2Qでは出せないわよ。だから心して試合に臨みなさい」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両チームの選手達がコートに戻って来る。

 

 

OUT 黒子 降旗

 

IN  火神 新海

 

 

スタメンに戻した誠凛。

 

「神城、やっぱり出て来たか」

 

コートに足を踏み入れた空を確認した火神。

 

「…あれ?」

 

ここで田仲がある違和感に気付く。

 

 

OUT 生嶋

 

IN  空

 

 

「竜崎が試合に出てる。下がったのは、生嶋?」

 

空の代わりの司令塔として試合に出場した竜崎。しかし、空がコートに戻っても尚、出場しており、代わりに生嶋がベンチに下がっていた。

 

「さて、ここからガンガン行くぜ」

 

ニヤリと笑う空であった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合の4分の1が終わった。

 

花月優勢で試合は始まり、黒子の尽力によって点差と勢いを取り戻し、シュート1本差で第1Qを終えた。

 

スタメンに戻した両チーム。

 

試合は、さらに激化していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





遂に夏も本格化。そしてついでに決勝も本格化してきました(笑)

この二次での時系列のおいて、昨年時は黒子はとにかく活躍出来なかったので、原作主人公の楔から解き放たれ、ラスボスとなった黒子が大暴れです…(;^ω^)

無駄に会話描写が多くて試合描写が少ない相変わらずのクオリティですが、お付き合い頂ければと…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第206Q~成長~


投稿します!

梅雨明けして完全に夏ですねぇ…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第1Q、終了

 

 

花月 25

誠凛 23

 

 

花月ベンチ…。

 

「よしよし、悪くねえ立ち上がりだったぜ」

 

ベンチに戻ってきた選手達を空が立ち上がり、手を叩きながら出迎えた。

 

「って、何やねえそのアイマスクは…」

 

依然としてアイマスクを付けている空に、天野が指を差しながら尋ねる。

 

「ぬくぬく」

 

「そないな事聞いてへんわ!」

 

ツッコむ天野。

 

「バカな事をやってないで座れ。時間は限られているんだぞ」

 

そんな2人のやり取りを、上杉が割って入って終わらせる。選手達がタオルと飲み物を受け取ってベンチに座ると上杉が選手達の前に立つ。

 

「さて、実際に味わったお前達が1番理解しているだろうが、やはり黒子テツヤは一筋縄ではいかないな」

 

攻守において、ミスディレクションを駆使して花月を追い詰めた黒子。

 

「綾瀬と天野先輩がああも容易く抜かれるとはな」

 

第1Q終盤に大地と天野が池永と朝日奈に抜かれた事を思い出した松永。

 

「気ーついたら俺の横抜け取ったわ。そない速い選手な訳やなかったはずやし、どないなっとんねん」

 

その時の事を口にする天野。

 

「そのカラクリの種は既に掴んでいます」

 

ここで姫川が口を挟む。

 

「黒子さんです」

 

「? どういう事?」

 

簡潔に答えを口にした姫川に対し、理解出来なかった生嶋が尋ねる。

 

「綾瀬君と天野先輩が抜かれた時、黒子さんはいずれの時も2人の視界に入る場所にいました」

 

姫川がボードを出しながら説明を始める。

 

「ミスディレクションとは、言うなれば、視線誘導の事。仕掛ける瞬間に視線を自分に向ける事で一瞬、目の前の相手から意識を逸らされてしまう。そのせいで綾瀬君も天野先輩も反応が出来なかったのです」

 

ボードのマグネットを動かしながら姫川が説明をした。

 

「そうか、綾瀬と天野が棒立ちで不自然に抜かれてたのはそのせいだったのか…」

 

為すが儘に抜かれていた2人に違和感を覚えていた菅野が納得するように頷いた。

 

「恐らく、黒子はここらで1度ベンチに下がるだろう。今、考えるのは第2Qからの事だ」

 

上杉が黒子の話題を打ち切り、話を変える。

 

「俺がやります」

 

ここで空が手を上げ、アイマスクを外す。

 

「俺がやるって、手はもう大丈夫なんか?」

 

「痺れは無くなったし、痛みもゼロ。問題なし!」

 

パチン! っと、右拳を左掌に当てて意気込む空。

 

「神城」

 

上杉が空を呼び、右手を開いて前に出す。

 

「打ってみろ」

 

空の右手の具合を確かめる為、右拳を自身の掌に向けて振るうよう促す上杉。

 

「おら!」

 

 

――パチン!!!

 

 

上杉の掌目掛けて空が思いっきり右拳をぶつけた。拳を受けた上杉は自身の掌の感触を確かめ…。

 

「良いだろう。第2Q、頭から出す。…生嶋、交代だ」

 

出場を了承した。

 

「僕ですか?」

 

そこで交代を告げられたのは、空に代わって試合に出場した竜崎ではなく、生嶋だった。

 

「大丈夫だとは思うが、万が一にも右手に異変が起きないとも限らんからな。その事態に備えてボール運びが出来る竜崎を残しておく。後、試合がハイペースだからな。勝負時に備えてここで生嶋を温存させる」

 

「分かりました」

 

交代の意図を聞き、生嶋は頷いた。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

ここで、インターバル終了のブザーが鳴る。

 

「っと、終わってもうた。ここからどないするんや?」

 

ブザーを聞いて天野が慌てて尋ねる。

 

「んなもん、決まってるでしょ」

 

ニヤリと空は笑みを浮かべ…。

 

点の取り合い(殴り合い)ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

OUT 生嶋

 

IN  空

 

 

OUT 黒子 降旗

 

IN  火神 新海

 

 

花月、誠凛の選手達がコートへと戻って来る。

 

「やっぱり黒子さんは引っ込んだか」

 

上杉の予想通り、ベンチに下がった黒子にチラリと視線を向けた空。

 

「…出て来たな」

 

コートへと戻ってきた空を一瞥する新海。

 

「ハッ! 返り討ちにしてやらあ」

 

鼻を鳴らしながら意気込む池永。

 

審判からボールを受け取った竜崎が空にパスを出し、第2Qが始まった。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!!』

 

同時に試合再開を待ち望んでいた観客から大歓声が上がった。

 

「っしゃ、まずは1本、行くか!」

 

ボールを受け取った空は右手を上げ、手を広げてヒラヒラさせる動作をする。すると…。

 

『…えっ?』

 

そこからの花月の選手達の動きに、観客達が戸惑いの声を上げた。

 

「何考えてんだよ!?」

 

池永も戸惑いと怒りを半々にしたような声を上げた。

 

花月の選手達は、空の合図を出すのと同時に、全員が外へと展開したのだ。つまり、今、ツーポイントエリア内に花月の選手は1人もいない。

 

「スペースは充分。中に入れば邪魔も入らねえ」

 

「それは俺を抜く事が大前提だ。させると思うのか?」

 

空の言葉にこの行動の意図を汲み取った新海が眉を顰める。

 

「簡単じゃねえけど、難しくもねえ」

 

「…っ!」

 

その言葉に、新海の表情が歪む。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりボールを突きながら仕掛ける機会を窺う空。

 

「(俺相手ならいつでも抜けると思っているのか、舐めやがって…!)」

 

対して、目の前の新海は腰を落とし、空の仕掛けに備える。

 

「…」

 

空は数度、その場でボールを突き…。

 

「…っ!?」

 

突如、ボールを掴むと、その場でシュートを放った。

 

「(スリー!?)」

 

ドライブを警戒し過ぎた新海は為す術もなくそのスリーを見送り、リングへと振り返った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 28

誠凛 23

 

 

『いきなりスリーキター!!!』

 

 

「せっかく中空けてもらったのに、あまりにスリーが無警戒だったからつい打っちまった」

 

額に手を当て、遠くを見るかのような動作をする空。

 

「…別にいいさ、スリーで逃げられる(・・・・・・・・・)分にはな」

 

「…あっ?」

 

新海の言葉に引っ掛かりを覚えた空。しかし新海は、そう告げてすぐにその場を離れていった。

 

「…」

 

そんな新海を、空は無表情でその背中を追ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛のオフェンス…。

 

「…」

 

ボール運びをするのは新海。

 

 

「あれ? かがみんのマークが綾瀬君に戻ってる」

 

桃井が花月のマークが試合当初と同じになっている事に気付く。

 

「だろうね。飛ばれたら終わりの火神を完全に止めるには、時空神の眼(クロノスアイ)を使う他ないが、あれは目に大きな負担をかける。神城を第2Q開始まで引っ込めたのも、目を休ませる意味もあったのだろう。となれば、神城に付かせ続けるより、綾瀬に戻した方が賢明だ」

 

英断だと断ずる赤司。

 

 

「来いよ」

 

待ち受けるのは空。先程のトラッシュトークの影響か、表情は若干険しい。

 

「…」

 

新海は空が目の前に来ると、右アウトサイドに展開した朝日奈にパスをした。

 

「てめえはパスで逃げんのかよ」

 

お返しとばかりに空も挑発。

 

アウトサイドでボールを受けた朝日奈はすぐさま中へとボールを入れる。

 

「させん!」

 

ボールは、ローポストに展開した田仲に。その田仲の背中に、松永がすぐさま張り付くようにディフェンスに入る。

 

「頼む!」

 

ローポストの田仲は仕掛けず、ボールを掴んですぐさま外へとパスアウト。

 

「ナイスパース!」

 

そこには、右コーナーに走り込んでいた池永がおり、ボールを掴むと同時にスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのスリーはリングの中心を射抜いた。

 

 

花月 28

誠凛 26

 

 

『スリーで返した!』

 

 

「おっしゃ! 今日俺マジ絶好調じゃん!」

 

スリーを決めた池永がガッツポーズで喜びを露にする。

 

「…ちぃ、火神に気を取られてもうた…!」

 

池永のマークを外してしまった天野が頭を抱える。

 

「2本目のスリー、ですか…」

 

大地がボソリと呟く。ここまで、池永はスリー2本を確実に決めている。

 

「気にしなくていいですよ。生粋のシューターじゃねえんだから、いつまでも続かないですよ。そんな事より、取り返しますよ」

 

天野をフォローする空。

 

スローワーの松永からボールを受け取り、空がボールを運ぶ。

 

「(…距離を取って来たな)」

 

空をマークする新海が、距離を取ってディフェンスに入った。

 

「(スリーは悠々に打てるな。決める自信もある)」

 

チームメイトの生嶋や大地程ではなくとも、スリーは打てる空。ここまで警戒が薄いなら高確率で決める事も可能。

 

「…」

 

にもかかわらず、空がスリーを打つ事を躊躇っているのは、先程の新海の言葉。

 

 

――スリーで逃げられる分にはな…。

 

 

挑発である事は空も百も承知。新海の狙いは空にドライブで仕掛けさせる事。多少、頭には来てはいるが、ムキになって仕掛ける程、冷静さは失っていない。

 

「(……いいぜ)」

 

少々考え、そして、決める。

 

「その挑発、乗ってやるよ」

 

悠然と空は前へと進み始めた。

 

「(来た!)」

 

乗り気になった空の気配を感じ取った新海。

 

「(予想通りだ。挑発すれば、去年までの神城なら熱くなって仕掛けてきた。今の神城なら、余程劣勢な状況ではない限り、挑発と分かってても乗って来る)」

 

空のプレースタイルから性格まで調べ上げた新海。元々の実力に差がある今の状況で、パスにスリーまで選択肢に組み込まれると、今の新海ではどうしようもない。だが、選択肢を1つに絞る事が出来れば…。

 

「(このシチュエーションなら、神城がもっとも得意なプレーで来る。スピードの乗った――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(クロスオーバー、ここだ!)」

 

タイミングと進行ルートを計り、仕掛けた空の進路を先回りして塞ぐ。

 

「(読み通り! だが本命はここからだ。次にこいつは、再度クロスオーバーで切り返して来る)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

読み通り、空は右から左へのクロスオーバー直後、今度は左から右へとクロスオーバーで切り返した。

 

「(よし、止め――っ!?)」

 

逆へと切り返した空のボールをカットしようと右手を伸ばした新海だったが、ボールは遠ざかっていく。2つ目のクロスオーバーと同時に加速した空に、新海の追撃は追いつけなかった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに向かって突っ込んだ空は右手で掴んだボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 30

誠凛 26

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

豪快な空のダンクに会場が沸き上がる。

 

「新海も悪いプレーヤーではない。むしろ、全国で見てもかなりの実力者だ」

 

新海をそう評価した緑間。

 

「だが、赤司や青峰でさえも神城相手にやられている。トラッシュトークを用いて選択肢をドリブルに絞らせたようだが、それでも今の神城相手に、1ON1で新海が止める事は難しいだろう」

 

その上で、空と新海の力の差に大きな開きがあると断ずる。

 

 

「俺の動き、良く研究してきたみたいだが、読まれた程度で止められる程、甘くはねえぜ」

 

「…っ!?」

 

すれ違い様に呟いた空の方に思わず振り返る新海。空はそのままディフェンスへと戻っていった。

 

「…っ」

 

悔しさのあまり、思わず拳をきつく握りしめる新海。

 

かつて戦った時は眼中にもなかった空と大地。試合中に才能の片鱗を覚醒した空と大地を止める事が出来ず、全中制覇を逃した。その後、紆余曲折あって誠凛高校に進学しても、その敗北を忘れず、弛まぬ努力で自身を磨き上げ、来たる対戦に備え、2人に対し、研究に研究を重ねた。しかし、それでも届かず…それどころか、差は開いていた。

 

「(才能の差か…)」

 

胸中で自嘲気味に呟く新海。努力の先でぶつかる才能という壁。持たざる者にとって、超える事が出来ない最大の壁。

 

「下がるか?」

 

その時、火神が新海に対し、頭に手を乗せながら声を掛ける。

 

「心が折れちまったなら、フリと交代しても構わねえぞ」

 

「……冗談でしょう」

 

火神の言葉に、新海は自嘲気味に返事をする。

 

「これでも俺は帝光中出身です。大きな才能なんてものは、キセキの世代(先輩達)を見ていますから良く知っています。この程度で折れるくらいなら、そもそも中学でバスケを辞めてます」

 

声を掛けた火神の方へ振り返り、確かな口調で喋りながら断固たる決意に満ちた視線を向ける。

 

「…正直な話、お前と神城とでは、大きな力の差がある」

 

「…」

 

「だが、俺は全てにおいてお前が神城に劣っているとは思ってねえ」

 

そう言って、視線を前へと向ける火神。

 

「例え神城に敵わなくても、お前には誠凛を勝たせる力を持ってる。だから監督はお前をスタメンにしたんだろうし、フリもお前にスタメンを譲った」

 

「火神さん…」

 

「今、この時が、バスケ人生で培ったものを見せる時だ。ぶつけてやれ、お前の全てをな」

 

「はい!」

 

かけられた火神の発破の言葉に、新海は力強く答えたのだった。

 

「新海」

 

後方から田仲が声を掛け、パスを出す。

 

「ボール運び、頼むよ」

 

田仲がそう声を掛けた。

 

「…よし!」

 

ボールを受け取った新海は、気合いを入れ直し、フロントコートへとボールを運んだ。

 

「朝日奈!」

 

右45度付近の展開した朝日奈にパスを出し、同時に右コーナーへと走って移動をする。

 

「…」

 

朝日奈にボールが渡ると、ローポストで松永を背負う形で田仲が陣取る。その田仲にパスを出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ローポストで田仲がボールを掴むと、ポストアップで押し込み始める。

 

「フン…!」

 

腰を落とし、歯を食い縛ってポストアップに耐える松永。

 

「田仲!」

 

コーナーへと走った新海が田仲目掛けて走り、直接ボールを受け取りに行く。田仲がボールを掴み、差し出すと、すれ違い様に新海がボールを受け取る…。

 

「…っ」

 

と、見せて、田仲は新海とすれ違う瞬間に差し出したボールを引っ込め、ゴール下へとターンし、シュート体勢に入る。

 

「ちぃっ!」

 

新海の動きに釣られ、僅かに反応が遅れた松永だったが、即座に対応、ブロックに飛ぶ。

 

「マツ、フェイクや!」

 

天野が咄嗟に指示を飛ばすが既に遅く…。

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ松永。田仲はボールを頭上に掲げただけで飛んではいなかった。

 

 

――バス!!!

 

 

松永が飛んだのを確認した後、改めて飛び、ゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 30

誠凛 28

 

 

「ナイッシュー、田仲」

 

「新海も、助かったよ」

 

ハイタッチを交わす2人。

 

 

「ほう…」

 

一連のプレーを観客席で見ていた元陽泉の岡村が感心するような声を上げた。

 

「どうかしたか?」

 

横の席に座る同じく元陽泉の福井が反応をした岡村に尋ねる。

 

「あの誠凛の12番、なかなか良い選手じゃのう」

 

「そうなのか? お前や劉、それこそ紫原を見て来た俺からすると、地味な選手にしか見えねえけどな」

 

「確かに派手さはない。じゃが、ここまで基本に忠実で教科書通りのプレーが良く見られる。インサイドのプレーのお手本のようなプレーじゃ」

 

「へぇ…」

 

インサイドプレーヤーとしては指折りの選手である岡村にそこまでの評価をさせた田仲に興味を示した福井。

 

 

「だがよ、身体能力は大した事ねえ。ゴール下で戦って行くには少々物足りねえ気もするけどな」

 

辛口な評価をする元桐皇の若松。

 

「確かに一理あるのう。インサイドプレーヤーとしては若松とは対照的やな」

 

頷く元桐皇の現桐皇の今吉誠二の従兄の今吉翔一。

 

「けどな、一概に馬鹿にも出来ひんで。NBAには、派手なテクニックやムーブやのうて、基本に忠実なプレーを貫いて最強の一角に数えられる程の選手にまでなった選手がおるからのう」

 

「ビッグファンダメンタルか」

 

例を挙げた今吉の言葉に反応する元桐皇の諏佐。

 

「状況にもよるが、司令塔やっとる身から言わせてもらうと、ああいうインサイドプレーヤーの方が安定感があるからゲームの組み立てがしやすいからありがたいで。スペック頼りの奴は、それが通じんようになると途端に置物になる奴も多いからのう」

 

「…後半の、遠回しに俺の事言ってます?」

 

思い当たる節があった若松が苦い表情しながら尋ねた。

 

 

「スゲー、田仲の奴、高校の全国の決勝で活躍してるよ…!」

 

中学時代のチームメイトである森崎。かつての仲間が高校の頂点をかけた試合で活躍している姿を見て、目に涙を浮かべながら感動する。

 

「思い返せば、俺達が全中優勝出来たのは、神城と綾瀬の力が大きいけど、その2人を説得してチームに復帰させて、チームを纏めてたのもあいつなんだよな」

 

星南中時代の事を思い出す駒込。

 

「龍川監督も、田仲がいなかったら全中優勝は出来なかったって言ってたし、俺もそう思うよ」

 

「…正直、複雑だな。花月と誠凛、どっちにも負けてほしくないけど」

 

かつて、共に戦い、頂点を掴んだチームメイトが今では頂点をかけてぶつかり合っている。

 

「応援しようぜ。どっちも」

 

一方だけを応援する事に躊躇いを感じる森崎に、駒込がそう提案する。

 

「どっちも勝つように応援する。そうしようぜ」

 

「…そうだな!」

 

この言葉に、森崎は花月と誠凛の両チームを応援をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

空がボールを運び、新海が目の前にやってきた所で足を止める。

 

「(…チラッ)」

 

ここで空が外に展開した竜崎に視線を向ける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時に空が中へとカットイン。

 

「…くそっ!」

 

空が入れた視線のフェイクに僅かに釣られてしまった新海は反応が遅れ、抜かれてしまう。そのままゴール下まで切り込み、リングに向かって飛ぶ。

 

「させるか!」

 

ここで田仲がヘルプに現れ、ブロックに現れた。

 

「さっすが、かつてのチームメイトだけに対応はえーな」

 

田仲が現れたのと同時にボールを下げる。

 

「(分かってる。神城なら俺のヘルプにも反応するって事は…!)」

 

空を良く知る田仲。自分のヘルプに反応されても驚かない。

 

「(この体勢ならパスに切り替えてくる。パスの先は……竜崎だ!)」

 

左アウトサイドのコーナー付近に展開していた竜崎へのパスと読んだ田仲が右手を伸ばしてパスコースを塞ぎにいく。読み通り、空はビハインドパスで竜崎のいる左アウトサイドへとパスを出した。

 

「(やった、読み通り――なっ!?)」

 

 

――バチィン!!!

 

 

竜崎のいる左アウトサイドへと飛んでいくと思われたボールが右へと飛んでいった。

 

「よし!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを掴んだ松永がボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 32

誠凛 28

 

 

『ダンクキタァァァァァ!!!』

 

『つうかその前のパススゲー!!!』

 

沸き上がる会場。

 

 

「ナイスパス」

 

「当然」

 

ハイタッチを交わす空と松永。

 

「エルボーパスか…!」

 

左方向へと出されたパスが逆方向に飛んでいったからくりを理解した田仲。空はビハインドパスを出すと同時に左肘を後方に突き出してボールを当て、パスの方向を変えたのだ。

 

「…ふぅ」

 

一息吐いて気持ちを落ち着かせる田仲。

 

悔しさはあるが、驚きはない。田仲もまた、空の事を良く知る1人であるからだ。

 

「取り返そう!」

 

ボールを拾った田仲がスローワーとなり、チームを鼓舞しながらパスを出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ新海。

 

「池永!」

 

「っしゃ!」

 

右ウィング付近に立った池永にパスを出し、自らは右コーナーへと向かって走る。

 

「こっち!」

 

ローポストに陣取った田仲がボールを要求。

 

「おらよ!」

 

池永はパスを出す。

 

「…あっ!?」

 

思わず声を上げたのは竜崎。池永は田仲にではなく、外へと朝日奈にパスを出したのだ。竜崎は火神のスクリーンに捕まり、後を追えなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

オープンの位置でフリーでボールを受け取った朝日奈がスリーを放ち、沈めた。

 

 

花月 32

誠凛 31

 

 

「お前にしては良いパスだな」

 

「うるせーよ」

 

軽口を叩きながらディフェンスに戻る朝日奈と池永。

 

「すいません!」

 

マークを外してしまった竜崎が謝る。

 

「いや、あれは声掛けしなかった俺達の責任だ」

 

そんな竜崎を空が窘める。

 

「今のオフェンスの動きで確信しました」

 

「ああ、トライアングルオフェンスだ」

 

大地が何かに気付き、空が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あの自己中だった池永がパス出してるぜ」

 

「さっきはスクリーンかけて汚れ役もこなしてたし、あいつも成長したみたいだな」

 

池永の変化に驚く日向と伊月。

 

「良いチームじゃないか。日向達が心配してから俺も気になってたけど、杞憂だったんじゃないか?」

 

かつての主力だった代が抜け、残った誠凛を誰よりも心配していた日向とそれを聞いていた木吉。2年前に自分達がウィンターカップを制した時と同じかそれ以上に立派に戦う後輩達を見て、胸を撫で下ろしていた。

 

「新海は伊月より基本スペックは優れているが、伊月のような目は持ってない。このトライアングルオフェンスは合っているかもな」

 

現在の誠凛のオフェンスを、日向は称賛したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おーおー、池永(あのバカ)も変わったもんだな」

 

観客席の元帝光中の新海・池永と同じ世代である沼津が池永を見て感心しながら頷く。

 

「あいつ、昔のあいつの姿に戻ったみたいだな」

 

「あれ、河野って、池永と付き合い長いっけ?」

 

河野の感想に、水内が尋ねる。

 

「俺が所属していたミニバスのチームと、池永(あいつ)が所属していたミニバスのチームは結構近くてな。試合する機会は多かったんだ。当時のあいつは、今日みたいにパスもフォローもやっていた。…どうしてあんな自己中の塊のような奴になったのやら…」

 

「確実にキセキの世代(先輩達)の影響だろうな。…ま、俺達が言えた義理じゃねえけど」

 

河野の疑問に、沼津がケラケラ笑いながら答える。

 

「新海も、帝光中時代は、あんな感情を表に出す奴じゃなかったし、変わったよな」

 

水内は、帝光中時代の新海を思い出す。

 

「俺達5人の中じゃ、あの2人は1歩抜きん出てたからな」

 

「だな。…もっとも、当時の俺だったら認められなかっただろうけどな」

 

「これが、続けた(・・・)者と、辞めた《・・・》者の差、なのかもしれないな」

 

中学最後の全中の後、帝光中内でのいざこざによってバスケに愛想が尽き、辞めてしまった沼津、水内、河野の3人。今の2人の姿を見て、込み上げるものがあった。

 

「また始めっかな」

 

「それも悪くなさそうだ」

 

「ま、今は、あいつらの応援でもしてやるか」

 

3人はかつてのチームメイトの応援を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

続く花月のオフェンス。空のパスから大地がきっちり決める。代わって誠凛のオフェンス…。

 

「頼む!」

 

トライアングルオフェンスで攻め立てる誠凛。

 

「しっかりマークしろ! 声掛け忘れんな!」

 

空が檄を飛ばしながらディフェンスをする。

 

『…』

 

誠凛の選手達が連動して動き、得点のチャンスを窺う。

 

 

――ピッ!!!

 

 

田仲からパスが出される。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、花月の選手達の目が見開かれる。ボール、外から中へと走り込んだ火神の手に渡ったのだ。

 

「ここでかいな!」

 

1番近くにいた天野が火神に向かってヘルプディフェンスに行く。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

ジャンプシュートをした火神と、それをブロックした天野が空中で交錯する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に笛が鳴る。

 

「…らぁっ!」

 

一瞬、崩れた体勢を空中で瞬時に立て直した火神はリングに向かってボールを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放ったボールはリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、プッシング、天野(赤7番)、バスケットカウントワンスロー!』

 

「っ!?」

 

天野のファールがコールされた。

 

「っとと、何とか決まったか」

 

バランスを取りながら着地した火神。

 

「フリースロー、決めりゃ同点だぜ」

 

ニカッと笑う火神。

 

「面白れぇ…!」

 

「一筋縄では行きませんね…!」

 

そんな火神を見て、空と大地も笑うのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





一応、この二次は空と大地のダブル主人公なんですが、最近は空ばかり目立って大地の影が薄くなった気がする…(>_<)

試合描写を少しでも厚くする為に片っ端からバスケの試合や動画を見まくっていますが、今度はバスケを知れば知るほど難しくなると言うジレンマorz

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第207Q~負けず嫌い~


投稿します!

久しぶりに結構空いてしまいました…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

花月と誠凛、共に1歩も退かずにぶつかり合う。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

天野と接触しながらも得点を決め、フリースローをもぎ取った火神が落ち着いてフリースローを決める。

 

 

第2Q、残り7分49秒

 

 

花月 34

誠凛 34

 

 

『3点プレーを成功させた!』

 

『遂に追い付いたぞ!』

 

 

「火神、かなり鍛え込んだみたいだな」

 

決してフィジカルは弱くはない天野と空中で接触しながらも即座にバランスを立て直し、得点を決めた火神を評価する緑間。

 

「フィジカルもそうだが、特に体幹の強さが依然とは段違いだ。恐らく、今の火神は、紫原とぶつかり合っても当たり負けしないだろう」

 

キセキの世代において、1番のフィジカルの持ち主であろう紫原を引き合いに出した赤司。

 

「…」

 

僅かに赤司に一瞥をくれた紫原だったが、反論はしなかった。

 

「誠凛は、かがみん任せじゃなくて、チーム全員で点を取りにいってるね」

 

トライアングルオフェンスでボールを回し、得点を散らしている誠凛。

 

「火神1人におんぶに抱っこのチームだったら、決勝までこれてねえだろうし、夏も優勝出来なかっただろうよ」

 

桃井の指摘に、青峰がそう返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よし!」

 

ベンチに座るリコが拳を握りながら喜びを露にする。

 

「一昨年のウィンターカップ終了後に鉄平が抜けて、去年の冬には日向君達、2年生が抜けた」

 

誠凛は、火神や黒子が注目されがちだが、チームを支え、一昨年のウィンターカップを制する事が出来たのは、1学年上の先輩達の活躍を大きい。

 

「日向君の世代が抜ければ、唯一のスタメンで、キセキの世代と同格の火神君頼りになるのは明白。だけど、それでは、全国どころか、東京都大会さえ、勝ち抜く事すら困難」

 

東京都には、キセキの世代を擁する秀徳や桐皇を始め、かつては東京の三大王者と呼ばれていた正邦や泉真館など、他にも全国レベルのチームが多く存在する。

 

「火神君を孤立させない為に用意したのがこのトライアングルオフェンスよ。今年を想定して去年の内から準備していたんだから、付け焼き刃じゃないわよ」

 

フフンと笑みを浮かべるリコ。

 

「日向君や鉄平のような強力な武器はなくとも、不得意分野のない2年生達に、脇を固められる3年生達もいる。簡単には行かせないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス、空がボールを運ぶ。

 

「…」

 

フロントコートまでボールを運んだ空。

 

「キャプテン!」

 

左ウィングの位置に立つ竜崎がボールを要求。すかさず空が竜崎にパスを出す。

 

「…っし!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを掴むのと同時に中に切り込む竜崎。

 

「っ!?」

 

追いかけようとした朝日奈だったが、天野のスクリーンに阻まれる。

 

「打たせない!」

 

田仲がヘルプに飛び出す。ボールを掴んだ竜崎がそのまま飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

「…っ!?」

 

リングから離れた位置でボールを掴んで飛んだ竜崎は、レイアップの体勢で田仲のブロックの上を越えるようにボールを放った。

 

「(よし!)」

 

竜崎の十八番のスクープショット。高さもコースも完璧に決まり、胸中で決まるのを確信する竜崎。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…えっ?」

 

その時、田仲の後ろから1本の手が現れ、ボールが叩かれた。

 

「決めさせねえぞ!」

 

ブロックしたのは火神だった。

 

「(あのボールを!? 何て高さだ!)」

 

190㎝を超える田仲のブロックの上に放ったボール。そのボールを悠々とブロックしてしまった火神に驚きを隠せない竜崎。

 

「オーライ!」

 

火神がブロックしたボールはバックボードに当たり、池永のいる方向へと飛んでいった。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…あっ!? …野郎!」

 

ボールを確保しようとした池永だったが、思わず声を上げる。

 

「いただくぜ」

 

池永より先に、空がボールを掴み取ったのだ。

 

「おら!」

 

ボールを掴み取った空はそのままリングに向かって飛んだ。

 

「させっかよ!」

 

先程ブロックした火神が着地と同時に再度ブロックに飛び、空とリングの間に割り込む。

 

 

『もうブロックに!?』

 

即座に反応し、空のシュートコースを塞いだ火神に驚きの声を上げる観客達。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、空は動じる事無くボールを下げ、ボールを持った手を回すようにして火神の背中越しにパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールは松永の手に渡り、落ち着いてゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 36

誠凛 34

 

 

「…ちっ」

 

ブロックには間に合ったものの、パスに切り替えられ、舌打ちをする火神。

 

「わりーな、こっちは紫原さんや黄瀬さんとやり合ってんだ。今更その程度じゃ驚かねえぜ」

 

ドヤ顔で空が火神に向けて告げる。

 

「…新海、次も俺にボールくれ」

 

ディフェンスに戻る空の背を見つめながら火神が新海に要求した。

 

 

新海がボールを運ぶと、要求通り、火神にボールを渡す。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを持った火神と対峙するのは大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ジャブステップを踏み、ボールを小刻みに動かしながら牽制した後、火神が仕掛ける。仕掛けた火神を追いかける大地だったが…。

 

「…っ」

 

スクリーンをかけた田仲がおり、即座に反応してスクリーンをかわすが、その隙に火神に引き離されてしまう。

 

「させん!」

 

リングへと突っ込む火神に対し、松永がヘルプに飛び出す。

 

 

――ドン!!!

 

 

「ぐっ!」

 

空中で火神と松永が接触し、松永が吹き飛ばされる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に審判が笛を吹く。

 

 

――バス!!!

 

 

火神はレイアップでボールをバックボードに当てながらボールをリングに潜らせる。

 

『ディフェンス、プッシング松永(赤8番)、バスケットカウントワンスロー!』

 

笛を口から放した審判がそうコールした。

 

 

『うおー! またバスカンだ!!!』

 

先程に続いて、ボーナススローを獲得し、歓声が上がる。

 

 

「…くっ」

 

思わず苦悶の声を上げる松永。

 

今のはファールは覚悟で身体で止めに行った松永。だが、止める所か吹き飛ばされ、フリースローを与えてしまった。

 

 

「すげ…、あいつ、あんな当たり強かったか?」

 

今のプレーを見て驚きの声を上げる福井。

 

「ワシらがやり合った時は火神(あ奴)はまだ1年。素質はあってもまだ成長し切ってなかった」

 

「…」

 

「あれから2年も経ったんじゃ。成長期も相まって身体も充分に出来上がった。今の火神相手では、そこらのインサイドプレーヤーとのぶつかり合いでは負ける事はないじゃろう」

 

岡村がそう分析した。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

火神はフリースローを決め、再び3点プレーを完成させる。

 

 

花月 36

誠凛 37

 

 

「アカンのう、火神のフィジカルは半端ないわ。迂闊にブロック行ったらみすみすバスカンプレゼントするようなもんやで」

 

松永同様、先程火神を止めようとしてフリースローを与えてしまった天野が顔を顰める。

 

「紫原さんとやり合った時にも思ったが、シンプルに圧倒的なフィジカル押してくる相手ってのは、面倒極まりねえな」

 

大地の下へ歩み寄った空が話しかける。

 

「…」

 

対して大地は返事をせず、火神の方へ視線を向けている。

 

「…大地」

 

そんな大地に空は肩に手を乗せながら呼びかける。

 

「…あっ、えっ、空?」

 

ここで初めて大地は空に話しかけられた事に気付く。

 

「ボールを回す。任せるぜ」

 

そう告げ、肩から手を放し、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…空坊」

 

ゆっくりボールを運ぶ空に、天野が声を掛ける。

 

「綾瀬で行くんか?」

 

「当然」

 

天野の問いに、空は即答する。

 

「大丈夫なんか? さっきも最後の方、危なかったやんけ」

 

大地にボールを回すと言う事は、当然、火神とのエース対決をする事となる。第1Qでもぶつかった両者だが、その時は火神に均衡が傾く前に空が介入した事でうやむやになったが…。

 

「大丈夫。ようやくスイッチが入ったみたいだし」

 

ニヤリと笑う空。

 

「あいつは俺と同じくらい負けず嫌いですからね。ある程度やられないとスイッチが入らないんですよ。…ようやくスイッチも入ったようだし、ここからの大地は見物ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運んだ空。

 

「行け!」

 

すぐさま大地にパスを出した。

 

「そう来なくちゃな。第2Rと行こうぜ」

 

大地の前に立ち塞がった火神がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「…」

 

ボールを掴んだ大地は表情を変えず、ジャブステップを踏み、ボールを大きく動かしながら隙を窺う。

 

「(3年前のあの日、私は空と共にキセキの世代を倒す誓いをした…)」

 

3年前の全中大会、空と大地は始めてキセキの世代のプレーを目の当たりにした。キセキの世代の才能に圧倒されながらも、2人は彼らの打倒を誓い、高校でそれを果たした。

 

「(空は真っ向からキセキの世代に立ち向かい、あの赤司さんに勝った。では、私はどうだっただろうか…)」

 

基本的に、キセキの世代とは大地がマッチアップする事が多かった。空同様、真っ向から戦って見せた。去年の冬に青峰を擁する桐皇に、今年の夏には赤司を擁する洛山に負けたが、去年の冬には緑間擁する秀徳を、今年の夏には紫原を擁する陽泉、黄瀬を擁する海常に勝ち、今大会で、桐皇と洛山にリベンジを果たした。

 

「(ですが私は、キセキの世代(彼ら)には勝てなかった…!)」

 

チームでは勝利を飾ったが、個人では負けたと断ずる大地。

 

「(空はチームの司令塔として、主将として花月を率い、戦い勝った。ですが私は、花月のエースを託されたはずの私は、その任を全う出来なかった…!)」

 

敗北とは断言出来ずとも、決して勝てたとは言えない大地とキセキの世代の対決。ここ1番で空の助けがあり、それで何とか勝てた。だが、自分1人では試合にもキセキの世代にも勝てなかった。その事が、大地を苦しめていた。

 

「(だから今日は…、今日こそは…! チームのエースとして、キセキの世代を破った火神さんを倒します!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地がドライブを仕掛け、カットイン。

 

「…っ!」

 

これに火神も反応、ピタリと遅れずに大地を追いかける。

 

 

――ダムッ…。

 

 

直後に重心を落とした大地はビハインドバックで切り返し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

再度、ビハインドバックで逆に切り返した。

 

 

「ダブルビハインド・ザ・バック…いや、シェイク&ベイクか!?」

 

観客席の元秀徳、宮地清志が声を上げる。

 

 

「野郎…!」

 

一瞬、不意を突かれるも、火神は即座に対応する。

 

 

――スッ…。

 

 

シェイク&ベイクと同時に大地はボールを掴み、ステップバックで斜め後方へとステップし、ステップした足でそのまま後方へと飛びながらシュート体勢に入った。

 

「…っ!」

 

即座にブロックに飛んだ火神。しかし、大地がボールをリリースしたのが僅かに速く、間に合わず。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはそのままリングを潜り抜けた。

 

 

花月 38

誠凛 37

 

 

『何だ今の!?』

 

『スゲー速さで切り返しながら決めやがった!!!』

 

大地のプレーに観客が大興奮のあまり、一部立ち上がる。

 

 

「(こいつ、さっきよりスピードとキレが増しやがった!)」

 

第1Qでのぶつかり合いで、常軌を逸した緩急に苦しみながらも徐々に対応していった火神。しかし、大地のプレーはここに来てさっきより増していた。

 

 

「前に花月の試合見とった時にも思うたが、大地(あいつ)、桜井によう似とるな」

 

「えぇっ!?」

 

薄く笑みを浮かべながら今吉(翔)が言うと、それを聞いていた桜井が驚きの声を上げる。

 

「…言われて見れば、去年にやり合った時と違って、桜井と同じ、クイックリリースのスリーを良く打つようにはなったな」

 

若松が今吉(翔)の言葉に頷く。

 

「ちゃうちゃう。そっちやない」

 

今吉(翔)が手をヒラヒラさせる。

 

「負けず嫌いの方や」

 

改めてそう言い直した。

 

桐皇の特攻隊長と目された桜井良の特徴は、クイックリリースで放つスリーと、相手が強ければ強い程、スリーの精度が上がっていく事。

 

 

「ようやく調子出て来たな」

 

大地の得点を見て満足そうに頷く空。

 

「普段、練習であいつと1ON1すると、最初は結構勝たせてくれっけど、あいつの負けが込むと、途端に勝てなくなるんだよな」

 

花月では、もはや日常風景の1つなっている空と大地の1ON1。序盤は空が優勢。中盤に差し掛かると大地が盛り返す。終盤は空に火が付く為、結果はいつも引き分け、あるいはどちらかが僅差で勝って終わる。

 

「こうなった大地(あいつ)は、キセキの世代でも止めんのはキツイぜ。どうする火神さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛のオフェンス…。

 

「頼みます!」

 

ボールを運んだ新海はすかさず火神にパスを出した。

 

「驚いたぜ、ようやくエンジン全開って所か?」

 

ボールを掴んだ火神が目の前の大地に話しかける。

 

「お前と言い、神城と言い、スゲー奴ってのは次から次へと出てくるもんだな」

 

「恐れ入ります」

 

「ハハッ! 俄然やる気が出て来たぜ。やっぱり、バスケはこうでなくちゃな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

不敵な笑みを浮かべた火神が一気に仕掛ける。

 

「…っ!」

 

火神が仕掛けたのと同時に大地も動く。バック走行で一定の距離を保ちながら火神を追いかける。

 

「(っ!? 俺と対峙したままでドライブに付いて来るのか!?)」

 

最速で仕掛けた火神のドライブ。常に自分と向き合った状態で対峙し続ける大地に驚く火神。

 

「(…やべっ、中途半端な位置でボールを止めちまった…!)」

 

大地を振り切れていない状態で、フリースローライン付近でボールを掴んでしまった火神。

 

「ちっ!」

 

仕方なく、火神は即座にフェイダウェイで後ろに飛びながらシュート体勢に入る。

 

「…っ」

 

これを見て、大地がすぐさまブロックに飛ぶ。しかし、大地が届くよりも速く火神がボールをリリース。

 

「(リズムもバランスも悪い、これは…!)」

 

ブロックには間に合わなかったものの、手応えは感じた大地がリングに振り返る。

 

 

――ガン!!!

 

 

予測通り、ボールはリングに弾かれる。だが…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

何度かリングを跳ねた後、ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 38

誠凛 39

 

 

「…ふぅ」

 

シュートが決まり、ホッと一息吐く火神。

 

「…」

 

「ハッハッハッ! そう悔しがるな。ありゃ半分マグレだぜ」

 

表情には出さないが、大地の心情を感じ取った空が声を掛ける。

 

「ガンガン行け。仮にダメでも俺が後で取り返すからよ」

 

そう言って大地の肩を叩く空。

 

「…ありがたい申し出ですが、あなたの手は煩わせませんよ」

 

空の言葉に苦笑する大地。その後、表情を改めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

花月のオフェンス。早々に大地にパスを出した空。大地がボールを掴むと、火神が距離を詰め、べったり張り付くようにディフェンスを始めた。

 

 

『スゲーディフェンス!』

 

『プレッシャー半端ねえ!?』

 

火神から放たれる圧力や気迫が見ている観客に伝わる。

 

 

「…っ」

 

バチバチとぶつかり合わんとばかりの火神のディフェンスに、大地の表情が歪む。

 

「(こいつはなまじ距離を取ると、スリーやバックステップでやりたい放題やられちまう。だったら、何もさせないつもりでフェイスガードで止める!)」

 

尚もべったりと張り付いてディフェンスをする火神。

 

 

「なるほど…」

 

「これも綾瀬を止めるには有効な選択肢の1つだ」

 

青峰、緑間が火神の選択に頷く。

 

 

「(アカンか…!)」

 

苦戦する大地を見かねて、天野がフォローに動こうとする。

 

「っ!?」

 

しかし、1歩踏み出した所で天野が足を止める。空が天野に向けて手で制したからだ。

 

「(まだ点差が付いた訳じゃないし、野暮な真似はやめましょう)」

 

「(どうなっても知らんで!)」

 

空の表情から何を言いたいかを悟った天野は胸中で悪態を吐きながら従った。

 

「…」

 

激しくプレッシャーをかける火神に対し、ボールをキープする大地。

 

 

『もうすぐ5秒だぞ!』

 

『ダメか!?』

 

 

「…っ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールをキープしていた大地。一瞬の隙を突いて火神の背後へと抜けた。

 

 

「抜いた!?」

 

「…いや」

 

声を上げた桃井。しかし、青峰が否定する。

 

 

「(想定済みだ!)」

 

背後に抜けた大地を追う火神。

 

「(下手に並走すれば、バックステップで振り切られるだけだ。だったら、シュート体勢に入った瞬間に、大地(こいつ)の背後からボールを引っ叩く!)」

 

大地のバックステップに対抗するより、スリーを封じ、すぐ後ろを追いかける事でバックステップも封じ、背後からのブロックを狙う選択をした火神。

 

「(さあ、来てみろ!)」

 

ブロックをするべく、大地がシュート体勢に入るのを待ち構える火神。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

「(…なっ!?)」

 

しかし、大地はシュートを打たず、フリースローラインを越えた所で急ブレーキをかけた。接触を避けるべく、火神も急ブレーキをかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

その後、大地は急ブレーキをかけた火神と自身が触れた瞬間、再発進した。

 

「ちぃっ!」

 

ブロックのタイミングをずらされ、思わず舌打ちをする火神。

 

 

――バス!!!

