魔弾の王と戦姫 ~凍漣の雪姫と死神~ (ジェイ・デスサイズ)
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プロローグ

初投稿です。

誤字脱字などあるかもしれませんがよろしくお願いします。後、改善点などあれば教えていただけると嬉しいです。

ではごゆっくり。


オルミュッツ公国

「父上、オルミュッツに来た理由をそろそろ教えて欲しいです」

「フフ、そろそろ分かるさ」

俺と父上は城内の中庭へ向かって歩いていた。するとキンキン、と武器がぶつかり合う音が聞こえた。

 

 

 

 

中庭に着くと青髪の俺と同じ位の女の子と父上が守っている女の人が槍の稽古をしていた。

「あら、デュオじゃない…。その子は?」

女の子が俺を見て父上に尋ねる。

「私の息子ですティス。ジェイ、自己紹介をしなさい」

父上が俺の背を押して前に出した。

「お、俺はジェイノワール=クロフォード、です」

「ジェイノワール君…ね。私はソティス、よろしくね。ミラ、貴女も自己紹介なさい」

「はい、お母様」

女の人が同い年位の女の子に声をかけ、女の子ははっきりと答えた。

「リュドミラ=ルリエよ」

よろしくね、と言いながら手を差し伸べた。

「あ、あぁ。よろしく」

俺も手を出し握手した…すべすべでとても柔らかかった。

「ジェイ、これからお前がこの方を御守りするんだ」

「え?」

 

 

 

俺が…この子を?

 

 

 

「私がお前を鍛えていたのはこれが理由だ、そしてお前が知りたかった理由でもある」

「…なるほど」

「ジェイノワール…私を守る騎士になってくれるかしら?」

「…君は良いのか?俺なんかで…」

うちの家宝『漆影』ヘルヘイム。時期に俺が受け継ぐから鎌の扱いには自信がある。ヘルヘイムも実際に使って影を操る練習もしてきたが…。

「(ムッ)私は貴方だからいいの!貴方以外なら願い下げだわ」

譲る気は無い様だ…。だが彼女の態度が少し可愛く見えた。俺は彼女の前で膝をつき、こう言った。

「分かりました。俺が貴女の振るう刃となり、貴女を守る盾となりましょう。俺の事はジェイとお呼び下さい」

「えぇ、よろしくお願いするわ。ジェイ。後、私の事はミラと言いなさい」

「あらあら、珍しい事もあるものね」

ミラのお母様が口に手を添え、目を見開いて言った。

「ジェイノワール君、ミラが愛称を家族以外で認めたの貴方が初めてなの」

「えっ?」

「お母様!余計な事を言わないで下さい!」

「あらあら。フフ♪ ジェイノワール君、これからミラをよろしくね?」

「は、はい!」

 

 

 

これが俺とリュドミラ…ミラの出会いだ。

 

 

 

「それにしても、デュオと違ってしっかりとした子じゃない♪」

「おいおい、その言い方は無いだろ。まぁ、あいつがしっかりしてる事に関しては否定しないけどな」

「あの子なら、ミラを任せられるわ」

「ジェイは自分の為より誰かの為に力を発揮するからな。安心して良いと思うぜ?」

デュオはジェイ達を見ながら言う。

「えぇ、そうさせてもらうわ」

ソティスもミラ達見ながら言った。




いかがだったでしょうか?この小説、友人に見せたら好評だったので投稿してみました。
後、自分はアニメ全話・原作2巻までしか見てません…

感想・ご意見などあればお待ちしております。


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設定

今回はこの作品に登場するオリジナルキャラの説明です。
イメージ絵を出来たら良いのですが…すみません


ジェイノワール・クロフォード

17歳

愛称「ジェイ」

リュドミラ=ルリエのオルミュッツ公国のすぐ側の国、ハーネス領主。

愛鎌ヘルヘイムを操る。

「死神(デスサイズ)」の異名を持つ。鎌ヘルヘイムも竜具であり、戦姫と同等の力を持つ。

『戦姫を守る戦騎』。クロフォード家は代々ルリエ家を補佐し、守り続けてきた。クロフォード家の秘密を知る者はルリエ家のみ。クロフォード家は男でありながら竜具を所有し扱える唯一の一族である。

冷静で落ち着いた性格。言葉の挑発や誘導、駆け引き、嘘、嘘を見抜く力はミラが認めるほど。意外と負けず嫌いな一面があり、よく父、デュオサイズ=クロフォードとゲームをしている。

ミラとは恋人でミラには少し甘い所もしばしば。

 

 

 

 

『漆影』ヘルヘイム。「破滅の死鎌」の異名を持つ鎌。影を操る力を持ち、影を操り人を動かす事が出来る。

「汝らは我の操り人形だ『ヘル・ゼロ・コントロール』影を操り、敵を自分の意のままに操る事が出来る技。

「漆黒の守護者よ『シャドウ・パラディン』影で大人と同じ位の大きさの人形を作り自分達の防御を固める技。

「漆黒の世界へようこそ『シャドウ・ヘイム』相手を影の中に引き摺り込む技。これを使った自分が影に入り攻撃を回避したり、影の中に入り影の中を移動する事も出来る。

「宣告:死による世界『デス・バイ・ヘル・ビルク』」自分を中心に漆黒の丸い結界を張る技。この結界に触れるものは虚無に帰す、簡単に言うと消される。最大範囲は直径100アルシン。限界まで広げると激しく体力を消耗し、連発は不可。

 

プロミネンス=クロフォード

15歳

愛称「プローネ」

ジェイの妹でハーネスの姫。クロフォード家の人間は鎌の扱いが上手いが、プローネは刀の方が上手い。

ジェイの事を「兄様」、ミラの事を「ミラ姉様」と呼ぶ。

「紅蓮の剣舞姫(ブレイドダンサー)」の異名を持つ。

『桜華』6本、『炎月華』1本をいつも背中に装備している。基本スタイルは左右の手に『桜華』を3本ずつ持ち戦う。本気を出すと『炎月華』を使う、『炎月華』を抜くと自分が紅蓮の炎に包まれ、纏っている感じになる。『炎月華』を使っている状態になると6本の『桜華』を自由に操る事が出来る。

ジェイと同じで冷静な性格、言葉使いが男性っぽいが礼儀作法はしっかり身に付けている。

 

 

 

『月華乱舞』 『桜華』又は『炎月華』を両手で持ち精神を集中、そして研ぎ澄まされた斬撃を放つ技。放つと氣の花びらが舞う。斬撃の数は3〜6。

『月華刃』 その日の月の形によって、斬撃の形が変化する技。

『百華繚乱』 『月華乱舞』を強化した技。刀を両手で持ち『月華乱舞』と同じ様に斬撃を放つ。全範囲技で、味方が近くにいる時には向かない技。斬撃の数は不明。




プローネは閃乱カグラの焔をベースにしております。

また何かありましたら感想の方へお願いします。


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第1話 死神と雪姫のティータイム

流石に原稿があっても毎日更新は結構無茶でした…ね、眠い…




4年後、ハーネス

ジェイノワール=クロフォード。15歳、ハーネス領主

 

「ふぅ…予想はしてたが大変だな。国を任されるってのは」

 

俺は窓から自分の国を眺めながら呟いた。

 

 

 

 

ハーネス

 

 

 

ジスタートのオルミュッツ公国の近くに位置する国である。食品系が豊かで生産量はジスタートの40%を占めている、故にハーネス産の物はジスタートで人気が高い。

国旗は漆黒の鎌に黒いヘビが描かれている。そのせいなのか、ハーネスではヘビを老若男女問わず好かれ飼っている。ちなみに俺も黒ヘビを飼っている。

そして、他国は知らないがオルミュッツとハーネスは永久同盟を結んでいる。

 

「(まぁ、『戦騎』は知られてはいけない存在。仕方ないと思うけどね)」

 

そう、『戦騎』は秘密裏に『戦姫』を守るため他国…ましてやブリューヌに情報が入ったら更に『戦姫』や国に危険が及ぶ。そのため『戦騎』は竜具第1所有者を守り死んだ…と歴史書には書かれている…。まぁ『戦騎』の事も載っている歴史書はごくわずかしかない。その載っている歴史書はハーネスとオルミュッツで厳重に保管されている。

 

 

 

 

 

 

 

「(さてさて、これからどうなることやら…)」

 

「クロフォード様!」

 

名を呼ばれ振り返るとハーネスの小隊長がいた。

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「いえ、リュドミラ=ルリエ様がお見えになりました」

 

「そうか♪ここへ案内してくれ」

 

「了解です!」

 

はっきりと返事をし、小隊長は部屋を出た。少しするとリュドミラ…ミラがやってきた。

 

「相変わらず賑やかね、ハーネスは」

 

「褒め言葉として受け取っていいのかな?」

 

「もちろんよ、当たり前でしょ?」

 

「そうか。ありがとう、ミラ」

俺はそう言いながらミラをソファへすすめた。

 

「今、お茶を淹れるかr-」

 

「その必要は無いわ」

 

俺の言葉を遮りミラが言った。そして腰に付けていた2本の水晶のビンを持ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が淹れるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言った。

 

「いやいや。客に茶を淹れさせるなんt-」

 

「私が良いと言ってるの。それとも私の茶ではご不満かしら?」

 

「ぜひ、飲ませて頂きます」

 

「よろしい」

 

そう言うとミラは紅茶(チャイ)を淹れ始めた。ミラが紅茶を淹れる所を何度も見てきたが、その仕草はとても絵になる。紅茶を淹れているミラ見ていると、視線を感じたのかミラは動きを止めた。

 

「何よジェイ、ジッと見て。私に何か付いてるの?」

 

「いや、何もないし何でもないよ」

 

そう、と言うとミラはコップに乾燥した黒い種のようなものを入れた。そして沸いた湯を注ぎ、ビンからジャムをすくうと、赤い湯の中に入れて溶かした。

 

「どうぞ、ジェイ。ジャムの量は貴方好みにしておいたわ」

 

「ありがと、ミラ」

 

俺はミラからオシャレなコップをもらい紅茶を飲もうとしたら1匹の黒いヘビが足元に来た。

 

「ん、ヨミか」

 

俺の飼っている黒いヘビ。漆黒の鱗に額のところに三日月の模様を持つ珍しいヘビだ。紅茶の匂いにつられたかな?

 

「あら、ヨミじゃない。相変わらず綺麗な鱗ね」

 

しゃがみ、ヨミの鱗を見ながらミラは言う。するとヨミは俺の足元からミラの方へ向かった。ミラはヨミの前に手を伸ばすと、ヨミはミラの腕に巻き付きながら首の所まで行った。

 

「こら、ヨミ…もう」

 

そう言いながらもミラは嬉しそうな顔をしていた。

今のミラの状態は右肩辺りにヨミの頭があり、左肩辺りに尻尾がある。ヨミがミラに良く懐いているということが一目で分かる。ヨミがこういう行動をとるのは俺とミラとプローネだけだ。

 

「ヨミにこうされると思うのだけど…何故戦場にまでヨミを連れて行くの?」

 

「いや、ヨミがいつも腕にくっ付いてくるから」

 

 

 

そう。ヨミはいつも俺の左腕にくっ付いている(正確には巻き付いている、か)。2年前、ヨミのおかげで助かった事もあった。

 

 

 

「本当にジェイが好きなのね、ヨミは」

 

そう言いながら肩にいるヨミの頭を撫でる。俺はそんなミラを見ながら紅茶を飲んだ。

 

「ミラ。それで今日、ハーネスに来た理由は?」

 

「...少しやりたい事があってね」

 

ミラは俺の反対側のソファに座りながら言う。

 

「やりたい事?」

 

「えぇ…。ジェイ、私と戦ってほしいの」

 

 

 

「…は?」

 

 

 

 

 

 

俺が…ミラと?




できるだけ更新できるように頑張っていこうと思います~
ミラ:原稿は結構進んでるでしょう?
色々忙しいのです…
ジェイ:ま、頑張ってな


では皆様、感想等お待ちしております。


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第2話 死神VS凍漣の雪姫 (模擬戦)

これから更新するのは金曜~土曜になりそうです。
ひ、疲労が…


ま、それじゃどうぞ!


「戦う、と言っても模擬戦よ?」

「だ、だよなぁ」

「ジェイは多分女性と戦った事ないでしょ?だから私と戦って慣れてもらおうって訳」

ミラと模擬戦か…確かに女性とは戦った経験は母上とプローネ以外は無いな。だが…

「その為だけにわざわざハーネスに来たのか?」

「ほ、他にもやる事があるのよ!」

「っ!」

急にミラの声が大きくなった。

「あ。ごめんなさい…」

ミラがしゅんとなり、謝った。

「大丈夫だ、気にするな」

そう言いながら続けて紅茶を飲む。そして飲み終え、俺は

「さて。じゃあミラ、始めようか」

と言った。

 

 

 

 

 

 

 

裏庭

「手加減しないわよ、ジェイ」

ミラは『破邪の穿角』の異名を持つ『凍漣』ラヴィアスを構えながら言う。

「俺は手加減してしまうかもな」

俺は『破滅の死鎌』の異名を持つ『漆影』ヘルヘイムを肩に担ぎながら言った。

「なっ///そ、そんな事したら氷漬けにするわよっ!?」

「分かってるって」

「それでは両者、準備はよろしいですか?」

「「あぁ(えぇ)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは…始め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開始の合図と共にミラは距離を一気に縮めてきた。先手必勝ってことか。俺もミラ同様に距離を縮めた。そしてお互いの武器がぶつかり合う。ミラは武器を構え直し2撃、3撃と繰り出した、俺はその連撃を受け流し鎌を振り落した。

俺の攻撃を予測していたのか、俺から見て左にヒラリとかわされた。かわしたミラは俺の後頭部を狙い回し蹴りを繰り出した。ミラの回し蹴りを左腕で防御し反撃しようとしたが、ミラはすぐにバックジャンプし距離を取った。

「痛…、回し蹴りときたか。ヨミが居なくて助かった」

「ヨミが居ないからやったのよ」

ちなみにヨミは今、近くの木の下で寝ている。

「ジェイ、本気を出しなさい。じゃないと本当に氷漬けにするわよ」

「…ばれたか。分かった、じゃあ…いくぜぇ!」

俺はミラとの距離をすぐに縮め、ヘルヘイムを垂直に振った。かわされたが俺は直ぐに縦、斜め、垂直、下から攻撃を繰り返した。

ミラは防御に徹している。それから数分したときミラが一瞬隙をみせた。

「そこだぁ!」

「っ!」

俺はミラを押し倒し、ヘルヘイムの刃をミラの首すれすれで止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一本、勝者。クロフォード様!」

わぁ、と試合を観ていた兵士達が歓声をあげた。

「ふぅ」

「やっぱり強いわね、ジェイは」

ミラは少し微笑みながら言った。

「ありがとう、ミラ」

「それはそうと…いつまで触ってるつもりかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視線をミラから下にずらしていくと、ミラを押し倒す為に使った左手がミラの肩ではなく…ミラのむ、胸にあった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうりで肩にしては柔らかいと思った!?

