ゲッターロボ―A EoD― (はならむ)
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◆ゲッターチーム結成編
第一話「その名は『ゲッターロボ』」①


――僕は出会った。あのおとぎ話に登場する鬼のような姿をした、強大な力を持つ機械仕掛けの巨人『ゲッターロボ』に。

僕の日常が一変した。

あの時、死んだ方が楽になれたのかもしれない。ゲッターロボとの出会いは……まさに後の僕らにとって生き地獄になりうるモノだった――。

 

 

「竜斗、来るぞっ」

 

先ほど出会った謎の男に指示されながら、コンピューターにシンジケーターに囲まれたこの中で少年は席に座り込み、苦情の表情を浮かべながら操縦桿を握り締めている。

 

(い、一体なんだってんだ……何で俺がこんな『ゲッターロボ』とかいうワケの分からないモノを操縦しなきゃいけないんだ……?)

 

目前のモニターに映るは太古の世界にタイムスリップしたかのような翼を持つ爬虫類、この時代にいるはずもない恐竜が現実に、そして目前にいる事実に彼は頭が混乱し、彼はそう分かるはずもないことを自分に問いただす。だがよく考えればあの時からだ――。

 

「エミリア早く!!」

 

サイレンが鳴り響き、あちこちに火災が発生、煙と粉塵、そして逃げ惑う人びとが溢れる街、そこから離れた路地裏を少年と少女の二人が必死で駆けていた。年はどちらも十代後半辺りの精気溢れる高校生ぐらいだ。男の子は眼鏡の似合う優男、女の子は肌の白い茶髪の碧眼の外国人。

 

「C地区の地下シェルターはこの先だったわよね、リュウト!」

 

エミリアと呼ばれるこの女の子はどうみても外国人なのに日本語、そしてイントネーションが凄く流暢である。それは長く日本に住んでいることを意味していた。

 

「あれは確か……自衛隊のSMBだよね?」

 

彼らは狭い道から大通りに飛び出た時、横で見えたのは恐竜と戦うライフル、つまり突撃銃型火器を右手に携行する緑と黒の迷彩色で無骨の機械の巨人が数機、ビルと並んでいる。

あれは自衛隊が開発した日本製量産型SMB『BEET(ビート)タイプ』と呼ばれる機体である。

二人は恐竜共にこれ以上侵略させてなるものかと勇敢に立ち向かうそれに、勝利を信じて見た後再び走り出す。

しかし彼らが過ぎ去った後、BEETは一瞬の内に破壊された。

一機は恐竜の放った鋭利な爪に引き裂かれて噛み砕かれて、もう一機は恐竜の両方から突き出た銀色の砲身からのマグマ弾が直撃し、蕩けてしまった――。

 

「父さんと母さんは……無事なのかな……それにエミリアのお父さん達も」

 

「……心配ないわ、ちゃんと避難してるに決まってる。それよりもアタシ達の安全を最優先にしなくちゃ、リュウト」

 

不安を漏らす彼、竜斗に彼女は明るく返事を返すも一瞬、口ごもった彼女も心配でしょうがないのだろう。地下シェルターまであともう少しの所間で来た二人は、目の前の曲がり角に差し掛かった時、そこから誰かが飛び出す。

 

「うわあ!」

 

「キャア!」

 

立ち止まる彼らは甲高い女の子の驚く声が聞こえた。再び前を見ると、

 

「み、水樹!」

 

彼の顔が一気に引きつる。

そこにいたのは自分が知る高校の同年代の、そして同級生の女の子、水樹愛美(みずきまなみ)だった。

「なんだ石川じゃない。それに……アンタも」

 

会って損をしたかのような声で話す彼女。相変わらずの派手に盛ったメイク、ヘアスタイル……彼女は所謂ギャルであった。

 

「……地下シェルターならアタシらも向かってるから一緒に!」

 

「マナは今、パパとママを探してるの。来る途中はぐれちゃったから」

 

「探してるって!?今そんなことするのはあまりにも危険よ、それよりもシェルターに!」

 

「うるさい、黙れガイジン女っ!」

 

「なんですってえ……っ!」

 

エミリアの顔から怒の表情が。竜斗はこれでは学校の時のような醜く苛烈な取っ組み合いが始まると思い、

 

 

「ふ……二人とも!奴らが暴れてるこんな時にそんなことしてる場合じゃないだろ!」

彼の声に一線を越えずに済む二人には嫌な空気が。

 

「フン、考えたらマナはアンタらに付き合ってる暇はないの。早くパパとママを探さなきゃ」

 

「み、水樹!」

 

愛美はそう言い捨て、二人から走り去っていった。

去っていく彼女の背を見ながらエミリアはため息をついた。

「ホント、自分勝手なんだから、あのコは。大丈夫かしら……っ」

 

「……」

 

しかしこのままぼーっとしているワケにはいかず、二人は直ぐそこまで迫った避難シェルターの場所へ走り出した。

そしてシェルターが見えたその時である。入り口の後ろには、有名の恐竜、ティラノザウルスに類似したあの怪獣が待ち構えて自分達を逃がしはしまいと言わんばかりに豪快に入り口を踏みつぶしたのであった。

二人はその絶望的な光景にその場で凍りついた。

そして潰した後から、恐竜は口をくわっと開けて中から真っ赤なドロドロの超高温の液体、マグマをボタボタ垂れ流しだしそれがなんと、シェルター内へ溶かしながら染み込んでいくではないか……。

 

「なんて……こと……っ」

 

あそこには避難した人々が大勢いるはずだ。これではあの真っ赤に溶けたマグマによって焼き殺されて、溶かされるのは確実である、断末魔が聞こえないのは唯一の救いか。

だが二人はそこから凍りついたように一歩も動けなかった。怒りや悲しみより込み上がるは絶望。もし愛美に会わずにそのままシェルターに駆け込んでいたとしたら……命拾いをしたのかもしれないが、今度は目の前の自分達の番ではないかと……逃げようにも足が動かなかった。

 

「こっちだ!」

 

突如、背後で男性の低い声が。

我にかえる二人は振り向くと一人の男性が手招きをしていた。

 

「早く来い!見つかると殺されるぞ!」

 

二人は言われるままにその男性の元へ向かった。

 

「よし、死にたくなければ私についてこい」

 

「ちょっ!」

 

三人は迷路のようないりくんだ路地を駆け抜けていく。

 

「ア、アナタは一体……」

 

「私は早乙女というものだ。偶然君達を見つけてな、危なかったな」

 

知的でどこかミステリアスな雰囲気を持つ中年程の男性は早乙女と名乗る。

 

「無事に逃げられるのかな……」

 

「ちゃんとついてこい。そうすれば助かる」

 

二人はこんな危険が迫る時にも表情一つも変えない、つまり能面顔の早乙女に一瞬恐怖を感じたが、それでも助かるのならと、この男を信じた。

早乙女は走りながら着込んでいた黒スーツの胸ポケットから携帯電話のような物を取り出す。通信機のようだ。

 

「マリア、今から『アレ』の搬入を開始する。ベルクラスをここまで持って来てくれ」

 

“了解。それですが早乙女司令。恐竜帝国の『メカザウルス』がそれのある海岸地区へ向かっているのを確認しました”

 

「なに?」

 

通信機越しから物腰柔らかい女性の声が。話が終わり通信機を切り、ポケットに戻す。

 

「今から海岸地区に向かう。少し距離があるがはぐれるなよ」

 

「は、はい!」

 

……彼らが向かった先は郊外の海に接した海岸地区。軍倉庫、貨物船コンテナなどが置かれている場所である。

被害が少ない道を進んで辿り着くも、当然息が乱れる竜斗とエミリア、だが早乙女は全く平然としている。なんて体力の持ち主なんだ。

 

「こっちだ」

 

早乙女は手招きし、二人を誘導する。

辿り着いたのはとあるビルのような巨大な倉庫。

早乙女は入り口のシャッター付近にあるカードリーダーに向かうと、どこから出したのか銀色のカードをスライドさせた。するとシャッターが自動的に上へ開いていく。すぐさま三人は中に入る。真っ暗やみで何も見えないが、早乙女はすぐに内部の照明をつけた――。

「うわあ、これは……!?」

 

二人、特に竜斗は思わず驚愕の声を上げる。目の前にはなんと日本のおとぎ話に登場する赤鬼に似た、紅と白のカラーで施された機械の大巨人が直立不動で立ち構えていた。

こんな日本の、古風なデザインなのに右手には遥か未来の産物である漆黒で長い突撃小銃(ライフル)。

そう、先ほどのBEETが携行していたものと同じだ。

 

「これって……もしかしてSMB……?」

 

「ああ、国家機密で開発されたモノだが、どの道公にさらすのだから隠す必要などない。

対恐竜帝国用戦力として、そして新たなる希望として開発された今までの機体とは全く違う性能を持つ」

 

「全く違う……?」

 

「型式番号『SMB―GR01S』。ゲッター線という新世代エネルギーで稼働する最新鋭SMB。名付けて……『ゲッターロボ』だ」

 

「ゲッタァ……」

 

 

「ロボっ……」

 

――僕はこの時、寒気を感じた。この『ゲッターロボ』という巨大なロボットに。

ゲッター線という今まで聞いたことのない新たなエネルギー源を糧とする傀儡に――思えば危険な何かを感じ取っていたのかもしれない――。

 

「そう言えば君達の名を聞いてなかったな」

 

「はあ……ぼ、僕は石川竜斗(いしかわりゅうと)です……っ」

 

「ワタシはエミリア=シュナイダーです」

 

早乙女は彼女に注目した。

 

「君、外国人なのに日本語が完ぺきだな。日本語学校にでも行ってたのか?」

 

「いえ、ワタシの両親はドイツ人とアメリカ人のハーフなんですが、大の親日家で仕事もあって小学校に上がる前にここに越してきたんです。

なのでワタシにとって日本は母国のようなモノです」

 

「そうか、それは頼もしいものだ。よし話はそれくらいにして今からあれに乗り込むぞ」

 

流すように話す彼に竜斗達は目が点になる。

 

「え、乗り込むってあれにですか……?」

 

「そうだ」

 

「イヤイヤ、なんでアタシ達があれに乗らないといけないんですか!」

 

「言わなかったか、死にたくなければついてこいと。あんな脆いシェルターに逃げ込むよりよっぽど安全だ」

 

「…………」

 

……確かにそうだが、こんな平凡な生活をしていた自分達がいきなりゲッターロボという軍用SMBに乗るのは非現実的である。

それに国家機密などといっていたが、そんな大変な代物に一般人の自分達が乗り込んでもいいのだろうか、と。

 

「今から頭部にあるコックピットに向かう、こい」

 

三人は機体の足元にある四角い金網のカゴに乗り込み、早乙女が吊り下げられた赤い丸ボタンを押すとエレベーターのように真上へ上昇していく。

 

「なんで早乙女さんが?ちゃんとしたパイロットはいないですか?」

 

「いない。理由は後でいくらでも教えてやる、今はそんなことより早くゲッターロボに乗り込むぞ!」

 

おいおい本当にこれに乗り込んで大丈夫なのか……二人の不安は一層強くなる。

 

地上から約二十メートル程の口に位置する部分に辿り着くとそこでようやく停止。見るとすでにハッチが開かれており、操縦席則ちコックピットが丸見えであった。

 

「コックピットに乗り込むが、間違っても落ちるなよ」

 

下を見ないように二人は先に飛び乗った早乙女に続いてコックピット内へ飛び乗る。

操縦席に座るのは早乙女、竜斗とエミリアは席の後ろで左右に立ち、シートに掴まるように身を固定した。

 

「君らに言っとく。今からあの恐竜共がこちらへ向かって来ているのだが、これで阻止するぞ」

 

「え……ええっッ!!?」

 

「戦うんですか!! ?」

 

当然、仰天する二人であった。

 

「ゲッターロボはこれだけではないのだ。他に二機が存在し、それらが同じ地区、同じような建物内でこいつと同様に置いてある。その二機をなんとしてでも死守しなければならない。先日ロールアウトしたばかりで、今日受領するつもりだったが、運悪くな」

 

ゲッターロボがまだ二機存在する……。これでも驚きだが、二人はそれ以上の疑問を抱いていた。それは。

「……早乙女さんはどうして、そんなにこれについて詳しいんですか?」

 

竜斗からの質問に彼の返答は……。

 

「なぜかって?それはゲッターロボの開発主任はこの私だからだ」

 

「え……っ、早乙女さんが……」

 

「それよりも今すぐ発進する。君達にもまだとない経験をさせてやる、ゲッターロボの初飛行をな」

 

早乙女は素早い手動作でコックピット内のコンピューターを起動し、瞬間ライトアップ、ハッチも自動的に閉まる。

 

【各システム、OS、チェック……異常なし。

プラズマ反応炉、ゲッター炉心オールグリーン。ゲッターウイングを直ちに展開します】

 

通信機から流れていた女性に似た音声ガイダンスが流れると同時に建物の真天井が左右に開門、夕焼けた摩天楼の空が見えた。

 

「気を引き締めてしっかりシートに身を寄せて掴まってろ!飛ぶぞ!」

 

ゲッターの背中に折り畳まれたまるで紅い羽が左右に鋭く展開、そして繋がれていたチューブとワイヤーが次々と引き離れた時。

 

 

「『空戦型ゲッターロボ』、発進!!」

 

 

左右の操縦レバーを握りしめ、足元の右ペダルを押し込んだ時、ゲッターロボは一瞬で真上へ、建物から勢いよく飛び出した。

 

――そしてこちらへ建物を次々に破壊しながら向かっていた恐竜数体もその遥か上空へ飛翔したその物体を見逃すことなく捉えていたのだった。

 

――それはゲッターロボ。早乙女が開発した人類の希望となり得る新たな力である――

 




沢山書きためてあるのでゆっくりと投稿していきます。


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第一話「その名は『ゲッターロボ』」②

竜斗とエミリアの頭は混乱した。何が起きたのだろうか――。

そして今の自分達に映る景色は異常であった。

コックピットの三六〇度全視界モニターに映る、約二百メートル上空から見下ろす景色はまさに経験したことのない夢のだった。

が、そんな甘い言葉は正反対の有り様である。

黒煙の上がる、崩れた積み木のような無秩序、そしてあのマグマによって赤と黒で汚された地上。

そしてこの時代に場違いな程に浮いているモノの群れ、それは恐竜帝国からの悪夢の贈り物、機械化された恐竜である。

そして奴らも見るは前方の遥か上空。夕焼けに重なるは人類の希望である、早乙女の開発したゲッターロボ。

まるで突然現れた赤鬼の姿をした正義のヒーローのような出で立ちであった。

 

「お前ら、気分はどうだ?」

 

操縦席に座る早乙女は茫然として固まる後ろの二人に声をかける。

 

「アタシたちの町が……」

 

「ヒドい……ひどすぎる!」

 

ゲッターでの飛行より、やはり自分達の生まれ育った場所の惨状のほうに印象が強いようだった。

 

「……まあそうだろうな。だがこのゲッターロボが起動した今、もう奴らの思い通りにはさせない」

 

冷静巾着に話す早乙女の声に秘められるは真逆の熱さ。それは今まで好き類が、奴ら恐竜帝国への逆襲、それであった。

「しっかり掴まってろよ、今から攻撃を開始する」早乙女は活き活きと操縦レバーを押し出した――。

ゲッターロボは前めりになりながら地上へ、恐竜の密集地に向かって降下していく。そして右手に携行していたライフルを構えて地上の、一体の恐竜に狙いを定める。

 

「目標ロック――」

 

モニター画面で照準が恐竜を捕捉。バレル内に青白い光が収束、それが少しずつ輝きを増していく。

それが一定になった時、バレルから解き放たれて球状の蒼い稲光の光弾が二、三発、一瞬で標的の恐竜一体に直撃した。が、強くのけぞったくらいの反応をして光弾は消滅したのだった。

 

「……わかっていたが従来規格のプラズマ兵器では、有効打は無理か」

 

『プラズマエネルギー』

 

 

原子力エネルギーに替わる人畜公無害の次世代エネルギー。

『プラズマ・ボムス』と呼ばれる反応システムによって供給される。

そのシステムをSMBの動力として発展させたのがプラズマ反応炉。そして武器として転用したのがプラズマ兵器である。

その一種として、このゲッターに携行されたこのライフル型プラズマ兵器『プラズマ・エネルギーライフル』である。

だがあくまでSMB標準装備規格であり、出力が高くないためにメカザウルスにはあまり効果がないのであった。

 

「ならば早速、新兵器を使わせてもらう。『ゲッタートマホーク』をな」

 

ゲッターは地面に着地し、両腰の側面にマウントされている、二本の折り畳まれた金属体を取り出すと真っ直ぐに展開。その形はハンドサイズの手斧のような形であるが刃はなく、変わりに柄の部分を握りしめると、刃の部分に青白ではない今度はエメラルドグリーン色の光のビーム刃を発振したのだった。

ゲッターは地響きをたてながら前方の恐竜へ向かって一気に走り出す。ヤツも右肩に装備された、『マグマ砲』の射軸を真っ直ぐ前方に変えてマグマ弾を発射。超高熱を帯びた紅蓮の弾頭がゲッターに勢いよく向かっていく。

しかしゲッターは瞬時に飛び上がり、それを回避。紅い右手に持った斧『ゲッタートマホーク』を振り上げて、そのまま勢いに任せて恐竜の前に落下していき、斧を振り下ろした。

その発振された光線が恐竜の脳天から叩きつけ、縦一線に真っ二つに焼き切ったのだった。

 

動かなくなったのを確認するとゲッターはすぐさまそこから退避、中からおびただしいマグマがまるで人間の血の如く溢れだして、機械がスパークした恐竜はその場で大爆発したのだった。

 

「なんて、強いんだ……」

 

「あ、あの恐竜の化け物が一撃で……」

操縦席でそれを見ていた竜斗とエミリアはゲッターロボの力に思わず唾を飲んだ。

 

「当たり前だろ。一撃で倒せないのなら、恐竜帝国相手に立ち向かうのは無謀だからな」

 

笑み一つ浮かべず、むしろ当然のような顔の早乙女。よほど自分の開発したこれに自信を持っているに違いない。

そして他の恐竜達もこの事態に焦りを感じたのか、一斉にゲッターロボへ向きを変えて動き出した。

「もう少しでマリアが援護に来る。それまでどこまで蹴散らせれるか、データ収集もできて一石二鳥だ」

 

もう片方の斧を取り二刀流に持ち構え、そして走り出すゲッターロボ。

それに反応し、原始の雄叫びを上げながら駆け出す恐竜ども。

そして両者は激突。ゲッターは両手のトマホークを豪快に振り回し、迫る奴らの首を刈り取っていく。

間合いを取る二体の、まるでトリケラトプスのような四足体系の恐竜の背中に取り付けられたキャノン砲から放たれるマグマ弾が、隙をついてゲッターに見事直撃……したかに見えたが、ゲッターの装甲に触れようとした時、その部分が突然蒼白い光の幕が突如発生し、マグマ弾はそれに触れた瞬間、まるで火が水をかけられたかのように消し飛んだのであった。

『プラズマシールド』と呼ばれるプラズマエネルギーによる、自動的に、部分的にエネルギー防御障壁を発生させる機構。従来の機体には装備されてなかった新兵器の一つである。

 

「いいものをくれてやる」

 

ゲッターは目の前の恐竜の顔面に腕を突き出す。殴るのかと思いきやなぜか顔面手前で寸止める。恐竜も一瞬何が起こったか戸惑う。

だが突き出した右前腕の装甲が縦にスライド開放し、中から出現したのは赤色の丸いレンズ。

次の瞬間、レンズがカッと赤色光が発生、恐竜の頭の飲み込む。

光が弱まり、見えるようになると恐竜の頭が綺麗さっぱり消し飛んでいたのである。痙攣するような動きを見せた後、恐竜は横へドスンと倒れた。

次々に最新鋭の機体、ゲッターロボの力によって破壊されていく恐竜。

今まで一体倒すだけにも手間を掛けた奴らが、この一機だけでバタバタなぎ倒されていくのは人類にとってはまさに夢にまで見た希望、恐竜側にとっては悪夢の脅威である。

 

「……スゴいね、リュウト」

 

「うん…………」

 

二人の竜斗の手の震えが止まらなかった。一方、早乙女は。

 

「…………」

 

様子がおかしい。余裕の表情は変わってないが額には大量の大汗が。

胸元を見ると白いYシャツが赤く滲んでいるが……。

 

“司令、海側より飛行型メカザウルス二体が高速でそちらへ移動中。注意してください”

 

コックピットから再び謎の女性の通信が。

 

「……マリア、あとどのくらいでここに着く?」

 

“……それが、私だと出航許可がなかなか下りなくて。しかしいまやっと発進したところで、到着には約十分前後です”

 

「……早くしてくれよ。このままだと私も持ちそうにないんだ」

 

するとゲッターは折りたたんでいた背部の紅い翼を左右に展開させた。

 

「また飛ぶぞ。舌を噛むなよ」

 

「えっ?」

 

力強く飛び上がり、遥か上空へ舞い上がる。

 

「キャアっ!」

 

「~~~っ!」

 

すっかり気の緩んでいた竜斗達は、その衝撃に翻弄させていた。

そしてすっかり夜の空となり、暗くなった景色。海側を見ると被害のない静けさが漂う。暗くて何も見えないが、コックピットでは捉えていた。

 

「な、何あれ?」

 

「……新たな、敵だ」

 

それは翼の生えた恐竜、翼竜と呼ばれる種類。こんなに恐竜が出てくるここは、太古なのかと錯覚してしまう。

迎え撃つためトマホークを構えるゲッター。

一体はまるでジェット機のような速度で、翼竜は考えもなくそのままゲッターに向かってくる。体当たりするつもりなのか。

ゲッターはすぐに上昇して直撃を回避。しかしもう一体の翼竜はくちばしのような尖った口を大きく開け、なんと直線的なマグマをゲッターに向けて勢いよく放射。シールドのおかげに直撃は免れているも単発型のマグマ弾ではなく、まるで放水しているように放射しているために攻撃は途切れず。次第にシールドの幕も段々薄くなっていった。 その時、回避され通り過ぎていったもう一体の翼竜が旋回し、背中からゲッターに豪快に体当たりをかました。

シールドが薄くなっていたのもあり、見事に貫通、ゲッターは大打撃を受けた。

 

「ぐうっ!」

 

早乙女もついに痛みのこもった声を上げた。ゲッターは先ほどの勢いを無くし、なんと墜落しだした。

竜斗とエミリアは今度は急落下するコックピット内で目を瞑りながら座席にしがみつく。

このままでは本当に墜落してしまう、と思いきや早乙女はとっさにレバーを引き上げ、態勢を整えて無事に衝撃を抑えるようにしゃがむように着地した。

 

「早乙女さん、大丈夫ですか……っ?」

 

「どうしたんですか!?」

 

二人は彼の異変に気づいた。息づかいが荒く、身体全体がブルブル震えている。レバーを握る手にも汗でビショビショである。

すぐに前からのぞき込むとYシャツが血で赤く染まっていた。

 

「イヤアーーっ!」

 

エミリアは悲鳴を上げた。

 

「早乙女さん、なんで!?」

 

すると早乙女は一呼吸置き、ゆっくりと話し出す。

 

「……ゲッターロボを開発するのに無事ってわけにもいかなかったのさ。その時にできた古傷がコーフンして開いてしまっただけだ……っ」

 

その様子を見ると、この機体を造るのにどれほどの苦労と危険があったか計り知れなかった。竜斗はゾッとした。

 

「……ところで、君は竜斗といったな?」

 

「は、はい。それがなにか?」

 

すると早乙女は何を考えたのか、こう言い出したのであった。

 

「私と操縦を代われ、竜斗」

 

「……は、はい?」

 

「聞こえないのか、私と代われといったんだ」

 

「えーーーーーっ!!!?」

 

竜斗はひどく動揺し、挙動不審となる。しかし早乙女の眼は冗談ではなく、本気だ。

 

「サオトメさん、何を考えてるんですか!?

リュウトにいきなり操縦しろと言っても出来るわけないでしょ!」

 

「操縦については私が教える。この機体は性能をフルに活かせるように操縦プロセスを簡略化してある。はっきり言って車の運転よりも楽だ。それとも勝手に動かしてもいいのか心配か?それも大丈夫だ、私の権限でやむなく乗らせたとでも言っておく」

 

「けど……」

 

「私の身体はもうもたん。ならそれより元気なヤツに任せたほうが遥かに勝算はある。竜斗、君はどこか身体に不具合なところは?」

 

「い、いえ……特には……」

 

「よし、なら大丈夫だ。なあに上手く扱えなくてももう少しで仲間がやってくる。それまで持ちこたえればいい」

 

だが、予想もしてなかった事態にビクビクと緊張する竜斗。当たり前といえば当たり前だが。

 

「……頼む。このままではこのゲッターどころか、二機すらも守れるか危うい。

そうなれば、人類の滅亡、恐竜帝国の地球征服は確定も同然だ。そうならないためにも今を乗り切らねば未来はない、竜斗。エミリアと共にこの先生きたければ今だけでもいい、武器を握れ!」

 

その言葉に竜斗はぎゅっと両手に握りしめて自分を無理やりにでも奮い立たせる。

 

「……僕は、あなたを恨むかもしれないですよ……」

 

「それでもいい。助かった後で恨み言は好きなだけ聞いてやる、その前に――」

 

「…………」

 

――この時が僕らの地獄の道へ突き進む始まりだった。さしずめ早乙女というこの人は、僕らにとっての閻魔大王である――

 

弱った早乙女を後ろへ回し、操縦席に座り込む竜斗。今から始まる、高校生では到底不可能な初体験を前に思わず緊張でガチガチになる。

 

「リュウト……」

 

エミリアは見守るような眼差しを送る。そして早乙女は後ろから指示を始める。

「……基本的な動作は左右のレバーだ。飛び上がる際は右側の足元にあるペダルを踏め――それから――」

 

次々に繰り出される指示に竜斗は目を瞑り、深く息を吸う。それは彼の癖で、情報を脳内で上手くまとめるようにする仕草であった。

 

「……ではやってみます」

 

竜斗は右ペダルをぐっと踏みこむと、ゲッターは再び飛び上がる。そして翼竜のいる位置にまで飛翔し、停止した。

 

「こわいけど……ここでやらないと」

 

レバーをぐっと押して、翼竜へ向かっていった。そして奴らも再び行動を開始。

今度は二体揃って突進を開始。ゲッターに向かって突っ込んでくる。

するとゲッターはその場で立ち止まり、両手のトマホークを構える。

超スピードで向かっていく翼竜二体。シールドが消耗した今、当たれば確実に機体が粉々になるかもしれない。しかしゲッターは回避行動を取らない、ズシリと構えたままである。

そして二体が急接近した時、ゲッターは瞬時に身体を横に翻して左手を縦に振り切った。横を通り過ぎた近くの翼竜の首が数秒後、胴体とは分断されて飛ばされていった。同時に胴体もグダッと動かなくなり、そのまま地上へ墜落していった……。

 

「ワァオっ、リュウトスゴいじゃない!!」

 

「…………」

 

初操縦でまさかの恐竜を一体撃墜するという快挙にエミリアは歓喜を上げた。しかし当の本人はガチガチである。

「ほう、筋がいいな。何かやってたのかい、竜斗?」

 

「い、いえ……っ」

 

あの早乙女もどこか嬉しそうな口調で誉めたのであった。

 

「……まあいい。次、来るぞ。このまま倒してしまえ」

 

残りの一匹は翼をはためかせて、口をパカッと開けた。

すでに攻撃パターンは分かっていた竜斗はすぐにペダルを踏み込みさらに上昇。瞬間に奴の口からマグマを放射。追ってくるマグマをゲッターは華麗に旋回しながら翼竜へ近づいていく。

 

「竜斗、教えた通りだ。とっておきの新兵器を奴らに見せてやれ。『ゲッタービーム』をな!」

 

彼はゲッターの操縦に神経を集中させている。もはやまばたきすら忘れて。

これは、自分の生まれ育った街をよくもメチャクチャにしてくれたなという奴らに対する怒りを含めて、そして生きたいと言う強い思いが入り混じった感情が彼に作用していた。

そして翼竜の背後に回った時、ゲッターは腹部の中央の装甲に円い孔が開門、中から右腕の内部にあった赤いレンズが出現した。

 

「今だっっ!」

 

右操縦レバーの側面にある赤いボタンを押し込んだ時、レンズが緑色の光が収束し、それが一気に解き放たれた。

それはゲッタートマホークと同じエメラルドグリーン色の極太の光線。翼竜は避けられず全身を呑み込まれた。

甲高い、そして汚い断末魔を上げながら機械と有機体の混ざったそれは原子レベルで分解されていき、一気に蒸発したのであった――。

「ハア……ハア……っ」

 

竜斗は緊張が切れて大きく息を吐きながら、座席シートにもたれる。

 

「リュウト、大丈夫……?」

 

「…………エミリア、俺……」

 

「……ついにやったんだよリュウト。いつもは頼りないけど今回ので見直しちゃった……エヘッ」

 

微笑ましい光景の二人。そして早乙女も見えないとこでニヤリと笑った。

 

「竜斗か……もしかしたら……ククク」

 

――そんな中、再び通信が。

 

“早乙女司令、ベルクラスただいま到着しました。残りの地上にいるメカザウルスを一掃した後、各非難民の救助を開始します”

 

「……よろしく頼む」

 

竜斗達は通信が切れた後、ふとモニターを見ると都市上空で見たことのない、信じられない物体を発見した。

 

「なにあれ……っ」

「あれも私が建造したとっておきだ。ゲッターロボを運用する目的で開発した、これと同じくゲッター線とプラズマ駆動の大型高速移動浮遊艦『ベルクラス』だ」

 

「ベル……クラス……」

 

全長は確実に東京タワーより遥かに巨大で我が物顔で空を飛ぶ、燕のフォルムを有し、洗練した艦船ベルクラス。初めて見る二人はもはや目を奪われていた。

 

“対地ゲッターミサイル発射用意。

目標、地上に展開する各メカザウルス”

ベルクラスの底部両舷に搭載された発射管が全開門し、中から約十を超える細長い物体、ミサイルが爆音と共に発射された。

それらが地上へ急降下していき、そして的確に全弾が地上で暴れまわる残りの恐竜に全て直撃した。

だが大した爆発が起きずに、なんと恐竜が一撃で木っ端みじんと化したのである――。

 

「マリア、今日より我々人類が奴ら恐竜帝国に地獄を見せる番だ――」

 

早乙女はそう言い放った。

 

 

 

――今は知らなかった。これが僕がこの先ゲッターロボに命を吹き込む操縦者になるきっかけだなんて。

今はただ、勝利の美酒に酔いしれていたのだった――

 




一話終了です。


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第二話「恐竜帝国」①

北極圏。一年中氷に覆われている極寒の地である。だがこの近海の海中では今では決して見ることのない太古の魚などが繁殖し、生態系に異変が起こしている。

そしてさらに真下の海底。暗闇で冷たい世界であるここにそれはあった――。

 

――世界人類連合イギリス海軍、最新鋭プラズマ駆動潜水艦『ユークリッドⅦ』。彼らイギリス軍は調査でこの海底を訪れていた。

 

「ここで膨大な熱源反応があったようだな」

 

「ええっ、こんな極地の海底でそんな反応が出るのは異常ですから」

 

「見ろ。海中の有り様を……」

 

彼らはスキャンモニターで周辺の様子を見る。まるで自分達が過去へタイムスリップしたかのような錯覚に陥りそうだ。

「もう少し詳しく調査しよう、『マジェスティック・アクア』スタンバイ」黒い潜水艦の艦首部分が突然切り離されて、変形。人型の機体へ移行した。

 

「これより深海調査を開始する。何かあれば直ちにこちらへ報告、そしてモニターに映像を送信せよ」

 

“了解”

 

イギリス軍の所有する深海探査用SMB「マジェスティック・アクア』は背部の巨大スクリューユニットを回転させて前進していく。白目をした眼部からライトを展開。

暗闇の前方を照らす。

 

「……これはひどい。辺りじゅうプランクトンの死骸が沈澱している。相当この層まで汚染している」

 

内部のパイロットもその現状に目を疑っていた。下降していく地面に沿ってどんどん進んでいったその時――。

“うわあっ!!”

 

「どうしたっ!?」

 

突然、パイロットの悲鳴が。異常を察知した乗組員と艦長がすぐさま応答を試みる。

 

“なんだあれは……っ”

 

“首長竜だ、巨大な首長竜の大群がこちらへ向かって……ギャアアアアっ!!”

 

……通信が途絶え、ソナーでの機体の反応が消失。潜水艦ユークリッドの乗組員全員はその場で凍りついた。一体何が起こったのであろうか……。

 

――そして、機体が消息を断った場所より遥か下には……大量の首長竜の大群がまるで何かを守護するように広範囲を散開しながら泳いでいるのを。

そしてその中央には謎の巨大建造物が確三基。それは幾つもの蛸壺のような突起物が突き出た卵の形状である。全長は裕に数キロは超える。

 

その不気味な三つの中でも中央に位置するそれの内部……そこでは。

 

「永き年月……我々爬虫人類は住みにくいマントル層近くに追いやられ、気がつけばあのサル共に地球を我が物顔で蹂躙されたこの屈辱。

今こそ奴らを殲滅し、地球をこの手で取り戻し我々爬虫人類の楽園を築くのだァ!!」

 

“帝王ゴール様、バンザーイっっ!”

 

ここは地球で別に進化したもう一種の知的生物である、爬虫類を祖先とした『爬虫人類』の軍団、恐竜帝国。

その本拠地である移動基地『マシーン・ランド』。

内部の巨大な集会場の中央台に立ち、約何千人以上集まるこの場で力強く演説するは爬虫人類の王族で統率者であり、現恐竜帝国総統である『帝王ゴール』こと、ゴール=ウ=ザーラである。

 

「再び我らが地上の光を手に!我が同胞よ、武器を持て!!そして自らの手であの下等生物から地球を取り戻すのだァ!」

 

集まった大多数の爬虫人類の兵士が手を振り上げて歓喜と士気を上げている。ゴールはこれほどまでの支持力を持つ人物であった。

 

そして彼ら兵士にとっても、ゴールの発言は絶対であり、そして尊敬の畏怖を両立した存在であったのだ。

 

演説が終わり、自身の玉座の間へ向かう。

歪で尖ったな岩と様々な太古の草木と花で覆われた飾りと紫色と血ような深紅のインテリアカラーで施されたここは、人類には考えられない美的感覚からのインテリアなのであろう。

 

「お父様……」

 

玉座の横に一人の女の子が立っていた。

緑色でウロコで覆われるそれは間違いなく爬虫類と同等であるが、顔は他のトカゲに似た爬虫人類ではなく、人類に近い、いや同一と言ってもいいほどの輪郭と各顔の器官が酷似し、十代前半の可憐で清純な雰囲気を持つ乙女であった。

 

 

ゴーラ=ブ=ライ。ゴールの愛娘であり、王女でもある。

 

 

「ゴーラか、どうした」

 

「……どうして私たち爬虫人類は地上の人々を迫害するのですか?」

 

「…………」

 

「共存という道もあるのでは……」

 

その問いに黙りこむゴール。玉座に座り込むと深く息を吐いた。

 

「……ゴーラよ、お前は今年で何歳になる?」

 

「十四歳と六ヶ月になります、お父様」

 

「そうか……」

 

彼女の頭を軽く撫でて、父親らしく優しい笑みを見せた。

 

「お前は何も気にしなくてもよい。もう少しで我々爬虫人類がこんな暗闇から光ある地上へ上がれる時が来る。その時は、わしは表舞台から姿を消し、お前自身の手で我らにとっての楽園(ユートピア)を築き上げるのだ。

なあに大体のことは側近や家来がしてくれるから心配するな」

 

「……」

 

だが彼女の表情は複雑である。

この質問は今日に始まったのではない、前にも同じ質問をしたが結果はもう判る通り、殆ど同じ答えしか返ってこないのでだった。すると、隅から家来が彼の元へ。

 

「ゴール様。ラドラ様がこちらへおこしいただいておりますが」

 

「ラドラか。通せ」

 

家来が入り口へ向かうと扉を開ける。すると姿を現したのはきりっとした態度の、騎士道精神溢れる雰囲気を持つ爬虫人類の凛々しい若人。着込む金色の甲冑と兜がその地位を表している。

 

――ラドラ=ドェルフィニ。

平民出身でありながらキャプテンと呼ばれる恐竜帝国の誇り高き若きエリート戦士である。

 

「帝王ゴール様、私をお呼びしていただきありがとうございます」

 

「うむ。ラドラよ、そんな堅苦しくならなくてよい。

見る余も気疲れする、そなたの亡き父リージ共々親しい仲ではないか」

 

「……も、申し訳ございません。それで私にご用件とは?」

 

「配属の件についてだが、これから日本地区の北海道、大雪山地下で駐屯している第十二恐竜中隊と合流してほしくてな。

ラドラよ、そなたにはそこで中隊司令官としての権限を与える」

 

「それはありがたきお幸せでございます」

 

「そのことについてはすでに向こうとは連絡がついておる。ラドラよ。そなたのために、我が恐竜帝国の誇り高き開発兵器部門による最新鋭メカザウルスを用意しておいた。一刻も早く日本制圧を行ってくれ」

 

「御意!」

 

「では、行けラドラよ。幸運を祈る」

 

ラドラは自室に戻り、身支度する。

終えた後、中央の壁に飾る黄金の装飾がなされた長剣に向かって黙祷する。

 

(父さん……行ってきます)

 

そしてメカザウルス専用格納庫へ向かう通路へ向かう途中、

 

「ラドラ様!」

 

振り向くとゴーラが彼を追いかけてきていた。

 

「ゴーラ様、どうなされましたか?」

 

「……ラドラ様。どうして地上の人々と戦わないといけないのですか?」

 

「……ゴーラ様」

 

「わたしはおかしいと思います。人類も私たちも同じ地球に住む生物同士、和解し合い共に生きるという選択肢もあるはずです……なのに……」

 

ゴーラの悲痛な思いに彼も困惑した顔になる。

 

「……私はキャプテン・ラドラ。帝国に忠義を尽くす者。ゴール様の命令は絶対なのです」

 

「…………」

 

するとラドラは穏やかな顔をして、彼女を見つめた。

 

「ゴーラ様、あなたは心優しいお方だ。

わたしも地上の人間達と触れ合いたいとは思っているが……それが叶うことかどうかはわかりません。ただ今は、自分に課せられた使命を全うするだけです」

 

 

 

そう言い、ラドラは去っていく。

 

「どうして……地上の人々の……何がいけないの……っ。誰も傷つくのを見たくないのに……っ」

 

そして彼女も彼の後ろ姿を見ながら、瞳から一粒の涙を流したのであった――。

 

彼は格納庫へ向かい、すぐさま自分に与えられた最新鋭メカザウルスのドックへ。白衣を着た数名の開発スタッフであった。

 

「お待ちしておりましたラドラ様。あちらが貴方の専用機でございます」

 

「これが私の専用機・・・」

 

その姿は兜を被る人型の大トカゲともいえる姿、背には折り畳まれた翼竜の翼、背中に長剣が取り付けられ、そしてSMBやゲッターロボのように独特の形状をしたライフルを右手に携わっている。まるで悪魔の様でありつつもその凛々しく堂々とした出で立ちは騎士を思わせる。

 

「ガレリー様率いる我々開発チームが総力を上げて開発した試作機『ゼクゥシヴ』。新技術、兵器を搭載した新世代型メカザウルスでございます」

 

担当のメカニックマンから機体についての説明を受け、彼は機体の胸内に乗り込み、コックピット座席に座り込む。

同時に機体を乗せたカタパルトテーブルが動き、その真上にある外界への上部ハッチが開放する。

 

 

“『アルケオ・ドライヴシステム』稼働開始。

『ヒュージ・マグマリアクター』正常運転中。マグマの機体循環量、全て許容範囲内です。

耐水圧コーティングフィールド展開、パイロットは直ちに耐衝撃態勢に移行してください――”

 

オペレーターから発進態勢の通信が入るとコンピューターを動かして各システムを起動、左右の操縦レバーを握るラドラ。

 

“ヒュージ・マグマリアクター出力レベル1、2、3、4、5。『メカザウルス・ゼクゥシヴ』発艦スタンバイ”

 

「キャプテン・ラドラ、『メカザウルス・ゼクゥシヴ』発艦する」

 

瞬間、機体を乗せたカタパルトテーブルが急上昇。

そして長く垂直の通路を昇り、機体はマシーン・ランドの突起物から海中へ射出された。

そこから機体はさらに急上昇して海面へ向かう。

水しぶきを上げて海中から飛び出た機体『メカザウルス・ゼクゥシヴ』は海上数十メートル地点で背中の翼を展開、進路を日本の北海道へ進路を取り、巨大ブースターを点火し急発進。

ほぼ音速に近い推進速度で遥か上空を駆け抜ける。

 

「うぐぅ……なんたる出力……これが最新鋭メカザウルスか……」

キャプテンという恐竜帝国の中でも上位に位置する戦士であるラドラでさえ、そのパワーに翻弄されかける。

それほどこのメカザウルスは強力な機体である証拠である。身体が飛行速度になれた頃、彼はふとゴーラの言っていたことを思い出す。

 

(……確かにゴーラ様の言うとおりかもしれないな。

ゴール様はなぜあれほどまでに地上人類を敵視するのだろうか?

元はと言えば我々から攻撃を仕掛けたのだが……)

 

彼もまたゴーラと同じく、至上主義者が多い爬虫人類の中でも数少ない人類への理解、そして和平、共存を望む人物である――。

 



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第二話「恐竜帝国」②

……僕は、夢を見た。それは不可思議な夢であった。

紅蓮の炎に染まる自分の町中で恐竜達に追い回される夢である。

僕は必死に逃げた。誰かに助けを求めた。だが、誰も助けてくれないどころか人一人も見当たらない。まるで自分だけが生き残ったかのようだ。

泣きそうになる。このまま踏みつぶされてしまうか、もしくは喰い殺されてしまうのか、自分の最期のシーンが鮮明に思い浮かばれる。

だがその時、何かによって恐竜は横に吹き飛ばされた。僕は振り返り見ると、そこにはな赤鬼の姿をした正義の巨人が立っていた。

 

……僕は口を大きく開けたまま立ち止まった。徐々にそれが興奮として胸の鼓動が高まった。

 

……これなら、やれる。僕の平和な日常を破壊したあの恐竜達に……復讐できる、と――。

 

「……あれっ?」

 

竜斗は目覚めた。真っ暗で何も見えないが、ここは自分の部屋ではない。

それは自分のいつも寝るベッドの感触と、匂いですぐ分かる。

体を起こしてベッドから立とうとした時、突然扉が開くと同時に部屋の照明がパッとつく。

 

「リュウト、やっと起きた?」

 

「エミリア?」

 

扉に立っていたのは彼女だった。どうやら自分を起こしにきたらしい。

 

「ここは……どこ?」

 

「覚えてないの?ここはサオトメさんの造った空飛ぶ戦艦『ベルクラス』よ」

 

……彼は徐々に思い出していく。そう言えばあの戦闘の後、そのまま自分が操縦したゲッターロボをこの艦に搬入して、借りた部屋で泥のように寝てしまったことを。寝癖だらけの頭を掻いて、大きくあくびをする。

 

「外で待ってるから早く身支度しなさい。今からサオトメさんが話があるから来いって」

 

「早乙女さんが……で、ところで身体大丈夫だったのあの人!?」

 

「治療を受けて今はピンピンしてるわ、あの人」

 

「…………」

 

彼はすぐに部屋に都合よくあったシャワールームで髪を洗い、乾かす。

なぜか着ていたはずの私服が見当たらないので、部屋内のクローゼットを見ると誰の物か分からない男性用の私服を見つけ、とりあえずそれに着替える。エミリアも今まで見たことのない服を着ていたのだから自分と同じくそうしたのだろう。

そして部屋から出ると、エミリアが笑顔で出迎えた。

 

「じゃあ、行こっか」

 

二人は艦内の通路を歩いていく。床にはほぼホコリなどがなく、ギラッと金属光りのする壁、そして特有の青臭い匂いから、この艦は新品であることを表している。

 

「……俺達の町はどうなったのかな……?」

 

「サオトメさんが言うには壊滅状態だって……アタシ達の家も破壊されてもうないかも……」

 

「父さん達は……」

「探したけど、ここに非難した人々の中にはいなかったわ。それに、ワタシのお父さんもお母さんも……っ」

 

「ウソだろ……まさか……」

 

深刻そうな表情の二人。それはそうだ、自分の両親の安否が不明だなんて……最悪の場合も十分に考えられる。

 

今はともかくあの男、早乙女に会って色々聞くべきだと考えて彼のいる場所へ、彼女に連れられて向かう。

それにしても彼女、エミリアはよくここの位置や通路を把握していると彼は思った。

おそらく自分より早く起きて、艦内を歩き回ったに違いない。

 

「なあエミリア」

 

「ん?どうしたのリュウト?」

 

「俺、あのゲッターロボっていうSMBを操縦したんだよな……」

 

「うん。あんなロボットを造ったサオトメさんもスゴいけど、あれを難なく乗りこなしたリュウトもものすごくカッコ良かったよ、ハートがキュンときちゃった」

 

「……それはどうも」

 

あの時緊張していて、どうやって操縦して、行動して、攻撃したかは全く覚えていない。

だが、感触はあった。ゲッターロボの操縦レバーを握ったあの感触が今でもリアルに残っているほどだった。

彼はずっと手のひらを見つめながらしきりに握り開いたりしていた。

 

「……リュウト?」

「いや、なんでもないよ」

 

……そして彼女に連れられて向かった先は艦橋(ブリッジ)と呼ばれる場所。

自動ドアで中に入ると、沢山の最新式管制コンピューターに囲まれた広い指揮所。窓から見える景色は大空が見える。どうやら飛行中のようだ。その中央に早乙女とその横に、白衣を着込んだ謎の女性がこちらを向いて立っていた。二人は彼らの元へ向かい、対面する。

 

「やあ竜斗、やっと起きたか。気分はどうだ?」

 

「……まあそこそこです。早乙女さん……あの……」

 

「質問はあとだ。まず紹介しよう。私の助手であるマリアだ」

 

彼は横の女性を注目させる。ポニーテールの金髪、長身でスリムな体型をした何とも知的な雰囲気を漂わせる麗人である。

だがその顔から分かるのは、エミリアと同じく日本人ではないことだ。

 

「私はマリア=C=フェニクスと言います。あなた達のことは早乙女司令から話を聞いているわ、よろしくお願いします」

 

エミリアと同じく日本語が流暢、アクセントも完璧であると。おそらく並みの日本人よりも綺麗な発音をしていると思う。

 

「彼女はイギリス人なんだが日本語についてはエミリアと同じく堪能だから安心してくれ。

それにエミリア、もし君が英会話などもしたかったらマリアはもちろん対応できるから安心してくれ。

彼女はそんじょそこらの人間よりも優秀な人物だ」

 

彼のどこか冷たい言い方に引っかかる。

 

「まあ、とりあえず私も自己紹介しておくか。

私は早乙女。下の名を呼ばないのに引っかかるかもしれないが気にしないでくれ。

私の身分や詳細も国家機密なんでね。

表上の身分は日本防衛省、自衛隊所属で階級は一佐だ。

そしてあの時話した通りゲッターロボとこのベルクラスの開発主任及び艦長を務めている男だ」

……二人にとって何を言っているのかちんぷんかんぷんだ。ただ分かることは、彼は自衛隊側の人間であることだ。

 

「……さてと、私の話はそれくらいにして、質疑応答タイムといこうか。

君が聞きたいことがたくさんあるだろうし、なあ竜斗」

 

相づちをうつ竜斗は一呼吸置いて、こう聞いた。

 

「僕らの町は……」

 

「壊滅状態だ。メカザウルス共が暴れまわったおかげであれではしばらく人は住めないね」

 

「メカザウルス……?」

 

「あの恐竜共のことだ。我々は暗号名でそう呼称する」

 

 

機械化された恐竜。まさにそのままの、分かりやすい名称である。

 

 

「エミリアから助かった人々はここに避難したと聞きましたが、どこに……」

 

ここに来る途中で避難してきた人はおろか誰一人とも会ってはいない。

 

「避難民はすでに自衛隊の管理下に任せて降ろした。だからこの艦内にはもういない」

 

「え……っ、ならなぜ僕達がここに残ってるんですか?」

 

すると早乙女は何か物言いたそうな目をして彼を見る。

 

「そのことなんだが竜斗。君に折り入って頼みがある」

 

「え?頼み……とは」

 

「単刀直入に言おう。ゲッターロボの専属パイロットになれ」

 

――突然の不可解な頼みに最初は理解できなかった。この人の存在自体すら否定しようとしたほどだ。僕は混乱した――

当然の如く、竜斗達の目が点になり呆れかえった。

『何を言い出すんだこの人は』と、二人の考えがシンクロした。

 

 

「サオトメさん……アナタは本気で言ってるんですか?」

 

「ああ、本気だよ。それ以外になにがある?」

 

最初に口出したのはエミリアだった。

 

「なんでリュウトなんですか!バカなことを言わないで下さい!」

 

「私は常識というものは大嫌いでね。それにエミリア、私は君に言っているのではない、竜斗に言っているんだ。口出さないでもらいたい」

 

エミリアは苦虫を噛み潰したような表情を取る。

 

「……僕は、あんなのに乗る気は全然ありません。僕らも安全な場所に降ろしてください……」

 

断固拒否する竜斗。当たり前である。

なんで平凡な生活をしてきた高校生の自分が突然、あんな軍事兵器に乗らないといけないのか、言われないといけないのか。

「高待遇で迎えよう。私の権限を使って君に自衛官として階級を与えることもできるし給料も当たる。

艦内を自由に使用するといい、自室も与える。

困ったことがあればマリアに聞いてくれ。彼女はカウンセリングもできるから悩み相談にも対応できる。

それにエミリア、竜斗と一緒にいたいなら君も同じ扱いだ。君らは凄く仲が良さそうだから、気持ちは軽くなるハズだ――」

 

竜斗の訴えをことごとく無視する早乙女。次第に苛立ちを募らせていく彼は……。

「……嘘つきじゃないですか。あの時ゲッターの操縦は今だけでいいと言ったじゃないですか……なのに……っ!」

 

「ああっ、始めはそのつもりだったよ。君がゲッターロボを上手く操れると知るまでは」

 

「……」

 

「あんな状況下で、しかも簡単な口述指導をしただけでメカザウルスを二機撃破するとは恐れいったよ。

君にはパイロットとしての素質は凄まじいものがある。私は決めたね、君以外に考えられないと」

 

 

「な、なんで自衛官の人を乗せようしないんですか!その方が僕なんかより確実じゃないですか、正規のパイロットがいるんじゃ――」

 

 

「いや、まだ決めてなかったんだ。造るのに時間をかけ過ぎたこともあったが、何よりゲッター線という謎のエネルギーを使用したこのSMBを皆気味悪がってな、誰も乗ろうとしないんだ。ナンセンスなヤツらだよ全く――」

「……だからそんな代物をいきなり扱えた僕に、これからあの恐竜達と戦えというんですか……死ぬかもしれないんですよ!

それに、この戦艦は凄く強いじゃないですか、ならなんでこれで戦わないんですか?」

 

 

「いっておくがベルクラスは戦闘艦ではない、あくまで『ゲッターロボの運用、支援目的』で開発したものだ。

それにいくら武装しようと小回りが利かなければ要所要所では役に立たない。ベルクラスではなく、ゲッターロボが戦闘の主体となる。

我々も全力でサポートするし、君もパイロットとして経験を積めば生き残れる可能性はぐっと高くなる」

 

「…………だけど、ただの高校生の自分が軍用機に乗り込んで戦うなんて……非現実的です……」

 

すると早乙女はフゥと息を吐き、背を向けた。

 

「石川竜斗。十七歳、〇〇高校二年生。だが学校は恐竜帝国の侵略で無期学校閉鎖中――」

「なっ……」

 

二人は唖然となった。この男、自分の詳細をペラペラと話出したのである。

 

「学校成績は中間より少し上。部活動は帰宅部で学校では地味で目立たないらしいな。

読書、ゲーム、パソコンについて詳しいらしく運動は得意じゃない……今流行りの草食系男子か。

あと、とある女子生徒からイジメを受けていたみたいだね」

 

「…………っ!」

 

「なんで……っ」

 

竜斗の顔が引きつり、エミリアは思わず口に手を押さえた。

 

「そしてエミリア、君は同じ高校に通いその度によく彼を助けようと仲介に入っていたらしいな。

そしていつもの如くその女子生徒と殴り合いの喧嘩ばかりしていたとあるね、君は竜斗と違ってなかなかの行動派だ」

「な、なんでそこまで……っ」

「竜斗、私は思うんだ。君には世界を救う才能があると。

だがその気弱な性格がその才能を殺すのだ。

まったくこの日本には、『草食系男子』などという柔い男が増えたものだ」

 

「…………!」

 

彼の発言に神経が逆なでされた竜斗だが、ブチキレるという一線を越えることはなかった。

理不尽なことを言われても結局、そういう感情を抑え込んでしまう彼もある意味悪いのかもしれない。

「そうそう、なぜ私が君達について知っているか?

理由はとある人物から情報を提供してもらったんだよ。

誰かは秘密だがこの艦内にいるのですぐに分かるだろう、ククク」

 

不敵に笑う早乙女。一体何を考えているか全く予想つかない。

 

「……とにかく僕は、ゲッターロボのパイロットになる気はこれっぽっちもないですからっ!」

 

「リュウトっ!」

 

彼は不機嫌そうな表情をしてこの場から出て行く。エミリアも彼を追っていった。

その後マリアは彼の方をじっと見る。それも軽蔑するような冷たい目で。

 

「あなたって人は最低ですね。

出会ったばかりの男の子にゲッターパイロットを強要させるなんて……」

 

「最低……ね。それでも構わん。

人類存亡がかかっているんだ、目的のためには、良心などとっくの前に捨ててるよ」

 

「…………」

 

そう平然と言い切る彼であった。

 

「それに思うんだ。彼はどうあがこうとゲッターロボに乗ることになるとな」

 

「……それは司令お得意の勘ですか?」

 

「ああ、昔からよく当たるんだよこれが」

 

……そして竜斗達は、通路をただ歩いていた。どこに行くかも分からないまま。

「なんて自分勝手な人かしらまったく、リュウトの気持ちを考えなさいよもう……」

 

プンプンするエミリアに不安からか俯く竜斗。そんな彼を見てエミリアは優しく励ます。

 

「リュウト大丈夫よ、あんな人の言いなりになっちゃダメ。

サオトメさんより横にいたマリアさんって人に相談すれば、きっとここから降ろしてもらえるわよ」

 

「…………」

 

「もしリュウトに何かあったらアタシは絶対に許さない。たとえサオトメさんであっても真っ向から立ち向かってみせるんだからっ!」

彼女の竜斗に対する接し方はまるで友達以上だ。まるで彼のことを分かっているみたいだ。

この二人の場合は小学校前からの付き合いだからかもしれないが……。

 

「……それにしても、アタシ達のことを教えた人って誰かしら?ここにいるって聞いたけど……」

 

その疑問を持ちながら、ブラブラ歩いていた。

その時、前の通路から誰かが歩いてくる。二人はよく見ると……。

 

「げえっ、ミズキっっ!?」

 

なんと、街で両親を探していたハズの同級生、愛美がそこにいたのであった。

 

「……なによ、マナをまるで汚物みたいな言い方して」

 

「な、なんで水樹がここに……っ」

 

竜斗は怯えていた。それもそのハズ、学校で彼をイジメていたという女子生徒というのが、何を隠そう彼女だからである。

 

「どうだっていいでしょう……今はマナは傷心中なんだから……」

 

「えっ……なにがあったの?」

 

「アンタ達には関係ないでしょ、どっかいけ!」

 

「なによ、人が親切にしようとしてんのに。本当は聞いてほしくてたまんないんじゃないの?」

 

「相変わらずムカつくヤツね、この外人女!!」

 

「なんですってエっっ!!もういっぺん言ってみなさいよオ!!」

 

……一方、その頃早乙女とマリアはこんなことを話していた。

 

「今、竜斗達が彼女と出くわしたらどうなると思う?」

 

「……高確率で大喧嘩になると思います」

 

「私はあえて無視するにしよう。百円賭けないか?」

 

「……イヤです」

 

その予想結果は……。

 

「オラアふざけんじゃねえよ、このケバすぎファ〇クオンナァァァっ!!」

 

「ブス外人のくせに生意気なクチゆうんじゃねえクソオンナァァァっっ!!」

 

「ひいいいいいいっっ、だれか止めてくれーーーーっっ!!」

 

……マリアの予想が的中していた。

 




二話終わりです。


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第三話「デビュー戦」①

……竜斗は一人、艦内後部にある格納庫の鉄橋から配置された自分の乗った空戦型ゲッターロボを憂うつそうに眺めていた。

イヤだと言ったが強引にこれから乗らされるハメになるのか……と。

 

そして隣のドックには、どうやら彼のいっていた例の別のゲッターロボと思わせるSMB二機が横並びに搬入されていた。

隣の機体は全体的に白を基調とするスラッとした体躯で第一印象はイカを思わせるデザイン。

右腕がペンチ状のアームで左腕にはこの機体の象徴ともいえる身の丈程の巨大なドリル。採掘工事でも行うのかと思ってしまう。

 

奥の機体は黄色を基調とする……どこかで見たことのあるデザインであるが。

と、彼はすぐに脳内で思い浮かんだ。

あれだ、日本製SMB、BEETタイプだ。

両肩には取り付けられた太い筒、つまりキャノン砲、両腕がよく伸びそうな蛇腹状である以外は何の特徴もないただのBEETにしか見えない。

あと彼の後ろにはBEET二機が予備で搭載されている。

 

 

後に聞いた話だが、白い機体は、

 

『SMB―GR02G陸戦型ゲッターロボ』

 

黄色の機体は、

 

『SMB―GR03A海戦型ゲッターロボ』

 

と呼ぶらしい。

 

……なるほど。三機で連携を取り合って運用するわけか。

だが、これらの機体を一体誰が操縦するのか。

(なんで俺が……他にも俺よりいい人材がいるだろ、なのに……)

 

竜斗は早乙女の言っていたことを思い出す。

 

『君には世界を救う才能がある。パイロットとしての素質がある――』

 

確かに嬉しかった。こんな何の魅力もない自分にそう言ってくれたのは彼ぐらいだ。

だけど、これは遊びではない。

架空のゲーム内ならまだしも、これは実戦で死ぬという現実(リアル)の問題が発生するのだから。

正直戦いたくない、死にたくない、そして平凡に生きたい。

今、彼の気分は最悪だった。

 

「ここにいたの?」

 

エミリアがここに来る。彼の複雑な表情を見て、彼の横に立つ。

 

「ゲッターロボね。確かにリュウトが操縦するならあのメカザウルスってヤツらをけちょんけちょんにできるかもね」

 

……軽く言ってくれるよ。自分はそれで悩んでるのに……。

 

「けどまさか水樹までここにいるなんて……」

 

話によれば、愛美は地下シェルターに行く自分達を振り切り、自分らと同じく両親を探しに行ったが見つからなかったらしい。

それで悲しんでいたと言うのだが……。

 

「大丈夫、アタシがあんなヤツを近づけさせないから。リュウトは安心して」

 

「……エミリアって昔からホント、俺を庇うよな。姉かよ」

 

「お姉さんねえ……それもいいかも♪

なんつったって、アタシとリュウトは『お尻のアナまで見た仲』なんだからね♪」

 

竜斗は思わずブハッと吹き出した。

 

「お前女なんだからもう少し上品な喩えを言えよな!!」

 

……決してイヤらしい意味ではなくそれほど親しい仲という意味なんだろう。

しかしながら彼女は、表現をどストレートにもの言うことが度々あるが、これも外国人(特にアメリカ人)の血筋なんだろうか……?

 

「リュウト、食堂に行こうよ。もうお昼ご飯だよ」

 

「う……ん?ああ、もうこんな時間か」

 

「マリアさんから食堂も自由に使っていいって言われたの。今は悩むより、お腹いっぱいにしたほうが少しは気は紛れるよ」

 

彼はそうやっていつも気遣ってくれるエミリアに凄く感謝していると同時に、男として情けなくも感じているのであった。

二人は、ここから後にし艦内の食堂へ向かう。

 

「学校行ってた時は教室で友達と仲良く話しながら弁当だったなあ」

 

「アタシは購買いってよく惣菜パンとか買ってたわ、仕方ないけどね」

 

「エミリアんちはどっちも共働きで朝早いもんなあ。

けど休校になったら昼になるとよく俺んちに来て飯食べにくるしな」

 

「だって二人とも家にいないこと多いし家で一人ご飯食べても寂しいもん。そのお礼にちゃんと洗い物とかお掃除とかおばさんの家事のお手伝いしているからね。

リュウトと家が近くてよかったあ」

 

「そういえは父さん達はこう言ってたよ。エミリアはウチの娘みたいだって。よかったな、俺ら家族ぐるみの付き合いで」

 

「うん♪」

 

ここに来て久々に笑顔で話をする二人。

食堂へ入るとそこには数人の作業服を着た男性がすでに食事についていた。どうやらベルクラスの乗組員のようだ。

 

「こんにちわ」

「おう。君達は早乙女一佐から話を聞いてるよ。ゲッターロボの初操縦で快挙を成し遂げたってな」

 

「まだ高校生らしいのにやるねえ」

 

「いやあ……その……ハハッ」

 

照れる竜斗にエミリアはニヤニヤしながら肘で彼をつつく。

 

「何だかんだでいい気になってんじゃないの♪」

 

「ち、違うよーーっ」

 

「顔に出てるよ。リュウトはほんとわかりやすいわよね」

 

「……」

 

二人は食器をトレーに入れて、昼の献立と思われるスープ入り鍋や、サラダ、飯の入った大きな金属箱の置かれたテーブルへ行く。

どうやらここはセルフサービスのようだ。

二人は食器に飯、スープ、惣菜などを並々に盛っていく。

テーブルに着くと二人揃って『いただきます』と、同時に食べ始めた。

 

エミリアは長く日本に住み、そして両親の影響を受けてか大の日本びいきであり、何よりも日本食を好む。

彼女の上手に箸を使いながら、炊いた米を美味しそうに頬張る様子から伺える。

「お前って多分、今の日本人よりも日本人してるよ」

 

「当たり前よ、生まれは違えどアタシの心はヤマトナデシコなんだから」

 

しばらくするとあの問題人物、愛美もここにやってくる。彼女は彼らのそばを通りかかるも、互いにシカト状態だ。

飯を盛り付けると、彼らと離れた席で座り、一人飯を食べる。

竜斗はそんな彼女を黙って見つめていた。そしてエミリアは彼の様子に気づく。

 

「……ミズキが寂しそうに見える?」

 

「……」

 

「しょうがないわよ。アタシ達と合わないコなんだから」

 

彼はふと見てこう思った、ひとりでいて寂しくないのだろかと。

 

確かに学校内では、所謂ギャル系でぶりっこカワイさの地を行っていた彼女は社交性が高く友達もたくさんいた(もちろんギャル系友達だが)。

家が金持ちでもあったので『マナヒメ』などと呼ばれてもてはやされていた彼女も、今はどんな心境なんだろうか。

 

「リュウト、早く食べないと冷めちゃうよ」

 

「あ、ああっ」

 

食べ終わり、二人は食器の返却棚に置いて出ていった。

 

「今からどうする?」

 

「……暇だしとりあえず艦内をぶらつこうか。腹ごなしのために」だがその時、艦内に甲高いサイレンが鳴り響く。そばの緊急ランプも赤く点滅している。

 

“北海道方向から多数の飛行型メカザウルスがベルクラスへ接近中。

直ちに迎撃態勢に移行せよ!”

 

こんな時にヤツらが攻めてきたのか、二人は狼狽した。

 

そして早乙女とマリアは艦橋内の巨大モニターでその光景を見ていた。

大空から多数の物体。竜斗が撃破したのと同じメカザウルス数機。

そしてジェット戦闘機のような持つ小型の翼竜数十機が群れをなして来ている。後方には古代の怪鳥だと思われる姿の巨大母艦一隻の部隊がこのベルクラスの方へ向かってきていた。

 

「恐らくは一個小隊規模だろう。前の戦闘でついに我々の存在に気づいたんだろうな」

 

「交戦を避けますか?」

 

「無理だな。むしろやらねば追撃されて面倒だ。直ちに本艦ベルクラスは迎撃態勢、各機関砲、大型プラズマシールド展開」

 

「了解。『艦内に連絡する。これより数分後に敵小隊と交戦を開始する。

直ちに各員は配置完了し、それ以外の者は衝撃に備えよ』」

 

マリアは冷静に艦内放送でそう促し、各乗組員は直ちに行動開始した。

 

「竜斗よ。ここが君にとって正式の初出陣になりそうだな」

 

彼はこんな時にも関わらず不敵にニヤリと笑っていた――。

 

……そしてついに、両者はぶつかった。ベルクラスは艦首の両舷に武装した多数の機関砲で弾幕を張る。

一方、各メカザウルス達は八方に展開し、実弾型ミサイル、マグマ弾、機関砲をベルクラスへ一斉砲火。

だがゲッターロボと同様の青白い膜、プラズマシールドが艦全体に展開されて全てを遮断した。

 

「シールドのエネルギー残量約85%。今はまだ大丈夫ですが、このまま攻撃され続けられればシールドを破られるのは時間の問題ですよ」

 

「…………」

 

早乙女は黙ったままだ。だが焦る様子もなく、相変わらず何を考えているか分からない人物だ。

 

「とりあえず主砲、スタンバイしてくれ」

 

「了解」

 

艦首の外装甲が左右に開き、中から円状の巨大な砲門が姿を現した。彼はモニターを見る。メカザウルスの数が徐々に増えている。それは後方の母艦から次々と出撃しているのが分かる。

それはメカザウルスの弾薬などが消耗すれば帰艦して補給を受けることもできるわけだ。

どうやらあの敵艦は武装などなく空母機能のみのようだ。

 

「早乙女さん!」

 

突然、竜斗達が彼らの元へ駆けつけた。早乙女とマリアは二人の方へ振り返る。

 

「お、君たちか」

 

「い、一体何が起こってるんですか!?」

 

「分からないか。モニターにある通りだ」

 

あの恐竜、メカザウルスの大軍が自分達の艦に辺り一面に囲んで一斉攻撃しているのを。

今はシールドのおかげで攻撃を受けても衝撃こそはないが異様の光景である。

 

「今はシールドを張っていて無傷だが、当然エネルギー残量に限りがある。

いつ破られてもおかしくない状況だ。この数ではさすがに対処しきれん」

 

「…………」

 

「これを打開できるのはあのゲッターロボだけだ。今主砲を後方の敵母艦に向けてチャージ中だ。発射まででも持たせればこちらの勝ちなんだが」

 

竜斗はその遠回しの言葉に両拳を握りしめた。

 

「僕に……また乗れというんですか……っ」

 

「あのゲッターロボを動かせるのは今は君だけだ。マリアにここを任せてもいいんだが私はあの時見た通り、ゲッターロボに耐えられない身体だ。

どっちにしろ、このままではベルクラスは撃沈は必須だ。

そうなれば私達はもちろん、君達、いや艦内の人間は全員死ぬ」

 

「…………」

 

「考えてる暇はないぞ。生きるためにゲッターロボに乗り込むか、それともこのままウジウジしながら全員海の藻屑になるか……さあどちらを選ぶんだ!?」

 

その選択を突きつけられた竜斗は歯ぎしりを立てた。

 

「……正直、僕はあなたと出会わなければよかった。こんなことになるなら……。

分かりました、乗ればいいんでしょう……乗れば……っ」

 

「リュウトっ!?」

早乙女はまた不敵な笑みを浮かべる。

 

「よくいってくれた。それでこそ男だ。マリア、今すぐ彼を格納庫へ。

パイロットスーツに着替えさせて、ゲッターロボに!」

 

「……了解しました」

 

「マリア、私が竜斗を通信で色々サポートする。戻り次第、君はベルクラスを頼む」

 

マリアはすぐさま竜斗の元へ。

 

「竜斗君、行くわよ」

 

「……はいっ」

 

しかしエミリアは今にも泣きそうな顔で竜斗をすがる。

 

「リュウト……どうして……何かあったらアタシ……っ」

 

「エミリア……大丈夫……俺、やってみるよ。このままだとみんな死ぬかもしれないし、これで助かるなら……気弱な俺でも役に立つんなら」

 

そう言い、彼はエミリアと別れてマリアと共に駆け出していった。

 

「エミリア、君はここにいて彼の無事を祈るか?」

 

「……サオトメさん、アタシはアナタほど憎く思った人はいません。オニみたいな人だ……っ」

 

涙を流し、顔を赤くして恨みをぶつけるエミリアに早乙女は……。

 

「その通り、私は『鬼』だ。

好きなだけ恨んでくれ、ただ――」

 

「……?」

 

「私は世界を、人類を奴らから救う可能性の秘めた彼を生き残らせることはいくらでも知る男だ。賭けてみないか?」

 

「…………」

 

そして竜斗とマリアは格納庫までの長い通路を駆けていく。

「……竜斗君、ごめんなさいね、こんな目に遭わせて」

 

「マリアさん……」

 

「本当は私達の手で対処しなければいけないのに、あなたみたいな一般人をこうやって巻き込むなんて……許してといっても無理だと思う……」

 

「もういいです。実は僕、乗り込むことになるだろうと薄々感じてましたから。

それに、どの道早乙女さんは僕を無理やりにでも乗せようとしたでしょう」

 

「竜斗君……」

 

「……こうなったらやりましょう。僕はもちろん、エミリアやここの人達を死なせたくないですからっ」

 

「……あなた、強い子ね!」

 

その時、ちょうどそこで愛美とすれ違う二人。

必死に走っていく彼らに彼女は不思議そうな顔で見つめる。

 

「あいつ……どうしたのかしら?」

 

気になった愛美も後を追いかけていった――。

 

そして格納庫。竜斗はパイロットスーツに着替える。

まるでライダーススーツのような材質の白色と黒を基調とするピチッとしたパイロットスーツを着込んだ彼は、意外と筋肉質な身体付きもあり、本当の軍属パイロットのようである。

そして、メガネを外し全面防護のヘルメットを被るとマリアのパネル操作で彼は再び『空戦型ゲッターロボ』のコックピットに乗り込んだ。

 

「竜斗君、あたしの言うとおりに右側の縦レバー前のパネルキーを操作して。ゲッターロボを起動させるわ」

 

外からマリアの指示を受けて、彼は的確に各コンピューターとボタンを押していく。

その素早い手つきを見ると、彼は飲み込みが早く且つ、手先が器用のようだ。

家で毎日の如くするパソコンのキー入力するような感覚で行っていた。

コックピットがライトアップしハッチが自動的に閉まった――。

 

(ウソでしょ、あいつあれに乗って今から戦うっての!?なんで!?)

 

その一部始終を陰から見ていた愛美は仰天していた。

 

そして竜斗はモニター画面上に映る、早乙女から指示を受けていた。

 

“どうだ竜斗、初出陣する感想は……”

「……はっきりいっていい気分ではないです。しかし、やるしかないんでしょ?」

 

“私が今から君を生き残こらせるために色々とサポートする。そのくらいのことはしないとな。

操縦は前と同じだ、各システム、OSも君が扱いやすいように書き換えてある。決して負けるなどと思うな、必ず勝つ気でいけ”

 

「とりあえずはそう思えるよう努力はします……」

 

“ゲッターロボにいくつかの射撃兵器を追加しておいた。ライフルもメカザウルスを撃破できるよう改造し、出力と速射性を強化してある。このように大量の敵を相手にするためのものだ、思う存分暴れてこい”

 

そして、ゲッターを載せたテーブルが自動的にカタパルトハッチの方へ移動。

 

……右手にバズーカのような巨大な重兵器、左手には長方形の四角い筒、前面には9つの仕切りを持つ火器。

所謂『ミサイルランチャー』と呼ばれる武器である。

そして今回左右の腰にマウントされた武器は、トマホークではなく早乙女曰く、改造ライフル二丁。

これでもかと言わんばかりの重装備を施されたこのゲッターロボは初戦闘時より遥かに強そうだ。

 

【空戦型ゲッターロボ、各システム、OSチェック完了。ゲッター炉心、プラズマ反応炉オールグリーン。

カタパルト射出スタンバイ、ゲッターロボ発進スタンバイ――】

 

音声ガイダンスと同時に目の前の外部ハッチが開門。

強烈な風が入り込み、直線上の通路先には光が差し込み空と雲が少し見えた。

竜斗は左右の操縦レバーを握りしめ、目を瞑り深く息を吸う。

そして気持ちを落ち着かせて今から起こる初戦にして激戦に備えて冷静になろうと自分に言い聞かせる。

 

“竜斗、準備はいいか?”

 

彼は静かにコクっと頷いた。

 

“では共に戦おう、健闘を祈るっ!”

 

ついにカタパルトが発射されて凄まじい速度で通路を通っていくゲッターロボは満を喫してついに空中へ飛び出していった――。

 

――これが僕の事実上の戦闘デビューだった。はっきり言ってこわい……気持ち悪く吐きそうになるも今はその緊張と、そして極度の興奮に身を任せたのであった――

 



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第三話「デビュー戦」②

――空中では僕が今まで経験したことのない光景が繰り広げられていた。黒煙と硝煙が立ち込め、そしてここは、翼竜や怪鳥が埋め尽くす太古の時代かと錯覚する程の非現実的景色が僕の目に映っていた――

 

彼の緊張は一気に高まった。何故なら数十、いや百を越える数のメカザウルスが、自分を取り囲んでいたのだから。

コックピット内には自分一人しかいない今、初戦闘時よりも遥かに恐怖感に煽られていた。

 

「うわああああっ、来るなァァ!!」

 

竜斗は次々に襲いかかってくるメカザウルス共を前に、錯乱してレバーをガチャガチャ乱暴に動かしまくる。

そのせいでゲッターは戦場の中で不自然な動きをして目立っていた。

 

「落ち着け、気をしっかり持て!」

 

「リュウトっ!!」

 

このままではゲッターに展開されているシールドが破られて危険な状態だ。

 

「ここで一皮剥けないとこれから先、奴らに立ち向かえない。それどころかここで死ぬんだぞ、竜斗!」

 

しかし通信から聞こえるのは竜斗の錯乱した声だけだ。

ちょうどマリアもここに戻り、駆けつけるとその事態に唖然となる。

 

「やはり彼にはまだ早すぎたんです!

通常は操縦訓練を繰り返してから乗らせるべきなのに、ましてや民間人の竜斗君をいきなり実戦投入だなんて無謀にもほどがありますよ!」

 

「訓練は戦闘技術は身につくが、実戦になると結局頼りになるのは経験と己の精神力だ。なら今の内に実戦を組ませて度胸と感覚を研ぎ澄した方がいい、フフ」

 

早乙女は笑っている。流石のマリアも彼の感性を疑う。

 

「どの道、この試練を乗り越えられないならこれから先は生き残れん。死なせてやるのも幸せって選択もある」

 

そんな非情なことを言ってのける男、早乙女であった……。

一方、竜斗は度重なる敵の猛攻を翻弄されていた。シールドの消耗も激しく今のベルクラスと同様、いつ破られてもおかしくない状況だった――。

 

「や、やっぱり……俺じゃあ……っわっ!」

 

恐竜に体当たりをかまされて、ついにシールドが破られたゲッター。衝撃を受けて落下を始めた。

 

力をなくし落ちていくゲッターと竜斗。真っ青な表情で遥か下の海面に機体ごと叩きつけられるのを待っていた――。

 

(このまま誰も守れないまましぬの……か、俺は……っ)

 

自分の無力を悔やみ、エミリアや艦内の全員に自ら懺悔する彼は死を覚悟した――これが現実なんだ、エミリアやマリアに『役に立つ』などと言ったが、結局自分は決して誰も救えない、涙がこみ上げた――。

 

“死なないでリュウトーーーーっっ!!”

 

「え、エミリア……っ」

 

通信から彼女の悲痛の叫びが。それにより、とっさに彼は我に返った。

 

“竜斗、聞こえるか!決して諦めるな、必ず生きて帰ってこい!!これは私やマリア、エミリア、いや艦全員の願いだ!”

 

「早乙女……さんっ」

 

彼らの励ましに竜斗の表情は突如、先ほどまでの弱気な色は消えた。

再び目を瞑り、大きく息を吸い込み、吐く。

目を開けた時、竜斗の顔は弱さが消えた『戦士』の表情だ。

手放して共に落下していたバズーカとミサイルランチャーを腕を伸ばして拾い上げ、海面に衝突する寸前に両レバーを引き込み、衝突ギリギリの地点で体勢を元に戻した――。

 

「そうだ……俺がやらないとみんなが死ぬ。俺がやらないと――」

 

足下のペダルを力強く踏み込み、ゲッターウイングを再展開して一気に急上昇していくゲッターロボ。戦闘域へものの数秒で到着した。

 

「リュウト!」

 

艦橋で、ゲッター復帰にエミリア達は歓喜した。

 

“……すいません、ビビってしまって。だけどもう大丈夫です”

 

落ち着いた物腰の声を発する彼に、早乙女はすぐさま冷静に通信を始める。

 

「よし竜斗、無事で何よりと言いたいがそれは戦闘が終わってからだ。直ちに敵メカザウルスの殲滅を開始しろ」

 

“はい!”

 

「はいじゃない、了解だ」

 

“……了解”

 

“左に表示されている球体状の3Dレーダーを有効に使え。中心の点が本機、周りの赤い点が全て敵だ。

初めは使いにくいかもしれないが、のみ込みの早い君ならすぐ理解できるはずだ。レーダーの有効範囲は半径一キロ”

 

言われた通りに球体状レーダーを横目で見る。すると球体の形をした映像には中心に取り巻く赤点が無数にあり、それが蟻のように蠢いていた。敵数は相当いる、数十、いや百以上か。

 

「こんな数を相手にしろなんて……けどやらなきゃいけないんだ」

 

竜斗は、自分の信じるままに左右の操縦レバーとペダルを巧みに動かし、敵の密集地帯へ向かっていく。

飛行メカザウルスと戦闘機が無数に飛び交うこの宙域、ゲッターは左手に持つミサイルランチャーを向ける。

照準を複数の翼竜型メカザウルスに合わせて、ヘルメット越しで見据える――。

前面の九つの仕切りが一斉に開門、中から丸い弾頭が姿を現し一斉に飛び出した。

全弾、勢いよくメカザウルスへ飛んでいき次々と命中し、墜落していく。

敵が上昇し回避しようとも弾頭が追尾を開始。メカザウルスは結局逃げ切れず命中して縛散した。

ランチャーの弾倉が空になり、背中腰に装備された予備弾薬を取り出してすぐに再装填。

再び、前方斜め上に蠢くメカザウルス、戦闘機へ向けて再発射。

 

計九発のミサイルが一体も逃がすことなく全弾命中した。

威力は凄まじく一撃でメカザウルスを機能停止させる。そして空になったランチャーを手離し、今度はバズーカを両手で構える。

バズーカの砲身内で蒼白色の光、プラズマエネルギーが一気に収束。トリガーを引いた時、一気に外へ解き放った。

巨大な光弾がその射線状にいたメカザウルスに瞬く間に直撃、貫通。胴体に大穴を開けて爆発。

だがそれだけではとどまらずに被る位置にいたメカザウルスにも光弾は次々に命中しその胴体を突き抜けていく――。これに対し、メカザウルス達は四方からマグマやミサイルなどで反撃を加えるも、すぐにゲッターロボは急旋回し、回避。

そのままバズーカを再び構えてエネルギーチャージ、そして発射。

一、二、三、いや十機以上撃破していく。

凄まじく貫通力と共に見た目に反して速射性の高いスゴい武器だ。

 

その時、メカザウルスの放ったマグマがバズーカに直撃、砲身が溶けて使い物にならなくなるも、それを捨てて、今度は両腰にマウントされた二丁のライフルを取り出した。

 

「うあああああーーっ」

 

竜斗の叫びと同時に二丁のライフルが火を吹く。

早乙女によって改良されたプラズマ・エネルギーライフル改の威力はメカザウルスを容易く貫通するほどになっていた。

そして彼に射撃の才能があるのか高速で動く戦闘機相手にも、的確に次々に撃ち落としていく。

 

「リュウト……すごいじゃない……っ」

 

「私の勘は当たってたな。彼に秘められた、このゲッターロボを操るという素質を、そしてゲッターに乗る『運命(さだめ)を持つことをな」

 

早乙女達は彼の奮闘ぶりを息をのみながら見つめていた。

 

「プラズマエネルギーチャージ率91パーセント。主砲発射可能まであと1分です。しかしシールドのエネルギー残量10%を切りました。このままではシールドが破られます司令!」

マリアの報告を受け、早乙女はすぐに彼に通信する。

 

「竜斗、一分間ベルクラスの援護に回れ。これ以上敵に攻撃を許すな」

 

“……了解、やってみます!”

 

ゲッターはベルクラスの頭上に移動、すぐに両手のライフルを構えた。

 

“ライフルの右側にあるセレクターを真下にしてフルバーストモードに変えろ。威力が弱まるがあの戦闘機相手ならそれで十分だ、手数を増やせ”

 

両ライフルの右側面につけられた「ツマミ」を真下に捻り、再び構える。飛び交う多数の戦闘機に向けるとプラズマの光弾が前より小さくなるが大量に、そして連続的に発射される。

振り回すようにあたり一面にプラズマ弾をばらまくゲッターロボ。周辺の敵が面白いくらいに撃ち落とされて、敵の数が激減。すると後方で待機していた空母が突如前進を開始。ベルクラスへ向かっていく。

 

「司令、敵空母がこちらへ向かってきます。

これはまさか……」

「特攻か。主砲はまだか?」

 

「もう少しですが、これでは間に合いません」

 

「……では」

 

突然、戦闘中の竜斗に早乙女から通信が。

 

“竜斗。敵空母がこちらに特攻を仕掛けようとしている”

 

「と、特攻ですか?なんでそんなこと……」

 

“分からんがこのままではベルクラスとの衝突は避けられん。そこでだ竜斗。空戦型ゲッターロボの現最大兵器、『ゲッタービーム』を使え”

 

「ゲッタービーム……ですか」

 

“最大出力で発射すれば足止めできるやもしれん、いいな!”

 

「了解!」

 

ゲッターはすぐさま向かってくる空母の真正面に飛び出た。

ベルクラスより小さいが、それでもこのゲッターとでは小虫と象くらいの差があるこのサイズの代物を果たして止められるのかと一瞬考えるも、今は悩むことはしなかった。

ゲッターの腹部中央が開きレンズが出現、エメラルドグリーンの光、ゲッターエネルギーが収束する。

 

「頼むからこれで、終わってくれよ……っ」

 

竜斗はそう願った時、ゲッターエネルギーがチャージされた。

 

「いけえーーっっ!!」

 

放たれた高密度のゲッター線による赤色の極太光線。周りの空間を歪めながら突き抜けてついに空母の真正面に直撃した。

金属と有機物の混ざった装甲を溶かし大穴を開けて、ついに貫通して遥か先の空へ伸びていった。

光線が切れた時、空母の動きが停止。それどころか辺りに小規模の爆発が起こっている。

 

“竜斗、ベルクラスはこれより主砲を発射する。直ちにそこから離れろ!”

 

ゲッターはすぐにベルクラスの後部へ移動。ベルクラスの艦首にスタンバイされた巨大砲身内には眩いほどの蒼白光が。

 

「プラズマエネルギーチャージ完了。主砲発射用意。目標、前方の敵空母一隻―」

 

「主砲、撃てっ!」

早乙女の発令を共に、その砲身からゲッタービームをも遥かに超える巨大で高密度の蒼白光線が前方に放たれた。

敵空母はまるで泥が流水に飲み込まれるが如く、すりつぶされ粉々と化していった――。

 

「敵母艦消滅確認。敵機は残り九機」

 

 

「竜斗、残りの奴らを仕留めろ。母艦を失ったこいつらにもはや抵抗する力はない」

 

竜斗は言われるままに、わずかに残った戦闘機を一機ずつ確実に撃ち落としていった――。

 

「――敵部隊全滅しました」

 

「うむ。直ちにゲッターロボを帰艦させる。マリアとエミリアは格納庫へ行き、彼を出迎えてやれ。私が帰艦の仕方を指示する」

 

「了解。エミリアちゃん、行くわよ」

 

「は、はいっ!」

 

二人が出て行った後、早乙女はモニターに映るゲッターを無表情で眺めていた。

 

「さてと……残りの二機は誰を乗せようか」

 

――そう呟いた。

そしてマリア達は格納庫へ行き、ちょうど格納されたゲッターのコックピット前に移動する。

コックピットが開くと竜斗は立ち上がり、出ようとするがフラフラになり、前に倒れる。

「リュウトっ!」

 

エミリアは急いで彼を抱き支えた。マリアはすぐにヘルメットを外すと顔中は汗まみれでぐったりしている。意識がなく気を失っていた。

 

「緊張が切れたのね、竜斗君を医務室へ連れて行くわ、あなたも付き添って」

 

「はいっ!」

 

艦内放送で救援を呼び、竜斗を担架に乗せて運んでいった。

「…………」

 

その様子を陰から見ていた愛美は腕組みをしながら、不機嫌そうな表情をしていたのであった――。



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第三話「デビュー戦」③

「……なにっ!?ゲッター線で稼働する機体だと――?」

 

「はっ。日本地区のメカザウルス小隊がその機体一機と、母艦と思われる人類軍の浮遊戦艦一隻によって壊滅させられたと……証拠に交戦域において多量のゲッター線反応を確認しました」

 

帝王ゴールはこの報告を受け、この間が激震するほどに憤怒していた。

 

「うぬぅ……っ」

 

怒りのあまり、ゴールの顔が凄く歪んでいた。それほどまで苦悶する理由とは。

「……わかった。直ちに日本、台湾近海に駐屯している第十二恐竜中隊、第十三海竜中隊に伝達せよ。

『あらゆる手段をもってしてもゲッター線を使用する機体とその浮遊戦艦を一刻も早く破壊せよ』とな!」

 

 

「はっ!」

 

家来がその場から去った後、拳を握りしめて座る玉座の肘掛けに叩きつけた。

 

「ゲッター線……我々爬虫人類の天敵……皮膚の弱い我々を、その昔絶滅寸前にまで追いやった災厄のエネルギー……まさかあの猿どもが味方につけたか……くそっ!」

 

ゴールは立ち上がり、玉座の間を飛び出して向かった先は基地内の軍事開発エリア、無数の開発中のメカザウルスや爬虫人類独自の兵器の研究や開発が行われている場所である。

 

「ガレリー、ガレリーはおらんかっ!」

彼の声を聞きつけて、すぐさまやってきたのは猫背の爬虫人類の老人。

黒のマントを身につけ右腕が機械の義手となっている。

彼は恐竜帝国の誇る兵器、科学開発部門の総主任者で、長官の肩書きを持つガレリーである。

 

「これはゴール様。どうなさいましたか、このような汚れた場所においでなされて」

 

「あの薄汚い猿どもが我らの天敵ゲッター線を利用した兵器を開発したと」

 

「……詳しいことは不明ですが、そのようでございます」

 

「直ちに対ゲッター線兵器を設計、開発しろ。

でなければ我ら恐竜帝国、いや爬虫人類に未来はない」

 

「はっ。それについて私どもも今必死で考案中でございます。今しばらくお待ちを」

 

「頼むぞガレリー、期待しておるぞ」

彼に期待の胸を膨らまし、ゴールは開発エリアを後にした。

「サルどもが力を付け始める前になんとか手をうたなくては……っ」

 

――恐竜帝国が地上に現れて数年後の現在、彼らの勢力はロシア、シベリアに駐屯する、小島ほどの全長を持つ、ブラキオ級巨大地上移動要塞『デビラ・ムー』率いる第二恐竜大隊が。

 

アメリカ合衆国、アラスカに駐屯する『デビラ・ムー』と同格のトゥリア級地上移動要塞『ドラグーン・タートル』率いる第三恐竜大隊。

 

そして日本地区の北海道大雪山地下に駐屯する第十二恐竜中隊秘密基地、台湾地区には第十三海竜中隊が主戦線となっている。

豪州、つまりオーストラリアはすでに第一恐竜大隊によって制圧されている。

 

そして世界人類連合はロシア、中国連合は第二恐竜大隊。EU、アメリカ連合は第三恐竜大隊、そして日本自衛隊の主戦力が第十二恐竜中隊、海竜隊と交戦している状況だ――。

 

 

――ロシア、広大な土地のシベリア。大陸性気候の影響で夏と冬場では極端な気候と気温が特徴のこの地に君臨する、恐竜帝国の恐るべき巨大要塞『デビラ・ムー』が居座っていた。

何とも形容し難い異形の怪物の姿をし、そして身体の至るところから茶色いガスのような気体を吹き出している醜い物体である。その周りには千機近くの陸、空戦用メカザウルスが展開、歩哨についていた。

 

――デビラ・ムー、全制御を管理するコンピューターに囲まれたこの中枢部。その場の多数の部下を指揮する爬虫人類の男。

まるで蝙蝠の翼のような頭形、立派なカイゼル髭を生やし、歴戦の経験を積んだ貫禄を持つ中年の武人。

 

――バッティス=ル=オルエセィジ。通称『バット将軍』。

ゴールから一目置かれる人物であり、この第二恐竜大隊総司令官である。

 

「地上人類軍が約二十キロメートル四方に展開、こちらへ進軍してきます。その数五万――!」

 

「各メカザウルス小隊を展開し、迎撃させよ。人間共に自分達が無力だということを思い知らしめるのだ!

我がデビラ・ムーの前には恐るるに足らん!」

 

威厳のある低い声を響かせるバット将軍は自信に満ち溢れていた。

 

「バット将軍。ゴール様から通信が入っております」

 

中央の空間モニターを注目すると立体的なゴールの立ち姿の映像が表れる。“バット、久しぶりだな”

 

「これは我が主君ゴール様。どうなさいましたか?」

 

“実はな――”

 

ゴールは先ほどの情報を話す。

 

「……なんと。人類はゲッター線を兵器として利用したと。それは非常に厄介でございますな……」

 

“その脅威の兵器の存在は今のところ日本地区にしか情報がないがもしやすればシベリア地区の人類軍にもあるやもしれん、決して油断するな”

 

「はっ。わざわざ情報を御提供していただきありがとうございます」

 

“リョド率いる第一恐竜大隊がすでにオーストラリアを制圧しておるのは知っているな。彼に続いて一刻も早くユーラシアを制圧してくれ”

 

ゴールから通信が切れると彼はすぐに目の色を変えた。

「我が第二恐竜大隊の全兵士につぐ。

人類軍を容赦なく、そして確実に殲滅せよ、災いの元は根まで断つのだ!」

 

彼の号令が響きわたる――。

 

(ゲッター線が相手となれば並大抵の戦力では太刀打ちできぬかもしれん。

甥のザンキは……武者修業中だったな。呼び寄せることも考えねばならんな)

 

――アメリカ合衆国、アラスカ。アメリカ大陸最北西に位置する土地で降水量が多く、そしてシベリア同様に冬至は凍りつく寒気になるこの土地に、まるでその名の如く亀の姿の、何も攻撃を寄せ付けない鉄壁の装甲を張り巡らせた、デビラ・ムーと同格の巨大移動基地『ドラグーン・タートル』を拠点とする第三恐竜

大隊が駐在していた――。

 

「ジャテーゴ様。ゴール様から通信が入っております」

 

基地内部の基地制御エリア。そこにはデビラ・ムー同様に爬虫人類兵士の総司令官と思われる人物と側近がいた。

気品と威圧感溢れるその尊大で派手な姿であり、その顔は男性ではなく女性。

彼女はジャテーゴ=リ=ザーラ。名前で分かるとおりゴールの妹であり、『女帝』と呼ばれるほどの彼と同格に位置する人物である。

 

“ジャテーゴ、調子はどうだ”

 

「これはこれは兄上。どうなされたか?」

 

ゴールはバットと同じ情報を伝える。

 

「…………」

 

“ジャテーゴよ。決して油断するな。わかったか”

 

「はい……ところで私の王の席はいつに?」

 

「王位を継承するのは我が娘ゴーラだ。お前よりは王にふさわしい器を持つ。ジャテーゴよ、ゴーラが女王になった際は摂政を頼みたい。

そしてゴーラと共に恐竜帝国を繁栄させてくれ”

 

「……分かりました」

 

通信を途切れた時、彼女の表情は険しくなり、一層醜くなる。

 

「ぐぬぅ……いつも玉座に座るしか能のない年寄りがっ!ラセツ、ヤシャ!」

 

「「はっ」」

 

彼女の側近である、右にいる中性的で人類の姿をした戦士、ラセツ。

左には朦々しく、武道派と思わせる筋肉隆々の体躯を持つ爬虫人類の戦士、ヤシャ。

 

「……あの計画は順調に進行中か?」

 

「はっ!もう少しで整います」

 

「ジャテーゴ様の王位継承の日はもうすぐでございますなあ」

 

「今に見てなさい憎き兄ゴール、そして私が王になるに邪魔な存在ゴーラよ。

貴様らを排除し恐竜帝国の真の女王として私が君臨しようぞ!」

 

……どうやら彼女は謀反を企てているようだが、果たして……。

 

――そして日本。北海道、大雪山地下に存在する第十二恐竜中隊の地下基地――。

 

「私がこの恐竜中隊の司令官に就任したラドラ=ドェルフィニだ。よろしく頼む」

 

彼の就任式が行われている最中であった――。

「私のモットーは決して命を無駄にするな、これである。

我々恐竜帝国の礎は犠牲の上に成り立っているが、最近はそれに迷信し自ら命を散らす爬虫人類の若人が多い。

だが我々もまた生物であり命は一つしかない、死ねばそれまでだと言うことを忘れてはならない。

必ずや、死なずに済む他の選択肢はある!」

 

彼の熱い演説、そして今までにない信念ね上官のラドラの信念に心を打たれる兵士も多いが、反面そんな綺麗事を言う若い彼に猜疑心を持つ兵士もいた。

ラドラは自分の司令室に着く否や、なんと自ら室内の清掃を始める。

 

「なんてことをなさいますかラドラ司令!?それは我ら部下の仕事です!!」

 

側近が慌てて彼を止めようとするが、彼は優しく首を振る。

 

「いや、自分の部屋の掃除もできないような司令官は役に立たないよ。

自分の身の回りのことは自分でする、それは誰だっておなじことだ。

決して部下を信用していないのではない、これは私の信念なのだ。

だが私が長期ここにいない場合はさすがに頼みはするがな」

「ラドラ様……」

 

側近は感動した。前中隊司令官は彼と真逆の人物であり、よくこき使われて苦労したものだったからだ、当然その人物の自己中心的で無能さが目立ち、信用など皆無だった。

「ところでお父上であるリージ様は今はお元気ですか?」

 

「父は一年前に病気で亡くなった。元々身体が悪かったからな」

 

「それは……心からご冥福を祈ります」

「ありがとう。衰弱していく父を見るたびに心が痛んだよ。生物いつか死ぬ。最期まで気丈な父だったが死期がだんだん近づく間に父はどれほど恐怖を味わったか計り知れない――」

 

「…………」

 

 

「すまないな、暗い話をして。さっさと掃除を終わらせよう」

 

……掃除を済ませたラドラは自席について机上にあるパソコンのようなコンピューターを使い、爬虫人類にしか理解できない文字で書かれた報告書を黙読する。その最中で。

「ほお……我々の嫌う宇宙線、ゲッター線を動力とする機体と浮遊戦艦……か」

 

彼はその情報に興味を持ち、直ちに詳細を調べ上げる。

 

「人類も我々に対抗できるほどに成長してきているということか……これは興味深い」

 

なんだか嬉しそうな表情をするラドラだった――。

 




三話終わりです


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第四話「悪夢」①

――気づいた時、蛍光灯の光が差し込んだ、目が悪い自分でもそれは分かる。そして薬品独特のツーンとした匂いもあり、学校にも同様の場所があったのを覚えている、ここは保健室か――

 

「あ、リュウト起きた?」

 

「…………」

 

目覚めた彼の瞳は虚ろである。

 

「あれ……っ」

 

「ここは艦内の医務室。戦った後ね、ゲッターのコックピットから出たとたんに気を失ったからここに運ばれたの」

 

「……ゲッター……?」

 

その言葉が耳に入った瞬間、彼は突然スイッチが入ったかのようにとっさに起きた。

 

「あっ、俺生きてる!?」

 

「ちゃんと手足ついて生きてるから安心して」

 

彼は思い出そうとするも分からない。早乙女の指示ばかり聞いていたことしか思い浮かばない。

 

「ビックリしたよ。あんな大量のメカザウルスを撃ち落とすなんて。

サオトメさんの言うとおりゲッターのパイロットに向いてるね」

 

「…………」

 

「あ、ごめんねリュウト。死にそうな思いしたのにそんな軽はずみなこと言って……」

 

「いいよ。早乙女さん達は?」

 

「今司令室にいる。どうする、行く?」

「……うん。とりあえず――」

 

彼はベッドから下りようとするが、エミリアがおもむろにあるものを差し出した。

 

「とりあえずこれはいて……っ」

 

それは下着、つまりパンツである。彼はまさかと思い、おそるおそる自分の下半身を見た。数秒後固まったが、

 

「ウギャアアアアアアアアっっ!!」

 

当然の如く、絶叫したのであった。そう、彼は下半身丸出しであった――。

 

「だってオシッコ漏らしててびしょびしょだったんだもん――しょうがないよ、あんな目に遭ったんだから。

けどアタシじゃなくてマリアさんが処理してくれたから……っ」

 

彼にとってまさに一生の恥を負った気分になった。

 

――そして着替えた竜斗とエミリアはすぐに司令室に向かうと彼女の言った通り早乙女とマリアの二人がいた。

何かを話していたみたいだが、すぐに気づいて振り返る。

 

「竜斗、おはよう」

「…………」

 

竜斗はマリアが視界に入るたびに顔を真っ赤にして、目を合わせないようにしている。一方彼女も彼の仕草の理由に気づいたのか苦笑い。だが、

 

「竜斗、お前ションベン漏らしてたんだってな。それでマリアに介されたと、ハハハ」

 

「司令っ!!」

 

全く空気を読まずにその場で笑う早乙女へ睨みつける竜斗。

 

「まあくだらん話はやめてとりあえずご生還おめでとう。どうだ、生き残れた感想は?」

 

「……実感がありません。あの時は必死でしたから――」

……まあそうだろうなと竜斗以外の全員が思う。

 

「竜斗はゲッターパイロットとしての才能は素晴らしい。あの時の君は戦神のようだったよ」

 

おだてる早乙女に対し、竜斗は反応にこまる複雑な表情をしていた。

 

「機体の性能と武器に頼っていたのがほとんどだがパイロット訓練はおろか戦術の基本すら学んでもない民間人の君にしてはよくやったよ」

 

「…………」

 

「だがな君がパイロットとしての色々な訓練をちゃんと受ければ、ゲッターロボのポテンシャルを十二分に発揮できると思うんだがなあ」

 

また遠回しで誘う彼に竜斗は……。

 

「……どうせ断ろうとしてもあなたは僕を強引に乗せるんでしょ?魂胆が見え見えです」

 

「お、分かっていたか。察しが早いな」

「……分かりました。ただし条件があります。

もし全てが終われば僕をただの民間人として帰してください」

 

「それは分かっている。そもそもこの頼みや君をゲッターに乗せたこと自体が異例なんでね、これが上層部にバレたら私達は重刑確定だ。

これから君に自衛官として、そして階級を与える。今後の行動をやりやすくするためのものだ」

 

「……わかりました。あと、僕達の両親に会いたいのですが――」

 

「悪いが今は無理だ。君にはしばらく極秘で私の指揮下で行動してもらう。君のご両親にこれが知れたら猛反対するだろうし、民間人に知られるだろう。

そうなると色々と不具合なことが起こるんでな。しばらく辛抱してくれ」

 

「…………」

 

「エミリアはどうする?君はここから降りるか?その時はこのことは機密にすると守ってもらうぞ」

 

だがエミリアはすかさず首を横に振る。

「いいえ。リュウトを一人ここに残させるわけにはいきません。ワタシも残ります。

それにサオトメさんにマリアさん。何があっても絶対にリュウトを守ると誓ってください。こんなことに巻き込んでおいて、それは無理だとは言わせないですよ」

 

「できる限りのことはする。だが戦いで生き延びれるかどうかは結局彼にもかかってくる。

それくらいは君も理解できるだろ?」

 

「…………」

 

彼女はムッとするが、渋々ながら納得したようだ。

 

「あと私は感じたが、君は竜斗に対して過保護だと思うんだ。それじゃあ竜斗はいつまで立っても成長しないぞ、突き放すことも大事だ」

 

「よ、余計なお世話ですっ!」

 

「まあともかく、我々は君達を快く迎えよう。これからよろしく頼む」

 

そして互いに握手を交わした。

 

「今後についてだが、我々の本拠地である朝霞駐屯地に向かう。そこにベルクラス専用ドッグベイがある。

竜斗は私とマリアで君にゲッターパイロットとしての訓練と戦術座学、つまり戦い方について講座する。

基本的なことで難しくないし君ならすぐに理解できるだろう」

 

「わかりました」

 

「あと基本的に服装は私服でいい。だが私の指示があった時には自衛官の制服に着替えてもらう。

後でサイズを計って支給する。

あと制服のクリーニングはともかくワイシャツなどのアイロンは自分でしろ、そういうのは自分自身でするものだ」

 

まるで母親のように早乙女から言われる日常の小言について竜斗は少しうんざりする。

 

「リュウト、あたし手伝ってあげようか?」

 

「お、ありが――」

「おい、そんなふざけたことをするのは私が許さん。これは彼自身のためにも言ってるんだ。

大人になった時に、大体のことは一人で出来なくてはロクな人間にならんぞ」

 

「「…………」」

 

その後、竜斗達は早乙女達と別れて艦内の歩く。

 

「あ~あっ、こんな面倒なことになるなんて……」

 

「けど最後のはサオトメさんに一理あるな。

リュウトは男なんだから、アタシがいなくても一人で出来なくちゃ」

 

「よくいうよ、さっきノリノリで手伝おうかって言ったクセに」

 

「あ、あれは……っ」

 

「……けどよくエミリアが俺に対して過保護ってのは妙にしっくりきた」

 

「……アタシは、これからリュウトに何かしてあげたらなって……っ」

 

笑いを混じる雑談をする二人だが、互いにはあとため息をつく。

 

「リュウト、お願いだから死ぬようなことしちゃダメよ。

ワタシ、こんなこと早く終わらせてリュウトと一緒に帰りたいよ」

 

「うん……だけど早乙女さんは俺を必要としてくれたのは正直凄く嬉しいんだ。

気弱で学校でも地味だった俺をここまで頼りにしてくれるなんて、男として最高だよ」

 

まんざらではないかのように自信溢れる発言と顔を見ると、今までなかったような彼の一面を見た。エミリアはそんな竜斗に嬉しくなった。

ちょうどそこで通りすがった作業員に、笑顔で手を振ってくれたのだった。

 

「お、君はさっきの戦闘でゲッターロボに乗ってた子だな。スゴいじゃないかこんな年で。高校生か?」

 

「はい、一応……」

「さすがだなあ。困ったことがあったら何でも相談するといい、ここのみんなはいい人だかり親切にしてくれるハズだよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

作業員は去っていく。竜斗は良い気分に浸っていた、ここの居心地は悪くないな、と。

 

「もしかしたら俺、英雄になれたりして……」

 

「フフ、英雄ね……もしかしたらね」

 

 

二人は大きく笑った。

 

――僕はこの時はまだうかれている余裕があった。

今まで経験したことのない新鮮さがあったし――何よりもゲッターのパイロットとして僕を必要としてくれるのが嬉しかった。

だが、実はこの有頂天もそこまでの話。すでに泥沼に足を浸かっていたのであった――。

 

「ちょっとトイレに行ってくるね」

 

「ああ。どこかぶらついているよ」

 

エミリアと別れ、彼女はいなくなった。

彼は一人はぶらぶら歩いていた――が。

 

「イシカワ~~っ♪」

 

「!!?」

 

背後から突然寒気を襲わせる甘い女の声が。とっさに振り向くとそこにはなんと、愛美が満面の笑みで立っていた。

 

「み、水樹…………っ」

 

彼の一番の天敵である彼女がそこにいたのだった。やられた、一人でいる時を突かれたのだ。

 

「ちょっと来なよ。ちなみに逃げたらどうなるか、ここは逃げ場がないのはわかるわよねぇ~♪」

 

「~~~~っ!」

 

……竜斗は近くの更衣室に連れていかれた。先ほどとは一転してビクビク怯える彼に対して、愛美は腕組みをして、まるで女王様のような高圧的態度を取りながら竜斗を見ていた。

 

「さぞかしいい気分でしょーね。あんなお手柄立てたんだから……」

 

「…………」

 

竜斗の頭の中は真っ白だった、そして顔も。何故なら――。

すると彼女はスカートの右ポケットからスマートフォンを取り出して画面を素早くスライド、ポチポチ押している。するととっさに彼に体を密着させて画面を見せつけた。

 

「!!!?」

 

竜斗は戦慄した。それはエミリアでさえ知らない、そして自分にとって誰にも絶対に見せられたくない、思い出したくもないおぞましく忌々しいモノ――かつて放課後の学校において、今みたいに一人でいる時に彼女率いるグループによって、理科室で暴行されて丸裸にされて身体中に落書きされて泣き崩れる自分の、『リンチ』の最中の写真だった。

 

「これナニか覚えてる?あのガイジン女やここの人達に見せたらどう思われるかしら♪」

 

彼女はガタガタ震えて何も出来ない竜斗をいいことに脅しにかかる。その無邪気な笑みの裏にあるのは凄い悪意だ。

「マナねえ、今すごくヒマなんだ。学校みたいにここにユカやレイナ達がいないし、連絡とろうにも圏外で一人ぼっちでさみしいの、遊ばない?」

 

「…………っ」

 

「さあてなにして遊ぼーか。ちょうどこの中にシャワー室あるし前みたいに水責めしよーか、それともこの画像みたいにまた裸にして……そうだァ、あんたは皮かぶったほ〇けいチ〇コだったよね、落書きしてまた写メってあげよーか?」

 

竜斗はついにへたり込んでしまった――。

 

「や、やめ……やめて……くれっ」

 

子供のように怖がる彼に愛美はあざ笑うかのように高笑った。

 

「キャハハハハっ、ウソよウソっ。そんなことしたらまたアイツにバレてメンドーだしマナの立場ワルくなるしぃ。

しっかし情けないわねえ、男のくせに。いつもならあんたの『エミリアちゃん』が助けにきてくれるのに、今回どうしたのかな?」

 

そばのロッカーをガアンを蹴り上げて、さらに彼に突っかかる愛美。

 

「たかが巨大ロボットに乗って、あのキモい爬虫類たちを倒したからってチョーシのってると……イタい目見るわよ?」

 

それは彼へのこれからに対する警告なのか、それとも彼女自身による脅しなのか――。

 

「フフフ、ココつまんないから降りようかなと思ってたけど……やっぱり残ろっと。凄くいい『遊び相手』がいるし。じゃあね♪」

 

そう言い捨て愛美は入り口ドアを乱暴に開けて更衣室から去っていった。そして誰もいなくなったこの室内で彼は突然、手で口を押さえて立ち上がり、近くの洗面台に行くなり胃の中の物を全部吐き戻してしまった。

咳き込んで苦しそうに呻く彼はもう戻すものがなくなるとその場で崩れるようにうずくまって嗚咽した。

彼女にまた『オモチャ』にされてしまうこともあるが、さっきまで浮かれていることに対する現実。

そして逆らうどころか何一つも言い返せなかった自分の、男としての情けなさに痛感していた。

 

 

そうだ、いつもエミリアがいたから、助けてもらってたから――こんな弱虫で臆病のままじゃ強くなんかなれない、こんなことではとてもじゃなく『英雄』になんかなれない――どうすれば強くなれるんだろう。

自分自身にそう問い、嘆いていた。

 



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第四話「悪夢」②

――次の日。関東地区、東京都と埼玉県の境目にある陸上自衛隊、朝霞駐屯地。

そこにはベルクラス専用で増設されたドッグが唯一存在し、本艦は今そこに着陸し補給と整備を受けている最中である。

そして竜斗はというと艦内の座学室で早乙女と個人授業を受けていた。

 

「…………」

 

彼は眠たそうだ。元々学校での成績は悪くないが、授業は正直好きではない。

朝の九時から講座開始と、まるで高校の授業の延長上のようだ。

だが生徒は自分だけで早乙女が付きっきりで教えているものだから寝れそうに寝れない。

小休憩もあるが十分ほどしかない。

ましてや早乙女である、もし寝ればどんな恐ろしい仕打ちを受けるか分かったものではない。

この後にはマリアによる講義があるようだが、早乙女曰わく自分以上に厳しいらしいと聞く。彼はゾッとした。

 

「竜斗、ちゃんと聞いているのか?」

 

「は、はいっ!」

 

うたた寝していた竜斗はビクッと反応した。

やはり興味の持てない科目の授業は誰でも辛いものである。

だがこれは命に関わる大事な授業。早乙女やマリアも自分が生き残れるための授業を自分の時間を割いてしてくれているのだから――そう思うと意外と割り切れそうだ。

 

「これで今日の私の授業は終わりだ。マリアの座学は午後一からやる。それまでは昼食と休憩だ」

 

「はい……」

 

終わりを告げられて彼は、限界が訪れて崩れて机に顔面をつけた――。

食堂に行き、昼飯を盛る。今日の献立は日本の定番カレーライスだ。エミリアはどこかにいっているのか、今日は彼一人で昼食を食べていたが、

 

「イシカワっ♪」

 

「っ!?」

 

彼の手が止まる。彼の目の前に現れたのはそう、愛美である。

ご飯も盛らずにすぐに彼の隣に着く。

 

「アンタ、あの『げったあ☆』ってロボットについて頑張ってるみたいね♪どう、楽しい?」

 

「…………」

 

彼の顔が青くなる一方で、愛美はそんなことお構いなしの笑みを浮かべた。「恐がらないでよ、マナと石川の仲じゃん♪ね?」

 

端から見れば仲良さそうに、そして人懐こく話しかける彼女。

しかし彼は知っていた、これの裏側に潜むは悪意の塊である。

再び彼女はスマートフォンを取り出して、あの画像を彼に押し付けて見せつける。

 

「っ!!」

 

「ほら……マナに返事くらい返しなよ。またこんなことになりたくなかったら……ね?」

 

小声でそう囁く愛美。その時、幸いにもエミリアが食堂に訪れた、そして二人の姿を見た時彼女は仰天する。

 

「アンタ、リュウトになにしてんのよオ!!?」

 

「チッ……!」

 

愛美はすぐにエミリアの存在に気づき、その場から一目散に離れ、食堂から走り去っていった――。そしてエミリアは慌てて彼の元へ駆けつける。

 

「リュウト、顔色悪いけど大丈夫!?」

 

「……あ、うんっ……なんでも、ないよ……っ」

 

無理しての作り笑顔に彼女は、

 

「ミズキになにされたの?アタシにいってごらん!」

 

親身に気遣う彼女だが竜斗は、

 

「……気にしないで。いつもみたいに絡まれただけだから……っ」

 

竜斗は立ち上がると、ほとんど口にしていないカレーライスの皿を返却棚に戻し、暗い表情で去っていった――。

 

「…………」

 

竜斗はイヤなことがあっても吐き出さずに溜め込む傾向がある。それを察知して彼のために動こうとするのが彼女、エミリアである。いつもそうしてきた。

彼女はいつもの経験と勘から感じ取っていた、これは何かあると――。

 

 

――午後一時。竜斗はそのままマリアの講義へ入る。

内容が専門語ばかりの初歩的の戦術論がほとんどだった早乙女とは違い、初歩的な医学と応急処置についてがほとんどだ。

 

「――竜斗君、どうしたの?元気ないわねえ」

 

「い、いえ……っ」

 

それはそうだ。あんな吐き気を催す出来事に加えて、昼飯をほとんど食べなかった彼に快調に程遠い有り様であった。

 

そんな状態で授業が終わった頃には彼の体力、精神的にも限界になり自分の自室に入ると倒れ込むように自分のベッドに寝転んだ。

 

(疲れたし気持ち悪い……何もかも忘れてずっと寝ていたい…………)

 

その頃、エミリアは一人、通路を歩いていると、ちょうどマリアと出くわした。そして二人は並んで通路を歩く。

 

「エミリアちゃん、竜斗君どうかしたのかしら?」

 

「えっ?」

 

「私が講義している中、元気がなかったように見えたの。あの子、見た目活発ってわけじゃないし、普段からあんな感じなの?」

 

「…………」

 

するとエミリアは彼女にこう話す。

 

「実はリュウト、昼食中にミズキに絡まれていたんです……」

 

「ミズキってあの……あなたたちと仲の悪い、あの派手な女の子?」

 

「はい。リュウト、学校内であのコとその友達によく絡まれて、いじめられてたんです。リュウトが気の弱いことをいいことに……」

 

「……聞いたわ。やっぱりイジメってこんなご時世になってもなくならないのね……」

 

「ミズキのヤツ……今度はリュウトに何したのかしら……っ、何かあったら絶対にユルさないんだから――」

 

するとマリアは彼女にふと疑問を聞いた。

 

「エミリアちゃんはなんでそこまで竜斗君を守ろうとするの?あなた達は恋人として付き合ってるってワケじゃないでしょ?」

 

「えっ……それは……」

 

「もし差し支えがないのなら教えてくれないかしら?誰にも喋らないから安心して」

エミリアは顔を赤めらせてもじもじしながら話し出した。

 

「リュウトはアタシが日本に引っ越してきた時に初めて友達になってくれた男の子なんです……」

 

彼女は幼い頃のことを追憶し、語る。

 

「ワタシ、小学生になる前にアメリカのオハイオ州から両親の仕事でここに引っ越して来たんですが、来てしばらくは友達がいなかったんです。

文化の違いもありますけど最大の原因は日本の子と言葉が通じなかったことですね。

その時はもちろん英語で日本語は全く知らず……その頃のアタシって結構人見知りで、日本の子と遊ぼうとしても馴染めずに毎日家で寂しく泣いてた覚えがあります。

あれは、もう小学生に入る寸前の三月ですね、一人寂しく家の庭で遊んでいたら笑顔でサッカーボールを持ったリュウトが現れたんです。

 

その時、彼を見たのは初めてじゃなくて引っ越して間もない時に近くの公園で触れ合った子達の中にポツンといた近所の子だったんですけど。

そこからアタシはリュウトと仲良くなりました。

リュウトは運動神経はあまりなかったんですが、人一倍優しくて器用で要領がよく、日本語が分からないアタシにジェスチャーとかで教えてくれたり、ワタシを外に連れて他の子と仲良くなるための架け橋にもなってくれたりしてくれました。

アタシはこれほど嬉しく思ったことは今までにありません。リュウトと出会なかったら多分、日本好きになってませんでしたから。リュウトと出会ってからワタシはもっと日本のことを知りたい、リュウトと日本語でいろいろ話したいと強く思いました。

アタシ、不器用で要領の悪いから凄く苦労しましたけど独学で頑張って小学四年生くらいにはほとんど日本語で話せるようになって、日本の知る限りのことを学んだんです。おかげで両親より日本語が上手になってしまいましたが。

 

その上でワタシは両親と同じく日本が大好きになりました。人種と出身は違いますが心は日本人です。そして死ぬまでこの信念は変わらないと思います」

 

日本語をここまで上手に話せるのは並大抵のことではいかない。

それに外国人の彼女が胸を張って自分は日本人だと言えるのは、彼女はそれほど努力家であること、そして彼の存在が彼女にそれほど影響を与えているのだろう――と。

「だからワタシにとってのリュウトは、友達以上の特別な人です。

彼氏、いやお嫁さんになりたいくらいです。

だからアタシは、何があってもリュウトの味方でいたいんですっ……て、キャっ、いっちゃったっ!」

 

赤裸々にそう言うエミリアにマリアの心は暖かくなった――。

 

一方、早乙女は駐屯地内にある、とある格納庫へ来ていた。

 

「…………」

 

彼は黙って見上げる先にあるのは、全体が銀色一色で施された、各フォルムの違う戦闘機が三機の乗るカタパルト……これは一体……。

 

「『ゲッター計画(プロジェクト)』の完成型……だが、今の私の技術では完成は不可能だ。いつ完成の日を迎えることやら……だがやらねば――」

『ゲッター計画(プロジェクト)』。ゲッターの名を冠するということはこれもゲッターロボに分類されるのか。

しかしどう見ても人型ではなく、戦闘機だ。これでもゲッターロボと言えるのだろうか――?

 

(私の師匠であるニールセン博士なら……いや、あの人は法外な金額でなければ協力してもらえん。

ベルクラスとゲッターロボの開発、建造に多額の国資金を注ぎ込んでる私には無理な話だ、どうしようか……)

 

早乙女は珍しく頭を悩ませていた――。

 

……竜斗はふと起きた。部屋の時計を見ると、五時となっている。

夕時かと思い部屋の机上に設置されたディスプレイモニターで外を見ると、駐屯地内から綺麗な朝焼けが見える。

 

「……朝かよ……っ」

彼はモニター越しの外をボーッと眺める。

外の景色はこんなに明るいのに自分の気分は晴れない。

慣れないこの生活もあるのかもしれない。これから自分はどうなっていくのだろうかと言う不安。

そして――愛美に、あの写真で脅迫、何をされる

か分からない恐怖、あの写真以上な苦しみを味わうかもしれないということ――。

 

その時はエミリアが助けにきてくれる……いや、それじゃあいつまで経っても自分自身が成長しない、だけどその一歩が踏み出せない。

学校で散々イヤな思いをしてきた彼にとって、愛美の存在はまさに恐怖の対象だった――打ち勝つにはどうすれば……そもそもなんで自分ばかり狙ってくるのか――考えると頭が重くなった。彼は部屋を出て、食堂へ向かう。

早乙女の話には飲料は時間問わず食堂でただで飲めると聞いていた。

誰もいない食堂でコップを持って業務用ジュースサーバーからオレンジジュースを入れて味わいながら飲む。

彼はオレンジジュースが大好物であり、計三杯続けて飲み干す。

 

「朝から好きなだけジュース飲めるなんて贅沢だ……」

 

満足顔の竜斗はコップを近くの洗い場で洗ってから戻し、食堂から後にした。

その時――竜斗は固まるように立ち止まる。入り口から出た瞬間、出くわしたはあの女、愛美である。パジャマ姿の彼女は自分と同じくどうやら飲みにきたらしい。

 

「あら、オハヨー」

「あ、ああ……おはよ……っ」

 

ぎこちない返事を返す竜斗に愛美はフッと笑みを放つ。

 

「そうだイシカワァ。いまからマナがあんたに指令を出すね」

 

「え……シレイ……っ?」

 

「あんた軍人になったんなら指令は忠実に従うものよ?」

 

「……はあ?なんの指令だよ……?」

 

すると彼女はとんでもないことを言い出した。

 

「今からあんたはマナがいいと言うまでトイレ禁止ね?」

 

「なあっ!?何ふざけたことをゆうんだよ……っ」

 

こればかりは耳を疑ったが、彼女自身は本気の表情だ。

 

「マナにバレないようにトイレに行こうとしてもムダだから。ずっと暇だから見張っててあげる……もし無視して行くものなら……反逆者はどうなるか分かるわよね?」

 

彼は唾を飲み込んだ。しまった、さっきのオレンジジュース三杯飲んだことが仇になってしまった。

 

「フフフ、さあてあんた授業中どうなることやら楽しみだわ♪オシッコおもらししちゃうのかしら、それとも……ねえリュウトちゃん♪」

 

「…………」

 

竜斗は一気にどん底の堕ちたような絶望感を味わった――。

 



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第四話「悪夢」③

――そして朝の九時。早乙女の授業が始まる。今日の授業は昨日の続きについてのようだ。

 

竜斗は今、不安だった。愛美に言われた『指令』を。

まだ尿意が襲ってきてはないのが幸いだが、一時間、二時間経つ内に……。

 

「竜斗?」

 

落ち着きがなくなりもじもじしている彼に不審に思う。

 

「トイレに行きたいのか?」

 

「い、いえっ……」

やばい、もう限界が来ている。行きたい、トイレにいって楽になりたい。彼は限界に近づいていた。

 

「……ちょっとトイレに行ってきてもいいですか!?」

 

「ああっ」

 

座学室から出た時だった。

 

「どこにいくのかな、石川?」

 

「ひいっ!」

 

なんと今朝言ったとおりに愛美が腕組みしながら待ち構えていた。

 

「トイレにいくのダメだったわよね?」

「……行かせてくれ、こんなのムチャクチャだよ……」

 

「ダ~メ。これ以上な目に遭いたいの?」

 

また写真を見せつけられる竜斗は、

 

「……こんなことをして何が楽しいんだよ……?」

 

その問いに彼女の答えは、

 

「ただ楽しいからに決まってんじゃない」

 

「…………」

 

なんと竜斗は彼女を無視してそのまま、トイレへ走り去っていった。

 

「あ、石川っ!」

 

自分の命令を無視された彼女の表情は、一転して阿修羅のような顔になった。

 

「……許さない。あとで覚えておきなさいよ、あのチ〇カスヤロウ……っ!」

 

トイレに駆け込み、そして漏らさずに事なきをえた竜斗の顔は安心のため息をはいた。

だが急な不安感に襲われた。愛美の言うことを無視したことによる報復である。

かなり根に持つタイプだ、自分に何をしてくるか分からない。

だが、少し嬉しいこともあった。あの愛美についに逆らったことである、今までなすままにやられ続けてきた自分が反抗できたのである。

今の彼の暗闇だらけの心中に一筋の光が差し込んだような気分になった――。

座学室に戻り、席に座る。

 

「竜斗、前みたいにもらさなかったみたいだな」

 

「早乙女さんっ!!」

 

「ハハッ、冗談だ」

 

なんだかんだで二人の距離が近づいたかの如く、仲良く会話を弾ませるなる竜斗達だった―。

そして午前中の授業が終わり、竜斗は大きくあくびをした。

 

「午後は、私とマリアでゲッターロボについての概要と操縦訓練だ。集合場所は格納庫だ。開始前にパイロットスーツに着替えておけよ」

 

「はいっ、早乙女さん」

 

「竜斗、今から早乙女さんと呼ぶな。早乙女『司令』か『一佐』と呼べ。

君は建て前上軍人となるわけだ、立場を分かっておいたほうがいい。それに制服着用時で外の自衛隊員達の前で私を呼ぶときに『さん』が出ると変に思われるからな」

 

「はい、早乙女『司令』」

 

竜斗は昼飯を食べてまだ時間があるので、休憩しようと部屋へ戻る。

 

「…………」

 

イヤな視線を感じる。そういえばあれから愛美の姿は見ていない、これはまさか……。

 

一目散に部屋へ戻り、ドアロックするとベッドにドサッと座り込む。

 

「あいつが……」

 

急な不安感に襲われた。出たら、待ち構えているのではないか……そう考えると部屋から出る気がなくなる。だが講座があるから結局行かなくてはならない。

時間が近づくにつれて彼の胸の鼓動がドクドクなり始める――。

格納庫まで突っ走ることを思いついた竜斗はロックと解除して部屋から飛び出した。どうやら左右の通路には誰も見当たらない。

安心しつつも、彼女に出くわさないよう祈りながら、格納庫へ駆け出していった。

――そして三機のゲッターロボを置かれた格納庫。無事に着くとすぐに内部の更衣室に入り、パイロットスーツに着替える、ぴっちりしているが動きやすく、身体を動かすにはちょうど良い。

ヘルメットを持ち、更衣室から出ると空戦型ゲッターロボのドッグに早乙女とマリアが待っていたのですぐに合流、講座が始まる。

 

「まずSMBとゲッターロボについての概要から始める――」

 

まず早乙女からの説明が始まった。

 

SMBは恐竜帝国のメカザウルスに対抗するために開発された人型機動兵器である。

数十年前に各先進国で宇宙競争が行われていた時代に開発された、惑星探査用有人ロボットを祖としているとのこと。

なのでSMBは数えて第三世代有人ロボットになる。

 

ゲッターロボは早乙女による、対恐竜帝国殲滅プロジェクト『ゲッター計画(プロジェクト)』の産物である最新鋭SMBである。従来型のSMB十機分の性能を持ち、各国でも群を抜く驚異的な性能を持つ機体であるがそれでもまだ性能的に不完全な箇所も多いらしい。

 

ゲッターロボは三機開発されており、それぞれ空、陸、海の環境や地形に対応すべく各武装や機能は違う。

このゲッターロボに使われている動力が機体の名にも使われているエネルギーが、ゲッター線(またはゲッターエネルギー)と呼ばれる、宇宙から降りそそぐ放射線の一種である。

 

微量でプラズマエネルギー以上の出力を持ちながら、今のところ、人体には放射能のような有害事例が出ていないため、そして実験において爬虫類等に有効であると、発見者の早乙女が急遽、対恐竜帝国用戦力兵器としての開発、研究を急がせた。

彼はそのエネルギーの有用性、神秘性に惹かれており、人生かけてでもこれからも研究していきたいという。

 

「……というのが主な概要だ。質問は?」

 

「あ、はい。空戦型と陸戦型のデザインは初めて見ました。しかし海戦型がどこか自衛隊の使用しているSMBとスゴく似ているんですが……」

 

「ああ、BEETか。海戦型はBEETを流用して造られた機体だからだ。言うなれば『ゲッター線駆動のBEET』だ。

だがその性能は元機とは比ではない別物だよ」

 

「はあ……」

 

「あとの二機の外見は全く違うがゲッターロボは基本的に一部を除いてBEETタイプの各パーツを流用、改造して造られている。予算的な問題もあるが何より日本人にしっくり合うからな」

 

「外国のSMBと違うんですか?」

 

「はっきり言って他国のはクセがありすぎて扱い辛い。

そしてBEETの操縦プロセスを更に簡略化したのがゲッターロボだ。簡単だったろ?」

 

「はあ……確かに」

 

「質問が以上か?なら操縦訓練といくか。今日は竜斗、空戦型ではなく他の二機のどれかに乗ってみるか?お前の扱いやすい機体を選ぶのもいいだろう」

 

「はい……あ、了解!」

 

そして竜斗は初めに乗り込んだのは三機の一つで白く、スマートなフォルムの機体、『陸戦型ゲッターロボ』だ。

“竜斗君、操縦方法は概ね空戦型ゲッターロボと同じよ。だけど左手の大型ドリルの扱いには十分気をつけてね”

 

「了解です」

 

マリアの指示に従いシステム起動、操縦レバーを握り込む。

そしてテーブルが回転し、外部ハッチまで横に滑るようにテーブルが右に移動する。降下用の外部ハッチの真上にテーブルが止まる。

 

“ここから降下してベルクラスの外に出るけど、衝撃だけ気をつけてね”

 

テーブルが開き、下に落とされるゲッターロボは直立不動で落ちていくが、着陸した際に膝をガクンと折り曲げて衝撃を抑える。

 

“竜斗、いいと言うまでまっすぐ歩け。先にSMBの地下訓練場がある”

 

 

そのスマートな体躯に似合わぬ左腕の、直撃すればどんなモノでもミンチになるであろう大型ドリルと右腕の掴んで潰す用途しか思い浮かばないペンチ状アーム。

白く尖った頭に睨みつけるようなそのモノアイ。

赤鬼の空戦型とは別の意味でいかつく、そして単純に強そうな陸戦型ゲッターロボ――。

 

竜斗はレバーをゆっくり押して前に歩き出す。誰もいないこの内部で途中、機体一機分が通れる程の細い通路に差し掛かるも足を止めずに歩いていく――と、

 

“竜斗、止まれ。

ここが訓練場だ”

 

目の前にあるのは何もない地下空間、広さは……先が見えない。四方八方、そして何キロあるのかと感じるほどの広大な地下訓練場である。

竜斗は思った、よく日本の地下にこんな場所を作れたなと。

 

「よし。今から自由にこの中を動け。その上で君に各機能の操作を教える」

 

訓練場の上には防弾ガラスに守られた個室、訓練監視室が。

そこには多数の最新コンピューターと早乙女、マリア、そしてなぜかエミリアがいた。

 

“リュウト、聞こえる?”

 

「エミリア?なんでここに?」

 

“実はアタシも見学したかったからサオトメさんに許可もらってたの。ここで応援してるから頑張って。けどケガだけには気をつけて”

 

「ありがとう」

 

そして操縦訓練を開始する。

 

――これは本当に凄い。僕がこんな凄まじい機動兵器を操縦するなんて夢にも思ってなかった。

すでに二回、いや今回ので三回ゲッターロボを操縦しているがその内の二回は急の戦闘により無理やり操縦させられたのでテンパっていて考えられなかった。

 

今、訓練として冷静に操縦してみると色々と分かる。

確かに操縦が簡単だ。早乙女さんの言うとおり操縦方法がまるで楽で、左右の操縦レバーで大体の動作が可能。

手前のコンピューターパネルでシステム起動と火器管制でそれも入力も簡単だ。

モニターは三六○度で確認でき、死角も横の球体型の3Dレーダーで補える。

そしてエネルギー残量や各機関、部位の破損状況、そして通信モニター全てが前面、側面モニターが表示してくれてしかも非常に見やすい。

そして左右の操縦レバー横についた赤ボタンを押すと左右の各武装であるドリルが時計回りに高速回転し、ペンチ型アームがガチガチ挟む。

 

最初は戸惑うかもしれないが、慣れてさえすればまるで自分の手足のように扱える。

あのメカザウルスをも一蹴できる機体がこんなに楽な操縦だなんて……これを動かす者によっては正義の味方になることや、逆に悪魔になることさえ可能である。

そう考えると怖くなって僕の身体は身震いするのだった――。

 

“竜斗、足元のペダルを踏め。この機体を『走らせる』”

 

「走らせる……?」

言われた通りにペダルを踏むと、ゲッターロボの足の底からキャタピラーのような車輪と、踵からジェットブースターと思われる推進機関がせり出し車輪が凄まじく回転、ジェットブースターが点火した。まるでスホーツカーが最大速度で地上を走るかの如く、凄まじい速度で急発進した。

 

「うわあっっ!!」

あまりの唐突な発進にゲッターはバランスを崩して叩きつけられるように地面に転がりこんだ――。

その様子を監視室から見ていたそれぞれ三人の反応は様々であった。

 

「だ、大丈夫リュウトっ!?」

 

「し、司令。なんの説明もなしに『ターボホイール・ユニット』の使用はヒドすぎませんか……?」

 

「フフ、自転車の練習と同じで転んで転んで身体で覚えるもんだ、心配いらない」

 

――そして竜斗は天井に頭をぶつけてピクピクしていたのであった――。

 

「……ヒドいよこんなの……っ」

 

……この後、約二時間はこの機体で操縦し、これで今日のゲッターの操縦訓練は終わった。

竜斗に異常がないか、マリアの手で医務室で精密検査を受けることになった。

彼は検査を受けている最中、こう考えていた。――どうやら自分には空戦型の方が合っているような気がした。大空を飛べるし、なによりも操縦の感覚がもう慣れているからというのが一番の理由だった――。

 

 

精密検査が終わり、特に異常なしだと診断されて今日はもう終わりだと言われ安心する。だが予習等はしておくようにと、早乙女から追撃の言葉を言われ落ち込む。

 

部屋に戻り、夕食まで時間があったのでシャワーを浴びて、着替えてベッドで休憩していた。

 

その時、入口ドアをノックする音が聞こえて竜斗はすぐに向かう。ドアを開けるが誰もいない。

 

「……?」

 

不思議に思った彼は、ドアから足を踏み出たその瞬間。

 

「――――っっ!?」

 

凄まじいほどの寒気と同時に右腕を何者かにこれでもかというくらいに掴まれたのだ。

 

「やあっとつかまえた♪リュウトちゃん……」

 

「水樹っっっ!!!?」

 

彼は戦慄し身体中に冷や汗が大量に流れ出た。そこにいたのはまるで悪魔のようなドス黒い笑みを浮かべたあの愛美だった――。

 

「ウフフ、逃げよったってムダよ。裏切り者はどうなるか……わかってるわよねえ、イシカワァ♪」

「~~~~~~!! 」

今まで、学校内でも見たことのない恐ろしい顔をした彼女に圧倒されてなすがままに連行されていく竜斗。

そして、近くの倉庫内に無理やり連れていかれた竜斗。

愛美は入口に鍵をかけて、立ちふさがるように彼の逃げ道をなくした。

 

「さあて、どんな処罰がいいのかな?」

 

掃除用具用ロッカーからブラシを取り出して、両手で持ち掲げ、殴りかかる体勢となる。すると竜斗は、

 

「……やりたいんなら好きにしろよ……っ」

 

「え…………っ?」

「……もう逃げるのはイヤだ。こんなことじゃあメカザウルスの奴らにも立ち向かえない……俺はもう逃げない、来るなら来いよっ!」

なんと竜斗が自ら愛美に反抗の意思を見せたのだ。

そして彼女も初めて支配していた人間に初めて噛みつかれたような思いに激怒した。

 

「そう……ならアンタを徹底的に痛みつけてやるわ、覚悟しろオ――っ!!」

 

……ちょうど、倉庫前に通りかかったエミリア。

 

(…………?なんか変な音聞こえるけど……)

 

倉庫の中から叫ぶような声と叩く音が聞こえてドアに耳を済ますと、それが愛美だと分かった。彼女が怒号を張り上げているようだが、次第に何に対して怒っているのかが分かった――。

 

(……まさか、リュウト!?)

 

彼女は急いでドアを開けようとするが、中から鍵を掛けられていて開かない。すると彼女は後ろへ下がり、足に踏ん張りを入れると渾身の力で突撃し、ドアへ飛び蹴りをかます。彼女の馬鹿力か、鍵が壊れてついにドアが開いた。

そしてエミリアが中で見たのはうずくまる身体中傷だらけの竜斗へ、足蹴にしながらブラシをぐりぐり押し付ける愛美の姿が。

 

「いやああっ!!!」

 

エミリアは我を忘れて、とっさに愛美を突き飛ばし、彼を抱きかかえる。

 

「しっかりしてリュウトっ!」

 

すると愛美の先ほど左手に持っていたスマートフォンがエミリアのそばに落ちている。

ふとそこに視線を通した時――そこで彼女の目がぐっと広がった。

 

「な……なによこれぇ……っ!?」

 

彼女はそれを手に取り、画面を見ながら大地震を受けているかのように激しく身震いした。

ついに見られてしまった、愛美による竜斗があの『リンチ』されている最中のあの画像を。

自分でさえ知らなかった、竜斗がこんな惨い目に遭っていたという決定的瞬間を捉えた画像。

彼女にこれ以上ない怒りが混みあがりヒステリックになったかのごとく、奇声を上げながらスマートフォンをその場に叩きつけて破壊、何度も何度も踏み潰した。

そして頭をぶつけながらもゆっくり起き上がる愛美も、自分のスマートフォンを憎き相手によって破壊される瞬間を目撃、頭の何かがキレた。

二人はこの倉庫を壊しかねないほどの派手な大喧嘩を始めた。

お互い金切り声を上げて取っ組み合い、ビンタ、殴り合い、髪の毛を引っ張り合い、倉庫にある物全てを投げ合いほうきやブラシで殴り合う。彼を無視して。

“一佐!!”

 

司令室でマリアと会話していた早乙女に乗組員から突然の通信が。

 

「どうした?」

 

 

“雑用倉庫内であの子達が!!”

 

 

事情を聞いた二人はすぐにあの倉庫に駆けつけると、何かわめく声とたくさんの人だかりが。

掻き分けて入ると、中ではエミリアと愛美による二人の女の修羅場が繰り広げられていた。

とりあえず乗組員達に取り押さえられているも、その血と傷、アザだらけの二人を見ると類を見ない取っ組み合いの大喧嘩をしたようである。そしてその横で同じく傷だらけで怯える竜斗の姿が。

 

「放しなさいヨオ!!このビチグソガイジン、今日こそぶちコロしてやるぅーー!!!」

 

「やれるもんならやってみろよォーーこのマ〇カスファ〇クビ〇チがァーーーーっっ!!」

 

女性とは思えない下品な罵言を吐きまくる二人。

 

「ふ、二人ともやめてっ、落ちつきなさい!!」

 

マリアは血の気を引きながら二人の仲介に入るが、しかし一向に止まる気配はなかった。それに対してマリアがついに、

「オマエラ大人しくしろつってんのがわかんねえのかゴラァ!!!」

 

「「ぴいっっ!!?」」

 

魔王の如く怒りを見せるマリアの前には二人も一気に消沈した。

 

「マリア!!」

 

「あっ……ごめんなさい……っ」

 

早乙女の一喝によって普段のような冷静沈着の表情に戻る彼女。これで彼女を怒らせてはダメだと悟るエミリア達。

 

「……とにかく三人とも酷い傷じゃないの……はやく医務室へ」

 

……医務室で治療を受ける竜斗達。

竜斗は自衛隊内の男性医務官に、エミリアと愛美の二人はマリアに、そしてその二人についてはまた険悪になることを避けて別々に治療を施された。

そして後からこの三人に何があったか面談すると……マリアも気分がすごぶる悪くなっていた。

だが早乙女は……いつもの如く平然といて無言であった――。

 

「…………」

 

その夜、自室のベッドで安静にするエミリアは真天井を見ながらとある決心がついた、それは――。

(アタシ……リュウトと同じゲッターパイロットになる。そしてもうリュウトばかり苦しめない――)

 




四話終わりです


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第五話「朝霞戦」①

――まさかエミリアがゲッターロボに乗りたいと言い出した時は僕は疑った。

エミリアは一体何を考えているのかわからなかったが、僕と一緒にメカザウルスから世界を守りたいと言ったのだ。

僕からすれば正直乗り込んでほしくない、エミリアまでひどい目に遭わすなんて……そんなことはさせたくない――

 

 

「サオトメさんお願いがあります。アタシをゲッターロボのパイロットにしてください!」

 

――次の日の朝、司令室でエミリアが彼にそう頼みこむが、隣にいたマリアは狼狽した。

 

「あなた何を考えてるの!?そんなこと出来るわけないでしょ!」

 

一方で早乙女は黙ったままだ。

 

「リュウトに操縦できるのならワタシにだってできるはずです、リュウトばかりこんな危険な目に遭わせたくないんです!」

 

何の迷いなく堂々と申し出る彼女だがマリアはそれを許すはずはなかった。

 

「エミリアちゃん、そもそも民間人の竜斗君を軍事兵器であるゲッターロボに乗せること自体が異例なのよ。

あたしは彼に負い目を感じているのにあなたまで……これは遊びじゃない、物凄く危険なのよ」

 

すると早乙女は顔色を一つ変えずに口を開く。

 

「――いいだろう。そこまでして乗りたいのなら君もパイロットとして認定しようじゃないか」

 

「司令!?」

なんとすんなり受け入れる彼にマリアは当然、唖然となる。

 

「君にも竜斗と同じく形だけでも軍属として階級を与えよう。制服も支給するし給料も貰えるようにする。

さっそくだが今日から彼と共に訓練を受けてもらうが、いいか?」

 

「はい!」

 

とんとん拍子に話を進める早乙女とエミリア。だが一方っマリアは彼らについていけなかった。

 

「司令、彼女も危険に晒すおつもりですか!?」

 

「いいじゃないか。ちょうどあと二人のゲッターパイロットを探していたところだし、寧ろ志願してくれたのはこちらからはありがたい」

 

「しかし……っ」

「それに竜斗も彼女となら連携をとれやすいんじゃないかな。気も楽になるだろうし」

 

すまし顔でそう言う早乙女だが、エミリアに視線を向けてこう話す。

 

「君にこれだけは言っておく。

ゲッターロボは君が考えるほど気軽な代物ではない。

確かに操縦は簡単で君にもできるだろう。だが竜斗の戦闘で見たとおり、色々な意味で想像を絶するほどの重圧が君にのしかかる。

そして乗ることによって君はもしかすれば大切なモノをいくつも失うことになるかもしれん。

 

君がゲッターロボのパイロットになるなら私は君が女性だろうが一切の情けや容赦などしない。

それですこしでも覚悟が揺れ動くなら、二度とゲッターロボに乗りたいなどと口に出すな」

……その時の早乙女の目は物凄く怖かった。重みのある言葉に加えてぐっと睨みつけるようで、まるでエミリアの覚悟を試しているかのようだ――だが彼女は負けじとキリッとした態度をとる。

 

「いいえ、一歩も引き下がりません。

リュウトが危険な目に遭ってるっていうのにワタシは艦内でただ安全を祈るというのがイヤなんです。

リュウトが生き残れるのなら……ワタシはリュウトの痛みや苦しみを全て背負うつもりです」

 

「エミリアちゃん……そこまでしてあなた……っ」

 

「…………」

 

 

……そして朝九時に早乙女の講義に受ける竜斗とエミリア。

彼はこれを聞いた時、心が抉られる思いをした。

彼女自らゲッターパイロットに志願したことに対する驚愕と心配もある。

最大の理由は、自分がゲッターに乗ってエミリア達を守るといったのに彼女が乗ると言ったのは、自分が心配だからという理由で、結局自分はまだ弱く見られがち、つまり頼りにされてないという意味でもあった。

 

昨日、愛美に反抗して逃げない、強くなると決めたのに――。

 

「アタシがいたら気が楽でしょ?頑張ろうね!」

 

「…………」

 

彼女の励ましの笑みが今は自分にとって心を重くする。

 

 

――エミリアを一言で言えば『献身的』。誰かが困っているなら自分が何とかしなきゃと考えてしまう傾向がある。

良く言えば『人に尽くす人』、悪く言えば『お節介』でもある。特に竜斗に対しては過保護と言われるほどで、今まで彼がイジメなどで困っていた時に真っ先に助けに入るのはエミリアだった――これは学校でも有名だったほどである。

 

なんでこんな俺のためにそこまで助けるのだろう――彼女の真意を知らない彼はそう思っていた。

 

午後からは昨日と同じくゲッターロボの操縦訓練で、彼の訓練とエミリアの初操縦を兼ねて行うという。

 

――昼。食堂に向かう竜斗達。

 

「アイツからあんな目に遭ってたなんて……リュウトが本当にかわいそう……っ」

 

「…………」

 

「けどもう安心して。これからアタシは早くゲッターロボの操縦をうまくなって、リュウトに負担かけないように必死で頑張るから。

そして一緒に恐竜……メカザウルスだっけ?ともかく世界を守りましょ♪」

 

――だが、彼の反応は快くなかった。

 

「……なんでお前までゲッターロボに乗らないといけないんだよ。すごく危険ってこと分かってるだろ……!」

 

「だって……リュウトばかりこんな目に遭ってるのにワタシだけ何もできないなんて…………それに――」

 

「……それに?」

 

「……アタシ、リュウトと一緒にいられるだけで凄く幸せだから。

大丈夫、キツいことやつらいことがあってもヘーキだよ!」

 

心からこもる彼女の言葉に、竜斗はドキッとして顔を赤面させる。視線を逸らすと震えるような声でこう言った。

 

「……ムリするなよ」

 

彼女にこれくらいしか言えないのが、自分にとっての残念であった――。

 

「…………」

 

彼らが通った通路後ろの曲がり角で覗く愛美。

彼女はまた何を企んでいるのか。スマートフォンを破壊されたことによる恨みか……。

 

昼食を食べて午後一時。昨日と同じく格納庫でパイロットスーツに着替える竜斗とエミリア。

白とオレンジ色の彼女らしく明るい基調色のパイロットスーツを着込んだ彼女は、日本人離れのグラマーであり、ピチピチのスーツを着込んだその姿は物凄くセクシーである。

 

(エミリアって……スタイルいいな……っ)

 

直に見る竜斗も彼女の姿に思わず惚れ惚れし、唾を飲み込む。

 

そして早乙女達と合流し、エミリアはマリアからゲッターロボの概要と操縦方法の講座をされている間、竜斗は早乙女からこれからについて指示された。

 

「竜斗、今日は彼女と一緒にコックピットに搭乗して色々とサポートしてやってくれ、できるか?」

 

「……やってみます。エミリアも僕といたらやりやすいでしょうから」

 

そしてエミリアはというとその表情を見るとガチガチに緊張しているようでマリアの講座を聞いているのかどうかわからないほどだ。

自ら志願したとは言え、ただの女子高生である。

そんな彼女がゲッターロボに乗り込むなんて、未知の世界に足を踏み入れたようなものである。

 

「……エミリアちゃんは今日が初操縦だから絶対に落ち着いて、そして無理をしないこと。

それに今日は竜斗君が一瞬にコックピットに乗ってくれるから、少しはやりやすくなると思うわ」

 

「リュウトが?」

 

振り向くと防護ヘルメットを携えた彼はこちらへ駆けつける。

 

「エミリア……やめるなら今の内だよ」

「ううん。自分が決めたことだし。それにリュウトが一緒に乗ってくれるんだもん、アタシ張り切ってガンバル!」

 

「……そうか。なら行くか!」

 

「うん!」

 

二人は彼女の希望で『陸戦型ゲッターロボ』に乗り込む。

なぜこの癖のある機体を選んだのかは、本当は彼女も空戦型に乗りたいも、好きな竜斗に譲ろうと考えたからである。

 

オレンジ色の防護ヘルメットを被らせた彼女をコックピットの座席に座らせて、彼が座席後部にしがみついて立つ。

 

「エミリア、まず俺の言うとおりにコックピットのシステムを起動させるんだ」

 

「う、うん……っ、フフフ」

 

なぜか突然彼女がクスクス笑い出したのだ。彼は緊張のしすぎで混乱しているのか心配した。

「……エミリア、大丈夫か?」

 

「ううん、なんかあれだね。今の光景がなんか現実的じゃないから……」

 

「……まあ確かにそうだな、ハハっ」二人は笑った。そして彼の指示に従い、右レバー手前のコンピューターパネルをゆっくり押すエミリア。システムを起動させ、内部機器がライトアップ。

内股に座る彼女は震える手で左右レバーを握りしめた。

 

“エミリア、準備はいいか?”

 

「は、はい……OKですっ」

 

“あの時の威勢が全然ないな。まあそうなるだろうとは思ってるがな”

 

「ど、どういう意味ですか!」

 

“まあいい。竜斗、彼女をしっかり支えてやれ”

 

「了解です」

 

“それに竜斗みたいに小便もらすんじゃないぞエミリア、ハハハハッ”

 

「「………………」」

 

……そして昨日のようにカタパルトへ移動し、外部ハッチが開く――。

 

「エミリア、行くよ」

「……うん」

 

テーブルが開き、降下するゲッターロボ。

着地した際、衝撃でエミリアは思わず「ヒャッ」と声を上げる。

 

“ではエミリア。今から訓練場に行くがてら、まっすぐ歩く練習だ。左右の操縦レバーを交互に押し出せ――”

 

彼女は言われた通りレバーを動かすと、連動してゲッターがゆっくりと前へ前進した。

 

「リュウト……アタシ、ゲッターロボを動かしてる……!」

 

「ああ、いいぞ。その調子――」

 

緊張で震えながらも動かしていくエミリアと後ろから見守る竜斗。

 

……そして地下訓練場にたどり着き、監視室ではすでに移動していた早乙女とマリアが二人へ通信をかける。

 

「よし、準備はいいか。まずは基本的の動作からだ」

 

竜斗は親身に彼女にゲッターの操縦方法を次々に教えていく。

 

「え~と、え~~っと…………っ」

 

「焦らないで。この右レバーをゆっくり引いて――そうそう、いいよ」

 

元々、要領と要点をまとめるのが上手な彼が教える事もあり、彼女も必死であるが次々に操縦トレーニングをこなしていく――。

 

「…………」

 

彼女は突然、腕に力をなくし、レバーを離してフラッと落ちた。

 

「……エミリア?」

前に移動して、様子を見ると身震いしながら息を乱しているエミリア。

ヘルメット顔面部がおそらく吐息による湿気曇りすぎて顔が確認できない。彼はすぐに彼女のヘルメットを外すと顔中がもう汗まみれであった。

 

「エミリア、大丈夫か?」

 

「う、うん、チョット疲れただけ……っ」

 

竜斗は安心の吐息を漏らした。

 

“竜斗、彼女がどうした?”

 

「緊張しすぎてクラッときただけです。少し休ませてもいいですか?」

 

“分かった。コックピットを開けて中の空気を換気するといい”コックピットのハッチを開放し、竜斗もヘルメットを外し、外の空気を吸う。

 

「エミリア、気分はどお?」

 

「……ゴメンねリュウトっ」

 

「……エミリア?」

 

彼女は嗚咽していた。

 

「バカだよね……こんな意地張ってまでゲッターロボに乗り込むなんて……リュウトの訓練を妨げてるのに……サイテーだアタシっ」

 

「…………」

 

彼からすれば今まで気丈な彼女が涙を流すのを見るのは珍しいことだ。

彼女が心身共にすごく無理していると彼は悟る。

 

「エミリア、俺はお前がゲッターのパイロットになりたいと言い出した時、正直スゴくイヤだった。

お前を危ない目に遭わせたくないこともあったけど……エミリアは俺を頼りにしていないのかとふと思ってしまって――けどさ、正直俺一人でずっと戦っていけるのかと思うと心細くて。

けどエミリアとならうまくいけそうな気がするんだ。ありがとな、こんな俺のために。そしてこれからもよろしく、エミリア」

 

「リュウトっ……うん」

 

二人に満面の笑顔が戻った時であった――。

 

“北海道方向より恐竜帝国のメカザウルス部隊がこちら朝霞駐屯地へ向けて進行中。数は一個小隊規模、新型機も数機確認。直ちに各部隊は戦闘配備。BEET部隊員は速やかに各機体に搭乗、スタンバイせよ”

 

この地下訓練場に鼓膜が破れるほどのサイレンと放送が流れた――奴らがこんな時に――。

 

“竜斗、聞いたとおりだ。今すぐ戻ってこい、ゲッターロボ出撃だ!”

 

「了解です!エミリア、操縦代わるよ!」

 

「うん!」

 

二人はヘルメットをつけて、席を交替。彼のすっかり手慣れた操作で素早くベルクラスへ戻っていく陸戦型ゲッターロボ。

そして格納庫へ戻り、二人は降りると早乙女が待っていた。

「今から状況を説明する。敵戦力は約百三十機ほど。

母艦はないが今回は放送であった通り今までとはタイプの違う新型機も確認された」

 

「し、新型機ですか……」

 

「ああ、確認する限りでは周りに頑丈な装甲で張り巡らされた巨大な怪鳥型のメカザウルス数機と、翼竜のような翼をつけた人型の大トカゲだ。

そいつはライフルらしき兵器も携えている、十分気をつけろ」

 

メカザウルスにライフル……全く想像できなかったが、新型機であることから多分手強いだろうと予想する。

 

「おそらく自衛隊のBEETでは歯が立たんだろう。

そこで竜斗、お前が戦陣の中心になって戦え、我々もサポートする」

 

「了解!」

 

「いい返事だ。君も段々と強くなってきたようだ。

並大抵の兵器では重装甲タイプにはキズ一つもつけられないだろう。

そこで今回、空戦型ゲッターロボには『SR(ショート・レンジ)兵装』に換装しておいた。

白兵戦用兵装だが、そいつらに対抗できるような武装、そして被弾を想定して増加装甲をゲッターロボに装着しておいた。

それで被弾の心配せずに思いっきり敵を真っ二つにしてこい……と言いたいところだが被弾数を減らし、機体の損傷を抑えるのもパイロットの務めだ。

なるべく回避するようにしてくれ」

 

――竜斗は空戦型ゲッターロボに乗り込もうとした時、エミリアがそばに駆けつけ、彼の手をギュッと握った。

 

「リュウト……気をつけて……ワタシも一緒に戦いたいけど……」

 

「心配しないでエミリア。絶対に生きて戻るから!」

 

そう自信げに話す竜斗に彼女の暗い顔も徐々に晴れて穏やかになる――。

そして彼女と別れて空戦型ゲッターロボのコックピットに乗り込み、すぐさまシステム起動、そしてレバーを握り込み、待機する。

 

――機体の至る箇所に張り巡らせた銀色の追加装甲のおかげで堅牢を思わせるゲッターロボ。

右手にライフルを携えているが、腰にマウントされているのは二本のゲッタートマホーク。

そして背部中央には同じく折り畳まれた、身の丈はある両刃の大剣……今回は姿はまさに重装戦士のようである。

 

“準備はいいか?”

 

「いつでもいけます」

 

“これからベルクラスを浮上させる。その後、直ちにゲッターロボ発進だ。

出たらなるべく味方機と離れないように戦え、一人で戦うより多数で戦ったほうが遥かに勝算はあるし、何より彼らは君と同じく戦友だ、守り抜くことも考えろ”

 

「了解!」

 

補給と整備がすでに終わったベルクラスが轟音と共にドッグベイから遥か上空へ垂直に浮上していく。

 

「これより本艦ベルクラスは迎撃態勢へ移行する。艦内員は速やかに各配置につけ!」

 

この広い朝霞駐屯地とその周辺にはすでに対空砲台、自衛隊が開発したSMB『BEET』が数十機配備し、携行するライフルやバズーカ、ミサイルランチャー、高射砲を構えて、来たるべき激戦に息を潜めていたのだった。

 



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第五話「朝霞戦」②

――上空約一五○○メートル。恐竜帝国第十二恐竜中隊、十七メカザウルス、メカエイビス混成部隊は竜斗達のいる朝霞駐屯地に向かっていた――。

 

無数の飛行型メカザウルスと、『メカエイビス』と呼ばれる重装甲と多武装で施された、機械化された巨大な怪鳥。メカザウルスより約二倍近い全長を持っている。

そしてキャプテン・ラドラの駆る『メカザウルス・ゼクゥシヴ』もその小隊内混じっていた。

 

「あと十七分で朝霞駐屯地へ到達する。おそらく地上人類軍も我々を感知し迎撃態勢にあると思われる。各メカザウルス戦闘準備」

 

やはり彼、ラドラが小隊の指揮をしていた。

だが中隊司令官である彼がわざわざ出向いていいのだろうか。

 

“ラドラ司令、絶対に無理はなさらずに”

 

「ああ。朝霞駐屯地におそらくいるであろうゲッター線駆動の機体と浮遊艦の偵察を兼ねて、この『メカザウルス・ゼクゥシヴ』と『メカエイビス・タウヴァン』の実戦テストを行うためだ。

ガルマ、『メカエイビス・タウヴァン』の調子はどうだ?」

 

“……スゴい出力です。これなら地上人類軍もなすすべはありませんよ――”

 

するとラドラは数秒間を置き、副司令官であるキャプテン・ガルマにこう話した。

 

「ガルマ、私達はなぜ地上人類を殲滅する必要があるのだろうな……?」

 

“……ラドラ司令?”

 

「……私達爬虫人類は帝王ゴール様に忠誠を誓い、命令は絶対に従う。だが、そんな私でも理解し難いこともいくつかある。なぜ人類と共存するという選択肢をあえて消そうとするのか……」

 

“ラドラ様、なにをおっしゃいますか。我々爬虫人類は地上人類と相容れぬ存在。

その理由はあなたも、もちろん知っているのでは?”

 

「…………」

 

ラドラは目を瞑り、黙り込む。が、すぐにキリッとした目を取り戻す。

 

「さて、雑談はこれくらいにして……各員につぐ、ゲッター線駆動の機体と浮遊艦は私とメカエイビス隊が相手をする。

その以外のメカザウルス隊は地上の敵部隊と交戦してくれ。決して無理をするな、互いに守りあうことを頭に入れておけ」

 

――そして朝霞駐屯上空ではすでに発進したベルクラスが、メカザウルス隊の来る方向へ向き、迎撃態勢をとっていた。

艦内の格納庫でも竜斗の乗った空戦型ゲッターロボが今、満を喫して発進しようとしていた。

 

「新型メカザウルスかあ……なんか怖いけどここまで来たらやるしかないか!」

 

やはり恐怖心があるようだが、すでにタカをくくっているのか前ほどビクビクしていない、彼も少し成長したということか。

 

“竜斗、発進するぞ”

 

「了解!」

 

外部ハッチが開かれて、光が差し込む。しかし今回は快晴でなく、雲が多い。

システム起動したゲッターはすぐ膝を曲げて発進体勢を取る、そして――。

 

「石川竜斗、空戦型ゲッターロボ、発進します!」

 

彼のかけ声でカタパルトテーブルが射出。上空に飛び出すと背部のフライトユニット『ゲッターウイング』が左右に展開、大空へ飛翔した――。

 

“竜斗、来たぞ!”

彼らの見つめる先からおびただしい数の軍勢、キャプテン・ラドラ率いる第十七メカザウルス小隊がついに姿を現した。

そしてラドラも遥か前方に浮遊するベルクラスの姿を、モニターからまるで新しいおもちゃを眺めるような興味津々の目で見ていた。

 

「……あれが例の地上人類の浮遊艦か、こちらの母艦より大きい。ゲッター線反応二つ確認……おもしろい」

 

ラドラにニィっと笑い、操縦レバーをさらにぐっと握りしめた。そしてついに両軍は接触し戦闘開始。各メカザウルスは対空砲火が降り注ぐも臆せず降下、地上にいる多数のBEET部隊と交戦する。

 

――BEETは日本製SMBであり、ゲッターロボの大元になった機体である。この機体の売りは汎用性にある。

様々な兵装やオプションを換装でき、陸はともかく空、海上全てをこなせるという特性を持っている。

尖った性能がほとんどである各国SMBとは一線を画す機体であり、そしてコストパフォーマンスもいいため実は各国から注目を浴びている機体である。

欠点は汎用性重視のために突出した面はなく器用貧乏なところか――。

 

次々に降りていく飛行型メカザウルス隊にBEETは各兵装の砲門を上空に向けて、照準を合わせる。

「各機、発射用意。これよりメカザウルスを掃討を開始する!」

 

このBEET小隊を統率するは、朝霞駐屯地第三十三SMB小隊長、黒田悠生(くろだゆうせい)。

幹部候補生で入った彼はつい最近、一尉に昇級したばかりの弱冠二十九歳の小隊長であり、まだ青臭く未熟の面はあるが、SMB操縦技術に卓越しており、誰よりも平和を愛する気持ちは負けない人物である。

 

「十分引き寄せろ。弾薬、エネルギーを無駄にするな」

 

――メカザウルスが射程圏に入った時、

「第三十三SMB小隊射撃用意、撃てっ!」

彼の号令と共に、無数のプラズマ弾、ミサイル、高射砲、駐屯地内に張り巡らせた対空砲による一斉攻撃が多数のメカザウルスに襲いかかる。

直撃したメカザウルスは次々に撃墜されるが回避した機体は、発射の隙間を見つけて次々とマグマを吐き出して地上に降り注ぎ、多数のBEETに直撃。

超高熱に耐えきれるずに溶けてしまった――。

 

「くっ……」

 

地上に着陸したメカザウルス達はすぐさま近くのBEETへ猛攻を仕掛ける。

ラドラの命令に反映してか、二体一組になり連携を取るなど戦術面を利かせており、そして至近距離でドロドロのマグマを口から直接浴びせる機体もあれば、その特殊金属の鋭い爪や牙で原始的に引き裂き、噛み砕く機体と様々。

 

一方、BEETも右腰部のナイフホルダーから、プラズマエネルギーの刃を発振する大型エネルギーナイフ『プラズマ・ソリッドナイフ』に持ち替えて応戦するがプラズマエネルギーの出力が弱く、まともにメカザウルスの頑丈の装甲の前にはかすり傷ぐらいがやっとである。

次々に撃破されていくBEET。

なんとか生き残る黒田だが次々に命を散らす自分の部下達の前に彼は、

 

「すまん……だが安心しろ、どうやらオレもすぐに後を追うことになるようだ……っ」

 

覚悟を決めて、二本のプラズマ・ソリッドナイフを二刀流し、前方で暴れまわる二足歩行型メカザウルスへ突撃していく――。

 

「一機でも多く倒す、それがオレが死んでいった部下達にできる精一杯の手向けだ!」

 

メカザウルスも彼の機体に気づき、雄叫びを上げて両者は交戦開始。

彼の卓越した操縦技術に連動して、とても従来のBEETの動きとは思えない俊敏な反応を見せる。メカザウルスの振り回す爪を軽くいなして、大きく空振りしたその隙に、左片方の眼部にナイフを全力で突き刺す。

 

汚い悲鳴を上げるメカザウルスに、BEETの後ろ腰に装備した丸く黒い鉄球のようなモノ『対メカザウルス用グレネード』を取り出して、メカザウルスの大きく開けた口の中に強引に押し込んだ。

安全ピンを瞬時に抜き取り、素早く離れた時、そのメカザウルスは数秒後に頭部が粉々に粉砕されてマグマが噴水のように吹き出した。

 

「四機目撃破、次は……なっ!」

 

振り向くとなんと別のメカザウルスが待ち構えており、頭部を噛みもぎ取られてしまった。

コックピットが胸部にあったのが幸いだが、頭部は操縦制御系回路を詰め込んだ場所であったためにその場で身動きすらとれずそのまま倒れ込んでしまった……。

それをチャンス言わんばかりか、メカザウルスは口を大きく開けてBEETに向ける。

黒田もモニターから見るメカザウルスの口腔に見えるは円い穴、マグマ砲が黒煙を上げて今にも発射されようとしていた。

 

「くそ……っ」

 

このまま機体ごとマグマを浴びて、火焔地獄の味わった末に死ぬ想像をする彼だった――が。

 

「なっ!」

 

突然、メカザウルスが横に蹴り飛ばされて、叩きつけられるようにゴロゴロ転がった。

 

“だ、大丈夫ですか!”

 

そこにいたのはなんと竜斗の駆る空戦型ゲッターロボだった。

 

「これが早乙女一佐の開発したSMB、ゲッターロボか……っ」

目の前に立つ銀色の装甲に覆われたゲッターロボは無骨な格好だが、彼からはまさに救世主のように見えた。

通信モニターが入ると操縦座席にすわる竜斗の姿が映る。

 

“ケガは……ありませんか?”

 

「大丈夫だ。それよりも周辺のメカザウルス達を!」

 

 

ゲッターロボはライフルをメカザウルス達に向けて、次々と水平射撃を行う。

出力を強化されて、貫通力を備わったプラズマ弾が次々にメカザウルスを撃ち抜いていき、撃破していく。

しかしゲッターの背後を狙ったメカザウルスが突撃してくる。しかし、竜斗は気づいていたのか振り向き、左腰のゲッタートマホークを取り出して横一線に振り込み、真っ二つにした。

「まだゲッターエネルギーとプラズマエネルギーの残量は大丈夫だ。

装甲のおかげで各部位の損傷はなし、と。

これならまだライフルだけでいける――けど動きが鈍い感じが……仕方ないか、こんな重装備してるもんな――」

 

前の戦闘と違い随分と落ち着いている竜斗は流石である。

 

“……とりあえずあなたを避難させます。ゲッターロボに乗り移れますか?”

 

BEETのコックピットにゲッターロボの手を近づけ、ハッチを開ける竜斗と黒田。

黒田はすぐに手の上に飛び乗るとゲッターロボのコックピット前に移動し、乗り移りすぐに後部へ移動した。

 

「本当にすまない。君、名前と所属、階級は……」

――と黒田から聞かれるが、

 

「所属と、階級ですか……実は僕、まだそうゆうのはありません……」

 

「え……じゃあ君は一体誰なんだ?」

 

「僕は……石川竜斗です。元高校生なんですが、色んなことがあって早乙女司令からゲッターロボのパイロットに任命されたんです……」

 

非常識な事実を知ったあまりに、そしてそんなことをしている早乙女に対して呆れ返る黒田。

 

「あ、けどもう少しで僕も階級がつくらしいので心配しないでください……」

 

そんな問題じゃないだろう――と黒田はそう感じる。

 

“竜斗、こちらも今非常に危険な状況だ。ちいと海側に移動したがすぐに戻ってこい”

 

早乙女から通信が入ると、黒田は慌てて彼に問いかける。

 

「一佐!」

 

“お、黒田か。どうやら竜斗に助けられたようだな”

 

「どういうことですか、自衛官でもない高校生をSMBに乗せるなんて!」

 

“マリアとほぼ同じことを言ってるな。その理由は、この危機的状況を乗り越えたらいくらでも言う。その前に死んでしまっては理由もクソもないだろ”

 

「…………」

 

相変わらずのマイペースぷりを発揮する早乙女である。

 

「早乙女司令、とりあえず今は残りの地上にいるメカザウルスを殲滅してからベルクラスの援護に移ります、よろしいですか?」

 

“ああっ、迅速にな。こちらのシールドも持ちそうにない――”

 

ゲッターは残りわずかになったメカザウルスに向かって、ゲッタートマホークを掲げて走りこんでいく――。

 




ちなみにメカエイビスとは恐竜帝国版モ〇ルアーマーのようなものだと思ってください。


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第五話「朝霞戦」③

――朝霞駐屯地南、近海上約一五○○メートル上空。

弾幕とマグマによる灼熱の業火が渦巻くこの空域。

ベルクラスは、ラドラの駆る『メカザウルス・ゼクゥシヴ』とガルマと上級恐竜兵士の駆る『メカエイビス・タウヴァン』二機の集中砲火の前に窮地に陥っていた。

 

『メカエイビス・タウヴァン』は首長竜のような縦長の外見でほぼ全身を銀色の外装甲で覆われた胴体。

巨大な蝙蝠の羽を広げるその怪物は全長四十メートル以上はある。

まるで重爆撃機を思わせる姿。口から吐き出す大口径マグマ砲、外装甲に内蔵された無数のミサイルによる大火力攻撃。

 

だがそれ以上にラドラが搭乗する『メカザウルス・ゼクゥシヴ』は、空戦型ゲッターロボ以上の機動力を持った機体でベルクラスに搭載された無数の機関砲で弾丸をあたり一面にばらまくも、翼とブースターを駆使したトリッキーかつ変則的な軌道を描きながら空中回避し、携行するマグマ弾を高速に発射するライフルで艦橋へ精密射撃を行ってくる。

早乙女とマリアは驚いた。今まで野蛮で凶暴な行動しかとらなかったメカザウルスにこんな知的の行動ができるとは……。

 

このメカザウルスの中に誰かが操縦している、それも知能が発達しており、それも戦闘経験に熟練している人物が搭乗している――二人は予想は的中している。

 

「たわいないぞ、情報を頼りに用心していたがこの程度か!!」

 

“調子に乗るなガルマ!”

 

「す、すいません。しかしこの浮遊艦は大したことありませんね。

バリアだけが取り柄で武装が貧弱ではただの木偶の坊ですな、ハハハハハッ!”

 

歯ごたえのなさに高笑いしているガルマに対し、ラドラはレーダーで周囲を確認しながら操縦している。

 

(……ゲッター線駆動の機体がこの宙域にいない)

彼は気づいていた、この空域にゲッターロボの姿がないことに。

 

“司令、このまま浮遊艦を撃沈させますか?”

 

他機に乗る上級恐竜兵士の通信に、ラドラはコクッと頷く。

「報告と情報を頼りにどれほどのものか、偵察にきただけだがどうやら検討違いだったようだ。

脅威はいなくなることには良いに越したことはない。このまま戦闘続行し撃沈させろ”

 

ラドラからそう命令が下った……。

 

「大型プラズマシールド、エネルギー消耗率79パーセント。このままでは本当に保ちません!」

 

「――待て、竜斗だ!!」

 

モニターに映るには今やっとこの宙域に到達したゲッターロボの姿があった。

 

“どうもすいません、地上のメカザウルスをやっと掃討しました……っ”

 

「報告は後にして、今はこの状況を打開することを考えるんだ。こちらもこれ以上被弾すると危ない」

 

竜斗と黒田はモニターに映る、自分の約二倍以上はある巨大な怪鳥二機と例の人型大トカゲメカザウルスを目視し、息を飲む。

 

「これが奴らの新型機……」

 

「ファンタジー物語の世界かここは……っ?」

 

ラドラも突然現れたゲッターロボに目を輝かせる。

 

「やっと来たなゲッター線駆動の機体。貴様の強さを調べさせてもらう。ガルマ達はあの浮遊艦の方を頼む!」

 

“了解!”

 

彼らはそれぞれ行動開始。

竜斗はベルクラスを破壊させまいと、近くの『メカエイビス・タウヴァン』の方へ向かう。

ライフルを胴体に向けて発射するも、頑強な外装甲を前にいとも簡単に弾かれてしまった。

そしてヤツらもゲッターに気づき口をグワッと開け、大量のマグマをゲッターロボに向けて吐き出した。

竜斗はすかさずレバーを引いてひるがして避けるも少し増加装甲にかすり、その部分がジュワッと溶けてしまう。

 

“竜斗、一刻も早くヤツらを撃墜しろ。背中の『大型プラズマソード』を使え。

それでヤツを、外装甲ごと真っ二つにできるハズだ”

 

ゲッターロボは背に手を回し、折りたたみ式大型実体剣『プラズマソード』を取り出し、すぐに展開。

身の丈以上に長く幅広のこの大剣の柄を両手持ちし高く掲げた時、ゲッタートマホークのような眩いほどの蒼白光のプラズマ刃を両刃に発振した。

竜斗はプラズマソードをぐっと振り込み、前方のメカエイビス・タウヴァンめがけて突撃。

向こうも近づけさせまいと外装甲全体から無数の発射口を出現させて大量のミサイルをあたり一面にばらまいた。

 

辺り一面を爆炎に染めるも竜斗は臆せずに、そして巧みに避けながらぐんぐん向かっていく。

 

「なっ!!」

 

上級恐竜兵士が気づいた頃にはゲッターロボは首を根元から切断。長い首ははるか下の海へ落ちていきマグマが噴き出すが、竜斗は止まらず勢いでそのまま尻尾まで横一線に両断した。

 

「お許しをラドラ司令…………き、恐竜帝国、バンザアーーーイ!!!」

 

動力炉のマグマリアクターが真っ二つに斬られたことにより大量のマグマが溢れ出し、内部の機械に誘発して内部から大爆発を起こす。

 

「なっ……クソォ!」

 

ガルマは部下の乗る機体を完全撃破されて憤怒する。

 

“……ガルマ、冷静にいろ。今は任務を遂行することに専念しろ!”

 

「く……っ」

 

ラドラの駆るゼクゥシヴはすぐさまゲッターロボを追跡、そして姿を見つけると携行するライフル『マグマ・ヒートライフル』の照準をつける。

 

「我が部下の無念、晴らさせてもらう」

 

ゲッターロボへマグマ弾を高速発射し、その卓越した命中精度でゲッターロボの増加装甲へ次々に穴だらけにされていく。

 

「まずあいつを何とかしないと……!」

 

ゼクゥシヴへ再びプラズマソードを振り上げて向かっていくゲッターロボ。

 

「ほう、私と真剣勝負か。よかろう」

 

ライフルを腰に下げて、背部から細身で両刃の長剣を取り出した。

柄を両手で握ると刃全体が真っ赤に発熱したのだった。

 

「この『マグマ・ヒートブレード』の切れ味、試させてもらうぞ!」

 

――従来のメカザウルスの動力源であるマグマは有限であり、さらに性質上冷えてしまうと出力ががた落ちし、交換を受けないと単独による継続戦闘時間が短い。

つまり長期戦闘はできないと言う欠点があったが、それを解決するためガレリー率いる恐竜帝国兵器開発部門の造り上げた、このラドラの乗るゼクゥシヴに搭載された新システム『アルケオ・ドライヴシステム』とそれに対応する新型動力炉『ヒュージ・マグマリアクター』である。

なんと無尽蔵にマグマを生み出すことができ、ほぼ永久稼働することができるという恩恵を受けることができるようになり、マグマの許容量の増加と、体内へ循環する効率を強化した『ヒュージ・マグマリアクター』により初めて成り立つシステムである。

大型化、もしくは口から固定式しかできなかったマグマ兵器は本機の『マグマ・ヒートライフル』のようにライフル状に小型化を実現。取り回しが良くなり戦術に幅を広げることができるようになった。そしてこの『マグマ・ヒートブレード』もその産物であり、剣内部にマグマを直接循環させることにより、全てを溶断する超高熱を帯びた剣と化すものである――。

 

ゲッターロボとゼクゥシヴの二機は激突。

ゲッターはプラズマソードを大きく縦に振り切るも、見抜かれていとも避

けられてしまう。

 

「隙が大きい。いくら切断力があろうと当てなければ意味がないぞ」

 

さすがはキャプテン・ラドラ。余裕でゲッターロボの動きと剣筋を見切り、軽々と避けていく。

 

「この機体の操縦者は素人か。

そうか、これまでの勝利は機体の性能によるものか」

 

ゼクゥシヴは次々に空振りするゲッターの隙をついて、的確にそのマグマ熱で赤く染まった剣刃を当ててくる。

そして増加装甲がいとも容易く溶断される。しかし奥深くまでは切り込まず、外装甲だけでとどめているが……。

「くそっ、今までのメカザウルスとワケが違う……まさか!」

 

「誰かが乗ってるのか……!」

 

竜斗達も気づいた。このメカザウルスの特異性を。剣の扱いに長けた何者かがこれを操縦していることを。

 

……次々に増加装甲を焼き切られて本装甲が露出していくゲッターロボ。

 

「……もういい、そろそろ葬ってやろう。私ができる対戦者への最大の礼儀だ」

 

ゼクゥシヴはぐっと剣を握りしめ腰をどっと低く据えた構えに入る。

これは次から本気で叩き斬るという意味だ。

 

「このままやられる……のか?」

 

竜斗の操縦にも疲労が見え始めてキレがなくなってきていた――彼もこのままでは一方的になぶり殺される、そう悟る。その一方では、ガルマの駆る『メカエイビス・タウヴァン』による攻撃を未だ受け続けていたベルクラス。

艦橋内で艦の操作を行う早乙女とマリアの後ろでモニター越しから見守っていたエミリアは青ざめた表情だった。

 

「リュウトっ!!」

「くう、艦のバリアが消えかかっています、もう保ちません……っ!」

 

「…………」

 

早乙女はすぐさま竜斗に通信を行う。

 

“竜斗、聞こえるか!”

 

「早乙女司令、このままではゲッターロボがこのメカザウルスにやられます!」

 

“こちらもシールドが消滅寸前まできている。

いいか、ベルクラスを攻撃している怪鳥を優先的に撃墜しろ。なんとしてでも被害を抑えるんだ”

 

「しかし……この剣がもうエネルギー切れを起こしてます。このままであの怪物を斬れるんですか!?」

 

プラズマ兵器は基本的に機体内のプラズマ反応炉からのエネルギー供給式であり、特にこのプラズマソードは凄まじくエネルギー消耗が激しく、刃を形成する刃部の光の眩さが無くなり消えかかっていたのだった。

 

“心配するな、プラズマソードの別形態を発動する。そうすれば現形態以上の切断力が生み出せる”

 

「別……形態……どうすれば?」

 

 

「両腰にある二本のゲッタートマホークを――まずそこから離れろ、援護する」

 

竜斗はものすごい不安感

になったが早乙女の言葉を信じ、すぐにゼクゥシヴから離れる。

 

「逃げる気か、この臆病者!」

 

同然ラドラも追いかけるも、ベルクラスは再び左右の前舷、側面の機関砲全門で弾幕を張り、近づけさせない。

ゲッターは弾幕に当たらない、そしてゼクゥシヴから離れたベルクラスの艦橋付近に到着する。

 

“よし竜斗、プラズマソードの柄の両側面の部分に何かをはめ込むような窪みがあるだろう。

そこに二本のトマホークを下からスライドするように取り付けるんだ”

 

竜斗は言われた通りにトマホークを一本ずつ展開し、プラズマソードの柄の窪みにピッタリはめ込んでいく。

すると今度はゲッターエネルギーによるエメラルドグリーン色の光のビーム刃へと発振した。

 

“これぞ、プラズマソードの第ニ形態『ビーム・ソードトマホーク』。竜斗、わかってるな!”

 

「了解!」

 

新たな武装と化したこの『ビーム・ソードトマホーク』を振り込み、もう一機のタウヴァンへと全力へ飛び向かっていった。

一方、ガルマの乗るタウヴァンはベルクラスに猛攻を続け、シールド破壊寸前にまで追い詰めていた。

 

「この攻撃でこの浮遊艦は撃墜も同然。地上人類共よ、部下の恨みだ。覚悟――」

 

“ガルマ、気をつけろ!あの機体が向かってきてるぞ!”

 

彼はモニターを見ると、ゲッターロボが大剣を携えてこちらへ一直線に向かってきている。彼は慌てて攻撃目標をゲッターに変更、すぐにマグマ、ミサイルの集中砲火を浴びせる。

「ヤバい……このままではたどり着く前に……」

 

いつ被弾するやも知らないこの状況に竜斗は弱音を吐いてしまう。が、

 

「竜斗君と言ったな。諦めるな、自分の感覚を信じろっ」

 

後ろでしがみつきながら見守る黒田に激励された竜斗は、気合いを入れて、自分の操縦を信じてレバーを押し出す。

 

「うあーーーーーーっっ!!」

 

何発か被弾し、外装甲が剥がれていくも諦めずに直進、シールドを張り続け接近、そして――。

 

「なんだとーーっ!!」

 

ビーム・ソードトマホークの剣先がタウヴァンの頭部に突き刺さるが、それでは終わらずまるでプリンをナイフで切るが如く、そのまま体内へ縦に真っ二つにしながら斬り進んでいった――。

ゲッター線の作用か、タウヴァンの爬虫類の肉質を溶解していき、胴体内部のコックピットを見事に貫通、ガルマはゲッター線の光を直接浴びて一瞬で溶かされてしまった。

 

 

 

「が、ガルマァーーーっっ!?」

 

ラドラは慌てて彼に通信するが反応せず……。

ゲッターロボがタウヴァンを真っ二つにし、マグマが噴水のように溢れ出しそのまま空中で爆散を遂げたのだった。

 

「くう……っ、他のメカザウルス隊は……」

 

通信をかけるも全く返答なし。それは全滅を意味していた……。

 

「なんてことだ……全員すまぬ……私の責任だ……だが!」

 

ラドラは戦意喪失し、戦闘続行不可能と判断、すぐさま一人北海道方向へ逃げ帰っていく。

 

「に、逃げた!まて――」

 

追跡しようとするが、黒田に肩を叩かれた。

 

「これ以上深追いするな、危険すぎる」

「しかし――」

 

“竜斗、黒田の言うとおりだ。ゲッターロボもベルクラスも限界がきてる、これ以上は無理だ”

 

「…………」

 

日が落ちはじめ、暗くなっていくこの大空にポツンと浮かぶゲッターロボとベルクラス。

 

「竜斗君、君の操縦にセンスを感じたが、やはり乗り込んて日が浅いのか色々荒過ぎる。

今日は運がよかったが、これではまた奴や同等の敵と出くわしたら次はないぞ」

 

「…………」

 

その筋で先輩である黒田に見抜かれていた。

 

“では黒田。これからは竜斗の操縦訓練の教官になってくれ。君なら彼の才能を引き出し伸ばせるだろう。上には私が言っておくから安心しろ”

 

「その前になぜ、彼がゲッターロボに乗るようなことになったのか教えていただきましょうか」

 

“分かった。竜斗、ベルクラスに帰艦しろ”

 

そしてゲッターも母艦であるベルクラスへ戻っていく――。竜斗にしても、ラドラにしても、とても苦々しくもそして何か手応えのある日となった――。

 

「ふ~んっ」

 

この壮絶な空中戦を愛美は呑気にも食堂でゆったり座り、アップルジュースを飲みながら観賞していた。

 

「………………♪♪」

 

彼女はクスッと笑う。また何かを企んでいるのか……。




五話終わりです。


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第六話「蜜罠」①

――戦闘後の数日間。被害を受けた駐屯地及び周辺の復興作業が行われていた。

 

日本に駐在する米軍の協力もあり、作業用SMBによる冷えて固まったマグマ、メカザウルスの残骸、瓦礫の処理。

シェルターに避難した民間人達の支援、及び仮設住宅の設置、提供、移住などほとんど終わらせてしまった。

普通は長い日にちがかかるこの作業をここまで早く進行したのはこれもSMBのおかげである――。

戦闘後にも残った駐屯地の人員で警戒態勢に入ったが、恐竜帝国のメカザウルスは姿を現さなかった。

 

その間、竜斗は何をしていたかと言うと艦内で、警戒態勢ということもあり、メカザウルスが出現するまでは自室休養するように言われ、代わりに早乙女とマリアが支援に赴いた。

自分なりにも手伝うと言ったのだが、これは自衛隊の仕事であり、まだ所属、階級すらもらっていない彼を使うのはいけないということらしく手伝わせてもらえなかった。

竜斗はその数日間の夜、エミリアと共に、座学室で予習に励んでいた――。

 

「まさかあんなメカザウルスがいるなんて……」

 

「恐竜にもアタシ達人間みたいに頭のいいのがいるってことなのかな……」

 

ラドラの乗る人型メカザウルス『ゼクゥシヴ』……。

はっきり言って自分の一つ、いや二つ三つ、それ以上の実力を持つ強敵だ。

よく自分は撃墜されなかったなと、そして増加装甲がなければ……と、彼はゾッと寒気が襲う。

 

「けどさ、もし俺達のように高い知能があるんなら……もしかしたら――」

 

「まさか話し合って戦いを止められるんじゃないかなって、こと?」

 

「うん――」

 

竜斗もどうやらラドラやゴーラと同様の考えを持つようである。

 

「それならアタシも大歓迎だよ。恐竜達と共存とか楽しそうだし――けど言葉が通じるかどうかの問題じゃない?」

 

「それなんだよなあ……」

 

「けどさ、もし恐竜達と仲良くなれたらどうする?」

 

「乗せてもらってどこか遠いとこいきたいな……ティラノザウルスとかプテラノドンとかに、てなっ」

 

「いいねそれ、背中に乗って旅したいなあ♪」

 

そう夢のまた夢のことを語り出し、笑う二人にドア越しでそれを盗み聞きしていた愛美は不機嫌そうな顔をする。

 

(ジョーダンじゃないっつうの!マナハチュウ類大っキライなのにあんなキモイのと暮らすなんて死んでもイヤっ!)

 

だが嫌悪感丸出しにして去っていった――。

 

数日間の作業が終わり、早乙女とマリアがベルクラスの司令室で、作業の終わりに一時を休息を味わっていた。

 

「司令、コーヒーをどうぞ」

 

「お、ありがとう」

彼は彼女の入れた特製コーヒーをまず匂い、そして少し口の中で入れ、ゆっくりと噛みしめるように味わい、珍しく満足げな表情をとる。

 

「やはり、疲れた時はマリアの入れたコーヒーは本当に最高だ。こんなふざけた世の中での私の数少ない楽しみの一つだよ」

 

「イヤですね司令……誉めても何も出ませんよ」

 

「君のは本格的だからなおさらだ」

 

そう言う彼女はまんざらでもない顔だ。

「マリア、この戦争が終わったら軍を辞めて母国、もしくは日本でオシャレなアンティークカフェテリアでも開いたらどうだ?

君はアンティークアイテムが好きで結構部屋に集めてるだろ?」

 

「……えっ?」

 

「もしそうしたら私はムリしてでも毎日通うんだがな?

もし本気で店を開きたいなら私がその資金を出してやってもいい」

「司令……っ」

 

瞬間、彼女の顔はポッと赤くなる。

普段は能面のような表情で破天荒かつ、そして不思議で冷徹で、そしてどこか中二病気質な早乙女から思いがけないことを言われて心から感激したのだった――。

 

「――考えておきます。もしその気でいた時はよろしくおねがいし――」

 

しかし彼女が見たのはなんと指で鼻をほじりながらバカ面の、人を小馬鹿にするようなふざけた態度で仕事用のコンピューターをいじっている早乙女……今までの話がなかったかのように淡々としていた。

一瞬でいい気分を台無しにされて落胆するマリア。

そうだ、早乙女というこの男は、人をおちょくるような面も持つのだ。ゲッターロボとこのベルクラスを開発するだけの、天才科学者というのはこうもマトモな神経してないのか。

 

――次の日、竜斗とエミリアには、ついに階級と所属が与えられた。

階級は二人共『三曹』、成果次第で昇級もありえるという。

所属は早乙女の指揮下で行動する遊撃部隊『ゲッターチーム』という名の部隊に所属になった(ちなみに発言者は早乙女)。

 

だがエミリアはこの名前が気に入らず、彼とチーム名で口論するという意外な事態が起こった。

ちなみに彼女の考えたチーム名はどれも人前で言うのを躊躇してしまうほどのナンセンスさで、竜斗とマリアの二人は顔の筋肉が引きつるほど引いていた。

 

そして二人はこの日、駐屯地内の広場で着任式が行われた。

これまでの度重なるメカザウルスとの戦闘で駐屯地内隊員数が少なくなっており、集まった人数も数えるぐらいにしかなかったがそれでも神聖かつ厳正な着任式が行われた。

濃い緑色の制服に着込んだ竜斗とエミリアは、短い時間で無理覚えさせられた式の一連の行動をぎこちなく行い、そして式の最中は緊張からか顔色が恐ろしいことになっていた。

 

今まで高校生として暮らしていた自分達がまさか、本当に軍属(建て前上)になるとは……。

これからの不安もあっただろうし、何よりもそんな二人を後ろから、不動の姿勢を取りながら見る自衛隊員達のどこか猜疑心を持つ目が、寒気となって襲いかかっていた。

まあおそらく、『なんでこんな子達が自衛隊なんかに……』がほとんどだろう。もっとも、早乙女が上層部にはそこを上手く丸め込んで話したらしいが――。

 

それでも無事に終わり、早乙女から許可が許されて駐屯地内を歩く。

駐屯地内は広く、看板が立っているものの歩きでは迷いやすい。

連隊棟や隊員の住む寮。武器庫、整備工場、倉庫、運動するための運動場や体育館、武道館など、二人は歩きながら各施設を見回る。

デジャヴのように高校でも見たことのある風景があちこちに写る。

 

「……ある意味、ここってとてつもない巨大な学校みたいだな」

 

「うん……っ」

 

歩き疲れた二人は近くの売店に立ち寄る。早乙女からもらったお小遣いで買ったアイスクリームをペロペロ舐めながら買い外のベンチに座り、ゆっくり味わいながらボーッと眺めていた――。

 

「――君達は竜斗君と、確かエミリア君だっか?」

 

「あ、あなたは確か……」

 

現れたのは黒田であった。

スーツのような縦線がぴっちり入った迷彩服を着込み、逆立った短髪頭の若々しく自衛官らしく精気と元気溢れる彼は彼の隣にスッと座り込む。

 

「着任おめでとう。どうだ自衛官になった感想は?」

 

「……実感ないです。式でも緊張とかでほとんど記憶がなかったですから」

 

「……だろうな。あの時の二人のガタガタの動き見てたら最中で吹き出しそうで本当に困ったよ」

 

「「…………」」

 

笑い話を入れて茶々を入れる彼は近寄りやすい人物と言える。

 

「ええっと……」

 

「オレは黒田、階級は一尉だ」

 

「黒田一尉……って呼べば?」

 

「普段はそれでいい。だけどオレの前では気楽でいい。堅苦しいのは好きじゃない、部下達でもそうしてきた。これからよろしく」

 

「分かりました、よろしくお願いします」

 

すると黒田は二人に、

 

「両親には伝えてあるのか?」

 

「……それが、早乙女司令がしばらくは会うのもダメだと言ってました。反対するからと」

 

「……そうか。一佐らしいな。あの人、いつも何考えてるか分からないし、君達にもあの人によく振り回されてないか?」

 

 

 

「……え、いやそんなこと……なあエミリア」

 

「え、ええ……っ」

「図星だな――」

 

……今度は竜斗が彼にこう問いかける。

「黒田一尉、あの――」

 

「どうした?」

 

「僕は……どうすれば強くなれますか?」

 

「……竜斗君?」

 

彼は話す。イジメられていたこと、甘えている自分、そして先日の戦闘に対しての未熟さについて――黒田は腕組みをして口を開いた。

 

「……なんともいえない。冷たい答えになるが、結局自分を変えないといけないからな」

 

「…………」

 

 

 

「その、きっかけさえあればな」

 

「きっかけ?」

 

「実はオレも子供の時はスゴく気弱でイジメられてた。

学校に行くのもイヤでね、外に出るとまた地獄の一日が始まるかと思うと道端で吐いてしまうぐらいだった。

ある日、公園でいつもみたいにイジメっ子に絡まれて泣きそうになった時、ちょうど通りかかったとある男の人がイジメっ子を追っ払ってくれた。

その人は帰省中の自衛官だったんだ。

安心して泣き出したオレを優しく抱いてくれて「男なら強くなれ、負けるな」と言ってくれたんだ。

それからオレは将来自衛官になると決めて、入隊するまでサッカーとか色々やって体力と精神力をつけた。

ここまで来るのに色々な苦難とかあったけど、凄く充実してるよ。

あんな弱かったオレが国を守るなんて、夢のようだよ」

 

竜斗達の胸中は何か熱くなるものに満たされていた。

 

「その、黒田一尉を助けてくれた人は今何をしているんですか?」

 

しかし彼の答えは首を横に振ったのだった。

 

「分からない……あの時名前も聞かなかったし、顔もうろ覚えなんだ。聞いておけばよかったなあ……ははっ」

 

「…………」

 

「もしかしたら竜斗君。早乙女一佐、いやゲッターロボとの出会いが君を変えるターニングポイントになっているのかもな。昔と比べて今はどうだ」

 

「昔と比べて……あっ!」

 

彼は気づいた。前のように勇気は多少ついたのかも知れない。現にあの愛美に刃向かい、今はいつ死ぬとも知らぬメカザウルスとの戦いに、自分なりにも勇敢に立ち向かっている。これでもう二、三度のメカザウルス達を撃退しているのだから――そういう所で自分の気づかない内に成長しているのかもしれない。

 

「どうやら心当たりがあるようだな。あと、なんでもいいから色々経験しておいた方がいい、恋愛とかかな――」

 

「れ、恋愛……ですか」

 

竜斗とエミリアはドキっと心が反応する。

 

「早乙女一佐から聞いたが二人は仲がいいらしいな、付き合ってるのか?」

 

「い、いえっ!!」

 

「違いますっ!!ただ住んでいた所からお互い近くに家があって、小学校からの付き合いで……」

 

 

 

しかし、彼らの関係を見ていてはそう思われても仕方ない。

 

「竜斗君にエミリア君、互いに好きかどうかは知らないがもしそうなら――気が変わらない内に思いを伝えるべきだぞ。恋愛だけじゃなく、何にしても自分から行かなきゃチャンスはまわってこない」

 

「「………………」」

 

「なんてな。オレも付き合った人数なんざ、そんなにいないから言えた口ではないんだがな――ハハっ」

 

黒田が深く言ったつもりではないのだろうが、二人にとってはズシリとくるものがあった。

彼は、突然真剣の表情となり二人を見る。

 

「竜斗君、これからの事で数日前の戦闘後の通信で聞いたかもしれないが、早乙女一佐からの命令でオレが君にゲッターロボの操縦訓練の教官を務めることになった。

エミリア君は引き続き早乙女一佐とマリア助手の二人で行うらしい。明日から開始する」

 

「「はいっ!」」

 

二人は元気よく返事をする。

 

「いい返事だ。しかし未だに君達をこんな目に遭わせるのはオレは大反対なんだが……」

 

「…………」

 

「……竜斗君、君にゲッターロボだけじゃなく、SMBパイロットとしてのイロハを、そして応用技術を全て教え込む。

色々厳しく指導することになるが分かってくれよ、君がこれから生き残るためだ」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

すると黒田は空を見上げ、

 

「これがオレの部下に対する一番の供養だ。見ててくれよ、お前たち」

 

――そう呟いた。



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第六話「蜜罠」②

――その夜。竜斗は一人、座学室で勉強していた。

 

「…………」

 

あまり予習がはかどらない、黒田の言っていたことが頭から離れない。

 

『色々経験しろ。恋愛とかな――』

 

『』

 

それがどうも竜斗の脳内にこびりついていたのだった。

 

「経験ね…………」

 

考えたらよけいにごちゃごちゃになり、今日はもういいやとさっさとノートや教科書を片付けて座学から出る。

明日の訓練もあり部屋に帰り、休もうと考えていた時であった――。

 

「イシカワァ~~っ♪」

 

「!!!」

 

後ろからあの悪魔の声が。振り向くとやはり笑顔の愛美の姿が。

 

「な、なんだよ!」

警戒し身構えるも、愛美は満面の笑顔のまま近づく、すると。

 

「悪かったってぇ~~もうあんなことしないからァ。だからお願い許して、ね?」

 

「…………」

 

突然謝罪する愛美。不気味に感じた彼は少しずつ後退るが、

 

「だからもうあんなことしないって。マナのことしんじらんない?」

 

「……な、なんでいきなり……」

 

「石川が必死であのキモいヤツらと戦っている姿を見て、キュンときちゃったのよ。

へえ、かっこいいじゃんてね。つまり見直しちゃったってこと♪」

 

「…………」

 

怪しい、危ない……彼は直感的にそう思った。

 

「けど今までマナのしてきたこと、許さんないと思うからせめてものマナが償いをしたいのよ、ダメ?」

 

お得意のぶりっ子のような顔で涙目になる彼女に彼は……。

「わ、わかったから……もういいよ!」

危険なニオイしかしない……早く逃げたい、彼はそう考えていたが、しかし愛美は彼の腕に自分の腕を組み込んでしがみついた。

 

「ココじゃあなんだし今からマナの部屋に来てよ、謝るからさ」

 

「…………」

 

結局、なすがままに無理やり彼女へ連行される竜斗だった。

散らかってると思っていたが彼女の部屋は意外と整理整頓されており、凄く清潔感溢れていた。入るなり、なぜか愛美は鍵を閉めて、ベッドに座り込むとバンバンと布団を叩く。

 

「きて、一緒に座ろーよ♪」

 

「…………」

 

彼女の隣に座り込む挙動不審の竜斗。

そのまま彼女は再び竜斗の腕と組んで、まるで彼のカノジョであるかの如く密着し甘える。

その天使のような可愛らしい顔に潜む真意とは――。

 

「ムフフ、石川っていい筋肉してるんだね、知らなかったァ♪」

 

「…………」

 

「ウリウリ、メガネとっちゃえっ☆」

 

「お、おい…………っ」

 

こんなのエミリアでもしてこないのに……彼の動こうにも動ごけずギチギチに固くなるが、同時に身体中が瞬間湯沸かし器のように熱くなり、胸の鼓動も高鳴り始める。

 

「ところで償いなんだけど……マナねえ、一生懸命考えたんだ。聞いてくれる?」

 

「えっ?」

 

すると愛美は彼の耳元でこう囁いたのだった――。

 

(エッチしよーよっ)

 

エッチ……聞き慣れない言葉が頭に響き渡り、顔中に冷や汗が流れ出す。

 

「え、えっ……いま、なんて……っ」

 

「や~ん、だから……エッチよ。オンナのコに二度も言わせないのっ!」

 

竜斗は顔中が真っ赤になり飛び上がった。

 

「な、な、なんでええーーーーっっ!!!!?」

 

彼にとってこれまでの人生で経験すらしたことのない。

確かに人間の、異性の本能行動と隠語――漫画や小説などでもその出てくるのもあるが、たいがいはぼかされるか青年漫画か女性漫画がほとんどで自分自身、そういう描写があっても流し読みするくらいである。

 

「もしかしてイシカワってそういうの、キライ?」

 

本屋のそっち系のコーナーに行くことすら躊躇う『ウブ』な自分が羞恥心で聞くにたえない、頭の中が今にも爆発しそうである――。

 

「そ、そういうのはほ、ほかの人に頼んでみ、みたらいいんじゃない―――っっ!!」

 

すると愛美はシュンとなり、身体をソワソワさせながらこう言い始める。

 

「お願いだよ……マナね、最近カレシに振られちゃったばかりでさ、さみしいの。

寂しまぎれにひとりエッチとかしてるけど欲求不満になるだけ。最初はそんな気なかったけど、石川の一生懸命な姿見てたらね、さっきも言ったけど凄くキュンときちゃったの、これじゃあマナ……おかしくなっちゃうよ。これは石川だけじゃなくマナのためにもあるのよ、だから――」

 

――そんなこと言われても……自分も未経験なのに……いきなりそんな一線を越えることをするのはいくらなんでも『はい、いいですよ』なんて言えるわけがない。

そもそも今まで自分を嫌っていた人間がいきなり態度を変えて、そして『アレ』しようなんておかしい……なにかある――

 

「お願い石川、マナの力になって!このことはみんなにヒミツにするから……」

 

「え……ええ……っ」

 

大粒の涙を流す彼女。竜斗はだんだん呑まれていき、断りきれなくなりそうになった。

 

「け、けど……っ」

 

「……だから、もうじれったいわね!」

突然彼女は竜斗をベッドに押し倒したのだった……マウントポジションを取る彼女に竜斗はこれから何が起こるか分からず恐怖でブルブル震え始めた。

 

「ハジメてなら安心して。マナがリードしてあげるから……ね」

 

「――――――っっ!!」

 

顔同士を密着させるぐらいに近づけて熱い吐息をかれる彼女。そのまま――。

 

「!!!」

 

……二人は濃厚な口づけを交わす。竜斗はこれまで味わったことのない、雷のような凄まじい衝撃が頭から足まで一線に伝わった……。

 

「う……みゅぅ……っ!?」

 

彼女の舌が竜斗の舌とねっとりと絡めてくる。

自分のファーストキスがまさかこれだとは……涙がこみあがった。しかし彼女はそれだけに留まらずになんと……。

 

(ひゃあっっ!!!)

 

彼の身体は石のように固まった。その理由は彼の下半身の……男の象徴である大事な部分に彼女の巧みな右手でサワサワ触ってきている――。

 

「……メガネ外した石川ってカワイイ顔してんのねえ……っ、マナ萌えてきちゃった♪」

 

粘る愛唾垂らす彼女はもうその気なっていて止めるのは無理だった――。

 

「あっ、フインキ作らないとね、待ってて――」

 

すると彼女立ち上がり、部屋の入り口にある部屋の明かりを調整するスイッチを弄って少し暗くしてまたベッドに戻り、おもむろに上と下の服を脱ぎだし、全部下着状態になった。

 

「うあああ………っ」

 

黒色の、露出度の高いあまりにも過激な下着をつけた彼女の姿に竜斗の顔は淋漓そのものだ――。

彼女のつけていたピンク色のリボンをとって髪をとかす。

 

ブラジャーのホックを自身で外し取り、膨らんだ胸を露出させてまた彼の上にのしかかる。

 

「……マナのオッパイいいでしょ、さわっていいよ、イシカワ……」

 

自分より約二十センチくらい小さい子供のような彼女だが、豊潤な膨らみのもつ乳房、プリッとした臀部を見るとその辺の発育は凄まじいものがある。彼女は多数の男性と付き合ってきたというが、やはり子供のような身長なのにそのギャップがいいのだろう――今の姿はフェミニンをムンムン出した大胆な格好だ。

 

「このトシゴロの女の子ってね、みんな恥ずかしくて言わないだけでホントはものすごくえっちぃの。今度エミリアちゃんにも聞いてみたら?」

 

「き、聞けるかあっっっ!!」

 

だが彼女の行動はもっと過激に走り出し、

 

「さあて次は……フフフ」

 

今度は彼のシャツの裾を上いっぱいにめくり、彼の露出した平たい胸、所謂右側の乳首のペロペロ猫のように舐め始めた――。

 

「つあ―――――っ!」

 

彼は敏感に反応している。もはや抵抗や拒否などできなくなっていた――。

 

「石川って学校じゃすごく地味だったけどさ、凄くいい肉体してんじゃないの。もったいないよ、これでスポーツしてないなんて……」

 

――余計なお世話だ。彼は悶えながらそう思った。

彼女はへそあたりまで下るようになめていく。同時に柔らかな胸を彼の身体に密接させてこするように……今度はついに……。

 

「☆§*※£@!!」

 

ついに彼女は彼のズボンを脱がすのだった。

 

「気にしなくていいよイシカワ♪マナが全てやってあげるから。寝てるだけでカイカン味わえるなんて、この幸せモノ♪」

 

「……やあ、お願いだからもおやめてくれえ…………っ」

 

泣き声になっている竜斗だが、彼女はやめる気配などなかった。

 

「ここまでやって、やめれるワケないじゃん。

それにアンタのココ、すごく正直になってるのにね、うわあ……こんなに堅くなってるっ」

 

彼女はついに下着を引きずり下ろし――アレを露出させた。

 

「………………」

 

こんな恥ずかしい目に遭うのは初めてだ――彼は静かに嗚咽していた。しかし身体はもう彼女に支配されていたのだった。

 

「フフッ、カワイイ。こんなオチ〇チ〇は初めてだけど……マナなりにガンバってあげるネ」

 

……ついに愛美は竜斗の『アレ』を咥え込む。右手で根元を支えつつ、口の中でその舌で転がすようにじっくりと――。

そして次第に上下運動を始めて舌と摺り合わせるように、そして吸い上げるように口を動かす。竜斗は今までにない快感を味わう。彼女の手慣れたそのテクニックが次第に彼を快楽に溺れさせていく……そして。

 

「!!!」

 

二人の動きは止まる。竜斗は全身カチンコチンに固まり、愛美はしばらくして口を『アレ』から離し、デスクトップのティッシュペーパーを取り出すと、口に押さえてペッと吐き出した。

 

「いっぱい出たね、マナびっくりしちゃったっ」

 

彼は両手で顔を押さえて息を乱している。

「さて、前戲はこれまでにして本番っ」

彼女は下着をするっと脱ぎ、クローゼットから何かを取り出すと再びマウントポジションを取る。

 

「危険日じゃないけど、念のために今から『アレ』つけたげる、これも経験ないでしょ」

 

「アレ……?」

 

「アレ?ゴムに決まってるでしょ」

 

なぜ彼女はこれを持っているのか……手慣れた手付きで市販で買える避妊道具『コ〇ドーム』をスルスルっと被せる。

 

「寝てていいよ、マナが動くから…………」

 

そして――――この部屋の中は甘く甲高い淫らな喘ぎ声で響き渡り、彼はその時はすでに放心状態であった。

 

これは夢か……夢であってほしい、だが現実なら――一番の心配は……エミリアにこのことを知られたら……夢であってくれ……と。

 

「久々のエッチなかなかよかった。ありがと、イシカワ♪」

事が終わり、ベッドで寝転ぶ竜斗は横で添い寝している彼女とは逆の方へ向き、静かに身体を震わせていた。よく見ると……。

 

「まさか泣いてんの?」

「………………」

 

「オンナかアンタは!」

 

……彼からすればこんな初体験は嫌だったろうに。

気持ちよかったとかそんなことより、こんな唐突に、強引に、そしてイヤな一線に足を踏み込んで、自分が自分ではないような気がして凄く不快だった。

 

「そうだ石川。マナと『セフレ』にならない?」

 

ふざけたことを言い出すが当の本人は黙り込んだままだ。

 

「別にマナと付き合えって言ってるんじゃないの。

こんないいコトないよ、今度は今日以上にいいテク使ってあげるからっ」

 

「………………」

 

「……まあ考えといてね、マナ楽しみにしてるから♪」

 

……竜斗君は魂の抜け殻になったかの如く、パンツとズボンをはくとフラフラと部屋から出ていった……。

 

独りになった彼女はベッドでため息をつく。

 

「……ホントアイツ、オトコなのかしら?けどっ」

 

ベッドの中からなぜ持っているのか分からないが、もう一つのスマートフォンを取り出し、今写る画像を見ながらニコっと笑った。

 

「イシカワ、アンタはもうマナの愛玩犬よ、二度と逆らえないんだから。さあて今度はク〇ニでもしてもらおうかしら♪」

 

その画像とは、二人が『本番』を行っている最中に彼女が取った、つまり『ハメ撮りされた写メ』であった……。

一方、竜斗は部屋に着くなりすぐにシャワー室に直行。

シャワーの浴びながら、身体をまるで何かに取り付かれたのように、特にアレを無心でゴシゴシ洗う。

 

「う、うう……………っ」

 

まるで身体中に蛞蝓が這い回ったような極度の不快感に襲われて、

そして男としての耐え難い恥辱と屈辱を受けた竜斗は泣きながら……何度も何度も、あれを忘れようとして、身体を洗う……。

 

(死にたい……っ、だれか……エミリア助けて……)

 

唇を噛み締めて、シャワーに打たれてうずくまってしまった……。



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第六話「蜜罠」③

――次の日、僕は黒田一尉による操縦訓練を無我夢中でやり込んだ。昨夜の『アレ』を忘れたいが如く。

黒田一尉から「人の話を聞いているか!」と叱られることがあったが、僕自身は何が何でもあの記憶を消したかった。

もうアイツからあんな目を合うのはコリゴリだ。だがすでに泥沼にハマってしまっているのを知るのはすぐである――。

 

その夜、司令室では早乙女と黒田の二人がソファーに座り、マリアの入れたコーヒーを飲みながら話をしていた。

 

「竜斗はどうだ?」

 

「確かにいいモノを持っています。真面目で凄く呑み込みが早いですから、これなら短期間で操縦技術全般をマスターするでしょう、ところでエミリア君の方はどうです?」

 

「……彼女の生真面目で一生懸命さは凄く伝わるが、センスはやはり竜斗と比べるとイマイチだな。

まあ始めたばかりだし、気長に見ようじゃないか」

 

すると黒田は腕組みをしてどこか腑に落ちないような表情をしていた。

 

「どうした?」

 

「あ、いや。竜斗君、実は今日、寝てないのかやつれてたようなんですよね。

それなのに結構暴走気味な所もあってペース配分を間違っていたところもあって。彼ってああいう子なんですか?」

 

「いや、基本的に控え目で慎重なタイプだとおもうが。

人の話をよく聞くから、彼ほど指示出しやすい人間はいないが、もう少し男らしく野性味があってもいいんじゃないか」

 

「言えてますね。竜斗君、私みたいに体育会系とは逆の雰囲気ですから。ところで彼らに体力トレーニングや射撃訓練をさせるんですか?まだそういうのは聞いてないんですが」

 

「ああ、パイロットは頭だけじゃやっていけんしな。

射撃は竜斗、体力はエミリアの得意分野だろう。

長距離走や筋トレは彼女が竜斗を引っ張る姿がよく頭に浮かぶよ」

 

「ハハッ――それで思ったんですけど二人って付き合ってるんですかね?」

 

「さあな。だがあれだと付き合っているというより姉弟みたいだ、純粋すぎる」

 

「二人ともまだ汚れを知らないようですしね。ところで艦内にいるもうひとりの女の子は一体……?」

 

「名前は水樹といって高校のクラスメートだが彼女は竜斗が大嫌いで、暴力を振るったりしてイジメている」

「え……っ、彼女が竜斗君を……」

 

「彼女の意志でベルクラスに残ってるがその理由は私にも分からん。

だが彼女は危険だ。あのまま置いとくといずれ彼を壊しかねん――」

 

「……なぜその水樹が竜斗君をイジメるんでしょうか?彼女から聞かないんですか?」

 

「さあ。彼女と全く絡まないし。周りの人間の話でも態度がデカすぎて絡みづらいらしいな。

それにマリアも言ってたが「本心を絶対に見せようとしない、腹を隠してる」らしい」

 

「腹黒いってことですか――僕の苦手なタイプの女の子ですね」

 

「ともかく、今はエミリアが彼を水樹から守っているが何をされるか分からんな……もしもの時は」

 

「時は……?」

 

――その頃、竜斗はというと。

 

「……二度と俺に関わらないでくれ……っ」

 

愛美に再び部屋に呼び出された竜斗は本音を打ち明ける。しかし彼女は腕組みをしながら平然としている。

 

「石川、マナはいつまでもドーテーなアンタのために協力してあげたのよ。逆に感謝してほしいよね」

 

「……何が感謝だよ。何が目的か知らないけど、俺の身体を弄んで……あんなの……レ、レイプみたいなもんじゃないか……あんなの望んでなかった……っ!」

 

「レイプねえ……フフフ、アハハハハハっ!!」

 

突然、高笑いする愛美。

 

「アンタあれ、レイプって言える?あんなお粗末なほーけいチ〇コボッキさせて、二回もイッといて、レイプって言い張るの?」

 

「う、訴えてやるからな!!」

 

「勝手にやれば?女と違って逆の場合はレイプと判断されないのがほとんどなのよ、そこはオンナのコの特権――♪」

 

「~~~~~~っっ!!」

 

怒濤のあまり、両拳を握りしめて身体中を身震いさせる竜斗だが、愛美はまた普段のようなブリっ子の笑みを浮かべた。

 

「まあイシカワ、そんなに怒んないの。怒ると身体に悪いよ、それに……」

 

彼女はまた彼に接近し、ポケットからあのスマートフォンを取り出した。

 

「な、なんで持ってんだよ、エミリアに壊されたハズじゃ……」

 

「あれ~~?マナんち金持ちなの知ってるわよね、パパとママ名義で二つ持ってんの、マナイイ子だから二人とも優しいの♪」

 

彼女は親から過保護で育てられた人間であり、ワガママで自己中な性格になった要因の一つである。

 

「これ何か分かる?」

 

「!!!?」

 

スマートフォンの画面に映るおぞましいそれは、あのリンチの画像以上に彼の身体の芯まで激震させた。

 

「結構キレイに撮れてるでしょ?

挿入中にチャッカリ撮っちゃいました、エヘ☆」

 

昨夜の本番の最中、彼女によって撮られた所謂『ハメ撮り』された写メであった。

 

 

「これエミリアちゃんに見せたらどうなるかな~っ?

自分の大事なリュウト君がマナとこんなえっちぃことやったなんて知ったら……見せよっかなあ」

 

竜斗はそれを取り上げようと動きかかるも、読まれているのか彼女はサッと胸の中に入れた。

 

「取れるもんなら取ってみなさい?もっとも、そんなことしたらどこに触るか分かるでしょ?

もしそれでマナが悲鳴を上げて出ていったら誰が不利になるか、一目瞭然よね?」

 

「く……っ!」

 

こんなのを彼女が見てしまったら、恐らくショックを受けるどころではすまなくなる……やはり彼に対する脅しのタネとして使う卑劣な彼女であった。

 

「見せられたくないなら……分かってるわね?あっ、他にもなにかやってもらおうかなあ♪」

 

「………………」

 

「イシカワ、あんたはどうあがいてもマナに逆らえないカワイイ『奴隷』よ。よ ろ し く ね♪」

 

絶望する彼はその場で崩れて伏せてしまった。

そんな彼の背中を足で踏みにじる愛美。その顔はまさに悪魔のような恐ろしい顔であった――。

 

――僕は結局、強くなれないのか。

こんなヤツに思うツボにされて……これからどんなイヤな命令をされるかどうか分からないのに。

それに、相談しようにも恥ずかしくて誰にも打ち明けられない。

水樹に『アレ』されたなんて……特にエミリアには口が裂けても言えやしない。

……今の僕は凄まじく高い壁にぶち当たったのだった――

 

 

――次の日の朝、エミリアが竜斗と一緒に朝飯を食べようと部屋を訪れる。

 

しかし、彼はまだベッドで寝ていた。

 

「リュウト起きて、朝ご飯食べにいこ」

 

そばに駆け寄り、寝ている彼を揺さぶる。

 

「ん――――っ」

 

のっそり身体を起こし、ベッド横に置いてあるメガネをつける。が、

 

「ひっ!」

 

「り、リュウト?」

彼は起こしに来た彼女を見た瞬間、顔の筋肉が引きつった――。

 

「ど、どうしたの?」

 

「エ、エミリアか……なんでもないよ……ハハっ」

 

「顔色悪いよ。なにかあったの?」「い、いや……いきなりエミリアがいたからびっくりしただけだよ……気にしないで……」

 

「…………」

 

ドクン、ドクン、と彼の心臓が鼓動を打ち、負担をかける――。

私服に着替えて、外で待っていた彼女と共に食堂へ向かう。

 

「どお?クロダ一尉から教えてもらって?」

 

「……確かに怒る時は怒って怖いけど教え方うまくて、話しやすいしいい人だよ、エミリアは?」

 

「……やっぱり要領悪いから全然ダメダメ。サオトメ司令やマリアさんに迷惑かけてるけど今に見てて、きっとリュウトに追いつくぐらいにうまくなるから!」

 

「……あんまりムリすんなよ。お前はそういうトコがあるからな」

 

「リュウト、アタシを心配してくれるの?すごくうれしい♪」

 

「ハハ……っ」

 

健気で元気なエミリアと話すと幾分心が軽くなる、彼はこの場がずっと続けばいいと思った。

 

そして――この先アイツと出くわさなければいいと――。

 

食堂へ着き、二人は食器に朝飯を盛る。麦飯に味噌汁、サラダ、玉子焼、魚、ヨーグルト、フルーツ……などなど食生活のバランスが整った和洋食献立だ。

そしてパンと牛乳ももちろん用意されており、はっきりいってホテルのモーニングセルフのようである。

朝は小食の傾向である竜斗はパンと牛乳とフルーツ、対するエミリアはもちろん朝からがっつりと和食である。

 

「お前、よく朝からそんなに食えるよな……尊敬するよ」

 

「だって朝から食べとかないと後がキツいでしょ?逆にリュウトのはこれで持つのか心配だわアタシ」

 

彼女がいつも元気な理由が分かったような気がする、頼もしいわけだ。

 

「食べてもどうせ全部ウ〇チで出るわけだし――」

 

竜斗は食べていたパンを吐き出し、むせた。

 

「エミリア、おまえなあ――!!」

 

「あ、ゴメン!ご飯中に下品だった……」

 

彼女のそういう所がたまにキズである。

しかしエミリアといい愛美といい、彼の身の回りの女性は何故こうも、オブラートに包まずにストレートにそのまま言えるのか。食事が終わり、二人は身支度と訓練の準備のために一旦部屋に戻る。午前中は座学室で早乙女から、自衛隊で必要な書類を書いて、午後からいつも通りに操縦訓練だ。

、時間があるので気晴らしに散歩しようと外に出る。が、

 

「おはよう、イシカワ♪」

 

「!!?」

 

愛美だ、あの女が待ち構えていた……。

 

「今夜、したいの♪部屋で待ってるからちゃんときてね♪」

 

「…………」

 

彼はゾッとし唾を飲み込む。

 

「返事しないの?これどうしようかな?」

 

あの写メがあるスマートフォンをわざわざ胸の谷間に挟んで見せびらかす。

ここで無理やり取り上げようとして、愛美に悲鳴を上げられたら自分が痴漢を働いたと完全に悪者扱いされる……彼には手出し出来なかった。

 

「……わかったよ……」

 

「わかったよ?違うでしょ?『分かりました、ご主人様』でしょ?」

 

「………………っ!」

 

調子に乗り出す彼女に凄まじい怒りがこみ上がるが、それを爆発させることはなかった――。

 

「……分かりました、ご主人様……っ」

 

彼女の顔がニコニコになり、彼の頭をわざとらしく大げさに撫でた。

 

「よくできました♪さすがイシカワ、話が分かるわね、だ~い好きっ♪」

 

――彼女はスタスタと去っていくと彼はその場でへたり込んでしまう。その時の顔はものすごく青ざめていた……。

午前中の書類記入においてもそれが引いて、

 

「竜斗、間違えが多いぞ!」

 

「す、すみません……」

 

早乙女から厳しい指摘を受ける彼は、顔色が恐ろしく悪い。

 

「おまえ、どこか悪いのか?」

 

「い、いえ――――」

 

「リュウト、まさかアイツにまたなにかされたの?」

 

早乙女と共に書類を記入していたエミリアに彼の異変に気づき、心配されるが彼は造り笑顔をする。

 

「ち、違います……ちょっとトイレに言ってきていいですか?」

 

許可をもらい、外を出る竜斗はフラフラとトイレに向かい、個室に入るとそこでうずくまった。

 

(こわい……こわいっコワい!!)

 

頭をかかえてガタガタ震える竜斗、しかし誰にも言えないこの状況……彼はひたすら耐え忍ぶほかなかった。

 

(なんでこんなに弱いんだろ……っ)

 

――そしてトイレから戻る竜斗、早乙女達は彼に視線を向ける。

 

「大丈夫か?」

 

「……はい、なんとか」

 

「…………」

 

エミリアはやはり彼に対して、何か引っかかっていた。

愛美が彼にまた何かしたのだと、でないとこんな悪い顔色にならないと、彼女はそういう勘には優れるのだ――。

 

そして――その夜、恥辱と屈辱を味わう恐怖に押しつぶされそうになる彼は愛美の部屋に向かった。

「石川、待ってたよ♪シャワー浴びてきたよね?」

 

――怯える彼は無言にコクっと頷いた。

「じゃあ、ショータイムのはじまりィ♪」

 

……竜斗は彼女の指示で全身裸にさせられてベッドに寝させられる。

そして同じく全裸となった愛美は、今度は……四つん這いになり彼に尻を向けて、フリフリ振り始めたのであった――。

 

「マナね、ココが性感帯なの。イシカワに舐めてほしいなあ……♪」

 

彼の目の前にあるのは、見たくもない尻の穴の下にある、女性特有の卑猥で不気味の形をしたモノ……こんなモノをナメろなんて……考えるだけで吐き気を催し、血の気が引いた。

 

「ホラ、じらさないではやく~~ぅ♪」

 

妖麗の如き甘い声で煽る愛美だが、竜斗は怯えるように震えたまま動かない。

 

「……早くしないと――」

 

「☆○*§%@!!!!!」

 

なんと竜斗の露出したアレをぎゅっと握りしめる愛美。

彼女の長いネイルが食い込み、激痛で彼は悶絶し、泣き出してしまった。が――。

 

「早くしないと、今度はもっとキツくなるよ。奴隷が主人の言うこと聞かなきゃダメでしょ?」

 

嗚咽する竜斗はついに……。

 

「あ、あん……いい、いいよ、そこ、いい……もっとナカもなめて……」

 

気持ちよくて喘ぐ彼女とは逆に顔色が悪くなる一方の彼だった。

 

(うえっ……変な味するし、ネトネトしてる……き、キモチワルイっ…………)

 

一瞬、胃の中の物がこみ上がり、戻しそうになるも、ここで吐いたら恐ろしいことが起こる……やせ我慢し、再び胃に押し戻した――。

一方、彼女はその体勢で彼の『アレ』をでくわえ込む。所謂『シックスナイン』と呼ばれる体位である――。

 

「……あれえ、勃たないね?どうしたのかなあ?」

 

快楽よりも彼女の『アレ』に対する生理的嫌悪感が強すぎて興奮どころではなく完全に萎えていた。

 

そんな彼女は急に態度を変えてベッド上に立ち上がると、竜斗の『アレ』を本気で蹴り上げたのだった。

痛々しい悲鳴を上げてのたうち回るが、そんなのお構いなしに怒の表情を浮かべる愛美。

 

「フン、こんなんじゃやる気失せたわ。

もういいよ、そのカッコウで出ていけ」

「…………」

 

うずくまり泣き顔の彼は、涙を流しながら彼女を睨みつける。が、

 

「……何よその反抗的な目は。ああムカつく!!」

 

彼女は彼の顔面に足を乗せてぐりぐり踏みにじった。

 

「悔しかったらかかってきなさいよ?それともまたエミリアちゃんに助けてもらう?

そんなんだからアンタはね、一生弱虫なのよ。

いじめられてもすぐあのガイジンオンナの助けを期待する。

情けないと思わない、男のクセに?」

 

「…………」

 

竜斗は何も言い返せなかった。

確かにその通りだ、強くなりたいと思っていても根本的には何も変わってない――。

彼は悔しさのあまり睨むのをやめてまた泣き顔になった……。

 

「さっさと出ていきなさい、今日はもういいわ。

これ以上アンタを傷物にするとマナが疑われるからね、けど明日は覚悟しておいてね……」

 

――竜斗を追い出した愛美は裸のままベッドに寝転ぶと枕に顔をうずめる。

 

しかし、すぐにふと顔を上げた時の彼女の表情はなぜか悔しさのこもった複雑な表情をしていたのだった――。

 

「ハラたつ――」

 

そう一言呟いた。

……そして服を返してもらえず裸のまま追い出された竜斗は、誰にも見つからないよう祈りながら部屋へ向かった。

幸い、夜中だったので誰も通路におらず、そして夜中に巡回している警備員にも運良く見つからずに部屋に辿り着いた。彼はシャワー室に駆け込むと、そのまま崩れるように伏せて激しく吐き戻してしまった。

何が出なくなっても今度は血の混じった胃液が出て腹がキリキリと痛み、喉がヒリヒリ痛み出す。

 

(もうイヤだ、強くなんかなれない。もう消えたい――)

 

彼は大きな声を上げて泣き崩れてしまった――。




六話終わりです


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第七話「本音」①

……次の日の朝。昨日と同じくエミリアは竜斗を起こしに行く。

 

「リュウト、起きてる――?」

 

部屋に入った瞬間、彼女は凍りついて固まる。

 

「……リュウト!!?」

 

彼はパジャマ姿でベッドではなく床に倒れ伏せていた。彼女は慌てて彼を抱きかかえる。

 

「大丈夫リュウトっ!?」

 

意識はあるようだが顔色は真っ青で苦痛に染まり、身体中が冷や汗でびっしょりぬれ、腹部を押さえてひどく痙攣を起こしている。

エミリアは慌てて、部屋にある緊急用ボタンを押してマリアと早乙女を呼び寄せた。

 

「竜斗君!!」

 

「リュウトがすごく苦しそうなんです!!お願いです、助けて下さい!!」

 

「早く医務室へ!」

すぐに彼を医務室に運び、マリアの診察、治療を受ける。

その間、エミリアは隣の待合室で必死で手を合わせて竜斗の無事を祈っていると早乙女が入ってくる。

 

「やはり竜斗に何かあったな、昨日の時点で」

 

「…………」

 

あの女、愛美に原因があると確信し、いてもたってもいられなくなった彼女は待合室を飛び出して、愛美を探しに出かけた。彼女の部屋に向かいドアを強く叩くが出てこない。

彼女は歯ぎしりを立てて、 再び駆け出す。

 

「もう許さない、絶対に――!」

 

そう心に決めて、駆けていく。

 

「ミズキっ!!」

 

更衣室の隣にある女子トイレでちょうど用を済ませ、手を洗う愛美を発見。

 

「……なんの用?朝っぱらからデカい声出して、ウルサいっつの」

 

「……アンタ、リュウトになにかしたでしょ!」

 

「ハア?なにを?」

シラを切る愛美にエミリアはグッと彼女の胸ぐらをつかんだ。

 

「リュウトはね、さっき部屋で苦しそうに倒れてて医務室に運ばれたのよ。

昨日から様子がおかしかった……アンタ、またリュウトを傷つけたんでしょ!!」

 

しかし問い詰められても愛美は平然としたままだ。

 

「何もしてないわよ?ヘンな言いがかりつけないでくれる?」

 

「とぼけんじゃないわよ!!アタシはねえ、リュウトのことを誰よりも、人一倍分かるのよ。

どう考えてもアンタしか原因がないってことにねっ!」

 

エミリアの怒りは最高潮に達していた。

「……そもそもアンタ、何しにここにいるわけ?

ゲッターロボに乗るわけでもないのに、避難した人達と一緒に降りればよかったじゃない――まさかリュウトをいじめたいだけに残ってるんじゃ!!」

 

「ハアッ?イミわかんないんだけど。

そんなのマナの勝手でしょ、勝手に思い上がらないでくれる?」

 

「とにかくもう二度とリュウトに近寄らないで……次に何かしたらアタシ、アンタを本気で殺してやるからァ!!」

 

物騒なことを言い出すエミリア。だが一方の愛美は彼女を滑稽に見えるようにクスクスと笑い出す。

 

「何が『人一倍分かる』よ、笑い話にもならないわね」

 

「!!」

 

エミリアは彼女の頬に本気の右平手打ちをかます。

 

「……っ!」

 

「もう一発やってあげようか、アッタマきた!」

 

しかし今度は愛美が彼女に左平手打ちを浴びせた。

 

「く……うっ!」

 

「お返しよ。つかそもそもアンタ、石川の何よ?」

 

「何って……大切なヒトよ、これからもずっと守ってくんだから!」

 

「ハ?アンタら血の繋がった家族?それともバがつくほどの公式カップル?

どっちも違うくせにキモいこと言わないでくれる?」

 

 

「アンタこそ、アタシ達のことを何にも知らないくせに……何もかも知ったように……っ」

 

「じゃあ言ってあげる。

アンタが石川に対して善かれと思っている行動全てはほとんど逆効果になってんのよ。

そのせいでアイツはアンタがいないとダメな、ただの甘えたガキじゃん!」

 

「………………!」

愛美の言葉が彼女の心を大きく揺さぶる。

 

「アンタが石川を堕落させているのよ、そんなことも気づかないで何が大切な人よ。

アンタにとって石川は一生手放したくない可愛いお人形さんかなにか?

そんなの、一方的な自己満で喜んでるバカじゃない!」

 

「ち、違う……そんなつもりなんか……じゃない……っ!」

 

否定するが心は割り切れないエミリア。確かに早乙女に言われた、竜斗に対して過保護だと。

それ以前にも、実は友達からも言われたがある、彼を甘やかしすぎではないかと。

しかしそれは自分が、大切な彼を守りたい一心から顕れている行動であり、決して彼を自堕落させようなどと思っていない。

 

「どう言い訳しようとその結果が今のイシカワじゃない。

メンタル弱すぎるアイツを見てたらホントイライラしてくんのよ!」

 

「………………」

「だけど、なんてカワイそうなイシカワ。

こんなヤンデレなガイジンオンナの歪んだ愛情に包まれて、一生意気地なしのままで生きていくのね――」

 

エミリアは彼女を殴りかかる……が、寸での所で止め、そのまま怒りで震えた手を降ろしたのだった。

 

「フン、マナは正直に言っただけよ。まあアンタのこと大っキライだし、知ったこっちゃないし――ジャマだからさっさとどいてくれる?」

 

愛美は涼しい顔をして去っていった。

そしてエミリアはその場で立ち尽くしていた――。

 

「………………」

 

……しばらくして、エミリアはショックを受けて俯きながら廊下を歩く。

『アンタが善かれと思う偽善の行動全てが石川をダメにしているのよ』

 

その言葉が心にポッカリ穴を開けていた。

 

(アタシ……ミズキの言うとおりなのかも……確かにリュウトは――)

 

彼女は回想する。

確かにこれまで竜斗を幾度なくただ必死に助けて、そして庇ってきた。

しかしその結果、女にいじめられるような男らしくない弱気な性格になっていた。

もし前に早乙女の言うとおりに竜斗をあえて突き放す選択をしていたら……勿論相談など、心の支えになるのも大事だが。

冷静に考えると、愛美の発言が次々に的を得てると思えてくるのであった。

確かに自分はただの自己満足で竜斗をひたすら助けて、何も考えず、諭してあげずに結局、解決に導いてないただのイタい人間だと痛感した。

 

(……アタシ、実はすごく空回りしていることに気づかなかったんだ……)

 

意気消沈した彼女は一旦、医務室に戻ると、マリアが仕事用デスクで書類を書いていた。

 

「エミリアちゃん。竜斗君の治療を終わったわ」

 

「ありがとうございます……リュウトは、大丈夫なんですか?」

 

「……極度のストレスで多分、夜中に何度も吐いていたせいで胃が凄く荒れてたのよ。

けどどうやら倒れてからそこまで時間経ってなかったから安心して。

今いい薬を点滴して今静かに眠ってる。このまま十分安静、休養していれば治るわ」

 

「…………」

 

「司令と相談して彼の容態を考えて訓練はしばらく中止にしたの。

あなたも今日はお休みね、彼に付き添いたいでしょうから」

 

「すいません……ありがとうございます」

 

「エミリアちゃんは彼が大事ですものね、心配したくなる気持ちは凄く分かるわ。

あたし、ちょっと今から駐屯地内の医務室に用があるからここを空けるの、彼のそばにいる?」

 

「……はい」

 

マリアは彼女を安心させるような笑みを見せ、書類を持って医務室から去っていった。

エミリアはベッドで点滴を受けながら静かに眠りにつく竜斗の隣のイスに座り込む。

 

「リュウト……っ」

彼の顔を見つめる。ヒドくやつれた顔をしていて精気が全く感じられない彼にエミリアは哀しい表情をする。

 

(リュウト……ワタシのやり方って間違ってたのかな……。アタシね、リュウトを辛い思いさせたくないためだけにずっと助けてきたんだ。リュウトは日本に来てアタシと初めて友達になってくれてもんね。

けど、サオトメ司令やミズキに言われて今気づいた。

確かにアタシ、リュウトのためになることを一つもしてあげられてないってことに……それじゃあこんな性格になっちゃうよね……ゴメンねリュウト……かえって迷惑だよね……っ)

 

……次第に彼女の目から大粒の涙がポタポタ落ちて、膝を濡らす。身体を震わせてヒクヒク泣き出した。

 

(けどアタシは……リュウトが好きで好きでたまらないの、もう周りが見えなくなるくらい。もしリュウトになにかあったらアタシ………………どうすればいいの…………っ)

 

……彼女の彼を助けようとする行動は愛情から発生する。

しかし周りが見えない行き過ぎた愛だと、愛美の言った通り歪んだ愛情へと変わり、逆に害となることもあるのだ。

 

「……エミリア君?」

 

ふと現れたのは黒田である。彼も早乙女から事情を聞いて彼の見舞いにきたのだった。

 

「クロダ一尉……」

 

「どうしたんだ、そんなに泣きはらして……そんなに彼が心配なのか?」

 

泣きながら頷くエミリア。黒田は彼女のそばに寄り、眠る竜斗を見つめる。

 

「確かに昨日、顔色悪かったもんな。

それになにかに脅えてるような感じはしてた。

いじめられてた時のオレによく雰囲気が似てたよ……」

 

「…………」

 

「原因はなんだろうな、まさか例の水樹という女の子のイジメか……っ」

 

するとエミリアはまた嗚咽し、俯いてしまう。

 

「リュウト……アタシ……どうしたら……」

 

彼女の言葉にふと気にかかる黒田。

 

「……何かあったみたいだな。もし差し支えなければ教えてくれないか?

ここで話すのはなんだ、待合室に行かないか」

 

……エミリアは待合室で彼に全て明かす。自分の行ってきた行動とその理由、本音、自分は彼に対してどう接すればいいのか――。

すると彼はなぜか苦笑いする。

 

「……君ってオレが高校生の時、付き合った彼女とどこか似ているんだよな、思い出しちゃったよ」

 

「えっ……」

 

「そのコね、好きになった人に凄く一途だった。

確かにイイ子だったけど『オレといたい』って泣いて駄々こねたりして大変だったよ。

毎日電話かけてくるし眠くて出なかったら次の日とか『なんで電話出なかったの?』って怒るしさ。

その子、他の付き合っていたカレシにもそんな感じだったらしくて。

それに情緒不安定でリスカしてたしオレ、それに耐えきれなくて振っちゃったんだよね――」

 

彼女は一瞬、恐怖を感じ寒気が走る。自分も一歩間違たらそうなると。

彼の顔は思いだしたくないのか、なんとも言えない複雑な表情をしていた。

 

「……君はまだそこまで行ってないし、自分で気づいた分イイ方だよ。

あれだな、エミリア君にも竜斗君にも言えるのは、『愛』は『依存』と紙一重の関係にあって、取り間違えたりごちゃ混ぜにしてはいけないと思うんだ」

 

「依存…………」

 

「なんていえばいいかな、『愛』は互いに信頼しあって初めて出来るもの。

イチャイチャしたりして一緒に喜ぶで楽しんだりすれば、時に喧嘩で本音をいったりして、自分達をよく知り、少しずつ育むものかな。

 

『依存』は一方的な感じ……まあ無理に押し付けているような感じかな?

そうなると相手が嫌がったり自分が無理したりと、悪循環ばかり発生して、結果としてどっちのためにもならない――」

「…………」

 

「けどやっぱりエミリア君は彼が好きなんだな、あの駐屯地のベンチで聞いた時は否定してたけど――絶対に気はあるとは思ってた」

 

「……はい。けど竜斗はアタシをどう思っているか……。

単なる献身的なお姉さん役を演じる幼なじみしか思ってないかも……そう思うと怖くて今まで伝えられなくて……っ」

 

 

 

「なら一つしかないな、彼に思い切って好きだと伝えてみるべきだよ。

言っただろ、自分からいかなきゃチャンスはこないって――てかオレ、なに熱くなってんだ……」

 

「……フフフっ、クロダ一尉はさすがですね」

 

 

やっと彼女は笑い、彼は安心する。

 

「エミリア君、彼をそこまで大切にする気持ちはすごくいいコトだしそれほど愛しているってことが十分伝わるよ。

きっと彼も絶対君に感謝してると思う。

ただ『依存』をさせないように、助けに行きたいという気持ちを抑えてみて、一度自分の力で解決させてみて君は陰から見守るっていう方法をやってみるといいかも。

君自身にも無理しないことも踏まえてね。

頑張れ、オレは君達の恋路を応援してるよ」

 

「……はいっ!ありがとうございます」

 

「君にはそれが一番似合うよ、太陽みたいだから」

 

先輩として、経験談を踏まえて、そして分かりやすくアドバイスをする黒田は流石である――。

 



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第七話「本音」②

――数時間後、竜斗はふと目を覚ます。彼は上半身を起こし、周りを確認する。

 

「あれ……っ」

 

薬品独特の臭い、白くフカフカなベッドに周りには白いカーテンで囲んである。医務室のベッド上だと彼は分かった。

 

「俺は……なにしてたっけ……?」

 

あの後キリキリと胃の痛みだし気持ち悪すぎて全く寝れず、部屋内の洗面台で胃液を吐いて、また吐いての繰り返し。

今にも狂いそうな嫌悪感と悪寒、胃の痛みが最高潮に達した時……そこから記憶などなかった。

多分、あの後エミリアか誰かが倒れた自分を見つけて、医務室に運んでくれたんだと。

右腕を見ると未だに点滴針が刺さって、液体薬がカテーテルを通り、投与されていた。

「…………」

 

彼は天井を見ながらハアとため息をつく

(俺はどうやっても強くなれないのかな……これからもアイツの、水樹の手のひらに踊らされるのかな……。

けどエミリアにはもう迷惑、苦労をかけたくない。自分で何とかしなくちゃ……けどどうすれば……)

 

彼も悩んでいた。一刻も早く愛美の呪縛から脱出しなければ、弱さを乗り越えねば自分のためにもならないし、そしてこれからメカザウルスとも戦っていけない。

またいつ襲ってくるか分からないのに、何をしているんだろうと……恐らく今のままでは数日前に戦ったあの『強敵』を打ち倒すのは到底不可能だ。

ゲッターロボの操縦技術ばかり向上しても意味はない、精神力も鍛えないと、と。

 

(黒田一尉なら……こんなときどうするんだろ?)

 

……解決策を色々練るもなかなかいい案が思いつかず。

彼なりに一応頭に浮かんだのは一度、勇気を出して本気で怒ってみるということである――。

 

(まあ……それが出来てたら苦労はしてないんだけどなあ……っいざという時に退いちゃうからな、俺……)

 

悩んでいた時、医務室の入り口ドアが開き、誰かが入ってきた。

そしてこっちへ向かってくる。

誰だろうと少し身体を起こす――が。

 

「ダイジョーブ、イシカワァ?」

 

「ひい、み……水樹……っ」

 

 

動けない時に限って最悪の事態である。満面の笑みをした愛美が彼の元にやってきたのだった――。

 

「なんかエミリアちゃんが石川が倒れて医務室に運ばれたって言ってたからお見舞いにきたよ♪」

 

「………………」

 

嘘だ、ウソに決まってる。彼女は動けない俺をまた苦しめるためにきたに違いない――彼は確信した。

 

「イシカワ、お薬の時間よ。あーんしてっ♪」

 

突然、彼女はポケットから青く、ひし形の謎の錠剤を取り出した。

 

「な……なんだよそれ……っ」

 

すると、彼女の口から出たのはとんでもない答えであった。

 

「コレ?『バ〇アグラ』よ」

 

「ば、バ〇アグラっっ!!?」

 

「アンタもさすがに知ってるでしょ?

これを飲めばどんなイ〇ポなヤツもたちまちオチ〇チ〇が元気になる素晴らしいお薬よ」

 

「なんでそんなもんを持ってんだよ……!!」

 

「実はこういうのって裏で結構流通してるもんなのよ。

そんでもってマナの友達に安く譲ってくれたの、スゴいでしょ?」

 

「お前……まさか……っ」

 

彼女は彼の元に立ち、一緒に持ってきた水の入ったコップ一杯と共に差し出す。

「さあコレを飲んで今から昨日の続きしましょうね、イシカワ♪医務室でエッチ、一度やってみたかったのよねえ♪」

 

本当に狂ってる……彼は真っ先にそう思い浮かんだのはそれだった。

 

「心配しなくていいのよ、今はエミリアちゃん達は用事なのかこの艦から降りてったし十分時間はあるよ♪」

 

「ふ、ふざけるなあ!!お前、本当に頭がおかしいよ!!」

 

「ほら、あ~~ん♪」

 

ニコニコのかわいい顔で口に近づける彼女。点滴針の刺さっていない方の手で彼女の腕を掴み止め、そして頑なに口を閉ざした。

 

「ほら、ご主人様の命令よ、飲みなさい!」

 

「!!!」

 

口を固く閉ざす竜斗に、彼女は彼の上にのしかかり彼の口に無理やり押し込もうとした――。

 

(もういやだ、もうコイツの言いなりになるもんか――!)

薬が閉じた唇に押し入っても、中の歯を閉じて意地でもシャットダウンする竜斗――。突然、彼女はコップの水を彼の顔にぶっかけて、彼の頬にビンタを浴びせた。

 

「飲めよ」

 

そして今、彼女の顔は悪鬼のような表情へ、まるで人格が変わったかのように変貌していた。

 

「飲めっていってんだよォーーーーーーっっ!!!!」

 

本性を顕した如く、気性を荒くなり凶暴と化した愛美。まるで何かに取り付かれたかのように往復ビンタを彼に浴びせた。

頬が真っ赤に腫れ上がるも、必死に耐える竜斗。しかしその心情は……。

 

(なんでそこまでして俺を……分からない……水樹の本質が分からない……)

 

彼は怒りを通り越してなぜか悲しくなったのだ、理由は分からないが。

しかし、少しずつだが彼女から感じられるのがあった。

……それは『嫉妬』のような歪んだ感情。彼に対してそれを向けているのを。

 

ちょうどその時、エミリアはなぜか艦内の医務室へ向かっていた。駐屯地内に降りたと言っていたが、途中でマリアが医務室のデスクに忘れ物したと言うので、優しい彼女は代わりに取ってくると言って戻ってきたのだった。

彼女は医務室の自動ドアを開けた時、表情が一変した。

 

「リュウト……?」

 

竜斗の寝ているベッドから何かを叩く音、愛美の怒号が響き渡るのを。

彼女は急いで白いカーテンを開けると愛美による恐ろしい惨劇が起こっていた。

エミリアは仰天して愛美をベッドから強く突き落とし、竜斗の元へ駆けつけた。

 

「リュウト!!」

 

「え、エミリア……!」

 

彼の両頬がひどく腫れ上がり鼻血も出ている。これは何度も強く叩かれたに違いない。

 

「ヒドい……ミズキ……アンタァ……っ!!」

 

もはや竜斗がやられたことに対する怒りだけではない、病人に対して行った暴力行為に対する彼女の人間性をも疑ったのだ。

 

 

 

そして突き落とされた彼女もゆっくり立ち上がると、その怒りの矛先をエミリアに向けた。

 

「またおまえか……いつもいつもマナのジャマばかり……許さない、もう絶対に許さない!!」

 

「!!!」

 

彼女はエミリアに襲いかかり押し倒したのだった。

 

「エミリア!!」

 

「ぐあ……っ!」

 

彼女の首を本気で締めはじめる愛美だった。

 

「……アンタたちばかり幸せになんかさせない、マナより幸せになるなんて許さない、マナの苦しみも知らないで……!!」

 

「…………!?」

 

……幸せ、苦しみ?いきなり何を言い出すのか、彼にさっぱり分からず。

苦しそうに悶えるエミリアに竜斗は立ち上がると、腕に刺さっていた点滴の針を無理やり引き抜き、痛みをこらえ意を決して愛美を押しとばし、彼女を抱き起こした。

「大丈夫かエミリア!!」

激しく咳き込み、悶絶するエミリア。

彼はすぐさま医務室にある緊急ボタンを押した。

 

「お前まで邪魔するのか……ならもういい」

 

愛美は倒れている彼女の元へ向かうと胸ぐらを掴み、空いた手でポケットから『スマートフォン』を取り出した。

 

「アンタにも見せてあげる。これ――」

 

「…………?」

 

竜斗は彼女のしようとしていることに気づき激しく狼狽した。

 

「や、やめろーーーーっ!!」

 

しかし時すでに遅し、エミリアの目に入ったその写メは彼女の心を深く抉った。

「……な、なに……これえ……リュウト……なにして……?」

 

「マナねえ、実は一昨日アンタの『すごく大事』なイシカワとエッチしちゃったの♪

気持ちよかったよ、アイツ思った通り『初めて』だったけどね、キャハッ♪」

 

「ウソ……ウソでしょ……っ」

 

エミリアの顔は一気に青ざめて取り乱し始め――。

 

「ウソじゃないわ、これが証拠よ。よく映ってるでしょ。

ゴメンネ、マナがイシカワのドーテー奪っちゃった♪」

 

「イヤ……イヤ、イヤァァァァァァーーっっ!!!」

 

エミリアは顔を酷く歪めて錯乱した。

悲痛の叫びを上げる彼女は、そのままおもちゃの電池が切れたかのように力なくゴロンと倒れてしまった。

 

「エミリアァァァァ!!」

 

彼の叫びはもはや彼女に届いておらず、涙を止まらず流れたまま自失していた。

 

「キャハハハハハハ、ザマーみやがれ!!イシカワごときがマナに反抗(さから)うからこうなるのよ!

あ~あっ、エミリアちゃんカワイソウ。ショックでもしかしたら自殺しちゃうかもね~~♪」

 

だがそれが起爆剤となり彼の堪忍袋の緒が切れ、愛美に襲いかかり、押し倒し、彼女の首を全力で締めはじめたのだった。

 

「ぐ……えっ!」

 

悶え苦しむ彼女の見た彼の顔は今まで見たことのないような怖ろしい怒りの表情。

例えるならそれは地獄の閻魔大王か――。

 

「お前……そんなに人を陥れるのが好きか……そんなに人を傷つけるのが好きなのかよォ!!」

 

「………………!!」

 

「お前だけはゼッタイに許さない、殺してやる……今すぐブッ殺してやる!!」

 

彼とは思えない恐ろしい言葉を吐きながらさらに握力を強める竜斗。

そして泡を吹き出して苦悶の愛美、今までの立場が逆転した瞬間だった。

 

その時、早乙女とマリアが駆けつけ今にも愛美を殺そうとしている竜斗を目撃し、一目散に二人を引き離した。

 

「落ち着け竜斗っ!」

 

早乙女に取り押さえられるが顔を真っ赤にして怒り狂い、もがき暴れる竜斗。

今まで我慢するうちに彼の中に溜まりにに溜まった怒りと悲しみなど負の感情が今ので引き金となり、暴発したのだろう。

そしてマリアに保護されて苦しそうに咳き込み愛美は……。

 

「ふ……ふざけんじゃないわよ。なんでアンタ達は……そんなに、そんなに愛しているの……マナはそこまで愛されたことないのに……ふざけんじゃないわよーーーー!!」

 

あの愛美が、大粒の涙をポロポロ流して子供のように泣きじゃくったのだった。その姿にこの場の全員が呆然となる。

 

――実は、愛美はこれまでに多数の男と付き合ってきたが、すぐに振られていたのだった。

 

その理由は『最初はかわいらしいしエッチも上手い、お金持ちでいいがだんだん途中で飽きてくる、ウザくなる』

 

『ぶりっ子すぎて本心が見えない』

 

『態度が高圧的でセフレとしてならいいが、本気で付き合うのには向いていない』――など。

 

そして『最初はピュアなように振る舞いながら、後から友人や知り合いの情報で所謂、ヤリマンだとバレてしまうこと』も言われている。

 

これらはすべて彼女の性格が仇となっている。しかし彼氏にまともに愛されていない彼女は竜斗達の関係を嫉んでおり、竜斗をいじめていた理由も実はこれである――。

 

『嫉妬と憧れ』。愛美はこの表裏一体の感情がまるで泥のようにグチャグチャに混ざり合い、出来たのが劣等感(コンプレックス)となって歪ませていたのだった。

 

彼女が異様に『エッチ』をしたがるのも、彼女なりの『愛されたい』形を求めていたからなのかもしれない。

そう考えると彼女も哀れな人間である――。

 

「エミリアちゃんまでこんな………………っ」

 

……マリアは、ふとそこに落ちていた愛美のスマートフォンの拾い上げた時、間違えて画面にタッチしてしまった。

 

「うっ…………竜斗……君……っ?」

 

あの『画像』を見てしまい気分を悪くするマリア。

 

――その後、竜斗とエミリアは艦内から駐屯地内の医務室で休養することになり。

逆に愛美は落ち着かせるために静かな場所で休ませ、その上でマリアのカウンセリングを受けたのだった。

マリアは、愛美から竜斗を『レイプ』したことと本心を聞いた。

まさか男である竜斗を『レイプ』したことにはマリアは、彼女の狂気の行動力に悪寒が襲ったほどで――これについては絶対に許されるべきではないと愛美をこっぴどく叱りつけた(叱りつけたところで到底許されることではないが)。

 

しかし本心については共感した。それは同じ女性だからこそ解るもの。

女性にとって愛されないのは悪夢のようなモノ、しかしそれには彼女にも原因があると優しく、そして分かりやすく諭したのだった――。

 

その夜、マリアは愛美を部屋で休ませた後、司令室で早乙女と共にソファーに座り、自身特製のコーヒーを飲みながら愛美について話していた。

 

「水樹がなあ……」

 

「……ええっ、彼女の行った行為はゼッタイに許されないのですが……彼女の気持ちは十分に分かります。

だからと言って手を出してしまっては元も子もないのですが」

 

彼女も色々疲れたのか額を手で押さえて大きなため息をついた。早乙女は立ち上がり、窓から外を覗く。

 

「なあマリア、女って業が深いよな」

 

「……司令?」

 

「甘くて情熱的でもあれば時には嫉妬し破壊的になり……爆弾を抱えてるような生き物だ。だが、それが女を美しくする、不思議なもんだ」

 

キザなセリフを吐く早乙女にマリアは驚く。

 

「……司令がそんなこと言うのは意外ですね。

司令はそういうのは興味ないと思ってたんですが――」

 

「そりゃあ昔は結構遊んでたからな。若さのいたりと言うやつさ。今以上におちゃらけてたし」

 

「そ、想像できないんですが……」

 

「まあ今ではそういうのはもう捨てて、ゲッター線研究に一筋だ――おそらくこれからも……」

 

早乙女は腕組みをして、何か考えごとしてるのか黙り込む……。

 

「それにしても竜斗は精神的に大丈夫なのか?」

 

「とりあえずは。しかし性行為に対するPTSD(心的外傷)を患っている可能性も十分あります。

もしそうなら彼は、これから先に不都合な事ばかり起こるのでは……」

 

……心的外傷。つまりトラウマのことである。

竜斗が愛美によって性行為に対するトラウマを受けたのなら、最悪の場合、女性不信、または恐怖症になり、それが原因で『ED(勃起不全、またはインポテンツとも)』を患い、これから先で彼女ができた時、結婚した後に性行為が出来なくなることもある。

心的外傷は物理的外傷と違い、忘れようとしても心の奥底で残るものであり完治は非常に厳しい。下手をすれば一生引きずる場合だって考えられるのだ。

 

「……マリア」

 

「司令……?」

 

「明日の午前中、水樹をここに呼んでくれ――彼女に話がある」

 

「…………?」

 

早乙女は彼女にそう指示した。

 

竜斗とエミリアの二人は駐屯地内の医務室の病室のベッドにいた。

錯乱したエミリアは今は、鎮静剤を投与されて静かに眠っている。

そして顔の治療を受けた竜斗は隣のベッドで寝ながら、眠るエミリアを悲しい目で見つめていた。

 

(エミリア……本当にごめんな…………俺らが小三の時、学校から帰る途中で野良犬に襲われたことがあっただろ。

お前は怯える俺の盾になって、真っ先にすぐ近くに捨ててあった折れた物干し竿を持ちだして、ブンブン振り回して追っ払ってくれたよな。

今でも、お前があの時半泣き状態で言った『リュウトはアタシが守るんダカラ――』って今でも覚えてるよ……。

 

他にも、何かあったらいつも俺を助けて……庇ってくれて……ホントウなら男の俺がお前を守らないといけない立場なのに……。

分かってた、こんなんじゃいけないと前から分かってた。

けど、臆病な俺は勇気を出して一歩を踏み出すことが出来なかった。早乙女司令やマリアさん、黒田一尉に出会って、ゲッターロボに乗り込んで強くなれると思ったら大間違いだった。俺が弱いからエミリアまでゲッターロボに乗るなんて言い出し、水樹に汚されて、弱みを握られて、挙げ句の果てにお前をこんな目に遭わせてしまった……)

 

エミリアに今までの自分の無力さ、男としての弱さを、甘さを懺悔していく竜斗は、嗚咽しだした。

(俺……今スゴく後悔してる……一番辛く苦しんでるのはエミリアなのに……それなのに……それなのに……俺は助けることすらできなかったなんて……ゴメン、ゴメンよ、エミリア……っ)

 

彼は布団を顔に被せて声を上げずに号泣した。彼は今もって身にしみたのであった――そして、これからは自分がエミリアを守っていくべきだと――本気で心を決めた。

 

――次の朝。先に起きたのはエミリアだった。

 

「………………」

 

 

 

横で自分の方を向きながら眠る竜斗を複雑な表情で見る。彼の赤く腫れぼった目の周りを見るとどうやら泣いていたようだ。

(心配しないで……アタシは気にしてないよ、何があってもリュウトはリュウトだから――あ~~あ、アタシだけまだ純潔か。

ヒドいよリュウト、先に大人の階段登るなんて――こうなったらアタシもミズキと同じくリュウトを襲っちゃおうかしら……なんてね)

 

そう冗談混じりに考え、クスッと笑う。どうやらそこまでショックを受けてはなかったようだ。

 

(けど――やっぱりリュウトが心配で心配でしょうがないよ――)

 

彼女はまた不安げな表情を浮かべて彼を見つめた。

 




七話終わりです


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第八話「告白」①

「今日は二人で駐屯地外に出てゆっくりと気分転換してこい」

 

――あれから二日後の日曜日、午前九時。休養し、とりあえず動けるまでに回復した竜斗とエミリアは司令室に呼び出されて、そう言われた。

 

「え……?」

 

「これまで色々あったからな。こんなんじゃあ気が滅入るだろうし、久々に思いっきり遊びたいだろう、元は高校生なんだから」

 

「休むことも仕事のうちよ。今日は何も考えずに遊んできなさい」

 

……思い出すと、自分達の住んでいた街で早乙女と出会ってから、ゲッターロボに乗って、そしてこのベルクラスに乗り込んで、ゲッターロボでの戦闘と操縦訓練、そして愛美の件と、閉鎖的な生活ばかりしていたので、そういう暇など全くなかった。

早乙女は竜斗にお小遣いの入った財布を渡す。開けてもいいと言われて見ると、万札十枚が入っていた。

 

「こ、こんなにいいんですか?」

 

「二人分だがこれだけあったら色々遊べるだろう。

一応ゲッターロボのパイロットになったことによる私達からの臨時餞別(ボーナス)だと思ってくれ」

 

そしてマリアから謎の紙手提げ袋を渡された。中を見ると二人がここに来るまえに着ていた、そしてここに来てからどこにいったから分からなくなっていた各私服だった。

 

「ごめんなさい、汚れてたから洗濯したんだけど渡すの忘れちゃって……」

 

「いえ、ありがとうございます」

するとエミリアは、何かに気づいてその私服のポケットを探り入れた。

 

「リュウト、てことはアタシ達のあれも……」

 

「え……あっ!」

 

彼もすぐに私服のポケットに手を突っ込むと何か四角くで幅の薄い固い物が当たった。それは……。

 

「あった、スマホ!」

 

すっかり忘れていた自分達のスマートフォンを取り出した竜斗達は互いに喜び合う。

二人はすぐに画面をタッチするが反応せず、電源ボタンを入れても起動しない。

竜斗は外面を見回すも致命的な傷や画面の割れ目などなく、特に異常がないのを見ると、ただの電池切れのようだ。

「そのお小遣いで充電器を買ってくるといい、ここから東側の少し離れた地区に大型家電店がある。そこの地区はまだメカザウルスの被害はないから開店していると思う。ゲームセンターやカラオケボックスとか遊ぶ場所もいっぱいある。

遠いが観光気分で周りの風景を楽しみながらと思えばいい。

あと、君達に代用の通信機を渡しておく。一応何かあったら連絡する、その時はすぐに指示に従うように」

 

ガラケーの形をした通信機を渡されて、使い方を教えられる竜斗。

 

「司令、あれを忘れてませんか?」

 

「お、そうだったな。二人に大事なこれを渡すの忘れてた」

渡されたのは二人が自衛隊で必要となる、写真付き身分証の入ったパスケースと駐屯地の出入りするための外出許可証だった。

 

「間違ってもなくすなよ。自衛隊では紛失に関しては凄まじく厳しいから君達や我々にとって色々と面倒なことが起こるぞ」

それを聞いて気が引く二人。というのも、自衛隊における物品紛失、情報漏洩に対する意識は一般社会より遥かに厳しいと言ってもよい。

なくせば休暇を返上してでも捜索せねばならず、最悪の場合懲戒処分を受ける場合だってあるのだ。

二人が出ていき数分後、コンコンとドアをノックする音が。

「入れ」

 

とある人物が入ってくる。早乙女は待っていたとでも言わんばかりの軽い笑みを浮かべた。

 

「よし、では始めようか」

 

――竜斗達は各部屋で本来の自分の私服に着替える。

無地黒の半袖ポロシャツにベージュ色のクローズドパンツ、青のデッキシューズ姿であり、難なく着こなす竜斗。

(久々に着たけどやっぱり自分の服はいいよなあ)

 

久々の自分の服の感触を味わう竜斗。

そして彼は着替えてエミリアを迎えに彼女の部屋に向かうがドアが開かない。とりあえずノックしてみると、

 

「ちょっと待ってて~~、今急いで準備して……きょえーーっ!」

 

中から、転んだのかドスンと大きい音が……。

 

「エミリア大丈夫か!?」

 

「アタタ……スボンが足に引っかかって転んだだけだから……アハハ……」

 

彼はため息をつく……。

 

(たくう、おっちょこちょいなんだから……)

 

そして十数分後、自分の部屋で待っていると「ゴメンゴメン、いこうリュウト」

やっと終わったエミリアが彼を迎えに部屋を訪れた。

高校生離れの恵まれたスタイルである彼女は、基本的にラフで着飾らない格好を好む彼女はタイトなデニムパンツとTシャツ、ソールの厚いレザーサンダルを履く彼女はいい意味でムチムチであり、特に胸や腰が際立つ容姿だ。

そしてナチュラルメイクをしている。

化粧品なんか持ち込んでたのかと彼は思ったが――そうだ、マリアさんから借りたのか。二人は仲がいいから、彼女に言えば多分貸してくれるだろう、と。

 

二人は持ち物を確認してベルクラスから降り、エレベーターで地上へ。

歩いて駐屯地の入り口へ行き、警務隊員に身分証と外出許可証を見せた。

「ああ、君達が例のゲッターロボのパイロットか」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ。初めての外出か、十分楽しんできておいで。この周辺は広いから迷うなよ」

 

警務員に笑顔で見送られていい気分な二人だった。

 

「ここの人達、いい人ばかりだね♪」

 

「うん、そういえば早乙女司令が警務員の人になにか、おやつとかのおみやげを買ってきたほうがいいっていってたな。帰りにコンビニかどこかやってれば何か買ってくるか――」

 

二人はとりあえず充電器を買いに、早乙女から教えてもらった道を歩いていく。

やはり約一周間前のメカザウルスの襲来が原因でこの周辺のほとんどの建物を壊されて、SMBによって撤去されて見晴らしが良い。

まるで自分達を迎えているかのような快晴な空も相まって、水平線の如くずっと先まで続いているように見える。

 

「すごくすっきりしちゃってるね」

 

「うん…………」

 

自分達の街もおそらくこんな状態だろうと想像する。

二人はなぜメカザウルスが自分達人類を襲い、そして殺すのか理解できなかった。

 

しばらく歩道を歩くと住宅街へ。

どうやらここはまだ無事でらしくマンションやビルなどが多数建っている。

街路樹の並ぶ歩道を歩いていくと、途中で公園に差し掛かる。走り回る子供達、親子連れ、散歩するお年寄りやカップル、結構な人々が行き交うこの平穏な場所は戦時中とは思えないくらいに別の世界だと思えてくる。

 

「いつまでもこういう風景が続けばいいのにね。なんでこんな世の中になっちゃったんだろう……っ」

 

最初はメカザウルスの侵略は外国ばかりだったのが、こんな島国の日本にまで侵攻され、もう壊滅的状況になった都市もあるだろう。他の各国も次々にメカザウルスに侵略され、人類も必死で抵抗している映像を毎日のようにニュースでやっていたのを思い出す。最初は他人事のように思ってたが、日本にまで魔の手が伸びて悠長なことは思えなくなった。

 

「……けどゲッターロボに乗って、世界を救わないといけなくなったんだ。

本当にそんなの出来るかどうか分からないけど、早乙女司令が俺に『ゲッターロボと乗りこなす人間なら世界を救える』と言ってくれた。

なら今は、あの人を信じてやれるだけのことをやるしかないよ」

 

「そうだね。リュウトさ、前と比べたらずいぶんとカッコいいこと言うようになったね、やっぱり成長してきてるんだよ」

「え……いや、その――」

 

彼は照れた。

道中通りかかったコンビニエンスストアに入り、ジュースを買う。

品物不足の為か、店内商品も遥かに少ないのに値段は格段に上がっている。ご時世でも結局は金次第ということか――。

 

「ス、スミマセン……」

 

飲みながら歩いていると、ふと通りすがった外国人だと思われる背の高く、金髪の彫りの深い顔立ちの男性がカタコトの日本語で尋ねてくる。

 

「ここはアタシに任せて♪」

 

エミリアは『自分は英語できますよ』と安心させるかのようにペラペラの流暢な英語で話しかけると男性も喜んで英会話を弾ませた。

元は英語が標準語だった彼女にとっては朝飯前だ。

エミリアはあまり日本語が上手くない両親のために家族間で英会話したり、たまに両親の祖母や知り合いにも国際電話をしているため忘れることはない。

日本語も英語も出来る彼女は優秀なのではないかと思えてしまう――。

 

会話が終わると握手し、男性は笑顔で手を振り去っていった。

 

「終わったよ。あの人道に迷ってたのよ。それにアタシと同じでアメリカから来たんだって」

 

「へえ。けどやっぱりエミリアには敵わないよ。二カ国語堪能って就職とかに相当有利だよな」

 

「エヘヘ、けどリュウトと違ってパソコンとかの扱いはド下手だから、デスクワークは無理だなアタシ……」

 

「エミリアってスマホの全データを何回も消去して、俺に泣きつくぐらいだからなあ」

 

「もう、からかわないでリュウト!」

 

「ハハハッ!」

互いに茶化し合う二人は、二日前までのあの忌々しい出来事があったとは思えないほどに和やかである。久々の外出が嬉しい様子である

 

――二人は約一時間少しかけてようやく早乙女の言っていた大手の大型家電店に到着する、どうやら開いているようだ。

二人は中に入り、エスカレーターで二階へ移動する。

午前中なためか、あまり人がいない。そして家電品はコンビニと違って価格が値下げになっているにも関わらずほとんど売れていない――。

「さてと、充電器、充電器っと――」

 

スマホ用グッズ、オプションコーナーへ行き、見回る。

ここは竜斗の得意分野、すぐに沢山の種類がある充電器の中からすぐに自分達のスマホにあったものを選び当てる。

 

「はい、エミリアのはこれがいいよ」

 

「ありがとう。アタシじゃよくわかんないから、ここはリュウトの独壇場ね」

 

会計を終えると帰るのかと思いきや、彼はパソコン機器のコーナーへ向かった。

その時の目の色はいつもと違いスゴく輝いている。

彼はこういうのが本当に好きなんだろう。

 

「このノートパソコンが欲しいんだけどな……今の小遣いじゃ買えないや……ハハッ」

 

「アタシにはなにがいいのかさっぱり……」

 

よだれを垂らすように見る竜斗、そしてそのパソコンの良さが分からず頭を傾げるエミリア――。

数十分間店内を見回り外に出る二人だが、同時に腹から空腹だと知らせる音が。

 

「お腹すいた。どこか店で食べようよ」

 

「もう昼か。駐屯地からずっと歩いてきたもんな。

今日はお金が沢山あるし――エミリアはなにがいい?」

 

「ん~~、リュウトは?」

 

「オレ?どうしようかな……」

 

なかなか決まらず、とりあえず辺りをうろついていると……。

 

「リュウト、あそこは!?」

 

エミリアが目を輝かせて指を指した方向には焼肉店が。

 

「焼肉かあ……そういえば最近食べてなかったよな。そこにするか」

 

「やったあ♪」

 

二人はその店に向かい、開いているかどうか確認する。入り口に『開店中』と書かれた立て看板があるのを見ると、安心して入ってると女性の店員が出迎える。

 

「いらっしゃいませ……あれ、お二人ともすごく若く見えますね。高校生の方ですか?」

 

焼肉店には酒類も置いてあるため、とりあえず年齢確認されて正直に答える。

 

「それに女性の方は……失礼ですが日本の方ではないですよね?」

 

「あ、ワタシ日本語大丈夫ですよ。どうぞ気にしないで普通に話してください」

エミリアの流暢な日本語を聞いて驚き、そして安心する店員。

二人は禁煙席に案内されて、長イスに腰掛けると同時に店員がお冷やを持ってくる。

 

「とりあえずカンパイ!」

 

冷水の入ったコップ同士をぶつけて少し口にする。

 

「やっぱりお前、日本人じゃないから日本語をペラペラ話すのが凄いと思われるんだな」

 

「当たり前でしょ、いつから日本で暮らしてると思ってるの。

さあて、なに頼もうかな……フフッ」

 

メニューを見ながらルンルン気分の彼女。焼肉が死ぬほど大好きなのだから嬉しくて仕方がないのだろう。

一方で竜斗は皿と箸、タレと調味料を彼女に配る。

 

「リュウトどうする、食べ放題にする?」

 

「うん。エミリアはいっぱい食べるだろうし」

 

……そしてメニューが決まり、机の呼び出しボタンを押す。すぐに注文入力機器を持った店員が現れ、食べ放題コースだと伝える。

 

「エミリア、いっていいよ」

 

「ありがとう。ならええっと……まずご飯大と中でしょ、牛カルビ、豚トロ、ハラミ、塩牛タン、牛ホルモン、馬レバー――」

 

いきなりどばっと注文するエミリア。

しかし彼は全く驚いていない。なぜなら彼女は全て平らげるのを知っているからだ。

最初は彼女の底知れぬ胃袋に驚いていたがここで来るともはや慣れっこだ。

注文が終わると来るのを待つ間、雑談する。

 

「それにしてもサオトメ司令もマリアさんも粋だよね。

遊んでおいではともかく、こんなにお金をくれたんだから。」

 

「ああ。けど司令達って……休みあるのかな?なんか今日の服装、いつも通りスーツだったし」

 

「そう考えるとあの人達って大変だよね。……身体壊さないのかしら?」

 

早乙女達の生活については、仕事以外は何をしているのか全然知らず想像もできない。改めて二人の謎は深まるばかりだ。

 

「けど、スマホ使えるんなら……俺らの親に連絡できるんじゃないか?」

 

「そうだね。けどもし繋がったとしたらなんて言えばいいのかな?

アタシ達今はなんやかんやあって――自衛官になってゲッターロボに乗ってますなんていう?」

 

「そんなこといっても信じてくれるかな………………」

 

彼らにとってそこが一番の悩みどころである。あと早乙女からの許可なしで連絡していいものなのかが分からないし、そもそも向こうに繋がるかどうかも分からない。

 

「……そういえば水樹、あれからどうなったんだろ。マリアさんから聞いたんだけど――」

 

「リュウト、あんなヤツの話はもうやめてよ。思い出すだけでムカついてくるわ。

全てアイツが悪いのよ、リュウトにあんな淫らなことして弄んで……絶対に許さない。

なんか愛されないとかワケ分からないこと言ってたけどそんなのただの淫乱女の自業自得じゃない」

 

不機嫌そうな顔で彼女に対して愚痴を吐く彼女。

 

「けどさ……許せないと分かっていてもなんか割り切れないんだよね」

 

「……あんな目にあっても、ホントお人好しだねリュウトは。けどそこがリュウトのいいとこかもしれないけど――」

 

「……そ、そうだよな。俺ってやっぱ変だよな」

 

「…………」

 

雑談している数分後についに下ごしらえされた各種生肉の入った皿が運ばれてきた。

「さあ、焼くわよ。あ、今日はリュウトが焼肉奉行してよ」

 

「え?なに、焼肉奉行って?」

 

「この焼肉する場を仕切る人のことよ。つまりリュウトに肉を焼く係やってってこと」

 

「俺がかよ」

 

日本人の竜斗でも今日初めて知った日本語を使う彼女は、それほど日本語を勉強していると言うことだ。

今の日本人より日本人してるとは彼の弁だが、確かにその通りなのかもしれない――。ジュウジュウ焼く音がよだれが出るくらい食欲を誘う。

 

「いただきます!」

 

焼けるなりパクパク食べ始める。二人は相当腹がすいてたのか見る見る内に肉と飯がなくなっていく。

「リュウトもいっぱい食べるね!」

 

「お前に比べたら大したことないけどね」

 

「けどリュウトがここまで食べるとこ見ると、元気そうでアタシ嬉しい!」

 

「エミリア……」

 

「リュウト、どっちがいっぱい肉食べるか勝負しない?」

 

「え……?」

 

「勝ったほうが自分のお金から代金払うことにしよっか」

 

「……勝てるかなあ?」

 

「ほら、弱気にならないの!」

 

「……なら、望むところだ!」

 

二人で大食い勝負をやり始めたが果たしてどちらが勝つのか。

 



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第八話「告白」②

――二時間後、精算し店から出る二人の腹は凄く張っていた。

 

「うぷっ……くそ、負けた……調子に乗って食べ過ぎた……」

 

「勝ったのはいいけど……さすがにもう入らないわ……リュウトも結構食べてたよね」

 

「つかお前一人で十皿以上も平らげてからそのあとにデザートとか……」

 

「デザートだけは別腹なのっ!」

 

さすがに今は満腹で歩けず、、二人は店の外にあるベンチに腰掛ける。

 

「次、どこ行こっか?」

 

「う~ん、どうしようか……」

 

そもそも急に遊んでこいといわれても、この周辺に何の娯楽施設があるかさっぱりだ。

二人は出る前に早乙女にこの周辺について聞くべきだったと今思い知るのであった。

 

「――とりあえずこの周辺を探索しようか。それも観光の醍醐味ということで」

「……そうね」

 

 

 

少し休んで再び歩き出す。駐屯地周辺と比べたら、早乙女の言うとおりメカザウルスの被害がなく自道路には自動車が走り、様々なビルや店があちこちに立ち並ぶ。

ほとんど建物が取り壊された向こうとは雲泥の差である。

二人は街の中心部へ。二人はキョロキョロ探索していると。

 

「リュウト、カラオケに行かない?」

 

ちょうど比較的大きいカラオケ店前に差し掛かった彼ら。

エミリアはそう提案する。

 

「……カラオケね。俺歌うまくないしな……っ」

 

「アタシそんなの気にしないよ。スゴくストレス発散になるよ、いっぱい歌ってすっきりしようよ」

……彼女に促された竜斗は少し考え、

 

「わかったよ、エミリアがそういうなら俺も歌うか」

 

「ワァオ、ありがとう!」

 

エミリアはスゴく歌いたくてウズウズしてたんだなと彼はそう感じた。

考えたら彼女も学校でよく女友達とカラオケにいったと聞かされたものである。

二人は受付を受けて、ドリンクサーバーでコップにジュースを入れて、指定された番号の個室へ向かう。

その途中の周りの個室から結構な数の張り上げる歌声が聞こえる、邦楽、有線曲、洋楽、アニソン、これはネタだとしか思えない曲も聞こえてくる。

 

やっぱりみんな、ここでストレス発散しているんだなとしみじみと思う竜斗だった。

そして二人は個室に入るとソファーに座り、エミリアは中央のカラオケ画面下に取り付けられた入力機器を取り出した。

 

「暑くなるからエアコン入れるけどいい?」

 

「いいよ」

 

そして彼女が先行して、入力機器に歌いたい曲を探す。

 

「フフ、久し振りだなカラオケ♪けどリュウトと来るのは初めてじゃない?」

 

「そうだっけ?」「うん。だから実はアタシね、いつかリュウトとカラオケ行きたかったんだ♪」

 

自分にそう言ってくれる女性もエミリアくらいだろうと、スゴく嬉しい気分だ。しかし彼は疑問なこともある、それは。

 

「……なあ、エミリア」

 

「どうしたの?」「お前ってさ、他に好きな人いないの?」

 

「…………えっ?なによいきなり……」

 

「だって、いっつも俺にばかり気をかけるからさ」

 

「そ、それは……っ、さあて歌、うたっと……」

 

なぜか言い渋り、話をぎこちなくそらすエミリア。

 

愛美にはブスなどと言われてたが実際には外国人特有の鼻がツンと高くてそばかす美人であり、内面的でも家庭的でそして献身的と女性にとってはこの上ない要素を持つ彼女は、確か中学、高校時でも結構な人数の男子から告白されていたのを知っている。

彼らは彼女が嫌いになる要素など持たない好印象を持つ男子だったのにことごとく、丁重に断っていたのだった。

そして竜斗自身も、彼女は男では誰よりも自分を好いているのは知っている。

しかし、それが疑問だ。

なんでこんな地味で弱気の、そして運動も大して出来ずに読書やゲームやパソコン好き、そして女性と一度も付き合ったことのないいわゆる草食系男子の自分なのか……他にも自分より遥かに優れるいい男がいるだろう、なのに――。

 

「さあて、いくわよ。歌っている間に決めておいてねリュウト」

 

彼女が歌うのは名前の聞いたことのないアーティストの曲。

しかし表示されたその不思議なタイトル名と、その後の画面上のPV映像を見ると、どうやら日本のロック、それもいわゆるヴィジュアル系ロックバンドの曲であるようだ。

……そういえばエミリアってこういう趣味があったことを思い出す。

彼女の部屋にそういう系統のCDやライブDVDなど沢山あった。

画面には、不思議な世界観を映し出されたパート、バンド本人が歌うパートの映像が流れる。

まるで女か男か分からない程に盛った長髪、ガチメイクを施した細身の男性バンドメンバーの演奏、歌唱姿は、まるで漫画やアニメに出てきそうなキャラクターみたいだ。

けどそれでファンがいるのだから好きな人には好きなんだろう。

 

「うるぁああああっ!!」

 

盛り上げるためか、はたまたネタか、ハードロック調の曲に合わせてソファー上に立ち上がり、テーブルに片足を乗せてシャウトしながら派手にヘドバンをかますエミリアに彼は腹を抱えて笑った。歌が終わり、息を乱す彼女に彼は喝采を送る。

 

「エミリア、最高だったよーー!!」

 

「あ、ありがとう……次はリュウトの番よ!」

 

「あ、いれてなかった……待ってて!」

 

……しかし彼は、実際何を歌おうか決めてなかった。とりあえず履歴、つまり前の人が入れた曲のリストを見て、自分でも歌えそうな曲を探す。

 

(これ歌おうかな……)

 

入れたのはとりあえず無難な、ミリオンヒットした誰でも知っている有名アーティストの曲だった。

 

「…………」

 

カラオケという場に全く慣れていない彼は、とにかく音程を外すまいと慎重に歌おうと必死だ。マイクを持つ手がブルブル震えている。

対しエミリアは終始無言である。

 

「はあ、はあ……っ」

 

歌い疲れて息を乱す竜斗にエミリアは眉間にしわを寄せたムッとした顔となり、

「ダメダメ、すごく堅い堅い!」

 

「へっ?」

 

「リュウト、もう少し気を楽にして歌っていいのよ。

これじゃあ聞いてるほうも疲れるよ。

カラオケってのは上手い下手はどうだっていい、はっちゃけてナンボなモンよ!」

 

エミリアに突然の指摘に目が点になる。

 

「アタシがなんで初っぱなからあんなパフォーマンスしながら歌ったか分からない?それはね、リュウトの緊張をほぐすためにやったのよ、オンナのアタシでも恥を考えずに」

 

「…………」

 

「アタシは……リュウトのありのままを聴きたい」

 

「ありのまま…………」

 

「怖がらないで。アタシはリュウトをしっかり受け止めてあげるから――なんて思われるか、なんて気にしちゃダメ!」

 

……エミリアが彼を半ば強引的にカラオケを誘ったのは、これまでの過重なストレスを発散し、そして愛美から受けた心の傷を少しでも和らげたらという彼女なりの気遣いである。

外出した時からどうしたらいいかと考えていたら、偶然カラオケ店があったのでこれならと――彼女らしい発案である。

「リュウト、いっぱい叫んで歌って盛り上がろう。アタシも死なない程度ではっちゃけるから!」

 

彼女の激励に竜斗は徐々に、彼女に対する嬉しさと感情が高ぶった。

 

「――うん!」

 

――それから竜斗とエミリアはまさに歌合戦状態となった。

アニソンや、ヴィジュアル系ロック曲、ちょこっと有線曲、デュエットしたりと……まさに自分達の趣味曲を下手上手関係なく、そして感情のままに歌い出す彼らは笑顔と凄まじい熱気に溢れていた――。

 

そして四時間後、バテバテになって店から出た二人はもはや全てを出し切った表情だった。

 

「ノドカラカラ…………」

 

「エミリア、声がかすんでるよ……っ」

「そういうリュウトもじゃない……」

 

そう言い合い、互いに見つめてクスクス笑う二人だった。

夕方になり、時間も時間で竜斗達はとりあえず駐屯地の方へ向かう。

 

途中でタクシーを見つけたので、お金もあるし乗ろうとも考えたが、せっかく探索できるチャンスでもあったので二人は疲れるが歩いて帰る選択をした。

落ちていく太陽に見とれる二人は、共通で、今日のような素晴らしい休日を作ってくれた早乙女とマリアに感謝するのであった。

 

――帰り道、二人は落ちていく夕日をよく見ようとちょうど通りかかった、丘のような高い場所に立ち寄る。

頂上までの階段を転ばないようにゆっくり登る。

そして一番上についた二人を待っていたのは、見晴らしのよく、そして夕日の光をモロに受ける絶好の場所だった。

ベンチなどもあるが、誰もこないのか砂と枯れ葉だらけで汚れている。

 

「いい景色……アタシ気に入った。またリュウトとここに来たいな……」

 

嬉しそうにそう言う彼女の後ろで聞いていた竜斗は……。

 

「エミリア」

 

「ん?」

 

彼女は振り向くと、どこかやりきれない顔をした竜斗がいた。

 

「なんで『俺』ばかりなんだ?」

 

「リュウト…………?」

 

「……カラオケでも言ったよな。他に好きな人はいないのかって……俺は知ってるよ。お前、中学から結構告白されてたの」

 

エミリアの顔から笑顔が消えた――。

「告白したのは全員、俺より遥かに頼りがいがあるいい男だったと思う……お前は全部断った。なんでだ?」

 

「…………」

 

「……こんなこと、恥ずかしくて言いにくいけど俺も大体は気づいていた……俺が好きなんだろ?」

 

ついに彼は彼女に秘められた想いの核心に迫った――。

 

「それは凄く嬉しいよ……エミリアとはずっと小学校前からの付き合いで常に俺と一緒だったからお前の気持ちは分かる……俺のこと思ってくれる女性(ひと)なんてお前だけだから。けど――」

 

「リュウト……っ」

「なんで俺なんだ。水樹みたいな女にイジメられてたひ弱な男の俺が好きなんだ?」

その言葉が彼女の心に針のようにグサッと深く突き刺さる。

「……ずっと俺にくっついてると、これからもお前にばかり迷惑がかかる。

俺は、お前にこれ以上傷ついてほしくないんだ……それなら、いっそのこと俺より頼りがいのある人を選んだほうがいいと思う……」

 

彼は震える声で彼女の思いを引き裂くようなことを伝える――これも彼なりに考えたことである。

自分にばかりくっつき、助けようと庇うから愛美のような悪い人間と喧嘩し、傷ついてしまう。

そうなるくらいなら他の頼りになる男にくっ付いたほうが、きっと守ってもらえるから――。

「…………」

 

「お前だってホントはツラいんだろ?俺を助けるためにこんな――」

 

――だがその時、

 

「リュウトって……全然アタシの気持ちわかってない……っ」

 

「エミリア……?」

「大好きだよ。この際だから言うけど……好きで好きでたまらないの。

もう、周りが白黒になるくらいに――だって日本に来てから友達がいなくて寂しい思いをしてたアタシと友達になってくれて、日本好きになるきっかけも作ってくれたし。

アタシに告白してきた人には凄く申し訳ないことをしたと思う。だってアタシ、リュウトしか考えられないから。

それにリュウトと一緒にいられるなら痛い目にあってもツラいなんて少しも思わなかったっ」

 

ついに彼女も彼に本心を伝えるのだった。

 

「……小学二年生の時、リュウトがクラスの七夕会で短冊に何を書いたか覚えてる?」

 

「七夕……?」

 

「『おとなになったらエミリアとけっこんすること』って書いてくれたの、アタシは今でも覚えてる。

何を書こうか迷ってたアタシは、それを見たらホント死ぬほど嬉しくて……アタシも汚い字の日本語で『おとなになったらリュウトのおヨメさんになる』って書いたんだよ……」

 

「あ……っ!」

 

彼は今、思い出した。確かにそんなことを書いた覚えがあると。まさかエミリアは……。

 

「あの時クラスのみんなからヒューヒューってからかわれたけどね。

確かリュウトは四年生くらいから願いを変えちゃったけどアタシはずっと『リュウトのお嫁さんになる』って変えなかったし、今でもその願いを変えようとしたことは一度もなかったよ……」

 

「エミリア…………っ!」

 

「……確かにアタシも悪いところはいっぱいあるよ。不器用で要領悪いから……最初は今までリュウトをただ助けたり庇ってた。

それはリュウトが好きだからこそだよ……けど、それがリュウトに対して逆効果だったって……サオトメ司令やミズキ、そしてクロダ一尉に言われてやっと気づいたの。

あたしのやってたことはただの自己満で思い上がりだったってこと。

それからアタシ、どうリュウトと接すればいいかスゴく悩んでた……っ。それにリュウトがアタシに対してどう想っているか。もしかしたら、自分をただの幼なじみだとしか思ってなかったら……そう考えると恐くて、今まで素直に『好き』なんて伝えれなかった……っ」

 

……顔が真っ赤なエミリアの目から涙が溢れかえる。

 

「けど……もし迷惑だったんならゴメンね……こんな、アタシの一方的な想いだけで今まで振り回して……困らせてゴメンね……アタシはただ、夢ばかり見ていただけだったんだ……っ」

 

「お前…………っ」

 

「けど……これだけは言わせて……アタシは……リュウトに何があっても最後まで味方になるから……それが、不器用なアタシの出来る、大好きな人への精一杯の優しさだから……!」

 

……これまでエミリアが自分ばかり寄り添い、助け、そして庇ってきたその真意を今やっと、理解できた。

だが彼女は悲しさのあまり、彼に背を向けて泣きながら駆け出した――が。

 

「ば、バカ!!それ以上行くなあ!」

 

「!?」

 

彼女の行く先にあったのは手すりと鎖が張られ、その先には地面などない崖が。

 

(ウソ……っ)

 

泣くあまり、崖の存在を忘れていた彼女の足は鎖に引っかかり、勢いで一回転してまさかの崖の下へ転落……はしてなかった。

 

「エミリア!!」

 

「リュウト……!!」

 

間一髪、すぐさま追いかけた彼の差し伸べた手がギリギリで彼女の手を掴み、崖から落ちるのを防いでいた。

 

「絶対に下を見るなよ!」

 

彼女の下は夕時もあって闇で広がっていた。どのくらい高いのか分からない、恐怖のあまり身震いした。

崖の土に滑って上がれそうにもない。

杭に足に引っ掛けて鎖を全力で掴んでいる彼の力に限界が来てるのか、ズリズリと崖へ引きずられていく。

 

「りゅ、リュウトまで落ちちゃう、手を放して!」

 

「死んでも放すもんか!」

 

その時、エミリアは見上げて彼の顔を見て感じた。

今までの柔かった顔が消えて、まさに本来の男らしさを感じさせる力強さが。

 

「エミリア……俺はお前の本心を聞けてもう迷いは吹っ切れたよ。

これからは……俺がエミリアを守っていくんだからっ!!」

 

(リュウト……っ!!)その言葉は彼女の心を溢れさせるくらいな嬉しさに満たされた。

しかし、鎖に掴んでいた手の汗により、滑って離れてしまい、彼と共にそのまま崖から落ちていった……。

 

「……あれ、生きてる」

 

とっさに彼女は起きた。どうやら崖の下のようで偶然にも地面の土が柔らかい。少し痛みが走るがどうやらそのおかげで自分は助かったようだが、

 

「リュウト、大丈夫!?」

 

そばで倒れている彼を必死で揺さぶる。すると、

 

「う…………ん、エミリア、大丈夫か……」

 

彼の様子を見るとどうやら大丈夫なようだ。ゆっくり体を起こして彼は、彼女と対面する。

 

「ハハッ……俺、お前を絶対に守るって言ったのに……カッコ悪いよな……」

「ううん、そんなことない。今までの中で一番カッコよかった」

 

二人は暗い中であるが顔を合わせ見つめ合う。

 

「ねえリュウト、これからアタシを守るって……ホント?」

 

「ああ。俺も実は二日前のあれから、もうエミリアを守っていく、強くなるって決めてた。

けど、あんなことを言ったのはそれも選択肢の一つだと思ったんだ、だから――。

けどエミリアがそこまで俺を想ってくれてたんなら、これでもう完全に決めた、てっ」

 

「リュウト……っ」

 

すると彼は照れくさそうに彼女に呟いた。

 

「エミリア、俺もお前が大好きだ。だからお前のためにこれから強くなるよ。けど俺、水樹に……」

 

「心配しないで……何があってリュウトはリュウトだから。言ったでしょ、全てを受け止めてあげるって――」

 

……ついに想いを告げて、本当に結ばれた二人は強く抱きしめ合い、至福の時を迎えた――。

 

「リュウト……もっかい好きって言って……」

 

「大好きだよ。世界で誰よりも――」

 

「アタシも……世界で誰よりもいっとうリュウトが好き……っ」

 

エミリアにとって、これまでで今日の今ほど幸せな気持ちが満たされることなどなかっただろう。それは彼にとっても――。

 

「あ、世界で好きなのは他にいた」

 

「……え」

 

「アタシの親……」

「あ、俺も親忘れてた」

 

二人はクスッと笑った――。

 

 

 

その夜、駐屯地に戻りベルクラスに帰艦した二人は、すぐさま早乙女とマリアにお礼を言いに司令室に訪れた。

 

「おかえり二人共、楽しかったか……ん、なんでそんなに服が土で汚れてるんだ?」

 

「そ、それはまあ……ハハっ」

 

「……サオトメ司令、そしてマリアさん。こんな素晴らしい休日、本当にありがとうございました!」

 

二人は今まで見たことのない彼らの満面の笑顔に驚くも、親のように暖かく見つめたのだった。

 

「そうそう、二人に吉報がある」

 

「え?吉報ですか?」

 

「ああ。実はな、残り一人のゲッターパイロットが正式に決まったよ」

 

最後のゲッターロボの乗る人間。二人は驚愕すると同時に、誰なのか知りたくなった。

 

「だ、誰ですか?」

 

「それはな、君達がよく知る『女の子』だ」

 

「オンナ……のこ」

「…………?」

 

「なら紹介しよう、最後のゲッターロボのパイロットに任命された――」

 

すると横からある人物が現れる。見た竜斗達は……一気に戦慄した。

 

「「水樹(ミズキ)っっっ!!?」」

 

「そうだ、最後の一人は君達がよく知っている女の子『水樹愛美』だ、よろしく頼む」

 

……なんてことだろう、最後のゲッターロボに乗る人物と言うのが、竜斗達を毛嫌いし傷つけ、そして陥れてきた彼女だった。

「フン…………」

 

やはり気に入らなさそうな態度の愛美に対し、二人は唖然となるのであった。

 

「な、なんで……」

「ミズキがアタシ達と同じゲッターロボに……ウソでしょ……」

 

……まあ二人の感想はそうなるだろう。

 

「これを見てくれ、実は今日、彼女とゲッターロボの操縦訓練をしたんだが、その時の映像だ」

 

モニターに映し出されたそれは、二人をさらに唖然とさせた。

地下訓練場にて、初日ということもあり竜斗と比べてぎこちない面もあるが、縦横無尽に動き回る『海戦型ゲッターロボ』の姿が……。

「私達は驚いたよ。この機体、君達のより操縦が難しいのにほとんど自分の感覚でこんなに動かせるとは。

まあ、あまり指示を聞かないのが彼女の難点だがな。二人とも、これから彼女に負けてられないぞ」

 

実は愛美はゲッターロボの操縦に関しては『天才肌』を持つのであった……開いた口が塞がらずに立ち尽くし、ショックを受ける竜斗とエミリア。

 

「お、俺より機敏に動かしてる……」

 

「てことは一番下手くそなのは……アタシ……?」

 

――ついに揃う三人のゲッターロボのパイロット。

石川竜斗、エミリア=シュナイダー、水樹愛美の同級生同士のチーム。だが、竜斗とエミリアとの関係が劣悪な愛美のこの三人で果たしてこれから上手くやっていけるのだろうか……。

 




次から戦闘回です。


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◆日本編
第九話「ゲッターチーム」①


二ヶ月後……マシーン・ランドのメカザウルス開発エリアではガレリーがゴールを招き、新型メカザウルスを見せた。

 

「ゴール様、このメカザウルスをご覧ください。

私達が苦心し完成した、ゲッター線はおろかありとあらゆる攻撃を無効化する特殊金属『セクメミウス」の装甲を持つ最新鋭メカザウルス『セクメト』です」

 

ガレリーがゴールに見せるは、全長四、五十メートルはある白銀の……多数のスリットに別れた装甲を半円形になるように取り付けたような物体

。まるで虫のように無数の足、正面には奥に光る二つの眼と触角がうねうねと不気味に動いている。

まるでだんご虫のようなデザインだ。

恐竜など原始生物などが定義であったメカザウルスとは到底言い難い形状をしている。

ガレリーが指でパチンと鳴らすと、彼の部下達がある巨大な装置を運んでくる。。

 

「これも私達が開発した『ゲッター線放射装置』でございます。ゴール様、ここから離れた場所からご覧下さい。

仮にも我々が嫌がるゲッター線を照射するので万が一の時を考えて――」

 

――彼の言うとおり、隔離された部屋のモニターからその様子を確認するゴール。

そしてガレリー自身と部下も隔離した場所から遠隔で装置の操作を開始する。

 

「ゲッター線を照射せよ。但し一点方向に絞れ。放散せぬようにな」

「了解」

 

装置に取り付けられたアンテナ棒の先からエメラルドグリーンの光、ゲッター線が光線となり放射。セクメトにしばらく浴びさせる――。

 

「おお……これは……」

 

ゴールは驚きと、歓喜の声が響く、そのワケとは。

 

「おい、他の兵器を用意しセクメトに全弾浴びさせろ」

 

ガレリーの指示に、部下はライフル、火炎放射、ミサイル、バズーカ、果てにはマグマ兵器さえも用意させて全てをセクメトに集中放火する。

これだけ当てればただではすまないほどの攻撃であったがセクメトの装甲には何の傷をついてないどころか、新品同様のピカピカの金属光を放っていたのである。

 

「これはスゴい……これならゲッター線、いや人類など恐るるに足らん。

さすがはガレリー、恐竜帝国、いや爬虫人類きっての最高技術者の名に相応しい」

 

“滅相もございません、ゴール様のためだけでなく、これも爬虫人類の未来を考えてのことです”

 

「うむ。ガレリー、直ちにこの『メカザウルス・セクメト』を地上の、ゲッターロボのいる日本の第十二恐竜中隊、ラドラのいる大雪山基地に輸送せよ。

あの中隊は前の戦闘の敗戦から兵士達の士気が大幅に下がっているらしい。

これを届けて兵士達を戦意高揚、そして日本地区を蹂躙させるのだ。ラドラの最後のチャンスだ。戦果次第、量産化も視野に入れろ!」

 

“はっ!”

 

ゴールからの命令が轟音となり張り上がり、このエリア内に響き渡った。

 

――そして、それから数日後。

 

「石川竜斗、空戦型ゲッターロボ、スタンバイ完了です」

 

「エミリア=シュナイダー、陸戦型ゲッターロボ、OKです」

 

「……マナ、いいわよ」

 

朝霞から離れて富士山麓にあるSMB演習場。その平地には彼らの乗る三機のゲッターロボの姿が。

その上空一二〇〇メートルにはベルクラスが停滞浮遊していた。

 

「これより初の野外訓練を開始する、準備はいいか?」

 

艦橋では早乙女、マリア、そして黒田の三人がモニターで地上の様子を見ていた。

「約一ヶ月間、今まで地下での基本訓練ばかりで悶々としてた彼らも今日は思いっきり動かせるでしょうね」

 

黒田は彼らに期待を膨らませていた。

 

「竜斗君、あたしから言えるのは狙撃するときは風力偏差を考えて照準の調整を正確に行うこと」

 

“了解!”

 

「エミリアちゃんはこの2ヶ月間ホントよく頑張ったから、もの凄く上達したと思う。

落ち着いて、基本をしっかり守って行動すること、分かったわね」

 

“はい!”

 

各人に激励していくマリア、そして彼女にも、

 

「そしてマナミちゃん」

 

“……はい?”

 

「……あなたに関しては操縦については心配してないわ。だけど味方が周囲にいることを考えて行動すること。あなたは周りを省みないことが多いから」

 

 

「はいはい、わかってますよ」

ふてくされたような口調で返す彼女。

これまで訓練にしても何にしても自己中な発言、行動が多く、周りを困らせてきた愛美。

マリアはそれが一番不安であった。

 

「それでは今回の訓練内容を確認する。各人はそれぞれ機体の機能を活かしてこの一帯に配置されたターゲットを撃破すること。

空戦型ゲッターロボについては、ベルクラスから無数のターゲットを落下させる。

どれだけ地上に降下させずに撃破できるか、

そして地上の二機は周りに配置した各ターゲットを探して破壊、そして竜斗が仕留め損ねたターゲットも破壊対象だ、なるべく地上に落下する前に撃破しろ。三機共、ターゲットに触れると減点になるから気をつけろ」

 

“了解です”

 

「制限時間は十分間。では、始める」

 

――ベルクラス左右舷底部のミサイル発射管から二百を超える無数の黄色い丸い玉、ターゲットが落ちていく。

空戦型ゲッターロボは背中の滑空翼『ゲッターウイング』を左右に展開させて真上空に飛ぶ。

地上から約三〇〇メートル上空に一瞬で到着すると携行するライフルのセレクターをシングルショットモードにして両手持ちし、上に向ける。

「――来た!」

 

球体型レーダーを見ると無数の反応が降りてくる。

竜斗はすぐにターゲットに照準をつける。風の影響で銃身がぶれるも微調整し、竜斗は右レバー横の赤ボタンを押した。

ライフルの銃口からプラズマ弾が一発ずつ発射されて真っ直ぐ跳んでいく。

そのプラズマ弾が見事ターゲットを次々に直撃し、撃破していく。

竜斗は落ち着いて狙撃し落としていく。

「――九十一個撃破。まだまだいけるぞ」

 

的確に、そして冷静に最優先すべき行動をとりながらどんどん撃ち落としていく竜斗は一カ月前と比べて別人のような腕である――。

 

「アタシもリュウトに続くわよっ」

 

地上ではエミリアの乗る陸戦型ゲッターロボは地上を高速で移動できるローラーユニット『ターボホイール・ユニット』を展開、膝を軽く屈折させて、ブースターを点火させて発進する。

所謂ローラーダッシュのようにキャタピラーとブースター推進によって足を動かさず、辺り一帯を超スピードで駆け巡りレーダー上の各ターゲットを発見し、左腕の巨大ドリルをフル回転させて次々と貫いていく。

 

「うん、いい調子。焦ったらダメよアタシ――」

 

自分にそう言い聞かせる彼女はまるで自分の手足のように動かし、マリアの言うとおり、成長は素晴らしいものがある――。

そして問題人物、愛美はというと――。

 

「あ~あっ、めんどくさっ」

 

全身ピンクと黒の混じったラメ入りのド派手なピチピチのパイロットスーツ(早乙女達に色々駄々をこねて作らせた特注品)を着込んだ彼女は退屈そうに手前に設置された、ピストル型の攻撃用レバーをグリグリ動かし、

レーダーでターゲットを探し、動かずにその場からゲッターの手の全指先から実弾をばらまくように撃っている。

 

“水樹、武器で遊ぶな。危険だぞ!”

 

早乙女から注意されると彼女はムカッときて、

 

「ああもう、こうなったら――」

 

彼女は一体何を思ったか、右側レバー前のキーをカチャカチャ押しコンソール画面には、

 

『フルオートモード』

 

と英語で表示され、機体に内蔵された全武装の発射門が展開。

愛美はトリガーを迷わず引くと、発射門から全てのミサイル、プラズマビーム、バルカンを機体を取り巻く一帯に無差別にばらまいたのだった――。

周辺は一気に爆発で粉塵塗れに陥る。

 

「ちょっ、ミズキ!!?」

 

エミリアの機体にも直撃しそうになり、これには彼女も愛美に黙っていられなかった。

 

“何考えてんのよ、ジャマする気!!?”

 

「うるさいわね、チマチマと一個ずつより一気にやった方が楽だからよ!」

 

“だからって味方まで巻き添えにする気?少しは周りのこと考えなさいよ、このバカ!!”

 

「バカですってえ!!もういっぺん言ってみなさいよこのクソガイジン!!」

 

ついに本気でエミリアの機体に向かってバルカンとミサイルを狙撃しだしてしまい、直撃させた。

 

「やったわねえっっ!!」

 

幸いシールドのおかげで事なきを得たが彼女もこれには思わずキレた。

 

――艦橋の三人は呆れかえっていた。遙か地上では人間同士でなく、今度はエミリアと愛美の乗る二機のゲッターロボ同士が辺り構わず取っ組み合いをする醜い姿が。そしてそれに気づいた竜斗が、仲介に入ろうと、慌てて地上へ降りていった。

 

「これでは訓練できないな。直ちに三人をベルクラスに帰艦させよう」

 

――未だに喧嘩が止まない二機に対し、早乙女は敵による悪用防止のために開発、内蔵しておいた緊急停止回路を発動させて二機の動きを止めた。

そのまま竜斗の機体と、艦に配備してある無人の小型輸送機を使って二機をベルクラスに格納したのだった――。

「何を考えてるんだ!ゲッターロボは君達の喧嘩に使う道具じゃないんだぞ!!」

 

すぐさま司令室に呼び出された三人、特にエミリアと愛美に待っていたのは黒田による厳しい叱咤であった。

 

「ミズキが周りを考えずに無差別攻撃したからですよ。アタシにまで直撃をうけたんですから!」

 

「アンタが避けないだけでしょ、勝手に人のせいにしないでほしいわね!」

 

「なんですってえ!!?」

 

「二人ともいい加減にしろ!!」

 

――怒号が響く中、竜斗は横で深く溜め息をついた。

しかし彼自身、絶対にこうなるだろうとは前からわかっていた。

これまでの訓練でも、いや生活内でも愛美はやはり自分達と合わないのか孤立していた。

早乙女からは、『最初は互いに気まずいだろうが一緒に行動しろ、そして互いを深く知れ。

そうすれば徐々にチームとしての機能、連携が取れるようになる』と言っていたが彼女だけ自ら枠から外れていた。

そもそも互いに敵対視していた人間同士が突然チームを組まされて「はい、分かりました」と納得するのはできないだろう。

 

「アタシはこれ以上ミズキと一緒にやっていけません、やりたくありません。彼女をチームから外して下さい!」

 

エミリアは彼女をチームとして認めるのを断固拒否。愛美はカッと顔を赤くする。

 

「ウッザッ!!マナより操縦下手くそなクセに偉そうなクチしやがって!!」

 

 

 

「アンタみたいに人のことを考えない自己チューな奴の方が足を引っ張るのよ!!」

 

懲りずにまた口喧嘩する二人に黒田ですら、疲れてため息をついた。

 

「もうやめろよ!黒田一尉が完全に呆れかえってるじゃないか!」

 

竜斗が大声で注意するが愛美は彼を睨みつける。

 

「石川のクセに口出すんじゃないわよ。

だいたい……マナはあんなブサイクなロボットに乗りたくなかった、だからやる気出ないのよ。

そうだアンタ、マナの機体と交換しなさいよ。

そしたら本気出せるのに、アンタだけ空飛べるのは卑怯よ」

 

「なあっ!」

「ワガママいうな、このバカオンナ!一体何様のつもり!?」

 

「ハァ?!」

 

……今度は竜斗も含む三人の喧嘩が始まる。もはやチームとして微塵もなにもない醜態な状況だった……。

 

その様子をソファーでもたれながら座り見ていた、無表情の早乙女と後ろに立つ不安げな顔をするマリアが。

 

「……司令、あの三人を組ませるのにさすがに無理があると思うんですが……こんな状況で、もし実戦時のこと考えるとゾッとしますよ」

 

「いや、これでいい。

チームワークとは、いきなり組まされた者同士、そう簡単にできない。

自分達の全てを知ってからこそ互いの絆が初めて生まれるものだ。

それに、あれくらいでチームが組めないのならこれから先、恐竜帝国を相手にしていけない、イコール自分達の命運は尽きたようなもんだ――私は賭けてるんだよ、フフ」

 

笑っている早乙女の様子にまたかと呆れるマリアである。

 

……その後、黒田から厳しい制裁(自衛隊名物の連帯責任)を受けた三人は司令室を出るとエミリアと愛美は互いに睨みつけ逆側の通路をそれぞれ去っていく。

扉前に立つ竜斗は無言で去っていく愛美の背を見ていた。

 

「リュウト、いこう!」

 

「あ、ああっ」

 

未だにムっとしてる彼女に呼ばれる。

 

「たくう。なんでよりによって、あんなヤツがゲッターロボのパイロットなのよっ」

そうブツブツと呟く彼女。

 

 

……二ヶ月前、司令室で愛美が最後の任命された時、竜斗はともかくエミリアはもの凄く反対した。だが、早乙女はこう言ったのだ――。

 

『水樹は私達が監視し、次に何かしたら彼女に処罰を与える。

彼女にも厳重に警告しておいたからもう君達に危害を加えることはしないだろう。

だが君達にも原因がある。

いくら嫌っているとはいえ、彼女を艦内で仲間外れにして自分達はイチャイチャしているのはどうかと思う。彼女は凄く寂しがり屋だ、なら君達が彼女を受け入れてみたらどうだ』

 

……と言い出したのが始まりである。

「受け入れろって言ったって……ミズキ自身がいつまでもあんなんじゃアタシは絶対に無理よ」

「……そもそも水樹は、学校でも俺達とは『別世界』の人間だったしなあ」

 

二人が彼女について話している一方で、本人の愛美は一人、何か考えにふけりながら通路を歩いていた。

 

(たくう……なんでマナがこんな目に遭わなきゃいけないの……あのオッサンを恨んでやるんだから!)

 

二ヶ月前。医務室での一件の次の日の午前中。

早乙女が司令室に自分を呼び出した時のことだ。

ここにはマリアはおらず、早乙女と愛美の二人だけであった。

 

『水樹、君に話がある』

 

『……なんですか、話って?』

 

『マリアから事情を聞かせてもらった。まあ納得出来ないことはないんだが、それ以上に君の犯した過ちは大きい――』

早乙女は突然デスク上に置いてあった拳銃を持ちスライドを引くと銃口を愛美に向けたのだった。

 

『…………え?』

 

『死んでもらおうか』

 

『……は?何いって……』

 

その時、銃口から爆発音と共に彼女の顔の真横に何かが一瞬で通り過ぎていった。

排莢された空の薬莢が早乙女の足元に落ち、後ろの壁に小さい穴、弾痕がひとつ残されていた。

 

『今のは試し撃ちだ、次は外さない』

 

『ーーーーーー!!?』

 

顔色一つ変えないで事に及んだ早乙女に対し、血の気が引いた。

 

『逃げようとしても無駄だ。

すでにドアロックしてある。君はどうあがこうと逃げ場はない』

彼の思惑が全く掴めない。ただ分かるのは自分に対する物凄い殺意、それだけは十分感じられた。

 

『君は竜斗とエミリアを陥れようとしたがあの子らはこれから、恐竜帝国から世界を救うために頑張ってもらう人間だ。

彼らを壊されては私達も困るんでね。目的達成までの障害になるものはいかなる手段をもってしても即排除する。

それがたとえ『人間』であってもな」

 

平然と、そして殺気のこもった言葉で脅迫する彼、早乙女。

 

『だからマナに死ねっていうの……いやに決まってんでしょ!』

 

『ん?痛みを気にしてるのか?それとも親が悲しむとか友達が悲しむとか気にしてるのか?

安心しろ。脳天をぶち抜くから一瞬であの世だ、だから動くなよ。

それにその後についても私が闇に葬っといてやるから。

恐竜に踏みつぶされたとでも言えば何だって話はつくよ、こんな世の中だからな』

 

『あ、アンタマジラリッてんじゃないのーー!!?』

 

『ラリる?ちゃんとした日本語で話してくれ。少しはエミリアを見習ったらどうだ』

 

『アンタ……頭イかれてる……狂ってんじゃないの!?』

 

『私は誰にも理解されない異端児だから狂ってるよ。

だが別に何を思われようが、言われようが全く気にしない性格でね。

だから別に失望したり絶望することはないんだよ』

 

『…………』

 

彼女は平然と言い切る早乙女に恐怖を感じた。こういう人間ほど恐ろしいものはない。

 

『だが、私も人間だ。

君にも『生きる』チャンスを与えようではないか。

私の命令に従うのならな――』

 

『め、命令――?』

『ああ、それはな――』

 

――と、それでゲッターロボに乗れと、彼から言われたのであった。

 

(マジ殺されかねないからあのオッサンの言うとおりにしたけど……なんであんなヤツらと組まなきゃいけないのか――ムカムカしてくんのよ、ア

イツら見てると!)

 

彼女も二人について考えるだけで顔をプンプンさせている。そこまでして互いに組むのがイヤなのか。

これでは本当のチームとして機能する日がいつ来るのか全く検討がつかない――。

だがその時――。

 

“緊急事態発生、北海道方向より多数のメカザウルスと母艦が関東方面へ進行中。早乙女司令の指示で直ちにゲッターチームは艦橋へ急行して下さい、繰り返す――”

 

警報サイレンと共にマリアの放送が艦内全域に響き渡った。

竜斗、エミリア、愛美の三人はすぐさま艦橋へ向かった。

入ると早乙女とマリアが待ち構えていた。

 

「司令、メカザウルス達がまた……」

 

「ああ、今回は数が多い。流石に竜斗だけでは厳しい。

そこでついに君達ゲッターチームが出撃することになった」

 

 

 

ついにエミリア、愛美は初実戦参加である。二人は急な不安感に襲われて身震いする。

 

「他部隊も参戦するという報告があった。無論、黒田一尉もだ。

エミリア、水樹。女の子の君達には申し訳ないが、これが君達のデビュー戦だ。怖いか?」

 

しかし、エミリアはキリッとした態度で。

 

「い、いえ。ゲッターロボのパイロットになったからにはこの日を覚悟してました。

それに、これ以上ヤツらを日本で好き勝手にさせたくありません、ガンバります!」

 

気合いを充分に入れる頼もしい彼女。

 

「エミリア、君は頼もしいな。で、水樹は?」

 

「…………」

 

言い渋る愛美に早乙女はグッと睨みつける。すると彼女はビクッと怯む。

 

「わ……わかったわよ、やればいいんでしょやれば!」

 

愛美も渋々承諾する。

 

「……よし。それだけやる気があったらいいだろう。

竜斗、君がこの中で一番の経験者だが空戦型ゲッターロボだけは単独行動となる。本艦も援護するが何とか乗り切ってほしい、各武装は君の扱いやすいのを選べ」

 

「了解です!」

 

彼もまた、一カ月のとは思えないくらいに勇ましく頼りがいのあるハキハキとした声、表情だ。

 

『強くなる』と言ったことがちゃんと出ているように思える。

 

「エミリア、水樹の二人に対しては黒田のBEETが共に行動してくれるから多少安全になる。だがBEETはゲッターロボより性能が遙かに劣る。もし危なくなったら彼の助けに入ってくれ」

 

「はい!」

 

「よし。これより我々は、直ちにメカザウルスの侵攻を阻止するために発進する。

君達は直ちに各機に搭乗、待機せよ!」

三人はすぐさまゲッターロボのある格納庫へ走っていった。

「……司令。本当に大丈夫なんですか?今のあの子達で……」

 

やはりマリアは今の三人にすごく不安感を持っているようだ。

 

「心配するな。あの子達ならやってくれるよ、私が結成したんだからな」

 

彼のこの、ただならぬ自信は一体どこから出てくるのか彼女には理解できなかった。

 

「……なあマリア」

「司令?」

 

「あの子達を無理やりゲッターロボに乗せた私は……いつかその報いを受けるときがくると思う、必ず――」

 

「……え?」

 

突然、彼はそう呟いたのであった。

 



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第九話「ゲッターチーム」②

竜斗達は格納庫に着くさま、各機のコックピットに乗り込む。竜斗とエミリアは防護ヘルメットを被るが愛美はつけない。それは髪型が崩れるという理由らしいが。

 

“三人とも、準備はいいか?”

 

ちょうど、艦橋にいる早乙女から各機に通信が。

 

“今奴らは栃木県へ入った。どうやら南下しているようだ。BEET部隊はすでに待ち伏せをし、攻撃を開始するとのことだ”

 

「……ということは、また朝霞方面に」

 

“おそらくな。どうやら前の戦闘のことに対して根に持ってるみたいだな。ゲッターロボとベルクラスが主な攻撃対象となるだろう”

 

ということは朝霞で戦った、あのメカザウルスもいる可能性が高い。特に竜斗は次こそはと気を入れる。

 

 

“その前に一旦、朝霞に寄る。黒田の機体を積載しなければならない。寄るついでに今回、エミリアの機体に『ライジング・サン』と言う専用兵装を装備させる。背に装備するものでちいと重い。多少機動力は落ちるが色々武装を積んでるから戦闘力は上がる、君にはちょうどいいだろう”

 

「ライジング・サン……日の出ですか」

 

“日本という意味もある。日本好きの君にはピッタリの名前だろ”

 

 

「……はいっ!ありがとうございます」

 

“よし。朝霞にはあと十分ほどで到着する。すぐに用事を済ませて交戦区域に向かうぞ”

 

彼の通信が切れると今度は三人での通信が始まる。

「エミリア、怖くない?」

 

“だっ、大丈夫よっ、心配しないで”

 

だが声が震えてる。内心は怖いようだ。死ぬかもしれない実戦の初参加に怖がらない人間など、いたら狂人か戦闘馬鹿ぐらいである。

 

「安心して。俺がエミリアを守るから。無理するなよ」

 

“リュウト……っ”

柔らかい口調で彼女を安心させる彼に――、

 

“あ~~あっ、イシカワはマナを守ってくれないんだ~っ”

皮肉まじりに通信越しから呟く愛美。

 

「心配するなよ。水樹も今回初めてなんだし、ちゃんと守るから」

 

“ホントかしらね~~っ”

 

「…………」

 

“ミズキ、絶対に自分勝手な行動しないでね。今度こそアタシ達死ぬかもしれないんだから……”

 

“アンタなんかに言われる筋合いないわよ。

それよりこん中で一番操縦ヘタなんだからそっちこそ足引っ張らないでよ”

 

“ハア!!?ホント人をムカつかせることしか言わないわねえ。

一度はスゴくイタい目くらってみるといいんだわ、アンタって女は!!”

 

“なんですってえ!!?恐竜みたいなキモイのに踏みつぶされて死ねガイジンオンナ!!”

