Fate/EXTRA 太陽狐と月兎 (淡雪エリヤ)
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Fate/EXTRA 太陽狐と月兎
プロローグ


因みに筆者はCCCのみ既プレイで無印EXTRAは漫画と二次小説のみの知識です。
SNは全ルートプレイ済み(レアルタ)


月で兎が出会ったのは一匹の狐だった。

 

時を忘れて、兎ーー少年は狐ーー少女の着物姿に懐かしさを憶えながら見惚れていた。

そして少年は自分の本当の故郷へと思いを馳せる。

それは仕方のない事だ。

この世界において少年の故郷ーー日本と言う国はもう存在しないのだから

 

 

/////////////

 

 

「はぁ…ほんと、しょうもない」

 

月海原学園の校舎の一角で白い髪をした少年は一人嘆息した。

 

「む、すまないな。俺としても副会長ばかりに任せっきりの状況をどうにかしたいと思っているのだが、なにぶん生徒会のメンバーが足りていなくてな。

庶務でも居てくれれば負担を減らせるのだが」

 

その嘆息は隣に居たもう一人の生徒に聞こえていたようだ。

 

「あぁいや、すまない一成。そういうつもりで言った訳じゃ無いんだ」

 

嘆息に反応した生徒の正体は、月海原学園生徒会会長、柳洞一成。

寺の子供で真面目な性格、悪く言ってしまえば堅物。学園のアイドルとも言える女生徒を目の敵にしている事から、まことしやかに同性愛者(ホモ)ではないかと噂されている。

因みに噂の発生源は白い髪の少年なのだが、それを知る者は少ない。

 

「まぁ確かに庶務どころか会計も書記もいないこの状況は、些か問題があるとは思うけどな」

 

そもそも、そんな状態なのに生徒会として活動させている学校側がおかしいのだが……。

生徒会の会計や書記は別に最初から居なかったわけでは無い。

会計も書記も突然、私服で学校に来たかと思えば授業中に訳のわからない事を言ってどっかに行ってしまったのだ。

二人とも真面目な性格だったので流石にその奇行には驚きを隠せなかったが、それ故に居なくなった二人が何か事件に巻き込まれたのではないかと心配ではあった。

とは言え、仕事を全て押し付けて消えて行ったのは恨みがましい事である。

消えるなら仕事を終わらせてから消えろ、それが白い髪の少年の本音だった。

 

「よし、終わったぞ一成」

 

「おお、流石は副会長殿。こちらはあと少し掛かりそうだ。

待たせるのも悪い、先に帰ってくれて構わんぞ」

 

「ん……そうだな、お言葉に甘えるとするか。じゃあまた明日な一成」

 

「うむ、ではなライルスフィール」

 

白い髪の少年ーーライルスフィール・フォン・アインツベルンは生徒会室から出ると今朝の出来事を思い返していた。

 

クラスメイトであり生徒会会計の生徒が一時間目の授業が始まってすぐに起こした奇行についてだ。

いきなり席を立ったかと思うとブツブツと独り言を呟いて教室から出ていったのだ。

その独り言の一部が隣の席に座っていたライルには聞こえていた。

 

「下らない予選だった、か……あぁ成る程ね。でも、俺にとっては、そうでも無かったよ」

 

ライルがそう言い終わると、世界がほんの少しノイズを生み出す。

 

「ちょっと長居し過ぎたかな」

 

しかしライルは焦る事もなく、ただゆっくりと足を進めた。

 

「あら、まだ居たんですか。この愚図は」

 

歩いて少しした所でライルに向って罵倒が飛んでくる。

声の主はライルと同じ白い髪をした少女だった。

 

「挨拶でもしてから行こうと思って来たんだけどな……最後まで相変わらずだな、お前は」

 

「それは殊勝な心掛けですね。わざわざ私に罵られにくるとは、相当のマゾとしか言いようがありません」

 

「いや、別に罵られに来た訳じゃねぇよ。はぁ……頑張れくらいは言ってくれると思ったんだけどな」

 

「何故、私が有象無象の中の1人に向ってそんな事を言わなければならないのですか?」

 

「ま、それもそうか。じゃ、そろそろ間に合わなくなるし行くよ」

 

「えぇ、では」

 

少しでも長く校舎に残って居たかったが為にゆっくりとしていた歩みだったが、とある壁の前に着くと遂にライルの足は止まる。

ライルは壁に向かって一歩踏み出す。

ライルが瞬きをすると、そこは既に校舎の面影が何一つ無かった。

その事に少し名残惜しさを感じながらもライルは前へと歩み出す。

 

『ようこそ、新たなマスター候補よ』

 

虚構の空から声が響いたが、ライルはその声を無視して周りを見渡した。

そして自分の傍らに人形のような物があった。

 

「成る程、サーヴァントの代理役と言う事かな。

それにしても人形とは皮肉だな」

 

操り人形を暗示させるそれにライルは気分を悪くする。

 

「でも、俺は爺さんの操り人形になるつもりはないね」

 

まるで決意するかのように、裏切りの言葉を口にする。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返す都度に五度。

ただ、満たされる刻を破却する。

告げるーー」

 

この月において、そのような呪文は不要な物ではあったが、一応自分を造り出した祖父へ最後の義理立てのつもりでライルは唱える。

 

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

と言うのは建前で、ただ単に一度は恥ずかしげもなく唱えてみたかったのだ。

 

そうして少年は出会う。

 

「サーヴァント、キャスター召喚に応じ参りました。

問います。貴方が私のマスターですか?」

 

運命の星の中で……

 

 

/////////////

 

 

ライルスフィール・フォン・アインツベルン。

マナの消失した世界で造られたアインツベルン最後のホムンクルス。

アインツベルンは本来、魔力無しでホムンクルスを造り出す手段を持っていなかったのだが、アトラス院に出来て自分達に出来ぬ筈が無いと対抗心を持ち、魔術師の嫌う科学の力までをも使いホムンクルスを造り出したのだ。

しかし、そうして生まれたが故なのか、或いは別の理由があるのか、はたまた理由など無くただの偶然なのか……生まれたホムンクルスには前世の記憶があった。

故にライルはホムンクルスとして生まれた土地であるドイツではなく、前世で暮らしていた日本を謂わば心の故郷としていた。

死んでしまった時の記憶は辛い物ではあるが、辛い思い出と同じくらい幸せな思い出もあるのだ。

だからこそ、日本にーー故郷に帰りたいと願っていたが、しかしこの世界に日本という国は存在しない。

正確に言えば、日本と呼ばれる地域は、あるにはあるのだが。

しかしそこは、もはや国としての機能が失われ、住民は西欧へと逃げて行った。

言うならば、日本は中身の無い器。

そんな不幸も幸福も無い空っぽな場所に行った所でどうにもならないのは目に見えていた。

それに、そもそもライルがアインツベルンのホムンクルスとして生まれた時点で行動の自由など無かった。

アインツベルンがホムンクルスを造った理由は、なにもアトラス院への対抗心からだけではないのだ。

造り出したのには、ちゃんと目的がある。

言わずもがな、聖杯だ。

アインツベルンから失われた。延いては、この世界から失われた神秘を取り戻す、それがアインツベルンのーー否、旧魔術師達の悲願だ。

そして、それを成すが為には聖杯を手にするしか無い。

たから、聖杯を手に入れる為にアインツベルンは最強のマスターとしてホムンクルスを造った。

それがライルスフィール・フォン・アインツベルンその人である。

かくして、ライルは聖杯戦争が行われる地ーー月へと送られた。

 

誰にも伝えることは無かった自分だけの願いを秘めて……。

 

 

\\\\\\\\\\\\\

 

 

「ーー貴方が私のマスターですか?」

 

キャスターは問いかける。

しかし、目の前の少年から返事は無い。

契約や魔力供給のラインは目の前の少年に繋がっているので彼がマスターで間違い無いのだろう。

返事が無いと言うことは、自分のマスターは聖杯戦争の知識がない素人という可能性を考えられる。

だが、素人にしては魔力供給の量が多い、と言うよりムーンセルに制限されてはいるものの今の自分の力が完全に出せる程の充分な魔力供給なのだ。

そもそもこの月にいる時点で素人の筈が無いのは分かりきっている事なのだが。

 

(まぁ、ステータスに関しては私がキャパシティーの低いキャスタークラスだからってのもあるんでしょうけどねぇ)

 

そこまで考えて気づく。

少年はキャスターの事をまじまじと見つめていたのだ。

視線からは男性特有の卑しさを感じないので、大して不快な気分にはならなかった。

 

(しかしまぁ観察されるがままと言うのも気に食いませんし、観察し返しましょう)

 

観察と言っても外見を観察した所で容姿ーーつまりは、見て呉れしか知る事が出来ないだろう。

だからキャスターが観察するのは内面、文字通り"魂"を観るのだ。

そうして驚く。

少年の魂が不自然なくらい綺麗だった事に

 

(魂を弄った跡がありますね。イケタマなのはイケタマなんですが……整形イケタマは私的にNGです。

男なら素の自分で勝負しろってんですよ!)

 

ライルの魂は元々、平凡な物であった、それこそ凡百の人間に紛れても明確な違いが分からない程に。

アインツベルンのホムンクルスとして生まれたが故にそれに相応しい魂へと弄られたのだ。

キャスターからしてみれば、弄られた魂はどんな不細工な魂よりも不快な物であった。

 

そうして互いに見つめあっている時間にようやく終わりがきた。

突然、鋼と鋼を打ちつけ合うような音が響いたのだ、それもすぐそばで。

その音で少年は我に返ったようだ。

キャスターは音の正体を探ると。

人形が少年を攻撃しようと暴れていた。

しかし、その魔の手は見えない壁に阻まれ届く事は無かった。

キャスターも我に返り、最初の問いを改めて問いかける。

 

「貴方が私のマスターですか?」

 

(この問いにも応えないようでしたら、ね。)

 

「え、あ、あぁすみません。俺……僕が貴女のマスターです」

 

そうして、ようやく二人の目と目が合う。

 

(夫としては不満がありますがマスターとしては合格でしょうか。

まぁ政略結婚とでも思えばなんとかなりますかね。望まぬ相手だろうと尽くす、それも良き妻の条件です!)

 

「早速だけどキャスター、後ろの煩いのをどうにかしてくれ」

 

「畏まりました、御主人様」

 

キャスターはマスターに不満があったが、しかしそこは恋に恋する少女、例え好きになれないとしても尽くすと決めていたのだ。

 

「え? 今なんて…」

 

しかし、そんな事をライルは知る由もない。

だから、キャスターの言葉で頭の中が混乱し始めた。

 

「魔力供給は十全、私の力をご覧あれ!」

 

それに気づいていないキャスターは人形(エネミー)に向って走り出す。

全力の力がある今なら、何だって出来るような気がした。

それこそ、素手で人形を倒すくらいわけも無いと。

なので得意の呪術ではなく、久しぶりに身体を動かしたかったキャスターは拳を振り上げ、そしてーー

 

「…ごふっ!」

 

ーー人形に殴り飛ばされた。

 

「ちょっ⁉︎」

 

その光景にライルの混乱は増すばかりだった。

しかし事は単純だ、それはーーキャスターは所詮、魔術師(キャスター)だと言う事だ。

 

それが、最強のマスターと最弱のサーヴァントの出会い。

 




クラス:キャスター
真名:???
身長:163cm/体重:49kg
属性:中立・悪
イメージカラー:桃色
ステータス
筋力:E
耐久:E
俊敏:B
魔力:A+
幸運:A
宝具:B

主人公であるライルの容姿は外典のホムンクルスのイメージです。


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1-1

月を見上げて一人泣いていた。

 

人ではないと追われ、逃げた先に待っていたのは困惑と悲しみ。

 

されど、怨みはしなかった。

 

悪かったのは、運だと信じてーー

 

 

///////////////

 

 

「それにしても、無事に目が覚めてくれて良かったよ」

 

「も、申し訳ありません御主人様」

 

「あぁいや、次から気を付けてくれればいいからね」

 

まさかキャスターのサーヴァントがいきなり肉弾戦に出るとは思いもよらなかった。しかも一撃も与えられず一方的にノックアウトされるなんて……

ライルが持つ数少ない礼装と術式で人形を倒したので、あの場を切り抜ける事はできた。

幸いなのは、他のマスターに見られる心配が無い場所だったという事だろう。

見られたとしても一度見られたくらいじゃ見抜く事はできないだろうが、見られないに越したことはない。

 

「まさか、魔術が使えなかったとかかな」

 

「ある意味そうではあるんですが…いえ、そういう訳では…」

 

「じゃ、次の戦いは、戦えるかな」

 

「はい、問題ありません」

 

「そっか、じゃ次から頑張ろう」

 

「はい!」

 

サーヴァントとの仲をあまり悪くしたくないライルは、先程の戦いのようなキャスターの奇行については深く触れなかった。

ぶっちゃけ、サーヴァントの失敗を簡単に許しちゃう俺優しーとか思っちゃってるライルであったが…

 

(ふふふ、ちょろいですねぇこのマスター。私の黒歴史が一つ増えましたが、気にしてないなら好都合です)

 

とキャスターに思われていた事など知る由もない。

 

「あ、無事に目が覚めたんですね。良かったです。この保健室でサーヴァントがお休みになられる事なんて今までなかったので」

 

キャスターとの会話に一区切りがついて、タイミングが良い所に健康管理AI(保健委員)の間桐桜が話かけてきた。

ふと、ライルはもう一人の保健室の主を探してみたがどこにもその姿はなかった。

その事でライルは少し残念に思う反面、大いに安堵していた。

 

(この状況をアイツに見られたら何を言われるか分かったもんじゃない)

 

「って事はキャスターが初めてって事か…すみません間桐さん、迷惑をかけてしまったようで」

 

「い、いえ、ここはそういう場所なので迷惑だなんて」

 

改めて周りを見てみると保健室のベッドの上にはマスターと思われる甘栗色の髪をした少女が一人寝ているだけだった。

その少女に目を向けると、少女の傍らに紅い外套の男が現れた。

 

「そろそろ、止めてくれないか。それ以上、君のサーヴァントが獲物を狙う獣の眼光で私のマスターを見ているのなら、私も武器を手に取る事になる」

 

「っ!? ……アーチャー」

 

「ほう、一目で私のクラスを看破するか。その慧眼は称賛に値するが、止めないと言うのなら…」

 

アーチャーの存在に驚いたライルであったが、アーチャーの言葉を思い出し、キャスターを見やる。

アーチャーの言う通り、キャスターが少女を見る顔は尋常じゃなかった。

 

「キャスター?」

 

(な、なんというイケタマ! く…彼女が私のマスターだったら良かったんですが、くそぅ…羨ま死ねアーチャー!)

 

「お、おい。今度は貴方の方を睨んでるんですが、アーチャー、キャスターは貴方の知り合いなんですか」

 

「彼女とは初対面の筈だが…やれやれ、生前に私を慕ってくれていた女性達が私に迫ってくる時と同じような目をしているな…その視線は私ではなくマスターに向いているようだが」

 

「色々と聞き捨てならない事はあったが、取り敢えずもてない男代表としてお前をころ…じゃなくてキャスター、君はそういう趣味なのかい?」

 

(かくなる上はアーチャーを殺して私のマスターを……)

 

「キャスター?」

 

「は、はい!?」

 

「えぇと、僕は君がどんな趣味趣向でも…その同性愛者だろうと気にしないけど、他の人の迷惑になるのは止めてね。対戦相手なら構わないけど」

 

「え? あ、いえ! そういう趣味って訳じゃ! なんと言いますかイケタマが」

 

「イケタマだろうと何だろうと構わないが、そろそろ良いかな。見ての通り私のマスターは休んでいる最中なのでね」

 

キャスターが思いの外、元気だったのでここが保健室だという事をライルは忘れてしまっていた。

 

「すみません。間桐さんもお騒がせしてすみません」

 

「い、いえ、そんな」

 

間桐桜の否定が先程よりも強くない事から本当に迷惑だった事が分かり、ライルはキャスターを連れて早々と保健室を立ち去った。

 

 

///////////////

 

 

ライルは、ホムンクルスになる前つまり前世で生きていた頃、友人から勧められて買ったゲームの中にFate/staynightという物があった。

聖杯、聖杯戦争、魔術、魔法、神秘、マスター、サーヴァント、七つのクラス、そしてホムンクルス。

そのゲームとこの世界は似通った事が幾つかあるのには気づいていたが……まさか登場人物までもが存在するとは思わなかった。

ゲームの内容はうろ覚えだったが、アーチャー、真名はエミヤ、その名はよく覚えている。

彼の正体は未来の主人公の姿というのが当時、衝撃的だったからだ。

アーチャーのクラスなのに基本的には近接戦闘をしていた。

しかし遠距離攻撃が苦手という訳ではなく、そのクラスの通り強力な矢を作り出せる。

それだけでなく、即座に剣を創造し周囲に展開、射出する事まで出来る。

近距離、遠距離だけでなく中距離までも戦う事が出来るオールラウンダーだ。

 

(厄介だな。折角の術式もアーチャーの前では鉄ポスターの盾くらいにしかならないんじゃないか?)

 

「ま、戦うか分からない相手だけを対策してもしょうがない。そんな事よりご飯にしましょうかキャスター。貴女も目が覚めたばかりで、お腹が空いたでしょ」

 

「いえ、私達サーヴァントは食事が必要ありませんので」

 

「あぁそう言えばそうでしたね……」

 

あのゲームでは普通に食事をしていたので、少し勘違いをしていた。

ライルは、キャスターの言葉で、サーヴァントが食事をする必要がない事を思い出す。

普通に考えれば霊体に食事は要らないだろう。

ゲームで、サーヴァントが食事していた理由も同時に出す。

ついでに食事を抜きにしたらサーヴァントに殺された事も。

 

「でも、食事が必要ないだけで、出来ない訳じゃないんですよね。なら一緒に食べましょうよ、食事は人間の三大欲求の一つですし、少なくとも性欲よりかは健全ですから。それに今の日本食も美味しいですよ」

 

「ご主人様がそう言うのでしたら」

 

あまり喜んで貰えてない事から、ありがた迷惑だったのかもしれないな、とライルは少し後悔をした。

 

「そうと決まれば早速、食堂へ行きましょうか」

 

「はい」

 

 

///////////////

 

 

「む、ライルスフィールではないか、やはりお前もマスターであったか」

 

「お前も? それって、会長殿もマスターって事か?」

 

食堂に着いて、そこで出会ったのは柳洞一成だった。

予選でもライルは生徒会副会長という立場から、一緒にいる機会が多かった相手でもある。

少なくとも人柄に関しては予選参加者の中でライルが一番知っている人物だろう。

 

「いかにも、俺もマスターだ。副会長殿がサーヴァントを見せているのに、こちらが隠すと言うのは公平ではないな。アサシン」

 

「ふむ、呼ばれたからには出てくる他あるまい。アサシンだ」

 

そう言って一成の背後に現れたのは群青色の着物を着たライルと同じくらいの背丈をした男だった。

そして、ライルはその男に見覚えがあった。

 

「ささ……」

 

ライルは危うく言いかけた言葉を呑み込む。

先程、アーチャーに対してあの様な反応をしていまい目を付けられてしまったのだ。

これ以上、無闇に警戒されるのは良くないと考えたからだ。

 

「わざわざ、そっちまで見せる必要ないだろ、俺も手札を明かすためにキャスターを霊体化させてない訳じゃないんだが」

 

「だが、結果的に見えてしまっているのだ。やるからには堂々と戦うべきだ」

 

「堂々と、か。私の剣は少々、邪道だがな。なれど堂々と邪道を歩むのみよ」

 

アサシンは会話を楽しむように語った。

しかしライルは疑問に思う。

 

「初戦の相手は一成だったか?」

 

「いいや、違うぞ。端末にも出ているだろう」

 

「だよな、まるで俺と戦うかのような口振りで話してきたからな」

 

「あぁ成る程。お互い勝ち残れば戦うであろう、だからあぁ言ったまでだ」

 

所謂、決勝戦で会おう的なノリだろう、とライルは納得した。

 

「折角、食堂にいるのに立ち話もなんだし、食べながら話すか」

 

「そうだな」

 

正直、ムーンセルが配置した仮初めの友人だとしても自分の手で殺すのは忍びないので一成とは戦いたくはない。

ライルにとってキャスターの実力は未知数だ。あの時の様子を見てみる限り、とても強いようには思えない。

それに比べアサシンの技量は脅威的である。

あくまで、あのゲームと同じであればの話ではあるが、おそらく実力の差は歴然なのではないだろうか。

よくよく考えて、自分の手で殺す前に殺される未来を予測してしまうライルだった。

 

「ミコーン! ご、ご主人様! キツネうどんですよ! キツネうどん!」

 

「あ、あぁ、そうだね……僕も同じの頼んで、油揚げ上げようか?」

 

魔術師のサーヴァントなのに素手で戦おうとして呆気なく負け。

目覚めたばかりの時はしおらしく大人しい様子だったのにアーチャーのマスターを見た途端おかしくなり。

ライルに食事を遠慮している様子だったのに今の発言。

キャスターが自由過ぎて、不安が更に増すライルだった。

 

「ご、ご主人様、だと……」

 

そして、キャスターの発言により驚愕の眼差しでライルを見る一成であった。

 

 

///////////////

 

 

「まさか互いに東洋の英霊と契約するとはな」

 

「それ依然に一成がマスターだった事に俺は驚いてるよ。真面目に坦々と仕事をしていたから、てっきり運営NPCかと思っていた」

 

「それはお前にも言える事だ、ライルスフィール。お前の場合、有名人だからこちらは気付いていたがな」

 

「有名人ね……」

 

かつて、まだ地球に神秘が存在していた時代に存在した最後の聖杯戦争を始めた御三家の一つであるアンイツベルンからの参加者なのだから、確かにライルの知名度は西欧財閥の次期当主レオ=ビスタリオ=ハーウェイとまで行かずともウィザードの中でライルを知らぬ者は極僅かしかいない程であろう。

 

「それにしても生徒会メンバー全員がマスターだったなんてな」

 

会計や書記の奇行と失踪。

それはつまり、そういう事だろう、とライルは付け足す。

それに対し一成は、こう答えた。

 

「俺の一回戦の相手は書記殿だよ」

 

「こりゃまた奇遇だな。さっき調べたら、俺は会計だったよ」

 

「セラフの意図か、気まぐれか、ただの偶然か。どちらにせよ生徒会同士で争う事になるとはな、学級崩壊どころか学校崩壊レベルだ。まったく運営は何を考えている」

 

「ははっ、確かにな」

 

そんな冗談を話しながらライルは会話を楽しむ。

まだ完全に予選気分が抜けていない事と初戦でどちらかが破れる可能性もあり、一成との会話がこれで最後になりうるからだ。

勿論、ライルと一成に負けるつもりなどないのだが。

案外、一成は冗談でなく真面目に言ったかもしれない。

 

その間、アサシンがキャスターに言い寄っていたが、キャスターは辛辣な言葉であしらっていた。

 

「さてと、食べ終わったし俺たちはそろそろ行くよ」

 

「そうか、俺は少し休憩してから行くとしよう。ではな、ライルスフィール」

 

「美しき花を眺めながら、する食事は中々に雅な時間であった。また今度、花を添えてくれぬか?」

 

「何言ってやがるんですか、この駄侍は…正直、気持ち悪いのでやめて貰えます?」

 

ライルは、こんなようなやり取りが続いているのに、へこたれずに何度もアタックし続けるアサシンに敬意を払いつつ、もしかしたら罵倒されるのが好きなのではないだろうかと考え、ドン引きするのであった。

 

 

///////////////

 

 

食堂から出てライルが向かったのは屋上であった。

校舎内にいるマスターやNPC達と少し話をしてみたら、屋上に行く事を勧められたからだ。

ライルが前世で通っていた学校は屋上が立ち入り禁止だった為、学校の屋上に行けるとあって興味が湧いたのだ。

そして、ライルがいざ屋上へと行ってみると、其処では赤い服を着た女子が女生徒を撫でまわすように手で触れて、顔に顔を近づけている場面に遭遇してしまった。

生まれてこのかた、もとい前世の生涯でも見たことのない現場に絶句していたライルは正気に戻ると側で霊体化しながら控えているキャスターに言う。

 

「なんか、気不味い所に来てしまいましたね……。月じゃ普通の事なんですか?」

 

見れば女生徒は赤面しながら抵抗出来ないのか、されるがままになっていた。

 

「いえ、そう言う訳では無いかと。あの赤い娘が痴女なだけでは?」

 

「ですよね……」

 

「ちょっと! 聞こえてるわよ、そこ!」

 

ライルの存在に気付いてしまったようだ。

行為中に他人に見られるというのは、とても恥ずかしい事であるのはライルも理解しているので、早々に立ち去る事にした。

 

「あ、えっと……お邪魔しました」

 

「逃げるな!」

 

「え……キャ、キャスター、あれって巷に聞く見られながらが良いっていう超上級者って事で良いんですか? 痴女なんでしょうか?」

 

何が、見られながらが良いのかはセクハラ発言と思われてしまうかもしれないから口に出さない。

出さずとも既にセクハラ発言なのは間違いないのだが。

 

「いえ、と言うよりは純粋に怒っている様に見えます」

 

「あぁ、なるほど。すみません、お二人のまぐわいをお邪魔してしまって……ほんと、すみません」

 

「あ、いえいえ、とんでもない……って違う! そもそも、まぐわいって何よ! 根本的な所からお話しなきゃ駄目みたいね」

 

 

///////////////

 

 

「成る程、つまり遠坂はNPCのグラを確認したかったから、ベタベタと恥ずかしげもなく、マスターであって、NPCじゃない、岸波さんを触れまわっていたんだな」

 

「そうよ。だってNPC並みに個性がないんだもの彼女。勘違いしても仕方がないでしょ」

 

「そりゃ、貴女に比べれば個性は無いとは思うが。あくまで貴女と比べればね。ってか君、岸波さんに凄い失礼な事言ってるな…」

 

岸波白野は、普通に美少女と言っても差し支えがない容姿をしているとライルは思う。

 

「そもそも、マスターとNPCは制服の色が違うんだから、普通間違えないだろ」

 

ライルや岸波白野のようなマスターは基本的に茶色の制服を着ていて、セラフが用意したNPCは黒の制服を着ている。

ただし、遠坂凛のようなアバターをカスタマイズ(校則違反)しているマスターは、例外である。

 

「えっ、そうだったの?」

 

どうやら、遠坂凛はそれを知らなかったようだ。

その事にライルは呆れた。

 

「これだから、素行不良者は……」

 

「な、何よ、ホモの癖に……」

 

「……は?」

 

ライルは遠坂凛の口から放たれた言葉に耳を疑った。

 

「ちょっと待て、い、今のは俺の事か?」

 

「えぇ、そうよ。ライルスフィール・フォン・アインツベルン、貴方の事を言ったの」

 

「な……違う、断じて違うぞ。ホモという噂は一成のものであって、俺じゃない筈だ!」

 

その噂はライル本人が流した物である為、それは間違いない。

 

「じゃ、その同性愛者の柳洞君と一番長く一緒に居たのは誰かなぁー」

 

「……ち、違う! 俺はホモじゃない! ノンケだ! 絶賛彼女募集中だ! ええい! この際お前でも良い、俺の彼女になれよ! いや、なって下さい! お願いします!」

 

「アンタなんてお断りよ! えっ、効かない!? ってか必死過ぎでしょ…」

 

弁明の途中で遠坂がガントをライルに撃ち込んだが見えない壁に阻まれ、意味をなさなかった。

土下座をしているライルに無意味にガントを連射する遠坂凛、その側で涎を垂らしそうな感じで岸波白野を 見つめるキャスター、ただただ狼狽する岸波白野。

もはや、この場に収集がつかなくなっていた。

 

ライルスフィール・フォン・アインツベルン、彼は友人を同性愛者と吹きまわり陥しいれたが、それが回り回って自分に返ってきた。

完全に因果応報、自業自得であった。

 

(あぁ何度見ても素晴らしいイケタマです!)

 

(嬢ちゃんも隅に置けねえなぁ)

 

(やれやれ、またこの主従か……)

 

(え? え?)




早速、ロール変更キャラ登場。
EXTRAではNPCだった柳洞一成ですが、マスターとして登場。
アサシンの真名は、まぁバレバレですよね。本当は葛木先生をマスターにしたかったんですけど、まぁEXTRAの葛木先生はね……。

基本的に今後出てくるオリ鯖の方も真名を隠す気ないです。と言うより、オリ鯖の性格がイスカンダル並みに自己主張激しいので隠す方が難しい……。

主人公がキャス狐に対して敬語なのは、サーヴァントに対しての距離感が掴めていないからです。サーヴァントと不仲にならないように気をつけ過ぎているので、こんな事に。


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1-2

「懐かしいです。この感じ……」

 

アリーナを歩き始めて少ししてから、キャスターはふと呟いた。

懐かしい。と言うのならば、それは少なくとも以前に一度は似たような体験をしているということだ。

もしかしたら、キャスターはこの聖杯戦争に参加するのが初めてではないのかもしれない。

それを確かめる為にライルは口を開こうとすると、キャスターの声がそれを阻んだ。

 

「ご主人様、来ました」

 

エネミーだ。

この聖杯戦争において、マスター同士の力の差を埋める為に運営が用意したデータ。

倒すことによって文字通り経験値を得る事ができる。力のないマスターは、そこで得た経験値を使い教会にいる魔術師に魂の改竄を行ってもらいサーヴァントを強化する。

しかし、ライルのマスターとしてのレベルは最高位にするものである。

故にサーヴァントを強化する為には膨大な経験値を必要とするので、ライルにとってエネミーはただの邪魔ものでしかなかった。

例えるのなら、レベル50を越えた勇者にとっての、最初の村の前に現れるスライムのような存在だ。

戦ったところで何も得られない。

とはいえ、通行の邪魔になるので排除しなくては通れない。

 

「今度こそ貴女の力を見せて下さい、キャスター」

 

「はい、御主人様」

 

聖杯戦争の予選であり、キャスターの初陣の時、何を思ったのかこのサーヴァントは魔術師であるにも関わらず武器も持たずに素手で敵に殴りかかって返り討ちにされたという前科がある。

サーヴァントのような人間から外れた規格外な存在は考え方も規格外なのだろう。

だが、彼女がキャスターのサーヴァントであるならば、その真価は肉弾戦ではなく魔術戦にある筈だ。

もし、この戦いで魔術を使わなかったのなら、彼女の魔術は使用条件が厳しいのではないだろうか。

それならば初戦の失態も納得がいく。

そうだとしたら、力を見せてと言ったが不味いのでは……

 

「炎天よーー走れ!」

 

長考の末、不安に至ったライルであったが、いとも簡単に魔術を使ったキャスターを見て、考えることを止めた。

キャスターが魔術を放つと、エネミーは灰(粒子)も残さず消え去ったのだ。

ライルは言葉を発さず、それを見ていた。

何故最初の戦いで使わなかったのかと呆れている訳でもなければ、その威力の強さに驚いている訳でもない。

 

産まれて初めて見る本物の神秘に対して、ライルは見惚れていたのだ。

自分たち魔術師(ウィザード)が使う、コードキャスト(科学の力)とは比べ物にならない本物を目の前にして余計な考えが消え去った。

 

(なるほど、あのジジイどもが神秘を取り戻したがる理由も分かるな)

 

エネミーを倒したキャスターは感動して固まっている自分のマスターを見てどうしたものか、と困惑していた。

 

(なんか、ご主人様って何を考えているのか分からない人ですね……)

 

ライルもキャスターもお互いに関する評価は大して変わらなかった。

ペットは飼い主に似ると言うが、マスターが媒体無しに召喚するサーヴァントもマスターに似るものであるようだ。

 

しばらくして落ち着いたライルが口を開く。

 

「今のが貴女の魔術ですか……」

 

「あ、いえ正確に言いますと呪術でございます」

 

今のがと言うより時間的にもう、さっきでしょと思いながらキャスターはマスターの勘違いを正す。

 

「呪術?」

 

「説明いたしましょうか?」

 

「あぁ……いや、後でお願いしてもいいですか? アリーナの中ですと対戦相手に聞かれてしまったら大変ですし。

それに、またエネミーが来たみたいですから」

 

キャスターのいう呪術が魔術とどう違うのか今は分からないが、どちらも本物の神秘である事には違いない。

この聖杯戦争に参加するマスターはいかに魔術師(ウィザード)と呼ばれようと、結局は本物の魔術師(メイガス)ではないのだ。

魔術師と呼ばれながら本当は魔術なんて使えない有象無象の手品師(マジシャン)でしかない。

そして、自分もその中の一人だ。

しかし彼女(キャスター)は違う。

ライルは、自分の召喚したサーヴァントがセイバーやランサーではなく、キャスターであって良かったと初めて思ったのであった。

 

「ばんばん狩っちゃうぞ!」

 

そう言いながら、キャスターはおそらく宝具であろう鏡をエネミーに叩きつけていた。

 

(性格には難があるようだが……)

 

 

///////////////

 

 

アリーナの探索をある程度したが、対戦相手と出会うことはなかった。

相手のサーヴァントのクラスは確認出来ずとも武器くらいは見ておきたかったのだが、いないのならば仕方がないのでライルは探索を終える事にした。

 

アリーナを出ると視界の端にカソック服を着た男が写るがライルは気に留めぬように過ぎ去る。

その男とは、なんとなく関わらない方が良いと思ったからだ。

 

「ふむ、私は何か嫌われるような事をしたかね」

 

「いえ、アリーナ探索で疲れたので急いで自室に行きたいだけですよ」

 

「ほお。だが、初日からその調子では勝ち残る事は出来ないのではないか」

 

嫌味ったらしい笑みをしながら、そんな事を言ってくる運営NPC。

その姿がどことなく、保健室の友人に似ているのが癪に障った。

 

「余計なお世話ですよ……」

 

そう吐き捨てて、ライルは足早に去っていった。

 

「アレと仲が良いと小耳に挟んだので、どんなものかと話してみたかったのだがな」

 

 

///////////////

 

 

ライルがマイルームへ向かって階段を上っていると、その階段の踊り場で眼鏡をかけた褐色の少女と相対した。

 

(シャツも着ないで素肌に直接カーディガンだと!? なんという、素晴ら……じゃなくて如何わしいファッションなんだ)

 

「貴方の星は、私に似ている……なるほど、貴方がアインツベルンのホムンクルスですね」

 

星が似ていると言われても何のことか全く理解できなかったが、ホムンクルスという言葉に繋がったので、褐色の少女が何を言わんとしているのか文脈から何となく分かった。

 

「……君の発言からして、君はアトラスのホムンクルスかな」

 

ホムンクルスで似ているという事は、きっとそういう事なのだろう。

 

「肯定します。私はラニ=Ⅷ。貴方の言う通りアトラス院のホムンクルスです」

 

どうやら、間違っていなかったようだ。

 

「僕はライルスフィール・フォン・アインツベルン。君の予想通りアインツベルンのホムンクルスです」

 

ご丁寧に自己紹介までしてくれたのだから、こちらもする他ない。

 

「あら、アトラス院とアインツベルンのホムンクルスが真正面から向き合って話しているなんて、なかなか観れる事じゃないわね。っていうか歴史的な事なんじゃない?」

 

褐色の少女、ラニ=Ⅷへの自己紹介が終わったのを見計らったように第三者が会話に割って入ってきた。

 

「お前は……遠坂百合ん!?」

 

「だ、誰が百合んよっ!」

 

遠坂はライルに向かってガントを放つが、前回同様見えない壁に阻まれてしまう。

 

「ホントどうなってんのよ、アンタ!」

 

「ハハハ、百合んよ。いくら撃っても無駄だ無駄」

 

「百合んっていうな!」

 

再度、ガントを放つ遠坂であったが、やはり見えない壁に阻まれる。

遠坂凛が、ただ挑発に乗って攻撃している訳ではない事にライルは気付いていた。

遠坂は挑発に乗じて、ライルを守る見えない壁の事を調べているのだ。

しかし、ライルは慌てない。

別にライルを守る術式に弱点がないからという訳ではない。

弱点が絶対にバレない自信がある訳でもない。

ライルは、敢えて余裕があるように振舞っているのだ。

そうする事によって少しでも、弱点がなくこの術式に絶対の自信を持っていると勘違いさせる為であり。

そして何より、遠坂凛を弄ることが出来るからだ。

ライルは、人を弄ることが好きという愉快な性格をしている。

その結果、自身にホモ疑惑が掛けられてしまったが。

基本、人を弄ることに愉悦を感じている。

それ故に先ほどのカソック服の男には関わりたくなかったのだ。

ライルの勘があの男は弄るどころか逆に自分が弄られると告げていたから。

 

「貴方は私と同じホムンクルスなのに私とは違うのですね……」

 

それまでライルと遠坂のやり取りを見ているだけだったラニ=Ⅷが言葉を発する。

 

「貴方はホムンクルスなのに心を持った人のような行動をとれるのですか」

 

ライルは、ラニ=Ⅷの口から発せられた言葉に耳を疑う。

そして、まるで自分には感情がないと言わんばかりの言動にイラつきを覚えた。

 

「どうやら、僕は君が嫌いなようだ」

 

「嫌い……ですか」

 

ラニ=Ⅷはライルの言葉に困惑を覚えながら答える。

 

