東方赤弓兵 (ライダ)
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プロローグ

初めましてライダです。小説投稿は初めてなので至らないところも多々あるかもしれませんがよろしくお願いします。


「先に行くぞ、起き上がれるなら追ってこい」

 

「……………………」

 

はぁ、朝がきた。目覚ましボイスを付けてみたけど憂鬱さは変わらない。

 

「仕事……いかないと」

 

朝は嫌いだ。現実を直視するのはつらい。現実よりも幻想の中にいたいよ。

 

 

「今日も終わった。また希望が持てる」

 

時刻は午前0時、憂鬱な昨日が終わり希望に溢れた今日がきた。後は家に戻るだけ、そうすれば後は自由になる。

 

 

何を言ってるか解らないか?それなら安心してくれ、君は正常だ。正常な君が異常な俺を理解できるはずがない、いやする必要もない。

 

俺は異常者だ。自分が住んでいる世界を否定して別世界を信仰しているどこにでもいそうな異常者だ。だから誰も気にしないでくれ、俺という異常者がいたということを。

 

「どこだここは?」

 

気付いたら知らない場所にいた。けど何故か嫌じゃない、むしろ心地よさすら感じる。

 

「気がついたか、君が何を感じてるかはわかるがあえていおう。おめでとう、君の夢はようやく叶う」

 

「叶っていいのか俺の夢って?」

 

「まあ仕方がない、こちらの手違いで君を殺してしまった。そのままにしておくわけいくまいて」

 

俺が殺された、いつ、どうやって?ああいや思い出してきた。確か曲がり角で急に目がくらんで…

 

「そしてそのまま跳ねられ即死。思い出した見たいだな」

 

「けどそれはただの事故だろう。何がそっちのせいなんだ」

 

「ああ、まあ知らなくていいことだ。君はただ転生して暮らせばいい。さあ選びたまえ、君は好きな能力かそれとも好きな世界に行くかどちらを選ぶ」

 

「選んでいいのか?」

 

「うむ、もとはといえばこちらのミス。その分は優遇しておかなくてはこちらのタツセがないんでな」

 

よくわからんがなにやら優遇されるみたいだ。ならきまりだな。

 

「なら能力を貰う」

 

「わかったただし能力は一つだけ。君の異常性ではこれが限度だ」

 

「十分だ、欲しい力は赤い弓兵の力だ」

 

「赤い弓兵?」

 

「とぼけなくてもいいだろ。さっきからエセ神父声で喋っておいて」

 

「はは、冗談だ。しかし君が望む能力はそれなり代償がいるぞ」

 

「代償?」

 

「そう君が望む能力は君自身の魂を赤き弓兵の魂に打ち直す。そうしなければ無限の剣は使えない。その打ち直しは非常に強い苦痛をともなう、それに君自信が耐えられない可能性がある。赤き弓兵に魂が押し潰される可能性がある」

 

押し潰されるか、俺の夢が叶うならその方がいい気もするけど。

 

「まあ構わない。潰れたらそれだけだ」

 

「承った。でわ魂の変換は転生先で行う、君に神の加護があらんことを」

 

「何が加護だ。神自身のくせに」

 

神の笑い声とともに俺の視界は暗転した。

 

「……ッッ!どうやら着いたようだな」

 

視界が戻ると辺りは鈍い光が立ち込めている。これは光苔?それにここは洞窟か。

 

「けど光苔が光ってるということはどこかに光源があるはず。ならここからの脱出は……がっ!?」

 

な、なんだ今の衝撃は。体に電流でも流されたみたいだ!?

 

「アアァァァァ!!!」

 

か、体が、いや魂が引き裂かれる!

これが魂の変換なのか、ヤバイもういし…き…が…

 

ドサ!!

 

洞窟に一人の男が倒れ伏した。その体は徐々に変貌し無限の剣がはえてきた。




ご意見、ご感想があればよろしくお願いします。


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始まりは唐突に

「う……あ………」

 

こ、ここは…俺はどうなった。

 

「……ッ!?なんだこの臭いは…」

 

此処にこれ以上いたくない。この吐き気を及ぼすような臭いはオレには耐えられない。

ハヤクココカラデナケレバ

 

後はもう覚えていない。はいずるように光に向けて動きまわっただけ。そして気がついたら俺は外にいた。

 

外の空気に触れ少しは落ち着いたらしい。混濁していた記憶が蘇ってきた。そうだ、俺は魂の変換の激痛で気を失って……

 

「って、結局どうなったんだ。俺が残ってるということは成功したのか」

 

そうだ、俺が得たのは赤い弓兵の力。解らないなら解析するだけだ。

 

同調・開始(トレース・オン)

 

俺にはなれない言葉だが、体は違ったらしい。長年付き合ってきたように体がすんなり魔術回路のスイッチを入れた。

 

 

「基本骨子・解明」

 

基本となる骨子を解明し

 

「構成材質・解明」

 

構成された材質を解明する

 

全工程・完了(トレース・オフ)

 

「そう…か」

 

解析した結果俺の魂は弓兵の魂に塗り潰されて閉まったようだ。ある一点を除いて。どうやら俺の魂の一部だけ弓兵自身の魂が拒絶したのだろう。道理で俺が残れたわけだ、感謝すべきは自分の異常性か。

 

「けど流石は英霊か、拒絶はしたが消去するとは」

 

拒絶したものの俺の異常性は弓兵に根本を塗り替えられたらしい。残った俺は俺と実感出来ないほど希薄だった。既に自分の最初に抱いていた異常性思い出す事が出来ない。代わりに残ったものはオレだったものの残骸。薄められた異常性だろう。

 

 

 

あの後違和感ある体を持ち上げ場所を移動した。最初はオレだったため気が付けなかったが弓兵ならば気が付ける。最初に俺がいた場所から臭ってきた吐き気を催す臭い。あれは血だ。

 

解析の結果俺は心身ともに大きく変化していた。おそらく洞窟の血の臭いはオレの血だろう。いや正確にはオレだった者の血か。鏡を投影して全身を見たところ容姿服装赤い弓兵に似通っていた。違いがあるとすれば身長が弓兵より10センチ程低く髪がオールバックになっていないということか。雰囲気は高校時代の弓兵に似てる。オレだったころの面影は微塵も残っていなかった。

 

「それにしても」

 

さっきから付けられている。洞窟を離れたあたりからだ。やっぱり離れるのが少し遅かったか、熊でもついて来たか?いや、それにしては些かおかしい。これは動物が発する殺気じゃない。そう、それは人間の天敵のような。残った人間であるオレが震えているのを感じる。

 

「でもなぁ」

 

英霊である弓兵は背後の生き物を脅威に感じていない。

 

けどこのまま付けられてるのは気分が悪いな、誘い出して始末するか…って俺ってこんな物騒な奴だっけ?

 

そう思いつつも俺はさっき見つけた崖で囲まれた遮蔽空間に歩みをかえた。

 

 

 

「……さて、言葉が理解出来るなら出てこい。お前の存在は知覚している」

 

……すると茂みの奥から狼のような風貌をした化け物が姿を表した。

 

「グルルルル……」

 

「理解はできても言葉を話す知能はないか!」

 

化け物は跳躍しその鋭利な爪で俺を刺し殺そうとした。

 

オレだったのならそのまま刺し殺されていただろう。しかし今の身は英霊。

 

化け物の跳躍を優に超える跳躍で化け物の背後に回り込んだ。そして化け物の爪は背後にあった岩を砕いた。

 

「なるほど、力は見た目通り化け物並ということか」

 

「ガアァァァ!!」

 

「ふん!貴様の実力は底が知れた。投影・開始!(トレース・オン)

 

魔術回路を起動し手にこの身にもっとも馴染む剣、干将莫耶を投影した。

 

「ハアァァァァ!!」

 

「ギイ?」

 

投影した干将莫耶を使い俺を貫こうとした腕を斬り飛ばした。化け物はなぜ当たらなかった解らず、無くなった腕を見て不思議がっていた。

 

「君の腕ならそこだ」

 

「あ゛?」

 

化け物は足下に落ちていた腕を掴むと斬れた部分に押し当てた。

 

「……ほう繋がったか。治癒…いやそもそも腕を落としたくらいではダメージにならないということか」

 

「ガアァァァ!!」

 

「よかろう、付き合ってやる。ただし五体満足でいられると思うな!何せ生まれたばかりだ手加減なぞできないのでね」

 

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「終わりだ、壊れた幻想!(ブロークン・ファンタズム)

 

「…ギアァ!?…………」

 

化け物の体は魔力の爆発により跡形もなく吹き飛んだ。

 

やったことは単純だ。腕をもっていっても再生するなら元に戻れないほど粉々に粉砕するだけだ。

 

俺は化け物に干将莫耶を突き刺していった。化け物は突き刺されてもダメージがなかったのか、剣をそのままにして攻撃してきた。その攻撃を躱し再び剣を投影、それを相手に突き刺す。十分に剣がたまったら後は内包された魔力を爆発させ化け物を爆殺することに成功した。

 

「最初の戦闘にしてはうまくいったな。これも弓兵のおかげか」

 

俺が得たのは何も弓兵の能力だけではなかった。弓兵が培ってきた戦闘経験なども得ることができた。俺が理解できなくても弓兵の経験は体を動かし敵を駆逐する、まあ俺が未熟だから完全にとはいかないみたいだが。

 

戦闘中相手を倒すすべはいくつか浮かんできた。ただそれが実行できるかは別だ、俺は無意識で一番自分が傷つかない選択をしていた。残った俺の魂が自分が傷つくのを嫌ったためだろう。

 

「まあ、それは今後直していくか」

 

今は一刻も早くここを離れるべきだ。こんな化け物がいると分かった以上さらに注意深く進むべきだろう。

 

赤い礼装を纏った男は跳躍を用いて崖を駆け上りその場を後にした。

 

「……すさまじい力だ、ただの人間が持てる力ではない。あの方に早く報告しなくては」

 

戦闘を一部始終観察していた第三者の存在に気付かぬまま。




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妖精と少女

「むう、行けども行けども森ばかり。いったいどこなんだここは」

 

あれから化け物とは出会わなかったが森の中から一向に出られない。いったいどんな世界に送られたんだおれは?まさか猿っぽい何かが石槍もってる時代じゃないだろうな。

 

「それにだ、さっきから同じ所をぐるぐる回ってる」

 

おかしいと思ったのは十分ほど前だ。一本の木に傷をつけて先に進んでいたらまた傷のある木があった。

 

「何かの魔術か?いや気配は感じなかったし」

 

かりに魔術だったとしたら不味いな。ただでさえ魔術抵抗が低いのに使ってきた相手が認識できないのは非常に不味い。

 

落ち着け、まずはこのループを抜け出すんだ。幸い空間把握なら解析を応用すればできる。

 

「――――同調・開始(トレース・オン)

 

もともと解析は魔術師にとって初歩の初歩。難なくここら一体の土地の構造を把握できた。

 

「……よし、行くか」

 

暫く歩いていると不自然な空間があった。解析したときなかったはずの場所に木が立っている。

 

こちらの場所がわかっていないとこういったこういった不可思議の現象は起こせない。ということは相手は今俺を視認してるってことか。

 

「なら、――――投影・開始(トレース・オン)

 

投影するものは雷神ウッコのもつ電光の鏃の矢。役目は閃光で俺の捕捉者の目暗まし、ゆえに完璧な投影は必要ない。ただ爆発させたときの閃光に特化を。

 

「――――構成材質、補強」

 

「――――投影・完了(トレース・オフ)

 

できた、さすがに剣以外の投影は体に来る。けど活動に支障はない、これでやることは一つだ。

 

「フッ!」

 

俺は矢を上空に投げ、そして…

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

矢が爆ぜ辺りに閃光があふれる。よし、今のうちに身を隠して…

 

「「「わああぁぁーー!!」」」

 

「……はい?」

 

後方から悲鳴?

 

振り返ると子供のような容姿で背中に羽をはやした生き物が上空に逃げて行っていた。何なんだいったいこの世界は、化け物はいるわ変な羽つき子供はいるは。

 

「…先、進むか」

 

ここでこうしていても仕方ない。たぶん俺を迷わせていたのもあいつらだろう。それにさっきの解析で開けた空間も見つけた。おそらく村か何かがあるだろう。

 

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「……ふう、危なかったわね」

 

先ほど閃光が起きた場所から数キロ、三匹の妖精が息を切らしながらへたり込んでいた。

 

「危なかったじゃないわよ!だから止めようって言ったのに」

 

「何よ!助かったんだからいいじゃない。それに助かったのは誰のおかげだと思ってるの。私があの変な光を反射したからよ」

 

「確かにさっきの機転はサニーにしてはよかったわね」

 

「でしょでしょ…って私バカにされてない?」

 

「どうでもいいわよそんなこと。それよりスター、さっきのはほんとに来てない?」

 

「大丈夫よ。ここらには生き物の反応はないわ。ルナは心配性ね」

 

「ねえ、私バカにされてない?ねえ、ねえったら」

 

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三妖精がショートコントをやっている間に、弓兵は解析によって見つけた空間に到着していた。

 

「予想道理か。しかしこれはまた……」

 

確かに村だとは思ったがこれは…明治ごろの村、いや町か。町並から見るに場所は日本だとは思うけど、やけに変な生き物が…具体的に言うならさっきみた羽つき生き物がちらほらと。

 

「なあ、あんたそんなところで何してんだ」

 

「ん?」

 

気付くと足元に子供が寄ってきていた。ここに入ってから何やら避けられてた感があったため気付くのにおくれてしまった。

 

「なあぁってば」

 

「ああごめんな。俺はよそ者でな、少しこの村のことを見て回ってるんだ」

 

「よそ者?ああ!あんたもしかして慧音先生が言ってた外来人て奴だろ。変な服着てるし間違いない!」

 

変な服って……まあそれは置いといて、この少女が興味深い言葉を言っていた。外来人、たしか彼女がそう言っていたはずだ。

 

「なあそうだろ。あんた外来人なんだろ!」

 

「ん、たぶんあってるよ。俺はその外来人ってやつだと思う」

 

「よっしゃ正解!私はやっぱり天才だな!」

 

「じゃあその天才の君に聞いていいかい。外来人とはどういう意味なんだ」

 

「おう!外来人はな…ええと、あれだ、そう外から来た人だ!」

 

「よし、できたら君のいうその慧音って人のところに連れて行ってくれないかな」

 

子供に頼るのも忍びないがこの子は俺に唯一話しかけてくれた人間だ。頼りはこの子だけだ。

 

「いいぞ、私についてこい変な兄ちゃん!」

 

「変な兄ちゃんは勘弁してくれ」

 

「だって私兄ちゃんの名前知らねえもん。名前教えてくれよ、ちなみに私は霧雨魔理沙、普通の天才美少女だぜ。兄ちゃんは?」

 

「俺か……」

 

まいったな、元の名前なんてとっくに無くしているし…やっぱあれしかないかないか。

 

「なあ兄ちゃんの名前は?」

 

「そうだな、アーチャーとでも呼んでくれ」

 

「あちゃー?なんか失敗しそうな名前だな」

 

「アーチャーな」

 

「あっちゃー?」

 

「アーチャーだ、わざと間違えるな」

 

「にひひ、わるいわるい。それじゃあ私についてこいアーチャー!」

 

「了解したマスター」

 

「ほへ?なんかいった?」

 

「いやなんでもない」

 

将来が末恐ろしいなこの子は。いったいどんな人間になるのやら。できるなら俺みたいに曲がらずまっすぐ育ってほしいものだ。

 

無邪気に走る魔理沙を見ながら俺はそう思った。

 

「……あ!」

 

「あ」

 

「うう…い、痛くないもん」

 

「そうかい(大丈夫だろうか?)」

 

目の前で転んで涙目になっている魔理沙はさっそく前言を撤回させたくなる雰囲気をか持ち出していた。




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幻想郷と白沢

今のところは毎日投稿できていますがそろそろ危なくなってまいりました。一様明日の分は予約投稿してますが。

ちなみに作者は小説のストックをしていません。すべて一日で書いてます、なので学生の身分の私は登校が始まると投稿も遅れてしまうことをご了承ください。

それではお楽しみください。


「で、君の言っている慧音先生がいる場所にはいつ着くんだ?」

 

魔理沙に連れられかれこれ一時間、最初の場所に戻ってくること計三回、そろそろ打開策を講じるべきだろう。

 

「もうすぐ着くって。心配すんなよアーチャー」

 

その根拠のない自信はいったいどこからくるんだ。

 

「ほらこっちだこっち、早く来いアーチャー」

 

その道はさっき通ったぞ。仕方ない……

 

「魔理沙」

 

「ん?なんどわぁぁぁ!?」

 

上から探すことにしよう。

 

「な、何すんだよアーチャー。いきなり屋根の上なんかに上がって」

 

「これ以上時間をかけるのはごめんでね。慧音先生がいる方角を教えてくれ」

 

「向こうの方だけど」

 

魔理沙がさした方角は北東。おいおいそっちを指したのに何で進もうとした方角は南東なんだ?

 

「北東だな。しっかりつかまってろよ魔理沙」

 

「おう!」

 

さて行くとしようか。

 

「やっほー!速い速いぜ!」

 

「楽しそうで何よりだ。けど着いたら教えてくれよ」

 

「おう!…なあアーチャー」

 

「なんだ」

 

「もう過ぎちまったぞ」

 

屋根から落ちそうになった

 

「速く言え」

 

ほんと疲れる。

 

 

 

「着いたぜ。ここが寺子屋だぜ」

 

寺子屋、確か昔の学校がそう呼ばれていたっけ。けど教師のことは師匠と呼ばれてたはず。なんだかいろいろと時代錯誤見られる世界だな。

 

「さあ早く入ろうぜ」

 

「そうだな」

 

「おーい慧音先生いるかー?」

 

「その声は」

 

なんか奥から凄い音が。

 

「こぉ~らぁ~魔理沙ぁ~!お前はまた授業を脱走しおって、お仕置だぁ!!」

 

ガン!!

 

おおすごい音、というより頭突きで出る音じゃないぞ。

 

「いってー!!なんだよせっかく客連れてきてやったのに!」

 

「客だと」

 

魔理沙の言葉を聞きこちらを見上げる慧音先生。少し恥ずかしげにこちらに話しかけてきた。

 

「これは失礼した、私は上白沢慧音という。ここの寺子屋の教師だ、それでこっちの馬鹿者は霧雨魔理沙だ。この子の案内で来たのならさぞかし大変だったでしょう、この子は近道しようとしてよく迷子になりますから」

 

「そうでもないよ。魔理沙は魔理沙なりに頑張ってくれた」

 

「そうですか。それはよかった、ほら魔理沙もお礼をいいなさい」

 

「おう!ありがとなってなんで私がお礼いうんだ?」

 

「そのことは置いといてだ、俺はアーチャーと言うのだが教師であるあなたに聞きたいことがあるんだ」

 

「私に教えられることなら構いませんがいったい何を?」

 

「魔理沙に聞いたんだが俺はどうやら外来人というらしいんだ。魔理沙の説明だといまいち要領を得なかったのでできればもっと詳しい人に教えてもらおうとここにきました」

 

「そうでしたか、それでは立ち話もなんですこちらにどうぞ」

 

上白沢さんはそういって寺子屋の奥に案内してくれた。よかった、これでやっとこの世界のことを知ることができる。

 

 

 

「それで聞きたいことは外来人のことでしたな」

 

「ああ、それとできればこの場所のことも教えてもらえると助かる。ここに来る前何やら奇妙な化け物に襲われてな、さすがにこれ以上無知でいるのは不味いので」

 

それを聞くと上白沢はわかりましたと言って棚から一枚の巻物を取り出してきた。

 

「まず最初にここの土地のことをお教えしましょう。ここは幻想郷といいます、そして今あなたがいるこの場所は人間の里。その名の通り人間たちが住まう場所です。さらに……」

 

なるほど上白沢の説明でこの世界のことは理解できた。幻想郷は人間ではなく独自の文明が妖怪たちによって築き上げられている世界だ。俺を襲ったのも妖怪というやつだろう。

だから幻想郷は人間の文明レベルが明治より少し下ぐらいで止まっているのか。まあその割に電気やガスが通っているのは不思議だが。

 

「なるほど助かった。礼をいう」

 

「いやいや、困ったときはお互い様です。それはそうと私も一つあなたに聞きたいことがあるのですがよろしいですか」

 

「それは構いませんがいったい何を?」

 

「私はこう見えても半人半獣でして普通の人間より鼻が利くんですよ。あなたからは少々異彩な匂いがする、あああなたを悪人と思っているわけでわないのでそこは心配なさらず」

 

なんと匂いで俺のこと察知したと。それよりも半人半獣とは、只者ではないとアーチャーが判断したいたみたいだがまさか妖怪だったとは。

 

「私は満月の日だけ妖怪になるんですよ。なのであなたがわからなかった無理もない」

 

満月の日だけって、まるで狼男だな。いや女性だから狼女か?

 

「何やら無礼ことを考えていませんか」

 

「いや別に」

 

直観は人間の時でも健在のご様子だ。

 

「それよりも俺の素性でしたね。ここのことを教えてくれたお礼にお答えしましょう」

 

そして俺は上白沢さんにアーチャーのことを話した。といっても話したのはアーチャーができることと、魂の変換を産まれた時の偶然と称した作り話だけど。

さすがにこれだけは本当のことを話すわけにはいかない。この世界には神様もいるみたいだが次元違いの神のことは話さない方がいいだろう。

 

「そんなことが。いささか信じられられませんがあなたがいることがその事実を証明してますね」

 

「ええ、俺も困ってるんですよ。肉体が残っている分霊体化が出来ないばかりか魔力がなくなるとおそらく俺は消滅する。困ったはなしです」

 

ほんとこれだけは困る。この世界はマナが濃いため通常に生活する分には影響はないが、戦闘中に魔力が尽きる可能性は捨てきれない。早いところ投影に消費する魔力量を見極める必要がある。

 

「しかしこうして目の前に座っているのが過去の英雄とは、何やら感慨深いものがありますな」

 

「たいしたことないですよ、そんなに知名度のある英雄ではないです」

 

それどころか誰も存在を知らないでしょうね。

 

「それに英雄の力を持っているだけで中身は不純物が混じった不良品では」

 

「それは違うでしょう。あなたはそれでも自分が残っている、確かに英雄とは言えないのかもしれませんが英雄となる資質を持った立派な人間ですよ」

 

「はは、そう言ってもらえると嬉しいです」

 

実際はただ異常性をもった人間だったみたいだけど。騙してるようで心苦しい。

 

「それであなたはこれからどうするんです?外の世界に行くのですか」

 

「いやそれは無理だろう。聞いた話ではこの世界は外で存在が薄くなった者が結界の力により引き寄せられる。俺はおそらく外に出た途端引き戻されてしまう。さっき言った通り俺はこの世界の英霊じゃない、知名度ゼロじゃ外に出ることはできない」

 

「それもそうですね。それではそのマスターとやらを探しに行くのですか?」

 

「それも何時かはしますが、今はその博麗神社とやらに行ってみたいと思います。聞いたところこの世界の起点らしい。一度見に行こうと思います」

 

それにこの身はまがいなりにも守護者だ。起点を知ることも重要だ…とアーチャーの魂が言っているようだ。

 

「それで度々ですまないのですが幻想郷の地図があったら貸してもらえないでしょうか」

 

「それは構いませんが貸すだけでいいのですか?」

 

「ええ、アーチャーは創る者ですから」

 

「……ああ、そうでしたね」

 

こういう時投影は便利だ。それに魔力消費量を量るいい訓練にもなるからな。

 

……そういえば魔理沙は?いつの間にか静かになってたし。

 

「…んあ?話終わったのか、それじゃ遊ぼうぜ!」

 

ああ睡眠中でしたか。

 

魔理沙を慧音(名前で呼んでくれと言われた)に預け俺は地図を片手に寺子屋を後にした。

 

ごっ!!