 

「だからこんな時にケンカなんかやめろーーーーっっ!!!」

 

……また口喧嘩に発展する二人。こんな状態でゲッターチーム、特にエミリアと愛美は果たして生きて帰れるのであろうか。

――栃木県中部。地上と上空には百、いや二百を超える各メカザウルスがそれぞれ侵攻していた。

 

空にはあの男、ラドラの駆る『ゼクゥシヴ』率いる飛行メカザウルスが。

怒涛のごとく蹂躙する地上のメカザウルス、後方には『メカザウルス・セクメト』が人間の造った建物を次々になぎ倒しながら進行していた、だんご虫のような形状が一層不気味さを際立っている。

 

「慈悲深いゴール様から与えられた、私にとって最後のチャンス。

我々と新型メカザウルス、『セクメト』……ゲッター線駆動の機体を今度こそ!」

 

本来ならゴールは挽回のチャンスなど与えないと言われているが自分の親しいラドラに情をかけたのか猶予を与えていた。彼は今、背水の陣の状況であり、その表情は非常に険しい。「全機、数キロ先に人類軍の機体の反応多数確認――戦闘準備!」

 

ラドラの命令にメカザウルス達は雄叫びを上げて士気、戦意高揚を図る。

 

その先にはラドラの言うとおり、すでに道路などにはあちこちにバリケードが張られ、それを楯に多数のBEETがそれぞれ兵器を携えて待機している。他の駐屯地から集められたBEETの混成部隊だ。

 

“恐竜帝国のメカザウルス軍、あと数分でこちらに到達します”

 

「よし、全機攻撃用意。朝霞の早乙女一佐が自身で開発した新型機、ゲッターロボとその支援艦も参戦するためこちらへ向かうとのことだ。

航空自衛隊も援護に来てくれる。彼らがくるまでなんとしても持ちこたえるんだ」

 

混成部隊の隊長の合図で各機はライフル、バズーカなどのプラズマ兵器、ミサイルランチャー、ロケットランチャー、長距離砲をそれぞれ、水平、上空に向けて攻撃態勢に入る。

 

――数分後、

 

「メカザウルス、射程内に入りました」

「よし、各機一斉攻撃開始!」

 

プラズマ弾、ミサイル、ロケット弾頭、まるで雨のような隙間なく埋め尽くされる数がメカザウルスへ一気に襲いかかる。

次々に被弾し、破壊されるメカザウルスもいれば易々と回避、

しっぺ返しで上空、そして地上からはマグマ弾とミサイルの雨を浴びせるメカザウルス。上空からは空爆を仕掛けるメカザウルスも。

 

ラドラの駆るゼクゥシヴもメカザウルスの中心となって攻撃する。

雨のように弾が飛び交う中を軽々と回避し、降下しながら携行するマグマ・ヒートライフルを地上のBEETに向けて、正確にマグマ弾を撃ち込み、確実に破壊していく。

ライフルのセレクターを変え、銃口から地上に滝のような量のマグマが噴き出し、地上へ降り注ぎ一面をマグマで飲み込んだ。

 

離れた場所からBEETが狙撃、攻撃するが、ラドラの操縦技術と機体の機動力から裏付けされた反応能力によって全くかすることすら出来ない。

 

そのままゼクゥシヴは地上へ降り立つと背中の広げた巨大な翼をたたみ、ライフルを右腰にかけて、背中から『マグマ・ヒートブレード』を取り出し、先の敵機体に向かって振り込みながら駆け出した。

対するBEETもプラズマ・ソリッドナイフを取り出して応戦しようと構える。が、

 

「なにいっ!」

 

ゼクゥシヴが通り過ぎた一瞬でBEETの胴体が横一閃に斬られ、爆散したのだった。

 

――一騎当千の如く、ゼクゥシヴは次々とBEETの軍団を反撃の隙も与えずに剣で真っ二つにしていく。

 

「あのメカザウルスを一刻も早く撃破するんだ!」

 

周辺の機体は一斉に攻撃をかけるが、ゼクゥシヴは飛び上がり再び翼を広げて上空へ。

熱で赤い剣刃が一瞬で冷却され、剣を背中に戻し、再び腰のライフルを取り出して再び上空から精密射撃を始めるゼクゥシヴ。

 

「すまない地上人類よ。

これもゴール様の、爬虫人類の為だ」

 

自分達の手で殺した人間達に懺悔しつつ、猛攻を加えるラドラ――。

 

その時、コックピット内のゲッター線感知レーダーに一つの反応が。

もの凄いスピードでこちらへ向かってくるのがラドラにわかった。

 

「これは……来たかついに」

 

 

彼は待ちに待ったとニヤッと笑った。

その反応とは早乙女率いるベルクラスである。

 

「交戦区域の味方機の反応、激減しています」

 

早乙女は格納庫のゲッターロボ、そして黒田の乗るBEETに通信を回す。

 

「全員、もうすぐで交戦区域に到着する。出撃準備だ」

 

“了解!”

 

「黒田一尉はエミリア、水樹、交戦区域の味方機の援護に回ってくれ。君ならこなせるだろう」

 

“了解です”

 

そして各人は操縦レバーを握り込む。その三人の表情は様々だった。

竜斗は目を瞑り、息を深く吸って吐き精神統一し、至って冷静。

エミリアは初の実戦デビューに緊張からか少し顔色が悪い。

そして愛美は……何故か無表情である。緊張などしていないのか……。

 

“竜斗、先に君から出撃させる。先陣を切れ。その後、黒田一尉、エミリア、水樹の順で地上に降下させる。

特にエミリアと水樹、パラシュートを忘れるなよ”

 

竜斗の乗る空戦型ゲッターロボのテーブルが動き出し、外部ハッチの方へ向く。全ハッチが開くと、ゲッターは膝を軽く曲げて発進態勢をとった。

 

「石川竜斗、空戦型ゲッターロボ発進します!」

 

カタパルトが射出されて空に飛び出し、背中のゲッターウイングをすぐに展開。ライフルとミサイルランチャーを携行し、交戦区域へ高速で向かっていった。

 

“三人、降下準備だ”

 

二機のゲッターロボ、そして重装備した黒田のBEETの乗るテーブルは各地上への専用ハッチへ移動。

 

「オレは先に地上で待ってる。降下に十分気をつけて!」

 

各ハッチが開き、遥か下の地上が見えた時、先輩である黒田から先に滑り落ちるように遥か地上へ落下していく。

 

“次はエミリア、用意はいいか”

 

「……は、はい」

 

戦うのが怖いか、それとも落下するのが怖いのか声が震えている。

 

 

“どうする、今回君だけやめるか?”

 

「い、いえ、そんなことは……」

 

 

 

顔が青ざめていく彼女。すると、

 

“あら、案外度胸がないのねアンタ”

 

突然、冷ややかな笑みを浮かべた愛美の通信が入る。

 

「ミズキ……っ」

 

“早乙女さん、先にマナから行っていい?”

 

“ああ、いいぞ”

 

“ならお先に、意気地なしさん♪”

 

そう言い捨てて、愛美から先に地上へ落下していった。

それが発起となり、彼女にも対抗心が現れて、

 

「サオトメ司令、アタシ行きます!」

 

“ほう、本当にいいのか?”

 

「あ、あんなヤツに負けないんだから!」

 

――おそらく強がりだろう。

 

“よし、では行ってこいエミリア”

 

ついに彼女の乗せたゲッターロボもまた滑り落ちるように落下。地上へ降下していく――。

 

数秒後、機体の背中からパラシュートを展開、そのまま真っすぐと地上へ降りていった。

 

一方、竜斗は一足先に交戦区域に到着したがその惨状、そしてメカザウルスの数に驚愕した。

「早く何とかしないと!」

 

すぐさまゲッターロボは手持ちのライフルとミサイルランチャーを駆使して上空のメカザウルスの掃討に当たる。

やはり訓練の成果が現れているのか、二ヶ月前の時と比べて機体の動きが俊敏であり、ラドラと同様にメカザウルスの攻撃を全て避けるほどだ。

プラズマ弾とミサイル弾頭を駆使して無駄弾を出さず、的確に撃ち落としていく――。

 

“只今到着した。直ちに援護に入る”

 

遅れて航空自衛隊の戦闘機もこの区域内に割り込むように到着、メカザウルスにミサイル、機関砲を浴びせつつ高機動力を活かしたドッグファイトを展開する。メカザウルス、ゲッターロボ、戦闘機が入り混じるここは安全地帯のない乱戦の場と化す。

「ついに現れたな!」

 

ゲッターの存在を感知したラドラは、すぐに標的をゲッターの方へ変え、上空へ移動開始。

 

「ゲッター線の機体が出現。私に任せ他のメカザウルスはセクメトを中心に展開せよ。

前方から三つの謎の反応がこちらへ向かってきているが、それら内二つはゲッター線反応確認。十分警戒せよ」

 

ラドラの指示にそれぞれ言われた通りの行動を忠実に開始するメカザウルス達。

 

「あいつだっ!」

 

竜斗にとっての宿敵、ラドラの駆るゼクゥシヴをモニターで確認。すぐに応戦。お互い間合いを取りながらアクロバティックに飛び回り、それぞれ持つライフルによる射撃戦の応酬を繰り広げる。

 

しかし二機共、一発も攻撃が命中しない。

 

「腕を上げたようだな」

 

まるで成長に喜んでいるかのように意気揚々のラドラ。一方、竜斗は。

 

「くそっ、当たらない……っ」

 

早くも疲れが見え始めていた。いくら成長したからといってもたかだか二ヶ月である。むしろ、こんな短期間でよくここまでこれたものだ。

二人の経験の差が現れ、ゼクゥシヴのマグマ弾がついにゲッターロボのライフルのバレル部分に直撃、溶けて使い物にならなくなった。

ライフルをその場で捨てて今度はミサイルランチャーを全弾発射。

ミサイル弾頭が怒涛の勢いで向かっていくが、ゼクゥシヴの翼の上に飛び出た幾つもの角のような物体を飛ばしてミサイルに当てて誘爆させたのだった。

 

「甘い!」

 

今度はミサイルランチャーにマグマ弾を直撃させて使えなくさせた。

 

「くっ!」

 

両腰にマウントされた二本のゲッタートマホークを取り出して折り畳んだ柄を展開、二刀流に構えて突撃する。

ラドラは白兵戦に持ち込もうとするゲッターロボに対し、ライフルを再び腰にかけて背中より剣を取り出して迎え撃つ。

 

……ゲッター線とマグマ熱。そのエネルギーの刃同士がぶつかり合い、火花が飛び散る。

 

「前よりはキレがよくなっているが、まだまだだな」

 

戦闘経験が豊富のラドラに竜斗は刃を当てようと必死であった。

もう少しなのに当てられない、このもどかしさは彼をさらに余裕をなくさせる。

 

「この程度の腕で私を斬ろうとは、笑止千万!」

 

ゼクゥシヴの横振りのなぎ払いが、ついにゲッタートマホークを二つとも弾き飛ばし、地上へ落ちていった。

 

「ああっ!」

 

ついに丸腰になってしまったゲッターロボに焦る竜斗。

 

「残念だがここまでだ。次はもう容赦はしない」

 

格の違いを見せて勝利を確信するラドラ。そしてとどめを刺そうと両手持ちで剣を構えるゼクゥシヴ。

 

「…………っ」

 

早々に追い詰められる竜斗。このままやられてしまうのだろうか――。

 



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第十話「苦い協力」①

一方、無事着陸し交戦区域に向かう黒田、エミリア、愛美。

 

「もう少しで到着だ、離れるなよ」

 

エミリアの乗る陸戦型ゲッターロボの背中には巨大な、英語の『X』のような形状をした赤色の専用兵装ユニット『ライジング・サン』が装着されている。

愛美の海戦型ゲッターロボと黒田の乗るBEETの二機は『ターボホイールユニット』に酷似した推進ユニットを両足に装着し、陸戦型ゲッターロボと同じように地上を高速滑走する。

 

“メカザウルスだ!”

 

前方には多数の角竜、暴君竜型メカザウルスが待ちわびたと言わんばかりに雄叫びを上げて立ちはだかっていた。

 

「やだあ、キモい!!」

 

「こ、こんなにいるの……っ」

 

竜斗と同じく愛美とエミリアはその多数のメカザウルスを前に怯む。

 

“大丈夫、俺がオトリになる。君たちは俺が注意を引きつけている時を狙って攻撃するんだ!”

 

「しかしクロダ一尉が……」

 

“心配するな、エミリアはオレの後に続け。そして水樹はここから砲撃援護してくれ!”

 

黒田は右足でペダルを力強く踏み込む。それに連動しブースターがフルスロットル、BEETの推進力が増し、猛スピードでメカザウルスに突っ込んでいく。

メカザウルス達の眼は全て黒田の機体に向き、まるで獲物を見つけたかのように興奮し出だす。BEETは左腰のナイフホルダーから『プラズマ・ソリッドナイフ』を取り出し、メカザウルスの密集地に飛び込んだ。

「ウワオ……っ!」

 

エミリアは魅了されている。

BEETは車輪とブースターを駆使し、まるで『蝶のように舞い蜂のように刺す』の如く、疾風のごとく無数のメカザウルスを手玉に取り、かき回して撹乱している。

そして目玉や心臓部など比較的柔らかい所や急所を的確に斬りつけ、突き刺している。

自分ではこんな操縦は絶対できない、そう思わせるほどの華麗な動きであった。

「へえ、黒田さんやるじゃん」

 

あの愛美ですら認めるほどである。

 

“エミリア、今の内に突入して攻撃だ”

 

「了解です!」

 

そして撹乱され陣形を崩されたメカザウルスの群れについにエミリアの乗る陸戦型ゲッターロボが介入した。

「アタシだって出来るんだから!」

 

陸戦型ゲッターロボの左腕のドリルをフル回転させて、混乱している一機の角竜型メカザウルスの胴体に全力でぶちかました。

ゲッター線駆動のトルクを搭載したドリルの回転力は凄まじく、一撃でメカザウルスの身体を貫通、粉砕したのだった。

「やったわ!」

 

メカザウルスの初撃破に喜ぶエミリア。

 

“喜んでるのは早い、次来るぞ!”

近くにいたティラノザウルスの姿をしたメカザウルスが口を開けて、その鋭い牙で噛み砕こうとゲッターに襲いかかる。が、ゲッターロボの右手のアームで頭をガッチリ掴まれた。

 

「はあっ!」

 

 

ペンチ状のアームに一気に力が加わり、メカザウルスの頭を一撃で挟みつぶす。

 

“いいぞエミリア!”

 

一機、また一機と確実に倒していくエミリア。

 

「今からここを突破するぞ」

 

とっさに攻撃を止めて黒田と共にメカザウルスを置き去りにし、前進した。

 

「今だ水樹、トドメだ!」

 

“はいは~いっ♪”

 

海戦型ゲッターロボの左右の脛が左右にに開放。

十、二十を超える多数の発射口から全ての中から丸い弾頭が現れた。

彼女がモニターに映る前方のメカザウルス全機を赤い囲み、照準をつけてピストル型レバーの引き金を引くと、脛の全ての発射口から小型のミサイルが一気に飛び出してメカザウルスに群れに飛び込んでいった。

直撃し、弾頭が破裂すると中から緑色の粒子が周りに拡散、メカザウルスを包み込み、次々と機械を残してドロドロに溶かしていく――。

 

――これは『ゲッターミサイル』と言う早乙女の考案した、弾頭内に火薬ではなくゲッター線を特殊技術によって濃縮し詰め込んだミサイル兵器でベルクラスの対地ミサイルもこれを大型化したものだ。

直撃すると弾頭が爆発、凝縮されたゲッター線を直接浴びさせるという、対メカザウルスにおいて真価を発揮する兵器である。

 

「うえ~っ、キモチワルイのがゴロゴロしてる!」

この一帯は、一瞬で密集したメカザウルスは皮膚などの有機物だけを溶かしてヘドロ状となり、残った鉄屑だけが汚物のようなゴミが辺りに散らばりまかれてもう動くことはなかった。

“水樹いいぞ、俺達の元に来い”

 

「はぁい♪」

 

すると彼はなぜか複雑な表情をとる。

 

「なあ水樹」

 

“どうしたの黒田さん?”

 

「君のクセかどうか分からないけど、その……ぶりっ子みたいにねちっこく甘い声で返事するの……やめてくれないか。

確かに君はかわいいけど一応君もさ、軍人になったんだから、もう少し節度良くだな」

 

“え~~っ、マナこれがいいもん。治せっていってもムリですよぉ”

 

黒田は今、苦渋の表情をしていた。

 

“クロダ一尉、気にしちゃダメですよ。 ミズキはああいうコなんですから……”

 

 

「……なんか調子狂うなあ」

 

“まあ固いこと言わないでよ黒田さん♪マナちゃんとやるからあ”

 

「…………」

 

……そして愛美も追いつき合流。三機はさらに激戦区へと足を踏み込んでいく。

“エミリアと水樹はしばらく早乙女一佐の指揮に従って行動してくれ。俺は今から周辺の友軍の援護に回る”

 

「了解です!」

 

「はあい」

 

「互いに離れずに早乙女一佐の指示通りに動け。

それにゲッターロボはシールドがある分、多少の被弾は大丈夫だから二人で助け合えば必ず生き残れる」

 

“分かりました。クロダ一尉も絶対に死なないでください”

 

「ああ、分かってるよ!」

 

“ねえ黒田さん、後でマナとエッチしない?”

 

突然、愛美の爆弾発言に黒田は仰天し、そして凍りついた。

 

「……ミズキ、アンタって女の風上にも置けないヤツね、不潔よ!」

 

“ハッ、何よエラそうに。まだ一度も男知らないくせにマナに口出ししないでくれる、このクソバージンガイジンオンナ!”

“アンタみたいに恥じらいのないビ〇チよりはマシよお!!”

 

……また下品な口喧嘩の始まる二人に黒田で完全にやつれていた。

 

「君達、そろそろいい加減にしてくれ……」

 

 

だが黒田もそんな二人を信じて離れるも、彼の指示とは裏腹に別行動を取りはじめるエミリアと愛美。

 

「ねえ、どっちがあのキモいヤツらたくさん倒せるか勝負しない?」

 

突然と、愛美から勝負を言い渡されるエミリアだったが。

 

“はあ?アンタ実戦の最中に何言ってんのよ、緊張感なさすぎにもほどがあるよ!”

 

「ただ倒すだけじゃつまらないもん。操縦ヘタクソなアンタだと張り合いがないけどガマンしてあげるわ」

“…………っ!”

 

挑発しかかる愛美。そしてさらにエミリアにこんなことを言い出したのだった。

 

 

「イヤならまた石川を襲っちゃうからね、モチロン『えっちぃ』意味で」

 

“なあ!!?”

 

“それが嫌だったら勝負して勝つことね。

フフ、またイシカワが泣きながらマナのアソコ舐める姿が目に浮かぶわねえっ♪

二人の勝負で決めたことって言えば……早乙女のオジサマ達もさすがに手出しできない”

 

「ミズキ、アンタってオンナは……っっ!!!」

 

だが愛美なら本当にやりかねない。エミリアはまんまとそれに乗った。

 

「分かったわよ!!これ以上アンタにリュウトを汚させないんだから!!」

 

“オーケー♪”

 

……実戦だというのに愛美の一言から二人の対決が始まった。

エミリアは死に物狂いで、地上のメカザウルスを次々とドリルで撃破していく。

前方の離れたメカザウルスへ、背中のX字状の専用兵装ユニット『ライジング・サン』の上部に取り付けられた小口径の銃口、計二門を向けて車輪を使い滑走する。銃口から青白く小さなプラズマの弾丸を連射し、メカザウルスに命中。

怯んだ隙をついて急接近、高速回転するドリルでメカザウルスの上半身を抉った。

 

「二十五体めっ!」

 

重装備で機動力が落ちており、その影響か攻撃を多少受けるも、シールドをフル活用しながら突っ込んで破壊していく。『ライジング・サン』下部の発射口二門から小型ゲッターミサイルを二発同時に発射、百メートル先の飛行型メカザウルスに見事命中させて撃墜させた。

一方、愛美の機体、海戦型ゲッターロボはその場から動かずに脛と両肩からの無数のゲッターミサイルで地上、空中のメカザウルスを次々に落としていた。

 

「もう四十体めかあ……つまんないな……っ」

 

想像していたことと違い、手応えがなく退屈そうな表情の愛美。

 

“エミリア、水樹。孤軍奮闘で頑張ってるとこを申し訳ないが”

 

突然、二人の元に早乙女から通信が。

 

「サオトメ司令、どうしました?」

 

“竜斗が危ない、今にもやられそうだ。”

 

「えっ!?」

 

それに一番反応したのは当然、エミリアであった。

 

“エミリアは覚えているか?二ヶ月前の戦闘で、ライフルを携行する知的な行動をするメカザウルスから必死に逃げ回っている、もうシールドのエネルギーが切れかかった状態だ”

 

「な、なんですって!!」

 

“あと、前方から謎の巨大メカザウルスが地上から君達に迫ってきている”

 

モニターに確認する二人。確かに巨大なだんご虫のような姿をしたメカザウルスがゆっくりとこちらへ接近している。

 

“ベルクラスも援護に入る。君達は竜斗と合流し、協力してそのメカザウルスから優先的に対処だ。

その後、三機で地上の巨大メカザウルスに総攻撃をかけるんだ!

それまでは黒田達に何とか耐えてもらう!”

 

「………………」

 

「………………」

 

“今ここで君達の連携力が試されるぞ。

このまま竜斗を殺されたくないのなら、三人揃って生きて帰艦したいのなら、二人は仲間と思い協力することだ!”

 

……二人はモニター から互いの顔を見つめ合い、黙り込む。

「ミズキ……」

 

“…………”

 

だがエミリアの顔を見るのもイヤなのか険しい顔の愛美。

 

「アタシはリュウトと助けたいからアンタと協力する……ミズキは……」

 

“……イヤよ”

 

「ミズキ……っ!」

 

 

“大キライなアンタと手を組むなんて死んでもイヤ。けどまあ、そんなこと言ってる場合じゃないみたいだし……マナに、ここじゃ土下座はできないから勘弁するけど『協力してください、マナ様』と頭下げて言えば、してやってもいいわよ”

 

「っ!!!」

 

一瞬ブチ切れそうになるエミリアだが、ここはグッとかみ殺した。

 

「協力してと言い出したのはアンタなのよ、ならそっちが筋通すもんじゃないの?違う?」

 

「…………」

 

……こんな緊急時にまで自己中なことをする非常識な愛美に、怒りのあまりに涙が混みあがるも……だが、ついに。

 

「……協力どうかお願いします……ミズキ様……っ」

 

泣く泣く頭を下げて嘆願。本当はこんなこと死んでもしたくないが、今の状況を考えると彼女との協力以外はありえない。エミリアは優先を考えて愛美に屈したのだった。

 

“……フフっ、アンタできるじゃない。わかったわ、アンタと協力する。

まあマナも石川に死んでほしくないからね――アイツには何かあった時の『盾』になってもらうつもりだから”

 

「…………!!」

 

屈辱を浴びた自分はともかく、好きである彼に対してそんなことを言うのはいくらなんでも彼女には耐えられなかった。

 

物凄い憎悪がこもった眼でヘルメット越しから愛美へ睨みつけた。

 

“しっかりついてきなさいよ、アンタ!足手まといにならないでね”

 

「…………」

 

……すっかり上機嫌で勝手に率先する愛美だが、今にも背後から憎しみむき出しなエミリアから闇討ちされそうな険悪な状況である。

 



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第十話「苦い協力」②

……快諾とは到底言えないが、一応、協力という形を決めた二人は早乙女に通信をとる。

 

“二人とも、準備はいいか”

 

「いいですよ、早乙女のオジサマ♪」

 

「………………」

 

……愛美はともかくエミリアは嫌悪感丸出しな顔で黙り込んでいる。

 

“我々はこれより空戦型ゲッターロボの援護に入る。

そのメカザウルスは君達が相手をしている雑魚とは比較にならない程の強敵だ。

あのメカザウルスに熟練した何者かが搭乗していると思われる。このままではなすすべなく撃墜されてしまうのは必須だ。時間がない、全力で行くぞ!”

 

二人は早乙女の指示通りに動き、配置する。

「…………っ!」

 

空中では、空戦型ゲッターロボはラドラの乗るゼクゥシヴの猛攻から必死で回避していた。

 

「ちい、ちょこまかと!」

 

ラドラは逃げ続けるゲッターロボに苛立ちを感じていた。

 

「まあいい、ヤツの動きが鈍った時が最後だ。どちらが先にへばるか!」

 

竜斗はマグマ弾を回避するのに必死でもはや顔には疲労しか見えない。

 

「人間様をなめるなよ!」

 

航空自衛隊の戦闘機も負けじと応戦するも、ゼクゥシヴにはまるで赤子扱いされるかの如く、次々に精密射撃で撃ち落とされていき、そして追いつかれ剣で胴体を叩き斬られていき、地上へ墜ちていく。

ラドラの駆るゼクゥシヴの圧倒的戦闘能力は竜斗をさらに絶望へと追いやる。

 

(俺……死ぬかもしれない、やっぱりコイツに勝つなんて無理だったのかな……っ)

 

汗まみれの顔に浮かぶは昔のような弱気な表情。

彼の心は諦めの方向へ進みはじめていた。それが機体の操縦に影響し、ゲッターロボの動きが大幅に鈍ってしまった。

それを見たラドラは好機と言わんばかりにライフルをゲッターに向けてマグマ弾を発射。

左腕部、右脚部、背中のド真ん中にそれぞれ直撃させた。

 

「うあっ!」

 

シールドが破壊されて、むき出しとなった装甲に容赦なく鉄をも溶かすマグマの塊を撃ち込まれた箇所が溶けてボロボロになり、さらに動きが鈍くなる。

「今度こそ私の勝ちだ、覚悟しろ!」

 

ライフルから剣に持ち替えて、刃がマグマ熱で紅に染まると両手持ちで振り込み、ついに突撃した。

(やられる……!)

 

今度こそ終わりだ、竜斗は死の覚悟を決めた――。

 

 

「!?」

 

 

ラドラはふとモニター上のレーダーを見る。無数のゲッター線の反応を持った『何か』が地上からこちらへ追跡してきている。

今のモニター視点を替えて地上方向の画面に変えると映るは無数の丸い物体、ミサイルだ。

ゼクゥシヴはその場から離れるが、ミサイルは逃がさず追っていく。

 

「ちい!」

右手に剣、左手にライフルを持ち、追ってくるミサイルをアクロバティック軌道を描くように飛行しがら一つ残さず撃ち落とし、そして切り払う。

 

“竜斗、聞こえるか!”

 

「さ、早乙女司令!」

 

ベルクラスがついに到着、そして諦めかけていた竜斗の元に早乙女からの通信が入る。

 

“大丈夫か!”

 

「……な、なんとか!」

 

“今から私達が君の援護に入る。ベルクラスがオトリになるから君は地上へ行け!”

 

「……地上ですかっ?」

 

“すでにエミリア達がスタンバイしている。水樹が地上からミサイルを撃ち上げて時間を作ってくれている。

今はとりあえずヤツを地上に陽動させて君達ゲッターチームの連携で倒すことを優先にしろ!”

 

だが竜斗は浮かばない顔をしていた。

 

「でも……僕らの機体であんな素早い機体に太刀打ちできるでしょうか、ちゃんと地上まで陽動できるかどうか……それに僕の機体にはもう腹部のゲッタービームしか……っ」

“弱気になるな竜斗。本当にこの機体にはゲッタービームだけしかないと思うか?まだあるだろ?”

「…………あっ!」

 

“あれだけの大量のミサイルを全て正確に撃ち落とし、切り落とすようなとんでもないメカザウルスだ。

恐らく、現戦力であのメカザウルスに一発でも当てられる機体は空を自由に飛べる空戦型ゲッターロボだけだ。右腕の『アレ』を使え――”

 

竜斗は思い出す。ゲッターロボにもう一つの内蔵された切り札があることに。

竜斗は弱気な顔から一気にキリッと凛々しい態度をとった。

 

“心配しなくてもヤツはお前を追ってくる、ここまで追い詰めた相手をやすやすと逃がすことはしまい。

それに追ってこなくてもどうにかして地上まで叩き落としてやるから安心して行け、竜斗!”

 

「はい!」

 

空戦型ゲッターロボはすぐさま地上へ急降下していく。

一方、ゼクゥシヴも海戦型ゲッターロボが放ったゲッターミサイルを残らず全て破壊していた。

 

「くそ、余計な邪魔を……ん!?」

 

モニターに見ると今度は標的であったゲッターロボの姿はなく、今度は浮遊艦であるベルクラスが彼の前に立ちはだかった。

ベルクラスは機関砲を前方一面にバラまくも、ゼクゥシヴは再び回避行動をとる。

その最中ラドラはレーダーを確認すると、ゲッターロボが遥か地上へ降りていくのが分かる。

 

「この浮遊艦をオトリにしたな、だがな!」

 

ここまで追い詰めた相手を逃がしはしまいと思ったのだろうか、自身もゲッターロボを追って降下していく。

ゲッターロボに対する執念は爬虫人類としてゲッター線を嫌うがための破壊本能なのだろうか、それともキャプテンを名を持つラドラとしての誇りが許さないのだろうか――。

 

予想通り、地上へ降りていくゼクゥシヴに早乙女は「よし」と不敵に笑う。

 

「マリア、対地ゲッターミサイル発射用意。目標、降下中のメカザウルス一機に集中攻撃」

 

「了解!」

 

艦の左舷底部の全ミサイル管の発射口が開口し大型のゲッターミサイルが次々と発射。

全てがゼクゥシヴの追尾していった。そしてミサイルの反応に気づいたラドラもすぐさま機体を振り向かせる。

左右の翼を全開に広げ、翼の各骨組み上に生えるように突き出た角のように見える内蔵兵器、『ウイングミサイル』全てを発射させて、全て命中、誘爆させて再び地上へ降下する。

 

「右舷底部、対地ゲッターミサイル発射用意」

 

今度は右側のミサイル発射管を開門させて残りを全て発射。

再びゼクゥシヴめがけて向かっていく。

「何度やっても無駄だ!」

 

ラドラはライフルを上に向けて、機体を重力に身を任せるように落下しながら精密射撃で撃ち落とした。

 

「ゲッターミサイル……全て撃墜されました……」

 

「見事だ。敵ながらあっぱれだ」

 

ここまで来ると、もはや敵であっても賞賛を送りたくなるほどの強靭な精神と操縦技術……ラドラのパイロットとしての能力は計り知れない。

だが、そんなラドラの顔は汗だくで、疲労の色が見えていた――。

 

一方、地上ではついに三機のゲッターロボが集結する。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

竜斗達は再びモニターから互いを見つめ合う。

 

「エミリア、水樹。ここは協力して絶対に三人で生きて帰ろう」

 

“リュウト、アタシはモチロンよ。けど……”

 

“……………”

 

何も言わない愛美に対し竜斗は、

 

「水樹は俺達と協力したくないのは分かる。

俺だって、正直今までお前のしてきたことは絶対に許さないし、同じチームとしてあまりいい気分じゃない。

けど、だからって水樹だけ蔑ろにはしない、それに死んでほしくない」

 

すると愛美は……。

 

“イシカワの分際でよくもマナに向かってそんな口きけるわね”

 

「…………」

 

“はっきり言ってマナはね、アンタ達を見てるだけでスゴくムカついてくんの。

ホントウならこんなのに乗りたくなかったし――なんでマナがこんな目に遭わなきゃいけないのよ。全部アンタのせいよ、責任とってくれる?”

 

“ミズキ……っ!!”

 

彼女の底無しの自分勝手さに、エミリアの表情が一層険しくなった。だが彼はコクっと頷いた。

 

「……いいよ」

 

“リュウト!?”

 

「元々二人を守るって約束だし。あのメカザウルスにやられそうになって一瞬弱気になって諦めかけたけど、今からちゃんと二人を守りぬく。

この戦闘が終わったら俺が早乙女司令に水樹を安全な場所に送ってもらえるよう話してみる。叶うかどうか分からないけどそれでいい?」

 

 

 

“………………”

 

「無理して付き合うことはないよ、水樹の代わりの人を入れてくれると思う。

俺達はこのままメカザウルスと戦う、多分全てが終わるまで――。

 

けど今はこの状況を何とかしないと俺、いやみんな死ぬかもしれないんだ、そんなの俺もイヤだし二人共イヤだろ。

水樹、今だけでもいい、力を貸してくれないか?”

 

彼の嘆願にまだ黙り込む彼女。だがクスっと笑った――。

 

“……イシカワって意外と自分の意見を言えるタイプなんだね、マナ驚いちゃった。

わかったわ。確かに正直イヤだけどマナも死にたくないからね、今回だけよ”

「……水樹、ありがとう。エミリアにも悪いけど協力してくれ」

 

“え、ええ!”

 

「よし、今から三人の力を合わせよう!」

 

――三機はそれぞれ少し距離を離し三角になるように配置につき、瓦礫や障害物に機体を遮蔽する。

そしてちょうどゼクゥシヴも竜斗を追って地上に近づいた。

 

「……ゲッター線反応が三つもある……」

 

ラドラは十分周辺を警戒する。ゲッターを動力源とする機体は一機だけではないのは少し前に確認したが……。

 

「……出てこい!」

振り向き、ライフルを地上三十メートル先の倒壊した建物に向けてマグマ弾を発射し、直撃させた。

するとその陰から愛美の乗る海戦型ゲッターロボが飛び出した。

 

「これでもくらいなさあいっ!」

 

両肩からのミサイル発射管から大型のゲッターミサイル二発を発射、ゼクゥシヴへ向かっていく。

しかしラドラは全く焦る様子もなく後退しながら、ライフルを向けて撃ち落とそうとした。

 

「なに!?」

 

その後ろから何かが近付いてくるのが、地上を素早く削るように滑る音、そしてレーダーで分かる。

、エミリアの乗る陸戦型ゲッターロボである。

 

「当たって!」

 

彼女の押し出した右レバーに連動し、ペンチ型アームをゼクゥシヴに向けて射出した。

スラスター推進のアームに、繋がった金属ワイヤーがグングン伸びていき、アームがゼクゥシヴの背にあるブースターを見事ガッチリ掴んだ。

 

「私としたことが!!」

 

ミサイルをすぐに撃ち落とし、アームを引き離そうと上空へ上がろうとするがエミリアはそれを許そうとしなかった。

 

「……死んでも離さないわよお!!」

 

陸戦型ゲッターロボは両踵の車輪をフルに逆回転させて後退し、反発力で相殺させる。

 

「逃がさないんだから!」

 

今度は愛美の機体が近づき、なんとその蛇腹状の腕をバネのようにいっぱいに伸ばしてゼクゥシヴの両足に絡ませたのだった。

 

「くうっ!」

 

ラドラはレバーをガチャガチャ動かすが一向に動かない。

 

「トリは任せたわよリュウト!」

 

エミリアの掛け声に同じく地上の積み上がった瓦礫に隠れていた空戦型ゲッターロボがついに満を喫して登場。

 

「これでもう避けれないぞ!」

 

彼は一片の希望を賭けてゼクゥシヴへ高速に近づく。

 

「私をナメるなあ!」

 

刃が真っ赤であるマグマ・ヒートブレードで瞬時に海戦型ゲッターロボの絡みついた蛇腹の両腕を切り離し、構えて間近に迫った空戦型ゲッターロボを迎撃すべく剣を構えた。

 

「どうあがこうと勝つのは私だ!」

「!!」

 

ついに距離を詰めた空戦型ゲッターロボは全力で左手の拳で殴りかかるが、いなされてマグマ・ヒートブレードの餌食になり、左腕を切断されてしまった。

だが、竜斗は剣で振り切った隙をついて右腕を突き出してゼクゥシヴの顔に触れる寸前に止めた。

 

(な、なぜ当てない……?)

 

ラドラは不思議がっていると、右前腕の装甲がスライド開放、中から現れたのは謎の赤いレンズとそれに連結した細長い金属の筒とそれにいくつもの内部へと繋がるチューブ……。

 

(まさかっ!!)

 

時すでに遅し、レンズがカッと赤い光を発光。ゼクゥシヴの頭部を包んだ。その鱗で覆われた爬虫類の皮膚は一気に溶解。赤色光が弱まった時にはもはや首のない妖怪のような姿になっていた。

 

 

 

『近接近戦用ビーム・シリンダー』

 

 

空戦型ゲッターロボの右前腕部に内蔵された、短射程のみ有効の小型ゲッタービーム砲。

空戦型ゲッターロボの切り札とはこれであった。

 



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第十一話「メカザウルス・セクメト」①

「や、やったのかっ……」

 

息を呑む竜斗、エミリア、そして水樹。攻撃を当てることに成功した彼らゲッターチーム。

その発揮した連携プレーは今までの彼らとは思えないほどだ。

 

「……えっ」

 

首が無くなったゼクゥシヴだが――。

 

「!!」

 

ゼクゥシヴの放った至近の押し蹴りが竜斗の機体を吹き飛ばした。

 

「うあっ!」

 

地面に叩きつけられて倒れ込む竜斗の機体。

 

「リュウト!」

 

首が無くなったにも関わらず再び動き出したのだ。

 

「ちい、メインカメラが破壊されたか!」

コックピットが胸部にあったためにラドラはなんとか無事であったが、どうやらカメラアイのあった頭部が破壊されたためにモニターが乱れてザーザーとノイズだらけとなっていた。レーダーを頼りに再びレバーを振り込んだ。

先ほどとは違い、乱暴に剣を振り回し始めるゼクゥシヴ。もはや悪あがきとも言える行為に見える。

 

「大丈夫リュウト!?」

 

“うん。それより水樹は!?”

 

蛇腹状の腕をゼクゥシヴに切り取られて同じく蹴り飛ばされた海戦型ゲッターロボはそのまま仰向けに倒れたままだった。

 

「大丈夫か水樹!」

 

“い、いたいよお…………っ”

 

彼女はヒクヒク泣いている。どうやら倒れた時の衝撃で身体を強く打ちつけたらしい。

 

「水樹、早く起きて!ヤツが来るよ!」

 

愛美に向かってゼクゥシヴが剣を振り上げていた、このままでは間違いなく切断されてしまう。

 

「ミズキ!!」

 

水樹へ真っ赤に熱せられた凶刃があと一歩に迫っていた……その時。

 

「させるかあ!!」

空戦型ゲッターロボは持てる力で横から体当たりをかまし、一緒に地面に転げていく。すぐに立ち上がると再び右腕からビーム・シリンダーを展開し発射。

 

ゼクゥシヴも即座に立ち上がり、避けようとするも左大腿部と腰部に見事直撃。大穴が開き、左足は見事に消し飛び再び地べたに倒れ伏せる。

「これで終わりだ!」

 

竜斗はトドメを刺そうともう一度ビームを撃とうとした。が、

 

「…………」

 

だが彼は何故か撃てなかった。

自分を二度も追い詰めた、強敵だったこのメカザウルスが、今では弱りきった姿に彼は哀れに思えてしまう――。

 

(何故だ……なぜ攻撃しない……)

 

死を覚悟していたラドラも攻撃してこない向こうに疑問を抱いていた。彼は胸部にある予備のカメラアイを起動し、画面に映す。

そこには右腕を突き出したまま停止しているゲッターロボの姿が。だが――

 

「……なにっ?」

 

ゲッターロボの口部分のハッチが開き、中から竜斗が姿を見せた。

 

「リュウトっ!?」

 

エミリア、特にラドラは彼のその行動に動揺する。

敵に自らの姿を晒すなどと、本来は絶対にあってはならない行為だが彼は何故……。

 

(若い……この機体のパイロットは……なんなんだ……)

 

爬虫人類のラドラでもわかる、まだ成人すら迎えてないか弱そうな幼い顔立ち、『戦士』としての風格、そして『敵』とも思わせるようなモノを持ち合わせていない男、竜斗――。

 

「……僕の声がわかりますか?」

 

竜斗は大声でゼクゥシヴへ語りかける。

 

「僕達は……こんな殺し合いはもうしたくありません。僕の、人間の言葉が分かるなら……どうかこんな戦いはもうやめてください!」

 

 

地上人類とは全く違う言語のためにその言葉が理解できないラドラだが、彼の悲しげな表情と必死の叫びは何かを訴えているのが分かる……。

 

「リュウト……」

 

彼女はここで、前に座学室で二人で話していたあの話題について思い出す。

 

『話し合ってこんな戦争を止められないか』

 

という話を。

 

彼は今、こんないつやられるかどうかも分からないという危険な状況で、あえて身を乗り出して自分なりの『和解』を試みたのだった……。

 

「………………」

 

今、ゲッターロボのコックピットを狙えば確実に彼は死ぬだろう。みすみすと身を晒すという危険でそして馬鹿なマネをしている彼に対し、ラドラも何もしなかった――。

しばらく互いの静止が続き、ゼクゥシヴがゆっくりと片足で立ち上がると、ゲッターロボに不意打ちなどの攻撃を一切せずにそのまま上空に飛び上がり、北海道方向へ去っていった――。

 

「…………」

 

ボロボロの状態で逃げていくゼクゥシヴをもの悲しく見つめる竜斗。攻撃してこなかったということは自分の話が通じていたのか、それとも――。

 

 

「あ、そうだ……水樹は!」

 

コックピットハッチを閉めて、愛美の元へ向かった。

 

「水樹!!」

 

すぐさま無事である右腕を使い、機体を起こす。エミリアも我に帰り、急いで二人の元へ向かった。

 

「ミズキ……」

 

竜斗とエミリアはモニターで彼女の様子を確認する。

 

「水樹大丈夫……?」

 

“………………”

 

優しく声をかけるも彼女は声を震わせて泣いていたのだった。よほど痛かったのだろうか……。

 

「水樹、アイツはもう去ったから安心して」

 

……すると、

 

「大丈夫に決まってんじゃない」

 

泣き声を止めて、いつも通りの強気の口調となったのだ。

 

“本当に石川がマナを助けてくれるか試してたの。

フフっ、安心したわ。これからもちゃんとマナを守るのよ”

 

「………………」

 

「………………」

 

どうやらただのウソ泣きだったようで、

二人は心底呆れた――そこに早乙女から通信が。

 

“ゲッターチーム、ついにあのメカザウルスを撃退したな”

 

「早乙女司令!」

 

“よくやったと言いたいが、まだ終わってない。

エミリアと水樹は知っているが、今までのデータにないダンゴ虫のような形状のメカザウルスが地上を蹂躙しながらこちらに迫っている。

おそらく新型だろう。

黒田達も何とか撹乱して持ちこたえているが全く手に負えない。早く急行して総攻撃をかけろ!”

 

だが陸戦型ゲッターロボ以外は腕を斬られてボロボロである。果たしてこの状態で果たして倒せるのだろうか。

だがやらなければ更なる被害が増える一方だ。

 

「行こう、みんな!」

 

「うん、ここまで来たらやるっきゃないねっ!」

 

「生き残るために仕方ないか……まあ何かあったら石川達が守ってくれるだろうし」

 

三人はすぐさま黒田 達と合流するため、急いで先へ進んだ。

 

「ちい、なんてヤツだ!」

 

一方、黒田、他部隊のBEETは『メカザウルス・セクメト』へ動き回りながら集中攻撃を浴びせていた。

まるで早乙女の言う通りダンゴ虫のごとくうねうねしながら動き、かつ巨体なために攻撃を避けられるような素早さはない。

だが、それを補うように彼らを驚愕させたのはその『頑丈さ』である。

一方的に集中砲火をしているにも関わらず、キズ一つもつかないどころかまる新品同様のピカピカの金属が光に照り返るのが分かる、寧ろ攻撃を加えていることで装甲をさらに『活性化』しているようにも見える。

黒田の乗る重装備BEETは顔に当たる箇所を中心に右手のバズーカ、右肩の小型ミサイルポット、両腰のガトリング砲で全弾ぶち込んでいるが、全くびくともせず。

 

「これだけ攻撃しても通用しないとは……弱点かないのか?」

 

そんな中、ついに彼らゲッターチームが黒田の元へ駆けつけた。

 

“黒田一尉、ただ今駆けつけました!”

 

「来てくれたかゲッターチーム……て、機体がボロボロじゃないか」

 

“……僕のはとりあえず腹部と右腕のゲッタービームは使えます。水樹は両腕はなくなりましたがそれ以外なら無事だと思います。

この中で一番無事なのはエミリアの機体です”

 

「……そうか。我々は今、このメカザウルスを包囲し攻撃をしているのだが」

 

三人は前方にいるセクメトを見る。

 

「やだあ、キモチワルっ!」

 

 

 

愛美はその姿に嫌悪感丸出しだ。

 

「BEETの携行兵器では全く歯が立たないんだ」

 

“では、ゲッタービームで試みます!”

 

「できるか?」

 

“最大出力でやってみます”

 

空戦型ゲッターロボは前に飛び出し、腹部の中央から赤く円いレンズが露出した。

 

「ターゲットロック!」

 

照準をセクメトにつけ、炉心からのゲッターエネルギーを一気に腹部へ集め、右レバー横の赤いスイッチを押し込む――極太のゲッタービームが放たれ、見事顔面部に直撃した。

 

「……えっ?」

 

最大出力のゲッタービームをまともに受けたセクメトは活動が止まらない。寧ろ、動きが活性化していた。

ビームが切れるも全員が見たのは装甲には溶けておらず、全くの無傷で活動するセクメトがいた。

 

「ゲッタービームが効いてない……?」

 

セクメトは突然、その身を縦に丸めてまるでタイヤの如き姿になった。

 

「来るぞ!」

 

そのまま高速に回転しながら前に走り出す。障害物を押し潰しながら怒涛の勢いで向かってセクメトに対し、竜斗達は急いでその場から離れて散る。

 

「なんだこいつは!!」

 

ゆっくりとスピードを落として止まり、表面装甲に無数の小さな円い孔が現す。

 

“地上の味方機、そこから離れろ!”

 

地上の機体に早乙女から突然の通信が入った瞬間、なんと孔からドロドロのマグマが四方八方に吹き出した。

セクメト周辺はマグマだらけとなり地上を灼熱地獄へ変えた――。

辛うじて空へ逃れた竜斗は散り散りになった二人にすぐに連絡を取る。

 

「大丈夫二人とも!?」

 

“ええっ、なんとか!”

 

“大丈夫だけど暑いよおっ!”

 

……どうやら難を逃れて無事のようである。

 

“みんな無事か!”

黒田からの安否の通信が三人の元へ。

 

「よかった、黒田一尉も無事でなによりです!」

 

“ああ。だがこのままではオレ達もいつマグマの餌食になるか、それとも踏みつぶされるか時間の問題だぞ”

 

四人は思わず唾を飲み込む。

まさかゲッタービームが全く効かないとは……今の自分達の持てる兵器では対抗できないとなるともはや絶望的で、このままでは一方的に蹂躙されるだけになってしまう。

 

 

“全員無事か!”

 

「早乙女司令、ビームが効きません、どうすれば!」

 

 

“今、あのメカザウルスをスキャン、そして分析したのだが、どうやら我々の知らない未知の金属を使用しているようだ”

 

「未知の金属?」

 

“硬度自体は高くない、我々人類の使う装甲と同程度と解った。

だが問題は、どうやらその金属は物理的衝撃、熱などを吸収する柔軟性を持ち、その吸収した衝撃エネルギーを利用して装甲の強度が増す性質のようだ”

 

その事実を知った彼らは仰天した。

 

「そっ、そんな金属なんて地球上にあったんですか……?」

“その事実がヤツの装甲だ。ともかく、我々の攻撃は全てヤツの肥やしになってしまうわけだ”

 

……まるでスイッチが入ったかのようにタイヤ状でゴロゴロ転がり地上のあるもの全て踏み潰すセクメト。自ら垂れ流したマグマに突入しても全く影響すら受けてない、本当に脅威である。

 

“だが、もう一度スキャンして分かった。

どうやら物理的衝撃から生じたエネルギーは、いくら取り込んでも一度ではなく少しずつ表面装甲に潤うようだ”

 

「つ、つまり?」

 

“全てのエネルギーは一気に装甲の強度には反映されないということだ。そのまま衝撃を与え続けるとエネルギーばかり蓄積することになる”

その言葉に竜斗は閃いた。

 

「ということはずっと一点に攻撃をし続けたら……」

 

“さすが竜斗、君もわかったか。そうだ、金属に溜まった膨大なエネルギー量は行き場を失って暴発し、装甲は破壊される”

 

そうなるとやるべきことは一つ、分散して攻撃するのではなく、一点集中攻撃し続けることで勝機が生まれる。だが、

 

「タイヤが転がるように動き回っているあのメカザウルスの一カ所に集中攻撃は至難ですよ……」

 

ただ攻撃を当てるのなら簡単だ。しかしこのような条件がつけられると難易度は一気に跳ね上がる。

“この戦闘の勝利のカギはエミリア、君だ”

 

「あ、アタシですか……?」

 

“我々が一カ所に集中攻撃を掛けた瞬間、すかさず陸戦型ゲッターロボのドリルで集中攻撃しメカザウルスの装甲を突貫、破壊する”

 

その意味に気づいた彼女の顔は一気に青ざめる。

 

「つ、つまりアタシ、あのメカザウルスに突っ込めってコトですよねえ……っ」

 

“どうした、怖いのか?”

 

「…………」

 

初戦でこんな大事な任務を任されることが想像つかなかった彼女は一気に恐怖感が強くなる。

 

“だが、やらねば倒すことはできずにこのまま地上の味方が全滅するのを待つだけだ。

それに何のために我々、そしてゲッターチームがいると思うんだ?”

 

彼女の元に竜斗、愛美、そして黒田と味方の隊員から通信が入る。

 

“俺達がエミリアのために活路をつくる。俺達もお前のために頑張るから怖がらないで”

 

“心配するな。今まで忠実に、真面目に訓練してきた君ならできると信じている。

それに怖いのは君だけじゃない、君のために突破口を作るオレ達自身もだ”

 

「…………」

 

……今度は愛美からほくそ笑むような顔で自分を見てくる。

 

“いつもはマナには気が強いくせに飛び降りる時といい、今といい、実は土壇場に弱いタイプ?なっさけないわね~~っ”

「………………」

 

“まあいいわ。ホラ、マナもアンタのために協力してあげるから感謝するのよ。生きて帰るにはあのキモイの倒さなくちゃいけないんだし――”

「ミズキ……っ」

 

“ホラ、すぐに気合いを入れてシャキッとしなさいよ!マナの気が変わらない内に早く行動に移すのっ!”

 

竜斗は彼女にこう言った。

 

“俺はエミリアを守るって言ったよね、そして三人は生きて帰るって。

俺達は全力でエミリアをサポートする、だから恐れず勇気を出して”

 

「リュウト……うん、アタシ頑張る!みんな、よろしくお願いします!」

 

彼女の顔色が良くなるのを見ると全員は喜び、一気に結束力を強めるのだった。

 

“全員に告ぐ。スキャンした結果、比較的強度が弱い所がある。ヤツの足がある左右の側面、そして顔のある正面だ。まずベルクラスのゲッターミサイルを全弾を地面に撃ち込んで辺りに大穴を作り、はまらせて横転させ、動きを止めると同時にあのタイヤ形態を解除させる。BEET部隊、竜斗、水樹は奴をうまく穴に誘導してハマらせろ。ひっくり返せれば一番理想的だ。

そして強度の弱い箇所を全機で集中攻撃し、途切れずに陸戦型ゲッターロボのドリルでメカザウルスの装甲を破壊し、竜斗のゲッタービームを撃ち込む、いいか!”

 

“了解!”

 

全員はその勝算に希望を抱いて一気に行動を開始した――。

 



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第十一話「メカザウルス・セクメト」②

巨大なタイヤとなり縦横無尽に走り回り、蹂躙するメカザウルス・セクメト。

マグマも四方八方に吹き出して周辺を呑み込んでいる。

そんな状況下で必死で回避するゲッターロボ、黒田達BEET部隊。

 

「この作戦のミスは許されない。全員気を引き締めろ!」

 

ベルクラスはちょうどセクメトのいる区域の真上に到達する。

 

“ベルクラスはこれより地上に向けてゲッターミサイルを発射する。

投下位置についてはデータで送る。爆心範囲にいる味方機は速やかに退避せよ”

 

マリアの指示が各機のコックピットに入るとその区域にいる味方は一斉に退避した。

 

「全機、退避しました」

 

「よし、ゲッターミサイル全弾発射」

 

ベルクラスの発射管から再送填された大型ゲッターミサイルが一発ずつ、発射された。

セクメトを中心とした場所へ次々と着弾。爆発による衝撃は地上に大きなクレーターを形成するのに充分であった。

セクメトは攻撃を受けていることに感知し、さらに活動が激化。

レアメタルでもある『セクメミウス』で造られた装甲の穴からマグマを大量に吹き出した。地上をドロドロのマグマで埋め尽くさんとする様はまるでこの世の地獄である。

 

「あのメカザウルスの蓄えられたマグマは底なしなのか……?」

 

このセクメトもゼクゥシヴと同じく『アルケオ・ドライヴシステム』を採用されたメカザウルスであり、マグマの貯蓄量は無限であった。

 

「よし、いくつか作ったクレーターにヤツを誘導させて、ハメさせろ!」

 

各機はセクメトへ向かっていく。

一定距離にまで近づいた彼らはライフル、ミサイルを撃ち込んでセクメトを挑発する。

まんまと挑発に乗ったのか急旋回し、踏み潰そうと全速力で走り出す。

 

「よし行くぞ。間違っても踏み潰されるなよ!」

 

彼らもセクメトから逃げるように全速力で地上を滑走する。

 

 

 

「ベ~っだ!」

 

モニター越しからあっかんべえをする愛美はまさに余裕綽々である。だが、

 

「キャアアっ!」

 

前方不注意というか、正面を確認しなかった彼女は、足元の瓦礫に気づかずに機体は足につまづいて勢いよく地面に倒れ込んでしまった。

 

“水樹、早く立ち上がれ。後ろから来てるぞ!”

 

「あっ!」

 

全力で転がるセクメトがもうすでに海戦型ゲッターロボの寸前にまで迫っていた。

 

「ウソっ……」

 

このままでは踏み潰されてしまうのは確実であった、が。

 

「水樹っ!」

 

横から空戦型ゲッターロボが全速力で海戦型ゲッターロボを胴体を掴み、その場を離れて間一髪、踏み潰されるのを免れる。

 

「あ……石川っ!」

 

“ふう、間一髪間合ってよかった!”

 

本当に助かってよかったと安心そうな竜斗に彼女はもやもやとした表情で、

 

「アンタがマナを助けるのは当たり前でしょ……」

 

“ああ、任せといてっ”

 

彼女も彼の見せた笑顔に拍子抜けした。前まで嫌がっていた相手を気遣えれるのは彼の成長か――。

 

彼らは一気に散開し、それぞれベルクラスの作ったクレーターの縁を落ちるか落ちないかのギリギリに沿って走り込む。

どうやらセクメトに搭載された人口知能はそれほど賢くなく、追うようにクレーターの縁に沿っていくが、その丸みの帯びた装甲が縁に滑って呆気なく落ちた。横転し、タイヤ形態が解除されてだんご虫の姿に戻る。ガシャガシャと節足が動き、起き上がろうとしていた。

 

「マリア、もう一度ゲッターミサイルをメカザウルスに食らわせて、ひっくり返せ」

「了解。ゲッターミサイルはあと四発で弾切れになりますがよろしいですか?」

 

「ああ、全部あのメカザウルスにくれてやる。派手に撃ち込んでやれ」

 

「分かりました」

 

最後のゲッターミサイルを自動装填し、発射管の向きを全て地上のセクメトに向けさせ、発射。

 

ミサイル全弾は地上のセクメトに降り注ぎ、見事命中した。

凄まじい衝撃でついにセクメトの胴体が仰向けにひっくり返ってしまい、クレーターにすっぽりハマってた。

弾頭内の大量のゲッター線にまみれるセクメトだが、やはり全く効いておらず平然とガシャガシャ動いている。

BEET部隊、そして愛美のゲッター各機が一斉に仰向けになったセクメトの顔へ近づき、各武装を展開、攻撃を開始。

ミサイル、プラズマ弾、ガトリング砲全弾をこれでもかというくらいに一点に浴びせる。

 

「エミリア、君の出番だ!」

 

“は、はいっ!”

 

『ライジング・サン』を脱着(パージ)して身を軽くし、すぐにクラウチング・スタートのポーズをとる。

 

「大丈夫……落ち着いてアタシ。やればできるよ」

 

安心させるように自ら心に言い聞かせる彼女。

同時に両踵の『ターボホイール・ユニット』が作動、車輪をフル回転させて砂煙が立ち込める。

そして竜斗から通信が入る。彼は心配そうな表情であった。

“危なくなったらすぐに助けにいくからな”

 

「リュウト……心配しないで、アタシやってみせるから」

 

そして、

 

「エミリア=シュナイダー、突撃開始します!」

 

その場から凄まじい超加速で発進した陸戦型ゲッターロボ。

凄まじいスピードでセクメトの顔に向かっていく。

 

「みんなよけろ!」

進行上にいた各機は攻撃をやめて、すかさず道を開けた。

そしてゲッターも左腕の巨大なドリルをフル回転させて引き上げてセクメトに向かって突撃していく。

 

「はああああっ!」

 

ついに勢いをのせた高速で回転するドリルがセクメトの窪んだ顔の装甲に穿った。金属をガリガリ削る不快音が鳴り響く。エミリアは左レバーを全開に押し込む。モニターが金属を削る際の火花で目がチカチカするも目を閉じず、全てを見届ける。

だが、肝心のセクメトの装甲はまだ少しも傷はついておらず、新品同然の金属そのものだ。本当に打ち破れるのだろうか。

 

「く……うっ」

 

無理にドリルを押し込んでいるゲッターロボに負荷がかかり、コックピットの各計器がスパークを起こし始めている。

このままだとコックピットが爆発するかもしれない、彼女の頭の中にそれがよぎった。

 

(もしかして、メカザウルスより……アタシが死ぬ……?)

 

だんだんとレバーを押し込む腕の力が弱くなる彼女。

いつもは気丈な彼女にも心の弱さがある。そう、愛美の言っていた土壇場での弱さだ――。

 

(だけど……アタシがここでやらないと……みんな、みんな生きて帰れないんだっ!!)

 

負けじと無理やり自分に渇をいれて再び左レバーをぐっと押し込むエミリア。

これは彼女の心の戦いでもある、

今、恐怖を押し殺し自分の与えられた使命を、全力で果たそうとする彼女の表情は凄まじいものだった。

 

――そんな彼女の成果に功を成したのか、セクメトの装甲に変化が現れる。

まるで鉄が高温で熱したかのように赤く広がり始めているのを彼女は確認できた。

このままもしかしたら……期待を膨らました彼女にはもはや迷いなくさらにドリルの回転力を少しずつ上げていく。

そして波紋のように赤く、そして広がる装甲は少しずつ膨らんでいく。

おそらく金属に溜まりに溜まったエネルギーが行き場を失っているのだろうか。だが、ドリルの方も明らかに鋭利さが落ちてきており、回転力が弱くなってきた。果たしてどちらが先に屈するのだろうか……その答えは。

「……ついにやったわっ!」

 

先に根を上げたのはセクメトの装甲であった。赤く膨れ上がった装甲はついに亀裂が走り、破裂し全員が一斉に歓喜を上げた。

 

“よくやったエミリア。直ちにそこから退避しろ!”

 

「はいっ……えっ?」

 

セクメトは発狂したかのごとく仰向け状態から大量のマグマを吹き出した。

クレーターから溢れ出て、そして飛び散り密着していたエミリアにまで降りかかった。

 

「っ!!」

 

すぐさまレバーを引き込み、その場から離れ出すエミリア。

だが飛び跳ねたマグマの一塊が真上から落ちてきていた。とっさに左腕のドリルを盾にして真上に上げた時、マグマがドリルに直撃。みるみるうちに溶けて醜い形となった。

 

「エミリア!」

 

彼女を助けようと竜斗は急いで飛び出した。

しかしセクメトから溢れ出るマグマがまるでこの地上に灼熱の海を生み出そうとしている。

 

「水樹も早くここから離れるんだ、飲み込まれるぞ!」

 

しかし、水樹は何もしようとせず突っ立ったままだった。

 

「水樹っ!!」

 

“黒田さん、いいから先に行ってて”

 

「えっ……」

 

……彼女は一体何を考えてるのか……。

 

「エミリア、助けに来たよ!」

 

“ありがとうリュウト!”

 

空戦型ゲッターロボは彼女の機体を掴み抱えてそのままスピードを上げて低空飛行でマグマの海から離れていく。

 

「エミリアはみんなと共に離れて!俺はゲッタービームでトドメを刺しにいく!」

 

“頼んだよリュウト!”

 

「ああっ!」

 

だが片手で機体の全重量を支えるにかなり無理がかかり、右腕がちぎれかかっている。

このままでは彼女はマグマの海の中に落ちてしまう。

一刻も早く彼女をどこに降ろそうか悩んでいると、なぜか愛美の乗る海戦型ゲッターロボの姿がこちらを向いて立ち尽くしていた。

 

「水樹、なにしてんだよ!早く逃げなよ!」

 

“石川、さっさとエミリアをマナの元に降ろして早くあのキモいのにトドメ刺してきなさいよ!”

 

「水樹?」

 

“……エミリアはマナがちゃんと無事なとこまで誘導するから早くっ!”

 

彼女からの思いがけない発言に二人は驚き、そして唖然となる。

 

“ホラ、あともう少しで終わりなんだから早くするの。ここで全てを無駄にしたらアンタを一生怨んでやるからっ!”

 

「水樹…………」

 

「ミズキ……っ」

 

あの自己中の塊だった愛美が自ら救いの手を差し伸べた。それだけに二人は驚き、そして喜びが膨れ上がる。

 

「ありがとう水樹っ!エミリアは水樹と一緒に逃げてくれ!」

 

“うんっ!”

 

竜斗はエミリアを愛美のそばに降ろすと二人はすぐさま猛スピードで黒田達のいる安全区域まで退避していった。

 

「あとはっ!」

 

もうやるべき道は一つになった竜斗はフルスピードで上空から、マグマの海に溺れているセクメトに接近。すぐさま腹部の発射口を開く。

照準をエミリアによって破壊された部位に合わせた。

 

「これで終わってくれえっっ!!」

 

腹部から再び最大出力のゲッタービームが放たれて、破壊された部位に見事命中させた。

ゲッター線を高密度に圧縮した、マグマ以上の超高熱を帯びた光線は脆い内部に突入、全てを溶かして破壊していき動力源である『ヒュージ・マグマ・リアクター』にも直撃。

メカザウルス・セクメトは動力炉の暴発により風船のように膨れ上がり、そして眩い閃光と共に凄まじい爆発を起こしたのだった。

 

「つ、ついにやった……やったぞっ!!」

 

全員はその光景を離れた場所からモニターで見届け、勝利の歓喜を上げた。

竜斗も無事に黒田達の元へ帰還し、全員が彼を盛大に出迎えた。

 

「僕達、ついにやりましたよ!」

 

 

 

“竜斗。君、いやゲッターチームはよく頑張ったよ。やれば出来るじゃないか!”

 

黒田から誉めの言葉をいただき照れる三人――。

 

「だが、今回は朝霞での戦闘以上にキツかった。恐竜帝国の戦闘力は本当に恐ろしいものだ……っ」

 

黒田はマグマで焦土と化したこの凄惨な地上を物悲しい目で見つめながら呟いた。

「…………」

 

竜斗も北海道方向に去っていったゼクゥシヴをふと思い出し、空を眺めていた。自分が危険を省みずに、身を晒して訴えたことを、そして言葉が通じたのか、隙だらけの自分に攻撃せずに去っていったあのメカザウルス――。

 

(考えたら……俺はスゴくバカなことをしたよな。死んでもおかしくなかった……けどチャンスはあの時しかなかったんだ……)

 

――そしてベルクラスに帰艦した竜斗達。彼はボロボロになった機体を収容し、降りてエミリアと互いに抱きついた。

 

「リュウト、アタシ達生きてるのね!」

 

「ああっ。エミリアよく頑張ったな!」

 

「リュウトもねっ」そして何食わぬ顔ですれ違う愛美にエミリアは、笑顔で彼女の元へ向かう。

 

「ミズキっ!」

 

「……なによ」

 

「……ミズキがあんなこと言うなんてビックリしたけど、スゴく嬉しかった。本当にありがとっ」

 

「…………」

 

エミリアは愛美に頭を下げ、感謝の意を込めてそう伝えた。

「アタシ、リュウトやミズキより操縦下手だから二人の足を引っ張ったけど、これからはリュウトについていけるように、そして迷惑をかけないようにさらに努力します。

今までキツいこと言ってゴメンね」

 

彼女の言葉に少しも嘘など感じられないほどに清々しかった。

愛美はそっぽ向いたまま、震える声でこう言った。

 

「……そうね。これ以上マナ達の足を引っ張らないようにね……」

 

彼女は早々に二人の元から去っていった。

二人はポカーンと愛美の後ろ姿を見ていた。

 

「……何があったのかな?」

 

「うん……いつものミズキと違うような……」

 

どこか今までとは違う様子の彼女に二人は不思議がってた――。

 



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第十二話「それぞれの価値観」①

――数日後。朝霞駐屯地。SMB整備工場では早乙女とマリア率いるゲッターロボ専門の整備員でゲッターロボの修理を行っていた。

いつまたメカザウルスが出現するか分からない、早く完全に直す為、自分達の休日すら返上してまで急ピッチで進められていた。

 

作業服姿の早乙女とマリアはパネルコンピュータをにらめっこしながら二人で話をしていた。

 

「ゲッターロボをもってしても苦戦を喫するとは。恐竜帝国の戦力は恐ろしいな」

 

「むしろ私は、正規パイロットではない民間人の竜斗君達がいきなり乗り込んで、即席の訓練でよくここまで生き残ってこれたなと思いますね」

 

「彼らにそういう才能と運があったということだ。彼らはこれから訓練次第でさらに伸びるだろう」

彼らは修理中のゲッターロボを地上から見上げる。

 

「ゲッター線で駆動するSMB、ゲッターロボ。

宇宙空間から降ってくるゲッター線を偶然に発見した時、私は心が高ぶったね。

恐竜帝国に対抗でき、そして神秘性を持つこの素晴らしいエネルギーがあったなんて――まさに天からの贈り物だよ」

 

「そこは同感ですね。核以上のエネルギー量を生み出しながら人体には無害だなんて。

最初は信じられませんでしたわ」

 

「そして君もゲッター線に興味を持ち、私のプロジェクトに参加してくれた。

イギリス軍SMB分野の技官だった君が――」

 

「ええっ、その為にイギリス軍を除隊することになってしまいましたが……」

「許してくれ。隠す必要などないのに、国家がどうしてもこの計画に関係するもの全てを機密するといいだしたんだから。

だが君だけではない、私含めてこの計画に関わった人間全てが同じだ」

 

「いいえ、気にしてません。私の選んだ道ですから――」

 

二人はしばらく沈黙する。その後、早乙女がそれを破った。

「ところで竜斗達は今何にしてる?」

 

「確か黒田一尉の元で体力練成を行っているハズです」

「ほお、果たして彼らは黒田についてこれるかな。

彼の運動量ははっきり言って半端ではないからな」

 

「さすがにあの子達に合わせると思いますが……」

 

「さあどうかな?黒田は熱くなりすぎるときがあるからな。ところで、少し休憩をとろうか」

 

一時、作業を休止し作業員達は綺麗なタオルで顔から溢れた汗を拭いている。

早乙女は作業員の一人を呼び寄せると懐から財布を取り出した。

 

「すまないが全員の飲み物を買ってきてくれ。私はコーヒーのブラック。マリアは?」

 

「ありがとうございます。なら私はコーヒーの微糖で」

 

「ありがとうございます。一佐、ゴチになります」

 

数枚の千円札を渡され、仲間の注文を聞くと颯爽と買い出しにいく作業員。

それを見届けた二人は、近くのベンチに腰掛ける。

「――そういえばアメリカ軍が今、新たなエネルギーによる実験をしているようだが、君は知っているか?」

 

「……多少なら。再び原子力エネルギーを利用しようとしているとか」

 

「そうだ、核だ。しかしアメリカ軍もまた厄介なものを掘り起こしたな。いくら恐竜帝国相手に劣勢といってもな」

 

「……二十年前、世界各地で災害や不祥事からの様々な原因で数々の原発による放射能事故を起こし、世界が大混乱を起こした。

それで各先進国は、代わりとなる人畜無害かつ原子力エネルギー同様に凄まじいエネルギー量を生み出す新動力源の作成企画を持ち出し、それで完成、確立したのが――」

 

「――プラズマボムス。つまりプラズマエネルギーだ。汎用性が高くて扱いやすく人畜公無害、そして莫大なエネルギー量を持つ動力源でたちまち世界に浸透し、原子力は役目を終えて、火を消した。

だが、このプラズマエネルギーも、それを動力としたSMBは恐竜帝国の前にはあまり通用しなかった。

原子力エネルギーに『近い』エネルギーで最終的な出力値では明らかに劣っている」

 

「そして私達はゲッター線という希望を発見した――そしてアメリカ軍は再び核という危険な遺物を掘り起こした……」

 

「プラズマエネルギー、原子力エネルギー、そしてゲッター線……三種のエネルギーをもってして、果たして恐竜帝国に打ち勝てるのだろうか」

 

二人は再び不動の姿勢をとっているゲッターロボの姿をずっと眺めていた。

 

「なあマリア」

 

「どうしましたか?」

 

「ただ呼んでみたかっただけだ」

 

「………………」

 

……一方、竜斗達はというと。

 

「し、死ぬ…………」

 

「こ、こんなに走ったの初めてだわ……」

 

黒田の引率の元、駐屯地内で体力練成、すなわちトレーニングを行っていた。

運動服がなんとも青春を感じさせて微笑ましいが、竜斗は四つん這いになって激しく息を切らしながらバテて、エミリアは立っているものの、足がガクガク震えていた。

 

「ほら、立ち止まってないで歩きながら深呼吸だ」

 

息を切らしながらも張り切っている元気な黒田に促され、フラフラになりながらも周りをゆっくり歩く。

 

「……黒田一尉て、やっぱり自衛官だなあ……あんなに走ったのにキツいって顔してないし、体力が凄すぎる……」

 

「リュウトも見習なくちゃね……あれっ」

 

するとエミリアは辺りをキョロキョロ見渡し始める。

 

「あれ、ミズキは……?」

 

「そういえば走っている途中いなくなったよな。黒田一尉、水樹はどうしたんですか?」

 

「水樹は途中で気分が悪くなったらしくて抜けたけど……そういえばいないな。トイレかもしくは医務室かな?」

 

「なら僕が探してきます」

 

「あ、ワタシも行く。トイレ行きたかったしついでに」

 

「わかった、オレはここで待ってるよ」

 

 

二人は彼女を探しに出掛けたその頃、本人はというとあまり人気のない隅っこで座り込んでいた。

 

「……まったく信じらんない。まさかマナがこんなキツいことしなくちゃいけないなんて……っ」

 

……いわゆるサボリである。

 

(なんでか言わなくていいって言っちゃったけど、やっぱり素直にアイツの言った通りに安全な場所へ送ってもらいたいにしとけばよかったかなあ。

それにしてもパパとママは無事かな……それにユカとかなにしてんだろ……久々に会って遊びたいよぉ……)

 

うずくまり、寂しさと辛さで心泣きする。

今まで、その狂気じみた行いで竜斗達に散々陥れてきた愛美も人間、一介の女子高生である。

そんな彼女がベルクラスに居座ったのが運の尽きか、気がつけば『ムカつく』竜斗達と共に行動せざるおえなくなっていた――。

 

(そうだ、この際自分から言おうかな。マナ抜けますって……けどあのオッサンがブチギレて殺しにかかってくるかも……どうすればいいのよ!?)

 

そう悩んでたら、近くに歩く足音が聞こえ、声が聞こえる。角から覗くと、体操服姿の男女……竜斗とエミリアの声だった。

 

「あいつどこにいったんだろ……?」

 

「どこかでサボってたりして……」

 

……エミリアの予想は見事的中していた。

 

(アッタリ……にしてもアイツらいっつもいつもくっついてもう……見てるだけでムカつくわ~っ)

思わずムスッとなる愛美。

 

(フフ、悪いけどもう少しサボらせてもらいますわ……っ)

気づかずに去っていったのを見届けると、クスッと笑った。

 

午後は3Dシミュレーションマシンによる疑似戦闘訓練を行った。

制限時間内の百個ある目標の撃破、そして標的からの攻撃による被弾数で点数が評価される設定だ。その結果とは。

 

「俺、百点中九十二点だったよ。エミリアは?」

 

「………………」

 

彼女は結果表を見ながらひどく落ち込んでいる。その点数はというと、『百点中六十点』だった。

 

「攻撃当たりすぎちゃった……っ」

 

彼女を慰める竜斗を尻目に、「フンっ」と紙をクシャクシャにしてゴミ箱にすてる愛美。

捨てられた結果表に記された彼女の点数は『百点中九十六点』という竜斗を超える高得点であった。

 

――次の日の午前中、竜斗とエミリア、そして愛美のゲッターチームは艦の座学室にて早乙女とマリアからとある話を聞いていた。

 

「……これが現段階で我々の分かる奴らの詳細だ。とりあえず分かりやすく教えたが――」

今わかるだけの恐竜帝国について、真面目に聞く竜斗とエミリアに対し、愛美は眠たそうな顔であった。

 

「――何か質問は?」

 

「はいっ」

 

竜斗は手を上げた。

「なぜメカザウルスは僕達人間を襲うのでしょうか?」

 

「それなんだが、これを見てくれ」

 

彼は持っていた大きい封筒から二枚の写真を取り出すと、三人に差し出す。

内容を見た三人は目を疑い、狼狽した。

「……何これ……っ」

「ヤダァ……キモっ」

 

……一枚目は白のベッドに横たわる人間の遺体と、二枚目は綿密に組み立てた恐竜のような生物の骨の模型の写真。だが一枚目の人間は、明らかにおかしかった。

見える限りの皮膚は堅そうな緑色の鱗に覆われて、顔は霊長類ではなくトカゲ、そう爬虫類そのものだ。しかし体型は間違いなく自分達人間と同じである。

こんな人間は生まれてから見たことがない、例えるならファンタジーなどに登場する『リザードマン』がぴったり当てはまる。

 

「何機か破壊したメカザウルスを確保し、研究資料として解体していたら、コックピットと思わしき胸部の中で息絶えてた。

解剖、分析した結果、人間と爬虫類の特徴を両方持っていた。凄く興味深いよ」

 

「……つまり爬虫類の人間ってことですか?」

 

……これがメカザウルスを操縦していたのか……彼らからすれば雷が身体を突き抜けるような衝撃だが、同時に異形に対する不快感もあった。

「地球にこんな生物がいたとは考えられない顔をしてるな。

だがそんなことはない、我々人間が長い年月を掛けて猿から進化したのなら、このように爬虫類、いや別生物が私達と同じ進化を遂げても決しておかしくないんだよ」

 

「ワオ……っ」

 

竜斗とエミリアは興味津々にその写真を眺めているに対し、愛美だけは見るのもイヤなのか目を反らしている。

 

「解剖した結果、この生物の身体能力、脳は我々人類よりも優れていることが分かった。メカザウルスのような未知の技術力を持っているのも納得だ」

 

「しかし、この生物がいたのなら、なぜ今頃になって地上に……」

 

「恐らく白亜紀末期、つまり一般的に恐竜が絶滅したといわれる時期に関係してくる。

恐竜を使うのを見ると奴らはその前からすでに存在していたと思われる。そして、地上に住む恐竜が絶滅する寸前に遥か地底に逃げてそこから現代になるまで静かに潜んでいたのだろう――」

 

「………………」

 

「そこで竜斗が言った質問に答えよう。その後に登場したのが我々人類だ。

そして長い年月を掛けてここまで進化し、地上を支配し現在にいたる。

奴らがそれまで地上を支配していたとすれば、私達は奴らから見れば勝手に上がり込んだ空き巣同然の存在だ――さて、奴らは私達についてどう思うかな?」

 

確かにそうだと竜斗達は妙に納得してしまう。

つまり自分達人間から地上を奪い返すために今頃になって戻ってきたということだ。すると、

 

「司令、実は――」

 

竜斗は先日の戦闘で行った行為とその理由について語る。早乙女は依然と無表情だがマリアと愛美は彼の行動にそれぞれ驚き、呆気に取られていた。

 

「竜斗、それは本当か?」

 

「……はい。どういうわけか、そのメカザウルスは無防備同然の僕を攻撃せずに去っていきました。僕自身、言葉が通じたのではと思いましたが……」

 

「……そんなメカザウルスがいたなんて信じられんが、竜斗が嘘をつくとは思えんしな」

 

するとエミリアはすっと手を上げた。

 

「どうした?」

 

「ワタシもそれをこの目で見てましたから本当です。

それでアタシも竜斗の意見に賛成です。どうにか話し合って解決、共に生きるというのはできないのでしょうか――」

 

すると愛美は信じられないような顔をして飛び上がった。

 

「ハアっ、バッカじゃない!?マナはこんなヤツらと一緒に暮らすなんて死んでもイヤよ、早く地球からいなくなってほしいわ!!」

 

「アタシがバカですってえ!?

聞き捨てならないわ、和解できる方が一番いいに決まってんじゃない!」

 

「じゃああんたはそいつらに殺されそうになっても同じこと言えんの?『あなた達と戦いたくありません、仲良くしましょう』って!!」

 

「言ってやるわよ!!それでミズキは何よ、『地球からいなくなればいい』って!?

人間の言う台詞なのそれ!?そんなの、差別同然じゃない!」

 

「こんな時にやめろよ二人共!」

 

性懲りもなく二人は口論を始めてしまう。竜斗も二人を止めようと仲介に入ろうとした時、早乙女が口を開いた。

 

「残念だがエミリア、その望みの叶う可能性は限りなく低いと思う」

 

三人の視線はすぐに彼の方へ向いた。

 

「向こうはどうか分からないが私達人類は基本的に異形に対しての抵抗感が強い。

共存するにも種族や文化の違いからトラブルが発生しやすいだろうし、忌み嫌う者もいる。普通の人間同士でも日常茶飯事に起こりうるのに異種族ともなればさらに深刻化するだろう」

「…………」

 

「共存について、水樹の意見は確かに普通の人間が考えることの一つだ。何もおかしくはない。

だからと言って君達の意見に反対するつもりはない。

我々もその方向で行けたら一番理想的なのだが、そもそも世界に宣戦布告し侵略、破壊、殺戮しだしたのは奴ら恐竜帝国からだ。

恐らくは我々人間を滅ぼそうとしている。和平交渉は至難だろう」

 

「…………」

 

 

エミリアは意気消沈し、ストッと力なく座り込む。

 

「我々が今すべきことは日本中に蔓延るメカザウルスを掃討し、そして日本のどこかにある本拠地を潰すことだ。

でないと近いうちに日本はオーストラリアのように制圧されてしまう。こんな小さな島国に時間などかからないだろう――」

今まで黙っていたマリアが口を開いた。

 

「……司令、メカザウルスは北海道方向からの出現が殆どでした。

ということは奴らの本拠地は――」

 

「ああ、私も同じ考えだ。

最近北海道の部隊と情報交換していたのだが、どうやら大雪山辺りが怪しい……」

 

「大雪山……」

 

「これまで我々は防衛に徹していたが、今のままでは泥沼化して何の活路も見いだせない。

奴らが今以上に戦力を強化する前に進撃を開始しようと思う。我々ゲッターチームはついに前に動き出す時がきたようだ」

 

竜斗は早乙女の言葉に身を引き締める。

 

「しかし君達の今の現状では、はっきり言って攻めに入っても勝ち目などない、返り討ちに遭うだけだ。今以上に訓練を気を引き締めて行い、そしてチームとしての信頼性、連携をより確実にしろ。そうすれば勝機は生まれる!」

 

「了解!」

 

竜斗は元気よく呼応するがエミリアは俯いたままで、そして愛美はというと。

 

(……なんか話がとんでもない方向へ来ちゃったなあ……っ)

 

どうやら深入りしたくないようで、逃げようかどうか困っていた。

 

……その夜。エミリアはベルクラスの右舷甲板上に出て一人黄昏ていた。手すりに肘をかけて、この広い地下の専用ドックの遙か先をただ見つめていた――。

少し暗い表情の彼女。ため息も混じって落ち込んでいるようだ。

 

「エミリア」

 

振り向くと竜斗がいた。彼は走って彼女の元に向かう。

 

「どうしたんだ?」

「…………」

 

何故か黙り込む彼女。彼はなぜ彼女がこんな表情なのかはすぐに分かった。

 

「もしかして俺達の意見に対して司令の言ったことを気にしてる?」

 

すると沈黙していた彼女は震える声でこう言った。

 

「ねえリュウト。アタシ達ってこれからどうなるのかな……っ」

 

「エミリア……」

 

「リュウトはサオトメ司令から強引にゲッターパイロットにされちゃって、アタシはそんなリュウトを守りたいからゲッターパイロットになった。

ミズキも知らない内になぜかパイロットになった……。

それでふと思ったの、終わりがあるのかなって?」

 

エミリアは振り向き、涙を浮かべたまま彼を見つめた。

 

「初めての実戦の時、アタシ……怖かった。

サオトメ司令からは想像を絶するくらいのプレッシャーがのしかかるって言われたけどそれどころじゃなかった、途中で何度も気持ち悪くてウエッて吐きそうになったし、気絶しかけたくらい……。

それでも……終わりが見えるならまだワタシは耐えられるかもしれない……けど、サオトメ司令の言うとおり、和解できないなら、これからどうなるの……?

どちらかが先に全滅するまで戦い続けなきゃいけないの……アタシ、そんなのイヤ……!!」

 

彼女の今にも押し潰されそうな恐怖心に彼は何も言えなかった、フォローすら出来なかった。

 

「リュウトは怖くないの……?

今にでもメカザウルスが攻めてきたら戦わないといけない……そしたら自分が死ぬかもしれないんだよ?

一番酷い目に遭ってるのはリュウトなのに……怖くないの?」

 

すると竜斗は静かに頷いた。

 

「……俺だって確かに怖いしイヤだよ。はっきり言って俺達をこんな目に遭わせた早乙女司令を正直恨んでる。けど……」

 

「けど……?」

 

「エミリアは覚えてる?俺達が地下シェルターに逃げ込もうとして、メカザウルスが目の前に現れて殺されそうになった時、助けてくれたのも司令だ。だからそれに対しての感謝もある」

 

彼はエミリアの隣に行き、手すりに寄りかかる。

 

「それにさ、前にも言ったけどゲッターロボに乗るようになってから俺……なんか変わった気がするんだ。

今まで臆病だったけど……早乙女司令やマリアさん、黒田一尉に出会って訓練する内に前向きになったような気がする……それに顔を合わせるのも嫌だった水樹にも今は何とも思わなくなったんだ。

……何だろう、みんなが俺を成長させてくれたみたいで、そう考えると怖いと言うより何とかしようと思うようになったんだ、いつの間にか――だから俺はまたやってみる。爬虫類の人間と和解するのは難しいかもしれないけど、もしかしたら向こうも俺達と同じ考えを持っている人間がいるかもしれない、あのメカザウルスに乗っていた人ももしかしたら俺達と同じ考えを持っているかもしれないから。そう思うとまだ希望はあるよ」

「…………」

 

「……エミリア、もう戦うのがイヤなら俺から司令に言おうか?」

 

エミリアはとっさに首を横に振る。

 

「ううん、自分の決めたことを投げ出すことはしたくないし、それになんか心が軽くなったみたい。

アタシもリュウトと一緒に頑張りたい」

 

「エミリア……」

 

「なんかあれだね……いつの間にかアタシの方が情けなくなっちゃったみたい。

前まではワタシがリュウトを引っ張ってたのが、今じゃ逆になってる……」

 

「エミリアはよく自分に無理しがちだから今まで溜まってたストレスとかが外に出てるんだよ、いっぱい吐いて楽になろう。それに言っただろ、俺はエミリアを絶対守っていくって。けど俺一人じゃどうしようもないからやっぱりエミリア達皆の力が必要だ、力を合わせて頑張ってこう!」

 

「……うん!」

 

……その場で仲良く団欒する二人を対し、甲板の出入り口で愛美が密かに彼らを覗いていた。

 

「…………っ」

 

手をギュッと握りしめて、唇を噛み締め、そして何とも言えない複雑な、そしてどこか羨ましそうな表情をしていた。

 

(あんなにイチャイチャしやがって……やっぱりアイツらなんか、だいっキライよ!)

 

彼女は涙ぐみ、その場から去ろうとしたが、ちょうどそこに黒田と出会う。

 

「どうした水樹?」

しかし彼女は何も言わずに走り去っていく。彼はふとドアから外を覗きこむ。

竜斗とエミリアが楽しく会話している姿が見える。

 

「………………」

 

彼もしばらく二人の様子を黙って見続けていた。

 



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第十二話「それぞれの価値観」②

……次の日の午前中。ベルクラス、司令室では早乙女はモニターに映る、軍上層部の人物と会話をしていた。彼は全自衛隊の最高位に立つ統合幕僚長の入江だ。

 

“……分かった。作戦決行日の決まり次第もう一度連絡してくれ、北海道の全師団に君達を受け入れる用意をしておく”

 

「ありがとうございます、幕僚長」

 

“……大雪山か。そこに日本でのヤツらの本拠地があるということか”

 

「まだ断定したワケでは。ただ、様々な情報からそこに特定しただけです。

しかし、ほぼ確実と言ってもいいでしょう」

 

入江はかけていたメガネを外して、レンズを拭き始める。

 

“……ゲッター計画(プロジェクト)。これまでの成果はすでに聞いているよ。防衛省を通じて政府に無理を言って資金を出させたのが間違いではなかったな、おかげで私まで変な疑惑が立てられたが”

 

「………………」

 

“ただし、この計画に援助できる余裕はもうないということは分かってほしい。

国家予算から、他に対してはギリギリに割いてまで君の計画に費やしたのだからな――これ以上は借金大国の日本がさらに借金をしてしまう”

 

「何が言いたいのですか、幕僚長」

 

途端に早乙女の顔は険しくなった。

 

「確か幕僚長はこうおっしゃいましたよね、援助は惜しみなくすると。

今更そんな愚痴をこぼされても困りますね。

これも人類存亡に関わること、多少の出費に惜しんでどうします?」

 

“……悪かった。私は君を信用している、出なきゃ君の計画に賛同して資金を出すよう政府に促さなかった……ただな――”

 

「ただ?」

 

“……政府、軍上層部の大半の人間は君を快く思っておらん。君の性格、行動、そして君の計画に不信、不満を募らせている。

計画についての予算についても納得しない人間がほとんどだ。『なぜこんなワケの分からない計画に貴重な予算を割かなければならんのだ』とな。

それゆえ、君の身に何が起こるか分からん。ゲッター計画を機密にしたのは敵味方問わず、君の安全、そして計画を邪魔させないことが理由の一つだ”

「………………」

 

“特に、吉野官房長官と側近辺りは君をマークしているとの話だ。

気をつけろ、どんな権限を使ってくるかわからん”

 

「ほお、官房長官殿も私に興味をお持ちでしたか、それは光栄ですね」

 

“……私は君のようなそんな冗談を言ってのける軍人はいてもいいと思っている。

思考が柔軟で且つ個性的で行動力がある、何よりも君にはいい意味で『大それたこと』をやってくれる魅力がある。

しかし周りは頭の考えが古い人間ばかりだからな、受け入れられないのだろう。”

 

「……お気遣いまことにありがとうございます。

まあ、自分の周囲の評価はすでに分かっています。だが私は、こう見えても人類愛に溢れた人間です――」

 

“しかし一佐、下手をすれば本当に消されるかもしれんぞ?”

 

 

「私は危険を省みず自分を貫き通す人間です。そしてその妨害になるモノはいかなる手段をもってしても排除します。

軽蔑、中傷、妨害……私はそういうのは基本的に無視しますが度が過ぎる場合は――私は決して容赦しません。たとえ、それが国家であってもです」

 

“おい……本気でそう言っているのか?”

 

「本気以外に何がありますか?幕僚長、あなたも私の性格を十分理解しているはずです」

 

彼は目を瞑るも、微笑しだした。

 

“……さすがは私の見込んだ男だ、全く恐れてない。君だけは敵に回したくないよ。

心配するな、私は君を裏切らん。援助については今まで通り私が何とかしてやるから”

 

早乙女から険が取れていつもの平常の表情に戻る。

 

「正直、私もあなたのご協力がなければここまで来ることは出来ませんでした。心から感謝をしております、そして先ほどの失礼に対してお詫び申し上げます」

 

“気にするな。私も君を嫌う政府役員を徹底的に監視するが君も周囲の人間に気をつけろよ。何か起こってからでは遅いんだからな”

 

「承知しております。それに自分の身は自分で守れないようではこれから先、恐竜帝国とは戦っていけませんよ」

 

 

“ふっ、どうやら君を心配する必要がないようだな。それでは――”

 

 

通信が切れて、画面が暗くなる。

早乙女は机に手を置いて一息ついたのだった――。

 

……午後。作業服に着替えた竜斗達は早乙女とマリアの元で、ゲッターロボ、SMBの構造、及び簡単な整備の教習を受けていた。

楽々と理解し作業がはかどる竜斗、苦戦するも必死でついていくエミリア、そして後ろでつまらなそうに眺めているだけの愛美――二時間後。

 

「よし、二十分休憩しようか」

 

早乙女からそう言われ、近くのベンチに一人ドサッと座り込む愛美。退屈からか大きな欠伸をする。

「……………」

 

ベンチで一人、ボーッとしている時、

 

「マナミちゃん、疲れたでしょ。はい」

マリアが笑顔で、キレイなタオルを差し出した。それを無言で受け取る愛美。

 

「おとなり、よろしいかしら?」

 

「……どうぞ」

 

そしてマリアも隣に座る。

 

「……マナミちゃん、この今の生活は慣れたの?」

 

「………………」

 

優しい声でそう尋ねられるも無言である。すると。

 

「ねえマナミちゃん?」

 

「……はい?」

 

「あなたっていつも、どういう学校生活を送ってたのかしら?」

 

「……どうしたんですかいきなり?」

 

「なんか気になっちゃってね。言いたくないのなら構わないわ」

 

すると、

 

「マナは……学校でクラスのたくさんの友達と教室でおしゃべりしてた。

テレビ番組のこととか週末の予定、服とかコスメの話とか、あとよくみんなで自分のカレシの自慢話をしてた。

学校が終わったら知り合いの車を乗り回して街で夜遅くまでカラオケとかファミレスで雑談したりとか――」

 

うって変わりペラペラと楽しく語りに語る彼女。

 

「あとね、クラスみんなマナに優しいの、なんか愛されてるってカンジ。

七夕の時なんか、織り姫とかけて「マナヒメ」と呼ばれたりね――」

 

「マナミちゃんってすごく人気者だったのね、羨ましいわ。ねえもしよかったら今度、あたしにも何かいい服とか化粧品教えてくれないかしら?」

「いいですよ、マナに任せといて!」

 

教習中のやる気なさそうな態度と違い、ハツラツとして満面の笑みで楽しいトークを交わす愛美、そしてマリア。

 

「マリアさんはマナと同じくらいの時はどうだったの?」

 

「えっ、聞きたいの?つまらなくなるかもしれないけど」

 

「うん!」

 

マリアは何故か照れくさそうな顔をとる。

 

「私の父は職業軍人、母は看護婦でね。幼い頃から結構厳しい教育を受けてたの。

礼儀、勉強、スポーツ、家事とか全部叩き込まれたわ。

親の期待に応えるために学生時代は真面目で勉強ばかりしてた――だからあなたがスクールライフを楽しんでいたことを聞くと羨ましいって――」

「へえっ。カレシとかいたんですか?」

 

「……いたけどある日、些細なことで大ケンカしちゃったの。

実は父から護身術も習っていて、彼氏が手を出してきたからムカってきてね、逆に彼氏をコテンパンにのしちゃったのよね……」

 

「え…………」

 

「結局それで別れるハメになって……それから私は反省したわ。本当の危険じゃない限りはもう手を出さないってね」

 

普段はまるで穏やかな彼女にこんな一面があったと知る愛美はふと、前に用具室で自分とエミリアがケンカした時に彼女はキレて怒号を張り上げていたの思い出すが、あの時、マリアにそれ以上の一線を踏み込まなくてよかったと思い知る。

 

「ところで初体験とかどうでしたか?気持ちよかったですか?」

 

「えっ………………初体験……」

 

恥じらいもなく『アレ』について尋ねてくる愛美。当然、マリアは戸惑い赤面するも、

 

「……初めては怖くて痛かったけど覚悟はしてたし相手が優しくしてくれたから自然に慣れた。絶頂は『スゴく幸せな気分』だったわね」

 

「そうなんだ。マナの場合は別に痛くなかった。むしろスゴく気持ちよくてすぐイった」

 

彼女は生まれつきそういう体質なのだろう。好きなのも頷ける。

 

「ここだけの話、最初は痛くて『早く終わってーーっ!』って何度も思ったけどね――」

「昔付き合ってたとあるヤツなんか『ゴムつけて』って言ったのに守らずに生のままヤろうとしたバカがいたの――凄くムカついたわ!」

 

「わかる、そういう無責任なセックスはやめてほしいわよね、私なら絶対に相手を拒否するわ――」

 

恐らく男性陣にはとてもではなく入り込める余地がない、思い切った下ネタ話で盛り上がる二人……。

愛美もそうだが、そしてこんなきわどい話に合わせてくれるマリアも本当に大した女性である。そして意外とノリノリであることも驚きだ。

「マリアさんっていつも早乙女さんと一緒にいるイメージありますけど、そんな関係にならないんですか?」

 

「司令はもうそういうのは興味ないって前言ったわね。外食とかは誘われても肉体的には全然ないわね」

 

「へえ。マリアさんは綺麗な人なのに手ぇ出してないなんてね、意外だわ」

 

「マナミちゃんはもしかしてそういうの期待してた?」

 

「だって面白いじゃない。『職場内の危険な恋』的な」

 

「…………」

 

雑談に盛り上がる最中、マリアはふと、こう切り出した。

 

「……マナミちゃんってやっぱり前の生活に戻りたい?」

 

「………………」

 

再び落ち込んだように俯く愛美にマリアが優しく肩に手を置いた。

 

「無理しなくてもいいの。もしイヤならはっきり言っていいのよ」

 

「マナ――」

 

これはチャンスだ。彼女に『うん』と言えばきっと何とかしてくれる。愛美は期待を込めて言おうとした――。

 

「水樹、マリアさん、はいジュース。早乙女司令のオゴリだよ」

 

「えっ……?」

 

タイミングが良いのか悪いのか、竜斗がペットボトルのジュースを二人に差し出した。

 

「あら、ありがとう。ほらマナミちゃんもどうぞ」

 

「あ、ありがとう……」

 

すると竜斗は愛美に対して唖然とした表情になる。

 

「なによ」

 

「いや……あの水樹がありがとうって言うなんて……っ」

 

「なによ、マナだってそれぐらい言えるわよ!!

それに勘違いしないでよね、あんたに言ってるんじゃないわ、早乙女さんに言ってるんだから……」

何故か、所謂『ツンデレ』のような言い方をする彼女に竜斗は可笑しくなり笑ってしまう。

 

「石川……あんたまたマナにいじめられたいみたいね?」

 

「ちょっ!!分かったからやめてくれよ!!」

 

……最初と比べて二人の人間関係が良くなってきている気がする。そう感じたマリアは感心し、まるで母のような穏やかな笑みを見せた。

 

 

――夕方。夕飯を終えた竜斗は部屋で休憩していると、ドアからノックする音が聞こえた。

出ると、そこには私服姿の黒田が立っていた。

 

「黒田一尉、どうしましたか?」

 

「今から俺と外出しないか?」

 

「えっ?」

突然の誘いに驚く竜斗だが、

 

「一佐に言って外出許可証をすでにもらってある。もしよければ」

 

「エミリアと水樹はどうしますか?」

 

「いや君だけだ。一度男同士でドライブしようかなって。別に変な意味はないから」

 

「よ、喜んで。今すぐ着替えます!!」

「焦らなくてもいいよ。俺は今から車取ってくるから地上の地下エレベーター入り口で待ち合わせしよう」

 

黒田と別れた竜斗は支度しすぐさま言われた場所へ向かった。

出入り口ドアを出て一分過ぎ、薄暗い道路の前から白く大きい乗用車が向かってくる。

ライトを点滅させているのを見るとこれが黒田の車のようだ。

すぐに助手席側に行くと窓が開き、やはり黒田が運転していた。

 

「お待たせ。助手席に座って」

 

「はい、お願いします」

 

乗り込むと黒田はポケットから外出許可証を取り出し彼に渡した。

 

「では行きますか」

駐屯地の門に行き、竜斗は外出許可証を見せて、黒田は手帳を見せると出発した。

 

「さあてと……竜斗、どうした?」

 

「あ、いや……」

 

見ると遠慮しているのかこぢんまりしているように見える。

「そんな気を使わなくていいよ」

 

「……はい。けど黒田一尉っていい車乗ってるんですね、この中もスゴいですし」

 

いい匂いのする芳香剤、綺麗に整頓されていて、所々に宝石のように青く光るLEDライトや追加モニターなどの様々な用品を見ると、凝っていることがわかる。

 

「いやあローンで買ったし追加オプションとかでもう借金だらけだよ」

 

「いくらしたんですか?」

 

「えっと……新品で買ったしオプション含めると六百万ぐらいかな?」

 

「六百万……」

 

大金だが1000万とかよりもなんとなく現実味のある金額である。

 

「もう夕ご飯は食べた?」

 

「はい、黒田一尉は?」

 

「いや、まだだけどハンバーガーか何か買うよ。

ところで竜斗、外に出たら一尉はつけなくていいよ。外に出たら俺も一般人だ

 

「あ……なら黒田『さん』で」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

……そして近くに立ち寄ったファーストフード店に立ち寄り、ドライブスルーでそれぞれハンバーガーセット、ジュースを買う黒田と竜斗。

 

「これもドライブの醍醐味」

 

「そうですね。黒田さんはいつもご飯とかどうしてるんですか?」

 

「俺は駐屯地外のアパート暮らしだから基本自炊してるよ。安上がりだし」

 

「自炊とかスゴいですね」

 

「いやあ、けど慣れるといいもんだよ、ハハ」

 

……何気ない雑談しながらドライブを楽しむ二人。

 

「竜斗って学校生活はどうだった?」

 

「学校生活……ですか?」

 

思い出すと愛美にイジメられたことも思い出し、複雑な表情を取る。それに気づいた黒田は慌てて謝った。

「あっ……確か君は水樹に……ゴメン!」

 

「いえ、もう大丈夫です。それ以外は……特に何もないです。

普通に授業を受けて、休み時間に友達と会話して、どこにでもある平凡な学校生活でしたね」

 

「……そんな君も早乙女一佐と出会ってそしてゲッターロボに乗ることになった」

 

「…………」

 

すると黒田は彼にこう質問する。

 

「なあ竜斗、君はやっぱり地元に戻りたいか?」

 

「…………えっ」

 

「別に答えづらいことじゃない。よく考えたら君達はワケのわからないまま、ここに連れてこられてメカザウルスと戦わされているんだからな……正直イヤだよね、俺だったら絶対に訴えるレベル」

 

「……僕の両親と友達については心配です」

 

彼は俯く。すると逆に、

 

「……黒田さんは怖くないんですか?」

 

「えっ、何が?」

 

「メカザウルスと戦うことです。

実は昨日、エミリアに言われたんです。『これから先、メカザウルスと戦って死ぬかもしれないのに怖くないのか』って。

その時、僕は『怖いけど自分が変われるかもしれないから――』と答えました。

黒田さんはどうなんですか?」

 

「………………」

 

彼は黙り込む。車はライトがなければ先など全く見えない夜の道路をどんどん進んでいく――すると。

 

「正直イヤだよ。突然あんな恐竜の化け物が現れて、SMBってロボット兵器に乗り込んで操縦して戦うっていう漫画みたいな展開、『夢を見ているのか、なら早く覚めてくれ』って何度思ったことか……けどそんな気持ちを殺してでもやるのが俺達軍人なんだ」

彼は一呼吸置いて、竜斗にこう語り出した。

 

「実は俺、朝霞の戦闘で君に助けられた時に『なんで生き残ったんだ』と思ったんだよね。

あの時部下のほとんどはヤツらに殺されて、俺も次かと一機でも倒して死ぬ思いだった。

そしてメカザウルスに不意打ちを受けてやられそうになった時ゲッターロボ、つまり君が俺を助けてくれた。

しかしあの時から俺は凄く死んだ部下に対して負い目を感じていたんだ、これじゃ申し訳立たないんじゃないかなって。

……これって指揮する人間は大体そう思うのかな、それとも俺の考えが甘いだけなのかな?

そう悩んでいた時に君達の話を聞いたり、教官として指導している内にさ、こう思ったんだよね。

『自分が生き残ることは君達が生き残ることに繋がるかもしれない』ってね」

 

「どういう……意味ですか?」

 

「これは俺の思い上がりだけどさ、君達がこれから先ゲッターロボに乗っていくんだったら、悪いけどまだ戦場で通じる戦い方ではない、つまり未熟ってこと。

君達は俺個人的に到達してほしいレベルにまだ行き着いてないし、俺自身もそれになるまで教えきってないってこと――」

 

「つまり黒田さんが生き残ることによってその分、僕達に操縦技術とかを指導してもらえる……」

 

「そうだ。そして君達が上達するということはその分自分達や俺、早乙女一佐やマリア助手、いや沢山の人々の命を救えるということになる」

 

……なるほど、これで利害一致しているというわけだ。

 

「実は一佐が言ってたけど、君達にはそういう才能と運を持ち合わせていて、訓練次第でまだまだ伸びる。

そして強力なゲッターロボを完全に乗りこなせれば本当に世界が救えるかもしれない。

しかし、さっきも言ったが君が元の生活に戻りたいのならそれはしょうがない、俺には強制することはできない、ただ一佐にそれについて僕から相談することはできるけどね」

 

「……その時はどうするんですか?」

 

「新たなパイロットを探してイチから教習させないといけなくなるな――その時は確実に自衛官が選ばれるな」

 

「……黒田さんはゲッターロボに乗りたくないんですか?」

「オレは……BEETの方がいいかな。確かにゲッターロボは操縦は簡単だけど、やっぱりBEETの方が個人的にしっくりくるよ」

 

彼が乗れば絶対ゲッターロボのポテンシャルを引き出せるだろう、もったいないと感じる竜斗。

 

「……なんか話がこじれちゃったな。悪いな竜斗、楽しいドライブ中にこんな話して」

 

「あ、大丈夫です……」

 

「話題変えよっか。ところで最近エミリアとどうだ?」

「エミリア……ですか?」

 

「君が前に医務室に運ばれた時があっただろ。実はあの時な――」

 

黒田はエミリアが話したことをそのまま彼に伝えた。

 

 

「……それ、外出の時であいつの真意を知りました、それで僕は完全に決めたんです、今度は俺が守る番だと――それをエミリアに伝えました」

 

「……それで?」

 

「それでって……えっ?それってどういうことですか……」

 

 

 

「君達は今、付き合ってるのかなって?恋人として」

 

「えっ……それは……」

 

口がごもってしまった竜斗。

 

「君達二人はなんか姉弟みたいな関係だから。

けど、もし恋人として付き合ってるって言うんなら……なんか違うんだよな……っ」

 

「違う…………?」

 

「う~ん……異性としてっていうかなんていうか……やっぱり、なんでもない。さっきの話はなかったことにして」

 

「黒田さん…………?」

 

何故か話を濁す黒田に妙な視線を送る竜斗。それに対して彼は気まずくなった。

「ま、まあ気にしないでくれ――あと、水樹だが……」

 

「水樹ですか?」

 

「最近さ、水樹とうまくいってる?チームメートとして」

 

「水樹とですか……?」

しかし竜斗はその質問に対し、悩んでしまう。

 

「……なんか絡みづらいっていうかなんて言うか……そもそも僕、アイツにイジメられてましたから、今は普通に話せますがやっぱり抵抗感がありますね……」

 

「……まあそうだよな」

 

突然、水樹についての話題に結局雰囲気は重くなる。

 

「一体どうしたんですか?」

 

「……いや、水樹と上手くやってるかなあって。オレもあのコがちょっと苦手でね……かわいいんだけど凄く高圧的っていうかなんていうか……」

 

「水樹は傍若無人ですからね……」

 

「それにさ、前の戦闘で水樹からいきなり「エッチしない?」って突然言われてさ、びっくりってレベルじゃなかったよ」

 

竜斗はそれを聞いてドン引きする。戦闘中にそんなことを言い出すなんで、ここまで来ると病気だろう、と彼は感じた。

 

「オレ、彼女いるのにそんなことしたら罪悪感で間違いなく潰されるよ」

 

「黒田さん……彼女がいるんですか?」

 

彼はそれを聞いて少し驚く。

 

「一つ年下の一般人のコでね、実はもう同棲してて、結婚する予定なんだ」

 

「け、結婚するんですか!?おめでとうございます!!」

 

竜斗に祝福されて黒田は顔を赤くし照れている。

 

「それで、いつ結婚するんですか?」

 

「この戦争が終わった後だよ。もう互いの両親には話はついてるし、後は安心して式を上げるだけだ」

 

 

「じゃあ僕達は黒田さんの為に今から頑張らないと……」

 

竜斗は決心した。彼が幸せになるためにこれからもゲッターロボに乗り、世界を救うことを……。

 

「ありがとうな竜斗。その気持ちだけでも凄く嬉しいよ」

 

彼は竜斗の頭を優しく撫でた……。

 

「竜斗もエミリアと結婚する気でいる?」

 

「…………」

 

竜斗も顔を赤くした。

 

「両想いで言うことなしだからな二人は。エミリアみたいな女の子を奥さんにできる君も幸せ者だな」

 

「いやあ……」

 

「ハハハ――」

 

――将来の幸せについて盛り上がる二人。

だが前の戦闘の敗北に、今以上に戦力を強化しはじめている恐竜帝国。

果たして人類としての未来を恐竜帝国から守り切ることはできるのか――。

 



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第十三話「地竜族のニオン」①

……一方、命からがら生きて戻ったラドラは、今では北極圏の恐竜帝国の本拠地マシーン・ランドに送還されていた。

二度の敗北という失態を犯した彼は中隊司令官という地位を剥奪されて、そして戦犯として基地内の囚人牢に投獄されていた――。

 

「うぬぅ……まさかゲッター線駆動の機体が三機存在とは……ぬかったわ」

 

玉座に座るゴールの機嫌は最悪であった。

 

「ラドラどころかあの新型メカザウルスすらも撃ち破られるなどと……っ」

 

ゴールはすぐさま側近を呼ぶと急いでやってくる。

 

「ゴール様、どうなさいましたか?」

 

「第十二恐竜中隊司令官ラドラの後任にあの者を使ってみようかと思う」

「と、申しますと?」

 

「地竜族のニオンという男だ」

 

「なんと!彼らは最底辺に位置する下民ですぞ。そんな地竜族に中隊を任せてよいものかどうか不安です」

 

「心配するな。ニオン、いや地竜族は元々そこらの平民、貴族よりも優秀な一族だ」

 

「しかし、ではなぜ彼らはあんな酷い扱いをされて……」

 

「先代帝王の話によれば地竜族には元々爬虫人類の中でもゲッター線などの宇宙線に耐性、あと他の爬虫人類にない謎の力を持っていてな。

それゆえ地竜族の殆どがプライドが高くて反抗的だ。

それゆえ彼らは忌み嫌われて、それに堪えきれず地竜族による反乱が過去に計画されていたらしくてな。寸前に計画を押さえて鎮圧させたが彼は頭脳が優れ、油断すれば本当に恐竜帝国そのものを乗っ取り、支配するやもしれん。

それを恐れた余の先祖が地竜族を平民より下の階級である下民に落としたと伝えられている」

 

「つまり彼らは罰を受けたと……」

 

「優れた能力を持っているのにその性分ゆえに哀れよのう。

そこで、もうこの際地竜族に光を与えようではないか。

無条件で彼らを解放し、そしてニオンが日本地区を制圧した暁に高待遇で迎えようと思う。

彼らは環境が劣悪な区域で長い間生活していて相当鬱憤が募っていると聞く。

これ以上放置しておくと本当に謀反を起こしかねない、それを防ぐことも兼ねてだ」

 

「なるほど」

 

「地竜族でもニオンは特に若いながら勇敢で統率力を持つ人物だと聞く。そこで奴に中隊司令を任せてみようと思う。では直ちにニオンをここに呼び寄せよ」

「かしこまりました。ところでゴール様」

 

「なんだ?」

 

「……ラドラ様についてですが、あの方はどうなるのですか――?」

 

「ラドラか……」

 

……基地内部の端にある薄暗い囚人牢の中で手錠と足輪に繋がれて静かにしている彼の元に、ゴーラがふと現れた。

 

「ラドラ様……」

 

「……ゴーラ様?」

まるで憐れんでいるように悲しそうな目で彼を見つめていた。

 

「……ここはゴーラ様のような方が来るところではありません。直ちに戻りなさい」

 

「しかし……」

 

「……私は自分勝手な行動から二度も人間に敗北してしまい、中隊司令官からも下ろされてしまった。私は恐らくゴール様の手によって処刑されることでしょう」

 

もはや諦めているのか無気力感が彼から漂っていた。

 

「元々貴族ではない我々一族が、それこそ血にまみれるような努力によってキャプテンの名を手に入れたという輝かしい栄光は、私で終わらせてしまうことになるとは……。

私はキャプテンという栄光と共に、のしかかる多大な重圧に負けた。現実を見ずに理想ばかり掲げた私が愚か者だっただけです」

すると黙り込んでいたゴーラは口を開く。

 

「……わたしはあなたのお父上であるリージ様の重圧に負けないように行ってきた誠実な努力を知っています。

大した努力をせずになれる貴族とは違い、自分の身体を無理させてまで手に入れたあなたの苦労を、誰もが理解しているハズです。

爬虫人類の中でもラドラ様、あなたにだけは私自分の本心を伝えれる方です。

諦めてはいけません、お父様にどうかあなたを復帰できるように説得してみます」

 

「…………」

 

「ラドラ様、リージ様が口癖のようにこうおっしゃってましたのを覚えてますか?

『どれだけ報われなかろうが努力だけは絶対に怠るな。成功した者はすべからく努力して、それを忘れない者だ』と。

ラドラ様、お願いですからそんな弱気な顔を私に見せないで下さい」

 

するとゴーラは鉄格子に触れて呟く。

 

「……ラドラ様は昔はよくわたしの遊び相手になってくれました。王族という身分上、他の同年代の子とのふれ合いなど許されなかったわたしに……」

 

「…………」

 

「あの頃はまだなんの悩みもなく楽しかった。

しかし今や我々は地上に這い上がり、お父様は地上の人々を全滅させんとまるでとりつかれたように……正直恐怖を感じます」

 

……涙ぐむ彼女は体震わせる。そして一呼吸をおいて呟いた。

 

「お父様のやり方に理解できないのです。

爬虫人類も地上人類も同じ地球に住む同種族ではないですか、地上人類は私達に何か危害を加えたのですか……?」

 

「…………」

 

俯き沈黙していた彼は首を上げて彼女の方へ見つめた。

「……私はなぜゴール様が地上人類を目の敵にするか、理由はすでに知っております」

 

「理由……それはなんでしょうか……?」

 

「……地上人類はゲッター線という特殊な宇宙線によってここまで進化を遂げた種族だからです」

 

「ゲッター線……?」

 

「ゴール様から何も聞いておりませんか?宇宙より微量に飛来する宇宙線の一種でそれは太古からすでに降り注いでいたと情報です」

 

「その宇宙線が我々となんの関係が……?」

 

「……実はその宇宙線、ゲッター線こそが我々爬虫人類をマントル層にまで追いやった元凶なのです――」

 

……ラドラの話によれば白亜紀末期。全地上を支配していた爬虫人類に突然の災厄が襲った。

そう、ゲッター線が大量に地球へと降り注がれた時期があった。

元々皮膚が弱く敏感な爬虫類は、まるで放射能による被爆を受けたかのように全身を汚染されて、もがき苦しみ、そして皮膚がただれて醜い姿になって凄い勢いで次々と死んでいったのだった。

対策がなく次々に同胞が倒れていき、これ以上、爬虫人類は地上に住めないことを悟り、持てる全科学力を結集し、地下に逃げるために基地『マシーン・ランド』を建設、そしてゲッター線の影響を受けない地球の底に潜っていった。

我々爬虫人類が再び地上に帰れることを信じて――それから爬虫人類は地上から姿を消した。

しかし、そのゲッター線の恩恵を受けた種族がいた。

それが地上人類である。只の何の力も持たない祖先、いわゆる霊長類が突然ゲッター線が降り注がれた直後から驚くようなスピードで進化していった。

そして気が遠くなるような年月を経て、地上人類は本当の意味で地上全てを支配するような知能と力をつけた――それを知ったゴーラは驚愕した。

 

「……地上人類はそのゲッター線という宇宙線によってここまで進化したというのですか……」

 

「という風に聞いております。しかしゲッター線は我々でもまだ未知数すぎる宇宙線で謎が多いのです」

 

「では……お父様が地上の人々を嫌う理由も」

 

「そうです。悪気はなくとも我々爬虫人類は天敵のゲッター線で進化したそんな地上人類を理解し、そして快く受け入れると思いますか?」

 

「…………」

 

彼女の心は葛藤した。確かに我々爬虫人類からすれば不快な話である。

 

「……けど、だからと言って問答無用に殲滅するのはあまりにも酷いと――」

 

「ゴール様だけではない、大半の爬虫人類は地上人類に対して不快感を抱いているのです。

残念ながらゴーラ様が一人訴えようと何も変わらないのが現実です。それに――」

 

「それに……?」

「人間はついにそのゲッター線を自分達のエネルギー動力として手に入れてしまいました。

爬虫人類にとってはまさに害虫、脅威の存在と化したとも言えるでしょう」

 

「……何も反論できません。今のわたしはただの井の中の蛙、何も行動出来ない自分が憎いです……」

 

「……」

 

しばらく沈黙する二人――。

 

「そういえば――」

 

ラドラは先日の戦闘であった『あの事』について話した。

 

「それは……どういうことですか……?」

 

「私には地上人類の言葉を理解出来なかったがあの悲しそうな表情と叫びを聞くと……もしかすると私達と戦いたくないと言っていたのかも――」

 

ゴーラはその事実に驚きと、少しの希望か何かが芽生えた。

 

「ど、どういうお方でしたか!?」

 

「若い男です。恐らくゴーラ様とあまり歳が離れてないようにも思えた」

 

ゴーラは思わず息を飲む。

 

「わたし達の望みが絶たれたワケではないのですね、地上の人々にもそう考える人がいると分かっただけでも本当に嬉しいです!私もその人に会って話がしたい、そうすれば何かしら解決策が生まれるかもしれません!」

 

「しかしゴーラ様、そんなことをすればスパイ行為で反逆罪となり、いくら王女のあなたでも下手をすれば死罪になります。

それに言葉が通じないのにどうやって……」

 

「それは……言語に関してはガレリー様に頼んで翻訳機を作成してもらえば……」

 

「そもそもここからどうやって地上へ?誰もそんなことは絶対に許してくれませんよ……」

 

「……………」

 

結局振り出しに戻り、意気消沈する二人――。

 

一方、玉座の間にてゴールの元に現れたひとりの爬虫人類の青年。透き通るような銀の長髪、端正の整った顔立ち。水色の肌の色、眉間の左右から触手がある以外は人間の、しかも美男の人物。

しかし服はボロボロの布切れを着ていて清潔さも何もない――。

 

「お前がニオンか」

 

「…………」

 

ニオン=ヴォルテクス……彼は無言でギラっとした、憎しみと怒りの籠もった瞳をゴールに向かってぶつけていた。

 

「まあそんなに憎しみを込めた眼をするな。

ここに呼んだ理由を言おう、ニオンに第十二恐竜中隊の司令官を任せたい」

 

ニオンはその言葉に多少だが反応した。

 

「前任がやらかした度重なる失態をそなたに埋めてほしくてな、聞けばお前は地竜族でも優れた人物だそうではないか」

 

黙っていたニオンが口を開いた。

 

「……突然どういうことですか。

我々地竜族は過酷な労働をさせられて日の当たる暮らしすら許されなかった一族。

ほとんど暗闇で、そして淀んだ空気を吸いながら生きてきた。しかしそれが原因で我々の同胞が次々に病気に冒されて、苦しみながら死んでいった。

そんな状況にも関わらず、あなた達は何もしてくれなかった……っ!」

 

両拳を握りしめて歯軋りを立てる彼からは凄まじい怒りと憎しみの入り混じった恐ろしい念を放っていた。

 

「お前達にはこれまで本当に申し訳ないことをした。もう過去からのしがらみをとりたいと思い、地竜族を解放する。

そしてそなたに日本地区の制圧を行ってほしい。それが成功した暁には地竜族全員を貴族化させてやろうと思う」

 

「……信じられませんね。なぜそういうことを突然に?」

 

「信じるか信じまいかはお前の勝手だ。だがここで機会を逃せばこれからずっとお前達は何も変わらないままだ。

そう、わしは地竜族のために光を与えたのに、お前は不信とそのつまらん意地で自ら消すことになるのだぞ」

 

「…………っ!」

 

「さあどうするのだ。やるのか、やらないのか、どっちだ!!」

「……分かりました。では本当に我々を解放してくださるのですね?」

 

「疑い深いヤツだな。わしは嘘は言わん、現にわしは丸腰でお前と対面しているではないか。それにわしとお前の二人以外誰もいないこの場でわしを殺して政権を握ろうと思えば今すぐにでもできるはずだ、違うか?」

 

 

 

ゴールの何も恐れる不動の姿勢と態度から絶対的な自信が感じ取れた。

 

「……申し訳ございませんでした。私はあなたを信じます」

 

「それでよい、わしもこんな忌々しい過去から楽になりたいと思ってな。今まで本当に辛かったな、ニオン」

 

「……はいっ」

「よし。さらなる栄光を保証されたければ与えられた任務を遂行しろ。

必ずや日本地区を制圧させてほしい、あの汚い猿どもから地上を奪い返すのだ!!」

 

「承知しました!」

 

「向こうに連絡をとっておく、明日出発してくれ。

……ニオンよ。お前が地竜族ということで、恐らく周りから冷たい目で見られることになるかもしれんが、そこは我慢してくれ。

ただし、もしもお前を亡き者にしようとするような輩が現れたら直ちに連絡しろ、そんな奴は処刑してやる」

 

「そこまで気を使ってくれるとは……ありがとうございます。

周りから何を思われようが、言われようが慣れてますから心配無用です」

 

「そなたは偉いな。よし、では頼んだぞ」

 

……ゴールとの会話を終えたニオンは、身支度に自分のいた区域に戻っていく。

その途中、通りかかった兵士から軽蔑の目を向けられたり、彼の背を見てはひそひそと呟かれるも彼は言った通り気にせず平然と歩いていった。

 

(今に見てろ。絶対に我が地竜族は貴様らの上に立って見返してやるからな。そして今まで受けたこの苦しみをこれでもかというほどに味あわせてやる!!)

――そう、心の内に秘めていたのだった。

 



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第十三話「地竜族のニオン」②

日本海沖。石川県能登半島から上、中国大陸寄りの位置。

その遥か海底にとてつもない巨大な魚が潜んでいた。

その姿はあの生きた化石と称される『シーラカンス』と酷似している。

しかしその身体は有機的ではない、水圧に耐えるほどの硬い金属で造られた装甲に覆われた無機質だ。

そしてそのぎらついた眼から明るいライトを放っている。

 

――第十三海竜中隊潜水母艦『ジュラ・ノービス』。

全長六百七十メートル。ベルクラスより大きく、海底において圧倒的な存在感を放っている。

 

――内部の司令部、多数の爬虫人類が各配置につきコンピューターを凝視、操作している。

そしてその中央には蒼い鱗に覆われた身体、ヒレと尾ビレのついた、所謂半魚人。爬虫人類とは異なる姿の厳格そうな壮年の男が腕を組んで立っていた。

 

「アウネラ様、約束の時間まであと一時間後です」

 

「ああ、第十二恐竜中隊の補給潜水艇と合流次第素早く補給物資を授与する。それまでこの周辺を十分警戒せよ」

 

――彼はアウネラ=ド=アークェイル。

キャプテンであり、このジュラ・ノービスの艦長、そして第十三海竜中隊総司令官であり、これでもれっきとした爬虫人類である。

 

「そう言えばアウネラ様、聞きましたか?今日着任する第十二恐竜中隊総司令官の後任について――」

「………………」

 

「あの薄汚い地竜族ですよ。なんでまたゴール様は……」

 

副司令官で彼と同じ半魚人のキャプテン、アウロ=ジ=ジルホルゴは嫌悪感丸出しな表情で話す。

そう、ニオンのことである。

 

「口を慎めアウロ、これ以上はゴール様の人選能力を疑うことになる。あの方のお考えのあってのことだろう」

 

「申し訳ございません。しかしアウネラ様ご自身は地竜族なぞに司令官を務まると思いますか?

個人的に平民出のドェルフィニ家のラドラに任せたのも遺憾だったのですがね――」

 

「仮にも向こうが頼りないのなら私達海竜中隊がその分を補えばいい話だ、違うか?」

「は、はあ……」

 

 

「……まあその気持ちは分からんでもない。向こうは二度も敗北をしている――ゴール様も痺れを切らすのもわかるがな」

 

アウネラは前にある手すりをスリスリ撫でる。まるで愛着があるかの如く。

 

「このジュラ・ノービスも退役寸前か……寂しいものだな」

 

「新型艦は確か3ヶ月後に受領ですね。

旧式艦のこいつも色々と無理してきたからあちこちガタが来てます。けどよく頑張ったものですよ」

 

「ああ……そうだな」

 

長い間共にあったこの母艦に別れが近くなっていることに、アウネラやアウロ、イヤ海竜中隊全員が寂しさを感じていた。

 

「さて、私語は慎んで今やるべきことに集中するぞ。いいな!」

 

 

――第十二恐竜中隊地下基地にたった今到着した、白銀の鎧に赤いマントを着込んだニオンはすぐさま案内係に連れられて中隊内部を案内される。

 

「…………」

 

その途中である。マシーン・ランドにいた時のように周りの兵士から軽蔑、嫌悪の混じった冷たい視線、そして恐らく悪口などのひそひそ話が彼に次々と突き刺さる。

 

「……お気になさらないでくださいニオン様。最近負け戦でして我々の士気が低下してますので――」

 

「……分かっている。前任のラドラが失態続きだったと聞いている」

 

「はあ……凄く優しいお方だったのですがね、まだ若さゆえの過ちということで……」

 

「言い訳にならないな。優しいヤツだろうがなんだろうが結局は結果が全てだ。私はラドラのようなヘマは犯さん!」

 

……そして中隊司令室へ案内されるニオン。

 

「ではニオン様、荷物の整理をお願いします」

 

案内係と別れて、彼が持ってきた荷物を入れる。しかし入る否や、彼の立ち止まり辺りを見渡した。

……何があったのだろうか。ゴミや本、資料などが無秩序に床に散乱かっている。

彼は一瞬、前任のラドラは全く掃除などしなかったのかと考えたが……いや違う。ラドラがどんな人物だったかにしても、そもそも司令官の部屋などのお偉い方の使う部屋は必ず綺麗に保つのは爬虫人類でも常識である。

しかしこの有り様は……ニオンは何かに感づいた――。

 

彼は一人で黙々とこの酷い部屋を掃除し、鎧を脱いで片付いた所で一息ついて中央のイスに座り込んだ。

 

「!?」

 

尻に湿り気と「ニチャ」とした変な感触が彼を襲う。彼は急いで立ち上がると椅子に、接着剤ではないが粘着性の高い液体が塗られていたことが分かる。そして生臭いニオイのすることからどうやら体液か何かのようなものだ。

 

(……まさか!)

 

彼はデスクの引き出しを開けた。

 

「…………っ!」

 

生臭く、そしてネバネバした液体で溢れかえっており、中の資料などはもはや使い物にならなくなっている。

 

そしてデスク上には爬虫人類の言語で『死ね』やら『地竜族野郎』など様々な悪口や中傷が書かれているのにも気づいた。

 

――彼は確信した。

 

これは自分に対する、地竜族に対する『嫌がらせ』であると……。

 

(恐らくこれはまだ『洗礼』に過ぎない。常に身のまわりを警戒していなくては……下手をすれば本気で殺しにかかられるやもしれん……にしてもここのヤツらはまったく低俗極まりないことをするもんだ、ガキ同然だっ)

 

……約一時間かけてやっと部屋を元通りに戻したニオンはこの基地内で各隊長や役員へ挨拶をしに外に出る。

本音では彼自身はここから出たくない。

『地竜族』と言うだけで酷い差別、扱いを受け、そして身内などいない今の状況で四面楚歌状態だ。出ればここの人間によって妨害を受ける可能性が十分考えられる。が、今はこの中隊司令官である身、今からお世話になる(かどうか分からないが)関係者に挨拶しないのも失礼だ。

気を引き締めて部屋から出で、長い通路を歩いていく。

その途中、彼の額にある触角がピクッと反応する。

 

(近くに何かいる……それも嫌な感じだ)

 

気を張りつめながら歩いていた……その時、

 

「ぐっ!」

 

突如、天井から何か大男のようなものが落ちるとそれは、すかさずニオンを背後から掴んで口をぐっと抑える。さすがの彼もその体躯から発する怪力によってがっちり固められて身動き取れない。

そして前後方向から多数の恐竜兵士が現れて手の指関節をパキパキならす。

彼はそのまま近くの部屋に連れ込まれてしまう。真っ暗で辺りは何も見えない……。

 

(こいつらまさか……っ!!)

 

その瞬間、抑えられていた彼は放されたと同時に腹部に鈍く重い打撃が加えられた。

あまりの痛みに彼は膝をつく、しかし更なる打撃が四方八方から襲いかかる。

 

彼は終わりがない殴る、蹴るなどの暴力を受け一分後、この部屋の明かりが入る。

 

 

 

そこには身体中に暴力の受けた傷が無惨にも残り、倒れ伏せるニオンと、事が済んで満足げな表情を取るこの中隊の兵士達が取り囲んでいた。

 

「おい、水だ」

 

近くの兵士が持ってきた水入りのバケツを気絶していたニオンにぶちまけて無理やり起こした。

恐らく集団のリーダーと思われる近くの兵士が彼の髪を掴んで乱暴に引き上げた。

 

「あんたか、俺達の新しい司令官てのは?」

 

「…………」

 

「『地竜族』なんだってな。それにラドラ様より若い奴が俺達のお上になるとはな」

 

「だ、だからなんだ……!」

 

「誰が地竜族なんぞの傘下に入るかよ」

 

「……キサマ……私は仮にもここの中隊司令官に任命された男だぞ。こんなマネしていいとでも――」

 

すると、

 

「あ?ああ、そうだな。司令官がキャプテンなら絶対にこんなことをしねえさ。だがな『地竜族』なら話は別だ。

それにあんたはキャプテンの称号すら持ってねえんだろ、そんなヤツに命令される俺らの身にもなれや」

 

「……私はゴール様直々に任命された。お前達はそのゴール様に刃向かうことになるんだぞ……」

 

「心配するなよ。建て前上は従うよ、建て前上はな。だがな覚えとけ、ここにはお前を慕うヤツなぞ誰もいねえよ」

 

「………………」

だが、突然ニオンは周りに対し微笑したのだった。

 

「……ここのヤツらは全く大したことはなさそうだ。

地上人類に二度も敗北したと聞いたが、もしかすれば前任のラドラだけでなく低俗で卑怯で薄汚いお前達にも原因があるのかもな……!」

 

「…………!」

 

瞬間、この兵士は彼の顔を全力で床にたたきつけた。動かなくなったニオンにこの兵士は唾を吐きかけた。

 

「さすがは地竜族、その高圧的な態度だけは天下一品だな。

だが気をつけな、いつでもあんたを『不慮の事故死』として闇に葬り去ることも可能だってことをな……まだまだ先にあるんだ。

せいぜい楽しみにしてな、あんたをボロボロにしてやるからよ」

 

 

 

そして全員は倒れ伏せる彼を置き去りにしていなくなった。

それからすぐ、ひとりの人物が急いでこの部屋に入ってきた。

 

「あちゃあ……っこりゃあヒドい」

 

爬虫人類特有の緑の鱗で覆われているがその勝ち気の高い声と爬虫類とは思えない美しい容姿を持つ女性である。

彼女はすぐさま彼を抱き起こし、揺らした。すると気絶していた彼の目が開いた。

 

「……目覚めたか。大丈夫?」

 

「…………っ?」

 

彼はとっさにこの女性を振りほどき、フラフラながらも自ら立ち上がろうとした。

 

「ほら、無理すんじゃないよ」

 

「さ、さわるな……!」

 

しかし彼は相当弱っており、足がよろけて壁に寄りかかった。

 

「ほら言わんこっちゃない。アタイが肩貸してやるから」

 

女性はニオンの腕を肩に通して持ち上げる。

 

「アタイの部屋で治療してあげる、今は医務室に行くよりその方が安全だよ」

 

「…………」

 

彼女はドアから顔を出して誰もいないか確認すると、ニオンを連れてさっさと出て行く。

 

――そして部屋に辿り着き、自分のベッドに彼を寝かしてどこからか救急箱を持ち出して、治療を始める。

 

「……あんたが新しいここの司令官だね?アタイはレーヴェ=イークァての。よろしくね」

 

手慣れた手つきで傷薬を塗り、絆創膏を貼っていく。

 

「……なぜ私を助ける?」

 

彼にそう質問された彼女は平然とこう答えた。

 

「見てられなかったからさ。アタイはこうなることは大体分かってたよ、地竜族が来ると知った時から」

 

「………………」

 

「バカなヤツらだよ全く。男のくせにこんな集団でよってたかっていじめるなんて、爬虫人類の恥と思うねアタイは。

なにさ地竜族だってアタイ達と同じ爬虫人類なのにね」

 

「………………」

 

ニオンは彼女の発言にポカーンとなった。

 

「ん……どうした?」

 

「なんでもない……っ」

 

「まあここの兵士は皆、地上人類との戦いで負け続けてるから気が立っているのは分からないこともないよ。

ヤツらゲッター線を使うようになってからホント驚異的に強くなった気がするよ」

 

「…………」

 

「さて、これで終わりっと」

 

治療が終わるとニオンは立ち上がる。

 

「……すまない、礼をいう」

 

「いいってこと。当たり前のことをしただけだから…………ん?どうしたの?」

 

彼自身、何故か何とも言えない表情をしていた。どちらかと言えば困ったような表情だ。

 

「いや……こんな親切を受けるのは地竜族以外で生まれて初めてだから……」

 

「…………」

 

恐らく地竜族とは自分が想像する以上に悲惨な扱いをされてきたのだろう――レーヴェはそう察していた。

 

「えっと名前は?」

「ニオンだ。ニオン=ヴォルテクス」

 

「ニオンかあ、カッコいい名前。顔もいいしあんたモテそうだね」

 

「……おい、お世辞にしか聞こえんぞ」

「アタイは嘘は言わないさ。素直になりなよ、本当は嬉しいクセに」」

 

「……なっ!」

 

からかう彼女に対し、カッと顔が赤くなるニオン。しかし彼女は調子に乗り始め、

 

「今度の新しい司令官サマはなんてカワイイのかしら♪

いつでもこのレーヴェお姉さんに甘えていいですのよ、ニオンちゃん♪」

 

冗談か本気か、突然色気づいてギュッと抱きつく彼女についに、

 

「い、いい加減にしろっ!!!」

 

頭に来た彼は振りほどき、すぐに部屋から出て行こうとドアについた時、レーヴェは笑いながらこう言った。

 

「ごめんごめん、つい調子に乗っちゃって。

けどさ、ホントに耐えられなくなったらアタイに頼っていいんだよ、アタイは差別しないからさ」

 

「……それはありがたいが、確かレーヴェと言ったな。

お前、もう少し上に対する口の聞き方と態度に気をつけた方がいいぞ。これでも私は司令官の身だ」

 

「『そうでした。すいませんでした、司令官!!』ってこれでいい?」

 

「…………っ!」

 

……彼はすぐに部屋から出て行ってしまった。

 

(ニオンね……フフ、歳に似合わず堅そうだけどこれから面白そうね)

 

彼女はなぜか微笑んでいた。

 

(……私はこれから本当にここでやっていけるのだろうか?)

 

ズカズカと歩いていたニオンは頭の中がもやもやし、そして不安を感じていた。

 

(あのレーヴェって女はスゴく下品だ……だが今までの爬虫人類より何だろう……イヤな感じはしなかった。変わった女だな――)

 

彼女の部屋があった方へ振り向き、そう感じた。

 



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第十三話「地竜族のニオン」③

――次の日、大雪山地下基地にてニオンの司令官の着任式が行われていた。

 

「私は本日より、第十二恐竜中隊総司令官であったラドラ=ドェルフィニに変わって新任したニオン=ヴォルテクスである!」

 

台に上り、物怖じせずに声を張り上げて演説する彼は若いながら大したものだ。

一方、その下で縦列に並んでいる多数の兵士の『聞く耳もたない』とすぐに分かる顔の表情ばかりあった。

 

「皆も知っての通り、私は――地竜族である。

私自身に対して不快に思う者もいるだろうが、そんな私が司令官に任命されたのは事実であり、それを受け入れてほしい、そして私も諸君らに貢献するように必死に努力するつもりだ。

そして私に対して気にくわない者はせめて真正面から気にくわないと言ってもらいたい。

昨日、色々と陰湿な嫌がらせなどを受けたがそういうひねくれたガキのような行為をされるくらいなら直接言ってくれたほうがましである。

最後に、我々『爬虫人類』が誇り高き種族であることを再認識させてほしいと思う、以上――」

 

台から降りて定位置につくニオン。しかし、彼は額の触手が反応しすぐさま前を見る。

無数の偏見と軽蔑、そして殺気のこもった兵士達の視線が全て自分に向いていることに気づく。

 

「………………」

 

ニオンは分かっていた。

しかし彼は前から向き合い、今でもその場から離れたいくらいの辛い重圧を受け入れていた――。

 

……着任式が終わり、彼一人司令室に戻ろうとした時、

 

「ヤッホ、ニオン……じゃなかった新しい司令官!」

 

目の前に現れたのは太陽のような明るい笑顔をした、昨日彼を助けてくれたここの女兵士、レーヴェだ。

 

「……あんたか」

 

「着任おめでとうございます。これからどうぞよろしくお願いします」

 

ニオンは辺りをキョロキョロ見回して誰もいないことを確認し、ため息をつく。

 

「……自分自身、堅苦しく感じないか?普通に喋れ」

 

「うん……なら。ニオン、おめでとう!!」

 

 

 

馴れ馴れしいのはともかく、今までの爬虫人類と比べて、地竜族の自分に接してくる彼女に逆にニオン自身は警戒心を強く抱いていた。

 

『何が狙いだ?』

 

こればかり頭の中に駆け巡っていた。

 

「ニオン……あんたはこれから辛いことばかりになるだろうけどめげずに頑張るんだよ。

もし困ったことがあったらアタイもできる限り協力するから、それじゃあね」

 

レーヴェは去っていく。彼女の後ろ姿をただ黙って見つめるニオン……しかしその目に猜疑心がこもっていた。

司令室に戻り、イスにドサッと座り込み、上を見上げて溜め息をつく。

 

(……辛いことか……だがそんなもの、我々地竜族がこれまで受けてきた境遇に比べればまだ楽なものだ。

今頃仲間は解放されているだろうし、それにここで頑張れば我々にさらにいい待遇を受けてもらえる……そう思えば、これからの苦労など安いものだ、きっと……ククッ)

 

彼は気合いを入れて早速仕事に取りかかる。

まずはデスク上のコンピューターを使って、この中隊についてのデータを確認する。

今までの出来事、中隊の戦歴、各メカザウルス、メカエイビス、そして今ここに駐在する部隊と各兵士の数と個人詳細……。

 

「ん……こいつは……」

 

彼は兵士の詳細を確認しているとある二人の人物に目をつける。

一人目は自分に優しくしてくれる彼女、レーヴェだ。

 

「レーヴェ=イークァ……ほう、衛生兵か。なるほど、傷の手当てがうまいはずだ」

 

彼は納得し頷く。そしてもう一人とは。

 

「エーゲイ=ラ=アルゼオラ……こいつは――」

 

見覚えのある顔。昨日、自分にリンチをかけた集団のリーダーである。

 

「貴族で次期キャプテン候補の一人……要注意人物か」

 

苦虫を噛み潰した表情ですぐさま別のデータを移る。

この中隊基地の全体のデータに目を通すと、とある表示に彼の手を止めた。

 

 

 

「第十二恐竜中隊最終兵器……ダイ……だと?」

 

そう表示されたデータに興味を持ち、すぐさまアクセスしようとするが、機密なのかロックがかかっており開けない。

しかし気になって仕方のない彼は、司令室の資料を調べ、どうにかしてそのロックを解くパスワードを探すが全く見つからなかった。

 

……恐らく最終兵器というからにはとてつもなく強大な代物なのあろうが、それゆえに悪用されないためにトップシークレットな存在なのだろう……ということはこのロックを解け、いや存在を知る人間はごく少数だろう――。

 

……一通り見通した彼は次に、各施設の視察を開始する。

一人で行くのは危険と考えた彼は案内係を呼ぶ。

 

……やはりすれ違う殆どの兵士は彼に対してまるで汚物を見るような視線で見てくる。しかし彼にとってそういうのは慣れており、むしろ堂々とした態度で通路を歩いていく。

メカザウルス、メカエイビスの格納庫、兵士の武器庫……彼は気づいた。機体数が少ないことに。

ゲッターロボとの戦闘で多数破壊されており、それに伴い何割かの兵士やキャプテンがすでに戦死を遂げている。

そして、その補充が追いついていないことが分かった。

 

(ふむ……これで戦闘になれば敗北は必須。よし後で本隊に連絡し、少し機体や物資、そして兵士の補充を回してもらうよう要請してみるか……)

 

だがその時、真上から大量の水が彼へ降りかかった。

全身びしょびしょになった彼はとっさに真上へ見上げると、ちょうど鉄橋があるが誰もいない……しかしそこに誰かいたのは確かだ。

 

「…………」

 

司令官としての立場から見ればこれは侮辱に値する行為だが、誰の仕業が分からなければ処罰のしようがない……彼はやむを得ず無視をしてその場から去っていった。

次に彼が向かった先は各機パイロット、歩兵、砲兵のいる各攻撃小隊、偵察、補給、通信、整備などのいる部隊兵所。

しかしここで待っていたのは、自分を司令官どころか人間扱いしていなさそうな態度と視線である。

 

挙げ句の果てに去ろうとして背を向けた時、ゴミか何かを投げつけられたこともあった。

しかし彼はひたすら無視を続ける。

 

そして次に立ち寄ったのは衛生兵所。入ると目の前には救急道具を整理するレーヴェと他の姿が。

彼女も彼に気づき、ウインクでアイコンタクトを取る。

彼はムッとした顔をすると彼女は「しまった」と視線をそらす。

 

大体、基地内を見回り司令室に戻ると北極圏、つまり本隊であるマシーン・ランドに連絡を取る。

そして戦力の補充についての旨を伝え、終わるとイスに背もたれた。

 

(……にしても、とりあえず色々と見回ったが、データ上にあった最終兵器『ダイ』というシロモノがあるとは感じなかった……どういうことだ?)

 

コンピューター内に記載された、謎の最終兵器について彼の頭の内を駆けめぐっていた。

格納庫を見回っても従来の機体ばかりでこれといった特別の外見を持つ機体は見られなかった。

そもそもこの『ダイ』と言うのはメカザウルスなのか、エイビスなのか、はたまた水爆のような戦略兵器なのか、それすらも検討がつかない、考えれば考えるほどモヤモヤが募るばかりだ。

 

(まあ……それもいずれ知ることになるかもしれんし、それでも情報を掴めないのなら、ガレリー様にでも聞いてみるか……)

 

彼はため息をつく――が。

 

「…………!」

 

彼の触角が右前奥の資料が並んだ戸棚の隅に違和感を感じてビクっと反応、とっさにそこから離れた。

同時に何かが凄まじいスピードで彼のいた軌道上を通過し後ろの壁を突き刺さったのだ。そこには鉛筆サイズの矢が突き刺さっており、戸棚へ向かい調べるとそこには矢の発射装置が巧みに取り付けられていた。

さすがの彼も思わず血の気が引き唾を飲む……。

 

ここの奴らは本気だ……命がいくらあっても足りないと一瞬感じた彼はゴールにそのことを報告しようとも考えたが、彼は実行しなかった。

 

 

(落ち着け……考えたら、こんなことでゴール様に連絡するのはさすがに失礼か……それに泣きつくのは地竜族の誇りを汚す行為だ……くそっ)

 

自意識と誇りの高さゆえに結局、泣き寝入りするしかなかった――。

 

……夕食時。側近を連れて基地内の食堂に行き、一瞬も気を緩まさず列に並ぶ。トレー上の皿に料理を盛る。

爬虫人類は虫や肉が主食であり、恐らく地上人類にはおぞましく感じるであろう、ミミズや昆虫をミートしたような不気味なものだ。

司令官や副司令官などの上官クラスの席と、キャプテン含めた一般兵士達の席は別々であり、ニオン達は当然その上官の席へ行こうとする――。

 

しかし突然前からすれ違った隊員に不意打ちに足払いをくらわされて前に転ばされてしまった。当然、トレイも皿に持った料理やスープなども床にぶちまけてしまう。

そんな目に遭ったニオンを周りから囁くような卑しい笑い声が聞こえる。

ニオンはとっさに振り向くとそこに立っていたのは自分が要注意人物と目をつけていた男、エーゲイである。

 

「キサマ…………っ!」

 

「クックック……ほら、早くどかねえとみんなの邪魔だぜ、司令官さんよぉ」

 

エーゲイは下品な笑みを浮かべ、そのまま彼から立ち去っていった。

 

「………………」

 

しかしニオンにそれでも耐える。今まで過酷な状況、扱いされながらも耐えながら生きてきたのもあって、元から我慢強いのだろう。

寧ろ、彼は逆にこんな陰険な嫌がらせをする彼らに対して、『自分より遥かに劣るクズども。その内立場を逆転させてやるからな』と、見下していた。

そうすることで彼は内に溜まる怒りやストレスをねじ曲げていた――。

しかし、ほぼ敵だらけのこの基地内で絶対に気が休まることのないのも事実、このままでは近い内に気が狂うのは確実である。

 

――色々あったが何とか食事が終わり、司令室に戻るとイスに座り込む……前に、また変な液体などが塗られてないか、そして何もワナが仕掛けられてないか確認する。

 

 

 

何もされてないことが分かると安心してイスにドサッと座り込む。

大きなため息をつき、そのやつれた顔を見ると凄く疲れているのがよく分かる。

 

(とはいうも……これからずっとこんな毎日が続くのか……)

 

流石のニオンも少し気が滅入っていた。

その時、突然入り口ドアをコンコンとノックする音が。

彼はまた嫌がらせかと思い、一度は無視をする。

だが何度もノックが続く、が彼も意地を張って無視をする。

すると、

 

「司令官……司令官……」

 

小さな声だが聞き覚えのある女性の声……彼はハッとしてすぐに出るとレーヴェが立っていた。

 

「れ、レーヴェか……」

 

「ニ……司令官、いるなら返事をしてくださいよ」

 

顔をプンプンさせる彼女。

 

「……またここの奴らの嫌がらせかと思ってな」

 

「まあ仕方ないね。みんなあんたを目の敵にしてんだから……」

 

「……とにかく中に入れ。お前も私と一緒にいたら奴らに何かされるんじゃないのか?」

 

「気にしないでよ、何もされないって!」

 

「と、とにかく入れ!」

 

無理やり連れ込み、鍵をかける。

彼はすぐさま、中央のソファーに彼女を座らせて、自分も対面する形で座り込む。

 

「で、一体何のようだ?」

 

「いや、食堂でまた何かあったみたいだから心配になっちゃって」

 

「………………」

 

するとニオンは一呼吸置いて、レーヴェにこう尋ねた。

 

「なあレーヴェ、あんたは何を企んでるんだ?」

 

「え?」

 

「あんたのその、私に対して親身な接し方に凄く疑問なんだ。

私が誰もが嫌がる『地竜族』だと知ってるだろ。なんだ、私を油断させて陥れようとしているのか?」

 

「…………………」

 

「なんで黙るんだ。正当の理由があるなら言えるハズだろ?

言えないのならそうだったということになるぞ」

 

黙りこんでいた彼女は口を開く。

 

「……別に陥れようなんて思っちゃいないよ。ただ心配なだけで……」

 

「だから私はその心配する理由を聞いてるんだ。

そもそもあんた、私となんの関係があるんだ?」

 

 

 

「じゃあ仮に何か企んでるとしたら、司令官はアタイをどうします?」

 

「いや、だからと言って別に何も処罰を与えないし、そうする気もない。

寧ろ、正直に言ってくれた方が私もまだ納得できる」

 

それを聞いて彼女は

「……ニオンってアタイより若いのに強いね」

 

「なに?」

 

「今日でこんなに嫌がらせされてさ、これからもっとヒドい目に遭うかもしれないのに怖くないの?」

 

「……私、いや地竜族はそういうのは慣れてる。

それにゴール様から我々についに栄光を与えてくれると約束してくれた。

私は負けない、いつか我々地竜族を見下してきた奴らを見返してやると。そう考えれるとまだ頑張れる」

 

「けどなんか顔がもうやつれてるよ。強がり?」

 

「…………っ!」

 

茶化す彼女に腹を立てるニオン。

 

「ごめんごめん……けど実際は?」

 

「実は少しへばってる……ずっと気の張りっぱなしだったから」

 

彼から出た本音に彼女は手を叩き、立ち上がる。

 

「よし、アタイが司令官の疲れを癒やしてあげよう!」

 

「なんだと?」

 

「今からアタイの部屋にいくよ、早く!」

 

「?」

 

無理やり連れていかれるニオン。あまり人気のいないルートを使い、そして素早く部屋に入り込む。

 

すると彼女は鍵を閉めるとニオンをベッドに座らせる。

 

「…………?」

 

「……ふふっ」

 

すると彼女はなんと、おもむろに服を脱ぎはじめたのだった。

流石のニオンも仰天し慌てふためく。

 

「レーヴェっ!!?」

 

下着姿でほとんど肌を露出した状態のレーヴェ……。

 

「アタイ、今あんたを抱きたい」

 

「だ、抱くって……」

 

「もしかして初めて?大丈夫、スゴく気持ちいいことしてあげるよ。

恐がらないでどうかアタイを受け入れて」

 

「…………」

 

「誤解させないためにもね、アタイの全てをアタイのやり方で教えてあげる」

 

……そしてニオンはレーヴェに促されるままに、互いに裸になりベッド上で彼女と激しく絡み合うのであった――。

「レーヴェ…………私は……っ」

 

「……ニオンのしたいとおりにやって……そう……いいよ……っ」

 

熱気と今まで味わったことのない興奮と快感で息遣いが荒いニオンを優しく愛撫し、激しく口づけするレーヴェ。

彼女の熟練したテクニックと包容力で彼の張り詰めた緊張をほぐしていく。

 

「ねえニオン……気持ちいい……?」

 

「あ……ああっ……けど……っ」

 

「……けど?」

 

「……なんで私のためにこんな……」

 

「考えたらダメ、今はこれだけに集中して」

 

「あ……ああ……っレーヴェっ……」

 

「…………っ」

 

精が尽きて、そのまま彼女の身体に倒れてしまった。

 

「ニオン……よかったよ……ニオン?」

 

見ると彼は彼女を強く抱きしめ、静かに泣いていた。

その引き締まった身体とキリッとした顔からとは思えないそれはまるで、母親に泣きつく子供のようであった。

 

「あんた……やっぱり辛かったんだね……っ」

 

……恐らく彼は誰かに甘えることを知らずに育ったのだろう、生まれてからずっと――身内以外は誰にも心を開かず、そして歳に似合わず堅物で辛抱強いのも頷ける。

レーヴェはそんな彼を優しく抱擁した。

 

「――アタイさ、ここの兵士になる前は娼婦だったのよね」

 

「えっ……あんたが……?」

 

仰向け寝の彼女はボソッとそう言った。

 

「子供の頃、家が貧乏で父親はそんな生活が嫌で女を作って逃げてね。

下民出身だからいい働き口がないし、母親はアタイと生活のために必死こいて身体売ってたんだよ。

元々いい身体してた母親にとって、それが一番稼げる方法だった」

 

彼女が下民出身だったと知り、驚く。

 

下民はなにも地竜族だけではない、爬虫人類にも納税制度があり、払えない家系はあえなく下民の烙印を押されてしまうのである。

 

「けど母親は生活が苦しいのに無理して見栄張ってね、アタイを平民の子と同じ教育をさせるもんだから周りの子からたくさん嫌がらせを受けたり、イジメられてスゴく惨めな思いをした。

 

で、それもあってアタイはひねくれて、母親と些細なことでよくケンカして、挙げ句に家出さ。

それから色々な男と付き合って身体売って稼いだり貢いでもらって生きてきたワケ。あれだ、子は親に似るとはこういうことだね」

 

昔の暗い過去を微笑しながら語る彼女はあまり思い出したくもないのか複雑な表情をしていた。

 

「そしてアタイは兵士として志願した。履歴問わず入れたし、そして生活安定してるしね。

なんで衛生兵かっていうと、色んな意味で人に奉仕するのは慣れてるからこの職種が適任だったわけ。こんなに安定してるなら早くここに就いておけばよかったと思うよ」

 

恐竜帝国の兵士は爬虫人類、自分の種族の繁栄と栄光のために志願する者がほとんであるが、彼女のように戦争などで死なない内は生活が安定するという理由で志願する者も少なからずいるのだ。

 

「レーヴェも酷い人生を歩んできたんだな、まさかあんたも元下民だったとは知らなかった……」

 

「だからアタイはニオンの境遇が分かるんだよね。

身分による差別や嫌がらせやイジメを受けた時の気持ちとか……だからエーゲイ達にやられて、それに耐えるニオンの姿がアタイのあの頃の姿と被って見てられなかったんだ……」

 

彼はそれを聞いて彼女を疑ったことに対し、罪悪感を感じたのである。

 

「……レーヴェ、すまない……私はあんたを疑ってしまった……」

 

「いいんだよ、あんたのこと考えると人間不信になっても仕方ないと思うし……てか、アタイ司令官になんてことを……」

 

自分の立場と及んだ行為に藪からいきなりと気づいた彼女はハッと慌てるも、ニオンは首を振った。

 

「別にいい。レーヴェだけは私が司令官の立場であっても対等として、砕けて話してもいい、いやそうしてくれ。

……あんたと話すだけでも気がスゴく和らぐから」

 

「えっ……ホントっ!」

 

「ただし二人っきりの時だけだ。

周りに人間がいる前でそんなことをすれば互いに変な疑惑がもたれるからな」

 

「あ、そうか!」

 

彼女は満面に笑うと、彼も釣られて今まで見せたことのない笑顔を見せたのだった。

 

「あ、ニオンの笑うとこ初めて見た」

 

「……私も笑うなんて初めてかもしれん……これもあんたのおかげかもな」

 

……そして服を着て、部屋に戻ることにしたニオン。ドア前で彼女に柔らかい表情で礼をいった。

 

「レーヴェ……ありがとう。あんたがいれば私はここで挫けることなくやっていけそうだ。また二人っきりになってもいいか?」

 

「うん。ニオンとはこれから仲良くしていきたいし、また困ったことがあったらアタイに頼りなよ。いつでも待ってるからさ」

 

「ああっ、頼りにしてる。それじゃあレーヴェ、ゆっくり体を休めてくれ」

 

彼女の部屋を後にしたニオンの顔は、唯一の寄りどころを見つけて嬉しそうである。

 

(私とレーヴェはある意味似た者同士ってことか。どうやらここも捨てたもんじゃないかもな。

 

……ただ、私と接することで、周りの奴らからなにか嫌がらせをされなければよいのだが……まあ、その時は私が守ればいい。彼女を傷つけさせない、絶対に……!)

 

彼はそれだけが不安であった。

 

――その時、彼の後ろの曲がり角、レーヴェの部屋に近い場所からその様子をひっそり見ていた兵士がいた。それもあの男、エーゲイである。

 

「レーヴェめ……まさか」

 

感づいた彼はギリギリと歯ぎしりを立てて顔を歪ませていた――。

 



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第十四話「対馬海沖の決戦、前編」①

――朝九時前、ベルクラスでは今日もいつも通りに竜斗達の訓練が始まろとしていた……のだが、

 

「あれ、水樹は?」

「そういえば……朝から全く見てないわ」

 

午前中は戦術論講座で室内では竜斗とエミリアはすでに準備を整えており、講師の早乙女もスタンバイ出来ている。だが愛美の姿はなかった。

 

「ちょっとあいつの部屋を見てきます」

 

「頼む。もしかしたらドアロックしてあるかもしれん。その時はこのマスターキーを使え」

 

早乙女からマスターキーを借りて竜斗はすぐさま彼女の部屋へ向かう。扉に立つがドアが開かない。

「……まさか」

マスターキーでロックを解除し、彼女の部屋へ踏み込んだ。

 

「やっぱり……」

 

彼女はベッドでいい気にスヤスヤ寝ていた。だが彼はすぐにこの部屋の周りを見て唖然となる。

 

……彼女の好きなピンクや黒色などのソファーやデスク、本棚、タンス、なんとベッドの掛け布団も自分色に染め上げて、この自衛隊内とは思えない場違いなインテリアばかり置かれている。

そして床にはなんとふわふわの絨毯が敷かれており、外とここは見事に隔離された別空間で言うなれば『メルヘン』である。

確かに早乙女は別にインテリアに制限をかけてないが、完全に部屋を私物化している証拠だ。

 

(ぬいぐるみもたくさんあるけど……てかマムチューばっかじゃん)

 

彼の言うマムチューとは、大小問わず部屋の至るところに置かれているぬいぐるみである。

その丸っこいタヌキか何かの小動物の体につぶらな瞳、そして悪魔なのかコウモリの羽根をはやしたその愛くるしいデザインは幅広い世代で愛されている国民的キャラクターの一つである。

かわいいもの好きな愛美はそのマムチューがお気に入りなのか、手乗りサイズからビッグサイズのぬいぐるみまでそろっている具合だ。

 

……と、見とれている場合じゃなく彼女を強く揺さぶる。

 

「水樹、起きろよ!」

 

「う……うん……?」

 

 

 

眠たそうな声を出し、目をこすって起き上がる。

 

「……なんで石川がマナの部屋にいんのよ……」

 

「……というか水樹、今何時かわかる?」

 

彼女はスマホの画面を見る。じっと見つめ……しかしまたゴロンと寝転ぶ。

 

「なあ、俺達はともかく司令も待ってるんだよ!」

 

「んふう……もうこんな時間なの……?

起きればいいんでしょ起きれば……」

 

ピンク色の可愛らしいパジャマを着た彼女は大きなあくびをしてやっと起き上がる。

 

「昨日何時に寝たんだよ?」

 

「……朝4時」

 

「…………」

 

休日でもじゃないのに呆れて何も言えない竜斗。

 

「……今から準備するから早く出ていって。早乙女さんに準備してるっていっといて」

 

……竜斗は座学室に戻り、彼女の言った通りの事を早乙女に伝える。

 

「なら君達だけでも先に進めるか」

 

そして講座が始まるも、十分、二十分、三十分……全然こない……そして一時間後、ようやく姿を現す愛美。

 

「おはよう水樹」

 

「……おはようございます」

 

「重役出勤とは感心しないな」

 

「……すいません。女の子は身だしなみとか色々と準備がかかるもんで」

 

「そうか、なら早く座れ。講座を再開する」

 

彼女は二人とは一席空けて座り、やっと三人揃っての講義が始まった。

……寝坊で遅刻してきたにも関わらずあくびをしやる気なさそうな、反省してなさそうな顔の愛美。実に超がつくほどのマイペースっぷりである。

 

……栃木での戦闘から約一ヶ月後。

ゲッターロボの修理は三機とも完了し、いつでも出撃できるようになっていた。

そしてなんといっても、今日は三人が一番楽しみとしている……そう、給料日である。

 

昼休み、制服に着替えた竜斗達は駐屯地内のATMから給料の引き卸しに来ていた。

 

「給料入ったことだし何を買おうかな……?」

「アタシは街で欲しいミシンを見つけたから買おうかな。

久しぶりにぬいぐるみを作りたいし、あとリュウトの制服とか服が破れたら直してあげる」

 

 

「お、ありがとう」

 

 

エミリアは、料理はおろか裁縫、洗濯、掃除などの家事全般をこなせる人間であり、料理や裁縫が趣味であるという本来は家庭的な女性である。

共働きの両親のこともあり、小学校高学年からはもう一人で大体はこなしており、腕前も竜斗から高い評価をもらっている程だ。

 

「そういえば水樹の部屋が凄まじいことになってたんだけど……見た?」

 

「知らない、どんなの?」

 

彼は見た通りのことを彼女に話す。

 

「ワォ……一回、見てみたいけどアタシ達仲悪いし見させてもらえないだろうなあ……」

 

おそらくあれらは初給料で買い揃えたのだろうが早乙女やマリア、そして黒田が見たらどう感じるのだろうか――。

 

……夜九時。駐屯地の黒田が所属する連隊舎の一室で、早乙女と黒田は竜斗達について会話をしていた。

 

「竜斗は大したパイロットですね、BEETに乗せても十分やっていけるレベルになってます」

 

「流石は竜斗だな。エミリアと水樹は?」

 

「……厳しいです。BEETの制御系はゲッターロボとは別物ですからね。

証拠に彼女達を試しに座らせたんですが殆ど理解できなくて悲鳴あげてましたね……」

 

「では、彼女達はゲッターロボ専門にした方がいいな」

 

……黒田は話題を変えて、早乙女にこう話した。

 

「一佐、聞きたいことがあるんです」

 

「どうした?」

 

「もし三人共ゲッターロボから降りたいと言い出したらどうしますか?」

 

「…………」

 

「……個人的に、やはり竜斗達に無理やり強いているようにしか感じません。

水樹に至ってはいつもの態度からそう感じるのは明白でしょう」

 

今まで思ってきたことを伝える黒田に早乙女は腕組みをして黙ったままだ。

 

「やはりゲッターロボは自分達軍人が乗るべきなのでは――」

 

「…………」

 

「僕や一佐のように正規の自衛官は国防が主だけど、自ら志願した軍人です。

だからSMBに搭乗して戦い、死ぬ時の覚悟はすでに出来ています。

しかし彼らはほぼ強引的にパイロットになって、まだあまり社会を知らない歳です。そんな子達の未来を奪うようなことをしてもいいのでしょうか?」

 

「――では黒田、もし君が彼らと同じ立場だったらどうする。正直に答えたまえ」

 

「……はっきりいってイヤです、強要して来るなら訴えたことでしょう」

 

「ああ、そうだな。私は訴えられても仕方ないことをしてる。

だが、彼らに強制させたが今までに降りたい、辞めたいとも一言も聞いていない。君はどうだ?」

 

「いえ……っ、でもなかなか口から言えないだけでは?」

 

「いや、彼らは現時点ではまだ乗る気はあると、私はそう思っている」

「ではもしも彼らが本気で降りたい、辞めたいと言ってきたらどうします?」

 

「その時はもうどうしようもないな、やめさせるしかないだろう。

だが心配はいらない、彼らは絶対にリタイアしないよ」

 

「その根拠は?」

 

「私お得意の『勘』だよ、ククク」

 

不敵な笑みを浮かべる彼に黒田は苦笑い。

 

「……一佐ってやっぱり不思議ですね、何考えてるか分かりません」

 

「当たり前だ、私を理解されてたまるかってな」

 

「…………」

 

この男、早乙女を攻略する人間は誰一人ともいないだろうと彼はそう考えた。

「――そういえばマリア助手って彼らについてどう思っているんですか?」

 

「はっきり言って君と同意見だ。今でも彼らを乗せることに快く思ってないよ。彼女は私と違って常識人で優しいからな」

 

「そうですね。なんか母性に溢れているっていうか包容力があるっていうか……母みたいですもんね」

 

「ん?もしかして黒田はマリアが好きなのか?君にはもう婚約者がいるだろ?」

 

「い、いや、そういうつもりでは!けどなんか心配で……」

 

「心配?」

 

「マリア助手を見てると、あんな華奢な身体でいつも激務に追われてるのに、キツいとか全然弱音を吐かないじゃないですか。大丈夫なんですか?」

「だからこそ私はマリアを助手にした。

口うるさいけど何でもこなす才女だからな。他の人間ではとっくの間に耐えきれなくてやめるか逃げている。

だが私はそんな彼女を人一倍信頼しているし、心配している」

 

早乙女の彼女に対する心情に黒田は、感慨深くなる。

 

――次の日の午前中、いつも通り三人は黒田の操縦訓練を受けていた。が、

 

“黒田一尉、訓練は中止だ。すぐに竜斗達と共にベルクラスの司令室に来い”

 

突然の早乙女からの放送と共にサイレンが甲高く鳴り響く。

またメカザウルスが現れた、竜斗達三人はとっさに理解する。四人は急いで司令室に戻ると、早乙女とマリアがすでに待っていた。

「どうしましたか?」

 

「対馬海沖に大量のメカザウルスが出現した。すでに空、海自の部隊が交戦しているが劣勢のようだ。

我々ゲッターチームの出動となる」

 

「了解!」

 

「それで三人共、今回は初の海上戦闘だ。竜斗と水樹の機体はいいが、エミリアは……」

 

「あっ!」

 

陸戦型ゲッターロボはその特性上、海上戦闘はできない。

つまり、エミリアは参加できずに余ることに。

 

「ならエミリアはどうするんですか?」

 

「そこでエミリアに聞きたい、君は戦闘に参加したいか?」

 

早乙女にそう言われ彼女は迷いなく、

「はい!リュウトとミズキが必死で戦うなかでアタシだけ安全にここにいるのは絶対にイヤです!」

 

 

「君は偉いな。よし、ではそこで竜斗に頼みがある」

 

「何でしょうか?」

 

「今回、君にBEETに搭乗してもらいたい。空戦型ゲッターロボはエミリアに搭乗してもらう、いいか?」

 

竜斗は初のBEETのパイロットとしての実戦に不安が広がる。

 

「りょ、了解!」

 

「なあに心配するな、今回も私が君をサポートするから安心しろ。

黒田はAタイプで水樹と共に行動、海自部隊と協力してくれ。

竜斗はSタイプかAタイプ、つまり空戦仕様か海戦仕様のどちらにするか?」

 

「うーん……エミリアが心配だし、均等に分かれた方がいいからSタイプで」

 

「分かった。ではエミリアと竜斗は互いに連携を取りながら空自と協力して空中のメカザウルスを一掃してくれ。

そして水樹と黒田は海中のメカザウルスを頼む」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

 

突然、愛美が割り込んでくる。

 

「マナもそれに乗りたかったのにエミリアだけ卑怯よ!」

 

ここにきてくだらないワガママを言い出し、皆は狼狽する。

 

「お、おい、こんな時にワガママ言うなよ」

 

「うるさい!そもそも石川、あんたはいつもエミリアとくっつきしすぎ。

何時でも一緒にいなきゃならないわけ?」

 

「いや、そういうワケじゃ……だってエミリアだけ一人にするのはあまりにも危ないし」

 

「そうやってすぐ言い訳するんだから。マナから見ればアンタは結局この子ばかり見て贔屓してるようにしか見えないの。

マナがむかつくのはそこよ!」

 

しかしエミリアもついに頭に来てしまい、

 

「リュウトはアタシ達チームを守るために一番苦労してんのよ。

それなのにアンタはこんな時になってなんで自己中なことばかり言うの?ふざけるのもいい加減にしてよ!」

 

「は?普段でも二人はイチャイチャばかりでマナと壁作ってるじゃない、それで何がチームよ。

 

黒田さんだって石川達ばかりと絡んでさ、全然マナを見てくれないじゃない。

エミリアが前にマナに対して差別してるって言ってたけどこれも立派な差別じゃん!!」

 

 

 

竜斗、黒田、エミリアはその言葉にショックを受けて落ち込んでしまった。

 

「マナミちゃんもうやめなさい、黒田一尉に失礼よ!

竜斗君達にも可哀想じゃないの!」

 

「ホラ、そうやってマナばかり悪者扱いするのね!

だったらマナはもうやめる、戦わない!!

そうやって仲のいいあんた達だけで仲良く勝手に戦ってればいいじゃない!!」

 

そう言い捨てて愛美は部屋から飛び出していった。

 

「マナミちゃん!!」

 

マリアは慌てて彼女を追いかけようとするが、早乙女に止められる。

 

「水樹は私に任せろ。マリアはここで待機、そして黒田達に出撃準備させておいてくれ」

 

「司令!」

 

「元はいえば私が彼女を強引にパイロットにしたんだからな。なら責任をとるのも私だ」

 

早乙女も部屋を出て行き、残された四人は茫然自失していたが、

 

「全員、今はとりあえず格納庫へ待機!いつでも搭乗できるようにして」

 

「は、はい!二人とも行くぞ!」

 

マリアの指示を受けて黒田達は急いで格納庫へ向かって駆け出す。その途中……。

 

「……なあ二人共。よく考えたら俺達は水樹と正面から向き合わなかったんじゃないかな。

俺も水樹が苦手と言ったが、それは彼女を避けてる意味もあったんだと思うんだ」

 

「「…………」」

 

「水樹も水樹で悪いところはたくさんある。

だけどこんなことになったのは俺を含めた君達チームとしての自覚が足りなかったんだよ、きっと」

黒田の言葉は、二人の心にズシンと重みとして沈んだ。

そして早乙女は出て行った愛美の後を追い、そして追いつく。

 

「水樹!」

 

「…………」

 

二人はその場で立ち止まる。だが彼女は振り向かず身体を震わせていた。

早乙女は彼女の気持ちを察して頭を優しく撫でる。

 

「無理してるな。ホントはここから降りたくてしょうがないんだろ」

 

「…………」

 

「本来、君はこの自衛隊という規律の厳しい場所には合わないもんな。そんな君を無理じしている私が悪いな」

 

まだ黙り込む愛美に彼はついにこう切り出した。

 

「よし。では君をゲッターチームから外す。この戦闘が無事終わったら君を地元まで送ってやろう。部屋で待機してなさい」

 

「えっ……?」

 

すると早乙女は通信機を取り出してマリアに連絡する。

 

「よく聞いてくれマリア。水樹をチームから除外する。

今作戦だけ海戦型ゲッターロボは君が操縦してくれ。

ベルクラスは私が全て担当する。いいな」

 

マリアはそれを聞いて一瞬たじろいでしまう。

 

“りょ、了解しました……直ちに格納庫へ向かいます”

 

「ああっ、格納庫に着いたら黒田達に説明し、そしてパイロットスーツに着替えて機体に搭乗してくれ」

 

通信を切ると、愛美は彼にこう聞いた。

 

「ま、マリアさんがマナの機体に……?だ、大丈夫なんですか?」

 

「ああ、彼女は元々開発スタッフだがゲッターロボのテストパイロットも兼ねていた。

だから一応操縦はできる。だが正直な話、君より操縦は遥かに下手だ。

私はとある事故でゲッターロボの操縦に耐えられない身体になっている。しかし戦力を減らせない現状況で、操縦できる彼女が適任ということだ」

 

「…………」

 

「海戦型ゲッターロボは本来、三機の中では一番操縦が難しい。

制御系と火器管制の操作レバーがそれぞれ個別に別れているのは知ってるだろう。

はっきり言って竜斗はともかくエミリアでは到底扱えられない。

マリアでさえ苦戦していた機体を君は多少の訓練だけでいとも簡単に乗りこなせるとは私でも思わなかった。

だからこそ私は君を必要とし、手放したくなかった。君の力があれば絶対に恐竜帝国から世界を救えると。

だが君が降りたいのならもはやそれも意味はない。そうなれば今はただ、現チームメンバーでの運用を考えることだ」

 

早乙女は艦ブリッジへ行こうとするが彼女はまたも引き止める。

 

「じゃあ下手をすればマリアさんは……」

 

彼女は気づいた。それでは彼女が戦死する可能性は自分より高くなってしまうことに。

 

「その時は、君の本望を叶えた結果になったというだけだ。だが君にはなんの罪はない、それはマリアでも承知している。安心しなさい――」

 

 

 

早乙女は去っていく。

だが愛美の顔は凄く不安げと後悔に満ちた、いつもの彼女らしくない表情だ。

 

『なにか取り返しのつかないことをしたのかもしれない……』

 

そればかり考えていた――。

 

格納庫では先ほど着いたマリアから説明を受けて、当然の如く三人は仰天した。

 

「早乙女司令はゲッターロボに乗れない、だけど今戦闘は海戦型ゲッターロボが必要不可欠。

マナミちゃんが抜けた今、私が乗るしかないの。

大丈夫、マナミちゃんより操縦は下手だけど何とかやってみるわ。

黒田一尉、あなたの足手まといにならないよう頑張りますのでよろしくお願いします」

 

「マリア助手……いえ、僕からの方こそよろしくお願いします」

 

「私達は心配ないから竜斗君とエミリアちゃんは思う存分やりなさい。

けど危ないと思ったらすぐ近くの部隊かベルクラスに援護してもらうこと、いい?」

 

「マリアさん……」

「あと……マナミちゃんを責めないであげてね――」

 

……そして彼女はパイロットスーツに着替え、海戦型ゲッターロボのコックピットに乗り込んだ

 

(これに乗るのも久しぶりね、よろしく頼むわ)

 

テストパイロットだったこともあり手慣れた手つきでコンピューターを動かしてシステムを起動させるマリア。

コックピット内がライトアップした時、同時に早乙女から通信が入る。

 

“マリア、いけるか?”

 

「はい、いつでも出撃できます」

 

“すまないなマリア、できることなら死ぬなよ”

 

「心配ありがとうございます。大丈夫です」

 

そして他、各機体に乗り込んだ竜斗達。

“上手く起動できたか竜斗?”

 

「はい」

 

“よし。操縦については今まで教えた通りに。君ならBEETでも十分やってけるよ”

 

今回、初のBEETに乗り込む竜斗は緊張しつつも落ち着いてシステム起動させ、レバーに握りしめる。

と、今度はエミリアから通信が。

 

“……リュウトごめんね、アタシのために機体を変えちゃって……”

 

「気にしないで。それよりエミリアの方は大丈夫?」

 

“ええ、アタシの機体とほぼ同じだから大丈夫。足手まといにならないように頑張るわ……リュウト?”

 

竜斗の表情は浮かない。

 

 

 

「ねえ、水樹について本当にこれでよかったのかな?」

 

“…………”

 

“…………”

 

それについてエミリアと黒田は黙り込んでしまう。

 

 

 

「なんか気分が悪いよ。ここに向かう途中に黒田一尉の言ったことはまさにその通りだと思う。

だからこそ、こんな結末でいいのかなって……」

 

彼らの心は割り切れず、もやついていた。

 

“おい、出撃前だと言うのに暗い話をするな”

 

三人の元に早乙女からの叱咤が通信が入る。

 

“今からベルクラスを発進し、すぐに交戦区域に向かう。

その話はもうやめて今は戦闘に勝つことだけを考えろ。

ここで死んだら元も子もないだろ。今から気合いを入れていけ!”

 

「「「はい!」」」

 

早乙女の言葉に気持ちを無理やり入れ替える三人。

 

……そしてついに駐屯地の地下から満を喫して発進し、大空へ飛翔したベルクラスはその凄まじい推進力を持って対馬沖へ全速力で向かっていった。



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第十四話「対馬海沖の決戦、前編」②

――対馬海。九州と朝鮮半島に挟まれた海域。今ここは戦火に包まれていた。

 

空中、そして海中にはびこる無数の怪物、それは恐竜帝国のメカザウルス軍である。

それに対抗する航空、海上自衛隊のBEET、戦闘機、潜水艦、そして巡洋艦隊。

だが恐竜帝国側の戦力が上であり自衛隊側は劣勢に陥っていた。

 

第十三竜中隊潜水母艦『ジュラ・ノービス』と護衛する無数の首長竜型メカザウルスがはびこっていた。

 

「アウネラ様、地上人類軍が本艦前方向から左右に展開してきます」

 

「海底に沈めてやる。魚雷砲門全開門」

 

ジュラ・ノービス両舷の装甲が開き、多数のまるで海水魚の形をした魚雷が飛び出し、それらが一斉に前方左右へ泳いでいく。数々の魚雷の向かう先にはこちらへ進行してくる海上自衛隊のBEET部隊が。

背部中央と左右に展開されたスクリューユニットを駆使して水中を推進している。

 

「こちらに何か向かってくるぞ」

 

「あれは魚か……?」

 

海自パイロットがモニターを確認すると、ただの海水魚である。

だがそれが機体に突撃した時、魚は大爆発し機体は鉄屑と化して海の底に沈んでいく。

多数のBEETはそれの餌食となってしまった――。

 

空中でも、航空自衛隊のBEET『Sタイプ』部隊と戦闘機の混成隊が飛行型メカザウルスと空中戦を繰り広げているも、あちらが戦力が上で次々にマグマ弾や捨て身のような体当たり戦法で撃墜されていく。

 

「このままでは全滅するぞ!」

 

「いや待て、あれは!」

 

彼らが見る、本土方向から高速で近づく巨大な物体――早乙女のベルクラス率いるゲッターチームである。

 

「ゲッターチーム、発進準備だ!」

 

各機体に乗る竜斗達はその合図に気を引き締めて操縦レバーを握り込んだ。

 

“前と同じく竜斗から先に出撃しろ。その後に続いてエミリア、黒田、マリアの順で発進させる”

 

竜斗の乗るBEETのテーブルが先に動き、外部ハッチ前に移動。

 

――竜斗の乗るBEETは、右手にミサイルランチャー、左手にバズーカ、そして右腰にライフル、左側はプラズマ・ソリッドナイフの射撃重視である。

そして背中に装備された滑空翼とブースター『フライトユニット』はゲッターウイングと全く同じ形をしている。

なぜならゲッターウイングはこのフライトユニットを無限飛行できるよう改良した物だからだ。

 

“BEETに装着したフライトユニットはゲッターウイングと違い、途中で燃料補給が必要となる。

残量を常に確認し、少なくなったら帰艦し補給を受けてくれ。

だが無駄な行動を避けて余計な消費を抑えるのも君の役目であることを忘れるな”

 

――外部ハッチが開き、膝を曲げて発進体勢に入るBEET。

 

「石川竜斗、BEET発進します!」

 

射出され外に飛び出したBEETはすぐさまフライトユニットを展開。

迷彩色の滑空翼を広げブースターを点火。

 

“次はエミリア、いいか?“

 

「はい!」

 

栃木での戦闘と比べて臆病さが見えず、逞しさが目立つ彼女。空戦型ゲッターロボのカタパルトテーブルが動き、外部タッチの手前で止まる。

 

“君にとっては初めての空中戦だから色々と慣れないことがあると思うが、そこは竜斗や周りの部隊の援護で乗り切ってくれ。

シールドがある分、多少の被弾は大丈夫だが、決して過信はするな”

 

――そして、

 

「エミリア=シュナイダー、空戦型ゲッターロボ発進します!」

 

そしてゲッターロボもハッチから飛び出し、すぐさま空中でゲッターウイングを展開した。

「行くよエミリア!」

 

“うん!”

 

二人はすぐに空中の交戦区域に飛び込んでいった。

そして次は海中組の黒田とマリア。

 

背部にはスクリューユニット、右手に多弾頭魚雷を搭載したランチャー、そして両肩のハープーンキャノン、左手のホーネットガンを装備した、黒田の乗るAタイプのBEET。

そして海戦型ゲッターロボのテーブルはすぐにそれぞれの下降ハッチの方へ移動した。

 

“二人については自分のすべきことは分かるだろうから私から特に何もない、思う存分やれ”

 

「了。では黒田悠生、行きます!」

 

ハッチが開き、先に黒田から海へ降下していった。

「マリア=C=フェニクス、海戦型ゲッターロボ出撃します」

 

 

最後にマリアの乗るゲッターロボも一面に広がる大海原へと落ちていった。

海戦型ゲッターロボは直立不動のまま海中へ豪快に水しぶきを上げてダイブ。

沈む中、折り畳まれていたサブスクリューユニットを左右に展開、そして背中のメインスクリューユニット共々フル回転させる。

 

“マリア助手、大丈夫ですか?”

 

「え、ええっ。黒田一尉、ゲッターロボにはシールドがありますので被弾しそうになったら私を盾として使ってください」

 

“僕がそんなことをすると思いますか。

今回、あなたは守るのが僕の役目です”

「黒田一尉……すいません……」

 

“では行きましょう!”

 

黒田の力強い掛け声に少し気が楽になる。

マリアは少し顔色が悪く、恐怖からか身震いしている。

 

落下からの着水による衝撃、メカザウルスがうようよいるこの暗い海中、愛美よりもこの機体を上手く扱えないという不安と恐怖の重圧が彼女に襲いかかっていた。

彼女自身、すでに死の覚悟はできている。

だが、操縦センスの全くない自分のせいで、もしかすれば敗北につながるかもしれない、それが頭によぎっていたのだった――。

 

(そんなマイナスなことを考えたらダメ。いつも通り落ち着いて行動すれば大丈夫だから……)

 

頭を横振り、邪念を消そうと必死だった――。

 

「アウネラ様、ソナーにゲッター線反応を空中、海に複数感知。例の部隊です」

 

「……ついに来たか」

 

「アウネラ様、私キャプテン・アウロはこれより出撃し、空中のメカザウルス隊を指揮します。

アウネラ様は海中の方をお願いします」

 

「分かった。油断するなよアウロ」

 

「ありがとうございます。アウネラ様も気をつけて」

 

副官であるアウロはすぐさま艦内後部にある格納庫へ向かっていった――。

 

「僕達は朝霞から来ましたゲッターチームです、直ちに援護に入ります!」

 

“来てくれたか、よろしく頼む!”

 

竜斗達は空自の部隊と合流。すぐさま武器を構える。

 

「エミリア、絶対に離れちゃダメだよ」

 

 

 

“ええっ!”

 

二機は互いに一定の距離を保ち、行動開始する。

 

「やっぱりゲッターロボより難しい……けどっ」

 

さすがの竜斗もBEETの操縦にてこずっており、それもあり機体の挙動がぎこちない。

そしてエミリアも空中での初戦闘に焦り始めていた。

ライフルをメカザウルスに向けて撃とうとした時、

 

「ひいっ!」

 

標的のメカザウルスに被るように空自の戦闘機が横切り、危うく味方を撃ち落としてしまうところだったと怯んでしまう。

 

“慌てるな。彼らは常に周りの状況を把握している空のベテランだから上手く避けてくれる、だから余計なことを考えるな”

 

「はっ、はいっ!」

早乙女から助言を入れられて一層、気を引き締める。

 

一方、竜斗も徐々に機体の操縦に慣れてきており上手くメカザウルスの攻撃を避けながら一機ずつ的確に攻撃を命中させて撃墜していく。

 

「さすがは竜斗、いい筋をしてる。では私も負けてられないな」

 

ベルクラスも遅れてたった今交戦区域に到着する。

 

「これより本艦ベルクラスも援護に入る」

 

ベルクラスから多数の機関砲、そして海上の巡洋艦から対空ミサイルや対空機関砲の応戦が入り、この一帯は硝煙と爆炎、そしてプラズマによる蒼白の光弾入り混じる苛烈を極める混戦状態となった――。

 

「ゲッター線の機体……相手にとって不足はない。

アウネラ様のためにも相討ちしてでも撃破してくれる」

 

 

――ジュラ・ノービス後部にある格納庫において、アウロは専用機に乗り込み、システムを起動させた。

同時に格納庫内の扉全てにロックがかかり、密閉状態になった。

 

「『メカエイビス・エイルード』発艦する!」

 

艦後部の上部甲板中央左右ハッチ開き、水が一気に流れ込む。

そして中から『何か』がゆっくりと現れて海上へ浮上していく――それはなんと海水を大量に吸い込んで自分の体を膨張させていく。

 

“全機に告ぐ。海中より巨大な物体が浮上している。警戒せよ”

 

早乙女からの通信で全員が真下を覗く。

「何あれ……っ」

 

海中から現れたのはまるでクラゲかタコのような丸みのかかった巨大な物体。

近くの巡洋艦数隻が浮上した際の強力な波によって飲み込まれてしまった。

 

そして信じられない光景が全員の目に焼き付ける。

その生物にどんな仕組みなのか分からないが、なんとそのまま上空へ浮上してきていた。

 

それにより、その生物の全貌が明らかとなる。

悪趣味な紫色でクラゲかタコのような丸みのおびた胴体に醜態極まりない眼、口の顔面があり、その周りに二十を超える触手が生えており、その先端全てがトカゲのような爬虫類の顔をかたどっていた。

 

そして海水を大量に吸い込んだ影響か、周りのメカザウルスが子供のように見えてしまうほどに巨大であった。

 

「メカザウルス……か?」

 

その内部のコックピットではアウロが不敵な笑みで操縦桿を握っていた。

 

「各メカザウルスは、この『メカエイビス・エイルード』を中心に四方に展開せよ」

 

彼の命令に従い、彼の駆る『メカエイビス・エイルード』を中心に散開する飛行型メカザウルス達。

エイルードの各触手の先端部はまるで蛇がうねるような動きでそれぞれBEET、戦闘機へ向け、トカゲの口をガバッと開くと一斉にドロドロの溶解液、マグマを次々に放射。

複数のBEET、戦闘機へ直撃し次々と見るも無惨に溶けて海に落ちていく――。

 

「ああ……っ」

 

味方が次々にやられる光景を直に見た竜斗とエミリアの顔は真っ青だ。

 

“二人とも気をしっかり持て。でないと今度は君達もああなるんだぞ”

 

「「…………」」

 

“彼らは覚悟の上で戦闘に参加していた。君達は今はこの戦闘に勝つことに集中しろ。

割り切るコトを覚えなければ、これから先戦い抜けない!”

 

非情に徹し、そうアドバイスする早乙女――。

 

「全機、中央の敵浮遊艦に集中攻撃をかけろ。

撃沈すればおそらく敵軍の基盤が崩れる」

 

アウロの命令でメカザウルスの標的は全てベルクラスに向けられマグマ弾、ミサイル、機関砲、溶解液を四方八方の位置から吐き出して艦に猛攻撃が開始された。

 

「さ、早乙女司令!」

 

 

 

“心配するな。ベルクラスのシールドならしばらくは大丈夫だ。

周りのメカザウルスは空自の部隊に掃討してもらう。

それよりも竜斗はエミリアと共にあの謎の巨大メカザウルスの方を対処してくれ。空自からも何機か君達の支援に向かわせる”

 

早乙女の指示を受けた竜斗とエミリアはエイルードへ移動開始する。

多数の触手を四方八方にうねり動かしてマグマを撒き散らすその姿は醜い怪物である。

 

“スキャンしたが前のメカザウルスみたいな装甲は使われてないただの生物性の皮膚だ。

エミリア、出力を最大まで上げたゲッタービームをおみまいしてやれ。

チャージ中は竜斗達に敵の注意を引きつけておく”

 

「分かりました!」

 

ゲッターロボはエイルードより上に上昇し、すぐさま内部のゲッター炉心に大気中のエネルギーを収束させ、出力を上げ始める。

その間、竜斗と空自部隊はエイルードの周りを飛び回り、集中放火を浴びせる。しかしその丸みのおびた弾力性の高い巨大な胴体に歯が立たず、傷ひとつもつけられないほどの頑丈さを持っていた。

 

そして触手はマグマを吐くだけでなく、接近していたBEET、戦闘機にまるでムチのように勢いよくぶつけてグシャグシャに潰し、先端の口で咥え掴み、直接マグマや溶解液を注入して機体内部から融解させるなど、生物らしく有機的な攻撃を繰り出し、次々に破壊されていく――。

(……割り切ろって言ったって……なんで……)

 

必死になんとか生き残る竜斗の表情はやるせなかった。

 

(……このメカザウルスを操縦しているのが写真で見た爬虫類の人間……。

だけど、こいつは俺達人間を敵としか見ていないのか……一ヶ月前のメカザウルスと違って……)

 

……自分達は同じ地球に住む種族なのになぜ弱肉強食の生存競争をするのか、どうにか争わずに済む方法はないのか――だがその時、エネルギーを溜めていたゲッターロボに異変が。

 

“さ、サオトメ司令~~~っっっ!!”

 

早乙女の元にエミリアの助けを呼ぶ通信が。

 

「どうした?」

 

 

 

“えっエネルギーがとっくに満タンなんですがエネルギーの収集が全然止まりません!!”

 

「なにっ、なんとか解除できないか?」

“何度も止めようとしてるんですが……全然止まりません!!”

 

早乙女はこちらからアクセスして炉心への過剰収集を止めようとするが、全く操作を受け付けない。

(これは…………あの時の……っ)

 

彼の脳に浮かび上がる記憶。以前にこれと同様の現象を経験していた。

しかもそれは彼をゲッターロボに乗れないような身体にした忌まわしい原因でもあった。

 

“ちょっ、え、えっ、ヤダヤダ、どうすればいいの~~~っっっ!!!”

 

彼女はワケが分からず錯乱してしまう。

 

炉心の許容量以上の過剰出力が原因で機体から赤色の光、つまりゲッターエネルギーが外に漏れだしガチガチに強張って異常を生じていた。このままではゲッター炉心が臨界点突破し、最悪の場合内部爆発しかねない。

 

早乙女は遠隔操作で、最終手段である機体自体の緊急停止回路を起動させた。

すると炉心の出力値が大幅に減少していくのが分かった。

しかし機体の操縦も止まったのでそのまま海へ落下を始めた。

 

早乙女はすぐに停止を解除させ、機体を再び復活させる。

 

「エミリア、落ち着いて聞け。今すぐ竜斗と共に戻ってこい。

一応炉心は収束は止まったが念のために応急メンテナンスを行う」

 

「えっ、は、はい!」

 

彼は次に竜斗へ連絡を取る。

 

「竜斗、今すぐベルクラスへ帰艦しろ。

空戦型ゲッターロボが異常を起こした。それで一旦格納庫でメンテナンスを行う」

 

“えっ!?エミリアは大丈夫なんですか!?”

 

「大事に至らなかったから安心しろ。

それにフライトユニットの燃料の残量が心配だ、補給も同時に行う”

 

“しかしその間空自の人達は!?”

 

「メカザウルスの攪乱、掃討に頑張ってもらう。

無論我々も早急に戻れるよう作業を素早く行う、早く戻ってこい!」

 

“了解!”

 

二人は一旦離れてベルクラスへ戻っていく――。

 

 

 

「………………」

 

――そして愛美は艦内の自室のモニターで外の戦闘の様子を相変わらず不安そうな表情で見ていた。

 



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第十五話「対馬海沖の決戦、後編」①

――海中。海上自衛隊仕様のBEETの兵装である、ホーネットガンから金属ワイヤーの大網を発射し、メカザウルスを見事に覆い捕縛、動けなくした後でもう一つの機能である高圧電流を流して感電死させる。

肩のキャノン砲から先の鋭いハープーンをメカザウルスの身体に打ち込み、捉えた所を魚雷を撃ち込み撃破させる。

 

だが水中特有の抵抗があるため動きが大幅に鈍る。

特にそれはBEETなどの人型の機体に顕れていた。

 

泳ぎに適した首長竜型メカザウルスの動きは軽快であり、次々とBEET、潜水艦に急接近し、その強力な牙を突き立てて噛みつき、マグマ、または溶解液を注入、鉄をも簡単に溶かす代物なのだから内部のパイロットはなすすべなく、

ドロドロにそしてグロテスクに機体共々溶かされていった――。

だがメカザウルスの猛攻をかいくぐり次々に海の底に沈めていく、BEETが存在した――そう、黒田の搭乗する機体だった。

 

まるでメカザウルスの行動を全て読んでいるかの如く、海中であるにも関わらず機敏であった。

突撃してくるメカザウルスを上手く避けて、続けてホーネットガンで捕縛、高圧電流を流し込み感電死させた。

 

一方で、マリアの乗るゲッターロボも奮闘していた。

 

(ターゲット・ロックオン……!)

 

モニターに移る前方先のメカザウルスに照準を合わせ、両肩の大砲の射角を合わせて、二発の大型ゲッターミサイルを発射。見事に命中、粉々にした。

 

“マリア助手、その調子です”

 

「あ、ありがとうございます……けどやっぱり私、マナミちゃんよりセンスがなくてうまく扱えられません……」

 

“いやいやそんな謙虚にならないでください。

……と、前方からメカザウルスがさらに来ます、注意してください!”

 

いくら倒しても次々に攻めてくるメカザウルスにそろそろ疲労と消耗が目に見えてくる頃である。

 

「残り弾薬とエネルギー量がキツくなってきた……こいつらの戦力はどれだけあるんだ?」

 

 

犠牲をいとわない人海戦術を繰り出す敵に苦渋の表情の黒田。

 

そして、多数のメカザウルスの後方からジュラ・ノービスも次々に魚雷を発射。

だが突然、艦首部の口部分が大きく開き、八つの巨大な牙が姿を現す。

 

「『セクペンセル・オーヴェ』射出準備完了。前方の敵部隊を捉えました」

 

「よし、メカザウルスを直ちに前方及び範囲内から退避させよ」

 

ジュラ・ノービスの前方に群がっていたメカザウルスが一斉に四方八方に散開し、離れる。

 

「『セクペンセル・オーヴェ』、射出せよ」

 

八つの大きな牙が同時に海中に飛び出し、まるで意志のあるかのように自ら抜け前へ広がり多機のBEETを囲み、陣形を組む。

するとその牙達がそれぞれ共鳴反応を起こし、光線で線をつなぎ箱型の包囲網……結界が作られ、半透明の赤色膜が全面に張られて機体が閉じ込められた。

「な、なんだこれは!?」

混乱する海自部隊。瞬間、ジュラ・ノービスの開いた口の中から巨大な円状の砲門が姿を著した――。

 

「『ヒュドゥン砲』発射スタンバイ――」

 

「撃て!」

 

放たれた極太の青白いレーザーのような光線は一瞬で結界に直撃した。

すると内部が真っ赤に染まり、何も見えなくなるが……、

 

「うわあっ、熱い、熱いィ!!!助けてくれえーーーーっ!!!」

 

通信から心が引き裂かれるような隊員の断末魔が聞こえるも数秒で通信が遮断された。

 

内部はようやく見えるようになるが、だがそこには囲まれたはずのBEETの姿が跡形もなかった。黒田達は絶句した。

「これは……っ」

 

マリアは感づいた。この放たれたレーザーのような光線が何なのか。

 

「もしかしてフォノンメーザー……?」

 

つまり超音波の波長を増幅し、一点集中で放射することでレーザー状となり熱を帯びる。

これがフォノンメーザーであり、特に水中において多大な威力を持つ兵器である。

 

マリアはすぐに通信で黒田や海中の部隊に警告する。

 

「各隊員に警告します。敵部隊の正面から離れて、そしてあの物体の形成したエリア内に絶対に入らないで下さい!」

 

“マリア助手、あの兵器は一体!?”

 

「……あれはおそらくフォノンメーザー砲。超音波をレーザー化した兵器です。そしてあの八つの牙のような物体は、先ほどのような結界エリアを作り、フォノンメーザーをエリア内全てに乱反射させるようです。

どのような原理か分かりませんが見る限り、エリア内は電子レンジ以上の効果を発揮するようです」

 

 

『セクペンセル・オーヴェ』

 

 

爬虫人類の言語で『鋭い牙を持つ守護者』という意味を持つ自律型支援兵器。

本艦の大口径フォノンメーザー砲『ヒュドゥン砲』の性能を増幅させる機能を持つ、第十三海竜中隊特有の兵器である――。

 

「さらに牙を展開し、この一帯全てを覆い尽くせ。次で敵機全てを粉々にしてくれる」

 

陣形を解除した牙達はさらに広がり始める。

「各隊員、あの八つの物体の破壊を最優先にしてください、おそらく今度は私達全員を囲むつもりです!」

 

急いで牙へ向けて魚雷を放つBEET、潜水艦。

だが牙達はそれを容易く回避する。本当に生きているようである。

マリアも機体をフル稼働させ牙を追いかけながらゲッターミサイルを放つも、ここは水中であるにも関わらず全く当たらず。そんな中、早乙女から通信が。

 

“大丈夫かマリア!”

 

「な、何とか――」

 

“こちらも問題が起きてな。

空戦型ゲッターロボの炉心が異常を起こして臨界点突破寸前になった。あの時みたいにな――”

 

「え、エミリアちゃんは無事なんですか!?」

 

“安心しろ、そうなる前に緊急停止させて私のようなことにはならなかった。

今急いで艦に戻してメンテナンスさせている――”

 

それを聞いてホッと安心した時、

 

「!?」

 

散っていた複数のメカザウルスがゲッターロボに狙いをつけて大口を開けて襲いかかってきた。

慌てたマリアは攻撃に移ろうとするも、メカザウルス達に先手を取られ何度も体当たりをかまされた。

その衝撃に当然、機体内部のコックピットは激しく揺れ、彼女は翻弄された。

一応バリアが張られていたため機体自体は損傷はないが、マリア自身はたまったものではなかった。

(う……気持ちワルく……っ)

 

だが、メカザウルス側はお構いなしに次々に突撃を繰り出しゲッターロボは身動き一つとれずにいた。

 

彼女自身も激しい振動で顔色が悪くなりついに……。

 

「うぅ……、げえ……っ!!」

 

極度の緊張と度重なる激しい揺れに翻弄されたせいで強烈な吐き気を催し、ヘルメットを着けたまま嘔吐してしまった――。

 

(だめよ……っ、ちゃんと気を持つの……!!)

 

すぐさまヘルメットを取り、汚れた口元を手で吹く。

すでに彼女の顔色は真っ青になっていた――。

 

こちらへ向かってきていた二機のメカザウルスにゲッターミサイルを撃ち込み、何とか撃破するも、次々に今度は四方からメカザウルスが次々に襲いかかってきた。

だがその横から魚雷を撃ち込まれ、爆発。

メカザウルス達は魚雷が来た方向へ視線を向けるとそこにはランチャーを構えた数機のBEETが。

 

「マリア助手!!」

黒田と海自隊員の混成チームであった。メカザウルスに彼らは魚雷を撃ち込み一機ずつ確実に沈めていく――。

ゲッターロボ付近のメカザウルス達を掃討し、ランチャーに魚雷を再装填し、すぐに彼女の元に駆けつける黒田。

 

「大丈夫ですか!?」

 

すぐにモニターで彼女の安否を確認するが、顔色が酷く悪いのがすぐにわかる。

 

“……だ、大丈夫です。メカザウルスに体当たり攻撃をされて少し気持ち悪くなっただけですから……っ”

「…………」

 

だが黒田はベルクラスの早乙女に通信をとった。

 

「一佐、マリア助手はもうこれ以上戦闘継続は危険です。

直ちに彼女を帰艦させてください、お願いします!」

 

“………………”

 

「マリア助手を死なせるわけにいきません、すぐに彼女を回収してください!」

 

そう嘆願する彼だが、マリアが通信を割り込む。

 

“……黒田一尉、私は大丈夫ですからこのまま戦闘を継続させてください”

 

「だ、大丈夫なわけないでしょう!」

 

“戦力を減らすわけにはいきません。私だってすでに覚悟はできてます――”

 

 

頑なに拒む彼女だが黒田は苦渋の表情を浮かべる。そして早乙女は。

 

“マリアはこれから黒田のいるチームと共に行動しろ、あまり離れるな”

 

「い、一佐!?」

 

彼は何一つ表情を変えずにそう言いきる。

 

「その方が遥かに勝算、なにより生存率も高くなる、わかるな」

 

“了解……!”

 

「黒田、そういうことだ。マリアを頼むぞ」

 

“ちょ、待ってください一佐!!”

 

早乙女は通信を切り――そして腕組みをして息を吐く。

 

「――水樹、入ってこい」

 

突然、そう言い上げると入口ドアが開き、そこにはオドオドとした愛美の姿が。

 

「マリアが心配になったか」

 

「…………」

 

「君でも人を心配するような気持ちがあるのか。それはそれで安心した」

 

すると――。

 

「……マリアさんは、大丈夫なんですか?」

 

「……いや、ヤバいらしい」

 

「!?」

 

「黒田に言われてモニターを見れば顔色が悪かった。彼女は戦闘を続行すると宣言したが、おそらくやせ我慢だろう」

 

「……じゃあ、なんで助けようとか何もしないんですか!?」

 

「彼女は戦力を減らしたくないからこのまま戦闘を継続すると答えたからな。

そう言うなら私は彼女の意思を優先にする、それだけだ」

 

愛美は呆然となる。

「ハア!?なんで助けようとしないの、続けるったってそんな状態じゃ余計に危険じゃない!」

 

「彼女が自ら戦闘を継続すると言った。 ならまだ彼女は大丈夫、やれるだろうと、私はそう解釈してる」

 

「マジ信じらんないんだけど……アンタは鬼か!」

 

「鬼ね……前にもエミリアにそう言われた。そうだ、私は確かに鬼だ。

それに水樹、君はもう関係のない人間だ。私のやり方に口出ししないでくれたまえ」

 

「なっ!」

 

「では君はどうしたいんだ?」

 

「ど、どうしたいって……」

 

「そうやって私にウダウダ言うくらいならなんで何もしない?

君はマリアが心配じゃないのか?」

 

「…………」

 

 

 

「君がそこまでマリアを心配するのかそこまでは分からんが、彼女を助けたい気持ちがあるんならするべき事はあるだろう――もっとも君のような甘えとワガママの、ガキ同然の人間に行動に移す意思と性根がないのだろうが!」

 

「~~~~~~っ!!」

 

――牙の追撃を続けるBEET部隊。

途中でメカザウルスの妨害に遭うも、連携を取り一機ずつ確実に破壊していく。

マリアと黒田のいるチームへメカザウルスの大群が襲いかかってきたがゲッターロボが前に出る。

 

「ここは私が引き受けます!一尉達は引き続き、あの物体の追撃を!」

 

「マリア助手、無茶です!」

 

「ゲッターロボにはまだシールドがあります。大丈夫です!!」

 

「…………!」

 

自ら盾になるゲッターロボ。照準をメカザウルスに合わせ、各武装を展開――各発射口からミサイルが飛び出し、全て命中し撃破する。

だがさらに別のメカザウルス達が後ろから次々に現れゲッターロボへ突撃。

ミサイル攻撃の次弾が追いつかずに先ほどと同じく体当たりを受けて翻弄される。

だがそれだけで飽きたらず、今度はジュラ・ノービスからの魚雷が飛来し、無防備となったゲッターロボに命中し、大爆発。

 

「キャアアアアッ!!」

 

彼女は頭の後部を強くぶつけ、脳震盪を起こし気絶してしまった。

 

「マリア助手!!」

 

黒田はとっさに彼女を助けようと戻りかけるがメカザウルスがそれを阻止するかのように立ちはだかる。

 

「くそおっ!!」

 

だがそうしている間に牙達は一気に包囲網の範囲を拡大させていく。

このままではゲッターロボと黒田、そして海自の部隊全員が海の藻屑と化してしまうのを待つだけであった――。

 



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第十五話「対馬海沖の決戦、後編」②

「マリア、しっかりしろ!」

 

早乙女は通信で呼びかける中、愛美は彼の後ろ姿を見てぐっと拳を握りしめた――。

 

「……早乙女さんっ」

 

「こんな時になんだ?」

 

「……分かったわよ。乗ればいいんでしょ、乗れば……!!」

 

「……乗りたくないんじゃなかったのか?」

 

「もうマナにはなにがなんだか分かんないの……っ。

けど、今はマリアさんを助けたい……ここではあの人だけがマナを見てくれた、かまってくれた。

だからマナがマリアさんを助ける!」

 

それを聞いた早乙女は振り向いた。

 

「ではもう一度聞く。今だけでもいい、ゲッターロボに乗るか?」

 

「だから乗るって言ってんでしょ、何回も同じ事言わさないでよ!」

 

早乙女はそれを聞きたかったと言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべた。

 

「よく言った水樹。では今すぐ格納庫へ行き、竜斗かエミリアのどちらかの機体に乗れ。

君の機体を海上まで浮上させ、そこで君とマリアを交代させる、黒田に協力してもらう」

 

しかし彼女はなぜか食えない顔をしている。

 

「……まさかマナを絶対に乗らせようとして――」

 

「さあ、なんのことだ?君が自ら決めたんだろ?

ホラ、グズグズしてないで早く格納庫へ」

 

「…………っ!」

 

苦虫を噛み潰したような顔をして彼女は出ていこうとした時、

 

「水樹」

 

突然、彼女を呼び止めた。

 

「ありがとう、期待してるぞ」

 

「…………」

 

何も言わずに出て行く彼女の後ろ姿を見て、どこか安心したような優しい表情の早乙女――。

メカザウルスの猛攻を必死に避けて、マリアの元へ駆けつけようとする黒田の元に早乙女から通信が。

 

“黒田、どうやらマリアは気絶しているようだ。

ゲッターロボを海上まで引き揚げてくれ。水樹とマリアを交代させる”

 

「えっ?水樹が……?」

 

“さっき自分からまた乗ると言ったので格納庫へ向かわせた。

竜斗かエミリアの機体に搭乗してもらい君達と合流してもらう、いいな!”

 

“……了解っ!”

 

彼のモヤモヤが吹っ切れ気合いを込めてレバーに握りしめる。

水中であるにも関わらず恐ろしいほどの反応を見せて、敵の攻撃や突撃を完全回避しながら、見事ゲッターロボへたどり着く――。

 

「マリア助手!」

 

コックピット内を映すと彼女はぐったりしたまま動かず、気絶していた。

すぐさまゲッターロボを抱きかかえ、スクリューを使い、浮上を始める。

下からメカザウルスが自分達を追ってきているのを、すぐさま魚雷を向けて発射、直撃させ追跡を阻止する。

 

「マリア助手、もう少しの辛抱ですよ……!」

 

――ベルクラスの格納庫ではちょうどメンテナンスが終わり、再び出撃態勢に入っていた竜斗達に早乙女から通信を受けていた。

 

「水樹が……」

 

“もうそっちに着くと思う。

二人の機体にどちらかに乗せてやってほしい。

出撃して海上に出た黒田達と合流し、二人の交代を手伝ってやってくれ”

 

すると、ちょうど愛美が駆けつけ、二人はコックピットから降りて彼女と再開する。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

――三人とも沈黙。少し気まずい雰囲気が漂うが愛美がその沈黙を破る。

 

「……話は聞いたんでしょ?」

 

「水樹……どうして……っ」

 

「さあ?たまたまマナの機嫌がよくなったのかもね。ホラ、マナをどっちに乗せるの?」

 

……すると、

 

「ミズキ、アタシのとこに乗りなさいよ!」

 

エミリア自身からそう申し出る。

 

「ゲッターロボはまだシールドが使える分、安全だから。あと……」

 

「……あと?」

 

「その……ミズキに謝りたくて……」

 

「…………」

 

「……ワタシ達、顔を合わせるたびにほんと喧嘩してたね。アタシはアンタと合わないと思ったし、証拠にミズキの言動にムカッときたことは凄くいっぱいあった。

 

ちゃんと見ればアンタのいいとこだっていっぱいあると思うのに、悪いとこばかり見てワタシはミズキと向き合わずに避けて仲間外れにしてたと思う。

それはチームとして最低だよね……だから……ゴメンナサイ……っ」

 

涙声で頭を下げて謝るエミリア。

 

「水樹……実は黒田一尉に言われたんだ。俺達にチームとしての自覚が足りなかったって。

だから俺とエミリア、さっきからそればかり気にしてたんだ。

俺もそのことは正直にちゃんと謝りたい、ごめん……」

 

「…………」

 

……誠意を込めて頭を下げる二人。愛美は顔を赤めらせ、涙目になるが、すぐに目を拭いた。

 

「……ホラ、謝るのは後にして早く黒田さん達と合流するんでしょ?

マリアさんが気絶してるみたいだから早く助けてあげなきゃ。マナ達『ゲッターチーム』いくわよ!」

 

「ああっ!」

 

「うんっ!」

 

竜斗はすぐにBEET、エミリアとミズキは空戦型ゲッターロボの各機体に乗り込む。

 

「ミズキ、このゲッターロボの操縦をしてみる?」

 

「えっ……」

 

「ほらっ、乗りたいって言ってたじゃない。アタシばかり乗るのもアレだしミズキならきっと上手く扱えられるんじゃないかしら」

 

「いいの?ならっ!」

 

愛美が操縦席に座り、エミリアは後部へ移動した。その時、竜斗から通信が入る。

 

“水樹がマリアさんと交代するまで俺も二人の護衛として付き合うよ”

 

「石川……」

 

“『チーム』なんだから守らないとな。それに戦いを少しでも早く終わらせて被害を少なくしたいしさ、水樹が戻ってきたならそれができるかもしれない。行こう二人とも!”

 

――そして最初と同じくBEET、空戦型ゲッターロボの順で再出撃した。

海面へ急降下していく二機。

途中でメカザウルスに襲われるも竜斗の援護攻撃、そして愛美の操縦技術によってことごとく危機を回避していった――。

 

「ウワオっ、ミズキスゴい!!」

 

「…………」

 

すると愛美は、

 

「……ねえ。なんかコレ、マナの期待していたのと違う」

 

「……え?」

 

「カッコいいし空飛べるからおもしろそうかなと思ってたけど……なんか操縦が凄く簡単過ぎて面白くないし、なんか空飛ぶのそこまで楽しくない。拍子抜けだわ」

 

「ミズキ…………?」

 

「マナ、やっぱりいつものがいいわ。デザインは最悪だけど、操縦は比べたら向こうの方が飽きないし、断然に楽しいからね――」

 

……彼女はそう呟いた。

無事、二機は海面付近に到着しモニターを確認。

少し離れた場所で黒田のBEETが海戦型ゲッターロボを持ち上げる形で海面に浮上している所を見つけ、急いで向かう。

 

「黒田一尉、水樹を連れてきました!」

“ありがとう!コックピットからマリア助手の救助を手伝ってくれ。素早く行うぞ”

 

……どうやらマリアはいまだ気絶しているようであり、コックピットから開けられないので外部から開けることに。

 

竜斗に周辺を護衛してもらう間、空戦型ゲッターロボの手の平に水樹を乗せて、海戦型ゲッターロボのコックピットハッチへ密着させる。

水樹は外部からの開閉スイッチを押し、ハッチを開ける。

 

「マリアさん!」

 

ぐったりしたマリアを抱きかかえる愛美。だが、さすがに持ち上げるだけの力がない彼女は黒田に通信を取る。

「黒田さん、マナだけじゃ無理だから助けにきて!」

“わかった、すぐ行く!”

愛美は彼女を揺さぶる。

 

「マリアさん!マリアさんっ!」

 

何度も揺さぶると、ついにうめき声を上げ、彼女は目をゆっくり開けた。

 

「マリアさん大丈夫?マナが助けにきたよ!」

 

「……マナミちゃん……?」

 

「マナと交代するよ、もう安心して!」

 

「マナミちゃん……どうして……っ」

 

「マリアさんは……マナにいっぱいかまってくれたもん……だから――」

 

そして黒田が駆けつけ、彼にマリアを明け渡し、コックピットの座席に座り込む。

 

「エミリア、マリアさんを頼むわよ」

 

“うん、任せといて。あとミズキ”

 

「……なに?」

 

 

 

“無理しないでね”

 

「心配いらないわ。あんなキモいヤツら、マナがケチョンケチョンにしてやるから!」

 

無事、マリアを引き渡したのを見届けた彼女はすぐさま座席に座り、イキイキと操縦レバーを握り込んだ。

 

“水樹、頼むぞ!”

 

「任せといてよ!」

 

今までの彼女とは思えない、そして見せたことのないほどの真剣で気合いに満ちた態度である。

再び水中へ潜水する海戦型ゲッターロボとBEET。

ちょうどその時に一機の首長竜型メカザウルスが迫ってきており、大きな牙突き立て、噛みつかれそうになったがゲッターロボはメカザウルスの頭部を右手でガシッと掴んだ。

 

「マナが本気(マジ)になったらどうなるか教えてあげる!」

 

高出力マニュピレーターを駆使し、なんと頭部そのものを潰し、行動停止させた。

 

彼女は続けて素早い手つきで操作を繰り出し、足元のパッシブソナーに映るメカザウルス全てに照準をつけ、機体全体の全砲門を開いた。

 

「いくわよ『キモいの早く死ね死ねミサイル☆』!!」

 

冗談か本気か分からないような掛け声と共に海戦型ゲッターロボから無数のゲッターミサイルが一斉に飛び出し、全てがこの一帯にいるメカザウルス全てに襲いかかり、皮膚が溶けて海底へ次々と沈んでいく。

 

「まだまだ!!」

 

素早く次弾の装填を終え、今度は胸部を開放し中から大きく円い青いレンズが姿を現した。

内部のプラズマ反応炉が出力が急上昇し、直結のレンズへプラズマエネルギーが集まる。

 

「マナのとっておきよ!!」

 

レンズ内にプラズマエネルギーの青白い光がいっぱい輝いた時、全てが解き放たれた。

 

ゲッタービームと大差ない極太の、青白いプラズマビームが遥か先へ伸びていく。

しかしそれだけではなく、スクリューユニットを駆使し、そのまま機体がまるでコマのようなグルグル回りだした。

光線もその動きに合わせ、機体の水平方向三六○度全てに大出力プラズマビームが襲いかかる。

だが愛美は右手元のキーを巧みに押すと足元のコンソール画面に英語で、

 

『ディヒューズ(拡散)モード』

 

と表示され、胸からのプラズマビームが今度は弾丸状となり、前方左右、広範囲に渡ってプラズマ弾をバラまく。

さらに再装填したゲッターミサイル全弾もコマ回転をしながらぶっ放すという荒技を繰り出した。

 

この攻撃により海中のメカザウルスが一気になぎ払われ殲滅、そして牙型自立兵器『セクペンセル・オーヴェ』の八機の内、三機が運悪く直撃し破壊された。

海中の戦力が激減され、交代前の苦戦がまるで嘘のようであった。

 

「やはり私は君を手放したくないよ水樹。これから必要となる人間だ、竜斗達と一緒に……ククク」

早乙女はその光景、そして愛美の驚異的なゲッターロボの扱い方に驚き、そして感心した。

そして黒田は口を大きく開けたまま呆然となるも、すぐに我に帰る。

 

“黒田さん、チャチャっとやったけど、いかがかしら♪”

 

モニターを見るとあたかも朝飯前であるような余裕な表情である彼女に黒田はゴクッと唾を飲み込んだ。

 

「全く信じられないよ、君は……」

 

“フフン♪ホラ、早く終わらせるために次いくわよ!”

 

愛美の底知れぬゲッターロボの操縦センスは水中で遺憾なく発揮された。

まるで飛ぶ鳥を落とす勢いで、少したりとも機体に触れさせず次々とメカザウルスをミサイルとプラズマビームで撃破していく。

 

「マリアさんを苦しませたお返しよ、覚悟なさい爬虫類!」

 

……おそらくゲッターロボによる操縦、戦闘センスはゲッターチームの中では愛美が間違いなくダントツだろう。

 

全員の評価は同じであった。

 



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第十六話「勝利と代償」①

「か、海中のメカザウルス小隊の大半が壊滅……っ」

 

「セクペンセル・オーヴェも、三機が破壊されました!」

 

愛美の駆るゲッターロボの活躍により大打撃を受けた自分の部隊の惨状に狼狽する部下に対しアウネラは腕組みをして、焦る様子などなく一見冷静な顔をしている。

 

「上空部隊は?」

 

「……やはりあのゲッター線を動力とする敵部隊が現れてから形勢が逆転しつつあります。

アウロ様は負けじと奮闘してますが追いついていません!」

 

「…………」

 

――上空。心が軽くなった竜斗は黒田と同じく吹っ切れ、最初以上に戦果を上げ、それに伴い空自部隊全体の士気も向上、優勢になりつつあった。

そしてマリアを送りにもう一度ベルクラスに戻っていたエミリアも再び竜斗と合流した。

 

「リュウト、マリアさんを無事送ってきたよ!」

 

“よし、あとはもう――”

 

ここからやるべきことは一つ。空中のメカザウルスを全て一掃するだけになった。

 

だがアウロの駆る『メカエイビス・エイルード』の動きも急激に活発化した。

 

「空中のメカザウルス部隊へ。なんとしてでもゲッター線を使用する機体と浮遊艦を最優先に破壊せよ。

野放しにするな、我々爬虫人類の災いになるものは一切地球に存在させてはならない!」

 

空中で活動するメカザウルスは彼の号令で一気にゲッターロボ、ベルクラスになだれ込む。

「キャア!」

 

エミリアはメカザウルスに押し込まれて翻弄されてしまう。助けようとすぐさま竜斗は一点にかたまったメカザウルスを撃ち落としていくが攻撃が追いつかず。

 

“どうやら向こうは一気にたたみかけにきている。

だがここまでメカザウルスが固まっていればかえってありがたい。

ゲッターロボはビームでメカザウルスをなぎ払え。

ベルクラスは主砲であの怪物を攻撃する。この攻撃で一気に終わらすつもりでいくぞ!”

 

「了解!」

 

“念のためビームの出力を半分程度に抑えろ。

それでヤツら程度なら撃破できるだろうし、何より連射できる」

 

二人は今持てる力をフル稼働させた。

 

「ゲッタービームっ!」

 

彼女がそう叫ぶと同時に機体の腹部からビームを発射、密集したメカザウルスをなぎ払った。

 

「エミリアお前…………」

 

“エヘヘ、一度こうゆう風に叫んでみたかったの……”

 

――そういえば彼女は早乙女とチーム名について口論していた時、言い争ってはいたが二人で仲良く意気投合して『かっこいい名前』について盛り上がっていたのを思い出す。

二人は実は『少年』のような心を持っているのかもしれない。

 

 

竜斗も負けじとメカザウルスの攻撃をまるでアクロバティックのように華麗な軌道を描いて上手く回避していく。

そしてメカザウルスが自分を追跡してくるのを確認。

 

振り向き、右脚部に装備された小型空対空ミサイルポットを展開し、全三発発射し見事命中し爆発。

すかさずナイフホルダーからナイフを取り出して突撃。

爆発で怯んだメカザウルスの首へ振り込み、見事切断した。

 

そして空中メカザウルスに搭載された従来型マグマリアクター内のマグマが冷えてきており、その影響で出力低下と共に性能が大幅に弱体化し、次々と撃墜されていく。

もはや戦力的に人類側が優勢となっていた。

 

「ちいっ……」

 

その状況下でアウロには焦りが見え、操縦にもそれが顕れており、エイルードの触手の動きが大振りになり動きに無駄ができ始めていた――。

 

“大丈夫かアウロ”

アウネラ自らが彼を心配し、通信をかけてきていた。

 

「アウネラ様……っ」

 

“帰艦しろ。今のお前には疲れが見え始めている、無理をするな”

 

気をかける彼にアウロは……。

 

「心配無用です!ここまで追い込んでみすみす撤退なんて……ここが踏ん張りどころですよ!」

 

“はっきり言って、戦況は奴らのペースだ。このままではお前までやられる。

一度立て直すことも大事だ”

 

「…………」

 

“ここで無理して死ぬこともないだろ。悪いことは言わん、戻れ!”

 

「私、キャプテン・アウロは帝国に忠誠を誓う身であり、あなたと同様にキャプテンという恐竜兵士の風上に立ち、いわば騎士(ナイト)です。敵に背を向けるなどと、それこそありえません……!

 

恐竜帝国の誇り、そして爬虫人類の未来にかけて、この身を犠牲にしてでもあのゲッター線の機体を倒してみせましょう!」

 

彼から通信が途切れ、対しアウネラは複雑な表情を浮かべ、歯ぎしりを立てた。

 

「……バカが……っ」

 

エイルードは全ての触手をベルクラスへ向けてマグマと溶解液で集中攻撃を繰り出すが、ベルクラスはお構いなしに艦首を展開し主砲発射態勢に移行していた。照準をエイルードに合わしプラズマエネルギーを収束させる。

 

「ベルクラスはこれより主砲を発射する。射程内にいる各隊員は速やかに退避せよ」

 

ベルクラスの前方にいたゲッターロボとBEET、戦闘機は一目散に四散した。

アウロは前方に光る青白い太陽のような輝きを見て、もはやこれまでと悟る。

 

「……どうやら私はこれまでのようだ。

だが、ゲッター線は貴様らのような無知が扱える代物ではないことを、そしてそれを湯水のごとく扱う低俗な猿には破滅の未来しかないことを。その時は身を持って知るがいい!!」

 

ベルクラスへ向けて捨て身の特攻をかけるアウロ。

 

だが早乙女はいつも通りの平然な表情であった。

 

「主砲、発射――」

砲門から膨大のプラズマエネルギーが解き放たれ、それが極太の光線を形成し一瞬でエイルードに直撃。触手、胴体が少しずつ分解されていった。

 

「アウネラ様……命令を無視して申し訳ありませんでした……恐竜帝国、そして爬虫人類に栄光あれ――――!!」

 

アウロもまたプラズマエネルギーの塊に飲み込まれていき、光線が消える頃にはエイルードは影も形もなかった――。

 

「メカエイビス・エイルード、反応消滅しました……アウロ様も……」

 

この場は沈黙に陥った――。

 

海中では愛美の活躍もあり、海中のメカザウルスのほとんどを掃討したゲッターロボとBEET部隊はジュラ・ノービスを包囲しようと接近する。

この魚の形をした巨大艦を破壊すれば、あの牙に囲まれる驚異もなくなるし、そして敵の基盤が崩れる。

すなわち第十三海竜中隊は壊滅したも同然である。

 

「ホラホラ、一気にケリつけるわよ!」

 

“焦るな水樹!”

 

気合いがこもり、熱くなりすぎている愛美をたしなめる黒田。

彼女自身はここまで達したことがないのだろう、感情のコントロールができてない。

 

「敵部隊、本艦を包囲するつもりですアウネラ様!」

 

黙り込んでいたアウネラがついに口を開く。

 

「総員、手遅れにならない内に直ちに艦から退避せよ。

これより艦の操縦は私が全て行う」

 

「アウネラ様……?」

 

「これまでの戦闘データと『セクペンセル・オーヴェ』に関する開発書を持って本隊のマシーン・ランドへ行け。お前たちが安全圏へ脱出するまでは私がなんとか時間を稼ぐ」

 

なんと司令官である彼自らが囮となる発言に当然部下達は仰天、狼狽した。

 

「アウネラ様、何をおっしゃいますか!?あなたを見捨てることなんてできません!!」

 

「私達はいざ、このジュラ・ノービスと運命を共にするつもりです!

それに脱出するならアウネラ様ご自身が!」

 

訴える部下だがアウネラ様は平然と首を横に振る。

 

「いや行け。お前たちはまだチャンスがある。おそらく今戦闘は大敗は確実、それは全て司令官である私の責任だ。

日本地区で敗戦が続くこの状況でおめおめと逃げ帰ったら確実にゴール様に処刑されることだろう。

だが、お前達の場合は私自らの命令で脱出したと言えば助かるかもしれん。

ゴール様に会う前にガレリー様に戦闘データと開発書を渡しておけ、いいな」

 

「しかし……っ」

 

「直ちに退避せよ、絶対命令だ!!」

 

彼の怒号がこの司令部に響き渡った。

 

「行ってくれ、頼む」

 

「……了解しました」

 

やりきれない表情の部下に対してアウネラは彼らに敬礼した……。

 

「これまで私は色々と厳しい態度をとってきたが内心、皆と共にここまで仕事ができてとても嬉しく思う、本当にありがとう」

 

悲しませないように気丈に、そして今まで見せたことのない優しい笑みをとる彼。

 

「元気でな――」

部下達は涙が溢れながらも彼にビシッと敬礼、去っていった。

見送った後、この場でただ一人となったアウネラはこの中を見回して、これまでの思い出に浸る。

 

「ジュラ・ノービス、最後まで付き合ってやるから感謝しろよ」

 

そして艦の操縦席に座り、思い詰めた表情で桿を握り込む。

 

「アウロ、待ってろ。私も今行くからな」

 

――ゲッターロボとBEET部隊はジュラ・ノービスに対する包囲網を形成し、ゲッターミサイルと魚雷の一斉射撃を浴びせる。

旧式艦であるジュラ・ノービスの装甲は無理に改修を繰り返して使われたこともありかなり消耗しており、集中砲火で簡単に破壊され、あちこちに小規模の爆発が発生、沈没も目前であった。だがその時、艦後部から古代魚の形をした潜水艇が射出され艦から離れていく――。

 

「あれは……逃げるつもりか?」

 

「逃がすか!」

 

数機のBEETは逃げていく潜水艦に向け、照準を合わせた。

 

 

だが瞬間、ジュラ・ノービスから多数の魚型魚雷が一斉に発射されて自分達に襲いかかった。

 

「ただでは死なん。せめてもの、ゲッター線の機体だけでも道連れにする」

 

決死の反撃をするジュラ・ノービスは今度はゲッターロボの方へ向き、口を大きく開けて『ヒュドュン砲』を展開した。

 

「ヤバッ!」

 

愛美は急いでそこから逃げようとするが、残っていた五つの牙『セクペンセル・オーヴェ』が突如姿を現しゲッターロボへ体当たり、妨害する。

 

「水樹!」

 

黒田も助けるために駆けつけ、牙から引き離そうとするも今度は黒田にも標的にし、体当たりを開始した。

 

「アンタ達、黒田さんを離しなさいっ!!」

 

“水樹、来るな!”

 

だが牙達は再び散って陣形を組み、二人を包囲する。

 

「これで最後だっ!」

 

赤い膜が張られた時、今にも艦からフォノンメーザーが発射されようとしていた。

 

「えっ、えっ!!!?」

 

焦りに焦る水樹。

 

「君だけでも助ける!!」

 

黒田は体当たりによってボロボロとなった自分の機体を駆使し、ゲッターロボを全力で結界外へ押し出したのだった。

 

「黒田さんっ!!?」

 

“……水樹、ごめんな。ちゃんと君と向き合えばよかったよ……っ”

 

フォノンメーザーが発射され、黒田だけがいる結界へ直撃、結界内は真っ赤に染まった。

 

「黒田さんっっ!!」

 

必死で呼びかけるも通信が途切れ、レーダーを確認するも黒田の機体の反応が消滅していたのだった……。

一瞬だけ彼女は茫然自失した。

だがすぐにマグマの如き怒りが身体に湧き上がり暴れまくった。

 

「うああああああああああああっっ!!!」

 

怒り狂った彼女はジュラ・ノービスへゲッターミサイル、プラズマビームを全弾撃ち尽くし、全て真正面から――。

 

「私が死すとも、恐竜帝国は死なず!!ゴール様、万歳!!」

 

ゲッターロボの一斉砲撃を受け、司令部は大爆発を起こし、アウネラも巻き込まれていった。

艦内部の至るところにも次々と爆発、そしてすぐに閃光と共についに大爆発。

 

 

 

ゲッターロボやかろうじて生き残った数機のBEETは艦の爆発による強烈な衝撃波に呑み込んでいった――。

 

……その数分後。

 

“水樹、戦闘は終わりだ。よくやってくれた……っ”

 

離れた場所に漂うゲッターロボに早乙女から通信が入る。

しかし彼女はうんともすんとも喋らない。

 

“敵母艦の爆発の衝撃でしばらく海中に通信が繋がらなかったがやっと繋がった。無事でよかった”

 

早乙女がモニターで見るも彼女の様子がおかしい。

 

“水樹、どうした?”

 

すると彼女は、震える声でこう呟いた。

 

「……黒田さんが……」

 

“……なに?”

 

「黒田さんが……マナを助けるために……」

 

早乙女は急いで彼に通信をかけた。だが画面モニターがノイズばかりでコックピットを映さない、レーダーを見てもやはり反応が消えていた――。

 

「黒田…………っ」

あの早乙女ですら動揺し、口を硬く閉ざしてしまった。

その時、医務室にいたはずのマリアが早乙女の元に駆けつけるも、彼の様子の異変に気づく。

「司令……?」

 

「黒田が……死んだ……っ」

 

マリアは慌てて彼と同じく黒田に通信をかけ、反応を確認をするも全く反応のないことを知り、自失してその場にへたり込んでしまった。

 

――竜斗達も帰艦してからこの事を知り、ゲッターチーム全員の心にどうしようのない悲しみ、そして無力感が大きな穴としてポッカリと開けてしまった。

 

……今回は功績、得られたもの、そして同時に失ったものも大きく、竜斗達にとっても節目と言うべき戦闘であった。

 



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第十六話「勝利と代償」②

マシーン・ランドより約一万メートル直下の地底。

専用エレベーターのみで行ける、爬虫人類の王族とごく限られた者にしか行けない不可侵区域、あるいは聖地と呼ばれる場所。

広大な空間と奥には祭壇のような妖しげな設備と巨大な神像が奉られており、そこにゴールがただ一人、像へ向けて黙祷している。

 

「ゴール様っ」

 

側近が駆けつけるが彼は振り向かず、その神像を見続けている。

 

「どうした?」

 

「第十三海竜中隊の者が報告することがあるので至急にとのこと」

 

「わかった、だが少し待ってくれ。祈祷がまだ終わっておらんのだ……」

 

待つ間、側近もその像を見上げる。

 

 

「『ユイラ』に登場する全神『ゼオ=ランディーグ』……天地、生物、そして我々爬虫人類を創造し、我々に力と知性を与えたと言われる我々爬虫人類の信仰の対象……いつ見ても神々しい……」

 

 

爬虫類とも霊長類とも違う変わった、地球には存在しない、まるで宇宙人……エイリアンとも言える姿をした像である。

 

「――よし、行こう」

 

祈祷を終えたゴール達は自分の玉座へ戻っていった――。

 

一方、王族区域の書物庫でゴーラは『シュオノ神話』と呼ばれる書物を黙読していた。

 

(……太古、主神が天地を造り、様々な物質、生命、動物、我々爬虫人類の始祖である二人の男女、力のロイフと知性のギュルネイを創造した。二人は神が造り上げた地上の楽園で、感謝しながら長い間幸せに暮らすもある日、偶然楽園を訪れた悪しき猿が二人をそそのかし――神の怒りに触れ、楽園から追放された――)

 

『シュオノペメル』

 

 

爬虫人類が信仰する一大宗教で聖典は『ユイラ』。

 

教義は『神の啓示を受け、契約そして十戒を授かった爬虫人類こそが万物の頂点にあるもの』とし、細部は異なるが現在の地上人類の様々な宗教と酷似した部分を沢山併せ持つ。

王族で現帝王であるゴールが法王の役割も果たしている。

彼女の読んでいる書物はユイラに書かれた神話を読みやすくしたものである。

 

(ロイフとギュルネイは永遠の命を奪われて――そしてそれからは霊長類とは互いに相容れない存在となった。……昔、お父様がよくこの本を読んでくれたけど……)

 

……今、彼女なりに何とか戦争をやめさせる解決策を模索中であったのが未だにいい方法がなかった。

 

 

(お父様には話を取り合ってもらえずラドラ様はまだ投獄中……私一人が皆に訴えても意味はない……ラドラ様の言っていた例の地上人類の人に会えれば……)

 

 

一ヶ月前、ラドラから聞かされた地上人類……すなわち竜斗の話を聞いて『会って共存について、戦争を止める解決策について話したい』という思いはずっと募るばかり……だがどうしようもできずモヤモヤして大きなため息をつく。

 

「ゴーラ様、よかったらこれをどうぞ」

 

「ありがとう」

 

そんな時、専属の女性召使いであるアリムが飲み物の入ったコップを差し出した。彼女はコップの水をすすり飲む。

 

 

「ねえアリムさん、私達爬虫人類と地上人類がどうにか争わずに済むいい方法はないかしら……?」

 

アリムはまたかと呆れた顔をした。

 

「もう……あなた様はいつもそのような話ばかりですね。

私達と霊長類が合わないのは太古の昔からですよ、それはどうしようもないことなのです。

ゴーラ様の今お読みになっている書物の通り、私達の祖は地上人類の祖である猿にそそのかされてしまったために、神様に怒りを触れられたのですよ」

 

「あなたはこんな書物に書かれていることを信じるのですか!

こういうのは作者の都合で大幅な脚色が入っているのがほとんどではありませんか!

そもそもこの話が真実かどうかも分からないのに!」

 

「ゴーラ様、どうか落ち着いてください!」

 

「落ち着いていられますか!こうしている間に地上では多くの爬虫人類や地上人類が傷つき、死んでいるのですよ!」

 

だが手を滑らせてコップを床に落とし、割れてしまい、そして水をこぼしてしまった。

 

「ああ、ごめんなさい……っ」

 

ゴーラは申し訳なさそうに割れたコップのかけらを拾い、アリムも急いで手伝う。

 

「ゴーラ様は本当に変わったお方です。

お父上のゴール様がお耳になされたらさぞかし悲しむでしょうに……」

 

「……」

 

「ゴーラ様はそうおっしゃっても何も咎められませんが、私どもが言おうものならそれこそ非国民扱いされ、最悪国家反逆罪で私はおろか、家族や関係する者共々根絶やしにされますよ」

 

……恐らくは自分と同じ考えの人間は少なからずともいると思う、だがアリムの言うとおり、その先にある最悪の末路を考えると恐怖が絡んで言えないのであろう――。

 

「とにかく、お願いですからそんなことは二度と口に出さないで下さい。

さもなければ、いずれあなたにまで罰が下るかもしれませんよ」

 

 

忠告する彼女はコップの破片を持って去っていく。

 

ゴーラは何とも言えぬ複雑な顔をしていた――その時、玉座の間からゴールの巨大な怒号がこちらにまで聞こえ、彼女は怯んだ。

「お、お父様……っ」

 

玉座の間では、逃げ帰ってきたアウネラの部下達が怒りに怒るゴールにひれ伏せている。

 

「それで貴様らはアウネラを見捨てておめおめと逃げ帰ってきたというのか!!」

 

「滅相もございません!私達も本当はアウネラ様と共に……」

 

「ええい、言い訳なぞ聞きたくないわ!!

側近、何をしている。直ちにこいつらを囚人牢へ連れていけ。

近い内に処刑台に立たせてくれる!」

 

側近達を呼び寄せ、彼らを強引に連行していく。ちょうどその時、ゴーラがここに駆けつけてきた。

 

「お父様、どうされましたか!?」

 

 

「……ゴーラか」

 

「あ、あの人達は一体……」

 

「ゴーラ、お前には関係のないことだ。下がってくれ」

 

「しかし……っ」

 

「下がれと言っているのがわからんのかあ!!」

 

彼女はムッとなり、思い切ってこう言い出した。

 

「最近のお父様はおかしい!

地上へ上がってきてからいつも機嫌が悪くて怒ってばかり、私や皆の話などちっとも聞いてくれない!

昔のように優しかったお父様は一体どこに行ってしまったのですか!」

 

「…………」

 

「わたしは今のお父様が怖くて近寄りづらいんです……お願いだから昔の優しいお父様に戻ってください……っ」

 

本音をぶちまけ泣き出す彼女を見て、ゴールも気持ちが冷めて玉座へドサッと座り込む。

 

「怒鳴って悪かったゴーラ。すまないが今は一人にさせてくれ……」

 

ゴーラはしくしく泣きながらこの場を後にし、ひとりになった彼は頭を押さえて深いため息を吐いた――。

……そして連行されたアウネラの部下全員は囚人牢にぶち込まれる。

そしてこの牢の隅に先客がいることにすぐ気づく。

 

「……もしかしてキャプテン・ラドラ様では?」

 

彼は隅で静かに座っていた。しかし手錠や足枷はされていない。

 

「……あなた達は確かアウネラ様の……どうしてここに?」

 

……彼らはその理由を話すとラドラは静かに目を瞑り黙祷する。

 

「……そうか。アウネラ様だけでなくアウロ殿も。惜しい人を亡くしたものだ」

 

 

「爬虫人類として誇らしい見事な最期でした……それにしてもラドラ様は……?」

 

「私はあれからずっと投獄されたままだ。処遇がまだ決まってないらしくてな。

一応手、足枷は外されたが一体どうなるのやら。

身体がなまっていて、且つ外の情報が全くわからないのが辛い。

よかったら答えられる範囲で教えてくれないか」

 

ラドラに知る限りの情報を伝える。その中にはニオンという地竜族が彼の代わりに第十二恐竜中隊司令官に着任したことも。

 

「……日本地区も大変だな。やはりゲッター線の力は我々にとって危険だな……」

 

「ゴール様の怒りに触れてしまい……やはりアウネラ様と運命を共にすればよかった……っ」

 

落ち込む部下達にラドラは、

 

「そう言うな。アウネラ様は自ら命を捨ててあなた達部下を優先で助けたんだ。それを無駄にしてはいけない」

 

「しかし……私達はいずれ近い内に処刑される、それでは助かった意味が……」

 

「いや、私の方が大失態を犯したのにあれから一ヶ月以上も保留されているのだ。

あなた達の方がまだ助かるチャンスはある、希望を持て」

 

「…………」

 

……ラドラはひと息ついて彼らにこう質問した。

 

「私達は……一体何をやってるんだろうな」

 

「何を、とは?」

 

「私達は地上人類から地球を奪い返すために戦っている。

だが地上人類も負けじと当然に抵抗し、結果どちらかが滅びるまでの生存競争を繰り広げている……本当にそれが正しいのか?」

 

「ラドラ様、何を言われるのです。地上人類は我らが天敵ゲッター線に恩恵を受けた種族なのですよ、悪なのは奴らではありませんか。あなたは地上人類の味方をするつもりなのですか?」

 

「……私も爬虫人類としての誇りはもちろんある。しかし、地上人類はただゲッター線で進化しただけで我々に対して何か罪を犯したのか、危害を加えてきたのか?」

 

「そ、それは……っ」

 

「……私が言いたいのは、地上人類と協力する選択肢があってもいいような気がするのだ。

彼らの文明は凄まじいものがある。

彼らと共に協力すればゲッター線、いや地球にもし危機があった時も乗り越えられる可能性があるなどの利点がある。その可能性を潰してまでの我々の勝利とは……」

 

「それは……我々にそう申されても……」

 

「まあ所詮、私の理想ばかりのきれい事に過ぎんがな、種族間に色々な問題が出てくるだろうし。

第一それを今のゴール様に言ったところで話を聞いてもらえないどころか、最悪裏切り者か狂人扱いされるのがオチだ」

 

 

 

……彼らは返答に困るものの、中の一人がこう言い出した。

「なあ、最近のゴール様はやけに機嫌悪くないか?」

 

その質問に全員が相槌を打つ。

 

「……実は私もそう思っていた。マントル層から上がって来てからあの方は変わった。

それまでは我々兵士や民をいつも気遣う正に名君と言っても過言ではなかったのに今や暴君になりつつある……」

 

「そして地上制圧を急いでいるようにも見える。

我々の優れた科学力と軍事力なら、焦らず慎重にいけば制圧はより確実なのだがな――」

 

「それは我々に冬眠期が近づいているからだろう」

 

ラドラは彼らの疑問に間を入れずに答えた。

 

「我々は一定の周期に入ると長い冬眠期に入る。

爬虫類と同じだが我々の方がその期間はかなり長い上に今まで地中にいたから地上の爬虫類と比べてかなりずれている。途中で冬眠期が来て地上制圧を一時中断している間に彼ら地上人類は戦力を蓄え、より強化するのは目に見えている。

そうなれば地上制圧はより至難となるのが理由だろう」

 

「しかし、それならなぜ今の時期に?」

 

「前にゴール様から聞いたが、今の地上人類の現文明の内に叩きたいとのことだ。

次の活動時期だと地上人類の文明がより発達し、伴って戦力が強化されている可能性がある。

彼らがまだ力をつけてない内に攻略したいのだろう。

あと我々が一応、微力限定だがゲッター線耐性技術を開発したのもごく最近、それらと時期を重ね合わせて一番都合がいいのが、今のこの時期というわけだ」

 

「なるほど……」

 

「だが我々の大きな誤算は彼らがそのゲッター線を味方につけてしまったことだがな――」

 

「おい、うるさいぞ!静かにしないか!!」

……ひそひそ話をしている内に、近くにいた看守に聞こえ、甲高く怒鳴られてしまう。

 

「……では話はこれまでにして、今は大人しくするしかないな」

 

……大人しく静まりかえるラドラ達だったが、次の日。

突然、一人の半魚人女性がこの囚人牢に現れる。

 

「アウネラを、あの人を見捨てたのは本当なの!!?」

 

「ユウシェ様……っ!」

 

彼女はユウシェ=ニ=アークェイル。

アウネラ夫人である。

彼らがアウネラを見捨てて帰ってきたという良からぬ噂を聞きつけ、ここに飛んできたのである。

当然、アウネラの部下全員が仰天する。

 

「よくも夫を見捨てて逃げ帰ってこれたわねえ!!

爬虫人類としての誇りはないのかこの裏切り者共!!」

 

ヒステリックになったように喚き、彼らへ恨み節と罵言を吐きまくる。

それらが強烈に応え、彼らの顔色はどんどん悪くなっていく――。

 

「あの人は冷たい海底で一人ぼっちなのよ…………いくらなんでも可哀想よォ……」

 

号泣し、崩れ落ちる彼女――。するとラドラは立ち上がり、鉄格子越しに彼女と対面する。

 

「アウネラ夫人、気持ちはすごく分かりますがどうか聞いてください。

アウネラ様は自ら囮になって彼らを逃がしたんだ。決して見捨てたわけではない」

 

「…………」

 

「敗戦が続き、そしてその戦闘も敗北は確実……あのままアウネラ様も帰ってきても恐らくゴール様によって全員処刑されるのは避けられなかったと思います。

だからこそ、あの方はせめて部下だけでも助けようと、自ら犠牲になったんです……彼らをどうか責めないでください。アウネラ様は笑顔で彼らを見送ったそうですから――」

 

……ラドラのお陰で彼女も一応落ち着き、彼らに頭を下げて去っていった。

だが部下達はその屈辱と後悔に押しつぶされてしまいそうになり、ガチガチに震え、そして大粒の涙を流しながら床にひれ伏せて嗚咽した――。

 

(こんな戦争が続く限り、このような場面が何度も起こるのか……恐らく地上人類側も……)

 

ラドラはこの地上人類と爬虫人類の存亡をかけた戦争に憂いていた。

 



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第十七話「地元帰り」①

数日後。この戦時中なこともあり、駐屯地内における黒田の葬式は行われなかったものの、ゲッターチームや同僚達による小さな弔いは行われ、さらに彼の家族を呼び、遺品の引き取りをしてもらった。

そして一人の泣きはらした社会人女性が家族と共に立ち会っていた。

彼女は黒田の婚約者であり、気の毒すぎて誰も彼女に慰めの言葉などかけてやることは出来なかった。

竜斗も彼女を見かけただけだが、見るだけで物凄く虚しくなった、悲しみよりも。

戦争している以上は死ぬ確率が高くなるのは当たり前である。

それは外ればかりのくじ引きのようなモノで、黒田は……ただ外れを引いただけである――。

 

――ゲッターロボ専用のドックにて、早乙女はとあるメカを見上げていた。

「…………」

 

彼が見ていたのはゲッターロボではなく、前にも見ていた戦闘機のようなメカが三機。

早乙女曰く『ゲッター計画の完成系』というものらしいが。

 

彼はあの時のことを思い出していた――。

苦心して試作開発したゲッター炉心の出力テストをしていた時、それは起きた。エミリアの起こしたゲッター炉心の過剰出力、そして制御不能である。

遠隔操作による停止を受け付けず、炉心間近に移動して手動で止めようとしたがそれを阻止できずに爆発、早乙女は吹き飛ばされて、命に別状はなかったものの身体中が見るも痛々しいほどの大怪我を負ってしまったのである――。

「早乙女司令、ここにいたんですか」

 

そこにマリアが彼の元にやってくる――。

 

「なあマリア」

 

「どうしました?」

 

「私達は……もしかしたらとんでもないものに手を出したのかもしれんな」

 

「……ゲッター線ですか」

 

「……無害で微量で膨大な出力を生み出し、さらに爬虫類に有効なゲッター線は我々人類にとって恐竜帝国に対する絶対的な切り札と今でも思っているし、現状はこれに頼るしかないのも事実だ。

だが私やエミリアが起こした事故、未遂もそうだがそれ以前にもゲッター線の出力が勝手に上昇することが度々あった。

まるでゲッター線そのものに意思があるかのようにな」

 

「……まさか生きているとでも?」

 

「さあ。とにかくこれに関しては不可解なことだらけだ。

まあ私にすればさらに興味がそそられるがな。ところで竜斗達は?」

 

「三人とも訓練できるような状態ではないので休養させてます。疲れとなにより黒田一尉の件によるショックが大きいようで……特にマナミちゃんはそれで寝込んでいるようです」

 

「……そうか。しょうがないことか」

 

「……やはり私がふがいないばかりに……」

 

「黒田は元々覚悟の上で戦闘していた。君のせいでもなければ水樹でも誰のせいでもない。これは運命だったのさ」

 

淡々と返事を返す彼に対しマリアは、

「一尉が戦死したというのに司令は本当に冷静ですね、私も見習いたいものです……」

 

彼女の言葉には皮肉のようなものが混じっていた。しかし、

 

「私も黒田が死んだ時はさすがに動揺した。だからとてそれでどうなる?

『黒田が死んだ、悲しい』とメソメソしていれば彼は喜ぶと、それとも生き返るとでも言うのか?」

 

「い、いえ……そういうわけでは……」

 

「黒田の遺志を継いで一日でも早く人類の平和を取り戻すことが彼、いや今まで死んでいった者達に対する一番の供養だと私は思うがね」

 

「………………」

 

「……そうだ。明日、三人を司令室に集めてくれないか?水樹も頑張って来てもらおう」

 

……彼はそう言った。

 

次の日の午前中。三人は司令室に呼び出された。しかし三人の表情は暗い。

そんな三人を見て、早乙女は一呼吸置いてこう告げる。

 

 

 

「君達、一度地元へ帰るか?」

 

「えっ……」

 

「もうそろそろいいかと思ってな。友達や両親に会いたいと思うだろう」

 

三人はそのことなどすっかり忘れていた。

 

「今週の日曜日にしようかなと思うがいいか?」

 

三人は向き合いコクッと頷く。

 

「……はい。お願いします」

 

「竜斗、親とは連絡取れたか?ずいぶん前に許可をとったハズだが」

 

「……それが向こうに繋がらなくて……」

 

「そうか。もしかしたら向こうへの通信ネットワークが遮断されて使えないのかもしれんな。

あと、今からそのことについて重要な話になる、ちゃんと聞いておけ」

 

早乙女は真剣な顔をして三人を見つめる。彼からは並々ならぬ雰囲気を感じさせた。

 

 

「地元へ帰ってから三日後の夜の八時まで時間をやる。

だが君達は戻りたくなければそのまま戻ってこなくてもいい」

 

「え…………それはどういうことですか?」

 

「こちらへ戻りたくなければそのまま地元に残り家族と暮らすのもよし、だがゲッターロボのパイロットを続けるのもよし。強制はしない――」

 

三人はその言葉に衝撃を受けた。これから先ゲッターロボに乗り続けるかそれとも降りるか、選択肢を突きつけてきたのだった。

 

「集合場所は君達を降ろした場所にしよう、私はそこで待っている。

戻らなかった場合もゲッターパイロットの補充や退職手続きは私達がなんとかしておく。心配しないでほしい。行く日まで考えておいてくれ。

だが思い詰めず気を楽にして、自分の正直な気持ちに従ってほしい」

 

「早乙女司令……」

 

「以上だが最後にこれだけは言っておく。

黒田に関しては、君達は未だに信じられないと思うが彼もすでに覚悟は出来ていた。

戦場では常に全員が無事に戻れるという保証はまず有り得ない。

これから先、君達はまだゲッターロボに乗りたいなら、そういう場面をイヤほど見ることになるし、下手をすれば君達自身がそうなる。

 

もし君達がこちらへ戻ってきたい意思があるのなら、全てを捨てる覚悟で戻ってこい。

中途半端な気持ちで戻ってこられては君達にも、そして私達にも迷惑だ」

 

「…………」

 

「酷いと思うが、それが現実だ――」

 

……三人は司令室から出て行った後、早乙女は中央のソファーに座り一息つく。

「すまないがコーヒーを頼む」

 

「はい、ただいま」

 

……彼女が入れてきたコーヒーのマグカップをもらい、少しすする。

 

 

 

彼女も対面する形でソファーに座る。

 

「司令、なぜ今になってあの子達にあんなことを……?」

 

「……私の中にある小さい良心なのかもな。

どのみち、この先はさらに失うモノが沢山出てくるのは確実だ。

前の戦闘のようにいちいちうろたえて、それを受け入れる覚悟がなければやっていけんからな」

 

「……あの子達は戻ってくると思いますか?」

 

「さあな。戻ってこなくても、それも運命だったってことだ――」

 

……そして竜斗達は相変わらず暗い表情で通路を歩いていた。

途中、愛美はヒクヒク泣き出してしまう。

 

「水樹……っ」

 

あの愛美が本当に悲しんでいる。二人はそんな彼女を見て、胸が締めつけられた思いをする。

 

「……ミズキのせいじゃないわよ。だからそんな悲しい顔しないで……」

 

エミリアが慰めようと優しく頭を撫でるが、愛美はそれを振りほどき走り去っていった――。

 

「……今はそっとしておこうよ」

 

「けど……っ、ミズキがあんなに悲しんでいる姿なんて見たことないから余計に可哀相になって……っ」

 

「……仕方ないよ。まさか黒田一尉が戦死だなんて俺でも思わなかったし今でも全然信じられないんだよ。

ましてや水樹は目の当たりにしたんだから……」

 

「……」

 

二人は落ち込んだまま並んで歩き出す――。

 

「……ねえ、リュウトはどうする?サオトメ司令の言ってたアレ……」

 

「アレねえ……」

 

……正直、早乙女の口からあんなことを言ってくるのは予想すらしてなかったことだ。

このままゲッターロボから降りて、友達や家族のいる地元に戻れるのは恐らくは戦争が終わるまではこれっきりになるだろう。

それに全てを捨てる覚悟という意味はつまり、『いつでも死んでもいいという極限の覚悟』という意味である。

海上戦争で割り切れずに散々狼狽えていたことを考えると、本当にそんな覚悟を持てるか凄く不安であった。

 

だが彼の心の中にはその考えを邪魔する思いがあった。

黒田の対する悲しみ、そして無念を晴らしたい気持ち、なにより前に決心した世界を救う、そのために強くなりたい思い、それらがぶつかり合って――彼の頭の中が破裂しそうであった――。

「……そういうエミリアこそどうするんだよ?」

 

「ワタシ?ええっと………………っ」

 

……当然、彼女も言えずに迷っていた。結局、答えが出ないまま当日を迎え、午前中から着替え、荷物の支度をしてから早乙女の自家用車で向かう。

その道中、三人は無言であった。

 

 

普通であれば帰ったらどうするとかの何気ない会話が少しは出てきそうな気がするが、それが全くなくはっきり言って雰囲気が無機質のようである。

早乙女も運転の途中で何度も三人をチラ見する。盛り上げる雰囲気でもないし、何より乗らないだろうと彼も無言のまま運転していった。

 

「よし、着いたぞ」

 

郊外の広い場所に車を止めて、全員車から降り立ち、外の空気をいっぱい吸い込む。

メカザウルスの蹂躙によって、前のような街らしさは見る影もないが、それ以外は確かに見慣れた光景が三人の目に入る。地元に帰ってきたのだと再認識する。

 

「では三日後の夜八時に私はここで待っている。本当に戻ってくる覚悟があるならそれまでにここへ集合だ、いいな?」

 

竜斗とエミリアは頷くが、愛美は無反応だ……。

 

「……よし。では行ってきなさい」

 

……早乙女と別れて三人は足を踏み出し、今は街の人々、そして家族の所在地について探し始めた。



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第十七話「地元帰り」②

……ここが自分が住んでいた所とは思えないほどに、殆どの建物が壊されて廃墟のような街。

だが空気を吸うとそこが確かに自分達が住んでいた場所だったと実感する。

すでに瓦礫などが片付けられており、景色が良くなりまるで地平線を見ているようだ――。

 

「……あの時の朝霞周辺みたいになってる」

 

「いやそれ以上だと思うよ……」

 

竜斗達はとりあえず、偶然近くに通りかかった人に尋ねる。聞くとどうやら、自分とエミリアが通っていた小学校付近に仮設住宅がすでに出来ており、そこに街の人々が集まっているらしく小学校も無事で体育館で寝泊まりしている人がまだいるようである。ここからだと歩いて四十分ほどだ。

「俺達の小学校かあ……卒業以来だから懐かしいよな」

 

「うん。リエとかみんな無事かな……っ」

 

二人で盛り上がる中、後ろでただ黙って歩く愛美。彼女だけが彼らとは違い、別の小学校出身であるため会話に入れない。

 

「ところでミズキってさ、どこの小中学校出身なの?」

 

「そういえば俺達全然知らないよな」

 

二人に聞かれ、彼女は誇らしげにこう答える。

 

「マナは城野よ」

 

「城野……って言えば確か県内でも有数の私立学校だよね、中学までエスカレーター式の」

 

「それに入学審査が結構厳しいトコって聞いた覚えがあるわ。ミズキって凄いとこに行ってたんだねっ」

愛美は気を良くして自慢げに話し出す。

 

「マナは小、中とも成績上位クラスだったのよ、スゴいでしょ!」

 

「そう言えば水樹のテスト成績って毎回学年でもかなり上位だったよな。

けど、それならなんで俺達と同じ高校に?あそこ偏差値は県内でも中間より少し下ぐらいだし。

俺は特にこれといったやりたい部活や学科はなかったし、何より家から近いっていう単純な理由で決めたんだ。

確かエミリアも俺と同じ理由じゃなかったっけ?」

 

「うん。アタシも英語と国語以外の成績は中間ぐらいであまり高望みは出来なかったし、なにより家庭科があるからね。それ以上にリュウトと一緒に行けたのがスゴく嬉しかった!」

 

「お、おいっ……けどエミリアの場合、英語のテスト受ける意味なんてあったのかな?」

 

「けどニアミスでの点引きはたまにあったね。

けどさ、ミズキなら偏差値高い高校にも行けたでしょ?なんで?」

 

エミリアの質問に、彼女はこう答える。

 

「オモテむきはパパやママの期待に応えるために勉強は真面目に頑張ってたけど、本当はマナも遊びたかったからね。だから勉強の楽なトコにしたの。

さすがに最初は「何考えてるんだ」って反対されたけどね。

高校決まった時から溜まりに溜まったフラストレーションを発散すべく遊びまくってたわ。中学二年からは親の前ではいい子にしてたけど、隠れて結構色んな男と付き合いまくった」

「「…………」」

 

「あそこ規律が厳しくてさ、色々やらかしてバレると退学は確実だから。けど卒業までバレなかったわ、ようは頭の使い方が重要ね」

 

確かに愛美は人間含めた周りの状況を把握する観察力に長けているし色んな意味で『賢い』。

要所要所でそんな面を垣間見せてきた。

それも生まれもった才能というべきか。

 

――くだらなくも三人で仲良く会話しながら歩く内に、彼らは小学校の近くまで迫っていた。前を見るとプレハブ方式の仮設住宅の密集している広場を見つける。

そこに向かうと結構な人が外で賑わっていた。

 

「あれっ……もしかして竜斗じゃね!?」

「あ、エミリアじゃん!!おーいっ!!」

 

数人の若い男女が竜斗とエミリアの名を呼びながら向かってくる。二人は彼らを見つけた瞬間、目を輝かせて笑顔で迎えた。彼らは二人の昔からの友人である。

 

「お前どこにいたんだよ竜斗!

もしかしたら死んだのかってみんな心配してたんだよ!」

 

「ごめんごめん、色々あってさ」

 

「あたし達物凄く心配してたんだよ!今まで何してたの!?」

 

「ごめんねっ、けどエリコもリエもみんな無事でよかった!」

 

互いに心配だった、それぞれの友達が無事に生きていることを実感し喜びあった。

 

「……竜斗?お前、前より身体つき良くなってない?もしかして鍛えてる?」

「え…………いやまあ……」

 

「ところで後ろのコって……?」

 

全員が愛美に注目する。

 

「水樹っていって高校の同級生だよ。訳あって今まで一緒に行動してたんだ」

 

「ふーん」

 

「なあ、ところで英司は?」

 

「そうそう、ミキとかはアイリとか他のみんなは今どこにいるの?」

 

 

それぞれ見当たらない友達について聞くと、みんなに笑顔がなくなりどこか気まずい空気に……。

 

「あれ……どうした?」

 

竜斗達は怪訝そうに伺う。すると、

 

「それが……あの怪物達の侵略の後、英司達の逃げ込んだはずのC地区のシェルターに行ってみたんだ。そしたらシェルターが壊されてて、しかも溶岩まみれになってて見る影もなかった……」

 

「まさか…………」

 

自分達が入ろうとしたが、メカザウルスに踏みつぶされた挙げ句にマグマによって溶かされたシェルターに彼の友達、英司がいたと聞かされる……。

 

「け、けどミキ達は?」

 

「……あたし、偶然あの恐竜みたいな怪物がたくさんの人々をカゴのような物につかみ入れて連れ去るトコを目撃したの……確か美紀と愛梨もいたと思う……けど、怖くて助けることなんて出来なかった……っ」

 

今まで戦っていた竜斗達ですら知らなかったその事実に驚愕する。

 

「メカザウルスが……なんで……?」

 

「……メカザウルス?」

 

「あ、いや……けど連れ去って一体何をするんだろ……」

「もしかしたら捕まえた人々はエサなんじゃないかなって……あれからもう何ヶ月も経つし、もう生きてる保証なんか……」

 

エミリアの友達の理枝は涙ぐんで話しているうちに伏せて大泣きしてしまう。エミリアはそんな彼女の頭を優しく撫でて慰めようとする。

 

「……なあ俊樹、俺とエミリアの親を見なかったか?」

 

「さあ……ここにいないし、全然見かけてないんだ」

 

「私達も知らない。死体で見つかったとも聞いてないし……」

 

……会話の後、竜斗達はとりあえず友達と別れて自分達の親を探す。その途中、

 

「マナはこれからパパ達と友達を探してくる、多分近くにいるハズだから。ここでお別れね」

 

「水樹……お前司令の言ってたの、どうするんだ?」

 

「…………」

 

愛美は二人から去っていった。

この周辺、そして避難所の小学校にいる、友達の親や知り合いと会って尋ねるも誰も知らないと言う。

そうしている内にもう一日が終わり、すでに夜になっていた――。

 

二人は体育館に泊めてもらうことになり、寝る場所を確保、配給された食事を取った後、校庭の隅にある、月明かりに照らされたブランコ場に二人は黄昏ていた。

 

「……俺、理枝の言葉が引っかかるんだ。『メカザウルスが街の人々を連れ去った』って」

 

「…………」

 

「もしかしたら父さんと母さん、お前のおじさんとおばさんはメカザウルスに連れ去られたんじゃないかなって……」

 

死体も発見されてなく、誰から聞いても行方がつかめない以上はその可能性が一番高い。

しばらくすると竜斗はブランコから降りて振り返る。

 

「……決めた。やっぱり俺、戻ってゲッターロボに乗る」

 

「リュウト……」

 

「じっといられないんだ。父さん達がいないのにただここでじっとしているなんて……それならまだゲッターロボで戦い続けていったらその途中でもしかしたら父さん達の行方が分かるかもしれないし、同時に世界を救うことにも、黒田一尉の無念も晴らせることになる。

それに、未だ体育館で不便に寝泊まりしている人達を見ると……一刻も早くなんとかしてあげたい気持ちが込みあがるんだ。

昔の俺なら多分ゲッターロボから降りてたけど今の俺なら頑張っていける気がするから――」

 

「……けどリュウト、司令の言ってた『全てを捨てる覚悟』になれる?それにお父さん達は生きてるかどうかもわかんないし、生きていたとしても会うまでに死ぬかもしれないんだよ?」

 

「その時は……俺もそこまでだったってことだよ。父さん達の安否についてどうなろうと、ただ今は行方を知りたい。

そう考えると今からでも向こうに戻りたくなる」

 

彼の決心を聞き、彼女は感心し驚く。

 

「リュウトはホント前と比べて強くなったね、凄く感心した。

じゃあ、アタシもリュウトについていく!」

「……エミリアこそそんな簡単に決めていいのかよ。

俺が行くからお前も来るとかそんな感じじゃないのか?」

 

「正直それもある。けどお父さん達がここにいないんじゃ毎日心配のしすぎで頭が狂うかもしれない。

それだったらゲッターロボに乗って戦っていったほうが気が晴れるし、リュウトの言うとおり、お父さん達やアイリ達の行方が分かるかもしれない。

最悪ワタシに何かあっても、きっとお父さんとお母さんはいいコトをしたって喜んでくれると思う。

あと、ゲッターロボに乗るって言い出したのは自分なんだから投げ出すようなことは絶対にしたくない!」

 

「…………」

「それに……アタシだってクロダ一尉の無念を晴らしたい!」

二人は互いに真剣な眼を見つめ合った。

 

「分かったよ……けどあいつらになんて言う?」

 

「……アタシは何も言わないで出て行く。別れの挨拶みたいになって気が重くなるから――」

 

「…………」

 

二人は残り二日間は悔いのないように友達と有意義に過ごし、その後は――と心に決めた。

 



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第十七話「地元帰り」③

――二日後、午後七時前。

荷物をまとめた竜斗とエミリアの二人は体育館の出口に向かう。

 

「ホントにいいのかエミリア?」

 

「アタシはなんと言われようとリュウトについていくよ」

 

二人は靴を履いて体育館を後にした。

 

「……みんな、俺達がまたいなくなって凄く心配すると思うけど、絶対に生きて帰ってきてみせるから」

 

「アタシもよ。ここに戻るときはこの戦争が全て終わった時ね」

 

二人はもう一度振り向き、見慣れた光景を見納めて、決意を胸に早乙女のいる集合場所へ歩いていった。

 

二人は集合場所へ向かうとすでにそこには早乙女の車が止まっていた。近づくと早乙女が降りてきて二人の前に立つ。

 

「……戻ってきたか。本当にいいのか?」

 

「はい。やらなければいけないことができたので――」

 

竜斗は戻ると決めたその理由を早乙女に話した。

 

「……そうか。君達の両親や友達が奴らに」

 

「それだけでなくて、司令が前に言っていたようにゲッターロボで世界を救えるなら……こんな僕でも世界を救えるなら!」

 

「ワタシもリュウトと同じです。それにクロダ一尉の無念を晴らしたい思いもあります。だからまたゲッターロボに乗ります」

 

「僕達はこれからもゲッターロボに乗って戦う覚悟はすでに出来てます。またよろしくお願いします!」

 

早乙女は表情が和らぎ、相づちを打った。

 

「では私達も君達の両親や友達の捜索、救出に協力させてくれ。そしてこれからもよろしく頼む」

 

「「はい!!」」

 

「……ところで水樹は?」

 

彼女をついて聞かれると、

 

「水樹は……多分――ね?」

 

「うん……」

 

「まあ、まだ時間はある。八時まで待とうじゃないか」

 

三人は少しずつ暗くなっていく空の下で待ち、約束の夜八時になろうとしていた――。

 

「やっぱり戻ってこなかったね……」

 

「……しょうがないよ。正直イヤそうだったし……」

残念そうな表情の二人。

 

「では、行くとするか。二人とも車に乗れ」

 

車に乗ろうとドアを開けた時、早乙女は止まる。

竜斗達が通ってきた道からこちらへ向かって歩いてくる足音が聞こえる、だが次第に女の子のすすり泣くような声も。

 

早乙女はすぐさまその方向へ持ってきた懐中電灯を照らすと人影が見える。それが誰なのかがすぐにわかる。

 

「……水樹?」

 

乗り込んでいた竜斗達もすぐに降りて見るとそこにいたのは愛美だった。しかも顔を真っ赤にして嗚咽していた。

 

三人はすぐに彼女の元へ駆けつける。

 

「水樹、一体どうしたんだ……?」

彼女はその場でへたり込んでしまうまたわんわんと泣き出してしまう。一体何があったのか――。

 

 

 

――それはここに来て竜斗達と別れた後の事だ。

 

愛美は一人、家族や友達を探していた。その途中、ついに高校でつるんでいた女友達の集団を見つけ、走り向かった。

 

「み、みんなあ!!」

 

愛美の声に反応したその友達は振り向き彼女の見た瞬間、

 

「げっ……マナミじゃん……」

 

「生きてたんだ……」

 

何故か全員の顔が引きつっていたのだった。

 

「ユカ、レイナ、みんな無事でよかったあ~っ!」

 

「……う、うん。マナこそ生きててよかった、ねえみんな」

 

他の子達は相づちを打つもどこかぎこちないのは何故だろうか。

愛美はやっと自分の友達と再開したのが嬉しくて自ら主役と言わんばかりの一方的におしゃべりし、そしておだてるように彼女を持ち上げる友達。

 

(やっぱりマナの居場所はここね。早乙女さんやマリアさんには悪いけどもう戻らないわ)

 

深夜遅くまで話続けて――二日目。起きたのは正午であった。

眠たそうな顔で、彼女はもう一つの目的である自分の両親を探しにあちこち回る。が、竜斗達同様に父親と母親の姿がどこにもいない……。

 

自分の住んでいた街の人達のほとんどはここに集められていると聞いているし、そもそも彼女の両親に街に知人が沢山いるため所在を知らないということはまずない。しかし誰からも手かがりは掴めずにいた。

 

「なんで……なんでどこにもいないの……?」

 

 

 

困っていたその時、昨日、竜斗の友達が言っていた言葉を思い出した。

 

『恐竜の姿をした怪物が人々を連れ去るのを見た』

 

――正直、自分には関係ないだろうと思っていたその言葉が矢となり心に突き刺さったように急に胸が痛みだした。

結局、友達にも聞いたりしてはずっと探してみたものの全く手かがりすら掴めなかった――。

この時からか、彼女に向こうに戻るか戻らないかという選択肢が揺れ始めたのは――。

 

 

「せっかくだしどっか遊びにいこうよ、ここにいてもつまんないからさ。街に遊ぶトコとかないの?」

 

そして三日目。彼女が友達を集めてそう言い出す。

 

「えっ……街にはもう廃墟でなにもないよ」

 

「え~~それじゃあつまんないじゃん。今から外に行こう、絶対に無事な場所あるはずだって!」

 

「う、うんまあ……」

 

早速友達を引き連れてまた外へ飛び出していく。

一時間、二時間とあちこち歩きまわくがやはり廃墟だらけである。

 

「やっぱりないんだよ。帰ろうよ、ウチらもう疲れて動けないよォ!」

 

「だらしないわねアンタ達!ちゃんとついてきなさいよ!」

 

歩き疲れてへばっている友達に対して平気そうである愛美だが、これは朝霞での体力練成による成果である。

無理やりにでも連れまわすが、どこもかしこも店は無人の廃墟と化しており、さすがの彼女でさえ諦めかけてきた時、街外れのほうに小綺麗とした小さな喫茶店を見つけたのだった。

しかも『OPEN』とボードに書かれている。

 

「ほらあ、ちゃんとやってるとこあるじゃん!」

 

休憩がてら全員がそこに入るとガランとしており、店員と思われる初老の男性がカウンターでグラスを吹いている。

 

「いらっしゃい」

 

彼女達は座席に座り込むと店員の男性は冷たい水を入れた人数のグラスをトレーに入れて持ってくる。

 

「ここだけやってるんだね。おじさん一人で経営してんの?」

 

「たまにここに立ち寄る避難民がいるからね。少しでも休めるよう格安で癒やしを提供してるんだよ」

 

「ふうん。おじさんは店長の鑑だね」

 

 

 

密集地や廃墟と比べると場違いなくらい綺麗でアンティークな雰囲気を醸し出すこの場はきっとマリアがいれば気に入りそうな場所である――。

 

「ちょっとトイレに行ってくるね」

 

突き当たりのトイレに向かう愛美。用を済ませて手を洗い、ドアから出た彼女に席から友達の会話が聞こえるのだが何故か立ち止まった。向こうからは見えない壁に背を向け角からこっそり聞く。

その内容は、自分自身のことについてだが……、

「まさかマナミが生きてるとはねえ……てっきり死んじゃったかと思って清々してたんだけど」

 

「あたしもだよ。あんなウザいヤツからやっと解放されたかと思ったのにね……」

 

愛美にとっては思いもよらないことを話している。無論、心が凍りついた。

 

「ぶりっ子でワガママだし、会話になると一方的でウチらの話なんか聞かないしさ、一体何様のつもりなんだよ」

 

「金持ちだからって調子に乗りすぎだよね。まあおだてればいい金づるだしね」

 

「大体さあ、別クラスの石川イジメてた時にアタシもいたんだけど正直マナミにドン引きだったわ」

 

「わかるわかる、あんな陰険で暴力的なことしてるんじゃカレシと上手くいかないのは当たり前だよね」

盗み聞きしている愛美の顔は耐え難い怒りと悲しみで真っ赤に染まっていた。

そう……愛美は初めから友達とは思われてなかったのだった。

 

「それにマナミってヤリマンだしね。ぶっちゃけあそこまでいくとビョーキだよビョーキ、男なら誰でもいいんだ」

 

「性病はいっぱい持ってそう……だとしたらさらに引くわー」

 

確かにそう言われても仕方ないのかもしれない、それは彼女の行ってきたことの報いだ。

だがそれに気づかなかった愛美にとって今まで仲良く連み、友達と思っていた彼女達から陰でそう言われてると知ったことがあまりにもショックだった。

エスカレートする自分への罵倒に、大粒の涙が溢れていた――。

 

そんな会話をしている最中、愛美は満面な笑みを浮かべて帰ってきた。

彼女達はすぐに話を切り上げて先ほどとは一変して笑顔で迎える。

 

するとマナミは満面の笑顔で、

 

「ねえみんな、コップに水入れてあげるよ、優しいでしょ」

 

「えっ?」

 

テーブルにあった冷水の入ったポットを持つと何故か蓋を開けた。その瞬間中に入っていた冷水を勢いよく全員に向けてぶっかけたのであった。複数の甲高い悲鳴が店内にこだまする。

 

「ま、マナミっ!!?」

 

ずぶ濡れになる彼女らが見た愛美の顔は満面の笑みから一転し、まるで悪魔の如き形相へ変貌していた。

ここで自分達のしていた話を聞かれていたと気づき、わなわな震える全員に愛美は続けてポットを投げつけようとした。 が、途中で止めてそのまま力尽きたようにポットを床に落とす。

 

そこに突然の騒ぎに慌てて駆けつける店長も、ここで何が起きたか知るはずもなく茫然としていた。

 

「……おじさん、大事な店を水浸しにしてごめんなさい」

 

一人で店から出て行く愛美。自分を馬鹿にしたことに対する仕返しをしたとしても空虚だらけである。

自分には初めから何もなかったと思い知り、絶望する――。

そしてこんな時に頼りすがりたいはずの自分の両親は行方不明である。

今、自分は本当に一人ぼっちになってしまったと――だが、彼女は気づく。もう一つ寄りすがる場所があることに。

 

 

――という経緯で今、泣きながら早乙女の元へ帰ったのであった。

 

「マナ……居場所なんてなかった……」

 

 

 

へたり込んでただ泣く彼女に三人に訳など分からない。

 

「……両親は?」

 

首を横に振る愛美に三人は理解する。恐らくは彼女の両親も……。

 

「……水樹、ならまた俺達と一緒にゲッターチームをやっていこうよ」

 

竜斗はそう言いかけた。

 

「水樹はゲッターロボの操縦は俺達より上手いし、これからも必要だよ。なあエミリア」

 

「う、うん。正直戻ってこないと思ってたから凄くビックリしてる。

けどミズキがまた乗るんならアタシはスゴく嬉しい。チームでワタシだけ女だったら心細いって思ってたから」

 

「エミリアもそう言ってるしさ。水樹、お願いだよ」

 

「…………」

 

「私も君が戻ってきてくれて凄く嬉しいよ。

やはりゲッターチームは君ら以外には務まらんと思う。なぜなら君達にはそういう才能と生き残る運を持ち合わせているからな」

 

あの早乙女も戻ってくるよう頼み込んでいる。

 

「俺とエミリアはメカザウルスに連れ去れた両親と友達を助けると同時に世界を救いたいし、それに黒田一尉の無念も晴らしたいんだ。

水樹も俺達と同じ思いなら一緒にやっていかないか?」

 

「……マナ、死ぬのが怖い……」

 

「なら俺が水樹を絶対に守る。仲間なんだから!」

 

「アタシも同じよ、女の子同士助け合っていこうよ」

 

「私とマリアも君達を全力で支援し、生き残れるよう努力する、安心しろ」

 

竜斗は手を差しのべ、屈託のない笑顔でこう言った。

 

「水樹、一緒にいこう!」

 

「イシカワ……」

 

竜斗の力強い発言に促され、ついに愛美は戻ると決心し、彼の手を取り合ったのであった。

 

「またよろしくな水樹!」

 

彼女は手に入れた、ゲッターチームというちゃんと自分を受け入れてくれる本当の仲間を。

嬉しさのあまり泣き出してしまう愛美に竜斗とエミリアは大喜びで迎えた――。

 

そして早乙女はついにまとまる三人に対し、夜空を見上げて、

 

 

「見てるか黒田。ついに本当のゲッターチームが揃ったぞ」

 

……そう呟いたのであった。

 



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第十八話「前進」①

あれから二ヶ月後。晩秋になり肌寒くなった頃。

 

黒田がいなくなってからやはり寂しさもあったがそれをバネに、竜斗とエミリア、そして愛美の三人は操縦訓練、体力練成などの様々な訓練を今まで以上に真剣に取り組み、パイロットとしての能力、そして団結力と連携力を一層強めていた。

 

……その間に数回のメカザウルス出現による出動もあったが見事メカザウルスの掃討に成功し、実戦における経験と戦闘技術がついてきていた。

 

これもやはりゲッターロボそのものの強さもあるが早乙女の言う通り、彼らの訓練成果、ゲッターパイロットとしての適性、そして生き残るほどの強運を持っていることを裏付けていた。

 

――夕飯時、三人はベルクラスの食堂で今日行ったゲッターロボ同士の模擬戦闘について盛り上がっていた。ちなみに評価の順は高い方から愛美、竜斗、エミリアである。

 

「エミリアは一対一の接近戦に持ち込むと滅法強いけど複数の相手だとやっぱり苦手ね。周りに気を取られると攻撃が当たらなくなるわね」

 

「あちゃあ……これから気をつけます」

 

「俺からだけど、水樹は凄く機敏で確実に攻撃当ててくるけど動きが派手すぎて隙が所々あるよ」

 

「そういうアンタはマナの逆。堅実過ぎて決定力がないよ。男なんだから派手にやんなさいよ」

 

「確かにリュウトは間合いを取ったり攻撃を避けるのは上手だけど、いまいち攻めの勢いに欠けるっていうか」

 

「勢いか……。この反省を次に活かせるといいな」

 

すると愛美は目を細めて彼を見つめる。

 

「イシカワさあ、最近よくリーダー風吹かせてるよね」

 

「えっ……そういうワケじゃないけど……」

 

「別に責めてないし。この中だと石川が一番しっかりしてるからリーダーに適任だと思うし、ねえエミリア?」

 

「うん、アタシもリュウトがリーダーでいいと思う。

要領いいしまとめる力もあると思う」

 

「じゃあゲッターチームのリーダーは石川に決定、拍手♪」

 

二人は拍手を浴びせると彼は顔を赤くさせる。

 

「じゃあ面倒なことは全てリーダーの石川に任せるからよろしくね♪」

「ちょっ!?」

 

 

「アハハッ!」

 

三人は楽しく盛り上がっている頃、司令室では早乙女とマリアも彼らについて雑談していた。

 

「人間やればできるものですね。

彼らの今の仲を見てるとまるで人が変わったようで感心します」

 

「三人に共通した目的ができたからな。それも凄く重要な目的だ」

 

「……彼らのご両親とお友達が無事だといいんですが」

 

「そうだな」

 

早乙女は一息ついて、マリアにこう言った。

 

「――もう頃合いだな。明日の午前中に彼らを司令室に来るよう伝えてくれ」

 

「ということはもう……」

「ああそうだ」

 

――次の日の午前中、司令室に集められた三人は早乙女からこう言われる。

 

「最近の君達の成果は素晴らしいな。感心するぞ」

 

早乙女からのお褒めの言葉に三人は照れている。

 

「君達は覚えているか?

前に私が言った『我々は攻めに移る』と」

 

「は、はい。あと北海道の大雪山辺りに敵の本拠地があるとかどうとか」

 

「そうだ。あれからの調査でどうやら大雪山の地下に奴らの本拠地があると分かった。

そこを潰せば少なくとも日本制圧の危険は一気になくなる。もっとも、世界にはまだうじゃうじゃいるがな」

 

「じゃあ、もしかしてついに……」

 

「ああ、君達の今のチームとして機能ならなと思ってな」

 

早乙女は机に手を置いて三人をぐっと見つめる。

 

「我々ゲッターチームは北海道の全師団の部隊と協力して日本の本拠地を包囲し、叩く。

君達が行ってきた以上の最大規模の戦闘になるだろう」

 

三人の心に衝撃が走る。

 

「なお、今回はアメリカ軍も来日し我々に協力、支援してくれる。

最近ロールアウトしたばかりの新型機のテストも兼ねて実戦投入するそうだ」

 

「新型機ですか……」

 

「細部のことは分からんが、向こうも新エネルギーを動力とする機体でゲッターロボとほぼ同等の性能を持つと言っていいだろう」

アメリカ軍とも協力、そしてゲッターロボの同格の新型機……今まで味わったことない新鮮な情報が彼らを実感させる。

今までとは比べものにならないほどの激戦が自分達を待ち受けていると――。

 

「作戦開始の予定は今から約二週間後だ。その間に我々は北海道へ移動、向こうの部隊と合流し作戦準備に入る。

自由の利くのは今日から一週間の間だ。休日を使ってリフレッシュと身支度をしておいてくれ」

 

「了解です」

 

「ところでそろそろゲッターチームのリーダーを決めたい。

もう黒田がいない今、まとめ役が必要になるからな、誰にする?」

 

「もうそれについて三人で話したんですが、僕になりました。二人とも異議なしで」

「君なら心配ないな。

では竜斗、よろしく頼む。そして二人も彼に負担かけないように彼の指示に対して的確に行動し、彼を支えてやれ」

 

「はい!」

 

「はあい♪」

 

「では竜斗、今日から一日の訓練が終わったら私かマリアが君に明日の訓練内容や情報を伝えるからそれを二人に申し送って欲しい。

これから諸事の情報は基本的に私達から竜斗、そして竜斗から二人へ伝わる形になるので肝に銘じておくように」

 

……その夜。いつも通り訓練を終えて、各人が寝るまで自由の時間を送っている。

明日の指示を聞いた竜斗はまずエミリアから伝えに彼女の部屋に向かっていた。

何の気なくノックを忘れて入った時、彼はその光景に面食らう。

 

「うわあっ!!?」

 

「りゅ、リュウト!!?」

 

彼女は自室のシャワーから上がったばかりなのか、服はおろか下着すらつけてない全裸だった。

愛美以上の色気ある身体が素晴らしい。

 

「ゴメン!!」

 

「の、ノックぐらいしてよっ」

 

 

 

 

彼はすぐさま背を向け、彼女はすかさずバスタオルを身体に巻く。

 

「……明日の訓練を聞いてきたから伝えようと思って。明日も一日中、ゲッターロボ三機で模擬戦闘だって……」

 

「そう……ありがと……」

 

「ゴメン、まさかそこで着替えるとは知らなくて……脱衣場があるだろ?」

 

「アタシ広々とした場所で着替えたいのね」

 

おそらく彼女は普段からこんな感じなのだろう。

 

「じゃあ俺行くから……」

 

「待ってリュウト!」

 

何故か彼を引き止めるエミリア。

 

「ワタシ……その……別に裸見られたの怒ってないから……寧ろリュウトになら見られてもいいよ」

 

「……エミリア?」

 

彼女はどこか思いつめた表情だ。

 

「リュウトってさ、ミズキの言ってた通り堅実だよね。

いいことだと思うけど、こういうのは一歩先踏み込まないっていうか……」

「…………」

 

「前にリュウトがアタシに好きって言ってくれたのは凄く嬉しいけど、なんていうか……あれから全然進展がないっていうかさ……」

 

その時、竜斗は黒田とドライブしてた時に彼が言っていた『二人の関係は姉弟のようなもの』を思い出す――。

 

「アタシは……アタシはリュウトをちゃんと見たいし、リュウトもアタシをちゃんと見てほしいの。

今までみたいに姉弟じゃなくて男、女として!」

 

「エミリア……俺は……」

 

「リュウトはミズキに色々と酷い目に遭ってきたからもしかしたらそれに関係してるかもしれないし、元々リュウトって自分から行くタイプじゃないのは昔から知ってるからずっとガマンしてた。けど……アタシにだって女としての感情があるの。

リュウトが見てくれないとアタシ……好きって言われたのがウソのように感じるの……」

 

「………………!」

 

彼も彼女にどう言えばいいか、それ以前にどう伝えればいいのか分からなかった。

 

「……あ、ゴメンね。アタシ、何思い上がった変なこと言ってんだろ……今の忘れてねリュウト!」

 

 

 

竜斗は無言で出て行く。彼女は燃え尽きたようにその場にへたり込んだ。

 

「アタシ……何言ってんだろ……バカみたい……っ」

 

だがそんな彼女も知らず知らずに涙がポロポロ流れており、そして床に顔を伏せて嗚咽するのであった。

 

そして竜斗も通路の壁に寄りかかり、頭を抱えていた。

 

(……確かにそうだ。俺はエミリアに好きって言ったけど、あれからなに一つも何かしてやれてない。あいつに言われるまで気がつかなかった……。

黒田一尉の言ってた通りにそこまでの関係でしかなかったんだ……けど、どうしていいかわからないんだ……)

 

結局、竜斗にしてもエミリアにしても、そういうのに対して疎いのが原因である――。

 

――次の日から竜斗とエミリアの二人は互いにどこか気まずい雰囲気を出していた。

訓練時以外の会話もぎこちない笑顔も強張っており、そして距離を置いているようにも見える。

 

「…………」

 

愛美は二人の『異変』を何となく感じ取っていた。

 

……休日に入り、竜斗は一人で部屋イス座りながらあの事について悩んでいた。

すると、ドアからコンコンとノックする音が聞こえる。

エミリアだったらどうしようと緊張してドアを開けるとそこにはすでに私服に着替えていた愛美がムスッと不機嫌そうな顔をしていた。

 

「石川、アンタ今日ヒマ?」

 

「え……うん、ヒマだけど……」

 

「なら今からマナと一緒に付き合って」

 

「えっ?」

 

突然の誘い、竜斗は一瞬あの時の嫌な記憶が蘇り、たじろいでしまう。

 

「もうあんなことしないわよ。マナ買い物したいから付き合ってって言ってんの」

 

「つまり俺は持ち係ってこと?」

 

「そっ。今すぐ着替えてね、部屋で待ってるから」

 

彼女は一方的にそう伝えてスタスタと去っていった。

 



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第十八話「前進」②

……今は乗り気じゃないが、すでにスタンバイしている彼女に対して断るのもかわいそうだ。

彼はすぐに私服に着替えて彼女の部屋に行く。

ノックすると、ブランド品と思わせる高級そうなバッグを持って出てくる。

 

「じゃあ行くわよ」

早乙女は不在なのでちょうど司令室にいたマリアから外出許可証を貰うと、入り口の警備員に見せて二人は駐屯地の外に出る。

無言のまま、歩く二人。竜斗はどこに行くか分からない彼女の後ろをついていく。

 

……カジュアルファッションを好むエミリアと違い、いわゆるギャル系の服装であり、髪先はロールを巻き、メイクもかなり盛っており、駐屯地では彼女だけがスゴく浮いている。証拠に駐屯地で彼女の姿を見てギョッとなる隊員もちらほらいる。

早乙女はいくら軍属でも一応高校生の身ということで身なりの規制をしていないのが幸いであり、もしあれば彼女は絶対に不満たらたらであったろう。

 

「ねえ石川」

 

「ん?」

 

「アンタ、ここに来てからすごく成長したよね。見直したわ」

 

「あ、ありがとう……」

 

「それに言っておくけどさ、アンタがマナをまたここに戻らせたことを忘れないでよね?マナを守るからって未だに覚えてるんだから」

 

「……わかってるよ」

 

近くのバスに乗って駐屯地からもっと離れてた場所へ行く。

彼もまだ行ったことのない土地をたくさん見る。

「水樹ってこういう場所結構行くの?」

 

「まあね……」

 

席に座る二人だが愛美は窓際で外を眺めながらボソッと素っ気なく返す。

乗ること約二十分後、終点に到着し降りる。

メカザウルスの被害がなく、ビルなども立ち並び結構な賑わいがある街であり、彼は見とれてる。

 

「へえ、まだこんなに無事な街があったんだ……」

 

「ほら行くわよ」

 

「ところでどこに行くの?」

 

「服見たいからセレクトショップでしょ、行きつけのトコあんの。

コスメ欲しいし、マムチューのぬいぐるみも欲しいしインテリアも――」

 

「あれだけ部屋の中を変えといてまだ欲しいの?」

女の子だな、と彼は実感する。

 

「先に薬局行くわよ」

 

「薬局?」

 

「生理中なのよね。今タンポン切らしてるから買わなきゃ。ちゃんとついてきてね」

 

「タンポン……て、ええっ!!?」

 

……恥ずかしげなくそう言うのも相変わらずと言ったところか。

彼はどこに連れていかれるか少し不安になる。

 

近くに建つ薬局に入り、彼女の求める品のあるコーナーへ連れて行かれる竜斗だったが、彼に何故だか分からぬ羞恥心が込みあがる。自分が買うわけでもないのに。彼女は選んだ商品の支払いを終わらせるとすぐさまトイレに直行する。

そしてはまたもや入り口付近で待たされる竜斗の顔は赤面だ。

「はい、次行きましょ」

 

出てくるなり早くついてこいと言わんばかりの彼女に今日は絶対にくたくたになると予想する。

 

次に向かったのはアパレルショップ……所謂セレクトショップだ。

迷わずそこに直行したと言うことは彼女の行きつけの店なのだろう。

 

中へ入るなり、「ドウンドウン」と重々しいBGMに迎えられて凝った内装と共に飾られた衣服、そして「いらっしゃいませ」と笑顔で出迎える、愛美と同じようなファッションで固める女性ショップスタッフ。如何にもな雰囲気である。

「あら、いつもありがとうございます。今日はカレシさんをお連れですか?」

 

そう言われ竜斗は顔を赤面させて違うと言おうとした時、

 

「いいえ、彼はマナの友達なんです。今日は遊びに来たついでで」

 

と愛美がタイミングよく否定してくれた。二人は店内の服を見回る。

 

……エミリアも似合いそうだけどこういうのは着そうになさそうだな、と思いながら周っていると、

 

「石川もさ、エミリアのためになんか服探したら?」

 

「え、あいつこういうの着るかな?」

 

「あら、以外と気に入るかもしんないわよ。悔しいけどあのコはスタイル抜群なんだから」

 

……以前の愛美なら絶対に彼女へこんなことを言わないだろう。

 

「彼女の服のチョイスを手伝うのも彼氏の役目よ」

 

「そうかな……けど俺こういう女性の服とか全く無知だし」

 

「だと思って連れてきたのよ。少しは女の感性を知ってほしくてさ」

 

「……え?」

 

「イシカワはチームのリーダーなのよ、けどアンタ以外女なんだから後々扱いに困るんじゃなくて?」

 

まさか愛美は自分のためを思って今日付き合わせたのか……彼は驚く。

 

「マナも今日、あのコに似合いそうな服とか化粧品とか探してあげるから感謝しなさいね。まあ好き嫌いはともかく――」

 

そして、この店を出た後、化粧品店やインテリアショップに行く二人。

愛美は自分の欲しいものを探しつつも竜斗に色々アドバイスする。

そんな彼はこういう関係の知識が豊富な愛美に驚くも、自分達のために一肌脱いでくれたことに感謝したのだった(最も、彼女の買った品を持つのは彼だったが)。

 

色々、見回り買い物した二人は休憩がてらファーストフード店に立ち寄り、席について一休みする。

 

「……水樹、お前買いすぎだよ」

 

「なっさけないわね、あのくらい。あれでもまだ買い足りないくらいなんだから」

 

それを聞いて唖然となる。

ジュースの入ったカップをストローで一口すすると彼女は彼に質問した。

 

「……ねえ石川。ここ最近エミリアと何かあった?」

 

彼は不意をつかれて飲む口を止める。

 

「なっ……なんでもないよ」

 

「図星ね。マナには分かるのよ、どこかギクシャクしてんのが。言ってみなさいよ」

 

「実は……」

 

彼はあの夜のことを話す。

 

「ふぅん」

 

 

 

「俺、どうしたらいいのか分かんないんだよね、こういうの……」

 

「なっさけないわねえ。とっとと覚悟決めてヤんなさいよ」

 

「そ、そんな無責任なこと言うなよ!」

 

つい大声を張り上げてしまう彼に、彼女は。

 

「まあマナも人のこと言えた義理じゃないし、愛し方は人それぞれだからね――けど女って大好きな男から自分を見てくれないほどツラいものはないの、それだけは確実」

「…………」

 

「結局アンタは恋愛は苦手と言って、言い訳して逃げてるだけ。

そうやってずっと逃げてると、もしかしたらあのコは石川に愛想尽かして他の男に移る可能性だってある」

 

「まさかエミリアが……」

 

「あのさ、自分が言うのもなんだけど女って魔性で嫉妬深くてメンドクサい、いろんな意味でえげつない生き物なのよ。

アンタも今までにマナからイヤと言うほど味わったでしょ?」

 

「……………………」

 

「……まあともかく、二人の土台はすでに出来てんだから最終的に男のアンタがなんとかしなきゃ。そんなんじゃいつまで経っても進まないどころか崩壊するかもね」「……そうか。やっぱり俺が勇気出さないといけないのか」

 

「まあ頑張りなさい。恋愛とかの質問ならマナは受け付けるからさ……フフ♪」

 

「水樹?」

 

色気づいた目で彼を見つめてくる愛美。

 

「じゃあさっそく今日、男を磨くためにマナとラブホ行っとく?ここしばらくヤってないからタマってんだよね?」

 

「ば、バカっっ!!」

 

「キャハハ、嘘に決まってんでしょ。マナ生理中だし――それでもいいならかまわないけど?」

 

「…………」

 

……二人はその後、街中を周りながら観光する……というより、彼女に連れ回されていると言ったほうが正しいか。

ヘトヘトになっている彼とは裏腹にまだ元気な愛美。

休ませて、と竜斗はベンチを見つけるなり即座に座る。

息を切らしていると、彼女はそばにあった自販機からペットボトルジュースを買い、彼に差し出した。

 

「悪かったわね、これは今日ばかりのお礼よ」

 

「あ、ありがとう」

彼女もベンチに座り、自分のジュースの飲み込む。

 

「……お前と付き合うといつもこんなに連れ回されるんだ」

 

「マナはこれでも抑えたほうだけど」

 

「…………」

 

……彼女と今まで付き合って別れる男の気持ちが少し分かるような気がする竜斗だった。

 

「しかしまあ水樹ってさ、前と比べたらホント丸くなったと思うよ。昔みたいに一緒にいてもイヤな気持ちにならないし――」

 

彼にそう言われた彼女は途端に静かになる。

 

「……マナ、イシカワ達と一緒に早乙女さんに救助されてさ、アンタをイジメるだけイジメて降りようと思ってたら、早乙女さんに脅されてゲッターロボのパイロットにやってるし。

ゲッターロボのパイロットも最初はイヤイヤでやってたけど……あの海で戦った時に黒田さんがマナを助けるために犠牲になって、初めて身近にいた人が死ぬっていう悲しみと何より自分の無力さを知ったっていうかさ――」

 

「…………」

 

「その後、地元に戻ってもうあんな思いしたくない気持ちもあったし、何より親や友達がいるからもう絶対に向こうに戻らないと思ってたけど……パパとママはどこにもいないし、マナの友達と思ってたコ達も実はマナをスゴく嫌っていたってことを知って最初から自分に何もなかった、ただ幻想ばかり見ていたってことを知って絶望してた時、

みんながマナに一緒に行こうって言っていってくれたよね、正直マナはスゴく嬉しかった――同時に今までマナはそんなアンタやエミリア、いやみんなにいっぱいヒドい目に遭わせてきたことを考えると胸がぐっと苦しくなった……」

 

涙まじりの彼女は彼に自分の心情を伝えた。

彼女は今まで自分の行ってきた悪行に後悔していることを彼は知った。

 

「けどマナ……みんなにどう謝ればいい……わからない……っ」

 

すると竜斗は、

 

「……少なくとも俺は水樹がここまで思い込んでいたことを知ったら寧ろ、よくここまで変わったなと逆に感心するよ。みんなだって多分、水樹が良くなったって分かってるし、黒田一尉だってきっと喜んでると思う。

大事なのは今からだと思うよ」

 

「イシカワ…………」

 

「そういう俺もさ、昔と比べて凄く変わった気がする、いやエミリアも。

それも全部早乙女司令、いやゲッターロボに関わったからだと思う。

色々と感謝してるけどね」

 

「……ゲッターロボってなんか不思議よね。ただのロボットじゃないのは分かってるけどさ、離れたくて離してくれないような感じで――」

 

「…………」

 

彼も妙に納得する。

――ゲッターロボ……自分もよく思う時がある。何気なく乗り込むけど、力強い、負ける気がしなくなるような魅力を感じるし確かに早乙女司令が好みそうな神秘性をもっているのは納得だ。

だが同時に変なパワーを放っているような気がする。

それも人を根本から変えるような、オカルト的に危険な何かが――。

 

――夜。ベルクラスへ帰艦する二人。買った商品を彼女の部屋に置く。

 

「ありがとね今日は」

 

 

 

「うん、こっちこそ勉強になったよ」

 

竜斗は自室へ帰ろうすると、

 

「イシカワ、今日マナと遊んできたってことをエミリアに言わないほうがいいかもね」

 

「……なんで?」

 

「前から感じてたけど、ああいうコほどそういうのに嫉妬しそう」

 

「……?」

 

「つまりね、デートしてたって勘違いされてヤキモチ焼くってこと――」

 

「ヤキモチ…………か。うん、わかったよ」

 

彼女からアドバイスをもらい、竜斗は自室へ戻る。普段着に着替えているとコンコンとドアを叩く音が――。

すぐにドアを開けるとそこにはプンプンと怒るエミリアの姿が。

 

「リュウト……今日ミズキとなにしてたの……?」

 

「え……っ?何って……」

 

「マリアさんから聞いたわ、ミズキと出かけたって……」

 

彼女からいきなり問い詰められるが、ついさっきの愛美の忠告を思い出す。

 

「リュウト……ワタシの言ったこと気にしていると思ったから今日謝ろうとしてたのに……なのにミズキとデートなんか……」

 

勘違いされている。エミリアはその場にへたり込んで泣き出してしまった。

 

……ついさっき、彼女から言われたことがこれか……いきなりすぎるだろう……彼は当然、慌てふためいた。

 

「エミリア誤解だって!」

 

しかし彼女は全く泣き止まない……彼はどう言い聞かせればいいか困惑していた。

(ど、どうすればいいんだ……)

 

すると、ファーストフード店で愛美が言っていた言葉を思い出す。

 

『男のアンタがなんとかしなきゃ』

 

と。迷いに迷った彼はもう感情に任せて、ついに彼女の顔を両手で持ち顔を合わせて彼女とついに口づけを交わした――。

 

「…………」

 

「…………」

 

二人は硬直する、時が止まったかのように――二人の頭の中はもうパンクしそうになったが……同時にだんだんと心地よい気分になっていった――。

 

「……俺はエミリアだけだよ。今はこんな勇気しか出ないけど……ゴメンね……」

 

「リュウト……っ」

落ち着いた彼女は泣きやむ。

 

「今日、水樹に買い物の持ち係を頼まれてさ……だから俺はそれに付き合っただけ。何もしてないよ」

 

「そうだったんだ……ゴメンね勘違いして……やっぱりアタシバカだ……」

 

「俺も今までお前に何もしてやれなかったことを悔やんでたんだ……だから、ちょっぴりだけ男としての勇気を出した――これからもちょっとずつだけど勇気を出していくよ」

 

「――ありがと、リュウト」

 

二人は立ち上がり、まるで数日前の事がなかったかのように、今まで通り仲良くなっていたのだった――。

 

 

(へえ、イシカワやるじゃん。見直した――)

 

……何があったのだろうかと駆けつけた愛美だったが、今までのやり取りを見て安心し、立ち去っていった。

 



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第十九話「新たな力」①

――十日後、僕達は北海道へ向かう。

 

後に『大雪山戦役』と呼ばれる、日本至上最大の決戦の幕が開こうとしている。

 

みんな、どういう気持ちを感じているのかそれぞれだけど、僕は――怖いけどここまで来た以上やるしかない、父さん達に会うまでは絶対に生きてやると――。

 

……矢臼別演習場。日本最大規模の広さを誇るこの演習所にはすでに北海道師団の部隊が集結していた。

 

広大な土地に待機する隊員が上空を見上げると巨大な燕が空に舞うのが見え、目を奪われる。

ベルクラスがこの演習所に到着し、専用に舗装された巨大滑空場に着陸する。

 

数分後、早乙女は艦を降りて各部隊の隊長に挨拶しにいく。

竜斗達もその後に艦を降りて辺りを見渡す。目視では先の見えないこの地平線の広大さに圧倒される。

 

「いよいよって感じだね……」

 

ちょうどその時、空から飛行機のジェット音が聞こえる。三人は空を見上げるとオホーツク海方向から黒い物体、鋭角的で旅客機並の巨大なジェット戦闘機が三機、底部のスラスターを使い横に並ぶように地上へ水平着陸する。

その後を応用に迷彩色をした、ジェット戦闘機以上のサイズの輸送機もこちらへ着陸した。

 

しばらくするとこの周辺にその飛行機群のパイロットと乗組員達と思われる団体が走って集まる。

遠目で見るとなんとなくだが、体格といい顔つきといい日本人ではなく外国人ようので、彼らはどうやら早乙女の言っていた今回協力してくれる米軍のようだ。

――三人は一旦部屋に戻り待機している間、早乙女はたった今到着した米軍に会い、各隊長に握手を交わしていた。

 

 

「サオトメ一佐、今回はよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

流暢な英語で会話する早乙女。すると――

 

「久々じゃな」

 

振り向くと、黒いハット黒いスーツを着込んだ、背の低い老外国人男性がいた。歳は七十代ほどか。

 

「ニールセン博士、お久しぶりです」

 

「相変わらずの愛想ない顔じゃのう、ホハハ」

 

コミカルな笑い声を上げるこのニールセンという男性。

挨拶を済ませ、早乙女はニールセンをベルクラスへ招待する。

 

「日本の空気は素晴らしいわい。なんせここ数年間はアメリカ政府によってほぼ軟禁状態じゃったからな久々に外の空気を吸えて爽快だ」

 

向かう途中で黒いジェット戦闘機に目を向ける。

 

「あれですか、新型機とは?」

 

「うむ、プラズマエネルギーと新エネルギー『グラストラ核エネルギー』のハイブリッド駆動で動く新型じゃ。

名を『ステルヴァー』と名付けた。なかなかいいセンスだろ?」

 

「……相変わらずアメリカ政府から法外な金額を要求したんでしょう?」

 

「もちろんじゃ。世の中金が全てだからな。もっとも、貰えばワシも仕事はきっちりこなす主義じゃ。どっちも得じゃろう」

 

「で、その『グラストラ核エネルギー』という新エネルギーは名の通り核動力ですか?また厄介な物を」

 

「なにをいうか。こちらが苦心して開発した放射能除去装置『ニュートロン・ディカプラー』を利用して、膨大のエネルギーを取り出しつつ放射能を取り除いたクリーンな新エネルギーじゃぞ。

放射能汚染問題はすでにクリアしておる」

 

「ほう、そんな素晴らしいエネルギーを確立させるとはやはり恐ろしいお方だ。これでいつでもどこでも核攻撃をより手軽にできるわけですね」

 

「イヤミかそれは。ところでわしが来日したのはただ日米共同作戦に協力するためだけじゃない。

お前さんの開発したゲッターロボという機体を見たいのもあってな」

 

「そうだろうと思いましたし、私もぜひ見てほしくて――」

 

そして二人はベルクラスの格納庫へ。ニールセンは各ゲッターロボを見たり触ったり、そしてコンピューターで各性能を表したパラメータと戦歴を見る。

 

「サオトメよ、お前はわしの弟子だ。確かに従来の機体と比べて遥かに高性能だ」

 

「ありがとうございます」

 

「だが、色々と詰めが甘いな。

各駆動部、動力炉面、装甲面、武装面……見直す点もいくつかある」

 

次々にずばりと指摘されるも平然といる早乙女。

 

「……でしょうね。正直、私の技術ではこれが限界ですし、あなたから指摘してほしい部分もありました」

 

「ふむ。改造したいならこの作戦の後でやってあげてもいいぞ。

だがその時はお前さんからも金を徴収するがな」

 

「……財布と相談してみます」

 

「ホホホっ」

 

……その後、二人は司令室でしばらく雑談する。マリアもコーヒーを入れて二人に差し出した。

 

「おや、君は?」

 

「マリアと申します、ニールセン博士」

 

「彼女は元々イギリス軍所属の技官だったんですが自らゲッター計画に参加してくれたんです。

優秀なので今は私の秘書をしてもらっています」

 

「彼からよく振り回されてないか?」

 

「まあ色々と……」

「だろうな。サオトメは昔から常識知らずの不思議人間だからな」

 

「そういうあなたも私と同じ人種ですよ――」

 

「ホホホっ」

 

英語だけで盛り上がる三人――。

 

「ところでどうです、アメリカ側の状況は?」

 

「はっきり言って劣勢じゃのう。

いくつもの油田、重工地帯を蹂躙されとる。

それでもなんとか抑えこんでいるがアラスカ側の奴らの要塞らしき基地を何とかしない限り、こちらがやられるのは時間の問題じゃ」

 

「そうですか……本来なら我々も手を貸したいのですが」

 

「実はな、アメリカ軍も極秘に、アラスカ攻略のためにおぬしらのような戦艦を建造していてもう完成間近でな」

 

「ほう、それは一度拝見したいものですな」

 

 

 

「サオトメよ、おぬしもいずれアメリカに来て完成に手伝ってくれぬか。少しでも優秀な人員の手を借りたい。

あとワシの友人であるキングもお前に会いたがっていたぞ、知っているだろ?」

 

「キング博士ですか。一度顔を合わせたきりですが。

いいでしょう。その代わり、あなたのさっき言ったゲッターロボの改造を無償で引き受けてくれるのが条件で」

 

ニールセンは早乙女に向けて目をギロッと睨みつける。

これまでのひょうきんだった彼とは思えない怖い表情だ。

 

「おぬし、わしに本気でそんなこと言ってるのか?」

 

「ええ、本気以外ありませんよ。

こんなご時世に、そしてゲッターロボとベルクラスに大金を注ぎ込んだ私には余裕がないんです。

それに私の性格をよく理解しているあなたは、この私相手に都合よくいくと思いですか?」

 

「…………」

 

「もちろん私自身、あなたの性格を十分承知ですが、これだけは譲れませんね。嫌ならどちらともなかったことにしてもいいのですよ。

個人的に利害一致してるということで今回だけでも互いに無償で協力しあうのがいいと思うんですがね?」

 

臆せずどっしりと腰をかまえ、不敵にそういう早乙女を複雑な目で見つめるニールセン。だがため息を吐いてソファーに背もたれる。

 

「……相変わらず反抗的で何考えてるかわからんわい、アメリカ政府でもわしの要求をすんなりうけいれるのに。

だがそれでこそわしの認めた男じゃ。

よかろう、無償でゲッターロボの改造に協力してやろうじゃないか」

 

「では私も喜んでその戦艦の建造に協力しますよ」

 

どうやら無事、交渉は成立したようだ。

 

「にしても、おぬしに怖いものがないのか?」

 

「怖いもの?そうですね、しいて言うなら『あなた』以外にあり得ませんね」

 

「相変わらずジョークも上手いのホハハハっ!!」

 

ニールセンの笑いをツボを刺激したのか彼は高笑いしたのだった。

 

――夕食時。食堂に竜斗、エミリア、愛美が一緒に仲良く食事しているとマリアがやってくる。

 

「お隣いいかしら?」

 

「どうぞどうぞ」

 

エミリアの横に座り、盛ってきた飯を食べ始める。

 

「マリアさん、今日司令と一緒にいた外国人のおじいさんって誰ですか?」

 

 

 

「そうそう、マナも見た。なんか似合ってるのか似合ってないのか分かんないスーツを着た小さいおじいちゃんだった」

 

「あの方はね、名前はレヴィン=ニールセン博士。

エミリアちゃんと同じでアメリカ出身の兵器開発専門の権威で恐らく世界最高の技術力を持った人よ」

「世界最高……司令よりスゴいってことですか?」

 

「ええ、一歩二歩、いやそれ以上先をいく、その筋では伝説扱いのお方だからね」

 

だが三人は、何がそんなに凄いのかパッとしない。

 

「ここ数十年間にあった様々な戦争でのアメリカの勝利のほとんどは彼のおかげだという話よ。

一説には彼自身がその国に協力するかしないかで世界の軍事勢力が書き換えられると言われてるほどでどの国も喉から手が出るほど手に入れたいと言われているほどなの」

 

「そ、そんなヤバい人なの……」

 

「けどニールセン博士は……失礼な言い方だけど金の亡者らしくて、法外な金額でないと依頼を引き受けてくれないらしいの。逆に言えば大金をもらえればどの国にも協力するという人。

だけど彼を雇っているアメリカ側にとっては決して手離したくない存在」

 

「何故ですか?」

 

「アメリカは世界一の軍事大国だからその威厳を失いたくないのもありそうだけど、それにヘタな国に雇われて世界大戦を引き起こされたら堪ったものじゃないでしょ?

だから世界の安定の意味もあっていくらでも大金をつぎ込めるわけ」

 

「なるほど……」

 

「まあ近い内にあなた達も対面することになるわ」

 

「けどなんでそんな人が早乙女司令とどういう関係が?」

 

「私も信じられないんだけど、どうやら師弟関係らしいの。つまり早乙女司令の師匠よ」

 

それを聞いて三人は食べるのも忘れて驚く。

 

「へぇ~、早乙女さんはタダモンじゃないとは思ってたけどね」

 

「確かにゲッターロボみたいな凄い機体を造れるしね」

 

「そうそう、それについてみんなに話があるの――」

 

マリアはさっき二人の話にあったゲッターロボの改造について彼らに話す。

 

「……ということはゲッターロボはまだ強くなれるってことですか!?」

 

「スゴいじゃない!ぜひやってほしいわあ♪」

 

 

竜斗と愛美は胸が奮い立つ一方で、エミリアは何とも言えない表情だ。

 

「エミリアちゃん、どうしたの?」

 

「いやあ……強くしてもらってもアタシ……扱いきれるかどうか不安で……」

彼女はチームの中で一番劣ることを気にしていることに竜斗達は気づく。

 

「エミリア大丈夫だって。機体が強くなるってことはその分自分も助かる確率が高くなるってことなんだから。

ポジティブにいこうよ」

 

「う、うん……」

 

「いざとなったらイシカワが助けてくれるから。ねえイシカワ?」

 

「もちろんだよ」

 

「それにさ、そんなに気にしてるんなら努力すればいいじゃない。

エミリア、頑張り屋のアンタならそれができるっしょ?」

 

「ミズキ……っ」

 

「水樹の言うとおりだよ。

それに俺や水樹にだって何かしら劣るとこがあるし、逆にエミリアしか持ってない長所もあるよ。

体力あるし接近戦では一番上だし」

 

「アンタはチームの『癒やし』担当なんだからね。

いないと絶対にマナ達へばっちゃうから――それに」

 

「それに?」

 

「一人ヘタなヤツがいないとマナがチームで目立てないからね」

 

「ミズキっ!!」

 

「ホラホラ、悔しかったらマナより上手くなってみなさいよ♪」

 

彼女の挑発にエミリアは拳を握りしめて立ち上がり、高らかにこう叫んだ。

 

「分かったわよ、絶対にアンタより操縦上手くなってやるんだから!」

 

「ほら、ちゃんとやる気あるじゃん」

 

「あ……っ」

 

「やるな水樹!」

 

……マリアは、この三人の仲睦まじさに微笑む。

しかし、この三人を戦いで絶対に失いたくない……というまるで自分の実の子供達のように、母性的な考えを持っていた。

 




日本編の終わりぐらいに設定集を入れたいと思います。


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第十九話「新たな力」②

――深夜一時過ぎ。曇りがちな天気の真下、矢臼演習場から北数百メートル離れた森林。

ガサガサと走り回る足音と、ひそひそ何か言い合っているような小声、そして無数の赤く光る瞳……あちらこちらに草からゆらゆらと動いている。

その先には自衛隊の各部隊の寝床である自衛隊特有のOB色のテントが縦、横並びに無数に立てられており、その周りを警備隊員数名が通信機で連絡を取りながら巡察している。

 

「今の所以上なし、そちらはどうか?」

 

“特に異常なし。引き続き巡回せよ”

 

その警戒員は眠くなり大きくあくびをする。

 

「あ~あっ、眠い…………早く交代時間にならねえかな……」

 

やる気のなさそうにそこから去っていく。

 

その数分後、夜の静かな沈黙が一気に破られる。

突然部隊の各車両、燃料、物資などを貯蓄する天幕、そして部隊のテントのいくつかが爆音と共に燃え上がった。

 

「襲撃だあ!」

 

寝ていた各隊員は慌てて起き、すぐに武装して飛び出ると近くの場所がすでに炎に包まれており、そして銃撃音などが辺りに響く。

そして離れた専用ポートに停着するベルクラス。

まだ起きていた早乙女は他部隊からその通信を受けていた。

 

「私も今すぐ向かう。そちらに米軍も駆けつけるだろうから合流し次第協力してくれ」

 

“了解。あと敵を捕縛しますか、それとも殺しますか?”

