違約・女神転生 A-DDS(Another Digital Devil Story) (mimimimi)
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<プロローグ:再誕する世界~有り得ざる邂逅>

 だいぶ前にプレイしたTRPGのリプレイをベースに小説風に書き起こしたものですので、脚色もあり、実際のプレイとは異なります。

 ですが、だいたい、こんな雰囲気だった事は間違いないです。

 アノ頃は良かった……色んな意味でw


<プロローグ:再誕する世界>

 

 “東京受胎”

 

 世界有数の大都会、首都東京は……たった一組の男女。一人の男と、一人の女の手によって、新世界を孕まされた。

 

 母体となった旧世界を肉に、業深き人々の怨嗟、禍津日(マガツヒ)の奔流を血に変えて、軻遇突智(カグツチ)は育つ。

 

 煌天の輝きは、(コトワリ)を得て核となし、有精卵と成る。

 

 創世の卵を求め、望む世界を創りだすことを夢見た、愚者共の争いが始まる……はずだった。

 

 だが、それを良しとしない一介の……しかして、最強と成るはずだった(・・・・・・・)悪魔の手によって、腹は引裂れ。

 生まれいでるはずだった胎児は、胎児となる前に潰された。

 

 かくして世界は、ひとつの終わりを迎え―――

 

 ―――未来を拒否した悪魔によって、新たに(・・・)巻き戻された。

 

 

 “創世失敗(アンチ・ジェネシス)”から“再誕した世界(リスポーン)

 

 

 コレは、新しい世界の物語。

 

 未来ではなく過去。

 

 最強と成るはずだった悪魔の、混沌王と成るはずだった少年の、狂おしい望郷の念が引き起こした奇跡。

 

 “未来”は“過去”と成り。

 “過去”は“現在”と成った。

 

 明けの明星の導きで、悪魔に堕とされた少年は―――

 

 最強と成るはずだった力を捨て…最恐の敵で有り、最凶の友で有り、元凶たる星を道連れに、現世に帰還する。

 

 ―――西暦19**年

 

 母校を失い、母を殺され、救世主候補(エル・メシア)と祭り上げられた―――悪魔使いの少年。

 御影町異界化事件(セベクスキャンダル)の被害者であり、加害者ともなった―――ペルソナ使いの少女。

 帝都鎮守を担った防人(ライドウ)の名と力を継いでしまい、時代錯誤と言われながらも懸命に生きる―――退魔師の青年。

 世界の終わりと再生の儀に立ち会い、魔に堕とされ、友人知人を手にかけて、それでも抗い続けた―――創世の魔人となった少年。

 事件の被害者であれど、それでも首謀者である兄を救おうと、己の身の危険を考えず、形振り構わず突き進む―――軽子坂高校、帰還者の少女。

 文明が崩壊した大破壊後の世界、暴力が支配する世紀末的な世を嘆きながらも、魔道を修め、歪むこと無く正しく、逞しく生きる―――東京タワーの魔女。

 

 かくして“彼ら”は、世界が終わったその日に……終わるはずだった世界に、舞い降りるのだった……。

 

 

 ――――

 ――

 ―

 

 ************

 

 PC01:真1主人公

 PC02:異1ヒロイン

 PC03:雷堂ヒーロー

 PC04:真3ヒーロー

 PC05:真IFヒロイン

 PC06:旧2ヒロイン

 

 GM「……の予定だけど、キャラメイクはどんな感じ?」

 PC01「真1だけだと芸がないんで、真1とIFのヒーローを混ぜてみた」

 GM「カーン?」

 PD01「設定は近い。軽子坂高校事件の生還者の一人で、アームターミナルくれた先生の勧めでメシア教と少し関わりがある」

 GM「……って、ことは、PC5と関係あり?」

 PC01「チャーリー選んでるからソレは無い」

 GM「おkおk」

 PC05「こちらも下ぼ……優しそうな人を選んだから無関係」

 PC02「それでも、面識くらいあるんじゃないの? ぼっちの私と違って……」

 PC03「いや、こっちは裏組織の人間だから重要人物の一人として、一方的だけど知ってるかもな」

 GM「その辺は、PC側でテキトーに決めちゃっていいよ~」

 PC06「大破壊後出身で、時代が違うので、どうあがいても、知ってる&知られてる要素が無いんだけど?」

 PC04「それを言ったらこっちも、いわば夢オチ後なんで、裏も表も、世間的には一般人Aと変わらんがな」

 PC03「一般人じゃなくて、野良悪魔Aだろ? WD(ワンダリングデーモン)で出てくるタイプのww」

 PC02「混沌王(LV:01)がWDで出てくるの? ……シュールだね!」

 PC04「ちょ、出てたまるか!? オンリーワン! オレは、オンリーワンだから!!」

 GM「はいはい、横道それすぎ。それに、どの道、導入後は知り合いになるんだから、無理に関連付ける必要はないよ~」

 PC01「うん、無関係の方が、クロスオーバーとしては正しいから問題ない」

 PC06「あれ? そっちはタイムスリッパーじゃないの?」

 PC03「本人だと強すぎるし、弱体化イベントは好きじゃないんで、普通に子孫ってことにした」

 GM「おや? GUMP持ちなのに、COMP適性無し? また、捻ったね~」

 PC05「ドラゴンアームズで、幻操士(サポート職)竜翔機(サポート機)選んでおきながら、正面突撃(ガチバトル)する奴だし想定内じゃないかな?」

 PC03「一応アクセル(支援技)も持ってたよ。使ったこと無いけどw」

 PC04「意味ねえwww」

 GM「はいはい、他のゲームの話はソコまで! ……じゃ、次、導入始めるよ~」

 

 ************

 

 ―

 ――

 ――――

 

<有り得ざる邂逅>

 

 ~新宿衛生病院。

 

 時間帯のせいか、景気が悪いのか、患者もまばらな1Fのロビーに異質な風体の少年が姿を現した。

 

 足をわずかに引き摺り、顔色も悪く浅くない怪我を追った少年。

 

 だが刮目すべきは怪我ではなく、異質なその風貌。

 

 片目を覆う無骨なゴーグル。

 ソレとコードで繋がった、キーボードを貼り付けたような篭手。

 

 そう、篭手としか称せない、片腕に半分以上被さった最新の軍用パーソナルコンピュータ。

 

 “アームターミナル”を付けた少年が現れたのだ。

 

 だがしかし、異質な風体の少年を見取った患者や医療関係者は、さほど驚くこともなく、一瞥しただけで済ませると。

 淡々と受付を済ませ、ナースの問診を受けている少年に背を向け、各々は、雑談に、仕事に、TVの視聴へと日常へと戻っていった。

 

 少年の姿は異質であるが……ソレは“日常”ではの話である。

 

 ロビーに置かれたTVに映るは、角刈りの中年将校。

 語られるは憂国と非常事態を知らせる宣言。

 

 “東京戒厳令”

 

 日常は、非日常へと変貌し……ソレを“日常”と人々は思い始めている。

 

 ―――時は世紀末。

 

 不穏な世界情勢と、類初する凶悪犯罪。

 そして極めつけの戒厳令。

 

 人々はもはや、少年が変わった姿をしている程度では驚かない。

 

 ―――噂に上り、目撃者は語り、被害者は祈り、犠牲者は沈黙する。

 

 見え隠れする“悪魔”の影に怯える人々にとっては、変わったファッション、その程度の事にすぎないからだ。

 

 しかして、そんな傍観者らの目を引く男が現れた。

 

 病院の奥から歩み出て、ロビーを抜けてエレベーターの前に立つ。

 

 スーツ姿で、M時に切り込みの入った特徴的な髪型の中年男性。

 

 本来取り立てて目立つ要素は無いはずだが、鋭すぎる眼光か、怜悧な雰囲気か、何れにせよ只者ではないと、そう感じたモノの目を引いた。

 

 目を引かれたのは、雑多な聴衆(オーディエンス)だけではなく、少年もまたそうだ。

 

 雑多な観客は、一度は眼を惹かれたが、何かに気づいたように目を逸らし日常に逃避する。

 

 だが少年は、目を逸らさない。

 

 視線に気づいた男もまた、少年の方を振り向く。

 

 目線が合い、互いに怪訝な顔を浮かべ……静かに睨み合う。

 

 互いに相手を値踏みするような視線を無遠慮にぶつけ合い、何かを確認するように、どちらからとも無く声をかけようとした瞬間。

 