「うわぁ///!?」

俺はすぐにミラから離れた。

「ご、ごめんミラ!」

俺はすぐに頭を下げた。ミラは立ち上がり、俺に背を向け

「…先に部屋に戻ってるわ」

と言って公宮の中へ行ってしまった。俺は兵達を仕事に戻し、ヨミの寝ている木の下に腰を下ろした。

「ヤバい…完っ全に怒らせてしまった」

俺は寝ているヨミの頭を撫でながらどうやってミラに許してもらおうか考えていた。




今回はジェイとミラの戦闘でした。
まぁすぐに戦闘は終わってしまいましたが…


ご意見やご感想をお待ちしております。


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第3話 雪姫の想い…死神の答え

連続投稿で~す、テンション可笑しくなってきました~

それではどうぞ~


ミラside

ジェイとの模擬戦を終えた私は部屋に戻りベッドへ倒れた。

「っ///」

ジェイにされた事を思い出しミラは赤面した。恐らく兵達はジェイが私の胸を触った事は気づいていないはず。

「確かに一瞬隙を見せてしまった私の落ち度だわ…でも///」

私はマクラに顔を埋めた。

「あの反応はわざと触ったわけじゃなさそうね。ジェイの眼、本気だったし」

いや、眼を見なくても動きで分かっていた。約4年間ジェイの戦いを見ていた私には分かる。

「…ふぅ」

私はやっと冷静さを取り戻した。取り敢えずやりたい事の1つ目は…まぁ事故があったもののできた。もう1つは―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェイに告白…か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、私がもう1つやりたい事はジェイへの告白。私はジェイを初めは自分を守ってくれる人と思って…いえ、違うわ。私は初めからジェイが好き。だから私はジェイにあんな事を言ったんだと思う。

『(ムッ)私は貴方だからいいの!貴方以外なら願い下げだわ』

思い返すと顔から火が出そうだった。初対面の男の子に告白に近い事を言えたものだ。

「ジェイ…私の思いに答えてくれるかしら」

私はジェイの事を思いながら眼を閉じた。

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェイside

俺は今、部屋の扉の前で立ち止まっている。ミラにどう謝るかずっと考えていた。

「…ダメだ。何も思いつかない」

念のため、ミラの紅茶に合うお菓子を持ってきたが…

「大人しく罰を受けよう…。ミラ、入るぞ」

俺は覚悟を決めて部屋に入った。だが、ミラの姿は無かった。

「ミラ?…あ、ヨミ」

俺はお菓子をテーブルに置き、ミラを探そうとしたらヨミが左腕から降り、俺の寝室へ行った。ヨミについていくと俺のベッドでマクラを抱きしめながら眠っているミラがいた。疲れて眠ってしまったのか?

俺はミラを起こそうと近づいた、するとミラが何か寝言を言っていた。

「ジェイ…私を置いて…逝かないで…私を…1人に…しないで」

「ミラ…」

恐らく俺が死んだ夢を見ているいるのだろう。俺はミラの涙を拭い、抱き締めた。

「君を1人にしない。俺は君の『騎士』…いや、『死神』だ。『死神』が死んだらカッコ悪いしな」

1人にしないで…。まだ14歳の少女が言う言葉ではないと思う。だが、なぜ言ったのかは心当たりがある。約半年前にミラのお母様…『ソティス=ルリエ』が亡くなったからだ。ただの風邪だったはずが肺炎をこじらせ、数日寝込み亡くなったと聞いた。ミラが戦姫になったのは約半年前なのだ。本当は泣きたかっただろうに、その時間すらも与えられなかったと思う。

「俺はずっと君の側にいる。何があろうとも君を守る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その言葉、信じてるから」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抱き締めていたミラを見ると両眼でしっかりと俺を捉えていた。

「ミ、ミラ///!?起きてたのか!?」

「こんなに強く抱き締められたら流石に起きるわよ」

「ご、ごめん!今―」

離れる、と言いながらミラから離れようとしたらミラから抱き締めてきた。

「ミ、ミr「好き」…え?」

俺は耳を疑った、好き?思考が一瞬停止し、意味が分からずミラに聞き返した。

「な、何が?」

「貴方がに決まってるでしょ、バカ///」

ミラは恥ずかしいのか、俺の胸に顔を埋める。

「…返事」

「え?」

「返事よ返事!…ふぅ。ジェイ、貴方の答えを聞かせて」

ミラは真剣な眼差しで俺の眼を見る。俺はミラを更に強く抱き締めた。

「俺もミラが好きだ」

「え///ほ、本当?」

「本当、ミラに嘘はつかない…ってか、ここで嘘言う意味無いだろ?」

俺はそう言いながらミラの頭を撫でた。

「ん///浮気したら許さないから」

「するわけ無いだろ?安心しろって…これが証拠」

「んん///」

俺はミラにキスをした。初めは驚いていたが、のちに受け入れてくれて俺の首に腕をまわしてきた。唇を離すと俺とミラの間に銀の橋がかかった。ミラは顔を赤くし、目はトロンとしていた。

「信じてくれた?」

「えぇ///信じるわ…私の、私だけの『死神』。ずっと私の側にいなさい」

「もちろん、愛しの『雪姫』様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、『死神』と『雪姫』は恋人となった。




ミラ:やっと原作の方へ入れそうになったわね
ジェイ:そうだな。にしてもこの時のミラ、可愛かったなぁ~♪
ミラ:そ、そういうのやめなさい///!?
ジェイ:フフ、ごめんミラ
仲がよろしいことで
次回は更に飛んで、原作と同じミラが16歳のお話です。

ご意見やご感想お待ちしております。


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第4話 死神の力・・・死神の誓い

友達に「小説短か!」と苦情(煽り?)がきたのでいつもより多めにしました。

それでは、どうぞ


2年後

「(コンコンコン)失礼致します。クロフォード様、盗賊団のアジトが分かりました!」

「分かった。兵達に連絡を、準備が出来次第出るぞ」

「了解しました!失礼致しました」

そう言うと部屋を出て、連絡をしに行った。俺も出る準備を始めた。俺の格好は一言で言うと黒だ。何から何まで黒で統一している。ちなみに余談だが、俺の部屋も黒が多い。俺は準備を終え、部屋を出ようとするといつもの如くヨミが左腕に巻き付いてくる。

「行くぞヨミ。俺の国を荒らしたらどうなるか…教えに行くぞ。ま、死ななければ…だがな」

シャー、とヨミは鳴いた。

 

 

 

 

 

「ヴォージュ山脈にこんな所があったのか…」

「はい、そしてここから10ベルタス行った所にアジトが」

「分かった。このまま進軍、奇襲をかけるぞ」

そして我がハーネス軍の奇襲が成功。盗賊団との戦闘が始まった。相手は地形を利用すること無く、ただ突っ込んで来るだけだった。

「(所詮盗賊か…)あらかた片付いたら軍を下げ、ハーネスへ戻れ」

「このまま押し切れば我が軍の勝利では?」

「俺が出る」

「っ!分かりました」

盗賊の数が半分以下になった所でハーネスは軍を引いた。盗賊は一目散に逃げ出した…けどな。

「この俺が、狙った獲物を逃がすと思ってんのか?」

俺は盗賊団が逃げようとしていた道に先回りした。

「「漆黒の世界へようこそ『シャドウ・ヘイム』」…まぁ、お前らには到底理解できない力さ」

俺は愛鎌・ヘルヘイムを肩に担ぎ、盗賊達へ近づきながら言う。

「た、たった1人で何が出来るんだ!」

「巫山戯た仮面しやがって!」

「心外だなぁ。これお気に入りの仮面なのに」

「うるせぇ!死ねぇ!」

盗賊残党が纏まって俺に斬りかかってきたが後数チェートの所で止まった。

「な。か、身体が…動かねぇ!」

「くそっ、どうなってんだ!」

パニックになっている盗賊達を見て、俺は笑ってしまった。

「フフフ。「汝らは我の操り人形だ『ヘル・ゼロ・コントロール』」…さぁ、自分の仲間達と殺り合うがいい」

そう言いながら左腕を前に出す。すると、斬りかかってきた盗賊達は回れ右をし、他の盗賊に斬りかかった。

「な、身体が勝手に!?」

「ち、ちくしょう!?」

俺が操っている盗賊が数を減らしていった。

「…(こんな姿、ミラに見せられないな)さぁ…終わりにしよう「宣告:死による世界『デス・バイ・ヘル・ビルク』」

俺がそう言うと、俺を中心に半径50アルシン、直径100アルシン…すなわち俺が広げられる限界範囲が全て消え、丸いクレーターが出来上がった。体力をほとんど使った俺は呼吸を整えながら盗賊残党が残っていないか確認し、呼吸が整った俺は影に入り、先に撤退させていた軍を追いかけた。

少しして軍の先頭に追い付き、影の中から出た。

「おわっ!?ク、クロフォード様、脅かさないで下さい」

「おや、これはすまない…こちらの被害は?」

「戦死者はいません、怪我人がいる程度です。クロフォード様の『シャドウ・パラディン』のおかげです」

「そうか…良かった」

今回の戦で我が軍は怪我人が出ただけですんだ。

「(そういえば、来週戦が始まるとかミラが言っていたな…まぁハーネスには何も来てないから関係ないがな)」

戦の鍵は国境の川が原因だとか。

「…ふぅ。早くハーネスへ帰るぞ」

「はっ!」

それからしばらくしてハーネスへ着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、クロフォード様。リュドミラ=ルリエ様がお部屋にてお待ちしております」

「分かった。クロード、後を任せる」

「分かりました」

俺は馬を公宮へ走らせ、一足先に戻った。厩舎に入るとミラの愛馬が繋がれていた。俺は馬を繋ぎ、自室へ向かった。

自室に着き、俺は部屋の扉をを開け中に入った。執事のクロードの言っていた通りミラがいた。ミラは何故か俺のイスに座っており、ハーネスの今月の収穫量等が記されている資料を見ていた。

「ミラ、資料を見るのは良いが。何故俺のイスに座っている?」

「ソファは気持ちいいけど、ジェイのイスの方が落ち着くのよ。良いでしょ?」

「まぁ、良いけど。愛しの雪姫様」

「分かればいいのよ、私の死神様」

そう言うと、お互いに顔を見て笑った。

「そうだ、来週だったか?ジスタートとブリューヌの戦は」

「えぇ、そうよ。場所はディナントよ」

「ディナント…ハーネスからだと遠いな」

俺は頭の中で地図を開き、ディナントの場所を思い出し言った。

「確かにハーネスからだと遠いけど、ハーネスには関係無いでしょ?」

「まぁな…そうだ、ジスタートは誰が指揮を取るんだ?」

と聞くと、ミラの顔が一瞬で不機嫌な時の顔になった。

「…ライトメリッツ公国公主、エレオノーラ=ヴィルターリアよ」

「エレオノーラ=ヴィルターリア…『降魔の斬輝』アリファールの主か」

「そうよ。このジスタートを守る戦姫としての見識も、知性も、品格も、露ほども無い粗野と粗暴が人の皮を被ったような女よ」

「…」

一体どんな女だ、と言いたくなったが、言ったら更にミラ機嫌が悪くなりそうだから言うのを止めた。

「ったく。そんなイライラするな、ミラ。折角の可愛い顔が台無しだぜ?」

俺はミラの後ろに立ち、優しく抱き締めた。

「ちょ、ジェイ///「シャー」ヨミまで…」

抱き締める前に左腕から離れていたヨミがミラの膝の上まで行き、とぐろを巻きミラを見つめている。俺はミラの肩に頭を乗せた。

「ほら、ヨミもミラにそんな顔似合わないってさ」

「もう…分かったわよ。分かったから離して」

「嫌じゃないだろ?それに俺、討伐から帰って来たばかりで疲れてるからミラ分を補給しないと」

「まったく…仕方ない死神ね///」

「ありがとう、ミラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくしてディナントの戦いの結果が俺の元へ届いた。

「ま、予想通りジスタートの勝ちか」

自室でクロードから渡された報告書を読みながら言った。

「早く終わったとは聞いていたが…ここまで酷かったとは」

「そんなに酷いものだったのですか?」

「あぁ、別の意味でな。ジスタートは五千、ブリューヌは五倍の二万五千。普通はかなり厳しい戦いになると普通は思うだろ?それが夜明けの奇襲しただけですでにチェック。そしてチェックメイトした時には王子の戦死までついてきた」

「お言葉ですが、早く終わって良かったのでは?」

「ま、確かにな…」

俺の場合、ミラとオルミュッツ、ハーネスが無事ならそれで良いしな。

「(後気になるのはテナルディエとガヌロンという貴族位か)…ブリューヌの内乱、か」

ま、関係無い…と思いたいな。ガヌロンはともかく、テナルディエ家とルリエ家の交流は80年続いているとミラから聞いた。テナルディエはミラの中では嫌いの分類の人間だが、80年の交流を断ち切るわけにもいかない。やっぱり俺よりミラの方が辛いよな…。

「…下がって良いぞ」

「分かりました。では」

クロードはお辞儀をして部屋を出た。

「…ふぅ」

俺はイスにもたれ、窓から夕日の空を眺めた。

「(誰が相手だろうがミラを、国を守ってみせる)




そろそろ夏休みに入るので、頑張って投稿しようと思いますので、応援よろしくお願いします。


ご意見、ご感想ありましたらどうぞ


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第5話 死神、王都シレジアへ

明日から夏休みだぁ~!!
ということでまた眠い想いをしながら書きました。

次は3,000字いくかな?
ごゆっくりどうぞ


それからひと月と半月が過ぎた。俺はミラに呼ばれ百の兵と共にオルミュッツに訪れた。

「お待ちしておりました、クロフォード様。公主様が自室にてお待ちしております」

「分かった、すぐに行く…俺が戻るまで自由にしていいぞ」

おぉ、と兵達は喜びの声を上げると、皆街へ向かって行った。俺は兵達を見送った後、ミラの部屋へ向かった部屋の前に来ると紅茶のいい香りがした。

「(コンコンコン)ミラ、来たぜ」

どうぞ、と許可を得てミラの部屋に入った。ミラは報告書を読みながら優雅に紅茶を飲んでいた。ミラは俺が入って来たのを確認し報告書とコップを机に置き、スタスタと俺の前まで歩いてきて俺に抱き付いてきた。

「っと。ミラ…どうした?」

抱き付いてきたミラの頭を優しく撫でる。

「ん…。ちょっと疲れたの、良いでしょ?」

と、言いながら上目遣いをしてくる…。可愛いなチクショウ///流石の死神もこれには勝てない。

「あぁ、良いぜ…俺も嬉しいしな」

「ありがとう、ジェイ」

せめて2人っきりの時くらいは普通の女の子でいてほしいな、そう思いながらミラの頭を撫で続けた。ヨミは左腕に巻き付こうとしたが俺が抱き締めている為無理と理解し、かわりに床に降りミラの右足に巻き付いた。それから数分抱き付いていたミラは満足したのか腕を解き離れ…ず、解いた腕を俺の首にまわしキスをしてきた。

「ミ、ミラ…んっ」

「喋らないの…ん」

ミラは俺を喋らすまいとしているのか、塞がれてしまう。

「ん…あむ……んん、ちゅ、れろ……んむ…ちゅ…」

ミラから甘い吐息が聞こえてくる。長く蕩けてしまいそうな口付けが終わりミラの唇が離れた。

「ぷはぁ…フフ」

「ミ、ミラ?///」

ミラは満足した顔をし、俺から3歩離れこちらを向き

「いつもやられてばかりだからちょっとした仕返しよ///」

頬を赤らめ片眼を閉じ、軽く舌を出し言った。

「ったく///こりゃ完全にやられたな…」

「フフ、可愛かったわよ?照れてる死神♪」

「あぁもう。それで、俺をわざわざ呼んだ理由は?」

「私個人としては貴方とお茶をしながら国の事や他の事を話したいのだけれど―――ってそんなあからさまに残念そうな顔しないでよ…私だって残念なんだから。呼んだ理由は私とシレジア行ってほしいの」