「それは恐らく、貴方がアインツベルンに作られたホムンクルスだからでしょう。アインツベルンがアトラス院を敵視していたのは私も知っています」

 

そして、その言葉はライルにとって決定的な物になった。

 

「……俺はお前が嫌いだ」

 

ライルにとってラニ=Ⅷの言葉は、自分の感情の否定であるからだ。

身体だけではなく、自分の感情までもがアインツベルンのジジイ共に作られた偽物なんだと言われていることと同じだった。

 

「そう、ですか……」

 

ラニ=Ⅷはそう言い残すと肩を落としてライルと遠坂凛の前から去っていった。

 

「意外ね。ラニ=Ⅷの言う通り、想像していたホムンクルス像と貴方って違うもの」

 

「想像していたホムンクルス像ね……」

 

遠坂凛の言うホムンクルス像と言うのが、どんな物かは分からないが、少なくとも自分のやったあのゲームの中に出てきたアインツベルンのホムンクルスは感情豊かだった気がする。

 

「そうね。ラニ=Ⅷの方が貴方よりもホムンクルスって感じがするわ。貴方はなんて言うか……子供っぽい性格」

 

「………。……お前には言われたくねえよ」

 

ライルからしてみれば、簡単な挑発ですぐに怒る遠坂凛の方がよほど子供っぽい性格をしているだろう。

 

「ちょっと、それってどういう意味よ!」

 

ほらな、とライルは心の中で呟きながら、遠坂に背を向ける。

 

「……そのままの意味だ」

 

そう言い残して、ライルはその場を去っていった。

 

 

///////////////

 

 

「まるでと言うより、まんま教室だな……」

 

ライルに宛てがわれた聖杯戦争の控え室もといマイルームは、数十もの机と椅子が綺麗に並んだ教室だった。

面積は十分に広いが、机や椅子の所為で狭く感じてしまう。

おまけに睡眠用の布団すらない

 

「まぁ汚れや埃がないだけマシか」

 

そう言ってライルは机を教室の後ろに下げ始める。

邪魔な机を退かして過ごしやすくする為に行った何気ない行動だったが、それによってライルは再び前世の記憶に想いを馳せる。

 

(こうして机を運んでいると掃除の時間を思い出すな……)

 

ライルは特別、掃除好きという訳ではなかった、寧ろ掃除をすること自体が面倒だと感じていた筈なのに、それを思い出すだけでも感慨深くなった。

些細なことであったがライルはより一層、聖杯戦争を勝ち進む意思がかたくなる。

 

「お手伝い致します」

 

机を一列寄せ終えた辺りでキャスターも机運びに加わった。

 

「ありがとうございます」

 

机を運ぶ人数が一人増えただけなのに、本当に掃除をしているような雰囲気になり、それが可笑しくてライルは笑みをこぼす。

キャスターからしてみれば、いきなりニヤニヤとしだしたマスターが不気味なだけであった。

 

 

///////////////

 

 

「大分広くなったのは良いけど……何もないな」

 

机を運び終えて、スペースがとれたのは良いがそこに置く物なんて端に寄せたばかりの机や椅子しかない。

机を端に寄せたことによって、むしろ無駄に広くなったスペースが虚無感を感じさせる。

休む為の場所なのにベッドどころか布団もない。

(これでどうやって休めと言うんだ)

 

いくら汚れや埃がないと言っても、床の上でそのまま横になる気にはならない。

椅子に座って机にうつ伏せになって寝ることも考えたが、起きた後に額や頬に赤く跡がついたままマイルームを出たら、とんだ恥晒しになる。

 

「いかが致しましたか、御主人様?」

 

「あ、あぁ。どうやって休もうかと思いまして、布団もなければソファーもないですし……

普通のウィザードであれば、ハッキングかなんかして部屋をカスタムするんでしょうけど」

 

アインツベルンがライルに与えたのは聖杯戦争に勝つための礼装と術式のみ。それ以外の無駄な物は何一つとして与えられなかった。

 

「まぁそういった技能がない代わりにマスターとしての能力は高いんだけどね。かの大英雄ヘラクレスをバーサーカーのクラスで呼び出しても平気なくらいには。

まぁ完全にオーバースペックな訳だけど。

はぁ……せめて床が畳なら横になれるんだがなぁ」

 

最後の一言は独り言だったが、キャスターには聞こえていたようだった。

 

「御主人様がお望みとあらば、不肖この私めが叶えましょう」

 

「え?」

 

キャスターの発言がどういう意味なのか疑問に思ったのも束の間の事だった。

教室の床の上に畳が出現したのだ。

 

「おぉ! これはどうやって?」

 

「キャスターのクラススキルの陣地作成でございます。あまり得意ではないのですが、これくらいでしたら、私にもできますので、よかれと思いまして」

 

キャスターがそう言うと今度は畳の上に卓袱台と座布団が出現する。

 

「いいよ! 凄くいい!」

 

久しぶりに嗅ぐ畳の匂いに興奮していたライルはキャスターの手をとる。

 

「最高だ! 最高だよ君は!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

掴んだ手を上下に振りながら言うライルに若干引きながらキャスターは答えた。

 

 

///////////////

 

 

「んっんん……。さて、それじゃあお互いの戦力把握をしませんか」

 

落ち着きを取り戻してから、少し休むとライルは話を切り出した。

 

「戦力把握ですか?」

 

「えぇ。さっきアリーナで言ってた呪術について、教えて貰えますか?」

 

「かしこまりました御主人様。呪術とは、自身の体を素材に物理現象を起こす術でございます」

 

「体を素材にって……大丈夫なんですか?」

 

「はい。体を素材にと言っても体の一部であればうぶ毛一本でも大丈夫ですので」

 

「なるほど……。

では他に魔術との違いは他に何かあるんですか?」

 

「魔術は魔力を現象化しているものですが、呪術は文字通り呪いを現象化しているので、そもそもの起源が魔術とは異なります」

 

「つまり、魔術の一種ではなくて魔術とは完全に別ジャンルって事か……。

という事は三騎士クラスの持つ対魔力の効力はどうなるんですか?」

 

「魔力を用いた攻撃でないため、対魔力を無視したダメージを与える事が出来ます」

 

「凄いな……」

 

自分が召喚したサーヴァントがキャスターだったので、対魔力が高い相手と戦う時はどうしたものかと悩んでいたが、話を聞く限り杞憂だったようだ。

正直な話、ライルは自分が召喚したサーヴァントは完全にハズレだと思っていたが天は自分を見放さなかったようだ。

 

 

///////////////

 

 

「では、僕の番ですね」

 

呪術の説明を一通り受け理解すると、今度はライルが自身の力についてキャスターに説明を始める。

 

「先ほど言った通り僕にはハッカーとしての技能は皆無ですが、聖杯戦争に勝つ為に与えられた術式があります」

 

「もしかしてエネミーや凛さんの攻撃を防いでいた、あの見えない壁でございますか?」

 

ライルは黙って頷き、続きを話し出す。

 

「是、十二の試練(ゴッドフィンガー)それが術式の名前で、僕に対するBランク以下のダメージを完全に遮断しAランク以上のダメージは11回分無効化出来る」

 

「凄いですね……」

 

この術式は、とある英霊の聖遺物を元にその英霊の宝具の神秘を再現したものである。それを再現出来たのはムーンセルの中が電子空間だったからであって、例え地上に神秘が残っていたとしてもそれを再現する事は絶対に叶わないだろう。

それに、再現したと言っても完全に再現出来た訳ではないことをライルは知っている。あのゲームではAランク以上の攻撃を受けたら確かにストックは一つ減るが、その攻撃に対して耐性がつくので12回別の方法で殺す必要があり、更に数日休めば減ってしまったストックも回復出来ていた。それに比べライルを守る術式は攻撃に対する耐性も付かなければ、ストックも回復しない。それでも十分に強力な盾であるのは変わらないが。

 

(爺さんの目論見としてはバーサーカーなどの圧倒的な力を持つサーヴァントに勝てないと判断した相手マスターやアサシンが、マスターである俺を直接狙ってきた時用の保険なんだろうが……まぁ宛が外れたな)

 

(危なくなったら、御主人様の後ろに隠れるとしましょう……)

 

 

///////////////

 

 

「さて、今日はこれくらいにして、そろそろ寝ようと思います」

 

「でしたら、こちらをどうぞ」

 

そう言ってキャスターが差し出したのは布団だった。

 

「おぉ! ありがとう、キャスター!」

 

座布団を枕にして寝ようとしていたライルだったが、キャスターからの思わぬサプライズで、久しぶりに布団で寝れる事を我を忘れて喜んだ。

 

「キャスターも寝るといいよ。サーヴァントに睡眠は必要ないだろうけど、あくまで肉体的な話しだろ。人間の三大欲求は食事だけじゃなくて睡眠もだし、次の日までずっと起きてても暇だろう」

 

「えぇと……」

 

「別に朝が早い訳じゃないけど、俺はもう寝るよ」

 

「あの私は……」

 

(久しぶりにいい夢が見れそうだ……)





転生者と言ったら精神的に大人で落ち着いている主人公もいれば、子供っぽい性格の主人公もいますよね。
特に俺TUEEをやってる主人公は後者が多い気がします。
今作の主人公であるライルは完全に後者側ですね。
話したくない相手とは話そうとしない。嫌いな相手にハッキリと嫌いと言ってしまう。感情的になると素が出る。

主人公はラニを嫌って、いますが作者は別にラニが嫌いな訳ではありません。
ただ、ライルとおなじホムンクルスという事でライバルポジにしようかなと思った結果がアレです。
もう一度言います、作者はラニが嫌いではありません。
作者のラニへの印象は本編中でライルが語っています。
正直な話、パンツ履いていない事よりも、裸カーディガンの方がヤバいと思います。裸にカーディガンって紐ビキニよりエロくないですか?


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1-3

ついに亀更新開始しました。
1月に1話投稿出来ればいい方ですかね……。

そしてfate/goもサービス開始しましたね。
自分は林檎勢なので、まだ出来ませんがリセマラするならタマモキャットで始めたいと思います。
まさかキャス狐本人より先にタマモナインが実装されるとは思いませんでしたね(笑

まぁどうでも良い話は置いといて、ついに本編でオリキャラとオリ鯖が出ます!
オリ鯖出したけど、今後fate/goでちゃんとしたの出てきそうで怖いです。
出てきた場合はextraと外典のヴラド三世みたいな感じで別物だと考えて下さると助かります。

では本編をどうぞ



眩しい夢を見た。

 

幸せそうな顔をした少女の夢だ。

 

夢の中で少女は、一人の男へと献身的に尽くしていた。

 

羨ましい。

 

男がではなく、少女に対してそう思った。

 

 

///////////////

 

 

朝になりライルが目を覚まして、だらしなく欠伸をしていると横から声をかけられた。

 

「申し訳ございません。起こしてしまいましたか?」

 

声の聞こえた方を見るとキャスターが布団をたたんでいた。

 

「あぁ……いや、そんな事ない」

 

目を擦りながらライルは答えた。

事実、キャスターが布団をたたんでいる音で目が覚めた訳ではなく、いつも通りの起床時間になったから起きただけであった。

 

「………」

 

部屋が無音になり気まずくなったライルは、キャスターがしていたように自分の寝ていた布団をたたみ始めた。

起きてみて、よくよく今の状況を省みたら緊張してきたのだ。

昨日初めて出会ったばかりの異性と同じ部屋で寝たのだ。

やましいことは何もなかったが、今になって気になり始めた。

 

「どうかなされましたか?」

 

「……ちょっと朝は弱くて」

 

ライルは朝に弱い訳ではなかった。

キャスターは昨日と変わらない様子なのに、自分だけ気にしていると言うのが恥ずかしかったから嘘で誤魔化したのだ。

だけど、気まずいという事実は変わらない。

 

「そうだ。朝食を食べに行きましょう」

 

「はい、御主人様」

 

なんとか二人きりの気まずい状況を抜け出すためにライルはマイルームから出ることにした。

 

 

///////////////

 

 

食堂では大した出来事は特に起こる事もなく、ライルはカレーで、キャスターはいなり寿司で腹を満たした。

今のところ参加マスターは128人いるが、食堂はあまり混雑していなかった。

このムーンセルの中ではサーヴァントだけでなくマスターも電子体である為に食事を必要としないからであろう。

ライルが食事を摂るのは地上では食べる事が出来なかった前世の料理を楽しむ為である。

 

ライルは食堂から出てアリーナに向かう途中、掲示板の前に岸波白野が立っているのを見かけた。

 

「今頃になって対戦相手の確認か?」

 

呆れ混じりに尋ねる。

しかし岸波が言うには、運営側の不手際で対戦相手の発表が一日遅れたらしい。

 

「そんな事もあるのか……それは、災な」

 

「はっ! まさか、この僕の一回戦目の対戦相手が岸波、お前だったとはね」

 

ライルと岸波の会話を不躾に邪魔してきたのはワカメのような髪をした少年だった。

 

「セラフも粋なことをしてくれるじゃないか、仮初めの友人とはいえ、予選で仲良くしていたお前と戦うことになるなんてな!」

 

緊張感が欠片も感じられないその発言にライルは呆れた。

 

「岸波さん……友達はある程度選んだ方がいいよ」

 

ライルの発言に何か言いたそうな顔をする岸波だったが発言をする前に、ワカメ頭の少年がそれを遮る。

 

「お前さぁ、今は僕がコイツと喋ってるんだけど余計な茶々を入れないでくれない?」

 

「先に話していたのは俺なんだが……まぁ今は好きにすると良いよ。どうせその横暴も一回戦までだ」

 

「なっ! おいお前それは一体どういう意味だよ」

 

最後の方は小声で言ったライルだったが、聞こえてしまっていたらしい。

 

「どういう意味も何も遊び感覚の君が、どんなサーヴァントを召喚したか知らないが、岸波さんには勝てないって事だよ」

 

「お前……何処の誰だか知らないけど、この僕を馬鹿にしてるのかい」

 

「何処の誰だか知らないが、君がそう感じるならそうなんだろ」

 

ライルとしては警告のつもりで言ったのだが、どうやら馬鹿にされていると受け取られたようだ。訂正してまで警告する義理もないので、それを伝える事はしない。

 

「アジア圏ゲームチャンピオンの僕を知らないだって……馬鹿にしやがって!

ライダー! アイツを潰せ!」

 

少年の怒号を受けて現れたのは古風な銃を携えた赤い女だった。

 

「気に入らない相手は潰す。良い悪党っぷりだよシンジ!

本来なら、予定外の仕事は特別報酬を払って貰う所だが、アタシもコケにされちゃあ名が廃る。今回の報酬はまけといてやるよ」

 

銃を構えたライダーに警戒してキャスターが実体化しかけたがライルはそれを手で制する。

 

「これ以上構うのは時間の無駄ですから、アリーナに向かいましょう」

 

「行かせると思ってんのかい?」

 

そう言う、ライダーを尻目にライルはその場を立ち去る。

銃声が背後から聞こえたが、ライルは気にもしなかった。

 

「おい、ライダー! 僕は潰せって言ったんだぞ威嚇射撃をしろなんて言ってない!」

 

「いいや、シンジ。アタシは空砲なんか撃っちゃいないよ。中々に手強い相手みたいだねぇ」

 

「ちっ……まぁいいや、あんな腰抜け僕が潰すまでもない。

おい岸波、アイツは僕がお前に勝てないとか言ってたけど。調子に乗るなよ、この僕がお前なんかに負ける訳がないんだからな!」

 

 

///////////////

 

 

アリーナに踏み入れると昨日と雰囲気が違う事に違和感を感じた。

アリーナの中が昨日と比べると明るくなっていたのだ。

 

「いや、明るいと言うより、眩しいと言う方が正しいか」

 

ライルが呟くと、何処からともなく笑い声が聞こえ始める。

 

その笑い声……高笑いは一つではなく二重で聞こえてくる。

 

「フハハハハハッ!」

 

「オーホッホッホ!」

 

片方の高笑いは以前に何度も聞いた事のある声であった為にライルはその声の主の正体が分かった。

 

「あらあら、ライルさんではありませんの。

ごきげんよう、ライルさん」

 

「こんにちわ、マリーさん」

 

マリー・マクシミリアン、予選ではライルと同じ生徒会に所属し役職は会計だった少女、そして本戦一回戦目の対戦相手だ。

予選で一緒に生徒会の仕事をしていた時は真面目に制服を着ていたが、今は髪を巻いてゴスロリのようなドレスを着ていた。

そして、そんなマリーの後ろには太陽のような光りを体から放つサーヴァントらしき男が立っていた。

 

「あぁ……ついに出会ってしまいましたわ。

愛し合う二人が殺し合わなければいけないなんて残酷な運命。

ならば、最後まで顔を合わせまいとしていましたのに……」

 

まるで劇で役を演じるかのように言うマリーを胡散臭そうに見るライル。

 

「何が顔を合わせまいとだよ。思いっきり待ち伏せてただろ」

 

「そ、そんな事はありませんわ!」

 

上擦った声で答えるマリーに彼女の後ろに立つサーヴァントらしき男が口を出す。

 

「マリーよ。野次程度で取り乱していたら、劇にはならんぞ」

 

「その通りですわね。んん……」

 

男に諭されてマリーは声の調子を整えて、再び口を開く。

 

「あぁ、出会ってしまったのなら、いかに二人が深い愛で繋がっていようと殺し合わなければいけないなんて……これが聖杯戦争なんですのね」

 

「そもそも愛ってなんだよ……」

 

「愛……それは即ち人を愛することですわ!」

 

「愛の意味が分からないんじゃないんだが……ってか、そうだったとしても答えになってねえし」

 

マリーの言う愛し合う二人とはマリーとライルの事を指しているのだが、ライルは別にマリーを愛していると言えるほど好意を持っている訳ではなかった。

しかしそれは、マリーとて同じだろう。

つまりマリーは、そういうシチュエーションを楽しもうとしているのだ。

しかし、ノリの悪いライルの態度が気にくわないのかマリーに青筋が浮かび始める。

 

「五月蠅いですわね。貴方のそういう女々しいところ嫌いですわ」

 

「愛はどこ行ったんだよ……」

 

「ごちゃごちゃと……あぁもう貴方は大人しく私の悲劇の1ページになりなさい、ライル!」

 

「フハハ! 悲劇どころか、まるで喜劇ではないかマリーよ!」

 

自らのサーヴァントに笑われた事にマリーは顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

「お、お黙りなさい!」

 

「断る。ここからが戦の幕開けであろう? ならば主役は朕であるぞ!」

 

サーヴァントの言葉でマリーは落ち着きを取り戻す。

 

「……そうですわね。ここからは貴方の舞台ですわ。存分に踊りなさい!」

 

それはつまり戦闘の意思を表す言葉であった。

マリーが従えるサーヴァントは自らの手に弓を出現させそれを構える。

 

「キャスター、相手はやる気みたいです。初のサーヴァント戦、貴女の神秘を見せて下さい」

 

「かしこまりました、御主人様」

 

後ろに控えていたキャスターがライルの前に出て、札を構える。

 

「準備は整ったようであるな。では開演といこうぞ!」

 

そう言うとマリーのサーヴァントは構えていた弓の照準を大きく上にずらして矢を放った。

 

(威嚇射撃? いやそんな事をする理由が見当たらないな……)

 

「朕こそが太陽である(ジュ スィ アポロン)!」

 

上方へと打ち上げられた矢はいきなり砕けて消えてしまった。

なんだったのかと思い、視点を逸らさずに見ていると丁度矢が砕けた場所に太陽の如く輝く光の球体が出現する。

 

「いかなる時も太陽の光は降り注ぐであろう」

 

「っ!? キャスター、防御系の術を上方向に展開して下さい!」

 

「あ、はい。呪層・黒天洞!」

 

鏡を上へと構えたキャスターが呪術を使うのとほぼ同時に宙に浮かんでいた光の球体から、光の矢が雨のように降り注ぎ始めた。

 

「フハハ! 見事な判断であるぞ、少年よ!」

 

ライルを褒めるサーヴァントであったが、構えた弓の矢先はキャスターに向いている。

上から降り注ぐ光の矢は、キャスターの呪術で問題なく防ぎきっているが、見た所どうやら全方向からの攻撃を防げる訳ではなさそうだった。

それに気づいているのはライルだけではない。当然相手も気づいていた。

矢が降り注いでいる間に横から矢を放たれたら今のキャスターには防ぐ手立てはないだろう。

 

「太陽神の(アポロン)ーー」

 

サーヴァントが弦を引くのと同時にライルは走り出す。

 

「ライルさん!? 何をなさっておりますのっ!」

 

マリーが驚きの声を上げる中、ライルはキャスターの前へと出た。

 

「ーー弓(バレエ)!!」

 

弓から放たれた矢は閃光となりライルへと遅いかかる。

マリーはライルがどうなったのか見たくないと思ったのか目を逸らした。

その数秒後、マリーに聞こえてきたのは己のサーヴァントの笑い声だった。

 

(こんなにも呆気なく終わってしまいますのね……)

 

しかし、マリーはすぐにそれが思い違いだと知る。

 

「フハハ! 朕の矢を防ぐか! よいぞよいぞ、そうでなくては、活劇は映えんからな!」

 

「え?」

 

「何を惚けておるマリーよ。礼が返ってくるぞ!」

 

マリーが視線を戻すと、無傷で立つライルと札を構えるキャスターの姿がそこにあった。

 

「氷天よ、砕け!」

 

いきなりの攻撃だったが、マリーは咄嗟の判断でサーヴァントへと命令を下す。

 

「や、矢を放って相殺しなさい!」

 

「承知したぞ、マスター。ヴァルス・ド・ソレイユ!」

 

キャスターが投げた札に光の矢が放たれるが、札に当たる前に札から漏れる冷気に当たり矢は凍りつき地面へと落ちた。

しかし、札は勢いを弱めることはなく標的へと飛んでいく。

避けるのが間に合わないと判断し、サーヴァントは自らの持つ弓で叩き落そうとすると札に触れた瞬間弓ごとそれを持つ腕が凍りついた。

 

「くっ……なかなかに厄介ではないか」

 

「一度下がりなさい!」

 

マリーはサーヴァントに指示を出すがキャスターは既に次の攻撃の準備が出来ていた。

 

「気密よ……」

 

「くっ……防ぎなさい!」

 

「つど……」

 

しかし、キャスターが札を投げようとした瞬間、アリーナ中に大きな音が鳴り響き、キャスターは何事かと手を止めた。

 

『セラフより警告≫アリーナ内でのマスター同士の戦いは禁止されています』

 

「ここまでか……キャスター、術を中止してもらえますか?」

 

「かしこまりました。御主人様」

 

『戦闘を強制終了します』

 

アナウンスが鳴り止むと同時にライルとマリーの間に電子の壁が出現した。

 

「ライルさん、貴方も中々やりますわね。

まさにヨーロッパ圏ゲームチャンピオンである、この私の相手に相応しいですわ!」

 

「しかり、見事な魔術であったぞキャスターよ! 朕の舞台へ乗せるに相応しい相手である!

喜ぶがよい、決戦では最高の舞台を用意しようぞ!

主役はもちろん朕であるがな!」

 

捨て台詞のような語りを終えるとマリーとそのサーヴァントは登場してきた時と同じように高笑いをしながらリターンクリスタルを使用し帰っていった。

ギラギラと太陽のように輝いていたサーヴァントがいなくなる事によりアリーナ内は元の明るさに戻っていた。

 

「……僕たちも帰りますか?」

 

「はい。そういたしましょう、御主人様」

 

 

///////////////

 

 

「先ほど戦った相手のマスターは、御主人様のお知り合いなのですか?」

 

マイルームでひと息をついたところでキャスターはライルに問いかけた。

 

「あぁ、はい。予選で僕は生徒会のロールを充てがわれてまして、彼女も同じく生徒会の内の一人でした。

まぁ、予選の彼女はあそこまで酷くはなかったんですけど……」

 

予選でも演劇が好きだったマリーは厨二病的な行動を取る事が時たまあったが、あそこまでは酷くなかった。

 

「極め付けがあのサーヴァントですね。類は友を呼ぶと言うか、なんと言うか……。

あそこまで真名を隠す気がないのは余程強さに自信があるのか、はたまた馬鹿なだけなのか」

 

「真名と言いますと、自らの口にしていた太陽神アポロンでしょうか?」

 

「いえ、それは違うと思います。僕も最初はそうだと思ったんですけど。彼が太陽神の弓を使ったあのとき正直なところ『是、十二の試練』のストックを消費する覚悟でしたが……実際は、ストックが減ることはなかったんです」

 

「つまり、ダメージはBランク以下だったのですか?」

 

「そういうことになりますね。あれが本物の太陽神の弓であればダメージがAランクを超えないのはおかしい。

まぁそれでもあの矢は割と危なかったのでクラスはアーチャーで間違いないと思います」

 

「では、アーチャーの真名は太陽神を自称するような人物なのですね」

 

「それに加えて演劇好き。もはや図書館で資料を漁る必要もないですね」

 

太陽神を自称し、演劇を好む歴史上の人物。

 

「アーチャーの真名はーー」

 

これで真名が間違っていたら、あのサーヴァントは大物の役者に違いない。

 

「ーールイ13世」

 

「……御主人様」

 

「ん?」

 

「おそらく14世かと……」

 

「………」




オリ鯖の真名当てを楽しみにしてた方は、ごめんなさい。
勝手な自分のイメージで、このサーヴァントはイスカンダルよりも自己主張激しそうだなって思った結果がこれです。
まぁイスカンダルと違って名前を自分から名乗らなかっただけ……


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1-4

いつも通りキャスターと共に朝食を食べ終えたライルは、図書室へと向かおうと廊下を歩いていた。

そしてその途中で、何やら困った様子の岸波白野を見掛ける。

知り合いでなければ無視していたライルだったが。

知り合って間もないとはいえ困っている知人を無視するのは、気持ち的に良いものではないと思ったライルは岸波に声をかけた。

話を聞くとワカメ頭の少年、名前は間桐慎二のサーヴァントの真名を調べようとしたところ。

図書館にある間桐慎二のサーヴァントに関係する書物が全て隠されてしまったらしく、調べようにも調べられなくなっているようだ。

 

「なんというか発想が子供じみてるけど……まぁ真名を隠すには良い手ではあるな」

 

ただ、そこまでするのなら、わざわざ隠さないで自分で所持しておけば良いのに……とライルは思ったが口には出さなかった。

 

「まぁ君の友人を結果的に煽ってしまったのは俺だろうし。しょうがない……一緒に書物を探す事は出来ないけど、相手の真名を探るヒントにくらいは教えるよ。

まぁ俺も君の相手の真名を知ってる訳じゃないけど」

 

間桐慎二のサーヴァント、クラスはライダーと呼ばれていたからライダーであろう。

あのような格好をしていてライダーのクラスであれば、海賊かそれに準ずる何かだろう。

仮に海賊だったとして、性別が女である海賊で有名どころは、男装海賊メアリ・リードとアン・ボニー、後は海賊王女アルビダなどが挙げられる。

 

「まぁ二人だからこそ有名なアンとメアリーの片割れだけを召喚したのであれば大した相手では無いだろう。そんなサーヴァントを召喚して自信満々な態度なのはちょっと考えられないし違うだろう」

 

では、ライダーの真名はアルビダなのかと岸波は問うが、ライル否定した。

 

「多分、それも違う。アルビダは、海賊とは言え元王族だ。だが、あのサーヴァントからは王族の気品というか威光というか……まぁ抽象的なんだけど、そういうったものがまったく感じられなかった。

んんと……岸波さん、君はレオナルド……レオナルド・B・ハーウェイを見た事があるか?」

 

突然の問いに岸波は肯定するように頷いた。

どうやら見た事があるどころか何度か会話をした事があるらしい。

 

「簡単に言えばレオナルドと比べて、あのサーヴァントにはそう言ったものが感じられなかった。

あのサーヴァントは根っからの海賊だろうな」

 

結局は候補が消えただけで振り出しに戻ってしまったのではないのかと岸波は思ったが、ライルが真に伝えたかったヒントはここからであった。

 

「有名どころの女海賊は全部違うだろうってことはさ、あのサーヴァントは女海賊じゃないってことなんじゃないか?」

 

ライルの発言に岸波は疑問符を浮かべる。

 

「つまり、全てが史実通りではないってこと。例えば……性別とかね。

俺に言えることは、このくらいかな。サーヴァントだって一目しか見てないし。

あとは君のサーヴァントに聞くといいよ」

 

言いたい事を言い終えたライルは、別れを告げてその場から立ち去ろうと歩き出す。

後ろから岸波が礼を言う声が聞こえたがライルは振り向かずに手だけ振ってその場をあとにした。

 

それからアリーナへと向かったライルだったが、マリーと鉢合わせることもなく決戦の日を迎える。

 

 

///////////////

 

 

「ライルスフィール・フォン・アインツベルン、マリー・マクシミリアン

扉はひとつ、再びこの校舎に戻るのも一組。

覚悟を決めたのなら闘技場の扉を開こう。

両者、前へ」

 

くつくつと今にも嫌な笑みをこぼしそうな顔をして神父は言う。

闘技場への扉が開かれると、ライルは少し迷いながらも足を踏み入れた。

ライルにここで戦わずして引き返すという選択肢はない、そして負けるつもりもない。しかしそれは

 

(いや、そんな事を考えても、しょうもないか……)

 

「ごきげんよう、ライルさん」

 

「こんにちわ、マリーさん」

 

「浮かない顔ですわね」

 

躊躇いながらも足を進めたライルを見てマリーが言った言葉にギクリとする。

 

「それは……気のせいだよ」

 

何を躊躇っているのか、それを口にすることは出来なかった。

 

(間桐慎二に遊び感覚じゃ勝てないとか言いながら……結局、中途半端な決意なのは俺も同じか)

 

「まぁ、無理もありませんわ。私も貴方と同じ気持ちなのですのよ」

 

「え?」

 

「何故、愛し合う二人が戦わないといけないのか……あぁ運命とはこんなにも残酷ですのね」

 

「まだ続いてるのかよ、それ」

 

敗者がどうなるのか忘れたように、或いは元々負けるつもりはないように呑気なマリーのもの言いに呆れるライルだった。

しかし、それが逆にライルの躊躇いを消した。

 

(そうだ、そもそも聖杯さえ手に入れば、ここでの生死など関係なくなる。要は無駄なことを考えずに勝てば良いんだ)

 

それに元々考えないようにしていたことである。ならば同じように考えないようにすればいいんだ、とライルは思い至った。

 

「フハハ! 迷いが消えたな少年よ。そうだ、それで良い。舞台に乗る役者がそんなことでは、折角のステージも台無しになってしまうからな!」

 

「では、行きますわよ」

 

マリーが命令を下す。

 

「あぁ、来るなら来い」

 

「いかがいたしますか、御主人様」

 

「今のところ昨日話した通りアーチャー相手には後手で頼みます、キャスター」

 

キャスターの使える呪術の効果を考えると先手で攻撃をするより、後手で守りやカウンターをする方が向いているとライルは考えた。

つまりは相手の行動に合わせて戦うということだ。

普通であれば、そんな戦い方をすれば勢いに押され勝てないだろうが、キャスターの場合は相手の行動を見て素早く判断さえ出来れば押し返すことができる。

おまけに相手はアーチャーである以上、動作と攻撃に多少のタイムラグがあるから、判断がしやすい。

そう考えたからこその戦法だ。

 

「アーチャー相手には、か……フハハ! マリーよ、お前の催しは見事な成功を収めたようであるな!」

 

「当然ですわ。私の書いた台本ですもの」

 

「フハハ! マリーよ、お前は役者より劇作家に向いているのではないか?」

 

「ならば主演、脚本、監督すべて私の劇を作るだけですわ!」

 

「いったい何の話を……」

 

マリーとサーヴァントの会話の内容を理解しきれずライルは困惑の言葉を口にする。

しかしその声は相手のサーヴァントの声によって掻き消される。

 

「では、幕開けと行こうぞ!」

 

そう言って相手のサーヴァントは腰に差していたレイピアを抜いた。

 

「なっ!?」

 

そして、そのままキャスターへと韋駄天の如く走りよってくる。

 

「キャスター! 近づかれないように距離を……いや、防いで下さい!」

 

「フハハ! 遅いぞ!」

 

相手のサーヴァントが突き刺してくるレイピアをキャスターは鏡ではたいて防いだ。

叩かれて空を刺すレイピアを素早く引き戻し再びキャスターへと突き出す。

そして、それをキャスターは鏡ではいて防ぐ。

状況はそれの繰り返しであった。

ライルが見たところ、俊敏のステータスはキャスターの方が勝っているので、今のところ持ち堪えているが防戦一方で拉致があかない。

 

「すみません、キャスター。そのまま後退しながら凌いで下さい!」

 

弓を使っていたからアーチャーだと勘違いしていた。

剣を使うアーチャーがいるのだから、弓を使うアーチャーではないサーヴァントがいてもおかしくないのだ。

その早合点で見事に不意をつかれて判断が間に合わなかったのは自分の所為だ。

その状態をキャスター自身でどうにかできるのなら既にしているだろう。

自分の所為でこうなったのだから、どうにかするのも自分だ、とライルは考えた。

 

「降霊再現-ナ……ラ………」

 

消え入るような声でライルは呟きながら、自分の髪の毛を抜くと、抜いた髪の毛がハルバードへと質量を無視した変貌を遂げた。

自身の身長を越えているハルバードをライルは軽々と持つと、敵のサーヴァントと一緒に後退してきたキャスターの方へと走り出す。

キャスターの近くまで行くと地面を強く蹴り飛ばし跳躍し戦っている二騎のサーヴァントを飛び越える。

 

「なんと!」

 

驚きの声を上げた相手のサーヴァントの声に向かってハルバードを伴い振り返る。

当然ながら、サーヴァントの速さに追いつけるはずもなく回避されてしまう。

しかし、それでキャスターへの攻撃は止めることができたのだ。

 

「キャスター、風で追い討ちお願いします!」

 

「はい! 気密よ集え」

 

ライルの攻撃は避けることができたが絶え間なくキャスターの投げた札がきたことにより避ける余裕がなかったサーヴァントは防御の構えをとる。

しかしそれはライルの思惑通りの行動であった。

札はサーヴァントに触れる直前に消え、そこへ風が流れ込んでいく。

やがて風はサーヴァントを取り巻くように回り始める。

風の勢いは激しくなり旋風へと変貌し、サーヴァントを切り刻んだ。

 

「キャスター、これ以上の追撃はなしで大丈夫です。今のうちに距離をとりましょう」

 

「はい、御主人様」

 

キャスターの使った呪術の効果は相手の防御を無視してダメージを与え防御の行動をした相手にスタン効果を与えるものである。

つまり相手のサーヴァントは短い間だが動けない状態の筈だ。

短い時間でも距離を開くには十分である。

ライルは持っていたハルバードを捨てるとキャスターと共に相手のサーヴァントから離れる。

ライルが捨てたハルバードは、地面に落ちると同時に砕けて消えていった。

 

「フハハ……驚かせてくれる。まさかマスター自身が直接攻撃してくるとはな」

 

「ら、ライダー、一度下がりなさい!」

 

ライダー、焦ったマリーは己がサーヴァントをそう呼んだ。

つまり、あのサーヴァントの真のクラスはライダーということになる。

 

「それはできんな、マリーよ」

 

「な! ふざけていますの!」

 

「いいや、違うな。単純に身体が動かんのだ。おそらく、そういった類の魔術だったのであろう……フハハ!」

 

「それならそうと早く言いなさい! 『cure();』」

 

マリーがライダーに向かって状態異常を回復させるコードキャストを使ったことによりスタン効果が本来よりも早く治ってしまったが、ライルとキャスターはマリーとライダーからは十分な距離を取ることができた。

 

「それよりもマリーよ」

 

「それよりもって、なんですの!」

 

「朕のクラスを明かしたということは、始めるということで相違ないな?」

 

「え? クラスを……あ、あぁそ、そうですわ!」

 

その様子を見ていたライル。

 

「あの反応は絶対うっかり言ってしまっただけだよな」

 

「はい。私もそうかと思います」

 

「しかしライダーのあの口ぶり何か仕掛けてくると思いますから、警戒を……あと、すみませんでしたキャスター」

 

「はい? 何がですか?」

 

「えぇと……詳しくは後で謝ります。それはそうとライダーが何かして来るみたいです」

 

抜いていたレイピアを元の場所に戻したライダーはライルとキャスターに向き直し、堂々とした立ち姿で高らかに宣言をし始める。

 

「既に気づいているであろうが、我が名はルイ! フランス皇帝である!

またの名を太陽王!」

 

やはりか、とライルは思う。

クラスがアーチャーではなくライダーであったこと以外は概ね予想通りだった。

 

「クラスはライダー! 朕が乗るのは馬でもなければ、戦車でもない!

朕が乗るのは至高の舞台! 舞台に乗り舞台に乗せる、それが朕をライダー足らしめる由縁である。

フハハハハッ! さぁ共に歌い踊ろうぞ

では、誘おう朕が作りし珠玉の至宝

『魔法の島の歓楽(パレー・ド・ヴェルサイユ)』へと‼︎」

 

ライダーが叫び終えると同時に景色が一変する。

そこは今なお現存する王宮、ヴェルサイユ宮殿その場所であった。

 

「さぁ聞くが良い。朕こそが至高の太陽王ぞ!