 「フツノ様~32番で、お待ちのフツノ・タカユキ様~4番の診察室へどうぞ~」

 

 受付を終えてロビーで待っていた少年の名が呼ばれる。

 

 同時に、チンっとエレベーターの到着を知らせる鐘が鳴った。

 

 互いに視線が逸れた後、男は僅かな逡巡を見せたが、用事を優先して少年に背を向けた。

 

 少年もまた、踏みだした一歩で傷が開き。僅かに顔を歪めると、男に背を向け、診察室に足を向け歩き出す。

 

 「……そんな馬鹿な!? ココに入院してるはずですよ!!」

 

 「いいえ、ですから入院患者名簿に、その人の名前はありません。

  ……ええ、はい。退院患者の記録にもありません。

  

  ―――失礼ですが、病院をお間違えになられたのではありませんか?」

  

 そして、ロビーの受付で、同じ年頃の少年が騒ぐ声を背に、彼は診察室の扉を開き中に入った。

 

 かくして現世に舞い降りた、救世主候補(エル・メシア)の少年は翼を休める。

 

 目の前に迫る、羽ばたく時を逃さぬために……。

 

 

 ――――

 ――

 ―

 

 ************

 

 PC01「どう考えても氷川じゃないか。恨みは無いが敵だろ? ……とりあえず、声をかけるよ」

 GM「先に診察を受けないと、HP回復しないけど良い?」

 PC01「そうくるか……診察を受けるわ」

 PC04「ほうほう、それじゃ次は、俺の番だな!」

 GM「ちょい待ち。先に魔女の導入……と言うか前振りをやっとかないと」

 PC04「にょろ~ん……」

 PC03「ザマァwww」

 PC06「お? 出番……じゃなくて、ハンドアウト説明って感じか……おkおk」

 

 ************




 
 メタ部分のネタが、微妙に古いのは仕様です。
 また、分かる人には分かる的なコアなネタを使ってるのも仕様です。

 TRPG用語や、オリジナルシステムに関しては、本筋に関わる重要な部分のみ、解説を入れる予定です。


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<東京タワーに住むモノ~病院に住むモノ>

<東京タワーに住むモノ>

 

 砂塵と雲に覆われ、久しく見せない陽の光を懐かしみ……かつては青かった灰色の空を、ボロボロの外套を羽織った女が見上げる。

 

 すると、奇怪な声で鳴く、奇妙なシルエットの鳥型の悪魔が遠くで暴れているのが見えた。

 

 女はため息を軽く付き、目線を下ろすと、視界に広がるは彩りの薄い荒れた大地。

 

 かつての繁栄の名残である瓦礫を眺め、荒廃した世界を思い、女は深々とため息を付いた……。

 

 沈んだ気分を盛り返すべく、囁くような言葉を世界にそっと告げ、女は軽快に指をパチっと鳴らす。

 

 女の周囲に波紋が広がる。

 

 大気に魔力が伝播され。あたかも音波探知機(ソナー)のように、女の脳裏に地図が浮かび上がる。

 

 無言で唱えられたのは[マッパー]

 

 周囲を策敵するための魔法。

 

 女の目に重なって映るは、脳内地図と現実の風景。

 

 大きく折れ曲がった、赤茶色のサビが浮いた大きな電波塔。

 

 かつての繁栄は見る影もない。東京タワー跡地がソコにはあった。

 

 ココは魔女の住処。

 

 東京タワーの魔女―――

 

 核の洗礼を浴びて文明が崩壊した世界で、かつての名残を大きく残す哀愁深き場所。

 

 ―――ココに住まう、女の呼び名である。

 

 「ん……やっぱいるわね。

  まったく、人がちょっと留守にしただけで、すぐに変なのが入り込むんだから……嫌になっちゃう」

  

 索敵に引掛かかったのは、一匹の悪魔。

 

 魑魅魍魎渦巻く大破壊後の世界で、逞しく生き、魔女と呼ばれるに至った彼女の感覚からしても、それなりの強敵。

 

 「まあいいわ……排除しましょう」

 

 住処の放棄と、戦闘のリスクを天秤にかけるも……女にとっての傾きは明らかで、殆ど迷うことは無かった。

 

 「……おかしいわ。どうして、異界化してるの?」

 

 東京タワー跡地、仮設住宅。

 慣れ親しんだ場所に足を踏み入れ、ようやく異変に気づく。

 

 景色が歪み、空間が歪む。

 

 戦いの場において、一時的に結界を貼るのは珍しいことではない。

 

 しかし、固有の結界と……“異界化”とでは話が異なる。

 

 性質が違うだけでなく、単純に規模が違う。

 

 “看た”感じでは、東京タワー跡地全域に及ぶいへんだが……拡張の気配が有る。

 

 コレは……放置するには危険すぎる。

 

 円環の理。世界の天秤が揺るがされる非常事態である。

 

 「排除を選んで正解ね……ただ、一筋縄では行かなそうだけど……」

 

 異界化した中、混沌とした不穏な空気に誘われ、悪魔が集う。

 

 「咲けよ雷華っ! 裂けよ雷帝っ! マハ・ジオンガッ!」

 

 集う悪魔も、集う雷雨に散らされ、道を開ける。

 

 ソコは、魔女の通り道。

 ココは、魔女の住処。

 

 訪れるものは、破滅あるのみ。

 

 「オルトロス……か、いい感じの大物ね」

 「ガルルルルゥ……オンナ。オンナ! ウマソウ! オレサマオマエマルカジリっ!」

 

 「さあて、貴方は悪魔、私は魔女。煮て食われるのは……どちらかしらね?」

 

 非現実的な体躯の魔獣“オルトロス”

 

 非現実的な魔術を操る“東京タワーの魔女”

 

 “非現実”が、“現実”と成ってしまった世界の片隅で、人知れず……その根底を揺るがす、異変は起きる。

 

 異界と共に広がる時空の穴。

 

 創世の余波が崩した越えられないはずの壁。

 

 かくして魔女と、魔獣は舞い降りた……。

 

 ソコは東京。

 

 大破壊を面前に控えた、文明の地。

 

 影より這い出した悪魔が、表と裏で跳梁跋扈する……魔都“東京”

 

 “時”と“世界”を越えて、彼らは出会う。

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 ************

 

 PC04「よし、じゃ病院前からだな? まずは受付に行って……」

 GM「あ、悪いが先に入院患者の導入が先だわ」

 PC02「あれ? 私が先?」

 GM「流れ的に、その方が良いっぽいんで」

 PC04「ちょww」

 PC03「ラスト確定のオレよりマシだろ」

 PC05「その分、美味しそうな役どころだけどね」

 

 ************

 

 ――

 ―――

 ――――

 

<病院に住むモノ>

 

 「あの最後の葉っぱが枯れて堕ちる時……私の命も……」

 

 「園村さん。アレは常緑樹ですよ」

 

 「……てへ」

 

 「ふふっ、さあ、体温計を出して……」

 

 飾り気の全くない、見慣れた白い壁。

 清潔なシーツで下半身を覆い、点滴を刺したまま。

 電動で起こしたベットから、首を傾けて窓の外を見る。

 

 不治の病に犯された、病弱な少女にとって、外の世界は憧れだった。

 

 しかし、少女の儚い夢は、一人の男の野望によって、悪夢と成って世界を襲った。

 

 “ノモラカタノママ”

 

 されど悪夢は、一人の少年と友人たち。そして、他ならぬ彼女自身の手で終わりを告げた。

 

 ―――世界は悪夢から覚めた。

 

 しかし、少女は悪夢のような現実からは、覚めようがなかった……。

 

 遠くに見える東京タワーは、空気が悪いのか、少女の体調が悪いのか、霞んで見える。

 軽く冗談を飛ばし、仲の良い看護婦と雑談しようとすると「ごめんね、今日はお偉いさんが来ていて、忙しいの」と断られた。

 

 それでも、少女は生きている。

 

 夢見たもうひとりの私。

 

 理想に殉じた、もうひとりの自分。

 

 貴方は私。

 私は貴方。

 

 窓際に飾られた花を見る。

 

 心に浮かぶには、ニット帽を被った友人の笑顔。

 

 そして……一緒にお見舞いに来た、無表情で、何を考えてるのかわからない。

 でも、優しくて、厳しくて、とてもとても強い人。

 