 

「今は取りあえず被害を最小限に抑えることを優先にしろ、特にケガ人を救助を最優先にして捕まえるのは余裕があればだ」

 

すぐさま迷彩服とヘルメット、防弾チョッキを着込み、小銃と拳銃を武装。

部屋へ出るとちょうどマリアとパジャマ姿の三人が駆けつける。

 

「何が起きたんですか!?」

 

「他部隊のいる区域で敵襲だ。マリアは司令室で通信待機、三人は各部屋で待機しててくれ。

場合によってはベルクラスを発進、ゲッターロボも出撃させる。いつでも動けるようにしていてくれ」

 

「了解」

 

「早乙女司令、気をつけてください!」

 

「心配するな」

 

軍用ジープを積載した格納庫へ駆けていく早乙女。

 

「あなた達は部屋で一時待機。何かあればこちらから指示するから各部屋の通信機を入れておいて」

 

「はい!」

 

――一方、乱戦を繰り広げる現場では多くの隊員が倒れている。生きてるか死んでいるかはわからないが。

彼らは何と戦っているのだろうか――それは人間のようで、人間ではない。

固い鱗で覆われたトカゲだが二足歩行し、両手で銃器を容易く扱うほど高度な知性を持つ生物……そう、爬虫人類のゲリラ部隊で恐らく大雪山からの刺客だろう。

彼らの持つ、人類より高い身体能力と慣れた経験から繰り出されるその戦闘能力、そして爬虫類特有の皮膚の色を変えて地面と同化し、彼らの持つ、人類より高い身体能力と慣れた経験から繰り出されるその戦闘能力、そして爬虫類特有の皮膚の色を変えてカモフラージュ効果が駆使され瞬く間に自衛隊の隊員達が血祭りにあげられてバタバタと倒れていく――。

 

だがその時、遅れて米軍の部隊が到着。その圧倒的な火力と行動力がフルに発揮される。

 

アサルトライフル、火炎放射器、軍用散弾銃、無反動砲、RPG―7、装甲車からの固定式機関砲、グレネードランチャー、手榴弾……今回、来日している米兵は海兵隊や特殊部隊上がりの者もたくさんいるため、明らかに日本人と違う豪快かつ強力の戦闘力を見せつけ、その火力を前には爬虫人類も歯が立たず。

 

「イヤッホゥーッ!」

 

ある者は高らかに叫び、ある者はくちゃくちゃガムを噛みながら余裕綽々と、ある者は寡黙に敵の殲滅を図っている――。

早乙女が駆けつけ合流した時にはすでに殲滅に終わったようだ。

 

「すでに動く敵の姿はありませんが一応、周囲に無事の隊員に警戒態勢につかせてます」

 

「各被害状況は?」

 

「各車両十数台と物資庫に被害を受け、そして各部隊にも多少の死傷者が。人数はまだ分かりません。ただ各SMBに関しては無事なようです」

 

「了解。直ちに受傷者をすぐに救助、遺体の回収、火災場所の消火に当たってくれ」

早乙女は散乱している爬虫人類の死体を観察する。炭化した死体、穴だらけの死体、爆散して原型を留めてない死体様々だ。

だが突如、早乙女は拳銃を取り出して、振り向き何発も発砲し出す。

頭でも狂ったのか……いや、違う。

 

「早乙女一佐、どうしましたか!?」

 

「起きていた奴を寝かしただけだ」

 

撃った先には、小銃を構えたまま頭を撃ち抜かれて死んでいる爬虫人類が……。

 

……この後始末が明け方まで続けられた。

朝七時過ぎ、全員があまり睡眠が取れず疲労したまま外で、今作戦の総司令官を務める早乙女を元に各状況確認と全体朝礼、そして今後についてを言い渡せる。

各部隊の端に竜斗達ゲッターチームが並び、さらに隣に別で米軍の全体朝礼が行われていた……のだが、米軍の何人かが彼らをちょろちょろ見ている者がおり、本人達もそれに気づいている。

恐らくなぜこんな場所に彼らのような少年が混ざっているのか不思議でならないのだろう。

 

数十分後、全てが終わり各部隊で解散し、早乙女以外の四人はベルクラスに戻ることに。

マリアが運転するジープで戻る道中、三人は車内で夜中の敵襲について話していた。

 

「……夜中は凄かったらしいね、部隊の人にも被害が結構出たって聞いたし」

 

「うん……アタシ達も今から常に周りを気をつけてないとね。いつ襲われるかわからないし」

 

彼らは敵の本拠地の近くにいるということ改めて再認識させられるのであった。

「そういえば二人共、なんか横にいた外人部隊にマナ達ジロジロ見られてたの感じた?」

 

「うん、チラッとみたけどこっち見てたね」

 

「アタシ達みたいな高校生が混じってるのか不思議だったんだろうね、しょうがないよ」

 

すると竜斗はハッと何かを思いついた。

 

「考えたら米軍の人達と対面することになるんだったら俺英語できないよ」

 

「あっ。マナも」

 

「アタシが通訳するから大丈夫、安心して」

 

それを聞いて二人はホッとする。

 

ベルクラスに戻り、しばらく部屋で待機していると早乙女から司令室に集合をかけられて向かう。

中に入ると、早乙女とマリアの他にニールセン、そして三人の米軍隊員がいる。

 

「来たか。では紹介する。

彼らは今回協力してくれる、米軍の新型機『ステルヴァー』のパイロットを務めるジェイド=リンカネル少佐、ジョージ=アンダーソン少佐、そしてジョナサン=チェインバーズ大尉だ」

互いに対面し見つめ合う。二人は黒人、一人は白人の米軍隊員である。

三人とも明らかに日本人と違う長身で鍛えられた体格、彫りの深い顔……本場を思わせる存在感を持つ隊員である。

 

「竜斗、特に君に関しては色々お世話になるだろう」

 

「それはどういうことですか?」

 

「新型機『ステルヴァー』は陸、主に空戦を想定して開発された機体だ。

そして彼らもアメリカ軍第一〇五特殊航空部隊『ブラック・インパルス』の戦闘機パイロットで空中戦闘に慣れている。

つまり空で戦うことの多い君にとって彼らは大先輩ということだ。よろしく言っておけ」

 

黒人隊員が握手として手を差し伸べてきたので手を差し出す竜斗。

「ま、マイネームイズ、リュウト=イシカワ……」

 

 

慣れない英語の自己紹介をする竜斗に向こうは彼を案じ笑顔で接する。

 

「私が隊長のジェイドだ。君達ゲッターチームのことはサオトメ一佐から聞いている。

色々と不都合なことがあると思うがよろしく頼む」

 

「え、え……?」

 

本場の英語を理解できず焦ってしまう。

 

「色々と不都合があるかもしれないけどよろしくだって、リュウト」

 

「ああ、なるほどね。センキューベリーマッチ……」

 

彼は心のそこからエミリアに感謝する。

 

「二人も挨拶しとけ」

彼女達も二人と握手を交わす。

エミリアは当然英語で難なく会話し、愛美は竜斗と同じく慣れない英語の自己紹介をし、そしてそっけない態度で唯一の白人隊員と握手する。

一方、向こうは愛美と顔を合わすなりヒューと口笛を吹いた。

 

「へえ、このジャパニーズガールかわいいじゃん、今度デートでも……」

 

「え?エミリア、何て言ってんの?」

 

何を言ってるのか理解できない彼女はエミリアに聞くと。

 

「……かわいいね、今度デートしないかって……」

 

「ハア?」

 

彼女はふと大きな声を上げた。

 

「悪いけどマナはムサいガイジン男と付き合う気はないの。お断りよ」

そうはっきりと言う彼女だが向こうは当然通じず。

 

「ジョナサン、またお前の悪い癖が出てるぞ」

 

「はいはい……にして俺達がこんなお子ちゃんの世話をすることになるとはねえ」

 

……互いの挨拶が終わると全員が前を向く。

 

「ではもう一人紹介するとしよう。この人はニールセン博士。ステルヴァーの開発主任者で私の師匠に当たる人だ」

 

「ホッホッホ、軍人とは思えぬかわいい子らじゃのう。だがサオトメが選んだ人間なら心配ないだろう。よろしくな」

 

初めて対面する三人。一見は服装が独特であり優しそうである柔和な老人に見えるが、一癖二癖ありそうな雰囲気を確かに持っている。

 

「ところで今君達を呼んだのはただ自己紹介させるためだけではない。

一応の作戦を君達に伝えるためだ。これを見てくれ」

 

 

モニターを写すと地図のようなもの図面が現れる。画面中央にはどうやら山と思わしきものがある。

「これが敵の本拠地と思われる大雪山だ。元々死火山だが最近地下のマグマの活性化が凄い上、ここ周辺からメカザウルスが大量に飛び出してくるのをいくつもの目撃している。恐らく内部に基地があるんだろうな」

 

早乙女が日本語で竜斗達に説明し、一方マリアはジェイド達のそばで通訳を介している。

 

「どのくらいの規模かは不明だが大量のメカザウルスがそこから出てくるということはそれだけの規模を有するということだ。

夜中の敵襲の通り、我々の動きを向こうは確実に知っているだろう。

タラタラしているとまた敵襲されかねん。

よって明日の夜中〇時を持って攻撃開始予定とする」

 

予定日よりかなり早まったこの作戦に全員が身を引き締める――。

 

「なのでこの話が終わり次第、三人は身のまわりの準備と機体の調整などを早く終わらせて少し寝ておいたほうがいい。夜十時前にはパイロットスーツに着替えていつでも発進準備できるように」

 

「……了解です!」

 

「そして作戦内容なんだが、今回君達にはそれぞれ役割があり、バラバラで行動することになる。

まず竜斗は航自と米軍の混成航空隊で山側の北側から、エミリアは地上部隊、水樹は後方砲撃部隊として南側、つまり挟み込みすることになる。そしてステルヴァーチームも同じく各部隊に振り分けられる。

隊長のジェイド少佐は混成航空部隊、ジョージ少佐は地上部隊、そしてジョナサン大尉は後方砲撃部隊として動くことになる。

竜斗側の部隊についてはまだ到着してないが、向こうからアメリカ軍のSMB部隊も参戦する、味方機の数は今まで以上になるだろう」

 

「……ということは僕達はこの人達と連携行動を取るってことですか?」

 

「その通りだ。君達は遊撃部隊である程度自由が利く。

ここで対面させたのは君達は今作戦の『バディ(相棒)』だからだ。

エミリア以外の二人については、ゲッターロボには通信システムに翻訳機能を組み込んであるから安心してくれ。互いに国の違うもの同士でやりづらいことばかりだがよろしく頼む」

 

「了解!」

 

竜斗達は三人にもう一度お辞儀し、向こうも笑顔で敬礼で返す――。

 

「あと今回、水樹の機体に『ドーヴァー砲』という専用の大砲を換装する。

一発の威力は桁違いだが重すぎて支えるのがやっとで動けなくなったり凄まじい反動など色々と弱点がある。装着は君の配置場所で行う。

色々と不具合になるかもしれんが今回だけ我慢してくれ」

 

 

話は終わり、三人は格納庫へ向かい各ゲッターロボのコックピットに乗り込んでシステム、OSの調整に入る。

しばらくしてジェイド達も自分達と同じく新鋭機のゲッターロボを見にここに訪れる。

 

「ほう、これがサオトメ一佐の開発したゲッターロボか、実に日本人らしいデザインだ」

「それぞれ例えると、さしずめ赤いオーガ、イカだな。もうひとつは日本の量産機のようだ」

 

「ヒロイックなオモチャだ。あのボウヤ達には最適だな」

 

各自が見た目だけ品評していると三人は彼らに気づき、コックピットから降りて対面する。

 

「リュウトクン、ヨロシク」

 

「こちらこそ……じゃ分からないか、ナイストゥミートゥ」

 

「エミリア君は英語で会話できるしホッとしたよ。明日は互いに頑張ろうな」

 

「いえこちらこそ。明日は足手まといにならないよう頑張りますのでよろしくお願いします」

 

バディを組むもの同士、二人は友好を深め合う中、

「マナミ~~っ♪」

 

ジョナサンはいきなり愛美を笑顔でお姫様抱っこし、驚いた彼女はじたばた暴れる。

 

「な、なんなのコイツ!?離してよ離してよ!」

 

「ハハハっ!」

 

目を点にしてその様子をただ見る二人。

 

「やめろジョナサン、彼女が嫌がってるじゃないか」

 

「いいじゃん。だってこんなお人形さんみたいに可愛いんだぜ?スキンシップさスキンシップ♪」

 

ジョージはまたかとため息をついた。

 

「ジョージ少佐、あの人は一体……?」

「ジョナサンはお調子者で根っからの女好きで、それ関係で本国で色々と問題を起こしていてな。

特に彼女みたいな東洋の背の小さい女性がタイプらしいが、仕事はきちんとやる悪い奴じゃないから許してやってくれ」

 

なるほど、初対面で彼女にいきなりデートしたいとか言っていたのはそういうことか。

 

「リュウトはああいう人にはならないでよ……」

 

 

「…………」

 

愛美の男性版のようなものだろうか。

だがこうして見ると、身長一九〇センチ以上あるジョナサンと四十センチ低い愛美ではまるで大人と子供のように見えてしまう――。

 

(……黒田一尉とは全く違うタイプの人だけど、そうやって女性に積極的にいける人って羨ましいな……)

竜斗は彼の個性に少し惹かれていた。

 

「ところで少佐達の新型機ってどういうのだろう?」

 

エミリアはジェイドに新型機について聞くと、

 

「すまないが今は見せられないんだ。明日のお楽しみということにしておいてくれ」

 

「分かりました。今は見せられないから明日のお楽しみだって」

 

彼はそう答えた。

果たしてステルヴァーとは一体どういう特徴を持つ機体なのか、彼らの期待は高まる一方だった……。

 

「いやああああん!」

 

「ドウアゲ、ドウアゲ!ハハハッ」

 

笑顔で愛美を胴上げするジョナサン。どうやら本当に愛美を気に入っているようである――が、本人は金切り声の悲鳴を上げていた。

 



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第二十話「決戦前」①

――夜十時過ぎ。格納庫にてすでにパイロットスーツに着替えた三人は来るべき決戦を前に円陣を組んでいた。

 

「いよいよだね。みんな気分は大丈夫?」

 

「……うん。正直言ってやっぱり怖いけどここまで来たからにはもう泣き声は言わない、大好きな日本を守るためにワタシ頑張る!」

 

「イシカワだけマナ達とは反対方向に行くのね。

ガンバってね、マナはエミリアと仲良くやるから安心しなさい。

まああのジョナサンっていうヤツがいるけど……」

 

二人とも覚悟を決めてるようだ。

 

「二人はベルクラスが後方にいるから司令から色々援護してもらえるから大丈夫だと思う。

俺は空自と米軍の人達、そしてジェイド少佐と一緒に頑張ってくるよ」

 

三人は腕を組み合い、互いの顔を見る。

 

「二人とも、今までの経験を生かして絶対に勝って、そして全員生き残ろう。いいね」

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

「ゲッターチーム、行くぞ!!」

 

「「オーッ!!」」

 

気合いを入れた三人はすぐさま各機に乗り込み各システムの最終チェックを行う。

 

(よし、各動力炉のエネルギー出力、システムとも正常。いつでもいけるぞ)

 

竜斗はシステムチェックをしている最中、何故か手が止まる。

 

(そういえば……あのメカザウルスは現れるのかな…………?)

 

彼の言うメカザウルスとは、ラドラの駆るゼクゥシヴのことだ。

栃木での戦闘以来、全く姿を現していないが戦う気はなくなったのかなと竜斗は思うが、今ラドラがどういう境遇にいるかなど、彼に分かるはずもない。

 

(あの時は逃げてくれたけど……次はどうするんだろ……?)

 

――各部隊のSMB、戦闘機、自衛隊車両が一斉に移動を開始しベルクラスも浮上を始める。

すでにコックピットでスタンバイしている三人の元に早乙女から通信が入る。

 

“どうだ気分は?”

「僕達はいつでもいけます。これで日本を守れるなら勝つまでですよ」

“よし、その意気だ。竜斗は今よりベルクラスから発進し、九時の方向五十キロ地点まで移動してくれ。

そこで君の部隊と合流することになるのでその後は共に行動、開始まで一緒にいろ。

一応マップにその場所を記しておいたが出来るだけ出力を出さずに低空飛行で行け。もしかすれば敵の対空砲火があるやもしれん”

 

「了解です」

 

“エミリアと水樹はベルクラスが定位置に着き次第発進し、各配置場所についてバディと行動してくれ”

 

「はいっ!」

 

「オーケーっ」

 

すると竜斗は突然、

 

「早乙女一佐」

 

“どうした?”

「……エミリアと水樹をよろしく頼みます!」

 

彼から二人を守り通してほしいという気持ちがスゴく伝わる。

 

“安心しろ。むしろ君達は生きていかなければならないんだ。少なくとも両親と友達に会えるまではな”

 

「司令……」

 

“君は二人の事よりもまず自分が無事生き残ることを考えろ、いいな”

 

「はいっ!」

 

腰にトマホーク二本、右手にライフル、左手にミサイルランチャー、背中に折り畳まれた大型プラズマソード……完全武装した空戦型ゲッターロボのテーブルが外部ハッチの位置に移動しカタパルトと連結、ハッチが開放され、先に夜空が広がる。

 

“竜斗、翻訳機能のオンにしたか?”

 

「すでに入れてます」

 

“よし、ジェイド少佐にいっぱい胸貸されてこい”

 

カタパルトは射出され、空中に飛び出したゲッターロボはウイングを展開し、低空を保ちながら指定された場所へ飛んでいった。

 

「竜斗……絶対に生きて帰ってきてね」

 

エミリアはコックピット内で彼の無事を一心に祈っていた。その時、モニターに愛美が映り込む。

 

“なあに辛気臭い顔してんのよ”

 

「いやあね、リュウトの無事を祈っていたの」

 

“アイツなら心配ないわよ、腕いいし。それよりもアンタ自身の心配したらどお?”

 

「うん……」

 

“怖くて仕方ないんでしょ?”

 

「そ、そんなことないわよ!」

 

“はい図星。声ふるえてんよ”

 

黙り込むエミリア。そんな彼女に愛美は。

 

“あ~あっ、そんなんじゃいつまで経っても石川に迷惑ばかりかけまくるわね。そのうちアイツ、アンタに愛想尽かしてマナに気ぃ向くかも~ねっ?”

 

「な、なんですってえ!!」

 

また彼女に挑発されてしまうも、黙っていられないようだった。

 

“ホラホラ、悔しかったら意地見せなさいよ~~っ♪”

 

「くうっっ!!」

 

 

 

挑発してくる愛美にエミリアの顔は真っ赤になり、また喧嘩へ発展しそうに。

 

“どお、元気出た?”

 

「………えっ?」

 

“マナがアンタを奮い立たせるにはこれが一番のベストかなと思ってね”

 

「…………」

 

“アンタがしっかりしないとマナまでやる気なくすからね、これから毎回これやる?”

 

……どうやら彼女なりの励まし方のようである。その意味を知ったエミリアの目から涙が。

 

「ミズキ……ありがとう」

 

“泣くのは全てが終わってからよエミリア、勝つんでしょマナ達は”

 

「……うん!」

 

“では気を取り直してオンナ同士で仲良く頑張りますか!”

 

女同士、モニター越しでやり取りしている間にベルクラスがすでに定位置に移動していた。

 

“二人とも、用意はいいか?”

 

「はい!」

 

「いいわよっ」

 

“では降下させるぞ。水樹は降下しすぐに後方支援部隊と合流し、ドーヴァー砲を取り付けろ。砲身とジェネレータはすでに向こうに運んである。

エミリアは前方に移動し、君のバディと合流してくれ」

 

二機のテーブルは降下用ハッチの真下へ移動。そしてハッチが開放され、下から風が突き上がる。

 

“では全員、健闘を祈る”

 

エミリア、愛美の順番で降下。今回は低空なため、パラシュートなしですぐに地上へ降着し膝を折り曲げて衝撃を抑える。

 

“じゃあ行ってくる。ミズキ頑張ってね”

 

「アンタもしっかりね!」

 

互いにエールを送り、それぞれの行動に移る。

陸戦型ゲッターロボには今回も背部に『ライジング・サン』を装備しており、機動力は素より落ちているは戦闘力については向上している。

『ターボホイール・ユニット』で地上を滑走し前方の地上部隊の待機所に到着する。

その中央にはBEETではない、黒くスタイリッシュな機体の姿が。

 

“エミリア君、来たか”

 

モニターにヘルメットを被ったジョージが映る。

 

「ジョージ少佐、これが例の新型機ですか?」

 

 

 

“ステルヴァーだ。ここで活躍すれば量産も考えてる機体で俺達のは所謂テスト機だよ”

 

ほぼ全身が黒色で鋭角的でスタイリッシュ、大盾のような平らなバインダーが両肩に付けている独特のデザインの機体、ステルヴァーだ。

どのような性能なのか、見たいものだ。

 

“戦闘中は私と常に離れず行動だ。孤立するよりそのほうが遥かに安全だ。もし危険が迫ったら遠慮なく私を頼ってくれ”

 

「は、はいっ!」

 

“君達ゲッターチームは元は高校生らしいな、無理するなよ”

「し、知ってたんですか?」

 

“サオトメ一佐から聞いたよ。それに君達の両親や友達が行方不明なのもね”

 

「…………」

 

“だけど今は勝ち残ることに集中しろ。君の乗るゲッターロボの力を決して疑うな、信じろ。いいな!”

 

「はいっ!」

 

一方、愛美は後方でドーヴァー砲の換装を受けていた。

数機のBEETと大型クレーン車を使い、巨大な砲身を右肩に、そして箱型の大型プラズマジェネレータを背中に設置する。その横に専用弾薬が置かれている。

 

「うわあ、足が地面にめり込んでる。確かに今回は動けなさそうね」

 

一体こんな馬鹿でかいものから何を撃ち出すのか不思議だ。搭載している間、彼女は座席で足を組み、鼻歌を歌っているとモニターにあの男、ジョナサンが映る。

 

“へえ、ずいぶんと余裕そうだなお姫様?”

 

彼は英語だが、ゲッターロボに内蔵された翻訳機によって日本語に変換される。

 

「はいはい」

 

ジョナサンの乗る機体は外見はジョージ機と何ら変わりないが、武器だけ違いがある。

ジョージ機の装備しているのは従来型のライフルだが、こちらは背中に折りたたみ式の巨大なランチャー、右手には円筒状の長いバズーカのような武器を携行している。

 

“おいおいマナミは無愛想だなあ。今回君とタッグ組むんだからさ、仲良くいこうよ”

 

「アンタこそヘマしないようにね」

 

明らかに向こうが先輩なのにタメ口且つ生意気な態度の愛美。

 

“ヒュ~、気が強いねマナミは。俺はそういうタイプが好みなんだよね。よし、やっぱりこの作戦が終わったら俺とデート……”

 

瞬間に通信を切る愛美だった。

 

「ウッザっ、こんな奴と組むとかマジありえないっ!」

 

この二人はこんな状態で連携が上手くいくのか心配である。

 

そして竜斗は低空を保ちながら飛びつづけ、襲撃されることなく指定ポイントへあと少しの位置まで来ていた。

 

「どうやら何事なく行けそうだけど向こうまでは気を抜いちゃいけないな」

周りをよく確認しながら飛び続け、ついに指定ポイントに到着する。

そこには大多数の、フライトユニットを装着したBEETと日本の戦闘機、そして見たことのないタイプの戦闘機も多数、地上にずらりと待機している。

地上に着地し、合流すると全員がゲッターロボを出迎える。

 

“久しぶりだな、対馬戦以来か”

 

「対馬……てことはあなた達は!」

 

彼らはあの対馬海沖で共に闘った空自隊員である。

 

“今回もよろしく頼むぜ、期待してるよ”

 

「はい、よろしくお願いします」

 

話を済ませ、ジェイドの乗るステルヴァーと合流する……がしかし彼の機体は人型ではなく戦闘機型である。

 

“来たか”

 

「遅れてすいません、今回はよろしくお願いします」

 

彼は日本語で喋っているが早乙女から向こうにも翻訳機を搭載しているから安心して日本語を使っていいと言われている。

 

 

“ところで君は空中戦は何回目だ?”

 

「ええっと、確かもう八、九回目です。模擬戦闘も含めればもっと……」

 

“実戦回数が約九回か。君はゲッターロボの、その空戦仕様のパイロットに任命されてから一年未満にしてはやけに戦闘が多いしそして見事生きている”

 

「は、はあ。半ば成り行きと強引で乗ったようなものです……けどゲッターロボは操縦は簡単ですし武装も強くて、それにシールドまで搭載してますから」

 

“ふむ。だがいくらなんでもただの高校生が乗り込み多少の訓練だけでここまでやるとはな”

 

 

「ぼ、僕達のことを知ってるんですか?」

 

“サオトメ一佐から色々とな。君達のような子達がなぜ軍隊に混ざっているのか私達含めた全員が気になっていてな”

 

恐らく朝の朝礼時に米兵がこちらをジロジロ見ていたことに関してだろう。

 

「……もしかして僕達は邪魔と思われてますか?」

 

“正直、一般人を兵士として使うのは反対だ。

出来れば君達は降りて安全な場所へ避難すべきだが君達はゲッターロボに自ら乗っているのだろう、そういうことならこれ以上私は口出しできない”

「…………」

 

“悪気を感じたのならすまない、許してくれ。

だが君達は確かにサオトメ一佐の言うとおりそういう才能があるのかもな”

「……ありがとうございます」

 

“まあともかく、今作戦中はよろしく頼む。

君の力を頼りにしている、思いっきりやってくれ。

逆に危なくなったら私はすぐに援護に入るし、私も危なくなった助けてほしい。バディになった以上は二人は生死を共にする一心同体ということを忘れるな”

 

「一心同体……了解です!」

 

そして航空部隊も、低空飛行で大雪山の北へ移動を開始する。

 

“よおジェイド。バディのお守り、しっかりやれよな。ハハハっ”

 

「お前こそ、調子に乗って墜ちるなよ」

 

ジェイドの所に、航空部隊に混じっていた未見の戦闘機のパイロットから通信が入るが、どうやら自衛隊ではなく例のアメリカ軍パイロット、つまり彼の仲間のようだ。

「ジェイド少佐、あれも少佐の機体と同じアメリカ軍のSMBですか?」

 

“ああ、アメリカ軍現主力機で可変型SMB『マウラー』だ”

 

「可変型……もしかして変形するってことですか?」

 

“そうだ、今の戦闘機型とゲッターロボみたいな人型にな。だが今回はその機会はあまりないだろう”

 

変形……一度は見てみたいと強く思う竜斗であった――。

 



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第二十話「決戦前」②

――大雪山地下の第十二恐竜中隊基地。二人の恐竜兵士が通路を歩きながら、自分達の未来に憂うつを話している。

 

 

「いよいよ地上人類がこの基地に攻めてくるな……」

 

「ついに決戦か。だが我々には勝利か死か、二つに一つと言うことか……」

 

「あの海竜中隊が壊滅し、今度は我々中隊の番……ゲッター線が奴らに味方している限り、俺達は終わりかもしれん――」

 

第十三海竜中隊が壊滅してから、さらに日本各地にいる自軍の戦力がゲッターロボによって殲滅させられており、戦況は逆転していた。

そして大雪山周辺に地上人類の軍が集結している。

日本地区での決戦はすぐそこまで迫っていた――。

 

二人はその途中で厳重にロックされた巨大な鋼鉄のドアに差しかかる。

 

 

『この先厳重エリアにつき、立ち入り厳禁』

 

 

と書かれているが。

 

「そう言えばこの奥はどうなってんだ?よくここを通るがたまに呻きごえやら聞こえるんだが」

 

「どうやらそこで日本各地で捕まえてきた地上人類を集めて人体実験をしているらしいぜ。

なんでも如何に簡単に、そして大量に殺せるかのな。

細菌や化学物質まみれだから例えここの司令官でもよほど用がない限り、立ち入り禁止らしい。

証拠にそこで実験しているのは、本隊から直接派遣されたガレリー様直属の精鋭研究員でこの中隊とは管轄外だ」

 

「けどよ、俺らの食糧にすればいいじゃねえか。ここ最近の食糧難がクリアされるだろ」

 

「それも検討されていたようだが、臭くてパサパサしていてどう調理しても俺達の口に合わないらしい」

 

「食糧すらできないか……奴隷化は?」

 

「ゴール様から地上人類は残さず全滅と何度も言われてるだろ。

俺もその方がよりいいと思うのに、よっぽど毛嫌いしてんだなゴール様は」

 

「全くだ、そんなゴール様も今の日本の状況を見てさぞかしご立腹だろうぜ」

 

「まあな。そろそろこの話はやめよう。周りに聞かれると俺達白い目で見られるぜ」

 

彼らがそこから去った後、聞くにも堪えない、男女のけたたましい悲鳴や断末魔が漏れだしていた……。

 

――夜十時過ぎ。ニオンは司令室で大雪山周辺を表示したマップモニターを黙って見ている。

 

「ニオン司令官、地上人類の大部隊が大雪山に集結しています。その数は約千機以上――」

 

無数の赤い点が南に、そして北西から北に移動しているのが分かる。

 

「昨夜、我々が送り込んだゲリラ部隊の襲撃の影響か、奴らは行動を早めたようです。いかがなさいますか」

 

「直ちに基地内の全兵力を集結、戦闘準備させよ。

各メカザウルス、メカエイビスを出撃準備、対地、対空砲を起動、発射態勢にかかれ」

 

「はっ!」

 

「おい、全兵士にこう伝えろ。一歩も退くな、特攻してでも敵殲滅を図れとな。死は無駄にはせん」

 

「は、は……っ!」

 

部下はそそくさと司令室から出て行く。その後、ニオンはゴールへ通信を入れる。

 

「ゴール様、第十二恐竜中隊は今より地上人類の大部隊と交戦いたします。

おそらく例のゲッター線を動力とする機体も来ると思われその規模は日本地区最大の戦闘、決戦となるでしょう。

もし勝利できればそのまま日本地区制圧に乗り出します」

 

“……そうか、ついにこの時が。頼むぞニオン。もし助けが必要であれば本隊から援護を出すが?”

 

「その必要がありません、第十二恐竜中隊には最終兵器があります。

いくら敵に戦力があろうと攻略は不可能です。

戦況の優劣関わらず起動させ、その時は敵もろとも日本地区の全地上人類をこの世から一掃いたしましょう」

 

“ほう。だが決して過信はするなよ”

 

突然、ゴールは間を置きこう言い出す。

 

“……ニオンよ”

 

「……?」

 

“大丈夫か?最初見たときよりも一層険しい顔になっているぞ。いやまるで悪魔か何かに取り憑かれたような狂気とも感じる表情だ”

 

「………………」

 

“まあよい、では健闘を祈るぞニオン”

通信が切れると、彼はすぐに部屋の鏡で自分の顔を覗く。

 

「………………」

 

鏡にうつるその顔は、確かに彼の端正な顔立ちであるが凄く歪んでいる。目つきが悪くなり、顔色が悪い、やつれているようにも見える。正常な顔色ではないのは確かだ……。

 

(……これが私の顔か……?いや違う、少なくともここに来たときにはまだ生気があった、だが今では死人みたいじゃないか……。

私に一体何があったというのだ……っ)

 

 

 

……それは数ヶ月前に遡る。

ニオンはエーゲイらを中心に周りからの酷い嫌がらせ、差別、イジメを受け続けているも何とかやっていた。

 

それは彼の強い意志もあるが彼女、レーヴェの存在が大きい。

姉御肌でかつ包容力のあり、何より同じ痛みの解るレーヴェは彼にとってここ一番の救いで、寄りどころでもあった。

普段は上下関係は守り、夜になれば誰にも見つからないようにこっそり会っては恋人のように二人で話したりそして身体で慰めあったりしているようだ――。

まるで彼女が姉、彼が弟のような関係となっていた。

 

「海竜中隊が全滅したとなれば次はこの第十二恐竜中隊の番だ。

恐らく決戦になれば勝敗関わらず、両軍とも沢山の兵士が犠牲になるだろう」

 

「……だろうね」

 

「もしそうなればアンタの命は危ない。

……正直、レーヴェだけでも生き延びてほしい」

 

「ニオンは?」

 

「私は司令官の身だ、ここから決して逃げるワケにはいかない。

ここが陥落する時は私も運命を共にしなければならない」

 

「死ぬのがこわい?」

 

「いいや、私も地竜族の未来のためならばいつでも死ねる覚悟はある。

それよりもアンタが死ぬことのほうがよっぽどイヤだ」

 

「……アタイは心配ないよ。これでも爬虫人類の一兵士だから。

ここしかアタイに居場所がないし、逃げるつもりはない。最後まで責務を全うする覚悟だ。

だからニオン、最後までアタイもここで戦うよ」

 

「レーヴェ……すまない……っ」

 

――複雑な心情のまま二人は別れてる。レーヴェは自分の部屋へ向かう途中、突然目の前にあの男、エーゲイが下卑た笑みを浮かべて姿を現す。

 

「……エーゲイ、何のよう?」

 

「お前、さっき誰と会ってたんだ?」

 

「誰でもいいじゃないか。なんでアンタに言わなきゃならないんだよ。相変わらず下品だねアンタは」

 

彼女は無視して行こうとするが彼に遮られてしまう。その時、背後から彼の仲間数人がニヤニヤしながら近づいてくる。

 

「エーゲイ……アンタ何企んでんの?」

 

「ちいとツラ貸しな」

 

……彼女は近くの倉庫に連れ込まれて前に投げ倒される。

 

「なによ。たかがオンナ一人に集団でたかってなにしようってんの!?」

 

エーゲイは彼女の胸ぐらを掴む。

 

「知ってんだぜ?最近ニオンとよく会ってることをな。何をしてるんだ?え?」

 

「…………」

 

 

「さっき俺に下品と言ったがお前も人のこと言えねえじゃねえか。

男なら例え地竜族だろうが簡単に股開くこのアバズレがっ!」

 

「っ……!」

 

「色々と調べさせてもらったぜ。お前、元下民で娼婦なんだってな。

どれだけの男をたぶらかして、貢がされて生きてきたんだ?」

 

「エーゲイ……アンタっ」

 

「貴族の俺と違ってさすがは下民、やることが違うわな。身体を差し出して男の気を許し、骨の髄まで吸い取る寄生虫(パラサイト)だろう、この性悪女め」

 

だが、レーヴェは彼の顔を唾を吐きかけた。

 

「……好きで下民になったんじゃない。アタイだけじゃなく下民の女は生きていくためにこうするしか方法がなかった。

何にも不自由なくのうのうと育ったアンタら貴族にはその苦しみや悲しみはわからんだろうね」

 

「……レーヴェ、てめえ……」

 

「はっきり言ってあげるよ、アンタらよりニオンのほうがよっぽど優れてるってね!

一人じゃなにもできやしないクセして集団なら寄ってたかって弱いものいじめしてるようなヤツらなんかより、味方が一人もいないこの基地内で何されてもめげずに頑張っているニオンの方が立派に決まってんじゃない。エーゲイ、アンタは下民以下にクズじゃないか!!」

 

侮辱された彼はついにブチギレ、彼女の顔面に拳を叩き込み――続けて、何と彼女の着ている服を無理やり剥がしとり、狂気の行動に出るエーゲイ。

何度も、何度も顔、身体中を殴りつけ真っ赤に腫れた顔で喚くように泣きながらも喘ぐレーヴェ、間を開けず狂ったように腰を振るエーゲイ……。

後ろでは仲間もその光景に狼狽していた。

 

「え、エーゲイ、やめよう……流石に基地内で見つかるといくらなんでもヤバいぜ……っ」

 

仲間からの止めの言葉が入るもそんなのはもう彼に届いていない。

ただひたすらに怒りを彼女へ向けているだけだった。だが次第に大声を上げていたレーヴェも突然静かになり、同時に彼自身も絶頂は終着点に着いていた。

 

「はあ……はあ……っ」

 

やっと怒りが収まり、ゆっくりと立ち上がる。だが彼女は床にゴロンと寝っ転がったままで少しも動かない……。

 

「お、おい……レーヴェの様子がおかしいぜ……っ」

 

一人が彼女の元へ行き、調べる。が……

 

「……おい、息してねえぞ!」

 

心臓を調べるがドクン、ドクンと打つはずの心臓から全く音がしない。

これを知った仲間達は慌てて心肺蘇生を行う。

しかし全く効果がない、一人を今すぐ救援を呼びにいかせた。そしてエーゲイ自身はそのまま突っ立ったまま彼女を見下ろすばかり。

 

「……レーヴェ……?」

 

嫌が予感に襲われたニオンがここに走ってやってくる。

その凄惨な内部を見た時、彼はまるで痙攣を起こしたかのように身震いしていた。

「……彼女に、彼女に何をした!?」

 

ニオンの存在に気づいたエーゲイは彼を見るなり、嘲嗤う。

 

「けっ……この女が俺を貶しやがったから痛い目に遭わせただけよ。

下民でしかもアバズレのクセにこの俺をバカにしやがって……いい気味だっっ!」

 

 

 

その時だった。ニオンの視界、脳内が真っ赤になる。そして目に写るもの全てが敵、敵、敵――彼の溜まりに溜まった鬱憤がついに爆発した。

 

彼の額の触手がエーゲイを捉えた時、信じられない現象が起こる。

 

彼がもはや声とは思えぬ呻き声を上げてガチガチに固まり、そして少しづつ押しつぶされていく。メキバキと骨が砕く不協和音が鳴り響き、目、鼻、口、穴という穴全てから血が吹き出す。

ついにはエーゲイがまるでプレス機に挟まれたようにぺしゃんこに潰れてただの血にまみれた肉塊と化してしまった。

 

血塗れと化す倉庫内、返り血を浴びる彼の仲間は顔が真っ青のままその場で凍ったように固まっており、血塗れのニオンは修羅のようだ。

 

――なぜニオン含む地竜族がこれほどまでに差別を受けて迫害されたか、爬虫人類のほとんどは本当の理由を知らない。基本的に昔から地竜族は特異体質もあるが、何より傲慢な卑しい人種などと教えられてきたためである。

 

だが真の理由は、ゴールの言っていた『謎の力』……彼らの持つ特異体質でも、最も際立った『異能の力』である。

 

普段は理性と意識の壁に塞がれた奥底に封印されているが、タガが外れると普通の爬虫人類にはない超常的能力が発現してしまう。それは各人様々であるがニオンの場合は先ほど見せた『強力な念動力』である。

これが彼らを異端だと言われる最大の理由であり、その力を使い帝国の乗っ取りを畏れたゴールの祖先、つまり遥か先代の王族が彼らを下民に落とし、生殺し状態にしたのである――。

 

……軍医が駆けつけ必死の救急も報われず、そのまま帰らぬ人となってしまったレーヴェ。数多くの慕っていた仲間達がどれだけ悲しみに包まれたことか……。

 

だがニオンの怒りは治まるはずがなく、この能力が発現して以降、彼はその力を使い恐怖の独裁支配を始めた。

初めは今まで通り地竜族ということで反抗する者もいたが、見せしめとして彼の力により見るに堪えないほどに潰されて、粛清。

 

暗殺なども実行しようとするも、元々の勘が鋭いのもありもはやニオンに近づくことも出来ず幾度も失敗し、処刑される。

 

 

もはや、誰にも手がつけられず彼に逆らおうとしなくなっていた。

しかしそれでも彼の気分は全く晴れず、それどころ日を追うごとに険しくなる。まるで悪霊か何かにとり憑かれたかのように。もはや彼自身さえ何をしているのかさえ分からなくなっていた――彼は壊れてしまったのだ。

 

――そして彼には、あの時の記憶が全くなかった。

その時の記憶の一片だけでも思い出そうとすると、その時に限って激しい頭痛が襲いかかるのであった。

 

証拠に今、その記憶を頭の隅から取り出そうとするが今まで以上に凄まじいほどの頭痛と嫌悪感が彼に襲いかかり、その場でうずくまってしまう。

 

(なぜだ……なぜ思い出せない?頭の中に誰かの姿がこびりついて離れないのに思い出せない、気持ち悪い……!

私はいったいどうしてしまったんだ……っ!)

 

ちょうどそこに側近が戻り、彼の異変に気づいて駆けつけた。

 

「ニオン様、大丈夫ですか!?」

 

「触るな……っ」

 

「しかし……っ」

 

「触るなと言っているだろうがあ!」

 

瞬間、ニオンの念動力が働き部下を無意識に壁に叩きつけてしまった。

ゆっくり立ち上がりフラフラと部屋から出て行くニオン。

 

(……こんな時で司令官がこれではまずい……なんとかせねば……っ)

 

彼は医務室に入ると戦闘に向けて準備をしていた医官達が慌てて駆けつける。

 

「どうなさいましたかニオン様?」

 

「……突然気分が悪くなった、薬を処方してくれ……っ」

 

すぐに薬のニオンに飲まし、ベッドに寝かせた。だがそれでも息が荒く、うめき声を上げている。

 

(お前は誰だ……なぜ私を苦しめる……?)

 

頭の中でちらつく一人の人物、女性のようである。

ぼやけていてまともに見れないがこれだけは分かる、見たことのある女性だ。

次第にぼやけが治りはじめ、その姿が鮮明に見えてくる――が。

 

「ニオン司令官!!」

 

部下の声に起きる彼はとっさに起きる。

 

「……ど、どうした?」

 

「基地の総員が戦闘準備が整いました」

 

「……そうか。現在時刻は?」

 

「午前0時前です」

 

「0時……敵の動きは?」

 

「南、北側に。完全に挟みうちにされた模様です」

 

彼は起き上がり、基地内中央に位置する『艦橋』へ移動する。分割モニターを見ると南側は地上部隊と後方支援部隊とベルクラス、北側には戦闘機と空戦仕様のBEET部隊の大軍団。

 

「各機はいつでも出撃可能です」

 

 

 

「各メカザウルス、メカエイビス、恐竜母艦第一軍出撃せよ。メカザウルスは主に南側、メカエイビスは北側に周り迎撃。各対空砲、ミサイル砲を駆使してこちらに近づけさせるな」

 

ニオンの命令が一斉に基地内に響き渡る。

そして、大雪山噴火口、そして麓からそれぞれ百を超えるメカザウルスが次々と飛び出してくる。

 

その後に続けて山頂の火口からメカエイビスが多数出撃、朝霞で竜斗が撃破したはずの『タウヴァン』の大軍である。

その数は百、いや二百、三百を越えていた。

 

早乙女とマリアは艦橋にてその大雪山周辺に蔓延るメカザウルス、エイビスの大軍をモニターで確認していた。

 

「ついに奴らも来たか。あれでもまだ第一陣だろうな」

 

「おそらく。勝算は?」

 

「勝算?絶対に勝たなければならないんだ、我々は」

 

「そうですね」

 

「では始まるぞ、日本最大の戦いが――」

 

――ついに幕が開いた『大雪山戦役』。これに勝利できればおそらく日本をヤツらから解放できるだろう。

 

だがこの戦いはあまりにも厳しく、そして予想だにしない事実があることをまだ僕達は知る由もなかった――。

 



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第二十一話「大雪山戦役、前編」①

地上、そして空から波のように押し寄せるメカザウルスの大軍団。地面を蹂躙し雄叫びを上げながらこちらへ駆けてくる恐竜……悪夢そのものだ。

 

地上部隊は各火器で迎撃を開始。プラズマ弾、ミサイル、実弾、ありとあらゆる弾丸全てを撃ち込む。

耐えしのぎそのまま突撃する機体、回避する機体……撃破されたメカザウルスの後ろから走ってくるメカザウルス達がついに地上部隊の側まで接近、次々に爪や牙、そして口からのマグマをはいて一斉に襲いかかる。

一瞬でこの一帯は敵味方入り混じる合戦となる。

 

「はあっ!」

 

エミリアの乗るゲッターロボも奮闘し、左腕の高速回転するドリルで穿ち、メカザウルスを一撃で粉砕していく。

だがその後ろにメカザウルスが牙を尖らせて迫っており、彼女もそれに気づくが反応は遅かった。だが突然、メカザウルスの首が胴体と離れて飛ばされていく。

そこにはジョージの乗るステルヴァーが右手首から突き出たダガー状の小刃を横に振り切っていた。

 

「油断するな!」

 

「はいっ!」

 

このステルヴァーも地上を速く動け、両手首から突き出る刃を駆使して次々にメカザウルスの首、胴体をまるで紙のように切断していく。

 

この武器は刃を高周波振動させているため切断力が増す仕組みである。

 

左腕を突き出すと前腕部の装甲が縦に開き、小型ミサイルを発射し前方のメカザウルスに不意撃ち。怯んだ隙に再びダガーで一刀両断した。

 

「ヒューッ、流石はアメリカ製だぜ!」

 

その高性能ぶりに彼は興奮する。

エミリアもなるべくメカザウルスと一対一になるように持ち込み、そして確実に撃破していく。

他のメカザウルスがゲッターロボの背後に忍び寄り噛みつこうとした時、ライジング・サン中央のドリル状の物体が射出され、メカザウルスを貫通。

それだけでは止まらず、まるで生きているかのようにゲッターロボ周辺を飛び回り、死角から近づくメカザウルスに向かって自動的に突撃し、穿っていく。

 

「すごくいいねコレ!」

 

彼女は便利なこの兵器を感心する。

ゲッターロボはメカザウルスの胴体を右のペンチ型アームでがっちり掴む。握りつぶさずにアーム中央の発射口からプラズマエネルギーのレーザーを発射し、メカザウルスの身体を貫通、そのまま頭ごと上へ焼き切った。

「やるなエミリア君!」

 

「いやあ、ジョージ少佐には及びません」

 

「そんなことないさ。けど機体の性能を頼りにしている部分もあるから過信はするなよ」

 

「はい!」

 

「まだまだ奴らは押し寄せてくる。途中で力尽きるなよ!」

 

ステルヴァーとゲッターロボの高性能機の前に周りに無数のメカザウルスの残骸が積み上がっていくばかりだ――。

 

 

 

 

後方砲撃部隊のBEETは肩に取り付けた高射砲の角度を調整し、発射態勢に入った。

 

「充分引き寄せよ」

 

上空から押し寄せる翼竜型メカザウルス、数隻の恐竜母艦から発進する恐竜帝国製の戦闘機の大軍。中には空爆を開始するメカザウルスもいた。

「撃てっ!」

 

 

命令ともに地上からBEETによる対空砲火が始まった。

次々に撃ち落とされていく敵機だが、まだまだ後方からさらにメカザウルスが黒い塊となって大雪山から押し寄せてくる。

 

「では行きますか」

 

ジョナサンの乗るステルヴァーがついに動きだし、携行するバズーカを上空に傾けて、セーフティーを解除、照準を合わせる。

しかしバズーカの砲身には、いわゆるハザードマークがついているが。

 

「俺が熱いキスをくれてやるぜ」

 

モニターに映る全てのメカザウルスを赤枠で囲んだ。

 

“全機、後方ステルヴァー機の射線上から退避し防御姿勢に入れ、繰り返す――”

 

早乙女からの命令で全機が戦闘を止め、後退し身を構える。そして

 

「ファイアっっ!!」

 

撃ち出されたミサイルが遥か上空の、メカザウルスの塊へ飛んでいき十数秒後経った時、それは起こった。

 

赤色光が球体状に膨れあがり炸裂。想像を絶するほどの衝撃、熱、光が一帯全てに襲いかかり空中の、範囲内にいたメカザウルス全ては呑み込まれていていき、離れていたメカザウルスにも衝撃波を受けて吹き飛ばされていく。

地上にもその余波が到達し、突風が突き抜け巨大な砂嵐が巻き起こり、キノコのように上空へ巻き上がる黒煙が見える。

 

「……っ、もしかしてあれは……?」

 

「爆発の規模を見ると戦術核だろうな。だが放射能が検出されてないのを見ると、博士の主張が正しかったようだ」

 

「……司令、もしかしてあれが核弾頭だと知ってましたか?」

 

「さあ?」

 

ベルクラスの艦橋からその凄まじい光に目を押さえてうろたえるマリアと、分かって準備していたかの如く、いつの間にか遮光目的でサングラスをつけていた早乙女。

 

「め、目がチカチカする……っ」

 

同じく爆発の様子を見ていた愛美は離れていたこともあり無事だったもの、強烈な光で目をゴシゴシこすっている。

 

“大丈夫かい、マナミ?”

 

ジョナサンから心配する声が。

 

「アンタ、一体何を撃ったのよ……」

 

“小さな太陽さ”

 

こんな時に冗談をかます彼に愛美でさえ呆れる。

 

“おいジョナサン、許可なくいきなり核をぶち込むようなクレイジーなことはやめろ!”

 

ジョージからお叱りを受けるも、

 

「いいじゃん、あんなに敵が迫ってきて今撃たなきゃいつ撃つんだよ?」

 

“味方機にまで被害を受けたらどうするんだ!”

 

“二人共やめろ!”

 

口もめになる二人の元にジェイドから通信が入る。

 

“よくやったジョナサン。だが今はなるべく周りの状況を考えるように戦え。

今は自衛隊と合同作戦中だということをわすれるな。

核はここぞという時まで残しておけ”

 

ジョナサンは意外とあっさり命令に従い、核弾頭バズーカと背中のランチャーを交換する。

二羽折りにした砲身を直列に連携させると長い砲身となる。

グリップとしっかり握りこみ、腰をドシっと構えて固定するステルヴァー。

砲身にプラズマエネルギーを送り込み、チャージ完了させる。再び上空のメカザウルスに向けて射角を合わせた。

 

「ヘイっ!」

 

その身の丈並みのランチャーから放たれたのはプラズマを帯びた弾丸。

その音速を超えた凄まじい弾速は一瞬で遥か上空先のメカザウルスを次々と貫通していった。

 

「ほう、レールガンの類か」

 

早乙女は腕組みし、ステルヴァーの武器を嬉しそうに注目していた。

 

「ではこちらも行くか。水樹、一発目行くぞ」

 

彼女に伝えるとついに出番ですかと指を鳴らす。

斜めに傾けているドーヴァー砲をゆっくりと空のメカザウルスの密集域に合わせ、足の緩衝器を作動させる。

 

“全機に告ぐ、これよりゲッターロボはドーヴァー砲を発射する。

一応の被害を避けるために前線部隊は速やかに退避せよ”

 

早乙女の命令で前線にいる部隊機は左右へ一定の距離まで離れた後、

 

“いいぞ、撃て!”

 

「んじゃあ、いっきまあす♪」

 

 

彼女はトリガーを引いた時、その巨大な砲身から、大玉とたとえるに相応しいプラズマを帯びた巨大な弾丸が音速を超える速度で瞬く間に上空へ突き抜けていくが、その弾丸が通過した際の余波は四方八方に広がり、メカザウルスの群れのほとんどが一瞬で潰れ、バラバラに分解し、そして吹き飛ばされていった。

恐らく今の一撃で百機近くが吹き飛んだだろう。

 

離れた場所で退避していたジェイドとエミリアはその威力に唖然としていた。

 

「ワオ……ミズキヤバすぎ……」

 

「ヒェーっ、サオトメ一佐もクレイジーな兵器を造るものだ……」

 

そのドーヴァー砲を撃った愛美も呆然し、固まっていた。

 

“水樹、大丈夫か?”

 

早乙女の声にハッと我に返る。

 

「……早乙女さん、マナびっくりした。衝撃が半端なくてまだ手がしびれてる……」

 

“すまない。実はまだ一回のテスト射撃しかしていない代物で、無事に使えるかどうか分からなかったが大丈夫のようだ。感謝するよ”

 

「ちょっ!じゃあもしゲッターロボに何かあったらどうするつもりだったのよ!?”

 

“その時はその時だ。また弾を装填してエネルギーチャージしていつでも使えるようにしとけ。幸運を祈る”

 

彼の通信はここで切れる。

 

「コラァ逃げるなーっ!」

 

こんな時にも調子を崩さない早乙女である――。

 

 

大雪山の北側では戦闘機型メカザウルス、そしてメカエイビス大部隊と交戦する混成航空部隊。

空戦に特化した部隊同士が繰り広げる高機動戦闘、ドッグファイト。

その中でも竜斗は今までの訓練、そして実戦によって裏付けされた経験がゲッターロボによってフルに発揮され縦横無尽の働きを見せていた。

 

(負けるわけにはいかないんだっ!)

 

その凄まじさはまさに戦神の如し、アクロバティックな機動を描きながら無数のメカザウルスを撃ち落としていく。

メカエイビスの方も、以前戦ったタウヴァンの量産機であり、攻略法を知る彼は以前使用した大型プラズマソードでピンポイントで斬り込み一刀両断していく。

「あの子スゴいな……っ」

 

「ああっ、俺達も負けてられないぜ!」

 

自衛隊隊員、米軍パイロット、そしてジェイドも彼の活躍に感心していた。

 

(ゲッターロボの性能もさることながら、彼のパイロットとしての能力も底知れないな。

だがまだブランクというものを味わってないだろう。

その時が来た時、はたして彼は乗り越えられるだろうか――)

 

ジェイドの駆る機体はステルヴァーであるはずなのだが人型ではなく戦闘機型だ。

彼もまた経験豊富な歴戦の戦闘機パイロットであるため、様々な空中戦闘機動(マニューバ)で翻弄し、ミサイル、バルカンを駆使して次々にメカザウルスを撃ち落としていく。

(やっぱり本場の人はスゴい……っ)

 

竜斗、いや日本の隊員もその華麗な機動を魅せられていた。

だがその時、ジェイドの目の前にメカザウルスが待ち構えていた。

だがそこで彼は信じられないことをする。

 

「ヴァリアブルモード!」

 

両主翼、各尾翼の後部、なんとそれぞれ人型の手足に変形し、機首も変形しステルヴァーの特徴的な鋭角な顔が出現。

一瞬で他二機のような人型に変形、右手首から高速振動刃を突出させて勢いに任せてメカザウルスの首を横一閃に斬り込み、切断した。

その後、再び戦闘機形態に戻り夜空を駆けていく。

 

「か、かっこいい……」

 

竜斗は思わず口から出る。

 

――アメリカ製SMBの特徴に人型、戦闘機型への可変機能がある。

 

ステルヴァーはアメリカ軍現主力SMB『マウラー』のノウハウを活かされて開発された新型であり、ハイブリッド動力である点、開発案などゲッターロボと通ずる部分が多く、師弟であるニールセンと早乙女の思想がほぼ同質なのかもしれない。

 

「竜斗君、いい筋してるな、驚いたよ」

 

彼からのお褒めに照れる竜斗。

 

“少佐のように本場の人が凄すぎて僕なんか……っ”

 

「そうへりくだるな。自分に自信を持つことも成長の秘訣だぞ、常に積極的になれ」

 

“……はい!”

 

「よし、この調子でさらに敵を叩くぞ。行くぞ!」

 

……北と南で奮闘する早乙女率いる混成部隊に次々とやられ劣勢になっていく第十二恐竜中隊側。

 

「メカザウルス、メカエイビス小隊が次々と壊滅……」

 

「地上人類がここまでやるとは……っ」

 

劣勢になることが想定外だったのか苦渋の顔を浮かべる中隊のオペレーターに対し、冷静さを保ち平然としている二オン。

 

「地上人類軍にはゲッター線の機体の他にデータにない新型機が確認されてます」

 

「…………」

 

「こちらへ押し込まれてきています。二オン様、どうしますか!」

 

「第二陣を出せ、それでもダメなら三、四陣と次々に出せ。一歩も引かせるな、奴らを倒せなくとも疲弊させろ」

 

「そっそんなことをしたら中隊の戦力の大半を失うことになります!もう少し慎重に戦うか本隊に援護を要請すべきでは?」

 

「その必要はない。我々爬虫人類にとって戦死は名誉ある死だろ。ゴール様も喜ぶ」

 

「こちらには二十数機の脆い対空、対地砲台としか残されてません。もしこのまま攻め込まれれば圧倒的に我々が不利です」

 

「私の命令に従え、聞こえないのか?」

 

「しかし――」

 

次の瞬間、反論したオペレーターが二オンの強力な念動力によってその場にグシャグシャに潰されてしまった。

他のオペレーターは恐怖のあまり顔が真っ青だ。

 

「こうなりたくなければ命令に従え。

心配するな、我々には切り札がある。

奴らがどうあがこうが我々に勝ち目はない、絶対にだ。さてしばらく楽しませてもらおうか」

 

彼のこの絶対的な自信はどこから生まれるのか、誰も知る由はなかった。

 



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第二十一話「大雪山戦役、前編」②

大雪山から第二陣と思われるメカザウルスの大軍が出現、それに対し後方で待機していたベルクラスもついに動き出す。

 

「マリア、対地ゲッターミサイル発射用意、目標は大雪山麓から出現したメカザウルス群」

 

「了解!」

 

艦の発射口が開き、一斉にゲッターミサイルが遥か先のこちらへ向かってくるメカザウルスの群れに降り注ぎ、大半を粉砕した。

だがその後ろからまるで虫のように湧き出るメカザウルスは一気に駆け込み地上部隊に到達、乱戦状態に。

エミリアとジョージも同じく乱戦に巻き込まれるも、ベースを崩さず一体ずつ確実に撃破していく。

 

「一体どれだけいるの!?」

 

彼女は今まで以上の数で現れるメカザウルスに驚愕する。

 

“キツいがそれでも今は来る敵をただ倒すことだけ考えろ!私も可能な限り援護する、決して心を折るな”

 

気を凌いで頑張るエミリア。だが向こうの人海戦術に押され始める地上部隊。

 

撃破される機体も多くなる中、後方の愛美とジョナサンの元に早乙女から通信が入る。

 

“二人共、空中のメカザウルスは他機に任せて二人は地上部隊の援護射撃にまわってくれ”

 

「わかったわ!」

 

「オーライっ!」

 

ゲッターロボはドーヴァー砲を水平にし、発射準備にかかる。

ステルヴァーも同じく大型リニアランチャー『リチャネイド』を水平に構える。

 

「先にいくぜマナミ!」

 

砲口からプラズマを帯びた専用劣化ウラン弾が発射され一瞬で大雪山付近のメカザウルスの群れへ直撃、巨大な爆発が起こった。

 

「こっちもいくわよ!」

 

ドーヴァー砲発射態勢に入るゲッターロボ。

 

“前線の味方機全てに告ぐ、後方のゲッターロボがドーヴァー砲発射態勢に入った、速やかに一旦後方へ退避せよ”

 

機体全てが後方へ移動し、この周辺はがら空きになる。

メカザウルスは突然の敵の後退に混乱している。

 

“水樹、今だ!”

 

「消し飛べハチュウ類!」

 

ドーヴァー砲から発射された巨大な弾丸は音速を超える速度で真っ直ぐ飛び、通過直後に発生した衝撃波が左右拡散するように広がりメカザウルス、いや全て範囲内にある物体を粉々にしていき前方のメカザウルス全てが一掃された。

 

「やっぱり試作品だな、砲身が焼けついてるぜ」

 

「あちゃあ、ジェネレータがオーバーヒートしてる。しばらく使えないわね……」

 

二つとも試作品であまり間をあけない発射のせいか、各火器に異常をきたしていた。

 

「よし、地上部隊は前進せよ。状況次第、再び援護に入る」

 

各機は前線に戻っていく。

 

“ミズキ、サンキュー”

 

愛美の横に彼女のゲッターロボがいた。

 

「大丈夫?」

 

“ええ、なんとか。またお願いね、頼りにしてるわミズキ”

 

「エミリアもね♪」

 

互いに気づかって機体の拳をつけ合い、エミリアは再び前線へ戻っていった。

「ジョナサン、機体の調子はどうだ?」

 

“まあまあだ。ところでジェイドの方はどうかな?”

 

「アイツなら心配ない。

誰よりも経験のある根っからの飛行機野郎だから上手くやってるさ。さて俺も前線に戻るか」

 

“気いつけなジョージ”

 

「ありがとよ」

 

彼らもゲッターチームと同じく深い絆で結ばれているようである。

 

その北側の部隊も、どれだけ撃破させても虫のように出てくるメカザウルスを前に苦戦を強いられていた。

しかも今度は地上の砲台からの対空砲火が始まり、避けるのも難しくなって次々とBEETやマウラー、戦闘機が撃墜されていく――。

「竜斗君、このままでは私達までマズい。まず地上の砲台をなんとかしよう!」

 

“了解!”

 

二人は地上へ降下を始める。

 

「私が先に出向いて砲台の囮になる。君はその隙に砲台の破壊を行ってくれ!」

 

“しかしそれでは少佐が危険に!”

 

「なあに心配するな」

 

ステルヴァーは再び人型に変形し、背中のスラスターを駆使して素早く降下しながらライフルを地上に撃ち込み牽制をかける。

当然砲台は撃ち落とそうとする集中砲火を加えるがジェイドの卓越した操縦によってことごとく回避していく。

 

そして迂回しゲッターロボが同じくライフルを各砲台に照準を合わせて素早く狙撃し、追いつかない分はミサイルランチャーで追撃し砲台を爆破、全てを機能停止させた。

「よし、これで多少は楽になる。戻るぞ」

 

ステルヴァーは再び空中で戦闘機に変形し、ゲッターロボと上空へ戻っていく。

 

(何から何までスゴい……俺も少佐みたいにここまでなれるかな?ここまでいければ確実にみんなを守れるかもしれない……)

 

数々の華麗なマニューバ、空中で変形し敵を翻弄、何よりそれらを完璧にこなす操縦技能と度胸の違いを見せられた竜斗はジェイドに憧れすら抱いていた――。

 

この苛烈を極めるこの『大雪山戦役』。

両軍にあるのは二つに一つ、勝利か敗北かのどちらかだ。

地上人類側が勝てば日本解放、爬虫人類側が勝てば日本制圧、及び地上人類殲滅――ここまで来たからにはどちらも引き下がれない。そして始まってすでに数時間経った今は、地上人類側の方が優勢である。

「第二陣、第三陣壊滅、対空砲台もやられました」

 

「中隊の全戦力は残り僅かです。これでは確実に敗北です!」

 

オペレーター達の顔から焦っているのが分かる。

すると二オンは腕組みをやめる。

 

「……戦いが始まって約数時間。戦力的にはこちらが劣勢だが、あらかた向こうの兵力も疲弊していることだろう。では最終兵器を発動する」

 

「二オン様、その最終兵器と言うのは……?」

 

二オンは中央パネルの前に移動し、オペレーターをどかすと器用に画面をスライド、タッチしていく。

 

『パスワード入力』のような画面に行き着くと、知らなかったハズのシークレットパスワードを平然と打ち込む二オン。

「本隊の兵器開発総主任ガレリー様に教えてもらった。この中隊の本当の正体をな」

 

「本当の正体ですと……」

 

「ここ数年間、最近まで基地内は大規模な改造を行われていたのを知っているな」

 

「は、はい。そういえば……それはなぜですか?」

 

「それはな、この基地そのものが最終兵器なのだからな」

 

「この地下基地……が?」

 

「お前達が知らないのも無理はない。

この最終兵器は我々爬虫人類がゲッター線によって地下に追いやられる前に、いざという時に造られた古代の兵器なのだ。

遺伝子操作と薬物投与、気が遠くなるほどの年月を使いなじませて成長、強化した恐竜をベースにしたメカザウルス二体、そして最新技術を駆使して造り上げた、この新兵器を搭載した地下基地が組み合わさったハイブリッド兵器――。もっとも、その兵器の存在を知るのは私以外には兵器開発においての名門ガレリー様の一族とごく一部のみらしいがな」

 

パスワードを入力し終えると艦橋自体が変形し、艦橋のど真ん中に操縦席、オペレート用のモニター席が完成する。

 

 

二オンは操縦席に座り込み、オペレーター達にも周りの席に座らせる。

 

 

「これより我々第十二恐竜中隊は地上人類部隊を殲滅した後、そのまま日本制圧に移る。目覚めろ、『ダイ』!」

 

大雪山からマグマの急活性化、及び膨大なエネルギー反応を早乙女はコンピューターを通じて感知。

 

「大雪山から凄まじいエネルギーが……これは……?」

「しっ司令、大雪山直下のマグマが急激に活性化、このままでは噴火する危険も!」

 

「全機、大雪山から莫大なエネルギー反応と地下マグマの活性化を確認、噴火の危険性がある。

地上部隊は速やかにこちらまで後退せよ。なお北側の部隊も一旦そこから後退し、指示を待て」

 

全部隊が戦闘を中止、メカザウルスを無視し後退する。

 

 

“二人とも大丈夫?”

 

エミリアと愛美に竜斗から通信が入る。

 

「リュウト!無事なのね!」

 

“うん、なんとか。エミリア達もどうやら大丈夫みたいでよかった”

 

「石川、あのデカい山になにがあったの?」

 

 

“わからない。司令の命令で交戦区域から後退しただけだからそこまでは……”

 

大雪山から黒い煙が上空に吹き上がり、同時に地震も起こり、徐々に大きくなる。グラグラ揺れる地上に地上の部隊は翻弄された。

 

「キャアアアっっ!」

 

「やだア、マナ地震キライなのよ~~!!」

 

コックピットでわめく女性陣達。

 

「マナミ!!」

 

ジョナサン機はなんと彼女の機体に抱きつくのだった。

 

「マナミ、オレがいるからダイジョーブっ!!」

 

「こんな時に抱きつくんじゃないわよっ!!」

 

何故か漫才じみたことをやらかす二人。

エミリアも地震が怖いのかジョージにすがるようにくっついていた。

その時、ようやくジェイドからジョージ達へ通信が入る。

 

「ジェイド、何がどうなってる!?」

 

“私は今、山頂付近に赴いてるが黒煙がひどくてよく分からん。だがあの山の中からとてつもなくヤバいものを感じる”

「ヤバいものだと?」

 

“私の勘だがな。監視をこのまま続ける。二人はゲッターチームと待機だ”

 

「「了解」」

 

だがついには山からマグマが溢れ出ており、しかも山自体が崩れはじめていた。

 

「大雪山が崩壊……このままではマグマが溢れて地上に流れ込みます!」

 

「待て。大雪山から何か出てきている」

 

早乙女達が目を凝らしてみると黒煙でわからないが崩壊した大雪山から何か首の長い恐竜のような物体が一つ、いや2つ地面から動いている。

それも長い、千メートル近くまで伸び続けているがこれは……。

なんと大雪山どころか周辺の地盤が沈下し陥没した時、ついにそいつが姿を現す。

「なんですって……」

 

「これは…………」

 

その姿はマリア、早乙女さえも唖然とさせる。それは他もしかり。隊員全員がその姿に驚愕、絶望する。

 

恐らく草食系恐竜であるアパトサウルスをベースにしたメカザウルスが二体横並び、その背中には無数の砲台を張り巡らせた地下基地部が聳え立つ恐竜要塞。全長が桁外れであり、ベルクラスよりも四倍、いや五倍、六倍はあり、高さも見積もって確実に一キロ前後あるその巨体は山そのものである。

 

 

これが第十二恐竜中隊の最終兵器であるブロント級地上攻撃戦艦『ダイ』である。

 

 

産声を挙げるかの如く咆哮がこの北海道全域に響かせる。

 

「ウソだろ……っ」

 

 

竜斗はボソッと口からその言葉が出る。こんな山のように巨大な要塞が隠されていたなんて思ってもみなかったことなのだから。

 

基地部を支える二体の恐竜の口をガバッと開けると『シュオ……』と高熱が吹き出た時である。

 

「全機、直ちに警戒態勢!」

 

早乙女が注意を呼びかけた瞬間、二つの口から大量のマグマが吐き出されこの地帯全てが一瞬灼熱地獄と化し、BEETの残骸や取り残された隊員、メカザウルス全てがマグマの中に消えていった。

 

 

今度は背中の基地の周りに張り巡らせた砲台が一斉に開門、百、いや二百、三百を越える大型ミサイルが雨のように降り注ぎ、広大な大地はマグマと爆焔で真っ赤に染まり、ボロボロの荒野となる――。

 

「こっこんなのどうやって倒すのよ……っ」

 

全長三千メートル以上を誇る巨体に加えてその類をみない超火力の砲撃による目にうつる光景が火の海に対しあの愛美がビクビクと臆していた。だがそこで前に出るのはジョナサンのステルヴァー。すぐさま最初に使用した核弾頭バズーカに持ち替えて狙いを定める。

 

「この恐竜ヤロオ、核をぶち込んでやる!」

 

“ジョナサン大尉、待てっ!”

 

早乙女の制止を振り払い、核弾頭ミサイルを発射した。

続けて再装填し、計三発を連続発射。

推進ロケットによってぐんぐんと伸びていき見事直撃し核爆発、ダイはその強烈の光に包まれた。凄まじい衝撃波、熱が周りに拡散すると共に特有のキノコのような巨大な煙が空高く舞い上がり雲のようになっている。恐らくは爆心地一帯は見るも恐ろしいことになってるだろう。もっとも民間人は既に避難し、何より放射能は出ないので二次被害が少ないのは幸いであるが。

「これでどうだ。さすがに核三発撃ち込まれたらただじゃすま……」

 

だが全員が目を疑う。煙の中からダイが元気な雄叫びを上げて出てくるではないか。しかもそれもどこの破壊箇所すら見当たらない、全くの無傷で。

 

「マジかよ……っ」

 

ジョナサンは激しく動揺した。

 




pixivで投稿した分と書きためを全て投稿したので次回から投稿ペースが遅くなっちゃいます、すいません。
けど頑張って書いていくので楽しみにしてて下さい。


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第二十二話「大雪山戦役、中編」①

『ダイ』の艦橋内。これまで不安ばかり洩らしていたオペレーター達は驚愕と共に歓喜の声を上げていた。

主操縦幹を握るニオンは当然の如き無表情である。

 

「地上人類よ、もはや貴様らには希望などない。

このままダイによって消し炭になり大地の肥やしになるがいい」

 

基地部中央からがドラム缶のような巨大な円筒状の物体が十基、上空へ打ち上げられ南の部隊へ向かっていく。

急接近すると突然、それがなんと空中で翼竜型自律メカに変形。

ミサイル、マグマ砲を退避していた地上の部隊全てに向けて雨のように浴びせた。

 

破壊しようと多数のBEETが地上から迎撃するが素早く回避され、直撃しても頑丈でありかすり傷すら全くつかず。

それらの攻撃は止まらず無常にもなすすべなく破壊されていくBEET。

 

「なめんじゃないわよ!」

 

愛美がドーヴァー砲で応戦しようとするがその翼竜ロボットに気づかれて砲身とジェネレータをマグマで攻撃されてしまい、溶かされてしまう。

すぐにドーヴァー砲を脱着し、やっと動けるようになり上空へ内蔵火器全てを開門し、全弾発射する。

見事多数に直撃するが全く傷一つすらつかず。このメカ全ての装甲はあの『セクメト』で使用されたセクメミウス製であった。

生半可なその攻撃が怒りを買い、一斉に襲いかかってくる。

 

「こんのお!」

 

あまりのしつこさにキレた愛美はなんと海戦型ゲッターロボ特有の蛇腹状の右腕を、襲い向かってくる一体に向けて全力で伸ばし、パンチを浴びせた。右手は潰れて使い物にならなくなったが、メカも当たりどころが悪かったのか、潰れて墜落した――。

 

「こんな時に石川達はなにしてんのよお!」

 

 

その竜斗達の部隊は北側からダイに向けて四方八方から攻撃を加えていた。しかしその光景は蚊かハエが象の周りを飛び回っているようにしか見えない。

竜斗は最大出力のゲッタービームをダイへ発射するが、直撃する寸前にバリアと思われるエネルギー障壁がダイ全体に張られていて遮断された。

 

BEET、マウラー、戦闘機の計十機がダイの基地部へ急接近するも、そのバリアに触れて一瞬で爆散してしまう。

近づくことも許されぬ堅牢のバリアに攻撃が何もかも無意味と感じ始めた時、竜斗の元にのジェイドから通信が入る。

 

“竜斗君、これの外周を観察したんだが奇妙な物を発見した、ついてきてくれ!”

 

「奇妙な物……ですか?」

 

二人はダイの真上付近に移動する。

 

“モニターをアップして見ろ”

 

モニターを拡大するとダイの真上をヒュンヒュン飛び交う四つの丸く白銀の金属の球体を発見する。

 

「これは……っ」

 

ステルヴァーは人型に変形し、機首部兼用のプラズマ・エネルギーライフルを取り出しダイを向けて撃ち込んだ。

同時に真上の金属球四つから真下へ光を照射し、エネルギーの膜を作りだしダイ全体に包み込んだのだった。

 

「もしかしてこいつらは……っ」

 

“恐らく四つとも、バリア発生装置だろうな。核攻撃すら余裕で耐えうる非常に強力なバリアを作り出すようだ”

 

しかし手の内さえ分かれば、するべきことは一つ。

 

“行くぞ、竜斗君!”

 

「はいっ!」

 

二人は四つのバリア発生装置である金属球を破壊すべく突撃。

それぞれゲッタービーム、ライフル、ミサイル、機関砲で総攻撃をかけるが、球体はこのゲッターロボとステルヴァーを遥かに上回る機動力で二機の攻撃をたやすく回避、負けずに二人は攻撃するもこちらの行動が全て見通されているようで全く当たらないのであった。

辛うじて命中してもかすり傷すらついていない、あの翼竜型メカと同様にセクメミウス製である。

 

その必死な攻撃を繰り出す二機に、ニオンは滑稽に見えて鼻で笑っていた。

 

「残念だな。それが弱点と思ったか。これはガレリー様が開発した新型防御機関だ。貴様ら地上人類ごときに破壊できるものか」

 

 

『リュイルス・オーヴェ』

 

 

爬虫人類の言語で『加護をもたらす守護者』。

セクペンセル・オーヴェのデータを元に開発された、核爆発すら余裕で耐えうる強力なバリアを展開する自律型支援兵器で、セクメミウス製で造られているため単体でも強固な耐久力を持つ――。

 

「くそおっ!!」

 

狙撃しても、何をしても全く当たらない金属球『リュイルス・オーヴェ』を前についに苛立ちはじめる竜斗。

 

“竜斗君、気持ちは分かるが冷静さを失ってはいけない、気を持て!”

 

「は、はいっ!」

 

背中のプラズマソードを取り出して、まるでブーメランのように全力で投擲するが金属球は軽々と避けてしまう。

だが、当てるのは目的ではなく機体を身軽にするのが目的であり、証拠にゲッターロボの機動力が向上し、金属球のスピードに追いつけるほどになっていた。

だが、それでも攻撃が効かなければ全く無意味、傷すらつかない有り様だ。

空戦型ゲッターロボ、いやステルヴァー含めた全ての武器は自分達より遥かに小さいこの金属球の驚異的な耐久力の前には何の意味もなさなかった。

 

(ジェイド少佐のステルヴァーやゲッターロボでさえ……力不足なのか……)

 

このままでは何の活路も見いだせない、むしろそのまま敵が圧倒的な力を奮うだけだ。

 

二機のメカザウルスの口、そして基地中央に建つ柱の上の艦橋付近に張り巡らせたミサイル砲、マグマ砲台を全方位に向けて無差別にぶちまけながらついに前進を始めるダイ。

 

「いや……いや……っ!」

 

北海道という自然溢れる大地を言葉の通り蹂躙しながらこちらへ向かうダイを前にエミリアはすでに恐怖で青ざめた表情だ。その時である。部隊全員に通信が入る。

 

“我々は一時撤退する。このままでは確実に全滅するのを待つだけだ。

各部隊は安全地帯まで早急に退避、北側の部隊も同様だ、直ちに戻れ!”

 

ベルクラス、そして全機体が一斉に南側へ退避。北側の部隊もダイの射程外の遥か上空から南側が移動する。

 

「逃がすか!」

 

ニオンは逃がす気などない。二頭からのマグマ砲を退避していく部隊へ放つ。ホースからの放水のようにぐんぐんマグマが伸びていき、地上に飛び散るとそれが今度は真っ赤な大波となって彼らに襲いかかる。

 

「うわあっ!」

 

「助けてくれえっ!」

 

無情にもマグマの波は逃げおくれた大多数のBEETを呑み込んでいった……。

 

「ヒキャアッ!」

焦りすぎたエミリアの前方不注意でゲッターロボが出っ張りに引っかかり転倒してしまう。

 

「エミリア君!!」

 

ジョージは引き返しすぐさま彼女の機体を引き起こす。

 

“大丈夫かっ!”

 

「は、は、はい、す、すいませんっ!」

 

だがそこには約千度という高熱のマグマの大波がすぐそこまで迫っており、急いで再発進する二人。

 

「こういう時こそ焦るんじゃない。深呼吸だ、それだけでも多少は違う」

 

先輩の助言に素直に従い、息を大きく吸うエミリア。すると、

 

「す、少し落ちついたかもしれません……」

 

“よし、いい子だ。絶対助かるからな、頑張るんだぞ!”

 

こんな時にでも励ましてくれる彼の優しさに感謝の気持ちでいっぱいなエミリアであった――。

 

「う、うそっ!!」

 

今度はなんと愛美のゲッターロボに異変が。

何と両足に装備していたローラーホイール型推進ユニットが動かなくなり立ち止まってしまう。故障か。

 

「えっなんでなんでっ!!?」

 

突然のアクシデントにパニックに陥る愛美だった。そこにジョナサンが駆けつける。

 

“どうしたマナミ!?”

 

「両足の推進器がうごかなくなったの!このままじゃ!」

 

マグマまでの距離はあるものの、推進ユニットのない海戦型ゲッターロボは機動力は最低であり、走っても到底マグマの波から逃げられないのは確実だった――。

“マナミ、その機体から降りて俺の機体に乗り込め!”

「アンタ……っ」

 

“早くしろ!死にたいのか!”

 

言うとおりに彼女はハッチを開けるとすでにステルヴァーの手が側にあった。

 

手に飛び乗り彼のいるコックピットハッチに移動するとハッチが開きジョナサンが手招きする。

 

 

「マナミ、ハヤク!」

 

カタコトの日本語で呼ぶ彼の元へ飛び乗った。

愛美を後部座席に座らせシートベルトをつけるよう指示、自身も操縦席に座り込みシートベルトをつけ操縦桿を握る。

 

 

「いくぜマナミ!ヴァリアブルモード」

 

「えっ?」

 

その場で戦闘機に変形し急発進するステルヴァー。

「~~~~っ!!」

 

初めて見る可変機能の驚きよりも、急発進による凄まじいGがかかり顔が歪む愛美に対し、すまし顔のジョナサン。さすがはステルヴァーのパイロットといったところか。

 

「ひィーっ!か、か、加減してよお!!」

 

「?」

 

「加減しろっつってんでしょ!!!」

 

悲鳴を上げてようやく彼は理解し低速に戻しようやく安定する。

 

「アンタふざけんじゃないわよ!マナを殺す気!?」

 

「ハハハッ!」

 

笑い飛ばす彼にふてくされてしまう愛美だった。

 

「ソーリー、マナミ」

 

「…………」

 

……マグマの呑み込まれていく海戦型ゲッターロボ。

デザインでは文句ばかり言っていたが、何だかんだで可愛がっていた愛機がマグマによって溶かされていく光景をモニターから見ている愛美は、まるで友を失ったかのように大粒の涙を浮かべていた――。

 

「マナミ……」

 

言葉が通じずとも、察したジョナサンは彼女の頭を優しく撫でた……。

 

「あの金属球さえなんとか破壊できれば……っ!」

 

上空から撤退する航空部隊。竜斗は珍しく悔しさを前面に押し出していた。

 

“だが手の内が読めた、撤退してあの巨大な恐竜要塞の攻略を考えよう”……ゲッターチームにとっては初の撤退。

竜斗の心の中は悔しさばかりであった。

 

“竜斗君、そんな顔をするな。まだ負けたわけではないんだぞ”

 

「は、はい……けどこういうのは初めてで……」

 

“だろうな。だがこのまま戦い続けても確実にこちらが全滅するだけだ、サオトメ一佐の判断は正しいよ”

 

「…………」

 

……撤退していく地上人類軍を追い詰めていくダイ。

 

「よくここまでやったと誉めてやる。だが、爬虫人類の方が偉大だっただけだ」

 

マグマ砲、大型ミサイル、全ての砲門を開けて前方全てに照準を当てた――。

(これで勝ちだ!見てるかレー――)

 

だが突然、彼の手は止まった――。

 

(レー……それ以上は思い出せん…………なぜだ!!?)

 

無理に思い出そうとすると戦闘前と同じように凄まじい頭痛と吐き気が襲ったのだった。

ついには操縦席から倒れ込み、苦悶の表情で床に這いつくばってしまった。

 

「ニオン様!!?」

 

オペレーターが慌てて駆けつけるが、彼はついに胃の中の物を吐き出してしまう。

 

(……ふざけるな……なんでここまで来て私の邪魔を……キサマは一体誰だ……!!)

 

混濁していく意識の中――頭中にこびりつく謎の人物から声が。

 

(……オン、ニオン……!)

 

彼にとって凄く聞き覚えのある女性の声、暖かさすら感じる特有の勝ち気のある高い声……。

 

だがそれを聞き取る前にはすでに彼の意識はすでになかった――。

 

「司令官!」

 

「医務室へ運べ!」

 

オペレーター達は急いで彼を担架に乗せて医務室へ向かっていった……。

 

一方、突然何もしてこなくなったダイに対し、最初は早乙女とマリアは疑問になったがすぐにこれは撤退のチャンスだと感じ、急いで全員に急がせた。

 

「向こうはどういうワケか知らんがチャンスだ。

攻撃してこない内に全機、安全地帯まで撤退しろ!」

 

不動のまま攻撃すらしてこない敵。油断しているのか、それともあえて逃がしているのかどうか分からないが、とりあえず全員は今の内と言わんばかりに全速力で南下していった――。

 

医務室に運ばれたニオンは再びベッドに寝かされ、医師に診察を受ける。

汗だくになり、その苦渋の表情を見ると、何かにうなされているようだ。

 

「……そういえば戦闘が始まる前にも気分が悪いといって薬を処方させましたな」

 

「悪いものでも食べたのだろうか……?」

 

全員で彼が異常をきたした原因を考える。

ダイを主制御できるのは彼しかいない今、何としてでも治さなければならなかった。

 

「いや、ここ数ヶ月のニオン様はおかしかった。

この中隊に来た時よりも顔色が一層ひどかった――何があったのか……」

 

「精神的な疾患か……そうだとしたら厄介だぞ」

 

オペレーターがふと呟く。

 

「そういえば……」

 

 

「どうした?」

 

「……数ヶ月前、衛生兵のレーヴェがエーゲイに暴行強姦されて亡くなった事件あっただろ、あれに関係しているのでは……」

 

「あの忌まわしいあれか……確かエーゲイを粛清したのはニオン様だったよな?」

 

「その時からニオン様は謎の超能力を使い始めたと思うが……」

 

「けどレーヴェとニオン様に何の関係が……真相を知るエーゲイ含む、つるんでた者全員がニオン様によって粛清されたからな。俺達では分からない――」

 

「ともかく今はもう一度薬を投与して、回復を待ちましょう」

 

再び薬を投与されるも未だうなされる彼は果たして無事、回復するのだろうか。

 



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第二十二話「大雪山戦役、中編」②

午前四時過ぎ。動きの止まったダイから見事逃れ、百キロ以上離れた安全地帯に待機するベルクラス、他部隊――。

艦の司令室。早乙女とマリア、ゲッターチームとステルヴァーチーム、そして各部隊の隊長が集まり、ダイの攻略についての緊急会議を開く。

 

「……水樹、残念だったな」

 

「…………」

 

自分の機体を失った彼女は酷く落胆しており、ジョナサンが横で頭を撫でて慰めている。

竜斗とエミリアも知り、彼女に同情していた。

……モニターで現地を確認するも、未だに活動をしていないのが幸いであるが、同時にいつ動き出すも分からない状態である。

 

「あんな化け物が大雪山に眠っていたとは想定外だったが、だからといって放っておくワケにはいかない。

あの巨体と火力、そして耐久力から考えると、恐らくあれだけで日本全土を蹂躙できるだろう」

 

「ということはもしかして……」

 

「我々を壊滅したらそのまま日本制圧に乗り出すだろうな。そうなればもう誰にも止められない、日本は滅亡したようなものだ」

 

……誰も喋らない、表情が暗く沈黙したままだ。

何とかしなければならないのに大量のマグマ、ミサイル……広大な大地の地形を変形させるほどの恐るべき火力、ジョナサンが行った核攻撃すら通じないほどの驚異的な防御力となると、これではお手上げではないのかと思えてしまう。

そんな中、腕組みをして立っていたジェイドが口を開く。

「サオトメ一佐、あの恐竜要塞の頭上に、バリアを発生させる装置が計四つ、縦横無尽に動き回ってました」

 

 

「ほう、それで破壊できたのか?」

 

「いえ、私と竜斗君で破壊を試みたのですが……我々の機体以上の機動力と反応速度、それに命中してもかすり傷すらつかないほどでした」

 

 

 

「……ふむ。実は南側にも要塞から発射された複数の、メカザウルスとも違う謎の自律兵器によって強襲を受けてな。

スキャンして分析した所、前に戦闘したメカザウルスと同じ装甲が使われていた」

 

「……その装甲とは?」

 

早乙女は彼に『メカザウルス・セクメト』について話す。衝撃、熱エネルギーを吸収してさらに装甲の強度が増す性質、そしてどう攻略したかを。ジェイドは驚かず、むしろ冷静である。

「……アメリカ側の戦線でもそんな装甲を持つメカザウルスは現れませんでしたね」

 

「あのメカザウルスはゲッターロボ攻略のために開発されたのだろう。

最大出力のゲッタービームすら効果がないほどだった」

 

「……では、バリア装置にその金属が使われているとしたら破壊は至難ですね、やめた方がいいでしょう」

 

「ジェイド、そいつらに向かってもう一度核を撃ち込むのはどうだ?核弾頭ならまだあるぜ」

 

ジョナサンがそう割り出すがジェイドはすかさず首を横に振る。

 

「さっきもいったがあの装置の異常な機動力と反応速度、そして予測能力も尋常ではない。撃ち込んでもすぐに察知して迅速に安全地帯に逃げ込むだろう。

お前が三発撃ち込んで核爆発させても全くの無傷だったのを見ると核攻撃は期待できない」

 

「マジかよ…………」

 

「装置の破壊ができないなら他の手を考えるしかないな、皆もいい方法はないか?」

 

「……バリアを無理やりにでも破るのは?」

 

「核でさえ効かないのにどうやってだよ?」

 

「それは……それ以上の威力で――」

 

「戦術核以上の威力……水爆レベルの攻撃でもするか?」

 

「バカ、こんな時にどこから持ってくるんだよ。それにそんなもんを爆発させてみろよ、間違いなく俺達まで消し飛ぶぜ」

 

「マジメに考えろよ、こうしている間にいつまた活動再開するかわからないんだぞ」

……全員がいい方法が思いつかず、難航する。

 

するとマリアは何かを閃いた。

 

「司令、その装置がバリアを張っているのなら、消えてから再展開するまでの間隔があるのでは?」

 

早乙女も彼女の意見に賛同し、相づちを打つ。

 

「さすがだマリア」

彼女の放った言葉に全員が注目する。

 

「早乙女一佐、それはどういう意味なんですか?」

 

「つまり装置がバリアを解除してからまた展開するまでのタイムラグがあるということだ、恐らく二秒間か一秒、いやそれすらないかも知れんが」

「……その間だけが攻撃できるということになるってことですか……」

だがそんな極短時間にどんな攻撃をするのか。

あんな巨体では、核以外の攻撃だと蚊に刺されたぐらいにしかならないだろう。では接近して間近で核を放つか……そんな犠牲前提の攻撃などできるワケはない。

全員はまた落胆する……も、早乙女だけは未だ希望を失っていないように平常であった。

 

 

「……では『あれ』を使うか」

 

「あれ……とは?」

 

早乙女は竜斗へ視線を向ける。

 

「竜斗、空戦型ゲッターロボの今の状態は?」

 

「え……まだ大丈夫ですが。それがどうかしましたか?」

 

「本当はあまり使いたくなかったが、そうもいってられないようだ」

意味深しげな事を言う早乙女に全員が顔を上げて彼に視線を集中する。

 

「……司令、もしかして例の兵器を使うおつもりですか?」

 

「ああ、もう悠長なことは言ってられん」

 

マリアと早乙女の会話から深刻そうな内容に聞こえてくるが果たして。

 

「皆に説明しよう。我々は一旦、空戦型ゲッターロボを積載して朝霞駐屯地に戻る」

 

「そ、それはなぜですか?」

 

「空戦型ゲッターロボに『GBL―Avenger』という専用火器を装備させるためだ。

ゲッター線専用の増幅装置を使用するためゲッタービーム、ドーヴァー砲、いや現時点での最大火力を有している」

 

「ほ、ホントですか……?」

 

「ああ。私が考えた案なんだが、ベルクラスの主砲を最大出力であの要塞に撃ち込み、プラズマビームが途切れた瞬間を狙ってその兵器からの超出力ゲッタービームを直撃させる。

核を余裕で耐えるバリアだと、本艦の主砲では破壊できないだろうからそれしかない――」

 

死んだようなほとんどの者の眼に輝きが戻る。

確かにそれしか方法がない、だからこそそれに全て賭けてみる価値がある――だが竜斗だけはどこか不安げな顔をしていた。

 

「つまり……司令と僕の連携であの要塞を撃ち破ることになるってことですか?」

 

「そうだ。主砲のプラズマビームは発射中は弾道を目視できるし、ただむやみに攻撃することよりもタイミングはとりやすい。だが君が撃ち込むタイミングがすこしでもズレるとそこで全てが終わりだ、失敗は許されない」

 

「……なぜですか?失敗してももう一度やり直せば……」

 

 

「その兵器は色々と不具合があり、特に出力が不安定になりやすくてな。

下手をすれば空戦型ゲッターロボは一発撃つだけで大破するかもしれん」

 

「…………!?」

 

「前にむき出しの炉心と直結させて発射テストを数回行ったんだが、膨大なエネルギー出力が原因で炉心が暴発を幾度か起こしたんだ。

幸い、離れた場所から遠隔操作で行ったのでケガ人はいなかったが、今回は君の機体で直接行うことになる」

竜斗は考えただけで寒気が襲う。もしその兵器をした際に暴発してしまえば、機体も大爆発を起こして自分も巻き込まれることになってしまうことに……そうなれば自分に待っているのは『死』だ。

「一応改良を加えたが絶対に起きないとは到底言えないタチの悪い兵器だ。

空戦型ゲッターロボの『LR(ロングレンジ)兵装』として開発したものだから本機以外には扱えない代物だ」

 

竜斗だけでなく、その場にいる全員が唖然となった。

そんな危険な代物を彼に使わせるのか……しかし、それ以外にいい方法があるのかと言っても全く浮かばない。

 

「この作戦でいくなら、君が乗りたくなければ構わんが、結局誰かがゲッターロボに乗らなければならん、どうする?」

 

「…………」

 

「そして要塞を破壊するにしても爆発の際の被害を考慮しなければならん。

おそらくあの巨体が爆発すれば……メガトン級以上はあると仮定しよう、活動を再開しそのまま南下して本州へ侵攻しようものなら、もう破壊はできなくなる。

つまり、まだ北海道にいる内に行わければならないということだ」

 

 

ますます難易度が上がっていく作戦内容……。

 

「さあ、全員どうする?この作戦に全てを賭けるか、それともこのまま解決策を見つけられずに日本壊滅をこの目で見るか――」

 

すると竜斗は無言で何かに頷く――。

 

「……分かりました、僕はその作戦に乗りましょう。司令、その兵器を装備したゲッターロボも僕が操縦します」

 

「リュウト!?」

 

「こんな猶予のない状況で、どう考えてもこれしか方法がありませんし、空戦型ゲッターロボの操縦は一番慣れているのは僕しかいません。

このまま僕達の日本が壊滅されるのを待つだけなら……少しでも可能性のある行動をするべきだと思います」

彼の口から聞いた早乙女は目を輝かせた。

 

「……君は本当に強くなったな、感心する。他の者は?」

 

「……では私もその作戦に賛同する」

 

「私もだ!」

 

「俺も!」

 

すると竜斗に決意に促されて次々と賛成の声を上げる。

 

「ゲッターチーム、ステルヴァーチームもいいか?」

 

ジェイド達ステルヴァーチームと愛美は賛成する。だが、エミリアただ一人だけは真っ青な顔をして戸惑っていた。

 

「エミリア……」

 

「これしか方法がないのはアタシだって分かる……けどそれでリュウトに何かあったら……」

 

やはり彼女はそれが耐えられないのだろう……しかし、彼は安心させるような優しい笑みで彼女を見る。

 

「心配ないよ、これまで俺達は生き残ってきたんだし黒田一尉にだって「俺達は生き残る強運を持ち合わせてる」って言われたんだ。

だから俺はそれに賭けてみる!」

 

「リュウト……」

 

「エミリア、俺は絶対に死なないから――だから」

 

「……うん、わかったっ!」

 

――ついに彼女も賛成し、これにより全員がこの作戦を決行することが決まった。

 

「ではベルクラスは直ちに発進し朝霞駐屯地へ戻り次第、空戦型ゲッターロボの換装を行い戻ってくる。

往復時間については、我々も迅速で行うが換装含めて積もっても約一時間はかかるだろう。私とマリア、そして竜斗以外は各機体に搭乗してこの地帯に待機、ヤツを厳重に監視しておいてくれ。

各部隊長は、何か少しでも向こうに異変があれば報告せよ」

 

……全員が強く頷く。

 

「よし、では我々は最後まで少したりとも諦めずに勝利を掴むぞ、いいなみんな!」

 

“了解!”

 

そして彼らは各行動に移す。各隊長は部隊へ作戦内容を伝え部屋を出て行く。ステルヴァーチームは三人で話合っている。そしてゲッターチームは。

 

「水樹はどうするんだ?」

 

「マナ……どうしよう」

 

機体のない彼女は困っていると、

 

「マナミっ」

 

なぜかジョナサンがクイクイと指で彼女を誘っている。

 

「マナミ、俺の機体に乗らないか?」

 

「え……?」

 

エミリアに通訳してもらうと「えっ?」と驚く。

 

「マナミがいるとさ、なんかやる気が出るんだね。だから俺にとっての勝利と幸運の女神になってくれよ、な?」

 

「ジョナサン……」

 

実際、愛美にここまでそう言ってくれる男性に出会ったことなどなく、しかも彼からはそれが嘘だと少しも感じられない――彼女の心は満たされた。

そして彼女は笑顔で頷いたのだった。

 

「ホントかいマナミ、やったあ!!」

 

彼女を抱き上げて子供のように喜ぶジョナサンと嬉し泣きまでする愛美。凄く微笑ましい光景だ。

そして、竜斗とエミリアも互いに顔を合わせる。

 

「行ってくるねエミリア――」

 

「うん、待ってるよ!」

 

そのまま大胆に口づけを交わす二人。

 

「お熱いね二人ともっ♪」

 

ジェイド達にヒューヒュー言われて顔が真っ赤になる二人だった――。

 

……各人はそれぞれの行動に移る。

ベルクラスは急発進させて本土へ戻っていく。その間、竜斗はマリアから『GBL―Avenger』の概要を説明され、エミリアは機体に乗り込みジョージ機の側で待機、そして愛美はジョナサン機の後部座席に乗り込み、二人で待機……。

 

各部隊は警戒態勢を取りながらモニターで、未だに動きがないダイを監視する。

――大雪山戦役もついに大詰めに入る。わずかな可能性からの突破口に希望を、そして全てを賭けて、全員の命を燃やす時がきたのだ――。

 



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第二十三話「大雪山戦役、後編」①

(ニオン……ニオン……)

 

彼の名をひたすら呼ぶ聞き覚えのある女性の声、姿もうっすらだが確かに覚えがある――。

 

(…………?)

 

(ニオン……助けて、アタイ苦しいよ……)

 

苦痛、助けを呼ぶ声――彼の頭に響く。

 

(ニオン……アタイを忘れたの……?)

 

(……思い出したくても出てこないんだ……なぜだ……アンタの姿とその安心できる声、確かに解るが最後の最後で出てこないんだ……)

 

(ニオン……アタイがいなくなってから……アンタは完全に心を閉ざしてる……塞ぎ込んでる……アタイを心の奥底に無理やりに押し殺しているの……お願いだから心を開いて……、アタイ堪えられないの――)

 

(心を開く……だと……教えてくれ、アンタは一体誰なんだ………)

 

 

(アタイは『レー……』よ)

 

(何……もう一回言ってくれないか……)

 

――女性の名をもう一度聞こうとした瞬間、目を覚ましベッドから跳ね起きるニオン。

 

「………………」

 

辺りを見渡すとツーンとする薬の臭い……医務室だ。

ここはどこか分かるのに十秒、何故ここにいるかに気づくのにさらに二十秒かかった――。

 

(……そうだ、早く艦橋に戻らねば!)

 

ベッドから降りて、医師など無視して走って艦橋に戻る。オペレーター達は一斉に立ち上がる。

「ニオン様、お目覚めになりましたか」

 

「……今の時刻と現在の状況は?」

 

 

「……午前五時前、地上人類軍はここから南側より約百三十キロ地点に後退し駐在中です。しかし浮遊艦だけは本州に撤退していきましたが……」

 

「我々に臆して逃げ出したのでしょうか?」

 

……敵旗艦だけが逃げ出したのかと、いや違う。ならなんで部隊も撤退せずにそこで待機しているのか。

そもそも幾多の戦闘に勝利してきたゲッター線の部隊の母艦だ、逃げ出すようなことはまず考えられない――。

 

「……恐らく浮遊艦は何らかの目的があって撤退したのだろう。戻ってくる、絶対に」

「では、どうしますか?」

 

ニオンは操縦席に座ると足を組み、肘をかけてニヤりと不敵に笑う。

 

「……面白い、待ってやろう」

 

彼は何を企んでいるのか、オペレーターは理解できない。

 

「だが、ただ待つのもつまらん。遊んでやろう」

 

彼は目前の宙に浮かぶ操作グリッドを器用に触るとインジケーターの隅にある五十個に区切られた四角ブロックが全て赤くなった。

 

それに連動して、ダイの基地部前部の五十連装の円状発射口全てから上空へ向けて何かが射出された。

それは全長十メートル程の三角錐のような形をしたユニットが五十基、上空二百メートル地点でピタっと制止すると、各ユニット後部からスラスターを展開し、先端部が銃口へと変わり、向こう側で待機している地上人類の部隊の所へ一斉に飛び込んでいく。

 

「何か近づいてきます」

 

彼ら地上部隊は向かってくる謎の物体に気づきすぐに警戒態勢に入る。

 

「攻撃準備――」

 

各BEET、ステルヴァー、そしてエミリアの乗るゲッターロボはそれぞれの武器を構えてすぐに、ユニットが瞬く間に彼ら頭上に到着。

銃口に変形した先端部から大きいマグマ弾がユニットから一斉に撃ち出されて、まるで雹のように地上部隊へ降り注ぎ、幾つもの機体に直撃する。

それに対し地上人類側も、負けじと回避しながら地上から砲火する。

 

ユニットは翼竜型自律メカとは違い、確かに悠々と避けるほどの機動力は高いが耐久力は全く無いに等しく、直撃すれば簡単に撃墜されていく――。

それが分かった彼らは集中攻撃を繰り出し次々に命中させて落としていく。そしてステルヴァーチームとゲッターロボも各機の『飛び道具』を駆使して一機一機、確実に直撃させていく――。

その様子を高みの見物で見ているニオンはまるでショーを楽しんでいるかのようであった。

 

「さあ次はどうかな?」

 

 

 

再び操作グリッドに触れると今度はインジケーターの中央部にある仕切りられたブロックが十のうち、九が赤くなる。

 

「今度は先ほど貴様らが苦戦していた『サヴビューヌ』だ、どうする?」

 

基地部中央部から打ち上げられる九基のドラム缶型の金属物体。ユニットと同じように上空で無機質的な変形で翼竜型メカの姿になる。

 

それらはサヴビューヌと呼ばれ、個々が従来型メカザウルス以上の戦闘力を有するダイの『しもべ』である。

 

群れをなして再び地上部隊へ強襲をかけるサヴビューヌ達。

 

「きやがった!」

 

各機はそれ優先に攻撃を仕掛けるも、やはりセクメミウス製装甲のサヴビューヌには全く効果がない。

そして、ジェイド率いる航空部隊はサヴビューヌと残り僅かのユニットと苛烈な空中戦を繰り広げている。

 

(何か弱点は……)

冷静なジェイドはむやみに攻撃せず、牽制攻撃をかけながら敵機、特にサヴビューヌの弱点を探っていた……。

 

ふと、別場所にてアメリカ軍のマウラーが直線上で待ち構えるサヴビューヌの顔部分、特に頭部付近へ右主翼内空対空ミサイルポットを展開し、見事数発直撃させた。

すると、いきなり狂いだしたかのようにクルクルと不安定な飛行を繰り出した後、そのまま浮力を失い地上へ墜落し、動かなくなった。

 

「なにか知らんがやったぞ!」

 

偶然の撃墜にパイロットが歓喜する。

そしてすぐにジェイドから通信が入る。

 

“どうやって撃墜したか説明してくれ”

 

「ミサイルをあいつの脳天部に直撃させただけよ、そしたら狂い始めてあの通りさ」

 

ジェイドも試しに、あえて前面に飛び出し機体の軌道上に入ったサヴビューヌの脳天に向けて、機首部ライフルからのプラズマ弾を直撃させる。するとやはり、狂ったかのような不可思議な行動をした後、地上へ叩き落ちたのだった。

すぐさまジェイドは 各機パイロットに通信をかける。

 

「全機、あの翼竜型メカの弱点は頭部だ。そこに集中攻撃をしろ」

 

「頭部?」

 

「頭部に自律回路があり、頭部は衝撃に弱いデリケートな場所に違いない」

 

疲労が見えていた彼らは心機一転。神経を全集中し、残りのサヴビューヌの頭部へ各火器で狙撃を始めた。

 

……そう言えば愛美が一番最初に偶然撃墜した際、海戦型ゲッターロボのパンチが直撃した部位も頭だった。

 

どうやら『ヘッドショット』がサヴビューヌの最大且つ唯一の弱点らしい。

 

「弱点が分かればこっちのもんだ!」

ジョージとジョナサンのステルヴァーはそれぞれライフル、腕部内蔵の小型ミサイル、そしてリチャネイドで精密射撃し瞬く間に落としていった――。

 

「やるじゃないジョナサン!」

 

愛美が彼の顔の横でグッドポーズを出すと、彼も「ヘイ」と拳をつけて喜んだ。

 

「……やるな地上人類。敬意を評するよ」

 

だがニオンは焦るどころか、全くの余裕綽々な顔で彼らへ拍手すら送っていた。

 

「ではもっと面白い余興を見せようか。

今すぐ基地内の研究所エリアから、日本各地から捕まえてきた健康な実験体を一人連れてこい」

 

「一体何を……?」

 

「奴らに帰してやろう、『オマケ』を持たせてな」

 

「オマケ?」

 

「早くいってこい。ガレリー様にはすでに連絡をとってある。私が必要だからと言えば何人でも出してくれるだろう」

 

 

……そしてついにサヴビューヌを全部撃墜に成功した地上部隊。部隊長の一人が早乙女へ連絡を取る。

 

「……ということです一佐」

 

“全員に『感謝している』と言っておいてくれ。ベルクラスも北海道内に入った。最後まで油断するなよ”

 

「了解です」

 

――そしてベルクラスの格納庫では例の火器『GBL―Avenger』を装備した空戦型ゲッターロボが発進待機していた。

 

“竜斗、準備はいいか?”

 

「……はい!」

 

右手にはゲッターロボよりも長く、そして巨大な砲身、後ろ腰にはランドセルのような四角のジェネレータのような物……ゲッター線増幅装置が取り付けられている。

火器後部に内蔵された、もう一つの小型増幅器部分からのエネルギー供給線が背中の増幅装置に伸びて直結している――。

 

「早乙女一佐……」

 

“どうした?”

 

「もし僕に何かあったら……あとの二人をよろしくお願いします」

 

“…………”

 

竜斗はこの兵器の『デメリット』について気にしていた。

炉心の暴発を招けば機体は確実にただではすまない、そんな代物を扱おうとしている自分は、駐屯地で換装を行っている最中に何度も「正気の沙汰ではない」と感じていたのだ。

 

“だが君は自身の運に賭けたんだろ?”

 

「…………」

 

“私は、竜斗なら大丈夫、生き残ると確信している。

なぜなら私が君をゲッターパイロットに見込んだ男なのだからな。私のそういう勘は結構当たるんだよ”

 

「司令……」

 

“作戦は往復中にいった通りだ、準備はいいな!”

 

「……了解!」

 

ゲッターロボの乗るテーブルはカタパルトに連結し、外部ハッチが開く――。

 

「石川竜斗、空戦型ゲッターロボ発進します!」

 

空へ射出され、空中でゲッターウイングを展開した。

 

(ゲッターエネルギーチャージ開始、エネルギー増幅回路チェック――炉心は今のところ異常なし……)

海戦型ゲッターロボのような攻撃用トリガー、そして狙撃用ズームモニターが設置されており、コックピットが一新されており、竜斗は冷静に各機能を作動させている。

 

 

「戻ってきたぞ!」

全員がついに戻ってきたベルクラスとそして空戦型ゲッターロボに注目する。

 

「あれが例の火器か」

 

「なんてでかさだ……っ」

 

やはり彼らも空戦型ゲッターロボの持つ、まるで艦首砲を思わせる巨大な火器に度肝を抜かれた。

 

ベルクラスの横に、一定距離の間に移動し『GBL―Avenger』を水平に持ち上げるゲッターロボ、そして増幅回路に直結したゲッター炉心の出力が、これまでとは比べものにならないほどに上昇した。

 

確かに下手をすれば暴発してしまうほどだ。

 

「お、おい、なんだあれは?」

 

一人の隊員がダイの方向を向いて声を上げる。

見ると、なぜか一機の翼竜型メカザウルスが翼を羽ばたかせてこちらへ向かってきている。

たかが一機で、やられにきたのか……と不思議がっている。と、

 

「ちょっと待て……メカザウルスの足付近に何かついているぞ」

 

ズームアップして確認する……と確かに何かが見えてくる。

 

「……人間……だと……?」

 

「しかも女性だ!」

 

なんと、メカザウルスの足に地上人類の女性が捕らえられていたのだった。全員が唖然となる中、特にエミリアがその女性がすぐに誰なのか分かる。

 

「あ、あ、アイリ…………」

 

そのすぐに竜斗も誰なのかすぐに分かり、凍りつく――。

 

 

「……愛梨……なんで……っ」

 

その女性は地元にいなかった、メカザウルスにさらわれたと思われていた二人の昔からの友達、愛梨である。

当然の如く、二人は激しく狼狽している。

 

「司令……もしかして……っ」

 

「おそらく……」

 

早乙女とマリアは嫌な予感に襲われた。

まさか竜斗達から聞いた、メカザウルスにさらわれた人々があの要塞の中に……。翼竜型メカザウルスを攻撃することはすなわち愛梨を殺すことになる、誰もが少したりとも動くことは出来なかった――。

だがメカザウルスは彼らの真上に到達すると何を思ったのか、愛梨を足から離してそこから落下させた。

まさか彼女を返してくれるのかと、ちょうど真下にいたBEETがあわててキャッチの体勢に入る。

ボロボロの布切れを着ており、気を失っているらしく全く動かない。

そして掌に見事落ちてついに救出した――。

 

 

 

「!?」

 

 

彼女が機体の掌に落ちた瞬間、「カッ」と光った。

眩い光と共に身体が膨れ上がり――そのまま耳が千切れるほどの轟音を発して爆散したのだった――。

爆発は小さく受け取った機体は何ともなかったが、彼女らしき身体の肉片と煙、そして肉の焼ける不快な臭いが機体の手にこびりついていた――。

「……アイリ……うそでしょ……うそでしょ……」

 

 

……エミリアは我を忘れて慟哭した。その悲痛な叫び声が全員の心に大打撃を与えるのは簡単であった――。

 



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第二十三話「大雪山戦役、後編」②

『人間爆弾』

 

世界でも事例のある、あまりにも非道かつ凶悪な攻撃。

周辺含めた物理的被害もあるが、なによりも精神的被害が強い手段だ。

もしこれが親しい身近な人間だったらどうなるか――その答えは全てエミリアの起こしている錯乱状態が全てを語る――。

 

……その攻撃手段に出た本人のニオンは卑下した笑みを浮かべている。まるで向こうが絶望しているのを知ってあざ笑うかのように。

一方、オペレーターは彼の行動に興ざめしていた。

 

(これが『地竜族』か。どおりで嫌われるわけだ)

 

全員がそう感じていただろう――。

 

「エミリア……っ」

 

「……ファック!!」

 

 

愛美はエミリアの泣き喚く姿に激しく動揺し、そしてジョナサンはダイに向けて激しい怒りを著していた。

 

「な、なんでこんなことができるんだよ……なんでこんな非道いことが簡単に……」

 

竜斗は信じられなかった。

こんなことを平然とやった爬虫人類が。

……分かり合えるかもしれないと思っていた希望が段々と黒く塗りつぶされていくような気がした。

 

 

 

ほぼ全員が感じたこと、それはこんな非道攻撃を行ったダイ……いや恐竜帝国に対する激しい憎悪である。

そんな中、竜斗の元に早乙女から通信が入る。

“……竜斗、大丈夫か?”

 

「…………はい、なんとか……それよりもエミリアが……」

 

“……気のどくだ。だが、それよりも、君達の友達があれから出てきたということは――わかるか?”

 

「考えたくないですが……っ」

 

やはり竜斗も気づいていた。

おそらくさらわれた自分達の両親と友達が、あの要塞の中にいるということに。

 

“となると、これで完全な破壊はできなくなった”

 

「…………」

 

一方、ニオンはついに操縦桿を握りしめる。

 

「これでお遊びはこれまでだ。このまま地上人類の部隊を全滅させ、本州に侵攻する。オペレーターは直ちに定位置につけ」

 

操作に連動してついにダイは活動を開始。

その巨大な足をゆっくり歩かせて、地響きをたてながら徐々に加速していく――。

 

ついに動き出したダイに、早乙女以外の人間はうろたえる。

 

“聞け竜斗。君はあの要塞の、恐竜の下半身部を狙って撃て。

動きさえ完全に封じれば後の対処がいくらでも増える”

 

「どうしますか?」

 

“二体の恐竜の下半身を一撃で消し飛ばす。この火器はそれほどの破壊力と範囲を持っている。

その後、何とかしてバリアを突破して基地部を制圧する。うまく行けば内部に進入して捕らわれている人々を助けることができるかもしれん”

 

「…………」

 

“それに、あの基地部を破壊するのが惜しくなった。

奴ら恐竜帝国に関する重要な手がかりがあるかもしれないから、何とかして手に入れたい”

 

 

「その前に例の作戦が通じなければ……」

 

“ああ、一発勝負だ”

 

艦首砲を展開するベルクラス、ゲッターロボの火砲にそれぞれプラズマエネルギー、ゲッターエネルギーが収束していく――。

砲身後部を肩に乗せて固定し、空いた左手も砲身のサイドグリップを掴んで、風力などで照準のずれないようにがっちり固定した。

 

「各機、ベルクラスと空戦型ゲッターロボは砲撃態勢に入る 。

速やかに退避せよ」

 

全機が左右遥かに展開、退避を始める。

 

「エミリア君、早くここから離れよう」

 

ジョージが未だ顔を伏せて嗚咽して彼女に声をかける。

だが、彼女は泣き止まず動こうとしない……。

そんな、彼女に見かねた彼は。

 

「甘ったれるなあっ!!」

 

突然の怒号がエミリアへ向けて放たれて、本人はビクっとその泣きはらした顔を上げる。

今までの優しい態度から一変、彼の表情は怒りにこもっていた。

 

「……あの女性は君の友達だったんだろ?泣きたい気持ちは凄くわかる。

だが今は命令通りにここから離れないと君自身も危ないし、俺達全員に迷惑がかかるんだ」

「…………」

 

「サオトメ一佐から聞いたが君達は一度、ゲッターロボから降りるチャンスを与えられたにも関わらず、事情があるとはいえ覚悟のうえで、君の意志をもって戻ってきたんだろう?

 

だったらこれも戦争だと割り切れ、君の覚悟は所詮この程度だったのか!」

 

その言葉が彼女の心に響き、そしてあの時の決意を思い出した――すると、ジョージは再び優しい顔に戻る。

 

「怒鳴ってすまない……とりあえず今は早く離れよう」

 

「……はい」

 

彼女は涙を拭いて、操縦レバーを再び握りしめてゲッターロボを動かす。

 

「よし。俺の後ろについてこい」

 

 

「……了解!」

 

 

先導するジョージは、爆散した女性が竜斗とエミリアの友達と知り、心を痛めていた。が、彼は生粋の「軍人」であるため表はしっかりしているのである。

 

 

「何としてでもあの要塞を攻略しよう。

これ以上、悲劇を生まないためにも」

 

「司令……」

 

早乙女から何としてでも勝つという気負いが感じられた。

それは竜斗も同じである。

 

(……この攻撃を絶対に成功させて、父さん達を救い出す!!)

 

凄まじい形相をする竜斗。

彼もなんとしても成功させまいと、狙撃に神経を使う。

ズームモニターで照準を調整し、ダイの脚部である二体の恐竜の中心部に合わせる。

専用の攻撃用レバーをぐっと握りしめて、トリガーに指を置く――息を吸って吐いての繰り返しでテンポを掴み、タイミングを取っている。

「ニオン様、地上人類軍の部隊が一斉に左右に展開。中央部の浮遊艦及び、ゲッター線の機体から膨大なエネルギー反応確認」

 

「リュイルス・オーヴェのバリアを破る気か、無駄な足掻きだ」

 

ダイの移動速度が少しずつ上がってきている。強行突破する気だ。

一方で、ベルクラスとゲッターロボの各砲のエネルギーがついに満タンとなる。

 

“準備はいいか竜斗?”

 

「……はい、いつでもいけます!」

 

発射態勢に入る二人、今にも各砲の内部の溜まりに溜まったエネルギーの塊が溢れ出てきそうだ。

“まずベルクラスの発射まで十秒間の秒読みに入る。

プラズマビームが要塞のバリアに直撃した後、そこからまた十秒後に君も続いて撃て”

 

「十秒後……そこは計算済みなんですか?」

 

“当たり前だ。では行くぞ、十、九、八、七、六、五、四、三――”

 

秒読みに入る早乙女。

そして竜斗も落ち着いて狙撃態勢に入る――。

 

(これで失敗すれば我々、日本は終わりだ――だが、成功すれば――)

 

(突破口を開ける!!)

 

――二人は同調した。

 

「――主砲、撃てっ」

 

ベルクラスの艦首砲からプラズマエネルギーの全てが解き放たれた。

艦よりも幅広く極太の光線が一直線でダイへ伸びていく。

 

それに反応し、『リュイルス・オーヴェ』四機がスクエアを形成し、上からダイへ光を注ぎ、膜を作り、ダイを包み込んだ。

早乙女率いる部隊全員が見届る、成功するか失敗するか――果たして――。

 

ついに直撃する、だがやはり凄まじい量のプラズマエネルギーを持ってしてもバリアを破ることができず、塞がれてしまう。

一方、ダイはついにマグマ砲、ミサイルを一斉にばらまき、再び周辺の大地を焦土に変え、大地を震動させながら前進する。

 

(……艦砲だけだと……?)

 

同時攻撃してくると思っていたニオンの読みが外れ、疑問になっていた――。

(……今だ!)

 

直撃から約十秒経った時、竜斗はこの一撃に全てを掛けてトリガーを力強く引いた。

計測不能レベルの出力のゲッターエネルギーが炉心、増幅装置、そして『GBL―Avenger』を通して全て放たれた。

ベルクラスの同じくらいの巨大な光線がダイへと向かっていく――が、それと同時にゲッターロボの炉心が許容範囲内を超えてとてつもない負荷がかかり、今にも爆発寸前になっていた――。

 

「ぐ…………」

 

発射の衝撃も尋常ではなく機体がギシギシ揺れ、当然コックピットも。竜斗はそれに翻弄されるも狙撃体勢を維持、全て見届ようとする。

 

しかし、機体がスパークを起こしあちこちに小規模の爆発が起こった。

 

装甲が少しずつ剥がれていく――顔面や胸のレンズ面が次々に割れていく。このままではゲッターロボは大破は確実だ。

コックピットでもインジケーターがスパークを起こしているが竜斗はそれに構わず、その結果だけを見たく、モニターを見続けていた――。

 

「……なにっ!?」

遅れて発射されたゲッターロボからの超出力のゲッタービームに驚くニオン。

プラズマビームが小さくなり消滅した瞬間にリュイルス・オーヴェからバリアを形成する光が一瞬消えた。

それを狙っていたかのように、立て続けで極太のゲッターエネルギーの塊がバリアを張られる前にダイの恐竜二体を巻き込むように直撃した。そしてその時にやっとバリアが再展開されるも時すでに遅し。

 

さすがにこの山ほどある巨大な恐竜も増幅されたゲッタービームに勝てるはずもなく、一撃で貫通していき二体の下半身は消し飛んだ。

 

「なんだとっ!」

 

足の失ったダイは加速をなくなり、首は地上に転がり倒れて、基地部は地面に墜落。

ダイの艦橋内はその衝撃で全員は吹き飛ばされて床に倒れ込んだ――。

 

足がなくなり地面にひれ伏すダイに沈黙する早乙女達だが、徐々にそれは喜びへと変わる。

 

「……やったぞ!」

部隊全員は歓喜する、ついに難攻不落の恐竜要塞、ダイを撃ち破ったのだから。

そしてゲッターロボはというと。

 

「…………」

 

火器や機体全体が焼け焦げており、あちこちで装甲が剥がれ落ちるなど戦闘はもうできないぐらいにガタがきていると見える、だが彼は無事であった。

 

“竜斗!”

 

「し、司令……」

 

“ククク、やはり君は強運の持ち主だよっ”

 

早乙女からそう言われ、彼は少し照れた。

 

 

だが、動かなくしたのはいいがここからどうするか。

まだバリアの方は解決しておらず、そのまま突っ込んでもバリアによって機体が消し飛ぶだけだ。

 

「ジョナサン大尉、核弾頭はまだあるな」

 

「はい、あと三発は」

 

「一発試しに要塞の頭上に撃ち込んでくれ、調べたいことがある」

「りょ、了解!」

 

早乙女の思惑が分からないも、彼は再びリチャネイドから核弾頭バズーカに持ちかえ、核弾頭を装填した。

 

「いくぜ!」

 

前に飛び出すと背中のスラスターを使い、空へ上昇。

そして三百メートルほどに辿り着くとその場所に維持し、基地部の真上へ砲口を向ける。

 

「バスターっ!」

 

発射された核弾頭は真っ直ぐ飛んでいく。リュイルス・オーヴェ達は向かってくる核弾頭に感知し、四機は固まって基地部後方に退避した。その後すぐに基地の真上で核爆発が発生。

しかし後部で四機はバリアを張っているために、その破壊力が基地までに届くことはなかった――。

 

「ちい……やっはり効かねえぜ」

 

ジョナサンは苛立つもすぐに早乙女から通信が入る。

 

“大尉、もう一度同じ場所、そして後部に向けて全弾撃て!”

 

「えっ?」

 

“いいから撃て!”

理解できない彼の考えに困惑するも、それを振り切り命令通りに全弾、指定された場所に核弾頭を撃ち込むステルヴァー。

 

「各隊員攻撃準備」

 

全機にそう通信をかける。同時にバリア発生装置が前方に飛び出しバリアを張る。

その直後に二発が後部、頭上に到達し核爆発する。

まるで太陽が間近にあるような凄まじい光を放つがダイの基地はやはりバリアのおかげで、衝撃や熱も通過しておらず傷一つつかない。だが、早乙女はそれを待っていたかのようにニヤリと笑う。

「全機、一斉攻撃。隙間なく浴びさせろ!」

 

命令後、プラズマ弾、ミサイル、実弾……空戦型ゲッターロボ以外の機体全て、ダイへこれでもかと集中砲撃を開始。

すると四機はバリアを張るを一旦止めて核、前方からの隙間のない攻撃から『逃げ』に入り、ダイから離れる。

そうなるとバリアが解除された基地部は無防備となり、ついに直撃した。

 

「やはりな。あのバリア発生装置はどうやら、逃げ場がなくなると要塞より自身の無事を優先するようだ」

 

早乙女は自分の考えに狂いはなかったと頷き、マリアは驚く。

 

「ということは――」

 

「そうだ。そうと分かればこれより最終作戦に入る――」

 

早乙女は一斉に全機に通信をかける。

 

「全員聞いてくれ。これより部隊を緊急編成する。

まず第一に、あの装置は要塞よりも自身を最優先すると分かった。

あの要塞を四方八方に囲み、絶え間なく攻撃を加える部隊を作り、バリアを張る暇を与えないようにする。ほとんどの機体がこれを担当するだろう。

 

第二にバリアが解除されている間にあの基地部に突入する部隊。

基地部中央付近に特殊な電波を発していることがスキャン、分析で分かった。

恐らくそれがバリア発生装置を制御している場所だと思われる。

そこを潰せば恐らくバリアを張ることはできなくなるだろう。その後に全機が基地部に一斉に突撃し制圧する。

 

その場所を破壊できなくても突入した部隊だけで基地を制圧することも考えねばならん。

そう考えると、突入部隊は機動力と戦闘力のあるステルヴァーチーム他米軍部隊が適任だ」

全員がその意見に同意した。

 

「ベルクラスも前に出て攻撃支援に入る。心身ともキツいと思うがこれが最終作戦だ、これで終わらせるつもりで行くぞ、いいな!」

 

“了解!!”

 

本当に勝てるかもしれない……最後の作戦に全員が希望を胸に、一斉に気合いを入れた。

 



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第二十四話「戦いの果てに――」①

――基地部の艦橋内。墜落の際、頭を床に打ちつけた意識を失っていたニオンは今目覚めて、激しい頭痛を我慢してゆっくり立ち上がる。

 

「なにが起こった……っ」

 

周りには未だに倒れているオペレーター達。

 

クラクラする頭をふり振り、ニオンはキッと眼力を入れる。

 

「……起きろっ!!」

 

念動力が働き、オペレーター達を起こし上げ強引に意識を覚まさせた。

 

「に、ニオン様!」

 

「全員とも意識を失ってなにをしているか!直ちに現在の状況を把握しろ!」

 

すぐにモニターで外部周辺を確認するとオペレーター達のモニター操作をする手の動作が止まった――。

「ニオン様、四方八方に地上人類の部隊が包囲されてます!」

 

「地上に約三百機、上空に約二百機……計五百機!浮遊艦が基地部の頭上千メートルに待機しています」

 

ニオンは急いでモニターを覗くと、ベルクラス率いるBEET、戦闘機、マウラー、そして陸戦型ゲッターロボの大部隊がすでに基地周辺に、虫一匹も逃さないように完全に囲むように待機していた。

 

「ダイの状況は……」

 

「……脚部のメカザウルスニ体はすでに大破、マグマ副砲はリアクターが完全消滅したため使用できません。残るは基地部の大型ミサイル砲、対空砲各百台、そしてリュイルス・オーヴェのみです」

 

「まさかバリアを貫通していたとは……だが、囲んだくらいでバリアを到底破れまい!」

 

早乙女の目的は、ただ囲んで一斉攻撃してバリアを破壊するのではない、『バリアを張らせない』ようにするためだ。

ニオン達はそれに全く気づいてなかった。

 

「第一攻撃編隊、一斉攻撃用意。目標、基地部周辺に飛び回るバリア発生装置四機!」

 

その命令に全機が各火器を基地部に飛び回るリュイルス・オーヴェに照準を合わせる。

 

「第二編隊、発進準備!」

 

その後ろで待機していたステルヴァー三機と残りのマウラーが。

ステルヴァーは三機ともすでに戦闘機形態に変形している。

 

 

「リュウトクン、シートベルト!」

 

「あ、はい!」

 

 

竜斗は愛美のようにジェイド機の後部座席に乗り込んでいた。

空戦型ゲッターロボの状態を見ると、恐らく動かすことさえも危険なため降りることに決めた彼は、着陸する前にジェイドに「自分も水樹のように機体に乗せてください」と頼んだ。

初めは彼は危ないからと反対したが、竜斗は自分だけ安全にベルクラスに帰るわけにはいかないと、そして何よりジェイドの操縦技術をこの目で見てみたいと、彼の向上心から出た頼みであった。

 

そして彼の引き下がらなさそうな強いその気持ちがジェイドにも伝わり、彼も許可したのだった。

――ついに僕らは日本での最後の舞台へと立った。

本拠地がもう手に届く距離まであるのにバリアのせいでそれが何百キロ、いや何千キロにまで遠く感じる。

はっきりいってこの作戦は通じるか通じないかは半々の確率、いや通じないほうが高いだろう。

だがここまで追い詰めた以上はやるしかない、それしか方法はもうない、それを信じるしかなかった。

内部にいるさらわれた人々、僕達の友達、そして両親を助け出すために。

僕達は、『フィナーレ』へついに足を踏み入れた――。

 

「第一攻撃編隊、攻撃開始!」

 

――飽和攻撃。早乙女の号令と共に全機は四方八方に動き回りながら、目標であるリュイルス・オーヴェ全機にあるだけの弾丸を全て放ち、休ませる暇も与えないように攻撃を繰り出す。隙間ない安全地帯などない雨のような全方向攻撃に当然、四機もビュンビュン素早く回避するが余裕が全くなく見える。

 

 

「アイリのカタキ!!」

 

エミリアは悲しい気持ちをかみ殺して、『ライジング・サン』に搭載した火器全てを放ち、中央部のドリル型自律兵器を飛ばしてリュイルス・オーヴェに追わせる。

 

全員が持てる力を駆使してリュイルス・オーヴェへ向ける。

すると、四機がついにバリアを解除して遥か上空へ向かっていく。

 

「まだまだ!」

 

だがそれで終わるはずもなく、逃げていく四機を航空部隊がしつこく追いかけミサイルと機関砲で攻撃を続ける。

 

「ベルクラスもいくぞ。

マリア、対地ゲッターミサイル発射用意。全弾あのバリア発生装置に照準を合わせろ!」

 

「了解。司令?」

 

「どうした?」

 

「開戦前にもいいましたが、作戦の勝算は?」

 

「しつこいなマリアは。

言っただろ、我々は絶対に『勝つ』んだ」

 

「……はい!」

 

艦底部の発射門全てが開門、二十発全て同時に発射された。

無線式で追尾性の強いこのミサイルは、綺麗な曲線を描きながら真下にいるリュイルス・オーヴェへ高速で向かっていく。ミサイルを避けるためか、再び上昇を開始するリュイルス・オーヴェだがこれも早乙女の思惑通り。

ミサイル全弾は当たらずに下へ落ちていくも、真下にあるのは基地部――。

 

「リュイルス・オーヴェが基地部を放棄、バリアが解除されました!」

まんまとやられたと呆気にとられるニオン。だが、ゲッターミサイル二十発が基地部周辺に投下されてゲッター線が拡散し、基地領域を包む。

 

「ぐっ……ミサイル砲全開門、何としてでも基地部領域に近づけさせるな!」

 

悪あがきか、全方向にミサイルを一斉砲撃し弾幕を張り、接近を遮る。

だが、彼らは気づいていない。向こうにはまだ突入部隊が控えていることを。

 

「突入部隊、発進せよ!」

 

“イエッサーっ!”

 

マウラー、ステルヴァーの米軍SMB部隊がついに発進。

 

「ジョナサン、期待してるわよ」

 

愛美から激励を受ける彼は、日本語は理解できなかったがなんとなく分かったのか親指を突き立ててグッドポーズを取った。

「これより米軍部隊は基地部領域内に突入し、指定ポイントの空爆を開始する」

 

ステルヴァー、マウラーは離陸してから一旦急旋回し、さらに後方一、二キロ近く離れてから基地部へ進路を取り、二機一組のタッグで彼ら米軍SMBの大編隊が前進する。

 

基地部へ近づくと下降していく。

そして第一攻撃編隊の地上にいる機体からの対空砲火に当たらないように避けてついに基地部内へ突入。 全長約二キロ、横幅一キロある、この無機質の基地部のどこかに捕らわれた人々が。しかし今はバリアを操る電波を出す場所を叩かねばならない。

 

「俺からいくぜジェイド!」

 

先に出たジョナサン機の底部がスライド式に上下に開くと中から対地爆弾が姿を表した。

 

「ほうら、プレゼントだ。とっときな!」

 

一発だけだが巨大な対地爆弾をピンポイントで指定ポイント付近に落とし、巨大な爆発が起こった。だがまだ電波反応があるのを見ると破壊されてないようだ。瞬間にジョージから再びお怒りの通信が。

 

“おい、真面目にやれよ!”

 

「ちゃんとやってるよ!」

 

“内部に例の日本各地に捕らわれた人々がいることを忘れるなよ、落とした場所がその真上だったらどうするつもりだったんだ!”

 

「だあ!!わかったよ!!」

 

……こんな正念場にも関わらず緊張感のない口喧嘩をする二人だが、これも彼らの強みである。

 

 

「基地の自動対空砲を全起動し、撃ち落とせ!」

 

 

 

基地部に至る所に設置された対空砲台が開き、侵入してくる敵機へ砲火を浴びせる。

 

「ヒューっ、向こうも必死だな。

だが俺達は戦闘機パイロットだ。人間様をナメてもらっちゃこまるぜ!」

 

ここはアメリカ軍から選抜されてきた部隊の独壇場。訓練と経験にモノを言わせた華麗な高機動マニューバを駆使して対空砲火を避けていく。

 

(すごい……俺にこんなことできないや……)

 

竜斗は目まぐるしくもハイスピードを味わえる初の戦闘機内からの光景に魅力され、興奮している。

 

一方、前で操縦するジェイドは、

 

(常人を乗せると高確率で吐いて、気絶するような高機動飛行を幾度行っても吐かないどころか光景を楽しんでるとは……さすがだな)

 

全く音を上げない竜斗に感心していた。

 

「ジョージ、ジョナサン、そしてマウラー各機は各砲台の破壊を行ってくれ。私は指定ポイントを破壊する」

 

“OK!”

 

ジョナサンとジョージ、他隊員は対空砲台、ミサイル砲台の破壊を行う。

 

「イーーヤッホーッ!」

 

まるでゲームを楽しむかのように『ハイテンション』で戦闘機からミサイルと爆弾で空爆する彼らアメリカ人部隊に頼もしさと同時に恐怖すら感じさせられる。

 

さすがは軍事大国アメリカの部隊と言うべきか。

 

「次々に砲台が破壊されます」

 

「ぐ、リュイルス・オーヴェをこちらに呼び寄せよ!」

 

「電波を発信していますが戻ってきません!」

 

計画が狂い、焦りの顔が隠せないニオン、そしてオペレーター。

 

「残りのメカザウルスとメカエイビスは!?」

 

「き、基地内はもう残っていません、全滅です!」

 

「全機を捨て駒のように扱わなければこんなことには――」

 

「くそう!」

 

ニオンは計器盤に拳を打ちつける。だが、艦橋の大画面モニターには黒い戦闘機……ジェイドのステルヴァーが映っていた。

 

 

(ターゲット、インサイト!)

 

電波の発生源……すわなちニオン達のいる艦橋へ照準を合わせ、同時に右主翼からの箱型の空対地ミサイルポットをスライド展開した。

 

「これでバリア地獄は終わりだ!」

 

ミサイル計三発が一発ずつ発射され五秒後についに艦橋に直撃を受けた。

オペレーターは爆発に巻き込まれて黒こげとなり、ニオンは吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。燃えさかる艦橋内でニオンはゆっくり立ち上がり、辺りの惨状に突然、

 

「ふ、フフ……フハハハハハハッ!!」

 

発狂したのか、いきなり高笑いし出した。

 

「……私の負けだと言うのか……私はせいだというのか…… 誰か教えてくれ……!」

誰もいないこの場でそう問う彼は――大粒の涙を流して、悲しみに染まった顔になり、その場にへたり込んだ。

 

「レーヴェ……私は一体今まで何をしていたんだ……一体なんでこうなったんだ……」

 

ニオンからついに彼女の名前が出てくる……。

 

「今やっと思い出した……地竜族の誇りを貶すような振る舞いや行いをしてきたこと……そしてこの戦いに敗北を招いたことを……私はなんて愚か者なんだ……」

 

顔から今までの険わい顔ではなくなり、頭の中で今までの悪行が駆けめぐる……そして後悔し、恥じ、そして懺悔した。皮肉にも彼は今ここで全ての記憶を思い出し、そして本来の人格に戻ってしまった。

 

……炎が蔓延するこの逃げ場のない艦橋内でニオンはそのまま倒れ込む。

 

(レーヴェ……私はもはや魂の安らぎなどない地獄へと堕ちるだろう。だが最後にもう一度だけアンタと会いたかった……)

 

心身ともに疲れきった彼はそのまま眠り込むように目を閉じて動かなくなり、その後すぐに火炎、そして爆発が艦橋全体に広がり彼の身体も一緒に呑み込まれていった。

 

……リュイルス・オーヴェも自身を操る電波発生源が壊されたため機能を停止し、重力を受け入れて地上へ落ちていく。再びバリアを張ることなく基地部から数十メートル離れた地上に衝突し、焦土と化した黒い土中に埋まった――。

“サオトメ一佐、我々は基地部内の砲台全てを破壊、および指定ポイントの攻撃に成功しました”

 

「基地内の他戦力及び、兵力は?」

 

“今の所、見あたりません”

 

「よし、第一部隊も攻撃中止せよ」

 

早乙女の号令で部隊の攻撃の手が止まった。

 

「バリア発生装置はもう機能しない、全機直ちに基地内に突入せよ。なお、内部はまだ戦闘員が、なにより我々人類に危険な気体が蔓延しているかが分からん。降りる際は必ず武装とガスマスクの着用を忘れずにな」

 

そしてついに全員が基地内へ急接近する。上空部隊はそのまま基地部上から着陸し、地上部隊は断面へと辿り着いた。

 



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第二十四話「戦いの果てに――」②

ステルヴァーチーム含む米軍部隊は基地上部に静かに着陸する。そして何割かのマウラーはステルヴァーのように人型へ変形を遂げてから足元を壊さないように降り立つ。

 

――人型のマウラーはデザインは異なるが、ステルヴァーのような鋭角的で前衛的ではなく、BEETとのような無骨さを感じる機体で、これは可変性を意識して開発されている。

ステルヴァーやマウラーといった、このような可変機能を持つアメリカ軍のSMBは他国にはない専売特許である。

 

「ジェイド少佐、万が一のことのために何割かの機体を基地部上に待機させてくれ、残りは基地部内に突入だ。

地上部隊も断面を破壊してそこから突入し、途中で君達と合流させる」

“了解です”

 

「竜斗はどうする、機内に待機しておくか?」

 

“いえ、連れていきます。万が一外でなにかあっても彼にはステルヴァーを操縦することができません。私と共に行動した方がまだ安全かと――”

 

「彼を無事守り抜けるか?」

 

“私達は『バディ』です。何としてでも死守しますよ。

彼はこれからの主戦力に成りうる逸材でもありますから――”

 

英語で会話する二人にちんぷんかんぷんで理解出来ない竜斗だったが、

 

「リュウトクン」

 

彼を前のモニターを見るようにジェスチャーして指示するジェイド。前に乗り出してモニターに映る早乙女と対面する。

 

“よお竜斗。どうだ、ステルヴァーに乗った感想は?”

 

「……座っていただけですが、ゲッターロボやBEETとはまた違う臨場感を味わえましたし、同時に本場の人の凄さを思いしらされました……」

 

“君らしい感想でなによりだ。

で、本題に入るが、君は今から少佐と共に行動してもらう”

 

「え……?ということは僕も基地内に?」

 

“もし外に何かあった場合、君にはこの機体を操縦できまい。だから少佐と共に行動し、彼に守ってもらえ”

 

「でも……英語も話せないし、それよりもパイロットしかしたことのない僕だと少佐の足手まといにならないですか?」

 

“心配するな。それを分かったうえで絶対に守ると彼からそう提案した。だから言葉に甘えさせてもらえ。君自身もいい経験になるだろうしな”

 

「…………」

 

一気に不安感に満たされる竜斗だった。

“彼から予備の兵装を借りて装備しろ。英語が分からなくても、戦術講座で教えた軍隊専用のジェスチャーをしてくれる。君なら頭にすでに入ってるだろう”

 

「……了解です」

 

“よし、では幸運を祈る。最後まで気を抜くなよ”

 

通信が切れるとすぐにジェイドは編隊の三割の機体にここで待機するように命じる。

 

「ジョージはバディのエミリアと共に行動してくれ、ちゃんと彼女を守ってやれよ」

“了解、ジェイドも竜斗君を守ってやれよな!”

 

「心配するな。彼らはこれから必要となる人間だからな――」

 

ジョージ機だけ離陸し、空中で変形してエミリアのいる場所へ向かっていった。

自分はシートベルトを外してすぐさま機内に搭載してある兵装を取り出して装備する。

 

その後に竜斗の分の予備装備を取り出して渡し、様々なジェスチャーや届かない部分は手伝ってもらい無事に装着した。

 

 

――僕は正直怖かった。爬虫類の人間の造った未知の基地内部へ今から入り込むのだ。

何が出るか分からないし、捕らわれた人々は無事なのか、不安も一層掻き立てられる。

ジェイド少佐から借りたこの全身装備が重く、そして身体が締め付けられるような圧迫感があり、ガスマスクから通じる息の吸い、吐きの通りに、肌身の時よりも凄く違和感を感じた。それらが、これが軍隊なんだと――一般人にはおよそ味わえないそれを実感する――。

 

 

 

コックピットを開き、ジェイドから先にハシゴを使い降りていく。降りて足場の無事を確認し、竜斗に「降りてこい」と指で指示する。

ゆっくりとハシゴを降りていくが全身装備の重さと窮屈さが彼の動きを邪魔する。

 

「あっ――!」

 

なんと足を滑らせてハシゴから落ちてしまった竜斗。だが、瞬間にジェイドが彼の身体を受け取り、支えたのだ。

 

「アーユーオーライ?(大丈夫か?)」

 

「はい、ありがとう……じゃなかった……イエス、センキューベリーマッチ――」

 

地上に降り立つ二人はすぐさま仲間の米軍隊員達と合流していく。そしてジョナサン、そして愛美とも合流する。

 

「イシカワァ!」

 

「水樹!」

 

二人は無事を喜び抱き合った。

 

「ジョナサン、彼女をちゃんと守ってやれよ」

 

「当たり前だろ、なんつったって俺の勝利の幸運の女神だぜマナミは」

 

「ふっ、相変わらずの日本人好きだなお前は」

 

「ああ。俺の嫁さんにするぜ、絶対に!」

 

ジェイドとジョナサンは当然英語でそう言っているので当の本人達には分かるはずもないが、もしこれを聞けば彼女はどのような返事をするか見ものである――。

「今エミリアだけ一人だけど大丈夫かな?」

 

「心配しなくても周りに仲間はいるんだし、あのコの力を信じなきゃ」

 

「……そうだなっ!」

 

ジェイドは全隊員を集合させ、各小銃、拳銃などの各装備品の点検をさせる。どうやら彼が米軍隊員達の指揮官も担っているようだ。

中には戦闘前の襲撃で見せた各重火器の他に最新型通信機、救急バック、そして爆薬などを携帯する隊員も。

 

「我々はこれより基地部の内部への入り口を見つけ次第突入する、もし発見できなければ爆薬を使う。

絶対に固まって行動し、全方向の警戒を怠るな――」

 

“了解!”

 

「あと、ケガ人が出ても絶対に見捨てるな。誰がか担ぎ、誰かがその分を補え。『One for all,all for one』を忘れるな」

 

――『ひとりがみんなのために、みんながひとりのために』という意味の言葉。

アメリカンフットボール出身のジェイドらしい言葉である。

 

 

一方で自衛隊のBEET部隊と陸戦型ゲッターロボは断面部にたどり着き、どう内部から侵入するか考えていた。

その時、ちょうどジョージが上部から飛び降りて駆けつけてくる。

 

「ジョージ少佐!」

 

 

 

“今からまたバディとして君と共に行動するからな”

 

「本当にありがとうございます!」

彼女は心から安心したその時、次はモニターに早乙女が映りこむ。

 

“ゲッターロボのドリルで穴を開けて、入り口を作れ!”

 

「了解ですっ!皆さん下がってください!」

 

BEETとステルヴァーはすぐに後退し、ゲッターロボは左のドリルをフル回転させて、壁を穿った。

ガリガリと音と共に金属の壁がヘコみ、そしてヒビが入っていく。

ライジング・サンのドリル型自律兵器を射出させて手伝わせること二分、人が容易に入り込めるほどの大穴を開けることに成功する。

下がっていたBEET数機が穿孔した部分を強引にバリバリと剥がしたり、プラズマ・ソリッドナイフで脆い部分を熔断したりして穴部分をさらに広げる。

中を覗くと無機質、MBでも活動できるほどの空間があった。

BEETのモノアイ部のライトを全体に照らすと、天井には辺り一面に鍾乳石が垂れ下がっているの見える。

 

「早乙女司令、機体ごと内部に入れますがどうしますか?」

 

“まず何機かが先遣し、内部が安全かどうかを調べてほしい。

誰が行くかは君達で決めてくれ”

 

その場の全員に伝える。すると、

 

「アタシ行きます!」

 

なんとエミリアから一番先に名乗り上げたのである。

が、部隊長があまり快くない表情を浮かべる。

 

“エミリア、君はやめておけ。内部にどんな危険が孕んでいるか分からん”

 

「いえ、ワタシが行きます。

今回アタシは泣いてばかりで一番役立ってないですから、せめて少しだけでも役立ちたいんです!」

 

彼女の『誠意』が凄く伝わるが、彼らは仲間とはいえ、まだ女子高生であるエミリアをこの『地雷地帯』にもなりうる場所に真っ先に放り込むのに躊躇するのは当たり前である。

 

「では俺も行きます」

 

すると続くようにジョージが名乗り出た。

 

「二人は『バディ』ですからね、俺が彼女を守れればそれでいいんじゃないですかねえ?」

 

 

 

“うーん……ジョージ少佐、君が彼女の無事を願うなら止めるよう説得するという選択肢もあるんじゃないかな?”

 

「確かにそうですけど今の彼女を見てください。さっきまで泣きじゃくってたコがこんなやる気満々になっているんですよ、立派じゃないですか。

彼女の気持ちに応えて行かせてみるのもいいと思いますがね」

 

“…………”

 

「それに今の彼女だと俺でも止めることはできないと思いますが――」

 

すると部隊長はため息を一度つくとエミリアをもう一度見る。

 

「エミリア、本当に行くのか?」

 

“はいっ!”

 

彼女のやる気の籠もった元気でハキハキした返事を聞くと、ついに折れる。

 

「……よし、では先遣はまずエミリア三曹とジョージ少佐が決まった。他に行くものは?」

 

「では俺が!」

 

「私も!」

 

次々に手を上げる隊員。どうやら彼女のやる気な態度に感化されたようである。

 

 

 

(エミリアはもしかしたらような『太陽』のような要素を持っているのかもな?)

 

ジョージは彼女から何か魅力を感じ取っていた。

 

――それは『北風と太陽』の出てくる『太陽』のような、人々に活気をもたらすような『力』を持っていることを。

 

……ゲッターロボ、ステルヴァー、そしてBEET二機の計四機が先に内部に入ることになり、一機ずつゆっくりと入っていく。

薄暗いためライトを照らして周囲を確認する四機。

……自分達人間が使うものとは全く異質の機械類が多く設置されて、横並びにあるドッグと思わしき場所にはまだ未完成と思われる分解されたメカザウルスの部品や、手をつけてない本体の各種の恐竜が動くことなく、まるで人形のように寂しく佇んでいる。

 

「なんなのここは……」

 

頭上には垂れ下がった鍾乳石に、場違いとも見えるクレーンがメカザウルスの部品を持ったまま放置されている。

 

ここは基地部のメカザウルスの整備工場であることを、四人はすぐに気づく。

 

「内部の大気は……どうやら二酸化炭素がかなり多いが酸素も少なからずあるといったとこか。解析不能な成分もあるけど一応有害ガスではなさそうだな」

 

「内部温度は……40度か、真夏みたいだな。これも溶岩の影響か……」

 

次々調べていくが、次第に全員に共通した疑問が出てくる。

 

「……しても誰もいないな」

 

「ああ、やけに侵入が楽だなこれは……」

 

ドリルなどでかなり大音を上げて侵入したにも関わらず、ここには爬虫類の人間の気配すらない。

なおさらそれが不安を掻き立てられるのである。

 

「俺達もしかして罠にハマった?」

 

「分からんが、このまま警戒を続けるに越したことはないだろう――」

 

彼らはさらに工場の奥へと進む。各携行火器を構えて周囲の警戒に神経を使う――。

 

「……あれは?」

 

前方に出入り口らしき巨大な鋼鉄の扉が見えた。

 

「開けてみよう、俺が先にいく」

 

「ちょっと待て!」

 

仲間のBEETが前に出て、その入り口付近へ歩いていく。

あと十メートル程に迫った時、

 

「ん?」

 

右足にヒモのような何かが引っかかった時、何とその足場がカッと光ったその瞬間に大爆発を起こし、BEETの右足は吹き飛ばされた。

吹き飛ばされて倒れ込むBEET、エミリア達に緊張が走る。

 

「敵がいるぞっ!」

 

爆発が収まるとアチコチの物陰から機関銃と思わせる連続かつ高速の発砲音がして、各機の装甲に当たる。

 

やはり隠れていたのか――三機はすぐさまそこから四散した。

 



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第二十四話「戦いの果てに――」③

――散開した三人はすぐさま攻撃された方向をサーモグラフィで移すと人型の熱源反応を多数確認。

だが、それらはメカザウルスではなく等身大の人間のサイズだ――。

 

米軍隊員とも考えたが自分達とは離れた場所にいる、こんなに早くここまで来るとも考えられない……。

ということは、例の爬虫類の人間だ。

 

BEET、ステルヴァーは前に飛び出してプラズマ弾、各対人機関砲でできるだけ内部を壊さないように的確に攻撃、至るところに隠れている生体反応を吹き飛ばし、そして撃ち抜いていく――。

 

「…………」

 

だがエミリアだけは動かずにただ前の床ばかり見つめている。そこには上の鉄橋部から吹き飛ばされて、地面に叩きつけられて倒れ伏せる瀕死状態の……爬虫人類の兵士が。

(アイリを殺したのもこいつら……だけど……っ)

 

自分の昔からの友達である愛梨をあんな殺し方をした敵の憎しみ……だが目の前には、恐らく身体中の骨がぐしゃぐしゃとなって苦痛で、そして死にかけているこの爬虫人類に対する哀れさと悲しみ……それらが揺れ動いていた。

 

(これが戦争なんだ……)

 

いつか竜斗と一緒に話していた『恐竜と一緒に暮らせたらいいな』。

だが、この目の前に写る現実はそう甘くなかった――。

 

その時、ステルヴァーがその死にかけた爬虫人類の兵士に機関砲を撃ち込み粉砕してしまい、驚いて唾を飲むエミリア。

 

“エミリア君、キツいか?”

 

 

「……い、いえ……っ、大丈夫です……」

 

ジョージから心配する声を受けるも『ウソ』をついてしまう。

 

“ここは俺達がやるからっ”

 

向こうも負けじと応戦するも、いくら爬虫人類と言えど、生身で二十メートル以上あるSMB相手には無謀としか言えず、次々に撃ち抜かれ、吹き飛ばされ、そして踏み潰されていく――。

 

「…………」

 

――彼女は自分を情けなく感じた。

役立ちたいから自ら内部に行きたいと言い出したのに、結局こういう時になると心が揺れ動いて役立てない自分の甘さを――彼女は優しすぎたのだ。

 

そして隠れていた爬虫人類全てを殲滅。辺りには彼らの死骸や欠如した身体の一部なのが転がっていて屍地獄である――。

 

「大丈夫か?」

 

“ああ、どうやら死に損なったわ”

 

罠にかかり爆発で吹き飛ばされたBEET隊員はどうやら無事のようである。

 

「応援を呼ぼう」

 

外で待機している他機に通信をかけるとすぐに三機のBEETが駆けつけ、右足の無くなったBEETを持ち上げて再び外へ戻っていった。ジョージが立ちつくすゲッターロボに駆けつけ、彼女に通信をかける。

 

「エミリア君?」

 

“……アタシ、やっぱり役立てません……”

 

泣き声でそう呟いた彼女。

 

「……これが戦争だって分かってるけど……こんなんじゃダメだと分かるけど……どうしても非情になりきれません……っ」

 

 

 

悲痛の思いを告げる。

するとジョージは再び怒るかと思いきや、ニコッと笑う。

 

「……エミリア君はホントウに優しいな。

それは悪いことじゃない、むしろいいことだ――」

 

“けど……少佐に怒られたのにまた弱音を吐いてしまって……自分が情けないです……っ”

 

“言っておくが、だからと言って人間本来の優しさを失ったらそれこそ本末転倒だよ。

こんな汚れ仕事を行うのは俺達のような生粋の軍人だけでいいと思うんだ”

 

「…………」

 

“君達ゲッターチームは元々そういう訓練を受けてないからできないのは当たり前だ。

君はゲッターロボで内部の破壊をするだけでいい、それ以外は私達に任せてくれたらそれで構わないさ」

 

“すいません……っ”

 

「ほら、元気だしな。君の友人や両親がこの基地のどこかにいるんだろ?

もし無事ならそんな悲しい顔じゃなくて安心するような元気な顔を見せてやれよな」

 

彼の励ましがどれだけ彼女を気を軽くしたか計りしれない、感謝しきれない気持ちでいっぱいだった。

 

――その後、早乙女に連絡し、あったことを全て伝える。

 

「……そうか、まだ奴らが潜んでいたか」

 

“一応今いる場所の敵反応はないですが、先にまだまだいると思われます、ここからどうしますか?”

 

“まず先の出入り口を開けてみてくれ、だが慎重にな”

 

早乙女から指示を受けて、BEET一機がその扉に着くと無理やりこじ開けようとするが固くて開かない。

次に拳を打ちつけてみると扉は丸く凹んだ。

もう一撃全力で拳を振り込み、扉を吹き飛ばし、先を見ると同じく広い空間が。

辺りが暗いがモニターをサーモグラフィで内部を映すとやはり熱源反応を多数見られ、動かず静かに潜んでいる。

 

一旦仲間の元に戻り、その内部について早乙女に伝える。

 

“内部にスモーク・グレネードを投擲し突撃。

もし攻撃してくるようなら殲滅しろ”

 

三発のスモーク・グレネードのピンを抜いて向こうの空間に投げ込むと数秒後に破裂。一瞬で内部は白い煙で覆われて、こちらにも伝わってきている。

「全機、突撃せよ」

 

一機ずつ煙に覆われた向こうの空間へ突入していく。

すると四方八方から爬虫人類による機関砲、バズーカ、アサルトライフルによる火器による集中砲火が起こるが煙のおかげか、敵機の位置が掴めずバラバラな場所に着弾している。

 

しかしBEET側は正確性に優れたモニターがあるため煙まみれだろうが敵の居所がはっきり分かり、今度はBEET、ステルヴァーの集中砲火で次々に爬虫人類を殲滅していく――。

 

「やつら、基地がこんな状態になっても最後まで抵抗するか!」

 

玉砕覚悟で挑んでくる彼ら爬虫人類達であるが、無駄死に等しいほどにあっけなく吹き飛ばされて、身体中を穴だらけにされて、そして木っ端みじんになっていく。

 

――主君、そして種族のために戦って死ぬことが最高の名誉とされる彼ら爬虫人類の悲しい性である。

数分後にはこの場の敵殲滅、確保に成功するBEET達。

周辺には前のフロアのように爬虫人類の死骸が散らかり、床がどす黒い血にまみれている。

 

辺りを見ると外部へ通じるハッチと思われる扉やカタパルトなどが横並びされているのを見ると、ここは整備工場直結のメカザウルス格納庫のようだ――。

 

「敵殲滅に成功しました。

この先からは人間専用の通路しかないようです」

 

“では機体から降りて前進せよ。

すでに米軍達が内部に突入しているから合流してくれ、一応GPS機能で各部隊の現在地を見れるようにしてある。あと降りる際各装備を忘れるなよ”

 

BEETから米軍のような全身装備、ガスマスクなどの防護装備を施した隊員が降着装着で床に降りていく中でエミリアだけはどうすればいいか迷い、すぐ早乙女へ通信をかける。

 

「サオトメ司令、アタシはこれからどうすればよろしいですか……?」

 

“このまま行くのがイヤならそのまま外に戻ってくればいい、誰も君を責めはしないから安心しろ”

 

「……リュウトやミズキはどうしてますか?」

 

“あの二人は各バディと共に内部に入っているよ”

 

「え……っ?どうしてですか!?」

 

“二人についてはしょうがない。ステルヴァーに待機してても、もし外部で何かあったら操縦はできないからだ――”

 

二人がすでに内部にいることに驚く彼女。

 

“君はどうする?危険を侵してまでついていくことはないよ”

 

彼女は悩む。このまま足手まといになりそうだからそのまま下がったほうがいいと。

 

だが竜斗や愛美も内部にいるのに自分だけそのまま帰るのも負い目を感じる――彼女が悩んだ末の答えが。

 

「――アタシ、行きます」

 

“これから先は生身で行かなければならないから非常に危険だ。無理しなくていいんだぞ?”

 

だが彼女は首を横に振る。

 

「……アタシは生身で戦う技術もなければ勇気もありません。

はっきりいって足手まといですし、ワタシのワガママです。

だからといって、リュウトとミズキ……チームの二人が生身でこの基地内で頑張ってるのにワタシだけ外で無事を祈るのはイヤです。

この基地内のどこかに友達や両親がいる、もし無事ならワタシも迎えにいきたいんです、この手で助けてあげたい!」

強がりで震え声になっているエミリア。

そしてモニター越しの早乙女は無表情且つ沈黙したままである。

 

“サオトメ一佐、なら私が彼女を護衛しますよ”

 

ジョージがまたそう名乗り出た。

 

“いいのか?竜斗達の場合はやむをえないが、彼女は別にここから先ついていく必要なんてどこにもないんだぞ”

 

「彼女なりに悩んで決めたのならそれでいいじゃないですか、私は本人の意志を優先しますよ。エミリア君、いいんだろ?」

“ハイ!”

 

「それに、彼女が一緒なら竜斗君達も安心するでしょうし――」

 

本人の命がかかっているのにそんな問題ではないと思うが――彼の楽天的な理由に何か考えがあるのか。

 

 

「大丈夫ですよ、エミリア君は私が責任を持って預かります、どの道私も行かなければなりませんからね」

 

普通の人間ではそう言われても躊躇するも相手は早乙女、簡単に話はつく。

 

“――では、よろしく頼むぞ”

 

 

――二人は地上に降りて合流し、彼から予備の装備を渡され、彼の指示通りに装着する。

 

「ジョージ少佐……すいません本当に……」

 

 

「…………」

 

だが彼は途端に彼女の両肩を握りつかみ、グッと睨むように見つめる。

彼女はその眼力に圧倒されてしまう。

 

「……しょ、少佐……」

 

 

「……こんなことを言いたくないがサオトメ一佐の言うとおり君は本来連れて行く必要性が全くない、はっきり言って足手まといだ――」

 

「…………」

 

「だがエミリア君は行きたいと言ったから、私は君の意志を尊重し連れて行く。それにあたって約束してほしい」

 

「なんでしょうか……」

 

「私は君を守るために命を張る覚悟だ。ここからは私や他隊員の指示に対して的確に動き、二度と弱音を吐いたり泣き出したりするな。それが守れないようなら私は君を連れて行かないし、途中でそうなるようなら私は君を見捨てるぞ」

 

非情な警告に突きつけ、さらに眼力を強めるジョージ。

この先は未知の領域。どんな敵や罠が待ち構えているか分からない。

彼が絶対守ると言っても、ここからは生身で行動するため、下手をすれば二人とも生きて帰れないかもしれない――これは最終警告である。

 

「どうする、それでも行くか?やめるなら今の内だぞ」

 

しかし彼女は負けじと意地を張って首を横に振る。

 

「い、いえ。ワタシは自分の決めたことを投げ出したくありません、覚悟の上です!

これからは弱気にならないと誓います!」

 

「神に誓ってか?」

 

「はいっ!」

 

すると彼は彼女から手を離した。

 

 

「……分かった。そこまで言うなら君を連れて行こう、またよろしくな!」

 

「はいっ!」

 

二人は突入する部隊と合流する。最初はエミリアも一緒に来ることに狼狽するが、彼女がその意思を自ら伝えて納得させる。

 

米軍部隊と同じく各装備の最終点検し、異常がないか調べる。

 

「では我々はこれより内部に突入し米軍部隊と合流する。

移動中は常に周囲の警戒、人員を掌握し、絶対に孤立はするなよ――」

 

“了解!”

 

「ここまで来たからと言って最後まで気を抜くなよ。我々人間の勝利は目前だ、行くぞ!」

 

“オオーーッ!!”

隊員達は気合いの雄叫びを上げて士気を向上。その後、先頭が扉から顔を出して左右の安全を確認し、四人飛び出して前後警戒をつかせる。その後一人ずつ飛び出して全員揃うと、通信機と専用のGPSを頼りに通路をゆっくりと歩いていく。

 



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第二十五話「――破滅」①

一方、基地上部にて、内部への入り口を見つけられず、脆い壁の部分を爆薬で吹き飛ばし、それに生じた入り口から潜入した米軍部隊、そして竜斗と愛美は共に内部通路を進む。

前後でアサルトライフルを、撃てるよう水平に構えて警戒する隊員、それ以外の隊員は安全装置をかけたまま銃口を下に向けて保持する。

今の所まだ敵と出くわしてないが、それが一層に恐怖感が増加される。

 

「……こわいよ石川」

 

「俺だってこわいよっ」

 

二人でこそこそと話をしていると二人の頭に拳のような固いものが軽く当たった。上を見るとジェイドがムッとした顔で口元に手を当てている。

「しゃべるな」という意味は二人はすぐに理解し、口を固く閉じる。曲がり角に差し掛かると前方の警戒員が手で「ストップ」の合図をかけて、先に角に身を寄せる。

戦闘服の内ポケットからコンパクトミラーを取り出して開き、角から出す。

 

そこから鏡を見ると奥の通路に何か粒が見える。だがその時、「ドンっドン」と二発の発砲音と同時にミラーに銃弾が貫通し吹き飛び、奥の壁には弾痕が二個ある。

 

……奥に敵がいる。全員が気を引き締める。

手を素早く引っ込めて危うく無事であった隊員は、すぐさま後ろの隊員にアイコンタクトを取る。

そのあと腰に下げた専用ポーチから手榴弾を取り出してピン部分に貼ったテープを取り、そしてピンを取る。

力強く角から敵のいる位置へ手榴弾を引き投げたその数秒後に巨大な炸裂音と衝撃に生じた鉄の破片が敵のいる通路を突き抜ける。

その十数秒後に隊員がもう一度予備のミラーを取り出して見ると発砲してこない。応援としてもうひとりの隊員を指で呼び、二人が銃を構えて意を決して飛び出した――が、銃撃音が響き、隊員達も応戦する。

交差する銃弾、最中で隊員の「ウッ」と呻き声が聞こえるも、すぐに再び静寂と化す。

 

二人やられたのか……と思いきや、すぐに飛び出した二人の隊員の内一人が、腕を撃たれ負傷したもう一人を連れて戻ってきた。

 

「少佐、奥の敵は排除しました」

 

「よくやった二人とも」

 

鎮痛剤を撃たれ、ガーゼと包帯で応急処置を受けている隊員の、上腕の撃たれた所から血がドクドクと絶えず流れてポタポタ落ちる。

命に別状はないのが幸いだったが、竜斗と愛美はその光景に顔が真っ青になり身体が震えた――。

 

(俺も水樹も下手すればこうなるんだ……っ)

 

彼らは今一度、敵の本拠地内にいることを再認識し、同時に「撃たれるとどうなるか」というドラマやアニメではない本物の現場を思い知らされる――。

それにしてもジェイドやジョナサン、他の隊員は、心情はどうか分からないが自分達と違って淡々と、且つテキパキと各人の役割をこなすその様からは生粋の、そして経験豊富な軍人だからこそ成せるのであろうと感じさせられる。

パイロットしか経験のない自分達がもし彼らの代わりにやれと言われたなら間違いなく慌てて、そして取り乱したことだろう。

 

そこでも自分達と彼ら隊員の、パイロットだけではない格の違いを見せられたのである――。

 

治療が終わり、角先で警戒していた隊員が安全だというサインを受けてやっと全員が通路へ移動できる。

曲がり角があるだけでこんなに大変なのか……と知る竜斗達。

さらに先に進むが、何故か一向に敵の姿が出てこなくなる。だがどこに潜んでいるか安心はできない、全員が気を張り詰める。

 

「別ルートから侵入した自衛隊員がもう近くにいます――」

 

GPS機能搭載のポータルデバイスを持つ隊員がジェイドに小声で伝え、その画面を見せる。自分達と同じ、仲間を示す赤色の反応がこちらへ近づいているのが分かる。

彼は何も言わず、コクッと頷く――。

 

そしてしばらく道なりに進むと……前で警戒する隊員が再びストップをかける。 敵か……、と思いきや前方に敵などいなく、変わりに横に巨大な鋼鉄の扉に差し掛かる。

全員がそこまでたどり着くと同時に、向こうから無数の足音が聞こえる。

全員がその方向へ見ると、爬虫人類ではなく自衛隊員達であった。

 

やっと日米部隊はここで合流し、そして共に連れ立ってきたジョージ、そしてエミリアも彼らと再開しステルヴァー、ゲッターチームは全員揃う。

 

(エミリアなんで来たんだよ、危ないだろ……!)

 

(そうよ、無理してくることないじゃない……!)

二人の小さな声でそう聞かれた彼女は、

 

(アタシ……自分だけ安全な場所にいるのはイヤだし、友達やお父さん達を自分の手で助けたいから……ワガママいってついてきたの……)

 

(エミリア……)

 

(もう弱音を吐いたり泣かないと約束したから大丈夫!これでゲッターチームがまた揃ったわけね!)

 

二人は呆れつつも「エミリアらしい」と安心していた。一方でステルヴァーチームでも、

 

(彼女を連れてくる必要はないのになんで危険を省みずに連れてきたんだ?)

 

(彼女が行きたいと言ったから連れてきたまでさ、ちゃんと言うことを聞いて、泣かずにここまでついてきたわけだし――基本的に仲間やバディの意志を尊重するのが俺のタチだ)

(でたなジョージ節!相変わらずの楽天思考ぶりだな)

 

(ジョナサン、お前に言われたくないわ!)

 

軽口を叩きながらじゃれているお気楽な二人に呆れているジェイドだが内心では「まあこいつららしいな」と安心している。

 

自衛隊員から聞くと、格納庫以降の通路からここまで来るのに敵と出くわさなかったとのことだ。

他の部屋の扉がロックされており、入れず。一応中に入れる場所もすでにもぬけのからだったりと。

(我々とほぼ同じだ、妙に内部の敵が少ないのが気になる)

 

なんだか気味が悪いが自衛隊の侵入したエリアにて沢山の爬虫類の人間を掃討したので、そこの内部戦力のほとんどを失ったとも考えられる。

ともかく無事にここまでこれたのは何よりである。

問題は、彼らの目の前に立ちふさがるこの横長の巨大で鋼鉄の扉である。

 

奥に一体何があるのか、全員の興味はそこに集中する。

 

「なあ、何か中から聞こえないか?」

 

扉に耳を傾けてみると……確かに声と思えるような何かが聞こえている。

開けてみようと、開閉装置らしきものを探すがそれらしきものがどこにも見当たらない。

試しに全員で押してみようとするも、ビクともせずに時間の無駄であった。

 

するとジェイドは扉、次に外の壁と沿ってコンコンと叩いて強度を調べる――と、左側の壁で足が止まる。

「爆薬の用意だ」

 

米軍隊員の携行する箱型の専用ポーチから、薄紙に包まれたブロック状のものを取り出して壁に取り付けるように設置する。

 

――これは『C4爆薬』と呼ばれる、一般的にプラスチック爆弾というものだ。

起爆に必要である信管を、その爆薬の真上に刺して、全員にすぐにそこから離れるように指示する。米軍、自衛隊はそれぞれ来た通路を逆戻りし奥、または角に入り通信機でそれぞれ避難したと呼びかける。

 

「よし、爆破しろ」

ジェイドの合図で爆薬を設置した隊員は遠隔操作できる装置の起爆スイッチに指を置いた――だが、

 

“……ジェイド少佐、聞こえるか?”

 

突然、通信機から割り込むように今度は早乙女の声が。

彼は隊員にストップをかけて受信機を持つ。

 

“早乙女だ。君達は今どこにいる?”

 

「今自衛隊と合流して、謎の鉄扉の前にいるのですが。開けられないので爆破してそこから侵入しようかと」

 

“待て。今ベルクラスから内部をスキャンしてモニター表示しているのだが、一カ所だけ危険な区域がある”

 

「危険な区域?」

 

“その中だけ空気成分が異常になっている。分析したがこれは本来の外界の自然にはないものばかりで我々には有毒なものばかりだ”

 

「つまり――それは化学物質ということですか」

“おそらくな。それに細菌性成分も検出されている。内部はバイオハザード(生物災害)のような状態になっているだろう――”

 

 

「しかし、内部から音が聞こえてきたのですが、それも声のような――」

 

ジェイドのこの報告に、何故か早乙女の声が途絶える。嫌な予感がする――ジェイドの額に一筋の汗が流れる。

 

“少佐、今いる場所までに例の捕らわれた日本の人々は発見できたのか?”

 

「い、いえ……全く……」

 

“そうか――実はそこに生体反応の数がやけに密集している……数は百もないが所々消えかかっている、つまり死にかけているのもちらほらある――”

 

基本的な冷静沈着な彼が珍しく動揺している顔から、早乙女から何かを感じとったようだ。

 

「一佐、考えたくはないですが……」

 

 

“確定とまではいかないが……その確率は高いだろう”

 

竜斗や愛美、ジョナサン、いやそこにいる隊員全員が二人のやり取りから異様な不安を感じた――。

通信を切ると、彼は腕組みをして頭を悩ませる。

「ジェイド、爆破はどうする?」

 

そう聞くが彼は首を横に振る。

 

「爆破は中止だ」

 

「え……なぜだ?」

 

「……まずいことになるかもしれん」

 

ジョナサン含む米軍隊員が集まり彼からその意味を聞く……と信じられないような表情をとる。

 

竜斗達も英語を理解できないもその深刻そうな顔からただごとではない分かる。

自衛隊側から「爆破はまだか」と通信が入るもジェイドからその説明を受けると向こうも沈黙する。 ジェイドは早乙女に通信をかけて話し合う。そして、

 

「我々は撤退する、速やかに各機へ戻れ」

 

なぜかここまで来ておいて撤退命令。すぐにそこから立ち去っていく各部隊。

全く状況が知らない竜斗と愛美はワケが分からず混乱する。

 

(何があったんだろう……?)

 

理解できないまま、全員が各機の場所に戻り乗り込む。

 

ステルヴァーに乗り込むジェイド達もすぐにシートベルトをつける。

 

“ゲッターチーム!”

 

各人の元に早乙女から通信が入り、竜斗と愛美は後部座席から前へ身を出す。

 

「司令、これはどういうことですか!?」

 

竜斗に問い詰められる早乙女は相変わらずの無表情だが。

 

「そうよ、マナ達に説明がないのはどういうこと?」

 

愛美からも問われる。

 

「説明がないと僕達は納得できません、教えて下さい!」

 

黙っている早乙女もついにと口を開く。

 

 

 

“どうしても聞きたいか?”

 

「はいっ!」

 

――彼らは説明を受ける一方でエミリアは凍りついていた。

彼女は英語が分かるため、その説明を耳にしてしまっていたのだ。

 

「……ではあの扉の中に捕らわれた日本の人々がっ」

 

“その可能性は高い。しかしただそれだけならば、そのまま爆破して突入し救出すればいい――だが”

 

二人の身体に衝撃が走った。助けようにもその内部は化学物質と細菌まみれになっており中の人々がどうなっているか分からない。

だからと言ってあの時もし破壊しようものなら、間違いなくそれらが漏れて基地内が汚染される。

ガスマスクはあるが、パイロットスーツは防護服ではないため間違いなく身体中が汚染されてしまうため爆破できなかったのである。

 

“おそらくあの奥は実験施設だ、人類専門のな。

だから厳重な扉なんだろう”

 

竜斗と愛美は沈黙しまう。

 

“はっきり言おう、君達の友達や両親がその内部にいるのなら間違いなく生存率は限りなく低いだろう――生きていたとしてもその化学物質や細菌で全身汚染されていたらもう治療できない……”

 

淡々と伝える早乙女に対し、苦悶の表情へと変わっていく二人と、エミリアは相変わらず絶望しきって固まったままである。

 



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第二十五話「――破滅」②

――捕らわれた人々、そして僕達の友達と両親を探してここまで来た。

手の伸ばせる所まで迫ったのに壁に阻まれる……。

それも生きている保証などどこにもないという最悪の現状……。

神は決して僕達に微笑まないのか――。

 

 

最悪の結末にもなりうるこの状況の中、早乙女がこう切り出す。

 

“生身での侵入はできないが、その区域へ侵入する方法はある。

それは陸戦型ゲッターロボのドリルを駆使して侵入することだ。SMBなら身体が汚染される心配はない”

 

……だが三人が心配しているのはそれじゃない。中にいる人々の安否である――。

 

“だが君達には最悪の結果を想定しているか?もし君達の――”

「それ以上は言わないで下さいっ!!」

 

エミリアがヒステリックにそう叫ぶ。

 

“エミリア、君の気持ちは分かる。だが結局は君達がどうしたいか?”

 

「僕達が……?」

 

“捕らわれた人々、そして君達の友達、両親のもしも『願ってもない姿』を見たくないのならこれ以上深入りしなくても別に構わない。

だがどの道、衛生面を考えて基地を焼き払い、破壊しなければならない”

 

「それはまさか捕らわれた人々も……っ」

 

“そうだ。有害な化学物質や細菌が外部に漏れたらそれこそ二次災害が起こって危険だ。私も基地を確保できなくて残念だがやむを得まい――”

 

 

……つまり中にいる人々が汚染されているなら衛生的安全のために排除、つまり犠牲になるということになる。

 

“三人はどうする?その汚染区域を放置するわけにいかない。が、もしかすれば隔離されて汚染されていないのかもしれない。君達はその一片の希望を賭けてみるか?」

 

 

――父さん達がいるのなら、生きているなら今すぐにでも会いたい。

 

しかし、もしも『最悪の結末』が待っているのなら……その時僕達は正気を保てるだろうか。

考えたくない、信じたくない、そしてそんなえげつない状態であろう、その内部を見たくない。

そのほうが幸せだったということもある。だが最終的には、僕達がどうするか決めなくてはならない。この時ほど自分達は無関係でありたかったと何度も思ったほどだ――。

三人はその場で固まり沈黙する。その表情からはかなり気持ちが揺れ動いているのが分かる――。

 

「……リュウトクン」

 

ジェイドが振り向いて彼の肩にその大きな手を置きコクッと頷く。

何も語らないが彼だが、せめてもの勇気づけてあげているように思える。

それはジョナサンも同じで愛美の頭を優しく撫でている。

 

「エミリア君……」

 

流石のジョージもこればかりは哀れみの情をかける、いくらなんでもこれは辛いだろうと――。

だが彼女は身体を震えわせつつもゆっくりと顔を上げる。

 

「……分かりました。ワタシはその区域へ入るために行動します」

 

その区域への吶喊を決意するエミリアに彼は驚く。

 

「……いいのか?」

 

 

「……もしかしたら生きてるかもしれないし、最悪の場合だったとしても……せめて捕らわれた人々を、両親、友達を苦しみから解放してあげたい、楽にしてあげたい……今はそれだけです」

 

……その言葉から彼女の優しさが凄く伝わる。ジョージはそれを聞いて余計に心が痛くなる。

 

「……君自身が壊れるかもしれないんだぞ」

 

「……多分、大丈夫です。もう……覚悟は出来てます――」

 

彼女は早乙女にそれを伝えると「そうか、分かった」と何食わぬ顔で言っただけである。するとモニターにマリアが現れる。だが、如何にも彼女を心配している深刻な表情だ。

 

 

「エミリアちゃん……」

 

「心配しないでくださいマリアさん。ワタシ、最後までやり遂げますから!」

 

彼女の決意のこもった様子にもうマリアからは何も言わなくなった――。

 

「エミリアが……」

 

「…………」

 

早乙女から竜斗、愛美にそう伝えられて唖然となる。

 

“君達はどうするんだ?”

 

早乙女にそう聞かれ、約二十秒後に竜斗は頷く。

 

「……分かりました、僕も賛成します――!」

 

ついに覚悟を決める竜斗。一方の愛美は、彼女の両親もあの中にいるとすれば、もしもの時は到底自分は耐えられそうにない……両親を失うかもしれないということを受け入れられず、彼女は段々と涙目になっていく――。

 

“水樹……”

 

「……なんで……パパやママが一体何をしたっていうの……なんで……」

 

彼女はもはや泣いている――。

 

するとジョナサンが突然彼女を後ろから引きずり出して、自分の膝に乗せる。

 

「えっ!!?えっ!?」

 

「マナミ……カワイソウ」

 

 

 

お姫様抱っこのように優しく抱きしめ、まるで自分の大切な人のように頭を優しく撫でて、そして安心させるためか英語で何かを呟いていた。

 

“『心配するな。何があっても俺が、仲間が、友達が君を守る』と言っているよ――”

 

早乙女からそう言われ、見上げるとジョナサンは自分のように涙を流し始めてる。恐らく彼も彼女が悲しんでいることが辛いんだろう。

「なんで……アンタも一緒に泣いてんの……やめてよ……っ」

 

そう言うが彼は全くは止めようとしない。

 

「ヤダ……アンタにまで泣かれたら……マナ……イヤだ、泣いちゃやだ!」

 

「……マナミ、ツライ――」

 

そこで彼女はジョナサンの内面を少し知ったような気がした。

すると愛美は涙を拭い、次にジョナサンの涙も指で拭い去る。

 

「マナミ……」

 

「ジョナサンらしくないよ……陽気なアンタが一番だよ……」

 

彼女は起き上がり、決意を込めて早乙女に伝える。

 

「……早乙女さん、マナはもう大丈夫よ、それに賛成するわ」

 

“いいんだな?”

 

 

「石川やエミリアも覚悟決めてんのにマナだけこんなんじゃねっ――」

 

――ついに三人は実験区域の突入を決意する。これ以上はもう無駄な時間を費やせない、一刻も早く捕らわれた人々をなんとかしなければ――ゲッターチームの心は同調した。

 

“これからはエミリア、君のドリルを使いその区域へ吶喊する。

突入する位置は汚染の最小減を考えて基地部真下からの方がいいが、地中を掘るのに時間がかかるし精神的にもキツくなる。

真上からだと一番早く行けるが、細菌の飛沫を考えると問題外だ。

となるとBEET部隊の侵入した場所から突入することになる。ドリルがかなり消耗していることだから、ベルクラスからスペアのドリルをそちらに送る。ライジング・サンのドリルも有効に使え。

 

その区域までのマップを送信から安心しろ”

 

「はいっ!」

 

“他の機体は火炎放射機等、とにかく区域を細菌類を燃やせるような火器を持っていけ、場合によっては破壊を考えなくてはならない”

 

そして作業に移ろうとした時、早乙女が最後にこう伝える。

 

“全員よく聞け。捕らわれた人々がもし救助困難だったら感染、拡散等を考えて……つらいがその場で焼き殺さなければならなくなる。

酷だと思うが、これも我々軍人が被害を最小限に抑えるための任務だということを――理解してくれ。幸運を祈る”

 

早乙女の通信が切れ、全員が様々な思いを胸に作業に取りかかる。

 

陸戦型ゲッターロボは最初、侵入した場所から再びドリルをフル回転させて道を切り開いていく――。

 

(お父さん、お母さん、ミキ……やっと迎えにきたよ。待ってて、今行くから――!)

 

彼女は一心で壁を穿ち、奥へ進んでいく。

 

後ろには予備のドリル、各火器を携行するBEET、ステルヴァーがついてきていた。

 

(父さん……母さん……生きているなら今、苦しみから解放してやるから……!)

 

竜斗もそれだけの思いで後部座席からモニターに映る陸戦型ゲッターロボを見届けている。

 

「マナミ、ダイジョーブ?」

 

「心配しないで、大丈夫だから」

 

愛美もひたすらモニターを見続けていた。

だが途中にやはり隠れていた残りの爬虫人類の兵士が壊された通路端から現れて攻撃を受けるも、火炎放射器で一瞬で消し炭にされていく――。

そうしていく中、ドリルの不調が見られモニターにそれが表示される。

回転を止めて見るとすでに歪な形に変形している。

 

「ドリルの交換をお願いします!」

 

その場で歪な形のドリル部を外し、BEETの手伝いを受けてスペアのドリルを装着、再び吶喊に入る。

 

そうすること三十分後、ついに例の危険区域前に到着する。

 

「来たわ……」

 

全員に緊張が走る。内部は一体どうなっているのか、そして捕らわれた人々は無事なのか……。

そしてついにそこにドリル先が衝突し、一気に穴を開けられ、同時にコンソールモニターに「DANGER」と表示される。

エミリアはさらにレバーに力を込めて押し出す。

 

(これで――!)

 

――ついにせり出すように穴を無理やり突き破り区域に侵入する。白色光のライトに照らされるゲッターロボ。

続いて後ろにいる各機も一機ずつ突入した。

 

「…………」

 

――目の前に広がるは、吐き気を催すこの世の地獄そのものであった。前進するたびに発狂しそうになるほどだ。

 

大きいガラス管にいれられたたくさんの人間の胴体、腕、足、脊髄、脳髄、骨……標本のようになっており、左側の飼育槽のような巨大な容器には……身体中が化学物質か細菌かで、まるで腫のような赤く腫れ上がった人間のような生き物が、吐瀉物や排泄物などにまみれて呻き声や奇声を上げているのを。

 

――奥へ行くとなんと肢体を斬られてバラバラにされたままなにか液体の中でそのままもがき苦しみながら生きている人間達を発見する。

 

さらに足元には、『はいはい』をしながら機体に群がる、まるで幼児退行をしたような裸の人間が……。

 

(ひどい……ひどすぎる……)

 

その場の全員が最初に底なしの恐怖や絶望を味わい、そして次第に頭が破裂しそうなほどの憤怒が湧き上がるのだった。

 

「お、お父さん……お母さん……」

 

ゲッターロボが右側に振り向いたそこにはなんと切断されて上半身状態で、鎖で吊り下げられた何十人の人間の死体の中に唯一の中年ほどの外国人の男女二人の死体が混ざっていた……そう、エミリアの両親だった。

内臓が垂れ下がり、新鮮そうな黒い血がまだポタポタ絶えず落ちているということは……最近までまだ生きていたということになる。

だが、再会できたにも関わらずもはや動くことも、話すことも叶わない無惨な姿にエミリアの顔はもはや涙と鼻水でぐしゃぐしゃであった……。

 

「お父さん……お母さん……ごめんなさい……本当にごめんなさい……っ」

 

救えなかったことに、嗚咽しながら何度もひたすら懺悔した。

 

「父さん…………っ」

 

竜斗もついに自分の父親と思われる人物を発見することができた……だが、モニターに写るは、保存のための液体に満たされた円柱のガラス管内にたくさん詰め込まれた切断された人間の一部、すなわち頭部の内、彼の父親の顔がガラスにへばりついていた……。

 

 

母親の姿は見かけないが恐らく……彼はすでに現実を受け止め泣くことはなく大きく深呼吸し、無理にでも自分を落ち着かせようとしている。

 

「チッ…………」

 

ジェイドは人間性などを微塵もないこの凄惨な内部に対し、まるでマグマが暴発するかのごとく怒の表情を顔に全面に押し出している、それほどこの場は酷いのだ。

 

 

「パパやママがいない……」

 

愛美の両親だけの姿は見られない。ということは生きているのか――彼女は胸に期待を膨らませた。

 

「え――?」

 

先程の腫れ上がって原型をとどめていない人間のいる飼育槽内をふとモニターを見ると、彼女が何かに気づき、ジョナサンに拡大してもらう。

それは目の前にいる、座り込んで奇声を発している人間『だった』生物の首に銀ネックレスに小振りのペリドットの宝石のネックレストップが。

 

これは愛美の母親が父親の誕生日に送ったプレゼントで、常に大切につけていたネックレスにかなり似ており、さらにその奇声も父親のと声質がかなり似ている――まさかと思うと段々と顔が真っ青となっていく愛美。

 

「まさか……パパ……?」

 

もはや言葉など掛けられないほどに気が狂っているような様子のその生物に近づくと……何か言っている……それを聞き取ってみると。

 

『マナミ……マナミ……』

 

……と彼女と同じ名を呼ぶ声が。

――これでついに彼女の父親だとわかった彼女は慌ててコックピットから無理に降りようとするが当然ジョナサンに止められる。

 

「離してよ!!パパがあそこにいるのよ、助けなきゃ!!」

 

開けた瞬間に二人は汚染される……気が動転している彼女を無理にでも取り押さえる彼。

 

「マナミ、ダメアブナイ!!」

 

「離してよ、離してよお!!!」

 

暴れに暴れて顔を殴られるも怒らずに耐えるジョナサン。

だが次第に暴れる力が急速で弱くなる愛美は、すでに滝のような涙が流れていた。

 

「マナミ……」

 

どうやら現実を受け入れたのか、そのまま泣き崩れる彼女を優しく抱きかかえるジョナサン。

彼女は彼の胸の中でひたすら泣いている。

竜斗、愛美の母親は見当たらないが、すでに実験台にされて処分されたとも考えられる。

本当かどうかは分からないが、安否については二人の父親の無残な姿の見れば大体予想がついてしまう。

 

一方で彼らの友人のも何人かは見当たらないもの、顔の一部や実験で奇形と化した人間から本人と断定していく――エミリアの友達の美紀は四肢全てが切断されて、無理やり液体の中で生かされている、まるで手足をもがれた虫のような姿で発見した……。

 

「ミキ……」

 

エミリアはもはや涙は枯れ果て泣くことはなかった。

もし彼女を助けようとこの液体から出したらどうなるか……いや、液体があるからこんな状態でも生きていられるのかもしれない。

こんな姿になるまでにどれほど苦痛と恐怖、絶望を味わったか計り知れない、いやここにいる人達全員がそうだ。

 

……どっちにしろ、ここに突入して分かったことは無事の人間などいなく、そして誰一人も助け、治すことが不可能なのが現状であった――。



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第二十五話「――破滅」③

――神は決して僕らに微笑んではくれなかった。

結局、僕達は親や友達いや、捕らわれた人々は誰一人も救うことはできなかった。

しょうがないとはいえ、ここまで来るのに時間がかかり、手遅れだった。

 

覚悟していたとはいえ――これはあんまりである。

黒田一尉の時のような無情感でいっぱいになる僕らは、果たしてこれから生きる意義を見いだせるのであろうか――。

 

 

助けられると信じてここまで来たにも関わらず、このような結末が待っていようとは――誰もがやるせなくなった。

 

「……!?」

 

突如、四方から銃弾がとんでくる。各人はその方向へ振り向きモニターで見ると全身防護服のようなスーツに覆われた人間が小銃を構えて撃っている。奴らはガレリー直属の研究員であり、最後の抵抗を加えてきた。

「もう許さねえぞこのクズヤロウども!!」

 

火炎放射やミサイル等、募らせたその憎悪を各火器に載せて全方位の全てを破壊し、焼き尽くしていく各機。

それは爬虫人類に対する怨念、そして実験にさらされた人々を一刻も早く苦痛から解き放つため……研究員達、そして犠牲になった人々は燃えさかる炎の中に消えていった。

 

(お父さん、お母さん……ミキ……そして皆さん……どうか安らかに……)

 

火炎地獄と化したこの場でエミリアは、ここで犠牲になった全員が無事成仏できるよう祈るのであった――。

 

すると生き残った研究員のひとりが近くの制御室に逃げ込むのを見かけてジョナサン機がそれを追いかける。

 

「逃がすか!」

 

その場に右腕の小型ミサイルを撃ち込み吹き飛ばす。破壊された内部を見ると逃げ込んだ研究員は壁に叩きつけられ張り付いて息絶えていた。

 

 

だがその時、基地のあちこちが爆発を起こして始め、外部そして内部にも爆発が広がった――先ほど逃げ込んだ研究員が自爆装置を作動させたのだろうか。

この区域にも凄まじい音と衝撃、爆炎が始まった。

 

「全機、直ちに脱出せよ!」

 

彼らは来た道なりを各推進ユニットを駆使して外へ向かう。途中で爆発に巻き込まれるBEETやステルヴァーだったが、それでも諦めずに前進する。

 

格納庫まで戻るが爆発で落盤が発生し、入り口が閉ざされてしまう。

 

「エミリア君!」

 

「はいっ!」

 

陸戦型ゲッターロボが前に出て塞いだ落盤を左腕、そしてライジング・サンのドリルをフル稼働させて穿ち穴を開けた。

「よし!」

 

そこから一機ずつ転ばないように慎重に進み、そして突入口に到着し外に飛び出すと一目散に基地から離れていく。

 

基地全体が小規模な爆発から大きな爆発になりこの周辺一体に轟音、地響きが鳴っている。

これが全体爆発すればどうなるか、その答えはもうすぐに迫っていた――。

 

基地全体が「カッッ」とまるで太陽のような輝きを放つと半球体状の光に包まれて直径約十キロ前後の範囲で広がった。

もう全壊近い基地でこの爆発なのだからもし完全状態、つまりあの恐竜要塞の状態で爆発したならどれほどであろうか――。

 

「……基地、完全消滅しました……作戦終了です」

「…………やっと終わったな」

 

「基地に侵入した全機は全て脱出し、無事退避できた模様ですが――」

 

「………………」

 

「……こんな結果になるなんて……一体彼らはなんのためにここまで頑張ってきたのですか……これではあんまりじゃないですか……」

 

「確かに非常に残念だ……しかし黒田の戦死もそうだが、そうなる運命だったのさ。

さて、各機を受け入れる前に除菌作業に入るぞ――」

 

――午前十時四十二分。

この大雪山戦役は一応僕達の勝利で終わりを告げた。

今までの戦闘の中で最も長く、そして辛い闘いだった――だがこれほど後味の悪い終わり方をしたのも対馬海沖以上であった――。

日本はこれで解放できた、しかしたくさんの人々が、そして僕達の大切な人達まで犠牲になってしまった……表向きでは大勝利だが、本当にこれが人類の勝利と言えるのであろうか――。

 

「………………」

 

 

マシーン・ランド。日本の前線基地を失った知らせを受けたゴールは非常に不機嫌で黙り込んだままだ。

 

(サルめ……どうやら本気で我々爬虫人類を怒らせたようだな……っ)

 

苦虫を噛み潰した顔をした彼はついにキレた。

 

「ゴール様……」

 

「……なんだっ」

 

「武者修業から戻られたザンキ様がお見えになっておりますが……」

 

「ザンキか……確かバットの優秀な甥だったな。武者修業に出たからにはよほど実力をついたに違いない――よし、呼べっ」

 

「かしこまりました」

 

――そしてすぐにゴールの元に現れる一人の爬虫人類の男。

ラドラやニオンとはまた違う凛々しい顔つきで、青色の甲冑を着込む若人、その顔からは並々ならぬ自信と……そして野心的な何かを持つような雰囲気を併せ持っている。

 

ザンキ=ル=エリュハウオ。バット将軍の甥で彼もまたキャプテンを称号を持つ。

 

「ゴール様、お久しゅうございます」

 

「久しぶりだなザンキよ、武者修業はどうであったか」

 

 

「大変過酷でございましたが以前よりも遥かに実力をつけて戻ってきて参りました」

 

「うむ、それは嬉しく何よりだ――」

 

「……ところで現状況は?」

 

「……日本地区が奴らサル共に奪い返された。ゲッター線を動力とする奴らの兵器が現れたのだ」

 

「ゲッター線……我々爬虫人類の天敵……」

 

「各大陸ではこちらの方面軍が優勢だが、いずれゲッター線によって劣勢に陥るかもしれん」

 

「…………」

 

「バットには連絡を入れたのか?」

 

「いえ、身の回りの整理の終わり次第連絡を――」

 

「そうか、一度バットに元気な顔を見せてやれ、喜ぶぞ。

さてなんだが、その修業の成果を見せてもらおうではないか」

 

「はっ、今からでもお見せしましょう。それで私の相手は?」

 

 

「――ラドラだ」

 

一方、ラドラは一応罪を許されて牢から出られたものの、二度の失敗から信用を失い仕事が入ってこず暇を持て余しており、ただ一人訓練所内で木偶相手に模擬剣で剣術の稽古をしている。

今で牢にいた分のブランクを埋めるために、ただ無心で剣を振り感覚を思い出させ、そして気を入れて打ち出す――その汗だくの身体が全てを物語っていた。

すると、ゴールの側近が彼の元に現れる。

 

「ラドラ様、ゴール様が至急闘技場に参られよとの命令です」

 

 

「ゴール様が……分かった」

 

彼は汗を拭き、黄金の甲冑を着込み、すぐさま闘技場に向かう。中に入るとど真ん中にゴール、そしてザンキがすでに待っていた。

 

彼は急いで二人の元に向かう。

 

「ラドラ、来たか」

 

「ゴール様ただいま参りました。

それにザンキ殿、あなたは確か武者修業中のハズでは?」

 

「たった今帰ってきた所だ。ザンキの修業の成果を見たくてな、そこで――」

 

「私がお相手すると」

 

「そうだ。ラドラならザンキの相手で不足はないと思ってな。どうだ?」

 

「では喜んでお相手致しましょう」

 

「よくぞ言ってくれた、わしも二人の健闘を見届けるぞ」

 

ゴールは闘技場外の王族専用の観戦席に、二人は控え室にて軽装の訓練着に着替え、訓練用の木製武器を選んでいる。するとラドラの元にザンキが現れる。

 

その満ち溢れた自信満々で不敵な態度はバットとそっくりである。

 

「ラドラ、どうせなら真剣でやらないか?」

 

彼の要望に彼は首を横に振る。

 

「……ザンキ殿、これは殺し合いではない、真剣などとはどういう了見で?」

 

「なあに、ただの訓練ではやる気がでない。

命の張り合いだと思って本気でやった方が互いに身に入るし、二人の戦闘技術の向上に繋がるんじゃないかとな」

 

「だからとて、それでもしどちらかが命を落としたら元も子もない。私は無駄な傷つけ合いは嫌いだ」

 

ラドラは渋い表情だ。だがザンキは「フン」と、彼を見下す笑みを浮かべる。

 

「ラドラ、お前確か日本で二度も敗北したんだってな。

惨めだよな、誰からも信用なくなって――今ではただの引きこもりになっているなんてな」

 

「…………」

 

挑発してきている。だが、ラドラは無視する。

 

「どうだ、私と真剣勝負をしてくれるのなら、ゴール様になにか仕事をつかせるよう頼んでやるぞ」

 

「……確かに私は二度も敗北したのに何故か許されて生かされているみじめ者だ。

だからこそ私は罰と戒めを自ら進んで受け入れているのだ、そんな余計なことはしてもらわなくていい」

 

 

するとザンキは武器棚から本刃である二つのダガーを取り出し、器用にクルクル回してなんとラドラへ向けて放り投げた。

回転しながら向かってくるダガーをラドラは瞬時に、棚から真剣を取り出して、目にも見えぬ速さで弾き返した。

 

「……ラドラ=ドェルフィニ。リージ=ドェルフィニの息子で、平民出でありながらゴール様ともっとも親密であり、ゴール様自身も二人を大変気に入っていた。

おかしいと思わないか?なぜ貴族よりもたかが平民出身のお前達一族がそんなに気に入られるのだ?」

 

「…………」

 

「教えてくれよ、お前の親父はどんなゴマをすって、どんな汚い手を使ってゴール様の懐に入りこんだんだ?なあ?」

 

ラドラの顔が険しくなり、怒りで身震いしている。

彼は、自身よりも尊敬する自分の父親を貶される言動や行為が我慢ならないのである。

 

 

 

「……よかろう。そこまでして真剣勝負がしたいのなら受けてたとう……っ!」

 

「――では、決まりだ。せいぜい楽しませてくれよ」

 

ザンキは再びダガー二本を選び、とっとと闘技場へ戻っていく。

一方、ラドラは歯軋りを立てて凄い形相をしていた――。

 



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第二十六話「ザンキという男」①

――古代ローマで剣闘士(グラディエーター)と呼ばれる戦士が見世物として戦いが行われた場所、闘技場(コロセウム)。

 

このマシーン・ランド内にも存在し、キャプテン含む各恐竜兵士の訓練や闘技、祭日に行われる儀式や興業、そして爬虫人類の一般人の娯楽の場として長い間使われている由緒正しき公共施設である。

 

だが、同時に興行として反乱分子や罪人同士をどちらかが死ぬまで剣闘させたり、恐竜や猛獣の餌食にさせる処刑場でもある。

 

地面にまかれたザラザラとした黒色の砂、そして壁や柱についた黒いシミはどれほどの死んでいった者の血を吸っているのだろうか――。

 

その場で、ラドラとザンキのキャプテン同士による真剣勝負(デュエル)が行われようとしていた。

 

 

「真剣勝負だと?」

 

「二人とも同意の上とのことで……危険な行為ですが本当によろしいのですか?」

 

「二人の同意ということならワシに止める権利などない。これはどちらが上か見物だな」

 

 

不敵な笑みを浮かべる彼は実際はかなり興奮している。

戦士としては非常に優秀なラドラ、そして武者修行から帰ってきた自信に溢れるザンキ……これほど血が湧き上がるカードマッチはなかった。

 

一方、闘技場の中心部に立つ二人はそれぞれ違う表情をしていた。

自信溢れるザンキは余裕そうに、そして挑発してきているかのように軽い笑みを浮かべている。

ダガー二本を二刀流に構えて軽いフットワークを行い戦闘体勢に入る。

 

一方でラドラは無表情であるが、ギラギラした視線をザンキだけに向けている。

彼は長剣(ロングソード)を両手持ちで構えて深く腰を構えている。

彼から伝わるは凄まじい威圧感と殺気、そして闘技に対する一点集中のみである。

 

(ラドラ……長剣の類の扱いに長けたキャプテンでかなりの腕前らしいが、さて――)

 

相変わらずザンキはそれを受けとめていても、肝が据わっているのか依然と余裕綽々である――。

 

「始めっ!」

 

審判からの開始の合図が響き、ついに勝負が始まる。瞬間、先に飛び出すはザンキ。

その驚異的な瞬発力と脚力で一瞬でラドラの元に辿り着き、ダガー二刀流による猛攻撃が始まる。

コマ回転をしながらその勢いからの振り込みを繰り出して反撃の隙を与えない。「ギギギィッ」と間もない刃同士が当たり火花が飛び散りラドラは剣刃で耐え凌ぎ、少しずつ後退していく――。

 

(そこだっ!)

 

彼は一歩後退して、タイミングを読んで長剣を縦に振り込み左手のダガーを見事当てて床に叩き落とした。

ザンキは回転を止めて瞬時に足で器用に落ちたダガーを拾い上げ彼も二歩後退する。

 

(さすがに固いな、だがまだまだこれからだ――)

 

今度はラドラは表情を変えずにゆっくりとじわじわ詰め寄り始める。

ザンキはフットワークを止めて右足に砂を被せている。

 

 

(お前のそのキレイ事に染まった御座敷剣法では俺には勝てないってことを教えてやる!)

 

なんと地中に被せた足に前に蹴り上げ、粉塵と化した砂をラドラに当てようとした。

が、同時にラドラはすでにそれが来ると予測しており素早く左にステップ。

 

しかし目の前にはザンキの姿がなかった。

 

「はっ!」

 

なんとすでに右斜め前に迫ったザンキはそのまま右回し蹴りを放つ、だがラドラも驚異的な反応でダッキングし回避。

 

(頭もらった!)

 

そこからザンキはダガー二本を突き立てて、重力に従ってラドラの脳天に突き刺そうとした。

 

しかし、ラドラは床に後転して刃の餌食になるのを避ける――。

 

……どちらも今のところ直撃はなく互いに気を凌ぎ合う攻防にゴールは二人の姿に興奮し、息を呑んでいた。

 

……一方、彼らが真剣勝負していることを聞きつけて徐々に闘技場に人が集まってくる。

 

「ラドラ様とバット将軍の甥のザンキ様が真剣勝負をしているとの話だ!」

 

「見に行こう、これほど観戦がいのある勝負はないぞ!」

 

自室にて専属教師の元で勉学に励むゴーラにも耳に入り、彼女は大慌てで外へ飛び出していった。

 

「まだ授業の途中ですよゴーラ様!」

 

「ごめんなさい!」

 

教師の制止を省みず、彼女は不安げな顔で駆け出した。

 

(……なぜ真剣勝負などと危ないことを……ラドラ様……っ)

 

もしも彼の身に何かあったら……不安な気持ちが少しずつ膨れ上がっていく。

 

彼女は闘技場にたどり着くとゴールの元に行かず、場外の一般観客席の上段ホールへ向かい、そこから闘技場を覗く。

 

「………………」

 

そこからまだ無傷であるが顔からもう疲労の色が見えているラドラと、一方で未だに余裕そうな顔でダガーをクルクル回すザンキ。

 

(くそ……身体が重い……っ)

 

数ヶ月間牢に入れられていた分のブランクが彼を苦しめていた。

 

(観客が集まってきたか。では彼らをより楽しませてやろう)

 

再び彼は突撃し、二刀流からの斬撃を行う。ラドラも剣刃と自分の反射能力を駆使したドッヂ、パリイ(回避、受け流し)しつつ隙をついて一閃の突き、振り下ろし、そしてなぎ払いで応戦する。だがどちらも攻撃が紙一重で当たらない。

 

「キンキン」と刃がぶつかる甲高い金属音が常に響く闘技場はこの非常に臨場感と熱気が込みあがる。

観客も時間を忘れて彼らの勝負を追い続け、そして見届ける。

 

(ではそろそろ終わりにするか――!)

 

ザンキは右のダガーを握りしめ、それを全力で投げつける。

それを強回転しながら豪速で飛ぶダガーを、素早いなぎ払いで吹き飛ばすラドラ。

そのダガーは強烈な勢いで場外の席に突き刺さった。だが幸い人のいない席だったので怪我人はなかった。

 

「!?」

 

だが再び間近に迫ったザンキが素早い突きを繰り出すが、ラドラは右側に逃げ込む。

 

(かかったな――!)

身が勢いに流れ、隙が出来たザンキかと思いきや、右に密接していたラドラの顔面に勢いを加えた強烈な頭突きが入った。

 

「ぐあっ!」

 

一瞬怯んだ彼へ、休む暇もなくそこで踏ん張りをつけて止まり、彼の胸に横一閃の斬撃を与えた。

 

「おおっ!!」

 

ついにザンキによる初の一撃が入り観客は声を上げた。

 

「ぐっ……!」

 

苦渋の顔で斬られた胸を押さえるラドラ。だが手加減されたのかそこまで深く斬られてはおらず、少量の出血で済んでいた。

彼は再び剣を両手で立ち構える。

 

(ラドラよ、お前の弱点は非情になり切れないところだ!)

ザンキは好機と言わんばかりに再び素早く懐に飛び込もうと駆け出す。

 

ラドラは動きを読んで剣を横に振り込み空を切るが、なんと当たる直前にザンキは地面をスライディングしてラドラに密接、続けて彼の左膝を深く突き刺した。

 

「があっ!!」

 

痛みのこもった声を上げる。手でぐっと押さえるも大量の血が溢れ出て――このままでは失血死してしまう。

「――終わりだ!」

 

ザンキはトドメを刺そうをダガーを持つ右手を引き上げる――だが、ラドラは立てないという危ない状態にも関わらず、息を大きくきらしながら剣を再びザンキに向けて構えたのだった。

 

(ほう、負けを認めるよりもキャプテンとしての死を選ぶか――それもよし!)

 

ダガーを彼の左肩へ目掛けて強く投げ込み、見事そこに突き刺さった。

 

「…………っ!」

 

悶絶するラドラに追い打ちをかけてそこから走り込み、先ほど斬った胸へ飛び蹴りを入れ――地面に叩きつけれて転がった……。

 

「ら、ラドラ……」

 

「ラドラ様……っ」

 

ゴール親子は彼の無惨な姿に唖然となっている。

 

ザンキはラドラの元へ行き、肩に刺さったダガーを引き抜く。

まだかろうじて息があるがもはや虫の息であった。

 

「残念だったなラドラよ。このまま惨めに負けて生きていくのも辛かろう――だから」

 

瞬間、ザンキの瞳に殺気がこもった。

 

「一思いで楽にしてやるよ」

 

彼はダガーを振り上げて、彼の心臓へ突き刺そうと落とした――その時、

 

 

「やめてええええーーーーっ!!!」

 

場外から金切り音のような女性の悲痛の叫びが聞こえ、ゴール、ザンキ、いやその場の全員がそこに注目する。そこには顔が真っ青となっているゴーラの姿が。

 

「ゴーラ様っ!?」

 

彼女はなりふり構わず場外から内野に入り、ラドラの元へ向かった。

 

「ゴーラ……なぜお前が……」

 

専属教師による授業を受けていたハズの彼女がそこにいることに驚いているゴール。

彼女は死にかけているラドラの元に駆けつけ、あたふたしながらも、血で汚れると分かりながら傷のひどい膝を両手でぐっと押さえた。

「だ、誰かラドラ様を医務室へ運んで、お願い!!」

 

必死で叫ぶ彼女にゴールはすぐに側近にラドラを迅速に医務室へ運ぶよう命令、彼は担架に載せられて急いで医務室へ運ばれていった――。ゴーラは彼に酷い目に合わせたザンキを軽蔑する眼で睨みつける。

だが本人はそれに対し、納得がいかなかった。

 

「……ゴーラ様、この真剣勝負は我々二人の同意の元へ行ったことなのですが――」

 

「……命を賭けた勝負は処刑や儀式など、よほどのことがない限り絶対禁止のはず。

ましてやキャプテン同士で……お父様本人からちゃんと許可をもらったのですか?」

 

「…………」

 

黙り込んでいるということはその辺りは曖昧なようである。

 

「ゴーラ………」

 

そこにゴールが駆けつけるも彼女は父親ですら、ぐっと睨みつける。

 

「……どういうことですお父様……彼はお父様から許可をもらわず行ったようですが、なぜ止めなかったのですか!」

 

「すまなかった……わしもここ最近の敗戦続きでもやもやしててな、だからついこのような素晴らしいキャプテン同士の試合に血をたぎらせてしまって周りが見えなくなっていた……不届きであった……」

 

「――それでもしどちらかが命を落としたら……現にラドラ様にあのような状態になって……もしもの時はどう責任をとるつもりですか……!

あなたもあなたでよくも許可を得てないのにこのような酷い行為を平気で行いましたね、恥を知りなさい!!」

 

ここまで怒っている彼女は今まで見たことは父親でさえなかった。

 

「みんなどうかしてる……こんな醜い戦争が始まってから……みんな、みんなおかしくなった!!」

そう言い捨ててラドラのいる医務室へ走り去っていくゴーラ。

 

「……ザンキよ、すまなかった。わしも反省すべき点があった――」

 

「………………」

 

「お前の実力は十分に分かった。後は身体を休めるがよい――」

 

ゴールは意気消沈しそこから去っていった。

観客も興醒めし、一斉にこの場からいなくなり一人取り残されたザンキの顔は怒の表情がこもり苛立っていた。

 

「くそおっ!!!」

 

彼はダガーを床に叩きつけ、不機嫌のままこの場を後にした。

……外に出るとすぐそこに二人の爬虫人類の男女が彼を待っていた。男は筋肉隆々の体躯を持ち朦々しい顔つき、女性の方は長く、そして美しいブロンド髪を持ち顔もレーヴェのように美しいが、見るものに寒気を負わせるようなほどの冷めた眼差しを持っている。

彼らもキャプテン特有の、それぞれ橙色の甲冑、女性用の緑色の軽鎧を着込んでいる。

 

「久々だなザンキ、素晴らしい戦いだったぜ」

 

「………………」

 

――男性の名はリューネス=メージェイシー。

女性の名はニャルム=ニ=モトゥギュニ。

二人ともザンキとほぼ同年代のキャプテンであるが、ただのキャプテンではない。

 

『ジュラシック・フォース』と言われる王族直属のよりすぐりの精鋭部隊で、彼の親しい旧友でもある。

「……相変わらず元気そうだな、お前らは」

 

不機嫌だった顔も笑顔に変わるザンキ。

 

「ザンキ……元気でなにより……」

 

「ニャルム、相変わらずの低いテンションで安心したぞ」

 

彼女の頭を優しく撫でてやると頭から突き出た長い耳が二つピクピクと激しく動く、それは基本的に無表情で冷めている彼女が嬉しいと感じた時にでる仕草だ。

 

「ところでクックはどうした?」

 

「今頃ラドラの野郎の所にいるだろうぜ、あいつらは親友だからな」

 

「………………」

 

「まあとりあえずどこか休める場所で話そうぜ。時間はたっぷりあるんだ」

 

――三人は揃って通路を歩いていく。誰もが彼らが通ると真っ先にどいて道を作る。それ程彼らの地位は高い証拠である。

三人はキャプテン専用の詰所に行き、ソファーに座りながら雑談をする。

 

「ゴーラ様、いやゴール様はなぜラドラのような奴を庇うのか――それが不思議でならない」

 

「ああそうだ、いけ好かねえヤロウだぜラドラは。

オレと同じ平民出のキャプテンなのにゴール様達の態度は明らかに違う」

 

「二度の敗北を喫しながら生かされているということは確実に情けをかけられているだろう。他の奴なら間違いなくチャンスなどないのになあ」

 

ラドラについての不満をぶちまける二人。

「あたしも……ラドラ嫌い……あいつマジメすぎて面白くない……」

 

ニャルムまでも割り込むようにそう言う。

ラドラを快く思わない者も多い、その理由の殆どはこの三人の今言ったことが答えである。

 

「ザンキはこの後どうするんだ?」

 

「まず身の回りの整理してオジキに顔出しして、後はゴール様から指示を待つしかないな」

 

「お前もジュラシック・フォースに加入しないかな……今世界の戦況が変わりつつあるから俺達の出番がいずれ来る。お前がいれば鬼に金棒なんだがな――」

 

「あたしも……それがいい……」

 

……三人を時間を忘れ楽しく雑談をする。

すると、ザンキはニャルムをふと見る。ウィンクすると彼女は何も言わずコクっと頷くが、何かの合図なのか――。

 



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第二十六話「ザンキという男」②

ラドラは医務室に搬送され、輸血と手術が始まる。

外ではゴーラは彼の無事をただ一心に祈っている。

 

「ゴーラ様、あなたもラドラが心配で……」

 

一人の男性もそこにやってくる。黒色の甲冑を着込み、角のような二つの物体が頭の後ろに突き出るという風変わりな形状の頭部をしている。

 

「クック様……」

 

 

ユバハ=ギ=クック。

 

彼も『ジュラシック・フォース』のメンバーであり、そして貴族でありながらラドラの数少ない理解者であり、親友である。

 

「ずっとこのまま立っているのもなんでしょう、とりあえず待合室のソファーにでも座りませんか」

二人は待合室のソファーに座る。

 

「ザンキのヤツ……おそらくはラドラを挑発したな」

 

「挑発……?」

 

「真相は分かりませんが掟を尊重し、必要時以外の無駄な闘いを嫌うラドラが真剣勝負を簡単に同意するとは思えない。

恐らくザンキが彼をけしかけたんでしょう、父のリージ様の悪口か何かを言って――」

 

「そ、それは何故ですか?なぜラドラ様がそんなことをされなければ……」

 

「下級兵士からはどうか分からないが、ラドラはほとんどのキャプテンから嫌われている。

『平民出のくせになぜゴール様達王族からあれほどの寵愛を受けるのか、なぜ我々と比べて接し方があからさまに違うのか、これは差別、贔屓だ』と――」

 

 

 

全く知らなかった彼女はその事実を聞いて凍りついた。なぜなら自分でもそれが思い当たることが沢山あるからだ。

 

「ジュラシック・フォースもメンバー全員がラドラを快く思っていない。

ザンキはリューネスとニャルムの旧友であり、親友ですから同じ考えを持っていてもおかしくないでしょう」

 

「…………」

 

思い当たるどころか完全にそうだ、他のキャプテンに比べてラドラにだけは自分や父親の、彼への態度が甘かった。

何も反論できず、節が思い浮かぶたびに重い石のようなものが彼女の心に負担を掛けて痛くなる――。

 

「……ゴーラ様、もし傷ついたのなら申し訳ありません」

 

 

 

 

「い、いえ……っ思い当たることばかりで私は何も言えません……」

 

「ゴーラ様、なぜあなた達はそれほどまでに彼を?」

 

「そ……それは………っ」

 

「ラドラは自分だけ特別扱いされていることに負い目を感じているのでは――もし彼を大切に思うなら、それから解放してあげるべきだと思います」

 

「…………」

 

「これは彼の友人からの頼みです、どうかラドラを救ってください」

 

クックに諭され、彼女から涙がポタポタ落ちていた。彼はハンカチのような布を取り出して彼女に渡した。

 

「これで涙をお拭き下さい」

 

「すいません……最近泣いてばかりで……自分が情けないです……」

 

クックもまた優秀なキャプテンであるが、ラドラのように優しかった。だから彼と気が合うのだろう。

すると彼から「ピピッ」と高い機械音がなる。

腰に提げた通信機を取る、受信ボタンを押す。

 

“こちらリューネス、ゴール様がジュラシック・フォースに集合をかけている。ただちにこい”

 

「……分かった。今行く」

 

通信を切ると、彼はゴーラへ丁寧に頭を下げる。

 

「ゴール様が私達をお呼びになられましたので失礼します――」

 

彼は去ろうとした時、ゴーラに呼び止められる。

 

 

「本当にありがとうございます、クック様……」

 

彼女も彼へ丁寧にお辞儀する。彼は優しい笑みで微笑んで去っていった――。

 

クックは王の間に入るとすでにリューネス、ニャルム、そしてあの男ザンキの姿が。

 

「よおクック。辛気くさい顔しやがって……親友のために祈ってたのか」

 

「ザンキ……なんでお前が?」

 

「さあな?」

 

全員が揃うとすぐに玉座の後ろからゴールの姿が現れ、全員が彼の前に伏せて膝を立てる。

 

「ジュラシック・フォース、そしてキャプテン・ザンキの全員が揃いました」

 

 

「うむ。ザンキよ、そなたの腕前は素晴らしかったぞ、さすがはバットの誇る優秀な甥だな」

 

「お誉めの言葉、有り難き存じます」

 

「……ラドラについては非常に残念であった。わしも深く反省しこれからこのようなことがないよう自身の肝に銘じておく。

だがこれも結果、ザンキの武勇はラドラよりも上だったこと。

これを高く評価し、キャプテン・ザンキを今より『ジュラシック・フォース』に加入することにする、他の者に異論は?」

 

「私キャプテン・リューネスは異論などございません」

 

「……キャプテン・ニャルム……異論なし……でございます」

 

この二人は当然嬉しがっているように見えるが、クックただ一人は無表情で何を思っているか分からない。

「キャプテン・クック、そなたは?」

 

「……ゴール様がお決めになられたのなら異論などございません」

 

「では全員が賛同ということで只今よりキャプテン・ザンキは『ジュラシック・フォース』の一員として認定する、彼らと仲良くな」

 

「はっ、誠にありがとうございます」

 

ついに『ジュラシック・フォース』の加入が決まったザンキはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「今すぐにではないが近い内、そなた達にはシベリア地区の第二恐竜大隊と合流し傘下に入ってもらう、バットも甥のそなたと仲間を喜んで歓迎すると言っておった。

 

『ジュラシック・フォース』は精鋭であり遊撃隊でもある。思う存分力を奮うがよい」

 

「了解しました。しかし、今すぐにではないというのは?」

 

「ガレリー率いる精鋭開発チームがそなた達のために専用のメカザウルス開発に着手しておる。

各人の得意分野に合わせて単機で戦況を覆すほどの性能を持つ機体を造るそうだ、ガレリーは全員の意見や要望を取り入れて開発したいとのこと。

それもあり、各機が完成してからの移動となる」

 

自分達に専用メカザウルスが授与される……全員が興奮で震えあがる。

 

「……第十三海竜、第十二恐竜中隊が壊滅し日本地区はサルの手に渡った。

もう容赦はせぬ、そなたらジュラシック・フォースの力で奴らの殲滅を徹底的に行え、頼むぞ!」

“御意!”

 

話が終わり王の間から出た彼らは、ザンキ、リューネス、ニャルムが連れ合う中、クックだけは三人と離れて去っていく。

 

「クック……相変わらずノリが悪いな」

 

「気にすんな。あいつは頭おかしいんだ。それよりもお前の加入を祝って酒場で飲もうぜ」

 

「……あたしもいっぱい飲む……」

 

「ああっ」

 

三人は仲良く雑談しながら歩いていった。

 

「…………」

 

数時間、無事手術が成功し病室のベッドで眠っていた彼が目を覚ます。

ゆっくりと目を開けて横を見るとゴーラがいた。

 

「ラドラ様!」

 

「……ゴーラ様、私は生きているのですか……」

 

 

「はい。医務官の話ではもう少し輸血が遅れていれば失血死していたと言われました……本当によかった……」

 

「…………」

 

彼は起き上がろうとするも、彼女に止められる。

 

「いけません、あなたは重傷なんですよ!」

 

「私は……ザンキ殿に負けた……」

 

そう呟く彼に彼女は首を横に振る。

 

「いえ、正式でもないあの試合で負けとはいえません」

 

「しかし……あれは実力で……」

 

「そもそも……ラドラ様を挑発して真剣勝負に持ち込ませたのはあのザンキ様と言う話ではないですか……なんて卑怯な……」

「なぜそれを……」

 

知る理由を彼女から聞くと彼は深くため息をつく。

 

「クックめ……そんな余計なことを……」

 

「なぜそんなことを言うのですか?クック様はあなたの為に言ってくれたのですよ」

 

「……クックが私を庇護することで、あいつ自身の立場が悪くなるのではと思いまして」

 

「え……?」

 

「私自身、周りからよく思われていないのは承知です。

だからこそ、私を庇おうとするクックも周りから悪く思われて……自分と同じ思いをするかもしれない。

……私はそれがいやだ、大切な友人を巻き添えにしたくない」

 

自分のせいで友達にまで迷惑をかけたくない……ラドラらしい発言である。

 

「ラドラ様……お父様や私のあなたへの接し方は……正直迷惑になっていますよね……」

 

「…………」

 

彼は何も答えない――だが、彼は逆に彼女へこう質問した。

「……ゴーラ様」

 

「なんでしょうか?」

 

「なぜ私の父はゴール様にあれほどまでに気に入られていたのですか?

確かに父はキャプテンでありゴール様の側近の一人でしたが、とはいえ一介の平民出です。

なのに周りと比べて明らかに態度は違っていた……それでは私達が疎ましく思われても仕方ありません」

 

彼女はその質問にこう答えた。

 

「……私はお父様からこう聞かされました。

あなたのお父上であるリージ様は自身の本音を言える、腹を割って話せる人間だと――」

 

……彼女は二人の父の関係について話す。

 

「王族、とりわけ帝王になると内政や国営の調整、そして法王としての役目もあるので精神的負担が凄まじく、お父様は精神安定剤をほとんど毎日服用していたほどです。

それもあってかお父様は……普段は優しい顔でふりまいていても内心は誰一人として信用できないのです。

誰でも裏の顔があり恨まれて、裏切りや暗殺を恐れて……お母様も私が物心つく前に亡くなられて支えになる者がいなかったのです」

 

ゴールの人間的な弱さを聞かされて驚くラドラ。

 

「それにこんなことも聞かされました。下級兵士の見本となり、そして指揮する立場であるキャプテンになる者が最近では若い者ばかりで、能力はともかく礼儀はろくにできず品性の質が落ちていると。

これも時代のせいだとも言って、帝国の体制、いや爬虫人類の風潮が変わりつつあると嘆いていました」

 

「……確かに、私も人のことは言えぬが最近は私と年の同じ者達がキャプテンになっている。

ザンキ殿は私より年上だが全然離れていないし、クックに至っては私より年下だ……」

 

「……お父様は精神的な疲れから来る愚痴や弱音を毎日側近のリージ様にぶつけても嫌がらず、むしろ諭したり慰めてくれて、自分の心の支えになってくれたそうです。

リージ様は信念を持ち、気高く且つ良識的で――そしてお父様を心から仕え、そして愛してくれた。

だからお父様はリージ様と親密だったのです。他の誰よりも……心から愛していた」

 

 

「…………」

 

「リージ様も周りから疎ましく思われていたこともありましたが、だからと言って反論せず寧ろ正面から受け止めていました。

その曇りなき誠実さ……ラドラ様、あなたにもリージ様と同じ血が受け継がれているのです。

お父様はリージ様と瓜二つで、今の若い者にはない堅実さに大変気に入り、だから信用して私の遊び相手を任せてくれた……」

 

「そうだったのですか……」

 

するとゴーラはラドラの手をギュッと握り締め、暖かな笑みを彼に見せた。

 

「ラドラ様、私もそんなあなたが誰よりも好きです……」

 

彼女からの告白に彼は嬉しがるどころか、暗い顔を落とす。

 

「ゴーラ様……こんな惨めな男に何を言われるのです……」

 

「いえ……私は心の底からあなたを愛しています。

だからこそ、私はあなたの味方であり続けたいんです。たとえここ、いや世界があなたの敵になっても」

 

ラドラの瞳は潤み、身震いしている。

 

「……誠に申し訳ないですが、少し席を外していただけませんか……」

 

彼女は言うとおりにこの場から出て行くと彼は顔を布団に伏せて静かに泣き出した――。

全ての真実と父親に対する誇らしさ、そして彼女の言ってくれた自分に対する思い……彼の胸に言葉では言い表せないほどの嬉しさで満たされていた。

 

 

(父さん……俺はこれほどあなたの息子でよかったと……思ったことはありません……っ、本当にありがとうございます……っ)

 

彼は心から天国にいる父リージへ精一杯の感謝をするのであった――。

 

――その夜、貴族住居区域のとある一室では……。

 

「んふ………………キモチイ……」

 

ベッド上で裸同士で行為に及ぶ二人の男女――甘い淫らな喘ぎ声が聞こえる。

誰の声なのか――ニャルムである。

 

「ニャルム……相変わらずやっぱりお前の身体は最高だぜ……」

 

「……ザンキも……あたし……うれしい……あん……いいよ……そこ……っ」

ザンキとニャルムの二人は激しく精を尽くしていた――。

 

「……ニャルムは口がウマいな……気持ちいいぜ……」

 

彼の『モノ』を咥えて巧みに動かす彼女――。

 

「やあん……はずかしい……」

 

「お前に礼をするぜ……気持ちよくしてやるからな……」

 

今度は彼女の『アレ』を優しく広げ、中を舌でねっとり舐めて彼女は悶えて何とも言えぬ絶頂を味わっている。

 

「……ザンキ……すき……」

 

「……俺もお前が好きだ……」

 

……この二人は肉体関係を持っており、修業前もよくこの行為に及んでいた――それも久々なのか二人はその間の埋め合わせをするかの如く激しく行っていた。

四つん這いになった彼女の後ろで腰を前後に振るザンキはもう絶頂はそこまできていた――。

 

 

 

「…………っ」

 

動きは止まり、しばらくそのまま硬直する二人の顔はやり終えたような満足げの顔だ――。

その後、ベッドに寝ころぶ二人は静かに雑談していた。

 

「なあニャルム、俺はキャプテンという立場には満足していない。

最近キャプテンという肩書きだけが溢れかえっているこんな現状ではあってもなくても一緒だ」

 

「……ザンキは……どこまでいくの……」

 

「一応の目標はオジキのバット将軍の位だ。

帝王にもなりたいが王族にしかなれん決まりだ……法律が変わればいいんだが」

 

「……けど……将軍までの道のり……かなり険しい……」

 

「いや、簡単になれる方法があるんだよなこれが……」

 

「え……なに……?」

 

「それはな――」

 

……彼女に怪しい言葉を吹きかける。しかし彼女はあっと驚く。

 

「あぶない……ミスをしたらどうする……」

 

「大丈夫だ。要領のいい俺だからこそ成せることだ」

 

「……そんなにうまくいくのか……」

 

「俺に任せとけ。もしなれたらリューネスやお前の立場は絶対だぞ――」

 

「うん……あたし……ザンキ信じる……」

 

「ありがとよっ」

 

……何やら怪しい話をしているが、果たして――。

 



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第二十七話「世界へ――前編」①

――勝ったはずなのに僕の心の中に穴が空いている。

耐え難い現実なのになぜか悲しむ気にもなれない――そんな自分が気持ち悪い。

一体僕はどうしてしまったんだ。

 

あやふやな気持ちに翻弄されて時間は過ぎていくだけだ――。

 

……ステルヴァーチーム率いる米軍部隊は今作戦が終結して休む間もなく本国に戻っていった。

ちなみにニールセンは戦闘開始前に本国に戻っており、本当にゲッターロボを見にきただけであったようだ。

 

……ゲッターチーム、ステルヴァーチームは勝利の祝いとこれからの健闘、そして友情を誓っての意味を込めて握手する。

しかし彼らの表情は造り笑顔でかなり無理をしていた――しかしステルヴァーチームも彼らの心情を考えれば仕方がないと――三人も気を使う。

 

そして彼らはエンジン音が鳴り響く各ステルヴァー機に乗り込もうとした時、ジョナサンは振り向き右手を高らかに突き上げ、英語でこう叫んだ。

 

「……本国(アメリカ)で待ってるからなっ!!」

 

――エミリアから彼らが帰っていった後で訳してもらった。

 

「アメリカで待ってる」

 

それは僕らへのこれからの道標を示してくれているのか、それとも更なる地獄への招待か――。

 

……数日後。しばらくの休養を与えられた三人だったが、ほとんど無気力となっており部屋から外に出ることが少なくなっていた。

 

「リュウト……前に二人で言ってたよね、「恐竜と仲良く暮らせたらいいな」って――。

けど……アタシもうそれがわからなくなったよ」

 

竜斗はエミリアのことが心配で部屋へ訪れた時、彼女はイスに座りながらこちらも見ずに頭を押さえていた。

 

「エミリア……」

 

「アタシ……もう許さない……アイリやミキ、お父さん達、日本の人々をあんな惨いことをしたアイツらを……絶対に許さない、許すもんか!!」

 

彼女はデスクに怒りを拳に乗せて叩きつけ、そのまま崩れるように顔を伏せて静かに泣き出した――。

 

「ゴメン、悪いけど今は一人にさせて……っ」

 

……彼女の心は爬虫人類に対する憎しみで染まっており、もう『共存』という甘い理想はもはや消えかかっていた。

 

 

竜斗は静かに部屋を出るとちょうどそこに愛美と出会う。

 

「水樹……」

 

「…………」

 

――二人は一緒に通路をあてもなく歩いていく。

 

「……水樹は大丈夫?」

 

「まあめっちゃ泣いたし、現実を受け入れたからなんとかね――」

 

あれだけ慟哭していた愛美は、あれから落ち込んでいると思っていたが意外にもしっかり気を持ち毅然としていた。

 

「それよりもイシカワ自身はどうなのよ?」

 

「お、俺……?」

 

「アンタさ、友達や親を亡くしたのに全然泣いたりしてなくない?」

 

「うん……確かに悲しいのになぜか泣けないんだ。どうしようもないくらいに無気力だけど……なんだか素直に悲しめない俺自身がなんか気持ち悪い……」

 

――すると、

 

「石川はえらいね」

 

「えっ?」

 

「エミリアとマナはあの戦いの最中、結構取り乱して泣いたのにアンタだけは最後まで冷静だった――イシカワってそんなにココロ強かったっけ?」

 

「う……ん……なんでだろう、けどリーダーの俺が取り乱したらダメだと思ってたから……」

 

それを聞いた彼女はクスッと笑った。

 

「やっぱりアンタはリーダーに向いてるかもね。これからもちゃんとよろしくね、頼りにしてるから」

 

「水樹……」

 

――頼りにしている。前まで僕をいじめていたあの水樹からそう言われるなんて、嬉しいと素直に感じるし本人も変わったなと感心する。

だが本当に僕はチームリーダーとして向いているのか、リーダーとしてやっていけるのか……不安なこともある。

しかし、なったからには、と使命、責任感もちゃんとある。

……リーダーなんて面倒な役は昔の自分なら絶対に嫌だと拒否していたと思う。知らない間に自身が成長していた、ということだろうか――。

 

「あの子達、どうするんですかね……っ」

 

――司令室では休む暇もなく、平然と仕事用パソコンで今戦闘における報告書の作成をしている早乙女に対し、マリアは三人について心配で仕事が全く手につかない。

 

「どうするにも何も、ツラくても生きていかなくてはならないんだ。戦争が終わった後は三人については国が保障してくれるし、彼らには地元に友達がいる。心配ないよ。

今はそんなことよりも今戦闘の報告書の作成や機体の修理、失った水樹の新機体の開発設計……溜まった仕事を終わらせることが大事だ」

 

彼らの事よりも仕事優先で淡々と語る早乙女。だが、マリアは彼の『態度』に今回は我慢ならなくなっていた。

 

「……司令は本当に冷血そのものですね。あなたには思いやる気持ちなど微塵もないということですか……?」

 

瞬間、早乙女の手が止まりギロッとした睨みの視線が彼女に向けられる。

 

「マリア……」

 

「両親や友人を助けられなかったんですよ……彼らは今、どんな状態か分かりますか?

一見大丈夫そうに見えて、実際は無気力状態でこれから戦うこともままならなくなる可能性もあります」

「人間そんなにヤワじゃないし、現に彼らは今回の戦い、いや今まで色々あったがちゃんと乗り越えてきたじゃないか。

そんな彼らならこれからも心配ないさ、そうじゃなければそれ以前の戦闘でとっくの間に死んでる」

 

「そうやって毎回自分サイドで物事を決めつけないで下さい!」

 

自論、反論ばかりが飛び交い如何せん水掛け理論状態に陥る二人。

 

「こんなに感情的になるなんて、カウンセラーの君にしては心外だな。

では君は彼らに何をどうしてあげたいんだ?」

 

彼女は思い詰めた表情だった。その真剣そのものの眼で早乙女を見据える。

 

「私が……あの子達の母親になることだって出来ます」

 

 

「……気持ちだけ母親代わりということか?」

 

「いえ、正真正銘の母親……義母になるということです。あの子達を養子として取ることになりますが……」

 

「なに……?」

 

彼女がとんでもない発言をして彼は呆気をとられる。

 

 

「……マリア、バカなことを言うな。君らしくないぞ」

 

「私は本気です、日本国籍を取って帰化することも辞さない覚悟でいます。

彼らに今必要なのは心の拠り所なんです、でないと彼らはいずれ支えを失って崩れてしまいかねません」

 

「バカな……君は簡単に母親になると言うが、いきなり彼らに「母親になる」と言って、幼い子供ならともかくあの年頃の三人は君を義母として受け入れられると思うか?

そもそも君は子供を育てたことはあるのか?親については友人や知人に任せたほうが――」

 

「今までカウンセリングを行ってきた私が一番彼らを知っていますし、今は無理でも、これからは今まで以上に積極的に接して少しずつでも親交を深めていきます……もし叶うならこれからはどんな苦難があろうと神に誓って耐えて、乗り越えます。

 

いずれにしても、ここまで関わってしまった彼らを絶対に放っておきたくありません、救いたいんです!

こんな酷い運命に乗せられた彼らをいっぱい甘えさせてあげたい、心から慰めて抱いてあげたい――私の母性がそう叫んでいるんです!」

 

「………………」

 

全てをぶちまけて息切れしている彼女に彼はため息をついた。

 

「……マリア、私の非常識な面が少しうつったか?」

 

「おそらく……あなたのせいで私まで被害を受けてます、責任とってくれますか?」

 

「イヤだね」

 

――二人はクスッと笑った。

 

「マリア、いつからそんな考えが?」

 

「彼らと過ごすうちに……」

 

 

前に黒田も言っていた、彼女には母性があるとは言っていたがまさかここまで強いとは……彼自身も驚いていた。

 

「もしも拒絶されたらどうするんだ?」

「その時はどうしようもないことだと割り切ります、そもそもこんな考え自体が異端ですから」

「……確かに君は人の痛みが分かるし、何でも出来る才女だから手続きやそれからのことは特に心配はしていない。

だがもしも仮に義母になれたとしよう、そうなれば君は自分のこれから歩むはずだった人生を捨てることになるんだぞ。いいのか?」

 

「いいんです、私はもしそれが叶えば三人と共に喜びと楽しみ、怒り悲しみを背負いそして味わっていきます――それが私の出来る彼らへの最大の救済ですし、彼らが元気で生きていくことが私の最大の幸せです」

 

……竜斗の義母になるということはこれからは赤の他人でなくなり、三人の事情に全て関係を持つことになるためこれほど重いことはない。

正直、正気の沙汰とは思えないがそこまで覚悟を決めているなら彼はもう何も言えなかった。

「では私はもう君に何も言うまい。いけるところまでやってみるがいい」

 

「ありがとうございます。すいませんが外で少し頭の熱を冷ましてきます」

 

彼女は出て行くと……彼はイスにもたれかかりもう一度溜め息をつく。

 

(マリアがまさかあんなことを口走るとはな……)

 

彼はふとあの人物を思い出す

 

「聖母マリア」。

 

もしかしたら彼女の生まれ変わりなのかもしれない――もちろん冗談でそう思った。

 

 

(……冷血ね)

 

彼は最初に言われた指摘を思い出す。

普段ならこんな屁でもない、気にしない言葉なのだが今回は何故か頭に残っていたのだ――。

――その夜、ベルクラスの右甲板上端の手すりで一人黄昏ている竜斗の元に早乙女がやってくる。

彼は暗い顔を落としてただ先の見える無機質な金属で出来た空間をずっと見続けていた。

 

「司令……」

 

彼は隣に行き、背を手すりへもたれ、疲れからかのんきに欠伸をかく。

 

「気分はどうだ?」

 

「……それがよく分からないんです。

両親がもういないのが全然現実的じゃなくて……正直受け入れようとしているんですが……」

 

「そういえば君は全く泣かなかったな、キツくないのか?」

 

「なんか……もうワケがわかりません。確かにすごく悲しい、けど泣けないんです……リーダーの僕が泣いたらダメだとずっと思っていたら――なんか泣けなくなっていました……」

 

「そうか。確かにエラいにはエラいが、正直心の中ははちきれそうでたまらないだろう」

 

「…………」

 

 

……すると早乙女は竜斗の方へ向き、こう言った。

 

「……胸貸してやろうか?」

 

「え……?」

 

「今私達以外ここには誰もいないし、もし泣きたい気持ちがあるなら私の胸を貸してやる。男ですまんがな」

 

「………………」

 

彼は一時悩むも、考えた末頷く。

 

「……胸、貸して下さい――」

 

……竜斗はメガネを外して早乙女のそばに詰め寄り、彼の胸におでこをつけるが全然涙が込みあがってこない――すると。

 

「辛かっただろ竜斗……」

 

早乙女は右手で竜斗の頭を優しく撫でてやる。早乙女からは信じられない行動だが、その頭を撫でられる感触は……自分の父親のようにも思えてくるのだった。すると、彼の知らず知らずの内に大粒の涙が込みあがっており、すぐにポタポタと床に落ちていく――。

 

 

(と、父さん……母さん……っっ)

 

彼が嗚咽し出すのはすぐであった。今まで溜まりに溜まった悲しみが決壊して溢れかえり、全く止まらない――だが、それも無くなっていき心が軽くなっていく――。

早乙女の黒色スーツに彼の涙がいっぱいつき、吸っていくも彼は嫌がらず竜斗に思う存分泣かせるのであった――。

 

――いっぱい泣いた竜斗は、泣きはらした顔だが笑顔を取り戻す。

 

「司令……ありがとうございます。あとスーツを汚してしまってどうもすいません」

 

「別にいいよ、安物だし。それに――」

 

「それに?」

 

「このスーツ、最近洗ってなかったからクリーニング出すとこだったし――」

 

――そう言えばなんか臭かったような気がする……それを聞いた竜斗は一気に興ざめした。

 

「ハハハ、すまんなっ!」

 

全く反省すらしていない早乙女だが、竜斗は「まあ司令らしい」と納得、安心した。

 

「なあ竜斗、君達はもしこの戦争が終わったらどうする?」

 

 

「……どうする……とは?」

 

「誰か君達を引き取ってくれる人はいるのか、ということだ。

君達は戦争が終われば国から生活を保障されるが、もし誰か親戚など引き取り主がいるのならそれを選んでもかまわない――」

 

「………………」

 

そう言えば彼はそれを考えたことなどなかった。

親戚……自分の親と親戚の仲は、結構摩擦が起こっていて良いとは言えないし、エミリアは親戚の元へ行くなら日本を離れることになるが、彼女の性格なら絶対に日本に残ると言い張るだろう――愛美は……どうするんだろうか?

 

ともかく、まだそれについては全く決まってないのは確かである。

 

「……君の悩みようを見ると決まってないようだな」

 

「はい……っ」

 

「そうか分かった、それを聞きたかったんだ」

 

早乙女はそれを聞いて、まるで嬉しがるように口笛を軽く吹きながら竜斗から去っていった――。

 

「…………?」

 

彼はそんな早乙女に不思議がって頭を傾げるのであった。

 



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第二十七話「世界へ――前編」②

……今日の仕事が一段落ついたマリアは、駐屯地外にあるアパートに帰宅し、私服に着替えて食事の支度をしていた。

コンロの鍋にはすでにお湯の煮だっており、湯気が上がっており、冷蔵庫からニンジン、キャベツ、ジャガイモなどの色とりどりの野菜を取り出し、トントンと器用にキレイな形で切っている。

 

(私らしくないわね……今考えるとよくあんなことを切りだせたと思うわ……)

 

――正直、馬鹿な決意をしてしまったと思う彼女。

あの時は竜斗達の心配からか、頭に血が上り感情的になってしまった。

早乙女から言われた通り、カウンセリングをする者としては失態である。

 

「っ……」

 

 

考える余り、手を滑らせて包丁で指を切ってしまった。とっさに血を舐めて水洗いし、救急箱から絆創膏を取り出して傷に巻きつける。

 

 

(あたしとしたことが……)

 

悩みをかき消そうと頭をブンブン横に振った。

 

(けど、言い出したからにはやらなければ……たとえこの先どれだけの苦難があっても……あの子達を少しでも救えれば……っ)

 

竜斗達のことを一心に思う彼女は、今までにない決意の表していた。

 

……生まれてから、ある意味『レール』に沿って生きてきたマリア。

英才教育に受け、真面目に取り組み、そして家の名誉のために勉学も励んで今の地位にまで辿り着いた彼女がそのレールから外れようとしている。

イギリスの名家出身でもある彼女が、日本という島国の、さらに孤児となった三人の一般の子の義母になり、そして彼らのために母国を捨てて日本に帰化すると、両親が知るとどれほど面食らうのであろうか。

絶対に猛反対されるだろうし、最悪勘当されて縁を切られるだろう――彼女がそれを覚悟してまでの人生最大の決意だった。

 

棚に飾る両親の写真を見つめ、手を組み合い、一心に祈る。

 

(お父さん、お母さん……どうかこんなバカな娘をお許し下さい。

しかし、これで彼らを救えるなら私はどうなろうと構いません――そして、神よ、あの子達にご加護を……)

 

そして神に対して指で十字を切るのであった。

 

 

――次の日、マリアはいつも通り三人のカウンセリングを行い今の心境などを聞き、記録している。

 

(……確かに司令のいうとおり、そこまで深刻な状態ではないようだけど――)

 

彼女も意外な彼らの心の強さに感心するが、問題はここからである。

 

(親交を深めるとは言っても、どうしよう……)

 

――彼女は悩む。彼らに「母親として」どう接すればいいか。

今までは仕事上と上の立場として竜斗達と接してきたし、そこからの優しさはあった。

ただ、母親としてとなると、今までのやり方とは全くの別物と考えた方がいい。

子供の気持ちなどは親にしか分からないし、逆もしかり。

そもそも、エミリアはどうかは分からないが竜斗と愛美は生粋の日本人で互いに育ってきた文化や宗教が違う――それらをどう克服するか。

確かに国際結婚のように国の違う者が結婚し暮らすことはよくあるが、マリアの場合は養子という珍しいパターンである。

日本で暮らし、父親もいないし恐らくシングルマザーになるであろう自分に果たして周りから祝福されるのだろうか、そして肝心の竜斗達が自分の子供になることで本当に幸せになれるのであろうか――。

 

それ以前に、自分が母親になるとどのタイミングで言えばいいのかも悩む。

小さな子ならともかく、もう成人に近い彼らにいきなり宣言して錯乱、パニックに陥らせる訳にはいかない――。

 

 

悩みが頭の中をグルグル回り、頭痛を発する。

正直に言って拒絶してくれた方がよっぽど楽かもしれないし、やめようかともすぐに思う。

しかし、早乙女に向かってあんなに力説し、そして「神に誓って」とまで言い張ったのだからやめる訳にはいかない。

 

 

(ああっ、これ以上悩んでても仕方ないわ!それよりもこれからどうするかよ……)

 

まず三人とどこか出掛けて親交を深めるか、何かプレゼントするか……まず自分の全てを知ってもらいたいと色々と考える――そして悩んだ末、これに決めた。

 

彼女はとある部屋のドアをノックし、待つ。

ドアが開くとエミリアがのっそりと姿を現す。

「……マリアさん」

 

「エミリアちゃん、あなた料理が得意らしいわね、実はお願いがあるのよ――」

 

そして今度は愛美の部屋に訪れる。同じようにドアをノックするとすぐに彼女が出てくる。

 

「マリアさん、どうしたの?」

 

「マナミちゃんは料理が得意?」

 

「料理?いえ、したことないですけどどうしたんですか?」

 

「あのね――」

 

二人に何かをお願いする彼女。それから二日後の休日の午前中。

竜斗、エミリア、愛美の三人は私服に着替えて地上エレベーターの入り口付近で待っていると一台のオレンジ色の軽自動車が目の前に止まる。窓が開くと運転席に座るマリアが手を振っているが見え、すぐに彼らは車に乗り込む。

「これがマリアさんのマイカーですか?」

 

「ええっ、狭いけどガマンしてね」

 

警衛に外出許可証を見せて駐屯地を出る四人。

 

「みんなどこ行きたい?」

 

すると愛美が真っ先に手を上げる。

 

「マナ服見たいから街に行きませんか?」

 

「いいわねえ。みんなは?」

 

「じゃあアタシは本屋に行きたい、あとぬいぐるみ用と服飾用の生地が欲しいです!」

 

「ならマナも新しいマムチューぬいぐるみ入ったらしいそれ見てきたい!それから新しいクッションと枕も欲しいし、あとネイルも!」

 

「じゃあアタシは――」

 

「僕は……」

女子二人の主張と意見ばかりの中で、ただ一人男で戸惑う竜斗に二人とも「あっ……」と気づいてしまう。

 

「竜斗君、あなたの行きたいところもちゃんと行ってあげるから。

今日は私にいっぱい甘えていいのよ」

 

「……じゃあ、欲しいパソコンあるから家電店に!」

 

「分かったわ。じゃあどっちから先に行く?」

 

四人で決め合った結果、竜斗の方から先に行き、その後街に行くことにした。

 

「にしてもマリアさん、今日みんなでお出かけしようとかどうしたんですか?」

 

「……三人とも今までヒドい目にあってきたからね。私から何か出来ないかなと思って。

今日は嫌なことを忘れて楽しみましょう、みんな!」

 

張り切るマリアに対して不思議になる三人。

 

――そして家電店につき、店内に入っていく。

竜斗はパソコンコーナーへ行き、見回る。途中で足を止めてテーブル台に無数置かれたパソコンの一つに注目する。

 

「竜斗君、もしかして欲しいパソコンはそれ?」

 

「はい……けど……っ」

 

彼は値段を見ると溜め息をつく。

 

「足りないの?」

 

彼は自分の財布の中身を確認する。するとやはり落ち込む。

 

「今まで欲しくては少しずつ貯めてたんですけど……やはり足りません。けどしょうがないですね」

――だが、

 

「よければあたし、半分出してあげるわよ」

 

「えっ!」

 

彼女の申し出に当然彼は慌てふためく。

「い、いえいえそんな失礼なこと――!」

 

「竜斗君はこれまで一番頑張ってたんだから、これくらいするわよ。全部有り金使ったんじゃこの後困るでしょ。全額は無理だけど半分なら出せるわ」

 

「けど……」

 

好意としても、半分出すとしても十万近い金額であり、凄く気が引ける。彼は困惑する。

 

「いったじゃない、今日は思いっきり甘えていいって。

大人の親切は素直に受け取るものよっ」

 

「………………」

 

結局半分出してもらうことになり、それでついに購入するが当然負い目を感じてしまう竜斗。

精算が済み、後送の為の手続きを書き終えるとそこに他のコーナーに回っていたエミリア達が駆けつける。

 

「リュウト買ったのそれっ?」

 

「うん……」

 

「どうしたの?買った割に全然嬉しそうな顔してないけど」

 

「……マリアさんが半分お金を出してくれたんだ」

 

それを聞いた二人は「ええーっ?」と声を同時に上げる。

 

「ウソ……いいなあ……」

 

「マリアさん石川だけズルい!」

 

「あなた達も何か欲しい服あったらよほど高くない限り一着二着でも買ってあげるわよ」

 

「えっ、ホント!?」

 

愛美は飛び上がるほど喜ぶがエミリアだけあ然となっている。

 

「マリアさん……いいんですかホントに……?」

 

「お金のことなら心配しないで。

これも今まで頑張ったあなた達へのご褒美でもあるんだから――」

 

優しい笑みでそう返すマリアだが、『今日は何かおかしい』と彼女からそう感じるエミリアだった。

 

――そして次に街に向かう。竜斗が前に愛美に連れられてきた場所である。

車を駐車場に止めて街を歩き出す。

 

「アタシ、ここに初めてきたけどこんなに人がいる場所があったんだ……けどここまで人がいるなら全然寒くないね」

 

もう季節は冬で寒い中、人がさかんに出入りする場所はいつもと変わらない風景である。

まず愛美の行き着けの場所へ向かう、今回は前に来た所と違うアパレルショップだ。

来店するとスタッフ達に「いらっしゃいませ」と声をかけられ、その後それぞれが店内の品物を見て周る。愛美はハンガーにかけられた服を見ているとそこにエミリアがやってきて、耳元でこう呟かれる。

 

「ねえ、マリアさん今日どうしたのかな……」

 

「どうしたって何が?」

 

「なんかさあ、気前が凄くいいし……」

 

「言ってたじゃない、マナ達へのご褒美だって。それなら素直に受け取った方がいいわよ」

「……それにさ、なんかいつものマリアさんと違うような気がするのアタシだけかな?」

 

「えっ……」

 

「優しいには優しいんだけど、いつもみたいな落ち着いた優しさじゃないの。

何か無理しているような優しさなのよ……」

 

それを聞いて愛美の手が止まった。

 

「なんかねマリアさんらしく冷静じゃないのよ、アタシ達を喜ばせようと見栄を張っている感じがする」

 

「……そう言われれば確かに今日のマリアさんは違和感があるわね……」

 

「そもそもご褒美とは言うけどワタシ達の買いたい物はともかくリュウトのは十万以上も出してくれてるのよ……今日初めてマリアさんと出掛けてそこまで出してくれると思う……?」

 

 

「………………」

 

二人は妙な不安感になる。いくらマリアが優しいとはいえ、ここまでしてもらうのは正直気が重くなる。

「二人ともなにやってんの?」

 

竜斗が現れ、二人は彼にさっき話していたことを話す。

 

「俺もそれが引っかかるんだよ……何かあったのかな?」

 

「……もしかして両親や友達を亡くしたワタシ達を気遣ってくれてるのかな?」

 

「……あり得るかも」

 

三人は今日のマリアの『異変』について話し合うが、実際はそれ以上に重い事実が。

しかし彼らはそれを知らない、知った場合どのような反応をするだろうか――。

 

「決まったかしら?」

突然、当の本人がひょこっと現れて全員がとビクっと怯んだ――。

 

「あら竜斗君まで。二人の服探し手伝ってたの?」

 

「あ……はい、そうです」

 

「エラいわね。決まったら持ってきてね♪」

 

ニコッと微笑み、去っていくマリアに恐怖すら感じてくるのであった――。

この後、愛美はなんだかんだでなかなか高い品物を選んで持ってくるが、マリアは躊躇することなくすぐに支払った。

 

「次はエミリアちゃんね、買いたいお店は決まってる?」

 

「い、いえ……」

 

「じゃあ歩きながら探しましょう」

 

三人は街中を散策する。一人元気で前を歩くマリアに対し、後ろから観察するように彼女を見る三人。

 

 

……アイボリー色のトレンチコートを着込んだマリアは長身でスレンダーな体格なこともあってモデルばりにサマになっている。

そしてクールビューティーを思わせる知的フェイスにメガネのアクセントはまさに「知的な英国美人」そのものである。

普段はポニーテールにしている彼女もプライベートでは髪を下ろしており、ブロンドのサラサラなセミロングが一層美しさを際だたせている――。

 

「マリアさんってモデルか何かやってたのかな……」

 

「さあ……けどプロモーションはハンパないわね……歩き方もきれいだし」

 

「いいな……アタシなんか……っ」

 

エミリアは腹の肉を上着越しからつまんで落胆している。

「……なんか太っちゃったのよお……どうしよう……」

 

「確かにアンタはいつもよく食べるからねえ。カロリー消費してないでしょ」

 

「エミリアはここ数ヶ月ぐらい……秋になってからやけにメシ食べてなかったか?」

 

「だって食欲の秋でご飯おいしいんだもん!」

 

「「それだよ!」」

 

二人同時につっこまれる彼女は飽食の秋と言う名の泥沼に見事はまってしまっていたのだ。

 



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第二十七話「世界へ――前編」③

――街中を歩いていると結構な広さを持つ書店に差し掛かったのでそこに入る。

 

それぞれ別れて各ジャンルの本棚を覗き見している。だいたいそこで各人の趣味が分かるものだ。

 

エミリアは自ら言っていた通り趣味、手芸用ジャンルのコーナーへ。

愛美はファッション雑誌、レディースコミック系統の女性誌。

 

竜斗は少年漫画、青年漫画雑誌、パソコン、スマホのアプリカタログ、実用書……など。

 

少年漫画雑誌コーナーにいる竜斗の元に愛美がやってきて台に置かれた雑誌を立ち読みし始める。

 

「水樹もこういうの読むんだ」

 

「まあね。ところでマリアさんはどこにいるの?」

 

 

「さあ……」

 

「気にならない?あの人の趣味とか何が好きなのか?」

 

「ま、まあ確かに。あの人のプライベートは分からないしね」

 

すると愛美は小声でこう呟く。

 

「石川、ちょっとマリアさんを探しにいかない?ついてきてよ」

 

「えっ――」

 

彼女は竜斗を無理やり引っ張っていった。

 

一方、マリアは一応女性誌コーナーのとあるジャンル本についてじっと眺めていた。

 

(結婚か……、仕事に集中して気づいたらもうこんな歳だわ……)

 

彼女はブライダルウエディング、結婚情報雑誌を見て気落ちし、深く溜め息をついた。

仕事ばかり打ちこんできたキャリアウーマンな彼女は、恋人としての男性の最近の付き合いは約十年前に本国で、最初はそこに確かな愛があったものの、次第に仕事などから互いのすれ違いが起き、それが原因で別れて以来それっきりである。

 

(アレック……気づいた時にはあなたの心の中には私の姿がなかった……別れてから数年経ってあなたが他の女性と結婚したって知ったあの時は自身も忙しい最中もあって何とも思わなかったけどね。

今だったらあたし、絶対に大泣きする自信はあるわ)

 

今思えば、仕事に打ちこんできたのも別れた後に来る、どうしようもない悲しさ、寂しさを紛らわせるためだったのかもしれない。

 

(機械工学専攻の学生からお父さんの薦めでイギリス軍の技官として入隊して――恐竜帝国が現れてからSMBの開発設計に関わって、司令の計画に興味を持って、日本語を必死に覚えて日本に来て――そして今に至るか……考えてみれば自分自身の幸せなんて考えたことなんかなかった。なにやってんだろ私……)

 

 

――確かに自身が世に役立つ仕事をするのは、彼女の家と自身の誇りであり充実してた。

ただ、この十年間は仕事ばかりのつまらない人生だったと感じる。

 

いくらほとんど完璧にこなせる彼女であれ、心はイチ女性である。

女性としての幸せなどほとんどなかったこの十年間をある意味無駄にしてたなと急に虚しさに襲われた――。

 

 

「マリアさん、結婚情報雑誌見てため息ついてる……」

 

竜斗達は奥の棚角から、気づかれないようにこっそりマリアの行動を監視する。

 

「……結婚とかそういうの考えてるのかな?」

 

「多分……あの落ち込んだ顔を見ると相手いないんじゃない?」

 

「あの人しっかりしてる美人だし、完璧だからモテそうだけど……」

 

「あのね、完璧すぎるのもタマにキズなのよ。男からすればプライド傷つけられることもあるんだって――」

 

二人で様々な考察をしている。

 

「なにやってんの?」

 

後ろからエミリアに声を掛けられてドキっとなった二人は床に倒れ込むがすぐに起きて引っ込む。

 

「なにこそこそしてんのよ、二人とも怪しいわよ」

 

「あんたタイミング悪すぎ……!

マリアさんがどんな本を読むか探っていたのよ、興味ない?」

 

「マリアさんねえ……小説とか読んでそうだけど、で二人は探ってて何か分かったの?」

 

二人はエミリアに話すと「えっ?」と目が点になる。

 

「そういえばマリアさんて結婚する気あるのかな……」

 

「オンナなんだし、その本を眺めて悩んでる姿を見るには一応気はあるんじゃない?」

 

「けどもし結婚するとなったらどんな人なんだろ――」

 

――三人が角でこそこそと考察していると。

 

「なにやってるのみんな?」

 

マリアが現れると三人はドキッとなった。

 

「いやあ……三人でこの棚の本について見てたんですよ」

 

竜斗が苦し紛れに言い訳するもマリアはその棚の本を見た瞬間、彼女も目が点になった。

 

「この本棚の本って……官能小説ばかりじゃない……こういうのに興味あるの?」

 

三人同時に「ゲッ!?」となり、振り向くと棚に置かれた本のタイトルが全てイヤらしい名前ばかりで埋め尽くされていることに気づき、仰天する三人――。

 

「ところで、そろそろ他の場所へ行きたいと思うけどエミリアちゃん、決まった?」

 

「は、はい、一応……」

 

「じゃあ私がお金払うからレジに行きましょう、二人は?」

 

「僕たちは大丈夫です……っ」

 

……そしてレジ精算を終えて外に出る。 エミリアはマリアに申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「マリアさん……本当にすいません……」

「いいのよ気にしないで。さて他に行きたい場所は――」

 

「も、もう大丈夫です。それよりもマリアさん自身は行きたい場所はないんですか?」

 

「私?今のところ特にないわね……それに今日はあなた達のために付き合ってるから心配しないで――」

 

ニコッと笑む彼女だが、三人は内心かなり彼女を心配していた。

気前のよさといい、本のことといい、何かあったんじゃないかと思ってしょうがなかった。

 

一応、この後三人の、とりわけ女子達の行きたい場所を探して、見つけて入るが買おうとすると絶対にマリアが進んで自腹を切りそうなので欲しい品を見つけても我慢して結局買わなかった二人――なんだか悪循環に陥っているようにも感じる。そうしている内にもう午後二時過ぎになり、もう一つの目的のために車に戻る。

「一体どうしたの?何も買わないの?」

 

「い、いえ……特に欲しい物なかったので……ねえミズキ」

 

「…………」

 

負い目を感じて気を使っている二人に対し、マリアには欲しいものがなくて残念だと思っていた。

「そう、残念ね……けどまた探せばちゃんとあるわよ、諦めないで」

 

「は、はい……」

 

……二人には本当は欲しい物は色々あった、しかしこれ以上彼女から出させるのは流石にないと感じていたのだった。

 

「次は夕食ね。近くのスーパーに言って食材を買いましょう」

 

「何を作るんですか?」

 

「今は冬だし全員食べると考えて、日本特有の寄せ鍋料理と、他にも手作りのオードブルを作ろうかなっと思ってるの」

 

 

 

三人はそれを聞いて喜んだ。

 

「ワオ、それ最高ですね!さあていっぱい食べ……」

 

瞬間に竜斗、愛美からジロッと冷ややかの視線を送られて気落ちするエミリア。

 

 

「いいじゃないの、鍋料理はヘルシーなんだし今日はそんなことを気にしてても楽しくないわよ。

エミリアちゃんには明日にでもいいダイエット方法を教えてあげるから気にしないでね」

 

「ありがとうございます!」

 

「あと、途中で早乙女司令も来るから五人で食事よ」

 

「司令も?」

 

「仕事が片づいたら来るって」

 

竜斗達は腕組みし、何かを考える。

 

「マリアさん、早乙女司令って休みの日はないんですか?」

 

「休みを取ろうにもすべき仕事がたくさんあるし、それにあの人自身が仕事好きだからね」

 

「へえ……、それで身体持つんですか?」

 

「司令はタフだからね、ある意味それは才能の一つよ」

 

それを聞いて感心する竜斗達であった。そしてスーパーマーケットに寄って四人で鍋の食材などを選んでいく。その時の微笑ましい様子は完全に親子そのものである。

 

食材を買い、車のトランクに詰め入れてマリアのアパートへ向かい、彼女の自宅に入る。

 

「へぇ、凄く清潔感が凄い。間取りはどうなんですか」

「1LDKよ。狭いけど我慢してね」

 

「大丈夫です。家賃は?」

 

「八万二千円よ。準備できるまで奥の洋室で待ってて」

 

三人はダイニングよりの奥の洋室に入る。

ソファーや液晶テレビ、クローゼットや本棚やタンスにシングルベッド……コレクションラックや至る所に彼女のお気に入りの、日本ではあまり見ないタイプのアンティークな食器やオルゴール、宝石箱など様々なアイテムが置かれている。

インテリアと家具が沢山あるのにその整頓と清掃の行き届き、そして芳香剤のいい香りがするこの清潔の部屋は彼女の性格を感じさせてくれる。

 

「スゴくオシャレな部屋……」

「うん。外国的な上品な感じがスゴいなあ」

 

竜斗と愛美は部屋の風景に見とれている。その中でエミリアだけは何か懐かしむような感慨深い表情だ。

 

「……お父さんの実家もこんな感じだったわ」

 

「そういえばエミリアのパパってどこ生まれなの?」

 

「ドイツのフランクフルトってとこ」

 

「え……確かアメリカから来たんじゃなかったの?」

 

「それはお母さんの出身地よ。国際結婚して最初オハイオに住んでて、そこでアタシが生まれて、小学校に入る前に日本に来たのよ」

「じゃあアンタはハーフだったってこと?」

 

全く知らなかった事実に驚きを隠せない愛美。

 

「けどなんで日本に?接点なくない?」

 

「日本で仕事したいってこともあってね、貯金も結構あったから引っ越してきたの。

そもそも国の違う同士の両親の共通点が『日本びいき』だからね、それで偶然的に出会って気が合って結婚したってことなの。色々周りから反対されたらしいけどね。

そして日本に引っ越してきた場所がなんとリュウトの家の近くだったってわけ」

 

「へえ……これもある意味、奇跡ね――」

 

「エミリアちゃん、マナミちゃん、やるわよお」

 

見回っているとマリアから呼ばれた二人はすぐに行く。

 

「お、俺は?」

 

「アンタはここでゆっくりしていれば?ここから向こうはオンナの世界よ」

 

竜斗を置いてきぼりにして部屋から出て行く。

ダイニングキッチンにいくと、エプロンを来たマリアが食材と鍋を出して、準備を整えている。

二人に予備のエプロンを渡してつけさせる。

 

「じゃあ始めましょうか。まずエミリアちゃんはどんなことをしたい?」

 

「アタシは基本的に切るのも味付けもできますよ、難しいのも本があれば――」

 

「じゃあは鍋の野菜切りと仕込みを頼もうかしら。

マナミちゃんは初めてということで、私と一緒に簡単なことからやりましょう」

 

「はあい」

 

女性陣達はダイニングキッチンで料理を開始する。エミリアは各野菜切りと鍋の下地作り、マナミはマリアと一緒に米研ぎから始める。

ここで遺憾なく腕前が発揮されるのはエミリア。

得意分野なこともあり野菜、豆腐を包丁で器用に、そして綺麗な形にして切っていく。

 

「さすがねエミリアちゃん」

 

「えへへ……」

 

ゲッターロボの操縦では一番下手くそと軽んじられているエミリアもここでは腕を奮えるとはりきっていた彼女に嫉妬するように横目でジロジロ見る愛美が。

 

 

 

(今に見てなさいよ……マナだってすぐに……)

 

「マナミちゃん、そんなにガシガシ洗うとお米が割れちゃうわよっ」

 

「あっ……」

 

「アハハッ、ミズキ落ち着いてっ」

 

「くう……っ」

 

ここでは流石にエミリアに軍配が上がっていた。

しかし何だかんだ言いつつもマリアに、教えられてだんだんと技術を呑み込んでいく愛美。彼女は要領がよかった。

そんな彼女は初の家庭的な暖かさに心が満たされていく感じがした。

 

「……マナさ、いつもママにごはんを作ってもらってた」

 

そうボソッと口にする。

 

「料理なんてしたくないと思ってたけど……やってみると案外面白いんだね……」

 

「ミズキ……」

 

「マナミちゃん……」

 

だんだんと声が震えていく彼女に二人は注目した。

 

「こんなことなら早く習っておくべきだった……今さらマナの手料理をパパとママに食べさせてあげたかったって思えてきた……」

 

彼女の目からポタポタと涙が溢れていた。

 

「マナ……二人に感謝してる……色んなことを教えてくれて……ホントにありがと……」

 

マリアはそんな彼女の身体を優しく寄せて抱いた。

 

「マナミちゃん……きっとご両親は喜んでいるわよ、ちゃんと成長してるって……っ」

 

エミリアも手を洗い、タオルで拭き彼女の頭を撫でた。

 

「……アンタホントに変わったね。アタシ、今のミズキが一番好きよ」

 

「エミリア……」

 

「アタシ、今はもうアンタとチームで凄く嬉しい。これからも女の子同士で一緒に頑張りましょ、よろしくね」

慰めてもらった愛美はこれほど嬉しく思えたことはなかった――彼女は今、心が満たされていて本気で感謝していた。

 

 

「あ、あの……」

 

洋室方向を見ると竜斗がひょこっと現れた。

 

「竜斗君どうしたの?」

 

「いやあ、暇なんでみんななにしてるかなって……水樹どうしたんですか?」

 

「え、いや今作ってるハンバーグの下地に使うタマネギが目に染みちゃってね。彼女初めてだから」

そう上手く切り返すマリア。

 

「ならリュウトも手伝ってよっ」

 

「お、俺なんかに出来るかな?」

 

「今の時代男も料理できなきゃダメだよ」

「…………」

 

こうして料理は全員でやることになった。

エミリアは鍋用の野菜切りと仕込み、愛美と途中参加した竜斗はオードブル用のハンバーグの形作りに悪戦苦闘し、マリアは他の料理の下拵えをしつつ二人にレクチャーしている。

 

――そのアットホームな情景は以前の戦いの傷を癒やす一時であった。

 



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第二十八話「世界へ――後編」①

――夜七時過ぎ。テーブルには出来上がった鍋とオードブル、各人には茶碗に盛られた炊きたての飯が並べられており、全員が各席に座る。

 

「司令はどうします?待ちますか?」

 

「ちょっと待ってて、さっきメールで連絡したからもう来ると思うわ――」

 

マリアは自身のスマートフォンを見ると新着メールが。見ると「早乙女」からだ。

 

「『もう少しで行けるから先に食べててくれ』だそうよ。

じゃあ先にあたし達で食べましょうか」

 

そして四人は「いただきます」と同時に言って先にエミリアが担当した鍋から食べ始める。ぐつぐつと煮ている鍋は綺麗に詰められた野菜、肉、魚の豊潤の各具材と昆布と鰹節のダシが日本独特のいい匂いがリビングに立ち込めている。

 

「この鍋の凄くおいしい、エミリアちゃん凄いわねえ」

 

 

「味がちゃんとしみてるし、なにより汁が絶妙だわ……人にはちゃんと取り柄があるものなんだねえ……」

 

「ミズキ、それどういうことっ!」

 

「あら失礼っ」

 

――彼女が担当した鍋はかなりの評価だ。

 

「リュウト味はどお?」

 

「うん、久々にエミリアの手料理を食べたけど、相変わらずおいしくて安心した」

 

「ふふっ、ありがと。具材はまだまだあるからみんないっぱい食べてね♪」

 

彼女も思わずほっこりとなる。

次にマリアと愛美、竜斗が担当した手作りのオードブルを手をつける。小さなハンバーグやからあげなどの肉料理や揚げ物、グラタンやサラダ、フルーツと色鮮やかである。

ほとんどがマリアの担当した料理であり、凄く形が整っていて色や匂いでもう食欲がそそられてしまう。

「ヤバウマ……なにこれ……」

 

「アタシなんかと比じゃないぐらいオイシい……っ」

 

「一流店に出してもおかしくないよねこれ……っ」

 

三人から絶大な評価をもらい、思わずマリアは照れている。だが、その中にあるとある料理を料理を

 

「ハンバーグの形が凄い……」

 

「うん……」

 

丹精込めたハンバーグが歪な形になってしまって辟易する、担当した愛美、竜斗だが、まあ初めてなので仕方がない。

 

「か、形はともかく味だから。食べてみようよ」

エミリアに促されて三人が箸で取って同時に口の中に放り込む。噛み締めていくと二人のそのシワを寄せた苦い顔がだんだんとなくなっていく。

 

「あ、おいしい……」

 

「ホントだ……普通にハンバーグだ」

 

不味いと思っていた歪なハンバーグだが、味付けは上手く出来ており驚いている。マリアも口にして噛み締めて味を楽しむ。

 

「二人が一生懸命作ったんだからオイシいのは当然よ」

 

「いやあ、マリアさんに教えてもらった通りに作っただけですから――」

 

食事をしていると家のドアチャイムが鳴る。マリアが出向き、入り口付近のインターモニターを見ると早乙女が立っていたのですぐにドアを開ける。

 

「司令、お待ちしてました」

 

「ここに来るまえにジュースを買ってきたよ、みんなして飲んでくれ」

 

「ありがとうございます、どうぞ中へ」

スリッパを用意し、彼を上がらせてリビングへ行くと竜斗達が出迎える。

 

「司令こんばんは!」

 

「やあみんな、楽しそうにやってて何よりだ。君達に色んなのジュースを買ってきたから飲んでくれ」

 

「ありがとうございます!」

 

早乙女が席に着き、竜斗達はビニール袋に入ったペットボトル大のジュースを取り出しコップに注ぐ、全員が席に着いた。

 

「途中参加で悪いがとりあえず全員揃ったことだし乾杯しようか」

 

「カンパーイ!」

 

各人のコップを互いに「キン」と軽く打ちつけた。

その後は全員が先ほどのように会話を入れつつ食事を楽しむ。

 

「早乙女さんって大変だね、今まで仕事だったんでしょ?」

 

「おや、水樹が私を心配してくれるのか?」

 

「マリアさんから聞いたのよ、休日でも仕事してるって。苦じゃないの?」

 

「まあめんどくさいと感じる時もあるけどそういう立場だから結局やらなければならないんだよ、割り切るしかない。

君達が社会人になって、自衛隊のみならず会社勤めになればだいたい休日出勤があるから覚えておいたほうがいいよ」

「マナ、それイヤだなあ……休みは遊びたいし」

 

「ハハッ、水樹らしいや――」

 

早乙女はエミリアの作った鍋を食べる。無言だが、おいしいのか箸が進んでいる。

「その鍋、エミリアちゃんが全部担当したんですよ」

 

「さすがエミリアだ。あと、よかったなあ竜斗」

 

「え、なんでですか?」

 

「いい奥さんになるぞ、大切にしてやれよ」

 

竜斗とエミリアの二人はその意味を知り、顔が真っ赤になった――。

 

「二人とも顔がオサルさんになってやんの」

 

高校生の竜斗達で仲良く楽しく会話しているその横でマリアは早乙女のコップにジュースを注ぎ、大人同士の会話を始める。

 

「……マリア、もしかしたら私達に良からぬことが起こるかもしれん」

 

「え……?」

 

「今日、入江統合幕僚長から密告が入ってな。政府の何割かが、何かを企てているらしいとの情報だ。全貌は分からんが聞く話だと私と君、竜斗達の名が出ていると」

 

「……それはなぜでしょう?」

 

「前に幕僚長にも言われたが、上層部、政府のいくらかは私を快く思ってないようでな、官房長官が私をマークしていると。

今までなんともなかったが、これからは身の回りを十分警戒したほうがいい。あと彼らの身の安全もふまえてな」

 

「……承知しました」

 

何かきな臭い話になる二人――時間が過ぎて、だいたい食べ終えてきた頃――。

「そういえばマリアさん、今日は色々と本当にありがとうございます……」

 

「い、いいのよ。気にしないでっ」

 

三人は今日の彼女の親切に深く頭を下げた。顔を上げたエミリアは思い切ってこう聞いてみた。

 

「……マリアさん。ワタシ達の思い過ごしかもしれないけど、今日のマリアさんは変だった」

 

「あたしが……変?」

 

「なんかいつものマリアさんじゃなかったような気がします、なにか無理してるような感じしかしませんでした」

 

黙り込んでしまう彼女に興味を持つ早乙女。

 

「エミリア、私に何があったか教えてくれ」

 

「……みんなで買い物に行ったんですが、ほとんどマリアさんが自腹切ったんです。

リュウトになんて欲しいパソコンを買ってあげるために全部じゃないけど十万も出したんですよ……おかしくないですか、マリアさんと外出するの初めてなのに」

 

「…………」

 

だが早乙女は「だから?」とでも言わんばかりの無表情だ。

 

「実はあの時は買わなかったですが実際はアタシ達は買いたいものはありましたし、自分で買いたいものは自分のお金で買いたいと思ってました。だけど――」

 

「……マリアが自腹を切りそうだから買わなかったと?」

 

「……はいっ」

 

……マリアは顔が段々と青くなっているような気がする。

 

「確かにワタシ達は凄く嬉しいです。

だけどマリアさんのお金の都合だってあるのにこうまでされると気兼ねてしまいます。証拠にワタシ達の買いたい物はあってもそればかり気になって結局買えなかった……」

 

「そうか。事情はよく分かった。

マリア、どうやら君はあれを思うあまりに暴走してしまったようだな……」

 

張り切りすぎて度の過ぎた親切がかえって迷惑になっていた結果に、マリアはそれすら気づけなかった自分を恥じていた。

 

「マリアさん、一体どうしたんですか?ワタシ達心配なんです、いつものマリアさんじゃないから――」

 

「………………」

 

するとマリアは立ち上がり、何を思ったのか玄関を向かい飛び出していった――。

ぼう然する三人、何か彼女に対して悪いことを言ってしまったのか、と心がぎゅうと痛くなるエミリア。

一方、早乙女は冷静で立ち上がるとマリアを追おうと玄関へ向かう。

 

「早乙女司令……アタシ、もしかして何かマリアさんの気に障ることを言いましたか……?」

 

聞いたことに後悔している表情のエミリアは彼にそう尋ねると首を横に振る。

 

「いや、君達の気持ちはわかるしマリアはやり過ぎたんだと思う――ちょっとそこで待っていてくれ」

 

彼は入り口にかけてあった彼女のコートを持って玄関を出て、下階段へ向かうとそこにマリアは段差に座り込んでうずくまっていた。

……今まで冷静かつ気丈だった彼女がここまで落ち込んでいる姿に彼も流石に心配していた。

 

「そんな薄着で飛び出して、風邪引くぞ」

 

彼女に持ってきたコートを優しく被せる。

 

「いきなり飛び出していって君らしくないな。あの子らは君を心配してるぞっ」

 

「……司令、私は大馬鹿者です……自分とあろうものが彼女達の気持ちを理解できなくて……司令の言うとおりカウンセラー失格です……」

 

「マリア……」

 

自身を貶す彼女は身体が震え、涙声になっていた。

 

「私には……やっぱり親なんて向いてません…………っ、甘く見てました……っ」

 

諦めのこもった彼女の発言を聞いて彼はため息をつく……。

 

「君というヤツはこんな簡単に諦めがつくのか、失望したよ」

 

「…………」

 

「私は実はこうなるだろうとは薄々気づいていたが君がそう弱音を吐くとも思わなかった。

君は基本的に完璧にこなす人間だから失敗というのに慣れてないんだろうな。だが失敗したからこそそこから学んでいくのが人間だろ、違うか?」

 

彼からそう諭されるも彼女は一向に顔を上げず俯いたままだ。

 

「司令………私は一体何ですか?」

 

「……マリア?」

 

「……私は家と自身の誇りを持って今までどんな仕事も激務もちゃんとこなしてきましたし命令に従ってきました。

けど、その為に自分の、女としての幸せまでも犠牲にしてきました……」

 

「…………」

 

「ケチをつけるつもりはないですけど……結婚もできず、これからも仕事ばかりのくだらない人生になるのかと……最近そう思えてきてしまってもうたまらなくなります……」

 

……彼に今まで溜まりに溜まった色んな愚痴を吐いていく。だが早乙女からすると、今まで何にしても忠実で、全然弱音や弱みを見せず心配だった彼女の弱い一面を知ることができたという嬉しさがあった。

彼はそんなマリアの横に座り込み、優しく抱擁し頭を撫でる。

 

「……考えたら、イギリスからたった一人でこんな極東の島国に来た君はすでに日本語は話せるわ、仕事は全てこなすわで驚き信頼してきたが、実際はかなり無理をしているんじゃないかとかなり心配していた」

「司令…………」

 

「祖国を離れ、友人などいなければ文化も宗教も全く違うこの日本で、そして周りや私のワガママに振り回されても少しも弱音を吐かずによく頑張ったな。

ありがとな、マリア。私自身、君へもう言葉では表せられないほどの感謝で溢れているよ」

 

いつも彼らしくない優しさに少し戸惑いを隠せないマリア。

 

「こんな私を誉めて……司令らしくないです……」

 

「いいじゃないか。そんな私を失望したか?」

 

「いえ……変な感じですけど、嬉しいです……」

 

彼女はそれがおかしいのかクスッとだがやっと笑う。

 

「……もしマリアがイギリスに帰りたいと言うならそれでも構わないよ。君の人生だ、強制はしない――どうする?」

 

 

だが彼女は首を振る。

 

「いえ……さっきみたいな弱音を言いましたが私にも誇りと信念がありますので最後まで責務に全うします、あの子達も心配ですしそれに――」

 

「それに?」

 

「……失礼なことですが私がやめたらあなたのわがままに誰が付き合うんですか、絶対に私以外の人間には務まらないと思います」

 

「確かに君だからこそ私は上手くやっていけるのだろうな……では、これからもよろしく頼むぞ」

 

「はい。あと、私の愚痴を聞いてもらってありがとうごさいます……凄くすっきりしました」

 

「いや、こちらこそ君の本音を聞けて嬉しく思うよ、ありがとう」

やっと落ち着いたマリアは顔を上げていつもの優しい顔だ。彼も普段見せたことのない甘いマスクで見つめる。

 

「なあマリア」

 

「どうしましたか?」

 

「私の恋人にならないか?」

 

「え――っ?」

 

「私と付き合わないかと言っているんだがどうだ?」

 

あの早乙女からの突然の告白に彼女の顔がリンゴのように真っ赤になった。

 

「な、な、なにを言ってるんですかっ!?変なことを言うのはやめてください!!」

 

「私はマリアが好きだからそう言えるんだ、別に変じゃないよ。君も望んでくれるならこれ以上の幸せなんかない――」

「ええ…………」

 

明らかに今までの彼と違っていた。

下らないことばかりしなければ、日本人とは違う知的でどこかミステリアスな雰囲気を持ち、フェミニズム溢れるフェイスを持つ早乙女。

それが甘い言葉で口説き落とし、愛撫してくる今の彼はまさにホストそのものだ。

そういえば彼は若い頃は結構な遊び人だったらしいが――そんな彼に対する急な不安感と、それ以上に女性的本能を強く刺激され心臓がバクバクなっている。

 

「司令……どうして急にぃ……」

 

「私とあろうものが、君の美しさと母性にいつの間にか惹かれてしまったんだ。

どうしてくれる、責任とってくれないか?」

 

「そんな……責任だなんて……っ」

 

 

彼は撫でていた手をそのままマリアの首筋を伝うように指で触るとビクッと反応し、感じている。どうやらそこが彼女の性感帯のようだ。

 

「や、やめてください……こんな所で……」

 

「君が、もう無くなったと思っていた私の『野生』を復活させたんだ。こうなったらもう止められないよ」

 

今度は彼女の首筋に優しく口づけをする早乙女。暖かい吐息が当たり、むき出しになった敏感な肌さらに刺激し、快感へと持って行く。

証拠にマリアは久々の性的な快感に今、身体中が発熱し息を乱している。

 

 

「司令……あの子達が待っているのにこんなこと……ああっ」

こんな人目のつく所で行為に及んでしまうのか……もの凄い背徳感とそれに対する興奮さえも彼女の身体中に衝撃として走り回っていた――それに負けてしまっている彼女はもう成すがままだった。

 

「――とでも思ったのか?」

 

「え…………っ」

 

なぜか彼はいきなり手を離して、よっこらしょっと立ち上がる。

 

「ウソだよ、ウソっ。今までのは演技だ」

 

「………………」

 

「悪かったなマリア、私の恋人は一生ゲッター線とゲッターロボなんでな。

それに君なら私なんかよりいい男がいっぱいいるよ」

 

ここまでやっといて、自分もその気になっていたのにいきなりウソとか言い出すとかもはや女性として侮辱以外に何事でもない。

 

 

当然彼女はブチ切れる……と思いきや、なんとおかしくなりクスクス笑い出していた。

 

「フフ……司令らしいです。こんな大掛かりな大嘘やらかすなんてっ。私すっかり騙されちゃいました」

 

「本当にすまなかったな。では笑顔が戻った所で三人の元に戻ろうか――」

 

「ええっ」

 

マリアも立ち上がり、自宅へ戻っていった。竜斗達は心配そうな顔で二人を出迎えた。

 

「マリアさん……もしアタシの言ったことを気にしているのなら本当にすいませんでしたっ!」

 

エミリアが今にも泣きそうな顔で頭を下げた。

 

「エミリアちゃんもう気にしないでっ!私はもう大丈夫だから。みんなも心配かけてゴメンね」

 

 

「マリアさん……」

 

「あなた達に関して前の戦闘からずっと気が動転してただけなのよ。

だからちょっと暴走しちゃって……けど司令に「しっかりしろ」とお叱りを受けたからもう大丈夫よっ」

 

普段のような優しい表情になっており、それを見た三人はすこし気がかりがありつつも、とりあえず安心した。

 

「ほら、ご飯が冷めないうちに食べちゃいましょ!」

 

全員は食卓に戻り、再びアットホームの食事を楽しんだのだった――。

 

次の日、ベルクラスの司令室で普段通りに仕事をする二人。早乙女はパソコンで、マリアは書類の整理をしている。

 

「なあ思ったんだがな。もし君が三人を養子に取るとなったら不都合が起きないか?」

 

「えっ?」

 

「私が昨日竜斗に言った言葉を思い出してみろ」

 

「…………あっ!」

 

そう、彼がエミリアが『いい奥さんになれる』と言っていたあの言葉を思い出す。

今時代の法律では、竜斗とエミリアをマリアが養子として取ると二人は血の繋がりはないが事実上姉弟となり、近親婚となるため結婚が出来ないということになる。

 

「まあ彼らが互いをどう思っているかは分からんが、もしそうなるなら養子に取るべきではないと思うな」

 

「……すっかり忘れてました。でもあの二人の様子を見てると……」

 

「どの道、水樹はともかくあの二人を養子にする選択肢などなかったということだな」

 

 

それを聞いて残念だとも、だが少し気が軽くなるとも感じるマリア。

 

「まあ、私が二人のどちらかを養子に取るという選択肢もある。それなら結婚は可能だが」

 

「司令……」

 

「まあ結局は各自身がこれからどうしたいかによるな。

竜斗は親についてどうするか悩んでいるのを見ると三人ともまだ決まってないし決めるのに時間がかかりそうだ。しばらく様子見といこうじゃないか」

 

「そうですね……」

 

「もし君がどうしても養子に取りたいのなら、今は無理でも時間をかけてでも積極的に接していけばいいのさ。

この戦争がいつ終わるかも分からんし、その間に彼らは君を母として見てくれるかもしれん。まあ努力だな」

「……はいっ」

 

彼女はそれに納得し一応の収拾はついた。

 

「司令」

 

「どうした?」

 

「昨日の……あれはありがとうごさいます。一瞬だけとはいえ、久々に女としての夢を見させてもらいました」

 

「なあに、気にするな。けど本番やりたいなら私は一向に構わないぞ。君が相手ならこの上ないから……ん?」

 

だが彼女は下心丸出しのセクハラ発言をシカトして部屋から出て行った。

彼女から初めて無視されてモヤモヤしている早乙女。

(けっ、マリアめ……私に似てきたな……)

 

……彼は珍しくふてくされていた。

――次の日の午前中、三人はリフレッシュし心機一転して駐屯地内でマリア率先の元で体力練成に励んでおり、司令室では早乙女一人、書類作成のためにパソコンとにらめっこしている。

 

 

 

するとコンコンとドアをノックする音が。彼は立ち上がりドアを開けると黒ずくめのスーツを着た怪しい男達が立っていた。

先頭に立つ男は一枚の紙を彼に突きつける。

建て前の長たらしいお飾りの文章と押された政府の印、上に『出頭令状』と書かれた怪しい紙が。

 

「早乙女一佐ですね?」

 

「そうだが君達は?」

 

「政府からあなたに出頭命令が出ている。来てもらいましょうか」

 

 

「…………」

 

 

――ついに来たか。彼は抗うこともせず黒ずくめの男達に囲まれながら連行されていった。

 



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第二十八話「世界へ――後編」②

――昼。体力練成が終わり解散し、汗を拭いて着替え終わったマリアは司令室に向かう。

 

「……司令?」

 

誰もいない。デスクのパソコンの見ると書類作成の初期段階のまま、そのまま放置されているのが彼女でも分かった。

トイレか休憩、それとも用事か……彼女は今は特に気にしておらず、いずれ帰ってくるだろうとパソコンをそのままにして司令室から出て行った――。

 

だが、午後になってもちっとも早乙女の姿が見当たらない。さすがのマリアも不安に駆られて心配になる。

竜斗達三人、そしてベルクラスのクルーに尋ねても全く彼を見てないという――。

 

彼女はとりあえず司令室で待機していると、モニターに通信が入る。すぐに受信ボタンを押しモニターを展開すると統合幕僚長である入江の姿が映った。

“君はマリア君か”

 

「ご無沙汰です幕僚長、本日はどうなさいましたか?」

 

“……まずいことになった。政府の関係者が君達の艦、ベルクラスへ向かったとの報告を受けた。一佐はそこにいるか?”

 

「いえ……午前中から全く姿を見かけておりませんが……まさか……っ」

 

彼女は耳を疑った。そしてとてつもない不安感が一気に襲いかかる。

 

“ということは遅かったか……犯人はすでに検討がついている。吉野官房長官の差し金だと断言してもいい。

彼は一佐のやることなすことに気に入らず、疑惑を持っているからな。恐らく色々と尋問にかけるつもりだろう”

 

「……私もつい最近司令からそう聞かされました。

私達にもしかしたら身の危険があるかもしれないと……まさか司令本人からだとは……」

 

 

“彼のことだ、ゲッター計画に関する重要機密についてどんな手段を使われようと絶対に口を割らないだろうし、私も一佐を一刻も助けられるように手を打つ。だが、相手は官房長官だ、どんな権限を使ってくるか分からん。

君達の行動全ての制限をかけるかもしれん。下手をすればゲッター計画そのものが政府の管轄化に置かれてしまうことも考えられる”

 

つまり、自衛隊内という管轄化であるが、事実上個人所有である早乙女のゲッター計画に関する全てが政府の手に渡ってしまうということになる。

“もし政府の管轄化になれば計画自体解体される危険性もあるし、聞けばゲッターロボのパイロットはまだ高校生と言う話ではないか。

向こうがそれを知っているかどうか分からんが、もし軍事裁判に持ち込まれてその事実が表沙汰になってみろ、君達は重罪確定だぞ”

 

「……分かっております」

 

“今の法律から行くと早乙女は下手をすれば二、三十年の懲役刑、君は良くても国外永久追放にされてしまう。

一刻も早くなんとかしなければ……”

 

互いのいる場所に不吉を感じさせる空気が漂っている――早乙女が今どこにいて、何をされているのか心配である。

 

「幕僚長、なぜあなたはそこまでして司令に協力を?」

 

彼女はそう尋ねる。

 

「私は彼の未知なる可能性を信じている。

証拠に日本を奴らから奪還できた。こんな素晴らしい希望を、理解できない馬鹿者達の手によって失うワケにいかないからな、君もそう思わないか?”

 

 

「……はいっ」

 

“まあともかく、身の安全を考えて君達はしばらく外にあまり出歩かないほうがいい。

だがもし向こうからやってきても、分かるだろうが自分側から絶対に抵抗するな、ますます不利になるぞ”

 

「了解っ」

 

“よし。君達の無事を祈る。では――”

 

 

通信が切れると、彼女は緊張から解放すべく大きく深呼吸し、吐く。その後司令室の通信機を使い竜斗達を呼び寄せる。

「どうしたんですか?」

 

「あなた達に伝えなくてはならないわ、今の状況を……」

 

彼女は今何が起こったか分かりやすく説明する。当然三人は狼狽した。

 

「早乙女司令が……捕まったっていうことですか?」

 

「な、なぜですかっ?司令が捕まる理由なんて……」

 

「……司令を快く思わない人間がたくさんいるの。

それが自衛隊内だけでなく日本政府にもね。

早乙女司令ってあなた達も分かる通り、人を選ぶ性格なのは知っているでしょう?」

 

確かにあんなエキセントリックな性格ならな、と三人は納得する。

 

「それにゲッター計画、つまりゲッター線の実験とゲッターロボ、そしてベルクラスの開発、建造のために国家予算のほとんどと借金するほどの多額の資金を使ったとなると……そこも原因になっているのかもしれない」

 

 

「司令は戻ってこられるんですか……?」

 

「……まだそれすらも分からないわ。一応、私も手を尽くすけど相手が相手だからね、厳しいわ。

捕まっているとすれば、一応拷問のような暴力行為は禁止されているけど……安心はできない」

 

「じゃあもしもですよ、最悪の方向になったらどうなるんですか?」

 

「まず、ゲッター計画に関する全ての所有権は日本政府に渡る。そうなるとゲッターロボやベルクラスは政府に渡り、煮ようが焼こうが好きにされる。

そしておそらく司令と私は軍事裁判にかけられることになる。

あなた達一般人の高校生をパイロットとして運用した、それを出されると重罪確定になる。

そうなると司令はもう約二、三十年は刑務所行き、私も懲役を受けるか良くても母国のイギリスに強制送還されて日本内では二度と会えなくなるわね。

 

まあ、あなた達はおそらく罪に問われないから地元に送り返されるだけ――」

 

複雑な気分になる竜斗達。確かに自分達が罪にならないのならその安心もある。だが、ここまでゲッター計画に関わってしまった以上自分達だけ無関係面するのは嫌だし、何より早乙女とマリアともう会えなくなる、ということほど嫌なことはなかった。

 

「僕達は自らゲッターロボに乗りたいと言って戻ってきたのに……まだ戦いは終わってないのにここでリタイアするのはイヤです!」

「ワタシもっ!」

 

「マナも!それに早乙女さんとマリアさんから離れるのはイヤっ!」

 

三人の決意を聞いて、マリアはその嬉しさと、これからの不安が混ざって複雑な心境となる。

 

「……とにかく私からあなた達に言えることは、指示があるまでは駐屯地外の外出は控えた方がいいわ。

もしかしたら誘拐されるってこともありえるからこの艦内でも自分の身のまわりを常に警戒して。

そして各部屋にいる時は常に通信機を入れておいて、戸締まりはしっかりすること――」

 

「はいっ!」

 

「あと、もし見知らぬ人間からゲッターロボとかに何か聞かれても絶対に何も知らないと答えてね、あなた達は戦争で家を失ったから、仕方なくここに住まわしてもらっている人間だと答えるように――」

 

 

マリアは何かを思いついたように司令室のデスクの引き出しから円いスイッチのような物を三つ、彼らに渡す。

「もしさらわれそうになったら抵抗せずに、すかさずこれを押して私の元に直接反応が来るからすかさず駆けつけるわ、だから常に携帯すること」

 

「「「はいっ!」」」

 

「みんなこんな目ばかり遭ってキツいと思うけど、今は頑張って耐えてね。

私もあなた達の負担を減らす努力をするから……」

 

「いえ、これ以上早乙女司令やマリアさんばかりに負担をかけたくないです。

これからは自分達の出来る限りのことをやっていこう、みんな!」

 

竜斗はそう力強く発言し、二人は迷いなく頷いた。

そしてマリアは、三人、特に竜斗に対し成長したなと内心感心し、喜んでいた――。

 

「……あの、マリアさん」

 

突然エミリアが恥ずかしそうにもじもじしながら彼女の耳元にコソコソ何かを伝える。

 

「三人共、今の内に何か欲しいものがあったら買い出しに行ってくるから伝えてね」

 

そう言われ、各人欲しいものをマリアに伝え解散する。

 

「ところでエミリア、なんでさっきあんなよそよそしくしてんだ?」

 

「そ、それは……その……」

 

顔が真っ赤になるエミリア、すると愛美が肘で彼の横腹に強くつついたのだった。

 

「バカ、そんなことを女の子に言わせないの!アレよ、アレ」

 

「アレ……あっ……」

 

彼もようやくその意味に気づき言葉を濁した。

 

 

――司令の安否が心配だ。しかし僕らにはこの状況を打開する術も力もない。だから今はただ祈り、待つしかない。

この先については結局、神のみぞ知る、それだけだ――。

 

各クルーにもその事項を伝え、特別警戒態勢に入るベルクラス。それからどれだけの政府の人間が来ただろうか。五人、十人、いやそれ以上だ。

圧力をかけて色々な質問をされたが全員は様々な言い訳をするなど、断固として真実を言うのを避けた。

強硬手段に訴えるような者もいて、竜斗達にもその魔の手が来たが、言われた通りにボタンを押しマリアに知らせ、話し合いに持ち込んだこともあった。

彼女の巧みな話術で引き下がらせて、それでも力で屈服するような手段に出た際は彼女もやむを得ず武力行使を行った。

……ただの無力な女性と思い込み油断していたその者は、元軍人で護身術にも長けている彼女によって背負い投げや巴投げ、払い腰などの柔道技で呆気なく張り倒されてしまった。その時、男が見た彼女は――まるで鬼のような顔であり、思わず萎縮するほどだった。

 

そんな生活が続く中、約一カ月後。正月だと言うのに全然正月らしいことをしなかった上旬……やっと早乙女は突然と帰ってきた。

 

「司令……っ」

 

だが早乙女の今の姿に全員は絶句した。それは酷かった。

殴られたのか腕や顔中があちこちに傷とアザだらけで、1ヶ月前に比べて痩せており、無精ひげばかりで手入れしていない様はまるで拘束させられていたと感じさせられる。

気は保っているようだが足がもつれており歩けるのがやっとに見えた。

 

「やあ……みんな……」

 

四人の元へ向かおうとした彼だけ、もはやそこで歩く体力などなく倒れ込むが全員が駆けつけて身体を起こし支えた。

「はは、こってり絞られたよ…………っ」

 

「しゃべらないで下さい!みんな、司令を医務室に運ぶから手伝ってっ!」

 

艦のクルーにも呼びかけ、急いで全員で彼を医務室に持ち運び、マリアによって傷の手当てと栄養剤の点滴が行われる。

しばらく待合室で竜斗達が待機しているとそこにマリアが入ってきた。

 

「司令は大丈夫なんですか?」

 

「ええ、命に別状はないわ。脳波の異常もなければ精神的異常も全くないしこのまま休んでいればすぐに復活できる」

 

 

それを聞いて三人はひと安心し深く息を吐いた。

 

「よほど酷い目にあったと思うのに、治療中に、自分がいない間の私達について心配してたわ。そこまで気を保っていられるのはさすがだと思う」

 

 

恐らく拷問を受けたのだろうが、そんな中でも自分達を心配してくれる彼に対して不憫でならなかった。

 

「……なんでサオトメ司令がこんなことをされなければいけないんですか!?

何も悪いことをしてない、それどころか日本を奴らから守ったじゃないですか!!」

 

いても立ってもいられなくなったエミリアはそう嘆いた。

 

「おかしい……絶対にこんなのおかしい、こんなヒドいことをしたヤツらは気が狂ってるとしか思えない!」

「エミリア……」

 

じたんだを踏む彼女に竜斗、愛美も同情をせざる得なかった。

 

「……一体なにをしたっていうの……ただ私達はヤツらから世界を守りたいだけなのに……なんで……全然良いことないじゃない……」

……無情感が漂うこの待合室。

 

ここまで来るのにどれだけの苦労と悲しみ、そして涙を流したか。

大雪山との戦いでほとんど一生分の涙を流したのに、まだ次々に押し寄せてくる不幸。

まるで精神を凌ぎ削る耐久レースをやらされているようにも思えて、全員がやるせなくなるのは分かる、人間すら信用できなくなるかもしれない。

 

――しかし世の中上手く行かないのか現実であり、それを乗り越えていくかどうか、それは各人の真の力とも言えるだろう。

 



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第二十八話「世界へ――後編」③

夜十時、マリアは容態を見に医務室の早乙女の寝ているベッドに訪れる。だが、すでに彼の姿はいない。

まるで神隠しのように消えた早乙女に心配になったマリアは司令室のモニターで探そうに急いで向かう。

中へ入るとなんと、すでに黒いスーツに着替えた早乙女がデスクに座りパソコンをいじっていたのだ。

 

「やあ、一足先に起きてたよ」

 

「あなたって人は……もう大丈夫なんですか?」

 

「ああ、栄養剤も貰ったし数時間も寝れば十分だ」

 

顔中は絆創膏だらけであるがすでにひげを剃り顔立ちを整えており、普段通りの飄々な態度の早乙女。

マリアは彼の驚異的な回復力に心底呆れかえっていた。

「ど、どんなことされたんですか?」

 

「言わなくても帰ってきた時の姿で察しがつくだろ?」

 

「……それでよく一ヶ月間、耐えましたね」

 

「なんてことないさ。そして尋問とは別に、私を拷問したヤツらの中に政府の人間じゃない者が含まれていた。

姿や言葉、振る舞いを見て金掴まされた三下のヤクザやチンピラだろう。

だが暴力で私を屈させようなんざ愚かだよ。

それに今時の日本で拷問だなんて、時代錯誤もいいとこだよ」

 

酷い目に遭ったと言うのにまるで慣れているように淡々と語る早乙女の底なしの精神力に恐怖すら感じてくる。

 

「ただ、問題はこれからだな。尋問の際は適当に答え続けて一応お咎めなしとされたが、向こうは納得しきれてないからな。拷問された際に気絶したと見せかけて向こうの話をこっそり聞かせてもらった。

 

恐らくあらぬ疑いをかけてくるだろう、それで無理にでも私からゲッター計画を奪うつもりだ」

 

「…………」

 

「これ以上、私を野放しにする気はないんだろうな――」

 

――淡々と無機質にカタカタいじる、まるで機械のような雰囲気の早乙女だったが、ふと手を止めて彼女を見つめる。

 

「君達は大丈夫だったか?」

 

「ええなんとか……しかしエミリアちゃんはあなたが拷問されたことに対して凄く憤怒してました」

 

「……彼女は優しいからな。だが、それではこれからの戦いについていけんな。竜斗と水樹は?」

 

「普段通り平常でしたが、内心彼らも複雑でしょうね――」

それを聞き、黙り込む早乙女。だが彼は何か決意を決めて彼女にこう言い放つ。

 

 

「私は日本を離れる」

 

「えっ」

 

「相手が相手だ。このままではゲッター計画は確実に政府に渡る。

権限は向こうの方が強い、さすがに私や幕僚長では政府上層部相手に防ぐ手はない。

だがこれからの戦いにはゲッターロボとベルクラスは必要となる。

どの道、ニールセン博士の約束もあるしアメリカへ行かなければならんからな――これ以上日本に留まる意味もない」

 

ついに海外へ進出すると宣言する早乙女だがマリアは腑に落ちない。

 

「しかし現状をどう打開するのか……?」

 

「打開?そんなことはしない」

 

 

「え、じゃあ……」

 

「決まってるだろ?亡命さ」

 

「なっ!?」

 

「一刻も早く海外に行かなければな。知られれば向こうは意地でも差し押さえにくるだろう。現にもしかすればここに盗聴器をつけられているかもしれんし」

 

「しかしここにはベルクラスのクルー以外には誰も……」

 

「可能性は否定できないだろ?やるなら早く行動を起こすべきだ、違うか?」

 

「そうですが……司令、もし国外に逃亡すれば……」

 

「私達は国賊扱いになるだろうな、恐らく長い間は日本に戻れぬかもしれん」

「…………」

 

「だが戦争を一刻も早く終わらせたいなら私達はいつまでもここに留まる意味はない、前進せねばならない」

 

「……竜斗君達はどう思いますかねえ?」

 

「どう思おうが私は連れて行く。ゲッターロボはあの子らの機体だし、それに博士に会えばゲッターロボを改造してくれて今まで以上に強力なモノとなる、鬼に金棒だ。水樹に関しても向こうと相談して新規開発するとしよう。で、君はどうする?」

 

彼女は沈黙する。

 

「君には誇りがあるもんな、簡単に決めれるワケがない。

だから別についてくる気がないのならそれでもかまわん。

だが悩む時間もないぞ。私と付き合うか、それとも日本に留まって、後の残飯処理する日々に追われたいか?」

 

すると彼女は深くため息をつく。

 

「司令、私はあなたと仕事上で付き合って数年。祖国と家、自分の誇りと平和のために、色々振り回されながらもあなたに従事してきましたが、まさかそんな行動に出るとは正直思ってもみませんでしたよ」

 

 

「…………」

 

「もしあなたに付き合うとなると、私も国賊扱いされるとなると祖国、家にもう顔を見せられなくなると同じです、二度と帰れなくなります――」

 

後ろめたい気持ちとなっているマリア。だが――、

 

「しかし、私も自らの意志でここまで来ましたし司令、あなたのワガママに付き合うとも言いました――だから」

 

「だから?」

 

「私を納得させてください!」

 

「納得ね。どうやって納得させてほしい?」

 

「それは――」

 

……夜中、全員が寝静まった後、鍵を掛けた早乙女の部屋のベッド上では。

 

「……マリア、本当にいいのか?」

 

「ええ……あたしに勇気を下さい。これから先、茨の道に突き進む勇気を、失敗を怖れぬ勇気を……」

 

シャワーを浴びた二人は裸になり全てをさらけ出し、仰向けの早乙女にのしかかるように乗るマリアの姿が……。

 

眼鏡は外し、まるで真珠のような純白で綺麗な素肌、そして美しい金髪を下ろした彼女はまるで美の女神だ。

 

早乙女も痩せてしまったとはいえ、その引き締まった全身の筋肉を持て余すことなく見せつける。

 

「あの時の寸止めが忘れられなかったのか?」

 

「司令がああやって私に迫ったからです。これもあなたの責任です、ちゃんととってくださいね……?」

 

……二人は上下に重なるように密着し、濃厚な接吻を始め、舌と舌をねっとり絡み合わせる――。

 

「……意外だ、君もやるときは積極的になるんだな」

 

「……私だって女ですし、もう十年ぶりですもの――」

 

「にしても……君は本当に美しいな。このサラサラで清潔感のある金色の髪、透き通るくらいの澄んだ紺碧の眼、柔らかく包容力のあるキレイな肌……他の男性がなぜ狙わないのか不思議なくらいだよ」

 

 

「それはお世辞ですか?」

 

「ああっ」

 

「…………」

 

「なんてね、本音だ――」

 

「フフ……」

 

体勢を逆にし、仰向けになるマリアの秘部に早乙女の右手がたどり着き、指を使い奥に突き入れ、そして優しく弄ると緩急をつけて刺激すると彼女はビクビク反応し、甘い声と共にもがくように悶える姿がすごく可憐であった――。

 

「スゴく濡れてる――かわいいなマリア」

 

指についた、トロリと垂れる愛液をペロっと舐め、彼女の首筋に優しく口づけをする。そのまま口を滑らせるように彼女の胸へ辿り、チロチロ乳首を舐める早乙女。

「んん……っ」

 

あの時以上に女性の顔になっているマリアに彼は興奮しないはずはなかった。

 

「司令……強く抱いてください……っ、私が……あなたについていくための安心と勇気を分けてください……っ」

 

「マリア……」

 

――リードする早乙女、今までの彼とは思えないくらいの艶な男と化している――彼女の秘部を舌でじっくりと転がすように、そして愛でるように舐めると、ヒクヒクしている秘部から愛液がトロっと流れ出ている――。

 

「くぅ……んっ………っ」

 

 

――彼は自分のモノを彼女の中に入れて緩急を入れつつ突き上げる。

 

 

(お父さん、お母さん……これから先、私はあなた方と二度と会うことはできないでしょう……だけど、これも世界を救うために私の選んだ道です。

 

だからせめてもの――どうか私達の行く末を見守ってて下さい……)

 

マリアは絶頂が来て自身のタガが外れたように高らかに喘いだ。

何度も、何度も、何度も―――――部屋から漏れ出すほどだった――。

 

……彼女は彼についていくために自ら穢れる道を選んだ――だが、交わる二人の間には刹那的な愛も生まれていた。

 

――次の日の午前中。早乙女は三人を司令室に呼び、自分の決意を話すと三人は沈黙した。

 

「長い間日本には戻れぬかもしれんが戻れんというワケではない。最悪全てが終われば君達だけでも日本に帰すと約束しよう」

 

すると、

 

「……分かりました。僕は司令についていきます」

竜斗から先に名乗り出た。

 

「……国賊扱いされるのは嫌ですが、かと言ってこのベルクラスとゲッターロボを奪われてしまうのはもっと嫌です。

まだ戦争が終わってないのに、こんな中途半端なところで放り出されるなんて……こうなったら政府が絡んでいようとも、国賊扱いされようと、世界を救えるなら行く道を進むだけです」

 

はっきりと断言する竜斗に各人の彼の見る目が変わる。

 

「ありがとう竜斗」

 

すると今度は、

 

「ワタシもゲッターロボに乗るために戻ってきましたし、ここまで来た以上後戻りはしたくありません。

クロダ一尉、北海道の戦いで亡くなった皆……いや日本で亡くなった人々を報うためにワタシも勇気を振り絞って司令についていきますっ!」

 

エミリアも自分の意志を伝え、残りは愛美だが、彼女は腕組みをしたまま黙っている。

 

「水樹はイヤか?」

「……まさか日本から追われることになるなんて考えてもなかったわ。

もしかしたらこの先、もう日本には生きて帰れないかもしれないのに――」

 

彼女の言葉にドシンと錘のようなものが心にのしかかる竜斗達。だが、

 

「けどマナには帰る場所はここしかないし、それに亡命だなんて映画みたいなスリルなことはこれっきりだからね。

それに海外へタダで行けると思えばこれ以上なことなんてないわ。

観光したいと思ってたし、ついていかないワケがないじゃない?」

 

実に彼女らしい楽天的な言葉で全員の表情が柔らかくなった。

 

「満場一致で、我々ゲッターチームはこれより国外へ亡命する。

各人はもう日本に未練を残さないように準備していけ、いいな」

 

「「「了解っ!」」」

 

三人が司令室から出て行った後、

 

「君はアパートを退去しとけ。荷物も持っていきたいのなら私がすぐに手配しよう、解約金も必要ならすぐに出そう」

 

「ありがとうごさいます」

 

「私はこれから幕僚長にこのことを伝える。迷惑だろうが彼なら私に協力してくれるだろう――あと、向こうの陣営に連絡して受け入れさせてもらう許可、準備を取らねば。

それとマリア、君はクルー全員に艦から降ろすよう伝えてくれ、彼らまで我々の反逆行為の巻き添えにするわけにはいかん」

 

「了解です、あと気になることが……」

 

「なんだ?」

 

「万が一の話ですが、もしバレたら政府が軍全域に出動をかけて我々の国外逃亡の妨害をしてくるのでは?」

 

「高確率であり得るがこのベルクラスは頑丈だ。最大全速で堂々と突っ走り、太平洋沖に出ればもう追ってこれまい。

だが攻撃だけは絶対にするな、相手はあくまで敵ではない」

 

「承知です」

 

すると早乙女は不敵な笑みを浮かべる。それを見た彼女は不気味に思えてしまう。

 

 

「司令……どうしましたか?」

 

「生まれ故郷の日本から亡命、ということは次は世界が相手、そしてゲッターロボの強化……私の好奇心と探求心が刺激されてな、ウズウズしてたまらないんだよ」

 

……やはり早乙女は変人だ。

と、思いつつも彼女は彼を何があっても信じることを決めていた。

 

これからずっと――。

 



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第二十八話『世界へ――後編」④

それそれ準備に取りかかる各人――部屋の整理が終わり次第、マリアから指示をもらいその通りに動く竜斗達。

そして彼女は電話でアパートの大家に話し、家賃、光熱費、水道代、そして多少の修繕費を全て払った後、早乙女の手配した駐屯地にいる体育会系の隊員を使って各荷物、家具を運び出しに行かせた。

……彼らは喜んで引き受けた。

と、いうよりこの駐屯地内の隊員の殆どは早乙女に好意的であり、そして亡命すると言い出した時は悲しみながらも

 

「絶対に生きて帰ってきて下さい」

 

「後は自分達が何とかするので安心して行ってください」

 

などの労いの言葉、激励され、そして頼み事も自ら進んで引き受けてくれたのだった――。

早乙女は入江に通信をかけてこれからの事を打ち明ける――しかし彼は分かっていたかのような口振りだった。

 

“ついにその手段に出たか、君がいなくなってその後の日本はどうなるか不安だが……”

 

「大丈夫ですよ。日本もそんなにヤワじゃないですし、米軍も駐在しています。

私達はこれからニールセン博士のいるアメリカ、ネバダ州にある軍事基地に向かい、共にアメリカに蔓延るメカザウルス共を叩いてきます。もしこれに成功すれば確実に我々人類が有利になりえるでしょう」

 

“ネバダ……宇宙人に関連のある、あの『エリア51』のある区域か。今では対恐竜帝国の機密軍事施設になっていると聞くが――何が行われているの知っているか?”

 

 

 

 

彼の質問に首を傾げる早乙女。

 

「さあなんでしょうね?そこまでは自身でも解りかねます」

 

彼の口調には裏がある……何か知っている、と感じる入江であるが、これも早乙女らしいしそして知っていたとしても重要機密なら喋らないほうが優等生であるとも思っていた。

 

“そうか、ニールセン博士によろしくな”

 

「了解です。あと幕僚長に頼みたいことが……」

 

“わかっておる。君達が無事に日本から出るまで政府の手を抑え込んでおくから安心しろ”

 

「ありがとうごさいます、心より感謝しております」

 

彼に礼を言うと入江は一呼吸置いてこう言う。

“なあ早乙女一佐”

 

「どうなさいました?」

 

“私は君のためにここまで努力と苦労を費やしてきた。

それは君の可能性を信じてきたからだが、それと同時に君のワガママにも付き合ってきた、私がタダで君を見送ると思うか?”