 

その後寺子屋の中から鈍い音と少女の鳴き声が聞こえた。




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巫女とスキマ

人里を出てから一時間、土地を把握するために歩いて向かっているためか予想よりも時間がかかる。

 

「しかし意外と険しい道だ。妖怪もでるし人里の人たちは参拝に向かえないんじゃないか?」

 

人里を出てから数回妖怪に襲われた。低級妖怪らしくそこまで強くなかったがそれでも十分人間には脅威だろう。それに妖精もちまちまと出現、大岩を落とされたときはさすがにあせった。神秘が衰えてるから岩に潰されても死んでしまうからな。

 

「……お、どうやら到着したか」

 

目の前に長い階段が見えてきてその上に大きな鳥居が見える。それに空間の変化を感じる、おそらく結界の影響だろう。ここが博麗神社で間違いない。

 

階段を上りきると目の前には掃除がいきとどいた綺麗な境内が目に入った。

 

「けど人が来た形跡がないな。やっぱり人はこれないか」

 

いったいどうやって賽銭もなしに生活してるんだか。

 

「賽銭でも入れてやりたいが生憎俺も文無しだ」

 

これもいずれは何とかしないとな、今は春らしいが冬には生き物が減る。狩りだけでは生活できない。

 

「ちっ早く入れなさいよ」

 

何やら神社にはあり得ない俗物的な言葉が聞こえてきた気がする。

 

辺りを見回すと神社のわきからなぜか腋が空いている巫女服をきた少女が顔を覗かせていた。歳は魔理沙と同じくらいかな。

 

「あーそこの覗いている子、生憎俺は一文無しだぞ」

 

「ちっひやかしかよ」

 

ここは本当に神社か、確かに人はあまり来なくて賽銭不足だろうがいったいどんな教育をしてるんだ。魔理沙とは別の意味で将来が楽しみだよ。

 

「……あんた人間?なんか変な感じ、なんかこう混じってる感じがする」

 

「!?」

 

驚いた、まさかこんな子供に正体が見破られかけるとは。博麗の巫女は異変解決を生業としてると慧音に聞いてるけど、まさかこの年からこれほどの眼力を持っているとは。

 

「はは、さすがは博麗の巫女だな。確かに俺は人間とは言えないかな、しいて言うなら落ちた英霊かな」

 

まあ本当は落とした英霊が正しいだろうけど。

 

「英霊?なにそれ、幽霊の仲間かなにか」

 

「幽霊とは違うかな。英霊は元は人間だよ、ただし生前何かしらの偉業をなしたね。君が言った通り俺は何の因果かある英霊の魂が混じった存在だよ」

 

「よく分からないけど問題を起こさないなら何でもいいわ。問題をおこしたら叩きのめすからね」

 

普通なら子供の戯言ととるんだが、この子の力はすでにそこらの妖怪を倒せるレベルまでいっているだろう。

 

「ほう、威勢だけはいいようだな。だが君ではまだアーチャーを倒すことはおろかオレも倒せないと思うが」

 

何で俺はこんなことをいってしまったのか。何故か赤い服を着て威勢がいい子を見るとこう…からかいたくなるのはなぜだろう。

 

「言ってくれるじゃない、英霊だか幽霊だか知らないけどあんたが私より強いですって?」

 

「ああ、少なくとも今の君ではオレに傷を負わせることはできてもアーチャーに傷を負わせることは不可能だ

 

「へぇ~そぉ~ふぅ~ん、だったらあんたの力をみしてもらおうじゃない!!」

 

俺めがけて魔力弾らしき物が殺到する。おそらくこれは慧音に聞いた霊力を丸く固めたものだろう、威力もこの歳にしてはなかなかのものだ。

 

「だが、当たらなければどうということはない」

 

威力はあるが狙いはまだまだ粗い。それでは俺は捉えられない。数歩動けば弾は勝手に俺を素通りして森の方に消えて行った。

 

「そら、せめて俺の能力くらいは使わせてみろ」

 

「あったまきた、もうどうなっても知らないわよ!」

 

次は袖の部分からお札を取り出し俺めがけ投げられる。今度は狙いも鋭く俺めがけて飛んできている、けどスピードが足りないな。これでは先ほどより躱しやすい。

 

「ん、まさか追尾せいか」

 

「そうよ!躱せるもんなら躱してみなさい!!」

 

確かに躱すのは難しい。ただし難しいだけであって躱せないわけではない、さすがに投擲者の後方まで回れば追尾できまい。まあしかし、躱すばかりでは能がない。

 

「ふん!その程度ではな」

 

「な!?掴み取ったですって」

 

「ほう、札に霊力を通し威力を挙げさらに追尾性能を付与したか。さらに札そのものもなかなか力のあるものだ、並みの妖怪ならひとたまりもないだろうな」

 

本当になんて才能だ。これで場数をふみ経験を得たらどこまで化けるのやら。まあ自分の力を相手にばらしてしまうのはいただけないが。

 

「ではこちらから行こうか!」

 

「なっ消えた…ッツ!?」

 

「ほう、今のをかわすか」

 

俺の手刀は少女の首があった空間の空を切っていた。

 

「ふん、あんたこそたいしたことないんじゃない」

 

「確かに今の回避には正直驚いた。だが挑発を軽率に行うのはいただけないぞ」

 

「言ってなさい!もう油断はしないわ」

 

少女の目は俺を見据えもう今度は見失わないといわんばかりに睨み付けている。少しは楽しめそうだな。

 

 

 

「さて、もう限界かね」

 

「……………………」

 

少女は仰向けに参道に突っ伏していた。なかなかに粘ったがやはりまだ若すぎるか。

 

「さて、ほおっておくのもなんだ。手当はしておくッツ!?投影・開始!(トレース・オン)

 

背後に殺気を感じ干将莫耶を瞬時に投影し一閃。何かを弾いた感触がして腕に凄い痺れがはしった。

 

「なんだと」

 

弾くのに使用した右手の莫耶は砕け散っていた。即興の投影だがまさか砕かれるとは。

 

「さすが英霊ですわ。やはりお強いのですね」

 

空間が避け中から不気味な目玉が見えた。そしてその中から妖艶な女性が姿を表した。いや、そのまがまがしい力は人間を超えている。この妖力はおそらく大妖怪のレベル。

 

「何者だ。この神社に何のようかね」

 

「そんなに殺気を出さなくても何もしませんわ。それに私は神社の関係者ですわ」

 

「何が関係者よ…このスキマ婆」

 

「あら、無様に地べたに突っ伏している博麗霊夢ちゃんはこの麗しの美女をみて婆というのですの」

 

「スキマ…まさか貴様、八雲紫か!」

 

スキマ、確か慧音の話に出てきた。妖怪の賢者、幻想郷を作りだした大妖怪で境界を操る程度の能力をもつこの世界で最も強いとされる人物。人前にはめったに出ないという話だがまさかここで会いまみえることになるとは。

 

「自己紹介させていただきますわ。ご存知でしょうが私は八雲紫、境界を操るしがない美女ですわ。こっちの子は博麗霊夢、今代の博麗の巫女ですわ。よろしく願しますアーチャーさん」

 

「ああ、だがどうしてその名を」

 

「ふんっ、どうせまた覗き見でもしてたんでしょこのスキマ婆」

 

「霊夢ちゃあ~ん、そろそろお口チャックしましょうか」

 

「やぁ~へぇ~なぁ~ひゃ~い~」

 

霊夢という少女の口を引っ張っている姿にはこれっぽちも威厳は感じさせないが、そのまがまがしい妖力は否が応でも感じる。しかし覗き見か。先ほどの力を見るに八雲の力は、空間を自在に行き来することができるようだ。

 

「まさか人里での会話を聞いていたのか」

 

「え、ええ。乙女の勘というやつですわ」

 

何が勘か。霊夢が言っているようにやってることはただの覗きだし。

 

「まあそれはそれとして、改めて感謝しますわアーチャーさん。霊夢をコテンパンに伸してくれて」

 

「なぜ感謝をする」

 

「実はこの子才能にかまけ全然修行をしないんです。なまじ才能があるだけに敗北をしないものだから努力をしないんですのよ。だからこれを機にまともに修行してくれるようになれば幸いですわ」

 

なるほど、確かに霊夢ほどの才能があれば修行などしなくてもそれなりの力をつけることができるだろう。それこそ凡人が100の努力をして到達できるレベルくらいには。

 

「確かにその通りだな。しかし八雲どのはなぜ出てきたのですか。俺に何か用事でも」

 

「そんな八雲どのなんて、気軽にユカリン♪と呼んでくださっていいのですよ」

 

「婆がなに可愛子ぶってんだか」

 

「霊夢ちゃーん、仏の顔も三度まで言葉知ってるかしら」

 

「あ~戯れもけっこうなんだが要件を教えてもらえないだろうか」

 

「え、ええお見苦しいところを。あなたに私の式になってもらいたいのです」

 

「断る!!」

 

反射的に拒否してしまった。何故かわからんが俺のない直感が告げている、この妖怪の式になるのは不味いと。いや式の意味も知らないのだが。

 

「そ、即答ですのね。けどなぜです、あなたが私の式になればあなたに十分魔力供給もできますのよ」

 

「いやすまん少々取り乱した。その式というものの意味を教えてもらえないか」

 

「いいですわ。式とは簡単に言うところあなたの言っていたマスターと似ていますわ。違うところは術者の力量が式とする対象を上回っていないといけないところです」

 

「ほう、君が俺より勝っていると」

 

「ええ、確実に」

 

「「………………」」

 

「確かにそのようだ。今の私では君には勝てないであろう」

 

心眼にゆだねてもわかる。俺はこの妖怪にかなわない。

 

「ちゃんと分析ができる方で助かりますわ。それでは私の式になってくれますわね」

 

「だが断る!!」

 

「な、なぜ?」

 

「心眼に任せたまま言葉を出したまでだ」

 

ようやく分かった。さっきの反射は心眼にいつのまにか身をゆだねていたのか。アーチャーの危機察知能力と女運のなさが告げているこの提案は悪魔のささやきだ。

 

「よ、よくわからないのですが」

 

「誤解するな。俺も初対面の相手をいきなり信用するわけにもいかないんだ。君の提案は魅力的だが今は断らせてもらう」

 

「そう、ですか。そうですね、いきなり式になれでは失礼でした」

 

「わかってもらえたようで何よりだ」

 

正直俺が式になるのは万が一にもないと思うが。そう、よっぽどの魔力不足にでもならない限り。

 

「それでは私は失礼します。霊夢、これからはちゃんと修行するのよ」

 

「べぇーだ!あんたの言うことなんか誰がきくか!」

 

「そう、それならアーチャーさんの言うことをちゃんと聞きなさい。少なくとも今のあなたでは逆立ちしてもかてないわ」

 

俺の言うことってどういう意味だ?というより霊夢の性格からして負けた相手の言うことは余計に聞かないと思うのだが。

 

謎の言葉を残し八雲紫は再び空間を割りその中に消えてい…

 

「ああそうでした、アーチャーさん、私のことは紫とこれからはよろしく」

 

「なんでさ」

 

それだけ言うと再びやく…紫は割れ目の中に消えた。

 

「……さて、紫はああ言っていたが君は俺の言うことをきくか?」

 

「誰が聞くもんか!それと私は霊夢よ、君じゃないわ」

 

「それは悪かった。すまないな霊夢」

 

「分かればいいのよ!はぁもう疲れちゃったわ。今日はもう店じまいよ」

 

店じまいって、神社は店じゃない以前に客なんて俺を覗いたら人間は一人も来てないぞ。まあよく分からんが何かを頼まれたんだ。少しは世話をしていくか。

 

「そうか、それでは今日のお詫びに今夜は俺が食事を作ってやろう」

 

「しょくじ~あんたご飯なんて作れるの?」

 

「甘く見るなよ霊夢、料理の腕なら君はアーチャーどころかオレにも確実にかなわない」

 

俺は生前一人暮らしだったのは覚えている。そのとき料理は少しかじった、それにアーチャーのスキルが加われば鬼に金棒。

 

「どうでもいいけどアーチャーってなんでそんなに偉そうなの」

 

「別に偉そうにしてるつもりはないんだが」

 

その後俺は厨房をかり霊夢に料理をふるまった。調味料がなかったのには少し困ったがアーチャーのスキルが手助けしてくれた。もちろん料理は好評だった。

 

「おいしい!」

 

「だろう。少しは俺の実力がわかっただろう」

 

「結婚してください!」

 

「……なんでさ」

 

第二声には度肝を抜かれたが。

 

「ところでアーチャーだったりオレだったりあれはなんなの?」

 

「気にするな。理解するだけ脳の機能の無駄使いだ」

 

「ふ~ん。じゃあいいや、私無駄嫌いだもん」

 

後は朝になるまでに汚した境内を綺麗にし霊夢に朝食を作り博麗神社を後にした。ちなみに朝食は好評だったぞ。




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藍と紫

山奥に廃屋があり、旅人が迷い込んで日用品を持って帰ると幸運が訪れるという場所がある。そこの名はマヨヒガ、そこで二人の人物が会合していた。

 

「……紫様、守護者との会合はどうでしたか」

 

「会合自体は問題なかったわ。けど式になるのは断られてしまったけど」

 

「はあ、紫さまは彼を本気で式にするつもりだったんですね」

 

私の式の藍はなにやら不満そうに言ってくる。

 

「あら、藍は不満だったの?彼が式になればあなたも少しは楽ができたのに」

 

「不満というわけではないですが。私はどうにもあの男が好きになれません」

 

「それは私も同意見だわ」

 

「はい?」

 

藍が意外そうな顔をしてくる。いやねえ、橙が見たら惹くわよその表情。

 

「いや紫様、それならなぜ彼を式などにしようなどと」

 

「藍、何か誤解してるよだから言っておくけど私が嫌いなのはアーチャーであって彼ではないわ」

 

「??」

 

やれやれ、何もわかってなさそうな表情ね。やっぱりいくらスパコン並みの知能があっても自分で考えられなきゃだめね。

 

「藍、もっと頭を働かせなさい。あなただって彼の違和感は気付いてるでしょ」

 

「それはそうですが。それが何の関係が?」

 

「はあ、じゃあ聞くけどそもそも何で私たちがアーチャーを好きになれないと思う?」

 

「それは……」

 

「いい、私とあなたとの共通点を考えてみなさい」

 

「私と紫様の共通点…若いは違うし……」

 

あらこの子はいつから自殺志願者になったのかしら。

 

「ひい!嘘です嘘です紫様はお若いです」

 

まったくどいつもこいつも人を見れば年寄りと。この麗しの美女を捕まえてどこが老けているように見えるのかしら。もしかしてどこかの馬鹿がユカリン♪ババア説をニコニコしながら布教してるんじゃないでしょうね。

 

「えーと後同じ所と言ったら…種族ですか?ってどうしました紫様」

 

「あ、いえ何でもないわ。正解よ藍、私たちがアーチャーを嫌う理由は私たちが妖怪で彼が英霊だから」

 

英霊とは死者、特に戦死者の霊を敬っていう語。英華秀霊の気の集まっている人の意で才能のある人。

 

「これが私たちが知る一般的な英霊よ」

 

「それは私も知っていますが」

 

「もしその定義が違っているとしたら?」

 

「!?」

 

あらあら鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して。

 

「彼の話を(盗み)聞きして仮説を立てたわ」

 

そもそも英霊は人間だけがなれるわけではない。妖怪だってなれたって不思議じゃないわ。もしかしたら実在しない人物だって英霊になれるかもしれないわ。

 

「まあ妖怪が英霊になっても弱いでしょうけどね。なるなら悪霊の方がよさそうだわ」

 

「そのことといったい何の関係が?」

 

「いい、私の仮説を例に英霊を挙げるとしたらそうね、アーサー王伝説なんてどうかしら。アーサー王だけじゃなく円卓の騎士全員が英霊になったとするわ。彼らは英霊になるまでに多くの化け物、いや妖怪を殺して人間たちから称賛をえたわ。それによって彼らは概念的に妖怪の天敵になったわ」

 

「その過程が本当なら私たちが彼を敵視するのはわかりますが。それなら私たちが今までそのことを誤解していたのに納得が」

 

「それはそうよ。私たちが存在してる世界には私の仮説が当てはまらないもの」

 

「いったいどういうことですか?」

 

もうわけがわからないというふうに藍が聞いてくる。そろそろ理解してほしかったけど仕方がないか。

 

「並行世界って言葉は知ってるわよね」

 

「知っていますが。まさか紫様アーチャーが並行世界から来たと」

 

「推測だけどね。もし私の仮説が事実となる世界があったとしたら藍も納得いくでしょ」

 

「それはそうですが」

 

「まあ今は推測なのは仕方ないわよ。証明しようにも、さすがに私も並行世界にはいけないから証明のしようがないわ」

 

もしかしたら数百年力を温存して膨大な計算をこなす時間があれば並行世界に行けるかもしれないけど。

 

「いつか彼の口から本当のことが語られるのを待ちましょう。そっちの方が確実に私が並行世界に行くより手っ取り早いわ」

 

「紫様がいいならいいですが、結局何で紫様彼を信用するんですか?」

 

そういえばそんな話から始まったわね。

 

「そうね、しいて言うなら女の勘かしら」

 

「………………」

 

何かしら今日は、本当にストレスを感じさせる一日ね。

 

「ゆ、紫様苦しいです」

 

「ごめんなさいね、今日相当ストレスを感じてるみたいなの。だからこれ以上私をイラつかせない方がいいわよ」

 

「わ、わかりました」

 

あらあら、そんなに怖がらなくてもいいのよ。何もしなければ私も何もしないのだから。

 

「そうそう、もしどうしてもアーチャーが気に食わないならアーチャーじゃなくて違和感をとらえてみなさい。そうすれば藍も彼を好きになれると思うわよ」

 

「違和感ですか?」

 

「ええ、むしろ彼の残りかすの方が私たちには心地いいでしょうし。きっと幽々子も気に入るわ」

 

「まあ分かりました、それではそのように考えてみることにします。それでは彼の監視はもうしなくてもいいですよね」

 

「ええ、面白そうだから私が引き継ぐわ」

 

「紫様……」

 

「尻尾を半分に減らされたいようね」

 

「仕事に戻ります!!」




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悪魔と妹

博麗神社の出来事から約一年、俺は無事就職をはたし冬を越すことができた。

 

「アーチャー!アーチャーはどこよ!!」

 

「どうかいたしましたかお嬢様」

 

俺はある館に勤めていた。成り行きは複雑だったが割のいい仕事だったのでそこは良しとしよう。

 

「どうしたじゃないわよ。これは何かしら?」

 

「どうしたもこうしたも今日の昼食ですが」

 

今日はメイド長が買い物のため人里に出ているため俺が昼食を作ることは知っているはずだが。

 

「そんなの見ればわかるわ。私が聞きたいのは、このご飯のてっぺんに立っている人をおちょくっているような旗は何かと聞いているのよ」

 

「見たらわかるでしょう。お子様ランチには旗がないと」

 

「やっぱりか!やっぱり人をおちょくってたか!!」

 

「お嬢様、お嬢様は人間ではなく妖怪ですよ」

 

そんなタコみたいに顔を真っ赤にすることなかろうに。

 

「そんな事はどうでもいいわ!毎度毎度私をおちょくってそれでも紅魔館の唯一の執事なの!」

 

「そうですが?」

 

ムキー!!とさらに腹を立てたレミリアお嬢様はテーブルをひっくり返し昼食を投げつけてきた。もちろん昼食はこぼれないようキャッチしたぞ。

 

「食べ物を無駄にするのは感心しないぞ。せっかく人里の皆が精魂込めて作ってくれた食材だ」

 

「五月蠅いわ!あんたが私をおちょくらなきゃ食材だって無駄にならないわよ!!」

 

「フランは喜んで食べてくれたのだが」

 

まったくフランは文句もなく食べてくれたというのに姉は文句を垂れるばかり。少しは妹を見習ってほしいものだ。

 

「お嬢様をつけなさいお嬢様を!」

 

「仕方ないだろう、フランの指示なのだから。機嫌を損ねてまた館を半壊されてもかなわないだろう」

 

「そ、それはそうだけど…せめて私の前ではちゃんとお嬢様をつけなさい。他の者に示しがつかないでしょ」

 

「それはそうだな。失礼した、これからはそのようにするとしよう」

 

「分かればいいのよ分かれば」

 

俺を言い負かせたのが嬉しかったのかない胸を張り椅子にどっかり座った。

 

「それでは改めて昼食を」

 

「ええ、早く用意して頂戴。叫びすぎてもうお腹ペコペコよ」

 

「それは大変だ。早く用意しなければ」

 

「あんたのせいだけどね」

 

さて、まずは倒れたテーブルを起こしてもう一度料理を温めなおさなくては。

 

「ご用意できましたお嬢様」

 

「だから旗を抜け!!」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「まったくアーチャーは!ちっとも館の主を敬うって心を知らないんだから。腹ただしいったらないわよ」

 

「レミィ愚痴なら聞いてあげるからもう少し静かにして」

 

「あ、ごめんパチェ」

 

結局お昼はあの思い出すだけで怒りがよみがえって来る昼食を食べるはめになった。これで美味しいんだからたちが悪い。

 

「別に美味しいならいいじゃない」

 

「よくないの!なんかあいつが来てからこう、私の威厳がどんどん抜かれていってる気がするし」

 

この間館のメイドが私のことをれみりゃなどと呼んでいた。もちろんその妖精には一回休みなってもらった。

 

「ところでアーチャーは?確かこの時間は図書館の整理のはずだったけど」

 

「フランがごねてたから貸したわ。外に出て行ったみたいだけど」

 

「そんな勝手に」

 

せめて私に一言いうべきでしょアーチャーの奴!