すなわちこの場において、朕こそが国家である!」





ほんとうはこの回で1回戦をおわらせようとしていたんですが、色々あって分割することに……
次回で1回戦終了予定。

それはそうとfate/goも無事(?)に始まりましたね。
リセマラするか迷ったんですがタマモキャットを普通に引いたのでリセマラは止めておきました。
バーサーカーは強いね(イリヤ並感)


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1-5

一年以上久しぶりの投稿
これぞ、超亀更新
書いては満足出来ずに消しての繰り返し
それが不毛だと思い、取り敢えずあって無いようなクオリティよりも
完結させる事を優先させようかと思った結果の駄文です。

そろそろエクステラも発売ですし、それで創作意欲が再燃したのもありますかね。

fgoの六章は面白かった……。
12月に来るという七章が楽しみですね。


それは太陽を背負った男の歴史である。

男は幼き頃から王道を歩んでいた。

補佐を受けながらも王としての責務を卒なくこなしていたと言われている。

そんな男だが、歳相応に演劇に興味を持ち、自分も舞台に立ちたいと望んだ。

そうして立った舞台で、男が演じたのは太陽の神アポロンだった。

それ故に男は太陽王と呼ばれるようになる。

 

民からすれば若い王はただの傀儡にしか見えなかっただろう、そんな王が能天気に舞台に立っていたのだから、皮肉でそう呼んでいたのかもしれない。

 

そこまでの話が事実かどうかは分からない。

歴史とはそもそも何が事実だったのかなど定かではないのだから。

 

しかし男はあることに気がつくことになる。

民が憂いている時は己も憂いていた、己が笑った時は民も笑っていた。

その様子はまるで本当の太陽のようではないか。

太陽が曇れば地は暗く、太陽が輝けば地は明るくなる。

だから男は楽しむことにした。

王の責務も演劇も両立ではなく、一緒くたにして。

彼は民の気持ちを理解していた訳ではない、ただ単に自分が楽しめる口実が欲しいだけだったが。

男が楽しんでいる時、民も同様に楽しんでいたのだ。

それを確信した時、男は名実ともに太陽王となった。

そんな男が創り出した最高の舞台。

それこそがヴェルサイユ宮殿。

そこで行われた至高の祭典。

それこそが魔法島の歓楽。

ライダーのサーヴァント、太陽王ルイ14世の宝具。

それこそが『魔法島の歓楽(パレー・ド・ヴェルサイユ)』

 

 

「では、舞台上のルールを伝えようではないか」

 

出現したヴェルサイユ宮殿の中には幾多の自動人形が行進をしていた。

その自動人形達の中心にある馬車の上でライダーは高らかに宣言をする。

 

「これより、朕以外の者の宝具の使用を禁ず」

 

そう宣言した瞬間、キャスターの周りに漂っていた鏡が地に落ちた。

 

「御主人様……触る事も出来ないみたいです」

 

「……これは凄い厄介な宝具ですね」

 

正確にはどういう効果の宝具か分からないがライダーの言葉には逆らえないようだ。

何度も使えるのかは分からないが、もし何度も出来るのであれば、これ以上ライダーが言葉を発する前に決着をつけなければ……

宝具を展開した相手に無闇に近づくのは悪手だが、幸いなことに自分のサーヴァントはキャスターであり、遠距離からの攻撃に秀でている。

 

「キャスター、様子見する余裕はなさそうなので、畳み掛けましょう。風の攻撃で」

 

風の攻撃であれば、相手が素早い攻撃をしてこようが強力な攻撃をしてこようがガードしてこようが、関係なく確実にダメージを与えられる。

 

「はい。……気密よ唸れ」

 

しかし、キャスターが投げた札はライダーの前で行進していた自動人形が掲げた旗によって防がれてしまう。

 

「そうも簡単にはいかないか」

 

「私の前で日輪を名乗った者の劇というのですからどんな物かと思えば、とんだ人形劇ですね」

 

「まあ、そう言うなキャスターよ。朕の輝きの前では他の役者など霞んでしまうであろう。ならば人ではなく人形でも問題あるまい。主役である朕さえ見ていれば良いのだからな!」

 

やはり、ライダーの周りで行進している人形は、ただのオブジェクトではなかったようだ。

恐らくサーヴァント程の強さは持っていないだろうが数が多い。

幾体かは処理しなければライダーにキャスターの攻撃は届かないだろう。

ならば……

 

「僕が人形を何とかするので道が開いたらライダーに攻撃を」

 

キャスターにそう伝えてライルは行進している人形のもとへと走り出す。

 

「ダメですわよ。パレードに乱入だなんて、無粋な事をなさっては」

 

進行方向へとマリーが立ち塞がったがライルは立ち止まらずに走り続ける。

走りながら髪の毛を一本抜くと、ハルバードへと変質させ、マリーへと振り下ろす。

 

「オーホッホッホ! 見てから回避余裕ですわね!」

 

「流石はゲーマーと言ったところか……だが」

 

横方向へとローリングをしながら回避したマリーに追撃はせずライルは再び人形の下へと走り出す。

 

「ワタクシに背中を見せるだなんて随分と余裕ですわね!」

 

マリーは何処からか取り出した銃を構えライルへと撃ち放つ。

その攻撃が是、十二の試練に弾かれるのを確認したところでライルはドヤ顔で言い放つ

 

「余裕だね」

 

「なっ!」

 

「降霊再現…イ………ブ…」

 

人形の下へと辿り着いたライルは、まるで無双ゲームをしているかのように一度に何体もの人形を薙ぎ払った。

 

「ほぉ……やはり一時的ではあるが身体能力が英霊の域まで達しているようであるな。面白い! だが主役は朕ぞ、今は控えよ」

 

「気密よ……」

 

「これより、魔術及びコードキャストの使用を禁ず」

 

ライダーの言葉により、ライルの手に握られていたハルバードは元の髪の毛へと戻ってしまう。

そしてライダーの手には弓が握られていた。

 

「っ!? キャスター! 攻撃を中止して避ける事に集中して下さい」

 

「朕こそが太陽である(ジュ スィ アポロン)!」

 

ライダーが上方へと放った矢は光の球体となり、そこから光の矢がキャスターへと降り注ぐ。

連続して降り注いでいる矢を走りながらギリギリのところで避ける事に成功しているが……いや、徐々にキャスターの服にかすり始めていた。

 

(流石にまずいな……)

 

宝具を使えなくされただけならまだ何とかなったかもしれないが、攻撃手段や防御手段である魔術まで禁じられてしまっては……

 

(ん? 魔術の使用を禁じた?)

 

何かに気付いたライルは先程とは打って変わって人形を背にしてキャスターの下へと走り出した。

 

「何をする気か知りませんが、もう私を無視して行かせませんわよ……ってあれ?」

 

マリーが銃を構えるが、弾が発射される事はなかった。

 

「ど、どういう事ですのライダー! ワタクシまでコードキャストが使えなくなっていますわよ!」

 

「フハハハハ! マリーよ、下がっておれ。言ったであろう、今は朕が主役であると! マスターは一番近くで見ておれば良い、朕の陽光がどれほど偉大なのかを!」

 

特に何の妨害もなくキャスターの下へとライルは辿り着く。

光の矢の雨は降り止んでいたが、ついには避けきる事が出来ず、何度かキャスターへと直撃していた。

 

「すみません。僕の判断ミスで」

 

「いえ、そんな事は……っ! 御主人様あちらを!」

 

キャスターの指し示す方向を向くと、ライダーとその周りの人形がこちらへと迫ってきていた。

 

「すみません逃げてばかりになってしまいますが今はそれで耐えて下さい。キャスターもしかして……ですか?」

 

「はい、その通りです」

 

「なるほど、では……」

 

言葉の最後にライルはキャスターへとライダーに聞かれないように耳打ちをし、キャスターから離れた。

人形達は各々の武器を構え、キャスターへと振りかぶった。

しかし、武器が振り下ろされる事はなかった。

キャスターの掌底により人形の一体が周りの人形を巻き込んで吹き飛んだのだ。

 

「ほう! これは驚いたぞ、武の心得まであるのかキャスターよ」

 

「さて、どう思います?」

 

「フハハハハ! 良いぞ、良いぞ! 簡単に終わってしまっては詰まらぬ劇となってしまう故にな!」

 

なおも人形はキャスターへと迫り来るが、同じように掌底で吹き飛ばしていく。

 

「ふむ、こちらも同じことばかりでは芸がないと言われてしまうであろう。面白い物を見せてやろう」

 

ライダーがそう言うと周囲の明るさが突然暗くなった。

ライダーから発せられていた眩いほどの光が消えたのだ。

 

「人呼んで、雲隠れとな」

 

ライダーは馬車から飛び降りると人形達の中へと紛れ込んでいった。

そうしてライダーの気配が消え、姿をくらました。

それに気を取られてしまったのか、いつの間にかキャスターは人形に囲まれてしまっていた。

 

「フハハハハ!」

 

ライダーの笑い声が聞こえるが場所は依然として分からない。

そして、キャスターの背後へとレイピアの一閃が迫る。

 

「キャスター後ろです!」

 

ライルは、なんとか視界に捉える事が出来たが、キャスターへ伝えるのが遅く完全に避ける事が出来ず攻撃を受けてしまう。

慌てて、その方向へと掌底を放つが人形は吹き飛んでも、ライダーに当たった気配はない。

このままでは確実にまずい。

先程の矢といい、今のレイピアといいキャスターへのダメージはかなり蓄積されてきている。

予選の最初に戦った時もさほど強力でもないエネミー相手にダウンを取られたのだ、キャスター自身の体力はそう多くないだろう。

勝機を待っていても、一行に来る気配はない。

長引けば長引く程に不利になっていく。

 

(いっそ、もう使わせるか?)

 

打開策はあるがそれをしてしまうと、手の内を見せてしまう事になる。

そうなると今は何とかなっても、勝利へは遠ざかってしまう。

 

「ライダー! いつまでそんな事をしていますの! チミチミとして、派手さが、派手さが足りませんわ!」

 

マリーの言葉にライダーの手が止まる一瞬の隙。

 

「今です! キャスター、包囲からの脱出を最優先で」

 

再び人形はキャスターの掌底で吹き飛び、人形達の包囲の綻びから脱出に成功する。

今のはマリーのお陰で助かったと言うべきか。

 

「フハハハハ! こういった物は気に召さんかマリーよ! 退屈していたのならば、よかろう。そろそろエピローグとしようではないか!」

 

「そうですわね。キャスターも満身創痍のようですし、これ以上続けてしまっても蛇足ですわ」

 

包囲していたキャスターがいなくなった事によりバラバラになっていた人形達が急に整列し始めた。

そうする事によって人形達に紛れていたライダーの姿をはっきりと視認する事ができるようになる。

整列した人形達が一斉に跪坐くと、再び輝き始めたライダーはゆっくりとそして堂々とした歩きで馬車へと戻った。

 

「キャスターそろそろです」

 

「はい」

 

ライダーが馬車の上に立つと高らかに言葉を発する。

 

「キャスターとそのマスターよ。中々に驚かされた、故に面白かったぞ。これは、その礼だ。朕の至高の輝きを以って終幕としよう」

 

「ライルさん、悪く思わないで下さいまし。貴方との触れ合いもこれで最後ですわ。機会があればいつか、また……」

 

ライダーが弓を構えると、放っていた太陽のような輝きがライダーの体から矢へと収束し、直接それを見ていられない程の眩しさとなった。

 

「これは偉大なる威光にして、至宝なる陽光。世を照らす日輪の輝き。とくと見よ!」

 

「キャスター! 準備を!」

 

「お見せ致します私の本気をば」

 

呪層界・怨天祝祭、次に放つ呪術の威力を上げる溜めの技。

それを静かにキャスターは発動した。

 

「何をする気なのか分かりませんけど、魔術の使えない貴方達が何をしても無駄ですわ!」

 

ライダーが矢を放つとそれは空に浮かぶ太陽へと変貌する。

光の矢の雨を放ってきた時の物とは比べ物にならない程の眩しさ、まるで本物の太陽がすぐそこにあるかのような感覚。

 

「今一度名乗ろう、朕の名をそして王の名を!」

 

ライダーは馬車の上から飛び上がると、打ち上げた太陽よりも高い位置まで上昇した。

 

「今です、キャスター!」

 

ライルはそう叫ぶのと同時にキャスターを庇うような位置へ走って移動する。

 

「そう! それこそが太陽神王の弓(ジュ スィ アポロン バレエ)!!」

 

レーザー光線のような光がライルへと降り注ぐが、見えない壁のお陰でライルには今は届いていない。

しかし、それも時間の問題である。

ライルの目には亀裂のようなものが見えていた。

見えない壁にヒビが入っているのだ。

そしてそのヒビは徐々に広がっていく。

 

「いざや散れ、常世咲き裂く怨天の花……」

 

ライダーの光が止むのが先か、ライルの是、十二の試練が砕けるのが先か

何れにしても……

 

「常世咲き裂く、大殺界(ヒガンバナ セッショウセキ)!」

 

キャスターの呪術で終わりだ。

 

「なんと!」

 

矢(ビーム)を放ったライダーが降りてくる着地の瞬間、キャスターの呪術がライダーへと直撃する。

是、十二の試練が破れる音と同時にライダーの絶叫が聞こえた。

破れる直前にライルはキャスターの手を引いてその場を離れた事によりライダーの矢の直撃を避ける事が出来た。

 

 

こうして、聖杯戦争第一回戦は幕を引いた。

 





キャスターはまだ、トワイスがマスターだった頃と同じただ従っているだけの状態です。
一目惚れじゃないキャスターを書きたかったが……さてさて、この状態からどうやって主人公に惚れるんでしょうかね
一年以上経っているのに、ぼんやりとしか考えていないので、どうなるかは私も分かりません(笑


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1-6

エクステラ発売記念、二夜連続投稿!!
一年以上経ってますけどストックは、もうありません。
そしてエクステラ発売……聡い方ならこの意味が……
いやぁ、エクステラ楽しみです。早くタマモが見たい。
因みに私はfgoで夏の星5確定の時には課金せず、水着鯖で課金しました。5千円だけでタマモ引けたのは運命力ありすぎた。
沖田さんやジャックと並べてキラキラしてます


「驚かされましたわ……魔術もコードキャストも禁じられていたのに、あれはどういうトリックを使いましたの?」

 

「簡単な話しだよ、彼女が使うのは魔術ともコードキャストとも、そもそもの根本が違う呪術という別の神秘だった、それだけだ」

 

「フハハハハ! 呪術とな! 道理で、使えるわけよ。成る程、自動人形を吹き飛ばしていたのも朕に気付かれずに呪術を使っていたという事か!」

 

地に背を付けながらライダーは笑う。

 

「そうして大した攻撃が出来ないと此方に思わせておいて、必殺の一撃の機を待っていたという訳か……大した役者であるな。だが、朕の光を遮ったアレは何だ、コードキャストは禁じた筈だが……いや、コードキャストでアレを防げる筈もないが」

 

「あれは……あれは、コードキャストじゃなくて、礼装の力だ。この身に……いや、魂に縫い付けられた概念礼装とでも言うのかな。俺に対する一定までのダメージを遮断する」

 

「一定までですって? ライダーの本気を防ぐなんてほぼ全ダメージ無効じゃありませんの! それなんて重課金チートスキルですの! 一回戦目の初見でラスボスレベルとか無理ゲーですわ!」

 

「ラスボスって……」

 

「ぐぬぬ……次は負けませんわよ!」

 

マリーのその言葉にライダーが静かに言う。

 

「マリーよ……次などないぞ」

 

「ん? そうですわね一回戦目で負けですもの、敗者復活戦でもない限り戦えませんわね。でしたら、いつか地上で何かのゲームで戦う事が会ったら今度こそ負けませんわよ!」

 

ライダーはまた静かに言葉を紡ぐ

 

「だから、マリーよ。次はない」

 

「ライダー何を言っていますの……な……なんですのコレは……」

 

ライダーそしてマリーの体の細部が粒子になって消え始めた。

これが聖杯戦争での敗者の最後。

月に送られた精神体の消滅、それはすなわち死を意味する。

 

「マリーお前も知っているであろう。敗者に待つのは死である」

 

「そんなのありえませんわ! 嘘ですわよね……ゲームでは、よくある謳い文句じゃありませんの!」

 

そう言っている最中もマリーとライダーの体は徐々に消えていく。

 

「なんで! こんなのって……」

 

「どうしたマリーよ。コレは、お前の望んだ悲劇ではないか」

 

「……っ!? 違う、違いますわ! ワタクシはこんなの……」

 

「………」

 

そこでマリーと無言で見ていたライルの目と目が合う。

 

「た、助けて! 助けてライルさん!」

 

ライルは、こうなる事を知っていた。

聖杯戦争の敗者の末路を正しく認識していたのだ。

それ故に何も言えないのだ。

自分が勝利したから目の前の少女が死ぬ。

それは自分が少女を殺したのと同意である。

 

「っ……」

 

ついに立っていられなくなったマリーは膝をついてしまう。

 

「助けて……」

 

マリーの伸ばした手を、何が出来る訳でもないのにライルは掴んでしまう。

 

その瞬間、ライルの意識は暗転する。

 

 

 

 

「なぁ君、生徒会に入らないか?」

 

それが白い少年と私の出会いだった。

 

「生徒会? なんでワタクシが」

 

いきなり、声を掛けられて流石の私も困惑したものだ。

 

「いやぁ、人手不足なんだ。ほら、なんか凄い計算の羅列が書いてあるから、計算とか得意なのかなって。会計とかどう?」

 

「いえ、どうと言われましても。ワタクシはゲームのダメージ計算をしていただけで、別に計算が得意って訳ではありませんわよ」

 

思えば、何故こうも正直に答えてしまったのだろう。

ゲームのダメージ計算をしているだなんて言ったら普通はひかれるものだと思う。

少なくても私が彼の立場だったら確実にひいていた。

 

「ゲームか……」

 

意味ありげに呟く少年。

やはり、ひいて当然だろう。

自分でも同じ反応をするだろうけど、しかしその反応は相手にされると頭にくる。

 

「何か問題でも?」

 

私はぶっきらぼうに答えた。

 

「いや、何か久しぶりにやりたくなって」

 

私が不機嫌な反応をしたからか、少年からの返答は、取り繕ったような台詞にも聞こえる。

 

「は? だから何ですの。ワタクシには関係ありませんわよね?」

 

だから私は、またぶっきらぼうに答える。

こんな反応をされたら、会話はそこで終わるだろう。

しかし

 

「そう言うなって、何かオススメのゲームない?」

 

本当にゲームをやりたいのだろうか、少年は私に問いかけてきた。

 

「いえ、ですから。何故ワタクシが貴方にそんな事を教えなくてはいけませんの」

 

流石に私も困惑気味に返事をした。

 

「あ……確かにそうだな。ごめん、懐かしかったから、ついね」

 

少年は落ち込んだ様に答える。

その反応も私には予想外のモノだった。

 

「……貴方はどんなゲームをした事がありますの?」

 

「え?」

 

「好みも分からないのに何を勧めれば良いのかなんて答えられるとお思いですの?」

 

少年は驚いた表情をすると、それを隠すよう直ぐに最初に声を掛けてきた時と同じ澄まし顔になる。

 

「まさか、教えてくれるのか?」

 

「確かに、教える義理は感じられませんけど。問われた事に答えない程ワタクシは狭量ではありませんわ」

 

最初は、胡散臭いという印象だったが、どうやら猫を被りきれぬ素直な性格なようだ。

下心がある訳ではないのは分かった。

それならば、ちょうど良い。

 

「おお、マジか! 主にやってたのはRPGとか、アクションとかかな。その他にもアドベンチャーとか色々やってた。ゲーム性も大切だけど、どストーリーが良いのがあれば、やりたいかな」

 

私にはゲームの話が出来るような友人はいない。

ましてや、一緒にゲームをやってくれるような友人もいる筈もなく。

いつも一人でやるゲームか、顔の見えない相手と戦うオンラインゲームくらいしか出来なかった。

これを期にマルチプレイの出来るゲームをプレイしてみるのも悪くないと思ったのだ。

少年の意向に合うかは、分からないけど、そういったゲームを勧めてみよう。

 

「って、そろそろ授業が始まりそうだな。じゃ、また後で」

 

「後でって、どうすれば良いんですの?」

 

「悪いけど放課後に生徒会があるから、生徒会室に来てくれれば助かる」

 

そう言って少年は教室から出て行った。

さて、どんなゲームを勧めるか放課後までに考えておこう。

 

 

 

 

「む。ライルスフィール、彼女は?」

 

「あぁ、さっき話した会計をしてくれる事になったマリーさんだ」

 

「はい? え、別にワタクシは……」

 

「って事で、よろしく」

 

意気揚々と生徒会室に入った私は、あれよあれよと流されていつのまにか生徒会の会計になってしまった。

 

 

 

 

「オーホッホッホ! ライルさん、中々やりますわね! ですが、ワタクシの編み出した必殺コンボ、ローリングサンダーライジングでおしまいですわ!」

 

「それはどうかな!」

 

「なっ! ただの丸連打の武器をブンブンしただけでワタクシのコンボが崩されるなんて!」

 

「ふむ、何やら楽しそうにしているな」

 

「お、会長殿もやるか?」

 

「いや、俺はゲームとやらをやった事がないのでな。見ているだけで良いさ」

 

「見てるだけだなんて詰まらないですわよ。そうですわね、据え置きのゲームなら皆さんでできますし、明日持って来ますわ」

 

「それ、いいな!」

 

人手不足と言われて誘われた生徒会だったが思ったよりも業務は楽で、時間も余る事が多かった。

そういった時はゲームをして遊んでいた。

と言うよりもゲームをする事が目的で生徒会に通っていたような気がする。

 

 

 

 

「ところでライルさんが今までやってきて面白かったと思うゲームって何ですの?」

 

「どうしたんだ、急に?」

 

「いえ、ワタクシはゲームを勧めてばかりだったので、偶にはライルさんのお勧めするゲームをやってみようかなと思いまして」

 

「あぁ……ごめんタイトルは思い出せないんだ。俺が一番面白いって思ったのは、とあるノベルゲームだよ。元々はRPGとかを多くやってたけど、ストーリーの続きが早く見たくて、敵とか無視して進んでたらレベルが足りなくなったりしてさ。それが面倒臭いって思うようになってからは、もう殆どノベルゲームばかりやってたかな……」

 

「ノベルゲーム……」

 

「あぁ……あんまり好きじゃないジャンルだったか?」

 

「いえ、そう言う訳ではありませんわ。ワタクシも物語を楽しみたいって気持ちは分かりますわ。ワタクシ、ゲーム以外でも映画や演劇も好きですし」

 

「お、映画か。それもいいなぁ。オススメあったら今度一緒に観ないか?」

 

「結局、ワタクシが勧めるんですのね」

 

生徒会の日課に、ゲームだけでなく映画観賞も加わった。

 

 

 

 

「なあ、俺、最近さ。一成のやつがホモなんじゃないかって思い始めたんだが……」

 

「何ですの、いきなり」

 

「いや、だってさ。あいつ、あの遠坂を毛嫌いしてるじゃないか」

 

「好き嫌いなら誰にでもあるでしょうに」

 

「いやいや、あの八方美人の遠坂をだぞ?」

 

「貴方は、ああいうのが好みなんですの?」

 

「え? まさか、俺は見た目とか優しさとかじゃなくてさ、口が悪くても一緒にいて楽しい人がいいかな」

 

「一緒にいて楽しい人……」

 

確かに私も外見とかそういったものよりも恋人にするなら一緒にいて楽しいと思える人がいいと思う。

そう考えると目の前の少年が当てはまってしまうのだから、なんだか気恥ずかしくなってしまう。

 

「じっと見て、どうした?」

 

「な、なんでもありませんわ!」

 

そう言えば、私は前にゲームを自分で作ろうとしていた事があった。

それは偶然にも彼が好んでやっていたというノベルゲームだ。

ゲームを作ると言っても、プレイする事に関しては技術も自信もあったが、作る事に関しては初心者。

なので手軽そうなイメージがあるノベルゲームを作ろうとしていたのだ。

結局、ストーリーを考えるのが行き詰ってしまい諦めたのだけど、それを掘り起こしてゲームを作ってみるのもいいかもしれない。

そして、それを彼にやって貰おう。

 

 

 

 

「一成さん」

 

「む、なんだ、マクシミリアン?」

 

「いえ、ライルさんの姿が見えませんが、何処に行ったかご存知です?」

 

「あぁ、そう言えばマクシミリアンは最近あまり顔を出さなかったから知らないのか。副会長殿なら確か保健室だな」

 

「保健室? 何故そんなところに……ま、いいですわ」

 

時間はかかったけど、ついにゲームが完成したのだ。

一刻も早くやって貰いたいと言う気持ちもあるが、それ以上に緊張する。

このゲームをやってもらって、彼の感想を……返事を聞きたい。

緊張してるからといって足踏みしていたら始まらない、と自分を鼓舞して歩き始める。

そうして保健室の前まで辿り着く。

しかし、いきなりだと心の準備が出来ていないので戸を少し開けて中の様子を伺う事にした。

そうして保健室の中に少年の姿を見つける。

 

「ライルさ……」

 

しかし、私は見てしまった。

少年が楽しそうに笑っているのを。

いつも自分とゲームをしている時よりも楽しそうに見知らぬ少女と会話をしているのを。

開けた戸をゆっくりと閉める。

そして私はその場から立ち去っていった。

一緒にいて楽しい人、彼にとってのそれが自分じゃない事が分かってしまったのだ。

 

 

 

 

翌日、私は全ての記憶を取り戻した。

今までの日常も自分の感情も含めて、聖杯戦争というこのゲームの予選は、とても……

とても……

 

「……下らない予選だった」

 

 

 

 

暗転したライルの意識が元に戻る。

 

(今のはマリーさんの……)

 

いつの間にか、助けを求める声は止んでいた。

確認するようにライルはマリーの顔を見る。

マリーは、驚いたような顔でこちらを見ていたが、ライルと目が合うと唇を噛み締めながら俯いた。

再びマリーが顔を上げると、涙で赤くなった目のまま口を開く。

 

「しょ……勝者の貴方が何故泣いていますの! 」

 

(……俺が泣いてる?)

 

「誇りなさい! このワタクシに勝利した事を! そして次も……いえ、全てのゲームで勝利しなさい!」

 

とても早口に言われた言葉だったが、一言一句ライルは聞き逃さなかった。

 

「言われずとも……俺は勝つよ。そして願いを叶える」

 

マリーは再び唇を噛み締めながら俯く。

 

「オーホッホッホ! それでこそワタクシに勝利した者ですわ!」

 

今度はいつもの調子で高笑いをすると、握られたライルの手を離し、その手の中に何かを握らせた。

 

「それは餞別ですわ! せっかくカスタムしたのに、一度も役に立たないのはとても腹立たしいですもの。貴方が役立てなさい!」

 

そう言い終わると、ライルとマリーを分断するように壁が出現する。

 

「返事は、いりませんわ。答えは分かっていますもの」

 

マリーはそう言い残すと、その姿を消した。

ライルの手の中にあったのは、マリーが使っていた銃の形をした礼装と、一つのデータフォルダだった。

 

「フハハハハ! マリーの奴め満足そうに逝きおったな。これが悲劇だったとしても、悲痛な最後ではなかった。感謝しようキャスターのマスター……いや、ライルよ。朕のマスターが敗れるのがお前であってよかった……」

 

ライダーもそう言い残して消えていった。

 

(今、ライダーの魂が……気の所為でしょうか? )

 

 

 

 

データフォルダの中身はゲームデータだった。

ノベルゲームだ。

どの選択肢を選んでも結局は一つのルートに収束するという単純な内容だ。

バトルモノなのか日常モノなのかよく分からないストーリーだったが、ライルは徹夜でやり込んだ。

しかし、そのゲームをやり遂げる事は、ライルには出来なかった。

 

「なんで、ここだけボイス付きなんだよ……」

 

画面に表示された選択肢に長い時間迷った挙句、ライルはゲームの画面を閉じた。

 

 

「ワタクシは貴方の事が好きですわ! 答えなさい、貴方はどうなんですの?」

 

 

それが選択肢の前に再生されたボイスだった。




対戦相手を掘り下げる回ですね。
唐突なラブコメとダイジェスト。
書いているうちにお気に入りの自キャラになっていったんですが
死んだのでもう出番はありません。
もしかしたらCCC編で出てくるかも?
まぁいつになるやらですが


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2-1


クラス:ライダー
マスター:マリー・マクシミリアン
真名:ルイ14世
属性:秩序・善
身長・体重:174cm・58kg
筋力C 耐久D 俊敏C 魔力C+ 幸運B 宝具A+

クラススキル
騎乗:B

保有スキル
太陽の威光C:体から眩いほどの輝きを放つ事ができ、神性とカリスマのランクを1段階上げる。本来は神性を持たないのでEランクの神性を付与する形となった。
神性E(-)
カリスマA(B)

宝具
偽・太陽神の弓(アポロン バレエ)
ランクE+ 対軍宝具 レンジ4〜20 最大補足10
男性を射抜くと苦痛なく死を与えると呼ばれている太陽神の弓を模した舞台用の弓。あくまで舞台用の弓なので本物の太陽神の弓には遠く及ばない。
舞台用だからなのか矢を放つ演出が過剰である。

魔法島の歓楽(パレー ド ヴェルサイユ)
ランクA+ 対軍宝具 レンジ:1〜40 最大補足500人
ヴェルサイユ宮殿とそこで行われたパレードを再現した。固有結界と似て異なる大魔術。
ライダーを主役としたパレードが始まり、周囲に戦闘用の自動人形が出現する。
そして、その場においてライダーの言葉は令呪並みの拘束力を持つ。ただしCランク以上の対魔力を持つ相手には完全には効かず、禁止した行動を取ろうとすると全ステータスが1ランク下がる効果になる。


こんな、作者の痛々しい設定は需要があるのだろうか?

では本編です↓


人の目を引くその容貌

 

産まれた村では天の遣いではないかと持て囃され

 

蝶よ花よと育てられ、何一つ不自由などはなかった。

 

仲の良い隣人も多く、とてもとても楽しく過ごしていた。

 

そんな光景を見て、どこか既視感を覚えた。

 

一体、いつの話だっただろう……。

 

 

 

 

マリーとの戦いが終わった次の日、いつものように食堂へと向かう廊下でライルは誰かに声を掛けられた。

 

「浮かない顔をしていますね」

 

声の方向を見てみると、そこに居たのは金色の髪をした小柄な少年と、その少年の側に控えるように佇んでいる白い騎士の姿があった。

 

「レオナルドか……そう言えば久しぶりだな、予選以来か」

 

「はい、お久しぶりですライルスフィール」

 

レオナルド・B・ハーウェイ。

この世界において地上の殆どを支配する西欧財閥の次期当主。

この聖杯戦争での優勝候補の名を挙げるとしたら、確実にその中に入っているであろう人物だ。

レオナルドがそこに立っているという事は、彼も一回戦を無事に勝ち抜いたという事他ならない。

 

「貴方もご友人の死を憂いているのですか?」

 

「まぁ……そうかな。覚悟はしていたつもりだったんだけど、その覚悟が甘かったんだって気付かされたよ」

 

ふと、レオナルドの背後に立つ騎士に目がいく。

彼がレオナルドのサーヴァントなのだろう。

 

「あぁ、紹介が遅れましたね。ガウェイン、ご挨拶を」

 

「はい、ご紹介に預かりました。サーヴァントセイバー、名をガウェインと申します。以後お見知り置きを」

 

「どうも、ライルスフィール・フォン・アインツベルンです。」

 

サーヴァントの名を隠さずに呼んだ事にライルは少しの間驚くが。

レオナルドなら、そんな事をしても不思議ではないと納得をした。

今は小さき金色の王と、その王に仕える清廉なる騎士。

なるほど、これはレオナルドらしいサーヴァントを召喚したものだ。

 

「こちらが俺と契約したサーヴァント、キャスターだ」

 

ライルの後ろに控えていたキャスターは無言で一礼をする。

 

「それにしても意外ですね」

 

「意外?」

 

「はい。貴方が召喚するサーヴァントは、ゴツゴツと厳つい益荒男なんじゃないかと思ったのですが」

 

「レオナルド、お前は俺にどんなイメージを持っているんだよ……」

 

「あはは!」

 

「はぁ……そう言うお前は、イメージ通りのサーヴァントだな」

 

そんなレオナルドとライルが知り合ったのは聖杯戦争予選。

お互いに聖杯戦争の記憶を思い出しておきながら学園生活を楽しみたいという理由で予選に留まっていた事を、偶然知り意気投合して友人となったのだ。

友人と言っても偶に話す程度ではあるが。

と、そこまで思い返して

 

「そうか……お前が特異点か」

 

聞き慣れない第三者の声が背後から聞こえた。

 

「はじめは柳洞一成、ヤツが特異点だと思ったが」

 

ライルが振り返ると、そこには黒髪碧眼の何のカスタムもしていない制服を着た少年が立っていた。

 

「ライルスフィールのお知り合いですか?」

 

「いや、知らないと思うが……」

 

レオナルドの知り合いかと思ったが、反応からすると違うようだ。

ライルが困惑する中、少年が再び口を開く。

 

「お前は何者だ」

 

それはこっちが聞きたい、とライルは思ったが口にはしなかった。

少年から僅かに敵意を感じたのだ。

 

「名を聞いているのだとしたら、僕の名はライルスフィール・フォン・アインツベルンです」

 

「アインツベルンだって? なるほど、白い髪はそういう事か……」

 

「えっと……そういう君は誰なのかな?」

 

「……俺の存在を知らない? それとも知らないフリをしているのか……」

 

黒髪碧眼の少年は、考え込むように独り言を呟いている。

こっちの事は御構い無しのようだ。

そんな様子を見かねてかレオナルドが疑問を口にする。

 

「やはりお知り合い。知らないフリをしているのですか?」

 

「いや、してねえよ」

 

初対面の筈だ。

おそらく予選でも話した事もない。

相手も何者だと問いかけてきたくらいだ。

知り合いだが忘れている、という事ではないだろう。

 

「これ、マスターよ」

 

独り言を呟いて一人思案している黒髪の少年を拳骨が襲う。

 

「痛いっ!」

 

少年の横には白と桃色を基調とした装束を身に纏った男が立っていた。

 

「いきなり何を……」

 

「いきなり何を、ではないわ戯け。人に名乗らせておいて、己が名を問われた時に答えぬなど礼が欠けておろうが!」

 

「名を問われ……あ、あぁ悪い」

 

黒髪の少年はこちらを見ると、ライル達の存在を思い出したようで、謝罪を口にした。

 

「俺は、田中太郎。何かの間違えでこの聖杯戦争に参加する事になり、運良く一回戦を勝ち抜いた。特徴のない一般マスターの一人だ」

 

あからさまな偽名だとライルは思ったが、これも口に出すことはなかった。

日本を知っているライルだからこそ気付いだのであって、レオナルドはそれに気付いた様子はない。

 

「このマスターめ、失礼千万。勝ち抜いたのは、運ではないわ。この俺が強かったから勝ったのだ」

 

「運良く、相手が弱かっただけだろう」

 

「お前は本当に礼儀がないな、マスター。彼奴も英傑の一人、それを貶すでないわ」

 

「痛いっ……」

 

そのやり取りに呆気に取られるライルであったが、対照的にレオナルドは楽しそうにその様子を見ていた。

 

「これがジャパニーズ漫才というものですか!」

 

「いや、違うだろ……」

 

そんなレオナルドにライルは呆れた。

しかし、黒髪の少年をライルは警戒する。

何を言っているかは分からなかったが、意味深に何かを呟いていたのだ。

自分の預かり知らぬ所で何かがあるのではと思案してしまう。

 

「えっと……いきなり絡んで悪かったな。相違点であっても、特異点だとは限らない。それと、俺などという存在は覚えておく必要もないだろう。どうせ、お前らと戦うことなく敗退するだろうしな……」

 

「もうちっと、俺の強さを信用して欲しいものだな……時にお前」

 

田中と名乗った少年のサーヴァントがキャスターを一瞥しライルを見て口を開く。

 

「面白いサーヴァントを連れているな。そのようなモノまで英霊とするのか、この聖杯戦争は」

 

そう言って、マスター共々来た道を引き返すように去っていった。

 

「色んな意味で面白そうな方でしたね」

 

「自分の知らない間に何かに巻き込まれてるとしたら、ゾッとする」

 

田中太郎、それが実名か偽名かは置いておくとして、警戒しておこう。

そして、そのサーヴァントが言った言葉。

面白いサーヴァントとは、十中八九キャスターの事を指している。

当のキャスター本人はいつも通り涼しい顔で佇んでいた。

 

(キャスターの正体か……)

 

今の所、積極的に知ろうとは思ってはいない。

うっかり名を口に出してしまって弱点がバレてしまっては困るからだ。

しかし昨日の戦いで口にしていた言葉。

 

(セッショウセキ……殺生石)

 

その単語で、真名はかなり絞られる。

キャスターの使う、呪術が俗にいう陰陽術と同じモノであれば……

 

「そう言えばライルスフィール。貴方は何処かへ向かう途中だったのでは?」

 

「あ、あぁそういえば食堂に行く途中だったな」

 

「なるほど、では僕とは逆ですね。ちょうど食事を済ませてきた所で貴方を見つけたので。ではお邪魔してしまいましたね」

 

「いや、邪魔という程でもなかったよ。久しぶりに話せて良かった」

 

「それでは」

 

「では、失礼いたします」

 

別れの挨拶をするとレオナルドとガウェインは去って行った。

 

「では、行きますかキャスター」

 

「………」

 

ライルの声掛けにキャスターの反応がない。

見てみると、先程と変わらぬ顔で佇んでいる。

否、正しくは固まっていた。

 

「キャスター?」

 

「あ……申し訳ありません。ささ、行きましょうご主人様」

 

二度目の声掛けで何でもなかったかのように反応したキャスターだったが、流石にライルもどうしたのかと気になった。

 

「どうしたんですか?」

 

「あ、いえお気になさらずに、私の勘違いかと……ご主人様もお腹が空いていますでしょう。まずは朝餉に行きましょう」

 

あのサーヴァントとキャスターは知り合いだったのだろうか。

キャスターはあまりこの事に触れて欲しくないようだったので深くは追求しなかったが……

 

 

 

 

食堂へと着くと、今までと比べて人の数が大分少ない事に驚く。

聖杯戦争に参加した128人のマスターの内半分が減ったのだが、食堂を利用している人数は半数どころか前と比べ二割ほどしかいない。

食堂を利用していたマスターよりも利用していなかったマスターが数多く勝利したという事なのだろう。

 

「副会長殿。やはりお前が勝ち上がったか」

 

「一成か……そういうお前もな」

 

食堂で出会ったのはまたもや柳桐一成だった。

食堂でばかり会うが、ずっと食堂にいりびったっているのだろうか?