 

トゲのありそうな言葉だが早乙女はニヤリと笑う。

 

「分かってますよ、後々あなた宛てに高級のブランデーを送りますから――」

 

“話が早くて素晴らしい。では、気をつけていけ。向こうの敵は日本以上に手強いぞ”

 

通信が切れると彼はつけていたネクタイを緩ませて息を吐く――。

 

「よし、後は――」

 

一方、マリアによって艦を降りるよう命じられたクルー達は最初は「最後までついていく」と拒否したものの、彼女の説得を受け入れ降りることを決意した――が。

 

「マリアさん、これを持っていってください!」

 

クルー達から何やらお菓子などのお土産を次々に渡される。

ちょうどそこに次の指示を聞きに来た竜斗達にもお土産を渡して激励する。

それに対し、三人はこれ以上にない感動と喜びに溢れた。

 

「皆さん、ありがとうございますっ!!」

 

竜斗と愛美は笑顔で彼らと話す中、感激と嬉しさでエミリアは大泣きし、顔を伏せる。

 

「こんないい人達と離れるなんてアタシイヤ……」

 

 

 

すると一人のクルーだった女性が彼女を優しく撫でて慰めた。

 

「あたし達は心配しなくても元気でやるから。エミリアには司令とマリア助手、彼らがいるんだし安心していってきなっ」

 

激励されて「ありがとう」と何度も感謝する。

その光景に二人もついに日本を離れるのかと、完全に実感した。

 

――亡命。生まれ育った日本に背を向けて去ることに対して僕達には確かな不安と恐怖があった。

つまり僕達は『はぐれ者』になるということだ。

そして向かうは遥か海の向こうのアメリカ。完全に育った文化が違うその地でこんな僕達を受け入れてくれるのだろうか――言葉も司令やマリアさん、エミリアがいるとは言え何時も対処できるとも限らない、正直不安でしかなかった。

だが決まった以上はそれに従うしかないし、そして自分達も同意したことだ。

 

――あの時、ジョナサン大尉の言っていた「アメリカで待ってる」という言葉をふと思い出す。

まさかこんな形で叶うとは思ってもみなかった――。

 

――昼過ぎ。夜中に出発すると言われて部屋で自由にしてていいと言われた三人は各部屋で寛いでいた。その中でもエミリアはデスクに向かい両手を組み、一心に祈っていた。

 

(お父さん、お母さん……ワタシはこれから生まれ故郷のアメリカに行きます。もしかしたら二度と日本に帰れないかもしれません。

……正直、日本を離れたくないけど、世界を救うためにそんなワガママはやめます。

こんな未熟な娘ですが必死で頑張りますのでどうか天国から見守ってて下さい……)

 

もうこの世にいない両親へ祈っていたのだ――一足先に自由になった両親に。

 

(リュウトやミズキ、司令やマリアさんがついてくれるから心配しないで……けど、アタシのこれからの晴れ姿をもう見せてやれなくなったのは本当に悲しいです――)

 

彼女の瞳から一筋の涙が流れ出ていた――すると、ドアをコンコンと叩く音が。開けるとそこに愛美が立っていた。

 

「ミズキどうしたの?」

 

「これから都合のいい時でいいからマナが英語を話せるようにレクチャーしてよ」

 

「え?」

彼女の頼みに驚くエミリアだった。

 

「これから長くアメリカに居座るんなら最低限英語を話せなきゃいけないかなと思ってね。アンタばかり通訳に頼るわけにもいかないでしょ?」

 

「ま、まあそうだけど……」

 

「マリアさんは忙しいし、なら一番本場の英語を知ってるアンタから学べば一番最適と思ってね――それに」

 

「……それに?」

 

「ジョナサンと英語で話したいの。マナを勝利と幸福の女神と言ってくれたし……あそこまでマナを大事に思ってくれる男なんて今まで付き合ったヤツでいなかった。

だから……マナはジョナサンとマジで仲良くなりたい、愛してあげたい」

 

 

大胆な本音を告げる愛美。エミリアは呆気に取られるも微笑ましいとも思い、優しく笑む。

 

「……わかった。今からする?」

 

「うん!」

 

二人は仲良く部屋に入るとすぐにまた部屋をコンコンと叩く音が。開けるとそこに竜斗が立っていた。

 

「リュウト……」

 

「エミリア、頼みがあるんた。俺に――」

 

「もしかして『英語を教えてくれないか?』って?」

 

「え……なんで分かったの?」

 

竜斗も愛美と同じ腹であった。すると後ろから愛美がひょこっと現れる。

 

「あら、石川も来たの?」

「まさか水樹も?」

二人はチームを組むと考えることも同じになるのかと感心する。

 

「フフ、じゃあ三人で仲良くやろっ♪」

 

――部屋でエミリアによる英語のレッスンが始まった。

日常で使いそうな英単語の読み書きの繰り返し、会話における発音のニュアンスやイントネーション、間の取り方……素人なりに試行錯誤しながら頑張ってレクチャーするエミリアに、二人はそれを暖かく受け入れそして合間にふざけやジョークを入れて心の底から笑い声を上げる彼ら三人は大親友のように楽しく行い、やる気の起きない学校の授業より遥かにモチベーションは高かった。

 

今の三人はまさにチームとしての親和性が最高に達した瞬間であった――。

 

(悪いことばかりじゃない――こんな素晴らしい仲間がいる限り、本当はワタシは幸せなのかもしれない)

 

エミリアはこの一時がいつまでずっと続いてくれればと思っていた。

 

――整備を終えて、燃料、弾薬、機体を全て載せて完全に準備の整えた夜中〇時過ぎ、艦橋にはすでに早乙女とマリアが待機していた。

 

「準備はいいか?」

 

「ええっ」

 

「では発進する――」

 

全制御システムを起動させて、発進態勢に入るベルクラス。

そして真上の巨大なハッチが左右にゆっくり開き、冬寒い快晴の夜空が広がるのが見える。

 

「マリアすまないな。私のために付き合ってくれて」

突然の謝罪をする早乙女。家、祖国、誇り、全てを捨てることになったマリアを心配しての言葉か。しかし彼女は気丈に振る舞いこう返す。

 

「司令が謝るなんてらしくないです。

私は自分の意思であなたについていくことを決めました。

 

だからこの先どうなろうとあなたと運命を共にします」

 

「マリア……」

 

「それに、あの子達を陰から支え、守るのも私の務めです。彼らのご両親が天国で安心できるように……」

 

彼女の決意を聞いて、もう思い残すことはなくなった。

 

「――では行くぞ!」

 

「了解っ!」

 

ベルクラスは轟音と共に水平浮上し、遥か大空へ飛び上がる。

 

 

――地上では、なんとベルクラスを見送りにクルーや駐屯地の隊員は外で手や旗を振っていた。

 

「彼らにこうまで応援されると、死んでも頑張ざるを得なくなるな」

 

「ええっ。皆さん、気をつけて……」

 

それをモニターで見た二人は嬉しく思い、そして彼らにも「日本を頼むぞ」とエールを送る。

 

上空二〇〇〇メートルに達したベルクラスは太平洋側へ進路を取り、ジェットエンジンをフル稼働。最大全速でアメリカへ前進した――その数分後。

 

「司令、レーダーに多数の反応確認。ベルクラスの後方より近づいてきます」

 

モニターで後方を移すと空に多数の黒い粒――BEET、戦闘機の部隊でベルクラスを必死に追跡しつつ、そしてその位置からの集中砲撃が始まった。

プラズマ弾、ロケット弾、空対空ミサイル、ヒート弾……無数の弾丸がまるで雨のようになって押し寄せてくる。

だがベルクラスはそのまま最大全速で海へ飛び出し、アメリカ方向へ飛翔していく。

 

―ベルクラスに搭載された大型のプラズマ反応炉、ゲッター炉心の二つのエネルギーを掛け合わせたハイブリッドジェットエンジンによる、これまで人類がなし得なかったほどの凄まじい推進力がグーンと部隊から引き離していく――それに向こうからの砲撃も何故か、全くとは言わないがバリアに触れる弾頭はほん少しだけである。

 

いやむしろ当たらないように仕向けている、そのやる気がないようにも見えるその攻撃。

実は建て前上は政府の命令で攻撃しているも、彼らは早乙女達ゲッターチームの味方であった――。

 

 

そして太平洋沖に出たベルクラスはモニターを確認し、もう向こうが追ってくる気配がないのを確認するとスピードを緩めて推進速度を安定させた。

 

「マリア、アメリカの敵基地は確かアラスカに駐在しているとの話だったな――」

 

「はい。敵の戦力は不明ですが土地の規模などを考えると日本以上の長期、激戦が予想されます」

 

「ああ、だがここまで来たからには後戻りはできない、やるしかないんだ。

それが我々『ゲッターチーム』の使命だっ」

 

真下が海しかないこの太平洋上を悠々と渡るベルクラス、新たな戦場『アラスカ戦線』へ向かう彼らの運命や如何に――。

 




長かったですがこれで第二部である日本編は終わりです。次は第三部『アラスカ戦線編』に入ります。

修正や資料集め、これまでの設定集、そして一、二話ほどの番外編なども投稿したいので本編の投稿は少しお休みになります。すいませんがご了承下さい。


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設定集(ゲッターロボ編①)

■ゲッターロボ

早乙女による対恐竜帝国殲滅プロジェクト『ゲッター計画(プロジェクト)』の産物である最新鋭SMB。

彼が偶然発見した宇宙から降り注ぐ新世代エネルギー『ゲッター線』を動力とし、従来型SMB、メカザウルスを凌駕する性能を持つ。

だが、発見してまだ間もないゲッター線の動力炉である『ゲッター炉心』は、どんなイレギュラーが発生するか分からないため、従来機と同じく安全性を考慮しプラズマ反応炉を搭載、ハイブリッド駆動で動いている。

 

本作のゲッターロボは石川漫画版やOVA版と違い、能力の並外れた人間が乗らなければならないというわけではなく、操縦訓練を受ければはっきり言って高校生の竜斗、さらにエミリア、愛美のような女子高生でも操縦できるようになっているのが特徴(しかし早乙女が操縦に耐えられない様子を見ると、ある程度の衝撃は抑えられない模様)。

操縦方法も簡単であり早乙女曰わく、車の運転より楽とのこと。だが、使いこなせるかは搭乗者のセンスによる。

 

各状況に合わせて、空戦、陸戦、海戦型の計三機が開発されており、それに伴いコンセプト、武装、機能が全く違う。

 

早乙女の開発した専用兵装を換装し、局地的な火力を特化させることが出来る。

 

一応、ワンオフ機ではあるが、実際は日本製SMB『BEET』の延長上、またはカスタマイズされた機体である。

これは予算的な問題と、汎用性の良さ、そして何よりBEET自体が日本人に合わせて造られているためである。

ただし、三機ともに言えるが一部を除いてゲッター線を使用する武装ばかりなためゲッター炉心が異常を起こしたりして使用不可になると著しく弱体化するのが難点である。

 

●空戦型ゲッターロボ

全高:23.5m

重量:71.2t

総重量:152.3t(GBL―Avenger装着時)

型式番号:SMB―GR01S

分類:ゲッター炉心搭載型BEET改(Sタイプ)

出力:92万馬力

装甲材:リクシーバ合金

動力:ゲッター炉心、プラズマ反応炉によるハイブリッド駆動エンジン

移動兵装:改良型フライトユニット『ゲッターウイング』

他兵装:対大型プラズマソード、GBL―Avenger

 

三機の内、空中戦を想定されて開発されたゲッターロボ。パイロットは石川竜斗など。

赤と白を基調したカラーの赤鬼のようなデザインを持ち、フライトユニット『ゲッターウイング』搭載により空中戦を得意とし唯一の機体。高機動性を追求し、装甲は薄い。

BEETタイプの兵装のほとんどをそのまま使用することができ、ライフルとトマホークによる近、中射程攻撃を得意とし、ゲッタービームが撃てる唯一の機体である。三機では一番人型のデザインであり、それゆえ様々な携行兵器を扱うことができる万能型である。

 

●武装

・ゲッタートマホーク×2

腰の両側面にマウントされた二本の折りたたみ式手斧型斬撃武器。

実体斧のように見えるが刃部がゲッター線によるビーム刃を発振し、メカザウルスにおいて抜群の切断力を持つ。

プラズマ兵器同様エネルギー充填式であるため、エネルギー切れを起こしても再び腰の専用アダプターに取り付ければ充填可能。

 

・プラズマ・エネルギーライフル(改)

早乙女の改修した規格外のプラズマ兵器で、従来型と比べハイブリット駆動によりプラズマエネルギーを兵器に回せるようになったことによる出力向上により貫通力が強く、結果メカザウルスも撃破可能となった。

 

 

・近接近戦用ビーム・シリンダー

右前腕部内に搭載された短射程小型ゲッタービーム砲。

速射性に優れ、間近で発射すればメカザウルスに致命傷を与えられる。

主に不意撃ちか、奥の手として使用する。

 

・ゲッタービーム

空戦型ゲッターロボの最大の威力を持つ、腹部に搭載された高出力ゲッター線放射兵器。

メカザウルスをも一撃で蒸発させることができるが、炉心共々実験段階であるため、出力を上げすぎるとどんな危険を及ぼすか分からない。

 

・プラズマ・エネルギーバズーカ

ゲッターロボの専用兵装ではなくBEETの武装バリエーションの流用品。

凄まじい貫通力を持つ高出力プラズマ弾を発射する重兵器。しかも見た目に反してチャージにあまり時間がかからないという優れものであるが重い。

 

 

・多連装ミサイルランチャー

これも専用兵装ではなくBEETの武装バリエーションの流用品である。

ランチャーとは名ばかりに携行タイプのミサイルポットとも言うべき兵器で追尾性を持ちメカザウルスにも有効である。

 

竜斗はライフル二挺、バズーカ、ミサイルランチャーのフル装備して出撃することが多かった。

 

・ゲッターウイング

空戦型ゲッターロボ最大の機能とも言うべき、背中に取り付けられた赤色の滑空翼ユニット。

BEETの空戦兵装である『フライトユニット』の改良型であり、ブースター推進の他に反重力も使用し、重量、機体のサイズによる空気抵抗に左右されない高機動力を生み出すことが出来る。

 

・プラズマシールド

プラズマエネルギーで展開するエネルギー防護障壁発生機関。

エネルギーを長く保たせるために部分的に展開する。

 

 

●SR(ショート・レンジ)兵装

空戦型ゲッターロボの近接近戦用兵装。名の通り、白兵戦に特化した装備が施されている。

 

・対大型プラズマソード

折りたたみ式の巨大実体大剣型兵装。背中に掛けるように装備される。

高出力のプラズマエネルギーの刃を発振する。

 

 

・ビーム・ソードトマホーク

プラズマソードの第二形態。ゲッタートマホーク二本と合体させることで使用でき、高出力のゲッター線の刃を発振させ、プラズマソード以上の切断力を生み出すことができる。

 

・増加装甲

近接近戦で被弾する前提で装着する追加装甲。全身鎧のような形状で防御面が格段に良くなるが、重いのが難点。

 

 

●LR(ロング・レンジ)兵装

空戦型ゲッターロボの長射程攻撃兵装。武装は一つしか持てなくなる。

 

・GBL―Avenger(ゲッタービームランチャー・アヴェンジャー)

 

空戦型ゲッターロボの武装の中でも最大級の火力を持つ狙撃専用の巨大な重兵器。

ゲッターロボ以上の巨大さを誇り、外見はもはや戦艦の主砲をそのまま携行したように見えるほど。

 

直撃で山をも一撃で粉砕するほどの破壊力と、本州のど真ん中から直線的に北海道の端まで届く長射程を誇るがゲッター線増幅装置が二基必要(外付け用、兵器内部に搭載)で、弊害も多く実験段階すらクリアしていない問題の代物であるため、非常に危険な兵器。

アヴェンジャーとは「復讐者」を意味する。

 

 

 

●陸戦型ゲッターロボ

全高:24m

重量:65.4t

総重量:83.1t(ライジング・サン装着時)

型式番号:SMB―GR02G

分類:ゲッター炉心搭載型SMB

出力:95万馬力

装甲材:リクシーバ合金

動力:ゲッター炉心、プラズマ反応炉によるハイブリッド駆動エンジン

移動兵装:ターボ・ホイールユニット

他兵装:ライジング・サン

 

三機の内、陸地での運用を想定されて開発されたゲッターロボ。

パイロットはエミリア=シュナイダー。

白を基調としたカラーでスマートなデザインだが『イカ』とも呼ばれる。

右腕のペンチ型アーム、左腕の大型ドリルによる白兵戦を得意とする。

三機では最も直線的な機動性の優れた機体である。

ちなみに分類が三機の中で異なり、BEETではなくSMB扱いなのは武装等がBEETタイプと該当しないためである。

 

 

●武装

・有線式ゲッターアーム

右腕のペンチ型金属ワイヤー内蔵アーム。相手の頭を掴みつぶすこともでき、射出して離れた対象物を掴むことも可能。

 

・アーム内蔵型プラズマビーム砲

アームの中央に内蔵された小型ビーム砲。掴んだ相手に零距離から撃ち込み、焼き切るという芸当が可能。

 

・大型ドリルアーム

本機の象徴とも言うべき左腕の巨大なドリル。ゲッター線駆動のトルク回転から生み出す破壊力はメカザウルスを一撃でズタズタにすることが出来る。

しかしアームと違い、射出は出来ない。スペアもあり、交換する際はその場で取り外すことが出来る。

 

・ターボ・ホイールユニット

陸戦型ゲッターロボの特徴である機能。

BEETのG(陸戦)タイプに装備される地上用推進車輪ユニットと同じであるがこちらは固定装備。

両踵部に搭載されたキャタピラーのような車輪と小型ターボブースターにより、地上において地形を選ばず高速移動(ローラーダッシュ)できる。

 

・プラズマシールド

他のゲッターロボと同じ性能。

 

 

●ライジング・サン

陸戦型ゲッターロボ専用の背部装着型多武装ギミック兵装。 英語のXのようなデザイン。

射撃武装が内蔵されており、苦手であった中距離攻撃を可能にしている。

欠点は装備すると、本機のウリである機動力が著しく低下することである。

 

・プラズマ・アサルトガン×2

ライジング・サン上部に内蔵された射撃武装で左右の肩付近から展開される。威力はないが連射性能が優れており牽制攻撃用として用いる。

 

・ドリル型攻撃端末システム×1

ライジング・サンの中央に突き出るように搭載されたドリル型自律攻撃機。

ブースター推進による高速飛行で敵となる対象物に襲いかかる。

エネルギーがなくなりかければ充電しに戻る機能も有する。

 

・小型ゲッターミサイル発射管×2

ライジング・サンの下部に搭載されたゲッターミサイル管。左右腰に展開される。

 

●海戦型ゲッターロボ

全高:21.5m

重量:95.1t

総重量:201.7t(ドーヴァー砲、専用プラズマジェネレータ装備時)

型式番号:SMB―GR03A

分類:ゲッター炉心搭載型BEET改(Aタイプ)

出力:100万馬力

装甲材:リクシーバ合金

動力:ゲッター炉心、プラズマ反応炉によるハイブリッド駆動エンジン

移動兵装:スクリューユニット、地上用推進車輪ユニット

他兵装:ドーヴァー砲、専用プラズマジェネレータ

 

三機の内、陸戦及び水中戦を想定されて開発されたゲッターロボ。

パイロットは水樹愛美。

 

カラーは黄色を基調している。

全身にバルカン、ミサイル、プラズマ兵器を詰め込んだ、まさに『動く武器弾薬庫』とも言うべき機体で、長射程攻撃を得意とし装甲も厚いが、反面機動力は三機の中で最低。

 

この機体のみ火器管制はトリガー式で行う。

この機体のみ『フルバーストモード』と呼ばれる全弾を一斉発射する機能も持つ。

BEETタイプをそのままベースにしているため、実質にはゲッター炉心搭載型BEET改良型とも言える機体であるが、当初愛美はこの機体のデザインにカッコ悪いと大ブーイングしていた。

 

●武装

・フィンガーバルカン×10

全指先から発射される実弾型バルカン。腕が蛇腹状で伸縮性を持ち、伸ばしてから近距離で発射も可能。

 

・小型ゲッターミサイルポット

両脛内に搭載された無数のゲッターミサイル。水中では魚雷としても機能する。

 

・胸部搭載高出力プラズマビーム砲

胸部に搭載された大出力のプラズマ兵器。

ゲッタービームに迫る威力があるがチャージに時間がかかる。ビームを拡散弾に変更できる『ディヒューズモード』にも変更できる。

 

・大型ゲッターミサイル発射管×2

両肩に装備された大型ゲッターミサイルの発射管。大型メカザウルスすらも一撃で粉々にする。

こちらも水中において魚雷として使用可能。

 

・スクリューユニット

海戦型ゲッターロボの機能である海中移動用ユニット。

背中に装着されたスクリューにより海中を自由に移動できる。小回りが利き、海上に出てホバーも可能。

BEETのA(海戦)タイプの流用品である。

 

・パッシブソナー

海戦型ゲッターロボの機能。

水中における敵反応を感知をする、その有効範囲半径十キロメートル。

最大の特徴は各ミサイルと連動していることにあり、ソナー内の敵反応を全てにロックオンし、ミサイルを追尾させることが可能。

こちらもAタイプの流用品である。

 

・地上用推進車輪ユニット

地上で動く際に必須なユニット。本機の機動力がかなり低いため、これがないと活動範囲が著しく狭くなってしまう。

・プラズマシールド

他のゲッターロボと同性能。

 

 

●ドーヴァー砲

海戦型ゲッターロボの専用兵装で両肩のミサイル発射管の代わりに換装できる。レールガンと似て否なる兵器で、発射した弾頭の威力より通過時の衝撃波が強力で小さな街なら壊滅する。

 

しかし膨大なエネルギーを注ぎ込むために専用プラズマジェネレータが必須であり、エネルギーチャージ時間、発射衝撃、再装填に難があり、そしてその砲身とエネルギージェネレータの重量が凄まじく殆ど動けなくなるという致命的な欠点を持つ。

しかし『GBL―Avenger』と違って何発でも撃てるのが強みである。

 

 

●ベルクラス

全長:560m

全高:212.4m

全幅:120.8m

分類:ハイブリッド駆動式大型高速移動浮遊艦、ゲッターロボ専用運用支援艦

動力:大型ゲッター炉心、プラズマ反応炉によるハイブリッド駆動ジェットエンジン

 

早乙女の開発したゲッターロボの運用、及び支援を行うプラズマエネルギー、ゲッター線によるハイブリッド駆動の大型高速移動浮遊艦。

飛燕を思わせるそのデザインは高速航行するに適したデザイン。

基本的に艦長は早乙女、マリアがオペレーター及び艦管制を務めるが逆の場合もある。システムはほとんどオートメーション化されているため、一人だけでも制御は可能。

一応武装も施されているがあくまでゲッターロボを運用する支援艦であり、戦闘艦ではない。

 

住居性も完備されており、各乗組員の自室(シャワールーム完備)、医務室、食堂、座学室などの多目的施設も充実している。

 

格納庫、カタパルトは艦後部に搭載されている。予備としてBEETも二機積載しており、SMBの最大積載数は五機。高速移動艦という名を持ち、プラズマエネルギーとゲッター線によるハイブリッドジェットエンジンにより凄まじい推進力、速度を持つ。

所有権はゲッターロボ含め早乙女による個人所有。

 

 

●武装

・対空機関砲×50

前方各両舷に搭載された機関砲。主に牽制、撹乱用として用いる。

 

・対地ゲッターミサイル発射管×20

両舷底部に搭載された対地用大型ゲッターミサイル。

追尾機能を持ち、地上のメカザウルスを一掃できる。

 

・高出力プラズマエネルギー主砲

ベルクラス最大の威力を持つ大型プラズマ兵器。艦首を展開し使用できる。

エネルギーチャージに時間がかかるが、空戦型ゲッターロボのゲッタービームをも遥かに超える威力を持つ。

 

・大型プラズマシールド

ゲッターロボと違い、常にベルクラス全体を防護する。

非常に強固であるがエネルギー消耗効率に難がある。

 



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設定集(メカザウルス編①)

■メカザウルス

恐竜を改造した半生体、半機械の巨大機動兵器で恐竜帝国の現主力機動兵器。

 

様々な種類の恐竜同士の配合、遺伝子操作、薬物投与などで人工的に生産、強化した恐竜を改造しているのが殆どで、自身の意思を持つ個体が多いがコックピットも搭載している個体、つまり有人機タイプも存在する。

ほとんどが有人機の本家(東映TV版)と違い、無人機もかなり多く、それぞれ個々の意思を持っており指揮官機からの特殊電波を送ることでより高度な命令を出すことができる。

中には恐竜、爬虫類とは言えない外見を持つメカザウルスも少なからず存在する。

 

装甲材に使われている『ツェディック鋼』はマグマ層よりも下の層にしか採れない地上人類には未知の金属であり、軽量かつ頑丈であり、絶縁体としても機能し、プラズマエネルギーをほぼ完全に防ぐが、瞬間的な高密度の衝撃やエネルギー熱を受けるとガラスのように脆いという弱点がある。

セクメミウスはツェディック鋼をより精製した産物でカテゴリー的に人工レアメタルである。

マグマを動力とする反応システム『マグマリアクター』によって凄まじい出力を持つが冷えるとがた落ちするため長期戦には向いていない。

 

飛行型は翼竜、怪鳥タイプ、または羽根とブースターを兼ね備えたタイプ、地上型は暴君竜や角竜、剣竜タイプなど、水中型は首長竜に分けられており武装は噛みつき、鋭い爪、蹴りや体当たりなどの凶暴で野蛮な攻撃もあれば、マグマ砲、ミサイル、爆雷、機関砲など兵器色の武装を持ち性能は基本的に差異はない(出力は70万馬力前後)。

 

各モデルは主に本家に登場したメカザウルス(バド、サキ、ザイ、ズー、ウル)など。

 

●メカエイビス

メカザウルスから派生した巨大機動兵器でメカザウルスより大型である。

エイビスとは『鳥』を意味し、その名の通り空中戦に特化している。

そのコンセプト上、地上戦は勿論のこと低空飛行、戦闘は出来ないがメカザウルスよりも突出した火力、強固な装甲を持ち敵の本拠地に強襲をかけることができる。

強力な反面、非常に扱いづらく搭乗には規制がかかっており、階級が上級恐竜兵士以上でないと搭乗はできない。

 

●メカザウルス・ゼクゥシヴ

全高:23.5m

重量:190.8t

型式番号:MZE―125ZC

分類:キャプテン・ラドラ専用試作型メカザウルス

装甲材:ツェディック鋼

出力:90万馬力

動力:アルケオ・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

移動兵装:翼竜タイプの羽根、ブースター二基

 

恐竜帝国の兵器総主任者ガレリーによって開発された新型マグマ動力機関『アルケオ・ドライヴシステム』、『ヒュージ・マグマリアクター』を搭載した試作型メカザウルス。

パイロットは若きキャプテンであるラドラ=ドェルフィニ。

 

これまでのメカザウルスと一線を画する要素、機能、武装を装備した新世代型メカザウルスで『アルケオ・ドライヴシステム』という無限にマグマを生み出す、所謂錬金術のような仕組みを持つ新システムにより、無限のエネルギーを得ることができるようになった。

 

性能は従来のメカザウルスと比べて極めて凄まじいものを持つが、キャプテンでも特に卓越した操縦技術を持つラドラ以外にはまずポテンシャルを引き出せない機体となっており、実質ラドラ専用機である。

大トカゲを限りなく人型にしたデザインでライフルや長剣を装備し扱うことに長け、凶暴で野蛮な従来型とは異なりかなり知的な行動を取れ、それ故臨機応変な対応を可能にしている。

高機動性を重視しているため防御、耐久面は低い。

ゲッターロボより総合スペックは多少劣るが、ラドラの卓越した操縦技量によって性能差を大きく覆している。

ゼクゥシヴとはシュオノアーダ(爬虫人類語)で「勇猛なる騎士、勇者」という意味を持つ。

この機体はメカザウルスに新たな時代を与えたとされ、後にこれをベースにした『ゼクゥシヴシリーズ』という機体が数々生み出されることになる。

 

●武装

・ウイングミサイル

翼竜のような翼の骨組みの上から突出した、角型ミサイル兵器。主にミサイルの迎撃に使用する。

 

・マグマ・ヒートライフル

ゼクゥシヴ専用のライフル型マグマ兵器で高速のマグマ弾を発射する。

従来のメカザウルスには搭載されなかった新兵器でありアルケオ・ドライヴシステムの恩恵を受けて弾切れは有り得ない。

セレクターも搭載しシングルショット、セミオート、火炎放射、マグマ砲モードに変更できる。

 

・マグマ・ヒートブレード

背中に搭載された実体長剣型斬撃武装。剣内にマグマを循環させてその凄まじいマグマ熱を帯びた超高温の剣刃はいかなる物体を溶断する。

特殊な冷却剤を使用し、真っ赤に熱せられた刃を一瞬で冷却させることができ、ライフルに素早く持ち替えることに一役買っている。

 

●メカエイビス・タウヴァン

全長:55m

重量:1500t

型式番号:EME―01TV

分類:首長竜型試作メカエイビス

出力:120万馬力

装甲材:ツェディック鋼

動力:大型マグマリアクター

移動兵装:大型ブースター

 

朝霞での戦闘で初めて投入されたメカエイビスで上級恐竜兵士の他、中隊副司令官のガルマ=イ=エヴライハムが搭乗した。

首長竜と怪鳥を合体した重爆撃機を思わせるフォルムで外装甲を張り巡らして防御力に重点をおいているが、実験要素の多い初期型のメカエイビスであるために『アルケオ・ドライヴシステム』は搭載されていない。

タウヴァンとは「試作機」を意味する。

 

●武装

・大型マグマ砲

頭部の口から発射する大口径のマグマ砲。

 

・全方位ミサイル砲

全身に張り巡らせた装甲内に搭載された無数のミサイル。

敵の攻撃による起爆を防ぐため装甲を二段に重ねてある。

 

 

●メカザウルス・セクメト

全長:48m

重量:1140.5t

型式名称:MZS―201SCM

分類:試作型無人メカザウルス

出力:150万馬力

装甲材:セクメミウス

動力:アルケオ・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

 

ガレリーが対ゲッター線兵器として開発した新型メカザウルス。

だんご虫のようなデザインで、攻撃時には体を丸めてタイヤ形態になり、走り回ることができる。

装甲として使用している特殊金属『セクメミウス』はありとあらゆる攻撃のエネルギーを吸収、装甲の硬度を強める性能を持つ。

 

ゼクゥシヴ同様、アルケオ・ドライヴシステム搭載機である。

 

●武装

・全方位マグマ砲

身体中からマグマを撒き散らす広範囲マグマ砲。アルケオ・ドライヴシステムを搭載しているため無尽蔵に吹き出すことが出来る。

 

・体当たり

タイヤ形態になり、猛スピードで相手にぶつかり潰す単純攻撃。

 

●メカエイビス・エイルード

全高:98.2m(膨張時)

全幅:121.5m(膨張時)

重量:2455t(膨張時)

型式番号:MEA―03ER

分類:キャプテン・アウロ専用軟体メカエイビス

装甲材:なし(特殊有機皮膜)

出力:260万馬力

動力:大型マグマリアクター

 

第十三海竜中隊が所有するメカエイビスで海上戦専用。

パイロットは中隊副司令官であるアウロ=ジ=ジルホルゴ。濃い紫色の悪趣味な皮膚に顔まである、まさに化け物に例えるに相応しい外見を持つ。

 

クラゲ、タコ、イカなどの遺伝子を掛け合わせた軟体生物をベースにしている。

海水を吸い込んで身体を張り詰め、丸みの帯びた柔軟な皮膚は様々な衝撃を抑える役目を持つ。

そして下部の先端がトカゲの頭部を象る計二十本の触手には実は自律回路が搭載されており、個々が敵と判断した対象物に襲いかかる性質を持つ。

 

海水を溜め込む箇所とは別に、空気を溜め込む箇所があり、マグマ熱によって暖められて浮力を得る、いわゆる熱気球と同じ原理で浮遊する。

エイルードとは「風船のようなもの」を意味する。

 

モデルは知る人ぞ知る『ドラゴノザウルス』であるが、本家と違い再生能力はない。

 

 

●武装

・噛みつき×20

各触手による噛みつき。鋭く硬い牙を持つためBEET程度なら噛み砕き、捕食してしまう。

 

・マグマ砲×20

触手の先端から発射する放射タイプのマグマ砲。

 

・溶解液×20

いわゆる胃酸のようなもの。だがBEET程度の装甲なら瞬時に溶けてしまうほどに濃度が高く強力である。

 

 

■戦艦

●恐竜母艦

全長:500m

全高:190m

全幅:210m

動力:大型マグマリアクター

分類:小型恐竜戦闘機運用浮遊艦

最大積載数:100機

 

古代の怪鳥のデザインを持つ、恐竜帝国の所有する巨大浮遊艦。恐竜戦闘機を多数積載している。

武装は全く施されておらず、恐竜戦闘機の母艦として運用するため大体は後方で待機している。

 

恐竜戦闘機は全て無人機であり、小型機関砲、ミサイル、対地爆弾を装備しており、全長は約3m弱しかなく個々の戦闘力は貧弱だが、数でものを言わせる戦術を行うように設定されているため撹乱、弾幕張りに使え、そして脅威である。

 

 

●ジュラ・ノービス

全長:670m

全高:285m

全幅:95m

分類:第十三海竜中隊潜水母艦

装甲材:ツェディック鋼

動力:大型マグマリアクター

移動兵装:超大型スクリュー四基

 

 

第十三海竜中隊の潜水母艦。シーラカンスのような出で立ちで装甲には無数の魚雷を仕組んでいる。

艦長はアウネラ=ド=アークェイル。

退役寸前の旧式艦であり所々ガタがきている。

本来は新型艦が受領されるハズだったがその前に地上人類との交戦で大破してしまう。

だが武装は他の部隊にはない独特の兵装で特に『セクペンセル・オーヴェ』の技術は以降の恐竜帝国の兵器に革新を与えることになる。

 

 

●武装

・魚雷×500

海水魚の姿をしているがこれは擬態の意味を兼ねている。

 

・ヒュドゥン砲

口内から展開する大口径フォノンメーザー砲(超音波をレーザー化した兵器)。

それだけでも威力は高いが、セクペンセル・オーヴェを併用することで真価を発揮する。

 

・セクペンセル・オーヴェ×8

ジュラ・ノービスの牙型の自律支援兵器。

陣形を組み特殊結界を作る。

それによりヒュドゥン砲の威力を結界内全てに伝わせることができ、言わば内部は電子レンジのような状態になる。

どれだけ結界の範囲が広まろうと陣形さえ作れれば有効となる。

体当たりなどの攻撃を命令することも可能。

 

「鋭い牙を持つ守護者」を意味する。

 

 

●ダイ

全長:3500m

全高:1550m

全幅:985m

分類:第十二恐竜中隊移動攻撃要塞、ブロント級地上攻撃戦艦

装甲材:ツェディック鋼、セクメミウスの複合材

動力:アルケオ・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター二基

移動兵装:アパトサウルス型超大型メカザウルス二機

他兵装:リュイルス・オーヴェ、サウビューヌ

 

第十二恐竜中隊の本拠地兼最終兵器である巨大攻撃戦艦。並列に並ぶアパトサウルス二機の背中に中隊地下基地を乗せた外見。

 

大雪山の地下基地そのものであり大雪山戦役にて司令官のニオンが起動させる。

その巨体に相応しい火力、装甲とも全く死角のない超性能であり、さらに核爆発すら余裕で耐えうるバリア発生装置『リュイルス・オーヴェ』を四基展開しているため驚異的の耐久力を持つ。

これ一隻で日本全土を焦土にすることができる程の火力を有する。

 

古代に爬虫人類が遺伝子操作、薬物投与などで長時間馴染ませて造り上げた巨大なメカザウルスを現在の爬虫人類の技術を加えて造られたハイブリッド兵器である。

 

●武装

・マグマ主砲×2

アパトサウルス型メカザウルス二機の頭部から凄まじい量のマグマを吐き出す。

アルケオ・ドライヴシステムとヒュージ・マグマリアクターを二基搭載しているため、その気になればこれだけで日本全域をマグマで呑み込めるほどである。

 

・マグマ副砲×8

基地部の四方に搭載した速射性重視のマグマ砲。だがSMB相手なら一撃で溶かす威力を持つ。

 

・全方位大型ミサイルランチャー×300(計4200発)

基地部全域に搭載した無数の大型ミサイル砲で計三百基、計四千二百発。

ダイを取り巻く周辺全域を焦土にすることができ、ダイの超火力に一役買っている。

 

・対空砲×100

自動制御型である。基本的にリュイルス・オーヴェが展開している限りは使用されない。

 

 

・マグマ・ガンポット×50

マグマ弾を発射する自律浮遊兵器。高機動だが耐久性は低い。

 

・サヴビューヌ×10

「しもべ」を意味する自律兵装システム。

セクメミウス製の翼竜型メカであり個々の戦闘力は従来型メカザウルスを大きく上回る。

だが頭部がデリケートで衝撃に非常に弱いという致命的な欠点がある。

 

 

・リュイルス・オーヴェ×4

ジュラ・ノービスの武装であった「セクペンセル・オーヴェ」をさらに発展させた新型防御機関で特殊電波で制御する。

 

セクペンセル・オーヴェのように自律しており頑なにダイを守ろうとするバリア発生装置でセクメミウス製で且つ、空戦型ゲッターロボやステルヴァーを上回る高機動力を持ち、全く隙がない。核爆発すら余裕で耐えうるバリアを展開し、攻撃を感知するとすかさずバリアを張る性質を持つ。

 

たが、その過剰なほどの保守的な自律回路は、自身が攻撃を受け続けると自身の安全を重視してバリアを張る対象物自体を疎かにしてしまうのが最大の弱点である。

意味は「加護をもたらす守護者」。

 



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設定集(各SMB編①)

■SMB(エスエムビー)

『スーパー・メタリック・ボディ』の略であり、他ゲッター作品内におけるスーパーロボットと同じ位置づけで、本作のゲッターロボはこれに分類される。

 

『世界人類連合』の発令によって対恐竜帝国用戦力として各先進国で開発された有人機動兵器の総称である。

ルーツは数十年前、世界各国で宇宙競争が行われていた時代に開発された宇宙開発及び、惑星探査用有人ロボット。

SMBはそれから数えて第三世代ロボットになる(第二世代の時点でSMBの基盤は完成されており、現世代は実戦投入、配備できるレベルにまで辿り着いている)。

 

フレーム、装甲材に使われている『リクシーバ合金』は、アイスランドで偶然発見された非常に柔軟性の高いレアメタルと鉄やチタンを合成した架空の合金で、これで造られたSMBはほとんど人間のような自然な動きができる柔軟性と運動性、アメリカ製SMBの特徴的である可変機構を可能にしたが反面強度、耐久性は高くない。

当然、各ゲッターロボもこの合金製である。

 

全高に規定があり、大体二十五メートル前後で統一される。これは扱い易さを保ちつつ、メカザウルス相手に対等に戦えるサイズの妥当点であるため。

 

動力源は第五世代エネルギー『プラズマエネルギー』で稼働し、主力兵器であるプラズマ兵器のエネルギー源ともなっている。

原子力に変わる反応システム、『プラズマボムス』を実戦用に発展させたシステム、プラズマ反応炉が各国の標準動力炉であるが、日本のゲッターロボ、アメリカ製のみ、ゲッター線、もうひとつの新世代エネルギーであるグラストラ核エネルギーのハイブリッド駆動も確立している。

 

●BEETタイプ

全高:21.5m

重量:75.9t

総重量:99.1t

型式番号:SMB―24BT

分類:日本製汎用型SMB

装甲材:リクシーバ合金

出力:60万馬力

動力:プラズマ反応炉、プラズマ駆動エンジン

移動兵装:地上用推進車輪ユニット、フライトユニット、スクリューユニット

 

「ビート」と呼ぶ。日本製SMBで自衛隊の管轄下に措かれている日本の現主力機。パイロットは黒田悠生、他自衛隊パイロット。

専用オプションと兵装を換装することで、空陸海問わずどんな状況にも対応できる拡張性と汎用性の高さが特徴。ゲッターロボのベース機であるが操縦管制系統は別物であり、こちらの方がかなり複雑である。

デザインとしては『歩兵』をイメージして造られている。

 

●標準武装

・プラズマ・ソリッドナイフ×2

腰部のナイフホルダーに装着されたプラズマエネルギーのビーム刃を発振する近接武装。計二本常備。

ナイフ内のENパックの出力が低いため威力はあまり期待できないがメカザウルスの皮膚や強度の低い物体なら溶断可能であるため、戦闘では主にメカザウルスの眼部などの急所を突く用途として用いられる。

エネルギー充填式であるため、エネルギーがなくなってもホルダーに戻すことで再充填可能。

ゲッタートマホークの原型である。

 

・プラズマ・エネルギーライフル

プラズマエネルギーを圧縮し、弾丸として発射するプラズマ兵器。

各国の機体にも装備されている標準兵器であるが威力はプラズマ反応炉の出力に依存するため、メカザウルスには有効打になり得ない。それでも前時代の実弾兵器と比べれば段違いに強力である。

空戦型ゲッターロボに装備されている物はこれを改造したものである。ナイフ同様、充填式。

 

・対近接機関砲

頭部に装備された二門の機関砲。主に牽制に使用する。

 

●空戦仕様(Sタイプ)

BEETの空戦仕様。空戦兵装であるフライトユニット装着により、空中での運用が可能。航空自衛隊に配備されている。空戦型ゲッターロボのベース機である。

 

●専用兵装

・フライトユニット

背部に装着する専用移動兵装。燃料によるブースターと滑空翼で空中航行できる。

但し燃料の関係で補給を受ける必要がある。

これを無限飛行できるよう改良したのが『ゲッターウイング』である。

 

・空対空ミサイルポット

右足に装着された対空用ミサイルポット。計三発装弾されている。

 

●陸戦仕様(Gタイプ)

BEETタイプの中では最もポピュラーなタイプであり、武装バリエーションが豊富であり、黒田の愛機でもある。

一応、陸戦型ゲッターロボのベースにもなっているが兵装が地上用推進車輪ユニットしか該当せず、実質向こうは早乙女によるオリジナルカスタム機である。

寧ろ空戦型がこちらの流れを受け継いでいる。

 

●各武装

・プラズマ・エネルギーバズーカ

大型ENパックを使用し高出力プラズマ弾を発射できる重兵器。貫通力が強くメカザウルスも容易く撃破可能。見た目に反してチャージにも優れているが重い。空戦型ゲッターロボも装備可能。

 

・多連装ミサイルランチャー

九連発式。ライフルやバズーカ同様、空戦型ゲッターロボも装備可能。

 

・ロングキャノン

肩部に装備する長射程武装。プラズマ兵器ではなくヒート弾である。高射砲を思わせる形である。

 

・ガトリングポット

腰部に装着する実弾兵装。連射性が優れるが装弾数は少なく弾切れになりやすい。

 

・小型ミサイルポット

肩部に装備する。ロングキャノンと併用装備はできない。

 

・対メカザウルス用ハンドグレネード

大型手榴弾。黒田はメカザウルスの口の中に突っ込んで起爆させるという荒技を見せた。

他にも発煙機能を持つタイプ、いわゆるスモークグレネードも存在する。

 

・火炎放射器

熱に強いメカザウルスにはあまり効果はないが細菌や化学物質汚染区域の焼却や密林戦、対人戦で使用される。

 

・地上用推進車輪ユニット

地上においてSMBを素早く移動させる目的で開発された移動兵装で脚部のブースターとキャタピラーで地上を高速滑走(ローラーダッシュ)できる。各国標準装備。

陸戦型ゲッターロボのターボ・ホイールユニットの原型である。

違いはゲッターロボのは内蔵タイプに対し、こちらは換装タイプである。

 

 

●海戦仕様(Aタイプ)

水中戦に特化したタイプ。耐水圧コーティング、気密装備を施すことにより長時間潜水もでき、武装も独特である。海上自衛隊に配備されている。海戦型ゲッターロボのベース機である。

 

●各武装

・魚雷ポット

装弾数六発。パッシブソナーを併用することで追尾性が追加される。

 

・ホーネットガン

水中にて相手を捕縛するネットを射出する銃。高圧電流を流し込む機能も備えている。

 

・ハープーンキャノン

肩に装備する金属ワイヤー付き銛発射器。対象物に射出し捕捉する用途で用いる。

 

・スクリューユニット

海戦型ゲッターロボと同型。

 

・パッシブソナー

同型。海戦型ゲッターロボのは有効範囲が強化されている。

 

 

●ステルヴァー

全高:25m

重量:81.5t

最大重量:155t(フル装備時)

型式番号:SMB―02ST

分類:アメリカ製可変式試作SMB、ブラック・インパルス隊員専用機

装甲材:リクシーバ合金

出力:96万馬力

動力:プラズマ反応炉、グラストラ核反応炉のハイブリッド駆動エンジン

移動兵装:地上用推進車輪ユニット、スラスター六基、ヴァリアブルモード

他兵装:対艦用グラストラ戦術核バズーカ、リチャネイド、オールストロイ

 

 

アメリカ軍、主にニールセンによって開発された最新鋭可変式SMB。

パイロットはジェイド、ジョージ、ジョナサン達戦闘機パイロットのエリートであるブラック・インパルス隊員に限られる。

人型と戦闘機型の二つの形態に可変できる『ヴァリアブルモード』機能を持ち、陸戦及び空戦を得意とする。

動力はプラズマエネルギーとアメリカ側の新エネルギー『グラストラ核エネルギー』の、ゲッターロボ同様に互いに異なるエネルギーによるハイブリッド駆動である。

ゲッターロボと同等かそれ以上の凄まじいスペックを持つがシールド機構は搭載されていない。ちなみにまだロールアウトしたばかりであり制式採用されていない実験機でもある。

 

●基本武装

・ハンドダガー

両手首に内蔵されている実体短剣武装。固定式で刃を高周波振動させることで切断力を高めている。

 

・プラズマ・エネルギーライフル

各国標準装備のプラズマ兵器。

戦闘機形態ではこれが機首となるため、バレル部が短かいなど従来型とは形状が異なる。

 

・小型ミサイル×4

両前腕内に各二発ずつ内蔵されている。発射する際はせり出すように展開する。

 

・対近接機関砲×2

頭部に二門搭載。戦闘機型に変形してもそのまま使用可能。

 

・大型バインダー

両肩の外側に取り付けられた大盾のようなバインダー。

防御兵装として使用するが戦闘機変形時には主翼として機能する。

 

・ステルス機能

特殊な妨害電波を広範囲に拡散し、敵のレーダーから感知されないようになる。

 

●戦闘機形態

人型からヴァリアブルモードで可変した際の形態。人型でも飛行可能だがこちらの方が機動力は遥かに上である。大盾バインダー、及び両脚が変形時にそれぞれ主翼、尾翼に変形する。

 

●武装

・空対地ミサイルポット

両羽翼に搭載されている箱型のミサイルポット。計六連発。

 

・プラズマ・エネルギーライフル

変形時に機首部となり、この状態からでも発射可能。

 

・対空機関砲×2

機首部左右下に搭載してされている。

 

・対地爆弾

腹部付近に搭載されている。

 

●追加兵装

・リチャネイド

レールガンの一種である大型リニアランチャーで専用の大型劣化ウラン弾を使用する。

分解式で砲身が二つに分かれており使用する際は直列に連結させる必要がある。凄まじい射程距離が特徴で敵の射程圏外から攻撃可能。主に後方支援攻撃に使用する。

 

・対艦用グラストラ戦術核バズーカ

戦術核弾頭を発射する。しかしエネルギーの性質上放射能は発生しないクリーンな核兵器だがそれでもあまりに強力なために常にセーフティが掛かっている。

 

「これでいつでもどこでも核攻撃が行える」とは早乙女の弁。

 

・オールストロイ

光学色彩効果を持つ特殊な大型ライフル。自分の姿を周りの風景と同化し相手の視野から消すことができる。

これとステルス機能を併用することができ、本当の意味でステルスとなるが音までは消せず、さらに過剰な運動エネルギーを発すると効果が一時的に消えてしまうという欠点がある。

しかし弾丸はニールセン特注の高速弾で威力は強力。狙撃銃として使用すれば十二分の働きをしてくれる。

 

●マウラータイプ

全高:24m

重量:77.4t

総重量:96.5t

型式番号:SMB―02MU

分類:アメリカ製可変式現主力SMB

装甲材:リクシーバ合金

出力:66万馬力

動力:プラズマ反応炉、プラズマ駆動エンジン

移動兵装:地上用推進車輪ユニット、スラスター六基、ヴァリアブルモード

 

アメリカ軍の現主力SMBであり、人型と戦闘機型に可変できる『ヴァリアブルモード』機能を持ち、ステルヴァーの原型機である。

BEETタイプのような無骨で硬派なデザインで飾り気が全くない。

プラズマエネルギーのみの動力なため、ステルヴァーより遥かにスペックは劣る。

マウラーにしてもステルヴァーにしてもリクシーバ合金の柔軟性が可変機構を可能にしている。

こちらは肩のバインダーがなく、両腕自体が戦闘機へ可変した際に主翼となる。

 

●武装

・プラズマ・エネルギーライフル

ステルヴァーと同じく機首部となるため専用の形状をしている。

 

・対近接機関砲×2

ステルヴァーと同じく頭部に二門装備し、戦闘機型に変形した際にも使用できる。

 

・小型ミサイル×4

こちらも同じく両前腕部内で各二発内蔵している。

 

・ハンドナイフ×2

腰の両側面にマウントされた大型ナイフ。内蔵電池によって高速振動させて切断力を高めている。

 

●戦闘機形態

ステルヴァーと比べると飛行速度と加速力は落ちるが、変形自体が各国と比べて珍しい機構で、窮地に陥った際の戦線離脱も容易いためにパイロットから愛され第一線として張れる。

 

●武装

・プラズマ・エネルギーライフル

ステルヴァー同様機首部として機能する。

 

・対空機関砲×2

ステルヴァー同様、同じ箇所に装備されている。

 

・対空地ミサイルランチャー

こちらはステルヴァーと異なり胸部に内蔵し、戦闘機時には底部からせり出すように展開する。

 

・対地爆弾

ステルヴァー同様、腹部に内蔵されている。

 



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◆アラスカ戦線編
第二十九話「合流」①


――昼過ぎ、ベルクラスはアメリカ本土に手前の海域に差し掛かっていた。

艦橋では早乙女、マリア、そして竜斗達は共にモニター越しにアメリカの陸地が見え、ついに本土へ足を踏み入れることに期待と不安に満ちていた。

 

「司令、僕達はこれからどこに行くんですか?」

 

「ネバダ州だ、我々の行く先はエリア51という名の機密軍事施設だ」

 

エリア51……その単語に三人とも引っかかるのか頭を傾げる。

 

「なんか聞いたことあるわね……なんだっけ?」

 

「アタシも……っ」

悩むエミリアと愛美に対し、竜斗は何か思い出した。

 

「ええっと……確かマンガの中でそんなのがありました。

なんかエイリアンが何たらこうたら場所じゃないですか?」

 

 

「そうだ。『ロズウェル事件』、エイリアンやUFOで有名なあの区域だ。

あそこに前に会ったニールセン博士や開発スタッフ陣、そして軍事のお偉いさんが沢山働いている。全員粗相のないようにな」

 

「了解。ところで司令、そこに宇宙人っているんですか?」

 

「宇宙人?いるよ」

 

その事実に三人は仰天した。

 

「と思ったか?いるわけないだろ、あんなのデマだよデマ。引っかかったな」

 

からかう早乙女に不信感を抱く竜斗達であった。

 

「けど確か、近くにラスベガスがあるよ。カジノで有名な」

 

「カジノ!?マナ行きたい!」

 

彼女は大喜びするが、それに反して早乙女は首を横に振る。

 

「水樹、そんな遊ぶ大金はどこから出すんだ?」

 

「マナんち金持ちだから、貯金から引き出して換金する!」

 

ろくでもないその方法――すると早乙女は。

 

「それは戦争が終わってからもしかしたら必要になるかもしれないだろ?使わない方がいい」

 

「ええ~~っ、けどもうマナには……」

 

「君のご両親が必死で働いて貯めた金を一夜で消えるような賭博に使ったら果たして両親はどう思うかな?」

 

「…………」

 

諭される愛美は何も言えず黙り込んでしまう。

 

「まあ、それでもいいなら私はこれ以上止めないが、それについて二人にもこう言っておく。

もしも水樹のように賭博をしたいなら別に私とマリアは止めやしない。

だが我々はそんな場所に連れていく気もないし、万が一そんなモノに手を出して取り返しのつかないことになっても我々は一切の救いの手を出すつもりはないからな、これは自己責任だっ」

 

真剣な顔つき、口調で警告された三人は恐怖でゴクッと唾を飲んだ。

だが、すぐに彼は表情が柔らかくなる。

 

「だが普通の観光での外出なら私達は喜んで付き合おう。エミリア以外の二人は通訳がいるだろうし、彼女ばかり頼るわけにもいかないからな。それにアメリカは日本より治安の悪い地区が多いから安全も兼ねてであるが」

 

 

 

そう言われて安心する竜斗、エミリアに対し、納得し切れてないのかふてくされている愛美だった――。

「司令、もうカルフォルニア州に入ります」

 

「よし、このまま目的地へ行って向こうと合流しよう」

 

ベルクラスはついにアメリカの大陸南西岸側に位置するカルフォルニア州に進入する。

しかし入った瞬間にアメリカ軍の戦闘機数機がこちらに向かってきているのがモニターとレーダーで分かる。

 

向こうの航空領域へ航空便のような正規な進入ではない、所謂不法侵入になるのはもちろん分かっていたので向こうは我々ベルクラスを威嚇、撃墜するために来たのか――いや違う、通信が入ったのですぐに受信すると戦闘機のパイロットがモニターに映り込んだ。

 

“あなた方は例の、日本から来たサオトメ一佐率いるゲッターチームですね”

「そうです」

 

英語で話しかけてくるパイロットに対し、早乙女も流暢な英語で返事を返した。

 

“お待ちしておりました。私達が目的地へ案内します、ついて来てきてください”

 

「了解。ご親切な対応、感謝する」

 

どうやら彼らは自分達の案内人だったようだ。安心してそのまま戦闘機についていった。

 

 

――ネバダ州。大陸南西部、カルフォルニア州とユタ州に挟まれている州であり荒野、砂漠が多い乾燥地帯である。

先ほどの彼らの話でもある通り、南にある、砂漠の中のカジノ都市ラスベガスが最も有名だろう。

そして我々の向かうのはその州のどこかにある『エリア51』という軍用施設。

地図には乗っておらず、厳重に管理されていると言う話である。

 

そこには宇宙からやってきたエイリアンが人類に協力しているとも、実はエイリアンなどいないが軍の極秘兵器を開発しているとも、変な噂ばかり立つ場所と言われている。

 

……ネバダ州南側のまるで雪国と化した広野に入る。

そして人が容易に踏み込めないような苛烈な地形、まるで『禁足地』と言わんばかりの場所にそれがあった――。

そのまま戦闘機に誘導されて着陸場所に到着する。

 

「着陸態勢に入れ」

 

「了解」

 

 

ゆっくりと水平に降下するベルクラス。凄まじい風圧と衝撃波を発生させてついに地面に着陸に成功した。

「私とマリアが先に降りて施設内の関係者に挨拶をしてくる。

君達は取りあえず部屋に待機しててくれ。あと外はもの凄く寒いから、着重ねしたりコートなどの暖かい服装を準備しておいてくれ」

 

三人はそれぞれ自室に向かう。早乙女とマリアはコートや手袋などの防寒着を着込み、地上に行き来する専用エレベーターでポートに降り立つとそこに軍用車が近づいてくる。

接近し止まり、中から防寒着と各種装備を施した施設内に属する隊員が先に出て配置に付き、次に開発スタッフ、そしてここの所長と思われるピシッとした軍服を着込む中年男性が現れて、二人は互いに握手を交わす。

「サオトメ一佐、お待ちしておりました。私はここの現所長を務めているメリオ=フリークと申します」

 

「こちらこそどうかよろしくお願いします、色々至らない点が多々あると思いますが――」

 

「いやいや、あなた達が着てくれて凄く心強いですよ。

ここで長話するのは何ですから基地内に歓迎しますよ、ニールセン博士やキング博士、他開発スタッフがあなたに会いたがっていますから」

 

彼らは車に乗り、離れた場所にあるエリア51の中枢部に入っていく。

その途中に何重にも分けられた鉄壁のゲートやあちこちに建てられた監視塔、対空砲やミサイル砲、自動機銃……アメリカ軍の現主力SMBであるマウラーが多数配備されており虫一匹も入れさせないような厳重ぶり。

冬景色の中の無機質な空間、まさに要塞とも言える施設である。

 

地下への入り口を車ごと入り、地下格納庫へ降りていく。

各隅々にコンテナが積み重なり、広々とした空間でひんやりとしたこの場に到着すると車を専用駐車場に止めて降り立つ。

 

「案内します、ついてきて下さい」

 

迎えにきた他の者を解散させると所長の後についていく早乙女達。

その途中、様々な研究施設を目にする。

 

兵器、薬物開発、エネルギー工学……ここにはありとあらゆる人類の希望が詰まっており、早乙女は正直胸が奮いだっていた、こんな素晴らしい場所にこれたのだと。

 

所長室に到着するとヒーターが入っており今着ている防寒着がもう不要なぐらいだ。

許可をもらってコートを脱ぎ、側にいた部下に服を預けさせてもらう。そのまま中央のソファーに案内されるとそこにはニールセンと、もう一人の老人男性がコーヒーの飲みながら雑談していた。

 

「お、来たか。おまえさん達はどうやら日本から追い出されたようだな、ホホホ」

 

「そうです、今の私達はただのはぐれ者ですよ」

 

イヤミか皮肉かどうか分からないような会話をし、早乙女はもう一人の老人に握手を交わす。

 

「確か、前に一度会ったきりじゃったな。パーティーの時、こやつのお供として」

 

「ええ、頼りないですがよろしくお願いしますキング博士」

 

「君はニールセンの一番弟子らしいからな、期待してるよ」

 

マリアも二人に挨拶を交わしてソファーに座り、部下の出したコーヒーを飲みながら雑談を始める。

現在のアメリカの戦況はやはりこちらが劣勢に陥っており、その為に我々ゲッターチームをアメリカ、ヨーロッパの連合軍に組み入れたいということを所長から聞かされる。

 

「ところであの子らはどうした?」

 

「今艦に待機させてます。明日辺りでも内部を案内しようかなと。ところであなた方が開発中の攻撃戦艦とはどこに?」

 

「ここではなくテキサス州の地下で建造中だ。

なんせ四キロ以上の全長を持つ空陸両用戦艦で、ここでは開発する広さがないのでな。近い内に向こうで見せてやるよ」

 

「ありがとうございます、そして私側の約束はどうしますか?連合軍と合流する前に機体を何とかしないといけないのは?」

 

「それを考えてたんだが、ここにキングがいるし、手っ取り早く先にここで大改造を行おうと思う。装備品についてはすでにわしらで開発し、用意しといた。もし文句をつけるなら改造はなかったことにするぞ」

 

「あなた方の腕で開発した代物なら愚痴をつける気はないですよ。

ただ、あの子らに扱いやすいようにするためにコックピット内の改造は自分と彼女でやります、いいですね」

 

「そこは好きにしてくれ。では明日から開始する。いつまでもゆっくりしとられんからな。施設内の搬入を手伝ってくれ」

 

 

「了解です」

 

――ついに始まる各ゲッターロボの改造、次の日からゲッターロボをベルクラスから施設に搬入し、SMB工場の各ドックに到着すると早乙女とマリア、そしてニールセン、キング他開発スタッフによる作業が始まった――が。

 

「なんじゃこれは?黒こげではないか」

 

「北海道の戦闘でこうなったもんで――」

 

GBL―Avengerを撃って焼け焦げたまま放置されていたため所々錆びている空戦型ゲッターロボを見て彼は呆れていた。

 

「もう一機はどうした?」

 

「同じく戦闘でマグマに飲まれて失いました、ただ動力炉のゲッター炉心は初期に開発した試作品を改造して使います」

 

「流石に機体までは考えておらんぞ、どうするんだ?」

 

「予備のBEETがあるのでそれを使います」

 

無事なのはエミリアの機体だけで、初日から色々と難航しているようだ――。

 

その様子を案内された竜斗達はその開発光景を外の通路から覗いていた。

 

「……なんか上手くいってないみたいだな」

「うん……無事だったのはアタシのゲッターロボだけだったからね……」

 

二人は窓から見つめている間、愛美は一人キョロキョロとしているので竜斗はそれに気づく。

 

「水樹、どうした?」

 

「ジョナサンがここにいるのかなって……」

ここで彼に会えるかなと淡い期待をしていた。

 

「……最初に会った時はあんなにジョナサン大尉を嫌がってたのに今は逆かよ」

 

「なによ、ワルいっ?」

 

「いや別にっ」

 

あれほど『外国人のムサい男はお断りと言っていた』と断言していた愛美のこの変わりように呆れる。

 

「ワタシ達はこっちと協力するために来たんだから必ず会えると思うよ、心配しないで」

 

「うん。さすがエミリア、石川と話が違うわあっ」

 

「だって女だもん、恋した時の気持ちは分かるからね」

 

「…………」

 

女子二人で盛り上がる中、ただ一人の男で疎外感を感じてしまう竜斗だった。

 



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第二十九話「合流」②

……ゲッターロボの改造は目まぐるしいほどに物凄い早さで進んでいく。

ニールセンとキング、そして早乙女という、兵器開発の天才と言ってもいい三人が全力で取り組んでいる。

金がらみでないため渋々だったニールセンも何だかんだでノリノリであるのは、エンジニアとしての血が疼くのか。

 

まず先に一番無事であった陸戦型ゲッターロボから改造が始まる。

当初、ニールセン以外の人間は武装含めたそのデザインの奇抜さにあっけを撮られる。

 

「シーデビル(イカ)」

 

という単語が飛び交っていた。

 

この機体、というより各ゲッターロボに共通して施された改造の内容は機体全体の駆動部位、フレーム、そして動力炉の見直しと改良。

 

各機独自の改造ではまず陸戦型はペンチ型アームを外し、長方形の形をした巨大アームに取り替える。

 

「これは多武装内蔵アームでこれで基本的に全距離対応できる万能兵器だ、名称は『ガーランドG』と名付けた」

 

「ほう。ちなみにその名前の由来は?」

 

「特にないのう。思いつきでカッコいいから名付けただけじゃ」

 

「相変わらずですね。その軽率な発想は」

 

「おぬしも人のこと言えぬはずじゃ。

ベルクラスと言うのは、ちゃんと意味があって名付けたのか?」

 

「……いえ、特には」

 

この二人の思考と発想はよく似ているようだ。

「あとは、ドリルの回転機部分にアンカー射出器をつけておこう。これでそのまま引き寄せて穿てることができる」

 

色々とやりたい放題にいじられるも意外と早く改造が終わった。

 

次は竜斗の機体である空戦型の改造に着手する。

 

陸戦型と違って装甲が黒こげだったり錆びてたりと色々と不具合が目立つため、ニールセンは辟易した。

 

「サオトメよ、少しは直そうとはしなかったのか?」

 

「私もあの後色々と野暮用と不都合なことがありましてね、そんな暇がなかったんですよ」

 

いちいち装甲の修理をするのが面倒だったのでいっそのこと、予備のBEETを分解、試作品のパーツなど、この機体と合うパーツを使い、交換し、前と同じく紅と白でバランスよく塗装していく――。

 

 

左右前腕部に固定式キャノン砲とそれに肘まで連なるように一体化した、まるで小盾のような形状の金属板を取り付け……明らかに前のとは全くの別物へ変貌していく空戦型ゲッターロボだった。

 

その後、プラズマ・エネルギーライフルとは異なる、巨大で変わった形状をしたライフルのような物を右手に持たされる。

 

「この兵器はどんな仕掛けが?」

 

「これはわしの自慢の一品じゃ」

 

キングが誇らしげに名乗り出て、ニールセンに似た笑い声を上げる。

 

本名はダリオ=S(サンチェス)=キング。

 

テキサス州出身で同じく兵器開発の権威としてニールセンの旧友である。

彼は主にSMB用兵器開発専門で誰も考えつかないような『キワモノ兵器』を造るのが得意だ。

 

「可変式多目的複合ライフル『セプティミスα』。状況に合わせて変形しプラズマ弾、散弾、狙撃用の貫通弾、榴弾に撃ち分けることができるぞ。

ただ各弾薬を一まとめにした特別に作った弾倉で従来とは異なり後部から取り付けるように装填しなければならない。

両肩内が専用ウェポンラックになっておりその中に予備弾倉を入れるスペースを設けてある」

 

……なるほど、だから前と比べて両肩が肥大化してるのか。それだけじゃない、全体的に殆どパーツを交換した空戦型ゲッターロボは前のようなスタイリッシュな体躯ではない、重装備前提で装甲が増強されてマッシブなデザインになっている。

 

 

「一応空中において高機動で動く前提の機体なんですが、これでは機動力下がりませんか?」

 

それを二人に聞くと「わしらを見くびっているのか」と鼻で笑われる。

 

「寧ろ逆に機動力が上がってるわい。完成したら試してみるがいいさ」

 

「ただ高性能過ぎて扱いはちいとキツいかもしれんが、聞けばこの機体のパイロットは腕がいいらしいからきっと上手く扱えることだろう。楽しみじゃわい、ハハハ!」

 

……二人の絶対的な自信を聞き、早乙女はこう思った。

こんな足がヨボヨボな老人でありながらさすがは兵器開発の権威、自分など足元に及ばないだろう。

そしてこのレベルの技術力を超えるどころか辿り着くには一体どれほどの年月と努力がいるのか……もしかしたら才能が足りないのかもしれないと自分の未熟さを思い知らされるのだった――。

 

「そういえばキングよ、おぬしに息子と娘がいたはずじゃがどこに?」

 

「さあな。こんなご時世だってのにあいつらは呑気にメキシコへ旅に出ると言い出してきり戻ってこん。メカザウルスが蔓延っているというのに一体無事かどうかも分からん。

あんな楽天思考ぶりは一体誰に似たんだか……」

 

「おぬしに似て自由人じゃな、ホハハ」

 

「お前も人のこと言えんだろうが」

 

二人だけ楽しく雑談しながらテキパキと作業を完璧にこなす彼らに果たして本当に老人かと疑ってしまう――。

 

そして――完成した空戦型ゲッターロボの姿は、ニールセンとキングの好き勝手な改造で、まるで重装兵とも言えるガッチリとした体型となり、はっきり言って鈍そうである。

これで前より機動力が上がっているとは早乙女ですら信じられない。

 

「こいつらに名前をつけてやるか」

 

「お得意の名付けか。ならカッコいい名前にしてやれよ」

 

ニールセンとキングは二人で二機の名前について盛り上がっている間、早乙女は一人、仕上がったゲッターロボのコックピット内で、竜斗達が扱いやすいようにOSの書き換えとシステム、そして操縦管制の改造、設定を行っているマリアの元ほ訪ねるが、大変で流石の彼女もヒーヒーと苦悶を洩らしていた。

 

「大丈夫か」

 

「は、はい……しかしエミリアちゃんのはともかく竜斗君の機体はもはや別物ですよ……彼は本当に扱えられると思いますか……?」

 

彼女は疲れと急且つ大幅な改造からの不安で疑心暗鬼に陥っていた。

 

「さあな。だがあのがめついニールセン博士が条件つきとは言え無償で大改造してくれるんだ、信じないとな。

それに竜斗達が扱いやすくするのは私達の仕事だ」

 

「は、はあ……」

 

「水樹の機体からは私が代わりにやろう。君は休憩も兼ねてあの子達と付き添ってやれ。見知らぬ地に来て不安だろうしな」

 

「……はいっ」

 

彼からの気遣いに彼女は少し活気がついた――。

 

そして最後の仕事である、愛美の新しい機体の作成についてかなり手間を取らせることになってしまった。

 

その理由は、休憩の最中にてニールセンが早乙女にとあることを提案する。

 

「サオトメよ、実は最後の機体にはワシが是非とも装備させたいのがあるのだがそれが実験段階で、それもなかなか進行しないのだ」

 

「それは何故ですか?」

 

「大雪山の戦いの後、ジェイド達からの報告を聞いた。

何でも敵側には難攻不落なバリア発生装置があるらしくてな、知っているか?」

 

それはダイを防護していたリュイルス・オーヴェのことである。勿論それを知っている彼は頷く。

 

「ええ、はっきり言って苦し紛れの作戦で攻略しただけで破壊自体は出来ませんでしたね」

「だがあの時はよくても問題はこれからだ。

もしかしたらそんな装置を装備するヤツがいつ、そしてどれだけの数で現れるか分からん。そうなれば間違いなく敗北は必須だ」

 

「……でしょうね」

 

あれほど苦戦した装置だ、あれを装備したメカザウルスが無数に現れたら、今の状況ではもはやこちらに打つ手なしだろう。

 

「で、博士には何かいい手があると?」

 

「ああ、やはり破壊が一番楽だと思うぞ」

 

「と、言いましてもゲッターロボやステルヴァーよりも機動力が高く、そして特殊な金属製で堅牢なあの装置をどうやって?」

 

「そこでだ、ゲッターロボの動力源であるゲッター線を使ってとある実験してみたい、大丈夫か?」

 

 

「一応機体に使う炉心があるので大丈夫ですが、どのような実験を?」

 

「まあ、見てのお楽しみだ――」

 

……早速、早乙女は新機体に使うもう一つのゲッター炉心を施設内のエネルギー工学専門エリアに搬入し、ニールセンと各技術者と共に実験の用意にかかる。

 

多数のチューブで連結された専用のガラス管内に設置し、起動するとゲッターエネルギーの出力上げていく。

その隣には同じくもう一つのガラス管内に設置された球状の物体がある。

それは各SMBの標準エネルギー炉であるプラズマ反応炉であり、ゲッター炉心と同じくプラズマエネルギーの出力を上げていく――。

 

「ワシらはこう考えていた。もしエネルギー同士を共鳴反応させたらどうなるか?」

 

「共鳴反応ですか」

 

光で目がやられないに特殊ゴーグルを付けて、隔離室から遠隔操作をしながら実験の行く末を見守っている。

 

 

「おぬし達が来る前にプラズマエネルギーとワシが開発したグラストラ核エネルギーを試しに複合させてところ、反発するか中和して相殺するかと思いきや意外にも共鳴反応の起こして出力が急激に上昇してな。

それを見たワシらは「これは……」とかつてないほどに胸が高まった」

 

エネルギー同士の共鳴…早乙女はそんな実験どころか、考えたことなど一度もなかった。

 

「そこでワシはゲッターロボの動力源であるゲッター線でも試して見たくなってな。

サオトメの発見した新エネルギー、ゲッター線はもしやあの時以上の出力を引き出すかもしれん」

 

……これは確かにやるべき価値があると思う。早乙女に反対する理由などどこにもなかった。

 

「そういうことなら喜んで引き受けましょう」

 

「よし、ではもう一つ見せたいものがある。ついてこい」

 

ニールセン達に連れられて向かった先は兵器開発エリア。

様々な拳銃、小銃、ランチャーやバズーカなどの生身で扱う対人兵器、SMB用兵器、試作品や最新式……ありとあらゆる兵器がこのエリアに飾られておりその手の物好きなら喉から手が出るほどの充実ぶりだ。

そんなエリアに最奥。広大な部屋のど真ん中に眩いライトで照らされた兵器の元へ辿り着く。

 

……両手持ちでないと確実にバランスを崩しそうな長い銃身と一体何を撃ち出すのか不思議に思えるほどの大口径。

 

アンチマテリアル・ライフル、またの名を対物ライフルと呼ばれる一種の狙撃銃の形状によく似ている。

 

「名は『エリダヌスX―01』。

まだ組み立てただけで射撃テストすらしていないが、もし開発に成功すれば、ワシのこれまでの人生の中で最高とも成りうる兵器だ」

 

「しかし、ここまで出来ていながら実験していないとは?」

 

「それはな――」

 

――その時である、施設内に鼓膜の破れかねない程の甲高い高音のサイレンが鳴り響いたのだった。

 

 

“緊急事態、北東側より多数の飛行型メカザウルスが南下侵攻しながらこちらへ接近中――各部隊は直ちに戦闘態勢に以降せよ。繰り返す――”

 

ここに来て初戦闘か――施設に駐在しているSMBはそれぞれエリア51全体に配置し、他にも各対空砲、ミサイル砲を起動させ迎撃態勢に入った。

 

早乙女はマリアへ通信をかけ、ベルクラスを浮上させて迎撃態勢に移るように伝える。

 

「博士、どうします?」

 

ニールセンはこの時を待っていたかのように、不気味と自信満々な笑みを浮かべている。

 

 

「では、向こうは飛行型ということで先に改造を施した赤いゲッターロボの初テストと行こうか――」

 

「空戦型を、ですか?」

 

「空戦型とかストレートな名で呼ぶな、すでにカッコいい名前をつけてある、それは……」

一方、ベルクラスの座学室で英語の勉強をしていた竜斗達三人もメカザウルスがこちらへ向かっていることを知るが、今はどうすることも出来ずにあたふたしていると、マリアがやってきて彼にすぐ通信機を渡した。出ると早乙女からであった。

 

「司令、メカザウルスが!」

 

“そこでだ。君は今すぐパイロットスーツに着替えておけ。

改造した君のゲッターロボのテストを兼ねて実戦投入する」

 

竜斗はそれを聞き、「えっ」と大きく声を上げた。

 

“いきなりで怖いか?”

 

「い、いえ。では着替えてきます」

 

“私が迎えにいく。着替えたら格納庫で待機しておけ、いいな”

 

切れると通信機をマリアに返す。そして何を伝えられたのかエミリアと愛美も気になって仕方がない。

 

「石川、早乙女さんがなんて?」

 

「俺にパイロットスーツに着替ておけって」

 

「じゃあまさか……っ」

 

全員がその意味にすぐ気づく。

 

「俺のゲッターロボから先にテストを兼ねて投入するって言ってた。俺、行ってくるよ」

 

彼は久々の操縦とそして改造された自分のゲッターロボに対する未知なる期待とちゃんと扱えられるかという、興奮と不安が混合していた。

 

「竜斗君、急ぎましょう!」

 

「はいっ!」

 

マリアと共に出て行こうとした時、エミリアに引き止められる。

 

「ガンバってねリュウトっ!アタシ達応援してるから」

 

「イシカワだけズルいけどそんなこと言ってる暇ないみたいね。

その新しいゲッターロボで気持ちいいくらいにアイツらをケチョンケチョンにしてきてね、楽しみに見てるから♪」

 

二人からそれぞれ応援されて勇気をもらい、自信満々な表情を取った。

 

「任せといて!」

 



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第二十九話「合流」③

パイロットスーツに着替えた竜斗はヘルメットを携えて格納庫で待っていると車両専用ハッチが開く。外を見ると早乙女のジープが現れ、助手席に乗り込んだ。

 

「竜斗、ゲッターロボの操縦は覚えているな」

 

「はい、ここに来てからもシミュレートマシンで感覚を養ってましたから。

それにマリアさんから操縦についても前とほとんど変わらないようにしてあると聞かされました」

 

「よろしい。ちなみにメカザウルスの数は約千機」

 

「千……本当ですか……?」

 

改造後の初戦から余りの敵の多さに気が重くなる。

 

「敵の多さもさすがアメリカというべきか。

しかし君は今までの力でやるのはない、新しく生まれ変わったゲッターロボだ。自信を持てっ」

 

「……はいっ!」

 

……そしてすぐさま施設に入り早乙女に連れられて、すでに格納庫へ移動させられた彼のゲッターロボの元へ向かう。

そこにニールセンとキング、そして開発スタッフとエンジニアが竜斗を待っていた。

 

「博士、連れてきました」

 

「うむ」

 

ニールセンは竜斗と久々の対面するとニコッと笑った。

 

「リュウトクン、タノムヨ」

 

カタコトの日本語でそう告げると、竜斗は気が和らいだのかハキハキと「オーライ」で返す。

その後、彼は目の前に立つ、新しく生まれ変わった空戦型ゲッターロボを見る。

 

(なにこれ……俺の使っていたゲッターロボじゃない……)

 

デザイン的な外見こそは変わってないものの、明らかに自分が乗っていたのとは確実に一回り大きく感じる。

見たことのない形状をした新型ライフル、丸い両肩が六角形状になり……腕や脚部も明らかに増強されて太くなっている。

 

細くスタイリッシュな胴体がここまで変わると自分の馴染み深い機体だとは思えなかった。

 

「竜斗、メカザウルスがもうそこまで迫ってきている。行くぞ!」

 

早乙女に後押しされ、すぐさま同じく口元のコックピットに乗り込む。

前と同じ感覚でシステムを起動させるとレバーを握りしめ、ゆっくり深呼吸する。

 

……あ、やっはり自分の使っていたゲッターロボだ。

この感覚、コックピットの風景、空気……確かに何ら変わりないと感じ、安心感がにじみ出てくる。

 

(ゲッターエネルギーとプラズマエネルギーの出力値……なんだこれ……っ)

 

ディスプレイ上のインジケーターに表示された出力値グラフを見ると前のと比べて段違いに高くなっているのが分かる。

 

“竜斗、発進できるか?”

 

お馴染みの早乙女から通信映像が入り、彼は頷いた。

 

“最初は出力を抑えていけ、ゆっくり身体を慣らすんだ”

 

 

 

「了解です」

 

“各武装についてはいつも通り私が説明する”

 

真上にある外部ハッチが開くと、灰色に染まった曇り空が見え、寒い空気が入り込んでくる。

 

「では空戦型ゲッターロボ発進します」

 

だがその時、ニールセンが早乙女の横から割り込むように映りこんだ。

 

“竜斗君、君の乗っているのは『空戦型』ではないっ!”

 

英語で喋ってくる彼に、何事かと翻訳機を入れるとそう表示された。

 

「え……違うんですか?」

 

“ワシが新しい名前を考えといたぞ。名付けて「ゲッターロボSC『アルヴァイン』」じゃ!

かっこいいじゃろっ、なあ?”

 

「あのう、名前に意味とかは?」

 

“ない。カッコ良さだけでそう決めた”

 

「…………」

 

この人……ちょっとイタい人なのかなあ、とも思ってしまう。と、早乙女を彼を横へ無理やり押し込んだ。

 

“竜斗、そんなことはともかく行け!”

 

……彼は気を取り直して、ついに右ペダルに足を置いた。

 

「では……石川竜斗、あ……アルヴァイン、発進します!」

ペダルをぐっと踏み込んだ瞬間だった。

ゲッターロボはまばたきする暇もないその刹那的な時間の間に、音速という域ねスピードで飛び上がり格納庫内に強烈な衝撃波が巻き起こった。

竜斗はあまりの唐突さと、そしてそのスピードにかかる衝撃と重圧に翻弄され、ついには鼻血が吹き出したのだった。

 

気がついた時にはすでに地上から五百メートル付近の空で留まっていた。

 

その様子を見ていた早乙女、そしてベルクラスにいる女性陣達はあまりの上昇スピードの速さに呆気をとられていた。

 

「ホハハハハ、まだこんなもんじゃないわい」

 

「では拝見させてもらうかのう、ゲッターロボ――いやアルヴァインだったか」

 

頭がキーンと響くような頭痛がしてボーッとしているが、すぐに正気を戻しレーダーを見ると確かに、大雪山の戦闘時を思い出させるような無数の敵の反応が北西側からもう迫っているのが分かる。

その方向に向きモニターを拡大して見るとメカザウルスが雄叫びを上げて、そして爆弾やミサイルで地上を空爆しながら向かってきている。

 

“竜斗、大丈夫か?”

 

「は、はいっ。けど発進したら気がついたらもうここに……」

 

“明らかに上昇速度が音速レベルだったな”

 

音速……前の機体でもそこまで出せなかった域だ。

 

“博士達がやりたい放題で改造した機体だ、どれほどのポテンシャルを持つか分からん。やはり最初は出力を抑えていけ、下手したら君が操縦するだけでミンチになりかねん”

 

メカザウルスの大軍がエリア51の領空圏内に接近し、いつも通りの感覚で操縦を開始した。

 

「えっ……」

 

前進するためにレバーをゆっくり前に押し出したが、「ドン」っと言う強烈な音と共に凄まじい推進力で前方を駆けていった。

 

 

彼は言葉でなく、悲鳴を発していた。それは完全に機体の壮絶な機動力に翻弄されている証拠だった。

直線上にいたメカザウルス数機に体当たりのようにぶつかり、突き飛ばして大軍の真ん中に一瞬で到着した。

メカザウルス達は何が起こったか理解できず、そしてその視線はゲッターロボ……いやアルヴァインに集中される。

 

「……っ」

 

Gがかかり鼻血をさらに吹き出す竜斗。周辺のメカザウルスは獲物を見つけて雄叫びを上げたすぐに、アルヴァインに突撃でマグマ砲やミサイルで飽和攻撃を開始する。

 

 

しかし竜斗はすぐさまレバーを巧みに動かしてすぐそこから機敏な反応を持って瞬時に離れる。

攻撃全く行わず、ただ鳥のようにあちこちに飛び回り敵の攻撃の回避ばかり、まるでいたちごっこしているアルヴァインは本当に『操縦テスト』をしているようである。

 

「ホホホ、竜斗君にはキツすぎたかのう」

 

「だが、その内慣れるじゃろうて」

 

呑気に観賞しているニールセンとキングだった。が、二人の読みが当たっていたのか竜斗は徐々にスピードに慣れてきており、段々と感覚を掴んでいた。

 

(スゴい……慣れてきたら全て分かる。前のゲッターロボとは大違いだ)

冷静さを取り戻した彼はやっと機体の真髄が見えて驚愕する。

その凄まじい機動力、反応速度……だが、操縦はこれまでとなんら変わりない、これならまさに敵なしだと思ったほどで彼から興奮から来る笑みが生まれていた――。

 

アルヴァインは新型ライフル『セプティミスα』を構える。

竜斗は使用弾薬を『プラズマ』に設定する。可変式なのに変形しないのを見ると今の形状が標準のようだ。

 

トリガーを引くと高出力のプラズマ弾が数発、連続的に発射されてそれらがメカザウルスに直撃し、装甲ごと身体を貫通し撃ち落とす。

 

レーダーを見ると大量のメカザウルスが固まって押し寄せてきたので竜斗はすぐに『散弾』に変更する。

するとライフルの銃身が約一メートル短くなり、代わりに口径が大きくなる。その形状はセミオート式のショットガンのようだ。

 

それを群がってくるメカザウルスに向けて照準を合わせて発射すると『バン』という爆音と共に薬莢内に詰まった大量の小さな弾が強力な運動エネルギーに押されて扇状にバラまかれ、迫っていたメカザウルス数匹の頭部に直撃、皮膚はおろか頭蓋骨は粉砕し、中から脳髄が汚くはじけ飛んだ。

アルヴァインは少し後退しつつさらに散弾を連射し、迫り来るメカザウルスの頭、胴体を見るも無残なグチャグチャな姿へと変えていった――。

 

後方からメカザウルスが迫ってきているのが分かると、空いた左手で腰からゲッタートマホークを取り出して振り向くさまにメカザウルスの首を瞬く間に切断した。

アルヴァインはすぐさま密集地帯から離れ、弾薬を『榴弾』に変更する。

銃身が太くなり、銃口の口径もさらに広がる。まるでグレネードランチャーの形状だ。

さらに榴弾には弾道項目があったのでそれを見ると『直線』と『曲線』があり、『直線』にして両手持ちで銃を構える。

発射された弾は直線の通りに飛び、密集地に着弾し炸裂、メカザウルス達に金属の破片が突き刺さり、破りそして衝撃をモロに受けて吹き飛ばされ地上へ落下していった。

 

だがメカザウルスもそのまま黙ってやられるハズもなく、各マグマ砲やミサイルをアルヴァインへ、まるで雨のように隙間もない集中砲火を繰り出すもすぐにそこから脱出。

 

追撃してくるもその驚異の機動力とスピードを持ってことごとく避け、さらにヤツらを掻き回し、翻弄しトマホークを持ち、急接近し瞬く間に真っ二つにして素早く移動し他のメカザウルスへ。

こんな鈍そうな外見を裏切り、まるで韋駄天のような神速で攻撃を繰り出すこの機体はメカザウルス、いやニールセンとキング以外の者全員を仰天、唖然とさせた。

 

「ワオ…………っ」

 

浮上して迎撃態勢に入っていたベルクラスの艦橋内にいる女性陣達は竜斗の操縦するゲッターロボのあまりの凄さに言葉を失っていた。

 

「まだまだ新しい武装あるぞ」

 

左手を突き出して、手首上にある固定されたキャノン砲を展開。そこから発射されたのはライフル以上の高出力プラズマ弾はメカザウルスを一撃どころか、さらに後ろで重なったメカザウルスを無数と貫通して撃破していった。

連射性能も良く、何発も連続で撃ち込み射線上のメカザウルス多数をたちまち破壊していく。

 

「両腕の小盾、シェルバックラー付き高出力プラズマキャノン砲、次は――」

 

機体の脛の側面が縦に開き、中からせり出る二羽折りされた謎の金属物体を取り出す。

それを前に向かって力強く投げ込むと自動的に『くの字』に開き、円環状に高速回転する。

まるでブーメランと化した物体の外側全体が緑色の光、所謂ゲッター線のビーム刃が発振された時、まるで意思を持つかのように回転しながら飛び回り、多数のメカザウルスの首元をピンポイントで次々と切断していく。

 

「ビームブーメラン。メカザウルスの生体反応を感知して『首』だけ狙うようどこまでも追跡するように作ってあるぞい」

 

 

「キング、なかなか画期的な面白いのを作るじゃないかっ」

 

「じゃろう。いやあそれよりも自分の兵器の活躍は酒のいい肴になるわ」

 

「ホントのう。兵器はワシらの彼女みたいなもんじゃからなあ、ハハハッ!」

 

二人はどこから持ってきたのか、酒瓶に入ったテキーラ、ウイスキーを飲みながらワイワイ楽しんでいる。

 

次第に酒気が入ってくる二人は

 

「ナイス、ヘッドショットっ!」

 

「キルキルキル――っ!!」、

 

「ジェノサイド」

 

などと平然と口走り、笑い声を上げている。

はっきり言って異常であるが、早乙女含むそこにいる人間は誰も驚いていない。

なぜなら彼らに共通するのは「殺戮」専門の兵器開発者、今の光景は二人でテレビゲームをしているような感覚で楽しんでいるようなものだ。

 

エネルギーの切れたブーメランが律義にも自動的に戻ってくる。その時通信が入り、モニターにはキングの顔が映り込んだ。

 

「えっと確か……キング博士でしたよね?」

 

“竜斗君、戻ってきたブーメランをメカザウルスの密集地に再び投げて、ゲッターエネルギーのビームを当ててみろ”

 

理由は分からなかったが言われた通り、再び展開して投擲し、一定距離を達した時、腹部のゲッタービームを発射。

高速回転しながら真っ直ぐ飛ぶブーメランに後から続くように直撃した時、ビームが吸収されてそこから回転しながら吸収したゲッターエネルギーを広範囲に円環状に拡散放射した。

すると周囲のメカザウルスの皮膚がたちまちドロドロに溶け出して、残った装甲と機械だけが地上へ雨のように墜ちていった――。

キングはドヤ顔でこう言った。

 

「リフレクタービーム機能、面白い仕掛けじゃろう?ついでにブーメランにエネルギーを供給するオマケ付きじゃあ」

 

……早乙女は考えもしなかった様々な新兵器と機能を目のあたりにし、ますます自分の未熟さを思い知ったのだった――。

 

……そして配置したエリア51周辺の地上部隊はただ上空を眺めているだけで攻撃など行わなかった。

 

「ゲッターロボとか言ったか……スゴいな」

 

「……どうやら俺達の出番はなさそうだな、これはっ」

 

 

もはや竜斗だけで飛ぶ鳥を落とす勢いで撃墜しており、攻撃する必要などなかった。

音速以上で縦横無尽に動き回りながら、メカザウルスを腹部のゲッタービームで溶かし、腕のプラズマキャノンで撃ち落とし、ブーメラン、トマホークで首や胴体を切り落とし、ライフルの各弾薬を使い分けていくアルヴァイン。

 

 

そして竜斗本人も機体に慣れ、まるで自分の手足のように動かしている。

 

(スゴい、スゴいぞこれはっ!)

 

自分がまるで雷神になったかのような感覚になり、興奮からか気分はハイになっており、さらに熱気が高まっていく――。

 

「やるじゃないか竜斗君、すでに扱いきれているな」

 

「わしのいった通り、大した男だ」

 

二人からも高評価を得ている、早乙女もそれを聞いて無表情だが内心は喜び、奮えだっていた。

 

(思う存分力を揮え竜斗。たくさんの悲しい思いを奴らにぶつけろ!)

 

それに応えるように、まるで鬼神と化したゲッターロボ、アルヴァイン。

だが、彼らとは逆の思いをしている者もいた。

 

「リュウトが……なんかオニみたいになってる……」

 

「……エミリア?」

 

彼女はその姿に恐怖心が芽生えており、顔が強張っていた……。

 

「うがああああっ!!」

 

彼女の言うとおり、竜斗からは考えられないほどに恐ろしい形相で、低くうねったような雄叫びを上げて、メカザウルスを次々と血祭りに上げていく――今の彼は阿修羅のようになっていた。

「竜斗君…………?」

 

その不気味なまでの異様さはマリアや愛美にも感じられていた。

 

「確かにいつものイシカワじゃないかも……」

 

「こわい……、アタシなんかこわい……」

 

冷静で堅実だったあの竜斗が今ではまるで悪鬼のごとく暴走しているようだ。

 

(新しい力を手にして溺れかけているな……)

 

早乙女でさえそう感じていた――。

 

まるでちぎっては投げ、ちぎっては投げてを繰り返してメカザウルスの肉塊が次々に地上へ叩きつけられて散乱し、まるでこの世の地獄絵図と化していた。

それでももう残り少ないメカザウルスをなんと頭部を握り潰したり、首元を掴んで捻り折り、トマトを潰すような生々しく気持ち悪い音が響きながら首を無理やりブチ切り始めるなどこれまでの竜斗からは考えられない攻撃だった。

機体のデザインと相まって、まさに『鬼』の名に恥じぬ姿を晒していた。

 

 

「やめて……リュウト……」

 

その光景と今のゲッターロボの所業に対してエミリアはもう見るに堪えられなくなっていた。

 

「やめてリュウトーーっ!!」

 

彼女の悲痛の声が、通信越しで彼の耳に届き、「ハッ!」を我に帰った。

 

「あれ……俺……っ」

 

彼はモニターを見ると畏れを成した僅かのメカザウルス達は退却し、地上にはその死骸があちこちに散らばっていたのだった――その時ちょうど早乙女から通信が入る。

 

“竜斗、気がついたか?”

 

「司令……僕は……」

 

“今はとりあえず危機は去った、戻ってきて休め”

 

彼の言われた通り、施設へ帰還する。

機体を格納してすぐさま点検を開始されるも、全く被弾していないため異常などどこにもなかったが問題は本人であった。

 

――司令から何か覚えているかと聞かれても答えられなかった。

戦闘中、ゲッターロボの凄まじい力に興奮すると同時に物凄い欲が衝動的に湧き出した……それに流された後は全くどんな操縦をしたのか覚えていなかったが司令から自分の行った所業について聞かされた。

信じられなかったが確かにそう行っていたと言われて恐怖からか鳥肌がたった。すぐに精密検査を受けたけど鼻血を出したぐらいで脳波……身体の異常はなかった……。

ベルクラスに帰った後、みんな僕をスゴく心配しており、特にエミリアは酷く恐がっていて今にも泣きそうだったから心配させないようにいつも通り「大丈夫だよ」と優しく答えて安心づかせた――けど何が起こったんだ一体……。

ゲッターロボは前から危険なモノを感じてたがなんともなかったしあまり気にしてもなかった。だがこの時から初めてとてつもなく強大な力が動き始めているのを漠然と感じるようになった――。

 

そして早乙女も整備を受けるアルヴァインを見上げながら――。

 

(あの竜斗があそこまで豹変するか……ゲッター、お前は一体何なんだ?)

 

彼もゲッター線に対して、前から抱いていた疑問がさらに増していた。

 



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第二十九話「合流」④

――次の日から、エリア51内の区域だけでなく、区外にも進出して最終的なスペックデータを取るのと操縦に完全に慣れることもふまえて、僕はゲッターロボ……いや、ニールセン博士の名付けたアルヴァインの操縦テストを何度も行った。

空戦型ゲッターロボとは比べ物にならない凄まじい力を持っており、確かにそこから自信と勇気が湧き水の如く溢れ出す。

だがあの時のような強烈な『破壊的な欲望』に駆られることは全くなかった。

あれは一体なんだったのか――そして多少であるがゲッターロボに対する不信感を持つようにもなっていた――。

 

その一方で、エミリアも完成したゲッターロボの操縦テストを兼ねた訓練を監視の元、エリア51外の広大な雪の大地をターボホイール・ユニットを駆使してグルグル高速滑走していた。

 

ほとんどパーツを変えたアルヴァインとは異なり、右腕だけ変えただけなので彼女もいつも通りの感覚で扱えるかと思いきや、アルヴァインと同じく機体の性能を見直し改良されたため段違いに推進スピードや反応速度が上がっていたために、そして久しぶりの実機での操縦もあってか最初は苦労し、何度も地上に転倒してゴロゴロ転がるも、何度も立ち上がり訓練して徐々に機体の感覚に慣れていくエミリア。

 

(リュウトとミズキに追いつくためにアタシ死ぬほど頑張らないとっ!)

 

最初は何度も転ぶ姿を見て笑う者もいたが徐々に、泣き言を言わずに何度も立ち上がり……まるで補助輪を無くした自転車を乗る訓練のようなコトを繰り返して上達していく彼女の努力に全員がまるで惹かれるように注目し、応援の声まで挙がっているほどだ。

 

そしてもう完成に機体の操縦をモノにして帰還した際には大勢の人達から盛大な拍手と喝采が贈られた。

機体を格納して降りると竜斗達がそこに出迎えていた。

 

「おかえりエミリアっ」

 

「リュウトっ!」

 

嬉しさのあまりにエミリアはおもむろに彼をギュッと抱きしめた。

 

「エミリア……キツい……っ」

 

「あ、ごめん……」

 

我に帰り、すぐに彼を離す。

 

「エミリアちゃん、よく頑張ったわね」

マリアからもお誉めを頂き、照れた。

 

「ありがとうございます……けどあんなに凄まじくなってるとは思ってもなくて……」

彼女も竜斗と同じ感想を言い、全員が納得する。

 

「あ~あっマナだけつまんない……早く出来ないかなあ」

 

すると、

 

「ミズキ、なら今からこの機体に乗ってみる?」

 

「え、いいのっ?」

 

エミリアの提案で今度は愛美も彼女の機体の操縦テストをすることになり、すぐさまパイロットスーツに着替えてくる。

だがその、耐圧性を無視してそうな、なんというか……派手で奇抜、実用性よりも色気重視であるパイロットスーツはそれを見た施設の人間はギョッとなっていた。

コックピットに乗り込み、そして再び格納庫から地上に飛び出るゲッターロボ。だが――、

 

「ギャアアアッ!」

 

さすがの愛美も強化されたターボホイール・ユニットを展開して発進した途端にバランスを取れずに豪快に前転して機体は地面に叩きつけられた。

 

“み、ミズキ大丈夫っ!?”

 

「あ、アンタよくこんなの使い慣れたわね……」

 

……しかし何だかんだで結局すぐに愛美も殆ど乗りこなすようになり、気がついたら縦横無尽に動き回っていた。

 

“ヤッホー、やっぱりマナ天才だわ~っ”

 

「…………」

 

あれだけ苦労して使いこなしたのにあっさり彼女に抜かれてすごく悔しくなるエミリアだった。

 

「なあエミリア、ゲッターロボに乗ってた時に何か感じなかったか?」

 

「何かって?」

 

「興奮ていうかなんていうか……物凄い衝動的な、危ない気持ちみたいなの――少しでも湧いた?」

 

 

竜斗からそう聞かれるも彼女はキッパリと首を横に振る。

 

「……全然そんなのなかったよ、早く乗りこなさなきゃっていう気持ちだけならあったけど」

 

「…………」

 

――あとで水樹にも聞いてみたけど、エミリアと同じで全くそんな気持ちは少したりともなかったらしい。

アルヴァイン限定なのかと思ったが、初戦以降何度も操縦した僕に、あれから一度もそんな気持ちにならないのもおかしい。ますます分からなくなるあの原因不明の危ない衝動、単なる偶然か――考えすぎて頭がぐぅと痛くなった――。

 

“ほう。君でもそういう劣等感を持つのか”

 

「ええ。やはりニールセン博士達の領域には全く及びません、完全に私とは別次元にいますよ」

 

 

 

“そんな弱気なことを言うな、一佐らしくないぞ。

しかしキング博士はどうか知らんがニールセン博士は超大国アメリカの軍事力の源であり要だからな、無理はないが”

 

早乙女は久しぶりに入江と連絡を取り、互いの今の状況の情報交換をしていた。

 

「今、日本の状況はどうです?」

 

“君を何としても取り締まりたかった政府は非常にご立腹だった。

君達の逃亡に関与したと疑われて私や関係者、朝霞駐屯地の者達は色々とひどい目に遭ったがこの通りだ。駐屯地の方もちゃんと無事だよ”

 

「それについて私達は心配でしたが、安心しました。他には何かありましたか?」

だが入江の顔は穏やかではなくなった。

 

“……実はな、君達が逃げてからメカザウルスによる一、二度ほど侵略を受けた。

出現先は日本から遥か南、オーストラリア方向からだ。一応撃退したがいつまで持ちこたえられるか……”

 

彼から話を聞くと、能面のような早乙女の表情にもピクリと動く。

 

「そうですか。私達がいない間にこんなことが。申し訳ありません、なんか私達が勝手に亡命したあまりに……」

 

“気にするな。日本については私達自衛隊と米軍が協力して決死の覚悟で防衛する、いつまでも他力本願なワケにもいかんからな。君達はアメリカの方を頼むぞ”

 

「了解。では引き続き日本を頼みます」

 

……通信が終わった後、開発用ドックへ戻り愛美の機体の開発を再開する。

ニールセンとキングは例のエネルギー実験をしているため、彼が機体の開発指揮を任されておりスタッフとエンジニアに指示していく。

 

愛美の操縦技術を追従するために竜斗かそれ以上にまで性能を引き上げ、そして機体のコンセプトを考えて『水中で活動することも踏まえた上で、前機体以上の性能を底上げ、特に大火力を有する強襲用の機体』の方針を決め、開発を進めていった。

 

(……悔しいがどうしても博士達の領域にはいきつけん。だが今は私のできる限りのことをやろう、それしかない――)

ベルクラスに積載していたもう一機の予備のBEETに自分の考えうる兵装をつけて、そして腹部の搭載しているプラズマ反応炉の上、つまり胸部内にゲッター炉心を搭載するためのスペースを造り始める。

 

(ゲッター線か……まさに偶然だったな、あのエネルギーと出会ったのは――)

 

彼はあの日を思い出す、突然現れた恐竜帝国のメカザウルスに対抗するためにはプラズマ反応炉では役不足だと思い、それ以上の力を持つエネルギーを考え、次第に宇宙線を変わりに使えないかと考えに至った時だった。

紫外線、ガンマ線、アルファ線……はっきり言ってどれも使い物にならずに諦めかけていたその時、その中の一つがプラズマエネルギー以上の出力値を持つ緑色、赤色の混じった宇宙線が真空管内にほど走るのを。

 

 

(私はこれをひと目見た時からまるで取り憑かれたかのように魅入られてしまった、もうこれ以上のモノは何もいらないと――。

人畜無公害でプラズマエネルギー、いや原子力エネルギーを遥かに越える出力、爬虫類に有効というメカザウルスに対してこれ以上のない切り札、なによりもこれまでの人類の叡智の中で誰も発見できなかった驚異の宇宙線を私が最初に発見したのだ。

これ以上の幸せなんかなかった、独り占めしたかった――だが、これまでの起こった様々な現象、突然のエネルギー上昇、竜斗の変貌にしても……原因は何一つさえ解らない。

私はこのエネルギーの全貌についてはまだ数パーセントも満たないだろう……まあそこにそそられるんだがな、ハハッ――)

早乙女からは意気揚々な雰囲気が感じられた。

ゲッターロボとゲッター線を恋人と言うくらいだ、彼はゲッター線という摩訶不思議なエネルギーに人生を捧げ、そしてたとえ命を奪われてもいいとさえ思っていた。

 

 

――休憩室。一旦休憩室しているニールセンとキングは熱い無糖のコーヒーを飲みながら雑談している。

 

「わしの読みが当たったな。見事ゲッター線とプラズマエネルギーと共鳴反応を起こし前の実験、いや人類史上最高の出力を叩き出したわい。

まあそのせいで各エネルギー炉にえらい負荷がかかってイかれてしもうたが」

 

「また直せばいいことだ。しかしゲッター線というのは恐ろしいものじゃのう、サオトメはよくこんな凄まじいエネルギーを発見できたもんだ」

 

「人類は全世界の大地、山、海底、空……ついには宇宙にまで進出して殆ど調べ尽くしてたと思ってたが、まだまだ地球も捨てたもんじゃないな。

次はグラストラ核エネルギーと複合してみよう、これで楽しみがさらに増えたな」

 

実験は成功し、二人は興奮し、室内が響く程の歓喜の声を上げていた。

彼らも早乙女と同じくゲッター線という未知のエネルギーに凄い興味を持つと同時に、これまで発見できず、自分とあろうものが弟子の早乙女に先を越されたという悔しさも入り混じってもいた。

キングは懐からクシャクシャになった残り少ないタバコの箱を取り出し、ジッポライターを取り出して火を付ける。

一服してニールセンにこう切り出す。

 

「なあ、サオトメはおぬしの弟子じゃったな。今回初めて共同作業したが詳しいことは知らん。果たしてどういう男なんだ?」

 

「まだまだ未熟なヤツじゃよ、技術にしても発想力にしても、何から何までわしの域に辿り着くにはまだまだ努力が必要だ。

だがウィットで恐ろしく肝の据わっていて何を考えてるか分からん。

あの顔には何重にも重なった仮面のような――わしでさえヤツの本質を掴めん」

 

彼も懐からタバコではなく太い葉巻を取り出して、同じく愛用のジッポライターで火をつける。

葉巻独特の甘いようで苦みのある煙の臭いが辺りに充満した。

 

「ほう、おまえがそこまで言うのなら大した男じゃのう――」

 

「現にアメリカ政府でさえワシに対して弱腰の姿勢なのに、サオトメだけはワシを臆してないどころか逆に飲み込もうとするヤツじゃ、決して油断できん。

ではキング、おぬしから見たサオトメはどうじゃ?」

 

「愛想がないし、それにまだまだ思考の柔軟さがないのう。

だがヤツから滲み出る雰囲気やゲッターロボのこれまでのデータを見て、何か感じたことはある」

 

「それはなんだ?」

 

「おぬしに似ておる、全てとは言わないがお前との共通点が沢山あると感じた」

 

それを聞き、ニールセンは何故かフッと軽い笑みを浮かべる。

 

「ヤツは……今はまだヒヨッコだがいつの日か、ワシのレベルに行き着くかそれ以上の域にいくだろう――予想ではない、確信だ」

 

「お前がそこまで期待しているとはそこまでとんでもない男か。その根拠は?」

 

「根拠?それはな――サオトメはワシの血、遺伝子を受け継いでいるからな」

 

「……なに?」

 

ニールセンの話から彼についてを色々知らされ、キングから笑顔がなくなった。

 

「サオトメはそのことを知っているのか?」

 

「さあな。ヤツは知っていても知らなくてもワシにはどうすることもできん、自分の運命を受け入れるしかなかろう」

 

「ということはサオトメは――」

 

「――ということになる。それでワシの弟子とか単なる偶然か、いや必然か」

 

……最初のような笑顔と笑い声と消えて静まりかえる二人、早乙女に隠された真実とはなんなのだろうか。

 



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第三十話「ファーストコンタクト」①

――北極圏、マシーン・ランド。ゴーラはガレリーのいる開発エリアに訪れていた。

 

「ゴーラ様、貴女のご注文の通り翻訳機を開発致しました――」

 

「ありがとうございます、あなたのご協力に感謝します」

 

まるで米粒のような黒い金属の粒を一粒渡された。

 

「使用方法は簡単、これを飲み込むだけです。

自動的に声帯に張り付いて地上人類の言語を我々の言語であるシュオノアーダに解し、逆に向こうの言語に変換することも出来ます。

ただ約一ヶ月ほど経つと翻訳機は体液に溶けて効果はなくなります」

 

「承知しました。ではさっそく――」

 

彼女は口に入れてゴクンと飲み込む。

 

「しかしゴーラ様、あなたのようなお方がなぜこのようなものを?」

 

「それは……地上人類の知識を知ることも重要かと思いまして。王女たるもの敵側の情報を掴むことも大切です」

 

「ほう、そうでございましたか。さすがゴーラ様のこ賢明な考えに頭が下がります」

 

実際は、向こうと平和への解決のための話し合いたいのが目的でこれは嘘である。もっともらしい適当な理由を付けてガレリーを納得させようとした。

 

「効果の継続時間などの改良も望めるなら検討するようお願いします。そして完成次第、全兵士に行き渡るようにしてください。

これからは常に敵側の情報を掴むことが重要になりましょう、ただ何も考えずに戦うような野蛮行為はもはや時代遅れです」

 

 

 

 

「了解致しました、助言、誠に感謝いたします」

 

彼女はもう一度頭を下げてここから去っていった。見送るガレリーはなぜか腑に落ちない表情だった。

 

(しかしゴーラ様に翻訳機を使用する必要は本当にあるのか。使うには地上人類と接触する必要があるのにどうやって……)

 

一方で彼女は自室に着くなり鍵を締めてベッドに座り込む。

 

(ここからどうしようかしら……)

 

どうやってこのマシーン・ランドの外部を抜け出し地上人類と接触、話し合いに持ちかけるにはどうするか色々考える。

警備をかいくぐって抜け出す方法、ラドラなどの信用できる者を使って手引きしてもらう方法……しかし何とかして抜け出した後どうするか。

敵側には誰も知る人間などいないし、別種族である我々に向こうが快く応じるとは考えにくい。

それに、自分のやろうとしている行為は爬虫人類にとって間違いなく売国、反逆罪だ。いくら王女とて売国奴扱いにされれば確実にここに帰ってこれなくなる……メリットよりもデメリットが多いことが分かり頭が悩まされる。

 

はっきり言って無謀しか言いようがない。

しかし自分のような、互いのために和平を望むことを、そして地球人同士で共存したいという人間も少なからずいることを、何としてでも地上人類に伝えたいという気持ち、何とかしたい思いが確かにある。

 

(いつまでも立ち止まっているワケにはいかない……私自ら行動を起こさないと――)

 

彼女は今、人生最大の決意と行動に移そうとしている――。

 

その数時間後……それは突然起こった。マシーン・ランドは激震した。区域内の至る所に小爆発が起こり、内部にいる全員は大混乱を起こした。

寝室で休んでいたゴールは上着を羽織り、王の間に出て側近を呼び出した。

 

「何事かっ!?」

 

「各区域で爆発物が仕組まれていた模様、被害はまだ分かりませんがテロの可能性があります」

 

「犯人は!?」

 

「そこまではっ」

 

「ええい、すぐに捜し出し拿捕して連れてこい、抵抗するなら容赦はするな。他の者も消火、及びけが人の救助にいけっ!」

 

内部は大混乱を起こす中、就寝中のゴーラもその騒ぎに飛び起きて何が起こったか部屋から出ようとした時、鍵を閉めていた扉から強引に叩く音が聞こえ、一発、二発と打撃音が流れた後、三発目でドアを突き破られてそこから黒装束と黒頭巾を着た謎の人間が数人現れて彼女を包囲した。

 

「あ、あなた達は……」

 

怯える彼女にその中の一人が近づきナイフを取り出して彼女の顔の頬になで当てる。

 

「すいませんがゴーラ様、少し眠ってもらいましょうか」

 

――正体は分からないがシュオノアーダを話すことから間違いなく爬虫人類の男だ。

 

瞬間、男は彼女の腹部に強烈な膝蹴りを入れた。

「ぐえっ」とうめいて気を失いそのまま男の腕にもたれるように倒れ込んだ。

 

彼女を肩に抱えると仲間に相づちを打ち、部屋からすぐに出て行った。

 

「陽動が効いたようだな…………」

 

内部の混乱と兵士の殆どが消火活動や人命救助に当たっているために警備が疎かになっており、この男達がマシーン・ランドを速やかに移動するには容易かった。

向かう先はメカザウルスの格納庫、ここの兵士に気づかれないように周囲を警戒しながら慎重に目的地に進んでいく謎の男達――。

 

途中で陽動作戦で別行動を取っていた仲間と合流し、格納庫にたどり着くと待機していた警備兵達と対面した。

「何者だ!」

 

対峙するも中の一人の肩に彼女が抱えられていることに気づいた警備兵の一人は仰天した。

 

「ゴーラ様っ!?」

 

しかしその者は対峙する黒装束の男によって殴り飛ばされて地面に倒れ伏せた。隙ができたこの場、すぐさま自分達の乗ってきた男達はメカザウルスに乗り込み、未だ気絶する彼女も一緒に乗せる。

 

「いくぞっ!」

 

外部ハッチを開放し、男達の乗った各メカザウルスはカタパルトによって海底に飛び出して海面へ浮上。そのまま空へ飛び出すとすぐさまとある方向へ発進していく――。

 

一方、妙な胸騒ぎをしたラドラは当たっていた消火活動を他の者に任せて、急いでゴーラの部屋へ向かう。

本来は王族区域に平民は立ち入り禁止なのだが彼だけは特別に許されており、そして騒ぎからか許可を取らずとも容易に辿り着くも、部屋の扉が強引に破られているのがすぐに分かった。そして中に入ると彼女の姿がない――危険な予感に駆られた彼はすぐさま彼女を探しに向かう、どこにもいない。

(ゴーラ様、一体どこにっ!)

 

ふと開発エリアに立ち寄るとガレリー含む開発陣達が外部モニターを見ていた。

 

「メカザウルスと思わしき反応多数がマシーン・ランドから離れていきます」

 

「格納庫エリアの詰所に連絡をまわせ」

 

格納庫エリアの警備兵詰所に通信するとモニターには青ざめた警備兵が映る。

“ガレリー様、謎の黒装束を着た者達が格納庫を襲撃しメカザウルスを奪われて逃亡しました、同時にゴーラ様まで誘拐した模様でございます……”

 

「なんだとおっ!?」

 

そこに駆けつけたラドラもそれを知り、激しい怒りを顕わにした。

 

「ガレリー様っ」

 

「ラドラよ、どうしてここに?」

 

「先ほどゴーラ様の部屋に向かいましたがすでにもぬけのからでした。

彼女をあちこち探してここに辿り着つと今の通信の通りこのようなことが……」

 

「もしゴール様が知られたら……恐らく大変なことになるだろう……」

 

するとラドラは彼にこう告げる。

 

「ガレリー様、私はこれよりゴーラ様を誘拐した謎の者達から救出しに行きます。ゼクゥシヴはどこに」

 

「……すでに修理済みだが誰にも扱えられずこのエリアの片隅に放置されておるがラドラよ、そなたは行ってくれるか?」

 

「もちろんです、すぐさま発進準備をお願いします」

 

「よし、では頼むぞ!」

 

すぐさまガレリー達はゼクゥシヴを応急的の調整を施して、格納庫へ運搬する。

一方でパイロットスーツを着込んだラドラは格納庫に現れてカタパルトに載せられたかつての愛機であるゼクゥシヴを見上げた。

 

「こんな状況とは言え再びお前に乗ることができるとはな。頼むぞ――」

 

急いでコックピットに乗り込み、各システム起動。

アルケオ・ドライヴシステムによってリアクター内の大量のマグマが急激に活発化しそれが機体に循環する。

まるでそれは人間の血液のようであり、体温のように機体全体が温まり、筋肉繊維をほぐして動きやすくなる効果を果たしている。

マグマ熱により、コックピット内はまるでサウナのような、人間では長時間耐えられない高温状態になっているが熱に強い爬虫人類にとってこれが常温である。

ラドラ自身は各操縦レバーの感触、空気、音……ゼクゥシヴの操縦する時の感覚を少しずつ思い出していく。

その時、開発エリアから通信が入り開くとガレリーからだった。

“ラドラよ、ゴーラ様を誘拐していった奴らは攪乱目的か蛇行しているが、どうやらアメリカへ向かっていると思われる”

 

「アメリカ……第三恐竜大隊の担当する大陸ですね。しかし、ゴーラ様を誘拐した者達は、メカザウルスを操縦していることから爬虫人類以外に考えられせんが――まさかクーデターでは……?」

 

「まだ断定したわけではないが……もし捕らえることができれば連れてかえってこい。奴らからどんな手を使っても正体と情報を聞き出すつもりだ、ただ第一目的はゴーラ様の救出だ、今はそれだけに集中せよ」

 

「了解。キャプテン・ラドラ、メカザウルス・ゼクゥシヴ発進する!」

 

 

カタパルトが射出されて海中に飛び出したゼクゥシヴは海面へ浮上していく。

海上へ飛び上がり、翼を展開、謎の男達の方向へ進路を取る。

 

(ゴーラ様、どうかご無事で……)

 

レバーをいっぱいに押し出すと二基のブースターを点火し急発進、音速レベルの速度でぐんぐん空を駆けていった。

 

「ぐう……」

 

久し振りの操縦とその圧倒的のスピードで、苦悶の表情を浮かべているが目的のために必死に耐えて、そして慣れようとするラドラ。

甲斐あってか次第にそのスピードでもちゃんと前を見れるようになっていき、ついにはいつも通りの平然さを取り戻した。

 

(一体何のためにゴーラ様をさらったか分からぬが絶対に取り戻してみせるっ!)

 

今はただ彼女を助ける、その思いのために彼は『鬼』と化した。

 

……行き先を掴まれぬようにしているのか、進路を蛇行しながら進んでいるメカザウルス。

 

「もう少しでマシーン・ランドのレーダー範囲外に出るが油断はできん、アメリカ南西部から入って迂回していくぞ」

 

“待て、我々の後方から凄まじいスピードで近づいてくる反応を確認した”

 

すぐさま全員がモニターを映す。その反応とはラドラの駆るゼクゥシヴであった。

 

「あれは確かキャプテン・ラドラの機体、ゼクゥシヴ。気づくとは思ってはいたが、こんなに速くくるとは」

 

“直ちに妨害、迎撃し時間稼ぎせよ”

 

 

そしてすぐに追いつき、海上上空でついに対面するラドラとメカザウルス。

 

「貴様達、ゴーラ様をどこへ連れて行く気だ!」

 

彼の問いを返さず、なんと攻撃を仕掛けてくるメカザウルス。ゼクゥシヴはすぐに身を翻して回避する。

メカザウルスを操縦できるのは爬虫人類だけだ、しかし同胞であるならなぜ攻撃してくるのか……しかし、今は、

 

「なんとしてでもゴーラ様を奪い返す!」

 

背中に掛けられた長剣マグマ・ヒートブレードを取り出して両手持ちし、腰をぐっと構える。

刃が燃えたぎるほどに真っ赤に熱せられた長剣はまるで魔剣のようだ。

 

「ん……っ」

 

操縦席の後部に眠るゴーラがちょうど目が覚めて、辺りを見渡すと見慣れない景色ばかり見えた。

すぐにそこがメカザウルスのコックピット内だと理解した。

 

(わ、私は確か謎の者達に囲まれて……)

 

ぼんやりする記憶を辿ると、徐々に今おかれている立場に気づく。

 

(そう言えばここはっ!)

 

気づかれないように静かにのそっと前を見るとモニターには、自分を誘拐した者達のメカザウルスと一戦を交えているラドラのゼクゥシヴの姿が。

 

(あれはラドラ様っ!)

 

集団で挑んでいるが、相手はラドラの駆るゼクゥシヴ。

その高性能なメカザウルス、そしてそれに追従できるラドラに対し、自分達のは従来型のメカザウルスではいくら複数だろうが全く歯が立たず。

その機敏な機動力で瞬く間に懐に入られて赤く熱せられた剣刃によって次々と胴体や翼を真っ二つにされていき、海面に墜ちていく――今のラドラはまさに戦鬼と化していた。

だが、そうしている間に仲間を囮にして本土に接近する彼女を連れたメカザウルス。

 

「くそっ!やはりただのメカザウルスでは勝ち目ないか……んっ?」

 

なんと座席の後ろからゴーラが飛び出して決死の覚悟で操縦を妨害しだしたのだ。

 

「この無礼者、あなた達は一体なんの目的で私をっ!!」

 

 

「ちい、目を覚ましやがったなっ!」

 

男の両腕にのしかかり、暴れる彼女を男はどかそうとするも意地でも離れず、コックピット内はまさに。

二人の乗るメカザウルスの動きはおかしくなり、暴走しまるでハエのように無造作でブラブラと飛び交うように飛行しだす。

 

暴れに暴れて操縦を妨害し続けるゴーラは周りのボタンやパネルを不本意で押しまくり、なんとモニター画面が消失しコックピットハッチが開いてしまった。

 

「きゃあああっ!」

 

強烈な風が内部に入り込み、二人はそれに抗うこともできず翻弄されてコントロール失い、落下を始めた。一方、ほとんど邪魔者を落としたラドラもモニター越しでそのメカザウルスの異変に気づく、

(こいつらはただの時間稼ぎ……ということはあのメカザウルスにはゴーラ様がっ!)

 

急いで向かおうとするが残りのメカザウルスがまだ抵抗を行ってくる。

 

そんな中で、落下するメカザウルスのコックピット内は何とかして閉めようとする男だったが……、

 

「しまったっ!」

 

再び気を失ったゴーラは逆流する風によって外に吸い出されてそのまま海へ落ちていった――それと同時に開閉ボタンを押し、ハッチを閉まり飛行を立て直すメカザウルス。

 

「ゴーラ様っっ!!!?」

 

モニターを拡大して落ちていくものが彼女だと分かったラドラは血眼になって彼女の元へ行こうとしたが、奴らに頑なに邪魔される。

「くそおっ!!」

 

彼女が海に落ちたことを全員が気づき、動きが止まった。

 

 

“ゴーラ様は!?”

 

「分からん……どこに落ちたのかも……」

 

“あの方の元に生きて連れていかなければならないのになんてことをっ!”

 

“ちょっと待て、本土方向から多数の反応がこちらへ近づいてくるぞ”

 

その方向にモニターを拡大すると本土から多数の戦闘機やマウラー、そして竜斗の乗るアルヴァインが。

どうやら自分達の存在に気づいて出動してきたらしい――。

 

“ヤバい、この状況では全滅は免れん、ここから離れるんだ!”

 

“おい、ゴーラ様はどうするんだっ!”

 

“今はとりあえず逃げんだ、奴らがいなくなってからいくらでも探せばいい!”

 

メカザウルス達は本土から海上へ離れるように去っていく。ラドラもやむを得ず一旦そこから去っていく。

彼もこのままだと自分までやられると気づき、今はただ機会を待つことに決めたのであった――。



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第三十話「ファーストコンタクト」②

竜斗達が現場に到着した時にはすでにもぬけの空であった、辺りを見渡しても何もいない。一体なんだったのかと疑問に思う者、せっかく寝ていたのに無駄骨折らせやがってと思う者と様々だ。

 

「異常はない、帰還しよう――」

 

出動が無駄骨だったと各機は去っていく。竜斗も本土方向へ向いた時だった。

 

「……あれっ?」

 

3Dレーダーの下部に微かな生体反応がある。モニターで下方を見ると、海面に何か浮いているのが見える。ズームするとそるは……。

 

「ひと……か?」

 

アルヴァインはすぐさま海面近くに降下する。再びモニターを見ると木板のような物にしがみついている人がいる。しかし動かない様子を見るとどうやら気絶しているようだ。

 

「お、おんな、の子……?」

 

小、中学生ほどの少女に見えるが、しかし彼は目を疑った。

皮膚が人の色ではなく緑色で手の甲や顔には鱗が生えており、服は紫色のローブのような、何か高貴な服にも見える。

 

(人間……じゃない……っ)

 

……前に早乙女に見させてもらった写真に写る爬虫類の人間の姿が頭によぎる。まさかこの女の子がその――。

 

彼はこのままにしておくワケにいかないと、すぐさまアルヴァインの腕にその女の子をすくい上げてコックピット内に入れ込む。

身体中海水で濡れており磯臭く服が水を吸ってかなり重い。そして寒いのかブルブル震えているので彼は暖まらせようとコックピット内の温度を高めに設定した。

 

そして発進し、すぐに仲間と合流する。

 

“君だけあの場に残ってたが何かあったのか?”

 

仲間のパイロットから通信が入る。彼女のことを言おうとしたが、何か嫌な予感がしたのであえて、

 

「そこに生体反応がありました。しかし、どうやらただの海水魚だったようですっ」

 

“そうか、分かった”

 

パイロットはそれ以上聞かずに通信を切る。彼はホッとし、膝下に眠るその女の子を観察する。

 

――女の子の腕や顔に触れてみた。奇病かと思うも、幼い頃に遊んでいる最中に捕まえたトカゲのようなザラザラした皮膚の感触にそっくり……本物の鱗に見える。

しかし顔立ちは自分達人間と全く同一であり、その四つ編みにされたツインテールの金髪も相まって可憐に見えるようにまだ幼く見える。

紫色のローブのような服には見たことのない高貴そうな紋章が縫い付けてある。

果たして彼女は一体誰なのか……そしてなんであんな所に漂流していたのか……急に知りたくなってきた――。

 

……竜斗は帰還し、ベルクラスに機体を格納するとすぐさまマリアを呼び、事情を話して女の子を医務室に運ばせる。

マリアはその女の子を見て当然驚愕、唖然となったが本人はかなり身体が弱っているみたいで命を消させるわけにいかないとすぐに医務室で治療を始める――。

 

隣の待機室で三人は集まりその女の子について話をする。

 

「あの子もしかして……」

 

「うん……恐らく例の爬虫類の人間だと思う……」

 

「初めてみたけど……案外アタシ達と変わらない容姿なんだね」

 

そんな中、愛美だけは不機嫌そうな表情だった。

 

「水樹、どうした?」

 

「……なんであんなキモい人間を助けたのよ。そのままどっかに流されればよかったのに」

 

その情などない発言に彼はカチンときた。

 

「……なんだよその言い方は、死にかけてたのにキモいやら流されればよかったと言うなよ、無神経すぎるぞ!」

 

「だってキモいんだからしょうがないでしょ、マナは爬虫類なんかだいっきらいよっ!」

 

「それでもお前、言っていい言葉と悪い言葉があるだろうがっ!」

 

珍しく二人が口論を始め、エミリアはすぐに仲介に入る。

 

「ミズキ、そこまでヒドいこと言うことないじゃないっ」

 

すると愛美は涙目になり、ぶっきらぼうでこう答えた。

 

「じゃあ言うけどさ、あれが爬虫類の人間だったら何も感じないの、思わないの?

思い出しなさいよ、マナ達のパパやママ、友達、そして黒田さんや日本の人達はあいつらによって無惨に殺されたのよ!」

 

「…………」

「そんな爬虫類の人間の女を庇うなんて頭おかしいんじゃない?!

あんな悪魔のようなヤツらは死んで当たり前じゃないっ!」

 

愛美からは爬虫人類に対する憎しみしか感じられない。まあ確かにあんな目に遭えばそう思うのは仕方ないことだが。

 

「俺だって水樹の気持ちは凄く分かるしあんな酷いことした爬虫類の人間を許さないよ。

だからってあの子のせいかどうかも分からないし、それにさっきも言ったけど今にも危ない子を助けてなにが悪いんだよ、命は命だよ」

 

「……イシカワ、敵に情をかけるなんてアンタは底なしのお人好しね。前言撤回するわ、アンタはリーダーに向いてない」

 

「何とでも言えよ、お人好しで何が悪いんだよ。

俺からすれば事情はどうあれあんな小さな子を助けない方がよっぽどおかしいよ」

 

しかし愛美は考え改めずにそっぽ向く。

 

「もういい、マナはあんな人間を見るのもイヤだからねっ!」

 

彼女は一人カンカンで出て行く。その場に取り残される二人は深く溜め息をつくのであった。

 

「けど確かにミズキの気持ちは分かるよ、アタシだって……」

 

彼女の言い分は間違ってはない。そもそも爬虫類に嫌悪感を持つ彼女に、ましてや自分達の親や友達、いや捕らえられた人々全員が奴ら爬虫人類によって見るも無惨な末路を辿ったのだ、憎んでも憎みきれないほどだろう――。

「けど、だからって助けないのは間違ってると思う。たとえ俺がお人好しだと言われても……」

 

彼は今はただ、彼女が回復してくれることを望む。

そして何者か、なぜあんな所にいたのか、など話してみたい気持ちでいっぱいだった。

 

そんな時、マリアが疲れた表情で待機室へ入ってきた。

 

「マリアさん、あの子は……」

 

「……一応処置は施したけど確実とは言い切れないわね。なんせ身体の構造が私達人間と異なる部分が結構あるから」

 

「やっぱりあの子は爬虫類の……」

 

「そうよ。だから後は神に祈るのみね……」

 

すると、竜斗は。

 

「マリアさん、女の子についてはここの人に言わないで下さい。万が一にでも知られたら――」

 

 

「解剖、実験体にされかねないわね。わかったわ、しばらくはここで休ましときましょう。ところでマナミちゃんは?」

 

彼女と何があったか話すとマリアは気難しい表情を浮かべる。

 

「きっと憎しみがぶり返っているのね、こればかりはどうしようもないわ。

確かに言い方は悪いけど否定はできないからね、しばらくそっとしておきましょう」

 

その後、竜斗とエミリアは女の子が目が覚めることを信じて交代で付き添うことにした。

 

――僕達は人類が成し遂げられなかった第一歩を踏み出すことになる。

地球に存在する、もう一つ別の人類である『爬虫人類』であるこの女の子との対話だ。

 

……まさかこんなひょんなことから彼女と巡り会えるのは未だに信じられなかったが――未知との遭遇。

科学者や技術者でもないただの人間である僕は誰にもない地球上で最初の貴重な体験をすることになる――。

 

 

「…………」

 

数時間後、ゴーラはふと目覚める。四方にカーテンがかけられた異質で未知な空気、空間、景色……マシーン・ランドではない無機質な金属で溢れている。

ツーンと薬の臭いがして、そして自分の今いる場所がベッド、そこが医療に関係する場所と理解する。

 

そして肌寒い……自分のいた場所よりは十度ほど低く感じる――。

着ている服も普段着のローブではなく患者着である、誰かが助けてくれたのか……と隣を見ると。

 

「っっ!?」

 

そこには爬虫人類ではない、猿から進化した地上人類の男性がいた。どうやらうたた寝しているみたいだが――。

 

(ここ、どこ……どうなってるの……)

 

彼女にはさっぱりワケが分からない状況、今すぐにも逃げ出したいが、寒さからか身体が言うことを聞いてくれない。

その時この部屋のドアが開き、こちらへ誰かがやってくる。 カーテンを開けると地上人類の女の子がいた。

 

「リュウト、交代し……」

 

 

エミリアだった。しかし二人はついに顔を合わせて沈黙が走るが……。

 

「「ひいいいいっ!!」」

 

二人は大声を上げた。ゴーラは布団に潜り込むように隠れ、エミリアはそこから飛び出すように逃げていった。

 

「……あれ、エミリア……?」

 

竜斗はふと起きて、眠たい目をこする。前を見ると掛け布団がもぞもぞと動いている。

彼は不思議に思い、布団を取るとゴーラは怯えに怯えてうずくまっていた。

 

「あ…………」

 

竜斗は一気にもの凄い緊張が走る。

ついに目覚めた、初めて対面する爬虫人類の女の子に顔が真っ赤になり、心臓の鼓動がドクドク――と小刻みに早くなった。

「あ、あの……」

 

彼女に声を掛けるがヒドく怯えて固まっている。

しかしどうにかして緊張を解いてあげなきゃ、と彼は決死の覚悟でこう言った。

 

「ぼ、僕の言葉がわかりますか……」

 

彼女に怖がらせないように彼なりに優しく尋ねてみる。

「ぼ、僕は何もしないから……話が分かるならどうか怖がらないで……」

 

すると翻訳機の効果が発揮し彼女に彼の言葉が変換され、シュオノアーダとして聞こえた。

 

すると震えが少しずつ止まっていく。ゆっくり顔を上げて彼を見つめる。

――種族独特のまるで宝石のような紅の、そして猫眼をしている彼女は震えながらもゆっくりと口を開いた。

 

 

『わ、私の言葉が分かりますか……?』

 

言葉が通じた、聞き入れた竜斗は大喜びで頷いた。

 

「君も僕の言葉が分かる?」

 

『……はいっ、分かります』

 

……二人は凄い安心感に包まれた。どうやら無事に互いの話が通じたようだ。

 

「助かってよかった……もしなんかあったらどうしようかと……」

 

『あのう……私に一体何があったのかわかりません……どうやって私を……』

 

「君は近くの海で漂流している所を助けたんだ、危ない状態だったからここに運んで治療してもらったんだ」

 

『……そうだったのですか。本当にありがとうございます、感謝の気持ちでいっぱいです』

 

どうやら敵意はないと分かり、互いはもっと安心する。

 

「先で悪いけど君の名は……?」

 

 

『私はゴーラと申します、本名はゴーラ=ブ=ライ』

 

変わった名前だ。確かに自分達人類には珍しいと思う。

 

「俺は石川竜斗」

 

『イシカワ……リュウト……変わった名前ですね……』

 

「俺も君の名前を聞いて凄く珍しいと思うよ」

 

二人は何故かおかしく思い、そして安心からかクスっと笑った。なんだかんだでもう打ち解け合っている二人は流石である。

 

ちょうどそこにマリアをエミリアがマリアを連れてやってきたが、すでに二人で普通に会話しているその姿を見て唖然となった。

 

「ワオ……もう普通に話してる……すごいリュウト……」

 

「ええ……こればかりは私も流石だとしか言いようがないわっ」

 

後ろにいる二人の存在に気づき、彼は振り向いた。

 

「安心して、二人は僕の仲間だから。

エミリアにマリアさん、この子は僕らに敵意はないから大丈夫だよ」

竜斗を信じてエミリア達は恐る恐る近づくも、すぐに挨拶と自己紹介を交わし、そこでやっとお互いに安心だと実感した。

 

『あなたが私を治療してくれたのですね、誠にありがとうございます』

 

マリアに深くお辞儀するゴーラ。

 

「い、いいのよ、それよりも助かってよかったわ。

ところで今、身体に不都合なところはあるかしら?」

 

そう聞かれると彼女は身を抱えて身震いしている。

 

「寒いの?結構室内温度を高めにしてあるけど」

 

『……今の室内温度はあなた達地上人類には適温のようですが、私のような爬虫人類にとっては少しばかり寒いです。申し訳ないですが少し温度を上げて頂けないでしょうか――』

 

やはり彼女は自分達と違う種族だと実感する。

それに『地上人類』、『爬虫人類』という竜斗達にとって聞き慣れない言葉も出てくる。これは彼女から色々と貴重なことが聞けそうだ、竜斗達は興味がさらに湧き出してきた。

 

 

 

――案外楽に通じ合い呆気を取られた。僕は驚きつつも彼女、ゴーラが話の分かる人物でよかったと本当に思っている。もし襲いかかってきたのなら間違いなく僕はなすすべなくやられていただろう。

そして僕は彼女に、いやこんな出来事に巡り会えたことに凄く感謝する。

もしかしたら和平について話し合えるかもしれないと思ったからだ、その希望を頼りに僕はさらに足を踏み入れようとした――。

 



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第三十話「ファーストコンタクト」③

――カリフォルニア州、サンフランシスコ近海。穏やかな波の音が響くとある一帯。

何も変哲もなさそうな場所から突然水が湧き上がったのだ。

海中の遥か下から何かが海面に出ようとしている。近づくにつれてそれが巨大な物体だと分かる。

クジラか、サメか、いやそんなものではなく水しぶきを上げて飛び出したのは兜をつけた大トカゲ……メカザウルス・ゼクゥシヴだ。

 

(ゴーラ様はどこだ……)

 

……竜斗達の部隊が過ぎ去ってすぐに戻ってきて数時間、ラドラは必死になって彼女を探しているが見つからない。

レーダーを駆使しても姿はおろか生体反応すら感知しない。

離れてから少ししか経っていないはずなのに、まるで神隠しにでもあったかのようで、彼は難儀する。

 

 

(何としてでも見つけなければ――)

 

 

彼は焦りを隠せなかった。彼女を置いてこのままマシーン・ランドへ帰れない、例えどれだけ時間をかけようとも、そして願ってない場合で発見されようと――彼は見つかるまでひたすら探すつもりだった。

…にしても、彼女を連れ去った謎の者達はあれから全く姿を現さないのが不思議だ。

捕らえたかった気持ちもあり残念にも思うが、今はそれよりもゴーラを探すことに集中するラドラであった。

 

 

『すいませんが私の答えられる範囲はここまでです……』

 

「…………」

 

医務室で竜斗とエミリア、マリア、そしてそれを知り駆けつけてきた早乙女は、初めて接触した爬虫人類の女の子であるゴーラから、彼女の答えられる範囲で自分達爬虫人類について教えてもらった。

流石に彼女の身分は告げられないために、爬虫人類の平民だと装っていたが爬虫人類の素性、歴史、宗教、情勢、体制など、話しても差し支えのない事を知ると、細部については確かに違う部分も多いが、どことなく自分達の歩んできたモノ全てに同一性を持つことに気づく。

 

「司令、彼女達の宗教の教義や神話についてですがこれはまさか……」

 

「……ユダヤ教、そして旧約聖書とほとんど構成が同じだ。しかしそれ以外にも地上人類と呼ばれる私達の要素と同一性を持つのはどういうことだろうか?」

 

彼の疑問を聞き、ゴーラはおもむろにこう答えてみた。

 

『あのう、もしかしたら遥か太古、私達爬虫人類がとある理由で地下に逃げ潜っていった時に地上に置いていった遺物などに、あなた達地上人類が触れたのでは……』

 

全員が「オオッ」と納得し感心した。

 

「なるほど、それら爬虫人類の文明物を私達人類が、彼女達の言語などは理解できないながらも想像を働かして、自分達なりにアレンジしたと思えば辻褄が合うな」

 

「じゃあ今の僕達の文明は爬虫人類のおかげってことか。けど、地下に逃げ込んだのはどうして?そのまま地上にいれば……」

 

『それは……』

 

彼女は前にラドラから聞かされた事を話す。

 

「その時代からゲッター線がすでに……」

 

早乙女は自分だけのエネルギーかと思ったのにすでに太古から降り注いでいたということに一番驚き、そして一番乗りではなかった事実に悔しい思いが混ざり合っていた――。

 

「てことは、ゴーラちゃんの祖先が地下に逃げ込んだ後、そのゲッター線で進化したのが……僕達ってこと?」

 

『という風に聞きましたが、定かではありません……ただゲッター線という宇宙線は私達爬虫人類を絶滅寸前に追いやったのは事実です』

 

竜斗はそれを聞いて、ゲッター線を扱い戦う自分達は罪深き存在なのかとも思えて罪悪感に駆られる。

 

「……なんかアタシ達はあなた達爬虫人類にはた迷惑なことをしているのかも……」

 

『いえ、私はそんなことなど少したりとも思ってません。むしろ、同じ地球に育ったもの同士仲良くし、協力しあうべきなのです、なのに他の人は……』

 

彼女の悲痛な本音を聞き、全員は自分達も人のことは言えないなと沈黙してしまう。

 

「ところでゴーラちゃんはこれからどうするの?」

 

それを聞かれると彼女はどうすればいいか分からず、口ごもってしまう。

 

「迎え……というか誰か親や知り合いとかこないの?」

 

『……分かりません、今ここはどこなのかも分からないですし――』

 

すると早乙女はこう言った。

 

「君を向こうに明け渡すには恐らく戦闘として接触するしか方法はないだろうが、そのど真ん中で身を晒すのはあまりにも危険すぎる」

 

『…………』

 

「それにいつまでもここにいるワケにいかんな。外部に確実にバレるしそうなれば君はおろか、それを匿った私達も色々面倒なことになる」

 

やはり、色々と不具合が多くあまり長い間いられないことを知らされる。

 

「誰かもう一人話の分かる人がいれば……」

 

すると彼女は何か思い立ったのか『あっ』と声を上げた。

 

『もしかしたらラドラ様が……』

 

「ラドラ様……知っている人?」

 

『私の大切な人です、あの人なら私を探しに来てくれるかも――』

 

なら大丈夫かなと全員は安心する。どの道彼女の体力を回復させるのが先決で、無理に歩かせるわけにいかない。

 

「司令、ゴーラちゃんが回復するまでここにいさせてもいいですか?」

 

「ああ。君は我々に危害を加えるどころか寧ろ友好的で良識的、我々に少なからず貴重な情報を提供してくれたことに感謝する。よって君を今は客人として歓迎しよう、帰れるまで外部にはバレさないようになんとかするから安心しろ、そしてみんなも『口は固く閉じておけ』、いいな」

 

 

「「「はいっ!」」」

 

歓喜する竜斗とエミリア。そしてゴーラも嬉しさでいっぱいだった。

 

『ありがとうございます……出会ったのがあなた達で本当によかった……』

 

喜ぶ竜斗だったが、何かに気づき笑顔が消えた。

 

「思い出した……水樹はどうする……?」

 

「あ……そうだ」

 

エミリアも彼女に気づき、笑顔が消えた。

爬虫人類に憎しみを抱く彼女は絶対に嫌がるだろう。

 

「大丈夫よ、さすがにあのコも彼女に何か危害を加えたりしないだろうし」

 

マリアはそう言うが安心はできない。

 

『すいません、ミズキとは一体……』

 

「もう一人仲間の女の子がいるんだけどちょっとあってね――」

 

……そしてしばらくゴーラをここに居させることに決まった後解散し、すぐに竜斗は熱々のホットミルクの入ったマグカップを持ってきた。

 

「これ君の口に合うかどうか分からないけどよかったら……」

 

『ありがとうございます』

 

彼は隣のイスに座り込む。口をつけてすするゴーラを見て、肌の色を除けば自分達となんら変わりない姿だと再認識する。

……にしてもこんな幼いのに落ち着きのあり、上品さがにじみ出ている彼女に凄く興味を持つ。

 

『ここの方々は優しいけど……リュウトさん、あなたは本当に優しいお人ですね』

 

「え……いやあ、そんなことは……」

 

――なんだかんだで彼は照れている。二人は色々な話をした。

どういう風に育ったか、どういう遊びをしたか、周りの環境や学んだこと……互いに異なる文化の情報を交換しあい、知らず知らずに二人の間の『異種族』の溝はなくなり、距離は縮まった。

 

『あなたならラドラ様と仲良くなれるかもしれません』

 

「ラドラ……さっき言っていた大切な人だっけ……」

 

『はい。恐竜帝国内における『キャプテン』と呼ばれるエリート戦士の一人なのですが、昔から私の遊び相手になってくれた人なんです……友達などいなかった私に』

 

 

「え……っ」

 

もしかして彼女も自分と同じく元はいじめられっ子なのかなとも思うが、もしそうなら聞きづらい、彼女の心を傷めてしまいそうだからだ。にしても、話を聞くとそのラドラと言う人は彼女にとっての白馬の王子様なのかなと。

 

「そのラドラって人はよほどいい人なんだね……」

 

 

『はい……あ、そういえば思い出しました。あの人が前に言っていた地上人類のとある人のことを』

 

「え……?」

 

『ラドラ様から聞いたのですが、ずっと前の戦闘中、そのゲッター線を使う機体のパイロットが突然中から身を晒して何かを叫んでいたと――あの方は一体どこに……』

 

「あ……………っ」

 

彼はハッと気づいた。彼女の語るその地上人類に覚えがある、というより忘れるハズがない。なぜなら……。

 

『リュウトさん……?』

 

「ゴーラちゃん、その人間について特徴は?」

 

『ええっと……私と近い歳の男性のように見えたと』

 

――偶然か必然か、僕はスゴく驚いた。ゴーラの言うシーンとは、あの栃木での戦いで瀕死のメカザウルスに戦いたくないと訴えたあの場面だと分かった。

あのメカザウルスに乗っていたのはそのラドラという彼女の大切な人……つくづく破壊しなくてよかったなと痛烈に思った――。

 

『リュウトさん……どうしましたか?』

「実はね、そのゲッター線の機体のパイロットっていうのは俺だったりして……」

 

『ええ……っ?』

 

恥ずかしそうに言うと当然彼女も驚き、疑うような声を上げる。

 

「それ、多分俺で間違いないと思う……」

 

彼の様子からは嘘をついてるとも思えないし、事実だと彼女は疑いの気持ちなどなくそう思い込む。

 

『……まさかラドラ様の言っていたその人はリュウトさんだったのですか……』

 

「うん。あの時『あなた達と戦いたくない』と叫んだんだ。そしたらそのメカザウルスは通じたかどうか分からないけどそのまま抵抗せず去っていったんだ……まさかそのメカザウルスのパイロットがゴーラちゃんの言うラドラって人だったとは……」

 

 

しかし二人は次第に嬉しさでたまらなくなる。

ゴーラにとっては会いたかったその地上人類が目の前にいる彼だったこと、竜斗にとっては自分と分かり合える敵側の人間がいたと言う事実と謎が解け……まさに奇跡としか言いようのない事実にこれ以上のない希望が生まれていた。

 

『私は……あなたと出会えたことが、こんな世の中での唯一の光だと信じたいです……本当によかった……』

 

「ゴーラちゃん……」

 

嬉し泣きする彼女を見て、優しく微笑んだ――。

 

 

――僕もこの瞬間に立ち会えたことに唯一、神に感謝した。

自分の思いを分かってくれる、敵側である爬虫人類が一人でもいたことを。

だが、それだけでは戦いを終わらすことが出来ないだろうが、それでも解決に向かう足掛かりは出来たはず。

そして、彼女と同じく出会えたことがこんなきな臭く暗い世の中で唯一の光明だと信じたい、そして、そのラドラという人にも対面したい気持ちが一層に高まり、次に出会える日が楽しみだ。だが、この後――。

 

その夜、医務室のベッドで就寝しているゴーラの元に、何かが近づく音が……。

明かりが付き、彼女も光の眩しさから起きる。目をこすり、前を見ると……。

 

『あ、あなたは……』

 

そこにいたのは昼間にいた人達ではない、腕組みをしてこちらにギラッとした目つきの初めて見る女性。

竜斗と同じくらいの歳のようにも思え、自分と同じサラッとした金髪で自分くらいの身長ほどの……しかしその顔からは能面のような表情だが、感じるは憎しみのような何か危険な匂いのする、どんとした面構え――その人物とは愛美であった……。

 



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第三十話「ファーストコンタクト」④

その目からは明らかな敵視、殺意のこもっている愛美に危険を感じるゴーラ――。

 

『あなたは……一体誰ですか……』

 

「…………」

 

ゴーラの問いに全く無反応の愛美。しかし、彼女はおもむろに懐から何かを取り出すがそれは……。

『ひいっ!』

 

それは包丁……右手に持ちぐっと握り締める彼女は今から何が行われるかと思うと寒気が襲う。

それはゴーラもしかり、恐怖した彼女は後退りして昼間教えてもらった呼び出しボタンを押した直後、愛美はベッドに乗り出し彼女に包丁の先端を向けた――。

 

『や、やめて……っ』

 

「マナのパパと……ママの……黒田さんのカタキ……っ!!」

 

彼女から感じるのは激しい憎悪、今にも思いを遂げたい気持ち、それしかなかった。怯えるゴーラの顔に刃を押し込もうと手の力をぐっと加えた――。

 

「…………」

 

しかし、刃が突き刺さる寸での所から愛美はこれ以上力を加えなかった、というより加えられなかった――。

目の前にいるのは自分の憎む爬虫人類、しかし皮膚以外は自分達となんら変わりない、殺されると怯えるただの少女……流石の愛美もその一線を越えることは出来なかった。

 

「マナミちゃんっ!!?」

 

駆けつけたマリアはその光景に仰天、愛美を掴んで引き離した。

愛美は包丁を床に落とし、マリアを振りほどき部屋の入り口へ――その時、彼女はボソッとこう呟いた。

「マナは……アンタ達を絶対に許さないから………」

 

そう言いふらっと出て行った――。マリアはすぐにゴーラの元に駆け寄り何をされたか聞くと、本人もやっと冷静さを取り戻し、首を横に振る。

 

『何もされていません、大丈夫です。しかし彼女は一体……』

 

「……聞けばあなたは絶対に胸が苦しくなるわ、やめておいた方がいい」

 

『教えてください、彼女に何があったのですか?』

 

……マリアは全てを話した。彼女達の友達、両親、そして同じ国の人達が爬虫人類の実験に晒されて犠牲になったことを、それで愛美は爬虫人類を死ぬほど憎んでいると――。

それを聞いたゴーラは心が割れたような絶望感に襲われて、顔が死人のように白くなった――。

 

『……私は初めてその事実を知りました……なんてことを……っ』

 

「…………」

 

『……彼女は恐らく一生私達を許してはくれないでしょう、どんな言葉をかけてやればいいか分かりません……本当にごめんなさい……ごめんなさい……っ』

 

どうすることも出来ない悔しさと悲しさからまた泣き出す彼女にマリアは、まるで我が子のように慰めようと抱き寄せて優しく頭を撫でた。

 

「……私達だって人の事言えないわ、メカザウルスに乗っていたあなた達爬虫人類のパイロットを研究のために解剖したの。

戦争は怖いわね、互いが勝つために非人道的な行いを平然とやるんだから――」

 

『…………』

 

「私達はあなたのような考えを持つ人間が敵側にもいたと分かっただけで凄く嬉しかった。

エミリアちゃんや竜斗君を見る限りあんな目に遭ってもあなた達と仲良くしたいそうだし、どうかそれだけは分かって……」

 

『だといいのですが……』

 

「それにマナミちゃんだって、いつか分かってくれると思う、根は凄く優しいから――」

 

するとゴーラは甘えるような潤んだ眼でマリアの顔を見つめてこう言った。

 

『マリアさん、あなたはまるでお母様みたいです……』

 

「……えっ……っ?」

 

『……私のお母様は私の物心つく前に亡くなったんです。だから記憶に全くないのですが……けど、どこか懐かしく暖かいぬくもりを感じます』

「ゴーラちゃん……」

 

……まるで子供のようにギュッとしがみついてくるゴーラに、もしかしたら幼い頃から辛い思いをしてきたのかも、だからこんな若さでこんなにしっかりしているのか、と長年の経験からの勘から、

 

『彼女は本当は子供みたいに親に甘えてみたい気持ちを持っている』

 

そう感じたのだった。

 

……マリアは凄く嬉しかった。

こんな異種族の少女が自分を母親として感じてくれるのは。そう言われると自分の母性が一層強まった。

 

「……じゃあ、あなたが今から安心して眠れるようについていてあげるわ」

 

『いいのですか……っ』

 

「ええ、それに私がいるからもうあんなことにはならないわ」

 

『ありがとうございます……』

 

 

 

ゴーラを再びベッドに寝かせて隣に添い寝するマリア。

安心させるように彼女の身体に手をおいてポンポンしながら、子守歌を優しく歌うと彼女も安らかな気分になった。

 

(私、もっとここの人達と仲良くなりたい、そして一緒に平和に向かえるように協力したい)

 

目を瞑りながらそう強く感じている内に眠ってしまうゴーラ。そんな彼女を見届けるとベッドから降りるマリア。

その、年相応の可愛らしい寝顔を見ると、自分達と変わらないと再認識する――。

 

(……こんな優しい子の笑顔を奪うこんな戦争……私達は一体何をやってるのかしら……)

 

急な虚しさに襲われるマリアはその後、彼女は明かりを消して、医務室に鍵を掛けて出て行った――。

 

 

……その頃、マシーン・ランドではゴールは彼女がいなくなったことに気づき、慌てて緊急手配かけていた。

 

「ゴーラ……」

 

愛娘がいなくなったことに絶望し、焦りや怒りを通り越して意気消沈する顔はまさに父親である証拠だ――。

 

「ご、ゴール様、今ラドラ様や他の者も総出で捜索していますから必ずや――」

 

「悪いが、今は一人にしてくれ…………っ」

 

側近が必死で慰めようとするも一向に明るくならないゴールに困り果てていた――この場に一人きりになる彼は、ふとこう呟いた。

 

「なあリージよ、わしはこういう時はどうすればよいのじゃ……?」

すでに亡くなっていていないラドラの父で自分の唯一の信用できる友であったリージにそう問いかけるも答えなど帰ってくるハズはなかった――。

その息子のラドラも一旦、マシーン・ランドに戻っており、開発エリアにて整備を受けるゼクゥシヴの足元で意気消沈していた。そんな彼の隣にはガレリーが彼とは対処的にゼクゥシヴを下から眺めている。

 

「ガレリー様、私はどうしたらよいのですか……」

 

彼女が見当たらないことに対しすでに弱気になっている彼に対し、ガレリーは、

 

「ラドラよ思い出せ。お前の父、リージはそんな弱気な顔を見せる男だったか?」

 

「…………」

 

「もしかしたら陸地に上がって、安全のどこかに隠れているのかもしれん、最後まで諦めるな――だが、もしかしたら地上人類に捕まっているという可能性もあるがな」

 

 

するとガレリーは、彼にあの小粒状の翻訳機を渡す。

 

「これは……」

 

「翻訳機だ。飲み込むことで地上人類と会話することができる。

今度は陸地へ向かい、何とかしてヤツらから情報を引き出せ」

 

「…………」

 

「ラドラよ、なんでワシがそなたにここまで気を使うか。

それはわしもリージの親しい仲だったからじゃのう」

 

「ガレリー様……」

 

「頼むからこれ以上ワシを失望させないでくれ。ラドラよ、お前は父親の血を濃く引き継ぐ子じゃ、やればできる!」

 

ガレリーからそう言われて弱気だった顔がキリッといつもの凛々しい顔立ちに戻った。

 

「了解っ!」

 

すぐさまそれを飲み込む。二時間後、ゼクゥシヴの整備が終わり、再び搭乗して再発進したラドラ。

 

(父さん……次こそは必ずゴーラ様を発見できるように力を貸してください……っ)

 

その思いを胸に再びアメリカ大陸へ飛んでいった――。

 

 

……そして朝一番、ベルクラスに通信が入る。それはアメリカの領空圏に一機のメカザウルスが侵入したと聞き、すぐさま早乙女はモニターに出すとラドラの乗るゼクゥシヴがこちらの方向へ近づいてくるのが分かる。

 

 

しかしこれはチャンスだと思い彼は竜斗、そしてゴーラを呼び寄せる。

 

「前に戦ったあのメカザウルスだ……てことはあの中にラドラって人が……」

 

『間違いなくラドラ様です。あの機体はラドラ様以外には操縦できないと聞きます……』

 

「じゃあ多分、君を……」

 

彼らはすぐに彼女を必死で捜していると分かる。

 

「竜斗、今すぐパイロットスーツに着替え、この子をゲッターロボに載せて発進しろ」

 

「…………」

 

「なぜ君を呼んだか分かるな?それは君なら一番安心して彼女を渡せるからだ」

 

何故なら竜斗は一度向こうと接触を試みた人間だ、しかも前と同じ相手なら彼が彼女を引き渡すのに最も適任だ。

 

「……分かりました。ゴーラちゃん、行こう。今しかもう君を返すチャンスは回ってこない」

『……分かりました』

 

「マリア、彼女の服は?」

 

「すでに洗濯して乾かしました。今すぐ持ってきます」

 

「彼女を連れていき、着替えさせてから格納庫へ行ってくれ」

 

「了解、ゴーラちゃん行くわよっ」

 

 

『はい。サオトメさん、本当に短い間でしたがご親切感謝いたします』

 

彼女に深くお辞儀されて、彼も優しい笑みを見せる。

 

「また会えるといいな、君ならいつでも大歓迎だよ」

 

『私も、次に会える日が本当に楽しみですっ!』

 

すぐに彼女はマリアと共に出て行った後、早乙女は竜斗にこう伝える。

 

「これは戦闘ではなく彼女の引き渡しが最大の任務だ。

しかしもしかしたら向こう側はどんな手段を使うか分からんが向こうから攻撃を仕掛けてくるまでは絶対に手を出すなよ。

もし何かあっても私達がついているから心配するな、彼女を頼んだぞ」

 

 

「はいっ、けど司令?」

 

「どうした?」

 

「失礼ですがあなたがゴーラちゃんに対して優しかったのは意外でした」

 

「何を言ってる、私はいつでも心は善人だ。分かるだろ?」

 

「……ハハっ、そうですねっ」

 

軽い笑みの二人。そしてすぐに竜斗は格納庫へ向かった。

到着するとすぐにパイロットスーツを着用すると同時に、マリアとエミリア、そして紫色のローブに着替えたゴーラが駆けつけてきた。

 

「リュウト、もうゴーラちゃんが向こうに行っちゃうんだね……」

「けどこのままいてもいけないからね、ご両親が心配するだろうし……」

 

そして竜斗達はやはり愛美がいないことに気づく。

 

「一応マナミちゃんに部屋のドア越しから伝えたけど「行かない」って……」

 

しかし、これはどうしようもないことだとすでに分かっていたことだ。

 

「じゃあ、ゴーラちゃん行くよ」

 

『はい。皆さんほんの僅かの間でしたが本当にありがとうございました、このご恩は一生忘れません』

 

するとエミリアは笑顔で手を振って見送った。

 

「また会えるといいね、アタシ待ってるから――!」

 

『エミリアさんもお元気で――』

 

マリア達が格納庫から去った後、ゴーラをコックピット座席の後部に乗せ、竜斗は座席に座りシステムを起動させてハッチを閉める。

 

テーブルが外部ハッチへ移動し、固定するとハッチは開門。寒い朝の空気が格納庫内を満たした――。

 

“出撃するのは竜斗、君だけだ。向こうへ攻撃の意思はないと伝えるために私がここの部隊に適当に丸め込んでおいた。後は全て君に任せるぞ”

 

「ありがとうございます。ゴーラちゃん身体に力を入れて!」

 

『はいっ!』

 

そして――。

 

「石川竜斗、ゲッターロボSC『アルヴァイン』発進します!」

 

カタパルトを射出されて外へ飛び出したアルヴァインはゲッターウイングをすぐに展開し、空高く飛翔しラドラのいる位置へ飛んでいった。

 



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第三十話「ファーストコンタクト」⑤

彼女を潰さないために出力を抑えて飛んでいく。その道中、ゴーラは身を乗り出して彼にこう聞いた。

 

『リュウトさん……』

 

「どうしたの?」

 

『リュウトさんは……辛くないんですか?』

 

「えっ?辛いとは?」

 

『マリアさんから聞いたんです、あなた達の事を……』

 

夜中にあったこと、マリアが自分に話してくれたことをそのまま話す。

 

「まさか水樹が……」

 

『あの時のミズキさんの表情からは凄い憎悪が込められていました。しかし彼女の境遇を考えると仕方ないかもしれません……』

 

彼も愛美の行動を否定することはできない。もし他の者も彼女と同じ立場なら、そういう凶行に及んでも全くおかしくないからだ。

 

 

『やっぱり……許せないですよね、あなた達にこんな酷い思いをさせて……全く事実を知らなかった自分が凄く情けないです……』

 

――すると、

 

「俺も水樹と同じで、確かに俺の親や友達、日本の人々にあんな目に遭わして殺した爬虫人類を絶対に許さないし一生許せないと思う。けどだからって全く無関係の君まで憎む気はないし、寧ろ君のような話の分かる子に出会えて凄く嬉しいよ。それにさ、許せないからこそ、どうにかして向こうと話をつけたい気持ちもある。

 

もう俺達みたいな人間、そして悲劇を増やすワケにいかないからさ――だから」

 

彼女は彼の思いを聞いて幾分か救われる。

 

『リュウトさんの決意を聞いた以上、私はこれ以上いじけているワケにいきません。

お父様にどうにか話をつけないと……』

 

「……ねえ、君のご両親ってどういう人なの?」

 

『……お母様はもうこの世にいません』

 

「あ、ごめん……聞いてはいけなかった?」

 

『いいえ、私が小さな時に病気で……お父様については、厳格で怒りっぽい人かなと。

けど、私達爬虫人類のために心から尽力する尊敬できる人です』

 

「君のお父さんってそんなに凄い人なのか……っ」

 

『はい。リュウトさんのお父上はどのようなお方だったのですか?』

 

「……母さんが肝っ玉系だったから張り合いにいつも負けてたけど凄く優しかったな。

いつも俺の味方になってくれたし、それで母さんから『あの子を甘やかしすぎだ』って言われてたくらいだからね。

今考えると確かにそうだったなと思うなあ、俺自身弱気な人間だしね。

けど毎日が楽しかった。母さんは自分達を引っ張って行ってくれる頼もしい人だったし、行きすぎを抑えるのは父さんの役目だったから釣り合っていたんだよね」

 

 

彼は両親の話になると凄くハキハキと語り出す。それから彼が親を誇りに思うことがよくわかる。

 

 

「だから俺も……両親の子供でよかったと本当に思うよ――」

 

親を失って辛いと思うのにそんな面を少しも見せないで笑顔で答える彼にゴーラはこう思った。

 

(リュウトさん、あなたは本当に強いお方です。私もあなたを見習いたいと思います)

 

そんな時、レーダーにメカザウルスの反応が入る。数は一機……間違いない、ラドラだ。

 

「ゴーラちゃんっ、準備はいい?」

 

『いつでも大丈夫です、ラドラ様に私がこの中にいることを伝えましょう』

 

一方、ラドラも近づいてきているのが竜斗の乗るゲッターロボだと知るが、自分の知らない間に姿が別物になっていることも。

(あのゲッター線の機体なのか……しかし一機だけとはどういうことだ……決闘か?)

 

しかしアルヴァインは武装しておらず、寧ろ何もない平地へ向かい飛んでいく。ラドラも警戒しつつ追っていく。

 

(何がしたいのだ……)

 

そしてそこに降り立つアルヴァインは不動の姿勢を取る。まだ警戒するラドラだったが、何かに気づいた。

 

(機体の口から何かが出てきている)

 

拡大すると、そこには前に自分に何か叫んでいた地上人類の男と隣には捜していたゴーラの姿をモニターで目撃し、唖然となった。

 

(ゴーラ様……なぜ……)

 

ワケが分からない彼だが、一度冷静になりゆっくりと自分も機体を地面に着地させた。

ゼクゥシヴも同じく不動の姿勢をとり攻撃する気配などないようだ。そのまま様子を見ると、向こうから声が聞こえるので拾うと、

 

“聞こえますか、僕はただこの子を返しにきただけです。安心してください”

 

「…………」

 

まさか彼女を送りにきてくれたのかと……しかし万が一、罠の可能性もあるかとやはり警戒心がとれないラドラだったが、

 

“ラドラ様、この方は海に漂流していた私を保護してくれ、治療も施してくれました。どうか信用してください”

 

彼女の実声が聞こえた。彼は考えた後、覚悟を決めてコックピットを開けて姿を見せた。

 

『ラドラ様……応じてくれたのですね……』

 

そしてついにこの時が。地上で竜斗、ラドラは対面し、彼女を向こうに渡した。盗聴器や何かつけられていないか確認する彼を竜斗はじっくりと彼を見つめる。

 

(この人がラドラさん……)

 

ほぼ人間の顔立ちであるゴーラと違い顔は、口先の長くザラザラしてそうな皮膚、ワニかトカゲの顔をしたまさに爬虫類の顔だが、パイロットスーツ着だが体の引き締まったその身体の構造は自分達人間そのもの……正に爬虫人類の名に恥じない外見である。

ただの爬虫類にない黒い鶏冠のような髪を生えていることから彼らは進化した種族なのだと分かる。

そして何もつけられてないことを知ると、ラドラは律儀にも彼に頭を下げた。

 

『この方を無事に届けたことに感謝し礼を言いたい、本当にありがとう』

 

 

 

「ど、どういたしまして……」

 

怖そうな外見に反して紳士な態度に正直驚く竜斗。

『キャプテン』という爬虫人類のエリート戦士と聞いていたが、敵であろうがちゃんと律儀に礼を言えるのは立派だと感心した。

 

『ではゴーラ様、行きましょう。ゴール様がまっておられます』

 

『はい……』

 

彼女も丁寧にお辞儀してゼクゥシヴに乗ろうとした時だった。

 

「あ、あの……っ」

 

竜斗に呼び止められて二人は立ち止まった。

 

「ぼ……僕はもうあなた達と戦いたくありません!」

 

大声でそう伝える彼にラドラの顔は一変した。

 

「ど、どうにかして戦争を止められないんですか……僕達はどちらかが滅ぶまで戦うしか方法はないんですか……?」

 

 

その悲痛な本音を震える声で伝える竜斗。

 

「だけど僕はもうイヤなんです、どっちも傷つき、死ぬ姿なんか見たくないんです……僕達はただ、平凡に生きたいだけなんです……」

 

しかしラドラは無言のまま彼女をゼクゥシヴに乗せると自身も乗り込み、そのまま上空へ飛び去っていったのだった。

 

竜斗は去っていくゼクゥシヴの後ろ姿を見て、少しでも思いが通じていればと切実に祈るのであった。

そしてゼクゥシヴのコックピット内では、彼の本音を聞き、何も言わず黙り込む二人だったが、先に沈黙を破ったのはラドラだった。

 

「……ゴーラ様、私はこんな時代に生まれなければよかったなと思います」

 

「ラドラ様……」

 

「あの少年と再び会えば、残念ながら現状では戦う以外他ないでしょう――ゲッター線に敵対する、我々爬虫人類に課せられた使命、十字架のようなものです。

だからこそ私はあのような言葉は聞きたくなかった、彼があんなことを言わなければ思う存分戦えるのに……」

 

彼もまた竜斗の叫びが届いており、本当にこれでいいのかと葛藤させていたのであった。

 

「……それでも私はいつか、互いが友好を結ぶ日が来ることを信じ、そうなるよう努力します……ラドラ様、あなたもそれが分かるはずです」

 

「ゴーラ様……」

 

「実は保護されている短い間に彼、リュウトさんとその仲間の人達と、差し支えのないことですが色々と話を交わしました――それで彼ら地上人類と友好を深めたいと一層感じました」

 

「リュウト……あの少年の名ですか?」

 

「はい。あなたと似ている方でした、優しく良識的で……先ほどでも分かりましたよね、彼は心から私達と共存を望む人物だと――これ以上の悲劇は食い止めなければなりません」

 

「…………」

「これから私はお父様に説得を試みます。戦争をやめるべきだと、そして同じ地球人類同士和平を結び、共に地球で生きていくべきだと。

恐らく一筋縄にはいかないでしょうが、それでもやらなければなりません。希望がある限り……」

 

ゴーラの決意は本物だ――彼もそうなるのなら願ったりであるが、それでもしかすれば彼女に何か危険が及ぶのではないか、それが一番心配で、そして今の自分ではどうすることもできない立場であることを嘆くのであった――。

 

 

マシーン・ランドへ帰還しゼクゥシヴを格納すると二人はすぐにゴールの元へ向かった。

途中、彼女が無事に戻ってきたことによる喜びと安心、そして見事連れ帰ってきたラドラへの祝福の声が上がった。

 

 

王の間に入り、待機しているとゴールがやってきてついに親子は対面した。

 

「ゴーラ……っ!」

 

「お父様っ!」

 

二人は親子として抱き合い喜びあったのだ。そして膝を地面につけて頭を下げているラドラに目を向けてご機嫌な態度でこう伝えた。

 

「ラドラよ、よくぞ我が娘を無事に連れ帰った、誠に礼を言うぞ」

 

「はっ、ありがたき幸せっ」

 

「二度とこのような事が起こらぬようにゴーラ直属の親衛隊を結成しようと思うのだが……ラドラよ、その功績に讃えてそなたを親衛隊長として任命したい」

 

二人はそれを聞き驚く。

 

「お父様……それは本当ですか……っ?」

 

「ああっ、お前もこれからラドラと一緒にいられて嬉しかろう」

 

「……はいっ凄く嬉しいです!」

 

「どうじゃラドラよ、引き受けてくれるか?」

 

同じくラドラには断る理由などなかった。

 

「私はこれ以上のことなどありません、喜んでゴーラ様にお仕えしたい思いです」

 

「では決まりだ。他の者は後で決めておく。ラドラよ、ゴーラを頼むぞ!」

 

「例えこの身が朽ちようと彼女をお守りいたしますっ」

 

……二人にとって願ってもないことに喜ぶゴーラ達だった、ラドラが彼女自身に仕える騎士(ナイト)に任命されたのだから。

 

彼は任じられた後にゴーラの元に向かい跪く。

 

 

「ゴーラ様、何なりとご命令を」

 

「ラドラ様……私はあなたに守ってもらえることを、そしてあなたといつも一緒になれることをどれほど待ちわびたことでしょうか。

では私から最初の命令を伝えます――」

 

「はっ」

 

すると彼女は優しく微笑んでこう言った。

 

「私と二人きりの時だけは『ゴーラ』と呼んで下さい」

 

「え……っ」

 

「私もその時はあなたを『ラドラ』と申します。それほど私達は親密な仲だということです、受け入れてくれますか?」

 

戸惑う彼だったが、考えた末、頷いた。

 

「承知しました」

 

「ではラドラ、これからどうぞよろしくお願いします、頼りにしてますよ」

 

「こちらこそ、ゴーラ……ん?」

 

「……ぷっ……っ」

 

様をつけない名指しに慣れないのか変な感じになり、可笑しくなり吹き出した二人は今、幸せそうな表情であった。

 



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第三十話「ファーストコンタクト」⑥

アラスカ州。雪原広がる広大な自然に囲まれた場所を居座る巨大な建造物。

まるで亀とも言える外見に先端にいくつものうねうねと動く触手のようなものが周りの木々を叩き潰している。そしてその一帯には千、二千のメカザウルスが周りにその建造物に取り巻くように護衛している――。

 

その近くに戦闘機形態と化したマウラー数機が上空から建造物に近づいている。彼らは第十一アラスカ空軍の偵察部隊である。

 

「暗号名『タートル』は未だ停滞中、周辺にメカザウルス多数が護衛についている」

 

“よし、基地に戻れ”

 

「了解」

 

状況報告し、引き返そうと旋回した時、地上から大玉のような巨大なマグマ弾数発が音速と思われる高速度でマウラー全機に直撃し、墜落していった――。

墜落現場に駆けつけたメカザウルスは、大破したマウラーに追い打ちをかけるようにマグマは吐きかけ、完全に跡形もなくした。

 

――第三恐竜大隊の本拠地である、トゥリア級移動攻撃基地『ドラグーン・タートル』。

全長約十キロ以上はあるこの小島のような巨大要塞は今、この雪原のアラスカに君臨する悪魔である。

その中枢にある司令部。大隊総司令官でありゴールの妹であるジャテーゴがいつものように、二人の側近であるラセツ、ヤシャを取り巻いている。

 

そして今、彼は部下からのとある報告を受けているも彼女は部下を見ようともせずにただモニターを眺めているだけであった。

 

「申し訳ありません……ゴーラ様の誘拐に失敗しました」

 

「…………」

 

「情報ではゴーラ様は保護され、マシーン・ランドでは警備を強化したとのこと……」

 

するとジャテーゴは振り向き、無表情のまま部下の元へ向かった。

 

「足はつかれてないのだな」

 

「おそらく……」

 

彼女はしゃがみ、部下の顔を両手で掴んだ。

 

「本来ならこのような失敗などはもってのほかだが私は心が広いからな――」

 

「ジャテーゴ様……」

 

しかし彼女は親指を眼部に当ててグッど力を加えた時、部下の眼部は無残に潰されて血が吹き出した。

聞くに堪えない悲鳴を上げながら、のた打ち回る彼は痛々しい姿だ。

「ヤシャ、この者の処刑場に連れて行き始末しろ。

だが心が広いといったからには、苦しませずに一思いにな」

 

「承知しました」

 

大男で屈強な体格をした爬虫人類の戦士、ヤシャは部下を強引に引きずるようにここから去っていった。

 

「ジャテーゴ様、これからいかがなさいましょう」

 

「とりあえずほてぼりが冷めるまでは静かにする以外はないだろう。

あの老いぼれのゴールは勘が鋭い、私に必ずや疑いをかけてくるだろうからな」

 

「しかし、何があろうともあの事件はジャテーゴ様だとは分かりません。

何故ならここの者はもちろんのこと、マシーン・ランドには我々が買収し味方につけた者は沢山いますから――まだチャンスはあります、焦ることはありません」

 

「しかし、海に落ちたゴーラが助かったことだけが惜しく思う。そのまま海に沈んでくれたら邪魔者がいなくなってよかったものを……」

 

彼女は舌打ちするほど、ゴーラを嫌っているようである。

 

「本来なら私が兄上に後に正当な王につくハズだった。

あの泣き虫娘が生まれるまでは……そもそも、兄上の亡き妻であるミュアンからして気にくわない女だったがその生き写しであるゴーラ、あの小娘なんぞに王位を奪われるなんぞ虫酸が走る。

兄上は、ゴーラが王位継承に相応しいなどとほざいていたが、私は絶対に思わぬ、認めぬ。

私こそが真の女王、恐竜帝国を、爬虫人類を統べるにふさわしいのだっ」

「さようでございます、だからこそ私達はジャテーゴ様一心に仕えるのです」

 

「……ただ、問題は第一恐竜大隊のリョド、第二恐竜大隊のバットだ。

奴らは兄上の忠実な家臣であり相当の実力者だ、流石に私一人では分が悪い。もしかしたら二人を味方につける必要も考えねば――」

 

「……では、二人をジャテーゴ様に取り入れますか?」

 

「できるか?」

 

「確実とはいいませぬが精一杯の努力はしてみましょう」

 

「……よし。ありとあらゆることを想定して慎重に事を進めろ、何か不具合があっても対処できるように」

 

「御意っ」

 

彼女は不気味な笑み、声を上げた。

 

「兄上、あなたを讃える時代はもうすぐで終わりですよ、ホホホ……」

 

異常な程の上昇思考と野心を持ち権力を握りたがるジャテーゴ――果たして。

 

 

 

……一方、マシーン・ランドの王の間ではゴールとゴーラの親子は口論していた。

 

「……ですからお父様、私達は地上人類と助け合うべきなのです!」

 

「ゴーラ、何度も言ったがそれは無理だ。我々爬虫人類は地上人類とどうしても相容れない存在なのだ。

おかしいぞ、どうしてお前にはそれが分からないのだ?」

 

次第に口論がヒートアップし、互いの声も外に丸聞こえになる程だった。

「お前は爬虫人類としての誇りがないのかっ!!」

 

「私だってそれは持っています、しかしだからといって地上人類を貶す気はないです!

私はこのまま戦争を続けて血で血を洗い、互いに疲弊するよりも彼らと協力していった方がこれからの利点がたくさんございましょう、お父様にはそれが分からないんですか?」

 

「いいや、地上人類とは絶対に協力などできん、何故か?それはヤツらは絶対悪だからだ」

 

「……ゲッター線ですか?地上人類はゲッター線で進化したから?ただそれだけのためならただの偏見、差別です!!

それだけの理由で殲滅するのなら、悪なのは私達爬虫人類の方ではありませんか!!」

 

 

「…………」

 

一呼吸ついてゴーラはこう告げた。

 

「まだ話していない真実を言います。私は……誘拐された後、海に落ちて……とある地上人類の方々に保護されました。

異種族の私を治療してくれ、優しく接してくれたのです。そして私はその方々と色々話をし、短い間でしたが互いを知り友好を深めました――お父様は昔、私に地上人類は野蛮で自分のことしか考えない、救いようのない種族だと言いましたが嘘ではありませんか!

そして仲良くなった地上人類の方が私とラドラ様にこう言いました。

『あなた達ともう戦いたくない、僕達は平凡に生きたい』と。お父様はその方の思いを踏みにじるつもりなのですか!」

それを聞いたゴールは頭を押さえて深いため息をついた。

 

「なんてことだ……ゴーラよ、もしや地上人類に毒されたな……っ」

 

「お父様!!」

 

「側近。直ちにゴーラを下がらせ、頭を冷やすようにしてやれ」

 

近くにいた側近は彼女を取り押さえて出て行こうとするも彼女は暴れに暴れる。

 

「お父様の分からず屋ーーっっ!!」

 

彼女から悲鳴のような声を上げて、そのまま王の間から追い出されるように出て行った――その後、彼女はまるで独房のような真っ暗の部屋に入れられて鍵を締められるのであった。

 

「ゴーラ様、悪く思わないで下さい。これもあなたの為です」

 

 

側近はそう告げて去っていく。

そしてここは王族の懲罰房のような、頭に血が上って失態した者を頭の冷やし反省させる場所である。

彼女も初めて入れられる房で、石室であり灯りなど一切ない真っ暗闇でひんやりした場所で以外と心地はいい――。

 

彼女はどうすることも出来ず、ただ座っているとカチャッと扉が開き、誰かが立っている――果たして誰なのか。

 

「ゴーラ様っ」

 

聞き覚えのあるどころか自分がよく知り、そして自分が最も好く人物、ラドラだった。

 

「ラドラっ!」

 

彼女は立ち上がり、彼に抱きつく。

 

「ゴーラ様、大丈夫ですか?」

「ええ。しかしラドラ、あなたまた私に様をつけていますね、二人きりなのに」

 

「す、すいません。どうも慣れないもので……」

 

「……まあこれはいきなりこうしろと言われても難しいでしょうから。しかしどうしてここに……?」

 

「あなたがここに入れられた後に、側近の者にここの鍵を拝借したのです。寂しいと思いまして。

 

最も私があなたに言い聞かせますと、勿論ウソですが……」

 

「あなたも段々と頭が柔軟になってきてよろしいことです、ちょうどあなたと話がしたかったことですから」

 

「ハハっ……お褒めの言葉として受け取ります、ゴーラ」

 

「あ、ちゃんと言えましたね。これからもその調子でお願いします」

 

――二人はこの中で先ほどについて話をする。

 

「私はまだまだ諦めません、リュウトさんの思いを無駄にするワケにはいきません」

 

「しかし、しまいにはあなたに何か良からぬ事が起こるのでは……」

 

「例えば……?」

 

「あなたから王位継承を奪われるのではと……」

 

「……そうなっても私は一向に構いません。本来なら叔母上であるジャテーゴ様が継ぐはずなのにお父様は私を溺愛するあまりに私に継がせると……」

 

「……それに対してジャテーゴ様はどうと?」

「はっきり言ってジャテーゴ様からしてみればこれほど屈辱的なことはないでしょう。

私もなぜジャテーゴ様ではなく私なのかとお父様にお聞きしました。すると「ジャテーゴ様には王に必要な徳が備わってない」ということを言ってました」

 

「……その徳とは?」

 

「君主になるための要素には、

誰からも信頼、尊敬されるような知恵を持つ『知性』、

国にとって正しき行いを選び、民を導く『正義』、

自己犠牲を重んじ、それを信念として貫き通す『忍耐』、

私欲や感情に流されない『自制』、

この四つの要素が必要だとおっしゃってました。

そして私は小さい頃から帝王学を学び、自身もそれに応えるべく懸命に努力してきました――私自身は本当にそれらが備わっているのかわかりませんが」

 

 

……所謂『四元徳』と言われる要素である。しかしゴーラにはまさにこれらの要素を備わっていると言え、主君に相応しいとラドラでも思う。

 

「対してジャテーゴ様の持つ徳は『野心』、『謀略』、『勇敢』、『自尊』……倫理に欠ける部分を持ちすぎて決して支配者にさせてはならないと言われます。

お父様も、実は『知性』と『忍耐』しか備わっていないらしく、だから苦労してるらしいのです」

 

 

「…………」

 

「しかしながら、ジャテーゴ様の持つ要素も、帝国の表裏一体の立場として国を支えるために必要な要素であるため私が王位に継ぎジャテーゴ様は摂政、二人で力を合わせて帝国を繁栄させてくれと言われてましたが……ジャテーゴ様は決して快くは思わないでしょう、私のような娘に継承権を奪われたのですから……」

 

「なるほど……」

 

「それで私はこう思うのです、もしかしたら私を誘拐しようとした者達の正体が……」

 

「まさか……ジャテーゴ様が差し向けたと?」

 

「真実かどうか分かりませんが、これからはあの人の動向に対して警戒しなければならないと思います。

今度は私だけでなく、今度はお父様自身の命だって脅かされることも……」

 

ラドラはとんでもないことになってきたと、思わず息を呑む。

 

「そこでラドラ、あなたにお願いがあります。

あなたはこれからお父様の身の周りに対してに十分警戒するようにしてください。

私もあなたに負担がかからないように自分の身は自分で守るよう注意し、そしてこれから向こうの動きを掴もうと思います」

 

「…………」

 

「ラドラだからこそ頼めることです、お願い出来ますか?」

 

「承知しましたっ」

 

「ありがとう。この話は今は私達だけの秘密にしましょう。定かかどうかも不明な時点でいたずらに広めて周りを混乱させないためです、頼みますよラドラ――」

 

二人はこの暗闇の中で静かにそう決め合うのであった――帝国がかき回されないためにも。

 



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第三十一話「新規一転」①

一ヶ月後。三月下旬、依然と雪の残るネバダの荒野。

施設内の地上ポートにはアルヴァイン、エミリアの新機体、そしてついに完成した愛美の新機体が並ぶように直立している。

 

「アルヴァイン、石川竜斗スタンバイ完了です」

 

「ルイナス、エミリア=シュナイダー、オーケーです」

 

「アズレイ、マナいつでもイケるわよっ♪」

 

三機の生まれ変わった新型ゲッターロボ。

 

竜斗の『ゲッターロボSC「アルヴァイン」』、

 

エミリアの『ゲッターロボGC「ルイナス」』、

 

愛美の『ゲッターロボAC「アズレイ」』、

 

それぞれの新たな機体が勇姿が日の光に照らされている。

愛美機は前と同じくBEETをベースにしているため、外見的には変わったようには見えないが特徴的であった蛇腹の両腕はなくなり従来と同じ形となっている。

機体色は前と同じく黄色である。

 

 

“三人とも準備はいいか。これより新型ゲッターロボ三機による武装、射撃テストを兼ねた模擬戦闘訓練を行う。

ルールは前と同じくプラズマシールドが消滅した時点でその機体は即失格、巻き添えを食らわないようにすぐにこちらへ帰還してくれ。

戦闘ステージは区域外の指定ポイントから約平方三〇キロの範囲内。

各機がそこに入った瞬間からスタートだ、地形、岩場などの障害物を有効活用してしてくれ。

各機は戦闘エリア外に出たり、アルヴァインに至っては高度一〇〇メートル以上の上昇は失格と見なすから気をつけろ。制限時間は開始から一時間、気をつけて行ってこい”

 

 

早乙女にそう指示された後、三機はそれぞれ各移動ユニットを使い、エリア外に飛び出していく。

レーダーにインプットしたエリア内の場所とその範囲を確認して向かう。

先に到着したのは空中移動できるアルヴァイン、続いてルイナス、アズレイの順で突入していく。

 

“よし、では開始――”

 

ついにスタートする模擬戦闘。

施設内では各人が興味津々でモニターからその様子を見ている。

 

「行くよ、二人ともっ!」

 

“マナは容赦しないからそのつもりでっ”

 

“アタシだって負けないんだからっ!”

 

各人はやる気は十分のようだ。

 

「じゃあ先に行くわよ!」

 

先に行動開始したのは愛美の乗るアズレイ、車輪をフル稼働させて雪飛沫を上げながら高速滑走する。

左腕を空中浮遊するアルヴァインに向けると前腕の装甲が縦にスライドし、内部からロケット弾が爆炎を上げて打ち上げられた。

 

アルヴァインはすぐに『セプティミスα』を持ち構えて、ロケット弾に向けてプラズマ弾を発射、直撃し見事、撃ち落とす。

 

“待ちなさいミズキっ!”

 

ルイナスも車輪を展開して急速で彼女を追いかける。

右腕の大きな長方形の形をした新型アーム『ガーランドG』をアズレイへ向けた。

 

「シュートっ!」

 

すぼめたような先端部中央の砲口から高密度のプラズマ弾を連続で発射。

愛美は迅速且つ巧みにレバーを動かすとそれに追従して、車輪ユニットに内蔵された旋回用の杭が地面に打ち出され機体が急速旋回、ジグザグに左右に蛇行しながらプラズマ弾を次々に回避し、振り向いてバッグ移動しながら今度は両肩の発射管から大型ミサイルをせり出して、ルイナスへを照準を定めて撃ち出した。

 

しかし、エミリアも負けじと向かってくるミサイルとアズレイに照準をつけて、アーム前方側面から十、二十発の小型ミサイルをばらまき誘爆、そして追尾させた。

爆発による弾幕を張りながら突進してくるルイナスに対して、アズレイは華麗な舞で迫り来るミサイルかいくぐりながらエミリアを受けて立った。

 

「初っ端からオンナ同士でケリつけようかしら、エミリアっ!」

 

「望むところよっ!」

 

ドリルで穿とうとするルイナスをいなしたアズレイは右前腕内から、空戦型ゲッターロボの武装、ビーム・シリンダーをせり出して間近でビームを撃つが、負けじと同じく急速にのけぞり回避する――。

接近戦の応酬を重ねて、争っている二人に対し一方で、アルヴァインは今いた場所から二十キロ近く離れた場所にある巨大な岩場の裏から身を出して変形したライフルをぐっと密着せて構えて息を潜めている。

その形は銃身が伸びて長身と化している、いわゆる『スナイパーライフル』のデザインである。

 

(よしよし、二人が戦ってるうちに――)

 

弾薬を狙撃用の高速貫通弾に設定するとモニターは狙撃モードに移行、ズームを上げて二機のどちらかに『エイム』し神経集中させる竜斗。

 

 

(二人には悪いけど、これも戦術だ――)

 

慎重にそして確実な被弾を狙いに行く彼は、まずアズレイに狙いを定めてついに撃ち出した。

その弾丸は瞬く間にアズレイの張られたバリアに直撃し、機体には傷はつかなかったがその衝撃はコックピット内に伝わり彼女は揺らめいた。

 

 

「イシカワっ!? 」

 

隣にいるルイナスにも弾丸が当たり、衝撃でコックピットがグラグラ揺れた。間を開けず、一発、また二発と二機に命中していく――。

 

「リュウトはどこっ!?」

 

レーダーで確認し、場所を突き止めると二人は猛スピードで竜斗のいる場所へ向かっていく。

 

「あ、バレたか」

 

すると彼は逃げずに寧ろライフルを構えながら二人のいる方向へ向かっていく。その途中で彼は素早い操作で弾薬を散弾に変更した。

そして竜斗は二機に差し掛かった所に急停止し、真上から散弾をばらまき二機を立て続けに被弾させた。

 

「図に乗らないでよイシカワァっ!」

 

「協力しようミズキっ!」

 

二機はその場から直ちに離れて離散した。ルイナスは再びガーランドGをアルヴァインに向けて照準を合わせた。

 

「これならどお、リュウトっ!」

 

後部側面の発射口から、計四基の各先端部がそれぞれドリル、砲口のついた子機が飛び出した。

それらが自動的にアルヴァインへ向かってつきまとい、輪円状に動きながらドリル子機は突撃、砲口子機はプラズマ……いやゲッター線と思われる緑色のビーム弾を小刻みに発射、まるで蝶のように舞い、蜂のように刺すような攻撃でアルヴァインを次々に被弾させていく。

 

「くっ!」

 

彼は撃ち落とそうとするが、高い機動で素早い散弾でも当たらず。

すぐに逃げ出したアルヴァインに追い討ちを掛けるように胸部中央を展開するように開き、レンズ状の物体が露出する。

 

「逃がさないわよ!」

 

レンズからプラズマ……ではなく同じく緑色の光線、ゲッタービームを連射し拡散させるアズレイ。隙間なく飛び交うビームを超高速でジグザグ移動しながら避けるアルヴァイン。

 

「これならどうだ!」

 

右脛部からビームブーメランを取り出し投げつけて、すかさずゲッタービームを撃ち込むとブーメランを媒体に、ビームが四方八方に降り注ぎ雪の覆われた地面、岩場、そして二機に容赦なく襲いかかり、雪は融け、地形は轟音と共に破壊される。

二機は怯んでいる間にすぐにそこから離れて、今度は弾薬を榴弾、そして曲射に変更する。

 

 

角度調整し発射された弾頭は弧を描くように飛んでいき、岩場に隠れたルイナスの目の前の地面に着弾し爆風と破片と周囲に飛び散った――。

するとルイナスは飛び出して、ドリルのある左腕をアルヴァインへ向けて走り出す。

 

「はあっ!」

回転機上部に取り付けられた発射口からアンカーが射出され、金属製ワイヤーがぐんぐんと伸びていく。

何とそれはアルヴァインの足首にアンカーは当たらなかったものの、腕をひねり入れ、ワイヤーを湾曲させた。

 

「なっ!」

 

右足首に巻きつかれ、アンカーが上手くかまされて固定すると彼女は伸びたワイヤーを一気に押し戻した。

しかし竜斗は焦ることなくそこから空いた手で腰のトマホークを取り出して急降下した。

 

「リュウトっ!」

 

「エミリアっ!」

 

――白兵戦で互いの武器がぶつかり合い火花が飛び散る。そこには普段の仲のよい二人の姿ではなく、戦闘訓練としてぶつかり合う対戦者の姿があった。

 

「スゴい……成長したわね三人とも」

 

「ちゃんと機体の性能についていってる、さすがはあの子らのことだけある」

 

施設内でその様子を見ている早乙女とマリアは機体の性能、特に三人のパイロットとしての成長具合に感心していた。

一方でニールセン達も自分達の開発した兵器が遺憾なく発揮される様子に興奮していた。

 

 

「あとはもう少しで完成する『エリダヌスX―01』をアズレイに装着して発射テストするだけじゃな。

サオトメよ、わしからの約束であるゲッターロボの改造だがこれでどうじゃ?」

 

「文句のつけようがないですね」

 

「では、最終段階が終わり次第向こうへ移るかのう。今度はわしの約束を果たしてもらうぞ」

 

「分かってます、ここまでしてもらったからには私も喜んで腕を振るいますよ」

 

「よし。しかしまあ、あの子らもようやるのう。頼もしいことだ、ホハハっ」

 

 

制限時間がもう十分を切り、三人は見事に生き残っている。

しかしどちらももうシールドのエネルギー残量が残り僅かとなっており、あと三発か、二発、いや一発当たれば消滅するかもしれない――。

そして三人の表情にも疲れの色が見え始めている、息を切らし汗まみれ、それでも三人は最後の最後まで被弾しないように攻撃を続けて反撃の隙を与えないように、そして逃げ切ったり、または岩場などの障害物を利用して盾にしたりと全神経を集中させて戦い続ける――そして、

 

“終わりだ、よく耐え抜いたな三人とも”

 

時間終了の合図が早乙女から告げられる。

その結果はなんと一人とも脱落者はいなかったことだ。

前までは一番ビリであったエミリアでさえ最後まで生き残ったことに本人でさえ疑っている。

 

 

“よし、直ちに帰還してくれ。機体を格納したら精密検査を受けてゆっくり休め”

三人はやっと気が抜けてへたり込んだ。しかしその顔からは達成感に溢れており明るい顔色だった。竜斗は二人に通信をかけて異常はないか問う。

 

「み、みんな、どこか異常はない?」

 

“ワタシは大丈夫よ……疲れたけど……”

 

“マナも疲れた、早くシャワー浴びたい”

 

口振りと二人の態度を見るとどこも悪くないようだ。

 

“エミリア見直したわ。まさかアンタまで生き残るなんて思わなかった”

 

“ワタシもここまでやれたことに一番びっくりしてるっ、前までは一番最初に脱落してたのに……”

 

「ここまでやれたってことはエミリアの努力は実ったってことだろうし、それにもう気を落とすこともないと思う。じゃあ施設に帰ろっか」

 

三人は戻り、三機をベルクラスではなく施設の格納庫に収容して各整備を受けさせる。

男女別で施設の医務官から精密検査を受けて異常がないことが分かり、三人は施設内シャワールームで汗を流した。

竜斗は私服に着替えて、今は誰もいない休憩所のソファーに腰掛けていると同じく私服に着替えたエミリアがそこにやってくる。

 

「リュウト、おつかれっ!」

 

「エミリアも」

 

彼女は隣に座り、彼と話をする。

 

「よく頑張ったなエミリア、前に比べたら段違いに操縦上手くなってて俺もここまでスゴいと思うよ」

 

「……アタシも未だに信じられないもん。まさか脱落しないなんて自分ですら思わなかった……」

 

「けど嬉しいだろ?」

 

「うん。これでもう二人の足手まといにならないと思えるだけでスゴく嬉しいから、まあこれからも頑張るけどねっエヘヘ」

 

彼女はそう笑顔で答えた――。

 

「ゴーラちゃんは今何してるんだろう――」

 

「そうだね、また会えればいいな。

爬虫人類にもあのコのような人間がたくさんいればいいんだけど……」

 

「エミリアは爬虫人類を許さないって言ってたけど、そこはどうなの?」

 

「アタシだってお父さん達を無惨に殺したあいつらを絶対に許さないけどゴーラちゃんにまで憎む気はないよ。むしろあのコとならもっと仲良くなりたいと思った」

どうやら彼女も自分と同じ考えで一安心する竜斗。

 

「それでミズキは絶対にあのコすら許さないのかな……前に聞いたけどあの時の夜中、襲いかかったみたいだし……何とか踏みとどまってくれたけど」

 

「……難しいだろうね。けど一線を越えなかったのはアイツなりの優しさだし、時間がかかると思うけどきっと何とかなるよっ」

 

「そうなってくれればいいね……」

 

「俺、ゴーラちゃんを渡したラドラって人に会った時、確かに怖そうな外見をしてたけど、話は通じそうな人だなって感じた。

またあの人にも会えればいいな」

 

するとエミリアは突然、クスクス笑い出す。

 

「どうした?」

 

「なんかあれだね。アタシ達、なんかスゴい所まで足を踏み入れてる感じが非現実的でおかしいの。

普通に暮らしたアタシ達が突然ゲッターロボに乗ってその爬虫人類と戦ってきたけど、今度はその爬虫人類と対話をするってことがさあ。

普通に暮らしてたら絶対に巡ってこないことだよ」

 

「……そうだな。俺達はこんな貴重な経験をできたのも、早乙女司令に出会ったことに感謝すべきだね」

 

「うん……」

 

早乙女に出会ければここまで至ることはなかった所か、あの場で死んでいたかもしれない――二人はこれは奇跡だなと実感した……。

 

「ねえ、リュウト」

 

「ん?」

 

「すぐ隣にいっていい?」

 

「え、いいけど……」

 

そう言い彼女は彼のすぐ傍まで寄る。

さきほどと一変して二人は沈黙する……ソファー上の彼の右手の上に彼女の左手が重なる。

 

「アタシ達さ、本当は付き合ってんだよね、今までそんな暇なかったけど」

 

「う、うん……」

 

「誰も居ないしさ、久し振りに恋人らしくしたくてさ……」

 

「エミリア……」

 

「それにそろそろさ、アタシ達も次のステップに進みたいかなって……」

 

「あ、ああ…………そうだな」

 

竜斗はごくっと唾を飲む、彼女は何かを求めるような眼差しをしてくる――そして彼もそれが分かり、ここは男らしく、と彼もその気になっていく。

 

「リュウト……」

 

「エミリア……」

 

二人は身体を密着して、顔を近づけ合い見つめる。息が当たるくらいに唇同士が近い。

二人は周りなど目もくれずにそのまま唇が交わ――。

 

「なあにやってんのかしら二人とも~っ」

 

二人は驚き、すぐに正面を見るとニヤニヤとしている愛美がいた。

 

「ミズキ……いたの……」

 

「お熱いことね、止めて悪かったかしら?」

 

「…………」

 

いいムードを彼女にぶち壊されて二人はモヤモヤする。

 

「マナだけ仲間外れでつまんないから、よかったらこのまま3Pに持ち込まない?」

 

 

「「………………」」

 

――二人は辟易した。

 



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第三十一話「新規一転」②

インターバル


各ゲッターロボの整備の傍ら、ニールセンは兵器開発エリアの奥に安置されているアズレイに取り付けるもう一つの新型兵装『エリダヌスX―01』の最終的な調整を施していた。

各エンジニアにあれよあれよと指示している。

そんな中、彼の元にキングが現れる。

 

「精がでるのう」

 

「もう少しで完成じゃからな、ワシの最高傑作が――」

 

二人は、ウインチで吊り下げて固定されるその対物ライフルの形状したそれを下から眺めている。

 

「実験の結果、ゲッター線とグラストラ核エネルギーは共鳴せんかったな。

成功した暁にはゲッターロボのプラズマ反応炉を外して、グラストラ核反応炉にしようと思ったが残念だわ」

 

「ではこの兵器はゲッターエネルギーとプラズマエネルギーで……」

 

「ああ、ちょうどゲッターロボはその二つで稼働するからちょうどいいわい、後はその実験データを元に発射テストして成功を祈るだけだ、ところでおぬしの方はどうだ?早乙女の開発したあの『ライジング・サン』とかいうヤツの改良は?」

 

「とっくの間に終わっとるよ、パーツを組み替えてちょこっと改造しただけじゃからな」

 

「全く、お前の手際の早さにはワシも見習いたいのう」

 

「ふん、ワシはお主と違って基本的に何事も早く終わらすタイプだからな」

 

「けっ、嫌みたらしい早漏野郎め。よくそんなんで結婚できたのが不思議じゃわい」

 

 

「未だ独身の遅漏に言われたくないわ」

 

下らない痴話喧嘩になっている二人に誰も気にとめない。何故なら彼らはこういうのはしょっちゅうしているからである。

 

「なあキング、ワシらはこうやって楽しく兵器を作っているが、もし戦争が終わったらどうする?」

 

「子どもがいるしその時は隠居じゃのう、余生を穏やかに暮らしたい」

 

「ワシはそんなのはイヤじゃ。

ワシは兵器造りだけが生きがいじゃからな、平和になってお払い箱になったら自身の存在意義がなくなる」

 

「……それが怖いのか?」

 

「まあな。人間、存在意義を無くせばそこで終わりじゃからのう。実際アメリカ政府から大金積まれているから大人しくしてが、実際は他の国にも兵器を援助したい気持ちもある――」

「では、今の戦争が終われば今度は人類同士の戦争を再び引き起こすつもりか?」

 

「さあな。だがワシがそうしなくてもどの道平和と言うのは結局、一時的なもので永遠には絶対に続かん。

今では平和主義を掲げるヤツが沢山出てきているが、そいつらは理想主義で物事の表面しか見てないアマちゃんじゃよ」

 

「…………」

 

「戦争というのはどの世にも絶対に起こり、無くならん。これは神が我々人類に課せた重りみたいなものだ――」

 

すると、

 

「わしはそうは思わん、人類の英知を信じている。

ニールセン、もしもお前自身が戦争を引き起こそうものなら、その時はワシとて容赦はせんぞ」

 

 

「仕方あるまい、その時はその時だ――」

 

二人は互いに睨みつけ、間が険悪したような空気が流れたがすぐにそれが解け、再び老人らしい穏やかな顔になった。

 

「――さてと、早く開発するかのう。キングよ手伝ってくれ」

 

「よしきたっ」

 

……何事もなかったかのように仲良く開発に勤しむ二人。

果たして本当に仲が良いのか悪いのかが不明である……。

 

その夜のこと――竜斗はなぜか愛美の部屋に訪れていた。その理由とは。

 

「と、いうわけだからさ、教えてよ」

 

「へえ、アンタもついにその気になったのね、感心感心――」

エミリアの言っていた『恋人としてのステップアップ』について、男としてどうするべきか愛美に相談しにきている竜斗だった。

恐らく今度はキスだけではなく、一線を超えたあの行為についてであろう。

 

すると彼女はベッド下からダンボールを引きずり出す。開くと中から大量のレディースファッション雑誌やレディースコミックがあり、それを何冊かを彼に渡す。

 

「これは?」

 

すると彼女はとあるページを開いて差し出すとそこには『エッチ』についての色々なコラムや体験談などが書かれた特集が載せられている。純情な彼は顔を赤くした。

 

「今のファッション雑誌って凄いわよね、こういうの普通に載ってるし――これ古いしアンタにあげるわ、多少は勉強になるでしょ」

 

 

 

「あ、ありがとう」

 

彼女はベッド上に座り込むと、趣に彼にこう聞いた。

 

「ところでアンタさ、ちゃんとオナニーとかしてんの?つか、したことある?」

 

「…………」

 

直接そう質問されて口ごもる彼。

 

「ほら、ちゃんと答えるっ」

 

「……何回かは……」

 

「それを聞いて安心したわ。アンタがやってないと聞いたらどうしようかと――」

 

「関係あるのそれ……」

 

「大アリよ、オナニーするのは健全な人間のする証拠、恥ずかしいことなんかない。寧ろやらないのは異常なのよ、マナとかどんだけやってると思うの」

「…………」

 

「それにさ、セックスに対する抵抗感や羞恥心をなくするのに必要な要素だと思うけどね」

 

「そうなんだ……」

 

「毎日とは言わないからこれから進んでやることがいいかもね、アンタのチ〇コ皮被ってるし剥けさせるためにもいいし。

包茎だと女に嫌われやすいよ、それ知ってた?」

 

相変わらず下品に物言う愛美に辟易するも、彼女らしいと安心もする。

 

「そもそもエミリアってそういう気はあるのかな……?」

 

「さあね。けどあの子って性欲普通にありそうだけどね。

それに前といい、今日といいアンタにそういい寄ってきたのなら待ってるんじゃない?

だったら前も言ったけど最終的に石川次第ってこと」

 

 

「そうか……女の子ってよく分かんないしさ、そういう水樹みたいにエッチしたがるもんなの?」

 

「マナは生まれつき性欲が強いからかもしれないけどさ、エッチって男女が最も簡単にエクスタシーを感じることのできる行為だからね。

確かに女の子には男側がエッチについてのテクやアソコの大きさで男の価値決めるコもいれば、付き合うことも別れることも決めるコもいるぐらいだし、現に同じクラスにいたアヤカとかそうだった。

マナ達オンナって現金だしさ、エミリアはどうか分かんないけどこれが現実よ」

 

「そうか……っ、」

 

「少なくとも恋人同士なら避けて通れない道よ、そしてやるからには相手は何もつけてない全裸の身体をこちらに預けるわけだし気持ちよく、安心させてあげることが大事ね。そして絶対に自分だけが気持ちよくなろうなんて思って相手の扱いを疎かにしちゃダメね、それはただのレイプだから――」

 

「……水樹、そんなこと言う割には俺にしたこと覚えてる?」

 

「あ……すいませんでしたっ」

 

「なんてね、もう気にしてないよ」

 

「イシカワ~~っ!!」

 

二人はじゃれあうが、彼の笑う顔を見るとあの時のことはもう許しているようだ。

 

「まあともかく、マナから今言えるのはそれだけ。あと、ゴムつけるなり何なり避妊だけは絶対にしなさいよね。

もしエミリアとヤると決めたら事前にマナに言いなさい、失敗しないようにレクチャーしてあげるし――結局エッチは経験がものを言うし失敗を恐れず何度も前戯や体位とかのテクニックを試してエミリアのGスポットを探してあげたらいいんじゃないかな?」

 

「うん、ありがとう水樹。こういう時に限って頼りになるなあ」

 

「こういう時に限ってってどういうことっ?

いつもマナが役立ってないような言い方じゃないっ!」

 

「い、いや、そういう意味じゃないからっ」

 

「だったらちょうどこんな話してたからマナ、したくなってきちゃった。

だからさ、今から本番について直に教えてあげるからきなよ」

 

色気づいて見つめてくる彼女に、またやられると感ずいた竜斗は慌てて部屋から飛び出していった――。

 

 

「フフ、やっぱりアイツはまだまだお子様ね。出直してきなさい」

 

彼女はほくそ笑んでいた――。そして本人は部屋に戻るとベッド上にへたり込む。

 

(ホントにアイツの言った通りで大丈夫のかなあ?)

 

不安げになる竜斗。しかし一番そういうのには経験豊富である彼女の信憑を信じる他はない――彼は立ち上がり、デスク前に座り込む。

そしてティッシュ箱を横に置いて、パソコンを開く。手慣れた動作でとある無料サイトを開き、そこにある様々な18禁の無料動画や画像を漁る。

 

「………………」

 

そのイヤらしい動画や画像を見ているとムラムラしている。やはり彼もちゃんとした男であった――。

そして彼はおもむろにズボンを下ろして、下着に手をかけた――。

 

「リュウト、いる?」

 

その時突然、エミリアが部屋に入ってきて彼は心臓が止まりそうになった彼は慌ててパソコンを強制終了させて強張った顔を彼女に見せた。

 

「どうしたの?」

 

「い、いや……っ」

 

「司令が明日も操縦訓練やるとみんなに伝えてくれって言われたから」

 

「そ、そうなんだ……ありがとう……ははっ」

 

「……なんか邪魔したみたいね、ゴメンね」

 

彼女は気にかけてすぐに出て行くも、彼はすでに萎えておりその場で凍りついていた。鍵を掛け忘れていたことに後悔する竜斗だった。

そして先ほどの彼の顔を思い出し、何をしようとしてたかエミリアは何となく感ずいていた。

 

(リュウトが何かイケないことをしようとしていたのを妄想しちゃったけど……まさかね)

 

思い過ごしかなと割り切り、彼女はそれ以上は何も思わず去っていった――。

 



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第三十二話「オペレーション・ダォイルシエ」①

……二日間後の夜九時。ドラグーン・タートルの司令部ではジャテーゴと部下達は休みもしないでモニターばかりを凝視している。

モニターに映るはエリア51の上空からの映像が。

 

「第三十七、三十八、三十九恐竜中隊は出撃準備完了――」

 

「よし、これより作戦『ダォイルシエ(逃げ場なし)』を開始する。

各中隊はネバダ州にある敵基地を包囲し叩け。

例のゲッター線の機体といくつかの部隊が護衛がつくと思われるが最優先目標は敵施設及び浮遊艦の破壊だ、念頭にいれておけ。

なおゲッター線の機体については一対一に持ち込め、だが無理に倒すことはない。どう持ち込むかは各中隊司令官に一存する」

 

 

各中隊にそう伝えると、ドラグーン・タートルに取り巻く無数のメカザウルス、メカエイビス、恐竜母艦が横隊を成して、その寒い夜空に飛びながら南下していく。その数はなんと四千近く――。

 

 

「ミサイルの用意は?」

 

「計三発すでに装填し、いつでも発射態勢に入ってます」

 

「フフ、我々が地上人類に面白いプレゼントを贈呈しようではないか、但し色々な方向からな……ハハハハハっ!」

 

彼女は高らかに、そして卑屈な笑い声を上げた――。

 

“北米方向よりメカザウルスの大軍がこちらへ南下中、直ちに警戒態勢に入れ、繰り返す――”

 

――エリア51では北米方向から大多数のメカザウルスがこちらへ向かってきていることが分かり、すぐに戦闘準備のサイレンが鳴り響き各人はそれぞれ対空砲、ミサイル砲、SMBに乗り込み全域に配置する。

ベルクラスでも戦闘に移行するために浮上を開始し、竜斗達はすぐさまパイロットスーツに着替えて各機の乗り込む。

 

 

 

“三人共、北米方向より無数のメカザウルスが寄り道せずに一直線にこちらへ進軍中だ。その数はおよそ四千――”

 

今までにないメカザウルスの数に耳を疑う三人。

 

「四千ですってえっ!?どうすんのそんな数っ!?」

 

“だが私達は戦う以外他にない。

それに君達はもう新たに強力な機体があるだろ?大丈夫さっ”

 

「けど四千なんて……日本でもそんな数はいなかったよ……」

 

“……流石はアメリカ側の敵戦力と言ったところか”

 

 

 

日本において戦闘したメカザウルス数をトータルしても全く足りないほどの数。

それもこの広大なアメリカに蔓延るメカザウルスの、それも一兵力でしかなく、それはこの大陸における敵戦力の強大さを意味している――。

 

 

「北米……早乙女司令が前に言っていたアラスカからでしょうか?」

 

“まだそこまでは分からんが、そんな無数のメカザウルスを、そして北米からとなると『タートル』と呼ばれるアメリカ側の敵本拠地からだろうなとは思うが、今はそんなことよりこの現状を切り抜けることに集中してくれ”

 

と、ここで通信が切れる。確かに今はこんな緊急事態をどう打開するかが先決だろうと、彼もそう割り切る。

 

 

「今はここを何とかして乗り切ることだけ考えよう、やるしかないよ。

それに俺達には今まで以上に強い機体があるし、ちゃんと扱えるんだから絶対にいけるよ!」

 

竜斗からそう言われ、二人にもやる気の表情が浮かんだ。

 

“まっ、やるしかないか。こんなとこで死にたくないしね”

 

“うん。もう前までの弱かったアタシ達じゃないことを向こうに見せてやろうよ”

 

三人は勝利することだけに思いを込めて、互いを見つめ、相づちを打った。

 

“では行くぞ、ゲッターチーム発進だ”

 

今まで通り、先にアルヴァインのテーブルから移動し、外部ハッチに止まるとすぐに開口する。

『セプティミスα』を右に携行したアルヴァインは軽く屈伸し、発進態勢に入る――。

 

「アルヴァイン、発進しますっ」

 

カタパルトが射出されて夜空に飛び出した後、ゲッターウイングを展開してメカザウルスの来る方向へ向きを変える。

 

「ルイナス、エミリア発進します!」

 

 

「アズレイ、マナ行ってきまぁす♪」

 

二人も順次に投下され、基地のライトで照らされる地上に降り立つとすぐさまメカザウルスの進路へ機体を走らせる。

エミリアの機体、ルイナスの背部には、キングが改造したライジング・サンを装着しているが、見た目的には全く変化したと分かる要素が見られない。

 

「ねえエミリア、またどれだけアイツらを倒せるか勝負する?」

 

と、また撃破数競争を持ちかける愛美。そるにエミリアは意外とノリノリで頷く。

 

「いいわよ、今度は負けるもんですか」

 

「じゃあどっちかが負けたら勝ったほうに今度外出した時になんかオゴるでいいわね?」

 

「オーケーっ!」

 

類を見ない数のメカザウルスがこちらに押し寄せてきているにも関わらず、緊張感など感じられない会話をする二人――すると、

 

「エミリア、死ぬんじゃないわよっ」

 

「アンタもねっ、ミズキっ」

 

この言葉から、二人の間には揺るぎない信頼感が感じられた――。

“来たぞ!”

 

早乙女からの合図で三人は暗視モニターで前方の空を見ると、空を覆いつくすような数の緑色の粒が見える。

拡大すると確かに羽根の生えた化け物、メカザウルスだとすぐに分かる。

そしてさらに恐竜母艦から小さく粒が虫のように湧き出して出て来る――恐竜母艦の所有する戦闘機である。

 

それらを含めると間違いなく五千近くの敵数の計算になり、それを見る誰も彼もがうろたえる。

 

「これがアメリカの戦力……か」

 

初戦でも千機近くの相手に戦ったが、今回はその四、五倍の数を前に息を呑む。

これから始まる、北海道以来の二度目の夜間戦闘を、それすらも遥かに超える向こうからの人海戦術による、ここの攻防の激戦化を――彼は目を瞑り頭の中で、一番効率の良い戦闘行動を考え、想定している。

「一体何事じゃあ……」

 

「博士、これをっ」

 

施設内のモニタールーム。所長のメリオの元に就寝していたニールセンが寝巻き姿で大きな欠伸をしながら出てきた。

それをボーッと眺めて数分後、彼はそのままフラッと出入り口へ向かう。

 

「まだいびき掻いて寝ているキングを叩き起こして兵器開発エリアに来いと伝えろ。ワシは今からアレの最終調整に入る――終わり次第アズレイをこちらに呼び寄せろ」

 

メリオにそう伝えて出て行った――。

 

 

 

「行くぞみんなっ!」

 

 

メカザウルスがエリア内に突入した時、竜斗の合図で各ゲッターロボは一気に動き出す。

 

各メカザウルスは、この広い基地を円で囲むように左右に移動し始め、その中からマグマ砲や溶解液で攻撃してくる。

 

「はあっ!」

 

竜斗はいきなり右臑の側面からビームブーメランを取り出して密集地へ真っ直ぐ投擲し、すかさず腹部をかがめてゲッタービームを放射。

高速回転するブーメランに直撃した時ビームが吸収されて、その膨大なエネルギーから生み出される粒子の波動が四方八方に拡散し、一気にそこに蔓延っていた百五十近くのメカザウルスが高密度のゲッターエネルギーを受けて、皮膚がただれ溶けていき墜落していった。

 

そのままブーメランは高速回転しながら、まだまだ浮遊するメカザウルスの首に狙って勢いよく飛び込み切り落としていく――。

 

その間にアルヴァインはライフルをプラズマに設定し、そして空いた左手首のキャノン砲、計二丁の高出力のプラズマ兵器を駆使して、飽和攻撃に近いほどの無数のプラズマ弾を連射し、メカザウルスを撃ち抜き貫通させて撃墜していく。

そんな時、左右からメカザウルスがこちらへ押し寄せてくるのをモニターで確認した竜斗はレバーを引き込みすぐさまそこから機体を後退させ、弾薬を榴弾、そして直線に設定し固まったメカザウルスの中に次々と弾頭を撃ち込み炸裂させる。

 

ビームブーメランのエネルギーが切れそうになった時、モニターでブーメランに照準を合わせてゲッタービームをピンポイントで当てるとエネルギーが拡散すると同時にエネルギーが回復、再び活発化して次々とメカザウルスに襲いかかっていく。

 

不意をついて右側から首長竜型メカザウルスが大口を開けて急接近。

しかしアルヴァインは瞬時に腕部全体を被う丸型の盾、シェルバックラーを前に当てやり、それに噛みつかせる。その間に左手でトマホークを持ち、首を真っ二つにし、胴体が落ちていくが無情にも、盾に噛みついた頭部が未だに残っていた。

「…………」

 

竜斗はそれを見て、複雑な気持ちを抱く。

 

気持ち悪いから?

 

いや、それよりもメカザウルスとは爬虫人類がパイロットとして搭乗する個体以外にも、生きた恐竜自身の意思で動く、または人工知能を埋め込まれた個体もあることを、ゴーラから聞いた。

 

戦争のために生体兵器として使われた罪なき恐竜達に対し、彼は哀れに思えていた――。

 

「……あっ!」

 

その時、メカザウルスの群れが施設内へ向けて急降下していく。

それに対し、基地内に張り巡らせた対空砲、ミサイルによる一斉砲撃が始まる、隙間もない弾幕が張られる。

直撃して怯んだり、撃墜されるメカザウルス、しかしかいくぐって更に接近するメカザウルスから基地内に空爆をかけて周辺は焦臭い粉塵に包まれ、夜だと言うのに遠くから見ればパレード、またはドンパチ騒ぎに見間違えられるほどに明るく、そしてうるさい、そんな光景だ。

 

竜斗は基地内に押し寄せるメカザウルスへ急速で向かい、ライフル、プラズマキャノンで追撃する。

しかし恐竜母艦から発進された小型戦闘機がアルヴァインにたかりはじめ、各火器で集中放火して妨害してくる――。

 

(数が多すぎる……っ)

 

アルヴァインを持ってしても、向こうからの数が物を言う人海戦術に頭が痛くなってくる――。

しかしそうしている間にも、多くのメカザウルス達がドンドン地上へ降下していき、空爆がさらに激しくなる。

 

対空、ミサイル砲台が破壊されて地上の戦力が少なくなっていく――。

 

“ちょっとリュウト、いくらなんでもアタシ達だけじゃまかない切れないよお!”

“石川さ、こんなに空から押し込まれてやる気あんのォ!?

リーダーでしょアンタ!!”

 

「俺だって必死でやってるよ、つべこべ言わないでくれ!!」

 

二人から助けの声や愚痴を言われてさらに頭が痛くなってくる――。

 

そんな時、ベルクラスがアルヴァインの近くに到着しミサイル、機関砲を一斉砲撃を開始する。

 

“今から援護に入るぞ竜斗、地上に向かうメカザウルスは私達に任せて君は引き続き空中のメカザウルスを頼むっ!”

 

「助かりますっ」

 

艦底からゲッターミサイルを目一杯撃ち込み、地上に向かうメカザウルスの大軍のど真ん中にピンポイントで直撃させる。

 

「マリア。艦主砲を展開し、メカザウルスを一気になぎはらえ」

 

「了解っ」

 

全機関砲で弾幕を張りながら艦首が展開し、砲身が姿を現しプラズマエネルギーが内部に収束する。

 

“離れろっ”

 

彼の合図にアルヴァインはすぐに艦の後方へ下がったと同時に砲身に溜まったエネルギーが外へ一気に溢れ出して、その蒼白色の輝かしい光線は、まるで道標のように夜空を照らしながら射線上にあるもの全てを飲み込み、破壊し、そのまま遥か先へ一直線に伸びていく――。

 

光線が消えると再びアルヴァインは前線に飛び出していく。それと同時に砲撃でメカザウルスが粉砕されてポッカリ開いた隙間の奥から、巨大な物体が近づいてくる。

「なんだあれ……」

 

モニターカメラをズームアップすると、プテラノドンのような物体。しかしメカザウルス、いや自分の機体より遥かに巨大である。

それがこちらへ急接近するとメカザウルス達は道を開けて、何故かアルヴァインの目の前に止まった。

 

「なんだこいつはっ!」

 

するとこのプテラノドンはその細い頭部でクイクイと後ろへ動かしている。

これは『ついてこい』とでも言っているのか……。

 

「……誰か乗っているのか?」

 

……彼は動こうとせず。一方のプテラノドンも、浮くためにそこから巨大な翼をはためかせているが前や後ろにも動こうともしない――。

 

 

“竜斗、相手はどうやら君を誘っているようだ”

 

「おそらく。ということはあの中には……」

 

“爬虫人類のパイロットがいるのだろうな。どうする、誘いに乗るか?”

 

「…………」

 

……そして彼は考えた結果、

 

「……行きますっ」

 

“いいのか?罠かもしれんぞ”

 

「そうだとしてもこのまま立ち止まっているのは時間の無駄ですし、もし戦うというのならすぐにケリをつけて戻ってきます」

 

“……君はそう言うなら私は止める気はない。

よし、ここは私達が凌いでおくから安心して行ってこい、けど戦うならなるべく早くな”

「任せて下さい」

 

竜斗は自身の機体と腕の乗り切ることを信じて、急加速してそのプテラノドンの後ろを通り過ぎて外に飛び出す。

そしてプテラノドンも方向展開し、すぐさまアルヴァインの元へ向かい、対面する――。

 

「…………」

 

再びその場から立ち止まり、そして様子を窺っている――だがその時、通信機にザーザーとノイズが入り乱れるも、しばらくしてそれも治まると、何か鮮明に声のような音が聞こえてくる――それは知的な雰囲気を感じる低音域の男の声だ。

 

“……聞こえるか、ゲッター線の機体よ……私はキャプテン・リンゲィ……お前に決闘を申し込む……”

 

彼は分かった。このプテラノドンから通信をかけてきていることに――そして自分達地上人類の言葉を使うと言うことはゴーラと同じく翻訳機を使っていることも。

 

これは再びの説得のチャンスだとわかり、彼は急いで通信の周波数を調整してよりよく聞こえるよう調整する。

 

「あ、あなた方に僕達の言葉が分かるのならどうかこのまま引き下がってもらえないでしょうかっ!僕はあなた達爬虫人類と戦いたくありません!」

 

彼の思いを伝えると向こうは一瞬、間を置いて沈黙する。だが――。

 

“……我々はそれに応えることは断じてできぬ、いざ尋常に勝負っ!”

 

彼の願いが叶わず、頭部の口から大量のマグマをアルヴァインへ吐き出した。すぐさま横へ移動し避ける。

 

「くそおっ!」

 

ゴーラやラドラのように思いを通じることはなかった――竜斗の顔は苦渋に染まった。

プテラノドンの背部にある装甲版が扉のように左右に開閉すると中から本体より遥かに小さいプテラノドンの姿をした子機が十、二十機ほど飛び出して前に出る否やアルヴァインへ向けてマグマ、ミサイル、機関砲、溶解液を一斉に放ってくる。

すぐに上昇して高速で飛び交い回避するもその子機も同等の速度でアルヴァインを追撃してくる。

 

弾薬を散弾に替えて、動きながら近づいてくるプテラノドン型子機を一匹に銃口を向けて発射すると見事直撃して原型すら留めないほどに破壊した。

 

『甘い』

 

だがその時だった、本体はアルヴァインの真上にさしかかっており、その鈎爪のような両足で器用に掴み取り、身動きを封じた。

それをチャンスと言わんばかりに子機達は一斉に各火器を放ち、浴びせてきた。

バリアが張られたために機体自体は無事であるも早く抜け出さねばと振りほどこうとすると、本体プテラノドンは足に力を入れて勢いよく地上へ向けて蹴り落とした。

急降下してこのまま地面に叩きつけられるかと思いきや、彼は冷静にペダルを押してウィング部のブースターを再点火し、スレスレの所で落下エネルギーを相殺して地上に降り立った。

 

(やはり戦うしかないっ……)

 

――向こうは自分を殺す気だ、話し合いに応じない。

彼は複雑な思いからか歯ぎしりを立てた。

 



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第三十二話「オペレーション・ダォイルシエ」②

地上ではエミリアと愛美は降りてくるメカザウルスの対処にまわっている。

 

(数が多すぎてキツくなってきた……)

 

ルイナスは浮遊している一機のメカザウルスに狙いを定め、アンカーを撃ち出す。

勢いよく上昇するアンカーは見事そのメカザウルスに撃ち込まれ、突き刺さる。

痛みの悲鳴を上げてもがくがそのギザギザな銛はもがけばもがくほど深く食い込んでいき取れない。

固定されたのを確認するとすぐさまエミリアはアンカーに繋がったワイヤーを素早く巻き戻し、メカザウルスを地上へ無理やり引きずり下ろす。

同時にドリルを高速回転させて地上に待つルイナス。それはまるで獲物を捕らえたアリジゴクのようである。

そのままメカザウルスは強烈なワイヤーの力でズリズリ引きずられ、ついにワイヤー下で回転するドリルに到着しグチャグチャにグロテスクに粉砕された。

 

「…………」

 

彼女はやり過ぎたかなと、罪悪感を感じている。

 

“エミリアやるじゃないっ”

 

「……けど今のってなんかスプラッター映画でありそうなやり方よね……待ち構えてる感じがえげつないっていうか……」

 

“なあに気にしてんの。相手は憎っくき敵じゃない”

 

「……確かにそうだけどさ」

 

彼女もこの中にあの爬虫人類のパイロットがいたのかな……と思うとなんかやりきれなくなってしまう。

 

“ほら、次から次へとアイツらが来るんだからしっかりしなさいよね”

 

彼女の言うとおりだ。こんな状況でしょうもないことを思っていてもただの無駄である。

彼女も気を取り直して再び行動を開始する。

 

右手のアーム、ガーランドGを上空に群がるメカザウルスに向け、そして背部のライジング・サンの各先端のハッチが開き、そして中央部のドリルが回転を始める。

 

「みんな手伝ってっ!」

 

各兵装に搭載された、計九機の自律回路搭載の攻撃用子機が一斉に飛び出しブースター、スラスターを駆使して素早く上空のメカザウルスの群れを包囲しそれぞれ突撃、ビームによる射撃の飽和攻撃を繰り出して殲滅していく。

 

子機達が単独行動している間、ルイナスは別方向から多弾ミサイル、プラズマキャノンを展開して確実に撃ち落としていく――。

 

「ほらほらいくわよォ」

 

愛美のアズレイも同じく地上から、内蔵するビーム砲、各ミサイルを打ち上げて飛ぶ勢いで落としていく。

前機にはなかった左右の腰部側面には折り畳まれた砲身を伸ばして上空へ向けると青色の光弾、プラズマビームを二発同時に発射。

コマのようにその場で機体を軸に右回転するとビームも円を描き、多くのメカザウルスをなぎはらった。

その時、死角から一機のメカザウルスが急接近してくるが瞬時に右腕を突き出すと、腕の中からビーム・シリンダーがせり出した。

レンズがカッと赤く光、目の前に迫っていたメカザウルスは赤色光に包まれた。

光が途切れるとすでにメカザウルスの頭部から胴体がキレイさっぱり消し飛び残りの肉塊がその場にドチャっと落ちる。

 

「爬虫類の分際でマナに近づこうなんざ百年早いのよっ!」

 

余裕溢れる愛美。するとさらにメカザウルスの一機、二機、いや十、二十、いやそれ以上を超えるメカザウルスがアズレイに押し寄せてくるも、愛美は火器管制を『フルバーストモード』に変更。アズレイに内蔵火器全てを展開し、上空全方位にミサイル、ゲッタービームを避ける隙間もないほどに撃ちつくして近づこうとするメカザウルス全てに襲いかかり、大破し、溶けていき地上へドサドサと落ちていく――。

 

「けど全然キリがない……」

 

どれだけ撃破してもまるで虫のように湧き出てくるヤツら、メカザウルスにさすがの彼女も辟易した。

 

「エミリア、アンタもうどれだけ倒したの?」

 

“……覚えてないわよもう……それよりも終わりが全然見えないのがつらい……っ”

 

「…………」

 

“それに、流石にルイナスの飛び道具だけじゃ追いつかないわ”

 

エミリアが今にも泣きそう顔になっている。

確かに強力な新型機になり、強力な武装があると言っても向こうは飛行するメカザウルスばかりで、空戦に長けたアルヴァインでもなく、かと言って砲撃戦用のアズレイと違い、コンセプトが地上戦前提であるこのルイナスでは苦戦を強いられているのは必然だ。

 

 

「それでも一機でも多く倒さないと。そうでしょ?」

 

“う、うん……”

 

「マナだって正直もうイヤイヤだけど必死でやってんの。

ここをブッ潰されないうちに少しでもアイツらを多く叩くのよ!」

 

……百を超えるメカザウルスによる空爆が激化し、辺りはもう更地に近い状態である。

地下にある本拠地は休むことなく爆発の衝撃による振動と轟音が続き、天井が崩れる所もあるなど少しずつ被害が出始め全職員も参っている――。

 

武器開発エリアではニールセンと叩き起こされて不機嫌なキング、そして各スタッフ、エンジニアが総出でエリダヌスX―01の総仕上げに入っていた。

 

「くそ、せっかく人が寝ている最中に叩き起こしやがって。空気読めんのかまったくっ」

 

「文句言うならヤツらに言え」

 

瞬間、凄まじい揺れが起こり、彼らは翻弄されて床に倒れふせた。

しかもウインチワイヤーが切れて長い銃身が床にぶつかってしまう。

 

「く、早く済ませんとな。にしても護衛は一体何をやっとるんだ」

 

その地上では戦況はさらに激化し、ゲッターロボと共に護衛についていたマウラーだけでは力不足で、もはや手に負えなくなっている――。

 

戦闘機になったマウラー達は空中戦を繰り広げるもメカザウルスの固まりに呑み込まれて粉々に潰されて、マグマによって溶かされて一気に数が減る一方であった。

 

エミリアと愛美も気を凌ぎながら奮戦するも終わりの見えないこの状況に吐き気さえ催していた。

そんな時、上空から二機のメカザウルスが地上に降下して降り立つ。

そいつらはルイナスとアズレイの元へ向かい立ちふさがる。

 

「な、なにこいつら……」

 

上空で蠢いている同じメカザウルスの姿ではない。

一機はトカゲの人間にしたような細身でスラッとした体躯、もう一機は暴君竜をベースに左右の肩、腕、腰にそれぞれキャノン砲が取り付けられた如何にも砲撃主体と思わせるメカザウルス。内部のコックピットに座る各爬虫人類のパイロットは不敵に笑っている。

 

『ほう、こいつらが日本の部隊を潰した例の機体か。

確かにクセのある姿で、これはやりがいがあるぜ。なあクラン?』

 

『ああ、ジャテーゴ様から一対一に持ち込めと言われているから時間稼ぎにもちょうどいい、ここで相手になろう。リミル、その黄色い機体を頼むぞ』

 

それぞれトカゲ型メカザウルスはルイナス、暴君竜型メカザウルスはアズレイに標的をつけて立ちふさがった。

 

「もしかしてこのメカザウルスって……」

 

「マナ達にタイマン持ち込む気!?」

 

二人もそれに気づいた。そんなことをしている暇などないがどうやらどいてくれる気もなさそうだ。

 

『では行くぞ』

 

不意にトカゲ型メカザウルスは高く飛び上がり、いきなりルイナスへ目掛けて全力の、プロレス技であるドロップキックを繰り出した。

 

 

「キャアアアッ!!」

 

直撃を受けたルイナスは勢いよく吹き飛ばされて地面に強く転がりこんだ。

 

「エミリアっ!」

 

愛美は彼女を助けようと動こうとした時、胴体に何かが直撃し爆発した。

振り向くともう一機のメカザウルスが右腕のキャノン砲をこちらに向けて砲口から硝煙が上がっている。

 

そしてよく見ると、そのメカザウルスの頭上に、前に見たことのある球状の金属体が二つ浮遊しており飛び交っている。

 

「アイツ、もしかして……」

 

試しに愛美はメカザウルスに照準を合わせて腰側面のビーム砲を伸ばし、すぐさま撃ち込む。

プラズマエネルギーによる青いビームが勢いよく飛んでいくが相手は避ける動作すらしていない。

球状の金属体はビームに素早く感知してメカザウルスへ淡い光の膜を展開した時、ビームは膜に直撃する。だが膜が破ることなくビームが先に消滅……愛美はあれが何なのか確信した。

日本において、あの巨大恐竜要塞ダイを頑なに守っていたあのバリア発生装置、リュイルス・オーヴェである。

 

『ほらほら早くしねえとお前らの基地がなくなっちまうぞ』

 

暴君竜型メカザウルス『ウルスラ』に乗り込むのは第三十八恐竜中隊司令官である、一癖ありそうな雰囲気を持つキャプテン、リミル=シ=ムルリアは下品な笑みを浮かべている。。

 

 

「この……マナをなめんじゃないわよおっ!」

 

すっかり血の上った愛美はウルスラへ向かって突撃。

勢いを載せて殴りかかろうとしたが簡単にいなされてしまい、その隙間を狙われて蹴り飛ばされてしまう。

 

『おいおい、戦い方がなっちゃいねえぞ?』

 

ウルスラの左右の腕が、肘から先がキャノン砲と化しており、その左腕の砲身を伸ばすと赤くドロドロのマグマをホースの水のように放射しアズレイへ浴びせにかかるがすぐに飛び起きてそこから車輪ユニットで周りをグルグル周りながら各火器を展開、

対するウルスラはそこから不動のまま全身に内蔵する火器を展開した。

 

『ミサイルパーティーの始まりか、面白い』

 

「いくわよっ!」

 

各ミサイル、ビーム、マグマ……アリの入る隙間のない火砲の雨が対面する二機の間に休みなく飛び交い、砲撃戦の応酬が始まった。

目まぐるしいほどの弾幕と粉塵に身を隠し、そして互いにエネルギー障壁を張りながら我慢比べをしている。

 

「っ…………」

 

愛美は必死な表情に対し、リミルは楽しんでいるのか嬉々である。

 

『いいねぇ。この鼓膜が破れるくらいの騒音と、吹き飛ぶような衝撃が身に染み渡る……これぞ火中にしか味わえんことだ』

 

そう言ってのける彼はかなりの変態であった――。

一方で、離れた場所でエミリアはもう一人のメカザウルスが対峙していた。

 

「…………」

 

彼女もこのメカザウルスから並みならぬ威圧感を感じていた。

あんな細身の体躯で強烈なドロップキックを放ってくるとは恐らく自分と同じく白兵戦主体の機体だと思われるが。

 

『キャプテン・クラン、メカザウルス・ルイエノ参る!』

 

間を置かずに走り出し、再び突進してくるトカゲ型メカザウルス、ルイエノ。

 

「来たっ!」

 

彼女はペダルを踏み、車輪を展開しすぐにそこから離れるもルイエノも全力疾走でルイナスを追跡してくる。

 

「ウソっ、速いっ!」

 

 

なんとブースターと車輪で高速滑走するルイナスに劣らぬスピードで、脚部を小刻みに踏み出しながら疾走するルイエノ。

まるで忍者のような出で立ちである。

ルイナスに追いつき平行に同時に走る二機。

 

「ついてこないでっ!」

 

ドリルで振り払おうとしたがルイエノは軽いフットワークで横飛びした。

ルイエノの右掌全体がマグマ熱で真っ赤に染まった時、突き出した瞬間になんとルイナスへ向けて射出してぐんぐんと伸びていく。

 

「手が飛んできたっ?」

 

金属ワイヤーがグングン伸びていき見事胴体に直撃するもプラズマシールドで弾かれて再び引き戻す。

エミリアはルイエノに照準をつけて機体の右腕を突き出し、ガーランドGから大量の小型ミサイルを発射する。

全弾が飛び交いながら向かっていくが、高速で且つ連続で『爆転』をしながらミサイルを避けていき、さらには左右に反復横跳びしてミサイルを蹴り払いする。その華麗な軌道と軽快すぎるその身のこなしはまるで体操選手のようだ。

 

「なんて素早いメカザウルスなの……」

 

彼女は思わず唾を飲み込む。

しかし間を置かずに今度は向こうが助走をつけて右足で強く地面を踏み込み、高く飛び上がりクルクル横回転しながら勢いをつけて強力な回し蹴りを放ってきた。

すかさずドリルを盾にして塞ぐが互いの顔の目点が合った時、ルイエノの口から高熱の火炎が吐き出されてルイナスの頭部に直撃、彼女は怯み動きが止まるがその隙に地上に降り立ち、すかさず踏み込みを入れて再び全力で蹴り上げるルイエノ。

 

「~~~~~っ!!」

 

後転して地面に倒れ込むルイナス。

 

『……様子を探るために用心していたが、あまりにも弱すぎる』

 

ルイエノのキャプテンパイロットで第三十七恐竜中隊司令官、クラン=デ=アマルーダ。

彼はあまりの肩透かしぶりにガッカリしていた。

 

『――そうか、パイロットは素人か。

では話は早い、次から全力でいく――』

クランのその赤色の眼がぐっと鋭くなり、操縦レバーを掴む両手に力がこもる。ルイエノはまるでアウトボクサーのような軽いフットワークを取りながら拳を構える。

ツェディック鋼と言われる、熱の伝導性が非常に高い金属で出来た両拳、今度は足もが真っ赤に染まり地面が焼けて煙が出ていた。

ルイナスもやっと立ち上がり、ドリルを高速回転させて身を構える。しかし、コックピットではエミリアは極度の緊張で大きく息を乱していた――。

 

(落ち着け、落ち着けアタシ……もう昔のワタシじゃないんだからできるよっ)

 

何度も自分にそう言い聞かせる彼女は今、冷静になろうと必死な状態だ。

 



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第三十二話「オペレーション・ダォイルシエ」③

竜斗、エミリア、愛美の三人は各中隊司令官であるリミル、クラン、そしてリンゲィの駆る専用メカザウルス、メカエイビスとそれそれ一対一に持ち込まれており、それぞれが必死で早くなんとかしようとするが、向こうも手慣れた戦士であり一筋縄ではいかなずに手こずっている。

こんなことに時間を無駄にしたくないのに……三人は完全に焦っていた。

 

……第三十九恐竜中隊司令官、リンゲィ=ミ=シェイクム。竜斗は彼へ未だに説得を試みていた。

 

「僕はあなた達と仲良くなりたいのにどうしてそれが分からないんですかっ!」

 

“『お前たち地上人類は決して野放しにしてはならぬ存在、それがたとえ和平を望んでいてもだ!』”

 

「ゲッター線で進化したから、もしかしてそれだけの理由ですか!?」

 

 

“『そうだ、太古から我々をとことん苦しめたゲッター線の加護を受け、それだけで飽きたらず、湯水のように使う貴様らの存在自体が悪なのだ』”

 

 

「……僕らは好きで使っているわけではありませんっ!どうか話だけでも聞いてくださいっ!」

 

“『もはや戦闘中にこんな戯れ言は聞かぬっ、行くぞ!』”

 

ついに向こうから強制的に通信が切れた。

自分の訴えが一方的に拒否されたことに彼はたちまち悔しい思いでいっぱいになった。

こうなった以上、彼も今は戦うことに割り切る。

……リンゲィの乗るこの巨大プテラノドン型メカエイビス『ミョイミュル』は、はっきり言って武装、装甲、機動力を見ても突出した点はないようで恐らくはアルヴァインよりも性能は幾分劣っているのではないかと思えるが――。

 

ミョイミュルの、全長百メートル近くある巨大な両翼を前へ羽ばたくと強烈な風が巻き起こり、アルヴァインを突き抜けて後ろへ吹き飛ばされそうになるが、その場に身を構えて耐え抜くがそのまま頭部の細長い口を開けると大量のマグマを噴射し、その暴風に流されてアルヴァインに当たる。

幸いシールドが張られて損傷はないが止まることなくおびただしい量のマグマを吐き続けて風の流されるままに飛び、捉えているアルヴァインに連続的に浴びせていく。

 

 

竜斗はこのままではと、ペダルを踏みブースターを点火。勢いよく上昇して暴風圏を逃れるがそこに待ち構えるはミョイミュルから飛び出した同じ姿をした子機達。一斉砲撃を繰り出して休ませる暇も作らせない。

華麗で高速なマニューバを描き、子機の攻撃を回避しながら竜斗はライフルを片手持ちでミョイミュルに向けてプラズマ弾に設定し、発射。しかしミョイミュルはすかさず各翼を前へ折り曲げて身体を翼で隠す。

 

プラズマ弾は翼に直撃するも先にプラズマ弾が消し飛び、羽根には全く損傷すらない。

通じないと分かると今度は榴弾、直射に設定して上から頭部へ直接狙い撃つが羽根によって払いのけられて別方向に落ちていった。

それも通用しないと分かったアルヴァインは腹部をかがめるような態勢を取り、腹部の中央の円いしきりが開くとレンズが出現した。

 

「これならっ!」

 

ゲッター炉心の出力が上昇し、レンズが真っ赤に光った時、ゲッターロボ唯一無二の兵器であるゲッタービームが放たれた。

ゲッター線の粒子が濃縮したこの光線は一直線上に向かっていき盾のように使う巨大な羽根にぶち当たった。

 

「はああっ!」

 

まだまだ出力を高めていくがまだ羽根を貫通しない、しかし向こうも流石にキツいのかその状態を維持したままだ。

互いの押し比べ。どちらの打ち勝つのか――竜斗は負けじとビームの出力をさらに上げようとしたその時だった。

 

 

“選ばれない者にはこの力、使いこなせぬ――”

 

誰かの囁く声が竜斗の耳に入り、彼の動きは停止した。

 

(な、なに…………)

 

“適応しないお前に……この力を扱う資格はない”

 

 

通信か、いや通信などかけてない。そしてこの中には自分しかいない、では一体誰の声か……。

 

 

ビームの出力が弱まっていきそしてついには途切れてしまう、それどころかアルヴァインの動きさえ止まっている。

 

リンゲィはそれをチャンスと言わんばかりに子機達を遠隔操作でアルヴァインを包囲する。

 

「はっ!」

 

気づいた時には時すでに遅し、子機からの四方八方からの攻撃をまともに受けてしまった。

 

「うわああっっ!」

 

各砲撃を受け続け翻弄されるアルヴァインのシールドのエネルギーがレッドゾーンに入ってしまった――。

 

「司令、このままではっ!」

 

「…………」

 

一方、ベルクラスだけで未だに大量に群がるメカザウルスの集中攻撃を受けており、こちらもシールドのエネルギー残量が残り少なくなっていた――。

 

「竜斗達はっ?」

 

「三人共、謎のメカザウルス達に一対一へ持ち込まれていますが全員相手のペースに呑まれているようですっ!」

そんな時、ついにベルクラスのシールドエネルギーが切れて消滅してしまう。だが向こうの攻撃は一向に止まらずついに装甲部に被弾した。その衝撃が艦橋に伝わり激しく揺らめいきここにいつ被弾するかも分からない。

 

「も、もう持ちませんっ!」

 

「くっ……」

 

 

今まで持ちこたえてきたこの艦も、ついに終わりを迎えてしまうのか……と二人は撃沈を覚悟したその時だった、遥か南東の彼方から大量の何かこちらへ到着するとメカザウルスの群れに襲いかかり一気に数百という数が力を無くして地上へ落ちていく。

何事かと思い、即座にモニターを拡大するとそこには黒い戦闘機、それはあのステルヴァーのみで構成した編隊、そしてもう一機の謎の機体がこちらへ向かってくる。

ちょうどその中の一機から通信が入り、拾うとモニターに現れたのは何とジェイドの姿があった。

 

“大丈夫ですかサオトメ一佐!”

 

「少佐!来てくれたかっ」

 

ジョージ、そしてジョナサンからも通信が入り久々の対面をする彼ら。

 

“俺達が直ちに援護に入ります”

 

“ではブラック・インパルスの力、見せてやりますかっ!”

彼らが素早くこちらへ到着すると直ちに介入する彼らブラック・インパルス隊員。

その華麗なマニューバを見せながらミサイル、機関砲、プラズマ弾などの火器をばらまき飛ぶ鳥を落とす勢いでメカザウルスを撃墜していく――。

 

「司令、正体不明のSMBから通信が入ってます」

 

開くとモニターには見たことのない彫りの深いネイティブ系アメリカ人と思わせる男性、そしてメガネをかけた若く、そして茶髪のボブカットをしたアメリカ人女性の二人組が映り込んでいた。

 

「ヘイ、あなたがサオトメ一佐ですネ?」

 

「君達は?」

 

“ワタシはキング博士の息子のジャックデース、どうぞヨロシクネっ”

 

おちゃらけているような雰囲気、そしてどこかイントネーションのおかしい、すなわち胡散臭い日本語みたいだかちゃんと喋っており、驚く二人。

 

“私はメリー、同じくキング博士の娘でジャックの妹です。私達はこのテキサスマックでこれよりあなた方の援護に入ります”

 

 

妹のメリーはちゃんとした日本語を喋るようだ。

 

彼らの乗る機体は本体と思わせる人型のSMBは、カウボーイの白いテンガロンハットを被り、ポンチョかマントのような物で全身を隠している、今までのSMBとは異色のデザインであり、その後ろには巨大なスラスターとそして至りつくせりと言わんばかりのミサイルポット、ビーム砲台、機関砲台が大量に取り付けられた、まるで要塞のような巨大重兵装ユニットとドッキングした、たとえるなら空飛ぶ火薬庫とも言える姿をしていた。

 

「テキサスマック……これは?」

 

“ここの施設にいるはずの父、キングが私達のために極秘に造り上げた試作型SMBです。

兄がこのテキサスマックを、私が背部のこの『ケツァルコアトル』を担当します。ここは私達に任せて後退してください”

 

 

 

「すまない。ではよろしく頼む」

 

ベルクラスは急いでその宙域から離れていく。

 

“では兄さん、行くわよ!”

 

「オーケーっ!」

 

ユニット後部にあるスラスターを駆使して、猛スピードでメカザウルスの密集地に到着し、テキサスマックはポンチョをバサッと開くとその中には多くの重火器が内側に取り付けられており、二丁のライフルを取り出し前へ向けた。

 

「メリー、ケツァルコアトルの全火器を一斉開門しろ」

「了解。ブラック・インパルス隊は速やかに射線上から退避してください」

 

“了解した”

 

“ジャック、メリー、派手に頼むぜ!”

 

ステルヴァー全機はテキサスマックに任せて旋回し、後方へ下がっていく。

 

「ターゲット、マルチロックオン。目標、前方広範囲のメカザウルス軍団!」

 

メリーのコックピットではモニター全体に映るメカザウルス達一機ずつに細かく赤い囲みが入ると、ケツァルコアトルに搭載された火器の砲門全てが開いた――。

 

「兄さん、いつでも行けるわよ!」

 

「よし、フルファイアーーっ!!」

 

それは鮮やかだった。テキサスマック、ケツァルコアトルの火器全てからビーム、ミサイル、プラズマ弾、機関砲、ありとあらゆる火砲でテキサスマック前方全てを七色光で染め上げた。

全ての弾頭が千以上のメカザウルスを一撃で貫き、そして消し飛ばした――それはまるで花火を見ているのようである。

 

「一三〇〇機近くを殲滅か、初弾でなかなかのハイスコアだなメリー」

 

“ええっ、だけど予備弾薬積まずに来たからもうこっちの弾薬はないわ”

 

「メリーは後方に下がり待機しててくれ、ここからは俺に任せろ!」

 

“それじゃ頼むわっ”

 

テキサスマックは連結部を外して空中へ飛び出すと各脚部と腕の関節部にあるスラスターを稼働して空中に浮遊し、ケツァルコアトルは急旋回してそのまま遙か後方へ下がっていった。

 

「では初実戦テストと行くか、テキサスマック!」

風にたなびくポンチョから両手を出すと持っているのは先ほどの二丁のライフルである。

 

各スラスターを噴射して空中を縦横無尽に高速移動しながらプラズマ弾をフルオートでぶっ放して敵を殲滅するテキサスマック。

すると今度は二丁のライフルをなんと、直列に連結するように合体させ長身砲が出来ると上空へ垂直に掲げた。

 

「テキサスマックのライフルはこんな使い方も出来るんだ!」

 

機体内のプラズマ反応炉がフル稼働し、それに連動して砲口から青色の極太の光線が遙か宇宙へ伸びていき、そこから横一線に全力で振り込んだ。

 

「ゴートゥヘェル、メカザウルス!!」

 

その凄まじい長さを持つ光の剣刃がメカザウルスを一斉に凪払い消し飛していく――しかし、その代償に連結した長身ライフルもオーバーヒートして焼きついている。

 

 

 

 

 

「やはり試作品だと精々ここまでか」

 

テキサスマックは連結したライフルを元通りにして再びポンチョにしまう。

ちょうどその時一機のメカザウルスが大口を開けて向かってきている。

テキサスマックは被っているハットを取ると内部中央にある『とって』を持ち、小盾のように正面に向けて、メカザウルスの噛みつきをハットを盾に防ぐ。

 

「残念っ!」

 

開いた手でポンチョから今度は大型のリボルバー銃を取り出してメカザウルスの頭に突きつけ、

 

「ザ、エンドゥっ!!」

 

トリガーを引き、発射されたその強力な大型の弾丸がメカザウルスの頭部を突き抜け胴体に入り込み内部で炸裂。その強烈な物理エネルギーが内部にある機械や回路、微かに残る内臓をズタズタにしてついには内部から外部に突き出て破裂したのだった。

肉塊と化したメカザウルスはそのまま機能停止し地上へ墜ちていった。

 

「ヒューッ!」

 

呑気に口笛を吹くジャック、戻ってきたステルヴァー部隊と共にそのまま残り少なくなったメカザウルスの掃討を始める。

 

「イーーヤッフォーーっ!!」

 

彼らのその圧倒的戦力を持ってメカザウルスの数は一気に激減し、戦況は大きく変わった。

 

その光景を後退して離れた場所から見ていた早乙女とマリアは驚き、心強い味方が駆けつけたことに安心と興奮が入り混じっていた。

 

「やはりアメリカ側の戦力は凄いな」

 

「ええ……っ」

 

……一方、竜斗達にそれぞれジェイド達から通信を受けていた。

 

「ジェイド少佐!」

 

“竜斗君、挨拶は後だ。空中にいるメカザウルスの群れは私達がなんとかする。君達は目の前にいる敵に集中してくれ”

 

「了解、少佐もそちらを頼みます」

 

二人の会話からは互いの再開に喜び合っているようであった。

 

“エミリア君、大丈夫かっ!”

 

「少佐……お久しぶりです!」

 

“苦戦してるようだが、私も手を貸そうかっ”

 

「い、いえ、少佐達が来てくれただけでも凄く心強いです、アタシはまだまだ頑張れます!」

 

“そうか、では私達は空中のメカザウルス達を抑える、君達は思う存分やれっ!”

「はいっ、お願いします!」

 

――そして、この二人も久々の再開に当然喜び合っていた。

 

「えっ、ジョナサンっ!?」

 

“やあマナミ、また会えて嬉しいよ。助けに来たからもう安心してくれよ!”

 

「よかった……また会えた……!」

 

“挨拶は後で、今はこいつらの対処を最優先だ”

 

「うん!頼りにしてるわジョナサン」

 

“マナミ、無理すんなよ”

 

「アンタが来てくれたからにはマナがあいつなんかケチョンケチョンにしてやるからっ!

ジョナサン達は空にうようよいるメカザウルス達をお願い!」

 

“任せとけっ!”

 

互いに顔を合わせた後、先ほどまで苦渋だったゲッターチームの顔色は一気に明るくなった。

 

 

「みんな、少佐達が来てくれたからには何としてでも勝つよ!」

 

「ええっ、これでアタシ達に――」

 

「怖いものなんてないんだからっ!」

 

上空のメカザウルスを心配する必要がなくなり、今は前にいるメカザウルスに集中できることに三人は意気揚々にレバーをぐっと握りしめて今まで以上に気合いをいれた。

 



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第三十二話「オペレーション・ダォイルシエ」④

『ちい、余計な邪魔が入りやがったか』

 

突然の敵の増援と、その圧倒的戦力によって一気に戦況が傾いたことでリミルはチッと舌打ちする。

 

『気を鎮めろリミル、敵の増援も計算のうち――』

 

『そうだ、我々はただの囮。もうすぐドラグーン・タートルからアレが発射されるだろう――それで奴らはどうすることも出来ずに壊滅を待つだけだ』

 

他の二人は焦るどころか寧ろ好機と言わんばかりだ――。

 

『そうだな、ではもっと遊んでやるか――』

 

ウルスラは左右の肩から突き出た長身のキャノン砲から丸めたドロドロのマグマ弾二発を発射、アズレイは車輪と杭を駆使して急速旋回して避けながらウルスラへ接近する。

 

 

「これでもくらいなさいっ!」

 

右前腕からビーム・シリンダーの出して、撃ち続けるがリュイルス・オーヴェがウルスラにバリアを展開して機体に当たる前に遮断されてしまう。

 

『いくら攻撃しても無駄だぜ』

 

ウルスラは腹部中央の装甲が横にスライドして開くと中から巨大なミサイル弾頭が出現、リミルはアズレイに照準をつけて発射する。

巨大な砲弾型のミサイルがロケット推進で猛スピードで向かってくる、アズレイは右側急旋回して離れていくがミサイルも旋回してアズレイの後を追っていく。

 

『逃げろ逃げろ、でねえと変なトコに当たって痛い目見るぜ?』

ウルスラからも全身に搭載した各火砲で追撃し、愛美を休ませる暇すら与えない。

その時のリミルはまるで狭い場所に追い詰めた袋小路の獲物をじわじわと追い詰めるような卑しい顔をしていた。

凄まじい軌道を描いて避けるアズレイ、砲弾は地面に着弾して破片が飛び、粉塵が吹き上がる。

 

「しっつこいわねぇ、乗ってるのが男なら女から嫌われるよっ!」

 

今すぐにでも追尾してくるミサイルを撃ち落としたいのに、メカザウルスからも絶え間ない砲撃で狙われ回避するだけで精一杯だ――。

 

「ああもおっっ!!」

 

いても立ってもいられなくなった愛美はメカザウルスへ振り向き突進していく。それもフルスピードではなく、明らかに低速だ。これでは間違いなくミサイルに追いつかれてしまうが。

 

ウルスラはこちらへ向かってくるアズレイへ休まず集中放火を繰り出すが愛美はプラズマシールドを駆使してそのままど真ん中に突っ込んでくる。

しかしミサイルもすぐそこまで迫っており完全に挟みうちされていた。

 

ウルスラとアズレイの距離がもう手の伸ばせる距離に迫った瞬間だった。

 

『――!?』

 

愛美の瞬時の器用な操作に反応してアズレイは、旋回用杭を何度も地面に打ち込み目の前でクルクルとウルスラの背後へ回りこんだ。

しかし彼の目前には自分の放った巨大ミサイルが自分に帰ってきており、どちらも回避できる余裕などなく直撃を食らった――。

凄まじく巨大な爆炎が半球状に膨れ衝撃波、そして轟音が四方八方に広がる――。

アズレイはそれに巻き込まれないようにフルスピードで逃げていく――。

 

「ダッサっ、自分の吐いたツバが自分に返ってきてやんの……っ」

 

爆炎が収まり、爆心地は広く粉塵が巻き起こり中は見えない、さすがにまともに食らえばただではすまないだろう――とだがその時、黒煙吹き上がるその中から再び砲弾が降り落ちてきたのだった。

 

「生きてるっ!?」

彼女は再び休みもくれるそこから離れて再び円を描くように走り出す。

 

その中心部の煙が止むとウルスラの全く掠り傷すらつかない無事な姿を発見した。

 

『おもしろい、実におもしろい。この俺相手にここまでやるとはな。ではそれに敬意を評して次は本気で行かせてもらうぜ』

ウルスラの背中が開くと中から巨大な翼竜の翼、スラスターが飛び出して展開。そのまま大空へ飛び上がった。

 

「あいつ空飛べんのっ!?」

 

今まで地上であまり動かなかったその鈍重そうな外見に反して空中で運用できることに驚く愛美――。

 

ウルスラはスラスターと両翼を駆使して、まるで燕のように空を左右を『8』の字を描くように行き交うよう素早く移動しながら両腕のキャノン砲、そして今度は脚部が開き、多数の小型ミサイルを地上へ空爆を始めた。

愛美は必死で避けながら、こちらからも全火器を展開して応戦するが一向に当たらず。

そして撃ち止まない上空からの砲撃に疲れ、そして苛立ちが見え始めていた――その時、彼女に通信が入る。

こんな非常時になんだと苛立ちながら開くとそこにはニールセンの姿が現れた。

 

“マナミ君、たった今『エリダヌスX―01』の最終的な調整が終わった。

今から非常用の格納庫ハッチを開かせるからすぐにそこから入って施設内の格納庫へ来てくれ、それを装着させる”

 

「はあっ?!今空からメカザウルスに攻撃されてるこんなヤバい時にムリよお!」

 

“では、先程増援に来たステルヴァー隊にその間の時間稼ぎを頼ませておくから安心して来てくれ”

 

「…………」

 

“早くしろ、ハッチの場所を記されたマップをそちらに送る。

エリダヌスX―01を装備したアズレイなら、バリアだろうがもう敵なしじゃよ”

 

「……ホントなの?」

 

“ああっ、ホントじゃ。ワシを誰だと思ってる?”

 

渋々だが、それを信じてモニターに表示されたマップを頼りに赤い点滅する場所へ走らせる。

その地点の、焦土と化した地上が突然と扉のように左右に開きSMB一機分入れるほどの大きさを持つ地下への道が現れる。

ウルスラから空爆がをどうにか避けながらそこにたどり着くと滑り込むように内部へ入るとすぐにハッチが閉まり地下へ引っ込んで行った。

 

『地下へ逃げたか……ん?』

 

ふと正面を見ると、何やら黒く鋭角的なデザインの機体がこちらへ向いて立ちはだかっている――ステルヴァーだ。

「よくも俺の未来に嫁さんになる予定のガールフレンドを傷つけようとしてくれたな、倍にして返すぜっ」

 

コックピット内ではジョナサンは憤怒を顕わにしていた。

 

『相手が変わったが時間稼ぎに越したことはねえか、来やがれ』

 

――この二機はこの宙域で激しくぶつかり合う。

ステルヴァーもおなじく各スラスターを駆使して空中を縦横無尽に動き回り、手持ちのライフルと腕部からの小型ミサイルによる飛び道具で応戦するもやはりバリアが頑なにメカザウルスに被弾するのを拒む。

 

『さあどうする?このまま時間が食うとお前らの退路すらなくなるぜ』

 

リミルからしてみればもはやお遊びだ。それに対しジョナサンはあの北海道における自分達を手こずらせたあのバリアがあることに気づき、舌打ちした。

 

「くそ、やっぱ上に逆らってでも核弾頭を持ってくりゃあよかったぜ……っ」

 

――そして、ここから離れた荒野ではエミリアの駆るルイナス、クランの駆るルイエノの一騎打ちが行われていた。

 

「手伝ってみんなっ!」

 

ガーランドG、ライジング・サンの各箇所から自律回路搭載の無人攻撃用子機『ドリル、ビーム・シーカー』を一斉に空中へ撃ちだし、蜂のような動きをしながらルイエノへ向かわせた。

 

『ほう、オーヴェシリーズのような自律支援兵器が地上人類軍にも存在するとはな』

 

それらに一気に囲まれるもクランは一切焦っていなかった。

シーカー九機のよって八方から包囲されて集中攻撃を受けるルイエノは瞬足を持ってその包囲から一瞬で抜け出した。

当然シーカー達も追跡を開始するが、再び両手、両足を発火させて後ろへ『タン』と軽やかにバックステップ。

通り過ぎて動きの鈍った瞬間を突いて高く飛び上がり勢いのついた回し蹴りを繰り出してシーカーをその強烈且つ高温を帯びた蹴りで一撃で破壊。

地上へ着地すると左手を突き出して射出、ワイヤーを伸ばすと左腕をグルングルン回し、鉄球と化したその左手はシーカーをなぎはらう。

 

その時だった、その死角からルイナスが高速回転するドリルを引き込みながら猛スピードで突進してくるのが。だが、

『甘いっ!』

 

ドリルで穿とうとした時、ルイエノはとっさにしゃがみ込みルイナスのその細い脚部に素早く足払いをかけて転ばせた。

 

「くうっ!」

 

立ち上がった時にはすでに間合いを取られており上から落下スピードを乗せた、真っ赤に発熱したカカト落としを放つルイエノの姿が。

しかしエミリアも負けじと瞬時にレバーを引き込み右に急旋回し間一髪の所で餌食にならずにすみ、カカト落としが地面に直撃し、大きなクレーターができた。

再び間合いを取りすぐに身を構えて体勢を立て直す両機、至って忽然な態度のクランと息を大きく乱しているエミリアはどちらが優勢かすでに分かる。

(このままじゃいくらやっても攻撃が当たらない……どうすれば……)

 

見る限り、あのメカザウルスはバリアのようなモノはなさそうでドリルを一回でも当てればこちらの勝ちだ。

だがそれ以上に素早くそしてパイロットも経験豊富且つ巧みな操縦技量を持っており、まるでこちらの動きを完全に読まれているようだ。

それはまるでかじった程度の素人が歴戦の達人相手に真正面から挑んでいるようでこのままでは一方的にぶちのめされるだけだ、彼女はどうすればいいか悩みに悩んでいた――。

 

……一方で上空では竜斗の駆るアルヴァインとリンゲィの駆るミョイミュルは各攻撃を身を削るように凌ぐ攻防戦を繰り広げていた。

 

ミョイミュルの両翼羽はゲッタービームに耐えるほど頑丈でありこちらからの攻撃を完全に塞がれていた。

回り込もうとするも相変わらずの子機達が疾風のように素早く動きながら付きまとい、幾度なく妨害をしてくる――竜斗は辟易した。

 

(あのメカザウルスさえどうにかすれば……)

 

こちらもシールドが切れてこれ以上の被弾は危ない、彼は回避に徹している。

 

「こうなったらっ!」

 

アルヴァインは右臑部からビームブーメランを取り出してそれを上に向けて投擲する。

 

展開したブーメランは高速回転しながらミョイミュルの頭上 の頭上を通り過ぎていくがすぐに旋回して後ろからミョイミュルの首一直線へ向かっていく。

しかし気づかれておりすぐに振り向かれて、振り込んだ羽によってに弾かれてしまう――。

 

しかしアルヴァインは今度は左臑部からもう一つのブーメランを取り出すと再び投擲する。

 

『何度やっても同じことっ!』

 

学習能力がないのかと鼻で笑うリンゲィ、しかし竜斗はすぐにライフルの弾薬にプラズマ弾に変更した。

 

「一かバチかだ!」

 

ライフルを片手持ちで構えてまとわりつく子機達からの攻撃を回避しながら、左右、そして上下に移動してブーメランになんとプラズマ弾を撃ち込んだ。

 

『なにっ?』

 

その読まれやすいブーメランの軌道がプラズマ弾によってカクンカクンと曲がりくねたりと強引に変則的な軌道を取る。

竜斗は続けてさらにプラズマ弾を撃ち続けてブーメランの軌道を変える。

さすがのリンゲィもこれの動きには対応できておらず挙動不審のような行動をしている。

 

「今だっ――」

 

ちょうどミョイミュルの真後ろにブーメランが差し掛かった瞬間に、ちょうど真正面の位置にいたアルヴァインはすかさずゲッタービームをブーメランに撃ち込み、リフレクタービーム機能が作動しゲッターエネルギーがミョイミュルの真後ろで大量に放出された。

 

『ば、バカなっ……』

 

高濃度のゲッターエネルギーを大量に浴びて、機械を残してドロドロに溶けていくミョイミュル――。

そして内部のコックピットにも到達しリンゲィもまたゲッター線によりドロドロに溶かされていった。

 

『無念……ジャテーゴ様……恐竜帝国……万歳っ……』

 

爆発せずにそのまま機能停止して地上へ落ちていく。そして本体から出されていた電波が途切れて同じくその場で子機達も機能停止して固まったまま地上へ落下していった――。

 

「か、勝った……」

 

竜斗はそれを見届けると気が抜けて被っていたヘルメットを取り、大きく息を吐き乱れしたのだった。

ちょうどその時、早乙女から通信が入る。

 

“どうやら決着がついたようだな”

 

「司令……」

 

“君はジェイド少佐達と合流して空中のメカザウルスの掃討を頼む……どうした?”

 

一騎打ちは彼が勝利したにも関わらず複雑な心境と表情で、その理由を早乙女に伝えた。

 

“私達や爬虫人類全てがゴーラのような思想を持つ人間ばかりじゃないのは君ならすぐ理解できるはずだ、現に水樹だってそうだろ?

こればかりはどうしようもない”

 

 

「…………」

 

“今はそれより今の状況を何とかするほうが先だ、気持ちを切り換えろ”

 

彼から通信が着れる。確かに今はそんなことを考えてる場合じゃない、早乙女のほうが正しいのは分かっている。

しかし彼にはもう一つの疑問があった。

 

 

『適応しないお前にはこの力を扱えられない』

 

 

 

――突然耳に聞こえ響いた謎の声。

頭にそれが未だ染み付くように残り、響くその言葉の意味は一体なんなんだ。

 

アルヴァインに乗り換えてからの初戦の時にあった危険な破壊衝動と、そして今回の時といい謎が深まるばかり――僕はますますゲッターロボに対する不信感を抱くようになっていった――。

 



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第三十二話「オペレーション・ダォイルシエ」⑤

「敵の増援からすぐに第三十九恐竜中隊壊滅、残り二中隊も危険です――」

 

ドラグーン・タートル艦司令部ではエリア51の上空モニターからこちら側の戦局が思わしくないことを確認するジャテーゴ。

 

「よし。向こうも疲弊しきっている頃だ、各ミサイル発射用意にかかれ。

目標、ネバダ中部にある敵軍事基地。

三発それぞれ西側、東側、そして地下深くから直接基地を狙え」

 

彼女からそう告げられ、ドラグーン・タートルの左右舷、そして潜地用発射口が開くと長身且つ極太のロケット弾が姿を現し、今にも飛び出そうと噴射器がスタンバイしていた――。

 

『リンゲィがやられただとっ!?』

 

『…………』

 

その事実がリミルとクランに衝撃を与え、特にリミルは苦い表情をしていた。

 

『くっ……』

 

すると彼の元にクランから通信が入る。

 

『これよりドラグーン・タートルからミサイルが撃ち込まれる、退避するぞ』

 

そう持ちかけられるが彼は首を横に振る。

 

『……いや、リンゲィの仇を取るのが先だ』

 

『リミル……ミサイルがここに着弾したら間違いなく基地はおろかネバダの半分近くは消し飛ぶ、いくらオーヴェのバリアでも耐えられまい』

 

『けっ、リンゲィを失ってこのままおめおめとジャテーゴ様の元に帰れるかよ。アイツの無念を晴らせるまではなっ』

通信が切れるとクランも大きな溜め息を吐きながらも再び操縦桿をぐっと握りしめる。

 

『やれやれ、あのバカに付き合うしかないか』

 

そんなことを言う割りには彼から今まで以上のやる気が凄く感じられる――。

 

……互いに間合いを取りながら様子を見ているルイエノとルイナス。じわじわとゆっくり前に進みながら互いにどう動じるか息を潜めている。

 

(さっきリュウトが勝った……だったらアタシだってやればできるはずなんだ……)

 

ルイナスは絶えずドリルをフル回転させていつでも攻撃できるように待ち構える。

一方のルイエノは再び両手足をマグマ熱で発熱させ、軽いフットワークをとり続けてどんな状況にも瞬時に動けるようにしている――。

 

「はあっ!」

 

先に動いたのはエミリア。右腕のアーム、ガーランドGを突き出して先端部の砲口から高出力のプラズマ弾を絶えず連続で撃ち出す。

対してルイエノはそれを左右ステップと爆転、宙返り、ムーンサルトのような華麗な技を次々に披露しながら余裕綽々と避ける――完全に遊ばれている。

 

しかし彼女は被弾させることだけに集中して、今度は動き回りながら絶えずエネルギーの続く限りプラズマ弾を放つ――。

 

『くどい、弾の無駄使いだ』

 

ルイエノは着地した瞬間に地面を走り出してこちらへ急接近してくる。

バラまかれたように向かってくるプラズマ弾達をジグザグ走行で避け進み。

ついにルイナスの背部に回り込んだ。

そこからなんと腹部をがっしり掴むとそのまま後ろへ力強くで引き込み放り投げた。

まるでそれはバックドロップ……このメカザウルスはプロレス技まで操るのか。仰向けで倒れ込むルイナス、そして地面に叩きつけられて相当なダメージを受けているエミリアは完全にまいっていた。

 

彼女は疲れとそして痛みでその霞む目でモニターをよく見ると画面中央には再び発熱した右足をこちらへ向けて急落下してくるルイエノの姿が――。

 

『終わりだ』

 

コックピットのある胸部目掛けて落ちてきている。当たれば間違いなく自分は潰されて即死だ――。

 

(アタシはこんなところで終わりなの――)

 

と、彼女は全てを諦めかけたその時、ふとある言葉が浮かび上がった。

 

『エミリア君にも扱い易いように改造しておいたが三機の中では一番性能は劣るだろう。

もし、どうしようもない時はこれを使え――ただし一発限りの奥の手だ』

 

それはルイナスの概要について説明を受けている時、最後の武装説明にてニールセンからとある秘め言を言われていたのを思い出し、彼女のその青い瞳は覚醒した。

 

(今がその時だっ!)

 

ルイナスはその状態で間近に迫ったルイエノへ右腕そのものであるガーランドGを向けた時、

 

『!?』

 

なんとガーランドG丸ごとミサイルとして打ち上げ、落下スピードに乗ったルイエノは避けられるはずもなく直撃した。

 

『ば、バカな――――』

 

カッと眩く光り、そして球体状に膨れ上がり爆発した。周辺にその衝撃波が拡散して何もかも吹き飛ばした。

ルイナスも強烈な爆風に流されていく――。

 

爆心地は小さいキノコ雲が出来ており遠くからですぐに確認出来るほどだ――。

音、衝撃波、そして光は別場所で戦っている各人を振り向かせる。

 

「あそこは確か……エミリア君が戦っている場所じゃないか!?」

 

まさか彼女の身に何かあったか……物凄い不安に襲われる全員。

それは竜斗も同じで真っ青な表情で彼女に通信モニターをかけるも画面が暗い。

 

「エミリアっっ!!」

何度も、そして必死に大声で呼ぶ。すると、

 

“リュウト……アタシ勝ったよ……”

 

小さい声だがちゃんと彼女の実声が聞こえてくる。

 

「大丈夫かっ!」

 

“うん…………なんとか……ホントに死ぬかと思ったよ……アハハッ……”

 

……どうやら命については心配する必要がないようで彼は安心して身体がだらんと崩れた。

 

「今から迎えに行こうか?」

 

“ちょっと疲れてしばらくここで休むから大丈夫……心配しないで今やるべきことをやってリュウト――”

 

……ルイエノはあの強烈な爆発で完全に消し飛んでおり、ルイナスは爆心地から約数百メートル離れた場所で、爆発をモロに受けてもはや戦える状態ではないほどのボロボロな状態で倒れていた。

 

『クランまで……クソっ!』

 

二人の生体反応がなくなりついに自分だけになってしまい、流石のリミルはもはや唖然となっていた――。

その時だった、再び地上からハッチが飛び出て開くと中からアズレイが飛び出し、地上に立つ。

 

「これでマナはもう敵なしよっ!」

 

アズレイは背中から折り畳まれた物体を取り出ししっかり直列に伸ばして固定すると、それは身の丈あるかどうかという凄まじくそして細い長身を持つ兵器、対物ライフルと思わせるニールセン自慢の新兵器『エリダヌスX―01』の姿があった。

初めて見るジェイド達、そして竜斗、早乙女他の者はたちまちその兵器に目が釘付けになっている。

 

“マナミ、それは一体……?”

 

「それを今披露してあげるから見ててよっ!」

 

両手持ちに構えて、上に銃口を向ける。その狙い先は当然ウルスラ。

 

『来い、どんな兵器だろうがリュイルス・オーヴェのバリアを破れるわけがないっ!』

 

向こうもそれに気づいているも避けることをせずに寧ろ受け止めようとしている。

アズレイのフル稼働するゲッター炉心、プラズマ反応から高密度の各エネルギーが供給線を通って銃身に送られていく――そしてチャージ完了を知らせるアラームが鳴り響く。

 

「これでも食らえメカザウルスっ!!」

意気揚々にトリガーを引いたその時、まるでこの世のモノとは思えない、まるで宇宙的な甲高い音が発せられた……しかし銃口から弾丸か何かが発射されたところが全く見られなかった。不発か……と思いきや――。

 

 

 

『なに……バリアが……』

 

ウルスラを見ると腹部に見事に円状の大穴が開いている。

次第に機体全体がスパークし出して小爆発が起きた。

 

『な、何があった……』

 

リミルはワケが分からないままその機体の大爆発に呑み込まれ、肉片、装甲の破片が四散し地上へ降り注がれた――。

 

そしてこの光景を見ていた全員も何が起こったか分からず呆然としていた――。

 

「ゲッター線をも超える凄まじいエネルギー反応を確認……司令、これが例の……」

 

「ゲッターエネルギーとプラズマエネルギーによる複合エネルギーによるものだろう、博士はついに完成させたか――」

そして作った本人も地下施設のモニターから見て大いに喜んでいた。

 

「射撃テストにして実戦テストは無事クリアしたか……ワシは今、最高の一時を味わっているぞい」

 

「凄まじい威力じゃな、ニールセン。これが貴様の夢にまで見た傑作兵器か」

 

「ああっ、これの実現こそがワシの夢じゃった。」

 

彼はまるで童心に帰ったような顔である。

 

「――子供の頃、ワシが一番ハマっていたとあるテレビゲームに登場したエイリアンの武器……これを見た瞬間からワシはそれに魅入られてしまった。

あの独特の形、発射音、そして凄まじい性能……ワシは人生かけてでも開発すると決めて兵器開発の技術者を志した」

 

「それがお前のバイブルということか」

彼はコクっと頷いた。

 

「『エリダヌスX―01』。

ワシが魅入られたそのゲームの同名武器を、形と音こそは違うがついに実現した――ワシはもうこれで思い残すことはないわい」

 

 

感慨に浸っていると通信が入り、モニターに映すと早乙女が現れて拍手を叩く。

 

“成功したんですね、おめでとうございます――”

 

「ありがとよ」

 

“まさか、あの強力無比のバリアをいとも簡単に貫通するとは全く思いませんでしたよ”

 

「ふん。バリアの破壊前提で開発した兵器じゃぞ、できて当たり前だ……だが色々と不具合が出てるじゃろうな――」

彼の言うとおり、アズレイの各炉が一発撃っただけでレッドゾーンに入っていた。

 

「あちゃあ……次に撃てるのは時間がかかりそうね……」

 

機体、そして銃身から水蒸気のようなものがもくもく上がっている。

それほど二種の異なるエネルギーを組み合わせた複合エネルギーが生み出した高熱の冷却が凄いと言うことだ。

 

 

メカザウルスの掃討が全て終わり、全員が一息ついている。

 

“ようオヤジ、相変わらず兵器開発に精を出しているのか?”

 

“お久しぶりね”

 

キングの元にあの二人、ジャックとメリーから通信を受けて喜ぶかと思いきや何故か苦々しい表情をしている。

 

「ふん、今までどこほっつき歩いていた?この親不孝者共が」

 

“南米を渡り歩いて気楽に旅をしていたよ。その途中に連合軍から要請を受けてな”

 

“メカザウルスが出現したり、メキシコのギャングとか麻薬のシンジケートとかと対峙したりしてたけど色々と楽しくやってたわ”

 

旅路に起きた、嘘としか思えないような様々な出来事についてまるでただの散歩をしてきたかのように軽々しくそう話す二人。

 

「まったくお前らはいい歳こいて、いつまでもそんなことしてる場合じゃないだろ。なんで軍を辞めたんじゃ?」

 

“完全な自由がないからさ、なあメリー”

 

“ええっ”

 

「お前らな……」

 

――その時だった。再び警報サイレンが高らかに施設内に鳴り響く。

 

“緊急事態、北西、北東の超高度上空から謎の飛行物体が音速域を保ちながらこちらへ接近しています、数は二つ――”

 

「なにっ!?」

 

早乙女達からもベルクラスのレーダーでそれを感知しており、すぐにズームを上げて成層圏近くの領域のモニターに映すと確かに丸い何かがロケット推進でこちらへ急接近してきているのが……。

 

「これはまさか……」

 

「弾道ミサイル……ですか」

 

その細長い鋭角な先端を持つ胴体を見ると二人はすぐに何かが分かった。

 



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第三十二話「オペレーション・ダォイルシエ」⑥

「ヒュージ・マグマリアクターから生み出す膨大なエネルギーを応用した戦略兵器だ。

着弾すれば半径数百キロ全ては灰と化すだろう。たとえ空からの二発は対処できても地下からではどうもできまい、まとめて死ね、地上人類!」

 

ジャテーゴの嘲け笑う声が今にも聞こえてきそうなエリア51では――。

 

“新たな情報が入りました、北部の地下千メートル付近から同じような反応を確認、こちら一直線に南下してきます――各施設内にいる者は速やかに退避してください”

 

地下からも来ているという事実に全員が慌ててふためいている。しかし開発エリアでニールセン達は焦ることもなければ逃げ出すこともせず、早乙女と通信を介している。

 

 

“サオトメよ、これは弾道ミサイルだな。地下からも同じものがこちらへ来ているそうだ――アラスカのタートルからだと言っていいだろう”

 

「……計算しましたが恐らく、空からの二発はこちらへの到達時間は五分もないでしょう」

 

“地中からは……十分切るなこりゃあ”

 

「どうします、退避しますか?」

 

“敵の弾道ミサイルということは、恐らく戦略兵器級の威力じゃろう。ましてや地下からも来るのならワシらに逃げ場などないな。

ならどうにかして撃墜する以外にないだろう――”

 

“では狙撃で撃ち落とすか”

 

二人の間にキングも話に割り込んでくる。

“アルヴァイン、テキサスマックそしてアズレイ。この三機を各位置に配置させて各武器でミサイルを狙撃させよう。

ただ地下からも来るのならそこをどうするか――”

 

“心配するな、エリダヌスX―01なら出来る。では今すぐ三人にそう伝えろ”

 

早乙女はすぐに竜斗、ジャック、そして愛美に通信で何が起こっているのかと今から各人にすべきことを伝える。

 

「オゥ、それはベリーデンジャラスねっ!」

 

「弾道ミサイルを撃ち落とすなんて……」

 

「できるの…………?」

 

三人はそれぞれ返事は異なるが考えていることは同じなようである。

 

“実に危険な賭けだがやらなければ恐らくこの場にいる全員が消し飛ぶだろう、かと言って逃げる時間もない。ということはもはや実行あるのみだ。

 

「総掛かりで叩くのは……?」

 

“音速域を超えて飛んでくる物体だぞ。横から多少ドンパチやらかすだけではビクともしないし万が一、撃墜し損なったら追いつくのはまず不可能になる。

ということは手遅れにならない内に真正面、そして遠距離から撃ち落とすしかない、それがこの状況下で出来るのは君達の機体だけということになる”

 

三人に重大な使命による重圧がのしかかる。一歩間違えたら全てが終わりと化すというこんな状況……。

 

“アンダスタンね、ここまで来たからにはやりましょう!ユー達も早くカクゴ決めなサーイ!”

 

と、ジャックがやる気あるその表情で二人にそう伝える。

ジャックという突然現れたこと男は、エミリアでも話さない奇妙な日本語を聞いて二人は思わずブッと吹き出し笑ってしまう。

 

“なんか笑ったら緊張がとれたわ。イシカワ、もうやるしかないようね”

 

“そうだね。司令、僕達はやります!”

 

「そう言うのを待っていた、では――」

 

ついに狙撃でのミサイル撃墜を決行する竜斗達。早乙女の指示で西側が竜斗、ジャックが東、そして愛美は北側にそれぞれ移動し配置につく。

 

“竜斗君、頑張れよ!”

 

“兄さん、頼むよ!”

 

“マナミ、やれると俺は信じてるからな”

 

 

ジェイド達からそれぞれ応援を受けてますますやる気が上がる三人。

アルヴァインのセプティミスαの弾薬を高速貫通弾に設定し、スナイパーライフルへ瞬時に変形。

 

「イッツ、ショータイムっ!」

 

テキサスマックは二丁のリボルバー銃、専用ライアットガン、プラズマ・エネルギーライフルなどの火器全てをなんと全て各直列、並列に合体させて巨大で長銃身を持つ重火器へと変化を遂げた。

 

「ほう、なかなか面白いギミックを作るもんじゃなキングよ」

「しかしあれはセプティミスαのプロトタイプみたいなもんでいちいち全て持ち歩かないといけないのが難点じゃがな――」

 

二機はそれぞれ射角を合わせて構える。一方で愛美は。

 

「地下から来るミサイルはどうやって破壊すんのよ、マナに地面潜れっての?」

 

ニールセンにそう訴えるとニコニコした顔でこう返される。

 

“アズレイはその場から動かんでも狙撃可能じゃよ”

 

「え、どうやって?」

 

“まず教えた通りに、銃を構えて照準モードにしてくれ”

 

彼女は言われた通りにパネルキーを打ち込むとコンソール画面に、

 

 

『Xスキャンモード』

 

 

と表示され、画面が真っ暗になるが。

 

 

「モニター動かして下をよく見てみろ」

 

モニターを下方に動かすと……。

 

「……地面なのにさらに下に四角いものがあって人みたいなのが動いているのが分かる……」

 

“それはワシらのいる施設の内部と人間じゃよ”

 

それを聞いて彼女はもの凄い事実が分かり、衝撃を受ける。

 

「もしかしてこれ……透視してる……?」

 

ニールセンはそれを聞きたかったのかニヤッと不敵の笑みを見せた。

 

「『ファーサイトシステム』。

X線を応用、最大限に利用し壁、地面、いや地球上のありとあらゆる障害物を透視して直接標的のみ直撃させることができるエイリアンらしい機能を持つ兵器じゃ。

それとアズレイに搭載されたソナーを併用すれば有効範囲にいる敵全てをサーチすることもできる。 これこそエリダヌスX―01の本領とも言うべきシステムで、これさえあればその場から動かずとも海底、地底、上空だろうが場所を選ばず目標に直撃させれるぞい」

 

……誰もがそんな恐ろしい代物を開発してしまった彼に呆れ、開いた口が塞がらない。

 

……狙撃銃の極致、ここにあり。

 

“じゃああのバリアも?”

 

「ああ、バリア自体を無視して機体そのものに直撃させることができる、スゴいじゃろ?”

 

愛美はポカーンとなった。

 

“おじいちゃんさあ、一体何者?”

そう言われるとホッホッホと呑気に笑うニールセン。

 

「ただの武器作りの好きな老人じゃよ――しかし、一発撃つと冷却とエネルギー供給含めて次の発射まで間隔が凄まじく長いという欠点がある、ミサイルのここの到達時間を考えるとマナミ君に許される弾数は一発限り。仕損じるんじゃないぞ」

 

それを聞いて少し気が引く。つまり失敗は許されないということだ。

 

“大丈夫だ、マナミ君の腕ならできると信じておる。胸を張っていけっ!”

 

そう言われると彼女も少しだけ欠けていた勇気が後押しされてついに覚悟を決めた。

 

「……分かったわ」

 

それぞれ各火器を構え、コックピット内では狙撃照準モードに入る。

竜斗、ジャック、愛美は成功を信じ、それぞれ全神経を集中させる。

 

“……来たぞ、ミサイルだ”

 

早乙女から各人に合図を知らせ、機体の指を火器のトリガーに置かせる。

ズームアップした画面には夜空の中央に何やら赤い炎のような輪っかが見え大きくなっている――ミサイルだ。

 

“竜斗、ジャック、君達の出番だ”

 

「はいっ!」

 

「オーライッ!」

 

二人の集中は更に高まった時、早乙女から「撃て!」と合図された。

 

(これで――)

 

(チェックメイトゥ!!)

 

アルヴァイン、テキサスマックの火器から放たれた、キング特注である専用高速貫通弾、そして極めて高密度に凝縮したプラズマ弾が一直線で上空を駆け抜ける。

空気抵抗に負けず、グングン空に伸びていく各弾丸はついに超音速で落ちるミサイルに同時に直撃した――。

 

テキサスマック方向のは、そのままプラズマ弾がミサイルの装甲を貫通し、何も起きずにただ胴体が爆発して空中分解してその沢山の破片が地上へ落ちていく。

 

竜斗方向からのは、高速貫通弾がミサイル内部に到達し、止まるとそこから弾丸に集約された物理エネルギーが拡散して弾丸が破裂、破片が制御や起爆に必要な回路を破壊してミサイルに異常を来して小規模の爆発が起こる。

次第にそれが広がり外部からも分かるぐらいの爆発が起こり、そのまま大爆発して同じく空中分解した――。

それを見届けた早乙女は最後に『トリ』の愛美へ通信をかける。

 

 

“水樹、準備はいいか?”

 

「いつでもオーケーっ!」

 

パッシブソナーを何度も確認する愛美。冷却、そしてエネルギー供給も終わったエリダヌスX―01の銃口を下げて、ミサイルの来る遥か先の地面へ。

 

そしてパッシブソナーに高速で入り込む物体が出現、モニターのX線で映された先には円い熱源反応が中央に映し出されている自動的に照準が捕捉される――地下のミサイルだ。

 

“今だ水樹っ!”

 

「いっけーーっ!!」

 

トリガーを引いた時、再び何とも言えない奇妙な音が聞こえその捕捉した物体は姿を変えて、まるで爆炎のような形になり、そして遥か先の地面がまるで間欠泉のように粉塵が上空へ吹き上がっていた――ソナーとモニターを見ると反応、そしてミサイルと思わしき姿がどこにもなくなっている。

「――ミサイル、全て破壊に成功」

 

「……やったな」

 

早乙女達は安心の息を大きく吐いた。

……とりあえずの危機は去りついに終わりが来て喜び……いや疲れが酷く、ほとんどがそれでぐったりとなっている。

 

「エミリア、やっと全て終わったから迎えに来たよ」

 

エミリアを迎えにボロボロで、そして仰向けに倒れているルイナスの元に降り立つアルヴァイン。

彼女も元気になったのか、コックピットから元気な姿で出て来る。

ヘルメットを外し、汗で濡れた茶髪と顔が寒い夜空と風に晒されて寒くなりくしゃみをするエミリア。

彼はすぐに彼女を自分のコックピットに入れてやる。

 

「アタシ……ちゃんと生きてるんだね……あの時もうホントにダメかと思った……」

 

「でも生きているってことはちゃんと勝って生き延びたってことだよ」

 

「うん……けど、ゲッターロボも新しくなって強くなったと思ってたのにあのメカザウルスに全く歯が立たなかった……まだまだ自分の未熟さを思い知ったよ」

 

「俺も……恐らくこれから戦うメカザウルスもそんな強敵ばかりなんだろうな。まだまだ精進する必要があるね」

 

「頑張ろうねリュウトっ」

 

「ああっ」

 

アルヴァインはルイナスを右手で持ち抱えて基地へ帰っていった――。

 

「まだまだ改良の余地はあるな」

 

基地では修復作業に追われる各人員達を尻目に、ニールセンはそう呟いた。

 

「……あれほどの性能を持ちながらまだ納得しておらんのか?」

 

「当たり前だ。あんな最悪な連射性能とエネルギー供給の効率では全然実用的ではないわ――冷却時間の短縮化などまだまだ見直す点も沢山ある」

 

「というか、よく射撃テストすらしていない試作品同然の代物が初実戦でマトモに機能したのが不思議じゃわい」

 

「ワシが作ったのだからそこは折り紙付きじゃ。だが確かにわしも不安はあったけどな。

ともかく明日からまた忙しくなりそうだな」

「お主も大変だのう」

 

「いいや、我が子の不具合の修正に全力を注ぐのも親の務めじゃ。改良は好きだし――そうじゃ、アズレイの炉心をまた改良するか……いやそうなると他の二機も改良したくなる……ああっ、やることが多すぎてこんなヨボヨボの年寄りの頭の中には入りきらんわいっ!!」

 

「――楽しそうじゃのう」

 

彼のウキウキしている姿からは、確かに楽しんでいるようだ――。

更地のような状態になった基地地上部にはステルヴァー、テキサスマック、そしてアズレイが円を描くように立ち並び、その中央にはジェイド達が降り立ち辺りの惨状に辟易している。

 

「焦土もさることながら……メカザウルスの残骸ばかりで吐き気がするぜ」

 

千機以上のメカザウルスが破壊され地上に叩きつけられたこのエリア51を取り囲む周辺は機械や恐竜の屍ばかりで異様な光景だった――。

 

「ジョナサンっ!」

 

彼の元に愛美が手を振りながら走ってくる。

 

「オー、マナミィ!」

 

着くなり二人は抱きつき合い彼は彼女を持ち上げる。

 

「マナミ、相変わらずお人形みたいに可愛いね」

 

「ありがとう、ジョナサン」

 

彼女も英語でちゃんと返したことに彼らは驚く。

 

「アメリカで長くいることになりそうだったからエミリアとか色んな人から英語を必死で勉強したの、イシカワも一緒よっ」

 

 

 

「へえ。けど短期間でここまでやるとは流石だな」

 

「マナは天才だからっ」

 

その後、基地内に入り竜斗とエミリアもジェイド達と合流を果たして、他のブラック・インパルス隊員共互いに戦友として堅い握手を交わす。

「少佐達、お久しぶりです」

 

「助けに来てくれて本当にありがとうございます」

 

「連合軍上層部から出撃許可がなかなか降りなくてな、すぐに駆けつけられなくてすまなかった」

 

「にしても君達の機体は凄く変わったな、見違えたよ。

それにマナミ君から聞いたが彼女から英語を勉強したんだってな、素晴らしいよ。そしてエミリア君も」

 

三人は照れる。その時、彼らの元にあのジャックとメリーがやってくる。

 

「オゥ、ユー達が例のゲッターチームネ、三人ともこんなティーンヤングマン、ガールズで驚きましたっ。

おっと自己紹介ネ、ミーはジャック。キング博士の息子デス」

 

相変わらずのインチキ臭い日本語を喋ると竜斗と愛美はクスっと笑う中、エミリアはなぜか唖然となっていた。

 

「けど日本語お上手ですね、どうして――」

 

「あたし達、君達と同じ歳ぐらいに日本へ長い間留学してたからね。

私はメリー、妹よ。これからよろしくね」

 

ちゃんとした日本語を話すメリーに竜斗達が「オオッ」となる。するとエミリアはワナワナ震えながらこう言う。

 

 

「……ジャックさんの喋り方……ど、どうしたらそんな覚え方をするの……アタシでさえそんな喋り方にならなかったのに……」

 

彼女は、同じく日本語が使える外国人として理解出来なかった。

 

 

「兄さんは本当はマトモな日本語を喋れるんだけどこんな喋り方を気に入ってるのよ。もうやめてよ、そんな変な喋り方っ」

 

「外国人が覚えたての日本語を使おうとするとこうなる見本なのさ」

 

……と、ここでマトモな日本語を喋り三人はさらに「オオッ」と驚く。

 

「オゥシットゥ、今のは聞かなかったことにしてネ」

 

「兄さん、間違いなく全アメリカ人が勘違いされるからやめてよ」

 

まるで漫才のようなやり取りをする兄妹に、彼らは疲れを忘れてゲラゲラ笑っていた――。

 

 

 

……一方で作戦失敗に終わったアラスカ、ジャテーゴ率いる第三恐竜大隊では――。

 

 

「おのれ……まさか地中のミサイルまで破壊するとは……」

 

さすがの予想外の事態に動揺、そして並々ならぬ怒りが込み上がるジャテーゴは両拳を握りしめて苛立ちからか震えている。ラセツ達含むその場の全員がそれを感じとり誰も助言などできない。

 

「……三中隊共失ったか――もう許さぬ。何としてでも奴らを首を取ると私は誓おうぞ、それを私が正式に王座に着いた時の勝利の美酒の肴にしてくれるっ」

 

ジャテーゴから凄まじくそしてどす黒い執念がにじみ出ていた。

 

「して、これからどうしましょうか?」

 

ラセツの問いに彼女は一息つき、こう告げる。

「長い間、様子見と守備的にこんな極寒なアラスカに留まってたがいつまでいても仕方がない。そろそろ攻撃態勢に入ろうと思う――」

 

「つまりそれは……」

 

「アラスカから南下してドラグーン・タートルで敵本拠地そのものを叩きにいく。大隊の全戦力を結集してな――」

 

これを聞いて全員の気が引き締まる。

 

「恐らくアメリカ本土で史上最大の決戦と化すだろう。今の内に兵力を蓄えておけ、いいな」

 

「御意!」

 

「我々、爬虫人類は主神ゼオ=ランディーグの加護を受けている、そして神は我々にこう告げた。

 

『お前達爬虫人類はいずれ宇宙の覇者となるべく、大いなる創造主たる我に選ばれた唯一無二の種族だ。

民を愛し、脅かす敵と戦い殺し、そして進化しろ』と――私達は何も恐れることはないっ!」

 

“ロジェグリエンヌヴ、ナミュルシ、シュオノレゥル!(我ら死にゆく者、爬虫人類の繁栄のために!)”

 

部下達の、祈りの言葉が辺りに響き渡った。

 

「ヤシャ、ラセツ。お前達もその際は前線で指揮を取り戦え。決して容赦はするな」

 

「分かっておりますジャテーゴ様」

 

「我らジャテーゴ様のためとあらばっ」

 

「フフフ、頼りにしてるぞ。

さて、これより始まるか、史上最大の生き地獄が――」

 

彼女のその不敵な笑みはもはや歪みを感じる。果たして――。

 



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第三十二話「オペレーション・ダォイルシエ」⑦

次の日。各人の休息という言葉はない如く、エリア51における戦いの修復活動が行われた。

 

地上に転がるメカザウルスの処理、瓦礫の片付け、基地内の修理……特にメカザウルスの処理については時間が経つこどに屍肉からの醜態極まる異臭が、辺りに陰険な空気が充満しており、さらに原型を留める個体も内部にガスが溜まり 少しの衝撃で爆発して内部の腐った血やかすかに残った内臓が吹き出して機体にかかり洗浄、消毒も大変であったが各人は文句言わずに黙々とやり続ける――。

 

ボロボロになったルイナス以外の二機でも機体が無事だからと作業も行われたが、一番可哀想だったのは何を隠そう愛美である。

仕事とは言え、メカザウルスの残骸を片付けに駆り出された時の彼女は阿鼻叫喚だったのは言うまでもないが、今動ける残り少ない機体で早く片付けを終わらせるために彼女に喝や励ましを与えて何とか涙目になりながらもやっていた。

竜斗はそんな彼女に対し仕方ないといえ、同情を禁じ得なかった――。

一方で機体がないために外の仕事ができないエミリアは基地内の調理場で各スタッフと共に調理服に着替えて必死に昼の炊き出しを作っている。

 

(今のアタシにはこれしかできないからね、少しでもみんなの疲れが取れるようにおいしく作らなきゃっ!)

 

その一心に真心を込めて料理していた。

 

その間、早乙女とマリア他の作業員達とシールドが破られて被弾したベルクラスの点検と修理を行っていた。

 

「島国の日本と違い、やはりアメリカの向こうの戦力は半端ないな。

現状のベルクラスでは対処しきれなくなってきている」

 

 

「ええ、このままでは間違いなく撃沈、もしくは前線において足手まといになりそうですね」

 

「同感だ。ゲッターロボの支援目的の艦なのに逆に支援されるなら本末転倒だな。

ベルクラスを改造、強化する必要があるな」

 

「改良するとすればどこを重点に置きますか?」

 

「まず博士達がいることだし炉心の改良、それによるシールドの強化とエネルギー効率の改善――」

 

「あと個人的に武装のバリエーションがなさすぎて空中戦に対応しきれてないのでいくつかの空対空火器を装備したほうが良いかと」

 

「そうだな、今回の戦闘でそれをよく思い知ったよ」

 

日本では母艦の立場もありながら第一線で頑張ってきたこのベルクラスも、ここでは役立たずになりえると二人は痛感した――。

 

一方でニールセンとキングは基地の格納庫に収納したボロボロのルイナスの修理を行っている。

 

「……ガーランドGだけ見事になくなってるな」

 

「奥の手を使ったんじゃろ。まあもう一つスペアがあるし先に機体全体の修理から始めるか」

――ぼちぼちと修理が始まり、率いる作業員達に指示を出していく二人。

 

「今回は何とか退けたが向こうもおそらく黙っちゃいないだろう、次はもしや倍以上かもな」

 

「ああ、早く向こうに移動してあれの完成を早めなければな。それに連合軍の奴らも待ちくたびれているだろうし――」

 

……しばらくして、早乙女が二人の元にやってきて横に並び、下から修理を受けているルイナスを見上げる。

 

「修理は順調ですか?」

 

「まあぼちぼちだな。お主は今何をしとおる?」

 

「ベルクラスの修理と点検をしてました、それで頼みがあるのですが――少し席を外してもらってもいいですか」

休憩室に移動し、紙コップにいれたブラックコーヒーを飲みながら早乙女がそう言うとニールセンは眉をひそめる。

 

「わしはボランティアをするような善人でない、次はさすがに金を取るぞ」

 

「そう言うだろうと思ってました。ただ今は資金もないので後払いで――」

 

「おい、ワシにツケをとるつもりか?そもそもお前は日本を追い出されたくせに戦争が終わったらどうするつもりだ?自衛隊に戻れるのか?」

 

「さあ?もしかしたら懲戒免職になっていることもあり得ます。

まあどんなことをしても払いますよ、借金もしくは犯罪に手を染めてでも。なんなら私の内臓をどこかに売り飛ばしても構わないですよ」

「…………」

 

「博士の要求する金額は法外ですからね。しかし私はあなたの弟子だから払わないわけはありません、ただその時は私の後を引き継いでゲッター線研究、それを生かして人類の発展に尽力するよう頼みますよ」

 

……互いに無言のまま見つめ合う二人。しかしその間に全くよそ者が入れないような威圧感があった。

 

「ニールセン、こいつ本気じゃぞ。いいのか?」

 

キングも宥めようとしているのか割り入ろうとする。

 

 

するとニールセンから深くため息をついた。

 

「……キサマは本当に食えない奴だ。

分かった、ワシが言うとは思えぬほどの良心的の超格安にしてやる。

では今度、ワシにどこかで外でメシおごってくれるだけでいい。たかだか一回の支払いごときでお前に死なれては色々困るからな」

 

「――それなら喜んで」

 

再び早乙女の勝利という形で交渉が終わる。

 

「ハハハ、さすがのお主もサオトメの前では形無しじゃのう」

 

「けっ…………」

 

キングに笑われて苦虫を噛み潰している。

 

「にしてもサオトメよ、おぬしは怖いものがないのか?仮にも師匠でかつアメリカをも恐れる世界最高の技術者だぞ?」

 

キングの問いに彼は何食わぬ顔でこう答える。

 

「怖いですよ。ただそれ以上に私の意思が勝つだけです」

「……呆れたヤツじゃ」

 

ニールセンでさえ打ち破れないこの頑丈な仮面を被る早乙女にキングも少しばかりぞわっと寒気が襲う。

それからは話が逸れて関係のない雑談をする三人。話に夢中になり過ぎて、携帯する彼のスマホにルイナスを修理するスタッフから「いつ戻ってこられますか?」と電話が来たので、

「お前らに任せるから後はやっといてくれ」

 

無責任にもたったそれだけ伝えて切り、再び雑談に戻ったのだった――しばらくするとニールセンがサオトメにこんなコトを尋ねる。

 

「なあサオトメよ、前々から思ってたがお主のご両親は元気か、今どこで何をしておられる?

 

「えっ……私には両親はいませんが?」

 

「どういうことだ?」

 

「私は物心着く前に孤児施設にいましたから親の顔など知りません、迎えにくるようなこともありませんでした」

 

「…………」

 

いつの間にか、三人の顔から楽しそうな雰囲気はなくなり重くなっていた。

「友達は?」

 

「いませんでした。むしろ周りが何故か私を避けているような感じでしたね、まあ自分は気にとがめませんでしたが」

 

「そうか――」

 

「あと周りから監視されているような妙な視線を感じることがありました」

 

「どうして自衛隊に入ろうと思った?」

 

すると早乙女は腕組みをして珍しく頭を悩ませている。

 

「それが気づいた時には入っていたっていうか……一流大学に入って結構名を馳せていた時に向こうから勧誘されたような感じですね確か。

君なら稼げるからとか研究の場を提供する、好きなだけやればいいとかいろいろと都合のいいことばかり言われてしつこく、強引的に丸め込まれましてね。

 

 

しかし自身も軍事に興味あったし確かにそれならと――これだけに限らず何に関してもトントン拍子に話が進みましたね」

 

 

早乙女の過去について色々問いただしていくニールセン、そして平然と答える早乙女。

 

「最後に聞くぞ、いまさらながら親に会いたいと思うか?」

 

「…………」

 

その問いに黙り込む早乙女。今の彼の頭の中に考え、そして葛藤が入り混じりどれほど複雑になっているのだろうか……。

 

「……まあ見てみたい気もあります。せっかく私を生んでくれたんですし――」

 

それを聞いてニールセンは一息つくと立ち上がる。

 

「ついてこい、お前に見せたいものがある――キングも来るか」

 

「いいのか?」

 

「かまわんよ」

 

三人は施設内にある遺伝子工学エリアへ入り、資料室に入る。

室内を埋め尽くすほどの数の棚に並べられた新しく、そして色褪せた古いファイルに挟まれた書類には一体どんなことが書かれているのだろうか。

 

ニールセンがとある列の棚を見て回り、とあるファイルの前に足を止めると指で示して早乙女に取らせる。

渡されてペラペラ捲ると早乙女にそのページの書類を見せる。

 

「……『ニールセン・プロジェクトに関する重要機密書』……これは?」

 

「最後まで読め、お前なら理解できるはずだ」

 

『ニールセン・プロジェクト』……本人すら聞いたこともない計画名だが彼と同じ名が冠されているのはどういうことか……日付を見ると約四十五年前の計画書のようである。

その計画書に記された英文を読んでいく早乙女――全てを読み終わるとパタンと締めた。

 

「……理解できたか?」

 

「ええ」

 

「では、大体察しがつくはずだな」

 

「もしかしてまさかあなたが私の……」

 

「お前はワシの遺伝子と血を受け継ぐニールセン・プロジェクトの産物の一つなのじゃ――」

 

……四十五年前、彼、ニールセンは若い頃からすでに世界に類を見ないほどの天才で名を轟かせた技術者だった。

各先進国でも、人類の科学の発展のために彼のような天才的な人間を創り出そうと、とある計画が提唱された。

 

それが『ニールセン・プロジェクト』である。

その方法とはニールセンの精子バンクを使い各国の女性の卵子を使い体外受精させると言うもので、各先進国で実験が行われた――つまりニールセンのような最優秀な人間を世界各国で人工的に作り出そうとしたのがこの『ニールセン・プロジェクト』である。

それが日本でも行われ、その課程で誕生したのが彼、早乙女だと言うのだ。

 

「……しかしその頃はまだそういう技術があまり進歩しておらず、実験で生み出された子の殆どは長く生きられなかった上、倫理的問題からすぐに頓挫し全ては闇に葬られた。

ワシもただ精子を提供しただけで深く関わっておらんかったからどんな子が生まれたかも分からんかった。

しかし後に分かったのだ、日本という島国でそれが成功し、そして順調に成長しているワシの血を分けた子がのう」

「それが――私だと?」

 

「そうじゃ。言わばお前はワシと日本人の混血児ということになる、つまりお前の父親は事実上ワシだ」

 

「…………」

 

確かに彼の顔は日本人にはない部分、雰囲気を持ち合わせている。

昔からハーフと間違えられたこともあったが……その理由、そして今まで謎と感じていた真実を、彼は今知った。

 

「ショックを受けるかもしれんが、聞いた話によるとお前の母親にあたる女性はのう、お前を育てたくないと言って施設に入れたそうじゃ――その理由は、そうやって出来たお前を育てるという重大な責任に耐えきれなかったのと、なにより気味悪かってな……」

「…………」

 

「お前が監視されていたといっていたのも、自衛隊に無理矢理勧誘されたのも、お前がこれまで全てとんとん拍子に事が進んだのも……おそらく政府がこの事を知っていたからだろう、親なしである都合のいいお前を手中においておくためにな――」

 

「……ではあなたと出会って弟子になったのも……」

 

「偶然など、どこにもなかったということだよ。

全てそうなるように仕組まれ、進まされてきたと言うことだ――」

 

彼はようやく掴めたその事実に対し、動揺しているように見える。現に顔がヒドく強張って身震いしている。

 

「――これがお前の真実だ。いずれお前も知らなければならないことだからな。だが、さすがのお前もショックか……」

――しかし。

 

「――かと思いました?」

 

ショックを受けているように思えた早乙女は突然、フッといつものような能面のような態度を取る。

 

「サオトメ……お前」

 

「私は『普通』はゴメンですからね。むしろ好都合ではありませんか」

 

と、平然とそう言い切る早乙女。

 

「あなたの血と細胞を持つ……これでやっと分かりました。

なぜあなたと開発思想など、所々似ているのか、そして私の出生と過去の謎が」

 

「ではお前はそれを受け入れると言うのか」

 

「受け入れないわけがないでしょう。なぜならあなたのおかげで今の私がいるのですから。

最高ではありませんか、こんな素晴らしい頭脳を自ら貰えたなんて――」

 

「…………」

 

「普通に生まれ育ったのなら間違いなく博士に会うこともなかったし、そしてゲッター線を発見しゲッターロボを開発することもなかった。

私はメカザウルスに怯えて逃げ回って、そして命を落とす一般人の一人だったかもしれませんね」

 

むしろ嬉々である彼にショックを受けるのかと思っていた二人は唖然となった。

 

「ではワシを父として受け入れることはできるのか?」

 

「これに関しては私達はこれまで通り師弟関係でいいです。水臭いですし……何より赤の他人同士の方が後々都合がいいでしょう」

 

「……そうじゃのう、ワシもその方がしっくりくるな」

 

「もしかして二人とも、私がショックを受けると思いました?」

 

二人はコクっと頷く。寧ろ、そんな重大な事実を知りそうやって簡単に、そして嬉しそうに受け入れるのは古今東西見ても早乙女だけである。

 

「……しかしこれだけは言わせてもらいます。どんな出生だろうが私は私です――さて、そろそろ私はベルクラスに戻ります」

 

きっぱりとそう告げると彼はそこから出て行こうとする。

 

「サオトメ、もう一度聞くが、お前はこの戦争が終わったらどうするんじゃ?

ワシも歳でこの先短い、お前がもしよければ後を継いでもらいたいとも思ってるんだが」

彼の足は止まる。すると振り向きこう答えた。

 

「さっきも言いましたが私は私です。自分の思う通りの道に進みます――」

 

「ではなにを――」

 

「あの子達、竜斗達ゲッターチームも大雪山での戦闘で三人とも親なしになりましてね。

それからですかね、私に父性というものが芽生えまして――」

 

「ということはお前は……」

 

「あの子達だけの父親になれたらいいなと思ってますので。では――」

 

そう告げ、出て行く早乙女。その後ニールセンは深くため息をつく。

 

「お前はこれでよかったのか」

 

「ああ、寧ろこれで吹っ切れたよ、しかしあやつは実際はどう感じているやらな」

 

「強がりと言うか。しかしまあ、だれにもサオトメを止められないな」

 

「ああ、実際にワシでさえ敵にまわしたくないヤツよ――あやつだけはな」

 

少しばかり二人から笑い声を溢れた後、仕事に戻ろうとその場から去っていった――。

 



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第三十三話「連合軍」①

……それから約二週間後。

片付け、修理、大体の作業を終わらせ、ここからはニールセンとキングを連れてベルクラスはテキサス州へ移動することになった。

今度は早乙女がニールセンの約束を果たすために、そして連合軍と合流するためである。

 

「短い間でしたが、ありがとうございます」

 

「いえいえ、と言っても何もしてやれませんでしたがこれからの幸運を祈っております」

 

所長のメリオに挨拶し、ベルクラスはここから飛び立っていく――竜斗とエミリアの二人は休憩フロアに設置された外部の下方モニターを見ながらしみじみと感傷に浸っている。

 

「数ヶ月間、あっと言う間だったね」

「うん。新しいゲッターロボを乗りこなしたり、物凄い数のメカザウルスの襲来があったり色々大変だったけど離れるのが寂しいね」

 

二人共、再びメカザウルスから襲われないことを祈っていた。

 

「あれ、水樹は?」

 

「気分が悪いからって、部屋で寝込んでるよ」

 

おそらくはメカザウルスの片付け、処理に関係しているだろう、竜斗はすでに分かっていた。

 

「……しょうがないよ。人員不足で仕方ないとはいえあんな汚れ仕事をやらされたんだから。

俺も作業中気持ち悪くなったし、いや一緒に作業した人たちも同じだったと思うよ」

 

「ミズキは爬虫類が苦手なのによく頑張ったと思うよ。下手したらトラウマになりかねないよね……アタシだけ無事な所にいてなんか申し訳ないよ……」

「お前のは機体を動かせる状態じゃなかったんだから仕方ないって。寧ろちゃんと役立とうと仕事見つけたのは素晴らしいことだろ」

 

「うん……あんな大量にごはん作るのは初めてだったから、洗い物とかで筋肉痛になったよ――」

 

二人は同時に疲れからのため息をついた。

 

「さて――」

 

早乙女とマリア、そしてニールセンとキングの四人は艦橋にてこれからのことを話し合っていた。

 

「次はお前の番じゃぞサオトメ」

 

「ええっ、分かっております。しかし私の約束があることも忘れないで下さいね」

 

「分かっとるわい、嫌みたらしいヤツめ……」

あの一件で二人の関係がはっきりしたのにも関わらず相変わらずの態度で接する早乙女とニールセン。

 

「博士、連合軍とは現在どこの国が集まっているのでしょうか?」

 

「アメリカ軍に加えて、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアのEU勢の連合軍だ。

もしかしたらマリア君の知り合いがいるかも知れないぞ」

 

「まあ一癖二癖ある連中ばかりじゃが仲良くやってくれ」

 

「…………」

 

マリアは何故か黙り込んでしまう。

 

「どうしたマリア?」

 

「いや……あの子達が無事に彼らと上手くやっていけるかどうか……三人とも正規の軍人じゃないです、一応ただの高校生ですからね」

「まあ、三人とも華奢で且つ社会を知らないような甘い顔だからのう……間違いなくナメられるか突っかかるヤツはいるだろうな。

だが大丈夫じゃろう、ジェイド達もいるし向こうもれっきとした大人だからな」

 

「それなら安心なんですが」

 

それでもまだ心配するマリアに早乙女は彼女の肩に手を置く。

 

「信じようじゃないか、あの子達を。それに何かあればそれを守ってやるのも私達だ」

 

「司令……」

 

「さて、もう到着するか。全員降りて顔見せするぞい」

 

「着陸場所は?」

 

「すでに向こうと連絡して受け入れ態勢に入っておるから心配するな」

「さすが博士、用意周到ですね」

 

「当たり前だ」

 

「まあこいつは遅漏だがな」

 

「黙れ早漏っ」

 

キングとニールセンでいがみ合っているその横で辟易するマリアと相変わらず忽然としている早乙女だった……。

 

アメリカ南中部に位置するテキサス州、メキシコ湾沿いにあるガルベストン付近に近づくと、アメリカに到着した時のように数機の戦闘機形態と化したマウラーが出向き案内をしてくれる。

 

ついていった場所には沿岸近くの場所に、連合軍の基地と思われるエリア51以上の広さを持つ巨大なポートのある軍事施設へ到着する。

 

そこの専用ポートにベルクラスをゆっくりと着陸させると施設から迎えの車両が数台向かってくる。

 

「では、全員降りるかのう――」

 

部屋で寝込む愛美以外の全員は合流し、艦から地上に降りると車両から護衛の隊員達と基地の所長と思われる正装の軍服を着た男性が彼らの元に現れる。

 

「あなた方が例のサオトメ一佐率いるゲッターチームですね、お待ちしておりました。

ようこそ遠い日本から遥々と、私はこの基地を任されているリンクと申します」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

早乙女のみならず全員が彼に握手を交わす。

 

「おや、ゲッターチームは三人いると聞きましたが?」

 

「もう一人の子は、気分が優れないので自室で休ませてます」

「そうですか。ニールセン博士にキング博士、お久しぶりです。最近ネバダのエリア51で大量のメカザウルスから強襲にあったそうで――」

 

「ああっおかげで酷い目にあったがな。わしらの留守中に何かあったか?」

 

「いえ特には。ここではなんです、続きは施設内へ」

 

そして彼らは車両に乗り込んで施設内に向かう。海沿いに近いのか微かな潮の匂いがする。

そして渓谷などに囲まれて悪条件な場所にあったエリア51と比べてかなり平地でオープンな場所にあるため爽やかな開放感があり雰囲気が正反対だ。

 

周りには補給倉庫や武器庫、整備工場、SMBや車両の格納庫様々な施設が設置されており、そして数多くの隊員や軍事車両が行き交うこの地帯は、竜斗達にとって朝霞以上の広さを持つ駐屯地と思えた。

 

そしてしばらく行くと再びエリア51のような地下施設内への入口がありそこに各車両が入っていく。

十メートル、五十メートル、百メートルいや千メートル以上の遥か地下へ降りていくとやって車両の駐車場に到着し各車両をぴったりと止めると全員が降り合流する。

 

「では、ついてきて下さい。一佐達は初のお見せになるものがあります」

 

リンクの後ろについていく。狭く、そして入り組んだ通路を通っていくとそこには……。

 

「うわああっ……」

 

竜斗とエミリアは思わず驚きの声を上げる。

目の前に広がる光景はまるで地下に都市があるのかと思うほどの広大な空間に、そしてベルクラスの二倍、三倍、いやそれ以上の巨大な戦艦が存在している。左右の先が見えないほどの奥行きがあり、その戦艦もその先へ伸びていっている。

「まだ出来上がっておらんが、これが我々連合軍の母艦となる『テキサス級空陸運用戦闘母艦』だ。

動力はステルヴァー同様にプラズマエネルギー、グラストラ核エネルギーのハイブリッド駆動を採用しておる」

 

早乙女とマリアも初対面によるあまりの凄さに唖然となっている。

 

「アラスカの敵基地『タートル』の対決戦兵器でもある。どうじゃ?」

 

「……やはり私はあなたには敵いませんね」

 

「そうじゃろう。では今日はゆっくり休んで明日から本格的に取りかかろうか。完成間近だし」

 

「ええ、しかし私がこの巨大戦艦の開発に携わることに役立つでしょうか?」

「勉強がてら手伝えってんのだ。

それにベルクラスという艦を開発する技術と経験を持つお前を高く買ってんだワシは」

 

「まあやれるだけやりましょう」

 

「うむ、それでええ――」

 

次に地下施設の案内がてら、今度は離れた区域にある各国のSMBのある各ドッグを訪れる。

 

そこにはマウラー、ステルヴァー以外にも各国の個性的なデザインや武装をした見たことのない機体も発見する。

 

「スゴい……初めて見る機体ばかりだ……」

 

騎士のような銀色の甲冑を着込んだようなフォルムの機体、胴体の細いステルヴァー以上に鋭角的なフォルムを持つ機体、厚い装甲と重火器、肩から突き出た長い砲身からは砲撃主体と思わせる重装備の機体……どれもこれも各国の特徴がよく現れている――。

マウラー、ステルヴァーが立ち並ぶその広いアメリカ軍専用の格納庫へ向かうと各パイロットやブラック・インパルス隊員達がそこで集まっている。

 

「おっ、ゲッターチームっ!」

 

ジョナサンが彼らを発見してすぐに駆けつける。

 

「大尉か、少佐達は?」

 

「仕事があるので今は別々です。俺達は指示があるまで今は待機中なんです」

 

「そうか。またこの子達と一緒に戦うことになる、よろしく頼む」

 

「こちらこそ……あれ、マナミは?」

 

 

事情を話すと彼は「オゥ」と悲しみ混じりの声を上げた。

 

「後で俺も艦に来てもいいですか?マナミに会いたいので」

「かまわんよ、君なら彼女も喜ぶだろうし」

 

「ありがとうございます」

 

「――しても大尉、彼女がホント好きなんだな」

 

「ええ、未来の嫁さんですから。ではまた後で!」

 

そう言い切るとその場にいる全員が呆れてたような顔だ。彼は笑みを返して再び仲間の元へ戻っていった――。

 

「ああやって言い切れる大胆な大尉はやっぱりスゴいなあ……俺はとてもじゃないけど言えないよ」

 

自分にない要素を持つ彼に竜斗は憧れるように見つめている。

 

「大尉は大尉、リュウトはリュウトなんだから気にしないの。アタシはそんなリュウトが大好きなんだから」

 

と、エミリアはフォローを入れると彼は照れた。

 

「ジョナサン大尉は明るくていいですね」

 

「ええ。腕もいいしアメリカ軍のムードメーカー的な存在ですからね彼は」

 

リンクからも彼に対する評価はなかなか良いようだ。

 

「じゃが、女好きでそれで色々と問題を起こしているのがタマにキズだがな」

 

「あと無鉄砲で自信過剰なのもな」

 

ニールセンとキングの二人が余計な事を口走りリンクはゴホンと咳き込んだ――。

 

その後案内が続く。その道中、各国軍の隊員ともすれ違うも何故か変な目で竜斗達をジロジロ見てくる。当然、それを感じとる竜斗達。

「……やっぱり俺達見られてるね」

 

「うん。アタシ達がゲッターロボのパイロットと知ったらなんて思うかしら……」

 

北海道の時のように、初対面時の米兵のような視線を再び経験する二人はこの先どうなるのか少し不安であった。

 

 

――変な視線。しかしそれは北海道の時とは違っている。

それは何か卑屈そうな、見下しているようにも感じる寒い視線だ。

多分、僕達はそんな人たちに混じって行動することになると思うけど、果たして僕達三人、甘ちゃんの高校生達が彼らと関わり何の問題もなしにやっていけるのか――。

 

「マナミっ」

 

「ジョナサン……」

その夜、自由時間を使い彼は私服で愛美の部屋に訪れると、彼女はベッドから寝たまま迎えていた。

 

「大丈夫かい?」

 

「ええ……何とか……けどもうあんな作業はゴメンよ……夢にも出てきてキツい……」

 

「かわいそうなマナミ、俺がどうにかして苦しみから解き放ってあげたいのに……」

 

クサい台詞を言う彼に彼女はクスッと笑う。

 

「ジョナサン、ならマナを抱きしめてよ……」

 

彼はベッドに座りこみ彼女を抱きかかえる。

 

「それでいいのか?」

 

「うん、ありがとう。凄く安心する」

 

二人は熱く密着したまま話をする――。

「君の部屋は凄くキュートだ。ホントに女の子って感じがする」

 

「それ誉め言葉?」

 

「ああっ。俺達の住まいは無機質でムサクサいからさ、凄く新鮮味を感じるよ」

 

「ここは軍隊だもんね。確かにマナの部屋は異質に感じるし日本のモノばかりだし――」

 

「……マナミ、また君達と一緒に戦うことになる。よろしくな」

 

「マナからもよろしくね、あの二人もね」

 

「ああっ、ジェイドとジョージも喜んでたし、あと他の仲間もたくさんいるから俺達ならきっと上手くやっていけるよっ――」

 

会話が弾み、時間が足りなくなるくらいに過ぎていく――ジョナサンもそろそろ基地に戻らなければならなくなり時計を見てあっと驚く。

 

 

「俺、もう各隊の点呼だから帰るわ」

 

「うん……また明日元気だったらまた会いにいくわ」

 

「ああっ、だけど無理すんなよ」

 

――すると、

 

「ジョナサン、最後に熱いキスしてよっ」

 

「いいのなら喜んで――」

 

二人は互いに強く包容し甘くとろけるくらいの、見ていて恥ずかしくなるくらいの深い口づけをする――。

 

「じゃあまたな」

 

「うん、おやすみ……」

 

彼は手を振り部屋から出ていった。

 

「……次はエッチできそうね、楽しみだわ、フフ……」

 

彼女は顔を真っ赤にしてうっとりしていた。

 

(もしかして次は……?)

 

ジョナサンも左の親指、人差し指で輪を作り、右の人差し指でその輪の中を通すと段々と意気揚々になりしまいには「イエーイっ!」と大声を張り上げた。

 

「た、大尉……?」

 

ちょうどそこに居合わたエミリアがそれを見ており唖然となっていた。

するとジョナサンはルンルンで彼女に近づき、頬に軽く口づけをして、

 

「グッナイ♪」

 

と言い去っていった。

 

「…………」

 

彼女はキスされた頬を押さえて呆然していた……。

 



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第三十三話「連合軍」②

次の日。作業服姿の早乙女とマリアは基地で働く、これから世話になるであろう各国エンジニア達に挨拶を交わす。

 

「よろしくお願いします。サオトメと助手のマリアです」

 

「こちらこそっ、ニールセン博士の弟子と言うことで期待してますよ」

 

「お役に立てるかどうかわかりませんが」

 

連合軍だけあってアメリカ人だけでなく、イギリス人やドイツ人、フランス人などの欧州人のエンジニアも沢山いる。

 

「おや、マリア君じゃないかっ?」

 

一人のイギリス人技術者がマリアに声を掛けると彼女を誰なのかがすぐに分かる

 

「オーリック技官ではありませんか、お久しぶりですっ!」

 

「まさかとは思ったが、やはり君だったか」

 

互いに嬉しそうに握手をする。

 

「この方は私のイギリス軍時代の上官だった人です」

 

「そうだったのか。よろしくお願いします、日本から来た早乙女です」

 

「こちらこそ。突然と除隊して一人日本へ飛んだマリア君が心配でならなかったのですが元気そうでよかった。どうですか、マリア君は役立ってますか?」

 

「それどころか彼女なしではとてもじゃなくやりくり出来ませんでしたよ。

本当に彼女の力は私にとって必要不可欠です」

 

「それは嬉しい限りです――これからも彼女をよろしくお願いしますよ」

 

――自己紹介を切り上げて、解散させる。

そして各作業に移るためにキングと別れてニールセンに連れられていく二人――目の前にあるその巨大戦艦を壮観する。

 

「いまさらながら、テキサス州の端の地下にこんな巨大戦艦を建造していたなんて……」

 

「ホッホッホ、タートルに唯一対抗できるように我々の技術の粋を集めた艦じゃからな。

海に近いから冷却水として活用できるし、何よりここは目立たないから極秘にしやすい利点があるからな」

 

「博士達アングロサクソン系は本当にこういうスケールの大きいモノを作りたがりますね」

 

「そういうお前もワシと同じ血を持つのだから共感できるものを持つハズだ」

 

「…………」

 

黙り込む早乙女に、なにも知らないマリアは不思議がる。

 

「司令、同じ血とは?」

 

「……私達は唯一の師弟として思想が共通している暗喩だよ」

 

「なるほど……」

 

と適当にごまかす早乙女だった――。

 

「博士、私達はこんな巨大戦艦の何を担当すればよろしいのですか?」

 

「この艦の建造はほとんど終わっていてな。

マリア君もいることだし二人には艦の各システム系統の設定作業、補備をお願いしたい。

当然技術的な訓練勉強も兼ねてワシ達が呼んだりするからすぐにこちらへ来てくれ、色んなレッスンしてやるから」

「了解です」

 

「まあ気楽にやれ、楽しくやらなければ何事も上手くいかんからな。

ここの皆には『来るもの決して拒まず』をたたき込んでおるから何か分からないことがあれば積極的に聞いてくれ、親身になって教えてくれるじゃろう――」

 

その頃、自衛隊の正装に着替えた竜斗とエミリア、そして復活した愛美はジェイド達と共に、これから一緒に共同作戦を取ることになる連合軍のパイロットと顔合わせのために彼らの集まる広場へ向かった。

 

三人はとても緊張している、なぜならこんな自分達を受け入れてくれるかどうかの心配だ。

 

「……少佐、あの」

 

エミリアがジョージにボソッと訪ねる。

「どうした?」

 

「連合軍のパイロットってどういう人達なんですか?」

 

「まあ、良いも悪くも個性的な軍人だよ」

 

そう答えるジョージ。

 

「エミリア、怖いの?」

愛美が気をかけると彼女はコクッと頷く。

 

「うん、だって昨日変な目で見られてたし」

 

「そんな弱腰じゃもっとナメられるわよ、マナみたいに胸張りなさいよ」

 

「うん…………」

 

見る限りでは肝が座っている愛美だが……。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。それに俺達もいるしいくらかは安心だろ」

 

と軽くそう言うジョナサン。その余所でジェイドは竜斗に声を掛ける。

「なあ竜斗君」

 

「はい、どうしましたか?」

 

「サオトメ一佐から許可が取れたらでいいが、新しいゲッターロボに乗って再度飛行テストしてくれないか?」

 

「いいですけど、どうしました?」

 

「気になることがあってね――まあその時になってからだ」

 

「?」

 

そう頼まれる彼は一体何の意味なのか分からず頭を傾げる。

 

「さて、そろそろ彼らと対面だ」

 

彼らの向かった先は会議などが行われる多目的フロア。

そこには多くの人種、男女の混ざる、彼ら連合軍のSMBパイロット達がずらずら立ち並んでいる。

 

全員が入り口へ振り向き互いに顔を合わせる。

 

 

「各員聞いてくれ、彼らが日本から我々に協力するために来てくれたゲッターロボのパイロット達、ゲッターチームだ。

来て分からないことだらけだからよく接してやってくれ」

ジェイドが声を張り上げて彼らを紹介してくれる。

 

――僕達は今、おそらくただの高校生では絶対に成し得ないことに直面している。

これから世界中から集められたよりすぐりのパイロット達と共同作戦をとるのだ、はっきり言って不安以外何事もなかった。

エミリアやジョナサン大尉と同じ白人の多いEU連合勢はジェイド少佐と同じくらいな体格ばかりでそして僕らを見て、何のつもりかその癖のありそうな顔でヘラヘラ笑っているのが多い。

そして少なからず女性もいる。マリアさんのように白い肌でサラサラなショートカット髪、その紺碧眼は僕らを寒気を負わせるような冷たい眼で見据えている――僕が感じたことは彼らとはコトが上手く行かなさそうだ、と――。

 

「ジェイド、こんなケツの白い坊や達を連れてきて冗談がキツいぜ」

 

「怖くなったらママのミルク飲みに行けよ~っ!」

 

周囲に男性隊員達の嘲り笑う声が響く――自分達はナメられていると三人はすぐに実感する。

 

「確かに私達のような正規で入った軍人ではないが操縦の腕は確かだ、現にこれまで激戦地に赴き、見事に勝ち生き抜いている」

 

「へぇ、信じられねえけどな――」

 

 

 

「だがSMBの操縦ができても各人生身での戦闘はどうなんだ?