 そんな、大切な……私の……恩人。

 

 「……平熱ね。

  病状も安定しているし、このまま快方に向かえば退院も夢じゃないわ。

  

  ―――それじゃ、お大事に」

 

 「ありがとう! そう私なら……ウィンブルドン行けるわよね? ねっ!」

 「くすくす、旅行なら……ね」

 

 ろくに動かない体を動かし、健気に振る舞う少女。

 その心情を察し、明るく、敢えて軽く返す看護婦。

 

 ココにあるのは優しい世界。

 

 厳しい少女の現実に、彩りを与える美しくも……残酷な世界。

 

 軽く手を振り、看護婦を見送った少女は、手をおろし息を切らす。

 

 病気自体は快方に向かってるらしい。

 

 だが、失った体力は戻らない。

 

 退院出来たとしても、通院必須で、激しい運動など望めない。

 

 ウィンブルドン出場はおろか、ただの観光旅行すら出来るか怪しいのが少女の現実だった。

 

 しかし、少女の心に絶望はない。

 

 自分が愛されている事を……今は、知っている。

 

 自分を大切に思ってくれている人がいる事も、知っている。

 

 そして、自分が大切にしたいモノ。

 

 大切にしなくてはならないモノを、今の少女は知っている。

 

 だから、今の彼女の顔に絶望の目は無い。

 

 しかし、絶望の芽は、そんな少女の……すぐ側で、咲き乱れようとしていた。

 

 「ウォォオオオオオンッ!!」

 

 病院内に、ケモノの咆哮が響き渡る。

 

 「キャー!?」

 「うわああ!??」

 「ば、ばけもの!!??」

 「ど、どけ!! じゃまするなああ!! うわあ!?」

 

 俄に騒がしくなり、悲鳴と怒声で、病棟の廊下が埋め尽くされる。

 

 「………は汝………はわ…わ……………は心……よ」

 

 ふと、声が聞こえた。

 

 それは懐かしい声。

 

 「わらわは汝……汝はわらわ……わらわは心の海より出でしもの……海原に住まう者を守護せし者なり」

 

 “もうひとりの私(ペルソナ)

 

 心を脈打つ鼓動は力強く。

 技は切れ、全身の感覚が研ぎ澄まされ。

 体は活力が湧き上がり、気力は充実する。

 

 動かない身体が動く。

 

 ―――もう何も怖くない。

 

 かつて憧れた……理想の自分。

 

 届かない夢に、再び手が届いた。

 

 だが、少女の顔に浮かぶ表情は暗い。

 

 少女の夢の始まりは、悪夢の始まりでもあると相場は決まっているからだ。

 

 そしてそれは、間違いではなかった……。

 

 

 かくして少女は舞い降りる。

 

 かつて垣間見た、悪夢の世界。

 

 もうひとりの自分が代わりに戦い、勝ち取った世界を侵す宵闇の雌馬(ナイトメアー)

 

 今度こそ自分自身で戦わなくてはならない……悪夢が本当に成った世界で……。

 

 「戦わなくちゃ……現実とっ!!」

 

 ベットの脇。

 

 もうひとりの自分の忘れ形見の入った袋。

 

 アーチェリーを掴み取り、少女は、喧騒鳴り止まぬ廊下に飛び出したのだった……。

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 ************

 

 PC02「樹海に背を向けた、私の伝説はココから始まるのっ!」

 PC01「なんか性格違くね?」

 GM「セベクスキャンダル後だし、ペルソナ2前だし、別にいいよ」

 PC02「マッキーの不治の病は、中二病に改善されました! やったね!」

 GM「改……善?」

 PC04「死に至る病から回復してるから、改善は改善だな、一応」

 PC03「肉体の死から、精神の死に、変わっただけな気がする……」

 PC05「理想のマキちゃんはEDで消えた。それだけよ」

 

 ************

 




 
 東京タワーの魔女の本来の表記は“しょうじょ”ですが、ここでは敢えて“女”と表記しています。深読みするもしないも自由ですw


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<消えたモノ>

<消えたモノ>

 

 「だから!? 祐子先生。高尾祐子って女の人が入院してるはずなんです!!」

 

 「貴方もしつこいですねぇ……。

  何度確認しても、名簿には乗ってないと言っているでしょう?」

 

 普段は静かな……戒厳令発令後は、特に静かな病院のロビーに、言い争う声が響く。

 

 困り顔の看護婦に食って掛かってるのは、ジャケットを着込んだ一人のたくましい少年。

 

 線は細いが、鍛えぬかれた肉体が、素肌に纏ったジャケットの隙間から見え隠れしている。

 

 これで鎖のチョーカーを巻いていたら、どこぞの不良のようだが……少年は、普通の少年だった。

 

 何もしてなければ無害でおとなしそうな顔立ちの少年だが、眼差しは鋭く、言葉こそ丁寧だが、口調は荒々しい。

 

 「なら、新田勇は? ソレと、橘千晶って子も見舞いに来てるはずなんですが? どうですか!」

 

 「ええ……と、はい。新田くんは来てますね。

  ―――橘千晶さんのお見舞いに、来院されています」

  

 「はい?」

 

 「橘さんは先日、事故に合われ救急車で搬送されてきた後、そのまま入院しています

  ―――新田くんも、今、面会中で、一緒にいるはずですよ」

  

 「……どうなってるんだ??」

 

 裸ジャケットの少年は考える。

 

 ―――世界は巻き戻った。

 

 悲劇は、無かったことに成った。

 

 ―――オレ(・・)がそうした。

 

 イサムも死なない。

 チアキも死なない。

 

 センセイは消えない。

 ヒジリも狂ったりしない。

 

 ―――世界は元通り。

 

 かつて世界が終わった、今日のこの日。

 

 今度こそ、祐子先生を止めることができれば……世界は救われる。

 

 みんなといっしょに、退屈だけど平和な日常に戻ることが出来る……はずだった。

 

 ―――なのに、居るはずの先生が居ない。

 

 入院してるはずのない千晶が入院している。

 

 世界に“差異”が有る?

 

 理を持たぬ悪魔。

 

 理を持たなかった少年。

 

 持とうとしなかった(・・・・・・・・・)、元少年。

 

 絶望を糧に、一人の修羅と成った。

 

 混沌世界を蹂躙し、混沌王と呼ばれるはずだった少年……。

 

 全てを投げ捨て、ただひたすらに帰還を願った結果がコレなのか?

 

 ―――いや、違う。

 

 まだだ、まだ世界は終わってないッ!

 

 絶望するには早い……少年は切に願い苦悩する。

 

 「ねぇ、とりあえずさぁ~トモダチにあってみたら?」

 

 悩む少年の背を押すは、ポケットの中の小さな仲間。

 

 絶望的な世界から付いてきた、大切な……“仲魔”

 

 ジャケットの内ポケットから、ひょっこり覗く、愛らしい容姿の小妖精(ピクシー)は疾く応える。

 

 その、囁くような助言を受け入れた少年は気を取り直す。

 

 落ち着いた少年は、とりあえず、友との再開を喜ぼう……そう思い。困り顔の看護婦に、病室の場所を訪ねる。

 

 しかし、看護婦の応えは返ってこず。

 

 応える声はかき消され、返って来たのは、ケモノの遠吠えだけだった。

  

 「ウォォオオオオオンッ!!」

 

 「ひっ!?」

 

 「うっわ……やばそ~な声~」

 

 「ちょっとまてよ!? なんでこの世界で、平和な世界で、こんな咆哮が聞こえるんだ!!?」

 

 「……ワタシみたいに~アッチから付いてきたのがいるんじゃないの?」

 

 「……()のせいか」

 

 「さあ~? でもなんか、ほっとくとヤバそうだよね~」

 

 “禍魂(マガタマ)

 

 それは力の象徴であり、少年の身が人外と成った証。

 

 平和な世界には不要と……彼、自ら封じた禍々しくも、頼れる力。

 

 「エネミーソナーが急に反応したと思ったら……うまく人に化けたモノだ。それと、ソコにもう一体いるな?」

 

 己が犯したかもしれない(・・・・・・)過ちに困惑する、裸ジャケットの少年に声をかけたのは、治療を受けていた。異質な風体の少年だった。

 

 「何よアンタ? デビルバスター? いいよ~相手に成っちゃうよ~! しゅしゅ!」

 