 

「ふむ、勝ったというのに浮かぬ顔だな」

 

「お前もそれを言うのか……覚悟のない相手を殺すのは想定してなかったんだ。どちらも覚悟の上で戦う、そういったモノだと思っていた」

 

「そうか……」

 

「思った以上に……心が痛んだ」

 

きっと、マリーが友人だったから、そしてあんな記憶を見てしまったから、というのもあるのだろう。

戦ったのが見ず知らずの相手だったら、ここまで落ち込まなかったと思う。

 

「へぇ、やっぱり意外ね。ますます本当にホムンクルスなのか疑っちゃうわ」

 

一成とライルの会話に割り込む声が一つ。

 

「むむ! 貴様、遠坂! 何の用だ、この女豹めが」

 

遠坂凛の姿がそこにあった。

 

「ご機嫌よう柳洞くん、ライルスフィール」

 

「ええい! ご機嫌ようではないわ! 何の用だと聞いている!」

 

「別に用と言う程の事はないけど。落ち込んでる暇なんて無いんじゃない。もう二回戦目の対戦相手が発表されてるわよ」

 

それは、言われずとも知っていた。

まだ確認はしていないが、その前に食事を済ませようと思ってここにいるのだ。

腹が減ってはなんとやら

 

「そう言う遠坂は人に忠告するほど暇なんだな」

 

「な……暇じゃなくて、余裕があるって言って欲しいわね。ホモップル」

 

「やめろ」

 

「何の訳の分からぬ事を、言いたい事が終わったのなら立ち去れ!」

 

「そうね、最後に一つ。何が目的で参加したか分からないけど、そんなんじゃ勝ち残れないんじゃない?」

 

それじゃ、と言い残して遠坂凛は立ち去った。

 

(まったく、耳が痛い)

 

覚悟はしていた。

だが、残ったのは後悔ではないが、それにに近い感情。

 

(何が目的で参加したか……)

 

そうだ、最後まで勝ち残りさえすれば何もかも関係なくなる。

そうやって覚悟を決めたのだった。

 

「まったく、あの女豹の所為で折角の食事が台無しではないか」

 

「一成」

 

「む、何だライルスフィール」

 

「俺は食べ終わったから、そろそろ行くよ」

 

「そうか、ではまた今度だな」

 

勝ち残らなければいけない理由が一つ増えただけの簡単な話だ。

 

 

 

 

次の対戦相手の名前は、ユーリ・シュライツマン。

知らぬ名前だった。

おそらく、予選でも一度も関わった事のない人物なのだろう。

ライルからしてみれば、そのような相手の方が戦いやすい。

一回戦の時のような思いは、なるべくしたくないのだ。

だから、今回は出来れば決戦の時まで関わらないでおきたかった。

一度も話さない、それがベストだ。

しかしどうやらベストは尽くせないようだ。

対戦相手を確認していたライルの前に中肉中背の茶色いコートを纏った男が姿を現わす。

 

「ライルスフィール・フォン・アインツベルン。いきなり大物と相対する事になるとはな」

 

この台詞からすると、ライルの目の前に現れた男がユーリ・シュライツマンその人なのだろう。

 

「その容貌からして、君がそうなのだろう?」

 

ライルを見据えながら男は問う。

 

「はい。僕がライルスフィール・フォン・アインツベルンです。そう言うの貴方はユーリ・シュライツマンさんでお間違いないですか?」

 

「そうだ。私が君の対戦相手で相違ない。ふむ……大物とは見込み違いだったかな」

 

ユーリはライルの瞳を覗き込むと、そう言い放った。

 

「迷いまたは悩み。そんな感情を孕んだ瞳だ。そして何より信念を感じない」

 

そして、失礼な物言いで続けた。

 

「所詮はホムンクルス、人で無き者か」

 

ユーリは、自分の言いたい事だけ言って、ライルの前から去っていった。

 

「信念って言われてもな……感情論かよ」

 

ユーリが去った後に、ライルは反論のように呟く。

同じ日に同じ指摘を違う人物から何度も指摘されている程にライルは、目に見えて消沈していた。

本人もそれには気づいていながら、いくら考えても気分が晴れる事がなかった。

 

「しょうもないだろ……」

 

アインツベルンのホムンクルスとして産まれたとしても、その精神は平和ぼけした国のいち学生のものに過ぎないのだから……





エクステラが思ったよりも早く終わってしまった事に落胆
しかしエクステラをやってるとエクステラ編の設定とか展開とか頭に浮かんできて、書きたくなってくる。
まぁ無印編がまだまだ完結しないのとCCC編があるので書かないで終わりそうな気もするけど


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2-2

輝く夢を見た。

 

神殿の中には大きな太陽が輝いていた。

 

人々はとても幸せそうに太陽へと尽くしている。

 

自分の為ではなく、誰が為の行動なのにどうして、そんなに幸せそうなのだろう、と太陽は疑問に思った。

 

そして幸せそうな人々が羨ましく思え、いつしか自分も何かの為に尽くしてみたいと、そんな想いを抱いた。

 

それは、ほんの少しの太陽の気まぐれ

 

 

 

 

「そういう事か……」

 

目を覚ましたライルは、未だに忘れていない夢を思い返して呟いた。

いつか見た眩しい夢。

幸せそうな少女が羨ましかったのだ。

自分の為にではなく、人に尽くしているのに幸せになった少女。

それはライルが生前に出来なかった事だったから。

 

「申し訳ございません。また起こしてしまいましたか?」

 

キャスターは畳まれた布団の横に正座していた。

 

「夢を……」

 

言いかけて、言葉を止めた。

 

「……いや、何でも。ただ普通に起きただけですから、気にしないで大丈夫です」

 

あの夢はキャスターの記憶なのだろうか?

はっきりと正体が分かっている訳ではないが、目星を付けていた真名が正しいのならば、その夢は想像している英霊の伝承とかけ離れていた。

 

「朝食に行きますか」

 

「はい、ご主人様」

 

ライルの言葉に従ってくれているキャスターであったが、夢に見た少女とは雰囲気が別人のモノのように感じた。

 

(いや、今はそんな事を考えている余裕はないか)

 

 

 

 

食事を終えたライル達はアリーナの中へと来ていた。

 

「すみません、キャスター」

 

「はい?」

 

ライルの唐突な謝罪にキャスターは疑問符を浮かべる。

 

「ライダーとの戦いの件を詳しく謝るのが遅れてしまいました」

 

そういえばとキャスターは思い出す。

マスターが謝罪をしていたが、その意味が分からず、戦闘の途中だった為に詳しく内容が聞けなかった事があった。

 

「あの戦いで貴女が数多く傷を負ってしまったのは僕の指示が悪かったからなので……」

 

「いえ、ご主人様そんな事はありません。現に貴方様の采配で私達は今ここにいるのですから」

 

「……ありがとう」

 

世辞の様なモノだと分かっているが、その言葉でライルの肩の荷は少し軽くなった。

 

「では暗号鍵を探しましょう」

 

話が終わり、アリーナの探索を始めようとしたその時。

キャスターの背後に高速で飛来してくる線が見えた。

 

「危ない!」

 

咄嗟にキャスターを庇う様にライルは線の軌道へと割り込んだ。

空間が割れる音がした。

是、十二の試練のストックがまた一つ減ったのだ。

いきなり不意打ちでそれだけの威力のある攻撃が飛んできたという事だ。

 

「今ので仕留められれば今回も楽に勝てたんだがなぁ。そう何度も上手く行くもんじゃないか」

 

ライル達から少し離れた場所に声の主は立っていた。

灰色の髪に燻し銀の様な色の鎧を身に纏った男。

ライル達の近くに突き刺さっていたのは、禍々しい黒色をした刃が括り付けられた槍。

 

「ランサー、仕掛けろ」

 

「はいよ、マスター」

 

ランサーと呼ばれたサーヴァントの陰にいたマスターの指示により、ランサーはライル達へと疾く迫りくる。

 

「キャスター! 出来るだけ反撃はせず、回避と防御に専念して下さい!」

 

「クハッ! それは良い、やり易くて助かるな小僧ぉ!」

 

地に刺さっていた槍が霧のように消えたかと思えば、いつの間にかランサーの手の内に収まっていた。

 

「私達に手の内を見せまいとした策なのだろうが、それならば、それでやりようがある。一気に仕留めろランサー」

 

「そう何度も使える物でもないだろうに……良いのかいマスター?」

 

「ここで仕留めれば問題は何もあるまい」

 

ユーリ・シュライツマン、昨日出会った対戦相手であるランサーを引き連れたマスター。

ライルとは対照的に自信に満ち溢れた顔でキャスターを仕留めろと指示をしたのだ。

それは自分のサーヴァントの力に対する絶対的な信頼を持っているという事に他ならない。

そして、それが根拠のない自信ではないというのが、是、十二の試練の守りを砕かれた事によって痛いほど分かっていた。

しかし、戦いは既に始まっている。

キャスターはライルの指示通り防御や回避に専念していた。

対するランサーは反撃がないのを良い事に、大振りな攻めの一点張り。

既に防御仕切れず、回避仕切れずいくつかキャスターへと決定的なものではないが有効打が決まってしまっていた。

それにライルは、焦りを感じて先ほどとは違う指示をキャスターに出す。

 

「キャスター! 一度だけ攻撃をしても良いので距離をとって下さい!」

 

「浅慮な、手の内を見せぬのなら。それを突き通すべきだったな。その手は、私達にとって好機でしかない」

 

「炎天よ、奔れ!」

 

「クハッ! 指示が分かりやす過ぎるな!」

 

キャスターの放った札により発生した炎をランサーは槍の一振りで斬り伏せた。

ランサーは全くの無傷だったが、ライルの指示通りキャスターはランサーから離れる事が出来た。

しかし……

 

「今の貴様らは、一枚の葉を狙うよりも容易い。刺し穿て我が友より奪いし呪怨の刃、復讐に狂う(デッドライン)--」

 

キャスターが離れた隙にランサーは槍を投げる構えをとっていた。

離れているのにランサーの槍の放つ威圧的な雰囲気、圧倒的な力をひしひしと感じる。

是、十二の試練を破った一撃と同等かそれ以上の攻撃が来る。

ヤバい、そう感じた時は既に遅く。

 

「ーー略奪せし黄金の財(ノートゥング)!!」

 

槍はランサーの手から放たれた。

赤く、黒く、暗く、それでいて鮮明な光を刃の切っ先に集めた槍が真っ直ぐに線を描くようにキャスターへと飛んでゆく。

 

「きゃ、キャスター!!」

 

自分へと放たれた訳ではないのに、まるで目前に死が迫るかのような感覚に身体が震える。

狙われたキャスターは自分以上の恐怖を味わっているだろうというのに、偽りの名を叫ぶ事しかライルには出来なかった。

走ってキャスターの前に行っても間に合わない。

いや、例え走れば間に合ったとしても足が固まって動けなかったのだ。

この一撃にキャスターは耐えられないだろう。

いくら無敵の守りを自分が持っていようとも、判断のミスで、実力の差で、こんなにもいきなり、呆気なく、敗退してしまうのか……

負ける事への……死への恐怖。

死を一度経験した事があるライルは、その恐怖や苦しみを誰よりも知っている。

蘇る死の記憶、燃えている故郷とまともに呼吸が出来ない苦しみ。

 

「ぅ…っ……」

 

アリーナに大きな音が鳴り響くが、眼前の死に気を取られたライルは気づかない。

 

『セラフより警告≫アリーナ内でのマスター同士の戦いは禁止されています』

 

「クソが! 間に合え!」

 

『戦闘を強制終了します』

 

槍は、キャスターから一メートルくらいの距離に出現した壁に激突し衝撃波を生じさせながら地に落ちていった。

ライルはそれに気付かず両の膝と手を地につけながら震えていた。

 

「クハッ! 運が良いじゃねえか小僧。やはり一撃目でやれなかったのが痛手だった」

 

「どうやら浅慮だったのは君だけではなく私もだったか。無駄撃ちどころか、真名への道筋を示してしまった。名を知られるのも時間の問題か」

 

ユーリとランサーの会話の内容さえライルの耳には入ってこなかった。

 

「明確な弱点があるアイツと違って俺のような三流英霊の名がバレたくらいじゃ大した痛手でもないだろ」

 

「ヒントになるような事を口走るな」

 

自失しているライルと違って、キャスターは相手の会話を聞いていた。

 

(何が三流英霊だっていうんですか……)

 

キャスターには直接当たらなかったが、槍の一撃が並の英霊が出せるような力でない事は分かる。

先の戦いでライダーが最後に放った本気の一撃以上の威力は確実にあった。

そして、それは不意打ちで放たれた一撃目の時も同じだ。

つまり恐ろしいのは、戦いが始まる前に宝具の真名解放を行なった点だ。

戦うために、戦いに勝つために宝具を使ったのではなく、こちらを殺すためだけに宝具を使ったという事に他ならない。

 

「仮に俺がアイツのように弱点があったとして、この主従に負けると思うか?」

 

ランサーの言にユーリはライルへと目を向ける。

そして目を細めて口を開いた。

 

「ランサー、確かにその通りではあるが……いや、もはや何も言うまい」

 

「ならば俺が言おう。マスターの言う通り相手のマスターは大した事がない。そして俺らはサーヴァントの方を警戒したが、それも杞憂だった。ただマスターに従っているだけで己が信念を感じないんだからなぁ、キャスターよ」

 

「………」

 

信念、己がマスターも相手のマスターに指摘されていたモノ。

まさか自分まで相手のサーヴァントに指摘されると、キャスターは露ほどにも思っていなかった。

正直なところ、心の何処かでキャスターは負けても良いと思っていた。

あの暗黒イケモン程ではないがキャスターはマスターを好いてはいなかった。

それは整形イケ魂だから、という理由ではない。

たまに見る、自分の過去を思い出させるような記憶の残滓……。

負けてしまえば次のマスターに出逢う事が出来るし、何より……あの夢を見なくて済むのだ。

 

「さて、この壁の所為で探索も続けられそうにない。ランサー一度戻るぞ」

 

「はいよ。クハッ! その前に……キャスターよ、小僧が倒れているがそのままで良いのか?」

 

「っ……ご主人様!」

 

ランサーの言う通り、ライルはうつ伏せになって倒れてしまっていた。

キャスターが主へと駆け寄り、様子を見ると気を失っているようだった。

キャスターはそっとライルを抱き抱えると、急いでアリーナの外へと向かった。

あくまで心の何処かで負けても良いと思ってしまっているだけであって、心の底から負けたいと思っている訳ではない。

基本は、主人に仕え良妻であろうとキャスター自身は思っているのだ。

 

 

 

 

苦しい夢を見た。

 

幸せの終わり、失落の始まりの夢。

 

少女が仕えた、最愛の人が病に伏せた。

 

大丈夫だろうか、少女は自分の事のように、否、自分の事以上に男の事が心配で気が気ではなかった。

 

病をうつさぬようにと気遣われ男に逢えない日が続き、夜も寝れない日が続いた。

 

そんなある日の事だった。

 

少女はふと見た鏡に写る己の姿が異様さに驚く。

 

頭には獣の如き見てくれの耳が生えていたのだ。

 

人とはかけ離れたその姿を隠すように少女も部屋から出る事がなくなった。

 

しかし、それを隠し切る事ができずその姿は間も無く現れた一人の男により暴かれてしまう。

 

その異形こそ下手人である証だ、と現れた男は言った。

 

最愛の人物が病に倒れたのは自分の仕業だと言われたのだ。

 

否定の声は掻き消され、少女はその場を追われた。

 

そうして少女は……

 

月を見上げて、独り……涙を零す。

 

 

 

 

「ここは……」

 

ライルが目を覚ますと、そこはカーテンで区切られたベッドの上だった。

そこが保健室だとライルはすぐに察した。

何故、自分は保健室にいるのだろうか。

 

「ご主人様!」

 

「……っ!?」

 

目の前の少女の姿にライルは驚く。

目覚める前の記憶は思い出せないが、夢で見た光景は鮮明に覚えていた。

 

「君はどうして……」

 

「はい?」

 

キャスターの漏らした疑問の声でライルは我に帰る。

 

「あ、いや……すみません、此処まで運んで貰って……」

 

少しして、ライルは思い出す。

ランサーの宝具の一撃とその後の己が顛末。

それがどんなに無様だったものか。

夢の内容に、対戦相手の事に、自身の力不足に、一回戦の心残り。

考えるべき事が多すぎて、寝起きの頭では何一つ処理仕切れないと考えたライルは、起き上がった体の力を抜き、再び頭を枕に落とした。

 

「ご主人様?」

 

こちらを覗き込むキャスターの顔を見ながら、月を見上げた夜の記憶を重ねた。







まだまだ続く主人公下げ
最強のマスターとは何だったのか
(性能だけは)最強のマスター(ただし使いこなせてない)
見切り発車で書いていたり、物語先へ先へと進めようとした結果キャスターの扱いが雑になっているのが大問題。
トワイス版キャスターから早く軌道修正しなくては、って事で何話かに分けてやるつもりだった内容を詰め込んじゃってます。

そうでもしないとCCC編への分岐となる予定の四回戦までにキャスターが主人公にデレる気がしない……
何で一目惚れじゃないキャスターを書こうと思ったんだこの作者。
エクステラやって色んな意味で思ったけどご主人様至上主義だから可愛いんだろキャスターは!(過去の自分を全否定)


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2-3

「気をしっかり持ちたまえマスター!」

 

慌ただしく扉が開かれる音と焦った男の声が保健室に響く。

ベッドの上で休んでいたライルは何事かと閉ざされていたカーテンを少しだけ開き、外の様子を覗き込んだ。

 

「すまないが、私のマスターを診てくれないだろうかか」

 

「は、はい! 一体どうなされたんですか」

 

そこに居たのは甘栗色の髪をした女の子を抱える赤い外套を纏った男、岸波白野と彼女を抱えているアーチャーであった。

話を盗み聞いてみると、どうやら対戦相手のサーヴァントに毒矢を撃たれてしまいマスターが倒れてしまったらしい。

うなされている岸波さんの事をとても心配そうにアーチャーは見つめていた。

両の手が硬く握られているのは、何も出来ない自分が悔しいからだろうか。

その様子を見てライルは思う。

キャスターも自分を保健室へ運んでくれた時は、あんな風に心配してくれたのだろうか?

今は、霊体化しているのでキャスターの様子を伺う事は出来ない。

キャスターが自分の事をご主人様と呼び従ってくれている理由は、あの夢からおおよそ予想は出来た。

だけど、自分に仕えているキャスターはあの夢で見た少女のように幸せそうには見えない。

理由は分かっている……自分自身が問題なのだ。

自分は、硬い守りがあるから安全なのに、戦うのは耐久のないキャスター。

それだけならまだしも、戦いの指示出しも下手くそときたものだ。

指示のミスを謝った直後にまた同じことを繰り返してしまい。

挙句、怖くて動けなかったあの醜態。

挙げればキリがない。

悪い点が分かっていても改善策が分からないのだ。

 

「ほんと……しょうもないな……」

 

それはそれとして

 

「これはイチイの毒みたいです……でも、自然の物とは思えないほどの毒性……どこまでお力になれるか分かりませんが、手を尽くしてみます!」

 

「あぁ……マスターを頼む」

 

ここから、どんな顔をして出れば良いのだろうか。

完全に出て行くタイミングを逃してしまった。

ここで入って来たのが見ず知らずの人だったら、何食わぬ顔で出て行く事が出来たのだけれど、いかんせん知り合いなだけに無視が出来ない。

無視は出来ないが、何か力になれる訳でも無いのだ。

なので仮に出て行ったところで、何しに来たのだと言われるだけ。

取り敢えず、タイミングを見計らって出るしかない……

 

 

 

 

それから数時間、うなされていた岸波さんの呼吸が落ち着き静かな眠りになってから数分が経った。

そろそろ、こっそりと出て行こうかなと思った、その矢先に保健室の扉が静かに開いた。

何者かが入ってきた気配がするが、その誰かは一言も言葉を発しない。

何かを物色するような音も聞こえず、どうしたのだろうとライルはカーテンの隙間から様子を伺うと緑色の布を纏った男が寝ている岸波さんの前で短剣を振りかざしていた。

 

「……キャスター、静かに扉の前まで移動して出口を塞いでください」

 

ライルが自分の口の前に人差し指を立てて言うと。

キャスターは一瞬だけ実体化して頷くと、また霊体化し保健室の扉へと向かった。

 

「オタクもしぶといな……もう楽になりな」

 

緑色の男は短剣を岸波さんへと振り下ろすが、その刃が届くことはなかった。

部屋に鳴り響くのは鉄と鉄が打ち付け合う音。

 

「流石に二度も不意打ちをさせるつもりはない」

 

緑色の男が振り下ろした短剣はアーチャーの投影した剣によって弾かれたのだ。

失敗を悟った男は部屋から抜け出そうと扉を見るが、そこでは実体化したキャスターが立ち塞がっていた。

 

「チッ……」

 

今の騒ぎで目を覚ました岸波さんは"何が起きているの"と消えていくような小さな声で疑問を口にする。

 

「そうだ、説明して貰おうか。これはいったい、どういうことだアーチャー」

 

また、別の声が部屋に響く。

その声がするのと同時にキャスターは霊体化し姿を消した。

キャスターがいた扉の後ろには初老の男が立っていた。

どうやら声の主はその男のようだ。

 

「どういう事も何も、決戦まで待っていらんねぇんで。先に倒しちまおうと思っただけの事っスよ」

 

初老の男の声に応えたのは緑の男。

暗殺者紛いの行為をしていたので、アサシンかと思ったが、クラスはアーチャーのようだ。

 

「そんな事を指示した覚えはない。今すぐ彼女にかけた毒を解毒しなさい」

 

「はぁ!? 正気ですか旦那!」

 

「この場所に来たのは殺をする為ではない、戦う為に来たのだ。お前は誇りというものが欠落しているのか」

 

「すまねぇが旦那。あいにく俺はそういったものが苦手でね。わざわざ得た勝利を捨てるなんて勿体無い事は御免なんすよ。だからその命令は聞けないっスね」

 

「そうか……」

 

会話の内容を聞くと、どうやら主従で意見の食い違いが発生しているようだ。

 

(いや、と言うより。不和が生じてるんじゃないか?)

 

「アーチャーよ。汝がマスター、ダン・ブラックモアが令呪をもって命ずる」

 

「な!?」

 

「学園サイドでの敵マスターへの"祈りの弓(イー・バウ)"での攻撃を永久に禁ずる」

 

「はぁあああ!?」

 

驚きの声を発したのは、緑のアーチャーだったが、ダン・ブラックモアの言葉に驚いたのはその場にいる本人以外の全員だった。

令呪、それはサーヴァントの契約者たるマスターが持つ契約の証であり、絶対命令権。

それは三画に分かれた入れ墨のような形で体の一部に刻印されていて、その令呪を一画消費する事によりサーヴァントの意志に関係なく命令を強制させることが出来る。

一見手綱のような物に見えるが、命令の強制力はサーヴァントが自力で行えないことまで可能とさせるので、使い方によっては切り札として使える代物だ。

その令呪の三画ある内の一画をダン・ブラックモアという男は自分ではなく対戦相手のために行使したのだ。

令呪は三画あるとはいえ、三画すべてを使い切ってしまうとサーヴァントとの契約は切れ、マスターではなくなるため、その時点で敗退する。

実質使えるのは二画の令呪だけだ。

その命令権の二回のうち一回を使用した事になる。

 

「これは国と国の戦いではない。人と人の戦いだ」

 

皆の驚きを物ともせずダン・ブラックモアは言葉を止めない。

 

「この戦場は公正なルールが敷かれている。それをやぶることは人としての誇りを貶めることだ」

 

老人の声は凄く真っ直ぐで、厳格でありながらも穏やかだった。

 

「畜生に落ちる必要は……もうないのだアーチャー」

 

「……ッ」

 

緑のアーチャーはバツの悪そうな顔を背けると口を開く。

 

「旦那、正気かよ……。負けられない戦いじゃなかったのか?」

 

「無論だ。わしは自身に賭けて負けられぬし、当然のように勝つ。その覚悟だ」

 

その男の言動を見て聞いて、ライルは単純に凄いと思った。

令呪が勿体無いとか、誇りで勝てるなら最強だとか、そんな不粋な事は一切、頭の中に浮かんでこなかった。

誇りだの信念だの言葉にするだけであれば容易い。

しかし、その矜恃に従じて行動を起こしたダン・ブラックモアという老騎士が、ただただ凄いと思ったのだ。

 

「……やれやれ。はいはい、わかってますよ、了解ですよ。オーダーには従いますって……ほれ、解毒しましたよっと」

 

緑のアーチャーが言った通り、岸波さんの顔色が良くなってきているので解毒を行なったようだ。

 

「こちらの与り知らぬこととはいえ、サーヴァントが無礼な真似をした。君とは決戦場で雌雄を決するつもりだ。どうか、先ほどのことは許してほしい。そして……」

 

ダン・ブラックモアはライルの方に視線を変えた。

 

「無関係の者まで巻き込んでしまってすまなかった」

 

ライルは言葉を発する事なく、首を横に振った。

そこで岸波白野は、その場にライルが居た事に気付き驚きの声をあげた。

 

「では、失礼する」

 

保健室から老騎士と緑色の弓使いの姿がなくなると、岸波白野はライルに"いつから居たのか"と質問をした。

 

「あー、最初から……かな?」

 

実は、岸波さんが運ばれてくるよりも先にベッドで休んでました、などとは格好が悪くて言えない。

出て行くタイミングが掴めずそのまま部屋に残っていましたとも言えない。

最初という、どこからが最初なのか具体的な事は言わずお茶を濁した答えで誤魔化そうとした。

しかし、最初?と岸波さんが呟いたので誤魔化せなかったのだろう。

深く、聞かれる前に保健室から退散しようと、腰掛けていたベッドからライルは降りた。

 

「まぁ大した事はしてないし、ほとんど居合わせただけのようなものだ。事情を知ってしまったのは申し訳ないけど……」

 

強引に話題を変えながら、保健室の扉の前まで移動する。

 

「彼の覚悟を聞いた後、君だけに加担するのは気が引ける。悪いけど、今回は力になれない。……まぁ戦いに関係ない事だったら、頼って貰っても良いけどね」

 

頼りになるか分からないけど、と言い残してライルは保健室を去った。

 

 

 

 

保健室にいた時間が長かったので日を跨いでしまっていないか心配だったが、日付は変わっていなかったのでライルは安心した。

しかし時間は日付が変わる間近で校舎内はシンとしていた。

何かを食べたい気分だったが、この時間では食堂は既に閉まっていると思うので、大人しくこのままマイルームに帰る他ない。

少し消沈しながらライルが廊下を歩いていると……

ガサガサとビニール袋が揺れる音が正面から聞こえてきた。

 

「ん……お前は、アインツベルンの」

 

暗い校舎の中から現れたのは、黒い髪に青い瞳の少年。

田中太郎、先日ライルにそう名乗った少年だった。

 

「君は田中太郎さん」

 

「フルネーム呼びはやめてくれ」

 

片手にビニール袋を下げていたその少年は、何も持っていない方の手で頭を掻きながら言った。

 

「えっと、じゃあ太郎さん」

 

「ファーストネームは家族以外に呼ばれなれていないんだ……注文が多くて悪いが、田中で呼んでくれ。さんも要らない、と言うか同年代に敬語を使われるのも気が滅入る。素じゃないのならやめてくれ、職場って訳でもあるまいし」

 

「あ、あぁ……。じゃ、田中と呼ぶけど。俺もアインツベルンと呼ばれるのは好きじゃないから、名前で呼んでほしい」

 

アインツベルンの代表としてこの聖杯戦争に参加させられたライルだが、ライル自身はアインツベルンとして戦うつもりは全くなかった。

 

「そうか……えっと……悪い。名前を覚えるのが苦手なんだ、アインツベルンってのは知った名前だったから覚えているんだが」

 

「まぁ海外の人の名前は覚え難いからしょうもないね。ライルスフィール、ライルと呼んでくれ」

 

「ライルか、覚えた。……ところで何故こんな時間に廊下を歩いている」

 

ライルは言葉に詰まる。

理由は、岸波白野との会話と同じ理由だった。

今まで保健室にいたなどとは言えない。

 

「えっと……何か食べたくなって出てきたものの食堂が閉まってて……」

 

言葉に詰まったライルを田中は訝しんだが、答えを聞くと警戒を解いて口を開いた。

 

「なんだ、俺と同じか」

 

そう言うと田中はビニール袋を持ち上げた。

その袋が何なのだろうかとライルは首を傾げる。

ライルの様子を見て、田中はビニール袋に手を突っ込んで中から何かを取り出した。

 

「それは?」

 

「プレミアムロールケーキ」

 

ロールケーキ、その言葉でライルは前世のコンビニに売っていたスイーツの存在を思い出した。

 

(そう言えば、そんな洋菓子があったな……食べたことなかったけど)

 

「さっき……購買で……買った……」

 

取り出したロールケーキを田中は食べながら話し始めると……。

 

「これ、マスター! 口に物を入れたまま喋るでないわ」

 

「……痛い」

 

桃色の和装の男、セイバーが現れて田中の頭を殴った。

 

「いちいち殴るな。お前は俺の親父か」

 

「オヤジと言うほどの年ではないだろうが」

 

「いや、召喚された見た目が若くても、実際は寿命で死んでたりしたら、親父どころか爺さんレベルの中身だろお前」

 

「減らず口を……。もう良い早く食べ終わって、ちゃんと喋れ」

 

「はぁ……悪いな、俺のサーヴァントが邪魔をした」

 

「ははは……」

 

何とも言えない状況に、ライルは取り敢えず愛想笑いをした。

田中が手に持っていたロールケーキを食べ終わると、先ほどの話の続きを始めた。

 

「腹が減っているんだろ。購買ならまだやってたし、食べ物とか、それ以外も大体売ってる」

 

「こんな時間でもやってるのか……まるでコンビニみたいだな」

 

「それは言い得て妙だな……コンビニか……」

 

言葉を止めた田中にライルは再び首を傾げた。

 

「いや、何でもない。俺は用事も済んだし、もう帰る」

 

「そうか、ありがとう」

 

購買の事を教えてくれた田中にライルは感謝の言葉を言って購買へ向かおうとするが、それを田中のサーヴァント、セイバーが呼び止めた。

 

「まぁ待て、ライル。図々しいが俺もマスターと同じように呼ばせて貰おう」

 

「えぇと……何か?」

 

「いやなに、昨日会った時よりも表情が曇っているように思えてな」

 

「そうか? 俺には変わらないように見えるが。と言うか、もう帰るんだが」

 

「ええい口を挟むなマスター。……悩んでいるのならこの俺が一つ相談に乗ってやるが」

 

予想もしていなかったセイバーの提案にライルは驚く。

 

「理由は一つ、お前達にここで負けられては面白く無いからなぁ」

 

そう言ってセイバーは不敵に笑った。







エクストラの中で一番好きなコンビを聞かれたら、
レオとガウェインとか
ジナコとカルナさんとか
キアラとアンデルセンとか
色々と良いコンビも居ますけど
ダンとロビンフットが私の答えですかね。
戦いの相性は悪くても、一番良いコンビだったと思います。
まぁこの作品はあくまで岸波白野視点じゃないので、最後の描写はありませんが、と言うかもう出てきませんが


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2-4

「お前が相談だと?」

 

セイバーの相談に乗るという言葉に、最初に反応したのはマスターである田中だった。

 

「悪い事は言わない。そのまま購買に向かうのが有意義だぞ。こいつに相談したところで説教が始まるだけだ」

 

「マスター以外に説教なぞせん。弁えておるわ、阿呆め。純粋に相談に乗ってやろうと言っておる」

 

ライルからしてみれば、セイバーはほぼ初対面のようなものだ。

そんな相手からいきなり相談に乗ると言われ、言葉に詰まる。

そして意外にもライルよりも先に口を開いたのはキャスターだった。

 

「一体、なんのつもりですか?」

 

キャスターは、今までに見たことのないような鋭く細めた目でセイバーを睨んでいる。

いつもは静観しているキャスターが会話に口を挟んだ事にライルは驚いた。

 

「睨むな、睨むな。言ったであろう。負けられては面白くない。だから憂いを取り除こうと思ったまでの事よ」

 

身がすくむような眼光を意にも介さずセイバーは答える。

 

「何故、私達が負けるのが面白くないと?」

 

キャスターの視線は依然と険しいまま。

 

「そんなこと決まっておろう。お前を……」

 

「無駄話はそこまでだ、セイバー」

 

キャスターの問いに答えようとしたセイバーを田中は止めるように遮った。

セイバーの真名に関する事を喋ろうとでもしたのだろうか?

 

「無駄話とはなんだマスター! また口を挟みよって……」

 

「良いかよく聞け。悩みの相談なんてものは道案内みたいなものだ」

 

「なんだいきなり」

 

「道案内ってのは、目的地を知らない相手にされても余計に迷うだけだ。悩みの相談も同じ。行きつく先が分からなければ悩みは増すばかりで何の役にも立たない。道案内と違う点は正解の場所が人それぞれで一つではない事だろう。ならば悩み相談なんてするだけ無駄だろうし、そもそも他者の言葉などいちいち間に受けていたらキリがない。答えなら自分で見つけるべきだ」

 

「な! 俺の言う事を全否定しているではないか!」

 

「その通りだ。英雄も偽善も正論も、邪魔であれば俺は否定する」

 

「俺の前で抜け抜けと言いよるわ、この阿呆めが」

 

「何とでも言え。元来、人間とはこんなもんだろ。なあ?」

 

そう言って田中はライルに同意を求めた。

確かにそうかもしれない。とライルは思った。

生前に知り合った人はそういった人間が多かった。

しかしそれは生前のライルには出来なかった事でもある。

偽善も正論もライルが否定できるものではなかった。

 

「そう言えば、お前はホムンクルスだったか。悪い、同調を促されても困るだろう」

 

「いや、そんな事は……」

 

「まぁ……覚悟も信念も、有ろうが無かろうが勝つ時は勝つし負ける時は負ける。俺が証拠だ。そしてお前も一回戦を勝ったから此処にいる。馬鹿な高説など捨て置けば良い。必要なのは何を思い何をしたいか、その自分の意思だけだ」

 

田中はそう言うとライルに背を向けて、階段を登り始めた。

 

「柄にもなく語ってしまったが……かなり恥ずかしいな……」

 

「阿呆めが、それも立派な信念だというのに気付かぬのか、我がマスターは」

 

去り際に呟いた言葉はライルの耳にも聞こえていた。

不思議な少年だという印象が残った。

初めて会った時は敵意丸出しだったのに、今はアドバイス(?)をしてくれた。

 

(高説など捨て置けば良い、か……)

 

要は無駄な事で悩む必要はないという事だろう。

道案内と言う例えも妙にしっくりときた。

行くべき場所は決まっているのだ。

それなのに無駄な寄り道で迷っていたのだから……

 

「ホント……しょうもないな」

 

どういう意図で田中やセイバーが助言をしてくれたのかは分からないが、今度きちんと礼をしなくてはいけないな。

そんな事を思いながらライルは購買へと足を運んだ。

 

「え? ロールケーキは売り切れ?」

 

無言でムシャムシャと食べていたのを見て、食べてみたくなったが売り切れているのではしょうもない。

ライルは売れ残っていた焼きそばパンを買って自室へと帰り1日を終えた。

 

 

 

 

懐かしい夢を見た。

 

前世の、それも幼い頃の遠く古い記憶。

 

惑星記録装置が知り得ない少年だけが知る並行世界の記録。

 

夢の中で幼い頃の自分は、何気なく父へと問いを投げかけていた。

 

"何故、自分は他の人と違うのか?"