 

「ところでパチェさっきから何食べてるの」

 

「昼食のサンドウィッチよ、見たらわかるでしょ」

 

私がお子様ランチでパチェがサンドウィッチ。このやりようのない怒りはどこに向ければいいのかしら。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ハックション!!」

 

「アーチャー風邪?」

 

「いや、誰かが噂でもしてるんだろ」

 

おそらく最近カリスマ欠乏症に陥っている人だろうけど。外に出ることメイド妖精に伝えるよう頼んだけど無理だったか。

 

「それよりフラン、今日はどこに行きたい?」

 

フランは数か月前まで幽閉されてきた、その反動かやたら外に行きたがる。まあ外に出したんだから面倒は最後まで見るけどな。

 

「ん~と霊夢のとこ行きたい」

 

「わかった。博麗神社だな」

 

俺とフランは博麗神社に歩みを変えた。

 

「やっほ~霊夢~」

 

「フラン走るな。日に当たるぞ」

 

フラン、本名フランドール・スカーレットは吸血鬼だ。そのため弱点も多い、流れ水は渡れないし太陽の光に当たれば皮膚が焼け最終的には霧になって霧散してしまうだろう。

 

「…また来たのあんたたち。妖怪と幽霊が神聖な神社に来るんじゃないわよ」

 

霊夢はあれからも相変わらず修行はサボっている。けど今までに比べたらやっているみたいだが。

 

「霊夢は今日何しにしてるの?」

 

「見たらわかるでしょ、お茶飲んでるのよ」

 

「楽しいの?」

 

「あんたたちが来るまでは楽しかったわよ」

 

「そうか、せっかくお茶請けを作ってきたんだがいらないか。フラン全部食べていいぞ」

 

「わーい♪」

 

「私も食べるわよ。よこしなさいよ」

 

相変わらず現金な巫女だ。まあ美味しそうに食べてくれているようだしいいか。

 

「おや、神社が賑やかだと思ったらアーチャーたちが来ていたのか」

 

「その声は霖之助か。君が神社までくるのは珍しいな」

 

彼の名は森近霖之助。香霖堂の店主でとある理由で知り合うことになったんだが、語ると長くなるので今は語らないでおこう。彼は手にとった物の名前と使用用途を知る程度の能力を持っている。

 

「私もいるぞ!魔理沙様の登場だ、皆の者頭が高い!控えおろう!」

 

「何言ってんのよ馬鹿」

 

「あ、魔理沙だ。やっほ~」

 

「おおフランもいたのか、何だその美味そうなの私にもくれ!」

 

今度は何に影響されたんだか。しかしただの一般人が妖怪のいる中に突っ込んでいく光景はすごいな。

 

「ところで霖之助はどうしてここに」

 

「紫さんに霊夢の新しい巫女服を頼まれてね。出来上がったのでじきじきに持ってきたというわけだ」

 

そういうことか、また紫のつかいっぱしりか。

 

「店は相変わらずのようだな」

 

「まあね。お願いだからこれ以上僕から仕事を取らないでくれよ」

 

「はは、保障はしきれんな。まあ暫くは執事が忙しいから仕事を取る余裕はないと思うけどな」

 

「できればそのまま永久就職してほしいよ」

 

それはご勘弁願いたいな。執事にはどうも嫌な予感が付きまとい続けてるし。

 

「アーチャー!今日こそあんたを地べたへ這いつくばらせてやるわ」

 

「なんでさ」

 

どうしていきなりそういう結果に至ったのかその仮定を教えてほしいものだ。

 

「面白そう!私もやるやる」

 

「待て待てさすがにフランが加わるのはって話を聞けぇぇ!!」

 

あぶな!?レーヴァテインが頭上を掠めていきやがった。

 

「いいぞやれやれ~~!!」

 

魔理沙てめえ勢いを増長するな。いかんマジで死にかねん。

 

「夢想封印!!」

 

「こら!こんなことに博麗の秘奥なんて使うな!!」

 

幸いなのはまだ威力が完全でないことだが。

 

「スターボウブレ~イク!!」

 

こんなふざけた合わせ技が飛んできている状況かでは気休めににもならん!気を抜いたら一瞬で持って逝かれる。

 

「ええい仕方ない、I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――――!」

 

まさかこんなくだらないことでロー・アイアスを展開するはめになるとは。魔力消費にも納得いかないよ。

 

「いいだろう、本気で相手をしてやる。ただしどうなっても恨むなよ」

 

子供相手に大人げないと思う輩もいると思うが考えてみろ、子供の内に怒らせてはいけない相手を教え込んでおくことも重要なんだ。

 

投影・開始(トレース・オン)!!」

 

だから俺は子供二人に剣の連続投影を持って答えてやることにした。

 

 

 

「ぐ、ぐぐぐ…………」

 

「あー楽しかった」

 

「それはよかったな。それじゃあそろそろ帰るとしよう」

 

よかったよかった。しっかり怒らせてはいけない相手を教え込ますことができたようだ。

 

「ギャハハハ!!霊夢仰向けにぶっ倒れてやんの。どんな気分ですか今?」

 

「ま、魔理沙…あんた今度会ったら覚えときなさい!」

 

「それじゃあ霖之助あとは頼んだ」

 

「え!?僕がこの惨状の後始末をするのかい」

 

知ってるぞ俺は。お前が二人にじゃれられてる俺を見て笑っていたのを。

 

「いいだろ、あとで修繕費を紫にでも請求すれば」

 

「それはそうだが……はぁわかったよ」

 

「分かってくれてなによりだ」

 

「じゃあね~霊夢に魔理沙~」

 

「またな~フラン」

 

「もうくんな!!」

 

このやり取りもいったい何度目か。しかし霊夢は日に日に力が強くなっていくな、あと数年もしたらオレでは手が付けられなくなっているかもな。

 

 




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竹林と妹紅

「みんなどこに行ったのかしら?」

 

何だか静かに過ごせていて気にならなかったけど館が静かすぎる。いつもこの時間だったらフランが騒いでるはずなのに。

 

「厨房にもいない」

 

アーチャーはともかく咲夜もいない。みんなでどこかに集まってる?私だけはぶかれてる。そ、そんなわけないわよね。私は紅魔館の主だもの一人のけものなはずがないわ。

 

「ちょっとそこのメイド」

 

「え?れ、レミリアお嬢様!?」

 

なんでそこまでおびえるのよ。あ、でも脅えられてる方が威厳があるかも。

 

「な、何かご用でしょうか」

 

「そんなに脅えなくていいわ。咲夜がどこに行ったかわかるかしら」

 

「め、メイド長でしたらアーチャー様と一緒に図書館の方へ向かってました」

 

「図書館ね。ありがとう、仕事を続けて構わないわ」

 

咲夜だけじゃなくてアーチャーも一緒?また何か企んでるんじゃないでしょうね。近頃アーチャーの影響か咲夜が紅茶に妙なものを混ぜるし。うう、思い出したら気持ち悪く…何で紅茶があんなに苦いのよ。

 

ん?図書館の中から声が、皆ここにいるみたいね。

 

「ちょっと騒がしいわよ!いったい何をしてるの」

 

「「お嬢様?」」 「レミィ?」 「お姉さま?」

 

やっぱりいた。フランにパチェに咲夜に小悪魔、おまけにアーチャーまで全員そろってるじゃない……だれか忘れてる気がするけど誰だったかしら。

 

 

 

「うう…何だか嫌な悪寒が。まだ春なのに」

 

 

 

「見てわかるだろう、新作料理の試食をしてもらっているんだ。咲夜の新作だぞ」

 

「何よ、それなら私も呼びなさいよ。まったく主をのけ者に(モグモグ)……」

 

「あ!お嬢様それは」

 

うんうん、普通のサンドウィッチみたいだったけど舌の上で弾けるような衝撃が全身を通り抜け……

 

「ッツ~~!!ッツ~~!!」

 

辛い!辛いわよ何これサンドウィッチなのにすっごい辛い!

 

「お嬢様お水です!」

 

「フ~~!フ~~!(ゴクゴク)プハ~~……アーチャーあなたの仕業ね!私にこんな嫌がらせをするなんてあなたしかいないわ!」

 

「勝手に食べて勝手にキレてその罪を俺に押し付けるな」

 

「レミィ今回はあなたが悪いわ」

 

う…そんな、いつも味方のパチェまでもがアーチャーを擁護するなんて。

 

「お嬢様すみません、私が止めるのを遅れたばかりに」

 

咲夜が悪いんじゃないわ。悪いのはこの色黒の男なんだから。

 

「ところで何でこれこんなに辛いの?一体何いれたのよ」

 

「中身は特に変わってない。ただマスタードを薄く塗っただけだ」

 

「何でそんなことするのよ。ただ辛くなるだけじゃないの」

 

「それはお前の舌が子供舌なだけだろ」

 

「なんですって!!」

 

言うに事欠いて子供舌ですって!主をお前扱いもさることながら私を子供舌扱いとはいい度胸だわ。

 

「生憎今日俺は休日ただのお客様だ。レミリアをお嬢様と呼ぶのはおかしいだろう」

 

「そんなことどうでもいいわ!それより今ここで引導を渡してやるわ!」

 

「はぁ…レミィ」

 

「何よぱムグゥ!?」

 

ッツ~~!!ッツ~~!!か、辛いよう……

 

「少し落ち着きなさいレミィ。ここで暴れられたら本が傷つくわ」

 

それなら口だけで言って。こんな辛子を口に突っ込まないで!

 

「……ふぅってアーチャーの奴どこ行った!」

 

「付き合ってられんと人里の方に」

 

「なんですって!」

 

ぐぬぬ、今度会ったらどうするか覚えてなさい!必ずぶっち殺る。

 

「はぁ本当に子供ね」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「で、俺に用事ってなんだ慧音」

 

俺は紅魔館をでて人里の寺子屋に来ていた。昨日慧音に頼みがあると頼まれたためだ。

 

「実はな、これを竹林に住んでいる藤原妹紅という人物に届けてほしいんだ。ほんとは自分で行くつもりだったんだが今日急に授業することになってしまったんだ」

 

と、慧音から一つのバケットが手渡された。

 

「急に授業って、また生徒と授業のことで揉めて課外授業することになったんだじゃないだろうな」

 

「そ、そんな馬鹿なことあるわけないだろ」

 

図星と、慧音の授業は俺や大人にとってはとてもためになる。ただ子供たちにとっては難しすぎてあまり面白くないらしく人気がない。ゆえに口が達者な子供たち(主に魔理沙)に言いくるめられ課外授業に駆り出されることがある。

 

この間は課外授業とは名だけの遠足に成り下がっていた。前回は俺も付き合ったが今回はいいのだろうか。

 

「今回は問題ない、ちゃんと綿密な計画を立てた。これなら前回みたいになることはない!」

 

胸を張りながら自信ありげに言ってるとこ悪いが、子供たちからは不満がマシンガンのごとく飛び出すことだろう。

 

「まあいいが、報酬はいつも通りでよろしく」

 

「それは構わんが、いったいあんな量の木材一人で何に使うきなんだ?」

 

「それは秘密だ。まだ完成まで暫くかかるだろうから完成したら教えるよ」

 

「そうか?まあいい、それよりよろしく頼んだぞ」

 

「了解した、迅速に届けることにしよう」

 

 

 

 

「さて、竹林の前まで来たわけだが」

 

竹林、通称迷いの竹林。その名にの通りとても迷いやすい竹林。原因は、竹は成長が早く目印をつけようにもつけられない。さらに妖精が悪戯を働くためそれが迷いやすさを倍増している。さらに妖怪も住んでいるのでとても危険な場所だ。

 

藤原妹紅という人物はそんな竹林に住居を構えている。慧音から聞いた特徴は長髪で髪の色は白とだけ聞かされた。竹林に住んでいることからそれなりの実力者ということがわかる。

 

同調・開始(トレース・オン)

 

竹林全体を捉えるように解析していく。全体といっても全ては無理だけどな、その原因は何故か張られている結界。この土地の力なのかそれとも誰かが張っているのかわからないが、そのせいで解析が美味くいかない。

 

同調・完了(トレース・オフ)

 

まあいい、家らしきものは捉えることができた。それにしてもすごい場所だ。以前、筍を取りに来た時に解析したが道の構造までまるで違っていた。藤原妹紅という人物はよく迷わないな。

 

「さて行くか」

 

俺は見つけた家に向けて歩み始めた。

 

「「「わぁぁぁ!!!」」」

 

「ええいうっとおしい!!」

 

竹林に入って時間もさほど立っていないのに妖怪が襲ってくること二回。妖精の進行妨害が三回。何でこんな竹林の入り口に妖怪や妖精が大勢いるんだ?まるで何かから逃げてきたような……

 

ズガァァァン!!

 

「な、何事だ!?」

 

こんな竹林で地響き?しかも煙まで…ってまさか火事じゃないだろうな、こんなところが燃えたら一瞬で火が回るぞ。

 

場所は解析の届かない所だが…行くしかないか。

 

 

 

煙が立ち上っていく場所に近づくにつれて竹林の様子がまるで戦闘した後のように荒れている。

 

「いったい何があったんだ…ッツ!?まさかあれは人か?」

 

震源地であろう中心には大きなクレーターが出来ていた。その中に人が一人倒れていた、しかも傷だらけで体の上半身と下半身が分かれていた。見た感じの容貌から女性のようだが…妖怪にやられたにしてはおかしい。いったい何があったんだ。

 

「けどこれじゃもう……」

 

さすがに助からないどころか既に絶命しているはずの女性に異変が起こった。

 

「なんだと」

 

彼女の全身から火が噴きだし分かれていた上半身と下半身までも火に包まれる。そして火が消えると中からまったく傷がなくなり息も吹き返していた。その様子はまるで不死鳥よように見えた。いやまて、なんで服まで再生してるんだ?

 

「ぐ、げほ!」

 

「お、おい大丈夫か」

 

「あ、ああ心配ない。ってあんた誰だ?」

 

「いやそれよりもだ。君は大丈夫なのか、その、完全に絶命していたはずだが」

 

「生憎と健康が取柄でね」

 

いや健康ってレベルじゃないから。死者蘇生なんて幻想郷でも不可能に近いだろうに。

 

「それより私の質問に答えてくれ。あんた何者だ?まさか輝夜の部下か」

 

その言葉とともに彼女から凄まじい殺気が浴びせられる。まさかその輝夜という人物が彼女をさっきの姿にしたのか。

 

「その輝夜っていう人物とは俺は関係ない。俺はアーチャーと言うものだ」

 

「アーチャーどこかで聞いたことがあるな…ああ、確か慧音がそんな奴のことを話していたきが」

 

慧音だって、しかもその白髪…まさか

 

「君は藤原妹紅か?」

 

「そうだけど、何で知ってんの?」

 

「慧音から君に届け物を任されたからな。特徴を聞いていた」

 

「慧音が、まったく別にいらないって言ってるのに」

 

そういいつつも藤原は顔をほころばせていた。ああは言っているが根はいい奴みたいだな

 

「ところでいったい何があったんだ?」

 

「ちょっと油断してな、攻撃をもろにくらっちまったんだ。ああ思い出しても腹が立つ!」

 

「それはさっき言っていた輝夜と言う人物が?」

 

「ええそうよ、私はあいつを許さない。次あったら絶対殺す」

 

「殺すって物騒な。それよりなぜ藤原は生きてるんだ?」

 

あの傷は明らかに助からない傷だった。しかし今は普通に立ち上がり俺としゃべっている。

 

「ん、慧音から聞いてないのか?私は蓬莱人なんだ」

 

「蓬莱人?」

 

話によると蓬莱人とは、一種の不老不死の人間のことらしい。何でも昔蓬莱の薬をなめ不老不死になったらしい。その蓬莱の薬を飲むことになった原因となる蓬莱山輝夜という人物を殺そうとして今回は負けたらしい。

 

「何と言ったらいいか、一言だけ言っておくと復讐は何も生まないぞ」

 

「それがどうした。それでも私はあいつを殺す」

 

「まあそれは好きにしろ」

 

「あたりまえ…って止めないのかよ」

 

「止めてほしいのか?」

 

「いやそうじゃないけど」

 

「俺には復讐心に燃える人をたしなめる弁術なんてない。そんな奴が何か言ったって意味がないだろう。第一その手の話は多分慧音が言っているだろう」

 

第一昔最低の異常性を持っていたはずの俺が他人の復讐にとやかく言うなんて、図々しいにもほどがあるだろう。何せ英雄が取り込むのを拒否したくらいだからな。

 

「あんた変わってるな」

 

「よく言われる。ところでその輝夜と言う人物は着物を着ていて長い長髪の人物か?」

 

「そうだけどなんでしってんだ?」

 

「見えてるから」

 

何やら嬉しそうにスッキップしている。あ、裾を踏んづけて転んだ。

 

「見えてるって…言ったどんな目してるんだよ」

 

「鷹の目とだけ言っておこうか。藤原も見たければこれを使え」

 

「どこから双眼鏡を。それと藤原は止めてくれ、なんかこそばゆいし妹紅でいいよ」

 

それだけ言うと妹紅は俺の手から双眼鏡を受け取り俺が見ている方を見た。

 

「……本当にいた、見てるだけでなんか怒りが湧き起こりそうだわ」

 

「仕返しするか?」

 

「仕返しって…いったいどうやるきよ」

 

「知り合いを殺されたんだ、なら相手にも同じ目にあってもらうべきだろう」

 

相手も死なないみたいだしちょうどいい。超長距離狙撃の訓練にもなる。

 

「で、どうする。殺るか殺らないかは妹紅にまかせるけど」

 

「やれるもんならやってみてよ。どうやるのか興味あるわ」

 

「了解した。弓兵(アーチャー)の力とくとご覧あれ」

 

「――――I am the bone of my sword(我が骨子は捻じれ狂う)

 

魔力回路に魔力を回し捻じれた剣を手に生み出す。その剣を矢に変換し弓につがえる。

 

「―――偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!」

 

真明を開放し対象めがけて射出。矢は竹林を蹂躙しながら進み対象を貫き地面にクレーターを作った。しかし相手もやる、矢の飛来を察知するとは。

 

「あんた…化けもんか?」

 

失礼な、れっきとした人間だったよ。

 

「慧音から強いとは聞いてたけどまさかこれほど強いとは思わなかった」

 

「そうかいそれより早くここを離れよう。君の話なら彼女も蓬莱人なんだろう、もしかしてこちらに戻ってくるかもしれない」

 

「そうだな、輝夜が景気よくぶっ飛ぶ姿も見れたし今日は宴会だな」

 

宴会はいいが理由がしょうもないにもほどがある。

 

「どうした来ないのか?」

 

「行くよ、家に届けるまでが依頼だからな」

 

その後は妹紅の家で宴会を開いた。理由はしょうもないが久しぶりの宴会は楽しく感じたな。

 

「アーチャーって料理も美味いんだな」

 

「気に入ってもらえたようでなによりだ」

 

慧音の渡してきたバケットの中身は食材がわんさか入っていた。なんでも普段は出来上がっている料理が入ってるらしいが。慧音め、最初から俺に作らせるつもりだったな。

 

そう考えていたら慧音がいきなりやってきて愚痴を漏らしにやってきた。やっぱり遠足になったか。

 

「ちくしょう~私はみんなのためを思ってだな~」

 

「分かったから少し落ち着いてくれ慧音」

 

絡み酒が相当うっとうしい。

 

「妹紅助けてくれ」

 

「勘弁こうむる、そんな美女に絡まれてんだ。男なら喜ぶべきだろ」

 

確かにそうなんだが限度はある。

 

「聞いれんのか~アーヂャー~」

 

「聞いてるよ、聞いてるからそんなに叩かないでくれ」

 

骨をへし折らんばかりの勢いで叩いてくるんだ。こんな絡みじゃどんな美女でもお断りだ。ホント笑ってないで助けてくれ妹紅。

 

結局始終妹紅は助けてくれずそれどころか悪乗りをして慧音と一緒に絡んできた。お前らな、俺も男なんだぞそのへんが頭の中から抜けてんじゃないんか?

 

慧音が完全に酔いつぶれたのが引き金で宴会は終わりを告げた。

 

「散々絡んで後は寝やがって、この対価は絶対もらう」

 

「ははそれは好きにしなよ。久しぶりに楽しかったし普段見ない慧音も見れた今日はいいことずくめだったよ」

 

はあ、そんないい笑顔されちゃ何も言えん。

 

「それじゃ俺は慧音を里に送るとするよ」

 

「帰り大丈夫か」

 

「問題ない」

 

それに君も酔っているだろうと言うとははと笑って返してくれた。

 

「慧音に手出すなよ」

 

「俺は自分から竜の逆鱗に触れる趣味はない」

 

最後の妹紅の余計なひと言をしり目に俺は人里の寺子屋へ慧音を送り届け一日を終えた。

 

 

 

後日

 

 

「おいけい……」

 

「………………」

 

暫く慧音が顔を合わせてくれなかった。なんでさ……

 

とういうかせめて報酬はくれよ。




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藍と買い物

紫様、どうして私にこんな苦行を強いるのですか。

 

「早く来いアーチャー」

 

「ちょっと待ってくれ藍、あそこで道を渡れず困っている老人がいるんだ」

 

やっぱり私はアーチャーが嫌いだ。

 

 

事の発端は数時間前に遡る

 

 

「藍ちょっと」

 

「どうかしましたか紫様」

 

紫様が朝から起きてくるなんて珍しい。今日は雨でも降るんじゃないだろうか。

 

「?人の顔をじろじろ見てどうしたの」

 

「いえ、なんでも。ところで何の用ですか」

 

「ちょっと外まで買い物に行ってきてくれない」

 

「外って別にかまいませんが。何を買ってくるんですか」

 

紫様が外、つまり幻想郷の外に買い物に行かされることは珍しくない。確かこの間は新発売のお菓子を買ってこさせられた、橙も気に入ってたから構わないけどあれだけの量いったい何に使ったんだろうか。

 

「これよ」

 

「お、多いですね」

 

渡された紙はメモ帳ほどの大きさだったが髪にびっしりと文字が書かれていた。パッと見はメモというより何かの呪いのようにも見える。

 

「安心しなさい、ちゃんと持ち帰れるようにもう一人用意したわ」

 

「もう一人ですか?」

 

外に出るということはそのもう一人は人間なのだろうか?しかし紫様の人間の知り合いなどいただろうか。

 

「ちょっとまって今出すから」

 

そう言うと、紫様はまるでポケットに手を突っ込み道具を出す猫のようにスキマに手を入れ中から白髪の人間を…って

 

「アーチャー?」

 

「む、藍か…ということは紫の仕業だな」

 

「こんにちは」

 

「こんにちはじゃない、いきなりなんだ」

 

「いきなりじゃないわよ、この前ちゃんとお願いがあるって言っておいたじゃない」

 

「お願い…それってまさか半年前に言っていたやつのことか?どれだけ前の約束を持ち出してくるんだよ」

 

「あら、たかが半年妖怪にとっては瞬きする時間程度にしか感じませんわ」

 

どうやら紫様は半年前に何らかの約束をしていたようだ。それにしたってなんでアーチャーなんだろうか。付き添い程度ならそこらの人間を操れば事足りると思うのだが。

 

「で、俺になにさせようってんだよ」

 

「藍と一緒に買い物に行ってきてほしいのよ」

 

「なんでさ、子供のお使いじゃないんだぞ。どうして俺が行く必要があるんだ。それ以前に紫は俺が外に出れないこと知っているだろう」

 

「そのことなら抜かりないは、きっちり外に出られるように調整しておいたから」

 

「調整ってなんだよ」

 

「聞きたい?」

 

「いやいい、何だか猛烈に嫌な予感がする」

 

賢明な判断だと言わざるを得ないな。紫様の意味不明な行動ほど危険をはらんでいるものはない。

 

 

その後なあなあでアーチャーと買い物に行かされてしまった。そして今に当たる、アーチャーは困った人間を見れば手助けに入る。そのせいで買い物が一向に進まない。

 

「藍どうかしたか?」

 

「いやなんでもない」

 

どうかしたかじゃない。今まさにお前の行動で不快な気持ちになっているところだ。

 

「それじゃあ早くいくとしよう。日が暮れて店が閉まると困る」

 

「ああ」

 

それはこっちのセリフだと言ってやりたい。

 

「次で十件目か後難件回れば終わるんだ藍」

 

「あと三件ほどだ」

 

買い物が始まれば以外にもすんなり買い物は進んだ。頼んだものは的確に取ってくる、荷物は何も言わなくても積極的に持つ、確かに買い物には便利かもしれない。

 

「次は向こうの…ってアーチャーはどこに行った」

 

少し目を離しただけでアーチャーはその場から姿を消していた。頼むから少しは行動を自重してくれ。

 

「ちょっといい御嬢さん」

 

「ん?」

 

振り返ると後ろに人間が一人いた。はて、私に何か用だろうか。

 

「御嬢さん一人?よかったら一緒にお茶しない」

 

どうやら面倒事は常に降りかかってくるようだ。

 

「すみません、一緒に来てる方がいるので」

 

「え、そんな奴どこにいんの?いいじゃん、御嬢さんみたいな美人をほっとく奴なん捨ててさ、俺と一緒に遊びに行こうよ」

 

最初の方だけは美人はともかく非常に同意したい。

 

「ささ、いこうよ」

 

「あ、止め…」

 

もういっそのこと殺ってしまうか。いやさすがに殺しはしないがストレス発散のためにサンドバッグくらいにはなってもらいたい。

 

「そこの君、彼女は私の連れだ。勝手に連れて行かないでもらおう」

 

まるで図ったかのようなタイミングでアーチャーが戻ってきた。いったい何してたんだか。

 