こんなひ弱そうな身体で何かあった時に対処できんのかい?」

 

「彼らはそういう風に鍛えられてもなければ訓練もしていない。ゲッターロボのパイロット専属だ――それを分かってくれ」

 

それを聞いてまるで辟易するような表情を取る各人。まあ確かに自分達はちゃんと訓練を受けた生粋の軍人だからそう言うのは出来て当たり前、むしろ竜斗達は異例すぎるのだ。

 

「とりあえず互いに友好の握手だ」

 

互いにそれぞれ握手はすれど、あまり快くなさそうな態度ばかりである。その時、

 

「うわっ!」

ひとりの男性隊員が横を通った竜斗に故意に足を引っ掛けて前めりに倒れさせた。

 

「リュウトっ!」

 

ヘラヘラ笑っているばかりで謝りもしないその隊員にエミリアはムッとなってドカドカと入りこみ男性隊員に突っかかる。

 

「アタシ達が気に食わないならはっきり言ってくださいよ、そんな陰険なことして楽しいのかしらっ!?」

 

「なんだと……っ?」

 

――この場は緊迫した空気が漂う。二人怒のこもった真っ赤な顔で互いの主張を譲らない口論を始めた――。

 

「リュウトに謝りなさいよ、ほら今すぐに!

大人のくせにそんなことも出来ないのっ!?」

 

 

「このアマッ!!」

 

癪に障られたその男からの全力の右手を振り上げて殴りかかろうとした。

すると、ジョージがとっさに入り込み男性の手を掴み止める。

 

 

「ポーリー中尉、彼女に手を出して問題を起こすつもりか」

 

「ジョージ……てめえっ」

 

「さっきのは間違いなくお前の仕業だろ、彼に謝れ――」

 

凄い形相で睨むジョージから凄まじい威圧感を感じる。しかしポーリーは謝る素振りを見せるどころか彼の手を振り払い、この場から去っていった。

竜斗はゆっくり立ち上がり服の汚れを払っているとエミリアがすぐに駆けつける。

 

「大丈夫リュウト?」

 

「ありがとうエミリア。こんなの平気だよ。だけどあの人は……」

 

「ポーリー=ヒルズ中尉、イタリア軍所属のSMBパイロットだよ」

 

と、ジョージがそう答える。

 

「気をつけろ、アイツはカッとなるとすぐに手の出る男だ。危なかったなエミリア君」

 

「ありがとうございます少佐っ」

 

「ここにいる全員、慣れない者同士だがどうか互いを理解して仲良くなるようにな」

 

その後、各隊で解散し自由時間になると何だかんだで色んな人が竜斗達に会話を持ちかける――その中の一人が、頭のてっぺんはすでに枯れており、周りの黒髪薄くなっている中年男性。

しかし優顔でまるで父親のような雰囲気を持つドイツ軍所属のリーゲンだ。

 

「よろしく頼むゲッターチーム、私はリーゲン=ヘルマン。ドイツ軍所属のパイロットだ」

 

それを聞いて、ドイツ人の血を持っている彼女、エミリアは目を輝かせた。

 

「ワオっ、アタシのお父さんもドイツ人でフランクフルト出身なんです、あなたは?」

 

「おおホントか!私はミュンヘンだ、よろしくなっ」

 

ドイツ人の血を持つ同士で盛り上がる中、愛美は先ほどの女性隊員に声をかけられる。

 

「アナタかわいいわねっ♪」

 

「な、なによ……」

女同士なのに、まるで先ほどとは打ってかわりときめくような瞳で見つめるこの女性……。

 

「フフッ、私はフランス軍所属のルネ。日本の女の子ってこんな可愛いんだ……あとであたしの部屋に来てイイことしない?」

 

「ひいっ!」

 

色目じかけで詰め寄りなんと頬に何度もキスをしてくるルネに流石の愛美もドン引きし怯える。

 

「おい少尉、マナミはアンタの趣味に合わないんだ。それに先客がいるんだ!」

 

ジョナサンは自分に指差すとルネは「フン」とふてくされる。

 

「ジョナサン、まさかこのヒト……」

 

「まさにそう」

 

「さすがにマナはオンナとエッチしたくないわ……」

 

レズビアン……彼女がいわゆる同性愛者ということがわかり、更に震え上がる男好きの愛美。

 

「男よりあたしがいいことを教えてあげるわ、気が変わったら来てよねっ」

 

そう、堂々と言い告げた――。

 

「石川竜斗です、よろしくお願いします…………」

 

「……イギリス軍所属のアレン=フェルドだ、よろしく頼む」

 

竜斗と目の前に対面する、ジェイド以上でまるでプロレスラーのような筋肉隆々で剃り上げたブロンド短髪、そして見るものを震えさせるような強面の男性隊員に挨拶するが凄く無愛想で且つ口数が少なく会話が続かない――握手もするが手の大きさはかなり差があり彼、アレンから見ると竜斗が完全の子供にしか見えなかった。

しかし寡黙だが何となく優しそうな雰囲気を持つ人だ、と竜斗は感じていた。

 

―今日はとりあえず、各人の顔見せと交流で一日が終わった。

中には、あのポーリー中尉のようにやはり僕達に対して快く思わない人もいたが親切に接してくれる人がほとんどで僕らはそれで不安感がほとんどなくなった。

そして英語で話せる人達ばかりで助かったが、そもそも僕達が英語を喋れなかったら実際は交流は大変なことになってただろう――エミリアや他に英語を教えてくれた人達に本当に感謝した。

 

それにしても、僕に足を引っ掛けて、そしてエミリアにも手を出そうとしたあのポーリー中尉がどうも引っかかる。これから何かイヤなことが起こらなければいいんだが――。

 

 

その夜、三人はエミリアの部屋に集まり英語の勉強をしている最中、今日あったことについて話題になっていた。

「にして今日はいろいろあったね」

 

「不安だったけどほとんどの人達が優しくしてくれて楽しかったわ」

 

「マナ、ルネってフランス軍のレズの人からいきなりキスされて誘われたの……キモチワルイ」

 

愛美は分かりやすく本当に嫌な顔をしている。

 

「エミリアももしかしたら気をつけたほうがいいよ」

 

「うん……」

 

「イシカワ、アンタも気をつけたら?軍隊はゲイが多いってジョナサンから聞いたからあんたみたいな童顔のかわいい男は常に注意していないと掘られるかもよ?」

 

「…………」

 

「けど世界の人達ってホント十人十色ね、個性的な人達ばかり――」

 

「……けど、あのポーリーって人が凄く危なそうに感じる。キレると手が出るらしいし」

 

「確かにムカっときて対抗したけど……けど少佐が助けに入らなかったらアタシ、どうなってたことやら……っ」

 

エミリアは恐怖からか身震いしし、怯えているように見える。

 

「正論言われてカッとなって手を出す男はマジサイテー、マナはあんな性格の男とは付き合いたくないね絶対」

 

「……なんかあまり関わらない方がいいのかも。まあ、これからはあの人には気をつけような」

 

しかしポーリーに限らず他にも竜斗達に対してナメた、見下した態度を持つ隊員もいる、そんな彼らと分かり合えるかどうか分からないがそれでもここにいる以上は協力するしかない、例え気にくわない同士でも。

それが社会における人間の折り合いと言うものだ――。

 



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第三十三話「連合軍」③

――次の日の午前中。司令から許可をもらい、僕は昨日少佐の言っていた通りにアルヴァインの再度操縦テストした。

 

もう何回もやっているが少佐は一体何を見たいのか、それが分からない。

しかし、ここは各国の人達に僕達でもパイロットとして役立てることが少しでも理解してもらえればと、僕は張り切って操縦した――。

 

 

それをモニター越しで見る各パイロットはその独特の日本独特である『鬼』の姿と、ニールセン達によって極限にまで高められた高機動性を見せつけられて驚愕と歓喜の声が上がっていた――最も、含む快く思わない何人かは「ケッ」と吐き捨てているが。

 

「…………」

ジェイドは腕組みしながらこつ然とした態度で見ている。

 

何か模索しているような表情だ。するとそこにジョージがやってくる。

 

「流石は竜斗君だな。聞けばあの新しいゲッターロボは博士達が好き勝手に改造したらしいがちゃんと機体に追従してる」

 

「……いや、おかしい」

 

と、彼の称賛を払いのけるジェイド。

 

「どういうことだ?」

 

「エリア51での戦闘でも感じたが、ぎこちないし辛うじてついて行っている気がする」

 

「つまり――?」

 

「北海道の戦闘時に比べて操縦の腕が落ちているような気がするんだ」

 

「そうか?そういう風に見えないけどな」

 

「……俺は好きで長年飛行機乗りをしてきたから挙動を見ただけでも大体分かる。緊張もあるかもしれないが――」

 

と、冷静且つ客観的にそう答える。

 

「お前がそう言うなら確かかもしれないが、原因は?」

 

 

「俺が思うに彼自身の精神的な何かが関わってると思う」

 

「…………」

 

「まあ憶測に過ぎんがな。とりあえずこの後でこれまでに何があったか聞く必要がありそうだ――」

 

操縦テストが終わり、私服に着替えた竜斗はジェイドから「二人きりにしてほしい」と言われてついてきたエミリア、愛美と別れて二人は基地外にある滑走路外の端にある自販機付きの休憩所に行く。

 

「ここからだと飛行機の飛ぶ過程と姿がよく見れるんだよ、私のお気に入りの場所だ」

 

 

彼から紙コップに入った甘いコーヒーを奢ってもらい、渡されると笑顔で『センキュー』と答える。

 

ソファーに座る竜斗と、飛行機が飛んでいく光景を窓からずっと眺めているジェイド。

 

「少佐、どうでしたか僕の操縦――」

 

「それについて君に聞きたいことがある」

 

「え……?」

 

彼も買ったブラックコーヒーを啜る。

 

「正直に言おう。はっきりいって君の操縦の腕は日本の時と比べて落ちている」

 

その言葉は竜斗の心にまるで尖った太い杭が深く突き刺さったような衝撃と痛みが走った。

「……僕の腕が……落ちている……っ?」

 

「エリア51での戦闘時で君の乗るゲッターロボの様子を、闘いながら見ていてそう感じていた。

機体が強化されたことに対することもあるかもしれないが、それにしてもついていっているのがやっとにも感じるくらいにぎこちないし違和感を感じる。つまり日本の時みたいに見てて納得できないのはなぜだ?」

 

「……そ、それは……」

 

本人ですら気づかなかったのにその理由など分かるはずもなく彼は口ごもってしまう。

 

「私にはその原因について、竜斗君の精神面が大きく関わってるんじゃないかと思うんだが?」

 

「…………」

 

「思い出させて悪いがあの北海道で敵基地内での悲劇を引きずっているのかもしれないし、もしかしたら別の原因があるのかもしれない――そこで君に聞きたい、北海道の戦闘から今に至るまでに何か心に残る出来事があったか?」

 

 

 

しかしそう言われると彼には色々と思い当たる節が沢山あるのである。

確かに北海道で両親や友達をいっぺんに失ったこと、そしてここへ来てから爬虫人類の少女、ゴーラと接触したこと、エミリアとの関係――そして彼にとって一番の疑惑が、アルヴァインになってから乗り込むと自分に不可解な現象が起き続け、ゲッターロボという存在が信じられなくなってきていることだ。

ジェイドに自分に解ることを正直に告げる。

 

「……色々あったんだな、君は」

 

数々の出来事を聞いて驚いている。

 

「恐らくそれらによる精神的な負荷もあるが、ゲッターロボを疑っていることが最大の原因かもな。飛行機乗りでもそれで本人の操縦に大きく現れるからな」

「…………」

 

「にしてもゲッターロボからそんな不可解な現象が起きるとは到底信じられないが、君が嘘ついているとも思えないし。

だが、ゲッターロボに乗っていてそんな現象が起きるなら、確かに疑う気持ちが芽生えるのはわかる」

 

「ゲッター線が僕達人類に進化を促したとも聞きましたが……もう一体何なのか、不気味としか思えません」

 

ゲッターロボに秘める謎の現象と力……二人は共通して頭を悩ませる。

 

「少佐、腕が落ちているなら僕は一体これからどうなるんですか……?」

 

「……機体には一応ついていってるが腕が落ちているということは単純に、それだけ戦場での生存率が下がると言うことだ。

今まではなんとか生き残ってこれたが、これからはどうなるか分からん。

それに仲間達の足を引っ張り迷惑をかけることにも繋がり敗北につながる原因にもなる」

 

「そんな……っ」

 

いきなり身も蓋もないことを言われて、絶望に味わう竜斗だった。

 

「……ではどうすればいいんでしょうか――」

 

「悪いがそればかりは私にはどうすることもできん。

つまり、君自身で解決するしかない」

 

「…………」

 

「君は今、ブランクに入ってることになる。

それは君の精神的な面、特にゲッターロボに対する疑心が大きく関わってると思う。

一度疑う気持ちを持つと振り払うのは困難だ」

 

「…………」

 

「だが私も何とかしてあげたいから協力はする。

ブランクというものは誰にでも有りうる、現に私だって理由は違うが一時的にブランクに陥った時はあるからな」

 

「……少佐がブランクに?」

 

「ああ。自分はいつもの調子なのに定期的に行うテストで今までより遥かに結果が落ちてきて本当に焦った。

もしかしたらブラック・インパルス隊から外されかねないとな。

私は凄く悩んで考えた、朝、昼、夜問わず苦しむ悩んだ、仲間にも聞いたりした――そして行き着いた答えが自分は慣れすぎたことで心のどこかに隙がたくさん出来ていたことが原因だと。

それから心機一転して自分は誰よりも劣る、だからこそ最初からもう一度鍛え直すと決めて何事も全力で取り込んだ。

するといつの間にか今までの本調子に戻っていたと言うわけだ。

……というわけで結局、自身がどう乗り越えるかどうかにかかっている。

竜斗君の場合はもう原因は分かっているようだから後はそれをどうにかするだけだと思う、私より断然楽な方だよ」

「はあ…………」

 

しかしながら、いきなりそんなことを言われたので意気消沈する竜斗。

 

「……少佐達はなんで僕らにここまで気をかけてくれるんですか?」

 

「竜斗君?」

 

「僕達は確かにここではゲッターロボを動かすことしか出来ません。

現に北海道でも基地内では少佐達と違い、銃を持てずについていくだけの足手まといになっていたの事実ですから、そんな僕らはきちんと訓練を受けている正規軍人のポーリー中尉や他の人達にナメられても文句は言えないです。そんな僕らをどうしてここまで――」

 

そう質問されたジェイドは言うのが照れくさいのか頭をポリポリかいた。

 

「まあ何というか、私達は一度バディを組んだ者同士だし、私自身は君の操縦技量と才能を高く評価してる。

だからこそブランクを越えられず、挫折したまま埋もれてほしくないから何とかしてあげたいんだ」

 

「少佐……」

 

ジェイドは一息つきこう話した。

 

「しかしなんだ、私達は似ている点が多いような気がして放っておけないんだ。君はもしかしてイジメとか遭わなかったか?」

 

「え……?」

 

見事当てられてドキッとなる竜斗。

 

「その顔を見ると当たっているようだ。実は私も子供の頃はイジメられっ子だったからな」

 

「え……少佐が……」

今の彼から到底思えない事実を聞かされて唖然となる。

 

「周りが白人がほとんどの環境で育ったからな、『黒人』てだけでイジメられたよ。

あと、その頃の私は気が小さかったから余計にな――」

 

人種差別。自分のより重い理由でイジメを受けていたことを知り竜斗はショックを受けた。

 

「竜斗君を見てると結構自分と共通する部分を感じるんだよ。

私達だけではない、ジョージとエミリア君、ジョナサンとマナミ君、互いの共通点が凄く似て通ってる部分が多く感じないか?」

 

確かにそう言われるとそうかもしれない。ジョージについては分からないがジョナサンはまさに男版の愛美である。

 

「ジョージ少佐はどうか分からないんですがそんなにエミリアと似ているんですか?」

 

「ああ。あいつは基本的に誰にも差別しない優しさと正義感を持つし、あと誰もが認める努力家だ。

ブラック・インパルス隊の中ではジョージはお世辞にもセンスはないが、それを補うくらいの尋常じゃない努力でここまで上り詰めた男だしな。

一方でジョナサンは未知なる、そして天性の才能を持っていてSMBの操縦技量いや、あいつの秘めたポテンシャルは私はおろか、隊内では間違いなくダントツだと思う」

 

「ではあなたは?」

 

「私は……他人からは冷静沈着で要領がいいとは言われたことがあるがな――本当かどうかはわからんが」

 

 

もしかしたらジェイド達は自分達の鏡の存在で、例えるなら竜斗達ゲッターチームをアメリカ人で置き換えたのが彼らとも言えるかもしれない、竜斗は「ああ、なるほどな」と妙な納得をする。

「……少佐はなんで軍隊に入ろうとしたんですか?」

 

竜斗はそう質問すると彼は残りのコーヒーを飲み干して、窓から空を眺める。

 

「私は小さい頃から空に憧れていた。鳥のように大空を自由に飛びたいと……いつも思い描いていたよ。

さっきも言ったが私は内向的だったからいつも家で本を読んでた、それも鳥や飛行機に関するものばかりな。

その内、私は本気で飛行機乗りになりたいと思うようになった。

 

だから私はその夢を叶えるために学生時代は勉強、そしてスポーツを頑張った。その過程でやはり人種差別とか色々と苦難があったけど、

 

『絶対にパイロットになる』

これをモチベーションにして一心に励んできたらいつのまにか内向的な性格がなくなっていてな――私は最初民間機のパイロットになりたいと思っていたが、その頃にちょうど軍からスカウトがあってね。

いっぱい稼げるし、君のその屈強で卓越した身体能力を生かしたいなら是非と――確かにその気持ちは十分にあったから軍隊に入ったんだ」

 

「…………」

 

「それで私は空軍パイロットを目指して入り、様々なテストや訓練を受けて――そして今に至るということだ。

軍に入隊して本当によかったと思うよ。ここは人種差別はない実力主義だし、何より念願の飛行機乗りになれたんだからな」

 

イジメられっ子が何らからきっかけや夢を持ち、それを励みにする。

もう亡き黒田の入隊動機に色々似ていることに気づき、軍隊で頑張る人の考えがどこか共通しているんだなと彼は感心する。

 

「それで君は何か夢を持つのか?」

 

「僕ですか……いや特には……戦争が終わったら普通な生活がしたいっていうぐらいで……」

 

「それでいいんだよ。今はこんな人類存亡に関わる、戦火が渦巻く世の中なんだから普通の生活をしたいのは世界中で誰もが願うことなんだからそれが夢で十分さ。

『君は普通の生活をしたい、この夢を叶えるために戦争を終わらせるよう一心に励む』

 

これでいいじゃないか。違うか?」

 

「……確かにその通りです、なるほどっ」

たとえ小さなこともようは考えようだと改めて実感する。

 

「私だってこんな血なまぐさい戦争を早く終わらせて妻や息子にいっぱい家族サービスしてやりたいと思ってる」

 

「なるほど、奥さん……てっ?」

 

瞬間、彼は「エエッ!」と驚きの大声を上げジェイドもビクッとなる。

 

「しょ、少佐ってもしかして結婚してるんですか?」

 

「ああ、教えてなかったが私は妻子持ちだ」

 

 

懐からスマートフォンを取り出して、画面に映る家族の画像を出して竜斗に見せる。

 

「妻のアマンダと息子のロイだ、今年で四歳になる」

 

パーマのかかった黒人女性の隣に可愛らしい顔の幼児を抱きかかえる彼の姿を見て、家庭ではちゃんとジェイドもパパをやっているんだなと竜斗は和む。

 

「いつでもすぐ出撃できるように長らく基地で寝泊まりしていてマイホームには帰られないんだ、だが毎日のように向こうに電話をしていて息子の声も聞いてる――家族っていいよ、守るべきかけがえのない大切なものだからそれすらも自分の励みになる」

 

「…………」

 

「聞くところによると竜斗君はエミリア君と出来てるときいたが?」

 

彼は照れで顔が真っ赤になる。

 

「はあ……大好きです……向こうも同じみたいです……」

 

「相思相愛か。てことは日本人とアメリカ人の国際カップルになると言うわけか――」

 

するとジェイドは竜斗の元へ行き、胸に握り拳の押し付ける。

 

 

「ブランクの乗り越えにしても、恋にしても悔いのないように全力で頑張れよ。私は君ならと大丈夫だと強く感じる。

私達も出来るだけのことは協力する、だから何があってもめげるんじゃないぞっ」

 

「はいっ、これからもよろしくお願いします少佐っ!」

 

二人は互いに強く握手し、これからも一緒に戦う仲間、そしてバディだと誓い合った――。

 



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第三十四話「模擬戦闘」①

「日本からの援軍がまさかあんなガキ共とはな」

 

基地内の休憩所。ポーリーと他の隊員が竜斗達について嫌みたらしく話している。

 

「日本政府はヤキが回ったのか。あんな自分自身も守れんような細草のようなヤツらを我々に回したなんてな――」

 

「聞く話によると、サオトメ一佐達ゲッターチームは事情があって日本から亡命してきたとな」

 

それを聞いた全員が驚き、そして呆れて開いた口が塞がらない。

 

「じゃああいつらは母国からも見放された野良犬ってことじゃないか」

 

「そんなはぐれ者チームを受け入れるなんざ、ここもかなりのお人好しだな」

 

ポーリーは「ケッ」と吐き捨てるとイスから立ち上がり、一人出て行こうとする。

 

「ポーリー、どうした?」

 

「あんなあいつらが仲間だと絶対に認めん。

俺が如何に自分らが無力かを分からせてやる」

 

「分からせてやるってどうやってっ?」

 

「『公平』な手段でだよ」

 

そういい、ポーリーは飛び出していった。

彼は至るところに竜斗達を探し回る。すると内部の通路で偶然、竜斗が対面で歩いてくるのが分かる。

 

軍服のズボンポケットに手を突っ込みながら歩くポーリーに対し、向こうから歩いてくるのが彼だと分かりすぐに用心、警戒する竜斗。

「よう小僧、確か名前は?」

 

「……石川竜斗です、確かあなたはポーリー中尉でしたよね」

 

「ああ覚えてくれて嬉しいね。ここには慣れたか?」

 

「……来たばかりでまだ何も知りません」

 

気さくそうに話してくるが、竜斗は気を緩めなかった。

何か怪しい、それしか感じられなかった。

 

「おいおい。なにこじんまりと固まってるしてるんだよ、何もしてないだろ」

 

「…………」

 

「あの時のことにまだ根に持っているのか?」

 

「……それよりもエミリアに手を出そうとしたのが許せないんですっ」

 

「エミリア……あのオンナのことか。悪かったって、なあ」

軽々しくそう謝るが、明らかに体格の違うエミリア相手に間違いないなく本気で殴ろうとしていてジョージが助けに入らなかったら一体どうなっていたのか……それに対し、全く謝罪の念を感じられず竜斗は許せるはずなどなかった。

 

「ところでよう、お前たちは俺達連合軍に協力しに来たんだよな。

だがお前達が本当にこれから戦力としと役立つのか俺は信じられねえワケよ」

 

「な、何が言いたいんですか……?」

 

「それで考えたんだが俺と対決しないか?」

 

と、そう提案するポーリーに竜斗は当然「はっ?」となる。

 

「対決と言ってもSMB同士でってことだよ。

ゲッターロボってのはそんなに凄い機体なのか知りたいだけよ」

 

「操縦テストをしたばかりですが、見てなかったんですか?」

 

「見てたさ。確かに凄まじい機動力を持つSMBだ。

だが、たかが機動力だけ凄いなら大したことないさ。

それよりもどんな戦闘能力を持つか知りたいんだ、なあどうだ?」

 

しかし竜斗自身はバカバカしく思う。

そんな理由でもし、最悪どちらかが命を落としたらどうするつもりか。

 

「結構ですっ、もう失礼します」

 

彼はポーリーから去ろうとした時だった、

 

「逃げんのか?それじゃあ俺らにナメられても仕方ねえな。日本から来た助っ人がこんな腰抜けだとは拍子抜けだぜ――」

明らかに挑発してきている。しかし竜斗はそれを無視していこうとする。だが、

 

「確か……エミリアとか言ったなあの女?」

 

彼女の名前が出た途端、竜斗の足は止まり振り向く。

 

「ああいう気の強い女は好きなんでな、ククク」

 

「エミリアに、何をしようというんですか……っ!」

 

「お前がそうやって俺の挑戦を拒むなら俺にも考えがあるってことよ。

ああいう女は無理やり押さえつけて楽しむのにちょうどいいぜ」

 

「中尉、あなたって人は……っ」

 

ポーリーのやろうとしているその残虐非道な行為をすぐ理解した彼は歯ぎしりを立ててぐっと睨みつける。

「別に断ってもいいぜ。ただしその後どうなるか知らねえけどな、ハハハハ!」

 

 

彼は立ち去っていこうとした時だった。

 

「……分かりました。中尉との模擬戦闘を受けて立ちますよっ」

 

エミリアに危険を及ばせたくために、ここは彼の挑戦を受ける決意を聞き、ポーリーはニヤリと不敵な笑みを返す。

 

「そうだ、それでいい。ではその模擬戦闘のルールについて話す。

戦闘場所はメキシコ湾。せっかく俺の挑戦を受けてくれた君に敬意を評して得意そうな空中戦をやろう。制限時間は一時間――」

 

「は、敗北条件は?。ゲッターロボにはバリアがありますが」

「ならそっちはバリアが切れたらでいいさ。

こっちは……そうだな、ダメージ損耗率半分を超えたらにしよう。帰還もあるからな」

 

「……………」

 

「俺が模擬戦闘の許可をとってきてやろう。君は直ちに準備をしておいてくれ」

 

そういい、彼は去っていく――が、

 

「竜斗だったな、一つだけ言っておく。キミも承諾した時点でこの模擬戦闘は成立したということだ、土壇場になって逃げ出すようなことをするんじゃないぞ」

 

「わ、分かってますよ」

 

「なら安心したよ。せいぜい楽しませてくれ。

あと今あった会話については誰にも言うんじゃないぜ、いいな」

 

今度こそ去っていくポーリー。彼の後ろ姿を見て竜斗は疑念と不安が渦巻き複雑な心境だった。

 

まるで自分が勝つと言わんばかりの溢れる自信……そして何を企んでいるんだ、と。

 

一時間後、ポーリーがどうやって丸めこんだか分からないが模擬戦闘の許可をもらえることができ、それが基地内にすぐに広まる。

当然、竜斗の周りにはエミリア達が駆けつける。

 

「リュウト、なんでいきなりあの人と!?」

 

「エミリアは気にしないで、俺とあの人の問題だから」

 

……実際は、断れば彼女が酷い目に合わされかねない。

ポーリー本人はそれが本気かどうかまでは分からないが、しかし竜斗は彼から何かを企んでいるような、その内にあるどす黒いモノを感じ取った。

そしてこの模擬戦闘でも暗雲を感じる――。

 

「本気か竜斗君?」

 

ジェイドが尋ねるとコクっと頷く。

 

「僕は確かにポーリー中尉に挑戦を承諾すると言いましたので、今更やらないわけに行きません。

大丈夫ですよ、ただの模擬戦闘ですから――」

 

そういう彼から並みならぬ重い雰囲気を感じ取るジェイド。

 

「竜斗君、ポーリー中尉は確かに性格に難があるが、操縦に関しては非常に優秀だ。決して油断するんじゃないぞ」

 

「……はいっ!」

 

しかしジェイドも今の彼が例のブランクに陥っていることに、最悪の事態になるのではと不安もある。

「それでは行ってきます、皆は安心して見ていて下さい」

 

「リュウト……気をつけて」

 

「大丈夫、モニターから安心して見てて」

 

竜斗は彼らと別れて基地の入り口前に待機している早乙女のジープへ向かう。

乗り込むと運転席に早乙女、そして助手席に何故か愛美が居座っている。

 

「早く乗れ」

 

後部席に乗る発車し、ベルクラスへ一直線で向かっていく。

 

「イシカワさ、あのポーリーって男に関わらないほうがいいと言ってたわりには一体あったのよ?」

 

「……あの人がゲッターロボの戦闘力を知りたいと言ってきたんだ。

ただ操縦テストで見せた機動力だけじゃ俺達が役立つかどうか分からないからって――」

「ふ~ん。にしてもあの男がそこまでネチネチしつこいだなんて、キモいったらありゃしないわっ」

 

と、彼女はウンザリしているような口振りだ。

 

「まあ竜斗がここで良いとこを見せれば彼ら連合軍も分かってくれるよ。

立ち会わなかったが、聞けばやっぱり各国の隊員からナメられたんだって?」

 

「はい……」

 

「気にするなよ。君達は元々ゲッターロボを操縦だけするという契約でここまで来たんだから。

竜斗、ゲッターチームの誇りにかけてゲッターロボの力、そして君の培った成果を思う存分見せてやれよ」

 

と、早乙女はエールを送った。

 

ベルクラスに到着したジープはすぐさま格納庫へ車ごと入れ。竜斗は降りると更衣室に向かいパイロットスーツに着替え、アルヴァインに乗り込みシステム起動する。

(……少佐から俺がブランクだと言われたけど……今はそんなことよりやるしかないんだ)

 

その言葉が竜斗の抱える不安の一因なのは事実であった――。

 

“竜斗、準備はいいか?”

 

「はい、いつでも――」

 

“よし。ポーリー中尉の乗るSMBについて少し調べたが、機体の名は『ラクリマ・クリスティ』、アルヴァインと似て地、空戦及び近、中射程攻撃を得意とする機体だそうだ。

ゲッターロボより性能は高いとは思えんが、だからと言って決して油断するなよ”

 

「了解。司令、あの……」

 

“どうした?”

 

「……もし、僕がブランクだとしたらどう思います?」

 

“……ブランク?君がか?”

 

竜斗はジェイドから言われたことを話す――。

 

“君がブランクか……確かにあり得る話だ。

確かに少佐の言うとおり、解決するには自分自身が乗り越えねばならんことだ。すまないが私からはどうすることもできん”

 

「……そうですよね、すみませんでした」

 

謝る竜斗に早乙女は、

 

“なぜ君が私に謝る必要があるんだ?君にはそういう他人行事な部分を持つが、それも原因の一つかもしれんな”

 

「…………」

 

“いつも言っているだろう。何事も強気でいけ、君も男なんだから貪欲にとな。正直に言うが、君はゲッターロボの操縦については才能はあれど、実力は水樹のほうが確実に上を行っている。

それは彼女自身のポテンシャルもあるが、同時にそれを持ちあわせているからだ。

彼女の性格は戦闘に関しては必要不可欠且つ伸びる要素だからな”

 

と、彼にはまだそういう弱味の部分を持っていると早乙女から指摘される竜斗。

 

“君と出会った時にも言ったが、そういう部分がせっかくの才能を殺してしまうことになる。まあこれ以上は君の戦意を無くすことになりかねんから今はもう言わないがどうする、もし不安でしょうがないなら中止するか?”

 

「い、いえ。大丈夫です」

 

“では今は勝つことに集中しろ、わかったな”

 

「了解っ」

 

――そして機体の乗るテーブルがカタパルトへ移動し、外部ハッチが開く。

 

「アルヴァイン、石川竜斗発進しますっ」

 

外に飛び出したアルヴァインは普段通りセプティミスαを携行して遥か空中へ上がっていく。

 

レーダーを見ると一つの反応が高度六百メートル付近に留まっている。

その場所へ飛翔すると、そこには全身眩いほどの黄金色のマッシヴな体型の機体が、背部にあるゲッターウイングのような滑空翼付きユニットのブースターを吹かしながら滞空し、待ちわびている。

左手には身体がスッポリ入るほどの六角形の大盾(スクトゥム)、右手には身の丈ある長い柄の先には錐形の突起物……すなわち槍のような武器を携行し、頭には兜のような装飾を取り付けた、まるで古代の重装歩兵のような姿のSMBである。

 

(なんだこのSMB……)

 

その時、竜斗の元に通信を受信し、開くと画面に現れたのはあの男ポーリーだった。

 

“よお、よく逃げずに来たな。その勇気だけでも高く評価するぜ”

 

「…………」

 

“では、行こうか。俺達のバトルステージへ――”

 

そう言い、二機は揃って基地を南下し、メキシコ湾上空へ飛び込んでいった。

 



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第三十四話「模擬戦闘」②

「二機とも、メキシコ湾に入りました」

 

「うむ。始まったら二機の動きをモニターで追っていけ、絶対に見失うなよ。あと二人の安全を最優先に注意しろ」

 

「了解」

 

「では見せてもらうか、日本のゲッターロボかイタリアのラクリマ・クリスティ、どちらが上か――」

 

所長のリンク、いや基地内の人間、そしてベルクラスにいる早乙女と愛美は各所のモニターに注目する。今から始まる「日伊」の対決が――。

 

「準備はいいな、小僧」

 

「…………」

 

メキシコ湾上空千メートル付近で竜斗の乗るアルヴァインとポーリーの乗るSMB『ラクリマ・クリスティ』がそれぞれ構えて対面する。

『キリストの涙』という意味を冠するこの黄金色の重装型SMBの性能はいかに。

 

(大盾と槍……近接戦闘に持ち込まれると危ないかもな)

 

竜斗は向こうの見た目と武器からどんな戦法で来るのか想像する――そして。

 

“二機とも、準備はいいか?”

 

「いつでもいいぜっ」

 

「オーケーです」

 

と、二人の承諾を得た時リンクから、「スタート」と模擬戦闘の開始の合図が言い渡された。

 

瞬間、最初に動き出したのはアルヴァイン。操縦テストで見せた高い機動力を持って相手を中心にグルグル飛び回り、攪乱をはかる。

 

(まずは相手の出所を探らなきゃ)

 

飛び回りながらセプティミスαを構えてプラズマ弾を連続で撃ち出す。

 

案の定ラクリマ・クリスティは大盾を前に出してその場で同じく回り始め、プラズマ弾が大盾に当たると掻き消された。

 

攻撃を続けるアルヴァインだが、向こうもこちらの動きに合わせて、且つ堅牢に守りを固めておりプラズマ弾全ては大盾に塞がれる。

 

(守りが固いっ)

 

先が進まないと分かった竜斗はレバーを引き、アルヴァインの動きを止めた。

そこから右臑からブーメランを取り出して、照準をラクリマ・クリスティに付けて全力で投擲した。

 

「ちいっ、こしゃくな」

 

回転するブーメランは軌道を変えて、まるで相手から動きを読ませないかの如くクリマ・クリスティの周りを変則的にグルグル飛び回る。

そして隙を見つけたブーメランは機体の首元目掛けて後部へ向かっていく。

しかしポーリーにそれを読まれており、右手に持つ槍の素早く縦に振り払らわれてブーメランに直撃。そのまま機能停止し海へ落ちていった。

 

「まだまだ先は長いんだ、楽しもうぜ」

 

今度はラクリマ・クリスティの大盾を前に出すと中央が左右にスライドして開き、中から仕切りに入った丸い物体……小型ミサイル弾頭が計九発、一発ずつアルヴァインへ向けて発射した。

 

ミサイルだと分かった竜斗は素早い操作で弾薬を散弾に変更し、変形したライフルをミサイルに向けて何発も撃ち込む。

前方にばらまかれた小さい弾がミサイルに当たり誘爆し前は硝煙で何も見えなくなる。だが、

「もらったあっ!」

 

見上げるとなんと鋭い槍を先を向けて急降下してくるラクリマ・クリスティの姿が。

竜斗はすぐに左レバーを引き込み、機体を翻した瞬間に槍が押し出されて空を突く。

 

「!?」

 

大振りかぶったと思いきや、そのままの大盾をアルヴァインを向け表面上下から金属錐が飛び出る。

 

「盾は立派な鈍器だということを知れっ!」

 

背部のブースターを点火し勢いをつけて体当たりをかました。

 

「ぐっ!」

 

バリアは張られるもそのぶつかった勢いに吹き飛ばされるアルヴァインだがすぐに態勢を整え、左腕プラズマキャノンを突き出し発射する。

しかし、高出力のプラズマ弾をもってしても強固な盾には貫通せずかき消される。

 

ラクリマ・クリスティも同じく右手を突き出すと前腕からビーム・シリンダーのような小型ビーム砲がせり出され、そこからプラズマ弾を連続で放ってくる。

さらに大盾に内蔵型された小型ミサイルで追撃する。

 

アルヴァインはそこから飛び上がり、まるで戦闘機で行うかのような華麗なマニューバで全弾回避していく。

 

「はあっ!」

 

空いた左手で折り畳まれたトマホークを腰から取り出して真っ直ぐ展開するとゲッターエネルギーの刃が背反った斧刃に沿って発振され、そのまま叩き斬るようにラクリマ・クリスティへ急降下していく。

落下に乗り相手の脳天へあとわずかに迫るアルヴァイン。

ラクリマ・クリスティはすかさず大盾を振り上げてトマホークの刃をガードした。そのまま力ずくで盾で振り払いのけぞったアルヴァイン磨けて槍を突き上げた。

鋭利な先端が機体から発したバリアに当たり弾かれる、かと思いきや、

 

「甘いっ!」

 

ポーリーの握る右レバー横にあるボタンをぐっと押し込むとそれに連動して槍にプラズマエネルギーが流れ込み、それを動力として先端の刃部が「ドン」と音で凄まじい力で押し出された。

その瞬発力と勢いに乗ったその刺突専用の鋭利な刃はいとも簡単にバリアを突き破り、それどころかゲッターロボの腹部に深く突き刺さった。

 

 

「なっ!」

 

竜斗は腹に突き刺さった槍をすぐに抜き取ろうとする、だが深く食い込んでなかなか取れない。

 

「まだまだあっ!」

ポーリーはさらに右レバー横のボタンを押した時、槍を通じてゲッターロボ全体が電流した。

 

「わああああっ!!」

 

コックピットにも電気が流れて彼にも感電し、痛々しい悲鳴を上げた――。

 

「リュウトっ!!」

 

「ウソだろっ……竜斗君が……」

 

「…………」

 

基地内から見ていたエミリア、ジェイドとジョージ、そしてジョナサンは彼の苦戦ぶりに心配と不安に満ちた声を上げていた。

(……先ほどから動きが凄くぎこちないし鈍い反応速度、迷いのある行動ばかりだ)

 

改造された高性能のゲッターロボ、そして乗りこなしていた竜斗がここまで追い込まれるとは。

これもあのブランクか、それともこれがポーリーの実力なのか……。

 

「イシカワ、あんたやる気あんの!?真面目にやりなさいよ!!」」

 

ベルクラスの司令室で黙ったままの早乙女の隣で観戦する愛美は彼に痺れを切らしていた。

 

「キング、アルヴァインがイタリア人なんぞにやられとるぞ」

 

「竜斗君が前に見せてくれた反応とは思えないほど劣化しとるな、何かあったのかのう」

 

休憩がてら見ていたニールセン達も何かおかしいと感じ取っていた。

みんなが思うこと、それは本人でも感じていた。

 

(うまく思うようにいかない……)

 

彼自身も今までの調子でないことに薄々と気づいていく。

それどころか日本での戦闘、そしてこの機体での初戦闘時のような凄まじさが全く見られない。

 

思えばエリア51での夜間戦闘でもそうだった……今の彼はジェイドの言うとおり機体に「動かす程度」でついていっているだけだ。

 

(そんな弱気なこと考えるな……今は勝つことに集中だっ!)

 

煩悩を振り払おうと必死な竜斗。腹部に開けられた穴からオイルがまるで血のように垂れ流しているがいっこうに構わず、再びライフルを構えて距離を取るアルヴァイン。

弾薬を榴弾、弾道を曲射に変えて盾を越えるよう角度を合わせて撃ち込む。

弧を描いて飛んでいく弾頭。

しかしラクリマ・クリスティは大盾に機体を寄せて縮こまり弾頭は大盾に当たり破裂、破片は塞がれて機体には何のダメージもない。

 

「くそっ!」

 

彼らしくなく心に余裕がなくなり焦り始める竜斗。

 

「クククッ、あの機動力といいゲッターロボはかなりの高性能機だと聞いたが、全く手応えないな。機体はそうでもやはり所詮パイロットの問題か」

 

ポーリーは勝利を確信し始めている。するとラクリマ・クリスティがブースターを点火し勢いをつけ、槍を振り上げて突進してくる。

アルヴァインは一目散にそこから逃げるもポーリーは逃がすまいとしつこく追ってくる。

弾薬を散弾にして飛び回りながら迎撃するも大盾を前に突き出し無理やりにでも突進してくるラクリマ・クリスティ。

 

「ああもうイライラするっ!石川は一体何してんのよ!」

 

押される彼の姿に悪態をつき始める愛美だった。

 

「マナだったらあんなヤツ相手に簡単にコテンパンにできるのに――」

 

その横で相変わらず無表情のままの早乙女。一体何を思っているのだろうか。

 

「もらったあ!」

 

ラクリマ・クリスティ、アルヴァインと顔を合わした瞬間、兜の中央にあるサファイア色のレンズがまるで太陽のような眩い白色光を発し、カメラアイに直撃させた。

「うわあっ!」

 

光がモニターを通してコックピット内全体を照らして、竜斗の眼にモロに入り彼はレバーから手を離して目を押さえた。

 

「おらあ!」

 

無防備と化したアルヴァインに槍を突き出して、先端を再び突出させて今度は腹部を貫いた――。

ガチガチと固まるアルヴァイン……その姿に竜斗を応援する者達は一気に絶望へと追いやった。

 

「まさかここまで…とは…っ」

 

「ウソだろ……」

 

ジョージとジョナサンは、彼が一方的に押される予想外な展開に唖然となっている。それはエミリアもしかり――。

 

「リュウト……どうしたの一体……っ」

前と比べて弱体化している、彼女から見ても明らかだ――。

 

「ジェイド、竜斗のヤツどうしたんだよ!?」

 

ジョナサンが彼に聞くが彼は何も答えずただモニターを凝視している。

 

「ジェイド、黙ってないでなんとか言えよ!」

 

するとジェイドは固く閉じていた口を開く。

 

「竜斗君は今ブランクに陥ってる」

 

「ブランク……?」

 

その言葉にジョージ以外の全員が初めて耳に入る。

 

「ブランク……リュウトがですか?」

 

「ああ、今の彼は本調子ではない。

しかし、それでも機体の性能で補えるはずだがまさかあそこまで苦戦するとは思わなかった――」

 

 

「なんでリュウトが……?」

 

「色々な悩みもあるが、特に他にとある事情で彼には今、ゲッターロボ自体を信じられないんだ。

だからそれが大きく操縦に出てると思う」

 

と、誰もが初耳な事実を知る。

 

「ゲッターロボが信じられないってどういうことだよ?」

 

「そのままの意味だ。機体を信じられないから考えに迷いばかりでて本来彼にできるはずの的確な行動ができないだ――」

 

「じゃあリュウトは……このままだとどうなるんですか?」

 

「別にここで負けても彼はそれをバネにして立ち上がれればいいが……最悪の場合は挫折したままもう立ち上がれなくなるかもしれん」

と、ジェイドは淡々とそう告げる――。

 

槍をゆっくり引きずりだし、情けかそこから離れて間合いを取るラクリマ・クリスティ。ポーリーは手応えがなく歯痒い表情だ。

 

「け、なんか弱いものいじめになってんな――」

 

 

一方、目が回復した竜斗はヘルメットを被っていても、息を大きく乱して心に余裕がない状況だと分かる。

 

(なんで……前みたいに上手くいかないんだ……)

 

ブランクというこの現実に悔しさから目頭が熱くなり、涙がこみ上げて身震いしていた――。

 



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第三十四話「模擬戦闘」③

「イシカワ……あんた……」

 

アルヴァインのコックピット内の様子をモニターを移し、彼女も彼の様子がおかしいことに気づく。彼が泣いている――ヘルメット越しからでもそれがよく感じ取れる。

 

すると黙っていた早乙女がデスク上のパソコンの前に立ち、カチャカチャとキーをいじる。

パソコン画面に表れたのは、見る暇がなかったためにバックアップしておいたアルヴァインの基本的なスペックデータとこれまでの戦闘における機体のデータ、今戦闘での機体のデータを比較する早乙女。だが恐るべき事実が――。

 

(……初戦以降のエリア51での各戦闘、模擬戦闘でのゲッターエネルギーの出力が空戦型ゲッターロボと同レベルかそれ以下だと……?博士達によって改良されたハズじゃなかったのか?)

 

早乙女はこの眼で見た情報を疑った。

明らかにおかしい……アルヴァインになってすぐの初戦では確かに誰も疑いない高出力を保ち、それ相応の凄まじい性能だった。出力値グラフでその時の線が頂点近くを維持していることが証拠として見せている。

が、それ以降は線がグラフの半分前後かそれより下を維持しているという不可解な事に。

二週間前の夜間戦闘にて、彼がリンゲィの乗っていたプテラノドン型メカエイビス、ミョイミュルにやけに苦戦していたことを思い出す。

早乙女はエリア51でも行われた三人の模擬戦闘時の各機のステータスデータを見比べると。

 

(……アルヴァインの出力がルイナス、アズレイ以下だと……)

ゲッター炉心の故障か……と思ったが戦闘前は綿密に整備点検したはずだからこんなことにはならないのが――にしてもなぜ竜斗の機体、アルヴァインだけこんなに出力値が低いのか、早乙女ですら分からない――。

 

「早乙女さん、どうしたの……?」

 

不思議に感じた愛美がそう声をかけるも、彼は返事を返さず今度は通信機の前に立ち、竜斗に通信を取る。

 

“竜斗、大丈夫か?”

 

と、そう声をかけると彼はすでに涙声になっている。

 

「司令…………僕はっ」

 

彼からすればなぜ思うように力が出せないのか、という悔しさが画面から伝わる。

彼自身がブランクに陥ってるとは言っていたがそれだけではないのかもと早乙女は考えている。

 

“実に不可解なことがある――直ちに戦闘中止だ、機体がおかしいことになっている”

 

「機体が……?」

 

“ああ、やむを得ない。相手と基地の者にワケを話して中止の合図を伝えるから直ちにベルクラスに戻ってこい。再戦したいのならそれは後日にしろ”

 

「しかし……このままじゃ……」

 

 

“いいから戻ってこい!”

 

――結局、早乙女によって二人の対決の決着はつかず、二人は強制的に基地に戻された。

当然ポーリーもこれに対し「ふざけてんのか」と納得するはずもなく文句や愚痴を吐くのを止めることはなかったが仲間達になだめられている。

ベルクラスに戻った竜斗は機体から降りると絶望しきった表情、まるで死人のような顔でフラフラと自分の部屋に向かった。

 

その途中、愛美が駆けつけて「アンタ、大丈夫?」と声をかけるも本人は「一人にさせて」と生気を失ったような弱々しい声で去っていく――。

竜斗は部屋に入るとパイロットスーツのまま、そのままベッドにドサッと倒れ込む。

 

(俺は……一体どうしてしまったんだ……)

 

悔しさからシーツをぎゅっと握り締め、身震いする竜斗は大粒の涙を流し、止まらない――シーツを涙で濡らし目をゴシゴシ拭く。

 

原因が機体か、いや自分か?どちらが悪いのかもうワケが分からないが、ゲッターロボがあそこまでコケにされるのが悔しくてたまらないのだった。

 

「博士、見てもらいたいものが」

 

早乙女はゲッターロボの出力値、スペックデータを印刷した書類をニールセン達の元に持って行き、それを差し出した。

 

「なんじゃこれは?」

 

「各ゲッターロボの強化後のスペックデータ、そしてこれまでの模擬戦含む戦闘時のデータです――」

 

二人はそれを見る。するとニールセンは眉をしかめる。

 

「……確かにおかしいのう。アルヴァインだけゲッターエネルギーの出力値が異様に低い」

 

「どういうことだ?」

 

「ルイナスとアズレイはワシらが改良しただけあって、確かに相応の高い出力を出しているんだが、竜斗君の機体だけは強化前の機体の出力値と同等かそれ以下になっとるんじゃよ」

 

 

キングは「はっ?」と声を上げて二人で論議を醸す。

 

「そんな馬鹿げた話があるか。故障か、あの子が手を抜いているか」

 

「言っときますが彼は慎重で決して油断するような性格ではないです。

それに常に綿密な整備点検をしてますから炉心の異常の可能性も低いと思います」

 

「だが、ワシらはちゃんと各炉心を確かな腕で改良したハズだろ、手を抜いた覚えはない。現に改良後の初戦闘では――」

 

「ああ、あの時だけは出力値が高いのにそれ以降はなぜか見事に下降しておる。

サオトメよ、おぬしはどうみる?」

 

「……解明できるかどうか分かりませんが、とりあえず個人的にある実験をしてみたいと思います」

 

「実験?」

 

「後日、機体を精密に点検整備した上で三人にそれぞれ別々に乗せて起動テストしてみましょう。私個人としては炉心ではなくゲッター線そのものがあやしいと思います」

「ゲッター線?なぜじゃ、単なるエネルギーじゃろう?」

 

「いや、私達の想像を遥かに超える恐ろしいエネルギーかもしれませんよ。

いや、禁断の果実とも言うべきか――」

 

「禁断の果実……旧約聖書でアダムとイブが神の言いつけに逆らって口にしたというあれか」

 

「はい、発見者の私が言うのもなんですが我々には安易に手を出してはいけないモノ、それほどの神懸かりな何かがあると思います。

もし彼が二機に乗ってアルヴァインだけ出力が低ければ炉心の問題だったというだけです。

しかしこれには竜斗自身が絡んでいると思います――」

 

「なんか哲学的になってきてますます意味が分からんぞい……」

 

……三人は沈黙する。こんな不可解な現象はゲッターロボ以外のSMBには発生したことのない未曽有の事態だ、開発者なら尚更だ。

 

 

「ところで竜斗君はどうした?」

 

と、ニールセンから先に口を開き、早乙女にそう聞く。

 

「かなり落ち込んでます。一応また再戦の機会をやると前向きな言葉を言ったのですが、実質の完敗です。

竜斗にはそれが慰めにならないでしょう」

 

「そうか……」

 

ニールセンも珍しく落ち込んでいるように溜め息を吐く。

 

「あなたが彼を心配するのは心外ですね。自分の開発した兵器以外は憐れみをかけないと思っていましたが」

 

「違うわい、ワシらが手塩をかけて大改造したゲッターロボが、あんなただのSMBにボロ負けするだなんて関わったものとして信じられんのだ。キングもそう思わんか?」

 

 

「ああ、腹立たしくてしょうがないわい。一刻も早く原因を解明せねばな。これで機体が不調か、竜斗君が手を抜いているか……」

 

「もしくはそのゲッター線に原因があるのか、考察の追究は起動テストをしてみてからにしてみましょう」

 

……一方で、エミリアはベルクラスに戻り、竜斗に会おうとしたが途中で出会った愛美に止められる。

 

「今はアイツに会わないほうがいいわよ、かなり落ち込んでるから」

「そんな……」

 

「まあほっといたらその内立ち直るっしょ。心配しなくていいんじゃない?」

 

「だといいんだけど……」

 

二人は食堂に行き、コップにジュースを入れて対面するように席に着く。

 

「にして、リュウトがあそこまでボロ負けするとは思わなかった……」

 

「なんか今日はたまたま機体が不調だったみたいし――」

 

「いや、違うの。ジェイド少佐から聞いたの、リュウトがブランクに陥ってるって――」

愛美に彼から聞いたことを全て話す。

 

「へえ、アイツがね」

 

意外にも驚くような素振りを見せない愛美。

「――ゲッターロボを信じられないか……確かに、たまに機体から不気味のような何か変なのを感じる時はあるけどね、エミリアはある?」

 

「アタシは……あっ!」

 

何か思いつき、声を上げる。

 

「対馬海沖の戦闘の時にアタシ、リュウトの機体に乗ってた時あったよね。あの時ゲッタービームを撃とうとして出力を上げたら許容量を遥かに越えて止まらなかったの。

サオトメ司令がすぐに緊急停止してくれたから助かったけど、もう少しでゲッターロボが爆発する寸前だったって聞かされてゾッとした」

「ふうん、やっぱり何かあるわね。

けど、マナは戦闘中はあの憎たらしい爬虫類を倒すことだけしか考えてないし、それにそのために乗るゲッターロボが強力だから疑う余地はないんだけど」

 

と、そう言い切る愛美。

考えれば、戦闘中に相手を問答無用で倒すことだけを考えてる彼女と、向こうと戦いたくない考えを持ち葛藤している竜斗と思考と行動が真逆であり、確かに早乙女の言うとおり、それが戦闘において彼女の才能を引き出しているのかもしれないし、それが彼自身を弱くしているのるのかも知れない。

 

「リュウト、どうするんだろう。このまま元に戻らなかったらもうゲッターロボに乗らなくなるかも……」

 

 

 

深刻そうな顔をしているエミリアに対し、愛美は。

 

「まあ石川次第じゃないの。アイツがそこで挫折するならそこまでの男だったってことだけ。

けどどうしても乗りたいなら、ブランクから抜け出したいなら、アイツなら色々考えて悩んで解決策を見いだすでしょ。

マナ達も協力はすれど、救いの手を差し出すのは今じゃない、イシカワ自分がもうどうしようもない状況に陥った時が一番最適だと思うの」

 

「ミズキ…………」

 

――愛美がそう説く。

 

 

「ミズキはやっぱりスゴいね。アタシはそんなことを少しも考えられなかった」

 

「……まあマナもアイツにこれからもリーダーやってもらいたいし。

アイツがもしリタイアしたり外されたらマナがチームリーダーになるからね、リーダーなんて絶対にかったるいからイヤなだけよ」

 

「フフ……ミズキらしいや」

 

二人はクスクス笑った。

 

「ねえ、考えたら今、絶好のチャンスじゃないの?」

 

「え、絶好のチャンスとは?」

 

「おそらくイシカワは今、一番の壁にぶち当たってる。

それで乗り越えるか乗り越えられないか、アイツが今まで以上に大きく成長する絶好のチャンスってこと。

しばらくアイツを冷たく突き放してみたらどお?」

 

「え……ワタシにそんなことできるかしら……っ」

 

「エミリア、ここでしくじったらイシカワが一生いくじなしになるかもしれないし、もしかしたらマナもベタ惚れるくらいにアイツが男らしく、頼れるぐらいに生まれ変わるかも。そう考えたら、それに賭けてみない?」

「…………」

 

彼女はそれについて少し黙りするもすぐに頷く。

「うん。リュウトがここでもの凄く成長するならアタシ、心をオニにしてやってみる」

 

それを聞いて愛美は「よしっ」と相づちを打った――。

 

――次の日、三人は早乙女の指示で基地内のSMB用の実験室にゲッターロボを搬入する。無数のチューブに繋がれた縦長上の狭い一室が三つ、そして厚い壁に隔離された場所にある測定場にはすでにニールセン、キングそして各技術者が配置についてスタンバイしている。

マリア含む各作業員綿密な整備点検を受ける間、早乙女からこう指示が出させる。

 

「君達は今から各ゲッターロボに搭乗してゲッター炉心の出力を上げてみてくれ。

最初は君達の機体から、次は横にずれる形、つまり竜斗がルイナス、エミリアがアズレイ、水樹がアルヴァイン……という感じだ」

 

「そ、それで機体の異変が分かるんですか……?」

 

 

「そこまでは分からんが、とりあえず言われた通りにやってくれ」

 

三人は無言で頷く。

 

「あとこれだけは言っておく。

決して手を抜くな、炉心が限界などを考えず、ひたすら高みを目指す一心で限界以上を目指して欲しい。でないと実験の意味が成さなくなる。

私がもういいといった時には出力を下げてくれ、もし止まらない場合は緊急停止回路を作動させるから何の心配するな」

 

ただ三人が各機に乗り込んで出力を制限なく上げていくだけの実験だが、

 

「特に竜斗、君はそれをよく守って行ってくれ、絶対に手を抜くなよ」

 

竜斗にだけ早乙女に妙にしつこく注意される。

まあ元はと言えば自分の原因からこうなっているからと感じるが、この実験に対しても何か引っかかりを感じているが今は言われた通りにやろう、それで原因がはっきりするならと心機一転する。

 

 

――昨日、ゲッターロボに不調があると言われて今からの実験を行うワケだけど、原因が自分のブランクだけじゃないのか。

果たしてこの実験で何が解るのか、それで何か解決する方法が見つかるのか。

僕はそれならとトコトンやってやるという意気込みを持ち、それぞれ各通路を通り、ゲッターロボに乗り込んだ――。

 



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第三十五話「存在意義」①

最初に自分の使い慣れたゲッターロボに乗り込み、システム起動する竜斗達。

 

「準備はいいか?」

 

“はいっ”

 

“オーケーです”

 

“いつでもいいわよ”

 

三人から承諾の合図を貰い、隔離された計測場で各定位置についた早乙女達は遮光用ゴーグルをつけてスタンバイ完了する。

 

「もう一度言っておく、絶対に途中で放棄せずいいと言うまでゲッター炉心の出力を上げ続けろ、わかったな」

 

――そして、

 

「よし実験開始だ」

 

それを合図に三人は一気にゲッターエネルギーの出力を上げ続けてチューブに繋がれた供給線を通して計測器にエネルギーが注がれていく――。

 

そこで最初に着目するはアズレイ、彼女の機体が一番早くすぐに炉心の限界点を突破しそうになっていた。

 

「ホハハ、やはりマナミ君はスゴいのう」

 

「ああ、パワフルを感じるな」

 

続いて高いのはエミリア、緩やかだが異常はなく順調にエネルギーが高くなっていく――。

 

「エミリア君も無難に上げているが……果たして肝心の竜斗君は」

 

彼らは竜斗の計測器に注目する……やはりアルヴァインだけ出力が二人と違い一周り、いや二周り出力値が低い……。

 

「竜斗、それが本気かっ?」

 

“真面目にやってます!”

 

本人がそう言うが二人と比べて遥かに出力が低く、これでは炉心の不具合か手を抜いていると思われても仕方ない。

 

「水樹、いいぞ」

 

愛美が一足先に終わりその凄まじく達した出力を弱めていく。その後すぐにエミリアも終了を言い渡されて出力を抑えて停止させる。

 

だが、竜斗だけは相変わらず全く出力が上がらずそして一向に終わりがなかった。

 

(な、なんで出力が上がらないんだ……)

 

彼もこの異変に困惑しかけるも諦めずに何とかゲッター炉心の出力を上げようと必死でピッチを上げる――が、

 

「もういい竜斗、次行くぞ」

 

結局、出力が気持ち程度に増えたぐらいで劇的な変化は全くなく一回目の実験は終わった――。

 

再びマリア達が整備に移る間、待機場所では三人は沈黙していた。

エミリアと水樹が見つめる先には不可解な現象を前に落胆する竜斗の姿が……。

 

「リュウト……」

 

エミリアが堪えきれず彼を励まそうとしにいこうとすると、愛美に止められる。

 

「そっとしておきましょう。

けど、確かにおかしいわね、アメリカに来てからの初めての戦闘の時のようなあの凄まじさがウソのよう」

 

「一体何があったの…………」

 

と、時間を潰していると整備を終えて次なる実験のためにマリアが迎えにくる。

 

「終わったわ、二回目の実験が始まるわよ」

 

彼女と一緒に行く三人だが、竜斗がかなり落ち込んでいるのがマリアはすぐに感じた。

 

「竜斗君、心配しなくていいのよ、気持ちを楽にして取り組んで」

 

と、彼女から励ましを受けると「はい」と弱々しい声で返ってくる――。

そして今度はアルヴァインに愛美、ルイナスに竜斗、そしてエミリアがアズレイのコックピットへ乗り込む。

 

「さて、恐らくここで大体が分かるかもしれませんね。

原因はアルヴァインの炉心か、それとも竜斗か――」

 

「ニールセンよ、お前はどっちに賭ける?当たれば百ドル、どうじゃ?」

 

「ならワシは竜斗君の方に賭けるぞい」

 

 

「じゃあワシは炉心じゃな」

 

こんな時にどちらが原因か賭けている二人に正直呆れるが誰もが無視して先を進める。

 

「三人とも、配置につきました」

 

「よし、始めるか――」

 

二度目の実験が開始された。しかしここですぐに結果が明らかに判明する。

なんと愛美の乗るアルヴァインの出力が一瞬でゲージを振り切れ、初戦時と同じ凄まじい出力を叩き出したのだ。

 

「なんだと……」

 

「なぜマナミ君だとここまで出力が一瞬で上がるんじゃ……」

 

彼らは驚愕する一方で、エミリアの乗るアズレイは一回目と同じく緩やかだが無難に出力を上げている。が、本命はというと。

 

「竜斗……お前……」

 

竜斗の乗るルイナスのゲッター炉心の出力はかなり低かったのだ。はっきりいってエミリアの半分以下である。

 

(なんで、なんで俺だけ出力が全く上がらないんだ……)

 

嘆く竜斗はヤケになり出力をがむしゃらに上げようとするも全く上がらず――。

測定場では重々しい雰囲気に晒されている。これで竜斗に原因があるのが判明したが更なる疑問も生まれた――。

 

「とりあえず最後までやってみましょう」

 

この後も、三回目に入るも結果は三人共変わらず。

出力値のダントツは愛美、次にエミリア、そして竜斗が最下位という結果に終わった。

 

「…………」

 

合流した時のエミリア達が見た竜斗は完全にどんよりしていた。そしてその結果に彼女達は、彼が哀れすぎて励ましの言葉もかけてやることも出来なかった。

……各人が色々と気まずい雰囲気の三人はその後、早乙女達に合流する。が、突然キングが目の色を変えて竜斗に近づき胸ぐらを掴んだ。

 

「キサマ、ちゃんとマジメにやってんのか!」

 

 

と、彼の怒号が響き渡る。

竜斗はすっかり怯えきっており、その二人の光景に慌てて周りが二人を引き離す。

 

「マナミ君やエミリア君は納得できる結果なのになぜじゃ……やっぱり手を抜いているんじゃないのか!?」

 

「博士!」

 

キングから色々貶された竜斗はもういてもたってもいられなくなった。

 

「俺は……俺は……」

 

いたたまれなくなった彼は混乱し、なりふり構わずその場から走りさっていった。

 

 

「リュウトっ!!」

 

エミリアは急いで追いかけようとした時、早乙女が止められる。

 

「二人はここで待機していてくれ。私が竜斗を何とかする」

 

と、早乙女が彼の後を追いかける。

この場にいる者全てが呆然しその場に静寂となった――。

 

「竜斗!」

 

早乙女が追いかけたその先には彼は壁に顔を伏せていた。

彼は優しく肩に手を置いた。すると彼は悔しさと悲しさが入り混じったその声でこう言った。

 

「司令……僕は司令に言われた通り一度も手を抜いてません……なのに……」

 

「竜斗…………」

 

「なんで水樹とエミリアはちゃんと出力が上がるのになんで俺だけ……っ」

 

彼は握り拳を壁に何度も叩きつけた。

 

「これから僕はどうなるんですか……これじゃあゲッターロボに乗っても絶対に役に立てない、明らかにみんなの足手まといになるじゃないか……っ!」

 

ブランクとはまた違う、原因不明のゲッターロボの力が引き出せなくなっているという挫折感から色々な負の感情が入り混じる複雑な心境でその場に泣き崩れる竜斗に早乙女は。

 

「竜斗、今から休憩所で二人で話するか」

 

二人は近くの休憩所に行き、彼を落ち着かせるために自販機で紙コップに入ったコーヒーを買って渡した。

「ありがとうございます……」

 

竜斗はソファーに座り気落ちして肩を落としている。早乙女も隣にソファーに座り込み、自身も紙コップに入った出来たてで湯気の立つ無糖のコーヒーをすすった。

 

「悔しいか」

 

――彼は迷いなく頷いた。

 

「だろうな。今までちゃんとゲッターロボに乗りこなして、そして的確にこなしてきた君が突然私達でさえワケも分からないコトになって、そしてこんな目に遭ってるもんな――」

 

「…………」

 

「私達は一刻も早く君のためにもこの原因を解決したいと思う、ここに来てからこれまでにゲッターロボに乗っていて何があったか教えてくれ。思い出せることだけでいい」

 

そう言われ、今までの記憶を洗いざらに思い出す竜斗――するとやはり、二週間前の夜間戦闘で突然耳に入ってきたあの言葉が引っかかる。

 

『適応しないお前にはこの力は扱えられない』

 

 

早乙女にこの事を伝えると彼は考えこむように腕組みして背もたれる。

 

「適応しない、か……本当にそんな声が?」

 

「はい……気のせいかとも思うんですが、今でも耳に残っています」

 

「しかし、確かに今の君の状態を見れば否定はできないな。にしても、今回に限らずゲッター線を発見してから実に不可解なことばかり起こっている。

それにあの娘、ゴーラからもゲッター線は爬虫人類を絶滅寸前にして、私達人類に進化を促したとも言っていたし、本当に我々が興味本位で手を出してはいけないモノなのかもしれんな」

 

 

二人はゲッター線という謎が謎を呼ぶ摩訶不思議な存在に段々とおぞましく感じてくる。

 

「とりあえず、どうにかして君が本調子に戻れるように何とかするしかない。

機体については私と博士達で相談して何とかする、だから君は自身の問題を解決するよう努力しろ」

 

「司令…………」

 

「竜斗、何があっても絶対に諦めるな。これからもゲッターチームのリーダーとして必要不可欠な存在だからな。

本当に悔しい思いがあるならエミリア達を心配させないために今は問題を解決することだけに集中しろ、いいな」

 

と彼にそう喝を入れた――。

 

戻ってきた竜斗と早乙女にキングは申し訳なさそうな態度をしていた。

「竜斗君……さっきは悪かったな。ついイライラしたもんだから――」

 

謝るキングに彼は首を横に振る。

 

「……いえ、確かに手を抜かれたと思われても仕方ないですから――」

 

しかし竜斗は少しも怒らずかしこまった。

 

「イライラの理由にワシと百ドル賭けて負けたのも入るんじゃないか?」

 

「おいキサマ!」

 

と、ニールセンが藪から棒に余計な事を口走り、今度は二人のたわいない喧嘩を始め、辺りは呆れ、失笑を買っていた。

 

その後、一応全員は解散し三人に自由行動を取らせた後で早乙女はゲッターロボの整備の傍らでニールセン達に竜斗から聞いた事実を話し、そしてこれからどうするかを。

 

 

「……もう現実とは思えんな。ゲッターロボに乗っていてそんな声が聞こえるなどと」

 

「彼本人がそう言っています、それに耳にも残っているそうで」

 

さすがの二人もこれには頭を悩ませる。夢と現実の壁が崩れかけていることに。

 

「で、本題に入りましょうか。竜斗の話が本当なら、二度とどのゲッターロボに乗っても完全な力は引き出せないということです。

しかし彼は今も悔しい思いをしていますし、これからも乗る気はあるでしょう。才能含め、ゲッターチームをまとめるのにもこれからも彼は必要不可欠だと思います」

 

早乙女の主張に二人は考え込む。しばらくしてキングが先にこう提案する。

 

「ならいっそのことアルヴァインのゲッター炉心を取り外してグラストラ核反応炉を搭載するか?」

 

「確かにそれもありですが、もはやそれはゲッターロボじゃなくステルヴァーですね。

それにゲッタービームやトマホーク、ブーメランなどの武装のいくつかが使えなくなりますが?」

 

「ステルヴァーの武装を使えばいいではないか、核弾頭やリチャネイドが使えるぞ」

 

「あれらはステルヴァー専用だ、ゲッターロボが扱えるようにはしておらん。

そもそもそんな面倒なことをするくらいなら竜斗君をステルヴァーに乗らせたほうか早いじゃろ」

 

と、ニールセンに指摘され落ち込むキング。

 

 

 

「ならどうするんじゃ?彼にステルヴァーの操縦訓練をさせて乗せるか?」

 

「彼はゲッターチームのリーダーなんですから、出来れば乗せる機体はアルヴァインの方向でお願いしますよ。

それにアルヴァインを放置するのは私達やあなた達の改良や武装が無駄になると言うことですよ」

 

それを聞いて辟易するキング。すると今度はニールセンは何かを決断した。

 



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第三十五話「存在意義」②

「ではあの手で行くか」

 

「あの手?」

 

二人は彼に注目する。

 

「ワシの最高傑作『エリダヌスX―01』はプラズマエネルギーとゲッターエネルギーを共鳴させた複合エネルギーを弾丸として発射する兵器だ。その技術を応用するとするか」

 

「と、いうことはアルヴァインの動力をハイブリッド駆動からその複合エネルギー駆動に変換すると――」

 

「そういうことだ、そのシステムに変更するのにいじらないといかんが何とかなるだろう。

成功すれば、もしかすれば竜斗君を乗せても力を引き出せるかもしれんし、更にエリダヌスX―01をアルヴァインでも使えるようになる。どの道二号機も造りたいとこじゃったし――まあまた金がかかるが致し方ない。」

 

 

 

「しかし武装はまた新規にしますか?」

 

「キング、そこはお前に任せていいかのう」

 

「しゃあない、ワシがまた何とかしてやるか、何とか今の武装で再利用できるように改造するわい」

 

「では、それで行きますか」

 

「にしてもサオトメ、お前と直に関わるようになってからやけに資金と手間がかかるようになったが、お前ははたして疫病神かなにかか?」

 

冗談か真か、シャレにならないようなイヤミを吐くニールセンだが早乙女はシワも少しを寄せず平然だった。

 

「まあそうかもしれませんね、すいません」

 

「心にも思ってないことを軽々しく言いやがって」

 

 

「あ、バレましたか」

 

と、白々しい答えた。

 

「だが竜斗君のその話が、実のところ正気とは思えんのだが」

 

と、キングは未だに疑い深い。まあ、そんな怪奇なことなど見たことも聞いたこともない人間だから解らなくもないが。

 

「しかしさっきの実験で立証されただろ。アルヴァインの炉心は故障ではなく彼に問題があったんだ」

 

「しかし、そうなるとマナミ君は――」

 

竜斗と違い、彼女にゲッター線の適性があるという可能性が一番高いと言うことになる。

 

「なんか竜斗君が可哀想じゃのう、せっかく今まで第一線で頑張ってきたというのにな」

「いえ、彼の場合はそれで良かったのかもしれませんね――」

 

早乙女がそうフォローを入れた。

 

「どういう意味じゃ?」

 

「そのままの意味ですよ、彼の性格を考えれば大体察しがつきますよ」

 

「……まあともかく、すぐに取りかかるか。またいつ敵が攻めてくるかも分からんしな」

 

「ああ、そうだな」

 

二人は立ち上がる否や、ニールセンは何か思いだったかのように早乙女にこう言う。

 

「あ、一つ言っておくぞ。はっきりいって複合エネルギーを主動力源として使うのはワシも不本意でまだ確立すらしていない。

確かに誰にもなし得なかった高出力の生み出すことには成功したが、それを利用すると炉心、そして機体が耐えられない可能性もあるし、何より竜斗にも扱えきれるかどうかも分からん」

 

 

「つまり――」

 

「最悪の事態も想定しとけと言うことじゃよ。

もう一度本当にこれからもゲッターロボに乗り続けたいか、竜斗君によおく聞いておいたほうがいい。

彼に死んでもいい覚悟がないならワシは絶対に改造せん、分かったな――」

 

「……確かにニールセンの言うとおりだ。竜斗君には悪いが、ここでリタイアさせるということも考えさせなければならんのかもな、人生退き際が大事だ」

 

「…………」

 

「まあ、ちゃんと話あってもう一度聞いておいてくれ、いいな?」

 

……その後、三人は解散する。早乙女は実験室に安置されるアルヴァインを隔離した測定場からガラス越しで見つめる。

(今まで一心に研究してきた私でさえそんな側面を見せなかったくせに今頃になって、それも竜斗達にだけか……つくづくムカつくヤツだよお前は)

 

彼の目は次第にギロッと睨みつけるように細まっていた――。

 

 

「……そんな結果になったか」

 

「……はい」

 

基地内の休憩所。竜斗はジェイドに会い、実験結果を伝えていた。

 

「君はどうする、このままゲッターロボから降りるか?」

 

「え?」

 

「ブランクだけかと思ったがより深刻みたいだ。それも、君の話が本当ならもはや人間の力ではどうすることも出来ないのかもな。

機体のポテンシャルを充分に引き出せないなら間違いなくこれからは戦場で弊害が起きる」

 

「…………」

 

竜斗は黙り込んでしまう。ここまで来て「なら降りる」とハッキリ決断出来ないし、言い出せない。

 

「そうなって別に君の責任でもなければ恥でもない。我々で言えば病気や怪我をして軍を除隊するのと同じことだ」

 

ある意味では救いとも言える選択肢を竜斗に与えるジェイド。だが、

 

「……しかし、僕はこのまま引き下がりたくありません。

乗り始めてからここまで来て突然ゲッターロボに認められないとか、そんなワケの分からないことに納得できるハズがありません。

それにエミリアと水樹の女の子を差し置いて男の僕だけ去るだなんて……」

「しかしせっかくのゲッターロボの力を引き出せない君が乗ってもしょうがないだろ。

今の君が無理して乗ってそれで万が一命を落としたら、それこそ仲間に迷惑し悲しみ、それそこ本末転倒だよ」

 

「…………」

 

「竜斗君、ちゃんと後先を考えてからいってほしい。これは君の人生がかかっているんだぞ」

 

今の彼では間違いなく戦場で戦い抜ける確率は非常に低い。命を落としたり、これからの生活に支障をきたすほどの大怪我をすることだってある。

そうなれば本来送れるハズの人生が自分の意地っ張りで狂うことになる。

 

「君はそこまでしてでも乗り続けて戦いたいのか?」

 

ジェイドから真剣な口調で問われ、竜斗は――。

 

 

「……数日前に話しました爬虫人類の女の子にこう言いました。

「何とか向こうと和解したい」と。今は向こうも攻めてきているので戦う以外ないですが僕はそうなることを今でも信じて進みたいんです、いつか向こうと和解できることを。

だから僕はそこまで言った以上、ここで引き下がりたくなんです!」

 

「…………」

 

「それに、それが僕のここにいる存在意義でもあります――」

 

ジェイドは「フウ」と大きく息を吐き、腕組みをする。

 

「そこまで考えているのなら君の意志を尊重したいの山々だ。

だが問題は、君がもうゲッターロボに乗ってもポテンシャルを引き出せないということだ」

 

「それは……早乙女司令が何とかすると」

 

「だが何とかできなかったらどうするんだ?君のブランクは治っても機体の方を解決出来なければどうにもならん」

 

「…………」

 

「竜斗君、もう一度言う。

これから先のことを見据えて考えてほしい。私だって何とかしてやりたいが、君の身体や命は一つしかないことも分かってくれ――」

 

……その後、二人は別れて竜斗は行く宛もなくフラフラ歩く。

 

(俺……どうすればいいんだ……)

 

どうにもならない現状に打ちひしがれる竜斗。役立ちたいのに役立てない不可抗力……これほど辛いことなんかないのは誰でも同じである。

 

(どうすることもできないのか……)

 

このまま無理にゲッターロボに乗り続けても間違いなくチーム全員、そして自身に迷惑をかけてしまうのも事実。

彼はかつてない分岐点に立たされていた。

自身の退き際を理解し降りるか、それとも覚悟の上で乗るか……彼の心は揺らぎに揺らいでいた。

 

 

 

一方、離れた場所の通路でエミリアとジョージは先ほど行った実験についての会話をしていた。

 

「竜斗君に一体何があったのだろうか――」

 

機体を強化されてから、ほぼ竜斗にだけ理解し難いことばかり起こり続け、二人は正直困惑した。

 

「彼が手を抜くとは考えられないし……全く、ゲッターロボとは一体……」

 

「…………」

 

「メカザウルスの侵攻が強まるこの状況下で、こんな事態に陥るなんて本人はもっと困ってるだろうな」

 

「リュウトはどうしてもゲッターロボの力を引き出せなくなったと泣いてました……少佐、リュウトはこれからどうなるんですか?」

彼はその問いに口ごもってしまう。

 

「少佐!」

 

「……本人はどう考えてるか分からないが、ゲッターロボの力を引き出せないのならこれから戦い抜くのは厳しいだろう――従ってここで降りることも考えなければいけなくなる」

それを聞いて彼女は多大なショックを受けた。

 

「それは……もうリュウトはゲッターチームから外れるってことですか?」

 

「もしかしたら戦わないだけでサオトメ一佐のように指示するような指揮官的な立場に落ち着くとか君達を支援するサポーターとしても考えられるが、君達とはもう共に戦場へ出れなくなることも十分考えられる」

 

「そんなあ……これまでリュウト、いや三人で協力してきたからアタシ達は戦場でも生き残ってこれた、アタシとミズキの女二人じゃとてもじゃなく戦っていけません!」

 

 

「じゃあ君は竜斗君の問題を今すぐ解決できるのか?」

 

「そ、それは……っ」

 

はっきり言ってできない。実際自分でも彼の身に何が起こっているか、一体何がどうなってるのかも分からないのに解決できるはずがない。

「それにはっきり言わせてもらう。君は竜斗君がいないと自分達は戦い抜けないと言った。

だがそれは裏を返せば君は所詮その程度の実力だったと認めることになるぞ。

そもそも君達のようなポンと乗った素人同然の三人がここまで無事だったのが不思議なくらいだ、そう思わないか?」

 

「…………」

 

「俺だって出来ることなら何とかしてやりたいさ。

彼の操縦に関する才能は俺には持ってないものばかりで、正直嫉妬したくなるほどでこれからも必要だとも思う。

しかし、ここは結局掛け値なしの実力主義だ、自他の人間の命がかかっているからな。

どうにもできないなら……自身が苦難の壁を乗り越えられないならそこまでだったと見極めて諦めて降りるしかない、それか他の分野に移るか――君達、そして俺達のいる世界はそういう世界なんだよ」

 

ジョージは腕組みをして壁に背もたれる。

 

「俺達ブラック・インパルス隊もそうだ。

空軍のよりすぐりの隊員を集めた選抜隊だから気を抜くとすぐに外されてしまうからチームメイトは常にそこで生き残るかどうかの瀬戸際にいるんだ。

俺だって辛うじてついて行ってるが、いつ外されてもおかしくないのが現実だ。しかし俺は外されないためにも、上に立とうと向上心を持って常に努力しているつもりだが、それでも報われないこともあるからな」

 

「少佐……」

 

「あとさ、日本にいる時にも何回も同じことを言ったと思うが忘れたか?君の欠点は操縦技術やセンス云々より、そういう感情を持ち込んでしまうことだ。

もし彼がいなくて戦えないと思うなら君も正直降りた方がいい。

戦場でそんな女々しい感情を持ち込むのは非常に迷惑だ。

もし彼がそういう決断をしたなら、君自身も本気でこれからどうするか考えておけ――」

 

と、彼女にそう言い放った。

 

 

「へえ、竜斗がねえ」

 

そして愛美はジョナサンと会い、同じく先ほどの実験について話していた。

 

「昨日エミリアから聞いた話だとただのブランクかと思ってたけど実際はそれより酷いかもしれないって……」

 

昨日冷たく突き放すと言った愛美も流石に彼が心配であるような素振りである。

 

「ステルヴァーはそんなこと今まで起こったことがないからなあ」

「ジョナサンはどうすればいいと思う?」

 

「俺もそんなこと起きたことも聞いたこともないし、分からないからノーコメントだ。

しかしまあ、最悪ゲッターロボから降りるしかないのかもな」

 

やはり彼も、その選択肢を出した。

 

「マナミは竜斗に対してどう思うんだ?」

 

と聞かれて、彼女は。

 

「マナだって今何が起きているか分からないけど……アイツは降りないと、なんとかなると信じてる」

 

と、愛美はそう答える。

 

「アイツはマナ達チームを纏めるリーダーなんだもん、自分のリーダーを信じてやれなくてどうするのよ」

 

と、前向きにそう伝える彼女にジョナサンは。

 

「……そうだな、流石は俺のマナミ、そういうポジティブさが好きだわ。

俺も竜斗がこのまま終わるようなヤツじゃないと信じてるよ、一見華奢そうで意外な芯の強さを持っていると思うし――」

 

「でしょ?マナもそう思う。

アイツは最初、確かにビクビクした女々しいヤツだったけどマナから見て凄く成長したと、そしてこれからも期待できるって本当に分かったから今回もアイツは何だかんだで乗り越えられると信じてあげたい」

 

「ああ。それに博士達もいるしなんとかなるよ」

 

――と、この二人だけはポジティブに彼の可能性を信じているようだ。

 

「それで竜斗は?」

 

「多分、今も落ち込んでいると思う」

 

「じゃあ俺がアイツに喝入れてやろうかな」

 

「どう入れるの?」

 

と、聞かれて彼は何故か腰を前後に振っているが……。

 

「ジョナサン……まさかアンタそんな趣味が……」

 

えげつない行為を想像した彼女は顔を真っ青にしてドン引きした。

 

「ジョークだよ、ジョーク!!俺は女しか興味ねえよ!!」

 

と彼は弁解するも彼女はさらに引いて距離を置き始め、彼は必死で弁解しているまるでいたちごっこをしている二人だった。

 



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第三十五話「存在意義」③

何気に投稿話数100回目になりました。まだまだ続きます。


「――と、言うわけだ」

 

早乙女から急遽、呼び出された竜斗は、ニールセンからの忠告を伝えられた。しかし本人はうんともすんとも言わず黙り込んだままだ。

 

「竜斗?どうした、イヤなのか」

 

「いや……それは凄く嬉しいです……」

 

と言うものの、彼は全く喜んでいない。というより、何かしこりがあるかのような渋りが表情に出ている。

 

「先ほどの君の悔しさが全く感じられないな、何があった?」

 

すると竜斗は言い渋るように小声でこう言った。

 

「もしかして僕は……不要な人間ですか?」

 

「竜斗……?」

 

「さっきジェイド少佐に相談したら「降りることも考えろ」と言われました――」

 

早乙女に先ほど二人の会話の内容を全て話した。

 

「それで僕は、もしかしてここには要らない人間なんだろうかと――さっきから、そればかり考えてしまって……」

 

早乙女が今の彼から感じるのはまるで最初に出会った時のような「弱気」な竜斗である。

逆戻りしたかのように今の竜斗には最近まであった前向きさが微塵も感じられなかった。そんな彼に早乙女は落胆した。

 

「だったら本当に降りるか」

 

「え……?」

 

「私は竜斗のために頑張って何とかしてあげたかったが、今の、昔に逆行したかのような弱気な君を見て、心底ガッカリしたよ。

君にこれ以上期待するのはやめる、君をチームから外すことにしよう」

 

早乙女のその冷たい眼、言葉は彼の心を極寒の中にいるような窮地へと追い込んだ。

 

「これからはエミリアと水樹の二人に頑張ってもらうことにする。君はここにいても邪魔だ、誰かに頼んで日本へ送っていってあげよう」

 

早乙女は彼に背を向けて去ろうとしたが気が動転して青ざめた顔の竜斗は彼を引き止めた。

 

「司令、僕はただ――!」

 

何か言おうとするが逆に早乙女が口を出し、彼の発言を覆い被さった。

 

「確かに君が今、苦悩に翻弄されているのは凄く分かる。

だが「自分は不要な人間ですか?」、君からそんな言葉は聞きたくなかったよ――」

 

 

そのまま早乙女は去っていく。竜斗はまるで電池の切れた人形のようにその場に力無くへたり込んでしまった――。

 

「俺は……俺は……一体、何をしているんだ……」

 

ボソッと気持ちのこもってない無機質な口調でそう言い吐いた――。

 

「ちっ、全然ムシャムシャが止まらねえ」

一方、ポーリーは昨日のことに対し、未だに気が収まっておらず苛立っていた。

 

「何だってんだ一体!機体が不調だから中止?都合が良すぎるぜ全く――」

 

未だに根に持っているようで、彼の悪い癖である――。

そんな時、通路の向こうを見ると偶然エミリアを発見するポーリー。ニヤッと何かを企むような不気味な笑みを浮かべて早歩きで彼女の元へ向かった。

「よう」

 

「…………」

 

ポーリーと対面すると見るも嫌そうな顔をするエミリア。

 

「……私に何か用ですか?」

 

「偶然通りかかっただけよ」

 

「あら、そう。失礼します」

 

彼女はさっさと去ろうとするもポーリーに腕を捕まえられる。

 

「何するんですか!?」

 

「ちょっと面貸してくれよ」

 

彼女を近くの雑品保管室に連れ込むポーリーは明かりをつけてドア前に立つ。あたかも彼女を逃がさないようにするかの如く――。

 

「な、何するつもり。人を呼ぶわよ!」

 

「何もしないさ。ただ話がしたくてね」

このラテン系で何を考えているか分からない危ない男、ポーリー。

強気に応じる彼女だが内心は得体のしれない恐怖でいっぱいだった。

 

「なにそんなに警戒してんだよ。もしかして初対面の時のことをまだ根に持ってるのか」

 

「当たり前じゃないですか!」

 

「けっ。ところで聞いたはなしなんだが、二人は付き合ってるんだってな」

 

と、誰から聞いたか分からないことを唐突に口に出す。

 

「……それが何か?」

 

「あんな甘っちょろいなよなよしたガキみてえな男のどこが好きなんだ?」

 

「そ、そんなのアタシの勝手です!それにリュウトのことをあなたにああだこうだ言われる筋合いなんてないっ」

「へっ、昨日俺にボロ負けしてたクセに……ゲッターロボは高性能と聞いたが検討違いだったな、もしくはアイツ自身が扱えるだけのセンスがないのか――」

 

「…………っ」

 

「あれのどこが良いか分からねえな。あんなヤロウより優れている人間なんかいくらでもいるんだぜ?」

 

彼は卑しいその笑みを彼女に見せる。

 

「ともかく、昨日の結果でお前らのここでの立場は最低になったってことだ。

惨めな目に遭いたくなけりゃさっさとしっぽ丸めて日本に帰ればいいのさっ」

 

そこまで言われ、辛うじて抑えていた彼女もついに堪忍袋の緒が切れた。

 

「さっきからアタシ達を貶すことしか言わないで……アンタこそ、人をバカにすることしか考えないただの人間失格じゃないか!」

 

「なにい……」

 

「確かに昨日はリュウトは負けたけど、それを肴にして人を貶すことで自分が優位だと思い込む、アンタのやってることは器の小さい、ケツの青いガキだって言ってんのよ。

今に見てなさい、アンタはいつか痛い目を見ることをね!」

 

彼女は彼をグッと睨みつけてこう啖呵を切る。

 

「アンタこそアタシ達ゲッターチームをナメんじゃないわよ!

今はリュウトは不調だけどいつかボコボコにやられればいいんだわ!!」

 

と、叫んだ瞬間ポーリーは憤怒し彼女を強引に押し倒した。

 

「……おい、誰にモノ言ってやがる。体で身の程を教えてやろうか?

テメェみたいに口の減らない生意気な女を強引に屈服させるのが大好きでな!」

 

「よっほどアンタ屈折して育ったのね、いっそう哀れだね!」

 

「このクソアマ!」

 

彼はなんと彼女の着ている上着を強引に破り脱がし、着用するブラジャーと白い素肌が露見した。

 

「これでも俺にたてつくか?」

 

「アンタになにされようとアタシは屈しないから!

アタシは生まれは違えどこれでも日本人よ!『ヤマトダマシイ』ってもんを見せてやるんだから!」

 

「……何が日本人だよ。お前どうみても白人じゃねえか。なんでわざわざ黄色人種(イエローモンキー)の日本人だと思い込むか理解に苦しむぜ」

 

「人種差別?ついに薄汚い本性の出したわね!

アタシは何があろうと死ぬまで日本人だと言い切ってやる、それがワタシの誇りだ!」

 

と言い切る彼女――だが、ついにブラジャーを取ろう手をかけるポーリーに抵抗して頬に平手打ちをかますエミリア。

「……もう、許さねえ!」

 

ポーリーが怒りに任せて放った全力の拳が彼女の顔面に……しかし彼女はとっさに顔を傾け床に叩きつけられる。直撃は避けたが拳が彼女の右頬をかすり、数センチの痣が出来た。しかしポーリーの拳が再び引き上げられて今度は腹部へ向けられた――。

 

「……なんだ?」

 

ちょうどそこにジョージが通りかかり雑品室がガタガタとそして何か揉めている声が聞こえたので不思議に思い、すぐ開けるとそこには上半身裸にされたエミリアにのしかかり、拳を振り上げているポーリーの姿が。

「エミリア君!!?」

 

慌てた彼はなりふり構わずポーリーを押し飛ばし、彼女を保護した。

 

「し、少佐……」

 

「な、なんでこんなことに……」

 

無理やり破り剥がされ、はだけた服から見える素肌、そして彼女の右頬に出来た痣……何をされたか誰でも分かる、今の彼女の無残な姿についにジョージはブチ切れた。

 

「キサマ、エミリア君に何をした……っ!!」

 

「…………っ!」

 

ポーリーに元へ向かう否や、胸ぐらを掴み引き寄せた。

 

「今度彼女に手を出したら、殺すぞコノヤロォーーっ!!」

 

ジョージの放った全力の拳が顔面に直撃し、彼は吹き飛ばされた。

 

床に仰向けになりノビるポーリーに目もくれず再び彼女の元へ向かった。

 

「大丈夫かっ」

 

「少佐……ワタシ…は……っ」

 

――彼女は酷く怯えていた。涙を浮かべて地震にあっているかのように身震いが激しい。

先ほどまで強気に対抗していた彼女も実は強がりだったことがよく分かる。

 

「……こわい……こわい……助けて……っ」

 

素肌がさらけ出した姿が全く気にならずにただ恐怖しか感じていない彼女に、タダ事ではないと察知したジョージはすぐに自分の着ている服を脱ぎ彼女に被せる。

 

「……とにかく今すぐここから出て医務室にっ。立てるか?」

 

しかし彼女は立とうとしても足がガクガクにすくみ上がり立てない。そこでジョージは彼女を抱きかかえて立ち上がった。

「もう大丈夫だから安心しろ」

 

と、頭を撫でて安心づけるジョージにエミリアはようやく助かったと感じて、緊張から解放されて声を上げて泣きながら彼に抱きつき離れようとしなかった――。

ジョージは早乙女とマリアに事情を説明して、彼女を引き渡した。

 

「エミリアちゃん……っ」

 

泣きじゃくる彼女の哀れな姿に二人は唖然となる。

 

「……感謝する少佐。よく助けてくれた」

 

「いいえ、本当に偶然に発見しただけですから。しかし一線だけは超えてなくてよかった――」

 

「しかし……明らかに私達の責任です――私達がいながらこんなことになるなんて……」

 

 

この後、エミリアはマリアに連れられてベルクラスに戻り、医務室で治療と自室休養に入った。

 

 

……ポーリーがエミリアに手をかけたことがすぐに基地に広まる。

ポーリーは警備隊に連行されていき、仲間達は鼻血まみれの本人を見て唖然となっていた――。

そして同じく、その事実を知った愛美は慌てて、休憩室で相変わらず落ち込んでいる竜斗の元へ駆けつけた。

 

「イシカワっ!!」

 

しかし彼も彼でどんよりしており、顔を落として上げようとしなかった。

 

「アンタ、何してるの……エミリアがあのクズ男にヤられそうになったらしいのに……こんなとこで何してるの……聞かなかったの……?」

 

しかし彼に反応がない。まるで死人のようである。

 

何故なら彼自身も、先ほどでの早乙女とのやりとりのことで絶望しかなかった。

「…………っ!」

 

だが、それに見かねた愛美も彼の態度に我慢ならずに彼の頭を掴み、無理やり顔を合わせグッと睨みつけた。

 

「……アンタ、自分の彼女があんな目に遭ったってのになんで少しも怒らないのよ!何とも思わないの!!?」

 

「水樹…………俺は……もう……」

 

彼女が見たのは昔の竜斗、見てると吐き気がするくらいの弱気な彼の表情。

そんな彼に対してついに愛美の堪忍袋の緒が切れた。

 

「そんなにウジウジしたいならもうゲッターチームのリーダーなんかやめちまえよお!!!」

 

顔を真っ赤にして彼に大声で怒鳴りつける。

 

「もういい。チームのリーダーはマナがやる、もうイシカワになんか任せてらんない!

それどころか、アンタの顔なんかもう見たくもない、どっかに消えろ!!」

 

と、大粒の涙を浮かべて感情のままに吐き出す愛美に彼は呆然となった。

彼を突き放すと背を向けて愛美は腕で目をこすった。

 

「……マナはアンタは信じてたのに……何とかなると信じてたのに……期待したマナが馬鹿だった……。

マナがやっと認めたアンタは一体どこに行ったのよ……戻ってきてよ……っ」

 

と彼女も拭いても拭いても溢れる涙を流しながら彼の元から去っていった――。

 



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第三十五話「存在意義」④

……竜斗はマリアに頼んでベルクラスへ戻る。彼女の運転する車の中では基地内の様々な騒動からか、異様に寒い雰囲気だった。

 

「……竜斗君、安心して。エミリアちゃんは無事だから」

 

「……はい……っ」

彼女は少しでも竜斗を安心させるために優しく励ます。しかしそれ以上に落ち込んでおり、顔を全く上げない。

 

「あたしや司令がちゃんと三人を見てなかったばかりに……本当にごめんなさい……」

 

目を離していた隙に、こんな危ない目に遭ったことに凄く負い目を感じているマリア。

 

「……マリアさんのせいじゃありません。僕が、リーダーの僕がしっかりしてないばかりに――」

 

と、申し訳程度にフェローを入れる竜斗だった。

 

「今、エミリアはどうなんですか?」

 

「一応鎮静剤を打たせて部屋で休ませてるわ――けど下手したらトラウマになりかねないことだから安心はできないわね」

 

「…………」

 

彼には分かる。ポーリーのしでかそうとしていたことに対するエミリアの気持ちが。何故なら自分も愛美によって同じ目に遭ったからである。

 

「あっ……竜斗君……もしかして思い出しちゃった……?」

 

「――いえ、大丈夫です」

 

「ごめんなさい……」

 

非常にこの場は気まずい空気が流れてしまった――するとマリアは話題を変えてこんな話をする。

「それにしても竜斗君、あなたに何があったの?ゲッターロボの出力が全然上がらなくなって――」

 

やはりゲッターロボに関わる者として彼に異変について質問する。竜斗はこれまでに何があったのかを、そして先ほど早乙女と愛美に何を言われたのかを、彼女に全てを打ち明けた――。

 

「……なるほどね」

 

「もう、僕はこれ以上どうしたらいいのか分かりません……僕はまだここで終わりたくないのに、みんなはやめろやめろと――頭の中がそればかり飛びまわってパンクしそうなんです」

 

すると――。

 

「……あたしは正直、未だに三人にゲッターロボに乗って戦うことには反対なのよね」

マリアはそう答える。

 

「確かにこれまでのあなた達の戦果は本当に素晴らしいし、司令の期待通りあなた達には素質があると思う。

けど、結局あなた達は自衛隊所属とか、どう取り繕っても一般人という事実には変わりないのよ、正規で入ったワケじゃないからね。

そんなあなた達を毎回戦わせることに私は不安でしょうがないのよ。

もし何かあったらあなた達のご両親にどう顔向けすればいいか――てね」

 

「…………」

 

「だから正直な話、あなたが乗らないと決めるのなら私はそれで一つの安心は生まれるわね、エミリアちゃんとマナミちゃんはこれからも乗るならそれはそれで本当に不安だけど」

 

自身の思うことを正直に打ち明けるマリア。

 

「竜斗君自身は乗り続けたい気持ちなのに確かに周りから降りろとか一方的に言われると確かに誰でもヘコむかふてくされるわね。

けど、これはあなた自身のためを思って、一つの選択肢をわざわざ言ってあげていることも忘れちゃダメよ。

決してあなたが嫌いで言っているワケじゃないから」

 

「…………」

 

「私からも、こればかりは自分で決めなければいけないと思うし、それを周りに伝えなきゃいけない。

これは誰かに決めてもらうような他力本願はしてはいけないこと、それでもし何か悪いことが起こったら自分だけでなく決めてもらった本人も気分悪いでしょ。

周りから色々言われたけど、それでも乗り続けたいと思っているは間違いなくあなたの本音、それを決定的にできるかどうかよ」

 

「マリアさん……」

 

「大丈夫。私は何があって竜斗君の、いや三人の味方だから。

あなたやエミリアちゃん、マナミちゃんがどんな選択をしても受け入れるし協力も全力でする。

だから――気を楽にして自分の思うようにやりなさい。

私は竜斗君達は我が子にように思ってるから――」

 

そう言われ、竜斗に変化が。

彼は知らず知らずに大粒の涙が溢れ流していた。止まることなく身震いしている、それは彼の心の中に溜まっていた大量のストレス、怒り、悲しみなどの負の部分が放出していた。

それを見たマリアはそんな彼の頭を優しく撫でてあげたのであった。

 

「竜斗君はチームリーダーとしての義務を果たそうとしてたから、凄く大変だったでしょうね。

それは私や司令、そしてみんなもちゃんと理解しているはずだから――正直辛かったわよね」

 

彼は顔を伏せて嗚咽する。しかしそれが彼の心の重荷を軽くしていったのであった――。

ベルクラスに到着すると、格納庫内に入り彼を降ろす。

 

「エミリアちゃんは今、自室で休んでいるけど付き添いたい?」

 

「……はいっ」

 

「分かった。もし何かあったら連絡して。あたしは基地に戻るわ、まだ仕事があるから」

と、車のドアを閉めようとした時、竜斗は。

 

「マリアさん、さっきはありがとうございます。おかげで幾分心が軽くなりました」

 

お礼を言われて、ニコっと笑うマリア。

 

「竜斗君、これからも悩んだりしてどうしようもなくなったらいつでもあたしに頼っていいからね。

出来る限りのことは協力するし、アドバイスしてあげる。それが私の使命だからね」

 

そう告げられ、彼女と分かれた竜斗はすぐさまエミリアの部屋に向かった。

中に入るとベッドでは彼女は静かに眠っている。どうやら今は落ち着いているようだ。イスを借りて彼女の横に座り彼女を見つめる。

 

頬に湿布が張られており、泣きはらした証拠に目元が赤い。あの男、ポーリーから暴行を受けたのだ、彼女の受けた肉体的外傷、それよりも精神的外傷は計り知れない――。

そんな彼女を見て、自分の問題ばかりに囚われて彼女を守れなかったことに対し、彼は今やっと実感しそれを後悔する。

愛美の言っていたことは正論だ、そばにいたはずの自分の彼女を守れず、怒らずウジウジしていた自分の愚かさに恥じた。

 

(……父さん……母さん……黒田一尉…………こんな今の俺を見て嘆くかもしれない――けど、これからどうすればいいんだ……?)

 

――彼は悩んでいると、外からドアをノックする音が聞こえる。開けると目の前にジョージが立っていた。

 

「少佐……」

 

「竜斗君か。君も彼女が心配だったか」

 

二人は中に入り、眠る彼女の前に立つ。

 

「少佐がエミリアを助けてくれたそうで、本当にありがとうございます」

 

「いやあ、俺も偶然だったんだよ、けど手遅れになる前でよかった」

 

「ポーリー中尉は?」

 

「恐らく問題を起こしたから懲戒処分くらうだろうな、多分本国に強制送還されるだろうから君達を脅かす奴はもういなくなるよ。まあ、俺も後が大変だがな」

 

「……え?どういうことですか?」

 

「あんなヤツでも顔面殴って怪我させたからな。もしかしたら俺も何かしら処分を受けることになるかも」

「そんな……少佐は助けに入っただけじゃないですか」

 

「しょうがない、これも規則だ――それにしても彼女が立ち直ってくれればいいんだが」

 

「…………」

 

彼が暗い表情を落としていると、察したジョージは。

 

「ここじゃあなんだ。少し外で話さないか」

 

と、言われて二人は艦内の食堂に行きジュースの入ったコップを持って席に座る。

 

「エミリア君は置いといて君も今、凄く大変な目に遭ってるだろう」

 

そう尋ねられてコクっと頷く竜斗。

 

「はい。もう何がなんだか分かりません――」

 

「俺、いや誰もが想定すらしていない事態だからな。

その本人である君がもがき苦しんでいるのは一目で分かるよ。君はこれからどうするんだ?」

 

「僕は…………やっぱり乗り続けたい気持ちでいっぱいです。目的がありますからこのままここで終わりたくないし、何よりチームメイトを守りたい気持ちでいっぱいです」

 

「……なるほど。君がそこまで考えてるなら俺からは何も言えないな」

 

「しかし司令や水樹に見限られたみたいで……」

 

自分と二人の間に何があったかを教えた。

 

「言っておくが竜斗君、二人は君へ本気でそう言ったワケじゃないと思う。

それは今の弱気な君に一喝したんだよ。もし本気なら君に何も期待してないことだから恐らく二人は君に「じゃあ自分の好きにしろ」と言っていると思う」

「…………」

 

「あと、そう言われて悔しいと思うなら見返してやろうとか何かしら行動を起こすべきだ。

例えば――ゲッターロボに乗れないなら他のSMBに乗ってやるとかさ。考えると色々やるべきことが頭に浮かぶだろ?君は賢いんだから」

 

と、今まで気づかなかったことを言われて「はっ」となった。

 

「俺からの視点だけど竜斗君の才能は正直素晴らしいものを感じるよ、あのジェイドも君を見込んでるし。

アイツはブラック・インパルス隊の中でもかなり視野の優れた持ち主だから、他人の才能を見分けるのに長けているしそれでなお、君を気に入るのははっきり言って凄いことなんだよ」

数日前にも本人からもそう言われたのを 思い出すが、その時はお世辞か何かだろうと軽い感じでそんなに凄いことだとは思わなかった。

 

「ブラック・インパルス隊のメンバーの多くは、前の戦歴を見て君のことを高評価をしてたよ、普段は他人への評価に興味を示さないジョナサンも君を認めてるし。

けど君の弱点はその優しい性格かな。

悪いことではなく、寧ろいいんだけど、戦闘が肝心になるこの分野、仕事にとっては致命的な要素。

君のそのせっかくの才能を持て余し、下手すれば押しつぶしてしまいかねないんだよ」

 

『その弱気な性格が君の才能の殺している』。前にも早乙女から言われた彼の短所をここで突かれ、そこでやっと、これは本当のことなんだ、と彼は思い知った。

「軍隊にいる以上は自分達は戦うことを契約しているワケだから、いざと言うときに非情、またはなにくそと強気にならないと軍隊にいらないってことになるんだよ、向いてないってことだから。

もし君の言うとおりこれからも乗り続け、そして戦っていきたいならそこは覚えておいたほうがいいと思う――遊びじゃないんだから」

 

「……うーん、僕にそれが出来るかどうか――」

 

「まあ無理じするつもりはないね、人それぞれの個性ってもんがあるから」

 

彼は一呼吸置き、こう言う。

 

「竜斗君、いやゲッターチーム全員にこれだけは言っておく。

いつまた戦闘が起こるか分からないこんな空気の張り詰めた状況の中でも、君達のために手を尽くして協力してくれる人達が沢山いるってことを忘れちゃいけないし、そして感謝しなければならない」

 

 

「…………」

 

「君達は周りの支援があってこそ初めてここに居られる。

竜斗君達は正規軍人でもなければそのように訓練を受けてないからね、ポーリーや他国パイロットが冷たく接するのも理解できる」

 

いくら才能や能力や戦歴があろうと関連性のないよそ者だと、受け入れてもらえないしそれを理解してもらえないと言うことだ。

 



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第三十五話「存在意義」⑤

「そして身近の人間にも感謝しなければならないよ。

サオトメ一佐やマリア助手、エミリア君やマナミ君がいてこそ君がゲッターロボというSMBのパイロットたらしめることだし、そして周りも君を期待し、頼りにしている。

それを今の弱気な君を見ているとどう思う?」

 

自分がこんな事態にもがき苦しんでいるを見て早乙女達は何とか手を尽くそうと頑張ってくれたのに、手を差し伸べてくれたのにただ弱音を吐いてウジウジしていた自分に腹が立った――助けてくれようとした人達の努力を無駄にしそうにした、そして周りに対する感謝の心が足りなかった。

早乙女、愛美が自分にキツく言ったことの意味に、竜斗は今やっと気づいた――。

 

 

「僕はバカだ……ここまで尽くしてくれた人達になんてことを……」

 

どうやら理解できたと知り、ジョージは安心のため息を吐いた。

 

「いや、君が気づいたのならそれでよかった。

それよりも問題は、君はこれからをどう行動するかだ。

もしこれからも乗り続けたい気持ちがあるなら、自分の出来ることを考えてすぐに行動に移すべきだ。

その明確な気持ちとやる気があるなら、ジェイドやジョナサン、一佐達も周りは大喜びで君に協力してくれるだろう。

俺も君の味方だしできる範囲でなら支援するよ」

 

「少佐……」

 

「それほど君は信頼されているということだ、よかったなっ」

竜斗の表情は見る見る内にやる気に満ちた明るい表情になっていく。

こんな自分でもまだまだここで頑張れるということに対するの嬉しさ、そして自分を助言をくれて奮い立たせてくれたジョージへ感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

「お、やっといい顔になったな。それが一番いい表情だよ」

竜斗は頭を撫でて照れている。

 

「……そういえば、少佐はなんで軍に入ろうとしたんですか?」

 

「……俺?」

 

竜斗からそういう質問をされるとジョージはその黒髪のパーマのかかった自分の刈り上げ頭をポリポリかいた。

 

「……俺ってさ、軍に入る前って結構荒れてたんだよね……」

 

 

彼は過去を言うのが恥ずかしいのか多少口ごもっていた。

 

「思春期の至りって言うか、なんと言うか……自分の欲求が常に満足ならないような毎日だったから、学校にもほとんど行かずに見るからに危なそうな仲間とつるんでバカやってたんだ。

他人の車盗んで乗り回したり、ケンカしたりして色々と人様に迷惑ばかりかけてさ。まあ所謂ヤンキー崩れだよ」

 

彼が「やんちゃ」だったとは、優しさを持つ彼とは全く想像もつかない竜斗だった。

 

「それで親にも見放されてさ、堕ちるとこまで堕ちたよ。

……ここだけの話、実はドラッグとかにも手を出そうとしたこともあってさ」

 

「ドラッグ…………クスリですよね……なんでそんなものに……っ」

 

「仲間にそういうルートがあったし割とすぐに手に入るような環境だったってこともあるね。

あの時はもうヤケになってたしとにかくもう快楽が欲しく欲しく仕方がなかったんだ。結局、俺は手を出さなかったけど」

 

「それは何故ですか?」

 

「ハマっていた仲間の一人が重度のヤク中になってね。そいつの変わり果てた姿を見た瞬間、心底恐怖を感じたんだ。

俺はこんなヤバいモノに手を出そうとしてたのかと――」

 

竜斗もどういう状態か、見たことがないから分からないが彼の言うにはそれはおぞましい光景だったと感じる。

 

それに彼もクスリに手を出さなかったのも、一線を越えないちゃんと良心が残っていたからなのだと感じた。

 

「それから俺はあれほどあった底知れない欲求や快楽は簡単に消え失せてもうまるで人が変わったかのように悪いことをしなくなったし、悪友ともつるまなくなった。

けど、それはもう手遅れだった。

なんせ俺の悪行がすでに周りに知れ渡ってたし、少なくとも住んでいた地域では俺に協力してくれる人間なんかいなかった、親ですら俺の味方をしてくれなかった。

特に仕事を探す時なんか苦労したよ。

元々、凄く不器用な人間で学歴もないし、それに加えて悪行ばっかり目立ってたし、色んなとこ受けてはことごとく落とされた。

寧ろ俺を軽蔑するような視線ばかりだったし――。

そこでやっと俺は今までしてきた行いを対して本当に後悔し、恥じたね――」

 

「…………」

 

「それで苦悩していた時に、流石の親も俺を哀れに思ったんだろうね。

なら軍隊に入らないかと言ってくれてな、こんな俺でももしかしたら入れさせてくれるかもしれないって――で、俺はそこに最後の希望をかけて受けて、見事入隊できたってわけだよ」

 

彼の波乱万丈な過去を聞いて呆然になっている竜斗。

 

「入隊してからしばらく経ってから、一回目のブラック・インパルス隊の選抜試験を受けたんだ。

今の俺はどこまでやれるかってね。

奮闘したけど結果はもう少しの所で落ちちゃって正直ヘコんだね。

惨敗だったらこれが自分の実力だったと見きわめて諦めてたけど、意地悪にも僅差だったらしいから余計始末が悪い。

だからそれ以上に悔しさが半端なくてさ、だから次の試験までに今まで以上に猛特訓してそしてついに二回目の試験でブラック・インパルス隊のメンバーに入れた。その時の嬉しさと言ったらこの世の物とは思えなかったね、うんっ」

 

と、彼は誇らしげにそう語る。

 

「確かにキツい訓練や実戦闘があって本当に過酷だけど、それ以上にここは俺を受け入れてくれたし、かけがえのない大事な仲間も作れたし。

こんな俺でも頑張っていけるんだというやる気と戦っていく勇気を身についたし、自分にとってはまさに天職だと思うね。

色々迷惑をかけた人達や親への罪滅ぼしも兼ねて、これからも人助けをすべく軍人として頑張っていきたいと思ってる――」――竜斗は感動した。ジョージの話からここまで来るのにどれほどの苦難があったのか――今まで平凡に過ごしていた自分とはまた違う一つの人生の、それも『下から這い上がる』という話を直に聞けて凄くよかったと感じた。

 

 

「そ、それにしても少佐はなんか凄い人生を送ってきたんですね……っ」

 

「全然凄くないよ。真っ当のジェイドとかと比べると明らかに落ちぶれた人間だし。

だけど俺は、ここでのどんな苦難にも耐える気だし努力もする気でもいる。

何故ならここが自分の唯一の居場所だから――」

 

ジェイドも彼は尋常じゃない努力をしてここまでのし上がってきたと言っていたのを思い出す。つまり守るべきものがあるから頑張れるということだ。そしてこれもある意味、彼の才能とも言えるのかもしれない。

 

「……とまあ、なんかしみったらしい話になったけど。ともかく君もこれからガンバレよ、俺は応援してるよ」

「はいっ、ありがとうございますっ」

 

 

……また一つ、貴重な話を聞けて、参考に出来そうだと感じ、そしてこう思った。

ジェイド達のように親身になってくれる頼りになる先輩方が身近にいるということに、自分達は実は恵まれた環境にいるのではないかと。

そう考えるとみんなのために弱気になっている場合でないと、無駄にするわけにいかないと彼は意気揚々となっていく。

 

「……リュウト?」

 

「起きた?」

 

その夜、彼女が目覚めて起き上がろうとしたが付き添っていた彼に止められる――。

 

「……気分は?」

 

「……うん。大丈夫かな……」

 

彼女もどこか虚ろになっているがちゃんと会話をしている所を見ると心配はなさそうだ。

 

「……ごめんな、守ってやれなくて」

 

「……リュウトが謝る必要はないよ。突然の出来事だったから誰も予想つかないよ」

 

「……ポーリー中尉は本国、つまりイタリアに強制送還されることになったらしい。それからはどうなるか分からないけど……」

 

「………………」

 

――二人は沈黙した。

あんな危ない男がいなくなって清々したいけど、二人は嬉しくなれずにモヤモヤしていた。

 

「……俺さ、色々あってもうゲッターロボに乗れなくなったのかもしれないんだ」

 

と、彼はそう告げる。

 

「いや、チームからも外されるかもしれない。もし俺がいなくなってもエミリア、お前はどうする?」

 

……すると彼女は、

 

「アタシは……何があってもリュウトを信じてる。

やっぱりリュウトがいないとアタシ達は成り立たないよ。それはミズキも同じことを思ってるハズだから――」

 

「エミリア……」

 

「ワタシはリュウトがまたスゴく活躍できると信じてるから――」

 

……竜斗はここでついに揺るぎない決心がついた。

そう、目的や仲間のためにここからもここで頑張っていくことを――。

 

次の日、竜斗はジェイドの元へ訪れる。

 

「竜斗君、エミリア君は大丈夫なのか?」

 

「あの後、エミリアは大丈夫だから気にしないでと自分の口から言ってましたからとりあえずは」

 

「そうか……だがまさかポーリー中尉がついに手を出してきたとは……同じ軍人として恥ずかしい。君たちに謝りたい」

 

彼は申し訳なさそうに頭を下げるが竜斗は慌てて手を横に振る。

「少佐のせいではないですよ全然。あの時は僕がしっかりしてなかったから起きたことです、だからこれからはもうそんなことがないよう心掛けます」

 

昨日のような暗い彼ではなく、今はどこかしっかりした、気丈さを持つまるで希望に満ちているような清々しい顔をしているのがジェイドには分かった。

 

「ところで少佐にお願いがあります」

 

「どうした?」

 

「僕はゲッターロボに乗っても力を引き出せないし、無理に乗っても正直役立たずになります。

けどやっぱり僕には昨日言った目的と守るべき仲間もいるのは事実、だから僕はここでまだ頑張りたいんです。

ですから――僕にステルヴァーかマウラーに乗れるように訓練してほしいんです」

 

 

それを聞いたジェイドはピクッと反応した。

 

「僕はなんだってします。身体を鍛えるのも徹夜してでも操縦方法を覚えるのも、僕はもう泣き声を言わず、そして惜しみなく頑張ります。だから僕を鍛え直して下さいっ!」

 

眼は明らかなやる気が感じられるほどに屈託のない輝きを放っており、そしてハキハキとした声で、それも感情がこもっている。

彼は本気だ、とジェイドは分かった。

 

「僕はどんなことを言われようとそう決めましたので絶対に引き下がるつもりはありません、どうかお願いします!」

 

竜斗は深く頭を下げて嘆願する。その覚悟を感じたジェイドは、

 

「……それにしても君がステルヴァーやマウラーの操縦訓練を受けたとしても、マウラーはともかくステルヴァーはブラック・インパルス隊専用機だから許可なくは乗れない、いや許可すら取れないかもしれないが」

 

「僕も許可を貰えるように努力しますし、無理でもこれもいい経験をしたと思います。

もうゲッターロボに乗れないならそれを割り切って、なら新しいことに足を踏み入れたいんです」

 

「…………」

 

「どうかお願いします。僕はもうウジウジしたくありません」

 

ジェイドもついに折れて、ため息をついた。

 

「……たった一日で君に一体何があったんだ?」

 

「いやあ、色々と心境に変化がありまして」

 

呆れているジェイドもどこか嬉しそうな顔をしている。

 

「……分かった。君がそこまで言うなら協力しよう」

 

「本当ですか!」

 

「ああ、どうやら君もちゃんとした決心をつけたようだし。それを私が否定する権利はないよ、寧ろ協力したくなる」

 

「ありがとうございます、少佐っ」

 

二人は互いに笑顔で固い握手を交わした。

 

「ここまで覚悟を決めれたのは大したものだよ君は」

 

「これも少佐、それ以外にもたくさんの人達が協力してくれたいたからこそ、僕らがここにいられるんですから感謝の気持ちでいっぱいです!」

 

と、自信を持って答える竜斗にジェイドも心にあったもやもやが取れて清々しかった……。

 

 

「そうか、竜斗がついに覚悟を決めたか――」

 

ジェイドは早乙女達に今の彼の様子を伝えた。

 

「やはり彼には才能があり、凄まじい成長を見せてますよ。

それに素直で真剣に取り組みますから操縦訓練をさせてみたら覚えるのが凄く早くて殆どモノにしてますよ。

これならもう近いうちにステルヴァーやマウラーで実戦投入しても十分やっていけるでしょう――彼には完全にやる気に満ち溢れてますよ」

 

それを聞いた早乙女は「よし」と相づちを打つ。

 

「博士、今の彼ならアルヴァインを改造しても大丈夫でしょう。きっと乗りこなせてみせます」

そしてニールセンもついに重い腰を上げた。

 

「……よし。ではこれからアルヴァインの大改造を始めるか、キングにもそれを伝えよう――しかしまた、ジェイドの話を聞くと竜斗君は随分と逞しくなったのう」

 

「ええ、やはり彼は逸材の人物だと私は思います」

 

彼に太鼓判を押すジェイド。

 

「これは水樹にはない彼独自の才能でしょうね。

要領がよく呑み込みが早い、つまり順応力や適応力、応用力が高いからゲッターロボのみならずBEETやステルヴァーなどの、どんな機体に乗せても使いこなせるという万能気質。

エミリアは三人の中ではセンスは劣るものの、持ち前の根気による努力でここまで見事勝ち生き残ってきたある意味の実力者。

そして水樹は高い戦闘センスを持ち、さらにゲッターロボのポテンシャルをフルに引き出せる、ゲッターパイロットとしてはこの上ない天性ともいえる適応力の持ち主。

 

万能の竜斗、努力のエミリア、そして天性の水樹……三人が合わさってこそゲッターチームの真価は発揮される」

 

 

「ふむ。そう考えると三人はやはりゲッターロボ乗り、そしてチームとしてはうってつけということだな」

 

「ええ。これで後は連携力が高まればチームとしての総合力は確実なものとなる」

 

と、三人は彼らに対する期待を高めるのであった。

 

その頃、基地内のトレーニングルームではジェイドから教えられた通りのメニューで筋力トレーニングに励んでいる竜斗の元に愛美が姿を現した。

「……水樹」

 

「……アンタ何やってんの?」

 

「俺はもうゲッターロボに乗れないかもしれないからさ、ならステルヴァーかマウラーに乗ることに決めたからその為のトレーニングさ」

 

「…………」

 

「俺はもう悩まずに前に進むことに決めた。ゲッターロボに乗れなくても二人を守っていくことはできるから」

 

彼女に自分の意志を伝える。すると、

 

「……ふうん。なら頑張りなさいね。じゃあマナは行くね、こんな汗臭いとこにいつまでもいたくないから」

 

と、彼女は背を向けて去っていく。すると竜斗は。

 

「ありがとう水樹。昨日お前が怒ってくれたおかげで目が覚めたよ!」

 

 

彼から感謝の言葉を言われ、愛美はその途中に足を止めてこう言った。

 

「石川、無理するんじゃないわよ。リーダーのアンタにケガされちゃマナ達が困るんだからね」

 

「水樹……」

 

と、ボソッと言いこの場を後にしていった。

彼女の言葉に彼のやる気はさらに上がっていき、今の彼にはなんの迷いなどなかった。あるのはひたすらの向上心のみだ。

 

(やっぱり、俺はここで頑張っていくんだ――!)

 



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第三十六話「二人」①

――オーストラリア。

南半球にあるこの孤立した一大陸の中央に君臨する、巨大な爬虫類かそれとも地上人類か何か髑髏を下地にした城のような形をした建造物がそびえ立っている。

まるで天まで届くかのように高く、まるで塔とも言えるそれはバベルの塔でも造ろうとしたのかと思いたくなる。

そしてその周辺には数え切れないほどのメカザウルスが配置され、要塞を思わせる虫一つも侵入させまいと言わんばかりの鉄壁さを物語っている。

 

――第一恐竜大隊本拠地『ヴェガ・ゾーン』。

シュオノアーダで「蛇牙城」を意味するこの建造物はデビラ・ムーやドラグーン・タートルのような生き物を象った物とはいえ違い城、または要塞という無機質な姿である。

内部にある応接間では二人の人物が会談している。

一人はジャテーゴの側近であるラセツ、もう一人は白銀のマントで身体を包んだ、高貴な雰囲気を持つ爬虫人類の男。

彼は第一恐竜大隊の総司令官であるリョド=ユ=バルグヴェル。

将軍の地位を持ち、バットと同格の存在である――。

 

「――リョド将軍。例の件の返答をお願いします」

 

自分より遙かに格上であるリョドを前にしても臆せず、寧ろこちらか覆い尽くしてやろうという高圧的な態度で何かを持ちかけているラセツ――。

 

「……お引き取り願おうか」

 

しかしリョドは顔色一つ変えずにそう言い切る。

 

「将軍、何をためらいますか。ジャテーゴ様はアナタの武勇を見込んでのことでございます。

ジャテーゴ様は全力であなた方を支援し、地上人類を殲滅した後は今以上の待遇を用意するとおっしゃっています」

 

「私はゴール様に絶対の忠誠を誓っている。たとえ御方の妹君であるジャテーゴ様だろうと傘下には絶対に入らん」

 

断固否定する彼。するとラセツはあるものを懐から取り出す。

小型の金属チップ……何かの記憶媒体のようであるが。

 

「この中にはありとあらゆる情報がインプットされてます。さらにごく一部しか知らない極秘、機密情報も。

もし、将軍が承諾してくれるのならこちらを差し上げましょう――」

何故彼がそれを持っているのか謎であるが、リョドはそれを見つめたまま無言である。

 

「まあ、将軍の心境もありますので返事は後日で構いませんよ。

しかしこれだけは言っておきます、ゴール様に絶対忠誠を誓えるほどの王の器は持ち合わせていないことを。

証拠に現在の帝国の思わしくない情勢、そして各軍における予算の削除や治安の悪化、そして自身の指揮、統率能力の程度。

日本地区は奴らに奪い変え去られましたが、あれはゴール様の判断が招いたことでごさいます」

 

「…………」

 

「その事をよく踏まえて、そして先を見据えて返答を頂けたらと思います。では、私はこれで――」

 

彼は立ち上がり、去ろうと背を背を向けた時、リョドが閉じていた口を開く。

 

「ラセツ、そなたがゴール様に忠誠を誓わないのは勝手だが、何ゆえそこまでジャテーゴ様を狂信的に支持するのだ?」

 

「言っておきますが、ジャテーゴ様はゴール様よりも遥かに国を治める才能に溢れておりますゆえでして、私はその事実を正直にアナタにお伝えしただけでございます。あなたも帝国、いや爬虫人類の為を思うのなら忠誠を誓う相手を考え直してみればよろしいでしょう――」

 

お辞儀をして颯爽と去っていくラセツを尻目にその後ろ姿を何かの念を込めたような眼で見るリョド――。

 

場所は変わり、北極圏――。

開発エリアのメカザウルス専用ドッグにてガレリーがザンキ、リューネス、ニャルム、クック。ジュラシック・フォースの面々に、自分達の乗る予定の最新型専用メカザウルスの説明をしていた。

左端に立つメカザウルスは、クランの乗っていたルイエノと同型の姿を持ち、左右の腰には計二丁の拳銃の収まったホルダーが取りつけられており、両腕、両足には折り畳まれた刃物が装着されている。

 

「左端の機体はザンキ専用のメカザウルスでルイエノをベースにした『ランシェアラ』。同じく地上戦に特化した機体だ。

自身の卓越した戦闘能力をフルに生かせるように、操縦方法が特殊で、そなたの動きがダイレクトに機体に反映するようにしてある」

 

 

「ほう、それは腕がなりますな」

 

彼は高揚としている。その隣にはなんと……ラドラの機体であるゼクゥシヴと瓜二つの姿をしたメカザウルスが。

 

「これはクック専用機『グリューセル』。

ゼクゥシヴの二号機とも言える機体だが性能は本機以上に高く引き上げてあり、同じく空陸対応の万能機だ。

ラドラと良き仲であるそなたにはこれが似合うと思ってな――」

 

「……『戦友』ですか。ありがとうごさいます」

 

「け、またラドラか……っ」

 

「うぜえぜ、全く」

 

クック以外の三人はラドラと聞いて嫌な顔をし、愚痴を吐いているが聞いている本人は無視している――。

その隣にあるのはトリケラトプスと思わせる四足歩行の角竜型メカザウルス。

ミサイルランチャーやキャノン砲が取り付けられた見るからに砲撃主体を思わせるフォルムである。

 

「リューネス専用機『オルドレス』。ランシェアラと同じく陸戦用でそなたの得意分野である砲撃戦に特化した機体だ。

外見のある兵器の他に最近完成させた新兵器を内蔵し、今はまだ取り付けてないが特殊な装置をつけるつもりだ。

より命中精度を上げるためにな――」

 

「そりゃあありがたいな、ワハハハ!」

 

と、豪快な笑い声を上げる彼を尻目に、ニャルムは落ち着きのないかのようにキョロキョロしている。

 

「ニャルム、どうした?」

 

「……あたしの機体が、ない……」

 

 

ここにあるのは三機のメカザウルスだけで確かに彼女の機体はどこにも見当たらない。

 

「ニャルムの専用機はメカザウルスではなくメカエイビスだ。

だからエイビス専用のドッグにあるから安心してくれ」

 

それを聞いてホッとするニャルム――。

 

「完成次第そなたらは直ちに第二恐竜大隊と合流、あとはバット将軍の指揮下で行動してくれ。

この機体には我々の最新技術を積み込んでいる自信作だ、武勇を期待しているぞ」

 

「「「「はっ!」」」」

 

四人は去っていった後、今度はすれ違いにラドラがやってくる。

ゴーラ直属の親衛隊長となった彼は漆黒のマントを身につけていた。

 

「ガレリー長官、只今参りました」

 

「来たか、ラドラよ。先ほどジュラシック・フォースのメンバー専用のメカザウルスを見せてたのだが、実は同時進行でそなたの機体も強化しておいたので見せてやろうと思ってな」

「まことでございますか、ありがとうごさいます」

 

二人はそこから離れた場所にあるドッグへ足を運び、前にそびえ立つ彼の機体を下から見上げる。

外見はライフルが二丁となっている以外は、前と変わりない容姿である。

 

「ゼクゥシヴを強化した『リューンシヴ』だ。外見こそは変わりないがスペックは前以上に底上げした上に新しい技術も色々取り入れておる。

ライフルもその技術を応用した試作品で扱い辛いと思うがお前の腕ならなんら問題ないだろう」

 

「ありがとうごさいます――しかし、何故私の機体の強化を。これからはもう私はゴーラ様の近衛兵として仕える身で機体に乗る機会はなくなると思いますが」

 

「……ここだけの話だが、近々中南米にいる部隊への補給品の輸送がある。それも非常に大量のな。

それに大勢の護衛がつくことになるのだが――」

 

「それで私がですか?」

 

「そうだ。ラドラ自身の指揮官としての『リハビリ』も兼ねて、ちょうど新しい機体の実戦テストを含めゴール様はラドラもメンバーとして指名した。つまり、お前に護衛部隊の隊長をお願いしたいとのことだ。

ジュラシック・フォースは近々第二恐竜大隊と合流せねばならん。それでお前が一番適任と言うわけだ」

 

「分かりました、ゴール様の御命令とあらば――」

 

「うむ。ラドラよ、頼むぞ――あと、南米と言うことでもしかしたら向こうにいる地上人類の軍と交戦する可能性も十分ありえる。

もしかすれば例のゲッター線の使う機体も現れるかもしれん。

その時こそ仕留めるチャンスだ、強化したリューンシヴとそなたの腕なら今度こそ確実に――」

 

「………………」

 

だがラドラは、ガレリーの期待と裏腹に複雑な顔をしている。

 

「ラドラ、どうした?」

 

「あ、いや……なんでもございません」

 

「……まあよい。もし現れたら破壊しろ。忌々しい我らの災厄の根源を断ち切ってくるのだっ」

 

……ラドラは詰所に戻ると親衛隊の部下が出迎えた。

 

「お帰りなさいませラドラ様、先ほどゴーラ様があなたをお探しになられてましたが――」

「私を?」

 

彼はすぐに彼女の部屋へ向かった。

 

「ゴーラ、ラドラです」

 

ドアをノックするとすぐに彼女が扉を開けて出迎える。

 

「ラドラ、あなたを探してました。とりあえず中へ――」

 

二人は部屋の中央にある石造りのソファーに座る。

 

「……私が掴んだ話です。ジャテーゴ様はどうやらここの何割かの者を買収し、自分の味方につかせているとの話です」

 

「なんですと……」

 

「まだ数人ほどから掴んだ情報ですので、正確にどのくらいの数の者がいるかはまだ分かりません。

しかし、多ければ多いほどお父様や私の身の回りには敵ばかりということになり、非常に厄介なことになります」

 

「…………」

 

「なんとしてでもこれ以上の拡大を防がなくては……ラドラ達親衛隊も私はともかくお父様に対して今まで以上に警備を強化し、そして小さな情報でもいいので集めて来てください。

どんな些細な情報でも多ければ多いほどジャテーゴ様の謀反疑惑はより確実な証拠になります。

私もより情報を集めて、お父様にこの事をお伝えいたします」

 

「……分かりました。ゴーラもお気をつけてください。

一応、部下にあなたの護衛をつかせますが何かあればすぐに私が駆けつけますのでご安心を――」

 

「分かりました。ところでラドラはなぜガレリー様の元へ?」

 

「それは…………」

 

彼女に全て話すと彼女は。

 

「もしかしてリュウトさんと……っ」

 

「……ええ。もし向こうが現れたら戦う他以外にありません」

 

「…………」

 

……二人は沈黙する。今は二人を合わせたくないと思うゴーラだが。

 

「いくら彼が戦う意思がなくとも、私は帝国のいちキャプテンでありそして僕。

帝国は地上人類を殲滅するつもりですから私はそれに逆らうわけにはいきません。逆らうことは帝国を、いや爬虫人類としてのアイデンティティを失うことと同じになります。ゴーラもこれを理解できるはずです」

 

「しかし、リュウトさん達はこれから私達爬虫人類と地上人類の和平の架け橋になるかもしれない人達です。

お願いですラドラ、どうかリュウトさん達を殺さないで!」

 

彼女は嘆願する。しかしラドラは。

 

「ゴーラ、あなたのおっしゃっていることは全て理想だらけの綺麗事なだけです!」

 

と、彼はつい怒鳴りつけるように言ってしまい怯んでしまう。

 

「あ、申し訳ございません……しかし、私にも立場があることを少しお考え下さい……」

 

と、恐縮してそう言うと彼女も。

 

「……私こそごめんなさい、つい自分勝手なことばかり申してしまって。

 

だけどリュウトさん達は、地上人類で初の知り合いでありお友達ですし、それにこんな暗い世の中でも少しでも希望を見いださないと私はとてもじゃなくやっていけません――」

 

ラドラは彼女の思いを理解している。

竜斗という、「戦いたくない、仲良くしたい」という自分の思いを真正面からぶつけてきた地上人類の少年と戦いたくないのは自分も同じである。

 

 

「確か……リュウトと言う名でしたよね、あの少年は」

 

「はい。私を保護してくれ、そしてとても優しく接してくれました。彼の仲間の方も優しく接してくれましたし、また再会してお話がしたいと本気で思える方々です」

 

「……ですが、爬虫人類と同じで地上人類には優しい人間ばかりではないと思います。

地上人類を忌み嫌う爬虫人類がいるように、我らを嫌悪する地上人類もいることをちゃんと理解してますか?」

「ええ、私は理解した上でそういう夢を持ち続けていますし、いつかそれが叶うと信じてます」

 

彼女の断言を聞き、再び心が揺れ動くラドラ――自分の種族、立場で葛藤し頭痛がした彼は一旦、詰所に戻るとゴーラの部屋を後にした。

通路に歩きながら顔を落としているとそこに、

 

「どうしたラドラ?」

 

そこに偶然差し掛かった彼の親友、クックだった。

 

「顔色が悪いが大丈夫か?」

 

「ああ。なんでもない――ところでお前、シベリアの第二大隊に行っても元気でな」

 

「ああ、あんなヤツらだけど上手くやるよ。お前もゴーラ様の護衛を頼んだぞ」

 

二人の互いを見る眼は本当に信頼しているような、本当に親友だと思わせる力強い眼である。すると、

 

「後で酒場で久々に話しないか?ここでの最後の語り合いだ」

 

「喜んでっ」

 

クックは誘うと彼も快く受け入れたのだった。

 



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第三十六話「二人」②

“――竜斗、準備はいいか?”

 

「オーケーですっ」

 

――約一ヶ月後。地下基地内の出撃用上昇テーブルに乗る、改造の終わったアルヴァインが発進態勢に入っており、改装されたコックピットでは竜斗は意気揚々に操縦レバーを握りしめている。

 

“君がこの一ヶ月間の訓練の成果を試す時だ、期待しているぞ。

なお、機体の性能、そして君の操縦技術を最大限に生かすためにコックピットはステルヴァータイプと同じモノを採用した。今までのゲッターロボの操縦方法とは異なり戸惑うかもしれんが君なら上手くやれるだろう”

 

……彼はこの日をどれだけ待ったか。

もう力を発揮できなくなったゲッターロボとは違い、自分でも力を引き出せるというゲッターロボに乗れること、そして心機一転し猛訓練に励んできた自分の成果を試したくてウズウズしている。

証拠に彼は前と比べてやる気に満ち溢れた清々しい表情から分かる明るい雰囲気、そしてトレーニングを重ねて筋肉のついた体躯。

外見からしても前までの竜斗とは思えないほどに変化が伺える。

 

――すると、通信モニターの画面に早乙女に割り込むようにキングが映り込む。

 

“竜斗君、新しくなった駆動エネルギーに伴って、本機の武装を変更するぞい”

 

「ええっと、確か耐久性と許容量の問題で腹部のゲッタービーム、そしてライフルのプラズマ弾、トマホークとブーメランが使えないんですよね?」

 

“そうじゃ。しかし今急ピッチでゲッタービーム以外の兵装は複合エネルギーに対応できるよう改造しておる。

……まあ今回はただ飛び回るだけの実験じゃからな」

 

「ゲッタービームの方はどうしますか?」

 

“今考え中だがこの際、腹部からではなく肩に取り付ける砲(キャノン)タイプにしようかなと思ってる、ライフルも同時使用できるようにな”

 

「……まあ、博士に任せます」

 

“よし、話はそれまでにしてそろそろ開始する。あと、無理だけはするなよ”

 

――外部ハッチが開かれて、機体の乗る出撃用テーブルがゆっくりと上昇していく。

みるみるうちに快晴の空が見えて光が機体に差し込んだ。

テーブルが地上まで上がり停止、機体が外の空気に晒された。

「では、始めます――」

 

竜斗は右足元のペダルを押し込んだ瞬間だった――。

 

(っ…………)

 

それはアルヴァインで初めて出撃した時と同等、いや以上の恐るべき速度で真上へ飛び上がり一瞬で大空の到達した。

 

“大丈夫か?”

 

「はい、まだまだいけますっ」

 

“よろしい。その調子で続けるぞ”

 

アルヴァインは基地外を飛び出し、今はもうここにいないあの男、ポーリーと戦闘したメキシコ湾上空を、まるで疾風の如く凄まじいスピードで縦横無尽に飛翔するアルヴァインの姿は初戦時の再現そのものである。

コックピット内はゲッターロボとは異なった操縦用レバーやシンジケーターや液晶モニター、パネルキー、コンソール……ステルヴァーそのものであり操作性が段違いに難しくなったはずなのだが、竜斗はこの一ヶ月間に学んだ新しい操縦訓練の成果を活かし巧みに操縦していく。

 

(スゴい、もうゲッターロボはダメかと思っていた俺でもちゃんと力を引き出せてるっ!)

 

出力値を確認しても完全にグラフがマックスであり、なおまだ上がるような雰囲気を見せている。

 

「実験は成功したようだな」

 

「ああっ」

 

基地内のモニターで腕組みしながら凝視するニールセン達もその様子にようやく納得した表情を見せている。

 

「博士のおかげです、感謝しますよ」

 

「うむ。これで一つの問題はクリアしたな。後はテキサス艦の完成を急ぐのみじゃ。

これからは遅れた分、お前達にも汗水垂らして頑張ってもらうぞサオトメ」

 

「もちろんですよ」

 

一方、ベルクラス内では艦橋からエミリア、愛美の二人は同じくモニターで実験飛行の様子を見ていた。

 

「へえ、石川もやっと本調子に戻ったみたいじゃない。よかったよかったっ」

 

「うん、これでアタシ達はこれからもゲッターチームとして一緒に戦っていけるんだね。嬉しい――」

 

二人は安心し、ホッとする。

 

「にしてもさ、アイツこの一ヶ月間で本当に見て分かるくらいに逞しくなったよね。身体つきもあるけど前向きになったというか、迷いがなくなったっていうか。イシカワはやっぱりやればできる人間なのよ」

 

「うん。リュウトは本当にスゴいよ。アタシも負けないように精進しなきゃっ!」

やはり二人は彼を凄く信頼している様子が伺える。

 

「あ~あっ、今の石川はエミリアにはもったいないなあ。マナが貰おうかしら?」

と、口走るとエミリアは目の色を変えて、ムッとなった。

 

「はあ!?ダメダメ!リュウトはアタシのお婿さんなんだから!!」

 

「勝手な決めつけはよくないわよ。じゃあこの後マナがアイツを口説き落としてやるから今に見てなさい、アンタを鼻っ面に痛いの食らわしてやるから」

 

「…………っ」

 

喧嘩が始まるような雰囲気を醸し出している二人。だが、

 

「……なあんてね。マナにはジョナサンがいるしそんなことしないから安心しなさいよ」

 

エミリアはそれを聞いてカッとなっていた顔が一気に萎んだ。

 

「ほんとイジワルね……」

 

「それにさ、マナはイシカワと相性悪いと思うし、そう考えるとやっぱりアイツにはアンタしかいないんじゃない?」

 

「ミズキ……」

 

「――まあ何はともかく、一件落着ね」

 

二人は穏やかな顔で彼の操縦するアルヴァインを最後まで見守っていた――。

改造されたアルヴァインのテスト飛行は無事成功し、基地に帰還する竜斗。降りるとジェイドや連合軍の仲間達全員が笑顔で出迎えた。

 

「みんな……」

 

「実験は成功だ。これで君はまたゲッターロボのパイロットとしてやっていけるぞ」

 

それを聞いた竜斗は感無量の喜びが身体中に駆け巡り、その喜びからか全員の元へ飛び込んでいった――。

そして周りも彼と喜び合い、そして祝福した。

 

「竜斗君、頑張った甲斐があってよかったな」

 

「ああ、これからもよろしくなっ」

 

「もう落ち込むなよっ」

 

「少佐達にはこれまでの訓練に付き合ってくれて感謝してますっ、本当にありがとうございました!」

 

ジェイド、ジョージ、そしてジョナサン、そしてブラック・インパルス退のメンバー達の激励を受けて彼は頭を下げて感謝した。

 

「最高なフライトだったよ、やっぱり君は才能あるんだねえ」

「あの様子を見て君とゲッターロボがいるならもう怖いものなしだよ、これからよろしくな」

 

「頼りにしてる……」

 

リーゲン、そしてアレン達から高評価を受けてもう嬉しさでいっぱいであった――。その後、早乙女達の元に向かい対面する。

 

「司令……」

 

「竜斗、やっぱり君は大した男だよ。私の見込んだ男だ――これからもゲッターチームのリーダーとして頼りにしているぞ」

 

早乙女から労いの言葉を受けた彼は、彼らに感謝の気持ちを込めてお辞儀した。

 

「僕は司令やマリアさん、そしてニールセン博士やキング博士にこれ以上のない感謝の気持ちでいっぱいです。

そしてこれからもゲッターチームのリーダーとして励んでいくのでこれからも宜しくお願いします!」

 

と、竜斗からの力強い誠意のこもった言葉を聞き入れ、全員も彼に期待を込めた――。

 

「おかえりリュウトっ」

 

ベルクラスに帰ると同時にエミリア達も彼を笑顔で出迎えた。

 

「エミリア、水樹。俺は二人に対して本当に感謝してる。そして、これからもよろしく!」

 

また、ゲッターチームとしてしてやっていけることに喜び合い、そしてここで三人は再び結束を強く固めた。

 

「イシカワ、本当に成長したね。正直見直しちゃった」

 

「いやあ、これもみんなのおかげだよ。それにあの時、弱気だった俺を水樹が真剣に怒鳴ってくれたから今の俺があると思うんだ。本当にありがとな」

「いつでも怒られたかったらいつでも来なさい、好きなだけ怒鳴ってあげるから」

 

「ああっ、耳栓していくよ」

 

「あ、それ聞く気ないってことじゃん!」

 

「アハハ!」

 

三人は久しぶりの笑顔で溢れていた。

そしてこれからも一緒にやっていけることを願うのであった。

 

――司令達からは自分に才能があるとばかり言われているが、僕は周りにいる人間が恵まれているからだと思っている。

僕の欠点を補おうとしてくれる人、才能を引き出してくれる人、叱ってくれる人、期待してくれる人、支えてくれる人、助言をくれる人……その人達がいたからこそ、今の僕があるのだ。

だからこそ、僕はその人達の恩を報いるために頑張れる気持ちになれる、一種のモチベーションなのだ。

これからどんな苦難があるか分からない、だけど乗り越えていけるような気がする。

こんな素晴らしい人達がいる限り、きっと――。

 

「あ……ん……んっ」

 

――夜。愛美の部屋では。

 

「マナミ……っ」

 

「ジョナサン……っ」

 

ベッド上で、裸で激しく交わる二人の姿が――。

 

「ジョナサン……スゴい……」

 

「マナミ……スゴく濡れすぎ……っ」

 

「だって気持ちいいんだもん……」

 

熱く、そして息を大きく乱す愛美は快感で悶えておりその姿に彼はもう釘付けだ――。

「マナミ……君の匂い、君の肌のぬくもり、君の汗、君の声、君の――すべて愛おしいよ」

 

「ありがとう……っもっとマナを愛して……溶けてしまうくらいに激しく愛して……っ!」

 

……二人は時間を忘れるくらいに激しい愛の姿を晒している。もう自分達以外の存在を見失うほどに――まるで獣のように。

 

「君は俺の腕の中で天使になった――マナミ、愛してるよ」

 

「マナも……アンタが好き……っ」

 

しばらく二人は抱き合ったまま静止していた。まるで時間が止まったかのように 。

 

「……それにしても竜斗のヤツ、調子が戻ってよかったな」

 

「うん。これでマナがリーダーにならずに済んだしよかった――」

 

「どうしてだい?」

 

「単にそういうのには面倒くさがりなだけだからね、マナは。

ああいうのは要領よくて真面目で責任感のある人間がやるべきなのよ。

そういうのはイシカワが三人の中で一番向いていると思うし」

 

「ああ、確かにな」

 

「それにチームで唯一の男だしさ、威厳を保つために華持たせてやるのもいいと思ってさ――」

 

それを聞き、ジョナサンはニコっと笑う。

 

「マナミは優しいんだね」

 

「……そうかな。マナ、アイツをイジメてたし――」

「……なんだって?」

 

学校に通っていた時のことを正直に話す彼女。竜斗に酷いイジメをしたこととその内容を。当然、唖然となるジョナサン。

 

「……あの時はなよなよしてたイシカワを見てただけでムカムカしてきて、つい友達のコと一緒にさ――だから、ゲッターチーム組んだ時も石川とエミリアの二人と仲良くする気はなかったし、正直やめたくてしょうがなかった。

けど乗ってる内に心境が変わったっていうか、なんというか――案外ここは居心地いいかなと思うようになったの。

それに多分、決定的になったのは、日本にいた時の黒田さんっていう人がマナを庇って死んだこと、あと、自分に居場所がなかったことに気づいて行き場を失ったマナに石川が「なら一緒に行こう」と手を差し伸べてくれたことかな。

それからかな?アイツらと一緒にいても嫌な感じがしなくなったのは。

今まで機嫌とりのウソばかり塗り固まっただけの友達じゃなく、こんなマナを本当に受け入れてくれた人生で一番のかけがえのない仲間だと思う――パパとママももうアイツらのせいで亡くなったし、だからマナももう失いたくないからかもしれない。友達も、居場所も――」

 

「マナミ…………」

 

「だからマナはイシカワを今までイジメていたこと、あとチームに散々迷惑をかけたことの償いも兼ねてさ、石川を男として成長させてあげたいと思ってるんだよね……ってマナ何言ってんだろ……」

 

愛美の本音を聞きます、ジョナサンはニコニコして彼女の頭を撫でてやった。

「俺はますますマナミを気に入ったよ、エラいよ」

 

「ジョナサン……」

 

「マナミは両親を失ってずっと悲しんでるかなと思ってたけど、前向きでえらいよ。

俺自身の立場なら絶対に今も引きずってると思う。

それにマナミは竜斗達を心から信頼していることがよく分かったし聞けてよかった――やっぱり日本人の女性は繊細で、カワイイし最高だ」

 

と、彼はふと彼女の額に軽く口づけをした。

 

「ところでジョナサンはなんでそこまでマナを好きになったの?というか、日本人好きらしいけどなんで?」

 

するとジョナサンは、

 

「どうしてかって?それは、俺の初恋の相手が日本人だったからさ――」

「そうなの?」

 

彼女の頭を優しく撫でながら思い出話を語り始める。

 

「――子供の時、その初恋の女性はホームステイとして日本から俺の家に来てね、確か彼女は十七歳で俺は十二歳の時だったかな。

黒髪のサラッとしたセミロングでスレンダー、可憐な雰囲気を持ってたうえに礼儀正しくて優しい女性で一緒に過ごした二ヶ月間は俺にとっては夢のようだったよ。

英語もほとんど話せる人で初日でもう仲良くなってから時間を忘れて色々話し合ったね。

互いに育った国のことと自分の周りのこととか――この二ヶ月で俺は完全に彼女に魅了されてさ。

彼女が日本に帰る時なんか俺は「行かないで!」って泣きわめいてワガママいったのを思い出すよ。家族は困ってたけどその女性は俺に「また会いにくるから」って互いに約束したんだよね。

……けどね、それが最後の顔合わせだった。手紙を出し合ってたけど突然こなくなってさ、何故かと思って国際電話で彼女の家に連絡とったら――彼女が交通事故で亡くなったって聞かされたんだよね」

 

それを聞いて愛美の顔色が変わった。そしてジョナサンも物悲しい表情だった。

 

「車にハネられて即死だったことしか聞かされなかったけど、瞬間に俺の中の何かが砕けてさ――俺は狂ったようにこれまで沢山の女性に手を出してきてさ、軍に入った後もそれで色々問題起こしてきた。

きっとそうすることで彼女の存在を必死で忘れようとして、それで砕けた部分を埋め合わせしようとしたと思うんだけど、結局は空虚ばかりで何も解決しなかった……何も満たされなかった。

けどそんな時、あの大雪山での戦闘で来日することが決まってね。

俺は彼女の生まれ故郷の日本に行きたいと無性に駆られてね。だから俺は頑張って選抜に選ばれて、そしてついに来日した時に出会ったのが――」

 

「……マナ達だったワケ?」

 

「そう。マナミはその女性と性格も容姿も全く違うけど、キュートだ。

彼女の影響からか、日本の女の子を大事にしたいという気持ちは凄くあったし、それが彼女の供養になるとも思ってる――だから俺は日本人の女性は最高だと思っているし、そしてこれまで一緒にマナミとやってきてさ、君なら俺の最高のパートナーになれそうだからと思ってさ――だから俺にはもう愛美以外は見えないのさ」

 

彼の暗い部分、そして本音を聞き彼女は感動しているのか目頭を熱くし、身震いしていた。

 

「……マナミ?」

 

「脳天気そうなアンタにも色々あったんだね……」

 

作り話にも思えるくらいの話だが、今までの自分に対する接し方を考えれば彼が嘘をついているようにも思えない。

そのエピソードは彼女を感涙させるに十分の内容だった。

 

「けどマナはそんなキレイな人間じゃないからジョナサンの理想じゃないよ……」

 

「いや、マナミはマナミらしく生きればいいのさ。俺はそういう君が好きなんだから」

 

「ジョナサン……」

 

二人はまたぐっと強く抱きしめ合い、そして深く濃厚な口づけづけし愛情をより深いものとする。

そして彼女はこう思った。彼を満足させれるぐらいに精一杯愛していこうと――心からそう誓った。

 



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第三十六話「二人」③

――アルヴァインの武装の改造が急ピッチで進んでおり、終わったモノから機体に取り付けられていく。

トマホーク、ライフル、ブーメラン、そして――右肩にはキングの言っていたように、射角を自由に変えられるように施した長方形状の砲身が横水平になるように取り付けられていた。

 

「ふう……にしてもゲッターロボは本当に世話が焼けるのう……少しは老人を労らんかい」

 

作業服姿のキングはドッグ内の段差に腰をついてゼイゼイと息を切らしていた。

 

「サオトメめ、こいつは年寄りには優しくない機体すぎるぞオイ」

 

愚痴ばかり吐く彼の元にニールセンと早乙女がやってくる。

「どうだ、進んでいるか?」

 

「ああ。しかしサオトメよ、ゲッターロボは本当に手間のかかる機体じゃ。

いくらテキサスマックでもこんな手の込んだ改造まではしなかったぞ」

 

「どうした、疲れたのか?」

 

「当たり前だ、わしは何歳だと思っとるんじゃ!」

 

彼のわめき散らす愚痴を聞き、早乙女は相変わらずの気持ちのこもってない声で。

 

「いやあ、すいませんでした」

 

と、言うと「チッ」と舌打ちするキングだった。

 

「……誠意が全くこもってないな――まあこれで全て解決するならいいか。三度目の正直ってやつだ――」

 

彼は立ち上がると背伸びし、肩や背をパキパキ鳴らした。

 

「そういえばジャック君達はどうしたんですか?」

 

「……あいつらか。また旅に出ると抜かしてどっかに行きやがった……くそ、身勝手過ぎて手に負えんわい」

 

「まあまあ、誰にも縛られたくない気持ちを持つ自由人なのは羨ましいじゃないですか」

 

ムスっとなる彼に宥める早乙女。

 

「何を言うか。妻にはもう先立たれてワシも老い先短い。

特にジャックはワシの跡取り息子だぞ、もう三十越えの男が定職にもつかずにいつまでもブラブラしているわけにいかんじゃろうっ」

 

「…………」

 

落胆する彼をただ見つめる二人だった。

「まあキング、そう落ち込むな。二人も気が済むまでやらせたらいつか自分達のすべきこと気づくさ」

 

珍しくニールセンからの励ましの言葉が飛び出す。

 

「本当かのお」

 

「それにずっと旅しているのも、もしかしたら自分達のやりがいを探している可能性だって考えられるぞい――まあ、それよりも今すべきことに集中しろよな。ここはお前専門なんだから」

 

「……ああ、そうだな。気を入れ替えるかのう――そっちの方はどうだ?」

 

「あと僅かでついに完成じゃ、こちらは心配しなくていいからはよやれい」

 

ぼちぼちと再び作業場に戻っていくキングの後ろ姿を眺めるニールセン達。

 

「サオトメよ、あやつはああ見えて相当の苦労人じゃからな」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。アイツが言ってた話だとかなり貧しい家庭出身らしくてな。

しかも父親が飲んだくれのろくでなしですぐ暴力を振るう人間で耐えきれなくなった母親とキングの二人で家から飛び出して逃げたそうじゃ。

二人で暮らすにも世知辛い世の中じゃ、シングルマザーで周りは冷たかったらしく、かなり生活苦だったが母親には苦労させたくないから靴磨きや配達などの仕事、果てには犯罪になるようなことにも手を出したりして生計を立ててきたと言っておった。

それに『この時代学歴がなければ稼げない』と学問にも励んできたらしい――恐らくワシらには想像もつかないくらいの苦労を味わってきたんじゃろうな……」

「…………」

 

「それにアイツの妻ももう十年前に病気で亡くしておるしな。

あやつはたった一人の親として今宙ぶらりんしている状態の息子達が心配なんだろうな」

 

気をとめどなさそうなニールセンに早乙女は。

 

「……博士もキング博士が心配なんですね」

 

「ああ。あやつとはこれまで憎たらしくて張り合ってきたこともライバルでもあれば、共に技術者として分かち合ってきた唯一の戦友だからな。放っておけんのだ」

 

彼にもそういう感情があったと知り、凄く感心する早乙女――。

 

「では私達も今から彼を手伝いますか?」

 

「お、ワシも同じことを考えてたがお前もヤツが心配なのか?」

 

「互いに技術者ですから、同じ穴のムジナって言いますからね」

 

「そうだな、では行くか――」

 

二人は張り切ってキングの元へ向かっていった――。

 

――それからしばらくして……通通常業務を行っているこの基地全体に緊急事態のサイレンが鳴り響いた。

 

“緊急事態発生、緊急事態発生。北極方向より大多数の飛行型メカザウルスと空母艦と思わせる巨大な敵影が接近中――各員は速やかに配置につけ”

直ちに警戒態勢に入り、各員はそれぞれ持ち場の配置につき始める。

そして戦闘機パイロットやSMBパイロット達も各機のコックピットに搭乗していく。無論、ゲッターチームも。

 

「二人とも準備はいい?」

 

「ええっ」

 

「いつでもいいわよ!」

 

パイロットスーツに着替えた三人は早速各ゲッターロボのある格納庫へ。

つい先日、改良されたばかりの兵器を全て実装したアルヴァインに乗り込む竜斗、同じくルイナス、アズレイに乗り込むエミリアと愛美。

すぐにシステム起動させて待機していると早乙女から通信が入る。

 

“全員聞いてくれ。メカザウルスと空母艦の大軍団のルートはどうやら中南米に向かっていると基地の所長から報告があった。

エリア51の戦闘と同じく、全て飛行型メカザウルスだ。

よって今回もアルヴァイン、ステルヴァー、マウラー他の空戦闘用SMBが主体となる。

竜斗、改良されたアルヴァインの力を思う存分に揮えっ”

 

「任せてくださいっ」

 

彼は力強く応える。

 

“エミリアと水樹についてはもしかすれば山岳地帯などの足場の悪い区域で戦闘になるかもしれん。

よって出撃については指示が出るまで待機していてくれ”

 

「「了解(は~い)」」

 

早乙女は通信を切ると、基地から通信が入る。出るとモニターに映るのは所長のリンクだった。

 

“聞いてくれサオトメ一佐、まずマウラーと戦闘機の編成隊、ブラック・インパルス隊を先発させる。その後、追う形でベルクラスを発進させてくれ。

今回は各軍のSMBも共に出撃させる、上手く協力してやってほしい”

 

「了解です」

 

“博士達によって改良された各ゲッターロボの健闘、期待していますよっ”

 

――基地の各格納庫から次々と機体が姿を現してスクランブルしていく。戦闘機形態のマウラー、ステルヴァーが各スラスターのバーニアを吹かして轟音を鳴らし、滑走路を真っすぐ走りそして飛び出していく――。

 

「マリア、ベルクラスを発進しろ」

 

「了解っ」

 

全て飛び出していったのを見届けると、ベルクラスも浮上。大空へ舞い上がり、そして南へ進路を取り発進した――。

 

“こちら、フランス軍のルネ=ロレッタ少尉。護衛として同行いたします”

 

 

“こちらイギリス軍のアレン=フェルド中尉。同じく護衛として同行許可をお願いします”

 

二人からの通信が入り、許可を取る早乙女。

モニターには左右に二人の乗る機体がベルクラスと同じ高度で航行している。

左の、アレンの乗る機体はBEETのような黒色主体の機体。全身がステルヴァー以上の鋭角的であり、空気抵抗の影響がほとんど受けなさそうな機体である。

 

右の、ルネの乗る機体はSMBではなくまるで鳥の『白鳥』と思わせるデザインの白い戦闘機であるが主翼部がやけに青色の光を放出している……これはプラズマエネルギーの光であり、まるで本物の翼のようにしなやかに帯びている。

「ほう、個性的な趣向だ」

 

早乙女はその特徴的な二機のデザインに技術者の血が疼き興味深そうに見ている。

 

「司令、メカザウルスの大軍団のルートを見ると、どうやらアンデス山脈付近へ向かっているようです」

 

「アンデス山脈……マリア、すまないがもう少し正確なルートを割りだせないか?」

 

マリアはコンピューターを駆使して敵の進行ルートを模索する。

 

「どうやらボリビアのサハマ山付近へ向かっていますね」

 

「……了解。ではすぐに行こう」

 

その情報を竜斗達に通信を通して伝える。

 

“現場にいってみないとまだ何とも言えないが、恐らく傾斜など足場が悪く、そして何よりも六千メートル以上という高さの都合上、ルイナスとアズレイは降下できない可能性が高い”

 

 

「では、今回は僕だけ出撃ですか?」

 

“いや、一応ベルクラスの上甲板にはSMB用の足場を設けてあるから降下が無理な場合は二機をそこに固定して援護射撃してもらう、二人共いいな?”

 

「はあいっ」

 

しかしエミリアだけ何故か黙ったままである。

 

“エミリア、どうした?”

 

「……いや、最近の戦闘はルイナスには不利な状況ばかりであんまり役立てないなあって思って……」

 

確かに最近は飛行型メカザウルスばかりで、飛び道具はあるけれど陸戦重視であるこの機体では著しく戦闘力が下がることに彼女は気にしていた。

 

“君は偉いな。だが、それでも飛び道具がある以上は君の機体もちゃんとした戦力の内だし、役立てないと思うならその限られた武器をどう上手く活用するか考えるのも君の仕事の内だ。

 

それは君自身が成長する糧であるし、そしてこれから戦っていく上で生き残っていくための技術も養えるんだ”

 

「なるほど……」

 

“エミリアだけではない。竜斗も水樹もただ教えられた通りの戦術、いやそれ以外の事に対するとっさの機転、または臨機応変に対応する柔軟な思考と経験を積んでおくことを頭に入れてこれから行動してくれ”

 

「了解!」

 

“では、いつでも出撃するように準備しておいてくれ。

二人についてはもしその時になったら指示する”

 

移動中、竜斗は何故か胸騒ぎしてソワソワした様子である。

 

(……何でだろう、落ち着きたくても落ち着かない)

更なる改造を施したアルヴァインの力を見たくて興奮しているのかそれとも――。

 

「司令、チリとボリビアの国境付近で先発隊がメカザウルス軍団と接触。交戦に入った模様です」

 

「ついに臨戦か。よし、急いで我々も向かうぞ」

 

ベルクラスの推進力を大幅に上がり、凄まじい航行速度で飛翔していった――。

 

……そしてチリとボリビアの国境付近の高度六千メートル付近。

下には雲が多く、どんよりとしているこの空域。

先発のマウラーと戦闘機の編成隊とブラック・インパルス隊は、ラドラ率いる補給物資を詰め込んだ恐竜母艦十隻の護衛部隊がついにぶつかり合い、すでに戦火が巻き起こっていた。



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第三十六話「二人」④

連なるように縦列を組む恐竜母艦と二、三千を超える護衛のメカザウルス、そして最前線には護衛隊長のラドラが降りかかる火の粉を全力で振り払っている。

 

「やはり我々に感知して来たか。しかし、何としてでも突破させる」

 

ラドラの駆るリューンシヴは最前線で各メカザウルスに指揮しながら猛威を揮い、それに応えるようにメカザウルス達も雄叫びを上げて士気高揚する。

 

「すまないがここは通させてもらうぞ!」

 

相変わらずのラドラ自身の卓越した操縦技量、それに追従するゼクゥシヴを改良したこのリューンシヴのその性能は、まるでアルヴァインと思わせるような神速で空を縦横無尽で駆け抜け、攻撃を易々と避け、次々にマウラー、ステルヴァーまでも少したりとも触れさせることなく手玉に取り二丁の試作型ライフル、そして長剣を持って敵機を次々と撃ち落とし、そして叩き斬っていく――。

その試作ライフルから発射されるのはマグマ弾ではなく青白く極太の熱線。

真っ直ぐに伸びる熱線からは熱で空気がゆらめき、まるで空間そのものが歪んでいるようにも見え、直撃したマウラーは見る影もなく融解し燃え尽きてしまった。

 

「やべぇぜ、なんだあのメカザウルスは?」

 

リューンシヴの圧倒的戦闘力を見せつけられ、ジョージはコックピット内で驚きの声を上げる。その時、ジェイドから通信が入る。

 

“ジョージ達は周りのメカザウルスを対処してくれ。私はあのメカザウルスの相手をする”

 

「ジェイド、アイツに勝てるかい?」

 

“……分からんが、だからとて放っておくわけにはいかない、何とかやってみる”

 

ジェイドの駆るステルヴァーはヴァリアブルモードで人型に変形、身体中に搭載した小型スラスターを駆使して浮遊し、そしてリューンシヴの前に立ちはだかる。

 

「誰が相手だろうと容赦はしない、行くぞ!」

 

間を開けずに突撃するはリューンシヴ、二丁のライフルを腰にかけて背中から長剣を取り出し握り締めると刃が熱せられて真っ赤になる。

 

対するステルヴァーはとっさに両手首部の細いスリットからハンドダガーを突出。高周波振動で青くなった刃を構え立つ。

 

「はあっ!」

 

リューンシヴとステルヴァー、この二機による空中での接近戦の応酬が始まる。

ラドラのキレのある操縦に連動し、機体もまるで本体のような柔軟な動きと驚異的な機動力、反応速度でステルヴァーを切り刻もうとする。

そしてそれに対応するようにジェイドも自身の熟練した操縦技術と機体の機動力、反応速度で何とか避け、そしてその隙を突こうと一太刀浴びせようとするが、どちらも一向に当たらずどちらも紙一重である。

 

「くっ……」

 

だが、まるで休みなく猛攻を加え続けるラドラに次第に圧されるジェイド――。彼の目に写る目の前の機体はまるで鬼神の如き姿であった。

 

「そこっ!」

 

リューンシヴの放った横一閃の凪払いがステルヴァーの右脚を捉え、ついに切断した。

「まだまだあ!」

 

今度は剣を突き上げて右腕をも切断し、ステルヴァーの平行バランスが傾き、そこから退避しようと後方へ下がるが向こうは逃すまいと追ってくる。

苦い顔をするジェイドだが、今度は真っ二つに叩き切ろうとする情け無用のラドラ。このままでは確実にやられると悟ったジェイドは覚悟を決めた――その時、

 

「ジェイドォ!!」

 

瀕死の彼の元にジョージ、ジョナサンのステルヴァーが急いで駆けつける。

 

「大丈夫か!」

 

“ああ、なんとか生きてるが――”

 

「下がってくれ、ここからは俺らがヤツを抑える」

 

“すまん、だが気をつけろ!今までのメカザウルスとはうって違うぞ”

中破したジェイド機の前に割り込むように、人型に変形して飛び入るジョージ、ジョナサン機。ジェイド機が後方の安全地帯に下がるのを確認するすると二人の殺気を持つ視線はリューンシヴに向けられる。

 

「ジェイドの機体をあんな姿にした代償は高くつくぜ!」

 

「ぶっ潰す!」

 

怒りを顕にする二人に対し、ラドラは真っ赤になった剣刃を冷却してすぐさま背中にしまい、再び腰からライフルに持ち変える。

 

「例え何人増えようと邪魔するのなら容赦はしない!」

 

リューンシヴはそこからさらに上昇し二丁のライフルを下の二機に向け、超高温の熱線を放射するリューンシヴ。

 

「来るぞ!」

 

すぐに横へ移動し回避するも熱線は途切れず二機を追跡する。

 

「行くぞジョナサン!」

 

「任せとけ!」

 

二機はその場で戦闘機に変形させ急発進、空中でその華麗なマニューバをラドラに見せつけ翻弄させようとする。

 

「ブラック・インパルス隊の実力見せてやるぜ」

 

もはや芸術の域とも言える息の合った二人のマニューバを駆使してその高速且つ変則的な軌道を描きながらリューンシヴへ機関砲、ミサイル、プラズマ弾全弾発射しながら突撃する二機。

しかしラドラは慌てることなく同じく二機に劣らぬアクロバティックな軌道を描きながら回避する。

「こりゃあ面白くなってきたぜ!」

 

「ああっ!」

 

他機はメカザウルスと恐竜母艦の撃墜に専念しているこの時、ラドラとジョージ、ジョナサンによる三人のまるで空中が自分の空間かと言わんばかりの超高速戦闘、そしてドッグファイトが繰り広げられる――。

 

「先、行くぜっ」

 

ジョージ機が素早く人型に変形しライフルを構え持つと牽制でプラズマ弾を連射しながら円を描くよう飛び回る。

霰のように飛び交う無数のプラズマ弾の少ない隙間を難なくかいくぐるリューンシヴへ、今度は開いた腕からミサイルで追撃、素早くライフルを腰にかけてハンドダガーを取り出して突撃した。

ラドラもライフルをしまい、再び長剣を取り出すと刃がマグマ熱で真紅に染まる。

 

 

「ジェイドに変わって今度はお前をダルマにしてやるぜ」

 

今度はジョージとラドラによる空中での白兵戦が始まる。

ジョージは幾度も喧嘩慣れしているせいか、ラドラの剣筋をジェイド以上の巧みな近接戦闘を見せつける。

 

「先ほどの機体よりも動きがいい――面白い!」

 

ラドラ自身も熱が入り、二人はさらにヒートアップ。

神経を凌ぎ削るような、一発の命中も許されないような二人の全力が爆発する――。

 

「ターゲット、インサイト!」

 

――一方、リューンシヴのその後ろから同じく人型に変形したジョナサン機が携行してきたリチャネイドを連結、両手で構えてこちらへ向けている。

ジョナサンはコックピット内で神経集中させ照準が重なった瞬間、

 

「ファイア!」

 

砲内からプラズマを帯びた劣化ウラン弾が発射され、凄まじい速度でリューンシヴへ突き向かっていく――。

 

「甘いっ!」

 

リューンシヴはすかさず右足でジョージ機を蹴り飛ばして後退した瞬間、弾頭は前を通り過ぎて遥か先へ突き抜けていく。間一髪のとこで被弾を免れた。

 

「ちっ、なんてヤロウだ、俺ら二人でかかっても歯が立たん……っ!」

 

「ファック!」

 

舌打ちし、苛立ち始める二人に対しラドラは、表向きは冷静さを保っているような忽然とした態度だ。

 

(果たしてゲッター線の機体は来るのか……もし来たそのときは……俺は――)

 

ラドラの心情はゴーラの言っていた、

 

「どうかリュウトさん達を殺さないで」

 

その言葉が未だに彼の脳内に残り、そして響いていた――。

「司令、どうやらこちらが少し劣勢のようです」

 

「了解、直ちにベルクラス、ゲッターロボは戦闘態勢に移行だ」

 

ベルクラスは交戦区域より少し前の位置に到着し、各砲門を開きいつでも戦闘が行える態勢に入っていた――。

 

“竜斗、直ちに発進して向こうの部隊と先に合流して援護に入れ”

 

「了解です!」

 

アルヴァインの乗るテーブルが移動し、外部ハッチの前に立つとハッチが開いて空から光が差し込んだ。右手にライフルを握りしめ機体の膝を少し屈伸させて発進体勢を取るアルヴァイン。

 

(……やっぱり胸騒ぎがしてしょうがない。なぜだ……?)

 

何か嫌な予感を感じ取るが今はそれよりも――と心を切り替える竜斗は操縦レバーをぐっと握りしめる。

 

「石川竜斗、アルヴァイン発進します!」

 

カタパルトが射出され、外に飛び出たアルヴァインはすぐさまゲッターウイングを展開して空中を浮遊。そして一気に前に全身していった。

 

“二人に関しては、先ほど言った通り、今回は甲板から援護射撃に回ってくれ。ルイナスはライジング・サンを、アズレイはエリダヌスX―01を上手く使え”

「了解です!」

 

「わかったわ!」

 

“あと、脚部を強く固定するが間違っても落ちるなよ。数千メートルから真っ逆さまだぞ”

 

「「…………」」

 

……釘を刺され、肝が冷えた二人を乗せた機体のテーブルは各左右端に移動すると、真上の甲板上に出るハッチが開放した。

 

“ミズキ、そっち側を頼んだわよ”

 

と、エミリアからの応援を受けて彼女は力強く頷いた。

 

「アンタこそしっかりね」

 

“うん、任せといてっ”

 

――足をガッチリと固定した二機のテーブルはエレベーターのように垂直に上昇して一瞬で外に出る。強烈な風を煽られて少しミシミシと聞こえる。

 

「ワオ……スゴい景色……」

 

モニターから見る外は絶景であるがそんな事は今は言っている暇ではなかった。

 

「ルネ少尉とアレン中尉もアルヴァインと同じく今から先発隊と合流して直ちに援護を行ってくれ。こちらは二機のゲッターロボが艦の援護をしてくれる」

 

“了解!”

 

左右に展開する二機は前進していく。

そしてルイナスとアズレイも各武装を構えると同時に早乙女から通信が入る――。

 

「見えたぞ――」

 

その先には飛び回る無数の機体、メカザウルスと仲間の機体が入り混じる混戦状態で、その遥か先には巨大な怪鳥の姿をした恐竜母艦が連なるようにこちらへ進んでくるのが分かる。

「行くわよ、エミリア!」

 

「ええっ!」

 

そしてついに交戦区域に突入。機関砲、ミサイルによる支援攻撃を行うベルクラス。

 

“本艦もこれより援護、支援攻撃に入る。全隊員に告ぐ、もし危険が迫ったら直ちに艦を盾にし後方に回れ”

 

その甲板上にいる小さな虫のようなサイズにも思える二機のゲッターロボも攻撃を始めた。

 

「手伝ってみんな!」

 

ルイナスから、各シーカーが飛び出し群がるメカザウルスへ向かわせると攻撃を始める。

ゲッタービームを発射するビームシーカー、ドリルで突撃するドリルシーカーは学習能力が備わっており、前以上の高度の連携で次々にメカザウルスを撃破していく。

 

「くっ!」

 

しかし本体のルイナスは強い風に煽られ、それによる風力偏差の大きなズレの影響を受けて、なかなかメカザウルスにプラズマ弾が当たらない。

 

「ホラホラどんどんいくわよお!」

 

それに比べ、砲撃主体のアズレイはミサイル、ビーム砲などの各武装にホーミング、そしてマルチロック機能が備わっているために命中は容易くいつも通りの感覚で次々にメカザウルスを撃ち落としていく愛美。

 

「ニールセンのおじいちゃんのとっておきっ!」

 

組み立てたエリダヌスX―01を両手で構えて、前方に向けてエネルギーチャージに入る。

改良したおかげでエネルギー効率の改善によりチャージ時間がかなり短縮されており、すぐにチャージ完了のアラームが鳴り響く。

 

「これでも食らえ!」

 

トリガーを引くと、その対物(アンチ・マテリアル)ライフルの形をした兵器の銃口から「ビュキュン」と甲高く奇妙な音が鳴り響いた瞬間に前方にいるメカザウルス全てに大穴が開き、その場で爆散した。

 

 

「にしても、相変わらずもの凄い威力ね。

てか、こんなのを開発したあのおじいちゃんって本当に人間なのかしら……?」

 

その威力に唖然となる彼女は、そういう疑問を持たざる得なかった。

 



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第三十六話「二人」⑤

そしてルネ、アレンも先発隊と合流してすぐさま左右に展開する。

 

「これよりメカザウルスの掃討を開始する」

 

アレンの乗るこの極細のシルエットのSMB『アーサー』は、ステルヴァー以上に空力制御に優れた機体。

その一発でも攻撃がかするだけで大破しそうな薄い装甲である分、高機動性を有している。

両手のマニュピレータが変形し、細長い剣状になり、青白いプラズマエネルギーが刃に沿うように発振。

両手のそれは空戦型ゲッターロボのプラズマソードそのものである。

 

目の前でマグマを吐き出している翼竜メカザウルスに狙いを付けて、背部のスラスターをフルスロットルで一気に突撃。

 

「!?」

 

そのメカザウルスが気づいた時には既に首が胴体と離れており、その横で右腕を振り切るアーサーの姿が。

機能停止したメカザウルスはそのまま遥か下の地上へ墜落していくのを確認すると、アーサーは超高速で動き回り、次々と周辺のメカザウルスの首を刈りきっていく。

ついには残像すら発生しているほどでメカザウルス達はこの機体の速さについていけない。

そのアーサーのパイロットであるアレンはいつも通り平然と、そして冷静としており機体の高機動に対して全く参っていない。

 

メカザウルス達がアーサーに一撃入れようと束になって四方八方から襲いかかるもアポジモーターを駆使して変則的且つ高速で飛び、包囲網から脱出。すぐさま後ろに回り込んで同じく両手の高出力のプラズマエネルギーの刃で切り落としていった。

どうやらこの機体、アーサーはプラズマエネルギーの刃以外の兵器、飛び道具の類は一切持たない近接戦闘特化の機体のようだ。

 

「アレンに負けてられないわね!」

 

一方、ルネも乗るこの白鳥のような戦闘機も同じくこの大空を美しく飛翔し、機関砲やプラズマ弾を発射して攻撃している。

 

数機のメカザウルスが大口を開け、醜い雄叫びと鋭い牙を向けてルネの機体に突撃してくるが軽やかに上昇して回避した。

 

「このジャンヌ・ダルクを見くびらないでよ!」

 

すると白鳥の姿だったこの機体に変化が。ステルヴァーのようにその場で主翼と後部が人間の腕、足、そして機首が兜を被る女性型の頭部へと変形を遂げた。

その姿はまるで純白の甲冑を着込んだ「戦乙女」のようだ。

左腕がまるで洋弓、いわゆるアーチェリーのような形に変形すると前腕部内から細い金属矢が三本飛び出して弓にかけた瞬間、矢にプラズマエネルギーを纏い青白い光の矢と化した。

 

そのまま落下しながら下のメカザウルス達に照準をかけて三本の光の矢を同時に放った。

一瞬でメカザウルス達に深く突き刺さり、纏うプラズマエネルギーがメカザウルスの内部で暴発して大爆発し、肉片と装甲の残骸は地上へ落ちていく。

 

白鳥の姿と違い浮遊できず落下する『ジャンヌ・ダルク』は再び白鳥型の戦闘機に変形して空を美しく羽ばたいていく――。

「ほう、素晴らしいギミックを持つSMB達だな。これからまたゲッターロボを作る時の参考にしよう」

 

二機のSMBの戦う姿に早乙女はすっかり見とれて夢中になっている。

 

「……司令、今はそれよりも現状を何とかしませんか?」

 

「あ、ああっ、すまない」

 

マリアに呆れられる早乙女は首を横振り我に帰る――。

 

――高度六千メートルの空域において、ルート通りに進行する護衛のメカザウルスと母艦、そしてそれを食い止めようとする地上人類軍のSMBによる激しい攻防戦が繰り広げられていた。

ベルクラスの甲板上でアズレイは、再びエリダヌスX―01のエネルギーチャージが完了し、標準をちょうど横切る恐竜母艦一隻に狙いをつける愛美。

 

「あれを撃ち落とせばいいのねっ」

 

ブレないように銃のストックを右肩に押しつけて両手で銃身をがっちり固定、トリガーを引いた時、一瞬で母艦の装甲に大穴が開き、次第に内部から小さい規模の爆発が起きている。

しかし愛美はこれで終わりとせずにエリダヌスX―01以外の内蔵火器で休まず追撃。

ミサイル、プラズマ弾、ゲッタービームを無防備に集中放火を浴びた母艦は地上へ落下しながら爆発し、装甲や内部の物を空中にばらまいていき、下の雲の中に入って隠れて直ぐに爆発し強烈な閃光が放れた。

 

「やったわっ」

 

これを良しと感じた愛美は、再びエリダヌスX―01のエネルギーチャージを始める。

しかしメカザウルス達もの強力な兵器の存在に気づき、破壊しようと束になってアズレイへ急接近する。

 

「いやあっ、キモイからこないで!」

 

逃げたいけど逃げれず、嫌いな爬虫類の大群を目の当たりにした彼女の悲鳴が聞こえる。

だがその時、四方からプラズマ弾やミサイルなどの弾頭がメカザウルスに降り注ぎ一瞬で撃墜された。

周りにはブラック・インパルス隊員のステルヴァーと中破したジェイド機がライフルを構えて飛び回っていた。

 

“マナミ君は各母艦の破壊に専念してくれ!危なくなったらすぐに私達が援護に入るから安心しろ”

 

「サンキュー、ジェイドさんとみんな!」

彼女もエネルギーチャージ中に使える火器を駆使し、接近するメカザウルスを次々に撃ち落としていく。

ステルヴァー各機は状況に分けて人型、戦闘機型に変形して戦う。ジェイド機も変形ができなくなり戦闘力がガタ落ちしているがそれでも自分の腕で補い、何とか戦い抜いている。

 

「なかなか当たらない……っ」

 

隣の甲板上にいるルイナスは必死でメカザウルスに狙いをつけるが照準が幾度もブレて、命中精度が安定せず、エミリアは痺れを切らしている。

目まぐるしい数のメカザウルスがルイナスに何度も襲いかかり、各シーカーが何とか手助けしているものの、エネルギー残量もあるので全く追いついておらず。

間近に迫ったメカザウルスの一対一ならドリルで撃破できるのだが、中には頭のいい奴がいて間合いを取り動き回りながらそこからマグマ弾、ミサイルで攻撃してくるのもいる。

足が固定されて避けることができないルイナスは被弾ばかりし、シールドがあるので今はまだ無事だがこのままではいつエネルギーが切れて完全な無防備になってもおかしくない。

 

「このまま攻撃を当たれば……ここから動きたいけど……」

 

彼女はもし固定が外れ動けるようになればどれだけ楽かと思うが、同時にここは地上ではなく数千メートル上空という、ルイナスにとっては逃げ場のない状況である――。

 

“司令、攻撃が全く当たりません!どうすれば?”

困ったエミリアは救いを求めて早乙女に通信を取る。

 

「司令、やはりアルヴァインやアズレイのように精密な照準装置を取り付けてないルイナスでは厳しいのでは?」

 

すると早乙女はマリアにこう質問する。

 

「前に計ったエミリアの動体視力は?」

 

「ええっと、確か両眼とも問題ありません」

 

「よし」と相づちを打ち、すぐにエミリアに通信を取る。

 

「エミリア、ルイナスは元々射撃するために開発されてもなければ、君もそういうのに慣れてないし、それに状況が状況だから命中が困難になるのは分かる。

だが、それでもここでコツを掴めば多少は当たりやすくなるはずだ」

“どうすれば?”

 

「前の戦術講座で『偏差射撃』というのを教えたはずだ――」

 

“……確か、動く目標物に対して発射した弾丸が辿り着くまでの差異を計算して行う射撃のことですよね”

 

「そうだ。だが今のこんな状況で、今まで接近戦主体で来た君にいきなりやれと言っても出来るわけがない。

だからいいコツを教えてやる、その一つに『誘導』だ」

 

“誘導……とは?”

 

「シーカーや内蔵火器を利用して敵をまんまと照準に入らせるよう誘うことだ。

例えばプラズマ弾を数発牽制で撃ち、自動的に照準が入る位置におびき寄せたりとかな。

他にはシーカーで相手を包囲して動けなくさせたり、ドリル部分のアンカーを発射して当たればなおよし、当たらなくても相手が回避して移動する位置を先回りして照準をつける……など、いくらでもやり方がある」

 

“…………”

 

「先ほど私が言った、『臨機応変に対応できるように頭を柔軟にしろ』と言ったのも、そういうアイディアを思い浮かばせるのに必要なことだからだ。

……まあ、今はたくさん言ってる暇はないが、とりあえず私から言えるアドバイスはこれだけだ。

あとは君のセンスに託すぞ」

 

“分かりました、やってみます”

 

「君なら出来ると信じている。頑張れよっ」

 

 

通信を終わり、プツンと切れるとエミリアは彼のアドバイスを何度も頭の中で再生して染み込ませようとした。

 

(そうだ、アタシだってここまでちゃんとこれたんだから出来るハズだ――)

そう自分に言い聞かせて自信を持たせようとする――。

 

ルイナスはガーランドGを前方にこちらを向き、動きまわっているメカザウルスへ向けてプラズマキャノンを展開。

三、四発わざと外れるように照準をずらして撃ち込む。

 

するとそのメカザウルスは牽制にたじろぎ、その場で停止した。

 

(もしかして今――かな?)

 

エミリアは止まっているメカザウルスに今度は照準を合わせて間を開けずにプラズマ弾を発射すると、メカザウルスは目の前に向かってくる青白い光弾に驚き、瞬く間に直撃を受けて貫通。胴体のど真ん中に大穴が開きその場で爆散して肉塊と化した。

 

「や、やったわっ!」

 

まともに命中したことに歓喜するエミリア。

自信のつき、気を良くした彼女は色々と方法を模索する。

 

同じくガーランドGに内蔵した小型ミサイルの束をメカザウルスの群れに前方に撃ち込み、分散させる。

逃げ回る一気のメカザウルスの方向を先回りしてそこに照準を固定し、入りかけたメカザウルスへプラズマ弾を撃ち込むと見事に命中して撃墜した

 

「コツを掴めば面白いねコレ!」

 

さらに自信をつけた彼女は色々考えて自分なりのやり方を試みる。

早乙女のアドバイスの通り、アンカーを射出したり各シーカーを囮として利用して誘導したり――そういった中で彼女の命中率は最初と比べてほとんど当たるようになるまでに至っていた。

「やはり、やればできる子だな。よしよし――」

 

艦橋で早乙女はまるで父親のような優しい笑みを浮かべて納得している。

 

しかしそんな中、ルイナスを放っておくまいと大量のメカザウルス達が群れを組み成しルイナスへ狙いをつけて雪崩のように一気に押し寄せてくる。

 

「ひいっ!」

 

流石のエミリアもこれには恐怖を感じて強ばり動きが止まってしまう。

しかし接触する一歩手前の所でメカザウルス達の首が全て胴体から離れてそのまま力無くして地上へ落下していく。

 

またその後ろについてきたメカザウルスの群れにミサイルなどの弾頭が降り注ぎ次々に破壊されていく。

“大丈夫かい、ゲッターチームの女の子”

 

エミリアはモニターで周りを見るとアレンのアーサー、ルネのジャンヌ・ダルク、そしてマウラーとステルヴァーの姿が見える。通信を受信するとモニターにはパイロットスーツとヘルメットをつけているルネとアレンの姿が映る。

 

「あなた方は……どうもありがとうございます」

 

“油断するな。まだまだ来るぞ”

 

そして割り込むようにもう一つの通信を受信し、モニターに映すとジョージの姿があり彼女は大いに喜んだ。

 

“大丈夫かエミリア君?”

 

「少佐!」

 

“今から私達は君とベルクラスの援護に回る、一緒に頑張ろう”

 

それを聞き、彼女は一瞬の安堵感に浸った。

 

「リュウトは今どうしてますか?」

 

“今はとある強力なメカザウルス一機と激しい空中戦を繰り広げてる。

最初はジェイド、私とジョナサンがそいと戦っていたのだがステルヴァーで持ってしても太刀打ちできなかった。

しかし彼の乗るゲッターロボはそんなメカザウルスとほぼ対等で渡り合っている、やはり彼はすばらしいよ”

 

ジョージ達でも敵わなかったそのメカザウルスが一体どんなヤツなのか興味を抱く彼女。

 

「どういう相手ですか?」

 

“今、そのメカザウルスの映像を送る”

ステルヴァーからデータを受信し、開くとモニターに映るは前に見たことのあるメカザウルスであるのはすぐに彼女は分かる。

「もしかして……前に日本でアタシ達三人でやっとの思いで撃退したメカザウルスじゃないかしらっ」

 

彼女の読みは当たっていた――だが、この映像のメカザウルスはその機体をさらに強化した『リューンシヴ』であることは彼女は分かるハズがなかった。

 

“知っているのか?”

 

「はい。日本にいる時に対峙したメカザウルスで、その頃の私達では三人がかりで挑んでやっと撃退したほどでした――」

 

“……確かにあのメカザウルスの性能は今までのと違い、桁違いだ。

それに恐竜らしく凶暴で野蛮な行動とは反対に我々人間の乗るSMB同様に理知的な雰囲気と行動、そして他にも色々似ている点があるな……”

 

するとエミリアは突然ハッとなる。

 

「もしかしたら……」

 

“どうした?”

 

「あのメカザウルスに乗っているパイロットは誰なのかリュウトは知っているかもしれません――」

 

――と、エミリアはそう答えた。

 



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第三十六話「二人」⑥

……ベルクラスから発進したアルヴァインは全速力で交戦区域に飛び向かう。

 

(やっぱりスゴい……今まで乗ってきたSMBの中でもダントツだ……!)

 

ゲッターエネルギーとプラズマエネルギーを共鳴反応させた複合エネルギーによる新しい駆動システムにより、これまでのSMBには成し得なかった凄まじい出力と性能を引き出すことに成功し、伴い飛行速度も桁違いであり音速以上を叩き出している。

それ以上に竜斗もそんな恐ろしいスピードや出しているにも関わらず、全くを音を上げておらずついていっている。

 

一応アルヴァインには対G、衝撃緩衝機構も装備されているが焼け石に水であり、彼が身体能力的にも技術的にもパイロットとして著しく成長している証拠だろう。

彼はアルヴァインの性能たるや、凄く興奮に満ちており心臓の高鳴りが激しい。

 

(……て、自惚れてる場合じゃなかった。早く合流しないと!)

 

普段のような冷静さを取り戻そうと心を落ち着かせようと深呼吸する――多少は熱は冷めたようにも感じる。

 

そして数分もしない内に交戦区域に到着すると、すでにこの空域は熾烈化している。

 

「ゲッターチームの石川竜斗、アルヴァインは先に到着しました。これより戦闘、援護に移ります」

 

“よろしく頼む。ベルクラスと他のゲッターチームは?”

 

「ベルクラスと共にもうすぐここに到着します、僕に先陣を切れと言われて発進してきました」

 

“了解した”

 

アルヴァインはすぐさま改良されたセプティミスαを右手で持ち構えて展開する。

 

「はあっ!」

 

プラズマ弾が撃てなくなった代わりに複合エネルギーを高密度に圧縮して弾丸としてメカザウルスへ発射する。

直撃を受けたメカザウルスは一撃で胴体が消し飛び、かするだけで皮膚、そして装甲が深くえぐられるなどプラズマエネルギーと比ではないくらいに破壊力が格段に上がっており、その威力に驚愕するメカザウルス達は何としてでもアルヴァインの破壊を行おうと四方八方から襲いかかるが瞬時にそこから脱出した。

すると、ちょうど右足、腕を失ったステルヴァー、ジェイド機と対面した。

 

 

“竜斗君か!”

 

ジェイドからの通信を受けて驚く彼。

 

「少佐?一体何があったんですか!」

 

“ああ、とある一機のメカザウルスと交戦したんだがステルヴァーを持ってしても力が及ばなかった……」

 

竜斗は唖然となる。ジェイドのような熟練パイロットがここまでやられるなんて……ただ者ではないと察する。

 

「今そのメカザウルスはどこに?」

 

“ジョージとジョナサンが二人がかりで攻撃しているがそれでも歯が立たない。それほど強力な相手だ”

 

それを聞いた竜斗はアルヴァインならと気合いを入れる。

 

「ではアルヴァインでそのメカザウルスに挑んでみます」

 

“大丈夫か?”

 

「今のアルヴァインの力なら勝てるかもしれません、やってみます」

 

“…………”

 

ジェイドは黙り込むが彼の決意に「よし」と頷く。

 

“分かった、そのメカザウルスのいる位置データを送信する。しかし決して油断するなよ、今までのメカザウルスとは桁違いに強いぞ”

 

「了解っ」

 

ジェイドと別れてすぐに位置データを駆使して、レーダーでそのメカザウルスを捕捉する。確かにステルヴァーと思わしき二機のSMBと激しくそして目まぐるしい程の速度域による激戦を繰り広げているのが分かる。

 

「あれか……」

モニターで目視できるようになり、そしてその姿が次第に見えてくる……が、竜斗は物凄い衝撃を受けた。

 

(あれは……もしかして……)

 

彼が激震するその理由――見覚えのあるその姿、出で立ち……忘れたくても忘れられないその立ち回り。

日本における戦闘で幾度も追い込まれ、そして数ヶ月前に出会った爬虫人類の女の子、ゴーラを引き渡したあのメカザウルスであった。

 

(確か、ら、ラドラさん……)

 

彼はゴクっと唾を飲み込む――。

 

“竜斗君!”

 

ジョージ達はアルヴァインを発見してすぐに駆けつける。

 

“気をつけろ。アイツは――”

すると、

 

「すいません、ここは僕に任せてもらえませんか?」

 

と、彼は突然そう二人に伝える。

 

“竜斗……お前、どうした?”

 

「どうかお願いします」

 

竜斗から鬼気迫るモノを感じた二人はただ事ではないと察した――ワケが分からないながらも。

 

“分かった、しかし決して油断するなよ”

 

“負けんじゃねえぜ、ゲッターチームのリーダーっ”

 

二機は速やかにそこから去っていった。

 

「ついに来たか…………」

 

そして、ラドラもアルヴァインの姿を見てまるで凍りついたように固まり、二人は対面したまま動かない。

 

「あなたは確か、ラドラさんでしたよね……」

 

先に口を出したのは竜斗、周波数を変えながらラドラへ通信を試みる。

 

「もし今も、僕の言葉が分かるなら返事をしてくださいっ」

 

何度も問いかけるが向こうは無言のままだ。繋がってないのか……いや実は通じていたのだが。

 

(ゴーラ、確かに彼、リュウトというこの少年は、声からしてあなたに似た優しい雰囲気を、そして敵だと思えない――しかし、私は帝国に絶対の忠誠を誓うキャプテンであり、そして今は重要な護衛の任務遂行中です――立ちふさがる者は誰であろうと排除しなければっ)

 

ラドラは無言のままレバーに手をかけて動かす。

「!?」

 

無造作にリューンシヴは右手側のライフルをアルヴァインに向けると銃口から熱気を立ち上げ強烈な熱線を放った。

しかし竜斗もとっさにレバーを引き込み、機体を翻して避ける。

 

「くっ!」

 

竜斗もやむえず攻撃を開始、同じくセプティミスαを構えて複合エネルギー弾を連続的に発射。しかしリューンシヴは軽々と左右を反復で回避する。

 

(結局戦うしかないのか……!)

 

(ゴーラには申し訳ないが、敵対関係である以上はやらねばならん!)

 

二人の思いが交差する宿命の対決が始まった。

竜斗のアルヴァイン、ラドラのリューンシヴ……前機を大改造し、そして空戦型の万能機という奇しくも同じような機体同士の激しい空中戦が火花を散らす――それも二機の性能とパイロットの操縦技量から総合力は互角であった。

 

(日本で戦った時よりも遥かに強くなっている……)

 

(……あの時は簡単に追い詰められていたはずの彼が、今では俺とここまでやり合えるほどに成長したのか、見事だっ)

 

二機とも目に見えぬほどの神速で飛び回りながらライフルで当たるか当たらないの紙一重で苛烈な射撃戦は互いの神経をすり減らしていく。アルヴァインの右肩の砲身の角度が水平になり、照準をリューンシヴへ捕捉する。

 

「これでどうだ!」

砲身内に蓄積した高密度の複合エネルギーが一気に解き放たれてゲッタービームのような極太の光線を形成、怒涛の勢いでリューンシヴへ真っ直ぐ伸びていく。

 

「ぬんっ!」

身を翻して間一髪で避けるリューンシヴ、光線は遥か空の彼方へ伸びていき射線上のメカザウルス全てを飲み込み蒸発させた。

 

(今の光線のエネルギーはゲッター線ではない……?だが――)

 

今のアルヴァインの動力源が複合エネルギーだとは知らないラドラだが、驚いている暇などなく両手に持つ二丁のライフルを直列に連結させて巨大な重火器へと変貌させた。

今度はラドラがアルヴァインへ照準を合わせ――。

 

「終わりだ!」

 

この重火器から血のように深紅の、ライフル以上に巨大で極太の熱線が突き抜けていく。

 

「うわっ!」

 

竜斗も反射的にとっさに操縦レバーを動かして更に上空へ上昇した。

通り過ぎていくその熱線の熱量はこの空域に強烈な大熱波を引き起こして周辺のSMB達に直撃、リクシーバ合金製の装甲がまるで氷のようにじわじわと溶けていく――。

 

(もしかしてあれに乗っているのはラドラさんじゃないのか……)

 

疑心的になるも、今はそれよりも現状を切り抜けようと再びレバーをぐっと握りしめ、巧みに動かすとそれに連動してアルヴァインは高速に、且つ動きが読めないような蛇行飛行で攪乱するがリューンシヴも同じ速度、そして同じ軌道を描きながら追跡。

この二機以外の機体は全く追いつけないほどの高機動戦闘を展開していた。

 

アルヴァインの装備するゲッターウイングは、状況に応じて滑空翼の角度が変わるため凄まじく高い空力制御も持ち、結果的にステルヴァーも真っ青なアクロバティックな空中軌道も可能にしている。

そんなアルヴァインについてこれるこのメカザウルスはやはりあの人、ラドラが乗っているのか……と、竜斗は段々と確信づいてくる。

 

距離を離して間合いを取り、右の臑部外側の装甲中からせり出たビームブーメランを取り出して投げ込む。

高速回転しながら変則的に飛び交うブーメランはリューンシヴを翻弄し、そして首へ向かっていく。しかし瞬間に背中の剣を取り出すと一瞬でブーメランを払い飛ばすという恐ろしい反応を見せつけるリューンシヴ。

諦めず左臑に内蔵したもう一つのブーメランを取り出して、再び投げつけるアルヴァインはすかさずセプティミスαを構えて前の戦闘のように飛び交うブーメランにエネルギー弾を当てて無理やり軌道を変えていく。

流石のラドラもその変則的な動きに戸惑うかと思いきや、

 

「もらったっ」

 

ラドラはチャンスと言わんばかりに操縦レバーを押し出すと刃を真っ赤に熱した剣を持ち構えて突進するリューンシヴ。

とっさにライフルを下げて防御体勢に入るアルヴァイン。

しかし間近に迫った瞬間、機体の姿が消える。

 

「終わりだっ!」

 

竜斗は見上げるとそこには剣を上に掲げて落下してくるリューンシヴの姿が。アルヴァイン目掛けて叩き斬ろうと振り下ろした。

 

「くっ!」

 

とっさにセプティミスαを盾に前に押し出すと見事に真っ二つにされてしまう。

そこから再びリューンシヴの剣技による休む暇も与えない猛攻撃が始まった。

何とか両腕のシェルバックラーど耐え凌ぐ竜斗だがジェイドのように押されている。

 

(なら俺だって負けてたまるか――)

 

両腰からゲッタートマホークを取り出して二刀流の構えを取るアルヴァイン。すると何故か攻撃をやめて間合いを取り、剣を両手持ちにして腰を深く据えるリューンシヴ。

 

(……やっぱり乗っているのはあの人、ラドラさんだ)

 

その記憶に残る身構え方でそう確信した竜斗。

 

「………………」

 

一方でラドラは無言で、且つ威圧感の籠もった固い表情を取っている。

表向きは冷静さを保っているように見えるが心情はいかに……。

 

「…………」

 

「…………」

 

ジリジリと相手の隙を伺うかのように睨み合ったまま動こうとしない両者――いつでも行動できるように身構えて固まっている。

二人も操縦レバーを握りしめて相手の動作を寸分見失わないように凝視する――それがしばらく続いた時、先に動いたのはリューンシヴ。

 

(来たっ!)

 

一瞬でアルヴァインとの距離を詰めて乱舞の如き怒涛の勢いで襲いかかった。

竜斗も全神経を集中させてその剣筋を全て見切り避ける。

そして隙あらばとこちらもトマホークを振り込み攻撃を仕掛けるも向こうも動きを読まれて避けられる。

「…………っ!」

 

どちらも調子が狂えば間違いなく切り刻まれてしまうほどの激しい斬り合いを見せる。その立ち回りは誰にも寄せ付けない程にヒートアップしていく――。

 

(く……まさかここまでやるとは……)

 

ラドラは驚いている。日本では簡単に追い詰めていた相手が今は自分と対等にやり合えていることに。

一方、竜斗は今まで感じたことがないほどの興奮が湧き上がっていた。

このラドラという相手に、赤子扱いされていた自分が今はほぼ互角で戦っていることに。

 

(もしかしたらこのまま抑え込めるかも)

 

その希望を頼りに彼は更に気合いを入れて怒涛の如く攻撃を加え、今度はラドラが押されていく。形勢逆転の瞬間か――しかし。

(……俺にも爬虫人類として、そして恐竜帝国のキャプテンとしての誇りがある、負けるワケにはいかないんだっ!)

 

ラドラのキャプテンとしての意地が機体にも伝わり、押されかけていたリューンシヴが再び活性化して両機ともどちらも引かない、凄まじい攻め合うを続ける。

 

「そこおっ!」

 

リューンシヴが放った下からの縦払いがアルヴァインの右手に持つトマホークを吹き飛ばした。動きが止まった向こうに剣を持った右手を強く後ろへ引き込き突き刺して貫こうとしている。

対するアルヴァインももう一つのトマホークを持った左手を高く掲げた――。

 

「「ウオオオオォっ!!!」」

 

突き刺し、振り下ろし、互いの放った攻撃はほぼ同時で各刃がついに二人の機体に交わり深く入った――。

 

一方が真っ赤に熱せられた刃が深く胴体を深く貫き、一方が振り下ろされた刃が肩から胴体を深く斬り込み、それぞれ黒いオイルと赤いマグマがまるで鮮血のように斬り口から噴き出したのだ。

二機の機体がバチバチとスパークを起こしてガチガチと硬直し、そのまま機能停止して二機は互いに寄りすがるようにそのまま遥か地上へ墜ちていってしまった――。

 



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第三十六話「二人」⑦

「アルヴァインの反応が突然レーダーから途絶えました」

 

「何だとっ?」

 

ベルクラスにて、マリアからの方向に目の色を変える早乙女――二人の顔は一気に深刻になる。

 

「竜斗に通信をとれないのか!」

 

「どうやら機体自体が機能停止したようで繋がりません」

 

「…………」

 

と、いうことはこの高度から地上に墜落したことになるのか、もしそうなれば……二人の想定が次第に最悪の方向へと思い浮ぶ。

 

「ど、どうしますかっ?」

 

「……竜斗のことは確かに心配だが、だからとてこの任務を途中放棄するワケにはいかん、このまま継続する。

アルヴァインの落ちた位置の把握だけはしておいてくれ、早く済ませて地上に向かうぞ」

 

「りょ、了解!」

 

――早乙女はその事をすぐにエミリア達に伝える。

 

「な、なんですって……」

 

「イシカワが……っ」

 

二人は当然の如く狼狽し、特にエミリアに至っては顔色が一気に青ざめる。

彼の安否についての不安と心配でいっぱいになる二人に早乙女は、

 

「落ちたがまだ死んだとは限らない、万が一でも生きている可能性は十分あるわけだから希望をかけて気をちゃんと持て二人とも。

当然、私達は早くこの戦闘を終わらせて地上に降りるぞ」

「ちょっと待ってください、今リュウトを助けにいかないんですか!?」

 

と、エミリアの問いに早乙女は無情に頷く。

 

「一人のために任務を途中で放棄するわけにいかない。分かってくれ、これも軍人の仕事だ」

 

「そんなあ…………」

 

「私やマリアだって彼のことは勿論心配だ。

しかし今はそれよりも現状を打開しない限りはどうしようもない、君もそのコトを理解してくれ」

 

エミリアはヒクヒクと泣くかけている。

 

「これで遅れてリュウトにもしものことがあったら……ワタシはあなたを恨みますよ!」

 

そう言い切る彼女に早乙女は「甘ったれるな!」と一喝した。

 

“エミリア、君は一体ここに何しに来ているんだ?

観光か?旅行か?違うだろ、私達は戦うために来ているんだ。

それを承知した上で君はここまで来たのにいざとなればこうなるか……つくづく自己中で困った子だよ君は”

 

「くう…………」

 

二人の間に喧嘩一歩寸前な雰囲気に陥るも早乙女は一息ついてこう言う。

 

“私を恨みたいなら好きなだけ恨めばいいさ。

だがこれだけは言っておく、君が私を恨めるほどの実績と、納得できるほどの仕事をしているのならな――”

 

と、喧嘩口調で物申す早乙女についに。

 

「それよりも早くこの現状を何とかするのが先なんだったら今はこんな茶番をしてる暇なんかないでしょ!」

 

と愛美がそういうと二人はやっと我に帰る。

 

「ありがとう水樹。私達も早く戦闘を終わらせる努力をするから二人も素早く行動しろ。これは私からの命令だ――」

 

通信を切り、どことなく落ち着きなくソワソワしている早乙女にマリアは、

 

「司令、もしかして内心は竜斗君が心配でたまりませんか?」

 

「…………」

 

黙り込んでいるもその様子では彼らしくないくらいに焦っていることに彼女は気づいていた。

 

“エミリア、こうなったら早くカタをつけるわよ!”

 

「う、うん……!」

 

残りの敵の掃討に急ぐ彼女達。しかしエミリアには彼に対する心配と不安から焦っているのが一目瞭然で、幾度も攻撃を外すなど調子が狂い始めていた。

(神様、どうかリュウトが生きてますよう……お願いします!)

 

それを一心に今はただ死に物狂いで任務を遂行する彼女だった。

 

「竜斗君が……?」

 

“一応ゲッターロボには機能停止した場合、数分後にベルクラスへ救難信号を出すように設定しているがまだ確認がとれてない。

少佐達は今はとりあえずメカザウルスと敵母艦の掃討に集中してくれ”

 

「了解!」

 

早乙女からそれを伝えられたジェイドは他の者達にその事を伝え、全員が今まで以上に迅速でメカザウルス達の掃討に尽力する。

それはまるで時間に追われるように誰もが休みなく、そして急いでいた――。

――その頃、幾多の国を越えて連なるアンデス山脈の中間部。未だに雪の残るこの約数千メートル地点の山岳地帯の辺境にはこの山に似つかわしくない異形の巨人達の『傀儡』があった。

そう、アルヴァインとリューンシヴの二機である。

あの時、二機はそのまま機能停止し墜落したが雪がクッションの役割を果たして衝撃を抑えてくれたのだった。

そしてリューンシヴから発せられるマグマ熱が辺りの雪を溶かしていき、二機の周りは白いクレーターのような窪みを形成していた。

 

「…………っ」

 

アルヴァインのコックピットでは気を失っていた竜斗はふと目を覚ます。

 

「ここは……っ」

辺りを見渡すと真っ暗だ。手探ると操縦レバーを発見すると、自分の今いる場所はコックピットであるのは分かるが何かボタンを押しても全く反応がない。

 

(機能停止……か?)

 

彼は何でこうなったのか、すぐに理解するととりあえず頭上にある赤いボタンを押してコックピット内有効の予備電源を入れてシステム起動させるとライトが入り明るくなる。

 

(外は……)

 

カメラアイを通じてモニターを映すと目の前には、白い雪に囲まれた、先ほどまで戦っていたはずのリューンシヴが力無くへたり込んでいる姿があった――。

 

「ら、ラドラさんは!」

 

ラドラに会おうとコックピットからすぐさま出ようと考えたが、踏みとどまった。

何故なら何も考えずに飛び出すのは危険以外の何事にもないからだ。

 

(どうしよう、いつまでもここでじっとしているワケにもいかないし。

それに向こうの動きも気になるしなあ……ケガしてたらどうしよう……)

 

――彼は悩みに悩んだ結果、外に出ることにしてコックピットのハッチを開けると肌寒い風が入り込み、くしゃみをした。

それに高い所にいるためか空気が薄いことに気づき呼吸し辛い――だが決めた以上は行くしかない、と彼は勇気を出してコックピットから降りていく。

ゆっくり、ゆっくりと人形のようにガクンとしているリューンシヴへ近づく竜斗。

ゲッタートマホークの深い斬り痕がその壮絶さを物語り、そして向こうも機能停止した理由の説得力もある。

「…………」

 

息を飲み近づいていく竜斗。そして機体の目の前に到着すると大声で「大丈夫ですか!」と叫び、辺りにこだました。

 

……しかし返事が全くない。もしかしたら何かあったのかと気になり、恐る恐る機体にもっと近づいていく――だが次の瞬間だった。

 

「え?」

 

突然、機体の胸元が開くとそこから何かが飛び出して、そのまま竜斗へ飛び乗った。

 

「うわあっ!?」

 

ゴロゴロ転がり押し倒される竜斗、目の前で自分にのしかかる謎の人物……ラドラだった。

彼は竜斗の口を右手で強引に押さえつけ、左手に持つ小刀で喉元に押し当てた。

「~~~~っ!!」

 

間近で見る爬虫類特有のトカゲのような鼻と口の突き出た顔、眼……そして押さえ込む手に感じる人間以上に熱い体温とザラザラした硬質の皮膚……彼から凄まじい殺気を感じて今にも殺されると絶対絶命の竜斗……ここでやられるのか、それも彼、ラドラによって――。

 

「………………」

 

しかしラドラはそのまま固まったように何もしなかった。

そして睨みつけるその表情から次第に殺気が薄れていく……ここまで追い込んだのに一歩先に踏み込めないのは、

 

『どうかリュウトさん達を殺さないで』

 

ゴーラのその言葉が脳裏に浮かんだからだ。

そしてついには口を押さえつけていた手を離して、小刀をも喉元から離してしまう。

 

竜斗自身もなぜここまで追い詰めておいてやめたのか分からずにポカーンとなり、二人はしばらく沈黙する。

 

「……確か、ラドラさんでしたよね。なぜ……」

 

「…………」

 

「もしかして僕の言葉が通じてないですか?」

 

――すると、

 

『……私はもう生きる資格はない……』

 

「えっ……」

 

翻訳機を飲み込んでいたおかげで竜斗にもちゃんと理解できる言葉を発する。が、先ほどの小刀を腹に押し当てる。

嫌な予感に駆られた竜斗はコトに及ぼうとする彼を止めに入った。

 

「何をしようとするんですか、やめて下さい!」

『止めるな!キャプテンである私が任務を果たせず撃墜され、さらに敵に情けをかけて殺せなくなるとは落ちぶれたものだ。このまま帝国に帰り生き恥を晒すくらいなら私に残された道はもはや、ここで命を断つのみ!』

 

手に力をギュッと入れて今にも切腹しようとするラドラ。

しかし竜斗は何を思ったか刃を両手で握り取った瞬間に着用していた手袋からおびただしい程の血が溢れ出て「ぐうっ!」と苦痛の声を上げた。

それに対しラドラは仰天し、そして狼狽した。

 

『ば、バカが君は!?なぜ敵の私にこんなことをする!!』

 

竜斗は痛みからか、身震いし息を乱しながらも途切れ途切れにこう言った。

「僕は……あなた達爬虫人類と仲良くできればと……だから」

 

その言葉がラドラの心に突き刺さり、唖然とさせた。ゴーラと同じことを言う彼に彼女と同じ面影を感じたのだ。

 

『き、君だって戦士の端くれだろ!そんな甘ったれたことを抜かすな!』

 

「僕は、本気です……僕はそうなれればいいなと頑なに信じてます、互いが分かち合いそして共存できるものだと……」

 

『何をふざけたことを…………君だって散々これまで戦ってきて私の仲間の命を奪ってきたのに……偽善者か君は!』

 

「偽善者だと思われても僕だって……これ以上誰かが目の前で死なれる姿なんか見たくないんです……それに……あなたが死ぬとゴーラちゃんが凄く悲しむと思います……あの子からあなたのことについて大切な人だと聞きました……」

 

『…………』

 

「お願いです、どうか自ら死ぬことだけはやめて下さい……っ」

 

……するとラドラの手から小刀をその場に落として茫然なるも、すぐに右腰のポーチから何やら緑色の液体の入った小瓶を取り出してそれを彼の両手のひらの切り口にかけて馴染ませる。

 

「……っ」

 

しみるのか苦悶の表情を浮かべる竜斗。

 

『……地上人類に効果があるかは分からないが我々爬虫人類が使用する傷薬だ、心配しないでほしい』

 

「ラドラさん……」

 

『まあ……ないよりはましだ』

 

先ほどまで殺そうとしていた相手が不本意で自ら傷を負ってしまった自分の治療をしてくれたことに竜斗は「ありがとうございます」と心からお礼を言うとラドラも照れているのか言葉を濁した。

 

『……やはり、私はまだまだ甘いな――』

 

そして彼は自身に対して皮肉をボソッと吐いたのであった。

 



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第三十六話「二人」⑧

――今日初めてこのラドラさんと直接に接してみて、本当に心優しいと思える人であった。

ゴーラちゃん以上に爬虫類特有の特徴が目立つその見た目の怖さに反してこの人は気高く、そして良識的だ。

そして僕も次第にこの人と本気で仲良くなりたいと感じたのだった。

……それにしても、遥か上にいる皆は無事なのだろうか。

それもあり早く何とかして戻らなければと焦りもあった――。

 

二人はとりあえず自分達の機体に戻り、機体が動かせるかどうか確かめる。

起動、もしくはシステムチェックするかどうか確認するが、一応モニター辺りの補助電源が有効な箇所は使えるが主電源が必要な箇所は全く反応がない。

(確かゲッターロボには救難信号をベルクラスに送信する機能があったからいずれは助けに来るかもしれないけど……)

 

 

座席後部にある工具箱から自分のできる範囲で修理を試みようと中からレンチを取り出し握り締めるが、手の平の切り傷が疼いて強い痛みが走り、落としてしまった。

 

 

(……も、持てそうにない……)

 

これでは修理がままならないと悟り、諦める。

両手を見ると傷口から血が少し滲んではいるがおびただしいほどの出血はなかった。これもラドラが処方してくれた傷薬のおかげか。

 

機体から降りてリューンシヴの元へ向かうとちょうどそこにラドラが地上に降りてくる。

 

 

「ラドラさんの機体は大丈夫ですか?」

 

『一応、リューンシヴには簡易的な自己修復機能があるからしばらくすれば動かせるようになるが……君は?』

 

「それが……」

 

ラドラに説明すると、気にしているのか彼は申し訳なさそうな表情をとり『すまない』と、謝られると竜斗は必死で「いえいえ」とかしこまった。

 

「ら、ラドラさんが謝る必要なんかないですよ。あれは僕が気が動転して自ら招いたことなんですから……はは」

 

周りの冷たい空気も相まってすっかり寒い雰囲気となる二人の間。

 

『今、両手の方は?』

 

「やっぱりまだ痛みはありますが出血はもうありません。これもラドラさんのおかげです、ありがとうございました」

竜斗から誠意を感じるこの言葉を聞いてラドラはもの悲しい表情をとった。

 

「どうしましたか?」

 

『あ……いや。それよりも今はこの場で待つ以外に他はないな』

 

ラドラはコックピットに戻り、常備している非常用の固形燃料と毛布のような物を持ち出してくる。力無く佇む二機の間にたき火をして寒さを凌ぐことにした。その準備周到な彼に感心する竜斗。

 

「こういう物を色々備えてあるんですね……」

 

『我々爬虫人類は寒気に弱いからな。それでもこれらは気持ち程度の非常用品だが』

 

そう言えば前にゴーラも医務室で自分達にとっては暖かいと思っていたぐらいでも凄く寒がっていたのを思い出した。

 

 

「なら、あなたは今寒くないんですか?」

 

『私は大丈夫だ。それよりも君はどうだ?』

 

「……実はちょっと寒いです」

 

と、答えるとラドラは持ってきた毛布を自分の分まで渡した。

 

『これらにくるまっていれば寒さは凌げるから使うといい』

 

「ら、ラドラさんの分は……」

 

『私は大丈夫だからいらない、君が使え』

 

「けど……」

 

『いいからっ』

 

結局二枚の毛布にくるまる竜斗だった。確かに周りの冷たい空気を毛布が遮って内部からポカポカと温かくなってくる。

「すいません、何から何まで……けどどうしてそこまで僕に……」

と、質問するとラドラは少し沈黙してこう答える。

 

『名前は……リュウトだったな。ゴーラが君のことを私によく話していたよ。

初めて地上人類と触れ、そして友達になった人だと』

 

「ゴーラちゃんが?」

 

『それでずっと前に今回の作戦のことについて、そしてもし君らが現れるかもしれないことを話したらあの方から嘆願されたんだ、『どうかリュウトさん達を殺さないで』と。

多分それが頭に深く残っていたんだと思う』

 

「…………」

 

『確かに、あの方が君を好く理由がよく分かるよ。もしかすれば本当に地上人類と爬虫人類の友好の架け橋になれる存在かもしれん』

 

 

と、にこやかに答えるラドラ。

 

「あの子は今元気にしていますか?」

 

『ああ、実は私は今あの方の近衛兵として仕えている』

 

「え、ラドラさんが?ゴーラちゃんってそんなに偉い子なんですか?」

 

『詳しくは話せないが、彼女は王族だ』

 

それを聞いて耳を疑う竜斗だった。

 

「王族……てことは王様とかそういう感じだよね。僕はそんな高貴な子と触れたのか……」

 

彼は息を飲んだ。

 

「てことはあの子は王女ってことになるんですか?」

 

『ああ、そうだ。実はもう一人の王女がいるがな……』

 

「もう一人……?」

 

『まあ……こちらも訳ありでな。これ以上は話せない』

 

「はあ……」

 

と、話を濁すラドラに彼は深追いする気はなかった。

そして二人は当たり障りのない話をする内にさらに打ち解け合っていく。元々互いに似ている部分もあり通ずるものがあるからだろう。

 

「ラドラさんは僕たち地上人類をどう思ってますか?」

 

と、質問するとラドラは口ごもってしまう。

 

「……もしかして聞いてはいけませんでしたか?」

 

『いや、大丈夫だ。私だってゴーラと同じく地上人類と仲良くしたいと思うさ、そして君のような人間がいると知って凄く嬉しいよ。

だが帝国、いや爬虫人類全般は地上人類の殲滅を望んでいる、君達は我々にとっての天敵扱いされているからね』

 

「……もしかしてゲッター線のことですか」

 

『そうだ。地上人類には罪がないのにただゲッター線で進化したということだけで害虫扱いなんだからな――君達からは堪ったものではないだろう』

 

「………………」

 

『私はキャプテンという位が高いだけの一兵士でそして帝国の絶対忠誠を誓う身。逆らうことなどできないんだ』

 

彼からの重い言葉から複雑な心境を抱えていることを感じ取る。

 

『最もゴーラは負けじとただ一人我々の和平について自身の父上や周りに訴えているがまともに取り合ってもらえないのが現実、中には異端者扱いする者も出始めているくらいだ。私はそのことと、自身も彼女と同じことを考えているのが辛い。

ゴーラも私も普通の爬虫人類だったらどれだけ楽だったろうか』

 

爬虫人類としての存在意義と誇り、帝国の忠誠、それでなお地上人類との共存したいという思いに挟まれ葛藤し、苦しんでいる。

だからと言って、こんな戦火が広がる一方でどうすることもできず、今はやるべきことに手一杯なのだと分かる。

 

「……実は僕、最初は成り行きでこのゲッターロボに乗らされて気づいたらここまで来たんです」

 

と、語り始める竜斗。

 

「最初はこんな危ないものに乗りたくなかったんですけど乗っていく内に、気弱だった自分が強くなっていけるんじゃないかなと、それに日本で何回かあなたと対峙した時にもしかしたら向こうと話が通じるんじゃないかと思い始めて……。

 

僕が危険を侵して身をさらけ出して『戦いたくない』と訴えた時に、あなたはいくらでも僕を殺せるチャンスがあったのに攻撃せずに去っていった。

それからもゴーラちゃんと触れてもしかしたらあなた達爬虫人類と本当に和解出来るんじゃないかなと思えるようになりました。

だから今は、これからどうなるか分かりませんが、それを希望にして叶えるために前向きに頑張っていこうと思います」

 

『リュウト君……………』

 

「ラドラさんの話を聞いて、ゴーラちゃんの他に共存を望んでいる人がまだいることを聞けて僕はさらに希望を見いだせました、本当にありがとうございますっ」

 

笑顔でお礼を言われてラドラも目頭が熱くなり嬉しい気持ちに満たされた。

『互いに異種族なのに君には抵抗感というものはないのか?』

 

「……僕は別に何ともないです。ただあなた達に凄い抵抗感を持つ子が仲間にいますが……ラドラさんは?」

 

『私も特に何とも思わない、ゴーラも多分そうだろうが私達二人は爬虫人類の中でも異端だと思う』

 

「なら僕も地上人類の中では異端ですね」

 

『……互いに似たもの同士、と言うわけか』

 

二人は「フフっ」と軽い笑みをこぼした。

 

「ゴーラちゃんがラドラさんを大切な人と言っていたように、あなたもあの子を凄く大切に思っているんですね」

 

『……それはまあ、昔からの付き合いだからな。彼女が幼い頃からよく遊び相手に付き合わされたものだ』

 

 

 

「どういう子だったんですか?」

 

『凄くお転婆で好奇心いっぱいで色々な行き回るからよく悩まされたが一方で、人一倍優しくて賢いお方だった。あの頃は何の悩みもなかったが今では……』

 

と、その時リューンシヴから「ギューン」と言う何かの作動音が聞こえるとラドラはコックピットに乗り込み、しばらくすると再び降りてくる。

 

『機体の自己修復は終わったからいつでも動かせる。

上ではどうやら私達の戦力は大崩れで我々に撤退命令が出ているようだ。リュウト君はどうする?』

 

「救難信号はもう出しているからいずれは迎えに来るとは思いますが今は何とも……」

『私が君を機体ごと上まで担いでいくという方法もあるが……色々と問題があるな』

 

「じゃあ僕はここで迎えが来るまで待ってます、ラドラさんは先に行ってください」

 

『それで大丈夫か?』

 

「心配しないでください。コックピットの中にいるので安心してください」

 

『……分かった。ではあの毛布は君にあげるよ、寒くなったら使ってくれ』

 

「ありがとうございます」

 

しかしこの後、二人は見つめ合ったままなぜか沈黙してしまう。

 

「もしまたラドラさんと出会ったら……」

 

『…………』

 

「……やはり僕たちは戦う他はないんでしょうか?」

 

 

『これも互いの置かれている状況だ、どうしようもない』

 

せっかく打ち解けたのに次はまた敵同士という現実に悲観的になる竜斗。

 

「僕からも一刻も早く和解できるように努力します、もうあなたと戦うことのないように」

 

『私もそうなるよう努力してみよう。もう君と戦いたくないし、ゴーラも悲しむことになる』

 

二人は友情のしるしとして固い握手を交わした。

 

「ラドラさん、今度会う時は和平を結んだ後だと僕は望みたいです」

 

『ああ、私もそう思うよっ。リュウト君はこれからも生きろ、君はこれから重要になるべき人間だ』

「ラドラさん……はいっ」

別れの挨拶を交わしてラドラは機体に乗り込み、竜斗はそこから離れて機体の乗り込んだ。

起動したリューンシヴは立ち上がり、翼を展開。そのまま勢いよく飛び上がりそしてそのまま上空へ飛び去っていった。

 

(ラドラさんもお元気で……)

 

それとすれ違いについにベルクラスが空から降りてきているのがモニター越しで分かると外に出て、力いっぱい手を振る。

 

「あ、石川がいるわ!」

 

「リュウトっ!」

 

そして艦橋では集まった全員が彼の無事を祈り、モニターを凝視していると同じく彼と機体を発見した。

 

「アルヴァインと竜斗君を発見しました!」

 

 

「よし、直ちに引き揚げて帰艦だ」

 

全員は元気そうな彼に一安心する。

 

――僕は無事戻ることができて全員から歓迎を受けた。

その後、皆にここで何があったかを伝えると司令達を除いて殆どの人が唖然としていた。

当たり前だ、敵で尚且つ爬虫類の人間と丸腰で接触して何もされなかったどころか打ち解け合っていた、と言っても信じられないだろう。

 

まあ手の傷に関してはラドラさんに塗ってもらった傷薬のおかげか大事にならずに済んだのはよかった(手から採取したその成分を調べたら止血作用のある薬草のエキスか何かと言われた)。

 

ところでエミリアに一体何があったのだろう、不機嫌というか何というか、何か違和感のある表情をしているがどうしたのだろうか――。

「やっぱり竜斗君は凄いと思います。あの子、ゴーラちゃんの時も驚かされましたがまさか先ほどまで戦っていた敵側のパイロットとも打ち解けてしまうのは……」

 

「これも彼の才能とも言えるのかもな。もしかしたら本当に和平の架け橋となりうる存在なのかもしれん」

 

早乙女とマリアは彼に秘められた『魅力』について語り、そして感心していた。

 

「もしかしたらこれからはいい方向へ向かうのでは?」

 

「さあな。ただこちらにしても向こうにしてもそう上手くいくはずはない、何故なら人間皆、十人十色だからな。

まあ、私もそうなってくれるのが一番いいとは思うがね。しかし結局それはただの「理想」だよ、現実は上手くいかないよ」

 

 

と、そう言い返す早乙女。

 

「と、ところでエミリアちゃんと何かありましたか?彼女、司令に対して凄く不機嫌そうでしたが」

 

 

彼女がそう聞くと、彼は「フッ」と軽く息を吐いた。

 

「単なる彼女の竜斗の心底心配する気持ちから来たワガママさ」

 

と、軽く言い返す早乙女だった。

 



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第三十六話「二人」⑨

撤退命令が下されマシーン・ランドへ帰ってきたラドラと生き残ったメカザウルスは機体を格納させる。コックピットから降りるとちょうどそこにガレリーが現れ、こう告げた。

 

「ラドラよ、ゴール様がお呼びだ」

 

「…………」

 

「あまりいい顔をしてはおらんかった。覚悟しておいたほうがいい……」

 

「……分かっております」

 

すぐさまゴールのいる王の間に向かう。その道中の彼自身は非常に緊迫した雰囲気を漂わせる。

撤退命令を出されたとは言え、事実上の作戦失敗……幾度も失敗を重ね、今度こそはいくら自分でもただでは済まないだろう。

 

(私の命運もこれまでか……)

 

半ば諦めの中、王の間に入るラドラは玉座に座る彼の前に立ち、膝をついて伏せる。

 

「キャプテン・ラドラ、ただいま帰還致しました」

 

「……ラドラよ、また任務を果たせなかったようだな」

 

ガレリーの言うとおり、その声、顔色は全くと言ってもいいほど思わしくなかった。

 

「誠に申し訳ございません。私の力量不足が招いた結果でございます」

 

と、二人のだけのこの場は気まずい空気だけが漂っていた。

 

「ゴール様、覚悟は既にできております。処刑するなりなんなりと」

 

と、きっぱり告げるラドラにゴールは黙り込んだままだ。しばらく間を空いた後彼はこう口にした。

「ラドラ、お前は生きたいとは思わぬのか?」

 

「……と、言われますと?」

 

「今作戦には憎き我らの天敵、ゲッター線の機体が現れたと聞く。

それなら別に負けて逃げ帰ってきたとしてもいくらでも言い訳ができるはずだろう?」

 

「……言い訳するのは父、リージの教えに反しますし私はキャプテンの身、いつまでも帝国に貢献できないのならば死の罰を受けるのは仕方ないことでございます」

 

「………………」

 

「ゴール様、私に贔屓などせずに何とぞご正当な判断をっ」

 

するとゴールは、

 

「そなたは本当にリージによく似ておるな。

その曇りなき誠実さ、堅実さを見るとまるで目の前にいるのが当の本人であるかのように見えてくる」

 

彼の表情が柔らかくなり穏やかな笑みを浮かべてこう告げる。

 

「そなたの罪は何もない。いままで通りゴーラの側にいるがよい」

 

「ゴール様……」

 

「ラドラの今の本業はゴーラの近衛兵であり長だ。

今作戦は本意はお前のパイロットとして、そして指揮官としつのリハビリを兼ねておったしな。

まあ結局、撤退が余儀なくされたがお前が無事戻ってこれただけでもよしと思う」

 

「………………」

 

しかしラドラの顔色は良くなく、結構複雑そうな思念を交えているようにも見える。

 

「ところでラドラよ、お前に聞きたいことがある」

 

「はっ、何でございますか?」

 

「そなたは地上人類をどう思っておる?」

 

意外な質問をされて「えっ」と驚く。

 

「ゴール様、突然どうされましたか?」

 

「理由は後で今は男同士として質問に答えてくれ、敵である地上人類に対してどう思っておる?」

 

するとラドラは正直に伝える決意を胸にこう答えた。

 

「私は……彼らと和平を結ぶべきだと思います」

 

「…………」

 

「彼らは確かに我々爬虫人類の天敵である宇宙線、ゲッター線によって進化した種族です。

確かに不快感を持つ者達も沢山いますが、それだけで忌み嫌うのはただの偏見だと思うのです。

地上人類にも心優しい者もいれば私のように共存を願う者も確かにいます。

当然逆の者もしかりですがこれも人間様々でございます」

 

自分の本心を洗いざらに話していく。

 

「実は今作戦でゲッター線の機体……ゲッターロボという機体のパイロットと色々ありそして接触しました。

彼はまだ少年とも言える私よりも年下と思われるほどの若人で、まだ軟弱そうな部分もありましたが彼は私達爬虫人類と本気で和解できるよう願い、そして希望を持つ子でした。

私はそんな彼を殺すことなど出来なかった、何故なら私も彼と同じ考えを持っているからでございます」

彼の話を黙って聞くゴールは顔色一つも変えずに忽然した表情だ。

 

「ゴール様、もし私の本心が気にくわないのならそれはしようがありませんし処罰も受ける覚悟は持っています。

しかし先ほど伝えたその子のように地上人類にも、そして我々爬虫人類どちらにもそのような思想を持つものが少なからずいることだけは心にとめておいてください」

 

二人は無言で互いを見つめたままだ。ラドラのその真剣な赤い眼から感じるは、訴えている気持ちの他に、まるで自分の忠誠を誓う相手に挑戦的でいるようにも見えた。

 

「……実はゴーラから耳が痛くなるくらいに同じことを言われていてな。もしかしたらお主もそうなのかと思ってな」

「……はい。その通りでございます」

 

「やはり……全くお前達は変わっておるわい。ゴーラに至っては一体誰に似たんだか……」

 

彼女は亡き母親のミュアン似であると感じるラドラ。

 

「まあよい。その話については今は保留じゃ」

 

「ご、ゴール様……ではもしかしてっ」

 

その言葉にラドラの目の色が変わった。

 

「確かに最近ワシはこれ以上戦火を広げてむやみに犠牲を増やすのはいかんと思っていてな。

それに民にももしかしたらラドラ達のような思考を持つものもいるかもしれん、少しばかり時間をくれ」

 

「ゴール様……ありがとうございますっ!」

 

ラドラにとっては嬉しくてたまらなかった。もしかすれば本当に和解に持ち込めるかもしれない、と。

下がるよう言われて王の間を後にしたラドラは急いでゴーラの元へ向かう。

彼女の部屋をノックすると彼女が現れ、驚いた。

 

「ラドラ、無事でよかった!」

 

「それよりもゴーラ、あなたに良い話があります」

 

中に入り、彼は先程の話をすると彼女も目を輝かせたのだった。

 

「……お父様がそんなことをっ?」

 

「はい、もしかすれば本当に和平を望めるかもしれません!」

 

「その話が本当なら……私はこれほど嬉しい話はありません。ラドラ、本当にありがとうございます!」

 

飛び上がるくらいに二人で喜び合った。

 

「そう言えば私はリュウト君にも接触して話をしました。

そのおかげかもしれない、彼を殺さなくて本当によかったと思います」

 

「そうですか。リュウトさん達にもこの事実を伝えたい気持ちでいっぱいですっ」

 

満面の笑顔で満ちる二人だったが、ゴーラは何かに気づいたのかすぐに用心深そうな表情をとる。

 

「……ゴーラ様、どうしました?」

 

するとゴーラは小声でこう彼に呟く。

 

「ジャテーゴ様のことです。もしこのコトが知られたら間違いなくあの方は納得しないでしょう」

 

「あっ…………」

「もし向こうに知られればこれからどんな妨害、いや下手をすれば本当に暗殺などの取り返しのつかないことが起こりうるのが目に見えています。

ラドラ、この事は内密に、そして今まで以上にお父様の身のまわりに用心して下さい」

 

「了解しました……」

 

「……この奇跡と言うべきチャンスを絶対に潰すわけにはいきません、今からは細心の注意を払って行動してください……」

 

一歩先に光が見え始めたたと同時に、それ以上に更なる危険が隣り合わせになっていることに気づき、喜びと不安が絡み合い、思わず息を飲む二人だった。

 



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第三十七話「決意」①

「やっと完成か……っ」

 

「ついにやりましたな、ニールセン博士!」

 

ニールセン達エンジニア一同がついに完成の時を迎えた数キロという巨大戦艦を前にして賑わいの声に溢れていた。

 

「起動テストもクリアし、後は来たるべき決戦への用意だな」

 

「……にしても、完成予定日よりも大幅に遅れましたね」

 

と、早乙女がそう口走るとニールセンは間を入れず彼を睨みつける。

 

「誰のせいだと思っとるんじゃ、あ?」

 

「はいはい、私の責任ですよ。すいませんね」

 

と、相変わらずの棒読みの謝罪に「ちっ」と舌打ちするニールセン。

 

「さて、後は軍上層部にこのコトを報告して指示を仰ぐのを待つか」

 

とりあえずここで全員解散して各人は去っていく中、この場に残る早乙女とニールセン。

 

「そう言えばキング博士は?」

 

「アルヴァインの修理に必死じゃよ。まさかタメを張るメカザウルスがいたとは驚きじゃが、本人は文句ばかり垂れておったぞ。「ワシを過労死させるつもりかっ」とな」

 

「はあ。ところで博士に聞きたいことが」

 

「なんだ一体?」

 

「我々人類は向こうと和平を望めることは出来ると思いますか?」

 

するとニールセンは当然「はっ?」と疑問符を吐く。

 

 

「何を言い出すんじゃお前は?」

 

「実はですね――」

 

これまであったことを話すとニールセンは肩を傾げる。

 

「さあな。竜斗君がいくらそんなことが出来たとはいえ今のあの子は一介の兵士だ。彼一人では説得力もなければ発言力も全くないな」

 

「……まあそうですよね」

 

「まあ署名運動なども行えば多少は変わるかもしれんが、実際はこんな戦火を起こして巻き込んだ敵を許す人間は少ないじゃろうな、ましてや相手は人間ではない、爬虫類じゃ」

 

と冷たく突き放すニールセン。

 

「では博士はどちら側ですか?」

 

「反対派だ。色々理由はあるが何よりワシは「戦争屋」だからな。竜斗君には悪いが」

 

と、きっぱり告げると早乙女もこれ以上何も言わなかった。

 

「まあ、それよりも今は目の前のことに集中じゃ。せっかくここまで来たんだから」

 

ニールセンは去っていき、その後ろ姿を黙って見つめる早乙女は一体何を感じているのだろうか。

「俺も上手くいくとは思えないな」

 

基地内のトレーニングルームでは筋トレする竜斗とジョージ、そしてジョナサンが彼らと同じ話をしていた。

 

「考えてみろよ、元はと言えば向こうから戦争を振ってきたんだぜ?それで沢山犠牲が出ているこんな現状で今さら向こうを許せると思うか?」

 

「それは…………」

「竜斗達だってヤツらに家族全員やられたのにお前はそれでも許せるなんて、マザーテレサ並の博愛主義者かよ」

 

「じゃあ大尉はどう思いますか?」

 

「俺はイヤだね、聖人君子じゃないし。それにマナミを悲しませたこの恨みは高くつくぜっ」

 

と、彼に本音をぶつけるジョナサン。

 

「確かに竜斗君の気持ちは分かるが世界中の人間が君のような考えをもっているとは絶対にないし、何より俺達がただここで何か言い合ったって変わるワケがないよ。

結局は上層部が全て決めること、それに俺達は従うしかないんだ、君だって分かるだろ」

 

「…………」

 

「とりあえず、この話を続けても不毛だな――」

 

トレーニングが終わり汗を拭いて着替えた竜斗は複雑な顔をして基地内の休憩室に向かう。

するとちょうどそこにいた愛美と出会う。

 

「あら、どこ行ってたの?」

 

「トレーニングしてた」

 

「ふーん、お疲れ」

 

何気ない会話をする二人だが、彼女は竜斗から何かを察する。

「あんた、なんかあまりいい気分じゃなさそうね、何かあったの?」

 

「……別に何もないよ」

 

「なあに隠してんのよ、マナには分かるのよ。言ってみなさい、仲間でしょ?」

 

彼女にこんなコトを話しても解決するわけでもないがとりあえず話してみると彼女も不機嫌そうな表情をとる。

 

「ねえ石川さ、それマジで言ってんの?」

 

「……じゃなかったらこんなに悩んでないよ」

 

「あんたも相当の変わり者ね、なんであんなキモい奴らなんかがいいのかしら」

 

「一応聞くけど水樹はどう思う?」

 

「断然マナはイヤよ!あいつらと仲良くなるくらいなら死んだほうがマシだからね」

 

やはり彼女の返ってくる言葉は自分が予想した通りだった。

 

「絶対に水樹がそう答えると思ってたからあまり口にしたくなかったんだよ」

 

「何よ、マナが悪いって言いたいワケ?」

 

「そんなこと言ってないだろっ」

 

互いに睨みつけ、喧嘩腰になる二人だった。

 

「……もうやめましょ、こんなことでいちいち喧嘩してもしょうがないわ」

 

意外にも彼女から折れて彼も一応怒りを抑える。

 

「やっぱりあんたとマナじゃ相性悪いかもね」

 

「……えっ?」

 

「こっちの話、で、本題に入ろうかしら。感情抜きでマナからの考えだけど無理なんじゃない?」

 

と、ジョナサンのようにそうきっぱりと告げる。

 

「だってあいつらからこんな戦争を仕掛けてどれだけ世界に迷惑かけていると思っているの?それで今さら「すいませんでした、仲良くしましょう」って向こうからそんな都合の良いことを言ってきても、許せる人間なんか一握りいるかどうかだと思う」

 

やはり彼女も二人と同じ答えを返す。

 

「アンタって戦闘になったらメカザウルスを片っ端から落としていくけどどっちの味方なのよ?人間か、爬虫類か?」

 

「俺は…………」

 

「すぐ答えられないようじゃそこまでね。

はっきり言わせてもらうけどアンタはその内周りから『偽善者』って呼ばれても文句すら言えなくなるわよ」

「…………」

 

「まあ、それでいいんならアンタの好きな通りにすればいいんじゃない?

最も、その時は誰もアンタの味方はいなくなるかもよ、ちなみにマナはちゃんと人間の尊厳を持っているから絶対に向こうには行かないわね」

 

そう断言する愛美に対し、彼は。

 

「俺が戦うのは生き残っていくためもあるし先を切り開いていくって理由もある。

そして向こうと和平できるなら周りから何を言われようと、孤立しても構わないよ。俺は例え一人になろうと爬虫人類との共存を望む」

 

「……アンタ、もしかしてマナ達を敵に回してもいいってこと?」

 

「その時はしょうがないよ、それが俺の決意だ」

彼も負けじと断言する。彼の目は今までにない真剣さを感じられて彼女は呆れに呆れた。

 

「イシカワがまさかそこまで思っているだなんて思わなかった。

まあ、やれるだけやってみることね。マナは見守ることしかできないけど」

すると彼は何故かキョトンとなっているのに不思議がる愛美。

 

「どうしたの?」

 

「いや、水樹が俺を見守ると言うだなんて思わなかったから」

 

「まあ、なんだかんだでアンタは大切な仲間だからね。敵対する気はさらさらないし正直してほしくないし」

 

「水樹……」

 

「イシカワがいつの間にか、そんな大それた信念を持ってることに正直驚いたわ。

マナには何も手助けはできないけどイシカワを支えることぐらいはできる、だからアンタもそこまで言ったからには信念を絶対に曲げちゃダメよ」

 

愛美からの思いがけない励ましをもらい、竜斗は凄く嬉しく感じ、笑顔に戻り「ありがとう」と言うと彼女も照れる仕草を見せる。

 

「俺達って最初と比べたら百八十度変わったよな、最初は接するのも嫌だったのに今はかけがえのない大切な仲間と思えるんだから」

 

「そ、そりゃあアンタも凄く強くなったからじゃない。なんか別人みたいだもん」

 

「別人というか本質は変わってないと思うけどね」

 

「多分、石川には元々そういう強さを持っていたんだと思う。それを周りが引き出してくれたんじゃないのかな?」

 

「やっぱりみんなのおかげだね」

 

そこから二人はしばらく時間を忘れるくらいに雑談に楽しむ。

 

「水樹は全て終わったらどうする?」

 

「マナ?さあ、そこまでは考えてないけど……石川は?」

 

「俺はもちろん普通の生活に戻るよ、それに行けるかどうか分からないけど学校にも行きたいし久々に友達と遊びたいしね」

 

しかし愛美はそれを聞いて複雑そうな表情になる。

 

「どうした?」

 

「マナにはもう友達が……いない」

 

「しまった」と彼は気づき、焦ってしまう。暗い表情へと落とした彼女に竜斗は。

 

「水樹には俺達ゲッターチームがいるし、一人じゃないから大丈夫だよ」

 

「本当に…………?」

 

「一生友達と俺は誓うよ。エミリアも多分そう思ってくれるし安心してよ」

 

と彼なりに励ますと一転して彼女はニコっと笑った。

「ふふ、落ち込んでると思った?さっきのはフェイクよ」

 

と大声で伝えてキョトンとなる竜斗。

 

「アンタの焦った顔が見たくて演技しただけだからね、あ~っ面白かった」

 

「水樹……っ、お前!」

 

「騙されたわね、アハハ」

 

キッとなり突っかかる彼だが本気で怒っているわけでもなく、寧ろ悲しんでなくてよかったとも思えるくらいに安心しているようであった。

「さてと、マナはもう部屋に帰るね」

 

立ち上がり、彼に背を向けて去っていく愛美は外に出て、少し歩くと足を止める。次第に目が潤み、顔が真っ赤になりそして大粒の涙を流していた。

「ありがとう……石川……っ」

 

一生友達になってくれると言ってくれた彼へ心から感謝している愛美であった。

 

――水樹は俺が別人のように変わったと言ってくれたけど、そう言うあいつ自身も最初と比べて凄く変わったし、だからこそこうして互いに身近に接することができたんだと思う。

イジメる、イジメられる立場だった俺達が今ではゲッターチームとして機能し、そして悩みや本音を打ち明けられているほどになっているのだから。

そしてこれからも俺達がそういう関係でいけたらなと、そしてもう二度と敵対することが起こらなければと切に願っている自分がいる――。

 

晴れたその夜、竜斗とエミリアはベルクラスの甲板上で話をしている。内容は愛美と話していたことについてだ。

「エミリアはどう思う?」

 

「前にも言ったけどアタシは何があってもリュウトの味方だから」

 

彼女も愛美のように悩む様子はなくそう答えた。

 

「けど、万が一だけど俺だけ孤立して敵対することだって考えられる、その時は?」

 

もしそうなった場合に、彼女を巻き添えにしたくない気持ちが凄く伝わってくる。

 

「心配しなくてもリュウトについていくよ、カレシを信用できなくてどうするのよ。

それにリュウトのしようとしていることはすごく善いことじゃない、だったらなおさらよっ」

 

力強く発言するエミリアには少しも迷いがなさそうである。

 

「……確かにアメリカに渡る前は北海道のこともあって爬虫人類を絶対に許せないと思ってたし今でもそうだよ。

だけどゴーラちゃんのような子も向こうにいることも考えれば――ね」

 

「エミリア……」

 

「ゲッターチームのリーダーなんだし、悪いことじゃなければ遠慮せずに自分の思う通りにすればいいよ。アタシもできる範囲で協力するから!」

 

勇気づけるような明るい笑みで答えるエミリアに彼は、

 

「……ありがとう。俺、どこまでいけるか分からないけど色々方法を模索して本気で努力してみるよ!」

 

彼女も「うん」と相槌を打った。

 

「よおし、絶対に爬虫人類と共存できるよう頑張るぞお!」

 

彼はその断固なる決意を大声でその夜空へ、そして向こうに届かせるように叫ぶのであった。

 



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第三十七話「決意」②

一週間後。基地部司令室では各部隊の代表が集められ、所長のリンクから指令が下される。

 

「世界連の上層部から我々、アメリカ・EU連合軍はこれより戦闘準備に入り、完了次第アラスカの敵本拠地に強襲をかけろとの命令が入った」

 

ついに決戦の時が近いとその場にいる全員が実感し、気を引き締める。

 

「先日完成したテキサス級戦艦の艦長及び総司令官に私が任命された。全員、至らない点が多々あると思うがどうかよろしく頼む」

 

その場にいる全員が一斉に敬礼し、彼も敬礼で返す。

 

「ありがとう。では今より我々は強襲の準備を行う。各隊は直ちに行動せよ。

恐らくはアメリカ至上最大の戦いとなるだろう、全員気を入れて取りかかってくれっ」

 

解散した後、早乙女はすぐさまベルクラスへ戻りマリアと竜斗達を司令室に集めて伝言する。

 

「ついに来たんですね……」

 

「間違いなく大雪山の時とは比べものにならないほどの激戦となるし遥かに厳しいだろう、しかしここまで来たからには前に進むしかない」

 

来るべき決戦を前に三人は息を飲む。

 

「詳しい作戦についてはまだだが、その内明らかになるだろう。我々ゲッターチームもこれより戦闘準備に取りかかる。各人は心の準備及び、不具合が起こらぬように各機の整備、調整を徹底して行ってくれ」

 

「了解っ!」

 

「そしてベルクラスも多少ではあるが武装の強化に入る。そのため艦内がうるさくなるが我慢してほしい」

 

早乙女は一旦間を置いて彼らに真剣にこう話す。

 

「君達、わかっているとは思うが戦闘では自分達は生きて帰れる保証などないが今作戦はその確率が一気に跳ね上がる。もしかすればこのベルクラスすらも本当で大破、撃沈する可能性も高いということだ」

 

「…………」

 

「なのでもう一度いっておくぞ。非情になれ、優しさを捨てろ」

 

と、早乙女は特に竜斗、エミリアに視線を向けてそう言い放つ。

 

「「は、はいっ!」」

 

三人を解散させると早乙女は椅子に座り「フウ」とため息をつくとマリアが駆け寄る。

 

「司令、実は向こうの敵戦力を前もって調べた結果なんですが」

コンピューターを起動させてデータの内容を見せると彼は眉をひそめた。

 

「確認できただけでも飛行型メカザウルスの数は最低でも三千から五千、地上型メカザウルスは一万近く……総計一万五千の戦力はあります。それに対し、我々連合軍の全戦力は四千前後――」

 

「……圧倒的だな」

 

「あと敵側の援軍もあると想定すると恐らく二万は軽く超えると考えられます」

 

彼は画面と無言のまま睨めっこしている。

 

「だが、我々にはゲッターロボ、ステルヴァー、そして各連合軍の高性能SMBが集結している。

それで戦力差を埋めるしかないだろうな」

 

「ここからが問題です。敵本拠地である暗号名『タートル』は全長は少なくとも十二キロメートル以上、テキサス級戦艦の全長は四キロメートル」

 

 

「ふむ……」

 

「聞けばテキサス級は対タートル用決戦兵器らしいですが、どう考えて明らかな我々の不利であると思われます」

 

二、三倍も巨大に加えて、想定される堅牢な装甲、強力な兵器を搭載されているであろう難攻不落な敵要塞にどうやって決定打を与えるのか分からないものだ。

「そもそもこんな無数の敵がいるのにどうやって接近を?

その前に間違いなく撃沈されますよ」

 

「どうしたマリア、もしかして怖いのか?」

 

「見損なわないでください!」

 

と、彼はジョーク混じりに言うと彼女は顔をプンプンさせた。

 

「まあ決戦兵器と言うからには余程の武装が施されているんだろうな、それにニールセン、キング博士含む世界各国最高の技術者や科学者が総力を上げて建造したんだからそれを信用しようじゃないか」

と、まるで勝てるだろうと言わんばかりにそう淡々と語る早乙女。

 

「それに私の予想だが、敵戦力の大半を我々が引きつけることになるだろう」

 

「つまりそれは――」

 

「我々ゲッターチーム含めたほとんどの部隊が無数のメカザウルスの囮になるということだ」

 

それを聞いてマリアは冷や汗をかいて唾を飲み込んだ。

 

「……おそらく両軍とも戦死者の数は凄まじいことになるでしょうね……」

 

「今までよく持ってきたが本当に我々ゲッターチームの命運もこれまでかもしれん、覚悟だけはしておいたほうがいい――」

 

二人が深刻な話をしている時、竜斗達三人は格納庫で各ゲッターロボのシステムの調整、整備をすみからすみまで徹底的に行っている最中だった。

 

「ねえミズキ、アタシ達、この戦いに勝てるのかしら……」

 

と、エミリアが隣で一緒に整備を手伝っている愛美へ不安を呟く。

 

「どうしたのよいきなり?」

 

「だって北海道の戦いで凄く苦労したのに今回はそれ、いや今までのとか比べ物にならないくらいに厳しいって話じゃない」

 

「なに?またアンタ怖じ気づいちゃったわけ?」

 

「もう怖くはないよ、なんだかんだでもう何十回も戦ってきたんだから。けど、なんかイヤな予感というかなんというか……何だか分からない不安ばっかりで」

 

「それが怖いってことじゃないの?」

 

愛美はフンと軽口を叩くとエミリアはムッとなる。

「じゃあミズキは何も不安やら何やら感じてないの、今まで思ってたけど一体どういう神経してるのよっ」

 

「マナは割り切るか開き直るだけだからね♪」

 

「……アンタのそのポジティブシンキングを分けてほしいわ」

 

彼女の前向きさに呆れに呆れるエミリア。

 

「……けどまあ確かに、エミリアの言い分も分からなくもないわね。

早乙女さんも言っていたけどさ、マナ達って今までなんだかんだでここまできたけど、考えてみればよく三人共無事でいられたわよね。いくらゲッターロボの力やマナ達に才能や運があると言われても」

 

「でしょ?ここまで都合よくいくと次が本当にどうなるか……」

 

 

「しかも今回は史上最大の決戦らしいし、マナ達も下手したら本当に全滅、誰かがもう生きて帰れないかもね」

 

二人は起こりうる事態にしばらく沈黙してしまう。

 

「エミリアさ、前の戦いの時イシカワが撃墜されて凄く焦った挙げ句の果てに任務優先させようとした早乙女さんに喧嘩売ってたけど、確かにあの人もムッとなる理由も分かるわ」

 

「…………」

 

「気持ちは分かるけどね、だけどアンタのせいでマナ達まで危険に晒されたら堪ったもんじゃなんだからしっかりしてよね」

 

彼女からの指摘にエミリアはどこか納得行かないようだ。

 

「……なんかいつのまにかアタシがミズキに説教されることになるとは、もの凄い違和感が……」

「フン、マナだってまだ生きていたいんだから早乙女さんの指示に従うのは当たり前でしょ。

アンタ達もさっき早乙女さんがイシカワとエミリアに睨みつけるような視線で忠告してたことを深く刻み込んでおいたら?マナ達が今置かれている立場ではそれが賢明よ」

 

と、二人が作業を忘れて話に夢中になっていた時、珍しくムッとなった竜斗がそこにやってくる。

 

「あのさ二人とも、さっきからサボり過ぎなんじゃないの?」

 

と、彼からの注意にしまったと思うエミリアと平然な愛美。

 

「イシカワに聞きたいことあるんだけど、今回の戦いは勝てると思う?」

 

「え、どうしたんだよいきなり?」

 

「さっきその事で話し合っててさ、アンタの返事も聞きたいからさ。どうなの?」

 

と、質問されると答えに戸惑っているのか口ごもる。が、

 

「ここまできたからにはもうやるしかないし、それに俺にはやるべきことがあるから何としてでも勝つ、それだけだよ」

 

「じゃあアタシ達がもしものことがあったらリュウトは?」

 

「そうならないように俺が二人を全力でカバーするから」

 

清々しいくらいの前向きな彼の返事を聞いた二人の態度は一変し、キョトンとなる。

 

「どうしたんだよ二人とも?」

 

「さ、さすがのマナ達もアンタがここまで前向きになってると思わなかったから……ねえエミリア?」

「うん……なんかもう別人みたいで怖い……」

 

二人から気味悪がれて彼も困惑する。

 

「みんなが前向きになれって言うから凄く努力したのに、なんで二人の反応がそうなるんだよ」

 

「イシカワはいきなりで変わりすぎなのよっ」

 

「…………」

 

「まあまあ、リュウトがここまで強くなったのはいいことじゃないっ、ハハ……」

 

と、エミリアが慌てて仲立ちに入るも三人の間に妙に気まずい雰囲気になっていく。

 

「ほ、ホラ早く作業を進めましょうよ、ネ、ネ?」

 

彼女がこの場を濁しし、再び作業に入る三人。だが、隣で愛美は小声で何かを伝える。

(石川って最近すぐカッとならない?)

 

(ワタシも思った、リュウトっていつの間にか気性が激しくなったよね……)

 

二人の意見が一致するほど彼の変貌具合に少し恐怖を抱いていた。

 

(アイツ、ストレスが凄く溜まってんじゃないかしら)

 

(それはあり得るかも……今まで色々あったし。このままだともしかしたら暴走しちゃったりして)

 

(それは大変ね、何とかしないと――)

 

二人は作業しながら何か彼のストレス解消法を考える。すると愛美は何か考えたのか手をポンと叩く。

 

(いいこと考えたわ、考えたら石川の誕生日ってもう間近じゃない?)

 

(あ、そういえばそうね!)

 

(だからそれでさ――)

 

エミリアの耳元で提案を呟くと彼女はドキっとなり目が点になった。

 

(えっ…………アタシがリュウトに…………)

 

(アタシがちゃんとレクチャーしてあげるから大丈夫だって。二人はまだしてないんでしょ?)

 

(うん………………)

 

(アンタだってアイツが行動の遅さに我慢できないでしょ、だったらこっちから仕掛けるのみよ!)

 

一体何の話をしているか、その答えはエミリアの真っ赤な顔である。

 

(リュウトを……アタシから誘う……けどそんなことできるかしら……)

(マナだってもうアンタ達互いの一手つかずがもう我慢ならないのよっ、とっととヤッて互いのモヤモヤをすっきりしなさいよ)

 

まだ踏ん切りがつかない彼女に愛美はため息をつく。

 

(あとさ、そもそもアンタもアンタでカレシを気持ちよくさせる方法を知ってんの?)

 

(し、知らないよ……そんなこと)

 

(……あのさ、いざって時に女の子もただ男頼りでずっとベッドで寝てるだけじゃ相手もやる気なくすよ?下手したらそれが元でアンタ達の今まで築き上げてきた愛情やらなんやらが一瞬で消し飛ぶかもね~っ)

 

(そ、そんなあ……)

 

(だからマナがそうならないためにも色々なテクニックをしかもタダで教えてあげようとしてるんだから快く受け入れなさいよっ)

 

強引に引き込むと彼女もタカを括ったのかコクッと頷いた。

 

(それでよろしい。マナもそこまで持ち込むように色々とサポートしてあげるから安心してよ)

 

(う、うん……)

 

(エミリア、このまま互いに想いを遂げられずに次の戦いで万が一、もしものことがあったら後悔しか残らないでしょ?そうならないためにも今のうちに済ませておくの、分かったわね)

 

とんでもない方向に進んでるようでものすごい不安感でたまらなくなるエミリアであった。

 



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第三十七話「決意」③

……五日後。今日は竜斗の誕生日であるが、しかし戦闘準備の最中であるためそれどころではなく本人すら忘れている状況だった。

その夜のベルクラスの艦内、愛美は彼を呼び出してぐいぐい引っ張ってどこかへ連れて行く。

 

「何するの一体?」

 

「今日はなんの日か知ってますか?」

 

「今日……えっ?」

 

彼は考えこむが全く浮かんでこず頭を抱えた。

 

「分からないのなら好都合ね。まあついてきなよ」

 

「…………」

 

彼女が連れていった場所はなぜか食堂である。

 

「石川から先に入ってねっ」

 

「え、なんでだよ」

 

「いいから入りなさいよっ」

 

彼女に押し込まれる形で食堂に突入した時。

 

「誕生日おめでとう、リュウトっ!」

 

彼女の部屋は少ないながらも綺麗な飾り付け、中央には大きいテーブルにはジュースやお菓子、軽いスナック料理やバースデーケーキが置かれており、周りにはエミリアや早乙女とマリア、そしてジェイド達三人が歓迎の声を浴びせ、笑顔で出迎えたのだっだ。

 

「え、えっ……」

 

しかし彼は状況が分からず、目が点になっている。

 

「君のハッピーバースデーだぞ、忘れたのか?」

 

 

「お、俺の誕生日……あ、そういえば今日かっ!」

 

やっと思い出した彼は自身の忘れっぷりに苦笑いするのだった。

 

「連れてくる途中に試しにイシカワに聞いてみても思いだせなかったからついにボケたかと思ったけどね~っ」

 

「はは……すっかり忘れてたよっ」

 

周りは笑い声を上げた。

 

「けどまあ、しょうがないわね。今はこんな状況だからそれどころじゃないのもあるけどね」

 

「そう言えば今日に限って夜ご飯は基地内で軽く済ませってみんなからしつこく言われたのはそのためか……」

 

「あまり準備する時間がなかったしこんな小さいお祝いしかできないけど許してね竜斗君」

 

彼は笑顔で首を横に振った。

「いえ、自分でさえ忘れていた誕生日をみんなが教えてくれた上に僕のために用意してくれたことに寧ろ感謝したいです。みんなありがとうございますっ!」

 

彼は真心を込めて礼をした。

 

「じゃあ、今から小さいながらもパーティーしましょう」

 

周りから誰もが知っているお馴染みの誕生日の歌で祝福しながら彼はケーキに灯された色鮮やかなロウソクの火を一気に息で吹き消し、それから小さいながらも暖かく、楽しいパーティーが始まった。

 

「竜斗、こんど酒飲もうぜっ!」

 

「えっ……お酒ですか……」

 

ジョナサンの誘いに当の本人は困惑する。

 

「おい、彼はまだ未成年だぞ!」

 

生真面目であるジェイドが彼にツッコミを入れた。

 

「竜斗って今日で何歳になった?」

 

「じゅ、十八ですっ」

 

「けど俺なんてもうその頃から飲んでたし別にいいじゃねえか――」

 

「俺は中学からもう毎日のように飲んでたけどな」

 

と、ジョージは割り込むようにそうぼやくと全員が、彼の経験の早さにどん引きしていた。

 

「おめでとう竜斗」

 

「ありがとうございます、司令」

 

早乙女からも彼に祝福の声を掛ける。

 

「君、いや三人にとって激動の一年間だったな」

 

「大変でしたね本当に――」

 

二人でこれまであった出来事を思い出にひたる。

 

「思えば、ちょうど一年前と言えば君達と出会った時期か。私がゲッターロボに無理やり乗せたのが全ての始まりだったな」

 

「おかげで僕らは死にかけたりと、とんでもないことばかり起こりましたけどね」

 

この一年間にあった辛く、苦労した各場面をポンポンと言い出しそれをまるで笑い話にように済ませる二人。

 

「竜斗はこんな酷い目に遭わせてきた私を恨んでいるか?」

 

「…………」

 

「正直にいっていいよ。君達の境遇から考えると当たり前だからな」

 

竜斗はその質問に悩まずスパッと答える。

「確かに僕はゲッターロボに無理やり乗せられてしばらくは嫌だとか恨んでましたけど、今は全然そんな考えはありません。

寧ろ、こんな滅多にない貴重な体験をさせてくれた司令やマリアさんにお礼を言いたいくらいです」

 

笑顔でそう答える竜斗だった。

 

「肉体的にも精神的にも凄く弱かった僕が司令やゲッターロボと出会ってから凄く成長出来たような気がします、本当にありがとうございました。そしてこれからも、次の作戦でもよろしくお願いします!」

 

彼は頭を深く下げて感謝されると基本的に能面のような面をしている早乙女も悪い気分ではなく寧ろ喜びに満ち溢れている。

 

 

「ありがとう竜斗、君達は私にとって息子、娘みたいな存在だ」

 

「司令……」

 

「竜斗、特に君は生きなければならない目的があるだろう。だから次の作戦は私達もたとえベルクラスが撃沈しようと全力で君達だけでも生き残れるようサポートするつもりだ、よろしく頼む」

 

二人は固い握手をして絆をより深いモノとする。ちょうどそこにマリアも竜斗に「おめでとう」と祝福の言葉をかける。

 

「マリアさんもこれまでに僕達をいっぱい支えてくれてありがとうございます。どんな辛いことや厳しいことがあってもここまでこれたのはあなたのおかげです」

 

彼から感謝の言葉を掛けられて彼女は照れ笑いした。

 

「私はただサポートしてきただけ。これまでにどんなことがあっても無事にここまでこれたのはあなた達自身の強さと成長の証だと思うの。これからもそれで傲れずに頑張ってね」

 

「マリアさん……また、これからもよろしくお願いしますっ」

 

「こちらこそっ」

 

早乙女と同じく互いに笑顔で握手を交わした。

 

「今からケーキを食べるからこいよ竜斗!」

 

ケーキを切り分けているエミリア達の元に向かい、食べながらワイワイ楽しく賑わいでいる彼らの姿を早乙女とマリアは暖かい視線を送っていた。

 

「つかの間の楽しい休息ですね」

 

「ああ、これからのことを考えるとちょうどいい気晴らしだ」

 

その時のマリアはふと不安げな表情を浮かべている。

 

「……実のところ、私は次の戦いで彼らが無事でいられるかが不安です」

 

「どうしたマリア?怖いのか?」

 

「いや、そうではないんですけどイヤな予感で胸騒ぎが凄くて……私自身はどうなろうと覚悟は決めてますが彼らに万が一のことがあればと……今作戦は今までの戦闘とは規模が桁違いですから……」

 

とそう不安を漏らすマリアに早乙女は。

 

「確かに私も今回は勝てるどうなるか検討がつかん。

だからこそ自分達の持てる力を最大限に生かして未知の領域に踏み入る、それだけだ。

恐らく今作戦を攻略できれば恐竜帝国の基盤は一気に崩れるだろう、逃す手ない」

「…………」

 

「それに竜斗達は今回もなんだかんだで無事生き残れると、私は信じて疑わないよ。

竜斗達はそう思わせてくれるほどに未知なる可能性を秘めた子達だからな」

 

と、前向きな言葉で彼女を安心させようとする。

 

「そのためにも彼らを全力でサポートするつもりでいるが。マリアは?」

 

「私も司令と同じ思いです」

 

「なら彼らの力を心から信じようじゃないか」

 

「はい――」

 

「司令達もケーキ食べましょうよっ」

 

と、声を掛けられて二人はすぐに気を取り直して笑顔で彼らの中に入っていった。

 

――僕達は短いながらも楽しい一時を過ごした。

エミリアを除く、外国人がいっぱいいる誕生日パーティーは初めてだったけどだからと言って別に気を使うこともなく凄く楽しめたし、張り詰めていた気分も緩和されて心地良いものだった。

こんな状況下にも関わらず、僕のために思いがけないサプライズを用意してくれたみんなに感謝したいし、そんなみんなのために僕も全力で頑張ることを強く心に決めたのだった――。

 

数時間後、食堂でのパーティーは終わり、別れたジェイド達三人と早乙女とマリアとは別に三人だけで二次会のようなモノをエミリアの部屋で行っていた。

 

「「「乾杯!」」」

 

基地の売店や外で買ってきたお菓子やジュースを並べて、三人は楽しく話をしている。

 

「考えたら俺達は学校行ってたらもう高3だよな。来年立てばもう卒業になるのか……」

 

「ところでイシカワって今はアレだけどもし学校行ってて卒業したら就職か進学どっちにするつもりだった?」

 

「俺は大学かな、エミリアは?」

 

「アタシは家庭科系の専門学校を選ぼうとしてた、それでミズキはどうするつもりだったの?」

 

「マナはね……聞きたい?」

 

と何故か言うのをもったいぶっている愛美。

 

「教えてよっ」

 

「フーゾクで働こうかなって」

と、真面目なのかふざけているのか分からない返答にコメントに困る二人だった。

 

「なーんてね、ウソよウソっ」

 

「けど水樹が言うと本気に思えるから……」

 

「けど、まあマナはちょっと違うけどキャバ嬢とかの水商売をやってみたいなあって気持ちはあったわよ。

酒も飲めるし男と話すの大好きだし、それだけで金稼げるなんて最高じゃない。まあパパやママは絶対に許してくれなかったと思うけど」

 

「……まあ確かにミズキには凄く相性がいいかもね」

 

「でしょ。けど学校に行かなくてもう一年半位になるけど無事卒業できるのかしら」

 

確かに戦争が終わるのは果たしていつになるのだろうか、今年中に行けるのかどうか悩む三人。

「その前に今は次の戦いに切り抜けられるかどうかだよ。ここで死んだら卒業も何もないよ」

 

彼の言葉に二人は納得し頷いた。

 

「……そう言えばゲッターロボに乗り始めてからもう一年くらい経ったのね。

踏んだり蹴ったりばかりだったけど考えてみれば人生で一番濃い一年だったと思わない?」

 

「うん。いつ死ぬかどうかわからない毎日だったからね、今もそうだけど」

 

ゲッターロボに乗り、メカザウルスという武装した無数の恐竜相手と戦い生きるか死ぬか、こんな緊張感と興奮の続くような毎日は普通な生活をしていたらまず有り得なかった話である。

竜斗は一呼吸置いて二人へ真剣な眼を向けた。

 

「二人とも、次も絶対に生きて帰ろうな」

 

エミリアと愛美は彼の言葉に賛同して相づちをうつ。

 

「けどさ、マナ達は何とかなりそうな気がするんだよね、何故か分からないけど」

 

「それってミズキの勘?」

 

「うん。今までも何だかんだでチーム全員無事だったし」

 

「そうだね。それを祈って三人で誓おうよ。絶対に全員で生きて帰ろうって」

 

「それって早乙女さんやマリアさんも含まれてる?」

 

「もちろん、いや少佐達や戦闘に参加する人達全員が一人でも死なないように俺達もゲッターロボで必死で頑張っていこう」

 

三人は互いに手を差し伸べて握りあい、決意を固めたのであった。

 



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第三十七話「決意」④

「アタシ、トイレに行ってくるね」

 

「あ、マナも行くっ。ちょっと待っててイシカワ」

 

しばらくして、二人は一緒に部屋が出て、少し部屋から離れた途端にエミリアはまるで瞬間湯沸かし機のように顔が一気に真っ赤になり、バクバクと高鳴る胸を押さえて壁に寄りかかった。

 

「さあエミリア、覚悟はいいかしら?」

 

「す、凄くドキドキしてきた……やっぱりやめない?」

 

と、急に怖じ気づいた彼女に愛美は「ハア?」と呆れの声を上げた。

 

「アンタ、こんな土壇場でやめるの?腹をくくりなさいよ」

 

「けどリュウトがアレを望んでなかったらどうしようかなって……」

 

「大丈夫だって、アイツだって前にマナに聞きにきたのよ。どうすればアンタと関係のステップ上がれるかって」

 

エミリアはそれを聞いて「えっ?」と驚く。

 

「だからアイツもアンタから誘えば受け入れてくれるって。しかも誕生日で抱けるって最高のシチュエーションじゃない。マナでさえ経験したことがないこんなチャンスを逃がさないのっ」

 

「…………」

 

未だに最終的な決心がつかない彼女に愛美はこう言った。

 

「エミリア、こんな中途半端な関係じゃ結局あやふやばかりでただ時間が過ぎるだけよ。

どちらかが勇気出していかないと、分かる?」

 

「う、うん……そうだけど……」

 

「マナが無知なアンタ達にレクチャーして、しかも二人きりにするようにしてあげて、さらに最中に邪魔させないようにしてあげるとかこんな親切なことってないんだからね、だったらアンタもとっとと覚悟決めてなさいよ。

もし怖くなって逃げたりしたらアンタをゼッタイぶっ飛ばしてやるからっ」

 

怒鳴られるように言われた後、深呼吸して心を落ち着かせるエミリアはゆっくり立ち上がる。

 

「……確かにミズキがここまでしてくれたんだからそれをフイにしちゃダメだよね。アタシ、いってくる」

 

ついに覚悟を決めた彼女の発言に愛美も「よし」と頷いた。

「よろしい。マナが部屋に誰も近づかないようにしてあげるから後はアンタ次第よ、ガンバレ」

 

エミリアの背中にその小さな手で後押しする愛美。

 

「うん。ミズキ、ありがとね」

 

「いいってこと。ではいってきなよ、応援してるから」

 

そしてエミリアは一人竜斗の待つ自室へ帰っていった。

部屋に入り、ジュースを飲んでいる竜斗の元に向かい顔を合わせた。

 

「あれ、水樹は?」

 

「ちょっと部屋に戻るってトイレ行った後別れたの」

 

と、最もらしい適当な理由をつけて納得させる。

 

「まだ色々ジュースあるけど飲む?」

「うん、ありがとう」

 

エミリアは隅にある小型冷蔵庫を開けてジュースの入ったボトルを取り出してくる。

 

「これおいしいって、水樹がリュウトのために選んできたジュースらしいよ」

 

「へえっ、アイツがね」

 

2つのコップにボトルの中身をなみなみと注いでいく。

何か黒っぽくも彼の好物でオレンジジュースのような色をした飲み物である。

 

「……なにこのジュース?」

 

「リュウトの好きなオレンジジュースだって、こういう色もあるみたいね。ミズキはいつ戻るかわかんないから先に飲もお」

 

「ああ」

 

二人でコップ同士をカチンと当ててすすり飲んでいく二人。

「……確かにオレンジジュースの味がするけど苦い感じで何これ……」

 

「アタシも初めて飲んだけど凄いねこれ……」

 

二人はその未経験の味に驚愕し、一方っ彼女は心の中でドキドキととある心配している。

 

(アルコール入ってるのよねこれ……アタシが先に酔いつぶれたらどうしよう……)

 

実はこのジュースは愛美が即席で作ったアルコール入りのカクテルジュースである。

彼女曰わく、『シラフじゃそういうアダルトな雰囲気になりにくいからどっちも酔ったほうがすぐ持ち込めやすい』ということだが、まだ未成年である自分達が飲むは如何なものだと抵抗があったが、「これも社会勉強だ」と愛美が強引で決め、そのままだと竜斗が警戒して飲まない可能性があるので彼の好きなオレンジジュースで割って飲みやすくしたのだった。

 

彼はボトルのラベルの表記を見る。しかし原料を見るとただのオレンジジュースで頭を傾げる。

 

「……もしかしておいしくない?」

 

「いや、初めての味で戸惑ったんだけどね、すぐ慣れると思うよ」

 

どうやら疑っている様子もなく一気に飲み干す竜斗と、続けてゆっくりと少しずつ飲んでいくエミリア――。

 

「なんか身体が熱くなってきた……」

 

アルコールの影響で竜斗の身体を少しずつ赤くなっている一方で、彼女の肌は少ししか赤くならない。

 

(……アタシ、もしかしてお酒に強い?)

 

そのことが分かると彼女はこれを好機と見たのか自らコップにカクテルを注ぐ。

「リュウトもホラ、まだまだあるから飲もうっ」

 

「あ、ああっ」

 

二杯飲むとすでに彼の顔が真っ赤であることに驚くエミリア。

 

(ワオ……リュウトってこんなに弱かったなんて……)

 

いくらオレンジジュースで割って、しかも普通のサイズのコップ二杯だけでもうリンゴのように真っ赤になっている。

 

「大丈夫……?」

 

「……なんでオレこんなに身体が熱いの……」

 

泥酔まで言っていないが誰が見てもアルコールが回っていることがすぐに分かる竜斗にエミリアは立ち上がる。

 

「少しベッドで休む?」

 

「うん……」

 

彼を担いで彼女のベッドに寝込ませる。

 

「喉が凄く乾いて熱い……」

 

「じゃあ冷たいお水もってくるね」

 

そう言い、食堂に行こうと部屋に出るとそこに愛美がやってくる。

 

「どこまでいったの?」

 

「ミズキの作ったアレを飲ませたらコップ二杯でもう顔が赤くなって……今ベッドで寝かせてる。アタシはリュウトが喉乾いたらしいから水を――」

 

「ふーん。しかしたかがオレンジジュース割りでしかもコップ二杯で撃沈とはアイツも情けないわねえ。で、アンタは飲んだの?」

 

「飲んだけど全然大丈夫、少し身体が熱いだけみたい」

それを聞いた愛美はポケットから小さい紙パックを取り出して彼女に渡した。

 

「これってまさか……」

 

「そう男用のゴム、妊娠したくないでしょ?付け方はマナと練習したから大丈夫よね。

部屋に戻ったら水を寝ている石川にのしかかて始めなさいっ」

 

ドヤ顔でグッドポーズを取る愛美。

 

「……ねえ、これってアンタのやり方じゃない?」

 

彼女は気づいた。前に竜斗に対して愛美が行ったのとほぼ同じ手口だと。

 

「うるさいわね、チャンスはチャンスに変わりないじゃない。ホラ、時間が過ぎない内にさっさと行くっ」

 

この行為が強引で背徳感があり、後ろめたさを感じてしまうエミリアだった。

エミリアは冷水の入ったコップを持って部屋に戻る。

ベッドに寝ている竜斗の元に行き、水を渡す。

 

「リュウト、はい」

 

「あ、ありがとう」

 

彼は一気に水を飲み干すと大きくため息をついた。

 

「ふう、なんかやっと落ち着いてきた。何だったんだあのジュース……ん?」

 

なぜか顔を真っ赤にして身震いしている彼女に彼は不思議がる。

 

「エミリア……どうした?」

 

 

「リュウト……アタシ……っ」

 

次の瞬間、彼の腹部部分にのしかかり、マウントポジションを取った。竜斗は彼女のとった行動にワケが分からず茫然となっている。

「え、エミリア……な、なに?」

 

「……アタシ、もうガマンできないの!」

 

「が、ガマン……?」

 

極度の緊張と羞恥心、そして多少の酒気が入っている彼女は、ついに本音全てを口に出していく。

 

「ゴメン、こうでもしないといつまで立ってもリュウトと出来ないから!」

 

水のおかげで少し酔いが冷めていた彼は彼女の言っている意味がすぐに理解できた。

 

「まさかお前……っ!」

 

彼女は勢いのまま倒れこむように彼に抱きついて無理やり口づけを交わした。

 

「んむっ!」

 

彼は慌ててエミリアを突き飛ばし、顔を真っ赤にして怒る。

 

「どうしたんだよエミリア、お前おかしいよ!」

 

怒鳴りつける竜斗についにエミリアもカッとなったのだ。

 

「リュウトのバカ!アタシの気持ちも知らないで!」

 

「エミリア……?」

 

初めて彼女から怒鳴られた竜斗も仰天して凍りついた。

 

「……リュウトは凄く奥手で自分からはこないの分かっててもアタシは今までガマンしてたけど、さすがに限度ってものがあるよ!

このままじゃいつまでたっても進展しないから……っ!」

 

ボロボロに泣きながら彼に自分の気持ちを訴える。

 

「エミリア……」

 

「だからアタシからリュウトに…………」

彼女はいても立ってもいられずワンワン泣きながら部屋から飛び出して去っていった。

茫然自失する竜斗の元にすぐに愛美が彼の元にやってくる。

 

「一体何があったの?」

 

先ほどあったことを伝えると愛美もエミリアの行動の事情を話してすぐに追いかけるように促した。だが、

 

「俺に酒を飲ませて酔ったところを襲わせるなんて卑怯じゃないか!俺はそんなの望んでないよ」

 

彼女は再び彼の胸ぐらをつかんで怒鳴り散らす。

 

「アンタが男のくせに一向に動かないからこうなったんでしょうが!

カレシなら少しは女心を分かろうとしなさいよ!」

 

「女心…………」

 

「確かにエミリアにそう吹き込んだのも仕組んだのもマナよ、怒りたければいくらでも怒ればいいわよ。

けどマナだっていつまで立っても進展しないアンタ達を見てて正直ムカついてるのよ!恋人はただ手を繋いでいればいいとかそんな綺麗なものだと思ってんの?」

 

「…………」

 

「石川のその奥手な性格を否定する気はないし自ら行きにくいのは分からないでもない。

けどアンタだって彼女としたいと思うよね、だから前にどうしたらワンステップの関係に上がれるかマナに聞きに来たんでしょ?

だったら逃げ回ってないでアンタもさっさと大人の階段を上る覚悟決めなさいよ」

愛美は胸ぐらを掴む手を離して手を払う。

 

「……俺、どうすればいい?」

 

「それはイシカワ次第よ。彼氏としての覚悟が本気なら今すぐにでも追いかけるべきよ。

ないならとっとと別れてこんな関係をすぐ切ったほうがいいわね、これ以上エミリアが可哀想だわ。

あのコは凄く恥ずかしがってたけどアンタになら喜んで身を預けるって言ってて覚悟はとうに出来てんのよ。だから後はアンタがどうするかなんだからね」

 

そう告げて彼女もさっさと部屋から出て行った。

すっかり酔いの冷めた彼はしばらくそこで固まったようにベッドに座り込んだ後、決意を決めたのか力強く立ち上がりエミリアを探しに部屋を飛び出していった。



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第三十七話「決意」⑤

「あいつどこ行ったんだ……」

 

彼は艦内を走り回りエミリアを探す。食堂、休憩所、格納庫……しかしどこにおらず彼は走り疲れて息を切らす。

 

(エミリアがそう思っていたんなら、俺も男として逃げずにちゃんと向きあうべきだ――)

 

それを一心に彼女を居所を探す竜斗。途中の司令室行きの通路でマリアと出会い足を止めた。

 

「ど、どうしたの?そんなに息を切らして」

 

「マリアさん、エミリアを見かけませんでしたか?」

 

「エミリアちゃん?さあ……見てないわ。彼女がどうしたの?」

 

「いえ、ちょっと色々ありまして。ありがとうございます」

お礼を言ってすぐ駆けていく竜斗に彼女は何があったか分からずに頭を傾げていた。

 

(さすがにベルクラスからは降りてないと思うけど、どこに行ったんだ……)

 

走っていると曲がり角でちょうど早乙女が現れて慌てて立ち止まった。

 

「司令、エミリアを見かけませんでしたか?」

 

「確か右甲板上行きの通路付近にいたと思うが。彼女、泣きはらしたような顔で走り去っていったようだったが一体どうしたんだ?」

 

「ちょっとありまして。ありがとうございます!」

 

彼は頭を下げて、再び走り去っていった。

右甲板上に出るドアを開けて外に飛び出すと前向こうにエミリアがただ一人、寂しく背を向けて立っていた。

「エミリアっ!」

 

彼の声に彼女は振り向き悲しみに染まった表情を見せた。

 

「こ、来ないでリュウト!」

 

「エミリア……」

 

彼が前に出ると彼女も同時にゆっくりと後ずさる。

 

「アタシ……もうワケが分からないの……リュウトにあんなことをして……あんな恥かいてアタシはもうリュウトに顔を合わせることなんかできないよお!」

 

彼女から凄まじい自負と後悔の念が出ており、十分すぎるほど彼は感じ取っていた。

 

「もう恥ずかしくて死んでしまいたいくらいだよ……」

 

その場でへたり込み、再び泣き出してしまうエミリアの元に竜斗は駆けつけて頭を優しく撫でてやった。

 

「……ごめん、俺が全く動かなかったからエミリアから出ようとしたんだよな、こんな自分が情けないよ」

 

彼女に優しく包容して落ち着かせるよいに謝る。

 

「だけど俺だってカレシとしてエミリアと接したいし、愛したい気持ちはちゃんとあるよ。

けど奥手だからどのタイミングで前に出ればいいか分からなかったからさ……」

 

「リュウト……」

 

「俺は……まだ知らないエミリア自身のことをいっぱい知りたいんだ、教えてくれないか?」

 

彼の告白に彼女は涙を拭いて、コクっと頷いた。

 

「アタシも……リュウトのことをいっぱい知りたいよ」

 

二人に笑顔が戻り、立ち上がると仲良く寄り添い艦内に戻っていった。彼の部屋に入り、二人はシャワーを浴びた後――裸になり全てをさらけ出した二人はベッドに入り、強く抱き合い深く唇を絡ませながら確かな愛を感じあっていた。

 

「リュウトの身体ってこんなに固かったんだ……凄い筋肉してるね……」

 

「エミリアの身体も柔らくて暖かい……凄く安心する……」

 

生身で全体に触れ合う二人は互いの感触を感じ取っている。

 

「そんなにジロジロみないでリュウト……アタシ恥ずかしいよお……」

 

彼女の首筋に軽く口づけし熱い吐息があたるとビクッと反応して「あっ」と可愛らしい声を漏らした。

 

「していい?エミリア」

 

「う、うん……」

 

彼の右人差し指が彼女の下半身に伝っていき、秘部に到着した時彼女は先ほど以上に過剰な反応を示している。

 

「アタシこわい……」

 

「……俺がいるから大丈夫だよ」

 

彼の指が秘部の中に入った時、彼女から「ひゃあ」と甘い声が。

 

「あ……、もしかして痛かった?」

 

「ううん……意外と大丈夫だった……けどこんな感じは初めてだから……」

 

「エミリアの、凄いぬるぬるしてる……」

 

「やあん、そんなことは言わないでよ……」

 

彼はもっと指を深く入れて上下にゆっくりと動かすと凄く引き締まった感触を感じる。

「あ……ん、くう……あ……っ」

 

と、彼女が喘ぐ声を抑えようとしているも止めれずに漏れ、「クチュ」と液体が混じる音が聞こえてきている。

 

「……アタシ、凄い声が漏れちゃうかもしれない。恥ずかしいから閉じさせて……」

 

彼女の言うとおりに舌が絡み合う深い口づけをしてあげる竜斗はさらに指を激しく動かしていくとそこから生暖かくぬるぬるとした液がじゅわっと溢れ出ている気がした。

 

(こんなに感じてるんだ……エミリア……)

 

すると彼女はビクビクと痙攣したかのように身震いし、息を荒らしている。

 

「大丈夫エミリア……?」

 

優しく心配の声をかけてあげるとエミリア途切れ途切れにこう聞く。

 

「……なんで、こんなにスムーズに……できるの?」

 

「……まあ俺もこの日が来るまでに色々と勉強してたからね。その通りにやってみただけだよ――」

 

「さすがリュウトだね……」

 

二人はクスっと笑った……。

 

「じゃあアタシも――」

 

彼女は起き上がると彼の大きくなったモノを咥え、上下にゆっくり動かしていく。

 

「…………っ」

 

彼もその快感に息を乱している。彼女も初めて行うその行動に無心で頑張る。

 

(……凄い固いし熱くなってるリュウトのコレ……ちゃんと感じてるんだ……なら頑張らなきゃっ)

 

彼女の勢いがさらに加速していき――彼が「うっ」と声を出ると同時に彼女の動きが止まった。「ゴホ、ゴホ」と咳き込むエミリアに彼は慌てて横にあるティッシュを差し出すと数枚口に押し当ててぺっと吐き出した。

 

「ごめんっ!ガマン出来なかった……」

 

「大丈夫。けどウエってなった」

 

「それにしてもエミリアも上手いんだな。これ初めてだろ?」

 

「ワタシもミズキに色々レクチャーしてもらったからね、フフ」

 

二人とも今同時に、心の中で愛美に色々と感謝した。

 

「――いい?」

 

「うん、いいよ」

 

彼女は四つん這いになり、恥ずかしそうにその肉付きの素晴らしい尻を突き出すと彼は興奮からかゴクッと唾を飲んだ。

「死ぬほど恥ずかしいからあまり見ないでね……」

 

「あ、ああ……っ」

 

彼は自分のモノにゴムをつけて彼女の、ピンク色の綺麗な花弁の形をした秘部に充てがわれた。

 

「挿れるよ」

 

ゆっくり入れた瞬間に彼女は「ひっ」と甲高い声を上げてビクッと反応した。

 

「い、痛いかも……っ」

 

と涙混じりの声を上げるエミリア。

 

「さすがに怖いよね。やめようか?」

 

「い、いいよ、アタシ耐えるから。ここまで来たのにもう終わりにしたくないから……大丈夫だからこのまま続けて……お願いっ」

 

彼女の言うとおりにそのまま押し込むと急に入って行かなくなり強く押し出すと、「う、くっ」と言う彼女の痛みのこもった声と共に何か突き破ったような音が聞こえ、そこから血が滴っている。

「い、いつ……ごめん、ベッド汚しちゃった……」

 

「それよりもごめん、ちょっと強すぎた……」

 

しかし急に奥まで行くようになり、その途中で彼女から痛みもあるがそれ以上に快感も入り混じった喘ぎの声を張った。

 

「ああ、んっ、やあん!!」

 

彼女のその身体、肌、感触、そして甘い声が彼の興奮をさらに掻き立てていく。

 

(エミリアのこんな声、初めて聞いた……)

 

驚きが次第に興奮へと変わり、感情が高ぶった時彼は我を忘れてさらに突き動かした。同時に断続的な喘ぐ声が部屋内に響き、それどころか外にまで聞こえそうな程だ。

 

 

(凄い……しまっ……)

 

無意識かどうか分からないがエミリアの中が凄く締まりつけてくるのが彼はすぐに感じる。それが彼のモノをこすりだし、それが快感から絶頂へと向かった――。

 

「く…………っ」

 

彼の快感は突き抜けたと同時に動きは止まり、同時に彼女から「ああ……っ」と最後の一声だけが漏れた。

 

 

 

「――アタシ、もうやっと処女じゃないんだね」

 

全てが終わり二人はベッドで寄り添い寝ている。

 

「どうだった?」

 

「最初は凄く痛かったけど……気持ちよかったよ。相手がリュウトだったからもしれないけどさ」

 

「それはお世辞?」

 

「茶化さないでよリュウトっ」

 

「けど、ありがとうな。あと色々と水樹に感謝しなくちゃな」

 

「うん、そうだね」

 

二人は深夜深く仲良くベッドで話しながら過ごした――。

 

翌日の朝、エミリアはご飯を食べに食堂に行く、ちょうどそこに愛美と出会う。

 

「ミズキ、ありがとうね。やっと思いが遂げられたよ」

 

お礼を言うと愛美は「コホン」と咳する。

 

「別にいいけど……アンタの声高すぎて、石川の部屋から外に丸聞こえだったわよ」

 

「え……っ!?」

 

衝撃的な事実に彼女の顔は一気に真っ赤に熱せられた。

「あら……エミリアちゃん……っ」

 

そこに早乙女とマリアも朝飯を食べに現れエミリアと顔を合わせる否や、早乙女はともかくマリアは顔を赤めらせて視線を逸らした。

 

「まさか司令やマリアさんにも聞かれてたの……」

 

彼女は恥ずかしさからうなだれて、もう穴に入りたいぐらいだった。

 

「ところでイシカワは?」

 

「それが……」

 

一方、竜斗はベッドでもがき苦しんでいた。

 

(頭がすごくガンガンする……なんで……)

 

どうやら酒のせいか二日酔いをモロに受けていたのであった……。

 



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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」①

アラスカ州ドラグーン・タートル。司令部ではジャテーゴが部下の密告に怒号を響かせた。

 

「なにぃ、兄上が地上人類と停戦協定を結ぶ気でいるだと!?」

 

「決定かどうかは不明ですがそれも検討しているとのことですっ。

何でもこれ以上の犠牲の拡大の阻止とさらにゴーラ様の説得が絡んでいるようでして……」

 

彼女は思ってもない悲報に苛立ち、歯ぎしりを立てている。

 

「あの老いぼれとメスガキめ、ついに気が狂ったか!」

 

「どうしますか、ジャテーゴ様?」

 

しばらく沈黙するジャテーゴ。静かだがとてつもなく恐ろしい雰囲気がにじみ出ている彼女に部下達は、本能的に危険を察知し固まっている。

しかし、次に彼女から出た言葉は意外なことだった。

 

「まあいい、そのままどうなるか様子を見よう」

 

「……それはつまり認めるということですか?」

 

「いや、私は断じて認めん、あの猿どもと相容れることは絶対にありえないこと」

 

「ではどうしてでしょう?」

 

「まだ決まってもないことを阻止しようとして下手に何か仕掛けて我々に疑惑、危険に晒されるよりも遥かにいい方法がある。

それに我々爬虫人類は地上人類を嫌うものはほとんどだ、兄上がそんな愚かなことをしでかしたら間違いなく本人の評価は地に落ち、忠誠を捨てて離反するものが沢山出てこよう。それらを我々の傘下に入れる絶好のチャンスというもの」

 

彼女は焦るどころか逆に不敵な態度をとっている。

 

「お前達は私の指示があるまで手を出すな、そしてこの事実は向こうから知らせがくるまで知らないことにしていろ、わかったな」

 

「は、はいっ」

 

「なあにどの道、協定を結ぶと決定しても私がいる限り確実に交渉決裂になる運命だ。その時を楽しむのもまた一興、せいてはことを仕損じると言う、しばし待て」

 

その時、もう一人の部下が司令部に入り、彼女の元に現れる。

 

「ジャテーゴ様、送り込んだスパイが掴んだ情報によりますと地上人類軍は近い内に我々第三恐竜大隊に強襲を仕掛けるのこと、そして我々全部隊は全て戦闘準備を終えいつでも出撃、戦闘に移行できます」

その報告にジャテーゴから軽い笑みがこぼれた。

 

「本艦ドラグーン・タートルの現状況は?」

 

「こちらもいつでも行動は可能です」

 

「よし。我々第三恐竜大隊はついに総力を上げて南下し進撃を開始する。決行は二日後の夜、部隊にそう伝達せよ」

 

「はっ!」

 

「今日に限り、息抜きとして全兵士に酒やご馳走を与えて今の内に心身共に癒やせてやれ、私からの心ばかりの気遣いだ」

 

「は、ありがたき幸せでございますっ」

 

部下を下がらせた後、彼女はモニターを見て不気味な笑みを浮かべる。

 

「さて、いよいよ始まるか、大陸史上最高の殺し合いが。ことごとく返り討ちにしてくれる」

 

 

一方で、テキサス州の連合軍の基地でも各部隊が全ての準備が整え、来るべき決戦の時に迎えて待機していた。

司令室には今作戦の総司令官を務めるリンクを初めとする各代表、部隊長、そしてゲッターチームから早乙女が集まり最終的な作戦会議が開かれていた。

 

「アラスカにいる敵戦力はこちらより遥かに上であることを考えると、マトモに正面から進撃しても無数のメカザウルスに包囲されて集中攻撃されるのは目に見えている。

かと言ってもどの方向から攻めようにも全く死角がないだろう」

 

「ではどうしますか?」

 

「確実ではないが、タートルとテキサス艦を一対一に持ち込ませれば勝機はある。

なのでまず無数のメカザウルスをテキサス艦から引き離すことが重要となる」

 

彼の提案に全員はざわめきだした。

 

「それはつまり我々が囮になるということですか?」

 

「そうだ。全部隊が先に展開してメカザウルスを陽動、殲滅しタートルまでの一直線の進路を作る、そしてそこからテキサス艦をタートルにぶつける、これしかないだろう」

 

やはり早乙女の読みの通り、自分達が無数のメカザウルスを引きつけ囮となる作戦を行うようである。

 

「陽動にどれだけ時間がかかるか分からないが戦力差の関係上、短期決戦が重要のポイントとなる。

各部隊は非常に厳しい状況を強いることになるだろうが、反対する者はいるか?」

 

 

 

周りに質問するが、全員は首を横に振る。

 

「これしか方法はありません、この作戦が妥当だと思います」

 

「ああ、勝利のために我々は喜んで囮になりますよ」

 

この作戦に賛同する意見が全員一致し、拍手をする。

 

「皆ありがとう。では我々は全員一致で今作戦を決行する。作戦開始は二日後の夜九時ちょうどを予定する。

それまでに各隊員を充分に休息し、準備を済ませよ――」

 

各自解散し、帰る途中、早乙女はニールセンと出会う。

 

「博士やキング博士は戦闘中はどうしますか?」

 

「そうじゃなあ。アイツは分からんがワシはベルクラスに載せてもらおうか、ゲッターロボのサポートもあるしな。

それよりもついにエリダヌスX―01の二号機が完成したのでアルヴァインに装備させたいんじゃがよいか?」

 

「それは後で竜斗に聞きましょう、あの子の機体ですから」

「ホハハ、そうじゃったなっ」

 

会話を終えて、ベルクラスに戻りすぐに司令室に三人とマリアを召集して作戦内容を伝える。

 

「我々は二日後の夜九時ちょうどを持ってアラスカの駐在する敵本拠地、タートルに強襲をかけることになった。

作戦内容としてはまずゲッターチーム含む全部隊が先にアラスカに向かい展開、無数のメカザウルスを引きつけることになる、戦力数は我々は四千に対し向こうは軽く見積もって約一万五千以上」

 

「い、一万五千って自分達の全戦力の四倍近くですか……っ」

 

途方もない数、そして明らかにこちらが不利としか思えないその戦力差を聞いて氷のように固まり、唾を飲み込む竜斗達。

 

「勘違いしているようだが全て倒すわけではない、我々の最優先すべきことはタートルに群がるメカザウルス達を陽動、殲滅をはかりタートルまでの道を作ることだ、そこからテキサス艦が前進しタートルと一騎打ちする、というのが今回の主な作戦内容だ」

 

「……ということは僕達はテキサス艦とタートルを一対一で戦わせるための突破口を作る、ということですか」

 

「そうだ」

 

早乙女はコホンと軽い咳で間を置き、彼らにこう告げる。

「今回の作戦は非常に厳しい、我々ゲッターチームにとって、いや全部隊からしても類を見ない史上最大の戦いとなるだろう。

はっきりいって生存率、勝率は一〇パーセントも満たないと思う」

 

過酷な現実を突きつけられて三人は沈黙、静寂な空気に包まれた。

 

「しかし、我々がここで勝利すれば間違いなく世界的な戦況は大きく変わるだろう。つまり私達人類が勝利する確率が格段に上がるということだ。

それに私は思うんだ、これまでに幾度なく勝ち抜いてきた君達の力とゲッターロボなら間違いなく勝利に導き、そして生き抜けることを。それを信じてやまないんだ」

 

「司令……」

 

「だから君達も、これまでの経験で培った自分の力を最大限に生かしてベストを尽くすようにしろ、無論私達も同じだ」

 

前向きな言葉に三人は勇気と希望が高まり、笑顔が戻った。

 

「「「はいっ!!」」」

 

張りのある三人の元気な返事を聞いて、彼も心から笑む。

 

「三人共いい顔になったな、よろしい。これからの予定だが出撃準備までは各人自由とする。休息をとるなり心の整理をするなりシミュレーションマシンなどで勘を養うなり何でもしてくれ。

それから竜斗、ニールセン博士が最近完成したもうひとつのエリダヌスX―01をアルヴァインに装備させたいと言っていたが君はどうする?」

 

「えっ……どうしようかな……」

 

迷っている竜斗に早乙女は、

 

「まあいい、君の戦闘スタイルを考えるとかえって邪魔になるかもしれんな。

博士もベルクラスに乗ると言っていたしエリダヌスX―01を艦に搬入しといていざ使うとなったら戻って換装することもできるし現状でいくか」

 

「それでお願いしますっ」

 

「よし、博士にそう言っておく。二日後の午後六時にはもういつでも出撃できるように準備しておいてくれ、では解散だ」

 

三人が部屋に出ていくと早乙女は天井から巨大なモニターを展開する。

 

「マリアもすまないが少し席をあけてくれないか?」

「了解しました」

 

彼女も部屋を出て行くのを見届けた早乙女はコンピューターキーをカタカタ入れて待機すると、すぐに幕僚長の入江の姿がモニターに映し出された。

 

“長らく久しぶりだな、早乙女一佐”

 

「幕僚長もお元気そうで何よりです。現在の日本はどうですか?」

 

“状況はあまり変わっておらんが、何とか持ちこたえてるよ、日本の戦力も捨てたもんじゃない。そちらは?”

 

「それについて話があります」

 

今作戦を伝えると、久しぶりの盟友と顔を合わせられて嬉しそうだった表情の彼一転して深刻そうに変わる。

 

“ついに始まるのか……アメリカ史上最大の戦いが”

「もしかしたら我々ゲッターチームは生きて日本に帰れないかもしれませんので最後の挨拶ということで――」

 

“何をいうか。君達はこれまでも上手く勝ち抜いてきたじゃないか、今回も大丈夫だと私は信じているよ”

 

「ありがとうございます。ところであなたに聞きたいことがあります」

 

“なんだ?”

 

「私の出生についてです――」

 

自身が特殊な方法で生まれた人間であること、生粋の日本人ではなかったこと……早乙女はニールセンから聞いた自身の全てを洗いざらに話すと沈黙する入江、知っていたようにも感じられるが。

 

「もしかして幕僚長もこの事を知っていたんじゃないかなと思いましてね?」

“……ああ、私もずっと前に内部の人間から聞かされただけだが君がニールセン・プロジェクトと言う名の元に生まれたレヴィン=ニールセンという天才の血を引く混血児だということを。

正直、疑心暗鬼だったが君からそう言われるとどうやら本当のようだな”

 

「………………」

 

“だが、君は君だろ?ニールセン博士の分身でもなければなんでもない、君は『早乙女一佐』だ”

 

と、きっぱりと伝えると先ほどまで苦虫を噛み潰していたような表情だった早乙女は一段と柔らかくなった。

 

「ありがとうございます、私はこれでもう思い残すことはありませんよ」

 

“私は正直なことを言ったまでだ。

それに一佐、今回だけ遥か海の向こうにいる君に命令を出す。絶対に日本に生きて戻ってこい、君には戻るべき場所や帰りを待つ者がたくさんいることを忘れるな”

 

「幕僚長……」

 

“おや、君らしくない顔だな。まあいい、それでは健闘を祈るぞ”

 

入江から通信が切れると、早乙女は深くため息をついた後、後ろの窓の方へ向き眺める。しばらくすると彼の顔から一筋の雫が滴り落ちていたのだった。

 



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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」②

次の日、この基地内は何故か一般の人達も入り混じって賑わっていた。

白人や黒人、アジア系、ヒスパニック系、ラテン系の様々な人種の老若男女が隊員達と触れ合い楽しい一時を過ごしていた。その様子を司令室から早乙女とマリアは眺めていた。

 

「各隊員の家族や友人達か。凄い人だかりだな」

 

「ええ。明日のこともありますので今日ばかりは全員、家族団欒で過ごしてくれとのことで呼び寄せたようです」

 

「もしかしたら明日以降は――だからな」

 

二人は微笑ましさ、そしてもの悲しさが入り混じった複雑な心境だ。

 

「我々も人事ではないな。明後日という日は訪れないという結末も考えられる」

 

「司令、もしもですが勝利してあなた、いやゲッターチーム全員が生きて帰れたらその後どうしますか?」

 

「生き残れたら、か。まあすべきことはある」

 

「それは?」

 

「恐らくこれ以降の戦闘は間違いなく向こうも黙っちゃいないだろうから総力戦を仕掛けてくる可能性も高くなる。

向こうの総戦力はまだまだあり、こちらは圧倒的に不利だ。そうなれば戦略兵器を投入するしかなくなる」

 

「戦略兵器……水爆でも撃ち込む気ですか?」

 

「さあな、私は『ゲッター計画』の最終段階に入ろうと思う。朝霞駐屯地地下に眠るあの未完成品を仕上げるとするか」

 

「まさかあれを……完成できるんですか?」

 

「やるしかないだろう。幸い戦闘データは十分あるし、技術面でもニールセン博士達と総力を併せれば……資金もこの際なんとかしよう。

ただ問題は、完成したとしてもそれを竜斗達に使いこなせるかどうかだ」

 

「…………」

 

「まあ今はそれよりも目の前に迫った作戦に集中しよう。話は無事終わってからだ――」

 

一方、今日一日自由時間をもらった竜斗達も外に出て賑わう基地全体を歩きまわっている。

 

「スゴい、まるで街みたいだ」

 

「うん。司令が言うには今日だけここを開放して隊員の家族や友達と触れ合ってほしいらしいね」

 

いつもと違う基地内の空気に彼らは驚いていると同時に、その活気さに和んでいた。

 

「ねえ、一端ここで各人自由行動をとらない?集まる場所をここにしてさ」

 

愛美がそう提案すると二人もそれに同意し、三人はそれぞれ別れて別行動を取った。

 

(そう言えば少佐は今、どこで何してるんだろう?)

 

竜斗は観光するついでにジェイドを探そうと歩き回る。

竜斗は何となく前に彼と一緒に訪れた飛行機の飛ぶ様子がよく見れる休憩所にいくと結構な人数の隊員、そしてそこにちょうど、幼い黒人の子供を抱き上げている私服のジェイドと同じく黒人の女性が隣に居合わせていた。

「少佐っ!」

 

「来たか竜斗君っ」

 

呼ぶと彼は竜斗に気づいて笑顔で迎えた。

 

「前に画像で見せたがもう一度紹介しよう、妻のアマンダだ」

 

「はじめまして、石川竜斗です。少佐から沢山お世話になっています」

 

丁寧に挨拶すると、彼女は優しい笑みでお辞儀した。

 

「妻のアマンダです。あなたについては夫のジェイドから色々話を聞いています、なんでも個人的に期待している有望な日本人の男の子がいると」

 

「い、いやあ……有望だなんて……」

 

その言葉に照れて、顔を赤めらせた竜斗はジェイドに抱きついているまだまだ甘えん坊そうな幼い男の子に注目した。

「少佐、もしかしてその子は」

 

「息子のロイだ」

 

彼はロイを地面に下ろしてあげると竜斗も肘をついて笑顔で対面する。

 

「こんにちはっ、君はロイ君だね」

 

初対面からか恥ずかしそうな仕草をしてすぐに「パパァ」と言い、ジェイドの足にしがみついた。その年相応のあどけなさが彼の心を和ませる。

 

「少し人見知りする子だから気にしないでくれ」

 

「いやいや、スゴく可愛いお子さんですね」

 

「ありがとう、私の命以上に大切なものだよ。無論妻もだが」

 

普段の生真面目さから一転してこういう微笑ましい父親な姿の彼からは家族愛を感じられる一面だった。

竜斗は笑顔でロイの頭を優しくなでてあげると、なついたのか明るく可愛い笑みを見せてくれる。

 

「ロイ君は今いくつになるの?」

 

と聞いてみるとゆっくり小さな親指を折り曲げて指四本を見せ、竜斗達は「おおっ」と喜ぶ。

 

「ロイ君はエラいなあ。俺はリュウトっていうの、よろしくね」

 

「……リュウ……ト?」

 

と舌足らずに名前を言うロイにさらに彼は歓喜した。

 

「リュウト……リュウトっ」

 

「凄い、もうちゃんと名前を言ってくれた」

 

すっかり慣れたのかロイ自らジェイドから離れて竜斗の方へ向かう。

 

「おおっ、もう竜斗君になついたのか。凄いなあ」

 

試しに抱き上げてみると意外にも嫌がらず、寧ろ笑みをこぼしたその様子に、彼はすごく満足し、喜んだ。

 

「あなたの言うとおり、本当に優しい子ね」

 

「だろう?」

 

それはジェイドやアマンダも同じであった。この後、竜斗とジェイドは二人きりになり近くの滑空場で話をする。

 

「――子供っていいですね、可愛らしくて。僕もスゴく欲しいです」

 

「けど世話とかあるしお金もかかるし色々大変で苦労するよ。まあそれ以上に愛情と充実感、そして責任感が生まれるけどね――」

 

「少佐はもしこの戦争が終わったらどうするんですか?」

 

そう質問すると彼は何故か口ごもってしまう。

 

 

「……私は恐らくもう空に飛べなくなるかもしれんな」

 

「えっ、それはどういうことですか?」

ジェイドは空を見上げてもの悲しい表情をとる。

 

「実は私には昇進の話が出ていてね、つまり私は少佐から中佐になるかもしれないんだ」

 

「そ、それはスゴく名誉なことじゃないですか?」

 

「確かにそれはスゴく嬉しい。だが、次に昇進すると、それから私は指揮する立場になると言うことだ」

 

「つまりそれは……」

 

「仕事がほとんどデスクワークとなりパイロットではなくなるということだ。ブラック・インパルス隊とは別の部隊所属になる」

それを聞いた竜斗は耳を疑う。

 

「ブラック・インパルス隊は君達ゲッターチームと同じで独立した遊撃隊、リーダー格はいるが正式な上官はいないし中佐以降は指揮系統の仕事につく仕組みなんだ。だからもうステルヴァーいや、SMBパイロットではなくなる」

 

「少佐…………」

 

「私は飛行機乗りになるという夢は叶った、出来れば死ぬまで大空を好きなように飛び回りたいと思っていたが……それはただの願望でしかない。家族もできたことだし、ここは身を引くしかないのが現実だ」

 

と、寂しそうに語るジェイド。彼にとってこれほどやるせなくなることはない。夢、願望は叶えるとは出来ても現実の前にはそれを維持するのがどうしても叶わないことがあるのを実感する竜斗だった――。

「竜斗君はどうする?」

 

「僕は……今はとりあえずまだ高校生なんでまた学校に戻れたらいいなと思います。できるかどうか分かりませんが」

 

「そうか。君には何かなりたいとかしてみたいとか、将来的な夢は持ってるか?」

 

「夢…………」

 

そう聞かれると彼は返答に困る。

将来の夢と言うのは小学生の時、七夕や授業中の時間で子供ゆえの単純な考えで「お金持ちになりたい」ということを紙に書いたぐらいで本気でこうなりたいとかこうしたい、という明確な夢はなかった。

一応、その時の七夕には「エミリアをお嫁さんにする」と書いたが、職業的なことについては何になりたいのかは全く考えてなかった。

 

 

「……よく考えたことはなかったですね。それに比べて少佐は素晴らしいです。夢を持ち、ちゃんと叶えることができて――」

 

「だがここまで来るのに苦難の連続だった。死ぬほど努力してきて決して楽というのは少しもなかったよ」

 

「………………」

 

「現状況でこれはスゴく不謹慎で言いづらいことだけど、私はこの戦争が終わらない限り、ずっと空を飛びつづけられると思っている。

決して戦争がこれ以上続いてほしくないの本心だ、だが……このまま出来るだけ夢が覚めないでいてほしい気持ちもあるよ」

 

 

――その時の少佐は寂しそうだった。この戦争が終われば自分はもう空に飛べなくなるかもしれない、しかしどうしようもなく受け入れるしかない、という空虚な気持ちを十分に感じた。

ちゃんとした夢を持たない僕が、複雑な心境を持つ少佐にどう言葉をかければいいか全く思いつかなかった――。

 

「まあこんなことを言っても始まらないな。とりあえず明日の作戦に集中しないとな。

竜斗君、今作戦もよろしく頼む。君達ゲッターチームの力を期待しているよ」

 

「少佐……僕達からもどうかよろしくお願いします。必ず勝利できるよう全力で頑張りますからっ」

 

「ああっ」

 

二人は握手を交わして互いの健闘を祈った――。

 

その夜の各隊員はそれぞれどんな思いを抱いてたのだろうか。

家族や友人達と最後まで楽しく触れ合う者、部屋でこれまでの人生をまるで走馬灯のように追憶する者、隊員同士で酒を飲みながらワイワイ楽しい一時を過ごす者、誰か宛てに手紙を書くもの、自身の信じる神に祈る者……それぞれが来る明日の夜の大決戦を前に悔いの残らぬような行いをしていた。

 

――そして、次の日の午後六時前。パイロットスーツに着替えた竜斗、エミリア、愛美は司令室に集まり早乙女から指示を受けていた。

 

「戦地となるアラスカは雪が残り平地が多いが同時に崖や渓谷など、傾斜が多く入り組んでいる所も多く非常に戦いにくいだろう、さらに今回は夜間戦闘になるために尚更だ。暗視モニターとレーダーをよく活用して戦ってくれ」

 

「了解です」

 

「分かっていると思うが絶対に孤立するな。味方というのを最大限に生かして戦うのも戦術の一つだ、だが何から何までくっつくのもミスだからそこは臨機応変に対応してくれ。あとエミリア」

 

「は、はいっ!」

「大雪山の戦闘でもそうだったが、途中でまた泣き言を言いそうなら戦闘に参加しなくてもいいからな」

 

彼にそう言われると顔をプンプンさせるエミリア。

 

「ば、バカにしないで下さい、ちゃんとやり遂げてみせますっ!」

 

「神に誓うか?」

 

「もちろんです、ワタシだって前のアタシじゃありません。ちゃんと成長したと言うコトを見せます!」

 

睨みつけるような早乙女に負けないような挑戦的な瞳で対抗した。

 

「……よし、分かった。では成長した君に期待している、頑張れよ!」

 

「はいっ!」

 

「では解散して準備に取りかかってくれ――」

 

すると、何故か竜斗が手を上げてこう提案した。

 

「みんなで気合いをいれるために円陣組みませんか?」

 

「ワオっ、いいねそれっ」

 

「良いこというじゃない、石川!」

 

提案すると二人は賛同し早乙女も頷き、自ら乗り出した。

 

「確かに今までそんなことやらなかったしな。よし、やるかっ」

 

「…………」

 

「照れてるのかマリア?」

 

「え、ええ……こんなこと、あたし初めてですから……」

 

「いいじゃないか。私達ゲッターチームの団結力をさらに深めるのにいい」

 

「は、はあ……」

少し恥じらいがあるのか踏みとどまっているマリアに竜斗が手を差し伸べる。

 

「マリアさん、やりましょう。同じゲッターチームじゃないですかっ」

 

「そうですよ、マリアさんだけやらないと意味がないですよ」

 

「そうよそうよっ」

 

「みんな……っ」

 

「マリアもそんなことで恥ずかしがってないでせっかく竜斗がみんなが頑張れるように提案したんだから君も参加しろ」

 

「……そうですねっ、ごめんなさい」

 

全員から促されたマリアもその気になり、ついに乗り出した。

五人は肩を組んで円陣に作り姿勢を低くした。

 

「今回も絶対に戦闘に勝ち、そしてみんな生きて帰るぞ!!ゲッターチーム、行くぞーー!!」

“オーーーーっっ!!”