「シレジアに?」

シレジアとはジスタートの王都の名で、王国のほぼ中央にある。

「何故行くんだ?パーティーの招待状でも届いたのか」

「そんな訳ないでしょ。エレオノーラが王の許しもなくブリューヌの領地に軍を動かしたのよ」

「…おいおい、そりゃまずくないか?」

「えぇ、そうよ。エレオノーラが何故動かしたのか…それを確認するわ」

「なるほどな、分かった」

「ありがとう、ジェイ。では明日行きましょう」

「分かったぜ、ミラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都シレジア

一国の王都らしく華やかさに満ち、日が沈んでも喧騒は絶えず、中央の通り明かりが消えることはない。

「相変わらず賑やかだな、ここは」

「あら、ハーネスも似たようなものでしょ?」

フフ、と笑いながらミラが言う。

「ここまでじゃないさ」

俺は周りの光景を横目に馬を進める。今の俺達の格好は旅人のような感じだ。ラヴィアスは布を巻いて腰に差している。それが不満なのか時々凍気を放ち布を膨らませていた。ヘルヘイムは俺の影の中にある。こういう所が便利だなと思う。王宮に着くと、名のるまでもなく兵士達は構えを解いて、うやうやしく一礼した。

「リュドミラ=ルリエ様、ジェイノワール=クロフォード様。念のために竜具を改めさせていただいてもよろしいでしょうか」

「リュドミラ様はともかく、よく俺が分かったな」

「だから王宮の門番を続けていられます」

俺は感心しながら影からヘルヘイムを出した。ミラもラヴィアスに巻いていた布を外した。

「他に戦姫はいるのかしら?」

「ソフィーヤ=オベルタス様がいらしております。

ソフィーヤ=オベルタス…『光華の耀姫(ブレスヴェート)』の異名を持つポリーシャ公国公主。竜具は確か…「操光の錫杖(ザート)」だったか。

「そう。分かったわ」

ミラはそう言いながら中に入って行った。俺も後に続く。

「よくミラの話に出てくる人がいるんだな」

「あら、ジェイはまだ会ったことなかったかしら?」

「俺の記憶が正しければ会ったことないな」

「まぁ大丈夫よ。すぐ打ち解けるわ」

「なら良いけどな」

王都に入って数刻。エレオノーラ=ヴィルターリアが来た。

「あれが『銀閃の風姫(シルヴフラウ)』…エレオノーラ=ヴィルターリア、か」

ミラ以外の戦姫を初めて見た(ミラのお母様を除き)。話では皆美しい女性と聞いていたが…まぁ、本当らしいな。

「…ジェイ、何を考えてるのかしら?」

「っ!?」

俺は視線をすぐに外しミラを見る。するとあからさまに不機嫌そうな顔をしたミラがいた。

「ミ、ミラ?」

「まさかと思うけど、エレオノーラの事を考えていたのかしら?」

「ち、違う!ミラ以外の戦姫を初めて見たから…どんな人なのかな、と」

「ふぅ~ん」

ジト目で俺を睨むミラ。

「俺にはミラしかいないのは知ってるだろ?」

俺は優しく抱き締める。

「ん///そうよ。貴方は私のなんだから」

「分かってるって…さて、風姫の話を聞きに行こうぜ」

「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん。戦姫が敵国の貴族に雇われた…ねぇ」

「…(スタスタ)」

「あ、おい!ミラ」

ミラは謁見の間を出て少し離れた所にいる女性へ向かって歩き始めた。あれは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エレオノーラ=ヴィルターリア」




いやぁ、夜だとテンション可笑しくなりますねW
もう限界ですW

ご意見やご感想お待ちしております~


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第6話 死神・雪姫・風姫・耀姫

夏休み初投稿です~休みを利用して頑張っていこうと思います~


それではごゆっくり~


エレオノーラの姿を確認した俺は、少し離れて様子を見る事にした。………いきなり嫌な雰囲気だな。エレオノーラが慣れ慣れしい仕草でミラの頭に手を置く。そして頭を撫でる手を静かに、優雅な手つきで払う。………おいおい、武器に手をつけたぞ。そろそろ止めるか…。そう想いミラ達に近づく、すると

「えい」

と、突然かわいらしい声が響いてミラとエレオノーラの頭を順に硬いものが叩いた。

「何を…」

エレオノーラは怒りの眼差しを声の主に向け、言葉の続きを飲み込んだ。ソフィーヤ=オベルタスがやわらかい微笑を湛えて、ミラとエレオノーラを見ている。

「もう。喧嘩はダメでしょ、2人とも」

彼女の笑顔も、言葉も、他愛のない悪戯をした子供を叱るふうで、迫力などはまるで感じられない。だがミラとエレオノーラは口をつぐみ、それぞれ気まずい表情で距離をとった。

「まったく…どうしてあなた達は顔を合わせると喧嘩しかしないのかしら」

「「この女が」」

反射的にミラとエレオノーラは異口同音に答えて相手を指差す。また睨み合いが始まったので、そろそろ俺も止めに入った。

「ミ…リュドミラ様、あまりお熱くならないで下さい」

「ジェイ…えぇ、そうね」

「っ!?(ミラが素直に言う事を聞いた?…もしかしてミラが話していた方かしら)」

ソフィーヤは少し驚いた顔をした。

「お前は何者だ?」

「…私はh「ジェイ、答えなくていいわよ」」

俺は自己紹介をしようとしたらミラに遮られた…本当に仲が悪いんだな。

「リュドミラ、私はこいつと話をしている、横から口を出すな」

「あら、相手に聞く前にまず自分が名乗るのは礼儀よ。それもしないあなたにジェイが答える必要はないわ」

「…リュドミラ様。戦姫様に比べれば私は下位貴族、名乗るのは私が先かと」

「…ジェイがそう言うなら良いわ」

と、言ってミラは俺の横に移る。

「では改めて。私はハーネス領主、ジェイノワール=クロフォード。以後お見知りおきを」

「おぉ、あのハーネスか。ライトメリッツでもハーネス産のものは人気だぞ」

「フフ。ありがとうございます」

俺は丁寧にお辞儀する。

「ところでエレン。どうしてここにいるの?あなたはもう王宮を出たものとばかり思っていたのだけど」

ソフィーヤに訊かれ、エレオノーラは一瞬口ごもったものの、素直に礼を述べた。

「ありがとう、ソフィー。おまえが口添えをしてくれて助かった。大人しく降参するつもりは毛頭なかったが、あのままでは長引いただろうからな」

「長引くとぼろが出てしまうものね。あなたは」

「ぼろ、程度で済むわけがないわ。戦姫全員の尊厳が失われるような言動をしてもおかしくないわね」

苦笑するソフィーヤにミラが冷めた口調で鼻を鳴らす。エレオノーラは苛立ちをまぎらわすかのようにドレスに縫いつけられた真珠をいじりながら不機嫌そうにミラへ吐き捨てた。

「私はソフィーと話がある。おまえはさっさと去れ」

「お互いのためにも、そうした方がいいでしょうね。でも、その前に聞いておきたいことがあるわ」

腕を組み、真剣な表情になってミラはエレオノーラを見据える。

「―ヴォルン伯爵、といったかしら。どこの田舎貴族か知らないけど、あなたはその人と組んで、ブリューヌの内乱に介入するということ?」

「だったらどうしたというんだ。お前には関係ないだろう」

「ぽっと出の戦姫であるあなたにつきあわされるなんて、かわいそうな人ね。行くわよ、ジェイ」

哀れむような笑みを浮かべて言い捨てると、ミラはエレオノーラ達に背を向ける。

「ねぇ、ミラ」

ソフィーヤがミラを呼び止める。

「何かしら、ソフィー」

「エレンとの話が終わったら、クロフォードさんともお話がしたいのだけど。良いかしら?」

…俺と?

ミラは俺を数秒見て

「ジェイが良いなら、良いわよ?」

と言う。自然に俺に視線が注がれる。

「いいですよ、私などでよろしかったら」

そう言うとミラは王宮の廊下を静かに歩き始める。俺は2人に頭を下げた後、ミラの後ろを歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めて見たが、本当に仲が悪いんだな。ミラ」

王宮の庭にある噴水のベンチに座り、ミラに言う。

「うるさいわね」

そう言いながら先ほど厨房で作ってもらった果物水(クヴァース)の入ったグラスに口をつける。

「ミラ。あのソフィーヤ=オベルタスという人は信用できるのか?」

「えぇ、もちろん。ソフィーは信頼できるわ」

そう言いながら、また厨房でもらっていたとり肉をヨミにあげる。ヨミは素直に受け取り食べる。ミラはもう趣味ではないかというくらいヨミにエサをあげるのが好きだ。

「そっか…でも万が一敵にまわしたら、ヤバイな…」

「まわさないように努力しなさい」

「そうだな…」

そう言い俺も果物水を飲む。それから少ししてソフィーヤ様がやってきた。

「お待たせしてごめんなさい。クロフォードさん、ミラ」

「大丈夫よソフィー。それよりジェイに話があるのよね?私はいない方がいいかしら?」

「ミラもいて大丈夫よ。むしろいてくれると嬉しいわ」

「そう分かったわ」

そしてソフィーヤ様は俺の前まで来て、こう言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はいったい、何者なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソフィーヤ様は眼は真剣なものだった。

「ソ、ソフィー?」

「貴方の国、ハーネスは素晴らしいわ。でも私の知る限りミラはその程度の理由では動かないわ。けれどミラは動き、今も貴方といる。それにさっきミラとエレンの喧嘩を止めた時、ミラを愛称で呼びそうになったでしょ?」

「…っ(バレた!?クソ、俺が初歩的なミスをするとは)」

「ミラが愛称を許すのは親しい者だけ。ミラが愛称を許した相手がただの貴族とは考えにくい…違うかしら?」

フフ、と笑うソフィーヤ様。俺はちらっとミラを見る。ミラは「言っても大丈夫よ」と言わんばかりに俺の眼を見る。

「素晴らしい推理です、ソフィーヤ=オベルタス様。貴女様の推理は…悔しいですが正解でございます」

そう言いながら影にあるヘルヘイムを使い、周囲に俺達以外人がいないことを確認し、影からヘルヘイムを取り出した。ソフィーヤ様はまぁ、と言いながら口に手を添える。

「ソフィー、これから話す事は―」

「分かってるわ、ミラ。誰にも言わないわ」

「ではわた…俺はジェイノワール=クロフォード、ハーネス領主。そして戦姫を守る『戦騎』です」

「『戦騎』?」

「『戦騎』とは、戦姫を守る為に戦姫がこの世に誕生した後に誕生したのです」

「なるほど…じゃあその鎌も?」

「こいつは『漆影』ヘルヘイム。隠された竜具です」

「『破滅の死鎌』とも言われているわ」

俺はヘルヘイムを肩に担ぎ説明する。

「何故ミラが貴方に懐いてるか分かった気がするわ」

「な、懐いてるって何よ!///」

「フフ、だってミラ。彼の話をする時楽しそうに話すから」

「っ!///」

ミラが顔を赤くする。そうだったのか。

「でも、あなた達を見てると『守る者』と『守られる者』だけの関係に見えないのだけど?」

フフ、と笑いながら俺達を見る。

「…ソフィー。あなた超能力でもあるの?」

「…リュドミラ様。それを言ってしまうと他の関係があるのだと認めているようなものですよ」

「あっ…」

「フフ♪」

『この人を敵にしてはいけない』俺は思った。

「…ソフィーヤ様の言うとおりです。俺とリュドミラ様…ミラと恋人です」

「ジェ、ジェイ!///ストレート過ぎよ」

「大丈夫よ、ミラ。予想はしてたから」

「えぇっ!?」

「だってあんなに楽しそうに、たまに顔を赤くするんだもの♪ミラは」

「っ///」

ミラは何故か俺を睨む。

「何故俺を睨むっ!」

「うるさい!///」

そ言うとぷいっとそっぽを向いた。

「クロフォードさん」

「な、何でしょう。オベルタス様」

「貴方はミラの恋人。そしてミラは戦姫。いろんな所から命を狙われてるわ。その中ミラを守り続けられるのかしら?これからの敵から」

ソフィーヤ様は真剣な表情で問う。俺はミラの腰に手を伸ばし、自分の方へ引き寄せ

「当然です。ミラは俺が守る、何があっても。今までも、これからも」

と言った。ミラは顔を真っ赤にし、ソフィーヤ様は俺の言葉にウソが無いと分かってフフ、と笑った。

「なるほど、分かったわ…ミラ、素敵な人を見つけたわね」

「…えぇ、そうでしょう?」

ミラは俺に寄り添いながら言う。

「フフ。少しクロフォードさんを貸してほしいくらいだわ」

そう言うとミラは俺から離れたと思ったら俺の右腕に抱き付いてきた…腕に柔らかい感触が///

「いくらソフィーの頼みでもそれだけはダメよ。ジェイは私のものだから」

と言う。…嬉し恥ずかしいな///

「あらあら、フフ♪ミラにこんな事言わせるなんて、クロフォードさん。やりますねぇ~」

「あ、いえ。それほどでも///」

「クロフォードさん。これから私の事は『ソフィー』でいいですよ」

「さ、様はつけさせてもらいます、ソフィー様。俺の事も『ジェイ』と呼んで下さい」

「えぇ、分かったわ。それじゃジェイさん、お話できて良かったわ。ミラもありがとう」

「こちらこそ」

「大した事はしてないわよ」

「じゃ、そろそろ行くわね。また会いましょ」

そう言うと背を向けて行ってしまった。

「ミラの言った通り、信用できる人だな」

俺は素直に感想を言った。

「でしょ?」

「…ところでミラ、いつまでくっ付くつもりだ?その…色々当たって困るんだが///」

俺は顔をそらし言う。

「…ジェイはやっぱり胸の大きな女性がいいの?」

「はぁ!?///いきなりどうした」

「いいから答えなさい!///」

胸…ねぇ

「…はぁ、正直に言うとだな」

「えぇ」

俺は空いてる左手でミラの頭を優しく撫でながら言った。

「俺はどうでもいい」

「え?」

「女性の全てが胸じゃないだろ?まぁそう思ってる奴もいるだろうが…ってか俺にミラ以外の女性とかありえないし」

「///」

「まぁ、だからあまり気にしなくていいぞ?俺はミラが好きなんだから………って何言わせる///」

「ジェイがペラペラ喋ったんじゃない、もう///」

「もうここには用無いよな?帰ろうぜ///」

俺は照れ隠しをするように言う。

「フフ///えぇ、そうしましょう」




どうだったでしょうか?
今回ミラは真っ赤になってばかりでしたねw

次はついに妹、プローネが出てきます。


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第7話 死神、風姫の別荘へ

夏休み二回目の投稿です~。皆様はどうお過ごしでしょうか?自分は何とかやっています。先日、第11巻の表紙のイラストのミラのカードスリーブを買い、モチベが上がりまくりで大変ですぅw