 

 

火神を振り切った大地はそのままレイアップを決めた。

 

 

花月 40

誠凛 39

 

 

「上手い。アメリカだと、抜いてもシュートを打つ頃にはブロックされる。こんな事はざらだ。ただリングに突っ込むのではなく、緩急を付けてブロックのタイミングをズラすのが正解だ」

 

大地のプレーに称賛の言葉を贈る三杉。

 

「再びリードです」

 

「…そうでなくちゃな!」

 

大地の言葉に、火神は笑ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ネタ探しの中、原作を読み返したりアニメを見返している中で、1つ疑問に思ったのが、全中3年目の決勝で、赤司が黒子と1度は交わした、本気で戦うと言う約束を何で反故にしたか。赤司は、他の試合では何も言わなかったのに、自分の友達がいる相手の時だけそれを言うのは筋が通らない的な事を言ってましたが、少し首を傾げるんですよね。例えばこれが、明洸が可哀想だから手加減してやってくれって事なら分かるんですが、黒子の願いはあくまでも真面目に試合してくれって事ですから、別にいい加減な頼みではないですからね。赤司がその気になれば当時のキセキの世代達に、力の差があり過ぎるから本気は無理でも、真面目に試合させる事は難しくありません。緑間は言われなくても真面目にやるし、紫原は赤司の言う事には逆らわないし、青峰は、黒子の頼みだと言えばまあ、ある程度真面目に試合はやるでしょう。唯一、黄瀬が怪しいですが、他の4人が表面上、真面目に試合してるのに1人足並みを乱す事も多分しないでしょう。では、何で赤司は黒子の約束を反故にしたか、自分には2つの仮説があるのですが、この後書きで書くと、メチャメチャ長くなるので、近いうちに活動報告に書くと思うので、もしよろしければお立ち寄りください…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第208Q~目覚め~


投稿します!

先週に投稿するつもりが、WBCに熱中した為、投稿出来ず…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第2Q、残り5分48秒

 

 

花月 40

誠凛 39

 

 

第2Qに入り、再び始まった両チームのエース対決。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながら仕掛ける機会を窺う火神。

 

「…」

 

そんな火神の前に立ち塞がる大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

仕掛ける火神。レッグスルーでボールを右から左へと切り返す。

 

「…っ!」

 

同時に大地も火神の動きに合わせてスライドするように追いかける。

 

 

――スッ…。

 

 

直後にボールを掴んだ火神はターンで右へと反転し、シュート体勢に入る。

 

「…っ」

 

これを見て大地がブロックに飛ぶ。

 

「(私のジャンプ力ではブロックは出来ない。ならば!)」

 

「っ!?」

 

シュート体勢に入った火神の目が見開かれる。大地が手をボールではなく、火神の顔の前に翳し、視界を塞いだからだ。

 

「上手い、これなら…!」

 

咄嗟の大地の機転に歓喜の声を上げるベンチの生嶋。

 

「っ!?」

 

しかし、今度は大地の表情が驚愕に染まる。火神はジャンプシュートを放たず、リリース直前のまま、停止する。やがて、大地が先に落下を始める。

 

「(見えた!)」

 

再びリングを視界で捉え、改めてボールをリリースする。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 40

誠凛 41

 

 

『出た! 火神のスーパージャンプ!!!』

 

『マジでいつまで飛んでんだよ!?』

 

常軌を逸した火神の跳躍力にどよめく観客。

 

 

「…っ」

 

「ドンマイ、あれはどうしようもねえ」

 

静かに悔しがる大地を励ます空。

 

「やり返すか?」

 

「ええ、可能であればボールを下さい」

 

「あいよ」

 

そんなやり取りを交わす2人。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールをフロントコートまで運んだ空が大地へとパスを出す。

 

「いいね、やる気出してくれて嬉しいぜ。…来い」

 

やり返す気配を感じ取った火神はニヤリを笑い、ディフェンスに臨む。

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かし、右足でジャブステップを踏みながら機を窺う。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地が仕掛ける。

 

「っ!?」

 

その動きに火神は目を見開く。大地はカットインするのではなく、後ろへとバックステップで下がってスペースを作り、リングへと視線を向けたからだ。

 

「(打たれる!)」

 

火神がすかさず距離を詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、大地はボールを保持してはおらず、そこから前へと急発進をした。

 

「(ロッカーモーションか!?)…ぐっ!」

 

フェイクにかかり、横を通り抜ける大地を追いかけようとしたが、バランスを崩し、思わず左手を床に付いてしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

火神を抜きさるのと同時にボールを掴み、そこからジャンプシュートを決めた。

 

 

花月 42

誠凛 41

 

 

『やり返した!!!』

 

『しかもあの火神相手にアンクルブレイク決めやがった!!!』

 

直前に身体能力を見せつけた火神。その直後のオフェンス、大地はお返しとばかりに技を見せつけた。

 

「…ちっ」

 

思わず舌打ちが飛び出る火神。

 

「(スピード自体は青峰とそこまで変わらねえ。むしろ加速性能の分、青峰の方が体感で速く感じるくらいだ。…だが、こいつは高速でのバックステップと減速力の分、とにかくやりづれー…)」

 

マックススピードを一瞬で0にしてしまう大地のブレーキ性能に、ドライブのスピードと同等のスピードで行うバックステップ。一瞬でスペースを作り、スリーを打ち。スリーを阻止しようとすればそこから再度発進し、抜きさられてしまう。元々は空と同じ、スラッシャータイプの選手であったが、インターハイでの初戦で覚醒し、積極的にスリーを組み込むようになり、そのスリーも、緑間程ではないにしても、高確率で決めてくる為、無視出来ない。

 

「(第1Qで慣れたと思ったが、ここに来て凄みが増してきやがった。…マジで厄介な奴だぜ…)」

 

思わず溜息が飛び出そうになる火神であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

再び始まったエース対決は、一進一退の様相となった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

火神が決めれば。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地が決め返す。両チームのエースが得点を重ねていった。

 

 

『スゲー熱いエース対決だ!!!』

 

『どっちも譲らねえ! 勝負は互角だ!』

 

大いに盛り上がる観客。

 

「…いや」

 

一部の観客の声を、赤司が否定する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

火神が中へと切り込む。

 

「…くっ!」

 

身体を張って食らいつく大地だが、火神は強引に突き進んでいく。

 

「らぁっ!」

 

フリースローラインを越えた所でボールを掴んだ火神がリングに向かって飛ぶ。

 

「…っ!」

 

すぐさま大地もブロックに飛び、火神とリングの間に割り込むが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ブロックを物ともせず、大地を弾き飛ばしながら右手のボールをリングに叩きつけた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、プッシング、大地(赤6番)、バスケットカウントワンスロー!』

 

ディフェンスファールがコールされ、フリースローが与えられた。

 

「やはり、フィジカルと高さの差は大きい。綾瀬とて、決して非力な訳ではないが、今の火神を相手では大きいハンデと言わざるを得ない」

 

赤司が断言する。

 

火神の代名詞である跳躍力。そして鍛え上げられたフィジカル。この2つが大地を圧倒する。

 

「去年まではジャンプ力を生かして得意の空中戦を主軸としていたが、今の火神はファールを貰って尚決めるフィジカルの強さがある。今の火神であれば、俺はもちろん、キセキの世代(お前達)であっても空中戦では分が悪いかもしれないな」

 

その場にいる3人に告げる赤司。

 

「「「…」」」

 

3人は、言い返す事はしなかったが、何処か納得しない表情をしていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローを確実に決め、3点プレーを成功させる。

 

 

「…」

 

花月のオフェンス、大地にボールが渡る。

 

「…」

 

当然、火神が大地の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

大地の姿勢が前傾姿勢になる。

 

「(来るか!?)」

 

カットインを警戒した火神がドライブに対応する構えを取る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地が動く。しかし…。

 

「っ!?」

 

カットインではなく、後ろへとバックステップし、火神と距離を空けた。

 

 

――スッ…。

 

 

同時にボールを掴み、ステップバックで後ろへとステップ。ステップを踏んだ足でさらに後方に飛びながらシュート体勢に入る。

 

「(しまった! スリーか!?)」

 

これを見て火神がすぐさま距離を詰め、ブロックに飛んだ。だが、クイックリリースで放った大地の方が速く、ブロックが間に合わなかった。

 

「っ!?」

 

目を見開きながらリングの方へ振り向く火神。

 

「(スリーポイントラインから2m近く離れてんだぞ!? しかも、片足フェイダウェイ。入る訳がねえ!)」

 

外れると判断した池永はリバウンドに備える。

 

『…っ』

 

他の選手達、会場の者達がこのシュートの行方に注目する。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

『なにぃぃぃーーーっ!!!』

 

『何であれが入るんだよ!?』

 

大地のビッグショットに観客が頭を抱えながら大歓声を上げる。

 

 

「マジかよ…」

 

火神も唖然としながら苦笑したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「すっご…」

 

今の大地のプレーを見た桃井が口元を両手で塞ぎながら驚く。

 

「とは言え、綱渡りなのだよ。火神がスリーの警戒を僅かに緩めたから決められたが…」

 

「あんなスリーをポンポン決められんのはそれこそ緑間くれーだろ」

 

緑間と青峰は、紙一重のプレーだと断ずる。

 

「綾瀬も調子上がって来たみたいだけど、それでも火神の方がまだ優勢っぽいねー」

 

「ああ。スピードでは綾瀬、テクニックにでも僅かに綾瀬に分があるが、…やはり、繰り返しになるが、高さとフィジカルで勝る火神の有利と言わざるを得ない」

 

再び拮抗した戦いを始めた大地と火神。それでも紫原と赤司は、火神に軍配を上げた。

 

「(この第2Qはもはや、どちらかに流れが寄る事はないだろう。しかし…)」

 

赤司はコート上のとある一角、とある選手に視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

花月のオフェンス。大地が中に切り込み、火神のブロックをダブルクラッチでかわし、得点を決めた。

 

 

第2Q、残り11秒

 

 

花月 53

誠凛 52

 

 

「おっしゃ、ナイッシュー大地!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

 

「…」

 

ボールを運ぶ新海。第2Q、残り10秒足らず。このオフェンスがこのQ、最後のオフェンスとなる。

 

「…」

 

新海の前に空が立ち塞がる。

 

「(1点リードで折り返し。ま、悪くはねえな)」

 

まずまずの試合展開にとりあえず納得する。

 

「――空!」

 

その時、大地が空に呼びかける。

 

「…っ!?」

 

僅かに集中を切らした空。大地の声で試合に意識を戻した時、目の前の新海がシュート体勢に入っていた。

 

「ちっ!」

 

慌ててブロックに飛ぶ空だったが、僅かに新海がリリースするのが速く、ボールに触れられず…。

 

「(数秒残して打って来た!? スリーは打ててもシューターじゃねえ新海が、スリーポイントラインから1m以上離れた位置から――)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空の予想とは裏腹に、ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 53

誠凛 55

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

『早打ちのディープスリーを決めて来た!』

 

 

「何を意外そうな顔をしている」

 

「…っ」

 

新海の声に振り返る空。

 

「俺が相手なら、いつでも止められるとでも思ったか?」

 

侮蔑の籠った表情で告げる新海。

 

「昨晩、お前は言ったな。試合を白けさせるなと。その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。俺を…俺達を舐めるな」

 

そう言って、新海はディフェンスに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

第2Q終了のブザーが鳴る。

 

 

第2Q終了

 

 

花月 53

誠凛 55

 

 

残り数秒残ってはいたが、花月はシュートまで持って行く時間はなく、第2Qは終了した。

 

「おーし!」

 

リードで試合を折り返す事が出来た誠凛。池永が喜びの声を上げ、ベンチへと戻っていく。

 

「決勝だぞ。気を抜くな」

 

ベンチに戻ってきた花月の選手達。出迎えた上杉が空を叱責する。

 

「…うす。すいません」

 

空はただただ謝罪の言葉を口にした。

 

「…分かっているならそれでいい。控室に戻る。迅速に行動しろ」

 

話を切り上げ、選手達に指示を出した。

 

「…厳しいね」

 

傍で話を聞いていた相川が横の姫川の耳に顔を口を近づけ、小声で話しかける。

 

「仕方ないわ。今のは完全に気を抜いていた神城君が悪いもの」

 

姫川も上杉の考えに同意であった為、この叱責は妥当とした。

 

「(もちろん、いくら隙があったとは言っても、あの位置から決めてしまった新海君も凄いのだけれどね)」

 

普通であればあの状況、残り時間を全て使い切って1本狙うのがセオリー。いくら、目の前の空が無警戒かつ、集中が切れていたとは言え、ただでさえ、確率が低いスリー。それをスリーポイントラインから1m以上離れた位置から、生粋のシューターではない新海は、リスクを負ってまで決めた。

 

「(決められる自信があったと言うよりも、絶対に決める、と言う強い意志を感じたわ。それだけ、この決勝に新海君は懸けているんだわ。新海君だけじゃない、誠凛の選手全てにその意思を感じたわ)」

 

誠凛には火神と言う、圧倒的な個を有しているものの、それでもチーム規模で比較すれば、黒子テツヤがいなければ花月の方が上回っていると見てもいい。途中、その黒子の介入や、空の離脱があったにしても、誠凛リードで試合を折り返している。

 

「(昨日の試合から感じていた神城君への違和感の正体がようやく分かったわ)」

 

空は一見気まぐれな性格に見えて、締めるべき所は締め、試合になれば相応の集中力を発揮する。ただ、昨日の準決勝と今日の決勝の前半戦の空は、決して集中してなかった訳ではないが、何処か、いつもの空らしく(・・・・・・・・)なかった。では、何故そうなったのか。昨日の試合に関しては準々決勝での、主に眼の疲労によるものかと思っていたのだが、昨晩の新海と池永と夜道であった時の事も含め、それがバズルのピースのようハマり、1つの答えが辿り着く。

 

「最後の1本で分かったでしょ? いい加減、目を覚ましなさいよ」

 

空の背中に向け、姫川は呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ハーフタイムとなり、花月、誠凛の両チームがコートから控室へと移動し、コート上から選手達が一時的にいなくなった。

 

「あれが、俺達と入れ替わりに高校バスケ界に現れた、次世代のキセキか…」

 

試合を観戦していた元海常、小堀。

 

「神城空、綾瀬大地。キセキの世代と互角にやり合ったって噂を聞いた時は耳を疑ったが、噂は本当だったな」

 

同じく元海常の森山。

 

「綾瀬大地、あのスピードで前後に緩急を付け、挙句にスリーを決めるとは、信じられん」

 

シューターである森山。大地のバックステップを駆使したクイックリリースでのスリーに驚きを隠せないでいた。

 

「神城空。とんでもないスピードだな。観客席から見ているから目で追えているが、もし、コート上でマッチアップをしていたら、反応すら出来るかどうか…」

 

空のクイックネスに小堀も森山同様、驚きを隠せないでいる。

 

「…」

 

胸の前で腕を組みながら静かにコートを見つめている笠松。

 

「神城は、タイプ的には笠松と同じタイプだな」

 

「…もっとも、スピードとテクニックは、俺より遙かに上だがな。おまけにスリーもありやがる」

 

森山の言葉に、笠松が苦い表情で頷く。

 

「(…だが、何処か引っ掛かる。今日の神城は、確かにボール運びも丁寧で、教科書通りのゲームメイクではあるが、夏見た時は、もっと派手で意外性のあるプレーヤーだったと思ったんだがな…)」

 

引っ掛かりを覚える空のプレーに、笠松は首を傾げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『来た来た!!!』

 

『待ってたぜ!!!』

 

ハーフタイム終了の時間が迫り、両校の選手達がコートへと戻って来る。それぞれベンチに入り、各5人の選手がジャージを脱いでいく。

 

「行くぞ、花月ー、ファイ!!!」

 

『おう!!!』

 

円陣を組んだ花月。空の掛け声に合わせ、選手達が応え、5人の選手がコートへと足を踏み入れる。

 

 

「誠凛ー、ファイ!!!」

 

『おう!!!』

 

同じく誠凛も円陣を組み、火神の掛け声を合図に選手達が声を張り上げた。

 

 

OUT 竜崎

 

IN  生嶋

 

 

誠凛は選手交代無し。対して花月は竜崎を下げて、生嶋を投入。スタメンに戻す。

 

生嶋が審判からボールを受け取り、空にパスを出し、第3Q、後半戦が始まった。

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に観客達の歓声が上がる。

 

 

「…」

 

ゆっくりとドリブルを始める空。空の前に新海がディフェンスに立つ。

 

「(何だ? さっきまでと雰囲気が…)」

 

空を纏う空気が変わった事を感じ取る新海。

 

「…ふぅ」

 

一息吐いた空が動く。

 

「(来る! こいつが得意のクロスオーバー! 止め――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

読み通り、クロスオーバーを仕掛けた空。しかし…。

 

「っ!?」

 

そんな新海を、空が置き去りするかのように一瞬で横を駆け抜けた。

 

 

――バス!!!

 

 

一気に加速した空はそのままリングまで突き進み、レイアップを決めた。

 

 

花月 55

誠凛 55

 

 

『っ!?』

 

ヘルプに向かう事すら出来ない程の空のスピードに目を見開く誠凛の選手達。

 

「悪かったな。さっきは不甲斐ないプレーして」

 

「…っ」

 

唖然としている新海に対し、ディフェンスに戻る空が話しかける。

 

「おかげで目が覚めた。こっからは、エンジン全開で行かせてもらうぜ」

 

そう言い、空は自陣に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本、行きましょう!」

 

仕切り直し、ボールを運ぶ新海。

 

「…っ!?」

 

フロントコートまでボールを運んだ新海の前に、空が立ちはだかる。その時、新海に、強烈なプレッシャーが降りかかる。

 

「くっ!」

 

身体がぶつかり合う程に距離を詰め、激しくプレッシャーをかけながらディフェンスをする空。思わずボールを止めてしまう新海。

 

「(第2Qまでとはまるで別人だ! 気を抜いたら取られる!)」

 

激しく当たり、隙あらばボールを狙う空を前に、ボールをキープするだけで手一杯となる。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空の伸ばした手が、ボールを捉える。

 

「おっしゃ速攻!」

 

すぐさまルーズボールを抑えた空がそのまま速攻に駆け上がる。

 

「くそっ! 戻れ! ディフェンス――っ!?」

 

声を上げ、先頭を走る空を追いかける新海。

 

「(追い付けない! それどころか、引き離される!?)」

 

空を追いかける新海。しかし、追い付けない。ドリブルをする空に対し、ボールを持たずに追いかけているはずの新海との距離は、縮まる所かむしろ、広がっているのだ。

 

「イヤッホー!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

先頭を走った空がそのままワンマン速攻を決め、ワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

『出たぁぁぁっ!!! 神城のダーンク!!!』

 

空のダンクに、会場が割れんばかりの歓声が上がる。

 

 

「…ようやく、目が覚めたみてーだな」

 

青峰がボソリと呟く。

 

「元々、神城は尻上がりに調子を上げる傾向ではあるが、ここ2試合は、調子に乗り切れていない傾向があった」

 

緑間が昨日と今日のこれまでの試合の空を振り返る。

 

「私もそれ思ったけど、やっぱり、洛山に、赤司君に勝った事が理由?」

 

同じ事を想っていた桃井が原因の一端を口にする。

 

「それもあるだろうが、1番の理由は、あいつは、その時のモチベーションに応じて、パフォーマンス能力が変わるタイプだからだ」

 

1番の要因を語る青峰。

 

「目の前の相手が強ければ強い程、実力を…時に実力以上の力を発揮する。逆に言えば、相手が弱ければ、実力を出ねーって事だ」

 

「弱いって、新海君だって、全国レベルで見ても優れたプレーヤーなのに…」

 

青峰の解説に、桃井が首を傾げる。

 

全国レベル(・・・・・)でそうであっても、神城レベル(・・・・・)じゃ、話にならねえよ」

 

桃井の評価に、青峰がピシャリとぶった切る。

 

「この第3Q、誠凛にとっては試練の時間となるだろう。取り返しの付かない点差を付けられるか、あるいは、黒子を引きずり出されてしまえば、誠凛は負ける」

 

赤司はそう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛のオフェンス。ボールを回してチャンスを窺う。

 

「っしゃぁ!」

 

ボールを受け取った池永がそのままボールを右手で掴み、リングに向かって飛び、ボールを叩きつける。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる直前、後ろから伸びて来た手に、ボールは弾かれた。

 

 

『また神城だ!!!』

 

ブロックしたのは空。

 

 

「(なっ!? こいつ、さっきまでトップの位置にいたはずだろ!? 何でブロックに追い付けんだよ!?)」

 

リングからもっとも離れた位置で新海のマークをしていたはずの空にブロックされた事に目を見開く池永。

 

「空坊、張り切るのええけどな、全部1人でやらんでええで? 少しは俺らにも出番回しぃや」

 

リバウンドを抑えた天野が空に苦言を呈す。

 

「もちろん、俺の手が回らない所は、頼みますよ」

 

にこやかに答え、天野から受け取ったボールを運び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(まずいわね…)」

 

ベンチにて、試合を見守っているリコが、苦い表情をしながら焦る。

 

第3Q、ある程度、追い込まれる展開は予想出来ていた。空が尻上がりに調子が上がる傾向も事前に調べが付いていたので、先程のハーフタイムの折にも、その事は選手達に告げていた。だが、空がここまで調子を上げてくるのは予想外であった。

 

「(第2Q終了目前の新海君のスリーが、彼の目覚めさせちゃったみたいね)」

 

とは言え、新海を責める事は出来ない。新海は選手として当然のプレーをしたのだから。

 

「ここが正念場よ。皆、踏ん張るのよ…!」

 

願うように呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、残り7分48秒

 

 

花月 61

誠凛 55

 

 

「(まずいな…)」

 

胸中で焦る火神。

 

第3Qが始まって、未だ点が取れていない誠凛。空の躍動により、花月が確実に流れに乗り始めていた。

 

「(黒子に頼れねえ今、俺が何とかしねーと…!)…こっちだ!」

 

右ウィング付近で火神がボールを要求。

 

「頼みます!」

 

すかさず新海は火神にボールを託した。

 

「…」

 

ボールを持った火神の前に立つのは大地。

 

「…」

 

小刻みにボールを動かし、右足でジャブステップを踏みながら火神が牽制する。

 

 

――スッ…。

 

 

その時、火神がシュート体勢に入る。

 

「(スリー!?)」

 

これを見て、大地がすぐさま火神との距離を詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかしこれはフェイク。火神はドライブで中に切り込んだ。だが…。

 

「行かせません!」

 

大地もこれを読んでおり、距離を詰めるのと同時にバックステップをし、切り込んだ火神を並走しながら追いかけていた。

 

「関係ねえ!」

 

火神は、並走する大地がいてもお構いなしに切り込む。そしてフリースローラインでボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「レーンアップ!?」

 

フリースローラインで踏み切った火神を見て、思わず声が飛び出る生嶋。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

圧倒的な高さと滞空力から、火神がリングにボールを叩き込んだ。

 

 

花月 61

誠凛 57

 

 

『出た!!! 火神の代名詞のレーンアップ!!!』

 

火神の大技に、観客が大興奮しながら声を上げる。

 

 

「っしゃぁ!!!」

 

拳を握りながら火神が喜びを露にする。

 

「火神さん…!」

 

第3Q始まって、ここまで無得点だった誠凛。それだけに、この停滞する状況を打開する火神のプレーに安堵する新海。

 

 

「…」

 

ボールを運ぶ空。

 

『…』

 

ここまで、第3Q全ての得点を決めている空。誠凛の選手達は、空の一挙手一投足に注視している。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が一気に加速し、カットインする。

 

『来た!!!』

 

カットインする空に反応する誠凛の選手達。事前にマンツーマンでマークをしていた誠凛の選手達だったが、カットインする空に対応出来るよう、インサイド気味にポジション取りをしていた。カットインする空に対し、誠凛の選手達が、包囲にかかる。

 

 

「あーあ、それこそ思う壺じゃねえかよ」

 

呆れ気味に呟く青峰。

 

 

――スッ…。

 

 

包囲される直前、空が視線をリングに向けたまま、ビハインドパスを出す。

 

「視界は良好」

 

ボールは、左アウトサイドに展開していた生嶋の下へ。

 

「っ!?」

 

生嶋のマークをしていた朝日奈が目を見開き、慌てて反転して生嶋のチェックに向かう。しかし、それよりも速く生嶋がボールをリリース。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールは、リングの中心を的確に射抜いた。

 

 

花月 64

誠凛 57

 

 

『遂に出た! 生嶋のスリー!!!』

 

『ここでスリーは痛い!』

 

 

「ナイスパスくー」

 

「ようやく来たな。空いてればどんどんボール回すから頼むぜ」

 

空と生嶋がハイタッチを交わす。

 

 

「これが花月のオフェンススタイル。神城が個人技で点を取り、自身にマークが集まればそこからパスを出す」

 

赤司が解説をする。

 

「神城はあれで、フリーの選手を見つける視野の広さと、そこへ出す為のパスコースを見つける事に長けている。この形が出てしまえば、止めるのは難しいのだよ」

 

緑間が続いて補足する。

 

「かと言って、神城君はスリーもあるし、綾瀬君と生嶋君と言ったシューターもいるから、ゾーンディフェンスも組めない…」

 

情報を精査した桃井がこれに続く。

 

「流れを切る為に火神が仕掛けたが、今の花月はビッグプレーの1本や2本じゃ、止まんねえぞ。どうする?」

 

問い掛けるように青峰が呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを回す誠凛。どうにかシュートチャンスを窺う選手達だったが…。

 

「…ちっ!」

 

思わず舌打ちが飛び出る池永。なかなかシュートチャンスを作れない現状に、苛立ちを隠せないでいた。

 

「池永!」

 

新海が決死の声を上げる。ボールを持つ池永に対し、大地がボールを奪いにチェックに向かっていた。

 

「くそっ!」

 

たまらず池永は新海にボールを戻す。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

ボールが新海の手元に収まる直前、そこへ飛び込んだ空がボールを弾いた。

 

『アウトオブバウンズ、誠凛()ボール!』

 

ボールはラインを割ってしまう。

 

「ちっ、惜しい」

 

悔しがる空。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、誠凛!』

 

ここで、誠凛が申請したタイムアウトがコールされ、選手達がベンチに戻っていった。

 

 

花月ベンチ…。

 

「よしよし! いい調子だぞ!」

 

戻ってきた選手達を、菅野がタオルとドリンクを配りながら労った。

 

「とは言っても、点差はまだ7点。誠凛相手じゃ、あってないような点差です」

 

菅野の喜びとは対照的に、空は表情を変える事無く、タオルで汗を拭いながら冷静に返す。

 

「ここが正念場だ。ここで試合を決めるつもりで攻め立てろ」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛ベンチ…。

 

『…』

 

活気づいていた花月ベンチとは対照的に、誠凛ベンチは静まり返っていた。

 

「監督、どうしますか?」

 

沈黙を破るように河原がリコに尋ねる。

 

「…」

 

リコは顎に手を当てながら思案する。

 

「ここはもう1度、黒子を――」

 

「それはダメよ」

 

降旗の提案に、リコが遮るように却下する。

 

「黒子君を投入すれば、確かに流れは変えられる。逆転し、点差もある程度付けられるかもしれない。…だけど、第4Qにトドメ刺されて終わりよ」

 

粛々と理由を説明するリコ。

 

「…」

 

当の黒子も、何も言葉を発しない。

 

「この流れを生んでいるのは、間違いなく神城君よ。この流れを止めるには、神城君を止める他ないわ」

 

『…』

 

リコの言葉に黙り込む選手達。その事は、リコに言われずとも理解している。しかし、現状、それが出来ない。

 

「…っ!」

 

新海が悔しさのあまり、拳をきつく握り、きつく歯を食い縛る。本来、それをやらなければならないのは新海の役目であるからだ。

 

「俺がやります」

 

その時、火神が声を上げる。

 

「神城相手に、フリーの相手を作るダブルチームは逆効果。なら、俺がやるしかないッスよ」

 

手を鳴らし、首を鳴らしながらそう続ける。

 

「…」

 

その提案を、リコは顎に手を当てながら思案する。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴る。

 

「監督」

 

「…分かったわ。任せるわ火神君」

 

催促する火神に、リコは了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

タイムアウトが終わり、誠凛ボールで試合が再開。

 

 

――ピッ!!!

 

 

これまで通り、ボールを回しながら機を窺う誠凛。

 

「(相変わらず、シュートチャンスが作れない…!)」

 

やはり、シュートチャンスを作れないでいた。誠凛のトライアングルオフェンスに慣れて来たのもあるが、それ以上に要因となっているのが…。

 

「(神城と綾瀬のチェックが速過ぎる!)」

 

苦悶の表情をする田仲。

 

基本的にマンツーマンでディフェンスをしている花月だが、空と大地は状況に応じて自身のマークを外して動いている。スピードと運動量が豊富な2人が絶えず動き回る事によって、誠凛はシュートチャンスを作れない。

 

「(まるで、7人にディフェンスをされてるみたいだ…!)」

 

朝日奈は、花月のディフェンスに、そう感想を抱いたのだった。

 

「時間がないぞ!」

 

ベンチから福田が声を上げる。シュートクロックが残り僅かとなっていたのだ。

 

「…ちっ」

 

たまらず、朝日奈はスリーを放つ。

 

「(リズムはバラバラ、シュートセレクションも悪い。これは外れる)…リバウンド!」

 

外れると見た生嶋が声を上げる。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通り、ボールはリングに弾かれる。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「もろたぁっ!!!」

 

リバウンドボールを、天野が抑えた。

 

「空坊!」

 

「あいよ!」

 

すかさず空にボールを渡し、空がボールを運ぶ。

 

「…おっ♪」

 

フロントコートまでボールを運ぶと、空が眼を輝かせながら笑みを浮かべる。

 

「…止める」

 

目の前には、新海ではなく、火神が立っていたからだ。

 

 

「かがみんが神城君のマークに入った!」

 

桃井が声を上げる。

 

「相手に応じてパフォーマンス能力を変える神城を前に、火神なんか置いたら、余計に調子付かせるだけだ。…裏目に出なきゃ良いけどな」

 

青峰が呟いたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

始まった後半戦…。

 

目が覚めた空が猛威を振るい始めた。

 

そんな空を止める為、火神が空の相手の名乗りを上げ、立ち塞がる。

 

この選択が吉と出るか凶と出るか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー、WBC、熱かったですね!

国際試合で日本が見事、勝利を上げ、結果こそ予選リーグ敗退ですが、初のヨーロッパ勢を撃破し、日本の夜明けに相応しい内容でした。負けた試合も、何をやっても勝てない、と言った内容ではなく、可能性を見せた試合に個人的に見えたので、ここから先、日本のバスケは明るいのではないでしょうか…(^_^)/

サッカー、ラグビーと、日本が強豪国相手に勝つ事は不可能と言われ、長年煮え湯を飲まされて来ましたが、近年、強豪国相手でも勝利をもぎ取れるようになりました。バスケは正直、難しいかなと、思っていましたが、遂にやってくれました!

ここに、八村選手が加わる事も考えると、パリ五輪には期待しかありません!

っと、作品と関係ない事ばかり後書きに書いて、申し訳ありません…m(_ _)m


この興奮を、是非とも共有したかったので…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第209Q~正念場~


投稿します!

歩き方か、靴が悪かったのか、足痛めた…(ノД`)・゜・。

それではどうぞ!



 

 

 

第3Q、残り6分53秒

 

 

花月 64

誠凛 57

 

 

後半戦が始まると、空が眠りから覚めたように躍動を始め、第2Q終了時には2点ビハインドであった点差を、瞬く間に7点リードにまで広げていた。

 

たまらずタイムアウトを取った誠凛。花月に流れをもたらした空を止めるべく、火神が空のマッチアップに志願したのだった。

 

 

「嬉しいぜ、あんたが直々に俺の相手をしてくれるなんてな」

 

思わず笑みが零れる空。

 

「…楽しそうだな神城。精々楽しんでけよ。楽しめる保証は出来ねえけどな」

 

目付きを鋭くした火神。腰を落とし、僅かに距離を取ってディフェンスに付く。

 

 

「…距離を取ったか」

 

「ま、火神なら、仮にスリー打たれても届くだろうから無難な判断だな」

 

ドライブを要警戒した火神のディフェンスに注目する緑間と青峰。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりその場でドリブルをしながら機を窺う空。

 

「(やっぱ距離取って来たか。なら、スリー狙うのが定石だけど…)」

 

視線をリングに向ける。

 

「(…多分打ってもブロックされんのがオチだ。かと言って、大地みたいにバックステップしながら決められる程、器用じゃねえし、スリーはねえな)」

 

早々にスリーを選択肢から消す。

 

「(ま、考えるまでもねえ。俺が選ぶのは――)」

 

「(――来る!!!)」

 

目の前の火神。空の仕掛ける気配を感じ取り、備える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

上半身を前に倒した空。その体勢から一気に加速する。

 

「(速い! しかも何だよこの低さは!?)」

 

低空姿勢から急加速で発進した空。床スレスレを高速で突き進む空に戸惑いを隠せない火神。

 

「ニヒッ♪」

 

急発進した空。火神との距離を一瞬で詰めると、低い態勢から上半身を上げ、足元から覗き込むように火神の顔に自分の顔を近づけた。

 

「っ!?」

 

突然の空の行動に火神は動揺する。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、空はロールをしながら火神の背後へと駆け抜けた。

 

「…っ、待ちやがれ!」

 

すぐさま正気を取り戻した火神は反転。

 

「行かせ――っ!?」

 

空を追いかける火神だったが、ここである事に気付く。

 

「(こいつ、ボール持ってねえ!?)」

 

空の手元にボールがない事に気付いた。

 

「(何処に――)」

 

「火神、後ろ! 上だ!」

 

ボールの所在を探す火神。その時、池永の声が響き渡る。

 

「っ!?」

 

その声に反応し、火神が振り返り、視線を上に上げると、ボールは先程自分が立っていた位置の頭上高く跳ねていた。

 

空は火神に顔を近づける直前、頭上高くにボールを弾ませていたのだ。火神は下から覗き込んだ空によって視線を下げられた上、目の前に寄せた空の顔がブラインドになった為、ボールが高く跳ね上げられた事に気付けなかったのだ。

 

「もらい!」

 

再度反転し、ボールに駆け寄った空は空中に舞ったボールを掴み、そのままシュート体勢に入った。

 

「打た…せるか!」

 

ブロックに飛んだ火神が、空のシュートコースを塞ぐ。

 

「…っと」

 

シュートを中断し、ビハインドパスでボールを右へと放る。

 

「ナイスパス空坊!」

 

ハイポスト付近でボールを掴んだ天野がシュート体勢に入る。

 

「おぉっ!」

 

ゴール下にいた田仲がヘルプに飛び出し、ブロックに飛ぶ。

 

「何てな」

 

天野はボールを頭上にリフトさせただけで飛んではおらず、飛んだ田仲の足元から弾ませながらローポストの松永にパスを入れる。

 

 

――バス!!!

 

 

フリーの松永が落ち着いてゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 66

誠凛 57

 

 

「くそっ!」

 

得点を防げず、悔しがる火神。

 

「ええでマツ」

 

「天野先輩も、ナイスパス」

 

ハイタッチを交わす天野と松永。

 

「空坊も、ええパスや」

 

「どうも」

 

肩に手を置く天野。空は軽く返事をする。

 

「(虚を突いてスペース作ったのに、あっという間にシュートコースを塞ぎやがった。火神さん、とんでもねえジャンプ力だ…)」

 

パスで繋いで得点をしたが、元々は空があそこで決めるはずだった。しかし、火神にシュートコースを塞がれてしまった為、咄嗟にパスに切り替えたのだ。

 

「(青峰さんのようなスピードやアジリティはないが、ジャンプ力がマジでえげつないぜ。正直、シルバー並…いや、身長差を考えれば、火神さんはシルバー以上に飛んでるって事だ。同じと考えない方がいいな)」

 

火神のディフェンスの指標をシルバーに設定していたが、空は認識を改めた。

 

「大地、天さん。聞いてくれ」

 

2人を呼んだ空は、何やら話始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛のオフェンス…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーポイントラインのやや内側でボールを受けた火神は、大地をポストアップで押し込み始めた。

 

「…っ!」

 

必死に踏ん張る大地だったが、やはり体格差があり、みるみる押し込まれていく。

 

「…っ!?」

 

さらに押し込もうとした火神だったが、突如、押し込めなくなる。

 

「手伝うで…!」

 

ヘルプに来た天野が火神の背中に張り付き、ポストアップを阻む。さすがに2人を相手では押し込めず、その場で留められてしまう。

 

「…っ、だったら!」

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを掴んだ火神が重心を後方に取り、ボールを頭上へとリフトさせる。

 

「(フェイダウェイ!)」

 

フェイダウェイシュートと見た大地は飛ばれる前に頭上にリフトさせようとしているボールに手を伸ばし、狙い打つ。

 

 

――スッ…。

 

 

火神はシュート体勢には入らず、カットを狙った大地の手をかわし、そのまま前にステップをし、大地の横を抜けた。

 

「(アップ&アンダー!?)」

 

大地をかわした火神は改めてシュートを打つ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

シュートを打とうとしたその時、頭上にリフトさせようとしたボールを叩かれる。

 

「いただき」

 

ボールを叩いたのは空。

 

「なっ!? 3人がかりかよ!?」

 

思わず声を上げる池永。

 

「ハハッ! 狙い通り!」

 

ニヤリとした空は、ルーズボールを拾う。

 

「おっしゃ、速攻――」

 

 

――ドン!!!

 

 

「った!」

 

空が速攻をかけようとドリブルを始めた瞬間、何かに阻まれる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、プッシング、新海(白9番)!』

 

「悪い」

 

新海が空の持つボールを奪おうと接触してしまう。

 

「…ちっ」

 

謝罪をする新海。空の口から思わず舌打ちが出る。

 

 

「ほー、なかなか思い切りがええのう」

 

今のファールを、今吉翔一が称賛する。

 

「今のはファールしなければ2点確実だったからな。ましてや、火神でのオフェンス失敗。ああしなければ流れを完全に持って行かれていた」

 

諏佐も同意見であった為、賛同していた。

 

 

「あの野郎…」

 

「まあまあ、ここは新海さんが1枚上手だったと褒めましょう」

 

速攻の邪魔をした新海を睨み付ける空を大地が窘める。

 

「所で、さっきの話、やるのですか?」

 

大地が尋ねる。

 

「当然。揺さぶりをかける。そんで、可能ならここで一気に勝負を決めに行く」

 

ニヤリと頷いた空。

 

「…ハァ。分かりました。あなたも無茶(・・)を言うものです」

 

溜息を吐く大地。

 

「お前じゃなきゃ頼まねえよ。それに、無理(・・)とは言わない辺り、出来んだろ? ま、言ってもやってもらうけどな」

 

「…でしょうね」

 

「そんじゃ、始めっか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合が再開される。

 

「…ハッ?」

 

疑問の声を上げたのは池永。

 

 

『なにぃぃぃぃーーーーーーー!!!』

 

それに続くように観客達が声を上げた。

 

 

「…」

 

ボール運びを空ではなく、大地が行っていた。

 

「…何の真似だ?」

 

怪訝そうな表情で火神が空に尋ねる。

 

「…へっ!」

 

尋ねられた空はただニヤニヤしていた。

 

「どういうつもりか分からないが、思い付きの奇策が通じると思うなよ」

 

やや憤りながら新海が大地の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

ゆっくり周囲を見渡す大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

その後、仕掛ける。

 

「行かせ――っ!?」

 

カットインした大地を追いかけようとした新海。

 

「残念やったな…!」

 

天野のスクリーンに阻まれてしまう。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

中に切り込んだ直後、大地が急停止し、視線をリングに向ける。

 

「(まずい!)」

 

打たす訳に行かないと田仲がヘルプに飛び出し、チェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、大地はボールを保持しておらず、再発進。バックロールターンでチェックに来た田仲をかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

田仲を抜きさった大地はそのままレイアップを決めた。

 

 

花月 68

誠凛 57

 

 

『遂に点差が二桁にまで開いた!』

 

『花月が止まらない!!!』

 

 

「ドンマイ、切り替えよう!」

 

ボールを拾った田仲がエンドラインに立ち、新海にパスを出す。

 

「あっ! 新海!?」

 

パスを出した直後、田仲が声を張り上げる。

 

「――っ!?」

 

ボールを受けた新海。同時にその目が見開かれる。空と生嶋が新海にダブルチームを仕掛けていた。

 

『…っ』

 

2人の動きに呼応するように他の3人も動く。

 

 

『おいおいマジかよ!?』

 

『ここでオールコートゾーンプレスか!?』

 

花月の動きに観客達も思わず声を上げた。

 

負けている誠凛が仕掛けたならまだしも、現状、11点ものリードを有している花月が仕掛けたからだ。

 

 

「…ぐっ!」

 

2人にダブルチームを仕掛けられ、かつ徐々にコートの隅へと追いやられていき、必死にボールを死守する新海。

 

 

「うわ…、まさか花月が仕掛けるなんて…」

 

花月の選択に桃井が思わず口元に手を当てる。

 

「勝負をかけにきたな」

 

青峰が呟く。

 

「だが、英断だ。流れを手繰り寄せた今だからこそ、仕掛けるタイミングとしては抜群」

 

赤司もここでの仕掛けに頷いていた。

 

 

「おお! ソラ達が仕掛けたぞ!」

 

「仕掛けて来たか!」

 

ニックとアレンは、空を見てニヤリとしていた。

 

「(…ふん。見た所、あのサルの指示か…)」

 

観客席から、ベンチの上杉が特に指示を出した様子を確認出来なかったナッシュは、このオールコートマンツーマンの指示が空から出されたものだと悟る。

 

「(サルだけに、仕掛け時を嗅ぎ分ける嗅覚だけはまあ、認めてやってもいい。だが、いかんせん調子にムラがあり過ぎる。まずあれをどうにかしねえと――ちっ、何でこの俺があんなサルなんかに…)」

 

胸中で苛立ったナッシュは思わず舌打ちをしたのだった。

 

 

「新海、早くパスを出せ! もうすぐ8秒だ!」

 

ベンチの降旗が声を出す。

 

「っ!?」

 

その声が耳に入り、焦る新海。だが、目の前の2人のディフェンスがきつく、パスターゲットを探す余裕がない。

 

「こっちだ! 前にぶん投げろ!」

 

その時、前から池永の声が耳に入る。池永がフロントコートへと走っていた。

 

「おぉっ!!!」

 

その声に反応し、新海は前線へと大きな縦パスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

しかし、そのパスは新海の手に渡る前に大地によってカットされてしまう。

 

「っ!? 朝日奈!」

 

「はい!」

 

火神の指示を受け、すぐさま朝日奈が大地のチェックに入る。

 

「…」

 

ボールをカットした大地はすぐには仕掛けず、ゆっくり周囲を見渡しながらドリブルを始める。

 

「(変わらず綾瀬がボール運び…何を考えているかは分からないが、ここで俺がやるべき事は…!)」

 

朝日奈が大地にフェイスガードでディフェンスを仕掛ける。

 

「(俺では綾瀬からまんべんなく守るのは不可能。だったら、最悪中に切り込まれてもいい、スリーだけは打たせない!)」

 

身体がぶつかり合う程、大地にべったり張り付く朝日奈。とにかくスリー阻止最優先でディフェンスをする。

 

「…っ」

 

激しくプレッシャーをかける朝日奈に若干、やり辛さを感じる大地。

 

 

――スッ…。

 

 

大地は隙を突いてボールを中に入れた。しかし、そこには味方の姿はなかった。

 

「(パスミス!?)」

 

まさかのパスミスに驚きながらも田仲がボールを拾いに行く。田仲がボールを掴もうとしたその時…。

 

 

――バシィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

田仲より速く、横から現れた手にボールが叩かれ、軌道が変えられる。

 

「っ!?」

 

ベンチに座る黒子が思わず目を見開きながら立ち上がる。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは右コーナーに移動した生嶋の手に渡る。

 

「くそっ!」

 

シュート体勢に入った生嶋を見て、すぐさま朝日奈がチェックに向かう。

 

「(間に合う!)」

 

意表を突かれた空による、黒子のお株を奪うパスの中継。しかし、黒子と違い、姿を消している訳ではない為、普段、黒子で慣れている事もあり、すぐに反応が出来た。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

しかし、生嶋はスリーを打たず、シュートを中断し、中へとボールを入れる。

 

「っしゃ!」

 

ハイポスト付近で再度空がボールを掴み、そのままリングに向かってドリブル…レイアップの体勢に入る。

 

「おぉっ!」

 

レイアップの体勢に入った空に対し、田仲がブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

同時に空はビハインドパスでボールを左へと放る。

 

「任せぇ!」

 

 

――バス!!!