 姿消しを看破されるも、動じること無く。無駄に勇ましく、ボクササイズ的な素振りをするピクシーを遮り、裸ジャケットの少年は答える。

 

 「待って“メイア”。僕は“人”と争うつもりはないよ。

  ―――あんな思いは、二度としたくない」

 

 「仲魔を連れた悪魔か……奇妙な組み合わせだな……。

  で、さっきのケモノっぽい咆哮と、この騒ぎはお前のせいか?」

  

 「……分からない。

  心当たりはなくもないけど、こんな騒ぎを僕は望まない!」

  

 「いまいち要領を得ないが……いいさ、敵意がないなら見逃しておく。

  ―――この騒ぎを収めるのが先だ」

 

 記憶と世界の違いに、疑心暗鬼に囚われ戸惑う裸ジャケットの少年。

 

 かつて人修羅と呼ばれし“悪魔”に背を向け、異様な風体の少年……救世主候補(エル・メシア)と呼ばれている少年は、騒がしい方に歩き出す。

 

 「待って、僕も行く!」

 

 「……邪魔をしないなら、好きにすればいい」

 

 「むー無愛そ~。ねーねー、名前ぐらい名乗ってよ~。

  ―――あ、そうだ、アタシはメイア~! よろしくぅ~!」

 

 「……フツノだ」

 「僕はオキウラ・リョウゴ。オキウラでも、リョウゴでも好きな方で呼んでいいよ」

 

 かくして、出会うはずのない二人の邂逅は成った。

 

 しかし、出会うはずのないモノ同士の邂逅は、まだまだ続く……。

 

 ―――綻びは広がる。

 

 エントロピーが縮小されることなど有り得ない。

 

 ましてや……生まれたばかりの世界に、安定など望めない。

 

 “再誕した世界(リスポーン)

 

 この世界の物語は、始まったばかりなのだから……。

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 ************

 

 PC04「よっしゃ出番キタ……と思ったらあっさり終わった!?」

 PC01「無事合流出来たから良いんじゃね?」

 PC02「むしろ、ピクシー(NPC/PC05演)とPC01が目立ってたような……」

 GM「次は帰還者とライドウの番かな?」

 PC05「私は氷川に呼ばれたんだっけ?」

 GM「そうそう」

 PC03「オレは、その氷川を仕留めに来たんだったよな?」

 GM「そうそう。あっ、それと、その後すぐにPC06の出番だから……聞いてる?」

 PC06「……ほえ?(マンガ読んでた) あ……あ……おkおk、大丈夫。時をかける少女の予習はバッチリさ!」

 GM「間違っちゃないが、違うから」

 

 ************



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<消えなかったモノ>

<消えなかったモノ>

 

 「“教団”の“丙さん”から、貴方なら兄の……“狭間偉出夫”の居場所を知っていると聞きました。疾く答えてくださる事を願います」

 

 「魔神皇を名乗った少年の事なら、噂程度には聞いているよ。

  ―――しかし、生憎と彼の居る魔界との道は絶たれて久しい。

  

  “今”どうなってるかは分かりかねるのが……正直な答えだ」

  

 「……チッ(ボソッ

  そうですか、お答え下さり感謝します。

  

  ―――では、失礼致しますね」

  

 「まあ待ち給え、せっかちなお嬢さんだ。

  貴方の用件は終わったかもしれないが……私の要件は、まだ満たしてないのだよ」

  

 「M字パ……中年男性との語らいに、興味はありませんが?」

 

 「……」

 「……」

 

 新宿衛生病院。

 

 ここはソノ中にある、人気の少ない病棟の一角。

 

 数ある病室……妙に空き部屋の多い病棟の、その一室でひっそりと対峙する、一組の男女が居た。

 

 スーツを着た特徴的な髪型の中年男性は、氷川。

 **グループの**で、外国勢力に押され結束を強める振興組織“ガイア教団”の幹部。

 

 それに対するは、対極的な存在。

 

 縞模様が特徴的な、今は無き、軽子坂高校の制服を、喪服代わりに着続けるメガネの少女。

 

 忽然と校舎ごと消滅。一部の生徒は帰還したものの、大半は未だに行方不明のまま、とされている痛ましい事件。

 

 軽子坂高校消失事件の……被害者であり。

 

 世間一般には知られていないが、加害者である狭間偉出夫の実妹でもある。

 

 事件当時、母校を襲った悲劇に、彼女は果敢にも立ち向かった。

 

 たまたま目に付いた男子生徒を煽り、肉壁(パートナー)として事件解決を目指した。

 

 しかし、事件は、少女と男子生徒が確信に迫る前に終結する。

 

 何が起きたのか、少女にも分からない。

 

 ただ、母校は異界に消えたままで、少女を含めた。一部の生徒だけが現世に帰還を遂げた事だけは確かだ。

 

 狭間偉出夫。

 

 生き別れの兄

 

 可哀想な兄。

 

 少女は、兄との再開を願い、情報を集めた。

 

 世に蔓延する与太話とうわさ話から、か細い糸を辿り……ガイア教団に辿り着いたのは、運命か……少女の執念が実った結果だろう。

 

 そして今は、少女は真なる“実”をもぎ取り、兄を迎えに行くつもりであった。

 

 しかし、事態は彼女の想定外の方向に進み始めた。

 

 いつから少女の道が狂ったのか?

 

 それは恐らく……創世が遠因となり、異界より弾き出された事から始まったのであろう。

 

 だが、それを少女が知るのは、遥か先の話である。

 

 今語られるのは、現在進行形の物語。

 

 新たに綴られる、新たな物語。

 

 「件の事件だが……恐らく“アモン”と言う悪魔が関わっているはずだ」

 

 「……その話、詳しくお聞かせ願います」

 

 「しかしだ、お嬢さん。

  世の中、ギブアンドテイクで成り立っているのは、ご存知か?」

  

 「……体も心も売りませんよ。

  下着くらいなら考えますけど……友達のなら(ボソッ」

 

 「いやいや、私が望むのは……能力だよ

  ―――君の持つ、守護者(ガーディアン)と呼ばれるモノを宿す。

  

  軽子坂高校帰還者が示す……“巫女”としての力が欲しいのだ」

 

 手がかりを掴んだ高揚を押し隠し、凛と立つメガネの少女。

 

 対面に立つ氷川が、大仰に手を広げ、答え、囁き、促すのは……創世への誘い。

 

 「私は今の騒がしい世が嫌いでね。

  心地よい静寂(シジマ)に包まれた、規則正しい世界を望んでいる。

  

  そのためには、巫女が必要なのだ。

  

  ―――“創世の巫女”

  

  この爛れた世界を、正しく産み直す。

  

  どうだろう? 理想の世界に、興味はないかね?」

  

 眉をひそめ、嫌悪感を隠そうともしない少女。

 

 「イブに成る気はありませんけど……ソレが、情報の対価ですか?」

 

 「私もアダムに成る気はない。そして、君に求めるのはイブでもマリアでもない。

 

  ―――ただの依代だよ」

  

 少女の態度を咎めることもなく、己が要望を淡々と述べるスーツの男性。

  

 「……生贄に成れと?」

 

 「そうならないための“巫女としての素質”だよ。

  君なら、器を壊されることもなく、犠牲と成ることもないだろう。

  

  多少のリスクは否めないが……絶対に安全なものなど有りはしない。ソコは割りきって、納得してほしいものだが、どうかね?」

 

 対峙する二人の間に緊張が走る。

 

 コレは、運命の分岐点。

 

 選ぶ未来、掴む未来……掴まされる未来は良いものか?