 

すると父は答えた。

 

"確かに見た目や体の丈夫さは人と違うかもしれないが、決して特別な存在なのだと驕ってはいけない"

 

再び父へと問う。

 

"なんで皆は自分を特別扱いをするのだろうか?"

 

それに対する返答はこうだった。

 

"医学的に証明されているというのに、村の連中は考え方の古い奴らばかりだ。神の遣いなどと馬鹿な事を言う、お前は神の遣いなんかじゃない。俺の子だ。馬鹿な奴らの言葉なんて真に受けるな。本当に正しいと思った事だけ受け止めて行動しろよ"

 

続けて笑いながら父は言った。

 

"まぁ、あいつらが貢いでくれるっていうのなら、貰える物は貰うけどな"

 

それは、まだ幸せだった頃の記憶。

 

 

 

 

眠りから眼が覚めると、最初に視界に入ったのは教室(マイルーム)の窓から空を眺めているキャスターの姿だった。

何か声をかけようとして、やめる。

憂うような表情で何かを考え込んでいるので声をかけづらかったのだ。

セイバーの事を考えているのだろうか?

キャスターがセイバー睨んでいた目は普通ではなかった。

かと言って恨みがあるような感じではない……ライルには威嚇しているかのように見えた。

 

「おはようございます、ご主人様。お早いですね」

 

「あ、あぁ。おはようございます、キャスター」

 

ライルが起きた事に気づいたキャスターと挨拶を交わす。

 

「恥ずかしい事に、昨日は沢山休んじゃいましたし……」

 

ライルが就寝した時間はいつもよりも遅かったが、眼が覚めた時間はいつも通りだった。

保健室で休息をとったのであまり眠れなかったのだ。

 

「そうでございましたか……」

 

「………」

 

そこで会話が途切れてしまう。

そして、いつも通りの静寂。

思えば、キャスターとは事務的な会話しかしていないような気がする。

いつも自分の言葉を二つ返事で従ってくれている……しかしそれだけだ。

まるで自分の意思など持たないかのように、その有様は英霊(サーヴァント)ではなく、まるで召使(サーヴァント)のようだ。

この部屋で生活を始めてから10日は過ぎているというのに、依然として気不味い雰囲気は変わらない。

最初のうちは強引に気不味さを誤魔化していたが、それも続かなくなってきたのだ。

夢で見る、あの光景の事も……

そろそろ、世間話でも何でも良いから何かちゃんと話すべきだろう。

とは言え、話の種が見つからない。

いや、一つだけあるとすれば、前に聞くのをやめた質問があったか。

 

「あの……」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「キャスターはセイバーと知り合いなんですか?」

 

そして質問してから、その質問も世間話とは離れたモノだと気づく。

これではいつも通りの事務的な会話にしかならないのではないだろうか。

 

「知り合い……ではありません。ただ、前は気の所為だと思ったのですが、あの英霊の魂と似たモノを知っています……」

 

「魂……」

 

それはキャスターが時々口にしている言葉だ。

それが、そのままの意味なのか、別の何かを比喩したモノなのか分からないが……話を変えるには丁度いい話題だ。

 

「その、キャスターは魂が見えたり……とか?」

 

「えっと……はい。ご主人様のおっしゃる通りです」

 

「そうなんだ」

 

「………」

 

「………」

 

ダメだ、会話が続かない……。

普段、普通に話す分には会話が続くのに、会話しようと意識しているからなのか逆に話が途切れてしまう。

何か続く話をしなくては……そう言えばイケ魂だとか、口走っていた事もあった気がする。

 

「魂ってどんな感じなんですか? えっと……やはり、人によって見え方が違ったりするんですか?」

 

「はい。その通りです……外見の美醜と同じように魂にも綺麗だったり汚かったり人それぞれ違っています」

 

つまりは、イケ魂というのは綺麗な魂の事を指しているという事なのだろうか?

イケてる魂でイケ魂とかイケメン魂でイケ魂……いや、このキャスターがそんな現代ギャルのような言葉を使うとは考え辛い。

生け魂……いや、活け魂あたりだろうか?

取り敢えず気になるのは、自分の魂はどんな感じなのかだ。

 

「因みになんですけど、僕の魂はどんな風に見えているんですか?」

 

「えっと……その……」

 

と、そこでキャスターが言い淀んだ。

先程まで、言葉に詰まる事なく質問に答えてくれたキャスターが、とても言い辛そうにしているのだ。

それはつまりは、答え辛い質問だったという事なのだろう……。

 

「まさか……凄い歪で醜い……とか…」

 

「い、いえ! そんな事はありません。むしろその逆です、ご主人様」

 

「逆って事は綺麗ってことか……良かった……」

 

自分の事をイケメンだと思った事はないが。

異性に、お前ブサイクだなと言われたら立ち直れる自信はない。

取り敢えず安心……

 

「はい。ですが……」

 

安心……出来ないのは、まぁ知ってた。

言い淀んだのだから、ただ綺麗なだけではないのは想像がつく。

 

「ご主人様の魂は綺麗なのですが……不自然なまでに綺麗に整い過ぎているのです」

 

「不自然って言うと……」

 

「その……まるで魂を弄ったかのような痕跡があるのですが」

 

今度は、ライルが言葉に詰まった。

まったく、身に覚えがないからだ。

キャスターの言を鵜呑みにすると、それはつまり自分の知らない所で魂を弄られていたという事だ。

そして、そんな事が可能なのは……

 

「爺さんの仕業か」

 

それ以外に考えられなかった。

そして、そのライルの考えは間違えではない。

 

「あの……私からも一つ質問いいでしょうか?」

 

「え、あぁ、はい。何ですか?」

 

「先日、ライダーに勝利した時……」

 

「はい」

 

「ライダーが消える寸前に、その魂の一部がご主人様の中に吸い込まれて行くように見えたのですが……あれは一体」

 

「……はい?」

 

一瞬、キャスターの言葉の意味が分からなくなる。

 

「あ、いえ、私の見間違えかもしれません。すみません、お忘れ下さい、ご主人様」

 

ふと、前世でやったゲームの内容を思い出した。

冬木で行われる聖杯戦争、その最終目的は万能の願望機の完成ではなく……"第三魔法ヘブンズフィール"を発動させること

そして、その成就の為にアインツベルンが用意したモノ……

 

「まさか……俺も……小聖杯なの…か?」

 

仮にそうだったとして、この月の聖杯戦争において必要のないモノの筈だ。

なのに爺さんは何の為に自分の身体にそんなモノを……

 

(ってか……フハハハの人が俺の中に入ってるのかと思うと……凄い気持ち悪いんだが……)







fgoの終章レイドとか期限ギリギリでランチ凸る為に種火周回しまくったりとか……
新年でモナリザ復刻で凸る為にまた種火周回したり……年末年始は忙しかったですね。

とまあ投稿が一ヶ月ぶりになった訳ですが、fgoだけが理由でなくて、またもや書いては消しての繰り返しでまったく執筆が進まなかったってのも理由ですね。
前回、中途半端な所で区切ってしまったのが悔やまれる。
大体一話あたり5000文字くらいを目安にして投稿してるので、区切れる所で区切った結果がこれですよ……。
逆に区切らないといつまで経っても次話が投稿できなくなりそうなので、こんな感じで投稿してます。

因みに2回戦もあと二話くらいで終わらせるつもりです。


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2-5

キャスターの問いに明確な答えを返す事が出来なかった。

ライル自身も前世でやったゲームの内容など曖昧にしか覚えていなかった事と、鮮明に覚えていたとしてもこの世界でその知識が正しく適用されているのかどうかも確証はない。

そもそも自分がやったゲームと似通った点があるだけで、基本は違う世界だ。

無理に頼る宛にしてしまうと痛い目を見る可能性もある。

だからキャスターには、ホムンクルスである身体を作った爺さんが自分に知らせず何かを仕込んだのかもしれないと曖昧な説明をして会話は終了した。

その後、昨夜買った焼きそばパンで朝食を済ませるとライル達は決戦に向けてアリーナの探索に向かった。

 

 

 

 

昨日は、ランサーと交戦になり暗号鍵の探索が中断されてしまった。

セラフの妨害なく相手と戦える決戦場。その場所へと行く為に暗号鍵が2つなければいけないのだが、逆に言うとそれが7日以内に手に入らなければ不戦敗となる。

最悪、このままランサーの妨害が続いて手に入らなかったら負けてしまうのだ。

そうなる前に見つけ出さなくては、とマップを全てうめる思いでアリーナを探索し始める。

時々、周囲を確認してランサーからの奇襲がないかを警戒する。

ライルが警戒しているからなのか、まだアリーナに来ていないだけなのかランサーが襲ってくる気配はなかった。

アリーナ内を右往左往して数時間。

時間をかけた甲斐もあり、なんとか暗号鍵を見つける事に成功した。

 

「これで一つ目か……」

 

回収しようと、手を伸ばした瞬間

 

「ご主人様!」

 

キャスターの叫びに反応して振り返ると、赤黒い閃光がライル達のもとへと飛来してきていた。

それは昨日見たランサーの槍だ。

気付いた所で、避けれる程の時間の余裕はなく、『是、十二の試練』がライルを守る回数がまた一つ減る結果となった。

 

「クハッ! なんともまぁ堅牢な守りだな。こりゃあ、やはり不意打ちで倒せる相手じゃないみたいだなマスター」

 

「そのようだ。腐ってもアインツベルンのホムンクルスという訳か。ならば昨日と同じように戦って仕留めるのみ」

 

「同じ轍を踏むのは御免だ。疾く終らせるか」

 

ライル達への声がけはなく。

対話の意思を全く持っていない様子で、ランサーはいつの間にか手に持っている槍を構えながらキャスターへと走り迫る。

ランサーがキャスターの目の前で構えた槍を突き出した瞬間。

 

「リターンクリスタル!」

 

ライルの叫び声と同時にキャスターとライルはアリーナから姿を消した。

消えたライル達の行く先は校舎内にあるアリーナへの入り口の前だった。

『リターンクリスタル』それは、アリーナからの帰還用の転移系消費アイテムである。

昨夜、焼きそばパンのついでに、いつか役立つだろうと思って買ったアイテムだった。

元々、暗号鍵を見つけた段階で直ぐに使う予定で手元に用意していたのが幸いした。

『是、十二の試練』のストックが一つ減ってしまったのは大きい被害ではあったが、それ以外の被害は少なく済んだ。

 

「すみません、最後の最後で警戒を怠ってしまって……キャスターのお陰で助かりました」

 

暗号鍵を探している途中は、ただ通路を歩いている時も敵性プログラムと戦っている時も周囲を警戒していた。

しかし暗号鍵を見つけた時は、中々見つからなかった事もあってか探索が終わったというちょっとした達成感により警戒するのをやめてしまっていたのだ。

ランサーはその隙を見事に突いてきたのだ。

キャスターが気づかなければ確実に交戦状態になっていただろう。

そうなれば、昨日の繰り返しになっていた可能性が高い。

しかし……最後は結局、戦わないといけない。

今、逃げた所で何も解決しないのだ。

何か対策を考えなくてはいけないが、まともに戦っていないので、相手が本来どのような戦い方をしているのかが分からず対策の立てようがない。

ライルは自分の指示が完全に裏目に出ている事を再度自覚した。

 

(覚悟決めないとダメか……)

 

 

 

 

アリーナの探索を終えてから特にすることもなかったライルは、目的もないまま校内を歩いていた。

校舎を出ると噴水のある中庭の先、そこには何故か学校の敷地内なのに教会が建っている。

ライルは無神論者という訳ではないが、信仰している神がいる訳でもない。

神様とかその遣いとか、そういった事に関係するトラウマが前世であったので、ライルは一度も教会に近づいた事がなかった。

しかしボーっとしながら歩いていると気がついたら、教会の前にまで来てしまっていたのだ。

気を取り直して校舎内に戻ろうとライルは教会に背を向ける。

 

「しばらく見ない間に随分と愉快な様子になったようですね」

 

背後から聞こえた声にライルは振り向く。

しかし、そこには誰の姿もなかった。

 

「キャスター、今そこに誰かいませんでしたか?」

 

「はい。誰か……誰も…おりませんでしたかと」

 

「そうですか……」

 

聞き慣れた声が聞こえた気がした。

最後に話したのは10日程前だったか、たったそれだけしか経っていないのに酷く懐かしく感じる。

 

(ついに幻聴まで……)

 

これ以上気落ちしても埒があかない。

それこそ本当に声の主が自分のその様子を見ていたら、嬉々として罵倒してくるのがライルの目に浮かんだ。

 

(流石にそれは勘弁だ)

 

苦笑いをしながらライルは再び教会に背を向けると校舎へと歩き出す。

途中、中庭の噴水で岸波白野がアトラス院のホムンクルス、ラニ=Ⅷと会話している様子が見えた。

邪魔をするのも悪いとライルはそのまま通り過ぎようとしたが、ラニ=Ⅷとライルの目があってしまう。

 

「驚きました。先ほどここを通った時は優れない面持ちをしていましたが。たった数分でそのような表情に変わるとは何があったのでしょうか」

 

それはライルへと向けられた言葉だった。

言葉から察するとライルがぼーっと歩いていた様子をラニ=Ⅷは見ていたようだ。

 

「君に詳しく話す義理はないけど……まぁひとつ言うなら、自分らしくなかったのに気付いたってだけかな」

 

「自分らしくない……ですか。私には自分というものが分からないので理解できませんが。しかし意外ですね。私へと良い感情を抱いていない貴方に答えて戴けるとは思いませんでした」

 

「……確かに嫌いだとは言ったけど。だからと言って問われた事に答えないほど僕は狭量じゃない」

 

反応に困ったライルが返したのは受け売りの言葉だった。

 

「ところで、こんな所で岸波さんと君は何をしているんですか?」

 

ライルが問うと、ラニ=Ⅷは岸波さんの顔を見て反応を伺った。

話して良いのか岸波さんに確認しているのだろう。

確認が済んだのか、岸波さんがライルへと事情を話しだした。

話の要点を纏めると、ラニ=Ⅷの占いで岸波さんの対戦相手であるアーチャーの過去を観ようとしていた所らしい。

英霊の持つ道具があればその英霊の過去を占う事が出来るようだ。

占いと言うよりサイコメトリーのようだな、とライルは思った。

 

「僕は錬金術は出来るけど、占いはやった事がないな」

 

「なるほど、貴方は私と違って占術は出来ないのですね」

 

「い……いや、それはどうかなぁ」

 

ラニ=Ⅷにとって何気ない一言だったが、何となく自慢されているように聞こえたライルは少し青筋を立てた。

 

(やはりコイツとはソリが合わない)

 

その事を再認識した。

 

「それじゃあ僕はこれで。これ以上邪魔をするのも悪いからね」

 

「いえ、こちらこそ呼び止めてしまいすみませんでした」

 

その場を離れたライルは、その後する事もなかったので大人しくマイルームへと帰った。

 

 

 

 

翌日、二つ目の暗号鍵を求めてアリーナへと向かったライル。

昨日と同じように周りを警戒しながら探索をしていたが、暗号鍵は直ぐに見つかった。

見つかったのだが、その前にはランサーとそのマスターであるユーリが阻むように立っていた。

 

(不意打ちされない事を安心するべきなのか……)

 

背後から槍を投げられる事はなくなったのだが、暗号鍵を手に入れる為に戦いは避けられない。

相手もそのつもりでいるのは間違いないだろう。

隠れて退くのを待つのも手だろうが、ずっと居座られる可能性もある。

 

「キャスター、行きましょう」

 

「はい」

 

ライルの足は後ろではなく前へと進んだ。

選択したのは戦う事だった。

 

「待ちわびたぞホムンクルス。姿を隠さずによく出てきた」

 

「それを貴方が言うんですか、ユーリ・シュライツマンさん」

 

「どうやら私達の戦法は君に通用しないと理解したのでね。心情はどうであれ、君の能力は厄介なものらしい。流石はアインツベルンと言ったところか。今回は直接阻ませて貰おう」

 

「さて、話は終わったか? ならば早速行かせてもらおうか」

 

ライルとしては、まだ皮肉を言いたいところだったが、ランサーは戦いを始める気が満々らしい。

 

「キャスター、今回は最初から術を使っても大丈夫です」

 

「はい、ご主人様」

 

先に動いたのはランサーだった。

脱兎の如く速さでキャスターへと突っ込んできている。

 

「キャスター、氷の術で迎撃を」

 

「氷天よ……砕け!」

 

「防げ、ランサー」

 

ユーリの指示によりランサーは足を止め槍を構えてキャスターの攻撃を防御した。

 

「くっ……」

 

指示を出すのが早すぎた。

キャスターの呪術は後出しする事によって有利の取れるのだが、相手に行動を変える猶予を与えてしまったのは、ライルのちょっとした焦りが原因だ。

しかしランサーは完全に防いだ訳ではなく少なくともダメージは与えられている。

冷静にギリギリまで待って指示を出せば勝てない相手ではない。

 

「ランサーの対魔力を持ってしても防ぎ切れはしないか、どうやら高ランクの高速詠唱持っているようだな」

 

「いや、マスター。あれは恐らく魔術とは別の代物だな」

 

「どういう事だランサー」

 

「俺の槍と同じ感じがした、どうやら呪いの類いだなあれは」

 

「魔術ではなく呪術と言うわけか。ダメージを受けたのは、対魔力が機能していなかったというだけなのだな」

 

「恐らくな。だが避ければ良いだけの話だ」

 

どうやら、キャスターの術の正体がバレてしまったようだ。

ご丁寧にどう対策するかも口にしている。

一つ目の暗号鍵を手に入れた時も思ったが、ライルの事を舐めているのか、あるいは余程の間抜けなのか。

確かにランサーの宝具は脅威も恐怖も感じ焦りもしたが、冷静になってみると何ともない相手だ。

ならば初戦の意趣返しに相手の作戦を逆手に取ってやろう、とライルは思考した。

 

「キャスター、距離を詰められないように後退しながら、なるべく派手に呪術を連続で放って下さい。どうせ途中でセラフの妨害が入りますので残りの魔力は気にせずバンバン使って下さい」

 

「かしこまりました、ご主人様。」

 

「僕はその隙に……」

 

相手に聞こえないように小声で、呟く。

それが終わると、キャスターとライルはそれぞれ別方向に動き出した。

ライルは歩くようにゆっくりと、キャスターは素早く。

 

「炎天よ、奔れ!」

 

「クハッ! 術の発動が早いが避けられぬ程じゃない!」

 

「炎天よ、奔れ!」

 

「数を増やしたか、だが魔力の無駄だな!」

 

ライルの指示通り、キャスターは連続で呪術を放つが、そのことごとくをランサーは躱し、ダメージを与える事は出来ていない。

しかし、それはライルの計算の内だった。

聖杯戦争はサーヴァント対サーヴァントが目玉だが、マスター同士の戦いでもある。

ランサーに当たらなかった呪術は地面から派手な炎柱を立てるように燃えている。

 

「気をつけろランサー。恐らく敵は炎柱で何かをする気だ!」

 

「そこにいると邪魔だ」

 

「何っ!」

 

炎柱の陰に隠れるように目立たぬように相手のマスターであるユーリの元へライルは近づき、そして不意打ち気味にハルバードを振るった。

正確にはワザと攻撃を避けられるように声をかけたのだ。

目論見通りユーリは立っていた場所からライルの攻撃を避ける為に退いた。

 

「まさかマスター自ら戦いに赴いて来るとは驚きだな。戦闘も行えるホムンクルスとは、流石はアインツベルンと言ったところか。だが不意打ち前に声をかけるとは愚かな行為だな」

 

「貴方がアインツベルンをどう評価するのかはどうでも良いですけど。これ貰いますね」

 

ライルが手に持っているのは二つ目の暗号鍵だった。

そして、アリーナに警告音が鳴り響く。

 

『セラフより警告≫アリーナ内でのマスター同士の戦いは禁止されています』

 

ライルが攻撃を当てずにワザと避けさせたのはこれが理由だ。

ライルの攻撃がもし当たってユーリがその場で倒れてしまったら、セラフの妨害によりユーリとライルの間を壁で分断されてしまう。

そうなったら暗号鍵を手に入れる事が出来なくなるのだ。

万が一避けずに防いで来た場合は奥の手を使って無理矢理どかすつもりでいた。

 

『戦闘を強制終了します』

 

キャスターに連続で呪術を放たせたのは、ランサーを回避に専念させライルに気を回させない為。

そして、回避に専念させれば宝具を放つ余裕を与えさせないためでもある。

派手な炎柱が立っていたのは、キャスターがライルの作戦に合わせて、相手の気を引く為に行ったものだった。

 

「帰るか……」

 

必要な暗号鍵は全て手に入った。

あとは決戦の日を待つだけであり、アリーナにいる理由もない。

ユーリ・シュライツマン、彼が今どのような顔をしているのか何を言うのか、それはライルにとって興味のない事だった。







作者が読み返した時の感想
「展開早っ!」
話の続きを考えていると浮かんで来るのはまだ見ぬCCC編の内容ばかり……取り敢えず、二回戦は次で終わらせるつもりです。

グダグダと相談やら何やらしてても立ち直らなかったくせに読者からするとよく分からない内に立ち直る主人公。

補足すると、教会でライルが聞いた声は幻聴じゃなくてちゃんとした肉声です。
キャスターは誰もいなかったって答えたのは、声の主に話さないでとジェスチャーされて空気を読んだからです。
ライルへの好感度が高ければ違った結果になったかも
ぽろっと出て来る情報、声の主はCCC編のヒロイン予定。今のところ無印ではもう出てこないつもり……つもり……


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2-6

しっかり者の母がいた。

映ったのは木に吊るされている姿。

いなくなった。

 

ちゃっかり者の父がいた。

映ったのは車に潰されている姿。

いなくなった。

 

まるで弟のように慕ってくれる少年がいた。

映ったのは雪崩にのまれる姿。

いなくなった。

 

まるで姉のように世話焼きな少女がいた。

映ったのは業火にのまれる姿。

いなくなった。

 

貧乏神、厄病神、死神。お前のせいだ、お前のせいだ。

 

--何と勝手な物言いだろうか。

 

少女は最後に誰も恨まないで欲しいと願った。

 

あぁ……ならば悪いのは自身だ。

 

少女は自分を責めないでと言った。

 

あぁ……ならば何を恨めばいいのだろうか。

 

--他人も自分も恨めないのなら、そんな事がまかり通るこの世全てを憎むしかない。

 

あぁ……そうか誰も悪くないのなら、運が悪かったのだ。

映ったのは見上げた夜空に浮かぶ月。

 

運命を憎もう。そうすれば誰も……優しかった皆んなを恨まないで済むのだから……。

 

--なぜ……こんなにも……私と違うのか……

 

 

 

 

サーヴァントは食事と同様に睡眠も必要としない。

しかし、あくまで必要としていないだけで眠れない訳でもないのだ。

眠る事によって魔力の消費を抑えたり疲弊した体を休めることも出来る。とはいえサーヴァントであれば霊体化する事によってどちらの恩恵も眠る事以上に得られる為、体を晒したままというリスクを持つ睡眠よりも霊体化している方が遥かに効率がいい。

霊体化と睡眠の違いは、意識があるか意識が眠りに落ちているかの違いだ。

退屈は人を殺すという言葉がある。通常の聖杯戦争であれば霊体化している最中でも周りの警戒をする事で退屈を紛らわせる事ができるが、この月においてはマイルームという絶対不可侵領域がある為に敵を警戒する必要がないのだ。

他にも魔術師の位であれば陣地作成スキルにより自陣を工房に作り変えるなどを行えるが、キャスターは生憎とその手の事が苦手であり、またマイルームで戦闘を行う事もないので行う意味がない。

ともなれば暇をつぶす為には眠る事が一番なのだが、それもキャスターにとっては取りたくない手の一つだった。

眠ってしまうと夢を見るのだ。

本来、サーヴァントは例外を除いて夢を見ることはない。

その例外の一つは、契約で繋がっているマスターの記憶が魔力を通して流れてくる事。

その夢を見ると、まるで書いた覚えのない日記を読まされているような気分になる。

最初に見たのはいつだったか……マスターである白い髪に赤い瞳の兎のような見た目の少年と契約した日だ。

最初は自分の過去を見たのかと思った。

2回目の時に自分の過去ではないと気づいた。

しかし、夢を見ていると思い出したくもない過去を思い出してしまうのだ。

それから、マスターが眠ってから起きるまで眠らないように無心になって窓の外を眺めていた。

マスターが起きる前に眠らないのにわざわざ敷いた布団をたたんでマスターの起床をまた窓の外を眺めて待っていた。

しかし、眠らないように無心になっていると、気づかぬうちにウトウトと意識が眠りに落ちてしまう時も何度かある。

その度にキャスターは憂鬱な気分になった。

夢の結末は最初に見たのだ。

だからこそ、どんな幸せそうな夢でも……最後は自分と同じで世界に裏切られてしまう。

終わりを知っているからこそその幸せが悲しく思えてしまう。

 

この日見た夢は、最初に見たのと同じ……自分と同じ結末の夢……だと……思っていた。

否、結末は同じだった。

しかし、結果が違った……

同じ結末なのに、どうして、こんなにも違った答えになったのか……

まるで自分が間違っていると言われているようだった。

そんな事を考えながら窓の外を眺めていると、眠っていたマスターが目を擦りながら起き上がった。

 

「おはようございます、ご主人様」

 

「あ、あぁ……おはようございます」

 

あの夢はこの少年の過去なのだろうか?

聞いた話だと、アインツベルンというドイツの錬金術師の一族に産み出されたホムンクルスらしい。

しかし、それだと辻褄が合わない。

夢の中では終始、日本語で会話が行われていたのだ。

草木や家屋の風景も日本のように見えた。

少年が嘘をついているようにも見えないし、周りの反応からも嘘では無い事が分かる。

一つキャスターが思い浮かんだのは、あの夢はライルの魂に刻まれた記憶なのでは無いだろうか、という事だ。

英霊の魂は死後に座と呼ばれる場所へと逝き、世界の抑止力の一部となる。

では、英霊では無い人の魂はどうなるのか?

それは地域、時代、行いによって違う物だが、キャスターに最も馴染みがあるのは輪廻転成という概念だった。

人の魂は死後、また別の人間として生まれ変わるというものだ。

そして極々稀に生まれ変わった魂に前世の記憶が刻まれている事があるらしい。

自身の主がそれならば納得がいく。

であるならば、キャスターには主であるライルに聞きたい事があった。

 

「ご主人様……貴方は……」

 

「はい、キャスター?」

 

しかし、キャスターは途中で言葉を止めた。

なんの順序立てもなく、いきなり不躾に質問できるような内容では無いと思ったからだ。

それにライル自身が魂に刻まれた記憶を知らなければ、質問をした所で答えは返って来るはずもないのだ。

 

「キャスター?」

 

言葉を途中で止めたキャスターを不思議に思ったライルは再びキャスターに呼び掛ける。

キャスターは誤魔化すように別の質問を投げかけた。

夢の事以外で少し気になった事だ。

 

「……ライダーのマスターをどう思っておられたのですか?」

 

「っ……」

 

次に言葉に詰まったのはライルだった。

その答えをライルは未だに出せていなかった……

 

 

 

 

目が覚めて、いつものように憂鬱そうな表情のキャスターがいた。

そして、いつものように、おはようの挨拶をして静かな気まずい時間が始まるのかとライルは思っていたが、その日は違った。

不意打ちのようにキャスターからされた質問にライルは言葉を詰まらせる。

 

「すみませんご主人様。今の質問はお忘れ下さいませ……」

 

「いえ……僕がマリーさんをどう思っていたかですよね」

 

戦う覚悟は決めた。

間違わないと決めた。

でもマリーの事はまだライルの中で燻った感情が渦巻いていたのだ。

それも見切りをつけなくては、いくら覚悟を決めた所で気分が晴れないのはライル自身が一番分かっていた。

その質問がキャスターから切り出されたのは意外だったが、ちょうどいい機会だ。

 

「僕とマリーさんが予選の時に生徒会として活動していたのは前に話したと思います。その他にもアサシンのマスターである柳桐一成や書記の……いや、そこは関係ないので省きますが。僕らは生徒会で淡々と職務をこなしていた訳ではなく、何かと暇を見つけては一緒に遊んでいたんですよ」

 

自分の記憶を思い出しながらライルは語る。

 

「……楽しかった」

 

いっそ聖杯戦争など始まらなければ良いのにと思えるくらい楽しい日々だった。

あんな日々が続くのであれば聖杯に願いを望む必要もないのだから。

 

「正直に言うとその頃は、マリーさんの事は仲の良い友人程度の認識でした。僕は恋愛感情なんて全く無かったです」

 

一回戦でマリーは、愛し合う二人が争わなければいけないと巫山戯て言っていたのに対して、ライルはお互いに恋愛感情などないだろうと思っていたが……戦いの終わりにライルは見てしまった。

あの日々のマリーの記憶を……

 

「だけど流石にあればズルい……本当にズルいだろ」

 

告白をされた。

本当の思いを知った。

 

「ご主人様は……あの方を」

 

「分からないです……ですが、あんな告白をされて意識しない訳がない……」

 

だけど、答えを出した所で……

 

「でも……俺が殺したんだ」

 

もう返事は届かない。

だから答えを出すのをやめた。

 

「アイツは多分、いつも通り俺と楽しく遊んでるつもりだったんだ。何も知らず、また遊ぼうって……殺す覚悟は出来ていたつもりだった」

 

マリーもそうだと思っていた。

 

「助けてって言った……死んでいく姿を見るだけだった」

 

助けて、たすけて、タスケテ

その声を忘れる事は出来ないだろう。

 

「本当にそうでしたか?」

 

そこまで黙々と聞いていたキャスターが口を開く。

 

「キャスター?」

 

「ご主人様は以前、覚悟をしていない相手を殺すのは想定していなかったと仰られていました」

 

そうだ、お互いに覚悟の上で殺しあう物だと思っていた。

 

「失礼を承知で申し上げますとご主人様は間違っております」

 

それは少し怒気を含んだ声だった。

 

「そう……ですね……」

 

覚悟していない相手を殺す想定をしていなかった時点で覚悟なんて出来ていなかったのと同然なのはライル言われるまでもなく本当は分かっていた。

何度も覚悟を決めなくてはと思い。何度も覚悟を決めたと思い込んだ。

言葉だけだ。言葉だけなら、何度でも思い込める。

でも中身が無かった。

ランサーと最後に戦った時もそうだ。

調子が良かったから、勝手に覚悟を決めたと思い込んだ。

それが間違って……

 

「ライダーのマスター……マリーさんが最後に何と言ったか覚えておりますか?」

 

「マリーが何を言ったか……たすけてって……」

 

「いいえ、勝てと」

 

"誇りなさい! このワタクシに勝利した事を! そして次も……いえ、全てのゲームで勝利しなさい!"

 

「死に際にそのような事を言うには、どれだけの覚悟が必要なのでしょうか」

 

同じ女として思うことがあったのかキャスターの言葉には先ほどと違い明らかな怒気が含まれている。

しかし、その言葉を聞いてようやくライルは思い出す。

そうだった。最後にマリーは、命乞いを止めて、死への恐怖を抑え、涙を堪えてライルを鼓舞したのだ。

 

「あぁ……そうか……」

 

間違いはそこだったのか……

 

(告白の返事とかそれ依然に)

 

「マリーに謝らなくちゃな……」

 

覚悟のない相手を殺した……それはマリーに対してとても失礼な間違いだったのだ。

マリーは最後の最後に覚悟を決めていたのだ。

それに気づかずライルはマリーを覚悟のない相手だと貶めた。

ライルがしていた覚悟とは違う本物の覚悟を無碍にしてしまっていた。

 

「ご主人様、本当は悩んでいたから気落ちしていたのではなく、悲しいから気落ちしていたのではないでしょうか」

 

「悲しいからか……」

 

その通りかもしれない、本当に酷い間違いだった。

ユーリに信念がどうとか言われていたが正直、それはどうでも良かったんだ。

だから、そのことについては直ぐに意識の外に置くことが出来た。

出来たのに気分が晴れなかった。

なるほど、道理で気分が晴れない訳だ。

 

「その悲しみは直ぐに癒えるモノではないでしょうが。それではマリーさんが……」

 

「すみません……いや、ありがとうキャスター。でもそれ以上は良い。分かってる」

 

マリーは誇れと言ったんだ。そしてこの聖杯戦争を勝ち取れと。

それを誇るどころか、こんな体たらく。本当に酷い間違いだらけだ。

何が"言われずとも俺は勝つ"だ。言われた事も忘れているじゃないか。

でもキャスターのお陰で気づけた。

 

「本当にありがとうキャスター」

 

「い、いえ……あくまで私の勝手な解釈なので……」

 

「それでも、ありがとう。僕は……いや、俺はもう……間違えたりはしないから」

 

散々間違えまくってきたのだ。

これ以上はもう間違えられない。

これは覚悟とかそう言うモノじゃない。

こんなのが覚悟だなんて言ったらマリーに面目がない。

 

「キャスター」

 

「はい」

 

「何度も言うけど、俺はもう間違えない。でも、これから馬鹿な事をすると思う」

 

「はい」

 

ライルの言葉にキャスターは静かに頷く。

 

「どうかと思うくらい馬鹿な事だけど、それが決して間違いなんかじゃないって思うから」

 

「はい」

 

ライルは握りしめた右手をキャスターへと向けると静かに言葉を紡ぐ。

 

「キャスター。汝のマスター、ライルスフィール・フォン・アインツベルンが令呪を以って願う。今後、俺が間違っていると思ったら遠慮なく契約を切ってくれ」

 

言葉が紡ぎ終わると、ライルの手の甲に刻まれていた令呪の三画の内、一画が消えた。

サーヴァントとの契約が切れると言うことは、サーヴァントを喪失する事と同義である。

サーヴァントを喪失すると言う事は、月の聖杯戦争において敗北を意味する。

そして敗北とは言わずもがな……死である。

その令呪は、ライルにとって自分への戒めであり楔だ。

 

「俺は絶対に間違えない。だから、信じて欲しい」

 

「はい……マスター」

 

キャスターがライルをマスターと呼んだのは二度目だった。

最初は契約の確認時で、それ以降はずっとご主人様と呼ばれてきた。

ライルは、ようやくマスターとして認められたのだと自覚した。

 

キャスターの目の前には、整形だろうが何だろうが、そこには紛れようもないイケ魂が輝いていた。

 

 

 

 

「俺がマリーをどう思っていたか」

 

返事は必要ないと言われたが……

ライルはマリーから受け取った銃型の礼装を握りしめ言った。

 

「嫌いじゃ、なかったよ……」








すみません。
次回で2回戦を終わらせるとか言いましたが、筆の進むままに書いていたら、終わりませんでした。
一つの場面で長々と書けるとは作者ですら予想できませんでした。

見切り発車で書き溜めなしで書き終わったら投稿してるので、登校前の内容を弄らないのが災いしてますが
後書きに書いてある解説やら内容やらはコロコロと変わるので基本信用しないでくださいね(笑)

前回もライルが立ち直ったとか後書きに書きましたが、今回が正真正銘ライルが立ち直る回となっております。

作者は気分屋さ

さて、そんな事を書いた後なので全然信用出来ないでしょうがこれで主人公サゲは終わります。多分

あと次回で2回戦を終わらせます……終わらせ……られたら…いいな…


令呪使用は、ダン卿からの悪影響


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2-7

「クハッ! 何があったか知らないが、この間とも違う少しはマシな面構えになったじゃねえか」

 

決戦当日、決戦場にて対戦相手であるランサーは開口一番に言った。

 

「確かに、迷いまたは悩み。今はそれが瞳から消えている」

 

ユーリの口から出たのは漫画でよくある、そんな月並みな言葉だ。

 

「すごい、眼を見ただけで、そんな事が分かるんですね。こんなとこに来ないで占い師でもやったらどうですか? お似合いですよ」

 

「ふむ。君の見立て通り、私にも占い師などという事をしていた事があったな。今は軍で精神医を生業にしているのだがね」

 

「そ、そうなんですか……」

 

挑発のつもりでライルは言ったのだが、見当違いの結果になってしまった。

精神医、確かに言われてみれば、ユーリはそのような風貌にも見える。

 

「しかし、占って運命を知る事が出来ようと、運命が変えられる訳ではない。変わらないからこそ運命なのだから。そして人の心情が分かろうと必ずしも癒せる訳でもない。精神医をしているが救えなかった者は幾人も居た」

 

「だから……」

 

だから、この男は月にやって来たのだろう。

しかし、ユーリが何故、この聖杯戦争に身を投じたのか、そんな事はライルにとって必要のない情報である。

 

「そう、私は私の力不足によって救えなかった者がいる事が許せないのだ。しかし研鑽をしている時間にどれだけの救われぬ人々が出て来る?」

 

「そんな事は知りませんよ。それ以上は言わないで良いです。僕には関係ないし、時間の無駄だ」

 

相手の事情を知った所で、得する事はない。

いらぬ感情を持って悩むなど、もう懲り懲りだ。

 

「そうだな、ホムンクルスである君に言った所で何にもならないか……いや、ホムンクルスであろうと人間であろうと意味の無い事には変わらないか」

 

話はそれで終わった。

あとは開戦を待つのみ。

開戦の合図などはない。

どちらが先に動くかどうか、ただそれだけだ。

もちろん、カウンタータイプのキャスターが先に仕掛ける事はない。

幸いな事に、今までしたライルの誤った指示は本来の戦い方と離れた物であった。それ故にキャスターの本来の戦闘スタイルを相手は知らないのだ。

 

「クハッ! 今度は何を狙っているか知らねえが、先手は撮らせてもらおうか」

 

ランサーがそう言って地を蹴るのを見ると、ライルもランサーに向かって走り出した。

 

「ほう、マスターのお前が前に出るのか?」

 

ライルは自分の髪の毛を抜くと、それをハルバートに変化させランサーへと振りかぶる。

だが、それは軽々と避けられてしまった。

 

「クハッ! 動きはてんで素人だな、武器に振り回されているようじゃ当たら……チッ!」

 

ランサーは喋りながら、ライルへ槍を突き刺そうとしたが、見えない壁に弾かれ失敗する。

 

「ふむ、キャスターからの後方支援か」

 

「いや、マスター。どうも今のは違うみてえだがな」

 

ユーリの推測をランサーが否定する。

 

(勘が良いやつめ……)

 

仕組みが分かった所で易々と突破出来る物では無いが、不意打ちで宝具の真名開放を使ってくるような相手だ油断は出来ない。

ライルは当たらないと分かっているが構わずランサーへとハルバードを振るう。

やはり、その攻撃は避けられたり槍でいなされたりして当たらない。

当然、ランサーからの返しの攻撃も来るが、その全ては『是、十二の試練』によって弾かれる。

 

「拉致があかねえ」

 

痺れを切らしたランサーは文句を言いながら、ライルから距離を取ろうとする。

ライルは追撃しようとハルバードを突き出した。

それを今度は避けずに槍で迎え撃とうとするランサー。

 

「炎天よ……奔れ!」

 

「クソが、キャスターか……ぐぁっ!」

 

地面から現れた炎柱が槍を振るおうとしたランサーを呑み込んだ。

そして、ライルが突き出したハルバードは弾かれる事なくランサーへと直撃する。

そのままライルはもう一度、ハルバードを振りかぶる。

 

「一度退け、ランサー」

 

その場を離れる事を指示するユーリ。

 

(無駄だ)

 

キャスターの呪術が直撃したのだ。その効果により暫くの間は動けまい。

ライルの振るったハルバードは、思い通りにランサーへと当たり……

ーー直後、ライルの意識は暗転する。

 

 

 

 

「私が夫とするのは、炎を恐れぬ、私を打ち負かす事が出来た真の勇者のみ!」

 

乙女は高らかに宣言した。

これほど凛々しく勇ましい女を私は見た事がなかった。

 

あぁ……なんと、美しく気高き戦姫か……なるほど王が執心する訳だ。

 

あれに挑むは男のサガと言うもの

 

 

 

 

(今のは、あの時と同じ?)