それではごゆっくり~


ハーネスへ戻り数日後、今度はミラがやってきた。

「どうしたミラ。また王都か?」

「違うわ。アルサスへ向かうわ」

「アルサス?…ヴォルン伯爵か?」

「ご名答。流石ジェイ、分かってるじゃない」

「だが、行く理由が「(コンコンコン)」ん、どうぞ」

ミラと話していると1人の女性が入ってきた。まず目に入るのは夜のように漆黒な黒髪。その黒髪は後ろで1つに纏めている、いわゆるポニーテールというやつだ。そして紅蓮のような赤い眼。服は赤と黒の2色。

「プロミネンス=クロフォード。ただいま戻り…まし…た?」

「あら、プローネじゃない。久し振りね」

ミラがそう言うと、プローネは一瞬顔を輝かせ、すぐキリッとした。

「(パァ)ミラ姉さ―(コホン)リュドミラ様、お久し振りでございます」

やれやれ、ここには俺達しかいないんだからそんな硬くならなくていいのに。まぁプローネの性格を考えるとしかたないが。

「プローネ、ここには俺達しかいないからいつも通りにしていいぞ」

俺はプローネに言う。そう、この娘は俺の妹だ。

「そう、ですか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラ姉様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が許可を出した途端、素の自分を出しミラに抱き着く。

「久し振り、ミラ姉様!」

「フフ、久し振りねプローネ。元気にしてた?」

「あぁ!」

プローネは元気に答える。全く、微笑ましい光景だな。この2人はこの頃仕事のせいで全然会えていなかったのだ。

「そうだわ、プローネ。帰って来てそうそう悪いのだけど、これから時間ある?」

「え?あぁ、このあとは特に何もないはず…。兄様、何かあったか?」

「安心しろ、何もない」

俺は果物水を飲み、答える。

「何処かへ行くのか?」

「ちょっとアルサスへね」

「アルサスは確かブリューヌの領土だぞ?何しに行くんだ?」

「直接会って話したい人がいるのよ。ジェイ、準備が出来次第出るわよ」

そう言ってプローネの頭を撫で、部屋を出た。

「兄様、ミラ姉様はアルサスの誰に会いに行くんだ?」

「領主だ、アルサスの領主。王都に行った時に色々あってな」

「そうか、分かった。では、私も出る準備をしてくる」

そう言い、プローネも部屋を出た。

「さて、俺も準備をするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーネスを出てしばらく経ち、ミラがふいに思い出した事を言った。

「ジェイ、悪いけど寄り道してもいいかしら?」

「寄り道?ここら辺に何かあったか」

「キキーモラの館よ」

「キキーモラの館?」

プローネは分からなく首を傾げる。その疑問にミラが答える。

「エレオノーラの別荘(ダーチャ)の1つよ。確かこの辺にあるのよ」

「ま、俺は良いぞ。プローネは?」

「私も構わないぞ」

「ありがとう、ジェイ。プローネ」

それから少しして、エレオノーラの別荘の1つのキキーモラの館に着いた。2階建てで、壁は漆喰の上から黒く染めている。屋根は赤。赤に黒か…

「何かプローネカラーだな」

俺は小さく笑った。それを聞き逃さなかったプローネも反論する。

「私は『赤』だ、兄様。黒は赤に合うから着てるだけだ」

「もう、あなた達兄妹の色で良いじゃない」

そう言い、ミラは迷いなく扉をノックした。少し待つと、中から1人の女性が現れた。

「っ!リュドミラ=ルリエ様」

「リムアリーシャ、貴女がいるという事はエレオノーラもいるのでしょう?」

「えぇ、2階におりますが」

「アルサスの領主も一緒かしら?」

「ヴォルン伯爵もエレオノーラ様と2階におります」

「入ってもいいかしら?ヴォルン伯爵と少し話がしたいの」

「…分かりました、ご案内いたします。…後ろのお2人もですか?」

リムアリーシャと言う女性が俺とプローネを見て言う。

「えぇ、お願い」

「分かりました、こちらです」

俺達は館に入り階段を昇り、2人がいるという部屋の前に来た。すると中から話が聞こえた。

「リュドミラ=ルリエという…私に比べればどうということはないやつだがな」

この声…エレオノーラか。何故か分からんが、嫌な予感がする。

「口を開けばやれ礼儀だの品性だのとやかましいくせに、自分がジャムをぶら下げて歩くのはたしなみだとぬかす、なんというか芽の伸びきったジャガイモのような女だ」

エレオノーラの発言に扉を斬り、エレオノーラを斬り刻みたいという衝動に駆られたが何とか耐えた…がミラは耐え切れず、勢いよく扉を開けた。

「―――黙って聞いていれば誰がジャガイモですって!」

あちゃー。俺は額に手を当てる。

「―――リム」

烈しい怒気を帯びた、地の底から響いてきたような声が俺達の耳を震わせた。

「何故、私の館にそいつが足を踏み入れるのを許した」

「戦姫たる方を、追い返すわけにはまいりません」

血の気の通っていない人形のように、俺の隣にいるリムアリーシャが淡々と答えた。

「…戦姫?」

胡乱げな声を絞り出しミラを見る男性。彼がヴォルン伯爵なのだろう。ミラは彼に視線を移し、胸を張り、よく通る声で名乗った。

「ジスタートが誇る戦姫のひとり。『破邪の穿角』が主、リュドミラ=ルリエよ」

「帰れ」

エレオノーラの声は冷たく、容赦がない。ミラは蒼い瞳を侮蔑の感情で染めて、エレオノーラを睥睨した。

「それが、あなたの客に対する口のききかたなのかしら?まったくもって無礼にもほどがあるわ、エレオノーラ」

エレオノーラもまなじりを吊り上げ、敵意剥き出しで応酬する。

「客というならそれらしい態度をとれ。手土産の1つでも持ってこい。もっともお前を客として認める気はないがな」

その言葉を聞きプローネが対応する。

「エレオノーラ様、つまらない物ですがハーネスの葡萄酒です」

ハーネスを出る前にジェイがプローネに渡しておいた酒だ。

「ほぉ、リュドミラ。この娘の方が客らしい態度をとっているぞ?…そういえばお前は?」

「私はハーネス領主ジェイノワール=クロフォードの妹、プロミネンス=クロフォードです」

プローネは自己紹介をし、酒を渡そうとするとミラの手によって遮られた。

「まず、人のことをジャガイモだのと罵倒したことを謝罪しなさい」

「お前が先に土下座しろ。人の話を盗み聞きしたことについてな」

俺とプローネは慎重な足取りで戸口に立つリムアリーシャの近くへ歩み寄る。ヴォルン伯爵もゆっくりこちらへ歩み寄っていた。

「盗み聞き?貴女の声が馬鹿みたいに大きすぎるだけでしょう」

「この程度で声が大きいとは、ずいぶん狭い世界で生きてきたのだな。可哀想に」

「たとえ狭い世界だとしても、私は多くのものを得てきたわ。貴女と違って」

「多くのもの、か。そこそこの身長とか、それなりの胸とかは無かったようだな」

「私はまだ16よ。それらがこれから手に入る余地は充分にある。貴女はどうかしら、エレオノーラ?これから必死に頑張って、老いて死ぬまでに最低限の尊厳や礼儀、気品がつくといいわね」

歯軋りの音がした。どちらの戦姫が発したかは分からないが、願わくばミラではないことを祈る。プローネはというと、ただ目をパチクリさせていた。

「…兄様、このお2人はいつもこうなのか?」

「俺はこの前王都で1回しか見たことないが、そうらしい」

すると、リムアリーシャが説明をしてくれた。

「最初に出会ったときからこうでした。お互いの『竜具(ヴィルトラ)』をつきつけあい、1国の主とは思えないほどの罵詈雑言で」

「「………」」

俺とプローネは言葉が出なかった。…ミラも飽きないものだ。

「なるほど。それで、止めるには?」

「止められる方の心当たりはありますが、遠くにいらっしゃるので無理です。お2人の気が済むまで放っておくしかないでしょう」

ソフィー様なら確実に止められるな…。俺はミラだけならなんとかできるが…。俺が止めに入ろうとしたら、ヴォルン伯爵が2人の間に割って入った。

「自己紹介がまだだったな。ティグルヴルムド=ヴォルンだ」

ややぎこちない笑顔でヴォルン伯爵はミラに手を差し出す。ミラは差し出された手を一瞥すると、顔を上げて値踏みするような視線をヴォルン伯爵へ向ける。

「ティグル。その女は客ではない。そんな応対する必要はないぞ」

後ろでエレオノーラがふてくされたような声をかける。

「―――そうね。確かに客ではないわ…ねぇ?ジェイ」

ミラが俺とプローネ、ヴォルン伯爵にしか聞こえない声で言うとミラは背を向け、肩越しに振り返って言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついていらっしゃい。ティグルヴルムド=ヴォルン伯爵」




いやぁ、やっぱ仲悪いですねぇ。ミラとエレンは。

本当ならもっと書こうと思っていましたが睡魔と疲労と区切りがいいという理由で終わらせました~

それと、先日やっと原作3巻買えました。ただいま絶賛読み中です。


ではでは、ご意見やご感想ありましたらよろしくお願いします~


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第8話 死神、ロドニークへ

免許無事1回で受かりました~♪心の重りがやっとなくなり投稿できるようになりました。
更に、エレンのカードスリーブも見つけ、モチベ上がったのですが。ミラとエレンのスリーブのデッキを使ったら事故る事故る…カードゲームにまで2人の仲の悪さは干渉するのかと思いました。

後、これからの後書きにはアニメの予告のようにキャラのセリフが入ったようなものにしたいと思います。
イマイチイメージが分からない人は、後書きを見てください。

それではどうぞ~


「なっ…お前、何のつもりだ!」

顔を真っ赤にするエレオノーラを意外そうな瞳を向けながらミラは言う。

「そもそも私達がここまで来たのは、彼に会うためよ。アルサスへ向かう途中であなたの別荘があることを思い出して念のために寄ってみたの」

「俺に何の用だ?」

そう尋ねるヴォルン伯爵の声には、かすかに警戒の響きがこもっていた。そして、その言葉使いにプローネは反応し、ヴォルン伯爵を睨みながら言う。

「貴様、戦姫であるミラ姉様に対してその口の訊き方は何だ!」

プローネの声にヴォルン伯爵は少しビクッとした。

「プローネ」

ミラは手をプローネの前に出し、静かにさせる。

「ミラ姉様…分かった」

プローネはミラの指示に大人しく従う。

「たいしたことではないわ、少し話をしたいだけ。嫌かしら?」

「御免だな」

即答したのはヴォルン伯爵ではなくてエレオノーラだった。エレオノーラはヴォルン伯爵の隣に立ち、ミラを睨みつける。

「こいつは私のものだ。その行動も、私が決める」

「あら?あなたはヴォルン伯爵に雇われたのではなくて?ジェイ、王都で雇われたと言っていたわよね?」

ミラが俺の方を見て問いかける。

「あぁ。確かに『雇われた』と言っていたな」

俺も同意するとエレオノーラは言葉に詰まった。するとヴォルン伯爵が言う。

「対等に近い関係だからね。雇われている側の考えも尊重することにしているんだ」

その答えにミラは納得したが、俺は納得しなかった。先程エレオノーラは「私のもの」と言った。それはつまり『雇われた』というのは嘘で、ヴォルン伯爵はただの捕虜という可能性も出てくる。捕虜なら「私のもの」と言っても不思議ではないが『雇った側』を「もの」と言うか?そもそも―――。

俺は腕を組み、考えていると腕に小さな痛みが走った。

「っ……ミラ?」

「ジェイ、また考え込んでいたのね…。ロドニークへ行くわよ」

「ロドニーク?何故だ」

「エレオノーラ達がそこへ行くのよ。「話があるならそっちが付いてこいって」

「なるほどな、分かった」

俺はミラの後ろを付いて行き、屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷を出た俺達は馬を駆ってなだらかな斜面を下る。先頭にエレオノーラとリムアリーシャ、その後ろに俺とプローネ。更に後ろにミラとヴォルン伯爵の順に走っている。何故この順になったかというと、まずミラとエレオノーラがお互いに「一緒は嫌だ」と言い、ヴォルン伯爵は恐らくミラと話を終わらせるためにミラの隣になったのだと思う。残った俺とプローネな間に入るということになった。

馬を走らせていると前にいるエレオノーラに声をかけられた。

「そういえば…ジェイノワール、と言ったな。お前はリュドミラとどういう関係なんだ?」

俺とミラの関係…。親しい人物なら『恋人』と言うが、ここは表の関係を言うのが賢明…というか普通か。

「我がハーネスを治めるクロフォード家とオルミュッツを治めるルリエ家とは長年に渡る交流がある…ただそれだけですよ?」

ふ~ん、と言いながら俺を見るエレオノーラ。俺は嘘は言っていない…詳しく言っていないだけで。

「それと、報告であったんだがハーネスとオルミュッツ付近に『死神』がいるというのがあったんだが、そこはどうなんだ?」

『死神』…もしかしてもなく俺の事だな。

「噂は聞いたことがありますが、いるかどうかは私にも分かりません」

そうか、と言いエレオノーラは前を向いた。それからほどなくしてロドニークに着いた。

「…何もないところね」

「そう思ったなら今すぐ帰れ。喜んで送り出してやる」

またか…。俺はそう思いながらため息をした。するとプローネな何かに気づいたらしい。

「兄様、この町には何かあるのか?」

「どうしてそう思った?」

「この町の人達が何をやって食べているのかが全く分からないんだ。畑は少ししかなかったし、それに海道からも遠いから商売中心でもないだろうし…」

「よく気づいたなプローネ。ここには温泉があるんだ」

「温泉?温泉って山奥とかにあるんじゃないのか?」

プローネの答えに俺は少し笑った。

「フフ。お前は秘湯にでも行くつもりか?温泉は必ずしも山奥にあるとは限らないんだ。確か、井戸を掘ってたら水じゃなくて温泉が湧いたんじゃなかったかな」

さらにエレオノーラが説明を加える。

「大浴場だ。あの中には3つあってな、温泉から水道管を引いてそれぞれに流しているんだ。さっそく…」

そこでエレオノーラの言葉が途切れた。近くの露店を見ていた。俺も同じ方を見た、小麦の粥(カーシャ)の露店だった。…悪くない匂いだな。

「ちょっと食べていかないか?」

なんて考えているとヴォルン伯爵が提案する。

「うん、そうだな。お前が言うならそうしよう」

と、エレオノーラは頷いたが…ミラの事だ、拒否するだろうな。

「私はいらないわ。戦姫が露店でものを食べるなんて……。それに空腹というわけでも―――」

そこまで言った時、ミラの腹から可愛らしい音が鳴った。小さい音だったが少なくともこの5人にははっきり聞こえた。鳴った瞬間、ミラの頬が赤くなった。

「そうか。誇り高い戦姫であるリュドミラ様は露店の麦粥など食えないか」

そして露店へ行き、麦粥を買ってくるとわざわざミラの前に立ち麦粥を食べる。

―――お、大人気ない…。

この場にいる4人は同じ事を思った。

「(全く、世話の焼ける)」

俺はそう思いながら露店へ向かう。俺の分とプローネの分とで2つ注文する。

「腹が減っていてな、1つは多めに頼みたい」

銅貨を1枚多く渡して、俺は頼んだ。

麦粥には香草以外にとり肉や細かく砕いた木の実などが入っていて、とても美味そうだ。ひと口食べてみると塩加減がとてもよく、俺好みの味だった。1つをプローネに、そして俺の分をミラに差し出す。