 

 少女は考える。

 

 考えて、考えて、答えを返す。

 

 「残念ですが、お断りします。

  兄に会うためのリスクなら、幾らでも専受?しますが……その前段階では、お話になりません」

 

 次元の扉を“超えるため”のリスクは受け入れても、次元の扉を“見つけるため”にリスクは犯せない。そういう事である。

 

 「そうか……こちらも実に残念だ。

  ああ、身構える必要はないよ、お嬢さん。

  

  ―――力ずくなど意味は無い。

  

  巫女は、自分の意志で、創世を受け入れなくては成らない」

  

 そう言って、氷川は身構えた少女に言葉を続ける。

 

 「だから、語り合おう。

  君にも、創世の素晴らしさが理解できるように……。

  

  無知であろうと、賢明であろうと、愚鈍であろうと……君が理解し、納得してくれるまで……延々と、永遠と、私と語り合おうじゃないか」

  

 怪しく怜悧に笑う氷川。

 その影に潜み、事態を見て取り、せせら笑う悪魔は思う。実に狂っている……と。

 

 「……今日は帰ります。

  そして、二度と会うことはないでしょう……捜さないでください」

 

 「誰かに送らせようか? ソレと、次の会談は何時が宜しいかな? お嬢さん」

 

 「次なんてねえよ」

 「誰だ……ガッ!?」

 

 ターン! っと、硬質的な銃声が響く。

 

 放たれたのは、クズノハ謹製の火炎弾。

 

 アグニシャインの力を、9mmの鉛弾に詰め込んだ、対悪魔用の特殊弾。

 

 打ち込まれた凶弾は、襲撃者の狙い違わず、氷川の広い眉間に吸い込まれ、紅い華を咲かせ、壁に鮮やかな彩りを与えた。

 

 「創世を企み、世界を壊そうとした異端者(クズ)が……お前は、ココで終わりだ」

 

 影から歩み出て、少女と倒れた氷川との間に立つは、時代錯誤染みた装束の青年。

 

 学帽に学生服。

 消炎の煙を漂わせるリボルバーと、腰のバッテリーとコードで繋がれた銃型のモノ、二丁拳銃を両手に構えた。

 

 それらの全てを覆い隠す、黒塗りのマントを翻す、端正な顔立ちの、今は遠き大正時代の書生を思わせる風貌の青年。

 

 

 退魔集団“クズノハ”所属―――

 

 コードネーム:夜雀07

 

 ―――通称:ライドウ07(オーセブン)

 

 

 かくして、闇に生き、闇に死す定めを持って生まれた、現代に生きる青年退魔師と、闇に墜ちた兄を追って、自ら影へと踏み入った愚かな少女は出会いを遂げた。

 

 望まぬ邂逅、有り得ぬ邂逅。

 

 ―――されど時は戻らず。

 

 そう、時は決して戻らない。

 

 “再誕した世界”で、こうして二人は出会った。

 

 血糊と脳漿撒き散らされ、ケモノが咆哮を上げ。悲鳴と怒号が交錯し、暴力的な喧騒に包まれる病院の片隅で、運命の歯車は……確かに、軋みを上げたのだった。

 

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 ************

 

 PC03「美味しいは美味しいが……出番短くないか?」

 PC04「ザマァwww」

 GM「思ったより長引いたんで、イベント省略したわ。順番も微妙に変わったし」

 PC03「導入ラストじゃないし、玲子と氷川の語り長すぎ」

 GM「重要なんで省けないからしょうがない」

 PC01「玲子も性格違くね? ここまで酷かったか?」

 GM「途中帰還だし、色々あっただろうし、中の人がPC05だし、しょうがない」

 PC05「……私の中の玲子像は、こんな感じですが何か?」

 GM「お、おう」

 PC03「で、氷川死んだの?」

 GM「それはセッション中に、行動で確かめてくれ」

 PC06「……えと、GM~このキャラの出番だっけ?」

 GM「ああ、PC02とPC06は強制。PC01とPC04も登場は可能だね」

 PC03「ハブられた!?」

 PC05「場所が違うっぽいからしょうがない」

 GM「(省略したんで、地下に移動してないから、場所的には遠くないけど……中庭挟んだ向かい側だし、ま、いいか)」

 GM「んじゃ、サクッと、正真正銘、導入ラスト終わらせようか」

 PC06「あ、GM。ちょっとトイレ」

 GM「ちょww ……んじゃ、戻ってくるまで軽く、PC03とPC05の会話でもやっとくかね……」

 

 ************



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<闇に生きるモノ~闇に向かうモノ>

<闇に生きるモノ>

 

 「女、誘いを断って正解だったな。

  巫女を引き受けていたら、アンタを先に撃っていたぜ」

  

 「……!?」

 

 「創世の企みを潰すには、要の巫女を排除する方が確実なんでね……。

  まあ、順番が前後しただけだがな」

  

 「も、目撃者は消す……って訳ですか?」

 

 青年の軽い口調に反し、感情を乗せない冷徹な目線が少女を射抜く。

 

 しかし、少女は恐怖に臆しながらも、胡乱げな目線を返してみせた。

 

 「ふうん、裏に足を突っ込んだ以上、覚悟有りって感じか?」

 

 そう言って、青年は何気ない仕草で、まっすぐに目線と、銃を……銃口の無い。コードが繋がれた銃型の何かを少女に向け。

 

 ―――無造作に引き金を引いた。

 

 カシャン

 

 軽い音が響き、銃型の何か……GUNPと呼ばれる携帯端末のモニターが開かれる。

 

 「女、目を逸らさない度胸は認めてやるよ」

 

 「……銃口の無い、モデルガンに怯える趣味はありません」

 

 「観察眼は有り……だが、思慮は足りんな」

 

 リボルバーを持ったまま、器用に指を走らせGUNPのソフトウェアを起動する。

 

 悪魔召喚プログラムの技術が応用され、汎用の“機構”として組み込まれた機能が動き始める。

 

 鈍い光を放ち、まるで柔らかい粘土のようにGUNPの表面が波打、銃把の真上。銃身を束に見立てるように硬質の刃が伸びる。

 

 クズノハ謹製、COMP試作型“GUNP'Sword”

 

 COMP適性……悪魔召喚プログラムが組み込まれた、次世代の退魔師用兵器。

 

 生憎と青年にCOMP適性はなく、悪魔召喚プログラムは使えない。

 だが、ソレ以外の機能は使えるし……何よりも、生来より備わった才覚が青年にはあった。

 

 ライドウの名に相応しい、召喚士としての才である。

 

 「剣……いえ、刀ですか?」

 

 「赤口葛葉。嘘か真か、伝説の十七代目が使ってたってシロモノだ」

 

 魔を封じる器。封魔ノ管が、COMPに代わろうと、才は生きている。

 

 「なんの伝説か知りませんが……武器を抜いて、コレからどうするんですか?」

 

 「GPの変化がオカシイ。数値が異常だ……。

  何かが、起ころうとしてる……むっ? 30を超えただとッ!?」

  

 「ウォォオオオオオンッ!!」

  

 「チッ……計器の故障だと良いんだが……」

 

 「今の化け物じみた咆哮と、関係あるのですか?」

 

 「それを確かめに行くんだよ……って、おい、着いてくる気か?」

 

 「か弱い女の子を、こんな場所に放置するのですか?」

 

 「か弱い女の子は、服の裏に銃を隠し持ったりしてねえよ……急急如律令! 来いウコバク!!」

 

 青年の口から呪が紡がれ、稀有な才は遺憾なく発揮される。

 

 真名の呼びかけに応えたのは、痩躯な子供……と言うより、子鬼と称するべき姿の悪魔であった。

 

 「男は度胸ぉぉ!! 悪魔は酔狂ぉぉっ!!!」

 

 ―――堕天使“ウコバク”

 

 地獄炉の管理の一端を任された蝿の王(ベルゼブブ)の配下で、肩に担いだ大きいなスプーンが特徴。

 

 余談だが、ウコバクが持つスプーンは、首狩りスプーンであり、使いこなせば破格の威力がある。

 ただし、等の本人であるウコバクは、悪魔であるゆえに「道具」の扱いが下手で、使いこなせてはいない。

 斯様に悪魔は、得手して、使えもしない品を、後生大事に抱え込んでいる事が多いのであった。

 

 ちなみに首狩りスプーンが呪われてるのは、下手の横好きでも、愛用の品を奪われたウコバクの怨念が詰まっているからだと言われている。

 

 

 「噂に聞いた悪魔使い……ですか、スゴイですね」

 

 「それほどでもない……って、少し違う。使い(テイマー)じゃなく、召喚士(サモナー)だ」

 

 「???」

 

 「まあ、素人にゃ難しいか……丙のおっさんが味方してるなら、クズノハ(オレ)の敵って事はないな?」

 

 「貴方が何処の誰で、何様かなど存じませんが、安全地帯まで、エスコートしてくださるなら歓迎します」

 

 「……食えねえ女だ」

 

 「下ネタは嫌いです」

 

 「そういう意味じゃねえよ!?」

 

 「……」

 「……」

 

 「いくか」

 「はい」

 