 

ライルの意識が戻ると、目の前には態勢を立て直したランサーが槍を構えていた。

意識が飛んだのは一瞬だけだったようだ。

 

「クハッ!今のは呪詛の影響だな。キャスターの警戒が薄かった俺の落ち度だ、すまねぇマスター」

 

「いや、それは私も同じだ。だがやはり厄介なのはホムンクルスの方か」

 

いきなりの事でライルは戸惑ったが戦いの最中だ。

相手側に、呑気に話をさせている程の余裕を与えて得する事などない。

再びライルはハルバードを構えると、ランサーへと駆け出す。

 

「確かに小僧は厄介だが……やりようはある」

 

ランサー近づいたライルはハルバードを振るう。

ランサーはそれをまた避けようとはせず、持っていた槍を手放すと、空いた両の手でハルバードを掴んだ。

 

「なっ!」

 

「クハッ! どういう仕組みか知らねえが、直接攻撃出来ないなら、こうするまでよ!」

 

そう言ってランサーは、掴んだハルバードをライルごと上方へと放り投げた。

それは、ライルも知らなかった『是、十二の試練』の抜け穴だった。

『是、十二の試練』は、あくまで対称へのダメージを無効化する概念礼装だ。

それ故に、身体的なダメージさえ無ければ危害を加える事が可能であったのだ。

投げられたライルはハルバードを手放し体操選手さながらの着地をすると、ランサーは既に槍を手にキャスターの元へと走り出していた。

 

「呪相……」

 

キャスターは既に迎撃のため札を手に呪術の準備をしている。

 

「防げランサー」

 

「キャスター、風だ!」

 

ユーリの出した指示を聞くと、ライルは間髪入れずにキャスターへと指示を出す。

そしてそれと同時にライルも走り出した。

 

「……密天。気密よ集え!」

 

ユーリの指示によりランサーは防御の態勢になるが、防御をすり抜ける風の呪術の前では無意味。

ランサーは風に切りきざまれ再び呪詛の影響で動けなくなる。

その隙にキャスターは宝具であろう鏡をランサーへと叩きつける。

同時にランサーへと走り寄ったライルはハルバードを叩きつけた……

 

 

 

 

「なんなんだ、あの女は! 自ら出した条件だったというのに、何が不満なんだ!」

 

私の仕える王は燃え盛る炎の壁を越え見事、女を打ち負かした。

だと言うのに、女はまるで悲しい事でもあったかのように憂いている顔をしていた。

 

「あのような女は信用できねぇ。そう思わないか友よ」

 

「すまない……」

 

「クハッ! そうだな、こういった事に疎いお前に言っても仕方のない事だったな英雄殿」

 

「すまない……」

 

愚痴を溢した私に対して我が友である英雄が溢した謝罪。

その謝罪の意味を知るのは、まだ先のことだった。

 

 

 

(……またか)

 

呪詛の影響が切れて、動けるようになったランサーは距離を取るようにライルとキャスターの側から離れていった。

 

「戦うすべに関しては分かっていたが、戦い方に関しては今までと違うのが厄介だな」

 

「厄介なのは、どうやら主だけではなかったか。しかし今のも対処法がない訳ではない……今の内に微量だが回復をしておくぞランサー」

 

回復のコードキャストが使われるのを、ライルがただ見ている訳もない。

 

「キャスター! 妨害を」

 

「はい。炎天よ……奔れ!」

 

しかしキャスターの投げた札はランサーへと届かず途中で小さく火柱が上がって直ぐに消えた。

火柱が消えた場所には槍が突き立っていた。

ランサーが投げた槍が、札を地に縫いつけるように刺さっだのだろう。

 

「クハッ! そう何度も喰らう無様を晒す訳にもいかんのでな!」

 

木の葉のように軽く小さな札を貫けるほど、投擲精度が正確なのが見てとれる。

 

「ご主人様、あの槍は……」

 

「武器について何か気付いた事が?」

 

「はい、あの槍は、私の呪術の呪詛を吸収していました」

 

「吸収?」

 

確かに先ほどの呪術はいつもの炎柱ではなく、小さな火柱だった。

当たらない事を見越してキャスターがギリギリで出力を抑えたからだと思ったが、そうでは無いらしい。

 

「あの槍の柄は何らかの呪具のようなものかと」

 

「刃の部分ではなく?」

 

「はい、柄の部分です」

 

以前、ランサーがキャスターの呪術を防いだ時に呪いがどうこうなんて言っていた覚えはあった。

しかし刃の部分で防いで、槍全体か或いは刃の部分がそうだも思ったが、キャスターの見立てでは柄の部分のようだった。

 

「クハッ! そんな事まで見破れるのか! 流石は呪術なんて碌でもないモノを使ってるだけあるな」

 

「鏡、見てみます?」

 

「いいや、自虐も含めて言ったのさ。俺は英雄なんかじゃないんでね、寧ろ逆だ。お前もだろ? 獣の耳に東洋風の着物に呪術なんて組み合わせ、候補が多いが……いずれも好き勝手して国を傾けるような碌でもない女ばかりだ」

 

勝手な物言いだ……。

 

どうして少女が月を見上げて涙を零したのかライルは知っている。

 

そして、涙の後に女が何をしたのかライルは知らない。

 

いや、仮に知っていたとしても、ライルの反応は変わらなかっただろう。

 

「よく知りもしない相手に、酷い言い様だな。少なくても俺にとってキャスターはこれ以上ない魅力的な女の人だけどね」

 

「ご、ご主人様……」

 

あの夢での献身的に奉仕する姿も、深い関わりがあった訳でもないのにマリー(他人の恋)のことについて叱ってくれた事も……

 

「クハッ! そりゃ女に惑わされている人間と同じ物言いじゃねぇか」

 

「無駄話は、そこまでだ。回復は終わった。決戦場において、セラフの邪魔は無い。一息に決めるぞ」

 

「あいよ、マスター……」

 

寒気。

無様にもアリーナで気を失った時と同じ感覚がした。

ランサーの槍に集まる視認できる程の赤黒い瘴気。

矛先はライルに直接向いている訳ではなく、キャスターに向いているのだが、やはり脚の震えが止まらない。

脳裏に浮かんでくる死のイメージ。

燃えている故郷の光景。

あれはきっと、そう言う物なのだろう。

 

「愛だの恋だの下らねぇ」

 

みるみるうちに槍が纏う瘴気は禍々しく増大していく。

あんなもの直撃してしまえばひとたまりも無い。

言葉通り決着を付けにきている……射線上に入って『是、十二の試練で』防ぐ事は出来なくても威力を緩和させる為に行かなくてはいけないのに……震えは止まらず足は動かない。

 

「そんな国を滅ぼしかねない碌でもねぇ愛だ恋だって感情を持ち込んでくるから……女ってのは最悪なんだ」

 

「………」

 

"ワタクシは貴方の事が好きですわ!"

その想いが碌でもない……と……

 

「……フハ…」

 

足は動かない。

だけど……

 

死ぬのが怖い?

そんな恐怖の中、アイツは勝てと言って声をあげて笑ったのだ。

まだ死ぬと決まってもいない自分が、それを笑飛ばせぬ道理はない。

そうだ、まだ腕は動かせる。

 

「フハハ!」

 

「ご主人様?」

 

割って入れぬのなら、そもそも撃たせなければ良い。

 

「フハハハハ! 何を言うかと思えば、モテない男が拗らせただけではないか!」

 

ライルの手には、マリーから貰った銃型の礼装が握られていた。

 

「降霊再現」

 

使い方は、ライルの中の魂が知っている。

 

「アポロン……」

 

「急げランサー、何かしてくるぞ!」

 

鳴り響く銃声。

ランサーに向いていた銃口は上を指しており、射出された光弾の射線上にランサーの姿はない。

 

「クハッ! 反動でずれたか? 残念だが準備は終わった。決めさせて貰おうか。復讐に狂う(デッドライン)--」

 

「いや、待てランサー! 上だ!」

 

「……バレエッ!」

 

ライルの叫びを合図に、ランサーの頭上に打ち上げられた光弾から光の矢が降り注ぐ。

 

「クソが!」

 

ランサーの目から見て、降り注ぐ光の矢は英霊の攻撃と遜色ないモノだった。

どうにかして対処しなければ確実に深手を負う。

そう判断して宝具の真名解放を中断し、その場を離れようとしたが……

 

「呪相・氷天」

 

そこに一枚の札が飛来する。

 

「氷天よ……」

 

ランサーが真名解放を中断したおかげでライルは、自分にかかっていたプレッシャーがなくなった事に気付く。

それと同時に足の震えが治ったライルは地を蹴り動き出した。

 

「降霊再現」

 

「……砕け!」

 

氷の呪術によってランサーの足は凍りついて、その場から離れられず、降り注ぐ光の矢を凌ごうと槍で捌き始めた。

 

「ナ…ン……イ……」

 

光の矢が降りやむとライルは、先ほどとは対照的に小さく呟き、ランサーに近付いて髪の毛で錬金したハルバードを大きく振るった。

 

「なにっ!?」

 

ライルのハルバードを振るう動きが先程とは全く違う事にランサーは驚きの声を洩らしながらも、槍の柄でハルバードを受け止めようとする。

槍とハルバードが触れた瞬間、再びライルの意識は暗転した。

 

 

 

 

このような辱めはあんまりだ、と女は泣いていた。

 

女を組み伏せたのは王ではなかったのだ。

 

炎の壁を越え打ち負かしたのも、女を寝所で組み伏せたのも全て力なき王の恋の成就の為に王に扮装した竜殺しの英雄が行った事だった。

 

女は、英雄の妻である王妹との口論の末に、それを観衆の面前で曝露された。

 

そして私は知ったのだ。

 

英雄が姦計により記憶を失い、記憶を失った後に英雄は王妹と婚姻した事。

 

その英雄が記憶をなくす前は、その女と夫婦だったという過去。

 

「私が夫とするのは、炎を恐れぬ、私を打ち負かす事が出来た真の勇者のみ!」

 

その言葉は王や周りの人間達にではなく英雄ただ一人に向けられた言葉だったのだ。

 

だというのに王に嫁ぐ事になってしまった自分に英雄は何も言わず、あろう事かその事に加担していたのだ。

 

「もはや誰かが死なねば収まらぬ!」

 

女は叫んだ。

 

命を差し出そうとしたのは英雄だった。

俺が死ねば収まるのであれば、俺を殺してくれと友である私に頼んできたのだ。

 

「責任を取るのであれば、生きてそれを果たすべきだ。死とは逃げでしかない」

 

ふざけるなと思いながら私は英雄にそう答えた。

 

「あぁ、すまない……その通りだな」

 

私の説得にあっさりと頷いた英雄に私は腹が立ったのだ。

去っていく英雄の背を結局、私は怒りのままに槍で射たのだ。

 

女の望みも英雄の頼みも叶えた。

しかし女は英雄の後を追い自らの命を落とした。

 

結局、誰も救われる事なく……

 

私は殺した英雄から剣と呪われた財宝を奪い。

 

それからの事はあまり覚えていないが……

 

最後は英雄から奪った剣で、王妹によって私の首は落とされた。

 

 

 

 

ライルの振るったハルバードによって槍の柄は砕け、そのままランサーは押し飛ばされた。

 

「その刃……いや剣は……そうか」

 

白昼夢のように見えた記憶の中で英雄から奪った剣と同じ形をしていた。

やはり、あの記憶はランサーのもののようだった。

 

「あんたが誰だかは知らないが……」

 

倒れ込んだランサーに向けてライルは言う。

 

「あんたが炎に挑むべきだったんじゃないか?」

 

「クハッ! さっきから妙な事ばかり脳裏をよぎるかと思えばお前か……クソが」

 

「見たくて見た訳じゃないんだけどな……恋が何だと言っておきながら……いや、だからこそ言ったのか」

 

連続で術式を使った反動でフラフラになりながらも、ハルバードを支えに立ちながらライルは告げた。

 

「あんた……その女の事好きだったんだろ。何が信念だ、意気地なしが!」

 

「クハッ。クハハ……知ったような口を……だが、そうか……やはり俺は…いや……私は、あいつに惚れていたのか」

 

柄の砕けた槍の先に括られていた刃……剣からは、禍々しい瘴気は消えていた。

 

「何を話している!」

 

「クハッ! 気にするなマスター、生意気な口を聞く、あのクソガキくらい潰してやるさ」

 

「だがお前の槍は……いや、槍だけではない……」

 

「いいや、これで十分……これが十全だ」

 

そう言って、腹を押さえながらフラフラと立ち上がったランサーは折れた槍の穂先に括られていた剣を手に取り振り上げた。

 

「そうか……私の落ち度だな。……全力でやれランサー」

 

「言われずとも」

 

「私は、私が出来る最大のサポートをする」

 

そう言って、ユーリは右手をランサーに向ける。

その手に刻まれていた令呪が一つずつ、ゆっくりと消えていく。

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る」

 

槍の時と違い死のイメージは見えない……。

だが、術の連続使用の反動でライルは動く事が出来なかった。

 

「キャスター……なんとか……防げ」

 

もはや、まともな指示ではなかったが、キャスターは静かに頷いた。

 

「撃ち落とす。『幻想大剣・天魔失墜(ノートゥング)』!」

 

剣から放たれたのは、禍々しい瘴気なとではなく清廉なる黄昏の剣気。

それは真っ直ぐとキャスターへ流れていく。

 

「私を傷つけられると思っているんですか?」

 

呪層・黒天洞

キャスターが使ったそれは、ライダーの光の矢を防いだ呪術だった。

放たれた剣気は鏡の中へと吸い込まれ消えていった。

 

「クハッ! 結局、厄介なのは主従両方だったか……」

 

「そのようだ……負けか……」

 

ランサーの手から剣が落ち、カランと地面を鳴らす。

いや、よく見てみるとランサーの手があった場所には何もなかった。

次にライルがハルバードを叩きつけた腹を見ると粒子となって半分近くが消えていた。

つまり、既にランサーは死に体だったのだ。

 

「……ライルスフィール・フォン・アインツベルン、先日の君の瞳は私の事など眼中にないと物語っていた。仕方のない事だ、私も君の事を人だと認めていなかった、いや認めたくなかったのだから」

 

「何を……言って」

 

「何も出来なかった敗者の言い訳さ、聞くも聞かぬも自由だ。掲示板の前で君を見た時、君は迷いか悩みを孕んだ瞳をしていた。まるで普通の子供のようにだ……認めたくなかったのだ」

 

「クハッ……結局本人に言うのか」

 

「悩んで泣いて笑う。普通の子供がこの戦場にいる事を認めたくなかった。だから君が人を模しただけのホムンクルス、人間ではないと。今日の君を見て、もはや違うのだと思い知った。その身はホムンクルスだとしても心は普通の人間と同じだ……認めたくはないがな」

 

ライルは、ユーリの口からそんな言葉が出てきた事に驚き何も言えなかった。

 

「私は軍医だ、精神医だがな……。人を救う生業をしているのに、人を救う為に月に来たのに……している事は人を殺す事だ。ましてや、ただの子供を殺すなど私には……。お笑い種だな、信念が無かったのは私の方だったというのに」

 

人を殺す覚悟が出来ていなかったのは、ライルだけではなかった。

目の前にいるユーリ・シュライツマンも同じ悩みを持っていたのだ。

遠くから不意打ちで殺そうとしてきたのも……少しでも近くで死を見たくなかったからなのだろうか。

 

「謝罪しよう。ライルスフィール・フォン・アインツベルン。すまなかった、少年よ。君は他人の為に憤る事が出来る立派な人間だ」

 

そう言い残してユーリ・シュライツマンは、粒子となり消えた。

 

「クハッ! 見るな見るな。言い残す事なんてねぇよ……お陰で気付きたくない事まで気付かされちまったしな……ま、気分は悪くねぇが」

 

そう言ってランサーも消えていった。

 

ここに月の聖杯戦争第二回戦が幕を閉じる。

 

(勝った……)

 

勝利の安堵によって、気を張っていたライルは力が抜け、その場に倒れ込んだ。

 

「マスター!」

 

「だ…大丈夫。疲れた…だ……け」

 

そのまま落ち着いた寝息をたててるライルの姿を見てキャスターは安堵した。

 

"少なくても俺にとってキャスターはこれ以上ない魅力的な女の人だけどね"

 

自分への誹謗を庇うように主が言った言葉……悪い気分はしなかった。

反面、ランサーが言った言葉も事実であるが故に申し訳なくもあった。

 

「今は、ゆっくりとお休み下さいまし、ご主人様……」








これにて2回戦も終了。
考えがまとまらず、まとめた結果がアッサリとした先頭。
相手側の描写とかも少しは入れないと、と思い色々書き足したり減らしたり
なのに文字数は今までの中で一番多くなりましたね。

ランサーの真名をライルは最後まで知らずに倒しました。
エクストラのシリーズだと珍しい事ですけどSNだと真名が判明しないで、退場する事もあったので、こんな感じで良いかなって。
因みにランサーの真名に関しては、同一人物でも物語によって設定が違ったりする事が多かったので、様々な出展の設定をごちゃ混ぜにして捏造して作られたライダー以上のオリ鯖ですね。
調べている途中でfgoでチラッと登場していたり……すまない……すまないさん持ってないんだ……すまない……Wiki知識をてきとうに解釈して設定盛り込んだりしました。

次の前書きにステータスでも載せようかと思っているですけど
そもそも前書きや、後書きは読んだ余韻的なものをぶち壊すから、活動報告ってのでやった方が良いのかな?
わざわざ、そっちで言い訳見てくれる人いるのだろうか……(言い訳するなって話ですがww)


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太陽狐と月兎 マテリアル 二回戦

次話の前書きか活動報告にランサーの詳細を書くつもりだったんですけど
思ったよりも字数が多かったのでマテリアルもどきとして本編に書ききれなかった事をこんな感じで投稿しました。

一回戦の分も気が向いたら書きます。

あくまで本編の補足なので、興味ない人は読み飛ばしてok





クラス:ランサー

マスター:ユーリ・シュライツマン

真名:ハーゲン

属性:混沌・善

身長・体重:

筋力:B 耐久:E 俊敏:A 魔力:B 幸運:C 宝具:B

 

クラススキル

対魔力:B

 

保有スキル

黄金の呪縛:EX

ラインの黄金に魅入られた者に付与されるスキル。ラインの黄金を手にする為に争ってきた者たちの呪詛により、放出された魔力は瘴気へと置換される。

英雄殺し:C

友人である英雄を殺した事により得たスキル。

属性が善の相手に与えるダメージのランクが1段階上がる。

投擲(槍):A

槍の投擲精度が上がる。

 

宝具

黄金の財宝(デッドライン)

ランクA 対人宝具

竜殺しの英雄を殺して剣と共に奪った黄金。

前の所有者である竜殺しの英雄も他者から奪って手に入れた物であり、そのまた前の所有者も同様である。

世界を支配する力を手にすると言われ、同時に死の呪いが込められている。

槍の柄はこの黄金で造られている。

 

幻想大剣・天魔失墜(ノートゥング)

ランクA+ 対軍宝具

レンジ:1〜50

最大捕捉:500人

Aランクに到達した魔剣と聖剣両方の属性を持つ黄昏の剣。竜殺しを為した呪いの聖剣。

原典である魔剣『グラム』としての属性も持ち、聖剣にも魔剣にも成り得る。

別名、聖剣バルムンクの魔剣としての姿。

竜殺しの英雄を殺して奪った魔剣。

刃の代わりに槍の柄に括られていた。

 

出展は

ニーベルンゲンの歌

ニーベルングの指環

ヴォルスングサガ

をごちゃ混ぜにしてfateの既存設定を少し盛り込んだ物

 

竜殺しの英雄、ジークフリートの友であり。

ジークフリートを殺した張本人。

 

周りに合わせて砕けた態度をとっているが、根は真面目であり、素の一人称は私。

 

2-7の回想の中に出て来た戦姫とは、

ヴォルスングサガ、ニーベルングの指環におけるブリュンヒルデ

ニーベルンゲンの歌におけるブリュンヒルト

である。

太陽狐と月兎での戦姫の設定は上記の人物を掛け合わせた者。

戦姫は、ジークフリートと戦い破れジークフリートと結婚したが、ジークフリートは薬の所為でその記憶がなくなってしまう。

後にジークフリートとハーゲンとハーゲンが仕える王グンデルが戦姫と邂逅する。

その際に王は戦姫に惚れ求婚するが

「私が夫とするのは、炎を恐れぬ、私を打ち負かす事が出来た真の勇者のみ!」

と戦姫は言った。

自分の夫はそれを為したジークフリート以外にいない(ジークフリート以外に自分が負けるはずがない)と言う意味で言ったのだが

王は戦姫の宣言通り、戦姫を打ち負かしたので(実際は王のふりをしたジークフリートが打ち負かしたのだが)結婚せざるを得なくなり渋々ながら結婚。

結婚初夜、情事に気分が乗らなかった戦姫は王を縛りあげて天井から吊るした。

いとも簡単に吊るせたので、王の強さに疑問を持つが

次の日、王(のふりをしたジークフリート)に力で組み伏せられて、王に逆らう事は無くなった。

一方、ジークフリートは王の妹であるクリームヒルトと結婚しており。

その王の妹と戦姫は仲が悪かった。

王妹との口喧嘩の末に、すべての真実が観衆の前で暴露され……

自分か王かジークフリートの誰かが死なないと気が済まないと戦姫は言って涙を流した。

戦姫と同じように王も恥を晒されたので重臣であるハーゲンはジークフリートを殺そうと決意する。(実際は王の為と言うのは自分でも気づかなかった建前で一目惚れした戦姫の為)

しかしジークフリートは自分から殺して欲しいとハーゲンに頼み込んできたので、拍子抜けしてしまい、命を投げ出さずに解決しろと説得する。

説得により、ジークフリートは生きて解決する方法を選んだ。

たった一度の説得で簡単に意見を変えたジークフリートに、その程度の覚悟だったのかとハーゲンは怒りを覚え、結局後ろから槍を投げてジークフリートを殺した。

その後、剣と黄金を奪い、呪われた黄金を王妹であるクリームヒルトに使われないように川へと沈めた。

ジークフリートが死ぬと戦姫は後を追うように自殺。

クリームヒルトはジークフリートを殺したハーゲンに復讐する為にフン族の王へと嫁いだ。

ハーゲンはフン族の王アッティラ・ザ・フンと戦い、生き延びたが、逃げた先で待ち受けていたクリームヒルトに剣を奪われ、その剣で首を落とされた。

 

以上が今作におけるハーゲンの生い立ち。

 

アッティラ・ザ・フンつまり文明絶対破壊するウーマンと戦って生き延びる事が出来る程の実力がハーゲンにはあるって事ですね。

それ関係の事はfgoでのアルテラの幕間の物語に絡んだ設定です。

 

なお、fgoでジークフリートの幕間の物語にハーゲンが登場してるらしいけど、ジークフリートはレアプリとなったので我がカルデアにはいないのだ……すまない……彼はモナリザになったのだ……すまない……

 

 

続いてマスター

ユーリ・シュライツマン

元占い師で、軍属の精神医。

占いをしながら世界を回っていた中で、とある戦医の男に出会う。

空虚でありながら何かを求める強い信念に魅せられ自らも戦医になった。

 

占い師として純粋な占術だけでなく心理学もつかって多くの人々を救って多くの人を救えなかった。

心理学を使い戦医として、数多くの戦争に巻き込まれた民間人や軍人を救って救えなかった。

 

力不足を嘆き、聖杯を目指しムーンセルにやってきた。

 

彼の出会った戦医とは言わずもがな……欠片の男である。

 

その辺の話を本編に入れようと思っていたのだが、本編を書いている内にタイミングを逃してしまい……設定のみになってしまった。

 

全ては作者の技量がない所為である。

 

 

 

こうやって設定だけはモリモリと思い付くのだけど、それを文にする力を私は欲しい……






関係ない話ですがfgoのCCCコラボ最高でしたね……CCCやった時はメルト言うほど好きじゃなかったんですけど、FGOのメルトは勢いで聖杯を捧げてLv100にするくらい好きです。
今までにないくらい馬鹿みたいに課金して宝具レベルも4まであげました……一度大きく課金してしまうと枷が外れたかのように金を使ってしまうので
無課金の人は、欲望に負けて課金しない方が身の為ですよ……本当に……


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3-1

超久々の投稿、内容は限りが良いところで締めたかったので短いです


 

「お目覚めですか?」

 

「あれ……あぁ……はい」

 

瞳を開くと、眼前にキャスターの顔が見えた。

正確に言うと、ライルとキャスターの顔の間に2つの山のような物も見えている。

寝覚めのライルからすると理解の及ばない光景であり、服の上からではあるが二つの膨らみは思春期には刺激の強い光景であった。

そして絶景であった。

 

「え、えぇと……すみません、また運ばせてしまって」

 

「いえ、ご主人様。無理して、そのような言葉遣いをしなくても大丈夫ですよ」

 

「あっ……そうか、今更、か……って! そうじゃなくて、すみません!」

 

ライルは急いで、枕……キャスターの膝から頭をどかして起き上がった。

 

「もう大丈夫でございますか?」

 

「だ、大丈夫、大丈夫」

 

「まだ寝ていても大丈夫ですよ、夜は明けても、まだ早朝ですから」

 

そう言って、キャスターは自分の膝を叩いた。

 

「いや、それじゃキャスターが休めない……それよりもキャスターこそ休んだ方がいい」

 

膝枕をしながら、ライルの様子をずっと看ていたのだ。

その態勢で休められるかと言われれば答えは否だろう。

 

「ご心配ありがとうございます。ですが私はサーヴァントですから、睡眠を取る必要はありません」

 

「そ、そうか……と、と言うか何故膝枕?」

 

何故、キャスターが自分に膝枕をしているのか。

少しずつ頭が働いてきたライルは、その疑問に辿り着いた。

確か自分は、ランサーとユーリ・シュライツマンが消えていくのを見届けて……その後に気を失ったのだ。

そして目が覚めて今に至る。

 

「何故…ですか……。そうですね、何となくそうしたかったから……ですね。ご迷惑でしたか?」

 

「い、いや迷惑じゃないけど……むしろ悪くないと言うか、心臓に悪いと言うか……」

 

「ふふっ……」

 

歯切れの悪いライルの様子を見て、キャスターはイタズラが成功した子供のように笑みをこぼした。

 

(笑った……)

 

その顔は夢で見た少女と少しだけ重なって見えた。

 

「キャスター」

 

ライルは落ち着いた声色で話す。

 

「あ、すみませんでした。つい……」

 

ライルの突然の声、笑われた事にライルが怒ったと勘違いしたのかキャスターは謝罪の言葉を口にする

 

「ん? あぁ……いや、そうじゃなくて。キャスター、前にも言ったかもしれないけど、もう俺に遠慮はしないで欲しい」

 

今みたいに遠慮なく笑っていて欲しい。

自分はキャスターのお陰で吹っ切れたのだ、それなのにキャスターが窮屈で堅苦しいままだと不公平だ。

 

「この前みたいに聞きたい事、言いたい事があったら遠慮なく言ってくれ。答えられるか分からないけど……応えようと思うから、だから……」

 

そうは言っても、夢の中でも落ち着いた物腰だったキャスターが、そう簡単に態度を変えるとは思えなかった……

 

 

 

 

「ご主人様、ご主人様。きつねうどんがあるのに、お稲荷さんが無いのはどうかと思いません?」

 

「あ、あぁ、うん。そうだね……」

 

「そもそも、あんな劇物をメニューに追加するくらいなら、稲荷寿司を置くべきだってんですよ、抗議しましょう!」

 

「あはは……」

 

キャスターの言う劇物とは、あの見るからに辛いだけでは済まなそうな麻婆豆腐の事だろう。

その赤黒さはランサーの槍を髣髴とさせ……

 

(いや、そんな事よりも……まさか本当に態度が変わるとは)

 

遠慮しないで、とは言ったが予想に反して態度が激変しているキャスター。

一回戦の途中からは静かだったので忘れていたが、今思えば契約したての頃に片鱗は少しあったような気がする。

 

「いっそ材料だけ買って自分の手で握ってみるのは」

 

そう提案したライルの言葉に最初に反応したのはキャスターではなかった。

 

「へぇ……前から思ってたけど、やっぱり貴方の知識って妙に日本に傾いてるわよね」

 

ライルとキャスターの会話に乱入してきたのは遠坂凛だった。

 

「またお前か、毎回初日に声をかけてくるけど……何? 俺の事心配でもしてくれてんの?」

 

「まさか、厄介そうな相手が消えていてくれてないか確認してるだけよ」

 

「ツンデレ?」

 

「は?」

 

「いや、冗談だから。そんな声出すなよ……」

 

キレ気味な遠坂にライルはたじろぎながら言う。

 

「で、何か用か?」

 

「別に、前に見た時と違って随分とスッキリしてるから気になっただけ」

 

「まあね。吹っ切れたと言うのには語弊があるが、覚悟を決めたって感じかな……」

 

「そう。いっそ前のままなら楽に戦えそうだったのに。まぁ用は特にないから。それじゃ」

 

そう言って、遠坂はライルの前から去っていった。

本当に用はなかったらしい。

 

 

 

 

「うわぁ、真っ白だね、アリス」

 

「そうね、真っ白だわ、ありす」

 

次の対戦相手、その確認をしに行こうと廊下を歩いていたら、目の前に現れたのは双子の少女だった。

 

「お目々は真っ赤よ、ありす」

 

「そうねお目々は真っ赤! まるでウサギさんみたい」

 

「えっと……」

 

双子と称したが、それが本当の双子ではない事くらいライルは察していた。

片方はサーヴァントだ。

マスターの姿に化けているのか、マスターがアバターを弄ってサーヴァントの姿を真似しているのか。

はたまた偶然姿が同じなのか、服の色が白と黒で分かれているので見分けはつくが……

 

「ウサギさん、ウサギさん、わたしたちと遊びましょ!」

 

「待ってありす、今回はあっちのお姉ちゃんが遊び相手みたいよ」

 

そう言って黒い服の少女が指差した先に居たのは岸波さんだった。

 

「そうだったわアリス、あっちのお姉ちゃんと遊びましょ!」

 

そう言って、興味の対象をライルから岸波白野に移したのか、あっさりとライルの前から去っていった。

今の様子を見る感じだと、おそらく岸波さんの次の対戦相手が今の少女達なのだろう。

まるで無邪気な子供だったが。

しかし、この戦いを二回も勝利しているのだ、侮っていい相手ではない。

まぁ心配は要らないだろう。

岸波さんが今この場にいると言う事は、あの主従を倒したと言う事だ。

ならば、覚悟ば決まっている筈。

人の事を言えた義理ではないけど、自分も既に覚悟は決まっている。

さて、さっそく次の対戦相手を確認しよう。

そう思い、対戦表が表示されている掲示板を覗く。

そこに記されていた名前は……

 

『柳洞一成』

 

ライルにとってこれが、予選にて行われた虚構であり同時に本物でもあった青春との最後の訣別となる。






出来栄えに関しては、納得がいってないんですが、拘って何も出さないでエタるよりかは取り敢えず投稿しようと思った次第です

別作品も制作進めてたりゲームにハマったりで次回更新も凄い時間かかるかもですが


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3-2

アリーナの中、暗号鍵を探そうと探索をしている途中。

坂道になっている道の上にアサシンと柳桐一成は待ち構えていた。

 

「思わぬ決勝になったな副会長殿」

 

「いやいや、まだ三回戦でしょ会長殿」

 

「然り、だが俺にとっては決勝のようなものでな、ライルスフィールお前さえ倒せば優勝したようなものだ。ならば実質決勝と言っても差し支えないだろう」

 

「その評価は嬉しいけどね。残念ながらお前は銀メダルで終わりだ」

 

「銀メダル?ふむ随分と古い例えだな」

 

そういえばこの世界のこの時代に五輪はもうやっていないんだったか?