「ミラも少しどうだ?戦姫が露店の品を食べたからってバチは当たらないだろ」

ミラにしか聞こえない声で言う。

「…ジェイがそう言うなら、いただくわ」

おずおずとミラは手をのばして木製の椀を受け取り、粥に息を吹きかけて冷ましながら口に運ぶ。

「…悪くないわね」

「だろ?…ってこら、ヨミ」

左腕に巻き付いているヨミが体をのばしミラの持っている粥をガン見している。そんなヨミを見たミラは粥に入っている大きめのとり肉をすくい、ヨミの前に差し出す。

「ほら、ヨミ。食べていいわよ」

ミラが言うないなやすぐにとり肉を食べ始めた。ミラは笑みを口元ににじませ、ヨミを見つめている。

それから少ししてヴォルン伯爵がミラに飲み物を勧め、それを見たエレオノーラはヴォルン伯爵の襟をつかみ喧嘩っぽいことが起きた。俺はそれを静かに眺めていた。そして俺同様に見ていた主婦や子供もいた。中から痴話喧嘩だとか痴情のもつれつだとか、さらに子供が「夫婦喧嘩、夫婦喧嘩」と楽しそうに言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~良い湯だな、この温泉は」

あの後、宿で手続きを終えた後俺はさっそく温泉に入った。

「疲れが取れる…」

「なら私も入れてもらえるかしら?」

「は?…この声、まさか…」

俺は反射的に後ろを向く。そこには体をタオルで巻いたミラがラヴィアスを持ちながら立っていた。

「ミ、ミラっ!?///」

「疲れてるジェイを癒してあげようと思ってね…それにしてもすごい慌てっぷりね」

フフ、と笑うミラ。

「いきなり入ってくるからだろ…ったく。っておい」

ミラは体をお湯で流し、俺のすぐ隣に浸かる。

「ん。確かに良いお湯ね」

「…(これは何を言っても拒否られるな)」

そう考えた俺は、ミラの腰に手をまわし引き寄せる。

「あら、いきなりどうしたの?」

「やられっぱなしなのはしゃくなんでね」

するとミラは俺の肩に頭を乗せた。

「なかなか良いわね」

「そりゃ良かった」

それから少しして足音が聞こえた。俺は念の為、声をかける。

「…プローネ?」

「に、兄様?」

やはりプローネだった。

「え、何故兄様が?」

「色々あってミラと入ってたんだ。今上がるから少し待ってくれ」

「やれやれ、分かった」

「と、言う事だ。後はプローネと楽しんでくれ」

「仕方ないわね」

俺はそう言い風呂から上がり、プローネと入れ違う。…もちろんお互いタオル巻いているからな?

「ごゆっくり」

「そうさせてもらう」

それから少しして不機嫌になったミラとプローネがやってきた。理由を聞くと、俺が上がった後2人で体を洗っていた所にヴォルン伯爵が入ってきてミラが仕留めた、とプローネが言う。

これは予想だがエレオノーラがわざと場所を教えたのではないだろうか…。だとしたら、本当に仲が悪いんだな…。

やれやれ。




「私は生きている証が欲しい。だから生死のかかった戦いに身を置く」


「臣下1人でここまで取り乱すなんてね。エレオノーラ、あなたは戦姫失格よ」


「派手なパーティになることは、間違いないと思うけどな」


「ちなみに、手土産は敗北だ。ありがたく受け取れ」


「死ぬぜぇ、俺を見た奴は皆死んじまうぞぉ!」


「斬り裂け、銀閃!(アリファール)」


「貫け、凍漣!(ラヴィアス)」


「斬り刻め、漆影!(ヘルヘイム)」


「次回、第9話。「死神VS風姫」見てくれると嬉しいわ」


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第9話 死神VS風姫

どもです~
いや~気づけばお気に入り数が60超えていて驚きました。
これからも頑張っていきたいと思います。


後、前の後書きのセリフを入れる為にいつもの倍になってしまいました。
申し訳ないです。

では、どうぞ~


翌日の朝には、俺達はロドニークを出た。朝から馬を進ませれば、昼になる前に公宮へ通じる街道へ出られる。

空は暗く、濃灰色の雲が厚くたちこめて今にも一雨きそうな感じだ。

馬を進める俺達の雰囲気は、まったくもっていいとは思えなかった。

ミラとプローネは冷然として沈黙を貫き、ヴォルン伯爵は無言でただひたすらに耐え、エレオノーラは苦笑してその様子を見ている。リムアリーシャはヴォルン伯爵に同情の眼差しを向けていたが、その中には拭いきれない呆れや侮蔑がわずかに混入していた。俺はエレオノーラに少し怒りを込めた眼差しを向けている。

エレオノーラが仕掛けたものであることを6人とも知ってなお、この状況であった。

荒野が草原に変わり、細い街道へと出る。この街道を進んでいって前方にある小さな森を抜けたら、主要な街道に合流するはずだ。

「お前は―――」

森に入ったところで、エレオノーラはミラに話しかけた。

「ティグルがどのような人間かを見るために来たと言ったが、目的は果たせたか?」

「―――えぇ。よく分かったわ」

エレオノーラの問いに、ミラはそっけない口調で答えた。

「口が多少うまいだけの、取るに足らない小物ね。あなたがなぜ、あのような男に入れ込んでいるかは分からないけど…犬には犬の、猫には猫の好物があるということなんでしょうね。そう考えれば、あなたにはむしろ相応しいわ。ジェイの足元にも及ばないけど」

肩越しに後ろのヴォルン伯爵を汚物を見るような目を向けながら答えた。

「―――なるほど。よく分かった」

笑いを噛み殺すように肩を震わせるエレオノーラ、ミラは顔をしかめた。

「笑われるようなことを言った覚えはないのだけれど」

「いや、かなり笑えるぞ。今、お前はこう言ったんだ。自分はティグルの真価を見抜くことをできないていどの人間です、とな」

「あなたに哀れみを覚える日が来るとは思わなかったわ」

ミラはつきあっていられないと言いたげな、疲れた顔で首を振る。半ば皮肉だったが、残りは本当に呆れていた。

そんな2人を見て俺はやれやれと思った途端、本能とヘルヘイムから警告が発せられた。どっちが先だったかは分からない。

周りを見たが俺達以外の人影はない…が、気配を感じる。木々に隠れ、暗闇に紛れ、息を潜めて、獲物を見つけた獣のように慎重に接近してくる者達がいる。

「―――囲まれたか」

「暗殺者ですか」

のんびりと呟くエレオノーラに表情を引き締めてリムアリーシャが尋ねた。

緊張を隠せないヴォルン伯爵やリムアリーシャとは対照的にエレオノーラとミラ、プローネは悠然と武器を構える。

「(数は…2…4…いや、7か)」

影の中にあるヘルヘイムを使い、敵の数を調べた。流石にヘルヘイムを出すわけにはいかないから、こういうときのための刀を抜いた。

「野党にしては出てくるのが遅すぎる。さて、誰が狙われているものやら」

「あなたか私、それにジェイかプローネでしょう?」

当然とばかりに言うミラに、エレオノーラは笑って首を振る。

「ティグルだって今では立派な標的だ。ティグルが死ねば、テナルディエ公爵あたりは小躍りして喜ぶだろう。私をブリューヌから追い払うこともできるしな」

「いくつの意味でありがたくない話だな」

「引き返しましょう、エレオノーラ様」

「こんな細くて荒れた道でか?馬首を巡らした瞬間に奴らは来るぞ。とはいえ…」

エレオノーラは前方に目を凝らすと、後ろにいるヴォルン伯爵に手を伸ばす。

「矢を一本くれ」

ヴォルン伯爵から矢をもらうと無造作に放り投げた。回転しながら飛んだ矢は空中で突然真っ二つに切断され、乾いた音をたてて地面に落ちた。

「―――やはりな」

「何だ、今の?」

理解できない光景にヴォルン伯爵は目を瞠る。不愉快そうな表情でプローネが答える。

「鋼糸。糸状の鋼をよく研いだものだ。足元に張れば脚が切れ、首あたりに張れば首が落ちる。今のは1本ではないだろうな」

「そういうこと」

ミラが感心したように頷く。

「この連中、先回りして前方から来たのね。道理でここまで接近を許したはずだわ」

「すぐに仕掛けてこないのは、私達が奴らを振り切ろうとして馬を飛ばすのを待っていたのだろうな。かなり前から様子をさぐっていたと見える」

「エレオノーラ。あなたの『竜技(ヴェーダ)でまとめて吹き飛ばしなさいな」

「地面がえぐれて馬では進めなくなるぞ。周りの木々も巻き込むしな」

風姫の竜技か…興味はあるが、ヤバそうな技みたいだな。

「ティグル。何か案はないか?この馬鹿女は面倒くさくて働きたくないとぬかした」

「捏造はやめなさい。まずあなたが力を尽くすようにと言っただけでしょう。…プローネ、やれるかしら?」

「…木が邪魔で外すかもしれないが」

「構わないわ、でも1人は仕留めなさい」

「分かった」

そう言うとプローネは6本の『桜華』の1本を抜き、両手で持ち目を閉じた。

「リュドミラ、この小娘に1人は仕留めろ?そんなことできるわけなかろう。奴らは常に動いているんだぞ」

「あなたは黙って見ていなさい。この子はあなたと違ってとても優秀な子だから」

なっ、と声をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…喰らえ!『月華乱舞』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言うとプローネは森の中へ美しい斬撃を3つ放った、斬撃の後には花びらが舞った。3つの斬撃のうち2つは暗殺者の武器を捉え、残り1つはミラに言われた通り暗殺者を真っ二つにした。

「ちっ、仕留め損ねたか」

「よくやったわ、プローネ」

ミラはプローネの頭を撫で、プローネが斬った人物を見た。

「この連中は七鎖(セラシュ)ね」

「七鎖?」

おうむ返しに尋ねるリムアリーシャにミラはつまらなそうに説明する。

「必ず7人で行動しているという名うての暗殺者集団よ。遭遇するのは初めてだけど」

ミラは手の中の槍を回し、穂先を死体へと向けた。暗殺者の左腕にある鎖状の刺青を指し示す。

「この刺青が、奴らの証とされているわ」

「ずいぶん詳しいな、お前」

「当然でしょう。我がルリエ家には代々の積み重ねがあるもの。ぽっと出の戦姫であるあなたと違って」

エレオノーラはあきらさまにむっとしたが、言い返すことはなかった。

再び空気が蠢く。枝葉や木々の影に隠れているいくつかの気配が動いた。俺達はそれぞれ武器を構え、そちらに注意を向ける。

そしてリムアリーシャに暗殺者が襲いかかったが、冷静に暗殺者の首を切り裂いた…が更に1匹の蛇が続けて降ってきてリムアリーシャに噛み付いた。

「リム!」

蒼白な表情で叫びながらも、戦士としての本能に突き動かされて銀閃を振るう。正確に蛇の頭部を両断した。

俺…恐らくプローネも暗殺者に更に殺意が湧き上がった。

「(蛇を道具の用に使うとは…ハーネスの主として見逃せないな)」

「大丈夫か!」

エレオノーラとヴォルン伯爵がリムアリーシャに駆け寄り、落馬しかけた彼女をヴォルン伯爵が抱きとめる。

「ティグル!リムはどうした!?どうなったんだ!?」

いつになく切迫した表情と今にも泣きそうな声音で尋ねる。

…おいおい、心配するのは分かるがこの状況で3人固まったら狙ってくれと言っているようなものだぞ。

何て考えていたら案の定4人が同時に一斉に動いた。

「ちっ、やっぱりか!」

俺は影からヘルヘイムを出そうと思った瞬間、俺とプローネのよく知る声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラヴィアス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、ミラの槍の名。

手の中で槍を回転させると、ミラの身長ぐらいだったはずの柄が伸びた。

空さえ穿ち凍てつかせよ(シエロ・ザム・カファ)

不純物の一切ない氷塊を思わせる冷たく澄んだ声。ミラは槍の先端を地面へと垂直に突き立てる。その穂先から凍気を帯びた白い光が放たれ、ミラを中心に6角形の結晶を描いた。

冷気が、爆発した。

ミラを囲むように、護るように描かれた結晶から放たれた膨大な、そして圧倒的な凍気は、地面を、その上を這う大気ごと凍りつかせる。

そして、そこから氷の槍が無数に突き出された。巨大な氷の棘は俺達を避けながら、周囲の木々を薙ぎ倒し、空へと先端を突き上げる。

空中にいる暗殺者達は逃げれるわけはなく、鋭利な氷の槍は穿ち、貫いて、体を紅く染める。

ミラは暗殺者達が息途絶えたのを確認すると、厚い氷に覆われた地面から槍を引き抜く。1回転させ、石突くで軽く地面を叩いた。

すると硝子が砕けるような音を発し、全ての氷が吹き飛ぶ。

「―――失望したわ」

槍の柄を短く変化させて、忌々しげにミラは吐き捨てた。怒気と軽蔑をない混ぜた瞳をエレオノーラに向ける。

「臣下1人のことで、ここまで取り乱すなんてね。エレオノーラ、あなたは戦姫失格よ。いつかあなたの民を不幸にする前に、アリファールを捨ててしまいなさい。ジェイ、プローネ。行くわよ」

吐き捨てると、ミラはエレオノーラの反応を見ずに馬にまたがる。呆気にとられていたヴォルン伯爵がミラの名を呼んだ。

いましも馬を走らせようとしていたミラは、わずかに首を動かして横顔をヴォルン伯爵に向ける。

「ありがとう。助けてくれて」

ミラは答えず、街道へ駆けていく。俺とプローネも後に続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…やっと片付いたか」

しばらくハーネスを留守にしていたため、仕事が山のように溜まっていた。先程終えたのだ。

「…」

「兄様?どうした」

プローネが俺の顔をのぞきこんで問う。

「いや…分からないが、何か起こりそうな気がしてな」

「兄様のそれは十中八九当たるから止めてくれ」

プローネは苦笑しながら言う。

なんて話をしているとドアを叩く音が聞こえた。

「失礼致します、クロフォード様」

「クロード…俺のことはジェイでいいと言ってるだろ。俺もう17なんだ」

「失礼致しました。ではジェイ様、と」

「あぁ、それで頼む。で、用は何だ?」

「ルリエ様の使者が参っております」

「ミラの?…謁見の間へ通してくれ」

「かしこまりました。では、失礼致しました」

クロードが部屋を出た後、プローネが俺を軽く睨む。

「ほら、兄様が変な事言うから」

「今の俺のせいかよ!?」

そう言った後、俺は謁見の間へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やはり、ろくなことにならなかったな兄様。兄様は死神じゃなくて疫病神じゃないのか?」

「うわぁ、酷ぇ言われようだな」

俺達は今ライトメリッツの国境付近にハーネス軍とオルミュッツ軍、合計2000の数で来ている。

俺達は今、ミラのいる幕舎の中にいる。ミラは紅茶を飲みながら報告を受けている。報告を聞き、報告をした兵に紅茶を飲ませてあげ、兵を下げ、指揮官達を呼び語気も鋭く告げた。