 二人は立ち去り、舞台は変わる、場面も変わる。

 

 ―――倒れた男の生死も替わる。

 

 かくして、所変わり、同時刻。

 

 二人のいる場所からさほど離れて居ないロビー側の廊下を、一匹のケモノと、一人の女が疾走していた。

 

 追われるはケモノ。追うは女。

 

 魔獣と魔女。

 

 立場が確定した追いかけっこは、今、時と世界を超えて、終盤を迎えようとしていた……。

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 ************

 

 PC05「で、私が誘いを受けてたら、本当に撃ったの?」

 PC03「むろん」

 PC01「ひでぇww」

 GM「まあそうなっても、イベントシーンだから、判定なしで無効化されるけどね」

 PC03「やっぱ外れるのか?」

 GM「いや、氷川の影に隠れてたバフォメットが防ぐ」

 PC04「え? じゃ、氷川も生きてるのか?」

 GM「んにゃ、バフォメット的には、氷川の命<巫女の命なんで、それは無い」

 PC02「……M字禿可哀想」

 GM「それ、別の意味に聞こえないか?」

 PC03「で、それじゃ氷川は死んだの?」

 GM「セッション中に描写するの忘れてたけど、見た目は完全に死んでたよ、脳漿ぶちまけてたしw」

 PC01「……バフォメット居るし、終わったとは思えない」

 GM「ふふん」

 PC06「おっすおっす、いま、どんな感じよ?」

 GM「やっと戻ってきたか、そいじゃ予定通りサクサクっと終わらせるぞ……導入をw」

 PC02「色んな意味で遅い……」

 

 ************

 

 ――

 ―――

 ――――

 

<闇に向かうモノ>

 

 「スクカジャスクカジャマカカジャ……っと、逃さないわ!」

 

 「グルルルル・・・オレサマ、ヨバレタ。ツヨク、ツヨクヨバレタ。ジャマスルナ!」

 

 「いきなり逃げた言い訳……じゃなさそうね。

  でもまあ、ソッチの都合なんてアタシには関係ないわ……。

  

  ―――テトラグラマトン

  

 「グルル……オレサマタリナイ。チカラ、タリナイ……アバレ、タリナイ……」

  

 「く……抵抗しても無駄よ!

  

  ―――地を這うケモノよ! 恐怖公“***”の名代に服し、私に従え! 魔獣オルトロスっ!!」

 

 近代的な設備の整った新宿衛生病院。

  

 乱入したケモノの凶行に、恐慌をきたし怯え戸惑う人々を後目に、女は“術”を行使する。

  

 ―――ただ殺すだけでは“利”は少ない。

 

 魔女にとって“利”も“理”も等価であり、そもそも、転んでただ立ち上がるだけの女なら、魔女など呼ばれはしない。

 

 手間取らされたのなら……相応の対価は戴かないと割に合わない……そう、魔女は考え、退魔ではなく、封魔の“術”を選び行使した。

 

 魔女の口から紡がれる呪は、言霊に宣って宙を舞い。哀れな魔獣をの真を囚え、囲い込む。

 

 魔獣の四肢を足元から貫くように、五芒星系の光が光条を放つ。

 

 放たれた光は魔法陣を形成し、中に包んだ獲物を飲み込み……唐突に消失する。

 

 光もケモノも居なくなり、にわかに静寂に包まれた病棟の廊下に魔女の足音が響く。

 

 光と消えた場所に歩み寄り、魔女は、唯一残された何かを拾い上げる。

 

 それは、一枚の羊皮紙。

 

 悪魔との契約を交わした誓約書。

 

 甲は魔女

 乙は魔獣

 

 同意を経ずに、強引に結んだ契約の代償は大きい。

 魔女の魔女としてのチカラは大きく損なわれてしまった。

 

 しかして魔女は動じない。

 

 弱体化は痛い。

 だが、こうして強大な魔獣を手に入れた代償なら悪くない。

 

 それに、失ったチカラを取り戻すのに、さほど時間はかからないだろう……そう、魔女は前向きに考える。

 

 楽観的ではあるが……うだうだと悩み、無駄に足を止めれば食われるだけ。

 

 弱肉強食が是となった、荒れた世界を生き抜いた魔女の決断は速い。

 

 しかして、魔女は思う。

 

 ココは何処だろう? ……っと、こんなに清潔で、綺麗な建物なんて、東京に残っていただろうか?

 

 周囲に戸惑う人々も変だ。

 

 どうみても争い事に向きそうになく、武装してるようにも、何かしら術を使えるようにも思えない。

 

 疑問に思った魔女は辺りを見渡し、窓と、その向こうに、見慣れた尖塔がそびえ立つっているのに気づいた。

 

 「タワーの位置からして、結構離れてるけど……まさかココが、噂に聞いたカテドラル?」

 

 メシア教団が計画し、入信のお題目に掲げる楽園の噂。

 

 「いいえ、それにしては聖域っぽくないわ。

  ―――それにタワーもちょっと変な気がするわ…………って、ええっ!?」

  

 窓に近づき、外を観た魔女は気づく。

 

 錆びることもなく、くの字に曲がることもなく、天にまっすぐそびえ立つ、見慣れているはずの、そして、初めて見る東京タワーの凛々しい姿に。

 

 なにより、どんよりとした病院内とは対極的に、澄み渡る……と言えば、都民は苦笑するだろう。

 

 だが、排ガスで霞んだ状況より、さらに酷い。

 死の灰と瘴気に汚染された空しか知らない魔女にとって、目の前に広がる空は、澄み渡る青空と言っても過言ではなかった。

 

 「……まさか、ココは……大破壊前の……東京?」

 

 道路を行き交う見慣れぬ物体……乗用車。

 崩れること無くそびえ立ち、人々を吐いては飲み込む、天に挑むが如き、高層ビルの群。

 

 かくして、魔女は舞い降りた。

 

 廃都となる前。

 しかし、魔都と呼ばれるようになってしまった東京に……。

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 ************

 

 PC06「コレ(オルトロスの悪魔カード)、もらって良いの?」

 GM「いいよ。ほぼイベント用の使い捨てだけどね」

 PC01「使う場所は固定?」

 GM「いいや、PCの好きなタイミングで使っていいよ。保険的な意味もあるし」

 PC04「うっかり勝てない敵とバトった時とか?」

 GM「そんな感じ」

 PC03「よし、バフォメット、ボコろう!」

 GM「現時点で倒したければ、そうするしかないけど……いいのか?」

 PC06「だが断る! エリクサーとE缶は、最後までとっておくのがお約束なのですよ」

 PC05「私は、惜しみなく使って、肝心なときに困るタイプだけどね」

 PC03「そんときゃレベルを上げて、物理で殴れば問題ない」

 GM「元ネタとコレじゃシステム違うけど、大きく間違ってはないなw」

 PC01「……で、これで導入終わり?」

 GM「そうそう、時間押してるし、さっさと舞台裏(リサーチフェイズ)終わらせ、速やかに合流しようか」

 PC02「ん……? それじゃマイPCの合流も、オルトロス封印現場を目撃したとこから?」

 GM「そんな感じだけど……ちょうどいい。リサーチ結果を踏まえ、PC02視点から始めようか」

 PC02「了解~仲の良い看護婦さんの安否も気になるし……ちょうどいいね」

 

 ************



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<踊る少女と躍る少女>

<踊る少女と躍る少女>

 

 「……」

 

 少女は息を呑み込み、目を伏せ短く黙祷を捧げる。

 

 脳裏に横切るのは、数分前の自分と彼女の姿。

 

 足元に横たわる無残な姿と成り果てた看護婦と、過去の自分が重なる。

 

 ……否。

 

 “ワタシ”は生きている。

 

 死んだような目をしていたけど……それでも生きていた。

 

 生きていたからこそ……こうして、倒れる彼女の姿が……いくら過去の自分と重なろうと、今も“わたし”は生きている。

 

 「“私”は“園村麻希”……私は! エルミン学園のアイドル王に成る女よっ!」

 

 「「「………んが?」」」

 

 短い黙祷を経て……少女が紡いだ言葉は懺悔や失意ではなく、宣告。

 

 何処かで誰かが、ガタンとバランスを崩した幻聴が響いても、少女は意に介さない。

 

 なぜならコレは、過去の鬱屈や未来への葛藤を断ち切り、バラ色の未来を目指す為の決意表明。

 