「はあ、何だよお前。今いいとこなんだから邪魔すんじゃ…ひぃ!?」

 

「すまない聞こえなかったみたいだな。彼女は私の大切な人なんだ、引いてもらえると助かる」

 

アーチャーの殺気を込めた視線を見てナンパ男は腰が引けたようで一目散に逃げ去って行った。

 

情けない、男ならもっと度胸をつけてもらいたいものだ。けど私も一瞬背筋がぞっとした、英雄としてのアーチャーの姿を垣間見たような気がした。

 

「どうした藍?まさか怖かったわけじゃないだろ」

 

「当たり前だ。第一いったい何をしていたんだ」

 

今目の前にいる人物からはさっきの覇気をまったく感じない、ほんと調子が狂う。

 

「そこの店の路地辺りで女の子が絡まれていたんだ」

 

「その結果今度は私が絡まれたと」

 

「すまん、せっかく藍の護衛できたのにこれでは本末転倒だった」

 

「別に頭まで下げる必要は」

 

まったくわからん奴だ。私をないがしろにしてると思いきや、本当に大切な者のように私を扱う。

 

「ほらさっさとい…ん?」

 

ポツ……ポツ……ポツ……

 

なんてことだ雨が、まさか本当に雨が降るとは。今日は災難続きだ。

 

「ほら使いたまえ」

 

「……どこから傘を取り出したんだ?」

 

「ただ作っただけだ」

 

「どうした差さないのか?濡れてしまうぞ」

 

「アーチャーはどうするんだ」

 

「ん、安心しろ。荷物を濡らすほど俺は愚かじゃない」

 

そういうとアーチャーは懐から一つ大きな袋を取り出し今まで買った物を袋にいれ水が入らないよう縛った。なるほど懐で投影していたというわけか。

 

「まったく、自分が濡れてればせわないぞ」

 

「藍…それでは君も濡れてしまうぞ」

 

「かまわん、もともとはお前がいなければ濡れてたんだ」

 

その後もこいつはなんだかぶつくさ言っていたが全て無視してやった。あっちが先に私を無視したんだからこちらがしても無視しても文句はないだろう。

 

 

 

「あらお帰りなさい、思ったより早かったじゃない」

 

「ただ今戻りました紫様」

 

何とか買い物を終え幻想郷に戻ってくることができた。しかしそんなに早かったただろうか、アーチャーがあっちこっち行ったせいで時間がかかったはずだが。

 

「アーチャーはどうしたの?」

 

「紅魔館まで送りました」

 

「そう、ご苦労様」

 

買ってきた荷物をひとまず机の上に置いてアーチャーのことも報告した。これで完璧に今日の仕事は終了だな。

 

「あ、これご褒美よ」

 

そう言うと紫様はキーホルダーを渡してきた。しかも油揚げ型の。

 

「何ですかこれ」

 

「彼からのプレゼントみたいよ、なんかスマンって書かれた紙が一緒に袋に入ってたわ」

 

しかし油揚げってどういうセンスかしらね~と紫様は言っているがいったいいつの間にアーチャーは。

 

「あ、藍一つ勘違いしてるでしょ」

 

「勘違い?」

 

「言っとくけどこれはアーチャーからじゃないわよ」

 

「え、でもさっきアーチャーからのプレゼントって」

 

「誰がアーチャーなんて言ったのよ。第一アーチャーが人間ならまだしも妖怪なんかにプレゼントなんか渡すわけないでしょ。もし渡されたら真っ先に爆弾じゃないか調べるわ」

 

紫様が言っている意味がよく分からない。

 

「藍、まず第一にあなたは今日アーチャーと買い物になんて行ってないわよ」

 

「はい?」

 

ますますわけが分からない。それじゃあ今日私の隣にいた人物は誰だったのだろう。

 

「今日最初に言ったわよね。彼が外に出られるようにしたって」

 

「それは聞きましたが」

 

「彼が外に出られなかったのは何でだと思う」

 

「誰も彼を知る人物がいなかったからでわ」

 

紫様は笑いながら半分正解とだけ言った。はて、ほかに理由があるんだろうか。

 

「もう半分は彼が英霊だからよ」

 

「英霊…もしかして」

 

「わかったようね、前にも言った通りアーチャーはこの世界とは全く別の生き物と仮定できるわ。この世界の英霊とアーチャーの言う英霊は意味がまるで違う。だから結界が世界でただ一つの異物とみなしてアーチャーを取り込んでしまうのよ」

 

なるほどアーチャーが外に出られなかった理由はわかった。しかしそれでは今日のことはいったいなんだったんだろうか。

 

「彼が外に出ることができたのわ、私が彼の魂の境界を歪めたからよ」

 

「境界を?」

 

「そう、英霊である魂を極端に歪めて結界が感知できないほどの人間である彼を表に出したのよ」

 

なんて無茶を。へたをしたら魂が消滅しかねない行為ですよそれ。

 

「めんどくさったわ。彼がいつもの服を着てると何故か彼の境界をいじれないんだもの」

 

何でかしらねと私に尋ねてくるが、紫様が知りえないことを私が知るはずもない。

 

「だから今日はもっと帰って来るの遅いと思ってたのよね。彼が表に出ているんだもの、誰構わず助けに入るはずだもの」

 

「紫様、それがわかってて私と彼を行動させたのですか」

 

「だってあなたいまだに彼と会うと妙に気を張ってるんだもの。彼の本質に触れれば治ると思ったの。彼のそばにいると心地いいでしょ、私たちにとっては貴重なんだから。人間でいうアロマみたいな」

 

彼は芳香剤ですか?まあ、たしかにそういえばいつもより感情がストレートに出ていたかもしれない。

 

「よかったじゃない彼からプレゼントもらえて。彼とデートできてうらやましいわ~」

 

「な!?」

 

な、何がデートですか。第一デートだとしたらあんなデートが私の初デートなんて納得いかない。

 

 

 

後日

 

「ふあぁ~」

 

「おや橙おはよう」

 

「おはようございます藍しゃま。藍しゃまその帽子についてる変なのなんですか?」

 

「ああこれかい、おせっかい者からの贈り物だよ」

 

「……ほんと、素直じゃないんだから」




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筍と兎

「ひぃ!こ、こないで!こないでよ!!」

 

私の願いも届かず死の気配は私に向けて飛来する。

 

「あう!」

 

とうとう転んでしまった。

 

「い、いや…いやぁぁぁぁ!!」

 

 

「あああぁぁぁぁぁ!!?」

 

はあ、はあ、ゆ、夢?またあの夢なのね。

 

「え~りんほんとだってば信じてよ」

 

「はいはい信じてます。早く朝食食べちゃってください姫」

 

ああは言ってるけど絶対信じていない。

 

あの時、そう二日ほど前私はもこタンとの恒例の殺し合いをした五分後だった。あの時悲劇が起こった、私はもこタンを景気よく真っ二つにして気分よく永遠亭に帰るはずだった。

 

だけどそうはならなかった、いきなり私は殺されたんだ。振り返ったときは遅かった、何かが私を貫き地面を抉り取ったのだ。初めはもこタンの仕業かと思ったけど違った。もこタンの仕業だったら竹林が燃えることはあっても、引きちぎられたようにはならない。

 

竹林はまるで隕石が落ちたかのように荒れていた。

 

「というわけで、今日は私を襲った者を調査に行くわよ!」

 

「……お~」

 

「ちょっとイナバ!元気が足りないわよ、油断は即死を意味するもの知りなさい」

 

「だって姫が無理やり…仕事も途中だったし師匠に怒られる~」

 

まったくぐちぐちと文句を、従者なんだから姫の言葉にはイエス以外ないでしょ。

 

「私を殺したのはあなたかしら?」

 

「?ちがうのか~」

 

「姫…さっきからそんなストレート聞いてますが絶対答える相手なんていませんよ」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「筍が必要なのよ」

 

「は?」

 

出会いがしらにいったいなんだ、パチュリーにしては言葉がめちゃくちゃだ。

 

「次試す魔法の材料に筍が必要なのよ、だから採ってきて」

 

「それは構わないが…いったいどんな魔法なんだ」

 

正直かなり気になる。魔法の触媒にするなら幻想郷には魔法の森に茸がたくさん生えている。

 

「筍の特徴を利用した魔法よ」

 

特徴ね、まあいい。ちょうど今日の夕食のメニューを考えていたところだ、今日は筍ずくしにしよう。

 

「それじゃあよろしく、籠は美鈴に渡すよう頼んでおいたから」

 

「了解した」

 

しかしタイミングの悪い、竹林は二日前に行ってきたばかりだったのに。

 

 

 

「相変わらず変化が激しい場所だ」

 

竹林はたった二日しかたっていないにも関わらず異常な竹の伸び方で姿を変貌させていた。

 

「しかしどれだけの筍が必要なんだ?美鈴の奴ちゃんとパチュリーの話聞いていたんだろうな」

 

美鈴から渡された籠は日本昔話に出てくる爺さんが持っているような巨大な籠だった。筍が百個くらいは入りそうだ。

 

「んん、意外に筍がない。竹はたくさんあるのに」

 

以外にも竹林には筍がなかった。竹林の入り口部分には結構あったが、俺がそこのを採ることは止めた。ここは人里の人間たちも採りに来る。それなら竹林の中に入っていける俺は奥で筍を採るべきだろう。

 

「十個くらいは採れたが…ほんとにこの籠いっぱいに必要となるとまだ全然足りないな」

 

どこか筍が多くありそうな場所は……そういえばあったな、つい最近筍が大量に出来てそうな場所が。

 

「……おお、あるある大量だ」

 

二日前妹紅と輝夜という人物が争った場所は竹が吹っ飛んでいたからな。普通なら竹が吹っ飛んだからって筍はすぐ生えてこないが、予想通りここは筍はすぐ生えてきていた。この竹林に張ってある結界が竹の成長を促す効果でも持っているのか?

 

「まあ理由はどうあれ筍は筍、これで籠いっぱいにもなるだろう」

 

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「ほらイナバ、私が言った通りじゃない。犯人は犯行現場に戻るって言ったでしょ」

 

「はあ、でもあの人筍を掘っているだけじゃ」

 

姫様に付き合うこと二時間、もうお師匠様に怒られることは確実なので開き直って姫様を殺したという人物を探していた。

 

 

「そういえば姫様、結局なんで殺られたんですか?ほら貫いたといっても武器の形状とか使用方法とかがわかれば犯人の特徴がわかるかもしれませんよ」

 

「そういわれもね、気付いて振り向いた瞬間に死んだからわからないのよね。クレーターが出来てたから武器があるかと思って調べてみたけど何にもなかったし」

 

「それじゃあその場の状況どうでしたか?焼けてたとかなぎ倒されてたとか」

 

「そういえば削岩機でも使ったみたいに地面が抉られてたわね」

 

抉られてる…そうなると飛来物は霊力や妖力弾じゃない、必ず固を持った物体になる。けど現場には何も落ちていなかったとなると……

 

「……驚いたわ」

 

「?なにがですか」

 

「イナバってそんな利口そうな表情できたのね」

 

いつもは永琳に泣かされてるばかりばかりなのにねと姫様は言う。私って他人から見るとそんな泣いてばかりいるのかな?

 

「ま、そんなことは犯人を見つけたら死なない程度にボコして聞けばいいだけよ」

 

「そうなのでしょうか」

 

そもそも姫様が気付かない位置から、姫様を殺すことができる人物を捕まえることなんてできるのだろうか。

 

 

そして現在につながる。姫様が犯人は現場に戻るのよといって駆け出し一人の人物を発見した。姫様は犯人といってるけど……

 

「さあイナバ、捕まえてきなさい」

 

「はい…ってええ!?私が行くんですか?」

 

「当たり前でしょ。私がいくより捕まえるのならあなたの能力はうってつけじゃない」

 

それはそうですけど。確かに相手を錯乱させてしまえば捕まえることはたやすい。錯乱したところに手刀を入れれば捕らえることはできるだろう。

 

「分かりました。行ってきます」

 

相手は筍採りに夢中だし危険なことはないだろう。

 

「――――!」

 

狂気を操る程度の能力を発動させ相手を幻惑させる。これで相手は動けないから後ろから手刀で終わりだ。ごめんなさい、できるだけ痛くないようにしますから。

 

「は!……うえ?」

 

あ、あれ、私どうなって、手…動かない、足…動かない、体…起こせない、首筋に一本の剣……あ、私死んだ。

 

「(ひ、姫様は)」

 

唯一動かせる首を姫様のいる方を向ける。

 

「(ってあの人いない!?逃げ足はやすぎです)」

 

「もう一人いるようだな」

 

って姫の存在もばれた!?しまった、私が視線を姫がいる方に向けちゃったから。

 

「…まあいい、どんな手を使ったかは知らないがこのあたりにはいないな」

 

いないってどこまで逃げたんですか姫!…はっもしかして永遠亭まで戻って助けを。姫の能力なら一瞬でこれるはず。

 

「………………」

 

こない!そもそも姫の力なら私を助けることもできた。それをしないで逃げた時点で助けを期待するのも間違いになるわけで

 

「さて、お祈りはすんだかな?」

 

そして私の命もこれまでに!!ああ、戦争が怖くてこっちに来たのに死に方がこんな戦争みたいな死に方なんて。

 

「……と普段は言いたいところだが、ここで殺しては筍に変な匂いがつく。見逃してやろう」

 

え、私助かるの?ありがとう筍!普段はじゃまっけだと思ったけど今日だけは感謝します。

 

「ただし、なぜ襲ったのかは教えてもらう。もし嘘をついていたら場所を移動し殺す」

 

「は、はいなんでも話します!話しますから見逃してください!」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

やれやれ、なんでこう面倒事が起きるんだ。いきなりの襲撃に反射的に行動をしてしまった、捕まえたのは頭から兎耳をはやした少女。状況は左手で相手の両手を封じ両足で相手の両足を地面に縫い付けそしておまけにいつの間に投影したのか莫耶を相手の喉元に突き付けてる。

 

すると少女が茂みの方を見る、仲間でもいるのかと思い確認してみたが誰もいない。視力を強化してみるとはるかかなたに二日前に射抜いた少女があせったように木に手をつけていた。どうやって移動したんだか、何か移動向きの能力でももっていたのか?

 

まいったな。姿は見られてないと思ったんだが見られたのか?もしそうなら確実に自業自得だ。このままこの少女を殺すことはできない。原因が相手ならまだしもこちらにあるんだ、まあ殺されるわけにもいかないから適当に襲撃の理由でも聞いて、放せばいいだろう。

 

「で、どうして俺を襲ったんだ…ええ」

 

「はい!鈴仙・優曇華院・イナバと申します!」

 

「そんな畏まらなくてもいい、それでは理由を聞かせてもらおう鈴仙」

 

「はい、実は……」

 

ふむふむ…なるほど、あらゆる偶然が重なり輝夜という少女を殺した俺がちょうど彼女らが来たタイミングでこの場所に戻ってきたと。……この運の悪さはどうにかならないものか。

 

「事情はわかった。それとこちらも失礼な行動をした、その分の対価を払おう」

 

「はぁ、あの…私助かるんですよね」

 

「ああ、もとより別に殺す気はない。別にこの対価を受け取る必要もないぞ」

 

「いちよう聞いておきます」

 

「では話そう。君たちが探していた犯人は俺で間違いない」

 

それを言うと彼女は驚いていた。まあ俺が逆の立場だったら俺でも驚く。

 

「あの、どうして姫を殺したんですか」

 

「理由か、成り行きだったからな。まあ藤原妹紅という人物を殺された仇討が一番適当だろうな。他に何か聞きたいことはあるか?」

 

「じゃあ興味本位なんですけど、姫をどうやって殺したんですか?」

 

姫はそれなりに強いはずなんですと鈴仙は言う。まあ完全な不意打ちだったからな、あれは一コンマレベルで反射しなければ避けられないからな。

 

「簡単だ数キロ離れた場所から狙撃しただけだ」

 

「数キロって、あなた人間ですか?」

 

「俺は人間じゃないぞ。英霊だ」

 

「英霊?」

 

「英霊とは……というわけだ」

 

「そうなんですか」

 

鈴仙はあまり理解できていなさそうだな。まあ理解するのは難しいからする必要はないな。

 

「それで他にはあるか」

 

「いえ大丈夫です。ありがとうございました」

 

「礼を言う必要はない。こちらの方が悪かったんだ、輝夜という人物にも謝っておいてくれ。わびとしてはなんだが何か依頼があれば無料でうけおう」

 

それをいい俺は竹林を後にした。筍は十分とったしここにもう用はない。彼女は俺が見えなくなるまでその場を動かなかったみたいだが。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ただ今戻りました」

 

無事切り抜けることができた。あの人が見た目よりいい人でよかった。

 

「え、鈴仙?お師匠様~鈴仙帰ってきたよ~」

 

「鈴仙、仕事をほっぽり出してどこに行ってたのかしら~」

 

帰って来ても地獄は続いたらしい。

 

「あ、あの…姫様と一緒に調査に」

 

「へ~調査、それならいい調査結果を得られたんでしょうね」

 

「あ、はい」

 

私は先ほどの男性から聞いたことを話した。ちゃっかり戻ってきていた姫様にも。

 

「へえ、そんな奴がいたのね」

 

「い、意外と反応薄いんですね」

 

姫様の性格からして相手に仕返ししにいくと思ったんだけど。

 

「何でそんなことをする必要があるのよ。私を殺せるほどの人物なのよ、何でも依頼できるってことはもこタンへの嫌がらせのバリエーションが増えるじゃない」

 

グフフとなにやらすごく嫌な笑いを浮かべる姫。妹紅さんも災難だなぁ。

 

「………………」

 

対照的に私の話を聞いた師匠は黙り込んでいた。

 

「あの師匠、どうかしましたか?」

 

「ウドンゲ、確かあなたその姫を殺した相手を英霊とか言ってたわよね」

 

「はいそうです」

 

だとしたらおかしいのよと師匠様はまた考え込んでしまった。

 

「イナバ、さっそく明日あなたがあったという人物を探してきなさい」

 

「明日ですか?でもどうやって」

 

「なによ、住んでる場所くらい聞いてないの?」

 

「すみません」

 

あの時は生き残れたことで嬉しくてそこまで気が回らなかった。

 

「いいわ、そのかたは私が探しましょう姫。私もウドンゲの話を聞いてその殿方に興味がわきましたわ」

 

師匠が他人に興味を持つ?なんか恐ろしい、あの人薬づけにならなければいいけど。




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山と天魔

「山菜を採ってきなさい」

 

顔を合わせるなり唐突にレミリアに言われた。一週間くらい前にもこんなやり取りをしたきがする。

 

「いきなりだな、どうして山菜を採ってこなくちゃならないのか理由を聞かせてほしい」

 

「理由なんて特にないわよ、いいから行ってきなさい」

 

レミリアの我が儘にもなれたものだが要領を得ないのも珍しい。こういう場合俺への嫌がらせか、本当にただの気まぐれかの二択だ。おそらく今回は後者だろう。

 

「咲夜も来るのか?」

 

「はい、今回は私もご一緒します」

 

なぜなら咲夜もついてきているからだ。

 

「それで山菜を採ってこいと言われたが、どんな山菜がいいかの所望はあるのか?」

 

「今の時期だとふきのとうがあります。お嬢様はそれの天ぷらが好きなのでそれをメインに」

 

「わかった、それでどこに採りに行く?」

 

ふきのとうがある場所といったら博麗神社の方にある山か妖怪の山。リスクがあるが妖怪の山に行けば山菜は豊富にあるだろう。まあおすすめはしないが。

 

「妖怪の山に行こうと思います」

 

「正気か?」

 

「はい」

 

妖怪の山。その名の通り多くの妖怪が住む山。当然のごとく普通の人間は近寄らない。ここの妖怪の頂点は天魔、そしてその配下の天狗たちが山を支配しているといっても過言ではない。

 

山に棲む妖怪達は、人間や麓の妖怪とは別の社会を築いている。その元締めを天狗が行っており、山に立ち入ろうとする人間を哨戒天狗が追い払うことが主な仕事だろう。

 

昔は鬼もいたようだが今は地底にいってしまい地上に鬼はいない。

 

「わかった、覚悟はできているようだし咲夜は妖怪の山に入ったことはあるんだろう?」

 

「はい何度か」

 

よくよく考えれば咲夜に物理的に入れない場所は存在しない。時間を操る程度の能力で時を止めれば天狗に発見されることなく山に入ることができる。もし発見されたとしても、時を止めて逃げればいくら天狗が早くても逃げ切ることは可能だ。

 

「それじゃあ行くとしよう」

 

「あ、待ってくださいちゃんと籠を持たないと」

 

「……またそれか」

 

「はい。今日は男手もありますしたくさん採れそうですわ」

 

咲夜、初めて会ったときに比べて人を利用できるまで成長してくれて。俺は悲しいやら悔しいやら…

 

「昔は警戒して俺と会話もしなかったのに、今は俺を使いパシリするうちの一人に」

 

「昔の時は忘れましたわ」

 

時を操って思い出してほしいよ。

 

「とにかく行きましょう。日が落ちる前に戻らないといけませんから」

 

「了解」

 

今回は俺はお荷物だからな。侵入し物資を奪うことに置いて咲夜は幻想郷で一、二を争うレベルだろう。

 

ただし、一見無敵とも思える咲夜の能力にも弱点は存在する。第一に、咲夜は時を止めている間自分以外のものに害を与えることはできない。理屈として傷は時間が経過することによってつく。有機物であろうと無機物であろうとそれは同じだ。なので時を止めている以上傷をつけることはできないと俺は考えた。

 

第二に、咲夜はなんの代償もなしに能力を使用しているわけではない。連続で使用すればその付けとして疲労感が襲ってくるようだ。まあ、戦闘以外では疲労感が襲ってくるほどの連続使用をするわけではないのでこれはたいして問題ではないだろう。

 

第三に、咲夜は連続で時を止められない。これだけだと第二との矛盾が生じる。ここでの意味は、例えば時を止める→動かす→また止める、これを瞬間的に行うことができない。能力を使用するのに数秒のインターバルが必要なようだ。

実践ではこの数秒が命取りになることがある。数秒あれば剣なら十分相手を切り払える、槍なら全身の急所を突くことすら可能だろう。

 

これが俺がまとめた咲夜の能力の欠点だ。

 

まあ今回は戦闘になることもないだろうから関係ないけどな。

 

 

「……咲夜どうだ聞こえるか?」

 

「ええ、けど便利ねこのパスってやつ」

 

「本来は魔力がないとつなげないがな、パチュリーに感謝すべきだろう」

 

パチュリーは俺が教えた魔術を解析し新しい魔法に変えてしまった。このパスを繋げるすべは、パチュリー作の魔力がなくても使える魔法初級編として本にされてしまった。

 

このパスの効果は魔力の受け渡しなどではなくただ念話だけできるものだ。

 

「それじゃ山に入るぞ」

 

「了解」

 

俺たちは茂みに隠れつつ妖怪の山の敷居だと思われる空間に入り込んだ。

 

「アーチャーどうです?視界内に生き物はいますか」

 

「いや大丈夫だ、今のところ咲夜の周囲に生き物はいない」

 

俺と咲夜は役割を分けて行動を開始した。時間をとめ確実に天狗に見つかることなく咲夜が先行して山菜を採る。俺は千里眼のスキルを利用し咲夜の周囲を警戒する。

 

「戻ったわ」

 

「お疲れ、そろそろいいんじゃないか」

 

ふきのとうを筆頭に行者にんにく、アスパラガス、わさびなんかも採れた。他にもいろいろな種類の山菜が採れた。

 

「そうね、それにこれ以上は深く入れそうもないわ」

 

「何かあったのか?」

 

「ここから先の警備が今までの比じゃないことになってるのよ。哨戒天狗どころか鴉天狗までいたわ」

 

哨戒天狗だけならまだしも鴉天狗まで警備しているのはおかしい。普段鴉天狗は山の奥で何か作業をしているはずだ。それがこんなところを警備してるとなると何か特別なことでもやってるのか?