「エレオノーラがこちらへ向かっているわ、私に…いえ、私達に倒されるために」

ミラは傍らにかけられたラヴィアスに手を伸ばす。

「予定通り動くわ。ブルコリネ平原で1戦軽くまじえた後タトラ山にこもる」

「……ルリエ様」

「何かしら?」

「本当に『銀閃の風姫(シルヴフラウ)』と戦うのですか?」

「そこまで、他国の公爵に義理立てしなければいけないんでしょうか」

彼らの視線を受け止め、ミラは冷厳さを帯びた表情と声音で答えた。

「ルリエ家とテナルディエ公爵家との交流は、80年もの長きに渡る。私の代で断ち切るわけにはいかない」

そう言い、指揮官2人は外へ出た。

「相手は戦姫、しかも剣使い!フフ、腕がなる!」

「プローネ、1戦目は前に出て良いわよ」

「本当かっ、ミラ姉様!」

ミラもセリフに食いつくプローネ。

「えぇ。ただし、引けと命令したらどんな状況でも引くこと。いいわね」

「分かった、では準備をしてくる」

そう言い、ミラは外へ出た。

「ジェイ、あなたも前に出たい?」

「俺は後ろで指揮してるよ」

俺はそう言いながら、仮面をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プローネside

黒龍旗(ジルニトラ)をかざす者同士が激突した。槍と槍が交差し、甲冑と甲冑がぶつかり合う。

「はぁああぁ!」

ハーネス軍の先頭にいるプローネが『桜華』を全て抜き、まるで舞う様にライトメリッツの兵を斬り、数を減らす。

「ちっ、戦姫は前列にいないのか…」

プローネは思わず舌打ちをした。

奥へ行こうとすると兵に道を塞がれる。

「道を開けろぉ!」

『桜華』で次々と斬るプローネ。それから少ししてライトメリッツ軍は後退を始めた。

「下がるのか…(本当は追撃したい所だが、ミラ姉様との約束がある。私も引くとしよう)」

私はミラ姉様のいる幕舎へ戻る。するとミラ姉様に頭を撫でられた。

「よくやったわ、プローネ。疲れている所悪いけど、すぐに移動の準備をしてちょうだい」

「分かった」

返事をし、ミラ姉様の幕舎を出ると兄様と会った。兄様の右腕には私の蛇が巻きついていた。

「ほら、プローネ。返すぞ」

「スカーレット、おいで」

私の飼っている紅蓮のように赤い色をした蛇、スカーレットを兄様から受け取る。そしてすれ違いざまに頭を撫でられ

「お疲れ、ゆっくり休め」

と言われた。

「あぁ、そうさせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラ姉様の指示で私達はタトラ山で籠城することになった。そして籠城して数日が経つ…。

「…暇だ」

そう、私は籠城とか動かない戦いがとても嫌いだ。

「そう言うな、これも戦略だ。相手が銀閃なら尚更な」

そう言いながら、ヘルヘイムを磨く兄様。

…あれ?

「兄様、ミラ姉様は?」

「気分転換に狩りでもしてきなってことで狩りに行ったよ」

「狩りぃ!?今か!?」

私は驚き、兄様に問い詰める。

「何故許した、兄様!?籠城でも戦の最中だぞ」

「…ミラの気持ちを察してやれ」

「うっ」

「だから、俺達はミラのために全力に…だろ?」

「ふん、無論だ」

そう言い、私も武器の手入れを始めた。

それからしばらくして、ミラ姉様が帰って来た。

「お帰り、ミラ姉様」

「少しはまぎれたか?」

「えぇ、お陰様でね…それより裏門の防御を上げるわ。すぐに防御陣地を造りなさい」

ミラ姉様は帰ってそうそう兵に命令を下した。

「ミラ、何かあったのか?」

「狩り中に狩人にあったの、一応念の為にね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の日の夜、ミラ姉さまの予測通り。ライトメリッツ軍は裏門から攻めてきた。

「報告します。裏門が敵の攻撃を受けました!」

「来たわね、エレオノーラ…!」

「ミラ姉様、兄様。私に行かせてくれないか?」

私は2人に頼んでみる。

「ミラ、俺も出る。良いか」

「…えぇ、2人に任せるわ」

「ありがとう、ミラ姉様!」

「プローネ、こっちへ来い。移動するぞ」

私は兄様の言うとおり兄様に近づく。

「任せるわよ、2人とも」

「あぁ!」

「ま、派手なパーティになることは、間違いないと思うけどな」

そう言い残し、兄様と一緒に影の中に入る。

「俺の指示には従えよ?」

「分かっている」

「よし…じゃあ行ってこい」

兄様は私を裏門の前に出した。

「なっ、小娘!何処から現れた」

風姫…エレオノーラが驚きの声を上げ、私に剣を向ける。私に気づいたと同時に城からの攻撃が止んだ。兄様か。

「そんなことはどうでもいい…さぁ、始めよう!」

私は『桜華』を全て抜き、エレオノーラへ向け、攻撃を仕掛ける。お互い攻撃と防御をし、一歩も譲らない戦闘をした。

お互い少し距離を置き、風姫が私に質問してきた。

「お前…楽しんでいるのか」

「もちろんだ、私は強い相手と戦いたいんだ」

「戦闘狂か、貴様は」

「フ。私は生きている証が欲しい。だから、生死のかかった戦いに身を置く…さぁ、本気でいかせてもらう!」

私は『桜華』を鞘に戻し、『炎月華』を抜いた。抜いた途端、鞘から紅蓮の炎が私を包んだ。

「私の一撃、耐えられるかぁ!」

私はまた、先に攻撃を仕掛けた。エレオノーラは防御で手一杯だった…と思った私がまだ未熟だった。私の一瞬の隙を見抜き、攻撃をもろに受けてしまった。

「がはぁっ!?馬鹿な…私が…」

「自分の強さに溺れたな、それが貴様の敗因だ」

そしてエレオノーラの剣が振り下ろされた…が私に斬撃の痛みが走ることはなく、目を開くと裏門の内側にある橋の真ん中にいた。

「プロミネンス様!」

「今すぐ手当をします!」

…兄様、か。

私の意識はここで途絶えた。エレオノーラ=ヴィルターリア…次こそは!

 

 

 

 

 

 

 

ジェイside

「…戦闘狂の小娘の次は道化か?」

プローネと俺の位置を変え、剣でエレオノーラの攻撃を防いだ。

「俺は道化じゃないぜ?…そらぁ!」

エレオノーラの剣を弾き、距離を置かせる。そして、剣をしまい影からヘルヘイムを取り出した。

「…そうか、貴様が『死神』か」

「そうさ、…フフ。死ぬぜぇ、俺を見た奴は皆死んじまうぞぉ!」

そう言いながら俺から攻撃を仕掛ける。

俺とエレオノーラの武器がぶつかり合う音が何度も聞こえた。すると、エレオノーラが不意に少し笑った。

…笑った?何故だ。

その疑問はすぐに分かることとなった。エレオノーラが高くジャンプすると、弓を構えたヴォルン伯爵がいた。

しまった、これを狙っていたのか!?

鎌を両手で持っているため防御ができない…とでも思っているなら、まだ詰めが甘い。ヴォルン伯爵が放った矢は俺の額を狙ったものだった。だが、その矢はヨミによって阻まれた。

ヨミが矢の真ん中を口に咥えていた。この行動にあちら2人は虚をつかれただろう。

「ば、馬鹿な。蛇ごときがティグルの矢を止めた!?」

「フフ。この子はとても優秀でね。俺の3本目の腕とも言っていいほどだ」

ヨミは矢をへし折り、吐き捨てた。

「さぁ、続けようか」

「くっ」

エレオノーラはヴォルン伯爵の隣でどうするか考えてるように見えた。すると急に矢が俺の仮面に刺さった。

…な、何!?

俺もヨミも確認できない場所からの攻撃…どこから…!?

俺は刺さった矢に触り驚きを隠せなかった。何故なら、矢は縦に刺さっていたからだ。後数歩動いていたら命は無かっただろう。

「…くっ」

刺さった矢のせいで仮面が砕けてしまった。

「なっ、お前はジェイノワール=クロフォード!」

「ちっ、俺の正体を知ったからには生きて返すわけにはいかねぇ!」

が、俺はすぐに動かなかった。何故ならエレオノーラとヴォルン伯爵が己の武器をこちらに向き、弓を引いていたからだ。そして矢の先が輝いていた。

ヘルヘイムが危険と警告を出してくる程の力だったからだ。

「負けるわけには行かないんだぁ!斬り刻め、漆影(ヘルヘイム)!『宣告:死による世界(デス・バイ・ヘル・ビルク)」

矢が放たれた瞬間、俺は技を発動させた。俺の結界と矢がぶつかる。

…が

 

 

 

 

 

 

 

 

ビシィッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う音が聞こえた。発信源を辿ると矢とぶつかっていた俺の結界だった。

「っ!?(そんな馬鹿な、全てを無にするこの技が無にしきれないというのか!?)」

ひびの入った結界は、ひびが広がり、俺の結界を崩した。

俺の脇を掠め、城門へ向かった矢は城門を丸く型抜きにしてしまった。

「突撃!」

エレオノーラの声と同時に兵が突撃してくる。俺は仕方なく、影の中に入り橋の所で出た。

「すぐに体制を立て直せ!敵が入って来るぞ!」

俺は兵達に指示を出した。

「プローネは?」

「手当をし、中で眠っております」

「分かった…っ」

掠った所から血が出ていた…掠っただけでこの威力かよ。

「ジェイ!」

声の方を向くとミラが走って来た。

「ジェイ、後は私に任せて下がりなさい」

「くっ…すまん、ミラ」

俺は後ろに下がり、ミラと交代した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェイとプローネを傷つけた報い、受けてもらうわよ…

「エレオノーラ!」

怒りをともなった叫び。ラヴィアスを構え、橋へ向かう。

橋の上で私達は向き合い、武器を構える。

「まさか、直接あなたが乗り込んでくるとはね。また無様な姿を見せに来たのかしら?」

「礼を言うために来たんだ、その節は世話になったな。ちなみに手土産は敗北だ。ありがたく受け取れ」

「―――お断りよ氷漬けにしてライトメリッツへ送り返してあげるわ!」

俺は傷のせいであまり動けずに、恋人の戦いをただ見ているだけでいた。お互いに竜技を使い、一瞬の瞬きすら許されない激闘を繰り広げていた。

「斬り裂け、銀閃!(アリファール)」

「貫け、凍漣!(ラヴィアス)」

あらゆるものを粉砕する暴風と、すべてを穿つ鋭利な氷塊が衝突した。

2人とも、ふらつきながらも立ち上がり武器を構える。

その時だった、ライトメリッツの兵の中から1人の男が飛び出した。動きといい、恐らく毒塗りの短剣といい、あきらかに兵士ではなかった。

男の存在に、ミラが気づきエレオノーラを背中に庇って立ちはだかった。

両軍の兵士から絶望とひ悲嘆の叫びが上がった。男はミラに短剣を突きつけようとした。

―――だがな―――

「この俺が、殺らせるわけねぇだろ!」

ミラの影から飛び出し、ヘルヘイムで短剣を持っている腕を斬ったとほぼ同時に、男の身体が横に吹き飛んだ。

 

 

―――今のは……。




「私を騙したのね、ウルス」


「―――あの紅茶はうまかった。お世辞とか一切抜きで、本当にうまかったんだ」


「死神が死んでちゃ、格好がつかないんでね」


「ジェイは私の恋人、愛し合ってる仲よ。あなたには到底無理だろうけど」


「力に溺れた…か」


「自分を弱いと考えろ、そうすれば強くなるためにどんどん色々なものを得られるぞ」


「次回、第10話。「死神、剣舞姫、新たな誓い」見てくれると、ミラ姉様や兄様。私も嬉しいぞ」


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第10話 死神、剣舞姫、新たな誓い

もう10話ですねぇ〜。早いのかは分かりませんが、皆さんが楽しんで頂ければ幸いです。


では、ごゆっくり〜


俺とミラは矢が飛んできた方向に視線を向ける。

1人の若者が、弓を構えた状態で立っていた。くすんだ赤い髪、手には黒い弓。

「ギリギリだったぞ、ティグル」

嬉しさを含んだエレオノーラの言葉に、ミラはきょとんとした顔でヴォルン伯爵を見た。それからエレオノーラを振り返る。

「なんだ、その顔は。まさか、もうティグルの顔を忘れたわけではあるまい」

エレオノーラの言葉を最後まで聞かなかった。こちらへ歩いてくるヴォルン伯爵に向き直ると、深い海の色の瞳に怒りをにじませて見上げる。

「私を騙したのね、ウルス」

顔色を変え、反応に窮したヴォルン伯爵を見て、ミラは静かに言葉を続けた。

「矢羽が同じだったのよ」

「…すまなかった」

頭を下げたヴォルン伯爵の頬を、ミラは容赦なくひっぱたいた。

「謝るくらいなら、今ここで私を助けなければよかったでしょう。あなたの弓の腕ならば、私が殺されるのを待ってからあの暗殺者を射倒すこともできたのではなくて?どうして私を助けたの」

鋭い眼光に射竦められて、ヴォルン伯爵は困惑したようにくすんだ赤い髪をかきまわす。

「お礼って事で、どうかな?」

「お礼?」

眉をひそめるミラに、そう前置きしてからヴォルン伯爵は続けた。

「ーーーあの紅茶はうまかった。お世辞とか一切抜きで、本当にうまかったんだ」

ミラはしばらくの間、じっとヴォルン伯爵の顔を見つめていた。感情の微妙な揺れ動きすらも見逃すまいというかのように。

やがて、ふっとため息をついて、ミラの身体から力が抜ける。

「ヴォルン伯爵。あなたは私に何を求めるのかしら?」

尊大な態度ではなく、楚々とした姫君らしい物腰でミラは尋ねた。

「あなたとともに、テナルディエ公爵を討つこと?」

ヴォルン伯爵は首を横に振った。

「中立を宣言して、動かないでくれればそれ以上望むものはないよ」

「…それだけ?」

納得いかないようで、ミラは美しい顔をしかめた。

「あなたは今、味方が欲しいのではなくて?」

「欲しいよ。でも、君は俺に味方しても何もいいことはないだろう。損をさせるためにつきあわせるわけにはいかない」

「それはつまり、あなた自身は栄達する気はないという事?」

「正直、俺にはアルサスだけでも広すぎるんだ。あそこが平和ならそれでいい」

ミラはまず驚きの表情を浮かべ、まじまじとヴォルン伯爵を見つめた後、苦笑を浮かべた。

「あなた、それ本気で言っているでしょう?」

「もちろん」

即答すると、ミラはうつむき、肩を小刻みに震わせて笑いだした。

ミラがあんなに笑ったのを見たのはいつ振りだろう。

「ヴォルン伯爵。誠意は大切なものよ。だけど、万能ではないわ」

そして、相好を崩してヴォルン伯爵に微笑みかける。

「でも、今回はあなたの誠意を買いましょう。このたびのブリューヌ内乱において、私は以後中立を宣言し、いかなる勢力にも協力しない。ーーーこれでいいかしら?」

「ありがとう。リュドミラ、もう1ついいかな?」

そう言うと、ヴォルン伯爵は笑顔をつくってミラに頭を下げる。

「ありがとう。エレンを助けてくれて」

「…っ」

その言葉にミラは自分の行動を自覚し、顔を真っ赤にして、視線をぐるぐると彷徨わせていた。そんなミラを前に、エレオノーラはなんとも気まずい表情で進み出る。

「…あ、ありがとう」

どもりながらも、礼を述べた。

ミラは過敏に反応し、唾を飛ばす勢いで叫んだ。

「あ、あなたなんかにお礼を言われる筋合いないわ!」

「まったく…ミラはミラだな」

よろけながら立ち、ミラに声をかける。

「ジェ、ジェイ!あなた、傷が!」

俺の脇を見ながらミラが言う。

「あぁ〜ちょっと掠っただけだったん…だ…がな」

俺は支えきれずミラに崩れ倒れる形になった。

「ジェイ!」

ミラはとっさに俺の身体を受け止める。

「わ、悪いミラ…」

「そんな傷で出てくるからよ…まったく」

そう言い、ミラはエレオノーラに向き直る。

「エレオノーラ、今夜はこの城に泊まっていきなさいな。城門を開けるからあなたが中へ連れて来なさい」

そう言いながら、ミラは城へ俺を連れて戻る。エレオノーラとヴォルン伯爵、それに兵達も城の中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェイ、大丈夫?」