 過去は過去

 現在は現在

 

 目指す“未来”は“今”作られる……。

 

 ならば、正しい意味で“覚醒”した少女が選ぶべきは過去ではなく……未来。

 

 故に、少女の“言葉”は、悪意を持って撒かれた“種”を刈り取る……“言の刃”と成る。

 

 少女は不敵に笑い、弓を構え……流れるような動作で矢を放つ。

 

 放たれた矢は、少女の奇行を我関せずと、虚ろな目で見ていた元患者(ゾンビ)の眉間を撃ち抜いた。

 

 「早く、あの咆哮(ハウル)を上げた魔獣? 妖獣? を倒さないと……邪魔っ!」

 

 倒れるゾンビに押され開いた、悍ましい肉壁の隙間をスルリと抜けて病み上がりの少女は走る。

 

 数分前の儚げな姿など、夢幻の如く……駆け抜けた魔獣の痕跡を追って、院内を疾駆する姿は元気そのもの。

 

 

 

 そして、現場に駆けつけた少女が観たのは……五芒星の光りに飲まれ、消えた魔獣の姿だった。

 

 「……あれ? 私の出番は? ……あれれ?」

 

 「……壊前の……東京?」

 

 未曾有の危機に、“力”に覚醒した少女と、倒すべき敵役。

 英雄譚の出だしに相応しいと、テンションが上がっていた少女は弓を構えたまま……困惑する。

 

 本音とも道化を演じてるとも取れる少女の言は宙に消え。

 正真正銘、困惑する女の戸惑う声だけが響く。

 

 「次元断。時空の穴。空間の揺らぎ。パラドックスに多次元世界論……理論は知っている……でも……。

  それに、オルトロスは呼ばれたと言っていたけど……誰に? 神霊? 魔王?

  

  いいえ、“悪魔”だろうと、強固な概念である“時”に干渉するなんて無理なはず……。

  

  不可思議な“力”は感じた……ソレが関与してる?

  

  でも、だからと言って、こんな簡単に……空間転移ならいざしらず。時間跳躍なんて……非現実的だわ!?」

 

 「お仲間ですか? お仲間ですね!!

  ―――私は、園村麻希! 気軽にマッキーとでも呼んでね!」

  

 「……ディラックの海と事象の地平線。いえ、その理論は破綻して……え?」

 

 「時空の旅人さんですか? すごいです!

  お名前はなんですか?

  ペルソナはなんですか?

  趣味は?

  特技は?

  私の方は、つい最近まで……それどころじゃなかったので無趣味です!

  でも、特技は弓です。不思議ですね~。

  それと、ペルソナは……海原の女神、媽祖《マソ》で~す! 結構、便利なんですよ?」

  

 「………誰?」

 

 「みんなのアイドル(予定)の麻希ちゃんです!」

 

 「偶像(アイドル)? ……ゴーレムか何かなの? あなた……」

 

 「私の頭に、真理なんてありませんよ?」

 

 「……空っぽってことね、了解したわ」

 

 「頭が空っぽの方が、夢を詰め込めるから素敵ですよ~」

 

 「……その夢が、悪夢じゃないと良いわね」

 

 「……えへへ」

 

 「なんで照れるの? 褒めてないわよ!?」

 

 妄言とも戯言とも取れる言葉を軽快に紡ぐ、病み上がり少女。

 それを迷惑そうな顔で聞きながらも、軽口とは言え律儀に返す魔女。

 

 二人の女性の何処かズレた会話が、俄に静まり返った廊下に響いた……。

 

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 ************

 

 PC03「王は王でも、エルミン学園限定かよ!?」

 PC04「世界征服の前に、まずは市街制服。エロイ人はそう言いました」

 PC01「色々言いたいが……とりあえず一言。マッキーの愛称は、麻希ちゃんじゃなく、摩耶の方だろ!」

 GM「……だから、異2の時に、まともになってたんじゃないか?」

 PC06「反面教師的な意味ですね? わかります」

 PC02「ボクは、どん底からどん底に墜ちた人が、本気で這い上がるなら、これくらいはっちゃけないとダメだと思う」

 PC01「……もういい」

 PC05「だから、理想のマキちゃんはEDで消えたってことさ」

 GM「一応正史に繋がるように想定してるけど、パラレルはパラレルなんで、気にしたら負け……と言うことで、さあ、話を続けようか!」

 PC03「ようやく合流……ってとこか?」

 PC05「2、2、2のコンビ状態から、合流?」

 GM「そうそう、で、とりあえず、病院のロビーからスタート予定」

 PC04「病院内を宛てなく捜索中、たまたまロビーでバッタリのパターン?」

 GM「ご都合主義と予定調和は、物語の基本。お約束は、守っても破っても美味しいのが利点。使わない理由はないよ」

 PC01「リサーチは?」

 GM「やるよ。ただ舞台裏なんで、描写は無し。得られた情報をどうやって知ったかは、そっちで適当に決めていいよ」

 PC02「情報収集に使えそうなコネもスキルも無い……」

 PC06「私もないよ」

 GM「パーティの内、2~3人が持ってれば問題ないよ」

 PC03「その分、こっちが多めに持ってる」

 PC05「……なんか妙に“特典”多くない?」

 GM「“組織”に所属してるかどうかの差だね、それは」

 PC01「エルメシアなのに、特典ないの?」

 GM「コネと所属は別物。君は所属まではしてないよ」

 PC04「ならば今からでも、日本竹馬連合会に入れば良い」

 GM「会費取られて、所持魔貨:-9枚、ってとこかな? ……入る?」

 PC01「断るっ!」

 

 ************



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〈そして彼らは巡り会う〉

 

 真っ白な壁に叩きつけられた肉片。

 清潔だった廊下にぶち撒けられた紅い華。

 

 死を恐れ、苦しみから逃れたいと願う生者の寄辺。

 

 “主”の定めし理に逆らい、蛇に授けられた“恥”を“知”に昇華し、“治”と為した賢者の末裔の集いし館。

 

 新宿衛生病院は、現し世に顕界した地獄と成った。

 

 死と生の境界は破れ、死者が蠢き、生者に害を為す魔窟と成り果てた。

 

 狂った摂理を前に人々は、神に祈り、救いを願い、許しを乞うことくらいしか出来やしない。

 

 ―――“人”とは無力である。

 

 塵も積もれば山となるが……それで出来上がるのは、ゴミ山でしかない。

 

 されど、ゴミの山に埋もれたモノ全てが無価値であるとは限らない。

 

 磨けば光る原石や、価値のわからぬ愚者に捨てられたモノ。

 

 そして、時代に合わなかったが故に、排斥されたモノも含まれる。

 

 “理”が変容したのなら……モノの価値もまた変容する。

 

 時代の変わり目、現在が過去と成り、未来が現在と成ろうとする特異点。

 

 必然的に彼らは出会い、流れる時に歴史が刻まれる。

 

 仕組まれた出会い?

 

 ―――否。

 

 予定は未定であり、決定ではない。

 

 未来は常に想定であり、当たるか外れるかは、その瞬間に成らねば分からない。

 

 それは、(デーモン)と呼ばれしモノも例外ではない。

 

 ―――故に少女(・・)は嘆かない。

 

 想定は推定であり、机上の空論と変わらない。

 

 現に、少女の立てた完璧な計画(パーフェクト・プラン)は狂った。

 

 想定した未来は、落としたリンゴが、地面に落ちるくらい確実性の高い計画(プロジェクト)であり。

 投げたボールが、分子の間を抜いて壁をすり抜けるような希少過ぎる悲運の結果であろうと……少女は挫けない。

 

 計画が破綻したなら、次善の策を進めれば良い。

 

 再起の芽があるなら、計画を修正して続ければ良い。

 

 この世に“絶対”など無い……と、少女は信じている。

 

 唯一無二の存在など、珍しいものでは無い……と、少女は知っている。

 

 ―――故に少女の悪あがき(プロジェクト)は終わらない。

 

 感情の読み取れない冷めた目で、少女は彼らを観る。

 

 荘厳な金色の髪の毛が揺れる。

 少女の病的な、それでいて可憐な白い肌と、質素な服がそれを引き立てる。

 

 見目麗しい少女は、立ち上がることもなく。車椅子に座ったまま、偶然とも必然とも言えぬ邂逅を果たした彼らを視ていた。

 