 

「そうか、それなら早く山を下りた方がいいな。咲夜は先に時を止めて紅魔館まで戻っていてくれ」

 

「わかったわ。それじゃ籠は私が持っていくわ」

 

「すまん、ついてきた意味がなかったな」

 

「そうでもないわ。それに最初から違和感もあったのよ。この山いつもはこんなに警備が固くないもの。普段は川の辺りまでは天狗なんていないんだけどね」

 

それだけ言うと咲夜は俺の目の前から姿を消した。よし、俺も急いでこの山を下りよう。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「天魔様しゃんとしてください。今日は全部隊の視察があるんですよ」

 

「ああわかっているよ。まったくうるさいなお前は」

 

ああめんどくさい、なんで今日が部隊の視察の日なんだか。

 

「お言葉ですが、天魔様が視察を後回しにしたつけが溜りに溜った結果です」

 

聞こえない聞こえない、こんな面倒なこと私が出ていかなくてもお前ら大天狗でやればいいんだ。私には処理する書類がたくさんあるだ。

 

「そのたまってる書類も今までやらなかった分がたまっただけですがね。ちなみにたまった書類の山は天魔様専用貯蔵庫にたまっていますからね」

 

ちょ、そっこはたしか私のとっておきの酒が置いてあったはず!

 

「ええ、部下たちに大評判でした」

 

「表出ろやこら!!」

 

私が長年付け込んできた酒を下っ端どもにふるまっただ!?絶対ゆるさん、その羽引きちぎって蒸し焼きにしてくれるわ!

 

「別にかまいませんが、これからは私が行ってきた分の天魔様の仕事はご自分でなさってくださいね」

 

「すんませんした!!」

 

威厳?何それ食えるの?

 

「……なあシルク。なんでお前は私に厳しいんだ?」

 

「厳しくありません。だいたい天魔様はすぐ仕事を抜け出すから仕事がたまってですね……」

 

ああまた始まった、庶務仕事が有能だから側近にしたのに私に説教垂れる始末。どこかに私の言うことを何でも聞いて炊事選択なんでも御座れの万能生物いないかな?

 

「聞いてますか天魔様!」

 

「あ~はいはい聞いてますよ~……なあシルクよ」

 

「何ですか、仕事なら変わりませんよ。今日は絶対視察を行ってもらいますからね」

 

「それはもうあきらめたから。話聞いてくれよ」

 

「手短になら、時間がもう迫ってるんですから」

 

「私はな、仕事が嫌いなんだよ。うっとうしい鬼神が消えてくれてもう遊んで暮らせると思ったんだよ。けど結果はこれだ。毎日毎日仕事仕事、こんなはずじゃなかったんだ。私は隣に美女をはべらせて優雅な生活を送っているはずだったんだよ」

 

「すみません一言でお願いします」

 

「仕事したくないです」

 

「だまれこのクソニート」

 

なんとまあ、私ここのトップだよな。それが今たかが部下にクソニート扱いだよ。私いったいどうすればいいの?私なんか間違ったこといってる?皆だって私と同じこと思ってるに違いないよ。だから私の意見こそが正しくてこのクソ部下の言葉こそが間違ってるんだよ。

 

「戯言はそこまでにしてください。一週間仕事部屋に括り付け延々と仕事させますよ」

 

「すんません、体なら差し出すんで勘弁してください」

 

何度でもいう。威厳?なにそれ食えるの?

 

「あなたの爛れた体などいりません」

 

「なんてことを!?」

 

この絶世の美女に向かってなんて発言。大天狗の爺どもが何度迫ってきたと思ってんだ!初めて会った時のあの初心な反応はどこいった。昔なんて腕をからめただけで赤くなってたのに、今じゃ胸を押し当てても無反応。それどころか爛れた扱い!この数百年で君に何があった。

 

「確かに最初は綺麗な人だと思いました」

 

「でしょ、そうでしょ。私は絶世の美女でしょ」

 

腰まで伸びる美しい黒髪、整った顔立ち、男の目を引く大きな胸、くびれた腰、そしてお尻、このパーフェクトボディを持つ私の評価が低いわけは……

 

「はい、一週間くらいでただのクソニートだと分かりました」

 

「短いぃぃぃ!!」

 

私の威厳たった一週間!?一週間で意識されてる美女からクソニートまで評価おちたのかよ!

 

「さらに一週間で反面教師に最適な人だと分かりました」

 

「その一言は余計だよね!絶対私の心を折ろうとしてるよね」

 

もう天狗不信になりそう。

 

「さあ話は終わりです。早く来てください」

 

「あだだだだ!耳を引っ張るな耳を!」

 

どこかに私を大切にしてくれる人はいないの?今だったら優しい言葉一つで落ちる自信あるよ。こんな絶世の美女がバーゲンセールしてますよ~誰か買って~

 

「きっと三日で返品されますよ」

 

「五月蠅いわ!!」

 

私のクーリングオフ期間は十秒間よ!一秒でも過ぎたらたとえ震度7の地震がこようが動かないわ。

 

「その粘り強さを少しは仕事に活かしてください」

 

「え?なんで」

 

パァァン!!!パァァン!!

 

今日、部下に顔を平手打ちされました、しかも往復です。顔は止めなさい顔は!

 

「ほんともう、あなたは他人を幻滅させる天才ですね」

 

「そうでしょ!ようやく私の凄さがわかったようね」

 

あはっはっは!………褒められたのに…涙が出ちゃう。




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捕縛と居眠り

「帰っていい?」

 

「駄目に決まってるでしょう。なに寝ぼけてるんですか、まだ半分くらいしか視察できてないです」

 

え~もう三十部隊くらいみたよ。どれだけ部隊作ったの、こんなにいるの?いらないっしょ。

 

「作ったのはあなたです。しかも多い方が仕事が私の仕事が減るでしょ、と嬉々とした表情で言ったのを私は覚えています」

 

私過去は引きずらない女なんだ。

 

「……!?」

 

いいもの発見。

 

「なあシルク、もし侵入者がいたとしたら視察は中止になる?」

 

「は?いきなりなんですか」

 

聞いといてなんだけど絶対中止になる。だって侵入者がいるのにボスを表にだすアホなんてこの私が管理する天狗達の中にいるはずない。

 

「いいから答えなさい」

 

「いいですけど。侵入者がいるんですよね」

 

「ええ」

 

「もちろん視察は…続けますよ」

 

うんそうよね…ってええ!?なんで、侵入者がいるんですよ。ボスがやられちゃってもいいの?

 

「いいも何も、あなたが殺される相手に我々がかなうわけないでしょう」

 

自分の強さが憎い。

 

「で、なんでいきなりそんな話をしたんですか?」

 

どうしよう。本当のことを言うべきか、でも言ったら……

 

(侵入者を見つけたんですかさすがです天魔様。それでは視察のついでに侵入者の捕獲の手際も視察してもらいましょう)

 

駄目だ仕事が増える。いや待てよ…そうだこの手があった!

 

「実は侵入者を見つけました」

 

「ああそうで…ってええ!?本当ですかそれ。どこにいるんです」

 

「ほらあそこ、茂みに隠れながらこそこそしてるでしょ」

 

「……どれだけ離れてるんですか。私からはまったく見えません」

 

まったくこの程度も見えないのか。たかが数キロ離れてるだけじゃないか。

 

「ほんと、たまにあなたが凄い人物と痛感させられます」

 

これでもあなたたちのボスですよ私?首領ですよ、覚えてますか?

 

「それでは、あのあたりにいた部隊に連絡を取りましょう」

 

「そうしなさい、必ず捉えるのよ」

 

「はっ」

 

そういうとシルクは天狗の部隊に伝令を出した。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ちぃ!――――投影・開始(トレース・オン)!」

 

干将莫邪を投影し敵めがけて投擲する。くそ、どうしてこんなことに。辺りがざわついてきたと思ったらいきなり天狗の群れに襲われた。ばれるようなへまはしてないはずだが。

 

「「「かかえぇぇ!!」」」

 

「くっ!!」

 

再び数体の哨戒天狗が襲いかかってくる。この距離では弓は使えない、ならば剣で迎撃するまで。再び干将莫耶を投影、左右のからの攻撃いなし迎撃、成功。これで残る脅威は前のみ。剣を相手に投げ捨てる。

 

壊れた幻想!(ブロークン・ファンタズム)

 

目の前で爆破、土煙を発生させ目暗ましがわりにしその隙に再び逃走。ただし身を隠しながら気配を殺し。

 

今の所相手を殺傷しないで済んでいるがさすがにそろそろ危ない。一人か二人殺しかねない。今回はこちらが一方的に悪い。何せ進入禁止の所に堂々と山菜採りに来ていたんだから。だからできるだけ殺さないつもりだったんだけど限界が近い。

 

「しかし何かがおかしい」

 

いくら侵入者といえど天狗達はいきなり襲ったりはしない。まずは警告するはずだ。それなのに今回はいきなり襲われた。この間の鈴仙といい不意打ちされることが多い気がする。

 

「いたぞここだ!」

 

「みつかった!」

 

くそ!だがもう少しで麓だ、山を出ることさえできれば天狗も追ってこないはず!?

 

「ぐ…が…」

 

な、なんだ急に息が出来なく。敵の攻撃?いや相手も息が出来ていない?じゃあいったいだれの…やばい意識が…

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ふう危ない危ない逃げられるところだった」

 

とっさのことだったから哨戒天狗たちまで巻き込んでしまったけど結果オーライ。侵入者は気絶、無事捕獲成功だ。

 

「天魔様、侵入者を捕獲しました」

 

暫くするとシルクが侵入者の男を担ぎ私の元まで戻ってきた。

 

「よくやった。そのものは私が預かる」

 

私はシルクから侵入者を受けと…

 

スカ

 

れなかった。

 

「どうした、早く渡せ」

 

「天魔様、もしかして視察をしたくないからこの男を捕えさせたんじゃないでしょうね」

 

「ま、まさかそんなことあるはずないです」

 

「なぜ敬語なんです」

 

馬鹿な、なぜわかった。いやまだ大丈夫だ私の作戦はまだばれてはいない。落ち着け私、幸せはもうすぐだ。

 

「だいたい能力まで使ってなんですか!部下が三十人も酸欠で倒れたんですよ」

 

「仕方ないだろう、このままでは逃げられていた。そうなれば天狗のメンツは丸つぶれだ」

 

「そ、それはそうですが」

 

よし!このまま押せば大丈夫だ。

 

「第一私の手を煩わせていたことの方が問題だ。たかが人間に何を後れをとっている」

 

「も、申し訳ありません。そのことに関しては私から訓練を強化しておきます」

 

「そうしておけ、それではその男は私に渡せ。いろいろと聞くことがある」

 

「いえ、天魔様を煩わせるわけには。尋問くらい私がおこないます」

 

「だめ!駄目に決まってるでしょ!何のために私がここまで」

 

「は?」

 

「いや何でもない、とにかく私が行う。これは首領命令だ」

 

「……わかりました」

 

よっしゃあ!!勝った、これでこの男を縛り付けてでもおいて部屋から脱出。仕事とはおさらばおさらば♪

 

「わかりましたが、尋問した内容はちゃんと記しておいてくださいね」

 

「…………はい」

 

くそ最後の最後でおきみあげを置いていきやがって。ま、いいや、不思議な力を持ってるとはいえ所詮男、私の魅力にかかればいうことをきかせるなんてたやすい。上目づかいでお願いすれイチコロだろう。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

さて困った。気絶しているうちに捉えられてしまったようだ。

 

俺は今女に運ばれている、しかもかなり強い。クラスなら大妖怪クラスだな。今できることは…これだけか。

俺は聞こえないよう呪文を唱えた。

 

しかしどこに連れて行く気だ?まあいい、今のうちにさっきの出来事を考察しておこう。あの時急に息が出来なくなった。息が出来ていなかったのは俺だけじゃなく哨戒天狗達も同じだったことから個人を狙えるちからじゃない。

 

予想としてはあのあたり一帯から空気を奪った。能力としては空気を操る程度の能力か?いやこれは楽観だな。物事は全て最悪を考えなければ。操れるのは空気だけじゃなく宙にあるもの全てと考えた方がいいな。

 

次に犯人だ。犯人はおそらくだがこの女だろう。この肌から感じられる実力ならば予想した能力を使えても不思議じゃないし、先ほどからすれ違った天狗達しかも相当の実力者達が敬っている。こいつまさか天魔か?だとしたら最悪だ、よりにもよって天狗の首領が俺を見張ることになっている。

 

しかし何故天魔なんだ?これだけ実力がある天狗がいるのならそいつらに見晴らせればいいものを。

 

そうこう思考しているうちにどうやら監禁室についたらしい。扉の閉まる音と鍵を閉める音が聞こえた。

 

ドン!

 

いきなり投げ捨てられた、その割にはなんか地面がふかふかしてる気がする。

 

ドス!

 

ぐえ!?いきなり全身に重圧が。起きているのに気付かれたか?いやそれにしてはその後の行動がない。それになんか頭に柔らかい感触が。

 

「…………!?」

 

落ち着け俺、俺は今捕まえられているそうこれは拘束なんだ。これは罠だ、絶対罠だ天魔(おそらく)が捕縛した対象を抱き枕にして寝ているはずがない。

 

「――――ZZZZ」

 

こいつ寝てる!馬鹿だ、絶対こいつ馬鹿だ。人を捕まえておいてきっちり束縛しないで抱き枕にする神経が理解できない。だがこれは俺にとって幸いだ、抱きつかれてることを除けば腕を縛られてるだけだ。これくらいだったら手の関節を外せば抜けれる。

 

「………………」

 

くそ、地味にこの抱きつかれてる状態が鬱陶しい。でかい胸が邪魔で腕が上がらん、しょうがない少し痛いが……

 

ガッ!!

 

ッッ!よし上手くいったこれで……よし抜けた。あとは起こさないように抜け出して。ええいうざい、無駄に高度な抱きつき方してやがる足まで絡めることないだろう。だが抜けれた、後は脱出だけだが。

 

「――――同調・開始(トレース・オン)

 

まずはここら一帯をを解析。くそだいぶ山の頂上に近い、しかもこれは集落か。抜け出すのは至難だぞ、よりにもよって最深部だし。やっぱりこいつ天魔か?

 

「――――ZZZZ」

 

こんな侵入者をほっぽって寝ている奴が天魔とも思いたくないが、しかもこの部屋書類で埋め尽くされてる。どれだけ仕事してないんだ?部下の苦労がうかがえるな。

 

「しかたない、この手でいくか」

 

(咲夜、咲夜聞こえるか?)

 

(アーチャー?何かあったのですか)

 

(ああ、ちょっとドジを踏んだ実はな……)

 

弓兵説明中

 

(相当不味いですね、それで私に何ができるんですか。さすがに山の山頂まで時を止めながら移動はできませんよ)

 

(いやそれはいい、それよりパチュリーにこのパスを引き渡してくれ)

 

(分かりました、少々お待ちください)

 

(咲夜から事情は聞いたわ。それで私に何の用?)

 

(頼みがある。図書館から俺を空間転移してくれないか)

 

(あなた正気?確かにこのパスを辿ってあなたの位置を知ることができれば転移は可能だけど、まだこの魔法は完全じゃないわ、それ相応の代償が体に帰ってくるわよ)

 

(けどこれしか手がない。俺もできるだけ山を下ってみるから頼む)

 

こうなったのは俺の不始末だ。それ相応の代償は必要だろう。

 

(……分かったわ。暫く時間がかかるから準備が出来たらこちらから知らせるわ)

 

(すまない。この礼は必ずする)

 

(はいはい、戻ってこれたらきっちり対価を払ってもらうわよ)

 

その言葉を最後に念話は途切れた。さて俺もここから抜け出すとしよう。幸いなことだがいいところに隠し通路があった。中心集落からだいぶ外れたとこに出れるみたいだし少しは麓に近寄れるだろう。

 

それでもまだまだ天狗達のテリトリーだ。一瞬でも気を抜くことはできない。

 

そう、言うならこれは、ミッションインポッシブル!!




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脱走者と追跡者

作者もビックリするほど長い天魔編まだ続きます。

お楽しみください。


「ハラショオォォ!!」

 

いかん、意味不明な言葉でた。やばいやばすぎる、何がやばいって捕まえていたはずの男がいない。

 

「天魔様!?なにかあったのですか」

 

「何でもない!何でもないから入って来るな!!」

 

今入ってこられたら死ぬほどまずい。

 

「しかし今妙な奇声を」

 

「ただの発声練習です。今私のマイブームなんだ」

 

この際少々の権威の失墜は大目に見よう。それよりもこのことをごまかすすべを模索するんだ。

 

「そうですか、それなら安心しました」

 

あれれ、何の疑いもなく受けいられたよ。少しは疑ったりしないの?

 

「天魔様だったらそれくらいやってそうですもんね」

 

おかしいな、部屋の中なのに雨が降ってるよ。しかもしょっぱい。

 

「ま、まあごまかせたんだから良しとしよう」

 

それよりも現状の打開策を見つけるべきだ。

 

ええと…結ばれた縄、何故か空いている私の非常脱出口、そして綺麗になった部屋。

 

「なんで部屋が綺麗になてるのかわからないけど、やっぱり侵入者がいない」

 

くっ、部屋に戻ったあの時達成感の余り男を抱き枕代わりにして寝たことが悪かったというのか。いや、そんなはずはない。だって私は欲望に従っただけだもの、妖怪は欲望に従って生きるもの、その生き方を貫いた私が悪いか?それは否、だんじて否。

 

それにあの侵入者の抱き心地の良さといったら、運んでる最中も何だか心地よかったけど抱いてみるとあらビックリ、とっても心地いいのです。その心地よさといったらもう、毎日抱き枕にして眠りたいほどです。ただ見た目がいただけない、何故か外見だけ見るととてもムカムカする。

 

「いや、そんな抱き心地を考察してる場合じゃない」

 

考えを戻そう、このことを正直に話したらどうなるだろう。

 

「ごめんちゃい、お昼寝してたら侵入者にがしちゃった」

 

「そうですか、それで」

 

「とっても抱き心地がよかったです」

 

「言いたいことはそれだけですか?」

 

「イヤダァァァ!!」

 

駄目だ、これは駄目だ。仕事部屋に縛り付けられ軟禁される未来しか見えない。

 

それじゃあ無視を決め込んだらどうだろう?

 

男が捕まる。どうやって逃げ出したか白状される。シルクに伝わる。私、マストダイ。

 

「ノォォォウ!!」

 

駄目だ、仮定が違うだけで結局未来は同じだ。

 

それじゃあ侵入者が見つからず逃げ切れることに賭ける?

 

侵入者がいないことに気付かれる。理由を問い詰められる。居眠りしてたことがばれる。私、マストダイ。

 

「アウトォォォ!!」

 

やばいスリーアウトだ。結局どれもこれも同じ未来につながる。

 

こうなれば残った手段はただ一つ。

 

「私自身が誰にも見つからずに捕縛する。これしかない!」

 

そう、これなら誰にも侵入者の逃亡が露呈することもない。そうと決まれば前は急げだ!山を下りられたらたまったもんじゃない。

 

「……天魔様いいですか。先ほど渡し忘れた書類が」

 

「………………」

 

「天魔様?」

 

「………………」

 

「…入りますよ。…………どこ行きやがったあの野郎!!」

 

前途多難な天魔の計画であった。前門の虎後門の狼、天魔の運命はいかに。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ちっ、後ろから大きな妖気。気付かれたか」

 

先ほど妖気が脹れあがり俺の体を貫くような視線を感じた。

 

「しかし妙だな、気配が一つしかない」

 

とてつもない力を内包した気配一つだけが俺を猛スピード追いかけてきている。まさかあの女が一人で追いかけてきているのか?

 

だがこれならまだ逃げられる可能性は十分ある。何故か追跡者は俺と似たような動きで俺を追ってきている、仲間に見つかりたくないのか?

 

「体面の問題か?まあトップが昼寝してて侵入者逃がしたなんて知られちゃまずいか」

 

まあ俺にとっては好都合だが、普通にやっては確実に追いつかれる。けど隠れながらなら追いつかれる確率は低い。問題があるとすれば、あの得体のしれない能力だ。

 

「ッッ!」

 

またか、またいきなり息が出来なくなった。だが警戒していれば問題ない、あの時は不意だったから行動不能になってしまったが来ると分かってれば耐えられる。幸い能力が使われるタイミングはだいたい読めた。

 

約半径三メートル、その範囲に見張りの天狗がいないときに能力を使ってくる。ならわざとこちらから敵に向かうよう動けばいい。それだけで能力発動回数も減るだろう、何せ相手は仲間に見つかっても駄目なのだから。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

やばい、めっさやばい。追いつけたわいいが全然距離がつまらない。最初は警備に見つからないよう動いてたのかすぐに追いついたのに。

 

「あの動き本当に人間?」

 

いくら私も見つからないよう動いてるといってもかなりの速度で移動してるのに追いつけない。なんで最高速度から直角で起動変えられたり、最低速度から最高速度まで加速できるの?

 

「それに能力も見切られてる」

 

さっきからピンポイントで能力発動場所を察知されてる。それどころか能力発動の誘導までされてる気がする。なんか手に取られてるようで気に食わない、周りに水素でも集めて吹っ飛ばしてやろうかしら。

 

いやそんなことしたらシルクにばれる。それどころか絶対仕事が増える。

 

厄介すぎる、こんな相手は鬼神ぶりだ。無駄に頭がキレるから能力も使えないし、私が追いきれない身体能力。あれ?もしかしてこれこそ私が求めていた人材?

 

なんか言うこと聞いてくれそうだし、頭もキレる、強い、三拍子そろってる。これで家事能力もあれば完璧だ。

 

「やば、そう考えたらテンション上がってきた。絶対捕まえよう、そして今度は言うこと聞くようちゃんと調教しよう」

 

もうシルクのような失敗はしない。あんな見る目のない男にはしない、というかこれ以上私の周りの男が私を苛めるなら私は完全に女に走るぞ。

 

そうならないためにも必ず捕まえよう。捕まえたらああしてこうして…ウヘヘヘヘ

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「………………!?」

 

なんだ、今の悪寒は。なんだかとてつもなく嫌な予感が後ろの追跡者から感じる。そう、まるで自分の

都合のいいような解釈を押し付けられたかのような。

 

(アーチャー準備できたわよ)

 

(ナイスタイミングだパチュリー、なにやらとてつもない不穏な気配が近寄ってくる)

 

(よく分からないけど、とにかく今いる場所からあなたを中心に半径十メートルから動かないようにして。できるかしら)

 

(やってみる)

 

(時間は五分よ、それで転移は完了するわ。時間はあなたの頭におくるわ)

 

(了解、五分くらいなら耐えてみせる)

 

(健闘を祈るわ)

 

それだけ言うとパチュリーからの念話は途絶え代わりに頭にタイマーが流れ込んできた。

 

「さて、――――投影・開始(トレース・オン)

 

両手に干将莫耶を投影し迎撃態勢を整える。敵は強大、勝率は低い、だが生き残ることに特化すれば持ちこたえられる。

 

俺の戦闘準備が整ったとほぼ同時に追跡者が俺に追いついた、何故か涎を垂らしてるが。まあ妖怪だし俺を喰らおうしても不思議じゃないか。

 

「ようやく追いついた、立ち止まったってことは捕まる覚悟があるってことでいいかな」

 

「まさか、こちらは準備が整っただけだ。それより聞きたいことがあるんだがいいか?」

 

「教えられることなら」

 

よし、舌戦には応じてくれた。これで少しでも時間を稼げれば。

 

「君は天魔で間違いないか?」

 

「ええ、私は天魔で間違いないわ。よく分かったわね」

 

「その溢れんばかりの妖気を見ればな、かなりの実力者と見受けられるが」

 

「………………」

 

まて、なぜ泣く。なぜ目に涙をためて上をむく。今日は雨は降ってないぞ。

 

「久しぶりに敬われたからつい」

 

哀れでこっちも涙がでそうだ。

 

「そんな目で私を見ないで。そしてこれ以上私の面目を潰さないためにも捕まって」

 

「それはできない。第一捕まったら何をされるかわかったものじゃない」

 

なぜか天魔が笑う、何がおかしい?