 

 

天野がボールを掴み、きっちりゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 70

誠凛 57

 

 

『また決めた! 連続得点!!!』

 

『点差が開いて来たぞ!?』

 

 

「(…ちっ! こんなオフェンスパターンが…!)」

 

空が起点ではなく、中継をする事でボールを捌く、誠凛の黒子テツヤのようなパスワーク。ミスディレクションではなく、スピードで再現をすると言う違いはあるが、自分達の頼りになる武器が自分達に襲い掛かってきた。

 

「(っ!? 考えるのは後だ、今考えなければならないのは――)」

 

これから自分達のオフェンス。新海は思い出す。花月が今、オールコートゾーンプレスを仕掛けて来ている事に…。

 

「朝日奈、田仲!」

 

新海が2人を呼び、合図を送る。

 

「「(…コクリ)」」

 

合図を受け取った2人。朝日奈がスローワーとなり、新海にパスを出す。

 

 

『来た!!!』

 

 

観客の声をと共に、ボールを掴んだ新海に対し、空と生嶋がダブルチームをかけるべく、動く。

 

「舐めるな!」

 

一喝と共に新海が後ろの朝日奈にボールを戻す。

 

「こっち!」

 

同時に、フロントコートから戻ってきた田仲にパスを出す。そして、ボールを持った田仲と新海が交差する直前、手渡しで新海にボールを渡した。

 

 

『おぉっ! ゾーンプレスを突破した!』

 

連携を駆使し、花月のオールコートゾーンプレスを突破した。

 

 

「よし!」

 

ゾーンプレスを突破した新海はそのまま無人のリングへドリブルをしていく。

 

「行かせませんよ」

 

そこへ、唯一大地だけがディフェンスに戻っており、立ち塞がる。

 

「…」

 

しかし、新海は構わず大地へと突っ込んで行く。

 

 

『このまま行くつもりか!?』

 

『いくらなんでも無謀だ!』

 

大地に対して仕掛けようとする新海に対し、観客から悲鳴のような声が。

 

 

「(分かっている。俺では綾瀬をかわせない)」

 

 

――スッ…。

 

 

大地が距離を詰めて来ると、自分に大地を引き付けてからボールを横へと捌いた。

 

「ハハッ、ナイスパース!」

 

そこへ走り込んでいた池永がボールを掴む。

 

「おらぁ!」

 

そのままボールを右手で掴んでリングへと飛ぶ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「がっ!」

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる直前、大地が右手のボールを叩き出した。

 

「なっ!?」

 

このブロックに、新海は驚きを隠せなかった。ギリギリまで大地を引き付けてから池永へとパスをしたからだ。

 

「あめーな、その程度で大地をかわせるかよ。…ほらよ大地!」

 

したり顔で空がルーズボールを拾い、大地へと渡し、ボールを運び始める。

 

『…っ』

 

またもや攻撃失敗で焦りの色が見え始める誠凛の選手達。

 

「…」

 

誠凛が注視しているのは空の動き。先程同様、パスの中継をしてくる可能性があるからだ。

 

「(くそっ、黒子のように影が薄い訳でも…ましてや、ミスディレクションをしてくる訳でもねえから姿そのものを見失う事はねえが…!)」

 

思わず頭を抱えたくなる火神。黒子のように姿を消す訳ではないが、逆にそれが問題なのである。姿が見えている為、嫌でも空の動きを警戒してしまう。その結果、自身のマークの警戒が薄くなってしまう。そして、何より厄介なのは、姿さえ捉えられれば対応出来る黒子と違い、スピードと瞬発力で動く空は、どうしても瞬間的にマークを引き剥がされてしまうと言う点である。

 

「(ここらで花月の連続得点を止めないと、マジで取り返しのつかない事になる…!)」

 

開いていく点差に、火神は危機感を募らせる。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ大地。

 

 

――スッ…。

 

 

空が動く。火神のマークを引き剥がし、フリーとなる。

 

『(来た!!!)』

 

これに応じて、誠凛の選手達が、空の動きに注視する。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ここで大地がパスを出す。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、誠凛の選手達の目が大きく見開かれる。パスは、空にではなく…。

 

「…よし」

 

右コーナー付近のスリーポイントラインの外側まで移動していた松永の手に渡ったからだ。

 

「田仲! 何やって――っ!?」

 

思わず非難の声を上げる池永。その視線に映ったのは、天野のスクリーンに捕まってしまっている田仲の姿だった。空が動き、一瞬、空に気を取られた隙に松永と天野が動いていたのだ。

 

フリーでボールを掴んだ松永がスリーを放った。

 

『っ!?』

 

ここでスリーを決められればさらに点差が広がる。誠凛の選手達の表情が凍り付く。

 

「頼む、外れてくれ!」

 

祈りを捧げるボーズを取りながら願うベンチの降旗。

 

 

――ガン!!!

 

 

願いが通じたのか、ボールはリングに弾かれた。

 

「やった、リバウンド!!!」

 

安堵の表情に変わった福田。同時に指示を飛ばす。

 

「…ちっ、だが構わん。例え外れてもうちには――」

 

「俺の出番やな!」

 

天野がリバウンドに備え、スクリーンアウトを開始する。

 

「…っ! くそっ…!」

 

何とか良いポジションを確保しようとする火神だったが、天野ががっちり抑え、それを許さない。

 

「(こいつ、スクリーンアウト上手ぇ…、だったら!)」

 

弾かれたボールに対し、両チームの選手達が飛び付く。

 

「おぉっ!」

 

ポジション争いを諦めた火神は、ジャンプ力を生かして外からボールを狙いに行った。

 

「ホンマ規格外やのう! やけど、こっちは過去に経験しとんねん!」

 

 

――ポン!!!

 

 

「っ!?」

 

火神の手に収まるはずだったボール。天野はボールに右手を伸ばし、先にボールを叩いた。

 

 

「チップアウト! 上手い!」

 

思わず木吉が声を上げる。

 

 

「ナイスリバウンド、天野先輩!」

 

零れたボールを大地が確保。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのままジャンプシュートを決めた。

 

 

花月 72

誠凛 57

 

 

「っしゃぁっ!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

『…っ』

 

連続失点に、誠凛の選手達の表情がさらに暗くなる。

 

「顔を上げろ!」

 

『っ!?』

 

そんな誠凛の選手達に火神が活を入れる。

 

「今は流れが花月に向いてるだけだ。ここを凌げば必ずもう1度ウチに流れが来る。今は全力で耐えろ!」

 

手を叩きながら選手達を鼓舞する。

 

「(とは言え、これ以上、離されんのはまずいな。花月は俺達と同じ、2年生主体のオフェンス型チームだが、勢いに乗った時の勢いは桐皇以上だ。何か手を打たねえと…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「15点、開いたねー」

 

電光掲示板を見つめながら紫原が呟く。

 

「誠凛が弱い訳ではない。火神を始め、優れた資質と才能を有した全国屈指のチーム。だが…」

 

赤司が続いて口を開く。

 

「強力なストッパーにして、リバウンダーの天野。正確無比なスリーを有する生嶋。3番から5番をこなせる技巧派センター、松永。控えの選手達も、一芸に秀でた粒揃いの選手達。そして何より、俺達と同等の資質を有した神城と綾瀬。…これを擁した、花月は強い」

 

さらに続くように緑間が断言する。

 

「…」

 

青峰も同意なのか、特に異論は挟まない。

 

「誠凛は、今は耐え凌ぐ事だ。ここを凌げば、必ず後に流れが来る」

 

「とは言っても、このままじゃ、例え流れが来ても逆転出来なくなるんじゃ…」

 

赤司の言葉に、桃井が口を挟む。

 

「ああ。誠凛は、ここでタイムアウトを取って流れを断つか、黒子を投入するか…」

 

視線を誠凛ベンチに向ける赤司。

 

「…リコさん、特に動く気配はないね」

 

釣られて視線を誠凛ベンチに向ける桃井。

 

「とにかく誠凛は、何か手を打つ事だ。でなければ、この試合、第3Qで決まってしまう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「監督、タイムアウトを取るべきでは?」

 

誠凛ベンチで、福田がリコに提案する。

 

「…」

 

当のリコは、表情を変える事無く、試合を見つめている。

 

「それがダメなら黒子を出すべきです。これ以上、離されたら、流れも何もないですよ!」

 

「…落ち着きなさい!」

 

「…っ」

 

焦る福田を、リコが一喝し、黙らせる。

 

「ハーフタイムの時に言ったでしょ? 第3Qは花月に大きく水をあけられる事になるって」

 

「…ですが」

 

尚も食い下がる福田。

 

「動揺している姿を見せないの。自分達が追い詰められているって教えてるようなものよ。今、コートでは皆が必死に歯を食い縛って戦っているのよ。声出して背中を押してあげなさい」

 

「…っ、はい! …せーりん!!! せーりん!!!」

 

「「せーりん!!! せーりん!!!」」

 

リコに促され、福田が応援を始め、それに続いて降旗、河原が声を出し始める。

 

「(…この展開は確かに予想していたけど、予想以上に点差が開いていくのが早い。何か手を打つべきなのは確かだけど…)」

 

一見、平静を保っているように見えるリコだが、内心では福田同様、かなり焦っていた。

 

黒子は投入出来ない。試合終盤の切り札だからだ。ここで切ってしまえば、終盤に押し切られて終わる。タイムアウトに関しては、先程取ったばかりである事と、申請出来る数に限りがある為、終盤に取っておきたいのもあるが、例え、タイムアウトを取っても、今の花月の流れが断てないのが分かっているからだ。

 

「(とは言え、このまま点差が開き続けるようなら、決断しなければならないわね。タイムアウトを取るか、黒子君を投入するかを…)」

 

リコは、いつでも決断出来るよう、注意深く試合を見つめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「誠凛ベンチ、リコさん、動きませんね」

 

花月ベンチ、誠凛ベンチに視線を向けた姫川。淡々とベンチに座り、試合を見つめるリコに意味深なものを感じ取っていた。

 

「(確かにな。…だが、内心ではどうであろうな)」

 

チラリと視線を向ける上杉。その心境を何となく察していた。

 

「(選手を信じたが故か、あるいは決断を迷っているが故か…いずれにせよ、このまま何も手を打たないか、何も起きなければ(・・・・・・・・)、この試合、終了のブザーが鳴る前に終わってしまうぞ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、各々の予想するように、花月の勢いが止まる事は無かった。

 

 

――バス!!!

 

 

着実に得点を重ねる花月。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「…よし!」

 

スリーを決める火神。ディフェンスをかわしながらの、やや強引なリリースであったが、決める事が出来、凍り付いたように動かなかった誠凛のスコアを動かした。

 

だが、それでも花月の勢いを止める事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、残り2分21秒

 

 

花月 78

誠凛 60

 

 

点差は18点にまで広がっており、20点差に王手をかけていた。

 

「…」

 

依然として、花月は大地がボールを運び、空がボールを中継、あるいは大地がそのまま決めるか、意表を突いてパスを出すかの作戦を継続している。

 

「(ここは何としてでも死守だ!)」

 

集中を高める新海達。

 

ここを決められ、20点差。心理的なダメージは計り知れない。直前、誠凛のオフェンスは失敗したものの、花月のオフェンスも何とか止め、土俵際で粘りを見せていた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

大地がパスを出す。同時に空がそのボールに向かって走っていく。

 

『(誰に出す!?)』

 

注目するのは、空が誰にパスを中継するか。その中継相手に注視する誠凛の選手達。

 

「…甘いな」

 

しかし、空はボールを中継せず、ボールを掴んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そのままドリブルを始め、リングへと突っ込む。

 

「(しまった!)」

 

「(こいつはパスだけじゃない、得点能力も一流だ!)」

 

ここで誠凛の選手達は思い出す。空は、黒子のようなパス特化の選手ではなく、ドリブル、スコアリング能力に関しても全国トップレベルの選手である事に…。

 

「(今までシュートを打たなかったのは、警戒が無くなるのを待っていたからか!)」

 

窮地の手前の誠凛。空が打っていた布石に今気付き、表情が強張る。

 

「おらぁ!」

 

リングに向かって飛ぶ空。

 

「させるか!」

 

その時、空の後ろから、火神がやってきて、ボールに手を伸ばす。

 

「頼む、火神!!!」

 

必死に願う誠凛ベンチの河原。

 

「…悪いが、分かってるぜ」

 

しかし、空はこれを予見しており、火神の手がボールを捉える直前にボールを下げてかわし、そこからリング付近にボールをふわりと浮かせた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

そこへ、大地が飛び込み、空中のボールを右手で掴み取る。

 

『…っ!?』

 

誠凛の選手達の表情が凍り付く。これを決められれば20点差。敗北の影がその心を覆いかぶさる。

 

「…っ!」

 

右手で掴んだボールを、リングへと振り下ろす。

 

「火神君!!!」

 

その時、ベンチから1つの声が響き渡る。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

ブロックされた大地の目が思わず見開かれる。

 

「嘘だろ!? 俺のブロックに飛んでたのに、そこから――っ!?」

 

ルーズボールを掴んだ新海。

 

「こっちだ!」

 

ブロックした後、すぐさま速攻に走った火神がボールを要求。

 

「頼みます!」

 

新海はそこから前走る火神に縦パスを出した。

 

「あかん、戻れ!!!」

 

天野が声を張り上げ、ディフェンスへと戻る。

 

「ここから先は…」

 

「行かせません!」

 

先頭を走る火神だったが、規格外の空と大地のスピードによって、スリーポイントラインの遙か手前で追いつき、立ちはだかった。

 

「くそが! 速過ぎるだろ!」

 

戻りが速過ぎる2人のスピードに、思わず悪態が口から洩れる池永。

 

「(あれだけスピードが乗った状態…)」

 

「(ジャンプショットはない…!)」

 

自身の最速ドリブルをする火神。それを見て、ジャンプショットはないと判断する2人。

 

 

――ドッ!!!

 

 

フリースローラインから踏み切る火神。

 

「(レーンアップか! だが…!)」

 

「(私達2人ならば、止められる!)」

 

如何に、火神のジャンプ力が規格外であっても、リングの高さが決まっている以上、ダンクならば、タイミングを合わせれば、空と大地の2人がかりならば止められると踏む2人。

 

「「…っ!」」

 

タイミングを合わせ、2人同時にブロックに飛ぶ。タイミングはバッチリ。

 

 

――ガシャン!!!

 

 

「「っ!?」」

 

2人の表情が驚愕に染まる。

 

火神は、ボールをリングに叩きつけるのではなく、リングに投げ込んだ(・・・・・)のだ。

 

「ようやく、表情が変わったな」

 

「「…っ」」

 

振り返る空と大地。

 

「ここからが本番だ。存分に楽しませてやるよ」

 

着地した火神が2人に告げる。

 

「…ま、このまま行けたら苦労はねえよな」

 

「…ええ、ここからが、正念場…ですね」

 

空と大地が共に苦笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――火神大我が、ゾーンの扉を開いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第3Qが始まり、ペースを掴む花月。

 

開きゆく点差に、徐々に敗北の二文字がチラつく誠凛。

 

誠凛の選手達の心に絶望の影が覆い尽くそうとしたその時、待ったをかける火神。

 

試合は、ここからさらに激化していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





投稿ペースが落ちてきたかなー。決勝戦、今年中に終わらせる予定だったけど、終わんのかな…(;^ω^)

9月に入って、相変わらずのクソ熱い日が続きますが、ここ数日は、落ち着いて来た気がする。

夏ももうすぐ終わり……かな?

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第210Q~最高のキセキ~


投稿します!

夏も終わりか…。

それではどうぞ!



 

 

 

時はハーフタイムまで遡る。誠凛の控室。

 

「第3Q、まず間違いなく、花月のペースになるわ」

 

『…』

 

「花月は良くも悪くも神城君の調子やペースに引き摺られる傾向があるわ。その神城君は基本、尻上がりに調子を上げる傾向にある。ここから後半戦、第2Q最後の新海君のスリーもあるから、まず間違いなく、ここからが花月の本領発揮となるわ」

 

『…』

 

「第3Qは、如何に花月の猛攻を抑えられるか。これがカギとなるわ」

 

「んだよ、随分と弱気じゃん」

 

不満顔の池永。

 

「私だってこんな事は言いたくないわ。…けど、同じ、2年生主体のオフェンス型チームとは言え、花月と正面からまともにぶつかり合えば、黒子君抜きのウチでは確実には競り負けるわ」

 

『…っ』

 

「黒子君は、出来れば第4Q終盤の勝負所…早くとも第4Q頭までは試合に出せないわ。だから…」

 

ここでリコは視線を火神に向け…。

 

「火神君。場合によってあなた頼りになってしまうかもしれないわ。その時は、頼むわ」

 

「うす。任せて下さい」

 

真剣な表情で返事をする火神。

 

「…ごめんなさい。火神君1人に負担をかけないようなチーム作りをしてきたつもりだったけど、結局火神君に負担をかけてしまう事になってしまうわ」

 

申し訳なさそうな表情のリコ。

 

「大丈夫ッスよ。日向キャプテンだってやってきた事ッスから。それに比べれば、たかだか1試合。余裕ッスよ」

 

そんなリコに対し、笑顔で返す火神。

 

「ありがとう。…それと黒子君。あれ(・・)ついてはどう? 完成しそうなの?」

 

火神に礼の言葉を伝えた後、黒子に向き変えるリコ。

 

「正直な話、この大会中に完成させる事は出来ないと思っていましたが、準々決勝で、限りなく実力拮抗した相手との試合で観察が出来ましたので、この試合中に間に合うかもしれません」

 

話を振られた黒子が答える。

 

「あれって、何の話だ?」

 

2人の話の内容に聞き覚えがなかった火神が尋ねる。

 

「兼ねてより、ボクの新しい武器として考えていたものがあるんです。ドリブルやシュートは、気軽に使えるものではなくなってしまったので…」

 

誠凛高校に入学し、最初の夏の大会で、自身のスタイルの限界を痛感した黒子が、苦心の末に身に着けた、消える(バニシング)ドライブと幻影(ファントム)シュート。試合の勝利に大いに貢献したが、代償に自身の最大の武器を手放す結果となってしまい、今では容易に使えなくなってしまっている。

 

「んだよ。言ってくれりゃ、協力したのによ」

 

「さっきも言いましたが、ウィンターカップ中に完成する保証がなかったので、下手に希望を持たせなくなかったのと、変に意識されると、かえって完成が遠のいてしまうので、言えなかったんです」

 

隠していた事を咎めた火神。黒子は理由を答えた。

 

「正直、この試合に勝つには、黒子君に頼らざるを得ないわ。もちろん、私も別の対応策を考えるけど、…信じて良いのね?」

 

「はい。必ず完成させます」

 

リコの問いに、黒子は力強く答える。

 

「火神君」

 

その後、黒子は火神を呼び…。

 

「必ずボクが何とかして見せますから、それまで頼みます」

 

「おう、任せろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「(情けねえ…!)」

 

胸中で悔しさを吐露する火神。

 

「(黒子に頼らなきゃいけないばかりか、その黒子が来るまで、粘る事も出来なかった…!)」

 

花月の猛攻に晒された第3Q。ミスディレクションの稼働時間から黒子を出せない為、この第3Qは黒子抜きで耐え凌がなければならなかった。だが、第3Q開始早々、あっさり逆転を許したばかりか、僅か10分足らずで20点近くまでリードを許してしまった。

 

「(黒子に任されたんだ。キャプテンである俺がやれなくてどうすんだ! この試合に勝つ為に、今も黒子が俺達を信じて新技の完成を急いでるんだ。俺がやるんだ!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

大地が空のパスの中継を受けてハイポストでボールを掴み、そのままレイアップを狙ったが、飛んで来た火神によってブロックされる。

 

「(俺が火神さんを引き付けてたのに、それでも間に合っちまうのか!?)」

 

火神を引きつけつつパスを中継した空。それでもブロックに追い付く火神のディフェンスに驚きを隠せないでいた。

 

「来い!」

 

「お、おう!」

 

着地した火神はすぐさま反転して前線へ走り、鬼気迫る表情でボールを要求。池永は圧倒されながらも火神にパスを出す。ボールを受けた火神はそのままドリブルでワンマン速攻で駆け上がった。

 

「行かさねえ!」

 

速攻に走る火神にただ1人追い付いた空が立ち塞がる。

 

「神城!」

 

構わず、火神は空に突っ込んで行く。

 

「(ゾーンに入った火神さんは、目を使わずに止められる相手じゃねえ。試合終盤まで控えるつもりだったが、ここを止めねえと流れを奪われかねねえ!)」

 

火神の連続ブロックによる得点失敗。その後に連続失点までしては、流れを手放すばかりか、持って行かれる可能性もある。

 

「…スー…フー」

 

脱力し、集中力を高める。

 

 

――時空神の眼(クロノス・アイ)!!!

 

 

同時に空だけが、違う時間軸に立つ。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

「(…っ! 外された!)」

 

火神はフェイクを駆使して仕掛けるタイミングを外した。空の眼は僅かな時間しか発動出来ない。仕掛けるタイミングとバッチリ合えば如何なる選手であってもボールを奪えるが、タイミングを外されてしまえばその限りではない。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

火神は空を抜きさり、背後へと抜ける。

 

「だがまだだぜ。まだ2撃目がある!」

 

空は後方に倒れ込みながらその体勢で手を伸ばし、火神のボールを狙い打つ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、即座に火神は切り返し、空の手をかわす。

 

「ちぃっ!」

 

バックチップをかわされ、舌打ちが飛び出る空。

 

「…っ!」

 

同時に火神がボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。

 

「おぉっ!」

 

そこへ、大地が現れ、ブロックに飛ぶ。

 

 

「神城を抜きさるのに僅かに減速したとは言え、良く追い付いたのだよ。…だが」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

ブロックなどお構いなしにボールをリングに叩きつけ、大地を吹き飛ばしながらダンクを炸裂させた。

 

 

花月 78

誠凛 64

 

 

『うぉぉぉぉーーーっ!!! 火神止まらねえ!!!』

 

『神城と綾瀬を同時に抜いた決めた!!!』

 

 

「「…っ」」

 

本人達は悔しさから思わず歯を食い縛った。

 

 

「ゾーンに入った火神は、それこそゾーンに入った者でなければ、ダブルチームでも止められないだろう」

 

今の火神を見て、赤司がそう断言する。

 

「火神っちが本気になったみたいッスね」

 

そこへ、新たな観戦者がやってくる。

 

「…黄瀬か」

 

「何でてめえまで来るんだよ…」

 

明らかに嫌そうな顔をする緑間と青峰。

 

「何でそんな嫌そうな顔するんスか!? 試合したばっかで疲れてるから、座れるとこ探してたらここしか空いてなかったんスよ!」

 

紫原も同じくげんなりした表情となり、泣きそうな表情で説明する黄瀬。

 

「まあいいじゃないか。こうしてキセキの世代(俺達)が集まるのは開会式以来だ。次、いつ集まれるかも分からない。高校最後の大会の覇者を決める試合、皆で見届けのも悪くない」

 

赤司が3人を窘める。

 

「さっすが赤司っち! 分かってるッスね。…あっ、桃っち、横失礼するッス」

 

黄瀬は赤司に感謝しつつ、空いている桃井の横の席に座った。

 

「花月が14点リード、とは言え、花月の押せ押せのムード…って訳でもなさそうッスね」

 

「さっきまではそうだったんだけどね」

 

「ゾーンに入った火神っちはちょっとの事では止められない。しかも、黒子っちを温存している状態。先行きは不透明。…良いッスね。最後の試合に相応しい展開っス」

 

タイミング良く試合に間に合い、満足気に笑みを浮かべる黄瀬であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ」

 

ボールを運ぶ大地。フロントコートまでボールを運ぶと、誠凛のディフェンスフォーメーションの変化に気付く。

 

「ゾーンディフェンスですか…」

 

ボソリと呟く大地。

 

誠凛が、マンツーマンからゾーンにディフェンスを切り替えたのだ。

 

「2-3…いや、2-1-2か…」

 

誠凛の選手達のポジションを見て呟く空。

 

誠凛は、後方に田仲と池永。前方に新海と朝日奈。中央に火神が陣取っていた。一見すると2-3ゾーンディフェンスに見えるが、新海、朝日奈が前よりに立ち、それに応じて火神も前に陣取っている為、2-1-2のゾーンディフェンスと判断した。

 

「(スリーを防ぎつつ、火神さんのディフェンスを存分に生かしたディフェンスって訳か…)」

 

相手のスリー(脅威)を抑えつつ、火神の驚異的なディフェンス力と範囲を生かせる、効率的で、花月にとっては厄介なディフェンスフォーメーション。

 

「(ああも中に陣取られちまったら、姿丸見えの俺じゃ、パスの中継なんざそう出来ねえ。仕方ねえ…)…大地!」

 

外に展開したまま空がボールを要求。

 

「任せますよ」

 

攻めあぐねていた大地はそこへパスを出した。

 

「…っ!」

 

空がボールを持った瞬間、新海が距離を詰め、激しくプレッシャーをかけてきた。

 

「(…っ、最悪、中に切り込まれても構わない、とにかくスリーを阻止か…!)」

 

新海はフェイスガードでとにかく空にシュート体勢に入らせないよう激しく当たっている。カットインされても中には火神が待ち受けている。今の火神なら例えカットインされても何とかしてくれる。信頼あっての選択だ。

 

「(俺達じゃ、中で火神さんから点は奪えねえ。ってか? いいぜ、上等だ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

誘いのカットイン。空は敢えて乗り、中に切り込んだ。

 

「(…っし!)」

 

同時にシュート体勢に入った。

 

「おぉっ!」

 

スリーポイントラインのやや内側でシュート体勢に入った空に対し、火神がすぐさまブロックにやってきた。

 

「(速い! マジで紫原さん並…いや、それ以上だ。だが、この程度は想定済みだ!)」

 

 

――スッ…。

 

 

空はシュートを中断、パスに切り替え、ボールを火神の背後に落とす。

 

「よし!」

 

そこへ大地が走り込んでボールを受け取り、そのままリングへと突き進み、そのままボールを掴んでリングへと飛ぶ。

 

「させるか!」

 

しかし、大地とリングの間に割り込むように火神のブロックが現れる。

 

 

『もう追いついた!?』

 

『ダメだ、鉄壁過ぎる!!!』

 

 

「…これを想定済みです!」

 

大地はダンクを中断。ボールを下へと落とした。

 

「よっしゃ!」

 

そこには、今度は空が走り込んでいた。

 

「おらぁ!」

 

「っ!?」

 

空がリングに向かって飛んだ。

 

「させっかよぉっ!!!」

 

火神は大地へのブロックに飛んでいて、間に合わない。そこへ、現れたのは、池永だった。

 

「火神だけで試合してんじゃねえんだよ!!!」

 

ブロックに現れた池永が空の持つボールに右手を伸ばす。

 

「…ちっ!」

 

これを見て空がボールを左手で抑えてダンクを中断。ボールを下げて池永のブロックをかわす。

 

「っ!?」

 

再度ボールを掲げ、ダブルクラッチを放った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、放ったボールは叩かれてしまう。

 

「よくやった池永!!!」

 

ブロックにしたのは火神。タイミング的に間に合わなかったが、池永がブロックに来た事でその時間が稼げたのだ。

 

「おぉっ!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…ちぃっ!」

 

ルーズボールを田仲が天野から強引に奪い取った。

 

「ナイスガッツ田仲!」

 

ディフェンスリバウンドを抑えた田仲に、ベンチから福田がエールを贈る。

 

「速攻!」

 

田仲からパスを受けた新海がそのまま速攻に駆け上がる。

 

「…行かせませんよ」

 

ワンマン速攻を駆ける新海。大地がスリーポイントラインの手前で捉え、回り込む。

 

「相変わらず早いな。…だが、関係ない」

 

そう言って、新海はボールを横へと放る。そこには、火神が走り込んでいた。

 

「野郎…!」

 

火神がボールを掴むのと同時に空が火神に追い付き、立ち塞がる。

 

 

――スッ…。

 

 

右45度付近のスリーポイントラインの外側でボールを受け取った火神。ボールを掴むのと同時にシュート体勢に入った。

 

「っ!? くそっ!!!」

 

慌ててブロックに飛ぶ空。

 

「無駄だ。如何にお前でも届かない」

 

新海の言葉通り、空の決死のブロックも届かず。火神は空の遙か上でボールをリリース。

 

「…っ」

 

振り返る空。

 

「…」

 

火神は着地と同時に踵を返し、シュートの結末を見届ける事無くディフェンスに戻っていく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは、リングの中心を的確に射抜いた。

 

 

花月 78

誠凛 67

 

 

『ここでスリー!!!』

 

『3連続得点! これは分からねえぞ!』

 

追い上げを見せる誠凛に観客も大歓声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴る。

 

 

第3Q終了

 

 

花月 78

誠凛 67

 

 

「よっしゃよっしゃ! 行けるぞ!」

 

手応えを感じた池永が嬉々としてベンチへと戻っていく。

 

依然として点差は11点差あるものの、一時は18点もあった点差を2分で7点も詰めた事もあり、誠凛の選手達の表情は明るい。

 

『…っ』

 

対して花月の選手達の表情は暗い。安全圏の節目の20点差目前から得点が止まり、逆に点差を詰められたからだ。

 

 

花月ベンチ…。

 

「しんどなってきたな…」

 

ベンチに座るや否や、ドリンクを口にしながら溜息を吐く天野。

 

「ツーポイントエリアの中心に陣取った火神さんの威圧感は、紫原さん並だ」

 

「しかも、2人は積極的に前に出てスリーを阻止して、後ろの2人はインサイドのケアに全力を注いでくる。…厳しいね」

 

松永と生嶋も、今の状況に厳しさを感じていた。

 

「いいか――」

 

選手達の前に立った上杉が指示を出していく。

 

「…ふぅ」

 

「…」

 

空はタオルで汗を拭い、大地は静かに水分補給をしていた。

 

「神城君、大丈夫?」

 

そんな2人を心配した姫川が空に声をかける。

 

「大丈夫…ではないな。見ての通りだよ」

 

そう答え、横に置いていたドリンクを手に取る。

 

「相手はキセキの世代を倒した火神さん。キセキの世代より劣るはずがありません。分かっていた事です」

 

続けて大地。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

ここで、インターバル終了のブザーが鳴った。

 

「…さて、行くか!」

 

立ち上がった空はタオルとドリンクを姫川に渡した。

 

「…何か策があるの?」

 

「ねえよ。つうか、ここまで来たら、がむしゃらにやるしかねえよ」

 

ぶっきらぼうに姫川の問いに答えていく空。

 

「神城君…」

 

投げやりに聞こえる空の言葉だが、姫川はこれ以上、言葉を続ける事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、最後の10分が始まる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ」

 

誠凛ボールから試合が再開され、早々に火神にボールが託される。その火神が目の前の大地を抜きさり、カットイン。

 

「させへん!」

 

大地が抜かれる事を見越して素早くヘルプに出ていた天野。

 

「…」

 

カットイン直後にシュート体勢に入った火神に対し、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

しかし、火神は飛ぶ事はおろか、ボールを保持すらしておらず、飛んだ天野をバックロールターンでかわした。

 

「(フェイクやと!? あかん、キレもテクニックも俺の手に負えん!)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま火神はボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 78

誠凛 69

 

 

「やった、遂に一桁だ!」

 

「いいぞ火神!」

 

ベンチの降旗、河原が声を出す。

 

 

「…」

 

花月のオフェンス。空がハンドラーとなり、ボールを運ぶ。

 

「…っ!」

 

新海がすぐさま距離を詰め、プレッシャーをかける。

 

 

――ピッ!

 

 

その前に空は大地にパスを出す。

 

「おぉっ!」

 

大地がボールを掴むと、今度は朝日奈が大地に当たるようにプレッシャーをかけにいく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

激しく当たる朝日奈。大地は仕掛け、朝日奈をかわして中に切り込む。

 

「…」

 

中に切り込み、そこで待ち受けるのは火神。

 

「…行きます」

 

大地は構わず突き進み、ロッカーモーションで緩急を付けながら火神に仕掛ける。

 

「…あめーよ」

 

しかし、火神は大地の仕掛けに崩される事はなく、その動きに付いていく。

 

 

――スッ…。

 

 

大地はここでボールを後ろへと放る。

 

「…っ」

 

これを見て火神は前に出る。スリーポイントラインの僅か内側で、空がボールを掴んだからだ。

 

 

――ピッ!

 

 

ボールを掴んだ空はすぐさまボールを前方、リング付近にボールを投げるように放る。

 

『っ!?』

 

そこには、空にパスを出したのと同時に飛び込んだ大地がいた。

 

「…ちっ!」

 

これを見て慌てて反転した火神が大地に迫り、ブロックに飛ぶ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

大地は火神が来るよりも早く空中で掴んだボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 80

誠凛 69

 

 

『何だ今のパスワーク!?』

 

『花月も負けてねえ!!!』

 

 

「(…だが、ギリギリだ。あれだけ揺さぶっても紙一重なのか…!)」

 

冷や汗を掻く松永。

 

久しぶりに得点した花月。しかし、空と大地が連携で前後に火神を揺さぶったにも関わらず、火神のブロックは紙一重であり、僅かにでも遅かったらブロックされていた。

 

「ドンマイ、切り替えろ!」

 

手を叩きながらチームを鼓舞する新海。

 

 

誠凛のオフェンス。

 

「っ!?」

 

その時、空の目が見開かれる。ボールを運んでいた新海。スリーポイントラインから2mは離れている位置から突如、シュート体勢に入った。

 

「…ちっ!」

 

これを見て空がすぐさまチェックに入りブロックに飛ぶ。しかし、新海はそれよりも速くボールをリリースした。

 

「(あの距離、あんなクイックリリースで入る訳がねえ!)…リバウンド!」

 

外れると確信した空が声を出す。

 

 

――ガン!!!

 

 

予想通り、ボールはリングに弾かれる。

 

「「…っ」」

 

リバウンドボール目掛け、天野と松永がボールに飛び付く。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

ボールを掴んだのは、2人の遙か上でボールを掴んだ火神だった。

 

「(っ!? 何て高さだ!?)」

 

「(あかん、そない上で取られたらチップアウトも出来へんやないか!)」

 

圧倒的な高さでボールを掴んだ火神に、驚きを隠せない松永と天野。

 

『…っ』

 

リバウンドボールを抑えて着地した火神。天野、松永、そして大地がすぐさま火神を包囲にかかる。

 

「朝日奈!」

 

火神は右ウィング付近に展開した朝日奈に視線を向ける。

 

「…っ!」

 

これを見てすぐさま生嶋が朝日奈のチェックに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

火神がパスを出す。

 

『っ!?』

 

ボールは、朝日奈…にではなく、自身の後方、ゴール下に、右肩越しにノールックでパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そこにいたのは田仲。ゴール下でボールを受けた田仲はそこからボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 80

誠凛 71

 

 

『ここでパスかよ!?』

 

『今後ろ見てなかったぞ!? 何であんなパスが出せんだよ!?』

 

司令塔顔負けのナイスパスに観客も大興奮。

 

 

「ゾーンに入ってるだけに、視野も相当広がってやがるな」

 

呟く空。

 

ゾーンの扉を開いた事で、不必要な情報が遮断されただけではなく、視野も広がっている事を痛感する空であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も激しい攻防が繰り広げられる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

誠凛が火神が中心になって得点を決めると…。

 

 

――バス!!!

 

 

花月は空と大地が連携を駆使して決め返す。

 

試合は均衡を保ち、拮抗し始めた…かのように思えた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空から大地へのパス。からのアリウープを火神が叩き落した。

 

「ナイスブロック!」

 

ルーズボールを田仲が抑えた。

 

『よーし!!!』

 

ブロックし、ボールを奪った事に喜びを露にする誠凛の選手達。

 

「(よし! ルーズボールが私達の下に、流れが向いて来たわね)」

 

自分達のボールに出来た事に内心でほくそ笑むリコ。

 

「速攻!」

 

田仲が前方へ大きな縦パスを出す。そこには既に新海が走っていた。

 

「行かせるかよ!」

 

そんな新海をツーポイントラインに入った所で捉え、横に並ぶ空。

 

 

――スッ…。

 

 

新海は、横に空が並んだのと同時に股下からボールを後ろへと戻す。

 

「っしゃいただきぃ!」

 

そこには池永が走り込んでいた。

 

「…ちっ」

 

スリーポイントラインの僅か外側でボールを掴んだ池永。スリーを打たせない為、空が舌打ちをしながら距離を詰める。

 

「何てな」

 

しかし、池永はスリーを打たず、ボールを弾くようにして前へ飛ばした。

 

「っ!?」

 

ボールは空の横を抜けていき、再び新海の下へ。

 

 

――バス!!!

 

 

新海はそのままレイアップを決めた。

 

 

花月 84

誠凛 77

 

 

「っしゃぁぁっ!!!」

 

ハイタッチを交わす新海と池永。

 

 

「…あっ!?」

 

スローワーとなった生嶋がボールを空にパスを出したその時…。

 

「おぉっ!!!」

 

「オラオラオラ!!!」

 

ボールを持った空に対し、新海と池永がダブルチームで当たり始めた。それに応じ、他の誠凛の選手達も動き出す。

 

 

『まさか…!』

 

『ここでオールコートゾーンプレス!?』

 

これまで花月が仕掛けて来たゾーンプレスを仕掛けた事に驚きの声を上げる観客。

 

 

「浮足立っているこの機は逃さないわよ」

 

ニヤリとするリコ。

 

「浮足立ってる? 舐めんな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「…っ」」

 

しかし、このダブルチームを空は難なく突破。

 

「今更この程度でオタオタ――」

 

ダブルチームを突破した瞬間、直後に空の持つボールに朝日奈が手を伸ばす。空がダブルチームを突破する…いや、そもそも、このダブルチームはここに誘導させ、朝日奈にボールを奪わせる為の罠だったのだ。

 

「行け!」

 

田仲の願いの籠った声。朝日奈の手がボールに迫る。

 

「…っ! 見えてんだよ!」

 

 

――ピッ!

 

 

空はボールを大地のいる横へと放る。

 

「この程度で周りが見えなくなるほど、熱く――」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

大地の手にボールが渡る瞬間、伸びて来た1本の手にボールが奪われた。

 

「確かに熱くはなってねえ。だが、冷静にもなり切れてねえぜ」

 

ボールを奪ったのは火神だった。

 

オールコートゾーンプレスによるダブルチームも、突破した後の朝日奈のアタックも、全ては最後の火神のパスカットの誘導する為の布石だった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを奪った火神はそのままリングへと叩き込んだ。

 

 

花月 84

誠凛 79

 

 

『遂に5点差!』

 

『スリー2本で逆転だぞ!』

 

 

『…っ』

 

遂に5点差まで詰め寄られ、焦りの色が見えて来た花月の選手達。

 

「…やべーな」

 

「…ホントですね」

 

空の思わずポロっと出た言葉に、反射で返事をする大地。

 

「ホントに、やべーな…!」

 

その言葉とは裏腹に、2人の口角は、上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ」

 

スローワーとなった松永の前に、両手を広げて立ち塞がる池永。誠凛は変わらずオールコートゾーンプレスを仕掛けるつもりである。

 

「はよ出せ! もうすぐ5秒やぞ!」

 

誰にパスを出すか迷っていた松永に、天野が檄を飛ばす。仕方なく松永は空にパスを出した。

 

「っしゃぁぁっ!!!」

 

当然、待ち受けるのは新海と池永のダブルチームである。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

先程同様、空はダブルチームを難なく突破。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ダブルチーム突破の隙を狙い打った朝日奈をクロスオーバーで空はかわす。

 

 

――ピッ!