治療を終えた俺はミラに看病されていた。

「大丈夫だ。死神が死んでちゃ、格好がつかないんでね」

笑顔でそう答えると納得しないのか、人差し指で俺の脇を突っついた。

「っ⁉︎」

そして当たり前の如く、俺には激痛が走る。

「どこが大丈夫なのよ…ちゃんと休みなさい。良いわね?」

「あぁ、分かったよ」

そう答えると、ミラは俺の頬にキスをしてきた。

「でも、無事で本当に良かったわ」

そう言い残し、ミラは部屋を出た。

「…それは反則だぜ」

 

 

 

 

 

 

ミラside

ジェイの部屋を出た私はエレオノーラ達が食事をしている部屋へ戻った。すると、エレオノーラが気にしていた事を聞いてくる。

「リュドミラ。あのジェイノワールという男は何者だ?」

「…他の者に他言無用。約束してもらえるなら話してあげてもいいわ」

エレオノーラはリムアリーシャとヴォルン伯爵の顔を見て頷いた。

「分かった。後で兵にも言っておこう」

「…ジェイは私を守る『戦騎』よ。戦騎は戦姫を守る為に生まれたと言われているわ」

「なら、他にもその戦騎とやらはいるのか?」

「書物では1代目で亡くなったらしいわ。ジェイはその生き残りの一族よ」

「ほぉう…」

「それと。ジェイは私の恋人、愛し合ってる仲よ。あなたには到底無理だと思うけど」

「なっ⁉︎」

エレオノーラは口をパクパクさせて顔を真っ赤にさせていた。

「あなたに相手が現れるといいわねぇ〜。それじゃ、部屋は教えたところを使いなさい」

私はそう言い残し、部屋を後にした。

out side

 

 

 

 

 

 

 

プローネside

私が目を覚ました時には戦いは終わっていた。兵に話を聞くと一刻前に終わったらしい。

私は部屋を出て、そとを眺めながら葡萄酒を飲んでいた。そこに「銀閃の風姫」が来た。

「こんなところで飲んでいるのか?プロミネンス」

「エレオノーラ…ヴィルターリア」

私は彼女の名を言い、視線を空へ戻した。

「力に溺れた…か」

「お前は何故、そこまで力が欲しいんだ?」

エレオノーラが不思議そうに、そして興味があるような顔をして聞いてくる。

「私は、いつも兄様とミラ姉様に守られてばかりだった、だから力が欲しかった。私は認めてほしかったんだ、私の力を」

「だからあれほどに強者や戦いを求めたわけか…」

私は静かに頷く。

「なら、1度。自分を弱いと考えろ」

「え?」

自分を…弱いと?

「自分を弱い考えろ、そうすれば強くなるためにどんどん色々なものを得られるぞ」

そう言い残し、エレオノーラは部屋へ戻った。

「自分を弱者に…か」

私はエレオノーラに言われた言葉を考えながら、月を眺めた。

out side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェイside

俺はミラが持ってきてくれた食事を摂り、ミラと話をしていた。

「ごめん、ミラ。俺が少し油断したせいだ」

俺はミラに頭を下げ、謝罪した。するとミラは慌てて俺の肩に手をおき言う。

「ジェイが謝る必要はないわよ…あれは計算外の出来事だもの」

「ミラ。俺は弱いな…少し竜技に頼りすぎていた所があった」

「ジェイ…」

「俺はもっと力をつけないとな、相棒と共に」

俺は壁に掛けてあるヘルヘイムを眺めながら言った。

「それは私もよ。相手になってもらえるかしら?」

「もちろん…そろそろ寝るよ」

「そう、分かったわ」

そう言うと部屋を出るのかと思いきや、俺のベッドに潜り込んできた。

「なんか、よく甘えてくるようになったな」

「良いでしょ///」

「まぁな」

そして、俺達は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の戦における損害は、ミラがすべて負担することとなった。

「また、いずれ会いましょう」

ライトメリッツに近いオルミュッツの国境で、ヴォルン伯爵とミラは別れの握手をかわしていた。

「あなたには謝らなければならないことがたくさんあるわね」

「気にしちゃいないよ。俺も色々言ったと思うし、おあいこでいいんじゃないか?」

そう言い、俺にも手を差し伸べてきた。

「クロフォードさんも、迷惑をおかけしました」

俺は手を握りながら言った。

「気にしていない。それと、俺の事はジェイでいい」

「じゃあ。俺のこともティグルと呼んでくれ」

「分かった、ティグル」

「ヴォルン伯爵。あなたの戦いが終わったらオルミュッツに寄りなさいな。あなたがおいしいと言ってくれた紅茶、あれよりもっとおいしいのを淹れてあげるわ」

「あいにくだが、ティグルがオルミュッツなんぞに行くことはこれから一生ない。残念だったな」

「この女に飽きたら、いつでもいらっしゃい」

「ティグルは私のものだ!」

「エ、エレオノーラ」

叫ぶエレオノーラにプローネは声をかけた。

「ん、なんだ。プロミネンス」

「つ、次会ったら再戦してほしい!今より強く、私の力で」

「…フフ、楽しみにしているぞ。私の事はエレンと呼んでいいぞ」

「エレン…私の事もプローネでいい」

「そうか…では、次会う時を楽しみにしているぞ」

そう言い残すと、ライトメリッツへ向かって行った。

「さて、私達も戻りましょう」

「そうだな」

「あぁ」

俺達もオルミュッツとハーネスへ帰還した。




次は、物語ではなく新キャラの設定になる予定です。
私の友達と私が考えたキャラです。色々すごいことになってきましたw


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設定2

お久ぶりです~。お待たせして申し訳ないです・・・忙しくて。
やっと設定ができました~。


デュオサイズ=クロフォード

ジェイとプローネの父で、デュオも「死神」と呼ばれていた。

愛称は「デュオ」

基本明るい性格で妻のシャルも「陽気な死神」と言うほど。ジェイにハーネスを任せてはいるが、政務もしている。

見た目はガンダムのデュオ。

技は後々。

「さぁて、いっちょおっぱじめますかぁっ!」

 

 

シャルパルト=クロフォード

ジェイとプローネの母で、デュオの妻。

愛称は「シャル」

冷静な性格でデュオをサポートする。面白い事には首を突っ込む所も、例えデュオでも面白ければはめる。

暗殺家の生まれで、暗殺が得意。

見た目はフリージングのシャル。武器も同じ。

技は後々。

「まったく…補佐する身にもなってほしいな」

 

 

ラウル=ムーンレイト

ジェネリック領主 17歳

両剣「エクスカリバ-」を操る、ジェイの幼馴染兼親友。ハイトの兄。

愛称「ライト」

「閃光(シャインライト)」の異名を持つ。

クロフォード家と深い交流があり、クロフォード家が「戦騎」であることを知っている。

メガネをかけていて、いつもフードを被っているが本気またはキレるとフードを外す。常に冷静で場の状況観察に特化している。普段は優しいがキレると止められなくなる(自分で勝手に落ち着く)ジェイと幼少期から共に技を磨いている。趣味は読書。

 

自分の背丈と同じ位の長さの剣を2本背中に装備している、2本の剣を連結させ両剣にしたり、別々持ったりして戦う(イメージはソードインパルス)

「すべて斬り捨てる!(テンペスト・ブレイド)」剣を連結させ、剣全体にエネルギーを集め、集めたエネルギーを敵へ向かって薙ぎ払う。

「流石ジェイとミラだな…。俺も負けてられないな」

 

 

ハイネ=ムーンレイト

15歳。ライトの弟。

扇子「蒼運命」を武器にしている。扇子の骨の部分に仕込んである刃で斬り付ける。

兄とは反対でお調子者。静かな兄に比べて軽口を言う癖があり、時々ケンカをしたり、プローネにしばかれることも。(関西弁)

ジェイが仕事上で手に入れたヤーファ国の服(いわゆる和服)を大変気に入り、いつも着ている。情報判断能力は兄と同じ位あり、知力に長けている。自軍を勝利へ導く「軍師」である。

生まれつき持つ力「冷静な殺意(EXAM)」を持つ。発動すると眼が赤くなり、身体能力が一定時間飛躍的に上がるが終わるとかなり低下する。

「爆扇刃羽」蒼運命に仕込んでいる刃を敵に向かって放つ。数に制限があるため使いどころが難しい。

「軍師やからって闘えんと考えない方がえぇで」




すみません・・・眠気と疲労でここまでです。次もキャラ紹介になりそうです。
こんな話が良い!などご意見があったらお願いします。
ではでは~


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設定3

大変永らくお待たせしました!!本当は早くやろうと思ってましたが色々ありまして・・・
今回もキャラの設定です!


クロス=アーヴィング

愛称「クロ」

イレーネ領主 21歳

双剣「レーヴァテイン」を操る。

アレクサンドラ=アルシャーヴィンのレグニーツァ公国から東の位置にあるイレ―ネ領主。

サーシャの「戦騎」。「剣聖(マイスター)」の異名を持つ。

長髪で色は銀。碧眼で美しい眼だったがサーシャを救う儀式を行い、無事成功したが代償として左眼が完全に見えなくなってしまった、眼は開いているが右眼しか見えない。前髪で左眼を隠している。

冷徹無比でクール、だが人一倍義理堅くて優しい。そしてサーシャにも人一倍甘い。

 

 

 

 

『操然(あやつりのしかり)』レーヴァテイン。「地現の双刃」の異名を持つ双剣、大地を操る力を持つ。

「Endless Waltz」まるで舞うかの様な動きで眼にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出す。

「地の怒りを見よ!(アース・オブ・ガイア)」地面に双剣を刺し、地面から硬く鋭い柱を相手に突き刺す。

「地迷宮(ラビリンス)」敵の周りに約10mの高さの壁を作り、そのまま囲い迷路に閉じ込める。迷路はクロの意のままな為、脱出は不可。

「サーシャ、治ったとはいえ万全じゃないんだ。ゆっくり休んでくれ」

 

 

リク=テラムデンス

愛称「リク」

コルナ領主 17歳

剣「ダーインスレイヴ」を操る。

「血形の剣士(ブラッドブレイド)」の異名を持つ。

性格はとても優しく穏やかで戦いを好まない。ジェイ、プローネ、ライト、ハイトと幼馴染みで怒らせると一番怖い。歌を歌うのが好き。メガネをつけている。

 

 

 

 

『奪血剣』ダーインスレイヴ。「血を啜る剣」と言われている魔剣。一度でも血を吸うとその者の血を操れる、自分の血も操れるが使いすぎると死につながる諸刃の剣。自分の血の方が他の者の血より威力は高い。

「血ノ雨(ブラッティ・レイン)」血を鋭い針のようにして敵に降らせる。

「吸血(ブラッティ・ドレイン)」相手の血を奪う技。剣で血を変換させ自分の血にして体内へ入れることも可能。

「血剣(ブラッティ・ソード)」血の剣、血の量によって強度・鋭さが変化する。

「初めに言ったよ・・・。僕達と戦わない方が良いって」

 

カーヴァイン・オルトレイク

傭兵・竜狩り 31歳

大剣「ジャッジメント・ヘイロウ」を操る。

デュランダルを作った家の一つ。ガヌロンによる襲撃を受けカーヴァイン以外死亡、ジャッジメント・ヘイロウを持って生き延びる。後にガヌロンの襲撃と知り、強い敵意がある。

 

 

 

 

『竜裁剣』ジャッジメント・ヘイロウ。剣のコアに竜の心臓を使用していて、竜の血を吸収することで威力・鋭さが増す。使用者にかなりの負担がかかり、血が減ると切れ味が悪くなる(アルケーとフルクロスの合体した剣がイメージ)

「幽破斬(ホロウ・イグジスト)」変幻伸縮自在の斬撃を放つ。

「神縛滅鎖(ジャッジメント・バインド)」斬った相手を剣で生成された鎖で束縛、滅する。

「おいおい・・・物足りねぇなぁ!」




「・・・君のしていない書類やその他諸々をいつも全て誰がしていると思ってるんだい?」



「くっくっくっ♪ま、これからのあいつらに期待って所だな」



「わざわざすまねぇな。ヒイロ、カトル」



「全くだ、約束は守ってもらうぞ」



「まぁまぁ、今はその辺にしましょうよ。子供達の前ですよ?」



「だけど、新たな可能性が生まれようとしているよ?」




「次回、第11話。「死神と幼馴染み」良かったら見てくれ♪」

本当遅くなってしまい申し訳ありません・・・3月は小説をやろうと思ってたのですが再実習を喰らってしまい・・・そしてバイトもありで・・・。これからは上げられると思います!多分!