 

「君は私をどう思う?」

 

「は?どういう意味でだ」

 

「見た目よ」

 

「口から涎を垂らしてだらしない」

 

また泣かせてしまった。

 

「そんなのじゃなくてね、純粋な見た目で言ってくれないかな」

 

「あ、ああ。美しい女性だと思うが」

 

見ていてこっちが悲しくなりそうな雰囲気を醸し出していたためつい普通に答えてしまった。

 

確かに天魔は女性でもかなり美しい部類に入るだろう。綺麗な黒髪もさることながら、スタイルも抜群だ。まあ綺麗な顔から垂れていた涎で全てが台無しになっていたがな。

 

そんな事とは露も知らずに天魔は嬉しそうに蘇った。

 

「そうだよね、私綺麗だよね。そうよ私は綺麗なのよ!シルク目がないだけなのよ、私が爛れてるわけないわ!」

 

悲しんだり元気になったり落ち込んだり怒ったり、感情の起伏に忙しい女だな。

 

「で、それがどうしたんだ」

 

「私のことを素直に綺麗と思えるあなたならきっととても気持ちいいことになれるわ」

 

なんだか嫌な予感しかしない。

 

「具体的に言うと、ピィーーしたりピィーーしたりピィーーになったり」

 

彼女の部下は言いえて確実な表現をしたものだ。

 

「ただ」

 

「それ以上言ったら私はここら一帯を炎の海に変えるわよ」

 

どうやらこの言葉は禁句だったようだ。俺は藪を突いて蛇をだす趣味はない。

 

「それじゃあ私と一緒に来てくれるわよね」

 

「嫌だよ」

 

なぜさっきの回答で行くという選択肢が生まれるのだろう。天魔は鶏が空を飛んだように驚いている。

 

だいたい天魔の魂胆が見え見えだ。こいつは俺を利用して楽をしようとしてるだけだ。

 

「それじゃあ私は君が諦めるまで追いかけ続けるわよ」

 

なんてはた迷惑なストーカー行為だ。

 

「天魔としての仕事はどうする?君の部屋には大量の書類があったはずだが」

 

「んなもん部下に押し付けるわ。私の欲望と仕事、どっちが大事だと思ってるの!」

 

確実に仕事だろう。そして今の発言を君の部下が聴いたら泣くだろう。

 

「ふん!私の部下が泣くもんですか。私の部下だったら顔を往復ビンタしてくるわ」

 

もはや威厳は地に落ちている気がするのは俺の気のせいだろうか。

 

「まあ俺としてもそれは困る。それでこちらからから条件を出す」

 

「条件?なんの」

 

「今から二分以内に君が俺を倒すことができれば俺は君に着いていこう」

 

「それだけでいいの?」

 

天魔はマジで?とでも言わんばかりに驚いている。まあ天魔にとっては破格の条件だろう、俺を倒しさえすればいいんだ。天魔の力なら俺を殺すこともできる。

 

しかし天魔は俺の死体じゃなく生きている俺を必要としている。相手を生かしたまま倒すことは相手を殺す事よりも難しい。この条件なら二分程度なら俺でも生き残れる。

 

あくまでこれは生き抜く戦いだ。俺だって殺す気で挑めば勝率は低くても天魔に勝利できる可能性もある。

 

「返答は?」

 

「もちろんオッケーよ、早く始めましょう」

 

「わかった、それではこの砂時計が落ちきる瞬間がタイムリミットだ」

 

ここに戦いの火ぶたは切って落とされた。今創れるもの全てを用いてこの敵を迎撃する!




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戦う者と創る者

長かった天魔編もこれで最終回です。

どうぞお楽しみください。


「いくぞ!!」

 

先手必勝、まずはこちらから攻めていく。左手の干将で守りを固め右手の莫耶で天魔の胴を薙ぎ払う。

 

「近寄ってきてくれるなんて気が利くわね」

 

「なんだと!?」

 

天魔に攻撃したはずが何故か天魔に届くまでに勢いが殺され掴み取られてしまう。そして俺の顔めがけての蹴りが襲ってくる。

 

バキッ!!

 

防御に使った干将は音を立て砕け散る。けど干将を犠牲にしたおかげで回避する時間ができた。上体をそらし蹴りを回避。天魔はそのまま体を回し俺から奪い取った莫耶で切り付けてくる。

 

「っち投影・破却(トレース・オフ)

 

瞬時に莫耶を破却、俺の首を狙った一撃は空を切った。その隙を利用し足に魔力を集中して一旦離脱。

 

「さすがにやる」

 

一度の戦闘で三度死にかけた。蹴り殺されかけ、切り殺されかけ、殴り殺されかけた。もし天魔が薙ぎ払いじゃなく剣で突きをしてきていたら、剣を消してもそのまま拳が俺を襲っていただろう。

 

「あらら、今のを避けるんだ。ますます欲しくなったよ」

 

天魔が一瞬で姿を消す。間に合うか?

 

投影・開始(トレース・オン)!、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 

無名の剣を後方に投影し即座に爆破、爆風を利用して前方へ吹き飛ぶ。後ろには爆風の中から再び突っ込んでくる天魔、爆破の時右手で俺を貫く気でいたのかそこだけ服が焼け焦げていた。

 

投影・開始(トレース・オン)

 

三度干将莫邪を投影。身を翻しながら天魔を迎え撃つ、まともに受ければ剣がもたない。天魔の手刀を干将で受け流す、同時に莫耶で天魔の腕を狙う。今度は勢いを失うことはなかったが剣は空を切った。天魔は高速で俺の攻撃範囲外に移動していた。

 

「さすがは天魔、速さではかなわんな」

 

「舌戦には応じないよ。時間があるんだ」

 

さすがに舌戦に応じるとは思っていない、俺はこの間が欲しかっただけだ。

 

停止・解凍(フリーズ・アウト)全投影・連続層写(ソードバレル・フルオープン)!」

 

上空に無数の剣を生み出し天魔めがけて射出。剣群は天魔を蹂躙する勢いで迫る。

 

「それが奥の手?だったら拍子抜けね」

 

しかし剣群は天魔を貫くことはできず天魔から一メートル離れた付近で何かに遮られ弾き飛んで行った。まあ予想の範疇だ、天魔の力が空気を操っている以上固められて壁を作られたらただの剣では突破できない。

 

「まだだ、投影・開始(トレース・オン)

 

干将莫耶を投影し天魔に向けて投擲、剣は同じように見えない壁に遮られ天魔の後方に吹き飛ぶ。

 

「無駄だよ、そんな剣じゃ突破は無理だ。時間も後わずかだし終わりにさせてもらうよ」

 

「それはどうかな?投影・開始(トレース・オン)

 

もう一度干将莫耶を投影し天魔に向かって投擲。

 

「無駄なことを…ッツ!?」

 

ほう気付いたか。見えない壁に当たらぬよう左右から襲いかかる干将莫耶、それは注意をそらす囮。干将莫耶は夫婦剣、磁石のように陰と陽は引き付けあう。先ほど後方に飛ばされた剣が引き付けられ天魔を襲う。

 

しかしさすがは天魔か、二度目の剣を壁にまかせ強引に体を捻り迫りくる剣を弾き飛ばす。

 

 

「なん…ですって!」

 

しかしそれでも攻撃は終わらない。天魔が後方の剣の対処の瞬間とほぼ同時に天魔に接近し三回目の投影。この瞬間天魔は態勢を戻すことはできない。

 

鶴翼三連、アーチャーが担い手を本物を超え生み出した絶技。干将莫耶の互いに引き合う性質を利用した三方向からの同時攻撃は敵の命を確実に刈り取る。

 

はずだった。

 

「ふう、危なかったわ」

 

天魔を確実に切り裂くはずだった剣は天魔の体を裂くことはなく体そのものに受け止められていた。

 

「よっ」

 

「がっ!?」

 

最後の苦し紛れの剣の投擲もあっけなく躱され天魔に蹴り飛ばされ地面を転がる。そのまま天魔に馬乗りにされてしまった。

 

「残り十秒、残念だったわね。剣が引き合うのには驚いたけど威力が足りなかったわね」

 

どうやら天魔はあらかじめ全身に空気の膜を纏っていたようだ。触れられたことでそれがわかった。

 

「ああ、本当に残念だったよ。だが…」

 

「じゃあ来てもらうわ!?」

 

「その油断が君の敗因だ」

 

存在しないの四度目の攻撃。天魔の腹部には干将が深々と突き刺さっていた。

 

「ガハッ!…どうし、て剣はもう…ない、はず」

 

天魔を上からどかし天魔の服についていたポケットをあさる。

 

「それは!?」

 

天魔の服から出てきたのは縮小され小指サイズになった莫耶。

 

「…いつの間に、私の服の中に入れたの」

 

「君に初めて捕まった時だ。運ばれている最中に君の服に仕込ませてもらった。本当だったら君の勝利だった、あの攻撃に四度目は存在しないからな」

 

これは一種の賭けだった。天魔が空気を操れるということは、体全体に空気をまとわりつかせることも可能だ。もしそうだったら鶴翼三連じゃあ仕留められない。最後の一撃を強化できれば違ったが生憎魔力不足だ。天魔が最後に自分から能力を解かなければ干将は天魔を貫くことはなかっただろう。

 

そして砂時計の砂が落ち切る。

 

「時間だ」

 

俺の周りに魔法陣が展開される。何とか半径十メートルの範囲で戦いを終えられたようだ。

 

「どうやって逃げるのかと思ったら…魔法で逃げる気だったんだ。いいよ約束は守る、ただせめて名前教えてくれない」

 

「…アーチャーだ」

 

「アーチャーね、覚えとくわ」

 

すると天魔から何かが投げ渡される。

 

「羽?」

 

「勝者への景品よ」

 

その言葉を最後に俺の視界は暗転した。

 

 

 

「おかえり、どうやら無事だったみたいね」

 

「おかげさまで」

 

視界が戻ると目には多くの本が移った。どうやら転移は無事成功したようだ。

 

「どこか体に異常は?」

 

「…いや、特にないみたいだ」

 

体を解析してみたが魔力不足以外は特にこれといって異常はない。

 

「おかしいわね、あんな距離移動したら何かしら異常が起きても不思議じゃないのに。何か強力なマジックアイテムでも持っての?」

 

「そんな物はないが、ああそういえば帰り際に天魔から羽をもらったな」

 

「天魔の羽ですって!?」

 

なんだ?天魔の羽は珍しいものだったのか。パチュリーが言うには、天魔の羽は強力なマジックアイテムを作る元にもなるしそれだけで一種の加護を得られるようだ。

 

「その羽をよこしなさい」

 

「え?いや…はい」

 

有無を言わさぬ勢いで羽を奪われてしまった。まあこれが対価と思えばいいか、どうせ俺がもっていても役に立つことは少ないだろう。

 

「………………」

 

「どうしたんだ?」

 

「この羽何かの力が込められてる。これじゃ使えないわ」

 

パチュリーが言うに、一度別の力が込められた羽はほかの力を受け付けないとのことだ。

 

「それはマジックアイテムってことは魔力も関係してるんだろ」

 

「そうだけど」

 

「ならなんとかできる。ただ今魔力不足でな、少し魔力を貸してくれ」

 

「いいけどどうする気?」

 

「まあ見てろ。――――投影・開始(トレース・オン)

 

魔力を体に通し剣の丘から一本の剣を引き抜く。

 

「――――投影・完了(トレース・オフ)

 

手に一本の剣が顕現する。その名は…

 

破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

破壊すべき全ての符、裏切りの魔女メディアが持つ短刀。殺傷能力そのものは低いがその力は究極のマジックキャンセラー。あらゆる魔術効果を打消し初期状態に戻す力を持つ。

 

天魔の羽がマジックアイテムならこの短刀が通用するだろう。

 

「どうだ?」

 

「力が消えてるわ。何なのその剣」

 

「これはあらゆる魔術効果を打ち消し初期状態に戻す剣だ」

 

「なによそれ、私たちとって最大の天敵じゃない」

 

そうでもないぞ、突き刺すことが発動条件だから戦闘ではほとんど意味をなさないからな。使い魔同士の対決なら話は別だがな。

 

「それでも危険極まりないわ」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「あーあ行っちゃった」

 

目の前にいた男は魔法陣の消滅とともに私の前から消え失せた。

 

「……ッツ!ふう」

 

よくもまあぶっさしてくれちゃって、服に穴が空いちゃったじゃない。こんなんじゃ死なないけど服は治らないんだからね。

 

「しかしまさか負けるとは、負けたのは何百年ぶりかな」

 

最後に負けたのは鬼神にだったな。あんにゃろう勝ち逃げしていきやがって、あの去り際のムカつく顔は今でも鮮明に覚えている。

 

「天魔様!!」

 

「!?」

 

ビックリしたなもう。いやそれよりもなんで…

 

「や、やあシルクさん」

 

「天魔様、こんなところで何をしていたんですか?侵入者はどこです」

 

い、いかん。よりにもよってシルクに見つかった。どうする正直に答えるべきだろうか。

 

「じ、実は紅葉狩りを」

 

「今は春です」

 

私の中では秋でした。そ、そうだ。こんな時のためにちゃんと布石を用意したんだ。

 

「ちょっと侵入者と遊んでました」

 

「で、逃がしたと」

 

「でもですね。ちゃんと終えるようにしたのよ。私の羽を持たせてるから私の羽を風に乗せれば後を追ってくれる」

 

実はあの時そっと羽に力を加えてた。あんな上質な男逃がしてなるものですか。先に仕込みをしたのはあっちなんだから文句を言われる筋合いわないわ!

 

私は羽を上に投げ捨てた。羽はもう一本の羽をめがけ飛んでいく。

 

「なんのご冗談ですか?」

 

飛んで行かなかった。羽はヒラヒラと空中から地面に落ちた。な、なんで?

 

「え、うそ?なんでいかないの、さあ早くいきなさい羽。なにサボってんの、仕事をしなさい仕事を!」

 

「茶番は終わりましたか?」

 

はっ!殺気が。

 

「違うの、何かの間違いなの。ちゃんと飛んでいくはずだったの!やめて、こないで、さわらなぁぁぁぁぁ!!?」

 

天魔の悲鳴が妖怪の山にこだました。

 

その醜態を下っ端の哨戒天狗に見られた天魔は暫く威厳が地に落ちたようなそうでないよな日々を送った。

 




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新築と笑顔

「今日という日を祝して、カンパーイ!」

 

嬉しそうにワインを掲げるレミリア。そうか、そんなに今日という日を楽しみにしていてくれたのか。

 

「嬉しそうねレミィ」

 

「そりゃそうよ、なんたって今日は待ちに待ったアーチャーの退職日。今日を祝わないでどうするっていうの」

 

何を隠そう今日は俺が紅魔館での執事最後の日。レミリアはその日を記念してパーティーを開いた。

 

「本人を前にして豪いいいようだな君は」

 

さっきから俺を目の前にしてこの堂々さ、カリスマも少しは戻ってきたのか?

 

「ひっく…アーチャー行っちゃうの?」

 

対照的に妹のフランは泣いてくれている。

 

「ああ、もともとその予定だったんだ。心配するな、たまには遊びに来るから」

 

「ほんと!?」

 

「ああほんとだ」

 

ぱぁと笑顔に戻ってくれたフラン。よかったよかった、フランに泣き顔は似合わない。

 

「はぁ?だれがあなたの侵入なんて許すもんですか。もし来たって門前払いよ」

 

せっかくフランが笑顔になってたのに空気の読めない姉だ。

 

「お姉さま…アーチャー入れてくれないの?」

 

「う、いや、その、たまにだったらいいわよ」

 

今のはフランの泣きそうな顔に押されたのか、手に持ったレーヴァテインの迫力に押されたのかどっちなんだろう。

 

「やった~♪」

 

「妹様、お食事中に剣を出してはいけません」

 

「は~い」

 

その後もレミリアが愚痴を垂らして来たりフランが酔って暴れたりといろいろありパーティーは終わりを迎えた。

 

 

 

「さて、今日からここが俺の居住区か」

 

目の前には俺が作り上げた大きな武家屋敷があった。この屋敷は俺が一年弱の期間をかけ作り上げたものだ。イメージはアーチャーの生前の屋敷があったため楽だった。材料も依頼をこなして手に入れることができた。さすがに一人で作ったため時間がかかったが。

 

しかし土蔵まで作ることはなかったかな?楽しくてつい夢中になってしまったが、ガラクタ弄りの域も超えてるる気がするし。

 

まあ素人が作ったといっても魔術を併用して作ってあるから台風が来ても壊れはしないだろう。土蔵も食料の貯蔵庫にすればいいか。

 

「ただいま」

 

といっても誰もいないんだが。

 

「おかえりなさい」

 

「……なぜここにいる紫」

 

新築した我が家は初日から泥棒の侵入を許していた。

 

「あら、新築のお祝いに来てあげたのにつれないわね」

 

そう言い紫はスキマから酒瓶を取り出す。祝い酒のつもりか?

 

「俺はついさっきまでパーティーに参加していたんだが」

 

「あら、せっかくの皆が待ってるのに無下にする気?」

 

「みんなだと?」

 

「アーチャー遅いぞ!」

 

後ろから背中に衝撃。

 

「魔理沙、こんな時間になんでいる」

 

なんて聞くまでもなかったか。

 

「僕が連れてきたんだよ」

 

「霖之助、君まで紫の悪ふざけに付き合うことはないだろう」

 

「泣く子には勝てないよ」

 

なるほど、霖之助も苦労しているようだ。

 

「…紫」

 

「あら、私は今日あなたの家が出来たって教えただけよ」

 

「早くやろうぜ新築祝い、霊夢や慧音も待ってるぜ」

 

霊夢たちまでいるのか。まったく誰もかれも好き勝手に。

 

「ほら早くこいよ」

 

「わかったわかった」

 

居間では霊夢や慧音に加え妹紅までいる。つうか既に酒盛りしてるし、霊夢はこの歳から酒を飲んでいいのか?

 

「おやようやく主賓がきたな」

 

「藍、君まで」

 

調理場から音がすると思ったら藍っだたのか。

 

「さあ主賓も来たことだしパーッと始めるわよ!!」

 

「「「おおぉ~!!」」」

 

せめて主賓の意見を聞いてからにしてくれ。こら魔理沙!障子に穴を空けるな。

 

 

「一発芸やりまーす!」

 

「いいぞやれやれぇぇ!!」

 

酔いどれたちが。

 

「おいアーチャー追加のつまみまだか~」

 

「今持っていくよ」

 

何で俺は酔いどれ娘達に料理を振る舞ってるんだ?こいつらただ単に宴会がしたかっただけじゃないのか。

 

「何だこの扉?プスプス破けるぞ~」

 

「そーなのか~」

 

「なんか面白いね」

 

妖怪や妖精たちまで紛れ込んでるし。橙、君がつれてきたのか?ああ、柱で爪を研ぐな。

 

「止めんかこの馬鹿ども!」

 

「わぁぁー!!」

 

「怒ったのかー」

 

「逃げろー」

 

はぁ、せっかくの新築記念日だっていうのに。

 

「ため息なんてついてると幸せが逃げるわよ」

 

「ああ、現在進行形で消えていってる気がするよ」

 

「まったく、せっかく幸せを呼んであげたのに」

 

どういうことだ?

 

「笑う門には福来たるっていうでしょ。新築の家に笑顔が満ちてるわよ、家主だけがそんな難しい顔じゃいけないでしょ」

 

「……それもそうだな。いやはや妖怪に生き方を教わることになるとわ」

 

「あら失礼な言い方。もっと素直に感謝できないのかしら」

 

「感謝してますよ八雲どの。たくさんの笑顔をありがとう」

 

「どういたしまして、お礼は式になってくれれば結構よ」

 

「それはご免こうむる」

 

「あら残念降られちゃった。じゃあせめてお酌してくださる」

 

「よろこんで」

 

まあこんな一日もたまには悪くない。

 

夜の幻想郷にたくさんの笑い声が響き渡った。




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悪霊と魔理沙

「…………朝か」

 

鳥のさえずりによって目が覚めた。

 

「まあ鳥のさえずりというより鴉のわめき声か」

 

「失礼ですね、だれが鴉ですか」

 

「君以外に誰がいる射命丸。というか家に無断で侵入するな」

 

鴉が侵入したせいで家の警報が鳴りっぱなしだ。

 

「まあまあ、私とあなたの中じゃないですか。気軽に文って呼んでくださいよ」

 

「どんな中だ、今度無断侵入したら契約を解約するぞ」

 

「あややや、それは困ります。次からは堂々と玄関から入ることにします」

 

「…もういい。新聞持ってきたんなら置いておいてくれ」

 

鴉天狗、射命丸文の発行する文々。新聞は幻想郷の鴉天狗達が発行する新聞のうちの一つだ。あてになるかは別にして俺は文々。新聞を購読している。理由としては天狗の新聞は的が外れなければ最速で届けられるからだ。幻想郷内の情勢を知るのにも便利だ。まあ的外れのことの方が多いが。

 

「ちょっと五月蠅いわよ!なんなの朝っぱらから」

 

「ああすまん霊夢、ちょっと騒がしかったか」

 

「ちょっとどころじゃないわよ」

 

「あやや、あなたは博麗の巫女。もしやアーチャーさんが博霊の巫女をさらってきた…これはスキャンダルの予感ですね!」

 

「焼き鳥にするぞ」

 

もちろん俺が霊夢を攫ってきたわけじゃない。実はこの間異変があり、霊夢の住む博麗神社が人間でない何かに破壊されたとのことだ。これは異変として霊夢により解決された、何でも魔界という場所と地獄という場所に行ってきたらしい。

 

神社が破壊されたため霊夢は一時的に俺の家に居座ることになった。といっても、いきなり一昨日俺の家に押しかけてきたわけだが。

 

「朝飯食べるか?」

 

「食べるわよ」

 

「いただきます」

 

文、お前には聞いてないぞ。

 

「それで朝食はなんですか?」

 

「鳥の唐揚げだ」

 

それを聞くとしかめっ面になる文、そんな顔したってメニューは変わらんぞ。

 

 

 

「ところでアーチャーさん知っていますか?」

 

唐揚げには全く手を付けず飯を貪り食っている文が訪ねてくる。いったい何をだよ。

 

「なにがさ」

 

「なんでも霧雨道具店の所の娘さんが勘当されたらしいんですよ」

 

「なに?」

 

霧雨ってことは魔理沙か、なんで魔理沙が勘当を。

 

「仲間の話では何でも魔道に手を染めたとかなんとか」

 

「魔道ね……」

 

魔法使いにでもなる気か魔理沙は。

 

「案外淡白な反応ですね。確か霧雨さんとはお知り合いだったはずでは?」

 

「俺が気にしても仕方ない。魔理沙は自分からその道に行くと決めたんだろう、なら俺が止めるのは筋違いだ」

 

第一魔理沙の性格からして俺が止めたところで止めはしないだろう。自分の道は自分で決める強さくらい魔理沙は持っている。

 

「あやや、意外と非情ですね。霊夢さんはどう思いです」

 