 見られている彼らは、それに気づくことは出来無い。

 

 ―――否。たとえ気がついたとしても無意味だ。

 

 なぜならば、当事者(・・・)である彼らはそれどころではなかったからだ……。

 

 「ウィリー! 焼き払え!」

 「おっまかせー! アギっ!」

 

 悪魔使いの少年の指示に従い、電子と因子で結ばれた悪魔。妖精“ウィリー”が火球を放つ。

 

 悲恋から化けて出るほど、仄暗い情念を燃やして生まれ。

 

 生前の恨みを込め、放たれた火の固まりは、生者に群がる死に損ないの一体を囚え、指示通りに焼き払う。

 

 「イケイケー! ヤッちゃえ~!」

 「……なんでこんなことに……うぉおお!」

 

 患者は患者でも、すでに手遅れとなったゾンビたちで溢れた病院に、若者たちの声が響く。

 それは嘆きでもなく、絶望の怨嗟でもなく、抗う意思を示す鬨の声であった。

 

 安全地帯から無責任に煽るピクシーの声援を受けて、裸ジャケットの少年がゾンビに、無謀な体当たりを仕掛ける。

 

 大人と子供。ぶつかり合えばモノを言うのは体重差。大人と幼児ほどの差はなくとも……体格差は大きい。

 

 故にそれが体当たりであれば、無謀としかいえない。

 されど、それが“突進”と称される“特技”であるなら話は変わる。

 

 体表に刻まれた人修羅の証とも言える線に燐光が灯る。

 裂帛の気勢とともに繰り出された体当たりは、ゾンビの一体を囚え、爆砕する。

 

 瞬く間に2体のゾンビ……屍鬼が倒されるが、事態は変わらない。

 

 抜けた歯を埋めるように、ゾンビは後から後から湧いて出てくるからだ。

 

 「私を助けて……ペルソナー!

  ―――マハコウハっ!

  

 しかして、それも潮目が替わる。

 

 ペルソナ使いの少女が、己が内と外に呼びかける。

 応え、いでたる悪魔は、異装を纏いし女神“マソ”

 

 少女に重なり、害意から少女を覆い隠すがごとく現れた女神は、女神と称されるに相応しい光を放つ。

 

 放たれた光輝は、屍鬼ゾンビの集団を飲み込み、蹂躙する。

 

 されど、死に損ない(アンデット)は、さらに死に損なう。

 

 少女の不安定な心が、弱点を付いたにも関わらず、ペルソナの真価を阻害したのだ……。

 

 有り体に言えば、経験不足の火力不足。

 もう一人のワタシとの、実戦経験の差が現れる。

 

 故に深手は負わせても、殲滅には至らない。

 これはある意味致命的だった。

 

 屍鬼は痛みでは止まらない。

 

 手足が千切れ落ちるも厭わずに、少年少女に襲いかかる。

 

 「雷精来々……ジオマっ!」

 

 そう、致命的……だった(・・・)

 

 間隙を縫うように、少女の足りない力を補うように、魔女はするりと割り込んで雷光を放つ。

 

 放電された電気は、数体のゾンビを包み込み、その仮初の生命に終止符を打つ。

 

 ―――だが、足りない。

 

 巻き込んだのは僅か数体。

 巻き飲めたのは、半数以下。

 

 魔女は軽く舌打ちをする。

 

 「はっ! 仕留めるなら、きちんと仕留めろッ!!」

 

 舌打ちに応えたのは、苦情だけではない。

 

 GUNP'Swordを下段に構え、残るゾンビの集団に飛び込んだ青年は、勢いのまま、刀を振るう。

 

 振り回された刃の暴風圏内にいるゾンビが切り伏せられ、敷かれた包囲網は瓦解する。

 

 「あぶなっ!?」

 「チッ……安心しな、仲魔(・・)に当てるようなヘマはしねえさ」

 「うぉいい!? じゃあ、その舌打ちはなんだよ!」

 「気のせいだ、気にするな……気にすると更にハゲるぞ?」

 「ハゲてないから! ハゲる予定もないよー!?」

 

 羅刹龍転斬り。

 

 赤口葛葉・三ノ型。クルリとその場で回って周囲をなぎ払う、ただそれだけの技。

 

 されどそれが“技”であり“業”であるならば、ただ刀を振り回すのとは大きく異る。

 

 “特技”とまで昇華された業は、物理法則をねじ伏せ、乱戦混戦であろうと“敵”のみを斬り伏せる。

 

 だから青年は、効果範囲に人修羅がいたにもかかわらず、戸惑うこと無く業を放ったのだ。

 

 その結果は明白、数の暴力は、質の暴力によって駆逐された。

 

 こうして、ゾンビの集団は全滅した。

 

 ―――最後に放たれた、少女の銃弾に眉間を貫かれ……て。

 

 言い争う二人の背後に、のっそりと起き上がったゾンビの頭が、銃声とともに爆砕する。

 

 「仕留めるなら、きちんと仕留める。

  ―――いい言葉ですね」

 「……ああ、残心ってのは大事さ」

 

 消炎昇る銃口を下ろし、冷めた目線を向ける少女。

 それに対し、助けられたにも関わらず、憮然とした態度で返す青年。

 

 GUNPを持つ手とは、逆の手に握られた葛葉謹製の銃の銃口は、脇腹を介して背後を向けられていた。

 少女が撃たずとも、最後に残ったゾンビの運命は変わらなかっただろう。

 

 しかし、一手遅れていたのも事実であり。助けられたとまでは言わずとも、フォローされてしまったことに変わりはない。

 

 だから青年は、バツの悪い苦々しい思いを押し殺し、憮然と言葉を続け、周囲に問いかける。

 

 「……で、あんたらは何なんだ?」

 

 それは、全員が共通した思いであり、お互いが抱えた疑問であった。

 

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 ************

 

 

 PC01「車椅子の男ではなく、少女……だと?」

 GM「再誕世界の影響で、スティーブンが幼女化したんじゃないとだけは言っておくよ」

 PC06「つまりスティーブンではない誰かが……メガテン恒例のあの方が、幼女化したんですね? わかります」

 GM「さて、戦闘なんで、まずは隊列の決定から始めるよ。前衛3後衛3援護2が基本ね」

 PC02「あ、スルーした」

 PC01「まいいや、えと……悪魔使いと、人修羅とライドウが前衛か?」

 PC04「ああ、それで帰還者とペルソナ使いと魔女が後衛」

 PC03「仲魔のウィリーとピクシーが応援枠ってとこ?」

 PC05「ウィリーと悪魔使いの配置は入れ替えた方が良くない?」

 PC01「それじゃ意味が無い。援護枠からだと、応援されることは出来ても、応援することは出来無いからな」

 PC05「つまり、攻撃は仲魔任せで、本人は応援のみ……と?」

 GM「それ+壁役かな? 悪魔使いは攻撃より、防御高めだし悪くない選択だよ」

 PC01「下手に銃や剣で殴るより、相性的に火炎魔法の方が有効だからしょうがない」

 PC06「有効な攻撃手段がないこっちよりマシ……うん、オルトロス呼ぼう!」

 PC04「無駄使いすぎるからヤメレ」

 PC01「本当ならピクシーより、ウコバクの方が有利なんだけど」

 PC03「枠が足りないし、ウコバクのMPは大技用にとっておきたいから、今回はパスでいいよ」

 GM「まあ、手始めのチュートリアル的バトルなんで、余程の事がない限り全滅はないから、好きにどうぞ」

 PC05「全滅はないけど、脱落者は出る可能性あり?」

 GM「それは時の運(ダイス)しだい。まあ、ここは病院なんで、全滅しなきゃどうにかなるかもしれないから安心していいよ」

 

 注:“援護枠”攻撃や補助魔法などの対象にならないが、自発的な行動も取れない。例外的に“応援”を受けた場合のみ行動可能。

  :“応援”1行動使い、未行動状態の他者に、1行動分与える。対象はその行動を即座に行え、それによって行動済になることは無い。

  

 つまり、援護枠は、手数は変わらないけど、手札を増やす意味では有効となる。

 (特に、攻撃力は高いけど、防御が弱いタイプは援護枠に置く方が有利)

 

 ちなみに敵側に、援護枠は原則的に無く。代わりに、前衛や後衛の数に制限もない。

 ただし、前後合わせて、総数は8体までなので、条件は、pcとある意味対等となる。



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