まぁいい

 

「話は程々に、そこで待ち構えるという事は戦おうって事だろ?」

 

「まさしく、話が早くて助かる」

 

「アサシンのサーヴァントなのに真っ直ぐ待ち構えているのは逆に怪しいんだけどね」

 

まぁ俺の知識が間違っていなければ、あのアサシンが不意打ちをするタイプじゃないのは知っているのだが

むしろ伝説によればあのアサシンが戦った相手の方が不意打ちをしそうだ。

まぁ目の前のアサシンは本物の佐々木小次郎ではないらしいのだけど、それは置いといて

それでもこっちが相手の事を知らないフリをするのは、こちらの情報アドバンテージが無いと思わせるため。

こちらが対策を練っていないと思わせて油断させるというのが目的だ。

 

「確かに私の剣は邪道ではあるが、しかしやってきた事と言えば棒振りだけなのでね」

 

「まぁ確かに忍者には見えないね、それなら出来るだけ距離をとってくださいキャスター」

 

「では始めるとするかライルスフィール。行くぞアサシン」

 

「承知したマスター殿。アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。いざ参らん」

 

「な!?」

 

ライルは忘れていた、アサシンは自分の名を全く隠すつもりのないサーヴァントだったと言う事を。

実態としては本人ではなく、佐々木小次郎と言う名を与えられた無名の剣士なのだが

そして気づいていないフリは全く意味をなさなくなった。

 

(余程佐々木小次郎と言う名を与えられたのが嬉しかったのか名乗りたがりめ……)

 

心の中で愚痴る。

 

「キャスター予定変更はなし、離れて攻撃を!」

 

キャスターはいつものように元気に返事をすると、呪符を投げた

 

「なるほど」

 

しかし呪符は効果を発揮する前に斬り落とされていた。

 

「速い……」

 

ライルは熱心なゲームファンと言う訳でも無かったのでステータス確認と言う要素を全く見ていなかった為、知らない事があった。

あのゲームにおいて、アサシン佐々木小次郎の敏捷性はランサークーフーリンをも上回るステータスを誇っている。

単純な動作の速さがあれば移動速度も遅くない事は自明の理。

普段は柳桐寺の山門に縛り付けられているからその能力は埋もれていたに過ぎない。

そしてその速さを用いてアサシンは距離を詰めてきた。

 

「キャスター術と鏡で同時に攻撃を!」

 

それでもライルは直ぐに対処を考える。

もともと想定外の事が起こるのは想定済みだ。

情報アドバンテージが無ければ必ずしも勝てない訳ではない。

前回の戦いも、結局真名を暴く事なく勝てたのだ。

 

「流石に斬れぬか、ならば」

 

術を発動する前に符が斬られるのなら、斬られる事のない鏡で攻撃すればいい。

しかし、アサシンの対応も早かった。

鏡の攻撃を弾き、刃を切り返し直ぐに呪符を斬り落とした。

 

「キャスター氷の術を」

 

「恐らく更なる物量で来るぞ気を付けろアサシン」

 

一成にこちらの意図を察される。

氷の呪術による物理的な攻撃を弾き斬れないほど大量に放つ。

呪符が間合いに入る前に氷の呪術を発動し待機させ同時に射出する。

しかし驚くことに、かなりの物量の氷を素早い手数で全て切り刻まれる。

だが先ほどと違う点が一つ。

流石の物量にアサシンは攻撃に転じる事が出来ていない。

キャスターもキャスターとて有効打を与える事が出来ず、ジリ貧なのだが。

今ここでライル自身が攻撃を行えば有効打を与える事はできるだろうが、出来ればそれは避けたかった。

それを見せるのはまだ早い。

決戦まで取っておくべきだろう。

 

「ふむ、埒があかぬな。それならば」

 

マスターである一成が何か動き出そうとするが……

 

『セラフより警告≫アリーナ内でのマスター同士の戦いは禁止されています』

 

「む、もうそんな時間なのだな」

 

『戦闘を強制終了します』

 

「何か仕掛けられる前に終わって良かったと言うべきかな」

 

「何を言うかライルスフィール。たとえ俺が何を仕掛けようとも簡単に対処出来ただろうに」

 

セラフが分断した壁越しにライル達は会話を始める。

 

「ここまで勝ち上がって来ているんだ、どうせ簡単に対処させるつもりはないだろ。それに俺も手札はなるべく伏せておきたいからな」

 

「ははは! 違いない。ん? どうしたアサシン笑っているが」

 

半透明の壁越しにアサシンがニヒルな笑みを浮かべているのを一成の指摘によりライルも気づく。

 

「いやなに、呪い師と試合うのは初めての経験でな、今まで一つの的ばかり斬っていた故に中々に新鮮だった。それに相手が見目麗しい女子であったのだから愉しくない筈なかろうて。そうは思わぬかマスター」

 

「ああいや、拙僧修行中ゆえそう言った話は……」

 

「嘘つけ、お前キャスターの事チラチラ見てたろ、俺だって気づいたわ。本人だって気づいてるぞ」

 

そう言ってライルはキャスターに視線を向ける。

 

「え、えぇまぁ視線は感じておりました」

 

戸惑いがちにキャスターは答えた。

 

「な! 戦っていたのだから、視線を向けるのはあたりまえだろう! 断じて卑しい気持ちなど」

 

「えぇ〜本当にござるかぁ〜?」

 

「なんなんだアサシン普段使いもしないござる口調で話しおって!」

 

その一成の反応にアサシンと共にライルは笑う。

 

「さてと、良い運動の後だ。私としては華を見ながら茶でも飲みたい気分よな。無論、華とはお前の事だが、どうかなキャスター、この後共に茶でも」

 

「え、嫌ですけど。気持ち悪い、早く帰りましょうご主人様」

 

ストレートだった。

遠慮しなくなったのはライルにだけではないようだ。

いや、元々こうだった気もしないでもない。

とまぁ、ひとしきり話し終えアリーナの探索を中断してマイルームへと帰った。

 

 

////////

 

 

「本当にとても仲がよろしいのですね」

 

マイルームでの最初の話題がそれだった。

一成との事だろう。

 

「まぁ予選の時一番長くいた男友達だったしね」

 

「伺ってはおりましたが、あれではまたお辛くなるだけでは……」

 

俺は一成に対して、戦っている相手……これから殺す相手だと分かっていながら、軽口を叩き、まるで仲良く遊んでいるかのように接していた。

 

「心配してくれてるのか、ありがとう。でもさ、どう接していようと別れは辛い。別れる前から辛気臭くなってたら時間が勿体ない」

 

それは、おそらく一成も同じ思いだったからこそ、成り立ったのだ。

 

「賛否両論だろうけど、友達相手だからこそ、最後までちゃんと友達でいたい」

 

今度こそは、とライルは小さく呟いた。

 

 

////////

 

 

「ヴォーパルの剣?」

 

目的もなく暇つぶしに廊下を歩いていたら、岸波さんに話しかけられた。

どうやらヴォーパルの剣を欲しているらしい。

 

「ジャバウォック退治でもするのか?」

 

岸波さんは少し驚いた様子を見せる。

どうやら本当にジャバウォックと戦うつもりらしい。

 

「なるほどね」

 

ヴォーパルの剣は確かジャバウォックの詩という鏡の国のアリスの一節に出てくる怪物ジャバウォックを倒すために使われた剣だったはずだ。

つまりあの少女の姿をしたサーヴァントはアリスという事なのだろう。

マスターと同じ姿をしていた事など引っかかる事はあるが、ライル自身が戦う訳でもないので深く考える事はしなかった。

 

「でも残念ながら、存在を知ってはいるけど入手法までは知らないかな。まぁレシピと材料さえあれば錬金出来ないことは無いだろうけど」

 

そうして会話は終わり岸波さんは礼を言って元来た道に戻っていった。

 

 

////////

 

 

アリーナ探索2日目

暗号鍵は思ったよりも早く見つける事が出来た。

しかし、それを見計らったかのように一成は現れた。

 

「なんだ、わざわざ暗号鍵を取るのを待っててくれたのか」

 

「いかにも、互いに決戦まで行けずに終わるなどと言う馬鹿らしい真似はしたくなかったのでな」

 

「なら自分の分の暗号鍵を取ったら直ぐに帰ればいいだろ」

 

「さもありなん。だがそれでは、詰まらんだろう」

 

「戦闘狂め」

 

「かもしれんな……では行くぞアサシン!」

 

「備えろキャスター!」

 

真っ直ぐキャスターに向かって走ってくるアサシン。

それに対してキャスターは炎の呪術を地面に向けて放つ。

 

「む……」

 

呪符を斬られる前に術を発動させる方法は前回行った事以外にもある。

呪符を斬れない或いは斬りづらい場所に放つ事だ。

直接相手に投げるだけが攻撃方法という訳ではない。

 

「炎天よ奔れ!」

 

複数の炎柱がアサシンの進路を塞ぐ。

それらを難なく躱し炎柱のない場所をすり抜けアサシンはキャスターの元まで辿り着く。

 

「氷天よ、砕け!」

 

しかし、それこそが狙いだ。

敢えて炎柱のない抜け道を作りそこに誘導し攻撃の道程を絞りあらかじめキャスターのカウンター呪術を用意しておく。

炎柱はそのための時間稼ぎでもある。

おそらく一度きりしか効かぬ戦法だろうが、一度でも効けばこちらのモノだ。

 

「ぐぬ……」

 

「お眠り下さい」

 

カウンター呪術によりスタン状態のアサシンへ連続攻撃が炸裂する。

 

「やはり、決戦まで取ってはおけぬか」

 

「その場を離れろキャスター!」

 

「もう遅い、捕らえた!」

 

一成の声と共にキャスターとアサシンの背後に壁の様な物が現れる

 

「どうやら結界の様でございます、ご主人様」

 

「つまり、戦うステージを狭めたって事か」

 

それにより、キャスターが動ける範囲は全てアサシンの間合いの中になる。

そして今度はアサシンからの連続攻撃がキャスターを襲う。

 

「防ぐ事に集中しながら氷天の準備を!」

 

「はい!」

 

そう返事はするもののアサシンの敏捷性に鏡一つでは対応仕切れず、キャスターも痛手を食らってしまう。

 

「キャスター、自分とアサシンの背後に術を!」

 

「呪相・氷天!」

 

そうする事によってキャスターとアサシンの背後に何本もの氷柱が出来上がる。

 

「そのまま続けて」

 

それによって動ける範囲はさらに狭くなっていく。

それはアサシンも同様。

 

「いかん! アサシンこれ以上氷柱を増やさせるな!」

 

「承知した!」

 

「流石に気づいたか、だがキャスター続けてくれ!」

 

ライルの狙いは、氷柱をいくつも立てアサシンが刀を満足に振るえないほど行動範囲を狭めるという事だ。

通常の刀であれば、刀を振るえないほど狭くしたらキャスター自身も満足に動けないくらい狭めないといけないが

アサシンの使う得物である物干し竿はアホみたいに長い刀であるために少し狭めるだけで十分なのでキャスターは問題なく動ける。

相手がステージを狭めたからこそ出来たそれを利用した対処法だ。

アサシンは増えていく氷柱の対処に攻撃の矛先を変えたので、まだ問題なく刀を振るう事は出来ているが

そのお陰でキャスター自身への攻撃は止んだ。

 

「地形を無理矢理変える術式とは、流石に驚いたな」

 

使い方によってはライルの『是、十二の試練』と同じような事も出来るという事だ。

手動で行う必要があるが、サーヴァントを守る壁を作る事も出来るという事でもある。

 

「正確には地形にオブジェクトを追加しただけだがな」

 

「なるほど、じゃ別にアリーナの壁と違って壊せない訳じゃないって事だな」

 

「然り、だがそんな暇はあるまい」

 

キャスターは氷柱を増やそうと、アサシンはそれを増やさせまいと他の行動に移す余裕はない。

 

「確かにな」

 

今のキャスターにそんな余裕はない。

ライルとしても決戦まで隠しておきたかったが、相手が隠し玉を出したのであればこっちも出すしかない。

 

「くはっ! だが攻撃出来るのはサーヴァントだけじゃないぜ」

 

「む! ライルスフィール何を」

 

「降霊再現」

 

ライルはいつも通りハルバードを錬金する。

 

「デッドライン・ハルバード!」

 

本物とは違い呪いではなく魔力を纏ったハルバード……斧槍を一成が作った壁に向かって投げつけた。

 

「キャスター黒天洞だ!」

 

「かしこまりました」

 

キャスターは自分の周りを漂っていた鏡を手に取ると己が使える最大の防御呪術を使う。

わざわざ術の名前で指示を出したのは、相手にキャスターの行動を悟らせないため。

アサシンが呪術に精通でもしていない限り、術の名前でこちらの行動を悟られる事は無いだろう。

そしてライルの企みは成功する。

ライルの投げたハルバードは一成の作った壁を貫き、その中の地面に突き刺さると、斧槍が纏っていた魔力は爆発を起こしたかのように拡散する。

 

「くっ……」

 

キャスターの呪術に警戒したアサシンは防御の態勢をとるのが少し遅れ、魔力の拡散攻撃をもろに受けてしまう。

 

「ふーー野を跳び回る子うさぎだと思ったのだがな。その実、猛虎の類であったか……」

 

『セラフより警告≫アリーナ内でのマスター同士の戦いは禁止されています』

 

タイミングが良いのか悪いのか

 

『戦闘を強制終了します』

 

あと少しでおそらくアサシンは倒せていただろう。

 

「続きは決戦でだな」

 

「今回は遅れを取ったが、次は負けん」

 

だが、こんな道半ばで決着が着くよりかは決戦まで持ち越した方が気分的に良かった為、ライルは惜しいと思う反面、安心していた。

 

「ライルスフィール、放課後の殺人鬼に気を付けろ」

 

「それって」

 

その言葉には覚えがあった。

予選の際に一人一人参加者が何者かに殺されるという事が何度かあった。

その犯人は掴めていないが、マスター達の間で放課後の殺人鬼という呼び名で警戒されている。

 

「また動き出したようだ。どうやら有力株を潰して回っているらしい」

 

「忠告どうも。一成も気を付けろよ」

 

「ふ、俺より先にお前の方が狙われるであろうがな」

 

そうしてお互いにリターンクリスタルを使い、この日のアリーナ探索は終了した。






ここから今まで以上に駆け足でエクストラ編は進むかもしれません。
三回戦は、次話かそのまた次話で終わらせるつもりです。
四回戦はさらに短いかも
作者のやる気の問題と言うよりかは元々三回戦四回戦に起こる出来事上、書くことが少なくて……

因みに全ての試合の対戦カードは全て決まってます。
あとはそれを文字におこせるかどうかの問題……


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3-3

自分で気付いた部分だけ誤字脱字修正しました


少年がホムンクルスとして生まれ変わる前、つまり前世においても髪の毛の色は白く瞳の色は赤みがかっていた。

瞳に関しては正確に言うと赤茶色だったので今とは違う色なのだが。

いわゆるアルビノと呼ばれる遺伝子疾患だったのだろう。

そんな見た目が、迷信深い田舎では特別視され持て囃され、そして終いには……

そんな白い髪か嫌だったかと言うと、イエスでもありノーでもあった。

故に生まれ変わってもそんな髪色が引き継がれた事に本人としては複雑な気分にもなった。

引き継がれたのは髪の色や魂と記憶等々、色々とあるが一つ引き継がれなかったモノがあるとしたら、それは名前だ。

髪の色が同じでも名前だけは違う。

ライルスフィールという名が与えられているが、別に前世の名を名乗ろうと思えば名乗る事は出来る。

しかし、敢えてそうしないのは大した事ではないが理由がある。

今、この世界に生きている自分と前世の自分をちゃんと切り分けたかったからだ。

あの頃の自分は文字通り、もう死んだ。

無理矢理与えられたとは言え、今の自分は力がある。

前世の名を名乗ると、力のない弱い自分に戻ってしまうのではないだろうか? とか、そんな事さえ考えてしまう自分がいる。

だから、少なくてもこの戦いが全て終わるまでは名乗るまいと思っていた。

しかし、現実はそんな誓いをいとも容易く破らせてくる。

むしろ、そんな誓いを立てた所為で、魂の奥にまで己が名前を刻みつけてしまったから、こういう目にあったのか。

まあ実際は、よくよく考えてみると、そんな大した出来事でもないのだけれど。

 

 

////////

 

 

「なるほど遠坂凛からマカライトを貰いそれを使ってラニ=Ⅷにそのヴォーパルの剣を作って貰ったと……」

 

そのラニ何某からレシピさえ貰っていればライルならばマカライトなどなくても錬金する事は出来た。

まぁ使用回数は一度限りで壊れてしまう物にはなるだろうが、ジャバウォック一体を狩るのにはそれでも十分だっただろう。

 

「ちょっと剣を見せて貰ってもいいかな?」

 

岸波さんから剣を少し借りる。

 

「なるほど、こんな感じか」

 

一通り眺め終わるとライルは剣を素直に返し……

 

「じゃこれ一応予備として使うと良いよ」

 

そして、ライル自身もヴォーパルの剣を錬金術で即席で作りあげ、それを岸波白野に渡す。

困惑気味に岸波さんはそれを受け取ると、困ったような顔で感謝の言葉を告げてきた。

事実、予備など特に必要ないのだ。

ライルの作ったそれも性能としては使い捨てである事以外全く同じ物ではあるが、模倣品に過ぎない。

そもそも剣の模倣であるならば、彼女のサーヴァントはそれのプロフェッショナルだ。

仮に予備が必要だったとして、岸波さんは自力で用意する事が出来ただろう。

ライルとて、それは分かっていた。

しかしながら、あのいけ好かない錬金術師に出来て自分には出来ないと思われるのが嫌だったのだ。

つまり単なる負けず嫌いである。

 

「あ!お姉ちゃんみつけた〜」

 

とそこで白と黒の少女達が目の前に現れた。

 

「見て見てありすウサギさんも一緒に居るわ」

 

少女が岸波さんに向かって親しげに話し掛けただけであれば微笑ましい光景だったのだが。

興味の矛先が自分にも向いた事でライルは嫌な予感がした。

 

「本当だねアリスじゃあみんなで一緒に遊びましょ!」

 

「そうねありす、それが良いわ!」

 

「ねっお姉ちゃん達、秘密の抜け穴をみつけたの」

 

「ここから遊び場に出入りできるの!」

 

そう言って少女達は廊下の壁に手を当てる。

岸波さんはそこが何なのか知っている様子で焦っていた。

 

「まっ待て! 俺関係なくないか!」

 

「ううん。ウサギさんも、アリスたちと一緒に遊びましょう!」

 

そう言い終えるとその場にいる全員が壁の中に引きずり込まれる。

 

「いてて……」

 

「ふむ、どうやらマスターも君も相当あの子どもに気に入られてるようだな」

 

岸波さんのサーヴァントであるアーチャーの声が聞こえ、周りを見てみると、そこはアリーナの中だった。

しかも自分の攻略していた所とはまた違った構造になっている。

 

「俺はまともに喋った事も無い筈なんだけどなぁ」

 

「お姉ちゃんは、この子と遊んで!」

 

「ウサギさんはこっちで遊びましょう!」

 

ズドンと大きな地鳴りが聞こえ怪物が現れる。

おそらく、アレがジャバウォックなのだろう。

そしてライルが案内されたのは茶と菓子が並ぶテーブルだった。

どうやら自分はアレと戦わないで済むみたいだ。

対戦相手じゃない人に戦闘をけしかけるなどという事はしないらしい。

茶と菓子を嗜むだけで済むのならまぁ別に良いかとライルは促されたままに椅子に座る。

座ってしまう。

 

「ねぇねぇウサギさん。あなたはちゃんと覚えているかしら?」

 

「え?」

 

「ウサギさん、あなたのお名前はなあに?」

 

そういえば少女達に名前を名乗っていなかった事を思い出す。

 

「あぁ、俺はね……俺は……」

 

ふと自分の名前が何だったのか思い出そうとする。

いや、そもそも何故、名前ごときで思い出すなんて必要が……

 

「ご、ご主人様お身体が!」

 

声を聞いて自分の手を見てみると、半透明になり透けていた。

流石に今まで黙って見ていたキャスターも実体化した。

 

(なるほど、だから岸波さんは自分の手に名前を書いていたのか)

 

反対側の手にフランシスコ・ザビエルと書かれていたので、流石に危機感が薄いのではとも思った。

同時に今度ザビエルさんと呼んでやろうとも思った。

しかし、これは厄介な攻撃だ。

物理的に害を与えてくる訳ではないので、『是、十二の試練』でも防ぐ事が出来ていない。

新たな弱点をたった今知れた事は僥倖だろう。

あくまで少年は落ち着いていて状況把握をしていた。

何故、半透明になっているのに焦らないかと言うと名前をすぐに思い出せたからだ。

 

「じゃあ自己紹介しようか」

 

「あれ? ウサギさんにはあまり効いていないみたいよアリス」

 

「本当ねありす、でもお名前知らないから聞いちゃいましょう!」

 

「俺はライ……ヤ」

 

「ご主人様、その名は!?」

 

アレ?

 

と、違和感を感じながらも少年は続きを答える。

 

「逆月雷也、よろし……っぐ」

 

「ご主人様!」

 

名乗った瞬間、身体中に違和感を感じ……頭の中を叩くような痛みと眩暈に、その場に膝をつく。

 

「あぁ! ありす、ジャバウォック(あの子)が!」

 

「まぁ! 大変よアリス!」

 

そんな声が最後に聞こえて白髪の少年は気を失った。

 

 

////////

 

 

「ご主人様!」

 

「キャスター……」

 

目が覚めたその場所は見覚えのある部屋だった。

 

「保健室か、一体俺は……」

 

「ご主人様、ご自身のお名前を言えますか?」

 

「名前……そうか」

 

気を失う前の事を思い出す。

 

「大丈夫だキャスター、俺はライルスフィール・フォン・アインツベルン、キミのマスターだ」

 

名乗った瞬間、身体が軽くなった気がした。

しかし、どこか違和感が拭えない。

 

「ご主人様こちらを……」

 

「あ、ありがとう」

 

キャスターから手渡されたのは宝具である鏡だった。

すごい大切な物だろうが、他人に貸しても大丈夫なのだろうか?

まぁ普段から敵に叩きつけたりと扱いは雑だから、そんな気にする事でもないのだろう。

 

「これは……」

 

鏡に映った自分の顔は何処か違和感があった。

髪の色も顔の形も今まで通りなのだが……

 

「目の色が……」

 

正確には瞳の色、ホムンクルスとして生まれた時に授かった赤い瞳から、前世と同じ赤茶色に変わっていたのだ。

 

「おそらく、あの童たちの仕業かと」

 

「一ついいかね」

 

とそこで保健室の入り口に立っていた人物がいた事に気付く。

岸波さんとアーチャーだ。

 

「私の認識ではキミはアインツベルンのホムンクルスなのだが、逆月と名乗ったように聞こえたが」

 

「気の所為じゃないかな?」

 

「生憎と弓兵は眼だけではなく耳も良くなくては務まらない役割でね、人よりは耳がいい」

 

「気の所為でございます。文字通り私も人よりは耳が良いので」

 

キャスターは己の耳を指差してそう言った。

別に知られると不味いと言う訳ではないが、あまり人に話そうと思う話ではない。

その気持ちを汲んでくれたのか、キャスターはフォローしてくれた。

 

「そうか、逆月と言う名は聞き逃せないモノがあるのだが……」

 

と、そこで岸波さんからもアーチャーにストップがかかった。

 

「ふむ、そうだなすまない。マスター君の言う通りだ。謝罪しようアインツベルンのマスターよ」

 

「まぁ分かってくれたなら構わないよ」

 

そうして、岸波さんは巻き込んでしまった事に謝罪を入れて保健室を先に出ようとする。

 

「あれは君の所為ではなく君の対戦相手の所為だから気にしてないよ、ザビエルさん……いやザビ子さん」

 

そう言った途端に岸波さんは保健室の入り口に躓いた。

そしてパンツが見えた、僥倖だ。

今ので本当にチャラにしてあげよう。

ホムンクルスとは言えライルも男なので単純だった。

直ぐに思い返しキャスターに白い目で見られるのではと、キャスターの様子を見てみると、キャスターも岸波さんのパンツをガン見しながら何処と無く嬉しそうな顔をしていたので、何とも言えない気持ちになった。

 

 

////////

 

 

さて、岸波さんの対戦相手であるアリス?の攻撃の影響は瞳の色が変わるだけではなかった。

錬金術で武器を作る事が出来なくなっていたのだ。

『是、十二の試練』は消えていないようだったが、それでも攻撃手段が減ったのは痛手だ。

キャスターによると、身体が消えかけていた際に今の名では無く、別の名を名乗ってしまったので体の復元の際に、その名前に引っ張られて瞳の色が変色してしまったり一部の能力が変質してしまったらしい。

まぁ能力が変質というよりかは、失われたって状態なのだけど。

おそらく、アリスが敗北して消えれば元に戻るとの事だ。

何としても岸波さんには勝ってほしいものだ。

ライルが名乗った、名が何なのかキャスターは質問してくる気配はなかった。

と言うより、その名が何なのか理解しているのではないだろうか?

ライルがキャスターの過去を夢に見るように、キャスターもライルの過去を夢に見ているのでは?

ライルが前世でプレイしたゲームでもそんなシーンがあったのを覚えている。

そうなると、あまり見て欲しくないモノまで見られてしまっているのではないだろうか?

自分が見た記憶も多分キャスターにとっては、そういった記憶なのだろう。

 

(いや今はそんな事よりも)

 

錬金術で武器が作れないとなると取れる戦いの手段が少なくなってしまい作戦に困る。

元々決戦では、ライル自身が前に出てキャスターに後方支援をしてもらう予定でいたのだ。

狡いと思われるだろうが『是、十二の試練』があればアサシンの攻撃は令呪さえ使われなければ全て防げる。

アサシンの宝具はあくまで絶対に躱す事が出来ない剣技であって、絶対に防ぐ事のできない剣技ではない。

ならば、その攻撃すら全て弾いてしまえる。

そしてライル自身が武器を持ってアサシンと戦い足止めしキャスターが後ろから攻撃する。

それで完封てきると思ったのだが、武器が用意出来ないとなると話が変わる。

 

(今更、岸波さんに渡したヴォーパルの剣返してって言えないしな)

 

流石にあんな風にあげたものを返してって言うのは恥ずかしい。

しかし、そんなライルの悩みは杞憂で終わる。

 

 

それも最悪な形で

 

 

////////

 

 

次の日にアリーナを探索すると暗号鍵は簡単に見つかった。

時間帯が悪かったのか一成とは合う事もなく、アリーナ探索を終える。

夕食の時に学食で一成と話すとどうやら一成も暗号鍵を見つけたらしく、今の所アリーナに行く予定はないようだ。

かく言うライルも暗号鍵を手に入れる以外の目的はアリーナにないので、今回はアリーナに行く事はもうないだろう。

決戦までの残った時間は暇なのだが、暇つぶしで学校散策をしている時にまた岸波さんの対戦相手のあの子どもにちょっかいを出されても面倒だ。

そう思ってライルは、決戦までの時間を図書室からいくつかの本を借りてマイルームで読み過ごした。

読んだ本は主に一回戦で戦ったライダーにまつわる本。

そして二回戦で戦ったランサーについても、ノートゥングと言う宝具の名前から探して本を読んだ。

自分が見た記憶と書かれていた物語とでは違っている部分も多かったが、戦いが終わった今となってから対戦相手の真名を知ったのも奇妙な感じではあった。

その点で行くと今回は初めから対戦相手の真名を知っている状態なのだから二回戦とは真逆とも言える。

ついでに佐々木小次郎に関する本も読んだが、宮本武蔵が狡いヤツなんだなぁと言う印象を持っただけだった。

そもそもその物語に出てくる佐々木小次郎とアサシンは別人なのだから、あまり参考にはならないと割り切っていた。

そんなこんなで時間は過ぎていき決戦当日となる。

 

 

////////

 

 

「ついにこの日が来たなライルスフィール」

 

「そうだな一成」

 

決戦場の入り口ではなく、そこに向かう廊下で一成と出くわす。

今日この日、一成を倒し、命を奪う。

そして、それを糧にライルは最後まで勝ち上がり、七天の聖杯を手に入れる。

全ての戦いに勝利する。

そうマリーに誓ったのだ。

 

「思い返せば色々な事があったな」

 

「確かに」

 

「戦いが始まってから、或いは終わってからでは言えぬからなライルスフィール、先に言っておく」

 

「なんだよ改まって」

 

「俺はお前に感謝している」

 

「いきなり小っ恥ずかしい事言うな会長殿」

 

「小っ恥ずかしいか……確かに、だが事実だ」

 

歩みは止めず、お互い廊下を歩きながら話を続ける。

 

「与えられた役割を繰り返し行うだけだった俺が何の不具合か知らんが、マスターとしてこの場に立っている」

 

「正確には立っているっていうか歩いてるだけどな」

 

不具合だの何だのの表現はよく分からないが、戦う前から感謝だの何だのの話をされライルは照れ隠しに茶化し始める。

一成はそれを無視して続ける。

新手の精神攻撃だろうか。

 

「少なくてもセラフの言いなりだった俺……む!?」

 

しかし話は最後まで続かなかった。

 

「何だこれは?」

 

「不味いこの場所は!」

 

そこは数日前に、あの子どもの手によって強制的にアリーナへと引きずり込まれた場所だった。

だが今回引き摺り込まれたのはライルと一成の二人だけで、近くにアリスの姿はない。

状況確認の為に辺りを見回そうとした瞬間。

何かがライルの『是、十二の試練』の壁にヒビを入れた。

 

「キャスター霊体化したままでいろ!」

 

見えない何かがいる。

しかもかなりの攻撃力を有している何かだ。

 

「呵呵! 厄介な壁だ」

 

「アサシンお前の攻撃でも通さぬのならホムンクルスは無視しろ、状況から判断すると自分の身しか守れん」

 

その声は聞き覚えのない声だった。

 

「放課後の殺人鬼……アサシン警戒しろ!」

 

「承知した」

 

一成はそうアサシンに指示を出すが悪手だった。

 

「っぐぉ……」

 

見えない何かはアサシンを一瞬で地に伏せた。

 

「バカな!」

 

その様子をライルは黙って見過ごす訳にはいかなかった。

 

「降霊再現……ちっ! これもダメか!」

 

ライルは銃型の礼装を使い一成に当たらぬよう、一成の周りに乱射した。

 

「ここから出るぞ!」

 

そしてライルは一成の近くまで距離を詰めようとする。

 

「もう遅い」

 

その声が聞こえたのと同時に、ぐしゃりと音が聞こえた。

またそれと同時に一成の腕を掴みリターンクリスタルを使用する。

そして校舎の中に戻ってくる事には成功した。

ただし、戻って来れたのはライルと一成の……上半身のみ

 

「うぐ……」

 

そしてアサシンの魂が自分の中に回収されるような感覚がし、アサシンが敗退した事に気がつく。

 

「一成!」

 

「くっ……気にするなライルスフィール、人に忠告しておきながら自分の警戒を怠った俺の失態だ」

 

一成には既にサーヴァントがいない。

それはライルだけではなく、おそらく本人も気が付いているだろう。

そもそもアサシンが生きていたとしても一成自身の体が既に……

 

「なに、悲しむ必要はないさ、元々あり得なかった事だったんだ」

 

「何を言って……」

 

「ここで死んだとしても、また元のロールに戻されるだけ」

 

「だから何を」

 

一成に触れているが一切の記憶も流れてくることはなかった。

 

「本来のあるべき所に戻る……だ、け……」

 

少しずつ一成の体が消え始める。

 

「あぁ……だが」

 

もう首より下は完全に消えていた。

 

「決着はつけたかった……」

 

そして完全に消えた一成のいた所には一本の脇差……刀型の礼装が落ちていた。

 

「ご主人様……」

 

ライルは無言でそれを拾うと一人で決戦場へと向かった。

そして、数時間が経ち決戦場から戻ってきたライルの目は赤くなっていた。

岸波白野が勝利し術者であるアリスがいなくなった事によって赤茶色の瞳が元の赤色に戻ったのだろう。

だが、赤くなっていたのは瞳だけではなく、その周りも赤く、腫れていた。

 

二人の決勝戦は不戦勝で終わる。





3回戦はこれにて終了です。
今までの半分以下の内容ですね。
本当に書くことが思いつかなくて2年が経ったのでヤケクソ気味かもしれませんが、4回戦は最悪もっと短い可能性もあります
そしてネタバレすると4回戦でCCCへの分岐がありますが、取り敢えずは無印を進める予定なので


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4-1

毎度久しぶりの投稿
書いてる途中で時系列の勘違いに気づいたり、矛盾点を見つけたり
とかで書く気力がなくなったりしたんですが、まぁ取り敢えず書き終えたので投稿





月を見上げて一人泣いていた

 

人ではないと追われ、逃げた先で待っていたのは困惑と悲しみ

 

だから怨みを募らせた

 

悪かったのは、この世全てと疑わずーー

 

 

////////

 

 

4回戦が始まり、ライルが一番最初に行ったのは対戦相手の確認ではなく廊下にあったアリーナへの転移術式の確認だった

しかし、その罠があった場所には既に術式は撤去されており、痕跡すら残っていなかった為、それを仕掛けた者への手掛かりは見つからないまま終わる事となる

その後、対戦相手の名前を確認しアリーナへと向かった

 

「邪魔だ」

 

暗号鍵を探す中、目の前……否、目に入ったエネミーを片っ端から全て、己が錬成したハルバードを使い倒していくライル

キャスターはそれをフォローしながら静かに見ていた

ライルの魂の見た目は綺麗に整ったままだが、キャスターは知っている

綺麗に整えられている外見とは裏腹に見えない内側は怒りまたは憎しみに染まっているという事を

それはまるで、かつての……

 

「見つけた」

 

辺りにエネミーが居なくなるとライルも少し視野が広がったのか先程通り過ぎた場所にあった暗号鍵を見つけることが出来た

荒御魂の如くアリーナ内を暴れまわるライルを見て怖気付いたのか、遠くから観察しているのか、或いはそもそもアリーナに来ていないのか対戦相手と接触する事なく探索は終わった

今回の対戦相手の名前は初めて聞くもので接触してくる気配もない為どんな相手なのかも分からなかった

日本人のような名前だった為、普段のライルであれば、それっぽい外見の人物を探してみる事はしただろうが、今のライルにそこまで考える余裕がない状態である

この日のアリーナ探索を終えるとライルは自室には戻らず校舎の見回りを始めた

ライルと一成の決戦を邪魔したアサシンとそのマスターを探す為だ

独断で岸波さんを襲った緑色のアーチャーとは違う、明確にマスターの意思と命令で襲ってきた

ならば奴は明確な敵だ

放課後の殺人鬼、そう呼ばれているルール破りのマスターがいるとは噂で聞いていたが、ライルは襲われたとしても問題ないと思い警戒していなかった

その結果が三回戦の出来事である

 

「ふむ……」

 

校内を見回しても手掛かりを見つける事は出来なかった

今ある情報としては、放課後の殺人鬼がアサシンクラスのサーヴァントのマスターであると言う事と声からして男だったという事だけで、姿は見ていなかったので見つけるのも簡単ではないだろう

ただ、新しく気づけた事はあった

考えてみれば当たり前の事ではあるが、校舎内の人の数が明らかに少なくなっている

そしてうろうろしていれば嫌でも視界に入ってきた憎たらしい顔の赤い女テロリストの姿も見えなければ、嫌でも聞こえていた嫌味ったらしいアトラス院の錬金術師の声も聞こえてこない

二人とも3回戦で敗退したのだろうか

或いは柳洞一成と同じように……

ライルには関係のない事で、むしろその方が今後の戦いは楽になる可能性は高い

しかし……

 

(いや、考えてもしょうもない事だな)

 

犯人をとっちめて聞き出せば良い、とライルは結論付けた

言葉にすれば簡単な事だが、実際は犯人探し自体が難航している

結局、この日は犯人探しになんの進展もなかった

ライルは毎日かかさずに通っていた食堂にも行く気にもなれず、大人しく自室に戻り睡眠をとる事にした

アリーナで散々暴れて疲れが出たのだろうか、寝つきは悪くなく、ライルは深い眠りにつく事となる

 

 

////////

 

 

愛しい人がいて

幸福な日々がそこにはあった

 

あの人の為に何か出来る事はないだろうか

 

最初はそんな思いつきから始まった

 

今思えば、それが終わりへの始まりだったのだろう

 

自分に出来る事は何かと考えて食事中にふと思いついたのが料理だった

 

料理をした事がある訳ではないけど、お握りくらいなら自分でも出来そうだと思ったのだ

 

女中の目を盗んで初めて作ってみたお握りは、酷い物で

 

手を米粒塗れにして握ったお握りは、形も悪く塩さえふっていない、ただの米の塊で人様に見せられる物ですらない

 

しかし諦めて片付けようとした所に、自分と同じく女中の目を盗んでつまみ食いにやって来たあの人は、それを捨てるのは勿体ないと食べてしまった

 

後から考えてみればお世辞だと分かるが

 

やはりこんな美味しい物を捨てるのは勿体ないと笑顔で言うものだから

 

それがとても嬉しくて私は女中に頼み込んで料理を教えてもらう事にしたのだ

 

 

////////

 

 

「こりゃまた凄い形相だなライルよ」

 

「あっおい、話かけんなセイバー」

 

日が変わってアリーナ探索をせずにライルはまた放課後の殺人鬼を調査していた

そんな中、声をかけてきたのは黒髪碧眼の少年がマスターであるセイバーだった

 

「田中とセイバーか、勝ち残っていたんだな」

 

「あっ、あぁ……悪運だけは強くてな……まぁそれも今回で終わりだろうが」

 

「ほれみろマスター、普通に会話はできるだろう」

 

「ん?」

 

セイバーの言葉に疑問符を浮かべたライルを見て、セイバーは説明し始めた

 

「いやなにライルお前、随分と荒んでるのでな。マスターが触らぬ神に祟りなしとかほざきよるから、声を掛けてみたまでよ」

 

「馬鹿かお前、何でそんな事説明すんだよ」

 

「馬鹿はお前だマスター。お前がそんなだから話し相手がすくないのだ」

 

「どうせ最終的に俺も含めて誰も彼もいなくなるんだ、話し相手なんて作った所で何になる」

 

「どうして俺のマスターはこうも悲観してばかりなのだ」

 

いつもと同じようにグダグダと言い合いをしている二人に付き合う義理はないとライルはその場を離れようした

その時、会話の矛先はいきなりライルへと向く

 

「俺のマスターもライルを見習って欲しいものだ。なぁライルよ」

 

「はぁ……俺を見習うって」

 

「あぁ、そうだ。悲観しかしていない俺のマスターより、色々悩んだり……そして怒ったりしているライルの方がよほど人として健全であろう」

 

「それは茶化しているという事で良いのか」

 

セイバーの言葉にライルは流石にムッとした

怒っている相手に怒ってるのか?と聞くって事は煽りとしか思えない

セイバーのマスターである田中は、だから辞めておけって言ったのにとぼやいていた

 

「すまんすまん、そのような意図はない。話の流れでな。まぁなんだ、今度は何を怒っている」

 

まったく悪びれた様子のないセイバーに苛立ちが増すが

しかし、このセイバーに怒りを向けても時間の無駄であるとライルは察した

少しだけ落ち着きを取り戻したライルはダメ元で放課後の殺人鬼の情報を聞くのも悪くないと考えつく

どうせ他に手がかりもないのだ

 

「放課後の殺人鬼について何か知っているか?」

 

「む、なんだその何とかの殺人鬼とやらは?」

 

やはり聞いても無駄だったか、とライルはその場をそのまま去ろうとすると……

 

「ユリウスの事か」

 

田中の呟きにライルは足を止めた

 

「ユリウス?」

 

ライルにとってそれは初めて聞く名前であった。

 

「あ、あぁ……ユリウス、ベルなんちゃらハーウェイ」

 

「ハーウェイ?」

 

いきなり出てきたライルにとって意外な名前に困惑する

 

「それも知らないのか……」

 

とある界隈では有名な名前ではあるが、アインツベルンは西欧財閥と敵対してる訳でもなければ、協力している訳でもないのでレオナルドという次期当主の事は常識として知っていても、影の部分は何も知識として与えられていない

 

「そいつが放課後の殺人鬼とどう関係が?」

 

「いや、そのユリウス自身が放課後の殺人鬼の正体なんだが」

 

「えっと……ハーウェイってレオナルドと同じハーウェイ財閥関係の人物って事だよな?」

 

「そのレオナルド・ピスタチオ・ハーウェイの兄だよ」

 

レオナルドのミドルネームはピスタチオではなくビスタリオなのだが、そんな間違いはどうでも良くなるほど、出てきた情報にライルは混乱した

ライルにとってハーウェイはレオナルドという完全無欠の優等生であり、まっすぐで綺麗な王様というイメージだった

 

「ユリウスは弟のレオナルドをこの聖杯戦争で勝たせる為に聖杯戦争に参加した西欧財閥の殺し屋だ」

 

「次期当主の兄なのに殺し屋なのか?」

 

「そこら辺の事情を俺に聞かれてもな……というかマジで知らないとなると、やはり俺の思い違いか……」

 

「その話が本当であれば、教えてくれて本当に助かった」

 

今までの調査では何にも進展がなかったが、名前だけではなく出自まで知る事ができたのだ嘘でなければかなりの収穫だ

 

「まぁ嘘じゃないんだけどな……しかし、名前を知らないって事は対戦相手だから調べてるって訳じゃなさそうだが」

 

「ふむ、そこは殺人鬼などと物騒な名前をしておるし、何かちょっかいを出されたのではないかマスターよ」

 

目の前の主従の予想は間違いではないのでライルは肯定した

 

「なるほどな……それじゃ今度は、俺からも聞いて良いか?」

 

「え? あぁ良いけど」

 

いきなり来た田中からの質問に驚きつつライルは答える事に承諾する

一方的に質問をして帰るだけでは流石に申し訳がないと思ったからだ

 

「最悪な事に今回の俺の対戦相手が臥藤門司なんだが」

 

「ガトーモンジ?」

 

また知らない名前だった

 

「まぁ知らないよな。真祖の姫が相手だから今度こそ俺の命はここまでなんだろうが……」

 

「だから、何故そう悲観的なのだ。もうちょっと俺を信頼して欲しいのだが」

 

「うっさいドマイナー英霊。話の腰をおるな」

 

「酷い言い様だが、茶々を入れたのはすまん」

 

「まぁ前置きは取り敢えず置いといて。今回のお前の対戦相手は一体誰なんだ?」

 

その質問にライルは言葉が詰まった

 

「一応、誰が残っていて誰と誰が戦うのか知っておきたかっただけだ、言いたくないのなら言わなくても良いが」

 

「悪い田中。言いたくないって訳ではなくて、ちゃんと確認していないから、相手の名前が朧げなんだ」

 

気まずそうにライルは言った

 

「なんか日本人っぽい名前で、寺っぽい名前だったって事しか覚えていない」

 

「寺っぽい名前ね……」

 

「なんなら後で確認して伝えようか?」

 

「いや、そこまでしなくていい。それじゃ」

 

田中はライルから背を向けて歩き出すと、最後に一言だけ言い残していく

 

「葛木って名前の教員NPCを調べてみるといい」

 

 

////////

 

 

ライルは田中の助言通り葛木という教員NPCを調べる事にした

それがどういった意味合いなのかは分からないが、話の流れ的におそらく放課後の殺人鬼ーーユリウスに繋がるヒントなのだろう

 

(とは言え、どうしたものか)

 

いざNPCを調べると言っても、何から始めたものかとライルは悩む

ライルにハッカーとしての知識や技術はないため直接そのNPCのデータを解析などしてもライル自身には何も分からない

その解析したデータを遠坂凛あたりに見せれば何か分かるかもしれないが、4回戦始まって以降姿を見る事はなくなったのでどうしようもない

 

(直接話しをしてみるか?)