「……どうでもいいわ」

 

うん霊夢はそういう性格だよな。

 

「人間にしては非情な紅白コンビですね」

 

俺たちのどこが紅白コンビなんだ。

 

「服と髪の色、赤白でまさに紅白コンビじゃないですか。次の記事はこれで行きましょう!みっちゃっく紅白コンビ二十四時これで決まりです!」

 

勝手なことを決めるな馬鹿ガラス。天魔といい天狗とは運がないな。

 

「ところで私の神社いつ直るの?」

 

「もう少しかかる」

 

「何でよ、こんな家一人で作っんなら神社くらい一日で直しなさいよ」

 

勘弁してくれ、神社を一日で直すなんて無理に決まったてるだろ。俺は大工じゃないし、家一軒復元させるほどの魔術なんて使える魔力はない。せいぜい家の壁程度しか修復は無理だ。

 

「使えないのね英霊って」

 

無償で家を直してやってるってのに何て言いぐさだこの巫女は。

 

 

 

「はぁ…今日はこんなとこか」

 

今日も博麗神社の修復で一日が終わってしまった。この調子だとあと一週間はかかりそうだ。それまであの傲慢な巫女が家に居座ると思うと…ああ胃が痛い。

 

「…今日は見事な満月だ」

 

はあ、見事な満月なのに今日は何故か巨大な死兆星に見える。まああれだけでかい死兆星なら見失う心配もないか。

 

「……いい加減出てこい。帽子が丸出しだぞ魔理沙」

 

頭隠して尻隠さず、いやこの場合は逆か。

 

「アーチャー……」

 

「どうした、そんな顔して。勘当されたことを嘆いてるのか?それとも…」

 

「私は…」

 

「それとも、その魔力で俺を傷つけることへの断罪か?」

 

「!?」

 

やれやれ、オレはともかくアーチャーが気付かないわけないだろう。そんな分かりやすい魔力の収束に。

 

「ま、その程度じゃ俺を気付つけることは無理だがな」

 

「ば、バカにすんな!舐めてると痛い目見るぞ」

 

「別に馬鹿にしてるつもりはない。たった数日でここまで魔力を扱えるようになったんだ、君はオレなんかよりもよっぽど優秀だよ」

 

実際たいしたものだ、魔理沙が魔道に手を染めたのは知っていたが師匠もなしにもう魔力の収束の仕方を覚えたのか。俺はパチュリーに匙を投げられたというのに。

 

「当たり前だ、私は天才だからな」

 

少しは元に戻ったか。

 

「ああお前は間違いなく天才だよ。ただ今の時間はいくら天才でも子供は眠る時間だ」

 

「子ども扱いすう!!?」

 

首筋に魔力を落し気絶させる。落とすといっても頸動脈を抑えて気絶させるようなもんだけどな。

 

「さて、前座は終わりだ。そこの悪霊、さっさと出てこい」

 

「……さすがは英霊様、お気づきかい」

 

木の陰の裏からゆっくりと姿を現したのはロングヘアーで、髪と瞳の色は緑の女性だった。まあもっと特徴的なのは腰から下の状態だが。

 

「お前か、霊夢が言っていた魅魔というやつは」

 

「私をご存じで、なら話が早い。私の物になれアーチャー。そして霊夢から陰陽玉を奪う手助けをしろ」

 

「なんの冗談だ、なぜ俺がそんなことをする必要がある」

 

霊夢から聞いた話のとうりこの悪霊は陰陽玉を狙っているようだ。なんでも陰陽玉の力を使って全人類に復讐するつもりらしい。なぜ知ってるかって、今ここでペラペラと喋っていたからだ。

 

「第一お前はなぜ人類に復讐する」

 

「さあね、もう忘れちまったよ。ただ今私の中にある感情で一番強いものがそれなだけだ」

 

はた迷惑にもほどがある。たかが感情論だけで人類に復讐するって、せめてもう少し理知的な回答を聞けるかと思ったんだが。

 

「話にならん。そんな感情論で人類に復讐されてはたまったものじゃない、そんな感情なら俺にでもぶつけていけ。少しは気が晴れるだろ」

 

「…なら相手をしてもらう。どのみちお前を従えるのにはお前を倒す必要があるんだろう」

 

魅魔が満月をバックに先端が三日月のロッドを構え俺に相対する。そして背中からは羽のようなものが現れる、本気モードってわけか。

 

「――――投影・開始(トレース・オン)

 

俺も干将莫耶を両手に投影し迎撃態勢を整える。それと同時に大量の魔力弾が俺を襲った。

 

「ちぃ!」

 

避けきれないものは干将莫耶で弾きつつ魅魔に接近していく、しかしここで戦闘をするんじゃなかった。神社がまた壊れてしまう。

 

「そらそら、休んでる暇なんてないよ!」

 

今度はレーザーが四方から飛んできた。これは避けるしかない。

 

「くそ!」

 

「遅いよ!」

 

剣を振りかざすも避けられてしまう。意外に素早い、剣じゃ捉えられないか。

 

「なら、投影・開始(トレース・オン)

 

アーチャーの本分の遠距離戦といこう。

 

弓と矢を投影し魅魔に向けて射出する。魔力弾と矢が相殺しあう、だがやはり手数不足…ここは一気に決めるしかないか。

 

「――――I am the bone of my sword(我が骨子は捻じれ狂う)

 

「ん、なかなかの魔力を感じるね。なら私も」

 

魅魔の体に魔力が収束され前方に魔法陣が展開される。かなりの一撃が来る。

 

「―――偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!」

 

「マスタースパーク!!」

 

真明を開放した偽・螺旋剣と魅魔のマスタースパークがぶつかり合う。辺り一帯を大きな衝撃が襲った。

 

「いっつつ、思ってたよりきついね」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

殺さないよう威力を抑えたとはいえ偽・螺旋剣と引き分けるか。なんて破壊力だ。

 

魅魔は何事もなかったかのように再び宙に浮きレーザーを放ってきた。

 

「つっとと」

 

今の攻撃じゃないな、距離を取っただけか。

 

「今度は私から行くよ」

 

魅魔が杖を前方に構えると今度は魔法陣が二つ出現した。まさかさっきのを同時に打つつもりか!

 

「――――I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

「何をするつもりか知らないけどこれに耐えられるかな?」

 

「耐えてみせる」

 

いい覚悟だというと、魅魔が出した魔法陣に魔力が収束された。くる!

 

「ダブルスパーク!!」

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――――!」

 

アイアスに向けて魅魔の放ったダブルスパークが直撃する。アイアスの花弁が一気に三枚は減った。

 

「ぐぅ……」

 

「まだまだ!!」

 

魅魔のダブルスパークがさらに強まる。花弁がさらに二枚消え去る、あと二枚これじゃあ持たない。

 

「これで終わりだ、私の全魔力持ってけぇ!!」

 

「……I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

こっちも全力だ!俺の魔力を持っていきやがれ。花弁が全て破壊され俺に光が届く、その瞬間

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――――!」

 

「なに!?」

 

再び七枚の花弁が前方に咲き誇る。アイアスの連続展開、初めての試みだがだいぶ無茶だったらしい。体の中が傷だらけだ。

 

「いけえぇぇぇ!!」

 

「させねえぇぇ!!」

 

衝突の光が辺りを包み込み辺り一帯を包み込む。その衝撃は辺りの木々を薙ぎ払った。

 

 

「…っつあ~流石に限界だよ」

 

魅魔が上空から力を失い落下する。

 

「まったく、せめて飛ぶ力くらい残しとけ」

 

痛む体を引きずって落下する魅魔を何とか受け止めることができた。

 

「おや、助けてくれるのかい?」

 

「お相子、魔理沙の分だ」

 

魅魔は最後の衝突の時さりげなく魔理沙を魔力で覆い衝撃の余波から守っていた。

 

「おや気付いてたのかい。親切はしてみるもんだね」

 

「それでどうだ?少しは気が晴れたか」

 

「……ああ、そういえばそんな話だったね」

 

そういえばって、気まぐれにもほどがあるだろうに。こっちはせっかく立てた神社を犠牲にしたってのに。

 

「で、どうよ。まだ人類に復讐したいか」

 

「ん、ああ、なんかどうでもよくなってきたね」

 

「それは何より」

 

人類を救うために神社は犠牲になったか。そう思わないとやってられない。

 

「……うぅん…は!?ここはってなにがあったんだ?」

 

どうやら魔理沙も目が覚めたようだ。外傷も特にないしよかったよかった。

 

「魅魔様!?アーチャーお前の仕業か!」

 

「ぐふっ!落ち着け魔理沙、確かに俺の責任だがこうなったのはこいつの自業自得だ」

 

痛む体にブロウは止めろ、というか俺のこともよく見ろ。魅魔と似た感じにボロボロだろうが。つうか魅魔様だと、まさか魔理沙のやつよりにもよって悪霊に師事したのか?

 

「魔理沙止めな」

 

そうそう、師匠なら弟子の奇行を止めてくれ。

 

「私みたいに犯されちまうよ」

 

てめえこの野郎!!

 

「んあ?犯すってなんですか」

 

魔理沙がお子様で助かった。

 

「犯すっていうのはな…」

 

「このまま滅するぞコラ」

 

子供に何教えようとしてんだ。

 

「冗談だよ冗談。冗談が通じない男は嫌われるよ」

 

嫌われた方がむしろ楽な気がするよ。

 

「何でもいいぜ、とにかく魅魔様離せこの野郎!」

 

「ホガァ!?」

 

お、おま、そこは反則だぞ馬鹿野郎!

 

「おや、いい金的が入ったね。よくやったよ魔理沙」

 

「え、あ、はい」

 

よくやったじゃねえ、助けてやったのにこの仕打ちはないだろうが。

 

「さてどうしようかね、動けないみたいだし無理やり契約しちゃおうかね」

 

「ふざけるな、誰がそんな一方的な契約を受け入れるか」

 

「私を舐めるんじゃないよ、一方的な契約が出来ないとでも」

 

「追いやめろ、なぜ顔を近づけてくる」

 

まさか、止めろ!魔理沙もみてんだぞ。

 

「することなんて決まってるだろ。魔理沙あっちにいいマジックアイテムが落ちてるよ」

 

「マジですか!?今とってきます」

 

「さあこれで魔理沙は行ったよ。おとなしく受け入れな」

 

「や、止めろ。こんなことしたって俺には意味なムグゥ!?」

 

ぐぅ舌が、しかもそこから魔力が…

 

「あむっ、ちゅ、む…」

 

「む、ぐ、ふん!」

 

「ブッ!?なひすんのはひらかんひゃったひゃないのひゃ」

 

人の口を無理やり奪っといて何て言いぐさだこの悪霊は、クソまだ口の中が気持ち悪い。

 

「ッツ無駄な魔力使わせるんじゃないよ。男だったら喜ぶところだろうに、お前は乙女か」

 

「だまれ、無理やり魔力なんか流し込みやがって」

 

「気持ちよかったろ」

 

「んなわけあるか!他人の魔力なんて体になじむわけないだろ、無理やり契約しようとするから体が拒否反応起こしたわ!まだ舌が痺れてる」

 

他人の魔力の気持ち悪さといったら、自己コントロールに慣れてるアーチャーじゃなかったらどうなってたか。ぐぅまだ体が熱い。

 

「ま、なんにせよこれでアーチャーは私の使い魔、なんだっけ、あんたの言うサーヴァントってやつなんだろ。ま、めんどくさいから使い魔でいいか」

 

「不本意ながらな」

 

まさか一時的にでも契約させられるとは思ってもみなかった。あんな方法で無駄に完璧にパス繋ぎやがって。

 

「それじゃあ続きを」

 

「何言ってる、近寄って来るな」

 

「使い魔は主人の言うことを聞けばいいの。あなたの魔力って面白いわね、ほとんどクソ不味いのに、ほんの少し流れてくる魔力はとってもおいしいわ。癖になる味ね」

 

なんて奴だ、このパスただ与えるだけじゃなくて俺から魔力奪い取ってやがる。

 

「それじゃあいただきます」

 

破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)!!」

 

「へ?」

 

何とか間に合った、魅魔から受け取った魔力のおかげでルールブレイカーを投影できた。

 

「あだぁぁ!!ひ、額に剣が」

 

「殺傷能力はない剣。ただのマジックキャンセラーだ」

 

「はい?げ、パスが切れてるじゃないかい。そんなの反則よ反則」

 

あんな非常識な契約をしといて何が反則だ。

 

「それなら今度は魔力を渡さずに契約を」

 

「よるな痴女!」

 

「誰が痴女か!」

 

「魅魔様何もありませんでしたよ…って何があったんです?」

 

結局今日は一晩中逃げ回るはめになった。おかげで夕飯が遅れて霊夢にはキレられるは魔力はすっからかんになるは最悪の一日だ。

 

 

翌日

 

「……何故だ」

 

「…う~んあ、おはよう。目覚めの魔力の受け渡しを一つ」

 

破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)!!」

 

「あ、ひど。いきなり破棄することないじゃないのかい?」

 

「黙れ!どうやって侵入しやがったこの悪霊め。しかもまた勝手に契約結びやがったな!」

 

「昨日の夜は気持ちよかったわね」

 

「まて、お前は人が眠ってる間になにをした」

 

「聞きたいのかい?それとも今からじっせんを」

 

「いや聞きたくない、ええいさっさと服を着ろ!」

 

「ちょっとうるさいわよ!」

 

「うるさいぜ!」

 

「あややや、なにやら特ダネの予感がします!今日の号外は幽霊の爛れた関係に決まりです!」

 

「待てこらあほガラス!そんなことしたら山をエクスカリバーで消し飛ばすぞ!ええい全員はなしをきけぇぇ!!!」

 

 




ご意見ご感想お待ちしています。


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天魔と午後

お久しぶりです。覚えてられる方はいないと思いますが更新していきたいと思います。

ただ更新頻度は遅めです。

それでもよろしい方は見ていってください。


突然だが家にシロアリが出たらどうする?答えは簡単だ、駆除する以外道はない。

 

「だから家に取りついた悪霊も除霊するべきだと思うんだ」

 

「朝からいきなり何だい」

 

「どうしたら家に取りつき朝飯まで貪り食っている悪霊を何とかできるのかと思ってな」

 

居間には俺、霊夢、魔理沙、魅魔が朝食を取っていた。

 

「霊夢、お前巫女だろ。悪霊退散してくれ」

 

「嫌よめんどくさい。そんなことして私に何の得があるっていうの、幽霊どうし乳繰り合ってればいいじゃない」

 

なんてこという巫女だろう。仮にも家を建て直してやってるっていうのに。

 

「魔理沙、お前もこの師匠に何とか言ってやれ」

 

「んえ?なんか言ったか」

 

何でもない、期待した俺が間違いだった。だからちゃんと口の周りについているご飯粒をとれ。

 

「まあ落ち込むなよ。私はもうお前と霊夢をからかって生きていくことに決めたから」

 

「「かってに決めんな!」」

 

なんで勝手に生きがいにされなきゃならんのだ。だいたいあんた死んでるだろうが。

 

「じゃあ死にがいでいいよ」

 

「なんか余計に悪意が満ちてそうね」

 

霊夢の言うとおりだ。やはり早く除霊した方がいい。

 

「霊夢、お前にも害が出そうだぞ。早く除霊すべきだ」

 

「いや、私は神社が直ったら帰るし」

 

なんて薄情な奴だ。

 

「だいたいアーチャーは何が不満なんだい?私と契約すれば魔力も供給されるし気持ちよくもなれて一石二鳥じゃないかい」

 

黙れこの痴女め。俺の気持ちがわかってたまるか。毎朝毎朝起きたら裸の女が目の前にいる、確かに一見羨ましい状況だが足がないんだぞ、祟られそうで凄い怖い。

 

ちなみに何も起こってないからな、勝手にあれが服脱いでるだけだからな。俺は服脱げてなかったから何も起こってない。

 

「私が魔法で着せてるって選択肢は?」

 

「お前がそんな気が利くとは思えない」

 

不本意ながら俺をからかうことを生きがいにされた以上、お前なら嬉々として裸だった俺を見て楽しむ気がする。

 

「まあ要約すると、今度からは足を生やして潜り込めってことだね」

 

「全然違うからな!まず潜り込むこと前提がおかしい」

 

「なあ霊夢、二人は何のことを言ってんだ?」

 

「知らないわよ、幽霊どうし乳繰り合わせてればいいわ」

 

霊夢、なんで俺にそんなに冷たいんだ。

 

「あやややや、毎度おなじみ清く正しい射命丸文です。今日も皆さん元気そうですね」

 

「これのどこが元気に見える」

 

「あやぁ~確かに弱冠一名疲労困憊ですね。夜の作業のしすぎですか」

 

「殺すぞ」

 

何で全員すべての事柄をそっちに持っていく。そんなに俺をキレさせたいのか?

 

「あやや…じょ、冗談ですよ。冗談ですからその物騒な剣をしまってください」

 

「……それで、今日は何のようだ」

 

「はい、まずは新聞を」

 

「ん」

 

さて今日の話題は…博麗神社謎の倒壊を遂げる。妖怪たちの反逆か?

 

「ゴミか」

 

「失礼ですね、立派な記事ですよ…まあいいです、今日は依頼があってきたんですよ」

 

「依頼?いったいなんの」

 

天狗から依頼が来るなんて珍しい、というか初めてだ。閉鎖社会の天狗がする依頼ってなんだ?

 

「はい実はここだけの話天魔様が……」

 

なるほど、要約すると天魔が仕事アレルギーにかかり発狂して山から消えたと。

 

「まああの天魔らしいといったららしいな。で、それが?」

 

「あなたにも捜索を手伝ってほしいんですよ。たしかあなた春ごろに山に侵入して天魔様とやりあってましたよね。少しは天魔様と親しい関係なんじゃないですか?」

 

「まて、どうしてそのことを知っている」

 

「天狗の情報網を甘く見てもらっちゃ困ります」

 

どうやったらあの状況で戦闘してたかわかるんだ?辺りには誰もいなかったはずだぞ。

 

「まあいいよ、依頼はうける。で、見つけた場合どうすればいいんだ」

 

「感謝します。見つけたらこの筒の紐を上空に向かって引いてください。そしたら大天狗様がすぐその場所に急行しますのでしばらく天魔様を捕まえておいてください」

 

「わかった」

 

それだけ伝えると文は猛スピードで俺の家から飛び立った。

 

「さて、私たちは修行に行くよ魔理沙」

 

「はい魅魔様」

 

二人は空を飛び家を後にする。できればそのまま帰ってこないでほしい。

 

「霊夢はどうする?」

 

「ここにいるわ。ああそれと、天狗の依頼はいいけど神社もちゃんと直してよね」

 

人使い…いや英霊使いの荒い奴だ。…ああその前に。

 

破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

朝恒例の投影もしておかないと。まったく勝手に契約するなといってるのに。

 

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「お待たせいたしました、ご注文の三色団子と緑茶です」

 

「きたきた。ありがとねお嬢ちゃん、何なら一緒に食べる?」

 

「い、いえ仕事中ですので」

 

そう言うと団子屋のお嬢ちゃんは店の中に戻ってしまった。残念、結構かわいい子だったのに。

 

アーチャーにまんまと逃げられてから月日がたち夏も終わろうとしている。あの後シルクに捕まってから本気で仕事部屋に軟禁された。確かに、こちらも悪かったと思ったから仕事はしていたさ。

でも…でもですよ!季節が変わるまで仕事をしたのに、まったく仕事量が減ってる気がしないんですよ。

 

「やっぱリフレッシュは必要だよね」

 

シルクはギャーギャー騒いでいたがそんなこと知らん。

 

有言実行、人間はいい言葉を作ったよね。確かに自分で言い出したことは必ず実行しないとね、私は以前自分の欲望に従うと言った。ならばその言葉に嘘はつけない、有言実行、私は自分の欲望に身を任せる!

 

いや違うんですよ、これは言い訳とかじゃなくて人間の生み出した言葉への称賛と天魔として身を挺してそれを実行しようとしたわけであって、決して仕事をサボる為の口実ではないんです。

 

「あの…お客様どうかいたしましたか?」

 

「…いいえ、なんでもないわ」

 

店員はそうですかと言うと、訝しげに私から離れていった。いかん、ここのところ無意識に言い訳をしてしまっているな、やっぱりこれはリフレッシュが必要だ。

 

今はしかめっ面のことは忘れる。今の私はただの美人の村人だ、それにせっかく頼んだんだ、お茶が冷める前に頂くとしよう。

 

「ハムハム…おお」

 

うん、思ってたより数段美味しい。ほんのりとした甘みが癖になるしお茶も数段美味しく感じる。店員さんが可愛かったから思わず入ったけど当たりだったこの店は、今度からシルクに買いにいかせよう。

 

「いらっしゃいま…アーチャーさんじゃないですか」

 

「ぶっ!?」

 

ゲホォ!ゲホォ!お茶が気管に入った。いやそれよりもだ、なんでアーチャーがここに…いやここにいることにおかしくはないか。幸い私には気付いてないみたいだけど。

 

「おはよう、今日も繁盛してるみたいだな」

 

「アーチャーさんのおかげですよ。アーチャーさんがお団子を美味しく作る方法を教えてくれたからここまで繁盛したんですよ」

 

「そうでもないだろ。料理は愛情というが、それは食べる相手への思いやる心が重要ということだ。いくら味が良くても、相手への配慮がなければ店もここまで繁盛しなかっただろうよ」

 

なるほど、ここの団子が妙に美味かったのはアーチャーが関わっていたのか。というかなんだあの子は、私には忙しいと断ったのにアーチャーとは楽しく会話してるじゃないか。なんか無性に腹が立ってきた。

 

「それじゃあ俺は用があるので失礼するよ」

 

「はい、またいらしてくださいね」

 

それだけ言うとアーチャーは店から出て行った。はて、いったい何しに来たのだろうか…よし追跡してみよう。

 

私は早々と会計を済ませてアーチャーの後を追った。



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天魔と一日

最初に言っておく、蛍のことはすまんかった。


さてと…お茶請けも買ったことだしさっさと仕事に向かうとしよう。今日は寺子屋の屋根の修理と神社の修復、あとついでで天魔の探索か。……なんかこの頃こんな仕事ばっか…俺は大工か?

 

「じゃまするぞ」

 

「おおきたか、わざわざすまないな」

 

寺子屋に着くと中から慧音が出迎えてくれた。靴がいくつかあるのを見ると客が来てるのか?

 

「…なんだ、妹紅に阿求か」

 

「なんだとはなんだ」

 

「失礼ですよ」

 

ああわるかった、だからそんな睨むな。土産も用意してきたから。

 

「お、気が利くな」

 

「そういうことでしたら」

 

現金な奴らだ。

 

「さっそくで悪いが屋根の修理を頼む、教室の雨漏りが酷くてな」

 

「わかった」

 

霊夢の神社の修復もあることだしさっさとやろう。

 

 

 

「それにしてもさ…アーチャーって便利だよな」

 

なにさ突然、つか修理中に屋根に上って来るな。

 

「確かに便利ですね…家に仕えてもらいたいくらいです」

 

下からは阿求か、また勝手なことを言ってるし。

 

「かってに人を便利屋扱いするな」

 

「何をいうか、お前のしてる仕事は便利屋以外の何物でもないだろうが」

 

それを言われると痛いんだが、仕事頼むんだからもっとましな呼び名を考えてもらいたいものだ。

 

「そうだな…なら万屋(よろずや)なんてどうだ?」

 

万事をこなすね…しかし家は屋敷みたいなもんだから的を全然得てないぞ。確か万屋ってもっと規模が小さいものだぞ。

 

「別に問題ないだろ。やってることは小間使いみたいなもんなんだから」

 

そりゃないだろ妹紅……

 

「そうですね…家名があれば~家とかでもいいんですけど…」

 

そういわれてもな、衛宮を名乗るわけにもいかないし自分の名前はないしな。

 

「アーチャーなんだから弓家でいいんじゃないか?」

 

「それだと弓売ってる店みたいだな」

 

「げんそうやしきなんてどうかしら?」

 

「うわ!?どこからわいて出た紫」

 

いきなり目の前に出てくるなんて危ない奴だ。ああそこはまだ修理中だぞ!