 

 

直後に空は、空がゾーンプレスを突破する事を見越してフロントコートに走っていた大地にパスを出した。

 

「行かせねえぞ」

 

そこへ、同じくゾーンプレスを突破される事を見越してディフェンスに戻っていた火神が大地に並ぶ。

 

「(減速しねえ、ダンクか!?)」

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

フリースローラインを越えた所で大地が踏み切る。

 

「叩き落して――っ!?」

 

大地は、リングにではなく、後方へと飛んだ。

 

「(バカな!? 全速での勢いを、止まる所か、減速すらせずに後ろに飛んだだと!?)」

 

間違いなく大地は寸前までダンクに行く体勢だった。その為に加速していた。だが、大地は前方のリング(・・・・・・)ではなく、後方(・・)へと飛んでいた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのまま大地はフェイダウェイシュートを決めた。

 

 

花月 86

誠凛 79

 

 

「さすが、キセキの世代を全員倒した誠凛…そして火神さんだ。ホントにやべー」

 

「っ!?」

 

火神が振り返ると、そこには空がいた。

 

「そのあらゆる強さ、尊敬の言葉しかありません。私では敵わないかもしれません」

 

空の横に並んだ大地が続く。

 

「「それでも勝つのは、俺(私)達だ!」」

 

「……ったく、ホントに、お前達はよう、楽させてくれねえな」

 

火神は苦笑したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――空と大地が、ゾーンの扉を、開いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





だいぶ過ごしやすい気候になりましたね…(;^ω^)

クーラーキンキンに効いた部屋でアイスを食べるのも悪くありませんが、やっぱ外に出るのがだるくなるので、秋が1番好きですね。春は花粉症なので…(ノД`)・゜・。

季節の変わり目は体調を崩しやすいのでご注意を…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第211Q~土俵際~


投稿します!

今年も遂に夏が終わったか…

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り7分55秒

 

 

花月 86

誠凛 79

 

 

一時は点差が18点差にまで開いた試合。第3Qに火神がゾーンの扉を開き、火神の圧倒的な支配力によって瞬く間に点差を5点差にまで縮めた。

 

誠凛が花月の背中を捉えようとしたその時、空と大地がゾーンの扉を開いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

誠凛のオフェンス。早々に火神にボールを託した誠凛。

 

「おぉっ!!!」

 

「ッ!!!」

 

その火神に対し、空と大地がダブルチームでぶつかる。

 

「…くっ!」

 

激しくプレッシャーをかける空と大地。火神は苦悶の表情を浮かべながらボールをキープしている。

 

 

『すげえプレッシャーだ!!!』

 

『こりゃいつ取られてもおかしくねえ!!!』

 

 

「あの2人のダブルチームはマジできついッスよ…」

 

過去に2人のダブルチームを経験している黄瀬は思わず苦笑する。

 

「神城と綾瀬、総合的に見れば、キセキの世代(俺達)に劣るかもしれない。だが、ダブルチームの破壊力は、俺達がダブルチームでぶつかるより上だ」

 

赤司がそう断言する。

 

 

「火神さん!」

 

見かねた新海がボールを貰いに動く。

 

「…っ」

 

新海の声に火神が僅かに視線をそっちへ向ける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、火神はパスを出さず、視線のフェイクを入れて仕掛ける。

 

「…」

 

切り込んだ火神だったが、すぐさまバックステップで下がった大地が阻む。

 

「…っ」

 

この程度で出し抜けるとは思っていなかったが、あっさりと対応され、思わず目を見開く。そこへ。

 

「…っ」

 

背後から空がバックチップでボールを狙う。

 

「…ちっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

咄嗟に空のバックチップを切り返してかわす。だが、追撃はそれで終わらない。切り返したボールを今度は大地が狙う。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

火神は即座に反応し、ボールを保持して大地の手をかわす。

 

 

――スッ…。

 

 

ここでターンをし、そのまま後傾姿勢でジャンプショットの体勢に入る。

 

「(よっしゃ! シュート体勢に入っちまえば、火神の勝ちだ!)」

 

ほくそ笑む池永。規格外の高さを誇る火神。シュート体勢に入ってしまえば、花月にブロック出来る者はいないからだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

しかし、ボールを頭上にリフトさせようとしたボールが叩かれた。

 

「させねえ!」

 

 

『神城!!!』

 

 

バックチップをした空がすぐさま体勢を立て直し、火神の保持するボールを叩いた。

 

「くそっ…!」

 

自身の下へ跳ねるルーズボールを確保に行く新海。

 

「っ!?」

 

それよりも速く大地が確保した。

 

 

『速過ぎる!!!』

 

『神城がボールを叩くのを予測してたのか!?』

 

あまりのルーズボールに対応する速さに、観客も驚く。

 

 

――ピッ!

 

 

ボールの確保と同時に大地はボールを前線へと大きな縦パスを出した。そこには…。

 

「っしゃ!」

 

既に速攻に走っていた空がいた。

 

 

『こっちもはえー!!!』

 

 

火神の持つボールを叩き、その後、すぐさま速攻に走っていた空。

 

「くそが!」

 

悪態を吐きながら慌ててディフェンスに戻る池永。そして誠凛の選手達。しかし、先頭を走る空に追い付ける者はおらず…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンマン速攻を決めた空がワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 88

誠凛 79

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に上がる大歓声。

 

 

「ディフェンス、切り替えろ! 絶対止めるぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空が檄を飛ばし、他の選手達が応えた。

 

 

誠凛のオフェンスとなり、新海がボールを運ぶ。

 

「…っ」

 

これまで自分をマークしていた空は大地と共に火神に付いている。代わりに生嶋が付いている。空に比べれば遙かに与しやすい相手ではあるが…。

 

「(どうする…)」

 

新海は攻め手に悩んでいた。火神にパスを出そうにも、空と大地がダブルチームでマークしている。ボールを持たすだけなら、火神にだけ届く高さにパスを調整すれば可能だが、その場合、火神は不利な体勢であのダブルチームを突破を余儀なくされる。

 

「…っ」

 

頭を悩ます新海。オフェンスに失敗して、ターンオーバーになった場合、空か大地、一方に速攻に走られれば失点はほぼ免れない。

 

 

――花月を相手に、速攻に走られたら終わり…。

 

 

昨夜のミーティングで告げられた言葉が今、身に染みて体感していた。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

ボールを運ぶ新海に対し、生嶋が積極的に距離を詰めてフェイスガードで激しくプレッシャーをかけている。

 

「(…ちっ! これだけ激しく当たられちゃ、スリーは打てない。あくまで外だけをケアして、最悪中に切り込まれても構わないって事か…!)」

 

中に切り込めば、待っているのは空と大地による高速ヘルプ。スリーさえ打たせなければ2人が何とかしてくれると言う信頼がある為、生嶋は迷いなくプレッシャーをかけられる。

 

「(ならば!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して新海が生嶋をかわし、中に切り込む。

 

「…」

 

当然、空がダブルチームを解き、新海のヘルプに走る。

 

「(来たな!)」

 

新海の予測通りの動きを見せた花月。新海はここでほんの一瞬、火神に向け、視線を向けた。

 

「…っ」

 

これに空が反応する。ダブルチームならいざ知らず、大地と火神のマンツーマンなら、互いにゾーンに入っている今、条件はこれまでと変わらない。確実に止めるなら、大地1人で形勢が悪い。

 

 

――ピッ!

 

 

新海はここでパスを出す。

 

『っ!?』

 

このパスに、花月の選手達は虚を突かれる。パスは、火神にではなく、リング付近に放られていた。

 

「っしゃきたー!!!」

 

そこへ、池永が走り込んでいた。

 

 

「視線のフェイクで神城の意識は火神に制限された。あれじゃ、神城と言えど、ブロックに間に合わねえ」

 

呟く青峰。

 

 

池永が空中でボールを掴む。

 

「らぁっ!」

 

空中で掴んだボールを、そのままリングに叩きこむ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

 

「発想は悪くなかった。綾瀬(・・)さえいなければ、得点に繋がっていただろう」

 

緑間の言葉通り、新海から池永のアリウープは、大地によって叩き落された。

 

「ナイスブロック綾瀬!」

 

ルーズボールを拾った松永。

 

「来い、松永!」

 

同時に速攻に走った空がボールを要求する。この声に反応した松永は空に向けて大きな縦パスを出した。

 

「(止める! ファールをしてでも!)」

 

後方で全体を見ていた朝日奈は、いち早く大地のブロックを予見出来た為、空の速攻より速くディフェンスに戻る事が出来ていた。朝日奈は、ファール覚悟で空を止めに行く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「くっそ…!」

 

ファール覚悟の朝日奈のディフェンス。しかし、空のスピードと反応速度によって、容易くかわされてしまう。

 

「っ!?」

 

朝日奈を抜きさり、リングへと向かおうとしたその時、空の目の前に、朝日奈をかわしている合間に戻った火神が現れた。

 

「…」

 

火神を抜きされば、今度こそ空を阻む者はいない。強気に空が仕掛ける為に1歩踏み出す。

 

「…」

 

「…っ」

 

1歩踏み出した所で足を止めた空。

 

「……ふぅ」

 

空は結局仕掛けず、攻め上がってきた大地にボールを戻した。

 

 

『せっかくの速攻のチャンスだったのに…』

 

『んだよつまんねえなー』

 

この選択に、観客席からは不満がチラホラ。

 

 

「あのイケイケの神城君が退いた…」

 

恐れ知らずの空の性格を理解している桃井は驚く。

 

「それだけ、火神の放つプレッシャーが強烈だったのだろう」

 

緑間が空の心情を察する。

 

「…ゾーンが深くなってんな。恐らく、もう火神は底に到達してる。仮に仕掛けてたとして、ブロックされて終わっただろうよ」

 

青峰が断言。

 

 

「…」

 

スリーポイントラインの外に出て改めてボールを受け取った空。

 

誠凛のディフェンスは変わらず、火神を中心に据えた2-1-2ゾーンディフェンス。前の新海と朝日奈は積極的に前に出てスリーを要警戒。後ろの池永と田仲も、火神を信頼してか前よりにポジション取りをしている。

 

「(火神さん以外はとにかくスリーのケアに集中してんな。それだけ今の火神さんを信頼してるって訳か…)」

 

激しくプレッシャーをかけてくる新海をいなしながらゲームメイクをしている空。点差は9点。残り時間を考えても、決してセーフティな点差ではなく、きっかけ1つで覆りかねない。

 

「…」

 

チラリと空が誠凛ベンチに視線を向ける。そこには、ビデオカメラで何かを確認している黒子の姿があった。

 

誠凛にはまだ、黒子と言う、切り札が残っている。黒子の姿を捉えられる空だが、その黒子が点差を覆すきっかけとなりかねないと考えており、黒子が再びコートに現れる前に勝負を付けておきたい。そう考えているのだが…。

 

「(…ハハッ! スゲープレッシャーだ。結構距離取ってんのにここからでもビンビン伝わらー)」

 

火神から発せられるプレッシャーのようなものが空の肌に伝わり、思わず苦笑する空。

 

「(中から点を取るのは無謀? だからこそ――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「行く価値があるってもんだろ!」

 

嬉々として空が仕掛け、カットインした。

 

「…来いよ」

 

当然、そこには火神が待ち構えている。

 

 

「今度は退かない!」

 

桃井が注目する。

 

「生半可な攻めでは、今の火神は崩せない。どうする?」

 

仕掛けた今、決めるか止められるかの2択しかない。結果次第で試合にも影響する可能性もある為、緑間も注目する。

 

 

「(全く隙がねえ、改めて、とんでもねえ人だよ…!)」

 

キラークロスオーバー、バランス感覚を生かした変則ドリブル。どれもかわせるイメージが持てなかった。もはや待ったなし。やるかやられるしかない。

 

「(…仕方ねえ。こうなったらダメ元だ。練習でもほとんど成功出来てねえが、やるしかねえ!)」

 

意を決した空はボールを掴んで跳躍した。

 

 

『フリースローラインから飛んだぞ!?』

 

『まさか、レーンアップするつもりじゃねえだろうな!?』

 

『あの身長でか? あり得ねえだろ!?』

 

まさかの行動に観客からも驚きと戸惑いの声が上がる。

 

 

「(何のつもりかは知らねえが…)…叩き落してやるよ!」

 

火神もブロックに飛ぶ。空の目の前に、空の目の前に、空を遙かに超える高さのブロックが立ち塞がった。

 

 

『うわーたけー!!!』

 

『やっぱり無謀だ!!!』

 

悲鳴を上げながら頭を抱える観客。

 

 

「おぉっ!」

 

圧倒的な高さ、威圧感を放ちながらブロックに飛ぶ火神。

 

「…っ」

 

ここで空は右手で持ったボールを掌を下にし、ボールを天井に掲げるように持ち替える。

 

 

――スッ…。

 

 

その体勢から手首のスナップを利かせ、ボールを指先でなぞるように上へと放る。

 

「っ!?」

 

目を見開く火神。ボールは火神が伸ばした指先の上を弧を描くように超え、そのままリングに向かって落下する。

 

 

――ガガン!!!

 

 

ボールはリングの上を跳ね、そこからリングの輪の上を回り始める。

 

『…っ!』

 

選手達、観客、会場の全ての者がボールの行き先に注目する。やがて、ボールはゆっくりと回転スピードが落ち、そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中へと転げ落ち、ゆっくり潜り抜けた。

 

 

花月 90

誠凛 79

 

 

『――なっ』

 

『何だ今のはぁぁぁっ!?』

 

僅かな沈黙の後、割れんばかりの大歓声が上がった。

 

 

「ミドルレンジから、フィンガーロール…!」

 

この大技に、緑間も驚いていた。

 

「…驚いたッスね、神城っちにまだあんな隠し玉があったんスか…」

 

同様に黄瀬も苦笑していた。

 

「(今日まで出してこなかった所を見ると、恐らくまだ未完成なのだろう。ゾーンに入っていたとは言え、この土壇場で…)…なるほど、これは素直に称賛の言葉を贈りたくなる」

 

半ば、賭けを成功させた空を、赤司は称賛したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…おいおい今の!」

 

コート上の空を指差すニック。

 

「ミドルレンジからのフィンガーロール、ナッシュの技じゃねえか!」

 

同様にアレンも驚愕している。

 

「…ナッシュ、あれも教えたのか?」

 

「んな訳ねえだろ」

 

ザックの質問に、ナッシュは鼻を鳴らしながら返す。

 

「あの技って、リストがかなり強くねえと出来ねえ技だよな?」

 

ニックの言葉通り、ミドルレンジと言う、リングそれなり離れた場所から手首のスナップのみでリングにボールを届かせなければならないので、よほど手首が強くなければ決まる決まらない依然にリングに届く事すら出来ない。

 

「(あのサルはリストが強くねえ代わりにかなり柔らかい。つまり、それだけ長くボールに指を触れていられる。それで飛距離を確保したか…)」

 

ナッシュの想像通り、空の手首は、指先を反ると手首に付きそうな程に柔らかい。フィンガーロールでボールを放った時、柔らかい指の分だけボールに触れて置ける時間が長くなる為、それだけボールに力を伝わせる事が出来るのだ。

 

「(だが、あんな様じゃ、通用すんのは意表を突いた今回限り。次やってもブロックされるか外すのがオチだ。ゾーンに入った状態でその程度じゃ、まだまだだな)」

 

自身の必殺技とも言える技を真似られた事に若干苛立ち気味になるも、辛口の評価をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そこから試合は花月のペース…になるかと思われたが、両チーム、得点は伸び悩んでいた。

 

 

第4Q、残り5分38秒

 

 

花月 90

誠凛 79

 

 

「(絶対に負けない! 高校最後の大会、絶対に勝つんだ!)」

 

「(先輩達を2度も負けて引退させる訳にいかない!)」

 

「(クソが! 俺の身勝手で散々迷惑かけたんだ。この試合に勝って優勝させなきゃ、返せねえだろうが!)」

 

「(勝つ! 最後の大会、最後の試合。先輩達は俺にスタメンを譲ってくれたんだ。勝たなければ、申し訳が立たない!)」

 

コート上の2年生達は歯を食い縛って花月の猛攻を凌いでいた。

 

「(黒子に頼まれたんだ。黒子が来るまで試合は終わらせねえ!)」

 

ツーポイントエリア内にて、火神が立ち塞がり、思わず攻めあぐねる程のプレッシャーを放っていた。

 

「…」

 

現在、ボールを持っているのは大地。目の前には朝日奈がフェイスガードで激しく当たりながらディフェンスをしている。

 

「(凄い執念ですね。ここまで来るまでに何度も味わった勝利への執念…)」

 

勝ちたいと言う強い想いが、自身を、そしてチームを振るい立たせ、力を引き出している。これは、ここまで戦って来た全てのチームの選手達が持っていたもの。

 

「(…ですが、それは私達も同じ。その想い、その執念、ここで断たせていただきます!)」

 

 

――スッ…。

 

 

ここで大地は強引にシュート体勢に入った。

 

「っ!?」

 

これに朝日奈は驚くもすぐさまブロックに飛ぶ。しかし、紙一重の差でボールに触れる事は出来なかった。

 

『っ!?』

 

リングへと向かうボールに目を見開きながら見送る誠凛の選手達。

 

大地が立っていた場所は、スリーポイントラインから1m以上は離れていた。しかも、朝日奈はスリーだけは打たせない為に、激しく身体がぶつかる程にプレッシャーをかけていた。これだけ厳しい条件が備わったディープスリー。いくらゾーンに入っているとは言え、決められる訳がない。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

しかし、そんな淡い期待も空しく、大地の放ったスリーはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 93

誠凛 79

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に上がる大歓声。

 

 

『…っ』

 

もっとも決められたくない状況でスリーを決められ、誠凛の選手達の表情に絶望の影が差し掛かる。

 

 

「決めちまうんだよ、あいつは…」

 

「…ああ」

 

小牧と末広が、かつて味わった大地の起死回生のスリーを思い出しながら呟いた。

 

 

「寄越せ!」

 

その時、コート上に1つの声が響き渡る。それは、1人速攻に走っている火神の声だった。

 

『っ!?』

 

これに、今度は花月の選手達の表情が変わった。決められたスリーに気落ちしている中、火神だけがすぐさま切り替えていたのだ。

 

「火神さん!」

 

すぐさま切り替えて田仲がボールを拾い、速攻に走る火神に大きな縦パスを出した。

 

「っし!」

 

ボールを掴んだ火神がそのままワンマン速攻を仕掛ける。

 

「らぁっ!」

 

そのままドリブルで突き進み、フリースローライン付近でボールを掴み、そのまま踏切、リングに向かって跳躍した。

 

「させません!」

 

そこへ、大地がブロックに現れた。意表を突かれた花月の選手達。しかし、大地は速攻に走る火神にいち早く反応しており、対応する事が出来た。

 

「(ここは何としてでも止めなければ。最悪、ファールでも…!)」

 

ファール覚悟で止めに行く大地。ここを決められれば誠凛は失い始めた気力を吹き返す。最悪、流れを持って行かれるかもしれない。ファールしてでも阻止出来れば、フリースローで2点取られるにしても、その意味合いが変わる。幸い、火神は高さ重視ではなく、飛距離重視で踏み切った為、メテオジャムは出来ない。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、火神は動じる事無く、ボールを下げ、大地のブロックをかわす。

 

 

『火神かわした!!!』

 

『空中戦では1枚上か!?』

 

 

ボールを左手に持ち替え、改めてボールを上げる。

 

「あめーよ!!!」

 

そこへ、今度は空がブロックに飛んで来る。

 

 

『神城だぁっ!!!』

 

『こっちもはえー!!!』

 

 

「っ!?」

 

これには火神も動揺の色を出す。

 

計算通りであった。大地と空、2人がその気になれば火神が飛ぶ前に追い付く事も出来た。しかし、それをすれば火神は必ずメテオジャムで決めて来る、そうなれば、2人では止める事は出来ない。だから2人は火神が飛ぶギリギリまでブロックに行かなかった。

 

「(高さはない。これなら俺でも!)」

 

大地をかわした事で高度が落ちている火神。これなら高さで劣る空でも届く。

 

「…っ」

 

空がボールに手を伸ばす。

 

「(高校最後の試合。先輩達の無念と、スタメンを譲ったフリ達の想いを背負って俺はコートに立ってるんだ。ここは絶対に――)まだだぁっ!!!」

 

火神は再度ボールを下げ、空のブロックをかわす。

 

「っ!?」

 

ブロックの為に伸ばした手が空を切り、目を見開く空。

 

 

――バス!!!

 

 

今度はボールを右手に持ち替え直してリリース。ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 93

誠凛 81

 

 

「「…」」

 

目を見開きながら茫然とする空と大地。

 

「…」

 

直後に着地する火神。

 

 

『…』

 

静まり返る会場。

 

『…今のって』

 

『1度ボールを持ち換えて、そこからもう1回持ち替えて…』

 

観客が、今、火神が行ったプレーを口にする。

 

『…と、トリプルクラッチ…?』

 

観客の1人があるテクニックの名を口にする。

 

『――お』

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

その言葉をきっかけに、会場は堰を切ったような大歓声で包み込んだ。

 

 

「マジかいな…」

 

呆然と呟く天野。

 

 

「まさか、トリプルクラッチとはな…」

 

青峰が苦笑する。

 

 

「タイガ…、あいつ、遂にあの神様の領域に片足突っ込み始めたな」

 

同じくアレックスも苦笑。

 

 

「なあシルバー、あれ、お前出来るか?」

 

「あぁ!? 出来るに決まってんだろ!」

 

アレンに尋ねられ、怒り気味に返すシルバー。

 

「(シルバーでも出来るだろうが、それは狙って(・・・)やった場合だ。あいつは、咄嗟のリカバリーでやりやがった…)」

 

最初の大地のブロックは予見しただろうが、続く空のブロックは予想外のものであった事は火神の表情から観客席からでも理解出来た。

 

「(トリプルクラッチ…、神が魅せた最高のシグネチャームーブ。それを、よりにもよってジャパニーズが…)…ちっ」

 

NBAにおいて、件の神様は特別な存在。それはナッシュにとっても例外ではない。それを日本人の火神にその神の技を目の前で見せられ、ナッシュは複雑そうに舌打ちをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。

 

「…」

 

ボールを運ぶ空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がカットイン。目の前の新海を抜きさって中に切り込む。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

直後にボールを掴んで両足を揃え、リングに視線を向ける。

 

「…っ」

 

同時に火神が空との距離を詰める。

 

 

――ピッ!

 

 

これを見て、空はその体勢からボールをリング付近へと放った。するとそこには、大地が飛び込んでいた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

大地の伸ばした右手にボールが収まる。

 

「(これで…!)」

 

ボールをリングへと叩き込む。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

叩き込もうとした瞬間、火神によってブロックされた。

 

 

「目の前で大技を決められて焦ったか…」

 

ボソリと緑間。

 

「無理もないが、ここはもう少し落ち着いて攻めても良かったかもしれないな」

 

単調に攻め過ぎた空に赤司が苦言。

 

「(…っ、アウトか)」

 

転がるルーズボールを追いかける生嶋。ボールはラインを割ろうとしている。花月ボールで再度仕切り直し…と、考えていたその時…。

 

「おぉっ!!!」

 

ラインを越えたボールに朝日奈が飛び付き、伸ばした両手で掴む。

 

 

――バチッ!!!

 

 

掴んだボールを空中で振り返って生嶋の足に当てた。

 

「――あっ!?」

 

生嶋に当たったボールは再度ラインを割ったのだった。

 

『アウトオブバウンズ、(誠凛)!』

 

審判は誠凛ボールをコールした。

 

「ナイスガッツ朝日奈ぁっ!!!」

 

福田がベンチから朝日奈のプレーを称賛した。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に、オフィシャルテーブルのブザーが鳴った。

 

『メンバーチェンジ、(誠凛)!』

 

誠凛の選手交代がコールされた。交代を告げられたのは朝日奈。代わりにコート入りするのは…。

 

「…来たか」

 

オフィシャルテーブルに立つ選手を見て空が呟く。そこに立っていたのは、背番号8番、黒子テツヤ。

 

『…っ』

 

試合時間残り5分。誠凛の切り札、幻の6人目(シックスマン)、黒子テツヤが再び現れ、花月の選手達の表情が引き締まる。

 

「後は頼みます」

 

「ナイスガッツ。後は任せて下さい」

 

先程のプレーの際に床に打ち付けた左肩を抑えながら朝日奈が黒子と一言かわし、ハイタッチをする。

 

「…悪い黒子。お前に託されたのに、この様だ」

 

12点もの点差を付けられ、バツの悪い表情で黒子に謝る火神。

 

「いえ、充分です。こんなボクを信じてここまで繋いでくれて、感謝の言葉しかありません」

 

そんな火神を窘め、礼の言葉を返す黒子。

 

「それで、試合に出たって事は、例の技ってのは完成したんだな?」

 

「はい。お陰様で何とか形に出来ました」

 

「俺達はどう動けばいい?」

 

完成させた技がどんなものか詳細を知らない為、軽い打ち合わせをする火神。

 

「いえ、皆さんはこれまで通りプレーして下さい。…動くのは、ボクです」

 

そう言って、リストバンドを手首に身に着けたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第4Qが始まると、花月のペースで試合は進んだ。

 

着実と点差を広げていく花月。誠凛も土俵際で何とか粘りを見せる。

 

試合時間が残り5分となった所で、遂に黒子テツヤが再度コートへと足を踏み入れる。

 

依然として花月がリードしている決勝戦。

 

試合は、クライマックスへと進む……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ちょっと冷房が効いた部屋から5分出ただけで身体から汗が噴き出た夏。今では早朝はシャツ1枚だと肌寒いくらい。もう秋なんだなぁってしみじみ思う今日この頃。

今年も気が付けば後2ヶ月と半分。時の流れが速過ぎて、来年も再来年もこんな感じに過ぎて行くのかぁ…(ノД`)・゜・。

…と、ちょっとセンチな気分になってしまいました…(;^ω^)

試合も遂に残り僅か。ここまで…長かった…(>_<)

ここまで来たら後は…やるしかない!

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第212Q~最強にして最高~


投稿します!

再修正版です。

大筋のストーリーは変わってませんが、やり過ぎた所を修正致しました…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り5分1秒

 

 

花月 93

誠凛 81

 

 

第3Q開始早々、花月が誠凛を突き放し、一時は点差を18点にまで広げた。

 

絶体絶命の状況の中、火神がゾーンの扉を開き、点差を一気に5点差にまで縮めた。

 

しかし、空と大地がゾーンの扉を開き、点差を再度14点にまで広げ、再び誠凛を追い詰める。

 

そんな暗雲を振り払うように火神が起死回生のトリプルクラッチを決め、誠凛がギリギリの所で粘りを見せた。

 

そして、試合時間、残り5分を残す所で、誠凛の幻の6人目(シックスマン)、黒子テツヤが再びコートへと足を踏み入れた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「遂に出てきましたね」

 

コート入りをする黒子を見て大地が呟く。

 

「ここまででも出してもいい状況は何度もあったからのう。にもかかわらず、ここまで出ーへんかったって事は…」

 

「…まぁ、手土産無しって事はあり得ないでしょうね」

 

天野の言葉に、空が自嘲気味に返す。

 

「どうする?」

 

歩み寄って来た松永が空に尋ねる。

 

「…とりあえず、最初の1本は様子を見る。黒子さんの動きが気になる。動くのは、それからだ」

 

「分かったよ」

 

空の言葉に、新たに寄って来た生嶋が答え、花月の選手達は散らばっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

誠凛ボールで試合が再開。新海がボールを運ぶ。

 

「(さて…)」

 

これまで通りの2-3ゾーンディフェンスで待ち受ける花月。空が新海の動きを気にかけつつ目当ての黒子の動きを注視する。

 

「…」

 

黒子は現在、ハイポスト付近でポジションを取っている。

 

『…』

 

他の花月の選手達も、黒子の動きを注視している。

 

「…」

 

 

――ピッ!

 

 

ボールを運んでいた新海が動く。右方向にパスを出す。しかし、そこには誠凛の選手は誰もいない。

 

「(パスミス…、いや、そないな訳――っ!?)」

 

瞬間、パスミスと考えた天野だったが、すぐに考えを切り替える。同時に、黒子の姿を見失った事に気付く。

 

 

――バシィッ!!!

 

 

次の瞬間、ボールが軌道を変える。

 

「っ!?」

 

ボールは、右隅に移動していた池永の手に渡る。池永はボールを掴んだ瞬間、何処か驚いた表情をする。

 

「あかん!」

 

すぐさま天野が池永のチェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

池永はボールを掴むのと同時に発進。天野を抜きさる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

直後にボールを掴み、そこからジャンプショットを決めた。

 

 

花月 93

誠凛 83

 

 

『おぉっ! 連続得点!』

 

 

「ナイスシュート、池永君」

 

「う、うす!」

 

黒子が池永の肩に手を置いて労う。

 

「…」

 

池永は自分の手を見つめながらディフェンスに戻っていった。

 

「スマン、黒子に気ぃ取られて対応遅れてもうた」

 

失点の責任を感じ、謝る天野。

 

「けどまあ、その黒子やけど、何かしてくる思たけど、さっきと変わらんやんけ」

 

これまで通り、パスを中継しただけの黒子を見て、拍子抜けをする天野。

 

「気にし過ぎたのかな? やっぱり、ここまで出てこなかったのは、ミスディレクションの稼働時間の問題?」

 

生嶋も何処か拍子抜けした表情をしている。

 

「……空?」

 

誰もが毒気を抜かれた表情をしている中、大地が空の異変に気付く。

 

「…」

 

真剣な表情で黒子に視線を向けていたのだ。

 

「…大地、火神さんを任せてもいいか?」

 

表情そのまま、空が大地に頼む。

 

「どうかしましたか?」

 

「説明は後だ。黒子さんを止めないとヤバい…かもしれない。大地、キツイかもしれないが、頼む」

 

「……分かりました」

 

相変わらず真剣な表情で頼む空に、大地は頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

花月のオフェンス。空がボールを運ぶ。

 

「(…俺の考えが正しければ、黒子さんを抑えられなけりゃこの試合――)」

 

「(…空が集中を欠いている? …っ!?)…空!」

 

「っ!?」

 

大地の声で正気に戻る空。そこには、空のボールを狙い打つ新海の姿があった。

 

「…ちっ!」

 

 

――スッ…。

 

 

すぐさま反応した空はバックロールターンで新海を紙一重でかわし、そのまま中に切り込んだ。

 

「っ!?」

 

切り込むのと同時に、空のボールに人知れず黒子の伸ばした手が迫っていた。

 

「(二段構えか!?)…だが!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

これにも反応し、クロスオーバーで切り返し、一気にローポスト付近まで侵入する。そこでボールを掴んだ空はそこから跳躍。

 

「おぉっ!」

 

そこへ、田仲がブロックに現れる。

 

「…っ!?」

 

 

――ピッ!

 

 

フィンガーロールで田仲のブロックを越えようとしたその時、空はこれを中断。パスへと切り替えた。

 

「…ちっ!」

 

すると、空の後方から舌打ちが響く。

 

空はフィンガーロールを放つ寸前、火神の気配を感じ取っていたのだ。

 

 

――バス!!!

 

 

パスを受けた松永が落ち着いてゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 95

誠凛 83

 

 

「…ふぅ」

 

得点に繋がり、一息吐く空。

 

『…っ』

 

逆に止めて点差を縮めたかった誠凛の選手達は表情を曇らせていた。

 

「ドンマイ、まだ時間はあります。落ち着いて行きましょう」

 

そんな中、黒子が声を掛け、チームを落ち着かせる。

 

 

――バシィッ!!!

 

 

誠凛のオフェンス。フロントコートまでボールを運んだ新海がパスを出すと、ボールの軌道が変わる。

 

『っ!?』

 

ボールはトップの位置からゴール下の田仲へ、斬り裂くように通過した。

 

「っ!?」

 

パスを受けた田仲は驚いたように目を見開くも、すぐさまシュート体勢に入る。

 

「ちぃっ!」

 

それを見て松永が慌ててブロックに向かう。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、田仲はすぐには打たず、1つフェイクを入れ、ブロックに飛んだ松永にぶつかりながらシュートを放つ。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に鳴り響く審判の笛。

 

 

――バス!!!

 

 

田仲の放ったシュートはバッグボードに当たりながらリングを潜り抜ける。

 

『ディフェンス、プッシング、松永(赤8番)、バスケットカウント、ワンスロー!』

 

「っ!?」

 

目を見開く松永。松永のファールがコールされ、フリースローが与えられた。

 

「この調子でどんどんお願いします、田仲君」

 

「は、はい!」

 

得点を決め、フリースローをもぎ取った田仲を労う黒子。田仲は何処か戸惑いながら返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

田仲は落ち着いてフリースローを決め、3点プレーを成功させた。

 

 

花月 95

誠凛 86

 

 

「落ち着きぃ! まだ慌てる状況やあらへんぞ!」

 

天野がチームを落ち着かせるべく、声を張り上げる。

 

「(おかしい…、どうなってんだ!?)」

 

花月の選手が各々、気を落ち着かせる中、空は、ある変化に戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バス!!!

 

 

続く花月のオフェンス、空がカットインし、ディフェンスを集め、釘付けにしてからパス。そのパスを受け取った大地が得点を決めた。

 

 

――ピッ!

 

 

続く誠凛のオフェンス。ボールを運んだ新海がパスを出す。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

黒子がこれをリターンパスで新海に戻す。

 

「…っ」

 

パスを受けた新海の表情が変わる。が、すぐさま切り替え、リングに向かって飛ぶ。

 

「…くっ!」

 

1番近くにいた生嶋がすぐさま距離を詰め、ブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

新海はティアドロップに切り替え、生嶋のブロックの上を越えるようにボールをふわりと浮かせる。

 

「っ!?」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 97

誠凛 88

 

 

「さすがです、新海君」

 

「…黒子さん」

 

声を掛ける黒子。新海は、戸惑いの表情で黒子に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「うっわ…」

 

一連の得点を見て、黄瀬の口から思わず感嘆の声が溢れでする。

 

「まさか…!」

 

目を見開きながら驚く緑間。

 

「…今日程、黒ちんの事、凄いと思った事、ないかも」

 

思わず口が半開きになる紫原。

 

「さすがテツだ。やっぱりお前はスゲー奴だ」

 

ニヤリと笑う青峰。

 

「黒子…、始めてお前を目の当たりにした時、お前は何もない選手だった。バスケに恵まれたキセキの世代(俺達)と違い、お前は限りなく恵まれなかったと言っても過言ではない」

 

赤司が言葉を続ける。

 

「だが、そんなお前に、俺は尊敬の念を抱かずにはいられない。見事だ、黒子」

 

賛辞の言葉を黒子に贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(凄い、こんな身体が思うように動くのは、初めてだ…!)」

 

「(ハハッ! 超気持ちいい!)」

 

「(自分でも調子が上がっていくのが分かる。これなら!)」

 

新海、池永、田仲の3人は、自身の変化に自身を高揚させていく。

 

 

「っ!? これは…!」

 

「まさか…!」

 

生嶋と松永が目を見開いて驚く。

 

「ホンマかいな…」

 

天野は思わず苦笑する。

 

「…これが、空が恐れていた事ですか…!」

 

大地は表情を曇らせる。

 

フロントコート、そこで、ゾーンに入った4人の選手達(・・・・・・・・・・・・・)が、待ち受けていた。

 

「おいおい、どういう事だよ! 火神はともかく、何で2年の3人までゾーンに入ってんだよ!?」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら声を上げる。

 

無理もない。ゾーンは限られた者にしか入る事が出来ないからだ。キセキの世代と同格以上の素質を持つ者にしか…。

 

「そういう事ですか…!」

 

そのからくりに気付いた姫川が思わずとある選手に視線を向ける。

 

「…」

 

上杉は胸の前で腕を組みながら神妙な表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――黒子テツヤは、恵まれなかった。

 

 

身長も、力、速さ、高さ、テクニック、バスケをするのに必要な全てを持ち合わせていなかった。

 

死に物狂いの努力も報われる事はなく。1度はバスケを諦めかけた。

 

しかし、赤司の助言によって、パスに特化したスペシャリストとしてのスタイルを確立させ、一流が集まる帝光中学にて、幻の6人目(シックスマン)とまで称されるまでに至った。

 

だが、そのバスケも、高校に進学した最初の大会で、壁にぶつかる事となった。仲間に頼った、自分1人では何も出来ないバスケが…。

 

例え独力でもチームの勝利に貢献させる為、消えるドライブ(バニシングドライブ)と、幻影のシュート(ファントムシュート)を身に着けた。

 

新たに身に着けた2つの武器は、誠凛の勝利に大きく貢献させた。…しかしその結果、自身の最大の武器である、影の薄さを手放す事になってしまった。

 

それでも高校最初のウィンターカップにて、誠凛を優勝に導く事は出来た。

 

だが、その代償として、再び自身のスタイルを取り戻す為に、翌年の1年を費やす事となり、その結果、先輩達の最後の1年を、満足のいく結果にする事が出来なかった。

 

自身、最後の3年の年。有終の美を飾り、先輩達の無念を晴らしたい。

 

幸い、失った影の薄さは、完全にではないが、ある程度、取り戻す事が出来た。自身に生まれてしまった淡い光を、武器にする術も身に着けた。だが、誠凛を再び日本一に導く為には、また新たな武器が必要だと考えた。

 

シュートとドリブルはもう不用意に使えない。使えば今度こそ、影の薄さが失われてしまうからだ。

 

 

『ドリブルとシュートがダメなら、また新しいパスを考えりゃいいんじゃねえか?』

 

 

きっかけは、何気なく火神が言ったこの言葉だった。

 

黒子には、パスの向きや変えたり、コートの端から端まで横断する回転長距離パス(サイクロン・パス)や、ボールを加速させる、加速させるパス(イグナイト・パス)や、それをさらに改良した廻があり、これだけあれば充分だと思い込んでおり、廻を開発して以降はパスのバリエーションを増やす事はしなかった。

 

火神の言葉をきっかけに、黒子は原点に戻り、新たなパスの開発を始めた。

 

苦心の末に、黒子はある可能性に辿り着いた。

 

だが、それは紙よりも薄い可能性であった。

 

どれだけ研鑽を積んでも、完成は遙か先であった。

 

諦めかけていたが、それでも誠凛を優勝に導く為に、遂に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

パスの中継をしつつ、その際にボールの位置やタイミング、ボールの縫い目さえもコントロールして目的の選手に中継する。ボールを受けた選手は、自身の1番気持ちよくプレーが出来るようになり、次のプレーに100%神経を注げる様になる。ボールを受けた選手は完璧なリズムを作れるようになり、自身が1番得意な形で動けるようになり、結果、潜在能力を限界まで引き出す事が出来るようになり、ゾーンの1歩手前の状態にまで入れるようになる。

 

つまり、赤司が出来る、ポイントガードとしての究極にして理想のパスを、黒子は、ボールを中継しながら実行した。

 

「これが、皆と共に優勝する為に身に着けた、ボクの新しいパス――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――喚起のパス(ブーステッド・パス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…っ』

 

思わず表情が引き攣る花月の選手達。かつて、数度に渡り、自分達を苦しめて来た赤司の究極のパスが、違った形で自分達に襲って来るからだ。

 

「狼狽えるんじゃねえ!!!」

 

『っ!?』

 

そんな花月の選手達を、空が一喝する。

 

「ここは決勝だぞ。今更この程度でオタオタしてどうすんだよ。形は違っても、何度も味わって来ただろうが」

 

「…うん、そうだね」

 

「相手は誠凛。ホントに今更だよね」

 

「…せやな」

 

「ですね」

 

空の言葉に、花月の選手達は落ち着きを取り戻す。

 

「相手が何をしてこようと、やる事は変わらない。…行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の檄に、選手達は気合いを入れ直しながら応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が急発進。

 

「っ!?」

 

ゾーンの1歩手前の状態の新海相手でもお構いなしに抜きさり、カットイン。

 

「…来い」

 

中で待ち受けるのは当然火神。

 

「言われなくとも…!」

 

相手が火神でもお構いなしに突っ込んで行く。

 

 

『神城対火神!!!』

 

『さあどうなる!?』

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空は火神の目前でクロスオーバー。下手な小細工はするだけ無駄と判断し、真っ向勝負、自身の1番の得意技で仕掛ける。

 

得意技…すなわち、キラークロスオーバー…。

 

「…っ」

 

空がクロスオーバーで切り返すと、火神は後ろへと下がり、距離を取った。目の前で高速で切り返されれば、如何に火神でも対応が難しくなる。しかし、距離を取れば、視野が広がる分、空の動きが見やすくなる。火神のジャンプ力であれば、例えシュートに切り替えられてもブロックに間に合う。

 

「あめーよ!」

 

 

――スッ…。

 

 

空は火神が下がるのと同時にボールを掴み、ステップバックでさらに距離を空け、シュート体勢に入った。

 

「っ!? ちぃっ!」

 

自身の迎撃範囲外にまで距離を空けられ慌てて距離を詰める火神。

 

「っ!?」

 

目を見開く空。充分に距離を空けられたと思っていたが、火神のジャンプ力は、それすらも容易く埋めてしまった。

 

「(…ちっ、これでもダメか…!)」

 

 

――スッ…。

 

 

空はシュートを中断し、ノールックビハインドパスに切り替え、ボールを横へと放った。

 

「行け!」

 

パスを受け取った天野がすかさずゴール下へ走り込んだ松永へパスを出す。

 

「貰った!」

 

右手でボールを掴んだ松永はそのまま飛び、リングへとボールを叩き込んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「おらぁ!」

 

「っ!?」

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる直前、池永によってボールは右手から叩き出された。

 

「いいぞ池永。…速攻だ!」

 

ルーズボールを拾った新海が池永を労い、そのまま速攻。攻守が切り替わる。

 

「あかん、戻れ!」

 

天野が声を張り上げ、慌ててディフェンスに戻る花月の選手達。

 

「…」

 

「…」

 

「…っ」

 

いち早くディフェンスに戻っていた空と大地を見て、足を止める新海。その合間に花月の選手達がディフェンス隊形を整え、誠凛の選手達が攻め上がる。

 

「(神城と綾瀬。試合終盤でこれだけのスピードと運動量、もはや尊敬の言葉しかない。俺ではどう足掻いても敵わない。…だが、今なら…!)」

 

 

――ピッ!