 

NPCとはいえ、このセラフのAIはこちらのした質問に対して、普通に答えてくれる時もあれば、たまに嘘をついてきたり、そんなのも分からないのかと馬鹿にしてきたり、まるで人間のような心を持っていると思える行動を取ってくる事をライルは知っていた

実際セラフに管理されているだけで、NPCは電子体となってセラフに来ているウィザード達と構造的には、ほとんど変わらない

違う部分が他にあるとしたら地上に肉体があるかないか、そしてハッカーとしての能力の有無だろう

そんなNPCと直接話しをするにしても、何と声をかければ良いのだろうか

そんなこんなで悩んだ結果、ライルは取り敢えず件のNPCを観察してから、どうするか考えることにした

この日はアリーナにも行かずに葛木を観察していたが、特段おかしな部分は見当たらず

結局、何の収穫も得られないまま1日を終えた

 

 

////////

 

 

「どうやら此方の事に勘付いているようだ。あのホムンクルスはやはり危険だな」

 

「だが、どうするマスター。儂の"一撃"ではあの壁は簡単に突破出来ぬし、あちらもサーヴァントを徹底して霊体化させているのでそちらも狙えんぞ」

 

「やりようなら他にもある。戦いでの敗北だけが聖杯戦争の脱落条件ではない」

 

白い髪の少年が去った後、葛木……否、教員NPCを殺しそのロールを奪った男ーーユリウスはその冷たい眼差しを少年が去っていった方向へ向けていた



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4-2

原作ゲームと漫画版とオリジナルの設定を交えているので、原作と設定が違うところがあっても許して下さい、何でもしますから





愛しい人がそこにいた

もう瞳に映る事はなかった

いなくなった

 

愛しい日々がそこにあった

何もかも泡沫の夢だった

なくなった

 

物の怪、化け物、お前のせいだ、お前のせいだ

 

ーー何処かで聞いたような罵声だ

 

誰もが少女が悪いと責め立てた

 

いいや……私は何もしていない

 

誰もが少女を追い立てた

 

どうして……私がこんな目に

 

ーーなぜ、誰も味方をしないのか……これは不幸が重なっただけじゃないように思える……

 

あぁ……私は悪くないのに、どうしてこんなにもこの世界は不条理なのか

見上げた空に浮かぶのは月

太陽は沈んでいた

 

私を信じなかった愛した人も、私を追い出したニンゲンどもも、私を助けなかったこの世界も、何もかもが憎い

 

必ず復讐してやろう

 

たとえこの命絶えようとも

 

"この世全ての厄"となりて、地獄をもたらそう……

 

ーーその怒りは当然の結果だ、自分とは違った結末だったが、それが間違っているとは思えなかった……

 

 

 

 

朝、ライルは目を覚ますとキャスターの横顔が視界に入る

その頰には滴がつたっていた

 

「何かあったんですか?」

 

物憂げな表情をしたキャスターに対して何故か出会った頃のように敬語で声をかけてしまうライル

 

「まだ眠いのに目が覚めてしまう事ってありませんか?」

 

キャスターは袖で頬を拭うと、あくびをしたフリをして言った

サーヴァントは睡眠を取る必要がない、それを知っているからライルはキャスターが誤魔化している事に気づいた

しかし追求する事はしなかった

もしかしたら、あの夢をライルだけではなくキャスター本人も見ていたのかもしれない

あれはキャスターの過去なのだろう

ライルの過去と似た……だけど決定的に違う結末

悲しみだけで終わった自身とは違い、悲しみの果てに怒りを見いだした少女

 

「あー、あるある。今まさに寝起きなのに眠いし」

 

ライルはそう返事をした

なんて声をかければ良いか分からなかった

そんな自分に……そして、少女を悲しませたこの世界に、ライルはどうしようもなく憤りを感じてしまう

 

 

 

 

流石に放課後の殺人鬼の調査に気を取られ過ぎて、暗号鍵探しが間に合わず

決戦場まで辿り着くことなく不戦敗になるのは避けないといけない、そう考えたライルはアリーナ探索をする事にした

しかし、その前に葛木の様子を少しだけ見てからにしようと思った

その行動に何の意味があるのかライルは未だに分かっていなかったが、田中があんな意味深に伝えてきたのだから何かあるだろうと……今となっては半信半疑ではあるのだが

 

「あれ……」

 

いざ探してみると、葛木の姿が中々見つからない

昨日の行動範囲をなぞって探してみたが何処にも居ないのだ

ライルはその事に違和感を感じる

いくらNPCに感情があると言えど、セラフにいるNPCは何かしらのロール……仕事が割り振られている

例えば保健室にいる間桐桜は聖杯戦争の参加者の健康管理、そしてアリーナ入り口にいる神父姿の男は聖杯戦争の監督役

だが、あの教員NPCはいったい何の役割を充てがわれている?

とそこまで考えた所で思考は停止せざるを得ない事が起きる

 

「何か用があるのか」

 

感情のない背筋が凍るほどの冷たい声

背後からそんな声で何者かに話しかけられたライルは緊張と警戒で少しの間、息が詰まった

背後にいたのはライルが探していた葛木だった

 

「私を探していたのだろう」

 

言葉を発さないライルに対して追いうちをするかのように再度声をかけられる

 

「あー、そうですね。ちょっとNPCが普段どんな事をしているのか気になったもので……」

 

それに対してライルは冷や汗をかきながらも、それらしい言い訳をした

 

「そうか、だが不躾に視線を向けられるのは、こちらとしてもあまり気分の良いものではない」

 

「えーと……すみませんでした」

 

「以後、気をつけ……っ」

 

気をつけるようにと言おうとして葛木がライルの肩に手を乗せた瞬間に、ライルの中に誰かの記憶が流れてくる

 

 

 

 

『レオをよろしくね』

 

そう言って悲しそうに微笑む女性の姿を無感情を装いながら必死に胸の痛みを堪える、誰かの記憶

 

 

 

 

「貴様……何をした」

 

先程まで目の前に居たはずの葛木の姿はなく

代わりに見慣れない群青色のコートを纏った青年がライルの目の前に立っていた

青年は怒りに満ちた瞳でライルを睨んでいる

ライルは突然の事で驚いたが、同時に目の前にいる青年が何者なのかを理解した

そしてライルも同様に怒りの感情を込めて呟く

 

「お前が放課後の殺人鬼、ユリウスか」

 

「やはり貴様はここで排除する」

 

ユリウスが何かの術式を発動すると、瞬時に視界は校舎の中からアリーナの中に映り変わった

ユリウスが行ったのは、周りの空間ごとハッキングを行いアリーナ内に強制転移させるという荒業である

今まで行っていた、秘密裏にあらかじめ作っていた抜け穴へ静かに誘い込んだのではなく、人目も憚らずにただ強引に連れ去ったのだ

当然のことながら、人通りのある廊下で行われたそれの目撃者は0ではなかった

 

「さて予想通りなら、ここでアイツは死ぬが……どうなるか」

 

「マスターよ、それはお前の言う"運命"とやらの知識か?」

 

「いや、アレにはライルスフィールなどという登場人物は居なかった。だからおそらく描写されることもなく物語の本筋とは関係のないところで死ぬ」

 

「だが、お前の言う"運命"とやらにはお前もそして俺も居ないのだろう?」

 

「……そうだな、だから俺たちもおそらく今回で終わりだ。何を考察しても無意味か」

 

「そう悲観的になるな……と言いたいところだが、今回はさしもの俺でも相手が悪い。まさか月の落とし子が相手だったとはな。まぁなんであろうと全力で挑むまでよ」

 

 

 

 

「ご主人様」

 

「待てキャスター、霊体に戻ってくれ」

 

アリーナに強制転移させられたライル達

敵の行動を警戒してキャスターは実体化するが、相手がアサシンであり、気配を殺したままで柳洞一成の契約していた佐々木小次郎を一撃で倒す程の強者だ

呪術を使わないと耐久力が紙に等しいキャスターでは実体化している方が危険だろう

それに比べてライルは『是、十二の試練』に守られているので直接狙われてもある程度問題はない

相手のアサシンも気配遮断あるいはそれに類似したスキルを解いて宝具を使ってくるようであればライルの守りを突破してくるかもしれないが

相手も居場所が分からないというアドバンテージを捨てている為、その時はキャスターの呪術の出番である

本来アサシンのサーヴァントは対サーヴァント戦には向いておらず、そのクラス名が指し示すようにサーヴァントのマスターを暗殺し勝利を勝ち取るのが得意なクラスである

例外なアサシンが多い気がしないでもないが、セオリー通りであれば相手にとってライルというマスターは最悪の相性であると言える

 

「ここで排除する、ね……その言葉そのまま返してやるよ」

 

地を蹴り、まっすぐとユリウスのもとへライルは向かった

この聖杯戦争の敗北条件はサーヴァントの消滅ではなく、マスターの敗北だ

そのマスターの敗北という条件の中にサーヴァントの消滅が存在するだけで、マスター自身が消滅しても負けは負けである

それを気付かせたのが皮肉にも目の前にいるユリウス本人だった

だからライルは姿の見えないアサシンではなく目の前のユリウスを直接攻撃する事にしたのだ

しかしライルにとって想定外の事があった

ライルと同じようにユリウスもまた、ライルの方へ向かってきたのだ

ライルはすぐさま錬成したハルバードを振り下ろし

それよりも早くユリウスの拳はライルに向かって振るわれる

そのどちらもお互いに届く事はなかった

ユリウスの拳は『是、十二の試練』に防がれ、ライルのハルバードはユリウスのもう片方の手で軌道をそらされたのだ

 

「うぐっ……」

 

「っ……」

 

命じられるがまま淡々と人を殺す、そんな青年……いや、少年の記憶がまたライルの中に流れ込んでくる

そこで『ハーウェイの殺し屋』というのが単なる二つ名ではなく文字通りの意味なのだとライルは理解した

月にある電脳世界で人を殺した事があるだけではない、地上にある現実世界でユリウスは何人もの人間を殺している

暗殺もしていれば、真正面から戦って殺しを行う事さえ

英霊ほどとはいかないが、少なくても今この月にいるマスターの中では一番戦闘に慣れていると言えるだろう

それはライルにとって知りたくもない内容だったが、しかし勝手に見えてしまうのだ

ホムンクルスであるライルの身体が作られた時に、無駄に必要のない小聖杯としての機能を再現しようとした結果、英霊の魂を回収するだけでなく、他者の魂に触れるという副産物……副次効果が備わってしまっている

それは誰も意図したものではなく、自分の意思とは関係なく不規則に起きてしまうものだった

ライル自身は、それが何なのか分かっていないし、分かっていても止められるものではなかった

お陰で見たくもない記憶を見る羽目になっている

 

「不愉快な力だ」

 

「同感だね」

 

そう言ってライルは再びユリウスへとハルバードを振り下ろす

ユリウスはライルの振り下ろしたハルバードに向かって、その拳を叩きつけた

ハルバードはそれにより砕けてしまう

そして、またそれと同時にユリウスの記憶が流れてくる

 

 

 

 

最初の記憶は何処かの病院のような施設の中だった

大人達が何か真剣なそして暗い声で会話をしていた

のちに言葉の意味を理解すると、その会話の中で自分の事を『不良品』と言われていたのだと知る

老いる速度が人の倍近く早く、生きていられても長くて25歳までだと

そんなモノに金も手間もかける価値もなく棄てられる事となった

少年は世界を知らず欲もない、生きていても何をすれば良いのか分からないが

それでもただ、ひたすらに生を望んだ

死にたくない、生きていたい

そう人として当たり前の事を望んだのだ

 

 

 

 

「……」

 

ユリウスはライルの近くから飛び退いた

ライルはそれを許そうとせず、ハルバードを錬成すると距離を詰める

そしてまたユリウスへとハルバードを振り下ろした

今度は受け流すでも壊すでもなく、ユリウスは掴んで受け止める

 

 

 

 

その生きたいという意思だけで生き残った男は、今後もまだ生きていく為に己が手間も金もかける価値があるモノなのだと示す必要があった

だから、殺した

殺して、殺して、殺した

ハーウェイに仇なす敵を命じられるがままに殺した

 

 

 

 

掴まれたハルバードに火が付き、ハルバードを溶かしてゆく

だが火はライルの手元にたどり着く前に何かに阻まれて消える

 

「無駄だ」

 

「チッ……」

 

再び距離を取ろうとするユリウスに向かってライルは燃え残ったハルバードの枝の部分を投げつける

それをまるでキャッチボールのような感覚でユリウスは掴んで投げ返してきた

ライルが投げるよりも速い速度で投げられたそれは、ライルを守る壁に阻まれ消滅する

次にライルが取り出したのは銃型の礼装

それでユリウスを撃つが、走りながら簡単に躱される

普通の人間なら銃弾を避けるなどという真似は出来ないだろう

ライルも相手の走る速度と走る方向を計算して偏差撃ちを行うが、ユリウスは巧みに走る速度を緩めて躱す

銃が有効でないと思ったライルは痺れを切らして、ハルバードを錬成しユリウスへと突撃する

今度は振り下ろすのではなく矛先を突き刺すように突進を行った

それもユリウスは簡単に受け止める

 

 

 

 

生きる為に人を殺す

男の人生はそれだけだった

それだけの価値しかなかった

そんな男に心優しき女は言った

老いる速度が速いのは、同時に人よりも早く成長できるって事なのだと

25年しか生きられないのは、その分生きているその時間が人よりも価値が高い人生を送れるのだと

男は生きたい理由を見つけた

だから、また命じられるがままに人を殺した

生きる為に

 

 

 

 

気づけばまたハルバードが火で燃えていたが、問題ないと高を括っていたライルは自身の守りをすり抜けて手元まで火の手が回っている事に気づくのが遅れた

 

「なっ!?」

 

慌ててハルバードを手放して、今までとは逆にライルがユリウスから距離をとった

 

「やはり自身を対象とするダメージを自動で無効化する術式か」

 

よく見てみると手放したハルバードは火で燃えてはいるが、先ほどと違って全く溶けてはいなかった

つまりユリウスが放った火は、テクスチャだけの害のないものだった

 

「このハルバードは自身の体の一部を錬金術の応用術式で変化させたものか」

 

少しずつ自分の能力が解析されている事にライルは気づいた

『是、十二の試練』は解析されようと問題はないだろうが、こちらの武器に関しては簡単に対処されてしまう可能性もある

ライルはユリウスを言葉に否定も肯定もしなかった

今、ライルが考えているのは全く別の事であり、それに反応する心の余裕がなかったのだ

そしてそんなライルが考えているのは、目の前の男の過去の事とそして他でもない自分自身の事だった

前世である逆月雷也の記憶があり、その記憶に囚われているのにも関わらず、ライルが逆月雷也という名前ではなくライルスフィール・フォン・アインツベルンという名前を名乗っているのには理由がある

ライルはこの世界でホムンクルスとして産まれた瞬間から前世の記憶があった

いきなりライルスフィールという名前を与えられ最初は反発もした

そこから逃げ出して、故郷である日本に帰ろうとも思った事もある

だが、この世界の事を知れば知るほど、そんな気は失せていった

自分の故郷は、存在しない

前世で生きていた筈の時代にそもそも、そこには何も存在していなかったのだ

自分の生きていた歴史と違う歴史を辿った平行世界であり、日本に逃げたとしても、そこには何もない

逃げたとしても他に行く宛がないし、ちょっとした世紀末感のある世界で頼る宛もなく彷徨うなど自殺行為でしかない

だからこそライルスフィール・フォン・アインツベルンである事を受け入れた

生きる為に

その結果、月の聖杯という存在を知ったのだ

ライル自身も月の聖杯を手に入れろと命令されて、月に来ている

月の聖杯を手に入れるという事とは、聖杯戦争に勝ち残る事であり、聖杯戦争の他の参加者を殺して生き残れという事だ

自分と目の前の男と、何が違う?

ライルはそう考えてしまった

ユリウスは生まれる前に細胞を弄られたデザインベビーである

そして、ライルはデザインベビーの技術も使って生まれたホムンクルスである

似た境遇だと思い、そしてユリウスは自分以上に過酷な環境だったのだと知りライルは同情すらしてしまう

ライルはユリウスに向けていた怒りの感情が正しいのか疑いを持った

なれど、この胸の中の怒りは何処に向ければ良いのだと……

 

「マスター、お楽しみ中悪いが、頼まれていた暗号鍵とやらは手に入れて来たぞ」

 

そこに今までにない新しい人物の声が聞こえてきた

気づけばユリウスの近くに橙色のカンフー服のような着物を着た男が立っていた

そして、その手には3つの暗号鍵のデータが握られている

 

「そろそろ儂にも楽しませて貰ってもよいだろう?」

 

「いや、ここで引き上げるぞアサシン。その代わりに今回の対戦相手は好きに戦って良い」

 

「まさかお前!」

 

4回戦のライルの対戦相手はユリウスではない

ライルの対戦相手は東洋人の名前だった

そして仮にライルの対戦相手がユリウスだったとしても暗号鍵は2つあれば決戦場に行けるので3つも必要はない

 

「ふん……」

 

ユリウスは鼻で笑うと、リターンクリスタルではない、別の方法で転移してアリーナから脱出していった

おそらくライルを無理やりハッキングして連れてきたのと同じ方法なのだろうが、そんな事はどうでも良かった

暗号鍵を2つ集めなければ決戦場には行けない

決戦場に辿りつかなかったマスターは強制的に不戦敗となる

各階層で配置されている暗号鍵は、それぞれの対戦区画で全部で4つ

勿論、他人の対戦区画に入るというイレギュラーは想定されていない為、一人2つずつという丁度の計算である

その内の3つをライルがユリウスに気を取られている間にアサシンに回収されてしまっていた

つまり、アリーナ内を探索したところでライルは2つ目の暗号鍵を手に入れる事ができない

 

「やっぱ許せねぇ」

 

現在進行形でユリウスに対して同情も共感もしているが

それはそれとして、その卑怯な手段はライルにとって許容できるものではなかった

 

 

 

 

しかしライルにとって幸いな事に、そしてユリウスにとっては不運な事に次の日すぐに問題は解決する事になる

 

 

 

 

「監督役NPCから緊急招集?」






自分が最初に決めたコンセプトの所為なのもあるし、単純に主人公に気を取られすぎてメインヒロインが空気過ぎて、話作りの才能がないのだろうなと……書いてるうちにモチベが下がってくる問題
あと数話で一応ちゃんとヒロインらしい事をする予定なんですかどね……いつ投稿になるのか


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4-3

最初に書きたかったものと少しずつ変わっていく恐怖……




監督役NPCから全マスターに対して緊急の召集がされ、ライルもそれに従い招集場所にまで足を運んだ

早く着きすぎたのか、まだ数人しか来ていないようだったが、その中に見知った顔を一人だけ見つける

 

「おや、お久しぶりですね。ライルスフィール」

 

「確かに久しぶりだな、レオナルド」

 

「なにやら不機嫌なご様子ですね」

 

「まあね……。お前の兄貴どうにかならんのか」

 

「アハハ! なるほど、兄さんに手酷くされたという事ですか」

 

ライルにとっては笑い事ではないが、レオナルドの反応から彼自身は何も関わっていない事がうかがえた

 

「兄さんにちょっかいを出されて無事でいられているのは流石と言うべきでしょうね」

 

「流石と言われてもな……結局、してやられてるから賞賛は受け取れない」

 

結局このまま何もできなければ聖杯戦争での負けが決まってしまうので、無事とは言い難い

 

「それで、どうにかならないのかと聞いてきたんですね」

 

「まぁな」

 

「結論から言いますと、どうにもならないですね」

 

「だろうな」

 

「御察しの通り、兄さんは僕の命令で動いている訳ではありませんから。一言二言兄さんに物申す事は出来ますが意味は無いでしょうね」

 

兄弟仲の良し悪しとか、そういう問題ではないのだろう

ユリウスの記憶を見たライルはそう判断した

断片的な記憶だが、そこから想像すると普通の兄弟として育ってないのは確実である

 

「例えるなら、アーサー王伝説のマーリンのように、王の命令ではなく自身の意思で王の為になる事をしていると言った所でしょうか」

 

「レオそれは正しくありません」

 

今までライルとレオの会話を黙って聞いていたガウェインが珍しく口を挟んできた

 

「あのようなロクデナシと同類扱いされるのはユリウスが可哀想かと」

 

「彼の魔術師がどのような人物だったのか少し気になりますが、ガウェイン貴方が言うのであればそれが正しいのでしょうね」

 

「まぁレオナルドが言いたい事は何となく分かった」

 

ユリウスはレオの命令ではなく、自分の意思の元で動いている

その理由を何となくライルには想像できた

 

 

 

 

「マスター諸君、集まったようだな」

 

岸波白野が入ってきたのを確認すると、監督役NPCの言峰は声をあげた

おそらく今勝ち残っている最期の一人が岸波白野だったのだろう

辺りを見渡すと、遠坂凛やラニ=Ⅷの姿は見えない

残りの対戦数から簡単に計算すると16人居なければいけない

だが、集まった人数は10人ちょっと

さらに言峰より奥に1組マスターとサーヴァントらしき姿も見えるが、それでも16人に満たない

おそらくユリウスの手によって殺されたマスターもいるので人数が欠けているのだろう

 

「一体、何が目的でこんなことを……」

 

集まったマスターの内の誰かが言峰に問いを投げかける

それは誰もが知りたかった疑問だった

 

「諸君、君たちもそろそろ単純な決闘だけでは飽きてきたと思ってね。本戦から外れて、わたしから少し違う趣向を用意させてもらった」

 

言峰は、後ろにいる1組のピエロのような格好のマスターと槍を持ったサーヴァントを指し示して言葉を続けた

 

「この二人は予選の時から度重なる警告を無視し破壊活動を続けてきた」

 

「警告? 食事を寄越してきたの間違いではないかコトミネよ」

 

挑発するように笑う槍を持ったサーヴァント

 

「聖杯戦争の監督役として彼らにペナルティを与えねばならない。ただ、ここで私が彼らを処分してもつまらないのでね、集まったマスター諸君とハンティングゲームをしてもらう」

 

「つまりアイツらを倒せって事か?」

 

「その通りだとも。獲物は違反者であるマスター・ランルーとそのサーヴァント・ランサー、ヴラド三世」

 

会場に驚きの声がどよめき始めた

ランサーの正体に対して驚いたのではなく、ランサーの正体をアッサリとバラした監督役NPCに対してである

黙って見ていたライルもこれには驚いた

 

「この2人を見事に仕留めたマスターに報酬を与えよう」

 

「報酬っていったい何だそれは。これは本線と関係ないルールだろうリスクに見合ったものだろうな!」

 

名も知らないマスターは怒鳴るように言峰に質問を投げかける

それに対して言峰は淡々と答えた

 

「そうだな、君たちが今躍起になって探っているもの……四回戦対戦相手の真名および戦闘データの情報開示というのはどうだね」

 

言峰の回答に何人ものマスターが息を飲んだ

ヴラド三世を仕留めれば対戦相手の情報を得て対策が取りやすくなり決戦での戦いが楽になる、逆を言えば対戦相手がヴラド三世を仕留めてしまったら自分の情報が相手にバレてしまう

情報を得る為そして情報を守る為に戦わなくてはいけないと焦っているのだろう

しかし呆れているマスターも何人かいる、ライルもその中の1人だった

 

「見合ってないな」

 

この場から帰ると宣言する為にライルは言葉を並べ始めようとした

 

「ほう、何か不満でも」

 

「四回戦の為だけに、これから先戦うかもしれないヤツらに手の内を見せなきゃいけないのは明らかに釣り合っていないだろ?」

 

仮にヴラド三世を仕留めて、四回戦の対戦相手の情報を得て勝利したとする

しかし五回戦目の対戦相手はヴラド三世と己がどう戦ったのかを見て知っていて対策が取られる可能性が高くなり戦いづらくなる

五回戦に勝利したとしても六回戦七回戦も同様だ

言峰がヴラド三世の真名を暴露したインパクトで判断力が鈍ったマスター達はライルの言葉に納得し落ち着きを取り戻した

 

「参加すること自体がデメリットでしかない」

 

「ククク……なるほど、では報酬だけでなく参加賞も用意しよう」

 

「参加賞があっても……」

 

結局リスクは何も変わらない、そう続けようとしていたが

被せられた言峰の言葉にライルは黙るしかなかった

 

「今後の戦いにおける暗号鍵の取得を一つだけ免除しよう」

 

「っ……」

 

「何やら、対戦相手ですらならない無関係なマスターに暗号鍵を奪われたという間抜けなマスターがいるらしいのでね」

 

(流石は監督役か……俺の事情まで知ってるのか)

 

ライルとしては、ハンティングゲームなんかより暗号鍵の事を何とかしたかった為に、早くここから帰ろうと思っていたのだが

それを解決できるのなら話は別だった

 

「暗号鍵の必要数が減ればアリーナ内での衝突は最小限に抑えられるだろう。それに一度二度と戦い方を見られただけで勝てないようではそもそも聖杯戦争に勝ち残るなど到底出来ないと思うのだがね」

 

「良いだろう、その挑発乗ってやる。それに暗号鍵集めなどチマチマした事も面倒だと思ってたしね」

 

あくまで暗号鍵が奪われた間抜けが自分ではないというような態度でライルは啖呵を切った

事実、その間抜けがライルだと気づいたのは奪った張本人であるユリウスとニコニコと笑っているレオナルド1人だけだった

ユリウスは当然の事ながら苦い顔をしているに違いないとライルは思ったが、どうやら姿を変えているようで、どこの誰がユリウスなのか分からなかった

 

「コトミネよ、我らが他のマスターすべてを返り討ちにした場合、報酬はどうなるのだ」

 

「今までのペナルティの白紙、分解処分の取り消し。対戦相手がいなくなれば君たちが自動的に聖杯に近づくことになる」

 

「イイヨランサー、モウ、ランルー君オナカペコペコダヨ。ヒトツクライハ、スキナモノアルカモシレナイシ」

 

「……ふむ」

 

己がマスターの返答に頷くとヴラド三世は自身の槍を地面に叩きつける

 

「善し!善し!善し!乗った!」

 

「うるさ……」

 

煩わしげに呟いたのは黒髪碧眼の少年

 

「我が槍に貫かれたい者は前に出たまえ!」

 

「どうするよ、マスター」

 

「メリットが皆無だ、そんな事に時間を使うほど余裕はない」

 

以前ライルに田中と名乗った少年は己のサーヴァントに淡々と事実を告げる

実際、対戦相手のサーヴァントの事は対戦相手のマスター以上に知っていた

暗号鍵に関しても既に2つ揃っている

今後の対戦の暗号鍵集めが楽になると言えど、そもそも今回の対戦が勝てるかも分からないのに遊んでいる余裕など田中には無かった

 

「あのような悪鬼を斬り伏せる事こそが俺の本分なのだがな。まぁマスターに従うさ」

 

桃色の着物姿のセイバーは田中の方針に従った

 

「おい、アレは岸波のアーチャーだ」

 

その場にいるマスターの誰かが言った通り、岸波白野のサーヴァントであるアーチャーがヴラド三世に向かって矢を放っていた

それを皮切りに何騎かのサーヴァントがヴラド三世に向かって攻撃を仕掛け始める

勿論、啖呵を切ったライルもだ

 

「キャスター風の術だ」

 

ライルのように暗号鍵免除の為、或いは対戦相手の情報を得る為にハンティングゲームに参加するマスター

田中のように参加の価値を見出せず、或いは自身の戦い方を秘匿するために傍観に徹するマスター

その場は、そのように二分された

 

「炎の術で牽制」

 

一対一であればライル自身が前線に出て戦うつもりだったが、流石に人の目が多い中でそれをするつもりはない

それに下手に近付けば流れ弾で『是、十二の試練』のストックを減らす恐れもある

 

「活きの良いのが集まっているのは良いが、こうも数が多いと……煩わしい!」

 

ヴラド三世の怒鳴り声と共に地面から無数の棘が飛び出して、遠距離から攻撃を仕掛けていたサーヴァントに襲い掛かる

ライルの近くにいたキャスターは『是、十二の試練』により守られたので気にせずに攻撃を続けた

岸波白野のアーチャーはその場から飛び退いて、追ってくる棘に白と黒の双剣を投影して応戦した

その他の中には防ぎきる事も躱しきる事も出来ずに攻撃を受けるサーヴァントもいた

 

「多人数戦に対応できるのか……」

 

人数差を鑑みると明らかにヴラド三世は不利な筈なのだが、誰も彼もが極力情報を周りに与えまいと出し惜しみしている所為で戦いは拮抗している

キャスターの攻撃も本人に攻撃が効かないと判断するとすぐに棘を攻撃ではなくキャスターの術が自分に当たらぬように壁として使い、対応される

一方、その様子を見た岸波白野の指示によりアーチャーは弓を捨て双剣での近接戦闘へと移行した

それでも優勢は何も変わらない

 

「僕が出ましょう」

 

今まで静観していたレオナルドが一歩だけ前に出る

ただそれだけで場の空気が変わった

和らいだのではなく、更に重く……

 

「このまま聖杯戦争の進行が止まってしまうのも困りますので……ガウェイン」

 

ガウェインが剣を構える、その時に発生したほんの少しだけの金属音

騒がしかった筈のその場に小さいその音が響き渡る

 

「アラアラ、ガウェイン卿ガ出テキチャッタヨ」

 

先程まで余裕を見せていたヴラド三世のマスターであるランルーもガウェインの登場に緊張を隠せないようだった

 

「モウ、アレ使ッチャッテモイーヨ」

 

「御意のままに」

 

騒がしかったヴラド三世が一転し、静かに呟く

その雰囲気に誰もが宝具を使われると察した

岸波白野を含む前線で戦っていたサーヴァントのマスター達は、それぞれのサーヴァントに直ぐに下がるように伝える

 

「串刺城塞‼︎」

 

無数の槍が地面から突き出し逃げ遅れたサーヴァント達を襲う

攻撃を受けてしまったサーヴァントは力を吸い取られたかのように脱力し膝をつく

 

「流石はヴラド三世、吸血鬼らしい宝具ですね」

 

焦った様子もなく、むしろ余裕を持った態度でレオナルドは言葉を述べる

それもその筈だ彼のサーヴァント、ガウェインはヴラド三世の宝具を受けたにも関わらず傷一つ負っていない

 

「この程度の不浄、私には通りません」

 

その様子を見て息を飲んだのはヴラド三世でもランルーでもなく、周りにいた他のマスター達であった

皆で力を合わせて倒すべきなのはヴラド三世などではなくガウェインなのではないだろうかと思ってしまうほど、その強さは圧倒的に感じた

恐るべきことにまだ剣を一振りもしていないのにだ

 

(ガウェインの方が余程レイドボス感があるな)

 

ライルもそう感じているマスターの一人だったが、監督役が見ている中で、そのような愚行を起こす事は出来ない

 

「ここは一時、引きますぞ妻よ」

 

「ハーイ」

 

一番冷静だったのは意外にもヴラド三世だった

状況の不利をいち早く判断して、その場から去っていく

 

「ふむ、追わなくて良いのかね」

 

岸波のアーチャーがガウェインに声をかけた

 

「マスターからの追撃命令が出ていません」

 

厳格な騎士のようにガウェインは主人の命に従っている

 

「岸波白野、僕は……あなたの成長が実に興味深い。化け物退治はあなたに譲りましょう。あなたの力をもっと見たい」

 

圧倒的な力を持つ事を見せつけたレオナルドにそう言わしめた岸波白野に視線が集まる

元々は名も知らない有象無象のマスターであった岸波白野は初めのうちは誰の目から見ても警戒の対象外だった

運良く、たまたま聖杯戦争に参加できただけのマスターそれだけの認識だ

警戒されてたのは、西欧財閥の次期当主レオナルド、そして西欧財閥の殺し屋ユリウス、それに敵対するテロ組織に所属する遠坂、アトラス院のホムンクルスであるラニ=Ⅷ、元魔法使いの一族アインツベルンのホムンクルスであるライル、元軍人であるダン・ブラックモア、アジアゲームチャンピオンの間桐慎二など

そういった過去の足跡を辿り少しでも警戒できる内容のある人物はマークされていた

だが、岸波白野には何もない

その何もなかったマスターが4回戦まで勝ち残っているのだ

あまつさえレオナルドのお墨付きまで貰ってしまった

周りからの視線に晒された岸波白野は、強がりながらもレオナルドに"余裕そうだね"と言葉を返した

 

「そのままお返ししますよ。彼らが向かった先に誰がいるのか気づきませんでしたか?」

 

岸波白野は"保健室"と呟いて焦った様子で逃げたヴラド三世とランルーを追いかけていった

 

「あぁなんて恐ろしいのでしょう。知っていますか、あの二人の行った破壊活動の中には無抵抗なNPCの殺害も含まれているんですって」

 

聞きなれぬ女性の声が偶然ライルの耳に入った

 

(NPCの殺害? いや、だけどあいつは補欠だから大丈夫だろうけど……ヤツらが向かったのが保健室なら……)

 

ライルも岸波白野と同じように逃げたヴラド三世とランルーを追いかけるようにその場を後にした

 

「はん、随分と大きな独り言だな」

 

「まぁ! 私はあなたに話しかけたんですよ、キャスター」

 

「よく言う、俺に話を聞かせるのが目的ではない癖に」

 

小さな子供の姿をしたサーヴァントと尼のような格好をした女マスターは走り去っていくライルの後ろ姿を見ながら会話を終わらせた

 



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