強くて異邦蛇(ネタバレ注意) (闇谷 紅)
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強くて異邦蛇(ネタバレ注意)

おろちの娘、登場!

これは「強くて冒険者」のスピンアウト作品となります。

パソが入院中、代用パソになれない闇谷がリハビリ用に書く、「強くて冒険者」で起こりえたかもしれない展開の先、エンディング後を基にしたお話。

ただ、このお話はプロローグ(異世界出発まで)のみとなっております。

逆に言うとこれをベースにいろんな世界へ介入した分岐が作れるわけですが、うん。




「お嬢様? どこにいらっしゃるのですか、ミズチお嬢様ぁ?」

 

 どこからか、侍女のエピニアが妾を呼ぶ声がした。

 

(毎度毎度ご苦労な事じゃのぅ)

 

 おそらくは、抜け出してきたことがばれたのであろう。

 

(まったく、妾など居なくてもあやつ等が居るであろうに)

 

 妾には七人ほど下に弟妹がある。勇者シャルロットの師である盗賊の父上は母上が一度に十個近い卵を産むということを知らなかったらしいが、黙っていた母上も確信犯だったのじゃろう。

 

(竜王さまのお相手には一つ頭の妾より、四つ首のナーガか三つ頭の意地っ張りの方がよほど相応しかろうに)

 

 母上の力を引き継いではいるものの、妾は魔物の姿に変じても首が一つしかない。

 

(「その分父上の力を色濃く受け継いでいるのです」と爺やは言うがのう)

 

 妾はその父上に逢うたことがない。なんでも竜の女王、つまりは竜王様の母上様のたっての願いで一緒になったらしいのじゃが、妾が物心ついたときには影も形もなかった。

 

(侍女長のアンに聞いても要領を得ぬし、他の者は言ってることがてんでバラバラじゃし)

 

 ちなみにエピニアにだけは聞いていけないことを妾はすでに学習しておる。あの残念侍女に過去の話を持ち出すと、カナメという盗賊だか遊び人だか賢者だとか言う「お姉さま」の話に変わってしまうからだ。

 

(まぁ、その辺りは姉のウィンディも対象が違うだけで似たようなものじゃがのぅ)

 

 血のつながりでああも似てしまうというのであれば、妾も弟達も母上に似ているのではなどという恐ろしい考えに至ってしまうのじゃが。

 

(大丈夫じゃ、わらわは「せくしーぎゃる」ではない、あのような事には……)

 

 酒を召して酔っぱらった母上が、父上恋しさにか、人間の爺やを寝所に引っ張り込もうとした事件は妾達八人の中である種のトラウマとなっておる。

 

(あれ以来じゃな、爺やが金ぴかのローブで自分の姿を隠すようになったのは)

 

 魔法使いの呪文すべてを極め、大魔導と称えられた大魔法使いの爺やは、かってイシスという国の王族だったと聞く。

 

(それを疑う気はない、ないのじゃが……)

 

 あの訓練方法はどうかとつくづく思う。なんでもかつて勇者が考案し父上と勇者シャルロットによって課せられた修行らしいが。

 

(いやじゃ、はぐれめたる ぜめ は もう いや なのじゃ)

 

 はぐれメタル、倒すと膨大な成長を促すという魔物がなみなみと入ったプールに突き落とされた回数はもう両手両足の指の数を足しても足りない。

 

(と いうか、ぜったい こんな しゅぎょうじゃ なかったじゃろう じいや)

 

 考案者の勇者シャルロットが真っ先にメタルスライムでやったと聞かされてはいたが、どう考えても人間の女子がするような修行ではない。

 

(絶対誰かが修行方法を歪めたに違いない)

 

 竜族なら自分の体で押し潰した方が簡単に倒せるなどと酒へ酔った時にのたまうていたあのスノードラゴンあたりの入れ知恵ではないかと妾は睨んでいるが、あやつの仲間もはぐれメタルの件についてと問えば一応に口を閉ざす。

 

(「我らにとっての恥なれば、お嬢様にはこれ以上の追及は勘弁していただきたく」じゃったか)

 

 しつこく食い下がって聞いてみたが、聞き出せたのははぐれメタルを押し潰すことが何らかの不名誉に繋がったらしいということだけじゃった。

 

(って、いかん。話が脱線したのじゃ)

 

 さし当たっては、あの残念侍女をどう撒くかということになろう。

 

(べ、別に竜王様が嫌いというわけではないのじゃがな)

 

 弟達が竜王様の婚約者は妾をおいて他にないというのが気に入らないとか、そういう理由だけではない。

 

(あのようにぢごくの様な訓練を切り抜けながら、それを活かす機会が丸で無いというのはどういうことじゃ!)

 

 妾だって父上や勇者シャルロットのような大冒険をしてみたい。侍女達や母上に話を聞くたびに幼いころから思っておったのじゃ、いつか旅に出てみたいと。

 

(確か、かって父上がぽつりと漏らしていたと聞くが「城を抜け出すには自室の壁をけ破ればいい、それで君もお転婆姫だ」じゃったか)

 

 お転婆姫というのはよくわからぬが、今の妾の脚力であれば城の壁を蹴り抜くなど造作もない。

 

(が、怒られるじゃろうなぁ)

 

 爺やは怒ると怖い。怖くなければ、はぐれメタルプールに妾達を放り投げたりなどせぬ。

 

(ぬ? そういえば最初はプールではなく模擬戦だったような気も……)

 

 うぬぅ、はぐれメタルプールのインパクトがありすぎて、微妙に記憶にあやふやなところがあるような気がしてきた。

 

(これはいったい……って、そうではないのじゃ! 何とかして城を抜け出さねば)

 

 大魔王ゾーマは倒れ、平和になったこのアレフガルドにそんな冒険が残っているかということは無理やりわきに置いた。

 

「とにかく、こうして樹上でじっとしていても仕方ない」

 

 エピニアにはまだしばらく見つからんじゃろうが、ここは城内の庭園。外に行くには見張りの目を抜けて城壁に近づき、壁を越えるか門を抜ける必要がある。

 

「確か、冒険には備えも必要じゃったな。よし、まずはそれか」

 

 それからじゃ、と続けようとした時じゃった。急に目の前が暗くなり、浮遊感と共に意識が遠のいたのは。

 

 




ご無沙汰しております、闇谷です。

と、強くて逃亡者の面々(主に魔物のサブキャラさん達)が身の置き場を考えたらこうなるかなという未来をちょっぴり描きつつ、おろちの娘に旅立っていただくまでを書いてみました。

ちなみに、DQ4ネタが紛れてるのは、襲撃される前の勇者が育つ隠れ里に放り込もうとしていたからだったりします。(ネタバレ)

いやー、おろちとあの主人公の娘というだけでもう絶対チートですよね、うん。



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