 

 

新海がノールックパスを出す。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

次の瞬間、黒子がパスを中継、ボールの軌道を変える。

 

「ナイスパース!」

 

ボールは、中に走り込んだ池永の手に渡る。

 

「任せぇ!」

 

その池永の前に、天野が立ち塞がる。

 

「(落ち着きぃ…、いくらゾーンの手前言うても、洛山の連中みたいに全員が中外お構いなしに点取ってくる訳やあらへん…!)」

 

洛山と同じ状況。だが、選手の全員が中・外両方から得点が奪える選手が揃っていた洛山。だが、誠凛は違う。

 

「(ディフェンスは俺の十八番や。ここを止めて、もういっぺん流れを――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

待ち受ける天野。次の瞬間、天野は池永に容易く抜きさられる。

 

「(っ!? しもた、忘れとった、黒子がおる言う事は、あれ(・・)があるんやった!)」

 

まるで反応が出来てないかのように為すが儘で抜きさられた天野。天野はここで思い出した。黒子の光の(・・)ミスディレクションの存在を。

 

「もーらい!」

 

天野を抜きさり、そのまま切り込んだ池永はボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「させるか!」

 

ヘルプに来た松永がブロックに現れる。

 

「残念無念ってなぁ!!!」

 

 

――スッ…。

 

 

松永が現れるのと同時にボールを下げ、ブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックを掻い潜ったの同時に再度ボールを上げ、ダブルクラッチで得点を決めた。

 

 

花月 97

誠凛 90

 

 

『再び連続得点!』

 

『点差は7点、これは分かんねえぞ!!!』

 

 

「「…っ」」

 

失点を防ぐ事が出来ず、気落ちする天野と松永。

 

「ボール。早く」

 

「あ、あぁ」

 

空に促され、慌ててリスタートをする松永。

 

「天さん、松永、後悔なんていつでも出来んだ。今は、前を見ようぜ」

 

ニコリと笑いながら2人に声を掛ける空。

 

「……スマン、そうだな」

 

「その通りやな。よりにもよって、空坊に言われてまうなんてな」

 

集中し直す松永と、釣られてニヤリと笑う天野。

 

「さて…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ空。

 

「(黒子さんのパスには、驚きはしたが、これは再投入後の最初のパスで予想は出来た。これは想定内…)」

 

前を見渡しながら状況把握をする空。

 

「(だが、想定外だったのは、黒子さんの姿を追えなくなった事だ。第1Qの時は、はっきり追う事が出来たのに…)」

 

空の戸惑いの理由、それは、黒子の姿を周囲の選手同様、見失うようになってしまった事だ。

 

「(ただでさえ、火神さん1人に手を焼いてんのに、…さて、マジでどうするか…)」

 

表情には出さないが、空は胸中で溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「テツ君凄い! 赤司君のパスを再現しちゃうなんて!」

 

自身が入れ込んでる黒子の活躍に目を輝かせる桃井。

 

「…けど、花月は何でテツ君をマークしないんだろう? 神城君なら出来るはずなのに…」

 

そこの疑問に行き着いた桃井。

 

「さっきからしようとはしてるみたいッスよ。…けど、上手く行ってないみたいッス。あの感じ、神城っちは黒子っちを見失ってるッスね」

 

「どうして? 第1Qの時は出来たのに。ゾーンに入ってる今なら尚の事――」

 

「――いや、ゾーンに入っているからこそ、神城は黒子の姿を追えなくなったのだろう」

 

黄瀬の解答に疑問を投げかける桃井。その疑問に赤司が口を挟む。

 

「どういう事なのだよ?」

 

緑間も答えに辿り着いてはおらず、赤司に尋ねる。

 

「ゾーンに入ると、どうなる?」

 

「えっと、普段は出せない、100%の力を出せるようになるんだよね?」

 

赤司の問いに、桃井が答えて行く。

 

「…っ、そういう事か…!」

 

ここで緑間が答えに辿り着き、ハッとした表情をする。

 

「ゾーンの扉を開くと、今桃井が言ったように、100%の力を出せるようになる、それともう1つ、視野が広がり、必要な情報処理能力が向上するのと同時に不必要な情報は全てカットされるようになる」

 

「…」

 

「だがもし、黒子の存在が不必要な情報(・・・・・・)と判断されたなら…」

 

「っ!? で、でも、そんな事あり得るの?」

 

赤司の解説で、答えに辿り着いた桃井だったが、それでも釈然とせず、尋ねる。

 

「通常は無理だ。だが、今のこの状況…相手が花月であれば、可能だ」

 

桃井の疑問の断言する赤司。

 

「ここにいる、キセキの世代を擁するチームと花月の違いは分かるか?」

 

「?」

 

投げかけられた質問に、桃井は頭に『?』を浮かべる。

 

「それは、花月には、ゾーンに入る事が出来る選手が2人もいる事だ」

 

空と大地。赤司の言う通り、花月にはゾーンに入る事が出来る選手が2人いる。

 

「ゾーンに入った選手。それはコート上で輝くとても眩い光だ。今、コート上には神城と綾瀬、更にはチームメイトの火神がいる。その光に挟まれた淡い光や影は、蒸発したかのように消え失せる」

 

これが、空が黒子の姿を見失うだと赤司は解説する。

 

「無論、これは黒子だからこそ出来る事だ。持ち前の影の薄さと、これまで培った観察能力を持った黒子だからこそ、だ」

 

「そう言う事なんだ。やっぱりテツ君、素敵♪」

 

再度目を輝かせる桃井であった。

 

「神城がテツの姿を追えねえとなると、花月は今度こそヤバいだろうな」

 

おもむろに、青峰が口を開く。

 

「ただでさえ、火神1人に手を焼いてたんだ。テツとの連携が機能するようになれば…」

 

「確かに、火神っちは黒子っちと組む事でさらに力を引き出せるようになる。…正直、2人が組んだらここにいる俺達でもヤバいスからね」

 

「俺も入れんなだし」

 

黄瀬の言葉に、紫原は不服そうに反論したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

花月 99

誠凛 90

 

 

「…ふぅ」

 

「…ちっ」

 

ホッと一息吐く空と、舌打ちをする火神。

 

ボールを運んだ空がカットイン。火神が出てくると、空は再びミドルレンジからのフィンガーロールで火神のブロックをかわし、決めた。

 

 

「…ここまで辿り着いただけの事はある。大した奴なのだよ」

 

緑間が空を称賛する。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

変わって誠凛のオフェンス。ボールを運ぶ新海。

 

 

――ピッ!

 

 

新海がハイポストの池永にパスを出す。

 

 

――ピッ!

 

 

池永が即座にパスを出す。そこから中→外と縦横無尽にボールを動かし、花月を牽制する。

 

 

――ピッ!

 

 

新海の手元にボールが戻ると、すかさず中にボールを入れる。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

そこに黒子が現れ、ボールを叩きながら中継する。

 

『…っ!?』

 

花月の選手達が皆、頭上に顔を向け、目を見開く。黒子は、ボールを高くに上げたのだ。そこには…。

 

「…しゃぁ!!!」

 

火神が既に高く踏み切っており、その火神の左手にボールが収まった。

 

「させへん!」

 

「おぉっ!」

 

これに反応した天野と松永が火神を阻むようにブロックに飛ぶ。

 

「…」

 

火神は空中で体勢を整え…。

 

 

――ガシャァァッ!!!

 

 

ボールを2人の上からリング目掛けて叩き下ろした。

 

「「っ!?」」

 

 

花月 99

誠凛 92

 

 

『メ、メテオジャムだ!!!』

 

『しかもアリウープで!? 信じらねえ!!!』

 

もはや大絶叫の観客。

 

 

「…」

 

大技を大技で返され、空はその表情を僅かに歪めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

続く花月のオフェンス。ボールを運んだ空が中に切り込み、火神をギリギリまで引き付けた上でリングの目前にパス。そこへ大地が飛び込み、アリウープ。しかし、ボールをリングに叩きつける直前に火神によって叩き落されてしまう。

 

「(っ!? この圧力はもはや紫原さんと遜色ない!?)」

 

大地は、火神から、今年の夏に戦った絶対防御の選手と同等の圧力を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビビーーーーーーー!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!!!』

 

『…っ』

 

花月のオフェンスは結局、誠凛ディフェンスの牙城は崩せず、オーバータイムとなってしまう。

 

そしてやって来る、誠凛のオフェンス。

 

『…っ』

 

花月にとって、オフェンス以上に苦しいのはディフェンス。圧倒的な力の火神が脅威ななのは勿論だが、他の選手も無視できない。1歩手前とは言え、ゾーンに入ってる上、黒子が光のミスディレクションでのフォローもあり、止めるのは難しい。

 

 

――ピッ! …ピッ!

 

 

パスを回して機を窺う誠凛。

 

『…っ』

 

花月の選手達は得点を決めさせまいと集中をし、シュートチャンスを与えない。

 

「「…っ」」

 

空と大地が驚異的なスピードと運動量で動き、隙を埋めていく。

 

 

『花月はこの試合、1番の集中だ』

 

『これじゃ、なかなかシュートは打てないぞ!?』

 

 

「(集中だ!)」

 

「(ここを凌げば、流れを変えられる!)」

 

「(これ以上、調子付かせたらアカン、ここは死守や!)」

 

決死の表情でディフェンスに臨む花月の選手達。

 

 

――ピッ!

 

 

誠凛のオフェンスが始まって20秒弱。ここで新海からパスが出される。そこには…。

 

『っ!?』

 

そこには、黒子の姿があった。

 

「(…ちっ! だが、シュートチャンスを作らせなければいい!)」

 

「(例え、意表を突いて黒子さんが点を取りに来ても、私か空なら充分に対応出来る!)」

 

空と大地は、黒子の次の動きに注視する。

 

黒子の下へ迫るボール。

 

「こっちだ黒子!!!」

 

火神は叫ぶのと同時に動いた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

この声が耳に入った黒子は火神の動きに合わせてボールを中継する。

 

「っし!」

 

ボールは、スリーポイントラインから2m程離れた位置まで移動した火神の手元に収まる。火神はその場からシュート体勢に入る。

 

「…くそっ!」

 

これを見て慌てて空がチェックに向かう。

 

 

――ピッ!

 

 

しかし、距離があり過ぎた為間に合わず、火神に打たせてしまう。

 

『…っ!?』

 

ボールの軌道に注目する花月の選手達。

 

これを決められてしまえば、もはや後がない。外れてくれて願う花月の選手達。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

しかし、そんな思いとは裏腹に、ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 99

誠凛 95

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

『ここでディープスリーだぁっ!!!』

 

会場が割れんばかりの大歓声に包まれる。

 

 

『…』

 

もはや、言葉を失う花月の選手達。

 

 

「…ああ、ヤバいな」

 

ポツリと呟く空。

 

「…ええ、そうですね」

 

ポツリと返す大地。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――だが、言葉とは裏腹に、2人は、楽しそうに笑みを浮かべていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

徐々に、そして確実に追い詰められていく花月。

 

ウィンターカップ決勝、最後の第4Q…。

 

最強にして最高の相手が、花月の前に立ち塞がるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ラスボスは強くしなければらならない。この強迫観念に駆られ、無茶苦茶やり過ぎました。お叱りの感想を頂き、1日考えて、まさにその通りだったと痛感致しました…(>_<)

批判の感想を受け、削除して再投稿と言うには、ある種、邪道ではあるのですが、やはり、原作と、そのファンあっての二次創作なので、わざわざこの二次に時間を割いて頂いた方を不愉快にさせてはならないので、恥ずかしながら今回の決断を致しました。

ただ、黒子の新しいパスだけは押し通す形とさせて頂きました。他のキセキの世代や火神は成長しているのに、原作主人公だけ変わらないと言うのはあまりにも不憫ですし、黒子にも、ラスボスたる威厳を持ってほしいので…。

一応、補足させて頂きますと、黒子のこのパスは、2年間と言う長い期間、チームメイトを観察してきた観察眼と、パスだけに特化し、パスを極める為に死に物狂いで自身を磨いて来た黒子だからこそ出来た技である事と、赤司のように眼を持っていないし、コートビジョンも持ち合わせていない為、ヴォーパルソードの時のように突発的に編成されたチームメイト等では当然出来ず、対象になるのは今現在のチームメイトのみであるので、いつでも出来る事ではない事はお伝えします。

正直、今回はかなり猛省致しました。正直、投稿する前はウケると思って投稿してました。ですが、結果はお叱りのご感想や評価を頂く結果となりました。話は変わりますが、ツイッター等で炎上動画を投稿する輩の心理を全く理解出来なかったのですが、多分、今回の自分みたいに、ウケると思ってやったんだろうな、と、その輩の心理を理解出来ました。まあ、彼らに対し、同情も擁護もする気もありませんが、つま先だけでもその領域に踏み込みかけたので、今後は今回のような事にならないよう、投稿する前にしっかり熟慮してから投稿するよう、心掛けます…m(__)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第213Q~原点~


投稿します!

夏は完全に終わり、すっかり過ごしやすい季節に。個人的には1番過ごしやすい時期ですが、やっぱり夏の終わりはそこはかとなく寂しいものですね…(;^ω^)

それではどうぞ!



 

 

 

第4Q、残り3分2秒

 

 

花月 99

誠凛 95

 

 

試合時間が残り5分となった所で、誠凛の幻の6人目(シックスマン)、黒子テツヤがコートへと再度足を踏み入れた。

 

黒子は、自身がパスを中継し、オフェンスの起点となるのと同時に、新たに身に着けた新技、喚起のパス(ブーステッド・パス)で、火神以外の味方をゾーンの1歩手前の状態に引き入れ、力の底上げをした。

 

そして誠凛は、花月を確実に追い詰めていったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『スゲーぞ、誠凛!!!』

 

『これで4点差、シュート2本で同点だ!!!』

 

『残り時間充分、行けるぞ!!!』

 

徐々に追い上げる誠凛を目の当たりにし、観客達は誠凛にエールを贈る。

 

『誠凛! 誠凛!!!』

 

会場のほとんどが一丸となって誠凛コールをし、会場に響き渡る。

 

 

『…っ』

 

表情が曇る花月の選手達。会場全体が誠凛の味方をしている様なこの状況。言わば、自分達が悪者の様な扱いだからだ。

 

 

「誠凛は完全に観客を味方に付けたな」

 

この会場を覆い尽くす誠凛コールを聞きながら観客席の諏佐が呟く。

 

「対して、花月はこの上なく窮地に陥っとるな。流れは誠凛に持ってかれてもうとるし、観客はもはや敵も同然や。この状況で影響が出えへん訳があらへん」

 

苦笑しながら今吉翔一が続く。

 

花月がここまでたどり着くまでに、何度も窮地に陥った。そんな花月を背中を押し、力を与えて来た観客。それが今、半ば自分達に牙を向いている。

 

「誠凛と花月。どっちもドラマチックな逆転劇を繰り広げて来たチームだけど、やっぱり、絶望的な状況から追い上げてきた誠凛に味方するかー」

 

ぼやくように葉山。

 

「…ここまで賭けて来た思いも、勝ちたいと言う気持ちも、どっちも同じでしょうに、…ちょっと同情するわね」

 

憂いた表情で花月の選手達を見つめる実渕。

 

「正直、誠凛びいきで見てはいたがよ、…これは気の毒だな」

 

同じく神妙な表情の根武谷。

 

一昨年の同じ舞台で、会場が一斉に敵に回る中で試合をした経験のある元洛山の3人。当初は、自分達と2度戦い、1度は敗北をした相手である誠凛。自分達はもちろん、後輩達が花月に敗れた事もあり、誠凛びいきで試合を見ていたが、今の会場の雰囲気を見て、かつて、同じ経験をした事を思い出し、花月に僅かに同情していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ボールを運ぶ空。

 

「…止める」

 

目の前には新海。新海を抜きさる事自体は容易い。だが、中に切り込めば火神が待ち受け、今や神出鬼没の黒子の存在もある為、迂闊には切り込めない。

 

 

「花月はとにかく今は焦らない事だな。まだ逆転された訳じゃねえし、誠凛だって苦しくねえ訳がねえ。会場の空気に惑わさない事だ」

 

高尾が助言めいた呟きをする。

 

 

「(…チラッ)」

 

生嶋が天野に視線を向ける。

 

「(…任せぇ)」

 

この視線を受け、天野が生嶋の視線の意図を察し、動く。

 

「…っ」

 

同時に生嶋も動く。

 

 

――ピッ!

 

 

動いた生嶋にパスを出す空。

 

「…ちっ!」

 

生嶋を追いかけようとした池永だったが、天野のスクリーンに阻まれ、思わず舌打ちをする。

 

「(この距離なら僕だって!)…これで!」

 

スリーポイントラインから離れるように動いた生嶋。スリーポイントライン2m程離れた所でボールを受け取り、即座にシュート体勢に入る。

 

「行け!!!」

 

「頼む!!!」

 

ベンチの菅野、帆足が願うように叫ぶ。

 

 

「あかんやろ」

 

溜め息交じりに呟く今吉。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…あっ!?」

 

ボールを頭上にリフトさせようとした瞬間、ボールを叩かれてしまう。

 

「ナイス黒子ぉ!!!」

 

誠凛ベンチから降旗が立ち上がりながら叫ぶ。

 

「…ちっ!」

 

思わず舌打ちが飛び出る空。

 

ルーズボールを拾った黒子がそのまま速攻。ドリブルを始める。

 

 

『ターンオーバー!!!』

 

『来るか、3連続!?』

 

決まればほぼ背中を捉える展開となる為、観客の期待も高まる。

 

 

「させっかよ!」

 

「行かせません!」

 

比較的、フロントコートに近い位置でボールを奪った黒子だったが、空と大地のスピードもさる事ながら、黒子自身のドリブルスピードが速くない為、スリーポイントラインの手間で2人は黒子に追い付き、先回りをした。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

黒子は目の前に2人が現れると、後ろへとボールを戻した。

 

「よし!」

 

ボールはそこへ走り込んだ新海の手に渡る。

 

 

――ピッ!

 

 

新海はボールを受け取るのと同時にパスを出す。

 

「ナイスパース!」

 

ボールは、右ウィングの位置に走り込んだ池永の手に渡る。

 

「いただき!」

 

池永はすぐさまシュート体勢に入る。

 

「させません!」

 

これに反応した大地がすぐさまチェック。距離を詰める。

 

「っと、やっぱはえーなこの野郎!」

 

シュート体勢に入る前にチェックに来られ、池永はスリーを中断。新海にボールを戻す。。

 

 

――ダムッ…!!!

 

 

リターンパスを受け取った新海は左サイドを沿うようにドリブルを始める。

 

「通さねえぞ!」

 

そんな新海に今度は空が距離を詰める。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、新海は空が近寄って来ると、ノールックビハインドパスでボールを右方向を放る。そこには…。

 

「「っ!?」」

 

思わず目を見開く空と大地。2人の視線の先には、右手を腰に引くような構えた黒子の姿があった。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

黒子は腰の付近に引いた右手を掌打に構え、手首を回転させながら叩き、前方に大きく加速させながら中継した。

 

「…くそっ!」

 

「…っ!」

 

両サイドに展開した新海と池永にそれぞれ対応してしまった結果、空けてしまった中央。その2人の間を通過させるように放った加速するパス(イグナイト・パス)廻。ボールは、2人は手を伸ばしたが2人の指先の僅か前を通過していった。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

ボールは、ペイントエリアに走り込んだ火神の手に渡る。

 

「…っ」

 

火神がボールを掴むのと同時に松永が目の前に立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「くそっ…!」

 

ポンプフェイクを入れた後ドリブルをし、松永を抜きさる。

 

「おぉっ!」

 

松永を抜きさるのと同時にボールを右手で掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「させへんわ!」

 

そこへ、松永を抜きさる合間にディフェンスに戻っていた天野がブロックに現れる。

 

「(ここは取らせんへん! 絶対にや!)」

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、火神は天野が現れると、掲げたボールを下げた。

 

 

――ドン!!!

 

 

空中で火神と、天野が接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に吹かれる笛。

 

火神はここでバランスを崩しながらもボールを左手に持ち替え、リングに向かって放る。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「…っと」

 

体勢を立て直して着地する火神。

 

『ディフェンス、プッシング、松永(赤8番)、バスケットカウント、ワンスロー!』

 

直後に審判がディフェンスファールをコールする。

 

「っ!?」

 

この判定を受け、目を見開く天野。

 

 

『キタァァァァァ!!!』

 

『フリースロー! 決めれば1点差!!!』

 

『これはもう決まっただろ!?』

 

コールと同時に再び沸き上がる会場。

 

 

『…』

 

言葉を失う花月の選手達。遂に1点差、シュート1本で逆転されるまでに点差が縮まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローも落ち着いて決め、3点プレーを成功させる火神。

 

 

花月 99

誠凛 98

 

 

『誠凛!!! 誠凛!!!』

 

同時に沸き起こる誠凛コール。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

ここで、花月のタイムアウトがコールされた。

 

「…」

 

花月ベンチで、渋い表情の上杉。

 

両校の選手達は、それぞれのベンチへと戻っていった。

 

 

「1手、遅かったな」

 

赤司がベンチに戻る選手達を見ながら呟く。

 

「火神にスリーを決められた時点でタイムアウトを取るべきだった。あの時点で取っていれば、今の失点は防げたかもしれない。…もっとも、結果論ではあるが」

 

『…』

 

赤司の分析に、周囲の者達は口を挟む事はなかった。

 

 

「おいおいマジかよ…」

 

「Oh NO…」

 

頭を抱えるアレンとニック。

 

「(流れは最悪、その上、動揺して浮足だってるとなりゃ、99%、(サル)達の負けは決まったようなものだが…)」

 

頬杖を掻きながら胸中で断言するナッシュ。その視線の先には、空の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛ベンチ…。

 

「よっしゃよっしゃー! 勝てるぞ!」

 

ベンチに戻るや否や、はしゃぐ池永。

 

「あぁ、行けるよ!」

 

「あと一息だ!」

 

同調するように福田と河原。

 

「浮かれてないで座って呼吸を整えなさい!」

 

はしゃぐ選手達に対し、リコが大声で制する。

 

「良い? まだ逆転した訳じゃないのよ。まだ時間も残ってる。最後まで集中しなさい」

 

「監督の言う通りだ。花月がこのまま終わる程、柔な相手な訳がねえ。試合終了のブザーが鳴るまで、気を抜くんじゃねえぞ」

 

続いて火神も檄を飛ばす。

 

『…』

 

2人の言葉を受けて、他の選手及び控えの選手達は表情を改めた。

 

「(確かに、状況的なものだけを見ればウチが優勢だけど、こっちもそんな余裕はないわ…)」

 

胸中で弱音を吐くリコ。

 

一見、試合の流れを掴み、会場を味方に付けた誠凛が圧倒的に優勢に見える。しかし、リコの考えている通り、誠凛にも余裕がない。軽口を叩いている池永にしても、試合開始からここまで出ずっぱりである為、表面上は問題なさそうに見えるが、いつ失速するか分からない。同じく田仲も出ずっぱりであり、ここまで格上相手にインサイドを支えてきた事もあり、本人に自覚がどれだけあるか分からないが、確実に限界は目の前の為、何がきっかけで表面化するか分からない。1度ベンチに下げ、スタミナの温存をさせた新海にしても、決勝の大舞台でゲームメイクを務めている事と、途中からゾーンディフェンスに切り替えたとは言え、空の相手をする事が多かった事もあり、確実にスタミナは削られている。火神もベンチに下げているが、常に大地にマークされていた事と、途中からは空も加わってダブルチームを受け、試合を繋ぐ為にゾーンにも入っている為、スタミナの残量に余裕はない。黒子も、新技である喚起のパス(ブーステッド・パス)で今の状況を作り、追い上げる事が出来たが、ミスディレクションの稼働時間の事もそうだが、新技にしても、今日初めて使う技である関係上、試合終了まで効果を発揮出来るか未知数な点もある。

 

「(何事もなくこのまま突き進めるのが理想的ではあるけど、…花月がそんな甘い展開を許す訳ないわ。状況に変化があった時、いつでも対応出来る様にしておかないといけないわね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

『…』

 

戦勝ムードだった誠凛ベンチと違い、お通夜のように静まり返っていた。

 

「オラオラ! 何シケた面してんだコラ! まだ逆転された訳じゃねえのだぞ! 気合い入れやがれ!」

 

この空気を嫌った菅野が声を張り上げ、喝を入れる。

 

「…分かっとるわ。少し静かにしいや」

 

苛立ち交じりに返す天野。

 

「うるせえ! コートで唯一の3年のお前が言わなきゃなんねえ事だろが! まさかもう諦めた訳じゃねえだろうな!?」

 

「んな訳ないやろ! オフェンスは止められへん、ディフェンスは固い、気合いや根性でどうにかなる状況ちゃうねん! 今必死に頭回転させとんねんこっちは。少し黙っとれや!」

 

尚も食って掛かる菅野に怒りを爆発させた天野が立ち上がりながら返した。

 

「静まれ!!!」

 

「「…っ」」

 

掴みかかろうとした2人を、上杉が一喝して黙らせる。

 

「後輩の前でつまらん喧嘩をするな」

 

「…すんません」

 

「…うす」

 

上杉の言葉に2人は頭をクールダウンした。

 

「…さて、状況は芳しくないな。点差は1点。会場は実質誠凛の味方だ」

 

現状を口にする上杉。

 

『…っ』

 

最悪の現状を再確認させられ、表情が曇る選手達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――最高ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、空はそう返し、ニヤリと笑った。

 

「ようやく楽しくなってきた。やっぱり、試合はこうでなくちゃな」

 

「楽しなってきたって、楽しめる状況ちゃうで。…それとも、何かええ考えでも浮かんだんか?」

 

「いや、全然」

 

「ないんかい!」

 

この返事に天野がガクッと肩を落としながらツッコむ。

 

「綾瀬も何か言うたれや」

 

「フフッ、空らしいですね」

 

促された大地。だが、大地もまた、空と同じように笑っていた。

 

「…くーもダイも、よく笑ってられるね」

 

「とてもじゃないが、そんな状況ではないぞ」

 

そんな2人を見て呆れる生嶋と松永。

 

「ここまで来たら、理屈じゃねえよ。ただガムシャラに戦うだけだ」

 

首を鳴らしながら空が続く。

 

「ハッハッハッ、そうかそうか!」

 

空の言葉を聞いて愉快そうに笑う上杉。

 

「…よし、ここからの方針を伝える。まずはディフェンス。ディフェンスはこの2点だけ守れ。まずは1つ目、相手のスリーを全力で阻止だ。中に切り込まれても構わん」

 

そう言って、人差し指を1本立てる。

 

「2つ目、ノーファールだ。相手が打ちに来ても、ファールのリスクがあるなら無理にチェックに行くな。最悪、決められても構わん」

 

2本目の中指を立てた。

 

「…っ、決められてもって」

 

その言葉に思わずギョッとする竜崎。

 

「現状、誠凛のオフェンスを止める事は至難の業だ。無理に満遍なく止めようとすれば、先の2本のように、スリーを打たれるか、フリースローを打たれてしまう。だったら、始めから2点等くれてやれ」

 

胸の前で両腕を組み、真剣な表情で上杉が続けた。

 

「ディフェンスは捨てて、失点を最小限に抑える。ここからはオフェンス重視…いや、オフェンス特化で攻め立てろ」

 

上杉が、これから先の大方針を指示した。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「っ!? アカン、タイムアウト終わってもうた。監督、具体的にはどないして点取るんですか!?」

 

ブザーが鳴った事で慌てて天野が上杉に尋ねる。

 

『…っ』

 

天野が指示を仰ぐと、他の選手達も固唾を飲んで耳を傾ける。

 

 

 

 

 

「――走れ」

 

 

 

 

 

 

上杉の口から出たのは、それだけだった。

 

「ハッハッハッ! 良いねえ。馬鹿な俺にはシンプルで助かるぜ」

 

この指示に空は豪快に笑った。

 

「っしゃ、全員集まれ」

 

その後、空はベンチの前で全員を集め、円陣を組むように集まった。

 

「そんじゃ、言われた通り、走って走って走りまくろうぜ」

 

円陣を組むと、空が口を開いた。

 

「思えば、我々はどんな時も、走っていましたね」

 

思い出しながら大地が続く。

 

「走れか、花月(ここ)来て俺、どんだけ走ったかのう」

 

「何百…いや、何千キロ走ったかもしれないね」

 

基礎練習を重視する花月は、他の強豪校と比べても走らさせれる量が桁違いに多い。花月のバスケ部に入部してから今日まで、練習はもちろん、試合でも走り続けた事を思い出す天野と生嶋。

 

「始めてこのメンバーで試合をした時も俺達は走って活路を見出した。ここで改めて原点に戻るも悪くはないかもしれんな」

 

フッと笑みを浮かべる松永。

 

「っしゃ、覚悟が決まった所で、…花月ー、ファイ!!!」

 

『応ーっ!!!』

 

空の号令を合図に、選手達が大声で応え、選手達はコートへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『キタァァァァァ!!!』

 

『待ってました!!!』

 

両校の選手達がコートに現れると、待ちわびた観客がここぞとばかりに声を上げた。

 

『誠凛、点差は後1点だ、行けるぞ!』

 

『また奇跡を見せてくれ!!!』

 

相も変わらず、観客は誠凛にエールを贈る者が多く、会場は誠凛のほぼ一色で声援を贈った。

 

 

審判からボールを受け取った生嶋が空へパスを出し、試合が再開された。

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

再会と同時に観客の大歓声に会場が包まれた。

 

『誠凛!!! 誠凛!!!』

 

「…相変わらず、誠凛一色か。…笠松、お前が花月の司令塔だったらどうゲームメイクする?」

 

試合を見ている小堀が横の笠松に尋ねる。

 

「…慎重にボール回して確実に行くだろうな。ここを取りこぼして逆転されちまったらもう終わりだ。時間をたっぷり使って――」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

笠松の言葉とは裏腹に、ボールを受け取った空は早々に仕掛ける。目の前の新海を抜きさって中に切り込んだ。

 

「正気か? まあ、こっちとしては好都合だ。…来い!」

 

笠松と同じ、時間をかけて確実に攻めてくると予想していた火神は、一瞬、空の行動に驚くも、すぐに迎え撃つ体勢を取る。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

火神の目の前まで突き進んだ空は眼前で左右にクロスオーバーで揺さぶりをかけた。

 

「(はえー!? だが、この程度ならまだ!)…止めてやる!」

 

目の前で右から左へと切り返した空を追いかける火神。

 

 

――スッ…。

 

 

2度目の切り返しの直後、ボールを掴んだ空はそのまま右方向へと飛び、ボールを下から思いっきりリング目掛けて放った。

 

「ちっ!」

 

これに反応した火神が放ったボールに手を伸ばすも、僅かに届かなかった。

 

「(外れ――いや違う!?)」

 

ボールの軌道から外れると見た火神だったが、すぐに考えを改めた。これはシュートではなく…。

 

 

――バキャァァァァッ!!!

 

 

リング付近に勢いよく投げられたボールを、ドンピシャのタイミングで飛び込んだ大地がアリウープでリングに叩きこんだ。

 

 

花月 101

誠凛  98

 

 

「よっしゃ!!!」

 

パチンとハイタッチを交わす空と大地。

 

 

「あれは、桐皇戦で見せた正確無比なパスとコンビネーション!」

 

ウィンターカップ2回戦にて、2人が見せた奇跡のコンビネーションを思い出した高尾。

 

 

「……あっという間に決めちまったな」

 

笠松の予想違い、たっぷり時間を使う所か、時間をかけずに決めてしまった花月に言葉を失う森山。

 

「…何考えてやがんだ。しくじればほぼ負けのこの状況で普通やんねえぞ。…あり得ねえ」

 

森山と同様の笠松。あまりに無謀とも言える空の選択、セオリーから外れた選択に驚きを隠せなかった。

 

 

直後の誠凛のオフェンス…。

 

「…っ」

 

ボールを運ぶ新海。花月のディフェンスに違和感を覚える。

 

花月のディフェンスは変わらず2-3ゾーンディフェンス。だが、選手全体が外寄りにポジション取りをしている。

 

「(スリーを警戒しているのか? だがこれでは…)」

 

こうも前に出て来られるとスリーは打ちづらい。だが、これではインサイドの守りが薄くなる。

 

「(何が狙いだ。何を考えている…)」

 

必死に相手の狙いを考える新海。

 

「…っ、新海!」

 

「っ!?」

 

声を荒げる池永。空が前に出て激しくプレッシャーをかけてきた。

 

「…くっ!」

 

ガンガン前に出てボールを奪おうとする空。新海はその場でボールを止めてしまい、キープするので精一杯になる。

 

「(…くっ! 俺では神城相手ではいつまでもボールをキープ出来ない。…仕方ない!)」

 

 

――ピッ!

 

 

意を決して、新海はボールをローポストに立つ田仲に入れる。

 

「よし!」

 

ローポストでリングに背を向ける形でボールを受けた田仲。直後に背中に張り付くようにディフェンスに入る松永。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこからポストアップで押し込むようにドリブルを始める田仲。

 

「…っ」

 

歯を食いしばってその場で押し止める松永。

 

 

――スッ…。

 

 

ゴール下まで押し込むのが無理と判断した田仲は、ボールを掴んでフェイクを織り交ぜ、ステップワークを駆使して松永をかわしにかかる。

 

 

――バス!!!

 

 

松永をかわし、フックシュートで田仲が得点を決める。

 

 

花月 101

誠凛 100

 

 

『おぉっ! 誠凛も返した!』

 

田仲の得点に沸き上がる観客。

 

 

「(おかしい…)」

 

得点を決めた田仲だったが、違和感を覚えた。あまりに呆気なさ過ぎる。松永がこの程度のはずがない。

 

「(ファールを恐れて?)」

 

先程フリースローを与えてしまった影響かと考える田仲。だが、次の瞬間…。

 

「走れ!」

 

素早く松永がボールを拾い、空にパスを出し、リスタート。空が声を出すと、花月の選手達は一斉にフロントコート目掛けて走り出した。

 

『っ!?』

 

突然の花月の行動に目を見開く誠凛の選手達。

 

「…っ、戻れ!」

 

素早くこれに反応した火神が指示を出し、ディフェンスへと戻る。

 

「…くそっ!」

 

「速い!」

 

慌ててディフェンスに戻る池永と田仲。

 

「行かせん!」

 

バックコートに近かった新海。いち早くディフェンスに戻り、空を迎え撃つ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

新海の目の前でドリブルで突き進むと、手前で減速。バックチェンジでボールを背中から新海の前にボールを出し、同時に新海の横を走り抜け、抜きさった。

 

「やらせるか!」

 

新海をかわし、スリーポイントラインを越えた直後、今度は火神が目の前に現れた。新海を抜きさる際、僅かにスピードを緩めた隙に先回りしていたのだ。

 

「…」

 

火神が現れても構わず突っ込む空。

 

「…っ」

 

フリースローラインで空がボールを掴み、飛ぶ。

 

「(また例のミドルレンジからのフィンガーロールで来るか!? だがもうタイミングは掴んだ。次は止める!)」

 

フリースローラインから飛ぶとなると例のフィンガーロール以外あり得ない。既にタイミングを掴んでいた火神がそれに合わせてブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

火神がブロックに現れると、空は火神に背を向けるように反転。直後、ボールを右下へと放る。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ大地がボールを掴み、そのままドリブル。リング目前でボールを掴み、跳躍。

 

「させっか!」

 

そこへ、池永がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

池永が現れると、ボールを下げ、パスに切り替える。

 

「なっ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

大地からボールを受け取った松永がそのままゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 103

誠凛 100

 

 

『うわぁぁぁっ!!! 何だこのスピードは!?』

 

『はえー!!! あっという間に決めたぞ!?』

 

失点直後に素早いリスタート。花月の選手達があっという間に攻め上がり、あっという間に得点を決めた。そのあまりの速さに度肝を抜かれる観客。

 

 

「そう言う事かよ…!」

 

ここで火神は花月の狙いに気付いた。

 

「どおりでディフェンスに歯応えがなかったはずだ」

 

「この状況で俺達はチマチマ作戦実行出来る程器用じゃねえし、守りを固める程柔でもねえ」

 

火神に向かって告げる空。

 

「私達のバスケはいつでも走って走って走りまくって攻め立てる超攻撃型バスケです。日本一の機動力を誇る花月のバスケの神髄、最後までお見せしますよ」

 

続けて大地が告げるように言った。

 

「…ハハッ、おもしれー! ディフェンスは捨てて、オフェンスオンリーか。良いぜ、俺達だってオフェンス型のチームだ。その勝負、受けて立つぜ」

 

2人の宣言に笑みが零れる火神。

 

「ええ。ボク達もあなた達にお見せします。誠凛(ボク達)のバスケを」

 

横に立つ黒子が続けて宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

遂に1点差まで詰められ、窮地に陥った花月。

 

たまらずタイムアウトを取った花月。そこで上杉が出した指示は、『走れ』。

 

すなわち、ディフェンスを捨てて、オフェンスに全て注ぎ込んで攻め立てろ、と言う事であった。

 

この言葉で、花月の選手達は原点に立ち返り、機動力で誠凛を攻め立てる。

 

これを受け、誠凛も受けて立つ選択をする。

 

ウィンターカップ決勝、残り時間僅か、花月と誠凛が、残る力、体力、そして、ここまで積み上げ、培った全てを賭け、ぶつかるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ほとんど会話文ばかりで、試合が進みませんでした…(;^ω^)

試合も残り僅か、後味良く締められるか。…正直、前話の投稿の大失態がトラウマで、この二次を投稿し始めて今一番、投稿するのが怖い…(T_T)

感想アドバイスお待ちしております。

それではどうぞ!


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第214Q~Mix it up~

 

 

 

第4Q、残り2分23秒

 

 

花月 103

誠凛 100

 

 

度重なるターンオーバーからの連続失点を喫し、その結果、焦りのあまり火神に対してディフェンスファールをし、フリースローを与えてしまい、遂には1点差にまで詰め寄られてしまった花月。

 

たまらずタイムアウトを取り、その焦燥感から選手同士で諍いが起こるが、監督上杉がそれを諫め、選手達を落ち着かせる。

 

上杉から出された指示は、『走れ』。

 

ディフェンスは失点を3点のリスクを抑えるのみで、花月のお家芸であり、現花月のメンバーの原点である、機動力を生かしたオフェンス重視…オフェンス特化で残り時間、ひたすら点を取りに行くと言うもの。

 

大胆かつ豪胆とも言える上杉の指示だったが、選手達はこれを受け入れ、タイムアウト終了直後、時間をかけず、得点を奪い、直後の誠凛のオフェンスも、2点を献上させるも、オフェンスが切り替わるのと同時に全員がフロントコートに駆け上がり、誠凛がディフェンス隊形を整える前に得点を決め返した。

 

花月は誠凛に改めて宣戦布告をすると、誠凛も受けて立つ構えを見せ、両チームは、激しくぶつかり合うのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「行くぞ!!!」

 

『応!!!』

 

火神の掛け声に他の誠凛の選手達が応え、一斉にフロントコートに駆け上がる。

 

 

――ピッ!

 

 

誠凛は、ボールを回しながらフロントコートに侵入。

 

 

――ピッ!

 

 

ハイポストに立つ田仲にボールが渡ると、すかさず外に展開した池永にパスを出す。

 

「させへん!」

 

そこへ、パスコースに天野が割り込み、スティールを狙う。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

ボールが天野の手でカットされる直前、黒子によってボールの軌道が変えられる。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは再び田仲の手元に戻ってきて、そのままゴール下までドリブル。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま得点を決める。

 

 

花月 103

誠凛 102

 

 

「よし!」

 

拳を握る田仲。

 

「行くぞ!!!」

 

素早くリスタートした花月。ボールを受け取った空がそのままドリブル、フロントコートまで駆け上がる。

 

『応!!!』

 

その声に応えた他の選手達も一斉にフロントコートに駆け上がった。

 

「1本、止めるぞ!!!」

 

『応!!!』

 

速攻で駆け上がる花月を察し、得点直後にすぐさま戻ってディフェンスを整え、花月を迎え撃つ誠凛。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ」

 

誠凛のゾーンディフェンスが待ち受けるフロントコート、空はお構いなしに駆け上がった勢いのまま前方に立つ新海を抜きさる。

 

 

――ピッ!

 

 

直後にノールックビハインドパスでボールを外へと出す。

 

「よし!」

 

ボールは左アウトサイドに展開した生嶋の手に収まる。

 

「…っ!? 絶対に打たせないで!」

 

正確無比のスリーを持つ生嶋の手にボールが渡り、焦るリコ。

 

「任せろ!!!」

 

すかさずチェックに向かう池永。

 

「…っ」

 

シュート体勢に入ろうと膝を曲げた生嶋だったが、池永のチェックが想像以上に速く、このままでは変則リリースでブロックをかわす前に池永に捕まる事を察した生嶋。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーを中断し、中に切り込んだ。

 

「がっ!?」

 

両目を見開く池永。勢いよく生嶋との距離を詰めた池永にこのドライブに対応する余裕はなく、抜かれてしまう。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

その直後、ボールを叩かれてしまう。

 

「(くっ!? また黒子さん…!?)」

 

池永をかわした瞬間を、忍び寄った黒子がボールを狙い打った。

 

「ナイス黒子!!!」

 

ボールを奪った黒子に声を掛ける火神。零れたボールを黒子が拾う。

 

「まだだ!!! おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを確保しようとした瞬間、生嶋が咆哮を上げながらボールに飛び付き、手で弾いた。ボールは黒子の手元から離れていく。

 

「…っ」

 

すぐさま立ち上がり、ボールを追いかける生嶋だったが、それよりも先のボールがラインを割ろうしている。

 

「どけ!!!」

 

その時、大声と同時に生嶋を高速で空が追い抜いた。

 

「らぁっ!!!」

 

ラインを越え、落下しようとしたボールを掴み、空中で身体を強引に捻りながら無理やりコート内へと投げ、戻した。

 

 

――ガシャァァァッ!!!

 

 

空はそのままベンチに突っ込み、なぎ倒してしまう。

 

「ナイス空!」

 

コートに戻ったボールを大地が確保する。

 

「…ちぃっ」

 

それを見た火神が大地に対してすかさずチェックに行く。

 

 

――キュッ!!!

 

 

ボールを持った大地は1歩前へと踏み出し、ドライブの姿勢を見せる。

 

「っ!?」

 

それを見て火神の足が止まる。このままチェックに行けば、池永の二の舞になり、抜かれてしまうからだ。

 

 

――スッ…。

 

 

火神が立ち止まるのと同時に大地は後ろへとステップバック。その足でさらに後ろへと飛びながらシュート体勢に入る。

 

「しまっ――」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

足を止めてしまった火神にこの片足フェイダウェイに対応出来ず、見送ったボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 105

誠凛 102

 

 

「ナイッシュー綾瀬!!!」

 

駆け寄った天野が大地の背中を叩きながら労う。

 

「…っ! くーは!?」

 

ここでベンチに突っ込んだ空の事を思い出し、視線をそっちへと移す。しかし、そこには既に空の姿はなく…。

 

「ディフェンスー!!! 早く戻れ!!!」

 

既に起き上がっていた空が自陣に戻り、指示を出していた。

 

 

『スゲーガッツ…』

 

『花月も負けてねえよ…!』

 

ここまで誠凛一色だった観客。

 

『頑張れ花月!!!』

 

『あと一息だぞ!!!』

 

空を始めとした、選手達のガッツ溢れるプレーに花月を応援する声を出始め、その声が少しずつ拡大していった。

 

 

「スゲー奴らだ。花月はどいつもこいつも…!」

 

気迫溢れる花月の選手達に思わず尊敬の言葉が出る火神。

 

「当然ですよ。だって彼らは、あのキセキの世代を倒したんですから」

 

そんな火神に黒子が横から口を出す。

 

「…何でだろうな、厳しい展開だってのに、試合が楽しくて仕方がねえ…!」

 

そう言って不敵に笑う火神。

 

「同感です。ボクも今、この瞬間が、今までの試合の中で1番楽しいと感じています」

 

黒子も同様に笑みを浮かべた。

 

「だからこそ、この試合に勝ちてー。決勝だから、最後だからってのもあるが、それ以上にこの最高に楽しい試合を勝って終わらせてー!」

 

「勝ちましょう、火神君」

 

「行くぞおめーら、絶対に走り負けるんじゃねえぞ!」

 

「もちろんです!」

 

「誰に言ってんだコラァ!」

 

「はい!!!」

 

火神の檄に、2年生の3人が応える。

 

「行くぞ!!!」

 

リスタートし、新海にボールが渡ると、誠凛の選手達は一斉にフロントコートへと駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ピッ!