 

五人は揃えて大声を上げて気合いと団結力を断固なモノとした。

 

「私からは、危なくなったら絶対に無理をせず後退すること。または岩や窪み、崖や傾斜などの障害物を盾として使うことを覚えておくと役立つわ」

 

「三人共、絶対に生きて日本に帰るために全力を尽くせ、いいなっ」

 

「「「はいっ!!」」」

 

解散して部屋を出た三人はすぐさま格納庫へ走っていった。

 

「意外とノリノリだったじゃないか、マリアも」

 

「ええ、意外にノレますね」

 

「だろ?さて、我々もベルクラスを発進準備するか。各武装、機能の調子は?」

 

「全てオールグリーンです」

 

「よし、後は自分達の実力と運命に身を任せるか――」

 

そして三人も格納庫に付き、各ゲッターロボに乗り込む前に三人は互いに顔を合わせる。

 

「いよいよだな。大丈夫、二人とも?」

 

「うん、今回も絶対に何とかなると思うよ。なっつったってアタシ達は無敵のゲッターチームだからね」

 

「アイツラなんか今回もケチョンケチョンで返り討ちにしてやるからマナに任しときなさいっ」

 

二人の調子具合に彼も安心し、手を差し出した。

 

「エミリア、水樹。司令も言っていたけど絶対に俺達生きてベルクラスに帰ろうな」

 

「うん。また司令とマリアさんに笑顔で会えるために頑張ろうね」

 

「ええっ」

 

互いに手の平を上に重ねて「生きて帰る」と強く念を込めた。

 

「ゲッターチーム、行くぞ!」

 

「「オーーーーッ!!」」

 

 

――ついに始まるアラスカでの、アメリカ史上最大の決戦。向こうはどれだけ強大で、どんな罠をして待ち受けているか見当がつかないがそれでもゲッターロボやステルヴァー他の高性能のSMB、そしてそれらを操る自分達の腕前はどんなに困難な戦況になろうときっと打開してくれると、僕は信じて疑わなかった――。

 



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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」③

午後七時前。空がすっかり暗くなりはじめた頃、基地内の各SMB格納庫では各部隊が集まり最終的な作戦内容を確認している。

各EU連合軍、アメリカ軍の各部隊、そしてブラック・インパルス隊は広大なアラスカ周辺地図の敵の現在地を映したモニターを凝視している。

 

「こりゃあすげえや……っ」

 

「これまでの戦闘とは比じゃねえなあ……」

 

モニター上中央に映るドラグーン・タートルと思われる一回り大きい物体の反応とその周りには広範囲に散らばるように群がり、まるでアリのように動きモニター全体を覆い隠さんとしている小さな反応……メカザウルスの大軍団が映し出されていた。

未だかつてないそのおびただしい数を前に、何人かの隊員は口を開いたまま呆然となっている。

 

「我々ブラック・インパルス隊は西側のメカザウルスを引き寄せて殲滅することになる、理由は空戦型メカザウルス群は西側に傾いているからと言われている。

こちらにはいくつかのマウラー、戦闘機の混成部隊、イギリス軍からアレン中尉のアーサー、そしてゲッターチームから石川三曹のゲッターロボと共同戦闘を行う。つまり我々西側の部隊は空中戦に優れた高機動力編隊として機能することになる。

我々西側の総戦力数は千五百と少ないが、それはステルヴァーやゲッターロボ、アーサーなどの高性能SMBで固めているからで残りを東側に回すという指示だ。

各機の通信機の周波数、呼称については――」

 

ジェイドが前に立ち真剣な顔で説明している。

 

「何か質問はあるか?」

 

するとジョナサンがすかさず手を上げる。

 

「なあジェイド、今回は核弾頭等、特殊兵装は使用は?」

 

「使用を許可されているが確実に敵味方が混戦する以上は使いどころに難しいだろう。

だが奥の手として携行していったほうがいいな。ジョナサン、核の扱いについてはお前に全てに任せるぞ」

 

彼はグッドポーズを取り、奮い立つ。

 

「おいジョナサン、興奮してバズーカから花火打ち上げるのはいいが、仲間まで巻き添えにすんなよなっ」

 

「俺達のキ〇タマまで吹き飛ばして子孫絶やさせることしたら許さねえぜ」

 

「うるせえ、てめえら全員去勢させてその過剰な性欲なくさせるチャンスだぜ」

 

と、全員が正気とは思えない異常なテンションで下品な冗談まで飛び出して笑い声を上げている。

 

「あと今回、リチャネイドもそうだがオールストロイも使用する。

各機の姿が見えなくなり味方の衝突を避けるためにレーダーの最大活用とモニターをサーモグラフモードにしておけよ。他二人にも言っておくから安心してくれ」

 

一通り説明が終わり、これから各人が機体に搭乗することになるが最後の最後にジェイドが全員を集めこう言った。

 

「我々ブラック・インパルス隊は非常に個性の強い者の集まりでこれまでに様々なトラブルやいざこざも沢山あり、それで抜けていった者もいたがそれでも一丸となって戦いここまで来た。

そして今回の作戦は今まで以上に非常に過酷であり全滅する可能性が高く、そうでなくても私含めて全員が見事生きて帰れる保証など全くない――」

 

彼からの言葉は重く、メンバー全員にのしかかる。

 

「しかし我々は人類の命運を分ける戦場に立とうとしている、ここで勝利出来れば間違いなく戦況はこちらに傾くだろうと私は信じてる。

そのために全員、今一度聞く。命を懸ける覚悟は出来てるか?」

 

大声を張り上げて全員に質問するとメンバーは臆することなく不敵な笑みを見せる。

 

「当たり前じゃねえか、ここまで来て引っ込むようなチキン野郎なんかブラック・インパルス隊にはいねえぜ」

 

「ああ、俺達は人類の未来を守るために、そして誇りを持って死ねるんだ。これ以上の喜びなんかあるかよっ!寧ろ向こうが降参したくなるって言わんばかりの大打撃を与えてやるぜっ」

 

全員を死の恐怖を感じ出さず、寧ろやる気に満ちた表情で平然とそう言い切ったのだ。

 

「敵に思い知らせてやろうぜ。人間様の底力をナメんなよってなっ!!」

 

“オオーーーーっっ!!”

 

『絶対に勝つ』、心を一つにした彼らの雄叫びを聞きジェイドも満足して、キッと戦闘態勢の表情へと変わった。

「よし。では我々は直ちに機体に搭乗、最終チェックをして発進まで待機だ」

 

気合いと健闘を祈るように互いに手をタッチを交わしてそれぞれ各機に乗り込んでいく。

 

「ジェイドっ」

 

そして仲の良い二人、ジョージとジョナサンが彼の前に立つ。

 

「またよろしくなお前ら」

 

「ああ、任しとけ。お前には妻子がいるんだからなんとしても生き残らねえといけねえぜ、戦死して哀しませるようなことはするなよな」

 

「ジョージ…………」

 

「ジョナサンはマナミ君については大丈夫なのか?」

 

「心配すんな、俺らはもう昨日の時点で気がすむまで分かり合ったからもう未練はないぜっ!」

満足げな彼の言葉の意味に二人は「全くこいつは……」と呆れとそして安心し、微笑した。

 

「よし、では行くか!」

 

「「おうっ!」」

 

互いの拳を打ちつけ、そして彼らもまた各機に向かっていった――。

 

「各駆動機関、エンジン、武装、システムの状況は?」

 

「今の所、全て異常なしです」

 

そして今作戦の要であり決戦兵器でもある、全長四キロメートルという巨大さを誇るテキサス艦にはすでに千人近くの多くの乗組員が乗艦しておりそれそれ機関の配置についており、内部の広い艦橋(ブリッジ)でも艦長を務めるリンクを始めとする、オペレーターや操舵士、通信士が各席についており、初でもある艦浮上の時に誰もが期待をこめて暫く待っていた。

「アラスカの敵部隊、そしてタートルの現状は?」

 

「タートルは今のところ不審な動きはありません、しかし無数のメカザウルスがタートルを中心に全広範囲に渡って配置されています」

 

「リンク艦長、先ほどアラスカ空軍基地から連絡があり、こちらからも少ないながらも増援を出すとのことです」

 

「よし。では各クルーに最終的な作戦内容をもう一度確認しておく。

我々テキサス艦は作戦開始の九時ちょうど、先遣隊が先に発進した後に向こうの状況を確認し次第、浮上を開始する。

これはなるべく敵側に本艦の存在を知られないようにするためである。

もし早く知られたなら向こうも厳重な警戒、守りを固めるだろう。そうなれば間違いなくタートルの攻略はより困難となる、ここぞという時まで存在を知られるな」

“了解っ!”

 

「数年前に始まった恐竜帝国との世界大戦の山場であり非常に厳しい状況を強いられることを予想されるがそれでも私は勝利を信じている。各員の健闘をいのる」

 

その場のクルー全員が立ち上がり、リンクに真剣な視線を送りながら敬礼し彼も同じく敬礼で返す。今作戦における互いの健闘と期待、信頼感を感じ取っていた。

 

「ではいよいよ始まるか、史上最大の作戦が――」

 

……正直な話、ほとんどの隊員が圧倒的戦力差を前にして今作戦は無謀、絶望的、勝ち目が薄いと感じている。

だがそれでも人類の未来がかかっている、一握りの希望を信じてやらねばと、勝利をただひたすら信じて、絶望を覆さんと自ら言い聞かせて思い込ませている。

そして、運命の夜九時ちょうどを迎え、リンクは大きく深呼吸をした――。

 

「これより作戦を決行する、各部隊出撃せよ!」

 

彼の命令が基地内全域に伝わった。多数の滑空路から戦闘機、マウラー、ステルヴァー、陸戦用SMBを積んだ輸送機が隊をなすように次々と離陸していく。

 

「ではベルクラス、発進するぞ」

 

「了解っ!」

 

専用ポートからベルクラスも浮上を開始し、夜空へ飛翔していく。

 

「ホハハ、生涯最大のショータイムの始まるか。楽しみじゃのう♪」

 

艦橋にてニールセンは戦争屋の本能か、これから始まる最大の決戦に呑気にも心を踊らせていた。

「ところでキング博士は?」

 

「あやつはテキサス艦に乗り合わせておる。何でも生まれ育った土地の名を冠する艦と運命を共にするらしくてのう」

 

「………………」

 

早乙女は何故かそれに対する返答がなく、不審がっていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「博士、実は作戦の内容からとあることが思い浮かんだんですけど、まさか確実に勝つ方法とは――」

 

自分の予想を伝えるが彼は無表情のままで眉一つも動かない。

 

「……おそらくそういうことになるかもな。しかしあやつが選んだ道だ、もはやどうすることもできんじゃろうて」

 

「しかし……」

「あやつは最近疲れたなどと弱音をよく口走っていたからな。もしかしたら死に場所を求めていたのかもしれん」

 

「…………」

 

「まあ、まだわしらの予想の範囲内でもしやそれ以外の方法があるやもしれんし。まあ言えることは全ては戦況次第ということじゃな」

 

「…………」

 

その時、通信機から着信が入りマリアはすぐにそれを確認する。

 

「リンク艦長から通信が入ってます――」

 

格納庫。ゲッターロボに乗り込みいつでも発進できる態勢して待機する三人の元に早乙女から通信が入る。

 

“三人ともよく聞け、アラスカの戦地では各部隊は西側と東側で分かれることになった。竜斗は西側、エミリアと水樹は東側で配置することになる”

 

大雪山のように再び分かれて戦うことになると知り、三人に緊張と不安が入り混じる。

 

“西側に飛行型メカザウルスが集中しているらしいのでアメリカ軍の戦闘機とマウラー、ブラック・インパルス隊、イギリス軍のSMBの空戦型SMBで編隊を組んで戦うことになり、東側にはアメリカ、フランス、ドイツ、そしてエミリア達女性陣二人だ。

なお西側には高性能の機体が多いのでその分、戦力数を多少少なくして残りを東側に回すらしい。何か不満等はあるか竜斗?”

 

「いえ、特にありません」

 

“よし。アラスカ空軍基地からも増援が来るという話だから多少は楽になると思う。

そしてベルクラスはどちら側でも対処できるようになるべく後方中央部で停滞、維持して援護射撃を行おうと思う。

武装を追加して戦闘力は上がっているので安心してくれ。これで以上だが質問はあるか?”

 

するとエミリアから「はい」と返事が上がり全員が注目する。

 

「敵本拠地のタートルの詳細ありますか?」

 

“……我々の分かる範囲では全長十二キロメートル以上は裕にあり、形状は亀、いやどちらかというとゴキブリに近い姿をしており前方部には首ではなく触手のようなものが沢山うねってるみたいだな”

 

「ゴキブリ……しかも触手がうねうね……」

 

その姿を想像して気味悪くなり顔色が暗くなる三人だった。

 

“各武装、機能については不明だがアラスカ基地へ、遠く離れたタートルから巨大なマグマの塊が降り注いだという報告があり、恐らく強力な長距離砲を有すると思われる。そのためタートルの動きにも常に注意して行動しろ”

 

 

「りょ、了解ですっ」

 

“では我々はアラスカへ発進する。到着まで一、二時間ぐらいだがいつでも発進できるようにな”

 

通信が終わり、三人は未だに感じたことのない極度の緊張と不安に襲われていた。

メカザウルスの数もあるが何よりも本拠地、タートルの情報による不気味なイメージと未だ謎めいた未知数な戦闘力……そして十二キロメートル以上と言う途方もない巨大さを持つ相手に約四キロしかないテキサス艦がどう打ち勝つのか不思議で仕方なかった――。

 

「にしても、またアタシ達はまた分かれて戦うことになんて……」

 

エミリアがそうボソッと口にする。

 

「しょうがないよ。そう指示を受けたんだから。けどエミリア達の所は味方が多いし大丈夫だよ」

 

「リュウトは大丈夫?そっちの戦力は少ないらしいけど……」

 

「俺は心配ないよ、少佐達がいるしきっと何とかなるっ。それよりも二人は無理するなよ、すぐに片付けて駆けつけるから」

 

愛美を見ると、何故かため息をついてヒドく落ち込んでいる。

 

「どうした水樹、元気ないけど?」

 

「マナ、フランスのあのレズの人と一緒だなんて……実は昨日、「明日悔いのないようにアタシと気持ちいいことしよっ♪」ってしつこく誘われて逃げ回ってたのに……っ」

 

……昨日、確かに合流した時に顔色が酷く悪かったような気がしたがそんなことがあったのか……愛美に同情を禁じ得ない二人だった。

 



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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」④

夜間のアラスカ――依然と雪が残り、文明物などは少なく広大な自然でシーンと静まり返っている……はずのだが、むしろ逆の状況だった。

 

宴のような無数の恐竜、メカザウルスの雄叫びが四方八方からこだまし、その地域だけが完全に白亜紀のような光景と化しており、動力源であるマグマ熱により異常な程に高い気温と湿度になっており、雪などは既に溶かされている。

地上、そして空に蠢くメカザウルスの大軍の中心部で殻にこもっている敵の巨大移動基地ドラグーン・タートルはすでに各駆動、エンジンが入っておりいつでも南下できる態勢に入っている。

 

「ジャテーゴ様、大陸中央部からこちらへ北上してくる無数の反応を確認、モニターに映します」

 

ブリッジ中央部のスクエア状巨大モニターが変わると無数の戦闘機、輸送機、そしてベルクラスの姿が映し出される。

 

「その数は確認できる範囲では数千、恐らく増援も予想されます」

 

「ふん、そんな少ない数でいても経ってもいられず自ら攻めてきたか。身の程を知らぬ愚かなサルどもめ」

 

「どうしますか?」

 

「ではこちらからも誠意を持って出迎えてやろう。

左右舷前部、各長射程マグマ砲スタンバイ。各恐竜中隊戦闘配備、一機残らず破壊せよ――」

 

指示を出している彼女の元に側近であるラセツ、ヤシャが颯爽と現れて膝をつく。

 

「ジャテーゴ様、ついにヤツらとの戦いが始まりますか」

 

 

「私共にぜひ出撃命令を。愚かな地上人類どもを一人残らず殲滅してまいります」

 

 

しかし彼女は彼らに振り向かずにモニターを見上げたままだ。

 

「ラセツ、ヤシャ、お前たちはこの戦いをどう見る?」

 

と、二人にそう質問を仕掛ける。するとヤシャは思いがけない質問に困惑の表情を浮かべる一方でラセツだけは相変わらずの忽然な態度だ。

 

「私としては、いかに地上人類とてただ闇雲に攻めてくるような馬鹿ではない。この少ない戦力で攻めてくるということは奴らにも勝算があってのことでしょう」

 

「そう、私も同じことを考えていた。戦争が始まって数年間の間、臨戦態勢が続いていたが今になって初めてこちらへ進撃してくるのは恐らく我々に対する切り札を投入するのだろうな」

「では、どうなさいますか?」

 

「二人はとりあえずここで私の指示があるまで待機。しばらく敵の手中を見るとしよう。だがいつでも出撃するように『ウォーミングアップ』しておけ」

 

「「はっ!」」

 

「ではまずヤツらが無事にアラスカの地に踏み込めるかどうか見物だな、フフッ――」

 

ドラグーン・タートル左右舷甲板が開き、中から約二十門程の沈胴型大口径艦砲が出現、全てが南側上空へ向けられる。

 

「目標、南方向七百キロメートル先上空の敵部隊――」

 

「マグマ砲、撃てっ」

 

砲口から紅蓮のような巨大なマグマ弾が真っ直ぐと遥か南上空へ飛び向かっていく。

 

「前方より、何か強烈な熱源反応確認」

 

「これは……マグマっ!?」

 

遥か北のアラスカへ向かう各部隊のパイロットはちょうど前方から何か赤い何かが多数、こちらへ向かって来ていることに気づき、モニターを拡大するとそれはまさにマグマの塊だった。

 

「各機は直ちに回避行動をとれ!」

 

「くそ、俺達を近づけさせないつもりかっ!!」

 

各機は散開し、高速のマニューバを取りながら前進、次々向かってくるマグマ弾を紙一重に、そして華麗に避けながら遥か先のアラスカへ急行する。

 

「ここで少しでも戦力を減らしたくない、絶対に当たるなよ!」

「もうヤツらの近くまで迫っているってことかっ」

 

ドロドロで燃えたぎる巨大なマグマの塊が次々と雨のように振ってくる空を必死でかいくぐり、猛進していく。

 

「天国への特急便かよ!」

 

「いや、地獄だなっ!」

 

まだ向こうと接触、いやアラスカにすら到着していないのにすでにもう始まっていたのだ。

 

「マリア、プラズマシールドを展開しろ」

 

ベルクラス全体に青白いプラズマの膜に覆われ、ちょうど迫ってきていたマグマ弾が膜に直撃した瞬間に消し飛んだ。

 

「司令、このマグマ弾の発射元はやはり、アラスカ地区のタートルだと判明しました」

 

「やはり長距離砲を持つか。シールドを改良したものの、いつまで持ちこたえられるか――」

 

ドラグーン・タートルではどんどん迫ってくる地上人類の部隊をモニターに完全に捉えて、マグマ弾の雨を次々に避けてきている彼らへジャテーゴは楽しげな顔だ。

 

「ほう、牽制のつもりだったがなかなかやるではないか。

だがこれはまだ小手調べだ」

 

「ジャテーゴ様、このままだと敵部隊はあと二十分前後でこちらへ到着しますが、さらに攻撃を続けますか?」

 

「いや、あの様子だとどの道こちらへ到着するのは時間の問題だ。艦砲の無駄撃ちはこれくらいにしてあえて迎え撃とう。

タートルはいつでも南下できるように移動態勢と各武装、そしてリュイルス・オーヴェを展開しておけっ」

 

「了解」

 

「では楽しませてもらおうぞ、貴様ら地上人類の少ない戦力がどこまで我々に通用するのかをな――」

 

突然とタートルからの攻撃が止んだことにほとんどの隊員が不審がっている。

 

「急に攻撃がやんだがどうしたんだ?」

 

「ワナでも仕掛けてるのか……」

 

「いや、ワナだろうがどうだろうが俺達のやるべきことはさっさと向こうに到着するだろう」

 

「そうだな、もう攻撃をしてこないのならそれだけ安全にアラスカへ近づけるということだ!」

 

各機は台風の目に入ったような一時をチャンスと言わんばかりに全速力で大空を駆けていく。

ベルクラスも少しでも戦場で使うエネルギーを温存するためにシールドを解除し再度攻撃が始まらないことを祈っていた。

アラスカではすでに一万五千を超えるメカザウルス、そしてメカエイビスの大軍団が南側に向いて近づいてくる獲物をまだかまだか、と待ち構えて咆哮を上げている。

対する地上人類の各部隊は徐々に西側、東側へ枝のように分かれていく。

勝つのが当然のように余裕綽々と待ち受けるジャテーゴ率いる第三恐竜大隊、背水の陣の如き鬼気迫る勢いの連合軍――どちらに勝利の神、そして死神が微笑むか、夜の広大なアラスカの地を激震させる一大決戦の秒読みが始まった――。

 

「アラスカ領空圏内に突入、直ちにモニターに映します」

 

モニターに映し出された光景に、早乙女とマリアは、地上と空を埋め尽くして景色が見えないほどに未だかつて経験したことのない数のメカザウルスの大軍に息を飲み、衝撃を受ける。

 

「ワシもこんな数を見たのは初めてだのう。まるで虫どもの集まりじゃな」

 

「覚悟はしていましたが直で見るとやはり驚愕ですね……」

 

「しかしそれでもやらねばな。さもなくば人類に未来はないぞ」

 

「その通りです。では――」

 

早乙女はすぐに竜斗達へ通信を入れて、出撃準備を告げる。

 

“今回も竜斗から先に発進しその後、二人を地上に降下させる。

竜斗は発進次第そのまま西側の部隊と合流してくれ。二人についてはベルクラスが東側の合流ポイント付近に移動してそこから降下させる”

 

「了解です。ついにアラスカに到着したんですね……」

 

“今の内に伝えておくが、君達はあまりにもののメカザウルスの数とその光景に必ず面食らうことになる。私達でさえそうなったからな”

 

「「「………………」」」」

 

“だがそれでも我々はやらねば、勝たねばならない。人類の未来がある限り、ここで全てフイにするわけにいかない。

私達ベルクラスは君達の力を信じて最後の最後まで戦う、だから君達もゲッターロボという絶大な力を最大限に奮ってくれ”

早乙女からの激励に三人も「戦士」としての頼もしそうな表情で応えた。

 

“では健闘をいのる、ゲッターチームいくぞっ”

 

通信が切れた後、完全武装、最終調整を終えたフルスペックのアルヴァインの乗せたテーブルがいつものように外部ハッチ前に移動、カタパルトと連結した。

 

“気をつけてねリュウトっ!”

 

“イシカワ、思う存分やってきなさいよねっ!”

 

「ありがとう、二人も気をつけてっ」

 

通信越しで二人から力強く応援されて笑顔でグッドポーズを取った。

ハッチが開き、夜空が露天すると膝を軽く曲げて発進態勢を取り――、

 

「アルヴァイン、石川竜斗発進しますっ!」

 

カタパルトが射出されて空に出た直後にゲッターウイングを展開してすぐさま西側へ進路を取り、向かった。

「竜斗君が今発進しました。私達もすぐに東側の合流ポイントに向かいます」

 

「さすがは完全調整されたアルヴァインじゃのう。動きが物凄く滑らかになっとる、これは期待せざるえないな」

 

早乙女達はモニターで夜空を一瞬で駆けていくアルヴァインを見えなくなるまで見届けた後、東へ飛んでいく。

 

(死ぬなよ、竜斗――)

 

そして東側の部隊と合流するポイント付近に差し掛かった時、二人に早乙女から再び発進準備の通信が入る。

 

 

“君達二人については地上戦ということで相手がどんな攻撃を、そして罠を仕掛けているかわからないので孤立だけは絶対にするな、互いに、もしくは味方機から離れずに行動しろ。

そしてマリアが言っていたように入り組んだ地形を有効活用することも忘れるな”

 

同じく完全武装してフルスペックと化したルイナス、アズレイのテーブルも降下用ハッチの真上に移動した時、ハッチが開き下から冷たい風が吹き上がる。

 

「行くよエミリア!」

 

「うんっ!」

 

二人の機体は同時にテーブルから滑り落ちるように地上へ降下していった――。

 

「全機発進しました」

 

「よし、我々も定位置に向かうぞ」

 

竜斗と同じく二人を見届けた後、ベルクラスは後退していった。

 

「なんだこの数…………っ」

 

「アタシ達、あれだけのメカザウルスを相手に……」

「信じらんない……」

 

三人がモニター越しで見たその光景に対し、早乙女が言ったように面食らい、雷のような強烈な刺激が走った。

エリア51、テキサス基地の……今までとは比ではない、ゾッとする数のメカザウルスが広範囲に渡って蠢きそして醜い雄叫びを撒き散らしているその様子に彼らに一瞬で思い浮かぶ共通の一言とは、

 

「地獄かここは……」

 

――であった。

 

――そのメカザウルスの数と光景を一度目にした時、僕はあれだけ勇気づけたのにも関わらず本当に攻略できるのか、無謀ではないのかと本気でそう思ってしまった。

それほど敵戦力は僕達の想像を絶するのだった。恐らくエミリアと水樹も全く同じことを考えていることだろう。たがここ来たからには逃げ出すわけにもいかない、やるべきことのは自身へ勝利のために無理やりにでもそう思いこませて前進、これのみ――。

 

この広大で自然溢れるアラスカ全土が、見る影もないような焦土の荒野へと、そして血が血で地面を紅く染める大惨劇のカウントダウンがもう僅かに迫っていた――。

 



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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」⑤

ただ一人、西側へ進む竜斗はすぐに隊列を組む空戦用SMBの各部隊と合流した。

 

「来たか竜斗君!」

 

「ついに到着したか、日本からの若いホープっ!」

 

全員が暖かく、そして期待を込めて歓迎してくれたことに彼は喜ぶ。

 

「皆さん、今回もよろしくお願いしますっ!」

 

「ああ、こちらからもよろしく頼むよっ。では我々西側の部隊が全員合流を果たした所で、これより西側のメカザウルス全てを我々に引きつけて殲滅するぞ」

 

西部隊のリーダーを務めるジェイドは各員に機体の不備のチェックを行いさせ、竜斗へ通信の周波数の統一とモニター設定を指示し、彼はすぐに行う。

「なあ、いっそのこと俺が先にオールストロイで一気に近づいて敵中心部に核をぶっ放してこようか?」

 

と、ジョナサンが冗談かどうか分からない提案をし出すもジェイドは呆れる表情を見せた。

 

「お前なあ……核は奥の手と言っただろ。それにいきなり核なんか使ったら敵がそれ以降警戒してこちらへ引きつけられないだろうが」

 

「ちぇっ、その方が一気に殲滅できると思ったんだけどなあ」

 

と、悔しがるジョナサンに周りの仲間はゲラゲラと笑い出した。

 

「そんなに核が好きなのかお前はよお!」

 

「だったら今度から一緒に抱いてベッドで寝ろよなっ、ワハハハっ」

そんな彼らの異常なノリについていけない竜斗、そして常に寡黙なイギリス軍SMBアーサーのパイロットのアレン。

 

「す、凄いですね。このノリ……っ」

 

「良いも悪いも、アメリカ人だな」

 

表情を変えず淡々とした口調のアレンに対しても竜斗は「掴みにくい人だな」と感じてしまうが一応挨拶を言おうと声かける。

 

「今日はよ、よろしくお願いします中尉」

 

「こちらこそよろしく、期待してるよ石川三曹」

 

と、やはり本気で言っているのかどうか分からないような淡々とした口調で返されるも「まあ、この人の性格なんだ」と考えて自身で納得した。

「もう無駄話は止めにして作戦開始するぞ――」

 

一部のステルヴァーはヴァリアブルモードで人型に変形し、携行してきた従来とは別の形状をした大型ライフルを手にもち、そして回り込むように西へ移動していった――。

 

 

ドラグーン・タートルから西側は平地が多いが、丘や渓谷など傾斜があり、でこぼこで入り組んだ場所である。

しかしこの地域の殆どのメカザウルス、エイビスは空中に浮遊しているために地形の影響を受けておらず、警戒、哨戒に当たっており敵がいつ来るか待ち構えていた――その時、突然飛び回っていた数機のメカザウルスの胴体が吹き飛び肉塊となって地上へ落下していった。

 

 

「な、何が起こったっ!?」

 

突発的な出来事に周りの仰天し、緊張が走る恐竜兵士とキャプテン達。しかしモニターには敵の姿がなくレーダーにも反応しない。

だが見る見る内に次々とメカザウルスの胴体に大穴が開いていき撃墜されていく。どこから攻撃を受けているのか分からない。

 

どうにか検索しようとした時、彼らの前に黒く鋭角的な姿をしたメカザウルスではない人型の機体、ステルヴァーの集団が知らない内に突如、前に姿を現した。

 

「敵が来たぞっ!!」

 

各メカザウルスは待ってましたと言わんばかりにすかさずステルヴァーへそのギラついた敵意丸出しな視線を向けて一斉に襲いかかった。

しかしステルヴァーそのまま後退しながらライフルを構えてプラズマ弾で攻撃を始める。

 

「そおら、こっちへ来なっ」

 

ステルヴァーのパイロットはおびき寄せるために散開しながら牽制としてわざと攻撃を外し、あたかも敵から必死で逃げようと見せかけている。

そうとも知らずに策にはまり、メカザウルスはステルヴァーをひたすら追いかけていく。そして数キロ先まで後退した時だった。

 

「全機、メカザウルスを掃討せよ!」

 

「いくぜえっ!」

 

戦いのゴングがついになった。周辺の岩陰や窪み、崖に隠れていた各SMBが飛び出してメカザウルスを取り囲むように包囲、一斉に怒涛の攻撃を開始された。

 

 

「奴らのワナかっ!」

 

時すでに遅し。メカザウルスのほとんどはすでにタートルから西側に引き離されており、その域で逃げ場のない混戦状態と化した――。

「何だこいつら、爬虫類でもないのに姿を消すだとっ!」

 

一部のステルヴァーが突如、周りの風景と同化して見えなくなり、さらにレーダーにも反応しない。

何が何だか分からず頭が混乱するメカザウルス、乗り込む恐竜兵士やキャプテン達。

しかしそのすぐに機体が真っ二つにされ、撃ち抜かれて爆散し、その儚い命を散らしていく彼らが最後に見たものは、再び姿を目視できるようになった敵機だった。

 

「ヒューっ、さすがはニールセン博士の作品だぜ!」

姿を消せるステルヴァーの特徴は、その従来のプラズマ・エネルギーライフルとは違った大型ライフル『オールストロイ』を携行していることにある。

 

特殊鉱物で造られた弾薬により強力な光学色彩効果を持ち、相手の視界から光を湾曲させるクローキング・フィールドを発生させる新型ライフルであり、それとステルヴァー本来の機能であるジャマーと併用することでまさに機体名の通り、完全な「ステルス」になれるのであるのだが過剰な動的エネルギーの発生、つまり銃撃すると解けてしまうのが難点である。

 

「やべえ、弾切れかよっ!」

 

マガジンの弾薬が尽きた瞬間、効果が切れて姿を露呈してしまうジョナサン機。

 

「そこにいるぞっ!」

 

 

発見したメカザウルス、エイビスがチャンスと言わんばかりに一斉に襲いかかり万事休すか、と思われたがとっさに複数のステルヴァーとマウラーが現れてすかさずハンドダガー、ナイフで深く突き刺して、そのまま勢い首を切断した。

 

“弾の無駄遣いに気をつけろよジョナサン!”

 

“始まったばかりでまだくたばるんじゃねえよっ”

 

「わりぃ、助かったぜ」

 

弱点があろうともステルヴァーのパイロットはライフルの特性を上手く活用して、機体色が黒ということもあり機体そのものを「完全なる夜の闇」と化して次々とメカザウルスを葬り去っていく。

しかし姿を目視できないにも関わらず、味方機同士の衝突がないのは、各機の熱源反応を示すサーモグラフモニターとジャマーに左右されない強力レーダー機、そして各人の卓越した操縦技量が成せることだろう。

 

「ヴァリアブルモード!」

 

ステルヴァー、マウラーはその場で戦闘機型に変形し、この混戦状態の中の狭い隙間をかいくぐりながら敵の包囲を脱出し、急旋回してミサイルやプラズマ弾、そして各機関砲で応戦する。

 

「いくぞ!」

 

その中でも、本気のジェイドが操縦するステルヴァーは、網目のように入り込む隙のない空間内でも彼の高速且つ隙のない華麗なマニューバはもはや別次元、神業とも言えるほどに芸術の域に達しており味方、敵とも魅力させていた。

 

「いつも以上に凄まじいなジェイドはっ」

 

「もはやあいつの独壇場だな、活き活きしてるぜ」

 

今ここに彼最大の力が一瞬たりとも止まずに発揮されて、まさに飛行機乗りの極致とも言える域にまで辿り着いていた。それはまるで悔いの残らないように、せめてこの夢の一時を楽しみたい、今のジェイドはそういうまるで童心に帰ったような表情であった。

 

 

その一方でジェイドのように凄まじく力を発揮しメカザウルスに底なしの驚愕、そして恐怖を味あわせている機体が存在した。

それは竜斗の駆るゲッターロボ、アルヴァインである。

 

「うああああっ!!!」

 

常に音速域による超高速飛行しながらのライフルからの複合エネルギー弾による射撃、トマホーク、ビーム・ブーメラン、そして右肩のキャノン砲を駆使して、千機近い数を瞬く間に撃破する彼とゲッターロボはまさに味方では希望の光だった。

 

「あいつはまさか例のゲッター線を使用する奴か!」

 

「なんてしてでもあの機体を優先して撃破するんだ」

 

自分達の天敵であるゲッターロボの破壊を最優先に次々に雪崩れ込むが、もはや完全状態のアルヴァインとそれを一心同体のように操る竜斗相手では触れることすら叶わなかった。

 

(もうメカザウルスが全部止まっているように見えるっ!これならっ!)

 

調子に乗った竜斗はもはや誰も止められず、メカザウルスやエイビスはただ黙ってやられるのを見ているだけである。

しかしその中でも、運がいいのかそれても予測していたのか、一気のメカザウルスが後退するアルヴァインの後ろに待ち構えており口を大きく開けてマグマを吐き出そうとしていた。

が、その時メカザウルスの首は横一閃に真っ二つになり機能停止して地上へ落ちていった。

そこにはアレンの乗るイギリス軍SMB、アーサーが右腕からの強力なプラズマエネルギーの光刃を振り切っており、彼に気づいた竜斗は慌てて機体を止めた。

 

「敵に待ち伏せされていた、気をつけろ」

 

「す、すいません中尉!」

「……だが確かに、見ている方も興奮するような素晴らしいファイトをしていた。この調子で頼む」

と、そう誉め言葉をかけて自分の戦場へと去っていくアレン。彼特有の淡白な口調だったが竜斗は不思議と嬉しく思い、さらに勇気づけられた。

 

「………………」

 

こんな休む暇や安全圏などない密接状態の戦闘であるにも相変わらず表情を崩さずに、黙々とメカザウルスの掃討を行うアレン、そしてアーサー。

機動力を重視した結果、一撃でも被弾すればバラバラになりかねないその必要最低限の装甲で構成された細い体躯、武装が両手からのプラズマエネルギーの刃のみという飛び道具ばかりの敵味方において、あまりにも異色且つ不利な機体でありながら、そのハンデを感じさせないほどの凄まじい実力を発揮している。

身体の至るところに内蔵した高性能アポジモーター、スラスターを駆使したバーニアによる変則的な動き、さらに残像が見えるぐらいの凄まじい瞬間加速、速度を乗せた斬撃で次々にメカザウルス達を切り落とし、そしてアルヴァインと同じく一発の被弾も許さなかった。それよりも一番凄いのがそんな機体を表情一つも変えずに、そして一寸たりとも狂わずに余裕で操縦する本人である。

 

(アレン中尉の確か、アーサー……だっけ。戦うとこ初めて見たけど恐ろしく強い人だな……っ)

 

竜斗、いやその場にいるほとんどの者も彼の底知れぬ実力に驚いていることだろう。

 

そういった中で次々に撃ち落とされて見る見る内に戦力数が減っていくメカザウルスだが、こちらもただ黙ってやられていくこともなく、ならこちらは数で物を言わせる、所謂人海戦術での決死の反撃を与える。

 

「メカザウルスに囲まれた、脱出できないっ!!」

 

 

アルヴァインやステルヴァー、アーサーとは違い、強力な武装や機能を持たないマウラーや変形できない従来の戦闘機が格好の餌食であり、百単位の数でメカザウルスに四方八方から包囲されて逃げれずにそのまま覆い尽くされて、まるで肉食動物の餌食のように食いつかれてしまう機体、死角からの捨て身の体当たりをかまされてバラバラになる機体、マグマ弾、ミサイルなどの味方を無視した無差別攻撃を受けてしまい大破する機体……少なくなればタートル側からなだれ込んでくる、その驚異的な戦力数を利用したその戦法を駆使して圧倒してくる敵部隊。

 

「……ちい、いくらなんでも多すぎるぜこりゃあ!」

「あらかじめ理解しているつもりだったが、実際相手にしてみると想像を絶していたぜ……」

 

千五百という味方の戦力数は徐々に減りだし、相手は七千という圧倒的数を相手にし、次第に敵の物量戦法の恐ろしさが目に見えてきていた。

オールストロイの特殊弾薬が枯渇し、もはや姿を隠せなくなったステルヴァーは銃身を逆手に持ち、鈍器として近くのメカザウルスに叩きつけて、標準装備のプラズマ・エネルギーライフル、リチャネイドへと持ち替えて戦い始める。

 

「くそ、終わりが全然見えねえぜ……っ」

 

「これじゃあテキサス艦がこちらに来る前に俺らが先にやられそうだぜ……」

 

そろそろ弾薬やエネルギーの残量が心配になりつつあり、無限地獄の陥ったような先の見えない状況に弱音を吐く者も現れてきた。その時、

 

「甘ったれてんじゃねえよお前ら!」

 

ジョージから叱咤の声が通信を通して全員の耳に行き届いたのだ。

 

「ここまで来たらテキサス艦が来るまでどうにかして持ちこたえる以外に選択肢はないんだぞ。

全て倒さずとも敵を引きつけることを考えろ、竜斗君やアレン中尉が今も決死で戦っているのにお前らがそんなことを言っているとブラック・インパルス隊の名が廃るぜっ!」

 

「ジョージ……」

 

「俺だって敵の数に凄くキツいと感じるが、相手は無限ではなく有限だ。終わりがある以上は絶対に勝てると信じている、いや勝つ以外になにもない。

だからお前達もそれを信じて今だけでも辛抱しやがれ!」

 

彼からぶっきらぼうに通信が切れると、彼らもジョージの叱咤でおかげか、頭を横に振って気持ちを入れ替えた。

 

「そうだな、まだ始まったばかりだ。俺たちは諦めるわけにいかねえんだ」

 

「俺らとしたことが不覚だったわ」

 

「よし、これから心機一転していくぞ。武器がなくなっても攪乱すりゃあいい!」

 

彼らの動きは再び勢いよく活性化して下がりがかった士気が再び上がり始めた。

 

『終わりがある以上は絶対に勝てる』

 

 

これ一心に決めてそれぞれが命を燃やしたのだった。

 



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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」⑥

パラシュートで地上に降り立ったルイナスとアズレイは脚部の各推進ユニットを展開し、マップを見ながら東側の合流ポイントへ雪しぶきをあげながら高速滑走していく。

 

「凄くでこぼこしてる、途中で転びそう……」

 

以前にもこの地域で戦闘があったのか、平地でありながらクレーターと傾斜だらけであり、移動中コックピット内がグラグラ揺れる。

そして何より崖や渓谷、クレバスがあちこちにあり、非常に戦いにくそうだと感じる二人。

 

「穴に落ちたりでもしたら一巻の終わりね……気をつけなくちゃっ」

 

「こんな時にメカザウルスに待ち伏せされてたら危ないわね、出くわさないことを祈って早くみんなと合流しましょ」

 

愛美、エミリアの順で縦列になり狭い谷間を走り抜けた先に広場がありそこにたくさんのSMBが集結している。どうやらここが合流ポイントのようだ。

 

「お、あれはゲッターチームか!」

 

周りは彼女達に気づいて迎え入れる。

 

「みんなお待たせ!」

 

「ゲッターチーム只今到着しました、よろしくお願いします!」

 

「うむ、君達を期待しているよ。では全員集まった所で先に機体の不備がないか調べてくれ」

 

西側の部隊のように、東部隊のリーダーはそれぞれ各パイロットに機体の最終チェックを行わせる。

 

「我々はこの場を拠点としてメカザウルスの方へ何割かの機体で出向き、メカザウルスが我々の存在に気づかせて逃げるように退散、こちら側にまで陽動してくれ。戻ってくる際は不審がられないように命中させなくていいので、牽制攻撃を行いあたかも必死で逃げているような演技をしてくれ。問題は誰を行かすかだが――」

「アタシ行きます!」

 

なんとエミリアから突発で申し出たことに誰もが驚く。

 

「ルイナスなら地上を速く走れるしシールドがある分その途中で、多少被弾しても大丈夫です。

それにメカザウルスはゲッターロボが苦手で天敵らしいので見つかれば真っ先に破壊しようと疑いなく追いかけてくると思います」

 

彼女の最もな理由に「なるほど」と誰もが納得し、頷いた。

 

「では君を陽動メンバーとして行かすとする。では他には?」

 

「では私も行くか」

 

次に名乗り出たのはドイツ軍のリーゲンだ。

 

「私の機体も装甲が厚い上に、そこそこ速く地上を移動でき、でこぼこなどの影響を受けないから囮には適任だ。それに彼女の護衛を含めてだ」

と、主張する彼。

 

「分かった。ではリーゲン大尉、彼女を頼んだぞ。他には?」

 

「では俺もいく!」

 

「私も!」

 

便乗して次々と名乗り出てしまい、必要以上の数が候補に上がってしまい困惑するリーダーだが何とかやりくりして選抜していく。

 

「リーゲン大尉、よろしくお願いしますっ」

 

「いやいやこちらこそっ」

 

挨拶するエミリアに対して、彼は父親のような優しい笑みを返した。

 

「あのう、偉そうにでしゃばってしまいしたが、アタシ自身が操縦が下手なので色々と迷惑がかかるかもしれませんが……」

 

「気にしないでくれ、女性を大事に扱うのは紳士の役目だし、むしろ真っ先に名乗り出るような勇敢な君を守れるなんて光栄と思うよ」

 

 

そのほめ言葉に嬉しく思い、顔をほっこり赤くして照れるエミリアだった。

 

「なかなか思い切ったことをしたわね、エミリア」

 

「アタシもこれまでの自分とは違うとこを見せたかったの。ミズキはここで待ってて、ちゃんと役目を果たしてくるからっ」

 

「分かった。けど無理しちゃダメよ」

 

そして約百近くの機体で編成した陽動隊は隊列を固まるようにメカザウルスのいる方向へ駆けていった。

 

「エミリア、気をつけてね――」

 

と、彼女へ期待と心配を思う愛美――の隣にとある機体が並んだ。

 

「へえ。あのコ頼りなさそうに感じてたけど意外と勇気があるんだね、見直したわ」

「そりゃあ、マナ達はここまで実力で勝ち残ってきたから……えっ?」

 

横を見るとそこに立つのはフランス軍のSMBであるジャンヌ・ダルク、そしてそのパイロットとは昨日、自身が逃げ回っていた同性愛者の女性、ルネだった。

 

「昨日は逃げられたけど今日は一緒にいられるね、よろしくっ♪」

 

瞬間、愛美から「ギャアアアッ」と、阿鼻叫喚の叫び声がアラスカに響きわたったのだった――。

 

「何かミズキの叫び声が聞こえたけど気のせいかしら?」

 

 

エミリア、そしてリーゲンを先頭にした陽動隊は険しい道なりを通り、メカザウルスの密集地へ接近していく。

自分と平行して移動するリーゲンのSMBが気になって仕方ないエミリア。

 

(大尉のSMBは今まで見たことのないデザインね……)

 

二足歩行の人型ではなく装甲で身を固めた巨大車両であり、SMBというより戦車に近い形状をしている。しかしタイヤやキャタピラのような車輪はついておらず、ホバーしているのか車体が地面から少し浮いて走っていた。

 

「リーゲン大尉の機体は周りと比べて変わった形をしていますね、これは一体……?」

 

と、彼女が不思議そうに聞いてみると本人は「ハハハ」と笑う。

 

「これはSMBというより、SMBの要素を組み込んだ戦車車両だよ。ドイツ軍は戦車に誇りを持っているからね。私達は『シヴァアレス』という愛称をつけているよ」

「なるほど、確かに重量感のあるデザインですね……」

 

「ではもう話は後にしてメカザウルスの密集地にすぐそこまで迫っている、注意だ」

 

入りくねった谷間の道をいくつも抜けるとその先には想像を絶する数のメカザウルスの大軍団が待ち構えており、向こうもすぐにこちらへ気づく。

遂に鉢合わせとなった両軍は気を引き締めた。

 

「アタシが先に出てメカザウルスを引きつけてきます」

 

「私達も行こう、いくつかの各機も後に続いて彼女を援護、残りは脱出経路の確保を頼む!」

 

ルイナス、シヴァアレス、そして数十機マウラーが前に前進し、残りは後方の確保に入る。

 

「敵のサル共が来たぞ!」

 

「返り討ちにしてくれるっ」

 

近づいてくる彼らに対抗するように、咆哮を上げてまるで大津波のような怒涛の勢いで迫ってくる大量の地上型メカザウルス、その数は軽く見積もっても十倍はいる。多勢に無勢をそのまま再現しているかのようである。

 

(このまま正面から戦うのはさすがに無謀だけど、今はただ陽動するだけだもんね!)

 

メカザウルスからマグマ弾やミサイル、機関砲が降り注ぐも各機は車輪ユニットの杭を巧みに打ち込み急速旋回、コンパクト且つジグザグで変則的な蛇行走行でかいくぐっていく。

 

(アタシも成長した所を見せてやるんだから!)

彼女も実力を積んだ成果か、雨のように降り注ぐ弾幕の中を回避しながら勇敢に突き進んでいく。

SMBはその以上先は行かず距離を保ちながら動き回り、ライフルなどの武器に持ち構えて牽制射撃を始める。

 

「ゲッター線反応確認、あの機体はもしや!」

 

「例のゲッター線を使用する機体を発見。各兵士、キャプテンは最優先で破壊せよっ!」

 

ルイナスからのゲッターエネルギー反応を関知したメカザウルスは目の色を変えて牽制攻撃に臆せずに向かってくるが、陽動隊は後退しながら接近されないように距離を保っていく。

 

「ワオ、アタシの言った通りにルイナスに向かってきているっ」

 

「確かに奴らはエミリア君の機体へ向かってきているな。よし、このまま奴らを向こうへ誘い込むぞ」

 

こちらの陽動にまんまと乗り、仲間が待機する方向へ押し寄せてくるメカザウルス達を順調に引き寄せていく。

 

「よし、ではここから撤退するぞっ」

 

攻撃を止めてすぐさま奴らに背を向けて後方へ走り出した――だがその時。

 

「なにっ!?」

 

脱出経路の確保で後方で待機する仲間の地面が盛り上がった瞬間、突然強烈な閃光を放ち大爆発。

凄まじい衝撃波と爆炎が拡散した。治まった後、前を見ると仲間が盛り上がった地面と共に跡形もなく消し飛んでおり大きくそして深い直下大空洞が発生、そしてなんと、脱出経路までもが崩れて塞がれてしまい、自分達の逃げ場がなくなっていた。

 

「そ、そんな……っ」

 

皮肉にも助かった彼女達は、後戻りもできなくなったこの事態に一気に顔色が青ざめていく。

 

「バカなヤツらだ、罠を仕組んでいたことに気づかないとは」

 

こうなることをを計算したかのようにメカザウルスに乗り込む各パイロットは高らかに嘲笑いをしていた。

エミリア達が振り向くとすでにメカザウルス達がすぐそこまで迫ってきており、逃げる場所はおろか、動き回れる余裕の空間は少しずつなくなりつつあった。

 

「こうなったらもうヤツらと正面から戦うしかないな、後方の味方に状況を伝えろ!」

 

「な、何か妨害電波のようなモノが散布されて通信が遮断されてます!」

 

「まさかジャミングか!何か待機する部隊に連絡を取れるものはあるか?」

 

「一応、緊急用の信号弾なら何発かありますが駆けつけるのにどのくらいの時間がかかるか……」

 

「かまわん、打ち上げろ!」

 

マウラーが背後の腰から信号弾を取り出し、ライフルのバレル下部に付属する発射器に入れて真上に撃ち込み、緊急事態を意味する赤い閃光が周辺の空を照らした。

 

「これで気づいてくれるといいが……」

 

その間に完全に袋小路になってしまった陽動隊に余裕を与えず着々と追い込んでくるメカザウルス。

 

「こうなれば方法は一つしかない、各機は援軍が車でそれぞれ散開してメカザウルスへ攻撃を仕掛けるぞ!」

 

リーゲンが覚悟を決めて各機にそう伝える。

 

「そんなのムチャですよ、こんな無数のメカザウルスをアタシ達だけで相手にするんですか!?」

 

「向こうが駆けつけるまでの辛抱だ。このまま追い詰められて何もできなくなるくらいなら一機でも多く倒して前に進むしかないっ、分かったか!」

 

「は、はいっ!」

 

各機はそれぞれの携行火器を持ち構えて半円を描くように移動、配置する。

 

「各機は孤立せず必ず二、三体一組になり攻撃を開始しろ。

そして各攻撃はドンパチ騒ぎの如く行え、向こうにいる待機している味方に少しでも異常を知らせるためだ」

「了解!」

 

「各人、こんな状況下だが絶対に味方が駆けつけるまで持ち堪えるぞ。

我々には勝利の神がきっと守ってくれる、行くぞ!」

 

「そうだ、どの道ぶつかることになるんだ。なら先に俺達から派手におっ始めようぜ!」

 

「ああ、地雷か何かのトラップでやられた仲間の弔い合戦も含めてな!」

 

そしてそれぞれタッグを組み、迫り来る無数のメカザウルス軍団へ立ち向かっていった。

 

「残った地上人類軍の集団がこちらに攻めてきます」

 

「特攻するつもりのようだが信号弾のようなものを打ち上げたようだから恐らく向こうから本隊が来るだろうな、その前に残りを血祭りに上げて奴らの仲間に絶望を与えさせてやれ」

 

「はっ!」

 

「モグロゥの地中魚雷の再度発射スタンバイ――」

 

明らかに天地ぐらいの戦力差である上に向こうにはこれまでのデータにないメカザウルスの存在と妨害電波、そして地面が爆発するような地雷か何かトラップが仕掛けられているこんな状況での突撃はもはや無謀としか言いようがない。

だがこのまま黙ってやられるくらいなら、それに仲間が気づいて駆けつけてくることを信じて、残った陽動隊は決死の覚悟で挑んでいった。

 

(お願いミズキ、早く気づいて助けに来て!)

 

ルイナスのドリルをフル回転させて全速力で突っ込んでいく彼女は心からそう願っていた――。

 



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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」⑦

「各部隊、アラスカの敵戦地にてメカザウルスと交戦開始しました」

 

テキサス基地の地下。発進態勢に入っているテキサス艦内ではリンク達各クルーが恐怖と不安、そして期待の心情がまざりつつまだかまだかと待ち焦がれていた。

 

「どうやらおっ始まったみたいだな」

 

リンクの元に、乗り合わせていたキングが現れて横に並びアラスカの様子を映し出したモニターを見上げる。

 

「さて、冥土の土産代わりに向こうの奮闘ぶりをこの目に焼き付けようか」

 

縁起でもないことを呟くキングにリンクはため息を吐く。

 

「……博士、あなたはこれでよかったのですか?」

「何をだ?」

 

「あなたはニールセン博士と共にベルクラスに乗り合わせなくてよかったのですか?」

 

質問すると彼は黙り込んでしまう。

 

「博士、あなたはこの艦で行う攻撃内容を見通して乗艦しました。人生に疲れたなどとおっしゃいましたが本当の理由なぜですか?

ベルクラス、いやサオトメ一佐達と一緒にいれば恐らく生き残れるでしょうになぜ自ら死を?」

 

沈黙するキングは次第に物悲しい表情となっていく。

 

「正直な話、これまでにワシはニールセンの野郎を超えるつもり気でいたのだ」

 

「超える、ですと?」

 

「確かにワシはアイツとは同じ飯を食ってきた仲であるが、エンジニアとして互いの技術を競ってきたライバルでもある。

あやつは生まれもったまごうなき天才で若い頃から富と名声を手に入れ、周りにもてはやされ……あやつは年は取るにつれて技術とセンスは衰えを知らずに増してきておる。

それに対してワシは凡人であり思い出せば頭が痛くなるほどの膨大な苦労と努力をして認められたのが五十超えた辺りからだ。

だがそれでもいつか、あやつを超えることに執念を燃やしていたが年には勝てず衰えを感じてきてな、もはやあやつを超えることなど到底叶わなくなった。

分かるか、技術者として超えたくても結局超えられず二番手を軽んじられてきた男の気持ちが――」

 

――嫉妬。今のキングからその感情が滲み出ており、リンクは十分なほどに感じ取っていた。

「ワシらの世界ではトップに二人もいらない――それを悟った瞬間に生きていく意味を全て失った気がしてのう、今まで溜まりに溜まった気疲れが大爆発したかのようにな」

 

「………………」

 

「――以上が情けなくなった老いぼれの男の内訳だ。

これからのことは全てあやつに託すことにする」

 

まるで天国行きの順番を待っているかのように、キングから生きたい気持ちを感じさせるような表情と精気は消え失せていた。

 

「ジャック君とメリー君はどうするんですか?」

 

「あの二人はついては陽気で生粋の自由人だから、ワシの亡き後も問題なく生きていくじゃろうから心配ない」

 

するとリンクは、

 

「このアラスカ戦線以降は恐らく恐竜帝国との総力を上げた全面戦争となるでしょう。

そうなった場合、我々と向こうには雲泥とも言えるほどに戦力差があるのは誰でも分かります。

それでも戦力差を埋め合わすには、人類が平和を勝ち取るためにはニールセン博士、そしてあなたの力は必要不可欠な存在となります、そしてサオトメ一佐も」

 

「…………」

 

「先ほど天才は二人もいらないなどとおっしゃいましたが、あなたは人類存続のために何が何でも生きていかなければならない、それほどの『力』を持つ人間だと私は思います」

 

「………………」

 

「それに、あなたはジャック君達について――と答えましたしたが、それで二人は喜ぶと思いますか、とても肉親とは思えない発言ですね」

 

「リンクめ……このワシに説教する気かっ」

 

「説教だろうが何だろうが、私は思ったままに告げただけです。

あなたは本当にこれでいいのかよく考えるべきです――」

 

気まずい雰囲気になるこの場――彼らの会話を聞いた周りのクルー達は気を逸らそうと自身の仕事に専念する。

そして二人もそれ以降はただ黙ってモニターに映るアラスカでの各戦況を見守っていた。

 

「信号弾だと!」

 

――アラスカ戦線の東側。拠点で待機している各機が陽動隊からの緊急事態を知らせる信号弾の発光、そして陽動のはずなのにすでに発砲音や発砲音でドンパチ戦闘をしているような騒音を彼らはしっかり確認していた。

「な、何があった、陽動隊に連絡を取れないか!?」

 

「無理です、先ほどから何度も連絡しようにも何かに妨害さるて遮断されてしまいレーダーも異常をきたしてます、どうやらジャミングされているようです」

 

「敵のワナにハマったか……っ」

 

その事態に各人がどよめきだし、狼狽する。それは愛美も同じであった。

 

「我々も迅速で向こうと合流しよう、各機移動準備。移動経路にどんなワナが待ち構えているか分からん、空から移動するぞ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、マナはどうするんですか!?」

 

戦闘機形態になれるマウラー、そしてジャンヌ・ダルクに対して陸、海戦用機であるアズレイには飛行能力など備わっていない。するとルネの機体であるジャンヌ・ダルクが前に飛び出る。

 

「ジャンヌ・ダルクなら彼女の機体を牽引していけますので私に任せて下さい」

 

「ありがとう、では頼むぞ少尉。では各機発進だ」

 

マウラーはその場で戦闘機型へ変形次第、次々とジェット推進で浮上して前進していく。そしてジャンヌ・ダルクもその場で白鳥型飛行機に変形して浮上。アズレイの真上に来て腹部から牽引用のアンカーを吊り下げて胴体に巻き付かせた。

 

「あ、ありがとう……けど、どうして?」

 

先ほどまで嫌がっていた自分を自ら引っ張っていってくれるルネに、彼女はそう聞くと彼女は嫌々ではなく寧ろ清々しい表情をしていた。

 

「感情抜きで困った時はお互い様だからね。それにゲッターチームのあのコが今、向こうでヒドい目に遭ってるかもしれないから早く駆けつけたいと思わない?」

「…………」

 

「あたしだってあなた達ゲッターチームに色々と期待してんだから何も出来ずにやられてしまうのはイヤなんだからねっ」

 

と、こんな状況下でも光明のような笑みを絶やさないルネに愛美も次第に彼女の印象がいい方向へ変わりつつある。

 

「ホラ、無駄話はそこまでにしていくわよ!」

 

「……うんっ!」

 

そして白鳥型と化したジャンヌ・ダルクは出力をフルにして羽ばたくように空へ上がると、アズレイもアンカーのウインチに吊られてゆっくり空へ上がっていく。

 

「アズレイが空を飛んでる……すごいねこの機体!」

 

こんな華奢な体躯とは裏腹に、もう一つの機体を引っ張っていけるような恐るべきパワーを持つこのジャンヌ・ダルクに驚愕する。

「フランスの聖乙女の名を冠した機体は伊達じゃないわよっ」

 

そして全機は地上から空へ上がり、急いで取り残された陽動隊の方へ飛び向かっていった――。

 

「はあっ!」

 

陽動隊とメカザウルスは、それぞれ持つ近接武器のぶつかり合い、火花を散らしている。

狭い空間内を細かく動き回りながら各火器でド派手に砲撃する機体もあり、この場はまさに火中となっていた。

 

「シーカー、シュート!」

 

ルイナスのガーランドG、ライジング・サンから各シーカーが空中に飛び出して 小型ドリル器機を高速回転で突撃し穿ち、ゲッタービーム弾を雨のようにメカザウルスに降り注がせて、そして自身も同じく左腕のドリルで一気に殲滅していく。

しかし、それでもメカザウルスの恐るべき数の前には減っているような感覚は全くなく、まるで無限の数の敵を相手にしているようだ。

雪崩れ込むように次々に押し寄せて来るメカザウルスには流石のエミリアも気が狂いそうになるも、

 

「大丈夫かエミリア君!」

 

「は、はいっ!」

 

「キツいがみんなも今同じ気持ちだ。ガンバレ!」

 

タッグを組むリーゲンの掛け声に本当に助けられており感謝していた。

彼の機体、シヴァアレスはその重装甲と重火器を生かした突撃、及び砲撃戦法を行い、メカザウルスを圧倒している。

 

両側面に搭載した二連装プラズマビーム砲で敵を撃ち抜き、装甲内に搭載したミサイルポットとバルカンファランクスで弾幕を張り、そしてシヴァアレスの象徴とも言える中央部に設置された折りたたみ式の巨大な砲身。展開して真っ直ぐに伸ばして射角を水平に合わせた。

「吹き飛べ!」

 

700ミリという超大口径から発射させた弾頭は、射線軸に固まったメカザウルス全てを貫通し粉々に粉砕、さらにその通過時の余波で周辺メカザウルスを言葉通りに遙か遠くまで吹き飛ばした。

その凄まじい威力に味方は歓喜し、敵は恐れをなした。

 

(スゴイけどこれ、ミズキが大雪山の時に使ってたあの兵器に似てる……)

 

エミリアはその大砲に何かピンと来て思い出す。

そう、大雪山戦役で海戦型ゲッターロボに装備されていたドーヴァー砲に似ていることに気づいたのだ。

数が少ないが高性能のSMBを駆使して何とか持ちこたえるエミリア達に更なる追撃が襲いかかる。

脚部の車輪をフル稼働させて動き回るマウラー付近の地面がまた大爆発して機体と共に粉塵が巻き上がり、地面に叩きつけられた。

 

「地雷か何か埋められているのか!」

 

「分からん。だがこれでは無闇に動き回れんっ!」

 

「私が今、調べてみるからその間前線を頼む!」

 

リーゲンが仲間と入れ替わり、すぐさまモニターを地雷除去モードに変更してこの周辺全ての地面をエックス線透視して調べる。だが地雷と思われる物体が周りには何もない。

 

「ん、これはっ」

 

その代わり、前方の地中深くにいくつかの何か反応があるのが分かる。

しばらく監視していると、そこから熱源反応のある細長いモノが、飛び出してこちら側の地上へ近づいてくるのが分かった。

 

 

「左側にいる機体全てはその場から離れろ!」

 

彼の叫ぶような指示をしてそこにいたマウラーが一斉に離れた瞬間、その位置の地面が先ほどのように大爆発してちょうどいたメカザウルスまでも巻き込まれて、全て吹き飛ばされたのだ。

 

「気をつけろ、地中に魚雷のようなモノを発射する兵器と思わしき物体がいくつも埋め込まれている!」

 

「なんだと!?」

 

その事実を知った各人は驚愕し、そして顔をしかめた。

 

「なるべく固まって移動せず止まらず動き回れ、狙われるぞ!」

 

そこから各人はタッグを解き、バラバラで動き回りながらライフルやミサイルなどの射撃戦で進めるが、限られたこの狭い空間では各機は思うように自由に動き回れず、何より分散したために確実な決定打がなくなったことにより各機の戦闘力は激減。

自由に動き回れず、だが動き回らないと地中魚雷に狙撃される、そんな過酷な状況下に誰も彼もが悲鳴を上げ、そして彼らは追い込まれていく。

 

「こ、これじゃあ全然追いつかないよお!」

 

「くそお、本当に袋小路だ。早く援軍はこねえのかよ!」

 

「諦めたらそこで終わりだっ、最後まで希望を持って諦めるな!」

 

互いに励まして気を保とうとするも押し込まれ、そして次々にマウラーがメカザウルスの波に呑まれて破壊されていく。そんな悪戦苦闘の戦況にその場にいるほとんどの者が平常心を失っていた時だった。

 

「いや、ついに来たぞ!」

 

後ろの夜空を見上げるとそこには無数に飛来する戦闘機の姿が。

「やっと気づいてくれたかっ!」

 

後方で待機していた東側部隊全てであり、駆けつけてくれたことにやっと彼らは希望を見いだせた。

「エミリア!」

 

「地上に降下したいがこれでは……っ」

 

真下で繰り広げられている陽動隊の過酷の状況に一刻も早く彼らと合流したいが、彼らと合流する地上に降りられるようなスペースがなく、さらには地中には魚雷発射装置があるなどの情報交換で通信を取りたいのにジャミングされているのが最大の難点である。

 

「各機、爆撃用意!着陸するスペースの確保、どこかにあるジャミング装置を探し出して破壊を最優先だ」

 

戦闘機型マウラーの大軍は腹部付近に内蔵した対地爆弾で空爆を開始、広範囲に渡って埋め尽くすメカザウルスもろとも地上を爆炎と硝煙に染め上げる。しかし妨害電波は一向に解除されず、各人は困惑する。

「地上に降りてきたければ早く来いよ。最も、何も知らずにモグロゥの魚雷の餌食になりたいのならな」

 

埋め尽くすようなメカザウルスの遙か後方の数キロ離れた渓谷の谷間に隠れるようにただ一機、そこで重鎮している暴君竜型メカザウルスのパイロットである第四十三恐竜中隊司令官、キャプテン・シルジェはまるで高みの見物をしているかのように不敵な笑みをしながら傍観している。

 

「ジャテーゴ様に敵対する愚かなサル共よ、電子戦に長けた我々中隊の恐ろしさを見せてやる」

 

彼の乗る、一見普通に見えるメカザウルス『メルフォリ』を基点に離れた所の空中に浮遊する、夜の闇に紛れて見えないほどに非常に小さく丸い金属球体四つから「ピピピ」と奇妙な機械音が放たれている。

それがジャミング装置であることに、彼らは気づくはずが全くなかった。

 



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第三十九話「アラスカでの決戦、後編」①

一方、ベルクラスは西、東側に部隊の各支援を行うために中央部に滞空して近くのメカザウルスへ攻撃を行っていたが護衛の味方機すらいない一隻だけの状況下でドラグーン・タートルの射程内にいたために艦砲射撃の格好の的になっていた。

 

「バカめ、護衛すらいない浮遊艦などただのデカい的にしかならん。撃沈させろ!」

 

ドラグーン・タートルからマグマ弾、大量のミサイルが発射されて全弾がベルクラスへ向かっていく。

 

「タートルより無数のマグマ弾、ミサイルが飛来!」

 

「各砲門を開き、迎撃しろ」

 

右の主翼上、下部の装甲が縦に開くと中から追加装備された迎撃用対空ミサイル計五十発が一斉に発射されてこちらへ向かってくる各弾に直撃させて撃ち落とす。

 

「旋回して動き回れ」

 

右にゆっくりと向けて前進するベルクラスだがジャテーゴは逃がすハズがなかった。

 

「逃がすものか、追撃しろ」

 

再びタートルから無数の弾頭が一斉にベルクラスへ追尾していく。

 

「こちらへさらに来ます!」

 

「左側の迎撃ミサイルを使え!」

 

今度は左主翼部のミサイル全てを発射して同じく迎撃させるが何発かは外れて、当たらなかった弾頭はベルクラスに到達してシールドに当たり、かき消された。

「ミサイル残量は?」

 

「まだありますが自動装填に時間がかかります」

 

「構わん、しかし出来るだけ早く行ってくれ」

 

「せっかく大金はたいて大量装備した迎撃ミサイルを贅沢に使いやがって、少しは節約しろよ」

 

 

「こんな時に節約する余裕がないですから」

 

「また次弾、来るがどうするんだ?」

 

タートルから休みなく艦載砲の嵐が再びベルクラスに襲いかかる。シールドによって何とか耐え忍んでいるもやはりシールドのエネルギー残量が心配になってくる。

 

「シールドのエネルギーがレッドゾーンになってます、もう持ちません!」

 

「さて、どうするんじゃこれからは?」

 

こんな危ない状況にも関わらず、全く余裕そうな態度のニールセン。

 

「博士、あなたもただ傍観してないでどうすればいいか協力してくれませんか?」

 

「ワシはエンジニアじゃ。戦術家でもなければ指揮官でも艦長でもない」

「……………」

 

万事休すの彼らだが、一方でドラグーン・タートルも先ほどの弾頭の使いすぎのツケが回ってきたいた。

 

「今攻撃すれば次弾の再装填にはかなり時間がかかりますがどうしますか?」

 

「もはや迎撃するような力は残ってなさそうだ。この機を逃すハズはない、次で落とせ」

 

タートルの艦砲の射角がベルクラスに向けられ、とどめの攻撃を浴びせんとしていた。

 

「全弾発射だ!」

ジャテーゴの命令後、タートルから全弾掃射されてベルクラスへ怒涛の勢いで向かっていく。

 

「再びタートルから無数の弾頭がこちらへ飛来します、間違いなく持ちこたえられません!」

「ふん。ついにワシらの最期か」

 

「く…………っ!」

 

この攻撃で間違いなくシールドが破られて、直撃を受ければ撃沈してしまう。

流石の早乙女も苦虫を噛み潰した顔をした――だがその時、ベルクラスの後方から無数のミサイルが空を舞うような軌道を描きながら飛び向かっていきタートルからの弾頭へ当たり、撃ち落としていく。

プラズマビームや弾がスコールのように降り注ぎ、残りの弾を消し飛ばしていく。

その光景にベルクラスとタートル側の陣営は唖然となった。

 

「な、何が起こった!」

 

「ジャテーゴ様、敵浮遊艦の後方から謎の敵影の反応が――!」

 

そして早乙女達もその謎の反応を持つ機体のパイロットから通信を受信していた。

 

「君はまさかっ」

 

“ヘイ、ジャストミートゥでやっと到着した、今からミー達も参戦するネ”

 

と、どこかで聞いたことのある、おかしな日本語で喋る男性であった――。

 

「各機、次々に着陸して陽動隊を援護しろ!」

 

そして東側では空爆してメカザウルスを吹き飛ばし、降りられるスペースが出来次第、マウラーは人型に変形して地面に着陸を試みるが、それぞれ着地した瞬間、まるで地雷を踏んだかのように地面ごと大爆発して吹き飛ばされていく。何も知らない陽動隊以外の各人は困惑した。

「地雷があるのか!」

 

「いやそれはおかしい、それなら地上で各機があんなに動き回れんはずだが」

 

地雷があるかどうか分からないがこれでは着地するのを躊躇してしまい結局降下できず空中に留まったままだ。

 

「通信できないと何がどうなってるか分からん、一刻も早くジャミング装置を探しだすんだ!」

 

妨害電波の届かない高度へ上昇した各マウラーはさらに爆弾を落としていく。

 

「一体どこにいるのよ!」

 

ジャンヌ・ダルクに吊り下げられて空中移動するアズレイはエリダヌスX―01を持ち構えているが、流石に透視は出来てもジャミング装置を探し出すような機能を持たないのでただ銃身を振り回し、二機がギシギシ揺れる。

「ちょ、そんな乱暴じゃウインチが切れて落ちるよアンタ、少し落ち着いてっ!」

 

「くう、こんな時にエミリアと通信出来ればっ!」

 

今の愛美から苛立ちの隠せず落ち着かない様子である。

 

「お前達の位置、行動は全て手に取るように分かるぜ、フフっ」

 

後方の谷間で隠密している電子戦に特化したメカザウルス、メルフォリ。

コックピットには、他のメカザウルスとは違い、操縦桿以外は沢山のシンジケーターとモニター、タッチパネル式のキーボードで埋め尽くされた、まるでメインコンピューターのような内装であり、それをまるでピアノ演奏するかのように巧みに操るパイロットのシルジェ。

それに連動して、メルフォリから離れた場所で飛び回る四つの金属球体『ソンマ・ガオルウ』が沢山の情報を取り入れ、それらが全てメルフォリのコンピューターに次々に送信される。

それらを彼の卓越した情報解析、空間認識、そして演算能力が遺憾なく発揮され、素早く頭の中で整理し前線のメカザウルス、恐竜兵士とキャプテン、そして地中に待機する魚雷発射機、モグロゥへ膨大且つ分かりやすい情報を送っていた。

そのおかげか前線のメカザウルス達は非常に効率の良い行動が行えており、エミリア達はいつもより戦いにくいと思っていることだろうし、マウラーが着陸した瞬間で地中魚雷が着弾するように全て計算されていたのだ。

「果たしてお前達は王手を取ることはできるかな?」

 

シルジェはまるで『敵を自分の手の平に転がすような、まるで神』にでもなったかのような傲慢な態度である。

 

地上に着陸できずに空爆を続ける空中の部隊。だがそのおかげでエミリア達が自由に動き回れるスペースも増えてきておりその機動力が生かせてきている。

だが、地中魚雷による攻撃に激しさが増し、次々に地上にいる機体が吹き飛ばされ結局一長一短な状況だ。

 

「シールドのエネルギーが切れかかってもう持たないっ!」

 

「未だに通信不能で魚雷のせいで味方機も着陸できない、このままじゃ私達は全滅するぞ!」

エミリアとリーゲンは神経をすり減らして何とか生き残っているも、状況の苛烈さにいつ魚雷か、はたまた大量のメカザウルスに押しつぶされて餌食になるかは時間の問題だった。

沢山の味方が駆けつけ、もうそこにいるのに物凄く遠くにいるように感じていた――だが、ついにシヴァアレスのいる位置に魚雷が着弾して大爆発、機体が吹き飛ばされて宙を舞う。

 

「大尉!」

 

後方約四十メートル離れた地面に裏返しのまま叩きつけられてしまい、雪に埋まるルイナスはすぐに引き返して助けようとする。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「く、来るなエミリア君、君まで魚雷の餌食になるぞ!」

 

彼の言うとおり、すでにモグロゥはシルジェから送られてきた指示で彼らをロックオンしていた。

 

「やっと捕まえたぞ。消し飛べ、我らが天敵ゲッター線を使用する機体――」

 

その時だった、長方形の箱のようなモグロゥの胴体にとてつもない大穴の開き、地中で大爆発した。さらに次々と至る所に配置されたモグロゥの胴体に大穴が開き、大爆発。その影響で地上が地響きを鳴らして揺れた。

 

「な、何があった!?」

 

地中であるにも関わらず、モグロゥが撃破されていく様に、想定外だと仰天するシルジェはすぐさまソンマ・ガオルウからの情報を受信する。

それによると空中にいるもう一つのゲッター線を使用する機体が対物ライフルのような兵器で地中へ直接攻撃しているとの情報だった。

「やっと原因を見つけたわよっ!」

 

愛美はエリダヌスX―01のファーサイトシステムを最大限に活用して地中深くを透視しモグロゥを発見。すぐさま狙撃して撃ち抜いていたのだ。

 

「なんてヤツだ、まさか地面を無視して攻撃できるとはっ!」

 

シルジェもすぐさまメカザウルス達に空中で狙撃するアズレイを撃ち落とすように指示し、すぐさま各武装を上空に向けて対空砲火を浴びせようとかかる。

だがその時、空中部隊の遙か後方から無数のミサイル、そしてプラズマ弾のありとあらゆる弾丸が地上へ降り注ぎ、地上のメカザウルスが爆発に飲み込まれていった。

 

「なんだあれは!」

 

「あれはまさかっ!」

 

敵、味方が注目する、その方向にいたのは……。

 

「ミー達もパーティーに途中参加させてもらうネ!」

 

ポンチョを着込んだカウボーイのような姿をした異質のフォルムを持つ機体、そしてその後ろにドッキングした巨大な武器弾薬庫の役目を持つサポートマシン。

キングの息子、娘であるジャック、メリーのそれぞれ乗るテキサスマック、そしてケツアルコアトルの満を期しての登場である。

 

「おおっ、君達は確かキング博士の!」

 

「途中ながら私達もこれから参戦します、地上のメカザウルスは任せてください!」

 

ケツアルコアトルとドッキングしたテキサスマックはすぐさま迷いなく前線に飛び出していく。

「兄さん、今回は予備弾薬をちゃんと積んであるから派手に撃っていいわよ!」

 

「グッジョブだメリー!」

 

機体の角度を斜め下に向けて、テキサスマックとケツアルコアトルの全武装、火線砲門を一斉に開門した。

 

「フルバーストするぞメリー!」

 

「了解。各機は直ちに退避してください」

 

「了解、だがジャミングされていて地上の味方には通信できない」

 

「オーケイ、俺達がフォローする!」

 

空中にいる機体はすぐさま彼らから遠ざかっていく。そしてエミリア達が巻き添えを受けない距離まで前に飛び出す。

 

「ターゲットインサイト。目標、地上のメカザウルス軍団っ!」

メリーの操作で照準を地上全てを囲んだ時、ジャックは勢いに身を任せてレバー横の赤いボタンを押した。

 

「ファイアッ!!」

次の瞬間、彼らから発せられた全砲撃、全てを破壊する七色の光に地上全てのメカザウルスが包まれて飲み込まれていく。

核爆発のような想像を絶する凄まじい衝撃波が起こり、四方八方に広がり全てを吹き飛ばしていった――光が治まった後、砲撃を地上の広範囲にはとてつもない大穴が開いており、そして何千ものメカザウルスが一撃の元に消し飛んでおり、無事のメカザウルスも先ほどまでと比べたらもはや数える程しかいないほどである。

 

「ワオ……なんて威力なの……」

 

「うむ……っ、アメリカ人のやることは派手すぎてついていけんな……」

 

何とか巻き添えを受けずに助かったエミリア達はその異様と化した光景に唖然となっていた。

 

「どこかにジャミング装置があるはずなんだが見当たらないんだ」

 

「ならそれも俺達に任せてくれ」

 

と、自信満々な彼だがその方法とは。

 

「さて、第二射行きますか。メリー、行くぞ!」

 

「え、またメカザウルスに?もう敵数が少ないのにもったいないわよ」

 

「ノオノオ、ジャミング装置を破壊するために前方全てを消し飛ばすんだ、いいな」

 

「なーるほどね♪」

すぐに理解して再装填する今度は機体の方向と角度を水平にして全砲門を再展開した。

 

「おい、アイツらまさかっ!」

 

「ウソだろ……っ」

 

「直ちに全機、そこから退避せよ」

 

敵味方それぞれ、彼らが再び全弾を放つことに驚き一斉に退避を始める。

 

「行くぞメリー!」

 

「オーケイ。ミサイルパーティー、レッツゴゥ!!」

 

やりたい放題の二人からの二度目の一斉砲火。

前方全てに火線が隙間なく埋め尽くされ、崖や岩などの障害物、逃げ遅れたメカザウルス、そして飛び交っていた四機のジャミング装置、ソンマ・ガオルウも巻き込んで消し飛ばした。

 

「バカな……っ」

 

突然現れた謎の機体によって、一瞬で形成が傾いたことに対する想定外なことに流石のシルジェも口を開けたまま茫然自失している。

 

一方でジャミング装置がなくなったために地上の部隊と通信が出来るようになり、それぞれ情報を交換しあう。

 

「愛美君のおかげで魚雷発射機が破壊できた。これより地上へ降下するぞ!」

 

マウラー、ジャンヌ・ダルク、そしてアズレイは地上に降りていきやっとのことで陽動隊と合流することが出来た。

 

「ミズキやっと来てくれて助かったよお!」

 

二人も再開して無事を喜び合う。

 

「よく頑張ったわねエミリア!」

 

「ホント、もう死ぬかと思ったよお……」

 

涙目の彼女を慰めるようにルイナスの頭を優しく撫でるアズレイだった。

 

「ゲッターチーム、こんにちは!」

 

二人の元にメリーから通信が入り、彼女達は大いに喜んだ。

 

「ジャックさんにメリーさん、助けてくれてありがとうございますっ!」

 

「味方なんだから気にしないで。これからはあたし達が今までの分、反撃する番よ!」

 

「はいっ!」

 

「エミリアを泣かせたこの罪を償わせてもらうわよ、覚悟しなさいメカザウルス!」

 

戦力差が逆転し、残り少なくなったメカザウルスを片付けていき制圧する勢いの東側の部隊。

そして西側の状況も思わしくなく流石に思ってもなかったことにドラグーン・タートル側の陣営は、ここまでやられると思ってもみずにもはや唖然となっていた。

 

「私達に勝利の女神は微笑み出した。このまま一気に押し上げるぞ!」

 

「おおーーっ!!」

 

このまま行けば本当に勝てるかもしれない、その少しだけの思いを希望に変えて彼らはさらに士気を上げて勢いを上げて押し上げていった――。

 

「西側、東側とも好調に押し上げてます!」

 

「では我々テキサス艦はこれより浮上し、アラスカへ発進する。各員配置につけ!」

 

……時は来た。ついにテキサス艦が発進態勢に入り、巨大ゲートがゆっくり開き、満天の夜空を仰ぐと轟音を上げて全長四キロメートルの巨大な戦艦がゆっくりと上空へ浮上していく。

「各員、我々は人類の未来を賭けた戦いの中に飛び込もうとしている。

艦内、そして向こうアラスカの地にすでに赴き今も死線をくぐっている皆について人類の勝利のために沢山貢献してくれたことに私は感謝している。

そして、それら全てを集約されるがこの時であり、私は必ず皆が報われることを信じているし、そのために最後まで戦う。諸君の健闘を祈る!」

 

どんどん飛翔していくテキサス艦は約三千メートル付近に到達した時、後方部に搭載したいくつもの特大ジェットノズルを噴出して、アラスカ方向へ前進を始めた。

 

「今から私達もアラスカへ向かう、全員無事で待っていてくれよ――」

 

 

もはや後戻りはできない、ならば敵拠点タートル撃破に一点集中するのみ――リンク含め各クルーは全てをこの時にかけて気を張り詰めた。

 



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第三十九話「アラスカでの決戦、後編」②

ドラグーン・タートルにて、ジャテーゴは近くで待機するあの二人を呼び寄せる。

 

「ラセツ、ヤシャ。お前たちの出番が回ってきた、直ちに出撃しろ」

 

「「はっ!」」

 

「遠慮はいらん、調子に乗るサル共に裁きを、一人残らず八つ裂きにしてこい」

 

「お任せを、ジャテーゴ様」

 

「必ずジャテーゴ様に期待に添えるように全力を尽くしてきます」

 

「うむ、期待しているぞ」

 

ついに出撃命令が下されてる二人だが果たしてその実力は――。

 

「ラセツ、お前はどこを攻めるつもりだ?」

 

「私は東側に行く、お前は西側の連中を頼む」

 

「よし、任せとけっ」

 

どちら側に行くか決め合った二人は去っていくのを黙って見届けるジャテーゴは、

 

「要請した本隊からの援軍の到着は?」

 

「あと一時間程度のこと」

 

「よし、それまでにラセツ達二人が持ちこたえてみせよう。いや、援軍はもしやいらないかもな、フフフ」

 

と、二人に絶対的な自信を持つ彼女だが、一体どんな根拠があるのだろうか。

 

「そろそろドラグーン・タートルも南下を開始する。各員配置につけ!」

 

「はっ!」

 

こちらも発進する号令が下り、ドラグーン・タートルの動きが活性化する――その中でクルー二人がこそこそと話をしている。

「……なあ、ラセツ様とヤシャ様についてだがあの二人は一体何者なんだ?」

 

「さあな。俺達にはジャテーゴ様の忠実で有能な側近という情報しか教えられていない。それ以外は全くの謎だ」

 

「今まで思っていたが二人の雰囲気が爬虫人類とは違うような気がする……いや、寧ろ生き物かどうかも分からん、とにかく不自然な感じだ」

 

「ああ、全くだ――」

 

「おいそこ!何を喋っている、私語を慎め!」

 

ジャテーゴに叱咤され、焦る二人は直ちに仕事に取りかかるのであった。

 

「テキサス艦からたった今発進したと通信が入った!」

 

「よし。各員、テキサス艦がこちらに到着するまで全力で持ちこたえよ!」

 

西側と東側、各部隊は予想以上に戦果を上げてメカザウルスの数をどんどん減らしていっており、無謀としか思えなかったこの作戦にも本当の勝利への道が切り開き始めていた。

 

「こちらアラスカ空軍基地所属の各部隊。これより参戦して援護に入る」

 

増援も加わったことでさらに戦況は有利になり、あとは発進したテキサス艦がこちらへ到着してタートルと一騎打ちするまで持ちこたえることに専念するのみである。

 

――西側。高性能SMBとそのパイロットのおかげか、最初から安定した戦闘で優位に進める。

 

「約六八○機撃破――」

 

「七○二機目!」

 

アーサー、そしてジェイド機のように一貫して空中戦闘を取り続けて敵を落としていく機体、地上に降り立ち、または入り組んだ谷間の中に入り隠れたり、隠密行動しながらリチャネイドやライフルで空中のメカザウルスを狙撃するステルヴァーやマウラー、中には、

 

「よしよし、追いかけてきてるな」

 

敢えて戦闘機状態で入り組んだ渓谷に突入してそのまま突き抜ける機体の後ろにメカザウルスが逃がすかと、追いかけてきている。

 

「ヴァリアブルモード!」

 

行き止まりにさしかかった瞬間、変形して人型になり各肢体に内蔵したスラスターを使い、直角的に上昇した。

 

「なに!?」

 

行き止まりに気づいたメカザウルスは当然スピードを止めることが出来ずに壁に激突した。

 

「へ、マヌケめ!」

 

と、それぞれ持つ高度の操縦技術を生かした多種多様の戦術でメカザウルスの戦力差を埋め合わせていく。

 

「うおあああっ!!」

 

中でも突出しているのはやはり竜斗のアルヴァイン。彼だけですでに二千機以上破壊しており、さらには一度も被弾はおろか、触れさせずに敵味方両方から驚愕されていた。

 

(絶対に勝つんだ!)

 

それだけの一心で、戦闘に全神経を集中させる彼はゲッターロボのデザインと相まって完全に鬼神と化していた。

ジェイドは戦う最中でそんな彼の勇猛ぶりをちょくちょくと観察していた。

 

(竜斗君はもうすでに私を超えているのかもしれんな)

 

と、素直にそう認めた――。

 

「ん、ちょっと待て。タートル方向よりこちらに接近する新たな反応を確認した。しかし数は……たったの一つ」

 

「なに?」

 

誰もがその方向にモニタリングして視線を集中させる。するそこには……。

 

「なんだあれは……っ」

 

「爬虫類の人間……だと……」

 

目線の先にあるのはなんと、重厚感のある鎧を着込んだ等身大の爬虫人類の大男……だが、空中に浮遊しており誰もがおかしいと理解する。

 

「ヤシャ様!」

 

恐竜兵士、キャプテンも彼に釘づけになり、その場にいる敵味方全てが戦闘を止めてしまった。

 

「ジャテーゴ様が大変お怒りだ。あの方に代わり、この俺とラセツ自らが貴様らサル共を駆逐する」

 

するとヤシャは懐から、何か注射器のような形をした器材を取り出し、突然それを首筋に突き刺したのだ。

中に入った謎の液体が血管内に入り、身体中に行き渡る。

すると心臓の鼓動が激しく波打つようになり、痙攣を起こしたかのように身震いしている。

 

「!?」

 

誰もが目を疑う。突然ヤシャの身体中の筋肉全てが二倍、三倍、いや何十倍にも膨れ上がり巨大化したのだ。

等身大の人間から……メカザウルス、SMB、それ以上のまるで百メートル以上はある高層ビルのような凄まじい高さの巨人と化して立ちふさがったのだ。

 

「なんだこいつは……」

 

「ヘラクレスか、はたまかサイクロプスよおい……」

 

まるで神話上に登場する巨人に出会ったのような、お伽話の世界に入り込んだような錯覚に陥る全員――。

それは東側でも同じであった。戦いの最中に現れた謎の等身大の男は巨大化しないものの、その異様な光景に敵味方問わずに注目していた。

 

「なにあれ……」

 

「人間……じゃないよね?」

 

エミリア、愛美の二人も、明らかに浮いているその一人、ラセツに完全に視線を注がせていた。

「私達二人を赴かせるとは大したものだが、その快進撃もここで終わりだ」

 

脇差しの長剣を取り出して天にかざすと信じられない現象が巻き起こる。

なんと雲行きがおかしくなり、雷鳴がなり響きそして至るところに無数の雷が降り注ぎ、各機に直撃させた。

 

「ウギャアアアア!」

 

コックピット内では高圧電力が流れ込み、感電どころではなく一瞬で燃え上がり機体ごと爆散させていった。

さらには嵐が巻き起こり、暴風が吹き荒れるこの東側には理解不能の現象ばかりが起こっている。

まるで魔法か何か、不可思議な超常現象を引き起こしていくラセツに誰もが茫然となる。

 

 

「くそお、ここはファンタジーの世界かよ!」

 

「各員、あの巨人を包囲して一斉攻撃だ!

西側でも巨大化したヤシャへ一斉に集中攻撃を攻撃を仕掛ける各部隊だが、その強固な鎧には傷一つもつかない。

 

「効かぬわあっ!」

 

ラセツ同様に脇差しの長剣を取り出して襲いかかり、各機はそこから退避するが、こんな巨大な体躯でありながら戦闘機型のステルヴァーが追いつかれるほどの機敏であり、すぐに握り掴まれてしまった。

 

「直ちに助けるんだ!」

 

各機がリチャネイド、ライフルを構えて一斉射撃を行うがまるで効果がない。その間にヤシャの握力に力が入り、掴まれたステルヴァーは徐々にメキメキと潰されて、無論パイロットも潰されていくコックピットと共に……。

 

「た、助け……っ」

 

「す、スティーブン!!!」

 

――完全に潰されて鉄くずと化した「ステルヴァーだったもの」を地面に叩きつけ、それだけで飽きたらずに右足で体重をかけて踏み潰す蛮行をやらかした。

その無残な光景に全員が茫然、そして絶望を味わい先ほどまで高かった戦意は一気に消え失せた。

 

「さあ、次にこうなりたいヤツはどいつだあ!」

 

ヤシャの殺意の籠もったぎらつく視線が各機に向けられた――。

 

「はあっ!!」

 

その頃、ラセツも自身の持つその巨大な力を揮い、地上人類の部隊をたった一人で、しかも生身であるにも関わらず圧倒していた。

握り込む長剣の刃が突然炎に包まれ、さらに遥か天にまで炎が伸びていく――。

 

「燃え尽きろ!」

 

全力と横一閃に振り込むと辺り一面に強力な熱波が拡散して木、雪、そして各機の、その周辺にある何から何までの物が炎に包まれ、火の海に変えた。

 

「あ、悪魔が、アクマが現実に現れたよおっ!!」

 

「バカ言わないでエミリア!けど何なのアイツはあ!!?」

 

渓谷に入り込み、難を逃れて凌ぐ彼女達はその自然を操る魔法のような強大な力を目の当たりにして混乱し、怯えていた。

 

「何としてでもあの正体不明の敵を倒せ!」

 

各戦闘機、マウラー、ジャンヌ・ダルク、シヴァアレスはラセツを包囲して一斉射撃を行うが、小さくそして素早う空中を飛び交うために全く当たらない。

 

「私の実力はとくと見よ!」

 

何とその場で彼が突如、分身したように同じ姿をしたようなモノが増えだし、それらが一気に辺り一面散りばめられて襲いかかる。

 

「そらそらそらあっ!!」

 

剣を振り込むと真空波を引き起こして各機の胴体を真っ二つに斬り裂き、炎や雷、さらには冷気、果てには吹雪まで巻き起こしていくこの魔法のような力を自由自在に操るラセツに手玉を取られ、そしてなすすべなく破壊されていく。

 

「突然現れた二つの反応に味方の数が激減しています!」

 

「…………」

 

「それに東側の気候が突然おかしくなったりと、何が一体どうしたんだ?」

 

中立地帯に滞空するベルクラスでは、優秀な三人でさえこの事態と現象が全く理解できず頭を悩ませていた。

 

 

「ここにずっといるわけに行きません、私達も援護に向かいましょう!」

 

「わかった、ベルクラス発進だ!」

 

彼らもここばかり留まるわけにはと、ついに艦を発進させて援護に向かった。

 

ラセツとヤシャ、戦方は全く違うも二人に共通しているのはメカザウルスなどに乗らず生身で戦う、この戦線において明らかに異質の存在であることだ。

 

「ぐはあっ!」

 

ヤシャが深呼吸して肺に息を溜め込み、全力で吐き出すと口から風ではなく全てを焼き尽くす、マグマと同等かそれ以上の熱量を持った巨大な地獄の業火。

範囲内にいた沢山の戦闘機、マウラー、ステルヴァーは炎に包まれてドロドロに溶かされていく。

 

(メカザウルスでもなければ……かと言って人間でもなさそうだけど何なんだこいつはっ!)

 

竜斗のアルヴァインが上空から急接近してセプティミスαを構えて、その巨体でありながら激しく、そして素早く動き回るヤシャへ照準を合わせる。

 

「これでも食らえ!」

 

最大出力からの複合エネルギー弾をライフルから発射、ヤシャの右肩に直撃し貫通した。

 

「……お前はあのゲッター線を使う例の機体かっ」

 

「ああ…………」

 

目が合い、その憎しみの込めた睨みをアルヴァインに向けるヤシャにその強烈な威圧感に圧倒されて身体が強張ってしまう竜斗。

「我々の天敵であるお前を今こそ俺の手で破壊してくれる!!」

 

右手のひらに巨大な火球を形成したヤシャはアルヴァインへ直接腕を突き出した。しかし竜斗は強張ったままで全く動けず、ただ迫ってくる火球を持った手のひらの張り手に直撃するのを待っていた。

 

「竜斗君!!」

 

だがジョージの乗ったステルヴァーが急接近して割り込むようにアルヴァインを全力で押し飛ばして彼と入れ替わった瞬間、勢いのついた火球付きの手のひらがステルヴァーに直撃して一瞬で消し飛んだのだった。

 

「じ、ジョージ!!」

 

「ウソだろ……お前まで……」

 

彼から何の返答、生命反応が無くなったことに全員が沈黙し静寂と化した。

 

 

「し、少佐……なんで……」

 

自分を庇ったばかりに代わりに犠牲になったジョージに竜斗は顔面蒼白と化した。

しかし敵の勢いが収まるハズはなく、寧ろ邪魔されたことに更に憤怒して力を溜め込むヤシャであった。

 

「貴様ら全員アラスカから生きて帰さん、地獄で苦しむ覚悟しとけよ!!」

 

優勢かと思われたが、正体不明の二人によって、さらにはやアニメや漫画の中としか思えない能力を持って、大部隊相手に圧倒的な強さで立ち回るラセツ、ヤシャ。

誰もが「一体何者なんだ」と考えて、憶測が飛び交い、そして錯乱した。

 



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第三十九話「アラスカでの決戦、後編」③

「アラスカの味方の数が突然、激減しています!」

 

「何!」

 

移動中のテキサス艦内でモニタリングしているリンク達はその異常事態に目を疑っていた。

 

「先ほどまで優勢だった戦況が再び覆されつつあります!」

 

「北極圏方向よりアラスカへ進行する無数の反応を確認、これは敵部隊の増援です!」

 

このままではドラグーン・タートルのと一騎打ちどころではなくなりかねない事態へと陥っていた。

 

「どうするリンク、我々は一時撤退して態勢を整えるかっ」

 

「バカな、ここまで来て撤退などと、全てを水の泡にできますか!」

 

「だがこのままではまずいんじゃないのかっ?」

 

「………………」

 

……今、自分達にできることは向こうの陣営がそれでも何とか持ちこたえてくれることを信じ、祈ることしか出来なかった。

 

「ホハハハ、流石のお前たちもこの二人の前には赤子同然だな!」

 

ジャテーゴは二人を投入したことにより戦況が一辺したこの光景に高笑いし、各クルーは二人の想像以上の武勇ぶりに歓喜し、興奮していた。

 

「これはスゴい……ジャテーゴ様、あの二人は一体何者なんでしょうか!」

 

と、一人の部下が質問すると彼女はニヤリと不気味の笑みを浮かべた。

 

「あの二人は私の忠実なるかわいい側近。その正体は私がとある製法で造り上げた『レヴィアラト』である」

 

彼女からの答えに誰も驚愕を受けて、思わず「ええっ!」と声を上げた。

 

「レヴィアラトといえば……聖典ユイラに登場する神々『レイグォール』にそれぞれ仕えていたとされる従者のことですか?」

 

「左様だ。最も本物に模した、所謂レプリカではあるがな――」

 

誰も信じられないような顔をしている。それはそうだ、神話に登場する人物でありそれが現実に存在するなどと思っても見なかったことだ。

 

「しかしあれは伝説上の生き物では……?」

 

「現実に存在しないとでも思っていたのか?見ろ、前にいる二人の力が現実だ。私は独自で地球の至るところにある、先祖たちの残した古文書や遺跡を見つけ、解析して分かったのだ。

レヴィアラトの正体とそして非常に苦労したが現実に『造れる』ということをな!」

 

と、豪語した彼女だが伝説上だけに存在した人物を造れるとは一体どういうことなのか――。

 

「もう絶対許さねえ、たとえこの身が朽ちようと俺達がテメエをぶっ殺してやる!!」

 

「全員、スティーブンとジョージの弔い合戦だっ!!」

 

殺された二人に対する激しい怒りがブラック・インパルス隊、竜斗やアレン含めた西側の部隊全員の闘志を燃えさせて今まで以上に勢いと士気が活性化、団結力を一気に固めてヤシャに立ち向かう。

 

「このクソヤロウ!!よくもジョージをーーっっ!!」

 

ジョナサンも今まで見せたことのないような鬼の形相、激しい怒りを顕わにして、ヤシャへ突撃していく。

 

「うあああああーーっ!!」

 

ジョージというゲッターチーム達に尽くしてくれた大の恩人を、自身の身代わりとなって戦死した悲しみをヤシャに対する怒りに替えて竜斗は大粒の涙を流しながら尽力して戦う。

 

「ええい、ちょこまかと!!」

 

ヤシャを各機の高機動力を生かしたマニューバで翻弄するがその恐ろしいまでの頑丈さはほとんどの武装に意味を成さなかった。

 

「あれはサオトメ一佐達か!」

 

そんな中、彼らの元にベルクラスが駆けつけるも早乙女達はそのデータにない異質の敵に愕然となり、緊張が走った。

 

 

「これより私達も援護に入る。マリア、全砲門をあの謎の巨人へ」

 

対地ゲッターミサイル、そして同じく艦首部下に追加搭載された四門のプラズマビーム砲を地上のヤシャに向けて一斉砲火して雨のように降り注そがせた。

 

「うがああっ!!」

 

雄叫びを上げて抗う彼は再びジョージを葬った時のような手のひらに火球を作り出して真上に滞空するベルクラスへ放とうとした。が、

 

「させるもんかあ!」

 

アルヴァインが右臑部からビーム・ブーメランを取り出して全力投擲。

高速回転するブーメランへさらに竜斗はライフルを構えてエネルギー弾を撃ち込み、軌道を無理やり変えて見事、ヤシャの眼球に直撃させた。

「ギャアアア!」と汚い悲鳴を上げながら目を押さえてたじろぎ、隙ができた所を再び全員の一斉射撃を浴びせる。

だがそれでも、かすり傷がつくかどうかであまり効果がなさそうである。

 

「並大抵の火器では通用しない……ジョナサン、待ちに待った核弾頭を使え!」

 

「よっしゃあっ!!」

 

ジェイドがついに核の使用を許可し、本人は大張り切りしていた。一方で、竜斗もこのまま埒があかないと早乙女へ通信がかけていた。

 

「司令、僕ももう一つのエリダヌスX―01を使用します、帰艦の準備をお願いします!」

 

“よし、戻ってこい竜斗!”

 

竜斗は一旦そこから離れて上昇、ベルクラスへ戻っていく。

 

「エリダヌスX―01についてはワシが格納庫にいって装着させてやろう」

 

「ありがとうございます、博士」

 

「礼などいらん。それにあれはアルヴァイン用にちいと特殊化した二号機でのう、ワシでないと取り付けられんようにしてあるからな――」

 

と、言い残しニールセンは艦橋からただ一人出て行った。

格納庫に到着したアルヴァインの元にニールセンが現れて、竜斗はコックピットから降りて合流した。

 

「おや、泣きはらしたような顔だが一体どうしたんじゃ?」

 

その理由を伝えると彼もすぐに納得した。

 

「……そうか。ジョージがのう」

 

「………………」

 

「では竜斗君、その悲しさをエリダヌスX―01に敵にぶつけてこい。そしてジョージのカタキをとってやれ!」

 

「はいっ!」

 

「では、今よりエリダヌスX―01をアルヴァインに装着させるぞい、君はコックピットに乗って言われた通りに機体を動かしてくれ」

 

竜斗は言われた通りコックピットに乗り込み、ニールセンは作業アーム用レバーに移動して操作開始、片隅に置いてある、何故かグリップとトリガーが取り外されたエリダヌスX―01の砲身を掴み持ってくる。

 

“竜斗君、セプティミスαをこちらに近づけてくれ”

 

指示通りに差し出すとニールセンの巧みな操作により、エリダヌスX―01の無いグリップ部にライフルを滑らせるように直接に差し込んで接着させたのだ。

 

「これは…………」

 

“ワシがアルヴァイン用に特殊改造した二号機だ、セプティミスαと合体させることでアズレイのモノよりもさらに威力と射程距離が増しているハズだがアズレイ以上に砲身のオーバーヒートも激しいじゃろう、扱いに気をつけろ。

これであの怪物を思う存分、ぶっ飛ばしてこい!”

 

彼はこの巨大兵器を見て何かを思い出す、それはまるで大雪山戦役でも使った兵器『GBL―Avenger』のことを。

あの時も本当に不安だらけだったが結局何とかなったし、そして今回も――そしてジョージの無念を晴らす思いが混ざり、彼の内なる勇気がまるでマグマの如く湧き上がった。

“よし、装着完了だ。発進しろ竜斗君よ!”

 

「了解っ!!」

 

エリダヌスX―01を装着したアルヴァインはカタパルトに移動、外部ハッチの前に立ち発進態勢を取る。

 

(少佐、必ず……必ず俺達があなたの仇を!)

 

カタパルトが射出されてアルヴァインは外に飛び出すとすぐさま地上へ急降下していった。

 

「くそ、なんでこんなデカい図体のくせに早く動けるんだ!」

 

ヤシャと各部隊が激しい攻防戦を繰り広げ、ジョナサンは核弾頭入りのバズーカを展開したいがその間にヤシャの激しい猛攻を前にその暇がなかった――。

 

「消し飛べサルどもおっ!」

ヤシャが右手に握り締め力を溜め、全力で地面に叩きつけた時、眩い閃光と共に核と思わせるような強烈な大爆発が起こり、発生した衝撃波と熱線は辺り一面を全て吹き飛ばしたのだった。

爆風をモロに受けて消し飛び、または吹き飛ばされて空中分解する機体が多数、何とかそれを免れた機体も多数だがほとんどはもはやボロボロな状態であり、これ以上戦えるかどうか疑うほどであった。

ジョナサン機、そしてジェイド機も例外ではなく地上に落ちてギシギシ揺れてひれ伏せていた。

 

「くっ……ジェイド、大丈夫か……っ」

 

「何とかな……だがもうマトモに戦えんほどにダメージを受けている……」

 

コックピットで小規模の爆発が起こり、彼らの被っていた防護用ヘルメットも破壊されて破片が顔中に刺さり、見るもゾッとするほどに血だらけであった。

 

「このままじゃあの二人に顔向け出来ねえぜ……こうなったらイチかバチか核全てを抱えて特攻してやる!」

 

と、ジョナサンは覚悟を決めて最後の力を振り絞って立ち上がる。

 

「まだ動けるなら直ちに退避しろジェイド、あとマナミにこう伝えておいてくれ、あの世でもお前をずっと幸せを願って見守っているとなっ!」

 

バズーカに全ての核弾頭を積み込み、構えてヤシャの前に立ったジョナサン機……だがその時。

 

「待てジョナサン、あれは!」

 

「竜斗か!」

 

見上げた夜空から怒涛の勢いで急降下してくるアルヴァインの姿が。

 

「もう絶対に許さないからなあ!」

 

右手に持つ巨大兵器エリダヌスX―01を両手で持ち構えてエネルギーチャージ、そして照準を迷いなくヤシャに向ける、阿修羅の如き形相の竜斗。

 

「ジョージ少佐の……いや、今まで殺された仲間の恨みだ!!」

 

チャージ完了したエリダヌスX―01から発射された膨大な出力の複合エネルギー弾が一秒もかからずにヤシャの腹部に見事直撃し爆発音と共に巨大な風穴を開けたがそれどころかさらには地面にも直撃して深く抉り地形を変えていた。

 

「あ、があ…………っ」

 

悶絶して膝をつくヤシャへもう一発撃とうとするが、砲身がオーバーヒートを起こしており冷却に入っていた。

「お、おのれ……忌まわしき猿どもめえ…………!!」

 

突如、瀕死のヤシャの右手に強烈な熱量が発生、それが急激に上昇していきそして大玉のような光球を形成していく。

 

「これでこの一帯全ては消し飛ぶ。誰一人とも生き残れん、最後に勝つのは俺だあ!!」

 

我を失い、最後の悪あがきをしようとするヤシャに周辺にいる誰もが唖然となり硬直していた。

 

“各員、直ちにそこから退避しろ!”

 

早乙女が全員に指示し、やっと我に変えるが時すでに遅しであり、まるで光球が太陽のように膨れ上がっていた。

これがもしこの場で爆発すれば間違いなく自分達の持つ核弾頭以上の爆発で多大な被害が出るだろう……だが、

「させるかあ!!」

 

ジェイド機が棒立ちのジョナサン機からバズーカを奪い取り、ヤシャへ走っていく。

 

「何するジェイド!!!」

 

「竜斗君、ジョナサンの機体を今すぐ抱えて皆とその場から一気に離れろ!」

 

「少佐!!?」

 

「私が今の内に核で食い止める、直ちに退避しろ」

 

それを聞いて竜斗、いや誰もが耳を疑い震え上がった。

 

「そ、そんなあ、なぜ少佐が!!」

 

「……私の機体はもう逃げれるような力はもう残ってないし、誰よりも先に動いた私がこれ以上、被害を出さないためにも出来ることはこれしかないっ」

「しょ、少佐……」

 

「それにジョナサン、そして君達の力はこの戦いの後でも絶対に必要となる。

竜斗君はすでに私が教えれる全ての操縦技術を、そして優れた操縦技量を身につけたことでもう思い残すことはない。

君にこれからの事を、そして私の夢を託すぞっ!」

 

 

最後まで希望に溢れた表情のジェイドから全てを悟り、そして読み取った竜斗は目頭を熱くして無言のまま、すぐさまボロボロと化したジョナサン機を持ち抱えた。

 

「降ろせ竜斗、ジェイドを、あいつを見捨てるのかよ!!?」

 

「………………」

 

「待てよテメエ、俺だけ生き残らせるつもりかよジェイド!!!」

しかし彼は応えることなくそのままベルクラスのいる高度に上がっていき、そして他の無事な機体もあえなくそこから一斉に退避していき、この場はバズーカ抱えたジェイドのステルヴァーとヤシャの二人に取り残された。

 

「ジョージ達、待ってろ。今からそこにいくからな」

 

確実に当たるように突撃していくステルヴァーに気づいたヤシャは足を大きく上げた――。

 

「私と共に地獄へこい、この化け物め!」

 

振り落とされる足がステルヴァーに向けられて引力に従い落下した時、核弾頭バズーカのトリガーを引いた。

 

(アマンダ、ロイを頼むぞ――)

 

連続で発射された核弾頭全てが弧を描くように飛んでいくと同時に勢いのついたヤシャの足がステルヴァーへ振り下ろされて「グシャ」という無機質な音が聞こえた――その瞬間に核弾頭全てがヤシャに直撃したのだ。核特有の眩い閃光と共に真っ赤な半球状の爆発が起こり、そして衝撃波と熱線が四散した――。

「……あの正体不明化け物と共にジェイド少佐の反応、消滅……そんな……っ」

 

「少佐、見事だった………………」

 

「ジェイドよ、いやジョージ達含めお前達の功績はアメリカの歴史に永遠に刻まれるだろう。ゆっくり眠れ……」

 

核爆発で生じたキノコ雲の方向へベルクラスの艦橋から早乙女達三人は複雑な表情でありながらも敬意を払って敬礼していた。

 

「ジェイド……なんで、なんでお前まで……」

 

何とか難を逃れたアルヴァインとジョナサン機。ジョナサンはジョージはおろか、ジェイドまで失った悲しみにまるで子供のように顔を真っ赤にして泣きじゃくっていた。

 

「……お前のカミさんと子供に……なんて伝えればいいんだよお……」

 

 

一方で竜斗も顔中が涙と鼻水でグシャグシャでありながらもその眼には光を失ってはいなかったのだ。

 

(少佐の遺志を継いだ以上……俺は何があっても前へ歩かないといけないんだ……絶対に……)

 

そう心に決めていた――。

 



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第三十九話「アラスカでの決戦、後編」④

西側の敵部隊をほぼ全滅させたがそれには犠牲もあまりにも大きすぎた。生き残った人員はジェイド達の死に強烈な悲しみを受けていた。が、

 

「司令、北極方向よりこちらに接近中の多数の反応確認。これは……メカザウルスです!」

 

「こんな時に来たかっ」

 

三人は想定していた敵の増援部隊を知り緊張が走る。何故ならジェイドやジョージなど主力になりえる要の人員をほとんど失ってしまったためである。

 

「先にテキサス艦が到着するか、それとも敵増援が先か――」

 

「敵増援が先に到着した場合、今の戦力で持ち越えるのはもはや神業の域ですよ」

 

と、誰が考えてもこのままでは勝ち目がないのは分かっていたが早乙女は。

「それでも勝利を信じてやらねばならん。少佐達の犠牲を無駄にすることだけは絶対にするな!」

 

と、彼はまだ希望を捨てていなかった。その時、竜斗から通信が入る。

 

“ジョナサン大尉がもう戦える状態ではありません。収容と治療をお願いします!”

 

「了解だ。直ちに受け入れ準備だ。マリア、大尉を頼む」

 

「わ、わかりました!」

 

格納庫を上げて竜斗はジョナサン機を収容させ再び外に出ようとした。

その時、早乙女から敵増援があることを告げられる。

 

“もし増援が先に到着すれば我々に勝ち目は殆どなくなるかもしれんが竜斗はどう思う――?”

その問いに竜斗は迷わずこう答えた。

 

「何を言っているんですか!それでも僕達がやらねば……勝たなければ少佐達が浮かばれません、僕は最後の一人になろうと勝利を信じて戦います!」

 

力強くそう答えた竜斗に三人は驚きそして、全員に通信越しでこう伝える。

 

「少佐達を失ってた悲しみは僕も同じです。しかし、少佐達は勝利を信じ、最後の最後まで戦いました。なら僕達もそれに応えるべきです、まだ負けたわけではありません、少しの可能性がある限り戦いましょう!」

 

こんなまだ成人しておらず、そして若い今時の少年からは考えられない大義の演説はベルクラス、そして生き残った西側の全員に再び戦意を戻させるのには十分であった。

「……その通りだな、こんな時に弱気なら少佐達が安心して眠れねえぜっ」

 

「ああ、それに俺達は西側の敵は全滅させたんだ。

なら次は東側の敵を、そして敵増援がこようと何としてでもテキサス艦が来るまで持ちこたえるぞ!」

 

各員から戦意高揚の雄叫びが響き、そして全員が心を一つにしていく。

 

「皆さん、自らの命をなげうってくれた少佐達の犠牲を絶対に無駄にするワケには行きません。

勝利のために今こそ命を燃やす時です!」

 

「よくいった竜斗!我々も捨て身の覚悟で、そして全員心を入れ替えて決死の思いで行くぞ!」

 

「勝つ気がある限り必ず僕達人類に勝利の神が微笑みます、これより東の部隊の援護に向かいます、皆さん僕に続いて下さい!!」

 

 

《ウオオーーーー!!》

 

中心で希望に満ちた竜斗の力強いかけ声、そして左手に持つゲッタートマホークを天に突き刺すゲッターロボのその神々しい姿が起爆剤となり再び活性化を果たす全員。その光景にマリアとニールセンは驚いていた。

 

「竜斗君……本当にスゴいわ……」

 

「ああ……なんて爆発力と率先力を持つ子じゃ……」

 

そのまるでリーダー、いや指導者として立ち回る彼の様子を早乙女は微笑ましい表情で見守り、そして無事に生き残ったアレンの二人は、今の彼の姿に共通した考えを持っていた。それは、

 

(君はもしかすれば人類の救世主(メシア)として光へと導ける唯一無二の存在かもしれん――)

 

 

そしてまだ戦える機体は一丸となって全滅に瀕している東側の陣営へ援護しようと空を高速で駆けていった。

 

「みんな……みんな……突然現れた悪魔のせいで次々に死んでいく……っ」

 

ラセツの猛攻によって、辺りは大量の機体の残骸とオイル、そして人間の肉塊が一面に散開しており見るもおぞましい地獄のような状況にエミリアはもはや戦意喪失状態だ。

 

「しっかりしてよエミリア!みんなが決死で戦ってるのにあんたがそんなんじゃ失礼だよお!」

 

愛美が彼女を引っ張って勇敢と立ち向かうがラセツには全く攻撃が当たらず。

 

「くそお、この化け物め!」

 

ルネのジャンヌ・ダルクも戦乙女の形態になり地上で立ち向かっている。右手にレイピアのような細剣、左手にはアーチェリー状に変形させて接近戦に持ち込もうとしていた。

 

「はあっ!!」

 

アーチェリーからプラズマの帯びた矢を次々に連射していくがラセツは右手に持つ長剣で目にも見えぬ速さで振り回し、全て切り払った。

 

「私に攻撃を当てようなどと無駄なことだっ」

 

左手の一差し指で剣刃に星形の陣を描くと、紫色の邪悪なオーラを纏った。

 

「滅せよ!」

 

剣を高く振り上げるラセツはジャンヌ・ダルクへ向かって振り込もうとした時だった。

 

「!?」

 

背後からプラズマ弾、ミサイル、散弾、無数の弾丸が向かってくる。

彼はすぐさま攻撃を止めて振り向き、その俊敏さを生かして弾の霰をかいくぐる。

その視線の先にはテキサスマックとケツアルコアトルが各武装、火砲を向けている。

 

「くそ、なんてクレイジーなヤツだ!」

 

「兄さん、こうなったらあの化け物に全弾発射よっ!」

 

「オーケイ、味方機は射線軸上から退避しろ!!」

 

ラセツ一人に照準を合わせて、二機の武装を全て展開、開門した。

 

「ケツアルコアトルの弾薬がこれでラストだから、絶対に当たってよね!」

 

「行くぞメリー、フルファイアっっ!!」

 

展開した全武装のトリガーを引こうとした時、ラセツが突如目の前から姿を消し、彼の指が止まった。

 

「甘いわァ!」

 

二機の頭上に移動したラセツが剣を振り切り真空波を発生させてケツアルコアトルとテキサスマックの連結部を砲身ごと分断し、さらに左手で巨大な火球を作り出してケツアルコアトルにぶつけた。

 

「きゃああァっ!!」

 

「メリーっ!!!」

 

大破はしなかったものの機能停止して地上に墜落していくケツアルコアトル。

 

「兄さん、あたしは大丈夫だからそれよりもあいつを!」

 

テキサスマックはすかさず被っていたテンガロンハットを盾として左手に持ち、右手に専用のライアットガンを持ち構えてラセツと対峙する。

 

「吹き飛べ、この悪魔め!!」

 

ライアットガンから大量の小さな弾が前方広範囲にばらまかれるがラセツは左手を前に出して燃え上がる火の壁を発生、弾は溶けて燃え尽きる。

 

「ちいっ!」

 

実弾が効かないならばと、ライアットガンをポンチョにしまい、中から二丁のプラズマ・エネルギーライフルを取り出して直列に合体させた。

銃口から火を吹く、増幅された高出力で大きいプラズマ弾がラセツへ飛び出していくが軽々と避けられる。

 

「何でも同じことだ!」

 

「なっ!?」

 

急接近したラセツがすかさず剣でライフルのバレルを真っ二つにし、今度はテキサスマックへ殺気のこもった赤い螺旋上の瞳を向けた。

 

「終わりだ」

 

その時、地上から二つの大型ミサイル、そして無数の小型ミサイルが飛び交いながらラセツへ向かってくる。

 

「邪魔が次から次へと……っ!」

 

ラセツはすぐにそこから離れて逃げるように飛び回り、剣と超能力を使って撃ち落としていく。流石に苛立ちはじめた彼の視線を下に向けると、そこには愛美の乗るアズレイから各内蔵したミサイル管から煙が上がっている姿が。

 

「もう許さないんだから、そのオカマみたいな顔した悪魔はマナがボコボコにしてやる!」

 

「ほう、貴様は例のゲッター線を使う機体か。それなら相手にとって不足はない!」

 

目的の獲物を見つけたかのように目の色を変えて全力でアズレイへ突進してくるラセツ。

 

「我らが不倶戴天のゲッター線を使うヤツらめ、貴様らの首をジャテーゴ様の土産にしてくれる!」

 

「来るなら来なさい!みんなのカタキ、何としてでも倒してやるんだから!!」

 

一騎打ちになる二人。だがラセツはいきなり「はあっ!!」とけたたましい大声を上げると強烈な衝撃波を発生させてアズレイを後ろへ吹き飛ばした。

「やああああっ!!」

 

仰向けに倒れ込むアズレイは急いで起き上がろうとしたが、そこにはすでにラセツが目の前で剣を高く振り上げていた。

 

「そのコだけはやらせないよっ!」

 

突然、ジャンヌ・ダルクが横から滑り込むようにアズレイの前に大の字に立ち塞がったその時、ラセツの剣が縦一閃が振り込まれた――。

 

「ああ………………っ」

 

「アンタ達は……絶対に死んではいけない……アタシ達の分まで生きて……ね」

 

ジャンヌ・ダルクのが真っ二つに切れた瞬間に大爆発した。

「しょ、少尉ーーっ!!!」

 

戦意喪失し動けないエミリアを守るようについていたリーゲンの叫び声が響き渡る。

 

 

「うそ…………なんで…………っ」

 

愛美は絶句した。なんで自分のために、今まで嫌がっていた自分のために身を投げ出して死んだのか……そして、こんな突然現れた一人の人間相手に自分達SMBの部隊が何をしても全く通用せず、なすすべなく皆やられていくあまりにも信じられない強さに……彼女ですらもはやもう絶望を感じていた。

 

「なんで…………なんで……っ!」

 

ガクガクと震える身体、瞳から涙が溢れてボロボロと落ちていく。だが、無慈悲にもラセツの魔の手はすぐそこに迫っていたのであった。

 

「人間愛とはキレイでそして儚く悲しいものだ、だが心配するな。お前達もいずれ会える、地獄でなあ!!!」

再びラセツは剣を振り込み、今度こそはとアズレイにめがけていた。

 

「マナミ君!!」

 

グシャグシャに泣き続け、動こうとしない愛美にリーゲンは慌ててシヴァアレスを急発進、助けに駆けつけようとするがこれでは間に合いそうになかった。

 

「今度こそ終わりだ!」」

 

ラセツの剣がアズレイへ振り切……その時だった、

 

「水樹ィ!!!」

 

上空から竜斗の乗るアルヴァインがトマホークを振り込んでラセツめがけて向かってきていた。ラセツは慌ててそこから離れると同時にアルヴァインは勢いを殺して地上へ降り立った。

 

「大丈夫か水樹!!」

 

「い、イシカワ……っ」

 

「もう俺達が到着したから安心してっ、大丈夫だから」

 

安心させるよう優しくそして力強い口調に彼女はどれだけ救われたであろうか――。

そして西側が生き残った部隊も介入していく光景に東側は驚愕と、次第に歓喜の声を上げた。

 

「エミリアも大丈夫?」

 

「リュ……リュウト!!」

 

エミリアも彼が駆けつけたことに気づいて我に帰った。

 

「西側のメカザウルスはもう全滅させたから二人が心配で駆けつけたんだ。ベルクラスももうすぐ来るよ」

 

二人はそれを聞いて安堵につくが、竜斗は次に二人にとって思いもよらぬ事実を口出した。

「二人共よく聞いて、敵の増援がもうすぐアラスカに到着するらしい」

 

「え……ウソ…………っ」

 

「ど、どうするのよ、こっちの部隊はほとんどあの変なオカマ野郎にやられちゃったのよ!!」

 

その時、ちょうどシヴァアレスも二人の元に駆けつける。

 

「おお、竜斗君、よく無事で!」

 

「大尉もよくご無事で!」

 

「いやあ、あまり役立てなくてすまないと思っている。あと西側の部隊は大丈夫だったのか?」

 

「………………」

 

その事に竜斗は口ごもってしまう。

 

「そう言えば西側の部隊がやけに少なく感じるが……っ」

 

「……西側の部隊も突然現れた巨大な怪物にほとんどもう……」

 

……嫌な予感がよぎる愛美、エミリア、そしてリーゲン。

 

「ジョナサンは、ジョナサンは!!?」

 

「大尉は何とか助かってベルクラスに運んだ。けどジェイド少佐とジョージ少佐、そして大半の人達は……っ」

 

その事実に三人は言葉を失った。

 

「まさか……少佐達までやられたというのか……っ」

 

「……はい、残念ながら……」

 

初めて知った三人の心に雷が走るような衝撃とどうしようもない悲しみが。

 

「そ……そんなあ…………少佐達がもうこの世にいないなんて……っ」

一番心に深く傷ついていたのは何を隠そうエミリアである。愛美のようにすでに顔が真っ赤で涙と鼻水でボロボロであった。

 

「もうイヤだイヤだイヤだイヤだ!!なんでこんなに親しい人達ばかりいなくなるの!?アタシもうこんなのイヤだあ!!!」

 

と、悲痛の声で喚くように叫び訴えるエミリアに竜斗は、

 

「いい加減にしろよエミリアっ!!」

 

と、珍しく彼女に厳しく喝を入れる竜斗に全員は驚いた。

 

「そうやって泣き叫んだって少佐達が戻ってくると思うか?寧ろそんなんじゃ少佐達は安心していられないよ。

俺達の今すべきことは少佐達、いや戦死した人達の犠牲を無駄にしないためにも何としてでもこの戦いに勝つことだろう!」

「イシカワ…………っ」

 

「リュウト…………」

 

「俺はたとえ一人になろうと勝利を信じて戦い抜く。

だから皆も悔しい、悲しい思いをしているなら、少佐達の無念を晴らしたいと思うなら、今だけも涙をこらえて敵を討つんだ!」

 

彼からの希望に満ちた発言は二人に凄まじい衝撃とそして消えかけていた光が灯り出した。

 

「イシカワ……あんた一体どうしちゃったのよ。凄く気が強いじゃない?」

 

「うん……本当に別人になっちゃったよね、リュウトは」

 

「うむ、逆境に強い子だな、君はっ」

 

「え……それは……あれっ?」

 

照れ込む彼に、三人はようやく笑顔が戻ったのだ。

 

「二人とも、ゲッターロボの力を最大限に活かせば絶対に負けないよっ、俺が二人、いやもうみんなを死なせやしないからちゃんと気を持って!」

 

「石川にそんなことを言われちゃ、そうしなざる得ないわね。ゲッターチームのリーダーだものね」

 

「う……うん!ワタシも少佐達が安心して眠れるようまたガンバルよ!」

 

そしてついにゲッターチームが再び合流して、それぞれが各武装を構えて前に動き出した。

 

「俺達ゲッターチームが全員揃ったからにはもう好きにさせないからな。みんな、準備はいいか!」

 

「ええ、いつでもいいわよ!!」

 

「アタシ達の底力をあいつらに見せてやるんだから!!」

 

最後の最後まで諦めない、その一つの思いを希望にした三人の士気、そして気合いは最大に達した。

 



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第三十九話「アラスカでの決戦、後編」⑤

竜斗に続いて一斉に介入していく西側の部隊。同じく駆けつけたアーサーはすぐさまラセツへ一点突撃していく。

 

「ルネ……お前まで……っ」

 

常に無表情だったアレンでさえギリッと歯ぎしりを立てていた。

彼は元フランスの外人部隊出身であり、そこで一緒だった戦友ルネの死に激しい怒りを顕わにして攻撃を始めた。

 

「……キサマだけは絶対に許さん!」

 

アーサーは超高速機動からの斬撃を繰り出してラセツへ反撃の隙を与えない。

 

「ほう、なかなか骨のあるヤツだ。私を楽しませてくれるか?」

 

久々に手こずらわせる好敵手に、先ほどの苛立ちはどこへいったか胸を踊らせるラセツ。

両手から発振した二振りのプラズマの刃が休みなく空を斬る、まるで舞いをしているような高速の攻撃を繰り出す一方で、ラセツは敢えて向かい立ち、同じ俊敏さを駆使して余裕で回避していた。

 

「フハハハ、いいぞ!お前から籠もったその憎しみが私を存分に楽しませてくれるぞっ」

 

彼は笑っている。端から見れば完全に狂人と思われても仕方ないほどに高笑いしている。

 

「だがな――!」

 

アーサーが大振りしたその一瞬の隙にその右腕をラセツは剣を振りこみ、切り飛ばした。

 

「ちいっ!」

 

右手を失ったアーサーは抵抗して左のプラズマ刃を振り込むも易々と避けられて、続いて左腕を切り飛ばして、さらに下半身まで切断した。

「ぐあっ!」

 

脚部の主部スラスターがなくなり空を飛べなくなったアーサーは地上へ墜落して叩きつけられてもはや動けず。

 

「くぐ……っ」

 

叩きつけられた衝撃で意識が朦朧するアレンの視線の先には剣を振りかざしてこちらへ向かってくるラセツの姿が。

 

「こい、化け物…………私はこれで終わらんっ」

 

コンピューターキーの端についた赤いボタン。所謂自爆スイッチに指を置いてラセツが接近するのを待ち構えた。

 

「ルネ…………俺もお前の所に――!」

 

指に力が入りボタンを押そうとした瞬間、

 

「中尉っ!!」

 

その横からアルヴァインが左手のトマホークを全力で振り込み、ラセツはそこから素早く離れたが竜斗は休まず彼を追う。

 

「もう誰も死なせやしない、そしてもうお前らの好きにやらせないからな!」

 

「おのれえ、貴様らゲッター線は何から何まで私達の邪魔ばかりしおってぇ!!」

 

全て吹っ切れた竜斗とラセツの激しい攻防戦が繰り広げられる。

ビーム・ブーメラン全てを取り出して投擲、飛び交うブーメランで攪乱する竜斗。

 

「これでも食らえ!!」

 

アルヴァインは飛び交うブーメランのどれかに右肩のキャノン砲を向け、エネルギーの出力を上げてビームを発射。

 

ブーメランに直撃してリフレクタービームとして四方八方に拡散し、ビームの雨が周囲一帯に隙間なくほどに降り注がれた。

 

「くっ!」

 

流石のラセツもこれにはたまらず必死で避けて、逃げるように地上へ降りていく。

 

「行くぞ!」

 

「はいっ!!」

 

地上に降りた瞬間、左右から挟み込むようにルイナスとシヴァアレスがラセツへ突撃してくる。

 

「シーカー、シュートゥ!」

 

「ドイツ軍の力を思い知らせてやる!」

ルイナスからシーカー全機、シヴァアレスからミサイルポット、バルカンファランクスで弾幕を張りながら突進してくる。

ついにラセツもこの逃げ道の隙間もない飽和攻撃に焦りの表情が見え始めて空中へ逃げようとするが、そこにはアルヴァインがエリダヌスX―01から取り外したセプティミスαを持ち構えて狙撃態勢に入っていた。

 

「絶対にお前を逃がさないぞ!」

 

竜斗はラセツのみに一点集中でプラズマ弾、散弾で降り注ぐ。

そしてラセツの元に到着したルイナス、そして間合いを取りながら円を描くように二人を囲み廻るシヴァアレス。

それは完全にラセツがその場から脱出できないような状況を持ち込んだのだった。

 

「アタシは少佐達を、いや大切なみんなを死に追いやったアンタ達を絶対に許さないんだからあ!!!」

「絶対に逃がさん、覚悟しろ!」

 

「このお、私をなめるなああああっ!!!」

 

彼らの無念、恨みを込めて回転するドリルをラセツへ振り回すルイナスと回避に必死なラセツ。

 

「ミズキ、準備はいいっ?」

 

「いつでもいいよっ」

 

そこから数百メートル離れた、段差のある場所の下では寝撃ちの姿勢でエネルギーチャージ済みのエリダヌスX―01を構えるアズレイの姿が。

 

「ルネさんの……いややられたみんなのためにマナが絶対アンタをぶっとばす!」

 

ファーサイトシステムをフル活用して透視、サーチしてラセツ一人へ狙いを合わせる。

 

「消し飛んじゃえーー!」

 

 

照準が重なった瞬間、トリガーをぐっと押した時、独特の甲高い音が鳴り響いだ。

 

「!?」

 

瞬間移動のような速さで向かってくるエネルギーの弾丸にはラセツでも避けることはおろか、関知すらできずに見事直撃、その等身大の身体は一瞬で蒸発してついにこの世から消え去った――。

「俺達、ついにあの化け物を倒したんだ……っ」

 

「は、反応がもうなくなっているから……多分」

 

「や、やったあ!!」

 

ついに東側の部隊を全滅寸前に追い込んだ人気の姿をした悪魔、ラセツを撃破したことに全員は喜び合う。

 

「……なんだかかんだで生き残ってしまったか……しかしルネ、彼らがお前の仇をとってくれたからもう安心してくれ……っ」

 

「ヒュー、さすがはゲッターチームだ、ベリーナイスなコンビネーションだったネ!」

 

「ええっ!!」

 

そしてなんとか生き残ったアレン、ジャック、メリーも彼らへ賞賛を贈るのであった。

 

「や、ヤシャ様、ラセツ様とも反応が消えました……っ」

 

「お、おのれえええ、よくも私の可愛い二人をォ!!!」

 

だが、それはドラグーン・タートルでは絶望、そしてジャテーゴの怒りからの喚き声がこの中を無情に響かせた。

「もはやメカザウルスの数はほとんどなく艦を護衛につかせてもまるで意味も成しません。それでもこのままでは援軍を待ちますかっ?」

 

 

「援軍を待たずにドラグーン・タートルは直ちに発進。

南下して目の前にあるもの全てを破壊し、追ってくる者は艦砲射撃で全て撃ち落とせ!」

 

ついに地を這うように動き出したドラグーン・タートル。目の前にある木々や多少の障害物を体当たりで破壊し始めていった。

その様子をベルクラスから見事捉え、各員に通信を通して伝えた。

 

「各員聞いてくれ。暗号名タートルは南へ向かって移動し始めた」

 

その事実に全員は驚愕する。

 

 

「それにだ、敵艦の周りに大雪山戦役でも確認されたあのバリア発生装置らしきものが飛び交っているのを確認した。

そこで竜斗、水樹の二人は直ちにエリダヌスX―01を駆使してテキサス艦がこちらに到着する前にバリア発生装置を破壊してくれっ」

それを聞いて二人は通信モニター越しで互いに見つめ合った。

 

「行こう水樹!」

 

「ええっ、力を合わせて破壊するわよ石川!」

 

互いにやる気を感じ合い、二人はすぐさまタートルへそれぞれ空中、地上から接近を開始した。

 

「二人とも頑張ってえ!!」

 

エミリアからの応援を受けて、さらに気合いを入れる二人。

 

「タートルに接近する反応二つあり。共にゲッター線反応を確認!」

 

「破壊しろっ!」

 

 

マグマ砲、ミサイル管を一斉に展開し開門、全弾全てアルヴァインとアズレイに向けて撃ち尽くし、隙間のない弾頭のスコールが襲いかかる。

 

「水樹、避けろ!」

 

「言われなくても分かってるわよっ!」

 

彼ら二人の恐ろしいまでに卓越した操縦技術が今ここで爆発。

それに追従される機体の機動力が合わさった挙動はあまりにも凄まじくそれぞれ空中、地上をあたかも自分達が支配しているかの如く地形や位置を把握し、尚且つ一寸も狂わない操縦からのコンパクトで隙のない機敏さ、そして韋駄天とも想わせる凄まじい移動速度を駆使して弾の雨を全て余裕と言わんばかりにかいくぐる。その様子は敵味方それぞれに驚愕、そして恐怖と尊敬、歓喜を与えていた。

「全然攻撃が当たりません!」

 

「ぐぬう……、なんてヤツらだっ!」

 

ジャテーゴさえも彼らの実力を認めざるおえないくらいであった。

 

「あまりもう時間がないわ、行くわよイシカワァ!!」

 

「よし、攻撃開始だ!」

 

二機はすぐさま高速移動しながらエリダヌスX―01を構えてファーサイトシステムを発動。

 

「これがタートル……なんて巨大でこんなにキモいの……っ」

 

「水樹、今はそれよりもバリア装置の破壊が先決だよ!」

 

目の前に立ちはだかる、後ろが全く見えないほどに巨大な基地、ドラグーン・タートルの周りに飛び交っているバリア発生装置、リュイルス・オーヴェをサーチし、照準を合わせてトリガーを引いた。甲高い独特の発射音が響いた瞬間にサーチされたリュイルス・オーヴェが次々に爆発していく。

「リュイルス・オーヴェが次々に破壊されてます!」

 

「なんだとお!?」

 

「このままでは艦のバリアが消滅し、艦は完全な無防備状態になります」

 

苦汁を飲まされたような表情のジャテーゴ。

 

「もう少しだ、頑張れ水樹!」

 

「イシカワもねっ!」

 

もはやこの二人を止められるものはおらず、ついには最後のリュイルス・オーヴェさえも破壊されて艦を覆っていた光の膜は消え失せて解除されてしまう。

 

「やったあっ!」

 

 

「待ってイシカワ、後ろからメカザウルスの残りが!」

 

その時、二人の後方から残り少ない数のメカザウルス達が二人を食い止めようと不意打ちを仕掛けてくるが、

 

 

「邪魔させないわよ!」

 

「往生際が悪いぞ!」

 

「各機、この場にいる残りのメカザウルスを全て破壊しろ!」

 

同時にベルクラスを初めとするルイナスやシヴァアレス、そしてテキサスマック他の味方機達が次々に介入してヤツらの掃討を行っていく――。

 

 

「もう形勢は我々に傾いている。もう少しでテキサス艦が到着するが、敵増援も踏まえて最後まで油断するな!」

 

「ウオオーー!!!」と全員の雄叫びと共に彼らはもはや勝利すること以外は考えず、士気は頂点に達した。

 

(少佐、見てますか……僕達、なんとかいけそうですっ!)

 

竜斗はもう天国に着いているであろうジェイド達へ勝利が見えてきたという吉報を心から伝えようと、いや伝えたかった。

 

――度重なるかけがえのない人達の犠牲、そして劣勢の中で何度も絶望を味わい、勝ち目がないと諦めかけていた僕達だが、今やっとこの暗闇の中に光が差し込み、明るさが増す。

それはすなわち僕らが勝利として収め、アメリカ史上に残るであろうこの大決戦の終わるということの表しである。

誰もがもう少しの辛抱でこの戦いに終止符が打たれることを願い、僕達は最後の最後まで希望を持ち続けて戦い抜いたのだった――。

 



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第三十九話「アラスカでの決戦、後編」⑥

「ジャテーゴ様、ついに本隊からの敵増援が到着しました」

 

「おおっ、やっと来たかっ」

 

ついに北極方向から数千という数のメカザウルスが到着して彼らタートルのクルーに少しばかりの安心が芽生えた。だがそれと同時にモニターに新たな反応が写り込むのもすぐだった。

 

「ジャテーゴ様、南東方向五キロ、左舷より巨大な熱源反応確認……これは……っ」

 

すぐさまモニターを切り替えて映したそれは自分達がこれまで見たことのない、巨大でしかも浮遊してこちらに近づいてくる戦艦の姿だった。

 

「て、敵艦です!!」

 

「なんだと、今までどうして気づかなかったんだ!」

「レーダーの反応はありませんでしたので恐らくジャマーが発振されていたのだと――」

 

彼らに焦りと緊迫が走る一方で、満を期して最後の舞台に躍り出たテキサス艦では、

 

「時は満ち足りか――」

 

「諸君。これよりテキサス級空陸両用攻撃戦艦は今作戦の最終段階に入る。

もう一度言うが、今作戦はこの戦争においての山場であり、我々人類の勝利を勝ち取る起点となることを私は信じている。

諸君はここまでよく貢献し、働いてくれたことに心より感謝している。

我々は今、アメリカの歴史に名を刻もうとしている、そして最後に人類の生存、そして平和のためであると最後まで願う。諸君らの健闘を祈る!!」

 

テキサスがついにタートルの前に姿を表し対面する。互いの存亡、誇り、信念をかけたアラスカでの戦いのトリである最後の一騎打ちが始まろとしていた。

 

「リンク司令、タートルの遙か後方からメカザウルスの大軍団がっ!」

 

「グラストラ核対艦ミサイル発射管全て開門、全弾発射スタンバイ。そして近くの味方機全員に退避命令――」

 

味方機全員へ核攻撃の退避をするよう命令し、一斉に離れる各機。

 

「味方機全機、安全圏に退避完了」

 

「撃てっ!」

 

テキサス艦の左右弦上板部の発射管から計二十発の核ミサイルがうなりを上げて噴き出し勢いよく遥か前方に飛び伸びていく。

「前方より飛来物が、大型ミサイル群です!」

 

「なに!」

 

増援部隊が気づいた時にはすでに遅し、二十発の核弾頭が到達して爆発。この世の終わりと思わせるような強烈な閃光と共に強烈な爆焔と衝撃波、そして熱線が幾千というメカザウルスの大群もろとも呑み込み、ついにはアラスカ全土に広がろうとしていた――。

 

「増援と思われるメカザウルスの大群は全て消滅。あとはタートルのみです!」

 

テキサスは突如降下を始め、タートル一点目掛けて進撃していく。

 

「これより本艦はタートルへ突撃する。バスターカノン砲を直ちに展開、発射用意!」

 

艦中央上部内から折り畳まれるように格納された超ド級の大砲がタートルへ向けて真っ直ぐ水平展開し固定、発射態勢に入る。

 

「敵艦がタートルへ急接近、突っ込む気です!」

 

「こちらも応戦して撃沈させよ、絶対に近づけさせるな!!」

 

タートルも各マグマ砲、機関砲、ミサイル発射管全てを開門して迎撃態勢に入り、生き残った敵味方の誰もがこの勝負の行方を追っている。

 

「やはりこの手だったか……っ」

 

「……リンクめ、死ぬ気かっ!」

 

「ということはキング博士も……」

 

「…………」

 

……ついに互いの距離が迫り、この戦線のフィナーレを飾る、雌雄を決する最後の戦艦同士の一騎うちが今始まった。

 

「バスターカノン砲、撃てえ!」

中央部の巨大な砲内から膨大に増幅された複合エネルギーの塊が真っ直ぐ突き抜けてドラグーン・タートルの艦首部側面を撃ち抜き、貫通していき遥か先の山岳地に直撃し大穴を開けて貫通した。

だが同時にタートルから大量のマグマ砲、ミサイルが雨のようにテキサス艦へ降り注がれて装甲が次々に破壊されて内部にいた人員が巻き添えをくらい、そして消し飛んでいく。

 

「右舷上部各ミサイル発射管、左舷中部空対空機関砲、第九、十三、二十エンジンルーム、艦後部空冷装置大破!」

 

ガタガタに揺れるブリッジではタートルからの艦砲攻撃の雨の中でも目を背けない。

 

「吶喊用エネルギーシールドを展開して構わず前進、主砲だけは絶対に当たらせるな!」

艦首部から覆う、鋲状のエネルギーの膜が発生して一歩も退かずに一点集中で突撃していき、まだ生きてる艦砲全てで応戦する。

 

「敵艦の勢いが止まりません、このままでは激突します!!」

 

「ぐぬう!!」

 

艦砲射撃同士の激しい戦闘を離れた場所から見ている誰も彼もがその総勢な光景、そしてテキサス艦が行おうとする攻撃に唖然となった。

 

「た、体当たりする気だ!」

 

「リンク司令!!!」

 

当然、竜斗達もその光景に瞳を震わせてただ呆然と見ているだけであった――。

 

「うおおーー!!」

 

「アメリカ、そしてヒューマンズビクタァァァァア!!」

 

 

 

さらにスピードを上げてタートルへ迫るテキサス艦、果たして勝負の行方は――。

 

「ああっ!!ついに……っ」

 

「突っ込んだ……っ」

 

「ドゴオっ」とけたたましい轟音が響いた。エネルギーシールドを張ったテキサス艦の艦首がついにタートルの左舷中央部を捉えて装甲を突き破りどちらも行動が止まった……だがその凄まじい衝撃は各艦の乗組員のほとんどを吹き飛ばし、壁や地面に叩きつけられて潰れて辺り一面は血まみれと化している場所ばかりだ。

 

「くっ、サルどもめ……こんな手を使いおって……」

 

大破したタートルのブリッジ、ほとんどの者が圧死されているこのおぞましい状況で何とか無事だったジャテーゴはゆっくり立ち上がるとそこに同じく無事であった部下がすぐに駆けつけた。

「ジャテーゴ様、ここはもう危険です。直ちに退艦を!」

 

「無論、そのつもりだ」

 

ジャテーゴは最後まで尽くして死んだ者達に何の祈りすらかけもせずに、そこから堂々と、颯爽と後にしていった。

 

「リンク司令!」

 

テキサス艦のブリッジもタートル同様に一面は血の池のような状況であり、同じく頭から血を流すも無事であったリンクは部下に起こされた。

 

「わ、私は大丈夫だがキング博士は!」

 

彼は立ち上がり、ふらふらしながら辺りを探すと倒れ込むキングを発見した。

 

「博士、博士!!」

 

「う……まだしぶとく生きてるわい……」

なんと奇跡的に外傷はあまりなく無事であった。

 

「直ちに無事の人員と共に退艦願います!」

 

「い、いやじゃ……ワシはここで死ぬつもりだ……余計なことをするなっ」

 

「…………!!」

 

リンクは切羽詰まった顔で無事の者に高らかに伝えた。

 

「これよりテキサス艦は主砲でタートルに最後の攻撃を与える。生きている全ての者は直ちに退艦せよ、ケガ人も保護することも忘れるなあ!」

 

無事な者はケガ人を背負い、それぞれが脱出経路へ駆け出していく中、リンクはキングをすぐに持ち上げて逃げようとする人に明け渡した。

 

「リンク……キサマァ!!」

「博士、何度も言いますが、あなたがここで死ぬなんて誰も願ってませんからっ」

 

怒るキングにギリッと歯ぎしりを立てるリンクは今までに見たことほどに怖い表情だったが、すぐに平常心を取り戻して振り切る。

 

「……すまん、博士をよろしく頼むぞ」

 

「はいっ!」

 

「リンク――――!!!」

 

一緒に運ばれていくキングを見送ると彼は通信機に行き、ベルクラスへ通信をかける。

 

「聞こえますかサオトメ一佐!」

 

“はい聞こえます。そ、そちらは大丈夫ですか!!?”

 

「私は大丈夫だ。これよりテキサス艦は最後の攻撃を行う、ベルクラスや生き残った各機を使って脱出する乗組員達を直ちに迎えにきてやってくれ!」

“了解、しかしあなたはっ?”

 

「…………」

 

“司令、まさか……っ”

 

リンクは微笑み、早乙女へビシッと敬礼した。

 

「……サオトメ一佐、ニールセン博士、そしてキング博士の三人は間違いなくこれから必要となる人間だ。私はあなた方三人、そしてゲッターチームに希望を全て託します――」

 

通信が切ると副官などのクルー達が彼の元に駆けつける。

 

「司令、バスターカノン砲のエネルギーチャージ完了しました」

 

「ありがとう。君たちも退艦してくれ。ベルクラス、各機が迎えに来てくれる」

 

「いえ、私達は艦もろとも運命を共にするつもりです!」

 

 

「ばかな、命を無駄にするんじゃない」

 

 

 

「しかし……」

 

「時間をやる、直ちに退避しろ!!私からの絶対命令だあ!!」

 

怒鳴りつけるような命令が響き渡り、彼らは断腸の思いでそれに承諾し、敬礼する。

 

「頼りない自分をここまで支えてくれた皆に心から感謝し礼を言う、本当にありがとう」

 

と、彼も笑顔で敬礼で返した。

そしてクルー達は去っていき一人遺されたリンクはゆっくりと主砲発射用ボタンの前に立ち、深呼吸して待機する。

 

「もう少しで、全てが終わる――」

 

外ではベルクラスと各機が迅速とテキサス艦に赴き、艦から逃げ出てきた各乗組員の保護に必死だった。

「う、うう…………ウエっ……っ」

 

その異常な緊迫感と焦り、そして乗組員に混じった見るも背けるような怪我をした人達の姿にエミリアはついに耐えきれず、えずき出してついにその場でヘルメットをつけたまま「ゲエッ」と嘔吐してしまう。

 

「エミリア!?」

 

「アンタ大丈夫!?」

 

二人は彼女の異変に心配になり顔を覗かせると彼女は咳き込みながら嗚咽していた。

 

「……今こんな、失礼なことをしたらダメだってわかってる……覚悟だってちゃんと決めてた……けど、けど……!」

 

彼女に心身とも限界がきていることを知る。誰もが心情を理解し、誰も彼女を責める者はなかった。

 

「もう、大丈夫だから……アタシ最後まで諦めずに、弱音吐かずにちゃんと頑張るから……もう気にしないで早くこの人達を助けよっ」

 

「エミリア……っ」

 

彼女も汚れたヘルメットを脱ぎ捨て、口を拭い払い最後の力を振り絞って逃げ惑う乗組員達の保護に尽くした。

ベルクラスへ怪我人と年配の者を最優先で限界まで収容し、残りは各機に詰め込み全員の保護は完了した。

 

「よし、直ちにここから退避しろ。テキサスがタートルにトドメを刺す、巻き添えを受けないように出来るだけ遠くに行くんだ!」

 

一目散に離れていくベルクラスと各機をブリッジのモニターから見届けたリンクは安らかな笑みを放つ。

 

(ここでそれぞれの信念を持ち死んでいった敵味方含めた者達よ、私はお前たちが無事安らかに眠れるように最期まで祈ってやるからな)

 

もはや彼はまるで聖人と化しており、死んでいった仲間や果てには敵側の人間にも慈悲の祈りをかけて、主砲発射へのカウントダウンが始まった。

 

「……一〇、九、八、七、六、五、四、三、ニ、一」

 

彼は全力を持って発射ボタンを力強く押し込む。

 

(終わりだ!)

 

砲口がカッと光った瞬間、タートル、そしてテキサスの内部から大爆発が起こり、各施設、そして逃げ遅れた者、リンク、いやこのアラスカの戦いで渦巻く全ての負を丸ごと、その閃光へと中に包まれ消えていき、それがアラスカ全土を揺るがすほどに激震させたのだ。

その最中、何機かの飛行型メカザウルスが間一髪タートルから飛び出して北極方向へ飛び去っていくのが見えた――。

 

「やっと、全てが……終わったんだ……っ」

 

「ああ……っ、俺達人間の勝利でな……」

 

「アラスカはな。だがまだ……」

 

まるでこの地を照らす太陽のように輝きながら爆発する、このアラスカでの激戦の終わりを告げる巨大な花火をあげる二隻へ、遠く離れた場所で生き残った者がそれぞれ様々な思いを込めながら眺めていた。

 

「キング……」

 

「………………」

 

ベルクラスの艦橋にてニールセンとキングの二人が対面する。

しかし、どちらも無事を祝うどころか複雑な表情をしている。

 

「お主、最近なにがあった?」

 

ニールセンの質問に答えようとしないキングについに腹を立てた彼は右手を握り締めて顔面に叩き込んだ。

 

「博士!」

 

側にいた早乙女は息を切らしながら再び胸ぐらをつかみ殴ろうとする彼の引き止めに入る。

 

「キサマァ、ワシの質問に答えられんほどにボケたのかあ!?」

 

すると鼻血を出したままうずくまるキングは嗚咽していた。

 

「ただの……ワシがお前に対する劣等感から生み出た嫉妬じゃよ……っ」

 

「なに…………?」

彼の本音を聞き真実を知ると、ニールセンは身震いし、再び彼に掴みかかった。

 

「殴りたいならもっと殴ればいい、それで死ねればどれだけ嬉しいか!ワシは本来はテキサス艦で命を散らすはずだった、生きる気をなくしたただのジジイじゃ!」

 

しかしキングは全く殴ることなく、そのまま彼から手を離した。

 

「どうした、怖じ気づいたのか!」

 

「いや……お前がそこまで思い詰めていたと思ったら、やりきれなくなった……」

 

「…………」

 

「だがワシだって、ワシだって、ここまで来るのにどれほど苦労したか……っ」

 

へたり込むニールセンはその場でこれまでの過去を追憶して話す。

「……確かにワシは世紀の天才だと周りから言われた。

だがそれは表向きの話で裏ではワシに対して嫉妬深い奴らから嫌がらせ、妨害を幾度なく受け続けて最悪命さえ奪われかねんテロ行為まで色々あったが、ワシは公表せず全て闇に葬った。

何故ならそいつらの気持ちを理解出来ていたからワシにはどうすることも出来んかった」

 

今まで聞いたことのない事実を彼から聞かされて驚愕を受ける。

 

「天才とは確かにいい思いをすることが沢山あるが、同時に他人から憎まれたりする恨まれたりする罪深き呪われた人間、ワシもよく普通の人間に生まれたかったと、そしてそれによって世界を滅ぼしたいとどれだけ思ったことか。

 

その一つにワシには誰一人友達なぞおらず常に孤独を味わっていた、特別扱いされて気味悪がれて理解されず……誰もワシに近寄ろうとしなかった。キング、お前が現れるまではなっ」

 

同じ思いを受けてきた早乙女は「やはり自分は博士の血筋を持つ人間、これも運命か」と再認識した。

 

「わしがここまでこれたのはキング、お前のおかげだと思っていた、お前だけがわしを対等に見てくれ、好意的に接してくれたお前と出会わなければ間違いなくこんな呪われた人生に失望して自殺、もしく壊れたかもしれん。

ワシは……ワシは……お前だけは唯一無二の親友だと思っていた……なのにお前まで……このバカヤロウ……!」

「ニールセン……」

 

唯一の友だと思っていたキングにまで裏切られたようなその悲しみに打ちひしがれニールセンもがその場で声を上げて泣き出してしまった。

 

「すまんかった……お前がこんなワシを親友だと思っていたなんて……お前の気持ちを全く理解出来なくてすまんかった。

思えばワシも、何だかんだお前とコーヒー飲みながら色々雑談や研究について話し合ったり、酒飲みながら宴会したりと、一緒でワイワイ楽しくやっていたのが一番人生で充実していたと思う。

ワシはそんなお前の気持ちを裏切ったからには相応の報いを受けるべきじゃな」

 

彼は立ち上がり、服を手で払いたたき上げたその顔には先ほどまでの死人のような顔ではなく若返ったような精気のに溢れた男の顔である。

 

「ワシは宣言する、命が続く限り生きてニールセンと共に研究に全てを費やす。でなければ、せっかくわしを生かしてくれたリンクに申し訳が立たんからな」

 

再び生きる希望を持ちえたキングはニールセンに手を差し伸べた。

 

「こんなワシだがこれからもまた一緒に付き合ってくれよっ、我が友よ」

 

「キング……ああっ!」

 

和解する二人に早乙女は安心して、夜明けの光が挿し始めた広大なアラスカの地をモニターからずっと見つめた――。

 

(リンク司令、あなたが私達に託した希望は……絶対に消させはしませんからどうか安らかに……)

 

彼はリンク、いやアラスカの地から生きて帰れなかった者達へ祈るのであった――。

 

 

 

――ついに終わったアラスカ戦線。事実上、僕ら地上人類の勝利であるがジェイド少佐、ジョージ少佐、そしてルネ少尉など……その他多大な犠牲を払った戦いであり、僕ら含めて生き残った者の心に深い傷を負わせた。

……いつになったら戦争が、この戦火渦巻く混沌とした世界に光りが差し込むのか……僕達は果てしなく遠い明日へ、未だに見えない闇の向こうに息を切らして走っていたのだった――。

 

 

「ジャテーゴ様、マシーン・ランドへ到着しました」

 

部下と共に命からがら北極圏の帝国に生きて帰ったジャテーゴはメカザウルスから降りるとそこにゴールの側近が駆けつける。

 

「ジャテーゴ様、よくご無事で。ゴール様がすぐさま顔を出すようとのこと」

 

「わかった。今から向かう」

 

彼女はこんな状況にも関わらず急ぐことなく堂々と歩いていく。そして王の間に入るとすでにゴールが玉座に座り、待ち構えていた。

 

「ジャテーゴよ、よく無事に戻ってきたな」

 

「兄上……」

 

久々の兄妹の対面であるにも関わらず、気を張り詰めたような表情の二人であった。

 

「申し訳ありません、私の不甲斐なさから第三恐竜大隊を壊滅に追いやったことは誠に遺憾であります」

 

と、素直に謝るジャテーゴにゴールはため息をつく。

 

「罰を下すなら何なりと――」

 

「いや、ワシは最後まで必死に戦った妹のお前の健闘を讃えて何の罪も問わん。それよりもジャテーゴ、いや恐竜帝国全域に伝えることがある」

「はっ、それは何でしょうか?」

 

ゴールはゆっくり立ち上がり、息を深く吸ってこう告げた。

 

「これまでに検討した結果、我ら恐竜帝国は地上人類と停戦協定、そして和平を結ぼうと思う!」

 

その宣言は周りの人間に驚愕を与え狼狽、どよめつかせた。

 

「ただでさえ少ない爬虫人類にこれ以上戦火を広げて犠牲を出すことは出来ない。そして多数の民に調査した所、もう戦争を拡大させたくない、彼ら地上人類と仲良くしたいと答えた者が結構いることが分かったのでそれを検討した結果だ。

それ以外の者も受け入れられない、混乱する者も多数だと思うが分かってほしい。

これより帝国全域、各地に点在している各中隊、大隊、そして向こうの首脳陣にどうにかして伝達し、その準備に入る。そこでジャテーゴはどう思う?」

 

 

待ってましたと言わんばかりにジャテーゴも迷うことなく頷いた。

 

「私も兄上と同じくこれ以上の同報の死に深く傷つき、特に今戦闘にて戦争の愚かさ、儚さを知り、正直疲れました。

私にそれを全面的に担当させてくれれば全力と知恵を持って協定のために尽力致そうと思います」

 

見えすぎた嘘ばかりのたまわるジャテーゴだったがゴールはジャテーゴの真意を見抜けず感心して相づちを打った。

「よくぞいってくれた。ジャテーゴ、お前なら要領よく、そして上手くいくと信じておる、それらの権限はお前に託すぞ」

 

「は、有り難き幸せ!」

 

「頼むぞ、ジャテーゴ!」

 

頭を下げて背を向けて去るジャテーゴの顔からはドス黒いほどに卑しい笑みを浮かべていることにゴールは分かるハズもなかった――。

 



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第三十九話「アラスカでの決戦、後編」⑦


アラスカでの戦いから数日後――。

テキサス基地に戻った生き残りの者達でこの戦いで殉職した隊員達のささやかだが葬式を行った。

竜斗達も喪服を着替えて参列し、遺体もなく、ただ写真の入った額と手向けの花、彼らが残していった物品が並べられている台を見てもの悲しくなった。

 

「少佐…………っ」

 

エミリアは慕っていたジョージの死に深く悲しみ、泣き崩れることが多く、そんな彼女を竜斗、愛美が支えるのがほとんどだ。

 

「ジョナサン開けてよお!マナよっ!」

 

三人トリオで唯一生き残ったジョナサンは、怪我人と共に軍病院に運ばれた。

当然竜斗達、特に愛美は一番早く面会に行ったが「今は一人にさせてほしい」との一点張りであり、愛美、家族ですら彼の深く傷ついた心に溜まった悲しみに入り込められず泣く泣く引き下がるしかなかった。

 

 

「アマンダさん……」

 

「竜斗君……」

 

そして、竜斗はというと基地にてジェイドの妻アマンダと息子のロイと面会し、彼の勇敢な死に様を全て伝えた。

 

「ママ、パパ……パパは……」

 

と、自分の父親の死がまだ理解できてないロイの言葉は二人の心に深い重りを落とす。

 

「リュウト……リュウトっ」

 

彼の足にしがみついてきたロイに頭を優しく撫でてそして抱いてあげるのであった。

 

(ロイ君ごめんね……君のパパを守ってやることは出来なかった……僕が不甲斐なかったばかりに……)

 

表情が一気に暗くなっていく竜斗にアマンダは。

「竜斗君、これを……」

 

彼女から何やら便箋とブラック・インパルス隊を表す、翼を大きく広げた黒ワシのエンブレムキルトを渡される。

 

「これは……」

 

「戦いの前日夜、夫から渡された物です。自分にもしものことがあったら竜斗君にこれらを渡してくれと伝えられました」

 

「少佐が……?」

 

便箋を開けて中から出てきた手紙を開くと英語で書かれた文章と汚くも「竜斗君へ」と日本語で記されている。

もはや英語を理解できている竜斗はゆっくりとその文章を目読していく。

 

『竜斗君、君がこの手紙を読んでいるということは私はもうすでにこの世にいないということだろうが、戦死者の家族は国が保障してくれるのでアマンダとロイについては心配しなくていい――』

即興、速筆で書いたのかあまり綺麗な字とは言えないが彼は読んでいくにつれて目頭を熱くし、瞳を震わせている。

 

『――君は私の想像を超えるほどに成長し、そしてもう私に頼らなくてもきっと君なら解決していけるだろう、私はそう確信した――君には将来の夢がないと言ったが、何でもいいから何かしら夢を持つべきだ。

こんな暗い世の中だからこそ人は夢と希望を持って生きなければならないし、そしてこれからの人類の未来を担っていくのは君達若人だ、だから君も大志を抱いて大空へ羽ばたいていけ、私が最期まで願っていた夢のように――』

 

最後まで読み切った竜斗の目から涙が滝のように流れて、その場で声を上げて泣き崩れたのだった。

 

「少佐……少佐……っ」

 

すると今度はロイが竜斗を慰めようと頭を優しく撫でるその姿にアマンダもついに涙を流していた。

「……ありがとうロイ君。君も、お父さんのような素晴らしい人間に絶対になるんだよ……っ」

 

ジェイドの残した言葉を深く噛み締める竜斗はとある決意を心に決めた――。

 

「アラスカ戦線での功績が讃えられて私達に免罪が降りた、日本に帰れるぞ」

 

「本当ですか!」

 

「やったあ!」

 

「やっと帰れるんだっ!」

 

それから一週間後、早乙女からついに自分達の母国に帰れる事実を告げられて喜ぶ三人。

 

「出発は明日の午後。それまでに荷物整理と基地の人達に別れの挨拶をしておけ。

あと今から外出して朝霞駐屯地のみんなにお土産を買いにいくか?」

 

「はいっ!」

 

この日はアメリカにいられる最後の日として三人は休息も踏まえて心おきなく楽しんだ竜斗達だった。

そして次の日の午後、ついに帰国することになる竜斗達に沢山の基地の人達とお世話になった方々が見送りにきていた。

 

「テキサス基地は新しい所長が入ってくることになったのでご安心を。

そして私達は、殉職なされたリンク前所長達の遺志をついで各連合軍も引き続きこちらで頑張っていきますので日本を頼みますぞ」

「エミリア、そしてミズキ、日本に帰ってもお元気でね」

 

「竜斗、またアメリカに来ることがあったら絶対遊びに来いよな、日本からのお土産期待してるぜっ!」

 

一番よく頑張った三人へ全員から讃えられ、健闘と祝福を浴びて照れて、別れに惜しみ泣き、そして笑顔で、短い間だったが共に行動し闘った彼らとワイワイ絡み、挨拶を交わした。

 

「エミリア君達にまた会える日を楽しみにしているよ、日本に帰っても達者でな」

 

「大尉、あなたには本当にお世話になりました、お元気でっ」

 

エミリアとリーゲンは握手を固く結び、より友好、さらにこれからの健闘と幸運を祈りあった。

 

「石川三曹、また共同する時があればよろしく頼む。帰国後も元気でな」

 

「こちらこそアレン中尉、あなたもお元気でっ」

 

珍しく笑顔を見せるアレンと握手する竜斗は互いの健闘とこれからの幸運を祈り挨拶した。

 

「それから女性陣の君達、ルネの仇を取ってくれて心から感謝している、本当にありがとう」

 

エミリア、そして愛美は彼の謝礼に優しく微笑み返した。

 

 

「これであの人も安心できるといいですねっ」

 

「ああっ、きっとあいつも喜んでいるよ――」

 

――そしてついに彼らに帰国の時間が経つ。

 

「それではもう行こうか」

 

「はいっ。三人共、日本へ帰るわよ」

 

 

「「「はいっ」」」

 

ベルクラスに乗り込み、発進し遥か空に浮上していく。そして下からは見えなくなるまで沢山の人達が手を振り、拍手する姿が見えた。

 

「やっと日本に帰るのか……駐屯地の人達は元気かなあ……」

 

「早く会いたいよね、今の内に日本語に慣れとかなきゃ」

「そっか、今まで英語だらけでマナ達も合わせてたからね」

 

三人は休憩所の窓から遥か先にある母国、日本に思いを馳せていた。

 

「……そういえばミズキ、ジョナサン大尉とはどうだったの?」

 

愛美は落ち込まず、前向きな明るい顔でこう言う。

「昨日、「明日、日本に帰るの」って伝えたら会ってくれたけどジョナサンは「ジェイド、ジョージ達の戦死したショックで酷く落ち込んだ俺の姿をマナミに見せたくなかったし、しばらくの間は立ち直れないと思うけど、必ず心身ともに元気を取り戻して、絶対にマナミに会いにまた日本にいく」って言ったから……マナ、アイツを待つことにした」

 

「ミズキ……」

 

「そりゃあ大切な友達を失ったら誰でもああなるよ、マナだって同じ思いを味わったんだから分かる、だから――」

 

目頭を熱くさせている愛美を暖かく見るエミリアだった――。

 

「それはそうとエミリアはもう大丈夫なの?」

 

「うん。いっぱい泣きはらしたし、それに泣いてばかりじゃ少佐達は安心してられないからね、だから大丈夫だよ」

 

「俺達が少佐達の後を継いで頑張っていかないとなっ。大尉も絶対にまたいつもの明るい調子に戻ってくれるよ、信じよう」

 

「うん。さて、日本に帰ったらどうしようかなあ――」

 

「まずコーヒーが飲みたいのう」

 

「いや、日本なら緑茶じゃろうて」

 

「そうですね……あれっ?」

 

三人は何か違和感を感じ、横を見るとニールセンとキングが横並びに立っていたことに驚き上がった。

 

「博士達、まさか来ちゃったんですか……?」

 

 

「なんでおじいちゃん達がベルクラスに?」

 

「ホハハ、サオトメからの頼みを引き受けたんだよ、なあキング」

 

「ああっ、しばらく日本に滞在するつもりだから、向こうに無知なアメリカ人の年寄りをよろしくな、三人よ」

 

と、笑いながらそう答えるニールセンとキングに沈黙する三人は駐屯地内でやかましく、そして賑やかになりそうだ、とそう思っていた。

 

「しかし司令の頼みとは?」

 

「それはな――」

 

その時、何故か艦内に警報が鳴り響く。こんな時に敵が攻めてきたのかと焦る竜斗達。

そしてブリッジでは、何かの反応がこちらへ接近してくるのを確認した早乙女とマリアはすぐにモニターを確認した。が、

 

“ヘイ、ゲッターチーム!ユー達がアメリカの領空圏を出るまで見送りに来たネ!”

 

その反応とはテキサスマック、ジャックとメリーだったことに二人は安心に浸った。

 

「君達……なぜ?」

 

“見送りもありますが、そこに父も乗っていませんか?”

 

「ああ、キング博士か。乗っているよ、呼んでこよう」

 

と思ったちょうどその時に三人とニールセンとキングがブリッジに入ってきた。

 

「すまない全員、急接近してくる物体が現れたので確認したらジャック君とメリー君だった」

 

竜斗達はその場でずっこけるも一安心する。そしてキングはモニターに映る二人を見つめる。

“オヤジ、しばらく日本観光を楽しんできな。俺達は心配しなくてもちゃんとやっていくから”

 

“ええっ、また会える日を楽しみにしてるわっ”

 

キングは彼らに「ケッ」と軽く舌打ちした。

 

「お前らはまあた、旅という名で遊びほうけるつもりか?」

 

“いや、俺らはしばらく軍の間で働くことになった、向こうも先の戦闘で人員不足だしな”

 

“今まで自由きままにしてきた分、精一杯働くつもりだから心配しないで。それよりも父さんこそのんびりしてきなよ”

 

「…………」

 

ついに働くという宣言を告げる二人にキングは、

 

「……お前達、また会える日を楽しみにしてるぞい、元気でなっ」

とキングも安心して彼らへしばしの別れの挨拶を交わした。

 

“グッドラック、ゲッターチームっ!”

 

“それじゃあ、シーユーアゲイン♪”

 

アメリカの領空圏を出たベルクラスを見送り、テキサスマックは本土へ引き返していった。

 

「また、彼らに会えるといいですね」

 

「ああっ――」

 

大海原に飛び出したベルクラス、全員が希望を抱いて遥か先の日本へ突き進んでいった。

 

――僕達はつかの間の休息を感じていた。

生まれ故郷である日本に帰った僕達に待ち受けているのは誰もが、いや世界が震撼するような出来事が起こることに今、誰もが知るよしはなかった――。

 




アラスカ戦線編は今回で終わり、次からついに後半部の新編に入ります。


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設定集(ゲッターロボ編②)

アラスカ戦線編が終了したので前と同じく今編に登場した各機の説明に入ります。
ちなみにゲッターロボについては、設定上は存在するも本編には出なかった形態がありますのでついでに紹介します。


●ゲッターロボSC『アルヴァイン』

全高:23.5m

機体重量:85t

総重量:110t

型式番号:SMB―GR01SC

分類:空戦型ゲッターロボ改重装型

出力:210万馬力(竜斗搭乗時は85万馬力)

装甲材:リクシーバ・チタン合金

動力:ゲッター炉心、改良型プラズマ反応炉によるハイブリッド駆動エンジン(後に複合エネルギー駆動へ改造される)

移動兵装:ゲッターウイング改

他兵装:セプティミスα、シェルバックラー、ハンディ・プラズマキャノン、ビーム・ブーメラン

 

大雪山戦役で中破した空戦型ゲッターロボをニールセンと、主にキングによって大改修された機体で両肩部がセプティミスαの弾薬ラックとして六角形の筒状になり、前機と比べて全体的にマッシブな体躯となり前機より重装備となったがプラズマソードやプラズマ・エネルギーライフル、バズーカなどのプラズマ兵装はプラズマ炉との規格が異なり使用不可となった(作中は使わなかったがミサイルランチャーなどの一部のBEET兵装は引き続き使用可能である)。

 

各武装も竜斗の戦闘スタイルに合うように施され、パーツを殆ど変えられているため実質は新型機も同然であり、さらに二人がほとんど好き勝手に改造したため前機とは思えないぐらい各性能が底上げされ、三機の中でスペックが一番高い。

 

初戦闘では竜斗が乗っていても凄まじい出力を出していたが、竜斗がゲッター線に適応しないという理由で次第に弱体化し(とはいうものの愛美やエミリアが乗れば本調子に戻るが)、彼では力が引き出せなくなったため、後に新しい動力システムである二種のエネルギーの共鳴反応による複合エネルギー機関方式となる。

キングの開発したテキサスマックとほとんど同じ技術を使われており、ある意味兄弟機とも言える。

アルヴァインとはニールセンが名付けたあだ名であり格好良さ重視で特に意味はないとのこと(ルイナスとアズレイも同じ法則で名付けられている)。

 

 

■武装

・可変式多目的複合ライフル『セプティミスα』

これからの戦闘に対しどんな状況に対応するため開発された大型可変式ライフルでこちらはキングの作品。

散弾、貫通弾、プラズマ弾、グレネード弾の四種の弾を同時に装填し撃ち分けることができ、その際にバレルが各使用弾薬に応じて変形する機能を有する。

貫通弾は主に狙撃用で、グレネード弾については弾道を曲線、または直線に変更できるキングの改良型。

 

・ゲッタートマホーク×2

出力よりも汎用性重視に改良されており、ゲッター炉心が故障してもプラズマエネルギーで代用可能となり、メカザウルスでも切断可能なレベルまでの出力を出せる(本編未使用)。

 

・ハンディ・プラズマキャノン×2

ビーム・シリンダーの代わりに両腕に取り付けられたプラズマ兵器。威力はプラズマ炉直結であるため高い。

 

・ビーム・ブーメラン×4

左右の脛部内に搭載された、ゲッターエネルギーの刃を発振する折りたたみ式実体ブーメラン。

メカザウルスの生体反応を感知してエネルギーの続く限り追い続ける機能を持ち、さらにゲッタービームを当てることによりエネルギー供給及び、全方位にエネルギーを拡散放射するリフレクタービーム機能も併せ持つ。テキサスマックにも装備された物の改良型である補助兵器。

 

・シェルバックラー×2

両腕装備の丸型盾。敵の攻撃を受け流すのが本来の目的だが多少の攻撃をシャットアウトするほどの強度も併せ持つ。ハンディ・プラズマキャノンと一体化している。

 

・ゲッタービーム

威力こそは変わっていないがビーム・ブーメランとの連携で攻撃バリエーションが増えた。

 

・プラズマシールド

前機よりも多少は強度、エネルギーの消耗効率は改良されている。

 

・ゲッターウイング改

空戦型ゲッターロボの同型を改良したもの。状況に応じて両主翼が閉じたり開いたりするため、高い空力制御を持ち高度なアクロバティックな空中移動も可能となった。

 

●アルヴァイン改

ゲッター線に適応しない竜斗では力が引き出せなくなったために『複合エネルギー機関』を採用された改良型で竜斗が乗っても凄まじい出力を生み出すことが可能になり(最大出力は300万馬力にまで上昇)、そしてアズレイと同じくエリダヌスX―01を装備できるようになった。

 

それに従い、各工学系武装も複合エネルギー方式に改造されている。

コックピット内もステルヴァー、そしてゲッターロボ方式を組み合わせた内装で竜斗以外には扱えられない、実質彼の専用機と化したが他の機体を寄せ付けない領域のポテンシャルを持ち、現時点で本機と対等に戦えるのはラドラのリューンシヴかラセツ、ヤシャのようなレヴィアラトに限られている。

 

■追加兵装

・ショルダー・ゲッタービームキャノン

凄まじい出力と耐久性の関係上、腹部からのゲッタービームは使えなくなったためにキングが急遽、右肩に追加装備したゲッタービーム砲。

ゲッター線ではなく複合エネルギーによるビームであるため、威力は格段に向上しておりビーム・ブーメランにも対応している。

 

・セプティミスα

プラズマ弾から複合エネルギー弾になり威力は向上した以外は、機能など前機と同じである。

 

・ビーム・ブーメラン

同じく複合エネルギーのビーム刃を発振でき、前よりも切断力が増した。

 

・ハンディ・ビームキャノン

両腕部のプラズマキャノンも複合エネルギーに変換されている。

 

・エリダヌスX―01

セプティミスαを増幅器として合体させることで性能が飛躍的にアップする二号機。ちなみにエネルギー出力の調整も行えるようになり、威力重視から速射重視にも対応できるのが強み。

 

●アルヴァイン・トーレ(本編未登場)

ニールセンが考案したアルヴァインのもう一つの発展強化型であり、ステルヴァーと同じグラストラ核反応炉を背部に追加搭載させることでステルヴァーと同じくリチャネイド、対艦用グラストラ戦術核バズーカを使用できるようにした拠点強襲用形態であるがその分、総重量の激増による機動力の低下を招き、それに加えて竜斗の戦闘スタイルとの相性が悪くなるということでお蔵入りとなった。

 

 

●ゲッターロボGC『ルイナス』

全高:24m

重量:65t(ライジング・サンⅡ装着時は90.5t)

型式番号:SMB―GR02GC

分類:陸戦型ゲッターロボ改良型

出力:180万馬力

装甲材:リクシーバ・チタン合金

動力:ゲッター炉心、改良型プラズマ反応炉によるハイブリッド駆動エンジン

移動兵装:ターボ・ホイールユニット

他兵装:ガーランドG、ライジング・サンⅡ

 

陸戦型ゲッターロボをニールセンによって改修された機体。

アルヴァインと同じく各動力部を見直しと改良、そして右手のペンチ型アームの代わりに多種な武装を詰め込んだ多機能アタッチメントパーツ『ガーランドG』を装備。

前機よりも大幅に性能が増し、それでなおエミリアでも扱いやすく且つ戦術の幅を広まったが三人の中で一番、操縦技量の劣るエミリアに合わせて造られているため、三機の中では最も総合スペックは低い。

改良型のライジング・サンⅡを装備することにより、他の二機に勝ると劣らない対応距離、火力も持つようになる。

 

■武装

●多機能アタッチメントアーム『ガーランドG』

様々な武装を詰め込んだ巨大なギミックアームでニールセンの作品。

これ自体も強力なミサイルとして射出できるが、使うと戦闘力が著しくガタ落ちするため、所謂奥の手である。

 

・小型ゲッターミサイルポット

前方部内蔵の小型ミサイルで計10発。

 

・プラズマキャノン

中央からせり出すように展開する。従来型のメカザウルスを一撃で貫通できるほどの威力はある。

 

・ドリル・シーカー×2

後方上部に搭載したドリル型の小型自立攻撃機で他作品におけるビット系兵装。集団戦が苦手という陸戦型ゲッターロボ、エミリアの弱点を補うために開発された補助兵装である。

自立回路搭載で遠隔操作は出来ず、基本的に複数の目標物をマルチロックオンして使用する。

 

・ビーム・シーカー×2

後方下部に搭載された小型ゲッタービーム弾を発射する自律攻撃機でドリル・シーカーと連携をとって行動する。こちらも同じく遠隔操作はできない。

 

・大型ドリルアーム

こちらは前機から変更なしでスペアがあれば交換可能。

 

・ワイヤーアンカー

ドリル回転機真上にに搭載されている。対象物にワイヤー付き銛を撃ち込み捕捉し引きつける。

 

・ライジング・サンⅡ

前機でも使用していた背部装着式追加兵装の改良型。射撃兵装を全て取り払った代わりにドリル・シーカー、ビーム・シーカー、そして中央部のドリル型攻撃端末システムの計五機のシーカーを装備している(ガーランドGのシーカーを合わせると計9機)。こちらも同じくマルチロックオンして使用する。

 

・プラズマシールド

アルヴァインと同じく改良型である。

 

●ルイナス・セプター(本編未登場)

キングによって考案された対タートル攻略のためにルイナスに対艦用兵装を装備させた発展強化型。

対艦ドリルアーム、対艦用、牽制用ミサイル、プラズマビーム砲など全て搭載をさせた強行型であるが明らかなバランス崩れと機動力の著しい低下、なにより現状のエミリアの腕では扱えきれないということでお蔵入りとなったがパーツ自体は存在し、いつでも取り付けられるようにしてある。

 

 

 

 

■武装

・対艦ドリルアーム

本体の数倍もある全長を持つドリルアーム。タートルの装甲を吶喊する目的の物だが、機体の平行バランスが非常に悪くなる。

 

・対艦ミサイルキャノン

右肩に装備する対艦用ミサイル発射管。計2発。核弾頭でなく大型ミサイルである。

 

・牽制用ミサイルポット

計20発。腰の左右に装備する小型ミサイルポット。

 

・ショルダー・プラズマビーム砲

左肩に装備する折りたたみ式長射程兵装。敵の射程範囲外から撃ち込むことができる。

 

 

●ゲッターウイング搭載型ルイナス(本編未登場)

ライジング・サンⅡの代わりにゲッターウイングを搭載した空戦用形態。

だが接近戦主体のルイナス、そして現状のエミリアの操縦の腕を懸念するとやはり相性が悪いということでこちらもお蔵入り。

しかしこの発想自体は前機からすでに早乙女によって考案されていた形態であり、海戦型、アズレイにも同様。

 

●ゲッターロボAC『アズレイ』

全高:21.5m

機体重量:78.5t

総重量:140.5t

型式番号:SMB―GR03AC

分類:海戦型ゲッターロボ改良型

出力:200万馬力

装甲材:リクシーバ・チタン合金

動力:ゲッター炉心、改良型プラズマ反応炉によるハイブリッド駆動エンジン

移動兵装:ターボ・ホイールユニット、スクリューユニット

他兵装:近接近戦用ビーム・シリンダー、サイドワインダー、エリダヌスX―01

 

大雪山戦役で失った海戦型ゲッターロボの後継機としてニールセンと早乙女によって大改修された機体。こちらは早乙女が主に担当している。

予備に搭載していたBEETを使用。愛美の相性に合わせて機体の武装を一新させた結果、前の機体とはほとんど別物となってしまったが総合火力と対応距離は大幅に増えた。

特筆すべき点はニールセン作最高の狙撃兵装『エリダヌスX―01』を装備していることである。

空戦型のビーム・シリンダーは本機に移植され一応近接戦闘もこなせるようになった。

 

●武装

・腰部速射式プラズマビーム砲×2

折りたたみ式のビーム砲で速射性に優れる。

 

・胸部ゲッタービーム砲

元のプラズマビームをゲッタービームに変換した兵器。空戦型より高い出力のビームを撃てるがそれだけにチャージに時間がかかり、且つ連射はできない威力重視のゲッタービーム。

 

・複合エネルギー特殊対物ライフル『エリダヌスX―01』

ニールセンが最高傑作と評する自慢の一品。ゲッター線とプラズマエネルギーを共鳴反応させると凄まじい弾速と貫通力をもつ複合エネルギー弾を生み出すことを利用した狙撃重視の対物ライフルであり、これにより地球上のありとあらゆる物体全てを貫通、破壊できる威力を持つが特筆すべき点は『ファーサイトシステム』と呼ばれるX線を利用した透視機能、パッシブソナーを併用したサーチ機能を持つシステムを使用することで障害物を無視し目標物に直撃することができる(範囲内であればどこだろうがサーチ可能)。

つまり建物はおろか地底、海底すら無視して直接攻撃ができる。

だが大量のゲッター線とプラズマエネルギーを使用しすぐにオーバーヒートを起こすため、撃つたびに冷却させなければならないタイムラグが発生し、狙撃中はXスキャンモードとなりモニター全体の視界が悪くなるのが最大の弱点。

ニールセン曰わく元ネタがあるらしく、子供の頃にやり込んだテレビゲームに登場するエイリアンの武器を現実に再現しようとして開発した武器で名前もそこから由来する。

 

・サイドワインダー

右前腕内に搭載された小型ミサイルで計4発。『ガラガラヘビ』を意味する。

 

・対接近戦用ビーム・シリンダー

空戦型ゲッターロボのを移植。近接近戦もこなせるようになった。

 

・プラズマシールド

アルヴァイン、ルイナス同様、改良されている。

 

・大型ゲッターミサイル発射管×2

・小型ゲッターミサイルポット

・ターボ・ホイールユニット

・スクリューユニット

・パッシブソナー

これらは前機から特に変更、改良はない。

 

●アズレイ・リーパー(本編未登場)

愛美の高い操縦技量を見込んで試作的に様々な技術を積み込もうとした試験型。

アズレイの装備できる武装に加え、ドイツ軍の技術である地形に左右されずに地上を高速移動できるフロートユニット、小型化したドーヴァー砲、そしてアメリカ製SMBのように戦闘機型に変形する機能も兼ねそろえているという恐ろしい機体であるが、もはや本機をそれを実行するには不可能で新造せざるえなくなるという事態が発生し、さらにそれがアラスカ戦線間近だったのでなかったことにされたが本当に開発する気であったという。こちらはドイツ軍の技術が特に使われている。

 

■追加武装

・フロートユニット

ドイツ軍のシヴァアレスに使われているものと同様の反重力浮遊システムである。

 

・小型ドーヴァー砲

ドーヴァー砲の、動けなくなるほどに凄まじい重量とサイズという欠点に直すために、凄まじい威力を保てる限界にまで小型サイズ化した兵器。

こちらもシヴァアレスの700mmカノン砲の技術が使われている。

 

・ヴァリアブルモード

こちらはアメリカ軍の技術を使われている。アズレイに地形にとらわれない機動力アップを図って搭載される予定だった。

 

●ベルクラス改修型

アメリカにて、現状の艦では戦力不足だと理解した早乙女達によって改修。牽制用多連装ミサイルポット、四連プラズマビーム砲などの武装追加、そしてプラズマシールドの強度、エネルギー消費効率の改良を行っている。

 

 

■追加兵装

・牽制用多連装ミサイルポット

両主翼内に計100発内蔵。牽制、迎撃用ではあるがメカザウルスの攻撃としても通用する。

 

・四連プラズマビーム砲

艦首部左右舷下部に装備。対地はもちろん、空対空攻撃も行えるようになった。

 

・大型プラズマシールド

アルヴァインなどと同じく強度、そしてエネルギー消費効率の改善を図っており、多少の進撃も可能となっている。

 



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設定集(メカザウルス編②)

●メカエイビス・ミョイミュル

全高:95m

重量:4040t

型式番号:MAS―061MM

分類:キャプテン・リンゲィ専用プテラノドン型メカエイビス

出力:230万馬力

装甲材:ツェディック鋼、有機皮膚

動力:アルケオ・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

移動兵装:翼竜タイプの主翼

他兵装:ミョイミュル・オーヴェ

 

第三十九恐竜中隊の指揮官機でパイロットは中隊長のリンゲィ=ミ=シェイクム。

プテラノドンをベースにしたメカエイビスであるが他機と比べると旧式であり、突出した性能がないため各中隊長機と比べて総合的スペックは低いが、リンゲィ自身がその分操縦技術と経験でカバーしており最新機と見ても劣らぬ戦闘力を秘めている。オーヴェシリーズ搭載機。両手の翼をはためかすことで強力な突風を発生させることができる。

ミョイミュルとはプテラノドンをシュオノアーダ読みにした言葉である。

 

■武装

・マグマ砲

頭部の口から大量のマグマを放出する。

 

・ミョイミュル・オーヴェ×15

背部の装甲内に搭載した本機の同じプテラノドンの姿をした小型自律兵器でオーヴェシリーズの一つ。

小型ながらマグマ砲や機関砲、小型ミサイルを搭載したシリーズ随一の攻撃機能を持ち自律回路を搭載しているが遠隔操作も可能にしている。

 

 

●メカザウルス・ウルスラ

全高:25.1m

重量:460.51t

型式番号:MZA―155US

分類:キャプテン・リミル専用暴君竜型メカザウルス、リュイルス・オーヴェ試験搭載型メカザウルス

出力:165万馬力

装甲材:ツェディック鋼

動力:アルケオ・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

移動兵装:ブースター二基、翼竜タイプの翼

他兵装:リュイルス・オーヴェ

 

第三十八恐竜中隊の指揮官機でパイロットは中隊長のリミル=シ=ムルリア。砲撃戦に特化したメカザウルスであり火力は非常に高い。

地上での機動力は非常に低いが空中航行ができ、拠点強襲も可能にしている。

リュイルス・オーヴェをメカザウルスでの運用も検討されて開発された試作機でもあり、メカザウルス初のリュイルス・オーヴェ搭載機でもある。

ウルスラとは『砲撃』を意味する。

 

 

■武装

・マグマ砲×4

両腕、両肩に装備されたマグマ砲。液状で放出することはもちろんマグマ弾としても発射可能。

 

・小型ミサイルポット(胸部10発、臑部30発の計40発)

胸部、両臑に内蔵された武装。破壊目的の他に牽制、弾幕としても利用できる。

 

・リュイルス・オーヴェ×3

小型化及び思考回路の改良がなされているが、発生するバリアの強度はダイの物より幾分劣るがそれでも通常兵器を一切遮断するほどはある。

 

●メカザウルス・ルイエノ

全高:20.5m

重量:180.8t

型式番号:MZG―180LE

分類:キャプテン・クラン専用高機動型メカザウルス

出力:170万馬力

装甲材:ツェディック鋼、セクメミウス

動力:アルケオ・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

 

第三十七恐竜中隊指揮官機でパイロットは中隊長のクラン=デ=アマルーダ。

地上において近接戦闘に特化した機体でルイナス以上の高機動力と運動性を持ち、一機で敵部隊に突入し攪乱、圧倒、さらに隠密行動による偵察、索敵など幅広い行動を行えるよう開発されている。

ルイエノの母体となったトカゲを品種改良し、それにより柔軟かつしなやか、そして強力な筋肉繊維を持ち、それが地上において変則的かつ高速に走り込める要素を担っている。

武装についても高機動性を追求しているため火器などは一切持たず、さらにクラン本人も格闘技のエキスパートであるため『蝶のように舞い蜂のように刺す』ような格闘技を主体した戦法を使う。

ミョイミュル、ウルスラにも言えるがこの三機は各ゲッターロボの特性に合わせ、対抗するために造られている。

この機体のノウハウはキャプテン・ザンキの専用メカザウルス『ランシェアラ』に生かされることになる。

ルイエノとは忍ぶ者、つまり『忍者』を意味する。

 

■武装

・有線式マグマ・ヒートハンド×2

セクメミウス製の金属義手にマグマ熱で発熱させて高熱を帯びた両手で攻撃する。さらに有線ワイヤー内蔵で射出して離れた敵にも攻撃できる。

 

・マグマ・ヒートレッグス×2

両足もセクメミウス製であり発熱させることで高熱を帯びた脚による蹴り技が強力である。

ルイエノはプロレス技や柔道、空手、ボクシングなどクラン本人が使用できる沢山の格闘技を駆使することができる。

 

 

●メカザウルス・リューンシヴ

全高:23.5m

重量:220t

型式番号:MZE―125ZCL

分類:キャプテン・ラドラ専用試作型メカザウルス改良型

出力:260万馬力

装甲材:ツェディック鋼

動力:リューン・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

移動兵装:翼竜タイプの羽根、ブースター二基

他兵装:試作型ルゥベルジュ・ライフル×2、マグマ・ヒートブレード

 

ラドラの愛機であるゼクゥシヴをガレリー達開発スタッフによって改造されたメカザウルス。

アルケオ・ドライヴシステムの改良モデルであるリューン・ドライヴシステムを搭載、各性能の大幅な底上げと新型ライフルである『ルゥベルジュ・ライフル』を装備、火力が大幅に上がっておりラドラの操縦技量も相まって竜斗の乗るアルヴァインと唯一対等に立ち向かえる機体である(それぞれの総合力の比についてはアルヴァイン、竜斗が6/4ならばリューンシヴ、ラドラが5/5となっている)。

リューンとは『改良型』を意味し、本機も試作機に該当する。

 

 

■武装

・ウイングミサイル

ゼクゥシヴからの標準装備で変更はない。

 

 

・マグマ・ヒートブレード

こちらもゼクゥシヴから変更はない。

 

・試作型ルゥベルジュ・ライフル×2

マグマ・ヒートライフルのノウハウを活かして新開発されたライフル兵器。マグマの膨大な熱量を増幅、圧縮した熱線(ブラスター)を発射することが可能となった。

さらにライフル同士を直列に連結させることにより出力をさらに増幅することができる。

ルゥベルジュとは『太陽光』を意味する。

 

●メカザウルス・メルフォリ

全高:24.1m

重量:285t

型式番号:MZE―174MF

分類:キャプテン・シルジェ専用電子戦用メカザウルス

出力:100万馬力

装甲材:ツェディック鋼

動力:アルケオ・ドライブシステム、ヒュージ・マグマリアクター

他兵装:ソンマ・ガオルウ

 

第四十三恐竜中隊の指揮官機でありパイロットは中隊長のシルジェ=キ=ノウノー。

電子戦に特化したメカザウルスであり、凶暴で野蛮、そして攻撃的なイメージのメカザウルスとは一線を画する機体。

コックピット内はシルジェのその非常に高い情報処理、把握、そして演算能力を最大限に活かすために操縦桿以外はシンジケーターとキーボードで埋め尽くされている。

ちなみに火器兵装などは一切装備されておらずオーヴェシリーズの一つ、ソンマ・ガオルウのみであるが地中に配置された魚雷発射機モグロゥと連携を取ることで真価を発揮する。メルフォリとは『偵察』を意味する。

 

■兵装

・ソンマ・ガオルウ×4

オーヴェシリーズの一つで隠密行動による情報収集、偵察機能に優れている。

ジャミングとEWAC機能を兼ね揃えており、敵レーダーからは絶対に関知されず、さらにミサイルなどの誘導攻撃を全て無効化する。

だが反面、耐久性はほぼ皆無に等しい。

これらから送られてくる膨大な情報をシルジェが全て把握、解析し味方全員に分かり易く情報を送るというプロセスとなっている。

ソンマ・ガオルウとは聖典ユイラに登場する『レイグォール』と呼ばれる十二神の一人、知識を司る神の名から由来する。

 

●モグロゥ

各恐竜大隊が所有する地中魚雷発射機。

地中深くに潜伏し、地上の目標物へ魚雷を発射する。運用には三人の乗組員が必要となる。

メカザウルス・メルフォリと連携を取ることで地上の目標物へ一寸狂わぬピンポイント攻撃を行うことが出来る。

 

●ラセツ

ジャテーゴの忠実なる側近の一人でヤシャの対の存在。

ヤシャと比べて頭脳明晰で冷静、中性的な顔立ちであり細身の体格をしているがその自身の戦闘力はメカザウルス、SMBとは比べものにならないほどに高く、自然を操り大災害を引き起こせるほどの超能力を秘めている。

その正体はジャテーゴが密かに造り上げたレヴィアラトのレプリカであり、最初に造られたヤシャより改良がなされているためこちらの方が段違いに能力は高い。モデルはレイグォールの一人、空や自然を司る神『マーダイン』の従者とされた魔導士グァバエリとされる。

 

●ヤシャ

ジャテーゴに仕える側近の一人。見るからに獰猛そうな体格と外見をしており、非常に凶暴でがさつ。そしてラセツと違い考えることは苦手で力で解決しようとするがジャテーゴを心底忠誠を誓っているのは確かである。

正体はラセツと同じくレヴィアラトのレプリカであり、彼が最初に作成されたため、ラセツより幾分能力は劣るがそれでもメカザウルス、SMBとは比べものにならない程の実力を秘めている。

モデルはレイグォールの一人で、火を司る神『ペルゼン・ペゲルゼン』の従者とされた屈強な勇者ミュマリアとされ、火や熱を扱った超能力を有している。

 

◆戦艦

●ドラグーン・タートル

全長:13500m

全幅:3100m

全高:1090m

分類:トゥリア級地上移動攻撃基地

動力:超大型マグマリアクター10基

 

アラスカ州に君臨する第三恐竜大隊の本拠地である巨大移動基地。

艦長はゴールの妹である第一王女でありさらに戦術家でもあるジャテーゴ=リ=ザーラ。

外見は一応亀であるが、早乙女曰わく『触手のあるゴキブリ』とのこと。

ダイの三、四倍以上の全長を持ち、アラスカの地にて圧倒的な存在感を持っているが、各武装はリュイルス・オーヴェ、マグマ核反応ミサイル以外は全て旧式である。

 

■武装

・長射程マグマ砲×20

主砲。左右舷前甲板内に搭載。沈胴式であり全方位対応、最大射程距離1000キロメートル。

 

・マグマ副砲×50

こちらも沈胴式で左右舷後甲板内に内蔵。副砲ではあるが大口径で主砲ほどではないが凄まじい射程距離も有している。

 

 

・大型、小型ミサイル発射管

艦の至る箇所に装備している。最大同時発射数10000発。

 

・リュイルス・オーヴェ×10

ダイと同型。

 

・マグマ核反応ミサイル×3

アルケオ・ドライブシステムの技術を応用した恐竜帝国における核兵器に相当し、戦略兵器級の威力を持つ大量破壊兵器。高度、低空、果てには地中間(ドリルを使い、高速で掘り進む)でも使用可能という汎用性を持つ。

 



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設定集(各SMB編②)

■世界人類連合(世界連)

恐竜帝国に対抗するために各先進国で発令された機関。本部はホワイトハウスのあるワシントンD.C.に設置されている。

アメリカ大陸にはアメリカ、EU(欧州)連合軍、ユーラシア大陸はロシア、中国連合軍、日本は自衛隊と在日米軍がそれぞれの地で担当している。

 

●アーサー

全高:22.5m

重量:45.1t

型式番号:SMB―018AS

分類:イギリス製空戦用高機動型SMB

出力:115万馬力

装甲材:リクシーバ・チタン合金

動力:改良型プラズマ反応炉、小型プラズマ反応炉(予備)、プラズマ増幅駆動エンジン

移動兵装:スラスター、アポジモーター計20基

他武装:高出力プラズマソード

 

 

イギリス軍の空戦型SMBであり、パイロットはイギリス軍所属で傭兵経験のあるアレン=フェルド中尉。

超軽量化を突き詰めた鋭角的なデザインであり、一発でも被弾すればバラバラになりかねない程に細身の体躯であり、全体の至るところに異常とも言えるほどに多数のスラスター、アポジモーターが搭載された機動力一点で特化した機体で直線速度では劣るものの、瞬間最大加速度や急旋回能力ではアルヴァインですら上回る性能を持つ。

武装は両手のプラズマソードのみで色々と極端な機体であるがアレンは何の問題なく軽々と扱っている。

実は脚部が歩行目的ではなく推進装置でしかないため、直立不動するのが精一杯で歩くことはまず不可能、つまり空中での運用しかできないという特異な機体。

名前の由来は円卓の騎士を従えていた王の名から。

 

■武装

・高出力プラズマソード×2

両手のマニュピレータを変形させて発振させるプラズマエネルギーの剣。武装はこれだけであるが、残像が見えるほどに凄まじい急速度を乗せた斬撃、そしてアレンの卓越した操縦技量で敵を翻弄、圧倒する。

 

●ジャンヌ・ダルク

全高:24.8m

重量:70.5t

型式番号:SMB―23JDA

分類:フランス製可変汎用型SMB

出力:120万馬力

装甲材:リクシーバ・チタン合金

動力:改良型プラズマ反応炉、小型プラズマ反応炉(予備)、プラズマ増幅駆動エンジン

移動兵装:地上用推進車輪ユニット、ヴァリアブルモード

他兵装:プラズマレイピア、プラズマボーガン、バックラー

 

フランス軍が所有する最新鋭SMBでパイロットはフランス軍所属のルネ=ロレッタ少尉。

各国SMBの中で最も性別のはっきり目立つ機体であり戦乙女のような人型と、白鳥のような戦闘機型に変形することができる。

華奢な体格に見えて意外とハイパワーな出力を持ち、武装とルネの操縦も相まって非常に華麗で且つ軽快な近、中距離の空、陸戦闘を得意とする。

名前の由来は百年戦争時代のフランスにて、女性でありながら神の啓示を受けて国のために指揮し戦った聖少女ジャンヌダルク(仏語読みではジェーン・ダーク)から。

 

■武装(戦乙女型)

・プラズマレイピア

本機の主力である実体細剣型近接武装でプラズマエネルギーを纏わせた実体刃で攻撃する。刺突攻撃に優れている。

 

・プラズマボーガン

左手を変形させて使用する射撃武装。レイピアと同じく実体矢にプラズマエネルギーを纏わせて発射する。高い貫通力と爆発性を持ち、3WAY攻撃と連射が可能。

 

・バックラー

右腕に装備された防御用の小盾。アルヴァインのシェルバックラーと同型の物。

 

・対近接機関砲×2

頭部の兜から発射する二門の機関砲。牽制用

 

●戦闘機型

ヴァリアブルモードで両腕が変形した主翼からプラズマエネルギーを放出するために、白鳥に見える優雅なデザインを持つ。

腹部にウインチを搭載し機体を吊り上げて、ハイパワーを生かした同時空中移動が可能である。

 

・空対空機関砲×2

兜部からの機関砲。この形態の主武装である。

 

●シヴァアレス

全高:16m

全長:22.5m

全幅:7m

重量:135.1t

型式番号:Ⅷ号突撃砲D型シヴァアレス

分類:ドイツ軍最新鋭SMB式突撃砲

出力:130万馬力

装甲材:リクシーバ・チタン合金、パンツァー用増加装甲X4

動力:改良型プラズマ反応炉、小型プラズマ反応炉、プラズマ駆動エンジン、液体燃料

移動兵装:フロートユニット

 

ドイツ軍の所有する、SMBの要素を取り入れた戦車車両で突撃砲に分類される。パイロットはドイツ軍所属のリーゲン=ヘルマン大尉。

各国の中で唯一の戦車系機体であるが、その理由はドイツ軍の『他国が人型ロボットならドイツは由緒と誇りある戦車型で対抗する』という理念によって開発された経緯を持ち、証拠にドイツ軍にはSMBが一切存在しないという一貫性を持っている。

多少の攻撃は通用しないほどの重装甲、700mmカノン砲などの大火力兵器、そしてフロートユニットによる地形にとらわれない高速移動の運用が可能と、戦車系車両の極致とも言える機体である。

シヴァアレスとはドイツ語で「重」を意味するが正式名称はⅧ号突撃砲D型であり、こちらは愛称である。

 

■武装

・700mmカノン砲

本機の主砲であり、そして最大の火力を持つ兵器。非常に長い砲身であるため普段は折りたたまれている。

名前は違うがドーヴァー砲と同じ技術が使われておりその性能もほぼ同じである。

 

・小型ミサイルポット

計50発。迎撃、牽制、攻撃のどちらでも使える。

 

・バルカンファランクス×2

いわゆるCIWS。機体の左右前部間に搭載されている。

 

・フロートユニット

機体を反重力で浮遊させるシステムで地形に左右されない安定した高速移動ができる。

 

・パンツァー用増加装甲X4

戦車用に装備する増加装甲。超軽量且つ頑丈であり多少の衝撃や熱などをシャットアウトする。

 

●テキサスマック

全高:24m

機体重量:70.5t

総重量:105.5t

型式名:SMB―TXM01

分類:試作機

出力:120万馬力

装甲材:リクシーバ合金

動力:改良型プラズマ反応炉、グラストラ核反応炉によるハイブリッド駆動エンジン

移動兵装:背部主スラスター1基、アポジモーター4基

他兵装:200mm対物リボルバー、ハイパーライアットガン、プラズマ・エネルギーライフル、ビーム・ブーメラン、ケツアルコアトル

 

キングが極秘で開発した試作型SMB。パイロットはキングの息子であるジャック=キング。

分かりやすいメキシカンススタイルのデザインで羽織っているポンチョは耐衝撃熱コーティングされておりメカザウルスの攻撃にある程度耐えれるようになっている。

ステルヴァーと同様の技術が使われており、グラストラ核反応炉、改良型プラズマ反応炉のハイブリッド駆動であり、変形はできないが高い機動力を有している。

同じキングの技術がふんだんに使われたアルヴァインとは兄弟機ともいえる、重火器による大火力の射撃戦に特化した機体で各火器はポンチョ内に取り付けてある。

本家のテキサスマックと違うところはメリーがハットマシンに乗らないこと、そして殲滅力に優れた火力一点特化の拠点強襲用であること。

 

■武装

・プラズマ・エネルギーライフル×2

キングのオリジナルカスタマイズ品で威力向上の他、直列連結により出力が大幅に強化され、凄まじい全長を持つ高出力プラズマソードが使用できるようになる。

 

 

・200mm対物リボルバー×2

専用弾を使うリボルバー銃で凄まじく威力は高い。本機の主武装。

 

・ハイパーライオットガン

セミオート式散弾銃。広範囲に渡って攻撃できる。

 

・グレネードランチャー(本編未使用)

プラズマ・エネルギーライフルのバレル下部に装備する。

 

・ビーム・ブーメラン×4(本編未使用)

アルヴァインの物と同型であるが、こちらはプラズマエネルギーであるため威力は幾分劣る。

 

・ハット型シールド

被っているテンガロンハットは盾として使用できる。本家と違いメリーが搭乗しないために被弾の心配はないことである。

 

・高エネルギー圧縮式破砕砲

プラズマ・エネルギーライフル、リボルバー、ライオットガンの全火器を合体させることで完成する大火力兵器。戦術核兵器以上の威力を持つ。

 

・ロングプラズマソード

ライフル二丁を直列連結させることで使用できる斬撃武装。約50kmという破格な全長を持ち、周辺の敵を一気に薙斬ることができるがプラズマエネルギーという特性上、すぐにエネルギー切れを起こしやすいという欠点がある。

 

●ケツアルコアトル

全長:110.5m

全幅:45.8m

型式番号:HWU―01

分類:テキサスマック専用多重火器追加兵装ユニット

動力:大型プラズマ反応炉、グラストラ核反応炉による大型ハイブリッド駆動エンジン

移動兵装:大型スラスター4基、小型スラスター6基

 

テキサスマックに装備するサポートメカであり、パイロットは妹のメリー=キングが担当。

拠点強襲用としてテキサスマックの火力を更に上げるために開発されたシステムであり各大型ミサイル、プラズマビーム砲、機関砲合わせて約100門以上は有し、テキサスマックの火器も合わせた全弾発射は一個大隊規模を壊滅状態に追いやるほどの超火力を持つが反面弾薬消費も半端ではなく、耐久性は低い。単独行動も可能。名前の由来はアステカ神話に登場する天空神の名から。デンドロマック。

 

■武装

・対空地機関砲×30門

・小型、大型ミサイルポット計60門

・プラズマビーム砲計45門の計135門

これとテキサスマックだけで小規模の戦争が行える。

 

●ラクリマ・クリスティ

全高:25m

機体重量:80.4t

総重量:133.5t

型式番号:SMB―20LC

分類:イタリア製汎用型SMB

出力:110万馬力

装甲:リクシーバ・チタン合金、鍍金

動力:改良型プラズマ反応炉、小型プラズマ反応炉、プラズマ駆動エンジン

移動兵装:フライトユニット、地上用推進車輪ユニット

他兵装:パイルスピアー、多機能スクトゥム

 

イタリア軍の最新鋭SMBでパイロットは各連合軍一の問題児であるポーリー=ヒルズ中尉。

槍に大盾(スクトゥム)、全身鎧(金色)と古代ローマの重装歩兵のようなフォルムを有し、フライトユニット装備をした空陸用で近、中距離攻撃を得意とする。

攻守ともにバランスの取れた性能で隙のない優れた万能機であり、ポーリー自身の操縦技量も高いため、弱体化したとは言え竜斗のアルヴァイン相手に一方的な立ち回りを見せて完敗にまで追いやるほど。

その後、ポーリーのその性格が災いしてエミリアへ暴行未遂事件を起こして機体もろとも本国に強制送還されたためにアラスカ戦線に参加することはなかったが、もしいれば間違なく戦況はかなり楽になっていたのも事実であるのが皮肉である。

ラクリマ・クリスティとはラテン語で『キリストの涙』を意味し、同名のワイン、そして日本に同名のロックバンドがあったという話である……?

 

 

■武装

・パイルスピアー

主武装の槍。プラズマエネルギー駆動式で瞬間的な刃の射出ができ、装甲の硬い敵であろうと突貫することができ、さらに高圧電力を流すこともできる。

 

・多機能スクトゥム

小型ミサイル(計20発)内蔵の機体が隠れる程に巨大な盾。凄まじく頑丈且つ耐久力は本機の優れた堅牢さを担っている。鋲を突出させ、鈍器としての活用もできる。

 

・腕部プラズマ・ハンドガン

右腕内蔵。威力はアルヴァインのよりは低いが連射性は高い。

 

・フラッシュ機能

頭部の兜中央のサファイアのような宝石から発せられる強烈な光。いわゆる目眩ましである。

 

◆戦艦

●テキサス艦

全長:4200m

全幅:250m

全高:380m

分類:対ドラグーン・タートル決戦兵器、テキサス級空陸両用攻撃戦艦

 

アメリカ軍、各連合軍のエンジニア、そしてニールセン、キングの優れた技術者によって、テキサス基地の地下で建造された巨大戦艦。艦長は同基地の所長のリンク。

アラスカに居座るドラグーン・タートルを何としても破壊するためだけに造られた決戦兵器であり、各武装もほとんどが対艦兵器である。

各国の優れた技術がふんだんに使われており優れた推進装置、フロートユニット、ジャマー機能、複合エネルギー駆動など。

攻撃艦としては申し分ないが反面火力一点特化のために防御力、耐久性は非常に低くベルクラスのような全体を覆うシールドは一切装備されていないのが最大の欠点。理由は『タートルに確実に勝つために弾幕張りながら艦で体当たりを仕掛ける』前提の構想で開発されているためである。

 

■各武装

・バスターカノン砲

中央部に折り畳まれた主砲。複合エネルギーによる巨大ビーム砲で他の艦砲の追従を許さない絶対的な破壊力を秘めている。

 

・グラストラ核対艦ミサイル発射管×20

一発一発は戦術核ミサイルだが全弾発射では間違いなく戦略核である。

 

・各小型、大型ミサイル発射管×250

弾幕、迎撃、攻撃用のどちらでも機能する。

 

・対空地機関砲×50

牽制、迎撃用として装備されている。

 

・吶喊用エネルギーシールド

複合エネルギー式で艦首部を覆うように展開。タートルの甲板を突き破る、バスターカノン砲の被弾を防ぐように用いられる。いわゆるビームラム。

 

 

・大型フロートユニット

ドイツ軍の技術。地上に降下した際に衝撃を緩和させ、安定した高速移動の目的で搭載されている。

 

・ジャマー機能

ステルヴァーのように敵のレーダーに感知されないようにされている。

 



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◆エクセレクター編
第四十話「カウントダウン」①


ベルクラスは太平洋のど真ん中を進み、徐々に日本の本土が見えてきている。

 

「久々の日本ですね。朝霞駐屯地にあたし達が去って以降、何事もなければいいんですけど」

 

「そこは大丈夫だ。日本の状況も幕僚長から色々聞いている」

 

亡命に手を貸した疑いでひどい目に合っているのではと心配していたマリアはそれを聞いて安心した。

 

「さて、これからやることが山積みだな、手伝ってくれマリア」

 

「ええ、もちろんです」

 

「ありがとう……おや?」

 

モニターを見ると、本土からなにか空を飛ぶ黒い物体の群れが向かってきており、レーダーでも反応している。モニターで拡大すると、どうやらBEETである。接近するとパイロットから通信が。

“お帰りなさいませ一佐達。お迎えに上がりました”

 

かしこまった言われ方に二人は複雑な表情を浮かべる。

 

「ありがとう。しかし我々も偉くなったものだっ」

 

「え、ええ……っ」

 

早乙女が入江から聞いた話だと、アラスカ戦線での、ゲッターチームの功績にもはや、大半の人間が疑念を持っていた日本政府も彼らを認めざるえなくなったと言う話であるが、そう言う心変わりが良いも悪いも人間だなと実感する。

 

「さて、そろそろ着艦準備に入るか。みんなに放送で伝えよう」

 

BEETに付き添われて日本に入っていくベルクラスはそのまま朝霞駐屯地内のまで飛んでいき、艦専用地下ドッグの頭上に到着するとゆっくり降下していく。

「これからベルクラスは着艦態勢に入る。艦内の者は衝撃態勢をとれ」

 

徐々にゆっくりと降りていき、そして多少の衝撃と共にドッグ内に収まり着艦した。

 

「日本についたか」

 

「さて、降りるかのう」

 

ちょうどそこにニールセンとキングが現れて彼らと合流。後は竜斗達が来るの待つだけであった。

 

「……きませんね、彼ら」

 

約十分経っても姿を現す気配のない三人、何しているのかとマリアが見に行こうとした時、竜斗が慌てて駆けつけてくる。

 

「竜斗君、二人は?」

 

「それがあいつら今ケンカ中なんですよ!」

 

全員が「はあ?」と声を上げて、早乙女とマリアは竜斗に連れられて何故か女子トイレ前に連れていかされた。そこでは、

 

「ふざけんじゃないわよアンタ!マナがどんだけ苦しい思いしているか分かんないのっ?」

 

「アタシは――て言っただけじゃない、それでなんでそんなに怒るのよお!」

 

二人は何か激しく痴話喧嘩をしているようだ。

 

「ちょってやめて二人とも!」

 

マリアがすぐに二人の中に入り、仲介する。

 

「一体何があったか教えてっ」

 

すると水樹がプンプンした顔でこう言った。

 

「マナ、最近ベンピで苦しんでるのにエミリアは『アタシは毎日快便だから♪』って誇らしげに自慢してきたんですよ!」

 

「別に誇らしげに言ったわけじゃないわよ!」

 

「うるさい、少しはこの苦痛を味わってみなさいよこのブリブリウンコ女!!」

 

「なんですってえ!!!?もういっぺん言ってみなさいよこのカチグソ女っ!!」

 

……あまりにも下品で且つ下らない喧嘩に竜斗と早乙女、マリアはもはや呆れに呆れて頭が痛くなる。

 

「そんなくだらん喧嘩をしてる暇があるなら早く降りる準備をしろ!どれだけ人を待たせてるんだお前たちは!!」

 

と、怒鳴る早乙女に愛美はキッと早乙女に睨むような視線を向けた。

 

「ハァ?女の子にとってベンピはどれだけ大敵か分かってんですかあ!ウンコが出ない苦しみが分かるんですか!!」

 

「そんなの知るか!!」

 

ついには早乙女にまで突っかかり、巻き込まれていく様子に入り込む隙など全くない竜斗はホトホト困り果てている。

 

「マリアさん……これどうします?」

 

「……任せといて。竜斗君は男性用トイレ内にいた方がいいわ」

 

嫌な予感がした彼はすぐさま隣の男子トイレに入り、彼女は深く深呼吸した瞬間、「いい加減にしろお!!」とまるで地獄の閻魔大王のような聞くものすべてを意気消沈させるほとに恐ろしい怒号が艦内に響き渡った。

 

「「ぴいっ!!」」

 

「ま、マリア…………」

 

三人の見た彼女は今まで見たことのない、そしてまさにこの世の者とは思えない程の恐ろしい形相であり三人は、彼女を怒らせてしまったとに後悔し始めていた――。

 

「何があったんじゃ?」

 

「さあなっ」

 

ニールセン達はやっと帰ってきた彼ら全員の何か恐ろしいモノを見たかのような恐怖に染まった雰囲気に不思議がっていた。

何はともあれ、やっと艦から降りた彼らに待っていたのは久々の再開と無事に花束を持ち、笑顔で迎え待っていた沢山の駐屯地の者達であった。

 

「お帰りなさい早乙女一佐とマリアさん、そしてゲッターチーム!」

 

半年以上ぶりの再開と出迎えに暗い表情だった竜斗達も一気に明るい表情で彼らと喜び合った。

 

「皆さん、よくこれまでご無事で!」

 

「君達が日本から政府から色々調査受けたりオーストラリアから幾度かのメカザウルスの襲来などあったがなんとか持ちこたえたよ。君達ゲッターチームとゲッターロボがこれから日本にいればもう安心だなっ」

 

 

「いやあ……っ、ハハハ」

 

「エミリアと水樹久しぶりねっ。向こうでちゃんと元気にやってた?」

 

「はい、こっちも色々とありましたが」

 

「それはもう、色々とねっ――」

 

互いにあった出来事で話題にして、楽しく触れ合っている彼らに早乙女達も先ほどとうって変わり、暖かい表情で見ていた。

 

「日本に、駐屯地に帰ってきたとやっと実感できたな」

 

そして彼らの前に駐屯地の各中、小隊長達が現れて握手を交わして挨拶していく。

 

「一佐、そしてマリア助手、よくご無事でっ」

 

「皆さんもよくご無事で。大変だったでしょうに」

「確かに色々ありましたが皆で力を合わせて頑張ってきました、アラスカ戦線まで攻略した知らせには我々もどれだけ歓喜したことか」

 

「これでもう日本政府はこれ以上手だしは出来なくなったのは事実です、これからは安心して仕事が出来ましょう」

 

「ええっ」

 

――これから一週間は身の周りの整理と溜まった雑務と報告書の作成に明け暮れる早乙女、同じくマリアは彼を手伝いながら暇な時間を見つけて駐屯地外で新しい部屋探し、引っ越しに忙しくなった。

 

「日本の夏はジメジメして暑苦しいのう、だが専門分野の仕事で汗かくのは気持ちいいぞいっ」

 

「のうっ」

 

その間、ニールセンとキングはベルクラスを仮住居として自分達の専門である駐屯地の整備工場に赴き、見回りながら整備員達の手伝いや的確なアドバイスをするなどの仕事をし、その豊富な知識と技術に驚く者も少なくなかった。

 

「やはりわしらにはこれしかないなっ」

 

「ああっ、生涯一だ」

 

その時の二人は老人とは思えぬくらいに精気で溢れていた。

 

「――思い出してみれば、あの日か」

 

「あ……そうですね……」

 

仕事中、早乙女達は何かを思い出した。それは今竜斗達がいる場所に一番関係していた。

彼らはしばらくは自由にしていていいと言われたので、久々の日本ということで駐屯地外に三人仲良く外出していたのだが、今いるのはここから離れた場所の集団墓地のある霊園。

 

(ちょうど一年か……僕達がここまで生きてこれたのはあなたのおかげです)

 

今は初夏に入り、むし熱くなり始めているこの季節、その端にある墓に三人は、水を掛けて線香を焚いて、花を捧げて拝んで黙祷している。

この墓はそう、黒田の墓であった。

 

 

「もうあれから一年経つのね、あの対馬海の戦いから……」

 

「うん。天国で黒田さんがマナ達の成長ぶりに少しでも安心してくれていればいいんだけどね」

 

「そうだな……んっ」

 

彼らは横を見ると一人の成人女性が立っており、水の入った桶と花を持っていた。竜斗は誰なのかすぐに思い出した。

 

「あなたはもしかして……」

 

「彼の婚約者だった者です。あなた達は確か一年前に駐屯地にいた子達ですよね?」

 

「は、はいっ」

 

「どうもユウセイのことを忘れずに弔ってくれて本当にありがとうございます」

 

ご丁寧に挨拶する彼女は黒田の墓に立ち、黙って拝む。

「あのう、黒田一尉のご家族の方は?」

 

「明日来るそうです。私は明日は仕事でこれないので先にと思って」

 

「なるほど……」

 

非常におしとやかで健気そうであり、確かに黒田と合いそうな女性である。

こんな人を残して死んでいった彼、そして残されたこの女性は非常に残念であろう、そう考えると三人に悲壮感が襲う……。

 

「黒田さんを亡くして……辛くないんですか?」

 

自分が婚約者がもういないのに悲しむ素振りはおろか気丈そうに表情、振る舞う彼女に対して質問する愛美。

 

「……実はユウセイや周りから聞きました、あなた達は高校生でありながら世界を救うために自衛隊の巨大ロボットに乗って戦っていることを、あなた達は彼の教え子のような子達であると――」

 

「は、はいっ」

 

すると彼女は彼らに悲しませまいと思っているのか優しい微笑みを見せた。

 

「私は思うんです、ユウセイはただ死んでいったのではない、あなた達に全てを託したのだと――だからあなた達の存在がある限り、私は気丈にいられると思うんです」

 

その言葉の意味に三人は悲しくも、だが暖かみも感じていた――そして彼女と別れ、霊園を後にする三人は先ほどの悲しそうな顔がなくなっていた。

 

「あの人の言っていたこと……俺、分かるような気がするっ」

 

「うん。アタシ達はクロダ一尉の遺志を受け継いでいるってことよね」

 

「そう考えると、マナ達はイヤでもこれから世界のために何とかしないといけなくなるわねっ」

 

「そうだな。俺はジェイド少佐の分もあるし、そしてゴーラちゃん、ラドラさんの約束もあるから凄く大変だけどそれでも叶えるために死ぬ気で頑張っていこうと思う。

これ以上、爬虫人類の人達と無駄な殺し合いをしないためにも――」

三人はそれぞれの決意を快晴の遥か空へ飛ばし、それが世界に広がりそして叶うよう、願っていた――。

 

「サオトメよ、お前の言っていたという頼みとはこれか?」

 

「ええっ」

 

ニールセンとキングが早乙女に連れてこられた場所は地下にある専用ドッグにある三種の戦闘機の形状をした灰色のマシン。

これは早乙女曰わく『ゲッター計画の完成系』である。

 

「これらをどうしようと言うんじゃ?」

 

「それはですね――」

 

彼から計画の全貌と真意を聞くとニールセン達は「なに?」と耳を疑った。

 

「そんな夢物語のことが現実に出来るのか?」

「そうじゃぞ、理論的にもプロセス的にも凄く非現実的過ぎて成功率が限りなく低いわ」

 

流石の二人も難色を極めているようだが一体どのような計画なのか。

 

「だからこそ、あなた達の技術が必要なのです。

それに何の根拠や理由もなくこんな無謀な頼みを言ったのではありません、あの機体の装甲を直に確かめてくれませんか?」

 

二人は早乙女に連れられて三種の機体に接近してベタベタ触り、そしてコンピューターでこの戦闘機について詳しく調べる。

 

「なんじゃこれは、こんな金属は初めてだぞ……」

 

「リクシーバ合金より遥かに高い柔軟性を持ち、形状記憶性が凄まじいことになっとる……お主、これをどこで見つけたっ?」

 

二人は初めてみる戦闘機に使われている装甲材に驚いている。

 

「私もこれに関しては偶然の産物なんです。遊び心でリクシーバ合金に多量のゲッター線を浴びせた時にそれは起こったんです。

まるでゴムのように金属がグニャグニャになりまして、しかも重量が凄く増えていることに」

 

「重量が増えてる、どういうことだ?」

 

「その金属を分析した結果、原理は不明ですが金属を構成する分子が浴びせる前よりも増加していたんですよ」

 

その事実に二人は「何だと?」と驚愕する。

 

「そんな馬鹿な話があるか……と言いたい所だがこれまでにもゲッター線に関して不可思議なことばかりあったからのう、否定的にはなれんわな」

 

「ますますワケが分からんエネルギーじゃのう、ゲッター線は……」

 

これまでの経験もあり、『これもゲッター線の成せる現象か』と二人は納得せざるえなかった。

 

「あと、この金属にはもう一つ特徴的なことがありまして。エネルギーの吸収、浸透率が凄まじく高いことが分かりました、つまりこれを兵器として利用すれば――」

 

「なるほどな、確かにこんな金属が現実にあるのならサオトメの計画は実際に行えるかもしれんな」

「だが流石にワシらだけで開発はキツくないかのう?」

 

「ワシもそう思っていた。ではテキサス艦の開発スタッフ、いやロシアや中国からも総結集させてお前の一大計画をやり遂げてみるか」

 

「ほ、本当にいいんですか……?」

 

「ああ、ワシがいますぐにでも来いと言えば間違いなく来るじゃろうし、計画自体が恐らく神の領域とも言えるじゃろう、完成すれば間違いなくこれからの科学技術に大きな影響を及ぼすに違いない。エンジニアとしてこれ以上の興奮、腕の鳴ることはなかろうて。なあキング」

 

「そうじゃなっ、ワシらが生涯をかけてきた兵器開発技術の集大成とも言えることだ、命をかけるつもりで取り組むぞい」

 

やる気満々な彼ら、そして非現実的で成功するはずもないと思われていたこの計画が、全世界の優れた技術者が集まる、つまり人類科学の粋を集めた一大計画になると言う事実に早乙女はこれ以上の嬉しさなどなかった。

 



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第四十話「カウントダウン」②

竜斗達三人は去年の冬の時のように賑わう街中を歩き、そして今までの鬱憤を晴らすかのようにそれぞれたくさんの買い物をしている。

立ち寄った本屋に入り竜斗は漫画雑誌、エミリアと愛美は料理本コーナーの所に立ち読みしている。

 

「あとで何か料理を教えてよ、ジョナサンが来た時のために何か作って振る舞いたいしさっ」

 

「喜んでっ!」

 

二人は次々に本を取り出してバサバサと縦に重ねていきガヤガヤと盛り上がっていると、そこに竜斗や「ゴホン」と咳をして立っていた。

 

「少しは周りを気にしろよ二人とも、みっともないよ」

 

「「あ……っ」」

 

と、よく見ると周りの人や店員が二人を迷惑そうに見ていたことに気づいてシュンとなり三人は書店から離れた。

 

「たくう、しばらくあの店に行きづらくなったじゃないか」

 

「ごめん……」

 

と、反省しシュンとなるエミリア達だった。

 

「けどまあはしゃぎたい気持ちは分かるよ、これまでは遊ぶどころじゃなかったからなあ」

 

「でしょ、イシカワもそう思うわよね」

 

「じゃあ、心おきなくはしゃげる場所にいきましょうよっ」

 

と、エミリアの提案に二人が同意して向かった先は近くのカラオケ店。中に入り、それぞれの持ち歌を熱唱するエミリアと愛美。

 

「ワオっ、ミズキうまいね!」

 

「当たり前でしょ、マナも学校終わってからほぼ毎日行ってたんだからっ、それにしても石川は強張りすぎよ!」

 

「あ、うん……っ」

 

初めて愛美を誘って、そして彼女の歌声の実力を披露され、自分の歌声を披露するのに自信がなくなった竜斗に席から愛美は立ち上がると彼にねっとり絡みつく。

 

「しょうがないな、じゃあマナも一緒に歌ってあげるから♪」

 

と、まるで自分は恋人のように恥ずかしげもなく抱きつきベタベタに触ってくる愛美に更に固まる竜斗、そして、

 

「アンタな、なにやってんのよお!!」

 

 

やはりエミリアはいても立ってもいられず立ち上がりすぐ駆け寄る。

 

「離れなさいミズキ、リュウトはアタシのよ!」

 

「ただ一緒に歌ってあげようとしてるだけじゃないっ、もし嫌ならマナを引き離してみなよ、ムフフフフフ♪」

 

二人は竜斗を挟んで争っているがじゃれあっているようで楽しそうであるが彼からしてみれば、この隣同士の女子の豊潤な胸がぶつかっていることに『興奮』が高まりすぎて我慢がならなかった。

 

「もういいかげんにしろお!!!」

 

――と、なんやかんやしている内に時間が過ぎ去り、三人ともバテて店から出た時にはすでに夜暗くなっていた。

「はしゃぎすぎて疲れたな……」

 

「う、うん…………」

 

「カラダがアツい……っ」

 

彼らは帰る途中、夏の夜風を浴びるように駐屯地まで歩いていく。

 

「思ったけどこれから俺達、どうなるんだろう?」

 

「司令はしばらくメカザウルスが襲来などで出動する以外は自由にしてていいって言われたけど、なんかコワいね」

 

「うん。かといって今のマナ達にどうすることもできないのが現状ね」

 

アラスカ戦線が終わり、これから先どうなっていくのか不安感に襲われる三人だった。

 

「ところでさ、ニールセンのおじいちゃん達はなんで日本に来たの?」

「早乙女司令の頼みだって聞いたけど詳しいことは知らない。エミリアは何か知ってる?」

 

「アタシも知らない、だって司令達は今溜まった仕事を片付けるのに大変だから聞けないのよ」

 

「ふーん。けどあの二人と早乙女さん達のことを考えると何かまた開発するんじゃない?」

 

「多分そうだろうけど……一体何をするのかな。ゲッターロボや武装はもう足りてると思うし」

 

彼らのやろうとしていることについて、全く聞かされてない三人にとって謎が深まるばかりだ。

 

「ねえ、空見てよ」

三人はふと夜空を見上げると快晴なためか星空が沢山散りばめられており、まるで宝石のようである。

「流れ星っ」

 

「ホントだ!」

 

彼らの魔の前に落ちるように流星が一瞬だけ写り、驚くと同時にせっかくのチャンスに願い事を言えずに悔しがる。

 

「ああ、マナ願い事あったのに言えなかった~っ!」

 

「ミズキは何を言おうとしてた?」

 

「そりゃあお金やマムチューのぬいぐるみがたくさん欲しいし、あと欲しいブランドのバッグとか服とかあったのにい!」

 

それを聞いて「欲張りすぎだ」と笑う二人。

 

「じゃあ二人は今、何が欲しいの?」

 

「アタシは……まあしいていうなら最近また痩せたいなあと思い始めてて」

 

すると二人から「なら食べる量を減らして動け」と即座に突っ込まれて小さくなるエミリアだった。

 

「リュウトは?」

 

「俺?」

 

「そうよ、アンタは今、何が欲しいのよ?」

 

竜斗はそれについて考えると彼は空をまた見上げる。

 

「……リュウト?」

 

「どうしたのイシカワ?」

 

「…………」

 

――僕の今の願い事……偽善、非現実的かもしれないけど、やっぱり今の戦争がなくなって欲しいと真っ先に思い浮かんだ。

自分達、そして全世界の人達の命、そしてゴーラちゃんやラドラさん達爬虫人類の人達がこれ以上血を流すことなく早くこの暗闇から明日という光がまた来てくれることを……今はそれだけ願うのであった――。

 

 

「ねえリュウトどうしたの?」

 

「あ、いやっ、何でもっ」

 

「もしかして願い事にえっちぃこと考えてたりしてた?例えばエミリアと色んなプレイしてみたいとか」

 

「はあ?なんでそうなるんだよっ!」

 

「ホレホレ、とぼけないで言いなさいよ。分かってんのよマナはっ」

 

「ちょ、まさかリュウトそんなこと考えてたの!!?」

 

二人に問い詰められた彼の答えは……その場から一目散に駆け出していった。

 

「あ、逃げた。エミリア追うわよ!」

 

「うん!」

 

全速力で逃げる竜斗は後ろを見ると、沢山の荷物を持ちながら鬼気迫るような顔で追いかけてくる二人にさらに慌てた。

 

「なんでこうなるんだああああっ!!」

 

そして二人の底力の前に追いつかれてしまった竜斗――三人は息をゼイゼイと乱しながらもその顔からは曇りのないいい笑顔で溢れていた。駐屯地に帰り、ベルクラスに戻り二人と別れた彼はシャワーを浴びて着替えて寝転がり、今日の疲れと満足感から大きく息を吐いた。

 

(そう言えば……今みんな何してるんだろ?)

 

彼はふと、地元の友達や知り合いを思い出した。その時から、また会いに行きたいなと強く思うようになった。

 

(あとで司令に聞いてみようか――)

 

と考えていたその時、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。

誰かと思い、開けてみるとにっこり顔のエミリアだった。

 

「遊びにきちゃったっ」

 

「いいよ入ってっ」

笑顔で彼女を迎え入れて中に入る。

 

「今日は凄く疲れたなあ」

 

「うん、けどすごく楽しかったよ。ノドがカラカラ」

 

「初めて聞いたけど水樹が歌うまいのには驚いたよな」

 

「うん。けどゲッターロボの操縦といい、なんであんなに多芸なのかしら?」

 

「多分、あいつの才能だよ」

 

「あ~あっ、ワタシにも分けてほしいなあ、それかワタシの不器用をミズキに分けてあげたいよ」

 

エミリアはイスに、竜斗はベッドに座りながら楽しく雑談を繰り広げる。

「なあエミリア、久々に俺達の地元に帰りたくないか?」

 

と聞くと彼女も感銘を受けて頷いた。

 

「うん、けど何も言わずにいきなり姿を消したアタシ達だからちょっと怖いなあ……」

 

「ああ、確かに……」

 

「けど久し振りに会いに行きたいのはアタシも同じだよ」

 

「明日辺り、司令に言ってみようか。もう一度地元に帰ってみたいって」

 

「うんっ」

 

二人ともそれに同意し、ウキウキになる。

 

「向こうに電話とか繋がる?」

 

「いや、実は前からちょくちょくやってるんだけど繋がらない」

 

「…………」

「まあまだ回線が繋がらないだけかもしれないしね」

 

そうしばらくして話していると突然エミリアは、

 

「ねえリュウト、横に行っていい?」

 

「え、ああっ」

 

承諾を得ると彼女は竜斗の隣に座り込み、身体を寄せる。

 

「ああ、時間がある限りリュウトとずっとこうしていたいよお……」

 

「エミリア……」

 

自分にそう言ってくれる彼女にほっこりとなる彼は彼女の頭を優しく撫でてあげる。

 

「けど今はそんなことを言ってる場合じゃないし、単なるアタシの願いが叶うような現実じゃないしね」

 

と、彼女は暗い表情を落とした。

 

「……見栄張って司令達に頑張るっていったけど、いざアラスカの戦いとなったら結局自分は弱い人間だって思い知ったよ。

あの悪魔みたいなヤツにみんなやられているのにワタシ……怖くてそこから動けなかったし、ダダこねたり、テキサス艦から逃げ惑う人達に向かってウエって吐いちゃったし……」

 

「…………」

 

「アタシ、またみんなに迷惑をかけるかもしれない……そう思うと胸がギュッと苦しくなったりする時があるの……」

 

彼女がそう自分の持つ悩みを竜斗に打ち明けた。

 

「お前は人のために頑張ろうとして無理するタイプだからな。

もし、もう乗りたくない、戦いたくないと思うなら俺は止めないしむしろ、その方がお前の安全が確実になるからそうしてほしいかな。

水樹にだってそう思う、いくら才能があってもアイツもお前と同じ女子なんだから――」

 

と、彼も二人に対しての気持ちを伝えた。

 

「……もしそうなったらリュウトはどうするの?ひとりでやっていくつもり?」

 

「うん、みんなを守るためにたとえゲッターチームで一人だけになろうとやっていこうと思う。

今までただ過ごしてきたこんな俺がここまで決意を決めて取り組むのは初めてだし、それに世話になった人達の恩を仇で返したくないからさ――」

 

と、伝える竜斗にエミリアは。

 

「……なあんてね。少なくともアタシはチームをやめるつもりはないよ、アタシだって司令やマリアさん、ジョージ少佐とか色んな人達から生き残っていくためにお世話になったからにはアタシだって恩返しをしたいし、リュウト、ミズキにだけ危険な目に合わせたくないから……」

「エミリア……」

 

「リュウトはエラい!そこまでちゃんと考えてるならアタシも喜んで最後まで付き合うつもりだから安心して」

 

彼女は目を輝かせてそう告げた。

 

「みんなが必死で頑張ってるのに自分だけ投げ出すのは絶対にイヤ、だからワタシもチームとして一緒に苦しみや痛み、楽しさや幸せを共有していくつもりで頑張るから、ちゃんとついていくからこれからもよろしくね」

 

「……ありがとう、エミリア」

 

二人はその場で深い口づけを交わして互いに誓い合った――死ぬときも一緒、だと。

 

次の日、竜斗は早乙女の所に行き、久し振りに自分達の地元に帰ってみたいと聞いてみると仕事が全て片付くであろう一週間後ならいいと、すんなり承諾を得た。

それを二人に伝えるとエミリアは喜ぶが愛美は渋っている。

「もう親もいなければアンタ達以外に親しい友達がいないから帰る意味がない」と彼女が言うと、竜斗は「なら、俺やエミリアの友達を紹介するよ」と二人でそう言うと彼女も悩んだ末に承諾した。

 

そして一週間後、彼らは前と同じく早乙女の自家用車で彼らの地元へ向かった。前のような誰もが暗いどんよりとした旅路と違い、非常に賑やかなに雑談しながら道中を行く。

 

「あれ……っ、前に通った時より建物がなくなってる気がする」

 

「ほんとだわ……なんか爆撃を受けたような……なんでかしら?」

 

と、ちゃんと街としての光景があった場所がいつのまにか廃墟ばかりと化している。すると早乙女が彼らにこういった。

 

「私達が日本からいなくなって以降もオーストラリアからメカザウルスに襲撃されたらしくてな、そのせいかもしれん」

 

それを聞いた三人は次第に嫌な予感が襲ったのだ。それは……。

 

「司令、まさか僕達の地元も……!」

 

「分からん、早く行ってみよう!」

 

早乙女はスピードを上げて彼らの地元を急いでいく。廃墟ばかりの光景が続き、その不安が次第に現実と化すのではと、さらなる不安に襲われた――誰もが無事であってくれと祈った。そしてやっと到着した彼らの地元の光景は……。

 

「そ、そんなあ……」

 

「う、ウソでしょ……」

 

「…………」

 

以前はちゃんとあった学校や仮住宅は全て爆撃で破壊されて廃墟と化しており、無数のバラバラとなった白骨、または腐りかけた、焼け焦げた、原形を保った綺麗な屍が山積みとなっている光景が彼らの目に入った。

 

「なんてことだ……っ」

 

早乙女でさえその光景に唖然となる。どうやら爆撃を受けたのは最近のようにも思われるほどに真新しかった。

 

「俊樹達も……知り合いも……っみんな、みんな……っ」

 

「エリコもリエも……そ、そんな……っ」

 

不安が現実になったその証拠の光景についに竜斗達は絶望からその場で阿鼻叫喚の絶叫を上げた……。その哀れな彼らを目の当たりにした愛美は言葉を失う。

 

 

(イシカワ……あんたはこんな目に遭っても、それでもアイツら爬虫類の人間と仲良くなりたいと思う……?)

 

彼女は心の中で彼にそう問いかけた。

 



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第四十話「カウントダウン」③

――誰も彼もが自分達の前から次々と消えていく……両親はおろか友達や知り合い、自分達を古くから知っている人達はみんなこの世からいなくなってしまった。

エミリアは完全に絶望しているが僕は……僕はその思いまでも無理やり押し殺して最後の最後まで信念を信じた。

そしてこれから自分達にとって更に思いがけない展開、そして徐々に地上人類、爬虫人類それぞれの運命の歯車が狂い、元に戻れぬ方向へ動き出す『カウントダウン』が始まった――。

 

 

三機の戦闘機のある地下ドッグ。大張り切りのニールセン達と共にこもりっきりで開発作業する早乙女とマリア。

 

「あれから一週間か。二人については大丈夫か?」

 

 

「……エミリアちゃんは凄く落ち込んでます。しかしそれ以上に問題は竜斗君です」

 

「竜斗がどうした?」

 

「あの子、あんなことがあったのに全然落ち込んでるように見えないんです」

 

「それは良いことじゃないか。それがどうして問題なんだ?」

 

「私は今までカウンセリングしてきた身として分かるんです、あの子……凄く無理をしてます。あのままでは絶対に壊れかねません」

 

「…………」

 

「おかしいと思いませんか?竜斗君はあんな現実を知ってもなお無理やりな笑顔で「僕は大丈夫ですから」と一点張りなんですよ、恐らく今はエミリアちゃんやマナミちゃん、そして私達の存在が皮一枚として繋がっている状態です。もしそれが切れるようなことがあれば……」

と、恐ろしいことを告げるマリアに早乙女は。

 

「竜斗に限ったことではないが、確かに彼らは残酷で非情な現実を知りそして、これから先にもそんな未来が待ち受けているかもしれん。

だがそれでも明日を信じて乗り越えてもらえねばならん――私は竜斗達なら乗り越えられると信じている。

何故なら彼らには沢山の人達から受け継いだ信念や遺志、そしてそういう力を潜在的に持っていると疑わないからだ」

 

と、平然と断言する早乙女だった。

 

「という私も全力で彼らをカバーしていくつもりだから心配するな。マリアも大変だと思うが常に彼らを支えてやってくれ、頼む」

 

「もちろんそのつもりです――」

「おい、しゃべくってないで早く手伝いにこんかい!!」

 

「そうじゃそうじゃ、サボリは承知せんぞい!」

 

汗水たらしながら精力尽くすニールセンとキングからのお怒りの声をもらい、「なんでこんな年寄りなのに自分達以上に元気なんだ」と呆れる二人だった。

 

「エミリア大丈夫……」

 

「ごめんミズキ……今は誰とも会いたくないの……ひとりにさせて……」

 

ショックから未だにベッドに寝込むエミリアのお見舞いに来たがやむなく帰される愛美は仕方ないと諦める。

 

(イシカワは大丈夫かしら?)

 

彼の部屋に向かいドアをノックするが反応はない。エミリアと同じく寝込んでいるのかいないのか。

「……水樹?」

 

横を見ると部屋に帰ってきたのか突っ立っている彼の姿が。

 

二人は中に入り、それぞれイスとベッドに座り込む。

 

「アンタ、大丈夫なの?」

 

「うん、なんとかね……」

 

しかし、その言葉と彼の声が全く一致せず違和感でしかないことに愛美でさえ気づく。

 

「……もしかして無理してない?」

 

「無理してないよ、全然」

 

と、やはり一点張りに答える竜斗に彼女はため息をついた。

 

「今のアンタは大雪山の戦いの後のような感じだったけどさ、なんでそうやって頑なに「つっかえ」を取ろうとしないの、エミリアやマナみたいに悲しい時は感情のままにどんと落ち込んだり悲しめば凄く楽だよ」

 

「…………」

 

「けどアンタの場合ははっきり言って危険な状態だとマナは思うのね。そうやって無理やり我慢しているといつか絶対に心がイカれると思う、人間にも許容ってもんがあるのよ」

 

彼女から諭されると竜斗は、

 

「三人の中で唯一の男だからかチームリーダーからか分からないけどさ……なんか悲しんじゃいけないって思うと反射的にそうなっちゃうっていうかさ……」

 

「……まあアンタは学校でマナからいじめられている時もそんな感じだったような気がするわね、ぐっとこらえているみたいな」

 

「…………」

 

すると愛美は立ち上がり、竜斗にくっつくように隣に座り込むとそのまま身体を向けて彼を深く、そして優しく抱いてあげた。

「み、水樹……!」

 

「思えばマナはこれまでアンタにキツく突っぱねたことしかしてないからね。

今日ぐらいはマナをお母さんだと思ってたくさん甘えなさいよね」

 

と、彼の頭を優しく撫でてあげる愛美。

 

「イシカワは常にキツいことばかりで大変だったよね、アンタには心の安らぎが必要なのよ。

マナ達はそれを十分に理解しているから、アンタの頑張りはちゃんと認めてるから……」

 

と、まるで母親のように優しく、そして暖かく包容する愛美に竜斗に変化が。

 

「う……うう…………っ」

 

竜斗の身体はブルブル震え、瞳から大粒の涙が流れていたのだ。そして次第に愛美に強く抱き締めて泣きじゃくる。

「前にマナに一生の友達と言ってくれたからマナも言ってあげる。

イシカワ、そしてエミリアはマナの人生で唯一の大親友、仲間、そして……家族としてアンタ達を支えていきたい、だからこれからもよろしくね」

 

その言葉に彼の、暗い闇で染まり冷えきった心の中は浄化されていき暖かく、そして明るくなっていくような気がした。

 

「水樹……ありがとう……ありがとう……っ」

 

「マナこそお礼がいいたい、アンタ達のおかげでマナが救われたんだからさ……ありがとうね、イシカワ」

 

二人はここで友達以上に、断固な絆を誓う合ったのだ。

 

「水樹、ありがとう。お前のおかげで心が凄く晴れたよ」

 

「いいってこと。それよりもさ、マナはもうアンタやエミリアからは姓で呼ばれたくないのよね」

 

「え……?」

 

「これからはもう下の名前で呼ばない?絆をすごく深めたって意味でさ」

 

「て、ことは俺は『愛美』と呼ぶのか……」

 

「そっ。マナはアンタを今日から『竜斗』って呼ぶからさ。どお?」

 

竜斗は少し恥ずかしがってるようだったが、すぐに頷いた。

 

「分かった。じゃあよろしくな、愛美!」

 

「うん。こちらこそ、竜斗!」

 

――最初は照れくさい思いもあったが、すぐに慣れたようだ。

今思えば僕と愛美は、初めは嫌悪感丸出しの状態だったのに今では互いの名で呼び合うまでに仲が発展したのだから。

エミリアも最初は二人の呼び合いに戸惑い、言うとなれば少し抵抗感があるかもしれないが僕みたいにすぐ慣れると思う。

僕達は実は、そうなることを運命づけられていたのかもしれないと、自惚れのようなことを思ってみたりするのだった――。

 

「え……アタシがアンタに……?」

 

ようやく起き上がれるようになったエミリアに二人の経緯を伝えるとやはり彼女は驚き、戸惑う。

 

「マナはもう下の名で呼んでるし、ねえ竜斗?」

 

「うん。俺も愛美って呼ぶことにしたんだ。この方がチームとしての絆が断固となる証拠だしね。いや、俺達は家族みたいなものだしさ」

 

と、二人で説得するとエミリアも照れながらもコクっと頷いた。

「……分かった。じゃあアタシも下の名前で呼ぶことにする。よろしくね、マナミ」

 

「ありがとうエミリアっ」

 

愛美はエミリアに抱きつき、互いにもの凄く喜び合っていた。

 

「エミリア、そして愛美、これから俺達チームは本当の一心同体として頑張っていこうなっ」

 

「うん!」

 

「モチロンよ!」

 

ついに今、三人の団結力と絆は完全な物と化した瞬間だった。

 

(父さん、母さん、俊樹、英二、いやみんな……俺達が絶対に戦争を終わらせて解決させるよう尽くして、そしてみんなの分まで生きていくから安心してくれ。

そして黒田一尉、ジェイド少佐、ジョージ少佐……俺達はあなた方の遺志をちゃんと受け継いでこれからも頑張っていけそうです)

彼は星になった沢山の人達へその断固な絆を結んだゲッターチームの姿、思いを届けたい思いだった。

 

「……竜斗君も、エミリアちゃんも回復して本来の明るさを取り戻したようです。それどころか三人は互いに名で呼び合っているぐらいに絆をより強めたようで。彼らはもはやチームとして完全に機能するでしょう」

 

「だから言ったろう、彼らはそう言う底知れぬ団結力を秘めていると。しかしまあ、これでひと安心か」

 

「ええっ」

 

「そして、この機体を操る要素の一つを手に入れたようだな」

 

彼らの目線の先にある三機の戦闘機。これらにはどういう性能、機能で、そして早乙女のいう『操る要素』の一つとは一体どういうことなのか……。

 

「二人とも、こっちへ来てくれ」

 

二人はニールセン達に呼ばれて彼らのいる場所へと向かった。

すでにもう世界から訪れた何人かの優秀なエンジニア、そしてテキサス艦の開発スタッフが到着しており、彼らはそこでエリア51で行ったような各異なるエネルギーの実験が行われていたのだが。

 

「お前たち、これを見てくれ」

 

何故か新しいエネルギーの測定器を持ち出してプラグを繋ぎ、準備が整い実験を開始。すると、

 

「こ、これは……」

 

実験が行われて測定開始した瞬間、新しい測定器が「ボン」と針が吹き飛んだのだった。それに対し早乙女、いや他の者が「オオっ!」と驚愕する。

「博士、これは一体……」

 

「前のような複合エネルギーの実験を行っておる。今回はそれの発展系だ」

 

「発展系ですか?」

「ああ、目の前にあるモノがなんなのか分かるか?」

 

前を見るとそこには巨大なガラス管に入った箱型、球型、円筒型の三つの物体が下から伸びる沢山のチューブと連結されている。

 

「これらはもしかして……ゲッター炉心、プラズマ反応炉、グラストラ核反応炉ですか?」

 

「そうじゃ。ワシらは向こうで各エネルギーの実験をしたがもう一つ実験をし忘れていてな。それは三種のエネルギーによる共鳴反応だ」

 

「まさかこれら全てを?」

「そうだ。そして実際に行い、その結果が今の計測器の「ドカン」じゃ」

 

ただでさえ凄まじい出力を生み出していた各複合エネルギーだったが、さらにもう一つの、全てのエネルギーを掛け合わせる方法などとは到底思いつかなかった。

 

「この計測器は最新型でさらに測れる限界値も非常に高くアルヴァインの最大出力値でも充分許容範囲内だった。だがこのエネルギーは一秒も満たないうちにこの有り様だ、つまりこの複合エネルギーの実験は成功ということだ」

 

エンジニア達は驚き、そして歓喜の声を上げる。

 

「ではこのエネルギーの最大出力値は未知数ということですか?」

 

「そうだ。ワシ達が詳しく測ろうとしてもこれを見る限り、少なくとも残りの寿命を使ったとしても計測は不可能だろうな」

 

早乙女とマリアはその驚異的なエネルギー開発の実験が成功したこの光景に息を飲む。

 

「では、もしこのエネルギーを機体の動力源として使えるようになれば――」

 

その意味をすでに知るニールセンとキングは頷いた。

 

「成功すれば間違いなくこの機体はゲッターロボ、SMB、いや人類科学による英知として、そして兵器分野の極致となりうるだろうな」

 

「………………」

 

「そしてこの際はっきり言わせてもらう。もしこのエネルギーを利用した兵器が完成したならば、メカザウルス相手と戦うのには向かないほどの異常に強力な力であり、扱いようを間違えれば平和すら破壊して地球を破滅へと導くような力だぞ」

 

「彼らに、竜斗君達にそんな神か悪魔かの如きこの力を無事に、正確に扱える自信があると言えるのか?」

 

二人に問い詰められ、早乙女は黙り込む。

あれだけやる気のあったニールセン達が実験成功にも関わらず、喜ぶどころか使うのを躊躇うほどのエネルギーである。

そんな、使い方を間違えれば非常に危険過ぎるエネルギーに竜斗達に見事、制御して扱えられるのか……と。

 

「私は……竜斗達三人なら使いこなせると信じます、むしろあの子達でなきゃ扱えきれないと思います」

 

強気でそう乗り出た早乙女。

 

「彼らは世界を滅ぼす悪魔でもなければ私利私欲で使うような人間でもありません。

まだ社会もしらない、成人していないにも関わらずこんな世界を救うためにどんな苦しい目にも、辛い目にあっても乗り越え、明日を信じて戦う健気な子達です。

あの子達なら絶対に使いこなせると私は断言します、それに――」

 

「それに、なんじゃ?」

 

「――私の勘でもありますが」

 

それを聞いて全員が呆れている。こんな危険なエネルギーに勘を使うのかと。

 

「お前なあ……勘で世界が救えると思うのか?」

 

「さあ。ただ私の勘は結構な確率で当たりますのでね」

 

と、普段のノリのように軽く言ってのけた早乙女にニールセン達は。

 

「……やれやれ、相変わらずしょうがないヤツだ。しかしここの設備では開発、完成させるには限界があるのう」

 

「よし、再びエリア51にこれらを持ち込んで全員で開発するか。あそこはアメリカ、世界の科学技術が集結する場所でもあるからな。周りの者はどうだ?」

 

満場一致で賛同して笑顔で拍手するエンジニア。そんな彼らに早乙女は喜びが際立り、感謝の気持ちでいっぱいだった。ここで一旦休憩をとった後すぐにニールセンに礼を述べる早乙女に彼はこう言った。

 

「サオトメよ、お前を言葉を信じるぞい。確かにあの子達の未知なる可能性もあるが……何よりお前はわしの誇る弟子であり、唯一の『息子』でもあるのだからな」

「博士……」

 

「フン、あと彼らにも感謝の気持ちがあるのなら全員に飲み物をおごってやれ。モチロン、ワシらもだが」

 

「喜んでっ」

 

……ついに神の領域に踏み込もうとする早乙女達。

正直彼らには不安でしょうがなかったがこれも人類科学の英知をかけた自分達の誇りと腕、そして早乙女の発言による竜斗達の可能性に全てを信じたのだ。

 



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第四十話「カウントダウン」④

――僕達は誓った。これから待ち受けるどんな苦難があろうと共に乗り越えていくと。

僕達は誓った。様々な苦しみ、悲しみ、笑い、そして幸せを共有していくと。

 

僕達は誓った。自分、エミリア、愛美、そして早乙女司令とマリアさんは深い絆で結ばれた家族だと。

 

あの地元の一件で深い闇を落としていた僕達は生まれ変わったような新鮮な気持ちで前に歩きだした頃、この物語は急展開を迎える――。

 

「おいちょっと待て、なんだよこれ!!」

 

「どういうことだよ!?」

 

朝霞駐屯地、日本、いや世界はとあるニュースの一面に震撼する。

それは竜斗達も同じく朝食中、ベルクラスの食堂に設置されたテレビを見ていて驚愕を受けた。

「爬虫人類が降伏を申し入れて……停戦協定、和平を結ぶ……!?」

 

「『我々恐竜帝国、そして爬虫人類はこれ以上戦火を拡大して自分達と、そしてあなた達地上人類の犠牲を拡大をなくすために、破滅を食い止めるために――同じ地球に存在する二種の人類として互いの繁栄を祈って――』ですってえ……」

 

その一大ニュースに竜斗とエミリアは目玉が飛び出るほどの衝撃と驚愕を受ける。しかし、

 

「ハア?!何よいきなり、今まで散々沢山の人達を殺してきたくせに突然になってこんなふざけたこと許されると思ってのっ!?」

 

納得いかず、憤怒してじたんだ踏む愛美。

 

「落ち着けよ愛美っ!」

「こんなの落ち着いていられないわよ、ホント信じらんないっ!」

 

納得しきれない愛美はそこから走り去っていく。

 

「マナミ……っ」

 

「……しょうがないよ。だけど突然過ぎてもう……」

 

ニュースの話題が全部これとなっており、どこを変えても同じ内容ばかりだ。

チャンネルを元に戻して見ていると、アメリカのワシントンD.C.にある世界連本部内の映像が映され、中には沢山のマスコミに囲まれてた各国の首脳達と何人かの爬虫人類の代表陣、そして……。

 

「あれ……もしかしてこの小さい女の子って……」

 

「ゴーラちゃんじゃない!?」

代表陣に紛れて一緒に立ち会うゴーラ。おめかしし、おそらく正装と思われる、銀色の紋章の縫い目が入った黒色の全身ローブを着こなし、屈託のない笑顔で互いに握手を交わす姿に驚愕を受ける二人だった。

 

「なんでゴーラちゃんが……?」

 

と、エミリアが不思議がっていると竜斗は何か思い出したかのようにこう言う。

 

「……そういえば前にラドラさんから聞いたんだけど、ゴーラちゃんは恐竜帝国の王女、つまりお姫様らしいんだ」

 

「え?お、お姫様だったんだ……あの子」

 

「それにあの子は頭もいいし、僕達と和平を凄く望んでいたからもしかしたら――」

 

そんな彼女が爬虫人類からの代表の一人に選ばれてもおかしくないだろう、と二人は納得する。

続けて見ていると、外部にある盛大に用意された広場の式典会場に移り、沢山の参列者が集まり席に座るっており、その前で彼女が演説台に立ち、マイク越しで和平宣言をする姿が映された。

 

「『わたし達はあなた方地上人類の方々に大変申し訳ないことをしたのは疑いのない事実ですし、当然ながら免罪できるはずなどございません――それでも私はあなた方地上人類と和平を結び、共存を信じ、実現できるように全うし、そして今日のような素晴らしい日が迎えることができたことに、誠に感無量でございます』」

 

と、気品溢れ、そして胸を張って高らかな声で演説する彼女に二人は釘付けだ。

 

「立派だね、ゴーラちゃん」

 

「うん、初めて会った時から感じたけど、いい意味で普通の女の子とは思えない雰囲気と、人を惹きつけるような魅力を持ってたからね……」

 

これを見て、彼女はやはり優秀な子なんだと再認識する竜斗だった。

 

「『この世界戦争を引き起こした私達に対して不満や遺憾、そして異種族同士ゆえに、これからも互いの価値観や倫理観、そして宗教的や習慣に対することから様々な不都合なことが起こりうるは確かです。

しかしそれを乗り越えて私達が、この地球に住む者同士が永遠に友好、そして繁栄が出来ますよう私達は心から願い、精一杯努力を行います。

この素晴らしい日を、そして悲願の第一歩を祝おうではありませんか!』」

 

 

周りの全員から拍手の嵐が巻き起こる。

 

「未だに信じられないけど、リュウトの願いがついに実現した瞬間だね!」

 

「う、うん……」

 

彼にとってこの上ない最上の喜びのハズであるが、緊張からか顔が強張っている。

 

「……どうしたの、嬉しくないのリュウト?」

 

「い、いやあ……死ぬほど嬉しいんだけどどう表現すればいいか分からなくて……」

 

「確かにアタシもリュウトと同じでホントに信じられないよ。けど……マナミはどう受け止めるんだろ、やっぱり最後まで反対なのかなあ」

 

愛美は元々、爬虫人類自体に生理的嫌悪感ばかり抱いており、それに加えてこれまで彼らが犯してきた数々の罪を考えれば……恐らく死ぬまで許しはしないのかもしれない。

 

 

「……多分、いっぱい時間がかかるけど多分、愛美も受け入れてくれるよ。

ゴーラちゃんのような心の綺麗な子もいるんだし、きっと仲良くなれそうじゃないかな?」

 

「アタシもそう願う。あのコだけのけ者にしたくないもの……」

 

二人は愛美がいつか分かってくれることを心から願った。

 

「向こうで司令はこれ見てどう思ってるのかなあ……」

 

早乙女は今、ニールセン達、そして各国エンジニアと共に、あの三機の戦闘機をベルクラスに積んで、再びアメリカのネバダにあるエリア51に飛んでいた。

そして一緒にいたマリアに日本とゲッターチームを任せてベルクラスで帰ってきた。それからすぐに今の大ニュースである。

「博士達や駐屯地に来た色んな国の人達を連れてアメリカにいっちゃったけど行ったり来たりで忙しいわよね、一体何しにいったのかしら?」

 

「さあ……だけど、このニュースには流石に面食らっているだろうなあ」

 

「けど、これでもう向こうと戦わなくてよくなるなんてこれ以上の喜びなんてないよ、サイコーじゃない!」

 

「そうだな――」

 

この念願の今日を迎えられた彼はこれまでの記憶に遡る。

メカザウルスの襲来を受けて街中を逃げ回っていた時に早乙女に出会い、そしてゲッターロボという巨大ロボットに出会い、そして乗り始めてから一年が過ぎた。

様々な出来事、そして苦難や悲しみが立ちはだかったがそれでもゲッターチームと周りの人達のおかげで乗り越え、そして自分が望む、爬虫人類との事実上の戦争終結、そして互いの和平の扉がついに開かれた……彼にとって、これほど嬉しいことがあるだろうか。

ただ、ちょっと呆気ないとも感じたが流石にこれは失礼だなと、反省する。

 

両親や友達、そして知り合いやゲッターロボに出会ってから巡り会ったお世話になった人達はもうこの世にはいない。だが、これ以上無駄に血の流し合いを見なくて済むのなら……と。彼は思った。

しかし、話の収束はこれで終わりではなかった。

ベルクラスの司令室で同じくそのニュースを見ていたマリアの元に入江から通信が入った。

 

「幕僚長、おはようごさいます」

 

“おや、マリア君一人か?一佐はどうした?”

 

「司令は今、とある新型機の開発でニールセン博士、その他大勢のエンジニア達と共にネバダのエリア51に飛びましたが……」

“そうか、しかし君はニュースを見たかね?”

 

「ええ……っ、私もあまりの唐突さに信じられないんです……恐らくその内司令から連絡が来そうですが」

 

“うむ、私も正直半信半疑だよ。なぜこんな突然に……”

 

やはり二人もこのニュースに動揺を隠せなかった。

 

「ところでご用件は?」

 

“ああ、そうだった。それがな――”

 

数分後、マリアは慌てて食堂にいる竜斗達の元に駆けつけてきた。息を切らし焦っているマリアのその異常さは尋常でない様子だ。

 

「ま、マリアさん?」

 

「竜斗君、あなたに重要な話があるの……」

 

「え、僕にですか……?」

 

「リュウトに……何かあるんですか?」

 

エミリアも一緒に三人はすぐさま司令室に向かう。そして彼らはモニター越しの入江と対面した。

 

“私は現統合幕僚長の入江という。君達が例のゲッターロボに乗り数々の活躍をしてきたパイロットだね?”

 

「「は、はいっ!!」」

 

全自衛隊の頂点に立つ人物の前には二人は緊張から身震いしていた。

“緊張しなくていいよ、幕僚長と言っても日本政府内としては端の人間に過ぎないからね。

君達については早乙女一佐から話を聞いている、今日初めて見たが君達を思った以上に若々しくて羨ましいよ、ワハハハ”

 

と、 二人の緊張を解くかのようにくだけて話す入江の人柄に次第に強張っていた顔が軟化していく二人。

 

“しかし聞いた話によると、もう一人の子がいたと聞くが?”

 

「も、もう一人のパイロットの子はあのニュースにショックを受けてどこかへ……」

 

“……そうだろうな。世界を揺るがすニュースだから様々な人間が見て、受け入れられるのは一体どれほどいるかどうかだろうからな”

「幕僚長、雑談はこれまでにしませんか?」

 

と、マリアが横入りして彼は「コホン」と咳をして気を取り直す。

 

“では本題に入ろうか、失礼だが名前を確認する。君は、石川竜斗だな?”

 

「は、はい、そうですがそれがなにか……」

 

すると入江は深く息を吸い、吐いて間を置いてこう告げる。

 

“先ほど世界連の本部から日本政府に連絡が入ってな。

 

「リュウト=イシカワという日本人男性を探している」とな”

 

「え……?」

 

“「アラスカ戦線で、特に活躍した日本のゲッターチームのメンバーの一人、リュウト=イシカワと言う人物をこちらにご招待したい」と言う話があったのだが……”

 

 

 

 

竜斗、そしてエミリアはカチンコチンに固まった。

確かにゲッターチーム、ゲッターロボに乗り込みアラスカ戦線を戦い抜いたが、正直ただの、一介の日本人の高校生の自分がなぜ世界のお偉いが集まる場所に呼ばられねばならないのか……と。

“君の活躍がどうやら向こうにまで轟かせていたようでな、すぐに身元が分かったよ。

あんな独特なフォルムでさらに圧倒的な戦闘力でメカザウルスの大群を単機で大量殲滅すればそうなるだろうな”

 

「あ、あの……っ」

 

竜斗は目が点になって、口が回らなくなっている。すると代わりにエミリアが、

 

「な、なぜリュウトが……どうしてこんなことになったのですか……?」

 

“なんでも「停戦、和平協定を結ぶために赴いた恐竜帝国からの代表者の一人がどうしても君、竜斗君に会いたいと、そして心からお礼をしたい」という理由だそうだが、君に心辺りがあるかね?”

 

「会いたい……お礼……あっ」

 

「まさか……っ」

 

竜斗とエミリアの心辺りは見事一致した。

 



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第四十話「カウントダウン」⑤

――数日後、出席を受け入れてベルクラスでアメリカに向かう竜斗は色々と準備で大忙しだ。

突然のニュースとそして入江からの伝言を受けたあの日、竜斗は、

 

「確かにゲッターロボに乗り戦い抜きましたし僕に会いたい人物が誰なのかも大体見当がつきますが、こんな一介の日本人の高校生があんな大それた場所に……よろしいのでしょうか?」

 

そう質問すると入江は、

 

“招待を受けたのなら喜んで承諾するべきだ。君は爬虫人類、そして世界の友好の架け橋になりうるかもしれん人間なのだからな”

 

「………………」

 

架け橋という、ある意味世界の全てに関わる最重要任務のように言われて更に強張る竜斗。

 

 

“ワハハハ、そう緊張しなくても君のありのままに見せるといいよ。

一佐の話や君の雰囲気を見ると品性の良さそう子だから自信を持っていけばいい”

 

「は、はあ……」

 

“英語は大丈夫かね?”

 

「一応、向こうで習得しましたから基本的な会話なら……」

 

“では大丈夫だ。なあに心配しなくても相手は怪物でもなければ神や悪魔でもない、君と同じ人間だよ”

 

「…………」

 

話がトントン拍子に進み、竜斗達は混乱していた。

 

“もし招待を受けるなら竜斗君のために正装の仕立て屋をこちらから手配しよう”

 

「え、え……っ」

自分のために仕立て屋まで寄越してくれるということに竜斗は段々怖くなり、慌てて断ろうともしたが、段々断りきれなくなっていく……。

 

「幕僚長、彼が怯えてますよ!」

 

“おっと、すまんすまん”

 

見かねたマリアがフォローを入れて入江の暴走が止まった。

 

“すまない竜斗君、一方的な会話は私の悪い癖でな。だが君自身はその会いたがっている人物には会いたくないのかね?”

 

「…………」

 

“それに君はまだ分からないかもしれんが、もし社会に出て会社勤めになれば流石にここまではないが、取引相手などの接待や会席は確実にあるから逃げられないぞ。そのための社会勉強ということもあるんだ。

先にこのレベルを経験しておくことは凄い自信になるし、これから先に様々な面で大きく役立つことになろう。

君も男ならこういうのにも恐れず胸を張れるような度胸と自信を持てっ”

 

と、先ほどは一変し真剣な表情で諭される竜斗は次第に強張っていた顔が溶けていき、凛々しい顔つきとなった。

 

「……確かに幕僚長の言う通りですね、分かりました。招待を受けましょう」

 

と、決意を込めて元気よく承諾した彼にエミリアとマリアは驚いた。

 

“よし、流石は一佐の教え子だ。そしてお礼がいいたい、ありがとう”

 

そして話はトントン拍子に進んでいく。

 

“君にボディガードが必要となるが誰にしようかな……”

 

と、考えているともう一つのモニター画面に早乙女の姿が映り込む。

 

“マリア、ニュースを見たか……おや、幕僚長、それに竜斗達までどうして司令室に?”

 

「司令、実は……」

早乙女に先ほどの話をすると彼は「ウム」とすんなり頷いた。

 

“竜斗なら適任じゃないか、よし行ってこい”

 

と、相変わらずの軽いノリで言いのけ入江以外の竜斗含めた三人は呆れて開いた口が塞がらない。

 

“相変わらずの調子だな。それでボディガードの適任者は……”

 

“では私が引き受けましょうか”

と、なんと早乙女が竜斗のボディガード役に名乗り出たことに周りは「おおっ」と驚きの声を上げた。

 

“私もそういう訓練を受けてますし、何より竜斗も自分なら安心、信頼できるでしょう”

 

すると竜斗は彼がボディガードが出来ると驚きつつも「司令なら僕も凄く安心できます」と答えると入江も安堵する。

 

“では君達のことを向こうに知らせておく、出席日は分かり次第伝える。竜斗君、一佐、頼んだぞ”

と、入江の通信が切れる。その後、竜斗は早乙女とモニター越しで対面する。

 

「司令……ありがとうございます」

 

“君も凄い大役を任されたな。だが君ならやり遂げると信じているよ、私の誇りある『息子』なんだからな”

 

「司令……はいっ」

 

“マリア、その日にちが分かったらベルクラスで竜斗を連れてきてくれ。私達は向こうで落ち合おう”

 

「了解です。司令、無理をなさらずに」

 

“心配するな。ではまたな”

 

彼から通信が切れると竜斗は緊張がとけてその場で崩れ落ちた。

 

「リュウト!」

 

「はは……まさかこうなるなんて……信じられないよ全く……」

 

と、震え笑いをしていたのだ。それから彼は入江の手配したディーラーから彼のサイズにぴったりの正装のスーツを仕立て、そしてお偉い方と対面しても恥ずかしくないように各マナーや向こうの作法を最低限覚えさせられたりと色々と大変であり、この激動の数日後、アメリカに向かっているこの最中である。

 

 

「まさかこんなことになるなんてなあ……」

 

座学室でマナー本と睨めっこしている竜斗は気の重く、ため息ばかりついている。

 

「そりゃあそうよ、こんなのリュウト、いやワタシやマリアさん、誰だって思いもしなかったことなんだからねえ」

 

「しかしまあ、なんか俺達、とんでもない方向にきちゃったよな……」

 

「うん……」

 

もはやゲッターロボに乗る前の一般人だった時と比べたら雲泥の差である。

 

「けどさ、リュウトの努力が実って、和平っていう願いが叶った上にこんな素晴らしい大役が与えられるなんて、彼女のアタシからすればこれ以上に嬉しいことなんかないよ、頑張ってねっ!」

と、目を輝かせてガッツポーズするエミリア。

 

「うん、ありがとう。幕僚長の言ってたようにこれも贅沢な経験と思って行ってくるよ」

 

「あら、なんだかで凄くワクワクしてるみたいじゃないの?」

 

「まあ司令がついていてくれるし、それに……あの子にまた会えるしね」

 

「そうだね。アタシも会いたかったなあ」

 

「多分、また再開すると思うから大丈夫じゃないかな?」

 

「うんっ」

 

その後エミリアは竜斗の邪魔をしないように外を出るとちょうどそこに愛美が出くわす。

 

「竜斗のヤツ、最近大忙しみたいだけど何してんの?」

「それがさあ――」

 

何があったか話すと愛美は重そうに腕組みをした。

 

「へえ、そりゃあ大ハプニングだわ」

 

「でしょう?だからリュウトが今必死なのよ、向こうで失礼のないようにね」

 

「けど、確かに竜斗なら上手くできるっしょ。三人の中で一番しっかり者なんだから」

 

と、早乙女と同じく彼が上手くやれるかどうか心配していない愛美。

 

「ただ問題は……向こうにあの爬虫人類達がいるなら、アイツらに会ったら竜斗が危険に晒されないかしら?」

 

「え、なんで?」

 

「だって竜斗はこれまでたくさんのメカザウルスを破壊したのよ。て、ことはそれだけパイロットも殺したことになるから……この意味分かるエミリア?」

「え…………どういうこと?」

 

「マナ達人類からすれば英雄扱いだけど爬虫人類からすれば間違いなく大量殺人鬼と思われても仕方ないわよ――」

 

つまり彼が向こうから目の敵にされている可能性があり、それにより危害が及ぶことも考えられるのではという彼女の意見である。

 

「それにさ、ただの日本人の高校生だった竜斗が、一般人なら身の毛が抜けるほどのそんな大それた場所に呼ばれるなんておかしいっしょ。向こうの罠ってことも考えられるのよ?」

 

「う……ん、けどリュウトが呼ばれた理由は会いたがっている人がいるらしいの、大体見当はついてるから罠でもなければ危害を加えるつもりでもないと思うの」

愛美にそれが誰なのかを伝えると腕組みしたまま沈黙してしまう。

 

「リュウトだけでなくワタシ達にも会いたいと思う、だってまた会える日を楽しみにしてるってあの時言ってた。

マナミもさ、いくら爬虫人類が嫌いでも一回でも会ってみようよ、凄くいい子だからさ」

 

「………………」

 

「マナミ、どうしたの?」

 

「マナは……その子と会えない」

 

「な、なんでっ?」

 

愛美はその理由を話すとエミリアは「あっ」と思い出した。

 

「マナは爬虫人類を絶対に許せない……けど、あの子自身は何もしていないし、正直あの時は私情に駆られて取り返しのつかないことをしようとしていたから……どのツラ下げて会えばいいのよ……」

「…………」

 

「ともかく、マナは絶対に会えないようなことをしたのは事実なのよ!」

 

と、自負の念に駆られた彼女は走り去っていった。その彼女の後ろ姿を見て暗い表情を落とした。

 

(確かにアタシにはその事にどうすることもできないけど、今のアンタなら絶対に大丈夫だとアタシは思うから……いつかちゃんと笑顔で会えるよ、あの子も分かってくれるからっ)

 

これから先、愛美のその人物と胸を張って会えることを信じて祈ることしかできないエミリアだった。

 

――後でエミリアにそのことを聞かされたが僕はそれでも正直嬉しいと感じた。あの愛美が、爬虫人類全てを敵だと思っていた愛美にもちゃんとそう言う感情があったことに。

確かに僕もエミリアと同じく今はどうすることもできないがいつか愛美のその心の闇をとってあげたい、解放してあげたい、と強く思う。

今から会うその人物もその事を話せば多分、絶対に愛美と会いたい、仲良くしたいと言ってくれるだろうから――。

 

アメリカに到着したベルクラスはすぐにネバダのエリア51に向かい、到着。早乙女を迎え乗せてワシントンD.C.へ向かう。

 

白ワイシャツ上に拳銃用ホルスターを身に付け、その上にさらに黒スーツを着こなすその姿はどこかの凄腕諜報員(スパイ)の姿に似ており見事な様になっている。

そして、蝶ネクタイと黒スーツに着替えた竜斗の姿を見た周りの反応は。

 

「どうかなあ……俺」

 

「リュウト……体格的には似合ってるんだけど……なんでだろう……ヘン……」

「え……?」

 

と、エミリアからそう評価されて何故なのか彼は粗探しする。すると愛美は、

 

「竜斗、アンタは早乙女さんと違って顔が童顔すぎるのよ。ホストみたいにくだけた着方ならまだしも、こんなピシッとしたスーツだと貫禄ないから違和感バリバリなわけ」

 

そう的確に言われてエミリアは「なるほど」と納得されてしまい、竜斗はだんだんと自信を失いかけていく。

 

「竜斗君はまだ高校生なんだから大丈夫よ、貫禄なんて年をとっていけばついてくるんだし。それよりも気持ちが問題よ」

 

「はあ……」

 

「ほらっ、ピシッとして竜斗君。ちゃんと役目を果たして来るんでしょ?」

 

「……はいっ!」

 

と、マリアがすかさずフォローと励ましを入れてくれたおかげで助かった。

 

「さて、もう着くぞ」

 

そんなことをしている内に到着地であるワシントンD.C.のホワイトハウス直前に差し掛かり、近くに設置された待ち合わせの場所である専用ポートに着陸するベルクラス――。

 

「リュウト、成功するようにずっと祈ってるからっ!」

 

「緊張にやられないようにリラックスして楽しんできなさいね竜斗っ」

 

と、二人に激励されて笑顔で手を振った。

 

「では、行くか竜斗」

 

「はい、司令よろしくお願いします」

 

「任せろ、万が一何かあっても君を守り通すからな。君も安心して、胸を張っていって男を上げてこい」

 

そして竜斗と早乙女はベルクラスから降りていった。

 



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第四十話「カウントダウン」⑥

ベルクラスから降りた二人の前に迎えの高級車がやってくる。中から黒スーツを着込んだ黒人の運転手が降りて挨拶する。

 

「お待ちしておりました、貴方が石川竜斗様とボディガードの早乙女克己(かつみ)様でございますね」

 

「は、はいっ!」

 

「はい」

 

緊張から声が裏返ってしまった竜斗に隣の早乙女が優しく「落ち着け」と背中をポンと。

 

「誠に申し訳ありませんが本人様の確認のためにパスポートなどの身分証をお見せください」

 

彼は自身のパスポート、そして早乙女のをパスポートを提示し、確認をしてもらうと笑顔を戻してもらった。

 

「失礼をおかけしました。ではお二人様は車内にお乗りください」

 

礼をし二人のために後部席のドアを開けてあげた。

 

「竜斗、君が先に乗れ」

 

「あ、はい」

 

竜斗、早乙女の順に乗り込み出発。ホワイトハウスまでの間、竜斗はこの高級感溢れる車内の雰囲気を味わっていた。しかしそれよりも竜斗はとあることに気になっていた。

 

「司令……」

 

「どうした?」

 

「今日初めて知ったんですが……司令の下の名って克己って言うんですね」

 

「……ああっ、そうだ」

 

どこか、自分の名を言い渋っている早乙女に竜斗は雰囲気的に彼に聞いてはいけなかったかとも感じてしまう。

「す、すいません司令……もしかして気にしてます?」

 

「いや、君らに教えてなかった私が悪い。ただ、ちょっとな……」

 

彼の雰囲気を見るとあまり自分の名に快く思ってなさそうである。

 

「それよりも君はマナーや作法などは大丈夫か?」

 

「はい、一応一通りは頭に叩き込んだつもりですが」

 

「よし。私から言えることは確かに今までとは雰囲気の違う場所だから緊張するのは確かだが、失敗しても慌てないことだ」

 

「はいっ、気をつけます」

 

「それ以外は君のことだから心配していない、冷静沈着を保っていけ。私もそばにいるから安心しろ」

と、早乙女にアドバイスされた。

 

「……それにしても司令はあのニュースを見てどう思いました?」

 

「正直、仰天はしたし色々と疑問もあったがそれはそれで戦わなくなってよかったと思う。君もそれが本望だったろ?」

 

「はい……けど、あまりにも唐突過ぎて」

 

「それはみんな同じことを思ってるさ。さて、話はこれまでにして君は心を落ち着かせておけ」

 

と、言われて彼は瞑想に入る。

 

――正直怖い、不安以外の何事でもなかった。考えられるだろうか。こんなどこにでもいそうな、日本人の高校生だった自分があのホワイトハウスに招待されようとは天地がひっくり返っても考えもしなかったことだ。

向こうに待つ人達はアメリカ大統領、そして世界各国の首脳……果たしてこんな自分が足を踏み入れていいものなのか……そして何とも思われないだろうか。

しかしこれも世界、爬虫人類の友好の架け橋になるため、そして自分と会いたがっている例の人物と再開するため……僕は到着の前に最後の覚悟を決めた――。

 

ワシントンD.C.の中心部のペンシルベニア通りのホワイトハウス、そして世界連本部のある区域に入っていく。

車が止まり、同じく運転手がドアを開けてくれたので竜斗、早乙女は降りてエグゼクティヴ・レジデンス、つまり大統領住居であるメインハウスの前に立つ二人。

 

「な、何度かテレビで見たことあるけど実物はスゴいなあ……っ」

 

竜斗はその特徴的な全体が白色の建物の圧巻さに目を奪われる。恐らく日本の高校生でこんな神聖なる場所に立つのは自分が初めてだろう、と思った。

すると正面入り口から同じくスーツを着こなした白人の男性案内人が彼らの元へ駆けつける。

 

「石川竜斗様、そして早乙女克己様、お待ちしておりました。こちらへご案内します」

 

案内人の後をついていき中へ入っていく。竜斗は緊張しつつも恐らく最初で最後であろうこの超高待遇ぶりな雰囲気を味わっていた。

 

(僕の代わりに、愛美はともかくエミリアだったら極度の緊張でぶっ倒れそうだな……これっ)

 

二人を今の自分と置き換えた時を想像する竜斗だった。

建物内部に入ると日本とは異質のその気品溢れる西洋的で神聖な空間が彼らを迎え入れた。そのまま案内人についていくと大きな木製のドアの前に立ちどまる。

 

「少々お待ちください」

 

と、案内人はドアをノックして一人だけ入っていく。約十数秒ほど待つと扉が開き先ほどの案内人が現れた。

 

「お待たせしました。ではこちらへお入り下さい」

 

彼らが通れるようにそのドアが全開に開かれた。

 

「竜斗、行くぞ」

 

「はいっ」

 

二人は中へ入るとの高価そうな絨毯で敷き詰められた場所であり、中央部横にはグランドピアノが飾られている。そこにいたのはアメリカ大統領、そして、

『リュウトさん!』

 

「ゴーラちゃん!」

 

再開するなり緊張など忘れて二人は駆け寄り手を繋いだ。

 

「やっぱり君だったんだね!俺と会いたがっている人はっ」

 

『はい、今日という日をどれだけ待ちわびたことか……ワガママながら私は思い立ってもいられずあなたにお会いしたくてたまりませんでしたので……』

 

「ゴーラちゃん……ありがとうっ」

 

二人は久し振りの再開に心の底から喜んだ。

 

「ようこそ竜斗君、ホワイトハウスへ。私がアメリカ現大統領を務めているトレントだ」

 

「はじめまして、石川竜斗ですっ」

 

二人、その後早乙女も笑顔で固い握手を交わした。

 

「ゴーラ君の話の通り凄い仲良しそうで本当によかったよ、確かに君は誰とも仲良くなれそうな素晴らしくいい笑顔をしているな」

 

「いやあ……それほどでも……っ」

 

大統領のトレントから誉められてデレデレ状態の竜斗にゴーラ達もいい笑顔をしていた。

 

「今日はパーティー会食があるからぜひ参加していって楽しんでくれたまえ、他の者も君と話したがっている」

 

「こちらこそ喜んでっ」

 

しばらく会話した後、トレントは仕事と、彼らに会話の間を設けてしばらくその場を後にしていった。

 

『サオトメさん、またあなたにお会いできて光栄です』

 

「私もだ、ゴーラ。ついに君達の願いが叶ったなっ」

 

『はいっ、もうリュウトさんになんとお礼をいっていいか……』

 

「けどさ……俺、なにかそんな役立つことをしたのかなあってっ」

 

『あの時、偶然的にあなた達との出会い、そしてお話ししたことが私の思い描いていた戦争終結、そして互いの和平、共存について私の自信と意志を固めることができました。

それから毎日、私はお父様へそれを訴え続けました。

最初は頑固で聞こうともしませんでしたが、その甲斐もあってお父様にも少しづつ届き、そして今日のような日を迎えることができたのです。

だからリュウトさんのおかげと言っても過言ではありません、私はもはや感謝では言い表せません……』

 

 

彼女は感際だって嬉し泣きしてしまい、二人は心は暖かくなった。

 

「俺も君やラドラさんのことを少したりとも忘れなかったし、いつか解決することを夢見て、頑張ってここまで来て、そして今日のような念願の日が訪れた――ゴーラちゃん、こちらこそ本当にありがとう」

 

互いを讃え合い、感謝し、そして喜ぶ二人。

 

『リュウトさん、今は別の場所で待機してますが私のボディガードの一人としてラドラが来ています』

 

「え、ホントにっ?」

 

『はい。あの方もあなたがここに来ることに大変喜び楽しみにしています、後でお会いできると思います』

 

「俺もラドラさんに今すぐにでも会いたいっ」

 

その後、先ほどの案内人と共にホワイトハウスの案内のために内部を歩く三人はエントランスホールに行くと、ちょうどそこに爬虫人類側の代表とそしてボディガード達、そしてラドラが待機していた。

 

『リュウト君!』

 

「ラドラさん!」

 

ゴーラの時と同じく、二人は再開し手を取り合い大変喜び合った。

 

「ラドラさん、もうあなた方とはこれ以上戦わずに済むんですね……僕はこれほど嬉しいことはありません」

 

『ああ。私も君とこういう形でまた会えたことが最高に嬉しいよ。これからは互いに色々大変になるかと思うがよろしく頼むっ』

「こちらこそっ」

 

仲良く楽しく話をしている竜斗、ラドラ、ゴーラを尻目に残りのボディガードは何やらジロジロ見ている。

 

(あれが例のアラスカの第三恐竜大隊を潰したゲッターロボという機体のパイロットか……)

 

(ああ……そうだ――ジャテーゴ様の命令通り――)

 

と何かひそひそ話をしている様子に、早乙女もチラチラと見ていた。

 

――僕はこの日、ゴーラちゃん、ラドラさんと、もう互いに戦わなくて済むことに大変喜び合った。

三人にとってこれほど安堵に浸れる日があるだろうか。

二人に「エミリア達が会いたがってる」と話したら「私も今すぐにでも会いたい」と喜んでそう言ってくれた。

愛美のついても話すと彼女も笑顔で「前の事は全然気にしてません、寧ろそう思ってくれたならそんな彼女と是非打ち解けたい、仲良くなりたい」と言ってくれたので僕は彼女に感謝した。

ラドラさんにも聞いてみると「君と違って全然面識はないし、色々と戦った者同士で向こうは私をどう思うか」と少し渋っていた。けど僕が「なら僕が紹介するので大丈夫ですよ、エミリア達はきっとあなたを受け入れてくれますから」と色々と説得すると彼も照れながら頷いてくれた。

 

もう一度言う、僕達はこの日に至上の喜びに浸っていた、そして真の平和が訪れると信じて疑わなかった、その時までは――。

 

「御来賓の皆様、本日はこのようなパーティーにお越しください、ありがとうございます。

私達人類と爬虫人類の共存、私は今日という日をどれだけ待ち望んだかわかりません。

そして本日、爬虫人類との共存の起点を作ってくれた、遥か海を隔てた日本国からはるばるお越しくださった石川竜斗君を迎え――この素晴らしき日を祝おうではありませんかっ!」

 

その夜、各国首脳陣や外交官、来賓客が集まり盛大なパーティーが開かれた。

そして、雰囲気に慣れた竜斗は完全に落ち着いた態度と多少は固いが気品のある口調で各お偉方達と楽しく話をしている。

そして向こうも竜斗の素直で誠実さ、そして彼の誰でも拒まず受け入れてくれるような柔らかい雰囲気に凄い好印象を持たれており、早乙女はそんな彼を見て「やはりこれは彼の才能だな」と再認識した。

しかし早乙女は何か気がかりなことがあり、腑に落ちない。それは先ほどの爬虫人類側のボディガード達の不審な雰囲気、そしてこの場には先ほどまでいたはずの、ラドラとゴーラ以外の爬虫人類の姿は見かけられないことだ。

 

「……司令、どうしました?」

 

「いやっ、なんでもない。竜斗はもっと楽しんできてくれ」

 

「は、はいっ」

 

竜斗は近くで楽しんでいるゴーラの元へ向かった。早乙女はすぐにラドラに駆け寄る。

 

「ラドラ君、ここにいる爬虫人類のボディガードは君だけか?」

 

『え……っ』

 

ラドラは辺りを見渡すが、確かにどこにもいない。

 

「それに他の君達側の代表陣の姿もいつの間にかいない……どうした?」

 

『そういえば……さっきまでいたと思っていたのに彼らはどこに……っ』

 

早乙女は嫌な予感に襲われた。すぐさまラドラと何かこそこそ話す早乙女――。

 

『リュウトさん、私と踊りません?』

 

ゴーラからダンスの誘いを受けて彼は照れる。

 

「え……俺、踊ったことないからどうすれば……」

 

『大丈夫です、私に身を任せてくだされば』

 

と、彼女と密着して、クルクルと優雅に踊り出す竜斗とゴーラにそれを微笑ましく周りは見ている。

 

「君はなんでもできるんだね……」

 

『いやあ、私もまだまだ上達していないですが……』

 

次第にカチコチだった竜斗も柔和していき、勢いと流れに身を任せながら二人は笑顔で踊っている。その光景はまさに地上人類と爬虫人類が夢にまで見た友好を如実に著していた――。

 

「汗をいっぱいかいちゃった……熱い……っ」

 

夜とはいえ夏場ということもあり、竜斗から汗がダラダラ流れており、さらにこの場は密度が高く暑さに拍車をかけている。だが暑さに強いゴーラは全くと平然としている。

 

『私は大丈夫ですが……じゃあリュウトさん、ちょっとこの場を出て涼みますか?』

 

「その前に司令やラドラさんに外で涼んでくると言っておこう」

踊っていた中央から離れて、二人を探したがどこにもいない。

 

「あれ、どこいったんだろう……それにラドラさんもいない……」

 

『用足しということも考えられますし、離れませんので大丈夫でしょう』

 

 

竜斗とゴーラは仕方なく外に出ていくと何故か、早乙女とラドラが目の前で気の張り詰めた、深刻そうな表情で何か話をしていた――。

 

「ん?」

 

ちょうどその時、一人の来賓客がハンカチを中央付近のテーブル下に落としてしまい、拾おうとした時、テーブルクロスに隠れたその中から「ジジジ」と音が聞こえた。気になりめくってみた瞬間だった――。

 

――その時だった、先ほどまで盛り上がっていたパーティー会場からとてつもない音が中から響いたのは……ドアも吹き飛び僕達はそれごと壁に叩きつけられそうになったがすかさず司令、ラドラさんが僕らを受け止めてくれた、だがそこからは全く記憶になかった。

 

実は地上人類と爬虫人類、互いの運命を狂わし破滅のシナリオへと突入するターニングポイントであったことに――。



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第四十話「カウントダウン」⑦

「な、何があったの……!?」

 

マリアは突如、もくもくと煙が上がるホワイトハウスの光景に顔が真っ青となっていた。その時、ちょうどエミリアと愛美も駆けつけその現状に唖然となった。

 

「な、なにが起きたんですか……リュウトは!?」

 

「な、なんで火災が起こってるの!?どうして!!?」

 

「静かにして!」

 

喚くように騒ぐ二人を抑え、マリアは慌てて早乙女に連絡をかけるが一向に出ない。

 

「今からホワイトハウスへ向かうわ!二人は直ちに着替えてゲッターロボに乗り込み待機してっ」

 

「「はいっ!」」

 

エミリア達はすぐさま格納庫へ、この場を後にしていく。

「司令……竜斗君……っ」

 

マリアはその異常な光景に苦虫を噛み潰したような苦渋を浮かべていた。

 

「なんで!何が起こったの一体!?」

 

格納庫へ向かう二人は、そのワケの分からない事態に完全に混乱している。

 

「今は何よりも竜斗や早乙女さんの無事を祈ることよ、いいっ?」

 

「う、うん……」

 

彼らにもしものことがあれば……もはや半べそをかいているエミリアに愛美は気を持つよう指示する。が、実のところ本人も心の内では二人の無事の安否に不安でしょうがなかった――。

 

「くっ、大丈夫か竜斗!」

 

「ゴーラ、お怪我は!?」

突然、爆発音と同時にドアごと前に吹き飛び壁に叩きつけられかけた竜斗とゴーラだったが早乙女とラドラが二人のクッションとなってくれたおかげで事なきを得たが、本人達は「え、えっ」と言うばかりで状況を把握出来ていない。

早乙女とラドラはすぐさまドアの残骸をどかし、恐る恐る中を覗いた――だがその瞬間、ゴーラからのけたたましい悲痛な声が辺りにこだました。

 

『二人ともこれ以上見るな!』

 

青ざめた顔の竜斗達に、内部の惨状をこれ以上見させないように身体で覆い隠す早乙女とラドラ。

 

『な、なぜ、こんな……っ』

 

「とりあえず、今すぐここから脱出だっ」

彼らは命の危険を感じて、直ちにその場から離れていく。

 

――先ほどまで愉快で優雅、そして活気で溢れていたパーティー会場が一瞬でるも背けたくなる、誰一人とも生きていない凄惨な光景、この緊迫した状況の空気、恐怖、なにより何故こんなことになったのかという疑問で頭の中がいっぱいになり本当に気が狂いそうになる。

ゴーラちゃんも僕と同じだろう――なぜこんなことになったのか。

僕と司令、そしてゴーラちゃんやラドラさんまでもが極秘で進められていた爬虫人類の陰謀に気づくはずなど全くなかった――。

 

「マリア、聞こえるか!」

 

“司令、突然ホワイトハウスから爆発と煙が……何があったんですか!”

「恐らく何者かのテロ行為と思われ、パーティー会場の人間全員がやられた」

 

“そんなっ……竜斗君達は大丈夫なんですか!”

 

「大丈夫、ゴーラとラドラ君共々私達は奇跡的に無事だ。これより脱出する、助けにきてくれ!」

 

“今、急速で向かっています。ゲッターロボも発進準備が出来てますがどうしますかっ?”

 

「よし、ベルクラスでホワイトハウス上空に到着次第……アルヴァインを降ろして私達を保護してくれ」

 

“了解です、司令どうかご無事で――”

 

通信を切るとすぐさま三人に伝える。

 

「これより待機していたベルクラスとゲッターロボがこちらに駆けつける。外へ行くぞ!」

 

四人は内部におそらくテロリストがいるだろうと隠密行動をしながら脱出経路を辿っていく。

その途中、大統領のSPやホワイトハウスで働く役員……地上人類の人達ばかりがいたるところに血まみれで倒れておりもはや動くことはなかった。

 

(だ、誰が……こんなことを……っ)

 

少しずつだが、やっと状況を理解してきた竜斗達はその惨劇の光景に言葉を失った。

自分達は和平を結んだのではなかったのか……確かにそれを望まない者、納得いかない者もいるのは理解できるがこんな酷いまでするのか……彼の頭の中はそればかり駆け巡っていた。

 

「いたぞ!」

 

途中でどうやらテロリストと思わしき覆面をした者三人に発見されてライフルを向けられる四人だったが、

『私が行く!』

 

ラドラが携行していた長剣に構えて目に見えぬ速さで駆けていき、一瞬でテロリスト達の間合いに入り込むと横一線で二人同時に切り裂き、断末魔と共に血が吹き出しドサッと倒れ込む。

 

『死ねえ!』

 

もう一人がライフルをラドラに向けた瞬間、早乙女は素早くホルスターから拳銃を取り出し、早撃ちでもう一人の者の頭部を一発で撃ち抜いきそのまま仰向けに倒れて動かなくなった。

ラドラはすぐさま覆面を脱ぎ取ると、一瞬で唖然となり硬直した。

 

『な……っ』

 

三人もすぐさま駆けつけて覆面の者達を見る否や、愕然となった。

 

『お前は……リグリじゃないか……』

 

そう……彼は、共に自分達と来た代表のボディガードである、爬虫人類のリグリであった。

 

『おい、なぜこんなことを!!』

 

『くっ…………』

 

命が尽きかけている彼に、ゴーラは駆け寄った。

 

『よ、よくもこんなことを……なぜ……なぜ裏切ったのですか!!』

 

『…………』

 

『お父様が……お父様がなぜこんなことを……協定、和平を結ぶとは全て嘘だったのですか!!』

 

喚くようなゴーラの問い詰めにリグリは息の途切れ途切れにこう言った。

 

『全ては、ジャ、ジャテーゴ様の命令です、ゴーラ様……』

 

ジャテーゴと言う名を聞いたゴーラとラドラは信じられないような表情をした。

 

『ちょ、ちょっと待ってください、ジャテーゴ様ですって……あの人は関わってないはずですよ!』

 

『協定、和平の……総責任者は……ジャテーゴ様……っ』

 

そのまま事切れてしまったリグリに二人は、初耳だと言わんばかりに完全に真っ青だ。

 

『これら一連の総責任者はゴール様だと私は聞いた……なのにジャテーゴ様とはどういうことだ……っ』

 

『私もお父様だと聞いていたはずですが……』

 

リグリとの話が全く噛み合わず混乱している二人。

 

「どういうことだ?」

 

 

『わ、私達はこの停戦、和平協定はお父様のゴールが総責任者と知り、そして思っていたのに彼から総責任者がジャテーゴ様だと……』

 

「ジャテーゴ……?」

 

『お父様の妹君です。野心を持った策略家でもありますが……この一連には関わってないと思ってました』

 

『彼女の父君であるゴール様が総責任者だとしか教えられていない……妹君のジャテーゴ様は和平などは望んでおらず、酷く嫌って絶対に関わらないとおっしゃっていたはず……』

 

二人から事情を聞いて素早く理解した早乙女は、

 

「君達はそのジャテーゴとやらにペテンをかけられたのでは……?」

 

二人はその事に否定どころか思い当たっていると沈黙してしまう。

 

「そして君達だけは真実を、そしてパーティー会場を爆破されるとも知らなかった、というより知らされていなかった……まさか!」

 

早乙女は二人も抹殺対象に入っていたのでは、とそう告げられるとゴーラの顔は一気に真っ青だ。

 

「そして恐らく……竜斗、君も奴らの抹殺対象に入っているかもしれん、君はゲッターロボで沢山のメカザウルスを撃墜したのだから目をつけられていてもおかしくない」

 

「え…………それじゃあ……っ」

 

『私達はジャテーゴ様によってハメられた……?』

 

ゴール自身は本気かどうかは分からないが、ジャテーゴは停戦協定、和平を結ぶことを利用したのだとしたら……邪魔者である自分達と、アラスカ戦線にて恐竜大隊を壊滅に追い込んだ要因の一つであるゲッターロボのパイロットである竜斗共々殺すためにそう仕組まれて、進められてきたのだとしたら……四人はそう考察し沈黙した。

 

 

『確かにあの方ならやりかねません……恐らく和平を確実に決裂させるために……』

 

「だがジャテーゴという人物は同胞であるはずの君達までなぜ殺すつもりで?」

 

 

『ジャテーゴ様は典型的な爬虫人類の思想の持ち主で、そして野心家で権力の塊のような方です……だから私達みたいにあなた達地上人類と共存を願う者は邪魔者だと――恐らく現帝王であるお父様も……』

するとラドラは何かにハッと気づき深刻な顔となった。

 

『ゴーラ、今頃ゴール様はまさか……』

 

ゴーラも「ハッ!」と気づき心臓に矢を撃たれるような衝撃と痛みが走った。

 

『大変、お父様が!!』

 

ゴーラは竜斗達にこう告げる。

 

『サオトメさん、リュウトさん、私達は直ちに恐竜帝国に帰ります。今、お父様の守りが手薄な状態では――』

 

『いたぞ!!』

 

その時、爬虫人類からの刺客二人に見つかりライフルの銃口をこちらへ向けて、容赦なく発砲した。四人は直ちにすぐそこの左右の曲がり角にそれぞれ入り隠れた。

 

「君達はこれからどうする?」

 

『ここの中央広場に私の機体があるのでそれで恐竜帝国に帰還します』

 

「私達の向かう場所とほぼ同じか……よし、私も援護しよう」

 

「けどラドラさん、今二人が恐竜帝国に帰ったらそのジャテーゴって人に……」

 

『いえ、私達は帰らなければいけません。お父様にもしものことがあれば間違いなくジャテーゴ様の思うつぼ、そうなればもはやあなた達との和平、共存は永久に不可能となるかもしれません、そうならないよう食い止めなければいけません!』

 

「ゴーラちゃん……」

 

『リュウトさん、サオトメさん、こんな酷い目に合わせて本当にごめんなさい……もし次に会えたら……必ず本当の友好を結んだ時に――』

 

と、彼女は涙混じりにそう告げた。

 

『サオトメさん、私が先陣を切り込みます、あなたは援護を頼みます!』

 

「分かったっ!」

 

ラドラはゴーラをその場に待機させて、飛び出し先ほどのように瞬足で駆け出していく。向こうはライフルを連射してくるがラドラはすかさず壁蹴り、三角跳びしながら弾道を避けていき、早乙女も角から拳銃で的確な援護射撃で攻撃し、一人を撃ち抜いた。

 

『ジャテーゴ様の飼い犬どもめ!』

 

ラドラは残りの一人に情けか峰打ちで床に全力でたたきつけた。ラドラが周りの状況を確認し、安全だと分かると早乙女にコンタクトを取ると彼は二人を連れて走り出してラドラと合流した。

「よし、もう少しの辛抱だ」

 

四人はすぐそこまでの出口に向かって走り出した。だが、

 

『逃がさんぞ!』

 

残りの刺客が入り口を塞ぐように一気に現れて立ちはだかり各火器を向けられて万事休す。しかし突然、ドアの外から赤い巨大な手が飛び出し、刺客もろとも潰された。そのドアが破壊された穴の先をよく見ればアルヴァインが顔を覗かせた。

 

「竜斗、早乙女さん!」

 

どうやら愛美がアルヴァインを動かしているようだ。

 

「愛美!」

 

「よし、全員直ちにアルヴァインの元へ!」

 

四人は全力で走り出し、そしてついに外への脱出に成功した。

 



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第四十話「カウントダウン」⑧

しかし次はゴーラ達が無事、ラドラの機体であるリューンシヴまで護衛しなければならない。

 

「水樹、彼らを自分達の機体に戻るまで援護してくれ!」

 

「…………」

 

しかしアルヴァインは動かない。愛美は竜斗達と一緒にいるゴーラとラドラの姿を見て、身震いして憎しみかそれとも嫌悪感ともいえる感情と、反発しているやり切れないような気持ちが混ざり合った複雑な表情をしていた。

 

「水樹、何してる!早くしないか!」

 

しかし動かそうとしない彼女の事情が分かる竜斗は、

 

「愛美、お前にもゴーラちゃんと仲良くしたい気持ちがあるのならどうか二人を助けるためにどうか協力して!」

 

必死にそう訴える竜斗に愛美はブルブルと更に震える。

 

「愛美、ゴーラちゃんは前にあった出来事を気にしてないと、それにお前と是非打ち解けたいと、仲良くなりたいと言っていた!ゴーラちゃんのその思いがもし通じているなら、応えてあげたい気持ちがあるならどうか助けてあげて!」

 

「………………」

 

すると、

 

『マナミさん、私はあの時のことは全然気にしてません、私はあなたと是非和解して一生の友達でいたいんです!』

 

と、ゴーラからもそう告げられた愛美は「うあああっ!」と悲鳴とも言える金切り声を上げたがその後、

 

「……マナが、マナが盾になるから今の内に早くしなさいよ!」

 

「愛美っ!」

と、協力する気になった愛美に四人は大変喜んだ。

 

『マナミさん、どうもありがとう!』

 

彼女からお礼を言われた愛美は涙を流しているも、『険』が取れたような清々しい表情だった。

 

「水樹、私達をアルヴァインの手に乗せて、彼の機体のある公園の中心部へ向かってくれ!」

 

四人をアルヴァインの手に載せると、背を向けてリューンシヴのある中央へとゆっくりと歩いていく。その時、建物から爬虫人類の刺客が次々に現れてライフルによる集中砲撃を繰り出すがアルヴァインが盾になってくれているおかげで何ともないが、こちらへ向かいながら攻撃してきている。

「急げ水樹!」

 

そして中央部のザ・エリプスと呼ばれる場所に到着する。辺りを見渡すとその端に複数のメカザウルス、そしてリューンシヴが右膝を地面について待機している。ラドラが自身の機体を教えるとアルヴァインはすぐさまそこに向かい、リューンシヴの前に立った。

 

『リュウトさん、サオトメさん、マナミさん、すいませんがここでお別れです。今から私とラドラで真相を掴み、陰謀を食い止めてきます』

 

「ゴーラちゃん…………っ」

 

『リュウト君、そしてサオトメさん……いや地上人類の方々を裏切り、踏みにじってしまったことに対し、同じ爬虫人類である私達が解決しに、そして報いに行きます、二人はどうかお元気で!』

 

二人から並みならぬ覚悟と決意を聞かされ絶句する。

 

「また……二人に会えますか!?」

 

『ええっ、次に会うときは今度こそ真の友好を結べた時に――!』

 

四人はお互いの無事とこの先を祈って握手した。

 

「早くしなさい、追っ手が来てるのよ!」

 

愛美に促され、すぐさまリューンシヴのコックピットを開けて乗り込む二人。ハッチを閉めた途端、リューンシヴは立ち上がりそのまま大空に上昇、翼を広げて北極圏へ猛スピードで飛翔していった……。

 

――その後、アメリカ軍の介入、そして僕達ゲッターチームが協力して惨劇と化したこの神聖なるホワイトハウスに蔓延るテロリストを排除、一気に鎮圧して全て幕を閉じた。

大統領含めた多数の重要人物達、そして招かれた罪なき人々もろとも、爬虫人類によるテロの犠牲になり、当然の如く停戦協定、和平は全て決裂……今日以降、戦争は今まで以上に激しさを増しどちらかが滅ぶまでだと、泥沼化の一途を辿っていった――。

 

「これが二人から聞いた向こうの現状、事情だ」

 

「そんなあ……っ」

 

無事にベルクラスに帰還した早乙女はマリアにそれを話すとやはり彼女も絶句する。

 

「竜斗は大丈夫なのか?帰還した瞬間に気絶したが」

 

「……部屋のベッドに運んでエミリアちゃん達が付き添っています」

 

「そうか……竜斗にしたらこれほど辛いことはないだろうな……」

「ええっ、彼についてはこれから心配です、無気力状態となることもありえますし……」

 

「全て……彼女達次第か、どうかあの二人には無事でいてもらいたいものだ、竜斗が『死なない』ためには二人の存在が必要不可欠なのだからな――」

 

一方、ゴーラとラドラはリューンシヴで急いでマシーン・ランド一直線で向かっていた。

 

「ラドラ、到着次第ジャテーゴ様を捕らえて尋問、真相を知るのが先です、そしてお父様からも聞き出しましょう」

 

「はいっ!」

 

「……そしてもしもこの一件の事件がジャテーゴ様の企みであるなら……私は刺しちがえる覚悟でいます」

 

「何をおっしゃいますか!親族殺しはいくら王女のあなたでも重罪で極刑ですよ!」

 

ラドラは彼女の覚悟を聞いて慌てるも、本人の表情は非常に険しかった。

 

 

「今度ばかりは流石の私の堪忍袋の緒が切れそうなんです……私達を裏切り、そして地上人類の皆さんの命、思い、そして、そして、リュウトさん達をここまで踏みにじったこの行為はもはや万死に値します!」

 

「…………」

 

「ジャテーゴ様だけは……あの方だけはもう許さない、絶対に!」

 

と、彼女は今まで見せたことのない憤怒の表情を顕わにした。

 

「ジャテーゴ、お前というヤツは……っ」

玉座の間で対峙するゴールとジャテーゴ。しかしこの二人から出ているのは並々ならぬ殺気、緊迫したこの間は間違いなく出て行きたくなるような息の詰まるような重い空気にまみれている。

 

「私はただ、爬虫人類として正しき行いをしたまででございます。ヤツら地上人類とは絶対に相容れぬ存在ですから――」

 

「……お前は破滅の道へと進むつもりかっ」

 

と、不敵な笑みをしながらそう言いのけるジャテーゴへもの凄い怒に満ちた形相で睨みつけるゴール。

 

「兄上、あなたも地上人類を心底嫌っていたはずでしょうになぜこのような血迷ったことを?」

 

「わしも今でもそうじゃ。しかし前にも述べたようにこれ以上爬虫人類の犠牲を防ぐために、そして多数の民からの意見を検討した結果だと――」

するとジャテーゴは突如、高笑いし声を響かせた。

 

「兄上も真実を言ってくれませんか?ゴーラの説得が一番絡んでるでしょう?」

 

「…………」

 

「全く、親バカとは困ったものだ。他人の話を聞く耳は持たないくせに自分の愛娘には耳を傾けるなどと……だからあのメスガキに消えてもらうことにしました」

 

「ジャテーゴ……っ」

 

「その愛娘と、味方のラドラはもはやこの世から消え去り最大の邪魔者はいない、そしてあなたの味方などもういない」

 

「なっ!?」

 

すると王の間から沢山の側近、家来、そして兵士がこの二人を囲むように飛び出して携行しているライフルを全てゴールに向けられた。

 

「お前たち……っ」

 

「彼らは地上人類と和平を結ぶと告げたあなたに心底失望して忠誠を捨てた者達です、そしてその他にもあなたから離れた者も大勢います。

そんな彼らは今や私に忠誠を誓う……これを見てどちらが人望に溢れているか、どちらが王位に相応しいかお分かり頂けたでしょうか」

 

「ジャテーゴ……っキサマ!」

 

「本音を言いますと兄上、あなたには王という席に相応しくありません。降りてもらいましょうか!」

 

クーデター……王位の無理やり奪いにかかるジャテーゴ。

 

「抵抗しないのなら命だけは助けましょう、そして一生私が老後の面倒を見てあげてさしあげましょう」

 

裏切りられた者の無数のライフルの銃口を向けられたゴールは。

 

「前からお前の性分を分かっていたが……やはりお前には王座などに座る資格などないわあ!」

 

ゴールはその場から飛び上がりジャテーゴ目掛けて襲いかかった――しかしどこからか放たれた一発の弾丸がゴールの頭を貫いた。

地上に着地してそのままうつむきで倒れ込んだゴールに周りから無数の弾丸が次々と撃ち込まれて、もはや見るも無残な肉塊へと変えられてしまった。

 

「お、お父様!!?」

 

「ゴーラ!?」

 

運悪く、ちょうどそこに駆けつけたゴーラ達はその最悪の光景になりふり構わず駆け出し、周りの者を掻き分けてもはや少しも動かぬ無残な姿となったゴール「だった物」に駆け寄る。

 

「あ……ああっ!!」

 

「ゴール様……そんな……っ」

 

最悪のシナリオとなってしまい、絶望で身を染める二人、そして彼女達が生きていたことに眉をひそめるジャテーゴ。

 

「……キサマ、生きてたのかっ!」

 

するとゴーラは懐から小振りのナイフを取り出しで両手で握りしめてジャテーゴに刃を向けた。

 

「私は……相討ちになろうともあなたを殺す!」

 

突撃するゴーラ。しかしジャテーゴは軽くいなして倒れ込んだ彼女の頭をすかさず踏みつけた。

 

「ゴーラ!!」

 

「お前のような小娘に私が倒せるかっ!」

 

「このお!」

 

ラドラは剣を取り出してジャテーゴに襲いかかろうとするが、銃口は全てゴーラに向けられた。

 

「ラドラ、ゴーラがどうなってもいいのか?それに周りの状況を見ろ、お前らの方が絶望的だぞ。もう少し考えろ」

 

卑しい笑みで見下すジャテーゴの足でグリグリ踏まれるゴーラから無念の涙が。

 

「……ラドラ、私はどうなろうと構いません。だから迷わずジャテーゴ様を、お父様の仇を討ってください!」

 

「ご、ゴーラ……っ」

 

「早く……っラドラ!!」

 

と、彼女から嘆願されるが彼は身震いしたまま動こうとしなかった。

 

「ラドラ、お前の力なら私を殺すのは簡単だ。お前の忠誠を誓う王女がただの醜い肉塊になる姿が見たいのならやればいい」

 

「ラドラ……討たなければ間違いなくこの世界は破滅へと向かうでしょう……そうならないためにも非情となり早く……!」

 

彼の究極の選択を突きつけられるラドラ。果たしてその選んだ答えは……剣を落として泣き崩れて伏せてしまった。

 

「私は……あなたを見捨てることはできません……っ」

 

「ラドラ……っ!」

涙声でそう告げるラドラ……彼は非情になることはできなかった。

 

「哀れよのうラドラ、ゴーラを犠牲にすればお前の勝ちだったのになあ」

 

「く…………っ」

 

「ラドラ、お前のその忠誠心を評して生かしておこう。お前は色々役立つ男だ」

 

足をゴーラから離すと周りの仲間に命令して彼女を拘束する。

 

「ゴーラ、癪にさわるが仕方なくお前も生かしておこう。ラドラを操るためにも、そして後にも色々役立つことがあるかもしれんしな――」

 

ついに帝国の実権は自分に渡ったことに下品に嘲笑うジャテーゴ。

 

「今より恐竜帝国はゴールに代わり私の支配に置かれる。抵抗する者、反対する者は誰であろうと容赦ない制裁を与え、徹底的に私に忠誠を誓わせるのだ!」

 

周りは「オォー!!」と新女王を告げる彼女へ歓喜の雄叫びを上げた。

 

「そして、我々爬虫人類は地上人類を徹底的に滅ぼし、遥か太古のように我々だけが繁栄する永遠の楽園を築き上げるのだ。『お前達爬虫人類はいずれ宇宙の覇者となるべく、大いなる創造主たる我に選ばれた唯一無二の種族だ。

民を愛し、脅かす敵と戦い殺し、そして進化しろ』」

 

《ロジェグリエンヌヴ、ナミュルシ、シュオノレゥル!(我ら死にゆく者、爬虫人類の繁栄のために!)》

 

……マシーン・ランド内に響き渡るジャテーゴ達の祈りと宣言はこれから始まる史上最悪のシナリオに足を踏み入れた瞬間でもあった。

 



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第四十一話「ジュラシック・フォース」①

――あの事件から、消えかけていた戦いの火が再び燃え上がってしまい、勢いがさらに増している。

互いのどちらかが滅びるまで戦いが続く……二種の地球人類同士は掴みかけていた友好は消え失せ全面戦争へと突入、どこにも平和な場所などなくなってしまった――。

 

「キサマァ、よくもゴール様を!!」

 

マシーン・ランドの玉座の間にて真の女帝として君臨したジャテーゴの前に現れ、怒りを顕わにするは第一恐竜大隊総司令官のリョド。

ゴールに絶対の忠誠を誓っていたリョドは彼の突然の訃報、そして王位継承に不審、そして真実を知り我慢ならなくなり早速彼女と対峙した。

 

「これはリョド将軍、どうなされたか」

 

 

「とぼけるな!自身は妹であるにも関わらず権力を握りたいためにゴール様を殺害、この恐竜帝国を乗っ取った狂人め!」

「乗っ取ったとは人聞きの悪い、王位継承したと言ってほしい」

 

「黙れ、この性悪女がっ!」

 

リョドは脇差しの剣を引き抜きなりふり構まわずジャテーゴへ襲いかかった。

 

「ゴール様の仇は私が取る!」

 

しかし、周りから彼女の親衛隊に取り押さえられてしまい、床に叩き伏せられてしまう。

 

「今日をもってリョドを大隊長の任を解くとする。後任については……私が一目置く地竜族のクゲイク=ペネを着任させるとする。彼は私に忠実でさらに優秀な頭脳を持つからな」

 

「ぐうっ……!」

 

「リョド、そなたを期待していたのに失望したよ。直ちにこの者を牢へ連れていけ!」

 

 

「お、おのれえ…………っ」

 

「これまでの功績を讃えてお前には数日間考えさせる時間をやる、私に従うと改めなければその時お前は処刑台に立つことになるぞ」

 

拘束されて連行されていく無念のリョドだった。その後すぐに地竜族のクゲイクを呼び寄せるジャテーゴ。

 

「クゲイク、そなたを今日より第一恐竜大隊の総司令官に任命する」

 

「はっ、ありがたき幸せです。ジャテーゴ様のために、そして爬虫人類の名誉と誇りにかけて尽力いたします」

 

「うむ、期待しているぞ」

 

クゲイクを下がらせるとジャテーゴは「フフ」と不敵な笑みを浮かばせる。

「地竜族はいいものだな。これまで兄上がなぜ彼らの有用性を利用しなかったか理解に苦しむ……実に愚かだ、なあラドラよ」

 

玉座の後ろから、無表情のラドラが現れて彼女の横に立つ。

 

「彼らの秘められた超常の力はまさしく驚異の力だ、さすがはレヴィアラトの母体のことはある」

 

彼の顔はもはや生気を失っており、まるで生ける屍のような、まるで彼女の人形のような雰囲気であった。

 

「なあラドラ、私はお前を側に置くのは大変嬉しく思うぞ。あの兄上でもお前を見込んでいたことだけは感心する。

それほどお前は優秀で安心できるのだ、さすがはリージの息子か」

 

「…………」

 

一向に喋らないラドラにジャテーゴは、

 

「フン、まあいい。お前が私に従うのならゴーラを生かしておいてやる、だが裏切れば……どうなるか分かるだろうな」

 

「………………っ!」

 

ギリッと歯ぎしりを立てるラドラを嘲笑うようにジャテーゴは上機嫌に笑い声を響かせた。

 

(優秀なリョドが私に反逆したのは非常に惜しいが……あやつは前からの私の誘いに全く乗らなかったから恐らく対立するのは分かっていた。

その点バット達は私に忠誠を誓ったからよしとするか……さて、シベリアの地の活躍を拝ませてもらおうか――)

 

一方、囚人牢に連行されたリョドは牢屋に投げ入れられて倒れ込んだ。

「あなたは……もしやリョド様では?」

 

聞き覚えのある女の子の声に彼は横を見るとそこにはゴーラもいた。

 

「ゴーラ様……っ!」

 

「やはりリョド様ですね、なぜこんな所に……!」

 

リョドは彼女に全てを話すと彼女は暗い表情を落とす。

 

「申し訳ございません……私が無力なばかりにあなたのお父上のために一矢報いることはできませんでした……」

 

リョドは涙を流しながら彼女に土下座した

 

「……いえ、あなたがジャテーゴ様に刃向かったにも関わらず無事で本当によかった……」

 

リョドは悔しさのあまり、床に握り込んだ右拳を叩きつけた。

「リョド様、どうかお心を鎮めてくださいっ」

 

「……あんなヤツに帝国を乗っ取られたことに……私はもう無念で、悔しくてたまりません……っ」

「リョド様……」

 

「あんな権力の塊のような狂人に乗っ取られたこの帝国はこれからどうなっていくのか……私はもう絶望しかありません」

 

「リョド様、まだ希望を捨ててはいけません。信じましょう、必ず私達以外にも立ち上がってくれる方が他にもいるはずですっ」

 

常に冷静で人望のある将軍であった彼、リョドが悲しみに暮れている状態を見て心が痛むゴーラ。

 

(ラドラ……あなたは今、何をしていますか……ひどい目に遭わされていませんか、私は凄く心配です……。

そしてリュウトさん……もう……あなた達とは二度と会えないかもしれません……今の私達ではもうどうすることも出来ません……本当にごめんなさい……)

 

静かに目を瞑る彼女からも涙が流れ落ちて、無念さを感じられた――。

 

「バット将軍、この一連の関係をどう思いですか?」

 

――シベリアに居座る第二恐竜大隊の本拠地であるブラキオ級地上攻撃要塞『デビラ・ムー』のあちこちに突き出た突起物から高温のガスを吹き出している。その要塞内の司令部兼用の艦橋では大隊長であるバットと部下が先日の一連の事件に対する疑問、不審について話し合っていた。

 

「突然のゴール様の訃報、そしてジャテーゴ様に王位継承されたと伝えられましたが……色々と疑問があり、そして恐らくジャテーゴ様がクーデターを起こした、と私達は思うのです」

「………………」

 

「最近帝国の情勢はおかしいと思います、突然の地上人類と停戦協定、和平を結ぶなどと我々の混乱を招くようなことをしたと思えば決裂、ゴール様の訃報、そして本来のゴーラ様ではなくジャテーゴ様の王位継承……将軍、あなたはこれらについてどうお考えでしょうか?」

 

その質問にバットは、

 

「……もう終わったことだ、私はジャテーゴ様に忠誠を誓った身。自分達がどうこう言おうが何も変わることはない」

 

「しかし将軍、あなたはゴール様に忠誠を誓っていたのでは?」

 

「……正直、私も停戦協定は心外だった。地上人類と和平を結ぶのは反対という個人的な意志もあるが何よりも、これまで同胞達が一体なんのために戦い死んでいったのか……私は全くゴール様の考えに理解、納得できなかった。ジャテーゴ様はそんな私の疑問や不満を打ち破ってくれたのだと認識している」

「つまり……今ではゴール様への忠誠は捨てきったと」

 

「ああ、完全に――」

 

そのはっきりと言い切った発言、そして忽然とした態度は完全にゴールと袂を分かったようである。

 

「リョド様は……っ」

「あいつは心底ゴール様に心酔しておったから断固反対だろうな――」

 

今、リョドが大隊長の座を剥奪されて牢屋に入れられていることはいざ知らず。しかし、彼なら何かしらジャテーゴに反抗的を行動を起こすに違いないと予想しているバットであった。

 

「……話はこれぐらいにして作戦に集中するぞ。ザンキ達、ジュラシック・フォースが敵基地から無事帰還するのを待つのだ」

 

……デビラ・ムーから南側一二〇キロ離れた場所にある、ロシア軍、中国連合軍の司令部のトーチカ。内部では各隊長達による会議が開かれていた。

 

「暗号名『ムー』周辺のメカザウルスが余りにも多すぎて我々の現戦力では不利だ」

 

 

「最近では新型機が約四機確認されており、これらだけで次々と各部隊が壊滅に瀕しており、戦闘能力が著しく低下している」

 

「停戦、和平友好を結ばれて終わったと思いきや、まさかのヤツらの罠だったとはな……しかもそれからメカザウルスの攻撃に激しさを増してきている、これでは埒があかないぞ」

 

やはりあの事件後の影響、そして今まで以上に戦況に苛烈が増して難色を極めている。

 

「うむ……このまま長期戦になれば間違いなくこちらの戦線における敗北は必須……」

 

「よし、こうなったらアラスカ戦線にて猛威を揮ったと言われる日本のゲッターチームに救援に来てもらおう」

 

「そうだな、今彼らは日本で待機しているとの話。直ちに連絡を……」

 

だがその時、このトーチカ周辺が大爆発して内部が激震した。

 

「メカザウルスが攻めてきたのか!?」

 

すぐさま地上モニターを確認する。しかしメカザウルスの姿などどこにもない。だが、また爆発音と共に内部が揺れてモニター画面がザーザーとノイズと嵐まみれになる。どうやらカメラを破壊されたようだ。

「敵襲か!」

 

「しかし敵の姿などなかったぞ!」

 

「護衛隊は何をやっておる!」

 

すぐさま内部にいる隊員に連絡を取ろうとするが全く繋がらない。その時だった――。

 

「ぐは……っ!」

 

隊長の一人の首から鮮血が吹き出してドサッと倒れ込んで動かなくなった。

 

「なっ!?」

 

次の一人は強烈な力で首をへし折られてしまい力無く倒れ込む。

 

「この部屋に何かいるぞ!」

 

しかし周りを見ても、目を凝らしても敵の姿がいない。だがそうしている内に次々が刃物のような物で切り刻まれて、強烈な力で首をへし折られていきそして気がつけば――この場は誰一人とも動かぬ血塗れの惨劇の場と化していたのだ……。

 

「ひい……っ」

 

かろうじて生き残った、血塗れの一人が慌てて味方に連絡を取ろうと近くの通信機にしがみつき、連絡を取ろうとした。

「こちら連合軍第一〇大隊司令部、こちら第一〇大隊司令部、突然正体不明の攻撃を受けている!直ちに救援を――!」

 

しかし、彼の動きはここで止まった。なぜなら首が胴体と離れていき床に叩き落ちた。血が噴水のように吹き出した胴体はそのまま床にゴロンと転がる。

 

「へっ、救援を呼んでも無駄だがな!」

 

その場に突然と姿を現す二人の黒い全身タイツと通信機具を装着した爬虫人類の男女……ザンキとニャルムが立っている。

「……任務完了。早く二人の元へ……」

 

「ああっ、あいつら待ちくたびれているだろうからな。その前に――」

 

ザンキは背中のナップサックから薄紙に包まれた粘土質の不定状物体を取り出してテーブルにペタっと張り、そこに付属の信管のようなものを突き刺した。

 

「よし、脱出しようニャルム」

 

二人は急いでその場から離れていく。

 

「リューネス、クック、たった今、敵基地を制圧した。これより内部を爆破して合流、デビラ・ムーへ帰還する」

 

“了解、二人ともうっかりして爆発に巻き込まれるなよな、ワハハッ!”