 

「これは八雲さま、いったいどのような御用で」

 

「面白そうな話をしていたみたいだから。ちなみに書き方は贋想屋敷(こう)よ」

 

「いろいろ言いたいことはあるが贋でげんの読みは無茶があるぞ」

 

「あら、あなたのトレードマークみたいなものじゃない」

 

そういいながらさらに淡々と説明を続けていく。まあ確かにそうなんだが紫にそのことはなしたっけ?

 

「なるほど…確かに何でもこなすのは何でも受け入れる幻想郷と似ていますね。でも屋敷より贋想亭のほうが語呂がよくありませんか?」

 

「亭はもうあるのよ」

 

「?それはどういう…」

 

「まあいいじゃない細かいことは」

 

何か誤魔化してるくさいな。久しぶりに見たが胡散臭さは健在だな。

 

「なにやら隠されてる気がしますがいいでしょう。それじゃあ幻想郷縁起には贋想屋敷にして載せますね」

 

ってちょい待て、なんで俺の家が幻想郷縁起に乗せられなくちゃならないんだ。

 

「またまたご謙遜を、あなたは十分幻想郷の一角に相応しい力を持ってるでしょうに。あとはあなたのことを教えてもらえれば幻想郷縁起を書き進められるんですが」

 

勘弁してくれ、俺の力は相手に知られてないほど力を増すんだ。幻想郷縁起なんかに乗せられたら戦力半減もいいところだ。

 

「おいおい、おしゃべりも結構だが修理もしっかりやってくれよ」

 

「問題ない修理ならもう終わったよ。ところどころ強化もしておいたから野分がきても大丈夫なはずだ」

 

「そうかありがとな。もうすぐ昼だし一緒に食べてくか」

 

「遠慮しとくよ、これから神社の修復もあるしな」

 

さっさと神社直して悪霊を押し付けんといかんしな。

 

「ああそうだ、そういえば人を探してるんだ。もし見かけたら教えてくれないか?」

 

「人?一体どんな人物なんだ」

 

ええっと天魔っていうわけにはいかんから…天魔の特徴っていったら

 

「バカっぽそうな女だ。あ、あとなんか見かけに反して残念な行動をとるな」

 

「そ、そうか。見かけたら伝えるよ」

 

「よろしく頼む」

 

さて神社に向かうとしようか。あと数日もあれば修復は完了するはずだ。

 

「……アーチャー一つ忠告してあげるわ。壁に耳あり障子に目あり」

 

……どういう意味だ?ま、紫の発言にいちいち反応していたら体がもたないか。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「……ふぁああ」

 

アーチャーの後を付けてみたはいいものの…なんか飽きてきたな。やってることもなんか家いじってばっかだし、大工だったけ彼って。

 

「もうかえろかな」

 

いや帰るといっても山じゃないけども。人里のどっかの家にでも泊めてもらおかな、きっと私ほどの美女ならば二つ返事で了承してくれるに違いない。身近の馬鹿どもは私の魅力に気づいてないのかちっとも私の命令きかないし。

私が休みたいって言ったら返事は《はい》以外ないでしょうが。それが無言で顔面ビンタってなによ、逆に顔面吹き飛ばしてやりたいくらいだわ!

 

……そういえばさっき何かを探してるっていってたっけ。たしか特徴がバカで残念な女…それにしても哀れな特徴、一度見てみたいわね。

 

「見て見て大ちゃん!バカそうな奴が神社を覗いてるよ」

 

「ち、チルノちゃん聞こえるよ!」

 

…………ふぅ、所詮妖精の戯言…気にする必要なんてないわね。それに私のこととは限らないし!他の誰かかもしれないし!

 

「ねえねえミスチ~残念な鴉みつけた~」

 

「ちょ、止めなってルーミア!明らかに怖そうだよその妖怪」

 

「そ~なのか~」

 

「…………(プルプル)」

 

耐えろ私、今のは空耳そうに決まってる。だからここら一帯を吹き飛ばす必要はない……

 

「や~いば~かば~か!!」

 

「ざんねん~!!」

 

「「ちょっとぉぉ!!」」

 

……もういいよね、私は十分我慢したよね。こいつらを跡形もなく吹き飛ばしても文句言うやつはいないよね。そこから動くなよ雑魚ども、今すぐ大気の塵とかしてやるから。

 

「……死にさらせぇぇえぼぉ!?」

 

ちょっ…なんで!?今私が攻撃したよね、なんで攻撃した私が横転してんの!?ていうか頭痛い!

 

「お前は子供相手に何をしている」

 

「あ…アーチャー」

 

「ほらお前たち、この馬鹿に殺される前にどっか他の場所で遊べ」

 

ああ!こら獲物を逃がすな。私は調子こいた雑魚どもをシバかなければいけないのに。

 

「だまれ馬鹿、少しは天狗の頂点の自覚を持て」

 

何を言うか!私ほど威厳をか持ち出している女は幻想郷広しといえど私しかいないであろうに。

 

「威厳(笑)ね」

 

なんか物凄く腹正しいニュアンスを感じた。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「アーチャー酒追加ぁ~」

 

「はいよ」

 

今何をしているかって?簡単だ、風呂に入っている天魔に酒を振る舞っている。

 

余計わからないか?まあ説明すると天魔に博麗神社の修復した箇所のチェックをしてもらってるだけだ…もちろん勝手にだが。

 

「それより湯加減はどうだ?」

 

「丁度いいわよ~アーチャ~もいっしょにはいりゅ?」

 

「遠慮する」

 

「……美人の誘いを断るなんて失礼な奴め~」

 

ふむ…どうやら温度調節は的確に出来ているようだな。ここは紫が直すとか言っていたから心配だったんだが杞憂でよかった。ちなみにどういうわけかこの風呂は自動で湯が沸く。時代錯誤も甚だしいがおそらく河童にでも直させたんだろう。

 

ちなみに博麗神社や里の有力者の家はこういった時代錯誤が垣間見える。具体的に言うなら水道なんかがあったりする。他に紅魔館も水道等はあるが、これは紅魔館が外から来たため水道等の知識もあったんだろう。それかパチュリーが魔法で何かしてるかかもしれんが。

 

後これは余談だが俺の家も時代錯誤ハウスとかしている。これは俺がやったわけでなく、依頼で一日開けて帰ってきたら紫によって改造されていた。紫曰く《だって私が使うのに不便じゃない》だそうだ。いや確かに便利にはなったが、家を勝手に改造されていい気分はしない。

 

「……はれ…なんか熱くなってきたような…」

 

「気のせいだろ(ふーふー)」

 

ちなみに俺は今釜戸で風呂の温度を上げている。もともとこのつもりで風呂の場所は設計していたから手動で温度を上げることも可能だ。

 

「……温度はだいたい80度くらいか」

 

「なんはいった~?」

 

「なにも」

 

ああいっておくけど俺は天魔を釜茹でにする気はないぞ。

 

「…な、なんか目が回ってきらよ~お酒もなひ~」

 

「それは大変だな。のぼせる前に上がるといい」

 

「そうすりゅ~」

 

さてと、あともう少しだな。

 

 

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「……ととっ」

 

私としたことがふら付いてしまった。おかしいな~これくらいで酔うはずなんてないんだけどな~…そうかこれは酔ってるわけじゃない!ただ気分がいいだけなんだあはははは~~

 

「は~~……」

 

けどアーチャーに見つかったときにはどうなることかと思ったけど心配することなんてなかったね。お風呂使わせてくれてご飯までくれるっていうんだから最高だよね…チョイイネ!サイコォ!!

 

注…この馬鹿(天魔)は酔っています。そのため発言に一貫性がありませんのでご注意ください byアーチャー

 

「おまたへ~」

 

「遅かったな。一体何をし…て……」

 

んふふ、何アーチャーもとうとう私の美貌に目がいっちゃたのかな?まあ仕方ないよね。湯上りの美女がいたら男だったら反応しちゃうわよね。ああなんて罪深い女なんでしょう私は、今日もまた一人男を虜にしてしまった。

 

「天魔…お前……」

 

「なあに?」

 

いいのよアーチャー、あなたの反応は当然…その湧き上がる劣情に任せて私を押し倒しても誰も文句は言わないわ。さあいらっしゃい私はあなたを受け入れてあげるわ! 注…酔っています

 

「お前…浴衣も満足に着れないのか。大和撫子みたいな姿してるくせにだらしないな」

 

「…え…あ…その……すみません」

 

……笑わないで!今の私を見て笑わないで!!

 

「ほらこっち来い。ちゃんと着付けしてやる」

 

「…はい」

 

「まったく…なんだ?結びどころかまともに羽織ることもできてないじゃないか。ほら後ろ向け」

 

「…はい」

 

酷い!何が酷いってこの状況。これじゃここにいるのは男と女じゃなくてお母さんと娘だよ。あ、お父さんか……とすると私も息子?……いやいや何を考えてるんだ私は。私は女でアーチャーはお母さんでそれでお父さんがいて…… 注…しつこいようですが酔ってます

 

「…い……おい天魔!」

 

「ひゃい!?なにお母さん」

 

「だれがお母さんか!それより聞いてたのか?お前は無駄に胸がデカいんだからまずは自分で右側をやれ」

 

「…はい」

 

もう泣きそう…もう完全に母と娘、父と息子だ。この場に色気というものは消え失せてるよ。

 

「よしそのまま抑えてろよ…次は腰紐をだな。いいか絶対その手を離すなよ」

 

そういってアーチャーは私の前に回り込んで腰紐を結ぼうとしている。今ここで手を放したらどうかな…だめだお母さんに怒られちゃう 注…酔って

 

「できた、最後に帯だな。少しキツ目にするからキツすぎたら言ってくれ」

 

そうだ考え方を変えよう。これはちょっとお茶目な夫婦の戯れだ。そう最初からこう考えればよかったんだ!そう考えると今キツ目に縛られてるのも気持ちよくなって…もうキツすぎはだめよあなた 注…よ

 

「おい!もう終わってんだから帯くらい自分で直せ!」

 

「…ごめんなさい」

 

ふっ所詮はこんなもんよね

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ほらぁアーチャーちゃんと飲んでるの~」

 

「ああ飲んでるよ、それより料理はどうだ」

 

「上手いよこんちくしょー!私の側近になりやがれ!!」

 

「御免こうむる」

 

だいぶ酔いが回ってるな。もはや行動がそこらのおっさんのようだ。これで美人だから余計馬鹿に見える。

 

「また振りやがったな~!!もう無理矢理にでも堕としてやる~」

 

そういうと天魔は両手で鷲頭かみにしていきなり唇を押し付けた。

 

「んふっちゅ…どうら~参ったか~もっとしてやる~」

 

「そうか好きなだけしていろ」

 

「言われなくてもやってやる~あんたは私にもうメロメロなんらから~」

 

再び天魔は皿に奇行を始める。もはや馬鹿を通り越して可哀想に見えてくる、よほどストレスでも溜まっていたのか?だったら悪いことしたな。

 

 

 

「ZZZZ」

 

「ようやく潰れたか」

 

さてそれじゃさっさと済ませてしまおう。俺は文にもらった発煙筒らしきものを上空に打ち上げた。すると一分もしないうちに一人の妖怪が博麗神社の境内に降り立った。

 

「あなたは?その発煙筒は私の部下に持たせたもののはずですが」

 

「そう殺気立つな。俺は射命丸に依頼を受けたものだ、探しているんだろう天魔を」

 

やってきた者は一定の距離を空けつつ俺に対応していた。安易に相手の間合いに入らないことからそれなりの使い手ということがわかる。

 

「射命丸ですか、これは失礼しました。私はシルクといいます、以後お見知りおきを。それで天魔様のことを知っているということはもしや捕まえたのですか?」

 

「ああ、まあ捕まえたと言えるかはわからんが。とりあえず来てくれ」

 

シルクは俺の後を黙って着いてくる。礼節も天魔より数段いい、天狗にもこういうやつもいるんだな。今まであった奴は大抵頭のネジが一本ぬけてるようなやつばかりだったんだな。

 

「ここだ」

 

「……まったくこの方は」

 

シルクはこめかみを抑えながらプルプルと震えていた。まあ自分とこの統領が酒瓶を握りしめながら寝ていたらそうなるだろう。

 

「無くなった酒は請求させてもらうぞ」

 

「あ、ええそれは構いませんが…よくこの人が人間用の酒で酔いつぶれましたね。普段だったら山中の酒を飲みほしてもまだ足りないという方なのに」

 

「まあ生き物である限りどうしても酔ってしまう飲み方があるんだよ」

 

俺だってただ酒を与えるだけじゃ天魔をよい潰せるとは思っていない。わざわざ風呂で酒を飲ましたのも酔いを回させるためだしな。

 

「こんどご教授願いたいですよ。本日はうちの馬鹿が迷惑をかけました」

 

「いや馬鹿の相手は慣れているよ。ああ今馬鹿の服を持ってくる」

 

「すみません、お礼は後日いたしますので」

 

服を渡すとシルクという天狗は天魔を抱え山に帰っていった。あのシルクという天狗…おそらく大天狗クラスだろうな。ここから去る最後まで気を抜かなかったな。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ん…ん~ん……ッツ!!」

 

あー頭痛い、昨日は何があったけ。確か神社でアーチャーに見つかってお風呂入ってそれから……何してたっけ?

 

「神社で酔いつぶれてたんですよ」

 

そうそう神社で酒飲んで酔っちゃたんだ。じゃあこの痛みは二日酔いか。いや懐かしい、二日酔いなんていつ振りだろう。

 

「いつまでも現実逃避してもらっては困ります」

 

「……おはようシルク」

 

「おはようございます」

 

その朝、天魔の悲鳴が山に響き渡った。

 

後に天魔は語る。あの笑顔は忘れられない。




ちなみに作者は蛍嫌いじゃないですよ。

次は、次こそは全員そろえて出して見せる。


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弓と兎

七夕ということで投稿してみました。できればもう少し進めてからがよかったんですけど区切りはついてるので大丈夫だと思います。

ちなみに七夕一切関係ありません。本編です。


「――――投影・開始(トレース・オン)

 

……ふぅ、さすがにオレが投影を使うのには骨が折れる。

 

神社も直り魔法使い達も森に消えたことで俺は久しぶりに一人になっていた。それに暫くは依頼も来ていなかったため、ここ数日は修行に時間を費やしていた。

 

「――――投影・完了(トレース・オフ)やっぱオレじゃ干将莫耶の投影が限界か」

 

俺は戦闘および魔術を使うときよく人格を切り替えて使用している。

 

普段は英霊と異常者が混じっている俺だ。この時なら投影もそこそこでき固有結界の展開もわずかな時間ながら可能だ。

 

次にアーチャーだ。この時は性格、口調ともに全てが英雄に近づく。当然ながらこの時が一番力を使いこなすことができる。まあそれでもオリジナルに比べれば弱いが。

 

最後にオレだ。魔術は最低ランクに落ち投影は干将莫耶が精々で連続の投影も不可。戦闘ではアーチャーの経験も生かすことができないのがこの状態だ。

 

まあ人格を切り替えてるよりは精神を切り替えてる方が近いのかな。オレを鍛えることは俺を活かすことにつながりそしてアーチャーの力を最大限引き出すことに繋がる。まあどんなに足掻こうがエミヤに追いつくことはないと思うが。

 

結果は見ての通り散々だが、これでも少しは進歩した方なんだから救いがない。最初のころは神秘のない剣の投影すらまともに出来なかったんだからな。

 

「――――投影・開始(トレース・オン)

 

さて次は俺でやるか。投影するものは竜殺しの神秘を内包した魔剣グラム。ランクにしてはAくらいかな。

 

「――――投影・完了(トレース・オフ)

 

何とか投影できたが…さすがにグラムの完璧な投影は俺では無理か、Aの予定だったけどこれじゃよくてB+だ。さて次は剣の修行にでも移るか。

 

 

 

「…ふぅ」

 

ようやく師匠に頼まれていた薬の材料が揃ったわ。全くこの竹林にある珍しい竹なんて私よりもていの方が絶対早く見つけられるに、あの子ったらサボってどっか行っちゃうんだもん。

 

「最近ついてないなー」

 

ついてないっていったらあの赤い人と出会ったのもついてなかった。何時もの姫の気まぐれに付き合わされただけと思ったら殺されかけたのよね。

 

……ああ、思い出したらまた寒気が。師匠はあの人捜すって言っていたけど見つかったのかな?場所が特定出来ないって話しだったけど一体どこに住ん出るんだろ?

 

「やめやめ、こんなこと考えても仕方が無いし」

 

正直見つかってほしくもないし。あの人殺し慣れてる感じだったからなのかあんまり好きになれないから。

 

「ただ今戻りました」

 

そうこうしてる間に永遠亭に帰ってきた。

 

「…あら、うどんげお帰りなさい」

 

中に入ると師匠が出迎えてくれた。何時もは出迎えてくれないのに珍しい、丁度研究が一段落してたのかな。

 

「丁度いいわ、姫の言っていた人物が見つかったからお迎えにあがってきて」

 

どうやら私の運は絶賛低下中のようだ。

 

 

 

「ああ、なんでこうなるんだろう」

 

現在竹林を出て師匠が見つけたあの人の家に向かっている。師匠が言うにはつい最近あの家に住み始めたそうだ。

 

竹林を抜けてあの人の家に向かっているとふと気になることがあった。

 

(なんであの人はこんなところに住んでいるのかしら)

 

別に住むんだったら人里にでも住めばいい。それをわざわざ人里から少し離れたこんな辺鄙な所に家を建てたのかしら?人里近いとはいえ妖怪だって出るかもしれないのに。

 

「…まあ、あの人なら普通の妖怪に負けたりはしないか」

 

初めて会った時のことを思い出して一瞬寒気が襲った。あの時は本当に死を覚悟した。全く見えなっかた動きや私の能力が効かなかったのはまだいいほうだ。

何より危険だた感じたのは、あの人…いや生き物を殺しなれてる雰囲気だ。いったいどれくらいの生き物を殺してきたのか、私を初めて見たときの目が人間とは思えなかった。

 

しいて挙げるなら機械だ。それも生き物を殺すための機械、殺人マシーンという言葉がここまで合う人物もそういないだろう。

 

「ついたみたいね…ん?」

 

そうこう考察している間に目的地に着いたようだ。一人で住むには随分大きなお屋敷だけど腑に落ちない点が一つあった。

 

「これは結界?」

 

家全体が大きな結界で門を含めて覆われていた。私はよく師匠が竹林に架けてある結界に触れているから分かったけど、巧妙に結界が張り巡らせてある。

 

……よく考えたらこんな所に家を建ててあるんだから妖怪対策として結界を張っていても可笑しくはないか。けどそれだと迂闊に家に入れない。あんな人だし結界に触れたらいきなり死ぬような罠が張られていることだって考えられる。

 

「……帰りたいなぁ」

 

でも帰っても師匠にお仕置きされるし、やはりここは意を決して入るしかないだろう。大丈夫、別れた時のあの人は優しそうだったもの!

 

「………………大丈夫、よね」

 

意を決して結界の中に手を一本入れてみる。特に体に異常もないし罠が飛んでくる様子もない、どうやら取り越し苦労のようだけどまだ油断はできない。ここは戦場のつもりで一歩一歩玄関に向かい……

 

「何をしている?」

 

「うにゃぁあ!?」

 

なんで!?なんで後ろにいるのよ、さっきまで気配もなかったのに。

 

 

結界に反応があったため、修行を中断して玄関に向かったら以前あった鈴仙というウサギがなぜかすり足で玄関に向かっていたから声をかけたら驚かれた。なんでさ

 

まるで戦場に赴くような姿勢で家に来られてはこちらも気を使う。こちらから声をかけてみるか

 

「何をし……」

 

「……………………」

 

何をしに来たのか尋ねようとしたら土下座された。俺何か悪いことしたかな?

 

「とりあえず家の中に入れ」

 

そういうと鈴仙は無言で立ち上がり、まるでこれから処刑される兵士のように俺の後をついてきた。

 

 

 

「……えっと、これは?」

 

「見ての通りお茶だが」

 

居間に通しお茶とお茶菓子を持ってきたところ鈴仙は不思議そうにこちらに訪ねてきた。

 

「さっきから落ち着きがないが一体どうした?」

 

俺が尋ねると鈴仙は一つ一つ事情を話し始めた。なんで俺が鈴仙を殺さなければならないのか、掻っ捌いて夕飯にしなければならないのか小一時間問い詰めたいところだが、今はよそう。なるほど、だからあんなにビクビクしていたのか。

 

そりゃ俺も修行中だったから剣を持ったままにしていたのは悪かったが、そこまで恐怖の対象に見られると少しへこむな。

 

「まあそれは全て君の思い違いだから安心してくれ。俺は君を殺すつもりもないしましてや食卓に挙げるつもりもない」

 

鈴仙もどうにか納得してくれたようで、まだ少しぎこちないながらもお茶を飲んでくれた。

 

「それで改めて聞くが今日は何の用でここにきたんだ」

 

「はい、実は私の師匠があなたに会いたいそうなので私がお迎えに上がりました」

 

「君の師匠が?一体どんな人物なんだ」

 

まさかウサギの親分じゃないだろうな。

 

「私の師匠は八意永琳といいます。以前のことを話したらあなたに興味が湧いたとかで永遠亭に来てほしいと」

 

……あの時のことか。まさかあの時のお礼参りとかじゃないだろうな、けどあの時の原因は俺だし行かないわけにもいかないか。

 

「分かった。同行しよう、準備してくるから少し待っていてくれ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

俺が答えを出すと鈴仙はほっと息をなでおろした。まああの時の無礼な行動のカリを返せたと思うことにしよう。

 

 

「ほらそこにも落とし穴があるぞ」

 

「え…うわぁあ!?」

 

また、またなの。これで三回目。アーチャーさんが永遠亭に来てくれることはよかったけど今度は道のりに悩まされる。なんで行くときは罠なんてなかったのに帰りには罠が仕掛けてあるの!

 

「なぜ忠告したのに落ちるんだ君は」

 

そう言いながらも引き上げてくれるのには感謝するけど、できればもう少し早く言ってほしい。

 

「なんでアーチャーさんは罠の場所がわかるんですか?」

 

罠を仕掛けるなんてマネをするのは十中八九てゐの仕業だろうけど、その仕掛け方は巧妙で月で訓練を積んだ私でも発見することができない。罠を巧妙に仕掛けるくらい器用ならもう少し仕事もまじめにやってほしい。

 

「ああ、それは解析って魔術を使ってここら一帯の構造を調べたからな。このよく解らん結界の解析は厳しいが地形把握くらいだったら即座に行える」

 

説明を聞くと案外単純な方法だった。

 

「それって私でもできますか?」

 

「さあな、もともとこの魔術はこの世界の魔法と体系が違うから何とも言えん。それ以前に魔力は持ってるのか?」

 

「う、持ってないです」

 

私は魔力というものを持っていない。理由としては科学が発達した月では魔力なんてものは必要ないからだ。なにせただ仰ぐだけで森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす扇子があるくらいだし、元からある霊力、妖力を持つ者はいてもわざわざ魔力を取り込む必要がある無駄なことはしないからだ。

 

「まあこの解析は、知り合いの魔法使いが研究してるみたいだからもしかしたら魔力なしで使える日も来るかもしれんけどな」

 

できればその時が早く来てほしい。

 

 




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