 

 

誠凛の選手達がボールを回しながら攻め上がって来る。

 

「打たせへんで!」

 

「ちっ!」

 

スリーポイントラインの外側、右ウィングの位置でパスを受けた池永。すぐさま天野のチェックが入った事でスリーが打てず、舌打ちをする。

 

「(だったら…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

外がダメならばと池永がカットイン、中へと切り込む。

 

「そないなドライブで抜かせるかい!」

 

このドライブに天野は反応、抜かせずに並走する。

 

「…っ!」

 

これを見て松永も動き、池永の包囲にかかる。

 

「戻せ!」

 

「っ!?」

 

背後から聞こえた新海の声に池永が反応し、囲まれる前に新海へとボールを戻す。

 

「打たせねえよ」

 

ボールを持った新海に、すかさず空が高速でチェックに向かう。

 

 

――ピッ!

 

 

新海は空が目の前に辿り着く前にパスを出す。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

出されたパスが弾かれ、軌道を変える。

 

『っ!?』

 

これに花月の選手達が驚愕する。ボールは右サイドから左サイドへ、両チームの選手達が入り混じる中を針の穴を通すように通過した。

 

「おっしゃぁ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

逆サイドでボールを受け取った池永がそこからジャンプショットを決めた。

 

 

花月 105

誠凛 104

 

 

「っしゃぁ! おらぁ!」

 

得点を決めた池永がガッツポーズをしながら咆哮を上げる。

 

 

『何だ今のパス!?』

 

『あんな密集地帯を横断させてサイドチェンジさせやがった! マジでスゲー!!!』

 

『まさに魔法のパス!』

 

通常はまず不可能な逆サイドへのロングパス。その不可能を可能にしてしまった黒子のパスに驚愕する観客。

 

 

「戻れ! すぐに攻めて来るぞ!」

 

そんな池永に火神が叫ぶように指示。

 

「もう行ってるぜ!」

 

素早くリスタートした花月。ボールを受け取った空はそのままドリブル。他の4人も続いて駆け上がる。

 

「…くそっ!」

 

「…っ」

 

ディフェンスに戻る新海と田仲。誠凛の得点と同時に駆け上がった花月の選手達、特に空と大地のスピードが速く、誠凛のディフェンスが整いきる前に攻め上がっていく。

 

「空!」

 

空の横を駆けていた大地がフリースローライン付近で急旋回。スリーポイントラインの外側へと移動し、ボールを要求。

 

 

――スッ…。

 

 

空は大地の移動した方へ身体を向け、パスを出す。

 

「させっかよ!」

 

2人のパスコースの間に、池永が現れ、スティールを狙う。

 

「あっ!?」

 

スティールを狙った池永が思わず声を上げる。空は大地にではなく、肩越しに背後へ、逆方向にボールを放ったからだ。

 

「おおきに!」

 

そこへ走り込んだ天野がボールを掴む。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのままレイアップを決めた。

 

 

花月 107

誠凛 104

 

 

「よーし!」

 

ガッツポーズをする天野。

 

「ナイス天野! 次はディフェンスだ! ここらで1本止めて――」

 

 

――ビュッ!!!

 

 

ベンチから立ち上がった菅野が檄を飛ばそうとした瞬間、一陣の風と共にコートの端からボールが猛スピードで通過した。

 

『っ!?』

 

思わず目を見開き、ボールの先、自陣のリングの方面へと振り返る。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

そこには、ボールをリングに叩きつける火神の姿があった。

 

 

花月 107

誠凛 106

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に会場を覆い尽くす大歓声。

 

 

「全国で最速を誇る君達の機動力…」

 

『…っ』

 

再度、相手リング…、そのゴール下に立っている黒子へと振り返る花月の選手達。

 

「ボク達では追い付く事は出来ないかもしれません。…ですが、どれだけ速くても、ボールより速く動く事は出来ません」

 

花月の選手達に黒子が言う。

 

 

「…ハハッ、出たよ、黒子の回転長距離パス(サイクロンパス)…!」

 

「ここから見ると、改めてデタラメなパスだな…」

 

日向と伊月が苦笑する。

 

 

「…忘れてた、今まで使ってこなかったから忘れちまってたが、黒子にはこれがあるんだったよ」

 

菅野が頭を抱えながらベンチに座り込む。

 

事前のミーテイングで、黒子のパスについてはスカウティングしていた。したはずだった…。だが、加速するパス(イグナイト・パス)廻や、喚起のパス(ブーステッド・パス)のあまりの衝撃に、頭から抜け落ちていた。

 

「ハッハッハッ! スゲースゲー!!!」

 

ベンチの菅野が気落ちする中、空は目を輝かせながら笑う。

 

「俺達も負けてらんねえな。こっちも見せてやろうぜ。日本一走れる、日本一走って来た俺達のバスケを!」

 

「ええ、もちろんです!」

 

「せやな!」

 

「行こう!」

 

「よーし!」

 

空の檄に、他の4人も笑みを浮かべながら応える。

 

大地がボールを拾い、空にパスを出してリスタートをする。

 

「行くぞ!!!」

 

号令と共に空がフロントコートにドリブルを始め、他の4人も続くように駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あれで黒子は百戦錬磨だ。ここまで出さなかった回転長距離パス(サイクロンパス)。出すタイミングは完璧だった。…だが、もはや花月はこの程度では揺らぐ事はないのだよ」

 

緑間が黒子を称える。

 

「花月のタフさは異常ッスからね。神城っちと綾瀬っち、2人がいる限り、花月が折れる事は絶対にないッスよ」

 

夏に戦った経験から、花月のメンタルの強さを良く知る黄瀬。

 

「誠凛の怒涛の追い上げ、ミスや焦りもあって、点差を1点にまで縮められたが、逆にそれが開き直るきっかけにもなれたのかもしれないな」

 

赤司が解説する。

 

一定のリードを保っていた時は何処か、無意識に点差を守りきろうとして面もあった。だが、花月は本来、とことん点を取るオフェンス型のチームである為、それは、花月のスタイルとは真逆とも言える戦法でもあった。そこへ、火神のゾーンや黒子の新技などで、追い上げられる事となったが、一気に追い詰められ、1度は動揺しかけたが、上杉の檄と指示もあり、結果、花月は開き直る事が出来、本来のスタイルに立ち返る事が出来た。花月の精神的支柱であり、司令塔でもある空は健在、その空を支える大地も健在の為、もはや花月は揺るぐ事はない。

 

 

「オラオラオラァ!!!」

 

咆哮を上げながらボールを運ぶ空。

 

 

「…うっさ」

 

その空にうんざり顔の紫原。

 

「誠凛と花月、同じラン&ガンスタイルの超攻撃型バスケのチームだが、詳細は違う」

 

今度は青峰が解説を始める。

 

「ボールが動く誠凛に対して、花月は人が動く」

 

その言葉通り、コート上では花月の選手達がせわしなく動き、機を窺っていた。

 

「…」

 

その場で留まりながらゲームメイクをする空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

他の4人が動き回った結果、中に出来た僅かスペース目掛け、空は発進、突き進む。

 

「止める!」

 

「行かせっかよ!」

 

仕掛けた先には火神。ドリブルをする空の横を、池永が並走し、空の包囲にかかる。

 

 

――スッ…。

 

 

2人に包囲される前に、空はパスを出す。

 

「っ!?」

 

このパスに、池永は思わず絶句する。空は、横を走る池永の股下にボールを、踏み込んだタイミングに合わせて通したのだ。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ大地がボールを掴み、そのままリングに向かって飛ぶ。

 

「させるか!」

 

次の瞬間、火神がブロックに現れる。

 

「大地、右!」

 

「…っ」

 

空の指示が耳に入り、ボールを右へと放る。

 

「ナイスパス、ダイ!」

 

そこには、生嶋が走り込んでいた。

 

「田仲、打たせるな!」

 

「はい!!!」

 

咄嗟に火神が指示を出し、田仲が生嶋のチェックに行く。

 

「こっちだ!」

 

田仲が迫る中、生嶋の耳に、空の声が聞こえる。

 

「お願い!」

 

その声に反応した生嶋がその方角へパスを出す。

 

「…ちっ!」

 

右ウィングの位置でボールを受けた空に、新海がチェックに行く。

 

「(中に切り込まれても構わない、スリーだけは阻止だ!)」

 

ここでスリーを決められるのは誠凛にとって最悪。その為、新海はスリー最優先で止めに入る。中には火神がいる為、止められる可能性も高い。

 

 

――ピッ!

 

 

空はパスを出す。

 

「っ!?」

 

ドッチボールをするように振りかぶって出されたパス。ボールは、空に迫る新海の顔の横スレスレを高速で通過する。

 

「よし!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールは、隙間を縫うようにゴール下に走り込んだ松永の手に渡り、松永がそのまま決めた。

 

 

花月 109

誠凛 106

 

 

「マジかよ…」

 

今の一連のプレーを見て、観客席の高尾が驚きの表情をする。

 

「確かに、ドリブルしながら横を走ってる敵の股下を通すとはな…」

 

「それも凄いんですけど…」

 

同様の感想を持った宮地(兄)だが、高尾は違う視点を持っていた。

 

「今、花月はそれぞれが独立して動いています。それも全速で。そんな奴らに、神城は手元にドンピシャのタイミングでパスだしてんスよ」

 

「っ!? そう言えば…!」

 

ここで宮地(兄)は高尾の言っている事に気付いた。

 

現在、花月の選手達は、それぞれがその場のアドリブで全速で動いている。ナンバープレーのように事前に決めた動きではなく、アドリブでだ。空は、にも関わらず、絶妙のタイミングでパスを届けているのだ。

 

「正直、試合には負けても、司令塔として優秀なのは赤司だと思ってたけど、今のが偶然やマグレじゃないなら、神城はもしかしたら司令塔としても赤司と互角かも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ワオ! 最後のパス、まるでナッシュみたいだったな!」

 

右ウィングの位置から一直線に通したパスをみて興奮するニック。

 

「…ふん、眼を使ったか」

 

鼻を鳴らしながらナッシュが言う。

 

「眼? …そうか!」

 

ここで今のプレーの合点がいった。

 

眼とは、空の持つ時空神の眼(クロノス・アイ)。周囲の者とは違う時間軸に立つ眼の事。ゾーンに入り、その最深部に到達している今の空なら使う事が出来る。

 

「なるほど、だからあんなパスが出来た訳か!」

 

同じく気付いたアレン。

 

「(ようやく、その眼を1ON1以外で生かせるようになったか。つっても、あのサルは無意識だろうけどな…)」

 

時空神の眼(クロノス・アイ)をゲームメイクでも使えるようになり、やれやれと言った表情をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『スゲー試合だ…!』

 

『どっちも譲らねえ…!』

 

『もはや殴り合い通り越して取っ組み合いじゃねえか…!』

 

目まぐるしく攻守が切り替わり、どちらも早々にフロントコートに駆け上がり、得点を決める超ハイペースな展開に、観客は驚きを隠せない。

 

『最高の決勝戦だ!』

 

『どっちも頑張れ!!!』

 

互いが全身全霊でぶつかり、鎬を削り合う試合に、会場はこの日最高のボルテージに達する。

 

 

『かーげーつ!!! かーげーつ!!!』

 

 

――ドドドドドドドドドッ!!!

 

 

『せーりん!!! せーりん!!!』

 

 

――ドドドドドドドドドッ!!!

 

 

会場の観客達が、花月か誠凛、いずれかのチームを、足を床に叩きつけて音を鳴らしながら大声でコールしている。誰が初めにやり始めたのか、その場のテンションに煽られ、1人がやり始めると、そこから徐々に周囲の観客にも伝染してやり始め、今では会場のほとんど観客が興に乗せられ、これをやっていた。この音は、会場の外にも響き程であった。

 

「いやー、凄いっスね!」

 

会場が一帯となって行われている地鳴りとコールに、黄瀬も圧倒されている。

 

「うっさ…」

 

紫原は相変わらず顔を顰めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「タイムアウトを取ってからラン&ガンでの点の取り合いだ。…思い出すぜ」

 

若松が、2年前のインターハイでの海常戦の事を思い出す。試合終盤、黄瀬が青峰のスタイルのコピーが完了してから始まった怒涛の点の取り合いを。

 

「けどまあ、ワシらの時よりキツイかもしれへんで。確かに、あの時と展開は似とる。やけど、あの時は実質、青峰と黄瀬君のやり合いが主で、ワシらは基本、邪魔をしたりさせへんようにするのがメインやったからのう」

 

今吉が分か夏に同調しつつ補足する。

 

「せやけど誠凛と花月、どっちも点を取るのはエースだけやのうてチームの全員や。いつボールが来るか分からへんし、もし取りこぼせばほぼ負けやからな。のしかかるプレッシャーは尋常やない。ほんの僅かでも集中切らしたら、終いや」

 

冷や汗を流しながら続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「観客からすれば面白い試合かもしれないが、選手からすれば息の詰まる試合だぜ」

 

試合を見ている笠松の頬に、つーっと冷や汗が流れる。

 

「試合ももう、終盤も終盤だ。疲労はピークだ。集中なんて、いつ切れるか分かったものじゃない」

 

同様に自分の立場に置き換えた小堀。

 

「…誠凛も花月も、タイムアウトを取る気配がないな。まだ両チーム共に、タイムアウトは残ってる。こんだけハイペースな試合をしているんだから、1回くらい、取っても良さそうなものだが…」

 

両チームのベンチにそれぞれ視線を向ける森山。上杉、リコ共に、ベンチにどっかり座っており、タイムアウトを取る気配が微塵も感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

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・・・・

 

 

「取れる訳がない」

 

他でもその指摘があり、それを、陽泉の監督である荒木が否定した。

 

「コート上で戦っている選手達の顔を良く見てみろ」

 

荒木に指摘され、かつての教え子である岡村や福井が注目する。

 

「「…っ!」」

 

そして2人の顔が驚愕に染まる。

 

 

――花月と誠凛、双方の選手共に、笑っていたのだ。

 

 

試合で激しくぶつかり合う選手達の表情は、疲労の色はあったり、肩で大きく息をしてはいるが、その表情は、ミスを恐れたり、繰り返される展開に苦しんでいたりではなく、双方、楽しんでいるのだ。

 

「ここでタイムアウトを取って間を空けるような事をしてしまえば、気力に穴が空いて集中力を逆に切らす結果にしかならない上、最高潮にまで達した選手達のテンションに水を差す行為にしかならない」

 

「「…」」

 

「そして何より、今、選手達は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「mix it up」

 

突如、試合を見ていた景虎がポツリと呟いた。

 

「主に、ボクシングで使われる言葉だが、互いに足を止めて激しく打ち合い、限界を超えながら互いに高め合うような試合に用いられると聞く」

 

ここでフッと笑い…。

 

「今、この瞬間がまさにそれだ。誠凛も花月も、互いに全力でぶつかり合って試合を通してさらに自身を高め合っている。…タイムアウトなんか取って選手達の成長を邪魔する事なんざ、出来るはずがねえよな」

 

そう言って、景虎は旧友である上杉と、愛娘であるリコに視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「凄い試合…、どっちも譲らない。試合はどうなるんだろう?」

 

試合を見ている桃井が思わず疑問を口に出す。

 

「…正直、結果は終わるまで分からない。だが、確実に言えるのは、辛いのは誠凛だ」

 

桃井の疑問に、赤司が答える。

 

「誠凛が勝つ為には、ファールを貰ってフリースロー獲得するか、花月のオフェンスを止めて連続得点する必要がある。だが、花月はノーファールを貫き、2点であれば取られるのを覚悟でその時間と力をオフェンスに向けている」

 

「スリーはダメなの?」

 

赤司の解説を聞き、新たに浮かんだ疑問を尋ねる。

 

「リスクが大き過ぎる。花月はスリーを絶対阻止でディフェンスをしている。味方に緑間のクラスのシューターがいるならともかく、純粋なシューターがいない誠凛では外す可能性の方が高い上、仮に決められたとしても同点止まりだ。逆転する為にはどの道、花月のオフェンスを止めて決める必要がある」

 

「っ! そっか! 延長戦になったら誠凛が圧倒的に不利だもんね」

 

誠凛にとって、同点、延長戦は負けに等しい行為。リスクに見合うものが得られないのだ。

 

「誠凛が勝つには、花月のオフェンスを止めるしかない。…だが、残り時間は僅か。次、止められなければ…」

 

「…っ」

 

赤司の指摘に、桃井はハッとして残り時間が表示されている掲示板を見たのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを回し続け、花月のゾーンディフェンスを崩した所で黒子がボールを中継、フリーだった新海が得点を決めた。

 

 

第4Q、残り29秒

 

 

花月 113

誠凛 112

 

 

『決めた! 誠凛が再び1点差に詰めた!』

 

 

「ディフェンス! 絶対に死守よ!!!」

 

『おう!!!』

 

ベンチのリコが立ち上がり、檄を飛ばし、選手達はディフェンスに戻りながらそれに応える。

 

 

「…」

 

オフェンスが花月に切り替わる。ボールを運ぶ空だが、これまで通り、フロントコートに駆け上がる事はせず、ゆっくりとボールを運ぶ。

 

 

「さすがの神城も、勢いに任せて攻め上がったりはしないか」

 

ゆっくりボールを運ぶ空を見て呟く小牧。

 

「そらそうやな、誠凛はここを止められんかったら負けや。当然、死に物狂いで止めに来るからのう」

 

今吉(誠)が続けて言う。

 

「誠凛はいつでも最後の土壇場でひっくり返して来た。…俺でもそうするぜ」

 

自分の立場に置き換えて想定した高尾。

 

「注目なのは神城がどういう選択を取るかだ。時間を使い切ってタイムアップを狙うか、それとも点取ってトドメ刺しに来るか…」

 

空の選択に注目する永野。

 

 

「…」

 

ボールをキープしながらゲームメイクをする空。

 

 

「(時間を使い切って逃げ切る? そんな卑怯な真似をするかよ! 正々堂々、トドメ刺して、胸の張れる勝利を掴み取るに決まってんだろ!)」

 

空の心を決まっていた。

 

 

「神城がどの選択を取るか。それは考えるまでもない」

 

赤司が呟いたその時…。

 

 

『なっ!?』

 

会場にいる全ての者が驚愕する。

 

 

――スッ…。

 

 

スリーポイントラインから1m以上離れた位置でボールをキープしていた空。突如その位置でボールを掴み、シュート体勢に入ろうとしていたからだ。

 

 

「ここでスリー!?」

 

「第4Q入って、神城はスリーを一切打たなかったのは…!」

 

「この瞬間の為の布石…!」

 

この行動に、三浦、永野、今吉(誠)も驚いていた。

 

 

「これがあるんだよ神城には!」

 

思わず立ち上がる小牧。かつて全中大会で、意表を突いたスリーを決められ、トドメを刺された記憶を思い出す。

 

 

無警戒で放たれる空のディープスリー。そのスリーに、試合の行く末が決まる。誰もがそう思っていた。

 

「っ!?」

 

空の目が大きく見開かれる。今まさに頭上にリフトさせようとしているボールに、1本の手が迫っていたからだ。

 

「(俺はあの日からずっとお前を見て来た。あの日のリベンジを果たす為に!)」

 

新海が空の持つボールに手を伸ばす。誰もが虚を突かれたと思っていた空の突然のディープスリー。だが、新海だけは読んでいた。全中決勝で負け、1度は全てを失ったあの日から、ずっと空打倒を目指し、幾度となく研究を続けて来た新海だけが…。

 

「…ちっ」

 

スリーも打てる空だが、大地のようにクイックリリースで、それもスリーポイントラインから1m以上離れた位置から決められる程、器用ではない。離れた距離に対応する為、より深く踏み込んでいた事もあり、スリーを打つより、新海の手がボールを捉える方が速い。

 

 

――ピッ!

 

 

瞬時に判断した空はボールを左方向に立つ生嶋へとパスを出す。

 

「池永!」

 

「任せろ!」

 

新海に促され、生嶋にスリーを打たれる前に池永がチェックに向かう。

 

「こっちだ!」

 

パスを出した空が中に走り込み、ボールを要求。

 

 

――ピッ!

 

 

すかさず生嶋が池永の足元でボールを弾ませながら空にリターンパス。

 

「…よし」

 

ハイポスト付近で空がボールを掴む。

 

「空!」

 

ここで、左隅に走り込んだ大地がボールを要求。

 

 

――ピッ!

 

 

同時に空はパスを出す。

 

「っ!?」

 

大地のチェックに走った火神の目が見開かれる。ボールは、左隅でボールを要求した大地…にではなく、ゴール下に走り込んだ松永の手に渡ったからだ。

 

 

『っ!?』

 

再び虚を突いた空の行動に、観客も驚愕する。

 

 

「これで終わりだ!」

 

ボールを右手で掴んだ松永がリングに向かって飛び、ボールをリングへと叩きつける。

 

「おぉっ!!!」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

その時、田仲が松永のダンクより速くブロックに現れ、ダンクを阻む。

 

「なに!?」

 

驚く松永。

 

 

――ググググッ…!!!

 

 

リング手前でせめぎ合う両者。

 

「(力を振り絞れ! 絶対に、勝つんだ!)…おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

身体から力を振り絞った田仲が松永の手からボールを弾き出した。

 

「よーし!!! よくやった田仲!!!」

 

ベンチの朝日奈が歓喜する。

 

「ちぃっ! 仕切り直しや!」

 

弾かれたボールに飛び付く天野。

 

「うらぁっ!!!」

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

天野がボールを確保しようとしたその時、横から手をの伸ばしながらボールに飛びついた池永がチップアウトする。

 

『っ!?』

 

再び弾かれ、舞ったボール。そのボールを確保したのは…。

 

「速攻だ!」

 

ボールを確保したのは、新海だった。

 

「よーし、奪った!!!」

 

ボールを奪い、歓喜と共に涙を流す降旗。

 

「戻れ、ディフェンスだ!!!」

 

空が声を張り上げながら檄を飛ばす。

 

 

――ピッ!

 

 

新海はフロントコートに駆け上がると、パスを出す。パスを受けた池永が即座にパス。ボールを回しながらチャンスを窺う。

 

「チェックは素早く、シュートチャンスを与えるな!!!」

 

ベンチから上杉が指示を出す。

 

「(誰で来る!?)」

 

「(火神か!? それとも…!)」

 

ボールを回す誠凛。タイムアップが迫る中、誰で決めて来るか、必死に頭を巡らせる花月の選手達。

 

 

――ピッ!

 

 

新海がパスを出す。ボールは左45度付近のスリーポイントラインの外側。そこには黒子が移動していた。

 

「なっ!?」

 

その位置に一番近い大地の表情が驚きのものに変わる。黒子はボールを中継するのではなく、キャッチしたのだ。そして、次の瞬間!

 

「――っ!?」

 

 

 

 

 

――大地の視界から、黒子の姿が消え失せる。

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

背後から聞こえたバウンド音に振り返る大地。…そこに、黒子はいた。

 

『っ!?』

 

これに驚きの表情を浮かべる花月の選手達。あの大地が為すが儘、あっさり抜いてしまった黒子に。

 

 

消えるドライブ(バニシングドライブ)か!?」

 

大地を抜いた黒子。その技の名を口にする緑間。

 

「布石を打っていたのはテツも同じだった」

 

青峰が口を開く。

 

かつて、自分のスタイルに限界を感じ、チームの勝利の為に編み出した黒子の必殺技。過去に、自身の影の薄さに悪影響を及ぼす事になってしまってから封印していた黒子の必殺のドライブ。

 

 

中に切り込んだ黒子が胸の前でボールを構える。

 

『行っけぇぇぇっ!!!』

 

誠凛ベンチの選手達が立ち上がりながら叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「打たすかよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこへ、空がブロックに飛んで来た。

 

「頼む、止めてくれ!!!」

 

ベンチで祈るように懇願する帆足。

 

空が、シュートコースを塞ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ボクは、影だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒子の手から押し出されるように放たれるボール。

 

「っ!?」

 

ブロックの為に伸ばした空の手をかわすように放たれたボール。放たれた先はリングではない。空が振り返ったそこには…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――空高く、空を歩くように跳躍した火神が舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神の右手にボールが収まる。

 

『いっけぇぇぇぇぇっ!!!』

 

誠凛選手達の全てが思いを込め、叫ぶ。

 

「うおぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

空中を舞う火神が咆哮を上げる。そして…。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

そのまま右手に収まったボールをリングへと振り下ろした。

 

 

花月 113

誠凛 114

 

 

『……来た』

 

『遂に逆転! 試合をひっくり返した!!!』

 

1度は20点差近くまで開いた点差をひっくり返した誠凛に対し、観客が大歓声を上げる。

 

『誠凛の逆転勝ち――』

 

 

「まだだ!!!」

 

既に戦勝ムードに浮かれる観客。その時、火神が叫ぶ。走る火神のその先…。

 

 

 

 

 

――大地がフロントコートへと走っていた。

 

 

 

 

 

 

ここで観客達が気付く。試合時間がまだ、5秒残っている事に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

素早くボールを拾ったスローワーとなった松永が先頭を走る大地に縦パスを出そうとする。

 

「おぉっ!!!」

 

「っ!?」

 

縦パスを阻止するべく、松永の目の前に立った田仲が両腕をブンブン振って妨害する。

 

「こっちだ!」

 

そこへ、松永の横で空がボールを要求。すかさず松永は空にパスを出す。

 

 

――4…。

 

 

「止める!」

 

「やらせっかよ!!!」

 

ボールを掴んだ空に、新海と池永がすぐさまチェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空は新海を一瞬の加速のドライブでかわし…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

続く池永をクロスオーバーで抜きさった。

 

「「っ!?」」

 

 

――3…。

 

 

2人を抜きさった所でボールを掴んだ空が、大地に縦パスを出すべく大きく振りかぶった。

 

 

――バチィッ!!

 

 

しかし空は、右手で持ったボールを投げる直前、左手で抑えて止めた。

 

「っ!?」

 

目の前には、空の縦パスをカットしようと進路を塞ぐように手を伸ばした黒子の姿があった。

 

 

「テツ君の動きを読んでた!?」

 

「…いや」

 

黒子のスティールを読んでいたのかと予想した桃井だったが、赤司は首を横に振った。

 

 

「もうあんたの姿は丸見えだ」

 

呟く空。

 

そう、空は、黒子の動きを読んで(・・・)いたのではなく、見えて(・・・)いたのだ。

 

元々、自身の最大の武器である影の薄さは、一昨年に消えるドライブ(バニシングドライブ)や、幻影のシュート(ファントムシュート)を覚え、試合で使った為に失いやすい状態となっていた。先程の消えるドライブ(バニシングドライブ)を使った事で、既に影の薄さは失われてしまっていた。

 

 

――2…。

 

 

再度振りかぶった空が前を走る大地に向けて、大きな縦パスを出した。

 

 

――1…。

 

 

先頭を走る大地に向かって投げられた大きな縦パス。大地がそのパスを取るべく、ジャンプして右手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めさせるかぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこへ、大地の後方で縦パスをカットする為に大ジャンプをした火神が現れた。

 

「火神!!!」

 

「頼む!!!」

 

「止めてくれ!!!」

 

ベンチの降旗、河原、福田が叫ぶ。

 

「おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

咆哮を上げながら火神がボールに右手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――無駄だぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボソリと呟く空。

 

空には見えていた。大地へ繋げる為のパスコースが…。先程は見えなかったパスコース。今では、そのパスコースが、光で照らすかの如く、道筋が見えていた。そのパスコースに寸分も違わずに出されたパス。

 

「そのパスは、あんたでも止められない」

 

「――っ!?」

 

ボールをカットする為に伸ばした火神の右手。その数㎝…いや、数㎜先を、ボールは通過していった。

 

 

 

 

 

 

――0.5秒…。

 

 

 

 

 

 

 

――バチィッ!!!

 

 

空が出した縦パスを右手で掴んだ大地。

 

「お願い!!!」

 

「決めてまえ!!!」

 

「行け!!!」

 

生嶋、天野、松永が叫ぶ。

 

『いけぇぇぇぇぇっ!!!』

 

花月ベンチにいる者達が立ち上がりながら叫ぶ。

 

 

「(さすが空。あなたは最高のポイントガードであり、最高の相棒です…)」

 

右手にボールが収まり、そのパスを出した空に対し、胸中で賛辞の言葉を贈る大地。

 

 

火神のアリウープの直後、ただひたすらにリングに向かって走り、飛んだ大地。大地はボールを一切見ていなかった。何故なら、空であれば、自分の求める所へ、最高のタイミングで最高のパスを出してくれると信じていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めちまえ、大地(相棒)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おぉっ!!!」

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま空中で放り、ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ピィィィィィィィィィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時に鳴り響く審判の笛…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

審判は口元から笛を降ろし…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『タイムアップ! 花月高校! ウィンターカップ、優勝!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コールと同時に、高く上げられた右手の2本の指が、振り下ろされた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間、ウィンターカップ決勝戦の長い長い激闘が、終わりを告げたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





終わったー…\(^-^)/

過去最大の文字数…(;^ω^)

梅雨入りくらいから書き始めた決勝戦、終わってみれば夏が終わり、秋ももうすぐ終わりそうな季節。思えば、ウィンターカップ自体、書き始めたのが2年前の梅雨入り頃と言う、我ながら遅筆ですね…(;^ω^)

前書きは、話に集中してもらう為、敢えて書かず…と言う、悪足掻きをしてみました(無駄な抵抗)。

毎回毎回、試合が始まる前は短くなるかもとか思ってるんですが、数えてみたらこの試合、14話。過去最大話数でした…(>_<)

何と言うか、とりあえず、エタらずに書きあげる事が出来て、良かったです…(^-^)

ここまでこの二次にお時間を割いてくれた方々へ、本当にありがとうございました…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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第215Q~閉会式~


投稿します!

冬が到来しましたね…(^-^)

にしては自分の地域は日中は結構暖かいですが…(´▽`*)

それではどうぞ!



 

 

 

『タイムアップ! 花月高校! ウィンターカップ、優勝!!!』

 

審判がコールし、長く、熱く、激しかった決勝戦の終わりが告げられた。

 

「――」

 

勝敗を決定付けた決勝点を決めた大地が駆けだす。

 

「――」

 

決勝点のアシストをした空が駆けだす。

 

 

 

 

 

――コート中央で、2人は歓喜の表情で抱き合った。

 

 

 

 

 

「「「――っ!!」」」

 

その直後、同じく歓喜の表情の生嶋、松永、天野が抱き合う2人に飛び付くように抱き合う。

 

『――っ』

 

花月ベンチからも選手達が飛び出し、ある者は喜び、ある者は涙を流しながらその5人へと駆け寄った。

 

 

――ドォン!!!

 

 

轟音と同時にコート上に紙吹雪が、勝者を祝福するかのように舞い散ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合終了

 

 

花月 115

誠凛 114

 

 

「おっしゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

高く両拳を突き上げる歓喜の空。

 

「おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

普段は冷静な大地がガッツポーズを取りながら涙を浮かべながら叫ぶ。

 

「やったでぇ!!! 優勝やぁ!!!」

 

天に向かって叫ぶように喜びを露にする天野。

 

「やった…、やった…!」

 

涙を流しながら喜びを噛みしめる生嶋。

 

「俺達は、勝ったんだな…!」

 

点数が表示されている電光掲示板を見た松永が、改めて勝った事を実感し、拳を握る。

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

咆哮を上げる菅野。

 

「…花月に来て…、バスケ部に入って…、良かった…!」

 

バスケ部に入部してから今日までの事が走馬灯の様に蘇る帆足が、その場で静かに涙を流す。

 

「優勝だ! 優勝だよ室井!」

 

「あぁ! 優勝したんだな…!」

 

室井に抱き着く竜崎。そんな竜崎を抱きしめ返す室井。

 

「…グスッ! 皆、おめでとう…!」

 

涙を流しながら選手達を祝福する相川。

 

「…っ、良くやったぞ、お前達…!」

 

ベンチにただ1人残った上杉。去年の夏の優勝とは意味が違う今回の優勝。静かに拳を握り、喜びを噛みしめながら選手達を労った。

 

「勝ったん…だね…」

 

泣きじゃくる相川の横で、歓喜に沸く選手達を見つめながらボソリと呟く姫川。

 

「…へへっ!」

 

そんな姫川の視線に気付いた空が、笑顔で姫川に向けて親指を立てた。

 

「…っ、バカ…!」

 

そんな空に思わず悪態を吐く姫川。

 

「おめでとう…!」

 

笑みを浮かべると、涙を流しながら選手達を祝福した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

対象に誠凛の選手達。

 

「…っ」

 

悔しさを噛みしめながら下を向く新海。

 

「ちくしょう! …ちくしょう…!」

 

床に両膝を付け、床を叩きながら涙を流す池永。

 

「…っ!」

 

その場に立ち尽くし、涙を流す田仲。

 

「あぁ…あぁ…!」

 

ベンチに座りながら号泣をする降旗。

 

「…っ」

 

降旗の肩に手を乗せて励まそうとする河原だったが、その目からは涙が溢れていた。

 

「うぐっ! …うぐっ!」

 

そんな2人を目の前に、福田もまた号泣していた。

 

「…っ」

 

タオルを被り、ベンチに座りながら自身の膝を叩く朝日奈。

 

「…」

 

コートの方を、茫然としながら見ている夜木。

 

「…っ」

 

涙が溢れそうになるリコ。

 

「…っ!」

 

それをグッと堪え、顔を上げる。

 

「下を向かないで、胸を張りなさい」

 

『…っ』

 

敗戦を噛みしめ、俯いている選手達に発破をかけるリコ。

 

「今日勝てなかったのは監督である私の責任。あなた達は決して花月にも劣ってはいなかったわ」

 

『…』

 

「決勝に恥じない試合をしたわ。…だから、胸を張りなさい」

 

必死に涙を堪えて顔を上げるリコ。

 

『…っ!』

 

その姿を見て、誠凛の選手達は涙を拭い、顔を上げ、胸を張ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

目をきつく瞑り、天を仰ぐ火神。

 

「……ふぅ」

 

やがて大きく息を吐き、目を開けた。

 

「届かなかったな」

 

「……はい」

 

歓喜に沸く花月の選手達を見つめていた黒子に声を掛ける。

 

後1点…、僅か指先数㎜。その差が、勝者と敗者の命運を分けた。

 

「整列だ。胸張って行こうぜ。俺達は、全力で戦ったんだからな」

 

「…はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『115対114で、花月高校の勝ち。礼!』

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内に集まり、審判の号令を合図に、互いに礼をする。

 

「…ふぅ、強かったぜ。完敗だ」

 

空に歩み寄った火神が笑顔で声を掛ける。

 

「紙一重ですよ。ただ今日だけは、少し俺達にツキがあったってだけで」

 

同じく空も、笑顔で返す。

 

「またやろうぜ。次は負けねえからな」

 

空に手を差し出す。

 

「こっちこそ。次は完勝して見せますよ」

 

その手を空が握り、握手を交わした。

 

「対戦、ありがとうございました」

 

そこへ、大地がやってきて、火神に手を差し出した。

 

「お前も、これまでやり合ったキセキの世代と遜色ねえくらいに強かったぜ」

 

「光栄です。結局、今日の私はあなたに届かなかった。ですが、次こそは、私1人であなたに勝ってみせますよ」

 

「…試合に負かされた奴に言われんのは少し複雑だがよ。上等だ。次は負けねえぜ。試合でも、コテンパンにしてやるよ」

 

そう言って、火神は大地の手を握った。

 

「…」

 

空は視線を横へと向ける。そこには、黒子の姿があった。

 

「ありがとうございました。今日の試合は、これまでのバスケ人生で、1番楽しかったです」

 

空の横へと歩み寄った黒子が空に手を差し出す。

 

「黒子さん」

 

そう呟き、空は黒子の手をジッと見つめる。

 

「無冠の五将、ジャバウォック、キセキの世代、そして火神さん。他にも、ここまで、色んなスゲー奴、強い奴とやり合って来た。その中で、誰が1番尊敬出来るかと聞かれれば、俺は迷いなく黒子さんと答えられます」

 

「…」

 

「俺が黒子さんの立場だったら、ここまで来る事は出来なかっただろうし、何より、ここまでバスケを好きになる事は出来なかったと思う。だからこそ、ここまで努力し続けて、バスケを好きでいられる黒子さんには、尊敬の言葉しかありません」

 

「神城君…」

 

「だからこそ、今日、黒子さんと戦えて良かった。俺は今日、黒子さんから色んな事を教わった気がします。…だから、ありがとうございました」

 

そう言って、黒子に手を差し出した。

 

「君のような選手にそう言って頂けて光栄です。負けてしまいましたが、今日の試合は、ボクが経験した試合の中で、1番、激しく、厳しく、そして、楽しい試合でした。君達と戦えて良かったです。ありがとうございました」

 

そう返し、黒子はその手を握った。

 

「綾瀬君も、君は納得出来ないかもしれませんが、今日の君は、まるでキセキの世代(彼ら)を見ているようでした。君はきっと、まだまだ強くなると思います。…ありがとうございました。また何処かで戦いましょう」

 

黒子が大地に手を差し出す。

 

「そう言って頂けると嬉しい限りです。…ありがとうございました」

 

大地はその手を握った。

 

他にも、天野と池永、生嶋と新海、松永と田仲がそれぞれ、一言二言交わしながら握手を交わしていた。やがて選手達は各々ベンチへと戻っていく。

 

 

「おめーら、最後に応援してくれた皆にしっかり挨拶するぞ。情けねえ面見せんな」

 

火神が主将として声を出し、誠凛の選手達は観客席の前へと一列に並ぶ。

 

「応援、ありがとうございました!!!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

火神の号令を合図に、選手達が観客達に挨拶をした。

 

 

――パチパチパチパチ…!!!