 

「分かってるよっ」

 

通信を切ると外部まで一気に通路を駆けていく。その途中、恐らく彼らの所業であろう地上人類の連合軍隊員の無残な死体ばかり広がっていた。

 

「死してもなお醜いね……地上人類のヤツら……」

 

「ああ、こんなヤツらと友好を結ぼうとしたゴール様の気がしれんぜ。まあ、もうそんなことはどうでもいいけどな」

 

ザンキの笑う声が響いた後すぐ、内部にある物全ては閃光と熱、衝撃波と共にこの世から消え去った――。

 



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第四十一話「ジュラシック・フォース」②

トーチカの爆発を見届けた二人はすぐさま、それぞれ地形を利用して隠蔽しておいた自分達の機体へ戻り、コックピットに乗り込みシステム起動させる。

ザンキの専用機である『ランシェアラ』はかなりコックピットの内装が特殊であり、操縦桿やパネルキー、そしてコンソール画面などは一切なく、さらには座席すらないので立つしかない。

その代わりに両腕、足に何やら触手のようなものが伸びて絡まり、ザンキが身体を動かすとそれに連動して機体が起動、自分の動きに連動して機体も同じ動きをしている。

 

「……マーダイン、直ちに起動する……っ」

 

ニャルムの専用機であるメカエイビス『マーダイン』はまるで三叉槍の穂先のような形をしており、すぐさま垂直に空中へ浮遊していく。

二人が動き始めた時にちょうどそこにリューネス、クックの駆るメカザウルス『オルドレス』、『グリューセル』が現れて二人と合流する。

 

「お帰り二人ともっ、潜入は楽しかったか?」

 

「へ、まあまあかな」

 

「おい、話は後だ。今ここに敵影の大軍がこちらに近づいている」

 

と、雑談をしているザンキとリューネスの間にクックが割り込みそう伝える。

 

「先ほどの生き残りのヤツが救援要請を入れたせいだろうな」

 

「どうする、強行突破するか?」

 

「いや、寄り道として全滅させてから帰ろうぜ。敵数をさらに減らしてオジキになお喜ばれるかもな」

「そりゃあいいっ、暇つぶしにやってやるか!」

 

「……あたしも、付き合うよ……」

 

ザンキの意見にリューネス、ニャルムは進んで同意する中、クックだけはあまりいい表情をしていない。

 

「ザンキ、余計なことをせずに帰ったほうがいい。向こうの作戦予定が狂うぞ」

 

「け、このマジメ君が。もう敵基地のトーチカ破壊は予定より早く完了してるし時間はたっぷりある、その時間を使ってアイツらをついでに倒せれば敵戦力も減らせて良い事だらけじゃねえか」

 

「………………」

 

「嫌ならお前だけ先に帰ってな、俺らだけでやる」

 

と、彼にそう言い捨てるザンキ。四人は北側に振り返るとそこにはロシア、中国軍のSMB、戦車がこちらへ津波のように押し寄せている。

 

「早速パーティーをおっ始めようぜ!」

 

「おう!」

 

「……楽しみ……」

 

ザンキ達仲良し三人組は意気揚々と敵部隊に突撃していく。

「…………」

 

ただ一人取り残されたクックも「付き合いきれん」とため息をついながらも、なんだかんだで後を追いかける。

 

「行くぜぇ!」

 

ザンキの動きに連動してランシェアラの左右腰の取り付けられたホルスターから二丁の拳銃を取り出し、さらに両肘、太ももから収納された小刃を展開、マグマによって真っ赤に発熱した。

 

「オラァ!!」

 

走り込み、そして高く飛び上がったランシェアラ。落下しながら地上の機体へ二丁拳銃から熱線を連射して撃ち抜き、溶かして爆発させる。地上に降り立つとそこから急発進。

ルイエノのように素早くSMBへ接近し、ザンキ自身の得意である機体をコマのように回転、超高温に発熱した刃が回転の勢いに乗った結果、密集したSMB、戦車はたちまち細切れに熔断していった。

 

「まだまだあ!」

 

次は二丁拳銃を振り回して熱線を連射、まるでダンスをするようにクルクル華麗に踊りながら周辺の敵機全てを蜂の巣にして撃破していく。

「お前らが止まって見えるぜ!」

 

跳び蹴り、回し蹴りなど体術で吹き飛ばしすかさず拳銃の熱線で撃ち抜いていく、その動きはまさに『ガン=カタ』ともいえる戦闘術であった。

 

「調子に乗るなメカザウルスめ!」

 

中国製SMBである『骸鵡』が頭部の機関砲二門を撃ちながら、手持ちの巨大青竜刀を振り回してランシェアラに両断しようとするが後転、側転、反復ステップなどを軽いフットワークを繰り出して全く当たらず。

 

 

「隙だらけだな、ハハ!」

 

急接近されて間合いを取られた骸鵡は二丁の銃口を胴体に押し当てられて撃ち抜かれて、さらに高熱刃でバッサリ切り刻まれてしまった。

 

「俺に少しでも触れることができたら誉めてやんよおっ」

 

ランシェアラ……レイグォールの一人である、風を司る神の名を冠しているのは伊達でないほどに物凄い機動力だ――。

 

「ザンキに負けてられねえぜ!」

 

 

リューネスの駆るオルドレスはトリケラトプス型の、身体の至るところに重火器を内蔵した砲撃重視のメカザウルスで間合いを取りながら敵の密集地帯に腰部左右の多連装ポットから大量のミサイルの雨を降らし、さらに背中からの四連砲からドロドロのマグマを水のように放出して溶岩の中に飲み込んでいく。

「蒸発させてやる!」

 

頭部が横真っ二つに開き、中から大口径の砲門、ルゥベルジュ砲が出現、そこから極太の熱線を放射。

射線上の機体全てを呑み込み、リクシーバ合金製のSMBを一瞬で氷のように溶けて蒸発していく。

 

「死ぬ苦しみがない分、優しく思えよ薄汚いサルどもっ!」

 

その放射状態のまま左へ向きを変えて左側の機体も蒸発させていった。

 

「……………」

 

そしてクックのグリューセルはフォルム、武装、戦法何から何までラドラのゼクゥシヴと酷似しており、翼竜タイプの巨大な羽翼とブースターを駆使し、高速で空中移動しながら右手に携行するルゥベルジュ・ライフルで地上に熱線を降り注ぎ次々とSMBを撃破していく。

だが、地上からヒート弾やプラズマ弾、小型、大型ミサイルなどの無数の反撃がグリューセルめがけて向かってくるが彼の機体にまとわりつくあの小型の金属球体、リュイルス・オーヴェがすかさず機体にバリアを張り全弾をシャットアウトした。

「すまないな地上人類達、こいつらの遊び相手の犠牲になって……だが、こいつらが帰らないかぎり俺もただでは帰れないんでな」

 

と、謝りながらも右肩の折り畳まれたマグマ砲を水平展開にしてマグマ弾を速射して地上に撃ち込んでいく。

 

「……目標捕捉……」

 

そしてジュラシック・フォースの紅一点であるニャルムの機体で唯一のメカエイビスであるマーダイン。

他三機と違い二、三倍近くの巨大なサイズであるにも関わらず至るところに搭載したバーニアスラスターを駆使して空中を超高速で飛び回り華麗なマニューバを見せながら地上からの攻撃を次々に避けていく。

ランシェアラと同じく、レイグォールの一人、空や自然を司る神の名の通り、空自体がまるで自分の身体の一部であるかのようだ。

 

「……マグマ砲、全弾発射……」

 

機体全体に搭載したマグマ砲でピンポイントに地上の機体に撃ち込んでいく。

左右主翼部の突き出た計二つの突起物が地上へ飛び出した。有線ワイヤーが伸びていき戦車に突き刺された時、内部から大量の赤くドロドロの高温の液体、マグマが吹き出した。

 

「……フフフ、キャハハハハハっ!!!」

 

ドロドロに溶かされるその様を見て、普段と思えないほどに、まるで人が変わったように上機嫌に高笑いするニャルム――。

 

「おい、まァたあいつの癖が始まったぞ」

 

「ああ、それほどヒートアップしていて興奮してんだよ。マグマだけに身体が熱くなってんだ。好きにやらせておけばいいさ」

 

約五千機というSMBと戦車の混成部隊をたった四機で一気に殲滅されてこの周辺一帯は残骸とパイロット達の無残な死体、冷えて固まったマグマばかりで目に毒なほどに悲惨な光景と成り下がっていた。

 

「これでもう反応はなくなったな」

 

「さて、デビラ・ムーに帰って報告しようぜ」

 

「……すごく楽しかった……っ」

 

仲良し三人組は全滅したのを見届けてデビラ・ムーへ帰っていく。

ただ一人楽しんだ様子はない無表情のクックも黙って帰ろうとした時、地上を映すモニターに、とある大破したSMBから何か動くモノを微かに感じた。拡大して見ると、どうやら辛うじて生き残った地上人類のパイロットだった。

 

 

「………………」

 

クックはそのパイロットに向かってライフルを向けて、照準を合わせて――なぜか撃ち込まず、そのまま射撃態勢を解除して去っていき、三人と直ちに合流する。

 

「どうしたクック?」

「いや、あの付近で何か動いてたようにから探ってみたんだが、俺の気のせいだった」

 

「そうか――」

 

だがザンキは即座に振り向くと二丁拳銃を取り出してあの付近へ細い熱線を連射し、あの場に全弾雨のように降り注がれた――。

 

「クック、だからお前は甘いんだよ、あのクソラドラにそっくりだ」

 

「………………」

 

モニター越しで嘲笑うかのようなザンキと睨むような目つきのクック。

 

「おい、ケンカは後にして早く帰ろうぜ。将軍達が首を長くして待ってるぞ」

 

「へいへいっ」

 

「…………」

 

やっとデビラ・ムーに到着した四人はすぐさまバットに跪き、報告した。

「ジュラシック・フォース。任務を終えて無事帰還しました」

 

「よくやったぞ四人の勇士よ。しかし、作戦上にない寄り道まで行ったことに関しては如何なものかな?」

 

やはりバットに、帰還するために強行突破ならまだしも勝手に敵殲滅をしたことがバレていたことにクック以外の三人はドキッとなった。が、

 

「まあよい、むしろかえって敵殲滅が一気に激減したことに感謝する。ジュラシック・フォースの勇猛な戦いぶり、見事だったぞ」

 

「は、有り難き賞賛でございます」

 

「このままの調子でユーラシア大陸を制圧した際には必ず四人には更なる栄光と褒美がジャテーゴが授かるだろう。もしや四人の誰かは参謀、または将軍になれるかもしれん、敵ばかりでなく互いを競い合って精進せよ」

「「「「はっ」」」」

 

その場で解散した四人。するとクックは振り返り、バット将軍の前に立った。

 

「どうしたクック?」

 

「質問がございます。ゴーラ様と、そしてラドラの行方は……」

 

その問いにバットも言葉を濁らせた。

 

「将軍、何か知っているのなら教えてくださいっ」

 

「……ゴーラ様は反逆者として捕らえられたとのことだ。ラドラまでは分からないが……」

 

「………………」

 

そう伝えられて言葉を失うクック。

 

「……そなたらは親友同士だったな。心配する気持ちは大変分かる、私もリージの息子であるラドラには無事でいてほしいものだ……」

 

「……分かりました。質問に応えていただき感謝します」

 

頭を下げて去っていくクック。三人と合流すると変な目で見られている。

 

「まあたラドラか。お前ら飽きないねえ」

 

「もしかして友達を越えて恋人同士かあ?ワハハハっ!」

 

「……うわあ……っ」

三人にからかわれるもそれを無視してただ一人去っていった。

 

「けっ、あいつだけはよく分からんし、ノリにもついてこん、本当にやりづれえ」

 

「まあ仕事上では上手くやってるからいいじゃねえか。それよりも次の作戦指示あるまで酒飲もうぜ」

 

「……サンセーっ」

三人は去っていく中、クックはただ一人その場に残り、外部モニターをずっと見上げていた。

 

(……ラドラ、ゴーラ様と共にお前が望んでいた地上人類との協定が破綻したことにどれだけ心を痛めてるだろうか……そしてお前は無事なのか……ゴーラ様も……)

 

クックは二人の安否の心配と、あの事件から全てが変わってしまったことを儚んでいた。

 

「俺は頃合いを見て二人に話したあの計画を実行するぜ……」

 

ザンキの部屋に集まった三人はテーブル上で酒を飲みながらとある計画の話をしていた。

 

「ザンキ、本気でやるつもりか……?」

 

「……絶対に危険、やめたほうがいい……」

 

二人から複雑そうに咎められるが、一体なんの計画なのか。

 

「大丈夫だって。俺がやれば上手くいくっての」

 

「…………」

 

「考えてみろよ、お前ら一生キャプテン止まりのつもりかよ。

オジキがあんなこと言ってたが、実際は将軍の下の参謀クラスが関の山、将軍なんか夢のまた夢だぜ、キャプテンなんか貴族ならほとんど誰でもなれるようなそんなカスみたいな階級で満足するのか、お前ら?」

 

 

「………………」

 

「リューネス、お前だって言いたかないがラドラのように優先順位の低い平民出のキャプテンで、さらに苦労に苦労を重ねてジュラシック・フォースとここまで成り上がってまで来たんだろうが。ならもう少し危険を侵してでもさらなる栄光を手に入れてみるもんだぜ、男ならよ」

「ザンキ……」

 

「俺がほとんどやるから安心しろ。お前らは後片付けだけしてくれればいいからよお」

 

「……まあ、わかった。だが無理すんなよ」

 

「うん……失敗すれば間違いなくザンキが消されるんだからね……」

 

「分かってるよ。ほらもっと酒飲もう、時間は過ぎていくだけだぞ」

 

話を変えて楽しく雑談しながら酒を飲み明かしていくザンキ達。果たして彼のその危険、消されると言われるほどの計画とは一体なんなのか。

 



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第四十一話「ジュラシック・フォース」③

――その頃、僕は失意した毎日を過ごしていた。あの事件以来、何もかも振り出しに戻ってしまったこと、今までやってきたことが、掴みかけていた夢が全て水の泡となったしまったことに。そしてゴーラちゃんやラドラさんが安否さえ不明。僕の心は嫌な事、不安ばから駆られていて僕は少しずつ堕ちてきていた――そんな時だ――。

 

「シベリア地区のロシア、中国連合軍から私達ゲッターチームに救援要請が入ったので直ちに向かうことになった」

 

「シベリア…………」

 

「今現在、世界中でも特に激戦区となっている所だ。大雪山戦役、アラスカ戦線での活躍を見込んで君達の力を貸してくれとのことだ」

「…………」

 

いつもなら前向きな竜斗であるが今回は非常に暗く複雑な表情を落としている。早乙女とマリアは彼を見て瞬時に今の心境を察知していた。

 

「出発は明後日、それまでに用意しておけ、いいな」

 

「「はいっ!」」

 

エミリアと愛美は元気よく返事する中、やはり彼だけは返事がない。

 

「……竜斗、大丈夫か?」

 

「は、はい……大丈夫ですっ」

 

慌てて返事をする竜斗に二人はため息をついた。

 

「竜斗、確かに君が酷く落ち込んでいるのは十分に分かるし気持ちも理解できるがそろそろ現実を受け入れろ。

君はゲッターチームのリーダーだろ、二人を不安にさせることは絶対するな」

「わ、わかりました……気をつけます」

 

素直に頭を下げて謝る竜斗に早乙女とマリアは黙って彼を見つめる。

三人を解散させた後、早乙女は席に持たれるように座り込みため息をついている時、マリアが特製の熱々のブラックコーヒーを入れたマグカップを彼に差し出した。

 

「ありがとう。しかし竜斗、あの事件のことに相当きてるようだな」

 

「ええ。竜斗君を今のままで戦闘を行わせるのは間違いなく危険です」

 

「………………」

 

マグカップを少しすすり、軽く息をつく早乙女。

 

「なあマリア、竜斗って本当に優等生気質だよな、良いも悪いも」

「はい、私もそう思いますね」

 

「竜斗もエミリアや愛美のように私達に反論、反抗してくれれば多少は彼も気が晴れるかもしれんが、彼は違う」

 

「ええ。あの子は真面目で素直ですし、基本的に私達の言ったことを受け入れてきちんと守ろうとしますからね。スゴく良いことなんですが……」

 

「男なんだから遠慮せずに二人みたいにたまに反抗的になってもいいのにな、私もその方が張り合いがある。

だが彼は私達から叱咤をそのまま受け入れて反論せず、全て自分が悪いと思い込む。手間がかからんことは確かに良いことだが、それをほとんど自分の抑え込もうとするからなおタチが悪い――」

 

 

 

二人はエミリアと愛美の気の強い要素を竜斗にも少し分けてあげてほしいとも思うのだった。

 

「それで話は戻しますが、竜斗君を今の心境で戦闘に参加させるのははっきりいって危険です――」

 

早乙女はコーヒーを飲み干すと、立ち上がり窓側に向かい外を見る。

 

「……今、ゴーラ達は無事なのだろうか。それさえ分かれば竜斗もそれだけでもだいぶ安心するだろうがな」

 

「…………」

 

「和平は決裂してさらに戦況は悪化の一途を辿る一方だが、あの二人がいる限りまだ希望はあると私が思う。せめて二人の安否さえ分かることが出来れば……」

 

今、ゴーラとラドラにおかれている状況を知るよしもないが、無事であってほしいと祈るばかりの早乙女とマリア。

 

 

「司令、ところで新型ゲッターロボの開発状況は?」

 

「順調だよ。ニールセン、キング博士、そして全世界から集められた優秀なエンジニアと科学者達が総結集している上にエリア51という最高に設備の恵まれた場所で開発しているからな、完成には時間がかからないだろうとは思う。だが問題は――」

「――もしかしてパイロットですか」

 

「ああっ、今の彼らでは各機を操縦できたとしても絶対にゲッターロボまで持ち込めずカマ掘って終わりだ。だが現状で彼ら以外で扱える者達など到底いない、なんとかせねば――」

 

一方で、竜斗は二人に「ごめん、今は一人にさせて」とただ一人分かれて部屋に戻っていき、そんな彼の暗い後ろ姿をもの悲しい視線を送っていた。

「……流石の竜斗もこたえてるわね、あればかりはマナ達にはどうすることも出来なさそう……」

 

「リュウト……」

 

二人も早乙女と同じく彼の現状にため息をついた。

 

「たくう……だから言ったじゃない、あんなの上手くいくわけがない、爬虫人類の罠かもしれないだって――」

 

「…………」

 

「けどマナは……もう絶対にあいつらを許さない。あの場にいた罪のない人達を殺した上に、竜斗までも踏みにじったこの恨み、絶対に倍にして返してやるから!」

 

と、愛美はマグマの如き怒りを激しく沸き上がらせた。

 

「マナミの気持ちが十分分かるけど……」

「何よ、あんな目にあってもアンタはまだあいつらに肩入れする気なの?」

 

「違うよ、アタシだってこんな酷いことをしたあいつらにはホント腹に据えかえてるよ。ただ……ゴーラちゃん達が無事かどうかが……」

 

「まあ聞けば……あの子達が同じ仲間に殺されかけたって話だからね。

向こうの事情なんかマナに知ったこっちゃないけどそんな複雑な関係ならなおさら和平なんか夢のまた夢、絶対に望めるわけないじゃない」

 

全くの正論を言う愛美に反論できないエミリア。

 

「けど……マナもあの子だけは絶対に生きててほしいと思う、生きてるって分かっただけでも竜斗が元気になってくれるかもしれないからね」

「マナミ……」

 

「さて、マナ達も今から準備しましょ。次の場所は激戦区らしいから綿密に備えとなくちゃ」

 

「リュウトは……大丈夫かなあ……」

 

「今はそっとしておきましょ、心配しなくてもアイツならいつもみたいに実戦になればちゃんとやってくれるでしょうし、今の内にどんと落ち込ませたほうが後でラクになるから、そうでしょ?」

 

「う、うん。まあ……」

 

「今は自分のことに専念するの。格納庫に行ってゲッターロボの最終調整しに行こ、エミリア」

 

二人は竜斗を誘わず格納庫へ向かっていった――。

 

しかし結局、竜斗はあれから気が晴れることも、何も解決しないままに数日後、シベリアへと向かった。

アメリカように都市内で設備が整った基地らしい基地はなく、シベリアの広大な土地にいくつもの地面や丘に埋め込まれるように作られたトーチカ、無数の各天幕やなどあちこちに張られており、明らかな移動前提の野外駐屯地である。

そして鉄条網に囲まれたエリアには長屋が並ぶようにあり、そこには燃料、弾薬庫や補給庫、SMBの駐機場が設けてある、かなり泥臭い場所だ。

 

「ゲッターチーム、ようこそ極寒の地シベリアへ。お待ちしておりました」

 

「こちらこそ、お迎えありがとうございます」

 

「いえいえ、あなた方はアラスカ戦線での英雄ですからな、大いに期待していますぞ」

 

ベルクラスを近くの平地に着陸させた後、すぐさま総司令官、各大、中隊長と握手を交わす早乙女達。

挨拶が終わると早乙女とマリアは次の作戦内容を聞きに司令部に赴いている間、三人は周辺を見学しに辺りを見回っている。

 

「アメリカの時と違って向こうの先が全く見えないね」

 

「うん……」

 

アラスカでも見なかった地平線の世界に三人は何かとんでもないところに来てしまったなと感じていた。さらに周りの野外駐屯地も泥臭く、そして殺伐としており、エリア51やテキサス基地のような未来的な雰囲気が全く感じなかった。

しかし、それ以上に気になったのがやはり……。

 

「アタシ達、変な目で見られているね……」

 

「…………」

 

近くにいる各隊員達から三人に向こうであったような冷ややかな視線が向けられている。

 

「見る限り、中国人や……ロシア人ばかりのようだけどね――」

 

テキサス基地でもこのようなことがしばしばあったので三人は別に気もしなかったが、ベルクラスへ帰ろうとした時、十人くらいの作業服を来た中国人に囲まれる三人。

 

「な、なんなのこいつらっ?」

 

ニヤニヤしながら、そして珍しい物見たさのような怪しげな視線を三人に集中させる男達。

 

「こいつらが日本から来た例のゲッターチームかっ」

 

 

「どんなヤツかと思えば、ただのガキ三人じゃねえか、ハハハ」

 

十人とも中国語で話すため、何を喋っているか理解できない三人は更に彼らに対して気味悪くなった。

 

「おい、一人だけ日本人じゃない女がいるぜ」

 

「白人か。なんて日本人と混じっているか分からんがカワイイじゃん」

 

男達はエミリアに一斉に視線を向け、本人は血の気が引くほど震え上がった。

中の一人がニヤニヤと不気味な笑みをしながらエミリアへ近づいていく。

 

「え、え……っ」

 

後退るエミリアに詰め寄るように向かってくる男、しかしその時、竜斗がすぐさま男の前に立ちはだかった。

「なんだお前は?どけよ」

 

「おい、エミリアに何する気だ!」

 

「邪魔だって言ってだろうが!」

 

男が竜斗の左頬へ全力の拳で殴りつけた。

 

「リュウト!」

 

地面に倒れこみ悶絶する彼に慌てて二人は駆けつけ優しく起こした。

 

「アンタ達、竜斗になにすんのよおっ!!!」

 

愛美が怒鳴りつけるが彼らには日本語を理解できてないのか「はあ?」、としか言わない。

 

「ちゃんと中国語で喋ってくれねえと分かんねえよ。まあ分かりたくもねえけど」

 

「どうする、こいつら?」

 

「時間はたっぷりとある、たまりにたまったストレス発散として色々遊んでやろうぜ」

 

男達はゆっくり三人に詰め寄りはじめ、逃げ場を無くして追い込んでいく。そんな絶体絶命の中、

 

「やめな!!」

 

全員が後ろを振り返ると作業服姿の若そうな一人の中国人女性が眉間にシワを寄せて腕組みして仁王立ちしていた。

 

「アンタらの今行った行為を隊長やその子らの上官に報告してやるから」

 

「美麗……てめえ」

 

「特にその子らの上官は聞く話ではアタシらの大先輩のようなもんだから、きっとそれを知られたらアンタらはこの子ら以上に痛い目見るかもね」

 

「けっ、日本人なんぞに肩入れしやがって……この非国民が」

 

「あたしからすればアンタらの方が同じ中国人として情けないよ。さてどうするの、このまま引かないのなら直ちに報告しにいくからね」

「ち、行くぞっ」

 

男達が渋々去っていくのを見届けたこの美麗という女性はすぐさま三人の元へ駆けつけ「ダイジョーブ?」と、片言ながら日本語で語りかけてくれたことに驚く三人。するとエミリアは、

 

「あなた、もしかしたら英語で話せますか?」

 

と、試しに英語で語りかけると彼女もちゃんと「日本語は少ししかできないけど、英語はできるよ」と返してくれたので安心した。

 

「私は鈴美麗(りんみれい)、SMB専門の整備副長やっててんの。よろしくね」

 

互いに紹介して、美麗は竜斗の顔を見ると殴られた部分が腫れ上がっていたのですぐさま救急箱を持ち出して手当てをしてくれた。

「けど、美麗さんはどうして英語を?」

 

「アメリカの大学に留学してたからね、ロボット工学専攻で。そこで日本語も少しかじった程度だけど、アンタ達が英語を出来てよかったよ」

 

彼の頬に湿布を張ると治療が終わった。

 

「許してね。あいつらは私と同じ整備員なんだけど最近、シベリアの戦況がさらに悪化して全く手が回らないほどに作業環境が劣悪化しているからストレスが半端ないのよ」

 

「…………」

 

「けどいきなりマナ達に取り囲んだ上にエミリアに迫ったり、挙げ句に竜斗にまでこんな酷い目に遭わせて……こんなの許されるはずないじゃない、いくらストレスがたまってるからってして良いことと悪いことがあるっ!」

 

愛美ただ一人反論する。すると美麗はため息をつく。

 

「その通りね。けど……エミリアちゃんはともかく、あなた達二人のような日本人には辛い場所なのよね」

 

「え……僕達ですか?」

 

「なんで……?」

 

「全員とは限らないけど基本的に中国人は日本人を嫌っているからね。百年以上前の昔にあった日中間の戦争とか色々なことに未だ根に持ってたりするからね。ロシア人からはアンタ達をどう思ってるか分からないけどさ」

 

「…………」

 

「そもそも連合軍として組んでいるはずのロシア人とも仲悪いしね、私達中国人は。

今は爬虫人類と闘うために協力して戦わないといけないから仕方なく組んでるけど、実際は色々しがらみがあったりしてもう大変。かと言ってどうすることも出来ないのも現状なのよね」

 

と、今の二つの巨大な国家間の問題を悲観する美麗と彼女の話を聞いて、ここにはアメリカと違って味方などほとんどいないことを思い知らされる三人だった。

 

「けどさ、三人に分かってほしい。あたしみたいに、日本人や他国の人達を嫌わない中国人もちゃんといることを知ってほしいわ――」

 

と、美麗から頼みには、心の叫びのようなが聞こえてくるような気がした――。

 



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第四十一話「ジュラシック・フォース」④

その夜――竜斗はベルクラスの右甲板上で一人寒い夜風に浴びながら黄昏ていた。昼間に起きたあの事に悩んでいた。

自分が殴られたことや囲まれたことについてではない、美麗の話についてである。

 

(俺は……結局ただ夢と理想ばかり思い描いてただけで、空回りしていただけだったんだ……)

 

ずっと前、あの栃木で戦いの後に早乙女から「人類同士でも人種や国家間で差別視やら争いなどのトラブルが日常茶飯事に起こりうるのが現状なのに、それに異種族ともなればさらに深刻化するだろう」という言葉を思い出す。

そしてあの事件の後に早乙女が言っていたが「たとえ爬虫人類があんな事件を起こさなくても、私達人類から仕掛けていた場合も十分考えられるしどちらにせよ、いずれそうなっていたことだろう」とも言われた。

 

その通りだ、自分達地上人類でさえこんな有り様なのに、生物自体や生まれ、育ち、環境も全く違う爬虫人類と共存なんて所詮、夢物語でしかないのかもしれない……彼はあの事件のこともあり、これまで自分が信じ頑張ってきた信念も、希望もほとんど失いかけていた。

 

 

 

「竜斗!」

 

彼の元に愛美が駆けつけるが夜の気温が低すぎて震えている。

 

「うう~さむいっ、あんたこんな場所にずっといたら風邪引くよ、近々作戦があるらしいのにこじらせたりでもしたら大変だわ」

 

「うん……っ」

 

「ほら、早く中に入る!」

 

無理やり竜斗を連れ戻していく愛美は暖房を入れた自分の部屋に招き入れてイスに座らせた。

「アンタ一体どうしちゃったのよ、最近元気無さ過ぎよ?」

 

「…………」

 

黙り込む竜斗に愛美自身もその原因を察しており、ふぅと息を吐いて腕組みする。

 

「あのさ、早乙女さんの言ってたようにアンタがそうやって悩んでるのは凄く分かるし理解できる。けどさ、エミリアは今のあんたがもう心配で心配でたまらないって。あの子を不安にさせるのはやめなさいよ、彼氏でしょ?」

 

「うん…………」

 

「マジで頼むからリーダーのアンタが気を持ち直してしっかりしてくれないと――今のアンタ、また昔の弱気へ逆戻りしてきてるよ」

 

「…………」

 

ウジウジしている彼についに痺れを切らしてくる愛美は、

 

「いつまでそうしているつもりよ。竜斗がこんなんじゃマナ達のやる気まで下がっちゃうの、マジウザイからやめてくんない?」

 

 

 

その言葉が彼の神経を逆なでしたのか、急にムッとなった。

 

「いいか愛美、そうやって毎回自分サイドで一方的に説教するのはやめろよ!俺の苦しみを知らないで!」

 

と、言われた愛美もカチンときてムっとなった。

 

「だったらマナ達に悩みやらなんやら遠慮せず打ち明けてくれればいいじゃない!!

アンタがいつもいつもそうやって全部自分だけで抑え込もうとするから悪いんでしょ!!」

 

また二人は対立し、互いにギロッした目で睨み合い火花を散らした。

 

「何のためにマナ達がいると思ってんの?竜斗がマナ達に泣きべそかいてでも悩みをちゃんと言ってくれればできる範囲なら全力で手を差し伸べてやるわよ、マナ達はそれだけアンタを信用してるし助けてあげたいのに、アンタ自身がそこまでして頑なに打ち明けないってことはそれだけマナ達を信用してないと同じことなのよ!」

 

「………………っ!」

 

「そうやって毎回悲劇のヒーロー面してさ、恥ずかしくならないの?アンタがそんなんじゃ一生誰も目にもくれず助けてくれないし、助けてやりたくなくなるのよ!」

 

「……じゃあもう俺をほっといてくれよ!!」

 

 

竜斗はカンカンになって愛美の部屋から出て行った。

 

「竜斗……なんでわからないのよ……」

 

一人残された愛美は燃え尽きたかのようにへたり込み、次第にボロボロと涙が溢れて泣き伏せてしまった。

一方、怒りと興奮が収まらない竜斗は自身の部屋に戻ると、まるで猛獣のライオンのように落ち着きなくうろうろ部屋中を歩き回る。

 

「何が悩みを打ち明けてくれだ、信用してないだ、じゃあみんなに話したところで何になるってゆうんだ、じゃあ何か解決できるのかよ、できないくせに……!」

 

今の彼は人生で一番怒の感情に溢れている。

 

 

「ゴーラちゃんやラドラさんが無事なのかどうかも全然分からないし、結局また向こうと戦うハメになって……しかも前以上に激しくなってるし……もうどうしろっていうんだよ……!」

彼はそう考える内に、もうゴーラ達は殺されているかもしれない、そして最終的にどちらかが滅びるまで戦うしかないという結末を考え、さらにやるせなくなり、虚しくなり、切なくなった――。

それが頂点に達した時、愛美と同じく彼もまた大粒の涙を流しはじめ、ベッドに倒れ込み泣き伏せた。

 

(もう……ワケが分からないよ……どうすればいいんだ……)

 

彼は自分ではどうすることのできない無力感を感じていた。ベッド横のチェア上に置いてあったジェイドの自分宛に遺した手紙とブラック・インパルスのエンブレムワッペンを掴むとぐっと握り締める。

 

(少佐……もう僕にはどうすればいいか分かりません……あなたならどうしますか……?)

竜斗は繰り返すように姿やおろかもはやこの世に存在すらしない彼、ジェイド、ジョージ、黒田達へ心の中で問いかけるが、答えなど返ってくるはずなどなかった――。

 

「……本体から連絡が入りました。ジャテーゴ様に、帝国に反逆した罪で捕らえられたリョド元将軍の処刑が執行されたとのことです――」

 

その事実がこのデビラ・ムー内を駆け巡り、唖然となる者、悲しみのあまり涙を流す者、だが中には何とも思わない者など、それぞれが様々な反応をしていた。

 

「リョドが処刑されたとは……本当かっ」

 

「はい。最後までゴール様の忠誠心を捨てなかったためにやむ得ず行われたということです」

参謀であるミュニからの報告にバットは目を瞑り彼を偲む。元とはいえ将軍として同格であり、そして良き仲でもあった彼の生き様について色々と思うことがあった。

 

(リョドめ、生きることよりゴール様の数少ない忠臣の一人として誇り高き死を選んだか――不器用なヤツめ)

 

しかしそんなことを思う彼も彼の死に心を痛め、同時に失望したとはいえあれほど忠誠を誓っていたゴールからジャテーゴへあっさり乗り変えたことを恥じており、武人として、そして将軍としてのプライドが傷つき、そして最後までゴールの忠誠に全うした彼を羨やんだりするのであった。

 

「そうか、リョドがいなくなり誠に残念である。それであやつの後任は?」

 

「それが……地竜族のクゲイクという男です」

 

 

「地竜族……だと?」

 

「はい。ジャテーゴ様から「使える人間なら地竜族だろうと誰だろうとどんどん使えない者と入れ替えていく。

我々には冬眠期がすぐそこまで迫ってきている、悠長なことはしていられない」と、おっしゃっていました」

 

「もうそんな時期か……だがそうなると作戦の失敗や失態は出来なくなったということか。その辺は結構寛大であったゴール様の時とは違い厳しいが各自、緊迫感を持たせるには最適か。

よし、大隊の兵士に伝えろ、『これからは失敗、失態については許されない、使えないと見なされた者は大隊長の私を含め、容赦なく淘汰されることとなるので、各人は気を抜くことなく常に覚悟の上で行うように』とな」

 

その号令が内部に伝わり、ほとんどの者から笑顔が消えてギラついた表情へと変化していった――。

 

――数日後。中、露、そしてゲッターチームによるユーラシア連合軍は、ゲッターロボを中心としたメカザウルスの殲滅作戦が始まろうとしていた。

今回は大雪山戦役、そしてアラスカ戦線と比べて最初から三機は固まって行動することになったのでそれだけでも幾分連携による攻撃、そして安心もある、はずであるが――。

 

“準備はいいか三人共”

 

「はい!」

 

「ええっ!」

 

「……はい……」

 

三人の様子がおかしい。エミリアと愛美からいつものいい声が聞こえるが、竜斗から全く覇気が感じられず。

“おい竜斗、本当に大丈夫か?”

 

「……はい、大丈夫ですっ」

 

大丈夫という割には明らかにいつもの彼と違うその調子と雰囲気を率直に感じた早乙女は、

 

“竜斗、具合が悪いのか?”

 

「い、いえ……何ともないです」

 

“何ともないわけないだろ、いつもよりヤケに元気がないぞ!”

 

「だから大丈夫ですって!」

 

と、いたちごっこをする二人に愛美は、

 

「早乙女さん、今回竜斗を外してください。これじゃ間違いなくマナ達と連携とれません」

 

愛美にまで竜斗の出撃を懸念されて竜斗は歯ぎしりを立てた。

「だから大丈夫って言ってんだろ!!」

 

「今のアンタの様子じゃ絶対にチームが危険に晒されるに決まってんじゃない!」

 

と、ついには二人の喧嘩まで始めてしまい、エミリアは完全にこの気まずい空気にもはや耐えられなかった。

 

「も、もうやめてよ二人共!出撃前からそんなんじゃ本当にアタシ不安だらけだよお!!」

 

彼女の震えるように訴える叫びが響いた。

 

「リュウトもマナミも最近おかしいよ!これじゃあ……最初の頃の……すごく仲が悪かったアタシ達に逆戻りしたみたいじゃない……っ」

 

「「…………」」

 

空気が酷く重くなったこの場は静寂な雰囲気に包まれた――。

 

“まあとりあえず竜斗、本当に大丈夫なんだな?”

 

「ちゃんと気を入れ直してやりますから大丈夫ですよっ!」

 

と、強く答える彼からはやはり無理やりな雰囲気を感じられるが早乙女は頷いた。

 

“分かった。私は君の言葉を尊重、信用してもう何も言わないからちゃんとしっかり団結して、そしてチームリーダーとしての務めを果たして頑張ってくれ。エミリアと愛美の二人も竜斗を信じて頑張ってくれ、頼む”

 

と、早乙女から言われて彼女達は無言で頷いた。

 

“ではこれから作戦の通り、これよりベルクラスは前進を開始する。私達ゲッターチームが先陣を切りこむことになっているのでメカザウルスとの接触区域に到着次第、竜斗から順に出撃しろ”

「「「はいっ!」」」

 

“よし、では三人へ健闘を祈る。恐らくアラスカ戦線のような激戦となると思われるから油断せず、そして冷静に対処していけ”

 

早乙女は通信を切るとハアと深くため息をついた。

 

「司令、今の竜斗君を出撃させるって……あなた正気ですか……っ?」

 

「ああっ、本人は大丈夫と言っている」

 

「そんなハズないでしょ、誰から見ても彼が情緒不安定になっているのは一目瞭然ですよっ」

 

「…………」

 

「いつもの冷静な竜斗君とは思えないし、そしてやり遂げられるようにも感じられない……本当に危険な状態です!」

 

 

と、彼女は訴えるも早乙女は平然としていた。

 

「竜斗本人が自分の身体、調子を一番知っている。彼が大丈夫と頑なに言うならそれを信用する以外ないさ」

 

「…………」

 

「だが、いつでも竜斗を収容するようにしておく――」

 

彼からも竜斗から感じる不安を打診されている中、三人はいつもと違い一向に喋らず相変わらず重く冷たい空気であった。いや、これは最初のような互いな険悪な関係だった時以上に、今までで最悪の空気である。

そしてその原因を作っている竜斗は、マリアの言うとおり落ち着きがなく、悶々としていつも彼とは思えないほどに冷静さを失っており、非常に険しい表情を取っている。

 

「やればいいんだろ……やればっ、もう戦う以外に選択肢がないなら――っ!」

 

ブツブツとそう呟いており、もはや危ない雰囲気が滲み出ていた……。

 



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第四十一話「ジュラシック・フォース」⑤

――その時の僕は完全は自分を見失っており、いつもなら見えているはずの周りの状況が全く見えていない有り様だった。

自身の内に溜まりに溜まったフラストレーションをなくすために憤りに身を任せて、まるで野蛮人の如く戦った。

だが、その行動の代償として思わぬ惨劇をひき起こそうとは――。

 

「将軍、これを!」

 

中心の立体モニターで外部を移すと、南方向から自分達の敵である地上人類のSMBの大軍、そして天敵である三機のゲッターロボとベルクラスが先頭でこちらへ進軍する姿が映し出される。

 

「あれは……例のゲッターロボという機体です」

 

「うむ、ついにこのシベリアに現れたか、我々爬虫人類の天敵ゲッターロボめ!

全部隊に直ちに迎撃を開始、敵軍の殲滅を図れ。

そして今戦闘はあの日本、アラスカ戦線にて大敗の起因であるゲッターロボが参戦している、最優先で攻撃、破壊しろとな!」

 

「はっ!」

 

「そしてジュラシック・フォースに伝えろ、お前たちの力を駆使して何としてもゲッターロボを首をとってこいとな!」

 

デビラ・ムーからおびただしい数のメカザウルスが発進、すでに外で待機していた各機と合流し南方向へ一斉に行動を始めた。

 

「おい、今回あのゲッターロボがいるってよ!」

 

「そりゃあ相手に不足しねえな、楽しみだぜ!」

 

「……うん、早くぶち殺したい……っ♪」

 

早速出撃して、向こうが押し寄せてくる南方向にすぐさま向かっていくジュラシック・フォース。仲良し三人組はゲッターロボを相手にすることに意気揚々だが、クック一人だけはいつもと同じく無表情だった。

 

(……確かゴーラ様、ラドラと仲の良い地上人類の子がゲッターロボのパイロットか……そんな子と戦うのは辛いが、これもまたそういう運命か……)

 

竜斗のことだ。彼もまた親友のラドラと仲良くなった地上人類の子と戦い、殺さなければならないことに抵抗感があるも、キャプテンとして、ジュラシック・フォースの一人として命令には逆らえまいと、どの道避けられない戦いだと、無理やり自身に言い聞かせたのであった――。

「マナミ、リュウトは大丈夫だよね……?」

 

進行中、エミリアは彼の心配から愛美にそう聞くが、

 

「あいつが大丈夫って言ってんだから大丈夫でしょ!」

 

と、やはり彼女もまだ怒りが収まってなくぶっきらぼうにそう伝える。

 

「そんなに心配なら本人に直接聞いてみなさいよ」

 

「……うん、けどなんか今のリュウトが凄く怖くて……それに今回イヤな予感がするのよ」

 

「…………」

 

実のところ、愛美もいつも以上の不安に駆られていた。

 

「エミリア、マナも戦いながら常に監視するけどもし竜斗に何か異常を感じたら知らせて、早乙女さんに連絡してあいつをベルクラスに戻すようにするから」

 

「うん、分かった」

 

――そしてついに互いが接触し、激しくぶつかりあい、火花を散らす。

SMBや戦車の無機質な地を踏む音、駆動部を動かした時の金属同士がかすれる音、そしてメカザウルスの醜態な雄叫びがこの広大なシベリア全体にこだまする。

それぞれプラズマ弾、ドロドロのマグマ、マグマ弾、各ミサイル、機関砲、無数の火線が広範囲に飛び交っていき、密着する機体同士は互いの持つ剣やナイフ、そして鋭い牙や爪、殴り合いなど近接用武器での白兵戦の応酬を重ねていく。

 

「日本のゲッターロボに負けるな!」

 

ロシア軍のSMBである『ヴォルグ』はBEET、そしてマウラーのような無骨でフォルムであり、携行するライフルから高出力の小型プラズマ弾をばらまき、メカザウルスを撃ち抜いていき、そして右腰部のナイフホルダーから高周波振動ナイフを取り出し、メカザウルスを容易く切断していく。

 

「ロシア軍やゲッターロボにおくれを取るな!中国軍の力、今こそ見せてやる!」

 

中国軍のSMBの骸鵡もプラズマ・エネルギーライフル、右肩のミサイルポット、そして特徴的である巨大な青竜刀をブンブン振り回して豪快に一刀両断、そしてなぎ倒していく。彼らはまるで自分達が国のために優位に立とうと誇示しているかのように。

 

「ベルクラス、全弾一斉射撃!」

 

「了解。『これよりベルクラスは地上のメカザウルス達を一掃する、射程内にいる味方機は直ちに退避せよ』」

 

ベルクラスも艦全体に内蔵した各ミサイル、四門のプラズマビーム砲で地上を空襲しそれにより直撃、または巻き添えを受けて次々に消し飛んでいくメカザウルス。

地上、そして空中からもメカザウルスによるベルクラスへの一斉攻撃が始まるがプラズマシールドで艦全体を防護、全てを一切遮断した。

 

「主砲発射スタンバイ。射角を八十五度に合わせろ」

 

ベルクラスの艦首が開き、大口径のプラズマビーム砲が姿を現し、内部から青白い光、プラズマエネルギーが収束した――。

 

「撃てっ!」

 

砲口から極太で大出力のプラズマエネルギーの光線が斜め上寄りで遥か前方へ伸びていき、射戦上、そして周囲のメカザウルスを飲み込み、そして消し飛ばしていった。

 

「はあっ!」

 

「オラア!」

 

ルイナス、アズレイに乗るエミリア達も勇敢に立ち回り、戦い続ける。

 

アラスカ戦線で大量のメカザウルスを相手にするのは慣れたのか、エミリアですら臆することなく、そして張り切って奮闘する。

 

「エミリア!」

 

「マナミ!」

 

二機は敵の密集地の中心に移動、互いに背を合わせて脚部の車輪ユニットを駆使して細かくクルクル円周を描きながら各火器で全方位に火線攻撃し、一気に殲滅していく。

 

「やるじゃないエミリア!」

 

「マナミもねっ」

 

「じゃあどんどん行くわよ、女子組の力をヤツらに見せてやりましょう!」

 

「うん!」

 

この女性陣はゲッターロボの性能も相まって、中国、ロシア軍の部隊に勝るとも劣らない戦闘力を発揮した。

地上で各機が奮闘する中、そして空中では。

 

「うああああああっ!!!」

 

竜斗の駆るアルヴァインは確かに空中のメカザウルスを飛ぶ勢いで落としていくが、いつもの理性的な戦闘ではなく、ほとんど勢いに任せた豪快だが、隙がありすぎる行動ばかりだ。

 

「ちくしょおおおおおっっ!!」

 

今の彼は戦闘に集中しておらず、これまでに破壊した、破壊された沢山のメカザウルス、SMBの無残な姿、そして死んでいった人達がまるで溜まりに溜まった恨み、悲しみ、憤怒、無念などの負の感情で構成された亡霊が全て彼にのしかかり、思考を圧迫していた。

それから振り払うかのように、逃げるかのように「暴走」して戦う竜斗――。

(もう疲れた……何も何もかも…………どうせもう希望なんてないんだから……)

 

と、諦めかける竜斗だが、

 

(けど少佐との約束……それに黒田一尉やジョージ少佐、俺達に色々尽くして死んでいった人達を期待を裏切るわけには……)

 

今の彼は、闇と光ともいえる二つの正反対の思いが揺れ動き、そして翻弄され、さらに彼の冷静さを失わせる要因ともなった。

 

「竜斗君…………っ」

 

「…………」

 

早乙女達も戦う最中、そんな彼のまるで蛮族のように、勢いに任せたその乱暴な戦いぶりに、さらに不安を掻き立てられていく。

 

「いつもみたいに冷静さを保て竜斗、このままだと君は自滅するぞ!」

 

 

と、忠告を受けると竜斗は、

 

“ちゃんと戦ってるじゃないですか!!”

 

と、反抗的にそう返してくる彼に面くらう二人。

 

「竜斗……お前……」

 

“何も文句言わずに……これまでも、今までも何も文句を言わずにちゃんと戦っているじゃないですかっ……!”

 

竜斗の内から喚くような悲痛を感じる二人。今、彼がもがき苦しんでいることを……。

 

“……大丈夫ですから、ちゃんと冷静で戦ってますからもう僕を心配しないで下さいっ!”

 

「おい竜斗!」

 

「竜斗君!!」

 

竜斗が無理やり通信を遮断しもう一度繋ごうとしたが全く繋がらない。完全な心身的の異常を起こす竜斗に、そして彼自身に起こりうる本当の危険を察した早乙女は直ちに地上の女子組に連絡を繋ぐ。

 

「二人とも、直ちに竜斗の監視しながら、援護に入ってくれ」

 

“今マナ達もちょうどそれを行ってるところよ!”

 

“リュ、リュウトは今そんなに酷いんですか?”

 

「彼を直ちに休ませたほうがいいのだが彼が向こうから通信を遮断して私達からもう受け付けない、完全に暴走している」

 

それを聞いた二人は仰天し、直ちに彼に通信を繋ごうとしたがやはり受け付けず。

 

「リュウト、リュウト!!!」

 

「こんな時にふざけんじゃないわよ竜斗っ!!出なさいよもう!!」

 

だがどれだけやっても全く竜斗へ繋がらなず、特に怒りで上っていたが次第に血の気が一気に冷める愛美。

「サオトメ司令、全然リュウトに通信が繋がりません!」

 

「どうすんですか!あいつをすぐ取り押さえようとしても空を物凄いスピードで飛んでるからどう考えても無理ですよ!」

 

実は、早乙女も直ちにアルヴァインに搭載された緊急停止回路を作動させたいが今、高度で音速移動しながら戦っているのでここで停止させれば、間違いなくその速度で地上へ急降下して叩きつけられてしまうので間違いなく即死は免れないだろう。

 

“撃ち落とすわけにもいかないし私達にも今はどうすることもできない。

二人にさらに過酷を強いられてしまうがすまない、竜斗を常に見張っててくれ。あのままだと彼はいずれ自滅してしまう”

 

事の重大さに二人は思わず沈黙してしまった。

 

“私達も何とか手を尽くしてみる、君達も協力してくれ!”

 

早乙女の頼みに二人も迷わず頷いた。

 

“ありがとう。私達ゲッターチームは団結して竜斗を説得し保護、そして現状況を何としてでも乗り越えるぞ、いいな!”

 

「「はいっ」」

 

――何としてでも暴走する竜斗を助けると、早乙女達はそれぞれ行動を開始する。

早乙女とマリアは彼に通信を何とか繋ごうと諦めずに必死で送信をする。

 

「竜斗君が……なんでこんなことに……っ」

 

今回になって急に変貌してしまった彼に哀れと悲しみを感じるマリア。

 

「おそらく……今まで溜まりに溜まったストレス、悲しみ、怒りなどの負の感情が今ここで暴発したんだろうな。

これは竜斗のせいではない、寧ろ彼はこれまで様々な苦難の連続に遭いながらよく耐えていたと思うよ、それに全然気づけず放置していた私達にも責任があるんだ――」

 

「……司令っ?」

 

「私は……私は竜斗を無事助けれるのなら私の命を捨ててもいい、彼を無事救えれることができるのなら……竜斗の代わりにこれまでの、そしてこれからも待ち受けているであろう苦難を全て背負ってあげたい。彼のもう一人の父として、彼を――」

 

マリアは信じられない光景を目にして唖然となった。

あの早乙女が、今まで我が道を突き通し本心が読めなかったあの早乙女が、今の竜斗に対する哀れみと悲しみから涙を流していることに。

それはまるで本当に父親のように――。

 



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第四十一話「ジュラシック・フォース」⑥

そして愛美とエミリアはメカザウルスと必死に戦いながら竜斗から少しも目を離さなかった。

 

「こうなったのもマナのせいかもね……」

 

「マナミ……?」

 

「今まであいつに本当に酷いこと、キツいことばかりしてきて、無神経なことばかりしてきたから……こうなったのかも」

 

罪悪感に駆られてついには愛美も目頭を熱くさせて涙目になっている。するとエミリアは、

 

「マナミはリュウトのために尽くそうとしてきたんでしょ、だから全然悪くないよ!

寧ろリュウトに、いやみんなに弱音や駄々をこねてきたアタシの方が一番迷惑かけてきてるんだから」

 

「エミリア……」

 

「アタシは誓うよ。これまで自分に甘やかしてきたけどもう絶対に泣き声や弱音を吐かないって、みんなのために今度はワタシが役立つんだって!」

 

決意に満ちた、その言葉と太陽のようにキリッと輝くような顔の彼女。

 

「だからマナミももう泣かないで、頑張って今を乗り切ろうっ!」

 

「エミリア……うん!」

 

愛美は涙を腕で拭い、晴れた表情で頷いた。

 

「行くわよマナミ!」

 

「ええっ!全力で竜斗を守りながらメカザウルスを蹴散らすわよ!」

 

二人は先ほど以上に活性化、ゲッターロボの力も相まって次々に迫ってくるメカザウルスをことごとくなぎ倒していく。

 

「ゲッターチーム……凄いな……っ」

 

「ああ……っ、子供だと思ってナメていたがまさかこれほどとは……」

 

その凄まじい光景は中国、ロシア軍の隊員達にも知れ渡り、彼らを認めざるえなかった――。

 

「司令、ゲッターロボへ一直線で向かってくるメカザウルスの反応を確認、数は四機で二機が地上、もう二機が空中からです」

 

モニターに映る先にはザンキ達ジュラシック・フォースの専用メカザウルスが。

 

「あれがゲッターロボか。俺とリューネスは地上の二機を、クックとニャルムは空中のヤツを任せるぜ!」

 

「「「了解!」」」

 

それぞれがコンビを組んで行動を開始を始める。

 

「何あのメカザウルス!」

 

「こっちに向かって直進してくるよ!気をつけて!」

 

エミリア達もモニター先に映るザンキとリューネスの駆るランシェアラ、オルドレスが猛スピードで向かってくる姿を捉えて身を構える。

 

「いくぜリューネス、ぶっ潰すぞ!」

 

「ああっ!」

 

ランシェアラが先に先陣で突撃、オルドレスはそこで停止して間合いを取り始めて潜める。

 

「ゲッターロボの力、楽しませてもらうぜ!」

 

ランシェアラは腰の左右のホルスターから二丁の拳銃を取り出して二機に向け、細い熱線を連射しながら走り込んでいく。

ルイナスとアズレイはすぐさま脚部の車輪を出して急発進、散開する。

 

「あのメカザウルス……見たことある……確かエリア51の……」

 

エミリアはランシェアラの姿を見て思い出す。エリア51滞在中の夜間戦闘にて手も足も出なかったあの強敵、ルイエノに酷似していることに。

 

「けど、アタシだってちゃんとあれから成長したんだからっ!」

 

あの時の自分ではないと、負けじとエミリアは強気でランシェアラに立ち向かっていく。

 

「シーカー、シュートゥ!」

 

ガーランドG、ライジング・サンから各シーカーを射出、そしてルイナスからもミサイル、プラズマ弾を一斉発射しながらランシェアラへ突撃していく。

 

「あらよっとお」

 

内部でのザンキの腕、足の動きにトレースし、ランシェアラは反復跳び、側転、後転、変則な且つ高速に、そして小刻みに動きながらミサイルなどの飛び道具を次々に避けていく。

各シーカーがランシェアラの周辺を飛び回り、高速回転するドリルで突撃、小型ゲッタービーム弾で飽和攻撃を繰り出すがランシェアラはすかさず二丁拳銃を使い、クルクルと華麗に回転、舞いながら熱線を連射。

つまり『ガン=カタ』と呼ばれる戦法でシーカー全てを撃ち落としていった。

 

「なにあのメカザウルス……っ」

 

まるでアクション映画かアニメのような有り得ないシーンを再現するその動きに呆気を取られるエミリアだったが気を取り直してすぐさま左側の巨大ドリルをフル回転させて突撃していく。

「はあっ!!」

 

引き上げた左腕を間合いに入ったランシェアラへ一気に押し出すが、その尋常ではない機敏さを駆使していとも容易く翻えされ、いなされてしまう。

 

「そんな隙の大きい動きじゃあ、到底俺に指一本触れられないぜ!」

 

ランシェアラはすかさず四肢に収納された刃を展開、マグマで真っ赤に発熱させると得意の回転攻撃を仕掛けるもルイナスのシールドが作動、プラズマの膜が張られて高熱の刃が機体に触れるのを遮断し、弾かれる。

 

「うおっ!」

 

一瞬たじろぎ動きが止まったランシェアラへ、隙ありとエミリアは休まず突撃。

 

「これで――!」

 

 

回転するドリルがランシェアラをついに捉えて押し出した――が、

 

「残念、お前らだけがバリアを持っていると思ったら大間違いだ」

 

突然、ランシェアラに球状の淡い光の膜が張られてドリルが膜と摂取した瞬間、反発を起こしてルイナスは吹き飛ばされた。

 

「きゃああっ!!」

 

地面に倒れ込むルイナス、コックピットでもしやとエミリアはモニターを見た先にはランシェアラを周りをクルクル飛び回る三つの金属球、あのバリア発生装置であるリュイルス・オーヴェを発見した。

 

「何ですって……っ」

 

唖然となるエミリア、しかしそれは愛美も同じことを口走っていた。

「もしかしてこいつらあのバリア持ちなの……!」

 

彼女は今、リューネスの駆るトリケラトプス型専用メカザウルス、オルドレスと対峙、互いの重火器による派手なミサイルパーティーをしているのだが、やはりこの機体の周りに三機の金属球、リュイルス・オーヴェが飛び交っており攻撃すればたちまちバリアを展開されていとも容易く塞がれてしまった。

 

「だったらっ!」

 

アズレイは背部からエリダヌスX―01を取り出して展開、エネルギーチャージ中は攻撃を受けないように動き回る。

 

「知ってるぜ、何でもリュイルス・オーヴェのバリアを無視するとんでもない兵器があるとな」

どうやらリューネスはエリダヌスX―01を知っているようだが焦る素振りを見せず、なぜかニヤりと不敵な笑みを見せている。四足歩行でジリジリと詰め、アズレイの動きを警戒するオルドレス。

 

「これでもくらいなさい!」

 

チャージ完了したエリダヌスX―01の照準をオルドレスに合わせ、後は愛美が発射用ボタンを押すだけだ――が、

 

「させるかあ!」

 

突然、アズレイのガチガチに固まり、引き金にかけた指さえも動かなくなった。

 

「えっ、えっ、なんで!!?」

 

愛美がいくらボタンを押してもさらにはレバーをガチャガチャ動かしても全く連動せず、少しも動かない。

 

「やっちまえザンキ!」

 

「おうよ!」

 

ランシェアラが突如アズレイへ向かって駆け出し、一瞬で到着する否やエリダヌスX―01を右肘の高熱刃で振り切り、真っ二つにされてしまった。

 

「ああ…………っ」

唯一あの強力のバリアを無視できるエリダヌスX―01を使い物にならなくされた唖然となる愛美の目の前にはその鋭く殺気の籠もったトカゲの眼、ランシェアラのカメラアイをのぞかせた。

 

「切り刻んでやる!」

 

再び回転しようと身体をぐっと捻るランシェアラに対し、愛美は未だに唖然となったままで回避行動を取らず。

 

「マナミィ!」

その時、ルイナスが間一髪でアズレイの元に到着するとすかさず体当たりで機体ごと押し飛ばしてランシェアラの刃のエジキになるすんでで難を逃れるアズレイ。

 

「リューネス、なんでこいつが動けるんだ?」

 

「……ガレリー様の話だと『エルオス・メルライユ』の効能時間は約十秒程度と少ないようだ」

 

「短かすぎだろ、それじゃあ全然役に立たねえじゃねうか」

 

「それでも敵の動きを問答無用で封じれるんだ、文句いうな」

 

ザンキ達が会話している間にエミリアは、機体を揺らして茫然している愛美を我に返している。

 

「しっかりしてマナミ!」

 

「エミリア……あっ」

 

我に帰った彼女は深刻そうな表情で唇を噛む。

 

「どうしよう……エリダヌスX―01をアイツに壊されちゃった……」

 

「えっ?」

 

「どうしよう、あれがないと……」

 

あの強固なバリア発生装置であるリュイルス・オーヴェを攻略できる唯一の兵器をザンキによって真っ二つにされてしまい、対抗手段を失ったと途方にくれる愛美達――。

 

「司令、あの子達が今対峙しているメカザウルス達にあのバリア発生装置が……」

 

モニターで確認すると確かに地上にて、エミリア達と戦っているメカザウルス、ランシェアラとオルドレスの周りにそれぞれ三機の金属球が従えているように飛び交っているのが分かる。ちょうどその時、愛美から通信を受信すると本人は大慌てしている。

 

“早乙女さん、マリアさん、エリダヌスX―01があのメカザウルスに真っ二つにされちゃった、どうすればいいですか!!”

 

「なんだとっ?」

 

“攻撃しようとしたらいきなり機体が動かなくなって、その隙に……これじゃああのバリアに対抗できません!”

 

ただでさえあのリュイルス・オーヴェのバリアを破るのは至難の業であるのに、それを装備する機体が複数でしかも頼みの綱が破壊された事実に頭を痛める早乙女とマリア。

 

「司令、もうひとつの予備は?」

 

「あるにはある、だが今竜斗へ愛美に届けるよう通信できないとなると艦を着陸させて直接受領させる意外に方法はない。

だがそうすると着陸中は艦は無防備となるし、彼女達が戻ってくるとおそらくあのメカザウルス達もゲッターロボを追跡してくるだろう」

 

「それじゃあ……っ」

 

「手はないわけではないがその場合は――」

 

早速彼は二人に通信でその方法を伝える。

 

“愛美、ベルクラスにアルヴァイン用の予備のエリダヌスX―01がある。艦を着陸させるから直接取りにこい”

 

「はい。けどそうすると向こうも追ってくるんじゃあ」

 

“そこでエミリア、君がその間あのメカザウルスの注意を引きつけてくれっ”

 

「え……っ、てことはアタシに囮となれってことですか?」

“ああ。だが君も一緒に戻ってこい、アズレイが格納庫に戻っている間、ベルクラスも盾となることで君の負担も減らせるし守れることになる。外周を周ってたりなんでもして何とか奴らの注意を引いてくれ”

 

「りょ、了解です!」

 

“一刻の余裕時間はない。速やかに行うぞ”

 

「「はいっ!」」

 

着陸できる場所へ移動するベルクラスに連動して二機もそこから離れていくが同時にザンキ達も直ちに追跡を図る。

 

「逃げる気か!」

 

「怖じ気づいたかゲッターロボ!」

 

オルドレスとランシェアラは地上を高速で走り込みながらミサイル、二丁拳銃からの熱線で追撃を仕掛けてくる。

 

「アタシ達が固まってちゃ危ない、散開するよマナミ!」

 

「うん、気をつけてエミリア!」

 

二機は急旋回用杭を地面に打ちつけて後退しながらジグザグに後ろ移動しながらさらに各火器で弾幕を張り、攪乱していく。

 

「もしかしたら、さっきみたいにマナの機体が途中で動かなくなるかもしれないから、あのトリケラトプスみたいなメカザウルスの前に立たないほうがいいかも!」

 

「分かった!」

 

互いに警戒し、注意いし合い、そして励まし合いながら、何とか切り抜けようとエミリアと愛美は必死になっているその一方で竜斗は突如現れたもう二機と対峙していたのだが……。

 

(……ラドラさんと同じ機体が……何故ここに……っ)

 

彼の震える眼に映るはニャルムのマーダインをそっちのけでもう一つの機体、クックの乗るメカザウルス、グリューセル。

細部は異なるがラドラの機体であったリューンシヴと全くの瓜二つの姿であり、もしかして彼が乗っているのかと、竜斗をさらに混乱させる要因であった。

 



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第四十一話「ジュラシック・フォース」⑦

「……クック、行くよっ……」

 

「ああっ」

 

二機は混乱している竜斗へ容赦なく突撃、それぞれ搭載されたブースター付属の翼竜型の巨大な翼、多数のバーニアスラスターを駆使し、その凄まじい空中機動を見せつけながらアルヴァインを翻弄し始めるクックとニャルムの駆るグリューセルと唯一のメカエイビスであるマーダイン。

 

「……楽しませてもらうよ、ゲッターロボ」

 

「…………」

 

大空をビュンビュン飛び回りながらそれぞれライフル、マグマ砲の各火線でアルヴァインへ集中攻撃を開始。

 

「あっ……!」

 

竜斗もハッと我に返り、すぐさまそこから離れて飛び交う多数の火線を回避。

 

(まさかあの中にラドラさんが……いや、そんなハズはないっ)

 

中で操縦するのが、ラドラの親友であるクックだとは竜斗は知るはずもない、だがゲッターロボだとわかって攻撃を仕掛けてくるとなると……。

 

「もしかして乗っているのはラドラさんですか!!」

 

と、通信の周波数を変えながらクックへ対話を始める。

 

「…………」

 

クックの方も竜斗からの通信を受信しており、飲み込んだ翻訳機のおかげで何を喋っているのかすぐに分かる。

 

(しきりにラドラと呼ぶこのパイロット……やはり例の地上人類の子か)

 

彼は分かる否や、すぐに竜斗の通信を遮断した。

(悪いな。君と会話することは私やラドラにとって非常に都合が悪くなるんでね、あえて知らなかったことにするよ――)

 

この方が互いのためだと――クックはすぐに気持ちを切り替えて攻撃に徹する。

 

(ラドラさんじゃない……ということは誰が……)

 

それでも、ラドラの機体にそっくりなグリューセルのパイロットが気になってしょうがない竜斗。

 

「……いくよ、ゲッターロボっ」

 

その時、先陣で切り込んでくるのはニャルムの駆るメカエイビス、マーダイン。三叉の形をした、これまでの生物的な外見と違うフォルム、そして機体のいたるところに搭載した高性能のバーニアスラスターを駆使して、SMBの二、三倍近くの全長でありながらその空中における機動性能はこれまでのメカエイビスとは比べものにならないほどに高く、アルヴァインに勝るとも劣らないアクロバティックな空中機動を披露。

「……死ねっ」

 

その超スピードで空中移動しながらアルヴァインに各砲を向けてマグマ弾、ドロドロのマグマを立て続けに放ち浴びせてくる。

 

「くっ、なんだあの機体はっ」

 

アルヴァインも同じく超高速移動で対抗、目まぐるしいスピードで上空を動きながらセプティミスαを構えて狙いを定め、複合エネルギー弾を二、三発連続で発射。

突き抜けていく強力なエネルギーの弾丸は一瞬でマーダインに急接近した。が、機体の周りに飛び交う金属球リュイルス・オーヴェ三機が出現しマーダインを覆うようにバリアを展開、接触した複合エネルギー弾がいとも簡単に弾かれてしまう。

 

「あの機体にもあの装置が……」

 

竜斗はグリューセルにも目をやると、この機体の周りにもリュイルス・オーヴェが飛び交っていることを知ると竜斗は直ちに再び早乙女に通信をかける。

 

「司令、あの……っ!」

 

“……竜斗?お前大丈夫か?”

 

「は、はい。今交戦してる二機のメカザウルスにあのバリア装置が。エリダヌスX―01の用意を!」

 

“いや、もうない!”

 

期待と予想を裏切られたように、彼は愕然となった。

 

「予備が……予備があるはずでは!」

 

“予備は今、愛美に渡す予定だ。アズレイのは同じバリア発生装置を持つメカザウルス二機によって破壊されてしまってな”

「え……っ?」

 

“どうやら君達の戦っているメカザウルスは今までのとは違い、非常に実力のあるヤツらだと思われ、地上の二人も厳しい状況を強いられている”

 

「………………」

 

“竜斗、もし君の目が覚めたのならそれでよかった。今は頑張って空中の二機の注意を惹きつけてくれ”

 

「けど、それじゃあエミリア達が!僕もすぐに二人の援護を!」

 

“君が来たら今交戦しているヤツらも追ってくることを計算しろ。

あの強力なバリア発生装置を装備しているメカザウルス四機がもし合流してしまえばそれこそ今の君達に勝ち目はないぞ。

地上のメカザウルス二機については彼女達に頑張って先に倒してもらう、その後愛美から予備のエリダヌスX―01を渡してもらえ、彼女にそう言っておくから”

「司令……」

 

“竜斗はアルヴァインの力を最大限に引き出せる唯一のパイロットだからできると、私達は君の実力を信じているし頼りにしている。

だから今は少しでも空中の残り二機をベルクラスから引き離せ、もしその上で現装備で装置を破壊できそうなら試してみてくれ、頼む”

 

早乙女からのその頼みと希望に満ちたその表情から並ならぬ自分への期待を込めてられているのが分かる。それを感じ取った竜斗はコクっと頷いた。

 

「はいっ!」

 

“よしっ、やっといい顔に戻ったな。今、我々は窮地だが何としても今を切り抜けるぞ、では頼んだぞ”

 

通信を切ると竜斗は頭を振り、気持ちを入れ替える。

(……そうだ、僕にはまだ――!)

 

まだ自分を頼りにしてくれる人がいる、そしてかけがえのない『家族』がいる、その希望を胸に、竜斗はやっと暴走と混乱を抜けていつも通りの真剣そのものと化した。

 

アルヴァインはすぐさまベルクラスの位置を確認し、それから離れるように移動を開始、当然クック達もつかさず追跡してくる。

グリューセルは左手を突き出すと手甲から小口径の銃口が二門が飛び出し、そこから小さなマグマ弾を機銃のように高速に連射。だが竜斗はすぐにレバーを巧みに動かし、それに連動してアルヴァインは左右交互に移動して避ける。

 

「俺は……俺はァ!」

 

後退しながら右脛からビーム・ブーメランを二本取り出して、追ってくる二機に向かって投擲。高速回転するブーメランにさらにセプティミスαを突き出し、複合エネルギー弾を撃ち続けてブーメランに当てて軌道を変える。

「まだまだ!」

 

次々に弾を当てて、ジグザグに動くブーメランにクック達は翻弄される。

 

「つあっ!」

 

右肩のキャノン砲を水平に保ち、飛び回るブーメランへビームを当てるとリフレクタービーム機能が作動、全方位に隙間のないビームが降り注がれた。

 

「……面白いコトをしてくれるじゃない……」

 

攻撃を感知した各リュイルス・オーヴェは二機を球体状のバリアで包みこみ、リフレクタービームをシャットアウト。

 

「今だ!」

 

「なに!」

 

気を取られている内に、アルヴァインがグリューセルの真上に接近、左手首に固定されたキャノン砲を近くのリュイルス・オーヴェの一つへ素早く向けて発射。動力炉直結からの複合エネルギー弾が見事それに命中し一撃で吹き飛ばした。

「や、やった!」

 

竜斗はエリダヌスX―01でなくても破壊できることを知り、さらに希望を見いだしてすかさずまた狙い撃ちをしようとするが流石のクックも無抵抗ではなく背中から、オリジナルと同じく長剣を取り出すと剣刃が真っ赤に発熱、全力で横凪に振り込むがアルヴァインは急後退して回避。

 

(あの剣といい、やっぱりラドラさんの機体にそっくりだ……けど、やらないと俺がやられるんだ!)

 

右手にライフル、左手に長剣を持ったグリューセルが追いかけてくる。

ルゥベルジュ・ライフルの銃口をアルヴァインへ向けて青白い熱線は放射、空気が熱で揺らいでいる。

 

「……逃がさない……」

一方、大空を駆けるマーダインは急旋回してアルヴァインの背中目掛けて突撃、目の前にはクック、その後ろにはニャルムと完全に挟み撃ち状態となり急接近。

 

「今だ!」

 

竜斗はとっさにライフルの弾を散弾に変えて、素早く前後の二機の真正面に弾をばらまくと急発進して真横に移動、挟み撃ちを逃れる。

 

「「!?」」

 

気を取られて高速度に乗ったグリューセルとマーダインは対面したまま突っ込んでいき制止できず、そのまま勢いに乗って互いに体当たり……と思いきやリュイルス・オーヴェ達も慌てて二機にバリアを張り、互いの衝突を防いだがバリア同士の反発により強く弾き飛ばされた。

「きゃあっ」

 

「ぐっ!」

 

地上へ墜落し始めるが、二人はすぐさま機体の右操縦レバーを引き込み、体勢を元に戻して事なきをえた。

 

「……他のキャプテン、そしてラドラと対等で戦えるだけのことはある、流石だ」

 

「……ムッカつくっ…………」

 

一方で竜斗は、このバリア持ち意外といけるのでは、と興奮に満ちており息を切らしている。

 

(あの二機の動きを掴んできた、あのメカザウルスもラドラさんのと比べて弱い気がするからあの人が乗ってないのは確かだ――よし、このまま気を抜かずに頑張って――)

 

だがその時、マーダインはグリューセルをさしおいて先に発進。

しかしアルヴァインへ攻撃を行わず、何故か地上で必死に戦っているSMB部隊の真上へ移動した。

 

「……すごくムカムカしてきたから先にたくさんの地上人類をぶっ殺して発散しよっ……」

 

ニャルムが物騒にそう言い捨てると、マーダインの底部中央から半球状レンズがせり出し、機体をその高さを維持したまま滞空する。

 

「……『エミル・エヅダ』発動……」

 

真下のレンズが紅く光ったと同時に地上には突然起こる。

 

「あ、熱い、身体が焦げる!!」

 

「た、助けてくれえ!!」

 

SMBのパイロット達はコックピットの内部温度が急激に跳ね上がり内部は爆発。まるで火炙りにされているような苦しみに悲鳴を上げた後、ついに身体がマッチのように燃え上がった――マーダインの真下にいるSMB全て同時に内部爆発を起こして破壊されていった。

「アハハハハハ、灼熱地獄を味わって、苦しんで死ねよ、キャハハハハハ!!」

 

前と同じく気に触れたような、性格が一変して激しく高く、そして嘲笑うニャルム。

 

「な、なんてことを……」

 

竜斗、そして仲間であるクックでさえもその光景を見て唖然となっていた。

 

(あのバカ……っ)

 

一方でザンキ達も囮となっているエミリアと対峙している最中にその光景を見ていた。

 

「おいザンキ、またニャルムのヤツ――」

 

「ああ、今頃あいつコックピットで気ぃ狂ったように大笑いしていることだろうぜっ。

まあ俺らはとりあえず、目の前のことに集中しようぜ」

今、愛美がベルクラスに予備のエリダヌスX―01を取りに行っている間、エミリアはただ一人、追いかけてくるザンキ達の囮で必死だった。

 

(バリアがある以上、あのメカザウルス達にゲッターロボの攻撃が通用しないし、どっちもアタシより遥かに強いからどれだけ持ちこたえられるか……)

 

息を切らすエミリアは全神経を集中させて再び脚部の車輪を駆使して地上をジグザグに高速滑走する。

 

「また鬼ごっこ遊びか!」

 

ランシェアラは元機であるルイエノ以上に素早く走り込み、ルイナスの動きに追従し、急接近しながら二丁拳銃から熱線を次々に撃ち込んでくる。

その後方からオルドレスは胴体後部左右に装備したポットを展開してミサイルを多数打ち上げてルイナスへ一気に押し寄せてくる。

すぐさま撃ち落とそうとガーランドGをミサイル群に向けて同じくミサイルで迎撃しようとする。が

 

「ウソ、弾切れ!?」

 

すでにガーランドGのミサイル全てを使い切ってしまい、そのままルイナスへオルドレスからのミサイルが直撃して大爆発を起こし、吹き飛ばされた。

 

「きゃあああっ!」

 

このミサイル攻撃で今まで保っていたプラズマシールドもついに切れてしまい、完全な無防備となってしまう。

 

「おっと、お楽しみはこれからだ」

 

「!!」

 

目の前にはすでにランシェアラが高熱刃で切り刻もうとしていた。

 

「これでもくらいなさい!」

ルイナスは奥の手としてガーランドGそのものをミサイルとしてランシェアラへ射出するが、その異常な反応速度でいとも容易く避けられてしまった。

 

「残念。だがもうおしまいだ!」

 

ランシェアラに左腕のドリル連結部を一瞬で切り落とされてしまい、武器が何一つも失うルイナス。

 

「ああっ!!」

 

ザンキは今度こそバラバラにしてやると、身体に捻りを入れるとそれに連動して機体も捻り入れて、トドメを刺そうとした。



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第四十一話「ジュラシック・フォース」⑧

その時、二機の真横から二発の大型ミサイル、プラズマの光弾が飛び込み、すかさずそこから後転して回避するランシェアラ。

 

「エミリアっ!」

 

予備のエリダヌスX―01を持ち戻ってきたアズレイは、無残な姿のルイナスと合流した。

 

「来てくれて助かったよマナミっ!」

 

「ありがとう、よく頑張って耐えてくれたけど、こんな状態じゃアンタはもう戦えないわね……」

 

「…………」

 

両腕を失い、そしてライジング・サンのシーカー全てを撃ち落とされて武装が何一つもなくなったルイナスはもはや戦闘は不可能である。愛美は早乙女に「竜斗は元に戻った」と言われて、それを信じすぐさま竜斗に通信をかけてみると今度はちゃんと繋がった。

 

“あ、愛美……ごめん、俺……っ”

 

「それは後にして。それよりもエミリアがもう戦えない状態にされたの、だから今すぐベルクラスにエミリアを運んで!」

 

“えっ、エミリアがどうしたのっ!”

 

凄く慌てている表情の竜斗に愛美はすかさず「落ち着けっ」と喝を入れた。

 

「ルイナスがもう戦えない状態ってこと、本人に至っては大丈夫だからエミリアがこのままヤツらの餌食にならないために早く迎えにきて!」

 

“……分かった、今すぐそこに向かう!”

 

「マナも流石に今の状況で持ちこたえるのはスゴくキツいから早くきてね!」

 

通信を切ると、約十秒前後でもうアルヴァインが迅速に駆けつけて着地した。

 

 

 

そのルイナスの両腕のない状態に竜斗は唖然となる。

 

「エミリア!」

 

「やっと元に戻ったんだねリュウト!」

 

「ほら、こんなヤバい状況で喜び合ってないで早く行って!」

 

アルヴァインはすぐさまルイナスを持ち抱えると空中を飛ぶ。

 

「愛美、すぐ戻ってくるから待ってて!」

 

「ええっ、頑張ってみる!」

 

アルヴァインはすぐさま飛び上がり、早乙女にルイナスの収容してくれるよう伝えてベルクラスへすぐさま向かって上昇していく。

だがクックとニャルムの二人組が空中からアルヴァインを追いかける。

 

「逃がさない、絶対に逃がさない!」

 

グリューセル、マーダインから雨のような火線が竜斗達に降り注がれる。

一機分の重量が増えた影響で早く飛び上がれないアルヴァインはすぐさま背を向けてルイナスを当たらないに盾になるが、その間に何発も当たり、シールドのエネルギー残量が削られていく。

 

「このままじゃリュウトまで落とされるよ!」

 

「心配しないで、俺がエミリアを何としても守るから!」

 

しかしその間に次々と熱線やマグマ弾がシールドに当たり続け、光の膜が一気に薄くなっていく。

 

「竜斗が危ない、ベルクラスも直ちにこちらからも援護攻撃を行うぞ」

 

「了解」

 

ベルクラスからも各砲門を開き、機関砲、ミサイル、プラズマビームで前方に弾幕を張り二機の接近を許さない。

 

「ユーラシア連合軍の総司令から、戦況的がこちらが不利とだということで撤退命令が出ています」

 

「分かった!」

 

竜斗達に撤退すると伝えるとそれぞれが複雑な表情だ。

大雪山でも同じことがあったが今回は完全な退却であり、それは三人にとって初の、完封なきまでの敗北を意味していた。

 

「撤退することも戦略のうちだ、気を落とさずまた次に力を養えて頑張ればいい」

 

エミリアがやむえず戦線離脱し、竜斗と愛美だけで四機全員と相手にするとなれば間違いなく、あの四機によってゲッターチームは危険に晒されてしまう……それ以外に方法はなかった。

生き残った各SMBは後退していきメカザウルスに追われる形で退却していく。やっとの思いでルイナスを格納庫に戻した竜斗はすぐさま愛美の元に向かおうとする。

 

「今から愛美を助けにいってくるっ」

 

「気をつけてリュウト!」

 

すぐさま飛び出していき地上へ降下していく。だがクック達も直ちに急降下をして追いかけていく。

「逃がさん」

 

再び二機は各火器で追撃開始、すでにシールドが機能しなくなったアルヴァインも、もはやルイナスと同じく鎧の取れた表皮一枚の状態であり、竜斗は直撃した時の緊張感と当たらないように神経を一気に集中させてモニターとレーダーをにらめっこして、二機からの攻撃を避けながら降下する。

 

(愛美、今いくから待ってろっ!!)

 

その時の彼の顔は血管が今にも破裂しそうなくらいに浮き出ていた――。

 

「待ちやがれゲッターロボ!」

 

地上では他のSMBと同じく後退する愛美に、ザンキ達がしつこく攻撃しながら追いかけてくるが脚の車輪と杭を駆使して蛇行しながら退いていくアズレイ。

 

「しつこい、もう追ってくんなメカザウルス!!」

 

二人のあまりのしつこさとそして、退却なのに苛烈を極める逃亡に愛美も泣き顔となっている。その時やっと竜斗が彼女の元へ降りていく。

 

「竜斗!」

 

「愛美、司令の命令で機体を捨ててアルヴァインに乗り込め!」

 

 

「えっ……」

 

「このままだと逃げ切れないから愛美や他の人たちまでが危ないから、愛美を載せてアルヴァインで一気にベルクラスに戻れって」

 

彼女はそれに渋り、踏みとどまっている。

 

「……愛美っ?」

 

「またこの機体を捨てることになるの……」

 

大雪山戦役でもそうだった、自分の乗り馴染んだ機体をまた捨てることになるなんて……彼女はそれによる悲しみと抵抗感があった。

 

「……捨てたくない気持ちは凄く分かるけど今はお前の命がなによりも大事だ、だから早く乗り込め!

愛美にもしものことがあって、もっとみんなを悲しませたいのか!」

 

「…………」

 

「愛美!!」

 

竜斗の叫びに、彼女もタカをくくり、コクっと頷く。

 

「よし、じゃあ早く乗り込もう」

 

まだシールドの残量が残っているアズレイを敵の背に向け、少しでも攻撃を当たらないように二機を対面すると互いのコックピットが開き、アルヴァインの指に飛び乗る愛美。

だがその頃、ついにジュラシック・フォースの四人全員が合流してしまい、四人がかりで彼らに迫り来ていた。

 

「もう逃がさないよ」

 

マーダインが真っ先に飛び出して、アルヴァインとアズレイの真上に滞空すると底部から再び円いレンズがせり出す。

先ほど地上にて沢山のSMBのパイロットに燃え尽きるほどの灼熱地獄を与えたマーダイン専用の特殊兵器『エミル・エヅダ』を二人めがけて発動させようとした。

 

「二人揃って真っ赤に燃やしてやるよ、フフ」

 

ニャルムの目に恐ろしい殺気がこもり、全力でエミル・エヅダの発動ボタンを指を置いた時、ちょうど愛美はアルヴァインのコックピットに乗り込みすぐにハッチを締めた。

 

「しっかり掴まってて!」

 

愛美を後部席へ回してそこから離れようと、飛び上がりかけた時、ニャルムの指がぐっと発動ボタンを押し込みエミル・エズダが発動。

ちょうど空中に飛び上がったアルヴァインの内部に膨大な熱量が通り抜けたが間一髪で二人は黒こげになるのを免れたが、その場に取り残されたアズレイはその熱によりコックピットから爆発を起こり、そしてついに機体ごと爆散してしまった。

「マナのアズレイが……」

 

またも自分の機体を乗り捨ててしまったことに悔やんでいる愛美。

だが、そんなことをしている暇はなく、ザンキ、リューネスがアルヴァインへ各砲を向けて仕掛けてきていた。

 

「絶対に逃がすな!」

 

「ああっ!!」

 

熱線、ミサイルによる休むことのない、隙間のない追撃を加える。アルヴァインはベルクラス一直線で上昇していくがその途中で右腕や左脚に直撃してしまい、吹き飛ばされていく。

 

「いやあああっ!!」

 

「くそ、どうかベルクラスまででも持ちこたえてくれ!」

 

ダメージを受けすぎて動きと飛行速度が鈍っていくがそれでも助かるのならと諦めず、ジグザグに飛び上がっていくアルヴァインだがニャルムのマーダインも獲物を逃がさないと言わんばかりに追いかけてくる。

すぐそこまでベルクラスに迫り、最後まで気を張り詰める二人の後ろをまるで狩りを楽しむかように意気揚々と追いかけてくるニャルム。

照準のピントをアルヴァインに合わせてロックして左右主翼下部に装備した機銃から小さいマグマ弾連射。あちこちに当たり穴だらけとなっていくが最後の最後まで諦めず上がっていく。

ベルクラスからも竜斗達を守ろうと各火器で応戦、マーダインはバーニアスラスターを駆使して高度な機動を描きながら避けていく。

 

「あとわずかだ!」

 

「アルヴァイン、お願いだから格納庫までもって!」

 

ついにベルクラスに到着したアルヴァインはすぐさま後方部にある格納庫のハッチへ後ろに追手がいないことを確認しながら向かい、そしてついに格納庫部に到着、後はすでに開かれた格納庫のハッチの中に入ろうとした。

 

「残念っ」

 

「「なっ!?」

 

ボロボロのアルヴァインの真横にあのマーダインが待っていたと言わんばかりに突然現れ、愕然となる竜斗と愛美。

 

「これで、おしまいよ」

 

胴体右下部から砲弾型のミサイルが射出され、そのままアルヴァインに直撃し、大爆発と共についに機体がバラバラにされてしまう。

 

「「わああああああっ!」」

 

悲鳴を上げる二人がいる頭部は奇跡か、爆散と共に胴体から離れて爆風によってそのまま押し込まれるように格納庫の中に入っていき、それ以外の残骸は地上へ墜落していった――。

 

“ニャルム、バット将軍から帰還命令が出された。これ以上追跡せずデビラ・ムーへ帰るぞ”

 

「……分かったっ」

 

いつの間にか気が静まり、凶暴の性格から一変して普段のように冷めた表情をしているニャルム。

 

「……楽しかった、フフンフン♪」

 

満足げな表情でベルクラスに攻撃を仕掛けず、ザンキに言われた通りにそこから去っていった――。

「竜斗達は!」

 

「分かりません、ただ格納庫にはアルヴァインの頭部らしきモノがあるみたいなんですが……」

 

「マリアは格納庫に向かってくれ。もし二人が無事ならいいがケガしてるようなら直ちに救助して医務室へ」

 

――ハッチが固く閉まったと同時に頭部は格納庫を叩きつけられて転がり、そして壁に激突しやっと静止した。

生首と化したアルヴァインの頭部から白い煙がもくもくと上がっている。

 

「竜斗……大丈夫……?」

 

グシャグシャになったアルヴァインのコックピット内では愛美は打ち身だらけで痛む身体を無理やり起こして彼を呼ぶ。

 

「竜斗……竜斗!」

 

だがいくら呼んでも返事が返ってこない。すぐさまこの斜めに歪んでいるこの狭く気持ちの悪いコックピットの座席部に目をやるとそこには竜斗がうつむせになりグッタリしている。

 

「だ、大丈夫竜斗!!?」

 

彼女は竜斗へ寄りつき身体を抱きかかえて強く揺らしてみるも意識は全くない。ヘルメットをゆっくり取るとの顔には生気が全くなく、そして首が重力に従ってダランと落ち、勿論両腕にも全く同じであった。

 

「まさか……死……」

 

彼女は慌てて彼の胸に耳を当ててみると微かに鼓動はある。しかし本当に微かでまるで消えかかった火のように感じられた。

 

「誰か、誰か助けてーー!!」

 

愛美が悲痛の声を上げると外から、

 

「無事なのねマナミ!!」

 

「今すぐこじ開けるから待ってて!!」

 

エミリアとマリアの声が耳に入った。だがそれで安心している暇などなかった。

 

「マナよりも竜斗が、竜斗が今にも死にそうなの!早く助けてあげて!」

 

「リュウトが、リュウトがどうかしたの!?」

 

「い、意識が全くなくて死んでるみたいになってるの、心臓は動いているけど凄く弱まってる!」

 

それを聞いた二人は血の気が引いて、直ちにコックピットをあける作業にかかった。

 

 

――この戦いで連合軍は再び敗北を喫し、そして何より僕達ゲッターチームにとって初の敗北、撤退を味わった。

悔しさ、無力感、何とも言えないモヤモヤもあるがそれよりも今、僕自身は生死をさまよう窮地に陥っていた――。

 



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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」①

「あのゲッターロボをジュラシック・フォースが!」

 

「はい、三機の内一機は中破、残り二機は大破したとの情報が。パイロットの生死は不明ですが」

 

マシーン・ランドの王の間ではその吉報に大いに喜ぶジャテーゴ。

 

「我々爬虫人類の天敵であり、恐竜帝国をことごとく邪魔をしたあのゲッターロボが……ついに!」

 

彼女は上機嫌に甲高い笑い声を響かせる。

 

「もはやこの戦争は我々の勝利も同然、全てが終わり次第ジュラシック・フォースの面々には参謀へ昇級の褒美を授けようではないか、ハハハ!」

 

勝利を確信した彼女は立ち上がり、高らかにこう告げた。

 

「これより我々恐竜帝国は全戦力を持って、全地上人類の殲滅を行う大作戦を開始する。各隊にそう伝言せよ!」

 

その事実を彼女の後ろで待機するラドラの耳に入り、もはや希望がないと暗い表情を落とした。

 

(リュウト君……っ)

 

その事実がマシーン・ランド内に知れ渡り、天敵がいなくなったことを喜ぶ者がほとんどだった。が、中にはラドラのように悲しみすすり泣く者もいた――。

 

(リュウトさん……皆さん……)

 

牢屋に入れられたままのゴーラはその事実に悲しみと絶望を味わい、床に泣き伏せている。

 

(お父様も、リョド様も、味方が次々に処刑され……もう何もかも希望がなくなってしまった…………っ)

いまや完全にジャテーゴの支配下に置かれ、自分の味方となってくる者などいるのかすら分からない。

 

(理想ばかり抱いていた私はただの大馬鹿者…………私はもう絶望と悲しみに押しつぶされそうで、もう死んでしまいたい……誰か、どうか私をひと思いに――)

 

希望がないと彼女は生きているのも苦痛なほどに悲観していた。

 

「ハハハ!よくやったな、ザンキ達ジュラシック・フォースよ!」

 

「いえいえ」

 

デビラ・ムー内のバットの豪華な装飾がなされた部屋にて、戦闘の勝利、そして何よりゲッターロボを完封なきまでに叩いたことを評して、上級酒の入ったグラス同士を鳴らして飲み交わし、祝い合うバットとザンキ。

 

「ジャテーゴ様はお前たちを大変賞賛しておったぞ、戦争が終わり次第褒美を与えるとな」

 

「ほう、それはどんな褒美でしょうか?」

 

「そこまでは分からんがゲッターロボを打ち破ったからには相応の賞美をもたらされるに違いないぞ」

 

「それは嬉しい限りで」

 

「甥のお前含めた最も優秀な四人をよこしてくれたゴール様に感謝したい所だがな……まあ、至福のこの時に暗い話をするのはよそう。

このぶんではお前達は私達各将軍の参謀につけるのももうすぐかもな、ハハハ――」

 

二人が祝い酒を飲み合っているこの部屋の天井に、揺らいだように何かが動くような気がした。

そこから雫が一滴、テーブルに置かれたバットの酒の入ったグラスに落ちたが話の夢中、そして勝利の美酒に酔いしれており本人は全く気づかいてない――しばらくして、ほろ酔い気分のバットが新たな酒のボトルを取りにザンキに背を向けた時だった。

 

「ぐあっ……」

 

突如、バットはその場で心臓部分をぐっと押さえて苦しみ、悶絶しだした。真っ青な顔をして、息を切らし冷や汗がダラダラと流れ出ている。

 

「ざ、ザンキ……、助けてくれ……」

 

「ククッ、ざまあねえな」

 

悶えるバットは顔を上げると目を疑う。何故なら『助けてくれる』はずの甥が、下品な笑みで自分を見下しているばかりで助けようとしないからだ。

「オジキ、俺はあんたの部下になるつもりはないんでね」

 

「なっ……なに……っ」

 

「俺は参謀になる気はない、飛び級して早く将軍になりたかっただけさ」

 

ザンキは叔父である苦しむバットの顔をグリグリ踏みつけた。

 

「俺は知ってるんだぜ、アンタは随分前から心臓疾患を患っていることをな」

 

「お、お前……まさか……っ」

 

「そのまさかよ。アンタの酒に心臓に負担をかけるように、早死へ向かってちいと加速させただけのこと。

今までアンタの命令を渋々と聞いてきたがそれも今日限りだ」

 

「ザンキ……、キサマ……っ!!」

 

 

ザンキの裏切りとその事実を耳にしたバットはかつてない怒りと悲しみに今にも爆発しそうなほどであったが、彼に制裁を与えるほどの力と体力はなく身体を起こすことも出来ず、呼吸をするのも一苦労な有り様であった。

 

「冥土の土産に教えてやるぜ。将軍だけじゃねえぜ。いずれあの性悪女のジャテーゴも潰して恐竜帝国を俺の支配下に置くつもりだからこれはその最初の一歩だ――というわけでもう死ねよ、俺の『尊敬』するオジキ、バット将軍」

 

すると突然、うつむせのバットの背中に『ドン』と強烈な打撃音が響いたと同時に、彼は白目を向いて動かなくなった。

ひっくり返して心臓に耳を当てて確認するがすでに動いておらず。

「……ついにやっちゃったね、バット将軍を……」

 

ザンキの横に突然、浮き出るようにニャルムが姿を表した。

 

「……将軍、あたしが天井に同化して張り付いていることに、そこから劇薬を落としたことに気づいているかどうか本当に不安だった……っ」

 

「だから酒を飲ませて少しでも注意力を散漫したんだよ」

 

「……けど検死で調べられたらどうする、薬を使ったってバレたら……」

 

「大丈夫。それも考えて成分が分からなくなるように薬を厳選したんだ。それよりもリューネスは?」

 

「……今、入り口付近について見張ってる」

 

「よし。ニャルムはリューネスと合流して今すぐここから離れろ、後は俺がやる」

 

ザンキは、事がバレることに酷く怯えるニャルムの額に、安心するよう軽い口づけを交わして言われた通りに出て行く。しばらくした後、ザンキは隠し持っていた手袋をつけてバットの使っていた酒入りのグラスを持ち、事切れている本人の手の横にグラスごと落としつけ、部屋の片隅にある緊急用のボタンを押すとすぐに衛兵が駆けつける。

 

「ば、バット将軍!!」

 

中に入ると冷たくなったバットに必死にさすり呼ぶ、青ざめて焦りに焦るザンキの姿に仰天する衛兵達。

 

「将軍が、将軍が私と共に飲酒中に突然倒れて動かなくなった、直ちに医務室へ運べ!」

 

「は、はっ!」

 

衛兵達が直ちにバットを医務室へ運んでいく。その付き添いでザンキも一緒についていく。

その途中で何食わぬ顔でリューネスとニャルムに顔を合わせると、彼はニヤリとドヤ顔を見せ、流石の二人も彼の底知れぬ『野心』に一瞬、寒気が襲ったほどだ。

 

(よしよし、これで俺にお咎めなく上手くいけば目的の第一段階は終了だな……先は長いが慌てず確実にやろうか……ククク)

 

一方で、マシーン・ランドの牢屋にて、泣き疲れて、まるで人形のように壁に背もたれたまま失意しているゴーラの元に、

 

「ゴーラ、ゴーラ」

彼女はその声を聞き入れ、虚ろな顔をゆっくり上げるとラドラが立っていた。

「……ら、ラドラ!」

 

彼女から生気が戻り、すぐに鉄格子越しで互いに手を掴み合った。

 

「よくぞご無事で、大丈夫ですかっ?」

 

「私は大丈夫です、それよりもラドラが酷い目に合ってないかが一番不安でしたが……無事で本当に良かった……っ」

 

互いが無事なだけで凄く喜び合う二人だが、すぐに暗い表情を落とす。

 

「私はジャテーゴ様直属の親衛隊長として任命されました……今やあの方の言いなりです」

 

「……あの方が、命を奪おうとした私を未だに殺さないのも、ラドラを手中に置くためでしょう……でなければジャテーゴ様にとって私は邪魔な存在、あの時間違いなく処刑しているでしょうから――」

自分はそのための人質だと確信する二人。

 

「あなたに情報があります。リュウト君達ゲッターチームが、ザンキ達ジュラシック・フォースに完封なきまでにやられたと――」

 

「……はい、存じております……っ」

 

「そしてこれからのことです。ジャテーゴ様はゲッターロボという大敵がいなくなったことを期に、これより恐竜帝国の全戦力を持って地球に蔓延る全地上人類を殲滅するべく総力戦を開始すると聞きました。そのことに対し爬虫人類ほぼ全員が賛成の意を唱えていると……」

 

「な、なんですって……」

 

「戦力を蓄え次第開始するとの話ですが恐らくすぐにだと思います――」

 

自分達の思い描いた願い、そして掴みかけた夢が脆くも崩れ去り、そして完全に地上人類はおろか、爬虫人類まで破滅の道に突入したことを意味する情報だった。

 

「い、今すぐこの場で私をひと思いに剣で突き殺しなさいラドラ!」

 

「ゴーラ!な、何をおっしゃいますか!」

 

「私さえいなければあなたは立ち上がることができる!そしてあなたに従う者も必ずいるはずです。それらと共にジャテーゴ様の野望を阻止してください!」

 

「ゴーラ……!」

 

嘆願するゴーラを前に怖じ気づいて瞳が震えているラドラだった。

 

「お願いです、このままでは間違いないなく地上人類はおろか、私達爬虫人類も終焉を迎えることになるでしょう。

私が思うにジャテーゴ様ではとてもじゃなく帝国を正しき方向へ導くことはできません、帝国の崩壊を食い止めることにも繋がるのです!」

 

「……ではその時は誰が帝国を……」

 

「それはラドラ、あなたです!誠実且つ信念があり気高く知識もちゃんと持ち合わせる、そして人望もあるラドラならっ」

 

「……私は王族でもなければ貴族でもなんでもない、ただの平民の身です。ゴーラ様が前におっしゃったような徳を自身に持つとは到底思えないですし、誰もが反対しましょう……」

 

流石の彼も凄く困惑するも、彼女は自信を持って首を横に振った。

 

「私は前にお父様からお聞きした事実を伝えます。私の婚約者を……ラドラ、あなたにすると」

「…………!」

 

ラドラの心に雷のようなもの凄い衝撃が今走り突き抜けた。

 

「お父様は私の婿をあなた一択、それしか考えられないと。私とラドラ、そしてジャテーゴ様を摂政とすれば帝国で歴代最高の善政をしいてくれるに違いないと、お父様は自信を持って太鼓判を押してくれました。

無論私も、あなたが夫となってくださるならこれ以上の喜びなどありませんっ」

 

「ゴーラ……」

 

「しかしもうそれは叶わぬこと……だからせめてものあなたが立ち上がり、そしてこの爬虫人類の帝国をあなたの手によって正しき道に導くのです。だから早く、早く私を!」

 

全ての事実を彼に伝え、自分の命と引き換えに必死に嘆願するゴーラ。

 

ラドラ自身もこの事実を聞いて嬉しくないはずがない、政権を握りたい?いや違う、自分もゴーラとずっと先に、共にいられることに――だが彼は立ち上がると彼女に背を向けた。

 

「ゴーラ……私は、どうしても、どう考えてもあなたをこの手で殺すことなど出来るハズがごさいません……っ」

 

「ラドラ……あなたはっ――!」

 

「――臆病者と、軟弱者と言いたいのなら好きなだけ言ってください……。

しかし、ゴール様はあなたが死ぬことだけは絶対に望んでいないですしそれに……私はあなたが死ねば確実に壊れてしまうことでしょう。

あなたが無事なだけでも私はこんな腐り始めた帝国でもちゃんと気を持っていられる、そんなあなたを私はどうして手をかけることができましょうか……っ」

 

「ラドラ!!」

 

彼はゆらゆらとふらつくように、寂しく去っていく。

 

「ラドラ……なぜ分からないのです……このままでは進展なんか全然しないのに……」

 

と再び泣き伏せてしまうゴーラ、そしてラドラも牢屋から出た瞬間に通路の壁に寄りかかり、ついにのしかかる多大な精神的負担に我慢の限界がきて泣き出してしまった。

 

(どうすればいいですか父さん……俺はもう心が痛くても気が狂いそうです……どうすれば……)

 

彼はもうこの世にいるはずもない、そして答えの返ってくるはずもない父リージへ救いを求め、すがる気持ちでいっぱいであった――。

 



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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」②

あの戦闘から一週間が過ぎて――ここはエリア51の医務エリア。世界中の、そして最新の医療技術が集結している場所でもある。

そのエリアの病室ではベッドに生命維持装置を取り付けられて未だに眠る竜斗。一応、治療は成功し集中治療室から抜け出したが、頭、首は包帯だらけで酸素マスクをつけられて身体中には薬物と栄養剤の入ったカテーテル、そして心拍数を取るための機器を取り付けられたその姿は完全に重病人であり、その横に石のように動かず座り込み付き添うエミリアと愛美。

その外では早乙女とマリアは未だに目覚めない彼の容態に、少しも気を許さない心配をしていた。

 

「竜斗君……なんでこんなことに……っ」

 

「……頭を強くぶつけたらしいから脳挫傷の危険性があるといっていたが……もう峠を越えた今、その危険性はないと言われたが安心ははっきりいってできないな。それに頸椎も強く打ちつけているとも言われた――」

 

恐らく、最後の攻撃を受けた後、吹き飛ばされた頭部が格納庫に叩きつけられて転がり、そして壁に衝突した際に起きた事故だろうとは二人とも分かっていた。

 

「……脳挫傷、または頸椎損傷なら間違いなく危険です、生還率は非常に低いですし、下手をすれば植物人間になりうることだってあり得ます……意識が戻ったとしても社会復帰できるかどうかも怪しいですし……」

 

「あの戦闘後、すぐさまエリア51に飛び、そしてここの医療技術全てを投入して無償で治療をしてくれたことに、君含めて医療に携わった人達に感謝の気持ちでいっぱいだ。後は……彼次第か」

 

「ええ……っ」

 

 

二人は大きく深く息を吐いて、焦る心を落ち着かせようといっぱいだ。

 

(竜斗……君はまだここで終わるような人間ではない。頼むから目覚めてくれ)

 

今はただ心の底から彼の容態の回復を願うことしかできず、かつてない無力感を味わう早乙女だった。

 

「司令、そういえばあの機体の開発については現在……」

 

「完成間近らしい。だが今はそんなことに構ってる暇はない……」

 

 

「あ……すいませんっ」

 

言葉を濁す早乙女に感づいたマリアは、自分は無神経だと反省する。

 

「司令、これから私に出来ることはありますか?」

 

「もし君に心身共に余裕があるなら二人を安心させて休ませてやれ、あれからろくに寝てないだろうからな」

 

「了解」

 

直ちにマリアは去っていく。早乙女は再び深く呼吸して吐き出し、自身の内に溜まりに溜まった重い気を少しでも追い出そうとする。

 

「竜斗君は大丈夫かのう」

 

早乙女の元に作業服姿のニールセンが現れて彼の容態を聞くが彼は首も振らず無言だった。

 

「そうか……だが、かわいそうじゃのう竜斗君は――」

 

と、彼に憐れみの言葉をかけるニールセン。

 

「お前達から色々聞いたが、これまでに悲惨な目に遭おうとそれでもここまで必死で頑張ってきたあの子がな……それにしても神はあの子らに恨みでもあるのか?」

「神…………か」

 

「まあワシは神なぞ信じておらんしそんなこと言ってもしょうがないな。

それに戦場に駆り出て戦っている以上はこうなることは十分想定の内。寧ろよく、これまでに三人共無事生き帰れたなとつくづく思うなワシは」

 

「確かに…………」

 

「運がいいだけでは済まされないことだ、彼らの実力もあると思うが、ちゃんと手足揃って生きて帰れることだけでもよしとしなけりゃいかんぞい」

 

……その後、二人は開発エリアに向かい、完成を控えて最終調整を行っている、ウインチで縦吊りされた例の三機の戦闘機へ見上げる。

すでに外装は全て取り付けられておりそして白銀と薄紫のカラーコーティングされている。

一番左側は機体上部に二門の長い砲身が平行にマウントされた最も戦闘機に近い型、中央は鋭角的、そして右側はブースター部位がコックピットより一回り肥大化したようなフォルム……現存する世界中の戦闘機と比べて丸みや鋭角の多く凄い個性的なフォルムである。

 

 

「現時点でこの各ゲットマシンを操れるのはゲッターチーム以外に考えられないのだが、竜斗君がもし回復しなければ……もはやこれを動かすことは叶わぬことになるな」

 

 

それと同時に、開発費や時間、労力など、開発した苦労が全て無駄になると言うことを意味し、もう幾ばくもないニールセン、そしてキングにとっては成し遂げかけた人生、いや人類の集大成とも言える作品が脆くも崩れ去ってしまうことを考えただけで落ち込みかけてしまう。

 

「いや、もしその時は、私が竜斗の代わりに――」

 

「やめておけサオトメ。お前、一番最初のゲッターロボにも耐えられんようなヤツがこんな殺人マシンに乗るなんざ正気の沙汰とは思えんよ、間違いなく死ぬぞ」

 

「それでもやらなければならないんです、でなければ……竜斗が浮かばれませんっ!」

 

 

普段のような能面の彼からとは思えないほどに気張って叫ぶ早乙女にニールセンは拍子抜けする。

 

「お前、そんなに情に熱いヤツだったか?」

 

「前にも私に父性が芽生えたともおっしゃいましたが、それが最近になってさらに顕著になっただけですよ」

 

「……まあ、今はとりあえず彼の容態が回復するのを祈る以外に他はないな。

それよりも今のベルクラスをさらに改修したいと申していたがこれ以上何を改修するんだ?」

 

「前のシベリアでの戦闘においてあのバリア装置を持つメカザウルスが複数いましたしそしてそれらによって我々ゲッターチームはそれらに有効打を一切与えられずに完封なきまでにやられて敗北しました。

そして恐らくそれを標準装備としたメカザウルスがこれから多数現れると予想しています。そうなればもしこの艦が孤立した場合、間違いなく太刀打ちできずなすすべなくやられるでしょう」

 

「ふむ、だからそれを艦単独になっても対処するために……か」

 

ニールセンは白い髭の伸びた顎を指でなでながら考え込む。

 

「よし分かった。もうこの際、キング達と色々やってみるとしよう。

もう新型ゲッターロボの開発はもう終わりだし、幸いテキサス艦の建造で余った予備の部品もあるしそれを何とか組み込めるようにして利用するか」

 

「博士、ありがとうございます。もうなにから何まで世話になって――」

「その代わりこの後……まあ戦争が終わった後でもたくさんその礼ははずんでもらうよ、流石にここまで無償ってわけにはいかん。

ワシにもエンジニアとして、そして武器兵器の商売人としてのプライドもあるからな」

 

「分かってます――」

 

二人は腕組みして、深くため息混じりに三機の戦闘機『ゲットマシン』を眺める。

確かに竜斗の心配もあるが、それと同時にこれらも果たして日の目を見ることができるのか――それは二人が技術者として、精を込めて作り上げた『子供達』の親として晴れ舞台に出したいという想いも確かにあるのだ――。

 

「ホント、マナ達の苦労なんか知らないくらいにスヤスヤと寝てるわね」

 

一方で、エミリアと愛美は未だに起きる様子が微塵もなく、静かにベッドで眠り続ける竜斗を前に、暗い表情を落としている。

 

 

「リュウト…………」

 

彼の容態が一向に五里霧中であり、そして自身もなすすべがなく看ることしかできないこの状況で、愛する彼にもし何かあったらと不安と恐怖、そして悲しみから震えるエミリア。

「なんでリュウトだけこんな目に……っ」

 

一方、愛美は無言でベッド横のデスクに飾られた花瓶のしなれた花を取り替えている。

 

「リュウトは助かるよね、絶対に助かるよね!?」

 

「……マナにそう言われても……今は竜斗を信じるしかないよ」

 

「もしリュウトにこのままずっと意識が戻らなかったら、もしリュウトにもしものことがあったら……どうしよう……アタシ、アタシ……」

 

ここに来てから何度も何度も涙を流したのにまだポロポロと涙を流れ出てぐずついているエミリア。

 

「アタシ……アタシ…………リュウトがいなきゃ……もう……生きていけないよ……」

 

「ほらエミリア、そんな弱気にならないの、今は竜斗が元気になることだけ祈りなさいよね」

 

依然とした態度の愛美に彼女は疑問でいっぱいになる。

 

「なんでマナミはそんなに冷静なのよ、リュウトのこんな状態に何とも思わないの!?」

 

「エミリア………………」

 

「大体なんでリュウトだけがこんなにまで酷い目に、辛い目に遭わなければいけないのよ!

絶対におかしいわよ、なんでチームの中で一番必死で苦労してきた……なのにどうして神はリュウトばかりイジメるのよ!今までアタシは神を信じてきたけどやめてやる、金輪際もう祈らない、絶対に許さないんだからっ!!」

 

 

キイキイとヒステリックになったかのようにわめき散らす彼女にした愛美は突如、エミリアの胸ぐらを掴みぐっと引き寄せて睨みつける。

 

「アンタがそうやって喚いてたって何も起こらないでしょうがあ!!ここは病室なんだから静かにしなさいよお!!」

 

「喚きたくもなるわよ!!リュウトが戻ってきてくれないとアタシはもう……もうやだやだやだやだ、もうこんなのいやああ!!!」

 

「うるさァい!!アンタは竜斗の彼女でしょ、少しはカレシを信じて前向きに考えることができないのォっ!!?」

 

「信じてたって何も起きないじゃない!!!」

 

「なんですってえ!!!」

 

ほとんどヤケクソに近く、互いに怒鳴り散らし、取っ組み合い、喧嘩の一触即発のような状態となってしまう二人。

 

「マナだって……マナだって……竜斗が助けることができるならこの命だって投げ出たり何だってするわよ……けど、今は見守ることしかできないから……どうすることも出来ないから……」

ついには愛美さえも今まで耐えていた我慢の限界が来て、その場でへたり込んで子供のように泣き出してしまい、それにつられてエミリアも泣き出してしまい静かにすべきはずの病室は二人の甲高い泣き声の合唱の場と化してしまう。

 

「大丈夫二人とも!!」

 

ちょうどその時、その声に駆けつけたマリアがこの場の惨状に慌てて泣き喚く二人を抱き寄せて頭を優しく撫でてあげた。

 

「大丈夫だからね二人とも、竜斗君は必ず回復するから。ほらあなた達もちゃんと元気を出すのよ、そんな悲しそうな顔してたら竜斗君も悲しむわよ」

 

母親のように優しく宥めるマリアにすがりつく子供のようなエミリアと愛美――しかし竜斗はそんな彼女達の泣き声を無視するかの如く、なんの変化も見せることはなかった。

 

(竜斗君、あなたが彼女達の悲痛の声を響かせても起きないとは今どんなにいい夢を見てるの……?

だけど、みんなあなたがまた戻ってくることをすべからく待ってるのよ、だから、目覚めてちょうだい――)

 

しかしその願いも虚しく何日立っても彼は目覚めることはなく、一向に全員が不安となっていく――そんな中、

 

「世界中のメカザウルスが突然、活性化しつつあります」

 

「なにっ!」

 

司令室では所長のメリオ達がモニターに映る世界図に散らばる赤い円点が全て点滅している。

すなわち元から動いたものは言わずもがな、全く動かず駐在していたメカザウルスの群までもが一斉に動き出し、さらに今までなかったメカザウルスの反応がアリの如く沢山モニターに浮き出ている。

 

それを知ったメリオはすぐさま早乙女達にその事を知らせる。

 

「……恐らく恐竜帝国は総力戦を仕掛けてくるつもりだろうな、シベリアでの敗退から日が浅いことを考えると――」

 

恐竜帝国にとって、最大の敵であるゲッターロボを打破したことで勝利を確信し、ついに乗り出してきたと予想する。

 

「現在、メカザウルスの戦力数は?」

 

「……恐らく現在のメカザウルスの数はざっと十万近くはあるかと。さらに増加する可能性もあります」

 

「最低十万……か、それでも現在の我々の現戦力数では間違いなく覆せないな」

 

十万……アラスカ戦線でも増援含めても二万近く、シベリアにもほぼ同数の数だった。それよりもさらに増えることと、世界中にいる世界連の味方全戦力数、そしてこちらの主力となりえた人材も先の大戦でほとんど失ったことを考えると、もはやこちらが圧倒的に不利であり、予想していたことが現実となる。

「私達はどうしますか?」

 

「中破したルイナス以外にゲッターロボがない以上、今の我々ではどうすることもできん」

 

「しかしこのまま黙ってみてるワケには……」

 

確かにその通りだ。だが早乙女はそれでもまだ望みはあった。

それはこの時のために開発した新型機……これさえ動かせれば、操ることができれば間違いなく向こうとの戦力差を覆せる、それほどの絶大な力を持つ機体であると確信している。だが――それには恐らく竜斗の力が必要となるのだが当の本人は未だに夢の中に籠もりきっている状態だった――。

 

「司令!」

 

早乙女はいても立ってもいられずすぐさま竜斗の病室に向かい、中に入る。

 

「司令!」

 

「早乙女さんっ?」

 

息を切らして深刻な顔をした彼から、エミリア達はただならぬ何かを感じ取った―。

「竜斗……」

 

目を閉じて彼の呼ぶ声に何も応じず、そして言わぬ早乙女は心の中でこんなことを思い放つのだった。

 

(神よ、あんたは一体何がお望みなんだ!

助けてくれと、手を貸してくれとは言った覚えはないが邪魔だけはしないでくれ!

竜斗、いや三人の子達は……親や友達、黒田やジェイド、ジョージ少佐達などかけがえのない仲間を大勢失い、そしてたくさん傷ついてきたがそれでも、それでもめげずに互いに励まし合い、自分達の力でここまで乗り越えてきた。

それなのにあんたはまだ生け贄を欲しがるのか?しかも今度はよりによって、一番頑張ってきた竜斗の未来まで奪おうとするのか――どれだけ傲慢で身勝手で、残酷なんだ、あんたは!

そんなに人間の命が欲しいなら、そんなに運命を弄ぶのが好きなら――私をくれてやる、だからもう彼らにこれ以上苦しみを与えるな!)

 

――自分は牧師でもなければ、信じてきたわけでも祈ってきたこともないが、そんな彼らを頑なに、そしてとことん追い詰めようとする如き『神』の所業にいい加減腹に据えかね、啖呵を切る早乙女だった――。

 



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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」③

――僕はその時、自身の夢見た理想郷にいた。

爬虫人類と和平を結び、戦争や紛争など、傷つき合うことのない世界中の人達が手を繋ぎ合う幸福の世界に。

エミリアと愛美、司令とマリアさん、そして父さん、母さん、俊樹達友達、黒田一尉やそして――ジェイド、ジョージ少佐達の、大切な家族やこの戦いで犠牲になった人達が微笑んで僕を迎えてくれたのだ。

僕はこれ以上の幸せなどなかった、そして永遠にこの世界が続けばいいと思っていた。しかしそれは結局夢であり、虚像でしかない――。

 

「リュウトさん!」

 

「リュウト君!」

 

「ゴーラちゃん、ラドラさん!」

 

もう争うことのなくなったこの輝かしく幸せの世界の花畑で三人は合流して幸せを分かち合う。

 

「ついに僕らはもう戦わなくていいんですね!」

 

「モチロンです、私達はどれだけ夢見たことか……」

 

「これもリュウト君のおかげだな、本当に尽くしてくれてありがとう!」

 

三人は笑顔で手を繋ぎ、グルグルと楽しそうに回っている。

 

(また父さん達と暮らせる、また全員と一緒に暮らしていけるんだ……永久に――)

 

まるで天国のように心が完全に癒やされ、そして澄み切っておりこれまでの疲れなど全て吹き飛び笑い声が溢れている――が。

 

(…………あれ?)

次第に何か目の前が視界がグニャグニャと歪曲しており、ゴーラ達の声も段々と、ゆあんゆよんと聞くに堪えないような雑音が混ざっている――。

 

(え……えっ……?)

 

今まで澄み切っていた空、世界の風景全てにまるでガラスのようなヒビばバリバリと入り、地面、そしてついには彼女達にもまでヒビが入っていた。

 

(な、なんだよこれ……っ)

 

その異様で、得体の知れない恐怖の光景が彼の目に次々と飛び込み先ほどまでの笑顔が全て消え失せて真逆の恐怖と不安、そして疑心の混ざり合い濃くした、つまり絶望に染まりきった顔で声が枯れるくらいに絶叫した――瞬間、ヒビの入った世界は全て粉砕されて粉々となり、真っ黒な闇と化したこの場の遥か下まで落ちていく。

唖然となっている竜斗は辺りを見渡すが先ほどとうって変わり光など一切ない、先が全く見えない闇の地平線。

今、自身の立つ地面も真っ黒であり、浮いているようにも見えるが確認できない。

 

「な、なんだここ……」

 

確かに先ほどまでいたハズの人間の姿が見当たらない、「誰かあ!!」と必死で声を張り上げても誰も返事を返してくれない。

 

「…………」

 

まるで自分が取り残されたような、閉じ込められたような、静まり返った閉鎖的な空間から来る恐怖と不安、そして息のつまるこの息苦しさ……竜斗はその場から抜け出したくて一目散に駆け出した。

 

(出口はどこだ……!)

果てしなく遠いのか、近いのか、方向が間違っているのか、息を切らしながらどれだけ走っても何も変化はない。

むしろ、四方八方が一筋の光もなければ道標すらない闇の中であるこの空間は今いる位置も分からないこの場から動き出せていないとも感じる――。

 

「俺……何してるんだ……っ」

 

彼は走るのを止めてこれまでの出来事を追憶する。

確か、求め描いていた理想郷がついに実現し、迎え入れてくれて永遠の至福を楽しんでいた……いや、それ以前に遡り必死に思い出す。

 

「あ……そういえばあれからどうなったんだ!!」

 

彼はついに思い出す。あのシベリアで繰り広げた戦いのことを、そして――敗北してベルクラスに帰艦しようとした時にニャルムの駆るマーダインのミサイル攻撃を受けて吹き飛ばされた後……それから全く記憶になかった。

 

『やっと思い出したんだな、竜斗』

 

後ろから声が聞こえたので慌てて振り向くとそこには……。

 

「え……なんで……っ」

 

そこには自分が立っている。髪形、顔立ち、輪郭、体格、身長、服……そう自身そのものが寸分違わず目の前に立っていた、まるで鏡に写したように。

ただ……違う所と言えば、少し黒ずんでいるように見えるのと、そしてつり上がり非常に印象の悪い目つきである。

 

「俺…………俺なのか……」

 

『そうお前だよ、竜斗自身だよ』

 

声質まで同じであるが、自分がいつも話すようには思えないほど不快感を感じさせるような口調であり、そして向こうの本心が見えない。

『何者だと言い出しそうな顔をしているな、俺はお前の心の闇から創り出された存在だよ』

 

「闇…………?」

 

『お前はこれまでに沢山傷つき、心にも深い傷を負い、しかしそれを治すことなく更に傷口を広げた。その結果、腐った傷口から生みでた膿のような存在が俺だよ』

 

「………………」

 

『心身共にもう耐えられないと、そして死にそうだと、いい加減にいたわってくれと悲鳴ばかりだ』

 

闇の自分から伝えられるその事実に、竜斗はこんなにまで自分を追い込んでいたのかと知り、反省する。

 

「それは俺が悪いな……ごめん……っ」

 

『その気持ちがあるならもう全てを諦めて楽になろうぜ、永久に――』

「そ、そう言うわけにはいかないんだ!まだ戦争が終わってないし、それにエミリア達が待ってる!」

 

『お前はよく頑張ったんだ、誰もお前を責める奴なんかいないよ、だからもうゆっくり休め』

 

「イヤだ!まだ全てが終わってない!!」

 

頑なに拒む竜斗に闇側は呆れたように深くため息をつく。

 

『普通の高校生だったお前がなぜそこまで世界的にこんな大それたことなんかに手を伸ばして、結果的にこんな死にかけるような目に遭ってまでまだ頑張ろうとするんだ?』

 

「そ、それは爬虫人類の人達と仲良く、それにジェイド少佐達の約束が――」

 

『その少佐達、いや今までお前らのために死んでいった奴らはお前が必死で頑張ったら何かしてくれるというのか、褒美をくれるというのか?』

「…………」

 

『誰だって死ねばそこで全て終わりなんだよ、どんな約束があろうがその約束を交わして死んでいった連中が墓から、天国から見ていてくれるのか、いや違うね。結局は自己満の領域だ、そんなことも分からないのか?』

 

「ち、違う!!それに爬虫人類の人達との――」

 

『それもただの夢物語に過ぎん。お前、夢と現実を勘違いしていないか?』

 

「…………」

 

『お前達の両親、友達、仲間……大勢の大切な人間をあんな凄惨に、平然と殺せるような奴らがどうして俺達地上人類と仲良くなれるのか、疑問だね俺は。

そしてホワイトハウスでのテロといい、現在といい、明らかに状況が悪化しているじゃないか。あの和平だって成功していてもただの一時的なものに過ぎない、結局早乙女の言っていた通りに破綻する運命だった。

地上人類、爬虫人類、いや人間は神じゃない、出来ないものはどうあがいても出来ないんだよ』

 

「だ、だけど……」

 

『ロマンティックで想像力が豊かなのは素晴らしいがお前はそろそろ社会人の仲間入りだろ、現実というものをいい加減に受け入れろよな竜斗――』

 

反論出来ずに黙り込んでしまう竜斗にさらに追い打ちをかける。

 

『お前だって無理だって薄々とは気づいていたんじゃないのか?どうやっても結局は互いに相容れない運命だと』

 

「そんなことはない、現にゴーラちゃんやラドラさんだって俺達と共存を願っていた!」

 

『その二人だけで他の者は?それ以外の者はみんな反対の性質だよ。

あとエミリアや愛美だってあいつらに親や友達を爬虫人類の実験体にされて絶対に許さないと言っていたはずだが?二人だけじゃない、同じ境遇を持つ他の人間は同じことを考えてるよ。

ヤツらと仲良くなりたいと思うのはお前か、痛い目を見ず表面しか知らない甘い考えを持つ馬鹿ぐらいだ』

 

「………………っ!!」

 

自分のやってきたことを全否定するかのごとく軽々しく一方的に話してくる醜い闇の自分に段々と腹が立ってくる。

 

『大体、共存したいとそう言うお前はどうなんだ、メカザウルスやそのパイロットを何十、何百、何千と殺したゲッターロボを操縦したその両手にどれだけの怨念がついている?

全員が安らかになるように祈ってやったのか、いや、中にはお前が怒りや勢いのままに殺した者も大勢いるだろう――』

 

「そ、それは……」

 

『正直になれよ、この偽善者が』

 

「偽善者……」

 

『お前のやってることは所詮、偽善なんだよ。

半端な力、知恵、なにより明確な勇気や決意がないくせに無駄に手を差し伸べようとするから返ってみんなが迷惑してるのが分からないのか?』

 

「う、う…………っ」

 

『お前のせいでどれだけの人間の命を、運命を振り回したと思ってんだ、調子に乗って善人面してんじゃねえよこの偽善者が――』

 

彼から発せられた、偽善者というその言葉が頭に何度も響き渡り、放心したかのように力無く膝が崩れる竜斗――。

 

 

 

 

(リュウト、アタシがちゃんとキレイにしてあげるからねっ)

 

エミリアはベルクラスの何故か彼の部屋にいた。まるで現実逃避をするかのように、気を紛らわすかのように無心で、掃除機をかけたり水拭きしたり彼の部屋を隈無く掃除している。

 

(ホコリだらけにしてたらリュウトが戻ってきた時に困るしね、ちゃんと戻ってきた時に……)

 

 

しかし途端に彼女の手は止まってしまい、彼がもう二度と意識が戻ってこない場合が脳裏に走り、恐怖と不安に脅かされてガチガチと震える。

 

(いや、そのこと考えたらダメよアタシ、愛美の言うとおり自分のカレシを信じなきゃ!!)

今の彼女は前向きと後ろ向きの気持ちが天秤のように左右に動き、情緒不安定となっている状態であり、それでも気を保とうと頭を振って取り直し続いていた。

 

「うん…………?」

 

ベッド横のデスクに何か置かれている物に注目する。それはくしゃくしゃとなったジェイドの残した手紙の中身とブラック・インパルスのエンブレムワッペンである。気になった彼女は失礼だと思いながらも読んだ。

 

(スゴいわ少佐……リュウトにこんなのをちゃんと残してたんだ……っ)

 

ジェイドの用意周到ぶりに感心すると同時に、竜斗がどうしてそこまで頑張れるのか、彼の原動力が分かったような気がする。

 

「エミリアちゃんいる?!」

 

その時、マリアが何故か息をゼイゼイ切らして深刻そうな顔でこの部屋に駆けつける。

 

「エミリアちゃんがベルクラスに戻ったからって聞いたから慌てて飛んできたんだけどあなたの部屋にいないからもしかしたらって……」

 

「ま、マリアさん、どうしたんですか……?」

 

「りゅ、竜斗君の容態が急変したの、危篤な状態だから早く来て!!」

 

「ええっ!!?」

 

――エリア51に突然、緊急サイレンが鳴り響く、その場所はなんと竜斗の病室――医師達が駆けつけるとなんと竜斗の心拍数が低下しており心臓が止まりかけており、付き添っていた愛美はもうワケが分からずあたふたしていた。

直ちに医師達がその場で彼の延命治療に入り、その後に続いて早乙女とニールセンとキング、エミリアとマリアが駆けつけ、最悪の結果になりえるその光景に立ち会い、誰もが絶望の淵に立たされた。

 

「竜斗が……竜斗がぁ……」

 

嗚咽しながら泣きよる愛美をエミリアが受け止める。

 

「竜斗はもう助からないの……マナそんなのやだよお……っ」

 

これまで自分よりしっかりしていた愛美が、こんなにまで顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして泣くその姿を見てエミリアは何を思い立ったのか、愛美を横にいる早乙女に渡して治療を受ける竜斗の元に駆け寄った。

 

「なんだね君は!」

 

必死に治療する医師を掻き分けて、竜斗の動かない右手にジェイドの手紙とブラック・インパルス隊のエンブレムワッペンを持たせてギュッと無理やり握らせた。

 

「リュウト、アンタは本当にそれでいいの!?少佐の約束を、爬虫人類と仲良くなるって誓いを果たさないままで本当にいいのォ!!?」

 

泣き叫びながら竜斗へそう伝える。

 

「お願いだから起きてよリュウト……っ、アタシ達を置いていかないでよ……っ」

 

彼女は、今にも願ってもない結末へ秒読みに入った彼へ、どうにか停止するように嘆願しながらその場で崩れ伏せてしまった――。

 



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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」④

『だからもう休め。後はみんながやってくれるから安心しろ。それよりも両親や俊樹達、少佐達が竜斗を待っている、お前にとっての本当の楽園に行こう』

 

そう囁かれて竜斗はゆっくり立ち上がり彼の方へ歩き出した――。

 

『よし、それでいいんだ。もうお前は苦しむことも、悩むことも傷つくこともなくなるんだからな』

 

悪魔のような卑しい笑みをして手を差し伸べる闇の竜斗に、彼もゆっくり手を出した――が。

 

『行ってはいけない』

 

その時だった。聞き覚えのある低い男性の声が後方から聞こえ、放心していた竜斗の意識を回復させた。

 

『竜斗君!』

 

竜斗は差し伸べた彼の手を払い、振り向くと目の前にはなんと……。

 

「しょ、少佐……っ!」

 

目の前にはなんと、死んだハズのジェイドの姿が確かにそこに存在していた。

 

『何をしているんだ、君はこんなところで終わるような人間じゃないっ』

 

穏やかながら威厳のあるジェイドの叱咤を受ける。

 

「しかし少佐……僕は……僕はただの偽善者です……中途半端な自分のせいでみんなに多大な迷惑をかけてしまった……もう生きていても……」

 

『本気でそう思うのか?君によって救われた人間だって沢山いるんだぞ。その中に君の大切な仲間がいる』

 

「仲間……」

 

『エミリア君や愛美君、それに早乙女司令やマリア助手……君がいなければみんなどうなっていたか分からない。

そして君と共に戦い生き残った隊員達、そして世界中で今を生きる人全ても君の活躍に必ず関与している、だから君が迷惑をかけているなんてことは決してないんだ』

 

「しかし僕は……この手で大量のメカザウルスやそれに乗っていたパイロットにまで手をかけてしまった…………」

 

『今の君、いやゲッターチーム全員は特殊ながらもれっきとした軍人だ。

そして敵のパイロットも軍人であり戦地に赴き、それぞれの利害のために、互いの平穏、誇りのために戦うのが仕事なんだ。

殺す殺されるは軍人としてつき必ずつきまとう、避けられない契約内容であり、どちらもそれを覚悟の上で行っていることなんだ!それは私やジョージ、そして黒田だってそう言う覚悟の上で戦ってたんだ』

 

「………………」

 

『エミリア君達は君の帰りに首を長くして、必死に祈りを捧げて待っている。皆をこれ以上悲しまないために目を覚ますんだ!』

 

すると、ジェイドの後ろにはジョージ、黒田、両親、友達……この戦争で死んでいった彼の大切な、かけがえのない人達が竜斗へ安心、そして前向きにさせてやると言わんばかりの力強い笑みを放つ。

 

「み、みんな……!」

 

『ここにいる私含めた全員は竜斗君へこの母なる地球で元気で生きていく、そして輝く未来へ歩いていくことをすべからく願っている――全員が今から君が前に歩き出せるよう力を、道筋を与える!』

 

 

彼らはそれぞれ左右に移動するとその間に光のレールが現れて、その先に恒星の如く輝く光を彼へ照らした。

しかし彼はその光のレールに踏み入れるのが怖いのか、足をなかなか前に出そうとせずビクビクしている。

 

『竜斗君、怖いのか?』

 

「僕……不安なんです……このまま前に進むべきなのか……後戻りできなくなるような気がして……」

 

『確かに引き戻ることはできないし、私達も今更生き返ることもできない。

だが君がこれまで培った技術、経験、そして私達の遺志、それらを糧にして自分の未来を切り開いていくために前へ進むことは誰だって出来る、君ならなおさらだ!』

 

 

「………………」

 

『大丈夫。例え前に進むことが怖くなっても心配するな、なぜなら君にはエミリア君、マナミ君、そして早乙女一佐、マリア助手……かけがえのない素晴らしい仲間が、そして私達が君の背中をずっと支えてやるし見守っている、だから遠慮なく自分の信念と希望を胸に誇りを持って前に歩いていけ。

そして君、いやゲッターチームが大空へと羽ばたき、混沌としたこの世界に光を与える光明の存在になれると確信している。だから絶対的な勇気と信念、そして決意を抱いて遠慮なく歩いていけ石川竜斗!』

 

その力強い言葉が彼の身体を突き抜けていき、これまでのネガティブだった負の感情が吹き飛んだ。それに伴い希望に溢れた前向きの力強い意気の表情へと変化していく。

「分かりました。少佐達の言うとおり、もう俺は迷わない、落ち込まない、そして必ず俺、いやみんなの力でこの世界に光を、未来をもたらしてやるんだ!!」

 

強く声を張り上げた彼の断言を聞き入れたジェイド達全員は『よくぞ言った』と全て先の光に飲み込まれていき、竜斗よ早くこいと言わんばかりに一層輝き出す。

 

『竜斗君、そしてゲッターチームに力と名誉、そして加護があらんことを――』

 

「ありがとうみんな……よし!」

 

あれだけ踏みとどまっていた竜斗がもう迷いなく前に歩き始めた時、

 

『竜斗……っ』

 

今度は闇の竜斗が心配なのか不安げな顔で呼び止める。

先ほどまで本人へ悪態をついていた彼もまた、竜斗の一部なのだから本体の竜斗が心配でたまらないのだ。

 

「ごめん、またこれからも俺は沢山傷ついていくかもしれないけどみんなをこれ以上悲しませたくないから、やるべきことがあるから、まだそっちに行くわけにはいかないんだ。

だから……無責任だけどもう少し耐えてくれないかな?」

 

振り向いて彼に向かってそう告げる竜斗。

 

「大丈夫、もう俺は挫けないし諦めない、気を強く持ってこれからを生きていくし、もう身体になるべく負担をかけないように心掛けるから心配しないで、どうか俺を信じて見守っていてくれないか?」

 

はっきりとそう告げる竜斗に、彼はしばらく無言になった後、フッと軽い笑みを返す。

 

『分かったよ。そこまで決めたんならお前の好きにすればいいさ』

 

「お前……」

 

『俺もお前とは表裏一体の立場であり一心同体でも、一部でもあるんだから本体のお前がそう断固に決めたんならそれに従うさ。心身とも俺が上手く言っておくからよ』

 

と、すんなり納得してくれた彼に竜斗は「ありがとう」と感謝した。

 

『竜斗、頑張ってこいよ』

 

「任せといて!絶対にこの悲劇を終わらせてみせる。俺、いやゲッターチームが!」

 

互いに激励と別れの会話を交わした後、闇の竜斗はそのままスッと闇の中に消えていった。

 

「エミリア、愛美、司令、マリアさん、今戻るから待っていてくれよ!」

 

 

竜斗は光の照らす方へ一直線で迷うことなく駆け出していった――。

 

「…………っ」

 

彼は突然、目が覚める。視界がぼんやりとしているが次第に目の前には真っ白で無機質な金属の天井がはっきりと見える。

独特の薬の匂い、白くフカフカなベッド上にいる、彼はすぐに病室のベッド上だと分かった。

 

「リュウト、リュウト!!」

 

ずっと付き添っていたエミリアも彼がついに目覚めたことに気づき、仰天して身体を寄せた。

 

「……エミリア……」

 

かすれた声でエミリアの名を呼ぶ竜斗だが、意識が戻ったことをさらに実感し、喜ぶ彼女だった。

 

「やった……リュウトが……リュウトの意識が帰ってきたよお!!」

 

 

彼女はすぐに全員へ、彼が目覚めたことを伝えるとすぐに一目散に駆けつける愛美達。

 

「りゅ、竜斗!!」

 

「竜斗君……!」

 

「まさか、奇跡が起きたのかっ!」

 

全員はこれ以上ない至福の時を分かち合い、そして大いに喜んだ。それはまさに祭りの場のようだ。

 

「リュウト……おかえり……っ」

 

嬉し泣きしながら彼に寄り添い続けるエミリアに彼も笑顔で答えた。

 

(あれ…………)

 

右手に何か違和感がある。

 

「多分、少佐がリュウトを起こしてくれたのよ」

 

エミリアが右手に持つジェイドの遺した手紙とエンブレムワッペンを彼に見せると、先ほどまで見ていた夢の内容に対し、竜斗は「そうだったのか」と納得した。

 

「竜斗、どれだけマナ達が心配したか……わかってんの……っ」

 

叱るようにキツくあたる愛美も次第に緊張と安心でその場で崩れて嬉し泣きする姿に彼も「ごめんな愛美」と心から謝った。

 

(みんな、ありがとう……俺、本当に生きててよかったよ……)

 

それから竜斗は今までの死にかけは一体何だったのかと疑問になるくらいに、そして最新医療技術もあり、めざましいほどの回復を遂げていき、もうすでにベッドから降りて動けるほどにまで戻っていた――。

 

「みんな、ごめん。あの時暴走してしまって……」

 

シベリア戦において、自身の失態について今更懺悔する竜斗。

 

「もういいさ。こうして君が戻ってきてくれたんだから」

 

「ええ、竜斗君に負担をかけ過ぎた私達にも責任があるわ。次からそんなことはないようにするから安心してっ」

 

早乙女とマリアは笑顔でそう返す。

 

「エミリア、愛美。俺は今回ので反省したよ、これからはちゃんと二人に悩み事を打ち明けることにするから」

 

「うん、だってアタシ達は全てを共有していくっていったじゃない、遠慮せずにアタシ達に甘えていいんだからね!」

 

 

「やっと分かったかしら、これからあんなことのないように気をつけなさいよね。

マナ達は竜斗がいないとダメなんだからもう自分一人で悩みこまずに無理しちゃダメよっ」

 

「うんっ」

 

ゲッターチームで仲良く会話している最中、突然と緊急警報が鳴り響いた。

竜斗含めた全員はすぐに司令部に向かうとすでにメリオを始めとする、沢山のオペレーターが必死で各座についてコンピューターとにらめっこしている。

「どうしましたか!?」

 

「司令、ついに世界中に散らばるメカザウルスが一斉に動き出しました、その数はおよそ……十六万!」

 

十六万という、想像を絶するような恐竜帝国の圧倒的戦力を聞き、ゾッと寒気が襲う竜斗、エミリア、愛美……アラスカ戦線でも二万いくかどうかの数だったが、まだそれの約八倍近くの敵戦力に果たして勝てるのか疑いたくなる。

「どうするの!?ゲッターロボはルイナスだけでマナ達のはもうないのよ!」

 

「あ、そうか……もうアルヴァインはあの時、破壊されたんだよな……じゃあ俺達は」

 

「ルイナスもあのままだし…………それにこんな戦力を前にどうやって……っ」

自分達に戦える力がないことを再認識し、絶望に打ちひしがれる三人だったが、早乙女は「頃合いだな」と頷いた。

 

「いや、君達には最後の切り札がある!」

 

「切り札……?」

 

「今から見せる。全員私についてこい!」

 

早乙女についていく竜斗達、切り札とは一体なんなのか不思議でたまらないが今は黙ってついていくしかない。

そして開発エリアに向かうとあの三機の戦闘機『ゲットマシン』と初対面する竜斗達。

 

「こ、これは……一体」

 

「なんなのあれ、早乙女さん!」

 

これらは何なのかと、しきりに質問する彼らに早乙女はこの時を待っていたと言わんばかりに、自信を持ってこう答える。

 

「あれは……ゲッター計画の最終系にして真のコンセプトとも言うべきモノだ」

 

「ゲッター計画……じゃああれもゲッターロボなんですか?」

 

「ああ。厳密に言えばまだあれらではゲッターロボとは言えないがな――」

 

三人はその事実に驚愕を受ける。

 

「けどゲッターロボでないとは……」

 

「まずゲッター計画の本来の目的を教えようか。本当のコンセプトとは『単機でいかなる状況や地形にも対応し且つ、戦略兵器級の圧倒的戦闘力を持って、劣勢の戦況を覆す』ことにある――」

 

彼らはそこで早乙女から真の事実を知る。

それを一番最初に開発しようとしたが資金不足と技術不足により頓挫したこと、そのコンセプトを簡易化して開発されたのが今まで竜斗達が乗っていたゲッターロボだということを。

そしてこれまでのその簡易型ゲッターロボの戦闘データを元に、ニールセン達世界中から集められたエンジニアや科学者のエキスパート達、つまり人類科学の粋によって途中放棄していたこの未完成品に手をつけて、ついに完成させたのがこれらなのだと――。

 

 

「じゃあこの三機の戦闘機が……ゲッターロボの真の姿ということなんですか?」

 

「ゲッターロボだけではない。恐らくSMB、いや我々地上人類の今持てる英知を総結集して開発された兵器全ての極致、集大成とも言える」

 

「集大成……」

 

「型式番号『SMB―EXGR01S、02G、03A』、これまでのゲッターロボを、いや全てを超えるという意味が込められており名付けて……『エクセレクター』だ」

 

「エクセレクター……」

 

ゲッターロボを超えるゲッターロボ、『エクセレクター』……その名と早乙女の煽り文句からは物凄い強烈な力が伝わり、衝撃を受ける竜斗達……。

 

「だが今の君達では恐らくエクセレクターを使いこなせない」

 

「えっ、なぜですかっ?」

 

「これまでのゲッターロボとは全く違う性質、操縦管制を持つからだ。君達にはこれを乗るための最終訓練を受けてもらうぞ」

 

「けどそうしている間にメカザウルス達が……」

 

「君達の乗っていたゲッターロボとはほとんど別物だ。完璧に乗りこなすまで覚えるしかない。それに竜斗も完治していないのにどうやって乗るつもりだ?間違いなく死ぬぞ」

 

正論を言われて彼は反論できず。

 

「これから世界状況がどうなっていくかわからないが、少しでもこの機体のノウハウを自分のモノとするためにやるしかあるまい。

時間はかかるかもしれんがこの機体を乗りこなすには体力、知恵、戦闘経験がモノを言うし、それにこの三機の戦闘機をエクセレクターへと持っていくにはチームワークと団結力、巧みで高度な連携プレーが必要となる。

今、それを備わっているのは世界で唯一、君達ゲッターチームしかいない。すなわち君達だけにしか乗りこなせない最終兵器だからだ!」

 

「僕達だけの……」

 

「最終兵器……」

 

「ウワオ…………っ」

 

「君達のこれまでの戦いや訓練、経験はこれに乗るための布石でもあったのだ――」

 

その言葉は三人に衝撃を与えると共に、勇気と希望、そして光が授けられる。

自分達だけしか動かせない唯一の機体で、この戦況をこれだけで打開できるゲッター計画の真意、そして最終兵器であるエクセレクター……それを聞かされたら三人にはもはや『何が何でも動かしてやる』という決意と気迫以外になにもなかったのだ。

 



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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」⑤

――僕達はついに明日を掴むために前へ歩き出す。

こんな醜い戦争を終わらせるために、生ける者全てを救うために、そして……全てを終わらせるために、僕達だけしか扱えられないと言われる最終兵器『エクセレクター』を完全に操れるための最終的な特訓と調整を毎日死に物狂いで頑張った。

僕達は今、運命の火の中にいる、そして――来るべき最終決戦の幕が開けようとしていた――。

 

 

「恐竜帝国、そして爬虫人類に告ぐ。我々はこれより地上に蔓延る汚いサルどもの徹底的に殲滅を図り、容赦なく皆殺しにして根絶やしにせよ。

我々の害になるもの全ては一切排除せよ、この地上を我々爬虫人類の永遠の楽園として築く時がついに訪れたのだァ!」

 

ジャテーゴの発令は全ての隊に伝えられて、ついに圧倒的戦力を持ってついに全面戦争が勃発、メカザウルスによる全世界の侵略が開始された。

 

「敵の数が多すぎて埒があかない!!」

 

「なんでよりによってこんな時に!」

 

地上人類の各軍も必死で応戦するが立ちはだかるメカザウルスの異常な数にいとも簡単に押されていき、どこにも活路、逃げ場がない状態でまさに地上人類の滅亡が時間の問題であった――。

 

「オラア!!」

 

シベリア地区。ジュラシック・フォース達も勢いに乗り、次々とSMB部隊を壊滅に追い込み、そして東西南北に位置する地上人類の戦線拠点基地を潰しにかかっていた。

「てめえらサルの最期の時が来たぞ!せいぜい祈ってろ!」

 

バットがいなくなり、この戦争が終わり次第、ジャテーゴから功績次第では将軍の位につかせると言われたザンキは意気揚々と、そして嬉々と蹴散らしている。

 

「お前ら、俺が将軍になることを祝ってくれよなア!」

 

ゲッターロボを撃ち破った彼らの実力はやはり凄まじく、従来の機体では全く歯が立たない。

 

「ぐ、機体が動かない!」

 

「なぜだ!」

 

リューネスの駆るオルドレスの周辺約一キロ以内のSMBがその場で突然急停止。その間にランシェアラ、グリューセル、マーダインがその場に介入、それぞれの一撃の元に全て破壊していった。

 

「どんどんいくぜ!」

 

「ああっ!」

 

「……どんどん、いくよ~っ」」

 

「…………」

 

マシーン・ランドのような基地の前部から生えた、悪魔か何かの異様な生物の艦首を持つデビラ・ムーの口からドロドロのマグマをシベリア全土に撒き散らされ地形、そして環境まで破壊する姿はまさに邪神の様であった。

 

「第五十一BEET小隊の戦闘能力が著しく低下!」

 

「アメリカ空軍第八編隊は敵の包囲下にあり!」

 

「イギリス海軍第十艦隊壊滅!」

 

「中、露連合軍、各第三、二十六、四十、九十一――壊滅!」

 

シベリアだけではない欧州、アフリカ、オーストラリア、日本、そしてアメリカ全土にメカザウルスの大軍が押し寄せてその人海戦術の元に次々に追いやられていき、制圧されていく。

『地上人類に逃げ場なし』

 

ジャテーゴが放ったその言葉が現実となりつつあった。

 

「各恐竜隊が次々に戦果を上げている模様ですっ!」

 

「北欧地方、東南アジア、カナダ、南アメリカ、アフリカ、日本地区――もはや我々の制圧化にあり!」

 

「このまま行けば我々爬虫人類が地上を制圧するのに時間はかからないでしょう」

 

吉報ばかりを受けて胸が高まり興奮を隠せないジャテーゴであった。

 

「長かった……我々爬虫人類があの憎きゲッター線によって地上から追いやられて気が遠くなるほどの年月が経ち……過酷なマントル層近くでの生活は数々の同胞が死に絶えていったが、この夢が実現の前にはその犠牲すら容易いもの。

ゲッターロボという強敵がいない今、もはや我々に負ける要素など有り得ない!」

 

と、自信満々に、高らかにそう言い放った。

しかし彼女は知らない、まだ地上人類の希望となりえる切り札、最終兵器がエリア51に眠っていることを――。

 

「準備はいいか?」

 

「「「はいっ!」」」

 

ついに来るべき時がやってきた――エクセレクターのノウハウを身につけ、新調したパイロットスーツを着用した凛々しい顔の竜斗達ゲッターチームがゲットマシンの格納庫へ集まっていた。

 

「ついにこの時が来たか。拝見させてもらうぞいっ」

 

「これまで培った三人の力を最大限に発揮するこの時を、そしてそれから繋がるこのエクセレクターの力をな!」

 

 

早乙女、マリア、ニールセン、キング、そして世界中のエンジニア達、メリオ含むエリア51の所員達も初発進の場に立ち会い、三人に期待を込めている。

 

「前みたいに全員で円陣を組みませんか!」

 

「ああっ、やろうか!」

 

その場にいるまるでラグビー選手のような人数で円陣を組んで身体を低くスクラッチをする。

 

「おそらくこの戦いは雌雄を決する最終決戦となるだろう!

我々は全力で立ち向かうぞ!」

 

「皆さん!地球の、皆の未来のために最後の最後まで頑張りましょう。ゲッターチーム、いくぞォーー!!」

 

《オォーーーー!!!!》

その後すぐ三人はゲットマシンへ向かう時、早乙女から「この世界戦争を君達の手で終わらせてこい」と激励を受けて、竜斗達は希望に溢れる力強い声で返事をした。

 

「エミリア、愛美、ついに俺達はここまで来たな。エクセレクターがどれほどの力を持つか分からないけど司令達の言うことを信じて戦おうっ」

 

「ええっ!また皆が笑顔で、希望を持って地球で暮らしていけるように!」

 

「マナ達の手で未来を切り開くわよ!」

 

そしていつものようにまた三人で円陣を組む。

 

「もう何も言うことないけど、俺達の力を出し切って最後の最後まで諦めずに頑張っていくよ、ゲッターチーム行くぞ!!!」

 

「「オオーーっっ!!!」」

 

世界を救うと断固な誓いを打ち立てた三人は、すぐさま各ゲットマシンの座席に乗り込む。

 

「石川竜斗、ゲットマシン一号機『バミーロ』、発進準備完了!」

 

「エミリア=シュナイダー、ゲットマシン二号機『メリオス』、オーケーです!」

 

「マナ、ゲットマシン三号機『アーバンダー』、いつでもいいわよ!」

 

それぞれのゲットマシンを載せたテーブルが、エリア51の外部ハッチへと繋ぐカタパルトランチャーへと連結した。

 

“よし。ではこれから竜斗から順に発進せよ。そこからは君達の腕に任せるぞ”

 

「「「はいっ!!」」」

 

“この世界の結末は君達の力で全てが決まる、全力を出し切れるよう健闘を祈る、そして――”

 

早乙女は一旦、間を置いて三人にこう告げた。

 

“絶対に生きて帰ってこい、誇りある我が子達ゲッターチームよ!”

 

「司令……っ、はい!」

 

「ええっ、必ず!」

 

「マナ達の活躍を高みの見物で見ててね、もう一人の『パパ』、そして『ママ』!」

 

そして一新されたコックピット内では各人はシステムチェックし、操縦桿をぐっと握りしめ、そしてこれからについてそれぞれ違う思いを抱いたが、

 

『絶対にエクセレクターと、自分達の力でこの戦争を終わらせてくる』

 

 

この信念だけは三人とも揺れ動くことはなかった――。

 

“発進せよ、ゲッターチーム!”

 

そして、

 

「ゲッターチーム、ゲットマシン全機発進します!!」

 

竜斗の駆る『ゲットマシン・バミーロ』、

エミリアの『ゲットマシン・メリオス』、

愛美の『ゲットマシン・アーバンダー』、

それぞれが順に射出されて外部まで繋がったトンネルを駆け抜けていき、数秒もしない間に各ゲットマシンは外に飛び出して遥か大空へ飛翔していった。

期待と不安、それ以上に希望を込めて遥か先に飛んでいくゲットマシンを見送る早乙女とマリアはまるで彼らの親そのものだ。

「行ったか、あの子達はっ」

 

「楽しみじゃのう、我々人類至上最高の開発陣が総力を上げて完成させた最終兵器エクセレクターの活躍ぶりが」

 

「ええっ。それでは私達も発進準備と行くか」

 

「了解!」

 

早乙女とマリアも、自身の艦に乗り込むためそこから立ち去っていく。

 

「マリア、私、いや艦に万が一のことがあり得る。君はここに残る気はないか?」

 

彼の心配に彼女はハッキリと首を横に振る。

 

「私もあなたばかりに負担をかける気はありません、あなたと全てを共有するつもりで、尽力する気でいるのでどうか最後までお供させてください」

「マリア……ありがとう、君は私の人生の中で最高のパートナーだ」

 

二人もまた最後の最後まで竜斗達と共に戦い抜くと誓い合い、外の専用ポートに重鎮する大改造、いやほとんど新造である新艦に乗り込んでいった。

 

「『ヴェクサリアス』、発進スタンバイ」

 

「了解!」

 

二人の新たなる力である浮遊艦『ヴェクサリアス』の複合エネルギーから生る強大な出力を発生し、その産声のようなエンジン音と共に力強く大空へ垂直に浮上していった――。

 

「くそお、なんて数だ!!」

 

このアメリカ大陸の空、陸、そして海沿い……約五万近くというメカザウルスが蔓延っており、連合軍のSMBが持てる力を最大限に、必死で侵攻を食い止めようとするがやはりメカザウルス側が圧倒的な戦力で徐々に押され、袋小路に追い詰められていく。

 

 

「シットゥ、ゲッターチームはもうこないのか!!」

 

「諦めたらダメよ兄さん、最後の最後まで信じましょう!」

 

ジャック、メリーの駆るテキサスマックも上空で持てる力を振り絞って必死で戦い抜くがメカザウルスの余りの数に押され気味となっている。

 

「竜斗達はこねえのかよ!」

 

「シベリアでゲッターロボが全て破壊されたと聞いたぞ!」

 

「なんてこった……じゃあもうゲッターチームはこないのか……」

 

ステルヴァーの新型モデルである『ステルヴァー・インパルス』を駆る新生ブラック・インパルス隊も必死に上空で戦う。その中には、すでに心身ともに回復したジョナサンも混じっていた。

「必ず俺らに勝機は訪れる、決して諦めるな!」

 

「だがジョナサン、今回はあまりにも敵の数が!」

 

「うるせえ!俺らが諦めたら人類は終わりだろうがァ!

俺達は誇りあるブラック・インパルス隊だろうが、ジェイド達に笑われるぜ!!」

 

どうやらジョナサンが隊のリーダー格の努めているようであり、士気が下がりつつある隊全員を叱咤激励していきながら自身も全力を尽くしていく。

 

(竜斗、エミリア、そしてマナミ、お前らにまた会いたかったがもう無理かもしれない……っ)

 

いくらこちらも新型機が増えたとはいえ、総力戦と思えるような異常なまでの今回の恐竜帝国のメカザウルスの戦力、そして主力、なによりゲッターチームがいないこともあり、これまでの戦闘、そしてアラスカ戦線ですら生ぬるく感じるほどで今戦闘はあまりにも過酷であり、そして地獄絵図である――。

「く……っ!」

 

そしてイギリス軍のアーサーを乗るアレンも必死で戦い抜くも、雪崩のように押し寄せるメカザウルスの無限地獄に呑み込まれてしまい、自身の操縦技術をもってしても追いつかなくなっていく。

 

(こんな時にゲッターチームがいれば……!)

 

ただでさえ複数戦で手こずるのに、いくら撃破してもその先に、その先に湧き出てくるメカザウルスに押し込まれて次々に落とされていく各SMB、戦闘機、誰もが希望と人類の未来を失いかけたその時である――。

 

「なんだっ?ネバダ方向からもの凄いスピードでこちらに接近する三つの反応があるぞ!」

 

「なに!」

彼らがその方向を見た時、遥か先から三つの粒が三角を形成するように組みながらこちらへ近づいてきている。

 

“皆さん、僕達はゲッターチームです!たった今救援に来ました!”

 

「まさか竜斗達かっ!!」

 

「遅せえぞお前らァ!だがこれで!!」

 

竜斗達の声を聞き入れた連合軍の隊員はその瞬間に絶望から一変して歓喜の声が湧き上がったのであった。

 

「おお奇跡か、ゲッターチームが我々のピンチに駆けつけてくれたぞ!!」

 

「しかし、あれらは一体……変わった形の戦闘機にしか見えないが……」

 

彼らの見るは自分達の知っているゲッターロボの姿ではなく、三機の変わった戦闘機……これでどう戦うのか不思議でならなかった。

 

“マナミ!”

 

「ジョナサンっ!あれから治ったのね!!」

 

また再開できたことに喜ぶ二人。

 

「大尉、今から僕らゲッターチームも参戦します。そしてこの状況を直ちに打開しましょう!」

 

“打開するってお前、アリのように沸いてくるこのメカザウルス達をどうやって!”

 

「大丈夫です、このエクセレクターがあれば僕達は必ず――エミリア、愛美、今から『合体』へ移行するよ!」

 

「うん!」

 

「ええっ!」

 

強気にそう竜斗の乗るバミーロが先頭に出て、その次にエミリアのメリオス、愛美のアーバンダーと、三機は高速飛行しながら直列に並ぶ。それは敵味方含めて戦いを止めて魅入られていた――。

 

「行くよ、チェェェェンジっ!!」

 

「エミリア、先にマナと合体よ!」

 

「うん、おいでマナミ!」

 

竜斗の掛け声と共に愛美がコンソール画面にてメリオスの真後ろ中心に照準を合わせるとそのまま前進して……なんとアーバンダーがメリオスの後ろからガツンと突き刺さり合体したのだ。

 

「何だと……戦闘機同士が……」

 

「合体しやがった……っ」

 

その非現実的な光景に目を疑う両勢のパイロット達……さらに今度は先に合体した二機が、今度は竜斗のバミーロの後部へ前進した。

 

「行くわよリュウト!」

 

「初合体で事故らないでね!」

「任せといて二人共!」

 

そして竜斗は勢いと気合いを入れて合体用レバーを全力で押し出した。

 

《チェェェェンジ、エクセレクタァァァァァァッ、ワン!!》

 

――このような摩訶不思議な現象は誰が予想しただろうか。三機全てが直列合体に成功した瞬間に、目を疑うようなことが起きたのだ。

 

「嘘だろ……」

 

「クレイジーすぎるぞあれは……」

 

なんと合体した三機の左右側面から何やら骨組みが飛び出し、その周りにナノレベルの金属板によって張り巡らされていき腕、手首、そして手が次々に形成され、さらにアーバンダーの樽のようなブースター二基から先ほどと同じ仕組みで両足まで造りあげていき、今度は先頭のバミーロの機首がステルヴァーのように人型の顔……今まで竜斗の乗っていたゲッターロボと同じ、二本の角を持った頭部へと変わる。

 

 

【各ゲットマシン、エクセレクター1へ合体成功。これより各機動力炉『グラストラ核反応炉』、『プラズマ反応炉』、『ゲッター炉心』は『複合融合炉』へ切り替わります――】

 

さらに背部から極細化した特殊合金『ゲッター合金』の糸が大量に飛び出して網目状へ形成、複合融合炉から想像を絶するほどの超出力を持った複合エネルギーが金属糸に伝って流れ込み、強烈な化学反応を起こして発光。

純白の光の膜が張られていき、まるでマントのような布状の物体が形成され、風になびくように揺れ動いている――。

 

「三機の戦闘機が……」

 

「合体してゲッターロボになっただと……っ」

白銀と薄紫を基調としたカラーリング、これまでのSMB、ゲッターロボとは一線を画す姿、そして背中には新型フライトユニットである純白のマント『ゲッターフェザー』でその身に纏う、輝く光を発する聖者と如き出で立ちで空中に立ち構える新型ゲッターロボの姿が今ここに――。

 

「ワオ……これが……」

 

「ゲッターロボの最終系にして……」

 

「最終兵器……」

 

――その名はエクセレクター。全てを終わらせるために開発された、未知なる力を秘めた光明のゲッターロボである。

 



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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」⑥

――連合軍、恐竜帝国軍共々、突然とまるでサーカスショーの如き芸当を見せつけて姿を現したゲッターチームの駆るエクセレクターに目を奪われ、呆気に取られている。

 

“竜斗、なんだよこれは……っ”

 

「早乙女司令達がエリア51で極秘裏で開発していた本当のゲッターロボ、エクセレクター。僕達の新たなる力です」

 

“エクセレクター……”

 

「話は後にして、メカザウルスがこっちに押し寄せて来るよ!」

 

突然現れた謎の機体にメカザウルスは直ちに倒さんと、四方八方から怒涛の勢いで一気に押し寄せてくる。

 

「リュウト!」

 

「任せてっ」

 

エクセレクターは両腰にマウントされた二振りのゲッタートマホークを持つ――。

 

「!?」

 

瞬間、エクセレクターの姿が消えた――が、その二秒後に周辺にいる約五千機というメカザウルスが細切りにされて同時に爆散したのだ。

 

「なにい!!」

 

そこから遥か数十キロ先にトマホークを振り切っているエクセレクターの姿があった――。

 

「な、なんだこのスピードは……っ」

 

「は、速すぎて何がなんだか分からなかったわ……」

 

「……うぶ、鼻血が……」

 

竜斗達も何が起こったか分からずポカーンと呆然しているがだが休むことなく次々とメカザウルスが押し寄せてくる。

 

「竜斗!次来るわよっ」

 

「あ、うん!」

 

トマホークをしまい、両手首からキャノン砲『ハンディ・ビームシューター』がせり出され、それはまるでUFOのような慣性の法則を無視した、常軌を脱した機動で飛び回り複合エネルギー弾を全方位に避ける隙間のない雨のようにばらまくとメカザウルスはかすっただけでも消し飛び、直撃はもはや塵一つも残らず、この攻撃ですでに一万以上のメカザウルスが消滅――。

 

「くそお、あの謎の機体に一斉攻撃を開始だ!」

 

メカザウルスからマグマ弾、ミサイル、機関砲……各跳び道具で隙間ない射撃を加えるが、エクセレクターの背部にあるマントの形をした新型フライトユニット『ゲッターフェザー』で身をくるい、シールドの役目を果たして全ての弾を掻き消して遮断したままそこから再び姿を消した。

 

「また消えた!」

 

瞬間、空中にいる三万というメカザウルスが約十秒の間に全て粉々に粉砕された――。

 

「なんなんだよあのゲッターロボは……」

 

「強い……強すぎる……」

 

一分にも満たない内に空中のメカザウルス全てが消え去っていることに唖然、呆然、騒然となるジョナサン達の前にエクセレクターが姿を現した。

 

「竜斗……いったい何が起こったんだよ……」

 

『ぼ、僕もこのエクセレクターの凄まじさにもう何がなんだか……』

 

確かに早乙女は劣勢から全て覆せるだけの力はあると聞かれていたし、信じていたが話と体験は全く。

これまでの自分の乗っていたゲッターロボとは色々な意味で『別物』であった――。

 

「リュウト、まだ残っているメカザウルスが来るよ!」

 

後方から確かに先ほどより遥かに数が減ったが、それでも残ったメカザウルス達が、突如現れた自分達にとっての恐るべき脅威を今すぐ破壊せんと目の色を変えて向かってきていた。

 

「皆さん、今すぐエクセレクターから後退してください!」

 

言われた通りにエクセレクター後ろへ下がっていく各機。襲いかかってくるおびただしい数のメカザウルスの方へ向き、腹を抱え込む仕草を取ると腹部中央に円い紅いレンズが出現した。

 

「二人共、出力を上げて!」

 

「うん!」

 

「派手にぶちかましちゃいなさい!」

 

グラストラ核エネルギー、プラズマエネルギー、ゲッターエネルギー、三種のエネルギーの共鳴反応による、出力が計測不能レベルの複合エネルギーで稼働する複合融合炉。

溜まりに溜まったエネルギーがエクセレクターの腹部直結へ伝わっていく。

 

「あなた達も容赦なく戦う気なら、僕はもう迷わない!」

 

竜斗は躊躇なくレバー横の攻撃ボタンを全力で押し込んだ――。

 

「エクセレクタァァァァァァッ、ビィィィィィィム!!」

 

少し斜め上へ腹を突き出して放たれた黄金色の光線が一直線上に駆け抜けていきその射線上にいた全てのメカザウルスは全て塵もかけらもなくなり、さらに光線はそのまま地球圏を抜けていき宇宙へ飛び出していった……。

 

 

「これが……エクセレクターの力か……」

 

「信じられねえ性能だ……っ、だが――」

 

その絶大な威力を目にしたジョナサン達は目が点になっていた。だが、次第に驚愕が人類最大の希望へ変わり、徐々に歓喜の声を上げた。

 

「エクセレクター、そしてゲッターチームがいれば俺達人類はまだ希望はあるっ!」

 

「寧ろこの戦力差を覆して勝てるかもしれん!!」

 

最低であった士気が彼らの出現で一気に最高潮に達し、周りでは意気揚々と雄叫びをあげている。

 

“ヘイ、ゲッターチーム!待ちわびてたネ!”

 

“おかえりなさい三人とも!”

 

“助かったぞゲッターチーム、礼を言う”

 

「皆さんっ!」

 

ジャックとメリー、そしてアレンも駆けつけて三人と合流、再開に喜びあった。

 

「皆さん、今が正念場です。この戦いでこの戦争を全て終わらせるつもりで全力で行きましょう!!」

 

《ウオオーーーーッッ!!!》

 

声を張り上げる竜斗、そして聖人の姿を思わせる神々しいエクセレクターの姿と相まって、各隊員達は「必ず勝てる」と希望が最高に達し、勝利の雄叫びがアメリカ全土に響きわたった。

 

「竜斗、次はどうするっ?」

 

「次は……よし、僕らの日本へ行こう!」

 

ジョナサン達にこれから日本を救いに行くと告げると「後は俺達でここの残りをやる、遠慮せず日本へ行ってこい」と笑顔で応えられた。

 

“お前ら、絶対に生きて帰ってこいよ、特にマナミ、お前は俺の未来の嫁さんなんだからな!”

 

「ジョナサン……うん!」

 

ジョナサンからの激励とさり気ないプロポーズを受けた竜斗、エミリア、そして愛美のやる気は最高点に達した。

 

「行くぞ、エクセレクター――」

 

「「発進!!」」

 

ゲッターフェザーで身を包み、再び姿が消した彼らへ全員が『頼んだぞ』と後押しの言葉が出るのだった。

 

――朝霞駐屯地。日本はメカザウルスによって日本全土を侵略されて、もはや壊滅に瀕しておりそれは竜斗達が遊んでいたあの街はもはや廃虚と化しており、見る影もなくなっている。

 

日本各地ではBEET部隊が展開し決死の覚悟で応戦するも空しくも圧倒されていく――。

 

「このままでは日本は終わりだぞ!」

 

「日本だけじゃなく全世界も今同じ状況だ。人類滅亡は時間の問題だ――!」

 

四方八方からメカザウルスに追い詰められていくBEET部隊の前に突然、エクセレクターに駆る竜斗達が出現した。

 

「朝霞駐屯地の皆さん、ゲッターチームがたった今到着しました!」

 

竜斗の声を聞き入れ、歓喜を上げる隊員達。

 

“おおっ、竜斗君達か!君達がシベリアで敗退したと聞いて心配していたが安心したぞ!”

 

“その機体は、まさかゲッターロボか……?”

 

「はいっ、司令達が造り上げた僕らの新たな力です。直ちに援護に入ります!」

 

エクセレクターはすぐさま左右腰から各トマホークを取り出して展開するとそれをビーム・ブーメランのように全力投擲、トマホークがブーメランのように高速回転して全方位のメカザウルス達を次々と切り刻んで破壊していく。

 

「はあっ!」

 

さらに回転するトマホークへ腹部のエクセレクタービームを発射して当てるとリフレクタービーム機能が作動し、エネルギーを全方位に拡散放射してさらに殲滅していく――。

 

「おおっ、なんて強さだ……っ!」

 

駐屯地の隊員もジョナサン達のように、エクセレクターの圧倒的な戦闘力で赤子が相手のように易々と捻りつぶしていく彼らに驚き、そして希望を見いだした。

 

「大丈夫二人ともっ?」

 

「アタシ達は全然大丈夫だから思う存分やってリュウト!」

 

「だからどんどん倒して世界のみんなを救うのよ!」

 

周辺のメカザウルスの掃討が一瞬で終わると竜斗君は更なる日本の激戦地へ向かい、一撃必殺級の威力を持つ各武装を以て、全てのメカザウルスを瞬く間に殲滅――。

 

「竜斗、次はっ!?」

 

「オーストラリアだ!」

 

再びマントで身を包み今度は南半球のオーストラリアへ瞬間移動した。

 

――オーストラリア。第一恐竜大隊が駐屯しており、巨大な髑髏から成り立つ城の姿をした固定基地『ヴェガ・ゾーン』と約三万という数のメカザウルスがはびこっている。

沢山のコンピューターに囲まれた内部の司令部ではリョドに変わって任命された大隊長であり地竜族であるクゲイクと部下達は『突然、アメリカに現れた謎の機体によって瞬く間にメカザウルス隊が全滅した』という情報にこの場は切羽詰まる状況と化していた。そんな中、

 

「大陸に突然、計測不能レベルのエネルギーを持った反応を確認、モニターに映します!」

 

中心部の3Dモニターで外部を映すとそこにはマントをたなびかせて空中に堂々と立ち構えるエクセレクターの姿が。

 

「あれは……例のゲッターロボという機体ではないかっ?」

 

「し、しかし、ゲッターロボはシベリアでザンキ様達ジュラシック・フォースに撃破されたハズでは……」

彼らは撃破されたと、そしてもう天敵はいないと聞かされていた。しかしゲッターロボらしき機体がモニターに映っているという事実に動揺を隠せない。

 

「ともかく、各機は突然現れたあの機体に対し、集中攻撃を仕掛けなんとしてでも破壊せよ!」

 

クゲイクから命令を下されて、外部に蔓延る全メカザウルスはエクセレクターへ視線を向けた。三人も攻撃してくると分かり、気を引き締める。

 

「エミリア、次いってみる?」

 

「うん、アタシもこのままだと腕がなまっちゃうからやらせてっ」

 

「よっしゃあ、期待してるわよ!」

 

メカザウルスからマグマ砲、ミサイル、機関砲からの集中放火がこちらへ飛んでくる。しかしエクセレクターはその場でピンと背筋を伸ばすように直立不動の姿勢をとった。

 

「オープン・ゲット!」

 

彼がそう叫んだ時、なんとエクセレクターは合体を解除して三機の戦闘機へ分離したのだ。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「三機の戦闘機に分離しただとっ?」

 

メカザウルスに乗る恐竜兵士、キャプテンはその摩訶不思議な光景に愕然となる。

しかしそれでも敵を撃ち落とさんと各火器で猛攻撃を加える。

 

「くっ、これはヤバいかも!」

 

「上昇してエミリア!」

 

「いや、無理に機体の軌道を変えない方がいい。流れに乗るんだ!」

 

四方八方から降り注ぐ弾の雨をアクロバティックにかいくぐりながら飛翔するゲットマシンは軌道修正しながら今度はエミリアの乗るメリオスが先頭、その次に愛美の乗るアーバンダー、そして先頭だった竜斗のバミーロが最後列にまわり、直列に並んだ。

 

「行くわよエミリア!」

 

「焦らず落ち着いて!」

 

「うん、任せといて!」

 

エミリアも竜斗と同じように気合いを入れて合体用ボタンを勢いに乗せて押し込んだ。

 

《チェインジ、エクセレクタァァァッ、トゥッ!!》

 

再び三機は直列合体に成功すると竜斗の時と同じように骨組みが飛び出してミクロサイズの金属板が湧き出て細くスマートな両脚が形成。

同じく右腕にはガーランドGにも似たボックス、左腕には巨大なドリルが形成され、さらに頭部は彼女の前機と同じようにイカを思わせる先の尖った細い頭部の陸戦型ゲッターロボを更に洗練されたような鋭角的なデザイン。

背部には六本の長い針のような物体が六角形を描くように伸びて展開された――。

 

「ヤツの姿がさっきと変わった……何だってんだ一体……」

 

彼女の操る陸戦用形態である『エクセレクター2』は地上へ降りていき、着地せず内蔵されたフロートユニットで浮遊している。

足が地につかず、地上約三メートル上フワフワと浮く姿は陸戦型ゲッターロボから受け継いだスマートさと背中から生えた、まるで羽根と言わんばかりに展開された六本の針のような物体は、まるで妖精か精霊のような出で立ちであった。

 



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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」⑦

「いくよ二人共!」

 

「うん!」

 

「思いっきりやりなさいよ!」

 

エミリアの操縦に連動してエクセレクター2は、フロートユニットからの反重力によるホバリングしながら地上を無音で、それも左右にジグザグで高速移動を開始する。

 

(ワオ……アタシが今まで乗ってきたのとは別物だわ……でもこれならっ!)

 

次々に迫りくる地上のメカザウルスを反重力を生かした低空でのその華麗な空中移動と滞空を見せつけてアクロバティックな軌道を見せるエクセレクター2。

滞空しながら地上へ左腕のドリルを突き出すと時計回りに高速回転させると先端付近に開けられた多数の孔からおびただしい数の小さな光弾が円を描くように、そして雨のように降り注がれて無数のメカザウルスの身体を貫通、穴だらけにして一瞬で肉塊に変える。

「来るよエミリア!」

 

「大丈夫っ!」

 

四方八方からメカザウルスからの集中砲火を受けるもエクセレクター2は超高速低空飛行でかいくぐり、この大陸中を怒涛の勢いで駆け巡った。

 

「一気に終わらせるわよ!」

 

エミリアはキーボードに素早く何らかのパスワードを打ち込む。

 

【『MFS(ミラージュ・フォーミュラ・システム)発動。複合融合炉フルブースト、タイムリミットは一分間――】

 

瞬間、複合融合炉が「ギュウウウ!」という音と共に活性化、機体全体が真っ白に発光した。

 

「大型、小型ドリル・ビームシーカー、シュート!」

 

彼女の甲高い掛け声と共に右腕のシーカー収納ボックスから十基、そして左腕のドリル、そして背部から針のような突起物六基、計十七基のシーカーが射出され、それらも真っ白に発光している。

 

「はあああっ!!!」

 

――瞬間、エクセレクターとシーカー達による、このオーストラリア全土へビームとドリルで埋め尽くされたスコールにも似た逃げ込む隙間もない飽和攻撃が始まりメカザウルスは呑み込まれていき、一瞬の内にバリアを展開していたヴェガ・ゾーン以外の、大陸に蔓延っていたメカザウルス三万機全てが消滅した。

 

「メカザウルス、エイビス部隊、ゲッターロボによって全て壊滅……っ」

 

「何だと!!?」

 

クゲイク達は、この短い期間で一体何が起こったのが、何の攻撃が行われたのが脳が理解できておらず茫然自失している。

 

「ゲッターロボらしき敵機、ヴェガ・ゾーンに急接近してきます!」

 

 

モニターにはエクセレクターがこちらに迫ってきていることが分かり、慌ててクゲイクはヴェガ・ゾーンからの攻撃指示を出す。

 

「何としてもヤツを破壊しろ!」

 

ヴェガ・ゾーンに張り巡らせたマグマ砲、大型ミサイル砲台、機関砲台が起動しエクセレクター一機に目掛けて怒涛の勢いで一斉砲撃を繰り出した。地形が破壊するような大火力攻撃を加えて有効打を与えようとするもエクセレクターは同じく低空飛行を超高速で移動、まるで飛燕のように。

「美しい自然に囲まれたオーストラリアを汚して、動物や地上人類を皆殺しにして乗っ取った罪は重いんだからっ!」

 

彼女の怒りに呼応するようにドリルを何故か取り外して、そのまま何もない左腕を真上に突き上げたのだ。

 

「なにい!!?」

 

空洞の筒状と化した左腕のドリルの連結部から金色に光る極太の光線が発射され、何と遥か成層圏にまで伸びていく。

 

「オーストラリアの皆の恨み!」

 

途方にもない光線の長さを維持したまま、ヴェガ・ゾーンへ真っ二つに叩き斬ろうと全力で振り落とした。

 

「敵機より、攻撃きます!」

 

絶大な全長を持つ光の剣がヴェガ・ゾーンを覆うように張られたバリアと衝突した。エネルギー同士の激しいぶつかり合いで「バチバチ」とスパークを放出している。

 

 

「うあああっ!!!」

 

しかしエミリアはさらに力、気合いを入れて、さらに左レバーを押し込んだ。

 

「クゲイク司令、バリアが!」

 

ついにバリアが方が押し負けてしまい、破られてしまう。だがエクセレクター2の一刀両断は終わらずそのままヴェガ・ゾーンに縦一直線に斬り込み、金属製の城壁を溶かしながら真っ二つにしていく。あちこちで小規模の爆発が始まり、次第それが大きくなっていく――。

 

「ヴェガ・ゾーン、もう持ちません!」

 

「と、突然現れた……破壊されたはずのゲッターロボによってここまで……っ」

 

「司令、ゲッターロボがこちら一直線で突撃してきます!」

 

モニターを見ると、高速回転するドリルを突き出しながらロケットのように突っ込んでくるエクセレクター2が映る。

「これで終わりよ!!」

 

ついに勢いのままヴェガ・ゾーンに大穴を開けて内部に吶喊、内を掻き回し、穴だらけにしていく――。

 

「ぐあ!」

 

「うわあ!」

 

内部の人間はエクセレクター2の攻撃に吹き飛ばされて、そして爆発に巻き込まれていく――それは司令部に広がり、クゲイクの部下も大爆発によって呑み込まれ、吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。

 

「くっ!」

 

彼は直ちに退避しようとその場から離れたが上から落ちてきた瓦礫が不運にも直撃して下敷きにされた……。

 

「エミリア、早くここから離れよう。爆発するよ!」

 

すぐさまエクセレクター2はドリルで無理やり逃げ道を開きながら一直線へ進み、外へ出て素早くそこから一気に離れていく。

 

「基地が爆発するよ、衝撃に備えて!」

 

ドラグーン・タートルのような強烈な閃光を放ったと同時に、水爆のような巨大な球状な爆発と衝撃波がこのオーストラリア全土に拡散した。

数百キロ離れた場所でその光景を眺めるエミリア達はこれで、オーストラリアがまた昔のような自然に溢れた姿に戻ってくれることを祈っていた。

 

「次はどうするリュウトっ?」

 

「次は……ヨーロッパだ!」

 

「もう観光しているような気分ね、これは――」

エクセレクター2はすぐに次の目的地の欧州地方へ進路を向ける。

 

「オープン・ゲットゥ!」

 

エクセレクターは再び合体解除して三機のゲットマシンに分離し発進、凄まじい推進力とスピードで三角状にフォーメーションを組みながら前進していった――。

 

「なんてメカザウルスの数だ!」

 

――ドイツ。エミリアの生まれ故郷であるこの国、いや欧州全てはメカザウルスによって制圧寸前であり、各国の軍も最後の最後まで応戦する。

 

「押し込まれる、もうダメだ!」

 

「最後まで諦めるな、あのアラスカ戦線の時のように神が我々に味方してくれる!」

 

古き良き時代の街並みも今や見る影もない瓦礫の山ばかりのミュンヘン、砂と硝煙まみれた地上から空のメカザウルスに砲撃を繰り出す、連合軍にいたはずのリーゲンの駆るシヴァアレス。

 

(ちっ、ドイツをこんな無惨な姿にしやがって……!)

 

自身の祖国、そして生まれ育った街を汚したメカザウルス達にこれまで感じたことのない程の怒りを露わにしていた。

その時、空中のメカザウルス達による地上へ空爆が始まり、地面が穴だらけにされていく。

建物の瓦礫に埋もれ、爆発によって惨い姿となった無数の死体、メカザウルスやSMBの残骸……炎に包まれていくこの街はまさに地獄である。

 

「くあっ!」

 

メカザウルスから放たれた対地爆弾がシヴァアレスの真横に落ちて大爆発、吹き飛ばされて、裏返しのまま地面に叩きつけられた。

 

「しまったっ!」

 

そして空中からメカザウルスがシヴァアレスに狙いをつけて突撃してくるのがモニターで確認した。頭をぶつけて血を流すリーゲンは「かくなる上は」と自爆スイッチに指を置いたその時、メカザウルスは真っ二つに縦に切れ目が入り、そのまま左右に別れて地上に落ちていき激突した。

 

「おお……っ」

 

リーゲンが見たその先には空中に浮遊する真っ白に光るマントを羽織り、白銀の手斧を持つ聖者の姿……そう、ゲッターチームのエクセレクター1の姿が。

「大丈夫ですか!」

 

竜斗の声を聞いた彼は「ハッ」と驚く声を上げた。

 

“ま、まさかゲッターチームかっ!!”

 

「た、大尉!?」

 

「もしかしてリーゲン大尉ですか!?」

 

互いに声を聞いた彼らは思わぬ再開に驚き、そして喜び合った。地上に降りてすぐにシヴァアレスを起こし上げた。

 

「大尉、あなたは連合軍にいたはずでは?」

 

「あれからしばらくして、入れ替わる形で本国に配属になったんで戻ってきたんだよ。それにして君達がシベリア戦線で敗退したという悲報を聞いて心配していたが……無事で本当に安心したよ」

 

「大尉……っ」

「とりあえず、今は今の現状を何とかしよう。手伝ってくれないか」

 

「了解!」

 

エクセレクターは空に飛び上がり、煙塗れで真っ黒いと茶色の混じった醜い空とまるでメカザウルスが虫のように沸いているその光景を見渡す。

 

「アタシのお父さんの生まれ故郷がこんなにヒドく……っ」

 

エミリアもまたリーゲンと同じように激しく憤怒する。

 

「竜斗、次はマナにやらせて!」

 

「分かったっ」

 

「頼むよマナミ!」

 

ちょうどその時、周りのメカザウルスがエクセレクターへ攻撃を仕掛けてくるが、合体を解除する機能『オープン・ゲット』で再びゲットマシンへ分離、すぐさまそこから離れた。

 

「今度はこのマナちゃんがメカザウルスを成敗する時間よ~っ!」

 

空を飛び交うゲットマシンにメカザウルスは雄叫びを上げながら目を追っている。

 

「いくわよ二人共!」

 

「ああっ!」

 

「うん!」

 

今度は愛美のアーバンダーが先頭になり、続いて竜斗のバミーロ、そしてエミリアのメリオスと、合体するために直列に並んだ。

 

《チェンジ!エクセレクタースリィ、いくわよっ!!》

 

合体成功した三機は1、2のような人型形態にはならず、折り込まれるように変形していく。

それは人型の頭部と両腕の生えた上半身と、戦車に近い車体を合体させた、何とも奇妙なフォルムへと変形し、底部や後部に多数内蔵した小型バーニアスラスターとアポジモーターで空中浮遊している。

「ジーザス……あれがゲッターチームの新たなる力……か」

 

その未だかつてない未曾有の変形をする過程、完成した姿を目撃した敵味方の者はやはり仰天し、そして魅入られてしまった。

 

「あれを使うわよ!」

 

空、海戦型形態である『エクセレクター3』は車体後部にあるウェポンラックから折り畳まれた巨大な重火器を取り出して展開、すぐさま持ち構える。

 

「ニールセンのおじいちゃんのとっておき、『エリダヌスX―02』をおみまいしてあげるわよ、有り難く受け取りなさいよね!」

 

前の改良モデルであり、一応小型化したエリダヌスX―02の銃口を何故かメカザウルスに向けようとしない。

 

コックピットでは愛美の巧みな操作によってXスキャンモードへ移行、モニターには地図、それも欧州全域が映し出されて、そこに浮かび上がるアリの大軍ように無数の赤い点が蠢いている。

 

「ヨーロッパ全域のメカザウルスを全て消し飛ばす!」

 

しかし黙っているわけでもなく次々に来るメカザウルスの猛攻を各推進器を駆使したアクロバティックな空中移動で避けている内にエリダヌスX―02のエネルギーチャージが終わり、モニターに映る地図全てに緑色の照準が入り固定するとトリガーに指をかけるエクセレクター3。

 

「いっけえ!!!」

 

トリガーを全力で押し込んだ瞬間、特有の高音の発射音と共にドイツ、いやヨーロッパ全域に蔓延る空中、地上、そして水中にいる、約六万近くのメカザウルスが同時に一撃のもとに粉砕され、モニターの赤い点滅は全て消え失せていた――。

 



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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」⑧

「なんということだ……」

 

「まさに――」

 

救世主(メシア)の機体がここに現る――あれほどまでに苦戦していた自分達がたった一機のSMBによって一瞬で決着がついたのだから。リーゲン含むそこに居合わせた各隊員は希望の光を見る。

 

「君達の乗る機体は一体……っ」

 

“これはエクセレクター、ゲッターロボの真の姿にして全てを終わらせるために開発された最終兵器です”

 

「エクセレクター……か」

 

エクセレクターという名前から何か力強い、神秘的な雰囲気を感じて思わず十字を切るリーゲンや他の隊員。

 

「愛美、あとメカザウルスの数は?」

「レーダーを見る限りヨーロッパ全域のメカザウルスはもういないようだけど……」

 

しかしながらこれを操る三人はあまりの強力さに少し脅えているのか唇がひくついており、そして身震いしている。

 

「確かに天下無敵だけどね……」

 

「エクセレクターが……本気になったら……どうなるのこれ……」

 

出力値を見ると実はあれだけ猛威を揮ってもまだ最大値の五十パーセントにも満たない状態であり、さらには使用した武装も一部に過ぎない。もしもフルパワーではどうなってしまうのか猛烈な不安感に陥るエミリアと愛美。

 

「俺達一人一人が気をつけて扱えば大丈夫だよ」

「けど……っ」

 

「もし俺が暴走しそうになったらエミリア、愛美がフォローして止めてほしい。そして二人も暴走しそうになったら残りの二人でフォローに入る、それがチームだ」

 

と、竜斗は自信に溢れた顔で二人を安心づける。

 

「俺達は世界を破滅へ向かわせるようなことをするわけでもなければ、力に溺れて世界を手に入れる気もさらさらない。

ただ、この戦争を終わらすためだけにこの力を使うだけだし、そのためにエクセレクターが世界に光をもたらす力だと俺は信じている。

だからエクセレクターのを、そしてチームを信じてくれ!」

 

必ずその願いを叶えてくれると確信し、そしてそれを制御する自分達ゲッターチーム全員を信じると気合いの入った彼の言葉を聞いたエミリアと愛美は不思議と不安感が消えていく。

「リュウト、本当に強くなったね」

 

「うん。アンタにそう言われると信じるっきゃないじゃない?」

 

「二人とも……ありがとうっ」

 

二人も迷いが消えてエクセレクターの力を、そしてそれを操る自分達の力を信じることを決意し、三人の心が同調した瞬間、エクセレクターは更なる光を発し、まるで太陽のように輝きだした。

 

「おお、まさしくあれは神の姿だ……っ」

 

その光景に誰もが、光明を発するエクセレクターに対して天から舞い降りた『神』のような存在だと畏怖と尊敬の念が表れ、そしてこの劣勢な戦況を覆し、きっと世界を救ってくれるだろうという希望が強くもたらされた――。

 

「次はシベリアに行くよ!」

 

「「うんっ!」」

 

唯一自分達が完封なきまでに敗退したシベリア戦線へ、ある意味リベンジ戦をかけに赴く竜斗達はリーゲン達にその旨を伝える。

 

「分かった。後は私達がここを任せてくれ。と、いってももうメカザウルスが君達のおかげでもういないようだがな……」

 

「本当に助かった、君達にはもう言葉では著せられないほどに感謝している!その力を最大限に揮い、シベリアの部隊も救ってやってくれよなっ」

 

「気をつけてな。そして絶対に生きて帰ってくるんだぞ、三人とも!」

 

リーゲンと周りの隊員達から絶大な感謝と激励を貰った竜斗達の気合いが最高潮に達した。

「皆さんありがとうございます、愛美!」

 

「オープン・ゲットぉ!」

 

再びゲットマシンに分離してシベリアへ直行していく。リーゲン達は彼らの姿が見えなくなるまで手を振りながら見送っていた――。

 

「アメリカ、日本、オーストラリア、ヨーロッパのほとんどの隊が突如現れた謎の一機によって一瞬で壊滅……っ」

 

「なにい!!」

 

マシーン・ランド。ジャテーゴはその急な伝達に、何が何だか理解できず目が点となっている。

 

「オーストラリアの第一恐竜大隊を筆頭に――すでに十万機以上のメカザウルスが壊滅を受けたようでございます……それも、情報によればたった一機の機体によってでございます」

 

「何だと……」

 

当然の如く、耳を疑うジャテーゴはすでに余裕綽々と勝利に満ちた様子から一気に転落して苦汁を飲まされたような歪んだ表情だ。

 

「と、どんな機体だ!」

 

「詳しくはまだ分かりませんが、それが……ゲッターロボと非常によく似た機体だということでございますっ」

 

「ゲッターロボ……だと……」

 

シベリア戦線にてザンキ達ジュラシック・フォースによって破壊されたハズでは……と、誰もが信じられないような顔をするがただ一人はその情報に仰天しつつも活気に目覚めた者がいた。

 

(リュウト君……まさか君達か!)

 

後ろに控えていたラドラの心の中は少しずつ希望が芽生えて死んだように過ごしていた彼は、一気に精気のあるいい顔色となっていった――。

 

「直ちにヨーロッパ方向よりこちらへ接近する謎の機体に対し警戒態勢に入れ!」

 

――そしてシベリアではすでにその情報が第二恐竜大隊の各人に入り、ユーラシア連合を圧倒的に押し込んでいた全てのメカザウルスは突如停止し、厳重な警戒態勢に入っていた。

 

「おい、あのゲッターロボが復活したってホントかよ!」

 

「嘘だろ、ザンキ様達に破壊されたハズじゃなかったのか?」

 

疑心暗鬼に駆られる各恐竜兵士とキャプテン達。それはこの手で破壊したはずの本人達も同じであった。

「ザンキ……どういうことだよ……」

 

「俺だって分かるわけねえよ!」

 

「………………」

 

ザンキ、リューネス、ニャルムの三人もその慌ただしい状況、何よりも自分達の手で完封なきまでに打ちのめしたはずの天敵が復活したかもしれないという事実、しかもそれによって世界中に散らばっていた味方が全て壊滅したという事実に怪訝と疑心、そして緊迫に満ちた複雑な顔だ。

 

(あの子は生きていたのか……しかし――)

 

ゴーラ、そしてラドラと仲良くなった、ゲッターロボのパイロットの地上人類の子を少なからず心配していたクックにとって嬉しさもある反面、自分達の仲間も大勢失ったことに対する複雑な心境を抱いていた。

 

「ん?」

 

ランシェアラに乗るザンキへデビラ・ムーの司令部から通信が入り、すぐに繋ぐ。しかしその瞬間、彼は目を疑い、ガチガチに震える。

 

「ザンキ…………っ」

 

全視界モニターの一区切りに映るのは何と自分が暗殺したハズのバットの姿が……。

 

「オジキ………生きていたのか……っ!」

 

死んだとも言われてそして確定していたと言われたあのバットが確かにモニターに映り、目を開いて自分に会話をし、つまり生きていることを証明していることに当然の如く唖然となるザンキ。

 

「お前は長い間、武者修行に行っていて知らないだろうがワシには万が一に備えてもう一つの心臓を埋め込んでおいたのだ。

弱っている心臓が停止するとしばらくして動き出すようにしてな、そして部下にその事を話して回復するまでお前に察知されぬよう隠居していたのだ――」

 

「な………………っ」

 

バットの言うとおり、彼はその事を全く知らず「しくじった」と舌打ちした。

 

「自らの野心のために叔父であるこのワシを一度殺した裏切り者め、どうやって罪を償ってもらおうかっ?」

 

「………………」

 

容赦なく睨みつけるバットと、野心、そして過信から自ら身を滅ぼそうとしてガタガタに震えるザンキ。

 

「ザンキよ、お前がデビラ・ムーへ生きて帰ってくるために残された道は一つしかない。それは今こちらに接近する謎の機体を破壊することのみだ」

 

「オジキ…………っ」

 

その意味を察知したザンキは息を呑んで、特攻するごとく覚悟を決めた――。

 

「来たぞ!」

 

ヨーロッパ方向から突如姿を現すは真っ白に発光するマントに身を包む、白銀のゲッターロボ……竜斗の担当する空戦形態『エクセレクター1』の姿が。

 

「なんだあれは……あれもゲッターロボなのか……」

 

「信じられんが……」

 

その流星の如き現れた光輝くゲッターロボの姿に誰もが茫然となる。だが、ザンキの駆るランシェアラが先に飛び出して目の色を変えて立ち向かっていく。

 

「うおおーーっ!!」

 

後戻りができない、戦う以外に選択肢のない追いつめられた彼からは何が何でも倒す、この一点のみだ。

 

「ザンキ!!」

 

「お、俺達もザンキに続けえ!!」

 

それが発端となり地上、空中から怒涛の如くメカザウルスがエクセレクターへ進撃を開始。各火器による砲射撃、突撃……ありとあらゆる戦法を持ってエクセレクター一点で襲いかかってくる。竜斗達は直ちにゲッターフェザーで再び身にくるい、ミサイルや弾丸などの全ての衝撃、熱、そしてマグマ弾や熱線を全て遮断して一瞬で南側へ移動した。

 

「今から出力をあげるよ、二人とも!」

 

「うん!」

 

「オーケイ!」

出力値が五十パーセントを越えたその時、エクセレクター1に新たなる変化が――。

 

「はあああっ!!!」

 

マントが突然、二分割に割れてそれぞれ左右に展開。その布のような物質がモーフィングのような変形で一枚一枚が見事な白鳥の羽根で形成されていき、それを高らかに広げた。

 

「なんだと……っ」

 

「ゲッターロボが……天使の姿に……っ!」

 

白いマント状から、『フェザー』の名の通り巨大な白鳥の如き美しい翼へと変形を遂げ、手を広げて堂々と空中に浮くその姿はまさに天より遣わさせれた者、まさに『天使』のような神々しい出で立ちだ。

しかし、それでもを止めようとしないメカザウルスにエクセレクター1は身を隠すように羽根を前に出して盾のように全弾を防いだ。

 

 

「いくよ!」

 

すぐさまそこから瞬間移動でさらに後方へ下がると地上に降り立つ。

 

「あれは!」

 

待機していたユーラシア連合軍がエクセレクター1を発見して視線が集中する――しかし竜斗達は気にとめどなく、ただメカザウルスの来る北の方向へ機体を向ける。

エクセレクター1は背部左右に装備した二本の砲身と思わせる長い金属物を取り出して直列に連結。まるで指揮棒のように器用にクルクル回して、長い砲身の砲口をメカザウルスのいる北方へ向けた。

 

【リバエスターランチャー、セット。ディフューズモード、オン】

 

新兵装である『リバエスターランチャー』を両手で持ち、腰をぐっと固定し構えるエクセレクター1。出力の上がる機内の複合融合炉から腕へ、そしてランチャー内にある二つ増幅炉に複合エネルギーが流れ込みさらに増幅されていく――そして。

 

 

「はあ!!!」

 

リバエスターランチャーの砲内に溜まったエネルギーが波動となって前方へ拡散放射された。高密度のエネルギー波動がエクセレクターから扇状にシベリア全土、いやそのまま更に広がり大気圏を抜けて月軌道上、さらに宇宙の果てまで伸びていく――シベリアの地表は剥がれていきメカザウルス全てはその波動の直撃を受けて、もはやかけらすら残らないほどに消されていく。

 

「ぐわあああっ!!」

 

「ざ、ザンキ……っいやああああっ!!」

 

「結局、俺はこうなる運命だったってのか……!!」

 

ジュラシック・フォース全機もまともに直撃を受けてリュイルス・オーヴェが一瞬で破壊されてそして各機体、そして本人達も強力なエネルギーをマトモに受けて消されていった――。

 

「ラドラ、もし……お前が生きているなら……また……っ」

 

クックもまた、ラドラへ会いたい、そして後を託す思いを告げる前に消し飛ばされていった――。デビラ・ムーも何とかバリアを破壊されただけで済んだものの、

 

「メカザウルス隊全て……そしてデビラ・ムーのリュイルス・オーヴェも全て消滅……っ」

 

「何だと!?」

 

たった一機によって全員が消し飛んだ事実にバット達は完全に絶望した――。

 

「将軍、あの機体がデビラ・ムーのすぐそばに!」

 

中央モニターを見るとエクセレクター1が羽根を羽ばたかせてデビラ・ムーの前部付近に浮遊していた。

「もうあなた達には戦う力はありません、どうかこれ以上戦火を広げるのはやめてください!」

 

と、なんと竜斗から戦争をやめるように告げられるが、バット含め誰もそれに納得するはずなどなかった。

 

「ふ、ふざけるな!貴様らも沢山の同胞を殺したくせによくもそんなことを……!」

 

「僕らだって好きで戦いたくて、あなた達を殺したいわけじゃない、この地球上で普通に、平凡に暮らしたかっただけです!」

 

「な…………っ!」

 

「それに……出来ることならあなた達と仲良くなり、共に暮らしていきたかった……それなのに……それなのに……!!」

 

「何を甘いことを……!我々は所詮、生まれの違う異種族、上手くいくはずなどない!」

 

 

「それでも僕は、時間がかかろうとどんな苦難があろうと共存できると今でも信じてますし、もしそれが叶うのなら、話に応じてくれるのなら今すぐにだって戦いから降ります!」

 

互いの本音を言い分を次々にぶつけ合う両者――果たして。

 

「お願いです、これ以上僕らに攻撃をさせないで下さい!もう無駄な争いはしたくない!」

 

「このバット、恐竜帝国の将軍として、そして爬虫人類として最後までお前達地上人類と戦おうぞ!」

 

バットの宣言に歓声を上げる部下達。デビラ・ムーはその巨大な右腕を振り込んでエクセレクター1へ向けて強烈な拳が放たれた。直撃する寸前に翼で身を包み、衝撃を緩和するも後方へ飛ばされていく。

「リュウト……」

 

「どうするのアンタ?」

 

二人の問いに、彼は複雑な表情をしつつもすぐに目の色が変わり、すぐさま背部から二本の砲身を取り出して連結、リバエスターランチャーを再び展開した。

 

「なら……俺は迷わず全力で倒す!」

 

話し合い、説得が通じない以上は悲しいが戦う以外他はない――ならば少しでも彼らを苦しませないためにも全力で葬り去ることを決めた。

 

(俺達はゲッターロボという力を使い、これまで戦って爬虫人類の人達の命を沢山奪ってきたから自分達が正しいことだけをしているなんて絶対に思わない、だけど――)

 

結局最後まで戦うと決めたのは向こうの確かな意志だと、そして自分達に降りかかる火の粉は落とさねば、と竜斗は割り切った。

 

 

「死ね、我らが天敵ゲッターロボ!」

 

デビラ・ムーから滝のような大量のドロドロのマグマを吐き出してくる。さらにドラグーン・タートルやヴェガ・ゾーンのように大量のミサイルまでもが放たれてこの一帯全てを焦土へと変えていく。

 

「どうすんのよ!」

 

「任せといてっ!」

 

エクセレクター1は瞬間移動でデビラ・ムーの真下へ密着し、リバエスターランチャーを斜め上に押し付けた。

 

「二人とも、タイミングを合わせて!」

 

「わかったわ!」

 

「任せといて!」

 

三人は各コックピットの右足元にある出力ペダルに足をかけて、竜斗が「1、2、3」とタイミング取り、ペダルの同時押しに成功すると複合融合炉のリミッターが解除されて出力がフルとなる。

 

【リバエスターランチャー、セット。バスターガンモード、オン。複合エネルギー最大出力、チャンバー内、正常加圧中――】

 

膨大な複合エネルギーが機体、そして砲身内に満ちた時――。

 

「うああああああっ!!!」

 

竜斗が様々な思いを込めて叫んだ瞬間、砲口から放たれた光線がデビラ・ムーを一瞬で呑み込み、内部の人間全てはそのエネルギーに身体が消滅していく。

 

「恐竜帝国、そして爬虫人類に……栄光あれーーーー!!!」

 

バットがそう叫んだ瞬間、彼もまた消し飛ばされていきデビラ・ムー自体も原子分解されていく――光線はそのまま地球を抜け出していき、さらには太陽系をも突き抜けていき最終的には射線上にあった未開惑星に直撃した瞬間、その星は光線によって地表は削られてそのまま中核にまで到達。コアを粉砕されてその余波で大爆発、それは地球上からでも確認できるほどの巨大な爆発の白光に包まれたのであった――。

 

 

「…………」

 

何もなくなったこの一帯で竜斗達は光線が飛んでいった空を後味の悪い複雑な表情で眺めていた。

 

「複合融合炉がレッド・ゾーンに入った……しばらくはムチャできないわね」

 

「うん。しかしまあ、なんて凄い威力……」

 

あんな巨大なデビラ・ムーを一撃で消し飛んだことに唾を飲む二人。さすがに先ほどの攻撃で単一惑星一つまでも粉砕されたことまでは彼らは知らないが――その時、三人の元へ通信が入り、受信してモニターに移すと早乙女が映り込む。

 

“三人共、聞こえるか!”

 

「司令!」

 

“よくやった。君達の奮闘したおかげで世界中に蔓延っていたメカザウルスのほとんどは全て消えたぞ”

 

「…………はいっ」

 

これを開発した早乙女も彼らの力に心を奮わせているような雰囲気であった。

 

“これからだが、一旦アメリカのテキサス基地で合流だ。戻ってこい”

 

「えっ?」

 

“最終的な作戦会議を行う、恐らくは恐竜帝国の本拠地、北極圏に攻撃を仕掛けることになるだろう”

 

――三人の気がグッと引き締まる。ついに来るべき最終決戦が、恐竜帝国との雌雄を決する最後の戦いが今より始まろうとしていた。

 




次話より完結編に入ります、あと残りわずかですがどうか最後までよろしくお願いします(最後の各設定集は最終話を投稿し終わった後に出します)。


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◆完結編
第四十三話「栄光のキャプテン・ラドラ」①


――北極圏、マシーン・ランド。ジャテーゴは次々に入ってくる、エクセレクターによって覆された戦況を聞き入れてその顔は完全に怒で染まっている。

 

「第二恐竜大隊も全滅……」

 

「…………」

 

「もはや恐竜帝国の戦力はもう残り僅かです、どうしますか?」

 

このまま戦いを継続をしても間違いなく勝てる見込みなどなく、そして間違いなく敵は総力をあげて本隊であるここに進撃してくるのは一目瞭然だ。そうなれば、帝国が武力によって滅びゆくのは時間の問題で、選択肢は一つに限られる。

 

「ジャテーゴ様、降伏という選択肢も考えたほうが……」

 

側近からの妥当の提案に対し彼女は……。

 

「いや、降伏など絶対に認めん。そうするくらいなら死を選ぶ」

 

「なんですと……しかし、先ほどもおっしゃいましたがこちらの戦力は……」

 

「私がしないと言ったらしないのだ。心配するな、まだこちらには本隊の戦力、そして切り札があるからな、フハハ――」

 

「切り札……とはっ?」

 

「そのままの意味だ。どの道ヤツらに勝ち目などない。恐竜帝国の、爬虫人類の恐ろしさをあのサルどもに思い知らせてやる、フハハハハッ」

 

こんな状況にも関わらず、笑う余裕綽々なジャテーゴ。彼女の言う『切り札』とは一体……。

 

「直ちに全世界にいる各隊を直ちに北極圏に撤退、集結するよう伝達せよ」

「はっ!」

 

「フフフ、決戦の時が近い――」

 

――ジャテーゴの伝令を受けた、世界各地に散らばる残り少なくなった各部隊は本隊、すなわちマシーン・ランドへ一斉に飛んでいく――各人はおそらく負けるかもしれない、と少なからず不安を抱いていた。

 

「我々は総力を結集して奴ら、恐竜帝国の本拠地、北極圏へ強襲を実行しようと思う――」

 

テキサス基地司令部では、ついに恐竜帝国との来るべき最終決戦に向けての作戦会議が、基地の新所長に就いたマーティンを中心に行われており、そこにはゲッターチーム全員、ジョナサン、アレン、そして各隊長達が集っている。

 

「世界各地で戦闘していたメカザウルスが突如、北極圏へ集結しているとの情報だ。

恐らくは恐竜帝国本拠地の防衛に入るつもりだろう、堅牢な守りを敷いてくると思われるし何が起こるか分からん。

万が一のことに備えることも考えると全てを送り込むわけにもいかない。そこで本拠地へ強襲をかける選抜隊を決めたいと思うが――」

 

「はいっ、僕達が行きます!」

 

と、竜斗が真っ先に手を上げて名乗り出た。

 

「エクセレクターなら、どんなことが遭っても乗り越えられる力があると思います、僕達ゲッターチームを選抜隊に入れて下さい」

 

「それでは私達の艦ヴェクサリアスも選抜隊の旗艦として赴こう」

 

早乙女も名乗り出て、「オオッ!」と歓声が巻き起こる。

 

「では全員に聞く、竜斗君達が選抜隊に入れていいか?」

 

満場一致で拍手が叩かれるとマーティンは「ウン」と頷いた。

 

「では、彼らゲッターチームを選抜隊として決定する。他には――」

 

「俺も行きますわ」

 

ジョナサンもすかさず手を上げると次々に手を上げていく各隊員達――そして、エクセレクターを中心とした百近くの選抜部隊が決定される。

 

「準備にどれだけの時間がかかるか?」

 

「明日にでも。恐竜帝国が戦力を再び蓄えない内に、弱体化している内に早ければ早い方がいいっ」

 

「では明日の正午より選抜隊による恐竜帝国の本拠地、北極圏への強襲をしかける。最後の決定案だが皆はどうか?」

 

 

誰もがそれに賛成し、再び拍手が巻き起こる。

 

「よし、ではこの内容通りに実行する。おそらく恐竜帝国、爬虫人類との間に始まった世界大戦に終止符を打つ最後の戦いとなるだろう。

選抜隊、そして各地防衛隊がそれぞれが全力を尽くし、そして世界に昔のような平安が訪れることを私は信じている。各人の健闘を祈る――」

 

互いに真剣な顔つきで敬礼。誰もが明後日という日が訪れるために、そして掴み取るために祈るのではなく自ら行動することを決めた――。

解散した後、愛美はすぐにジョナサンの元へ向かうと二人は喜んで抱きつき、真の再開を喜び合った。

 

「ジョナサン、おかえり!」

 

「ただいまっ」

 

その光景に誰も微笑ましく思った。竜斗とエミリアも彼と久し振りの対面をした。

 

「大尉……」

 

「もう大丈夫なんですか?」

 

「すまなかったな竜斗、エミリア。やっと全てを受け入れて気持ちを入れ替えることができた。これからは休んだ分を取り戻す勢いで働くつもりだよ。それよりもアラスカ戦線以降、色々なコトがあったが、何よりも竜斗達がシベリアで敗退したと聞いて心配していたんだが大丈夫だったのか?」

 

竜斗はその後について、自分が死にかけていたことを、そしてその生死の境目で見た夢のことについてをジョナサンに話す。

 

「そうか……お前も大変な目に遭ったんだなっ」

 

「ええっ、少佐達が夢の中でこう言ったんです、『私達がついているから心配せず前を、未来を歩いていけ』と。

それから僕の迷いも全て吹っ切れたような気がしたんです、だから――」

 

それを聞いたジョナサンは安心したかのように穏やかな笑みを見せた。

 

「それを聞いて俺も迷うことはなくなったよ。

お前はある意味ジェイド達、いや死んでいった人間達の遺志を持った生き形見であり証人なのかもしれないな」

 

「大尉……」

 

「明日は互いに頑張り、そして必ず生きて帰ろうな。竜斗、エミリア、マナミ、いやゲッターチーム!」

「「「はい(うん)っ!!」」」

 

二人は握手を交わして篤い友情、友、そして明日の最終決戦の健闘を祈った。

 

「ゲッターチーム!ミー達も参戦するからよろしくネ」

 

「兄さんの言うとおり、最後の最後までよろしくね♪」

 

「君達の力が世界を救う力となることを信じているよ、互いに尽くせるよう頑張ろう」

 

「こちらこそっ、必ず明日で戦争を終わらせましょう」

 

同じく選抜隊に入っているジャックとメリー、アレンも激励と労いの声をかけてくれ、いっそうやる気が上がる竜斗達――。

 

「エクセレクターのベリーストロングなパワーに凄く期待してるヨ!」

 

「だから兄さん、そんな誤解されるようなヘンな日本語は止めてよ!」

 

「ハイハイ、アンダスタンっ」

 

「だからねえ!」

 

二人の冗談か本気か分からないようなコントじみた会話に竜斗達は心から笑い、重く張り詰めた雰囲気が一気に和んでいった。

 

――僕達はついに、地上人類、爬虫人類との間に始まったこの数年間の大戦の終幕の舞台へ躍り出る。互いの存亡、誇り、そして未来をかけた最終決戦へのカウントダウンが始まった。

 

その夜、竜斗は新しくなった新艦ヴェクサリアスの右甲板上で、明日への様々な思いを込めて快晴の夜空を眺めていた。

 

「リュウト」

 

ちょうどエミリアが彼の隣にやってくる。

 

「ついに明日で全てが終わるかもしれないんだね……長かったね」

 

「ああっ、だけど多分、向こうも決死の反撃を仕掛けてくると思うから激しい攻防戦になるかもしれない」

 

「大丈夫よ、あのエクセレクターの力があればきっと――」

 

「それに……俺、少し気がかりなことがあるんだ」

 

「え、なに?」

 

「ゴーラちゃんとラドラさんについてだよ、あれからどうなったか心配で……」

 

あれからの二人の動向が全く分からなず、安否について沈黙する竜斗達。

 

「……もしゴーラちゃんやそのラドラさんが無事ならリュウトはどうする?」

「もし無事なら何とかして助けてあげたい。ホワイトハウスでもお世話になったからお返ししたい……けど……」

 

「けど……?」

 

「万が一……万が一、生きていると仮定してゴーラちゃんはともかくラドラさんが敵として立ちはだかってきたなら……」

 

絶対にないとも言いきれず、心配でたまらない竜斗。

「……リュウトはその時はどうする?」

 

「あの人は洗脳とか操られてない限りはちゃんと話が通じると思う、だから最後まで説得してみる。けどそれでも応じなかった場合も考えられる……」

 

「その時は……まさか……」

 

竜斗は思いつめた表情で前を見る。その時はこの手でラドラを――しかしそう考えられるとかなり鬱になりそうであまり考えたくない。

「まあ結局、これは俺の憶測に過ぎないよ、無事かどうかも分からないのに……」

 

するとエミリアは竜斗の方に向いて安心させたいために優しく微笑む。

 

「アタシとマナミは何があってもリュウトの味方だから心配しないでね」

 

「エミリア……っ」

 

「アタシはこれまで泣き言や弱音ばかり吐いてたからね。だから最後ぐらいはいいとこ見せたいからちゃんとリュウト、いやチーム全体を支えていくつもりだから――だから明日はよろしくね」

 

彼女の決意を聞いて段々重かった気が軽くなっていく。

 

「ありがとう、エミリア――お前が彼女でいてくれて本当に嬉しいよ」

「アタシもリュウトが彼氏で本当によかった。

アタシはまた誓う、生まれは違えど一生日本人として、リュウトと共にずっと日本で一緒にいて、結婚して、赤ちゃんを産んで、子供を育てて――死ぬまでずっと一緒だよ」

 

「俺も同じだ。好きだよ、いつまでも――」

 

二人は月明かりの夜空で深い口づけを交わして、明るい未来を手に入れて、そして永遠の愛を誓い合った――そして一方、愛美とジョナサンは彼女の部屋のベッドで久々に『愛』を営んだ後、横になりながら話をしている。

 

「ジョナサン、あの時、嫁さんにしてくれるって言ってたけど本当なの?」

 

「ああ本当さ、マナミを一生愛していくつもりだ。マナミは?」

 

すると愛美は照れているのか珍しくもじもじしている。

 

「マナ、今まで付き合ってきた男にそんなこと言われたことなかったからちょっと恥ずかしくてさ……」

 

「ありのままでいいんだよ、俺はマナミが大好きで他の女は全く見えないから全てが終わったらマナミと結婚して君の子供も欲しいし、家族として絶対に幸せにしていきたい。これは俺の本音以外に何もない、マナミは?」

 

と、真剣な顔ではっきりと告げる彼にマナミもこれ以上ない満面の笑みをしてこう告げる。

 

「ならマナも死ぬまでジョナサンを愛していきたい、アンタの子供をいっぱい産んで、立派に育てて、家族と共にいつまでも一緒にいたい!」

「マナミ……やっぱり日本人の女性、特に君は最高な女性だっ」

 

「ジョナサンも人生で最高の男、出会えてよかった……っ」

 

二人もまた裸同士で深く抱き締めて濃厚な接吻をし、永遠の愛を誓い、そして分かち合った――。

 

「恐竜帝国とついに最終決戦の時、来たりか……」

 

ニールセンとキングはヴェクサリアスの格納庫にてゲットマシンの整備、調整を行っていた。

 

「なんかさみしくなるのお……」

 

「ああ、始まりあれば終わりがあるが、逆に終わりから始まるものもある、そんなものじゃ――」

 

自分の腕の見せ場が明日で全て終わるとなれば、生涯兵器開発者としてこれほど虚しいことはなかった。

「キングよ、全てが片付いた後、これからお前はどうするんじゃ?」

 

「さあな。もしや隠居するかもしれん」

 

「嘘つけよお前!」

 

即刻に突っ込まれるキングの苦笑う様子を見ると図星のようだ。

 

「まあ世界各地に紛争があるしのう。

そしてこれからもまた戦争が起こりうるじゃろうからワシらみたいな人間は常に必要となる、たとえこの戦争が終われど仕事はあぶれんじゃろうて――」

 

「……そうじゃな。争いは、神が人間に高度な知恵と理性を授けられた代償として架せられた、謂わば永遠の呪いのようなものだ」

 

「いや、試練だな。我々人類の飽くなき進化のために、未来を生きていくためには我々みたいな汚れ役は割と必要なのじゃ」

「ああ。不健全さの全くない世の中は健全さは目立たないし、そして余りにもつまらんしな」

 

「その通り。さてと、私話はそれくらいにしてさっさと終わらせて二人で酒を飲み交わそうか」

 

「ああっ」

 

ワイワイと楽しくやりながら自分の『子供達』の整備と調整に勤しむ二人だった。

 

「司令、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

司令室ではマリアが自製のコーヒーを入れて机に座る早乙女に差し入れている。

 

「ついにこの時が来たか」

 

「ええっ、これまでに色々ありましたけどね」

 

「ああ。思えば全ての始まりはゲッター線を偶然発見してからだったな。

ゲッターロボを作り、竜斗達との出会い、そして別れなど紆余曲折を経てついにここまで来た――」

 

これまでの出来事を振り返り、深くため息をつく二人。

 

「ゲッターロボと何よりそれを操る三人、竜斗、エミリア、愛美というここまで導いたと言い切れる優秀な人材が揃ったのはまさに奇跡というべきか、あるいは――必然か」

 

早乙女はマグカップから湯気の立つ熱いコーヒーをすする。

 

「だが……ここまで来たにも関わらず、未だにゲッター線の全貌が掴めん」

 

「司令……」

 

「いや、一部の一部しか知らんのかもしれん、いやそれ以下か。

これまでの不可解な現象からして果たして私が生きている内に全てが解明出来るのだろうか……いや、無理だろうな」

恐らく人類の叡智に及ばぬ物だとも思えてきており、頭を悩ます早乙女。

前に自分達にとって手に入れてはいけない、謂わば『禁断の果実』とも喩えたがまさにそうなのかもしれない、と――。

 

「竜斗達は……これからどうするつもりだろうな」

 

「彼らにはもうすでに家族や友人など頼れる人が……っ」

 

暗い表情を落とすマリアに早乙女はコホンと咳をする。

 

「そういえば君は言わなかったか、大雪山戦役の後に君は彼らを養子にしたいと」

 

「は、はい、今でもそう思っています!」

 

「もしこの戦いが終われば聞いてみないか。私達の養子にならないかと」

 

彼もついにはっきりとそう乗り出してくれた早乙女に彼女の驚く。

 

「あの子達がもしそれでもいいと言ってくれれば私がすぐに手続きしてくる、その前に今の日本が機能していればの話だがな」

 

「司令……」

 

「私も彼らに出会ってから急に君みたいに父性に目覚めてしまってな。全く、この私がな――」

 

と、そう言う彼は照れているその姿に微笑ましく思うマリアだった。

 

「司令……色々とありがとうございますっ、やはり私にはあなた以外に最高のパートナーなどいませんわ」

 

「マリア……」

 

――二人もまるで恋人同士のような熱い口づけを交わした。

それぞれの思い、本音、思惑、誓い、分かち合い、告白……それらがこの決戦前夜の間に全て集約されて各人の迷いや恐怖、不安はなくなり、来るべき明日に対する勇気、希望だけは順調に膨れ上がっていく――そして、ついにその時が来た。

 

「ヴェクサリアス、発進する!」

 

「了解!」

 

次の正午。ヴェクサリアスがテキサス基地から浮上、そして各機も次々に発進して選抜隊はついに北極圏へ出発する、この世界大戦の終止符を打つために――これより両軍の、互いの全てを賭けた北極圏での最終決戦が始まろうとしていた。

 



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第四十三話「栄光のキャプテン・ラドラ」②

――ついに来る運命の時。地上人類か爬虫人類か、この蒼き星、地球に生ける二種の地球人類の間での最終戦争(アルマゲドン)が勃発しようとしている。

それぞれが存亡、思い、信念、誇り、そして明日という未来を信じて戦場へ赴いていく。

僕達も同じだ、全てを終わらせて『生きていく』ために三人の心を一つにして――若い命を真っ赤に燃やす時が来たのだ――。

 

北極圏。世界中から集結した、本隊直属の部隊含め、約二万近くの夥しい数のメカザウルスが広範囲に渡って散開、来る敵軍の襲来に備えており、そして士気を上げるために凶暴な雄叫びが極寒地でこだまする。海底直下にあるマシーン・ランドでは各員もすでに戦闘準備に入っており、ジャテーゴも玉座に堂々と座り、こつ然とした態度で待ち構えている。

「敵部隊、来ます!」

 

玉座の間の中心に新しく設置された巨大モニターには、遙か上空にて旗艦を担う早乙女のヴェクサリアス率いる、各機が展開しながら選抜隊がこちらへ向かってくる様子が映される。

 

「各機へ奴らが接近次第直ちに迎撃開始せよ。各人一歩も退かず、この領域に敵を一機たりとも入れさせるな!」

 

「了解!」

 

「あと、牢屋からゴーラを出してこちらへ連行してこい」

 

側近達も速やかに行動開始し、ばたばたと慌ただしくなっていく。

 

「さて、楽しませてもらおうか。果たしてこちらまで来れるのか――」

 

一方、選抜隊も北極圏に近づくにつれて、広範囲に蔓延しているメカザウルスの数に驚く。

「奴ら、竜斗達がほとんど殲滅したってのにまだこんな数を残していたのか……っ」

 

「恐らく、恐竜帝国本隊の戦力あるのだろうな」

 

まさに天下分け目の、史上最大の作戦だろう、と誰もがそう思ったことだろう。

 

「だが俺達にはエクセレクターとゲッターチームがいる、絶対に勝てるさ!」

 

「ああっ!」

 

やっとまわってきたこの最大の好機を逃すつもりない、目前の勝利を控えて気を引き締めていく各人。

そしてヴェクサリアスの、ゲットマシン用として改造された新格納庫内。すでに竜斗達はゲットマシンに乗り込み発進態勢に入っている。

 

「二人共、準備はいいっ?」

 

「ええ、いつでも――!」

 

「オーケイよ!」

 

三人の表情からはもはや迷いや雑念などない、曇りない清々しい顔である。

 

“三人共、準備はいいか?”

 

「はいっ!」

 

早乙女は彼らの表情を確認して、「よし」と頷く。

 

“私とマリアからもう君達には何も言うことはない、やるべきことが分かるだろうからな。

これで恐らく恐竜帝国との最後の戦いだ、君達の手で奴らに引導を渡してこい!”

 

と、きっぱりとそう告げる早乙女に三人は頷く。

 

「司令っ」

 

“どうした、竜斗?”

 

「ラドラさんやゴーラちゃんは無事だと思いますか?」

その質問に沈黙する早乙女。

 

「僕は少し不安なんです。もし仮にラドラさんが生きていて、何かあってまた僕らの前に立ちふさがってきたなら――」

 

の、やはり昨日言っていた不安を漏らす竜斗に早乙女は、

 

“その時は、願わない形になれば、君ならどうするかもうすでに分かっているはずだろう――”

 

「……はいっ」

 

 

“大丈夫、君がどんな選択をしようとみんなが、仲間が君についていくし支える。なあエミリアと愛美?”

 

「もちろん!」

 

「だって竜斗は頼れるチームリーダーだもん、ついていくに決まってんじゃないっ」

 

「二人とも……」

 

そう言い切ってくれたエミリア達に竜斗の不安な気持ちは随分なくなり、軽くなる。

 

“だから君は心配せず、胸を張って自分の思った通りに行動すればいいっ、きっと仲間が、エクセレクターが、そして君の意思によって必ず勝利へと、いい方向へ導いてくれるはずだ”

 

「……はいっ!」

 

彼らの励ましを受けてついにキッと凛々しい顔に戻る竜斗。

“よし、では各ゲットマシン発進せよ”

――各ゲットの乗るカタパルトの先にある外部へのハッチが開き、光が差し込んだ。

 

「ゲッターチーム、各ゲットマシン、発進します!」

 

前進レバーを押し込み、バミーロから順に発進、ランチャーから射出されて雲の多い空に飛び出すゲットマシンはすぐさま高速で前進しながら隊列を組んでいく。

 

「二人共、合体するよ!」

 

ゲットマシン・バミーロ、メリオス、アーバンダーの順に直列に並ぶ。

 

「チェェェェンジ!エクセレクタァァァァァァッ、ワン!」

竜斗担当の空戦形態であるエクセレクター1へと素早く合体、ゲッターフェザーを展開。マントをはためかせて大空へ飛翔していく――ジャテーゴ達も、自分達にとって恐るべき敵であるエクセレクターの出現に目の色を変えた。

 

「ゲッターロボも出現し、敵部隊、こちらの領域に突入します」

 

「直ちに迎撃開始せよ!」

 

北極圏全域に群がっていた無数のメカザウルスも動き出し、こちらへ向かってくる。

「メカザウルス、来ます!」

 

「よし、攻撃開始だ!」

 

ついに両軍は接触し、激突。最終決戦のゴングが鳴り響き、幕が上がった――。

 

「行くぞ!」

 

「おう!!」

 

ジョナサン達ブラック・インパルス隊制式採用の新型機であるステルヴァー・インパルス、ジャック、メリーのテキサスマック、そしてアレンのアーサーはそれぞれ展開してメカザウルスとぶつかった。

 

「うおぉーー!!」

 

「押し込めえ!!」

 

誰も彼もが鬼気迫る勢いで戦っていく。

 

「ヴァリアブルモード!」

 

ジョナサンの駆るステルヴァー・インパルスはすぐさま戦闘機型から人型に変形し、右手に持つライフルを構えて、放たれる複合エネルギー弾で的確にメカザウルスに直撃させて粉砕させる。

 

「オラア!」

 

戦闘機時の主翼になる、黒色の両肩の大型バインダー内に搭載した小型ミサイルで弾幕を張り、背部から折りたたみ式の長いランチャーを展開して腰を深く構える。

 

「消し飛べ!」

 

砲口から高出力の複合エネルギーの光線が発射されて射線上全てのメカザウルスを貫通、消し飛ばしていく。

 

「メリー、一気に行くぞ!」

 

「いいわよ兄さん!」

 

ケツアルコアトルを装備したテキサスマックは、相変わらずの各重砲によるキャノンパーティーを開始して、前方一面を鮮やかな火線で埋め尽くしていく。

 

「遅い!」

 

アレンの駆るアーサーも機体中に取り付けた各推進器を駆使した超機動、急加速度を乗せた斬撃で無数のメカザウルスをかっさばいていく――。

「はあっ!!」

 

そして選抜隊の要であるエクセレクター1も、トマホークを二刀流に構えて瞬間移動じみた機動力でメカザウルス達をことごとく翻弄し、そして容易く一刀両断していく。

 

【リバエスターランチャー、セット。シングルショットモード、オン】

 

トマホークをしまい、背中からリバエスターランチャーを取り出して連結させると片手持ちし、縦横無尽に動きながら複合エネルギー弾を高速に連射する。

着弾した瞬間、核爆発にも似た巨大な球状の爆発が広範囲に渡っていきメカザウルスを飲み込んでいく。

「オープン・ゲット!」

 

エクセレクター1へマグマ弾とミサイルが一直線で向かい、直撃しかけた時、合体を解除してゲットマシン三機に分離した。

「愛美!」

 

「うん!」

 

今度はアーバンダー、バミーロ、メリオスの順に縦に並んだ。

 

「チェンジ、エクセレクタースリィ!」

 

高速で合体して、折り込まれるように変形し、前部が人型の上半身、それ以外は戦車のような車体という独特のディテールと化す、愛美の操る空、海戦闘用のエクセレクター3。

 

「みんな、すぐにマナ達より後ろに下がって!」

 

そう叫ぶ愛美に応えて、すぐさまエクセレクター3の後方へ下がる各機。確認した後、人型部分の両肩後部にある二対の、フォールディング式の長方形型の砲身を展開した。

 

 

「メガ・ドーヴァー砲、いくわよお!!」

 

両肩から水平に展開された二門のメガ・ドーヴァー砲から発射された弾頭の通過による衝撃波は前方広範囲へ広がり、メカザウルスはおろか、北極の氷までもが粉々に粉砕されて、撃った後はもう何も残っていなかった――。

 

「第一、第二防衛ライン、突破されました」

 

「…………」

 

やはり精鋭機ばかりが集まった選抜隊、特にエクセレクターの前には並のメカザウルスでは手も足もでなく、どんどん北極へ押し込まれていくメカザウルス達――。

 

「各砲、一斉射撃!攻撃を休めるな!」

 

「了解!」

 

ベルクラスをベースにテキサス艦の予備パーツを使い大改造を施されたヴェクサリアスからは複合エネルギーによる高出力のビーム、空対空ミサイル、ゲッターミサイルによる援護砲撃が撃ち込まれてエクセレクター以外のSMBの突破口を開いていく。

 

 

 

「各機、このまま一気に追い込むぞ!」

 

早乙女の号令に各人はさらに気合いを込めて戦う。

 

「オープン・ゲット!」

 

再びエクセレクターは分離し、三機は北極圏に突入していく。

 

「エミリア、頼むよ!」

 

「わかったわ!」

 

メリオス、アーバンダー、バミーロの順に縦に並び合体態勢に入った。その途中、メカザウルスから執拗に追尾、そして四方からの飽和砲撃を受けるがそれを物怖じせず、竜斗達ゲットマシンは急降下しながら地上へ向かっていく。

 

「チェインジ、エクセレクタートゥッ!!」

 

合体成功し、そのスマートな体格と背中に羽根のように展開する六本の突起物、そして左腕のドリルと右腕のシーカーボックスを持つ、エミリアの担当する陸戦用エクセレクター2が姿を現した。

フロートユニットで地上から少し浮遊するその神秘的な姿はまさに妖精、または精霊のようだ。

 

「全シーカー、シュートゥ!」

 

右腕のシーカーボックス、背部の突起物の計十六機の無人攻撃機『ドリル・ビームシーカー』が一斉に飛び出して、まるで従者のようにエクセレクター2の周り近くに展開して先端をドリル状から砲口へ変形、さらに本機も左腕のドリルを真天井に突き上げて高速回転させた。

 

「フルバースト!」

 

エミリアのかけ声と同時に全シーカー、ドリルから光線、無数の光弾の一斉射撃が行われ、全方位にいる大量のメカザウルスに襲いかかる。貫通、穴だらけ、そして粉砕していった。

 

「………………」

 

その様子を無表情で見ているジャテーゴの前に側近に連行されてきたゴーラと対面する。

 

「連行してまいりました」

 

「よし、私の元に連れてこい」

 

「はっ!」

 

だが最後まで暴れるように抵抗するゴーラだが連れてこられと明け渡した瞬間、すかさずジャテーゴは彼女の首元で右腕にぐっと絞めるように取り押さえ、左手で懐から大振りのナイフを取り出して突きつけたのだ。

 

「ラドラ!」

 

すぐさま大声で呼びつけると玉座の後ろに控えていた飛び出してくる彼は、その光景に愕然となる。

 

「ゴ、ゴーラ!!」

 

「ラドラ……」

 

思いがけない状況の対面に緊迫化するこの場。ジャテーゴにニィとラドラに不気味に微笑みかけた。

 

「ラドラよ、お前に出撃してもらう時が来た。お前のためにガレリー率いる優秀な開発陣が総力を上げて造りあげた最新鋭機が用意されている。直ちに出撃しろ」

 

画面を見ると、そこには猛威を揮うエクセレクターの姿が映し出される。

 

「あれは……まさかリュウト君達では……」

 

「え……リュウトさん……まさかっ!」

二人はジャテーゴが何をしたいのかをすぐに理解した、それは。

 

「ラドラよ。ゴーラの命が惜しくば、ゲッターロボを破壊し、そして地上人類を滅ぼしてこい!」

「なっ…………」

 

「お前が見事それを成功した暁にはゴーラを解放し、お前に更なる絶対的な名誉と栄光を授けよう。だがお前がそれに応じなかったり、最低限ゲッターロボの破壊に失敗した場合にはどうなるか……分かるだろうな?」

 

ゴーラの命を賭けてラドラにエクセレクターを、竜斗達の抹殺を命じるジャテーゴ。

 

「絶対にい、いけません!!私の命などどうなろうと構いません、しかしリュウトさん達にだけは手をかけては絶対にいけません……!!」

必死に訴えるゴーラの声を被せるようにジャテーゴは声を張り上げた。

 

「ラドラよ、恐竜帝国の、爬虫人類の名誉にかけてゲッターロボを破壊するのだ!」

「…………」

 

「お前は何を戸惑っている、あやつらはお前の親友であるクックまでも情け無用に殺したんだぞ?

そんな野蛮で残酷な地上人類を許せるのかお前はっ!」

 

「…………!」

 

「どの道、お前に残された選択肢は栄光か、死か、選べるのは二つに一つ。成功の暁に得られるのは栄えある栄光。しかし失敗すれば死かまたは処刑かだ」

 

心が揺れ動き、ブルブルと身震いしているラドラ。果たして彼は選んだのは……。

 

「……わかりましたジャテーゴ様。このラドラ、名誉にかけて必ずや栄光を選んでご覧に入れましょう……!」

 

「ラドラ!!」

 

ドスの利く低く、そして震え声でそう告げたラドラ。

 

「では行け!名誉ある聖戦に挑んでこい!」

 

彼は頭を下げて新型機のある格納庫へと向かうためにここから去っていった。

 

「そ、そんな……ラドラ、なぜです……っ」

 

ゴーラは完全に絶望してしまっている。

もうないと思っていた、自分の良き理解者であったラドラ、そして竜斗達がまた互いに戦うことになることを、そして……この戦いでどちらかが死ぬしかないということに。

 

それに関わらず無力な自分は何も出来ず、そして仲がいいと分かっていてあえてその両者の殺し合いの促し、そして観戦するジャテーゴと共に、その行く末を見る以外にないことを……。

 



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第四十三話「栄光のキャプテン・ラドラ」③

(もう止められない……もはや共存など求められぬ、逃げ道もない、破滅の道への歯車はもう元に戻れぬ方向に廻り始めたんだ……!)

 

鬼のような形相をしたラドラは格納庫に辿り着くとガレリー達、自分専用の新型機の開発陣が待ちわびていた。

 

「ラドラ……」

 

「ガレリー様……」

 

見つめ合う二人の間に近寄り難い雰囲気が醸し出している。一体彼らの間にどんな思いが飛び交っているのか。

 

「……新型機の概要について説明する、今までお前が乗ってきたのとは違い、あまりにも特殊だからな――」

 

ガレリー達から彼が今から乗り込み、操縦する機体の全貌について説明を十分に受け、理解する。

「……では、行ってまいります」

 

「うむ……ラドラよっ」

 

「なんでしょうか……?」

 

「……いや、なんでもない。わしらから言えるのは頑張ってこい、これだけじゃ」

 

「ありがとうございます」

 

ラドラは記された専用ドッグへと歩いていく。その後ろ姿を見つめるガレリーはどことなく悲しげだ。

 

「ラドラ……あやつにはどれほどの重荷が、そして業が架せられているのか……恐らくわしらには想像がつかん。

……リージの息子であるラドラにわしらはただ機体を与えて、慰めにもならない陳腐な励まししかかけられんとは……」

 

最も救われるべきである彼、ラドラに対し、少しも安らぎや救いを与えられなかったガレリーは自分の無力を知り、そして彼の父、リージへ合わせる顔がないと恥じたのであった――。

 

(間違いなくこの戦いで俺かリュウト君達ゲッターチームのどちらかが負け、必ずこの世から去ることになるだろう。

それだけでなく俺が勝てば地上人類は滅亡、そして俺が負ければ……)

 

考えるだけで頭が重く、気が狂いそうになるほどの重圧がラドラにのしかかる。しかし彼はもはややるしかないと決め、新型機に乗り込む。システム起動すると密閉された格納庫の外部ハッチが開き、海水が流れ込み、内部は満たされる――。

 

「キャプテン・ラドラ、『メカエイビス・エルトラゴン』発艦する!」

 

暗闇の海中からとてつもなく巨大な何かが海面へ浮上していく――。

 

「全機、海中から熱源反応確認。膨大なエネルギー量を関知した、直ちに警戒態勢に入れ!」

 

 

早乙女の注意に各機は北極圏から退避していく。

 

「あれは……なんだ!!」

 

海中から飛び出したとてつもなく巨大な生物、首長竜のような、いや蛇のような物体が計八頭が一塊となっている……それはまるで日本神話に登場する怪物『ヤマタノオロチ』のイメージがピッタリと合う。竜斗達もその謎の怪物を目にして唖然、畏怖、嫌悪を抱いている。

 

「なんだこれは……っ」

 

その時、竜斗達の元に通信が入り、すぐに受信すると……。

 

“……ゲッターチーム、いや、地上人類の部隊よ、ここから先は一歩足りとも通さん!”

 

ゲッターチーム、特に竜斗はその声の主が誰なのかが分かり、仰天する。

 

「ら、ラドラさんっ!?」

 

“私はお前達を駆逐する、恐竜帝国の、爬虫人類の未来を賭けて!!”

 

最悪のシナリオが訪れる。ついに再び対峙しようとしている両者。

 

「ラドラ君……やはり君は……っ」

 

早乙女達も向こうの通信を受信し、悪い意味で想ってもない、そして願わない対面を前に息を呑む。

 

「ラドラさん、なぜあなたまで!!?」

 

『やめてください、あなたと戦いたくない!!』と必死に訴える竜斗だが、通信を一向に遮断されてしまう。

 

「はあっ!!」

 

ラドラの駆るヤマタノオロチを象った最強のメカエイビス『エルトラゴン』はついにそこから発進し、彼らへ襲いかかった。

「速い、なんだあのメカザウルスは!!」

 

全長百メートル以上ある巨大なメカエイビスにも関わらず、後部に搭載した大型、小型バーニアスラスターを駆使して恐ろしいスピードで空を駆け巡るエルトラゴン。

八頭の首の内、四つだけは頭部がなく、変わりに数十メートルの巨大な剣刃が取り付けられており、それらがマグマの熱で真っ赤に発熱、豪快に振り回しながら各機に急接近する。

 

「うわあ!」

 

「ぎゃあ!」

 

それによって次にバッサリ真っ二つにされていく味方機。残り四頭は恐竜の頭部を象り、口を大きく開けてドロドロのマグマを撒き散らす。

 

「この化け物め!」

ジョナサン達は固まり、各火器で一斉射撃を繰り出すがエルトラゴンの周りにまとわりつくあの金属球、リュイルス・オーヴェがすかさずバリアが張り、攻撃がかき消されて遮断されてしまい、エルトラゴン側面から百を超えるミサイルが撃ち尽くされて機体を中心に爆炎が広がり、巨大な剣を振り回し、マグマ砲による猛攻撃を仕掛けてくるために近づけない――。

 

「ラドラさん!ラドラさん!」

 

諦めずに通信をかけようとするも一向に繋がらない。

 

「諦めなさい竜斗、あっちがその気なら割り切らないと!」

 

そうけしかける愛美だが彼は最後の最後まで諦めずに通信をする。

 

「リュウト、じゃああのメカザウルスの動きを封じてみたらどお!?」

 

「う、うん!」

 

エミリアのアドバイスを受けて、エクセレクター1はすぐさまリバエスターランチャーを取り出した。

 

 

【リバエスターランチャー、セット。ビームモード、オン】

 

片手持ちでエルトラゴンの八つの頭に狙いを付ける竜斗。

 

(あなたは一体何を考えるんですか……っ、もうあなたは僕達と共存する願いを捨ててしまったのか……っ)

 

疑問と不安だらけで訳が分からないだが、今はとりあえず足止めすることに集中してリバエスターランチャーから金色の 光線を放射、空間をねじ曲げるくらいの膨大なエネルギー質量を持ったビームはなんとリュイルス・オーヴェのバリアをいとも簡単に貫通して、八つの頭を一発ずつ的確に撃ち抜き、消し飛ばしていく――。

 

「………………」

 

しかしラドラは全く焦ることなく寧ろこうなることが分かっていたのように忽然としている。

 

「ラドラさん、あなたは!」

 

エクセレクターから放たれたビームがエルトラゴンの胴体をかすり、平行バランスをなくして傾いていき落下していく――。

しかし、その時、エルトラゴンの中から突き破るように何かが飛び出して遥か上空に飛翔し、竜斗達もそれを捉えていた。

 

エルトラゴンはまるで蝉の抜け殻のように力無くしてそのまま地上へ落下していく、叩きつけられて強烈な閃光と共に大爆発を遂げた――しかし、竜斗達はそれに目もくれず、エルトラゴンから飛び出した何かを見据えていた。

「まだ私は終わらん、これからが本領だ。これで恐竜帝国の、爬虫人類の未来を切り開く。この『メカザウルス・レイグォーシヴ』で!!!」

 

それは――ラドラの愛機であったゼクゥシヴが彼の家系の象徴である黄金の、光り輝く全身鎧を身にまとい、二丁の新型ライフル『ティエンシィ・ライフル』を両手に持ち、更に背中からゲッターフェザーの如く、白鳥のを象った純白の巨大な翼とオベリスク状の角柱六本を展開している、まさに大天使を思わせる神々しい姿で浮遊する恐竜帝国製兵器の集大成である最強最後のメカザウルス『レイグォーシヴ』が。

 

「いくぞ、ゲッターロボ!」

 

「!?」

 

なんとレイグォーシヴはその場から姿を消した瞬間、エクセレクターの前に姿を現して強烈な回し蹴りを浴びせて吹き飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

エクセレクターは態勢を整えて姿を消したが、同時にレイグォーシヴも姿を消した。

 

――成層圏、地球上が見えるこの宇宙空間との境目でエクセレクターとレイグォーシヴが姿を現して超光速で移動しながら追いかけごっこを繰り広げる。

 

「エクセレクターと同じスピードで!?」

 

「逃がさんぞ!」

 

二機はなんとそれから中国、アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ……世界各地に瞬間移動をしながら追う、追われるの常識を逸脱したチェイスを繰り広げた。

「ラドラさん!なぜあなたはそこまでして!!」

 

「爬虫人類だからだ!」

 

「なっ!」

 

ついに彼と通信が繋がり驚く竜斗は説得に力を尽くす。

 

「あなたは全てを諦めたんですか!?だからまた僕らと対峙を!」

 

「そうだ、私やゴーラが全て間違っていたのだ。お前達地上人類と共存するということがいかに甘く、そして泡沫の夢物語だということを悟ったのだ!

私達は業の深い、絶対に相容れない種族同士……もし互いに戦わない選択肢があったとすれば、それは――」

 

「それは……?」

 

「私達が同種族だった場合のみだ!」

 

「ラドラさん…………」

 

「私は全てを断ち切り、お前達を打ち倒す。この『断罪者(レイグォーシヴ)』でゲッター線と、その恩恵を受けて、力に溺れた地上人類に裁きの鉄槌を下す!」

 

「それが……ラドラさん、あなたの本当の意志なんですか!」

 

「それ以外にない!」

 

完全な地上人類殲滅の鬼と化したラドラに竜斗はもはや言葉では形容しがたい悲しみ、絶望を味わった……。

 



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第四十四話「創造主」①

「あいつらどこに消えたんだ!」

 

姿を消したエクセレクターとレイグォーシヴを探しながら北極圏のメカザウルスの掃討に行っているジョナサン達。

だがその時、世界一周が終わり再び北極圏に姿を現した二機にハッと驚く。

 

「はあっ!」

 

ランシェアラと同じ、ラドラ自身の動きとトレースする操縦法のレイグォーシヴは瞬間移動を繰り出しながら、二丁のティエンシィ・ライフルを各敵機へ狙いを定めて高温の熱線を振りまく。エクセレクターはまだマント状のゲッターフェザーで身をくるい、熱線を防ぐが他の味方機は直撃した瞬間、熱によりドロドロに溶けてしまった。

 

“竜斗、ラドラ君はっ?”

 

「…………」

 

沈黙して答えようとしない彼の様子を察した早乙女――。

 

「覚悟しろ地上人類、貴様らを北極圏から生きて帰さん!」

 

ライフルを左右の腰に掛けて、背中から金色の長剣『エミュール・ブレード』を取り出して天に掲げると剣刃から強烈な大熱波が発生し全方位に拡散し機体へ浴びせた。

 

「ぎゃあああっ、身体が燃える!!」

 

「助けてくれえ!!」

 

マーダインに装備されていた兵装、エミル・エヅダと同様の効果を発揮して、直撃を受けた機体内のパイロットを人体発火させて次々に機体を地上へ墜落させていく――。

 

「このレイグォーシヴを今までのメカザウルスと思ったら大間違いだ!」

 

 

『シェイノム・メリュンカー』と呼ばれる美しく神々しい天使翼を持ちながら、その強大な力で猛威を振るうレイグォーシヴは天使と言うより鬼神そのものだ――。

 

「リュウト、ラドラさんはもう……っ!」

 

「……っ!」

 

あれがラドラの本心なのかやはり疑問を持たれるも、攻撃を止めない彼にさすがに竜斗も覚悟を決めたのか、エクセレクター1はレイグォーシヴへ向かっていく。

 

「ラドラさんの分からず屋!僕はあなたを信じてたのに!」

 

エクセレクター1は両腕手首からハンディ・ビームシューターを展開してレイグォーシヴへ向けて複合エネルギーの弾丸を連射するがやはりまとわりつくリュイルス・オーヴェによってバリアが張られて塞がれてしまう。

「これでも食らえ!」

 

金色鎧のスリットから何やら牙のような形をした物体が八つほど飛び出して、それが広範囲に展開し、長方形の陣形を組成すと赤い結界が張られる。

 

「これはまさかっ?」

 

竜斗達ゲッターチームはそれら何かを思い出す。対馬沖の戦いにて第十三海竜中隊の母艦ジュラ・ノービスが黒田含め、沢山のBEETを葬ったあの牙型自立支援兵器セクペンセル・オーヴェと酷似していることに。

 

「いかん、直ちにあの結界内に入らないようにするんだ!」

 

だが、言うのが遅れて中にはテキサスマック、アーサーが囲まれてしまった。

 

「オゥ、何だこのスクエア!?」

 

「兄さん、早くここから逃げましょう!」

 

「くそ、障壁のようなものが張られて出られない!」

 

逃げ遅れたジャック達は脱出しようとするもバリアのようなモノが張られてどうやっても抜け出せない。

 

「燃え尽きろ!」

 

だがレイグォーシヴは容赦なくライフルの銃口を結界へ向けた――。

 

「や、やめろおおおーー!!」

 

竜斗は慌てて叫んだが時すでに遅し、ティエンシィ・ライフルから強烈な熱線が撃ち込まれ、結界に直撃した瞬間、結界内は真っ赤に染まった。

 

「メリー……っ」

 

「に、兄さん……!」

 

 

「ルネ……やっと今、お前の元に……」

 

その言葉を最後に通信が途絶える三人――牙達が結界を解いた時にはもはやすでにテキサスマックとケツアルコアトル、そしてアーサーの姿がなくなっていた。

 

「アレン中尉……嘘だ……」

「ジャックさん……メリーさんも……」

 

通信をかけてもノイズだけが聞こえ、そして三人の生体反応がなくなっている。その事実に誰もが絶望、そして悲しみに打ちひしがれた……。だが、それでも猛攻を止める気はなく襲いかかるラドラに竜斗はついにブチ切れた。

 

「うああああああっ!!!」

 

激怒した竜斗に呼応するかのようにエクセレクターの出力値が五十パーセントを超えて、マント状から純白の羽根を持つ天使の翼へと変形した。

「ラドラさんがその気なら……俺はもう容赦はしない!」

 

ついに本気の戦闘態勢に入った竜斗、腰からトマホークを取り出して瞬間移動で急接近、レイグォーシヴへ休ませる暇のない神速の斬撃を繰り出す。

 

「やっと本気になったかリュウト!」

 

ラドラも彼に応えようと背中からエミュール・ブレードを取り出して応戦。

姿を消しては別の場所に出現して、互いの剣刃がぶつかり合い火花を散らす一瞬の気も抜けない、他機に到底真似できない超速の白兵戦を繰り広げる。

 

「はああっ!!」

 

「うああっ!!」

 

互いに気のこもった声が飛び交う。エクセレクター1はすぐさまそこから離れてすぐさま腹を抱えこむと腹部中央からレンズが出現。だが瞬間レイグォーシヴも姿を消した。

「エクセレクタァァァァァ、ビィィィィム!」

 

しかし竜斗はとっさにレバーを素早く動かして真後ろへ向くとそこにはレイグォーシヴが姿を現し、腹部から金色の光線が放たれた。

 

「うおォ!?」

 

至近距離でビームの直撃、かと思いきやリュイルス・オーヴェのすかさずバリアを張り遮断する。

 

「はああああっ!」

 

だが竜斗はさらにペダルとレバーを押し込むとビームの出力が上がり、次第にバリアの方が押し負けていき亀裂が生じる。そしてリュイルス・オーヴェ自体もさらに強力なバリアを張るために負担がどっとかかりスパークが生じて『ボン』と爆発し、全てはじけ飛んだ。

 

「ちぃ!」

 

すぐさまそこから姿を消したレイグォーシヴは前方数百メートル先で姿を現す。

 

「ラドラさん……」

 

「………………」

 

もはや和解など有り得ないとでも言わんばかりに睨み合う二人――。

 

(レイグォーシヴを持ってしても……あのゲッターロボより劣るのか……っ)

 

ラドラは戦いそして理解した、この最強のメカザウルスでも総合的性能がエクセレクターに全く追いついていない、間違いなく自分が不利だということを――。

 

「ラドラ……っ」

 

……玉座の間のモニターで二機が攻防を繰り広げる光景を見ているジャテーゴとゴーラ。

互角と思われたラドラの駆るレイグォーシヴが、エクセレクターを駆る竜斗達によって段々と劣勢を強いられていくその光景に、ゴーラはこの勝負の行方に対する不安から瞳を震わせており、だがジャテーゴはまるで分かっていたかのように軽いため息を吐く。

 

「やはりメカザウルス如きではゲッターロボに太刀打ちできぬか……まあいい、ラドラには時間を稼いでもらおうか」

 

「えっ……それはどういう……」

 

「実は私はこうなることを分かっていた。ラドラはただの捨て駒に過ぎんのだよ」

 

「なっ!?」

 

「では、そろそろ我々も切り札を出す準備に取りかかろうか。ついてこいゴーラ!」

 

「ああっ!!ラドラ、リュウトさん!!」

 

彼女を無理やり引っ張り出して玉座から去っていくジャテーゴは果たしてどこにいくのだろうか……。

 

「くう!!」

 

「はあああっ!!」

再び成層圏に移動してハンディ・ビームシューター、そしてティエンシィ・ライフルによる、音速を遥かに超えた超高速移動による射撃戦を繰り広げる二人。

レイグォーシヴは二丁のライフルを左右平行に連結させて、さらに中央の隙間のような差込口へエミュール・ブレードを増幅炉として差し込んだ。

 

「このペルゼン・ペゲルゼンを食らえ!」

 

レイグォーシヴはそこから急降下していきながら上にいるエクセレクターへ合体火器『ペルゼン・ペゲルゼン』の砲口を向けた。

 

「地獄の業火を味わえ!!」

 

トリガーを引いた瞬間、砲口からまるで血のような、気持ち悪いほどの黒赤色をした熱波が扇上に放散されていく。

「逃げて竜斗!」

 

「分かってる!」

 

すぐさまエクセレクターは姿を消したすぐに熱波が通り過ぎて宇宙へ出て行く。

 

「これでどうだ!」

「!?」

 

エクセレクター1が急接近してトマホークを横に振り切り、金色鎧に熔断していく……が、レイグォーシヴはすぐさま後退し、危うく真っ二つになるのを防いだ。

 

「お、おのれえ!」

 

斬られた部分を右手押さえ、左手のライフルで撃ち抜くがすぐさまエクセレクター1は姿を消した。

レイグォーシヴもすぐさま各武器に分解してエクセレクターを追って地上へ降りていく――。

 

「ジャック君、メリー君……そしてアレン中尉……」

ラドラによってあの三人を消され、苦い顔をしている各人の元に戻ってきたエクセレクター。すぐさまジョナサン機、そしてヴェクサリアスが駆けつける。

 

「大丈夫か竜斗?」

 

「はい。しかし……ジャックさんやメリーさん……中尉が……」

 

 

「…………」

 

今、基地で待機しているキングに何と伝えればいいか分からなくなる。そんな時、レイグォーシヴも彼らの前に姿を現した。

 

「ジャック達の弔い合戦だ、行くぜ!」

 

何としても彼らの仇を討とうと決意を決めるジョナサン。竜斗達も険しい表情でレイグォーシヴを見つめる。

 

「……どうやら私が操縦する最強のメカザウルスを持ってしても分が悪いようだな。さすがだと誉めてやろうゲッターロボ、そしてゲッターチーム――だがな!」

 

天使翼状の飛行パーツであるシェイノム・メリュンカーの周りに展開したオベリスク状の角柱六本が射出されて一気に広がっていく――。

 

「気をつけろ、何か仕掛けてくる気だ!」

 

その六本がレイグォーシヴを囲むように陣形を組み、配置された。

 

「エスカ・アズィーラを発動する!」

 

すると柱に緑の結界が張られて、セクペンセル・オーヴェのようにレイグォーシヴが閉じこめられてしまうが次の瞬間、

 

「な、何あれ……メカザウルスが……」

 

何と、レイグォーシヴの生身の筋肉全てに一気に血管の筋が浮き出て、雄叫びを上げる。

 

「し、司令!あのメカザウルスのエネルギーが急激に増大しています!」

 

すぐに異変を感じ取り用心する全員、内部のラドラも今にも体の血管が破れそうな程に浮き上がっており瞳もまるで狂人のような危ない目つきだった。

 

「私はこれを使おうが使わないだろうがどの道、死は確実。だがゲッターロボを倒すためならこの命を捨てる!」

 

瞬間、レイグォーシヴは姿を消してエクセレクター1へ体当たりして吹き飛ばした。

 

「うわあっ!!」

 

態勢を整えようとするがすでにレイグォーシヴがエミュール・ブレードを構えて迫っており一瞬の隙間もない斬撃の猛攻撃を浴びせてくる。

 

「がああああああっ!!」

 

レイグォーシヴ、そしてラドラから感じるのは感情や信念、誇りではなく、殺意、これしか感じられない。

(なんだ……ラドラさんの気迫がさっきよりも遥かに……)

 

彼は完全な戦闘狂と化していることを悟る竜斗。翼を身を包むように前を出して防御するエクセレクター1だがそれを打ち破ろうと休みなく攻撃を繰り出してくる。

 

「貴様さえ倒せば……ゴーラは死なずに済むんだああああ!!!」

 

「!?」

 

それを耳にした竜斗はハッとなる、まさか彼女はちゃんと生きているのか、無事なのか……。

 

「ご、ゴーラちゃんは今どこに!!」

 

そう呼びかけるも、すでに本人の耳には言葉を受け付けることはなかった――。

 



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第四十四話「創造主」②

(ゴーラ……せめてあなただけでも……!)

 

殺意の塊と化したラドラもゴーラという一片の思いだけは消えることはなかったのだ。

 

「まさか……ゴーラちゃんも無事なのか……?」

 

「あの子も……っ」

 

その言葉に竜斗達も少しだけ希望が芽生える。

 

「ラドラさん、ゴーラちゃんはどこに、どこにいるんですかあ!!」

 

しかしラドラには竜斗の問いかけにも応じず、ただゲッターロボを破壊するのみしか考えていない――。

 

「ラドラさん……?」

 

しかし、感受性の強い竜斗は彼の攻撃を直に受けて流している内、レイグォーシヴから何やら重苦しい負の気を感じていた。

(ラドラさんが……泣いている……苦しんでいる……っ)

 

竜斗はしっかりと感じる。自分とは別の、とてつもない重圧を背負っている何かを感じ取っていた。

 

「竜斗、どうしたの!?」

 

愛美がそう聞くと、竜斗は悲しげな表情を浮かべている

 

「ラドラさんが……凄く苦しみもがいているみたいに感じるんだ」

 

「何ですって?」

 

「リュウト……どういうこと?」

 

彼の意味深い発言に注目する二人。

 

「あの誇り高く物分かりのいいはずのラドラさんがなぜここまで豹変したのか……あの人から凄まじい怨念のようなものを感じる。

痛み、悲しみ、疑心、重圧――全てがぐちゃぐちゃに混ざり合ったような感じが今のラドラさんのように感じるんだ」

 

「リュウト……」

 

「だったら僕は――」

 

レイグォーシヴから少し引き離してエクセレクター1は二本のトマホークを二刀流に持ち構える。

 

「ラドラさんを苦しみから解放させてやる、そしてゴーラちゃんのことも聞き出す!」

 

そう決意した竜斗は気を引き締めて、鋭い目つきをした――。

 

「ついたぞ!」

 

「こ、ここは……っ」

 

マシーン・ランドより約一万メートル直下の地底にある不可侵域。

専用エレベーターのみで行ける爬虫人類の聖地と呼ばれる場所。

ゴールが祈祷していたあの広大な空間と奥には祭壇のような妖しげな設備と巨大な神像が奉られている場所に二人は来ていた。

 

「ここは……王族やごく一部にしか行けない不可侵域のはずでは……っ」

 

ジャテーゴは無理やりゴーラを神像の祭壇前に連れていく。

 

「ゼオ・ランディーグ……ついに復活の時がきたか」

 

「え……復活とは……?」

 

「言った通りだ、この神像に隠された真実を発動させるこの時がきたのだ」

 

「この神像に…………一体何が……?」

 

するとジャテーゴはナイフを取り出すとゴーラにそれを向けた。

 

「え、え…………」

「少しばかりお前に痛い目をあってもらおうか?」

 

「い、いや、いや!!」

 

抵抗するゴーラを取り押さえて、祭壇に彼女を手のひらを置きナイフの鋭い先端を当てた――。

 

「いやああああああっ!!」

 

ゴーラの悲痛の叫びがこの内部にこだました……。

 

「はあっ!!」

 

「ぐおああっ!!」

 

外では相変わらず二機による、気を緩ますことのできない剣と斧による凄まじい近接戦を繰り広げており、早乙女、ジョナサン達は自分達でも相手にできるメカザウルスの掃討を行っている。

 

「もうほとんど残ってねえ、一気に片付けるんだ!」

少しずつ北極圏にいるメカザウルスの数も激減していき、優勢となりつつある。そして竜斗の方もエクセレクターの力を持ってしてラドラの駆るレイグォーシヴを圧倒しつつあり、押し込んでいく。

 

「がは……っ」

 

エスカ・アズィーラと呼ばれる強化システムの代償としてついにラドラの口と鼻から夥しいほどの血が吹き出す。

 

(わ、私の身体ももう持たん……だが一太刀だけでもっ!)

剣を大振りして隙が増えていくレイグォーシヴに竜斗は段々と弱体化していることに気づく。

 

「ラドラさん!」」

 

縦に大振りした隙を狙い、剣の持つ右腕を素早く切り落とすエクセレクター1。

「ぐっ!」

 

後退するレイグォーシヴは切り離された右腕を回収して、剣を左手に持ち替えて構える。

 

「ラドラさん……」

 

もはや明らかな不利であるこの状況にも関わらず、なおも戦おうとするラドラに竜斗はもはや哀れにしか感じられず、見てられなかった。

 

「私の命が尽きようとも最後まで!!」

 

「っ!」

 

レイグォーシヴが瞬間移動で再び姿を消した時、竜斗は覚悟を決めてトマホークを振り上げた――。

 

「うあああっ!!」

 

振り切った瞬間、目の前にはバッサリ斬られて真っ二つになりかけて皮一枚で繋がったレイグォーシヴの姿が。血の代わりにマグマが身体から流れ出して海に滴り落ちていく。

 

「ああ……っ」

 

ついにやってしまった、と茫然自失する竜斗の元に通信が入る。

 

“り、リュウト君……”

 

「ラドラさん……」

 

息絶え絶えの声をしたラドラがいつものような優しく暖かみのある声で彼に語りかけてくる。

 

“頼みがある……ど、どうか……ゴーラを、あの方を助けてやってくれ……”

 

「ご、ゴーラちゃんは今どこに!」

 

“ここから……真下の深海にある我々爬虫人類の、恐竜帝国の本拠地である、マシーン・ランドに捕らわれ……今にも殺されるかもしれない……”

 

「そ、それは……なぜですか……」

“ゴーラは人質に取られ……私が君達に負けることがあればあの子も直ちに殺される……あの子がいる限り、君達と共存を望める可能性がある、だから早く……っ”

 

 

彼の最期の頼みを聞き入れた竜斗達……。

 

「わ、分かりました……っ」

 

それを聞いたラドラも、先ほどのような鬼のようでなく、ちゃんと人としての暖かみのある安らげな声となった。

 

“ありがとう……これで……私は全てから解放される……私は君達に負けたが……同時に最高の栄光を手に入れたのだ……”

 

「…………」

 

“リュウト君……君とは最初から別の形で会いたかったよ……っ”

 

最後の彼の言葉が途切れてすぐにレイグォーシヴは力無して海へ墜ちていき面に達した瞬間に爆散して水しぶきが噴き上がった――。

 

「メカザウルス、パイロットの及び生体反応が消滅……」

 

「ラドラ君……なぜ君まで死ななければならなかったんだ……非常に残念だ……っ」

 

最後の最後に敵として立ちはだかったとは言え自分達、特に竜斗の理解者であったはずのラドラ。

ある意味幸薄だったとも言える彼の生き様にせめてあの世で安らかに、そして幸せになれるよう黙祷を捧げる二人。

 

「ラドラ……まさかお前まで……っ」

 

マシーン・ランドの開発エリアではラドラまでも敗れ去った光景をモニターで見ていたガレリー率いる開発陣は完全に絶望しており、膝をつく者も現れた。

 

「……神よ、もはや我々爬虫人類には希望などないのですか!このまま日の目を見ることなく、地上に揚がることなく滅び去る定めなのですか――!」

 

ガレリーは爬虫人類の信ずる神にそう問う――。

 

“司令、直ちにゴーラちゃんを救出しに行きます!”

 

「なにっ!?」

 

“ラドラさんから最後に託されました。自分が負けたから今にもあの子は殺されるかもしれないと、だからこれよりゲッターチームはこの直下、恐竜帝国の本拠地のあると思われる深海に潜ります!”

 

 

それを聞いた早乙女は気を取り直して頷いた。

 

「よし、必ずゴーラを助けて保護してくるんだぞ。

ただ何が起こるか分からん、気をつけてな!」

 

“はい!”

 

通信が切れ、早乙女達にも少し希望が生まれる。

 

「ゴーラちゃんが……無事だったとは……」

 

「しかし、あの子が生きているのなら、救い出せるのなら今、そしてこれからにも十分希望はある!」

 

まだゴーラが生きているのなら、無事であるのならせめてもの救えれば……それは彼女に対する可能性もあり、そしてそれを託したラドラに対して自分達の出来る彼の『願い』を叶えることでもあるのだ。

 

「リュウト……」

 

「アンタ……」

 

心配する二人を尻目に竜斗は涙を流しながらも気はしっかりしていた。

 

「ゴーラちゃんが危ない、何としても救うんだ!」

 

二人も竜斗に賛同して力強く頷いた。

 

「オープン・ゲット!」

 

ゲットマシンへ分離して三機は海面に急降下しながらエクセレクター3へ合体態勢に入った。

 

「愛美!」

 

「任せといてみんな!」

 

そして、

 

「チェンジ、エクセレクター3!」

 

海に突っ込むように三機は合体してエクセレクター3に変形、すぐさま真っ暗の深海へ沈むように潜っていく。ゴーラだけでも救ってみせる、これだけに全てを賭けて――。

「フハハ、これで主神復活の用意は揃ったぞ!」

 

不可侵域。ジャテーゴによってゴーラの手のひらを少し切られナイフに一滴ほどの血が付着した

 

「つ…………」

 

本人の手はスッと軽く切られただけであまり大した傷ではないが、それよりも何が始まるのか不安で仕方がない。

 

「心配するな、お前は死なせん。なぜならゴーラ、そして私は生きた素体となるのだからな」

 

「そ、素体…………」

 

そして、何とそのナイフで自らの手を切りつけ、ゴーラと自分の血を混ぜ合わせている。

 

「主神の復活には私達王族の血が必要なのだ、これだけでも充分足りる――」

 

不敵な笑い声を上げるジャテーゴにゴーラは、

 

「あ、あなたはなぜ私や恐らくお父様ですら知らないそんな知識を一体どこで!?」

 

「それは機密情報だ。ただ言えることは私は誰よりも勉強家なだけなのだよ」

 

「……しかし主神を復活などと、そんな到底夢としか思えないことがなぜ現実に行えるのですか!?」

 

「論より証拠。今から見せてやる、そして理解するがいい!」

 

自分達の信ずる大いなる存在、神を復活させるなどと、端から見れば間違いなく狂信者か邪教徒としか思えない彼女の行動に全く理解できないゴーラ。

 

「ジャテーゴ様、ラドラ様が打ち破られゲッターロボがマシーン・ランドへ向かってきます!」

 

こちらへ赴いた側近からの報告にゴーラはまさか、と急激な不安に陥った。

 

「まさかラドラは……っ」

 

「ラドラ様は……ゲッターロボに敗れ、戦死なされました……」

 

「そんな……ラドラが……ラドラが……っ」

 

自分が愛し、かつ唯一の味方であったラドラさえも失ったゴーラはついに絶叫して泣き崩れてしまった。

 

「無駄話をしている暇がないな。ではすぐさま主神を復活させようぞ!」

 

ジャテーゴは祭壇の中央の小さな窪みに混ぜ合わせた二人の血を一滴垂らした瞬間、この不可侵域がグラグラと揺れだして、硬直していた神像に変化が――。

 

「おお……ついにこの時来たりか……」

下がっていた神像の腕が上がり、祭壇前に巨大な手を差し伸べている。

ジャテーゴは絶望に打ちひしがれ、途方にくれて泣き伏せるゴーラを無理やり引き連れて乗り上げると二人を乗せた掌が胸元に持って行き、まるで掃除機のように唐突に吸い込まれていった――不可侵域は一気に崩れ出して側近は上から落ちてきた瓦礫に潰されてしまう。

 

「おお、これが主神ゼオ・ランディーグか……」

 

内部に突入した二人は別々に上下に生体ユニットとして配置された時、神像の目が真っ赤に光った。

 

「司令、北極圏直下より膨大なエネルギー反応確認、計測不能です!」

「なんだと!?」

 

エクセレクターのようなエネルギーを関知し、冷や汗が流れる二人。それはゲッターチーム三人にも同じく感知しており、深海から異常な空気を察していた。

 

「な、なんだ一体!」

 

「嫌な予感がする……一体なんなの……」

 

「ちょ、みんな下を見て!」

 

すぐそこまで近づいていた、海底に沈澱する巨大で気味の悪い突起物ばかりが突き出ている恐竜帝国の本拠地であるマシーン・ランドと似たような形の建造物が突然、海底地震のような揺れと共に巨大な裂け目が発生し、マシーン・ランド達が裂け目へと呑み込まれて落ちていく……。

 

“直ちにそこから離れろ三人とも!”

 

「司令、これは一体!」

 

“分からんが、そこにいては君達も危ない!早く上がってこい!”

 

「しかしゴーラちゃんが!」

 

“いいからっ!”

 

早乙女から退避命令が下されて、やむえず浮上を開始するエクセレクター3。

 

「直ちに北極圏から退避しろ!」

 

ジョナサン達にも退避命令を出してすぐさま離れていく。後はエクセレクターが上がってくるのを待つだけだが遅すぎて焦りを感じさせる早乙女達。

 

「竜斗達はまだか……」

 

「いや、来ます!」

海中からゲットマシン三機が飛び出して、エクセレクター1に合体した。

 

「司令、一体何が……」

 

“北極圏直下の地底から計測不能レベルのエネルギー反応を確認した”

 

「計測不能レベル!?」

 

その事実に三人は仰天した。

 

“恐竜帝国の本拠地は?”

 

「突然、海底に裂け目が発生して全て沈んでいきました……っ」

 

一体何が起こっているのか分からない彼らは憶測と疑問ばかりが飛び交っていた時、

 

「何か、海中から浮上してきます!」

 

突然、残っていた北極圏の氷に亀裂が入り、そして全て砕けていく。その中心部から何かが現れてエクセレクター達のいる上空へゆっくりと昇ってきていた。

 



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第四十四話「創造主」③

「なんだあれは……」

 

突然海中から現した謎のそれは、甲殻類と思わせる固そうな殻を持った銀色の人型の身体にエイリアンとも言える、地球上の生物とは思えない奇妙な頭部……そして背中には羽根のような六本の触手が突き出てうねうねと動いている、見ただけで危険性を感じさせる物体、なによりそれがエクセレクターと同程度の身長であることだ。そんな物体が彼らの前に立ちはだかったのだ。

 

「んっ?」

 

背中のうねうねと動く触手が突然止まり、前方へ向けて突き出された途端、残っていたブラック・インパルス隊のステルヴァーが一瞬で『ボン』という音とともに破裂――ジョナサン以外の機体は全て消し飛ばされた。

「お、お前ら……っ」

 

彼らの生体反応がなくなり、自分以外の仲間が全て、一瞬でこの世から消えてなくなったことに愕然となるジョナサン。

 

「なんだこいつは……?」

 

「え、得体の知れない何かを、危ない何かを感じます……」

 

早乙女達もその威圧感か殺気のようなものを感じ取れ、圧倒されている。それは竜斗達も同じであった。

 

「メカザウルス……?」

 

「いや、恐竜のように見えないけど……」

 

「なぜか知らないけど寒気が……」

 

その尋常ではないこのオーラがそれから放たれており、全員が圧倒されている。

 

「な、なに……!?」

「頭の中に何か入り込んでくる……!」

 

その謎の物体から、強力な思念波が竜斗達全員に流れ込んできており、生物本人らしき声と、ある映像(ビジョン)脳内へ強制的に流れ込んできていた。

 

『我々はこの星、地球を創造した者達である――』

 

「!?」

 

地球を創造……突然と、嘘とも思えるようなスケールの大きい事実をテレパシーで伝えるこの生物。しかし『我々』とは一体なんなのか――だが思念波を受け続ける彼らに更なる映像が脳内に入っていく。

 

『我々はかつてこの青き星、地球が生まれるよりも遥かに太古の昔、この銀河系宇宙を離れた星系に住んでいた――』

 

その星は地球より黄緑色の惑星であり、地球と同じ成分を持ち、どんな生物も住みやすい特徴を持っていた。

そしてそこに住む知的生物は、甲殻類系生物の人型にしたような姿であり地上人類、爬虫人類の二種の地球人類とは比べ物にならない高度な文明を持ち繁栄の限りを尽くしていた。

 

『だがそれも突然ある日、終止符を打たれてしまった……そう、あの我々の天敵であるあの宇宙線、災厄とも言えるゲッター線が星に降り注いだのは――』

 

その星に大量に降り注がれたゲッター線により、耐性のない彼らは見る見るうちに、まるで重度の放射線障害のような症状が現れて次々と死に絶えていったのだ。

 

『我々だけではない、そのゲッター線は無差別に数々の星に降り注ぎ、そこに住む者達も全員、そのゲッター線の耐性が全くないため滅亡していった――あたかも、積み上げた積み木を崩すようにゲッター線は情け容赦なく、幾多の星に住む無数の無関係な者達の命まで奪ったのだ』

 

絶滅に瀕した彼らはすぐさまそのゲッター線の研究に全てを費やし、そして理解したのだ。ゲッター線に耐性を持つ……いや、ゲッター線が耐性を与えた、つまり選ばれた生物はその恩恵を受けて飛躍的に生物的に知能、身体能力、そして理性、遺伝子……全てが優性に働き、子孫にも見事に受け継いでいくこと、つまり凄まじい進化を促すことが分かった。

 

『まるで神の所業とも言える宇宙線……だが我々のような耐性のない者にとっては悪魔のような存在。そこで我々は決めた――』

 

彼らは今、持てる文明の技術を全てを費やしてとある計画が進められて行われた、

それはゲッター線がそこまで降り注がれないような遙か遠い外宇宙の未開の惑星に降り立ちそこで新たな生物を作成、長期間かけて、ゲッター線に打ち勝つよう進化させる、というモノだ。

 

『我々の技術力なら新生物を造りだしてさらに人工進化をさせることなど容易いこと。

沢山の犠牲を払ってゲッター線の成分、弱点を掴むことに成功した我々は、ついにその計画を実行するためにこの創造用兵器の開発が進められた――』

 

そして彼らは造り上げた――ゲッター線に関する知識、そしてそれに対抗するためにありとあらゆる計算と事象を想定された対策からの惑星、生物全てを作成できる能力を持った、いわば人工的な神とも言える兵器が――。

 

『しかし我々には時間がなかった。ゲッター線の影響力は我々開発陣にまで及び、身体を蝕み始めた、残り僅かな命と悟った我々はその兵器に自分達の意思までも埋め込み完成させた――』

 

完成したその兵器は宇宙へ飛び出して、彼らの望むノウハウを持つ優秀な『種』を蒔くために途方にないほどの時間を費やした長旅の末、自分達の思想に適応した惑星へと辿り着いたのだ。

 

『できたばかりのその惑星で生物はまだ生まれてなかったが我々の住んでいた星と似ており、さらに大気や地質成分も良質と分かった。

ここが最良だと我々はこの惑星をベースとして作成を始めた――』

 

映像がここで途切れて全員が意識が戻るが、誰もが信じられないような顔を浮かべていた。

 

「まさか、この兵器が降りたったその惑星というのが……っ」

 

そう、彼らの住むこの地球である。すると再びこの生物からのテレパシーが響いてくる。

 

『そこで我々が様々な生物を作成して試験したが、その中でもザラザラとした鱗を持つ変温動物……この星の言葉でいう爬虫類が一番最適な能力を持つと分かり、それをベースとした新種族、爬虫人類を造り上げた。

そして他の生物は爬虫類、爬虫人類に役立つために使役する、所謂家畜や奴隷のために残した。

最初は順調に進化していき、時間はかかるがいずれゲッター線に耐性を持ち、打ち勝つ能力を持つ高度な知的生物として繁栄を築かせるハズだった……が』

 

生物は恐るべき威圧感をエクセレクターに浴びせた。

 

『そうだ、貴様が……ゲッター線がこの地球に降り注いだのだ。

全ては想定外だった、進化途上にあった爬虫人類は当然ゲッター線に耐性も対応の術も持っておらず、我々にも大きな痛手を被り結果、我々は傷を癒やすために深く地中に潜る以外に選択肢はなかった――だが、その大量のゲッター線を浴びた別の生物が急速に進化していったのだ、それは――』

 

「まさか……それが俺達だというのか……っ」

爬虫人類とは、地上人類とは……そしてなぜこの地球上に住むに二種の地球人類がこうやって憎み合い戦うことになったか、この生物の話を聞いて全てを理解した竜斗達。

自分達、地上人類はそういう過程で生まれたイレギュラーな存在であることにも気づき多大なショックを受けた。

 

『我々は身体を癒やすために眠りにつくことになり、爬虫人類は知能や身体能力はともかく、ゲッター線に耐性を持つための遺伝子的な進化の過程を完全に失われた。

その間に貴様らはこのゲッター線が降り注ぐ惑星に堂々に住み、恐るべき進化を遂げた、あの忌々しいゲッター線に選ばれた貴様らがおぞましく憎いのだ!

ゲッター線が降り注がねば今頃、爬虫人類は我々が望んだ理想の生物になりえたのだ!』

 

その時、生物は背中のうねっていた六本の触手を羽根のように展開した。

 

『そしてやっと傷を癒えて復活した我々が、作成過程に生じた『バグ』による産物である呪われし貴様らを全て駆逐する、滅せよ!』

 

――この生物であり兵器でもある、爬虫人類が崇拝する主神、または創造主と呼ばれるゼオ・ランディーグが地球上に住む竜斗達含めた、地上人類全てに裁きを下すため、滅ぼすために戦闘態勢に入るとこの一帯、いや世界各地に雷、嵐、猛吹雪などの異常気象が発生、大混乱が巻き起こっていた。

 

「来るぞ!」

 

早乙女の一言で各機は散開するが、ゼオ・ランディーグはエクセレクターのように姿を消した。

 

「なっ!」

 

後退するジョナサンの駆るステルヴァーに先回りし、背中の触手で胴体から突き刺して捕縛した。

 

「ジョナサン!!」

 

“マナミ……っ!”

 

その光景を目撃した愛美は慌てて彼を呼び叫ぶ。

 

「竜斗、ジョナサンを助けて!」

 

「うん!」

 

ステルヴァーをゼオ・ランディーグから引き離そうとエクセレクター1がすぐさま突っ込んでいくが、ジョナサンの突き刺した触手には強力なパワーが集中していた。

 

“来るなお前らっ!”

 

「ジョナサン!?」

 

“ごめんマナミ……どうやらお前との約束は守れないようだ……だけど死ぬな、マナミ――”

 

 

ジョナサンのその言葉を最後に、ステルヴァーは仲間と同じように『ボン』という音と共に破裂、残骸やパイロットすら見あたらなかった――。

「嘘でしょ……っ」

 

 

「た、大尉まで……っ」

 

まるで時間が止まったかのようにエクセレクターの動きが止まり、戦慄している。

 

「ジョナサン……………マナをお嫁さんにしてくれるって約束は……どうするの……」

 

全てが終わった後に彼と一緒に人生を歩むと誓った愛美にとって、最初は信じられず現実を脳が拒否していたが次第に途方もない絶望、悲しみが押し寄せて、彼女は慟哭してエクセレクター、この北極圏にこだました……。

 

「ジョナサン大尉の生体反応……消滅……っ」

 

「なんてことだ…………っ」

 

……すでにこの場にいる先発隊はエクセレクターとヴェクサリアスのみとなったしまったが、それよりもゲッターチームにとって付き合いが古く、そして時に戦い、時には楽しく遊び、そして愛美の最も愛したジョナサンまでもが、このゼオ・ランディーグのよって引導を渡され、そして一足先にジェイド達のいる場所へ逝ってしまった事の対するショックが大きかった――しかし向こうにしてみればそんなことなど知ったことではない、ただ虫けらを潰したことに過ぎないのだ。

 

「竜斗!」

 

「!?」

 

早乙女の一喝によってハッと我に帰った竜斗はすぐさまレバーを動かして姿を消した瞬間、ゼオ・ランディーグも姿を消した。

 

「うわあっ!」

 

「きゃああっ!!」

 

数百メートル先で姿を現したエクセレクターが遙か遠くへ押し飛ばされていくと同時に姿を現したゼオ・ランディーグは今度は早乙女達の駆るヴェクサリアスに視線を向けた。

 

「マリア、来るぞ!」

 

「はい!」

 

ヴェクサリアスは全砲門をゼオ・ランディーグ一体へ向けて一斉攻撃を繰り出す。

ビーム、ミサイル、機関砲、ありとあらゆる火線が射線上に飛び交う。しかしゼオ・ランディーグは全くそこから動こうとせず、かと言い防御態勢すらとらず、敢えて自らヴェクサリアスの攻撃を棒立ちで受け止めていた。

火線に巻き込まれるも平然としており、背中の右側の触手の一本がピクッとヴェクサリアスへ指すと、先端部が一瞬「カッ」と光った。

 

「なっ!」

 

何か鋭く光る何かが、シールドを張るヴェクサリアスのバリアを無視し、中央上部を貫通して大爆発が起こった――。

 

「ヴェクサリアスが!!」

 

「司令、マリアさん!!」

 

態勢を整え戻ってきた竜斗達は、なすすべなくヴェクサリアスがやられている姿に仰天、大慌てだがすぐさまヴェクサリアスから通信が入った。

 

“三人共、私達はなんとか大丈夫だ……!”

 

「司令……っ」

 

だがここまでやられては、先ほどまで圧倒されていた竜斗達ももはや我慢の限界が来ていた。

「沢山の人達を、ジョナサン大尉までも殺し……俺はもう許せない!」

 

「ええっ、このままじゃアタシ達だけじゃなく地球上にいるみんながあいつに殺されるわ、遠慮せずやりましょう!」

 

怒りや恨み、使命感と正義をやる気、そして力へと変えていく竜斗とエミリア。

 

「マナミ!」

 

「…………」

 

「アンタも元気出して、やる気をだして三人の力でみんなの、そして大尉の仇を討つの、そしてこのアタシ達の住むこの世界を守るのよっ!」

 

「エミリア……」

 

途方に暮れていた愛美に彼女の喝が入り、彼女は泣きはらして赤い顔から止まらない涙と鼻水を拭い、「ええっ」と返事して頷いた。

 

 

 

「二人共、準備はいいか!?」

 

「大丈夫よ!」

 

「うん!!」

 

「俺達の全力を出し切るんだ、行くぞ!」

 

三人の心が一つになり、気合いを最高潮に高ぶった瞬間、エクセレクターもそれに呼応し、出力が急上昇していき、機体から真っ白に発光した。

 

「はあっ!」

 

エクセレクター1はヴェクサリアスに集中攻撃しているゼオ・ランディーグにへ瞬間移動で突撃、割り込むように蹴り飛ばし、休まずトマホークを二本取り出して追っていく。

 

「もうお前が誰だろうと絶対に許さない!必ず倒してやる!」

 

「覚悟しなさい!」

「ジョナサンの仇、絶対にブッ殺してやるんだから!」

 

三人の気迫が籠もったエクセレクターの斬撃でゼオ・ランディーグと押し込むが、向こうも触手を駆使して激しい攻防戦を繰り広げる。

 

「マリア、艦はまだ大丈夫か?」

 

「ええ、今は何とか……しかし、もう戦闘は不可能です……っ」

 

ゼオ・ランディーグの攻撃によってもう撃沈寸前にまで追いやられたヴェクサリアスは辛うじて浮遊しているような状態だ。

だが早乙女は何かを決意して「今がその時だ」と頷いた。

 

「マリア、『アレ』を使うぞ」

 

「アレ……まさかこの状態でですか!?」

 

「ああっ、ついに運命を決する時がきた――」

 

愕然となり、息を呑む彼女だが、早乙女の言う『アレ』とは一体なんなのか……?

 




次で最終話に入ります。


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最終話「アダムとイヴ」①

「まさか……こんな状態で使う気ですか司令!?」

 

信じられないような表情をするマリアに対し、早乙女は冗談とは思えない真剣な表情だ。

 

「どの道、こんな状態では基地まで帰還は無理だろう。幸い炉心と攻撃システムはまだ生きているし、この艦最後の底力をヤツに見せてやろう」

 

彼はフウと息をつき、ついにこの時が来たかと覚悟を決める。

 

「ついにこの艦を、そして私の命を燃やす時が来た。博士達や皆には悪いがもはや生きては帰れん――だが、あの恐るべき力を持つヤツを倒すために少しでもダメージを与えるにはこうするしかあるまい」

 

「しかし……」

 

「どの道、あのシステムは手動で操作しなければならん奥の手だ。結局誰かが残らねばならん」

 

すると早乙女は真剣な眼差しをマリアに見せた。

 

「これより私が艦の全てを担当する。君はここから脱出ポッドに乗り込み、脱出しろ」

 

「司令……っ」

 

「これまで本当にありがとう、君と一緒に仕事を出来たことに言い表せられないほどに感謝する。君は彼らと共に生きて帰り、私の分の人生を歩んでくれ――」

 

いつものような、まるで命を捨てることに躊躇いを持たないような不敵笑みでそう告げて敬礼する早乙女。

 

「しかし……私はあなたを見捨てて逃げることだけは絶対に出来ません、私も残ります!」

 

「マリア……」

 

「私はあなたとずっと全てを共有すると、最後までついていくと誓いました!だから――」

 

当然の如く、断固反対する彼女だが、早乙女は首を横に振る。

 

「いいや、マリアだけは生きていてくれ、あの子達には君が必要だ。

もし全てが終わればあの子達は恐らくこれまでの『ツケ』が一気にはね返ってくるだろう、彼らを癒やすには君の力が必要だ」

 

「………………」

 

「いくんだ、マリア!」

 

珍しく戸惑いオロオロする彼女に剣幕のような声を張り上げる早乙女。彼女もビクっとなる。

 

「すまないマリア、だが少しでも勝機を出すにはこうするしかないんだ、早く行くんだ!」

彼に促されたマリアは悩んだ末、断腸の思いで頷いた。

 

「……ホントにいいんですね、司令っ」

 

「ああっ、こういう仕事は怖いもの知らずが一番向いている」

 

「分かりました……っ、これまで本当にありがとうございました、私はあなたのことを一生忘れません」

 

彼女は複雑な顔で敬礼し、そして彼も応えるように再び敬礼した。

 

「元気でなっ」

 

去っていくマリアを見送り、すぐさまコンピューターの前に立つ。

 

「お前とは建造時からの付き合いだからな、最後まで一緒に付き合ってやるから安心してくれ」

 

開発して以降、戦闘、改造……無理をさせたこともあったが彼と共に死線を繰り広げてきた愛艦であると共に親友であり、そして家族でもあったこのヴェクサリアス、いやベルクラスに思いを馳せる早乙女。

(結局、ゲッター線の究明が出来なかったのが残念だが、致し方あるまい――)

 

それだけが気残りであるが竜斗達に少しでも勝たせるために、そして世界を救うためには、と割り切る早乙女はすぐさま目の前のキーボードをカタカタと高速叩き、各レバー、ツマミを動かしていくとコンソール画面にパスワード入力画面が現れる。

 

(これさえ入力すれば発動態勢に入る――)

 

早乙女はすぐさま英語で、

 

『SHINE SPARK』

 

と打ち込んだ。

 

(シャイン・スパーク……これを使えば間違いなく生きては帰れまい……)

 

エンターキーを押すとコンピューターがパスワードを認証確認し、合致した瞬間にヴェクサリアスの複合融合炉のリミッターが解除されフル稼動、出力が最大値に跳ね上がる。

 

「神よ。前に言ったよな、竜斗の代わりに私をくれてやると。今からその約束を果たしてやる。

待ってろ三人共、君達に勝利の活路を与えてやるからな――」

 

一方でマリアは脱出ポッドに向かっていたが、彼女は悩んでいた。本当にこれでいいのか、と――。

 

(考えたら司令、本当はあなたが一番無理をしているのでは……)

 

色々とエキセントリックで大胆不敵、そして本心の分からない性格であったが、充実した人生歩んでいたと思える。

だがその裏ではゲッターロボの開発、本職の自衛隊での業務、そして世界各地でに周った時の仲立ちなど……彼は少したりともサボらず働き詰めで安らぐ暇が少しもなかった。

だからこそ、彼の苦労と功績によって自分達がここまで来れたと言っても過言ではないが、マリアはそんな早乙女だけに最後の最後まで『重荷』を課せて自分は逃げ帰っていいのか……と思い悩んでいた――。

気持ちが揺れ動く中、脱出ポッドのある格納庫へ到着したがゼオ・ランディーグの攻撃によりほとんど潰れており、脱出ポッドへ目を向けたが――。

 

「竜斗、聞こえるか?」

 

早乙女は様々な場所に移動しながらゼオ・ランディーグと激しい攻防を繰り広げるエクセレクターに通信をかけるとすぐさま三人の顔がモニターに映った。

 

“司令、どうしました?”

 

「今すぐヴェクサリアスの直線上にヤツが来るように誘導してくれ」

“え……、何をする気ですかっ?”

 

「今から君達に少しでも勝率を上げるための活路を与える。すぐに誘導してくれ」

 

“は、はい!”

 

何をするか分からないが早乙女の言葉を信じて、すぐさまヴェクサリアスの目前に現れるとゼオ・ランディーグもエクセレクターを追って現れてそこでチャンバラを繰り広げる。

 

“司令、これでいいですか?”

 

「ああっ。竜斗、エミリア、愛美――」

早乙女の言いかけに三人は早乙女に視線を向けた。

 

「後は君達に託す。必ずこの戦いに勝ち、元気で未来を切り開いていけ。我が愛する子供達よ――」

“し、司令……”

 

「ヴェクサリアス、これより最終攻撃システム『シャイン・スパーク』を発動する!」

 

発動ボタンを押した瞬間、ヴェクサリアスの炉心のエネルギー量が最大値を突破して臨界。艦自体が真っ白に発光し包まれた。

 

「な、何あれ……っ」

 

「ヴェクサリアスが……」

 

「司令とマリアさんは!?」

 

嫌な不安に駆られた三人は通信をかけるが早乙女は遮断されているのか全く応答せず。

 

「私達の生涯最後の大勝負だ」

 

膨大なエネルギーによる巨大な白光と化したヴァクサリアスをレバーを押し込み、ゼオ・ランディーグ一点へ向けて最大戦速で前進しだしたその時、

 

「司令!」

 

「マリアっ!?」

 

脱出ポッドに向かったはずの彼女がこちらへ戻ってきたことに彼は目を疑う。

 

「な、なぜ脱出しなかったんだ!」

 

「それが……脱出ポッドが粉砕されていてもう……っ」

 

彼女さえも逃げ延びる術まで奪われていたことに彼は失望感でいっぱいになり、これまで積み重ねた物が全て崩れ落ちたような無気力感に陥り、フラっとなり倒れかけるがマリアがすぐに駆けつけて支えた。

 

「マリア……すまないな、君まで付き合わせてしまって……っ」

 

「いいえ、これでよかったんです。司令だけに苦しい思いはさせない、私もあなたと運命を共にしましょう」

「だが……これではあの子達が、竜斗達がかわいそうだ……」

 

「あの子達は凄く強い子達です、きっと何があって三人なら乗り越えていけましょう」

 

艦橋が光に染まり、もはや何も見えないこの場の中で二人は睦まじい夫婦のように寄り添いながら操縦レバーを共に握り合い、光の先の敵、ゼオ・ランディーグ一点に視線を向けた。

 

「マリア、私はずっと前にこんなことを言ったな。『あの子達を無理やりゲッターロボに乗せた私に、いつかその報いを受けるときが必ず来ると思う』と――今、それを償う時が来たのだ。そのために君までも巻き込んでしまったな」

 

「いいえ。償いではなく私達は肉親とは別でありますが親としてあの子達に明日を与えるための行動なのです――」

その時の二人の表情はとても澄み切っており、迷いなどもなくなっていた。

 

「まずあの世に言ったら、あの子らの親に謝らないとな――色々と巻き込んですいませんとな」

 

「ええっ、その時には私もお供致します――お父さん、お母さん、娘が一足先に天国に旅立つことをお許し下さい」

 

「ニールセン博士、いや父さん……あなたの元に生きて帰れなくて、本当にすいませんでした――では行こうか、マリア」

 

「はいっ!」

 

――極光に包まれたヴェクサリアスが凄まじい推進力と速度でゼオ・ランディーグに見事、体当たりをかました瞬間、恒星のような強烈な閃光と、水爆以上の衝撃波が北極圏全土に拡散した。

 

「し、司令!!!」

 

「マリアさぁん!!!」

 

吹き飛ばされたエクセレクターはすぐさま両翼を前に出して防御に入る。三人は目を凝らすが光が強すぎて中心部に何が起こっているか分からなかった。

 

「……ニールセン?」

 

テキサス基地の休憩所でコーヒーを飲んでいたキングは突然、強烈な不安に駆られてマグカップを落としてしまい地面に中身と破片が散乱してしまった。

 

「どうしたんだニールセン?」

 

「サオトメ……?突然サオトメがわしを呼んだような気がしたが」

 

「何バカなことを言っているんじゃ、ボケたのか?」

 

「なんじゃとう?それはどういう意味じゃ!」

 

呑気にも、そこで取っ組み合い喧嘩を始めようとする二人だが、

 

「大変です博士達、直ちに司令部へ来てください!」

 

突然、助手がすぐさま駆けつけるもその光景に慌てて止めに入る。

 

「バカモン、邪魔するなあ!」

 

「今、そんなことをしている暇などないんですってば!今、先発隊の向かった北極圏が今、とんでもないことになっているんですよ!」

 

「なにっ?」

 

助手の言葉に喧嘩っ気が消え失せた二人は助手と共に司令部へ走っていった。

 

「そ、そんな……っ」

 

「司令達まで……っ」

 

やっと光が収まったがヴェクサリアスの姿がどこにもなく、ついで早乙女とマリアの生体反応まで消え失せていた。

 

「ウソ…………なんで……なんで……」

 

「ああ…………」

 

自分達にとって一番死んではならない、失ってはならない二人までいなくなったことは三人の心を壊滅させるほどの精神的ダメージを与えて人形のように無気力となりダランとなるエミリアと愛美……。

 

「はあ……はあ……っ」

 

そして竜斗は息を大きく切らしてガタガタ震えている。

この耐え難き事実に脳が拒否しようとするがそれでも嫌でも分からせようと押し込んできて、涙がボロボロに溢れていた。

 

「なんで……なんで……みんな僕らのためにこうまで死んでいくんだ……」

 

自分達だけ取り残されたという凄まじい孤独感は、残酷にも三人に襲いかかる――何があった、何故こんなことになったか……そして、何故自分達がこうまで生き残らねばならないのか――しかし。

 

「!?」

 

竜斗はモニターをよく見ると信じられないような光景を目にする。なんとヴェクサリアスの特攻をまともに受けたはずのゼオ・ランディーグが焼け焦げた痕はあるがそれでも平然と、悠々と浮遊している姿が。

 

「う、ウソだろ……」

 

早乙女達が命を捨ててまで繰り出した特攻にも効いてないとは……三人は本当に勝てるのか、もう打つ手はないのか、と諦めかけていた。

 

 

“竜斗君!”

 

突然通信が入り、開くとテキサス基地の司令部から通信が入る。

 

“北極圏に君達だけしか反応がないのだが、一体何が起きているんだ?”

 

竜斗は失意のまま、これまであったことを伝えると、案の定司令部にいる全員、そして駆けつけたニールセン達も絶句する。

 

「竜斗君達以外が全滅……だと」

 

「あれジョナサン大尉だけでなく……サオトメ一佐やマリア君までもか……」

 

「ジャックとメリーもか……っ」

 

あまりにも悲惨なその状況を聞かされて信じられるはずもない。しかし北極圏の地図を映し出されたモニターにはエクセレクターしか反応がないのも事実……そして、そこまで追い詰めた敵についても、爬虫人類どころではない、もはやスケールの違いに訳が分からず、理解できず全員が一体何と戦っているのか疑いたくなるほどだ――。

 

“もう……僕達でも勝てるどうか……”

 

弱音を吐いてしまう竜斗に、ニールセンだけは急にカッとなりマイクにかじりつくように取り付いた。

 

「何をやっとるんじゃ、竜斗君達がやらねば誰がそいつを倒すんじゃ!

対抗できるのはエクセレクター、そしてゲッターチームしかいないんじゃぞ!」

 

“し、しかしエミリア達がもう戦意が……”

 

それに対しニールセンは「はあ!?」と納得いかない声を上げた。

 

「お前らはそれでもサオトメの教え子か!?そいつに全員殺されて悔しくないのかあ!!」

 

“博士……っ”

 

「よく聞け。今対峙している敵がそんなに危なっかしいのなら、君らが負ければ全世界は破滅は必須じゃろう、そうなればこれまでの苦労が水の泡じゃ。それはわしらだけでなく、今も必死で戦っている隊員達、ジェイド、サオトメ達のように死んでいった隊員、戦争で犠牲になった者、全てじゃ!

世界の命運は君らにかかっている、しっかりしてもらわないと困るんじゃよ!」

 

剣幕を立てて怒鳴るニールセンにエミリアと愛美もやっと我に帰る。

 

「それらを全て無駄にしたくなければ、地球上に住む者達の命をこれ以上失いたくないなら今だけでもいい、エクセレクターと言う名の剣を取って戦うのじゃ!」

 

“おじいちゃん……”

 

「大丈夫、君らなら、エクセレクターならきっとやり遂げてくれる。わしらが、いや世界中の人間が君らに全てを託して応援する。それに応えたいなら胸を張っていざ行け、さあ!」

 

「そうだ、ジャック、メリーの仇を取ってくれ!それをできるのは君達しかおらんのだ」

 

「ああ、そうだ!頼む、どうか世界中の命を守ってくれ!」

 

「君達ならできる、これまで活躍してきた力を存分に揮ってくれ!」

 

全員から嘆願と激励、応援を受けた三人についに変化が。

 

「……確かに俺達がやらなければ……アイツに対抗できるのはエクセレクターしかないっ」

 

「アタシ達が負ければ世界は終わる……」

 

「それを阻止するためにマナ達は……!」

 

瞬間、スイッチが入ったかのように三人のやる気は一気に最高に達し、エクセレクターの出力もそれに応じて急上昇していった。

 

「やるぞ二人共、俺達はここまで来て負けるわけにはいかないんだ!」

 

「ええ、アタシ達地上人類の底力を見せてやりましょう!そして皆の命を絶対に救うのよ!」

 

「ジョナサンや早乙女さん、マリアさん、いや死んでいたの皆の仇を晴らしてやるからっ!」

 

再び全力で戦うと誓った三人はすぐさまゼオ・ランディーグの目の前に移動、対峙して互いを睨み合うように威圧しあっている。

 



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最終話「アダムとイヴ」②

するとゼオ・ランディーグから再びテレパシーが入り込んでくる。

 

『ここで戦い続けては地球が汚れる。貴様らにとっておきの決着場所へ招待してやろう』

 

「なっ!?』

 

瞬間、二機は瞬間移動をしたのかそこから姿を消してしまう。

 

「エクセレクターが北極圏からロストしました。同時に巨大な反応も同じく――」

 

「なに、彼らは一体どこ行ったんじゃ!」

 

――神隠しのように突然竜斗達の反応が消えて狼狽し出す司令部。果たしてどこに消えたのであろうか。

 

「こ、ここは?」

 

「ち、地球が見えるけど……まさかっ」

 

「宇宙空間……っ」

 

真下に自分達の住む青き星、地球が見える。

 

「き、キレイ……」

 

こんな状況にも関わらず三人はそれぞれ宇宙から見るのが初であり、その光景に目を奪われている。

 

「もしかして月じゃない……?」

 

横を見ると遥か先に灰色の衛星、月があるのが分かる。どうやら月軌道上の宇宙空間のようである。

 

『ここなら思う存分戦えようぞ。では始めようか、器に宿るゲッター線の化身と対抗する者の最後の決着を――』

 

このためにご親切にも自身の力でここまで運んでくれたのか。

 

「粋なことしてくれるじゃない、しかし絶対にお礼なんか言わないから!」

 

 

――真っ暗で真空状態のこの空間で対面する、この地球において最強で対極同士の二機は、互いの持つ信念をかけた一騎打ちの時を訪れるのだった。

 

「いくよ二人、これが俺達の最後の戦いだ!」

「ええっ、地球のみんなのために!」

 

「それぞれ全力を尽くすのよ、そうすれば必ず勝てるから!」

 

「いや、何が何でも勝たなければいけないんだ!」

 

――僕達は持てる力を振り絞り戦った。相手はこの地球を造り上げた創造主であり、人工的とは言えいわば神のような存在、僕達のような『人間』とそれで造り出した兵器で勝てる見込みも確実ではない、いや五十パーセントあるかどうかというレベルだと思う。しかしエクセレクターと僕達の力以外に対抗できる手段はないし、それにより未来は僕達がかかっているのだ。そしてある意味では――神を相手に僕達の力が通用するのか、超えられるのかという問いに対する『挑戦』でもあったのだ――。

「竜斗、先にやらせて!」

 

「分かった!」

 

「頼むわマナミ!」

 

ついに戦いのゴングが鳴り、先に動き出したのはエクセレクターだ。オープン・ゲットでゲットマシンに分離して宇宙をかけながらアーバンダー、バミーロ、メリオスの順に並び、高速航行しながらそのまま直列合体、エクセレクター3へと変形した。

 

「マナからいくわよ!」

 

推進部を駆使し、ジグザグに移動し、ゼオ・ランディーグを翻弄しながら後部のウェポンラックからエリダヌスX―02を取り出して、すぐさま構えてエネルギーチャージを開始。

 

「これでも喰らいなさい!」

 

エネルギーチャージが最大まで完了した瞬間に、サーチモードで自動的にロックオンしてトリガーを引いた瞬間、ゼオ・ランディーグの腹部に大穴が開いた。

 

「いけたの!?」

 

期待する愛美だったが、なんとゼオ・ランディーグの大穴がエクセレクターの変形時のように、ミクロ単位で表皮が造られていき見る見る内に塞がっていく――。

 

「マナミ、次はアタシにやらせて。リュウト、いい?」

 

「いいよ!」

 

「じゃあ任せたわよエミリア!」

 

再び分離して三機のゲットマシンは広大な宇宙を駆けていく。今度はメリオス、アーバンダー、バミーロの順に直列に並んだ。

 

「いくわよ!」

 

合体に成功してエクセレクター2に変形した。

 

「ドリル・ビームシーカー、シュートゥ!」

 

シーカー・ラックボックス、背部の各シーカー、そして左腕のドリルが一斉に飛び出して幾科学的な変則移動でゼオ・ランディーグに一気に近づいて包囲網を組む。

 

「フルバースト!」

各シーカーによるビーム、ドリルによる休ませる暇もない飽和攻撃が始まった。ゼオ・ランディーグは触手を振り、追い払おうとしている。

 

「はああああっ!」

 

その時、エクセレクター2はドリルのない左の腕から百メートルあるかどうかの巨大な複合エネルギーによる光の剣刃を発振し、串刺しにしようと突撃してきている。ゼオ・ランディーグは全ての触手をエクセレクター2に向けて、ヴェクサリアスを集中攻撃した光の針を高速連射して迎撃をしてくるがエミリアは臆せず、超高速スピードに乗りながらジグザグ移動で避けて飛んでいく。

「これで!」

 

複合エネルギーの剣先がついに捉えて、ゼオ・ランディーグを串刺しにして押し込んだ。

 

「アタシ達はアンタを絶対に許さない、必ず倒してみせるんだからあ!」

 

怒りと恨み、そして地球上の全員の希望を乗せて、気合いを入れて更に押し込んでいく。

 

『――甘いな』

 

「!?」

 

右側の一つの触手が前に向けてピクっと動かした時、突然エクセレクター2は突発的に生じた凄まじい衝撃波により遥か後方に吹き飛ばされていった。真空状態なので絶えず縦回転するエクセレクター2だが、エミリアのレバー操作ですぐに体勢を整える。

 

「全く効いてないみたいに見える……っ」

 

「やせ我慢……いや、ちゃんとダメージ入ってんのっ?」

 

傷一つもなければ痛がる様子も全くなければゼオ・ランディーグに不死身なのかと疑問になるエミリアと愛美に竜斗はすかさず喝を入れる。

 

「諦めないで、とにかく相手を休ませないように攻撃を続けるんだ!」

 

「けど……っ」

 

「攻撃をしていれば何かしら変化はあると思う」

 

「その根拠はどこから出てくんのよ!」

 

「確かに何も効いてないように見える、けどアイツは結局、惑星規模で創造できるような強大な力を持っていたとしても本物の神でもなんでもない、人工的に造られたものだっ」

 

つまりいくら文明の進んだ異星人が造った超科学の産物だとしても、結局は『人』が造った代物に過ぎないだと言うことだという彼の見解に二人はなるほどと納得する。

 

「次は俺がいくよ!」

 

「分かったわ、頼んだわよリュウト!」

 

「チームリーダー、期待してるわよ!」

 

すかさずオープン・ゲットで再び合体を解いてゲットマシンに分離、すぐさまバミーロ、メリオス、アーバンダーの順でエクセレクター1への合体変形態勢に入った。

 

「二人共、アイツの真後ろで合体するんだ!」

 

竜斗の指示を仰ぎ、ゲットマシンはゼオ・ランディーグの真上を通過したすぐに降下して高速で合体、エクセレクター1へと変形した。

「これでどうだ!」

 

ゼオ・ランディーグの背後をとったエクセレクター1がすぐさま腹部を抱えこみ、高出力のエクセレクタービームを放射して押しとばしていった。

黄金色の光線が流星のような綺麗な一筋を描きながら真っ直ぐ照射していく。

 

「!?」

 

しかし、エクセレクター1の真横に吹き飛ばされたはずのゼオ・ランディーグが現れて触手で捕縛し、そのまま一直線で押し込んでいく。

音速域を遥かに超えた速度でゼオ・ランディーグはエクセレクター1を月にまで押し込んでいき、月面に到達して灰色の巨大クレーターの中心に激突させた。

 

 

「うわああっ!」

 

「きゃあああっ!」

クレーターに叩きつけられた衝撃で悲鳴を上げる三人にゼオ・ランディーグは情け容赦なく押し付ける。

 

『――弱い、あまりにも弱すぎる。ゲッターとはこの程度だったか、弱体化したのか。それとも我々が修復期間の間に強くなったのか――どちらにしろ肩透かしを食らったような気持ちだ』

 

何故か触手を離したゼオ・ランディーグは上から見下すようにエクセレクター1を見つめる。

 

『それが全力か、冗談はやめてくれないか?』

 

テレパシーを通してナメた態度で挑発するゼオ・ランディーグに我慢がならない竜斗達。

 

「うるさい……まだまだ俺達はやれる、行くぞ!」

エクセレクター1はすぐさま背中から二本の砲身を取り出して、リバエスターランチャーを展開した。

 

「二人共、最大出力だ!」

 

三人は右足元の出力ペダルを同時押しして複合融合炉のリミッターを解除、出力値が最大に上昇、過剰なエネルギーが機体を構成するゲッター合金と科学反応を起こし、機体が真っ白に光輝きだした。

 

【リバエスターランチャー、セット。バスターガンモード、オン――】

 

エクセレクター1は飛び上がり、ゼオ・ランディーグにランチャーの砲口をくっつけた。

 

「これならどうだ!」

 

リバエスターランチャーから膨大な複合エネルギーの塊が噴き出して瞬く間にゼオ・ランディーグは呑み込まれた。

『なにっ!?』

 

エクセレクター1からの最大出力、更にリバエスターランチャーに搭載した小型増幅器二基によって生み出された、恐らくは超新星爆発並のエネルギーの光線は怒涛の勢いで遥か彼方の宇宙にまで延びていった――。

 

「ど、どうだっ」

 

ランチャーからエネルギーの放出が収まり、息を呑む三人は前を見据えるとそこにはゼオ・ランディーグがあれだけのエネルギーを受けたにも関わらずデビラ・ムーと違い、消し飛ばされておらず身を抱え込むように耐え抜いていた。しかし、

 

「あれ、き、効いてる?」

 

ゼオ・ランディーグの身体中が酷く焼け焦げたような冗談、触手が左右合わせて三本、そして右足などの身体の一部が欠損しており、先ほどと違い自己修復をしていない。流石のゼオ・ランディーグもあの想像を絶するエネルギーの塊では余裕とはいかなかったようである。

 

『くっ、自己再生機能が壊れたか……おのれ……っ』

 

そう言い捨てるとゼオ・ランディーグは何故か、背を向けて去っていく。どこに行くのか三人は不思議がって目で追うと、去っていくゼオ・ランディーグの先にあるのは地球。宇宙空間で決着をつけると言っておきながら疑問になるが、段々と嫌な予感に駆られる三人……。

 

「まさかアイツ……っ」

 

「地球に戻ってみんな滅ぼす気……っ?」

 

「竜斗、早くアイツを追うのよ!」

 

感づいた三人は想像して猛烈な寒気と共に顔が真っ青になる。

もしそうならこうしてはいられまい、複合融合炉がレッド・ゾーンに入っているにも関わらず無視してエクセレクター1は直ちにゼオ・ランディーグの後を追っていく。

「逃がすか!」

 

「早く、リュウト!」

 

「あいつを先に地球に降下させてはダメよ!」

 

切羽詰まった三人とエクセレクター1はフルスピードで飛ぶが一時的とは言え、エネルギーが切れかかっているため思うようにスピードが出ない。

 

「こ、これじゃあ追いつけない!」

 

このままではゼオ・ランディーグと距離が縮まらず、間に合わないと思う中、エミリアはこう切り出す。

 

「リュウト、すぐにオープン・ゲットしてエクセレクター2に合体するの!」

 

「な、なんでだよ!」

 

「エネルギーがない状態のエクセレクター1じゃスピードが出せない、エクセレクター2ならエネルギーを最小限で直線的なスピードならきっと一番速いと思うから!」

 

「エミリア……っ」

 

エミリアのその意外な発想に二人は拍子抜けするが、確かにこれならと二人は納得し頷く。

 

「けどこのままじゃ大気圏突入しながらの合体になる、絶対に危ないよ」

 

「けどやるしかないでしょ、もしアイツがこのまま地球を滅ぼす気なら絶対に間に合わないわ。だからアタシに賭けてみて、お願い!」

 

「…………」

 

これで失敗すれば間違いなくゲットマシンは空中分解を起こして三人共お陀仏となるだろう、それを想定すると竜斗は戸惑う。

 

「竜斗、やりましょう。これしかないわ」

 

「だけど……」

 

「アンタはエミリアのカレシでしょ!だったらカノジョのやることを端っから信じてみなさいよ!」

 

「愛美……」

 

彼女から説得を受けた竜斗は少し間を開けた後にコクっと頷く。

 

「分かった、エミリア、頼むよ!」

 

「ありがとうリュウト、任せといて!」

 

「フルスロットルでキメるわよ!」

 

ゼオ・ランディーグは大気圏突入していき地表へ降下していく。その後ろからエクセレクター1がすぐさまゲットマシンに分離して大気圏突入していく――。

 

「ぐっ!」

 

突入時の猛烈な降下速度で膨大な熱で機体が真っ赤になり、更に空気圧で機体がキジギシといつ壊れるか分からないほどに激しく揺れるゲットマシンはすぐさまメリオス、アーバンダー、バミーロの順に並ぶ。

「地獄への急降下みたいだ……っ」

 

「いや、天国かもね」

 

「どれも違うわ、地球への、そして未来へのエレベーターよ!」

 

三人は気を集中して、そして成功を信じて互いを信頼し、そして同調した。

 

《チェインジ!エクセレクタァァァァァ、トゥ!》

 

彼女の渾身の叫び声が響き、それに応えるより次々に合体していき成功、エクセレクター2へ変形してドリルを前に突き出して隕石のように遥か下へ降りていった――。

 

「エクセレクター、そして敵の反応をキャッチ。この基地の上空にいます!」

 

アメリカ大陸、しかもちょうどテキサス基地の真上に到着したゼオ・ランディーグのすぐ後に、やっとエクセレクター2が到着する。

 

「追いつけた……」

「うん……」

 

「ちょっと死ぬかと思ったけどね……」

 

息を切らす竜斗達。エクセレクターに気づいたゼオ・ランディーグは踵を返してこちらをじっと見てくる。

 

『ほう、あれだけ距離があったにも関わらず我々に追いついたか。その努力に対して褒めてやろうぞ』

 

「な、なに……!?」

 

『敬意を評して、今からお前達に素晴らしい光景を見せてやる』

 

ゼオ・ランディーグは今まで使わなかった右手を今になって天にかざし上げたのだ。

 

『もうこの際いちいち殲滅せず、また一からやり直しと新たな生命を造り直すとするか。また途方もない時間がかかるがな――』

 

「え……っ!?」

 

振り上げた右手が下へ向けて全力で振り込まれた瞬間、地上全ては真っ白な光に包まれた――。

 



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最終話「アダムとイヴ」③

この地球のありとあらゆるもの全てが白色光の中に呑み込まれて消えていった。人、動物、自然、建造物、世界各地で長い時をかけて築き上げてきた文明全てが地球の創造主たるゼオ・ランディーグの右手の一振りによって全てが消されていく、何もかも……まるでソドムとゴモラを滅ぼしたような天の光のように。

竜斗達はその光の前に茫然自失しており、そして地上では何が起こっているか分からない。

 

「ああ…………」

 

「な、何が起こったの……」

 

「え、えっ……?」

しばらくして地上の光が収まった後、地上を見ると何もかもがなくなっておりただの荒野と化してしたのだ。

 

『これで地球上のありとあらゆるものはリセットされた――』

 

「な、なんだって……?」

 

そうテレパシーを通じて伝え、三人は理解できるはずなどなかった。

 

『今、この地球上にいるのは貴様らと我々となってしまったワケだ、残念だったな』

 

彼らはすぐにテキサス基地に、何度も連絡を取ろうとするもノイズばかりで全く応答せず……。

 

「うそだ……そんなの嘘だァァァ!!」

なりふり構まず三人は酷く狼狽しながら通信をかけるも全く応答せず……。

竜斗達は慌ててすぐさま地上に降下していくも、段々とその地上が見えてくるがその光景から感じるのはもはや絶望でしかなかった。

 

「ない……何もない、基地も、建物も、街も、人も、動物も……何もない、ない!!」

 

テキサス基地の真上にいたのは三人も理解していた。しかし地上にはただの焦土しかなく全てが消し去っていた。

それでも信じられない三人は、すぐにそこから離れてエクセレクター1に変形、世界各地を飛び回り、無事な場所があるかどうか探し回るがどこもかしこも全ての大陸は焦土と化しており、完全なる退廃的な空気で誰も生きているような感じがしなかった。

 

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だうそだうそだうそだああああああ!!!」

 

竜斗は『嘘だ』という言葉をひたすら喚きたらし、エミリアと愛美からはもはややる気などなくなっており、凍りついたように固まっていた。だがそこにゼオ・ランディーグが姿を現し竜斗達の前に立ちふさがる。

『まだ信じられないか?我々は仮にも惑星を創造できるように造られたんだぞ、なら惑星の全てをリセットすることも可能なわけだ』

 

話が本当なら間違いなく、事実上世界は滅んだことになる。だがそんな惨いことをやっておきながら平然とそう言ってのけるゼオ・ランディーグに理解できなかった。

 

「……な、なぜ……なぜだあ!!?」

 

『創造主だからだ。これまで地球上に存在した全ての命は我々が造り上げたものだ、なら生かすも殺すも我々が決めること』

 

……静寂しきったこの地球上の空で竜斗、エミリア、愛美はどうしようもできず途方に暮れる。今までなんの為に戦ってきたのか……爬虫人類と共存し、そして平和な世界で生きていくことを願い、そのために信じて戦ってきたのに待っていたのは完全なる地球の終焉、最悪の結末であった。

『心配するな、我々がまたこの地球に新たな生命を生み出してやる。もうあのような失敗作やお前達のようなイレギュラーな生物を生まんためにな』

 

失敗作、イレギュラー……まるで自分達を物扱いのように軽く扱うその言葉は彼らの逆鱗に触れた。

 

「うあああああああっっっ!!!」

 

激昂した竜斗はトマホークを取り出して、この傲慢の極致の存在へ振りかざしながら突撃した。

 

「許さない、今俺がお前をぶっ倒してやる!!!」

 

暴走して突撃してくるエクセレクター1にゼオ・ランディーグは避ける、防ごうどこれか、全く動こうとしなかった――果たして、その結果は。

 

 

 

 

「がっ…はあ………っ」

 

急接近したエクセレクター1へ背中の残った残りの触手が瞬時に前へ突き刺し……エミリアのコックピット付近を貫いたのだ。

 

「エ、エミリアァァ!!」

 

彼女の痛みのこもった声を聞いた二人はすぐさまモニターを覗いた。

 

「大丈夫かエミリア!!?」

 

「アンタ大丈夫!!?」

 

二人の問いかけに彼女はヘルメットをつけた顔をゆっくりと上げて小刻みに頷いた。

 

「う、うん。あ、アタシ、大丈夫だからっ」

 

「本当か?」

 

「う、うん……っ」

 

だが、彼女の下腹部横が酷く抉られており、おびただしい血が流れ出ていた――そして世界を滅亡させた右手をエクセレクターの方へ向けるゼオ・ランディーグはまさに勝者の如く振る舞うのであった。

 

『次はお前達の番だ、このまま大人しく諦めれば、痛みや苦しみを感じさせずに消してやる。

我々もまたお前達の痛手を被ったが今のお前達を如きを消し去ることは容易い、その後でまた新たな地球そのものを創造開始する。

フフ、我々はついに長い時を経てゲッター線に勝てるのだ、あれほど悲劇と苦痛に苛まれてきた我々が強大な力を持つゲッターを相手についに!!』

 

勝利を確信して高笑いするゼオ・ランディーグ。だが――。

 

「ふ、ふざけるなあ……お前達なんかにこの地球を……俺達の好き勝手にさせるもんかああ!!」

 

「はああああああっ!!」

 

「うああああああ!!!」

突如、スイッチが入ったのように雄叫びを上げる竜斗達、それに呼応してエクセレクター1の出力がリミッターを解除していないにも関わらず突然と最大、いやそれ以上に振り切れた。

 

『なに……っ』

 

その天使の翼を高らかに広げて、過剰となったエネルギーが噴き出して白光に包まれた。

 

『な、何だと……これもゲッターの成せることなのか……』

 

まるで、解いてはいけない封印を解いてしまったかのような、突然と再び力が漲っているエクセレクター1。

 

「二人とも、全力でいくよ!」

 

「うん、いいよ」

 

「ええっ!」

 

もう守るべきものがないはずなのに、絶望しきっていたのに、再び発起する三人――それは彼らが捨ててはならない最後の最後の意地のようなものであった。

「オープン・ゲット!」

 

ゲットマシンに分離して、三機は散開しながら空を高速に飛び交いゼオ・ランディーグを翻弄する。

 

「先にマナから行くわ!」

 

アーバンダー、バミーロ、メリオスの順で並んだ、そして。

 

《チェンジっ!エクセレクタースリィッ!!!》

 

合体してエクセレクター3になった途端にエリダヌスX―02、メガ・ドーヴァー砲、そして車体部に搭載した二十発の核ミサイルが飛び出して、ゼオ・ランディーグに照準を合わせた。

 

「行くわよ、全弾一斉発射!!」

 

エクセレクター3の内蔵火器、ミサイルによる史上最大の花火が打ち上げられた。メガ・ドーヴァー砲の弾頭、エリダヌスX―02からの複合エネルギー弾、そして『戦略核』級のミサイル二十発をゼオ・ランディーグに撃ち込まれて、この一帯は全てに火に染まり宇宙空間からでも簡単に確認できるほどの広がりを見せた。

『ぐお!?』

 

全てを焼き尽くし破壊するほどの火力をマトモに受けて呑み込まれていくゼオ・ランディーグ。だがこれで終わりではなかった。

 

「オープン・ゲット!!」

 

すぐさま分離して、核の光から離れていくゲットマシンは遥か空に上昇していく。

 

「次はアタシの番よ!」

 

ゲットマシンはすぐさまメリオス、アーバンダー、バミーロの順に並んだ。

 

《チェインジ!エクセレクタートゥッ!》

 

エクセレクター2に変形し、エミリアはすぐさま今形態のみが使用できる強化システム『MFS(ミラージュ・フォーミュラ・システム』発動のパスワードを打ちこんだ。

 

「ドリル・ビームシーカー、行くよ!!」

 

過剰な出力によるエネルギーが噴き出して、同じく真っ白に発光した全シーカーが飛び出し、ゼオ・ランディーグへ飛び交っていき神速でビーム、ドリルによるハリネズミの針のような四方八方、隙間のない飽和攻撃を繰り出した。

 

『ぐああっ!!』

 

絶え間ない攻撃でついに悲鳴を上げたゼオ・ランディーグにエクセレクター2が左手から巨大な複合エネルギーの剣刃を発振、全速力で突っ込んできた。

 

「はああああっ!!」

 

白光の刃は見事、ゼオ・ランディーグの身体を貫く。

だがそれでは終わらず、エクセレクター2はそのまま勢いに乗って、ゼオ・ランディーグを貫いたまま遥か上空へ飛翔していく。

 

「オープン・ゲットゥ!」

 

再び分離したゲットマシンはさらに上空へ上がっていく――。

 

「竜斗、トリはアンタに任せたわよ!」

 

「うん!」

 

そしてバミーロ、メリオス、アーバンダーの順に縦に並び、次々と合体していく。

 

《チェェェンジ!エクセレクタァァァッ、ワン!!》

 

竜斗の気合いの入った雄叫びと共に合体成功したエクセレクター1は間を置かずリバエスターランチャーを展開し右手ぐっと握りしめると、なんとゼオ・ランディーグへそのまま全力投射した後、瞬間移動でどこかへ移動した。

 

『なにいっ!』

 

多大なダメージを被り、怯んでいたゼオ・ランディーグに投げ槍のように勢いよく飛んできたリバエスターランチャーの砲口が身体に突き刺さり、さらにランチャー内に溜まったエネルギーがビームとなって放射、ゼオ・ランディーグを後方へ押しとばしていくが、その後ろにエクセレクター1が腹を抱え込み、エクセレクタービームの発射態勢に入っていた。

 

「これが俺達の力だ!!」

 

腹を突き出すと、レンズを通して炉心直結から出力最大と化した光線が発射された。空間を歪むような過剰のエネルギーの塊が見事ゼオ・ランディーグを捉えたが向こうも右手を突き出してビームの直撃を防ぎに入った。

 

『ぐ、ぐお……!!』

「はあああっ!!』

 

竜斗とゼオ・ランディーグ、倒そうとする力、食い止めようとする力が対峙する。

 

「更に出力を上げてくれみんな!」

 

「も、もう……上がらない……っ」

 

「あと一息なのに!」

 

あともうすぐで撃破できると確信した三人は何とか出力を上げたい。だがエミリアは抉られた腹からの出血多量でもはや目が虚ろになっており、意識が消えかかるもそれでも最後まで気を抜かなかった。

 

(リュウト……マナミ……アタシもうダメみたい……けど最後まで頑張るからね――)

 

そしてリミッターなしによる炉心の出力が最大状態が機体に無理を言わせており、ガタガタと揺れはじめて内部には小規模の爆発が起こり始めている。

 

 

「頼むエクセレクター、力を出してくれ!」

 

もう少しだから、最後のお願いだからと一心に頼み込む竜斗達。その時、

 

『力が欲しいか?』

 

「!?」

 

竜斗の元にとある声が響き渡る。

 

『力が欲しいのか?』

 

ゼオ・ランディーグとは違う別の何かの声が彼の脳内に囁かれる。

 

「だっ、誰だ?」

 

『私はお前達の一番身近にあり、そして遠い存在。太古の昔、この星に降り立ち霊長類、つまりお前達に期待を寄せて力を貸してやったというのに何というザマか』

 

「何だと……、だから一体誰なんだアンタは!」

 

頭ごなしに語りかけるこの謎の存在に苛立つ竜斗。

 

『お前達の言葉で言えばゲッター線、といえばいいのか?』

 

「げ、ゲッター線……だと……?」

 

突如、あのゲッター線からなどと、ふざけているのかどうかも解らない謎の主の声に困惑する。

 

『石川竜斗、お前は選ばれないながらによくやったよ。

あの時に警告をしたはずだったんだがな、「適応しないお前に……この力を扱う資格はない」とな』

 

「!?」

 

竜斗はその言葉にハッとなる。エリア51の夜間戦闘中に聞こえたあの謎の声からの言葉、その声質に聞き覚えのあった竜斗はに思い出していき、そしてついに確信した……。

 

『お前達には酷く失望した、一番適応すると言うことで期待を込めて、そして信用して高度な進化という輝かしい力を与えさせた結果が、結局破滅の道へ進んだことがな――私の力を弄んで複合エネルギーなどとふざけたことを……やはりこちらも失敗作だったというワケか』

 

「なんだと……?!」

 

ゼオ・ランディーグ同様に傲慢さを表すこのゲッター線に竜斗は嫌悪感を示した。

 

『だが、これまでのお前達の努力を評して私から再び力を与えよう――目の前にいる私の力に耐えられず逃げ出した負け犬を倒して、そしてお前達が、この地球において新たな始祖として繁栄するのだ』

 

そう上から目線で指示するゲッター線に竜斗は顔を真っ赤にして怒り狂う。

 

「ふ、ふざけるな!!考えてみれば、こんなことになったのは……元はと言えば全てお前のせいじゃないか!!