 

 

同時に、会場中を観客達による大きな拍手で包まれた。

 

 

『スゲー試合だったぞ!!!』

 

『最高の試合だった! 見に来て良かったよ!』

 

『お前らも強かったぜ!!! 胸を張れ!!!』

 

『ナイスファイト!!!』

 

誠凛の選手達に、観客達はいつまでも惜しみない歓声と拍手を贈り続けた。

 

『…っ』

 

歓声と拍手を受け、誠凛の選手達の瞳から涙が溢れ始める。誠凛の選手達は再び顔を上げると…。

 

『ありがとうございました!!!』

 

もう1度、観客達に挨拶をし、コートを去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

通路を歩く誠凛の選手達。

 

「…なあ、黒子」

 

その道中、火神が黒子に話しかける。

 

「今日の試合、俺は全てを出し切った。最高に楽しい試合だった。…けど、やっぱり悔しいな」

 

これまで我慢してきたものが両目から溢れ出す。

 

「…はい。ボクも…同じ、気持ちです」

 

黒子も同様に、その頬に涙が伝っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『いや、最高のゲームだったな!』

 

『ああ。決勝に相応しいゲームだった。見に来て良かった』

 

観客達が口々に試合の余韻に浸りながら感想を言い合っている。試合は終わったが、まだ閉会式が残っており、未だ、会場に残っている観客も多い。

 

 

「…」

 

そんな中、ナッシュが席から立ち上がり、その場を後にしようとする。

 

「ヘイ、ナッシュ。何処に行くんだ?」

 

そのナッシュにニックが声を掛ける。

 

「試合が終わったんだからもうここには用はねえ」

 

「おいおい、閉会式は見て行かないのか?」

 

「興味ねえよ」

 

そう答え、ナッシュはその場を後にしていった。

 

「おいおい、待てよ!」

 

会場を去ろうとするナッシュ、そんなナッシュを追いかけるようにジャバウォックのメンバー達がその場を後にしていった。

 

「…」

 

会場の外に出たナッシュが1度、会場の方へと振り返る。

 

「See you again …sora」

 

そう呟き、ナッシュは再び踵を返すと、会場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「見に来た甲斐があったな」

 

観客席の堀田が口を開く。

 

「ああ。みんな、俺の想像を超える程に成長していた」

 

同意するように頷く三杉。

 

「松永。俺達がいた時は、インサイドプレーヤーでありながら、3番から5番をこなせる程の器用さが売りだった。だが、反面、インサイドプレーヤーとしては少し、フィジカルが物足りなかったが…」

 

「今日の試合では、長所を伸ばしつつ、しっかり鍛えられていた。現在のバスケのトレンドでもある、ジェネラリストとして申し分ないプレーヤーにまで成長した」

 

「生嶋。ある程度、体勢やリズムが乱れても、ボールに触れられさえしなければ決められる正確無比なスリーは俺も脱帽する程だった。だが、悪く言えば、それ以外は平凡の域を出ず、スタミナにも不安が残る不安定な選手だった」

 

「だが、オフボールの動きが格段に良くなった。新たに武器を身に着けるのではなく、元々の武器であるスリーをより生かす方向に進化させ、花月の飛び道具として成長した」

 

「花月において、影の功労者は間違いなく天野だ。リバウンドやディフェンス、スクリーンなど、チームの楔となり、脇役として勝利に貢献した」

 

「バスケ選手である以上、誰もが主役になりたがるものだが、天野はチームの歯車として味方を生かす役割を担う事に疑念を抱くどころかむしろ、喜びを感じるタイプ。そんな天野だからこそ、チームに絶対欠かせない選手となった」

 

「菅野、帆足、後、竜崎君と室井君だったかな? 彼らもベンチプレーヤーとして、花月の足りないピースを補い、勝利に貢献した」

 

「ああ。良くぞ、これだけの選手が集まったものだ」

 

花月の選手達を褒めて行く三杉と堀田。

 

「だがやはり…」

 

「ああ、空と綾瀬の成長だ」

 

優勝にもっとも貢献した空と大地の名を挙げた。

 

「空はスピードと加速力と、持ち前のクリエイティビディを生かしたドライブやパスセンスが武器だった。一方でここ一番で爆発力がある反面、安定性に大きく欠ける不安定な選手だったが…」

 

「キャプテンに任命されて自覚を持ったことで、爆発力とクリエイティビティはそのままでだいぶ安定感は増した。スピードもさらに磨きかかり、正直、今の空相手に1ON1で止めるのは至難の業、かもな」

 

「対して、綾瀬は、空と遜色ないスピードに、驚異的な減速力とバックステップを武器に、一方で空とは対極で、安定感は類を見ないが、爆発力に欠けた選手だった。中でも、ギャンブル性がなく、消極的で大人しい面にもったいなさを感じたが…」

 

「本来得意なはずのスリーを積極的に打つようになり、時に、博打染みたプレーも見られるようになり、ここ1番で爆発力を発揮出来るようになった。あれだけ前後に緩急を付けられた上、スリーを打たれたら、これもまた止めるのは至難の業」

 

続いて、空と大地を褒める2人。

 

「2人共、今ではあのキセキの世代が相手でも真っ向から戦えるまでに成長した」

 

「お前の指導のおかげかもな」

 

「俺はあくまでも、最低限の仕込みとアドバイスをしただけだ。あそこまでの成長に至ったのは紛れもなく、あいつらの努力の賜物さ」

 

フッと笑みを浮かべ、コートへと視線を向ける三杉。

 

「(おめでとう。花月の皆。…空と綾瀬。いつかお前達が俺の敵として、ゆくゆくは同じユニフォームを着て戦える日が来るのを楽しみに待ってるぞ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「花月が勝ったか…」

 

観客席の一角で、そう呟いたのは、試合を見守っていた緑川高校の一ノ瀬。

 

「…やっぱり、この結末は複雑か?」

 

無粋と思いつつも桶川が一ノ瀬に尋ねる。

 

「不満はないさ。誠凛、花月両チーム共に、全力を出し、あれだけの激しく、素晴らしい試合を見せてくれたんだからな」

 

苦笑しながら一ノ瀬が答える。

 

「俺はこの結果に満足だ。俺達を倒してウィンターカップに出場した花月が優勝したんだからな」

 

城嶋は満足気な表情をする。

 

「…」

 

試合が終わってから、一言も発する事無くコートを見つめている荻原。

 

「…残念だったな」

 

誠凛の黒子との関係を知っている井上がそれとなく声を掛ける。

 

「……ふぅ」

 

暫くの沈黙の後、荻原が一息吐いた。

 

「誠凛が負けちまったのは残念だ。…けど、最高の試合だった。黒子はスゲーものを見せてくれた。他にも、あの火神も、他の誠凛の奴等、そして花月の奴らも、皆凄かった」

 

『…』

 

「互いに全てを出し切って、死に物狂いで戦った。だから、勝った花月はもちろん、健闘した誠凛も、胸を張ってほしいって、素直に思うよ」

 

「同意見だな」

 

一ノ瀬も頷く。

 

「(黒子、やっぱりお前はスゲーよ。感動した。絶対、いつかまた一緒にバスケしような!)」

 

荻原は満足気に笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「テツ君達が…、誠凛が負けちゃったね」

 

両チームがコートを去り、閉会式の準備を進めるコートを見つめながら呟く桃井。

 

「後1歩届かなかった。だが、頂点を決めるに相応しい試合だったのだよ。少なくとも、俺はこの結果に不満はない」

 

その呟きに、緑間が返事をする。

 

「勝敗を分けたのって、やっぱりタイムアウト後の…」

 

「ああ、点の取り合いだ」

 

青峰が断言する。

 

「ハイペース、ハイスピードでのトランジションゲーム。誠凛、花月共にオフェンスに長けたチームではあるが、息吐く暇のない、あそこまでのハイペースとなれば、花月の土俵だ」

 

解説をする青峰。

 

「花月のペースに付き合った結果、試合終盤の勝負所まで温存していた黒子のミスディレクションが最後までもたず、火神も、最後の最後、ボールに僅かに届かなかった…」

 

ミスディレクションが切れた結果、黒子は空にパスカットを悟られ、火神は、武器であるジャンプ力が僅かに鈍り、ボールに届かなかった。これらの要因を、花月のハイペースに付き合ったからだと青峰は断言。

 

「ここまでの花月の試合を研究していたのなら、花月を相手に、花月のペースに乗ってはいけない。それは誠凛とて、分かっていたはず」

 

「…けど、分かってはいても、乗せられちゃうんスよね」

 

赤司の言葉に、黄瀬が苦笑しながら続ける。

 

「花月を相手にしてると、不利だと分かっていても、真っ向から戦いたくなるんス。そしてそれが、楽しく仕方がないんスよ」

 

「理解出来るのだよ。俺達もそうだったからな。真っすぐ、真正面から挑んでくる花月を相手にすると、どうしてもその気持ちが抑えられなくなる。桐皇、海常、洛山も、ディフェンスシブのチームである陽泉でさえ、乗せられてしまったくらいだからな」

 

緑間が眼鏡を押し上げながら続く。

 

「…」

 

「…」

 

青峰も紫原も、特に口を挟まないが、表情を変えず、異論を唱えるつもりもなかった。

 

「互いが正面から全力でぶつかり、競い、高め合い、互いに限界をも超えていく。…その結果、俺達全員を降して花月が頂点に立ったのは皮肉な話ではあるが…」

 

苦笑する赤司。

 

「だが、この結末に満足している。花月も誠凛も、最高の試合をし、花月が勝った。皆もそうだろう?」

 

「そうッスね」

 

「これだけの試合を見せられたのだからな」

 

黄瀬は満足気に笑い、緑間は納得しながら頷く。

 

「…ふん」

 

「俺は別に…」

 

青峰は鼻を鳴らし、紫原はそっぽを向く。しかし、結果を受け入れ、納得はしている様子だった。

 

「さて…、試合は終わった事だし、俺も下に降りるッスかね」

 

大きく伸びをしながら言う黄瀬。

 

「あれー、黄瀬ちん、忘れ物でもしたのー?」

 

「いやいや、閉会式ッスよ。俺達3位スからね」

 

言葉の意味が理解出来なかった紫原が尋ねると、黄瀬は苦笑しながら答える。

 

「そう言えばそうだったな。すっかり忘れていたのだよ」

 

緑間も黄瀬に言われて思い出していた。

 

「だったらわざわざここに来ねえで最初から下で待ってりゃいいだろ」

 

興味のない表情の青峰。

 

「皆酷過ぎないッスか!?」

 

涙顔で移動する黄瀬であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

閉会式…。

 

今し方、コートで優勝を争い、激闘を繰り広げた花月と誠凛の選手達。3位決定戦を行った海常と田加良の選手達がコートへと集結した。

 

 

『優勝、花月高校!!!』

 

アナウンスされ、空と大地、天野が前に出る。後1人、出なければならないのだが…。

 

「生嶋、松永。どっちでもいいから出ろよ」

 

痺れを切らした菅野が2人に声を掛ける。

 

「スガさん。行って下さい」

 

促された2人だが、松永が菅野の行くように逆に促す。

 

「おいおい、俺はこの大会、大した活躍してねえし。何より、補欠だぞ?」

 

菅野は苦笑気味に断る。

 

「行って下さい。3年間、誰よりもバスケに懸けていたのはスガさんですから」

 

続くように生嶋が背中を押す。

 

「俺達は来年以降に貰いますから。行って下さいよ」

 

「(…コクリ)」

 

「菅野先輩が行くべきです!」

 

竜崎も続き、室井も頷き、帆足も後押しした。

 

花月高校バスケ部において、誰よりも声を出し、先輩として選手達に声を掛け、面倒を見て来た菅野。空、大地世代が入部した事で出番はなくなり、最後の年でも竜崎、室井と言った、実力や稀有や資質を持った後輩が加入し、出番はほとんどなかった。それでも、花月の為に尽力し、ウィンターカップまでチームに残った菅野。

 

「スガ! はよ来いや!」

 

「菅野先輩、早く!」

 

「お願いします」

 

天野、空、大地が振り返り、菅野を促す。

 

「お前ら…!」

 

後輩達の気遣いに、思わず涙が溢れそうになるのを堪える菅野。

 

「ったく、仕方ねえな!」

 

照れ隠しをしながら菅野が前に出た。

 

空、大地、天野、菅野が前に出て、優勝トロフィー、賞状、記念品を受け取る。

 

 

――パチパチパチパチ…!!!

 

 

『凄かったぞ!!!』

 

『優勝おめでとう!!!』

 

『最高の試合だった!!!』

 

『感動した!!!』

 

同時に会場全体を包み込む程の惜しみない拍手が贈られた。

 

 

『準優勝、誠凛高校!!!』

 

アナウンスと同時に火神、降旗、福田、河原が前に出る。

 

 

――パチパチパチパチ…!!!

 

 

再び、惜しみない拍手が贈られる。

 

 

「黒子先輩、本当に良かったんですか?」

 

横に立つ黒子に尋ねる新海。誰が代表で前に出るか決める際、黒子が退き、火神と残りの3年生の3人に譲ったのだ。

 

「構いません。皆、3年間頑張って来ましたから」

 

未だ、涙で目を赤くしているが、満足気に答える黒子。

 

「それに、…多分、気付いてもらえないと思いますから」

 

皮肉気味にそう続けた。

 

 

『続きまして、今大会の各賞を発表します』

 

優勝、準優勝の贈呈が終わると、個人賞の発表へと移行する。

 

 

――ざわざわ…。

 

 

個人賞の発表に、観客達も、誰が受賞するかでざわつき始める。

 

 

『最優秀選手賞は――』

 

 

『…』

 

今大会のMVPの発表に、会場が沈黙する。

 

 

『――花月高校、神城空君』

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

発表と同時に大歓声と共に拍手が贈られる。

 

 

『MVPは花月の神城!』

 

『キセキの世代や火神を押しのけての受賞だ!』

 

この選考結果に異論を唱える者はおらず、皆が祝福した。

 

 

「へへっ、やったぜ!」

 

照れながらも空は喜びを露にした。

 

 

「当然の受賞なのだよ」

 

「ああ。今大会での神城の活躍は目覚ましい。神城なくして優勝はあり得なかっただろうからな」

 

当然の選出だと緑間と赤司。

 

 

『続いて、得点王は――』

 

続いて、得点王の発表。

 

 

『――誠凛高校、火神大我君』

 

 

得点王は、火神が受賞した。

 

 

『得点王は火神か!!!』

 

『だよな!』

 

この選出に、一部観客は予想していたのか、共に頷く合っていた。

 

 

「っしゃ」

 

小さく喜びを露にする火神。

 

 

「全試合で安定して得点してもんね」

 

「…ま、3回戦で綾瀬がまるまる欠場してなきゃ、結果は変わってただろうけどな」

 

桃井の言葉に、青峰が口を挟む。

 

実際、火神と大地の得点差はそれほどなく、青峰の指摘通り、3回戦に出場していれば、結果が変わっていた事は大いにあり得たのだ。

 

 

『続きまして、優秀選手賞の発表です』

 

続けて、優秀選手賞…ベスト5の発表がされる。

 

 

神城空  (花月高校2年 G)

 

綾瀬大地 (花月高校2年 F)

 

黄瀬涼太 (海常高校3年 F)

 

火神大我 (誠凛高校3年 F)

 

三枝海  (海常高校3年 C)

 

 

この5人が選出された。

 

 

――パチパチパチパチ…!!!

 

 

同時に大きな拍手で5人が迎えられたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

以上を以て、閉会式が閉幕した。

 

そしてそれは、新たな戦いの始まりを意味をする。

 

キセキ達は新たな戦場にて、キセキ達が去った高校バスケは、新たな戦いへと移行する。

 

長い長いウィンターカップ…。キセキの世代とキセキならざるキセキにとっての、高校最後の大会が終わったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





前話投稿翌々日、体調不良を起こし、2週間も空けてしまいました…(>_<)

数年ぶりに熱が出て、幸い、コロナやインフルエンザではなかったのですが、仕事中に熱が出て、メチャメチャしんどく、数年ぶりに定時上がり+翌日に欠勤してしまいました…(T_T)

皆さんも体調には気を付けて残りの2023年を過ごして下さい…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!











次回、最終話!!!



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最終話~キセキの世代~

 

 

 

自由の国、アメリカ…。

 

世界最高峰のリーグ、NBAがある、バスケット大国、アメリカ…。

 

NBAでは、世界のトップクラスの選手達が集まり、観る者を圧倒し、魅了し、熱くさせる試合が行われる。

 

この世界のトップクラスが集まるNBAで、今、日本のバスケブームの火付け役となり、日本のバスケの発展に貢献した者達が活躍していた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『Woo hoo!!!』

 

沸き上がる歓声。

 

 

マサチューセッツ州ボストンにあるバスケ会場、通称TDガーデン。この会場にて、本拠地であるボストン・セルティックスと、フィラデルフィア・セブンティシクサーズの試合が行われようとしていた。

 

スターティングメンバーが発表され、両チーム選手達がコートへと足を踏み入れる。

 

「今日は負けないッスよ」

 

スタメン選ばれたシクサーズに所属の選手であり、チーム内唯一の日本人である黄瀬涼太がセルティックスの選手の1人に話しかける。

 

「こっちこそ、前回は後れを取ったらね。今日は勝たせてもらうよ」

 

そう返すのは、セルティックスに所属する、同じくチーム内唯一の日本人である、三杉誠也。

 

「俺達、同じオールラウンダーの選手って言われてるけど、そろそろどっちが上か決めるのも、悪くないと思わないッスか?」

 

不敵に笑い、若干挑発するように尋ねる黄瀬。

 

「個人的には、チームが勝てるのであれば、君と俺のどちらが上でも構わないよ」

 

黄瀬の提案に、三杉は含みのある笑みを浮かべながら返す。

 

「随分と弱気ッスね。もしかして、今日は調子が悪いッスか?」

 

「どうだろうね? ただ言える事は、試合が終わった時に分かる事さ。試合の結果も、…俺達の優劣も、ね」

 

その言葉を聞いて、黄瀬はニヤリと笑う。

 

「要するに、自信ありって事ッスね。上等ッス。今日も勝たせてもらうッスよ!」

 

「やれるものならやってみな」

 

宣戦布告に、三杉はニヤリと笑いながら返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって、日本某所…。

 

「始まったぞ!」

 

ボストン・セルティックス対フィラデルフィア・セブンティシクサーズの試合が始まり、テレビの前に、高校時代の黄瀬のかつてのチームメイトである海常の先輩達が集まっていた。

 

「がんば(れ)黄瀬ぇ!!!」

 

「うるせえよ、耳元で叫ぶんじゃねえ!」

 

「あいた!!!」

 

かつての後輩に声援を贈る早川の頭を叩く笠松。

 

「今や、日本が誇るオールラウンダー同士の対決。両チームのスタメンから見て、基本はオフェンスでもディフェンスでも黄瀬と三杉がマッチアップする事になるだろうが…」

 

「正直、あの黄瀬が負ける事が想像出来ないが、確か、前回は黄瀬が勝ったんだよな?」

 

テレビに注目する森山。前回の試合を思い出しながら小堀が尋ねる。

 

「はい。確か、7点差で」

 

中村が答える。

 

「前回の試合は俺も見てた。確かにシクサーズが勝ったが、黄瀬と三杉の個人で比べると…」

 

両者の優劣を考える笠松。

 

「…正直、まだ三杉の方が上か?」

 

考えた結果、三杉に軍配を上げた。

 

「黄瀬の方が確かに得点能力は上だ。試合単位で見た時、爆発力のある黄瀬の方が優れてるかもしれねえが、シーズン全体を見た時、安定感があって、文字通り、オフェンスとディフェンス、何でも高いレベルでこなせる三杉の方が上だろう」

 

「言われて見ると、黄瀬は、調子の良い時と悪い時でスタッツにかなり差が出るからな。対して三杉は、全ての試合で基本、スタッツは安定してるからな」

 

笠松の分析に、森山は納得する。

 

 

『Woo hoo!!!』

 

ボールは黄瀬に渡り、その目の前に三杉が立つ。

 

 

『…』

 

2人の勝負、5人は固唾を飲んで見守る。

 

 

黄瀬はボールを小刻みに動かし、ジャブステップを数度踏んだ後、司令塔にボールを戻した。そこからローポストに立った味方にパスを出し、そのままターンでゴール下に切り込み、決めた。

 

 

「勝負を避けたか…」

 

「あの黄瀬が避けたって事は、今回は無理だと判断したか…」

 

2人の勝負が終わり、一息吐く5人。その後も両チームは激しくぶつかり合う。

 

「…不思議なものだな」

 

試合が進む中、ポツリと小堀が呟く。

 

「俺達、かつては黄瀬(あいつ)と同じユニフォームを着て、バスケしてたんだよな」

 

高校時代、この5人は笠松と森山と小堀は1年、早川と中村は2年、チームメイトして過ごしている。

 

「あの時から既に差は凄かったが、同じ場所にいた。…すっかり、遠くに行っちまったな」

 

昔を思い返し、しみじみと語る小堀。

 

『…』

 

同じく昔を思い返し、当時の事を懐かしむ4人。

 

「俺はまだ諦めてねえぞ」

 

しかし、笠松は表情を改める。

 

「俺だって日々成長してんだ。必ずあの黄瀬(バカ)に追い付いてやる」

 

そう宣言した。

 

「その為にも、まずはリーグ優勝だ! 今年こそ優勝してやる!」

 

意気込む笠松。

 

笠松は現在、日本のプロリーグ、その中のトップリーグである、B1のチームに所属している。早川も別のB1チームに所属している。

 

「頑張れよ。…俺達もいつか、同じ土俵に上がらないとな」

 

「ああ。そうすれば、女の子のファンが増えるかもしれないからな」

 

笠松を応援しつつ、意気込む小堀と森山。

 

2人はB2のチームに所属しており、中村は社会人リーグに所属している。

 

「お(れ)も(リ)バウンドたくさんとって、いつかNBAにぃ…!!!」

 

「だからうるせえんだよ!!!」

 

笠松が早川の頭を小突いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって、アメリカ、フロリダ州…。

 

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

沸き上がる歓声。現在、フロリダ州のとある会場にて、オーランド・マジックと、マイアミ・ヒートの試合が行われていた。

 

 

――ピッ!

 

 

マジックのオフェンス。1人の選手にパスが出される。

 

 

『ヘイ、ダイキ! 今日も魅せてくれよ!』

 

マジックブースターから声援が贈られる。

 

 

「ハッ! 言われなくてもよ…!」

 

ボールを受け取った青峰がニヤリと笑う。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

ボールを掴んだ青峰が得意のストリートのムーブで揺さぶりをかける。

 

 

――スッ…。

 

 

左に切り返した直後、青峰はボールを掴んで右方向へと飛び、ドッチボールのようにボールを構える。

 

 

『出た、ダイキのサーカスシュート!!!』

 

今やマジックの代名詞である青峰のサーカスシュートに沸き上がるマジックブースター。

 

 

ボールを構えた青峰がリングに向かってボールを投げる。

 

「――ハァ? させると思ってんの?」

 

「っ!?」

 

そこへ、相手チーム、ヒートの1人である紫原がブロックに現れる。

 

「…ちっ!」

 

咄嗟に青峰が身体を捻り、ボールをリングとは違う方向へと投げる。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

パスを受けたマジックの選手がそのまま得点を決めた。

 

「…ちっ」

 

青峰が不満気に舌打ちをする。

 

「…なに、不満? 点入ったじゃん」

 

その舌打ちが気に障った紫原が思わず声を掛ける。

 

「不満に決まってんだろ。次は俺が直接決めてやるよ」

 

紫原を指差しながら宣言する青峰。

 

「させると思ってんの? 逆に捻り潰してやるよ」

 

「やれるもんならやってみろよ」

 

睨み付ける紫原に、青峰は不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「おーおー、激しくやりおうとるやないか」

 

日本にて、マジックとヒートの試合を見ている今吉。

 

「相手をかわしてフォームレスシュートを打つ青峰と、それに反応してブロックする紫原。どっちも相変わらず、化け物じゃのう」

 

2人の激突を見て感想を述べる岡村。

 

「今回は青峰の勝ちって所か。…青峰は不満そうだけどよ」

 

不満気な青峰の表情をテレビ越しで察する若松。

 

とある一室に、かつて、青峰、紫原とチームメイトであった、元桐皇の今吉翔一と若松。元陽泉の岡村と福井がいた。

 

「あいつらも今や、NBAプレーヤーか。…けどよ、あいつらでも、NBAじゃ、日本にいた時みたいに圧倒出来てる訳じゃねえんだよな」

 

昔を思い出しながら、現在の2人の活躍を思い返す。

 

「みたいじゃな。得点のスタッツを見ても、青峰より上は結構おるようじゃし、ブロックやリバウンドを見ても、紫原よりは上はおる」

 

岡村は現NBAの成績を思い返しながら説明する。

 

「青峰も紫原も、日本におった時はほぼ無敵やったが、NBAじゃ、青峰のスピードやアジリティ、果ては、あの型にハマらん動きにも対応してくるようやし、あの紫原もパワーと高さを以てしても、跳ね返してくる奴もおるらしいしのう。…つくづく、バケモン揃いや、アメリカは」

 

苦笑する今吉。

 

「2人も当初は、それなりに洗礼は受けたらしいな。…だけどよ、今では2人共、チームの主力の1人だ。…やっぱり、化け物だな」

 

改めて、2人の才能を再確認する福井。

 

「ちくしょう、俺だっていつかアメリカに行ってやる。青峰だけにデカい顔はさせねえからな!」

 

立ち上がりながら意気込む若松。

 

「相変わらずやかましい奴や。お前ははよ、B1に上がって来いや」

 

「行きますよ! 今年こそは!」

 

今吉に顔を向けながら宣言する若松。

 

「ハッハッハッ! 早く上がって来い。マッチアップするのを楽しみに待っとるぞ!」

 

そんな2人のやり取りを見て、岡村は豪快に笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

再びアメリカ。場所はオハイオ州…。

 

そこに本拠地を置くクリープランド・キャバリアーズと、オクラホマシティ・サンダーの試合が行われていた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「…」

 

サンダーの司令塔である、赤司がボールを運ぶ。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

数度の切り返しで赤司の目の前のディフェンスがバランスを崩す。その間に赤司が中に切り込み、レイアップを狙う。

 

「舐めるな!」

 

そこへ、キャブズのブロックが立ちはだかる。

 

 

――スッ…。

 

 

ブロックが現れた所で赤司はボールを下げ、ビハインドパスで真横をへとボールを落とす。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

そこへ走り込んだサンダーの選手がボールを受け取り、そのままダンクを決めた。

 

「ヘイ! ナイスパス、セイジューロー!」

 

ダンクを決めた選手と赤司がハイタッチを交わす。

 

 

キャブズのオフェンス…。

 

「…」

 

ゆっくりボールを運ぶキャブズの司令塔。

 

「っ!? チェックだ!」

 

何かに気付いた赤司が指を差して指示を出す。赤司が指差した先にいた選手にボールが渡る。

 

 

――ピッ!

 

 

ボールが渡ると、すかさずシュート体勢に入り、ボールをリリース。

 

 

『出たぜ、シンタローのクレイジーショット!!!』

 

観客が沸き上がる。

 

 

スリーポイントラインから2m以上離れた位置。そこから放たれたスリー。

 

『…っ』

 

サンダーの選手達がリバウンドに備える。

 

「無駄なのだよ。今日のおは朝占い、蟹座は1位だ。ラッキーアイテムも抜かりない。故に、俺のスリーは落ちん」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは、リングに触れる事無く潜り抜けた。

 

 

『Foo!!! さすがシンタローだぜ!!!』

 

危なげなく決めた緑間に、キャブズのブースターは盛大に沸き上がる。

 

 

「Sit!」

 

緑間のマークマンであるサンダーの選手が悔しがる。

 

「今日の…いや、今日も緑間()のスリーは落ちない」

 

「Sorry。もう打たせねえさ」

 

赤司が声を掛けると、その選手は表情を改め、気合いを入れ直す。

 

「さすがだな」

 

日本人であり、出場選手の中でもっとも若い赤司がチームを纏めている姿を見て思わず呟く緑間。

 

「パスを下さい。今日は調子が良さそうです」

 

「OK! 頼むぜシンタロー!」

 

「スクリーンをかける。合図見逃すなよ」

 

緑間の言葉に、キャブズの選手達が応える。

 

サンダーとキャブズの試合は、ここからさらに激化していく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「スッゲーな…」

 

この試合をテレビで見ていた元秀徳、高尾が呟く。

 

「NBAの連中が真ちゃんの為に動いてやがる」

 

映像では、ハンドラーの合図と同時に緑間をフリーにする為にスクリーンをかけ、それに合わせてハンドラーがパスを出していた。

 

「それを言ったら征ちゃんもよ。すかさず指示を出して対応させてるわ」

 

その場にいた、元洛山の実渕。その言葉通り、緑間にボールが渡ったが、赤司の指示によってスリーを打たす隙を与えなかった。

 

「今では見慣れた光景だけどさ、改めて、スゲー光景だよな」

 

試合を見ながら高尾が呟く。ここ最近では、日本人の姿を、NBAの試合で当たり前のように拝見出来るからだ。

 

「征ちゃんは今や、サンダーの中心選手の1人。慎太郎ちゃんも、昨年のスリー成功率70%越えのNBA屈指のシューターの1人だものね」

 

実渕の言葉通り、赤司も緑間も、NBAでしっかり活躍し、信頼を勝ち取っていた。

 

「…正直、いつかまた真ちゃんと、とか思った事もあったけど…」

 

思わず弱気な言葉が出る高尾。

 

「あなただって立派よ。だってもうチームで2番目の司令塔としてしっかり結果出してるじゃない」

 

気落ちしている高尾を励ます実渕。

 

「もう少しキャリアを積めば、正ポイントガードの座も夢じゃないわ。だから、自信を持ちなさい」

 

「…うす。そうッスね」

 

実渕の言葉に、気持ちを入れ替える高尾。

 

「フフッ、その意気よ。じゃあ、元気が出るように美味しい物でも作ってあげるわ。何かリクエストはある?」

 

「いいッスよ! つうか、そういうのマジで止めて下さいよ。ただでさえ、チーム内でも疑惑出てるんスから」

 

「やーねぇ、ちょっとしたジョークじゃない」

 

ジト目の高尾に、実渕はケラケラと笑いながら返すのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

続けて、場所は、ニューヨーク州の会場…。

 

その会場で、ニューヨーク・ニックスと、シカゴ・ブルズの試合が行われていた。

 

 

――ピッ!

 

 

ニックスのオフェンス。ハンドラーからインサイドへとパスが出される。

 

「よし」

 

ボールを掴んだのはローポストに立った堀田。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこからポストアップでゴール下へと押し込み始める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

再度押し込み、バランスを崩した所でターンをし、ゴール下へと侵入し、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

そこへ、ブルズの選手、火神がブロックに現れる。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

堀田とリングの間に現れ、堀田の掴むボールに火神の伸ばした手がぶつかる。

 

「むん!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

「がっ!」

 

気合いと共に力を込め、火神を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

 

『ヒュー!!! 相変わらず、日本人とは思えないパワーだぜ!』

 

日本人離れしたパワーに歓声を贈るニックスブースター。

 

 

「無理はしない事だ。シーズンは長いぞ」

 

コートに尻餅を付いた火神に手を差し伸べる堀田。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをしながら火神はその手を取り、立ち上がった。

 

ブルズのオフェンス…。

 

 

――ピッ!

 

 

フロントコートにボールを運ぶと、ボールを回しながらチャンスを窺う。

 

 

――ピッ!

 

 

外から中にボールが移動し、ローポストの選手ボールが渡る。

 

「…むっ」

 

これを見て堀田がすかさずチェックに入る。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、その選手は仕掛けず、後ろへ振り返ると、ボールを高くフワリと浮かせた。そこには…。

 

『っ!?』

 

目を見開くニックスの選手達。そこには、空高く跳躍する火神の姿があった。

 

「っしゃ!」

 

火神の右手にボールが収まる。

 

「…っ!」

 

すぐさま堀田がブロックに飛び、火神とリングの間に立ちはだかる。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

「っ!?」

 

火神は、堀田のブロックの上からボールをリングに叩きつけた。

 

「ハッ! そんな低いブロックじゃ、俺には届かないぜ」

 

先程のお返しとばかりに着地した火神がニヤリと笑みを浮かべながら堀田に告げる。

 

「面白い」

 

対して堀田は、不敵に笑みを浮かべたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「さっそく始まったな」

 

テレビにて、日本人同士がぶつかり合うのを目の当たりにした元誠凛、日向。

 

「相変わらず、火神のダンクは凄いな。…堀田もだが」

 

両チームの日本人による、ダンクの応酬に苦笑する同じく、元誠凛、伊月。

 

「にしてもいつ見ても空いた口が塞がらんで。アメリカ人相手でもお構いなしに弾き返すタケさんも、上からポンポンダンクかます火神も…」

 

同じく苦笑する元花月の天野。

 

通常、日本人は身体能力の面でアメリカ人に大きく水をあけられている。過去にもその差に大いに苦しめられていた。しかし、堀田はパワー面で、火神はジャンプ力の面で時に圧倒していた。

 

「俺達もリーグで外国人と対戦する機会は多いから良く分かる。あいつら、そこらの日本人とは比較にならない身体能力してるからな」

 

現在、B1リーグのチームに所属している日向。B1リーグには今や、多数の外国人が在籍している為、対戦する機会は多い。

 

「だけど、俺達がやり合ってるのは、既に全盛期を過ぎていたり、言い方は悪いが、通用しなかった選手達だ。俺達がやり合っている選手とはさらにレベルが上のはずだ」

 

冷静に分析する伊月。

 

「昔は大雑把に凄いとしか分からなかったが、曲がりなりにもプロでプレーしてる今の俺には良く分かるぜ。あいつらがどれだけ凄い環境でバスケをしてるかが」

 

NBAでプレーしてる事の偉大さを日向は痛感した。

 

「…盛り上がっとる所申し訳ないんやけど、チャンネル変えてもええでっか?」

 

それから試合を見続けていると、おもむろに天野がそう尋ねる。

 

「どうした? 何か見たい番組であんのか?」

 

怪訝そうに聞き返す日向。

 

「ちゃうちゃう。これから別のチャンネルで昔の後輩の試合が始まるねん。ちょい気になってな」

 

「後輩? …ああ、そう言う事か。ほらよ」

 

何かを察した日向が天野にリモコンを渡す。

 

「おおきに!」

 

礼を言った天野はチャンネルを変えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

カリフォルニア州、ロサンゼルスの某会場…。

 

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

 

沸き上がる観客。会場では、ロサンゼルス・レイカーズ対フェニックス・サンズの試合が行われていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールがリングを潜り抜ける。

 

 

『Foo!!! 出たぜ、ダイチのシグネチャームーブ、バックステップ・ワンレッグ・フェイダウェイ!!!』

 

歓声を上げるサンズブースター。

 

サンズに所属する大地。大地のフルドライブからの急停止、バックステップからさらに後ろへバックステップをした足で飛んで打つフェイダウェイ。今ではサンズのお馴染みの光景となっていた。

 

 

「ハッハッハッ! やるじゃねえかよ!」

 

バシッっと、大地の背中を叩くのはチームメイトのジェイソン・シルバー。

 

「…っ、痛いですよ」

 

背中が曲がる程の力に、顔を顰める大地。

 

 

「…ちっ」

 

舌打ちをするのはレイカーズの司令塔であるナッシュ・ゴールド・Jr。

 

現在、試合は第2Qに入って7分が経過して、点差は15点にまで開いていた。

 

「(…ふん、あのジャパニーズ、どうやら今日は当たってるようだな)」

 

大地の調子の良さを見抜くナッシュ。今日大地はこれで16点であり、フィールドゴール率も高く、その目論見は当たっていた。

 

「(ムカつく話だが、流れは完全に持ってかれちまった。このままじゃ、シルバーまで乗せちまう。ここでどうにか流れ変えねえとこの試合、持ってかれる…)」

 

ここまでの経過を見て、ナッシュのこの試合の行き先の悪さを感じ取っていた。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

直後のボールデッドで、レイカーズのメンバーチェンジがコールされる。

 

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

同時にレイカーズブースターが沸き上がる。レイカーズブースターの視線の先、そこには、レイカーズのユニフォームを着た1人の日本人が立っていた。

 

「Go! sky!」

 

「オーライ!」

 

交代を告げられた選手がコートを出る際にハイタッチと同時に声を掛ける。

 

 

『待ってたぜ!!!』

 

『今日も魅せてくれよ!』

 

レイカーズブースターがコート入りする選手に次々と歓声を飛ばしていく。

 

 

「ハッハッハッ! 最高のシチュエーションじゃねえか!」

 

自身が考える絶好のタイミングでの出場に、不敵に笑みを浮かべる。

 

「ショータイムと行こうぜ!!!」

 

同時に右拳を突き上げる。

 

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

同時に声を張り上げるレイカーズブースター。

 

『GoGo sky!!! GoGo sky!!!』

 

会場が割れんばかりのコールで響き渡る。

 

レイカーズ所属、skyの愛称で今やお馴染みの、空がコートへと足を踏み入れた。

 

「いいねいいね。今日も良い感じ――がっ!」

 

沸き上がるコールに空が聞き惚れていると、横から現れた何者かに脇腹を蹴られた。

 

「浮かれてんじゃねえこのクソザル! てめえ、状況分かってんのか!?」

 

怒りを露にしたナッシュが空に詰め寄った。

 

「てめえに言われねえでも分かってるよ! 要は、ピンチだろ? ここからひっくり返すのが楽しいんじゃねえか」

 

蹴られた脇腹を擦りながらナッシュに詰め寄ると、その後にニヤリと笑った。

 

「…ちっ! 何でこんなノータリンのサルなんざ試合に出しやがんだ。ボスは何考えてやがる…」

 

嫌悪感丸出しのナッシュ。

 

「そもそも、司令塔のてめえがこんな状況になるまで手ぇこまねいてたからだろうが。尻拭いする俺の身にもなりやがれ」

 

「「――あっ?」」

 

空とナッシュが顔を摺り寄せて睨み合った。

 

「ガッハッハッ! あいつら、相変わらず仲悪ぃな!」

 

2人のやり取りを見てシルバーは大笑いしている。

 

「ホント、分かんねえよな。あいつら、顔合わせりゃ、聞くに堪えねえ、時々、笑えねえようなケンカばかりしてる癖に、バスケやらせると信じらねえ程に息が合っちまうんだからな」

 

不思議そうに睨み合う空とナッシュを見つめるレイカーズの選手達。

 

※ちなみに、レイカーズブースターにとっては今ではお馴染みの光景なので、皆笑いながら2人の様子を見守っている。

 

「…ちっ、てめえ殺すのは後だ、今は――」

 

「目の前の相手をぶっ潰す!」

 

意見が纏まり、2人はサンズの選手達を睨み付けた。

 

「(…空。1度は治ったと思った、その時のテンションやモチベーションによってパフォーマンス能力が左右される、ムラのある性格がアメリカに来て再び顔を出すようになってしまった。そのせいでスタメン起用される機会は減ってしまった)」

 

大地の言葉通り、空のムラッ気が再発し、調子が良い時と悪い時のパフォーマンス能力の差が大きくなってしまい、不安定過ぎてスタメン起用される事が減ってしまったのだ。

 

「(ですが、レイカーズのヘッドコーチはそんな空の特性を良く理解し、空のパフォーマンスがもっとも発揮出来るように器用しています。その為、空がコートへ入ると、試合の空気や流れがガラッと変わる…)」

 

空のキャラクター性も相まって、空がコート入りすると、会場は大いに盛り上がる。そこへ、最高潮の空のパフォーマンスが加わる為、空はこれまで幾度となく試合の行く末を変えて来たのだ。

 

「(15点差…、残り時間を考えても、あって無いようなもの。)ここからが正念場。…空、この試合、譲りませんよ」

 

大地はこちらを睨む空に、向き直るのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「くーが出て来た!」

 

レイカーズ対サンズの試合のテレビ中継を見ている元花月のチームメイトの生嶋。

 

「昔から派手だったが、またさらに派手になったな。…色んな意味でも」

 

同じく元花月のチームメイト、松永。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

テレビ中継にて、空とナッシュの連携で得点を奪う。

 

「今の連携も見事だね。まるで高校時代のくーとダイを見ているようだよ」

 

息ピッタリの空とナッシュを見て、かつて、同じチームでの空と大地を連想する生嶋。

 

「…もう7年も経つのか」

 

「…ん?」

 

「神城と綾瀬が日本を発ってから」

 

試合を見ながら、松永がポツリと呟く。

 

「そっか、もうそんなに経つんだね。思い出すな。くーとダイと、皆でキセキの世代達に挑んだ事。2年のウィンターカップで優勝した事…」

 

昔を思い出すように懐かしむ生嶋。

 

「あのウィンターカップを最後に、神城と綾瀬は花月の姉妹校であるアメリカの高校に本格的に留学したからな」

 

「突然だったからびっくりしたよね」

 

花月が奇跡の優勝を勝ち取ったウィンターカップ。その大会を最後にキセキの世代及び、火神の代は高校バスケから去った。空と大地もまた、あの大会を最後に、アメリカへの留学を決め、日本から飛び立ったのだ。

 

「仕方がない。キセキを冠する者がいない日本の高校バスケでは、あの2人では物足りないだろうからな」

 

「…おかげで、くーにダイ、天先輩の3人も主力が抜けちゃったから、最後の年は優勝出来なかったけどね」

 

「…情けない話だ」

 

2人は自嘲気味に笑った。

 

「…また、くーやダイとバスケしたいな」

 

しみじみと呟く生嶋。

 

「出来るさ。今年はあれ(・・)があるからな」

 

「あれ? …ああ!」

 

松永の言葉に何かを思い出す生嶋。

 

「競争率はかなり高い。枠の数を考えても、可能性は0に近いだろう。…だが、諦めん」

 

決意に満ちた表情をする松永。

 

「…そうだね。その為にも、僕達もリーグで結果を出さないとね」

 

「無論だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月高校が優勝を決めたウィンターカップから7年あまり…。

 

高校バスケを大いに賑わせ、熱くさせたキセキを冠する者達は今、海を越えた異国の地、アメリカで活躍をしていた。

 

彼らの活躍によって、今や日本は空前のバスケブームをもたらし、その人気は、サッカーや野球に並ぶ程にまでになっていた。

 

今やバスケファンのみならず、多くの者達が、彼らの活躍に一喜一憂していた。

 

そしてこの年、そんなバスケファン達を更なる熱狂の渦へと巻きこむ、一大イベントが開催される。

 

 

――FIBAワールドカップ…。

 

 

FIBAに加盟している国同士による、世界最強の国を決める大会。

 

国の威信をかけた戦いが今年、開催される事となった。

 

かつてであれば、そこまで期待はされなかったであろう大会。

 

だが、今年は違った。

 

過去最強の布陣で臨む事となり、その期待度は最高潮にはまで達していた。

 

誰もがこの大会に夢を期待をしていた。

 

日本が、世界の頂点に立つ夢を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

大歓声の試合会場。

 

 

「この1本、大事ッスよ!」

 

「絶対取りやがれ!」

 

ベンチにて、コート上の選手達に檄を飛ばす黄瀬と火神。

 

現在、FIBAワールドカップの準決勝にまで勝ち進んだ日本が、決勝進出をかけて、スペインと激闘を繰り広げていた。

 

 

第4Q、残り38秒

 

 

日本   83

スペイン 84

 

 

残り時間は僅か、日本は1点ビハインドでボールを保持していた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを持っていた青峰が一気に加速、中へと切り込む。

 

「おらぁ!!!」

 

そのまま突き進んだ青峰はボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。

 

 

『頼む!!!』

 

日本ブースターから祈るような応援がかけられる。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる直前、突如として現れたスペインの選手によってブロックされてしまう。

 

 

優勝候補の一角、FIBAランキングにおいても2位に付けている強豪国、スペイン。スペインもまた、この大会に国の威信をかけており、NBAで活躍している選手を全て招集。全身全霊でこの大会に臨んでいた。

 

 

「ヘイ、こっちだ!」

 

ブロックに合わせて速攻に走っていたスペインの選手がボールを要求。パスを受けると、そのまま速攻に駆け上がった。

 

「行かせっかよ!」

 

そんな彼の前に立ちはだかるのは、今日、途中出場の空。早々に相手を捉えた。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをして足を止めるスペインの選手。その間に日本の選手はディフェンスに戻る。

 

 

準決勝にまで辿り着いた日本。だが、その道のりは、決して平坦なものではなかった。

 

現時点で考えられる最強の布陣で大会に臨んだ日本代表。優勝すら狙えるとまで言われるメンバーを招集した日本代表。

 

その期待は、選手達の背中を押すと同時に、プレッシャーとなってのしかかる事にもなっていた。

 

さらに、日本代表に選出され、日本代表主将と共にバランサーの役割を担う三杉誠也が、負傷による代表離脱し、それが日本代表を暗雲を包む事となった。

 

しかし、三杉誠也の離脱が逆に、代表選出メンバー達の危機感を持つ事となり、結果、選手達1人1人の躍動に繋がる事となった。そして更に…。

 

 

「終わりだ!」

 

ボールを回してチャンスを窺っていたスペイン。スクリーンによってマークを引き剥がしたセンターにボールが渡り、その選手がそのままリングに向かって飛んだ。

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

思わず頭を抱えながら絶叫する日本ブースター。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「決めさすかコラァ!!!」

 

「っ!?」

 

横から現れた1本の手によってブロックされた。

 

「ハッハッハッ! 俺様がいる限り、点は決めさせねえぜ!!!」

 

ブロックした選手が豪快に笑う。

 

「よくやった、陸!!!」

 

ベンチの三枝が大声で労う。

 

日本の危機を救ったのは、三杉の離脱を受け、臨時に代表選出を受けた、空の弟、神城陸。

 

全中2連覇をし、鳴り物入りで花月高校に入学。兄に続いて花月を全国制覇に導き、その後渡米。アメリカで活躍し、既にドラフト指名を受けており、NBA入りを決めている。

 

チーム最年少。22歳の指名。三杉たっての希望でもあり、代表に緊急招集した。

 

当初は不安視する声もあったが、陸は大会で確実に結果を出した結果、今ではその声はなくなっていた。

 

 

「っしゃ!」

 

ルーズボールを拾った青峰。

 

「大輝さん!」

 

速攻に走った空がボールを要求。すかさず青峰がパスを出す。

 

 

「させん!」

 

「…っ」

 

ボールを掴んだ空。しかし、相手選手が立ち塞がる。

 

「…」

 

空は1度足を止める。その間に、両チームの選手がオフェンス・ディフェンスにやってくる。

 

 

『時間がないぞ!』

 

『早く仕掛けろ!!!』

 

刻一刻とタイムアップが迫る試合。日本ブースターが急かすような声を上げる。

 

 

「(俺じゃ、目の前の相手をかわすには時間がかかる。仮に抜けても捕まる…)」

 

冷静に攻め手を定める。

 

「(――見えた! 得点に…勝利に繋がるルートは…、ここだ!)」

 

 

――ピッ!

 

 

道筋が見えた空はノールックビハインドパスでボールを横へと放る。

 

「ハッ? いったい何処にパスをして――っ!?」

 

空の理解で出来ないパスに一瞬戸惑うも、すぐに状況を理解したスペイン選手。

 

「(しまった! あまりに存在感がなさ過ぎて忘れていた!)」

 

目を見開くスペイン選手。その視線の先には、15番のユニフォームを着た黒子テツヤの姿が。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

空が出したパスは、黒子によって軌道が変わり、リング付近に加速しながら向かって行った。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

空中でボールを掴んだのは大地。

 

「っ!? くそっ!」

 

慌ててブロックに飛ぶスペイン選手。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

しかし間に合わず、大地はボールをリングにそのまま叩きつけた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に鳴り響く試合終了のブザー。審判は指を2本立て、振り下ろした。

 

 

試合終了

 

 

日本  85

スペイン 84

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に沸き上がる大歓声。

 

 

「おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

拳を突き上げながら喜びを露にする大地。そんな大地に向かって飛び込む日本代表の選手達。

 

日本代表は、遂に世界最強に王手をかけ、最強への挑戦権を手に入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

FIBAワールドカップ、決勝前夜…。

 

「…」

 

椅子に座りながらipadを操作している空。

 

「何をしているのですか?」

 

そこに現れた大地が空に声を掛ける。

 

「…いや、ここに来るまで、いろんな事があったなって」

 

昔を懐かしむような表情をする空。空のipadには、昔のフォト画像が写っていた。

 

「中学最後の年に全中を制覇して、三杉さんに誘われて花月に入学して…」

 

「高校最初のインターハイ。優勝はしましたが、キセキの世代の皆さんとの力の差を思い知らされましたね」

 

苦笑する大地。

 

「そんで、その年にウィンターカップに秀徳、翌年のインターハイに陽泉と海常…」

 

「次のウィンターカップで桐皇と洛山にリベンジを果たし、決勝で誠凛に勝ち、私達の最初の夢は果たされた」

 

そう言って、大地は空の横に座った。

 

「その後、アメリカに行ってからもいろいろあったよな。短期留学した時は気付かなかったけど、アメリカには、まだまだスゲー奴がいっぱいいた。それこそ、キセキの世代クラスや、それ以上の奴らも…」

 

「力の差を思い知りましたね」

 

空は操作していたipadを消し、横に置いた。

 

「夢だったNBAプレーヤーになれた。俺なんかは、チャンピオンリングも手にしたけど、やっぱり、1番の夢は…」

 

「アメリカ代表を倒し、日本を世界一に導く事、ですよね」

 

空の続くように大地がニコリとしながら続けた。

 

「…遂に、最強への挑戦権を手に入れた。世界一まで後1つ。絶対に勝とうぜ!」

 

空は大地に拳を突き出す。

 

「もちろんです!」

 

その拳に大地は拳を合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

大歓声に包まれる会場。

 

「遂にやってきました! FIBAワールドカップ決勝! 会場は、大熱狂に包まれています!」

 

決勝当日。この試合は、日本で生放送で中継される。

 

「実況は私、安藤がお送りします。解説には、元NBAプレーヤーでもあり、現在もB1リーグで活躍中の渡瀬選手に来ていただいております。よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

「渡瀬さん。遂にこの日が来ましたね! 日本代表が、世界一を懸けた決勝の試合が行われる日が!」

 

「ええ。私もこの日を待ち望んでいました。…何年も前から」

 

「日本代表は全て若手で構成されております。ですが、そのメンバーは豪華! 代表12人の内、9人がNBAプレーヤー。1人はリーガACBプレーヤー。三杉選手に変わりに選出された神城陸選手も、現状アマチュア選手ではありますが、既にNBA入りを決めています。残る1人、黒子テツヤ選手は社会人リーグの選手ではありますが、準決勝にて、起死回生のアシストを決めた選手です」

 

「良くぞ、これだけの選手達が一同に揃ったものです。この先、彼らに匹敵…あるいは上回る素質を持つプレーヤーは現れるかもしれません。ですが、これだけのメンバーが同じ時代にこれだけ揃う事はこの先、もしかしたらもうないかもしれません」

 

「まさに、『キセキの世代』、ですね! …どうやら、スタメンの発表がされるようです。いったい、日本はどういった起用をするか、大注目です!」

 

 

『これより、決勝戦に先立ちまして、スターティングメンバーの発表を致します』

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

アナウンスと同時に割れんばかりの歓声に包まれる試合会場。

 

『日本代表。ポイントガード、神城空!』

 

「本日司令塔に選ばれたのは、レイカーズの神城空選手です! ここまでは試合途中での出場が主でしたが、今日はスタメン起用です。思い切った選出をしてきましたね!」

 

「恐らく、今日のマッチアップ相手を予想しての起用でしょう。赤司選手では、少々、相性が噛み合い過ぎますから。同チームで手を知り尽くしている彼を起用したのでしょう」

 

『シューティングガード、綾瀬大地!』

 

「2番に選出されたのは、サンズの綾瀬選手! この起用をどう見ますか?」

 

「悪くないんじゃないでしょうか。中からでも外からでも点が取れますし、何より、司令塔の神城選手との相性は抜群です」

 

『スモールフォワード、火神大我!』

 

「続いて選ばれたのは、ブルズの火神選手! 3番での起用です!」

 

「NBAでも屈指のジャンプ力を持つ選手です。この試合でも、制空権を取ってくれると思いますよ」

 

『パワーフォワード、堀田健!』

 

「おおっと、4番にニックスの堀田選手だ! これはサプライズ選出と言えるのはないでしょうか!?」

 

「インサイドの強化が目的でしょう。今日のインサイドはかなりタフな展開になる事が予想されますからね」

 

『センター、紫原敦!』

 

「最後、5番にはヒートの紫原選手! 堀田選手の4番器用を見て、予想はしてましたが、日本代表屈指のインサイドプレーヤーを2人、同時起用してきましたね!」

 

「リスクはもちろんあります。2人同時にファールトラブルになってしまえば、後は三枝選手しかいませんからね。ですが、一方を起用すれば、自ずと負担は1人にのしかかってしまいます。それを避けると同時にインサイドの強化を図る意味でも、この起用はありかと思います」

 

「さあ。日本代表のスタメンが発表されました。この起用をどう見ますか?」

 

「スピードあり、高さあり、パワーあり、連携あり、あらゆる状況に対応出来る、ある意味、バランスの良いメンバー選出です。相手の戦力と出方を図るには絶好の選出ではないでしょうか」

 

『続きまして、アメリカ代表のスターティングメンバーを発表致します』

 

「アメリカのスタメン発表です。アメリカもまた、日本と同じ、若手中心のメンバー選出ではありますが、決して侮れません!」

 

「はい。選ばれたメンバーは全員、NBAプレーヤーであるのは勿論、ほとんどがチームでの主力、中心選手が選出されています。将来的にはトップ選手になっている選手が多数、今大会に参加しています。その実力は、現NBAの最強メンバーにもひけを取らないでしょう」

 

『ポイントガード、ナッシュ・ゴールド・jr!』

 

「アメリカ代表のスターティングメンバー、司令塔はやはり、レイカーズのナッシュ選手です!」

 

「彼のゲームメイク能力はもちろん、テクニック、チームを纏める手腕もNBAでも屈指に優れた選手です。彼を如何に崩すかがこの試合の鍵になるでしょう」

 

『シューティングガード、ウィリアム・ガルシア!』

 

「2番に選ばれたのは、ピストンズのウィリアム選手! 若手でありながら、ピストンズのチームスコアラーでもあるウィリアム選手! かつて、WNBAで活躍したアレクサンドラ・ガルシア選手の弟でもあります!」

 

「彼の得点能力はNBAでも屈指です。ピストンズがプレーオフに進出出来たのは、彼の力によるものが大きいです」

 

『スモールフォワード、マイク・ジョーンズ!』

 

「来ました! アメリカに突如として現れ、神の再来とまで称された天才プレーヤー! 当初は、来シーズンを見据えて、スタメン起用は避けて来るのでは? との情報もありましたが、出てきましたね!」

 

「それだけアメリカも日本を警戒しているでしょう。結構な事です。どの道、世界一を獲るには、彼は避けては通れませんからね」

 

『パワーフォワード、アレン・ブラウン!』

 

「4番に選ばれたのは、ホーネッツのアレン選手!」

 

「彼はNBAでも優れたロールプレーヤーです。とにかく、味方を生かすプレーが上手い。それでいて、個人技にも長けた選手でもあります。アメリカの本気度が窺えますね」

 

『センター、ジェイソン・シルバー!』

 

「5番で選ばれたのは、アメリカで神に選ばれた躰とまで称された、NBAでも屈指の身体能力を持つ選手です!」

 

「身体能力だけなら、現NBAでもトップレベルの選手です。NBA入りした当初は、テクニックで翻弄されている場面も見受けられましたが、今ではNBAでもトッププレイヤーの1人です」

 

「さあ、アメリカ代表のスターティングメンバーの発表が終わりました。このメンバーを見て、何か一言、感想をお願いします」

 

「考えられる限りの最強のスタメン選出です。1つ言えるのは、アメリカは、全力で日本にぶつかってくる。と言う事です」

 

「ありがとうございました! さあ、日本、アメリカのスタメンの選手達がコートへとやって来ました。まもなく、ティップオフです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よう。チームでも代表でも控えのお前がスタメンとは、既に試合を投げたか? それとも、最後の思い出作りか?」

 

コートに足を踏み入れた日本、アメリカの両スタメンの選手達。ナッシュが空に不敵に笑いながら話しかける。

 

「監督がよ、相手がてめえなら控えでも十分だとよ」

 

同じく空も、不敵に笑いながら返した。

 

「…ハッ! 何をどうしようと、てめえらジャパニーズが俺達に勝つなんざ、あり得ねえんだよ」

 

「ハッ! 面白れぇ。試合が終わった後に、てめえが何て言い訳するか、楽しみに待っててやるよ」

 

互いに挑発をし合った空とナッシュ。やがて、両チームの選手達はジャンパーを残して散らばっていく。

 

「…」

 

「…」

 

日本のジャンパーは紫原。対して、アメリカのジャンパーはシルバー。

 

『…』

 

審判が紫原、シルバーの両方を見渡し、2人の中心でボールを構え、やがて、高くボールが上げられた。

 

 

 

 

 

――ファイナル・ティップオフ!!!

 

 

 

 

 

「「…っ!」」

 

ジャンパーの2人が同時にボールに飛び付く。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

ジャンプボールを制したのは、紫原。

 

「っしゃぁっ!」

 

すかさず司令塔の空がボールを掴む。

 

「…来い、最強(アメリカ)のバスケを教えてやるよ」

 

空の前に立ち塞がるナッシュ。

 

「行くぞ、最高(日本)のバスケを見せてやるぜ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――打倒、アメリカ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

日本のバスケの歴史に名を残す、世紀の一戦が始まった。

 

後に、FIBAワールドカップの歴史においても、屈指の決勝戦と称され、語り継がれる事となる。

 

そして彼らは、伝説となった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 完 ~

 

 





終わったー!!!

と言う訳で、これにて、黒子バスケ~次世代のキセキ~は完結となります。

前話から最終話まで、とてつもなく時間が飛び、その間の説明は一切端折った事となりましたが、その辺りは、細かく書こうとすると、無知から出る矛盾が必ず出てしまうと思いますので、キセキ達がどのような経緯でNBAまで登り詰めたかは、皆さんの想像にお任せします…(;^ω^)

キセキ達が所属するチームに関しても、深く考えずに決めたので、チームカラーとかイメージに合わないとかもしかしたからあるかもしれませんが、そこもご了承ください…m(_ _)m

最後のアメリカ代表に、気になる選手が出て来たかと思いますが、これも最後なので、ぶっこみました。また以前のような炎上が怖いのですが、今回は覚悟で行きたいと思います…(>_<)

一応、ウィンターカップ後の話も考えていますので、落ち着いたら後に投稿したいと考えています。

最後に、この二次の連載を始めてから8年と半年。最後までお付き合いしていただき、ありがとうございました…m(_ _)m

おかげさまで、自身2作目の完結に漕ぎつける事が出来ました。

この二次を読んでくれた方、感想をくれた方、評価をしてくれた方。そして、この作品を世に生み出し、出会わせてくれた、藤巻先生。本当に、ありがとうございました!!!

では最後に……。




それではまた!!!



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After story
~その後…~



投稿します!

お久しぶりです…(;^ω^)

新年開けて、早3ヶ月。ようやく目途が付いたので投稿致します。

それではどうぞ!



 

 

 

――キセキの世代…。

 

 

中学バスケ界の名門である帝光中学にて、突如として現れた10年に1人の逸材と目された5人の天才、赤司征十郎、緑間真太郎、黄瀬涼太、青峰大輝、紫原敦。

 

その5人に一目置かれた幻の6人目(シックスマン)、黒子テツヤ。

 

彼らはその圧倒的な才能と力を以て、中学バスケにおいて、全中3連覇の偉業を成し遂げ、その名を知らしめた。

 

その後、彼らはキセキの世代内においての優劣をつける為…、自分こそが最強だと証明する為、それぞれが違う高校へと進学した。

 

黒子テツヤもまた、自分のバスケを貫く為、彼らと袂を分かち、そこで出会った新たな光、火神大我と共にキセキの世代と戦い、日本一を道を選ぶ。

 

そんな彼らが高校へと進学した1年目の、キセキの世代の全員が出場したウィンターカップ。

 

大激闘の果てに頂点に立ったのは、黒子テツヤと彼の新たな光である火神大我を擁する誠凛高校であった。

 

この結果、かつてはそのあまり強大過ぎる才能故、歪んでしまったキセキの世代達に大きな影響を与える事となった。

 

その翌年、彼らは雌雄を決するべく、再び全国へと集まるのだが、そこへ、新たな猛者が現れる。

 

自らをより高みへと押し上げる為、アメリカでその力を揮っていた異国からのキセキ、三杉誠也と堀田健。

 

キセキの世代が去った全中にて、圧倒的な才能を以て全中制覇に貢献した次世代のキセキ、神城空と綾瀬大地。

 

この4人が一堂に介し、その圧倒的な才能と力であのキセキの世代を粉砕し、日本の高校バスケに新たな衝撃を与えた。

 

その後もキセキ達の激闘を幾度となく繰り広げられ、キセキの世代、最後の年の集大成となるウィンターカップ。

 

キセキの世代、キセキならざるキセキとその影、そして、次世代のキセキが頂点を目指し、決勝へと辿り着いた次世代のキセキを擁する花月高校と、キセキならざると影を擁する誠凛高校。

 

観る者全てを熱くさせた大激闘の末、花月高校が、全国の頂点へと辿り着いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「うーん…」

 

目の前のパソコンにて頭を悩ませる1人の男。文章を打っては消し、打っては消しを繰り返し、唸り声を上げている。

 

…ここは某出版社。その中で月刊バスケットマガジン、通称月バス部門のデスクである。男は月バスの記事の執筆に勤しんでいる。

 

「……やっぱりこれだとインパクトが――」

 

「よう新人、捗ってるか?」

 

そこへ、ベテラン記者である男の先輩がコーヒーカップ片手に声を掛けて来た。

 

「先輩、俺もう来年で3年目ですよ? いい加減、新人は止めて下さいよ」

 

「ハッハッハッ! 俺から言わせればまだまだ新人だ。…ほらよ」

 

口先を尖らせながら抗議する男。ベテラン記者は豪快に笑いながら男のデスクにコーヒーの入ったカップを置いた。

 

「先のウィンターカップ記事か」

 

「はい。特集記事まるまる俺に任されましたからね。……フゥ」

 

背もたれに背中を預けながらコーヒーを一口啜る男。

 

「キセキ達の集大成とも言える最後のウィンターカップ。それを制したのが花月高校。その原動力となった神城空と綾瀬大地は、彼らが中学生の時から追いかけて来た選手達ですから。気合い入りまくりですよ」

 

そう言ってニコリと笑った。

 

「そうかそうか! あの時会場に誘った俺に感謝しろよ!」

 

満足そうに笑う男を見て同様に満足気に笑うベテラン記者。

 

「そう言えば、取材の方はどんな感じですか?」

 

「おう、順調だぞ」

 

持っていた取材結果を男に見せる。

 

「失礼します。……へぇ」

 

渡された資料に目を通す男。資料に載っているのは、今年度卒業する、有力選手の進路である。

 

「やっぱり、有力選手は軒並み全国各地の強豪大学に進む予定みたいですね」

 

ピックアップされている、全国でも指折りの実力を持つ3年生。その大半が各地方の1部に所属する大学に進学する者が大半を占めていた。

 

「…でも、1番気になるのは……おぉっ!?」

 

目当ての選手が載っている項目を探す男。見つけると、目を見開きながら声を上げた。目当ての選手は当然、キセキの世代の5人と火神大我である。

 

「海常の黄瀬涼太は日本のプロリーグですか!?」

 

資料を見て男は興奮する。

 

昨年、日本に満を持して開幕したプロバスケットボールリーグ。通称Bリーグ。

 

「ああ。東京のチームがスカウトをかけたらしい。黄瀬もこれに合意したようだぞ」

 

「へぇー…、けど、黄瀬君を止められる選手はBリーグにもいるんですかね?」

 

「おいおい、いくらなんでもプロを舐め過ぎだ。確かに、センスは頭1つ2つ…それ以上に黄瀬はずば抜けてる。現時点でも、1ON1で黄瀬を止められる奴はいないかもしれん。だが、高校卒業したばかりの選手に良い様にやられちまう程、プロは柔じゃない。国際試合を経験したベテラン選手、外国人選手と、どいつもこいつも曲者揃いだ。ある程度は、洗礼を受けるだろうよ」

 

「ホントですか!? やっぱりプロは凄いんですね」

 

ズズッっとコーヒーを一口する先輩。

 

「次はっと…、っ!? 緑間真太郎はドイツの大学に留学!?」

 

飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになるのを咄嗟に堪え、驚く男。

 

「おう。FIBAランキングでも上位のドイツ。それも、強豪の大学のな」

 

「凄い! 緑間君なら、日本人の初のブンデスリーグの選手になる事も夢ではないですね!」

 

期待に目を輝かせる男。

 

「さてさて…、っ!? 青峰大輝はアメリカ留学!?」

 

次の選手、青峰の進路。アメリカの文字を見て興奮する。

 

「最後のウィンターカップは結果こそ振るわなかったが、実力は示したからな。あの身体能力とテクニックは、アメリカでも期待出来るぜ」

 

「派手なストリートのムーブテクニックはアメリカでも注目の的になるでしょうね!」

 

アメリカの地で青峰が活躍する姿を想像し、期待に胸を躍らせる男。

 

「お次は……って、紫原敦はリーガACBに挑戦。これホントですか!?」

 

資料を捲り、紫原の項目を見て思わず立ち上がる男。

 

「これは俺も驚いたぜ。ある意味、1番のサプライズかもしれないな」

 

「彼の身体能力の高さはキセキの世代の中でも頭1つ抜けてますからね。サイズもワールドクラスですし、期待は持てますね!」

 

リーガACB、世界の強豪、スペインのプロチームからの誘い。これには男は驚きは隠せなかった。

 

「キセキの世代、ラストの赤司征十郎はっと…、おぉっ! 彼もアメリカですか!」

 

赤司の項目を見て声を上げる男。

 

「青峰とは違う州だが、その州でも指折りの強豪だ。…ま、経営学に強い大学でもあるから、家の都合もあるんだろうよ」

 

「彼の支配力とゲームメイク能力は日本だけで留まる器ではないですからね。今から楽しみだ!」

 

アメリカで、司令塔としてコートに立つ赤司を想像し、男は期待で興奮した。

 

「キセキの世代は全員、驚きを隠せない進路だったな。…っと、もう1人、注目の選手がいたんだった」

 

ここで男は思い出す。キセキの世代と同等の才能を持ち、1度は5人全員勝利した選手の事を…。

 

「……かぁー! 火神大我もアメリカかー!」

 

驚きつつも決してまさかとは思わない、火神のアメリカ行きに思わず興奮気味に頭を抱える男。

 

「噂じゃ、去年の夏が終わった時にはアメリカ留学の話は来てたらしいが、その時は断ったらしい。夏と冬を連覇して、キセキを冠する者達の中で最強を証明したかったのか。あるいは、別の理由があったのか…」

 

「3人もアメリカに挑戦かー。是非とも、アメリカでの彼らの活躍を取材したいなー」

 

今や、高校だけに留まらず、日本の期待の星とも言っても過言ではない、キセキを冠する者達。記者としては、是が非でも取り上げ、記事にしたい。

 

「3人だけじゃねえぜ」

 

妄想に浸る男に、先輩記者が告げる。

 

「? どういう意味ですか?」

 

言葉の意味が分からず、聞き返す男。

 

「現3年の進路を取材する過程で知ったんだが、…資料の最後のページ、見てみろ」

 

言われるがまま、資料を捲る。

 

「……っ!?」

 

資料を読み進める男。その内容を見て思わず目を見開き、言葉を失った。

 

「…神城空と、綾瀬大地が、アメリカに留学…」

 

その内容を口にする。

 

「ああ。花月高校に取材に行った際に聞いた話だ」

 

この内容を知った経緯を説明し、コーヒーを口にする先輩記者。

 

「だがまあ、納得出来る話だ。2人は一応、各キセキの世代が所属するチームと誠凛を倒しているからな。そしてそいつらは次年度にはいない。1対1であの2人とやり合える選手がいない、日本に留まるより、花月の留学制度を利用して本格的に留学した方が有益だ。去年も、インターハイ直後に短期留学しているし、あれだけの逸材なら、むしろアメリカ(向こう)から声を掛けてきてもおかしくない」

 

「…そうですか」

 

先輩の説明を聞き、資料をデスクに置く。

 

「彼らもアメリカかー。2人の才能を考えれば当然の選択なんだろうけど、もう少し、2人のプレーと活躍を、日本で見たかったなー」

 

後頭部で両手を組み、天井を仰ぐ男。

 

「キセキの名を冠する者達が全て、高校バスケ界からいなくなる。そうなると、しばらくは、高校バスケの人気は下火になりそうですね」

 

「仕方のない話だな。正直な話、ここまで高校バスケの熱が高まったのは、キセキの世代の5人と火神大我、そして、神城空と綾瀬大地の存在が大きいからな。そいつらがこぞっていなくなりゃ、熱は冷める」

 

「…」

 

「だが、観客は冷めても、選手達は熱くなるだろうよ」

 

ハッとした顔で男が振り返ると、先輩記者はニヤリと笑う。

 

「これまで、『キセキなくして栄冠はない』とまで言われた高校バスケ。そいつらがいなくなった今、チャンスは何処にでもあるって事だ。今、高校バスケにいるのは、その圧倒的な才能を目の当たりにしても尚、潰されず、残った奴らだ。今年は、何処も死に物狂いで優勝を勝ち取りに行くだろうからな」

 

と、ここで先輩記者はコーヒーを一口。

 

「目先の天才ばかり追うなと教えただろ? それに、逸材なんざ、またいつ何処から現れるか分からん。火神大我や、神城空と綾瀬大地のようにな」

 

そう語り、最後の一口を飲み干すと、空に紙コップをゴミ箱に投擲し、入れた。

 

「ですよね! よーし、高校バスケを盛り上げてくれたキセキ達の為にも、気合いを入れて記事を仕上げるぞ!」

 

男は気合いを入れ直し、再びパスコンへと向かった。

 

「その意気だ。頑張れよ新人。…とは言え、せっかく火が付いたバスケ人気を落とさない為に、何より、雑誌の売り上げの為にも、何かもう1つネタが欲しい所だな。…さて、一服したらプロチームの取材でも行くかな」

 

やる気に漲る後輩を見て、先輩記者は煙草を持って喫煙室へと足を向ける。

 

「先輩、大変です!」

 

その時、2人の下へ、1人の男が勢いよく駆け込んでくる。

 

「デケー声出すな。何事だ」

 

怪訝そうな表情で窘める先輩記者。

 

「凄い情報を手に入れたんですよ。見て下さい!」

 

窘められても興奮冷めやらぬ男は、手に持っていたipadを操作し、先輩記者に見せた。

 

「……っ!? おいおい、こりゃ…」

 

驚きのあまり、目を見開く先輩記者。

 

「?」

 

その騒ぎを近くで聞いていた男もその内容が気になり、一旦手を止めて2人の後ろからipadを除く。

 

「っ!? これって――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

場所は変わって、花月高校の体育館。バッシュのスキール音が響き渡る。

 

 

――ガン!!!

 

 

現在、3ON3をしており、竜崎の放ったジャンプシュートがリングに弾かれる。

 

「集中しろ、フリーのシュートだぞ! 練習で決められなければ試合で決まらんぞ!」

 

「はい、すいません!」

 

監督、上杉から檄が飛び、竜崎が返事をする。

 

ウィンターカップが終わり、早数日あまり。花月高校では既に新体制に向けて練習が行われている。

 

キセキラストイヤーの最後のウィンターカップ。奇跡の優勝を成し遂げた花月高校。その感動も冷めやらぬまま、次の戦いに向けて、猛練習をしている。キセキの世代の卒業により、これまで優勝候補であったキセキを擁する高校が大幅な戦力ダウンを余儀なくされるが、それは花月高校も例外ではない。花月の強力なリバウンダーであり、ストッパーでもある天野に、チームのムードメーカーであり、スラッシャーでもある菅野。更には、チームの司令塔である空と、エースである大地までも抜けてしまうからだ。キセキを冠する者達が高校バスケからいなくなる事で、全国のどのチームも優勝の可能性が出ており、全国各地で、これまで手の届かなかった優勝を目指して死にもの狂いで挑んで来る事が予想出来る。

 

「(戦力ダウン以上に厳しいのが層の薄さだ。インターハイまでに現メンバーを急ピッチで鍛え上げるつもりだが、それでも足らん。…やれやれ、再び優勝をさせる為にも、是非とも新入生に期待せねばならんな)」

 

苦笑する上杉。

 

「…」

 

「…」

 

他の選手達が3ON3をしている中、少し離れた場所で、空と大地が対峙していた。空がボールを持ち、大地がディフェンスをしている。

 

「…」

 

空がジャブステップを踏み、小刻みにボールを動かしながら仕掛けるチャンスを窺う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て、空が仕掛ける。

 

「…っ」

 

仕掛けるタイミングに合わせて大地が空を追走する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時に空がクロスオーバーで切り返し、視線をリングに向ける。

 

「っ!?」

 

この動きを見て大地はシュートを警戒。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、空はシュートを打たず、バックチェンジで再度切り返し、大地を抜きさる。

 

「…くっ!」

 

視線のフェイクによって僅かに反応が遅れた大地だったが、それでもすぐさま反転し、空を追いかける。

 

「っしゃ!」

 

空がそのままボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。

 

「まだです!」

 

これを見て大地もほぼ同時にブロックに飛び、空の後方からブロックを狙う。

 

「遅ぇ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

しかし、空は大地がブロックに来るより速く、リングにボールを叩きつけた。

 

「よっしゃー!」

 

着地した空がガッツポーズ。

 

「…次は私のオフェンスです。決めて見せますよ」

 

喜ぶ空とは対照に、若干悔しさを滲み出る大地。

 

 

「…」

 

「…」

 

攻守を切り替えて再び対峙する空と大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空と同様、ジャブステップからドライブを仕掛ける。

 

「…っ」

 

同タイミングで空が大地を追走。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

仕掛けると同時に急停止した大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後にバックステップをし、空と距離を空け、ボールを掴む。

 

「読めてるぜ、止める!」

 

このムーブを予測していた空はすぐさま大地との距離を詰め、ブロックに飛ぶ。

 

 

――キュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

大地の次の動きに空の目が大きく見開かれる。ステップバックさらに距離を空け、そこからのフェイダウェイを予想していた空だったが、大地は後ろではなく、前へとステップしていたのだ。つまり、ステップバックではなく、アップ&アンダー。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空のブロックを掻い潜るようにかわした大地がそのままジャンプシュートを決めた。

 

「だあぁぁぁっ!!! ちっくしょう!!!」

 

頭を抱えながら悔しがる空。

 

「お返しですよ」

 

フッと笑みを浮かべる大地。

 

ウィンターカップ終了後、花月は新体制に向け、練習を積んでいるのだが、空と大地は、基礎トレーニング後のチーム練習には加わらず、1ON1を繰り返し、鎬を削っている。

 

 

「…相変わらず、2人は凄いね」

 

「ああ。また更にキレが増して来たな」

 

2人の勝負を見ながら言葉をかわす生嶋と松永。

 

「次の夏と冬の大会は、2人抜きで戦わなきゃ行けないんだよね…」

 

「ああ。だが、泣き言は言ってられん。戦力ダウンをするのは俺達だけではないのだからな」

 

表情が陰る帆足。しかし、松永が活を入れる。

 

「そのとおりです。条件は何処も同じ。夏と冬の連覇を目指して頑張りましょう!」

 

そこへやって来た竜崎が気合いを入れる。

 

「竜崎。お前は練習後にシュート、500本だ」

 

「……うす」

 

そこへ、上杉が指示を出し、竜崎がげんなりしながら返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も、激しい練習を積む花月の選手達。

 

「よう、やってるな!」

 

そこへ、来訪者がやって来る。

 

「えっ!? 三杉さん!?」

 

その声に気付き、振り返り、思わず声を上げる空。やって来たのは三杉誠也だった。

 

「よう」

 

「堀田さんも!」

 

三杉の後ろに、堀田の姿もあった。

 

「どうしてここに…」

 

同時にやって来た堀田に、大地も驚きを隠せずにいた。

 

「見たぞ、ウィンターカップ決勝。見事だったぜ。優勝おめでとう」

 

集まる花月の選手達。三杉は選手達に賛辞の言葉を贈る。

 

「去年の夏、お前達と一緒に戦って以降、日本には1度も帰らなかったからな。帰省を兼ねて、お前達の決勝を見に来たんだ。ついでにそのまま年越しも迎えるつもりだ」

 

ここに来た経緯を説明する堀田。

 

「とは言え、そのままただ過ごすのも暇だし、何より、身体が鈍っちまう。だから、一緒に練習でも、と、思ってな。…どうだ? 空、綾瀬、久しぶりに1ON1でもやらないか?」

 

ニヤリとしながら提案する三杉。

 

「もちろんですよ!」

 

「是非とも、お願いします!」

 

歓喜の空と大地。

 

「よし、なら、バッシュに履き替えて来るから少し待ってな」

 

そう言って、その場を離れる三杉。

 

「松永……と、室井だったか? 久しぶりにインサイドの指導も兼ねて、勝負でもするか?」

 

「はい、お願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

堀田の提案に、松永と室井も了承する。

 

「この人達が、あのキセキの世代を圧倒した伝説の…。あ、あの! 俺も参加してもいいですか!? 来年、もしかしたら状況によってはインサイドで戦う事があるかもしれないので…!」

 

「いいぞ。来い」

 

おずおずと参加を希望する竜崎に対し、堀田は二つ返事で了承したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

突如やってきた三杉と堀田。その興奮も冷めやらぬまま、花月は2人を交えての練習が始まった。

 

「松永、パワーに差があるなら、それに応じた戦い方がある。無理に対抗しようとするな」

 

「はい!」

 

「室井。お前にはあらゆるビッグマンをポストアップを抑え込めるパワーある。その先の動きに対応出来るようにしろ」

 

「はい!!!」

 

リングの下で、松永と室井が堀田の指導を受ける。反対側のリングでは…。

 

「…」

 

「…」

 

空と三杉が1ON1を始めようとしていた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを小刻みに動かし、ステップを踏み、機を窺っていた空が仕掛ける。

 

「(ここだ!)」

 

タイミングを読み切った三杉が仕掛けた空に対し、間髪入れずに追いかける。

 

 

――キュッ…ダムッ!!!

 

 

空は急停止…直後にクロスオーバーで切り返した。

 

「(得意のキラークロスオーバー…、このスピードとキレは以前とは段違いだが…)…甘い」

 

これも三杉は読み切り、1歩踏み出し、右手を伸ばして進路を塞いだ。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

ここで空はバックチェンジ…いや、まるでビハインドパスを出すかのように空は逆方向にボールを弾ませた。

 

「(なに?)」

 

この行動に三杉は驚くも、すぐさまそのボールに手を伸ばす。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

目を見開く三杉。三杉がボールに触れるより速く、空がボールに触れる。上半身を後方に大きく傾け、倒れ込むような体勢でボールを叩き、ボールを三杉の後方へと弾ませる。

 

「(ちっ、変則も健在か!)」

 

規格外のバランス感覚を生かした空の変則ドリブル。ここ最近は使用頻度が減っていた事で三杉は見事に虚を突かれた。

 

「よし!」

 

すぐさま身体を起こした空が三杉の後方に零れたボールを拾い、そのままリングに突っ込む。

 

「ちぃ!」

 

反転した空を追いかけ、ブロックに飛ぶ三杉。

 

 

――スッ…。

 

 

だが、後手。空はボールを下げ、そのブロックを空中で掻い潜るようにかわした。

 

 

――バス!!!

 

 

直後に再度ボールを掲げて放り、ダブルクラッチで決めた。

 

「やった…。三杉さんから点を奪ったぜ!」

 

両拳を掲げ、大声で喜びを露にした。かつて、三杉が滞在していた時は、結局1度も三杉から1ON1で得点を奪う事が出来なかったからだ。

 

「やれやれ…」

 

そんな空を見て溜め息交じりに苦笑する三杉。

 

 

続いて、大地と三杉の1ON1…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

早々に仕掛ける大地。

 

「(小細工無し。…だが、本命は――)」

 

 

――キュッ…ダムッ!!!

 

 

急停止と同時にバックステップ。

 

「(さて、次は…!)」

 

バックステップ直後にボールを掴み、後方にステップバック…ステップした足でそのまま後方に飛び、シュート体勢に入る。

 

「(やはり来たか! だが間にあ――っ!?)」

 

 

――ピッ!

 

 

大地の全て読み切った…はずの三杉だったが、三杉のブロックが現れる早く大地はボールをリリース。

 

「っ!?」

 

振り返る三杉。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「…よし」

 

これを見て大地は静かに拳を握る。大地もまた、これまで1ON1で三杉から得点を決める事が出来なかったのだ。

 

「…まさか、あそこまでのクイックリリースとはな」

 

想定より大地のリリースが速かった事により、三杉は、大地の動きを読み切ったにも関わらずブロックに間に合わなかった。

 

「…フゥ。恐れ入ったな」

 

一息吐く三杉。三杉の中で悔しさはなく、清々しさに包まれていた。

 

「ようやく、三杉さんの背中を捉えましたよ」

 

ニヤリとする空。

 

「さすがにそれは早計ですよ。たった1本決めただけなのですから」

 

そんな空を大地が窘める。

 

「大地だって、決めた後ドヤ顔してたじゃん」

 

「そ、そんな事は…!」

 

からかう空に対し、焦る大地。

 

「(本当に、成長したな…)」

 

そんな2人に暖かい視線を向ける三杉。

 

かつては、両者共に、結局1度も三杉から1ON1で得点する事が出来なかった。だが、今は本気で止めに行ったのにも関わらず、止められなかった。ここまでの成長を遂げた2人に、三杉は嬉しくて仕方がなかった。

 

「2人共見事だったぜ。…それにしても、お前達2人が同じチームにいて、それでも紙一重の勝利。キセキの世代と、火神大我もまた、相当力を付けたみたいだな」

 

「マジでバケモンですよ。試合では全員に勝ったけど…」

 

「正直、個人では勝った気がしません」

 

空と大地の表情が曇る。

 

「あいつらもまた、まだ未完の大器だったからな。かつてのインターハイではその内の3人と戦ったが、彼らは試合の中でも進化していた」

 

かつて戦った紫原、青峰、赤司と試合をした時の事を思い出す三杉。

 

「結局、残りの3人とは、組み合わせの関係で試合でやる事がなかったからな。あいつらが何処まで進化したか。是非とも試してみて――」

 

ここで三杉は言葉を止める。

 

「…」

 

顎に手を当て、何か考え込む。

 

「? …三杉さん?」

 

そんな三杉を見て、怪訝そうに声を掛ける空。空の言葉に返事をする事無く考え込む三杉。そして、何かを思い付いた三杉がニヤリと笑う。

 

「…なあ、1つ、面白い事を思い付いたんだが、聞いてくれるか?」

 

まるでイタズラっ子のような表情で、三杉が2人に思い付いた事を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……ハハッ!」

 

三杉の考えを聞いた空が思わず笑い出す。

 

「良いじゃないですか、それ!」

 

目を輝かせる空。

 

「実現出来るなら、最高の催しとなりますね」

 

同様に大地も目を輝かせていた。

 

「やりましょうよ! 俺、誠凛に知り合いがいるんで、そこから話を付けましょう!」

 

言うや否や、空が猛ダッシュで携帯を取りに走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『もしもし? 神城か、突然電話なんかかけてきてどうしたんだ? こっちは来年に向けて――えっ? 黒子さんと火神さん? いるけど……って、うわ!? いたんですか!?』

 

『もしもし、黒子です。ボクに何か御用ですか? …えっ? キセキの世代と火神君と連絡を取りたい? 事情を説明してもらってもよろしいですか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『……なるほど、そう言うことですか。そういう事なら是非とも協力します。…いえ、させて下さい。…それであの、不躾なのですが、その話、ボクも参加させていただいても――ありがとうございます。…あ、火神君に代わります』

 

『話は聞かせてもらったぜ。当然、参加させてもらうぜ。お前らに借りを返してーし、何より、あの2人(・・・・)にも興味があるからな。楽しみ待ってるぜ。…おう、黒子、わりーな』

 

『黒子です。他の皆への連絡はボクが引き受けます。桃井さん……桐皇のマネージャーの知り合いに連絡すればすぐに連絡は付くと思いますので。…それでは後程、ボクの方からかけ直しますので』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『テツ君! 突然どうしたの? …大ちゃん? 傍にいるけど…』

 

『おう、テツ。何か用か? こちとら、来年からアメリカ行きだからよ、今から英語を叩き込んでる最中だよ。ったく、バスケすんだから英語なんて必要ねえってのにさつきが……あっ? 大事な話?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『……その話、マジか? 参加するに決まってんだろ。ちょうど暇してたし、何より、ウィンターカップの鬱憤を晴らしてーって思ってたからな。…何より、あいつ(・・・)に借りが返せるチャンスがあるってなりゃ、参加しねー理由がねえ。詳しい話を聞かせ――あん? 何だよさつき――』

 

『テツ君! 話は聞いてたよ! 私に連絡してきたって事は、他の皆にも連絡取りたいんでしょ? 私に任せて! …じゃ、また後で!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『桃っち! 突然電話なんて珍しいッスね。こっちは一足早くプロ入りッスからね。今からサインのデザイン考えて――えっ? またなんかの企画ッスか? もしかして、また黒子っちの誕生日の集まり…えっ、違う?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『……なんスかそれ、ちょー面白そうッスね! もち、参加するに決まってるじゃないッスか! オレ、結局、試合する機会がなかったから、1度、本気でやり合いたいって思ってんスよ! 早速準備するスから、詳細決まったら連絡よろしくッス!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『…桃井か。何か用か? 今? 大丈夫だ。特に忙しくないよ。…イベント? 詳しく聞かせてくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『……なるほど。話は分かった。…勿論、参加させてもらうよ。そんな楽しい催しなら参加しない理由がないからね。この話は何処まで知らせた? ……なるほど、なら、緑間と紫原は俺が引き受ける。俺から連絡をした方が話がスムーズに進むだろうからね。後程連絡を折り返す。細かい詳細を詰めておいてくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『…赤司か。お前から連絡とは珍しいな。こっちは来年からドイツだからな。何分、これまで馴染みのない言葉故、急いで語学を頭に叩き込まなければならんのでな。要件は手短に頼むのだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『……っ、そうか。そんなもの、参加するに決まってるのだよ。…そんなもの後回しだ。どの道、集中出来んだろうからな。詳細が決まったら連絡してくれ。それまでに、…最高のコンディションに仕上げておくのだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『あれ、赤ちん? どうしたのいきなりー。…ん? また何かやるのー?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『……なるほどー、うん、参加するよー。正直、ちょーめんどいけど、…あいつ(・・・)に借りを返しておきたかったんだよねー。じゃあそう言う事で話進めておいてー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…はい、はい了解。そんじゃ、詳しい日取りが決まったら連絡するから、よろしくー」

 

電話を切る空。

 

「三杉さん、全員と連絡取れました。全員参加してくれるみたいです!」

 

満面の笑みで頭上で丸を作る空。

 

「そうこなくちゃな」

 

それを見てニヤリとする三杉。

 

「話が決まったなら、場所と日程を決めないとな。とりあえず、各々が今いる場所を考えて、東京近辺のストリートバスケのコートを――」

 

「話は聞かせていただきました!」

 

そこへ、何者かが話に割り込んで来る。

 

「…理事長?」

 

現れたのは、花月高校の理事長であった。

 

「その話、是非とも私にも協力させて下さい!」

 

理事長は、満面の笑みで胸の前でポンっと手を合わせながらそう言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――なあ、あの話、聞いたか?

 

 

――あの話?

 

 

――知らないのかよ!? 今、SNSで超話題になってんだぜ! これ、見てみろよ。

 

 

――どれどれ……!? マジかよこれ!?

 

 

――新年早々、とんでもないサプライズじゃないか!?

 

 

――これは何としても生で見てえな!

 

 

 

年明け、新しい年が始まって早々、とあるイベントの発表がSNSでされた。

 

それを知ったバスケファンは歓喜し、瞬く間に拡散され、多くのバスケファンが認知する事となった。

 

昨年時にプロリーグが開幕され、盛り上がりを見せるバスケットボール。

 

それに匹敵…あるいは凌駕する程の盛り上がりを見せた、キセキと呼ばれる者達が激闘を繰り広げた高校バスケットボール。

 

そのキセキ達が高校バスケ…そのほとんどが日本を去ると言う事実に、陰りを見せる…と、思われていた。

 

 

 

 

 

――20××年、1月某日。東京総合体育会館にて、試合開催。

 

 

 

 

 

 TEAM MIRACLE × TEAM KAGETSU

 

 

 

 

 

キセキの世代の5人に加え、火神大我と黒子テツヤを加えたチームミラクルと、激戦の末、奇跡のウィンターカップ優勝を成し遂げた花月高校。そこに三杉誠也と堀田健を加えたチーム花月。

 

その2チームによる特別試合が急遽、告知が為された。

 

バスケファン達を先のウィンターカップ…いや、それ以上に歓喜させるであろうイベントの発表…。

 

1つの節目を迎えたキセキ達による激闘、当分は彼らの激突を見られない…、誰もがそう思っていた。

 

そんな中、発表された大結集させたキセキ達による試合。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――After story…。LAST GAME…。キセキ達による、最後の激闘が、始まる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





遅くなりましたが、あけましておめでとうございます…(;^ω^)

本来なら、もう少し早く投稿したかったのですが、理由(いい訳)としましては…。

・最終話を投稿した事で、燃え尽き症候群に陥った事…。

・ようやくモチベーションが上がって来た矢先に体調不良…果てはコロナ感染…。

・何より、最終話前のプチ炎上が思った以上にトラウマだった事…。

以上の事から、本日まで投稿出来ませんでした…m(_ _)m

ようやく、いろいろ乗り越え、ここまで漕ぎつけたので、ここから後日談を投稿……と、行きたい所なんですが、この先の執筆に是非とも必要な資料が見つからないので、投稿は不定期になると思います。

ただ、どんなに遅くとも、LAST GAMEに関しては、2024年の内には書き上げるつもりでいるので、お待ちいただけたらと幸いです…(>_<)

それでは…。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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