何が目的か知らないけど地上人類も爬虫人類も、そして他の星々の運命や命を、全てを弄んだお前を、俺達は絶対に認めない、許さないからな!!!」

 

拒絶する意志を示した竜斗にゲッター線は呆れたようにため息をつくようだった。

 

『――どうやら、私はお前達に力を与えたのが間違いだったようだ、とんだ時間の無駄だったな。

仕方ない、私の力に適応する新たな生命を見つけにいくとするか――』

 

それを境にもう声がしなくなり、現実に帰される竜斗。気づいた頃には目の前には爆発の煙が広がっており、ゼオ・ランディーグの姿がどこに見えない。

 

 

「竜斗、ついにアイツをやったよ!!」

 

どうやら自分達の力が勝り、ゼオ・ランディーグをビームが貫いて爆発したと、愛美が喜びを伝えるが彼は複雑な表情を浮かべている。

 

「う、うん……」

 

「どうしたの?」

 

「い、いやなんでもないよ……」

 

後味の悪い会話だった。果たしてあれは現実だったのかそれともただの自分の幻覚だったのか……。

「あれ、エミリア?」

 

そう言えば彼女だけは全く乗ってこない、気になった竜斗はモニターを見ると……。

 

「え、エミリア……?」

 

彼女はレバーを握り締めたまま首を落として俯いている……。

 

「エミリア……エミリア!!」

 

心配になった竜斗は慌てて彼女を呼びかけるが全く返事をせず、まるでただの人形のように力無く俯いている。

 

「アンタどうしたの!!」

 

愛美は慌ててモニターを切り替えて生体反応を見るが全くない。彼女は一気に顔が真っ青となった。

 

「エミリア……まさかアンタ……死んだの……っ」

 

と、口走ると竜斗は自身を忘れて、泣きじゃくりながら彼女の名を呼び続けるが、彼女はもはや彼の呼びに答えることはもうなかったのだ……。

 

「エミリア……なんで……なんで……お前まで……っ」

 

彼女の亡骸を見つめながら涙と鼻水で顔面がグシャグシャとなる竜斗。

 

「……マナ達が何か悪いことしたっての……いくらなんでも酷すぎじゃない……っ」

 

地球が滅び、さらには仲間であり家族であり、そして竜斗と相思相愛だったエミリアまでも失い、絶望の底にたたき落とされた二人はもはや顔をうずめて途方に暮れている……だがその時、彼らの目の前にもはや見る影目もないほどにボロボロと化したゼオ・ランディーグが化して現れたのだ。

 

『き、貴様らだけでも道連れにしてくれる!』

 

下半身と左腕がなく、完全に醜態な化け物と化したゼオ・ランディーグはもはや創造主とは言いがたい形容だが執念の塊と化して再びエクセレクター1に立ちはだかった。

 

「り、竜斗、アイツが、アイツが!」

 

彼女は慌てて彼を呼ぶがもはや彼は自失しており、動こうとする気配はおろか返事をする気配もない。だがこうしている間にゼオ・ランディーグが迫ってきており、なんとエクセレクター1の右足を右手で掴んだ。

 

「きゃあああっ!」

 

残りの触手までも絡みついてきて地上へ引きずり落とそうとするゼオ・ランディーグと共に落下を始めるエクセレクター。

 

「うわあっ、まだ生きてる!」

 

流石の竜斗も我に帰り、墜落していることに気づき、直ちにレバーを握り込み、振り払おうとするが機体の出力がほとんど入らなず最低になっている――。

 

「なんで動かないんだよお!」

 

 

「それがマナのアーバンダーのゲッター炉心が全停止してしまってるの、どうしてよ!」

 

ゲッター炉心……もしかして自分があのゲッター線のなんやらと会話した時、拒絶したからか……だが、今はそんなことを考えている時間はなく、この状況を脱するか考えるかだが、どうやら向こうの方が力が強く、レバーをガチャガチャ押し込んでも離れない。このままじゃ、ゼオ・ランディーグと共に地面に叩きつけられてしまう。すると愛美は突然何かを閃いて彼にこう言った。

 

「……竜斗、よく聞いて。今からエクセレクターをマナから合体解除するからアンタだけ逃げなさい!」

「何だって……愛美はどうするんだ!?」

 

「アーバンダーの炉心が全く動かないから内蔵の予備電源じゃもう逃げれないし墜落だけじゃこいつを倒せると思えない。

だからメリオスを自爆させてこいつにトドメを刺す、エミリアには悪いけどね――」

 

「は、はあ!?」

 

「ごめんね、どうやらマナも終わりの時が来たみたい……」

 

自分が犠牲になって倒すから逃げ延びてくれという発言に仰天する竜斗は当然、それを拒否する。

 

「そんなの嫌だ、だったら俺も一緒に!」

 

「竜斗まで一緒に来たらダメ!もしかしたらまだ地球上に生きてる人がいるかもしれない、だからアンタは生きて人を探すの!」

 

「そんな…………っ」

 

「もうそれをできるのはアンタだけしかいない、だからもし生きてる人が困ってたら助けてあげて!」

 

愛美は内蔵の予備電力が無くならない内に緊急合体解除、そしてメリオスの自爆装置を発動させた。

 

「竜斗、アンタは本当に強くなった。マナ達がいなくても絶対にやっていける。だから少しでもチャンスがある限り――竜斗にはこれからも生きててほしい、それがマナ達ゲッターチームの願いよ!」

 

次の瞬間、エクセレクターからバミーロだけが分離されてメリオス、アーバンダーは合体したままゼオ・ランディーグと共に地表へ落ちていった。

 

「マナミィィィィィっ!!」

 

数十秒後、落ちていった位置に爆発が起こり、ついに愛美のとゼオ・ランディーグの生体反応も消えてしまった――。

「なんで……俺だけ……なんで、俺だけ……なんで――生かされるんだ……っ」

 

……本当に残酷であった。自分達はこれまで何をしていたのだろうか、なぜこうにも自分だけ生き残らされるんだ……こうなるのなら、こんな結末なら自分はあの時死んでおけばよかったと、ある意味『呪い』とも言える自身の運命を凄く恨んだ――。

 

 

……あれからどれだけの時間が立ったのだろう。墜落現場付近に降りた竜斗はバミーロから外に出て、荒野と化した大地にただ一人倒れ込んでいた。

 

(もう疲れた……二度と俺に明日などこないでくれ)

 

全てを失い、心身共ズタズタにされた竜斗にはもはや生気がほとんどなく、今すぐにでも死にたいとばかり考えていた。

当たり前である、竜斗達の頑張りや犠牲が全てが無駄になったのだから――誰がこんな結末を望んだ、自分達はなんのために苦労をしてきたのか……その時、墜落現場付近から何か人間の形をしたモノが現れて竜斗へ走るように近づいてくる。次第に姿が見えるに連れて、それが誰なのかがよく分かった。

 

「リュウトさん……リュウトさぁん!!」

 

何と、ジャテーゴと共にゼオ・ランディーグに呑み込まれたゴーラであった。

どうして助かったのかは分からないが、ボロボロの囚人服姿の彼女はバミーロに近づいていくとその付近に竜斗が倒れ込んでいるのが分かり、すぐに駆け寄り抱き起こした。

 

「リュウトさん、リュウトさん!」

彼女は必死に揺さぶり、声をかけると彼も反応してついにその疲れきった瞳を開けた。疲れ切り、老けたような酷い顔に虚ろな瞳だが次第に視界がはっきりするとゴーラの姿が入り、彼もやっと彼女だと認識した。

 

「ゴーラちゃん……ゴーラちゃん!?」

 

「目覚めてくれたのですねリュウトさんっ!」

 

すると竜斗に生気が戻り、飛び上がるように起き上がると、彼女を強く抱きしめて嗚咽した。

 

「ゴーラちゃん……エミリアも、愛美も……みんな……みんな……死んでしまったよお……」

 

「リュウトさん……っ」

 

彼からゾッとするほどの哀しみ、痛みが伝わり十分理解した彼女も涙を流し、そして互いに分かち合ったのだった。

二人はもう誰もいなくなった広大な大地に立ち、地平線の彼方を分けもなくずっと見つめている。

この全て滅び去った地球上に唯一残された、種族の違う二人の男女が世界の終末に立ち会っている。それはまるで神が最初に想像したアダムとイヴのように――。

 

 

――僕は出会った。あのおとぎ話に登場する鬼のような姿をした、強大な力を持つ機械仕掛けの巨人『ゲッターロボ』に。

僕の日常が一変した。

あの時、死んだ方が楽になれたのかもしれない。ゲッターロボとの出会いは……まさに後の僕らにとって生き地獄になりうるモノだった――。

 

 

~Fin~

 



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あとがき

『ゲッターロボ―A EoD―』というこの作品、いかがだったでしょうか。

明らかな稚拙の文章、そしてこれまでのゲッターロボとは思えないような内容や要素ばかりでしたが、なぜこんなストーリーになったのかを、そしてテーマは何なのかを、このあとがきを通じて伝えたいと思います。

 

まず、元々自分だけのゲッターロボは前から書いてみたかったんですが、自身は他人と同じことをするのは嫌いなへそ曲がりです。

よく公式、二次創作界隈におけるゲッターロボには固定概念(石川賢風、竜馬達初代ゲッターチームが絶対的な風潮など)が溢れているため全て取り払い、一新したかったことにあります。

そこで考えたのは石川賢のゲッターロボとは真逆の設定で書いてみようと思ったわけです。

そうなるとまず、ゲッターロボの登場人物は結果的に、

 

・センスなどはあるが元から超人ではなく生身では非力で戦闘できない、だんだんと成長していくキャラクター。

 

・やむえず戦うがあくまで和平、共存ができるならそうしてほしい、戦いたくないと考える主人公。

 

・熱くない、なよなよした甘チャン人間達。

 

・ゲッター線に選ばれない主人公。

 

・ゲッターキック、パンチ、トマホークなど近接格闘戦よりライフル、ゲッタービームなどの飛び道具による高速、射撃戦闘が得意のキャラ

 

になってしまいます。ファンの人には「それもうゲッターロボでやる意味なくね?」と思われますが、それはそれでゲッターロボでやるのは斬新なんじゃないかなと思いまして、それを意図的に組み込んだのが竜斗達です。

 

自身は少女漫画やレディコミを見て育った人間でこの作品はそういったジャンルの要素を参考にして書いたつもりです(やたらと濡れ場などが多く、そこまで持ち込もうとしていたのはそのため)。

 

 

実は某所でゲッターロボ(正確にはチェンゲ)とライフ(おめーの席ねえから!と言うドラマのセリフで有名な、いじめを主題にした少女漫画)とのクロスオーバー小説を書いたことがありまして(完結済み)、それを完成させた後に『ライフの主要キャラ達でゲッターチームとしてロボに乗らせれば面白いんじゃないか』と考えたことが全ての始まりです。

あのクロス作品は書いていて凄く面白かったですし。

 

というわけで、竜斗達はライフの主人公や他の主要キャラをモチーフにしています。

 

竜斗はライフの主人公である、イジメの被害を受けてしまう女子高生、椎葉歩と途中で仲良くなる男子、薗田優樹というキャラを足して2で割ったキャラクターで、最初は気が弱く愛美にいじめられていたという側面を持つが、ゲッターロボに乗ること、仲間を通じて段々成長していく異色の一号機乗り。非童貞でメガネ系男子(設定上、実は話の合間にレーシック手術を受けているため、多少は視力はよくなっている。ちなみに早乙女が負担)。

動物で例えるなら何となく『ハムスター』とかの小動物系。

 

タイプは万能型。ゲッターロボや様々なロボットを難なく乗りこなすが器用貧乏。ゲッター1パイロットとしては異色の射撃戦に強く、近接攻撃は苦手なキャラクター。逆境に強く実は指導者としての才能を持ち合わせ、ある意味では隼人と共通点が多い一号機乗り。

 

立ち位置は『光として物語を作っていく存在』で物語の核心であるゲッター線に選ばれないながらも最も深く関わり、この戦禍の混沌とした世界で光明のような存在で、成長しながらその持ち前の優しさで爬虫人類との友好の架け橋に最も関わる人物。

 

 

エミリアは立ち位置的にライフの主人公、歩の精神的支えとなった主要人物、羽鳥未来をモチーフにしています(性格や容姿、ポテンシャルは全く違うが、努力家で主人公を支える存在という要素を持つ)。

そして、外国人がゲッターロボのパイロットになるという設定を前から考えていたので色々と他の要素を組み合わせて誕生したのが彼女だったりします。

そのおかげで大元の羽鳥とは似つかないキャラクターになりましたが。

タイプは努力型。不器用で三人の中で一番精神的に弱く、良いも悪いも女の子でありくじけたり弱音も吐いたりするがそれでも必死に努力してついていく健気で優しいけど、どこかズレていて少しお茶目なヒロイン気質のそばかす娘。竜斗一筋である

武器名を叫ぶ、ある意味では一番ゲッターロボの主人公に一番近い二号機乗り。動物で例えるなら『犬』。

立場は「主人公達を精神的に支える癒し系的存在』でプラズマエネルギー担当(高い安全性イコール『優しさ』の象徴)。

彼女の名前であるエミリア=シュナイダーとは以前書いていたドラえもんのオリジナル小説に登場したオリキャラと同じ名前でありますが、性格や容姿は全く違います。つまり名前だけの流用です(理由は正直考えるのが面倒くさかったからと何となくその名がしっくり来たからです)。

 

 

愛美のモチーフはライフにおいて主人公、歩を幾度に渡って苦しめた悪役、安西愛海です。

色々吟味していますが、初めは主人公をイジメ、陥れようとする腹黒、実はかまってちゃんでセックスイコール愛と考える危険人物。

友達が沢山いると思っていたが、向こうからは単なる金づるとしか思われておらず寧ろうざがられていた模様。

ぶりっ子であり、おバカそうに見えて実はクレバーな性格でチームの中では姉のような存在で一番頼りになる。

口当たりはキツいが自分を大事にしてくれる、認めた相手にはどうにかしてあげようと手を尽くしてくれる性格。

彼女が三人の中ではゲッター線との相性が一番良く、力を最大限に引き出せる持ち主。

 

タイプは天才型。本家の弁慶と同タイプ。三号機乗りでありながらポテンシャルはチーム内ダントツ。アグレッシブで自信過剰、高飛車。敵を躊躇なく倒せる最強の三号機乗り。動物に例えるなら『猫』。

 

立場は『主人公達を(色んな意味で)成長させる存在』で、愛と情熱、破壊の象徴であるグラストラ核エネルギー担当。 本家では主要キャラなのに途中からかなり不憫な立ち回りだったので救済措置として、せめてこの世界で主役張らせてあげたいなという思いがありました。

 

 

早乙女のモデルは実は少女漫画からではなく、007ことジェームズ・ボンドをイメージしてます(各歴代俳優の持ち味、要素を組み込ませている)。

立ち位置的にゲッターチームのお父さんであり、その非常に高いポテンシャルと指揮能力を駆使して竜斗達を導き、そして陰から支えるが、ゲッター線の魅力に惹かれて追い求める裏主人公的存在。

 

 

マリアについては、元は早乙女と同じく007シリーズからマネーペニー的な女性像(イメージ的は二代目マネーペニー役だったキャロライン・ブリスと三代目のサマンサ・ボンドを足して二で割ったような感じ)。

イギリスの名家出身の元軍人で早乙女にも劣らぬ才女であり、美人で母性的優しさを兼ね備えたゲッターチームを支えるお母さんのような存在だが怒らせると実は誰よりも怖い。

 

このゲッターチームを家族のようなものとして死線、喧嘩などの様々な苦難を共に乗り越えながらも徐々に友情を団結力、そして愛を育んでいけたらなと思う気持ちで書いていました。

黒田やジェイド、ジョージ、ジョナサンは竜斗達ゲッターチームの上位互換的な存在であり、それぞれ日本、アラスカ戦線編での彼らの成長に関わり、頼れる先輩的存在として書き、そしてジョナサン以外は途中退場前提のキャラクターとして出しました(特筆すべき点はジョナサンは愛美と同じ三号機乗りの立ち位置でありながら一番最後まで生き残ったこと、これは原作と大きく違うところですね)。

 

最終後継機のエクセレクターとはそんなゲッターチームが乗ってこそ真価を発揮するように設定しました。つまりゲッター線最強な事はしたくなかったわけです。

 

敵について、なぜ恐竜帝国にしたかと言うと、今作のテーマに関係します。

そのテーマとは、

 

『ゲッター線は人類を贔屓する節があり、それは様々な作品でもいわれている。ならその逆もあり得るのでは。つまり「ゲッター線が人類を見限る」場合も考えられるんじゃないのか?」

 

と、考えてました。

石川賢先生がもういないし結末は見れない、他作品でも『俺達の戦いはこれからだ』になってしまう……。

 

そこで考えたのは、

・この作品内として完結するゲッターロボ

 

・ゲッター線ではなく、『ゲッターロボ』として、そして世界観を広げたい作品にしたい(実はMSVのように本編に出てこないが設定上にはゲッターロボのバリエーション、SMB、メカザウルスが無数に存在する)。

 

・最近のゲッターロボ作品で前面に出している、『ゲッター線とは何か?』よりも人間関係、特にゲッターチームの友情や団結を前面的に押し出したテーマ。

 

・根底は生きるために、そして愛すべき者のために戦うこと。

 

知る人ぞ知るロックバンド、Janne Da Arc(今は休止しててボーカルがAcid Black Cherryというソロプロジェクトでやってますね)の『KissMe』という曲があるんですが、実は物語のテーマの一つとして組み込んでたりします。

爽やかなメロディラインで歌うのが恥ずかしいくらいの甘酸っぱい歌詞ですが、この作品のテーマでもあります。

生きるためと言うのは先ほどあげた少女漫画『ライフ』のオマージュであり、どんな苦難や辛い目にあっても乗り越えて生きていく主人公の生き様を書きたいと思ってました。

 

敵については、ゲッターロボって最近ではスケールがデカすぎても収拾つかなくなるのでそれなら地球圏内を舞台にしよう、そして『愛』が関わることで敵と和解できそうな(結局できなかったですが)初代の敵勢力である恐竜帝国を選び、結果的に無印のリメイクになりますが、ストーリー展開は基本的にファンから評価の高い石川漫画版ゲッターロボ號を下敷きにしています。そこはオリジナルゲッターでありつつもファンサービス的な要素を持たせようと思いました。

今作の爬虫人類は本家よりも自分なりに掘り下げようとして色々設定を組み込みました。

ゼオ・ランディーグによってゲッター線を滅ぼすために創造された種族であり、進化していずれはゲッター線に耐性を持つつもりがその途中、地球に気まぐれでやってきたゲッター線のおかげで失敗作で終わってしまった、地上人類はその時の恩恵を受けて進化した種族である設定。

爬虫人類にはDNAにゲッター線を忌み嫌い、憎悪する因子が組み込まれているが全てに行き届いておらず、その因子を持たない者も少なからずおり、ラドラやゴーラ、彼女の母親であるミュアン一族が例である。

ラスボスについては、本当は本家に登場した謎の存在、大魔人ユラーを出そうとも思っていましたが色々考えた結果オリジナルラスボスになっちゃいました。しかしユラーがラスボスならそれはそれで新たな展開を書けたのではないかと悔しい気持ちでございます。

 

今回のゲッターロボについては前半~中盤は一人乗り用、終盤は従来と同じくゲットマシンによる合体変形というアニメ版ゲッターロボ號初期のような体制を取ってますがその理由は、ゲッターロボを書くに至って『尺の都合もあると思うけどゲッターロボに乗るキャラクター達は唐突に合体変形を使いこなせるのはおかしい』と考えたからです。ならそれまでに至る過程(操縦技術、経験、チームワークの確立)を書いてみようと考えました。

 

一人乗り用のゲッターロボから従来のゲッターロボと同じ合体変形で完成する最終後継機であるエクセレクターに何とか持っていけたと思います。

 

各一人乗り用ゲッターロボは拡張性を重視した設定でこちらはストライクガンダムやインパルスガンダムなどをモチーフにしています(何故かは後述で)。

エクセレクターの設定は真ゲッターロボなどのような強さともに鬼、悪魔ともイメージのゲッターロボと真逆の要素として、ゲッターロボに優しさを込めて天使をモチーフにしてみました(上記のテーマ曲である『KissMe』の歌詞からも由来しています)。

あと竜斗に悪魔、鬼のイメージに似合わないですからね。

 

他においても、エンペラーを覗き最強のゲッターロボと唱われる真ゲッターロボとは真逆の要素を組み込みました。

例えば、真ゲッターはゲッター線を最大限に生かそうと開発され、その結果オカルトな面に走った機体に対し、エクセレクターは戦火渦巻く混沌とした世界を平和へ導くものとして全世界の科学技術を結集して開発された結果、人類の叡智の域を逸脱してない状況で真ゲッターロボと同等の性能を持つ機体がエクセレクターです(一応、どちらも全てを終わらすために作られた存在、出力次第でマントから翼が変わるという意味など色々共通している部分もありますが)。

なので各武装も真ゲッターはシンプル且つ一撃が強力なのに対し、こちらは多彩な兵装をもって敵を圧倒するという要素を持っています。

 

メカザウルスについては設定的に非常に埋もれてはいけないような凄い魅力的な要素を持っていると思い、性能、各武装も念密に考えました。

基本的に自分は一部を除いて神話などから名詞を引用しません、つまり造語が大好きな人間でメカザウルスなどの名前は基本的に頭の中に思い浮かんだ言葉をそのまま使ったり、組み合わせて作ってます(ゼクゥシヴとかルイエノやらランシェアラなど)。

誰も考えないような名前ほど異生物、異文化、異言語の恐竜帝国の名詞にふさわしいだろうと思います。

 

 

スーパーロボットもさることながらガンダムやボトムズやコードギアスなどの有名なロボット作品からのアイディアも色々取り入れておりビームライフルやローラーダッシュ、騎士を模した機体があるなど。ゼクゥシヴシリーズに至ってはコードギアスのランスロットが元ネタです。

タイトル名の『A EoD』とはA Eternal of Distinyの頭文字で取った名です。

このゲッターロボ作品の構想は実は『機動戦士ガンダムSEED Distiny』の放映中に遡ります。

その時はゲッターロボSEEDという、恥ずかしいほどに身も蓋もない名で考えてました(笑)。その証拠に、

 

・普通の人間VSチェンゲのゴウみたいにゲッター線を浴びせられて誕生した新人類

・状況に合わせて兵装を変えるゲッターロボ

 

・親友が敵対して戦わざるえなくなる物語

 

・最後はビット兵器搭載でフルバーストするゲッターロボに乗り換える主人公

 

……などなど、明らかにSEEDをゲッターロボに置き換えたような物語でした、当時は。

 

そして、その構想もあきて終わるんですけど最近になって、最初にいったように、悪くはないですが最近の同じような設定ばかりに溢れたゲッターロボの作品を目の当たりした自分は「ならここいらで自分が一発、一味違ったゲッターロボを書いてやるか」と、その以前に構想したゲッターロボの設定を掘り返して、そしてもう一度練り直して書いたのが今作品です。なので、ゲッターロボやキャラクターにはその名残りが多く表れてます。竜斗は良いも悪いも色々とキラやシン、アスランに似てる部分がありますからね(笑)。

 

 

 

ラストの展開はゲッター作品至上で救いのないバッドエンドになりましたがこれは書く前の構成段階ですでに決めてました(テーマがテーマなんで)。

つまり、最初から破滅の道だったわけで、物語にちょくちょくあった竜斗のモノローグ部分は、全てを失い失意のままラストを迎えた彼の追憶なんですよね。

竜斗達には本当にかわいそうなことをしたなと思いますがこれもテーマを途中で変えないためでもありますし、あともう一つの理由に彼を絶対にゲッターロボの最終系であるゲッターエンペラーに絶対に合流させないために全てを終わらせたかったこともあります。ちなみにチェンゲもゲッター線を捨て去るという決意をした上で一応はハッピーエンドなんでじゃあこっちはその逆にしよう、と。

自分は創作物には良し悪しにも関わらず我が息子のように扱います。

確かに途中で辞めたくなることも沢山ありますしこの作品も幾度なくエタろうかとも考えましたが、作品を放り出してはせっかく愛を奏でて下手ながらも育てた息子が可哀想だ、そこは筋を通すべきだと思い直し、結果はどうあれ何がなんでもこの物語を一応完結させることができました(他作品も同じような感じで大体完結させてます)。

 

最後に一言、未熟さゆえに試行錯誤や誤字、脱字は長編のために沢山ありますが、曲がりなりにもゲッター作品として考えられる、行き着く一つの結末の書けたのではないかと満足の思いでございます。

 

『2016年3月21日、はならむ作』

 



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設定集(ゲッターロボ編③)

■エクセレクター

元々はゲッター計画本来のコンセプトとして一番最初に試作開発されたが技術、資金不足もあり、開発が難航して一端打ち切られた(そのデータを元にし、簡略化されて造られたのが竜斗達の乗っていた三機のゲッターロボ)。

だがシベリア戦線にて三機とも破壊されたうえ(ルイナスのみ中破)、猛攻化した恐竜帝国に対し、早乙女率いるゲッター計画のプロジェクトチームとニールセン、キング他、世界中の各専門のエンジニアが結集し、そして世界中の科学の粋を集めてこの未完成品を完成させた、SMBの集大成にして最強のゲッターロボ。

ゲッター計画の真意は『単機でいかなる状況や地形にも対応し且つ、戦略兵器級の圧倒的戦闘力を持って劣勢な戦況を覆す』であり、それを突き詰めた結果、操作性などがゲッターロボとは全くの別物となったがこれまでの機体とは比較にならないほどの超性能を誇り、その出力は計測不能レベルにまで達している。

リクシーバ合金にゲッター線を照射したことで柔軟性が更に強化されて形状記憶性とエネルギー伝導性が追加された『ゲッター合金』に変化した。

ゲットマシンと呼ばれる、その合金製の三機の戦闘機が直列合体することにより初めてゲッターロボとなり、さらに各ゲットマシンの配列によってそれぞれ空戦、陸戦、海戦型の三タイプのゲッターロボに移行、単機で空陸海全てに対応できる恐るべき機体となった。

それどころかSMBの原型である惑星探査機としてのコンセプトも含まれているため宇宙空間の運用にも対応している。

各ゲットマシンに搭載されている動力源が異なり、一号機『バミーロ』にはグラストラ核反応炉、二号機『メリオス』にはプラズマ反応炉、三号機『アーバンダー』にはゲッター炉心(どれも新型モデル)が搭載されており、合体することによって三基の動力炉の機能が複合融合炉へと変わり、膨大な出力を生み出すことができる。

 

欠点は『三機の戦闘機が直列合体することで真価を発揮する』という特性のため、各搭乗者達の息の合った連携力、チームプレーが確実になければならないこと、つまりそれがなければ合体にすら持ち込めない。そしてコストパフォーマンスもこれまでの機体と比べ物にならず、修理用のパーツも特殊であるためまさに『最終兵器』の名に相応しいワンオフ機である。

名前の由来はゲッターを超えるという意味(Exceed+getter)の造語である。

 

 

●エクセレクター1

全高:30m

重量:250t

型式番号:SMB―EXGR01S

分類:新型ゲッターロボ空戦型

動力:複合融合炉、複合エネルギー駆動エンジン

装甲材:ゲッター合金

出力:未知数(計測不能)

移動兵装:ゲッターフェザー

他兵装:リバエスターランチャー

 

エクセレクターの第一形態で空戦型。パイロットは引き続き石川竜斗。

ゲットマシン・バミーロ、メリオス、アーバンダーの順に直列合体することでこの形態が完成する。

ゲッターウイングのデータを元にした『ゲッターフェザー』と呼ばれる天使の翼の形状をした新型フライトユニットを搭載、瞬間移動のような移動ができるなど機動力が驚異的に増した。

各武装については空戦型ゲッターロボの物をベースにしているが、新武装『リバエスターランチャー』を装備。火力が桁違いに上がっている。

 

●武装

・ゲッタートマホーク改×4

形状は空戦型とあまり変わりないが出力強化と共に、トマホーク自体の強度を向上したためビーム・ブーメランとして投擲が可能になった。

 

・ゲッタートマホーク・ビーム・ブーメランモード

アルヴァインのビーム・ブーメランと同様、リフレクタービーム機能も搭載している。

 

・ハンディ・ビームシューター×2

両前腕部内蔵の小型複合エネルギー砲。ビーム・シリンダーやハンディ・プラズマキャノンの最終系であり複合エネルギー弾により威力、連射性、射程が大幅に増した。これだけで従来のメカザウルスを一掃することができる。本機の主武装。

 

・エクセレクタービーム

腹部から発射する大出力複合エネルギービーム砲でゲッタービームの最終系。炉心直結からのビームであるため凄まじい出力であり、発射すれば通過だけで周りの空間が捻れるほどである。

 

・ゲッターフェザー

ゲッターウイングを発展させた新型フライトユニット。その構造は網目状のゲッター合金の骨組みに複合エネルギーを流し込み、化学反応を起こしてまるで白銀色に発光するマントを形成、さらにエネルギー力場を発生させ身を防護するシールドの役目も果たす。

出力の度合いで形状が代わり、高出力ではそれが天使のような翼となり神々しい姿となる。

瞬間移動すら可能となる恐るべき機動力を持ち、地球上でこれ以上のものは存在しないレベルに達している。

 

◆リバエスターランチャー

ゲットマシン・バミーロの二連装のビーム砲、合体時はエクセレクター1の背中に装備される新型武装。

バレルと銃身の2つに分かれており、それぞれ直列に連結させることにより使用可能。

シングルショット、ディヒューズ、ビーム、バスターガンの四つのモードを持ちランチャー内に二つの小型増幅炉を搭載しているため飛躍的に高めたエネルギーにより、戦略兵器レベルの桁違いな威力を持つ。

ゲッターフェザーと同じくゲッター合金性であり、本体のどこの箇所を軽く持つだけでもランチャー内のENパックに供給可能という性質を持ち、さらにコックピットからの発射操作であるためこれを利用し変則的な射撃モーション可能となり、たとえ手放したとしても遠隔操作で発射可能。

どのモードでも間違いなく地表には撃てないほどの過剰な破壊力を持つ。

 

●各モード

・シングルショットモード

従来のライフルと同様のシングルショット。ただし一発一発が戦術核級以上という破格の破壊力を秘めている。

 

・ディヒューズモード

高密度の複合エネルギーを前面全てに向かって放射する。その影響範囲は扇状で拡散し、射程距離は数光年、威力は全てを消し飛ばしてそして天変地異まで起こせるレベル。つまり複合エネルギーで放つイデオンガンのような物。

 

・ビームモード

エネルギーを一点方向に絞り、ビームとして発射する。威力は惑星を貫通する威力を持つ。

 

・バスターガンモード

機体の全エネルギー出力を最大限に上げて放つビームモードの強化版。第二次シベリア戦線にて使用し、デビラ・ムーもろとも巻き込んで宇宙空間へ飛び抜け遙か先の未開惑星に直撃、そして粉々に破壊するほどの絶大な破壊力を秘めているがゆえに機体のエネルギー消耗が甚大であるためセーフティロックが常にかけられている。解除には三人の出力ペダルの同時押しが必要となるシステムであり、間違いなく地上に向けて撃てない。

 

・オープン・ゲット

合体を解除してゲットマシンに分離する。別形態へ再合体を行うと共に緊急回避にも使用できる。

 

▲ゲットマシン・バミーロ

エクセレクターを構成するゲットマシン一号機でエクセレクター1のメイン機となる。パイロットは竜斗。パーソナルカラーは薄紫と白。

鋭角的なデザインで竜斗の戦闘スタイルに反映されて三機の中で一番機動力に優れておりステルヴァーに勝るに劣らない高度な空中戦闘機動を可能にしている。動力は新型グラストラ核反応炉。

フォルムはエンデ型でありステルヴァーの試作機であるリリエンタールの意匠が色々見られる機体である。

 

●武装

・30mm機銃

機首部に装備。各ゲットマシンの標準装備。

 

・2連装ビーム砲

機体上部に装備。本機の主武装。固定式ではなく脱着可能でありエクセレクター1変形時には背中に装備され、それぞれを直列に連結することでリバエスターランチャーとして機能する。

 

●エクセレクター2

全高:32m

重量:250t

型式番号:SMB―EXGR02G

分類:新型ゲッターロボ陸戦型

動力:複合融合炉、複合エネルギー駆動エンジン

装甲材:ゲッター合金

出力:未知数(計測不能)

移動兵装:フロートユニット

他兵装:ドリル・ビームシーカー、MFS

 

エクセレクターの第二形態で陸戦型。パイロットはエミリア=シュナイダー。

ゲットマシン・メリオス、アーバンダー、バミーロの順で合体することで完成する。

ルイナスの発展系で各武装もそれに踏襲しているが各性能、特に機動力は比べものにならないほどに上がっており、フロートユニット搭載により陸上での速度は形態中で最高。

総合的火力は他形態より劣るがエネルギー消耗率は形態で一番最小で抑えられてる上陸戦に置いてはこちらの方が効率がよい。陸戦型ではあるが低空飛行及び、短期間の高空飛行は可能である。

 

●武装

・シーカーボックス

右腕にある小型ドリル・ビームシーカー収納ラックで計10機搭載している。

ゲッター合金を使用しドリルモードとビームモードに変形でき、ルイナスのより遥かに高性能化。遠隔操作も可能となった。

 

・大型ドリルアーム改

自律回路搭載によりドリルシーカーとして射出も可能となった。先端部に無数の孔がありそこから拡散ビームを発射できる。ちなみに今機のドリルはビーム発射器の緩衝器であり、リミッターに過ぎない。

 

 

・高出力複合エネルギー・ビームソード

ドリルのない状態でも戦闘できるよう搭載された斬撃武装だが寧ろこちらが本領。

左腕から最長で五千キロ以上のビーム刃を発振する(MFS発動時にはさらに伸びる)が長さの調整は可能。

 

・大型ドリル・ビームシーカー×6

後部にある六つの羽根のような細長い針状の無線式自立兵器。小型と同じようにドリルモード、ビームモードに変形でき、遠隔操作が可能となった。小型と共にフルバースト射撃が可能となった。

 

・MFS(ミラージュ・フォーミュラ・システム)

エクセレクターに搭載されたシステムであるがメリオスにこのシステムが搭載されているため、作動できるのはメリオスがメインとなるこの形態のみで他形態では作動しない。

複合融合炉の出力を一分間だけフルブーストさせ、さらに機体の全性能を飛躍的にアップさせるシステム。

発動した際、過剰なエネルギーによる暴発を防ぐために全身からエネルギーを放散させ、その時は機体全体が真っ白に光る。各シーカーもこのシステムが適用され性能が大幅に上がる。

 

・オープン・ゲット

他機への変形及び、緊急回避に使用する。

 

▲ゲットマシン・メリオス

エクセレクターを構成するゲットマシン二号機でエクセレクター2のメイン機となる。パイロットはエミリア。パーソナルカラーは白。

三機の内、最も性能のバランスが取れた機体で操縦面に関しても扱いやすい機体であり、これは彼女に合わせて調整されている。

動力は新型プラズマ反応炉。この機体のみ『MFS』を搭載されている。

 

●武装

・30mm機銃

機首部に装備。各ゲットマシンの標準装備。

 

・シーカーボックス

機体上部に装備。エクセレクター2変形時にはそのまま右腕に移動する。ゲットマシンでも使用可能であるがプラズマエネルギー駆動であるため合体時より性能は大きく劣るがそれでもルイナスに装備されていた物よりは高性能である。

 

 

●エクセレクター3

全高:18m

全長:28.5m

重量:250t

型式番号:SMB―EXGR03A

分類:新型ゲッターロボ海戦型

動力:複合融合炉、複合エネルギー駆動エンジン

装甲材:ゲッター合金

出力:未知数(計測不能)

移動兵装:大型バーニアスラスター二基、小型アポジモーター二十基、スクリューユニット

他兵装:グラストラ戦略核ミサイル、エリダヌスX―02、メガ・ドーヴァー砲

 

エクセレクターの第三形態で空、海戦型。パイロットは水樹愛美。ゲットマシン・アーバンダー、バミーロ、メリオスの順で合体することで完成する。

他形態で唯一二足歩行ではなくなり多数の推進器を搭載した戦車型になり、水中ではサブマリンユニットとなり水中、海上、空中での巡航が可能になった。

メガ・ドーヴァー砲、核ミサイル、ビーム砲、前作の改良モデルであるエリダヌスX―02等、機体の至るところに大火力兵器を積み込み極限化。その圧倒的火力はその場から動かずとも惑星全土を焦土に変えることができるほどに桁違いに上がっている。

 

●武装

・拡散フィンガービーム砲×10

指先に内蔵した小口径複合エネルギービーム砲。小型ながら威力は高い

 

・グラストラ戦略核ミサイルポット×20

戦略核兵器級の威力を持つミサイルを発射する。この形態のみグラストラ核エネルギーを同時に使用可能。

 

・メガ・ドーヴァー砲×2

フォールディング式で左右肩後部に搭載。ドイツ軍のシヴァアレスの700mmカノン砲の改良型で威力向上の他に速射性、耐久性が格段に上がっている。

 

・複合エネルギー対物ライフル改『エリダヌスX―O2』

前モデルと違い、マルチロックオンした対象物を全て同時攻撃が可能となり、射程圏が何と地球全土にまで跳ね上がったとてつもなく恐ろしい代物となった。

 

ニールセン曰わく『(強化を)やり過ぎた』とのことである。

 

・オープン・ゲット

他形態の変形、及び緊急回避に使用する。

 

▲ゲットマシン・アーバンダー

エクセレクターを構成するゲットマシン三号機でエクセレクター3のメイン機となる。パイロットは愛美。パーソナルカラーは黒、白色。

三機の内では大型でありゲッターミサイル、ビーム砲を装備しており火力、装甲に優れる。

動力は新型ゲッター炉であるがこれとは別に小型の新型グラストラ核反応炉が搭載されている。これはエクセレクター3の戦略核ミサイル用である。

上記のため、三機の中で一番重量があり機動力は低く扱いづらい機体であるが愛美の高い操縦技量でカバーしている。

 

●武装

・30mm機銃

機首部に装備。各ゲットマシンの標準装備である。

 

・大型ゲッターミサイル×2

左右主翼下部に装備。高いホーミング性能を有している。

 

・小型ゲッタービーム砲

機体下部に装備。新型ゲッター炉とチャージャーの恩恵を受けて高い威力のまま速射性に優れる。

 

■ヴェクサリアス

 

ベルクラスにテキサス艦の予備パーツを使い大改造を施した発展強化型。

動力も複合エネルギー機関となり大幅な出力と共にシールド、武装を強化を図っており更にシャイン・スパークと呼ばれる新攻撃システムを搭載している。

 

●各武装

・対空機関砲×50

ベルクラスの時と変更点はない。

 

・主翼部内蔵多連装ミサイルポット

こちらも特に変更点なし。

 

・四連複合エネルギービーム砲

艦首部左右舷下部に装備。プラズマビーム砲より遥かに威力は向上している。

 

・複合エネルギー主砲。

ベルクラスと同じく艦首部を展開して使用するが威力は比べ物にならないほどに上がっている。

 

・大型複合エネルギーシールド

複合エネルギー機関になったことにより強度が遥かに上がっており、並大抵の攻撃ではものともしなくなった。

 

・最終攻撃システム『シャイン・スパーク』

ヴェクサリアスに新しく搭載したシステム。複合融合炉をフル稼働、暴走させてエネルギーの塊と化して体当たりを加える謂わば特攻同然の攻撃システム。

遠隔操作では発動せず、かならずメインコンピューターから手動で行なわければならず、これを使用すればまず生きて帰れない奥の手である。

 



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設定集(メカザウルス編③)

●ジュラシック・フォース

恐竜帝国の計四人(最初は三人、後にザンキの加入で四人)の優秀キャプテンで構成された、帝王直属の少数精鋭部隊。

各人の戦闘力もさることながら、機体も従来型のメカザウルスを遥かに凌駕する専用機を持つ。

男性キャプテン三人(ザンキ、リューネス、クック)、女性キャプテン一人(ニャルム)で構成され、中の一人であるザンキはバット将軍の甥である。

 

●メカザウルス・ランシェアラ

全高:20.1m

総重量:192.3t

型式番号:MZG―251RC

分類:キャプテン・ザンキ専用陸戦用超高機動型メカザウルス

出力:255万馬力

装甲材:セクメミウス

動力:リューン・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

他兵装:マグマ・ヒートダガー、ルゥベルジュ・ハンドガン、リュイルス・オーヴェ

 

ジュラシック・フォースの一角を務めるメカザウルスでパイロットはバッドの甥であるザンキ=ル=エリュハウオ。リュイルス・オーヴェ搭載機。

キャプテン・クランの愛機であったメカザウルス・ルイエノをベースにしており、他のメカザウルスとは比べて小型であり、それを生かした超高速による機動からの体術と固定式ダガー、二丁拳銃を駆使した近接近戦を得意とする。

いわゆる『ガン=カタ』を使うメカザウルスであり、地上での機動力と運動性はベースとなったルイエノを凌駕する。

ザンキ自身の卓越した戦闘能力をフルに活かせるように操縦はマスタースレイヴ方式を採用している。

ランシェアラとは聖典ユイラに登場するレイグォールの一人、風を司る神の名から由来する。

 

●武装

・火炎放射

口から吐く高熱の火炎。主に不意打ちに使用する。

 

・マグマ・ヒートダガー×4

両前腕、両踵に取り付けられた実体短剣型マグマ兵器。マグマ・ヒートブレードと同じ原理で刃にマグマを循環させることで高熱を帯びた刃を形成する。

普段は両腕の肘、両太腿部に折りたたまれおり、使用する時は横に斜めに突き出るように展開する。機体の超機動、体術と相まって一瞬で敵をバラバラに溶断することができる。

 

・ルゥベルジュ・ハンドガン×2

二丁拳銃型マグマ兵器でルゥベルジュ・ライフルを小型化したもの。取り扱いに優れ変則的な発射モーションが可能であり、体術を合わせて『ガン=カタ』の動きで周囲の敵に成すすべさえ与えず蜂の巣にする。

 

・リュイルス・オーヴェ×3

メカザウルス・ウルスラの改良型であり思考能力とバリアの強度の強化を図っている。ジュラシック・フォース全機はこれを搭載している。

 

●メカザウルス・グリューセル

全高:23.5m

重量:210.8t

型式番号:MZE―125GC

分類:キャプテン・クック専用汎用型メカザウルス

出力:265万馬力

装甲材:セクメミウス

動力:リューン・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

移動兵装:翼竜タイプの翼、改良型ブースター二基

他兵装:マグマバルカン、ルゥベルジュ・ライフル、マグマ・ヒートブレード、リュイルス・オーヴェ

 

ジュラシック・フォースの一角を務める機体でパイロットはラドラの親友であるユバハ=ギ=クック。 リュイルス・オーヴェ搭載機。

外見と武装はメカザウルス・ゼクゥシヴに酷似しているが、それはオリジナルの二号機目であり、ガレリーがラドラの親友であるクックを讃えて同じ機体にしたという経緯を持つ。所謂『ゼクゥシヴシリーズ』の一つ。

リューンシヴ同様に性能を遥かに底上げし武装もオリジナルより追加されているため戦闘力は高く、隙が見当たらない空陸用の万能機。グリューセルとは『戦友』を意味する。

 

 

●武装

・噛みつき

原始的に噛みつき、敵を引きちぎる。しかしクックの性格上、使う機会のない武装である。

 

・マグマバルカン×2

小型マグマ弾を連射する火器。左右前腕部内蔵。

 

・ルゥベルジュ・ライフル

ゼクゥシヴの物よりバレルが短くなり、射程は落ちるが取り回しに優れる。

 

・マグマ・ヒートブレード

オリジナルと同型の物。

 

・ウイングミサイル

オリジナルの物と同様の兵器。

 

・速射式マグマ砲

右肩に装備するマグマ兵器。射程に優れる。

 

・リュイルス・オーヴェ×3

他機と同様の性能。

 

●メカザウルス・オルドレス

全長:28.5m

全高:12.1m

総重量:458.1t

型式番号:MZA―104OD

分類:キャプテン・リューネス専用砲撃用メカザウルス

出力:285万馬力

装甲材:セクメミウス

動力:リューン・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

他兵装:ミサイルポット、長射程マグマ砲、ルゥベルジュ砲、エオルス・メルライユ

 

ジュラシック・フォースの一角を務めるメカザウルスでパイロットはラドラと同じく平民出身のリューネス=メージェイシー。

トリケラトプス型の四足歩行角竜メカザウルスで長射程攻撃を得意とする火力重視の機体でリュイルス・オーヴェ搭載機。

名前と姿は全く異なるがメカザウルス・ウルスラの流れを汲む機体であり、砲撃戦に優れる。

オルドレスとは『弾薬庫』を意味する。

 

●武装

・長射程マグマ砲×2

背部前方に取り付けられたマグマ砲。

 

・背部ミサイルポット

背部後部に取り付けられたミサイルポット。

 

・ルゥベルジュ砲

頭部を展開して使用する大出力熱線砲。長時間の放射が可能。

 

・エオルス・メルライユ

背中に装備した特殊電波による妨害装置(ジャミング)。

半径50メートル内の敵機全ての計器類に対して異常を起こし行動不能にさせる機構。便利であるが効果時間は10秒間と短い。エオルス・メルライユとは『凍結』を意味する。

 

・リュイルス・オーヴェ×3

他機と同様の性能。

 

●メカエイビス・マーダイン

全長:68.5m

重量:1100t

型式番号:MAE―305MD

分類:キャプテン・ニャルム専用高機動型メカエイビス

出力:405万馬力

装甲材:セクメミウス

動力:リューン・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

移動兵装:大型バーニアスラスター3基、小型バーニアスラスター15基

他兵装:マグマバルカン、大型ミサイル、大口径マグマ砲、有線式マグマ砲、エミル・エヅダ

 

ジュラシック・フォースの一角で唯一のメカエイビス。パイロットは紅一点のニャルム・ニ・モトゥギュニ。

デザインが三又状と、これまでのメカエイビスと比べてかなり独特であり、巨体に反して、多数搭載したバーニアスラスターにより空中での機動力はアルヴァインと同等かそれ以上。

マーダインとはランシェアラと同じくレイグォールの一人、空を司る神から由来する。

 

●各武装

・マグマバルカン×2

主翼部中間下部に搭載。グリューセルのより口径は大きいため威力は高い。

 

・大型ミサイル×4後部上下に装備。アルヴァインを葬った。

 

・大口径マグマ砲

機首部に搭載。

 

・有線式マグマ砲×2

左右主翼部の先端に搭載。対象物に砲口を射出して突き刺してマグマ供給線を通して流し込む使い方をする。

 

・エミル・エヅダ

超温のマグマ熱を利用して発生させる超強力な熱波に指向性を持たせた兵器。

機体よりもパイロットに直接有効で人体発火するほど。エミル・エヅダとは『灼熱地獄』を意味する。

 

・リュイルス・オーヴェ×3

他機と同様の性能。

 

●メカエイビス・エルトラゴン

全長:120m

全高:55m

重量:11200t

型式番号:MAG―050ET

分類:新型メカエイビス(レイグォーシヴ用アーマーアタッチメント)

出力:500万馬力

装甲材:セクメミウス

動力:リューン・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター二基

 

北極圏での最終決戦にて最終防衛ラインの要としてラドラに与えられた最強のメカエイビス。

これ単体では操縦できずメカザウルス・レイグォーシヴをコアユニットとしてドッキングさせることで初めて使用可能となる。

ヒュージ・マグマリアクターを二基搭載し、『ヤマタノオロチ』と思わせるような八つの蛇の首を持つ。凄まじい出力、火力、そしてその巨体とは思えない驚異的な機動力に加え、全射程対応の兵器そしてリュイルス・オーヴェによる絶対防御と死角のない超性能を持つが本体のレイグォーシヴより大きく性能は劣る。

エルトラゴンとは『栄光』を意味する。

 

●武装

・大型マグマ砲×4

ヤマタノオロチのような八本の腕の内の4本から放たれるマグマ砲。

 

・大型ミサイルランチャー×2

左右側面に装備。攻撃の他に高密度の弾幕を張れる。

 

・大型マグマ・ヒートブレード×4

八本の腕の内に四本に装備。見た目に反して正確で近づく敵はどんな物でも真っ二つにされる。戦艦さえも容易く両断できる。

 

・リュイルス・オーヴェ×3

ジュラシック・フォース機と同様の物。

 

●メカザウルス・レイグォーシヴ

全高:25m

最大重量:405t

型式番号:MZE―RC01SSS

分類:ラドラ専用最新型メカザウルス、最終決戦用メカザウルス

出力:?(未知数)

装甲材:リベジュダール合金

動力:メルファイス・ドライヴシステム、ブレリオスリアクター

移動兵装:シェイノム・メリュンカー

 

他兵装:ティエンシィ・ライフル、エミュールブレード、エスカ・アズィーラ、セクペンセリューン・オーヴェ、リュイルス・オーヴェ

 

 

メカザウルス、エイビスの戦闘データを元にしてガレリーが開発した、ゼクゥシヴシリーズの最終系にしてメカザウルス、メカエイビスなどの恐竜帝国の兵器の集大成とも言える機体でメカエイビス・エルトラゴンのコアユニットでもある。

ゼクゥシヴにラドラの家系の象徴である黄金の全身鎧を装着し、背中にはシェイノム・メリュンカーと呼ばれる、天使が持つ純白の翼、そして光輪と左右計六本の円錐の柱が突き出るように装備され、まるで大天使のようなその姿はこれまでのメカザウルスとは一線を画するデザインでエクセレクターと類似した点をいくつも持つ。

最新型動力システムのメルファイス・ドライヴシステム、ブレリオスリアクターに加え、セクペンセリューン・オーヴェ、リュイルス・オーヴェ、エスカ・アズィーラなどの最新技術、そしてレヴィアラトの技術まで詰め込んだハイブリッドメカザウルス。

ゼクゥシヴをベースに操縦方法はランシェアラと同じく搭乗者の動きにダイレクトに反応するようにされているため、ラドラにはこれでもかと言うくらいに相性が良く他機を圧倒する力を持つ。

エルトラゴンは身を守る鎧に過ぎずむしろこちらが本領であり、性能ではこちらが圧倒的に上である。

 

メカザウルスの集大成にしてその総合的性能はこれまでのメカザウルス、メカエイビスを凌駕し、名実ともに最強最後のメカザウルスであるが、エクセレクターと比較すれば遥かに劣る。

レイグォーシヴとは『神々の騎士』を意味するが実は『断罪者』というもう一つの意味もある。

これはこの機体のモデルが、進化と闘争を司る主神ゼオ・ランディーグの従者でありそして最強のレヴィアラトである裁きを下す者『アムオンヌ』であり「諸悪の根源であるゲッター線に裁きの鉄槌を下す」役目を持つ、つまり対ゲッターロボ用最終兵器という意味合いも持つ。

 

●武装

・マグマバルカン×2

両手の篭手先に内蔵された火器でグリューセルと同等の物。牽制用。

 

・ティエンシィ・ライフル×2

レイグォーシヴ用に開発された新型ライフルでマグマ弾を発射するマグマモード、熱線を発射するルゥベルジュモードに切り替えることができ、セクペンセリューン・オーヴェと併用すると凄まじい効果を発揮する。

ティエンシィとは「万能」を意味する。

 

・エミュールブレード

背中装備の新型斬撃武装。

エミル・エヅダの技術が使われており刃から凄まじい熱量を放出し大熱波として全広範囲に攻撃することも可能。

 

・ペルゼン・ペゲルゼン

ライフル二丁を左右平行に連結し、さらにエミュールブレードを増幅炉として組み込むことで完成する大型ランチャー。

砲口から一大陸そのものを『溶かす』ほどの熱を放射する。名前の由来は聖典ユイラに登場するレイグォールの一人、火を司る神の名から。

 

・シェイノム・メリュンカー

新型のフライトユニットで白鳥の翼のような形状をしている。

レヴィアラトの技術による超能力を使い、増幅させた膨大な熱量を利用して機体の重量そのものを限りなく『ゼロ』に近づけることができる。その機動力は亜光速以上に達する。『天空の翼』を意味する。

 

 

・エスカ・アズィーラ×6

ゲッターロボに確実に勝つために、ガレリーによって開発された新型支援自律兵器でオーヴェシリーズの一つ。

緑色の結界を張り、爬虫類をより成長、強化させる特殊な放射線で満たすことによりその結界内にいるメカザウルスとパイロットの性能を飛躍的に上昇させる機能を持つが同時にパイロットも非常に負担がかかり最悪、死に至る諸刃の剣のような強化システム。爬虫人類語で『祝福の息吹』。

 

・セクペンセリューン・オーヴェ×8

 

装着する黄金の全身鎧の各スリット内に内蔵。

ジュラ・ノービスに搭載されていたセクペンセル・オーヴェの強化型。主に耐久性、機動力、範囲を強化されている。

ティエンシィ・ライフルの性能を増幅させる。

 

・リュイルス・オーヴェ×3

ジュラシック・フォースのよりさらにバリアの強度が上がっている。

 

・リベジュダール合金

レイグォーシヴが身に纏う黄金鎧に使われた新合金。地上人類と(形だけの)停戦協定を結んだ際に互いの技術をいくつか提供したが、これはその際提供されたSMBの装甲材であるリクシーバ合金をセクメミウスと合成させた物。

これにより高い強度と軽さを保ちつつも非常に柔らかくなりそれによりSMBのような高い運動性を獲得することに成功した。

 

●ゼオ=ランディーグ

全高:35m

重量:25000t

分類:全知全能神、地球の創造主、進化と闘争を司る神

 

 

爬虫人類が崇拝する全知全能の神でありシュオノペメルの聖典であるユイラによると、遙か太古にできたばかりの地球に舞い降り天地、生物、そして爬虫人類を創造し、爬虫人類に知性と力を与えた存在とされており、世界秩序と均衡のためにレイグォールと呼ばれる十一の神々を作り上げたと言われている。

 

実はマシーン・ランドより遙か一万メートル地下に安置されており、その正体は遙か太古、ゲッター線によって駆逐されて銀河系外宇宙から流れてきた高知能生命体の意思を詰め込んだ兵器でこれ単体だけで星や生物を作成する能力を持つ。

目覚めさせるには爬虫人類の王族二人をコアとして取り込む必要があり、ジャテーゴが復活の際、自身と無理やりゴーラを使った。

その目的とは未開惑星に降り立ちゲッター線に対抗できる種族を作り、時間をかけて進化を促すことにあり、それで完成したのが爬虫類をベースにした爬虫人類であり他の生み出された生物は爬虫人類に使役される存在として造られた。

しかしゲッター線が降り注いだのが想定外であり、自身もゲッター線に弱いため地下に隠れて力を蓄えることになるが皮肉にもそれで誕生したのが地上人類である。

つまりゲッター線に対抗するべく創られた爬虫人類がゲッター線によって進化した地上人類と相容れないのが真の理由。

全長はエクセレクターと同じであるが能力は桁違いで天地の力の差を見せつけ竜斗達を窮地に追い込む。

名前の意味は「我が、偉大なる父よ」でこれは爬虫人類が名付けた名前であり本当の名は分からない。

 

●武装

・破壊の右手

地球上全てをリセットさせる力を持ち右腕で、振るだけで地球上全てを崩壊させる力を持つ。

 

・再生の左手

破壊の右手の対称となる地球上全てを初めから作り出す力を持った左手。

特殊な人工放射線をばらき、そして生命を作り人工進化を促す力を持つ。

 

 

・触手×6

背中から生えた羽根のような六本の甲殻類のような触手で主武装。これだけで超能力を操り、強大な力を持って圧倒する。

 



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設定集(各SMB編③)

■骸鵡(がいむ)

全高:24m

重量:85.5t

型式番号:SMB―06GQ

分類:中国製陸戦型SMB

出力:125万馬力

装甲材:リクシーバ・チタン合金

動力:改良型プラズマ反応炉、予備用小型プラズマ反応炉、プラズマ増幅駆動エンジン

移動兵装:地上用推進車輪ユニット

他武装:プラズマ・エネルギーライフル、ミサイルポット、青竜刀

 

中国軍現主力SMBで茶色の甲冑を着込んだデザインを持ち、フランス軍のジャンヌ・ダルク同様に際立ったデザインを持つ。性能は各国のSMBの大差ない。

 

●各武装

・プラズマ・エネルギーライフル

各国の標準装備であり、威力はそこまでない。

 

・対近接機関砲×2

頭部に二門搭載されている。

 

・小型ミサイルポット

右肩に装備。四連発式。

 

・青竜刀

本機の特徴である巨大な近接武装。刃は高速振動させているため切断力は高い。

 

■ヴォルグ

全高:22.5m

重量:69.1t

型式番号:SMB―07VL

分類:ロシア製陸戦型SMB

出力:115万馬力

装甲材:リクシーバ・チタン合金

動力:改良型プラズマ反応炉、小型プラズマ反応炉(予備)、プラズマ増幅駆動エンジン

移動兵装:地上用推進車輪ユニット

他武装:プラズマ・マシンガン、高周波振動ナイフ

 

ロシア軍現主力SMBで骸鵡同様に陸戦型。BEETやマウラーのように無骨なデザインであり突出した能力はないがシンプルを突き詰めた堅実さを持つ。骸鵡と比べて機動力は高いのが特徴。ヴォルグとはロシア語で『狼』の意味を持つ。

 

●各武装

・近接機関砲×2

骸鵡同様、頭部に計二門搭載。

 

・プラズマ・マシンガン

ライフルより連射性を高めており収束性は優れているが撃ち続けていると銃身がオーバーヒートを起こす弱点を持つ。

 

・高周波振動ナイフ

アメリカ軍のハンドナイフと同型の物。内蔵電池式。

■ステルヴァー・インパルス

全高:25m

重量:81.1t

最大重量:140t(フル装備時)

型式番号:SMB―02STC

分類:アメリカ製空陸戦用可変式SMB、ブラック・インパルス隊員専用機

装甲材:リクシーバ・チタン合金

出力:250万馬力

動力:改良型プラズマ反応炉、改良型グラストラ核反応炉の複合駆動エンジン

移動兵装:地上用推進車輪ユニット、スラスター六基、ヴァリアブルモード

他兵装:複合エネルギー・ライフル、フォールディング・ビームランチャー

 

 

アメリカ軍ブラック・インパルス隊のステルヴァーの次世代機として制式採用された改良モデルであり、ジョナサン達ブラック・インパルス隊が搭乗。

複合エネルギー駆動と各性能の見直しを行ったことにより、遥かにスペックが底上げされている。

武装も追加、強化されているが核弾頭バズーカは使用不可となったため局地的な火力は下がっている。

 

●追加武装

・小型多弾頭ミサイル×30

左右バインダー内に各15発搭載。

 

・複合エネルギー・ライフル

これまで従来型ライフルの新モデル。複合エネルギー弾が使用可能になったことにより凄まじい威力を持つ。前機同様、戦闘機形態になった際に機首部も兼ねている。

 

・フォールディング・ビームランチャー

背中に装備した折り畳み式射撃兵装。大出力の複合エネルギーを使い、多数のメカザウルスを貫通、粉砕するほどの威力を持つ。



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各種設定集

()内はシュオノアーダ(爬虫人類語)表記。


■世界観

時代設定は西暦2060年前後で差異はあるが基本的に現実世界と変わらない歴史を歩んできている。

宇宙、兵器開発技術はかなり進んでおり、それがSMBの元になった惑星探査機がそれを立証しており太陽系のほとんどを探索し尽くしているが太陽系外に出れる技術はまだ持っておらず。

 

■用語設定

●恐竜帝国(エゥグリア・リンセェネ)

白亜紀以前の太古の昔に地上で栄えた爬虫人類の帝国であり、現在の地上人類以上に高度な文明を誇っていたが地球に降り注いだゲッター線の影響で地下に逃げることを余儀なくされた。

厳しい階級制度をもっており『王族』、『貴族』、『平民』、下民』の四つの階級に分かれている。納税制度あり、払えない一部の爬虫人類と地竜族は問答無用で下民に落とされてしまい、周りから蔑まれてしまう運命にある。

現在はマシーン・ランドという基地が彼らの王国となっている。

 

・爬虫人類(シュオノレゥル)

太古の昔、地上人類が現れる前から栄えていた爬虫類を祖先とした地球人類であり原住民族。地上人類と同等かそれ以上に知能が発達しており、それに従い感情や心情も全く同じである。

爬虫類をそのまま人間にした姿の者や半魚人、獣人、果てには地上人類に限りなく近い姿をした者もいる。彼らに共通するのは変温動物であり、長い間マグマの中で過酷な環境下で生きてきたために高温に強く寒気に弱くゲッター線に全く耐性を持たないため、浴びるとドロドロに溶けてしまう。

男性は黒髪、女性は大体ブロンドのような金髪が殆どであるが稀に茶髪や白髪などの者も存在する。

生殖器、交尾については地上人類と同一性を持つが卵生である。

始祖はロイフ、ギュルネイの男女二人とされ、禁断の果実を口にしたために天地を作り上げた主神の怒りを買い、永遠の楽園(ルペア・セイゼンネ)を追い出されたとされる。

王族や貴族にはミドルネームのような名を持ち、平民以下は持たないのが主流。

 

・地竜族(レィティヴ)

爬虫人類の中でも生まれながらに念動力やゲッター線耐性などの特殊な力を持つ一族。

所謂異能者でレヴィアラトの素体でもある。ニオンやクゲイクが地竜族である。

基本的に潜在意識下に隠れているため理性のタガが外れないと発動しないが、その特異ゆえに他の爬虫人類から怖れられ、今日までも迫害されて差別されているがジャテーゴだけは彼らを認めている。

 

・地上人類(アベアレゥル)

爬虫人類が地上から逃げ去った後に、ゲッター線の恩恵を受けて地上を支配した霊長類を祖先とした地球人類。

ゲッター線で進化したせいか耐性どころか適応しており、それが爬虫人類と相容れない理由ともなっている。

今作では地上人類の文明については爬虫人類が遺していった遺物に触れた影響であり、ある意味兄弟とも同種族とも言えるが上記の理由から互いに敵対している。

アベアレゥルという名についてはそのまま地上人類のことを指すが、同時に『薄汚いサル』という意味を持つ蔑称でもある。

 

・キャプテン(クイストル)

爬虫人類の貴族、または少ないながらも平民から選ばれる地上人類における『騎士』に相当する役職。基本的に選抜試験やこれまで成績で選ばれるが貴族が優先的になりやすい。

キャプテンになると小隊や中隊の指揮を任され、専用のメカザウルスも与えられるなどの利点がある。

しかし爬虫人類にもゆとり世代が存在し、最近では能力、または品性の欠けた肩書きだけのキャプテンも増えているのが現状である。

ちなみにキャプテンのさらに上には参謀、将軍があり、将軍ともなれば大隊の指揮を行えるようになる。参謀は将軍の補佐となる。

将軍に該当するのはバット、リョド、そしてクゲイクの三人である。

 

・シュオノペメル

爬虫人類の宗教であり内容は細部は異なるが教義は「神の啓示を受け、十戒を授かった爬虫人類こそが、万物の中で最も高き選ばれた存在」とされている。

 

世界各地の遺跡や遺物に記されたシュオノペメルを自分達なりでアレンジしてできたのがユダヤ教などの旧宗教、それから分かれたのが今日におけるキリスト教、仏教、イスラム教、ヒンドゥー教など地上人類の各宗教である。

 

・レイグォール

聖典ユイラに登場する神々の総称で、

 

・火の神『ペルゼン・ペゲルゼン』

・水の神『ズオシゥス』

・風の神『ランシェアラ』

・土の神『グルハンミャ』

・空の神『マーダイン』

・光と善の神『メルセクタ』

・闇と悪の神『ヤ・バーリアラ』

・知識の神『ソンマ・ガオルウ』

・愛の神『ルマハ・エリン』

・精神の神『アルニ・セオニ』

・時の神『グンジェス・セルマオ』

・進化と闘争を司る主神『ゼオ・ランディーグ』

 

の十二神によって世界の均衡が保たれているとされる。

実際はゼオ・ランディーグ以外の神々は存在せず、元々レヴィアラトがそれに当たる存在だったが素体が地竜族と言うことでそれを良しとしない者達がわざわざ存在しない神々をでっち上げて彼らをこき下ろしたというのが事実である。

メカザウルスの名や武装の愛称でこれらの名を例えて名付けられることもある。

 

・レヴィアラト

レイグォールにそれぞれ仕えていた従者、使い魔の総称。

それぞれ主の神には及ばないものの強大な力を持つ者ばかりだったとされる。

その正体は特殊な製法で造られた生体兵器(キメラ、ミュータント、あるいはホムンクルスのようなもの)であり、自然を操るほどに極めて強力な超能力を持つとされ、ラセツとヤシャはレプリカとされている(ヤシャは火の神、ペルゼン・ペゲルゼンの従者である屈強な勇者とされたミュマリア、ラセツは空の神マーダインに仕えていた魔術師グァバエリとされる)。

 

作成には超常能力を持つ地竜族を母体として、さらに王族の処女(つまりゴーラ)の血が必要となるため困難を極める。

ちなみにヤシャが一番最初に造られた存在であり、それの反省点を見直し、改良して造られたのがラセツであるため総合力でラセツがダントツに強い。

 

・ゲッター線(モリュテア)

宇宙線の一種で生物の進化に深く関わると言われているが定かではなく、殆どが謎に包まれた存在である。

恐竜帝国の戦争中に早乙女によって偶然発見されたが爬虫人類は遥か太古から既に存在がしれている。

プラズマエネルギー、グラストラ核エネルギー以上の基礎出力値が高く更に爬虫人類以外には人畜無害というこれ以上のない理想的なエネルギーでもあり、それを動力とするゲッターロボの名の由来でもある。

ちなみに今作は過去にも未来にもゲッターエンペラーは存在しない宇宙であり、適性の合う生物を探しに宇宙を奔走している。

 

・プラズマエネルギー

原子力エネルギーに変わる人畜無害なエネルギーであり、これにより世界技術の進歩に大きく貢献した。核動力より安定性があり、そして高い出力が生み出せるために信頼性が非常に高いが三種のエネルギーと比べれば出力は一番劣る。

 

 

 

・グラストラ核エネルギー

プラズマエネルギーでは力不足だと、アメリカ軍、特にニールセンの手により開発された人工的なエネルギー。

原子力エネルギーではあるが、彼の開発した放射線除去装置『ニュートロン・ディカプラー』を組み込まれたことにより放射線汚染の危険性がなくなり安定性の高く、さらにプラズマエネルギー以上の出力が高い。

 

・複合エネルギー

ニールセンとキングがエリア51で考案した人工的なエネルギーで、各エネルギーを共鳴反応させることで各単体のより遥かに高い出力が生み出せる。

エリダヌスX―01、アルヴァイン、そしてエクセレクターのエネルギー源に使用されて戦争における地上人類の勝利の拡大に大きく貢献した。

 



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◆番外編
番外編①「ガンバレエミリア!」


実は番外編(ギャグからシリアス)の構想もあるので気楽に見てください。
その一回目は本家の漫画版にて、ファンの間でも有名なエピソードを彼らでやってもらいました。ではどうぞ。



――とある真夏日。朝霞駐屯地、とりわけベルクラスは緊急事態に襲われた。

そう、乗組員のほぼ全員が食中毒に冒された。

夏場なので料理が傷みやすくなっていたのか、何か仕組まれていたかどうか知らないが。

さらに運悪く、そんな時に恐竜帝国のメカザウルスがこちらへ向かってきていたのであった……。

 

朝霞駐屯地壊滅の危機に陥る中、一人の女子高生だけが希望である。

 

「みんな食中毒でゲロゲロ、お腹ピーゴロゴロでトイレに直球状態……。

ならアタシがやらねば誰がやる!!一番操縦のヘタッピなアタシの汚名返上の時、ワタシだってちゃんと役立つんだからっ!」

 

この朝霞駐屯地の命運は全てエミリア=シュナイダーに託されたのであった。彼女はベルクラス艦内の、世界の平和を守るSMB、ゲッターロボの格納庫へと向かっていた。すると前には食中毒で倒れたハズの同じチームメイトである空戦型パイロットの石川竜斗、海戦型パイロットの水樹愛美がすでにパイロットスーツに着替えて待っていた。

 

 

「エミリア、アンタじゃ心配だからマナ達も行くわよ……」

 

 

「二人とも、安心して。アタシだけで十分だから……」

 

二人が内股となっており、腹部からゴロゴロと鳴り響く不吉な音……。

 

「大丈夫?お腹がスゴい音してるよ……?」

 

だがついに、

「やだ、やだも、もれるーーーーっ!!」

 

切羽詰まった愛美は一目散に走り出して近くの女子トイレへ入っていった……。

 

「おい……なんでエミリアは無事なんだ…………?」

 

「……実は最近食べ過ぎで太っちゃったみたいなの……だから今ダイエットしてて、口にしたのは市販のカ〇リーメイトだけ……あれ?」

気づくとすでに竜斗の姿がなく、女子トイレでは……。

 

「マナミちゃん……あたしも限界来てるの……早くして……」

 

マリアも食中毒にやられたらしく、情けない声と腹を抉るカミナリのような音、そして全てをぶちまける破壊音で、まるで交響曲のようになっていた。

「マリアさんまで……これはヤバいわね、尚更無事なアタシが何とかしなきゃ!」

 

彼女はトイレの入り口前で愛美にこう伝える。

 

「ミズキ、今回アンタのマムチューのぬいぐるみを借りるからね」

 

返事は返ってこないが、時間はないので『承諾を得た』と解釈し、去っていった。

 

……一方、北極圏深海。恐竜帝国では帝王ゴールが勝どきを上げていたのであった。

「今日こそキサマらの最期だ!」

「朝霞駐屯地まであと十キロ!!」

 

「今回のメカザウルスは貴様と闘ってきた全てのデータを合わせて開発した、恐竜帝国最高にして最強の『メカザウルス・エルメウス』じゃあ!早く出てこいゲッター線の機体と浮遊艦!」

 

次こそはと自信満々な帝王ゴール――万事休す朝霞駐屯地。

 

愛美の部屋からくすねてきたビッグサイズのマムチューのぬいぐるみを他二機の座席に座らせ、自身も愛機に乗り込みシステムを起動する。

 

「空戦型と海戦型は特大マムチューぬいぐるみでオートパイロット、セット!」

 

彼女の乗るゲッターロボのモニターに、酷く顔色の悪い早乙女が映りこんだ。どうやら彼も食中毒にやられたようだ。

 

“……エミリア、それ本当に大丈夫なのか……っ”

 

 

「アタシ一機では流石に辛いですからね、まあ安心しててください」

 

“き、君一人でオートパイロットにしたゲッターロボをちゃんと誘導できるのか……”

 

「早乙女司令、心配しないでください。アタシの本気を見せてあげますから……あれ?」

 

 

しかし、いつの間にか早乙女の姿がいなくなっていた。

おそらくトイレに直行したのだろう。

 

「……いくっきゃないか、エミリア=シュナイダー、陸戦型ゲッターロボ発進します」

 

――そしてベルクラスから発進したゲッターロボは、二機のゲッターロボを誘導し、地上までのカタパルトに乗せると射出し地上に飛び出す。目の前にはメカザウルス・エルメウスが雄叫びを上げて立ちふさがった。

「出たな、貴様の戦闘データは全て入ってる、まずはその赤い機体で様子見だろう、いくぞ!」

 

メカザウルス・エルメウスはなんと腰の左右から両刃の実体斧を取り出した。

 

「リュウトの機体に似てる……けど!」

陸戦型ゲッターロボはドリルをフル回転させて、あとの二機も突撃を開始。

 

だがその時、空戦型ゲッターロボのコックピットでは、固定されたはずの特大マムチューぬいぐるみ(定価6200円)のシートベルトが外れて、動く衝撃でコックピット内を縦横無尽に飛び跳ねて、ボタンやレバーをやたらめったら押しまくっていた。

 

すると空戦型ゲッターロボもそれに連動して突然飛び跳ねる、クワドラプル(四回転ジャンプ)などの不可解な行動をやり始め、腹部のゲッタービームをところかまわず撃ち出した。

 

「うええ、ベルトが外れたのかしら!?」

 

 

ゲッタービームであたり一面にばらまき破壊活動を始めるゲッターロボ。

そのとばっちりがエルメウスにも来て右手に直撃を受けて消し飛んだ。

 

「なんだこの動きは!!」

 

エルメウスは左腕をドリルに変形させて高速回転させて、エミリアに向けて突撃を開始する。

身を構える彼女。だが、今度は海戦型ゲッターロボがなんとメカザウルスに抱きつきいわゆる『地獄車』のような寝技を放った。

コックピットを見るとやはり、シートベルトから外れた特大マムチューぬいぐるみプレミアサンタver(定価9800円)が飛び跳ねておりあちこちのスイッチを押しまくってる。そして後ろでは相変わらず奇妙キテレツな動きをしながらゲッタービームを放ち、そこら中を焼き尽くす空戦型ゲッターロボが。

「どうしようこれ……」

 

彼女は困っていた……。

 

一方、ベルクラスの艦橋では、

 

「司令……エミリアは……?」

 

「……おしりがイタい……ヤダもう……っ」

 

やっとトイレから抜け出した二人はヨロヨロ駆けつけるも、早乙女は茫然自失し、醜態を晒していた。

 

「うわっ……漏らしてる……クサっ……」

 

「いっ一体何が……」

 

「わ、私のゲッターが……」

 

モニター越しに映る各ゲッターの行動を見た竜斗達は――その場で盛大に音を響かせて床を茶色い液体で染め上げた。

 

「司令……大丈夫ですか……」

その後にマリアも必死の思いで駆けつけるも、その異様な光景と同じくモニターを見た瞬間に、身も心も全て緩んだ彼女がへたり込んだ瞬間、凄まじく汚い音が彼女から聞こえたのだった。

 

――この場はブリブリと耳が腐るほどの排泄音と茶色の汚物にまみれた狂乱の宴と化したのであった――。

 

各ゲッターの奇怪な行動に翻弄されるメカザウルス・エルメウス。

 

「ガレリー、これはなんだ一体……」

 

 

「さすがはゲッター線の機体だ。ヤツの攻撃パターンを全て読んだメカザウルスをここまで翻弄するとは……恐るや、恐るべし!!」

 

「そうかなあ……」

ガレリーはうんうんと感心しているもゴールは酷く呆れている。

「このままじゃ駐屯地まで被害を受けるわ、なら!」

 

エミリアはコックピットから遠隔操作で二機の緊急停止回路を作動させて行動をストップさせた。

 

「今だ……!」

 

混乱しているメカザウルス・エルメウスに向けて『ターボホイール・ユニット』を起動しクラウチング・スタートの体勢をとる陸戦型ゲッターロボ

 

「行くわよっ!」

 

全速力で発進し、左手のドリルを引き上げた

 

「いけえーーっ!!」

 

全力で穿ち、見事貫通してズタズタにされて、粉々に爆散するメカザウルス・エルメウス。

「やったあ、勝ったわ!!」

彼女は(一応)ひとりでメカザウルスの襲撃からこの駐屯地を救ったのだった。

「ゴール様、また新しい対策を考えねばなりませんな」

 

「そっ、そうだな……」

 

無気力となったゴールとガレリーはトボトボモニターから去っていった。

 

「アタシだってやればできるのよーー!!アハハハハハハっっ!!」

 

その鮮やかな夕日の前に仁王立ちする陸戦型ゲッターロボ。

――こうして今回は彼女の手に救われたのであった――。

 

「ゲリがとまんないよお……」

 

「だ、だれかたすけて……っ」

 

「私のゲッターロボが……ハハハハ………」

 

「………………」

 

だがその頃、ベルクラスの艦橋内ではう〇こまみれとうめき声と嗚咽ばかりで誰もエミリアに注目しておらず、もはや色んな意味で地獄と化していた。

そして、マムチューぬいぐるみもコックピット内で所々酷くぶつかり、二つともぐちゃぐちゃに破れていたため、あれから1ヶ月以上愛美は口をきいてくれなかったという――。

 

 

『おしまい』

 




ちょくちょく時間があれば書いていきたいと思うのでお楽しみに。


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番外編②「Mission:Peeping」

番外編その2です。今回は早乙女が主役です。


「今度の土日、泊まりがけで私達で温泉に行かないか?」

 

……早乙女がそう提案した。

いきなり過ぎて全員が彼に気味悪がったが、

 

「別におかしいことはない。戦いと訓練だらけの毎日だと気が滅入るだろうと思ってな。

私のお気に入りの温泉があるんだがどうだ?

山奥であまり人がいないからゆっくりできるぞ」

 

……まあ確かに訓練の繰り返しとメカザウルスの掃討に追われる日々で確かに気疲れしているのも確かだ。それにゲッターチームだけでどこか出掛けることもなかったし、全員が賛成した――しかし、これには裏があることには今は誰にも気づかなかった。

 

――その当日、早乙女がレンタルした大型車で出かける五人。マリアは助手席に、三人は真ん中の席に並んで座っていた。

 

「司令が温泉に連れてってくれるなんてホントにびっくりだよ」

 

「マナも、最初「えっ?」と思ったけどね。やるじゃん早乙女さん」

 

「うん。アタシ、本場の温泉なんて初めてだから楽しみだなあ。きっと日本独特の景色や雰囲気を味わえるんだろうなあ……」

 

竜斗達三人は車内で楽しくお喋りしていた。すると、愛美は竜斗に何か疑うような視線を送る。

 

「イシカワ、絶対やらないとは思うけどもし覗いたら見物料とるからね」

 

「はあ?やらないよそんなバカなこと……」

 

「へえ、顔赤くなってるけど?」

 

「水樹がそう言い出したからだろ!」

「じゃあやっぱりそういうの想像してたんじゃない!」

 

「二人共やめなよ。けど……確かにリュウトがそんなことしたら幻滅しちゃうかも……」

 

「だから、やらないって!」

 

「別に見てもいいよ、それほどマナ達の裸が魅力ってことだし。

けど見るからにはそれなりの見返りをさせてもらうから、ムフフフフ」

 

「…………」

 

そして前では早乙女とマリアが話をしている。

 

「意外でしたよ。司令がこんなサプライズを用意してくれるなんて」

 

「ああっ、たまにはな。いくら私とてたまにはゆったりしたいしな。

まあ君達も『思う存分』自身を解放して楽しんで、疲れを洗い流してくれ」

「司令、思う存分とは?」

 

「……別に意味はない。君も毎日気の張りっぱなしで疲れているだろうから向こうでそういうのを解放してさらけ出してくれってことだよ」

 

「は、はあ……」

 

――誰もまだ気づいていなかった。早乙女がまさかあんなことをするとは本人以外に誰も……。

 

県外に出て、人里離れた山道を登っていく、周りは完全に森だけでそういう温泉らしきモノは見当たらない。

 

誰もが段々と不安になってくる。

本当にこんな所に温泉などあるのかと。砂利道に入り、ガタガタ揺れることもあったがそうした中で数十分後、彼は車を止めた。

 

「ついたぞ」

 

止まったその前には、舗装された巨大な土地に、まだ新築ともいえる屋敷のような一軒家が確かにある。看板もちゃんと『旅館』と書かれていた。

 

「約十年程前に出来た温泉旅館なんだが、見てわかる通り山奥に立てられているため滅多に人がこないんだ。

しかしそれを逆手に取って、人がいないからゆっくり出来ると一部の人間には大人気な温泉スポットなんだ、政治家や有名人の御用達でもある」

 

全員が「へえ」と納得し、感心する。

止まっている車は端に並んで止まっているのしかない。おそらく従業員の車だろう。

駐車場に車を止めて彼らは荷物を持ち、地に降り立つ。

 

 

「ウワオ……こんな場所に温泉があるなんて感激っ」

 

 

その山奥の風景と澄んだ空気が彼らを歓迎してくれる。早乙女も車から降りてトランクに入れた巨大なバッグを持つが、何故か金属音が互いにぶつかり合う音が聞こえている。

 

「司令、この中に何が入っているですか?」

 

「これか。仕事用のノートパソコンとかその他諸々だ」

 

「え……なんで温泉にそんなものを?」

 

仕事を忘れてくつろげと言っていた本人が仕事用のパソコンを持ってくるのはいかがなものか。

 

「……実は仕事で必要な書類作成がまだ終わってなくてな。もう少しで終わるからここで片付ける気で持ってきた。

なあに、一時間あれば全て終わるから気にするな」

「は、はあ……大変ですね」

 

その理由に竜斗は納得しこれ以上は深追いはしなかった――。

 

旅館に入り、受付を終わらせると着物を着た従業員に部屋へ案内される。旅館独特の和室が何とも日本独特の雰囲気が味わえる。

 

「では、お風呂に行きますか」

 

「はいっ!」

 

先に女子組が入浴の準備をして部屋から出て行く。

部屋に一人取り残される竜斗。そして何故か早乙女の姿が見当たらない……。

だが数分後、すぐに早乙女が部屋に入ってきた。

 

「司令、どこに行ってたんですか?」

「トイレだ。女性陣は?」

 

「先にもう温泉に行きました」

 

「そうか。では我々も行こうか――」

 

彼も着替えを持ち、部屋へ出ようとする。

一方、早乙女はバッグを置き、中をガチャガチャいじっている。

 

「竜斗、先に行ってくれ。私も中身を整理して準備してからいく」

 

そう言われ、彼だけ男風呂へ向かった。綺麗なこの旅館にいると、今までいたベルクラスや駐屯地特有のあの無機質さとは真逆の雰囲気を実感し、安らぎを感じていた――。

 

脱衣場で服を脱ぎ、誰もいないと言うのにハンドタオルを下半身に巻く竜斗。彼のクセなのだろう。

近くにあった体重計に乗り、自分の体重を見る。

「全然増えてない……最近よく食べてるんだけどなあ」

 

訓練して、体力練成して、そして夕飯はよく食べるようになったのに全く体重変わってないことに不思議に思う。太りにくい体質なのか。

だが、最近これを気にしているエミリアに話せば絶対に自分に嫉妬するだろう。

露天風呂のある外へ出ると自然の済んだ空気に独特のお湯の臭いと熱気、ひんやりとした石造りの床、竹細工で出来たイスや柱、檜で出来た縁……まさしく温泉だ。近くの洗い場で体をお湯で洗い流し、温泉へ。

足で湯加減を見て、入れると分かるとゆっくりと足だけ浸かり縁に座り、ゆったりと雰囲気を味わう。

 

「いい場所だなここ……っ」

 

 

 

……しかし、この男風呂にいるのは自分だけで何か寂しくなってくる。

 

 

それにしても早乙女は一体何をやっているのだろうか――。

そんな時、脱衣場の出入り口が開く音がして彼は振り向くと裸になった早乙女がついに入ってくる。

 

「しれ――――」

 

だが彼の口は止まった。確かに早乙女だ、しかし手に何か持っている。

 

右手にラジコンのコントローラーのような送信機と思わせる機械と左手にも何か持っており、彼と合流する。

 

「どうだ、ここの雰囲気は?」

 

早乙女からそう聞かれるが、そんなことよりも彼の持っている謎の機械にばかり注目してしまう竜斗。やはりラジコンコントローラーと虫……トンボに模した精巧に造られたロボットだった。

「し、司令……これは何ですか?」

 

「これか?高性能小型カメラ付きの手作りラジコンだよ」

 

「けどなんでそんなものを?」

 

アイコンタクトで女風呂の方へ視線を向ける早乙女。それに釣られて竜斗も見ると、だんだんとその意味が分かってくる。

 

「司令……もしかして良からぬことをしようとしてませんか?」

 

その問いに彼はドヤ顔になる。

 

「君の今思っていることが正解だよ」

 

……まさかの覗きを決行しようとする彼に、仰天し大声を出してしまいそうになるが瞬間物凄い形相で睨まれて阻止されてしまう。二人は向こうに気づかれないように小声で話し出す。

 

「司令ってそんな趣味があったんですか……?」

 

「いや、私は見るつもりはない」

 

「じゃあなんで……?」

 

彼は竜斗と同じく足だけ温泉につけて縁に座り、コントローラーの電源を入れて、送受信のための周波数を合わせるためにコリコリとツマミを弄っている。

 

「盗撮した映像を編集、加工してディスクに焼いて、その手のマニアに売りつけるのさ」

 

「………………」

 

「少しでもゲッターロボやベルクラスの維持費を稼ぐためだ。

私はこれらの開発建造で多額の借金を抱えているんだ。

正直、本業だけでは賄い切れない、これは副業だ」

 

「しかし、こんなことで稼げるんですか?」

 

「いや、意外と売れるんだ。

今までマリア、他女性クルーを盗撮していたのを売っていたのだが、特にマリアは英国美人だからな、その手のマニアにはすごいすごい。

それでも雀の涙だが『塵も積もれば山となる』だ」

 

……ちょっと待て、そんな最低な行為を今までやり続けていたのかと驚愕し、そしてドン引きの竜斗。

 

「そして今回、エミリアと水樹というオールスター揃いだ。いつも以上に稼げるだろう」

 

「……もしそれが向こうにバレたらどうするんですか、下手したら捕まりますよ……!」

 

 

「竜斗、いいことを教えてやろう。バレなければ犯罪じゃないんだ――それに」

「……それに、なんですか?」

 

「風呂場だけと思うなよ。

ここだけの話だが脱衣場、女性用トイレにも防水性超小型高性能カメラを仕組んである。

しかもマニアなら絶対に興奮する超絶神アングルでだ――」

 

……竜斗はこう思った。この人は下卑だと――軽蔑する気持ちでいっぱいだ。

 

「ちなみに竜斗、もし君がこれをバラしてみろ……どうなるか分かるだろうな」

 

まるで鬼の如き形相へ豹変する早乙女に恐怖を、そしてもう後戻りは出来ないとも感じる。

 

「……あなたがこんなにゲスい人だと思いませんでした……」

 

「何とでもいえ。私は目的のためなら手段を選ばんし、何を言われようが気にしない」

 

竜斗は次第に何か気づいてた。それは、

 

「もしかして僕ら全員を温泉に誘ったのは……」

 

「大正解。それに、いくらここに来る客が少ないからだとしても、全くいないのはおかしくないか?

何故なら今日は私達の貸切だからだ。ここの従業員や女将は知り合いでな、私が頼んだらあっさりそうしてくれたよ。

まあ他の女性客がいなくて残念だがこの方がかえって安全だ」

 

……これで全てが分かった。そしてバッグの中身が何なのか、そして早乙女だけ部屋やここに来るのが遅かったのか……これも彼が『盗撮』のために仕込んでいたからだった。

 

「長話は無用だ、早くしないと彼女達が風呂から上がって撮影が出来ん。

この時のために作ったこの『デバガメくん28号』は外見、重さ、羽根音、全てが本物のトンボに似せて作った傑作だ」

 

……というか盗撮をするためにそんなモノを作る頭脳や資金があるのなら他の稼げるやり方を考えられるんじゃないか……竜斗はますます早乙女の行動思考が理解しがたくなる。

 

「僕、何があっても絶対に知りませんからねっ」

 

「気にするな、私個人でやる」

 

そしてトンボ型メカの電源を入れ、コントローラーをいじると「ブーン」と高速に羽根を上下に動かし浮遊を始めた。

 

コントローラー中央の液晶モニターはメカの眼に映る景色を高画質で送信してきてくれる。

 

巧みな操作によって本当のトンボのように動き、これなら確かに彼女達は本物と錯覚するだろう。

 

そしてこのまま高く飛翔し、何の躊躇なく垣根を超えて女風呂へ入っていった。

 

「お、いるいるっ」

 

モニターに映るは温泉に浸かりゆったりしているマリア、彼らと同じく足だけ浸かるエミリア、そしてほてたのか外の竹細工で出来たイスに座る愛海がそれぞれ温泉を楽しんでおり、その魅力的な裸体を惜しみなくさらけ出している。

 

特にエミリアと愛海の二人は年頃の女子高生であり、その豊潤な胸、腰のくびれ、プリンとした臀部はまさに男性なら興奮すること間違いなしだ。

 

「あ、トンボだ」

エミリアに発見されるも全然盗撮用メカとは気づかれておらず、すぐに無視される。

にしてもエミリアの身体は日本人にはなし得ないほどのナイスバディぶりでマリア以上に固定ファンが付きそうである。

 

「全然気づいてないな、よしよし」

 

早乙女は全く興奮などしておらず飄々とした態度で操作している。

何故ならこれは彼にとって、金稼ぎのネタなのだから。

 

――一方、竜斗は関わりたくないので離れた場所で浸かっている。

だが彼も気になるのか早乙女の方へチラチラ見ている。

 

「見たいのなら来い、エミリアの裸が高画質で見れるぞ」

 

「…………」

 

 

早乙女に気づかれているも彼はその場所から動こうとしなかった。

確かに向こうの夢の世界を見たい。正常な男だったら少しはそう思う、それは竜斗だって同じだ。

 

だが自分も共犯者になるのではという背徳感もあり、それが強かった。

 

そんな竜斗に構わず、淡々と操作する早乙女はさらに接近しようとトンボを下降させる。

 

しかし彼女達はトンボがこっちに飛んできたという認識しかなく、全く気づいていない。

だがその間に彼女達の恥ずかしい映像ばかりが取られていく、胸、臀部、秘部……彼女達にバレたら確実に訴えられること間違いの映像が――。

 

だがそうしているとさすがに怪しまれるので適度に離れた場所へ飛んでいくなどトンボらしい行動を取り続け、それは彼女達は温泉から上がり脱衣場へ入っていくまで結局バレなかった。誰もいなくなったことを確認し、トンボを自分の元へ戻す。

「――これでよし」

 

彼は脱衣場に行き機具を念のために隠すように置き、再び戻ると後は普通に温泉に浸かりゆっくりする。

 

「一仕事終えた後の温泉は気持ちいいな」

 

「…………」

 

「竜斗、もう一度言っておくぞ。『口は堅く閉じておけ』」

 

「……はい」

 

もしバラしたら早乙女のことだ、いかなる手段で報復してくるか分かったものじゃない――ここは自身は見なかったことにするしか選択肢はなかった。

 

それからはごく普通に旅館のご馳走を食べたり、内部の娯楽場で卓球したり、古いがゲームセンターを珍しがったり遊んだり、部屋で楽しく会話しながらと、旅館独特のゆったりとした雰囲気を味わった――。

竜斗はもう一つ不安があった。そう『女性用トイレ』である。

彼処にも早乙女の仕組んだカメラがあると言う話なのだからできることなら彼女達にトイレへ行かないで欲しいと思うが、そこは人間の生理現象、そうはいかないのは当たり前だ。

 

しかしこれをバラした所で確実に早乙女から何されるか分かったものではない。

身の安全を考えてこれも聞かなかったことにするしかなかった――それに関わっていないのに、足を突っ込んで深入りするのはごめんだ――彼の優秀な思考がその選択へと導いたのだった。

 

そして次の日、チェックアウトして帰る際、早乙女が「先に車に乗っててくれ、私が忘れ物がないか見てくる」とマリアにカギを渡して戻っていった。

彼女達三人は分からないだろうが竜斗は分かっていた。『ついでに各カメラを回収しに行ったのだ』と。

 

……それからしばらく待ってていると、早乙女が戻ってきた。

 

「すまない遅くなって。では行こうか」

 

……こうして早乙女の行為がバレることなく全てを終えて帰っていった。

それから彼は撮った各カメラ映像をパソコンを駆使して顔が分からないように、そして時間などの編集、加工していく。その時の早乙女のの外面は完全に無表情だった、興奮することもない。完全に仕事だと割り切っていた。

脱衣場の方はともかくトイレでの映像ではマリア達三人、そして女性従業員の『恥部』のオンパレードだ。

一部『お見苦しいもの』や一部マニアなら大歓喜するようなシーンがあったが、彼は表情を一切変えずに淡々とこなしていく、はっきり言って不気味である。

 

「――よし、完成だ」

 

――約二日間、それも暇の時間を使って完成した例のディスクを早速、まさかの自ら設立したアダルトサイト(管理人匿名)にそれを載せると買い手が多数出現し、注文が一気に入った。

手際よく全て手続きが終わるとこれでようやく一仕事が終わり満足げにため息をついて、背伸びした。

大成功だ――だが、後にこれが大問題になろうとは――。約二週間後、司令で仕事をする早乙女の元に恐ろしい形相をしたマリアが駆けつけてきた。

 

「司令……あなたまさか良からぬことをしてませんか……っ!?」

 

「はっ?」

 

マリアは積み重なったDVDパッケージを彼の目の前に差し出した。

それは販売用アダルトDVD……それも早乙女本人が撮影した映像を加工したあの温泉での、いや今までの盗撮したDVDだったのだ。

 

 

「とある男性隊員の所有物なんですが、その彼が映像を見て「これ、もしかしてマリアさん達じゃないですか?」と申告してきたんです……私は正直見たくもありませんでしたがそう言われると確認する他ないので見ました。

確かに映像内に映る温泉、女性トイレ、脱衣場があの温泉旅館のと余りにも似すぎていますし、登場する女性達がどう見ても私達に一致しているとしか思えないんですが……」

 

「…………」

 

「それに……他の隊員にも「これベルクラス内じゃないですか?」とも申告してくれたのでそれも確認しました。

背景が完全にベルクラス内にあるものと同じなんです、一体これはどういうことですか?」

 

ついにバレたか。だが早乙女は焦る様子もなく平然としている。

 

「温泉旅館の……季節による周りの景色、温泉の配置を見てもあの時の風景が一致していますし、客は確か私達だけだったようなのに……ベルクラスにしてもこれは完全に男性の所業ですよね?

そう考えると、こんなことをできるのは司令か竜斗君に絞られるんですが、竜斗君に聞いたら「死んでもそんなことはやらない」と断固否定していたので司令なんじゃないかと――どうなんですか!」

睨みつけながら問い詰めるマリアだが早乙女は物怖じすらしていない。

 

「私はそんな趣味はない、そんなゲスなことをするワケないじゃないか」

 

平然とそう言い切る彼だが、対し彼女は怪訝な思いだった。

 

「……司令、隠すつもりなら私は起訴も辞さない覚悟でいますよ。

エミリアちゃん達にはまだこの事は言ってないですが、もし知れたら彼女達は私のように嫌悪感を抱き、悲しみ、怒り狂うことでしょう……何か知っているのなら言うべきですよ?」

 

「だから違うって。私だって今初めて知った、一体何をいえばいいんだ?

そもそも他の者の仕業と言う可能性を切り捨てて私や竜斗の犯行だと……憶測が過ぎるんじゃないのか?」

 

「…………」

 

「違うか?それでも疑うなら私の部屋、身体、全てを見せてやろう。私も冤罪をかけられるのは流石にイヤでね」

 

「……い、いえ、確かに。いささか軽率でした……」

 

「私も犯人探しに協力する、安心しろ」

 

「は、はい……ありがとうございます……っ」

 

彼女は渋々ながら納得し部屋から去っていく。

上手く撒いた早乙女はまた仕事を再開――その約一時間後、この場に誰もいないことを確認すると引き出しを開いて、室内のモニターを展開するために使うリモコンを取り出す。

しかしそれの裏側にある隠しブタを開くと『赤いボタン』が。

それをポチッと押すとベルクラス内がドンと爆発したような音と共に激しく揺れた、その数分後マリアと竜斗達が慌ててこちらへ駆けつけてきた。

「司令、何かあったんですか!」

 

「いや、今調べてるんだが……特に変わった所はない。なんだったんだろうな?」

 

結局、原因が分からないままマリア達は去っていく中、竜斗だけは踵を返して早乙女を見る。

目のあった彼はそのドヤ顔を見せつける。

その顔から伝わってくる思いを受け取ると竜斗は「この人、どこまで計算通りなのか」と唾を飲んだ――そして全員去った所を見届けるとため息をついた。

 

(『立つ鳥跡を濁さず』ってな)

 

――証拠隠滅。そして例の自作アダルトサイトを覗こうとするとサイトが壊れているのかエラー表示に現れて入れない。

そして足のつかないように買い手、全員のパソコンなどに誰も対処不可能で、本体自体を壊しかねない超強力の自作コンピューターウイルスを流し込んでいた――これも全てリモコン裏の赤いボタン一つで全て発動するように仕込んであった。

 

 

抜け目のない早乙女だ、こう言う事態もバッチリ想定しているのである。

 

(さてと、もう盗撮は止めとくか――次はどういう金儲けをしようか、武器や麻薬の密売のほうが儲かりそうだな)

 

……などと諦めていないどころか、さらにやり方が悪質となっていくか――。

 

(なあんてな、流石にこれはマズいな。さて、どうしようものか――)

 

 

珍しく笑みを見せて色々と思い浮かべてみる早乙女――凄く不気味であった。

 

しかし、彼も心の内では見つかった際に焦った……ではなく、寧ろ喜んでいた。

バレるかバレないかの『スリル』を味わっていたのだ、だから次もそのスリルを味わうために敢えて、確実な手段がいくらでも思い浮かぶのにあえてすぐバレるような間抜けな手口を考えて組み込もうとしていた――なので次も犯罪行為にしようと考えていた。

 

……やはり早乙女はゲスな人間であった。

 



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番外編③「宇宙光」

番外編その三です。内容はファンサービス物であまり本編とは関係のない(?)話ですので深く考えない方がいいです。今回の主役はもちろん竜斗です。


――突然現れた謎の敵。メカザウルスには到底見えない姿でSMBよりも二、三倍、いやそれ以上にある巨大であり、そしてどこかゲッターにも似た部分を持つ機体。

突然、虚空より現れたそいつは僕らに向かってこう言った。

 

「ゲッターロボ」と――。

 

 

ある日の午後、基地真上の空が気味の悪い紫色になり雷がバチバチと轟音を鳴らして降り注ぐ。

それはまるで悪魔の降臨しようとするかの如く。

敵の出現か、各機が戦闘配備し各機に乗り込む。それはゲッターチームも同様だった。

 

「準備はいい二人とも!」

 

「ええ、いつでも!」

 

「ふぁ~っ、せっかく気持ちよく昼寝してたのになんて空気読めないヤツらなのよ……」

 

三人は機体に乗り込み、すぐさま外に飛び出すとそれぞれ地上、そして空中に配置をとる。そして他のSMBも各場所に配置し戦闘態勢に入った。

 

「膨大なエネルギー反応確認。これは一体……」

 

「さあな。だが、ただ事ではないのは確かだ」

 

早乙女とマリアはベルクラスの艦橋のモニターで異様な空を観察している。

 

「来るぞっ」

 

その紫色の空がねじ曲げたように、まるで穴のような歪みが発生する。その中からゆっくりと何かが降りてくる。

 

「め、メカザウルス……?」

 

「いや、データにない。よく見ろ、どこかゲッターに似ていると思わないか?」

 

「そう言えば……」

 

その姿はメカザウルスとは言えない無機質、無骨のデザイン。それ以上にどこかゲッターロボと似て通った点も多いのは何故か。

 

「なんだあれ…………」

 

「メカザウルスじゃないよね、あれ……っ」

 

竜斗達もその今まで見たことのない謎の巨大な物体に唖然とし、そして狼狽する。

 

「アンタ達、相手が誰であろうと敵なら倒すしかないでしょ?ほらシャキッとする!」

 

と、愛美は二人に喝を入れた。そして謎の機体のコックピットに座る謎の人物はモニターに映る無数のSMB、特に三機のゲッターロボを捉える。

 

「ゲッターロボ……いや、私の知っているゲッターロボとだいぶ違う。

それに各形態が三機に分けられている……もしかしてこのゲッターは一人乗りか……?」

 

この謎の人物からゲッターロボという言葉が発せられるが何故知っているか……。

 

「いや、そんなことはどうでもいい。ゲッターロボが存在する限り、どの道この次元の宇宙の破滅は必須。全ての諸悪の根源を私が全て討ち滅ぼす、このバグで!」

 

巨大なその物体はついに行動開始、その巨体では考えられぬほどの凄まじい速さで竜斗の機体、アルヴァインに襲いかかる。

 

「うわっ!」

 

とっさの反応で素早く後退するが向こうは追ってくる。

 

「三人共、どうやら向こうはゲッターロボを狙っているみたいだ。分散しろ」

早乙女の指示に三人は四方に展開した。

 

(メカザウルスとは違うけど…………)

 

竜斗は襲いかかってくる正体不明の敵に何か違和感を感じている。

 

「敵にゲッターロボへ近寄らせるな!」

 

マウラー、ステルヴァーがアクロバティックな軌道を描きながら攪乱し、そして八方から一斉に攻撃を開始する。

ミサイル、機関砲、プラズマ弾を浴びせるが全く傷がつかない。

 

「邪魔をするな!」

巨大な敵が右腕をかざして振り込んだ瞬間、凄まじい衝撃波が拡散して一面全てを吹き飛ばした。

 

アルヴァインも高速飛行で縦横無尽に動き回り、セプティミスαを構えて撃ち続ける。

 

しかしメカザウルスをも一撃で吹き飛ばす複合エネルギーの弾丸であるにも関わらず全く傷一つもつかないほど頑丈だった。

 

「ええいっ!ちょこまかと!」

 

その巨体さからかあまり動き回れないようである。

アルヴァインはビームブーメランを取り出して全力で投げ込むが当たった瞬間に弾かれてそのまま地上に落ちていく。

 

「く、なんて堅い相手なんだ!」

 

全く通用しないこの敵に竜斗は苦い顔だ。

その時、地上から甲高い音が鳴り響くと敵の胴体に大穴が開いて空が見える。

下を見ると愛美のアズレイがエリダヌスX―01を持ち構えていた。

 

「どんなもんよっ!」

 

誇らしげになる愛美。しかし、そんな彼女も唖然となる。

何故ならその敵の身体に開いた穴が一瞬で塞がれたのだから。

 

「ウソ…………」

 

こればかりの彼女も顔が一気に青ざめた。

敵もアズレイに狙いを付けて一気に降下し、その大きい足で踏みつけようとしてきているが愛美は唖然としたままで動こうとしない。

 

「ミズキ!」

 

その時、エミリアの乗るルイナスからアンカーを射出させてアズレイに巻きつけると一気に引き込んだ瞬間に敵の足が地面に直撃しアスファルトが大きくヘコむ。

 

「サンキューエミリア!」

踏み潰しを回避して我に返った愛美は気を取り直してそこから離れる。

 

「アタシだって負けないわよっ!」

 

ルイナスはガーランドGからシーカー全てを撃ち出し、向こうへ追跡させる。

各シーカーは敵にまとわりついて動き回り、ビーム、そしてドリルで飽和攻撃を始める。

 

「くっ!」

 

敵はダメージは全く無さそうだが気を取られている間にルイナスも主武器の巨大なドリルを高速回転させて突撃した。

 

「はああっ!」

 

全力でドリルを敵に穿つ。彼女は目一杯にレバーを押し込みガリガリという音が聞こえる。

 

「ほう、私が元々乗っていた形態のゲッターか。しかし、パワーは私の乗っていたゲッターの方が遥かに上だったぞ!」

敵はなんと高速回転するルイナスのドリルを無理やり掴んで 回転を止め再び空に飛び上がる。そのまま機体を持ち上げて振り回した。

 

「いやあっ!」

 

悲鳴を上げるエミリア、しかしすぐ敵の後ろに何かが直撃し爆発する。

振り向き目を据えた先には長く細い砲身を持つ兵器、リチャネイドを腰に据えて構えるジョージの乗るステルヴァーが。

 

「エミリア君を離せ!」

 

狙いをつけてルイナスを持つ右手へプラズマ化した劣化ウラン弾を撃ち込み、見事手離すことに成功する。

そのまま地上へ落ちるルイナスを追いついたアルヴァインが見事に持ち掴んだ。

 

“大丈夫っ?”

 

 

「うん、なんとか!」

 

ルイナスを地上にゆっくり降ろすとアルヴァインは再び上空へ戻っていく。

 

「これならどうだっ!」

 

アルヴァインは敵の真正面に立つと右肩のキャノン砲の角度を合わせて、出力を上げた。

 

「ゲッターエネルギー……ではないだと?」

 

出力が最大に達した時、竜斗がレバー横のボタンをグッと押し込み砲内から想像を絶するエネルギー量の光線が発射され敵に見事直撃した。

 

「ぐうっ!」

 

竜斗は負けずにレバーを押し込みさらに出力を限界以上に上げようとした。その時。

 

“お前はゲッターロボとはなんなのか知っているのか?”

と、突然向こうから通信を通して、若い男性の声が聞こえる。

 

「え……ゲッターロボを知っている……あなたは一体……」

 

彼は驚いた。ゲッターロボという名前を知っていることに。

 

“お前に見せてやろう、ゲッターというものがどれだけおぞましいものか!”

 

敵は手を伸ばしてアルヴァインを無理やり足を掴み自分の出てきた空間の歪みを自ら発生させてそのまま一緒に引きずり込んでいった――。

 

「アルヴァインと敵機の反応がレーダーからロストしました!」

 

「なんだと!?」

 

さっぱりと姿を消した二機にその場にいる全員は狼狽した。

「リュウト、リュウトーー!!」

 

必死に通信をかけるエミリアだが向こうからはノイズばかりでなんの返信もない。

 

「早乙女さん、石川は一体どこいったのよお!」

 

“分からん、私達でさえ今の現象について理解不明で困惑している”

 

「はあ!?」

 

早乙女でさえそう答えるということは今起きているのはただ事ではないということだ。

 

「司令、どちらの反応がどこにもないとなると……」

 

「完全に破壊されたか、もしく宇宙空間か電波妨害などで感知できない場所にいるとしか……」

 

この不可解な事態に周りはさらに緊迫化する。

 

そして、飲み込まれた竜斗は目の前に映る光景に絶句していた。

 

“これがお前達の乗るゲッターロボの行き着く果ての姿だ!”

 

敵のパイロットがそう叫んだその理由、それはまさに悪夢である。

 

「ゲッター……ロボ……」

 

そこには星々が広がる広大な外宇宙。しかしモニターに映るはゲッターの顔をかたどった戦艦のようなものが億を軽く超える数でまるで蜂の群れのように固まり、宇宙を我が物顔で進軍する光景が。

対峙する勢力の無数の宇宙戦艦は勇敢にも突撃するも報われることなく傷一つも負わせられなず次々に潰され、発せられる光線は跡形もなく消し飛ばしていく。しまいには体当たりしただけでまるで積み木崩しの如き、簡単に崩れて粉々にされる惑星――戦力が桁違いである。

 

“彼らは自分の住む母なる惑星をただ守ろうとしていた。だがゲッターは情け容赦なく命を消し飛ばし、そして根絶やしにする。

お前達人類の未来はゲッターという強大な力を手に入れ、そして溺れ、宇宙の全生命を潰しにかかる極悪の存在、あたかも自分達が神に選ばれた人種であるかのようにな!”

 

「そ、そんな……!」

 

目、耳を疑うような事実を知る竜斗は次第に呆然な表情だ。

 

“目の前に映る光景が現実だ。私はそんな残酷な未来を変えるために、この最終兵器『バグ』でありとあらゆる世界のゲッターという悪の根源を全て潰す!”

 

謎の兵器、バグはアルヴァインの胴体を掴み、じわじわ握りしめてつぶそうとする。

「ぐっ!」

 

コックピットがバチバチとスパークして小爆発――その時だった、その無数に群がったゲッターロボの艦隊の中央にいる、星よりも巨大で一際目立つゲッターの戦艦三隻が突然、前方に飛び出した。

 

“まさか、ここで合体(ゲッターチェンジ)する気か!?”

 

バグのパイロットが叫んだ瞬間、それは起こった。三隻がゆっくりと直列に並び、それぞれ丸くなるように変形した時、そして真ん中が前と激突して合体、その後に続くように最後の戦艦も合体するという驚愕のアクションを見せつける。

 

“ビッグバン以上の膨大なエネルギーが発生している……マズい、逃げねば!”

 

再び空間の歪みを作り、中に入り逃げ込むバグを離されたアルヴァインもすぐに追う。

 

「待て!」

 

歪みに入った瞬間だった。宇宙を誕生させたと言われる大爆発、ビッグバンと思わせるほどの膨大なゲッターエネルギーが解き放たれてありとあらゆる物体全てが吹き飛んだ。

 

『ゲッターエンペラー、チェンジだ!!』

 

惑星が小さく見えるほどに常識外れなサイズの人型と化したゲッターロボからは、謎の濛々しい男の雄叫びが宇宙全体に響かせて震撼させたのだった。

 

「あなたは一体誰なんですか!?」

 

移動した別宇宙で二人きりになるこの場で竜斗はバグに乗る謎のパイロットと会話を試みる。

 

「なぜあなたはゲッターロボのことをよく知っているんですか、教えて下さい!」

 

問い詰めようとするもその結果は。

 

“教えることなど何もない、何故ならここでお前は消滅するからだ”

 

再び襲いかかるバグ。やむえずアルヴァインはトマホークを二刀流に持ち、身構える。

 

「二振りのトマホーク……あいつを思い出すよ!」

 

その巨大な拳を振り上げて殴りかかるがアルヴァインは一瞬でバグの目の前から姿を消した。

 

「俺だってここでやられるわけにいかないんだ!」

 

アルヴァインはすでにバグの背後に移動しており、すかさず全力で高く上げた右腕を振り込み、ビーム刃をバグに直撃させる。

 

「き、効いてない……っ」

 

めり込んではいるものの、すぐに装甲を形成する金属分子が傷を塞いでいきトマホークは取り込まれたのだ。

何をしても相手に全く効果がないことに焦りに焦る竜斗に暇も与えずバグは右手をぐっと押し出した時、強烈な衝撃波がアルヴァインに襲い、後方を弾き飛ばされた。

 

しかしバグはすでにアルヴァインの吹き飛ばした先に待ち構えており、そして胴体を再び掴み握った。

 

「往生際が悪いな。これもゲッターロボに乗る者の性質か」

 

再び握りつぶそうと力を入れるバグ。

 

「今度こそお前を消して、残りの二機もすぐに消し去ってくれる!」

 

装甲が軋み、潰されていくアルヴァイン。このままでは成すすべなく破壊されようとしていた。

 

「俺は……俺は……こんなとこでワケも分からず死ぬわけいかない。生きるんだあああっ!!」

 

仲間達の元に無事に帰るために、そして自身の持つ目的を果たしたい想いが一気に爆発し、竜斗は高らかに叫んだその時、プラズマエネルギーとゲッターエネルギーの複合エネルギーの出力が突如急上昇して、炉心の許容量を遥かに超えて機体全体からエネルギーの粒子が一気に放出された。

 

「な、何……ゲッター線……いや、違う、なんだこのエネルギーは!!」

 

暗闇の宇宙に突然虹色の光で輝き、バグのパイロットは目が眩んでアルヴァインを手放してしまう。

「なんだこのゲッターロボは……」

 

目をこすりながらもかろうじて彼が見た、目の前で光り輝くゲッターロボは今までの姿をしていなかった。

 

「て、天使……だとっ?」

 

アルヴァインの背中からは鋭角的で無機質なゲッターウイングではなく、巨大で純白な羽が生えており、神々しく立っている。まるでそれは天使とも言える姿をしており、この暗黒に染まった宇宙全て照らすような七色の極光を放っている。

 

「なんだこの……ゲッターロボなのに嫌悪感が少しも感じないその姿は……何者なんだお前は……」

 

絶対に相容れることのない宿敵な筈なのに不快感などなく寧ろ心地よい気持ちであり、そしてしばらく魅入られていた。

(お願いです、僕を受け入れてください)

 

彼の意識の中に竜斗の声がそう伝える。

 

(お前は一体……)

 

(僕はこれ以上戦うつもりはありません、どうかこれ以上はもう……)

 

過剰なエネルギー放出が収まり、虹色の光が消えるとその神々しい姿はなくなりいつものアルヴァインに戻っている。

そしてバグも攻撃する様子はなく、そのまま呆然と立ち止まっている。

パイロットは目の前に映るアルヴァインの姿を見て、ヘルメット越しに穏やかな笑みを返す。

 

「どうやらこの世界のゲッターロボだけは破壊するわけにいかないようだな」

 

と、そう呟く。一方で竜斗もモニターと何の理由なくにらめっこしていると突然、向こうから通信が。

“悪かったな。今からお前を元の世界に返してやろう”

 

「えっ……?いいんですか?」

 

“お前の本意を全て読み取った。お前にはやるべき目的があるのだろう”

 

竜斗はポカーンとなっているがパイロットは話を続ける。

 

“お前のような人間がなぜゲッターロボのパイロットをしているのかは疑問だが、そこまでの意志があるのなら貫くがいい、そして叶えろ”

 

「は、はい……」

 

突然と和解したような雰囲気ぶりに困惑する竜斗。

 

“あと、お前が俺に何者かと言ったな。俺も元ゲッターロボのパイロットだ、お前達とは違う世界での話だが”

 

 

「そ、そうなんですか?だからあんなに詳しかったんですか……あなたの名前は?」

 

“話はこれまでにしてお前を元の世界に返す”

 

バグはその場に再び時空の歪みを発生させて竜斗に指で歪みの中に入るよう指示する。

 

“このゾーンに突っ込んでくぐり抜けろ。そうすれば先ほどお前のいた場所の上空にたどり着く”

 

「ありがとうございます。あの……あなたは……」

 

“私はまだやるべきことがある、悪の権化であるゲッターの殲滅をな”

 

「…………」

 

“だが、お前のようなゲッターロボ乗りがいる世界があることに私は嬉しいし余計な武力介入しなくて済む。

他もできれば同じような世界であれば……まあ気にしないでくれ。それよりも早く消えない内に行け!”

 

「また、あなたと会えますか?」

 

“さあな。けど二度と忘れないよ、お前のことも、ゲッターロボも――”

 

別れの挨拶を交わし竜斗はボロボロに近いアルヴァインを動かして歪みの中へ突入していった――。

 

「さらばだ、俺が見てきた世界の中で唯一の可能性を持つ「優しい」ゲッターロボとそのパイロットよ」

 

そう呟いた後、彼もまた新たなる世界へ旅立っていった。

 

「基地上空二百メートルでアルヴァインの反応がレーダーに現れました!」

 

「リュウトっ!!!」

 

「石川っ!!」

 

「よし、直ちにアルヴァインを格納庫へ収容する準備だ」

 

ゆっくりと空から降りてくるボロボロのアルヴァインを基地にいる全員は笑顔で出迎えると竜斗も笑顔で彼らの元へ向かっていった。

 

――その後、あの謎の機体とそのパイロットが僕らの前に現れることは二度となかった。

元ゲッターロボ乗りという彼は今、何をしているのだろうか、言った通りに本当に様々な世界に行き渡り、僕らの知らない様々なゲッターロボを殲滅しているのだろうか――。

それにしても、僕の見たゲッターロボの行き着くあのあのおぞましき果て……遠い未来の話とは思えずゾッとしたが、今まで自分達を助けてくれたゲッターロボを信用したい。

だからこそあんな非道な行いをさせないように阻止することは出来るハズだ、と心に決めた――。

 



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・本編未登場機体(メカザウルス)

一年ぐらいのごぶさたです。近いうちに久々に番外編を書こうかなと思います。この中のメカザウルスが登場するエピソードを予定しております、お楽しみに。


●メカエイビス・スニュクエラ

全長:12.5m

総重量: 60.7t

型式番号:MES―05SF

分類:ミュゥベン小隊専用高機動型メカエイビス

動力:アルケオ・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

出力:120万馬力

装甲材:ツェディック鋼

移動兵装:メレミュート

他兵装:二連装30mmマグマ機関砲、アンテンサンサ、フェイナルタ

 

オーストラリアに駐屯する第1恐竜大隊傘下の第6翼竜中隊戦術機甲航空小隊、別名『ミュゥベン小隊』の専用機でアルケオ・ドライヴシステム搭載機。メカエイビスではあるが恐竜戦闘機の流れを汲む機体である。パイロットは小隊長であり女性でもあるキャプテン・リィオ(本名:リィオ=マ=アンジュワン)以下、精鋭キャプテンの計6人で編成される。

当時最新の推進器『メレミュート』を搭載、さらに各人が好き勝手に調整を施した結果、パイロットの実力も相まってこれ一機で1、2個航空隊規模を壊滅に追いやる化け物機であるが常人には到底扱いきれない代物と化している。本編第17話と第18話の間に起こった伊豆諸島沖での戦い(エゥゲ・リンモ攻略戦)にてゲッターチームと交戦。その凄まじい機動力と小隊の絶妙な連携攻撃で竜斗達を追い詰めた。

スニュクエラとは「悪夢」を意味する。

 

◆武装

・2連装30mmマグマ機関砲

機首部下部に装備。本機の主武装で小型マグマ弾を高速連射する。マグマ・ヒートライフルのメカニズムを応用している。

 

・中距離空対空ミサイルポット『アンテンサンサ』

左右主翼部下部に装備。各部計4発搭載。アンテンサンサとは『小鳥』を意味する。

 

・対艦巡航ミサイル『フェイナルタ』

胴体底部に搭載した機体とほぼ同じサイズの大型ミサイル。長距離からはもちろんのこと、超高速飛行中からの発射も可能にしている。フェイナルタとは『切り札』を意味する。

 

・メレミュート

アルケオ・ドライヴシステムに追従するためにガレリーが開発した新型推進器。最大直線飛行速度はマッハ8でさらに従来の戦闘機では成し得なかった凄まじい機動力を持ちリィオ達の腕も相まって驚異的な空中機動を可能にしている。メレミュートとは『光陰』を意味する。

 

●メカザウルス・リィリィーン

全長:23.5m

重量:295.8t

型式番号:MZE―125RR

分類:キャプテン・シェリア専用長距離支援砲撃用メカザウルス

出力:260万馬力

装甲材:ツェディック鋼

動力:試作型リューン・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

移動兵装:なし

他兵装:アジャンジャ・モラ

 

第24恐竜中隊指揮官機でゼクゥシヴシリーズの1つ。パイロットは中隊長であり、ラドラ、リューネスと同じ平民出身のキャプテン、グヴァンドルド=シェリア。

 

長射程ルゥベルジュ砲『アジャンジャ・モラ』のみを装備し、長距離砲撃に特化したメカザウルス。基本的に地上からの対空狙撃や後方支援攻撃を重視されているためゼクゥシヴシリーズのようなブースターや翼は一切なくさらに非常に重いため機動力は著しく低い。非常にクセが強く扱いづらいメカザウルスであるがシェリアの操縦技量でカバーされている。

『アラスカ戦線編』における中南米戦線にて投入され、アマゾンの密林深くから上空に飛行するSMB、戦闘機を精密射撃を駆使し無数に撃ち落とした。

リィリィーンとは爬虫人類のおとぎ話『ミュアマ』に登場する、百発百中の腕を持つ弓の名手の名から由来する。

 

◆武装

・長射程ルゥベルジュ砲『アジャンジャ・モラ』

本機の唯一の武装。シェリアの卓越した腕を駆使して一寸狂わぬピンポイント狙撃を行うことができる。メカザウルス・オルドレスに装備されているルゥベルジュ砲の試作品でもある。

アジャンジャ・モラとは、彼の愛用していた剛弓の名から由来し『疾風の矢』を意味する。

 

●メカザウルス・シェヌランディ

全長:25m

重量:268.9t

型式番号:MZE―230EL

分類:キャプテン・クック専用最終決戦用メカザウルス

出力:?(未知数)

動力:メルファイス・ドライヴシステム、プレリオスリアクター

装甲材:リベジュダール合金

移動兵装:セラン・リンディ

他兵装:ティエンシィ・ライフル、エミュール・ブレード、エイヌセラーミア

 

ガレリー他開発チームが来るべき最終決戦に備えて開発した、ラドラの最終決戦用メカザウルスであるレイグォーシヴの片割れともいうべき、彼の親友であるクックの専用機でゼクゥシヴシリーズの1つ。

黄金の鎧に天使の翼を象ったレイグォーシヴとは逆に、漆黒の鎧に巨大な蝙蝠翼を持つ、悪魔を想わせるデザインを持つが爬虫人類からは邪悪と見なされず、寧ろ聖なる存在とされている。

コックピットもランシェアラとレイグォーシヴ同様、マスタースレイヴ方式を採用している。

性能については同じ技術が使われているレイグォーシヴと同等であり、これまでのメカザウルス、エイビスを遥かに凌ぐ。

 

武装についてはレイグォーシヴと比べて至極シンプルとなっているがこれは新システムである『エイヌセラーミア』を最大限に活かすためであり、情報収集、偵察能力に優れるクックとはまさに相性が抜群である。

本来なら最終決戦ではラドラとクックのツートップで恐竜帝国の勝利へと導くはずであったがクックが戦死してしまい、彼以外は誰にも扱えられなかったことで結局実戦に投入されることはなかった。

シェヌランディとは『超越者』を意味する。

 

◆武装

・マグマバルカン×2

グリューセル、レイグォーシヴと同様、左右手甲内に内蔵。

 

・ティエンシィ・ライフル

レイグォーシヴのと同様の物だがこちらは一挺のみである。

 

・エミュール・ブレード

レイグォーシヴのと同様の物。

 

・リュイルス・オーヴェ×3

レイグォーシヴのと同様の物。

 

・セラン・リンディ

レイグォーシヴの天使翼を象ったフライトユニット『シェイノム・メリュンカー』の対である、悪魔を想わせるような巨大な蝙蝠の翼を象ったフライトユニット。性能は同等である。セラン・リンディとは『退魔の羽』を意味する。

 

・エイヌセラーミア

本機の最大の機能というべき情報集積システムでゲッターロボに確実に勝つためにガレリー達が総力を上げて開発した。戦場におけるありとあらゆる情報、事象を収集しそれから先に起こりうることを全て割り出しそこから最適な行動パターンをいくつも示す、謂わば擬似的な未来予測を行うシステム。

ただ膨大な情報量が流れこむためクックやシルジェのような機転のよく利くパイロットでないと到底扱えられない代物だが、これによりラドラよりも操縦技量、センスの劣る彼でも追いつくことができるようになる。

エイヌセラーミアとはそのまま『未来予知』を意味する。



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番外編④「エゥゲ・リンモ攻略戦~天空の戦乙女~」①

お待たせしました。これより番外編の投稿へ入ります。時系列は本編第17話から18話の間の話になります。


真夏の真夜中。警衛係が静まり帰る駐屯地内の歩哨に当たっていた。警棒を腰に付け、大きな欠伸をしながらこの広い敷地内の外周を周り異常がないか見ている。

 

(特に問題ないな。さて、帰ったら仮眠が取れる、さっさと切り上げて帰ろうか)

 

警備する立場が少し気が抜けているのは嘆かわしいものだが普通は誰もが寝ているこんな真夜中でいつも見慣れた風景、夏の虫の鳴き音だけが聞こえ、滅多に何も起こらないこんな状況では気を張るのは初めて警衛係についた新米ぐらいだろう。

そんな時、ふと空を見える彼は一瞬で固まった。

 

「・・・流れ星っ」

 

流星。滅多に見られない素敵な物だが、運よく目にしたその高鳴る気持ちも数秒後には一気に消え去る。

 

「な・・・っ!」

 

ひとつ目の流星から間を開けず、それから二つ、三つ、四つの流星が見え、それが消えることなくそのまま白い尾を引きながらそれぞれ遥か遠く離れた地上へ落下していった。彼は慌てて警衛所に戻り、隊長にすぐにその旨を伝える。

最初は「夢でも見てるじゃないか」と疑われるも本人の焦りようを見るとただ事ではないと分かり、すぐに上層部に連絡した頃にはすでにその事実は駐屯地内はおろか日本各地が騒ぎが巻き起こり激震していた。

 

――次の朝。早乙女とマリアは竜斗達三人を司令室に集合させ夜中に起きた事実を伝える。三人もそのことについては早朝からの駐屯地の騒ぎと周りから聞いた話から大体話を理解していた。

 

「飛翔体が落ちたのはそれぞれ山口、福井、岩手、青森の四ヶ所で調査を行った所、どうやらミサイルの類いのようだ。被害については不明だが爆発はしなかったらしく怪我人はともかく死人は出なかったらしい」

 

竜斗達はそのことについては安心したが、だからと言って日本にいきなりミサイルを撃ち込まれたのだから堪ったものではなかった。

 

「証言者によると南側、つまり大平洋側から飛翔体を目撃したと。それも流星のような凄まじい速度で地上に落ちたという話です」

 

「ああ。四発目以降はご無沙汰なしだがまたいつ飛んでくるか分からん。君達はいつでも出撃できるようにしておいてくれ」

 

すると竜斗からこんな質問が。

 

「司令、そのミサイル攻撃は恐竜帝国からでしょうか?それとも・・・」

 

どこか引っ掛かる言い方の彼に早乙女は、

 

「私達人間によるものなのか、か」

 

頷く竜斗。

 

「まだどこから発射されているか不明だから何ともいえないが確かに可能性がないとも限らん。だからとてこれ以上撃ち込まれて本当に被害が出るのを防がなければならん。分かり次第君達にも情報を伝える」

 

解散し竜斗達は司令室から出ていくと早乙女は席に座りパソコンを起動させ事件のデータを吟味する。するとマリア特製の淹れててのコーヒーを差し出しズズっと啜る。

 

「なあマリア。君の目から見て黒田がいなくなってから三人はどうだ?」

 

「・・・やはり、気に残る部分もあるでしょうね。マナミちゃんも地元から帰ってきてから物凄くいい子になったし一応竜斗君が二人を纏めるんですが――」

 

「黒田がいない今、そろそろ新しいリーダーを決めねばならん。私個人として竜斗か水樹の二人のどちらかがいいと思うのだが」

 

「私も同感です」

 

「エミリアはとてもじゃないがリーダーという器に合わないな。あと彼女は優しすぎる」

 

「ええ。まあそこが彼女のいい所なんですが」

 

「ふむ。竜斗も優しいがちゃんと能力はあるしまだまだ伸びしろがある。現時点ではまだまだ水樹のほうが一枚上手だがな」

 

コーヒーを飲み干し、一息つけると相変わらずの能面顔でパソコンのマウスをカチカチ動かす早乙女。

 

「さっき竜斗の言ってたこと、どう思う?」

 

ミサイル攻撃が恐竜帝国ではなく自分達人間によるもの、という彼の意見だが正直、まさか異種族と世界戦争をして劣勢を強いられているこんなご時世に喧嘩を売るような愚かな国は果たしているのだろうか、とマリアはそう考えている。

 

「・・・まあ否定はできませんね」

 

「しかしまあ、そう考えれるとは竜斗もなかなか視野が広いな、ククッ」

 

早乙女はなぜか嬉しそうだった――。

 

「怖いね。一体誰がミサイルなんか・・・」

 

食堂では竜斗達が朝食を取りながらその話題について話している。

 

「ふん。どうせあいつらの仕業に決まってんじゃない」

 

愛美は不機嫌そうに食パンにかじりついている。どうやら睡眠中にその騒ぎのせいで叩き起こされたせいである。

 

「けどリュウトはもしかしたらアタシ達人間の仕業じゃないかって言ってたけどそれって・・・」

 

「そんなわけないでしょ。こんな爬虫類の人間と戦ってる切羽つまった状況でわざわざ人間同士で喧嘩売るバカなんているかしら!」

 

やはりマリアと同じことを考えている愛美。

 

「まあ俺の憶測に過ぎないよ。多分恐竜帝国からの攻撃だと思う。けどもしこれがどこかの国からによるものだったら二人はどう思う?」

 

その質問に二人は、

 

「マナなら間違いなくその国を本気で潰したいわね。こんな時に何考えてんのよって」

 

「アタシもさすがに潰したいとまでは思わないけど間違いなく許せないよ。何の魂胆があって日本に攻撃したのよってなるよ」

 

「・・・そうだよな。普通はそう思うよな」

 

どこか腑に落ちないような竜斗に愛美は目を細めて彼を見つめる。

 

「なによイシカワ、なんか不服そうだけどそう言うあんたはどうなのよ?」

 

「俺も二人と同じ考えだよ。けど」

 

「けどなによ」

 

「なんか、悲しくてさ」

 

そう呟く彼に拍子抜けするエミリアと愛美。

 

「爬虫類の人間の仕業にしても、自分達人間の・・・どこかの国の仕業にしてもなんかさ、地球に生きる者同士何やってんだろうなって・・・」

 

「リュウト・・・」

 

「そりゃあ人間皆思想とか違うし、国によっても言語や文化が違うし友好的とは限らないからしょうがないんだろうけど・・・なんかこう、上手くいかないかなあって」

 

もの悲しげにそう答える彼に愛美は。

 

「・・・あっきれた」

 

と、無情にもそう吐き出す。

 

「前から思ってたんだけどアンタさ、いい加減現実を見なさいよ。こんな状況下で何をどうすれば上手くいくのよ?そんな都合のいいのがあるなら是非マナ達に教えてくれない?」

 

「・・・」

 

「石川が言ってるのは所詮綺麗事、何にも知らないクセに、どうすればいいのか分からないクセにそんな夢物語なことを聞いて正直吐き気がすんの。ほんとバッカじゃないのっ」

 

「ちょっと言い過ぎよミズキ!」

 

「本音を言って何が悪いのよ!こいつに現実を知らしめてやらないとダメなのがわかんないの!?」

 

また相変わらず啀み合う二人。すると、

 

「ハハッ・・・確かにバカだよな、俺」

 

自分自身に対し失笑する竜斗だった。

 

「水樹の言ってることは正しいよ。それに今は司令の言ったとおりこれ以上被害を防ぐことに集中しないといけないのにそんな気の滅入ることを言って悪かった、ごめん」

 

彼が謝り彼女達は啀み合いを止めてスッと席に座り込む。

 

「あ~あっ、何か食欲失せたからマナはもう行くわ」

 

まだだいぶ朝食の残ったトレーを返却口に返す愛美だが竜斗の後ろを通りかかった時、

 

「さっきは言い過ぎて悪かったわね」

 

と、一声添えて食堂から去っていった。

 

「・・・本当に変わったね、ミズキ」

 

「うん。前のあいつならこんなこと絶対言わなかったよな」

 

地元から帰ってきてからは相変わらず口は悪いが思いやりを持てるようになったというか、ちゃんと気遣いが出きるようになったというか、とにかく愛美は本当に丸くなったと思う。自分たちと凄く絡むようになったし――そう思うとほっこりと嬉しくなる二人だった。

 

「アタシはリュウトの言ったこと素晴らしいと思うな。こんな時にそう考えれるのはリュウトが本当に優しい証拠だし――アタシは・・・そんなリュウトが好きだし何があってもずっと味方だから。だから自分をバカとか思っちゃダメだよ。夢は諦めずに頑張れば必ず叶うんだから、ねっ」

 

「エミリア・・・」

 

「あ、アタシも先に行くね。訓練の準備しなくちゃいけないし」

 

照れ顔で食べ終わった食器のトレーを返却口に置いてそそくさと去っていくエミリアに竜斗は心のもやもやがに消えていき、寧ろモチベーションが上がる思いで優しい笑みを見せた。

 

(ありがとう、二人とも)

 

そう心の中で二人にお礼を言うのであった。

 

――オーストラリア大陸。南半球に位置するかつて自然に囲まれた巨大な大陸。だが今ではマグマによる膨大な熱とガスにより生態系が破壊されメカザウルスが一面に蔓延り咆哮が飛び交う混沌の地と化している。

その中央部に居座る巨大な建造物。巨大な骸を基盤に天に伸びる勢いの塔で構成された、第一恐竜大隊の本拠地『ヴェガ・ゾーン』。

 

「ゴール様。エゥゲ・リンモの発射実験は成功です」

 

内部にある四方八方コンピューターに囲まれたオペレーションルーム。その中で各仕事に就く多くの爬虫人類の中でも一際目立つ銀色のマントに身を包まれた厳格な男。

第一恐竜大隊長でありヴェガ・ゾーンの総司令であるリョドはモニター越しのゴールと話をしている。

 

『よくやった。これでいつでも長距離砲撃が可能になった。しかも超音速で飛行するから迎撃は困難なわけだな』

 

彼はいつも以上に興奮に満ちあふれている。

 

『作戦準備が出来次第、ただちに日本各地、特にゲッター線の機体がある猿どもの区域にリナリスを撃ち込め。分かっていると思うが何があっても奴らにエゥゲ・リンモの存在を知られるでないぞ』

 

「承知しております・・・」

 

通信が終わりモニターが外部映像に切り替わりそれを忽然と眺める彼の隣に側近のファブマが立つ。

 

「将軍。この作戦が成功すれば我々第一恐竜大隊はさぞ素晴らしい栄光が待っているでしょうな。必ずや成功させましょう!」

 

「ああ・・・そうだな」

 

モニターに映し出されたのは海底深くに鎮座する謎の建造物、一体何キロあるのかと思えるほどの超巨大な砲身の姿が。

 

「作戦開始まで絶対にエゥゲ・リンモを地上人類に知られるな。だが向こうもこの存在に気付き次第、確実に破壊しようとしてくるだろう。いつでも迎撃できるように戦闘準備をしておけ」

 

「はっ!」

 

「私はしばしこの場を離れる。ファブマ、ここの指示を任せるぞ」

 

ファブマにそう伝え、オペレーションルームから出ていく彼の向かった先はヴェガ・ゾーン内の兵器開発部門兼格納庫。着くなり近くにいたエンジニア、メカニックマン、そして調整にあたっていたパイロット達が駆けつけ片膝をつく。

 

「そんな堅苦しくしなくていい。立て」

 

「リョド将軍。どうなさいなましたか?」

 

「単に見回りに来ただけだ。作業中の者はすぐに戻ってくれ」

 

解散させた後、数人の者をつけて各兵器を視察するリョド。メカザウルス、メカエイビス、各固定砲台・・・この基地の全ての戦力に不備はないか念密に調べていく。

 

「リヒテラ、リナリスはどうなっている?」

 

「もうすでに完成しております。あとは将軍の一声さえあればいつでもエゥゲ・リンモに装填できます」

 

「そうか。先にリヒテラから使い日本各地を攻撃し混乱させろ。リナリスは・・・奥の手として最後まで残しておけ」

 

その時、すぐ近くの戦闘機区域のシャッターが開くと六機の翼竜、それも燕のように鋭角的なフォルムを持つ変わった戦闘機が順番に入ってきて一機ずつ並列に格納していく。それらが終わるとコックピットからパイロット達が降りてくる。パイロット達はヘルメットを脱ぎ汗まみれの清々しい顔を露見し外の空気を美味しそうに吸い込んだ。

 

「やっぱりすごいね。こいつは恐竜戦闘機とは全然比べものにならないよ」

 

六人のパイロットの内、唯一の女性パイロットの元に他のパイロットが集まってくる。

 

「無事に生きて帰ってこれたねアンタ達、まさかションベン漏らしたヤツぁいないだろうなあ?」

 

「ナメないでくださいよ隊長っ、そんな軟弱なヤツはそもそもこの部隊にいないッスよ」

 

「ちげぇねえやな。ハハハっ!!」

 

自分以外は全員男であるにも関わらず寧ろ下品な言葉と高圧的な態度で彼らをタジタジさせるその様はまさに女傑を感じさせるこの女性。ボーイッシュで爬虫人類としては珍しい銀髪を掻き分けて分厚いパイロットスーツを着こんでいても細いと分かるその体躯は華奢そうであるが、その顔はいくつもの修羅場を括ってきたタマを思わせる威圧的でその爬虫類独特の眼から鋭い眼光を放っている。

 

「しかしガレリー様の開発したこの新型機なら空戦闘においてアタイ達に敵うヤツなんざ世界じゅうどこ探してもいねえな・・・ん?」

 

彼女達はリョドがこちらに来ることを知るいなやすぐに横並びに整列し敬礼する彼女達。

 

「第六翼竜中隊所属戦術機甲航空小隊『ミュゥベン小隊』、キャプテン・リィオ以下六人は哨戒任務及び新型機の飛行テストを終え帰還しました!」

 

先程の立ち振舞いから一転して、厳格な態度で挨拶する彼女達に顔を崩さず接するリョド。

 

「新型機の乗り心地と調子はどうだ?」

 

「正直凄まじいものを感じ取れます。まだ全力は出していませんがこれなら間違いなく地上人類の航空隊、いや例のゲッター線の機体をも指一本触れさせずに圧倒できましょう。それに私達と相性はすごぶるいいです、まるで自分の手足を動かすような抜群の操縦性です」

 

「頼もしい。恐らく作戦が始まれば間違いなく敵はエゥゲ・リンモを一点集中で攻撃を仕掛けてくるだろう。例のゲッター線の機体も現れる可能性は非常に高い。そなた達は・・・」

 

「分かっております。我々ミュゥベン小隊は作戦遂行のために少したりとも奴等をこちらに近づけさせません。必ずや返り討ちにしてさしあげます」

 

自信満々にそう宣言するリィオに期待して頷いた。

 

「『天空の戦乙女』と讃えられたそなたと部下達の武勇、期待するぞ。健闘を祈る」

 

『恐竜帝国、爬虫人類の名誉と栄光をかけて!』

 

声高らかに彼女達の宣言は格納庫内に響き渡った。



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番外編④「エゥゲ・リンモ攻略戦~天空の戦乙女~」②

――数日後。夜中。ヴェガ・ゾーンのオペレーションルームではリョドとファブマの指揮の元、大勢の部下がそれぞれ各コンピュータの操作席に配置されモニター一点を凝視している。

 

「これより作戦『ギュルアンカブ(大地に死を蒔く)』を開始する。エゥゲ・リンモを浮上させよ」

 

リョドの発令と共にオペレーターからの指示が通信される。それからしばらくしてオーストラリアより北約三千キロの海域。海ばかり見渡す限り地平線の海上より巨大な水しぶきを上げて現れるは金属で出来た人工的の小島に乗る、全長十キロはある想像を絶する巨大な砲台・・・ゆったりと斜めに伸びる砲身の先は・・・方角的に日本へ向けられていた。

 

『リヒテラ発射準備。イニシエート・ローディング』

 

砲身直下の溝に一直線に伸びるコンベアベルトが動きだし、端の弾薬庫のハッチが開くと細長い長方形状の金属箱、それらを計四本に束ねた巨大な塊が姿を現しベルトを通じて長い道のりの先にある砲台へと運ばれていく。

それと同時に砲身内ではマグマを動力して発生させた膨大な電気が全体に伝わり、うねるような鈍い稼働音が小島に響き渡る。

 

『リヒテラ装填完了。発射スタンバイ』

 

その物体が砲台内部に入っていき、直ぐにアナウンスと共に稼働音がいきなり『ギュオオオ!』と活性化した。

 

『発射五秒前。四、三、二、一、発射!』

 

瞬間、エゥゲ・リンモの巨大な砲口から青白い極光が吹き出した。一見それだけにしか見えないが彼らは単なる遊びでこんな大がかりなことをやっているわけではない。そう、それは文字通り、大地に死を撒き散らす雨の素がたった今、日本へ向けて発射された。

 

「リヒテラ、再装填開始。終わり次第直ちに第二射、第三射と休まず発射せよ。各オペレーターはリヒテラの軌道を追跡!」

 

一連の光景を見届けたリョドは間を置かず、直ちに発令。同じシーケンスが再び繰り返されるのであった。

 

――この日、日本に本当の激震が走る。誰もが眠っている安堵の時間に突如、死をもたらす雨が降り注いだ。それはまるで天の、神の怒りでも起きたかのように。

僕、いやみんなも眠っていた所を叩き起こされ、その時には駐屯地は大混乱になっていた。いや、今は日本各地でもこちらのようになっているだろう。

僕はどこから攻撃されているのかという恐怖と疑問もあったが早く被害を防がなければ、と言う気持ちが勝っていた。

これから僕達は長く辛い、そして厳しい体験を味わうことになる――。

 

「こんなタイミングで何なのよ一体!!?」

 

慌ててパイロットスーツに着替えた竜斗達は各ゲッターロボに乗り込みすぐに起動させる。緊張と焦りからか、夏の夜だというのにもう既に冷たい汗をかいている。エミリアに至ってはもはや顔が青ざめて震えていた。そんな中、艦橋にいる早乙女から通信が入る。

 

『三人とも、今日本各地で多弾頭ミサイルによる爆撃が行われ相当な被害を受けている』

 

「一体どこから攻撃されているんですか!?」

 

『今、マリアがそれをサーチしている。少し待てっ』

 

マリアがコンピューターを使い、必死で発射元をしている。サーチ範囲を一気に広げてくまなく調べていく。そして、

 

「ミサイルの発射元を確認しました。日本より南下約四千キロの海域からです!」

 

早乙女がその結果をそのまま伝えると三人は耳を疑った。そんな遥か遠くからミサイルを撃っているのか、と。

 

『入ってきた情報から推測するとミサイル群の飛行速度は超音速かそれ以上と思われる。そのため迎撃は至難だ』

 

「そんな・・・どうするんですか!」

 

「どうするもこうするもミサイルを何とかしてこれ以上の被害を防がないと!」

 

打開作について口論になりつつあるも、またすぐにミサイルがとんでもない速度で飛んで来ているのに悠長なことはしていられない。その時、

 

「こちらに急接近する反応を確認!数は複数。恐らくミサイルです!」

 

「何?竜斗、水樹、君達は直ちに出撃してくれ。二人でミサイルを撃ち落とすぞ」

 

『でもそんなのどうやって!』

 

『ムチャよ、そんなスピードで向かってくるミサイルを捉えるなんて!』

 

「向こうもミサイルならこちらもミサイルで対抗する。追尾能力の高いそれぞれのミサイルを持って空、陸から全力で撃ち落とすぞ」

 

早乙女の提案にたじろぐ愛美に竜斗は、

 

『やろう水樹、今はこれしかない!司令を信じよう』

 

『石川・・・』

 

『大丈夫、俺達はゲッターチームだ。これまでも何とか乗り越えてきたんだ、だから!』

 

竜斗の覚悟が十分伝わる決意を聞き入れ愛美は、

 

『・・・わかった。石川、力を合わせてミサイルを撃ち落とすわよ!』

 

ついに彼女も覚悟を決めてくれた。

 

「ありがとう二人とも。君達なら必ずやれると信じているぞ」

 

二人は出撃しようとした時、エミリアから通信が入る。

 

『リュウト、ミズキ・・・アタシ、何の役にも立てなくてゴメンね・・・ゴメン』

 

声が震え眼が涙で潤んでおり今にも泣き出しそうな彼女に二人は、

 

『大丈夫だ。単に陸戦型ゲッターロボはそういうことをするようには造られていないだけでエミリアは役に立たないってことを俺は少したりとも考えたことはないから。俺はお前がいることで今までも、そして今も凄く救われてるからだからエミリアも大切なゲッターチームの仲間だ。今はゆっくり休んでて』

 

『そういうこと。アンタは高見の見物でもしてなさいっ』

 

心配しなくていい、と思わせる強い勇敢げな表情を見せつける竜斗と愛美。彼女も暗い表情が一気に和らいだ。

 

『・・・ありがとう二人とも。頑張ってきてねっ!』

 

彼女からエールをもらい、二人も力強く頷いた――。

 

「石川竜斗、空戦型ゲッターロボ、発進しますっ」

 

「マナ、海戦型ゲッターロボ、行くわよ!」

 

ベルクラスから二機のゲッターロボが飛び出し、それぞれのルートで地上へ上がっていく。

 

「マリア、ミサイルを対処し次第竜斗達を帰還させてすぐにベルクラスを発進、ミサイルの発射源を叩きに最大全速で向かうぞ」

 

「了解!」

 

外に出たゲッターロボはそれぞれ空と陸に配置する。すでに駐屯地内にはBEETが複数、ミサイル迎撃のために火器を構えて配置していた。

 

「なんだ、これだけいるなら案外楽そうじゃないっ」

 

愛美は自分達だけではないことに安堵した。一方の竜斗は安心しておらず神経を張り巡らせてミサイルの破壊にだけ集中していた。

 

「ミサイル、来ます!」

 

各機のモニターに確かに複数のミサイルを捉えていた。レーダーを見ると確かに凄まじいスピードで近づいているが流星という例えには到底及んでおらず、明らかに速度は落ちている。

 

「いくよ、水樹!」

 

「絶対落としそびれないようにね!」

 

空戦型ゲッターロボは携行するミサイルランチャーを構え、海戦型ゲッターロボは内蔵するミサイルポッドを展開、迎撃態勢にはいった。

 

(けどおかしい・・・確かに凄いスピードだけど迎撃できないってほどでもないような気がする・・・)

 

これならなんとか撃ち落とせるのではないかと、流星というのは目撃者が焦りなどからそう見えた単なる誇張ではないのか、とさえ思える竜斗――その時、

 

「えっ!?」

 

突然、向かってくる一つのミサイルからさらに十を越える反応が生まれ、それらは四方八方に散りそれらが流星の尾を引きながらそれぞれ地上一点に落ちていく。

 

「ウソ・・・っ」

 

地上に着弾した瞬間、巨大な爆炎があちこちで巻き起こる。『大地に死を蒔く』光景を目にした全員が一体何が起こったのか理解できず唖然となった。それは早乙女とマリアもしかり、

 

「司令、これはまさか・・・!」

 

二人は段々と理解していく。今日本各地に落ちているこのミサイル群は如何に恐ろしいものなのかを。

 

「全機、あれはミサイルコンテナである。分散されると破壊はより困難になる。その前に何としても撃ち落とせ!」

 

早乙女の号令に各機は一斉砲撃を開始。ミサイル、プラズマ弾、機関砲、ありとあらゆる弾による弾幕が夜空に展開する。

 

「うわああーーっ!!」

 

竜斗、愛美も死に物狂いでミサイルコンテナを破壊しようとミサイルを撃ち込む。弾幕が功を成し、見事ミサイルコンテナに直撃し空中で爆散した。しかし休む間もなく第二、第三のミサイルコンテナが凄まじい速度で飛んでくる。

コンテナが空中で開き、中から束になった羽翼付きのミサイルが空中に放り出されると為すままにジェットエンジンで急加速し、地表めがけて推進する。

 

「コンテナの中身は・・・巡航ミサイルの塊か!」

 

各機それぞれはミサイルコンテナ、拡散する巡航ミサイルの破壊に必死にかかるが、それぞれ弾薬切れなどで追いつけなくなくなってきている。

 

「数が多すぎます、このままではこちらも被害が!」

 

次々に飛来するミサイルコンテナが開き、巡航ミサイルがまるで雨の如く駐屯地へ向けて落ちていく。

地上の機体は弾薬を惜しまず撃ち続け破壊、数を減らしていくが残ったミサイルのいくつかがなんと海戦型ゲッターロボの頭上に・・・。

 

「いやあ!!」

 

このままでは直撃は免れない、愛美は思わず悲鳴を上げた。

 

「水樹!」

 

その時、竜斗の空戦型ゲッターロボが真上に現れて右腕を突きだしビームシリンダーを展開、素早くゲッタービームをミサイル全てに撃ち込み、爆散させた。

 

「大丈夫か水樹!?」

 

「石川・・・遅いじゃない・・・っ、けど、ありがとねっ」

 

愛美の心から感謝の言葉を、彼は快く受け取った。ちょうどこの時、遥か先のミサイル攻撃が止まったのか反応が途切れていた。全員はどこか不気味だと安心できず、警戒するが早乙女はこれをチャンスの時だと捉えていた。

 

『竜斗、水樹、今すぐベルクラスに帰艦だ。直ちにミサイルの発射源を叩きにいくぞ』

 

「えっ、けどまたミサイル攻撃が来たら!」

 

心配する竜斗の元に.BEETのパイロットから通信が入る。

 

『心配するな。ここは俺達が守る、君達はすぐにミサイルの発射源の元に向かってくれ』

 

『この危機を打開できるのは君達ゲッターチームしかいない、早く行くんだ!』

 

「皆さん・・・分かりました。ここは頼みます」

 

「みんな、絶対に死なないでね!」

 

彼は頷き、それを了承した。竜斗と愛美はすぐにベルクラスに戻ると艦のドックゲートが開きベルクラスがついに発進。星々の瞬く夜空に飛び出し、発射源のある遥か南方へ力強く飛翔していく。

 

「ベルクラス、最大全速!」

 

「了解!」

 

これ以上、ミサイル攻撃の再開がないことを一心に祈るのであった。そして何が何としても日本各地に恐怖と絶望、そして死を振り撒いた元凶の破壊することを全員は心に決めた。

 

―正直、謎だらけで不安で仕方がなかった。だけど僕達は立ち止まることも引き返すこともできない。何故ならこのままでは日本は次の朝の陽の目を見ることができなくなるかもしれない、だからそんなことは絶対にさせない。僕達は覚悟を決めて、遥か南の先に君臨する、巨悪の権化であるとんでもない建造物へと挑んでいった――。



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番外編④「エゥゲ・リンモ攻略戦~天空の戦乙女~」③

一方、エゥゲ・リンモは砲撃をしておらず佇んでいる。小島中に配置されたライトに照らされたそれはこの周りに何もない夜の海上で一際目立っており遠くからみても明らかに分かるだろう。

 

「エゥゲ・リンモ、オーバーヒートにより冷却に入ります」

 

砲身から「フシュウ」という排熱する音があちこちで聞こえ、海中では冷却のために海水を大量に取り込んでいる。

 

「冷却完了次第、砲撃を再開――」

 

「将軍、日本地区よりエゥゲ・リンモへ接近する反応を一つ確認。それからゲッター線反応を検出」

 

誰もがそれがゲッターチームだとすぐに理解する。しかしリョドはこれも想定内であり焦る様子はなく相変わらずの忽然な態度でレーダーを見つめている。

 

「直ちに海上部隊に迎撃するよう伝達せよ。ヴェガ・ゾーンの各部隊も直ちに出撃。エゥゲ・リンモの防衛、及び迎撃部隊の援護にまわれ」

 

基地からおびただしい数のメカザウルス、メカエイビスが一斉に飛び出してそれぞれ空、海からエゥゲ・リンモへ向かっていく――。

 

「前方に反応を多数確認、メカザウルスです」

 

伊豆諸島沖で高速航行中のベルクラスの向かう先には空と海に大量のメカザウルスが既に迎撃態勢に入っている。

竜斗達は全員、これが間違いなく恐竜帝国の仕業であると確信し謎が一つ消えた。

 

「奴らに構っている暇はない。引き続き最大全速で強行突破するぞ。シールド最大展開」

 

ベルクラスはさらに速度を上げて突進する。それに対しメカザウルスもこちらへ進軍してくる。

 

「総員、衝撃態勢に入れ」

 

ついに互いは激突。ベルクラスは前方に妨害するメカザウルス、エイビスに体当たりをかまして吹き飛ばしていく。

 

「各機臆さず一斉攻撃、絶対にエゥゲ・リンモに近づけさせるな!」

 

ベルクラスを何としても破壊しようと全方位からマグマ砲、ミサイル、機関砲、果てには体当たりしてでも進行を妨害する迎撃部隊。しかし最大全速で前進するこの巨大な艦の前には横からドンパチをやらかしたぐらいではビクともしない。

 

「よしこのまま突っ切るぞ!」

 

先の迎撃部隊を振りきり、どんどん進んでいくベルクラス。向こうも追いかけてくるがどんどん加速するベルクラスに全く追い付かず。その頃、

 

「全く頼りない奴らだ。ではアタイ達の出番だな」

 

エゥゲ・リンモの領空内を抜けていき北へ航行するあの翼竜型新型戦闘機が計六機、キャプテン・リィオ率いるミュゥベン小隊の一行が『矢じり』を象る陣形を保ちながらベルクラスの向けて飛行していた。

 

「ミュゥベン小隊、各機状況報告せよ」

 

『サイマァ2、スタンバイ!』

 

『サイマァ3から6、スタンバイ!』

 

小隊全員に異常がないかを確認し、まるで待ち焦がれたかのようにニヤリと不敵の笑みをこぼすリィオ。

 

「準備はいいか、この命知らず野郎ども!」

 

『隊長、アンタのほうがよっぽど命知らずっスよ」

 

『そんなんだからいつまで経っても結婚相手がいないんですよっ』

 

「うるせえ!!帰ったら覚えておけよっ」

 

今から戦闘に入るにも関わらず、物怖じせず笑い声に溢れ全然緊張の欠片もない。だがそれだけリラックスしている証拠であり彼女らミュゥベン小隊が如何に歴戦の猛者の集まりなのかを示していた。

 

「我々ミュゥベン小隊の任務は全力を持ってこちらへ近づいてくる例のゲッター線を動力とする奴らを破壊し、エゥゲ・リンモへ行かせないのが目的だ。各機は攻撃態勢に移行、目標を叩き潰せ!」

 

『サイマァ2、了解(ラジャー)!』

 

『サイマァ3から6、ラジャー!』

 

「よし、ミュゥベン小隊全機突撃!」

 

『メルモ・セイイェ(熱いキスをくれてやる)!!!』

 

翼竜の翼のような主翼を斜め後ろに尖らせ、まるで飛燕の如く鋭角的になる否や、推進器がフル稼働し急加速。それは音速(マッハ)となり、さらにそれ以上速度を上げていく。そしてベルクラスのレーダーはそれらを見逃さず感知していた。

 

「司令、ベルクラスの進行方向より急接近する機影を六つ確認・・・え、これは?」

 

「どうした?」

 

「機影の飛行速度は・・・マッハ8を越えています!」

 

モニターに映るはついにこちらへ到達したミュゥベン小隊の新型戦闘機、『メカエイビス・スニュクエラ』がマッハ8を越えるとんでもない飛行速度でベルクラスを通過していくがすぐに弧を描くように旋回した。

 

「これがゲッター線を使用する奴らか。てめえらにはなんの恨みもねえがこれも任務なんでな、悪く思うなよっ」

 

スニュクエラは一斉にベルクラスへ攻撃を開始。機首部先端に装備している二連装の銃口から小さなマグマ弾を機関銃のように高速連射してベルクラスに浴びせる。ミュゥベン小隊はたった今、ゲッターチームと交戦(エンゲージ)した。

 

「こちらも前進しながら応戦、絶対に立ち止まるな」

 

ベルクラスからも全方位へ機関砲撃を開始、弾幕を張りながらエゥゲ・リンモへ向かっていく。ミュゥベン小隊全機はその圧倒的な機動力から成る華麗な空中戦闘機動(マニューバ)を披露しながら軽々と付いていき追撃していく。

 

「オラオラァどおした!」

 

「そんな隙間だらけの弾幕じゃあ俺らを捉えられないぜ?」

 

スニュクエラからの対空ミサイル攻撃、マグマ機関砲による怒濤の連撃が止まらない。ベルクラスはシールドを張っているので今は耐えているがこのままではいつエネルギー切れを起こすか分からない。

 

「マリア、こいつらは今まで戦ってきた敵の中でも一番厄介な奴らかもしれんな」

 

あの早乙女でさえそう認めているほどだ。その時、リィオの乗るスニュクエラの底部にとり付いている、胴体とほぼ同じ長さの大型ミサイルが発射されてベルクラスのシールドに直撃、大爆発した。

 

「全機、あの艦のバリアが解除され次第、フェイナルタを撃ち込め」

 

『ラジャー』

 

ベルクラス内部に被害は受けなかったものの、爆発時の衝撃によりグラグラ揺れる。

 

「対艦ミサイルかっ!」

 

「司令、このままでは発射源にたどり着く前に!」

 

緊迫した中、竜斗から通信が入る。

 

「どうした竜斗?」

 

『司令、僕に出撃許可を下さい。空戦型ゲッターロボで何とかしてみますっ』

 

彼からの提案に早乙女は迷わず首を横に振る。

 

「ダメだ。こいつらは今まで戦ってきたメカザウルスとは一線を画す強敵だ。恐らくゲッターロボを持ってしても太刀打ちできないだろう。それに今、ベルクラスは高速航行中だ、その中での出撃はあまりにも危険すぎる」

 

『しかしこのままではベルクラスが・・・っ!』

 

「あともう少しでミサイルの発射源に到着する。待て!」

 

確かにエゥゲ・リンモへの距離はあとわずかだ。しかしミュゥベン小隊の猛攻は止まらず、向こうも行かせることを断固許さないようだ。

 

「このままではシールドが持ちません!」

 

「くっ!」

 

窮地に陥る中、突然格納庫のハッチが開き強風が入ってくる。持てる火器を全て装備した空戦型ゲッターロボのテーブルがハッチに移動、カタパルトに連結した。

 

『リュ、リュウト!!?』

 

『アンタ何考えてんのよお!?』

 

当然、エミリアと愛美から通信が入るが当の本人はすでに戦闘態勢に入った顔つきだ。そして険相な病状をした早乙女からも通信が入ってくる。

 

『竜斗、どういうつもりだ!』

 

「後で説教でもなんでも受けます。僕はこれより出撃します」

 

『死ぬ気か!!』

 

「今はそんなことを言ってる暇はないでしょう!ベルクラスが今にもシールドを破られそうなのに、そうなったらみんなは・・・僕は黙っていられません!」

 

『竜斗・・・』

 

「最低でも僕が囮になって敵をベルクラスから引き離されれば・・・僕を信じてくださいっ!』

 

早乙女は驚くと同時にどこかうれしい気持ちでいっぱいになる。あの気弱で頼りなかった竜斗が今はまさに正義感溢れる男の顔になっていることに成長したなと実感できた。

 

『わかった竜斗。だが無理するなよ』

 

「司令・・・ありがとうございます!」

 

空戦型ゲッターロボは軽く屈伸し、発進態勢に入る。そして、

 

「石川竜斗、空戦型ゲッターロボ発進します!」

 

カタパルトが射出されてついにベルクラスの外に飛び出したゲッターロボだが高速航行中の艦から無理矢理出撃したため凄まじい衝撃で吹き飛ばされてしまうも竜斗はすぐに操縦レバーとボタンを押して体勢を持ち直した。

 

「りゅ、竜斗君が出撃!?この高速飛行中にです

か!?」

 

それを知ったマリアも信じられない顔をして狼狽している。しかし早乙女は嬉しそうに少し笑みを見せていた。

 

「竜斗、ちゃんと男に成長してたんだな、ククッ」

 

「司令・・・」

 

「彼を信じよう。我々は必ずミサイルの発射源に到着し、そして破壊するぞ、諦めるな!」

 

早乙女の力強い言葉にマリアも応えるように頷いた。

 

「ベルクラスをこれ以上やらせない。俺が相手だ!」

 

ついに竜斗の駆るゲッターロボがミュゥベン小隊と接近。挨拶代わりと言わんばかりに左に携行したプラズマ・エネルギーバズーカを構えて巨大なプラズマ弾を発射、射線にいた一機へ向かっていくが読まれており軽々と機体を翻して回避、弾は遥か空へ飛び去っていく。

 

「おいでなすったな、例のゲッター線の機体。相手にとって不足はねえ!アタイとサイマァ2、3はこの機体、4、5、6は敵艦をやりな!」

 

それぞれ半々に分かれるミュゥベン小隊各機。リィオ率いる分隊は一斉で空戦型ゲッターロボに攻撃を開始する。竜斗も負けてたまるかと、モニターにスニュクエラを捕捉し右に携行するミサイルランチャーを構えて一気にミサイルを発射。

しかし彼女達はその華麗且つ想像を絶する機動力からのアクロバティックな飛行で難なく避ける。

 

(くっ!追尾性能の高いミサイルなのに一つも当たらないなんて・・・)

 

その時、リィオ機から発射されたマグマ弾がミサイルランチャーに直撃し、ミサイルに引火して爆散、竜斗は驚き怯んだ。しかし間を入れずサイマァ2からの対空ミサイル一発が左のバズーカに直撃しこれも破壊された。

 

(うわっ!休む隙もない!)

 

ゲッターロボはすぐに左右腰に装着した二挺のライフルを持ち構える。

 

(こうなったら少しでもベルクラスからこいつらを離すんだ!)

 

竜斗はレバーとペダルをフルスロットルし、超高速でベルクラスから離れていく。リィオは「フン」と鼻で笑った。

 

「アタイ達を自分の艦から離そうってんだね。面白い、乗ってやろうじゃねえか。全機、あの機体を追うぞ!」

 

『隊長、艦はどうするんですか!』

 

「あんなの、アタイらに掛かればいつでも撃沈できる。それよりもミュゥベン小隊の真価をアイツに見せてやろうじゃねえか。自分が如何に格下で無力な存在なのかを身に刻みこんで絶望の崖っぷちに立たせて落とす、あの艦に乗ってる連中にもその様子を見せしめてやるのさ」

 

高揚しており窮鼠をいたぶるが如く残虐性が滲み出ているリィオに部下達は内心、「まあた悪いクセが出てやがるな」と思っていたが逆らうワケにも行かず直ぐ様、ベルクラスから離れていく各機。

 

「メカザウルス達が竜斗君を追って艦から離れていきます」

 

「よし、今の内に前進だ」

 

二人は竜斗を信じて、ベルクラスを前進させる。既に日の目が見えて、光が差しこみ朝になりつつあり段々と、着実にエゥゲ・リンモに近づいていく。

 

「前方に無数の反応確認。モニターに映します」

 

モニターに映し出された光景はベルクラスにいる者全員を驚愕、呆然とさせた。

 

「ワオ・・・何これ・・・」

 

「何なのこのデカブツ・・・」

 

エミリアと愛美が面食らっているが早乙女とマリアも同じであった。

 

「こんなモノでミサイルコンテナを飛ばしていたのか・・・」

 

ついにエゥゲ・リンモをこの目にする早乙女達。空、陸、海には夥しい数のメカザウルスがエゥゲ・リンモの防衛に入っており全く隙がなくそのスケールに圧倒されてしまう。

 

『早乙女さん、何なのアレ!』

 

「恐らくミサイルの発射源だ。しかし――』

 

その時だった、エゥゲ・リンモの冷却が終わり再び膨大な電力が砲身に満たされていく。

 

『リヒテラ発射準備。イニシエート・ローディング』

 

再び巡航ミサイルを詰め込んだコンテナ弾がベルトを伝って通っていき砲台内に入っていった。

 

『リヒテラ装填完了、発射スタンバイ』

 

アナウンスが響き、『ギュオオっ!』というフル稼働の音と同時にエゥゲ・リンモ全体が活性化。

 

『発射五秒前、四、三、二、一、発射!』

 

その瞬間、砲口から莫大なエネルギーが放出されたと共にコンテナ弾が再び日本へ発射されたのだった。

ベルクラスは運よく射線上にはおらず、被害はなかったもののしっかりとその一連の流れと分析は行われていた。

 

「司令、この兵器は――」

 

「――レールガンかっ」

 

二人は確信した。

 



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番外編④「エゥゲ・リンモ攻略戦~天空の戦乙女~」④

早乙女とマリアのこのエゥゲ・リンモのどんな兵器かを理解した。これはミサイルコンテナを電磁加速で撃ち出す超巨大のレールガン砲台・・・いやマスドライバーに近い兵器だと言うことを。

 

「奴らめ、こんなとんでもないものを建造していたのか」

 

早乙女は自らこの兵器をスキャンし分析に頭脳をフル回転させる。カラクリが読めた以上、弱点は必ずあると。

 

(ここまで巨大なレールガンだと砲身が焼けつくほどの膨大な熱量が出る、すなわち冷却装置があるはずだ。恐らくミサイル攻撃が止んだのもそれが原因だろう。それらを探し出し破壊すれば・・・しかし)

 

もし解決策を見つけたとしても問題はそれを実行できるのか、と早乙女に不安がよぎる。今の自分達の戦力はエミリア達の乗るゲッターロボ二機とベルクラスしかいないのに対し、向こうは空、陸、海全てにメカザウルス、そして防衛用の固定砲台を張り巡らせており圧倒的だ。何の策なしで突っ込めば間違いなく集中攻撃を受けて蜂の巣にされてしまうのがオチであろう。

かといって、グズグズしていてもまた砲撃が繰り返されて日本はさらに被害を受ける、時間の猶予は全くない。

 

『司令、アタシに出撃許可を下さい!』

 

『早乙女さん、マナも出るわ』

 

突然、二人からの申し出が。恐らく竜斗に感化された影響だろう。しかし早乙女はこの状況を前には流石に承諾は出来なかった。

 

「君達はこの状況が分からないか。それに空戦型ゲッターロボと違って君達のゲッターロボは行動範囲が限られている。間違いなく死ぬぞ」

 

『だからと言ってこのまま見ているだけなんですか!』

 

『石川が今、必死で頑張っているのにマナ達だけずっと待機だなんて!』

 

彼女達の気持ちが十分に分かる。この切羽詰まった中、緊張感と焦り、何とかしないといけないという正義感が今にも飛び出したくてたまらないのだろう。だがだからと言って何の打開策もなしに行かせるほど早乙女は無鉄砲ではない。そんな時、レーダーを見ていたマリアが「え?」と声を出す。

 

「ベルクラスの後方より接近する反応を多数確認!」

 

「メカザウルスか?」

 

「いえこれは・・・味方機の反応です」

 

モニターに映し出すとそこにはなんと百、二百を越えるBEET、戦闘機、そしてアメリカ軍の主力機であるマウラーの日米の混成隊がこちらへ駆けつけてきた。

 

『早乙女一佐、たった今我々は到着しました。これより援護に入ります!』

 

「来てくれたか君達!しかし日本の方は大丈夫か?」

 

『ちゃんと防衛する戦力は残してきたので心配しないでください』

 

「ここに来る前に敵の迎撃に遭わなかったか?」

 

『来る途中、彼らアメリカ空軍の部隊と偶然合流してたのでもう我々が片付けときました。後方はもう大丈夫です』

 

味方がこんなに駆けつけてくれたことに早乙女達にとってこれほどうれしいことはない。これだけの戦力があれば何とかいけるかもしれない、彼は今にも気持ちが沸き上がりそうだった。

 

『サオトメ一佐、私ジェイド=リンカネル少佐以下アメリカ空軍編成隊も微力ながらこれより援護に入ります』

 

アメリカ軍の代表から英語の通信が入る。黒人であり角刈の強面であるが非常に落ち着いた印象を持つ男性である。

 

『すみません。恩に切ります』

 

と、丁寧口調の英語で返す早乙女。

 

「よし、我々はこれよりあの巨大レールガン砲台を攻略する」

 

朝焼けの大攻防戦が今始まる。陽光に照らされまるでスポットライトを浴びるように海面が光り、まるでこの時にために用意された舞台のようだ。一方、向こうはそんな綺麗事は似合わない無秩序に配置されたメカザウルス、今にも爆発しそうに獣の雄叫びがこの海域に響き渡る。

 

「私達は直ちにあの砲台を解析し、弱点を探す。君達はそれまでメカザウルスの掃討にあたってくれ。なお、絶対にレールガンの射線上に入るな。情報はわかり次第逐次伝える」

 

『了解!』

 

「全機、攻撃態勢に移行。敵を一匹残らず叩き潰せ!」

 

早乙女に命令が下り、各機は一斉にエゥゲ・リンモに向かっていった。それに反応してメカザウルスも一斉に動きだし、一気に急接近していく。

BEETは武器を構えて群がるメカザウルスに火線を浴びせ、海に落としていく。

 

「よくも日本にこんなとんでもないモノをいくつもプレゼントしてくれたな、たっぷりと礼をしてやるぜ!」

 

恨み節を込めながら容赦ない攻撃を次々と加える自衛隊パイロット。さぞかし腹が煮えくり返る気持ちだったのだろう。

その時、アメリカ軍のマウラー、そして戦闘機が頭上を通りすぎ、高速飛行しながら機関砲、プラズマ弾、ミサイルを撃ち込んでいく。

敵からの弾幕が降り注ぐ火中に「イヤッホー」と高らかに声を上げて突っ込んでいき海上、そして小島に居座るメカザウルス、固定砲台にミサイルを撃ちこむ者も。そんな中、『蝶のように舞い蜂のように刺す』を体現した華麗な飛行をしながら敵を翻弄し、ピンポイントで撃ち落とす一際目立つ戦闘機。

 

「相変わらずだな、ジェイドは」

 

仲間か認める彼は複雑な軌道をしているのに顔色何一つ変えずに淡々とこなしていく。さらにそこから各仲間に要所要所で的確に指示するのだから流石である。

それぞれが身を削る攻防を繰り広げる中、ベルクラスでは早乙女とマリアが必死に解析が行われている。

 

「よし、これであのレールガンを何とかできる」

 

ついに解明した早乙女はすぐにエミリアと愛美、そして戦闘中の味方に通信する。

 

「解析が終わったから全員よく聴け。あのレールガンは中央一直線に伸びる溝から弾薬を装填するようだ。そしてあの砲台の乗る小島に約二十の冷却装置と思わしき物体が確認できた」

 

『それを破壊すればいいんですね?』

 

「ああっ、全て潰せれば砲身が焼けつき自ら破壊されるだろう。今から全機にその解析データを送る」

 

味方機全機にそのデータを転送し、早乙女は二人に注目、指示を出す。

 

「エミリアは小島に降りて味方機と共にその冷却装置を破壊に専念してほしい、できるか?」

 

『大丈夫です、こんな時ぐらい役に立たないと!』

 

やる気に満ちた張りあるの声で返事する彼女に彼は優しい表情で「よし」と頷く。

 

「水樹、君はみんなとは違う任務を行ってもらう。データを見た通りあの小島は海底まで伸びる昇降機のようなもので支えられている」

 

「てことはつまり、あれは沈んだり浮いたりするってこと?」

 

『察しがいい。恐らく砲台を沈めて隠すためのものだろう。そしてその制御装置と思わしき物体を海底付近で確認した。それを破壊してくれ。そうすればこれは二度と海底に沈めることが出来なくなる。すまないが君一人しかいない」

 

『任せといてよ早乙女さん、向かってくるメカザウルスなんかみんな返り討ちにしてやるから!』

 

自信満々に答える愛美に早乙女は「さすが頼もしい」ともはや心配する気はなどなくなった。

 

「では先に海戦型ゲッターロボを降下させる。水樹、準備はいいか?」

 

『いつでもいいわよ。あと気をつけてねエミリア!落ち着いて行けば大丈夫だから』

 

『ミズキ・・・アンタも絶対に無理しないでっ』

 

女同士で励まし合った後、降下用ハッチが開き海戦型ゲッターロボは滑り落ちながら海へ落下していった。

 

「エミリア、次は君の番だ」

 

ベルクラスは小島へ前進、空中に散開するメカザウルスも襲いかかるがすぐに弾幕を展開し寄せ付けない。足場の悪い所が多いがそれでも比較的平地を探しだし、そして砲口の左側にある沿岸部に降下地点を決めた。

 

「エミリア=シュナイダー、陸戦型ゲッターロボ、出ます!」

 

降下用ハッチが開き、テーブルが傾き滑り落ちながら地上へ向かっていく。落下速度が上がる途中でパラシュートを開き、ゆっくりと降りていく・・・と思いきや、地上で防衛していた一体のメカザウルスが陸戦型ゲッターロボに狙いを定めており、マグマ砲をパラシュートに撃ち込んだのだ。

 

「えっ、えっ!?」

 

パラシュートが燃え上がり、機能を失って落下速度が上がり始めていく。

 

「きゃあああっ!」

 

墜落を始める陸戦型ゲッターロボ。下ではメカザウルスがまるで鬼の首を取ったかのように待ち構えていた。落下の衝撃でコックピットがガタガタに揺れ、彼女はパニックに陥り始めていた。その時、タイミングよく早乙女から通信が入る。

 

『エミリア落ち着け、陸戦型ゲッターロボにはこういう時のことを想定してちゃんと降着機能を備えてある』

 

「降着機能!?」

 

『頭から落ちない限りは高い所からでも衝撃の大半を吸収してくれる。それよりも真下にいるメカザウルスに一発かましてやれ』

 

「は、はい!」

 

言われるままに左のドリルを高速回転させて、メカザウルスに目掛けて落ちていく。メカザウルスもゲッターロボがドリルを向けながら自分の所に落ちてきているに驚きつつも逃げる様子もない。なら受けてたとうと言わんばかりに。

 

(怖がっちゃダメよ、みんな必死に頑張ってるのに自分だけ怖じけづいちゃからねアタシ!やればできるんだからっ)

 

恐怖を押し殺すために自分にそう言い聞かせる彼女。間近に迫る両機。ゲッターロボかメカザウルスか、果たして。

 

「・・・・・・」

 

ドリルがメカザウルスを脳天から貫き、ミンチのように粉砕されてマグマが四散する。地面に着地した瞬間、ゲッターロボの脚が自動的に百八十度折れ曲がり、衝撃を吸収した。

 

「ワオ・・・本当に大丈夫だった」

 

多少コックピットが揺れたが落下の時と比べたら凄くマシであり、彼女は「ちゃんと生きてるんだ」という実感身に沁みている。

 

『大丈夫か?』

 

「はい。サオトメ司令の言った通りでしたっ」

 

『よし、これからもいけるな?』

 

「任せてください!」

 

マグマが溢れるこの場をすぐに離れて、冷却装置を破壊しに疾走する陸戦型ゲッターロボ。それを早乙女は暖かく見届けている。口には出さないが彼女のことを考えるとやはり心配なのだろう。その姿はまるで父と娘のようだ。

 

「リヒテラ発射準備。イニシエート・ローディング」

 

再装填を開始するエゥゲ・リンモ。しかし早乙女達はそれを見逃すはずはなかった。

 

『敵レールガン砲台、発射シーケンス開始!』

 

それを受けて、アメリカ軍戦闘機が砲身下に突入して溝の中に爆撃を開始。見事、ミサイルコンテナ弾に直撃させて破壊した。

 

『ミサイルコンテナ弾は装填前の移動時に破壊しろ』

 

攻略の一歩を踏み出した全員は「勝てる」と希望を見出だし高揚し、士気が一気に上がる。一方でエゥゲ・リンモの構造と仕組みが解明されて、攻略開始する早乙女達に徐々に焦りが見え始める恐竜帝国軍。

 

「一基破壊!」

 

「こちらも一基破壊!」

 

それぞれがメカザウルスや対空砲台の猛攻を掻い潜りコックピットのマップモニターに表示された冷却装置に攻撃し、着々と破壊していく。

 

「はああっ!」

 

妨害するメカザウルスをドリルとライジング・サンに内蔵した火器を駆使して蹴散らしながら冷却装置へ辿り着いた陸戦型ゲッターロボはすかさずドリルで穿ち、破壊した。

 

「やったわ!」

 

嬉しくて思わず声を上げるエミリア。そして次の冷却装置へ向けて小島内を奔走する。

 

「ホラホラ、そんなんじゃマナを止められないわよ!」

 

そして海中では愛美の乗る海戦型ゲッターロボはこちらへ向かってくるメカザウルスを、宣言通りに内蔵した全ての火器でことごとく返り討ちにしている。さすが彼女といったところか。

 

「暗くなってきたわ、メカザウルスがどこから来るか注意してなきゃ」

 

コックピットのソナーを最大に活用して周辺を警戒しなごら海底へ降りていく。

エゥゲ・リンモを攻略までもう少しと差し掛かった時、

ヴェガ・ゾーンのオペレーションルームでは動揺している者は一人もおらず、寧ろ落ち着いていた。まるでこれも想定内だと言わんばかりに。

 

「エゥゲ・リンモに『リナリスを別ルートで装填せよ』と伝達せよ」

 

オペレーターはすぐに向こうにそう伝え、再び動き出すエゥゲ・リンモを無表情のまま見届けるリョドは一体何を考えているのか。

 

(リナリス・・・本当は使いたくなかったがこうなるともはや仕方がない。地上人類よ、すまんがこれもゴール様の命令なのだ――)

 

今の彼はどこか罪悪感に苛まれたような雰囲気がにじみ出ていた――。

 

リナリスという謎の兵器がエゥゲ・リンモに地下ルートから装填されていることを流石に知らない早乙女は勝利を信じて各機に指示を出し続ける。

 

(このままなにも起きなければあのレールガンを止められる。だが問題は・・・)

 

彼はエゥゲ・リンモとは別方向に視線を向けて不安感を抱く。それは、自分達を襲ったミュゥベン小隊を引き付けてベルクラスから離れていった竜斗の安否であった。



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番外編④「エゥゲ・リンモ攻略戦~天空の戦乙女~」⑤

――囮となりベルクラスから一気に離れていった竜斗の乗る空戦型ゲッターロボを追ってミュゥベン小隊全機はまるでハンターが獲物を追いこむが如く、じわじわ距離を詰めていく。

ゲッターロボは前進しながらライフルを後ろに向けてプラズマ弾を発射、リィオ達の乗るメカエイビス・スニュクエラに当てようと試みるがことごとく回避され全く命中せず。

 

(くっ、全然当たらない・・・)

 

苦汁の表情を浮かべる竜斗と裏腹にリィオ達は馬鹿にしているのか微笑していた。

 

「ホラホラ、どんどん撃ち込まないと追い付かれるぜ?」

 

真っ直ぐ飛んでいたスニュクエラが左右、上下と複雑かつ変則的に動き、まるで紐を意図的に絡ませるような軌道を取り竜斗を翻弄させる。そこからさらにマグマ機関砲、対空ミサイルで追撃を開始、ゲッターロボに襲いかかる。「うわっ!」と声をあげた竜斗はすかさずレバーを引き、一気にスピードを落とす。

通り過ぎ去っていく彼女達だがすぐに急旋回し、ゲッターロボへ進路を向けて一点で向かっていく。

 

「全機突撃、あいつに『悪夢』を見せてやれ!』

 

主翼部中央下に装備したドラムボックスからミサイルを数発発射、まるで小鳥のように機敏な軌道で向かっていく。ゲッターロボは両手に持つライフルを構えて、すぐにプラズマ弾を連射し的確に撃ち落としていく。

だが間を置かず、割り込むようにマグマ弾をばらまいてくる。

竜斗は操縦レバーを器用に動かしその場から退避、対抗する気でゲッターロボも三次元機動を有効活用してアクロバティックじみた空中飛行をして撹乱しようと試みる。

 

「アタイ達に対抗しようとするとはいい度胸だ。確かに筋は悪くないがまだまだだな」

 

するとミュゥベン小隊はスニュクエラに搭載した新型推進器『メレミュート』をフル稼働させ、空戦型ゲッターロボを遥かに上回る機動力で空中を飛び回り四方八方から各火器で集中攻撃。

 

「く、くそォ!」

 

竜斗も応戦し、なんとか一発当てようと撃ちまくるがいくらやっても全て回避されてしまう。狙撃しようにも速すぎて目が捉えきれず、全然狙いが定まらず。

しかしリィオ達は無慈悲に飽和攻撃と言わんばかりの猛攻でゲッターロボのシールドを削りに削り、竜斗に格の差を見せつけた。

 

(つ、強い・・・あのメカザウルスより・・・っ)

 

あのメカザウルス・・・それは以前二度戦い自身を窮地に追い込んだ、あのラドラの駆る『ゼクゥシヴ』である。しかし今回の相手はゼクゥシヴより全てにおいて上を行っていた。

攻撃能力も然ることながら特にその機動力はこれまで経験したことも見たことのないほどであり間違いなく空を制することができると誰もが思うだろう。それが六機もいるのだから堪ったものではない。

そんな恐ろしい機体を涼しい顔で操るリィオ達が如何にとんでもない存在であるか竜斗はその身で体験した。

・・・正直、今の彼では全く為すすべがなくスニュクエラの名の通り『悪夢』を味わっていた。

 

「もう終わりか。ゲッター線を使う機体だから用心したらなんだこのザマかよ。こんな奴に負けた部隊どもは一体なにしてたんだ?」

 

拍子抜け、落胆したリィオはため息をつき、全機にこう告げた。

 

『トドメを刺せ』

 

と。

 

(こ、ここで終わりなのか・・・)

 

このままでは間違いなく殺される、竜斗は恐怖よりも悔しさでいっぱいになる。

早乙女の反対を押切った上に「僕を信じてください」と生意気にもそう宣言して出撃したことを。これでは自分は口だけ一丁前の道化師(ピエロ)だったこと。彼は後悔だらけで唇を噛み締めた。

 

「せめて苦しませないように地獄に送ってやるよ」

 

まさに追い詰めた鼠を刈ろうと一気に迫るミュゥベン小隊、竜斗は死を覚悟した――が。

 

『最後まで諦めるな。自分の感覚を信じろ』

 

聞き覚えの男性の声が脳裏によぎる。竜斗はハッと我に帰り操縦レバーを素早く動かしてその場からすぐに退避。

 

「オラオラ、下手に動くと死ぬ時苦しむハメになるぜ!」

 

ミュゥベン小隊はすかさず急旋回し、再びゲッターロボを追跡する。

 

『竜斗、俺は君にSMBのノウハウ、基本的な戦闘技術は全て教えた。それらを応用すればどんな状況でも上手く戦っていけるだろうが君はまだ経験(キャリア)は浅い。これからも大きな壁にぶち当たるだろうし、それに焦り周りが見えなくなることがある。

だがそんな時は一度気持ちをリセットしてみればいい。土壇場でそれを実行しようとしても凄く難しいが深呼吸するだけでもだいぶ違う。落ち着いて周りを見据えてみればさっきまで見えなかったことが自ずと見えてくる――』

 

竜斗は以前、その男性から教わったアドバイスを思い出していた。その人物はこれまで自分達ゲッターチームを纏め、そしてよく自身に親身に接してくれたよく知る人物だった。

 

(そうでしたね・・・今思い出しました黒田一尉)

 

彼は今、黒田の助言を思いだし諦めかけていた暗い表情は徐々に明るみを取り戻していく。早速彼はお得意の深呼吸して瞑想する。短時間で心を落ち着かせてゆっくりと眼を開ける――その時の彼は先程までの弱気な表情をしていない、冷静さを取り戻し先を見据える戦士だった。

 

「いい加減に死ぬ運命を受け入れろよ!」

 

マグマ弾を連射しながら向かってくるサイマァ3の乗るスニュクエラ。しかし空戦型ゲッターロボは軽やかに翻し、素早く右のライフルを構えてプラズマ弾を撃ち込む――。

 

「な、に・・・!」

 

それは誰もが目を疑う。プラズマ弾が機体の胴体を貫き、爆散したのだから――パイロット共々飛散した破片が海に墜ちていく。

 

「ジーバがやられただと!!」

 

「い、一体何が起きたんだ?!」

 

小隊全員がゲッターロボを刮目する。こちらに銃口を向けて今にも発砲しようとしている。すぐさま空中戦闘機動(マニューバ)を駆使し撹乱しようとするが竜斗は戸惑わされることはなく冷静に各機の軌道を読み、そしてプラズマ弾を発射。

 

「バカなっ!」

 

今度はサイマァ2機のコックピットに見事直撃させて貫通、すぐに爆発した。

 

「ダジンまで墜とされた!?」

 

「ウソだろ・・・さっきまでこいつ死にかけだったじゃねえのかよっ」

 

『信じられない』。ミュゥベン小隊は先程までの余裕が全くなくなり、今では苦汁を飲まされたように顔を歪ませていた。一方で竜斗は以前、黒田と共に行った射撃戦闘シミュレーションを思い出していた。

 

『止まっている物体はまだしも戦闘機とか高機動力を持つ相手は目で目標を追いながら狙うのは無謀だ。それじゃ当たるわけがない。そこでどうするか、前に教えた偏差射撃などを行うんだ――』

 

『偏差射撃・・・』

 

『君は射撃の腕前に関してはゲッターチーム内で間違いなくピカイチだと思う。あとは教えた技術を実戦などで経験を積み自分で感覚を掴むんだ――あとピンチになった時、これを頭の片隅に置いておいたほうがいい』

 

今、竜斗はそれらの記憶を掘り起こし思い出していく。

 

(一尉、あなたから学んだことを今やっと実践してます。教えてくれて本当にありがとうございました・・・)

 

竜斗は心から彼に感謝の気持ちを述べたのだ――。

 

『君は柔軟性はあるし器用で要領もいい。なによりパイロットとしてのセンスも持ち合わせて落ち着いていれば間違いなくどんな状況にも対応できるだろう。あとはさっきも言ったけど経験さえ積めば恐らく俺を、いや世界でも渡り合える類稀なSMBパイロットになる。そう断言するほど君には絶大な可能性を秘めている。

だから傲ることなく頑張れ。俺は君達ゲッターチームがこの世界に光をもたらす存在だと信じているから――』

 

和らいだ表情から、目の色が変わり荘厳な顔つきになる――完全な戦闘態勢に入った証拠だ。

 

(一尉から学んだこと、評価されたことが無駄ではないことを今証明します、だから見てて下さい!)

 

そこからの彼はまるで人が変わったかのように、操縦レバー、出力ペダルを巧みに扱い、それに連動してゲッターロボも今までの無様な姿から一転した。

その動きはまさに飛燕。スピードに緩急をつけながら軽やかに、そして小刻みに飛び回り見る者全てを魅了させる。そして複雑な動きなのにも関わらず、確実に当ててくる精密射撃・・・竜斗は覚醒しつつあった。

 

「追い詰められて力を発揮するタイプか・・・厄介なヤツだ。全機、気を引き締めてかかれ」

 

このままではミュゥベン小隊の名が廃る。リィオ達も完全に遊び心なしの完全戦闘態勢へ入りゲッターロボに襲いかかる――この朝方の大空で竜斗とミュゥベン小隊の超高速による空中戦闘が繰り広げられる。

 

(見える、こんな素早い相手なのに軌道が分かる!攻撃を外す気がしない・・・!)

 

スニュクエラの動きがもはや手にとるように分かる。竜斗は興奮に充ち溢れそうになるもグッと抑えて冷静さを保つ。逆にミュゥベン小隊は焦りと緊迫感からか完全に冷静さを失っており、当初と立場が逆転しつつあった。

 

(そこっ!)

 

精密射撃を駆使して一機、また一機とプラズマ弾を直撃させ撃ち落としていく。

 

「くっ、捉えきれない・・・こいつは一体なんなんだよ!」

 

リィオはゲッターロボのあまりの変貌ぶりに思わず唾を飲む。今まで敵なしだった自分達がいつも通りに、そして作業的に戦いを挑み、その結果たった一機にここまで追い詰められるとは想像していなかった。屈辱感と恐怖を味わっていた。

だが彼女はそれが段々と和らぎ、次第に別の感情を抱くようになった。

 

『楽しい。自分の琴線に触れる奴がついに現れた』

 

自分より強い相手が現れずいつの間にか退屈にも思えていた日常に、まるで恋人にでも出会ったかのような感情が高ぶる――リィオは今、興奮で身震いしており今にも暴発しそうなほどいい笑顔をしていた。

 

『隊長、もう奴を止められま・・・』

 

最後の部下までも撃ち落とされて残りリィオ機のみになってしまい、一対一の状況まで持っていかれてしまった。しかし彼女は興奮状態でありつつも、誰かも分からないゲッターロボのパイロットから戦闘を通じてどんな人間なのか感じとっていた。

 

(アンタ、アタイと同じ匂いがするよ。もしアンタも戦闘機乗りだったらなおよかったかもね――)

 

ついに竜斗とリィオの一騎討ちが始まる――。

 

(今のアンタは恐らくまだ削りの荒い珠だ。だけどちゃんと磨いてやれば――驚いたよ、地上人類にもこんなヤツがいたなんてな。悔しいけどスゴい、アンタと出会えてうれしいよ)

 

その類稀な飛行機乗りとしての戦闘センス、洗練された技術を駆使して今まで地上人類の航空隊を幾度なく壊滅させてきた『大空の覇者』になりつつあった自分にここまで思わせるなんて・・・彼女はもはや竜斗に敵でありながら称賛さえ送っていた。

 

(だけどね、だからこそまだ成長しきってないアンタをこのまま野放しには出来ないのさ。ミュゥベン小隊に泥を塗った屈辱、アタイのかわいい部下達の仇、何よりアタイの、『天空の戦乙女』と言われたアタイのプライドが許さないんだよ!)

 

一瞬の隙が命取りとなるほど、密度の濃い弾幕が飛び交う。その中で竜斗とリィオが制空権を賭けて激しくぶつかり合う。この同じ空で戦う者同士で。

 

(つ、強い。こいつだけ他のと比べて桁違いだ!)

 

竜斗も戦いを通じてリィオの実力を直と味わう。少しでも気を抜けば蜂の巣にされそうだ、だが彼も「負けてたまるか!」と諦めない。

 

(ここでやられたら日本が・・・みんなが・・・絶対に勝って生きて帰るんだ!)

 

互いに背負う思いが交差する。勝利を求め、純粋なまでに真っ直ぐであり、例え誰もこの戦いを止められることは出来ない。それほどまでにこの対決は二人の力の全て引き出されていた。

 

(アンタを倒してアタイが制空権を取る!絶対に渡さない!)

 

(誰も死なせたくない、みんなが笑顔で暮らせるために負けるワケにいかないんだ!)

 

そして、誰もこの勝負の行方を想像出来なかった――。

 

『リナリス装填完了、発射スタンバイ』

 

一方、エゥゲ・リンモが発射態勢に入っていることに気づく早乙女達から緊張感が漂う。

 

「敵レールガン砲台、発射態勢に入ってますっ」

 

溝から移動するミサイルコンテナ弾は潰しているハズなのにどうやって装填したのか分からないが今はともかく味方、そして自分達の安全を重視しなければ。

 

「各機に次ぐ、敵レールガン砲台は発射態勢に入っている。直ちに射線上にいる者は待避せよ!」

 

当然、全員が耳を疑うが早乙女の指示通り砲口付近にいる味方機は一気に離れていく。一方、エゥゲ・リンモ真下の海底付近では海戦型ゲッターロボは制御装置に辿りつくも破壊に気づいたメカザウルスが阻止しようと四方八方から襲いかかっていた。

 

「だああもお、ここまで来て邪魔すんなメカザウルス!!」

 

徐々に溜まっていた鬱憤が爆発し、愛美は直ぐ様パスワードを撃ち込むとコンソール画面に『フルバースト・モード』と表示。内蔵火器全てを展開され、これでもかと辺り一面にミサイル、プラズマビームをばら蒔きメカザウルス諸とも制御装置、あげくには昇降機の柱の一つにも直撃して破壊してしまった。

その結果、小島がガクンと激震し傾いてしまい、陸上で戦う機体全ての動きは止まった――その瞬間、砲口から膨大なプラズマが吹き出した。

その数秒後に遥か先の西側の海域がまるで太陽の輝きという例えが相応しいほどの失明しかねない凄まじい光と熱、衝撃波が炸裂、巨大な真っ赤な球状となって広範囲に渡って暴走した・・・。



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番外編④「エゥゲ・リンモ攻略戦~天空の戦乙女~」⑥

破滅の光・・・その余波はエゥゲ・リンモ領域にも届いており、敵味方全員がその場で固まった――。

 

「マリア伏せろ!」

 

早乙女達はあまりにも眩い光を受けてとっさに地面に顔を伏せて失明を免れる。球状の光は上空へ上がっていきキノコの笠へて変わっていく。

 

「ぐっ・・・!」

 

それは一騎討ちに集中していた竜斗達も戦闘を止めてしまい思わず目を押さえてしまう。

 

「エゥゲ・リンモは一体何してやがるんだ!!」

 

リオペレーションルーム内にいる者全員もその光景を見ており想定外だと辺りは騒ぎになっていた。

 

「落ち着け!向こうに連絡してエゥゲ・リンモ及び各部隊の者の安否及び状況を確認しろ」

 

慌てる者の多い中、リョドだけは落ち着いて指示を出すのは立派である。

 

「連絡は取れました。小島を支えている昇降機の柱が破壊され傾いて射角が大きくズレただけで他には影響は全くありません!」

 

「修正は可能かっ?」

 

「時間がかかりますが問題ありません」

 

「よし、急げ」

 

――徐々に光が治まり視界が見えるようになるとゆっくりと起き上がる早乙女。爆発した先に見える巨大なキノコ雲を見て思わず息を呑む。マリアは直ちに先程の爆発を解析した。

 

「し、司令!先程の爆発の威力は水爆級です!放射線等の有害な物質は発生していないようですが」

 

言葉を失う早乙女。愛美のおかげで結果的に助かったもののもしあのまま日本に放たれていたら・・・考えるだけでゾッと寒気が襲う。しかし早乙女はこのままでは、と急いでに各機に通信する。

 

「全員、大丈夫か!」

 

『な、なんとか大丈夫ですっ』

 

『サオトメ司令、一体何が起きたんですか!』

 

多人数から質問責めに逢う中、何故か酷い顔をした愛美から通信が入る。

 

「どうしたんだ水樹、そんな痛そうな顔をして」

 

『どうしたもこうしたも、制御装置まで着いたけどメカザウルスがいっぱい襲いかかってきたから弾薬全部ぶっ放したら制御装置どころか昇降機諸とも破壊しちゃって・・・逃げたら今度は後ろから物凄い衝撃波が来て吹き飛ばされて・・・もう目が回ったり頭打ったりで最悪よ・・・!』

 

だからあんな巨大な物が傾いたのか、と全員が納得する。

 

『一体なにが起きたのよ・・・』

 

「そのことについてだが、まずあの爆発は水爆レベルの威力だったことが分かった」

 

水爆・・・もの凄い衝撃の事実に早乙女と同じ言葉を失いく一瞬で黙りこんだ。

 

「水樹の行動が結果的に運よくいい方向に流れていたがもし何事もなく日本へ向けて発射されていたら・・・」

 

『じょ、冗談じゃない・・・間違いなく日本は・・・』

 

「そこで私は思ったんだが、先日の日本各地にいくつかミサイルの類いが落ちたのは知っているな。もしあれがあの水爆だったとしたら、先日のはその実験だったとしたら?』

 

『もしかして・・・!』

 

本来日本に落とすのはこの水爆であり、ミサイルコンテナ弾による爆撃は牽制攻撃で自分達をここにおびき寄せて日本の防衛能力が手薄になっている間にそれを撃ち込むだったのでは、と。

 

「確か流星のような早さで地上に落下したと言ってたな。ということは水爆ミサイルをこのレールガンで撃ち出し、超音速で日本に撃ち込むつもりだったんだろう。その速さでは間違いなく迎撃はほぼ不可能に近いからな」

 

『ふざけんじゃねぇぞ・・・っ!』

 

全員が恐らくおなじことを思っているだろう。あのまま日本のどこかに撃ち込まれていたらその一帯から広範囲にかけて焦土と化していただろう。

 

『サオトメ一佐。私達にも詳しく教えてくれませんか?』

 

ジェイド達アメリカ空軍隊員にこれまで何があったかを

全て伝える。

 

『・・・なるほど、よくわかりました。ありがとうございます』

 

「もうここまで言わなくても分かるだろうが一刻の猶予はない。傾いたといってもあのくらいでは間違いなく修正後、再び発射態勢に入るだろう。その前に何としても冷却装置を破壊しろ!」

 

『了解!』

 

そこから全員が一丸となって残りの冷却装置の破壊に一点集中した。当然メカザウルスも妨害してくるがそっちのけで放置する。

 

『一基、破壊した!』

 

『こちらも一基潰した!』

 

順調に破壊していく各機。一方でジェイド達アメリカ空軍部隊はメカザウルスの殲滅に専念していた。

 

『全機、地上のメカザウルスに集中して破壊しろ。彼らの活路を開かせろ!』

 

『オーケイ!』

 

各機が奮闘し、一気に勢いを上げていきメカザウルスをさらに劣勢へと追いやっていく。その様子を見ていたリョドは、

 

「このままでは全滅する。各機、直ちに退却しろ」

 

向こうの部隊に退却命令を出すが、

 

『そんな!このままおめおめと敵に背を向けて逃げ帰るワケには!』

 

「このままではエゥゲ・リンモは陥落するしお前達も危ない、直ちに帰還しろ」

 

『私達は恐竜帝国、爬虫人類の勝利のためにゴール様を誓いました。退却などと自身の恥を晒すぐらいなら――』

 

「責任は私が持つ、命あっての物種だぞ!」

 

何とか説得しようとするが向こうは全く聞き入れない。

 

『私達は例えリョド様の命令であっても、最後の一発でもリナリスを日本に撃ち込むまでは最後の一人になろうと決して諦めません。必ずやリョド様に、恐竜帝国に一矢報いてやりましょう!』

 

向こうから強制的に通信が遮断されてしまい、リョドは『馬鹿共が・・・』というひと言と共に険しい表情へと変える。

メカザウルス達も必死で立ち向かうがここまで追い詰められたらもはや巻き返すことはできない。

 

『あと三基!』

 

エミリアも奮闘し、一基ずつ確実に破壊していく。ベルクラスからもゲッターミサイルを地上へ撃ち込みメカザウルス、固定砲台を殲滅していく。エゥゲ・リンモに埋め尽くすほど群がっていたメカザウルスも残り僅かになっていた。

 

「よし、もう少しだ。最後まで気を抜くなよ!」

 

早乙女は直ちに竜斗に連絡を入れるが応答してくれない。反応はあるので無事なのが分かるが驚いたのはベルクラスを追い込んだ六機の戦闘機の反応がいつの間にか一つだけになっていた。

「まさか竜斗が撃破したのか」と正直疑ったが、残り五機の反応がどこにも感知されないとなれば逃げた・・・だが一機は残っているのに他は逃げる、ということは考えられないし事実と受けいれる他はなかった。

ただゲッターロボ、敵の反応は明らかに弱まっている。間違いなくどちらも疲弊している証拠だ。

早乙女は各機に「誰か空いてる者はいるか?」と尋ねる。

 

『どうしたんですか?』

 

「竜斗が心配だ、誰か彼の援護に行ってくれないか?」

 

その事に真っ先に反応したのはエミリアだった。

 

『リュウトは大丈夫なんですか!?』

 

「ああ。ちゃんと反応はあるが応答してくれない。恐らくあの戦闘機との相手に集中しているのだろう。だが機体のエネルギーはかなり弱まっている、このままでは危ない」

 

『そんな・・・けどアタシの機体じゃ空を飛べないし・・・』

 

「なので戦闘機かSタイプのBEETで行ける者はいないか?」

 

『私が行こう』

 

そんな中、一人が名乗りを上げる。ジェイドである。

 

『一佐、その彼のいる位置を教えてください』

 

「すまない少佐。彼、竜斗は空戦型ゲッターロボという赤いSMBに乗っている。敵は君と同じ、翼竜の姿をした変わった戦闘機だがとんでもない機動力を持っている。決して油断するな」

 

ジェイドは受信したデータとマップを確認していく。

 

「各機、私がいない間任せるぞ」

 

『分かった!』

 

同僚にエゥゲ・リンモのことを託し、すぐさま旋回して竜斗がいる遥か上空を飛翔していく。

 

「竜斗に関してはジェイド少佐が行ってくれた。だから各人は気にせず今の任務に専念してくれっ」

 

『分かりました!』

 

仲間と別れたジェイドは向かう最中、ベルクラスから受信した空戦型ゲッターロボと敵機の簡易データを閲覧する。

 

(ゲッターロボ・・・か)

 

調べていくと実に面白いことが分かる。ゲッターロボの性能、特性、動力、そしてパイロット・・・軍人ではなくただの一介の高校生達がSMBに乗ってメカザウルスと戦い続けていることと戦歴、そして敵機も戦闘機だと知り『同業者』として非常に興味を持っていた――。

 

「く・・・ヤバイ・・・っ!」

 

そして竜斗は未だにリィオと激闘を繰り広げている。空戦型ゲッターロボのシールドは攻撃の受けすぎにより、エネルギー残量は切れており機体のあちこちにマグマ弾による溶けた痕が。竜斗はかなり疲れた表情をしているのに対しリィオは疲れが見えているどころか、活き活きとしておりここで戦闘経験の差が出ていた。

 

「しぶといヤツだ、だがアタイの勝ちが見えてきたな!」

 

ここが正念場だ、と彼女はさらに気合をいれて突撃する。近づけさせてなるかとライフルを構えてプラズマ弾を連射するゲッターロボ。しかしスニュクエラは回避行動を取らず、凄まじい速度で前進しながら左右上下に動き全て避けている。

 

「もうテメェの動きは見切った!」

 

スニュクエラからミサイルが二発飛び出し、機体が過ぎ去った後からついていく形で前進する。

 

「!?」

 

スニュクエラがゲッターロボに急接近、体当たりでもかますのかと思いきや目の前で機体を翻して離れていく。竜斗が怯んだ隙に目の前にはなんとミサイル二発が間近

に迫っていた。

 

「うわあっ!?」

 

すかさず竜斗は慌てて左操縦レバーを前に出して左腕に出した瞬間、ミサイルはライフルと腕に直撃。見事吹き飛んでしまいもはや右腕だけになってしまった。

 

「次で最後だ、覚悟しやがれ!」

 

再び急旋回してマグマ弾を撃ちながら今度は残りのミサイルまでも発射しトドメを刺すつもりのリィオ。

 

「こ、こうなったら!」

 

追い詰められた彼は一か八かと、ライフルを右腰の充填用アダプターにかけて、予備として後ろ腰に一振りだけ装備していたゲッタートマホークを取り出して身構えた。

 

「そんなものでスニュクエラをやるつもりか!できるもんならやってみやがれ!」

 

超速度で飛ぶこの機体をどう捉えて斬る気なのかと彼女はおもわず鼻で笑ってしまう。一方で竜斗はまさに背水の陣で挑むがトマホークだけでどうやって立ち向かうつもりなのか・・・。



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番外編④「エゥゲ・リンモ攻略戦~天空の戦乙女~」⑦

(もう後がない、ここで死ぬくらいならやってやる!)

 

竜斗は覚悟を感じ取れる鋭い眼光で急接近するスニュクエラを見据えていた。

 

「ここで終わりにしてやるよ!」

 

勝利を確信し、何のためらいもなく突っ込んでくるリィオ、背水の陣で挑む竜斗。果たして――。

 

「くたばれ!」

 

今度こそ蜂の巣にしてやろうと機首の機関砲からマグマ弾をばら蒔きながら突撃してくる。ゲッターロボは咄嗟に左に逃げて飛んでいく。

当然、リィオも逃がすまいと追ってくるが竜斗は「今だ!」と力強く右操縦レバーを押し出した。

連動してゲッターロボは右手に持つゲッタートマホークを振りかざすとそのままスニュクエラへ向けて投げつけた。

 

「なっ!」

 

ブーメランのように高速回転しながら飛んでくるトマホークに驚いたリィオは慌てて右旋回しようとした時、ゲッターロボは咄嗟にライフルを構えてゲッタートマホークに狙いを定める。

 

(いけっ!)

 

ライフルから発射されたプラズマ弾が怒濤の勢いでトマホークに向かっていき、直撃。するとスニュクエラの避けた方向へ弾き飛ばされていく。

ゲッターロボの方に旋回したスニュクエラの目の前に弾き飛ばされてきたトマホークが直撃寸前な距離で横切りリィオは仰天、すぐさま急ブレーキをかけて止まってしまった。

 

「うおっ!?」

 

肝を冷やした彼女だったがすぐに切り替えて発進しようとした時、

 

「?!」

 

何とスニュクエラの真横にゲッターロボが待ち構えており、ビームシリンダーを展開した右腕を突きだし密接させていた。

 

「はあっ!」

 

小さなゲッタービームがスニュクエラのコックピットを貫き、途端に爆散した。バラバラになった破片は海面に落ちていく。

 

「・・・・・・」

 

寸手の所で勝った・・・それを見届けた後、安心した彼はレバーを放して激しく息切れした。

 

(ホントに死ぬかと思った・・・ホントに強かった・・・けど――)

 

それ以上にそんな相手を倒したという高揚感で嬉しさが今にも溢れそうだった。

 

(黒田一尉・・・俺、やりましたよ)

 

心の中でそう呟くのであった。その時、レーダーに謎の反応があり竜斗はすぐにモニターを見るとそこには見慣れぬ戦闘機の姿が。同時に早乙女から通信が入っていることに気づき、すぐに出る。

 

「司令!」

 

『大丈夫か!応答が全くないから心配したぞ!』

 

「す、すいません・・・けど僕、何とか全て撃破しました。ゲッターロボはもうボロボロですが・・・」

 

あの六機をたった一機で・・・早乙女は驚くと同時に彼の底知れぬ力に嬉しさから身震いした。

 

「ところでそっちはどうなりましたか!?」

 

早乙女は敵レールガン砲台のこと、先程の爆発に関すること、自分がベルクラスから離れていった後の経験を全て伝える。

 

『いますぐ戻ってこい。今そこに迎えにきているハズだ』

 

竜斗は目の前の戦闘機が仲間だと知り、直ちに合流する。

 

「迎え、ありがとうございます」

 

『・・・・・・』

 

お礼を言うがしかし無反応だ。通信がうまくいかないのかと疑問になるが、早乙女から、

 

『彼はアメリカ空軍からの援軍だ。残念ながら日本語は通じないようだ』

 

「えっ・・・てことは、外国人・・・」

 

竜斗はすぐに「サンキュー、ベリーマッチ」とぎこちない英語で言い直す。しかし向こうは無反応だ。何だか気不味い空気になっていくが、

 

『彼から「無事でよかった」と通信が入っている。それよりも二人とも、すぐに戻ってきてくれ』

 

二人はエゥゲ・リンモに向かっていくその最中、竜斗は隣に飛行する戦闘機とパイロットが気になって仕方がない。

 

(アメリカ人か・・・エミリアと一緒なら通訳ができるんだろうけど・・・なんか絡みにくい人だなぁ・・・)

 

一方、ジェイドはヘルメット越しからボロボロのゲッターロボを眺めていた。

 

(ゲッターロボ・・・あと確か竜斗と言ったな・・・彼はなかなか面白い戦い方をしてるな)

 

実は竜斗とリィオの対決の途中に到着したのだが、そのあまりの激闘ぶりに割り込む余地はなかった。しかしゲッターロボの戦いぶりは、確かにまだまだ未熟であるが見張るものがある、と彼もまた竜斗の戦闘センスを確かに感じとっていた。

そしてまだ互いに知らない、後に二人はバディとして、師弟のような関係になることを――。

 

そしてベルクラスに到着するとジェイドは役目を果たしたと言わんばかりに颯爽とエゥゲ・リンモ領空を戻っていく。竜斗もその先にある、傾いているようだかそれすらも忘れる超巨大な砲台に思わず圧巻される。

 

『見えるか?あれが日本にミサイルコンテナを撃ち出していたレールガン砲台だ。あとあれで水爆級の威力のあるミサイルまで撃とうとしてたが水樹のおかげで一発目は外れてくれた』

 

「・・・・・・・」

 

彼が今思っていることは、恐らく全員が感じたことと同じだろう・・・その時、エミリアと愛美から通信が入り受信すると待ちわびていたように嬉しそうな顔だ。

 

『大丈夫なのリュウト!?』

 

『アンタ勝手に飛び出していってどれだけマナ達が心配したかわかってんの?』

 

「ご、ごめん・・・」

 

『しかもゲッターロボがこんなボロボロになるなんて・・・アンタにもしものことがあったらマナはともかくエミリアが悲しむことになるんだから次からは気をつけなさいよね」

 

釘を刺されて苦笑いする竜斗。しかしそういう愛美も何だかんだで無事でなによりと嬉しそうである。

 

『レールガン砲台の冷却装置を全て破壊しました!』

 

その朗報が全員の耳に入り、これで終わりか、これからどうなるんだとエゥゲ・リンモに注目が集まる。

 

「よくやった、恐らく砲台の加熱し続けて自滅するだろう。そうなると小島内は危険だ。マリア、直ちにエミリアと水樹をを引き揚げるぞ。各機も直ちにレールガン砲台から退避せよ」

 

小島と海面に浮上する二機のゲッターロボを回収し、他の機体も離陸して退避する。エゥゲ・リンモは未だに『ズオオ!』と起動音の音がする。このまま加熱して暴走して破壊されるか、もしくは――。

 

「し、司令!」

 

解析を続けるマリアが突然、驚くような声で早乙女を呼んだ。

 

「レールガン砲台がまだ正常に稼動してます!」

 

「なにっ?」

 

「冷却装置と思われる反応を一つ確認しました。場所は・・・砲台真下の溝の奥にあります!」

 

モニターを見ると確かに爆発はおろか、寧ろ射角の修正が終わり、完全な発射準備を開始していたのだ。そして再び電力を溜める音が響いている。

 

「各機よく聞け。あの砲台はまだ死んでいない!再び発射態勢に入っている!」

 

早乙女から告げられたその事実に当然、全員が耳を疑った。

 

『どういうことですかっ!?』

 

「本当にすまない。マリアが解析した結果、砲台真下の溝の奥にもう一つの冷却装置があった。だがそれまではその装置は反応しなかった。恐らく君達が破壊した冷却装置はダミーでこれが本物か、もしくは全てを破壊された時のための非常用か――とにかくそれを破壊しない限り終わりではない」

 

『しかし、誰が溝の中に・・・』

 

溝の中は狭い上、間違いなくメカザウルスに追撃されてしまうだろう。向こうからしてみれば決死の思いで最後の冷却装置の破壊を妨害してくるハズだ。そう考えるとこの任務は非常に危険がつきまとう。撃墜される可能性は高いがかと言ってやらなければリナリスの第二射をただ待つだけである。

 

『では私が最後の冷却装置を破壊してきます』

 

なんと再びジェイドが名乗りを上げる。

 

「少佐、これまでも君が色々と引き受けてばかりで申し訳ないがやってくれるか?」

 

『ええ、誰かがやらなければならないんですから仕方ありません。それにこういうのは得意ですから』

 

早乙女、いや全員が彼に対する感謝の気持ちでいっぱいになる。そして刮目される中、ジェイドはただ一人エゥゲ・リンモを突撃していった。

 

(さっき俺を迎えにきてくれた人か・・・?大丈夫かな・・・)

 

竜斗は彼が気になって仕方がない。果たしてどうやって破壊するのか、そして無事に帰ってくるのか、と。それはここにいるほとんどが思うことだ。

 

溝に向かって急降下していくジェイド機。当然、空にいるメカザウルスが血眼になって追いかけてくる。しかしジェイドはさらに飛行速度は上げていきついに溝の中に突入した。少しでもずれると壁、弾薬を運ぶベルトに接触しかねない狭い間を寸分乱れない絶妙なバランスを持って先へ進んでいった。

しかしメカザウルスが後ろからマグマ弾、ミサイルなどで追撃を始める。果てには真上から爆撃まで初めもはや逃げ場のない。

しかしジェイドはそんな袋小路に状況にも関わらず全く焦る様子もなく淡々としている。余程肝が据わっている証拠だ。その時、モニターが溝の奥先で何かが捕捉される。

 

(あれが冷却装置か)

 

この先は内部に突入してしまうのでそうなれば脱出は完全に不可能になってしまう。直ぐさま上昇させると同時に一定の角度になった瞬間、機体の左羽翼に装備したミサイルを一発発射した。ミサイルは加速して真っ直ぐと溝の奥へ入っていき冷却装置に見事直撃させて爆発。爆炎が溝の中を伝って広がっていく。

機体はそのまま砲台部に衝突寸前に翻してそのまま空へ上がっていく。

ジェイドを追っていたメカザウルスは止まれずそのまま内部に突入して爆炎に呑み込まれていった――。

 

「最後の冷却装置の破壊を確認しました!」

 

全員は歓喜の声を上げた。ジェイドが戻ってくると無事と成功を祝って暖かく迎えた。当の本人は出来て当たり前と言わんばかりに平然とした態度である。

 

(す、凄い・・・っ)

 

一部始終を見ていた竜斗は驚きのあまり声がでない。まだ彼の全てを知らないが恐らく今の自分は足元にも及ばないだろうと直感で察した。

 

「今度こそやったか!?」

 

「・・・いや、まだ起動しています!」

 

全ての冷却装置を破壊したにも関わらずエゥゲ・リンモは更に電力を上げる。それと同時になんと砲身がまるで口のように上下に開き、そこから膨大な熱を放出していたのだ。

 

「砲身を使ってまで排熱しているのか・・・化け物め・・・」

 

あまりのしぶとさに誰もが絶望しかかっている。しかし向こうは待たずすぐに砲身を閉めている。そして、

 

「砲台が発射態勢に入ってます!」

 

砲身内に凄まじい量のプラズマが溜まりに溜まり、今にも吹き出しそうになっていた。

 

『もうどうすることもできないのかよ・・・っ』

 

こんな遠い所まで来て、全員が必死で奮闘したのに最後の最後で発射を止められないのか・・・逆に追い詰められてしまい万事休すかと誰もが思った。その時、空で待機していた空戦型ゲッターロボが突然、エゥゲ・リンモへ飛び出していく。

 

『何をするつもりだ!』

 

「一か八かの賭けです、砲身内にゲッタービームを撃ち込んでみます!」

 

『やめろ、間違いなく間に合わん!射線上にいれば水爆は君に直撃するぞ。それ以前にそんなボロボロな状態でゲッタービームを撃つ気か?下手したら空中分解するぞ!』

 

『お願いだからやめてリュウト!』

 

早乙女達から「早まるな」と説得されるが彼は止める気はない。

 

「このままでは間違いなく日本に撃ち込まれますよ!そうなったら・・・だからゲッタービームに全てを賭けます。皆は今すぐここから出来るだけ遠くへ退避してください!」

 

全く気が変わることがない彼に周りは狼狽し、ざわめき出す。そんな中で愛美は忽然とした態度で竜斗を見据えていた。

 

「マナ、石川に賭けるわ!」

 

という突然の支持することを発する。

 

「みんな、このまま指をくわえて日本がやられるの見てるだけでいいの?石川があれだけ自信と責任感を持っているんならマナは止めない、寧ろ応援するわ」

 

『ミズキっ!』

 

「エミリア、イシカワのことが好きなら信じてやりなさいよ。アイツ今すんごい輝いてるよ」

 

確かに今の竜斗は絶対にやり遂げてくれるような凄い自信に満ち溢れている。しかし万が一のことがあれば・・・その可能性が一番高いのは誰からの目を見ても明らかだ。

 

「早乙女さんにしても今回は変に自信ないわね。いつもみたいに飄々としてた方がいいんじゃなくて?」

 

珍しく彼女から指摘され早乙女は呆気に取られるも、すぐに「一本取られたな」といつも通りの表情へと戻る。

 

「そうだな。では竜斗、君に全てを託すぞ!」

 

早乙女からも後押しされて竜斗はさらに自信がつく。そうなると感化されたように周りから応援の声が上がっていく。

 

「みんな・・・」

 

そんな中で竜斗の元に未だに不安そうなエミリアと真逆の愛美から通信が入る。

 

『マナ、さっきはあんなこと言ったけど絶対に生きて帰ってきなさいよね。アンタがいないとこれから困るんだから』

 

『リュウト・・・絶対に帰ってきてね!アタシもリュウトがやり遂げるのをこの眼で見てるから!』

 

「ありがとな二人共、俺行ってくるよ!」

 

二人から激励されその自信は確固なものとなった竜斗は迷うことなくエゥゲ・リンモへ全力で向かっていった。

 



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番外編④「エゥゲ・リンモ攻略戦~天空の戦乙女~」⑧

――人間、自信がつくとなんでもできそうな気持ちになる。今の僕はまさにそのような気持ちになった。それが吉と出るか凶と出るか。それは結局自分と運次第だ――。

 

「うああああっ!!」

 

発射間近に迫るエゥゲ・リンモへ猛スピードで突撃していく空戦型ゲッターロボ。それを阻止すべく残りのメカザウルスも行かせてなるものかと妨害してくる。

 

「邪魔だあ!」

 

メカザウルスに構わず、紙一重で避けていく竜斗。立ち止まった時、敗北を意味する。それほど一刻の猶予はないのだ。しかし向こうも必死なのは当たり前。群れを作り巨大な壁になってゲッターロボに立ち塞がった。

だがその時、ゲッターロボの後方からプラズマ弾、ミサイルの塊が前に降り注ぎ、メカザウルスを一撃で吹き飛ばした。

 

『全機、竜斗君の妨害になる物を全て排除せよ!』

 

何と仲間達が駆けつけてメカザウルスを掃討していく。

 

「皆さん、危ないですよ。今すぐ逃げて下さい!」

 

『いいや、君に全てがかかってるんだ。俺達がただ見てるだけと思ったら大間違いだぞ。これくらいの手伝いはさせてくれ』

 

『死ぬ時は一緒に行こうぜ。あの世に行っても大勢なら閻魔様にたくさん言い訳できるからなっハハ!』

 

『皆さん・・・ありがとうございます!』

 

正直、皆を巻き込むとは心外だったがこれほど頼もしい味方はいない。これでメカザウルスを気にせず砲身へ一直線で向かっていける、竜斗、いや全員は一片の活路にすがり最後の最後まで諦めなかった。

そしてジェイドも彼らと一緒になってメカザウルスの掃討にあたっている。その最中、ゲッターロボをしきりに見ている。

 

(竜斗というあの少年・・・もしかしたらとんでもない逸材かもしれん)

 

あんな今にも分解されそうなボロボロの状態で高速飛行しながらメカザウルスに全くかすりもせず回避するゲッターロボを操縦する彼、竜斗の将来性の高さを評価していた。

 

(あと僅かだ、持ってくれゲッターロボ!)

 

メカザウルスの決死の猛攻を振りきりついにエゥゲ・リンモの砲口部に到着した。その巨大な怪物の口の奥には青白い極光、プラズマの塊が蓄積しているのが見える。

竜斗は右ペダルをグッと踏み、炉心の出力を一気に上げると同時に身を抱える姿勢をとるゲッターロボ。

 

「例のゲッター線の機体がエゥゲ・リンモの砲口前に!」

 

「何?直ちにリナリスを発射しろ。一緒に吹き飛ばしてやる!」

 

砲台内部の作業員は発射ボタンを手を置いて力を入れた――。

 

(間に合ってくれえっ!!!)

 

出力が最大値になり、ゲッターロボは腹を突きだした瞬間、中央のレンズから高密度のゲッター線の光線が一直線に砲身内に入っていき、突き抜けていく。膨大なプラズマの塊に衝突したが軽々と突き破り、リナリスに直撃。大爆発して爆風と炎が砲口から吹き出してゲッターロボを覆ってしまった。

 

「うわああっ!」

 

出力を使い果たし、さらに爆炎の追撃を受けて完全に機能停止してしまったゲッターロボとその衝撃で頭を強く打ち気絶してしまう竜斗。壊れた人形となって地上へ墜落していく・・・が、そこに一機の戦闘機が猛スピードで到着し、

 

「ヴァリアブル・モード!」

 

その戦闘機がなんと人型に変型し、絶妙なタイミングでゲッターロボを下から機体ごと受けとめてキャッチ。その機体に乗るのはジェイドであった。

エゥゲ・リンモはあちこちで小規模の爆発が起きており、徐々に全体に伝わろうとしていた。

 

「敵レールガン砲台が崩壊しています、今度こそ終わりです!」

 

「よし、直ちに全機撤退せよ!」

 

砲身が分解し落下していくのを見て危険を察知、動かない空戦型ゲッターロボを抱えてすぐに飛び去っていくジェイド機は仲間と合流しすぐにベルクラスへ戻っていく。

 

「エゥゲ・リンモが・・・・・・」

 

あの巨大な砲台が爆発しながら崩壊していくその光景を見ていたリョド達は悲壮感が漂っていた。その時、

 

『リョド・・・将軍・・・っ』

 

向こうから通信が入り、全員がモニターに映すと責任者が血塗れになりながら無念の顔を彼らに見せた。

 

『申し訳・・・ございません・・・でした。あと一歩のところで・・・』

 

「それよりも他の者は無事なのか!」

 

『私以外はもう爆発に巻き込まれて・・・ここもすぐに吹き飛びます・・・』

 

「お前だけでも早く退避しろ!」

 

リョドがそう促すが彼は首を横に振る。

 

『・・・もう、どこの入口も塞がれていて逃げ道はありません。それにここで責務を全うし死んでいった者達を見捨てることはできません。私もこのエゥゲ・リンモと運命を共にします・・・!』

 

「・・・・・・」

 

『リョド将軍・・・私含めてこのエゥゲ・リンモに携わった者全員は貴方の元で働けたことに満足であり思い残すことはありません。せめて私達の魂は恐竜帝国、爬虫人類が必ずや地上征服の為の糧として未来永劫捧げましょう・・・恐竜帝国、爬虫人類に栄光あれえっっ!!』

 

その瞬間、内部の爆発が彼を覆い尽くしモニターが途切れてしまった。途方もない費用と年月を掛けて、第一恐竜大隊の全てを懸けたエゥゲ・リンモ、ミュウベン小隊含めた多くの人材を失い、絶望から誰もが沈黙し静けさが漂うオペレーションルームに間を置かず、今度はゴールが直々にモニターに現れる。

 

『リョド・・・っ!』

 

恐らく作戦の一部始終を見ていたのだろうか、誰も見たことのない憤怒した恐ろしい顔はここにいる殆どに畏縮させた。しかしリョドは忽然とした態度で膝をつく。

 

「ゴール様、この作戦の失敗は全て私の責任です。覚悟はすでに出来ております、処刑なりなんなりと!』

 

と、告げる彼にゴールは見つめたまま口を開かない。すると、側近のファブマと部下達は慌てて弁解に入った。

 

「ご、ゴール様!リョド将軍を処刑するなら私が身代わりとなります!どうか将軍だけはお助け下さい!」

 

「将軍がいなければこの大隊は成立しません、どうかそれだけはご勘弁を!」

 

必死に将軍の命乞いをする彼らにリョドは「そんなみっともないことはやめろ」と、一喝する。

 

「ゴール様、部下達がこんなことを言っておりますがこの責任は私が取ります。しかしこれだけは言わせてください。この作戦で死んでいった者達は皆、恐竜帝国の、爬虫人類の為に責務を全うしました。そんな彼らが散らした命だけは決して無駄にしないで下さい」

 

そう述べたリョドに間を置いて、黙っていたゴールは口を開く。

 

『もうよい、戒めとして補給物資の制限などの多少の罰は与えるが命までは取らん。リョドよ、引き続きこの大隊の指揮をとるがいい』

 

「ゴール様・・・」

 

『お前はわしに忠実な、そして大事な家臣じゃ。いくらわしとてお前を捨てることはできない。だが次は朗報を期待しておるぞ』

 

と、呆れたような顔をしつつもまんざらではない顔でそう告げた。

 

『お前達、良い指揮官と部下を持ったな』

 

と、一言添えると通信が切れてしまった。暫く沈黙に陥った後、

 

「我々は助かったのか・・・?」

 

「そうみたいだな」

 

緊張が切れて気が抜けた全員はほぼ同時に溜息を吐いた。

 

「しかしこれからが大変だぞ。今回の一件で間違いなく我々第一恐竜大隊の権威が地に落ちたと考えていい。恐らく冷遇の時代を迎える」

 

「ミュウベン小隊含めた多くの優秀な人材とメカザウルスを失って・・・立て直せるのか・・・?」

 

と、誰もがそう考え落ち込む。するとリョドは、

 

「お前達、先ほど私がゴール様に言ったことを忘れたのか?「この作戦で死んでいった者達の命だけは決して無駄にするな」と。それに冷遇されようとどうなろうと這いつくばってでも諦めずに生きていればなんとかなる」

 

「将軍・・・・・・」

 

「この作戦の失敗はこの先の成功の糧にすればよい。せっかくゴール様に助けてもらったこの命・・・皆、始めからやり直しだ、心機一転してこの第一恐竜大隊を今以上に発展するよう一丸となって努力するぞ!」

 

「将軍・・・はいっ!」

 

そう声を張り上げると全員は「ウオオー!!」と高らかに右腕を突き上げて心を一つにした。再びかつての威厳を取り戻すために必ず――高揚する皆の様子を見てやっと穏やかな顔になるリョドは一人、その場から離れていく。

 

「将軍、どこへ?」

 

「少しばかり席を外す」

 

そういい残し、彼は出ていく。そして誰もいない通路まで行くと突然、壁に手を当てて俯く。そして目を閉じるとなんと一筋の涙が・・・。

 

(すまぬ・・・死んでいった者よ・・・お前達の死は決して無駄にせぬ。だからゆっくりと眠れ・・・)

 

決して部下の前では見せない身震いして嗚咽するリョドの姿は普段からは考えられない様子であり、それは彼がいかに部下思いなのかがよく分かる。今の彼は悲壮感にうちひしがれていた――。

 

「終わったなっ」

 

「ええ・・・」

 

「帰ったら報告書の山やゲッターロボ、ベルクラスの修理で忙しくなりそうだな。今の内にこの壮大な景色を楽しんでおこう」

 

「それよりも巡航ミサイルの無差別爆撃による被害で日本各地の復興が一番大変そうですが・・・」

 

エゥゲ・リンモが崩壊して火の海と化している無機質の小島を見て、本当に厳しい戦いだったと、しかし確かに『収穫』も確かにあったと感傷に浸る早乙女とマリア。

 

「竜斗はまだ目覚めないのか?」

 

「はい。精密検査をしましたが特に異常はありませんでしたので、ただ頭を打って気絶しただけです。暫くしたら起きるでしょう。今エミリアちゃんとマナミちゃんが彼に付き添っているので心配ないですよ」

 

「それは良かった」

 

軽く笑う早乙女から安心したという気持ちが感じられる。

 

「にしても奴等は全くとんでもないものを造り上げたな」

 

「ええ。敵のあまりにも強大さに正直臆してしまいました。これから向こうの攻撃が激しくなると思うと・・・」

 

「それでもやらねば我々人類に未来はない。確かに我々にとってあまりにも劣勢で途方もない戦いだが世界で戦う仲間達、そしてゲッターロボと竜斗達ゲッターチームがいる限り必ず希望はある、いや持たねばならんのだ――」

 

早乙女は遥か海の地平線を眺め、少しすると口を開いた。

 

「マリア、そろそろ私達は前に動くぞ」

 

「ということはついに?」

 

「ああっ。日本での奴等の本拠地と思われる北海道の大雪原に進撃する。それまでにゲッターロボとベルクラス、竜斗達三人の最終調整、そしてできるだけ大勢の味方の手配を済ませるぞ」

 

「了解しました!」

 

一方、ジェイド達アメリカ空軍部隊は空戦型ゲッターロボをベルクラスに還してすぐに別れて本国に戻っている最中であった。

 

「まったく奴等もあんなクレイジーなモンを造りやがって・・・」

 

「けど俺の『息子』より小さいがな。本気になったらマジであの砲身より凌駕するぜ?」

 

「バーカ!てめぇのはどう見ても野菜スティックぐらいしかねえじゃんかよお!」

 

下品な軽口を叩きゲラゲラと笑う彼らをよそにジェイドはただ一人、無表情だった。

 

(大変だったが、ジョージやジョナサン達にいい土産話ができたな――)

 

彼は空戦型ゲッターロボと竜斗のことについて考えていた。まだまだ未熟で戦い方は荒いがあれほどの逸材をもし空戦闘に必要な要素を徹底的に身につけさせ洗練できるなら・・・そう考えると思わず胸が高鳴る一方で自分の地位を脅かす絶対的な存在になるかもしれないという恐怖と不安が混ざる。そんな複雑な気持ちを胸に遥か先のアメリカへと飛んでいった――。

 

「リュウト!」

 

「エ、エミリア・・・それに水樹も」

 

医務室のベッドに寝ていた竜斗は眼を覚まし、エミリアと愛美はすぐに駆け寄る。身体を起こすとエミリアは嬉しさのあまり抱きつき、苦笑いする。

 

「俺・・・あの後どうなったの?」

 

二人は自分達の勝利で全て終わったと告げると竜斗は安心して溜息をついた。

 

「今回ばかりはもう本当に死ぬと思った・・・」

 

「うん・・・アタシも負けるかもって考えちゃったぐらいだから・・・」

 

思い出すだけで頭が痛くなるほど苦戦した証拠だ。しかし愛美は腕組みしながらこう言った。

 

「あら、マナは別にいけると思ってたわよ?なぜなら・・・」

 

「なぜなら?」

 

「さあて何かしらねェ~~っ。マナ、アンタが目覚めたしもう行くわ」

 

いじわるに答えず、彼女は出入り口の前に立つ。すると、

 

「石川、アンタすごいね。今のアンタならマナは絶対についていくから――」

 

そう告げて愛美は去っていった。竜斗は思わず照れ臭くなる。

 

「そうかな・・・俺、そんなに良かった?」

 

「うん。アタシ達だけじゃなくみんなリュウトのことで驚いてたよ。不可能に近いことを可能にしたって」

 

「・・・そんな、俺は別にすごいことしてないよ。ただ凄く必死だった、それだけだよ」

 

謙虚にそう答える彼。その実、巡航ミサイルの詰まったコンテナの迎撃、ミュウベン小隊との交戦、その隊長で『天空の戦乙女』と呼ばれた女性エースパイロット、リィオとの一騎打ち、エゥゲ・リンモのリナリス発射の阻止・・・目まぐるしく苦しい連戦続きで殆ど覚えていなかった。正直勝てたのが信じられないくらいだ――。

そして彼はまだ知らない、自身に秘められた才能は後に幾多の戦いにおいて勝利に貢献するが同時に自分、そして周りの大勢の人間を振り回すことになることを――。




この番外編はここで終わりです。文章力の無さや内容の稚拙さを改めて実感しました、すいません。また新しいエピソードを構成中なのでお楽しみに。


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・本編未登場機体(色々)

番外編⑤に登場する機体の紹介です。今回もメカザウルスが多めです。


●リリエンタール

全長:18.5m

機体重量: 30.7t

総重量:56.5t

型式番号:SFEX―02

分類:試作機、多目的戦術戦闘機

動力:改良型プラズマ反応炉、グラストラ核反応炉のハイブリット駆動エンジン

出力:115万馬力

装甲材:リクシーバ・チタン合金

兵装:30mm機関砲、プラズマキャノン、ギリガン、リチャネイド、対艦用グラストラ戦術核バズーカ、オールストロイ、ECMシステム

 

元々はステルヴァーの試作機(主に戦闘機形態のデータ収拾が目的)としてニールセンが現世代戦闘機である『FX―05』をベースに開発した機体で計2機が造られている。

その性能はベース機をも凌駕し、あのステルヴァーさえも戦闘機形態のみであればそれすらも超える反面、パイロットの安全を一切無視した欠陥機であり、一号機はテスト飛行の際、パイロットに負担が掛かりすぎて扱えきれなかったことによる事故で墜落し大破。パイロットを務めたオリヤも死亡している。そのような経緯もあり残ったニ号機は誰も乗らずに放置されていたが実は生みの親であるニールセンによって密かに最新の技術で改良されていた。

中南米戦線において、複合エネルギー機関へ改修中のアルヴァインの代わりの機体として竜斗が乗り込む。最新技術で更に高性能となっているが、その分当初よりも安全性が遥かに改善されている。しかしリミッターを掛けられている(ニールセン曰く、「リミッターを外したらいくら頑丈なパイロットでも生命の保証は到底できない」とのこと)ことからやはり危険な機体であることは間違いない。

プラズマキャノンや多用途広域炸裂ミサイル「ギリガン」、ステルヴァーの試作機であることからリチャネイドや核バズーカなども搭載可能であり対空、対地そして対艦戦全てをこなせるマルチロール機であり戦闘能力は非常に高い。

この機体の戦闘データが後のエクセレクターを構成する戦闘機『ゲットマシン』に活かされることになる。

リリエンタールとはコードネームである。

 

◆武装

・30mm機関砲

機首部に2門装備。

 

・プラズマキャノン

胴体底部に装備。アルヴァインのハンディ・プラズマキャノンと同型であり威力は高い上、非常に扱いやすい。

 

・多用途広域炸裂ミサイル『ギリガン』

左右羽翼部下に計6発装備。「ギリガン」というコードネームを持つ散弾ミサイルで弾頭内に大量の子爆弾を内蔵し発射して目標地点に迫った瞬間に子爆弾をばらまく仕組みになっている。

対空、対地問わず絶大な威力を持つが戦闘機にしては過剰とも言える破壊力を持ち、周りから装備を懸念されていた兵装であるがニールセンにしてみればそんなのはお構い無しだった。

 

・リチャネイド

本来はステルヴァーの兵装である大型リニアランチャーであるが装備できるように装備スペースを胴体右上部に設けてある。

 

・対艦用グラストラ戦術核バズーカ

こちらもステルヴァーの兵装であり装備できるようにしてあるが、核という性質上使い勝手は非常に悪い。

 

・オールストロイ

こちらもステルヴァーの兵装である光学色彩効果を持つ特殊大型ライフルであるが武器としての使用ではなく専ら周りの風景と同化するステルス機能として使われる。

 

・ECMシステム

従来のECMと比べて遥かに高性能であり、ありゆる照準、誘導攻撃を無効化する。これはステルヴァーにはない機能である。

 

●メカザウルス・アンティジュジュ

全高:23.5m

重量:223.8t

型式番号:MZE―126AJ

分類:先行試作量産型砲撃用メカザウルス

装甲材:ツェディック鋼

出力:95万馬力

動力:アルケオ・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

移動兵装:翼竜タイプの羽根、ブースター二基

兵装:ウイングミサイル、多連装ミサイルポット、マグマ・ヒートライフル、マグマバルカン

 

ラドラの愛機であるメカザウルス・ゼクゥシヴの制式量産を視野にいれ開発された試作型メカザウルス。

ベース機がゼクゥシヴということで量産機ではあるが従来のメカザウルスを遥かに上回る高性能であり、ミサイルポットやマグマバルカンなどの武装を取り入れていることで総合火力も元機に比べて上回っているが無人機の運用を前提にしているためマグマ・ヒートブレードは装備されておらず白兵戦面は弱体化している。

さらに言えばメカザウルス・ゼクゥシヴ自体がパイロットとして優秀なラドラが乗って初めて真価を発揮する機体であるため、それを元にした本機を無人機では限界があり結局ラドラの乗るゼクゥシヴと比べるとポテンシャルは遥かに劣るが、それでも高水準なスペックであることは間違いない。その分コストパフォーマンスはあまり良くない。アンティジュジュとはそのまま『量産機』を意味する。

 

◆武装

・ウイングミサイル

メカザウルス・ゼクゥシヴと同型の物。

 

・マグマ・ヒートライフル

メカザウルス・ゼクゥシヴと同型の物であるが若干連射性能は上がっている。

 

・マグマバルカン

左前腕部内に内蔵。メカザウルス・グリューセルと同型の物。

 

・多連装ミサイルポット

胸部内に計10連内蔵。

 

●メカエイビス・ドゥオドイン

全長:60.5m

総重量:3385t

型式番号:EME―08DD

分類:首長竜型試作重機動メカエイビス

出力:220万馬力

装甲材:ツェディック鋼、セクメミウス

動力:アルケオ・ドライヴシステム、ヒュージ・マグマリアクター

移動兵装:大型ブースター

兵装:大型マグマ砲、多連装ミサイルポット、対艦ミサイル、キナオスリンタ

 

メカエイビス・タウヴァンの次期後継機として開発されたメカエイビス。アルケオ・ドライヴシステムとヒュージ・マグマリアクターを搭載しているため前機よりも遥かに出力が強化されている。対艦ミサイルやミサイルコンテナ弾『キナオスリンタ』など火力面でも大幅にパワーアップしているが、タウヴァンの問題点であった扱い辛さはクリアできておらず火器管制のため単座から複座式になっているのとメカザウルス・アンティジュジュ以上にコストパフォーマンスは悪く、生産数はごく少数に留まっている。

ドゥオドインとは爬虫人類のおとぎ話『ミュアマ』に登場する、巨大な蛇の姿をした英雄の名から由来する。

 

◆武装

・大型マグマ砲

メカエイビス・タウヴァンのと同型の物。しかしアルケオ・ドライヴシステムのおかげで無尽蔵に使えるようになった。

 

・多連装ミサイルポット

機体の装甲内に多数内蔵。前機の全方位ミサイル砲の改良型で追尾性能が強化されている。

 

・対艦ミサイル

左右羽翼下部にそれぞれ二発、計4発装備。メカエイビス・スニュクエラに装備されていた対艦ミサイル『フェイナルタ』と同型の物である。

 

・ミサイルコンテナ弾『キナオスリンタ』

機体底部に計4基装備。エゥゲ・リンモから発射された巡航ミサイルコンテナ弾『リヒテラ』の小型化した物であり中身の子ミサイルの一発の威力は低いがその分、装弾数は1基に付き計40発と大幅に増えており、さらに追尾性能が強化されているため逃れることは困難になっている。

キナオスリンタとは『蜂の巣』を意味する。



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番外編⑤「中南米戦線~密林の悪魔~」①

お待たせしました。時系列は本編第35話と36話の間のエピソードの話になります。


――中南米。多くの鳥が囀ずる広大な緑で覆われた密林とまるで蛇のようにうねるように流れる南米のど真ん中を横断する巨大なアマゾン川。人類が地球上のほとんどを開拓し尽くし宇宙空間にも進出したこの時代でもまるで未開地と思わせるほどの大自然が残るこの地は例えるなら聖域である。その密林に光る謎の赤い眼・・・その鋭い眼が捉えているのは遥か上空、飛行機雲を引く四機の偵察機。

 

『現在、問題のアマゾン川上空だが特に異常は認められない』

 

『このまま調査を続行する』

 

最近、この空域に通りかかった機体が突然と消息不明になるという事件が相次いでいる。墜落したのかと現地に赴くもその形跡がいくら探しても見当たらないのだ。そこでテキサス基地から調査隊が派遣されたのだが特に空、地上からも敵や兵器の姿形が確認されない。

 

『もし少しでも何か異常があれば報告せよ』

 

それぞれバラバラに散りくまなく調査する各機。あたかも神隠しでもあったかのように味方が姿を消していくこの不可解な出来事をこれ以上放置することはできない。パイロット達は血眼になって捜索する。その時、広い密林の片隅から赤い光が発した。それがちょうど直線上にいた一機の偵察機を一瞬で覆った。機体は一瞬で蒸発し、他のパイロットがそれに気づくのに数秒かかった。

 

『アルファ3がロスト?何が起こった!?』

 

『気を付けろ、地上から攻撃を受けている!』

 

しかし休む暇もなく密林から赤い光を放った瞬間、強力な熱エネルギーの塊となって一機、また一機と直撃してパイロットに脱出させる隙も与えず機体ごと蒸発させた。

 

『地上から高エネルギー兵器による狙撃か!』

 

残った一機は直ぐ様急旋回し、テキサス基地に戻ろうとするが再び間を入れず地上から高エネルギーの塊が飛び交う。しかし原因が分かったパイロットは何としても生きて帰り報告せねばと神経を集中させて蛇行飛行しながら回避に徹し、それが功と為し見事、安全圏へ逃げていく。

 

「ち、取り逃がしたか。まあいい、ガレリー様から託されたこの新型機『リィリィーン』の操縦テストはここまでだな」

 

赤い光を放った場所には一機のメカザウルスが重鎮している。身の丈以上ある巨大な砲兵器を携え、どことなく見覚えのあるその姿・・・細部は異なるがラドラの愛機、ゼクゥシヴと酷似している。

 

「だがやはり新型機とだけあって凄まじい。これがガレリー様が開発した新型動力機関『リューン・ドライヴシステム』か・・・」

 

その機体のコックピットではパイロットが予想以上のポテンシャルを直と知り興奮に満ちている。

 

――グヴァンドルド=シェリア。このアマゾン一帯に駐屯する第二十四恐竜中隊長であり、ラドラ、リューネスと同じく平民出身のキャプテンである。

 

彼の乗る新型メカザウルス『リィリィーン』の後ろから二機のメカザウルスが忍びよる。

 

『中隊長、基地への帰還をお願いいたします』

 

「ああ。おそらく奴ら地上人類は近い内にこちらに攻めこんでくるだろう。いつでも迎撃できるように準備しておけ」

 

『了解。それともう一つの報告があります。先ほど本隊より補給物資と例の新型機が到着いたしました』

 

「そうか。ではそれらもテストを兼ねてその時に実戦投入する。不具合がないよう機体の整備、調整を念密に行え」

 

そして彼らはその場から後にし深い密林の中に消えて行った――。

 

一方、何とか帰還した偵察機のパイロットは所長のリンクに通信では伝えきれなかったことを全てを報告し、直ちに緊急会議が開かれる。

原因が分かった以上アマゾンに赴きその兵器の破壊、及び敵の殲滅を図る作戦自体は満場一致で可決された。

しかし広大なアマゾンからどうやって探し出すか、いっそのこといぶりだすことも踏まえてアマゾン一帯を燃やしつくす案もあれば大規模な自然破壊はさすがにまずいと難色を示す者もおり議論は飛び交っていた。しかしこのままでは被害が拡大し、自由に南米に行き来することが出来なくなり最悪互いの協力が得られなくなり更には向こうが孤立し制圧されてしまいかねないなど弊害が沢山出てくる。

そういうことを考えると多少の被害を覚悟してでも障害の根源を絶たなければならないとリンクはそう告げ、彼らを納得させた。

その会議の結果、三日後に作戦を決行することに決まり、それぞれの部隊に伝達された。それは竜斗達ゲッターチームにも告げられた。

 

「――ということだ。細かい詳細は後に分かるが今回はアマゾン一帯ということで広大な密林と川という君達には未経験の地での戦闘になる。なので参加は各々の任意に任せる。自信がなければ作戦に出なくていい。無理矢理出撃させて君達を失うわけにはいかないんでね」

 

「マナは出るわ。初めてだからこそ経験しときたいし」

 

と、やる気に満ちた彼女がさっそく名乗り出る。一方のエミリアは少し戸惑いを見せている。すると、

 

「アンタ、怖いの?」

 

と、ちょっかいを入れる愛美。

 

「こ、怖くなんかないわよ!」

 

「あら、声が震えてるけど?」

 

「大丈夫だから!司令、アタシも出ます!」

 

いつものように彼女の強がりであり、早乙女とマリアはあまりいい顔をしていない。

 

「君がそう言うなら止めはしないが本当に大丈夫か?」

 

「エミリアちゃん、無理して出なくていいのよ。出ないからって気負いすることはないわ」

 

と、マリアが優しく宥めるも本人は首を横に振る。

 

「アタシもこういうのを経験しておかないと後々困るかもしれませんから。寧ろいいチャンスだと思います」

 

「まあ、何だかんだいいながらも君はこれまでにちゃんと実績を残しているワケだからな。よろしい、君も参加だ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

そして残る竜斗は何故か複雑の表情で黙りこんでいる。エミリアと愛美は怪訝そうにそんな彼に注目する。

 

「石川、あんたは参加しないの?」

 

「・・・俺だって本当は参加したいよ。けど・・・っ」

 

「どうしたのリュウト・・・?」

 

不思議がる二人は対し、早乙女は口を開く。

 

「竜斗は今回、参加できない。理由はアルヴァインが『複合エネルギー機関』に変換するための改修を受けているからだ」

 

二人もそれを思い出し「あっ」と声を出した。

 

「アルヴァインの改修にはまだまだ時間がかかるから竜斗の乗る機体がない。予備のBEETも水樹のアズレイに使ってしまったからな。というわけで今回は二人だけの参加と言うことになるから覚悟しておいてくれ」

 

「そ、そんな・・・」

 

竜斗だけ出撃できない、つまり今回はゲッターチームのリーダーがいない状況になるという未経験の作戦にエミリアは急激な不安に陥る。

 

「今回の地形上、単独行動はまずい。二人は関しては離れず行動しろ。はぐれたりしたら危険だからな」

 

「まあこればかりは仕方ないわね。イシカワは高みの見物でもしてなさい。エミリアはちゃんとマナが面倒を見るから心配しないで」

 

「ちょっと、面倒ってなによ!」

 

「面倒ってアンタの世話に決まってんじゃない。どうやらマナが今回のチームリーダーになりそうだし」

 

「いつアタシがアンタに迷惑をかけたのよ!自惚れもいい加減にしてよっ」

 

「なら今回、エミリアがリーダーやってみる?マナをちゃんと正確に指示して無事生きて帰らせてね」

 

それを聞いてやはり気負いしてたじろぐエミリア。

 

「もし何かあったらアンタが全て責任を負うんだからね?そこ分かってる?」

 

「・・・・・・」

 

「確かに今回ばかりは水樹がリーダーになったほうがいいな。未経験なことが多すぎるが水樹、任せても大丈夫か?」

 

「しょうがないけどやるしかないわね。本当はいつも通りイシカワにやってほしがったけど代理ということで務めるわ」

 

「では決まりだな。詳しい情報と作戦内容については後日伝える。あともし気が変わって出撃したくないのなら正直にいつでも言いに来てくれ」

 

解散し、司令室から出た三人。エミリアは凄く落ち込んだままだ。

 

「気にするなよエミリア。確かに今回ばかりは水樹に任せたほうがいいよ。俺も司令と一緒に立ってここから指示しようと思ってるし大丈夫だって」

 

「うん・・・」

 

そんな二人のやり取りに愛美は眼を細めて見ている。明らかに不機嫌な顔をしていた。

 

「アンタっていつも偉そうなことをいうわりには大役任されそうになるとそう弱気になるのね」

 

「違うわよ、ただ今回リュウトがいないから不安で!」

 

「それってつまり石川がいなければ何にもできないってことよね?」

 

痛い所を突かれて怯むエミリア。たが更に愛美は追撃する。

 

「そんなんじゃいつまで経っても成長しないよ。こういうこともあるって想定しとかないと。少しはイシカワを見習いなさいよ、ちゃんと変わったじゃない」

 

「・・・・・・・」

 

「マナはやるっていったらやるって割り切るの。だから

ちゃんと責任を持ってやるわ。最もアンタはどうなのかは知らないけどエミリアも参加するって言ったならさっさと割りきってよね。作戦の時まで引きずるんなら早乙女さんに言って辞退してきたほうがいいわよ――」

 

そう告げて彼女は去っていく。キツく言われたエミリアは既に目が涙で溢れている。

 

「リュウト・・・アタシどうしたらいい・・・?」

 

「・・・水樹のほうが正しいよ。いつも全員揃って出撃するのは限らないんだしそういうのに慣れないといけないと思う。そもそも今回は強制じゃないみたいだけどエミリアが自分から参加するって言ったならそこはちゃんと責任を持ったがいい」

 

相変わらずドライな言い方であるが確かに正論である愛美の意見に同意する竜斗。すると彼女は竜斗にこう言う。

 

「アタシ・・・ホントは怖いの。ミズキの言う通り強がって言うんじゃなかったって今後悔してる。けどだからって自分だけ出ないってのもイヤなの。ただでさえリュウトとミズキに劣るワタシなのにこれ以上足手まといになりたくないって気持ちがあるからつい・・・」

 

「エミリア・・・」

 

と、本音を伝える彼女に竜斗は頭を優しく撫でてあげた。すぐに目をこすり彼に涙混じりの笑みを見せる。

 

「けどもう大丈夫。リュウトに本音を言ったらいくらかはすっきりしちゃった。ちゃんと作戦に出てミズキと一緒に頑張ってくるから心配しないでね。リュウトはゆっくり休んでてね」

 

エミリアも彼から去っていき一人残された彼も複雑な気持ちだった。自分の機体は今改修されているため出撃したくてもできない、これはどうすることもない。しかしやはり不安である。

彼女達の心配となによりゲッターチームのリーダーである責任感と自分が出れないことに対する残念さと焦りが心の中でぐちゃぐちゃに混ざりあって何ともいえない不快感が混み上がっていた。しかしどうすることもできないので結局愛美の言っていた通り、割り切るしかなかった。

 

竜斗はそんな思いの中、歩いていく。ちょうど曲がり角の所を通りかかった時、

 

「大変ね、アンタ達も」

 

突然の声に驚いた竜斗はすぐに横を見ると愛美が腕組みしながら壁に持たれかかっていた。

 

「水樹、もしかして聞いてた?」

 

「ええっ、この耳でばっちりと」

 

デリカシーがないなと呆れる竜斗。

 

「水樹、ごめんな」

 

「なんでイシカワが謝るのよ?」

 

「いや、エミリアのことで・・・」

 

「まあマナも少し大人げなかったなと思ったわ。エミリアも悩んでるのに無神経なことを言ってしまって・・・」

 

彼女なりに反省している様子は新鮮みさえ感じる。

 

「気にするなよ、今回ばかりは水樹のほうが正しいって思ってたし――」

 

「今回ばかりってなによ!」

 

「ごめんごめんっ。けど確かにいい経験だと思ったからさ。俺も経験しときたかったけどこういう時に出れないなんて運がないな」

 

「むしろ運があるじゃん。死ななくて済むんだから」

 

「ぷっ、なんだよそれっ!」

 

二人はこの会話に可笑しくなりクスクス笑う。笑い終ると竜斗は愛美に何かを託すかのように真剣な目を見せる。

 

「水樹、今回俺抜きで二人だけだけど絶対に無理するなよ」

 

心配そうに見ると竜斗を察し、安心させるように軽い笑みを見せる愛美だった。

 

「だから心配しないでって言ったでしょ。何もマナとエミリアだけじゃないし味方が沢山いるんだからいざとなったら助けてもらうわよ」

 

「あと・・・エミリアを頼んだよっ」

 

「任せといて。それにあの娘だって早乙女さんの言ってた通り、これまでも何だかんだでちゃんと結果残してるんだから今回も大丈夫よ。イシカワにはアルヴァインが使えるようになったらいっぱい頑張ってもらうんだから今の内に休めときなさい」

 

「ああっ」

 

二人からはとてつもない信頼感を感じさせる思いがひしひしと伝わっていた。

 



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番外編⑤「中南米戦線~密林の悪魔~」②

一方、早乙女はこの後開発ドッグにて改修を受けているアルヴァインの元に訪れる。そこでは作業着姿のニールセンとキングがスタッフにあれこれ指示をしている。高齢とは思わせないその元気ぶりは立派である。

 

「どうですか?アルヴァインは」

 

「見て分からんのか、大忙しじゃよ。貴様があれこれ要求するからな」

 

「どうもすみません」

 

「けっ、心では思ってないことを言いやがって」

 

しばらくして休憩に入り、休憩室で三人は紙コップにいれた熱いコーヒーの啜りながら雑談する。例の事件と作戦、ゲッターロボ、そして先程についての話題にも触れる。

 

「ほお、二人とも女の子なのに勇ましいものだな」

 

「ええっ、竜斗が今回出れないことを考慮して作戦の参加を各人の任意にしたんですが」

 

「で、竜斗君は?」

 

「出れないと分かっていて仕方ないと思いつつもやはりくすぶってる様子ですね。やはりの本人の責任感が働いてるんでしょう」

 

「ゲッターチームのリーダーじゃからな、竜斗君らしいっちゃらしい」

 

すると、早乙女がこう切り出す。

 

「・・・アルヴァインの改修はやはりまだかかりますかね?」

 

「少なくともあと二週間近くはかかるな。動力機関の変換だけならまだしもそれに伴いアルヴァインの兵装も各管制も変えねばならん。正直言って彼が扱えれるかどうかすら分からんぞ」

 

「サオトメのおかげでわしらはゆっくりすることもままならん。年寄りを少しは労らんかいっ」

 

「そういうわりには作業中、嫌な顔をしてませんでしたが?」

 

何だかんだ言いつつも二人はこういう仕事が好きなのだろう。嫌々ではなく寧ろ夢と希望に溢れる若者のような精気溢れていた。

 

「で、それがどうしたんじゃ?」

 

「さっきも言いましたが竜斗も作戦に出たいみたいなので始まる前に改修が終われば――と思いまして」

 

「諦めろ。改修が早く終われるならワシらは今苦労しておらん」

 

「ステルヴァーは残っとらんのか?」

 

「ステルヴァーはブラック・インパルス隊の分しか造っとらん。そんなに参加したいなら軍に頼みこんでマウラーとか戦闘機でも・・・ん?」

 

何故かニールセンの口は止まり、何か考えているのか黙り込んでしまう。

 

「・・・博士?どうしました?」

 

「サオトメよ、竜斗君は確かステルヴァーの操縦訓練を受けたと聞いたが?」

 

「え、ええっ。ジェイド少佐の元で。ほとんどマスターしたらしいですがそれが何か?」

 

「ふむ・・・」

 

ニールセンの何かの思惑を感じとる早乙女とキング。

 

「一応高性能の機体がないわけではない。ワシが開発したステルヴァーの試作機があるがそれを竜斗に乗らせてみるか」

 

「そんな機体があるんですか。初耳ですよ」

 

「ああ、どのみちアルヴァインの操縦管制もステルヴァーと同様にせねばならんかった所だ、ついでに操縦感覚を慣れてもらうのにもちょうどいい。もし竜斗君が今作戦に参加する気が、あと覚悟が本当にあるなら今すぐ連れてこい。機体を見せてやる」

 

「わかりました、直ちに聞いてみます」

 

早乙女は立ち上がると颯爽と竜斗を探しに行く。一方のキングは何故かニールセンをギロッと睨みつけているが何故だろうか。

 

「おい、まさかアレを竜斗君に乗らせるつもりじゃないだろうな?」

 

「そのまさかよ」

 

「貴様、正気か?」

 

「ふん、わしはただ機体を提供するだけじゃ。乗るか乗らないかは彼が決めることじゃよ」

 

二人には何やら険しい空気を感じさせる会話をしていることをいざ知らず、早乙女は竜斗の元に向かい先程のことを伝えると竜斗は思いがけぬ誘いについ心が高揚し目を輝した。

 

「ぜひお願いします!」

 

彼の返事から一寸の迷いを感じられなかった。早乙女と竜斗はすぐにニールセンの元に向かう。

 

「ニールセン博士!」

 

「来たか。ではついてこい」

 

四人が向かった先は、基地の戦闘機用格納庫の片隅にあるとある戦闘機。黒と黄色を基調とした見るからに不吉を思わせる戦闘機であり、主翼が前向きになっている所謂エンテ型と呼ばれるフォルムである。

 

「正式名称は『SFEX―02』。一応コードネーム兼愛称でリリエンタールとそう呼んでおる、わしの開発したステルヴァーの試作機じゃ。今回竜斗君にはアルヴァインの代わりにこいつに乗ってもらおうかと思っておる」

 

竜斗は初に見る独特克つ斬新なデザインをこの目で見て、思わず唾を呑み込んだ。

 

「こいつの操縦方法はステルヴァーと同じじゃ。君はステルヴァーを操縦できると聞いたから大丈夫じゃろう?」

 

「はい、一応は・・・」

 

「竜斗君に言っておくがこの機体はとんでもないじゃじゃ馬じゃぞ?」

 

「えっ?」

 

突然、横にいたキングが口を挟む。

 

「飛行テストの段階で一人死人が出ておる。君はそんな機体に乗るのか?」

 

彼の『爆弾発言』を当然耳を疑い、戦慄する竜斗。

 

「キング、余計なことを言うな。竜斗君はアルヴァインを使いこなせるんだから大丈夫じゃろう。それにあの時よりも改良してあるから死ぬことはない。まあ・・リミッターをかけているがな」

 

「・・・・・・」

 

「一応、ギリギリ人間が耐えうるレベルにまで調整してあるがそれでも完全に大丈夫という保証はない。下手したら先人みたいに扱えられずに死が待っておる。君はそんな危険を冒してまでこの機体、リリエンタールに乗り込む覚悟はあるか?」

 

正直、恐怖で身震いする竜斗。こんな危険な代物に自分が乗るのかと思うと狂気の沙汰である。

 

「乗るか乗らないかは君が決めることじゃ。嫌なら参加を諦めるか軍からこれより安全なマウラーをなどを借りるのもええ。今すぐ決められないのなら今日じゅうには決めてくれ、整備しなければならんからな」

 

取り敢えずここで解散し、竜斗は格納庫から後にした。残った三人は彼の後ろ姿を眺め何かを感じとっている。

 

「相当悩んでる様子ですね」

 

「まあ竜斗君は知らないだろうが、あの事故を知る者なら間違いなく乗ろうとは思わんだろうな」

 

「博士、それについて詳しく教えてもらえませんか?」

 

「ああ――」

 

一方、竜斗はジョージ達ブラック・インパルス隊の面々に会い、そのことを話すと誰もが唖然となる。

 

「搭乗は絶対にやめておいたほうがいい」

 

と、ほぼ全員が口を揃えて言った。

 

「リリエンタールはじゃじゃ馬どころじゃない、パイロットの安全性を無視したとんでもない欠陥機だぞ。博士は竜斗君にあんなものを紹介したのか・・・」

 

「けど、ニールセン博士はギリギリ乗れるように改良してリミッターをかけたって言ってましたが・・・?」

 

そう言うが彼らは非常に渋い顔をしている。よほど何かあったに違いない。

 

「あのう・・・そのリリエンタールの飛行テストで死人が出たって聞きましたが本当なんですか?」

 

その質問に対し、沈黙するジョージ達に竜斗は何かを察した。

 

「すいません、もしかして聞いてはダメでしたか?」

 

「いや、いいんだ。君は何も知らないから気になって仕方ないと思う。実は前にオリヤという俺達と同じブラック・インパルス隊員がいてな。その時はまだジョナサンがいなくてそいつが一番SMBの操縦技術がダントツに上手かったんだ。で、それを見込まれてリリエンタールのテストパイロットに選ばれたんだが――」

 

聞く話によると、発進し高空まで達するまでは順調だった。しかしそこから推進力を上げた瞬間、まるで機体が暴走したかのような突発的に音速域にまで急加速した。オリヤは当然慌ててなんとかしてコントロールして止めようとしたが停止するどころかさらに速度は上昇、そのままコントロールを失い機体は速度に耐えきれず空中分解を起こして墜落したと言うのだ。

それを知った竜斗の身体に強烈な悪寒が走った。

 

「竜斗君、オリヤの最期の通信はどんな言葉だったと思う?」

 

「・・・・・・・」

 

「『目が潰れた、内臓が飛び出す』だよ。実際、あいつの遺体は正直凄惨なもので見れたもんじゃなかったよ」

 

「じゃあ博士に紹介してもらった機体は・・・?」

 

「リリエンタールは計二機造られてる。オリヤが乗ったのは一号機で、あれは二号機だよ。しかしそんな凄惨な事故を起こした上に外見はともかくカラーも相まってまるでカラスのようにも見えるだろ?そのことから不吉やら呪われていると噂立って誰も頑なに乗ろうとしないまま放置されてたんだ」

 

「ちなみにオリヤが死んでその穴埋めで急遽入ったのが俺だよ」

 

と、ジョナサンがそう言う。

 

「確かにニールセン博士がちゃんと改良しているなら問題はないとは思うがリミッターをかけてるってことはつまり根本的に問題は解決していないということだ。それを差し引いても俺達はあの機体の事故を目の当たりにしたから正直オススメできない。君はそんな機体に乗ってまで、オリヤの二の舞になるかもしれないと言う覚悟の上で参加したいのか?」

 

竜斗の心は大きく揺さぶられる。早乙女に誘われた時は正直気持ちは高揚した。しかし実物を見て詳細を知れば知るほど深追いするんじゃなかったと後悔し始めていた――。

 

「――そんなことがあったんですか」

 

早乙女もニールセン達から事故について詳細を教えてもらい、腕組みして深く息を吐いた。

 

「それにしても博士、そんな狂気じみた機体を造ったり竜斗にそれを乗せようとしてたとはあなたは本当に悪魔みたいな人だ」

 

「こいつは基本的に機体ありきでしか考えとらんからな。ワシでさえやらんことをしやがるから本当にタチの悪いヤツじゃ」

 

「けっ、わしは兵器開発の権威じゃ。高性能を追求して何が悪い?それにわしはただ彼が参加したいと言ったから高性能の機体を紹介してやっただけのこと。乗るかどうかは最終的に本人が決めることじゃ」

 

完全に開き直っているニールセンに呆れる早乙女とキングだった。

 

「しかしあのオリヤでも扱えきれんかった機体を竜斗君に扱えられるのか?」

 

「さあな、そこは彼の技量次第じゃ。一応安全性も見直し改良したが機体全体を今の技術で改良して性能が更に上がっとるから結果的にほとんど前と変わってはおらん。リミッターをかけてあるから大丈夫だとは思うがもし解除したら例え頑丈なパイロットでも命の保証は到底できないな」

 

「つまりそれは――」

 

「下手をしたらオリヤと同じ運命を辿るじゃろうな。いや、それ以上の惨劇になるやもしれん」

 

彼の無常な結論は二人を取り込みたちまち沈黙の場へと陥らせた――。



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番外編⑤「中南米戦線~密林の悪魔~」③

(そんなとんでもないものだったなんて・・・知りすぎるんじゃなかったな・・・)

 

ジョージ達と別れ、竜斗はリリエンタールに乗るかどうか悩んでいた。あのニールセンの開発したものだ、普通ではないのは理解していたが、まさかいわく付きだなんて思っても見なかった。

いくら改良したとは言え、聞けばオリヤは相当な戦闘機、SMBのベテランパイロットだったらしいがそんな人物でさえ乗りこなせなかったのだから経験共々、まだ浅い自分では間違いなく彼の二の舞になるのは大体想像がつく。

 

この際、諦めるかニールセンのいう通りマウラーを借りようかなとも考えた。しかし作戦に参加したい気持ちのほうが強く、それにマウラーはステルヴァーとは操縦管制は違うらしいし、何よりアルヴァインとステルヴァーのような高性能機と比べると性能差が有りすぎて不安になってくる。

かと言って、今日中に決めてこなければならないしいつまでも悩んでいる暇がない。

 

「竜斗君?」

 

「あ、少佐」

 

ちょうどそこに通りかかったジェイドと出会う。彼はすぐに竜斗の顔から何か悩んでいることを察する。

 

「何かあったな。もしよろしかったら教えてくれないか?」

 

二人は近くの休憩所の椅子に座る。そこで竜斗は彼に話すとやはり彼もジョージ達と同様にその事について苦い顔つきになる。

 

「リリエンタールか・・・また嫌な名前を聞いてしまったっ」

 

その様子を見ると思い出したくもないようである。

 

「オリヤでさえ歯が立たなかった機体だ、私でも乗りこなせる自信は正直ない。現にステルヴァーはあの事故を反省点としてデチューンして造られてるからな」

 

「少佐でさえそういうのなら僕にはもっと無理ですよ。けど、オリヤって人はそんなに凄かったんですか?」

 

「あいつは私と同じブラック・インパルス隊の中でも古株の一人でな。間違いなくパイロットとしての質はトップクラスだったよ。ただいい奴には違いないんだがかなり時間にはルーズで、気まぐれだったりといい加減な性格の自由人で私とは反りが合わなかったな。

上の人間から悪い意味で目をつけられていたけどブラック・インパルス隊は実力主義だから外されることはなかった。オリヤは本当の意味で実力だけでこの隊にいた男だよ」

 

確かに職業軍人のような気質のジェイドとは合わなさそうなであるが、聞けば聞くほど興味の沸く人物である。

 

「しかしあいつはパイロットとして取り組む姿勢は凄く真面目だったのは皆知っているし評価している。だからこそあの事故が起きたこと、そして死んだことには正直信じられなかったさ――」

 

ジェイドからはどこか悲愴感が滲み出ている。合わなかったと言っていたが何だかんだで仲間としての意識が強かったのだろう。

 

「そんな人でさえ乗りこなせなかったのなら僕には到底無理です。やっぱり乗るのは諦めます・・・」

 

やはり自分には無理だと認識し落胆する竜斗。すると少し間を置き、ジェイドが口を開く。

 

「確かにそうするのは正解だろう、わざわざ危険を冒してまで乗ることはない」

 

「・・・・・・」

 

「しかしな、私は何故かこう思うんだ。君なら乗りこなせそうだと」

 

「えっ?」

 

ジェイドは立ちあがり、窓際に行き外に広がる滑走路を眺める。

 

「少し前までの竜斗君なら間違いなく私は君に乗るのは絶対にやめろと言っていただろう。しかし今の君は違う。ゲッターロボの力を引き出せなくなり乗れなくなってもステルヴァーでもマウラーでも乗り、戦いたいと言い張り私は積極的に教えた。そしたら君は私、いや皆の予想以上に早い期間でステルヴァーのノウハウをほとんど身につけた。はっきり言って異常な適応力と理解力だ」

 

「僕はただ皆に遅れを取りたくないから必死で・・・」

 

「それにこれまでの君の戦闘の様子を客観的に見てきた私には分かる。君は生まれながらにして戦闘機、SMBパイロットとしての天賦のセンスを持ち合わせたとんでもない逸材だとな。もしかしたら私はおろかジョナサン、オリヤを越えているかもしれん。

全く・・・日本のいう小さな島国の、しかも本来軍属ではないただの高校生の君にまさかそんな才能があるなんて・・・私含めた周りのパイロット達は正直嫉妬してしまいそうだよ」

 

するとジェイドは右拳をぎゅっと握りしめ、身体を震わせる。まるで悔しさを噛みしめるように。

 

「しかし、だからこそ私は君に賭けているんだ。あのいわく付きの機体、リリエンタールを乗りこなせるかもしれないとな。竜斗君ならオリヤの無念を晴らせることができるかもしれんとな」

 

「少佐・・・」

 

「私は別に無理して乗れとは言わないしけしかける気もない。正直私もあの機体には嫌な思い出しかないから関わる気はないし竜斗君にも乗ってもらいたくないのが本音だ。

だがこれだけは言いたい。君には私達も恐らく想像をつかない絶大な可能性を秘めていると断言できる。君は謙遜だから気づいていないかもしれないがこれまでにちゃんとそれを立証できるほどの戦果と実績、そしてなにより私達がそれを見ている。

もし君も自分の可能性を試してみたいと思うなら乗ってみることもいいんじゃないかな、結局乗るか乗らないかは君自身が決めることなんだからな――」

 

ジェイドと別れた後で、竜斗は自室に戻り悩みに悩んだ。そして、そこから導き出した答えとは――。

 

「来たか竜斗君、さて答えを聞かせてもらおうか」

 

夜。ニールセンの元に現れた彼の顔は先程の不安そうな顔から一転、心に決めた真剣そのものだった。

 

「僕はリリエンタールに乗ります」

 

迷いなく言い切る竜斗に彼はギロっと鋭い視線をする。

 

「本当にいいんだな。後には引けないぞ?」

 

「乗ります。自分の力でリリエンタールを乗りこなせれるかどうか試してみたくなったので――」

 

するとニールセンの険しい表情が和らいだ。

 

「分かった。では明日もう一度わしのところに来い。機体について詳しい説明をする」

 

そう伝え、竜斗は礼をして去っていく。その後ニールセンは一人リリエンタールの元に赴き機体の車輪部を優しく触った。

 

「わが息子よ。久しぶりにお前に乗りたい奴が現れたぞ。竜斗と言う日本人の高校生じゃ。だがな、オリヤの時のようなことはやめてくれよ。あの子は、この先間違いなく必要となる人間だからな――」

 

と、まるで我が子に話しかけるのように呟いた――。

 

「正気か竜斗君!」

 

次の日。リリエンタールに乗ることをジョージ達に伝えると当然、狼狽える。

 

「本気かよ・・・オリヤの時みたいに無惨に死ぬかもしれないんだぞっ」

 

「・・・確かに怖いです。けど怖がっていたって何も始まらないですからね。それに今の僕がどこまでやれるのか知りたくなったこともあるんです」

 

勇ましいのかどうなのか、呆れに呆れるジョージ達。

 

「竜斗君、勇敢と無謀は別問題だぞ。もし君に何かあったらどうするんだ?君は仮にもゲッターチームのリーダーじゃないのかっ」

 

「その時は水樹がきっと引き継いでくれます。あいつもゲッターチームのリーダーに相応しいと思いますから。それに博士曰くアルヴァインは前のより遥かに扱いづらくなるらしいです。リリエンタールを乗りこなせないようなら僕はアルヴァインを乗りこなすことはできないと思います」

 

「しかし・・・っやはり不安だよな」

 

「確かにいくら改良してあるからって安心できねえよ。あんな事件を目の当たりにしてはな――」

 

「じゃあ今回竜斗君をブラック・インパルス隊の臨時メンバーとして入れてみたらどうだ?」

 

そこにジェイドが現れ、そう提案する。

 

「リリエンタールはステルヴァーの試作機で戦闘機形態と同様の性質を持っている。ならステルヴァーをよく知る我々と一緒に同行させてフォローしてやればいいんじゃないか?その方が彼もやりやすいだろう」

 

「少佐・・・」

 

竜斗は「是非ともお願いします」といい、彼も頷いた。

 

「分かった。早乙女一佐や上官にも私から言っておこう。竜斗君、今回はよろしくな」

 

ジェイドは一呼吸置き、全員にこう告げる。

 

「こんな所で言うのもなんだが今回の作戦内容については、先程分かったことだがやはりアマゾンにメカザウルスと思わしき機影が発見された。なので戦闘は余儀なくされるだろう。いつも通り空と地上の二手に分かれることになり我々は空爆がメインとなるが恐らくは空中戦闘も覚悟しておいたほうがいい。地上で行動する味方機を考慮して無闇な爆撃は避けて目標物だけにピンポイントで攻撃してくれ」

 

聞く話ではかなり気を使う戦闘になりそうであり、いつも派手に攻撃してきた者にとってはかなりやり辛い戦闘になりそうだ。

 

「詳しくはまた後ほど伝えるが取りあえず大筋はこうだ、各人準備しておけよ」

 

ジェイドは去っていく。そのすぐ全員は竜斗の方へ向く。

 

「まさか竜斗が今回だけとは言え俺達のチームに入るのか・・・こりゃあ面白いかもなっ」

 

「しかもあのリリエンタールに乗ってとは・・・俺達は一向に構わないが竜斗君、本当にそれでいいのか?」

 

すると彼はやる気に満ちた表情で力強く頷いた。

 

「はい。少佐達となら僕も喜んで参加したいです。色々迷惑をかけるかもしれないですけど今回だけよろしくお願いしますっ」

 

それを聞き入れ、全員は快く彼を受け入れた。

 

「よっしゃ。竜斗がそういうなら俺達も喜んで迎えてやろうじゃねえか」

 

「ああ、何せあのゲッターチームのリーダーなんだからなっ」

 

「ではよろしくな竜斗君。あのいわく付きを乗りこなせるのなら間違いなく『英雄』になれるぞ、君の力を是非見せてくれ」

 

「こちらこそっ」

 

互いに握手を交わし、今回限りのチームメイトとしての健闘を祝いあった――。

 

「なんと?竜斗君が乗ると申したか!」

 

早速、リリエンタールの整備に入るニールセンと数名のスタッフの元にキングが信じられないような顔をして現れる。

 

「ああっ。彼は何の迷いなくワシに言いよったわい。ならワシは全力を持って不備がないよう整備してやるわい。キング、邪魔だからあっちへ行っとれ」

 

だが彼はムキになり、すぐにコックピットに乗り込み計器類をカチャカチャいじり始める。

 

「ならワシだって竜斗君がちゃんと生きて帰れるよう全力を持って調整するぞい。ワシにも手伝わせろ!」

 

「アルヴァインはどうするんだ?」

 

「そんなもん後回しじゃ!」

 

仲良く整備する二人を尻目に早乙女とマリアは遠くからその様子を眺めていた。

 

「さっきジェイド少佐から話を受けたよ。今回に限り、ブラック・インパルス隊のメンバーとして作戦に参加すると」

 

「竜斗君・・・本当に大丈夫なんですか?」

 

マリアもリリエンタールのいわく話を聞き、当然不安だらけの表情をしていた。

 

「彼がそう決めたなら私は止めやしない。彼はもう一人前の男なんだから彼を信じてやろうじゃないか」

 

「しかし・・・竜斗君にもしものことがあれば・・・」

 

「マリア、私はこう思うんだ。竜斗ならきっと乗りこなしてみせると。彼には私達の想像もつかないパイロットとしての才能を秘めているに違いない。それは彼の戦果などがすでに証明している。まあ、あとそれに」

 

「それに・・・また自分の勘ですか?」

 

「ご名答っ」

 

不敵な笑みを浮かべる早乙女からはどこか嬉しささえ感じる。そんな彼に呆れるマリアもまた、内心不安ばかりだが竜斗の底知れぬ未知の才能に対する強い興味を抱いていた――。

 

「えっ、石川が結局参加すんのっ?」

 

ベルクラス内の女子トイレの洗面所。エミリアと愛美にもすぐにその話が耳に入った。

 

「機体どうすんのよ?」

 

「そこは分かんないけど・・・今回はゲッターチームじゃなくてジェイド少佐達がいるブラック・インパルス隊のメンバーとして出るらしいよ」

 

「あいつ、そこまでして出たいのかしらね・・・戦い過ぎて気が変になっちゃったのかしら?」

 

呆れに呆れる愛美だった。

 

「けど、リュウトが出るって知って少し安心しちゃった。違うチームだとしても――」

 

嬉しそうなエミリアに対し、愛美はどこか腑に落ちない、いや不安そうな表情だ。

 

「ねえエミリア。マナさ、時々石川に対して怖くなるときがあるの」

 

そう漏らす愛美に手を洗うのをやめる彼女。

 

「え?リュウトが怖い?どうして?」

 

「今回のことでもそうだけど、あいつってあんなに好戦的だったっけ?少なくともマナの知る高校の時の石川とは思えないんだけど?」

 

その疑問に対しエミリアは、

 

「・・・確かにリュウトは本当に変わったよね。昔と比べてもう別人みたいに感じる。けどそれはサオトメ司令やゲッターロボに出会ってからの環境や戦い、周りの人達の影響だと思うしそれにみんなのために必死なんだと思う。リュウトは本当に責任感が強いから。だから気にすることはないよ、寧ろ良いことだし」

 

「・・・確かにそうなんだけどさ。それに石川から何か得体のしれないモノを感じることがあるのよね」

 

「それってつまり・・・?」

 

「石川って普段の雰囲気を見てると一見、本当に大人しめの優男だけど蓋を開けてみればかなり多才な人間なんだよね。器用で要領も凄いからゲッターロボはおろかマナ達が乗れないSMBすら簡単に乗りこなすし、あの爬虫類の人間とすぐに仲良くなれるぐらいにコミュ力高いし、それにゲッターチームのリーダーをやっててマナ達は少しも不満を抱かないでしょ。それって凄いカリスマ性も持ちあわせているってことよね?」

 

「あ・・・ミズキに言われて今気づいたけど確かにリュウトって考えてみればとんでもない才能ばかりを持ってるよね・・・っ。何で今まで一緒にいて全然気づかなかったんだろう?」

 

「でしょ?だからさ、そんな才能の塊みたいな石川って一体どこまで行くんだろうと思っちゃってさ――」

 

「うん。何だかリュウトがリュウトじゃない気がしてきた・・・」

 

愛美の意見に同意すると同時に、竜斗に対して得体のしれない恐ろしささえ感じてくるエミリアであった。愛美は少し怯えるエミリアの肩を笑顔でポンポン叩いた。

 

「なあんてね。エミリアよかったじゃない、そんな凄いカレシ持っててマナ羨ましいよ~っ♪」

 

「・・・・・・」

 

「石川の才能は少なくともマナ達に危害を与えることはないし、寧ろ役立つんだからちゃんと喜ぶべきよ。ねっ」

 

「・・・そうよね。素直に喜べばいいんだよね、ははっ」

 

・・・そう言いつつもぎこちない笑い方をするエミリアだった。

 

 



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番外編⑤「中南米戦線~密林の悪魔~」④

――そして当日の朝六時。竜斗はブラック・インパルス隊と共に今作戦の内容の最終確認をしていた。自分達空戦部隊は先発隊として先に赴き、空爆を開始。敵をいぶりだすか地上部隊のために障害物を排除した後、エミリア達ゲッターチーム率いる地上部隊が展開する、という大まかな作戦内容である。

 

「――以上が作戦の内容だ。地上からの高エネルギー兵器による対空狙撃があるということで我々ブラック・インパルス隊が攪乱、囮になりその間に他の部隊が空爆するということになるができればそれを素早く破壊してほしい。早く破壊できればそれだけ安全を確保できるし我々も攻撃に専念できる」

 

ジェイドがモニターに映し出されたマップに指揮棒を指して説明している。

 

「今回に限り、ゲッターチームから石川三曹が我々のチームメンバーとして参加する。彼は戦闘機乗りとしては初めてだから全員フォローを頼むぞ」

 

して本人はかなり緊張した様子で顔が強張っている。するとジョナサンが突然、竜斗の股間をガシッと掴みぐっと揉み下し揺らした。

 

「うわあっ、た、大尉!?」

 

「緊張してガタガタだから俺がほぐしてやろうってなっ!」

 

「俺らがいるんだから安心しろよ。アソコじゃなく身体がそんなに固くなってたらエミリアとヤる時どうすんだよ!ワハハハっ」

 

「ど、どういう意味ですかっ!?」

 

ちょっかいを出す彼らについ乗ってしまう竜斗。そんな様子にジェイドは「ゴホン」と咳を吐く。

 

「コールサインについてだが、我々はいつも通り『インパルス』だ。石川三曹についてはあのリリエンタールに乗るということでかなりのダークホースである。それにちなんで彼は『インパルス0(ゼロ)』という呼称とする」

 

初めて与えられたコールサインについて、竜斗は自分もブラック・インパルス隊の一員なんだと実感すると共にカッコいい名だと気分が高揚した。

 

「我々先発隊の発進は午前九時だ。それまでに各人準備をしておけよ」

 

ジェイドの話が終わり、とりあえず解散すると竜斗は彼らにお辞儀をする。

 

「今日は色々とよろしくお願いしますっ」

 

「そんなかてぇことしないでいつも通りにしてればいいさ。俺らは仲間なんだからなっ」

 

「それよりもリリエンタールの『呪い』に呑まれねえようにしろよ。お前が死んだら元も子もないんだからな!」

 

「は、はい。ありがとうございます!」

 

皆に励まされ、気持ちが楽になると同時に気合いが入る。絶対に乗りこなしてみせると、その上で作戦を成功させて生きて帰ると。

彼らと別れ、竜斗は次にニールセンの元に向かう。彼はリリエンタールのある格納庫で待っていた。

 

「博士っ」

 

「来たか。では機体の最終的な確認をするぞ」

 

コックピットに乗り込み操縦の仕組みと各武装の説明を受ける。操縦管制はステルヴァーと同じなのは既に頭に入っている。武装に関しては機関砲二門とアルヴァインのハンディ・プラズマキャノンと同型の物が一門、ECMシステム。後は『ギリガン』という名を持つミサイルが六発。このミサイルに関してはとんでもない代物で周りからの反対の声もあったらしい。竜斗は何か嫌な予感がよぎった。

 

「あとステルヴァーの兵装であるリチャネイドか、核バズーカかオールストロイの内、二つを装備できるぞ。竜斗君は何を持っていくかの?」

 

彼は選ぶとしたらリチャネイドとオールストロイだと思っている。核バズーカに関してはそんな一歩間違えれば自分はおろか、味方にさえ巻き込むような物騒な物を扱える気がしないし、使う気にもならない。

ニールセンにそれを伝えるとどこか残念そうな顔を見せる。

 

「・・・分かった。出撃までに搭載しておく。また時間が来たらここに来てくれ」

 

その場を後にする竜斗。一方、ニールセンは何故かニヤリと不気味に笑んでいた・・・。

そんな彼の何かの思惑にいざ知らず、時間があるので一旦ベルクラスに戻る。格納庫に行くと既にルイナスとアズレイが起動していた。

 

「リュウトっ」

 

「イシカワ!」

 

彼に気づき中からエミリアが出てきて、続くように愛美も出て三人は対面する。

 

「今回ゲッターチームとしては俺いないけど絶対に無理するなよ二人共」

 

「こっちは大丈夫よ。それよりもアンタこそしっかりね」

 

「アタシもミズキがいるし、頑張ってくるから心配しないで」

 

二人共、調子が良さそうで安心する。そして三人はいつものように円陣を組む。

 

「今回も作戦を成功させて絶対に生きて帰ってくるぞ!」

 

「「オーーっ!!!」」

 

――そして時間が来てすぐにリリエンタールの格納庫に着くとニールセンの元へ訪れる。

 

「よし。君がこのリリエンタールを乗りこなして活躍することを祈っとるぞ。最初は慣れるために出力は徐々に上げていけ。間違っても最大まで上げるなよ」

 

最後の忠告を受けて、自分の乗る曰く付きの戦闘機、リリエンタールに視線を向ける。オリヤという人物に会ったこともないので分からないが周りの話から分かったことは彼は超一流のパイロットであることだ。だがそんな人物でさえ乗りこなせずに死に追いやった化け物だ。

自分は今からそんな化け物に乗り込むのか、と正直不安と恐怖でしかない。しかしここまで来たからには覚悟を決めて乗ろうと心に決めた。

 

「・・・・あれ?」

 

外見を見ると何か違和感に気づく。それば自分が「頼んだ物」が積んでおらず、何かが代わりに積まれていた。

 

「博士、僕は確かリチャネイドとオールストロイを搭載するよう頼んだはずですが?」

 

見てみるとそれは自分の望んでない兵装、核バズーカであった。するとニールセンは何故かニコッと笑い竜斗を見る。

 

「すまんな、リチャネイドは整備や他機との兼ね合いで今ないんじゃ。今回は代わりにこれを使ってくれ」

 

当然、彼は「えっ?」と声を上げた。

 

「まあいいじゃないか、リチャネイドがなくてもこの二つがあれば充分だぞい」

 

「ええ・・・しかし核なんてとんでもない物、ジョナサン大尉ならともかく素人の僕が使いこなせるわけないじゃないですか!」

 

瞬間、ニールセンは竜斗に鋭い目でグッと睨みつける。その先程の穏やかさとは一転した威圧感に怯んでしまう。

 

「竜斗君、君は恐らく核以上の代物、ゲッター線で動くゲッターロボに乗っていたのでないのか?それと比べたら核なんぞ比較にならんじゃろ」

 

「し、しかし・・・」

 

「それにステルヴァーとリリエンタールの動力は一応ハイブリッドだが核動力だぞ。今からそれに乗り込む君はそんなこと言っておられんだろう。今回だけとはいえ君もブラック・インパルス隊の一員なら覚悟を決めたまえっ」

 

「・・・・・・」

 

「大丈夫じゃ。核と言っても放射線とかそんな危ない物質の問題は既にクリアしておる。心配せんでバンバン撃てばええ!」

 

「・・・博士、最もらしいことをもしかしてリチャネイドの整備とか本当は嘘なんじゃあ・・・」

 

「おっと、さて時間だぞ。早く乗り込めっ」

 

納得のいかないままコックピットに乗り込む竜斗はすぐさまステルヴァーと同様の手順で操作し、起動させる。計器類が光りエンジンの音が格納庫内に響く。

 

(ここまでは大丈夫だ・・・落ち着け・・・落ち着いてやればいけるから――)

 

操作方法自体は覚えているとはいえ初の戦闘機での出撃、そして自分が今乗っているのは悪名高いリリエンタール。ゲッターロボに初めて乗った時以上に空気が重い。今回、ブラック・インパルス隊と同様のパイロットスーツとヘルメットを着込んでいるため普段と全然感覚が違う。正直、心臓はバクバクで極度の緊張感で身震いしていた。

そんな彼は一旦、眼を瞑り自身の心に落ち着くまで何度も語りかけた。

ふと横を見るとニールセンが親指を上にグッと立ててサインを送っているのが見える。彼もそれに応えるように親指を上に立てた。それを見たニールセンは笑顔で彼を見送っていた。

 

(博士・・・よし、俺も男だ。もう覚悟を決めよう!)

 

先程の緊張感は次第に消えていき、平常心を保つようになる。

整備士の指示に従い、車輪を動かしてゆっくりと旋回し格納庫から出る。キャノピー越しで見る外の景色はゲッターロボのコックピットからとはまた違った風景が見え見とれてしまいそうだ。そのまま滑走路に着き、発進スタンバイに入るリリエンタール。

その時、通信の受信し正面のモニターを入れると、自分と同じヘルメットを被る人物が映る。

 

『どうだ、リリエンタールの乗り心地は?』

 

マジックミラーのようになっていて目視では分からないが声からしてジェイドのようだ。

 

「やっぱりゲッターロボのコックピットと全然違うので少し戸惑ってます。けど、なんとかやってみます」

 

『分かった。操縦方法はステルヴァーの戦闘機形態と同じだから落ち着いてやれば君なら大丈夫だ。もし途中でやはり操縦が無理そうなら自動操縦に切り換えろ。その後で仲間が君を基地まで誘導するから心配するな』

 

「分かりました」

 

『よし、我々は先に出る。君も準備が整い次第離陸し、空で落ち合おう』

 

ジェイドからの通信が切れてすぐに計器類と尾翼、補助翼の動作確認などの最終チェックを行い発進準備が整った――。

 

(・・・やっぱり緊張するな。けどもう後戻りはできないしやるしかないっ)

 

地上の整備士から発進許可の手信号を受けて竜斗は親指を上げてコンタクトを取った。

 

(よし、行くぞ!)

 

ジェットエンジンのノズルが広がりバーナーのように吹き出しながら発進し、車輪を走らせてグングンスピードを上げながら滑走路を進む。その勢いに乗ってついに空へ飛翔していくリリエンタール。その光景を見届け「第一関門突破したか」と安心するニールセン達。

 

「後は竜斗君次第じゃぞ。死ぬなよ」

 

と、そう小声で漏らす彼であった。



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番外編⑤「中南米戦線~密林の悪魔~』⑤

高度一万メートル上空に達したリリエンタールは水平飛行に入る。いつもゲッターロボで見慣れている光景でも機体が変わったら視点も新鮮みがある。

 

(凄い・・・アルヴァインとはまた違った力を感じる・・・)

 

それよりも竜斗はリリエンタールのポテンシャルをこの身に感じていた。出力をまだ半分も出していないがそれでもかなり強力であった。ニールセンの言った通り、出力をフルパワーにしたら・・・リミッターを外したらどうなるのか・・・考えるだけで背筋が凍る。その時、再びジェイドからの通信を受信する。

 

『どうだ、初めての戦闘機による高空飛行は?』

 

「・・・正直言ってゲッターロボと違って色々と違うので違和感ばかりですね。けど凄くいい経験になると思います」

 

『その意気だ。ところで私達は君より先に進んでいる。

速度を落として君に合わせようか?』

 

「いえ、僕が少佐達に追い付いてみますよ」

 

『分かった。では待っているぞ』

 

竜斗は少しだけなら速度を上げても大丈夫だろうと少し出力を上げた――が、

 

「!!?」

 

突然、リリエンタールの加速度を増して速度が跳ね上がった。それによる負担がコックピット内の竜斗にズシンとのし掛かった。慌てて竜斗は出力をゆっくり落としていき事なきを得る。

 

(ちょ・・・ちょっと上げただけなのに・・・危ないところだった)

 

彼は今、激しく息を切らして身体中冷や汗にまみれている。これがオリヤを殺したリリエンタールの力か・・・と再認識させられた。

 

(けど・・・今のでちょっとは感覚は慣れたかも・・・)

 

身をもって知ることに正直、恐怖と不安しかない。しかし前向きになり、ここまで来た以上は無理矢理にでも機体についていけるようになるしかないと決めてあえてまた出力をゆっくり上げた。

 

(ぐうっ・・・・・!)

 

やはり少し出力を上げただけで一気に急加速しコックピット内はガタガタに揺れて生命の危機に反応してアラートまで鳴り出している。正直言って、加速度と直線的な飛行速度だけならアルヴァインすらも越えているだろう。この機体の力は彼の想定を軽く上回っていた。

 

(このままじっと耐えるんだ・・・ここから慣らしていかないと――)

 

段階を踏まえて今の速度を維持する。歯ぎしりを立てて踏ん張り続ける彼は次第に強張った表情と身体が緩んできている。それは着実に慣れてきている証拠だ。

 

(・・・よし、ここまでならもう大丈夫だ――!)

 

そしてついに今の速度に見事、彼はついてきている。まだまだこれは小さな一歩であるが本人からすれば偉大な一歩である。今回ばかりは自分を誉めてやろうと心にそう呟いた。

そんなことをしている間にすぐ目の前にブラック・インパルス隊の乗るステルヴァーの群れに追いついていた。

 

『来たぜ、今回のエースがよ』

 

隊列を組んで飛行する戦闘機形態のステルヴァー。ブラック・インパルス隊のメンバーも後ろから近づいてくるリリエンタールに注目していた。

 

「遅れてすいません。たった今到着しました」

 

『いいってことよ。それよりも本当にお前、リリエンタールを操縦してんだよなあ・・・』

 

誰もが信じられないような思いをしているが仕方ないことだろう。

 

『なんともないか?』

 

「はい。たださっき出力少し上げただけで加速度が跳ね上がって驚きましたが何とか」

 

『無理すんなよ。ここで死んでもらっちゃ困るんだからな』

 

心配の声を掛けられる中、ジョナサンはとあることに気づいた。

 

『なんだよ竜斗!お前核バズーカ持ってんじゃねえか!』

 

それに気づいた各メンバーも一斉に目の色を変えて注目。

 

『ついにお前も核を装備したくなったか!全く隅に置けないな!』

 

「違いますよ!本当はリチャネイドとオールストロイでいいと言ったのに博士がリチャネイドがないからって無理矢理持たされたんだですよ!」

 

『リチャネイド?今回持ってきたのってジョージとハリスぐらいじゃないか?』

 

『ああ。まだ余りがあったハズだが』

 

「それってつまり・・・」

 

大体は気づいていたがやはり嘘だったか。それにしても見えすぎた嘘を言ってまで核を持たせたいとはニールセンもクレイジーな男である。今頃彼は基地でコーヒーをゆったり味わいながらほくそ笑んでいることだろう。

 

「僕は絶対使いませんからねっ!」

 

『なら竜斗、後で俺に貸してくれよ』

 

と、ジョナサンが嬉々と申し出る。

 

『使うのはいいが時と状況を考えて使えよ。この前の戦闘でお前、着弾地点の距離計算を間違えたせいで味方機まで巻き込む寸前だったんだぞ』

 

『わあってるよ。ちゃんとお勉強してきたから安心しろってっ!』

 

『お前より竜斗の方が絶対扱いが上手いじゃねえの、ハハハ!』

 

「そ、そんな、僕にはとても扱い切れませんよ。喜んで大尉に譲りますよっ」

 

『間違ってもこんなとこで撃ち込むなよ。その瞬間、本当の意味で俺達は天に召されるからな』

 

『いいんじゃねえか、馬鹿は死ななきゃ治らんだろうからな!』

 

『おい、馬鹿は俺のことかよ!』

 

『つか俺ら全員馬鹿だろ!こんなクソみたいな話ばっかしてんだからよ!』

 

メンバーのほとんどが「ちげえねえや」と爆笑の嵐が巻き起こる。そんな様子を竜斗は「このノリについていけないや」と呆れていた。

 

『もうすぐで作戦領空圏内に入るぞ。全員、おしゃべりはそれまでにして作戦に集中しろ』

 

ジェイドのコブシの聞いた低い掛け声と共に先程までのおちゃらけ振りから一転して全員が真剣そのものになった。これだけで全員が気持ちを入れ替えるのは流石であるが掛け声だけで彼らを一気に統率させるジェイド。個性派揃いのブラック・インパルス隊のリーダー格を務めているのは伊達ではなかった。

 

『準備はいいか?』

 

「はい。すでにできてます」

 

『よろしい。君は操縦が慣れるまで私の僚機としてついてくれ、フォローする。各機も彼のフォローを頼むぞ』

 

『インパルス2から12了解!』

 

『よし。インパルス0、私の後方につけ。各機は左右に展開、いつでも戦闘できるようにしておけ』

 

リリエンタールは先頭のジェイド機の後ろに移動、他の機体は左右に広がり横隊となる。

 

『やはり敵さんが待ち構えていたか』

 

レーダーにはかなりの数の反応がアマゾン川上空に停滞しているのが分かる。それぞれ気を引き締めて先を見据える。どんどん近づいていくと反応のこちらへ動き始めている。

 

『全機作戦行動開始。攻撃態勢に移行しろ』

 

『了解!』

 

反応に向かうように降下していく。そして近づくは飛行型のメカザウルスとメカエイビス。見慣れた機体やデータにない新型機も含まれていた。

 

『行くぜ、ヴァリアブル・モード!』

 

戦闘機から人型に変形する各ステルヴァーはライフルを構えてメカザウルスに突撃していく。

 

『インパルス2、3、5、8、10、交戦』

 

激突する両勢。各機のそれぞれ持つ火器から放たれる弾とエネルギー、マグマがぶつかり合う。

 

『インパルス6、後方より敵が迫っているぞ。インパルス12、フォックス2――』

 

自身も戦闘を行いながら空中管制を務めるジェイドは集中力と頭をフル回転させている。普通に考えるととんでもない所業だが、それができるからこそ彼はブラック・インパルス隊のリーダー格たらしめている理由なのだ。

 

(俺もやらなきゃ!)

 

竜斗も見ているだけではとジェイドを掩護する形でメカザウルスの群れに飛び込んでいく。

リリエンタールの胴体底部に装備したプラズマキャノンを駆使し的確にメカザウルスを撃ち落としていく。

 

『やるな竜斗君』

 

機関砲で牽制攻撃しながらプラズマキャノンで撃ち抜いていくリリエンタール。メカザウルスの猛攻をジェイドからの指示とレーダーを駆使して予測しながら的確に回避していく竜斗も今、頭をフル回転させている。

 

(やっぱりゲッターロボと扱いが違うから難しいけど嫌でも慣れてやるぞ!)

 

ゲッターロボと違う操縦管制と感覚で戸惑いながらもすでにもう乗りこなしつつある。

 

『おい、竜斗のヤツ、もうあのジャジャ馬に慣れてきているぜ』

 

『流石はゲッターチームのリーダー、俺らも負けてられねえぜ』

 

各人、竜斗の奮闘ぶりに驚くと同時に勢いをさらに上げた。

しかし敵側も調子に乗らせまいとさらに攻撃が激化

。地上からの対空砲撃も始まった。

 

『地表からロックされているぞ。回避行動をとれ!』

 

ばら蒔かれて押し寄せてくる弾のカーテンにステルヴァーは再び戦闘機形態に変形しその高機動力を生かして華麗に回避していく。そして体勢を取り戻し、超高速で急降下しミサイルと爆雷による大規模な空爆を行い、地上の対空兵器を吹き飛ばす。

そしてリリエンタールも隙を見計らい、羽翼部に取り付けられたミサイルを一発発射した。地上へ急降下していきその途中で弾頭部が炸裂、内蔵された子爆弾が一斉に地上に降り注ぎ密林一帯を巨大な爆炎の渦に呑み込んだ。

 

(な、なんだこれ・・・)

 

そのあまりの威力に目を疑う竜斗。他のメンバーの地上

に巻き起こる火の海の光景に注目する。

 

『まさかあれ、ギリガンじゃねえか?』

 

『そのまさかだな。ヒュー!』

 

このミサイルは『ギリガン』というコードネームを持つ多用途広域炸裂ミサイルという兵器である。本来は敵拠点などの広域制圧に用いる兵器であり本来は戦艦や基地などに装備されるものだがニールセンが機体の高性能を追求し無理矢理リリエンタールに搭載したのだ。戦闘機の兵装にしてはあまりにも強すぎると流石に周りから反対する声が多かったが彼は全く耳を貸さなかった。そして核バズーカと違い、特にセーフティがかかっていない分ある意味タチの悪い兵器である。

 

(まだ地上に味方がいなかったから良かったけど・・・)

 

事前に説明を受けていた竜斗も直接、その効果を目の当たりにして思わず唾を呑み込んだ――。

 

『各機、地上より高エネルギー反応を確認。気をつけろ!』

 

インパルス7の機体へ向かって遠く離れた密林の一角かからライトのような赤く光り、高エネルギーの弾丸が突き抜けるように向かってくる。しかし咄嗟に機体を翻し直撃は免れたが、尾翼部を擦り煙が上がった。

 

『インパルス7、大丈夫か?』

 

『ああなんとか、だが弾が凄まじく速い!』

 

しかし間を入れず、さらにステルヴァーとリリエンタールに狙ってピンポイントで撃ち込んできているが流石は高性能機とそれに乗り込むパイロット達。マニューバを駆使して全て紙一重で避けている。

 

『あそこか、頼むぞジョージ』

 

『分かった!』

 

ジョージ機は人型に変形してすぐにリチャネイドを展開、長い砲身を振り下ろして発射源に照準を合わせる。砲から放たれたプラズマを帯びた弾丸が密林の一角に撃ち込まれ巨大な爆発が起きた。

 

『命中したか?』

 

『いや、まだ高エネルギーが確認、来るぞ!』

 

着弾地点から離れた場所から高エネルギーの弾丸が休む間もなく次々と飛んでくる。今度こそはと再びリチャネイドを構える。が、それを邪魔しようとメカザウルスの群れが押し寄せてくる。メカザウルスから放たれた一発のミサイルが不意にリチャネイドに着弾し破壊されてしまった。

 

『くっ!』

 

襲いかかるメカザウルス達。その時、

 

『ジョージ!』

 

そこにジョナサン機が駆けつけ両腕に内蔵した小型ミサイルを全てメカザウルスに撃ち込み撃墜させた。

 

『助かったぜ!』

 

『あとで酒おごれよ!』

 

ジョージ機はライフルを持ち構えて、ジョナサンと共にメカザウルスの掃討を開始。二人のコンビネーションは凄まじくあっという間に大量のメカザウルスはアマゾンへ落ちていった。



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