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第11話 死神と幼馴染み

どうも~。もう時間があるならできる限りこっちに回す気でやっております、今回は親同士のお話しですね。
作者、ガンダムW好きすぎだろwと思われるでしょうw


では、ごゆっくり~


ミラをオルミュッツほへ送り、俺たちはハーネス到着した。執務室に入ると2人の男性と女性がいた。

男性の方は茶髪で長い後ろ髪を三つ編みにして1つにまとまている。眼の色は薄い紫。女性の方はプローネの「炎月華」を抜いた時の髪の色とは真逆で、深い海の様に深い蒼で、髪は短めで肩のあたりまで。眼の色は赤茶色。

そう、この2人は俺たちの両親。デュオサイズ=クロフォード、シャルパルト=クロフォードだ。

 

「よぉ、戻ったか。ジェイ、プローネ」

 

「はい、ただいま戻りました」

 

俺がそう報告をすると父さんは左手をひらひらさせた。

 

「堅苦しいのはなしだ、ジェイ。まったく、誰に似たんだか」

 

「デュオに似た、と言う可能性は皆無だから安心しな。ジェイとプローネは、戦闘に関しては君に似ているがそれ以外はボクに似たのさ」

 

「自分を真面目というか?」

 

「・・・君のしていない書類やその他諸々を、いつも全て誰がしていると思ってるんだい?」

 

「スミマセン」

 

父さんが負け、母さんに頭を下げた。本当に仲が良い夫婦だと思う。

 

「ジェイ、今回の書類等はボクとデュオがやっておくから休むんだ。プローネも、ね?」

 

そう言いながらウインクをする。

 

「で、でも―」

 

母さんの言葉にプローネが食い付くが、すぐに言葉の続きを言えなかった。プローネの左腕に巻き付いているスカーレットが軽く腕を絞めつけたからだ。ヨミも同じことをしていた。そして俺たちをジッと見つめている。

 

「ほら、そいつらも心配してんだ。今はゆっくり休め、良いな?」

 

「「は、はいっ!」」

 

俺とプローネは返事をし、自分の部屋へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュオside

「あの2人、結構派手にやられたのか?」

 

俺は妻であり最高のパートナー。シャルパルト=クロフォード・・・シャルに聞く。

 

「報告書だとプローネはエレオノーラ=ヴィルターリア、アリファールの主だね。彼女に敗れた。ジェイはエレオノーラとティグルヴルムド=ヴォルン伯爵というブリューヌ人との合わせ技のようなものを食らって下がらせたみたいだね」

 

「あいつを下げる・・・プローネは昔のお前に似て、自分の力に妙に自信があるからな」

 

「・・・くやしいけど、返す言葉がないよ」

 

「にしし♪・・・ま、これからのあいつらに期待って所だな」

 

「そうだね。だからって鍛錬をサボらないでくれよ?」

 

シャルは軽く目を細め、俺を睨む。

 

「わ、分かってるって!?に、睨むな」

 

「分かれば良いよ。それじゃ、これらをさっさと終わらせようか」

 

「だな」

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルside 翌日

目を覚ましたボクは、隣で寝ているデュオを起こさないようにベッドから出ようとしたけどデュオに服を掴まれて出れなかった。デュオの手を丁寧に外し、代わりに頬にキスをしてあげた、知ったら調子に乗るから本人には内緒。

乱れた服を脱ぎ、私服に着替えて顔を洗う・髪を整えるために洗面所へ向かった。洗面所へ着くとプローネが先にいた。溜めた水に映っている自分をジッと見つめていた。

 

「おはよう、プローネ。どうした?思いつめた顔をして」

 

「か、母様!?お、おはようございます・・・実は―――」

 

プローネはボクに理由を話してくれた。自分の力を過大評価し過ぎていたこと、そのせいでエレオノーラに敗れジェイとミラの足を引っ張ってしまった、と。

 

「なるほどね」

 

「か、母s「ごめんね、プローネ」え?」

 

「本当に、お前はボクに似ているね」

 

「私が・・・母様に?」

 

「あぁ。ボクも昔、そんな時期があったんだ。デュオに眼を覚まさせられたよ」

 

ボクはプローネの髪を優しく撫でる。

 

「母様にも・・・そんな時期が」

 

「そうだよ。でもプローネは運が良かったね」

 

ボクがそう言うとプローネはボクを見上げ、首を傾げる。

 

「ボクはデュオに出会うまで気付くことはなかっただろうからね・・・でもプローネはボクとは違う、もう気付いたんだ。これでもう、繰り返すことはないね」

 

ボクはプローネを離し、鏡の前に立ち顔を洗った。

 

「母様・・・!」

 

「ふふ、『炎月華』を本当の意味で扱える様にね」

 

「はい!」

 

元気よく答えるとプローネも顔を洗い始めた。

 

「それでこそボクの娘だ」

 

タオルで顔を拭き、別のタオルをプローネに渡す。ありがとうございます、と言いタオルを受け取り、顔を拭く。

 

「そうそう、訓練相手兼これからの戦いを考えてジェネリックのヒイロ・コルナのカトルに協力をデュオがしておいたよ」

 

「父様が?」

 

「あぁ。ヒイロは「好きに使ってくれ」、カトルは「リクを宜しくお願いしますね」だってさ。準備ができ次第ここに来るらしいよ」

 

「そうですか!ふふ、腕が鳴る」

 

ボクの言葉にプローネは食い付く。

 

「その心意気は良いけど、繰り返すなよ?」

 

「わ、分かってます!」

 

「ふふ、なら良いさ」

 

ボクはプローネの頭を優しく撫で、自室へ戻った。

 

「ボクも出来る限り、あの子達のサポートをするとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ハーネスにジェネリック軍とコルナ軍が到着した。

 

「わざわざ悪ぃな。ヒイロ、カトル」

 

「全くだ、約束は守ってもらうぞ」

 

ヒイロゼロ=ムーンレイト。短めの黒髪、デュオとは真逆でクール系。デュオと相性が悪そうだけど、実はかなり相性は良い。

 

「わーってるよ!・・・全く、相変わらずだな」

 

「お前もな(即答)

 

「何ぃ」

 

「まぁまぁ、今はその辺にしましょうよ。子供達の前ですよ?」

 

カトルロック=テラムデンス。髪の長さはボクと同じくらいで、白に近い黄色をしている。2人の喧嘩の仲裁役であり、3人の中で怒らせたら1番怖いのがカトルだ。ボクも思わず泣きそうになってしまった。

 

「そ、それもそうだな・・・」

 

「・・・分かった」

 

2人は大人しく引き下がる。ボクはカトルに近づき耳打ちをする。

 

「続けさせても良かったのに♪面白くなるかもしれなかったし?」

 

「シャルさん・・・。僕らだけならまだしも、子供達の前ですよ?」

 

「続けさせても大丈夫だから言ったのさ、ほら」

 

ボクは子供達の方を指さす。カトルもそちらを見ると子供達は子供達で話をしていてこちらを見ていなかった。

 

「5人揃うのは久しぶりだからね、話に夢中さ」

 

「アハハ・・・まぁ、遊んでいる時間もあんまりないですから」

 

「あれ、すぐに戻るのかい?カトル」

 

「はい、遅くても明日の朝には。コルナを妻だけに任せることは出来ませんから」

 

「俺も同じだ。明日の朝に出る」

 

妻・・・リリーナ=ムーンレイト、ラウラ=テラムデンスか。久しく会ってないけど、多分元気だろう。

 

「そっか。じゃあ今日はゆっくりしていけよ。ウチの酒でも飲みながら久々にチェスでもしようぜ♪」

 

「良いだろう」

 

「それは良いですね」

 

デュオの提案に2人が同意する、つまみでも作ってあげよう。

 

「皆、立ち話もなんだし中に入りなよ。ボクが食事を用意してあげよう」

 

ボクがそう言うと皆は中へ入り、兵達には泊まる場所を教え自由にしていいよと伝えた。

 

そして食事を取り、話や組手等をして夜になり、子供達は寝て、ボク達大人はデュオとボクの部屋に居た。

 

「で、カトル。ブリューヌのテナルディエとガヌロン・・・どう思う?・・・ほい、ヒイロの番だぜ」

 

デュオはコマを動かし、カトルに問う。

 

「まだ情報が少ないので何とも言えませんね・・・。ですが、両者がぶつかる可能性は高い」

 

「テナルディエには国王の姪、ガヌロンには姉経由で両者王家に繋がっている。動くのは時間の問題だと思うが・・・。(トッ)お前の番だ」

 

カトルは腕を組み、ヒイロはコマを動かす場所を考え、コマを置き言う。

 

「だけど、新たな可能性が生まれようとしているよ?」

 

ボクは空になったヒイロのグラスに発泡酒(コーラ酒)を注ぐ。

 

「・・・ティグルヴルムド=ヴォルン伯爵か?」

 

ボクの問いにヒイロが答える。

 

「流石ヒイロ、情報が早いね。その通り、彼はブリューヌの第3勢力になるかもよ?」

 

ボクはクスリと笑いながら言う。

 

「シャルさんの勘は良く当たりますから、本当になるかもしれませんね?」

 

カトルは軽く笑いながらボクに同意してくれた。

 

「・・・俺たちはヴォルンの勢力に入るのか?」

 

「多分な。ま、貸しを作るのは悪くないだろ?」

 

「異論はない・・・チェックメイト」

 

ヒイロは淡々と言い、ゲームを終わらせた」

 

「何ぃ!・・・マジかよ」

 

「デュオの負け・・・ですね」

 

カトルは優雅に酒を飲みながら言う。

 

「ちぇ~。もう少しだったのによ」

 

チェスを片付けながら愚痴をこぼす。

 

「ふ、残念だったな」

 

ヒイロは酒を飲むと部屋を出るため扉へ歩く。それにカトルも続く。

 

「それじゃあ、僕たちも寝ますね。ご馳走様でした」

 

そう言って扉を閉めたカトル、部屋にはボクとデュオだけになった。




「シャルが可愛いから?」



「・・・はぁ、君には敵わないな」




「何や何や?ジェイ兄、ミラ姉と喧嘩でもしたん?」



「何かあったのかな?」



「・・・おそらくな」



「久しぶりね、ティグルヴルムド=ヴォルン」



「次回、第12話。「死神と雪姫と再会の黒弓」・・・見ろ。「是非見てくださいね♪」


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第12話 死神と雪姫と再会の黒弓

お久しぶりです!色々忙しくて投稿できませんでした・・・申し訳ありません・・・
ですが!そろそろ夏休み!去年の如くやりたいと思います!
そして私の今はまっている「戦姫絶唱シンフォギア」を入れる可能性があります!(なんでもありかw)
では、ごゆっくりデース!


「なぁ、シャル「やらないよ」まだ何も言ってねぇ!?」

 

「違うのかい?」

 

と聞くと、バツの悪そうな顔をしてうっ、と言った。

 

「はぁ。友人にその子供達もいるのにねぇ?」

 

「シャルが可愛いから?」

 

そう言うと後ろから抱き付いてくるデュオ。ボクはするりと抜け出しデュオの頭に少し強めにチョップを喰らわせる

 

「---ていっ」

 

「いってぇ!?」

 

デュオは思わず頭をおさえる。

 

「ダメなものはダ~メ。今はそんな気分じゃないし、さっきも言ったけどヒイロやカトル、それに子供達もいる。ボクはそんな趣味はないからね。それとも嫌がってるのに無理矢理するような男なのかい?デュオは」

 

最後のが効いた、うずくまったまま動かなくなった・・・ちょっと言い過ぎたかな?そう思い、デュオの頬にキスをしてあげた。

 

「言い過ぎた、ごめん。デュオがそういう男じゃないのはちゃんと分かってるよ・・・まぁ、キスや抱き付く位なら許してあげるよ」

 

言い終わるとデュオはボクを・・・お、お姫様抱っこをした。

 

「ちょ、デュ、デュオ!?///」

 

流石のボクも不意打ちには弱く、多分頬・・・というか顔を赤らめている。

 

「んじゃ、お言葉に甘えさせてもらうぜ♪」

 

満面の笑みで言う・・・まさか。

 

「お、落ち込んだフリをしていたな!?」

 

「正解♪」

 

「・・・はぁ、君には敵わないな」

 

ボク達はそのまま寝室へ行き眠りについた・・・ボクはデュオの抱き枕にされ。

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒイロさんとカトルさんがそれぞれの国に戻り、しばらくたったある日。武装をしたオルミュッツ軍がハーネスへやって来た。

 

「何や何や?ジェイ兄、ミラ姉と喧嘩でもしたん?」

 

「喧嘩しただけで争いを起こされてたまるか・・・通せ!」

 

俺の命令に従い、兵が門を開けるために仲間の元へ走る。

 

「何かあったのかな?」

 

「・・・おそらくな」

 

ハイトが軽口を言い、リクとライトはオルミュッツ軍を眺めながら呟く。

オルミュッツの代表者、もちろんミラが謁見の間へ入って来た。

 

「さぁて、何の用で来たか。教えてくれるかい?ミラ」

 

父さんの問いにミラは直ぐに答える。

 

「王の命令で、私がエレオノーラの監視を命じられた事の報告と、ジェイ達を連れて行って良いかというお願いの為です」

 

ミラの答えに父さんは考える。代わりに母さんが問う。

 

「それは分かったけど、ジェイ達と言うことは他に誰を連れて行くんだい?」

 

「最初はジェイ、プローネ、ハーネス兵と考えていましたが、ライト達が此処にいたので彼らにお願いしようかと」

 

ライト、ハイト、リクの3人を見ながら答える。

 

「ま、良いぜ。兵は出さなくていいのか?」

 

「3千連れていますが・・・可能ならお願いします」

 

「よし、んじゃ決まりだな。で、その監査殿は何処へ行くんだい?」

 

「アニエス付近にいるみたいなので、そこへ」

 

「OK、出発は明日早朝。それまでゆっくりしてな」

 

そう言い立ち上がり、ミラの頭を軽く撫で、母さんと部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りね、3人共」

 

場所を俺の部屋に移し、ミラが3人に向けて言う。

 

「あぁ、久し振りだな。ミラ」

 

ライトは短く言うと、手を差し伸べる。

 

「えぇ、貴方も変わらないみたいね」

 

その手を握り返し答える。

 

「お久し振りですぅ、ミラ姉!」

 

元気に右手を挙げて、ハイトがミラに近づく。

 

「ハイトも変わらないわね?」

 

ライトと握手を止め、ハイトの頭を撫でる。

 

「そう簡単に人は変わらんって♪」

 

「そのようね」

 

「お久し振りだね、ミラ」

 

リクが優しく微笑み言う。

 

「久し振り、リク。貴方も変わってないみたいね」

 

「あはは、そうかもね」

 

軽く挨拶をして6人で話をしているとノックが聞こえた。

 

「ボクだ。ジェイかミラはいるかい?」

 

「母さん?俺もミラもいるけど」

 

「失礼するよ。話ことがあってね」

 

母さんが部屋に入り、内容を話す。

 

「デュオと話して、ボクも一緒に行くことになった」

 

「母さんも?」

 

「あぁ。ヒイロとカトルの子達もいるしね、保護者代わりにね」

 

「なるほど」

 

「それにボクも疼いていてね・・・っと、今のは気にしないでくれ。じゃ、明日ね」

 

そう言って母さんは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達がハーネスを出て少し経ち、アニエスへ近づく。先に放っていた兵が戻り報告を受けた。

 

「此処から少し行った所に弓の旗の軍とムオジネルの軍を発見、ムオジネル軍が弓の軍を追撃しているようです」

 

「分かった。直ぐに向かうぞ」

 

「はっ!」

 

そして俺達が着いた時にはティグルと他十騎でムオジネルを足止めをしていた。

 

「久し振りね。ティグルヴルムド=ヴォルン」

 

ティグルの顔を見て、ミラはどこか意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティグルの軍「銀の流星軍(シルヴミーティオ)」は俺達のおかげでピンチを免れたものの、一時的なものでしかないというのは誰もが分かっていた。

現在、両軍の間に設置された幕舎で、それぞれの総指揮官が椅子に座り、テーブルを挟んで向かいあっている。ミラとティグルだ、それと軍師としてハイトが同席している。

俺達は別の幕舎で休憩を取っていた。母さんはやる事があると言って外へ出た。

 

シャルside

「やっぱり、報告でなく自分の眼で、耳で確認しないとね」

 

ボクはミラ達がいる幕舎の柱に寄りかかり話が終わるまで待つことにした。すると幕舎からティグルヴルムド=ヴォルンが出てきて兵に何かを頼んでいた・・・話かけてみようか

 

「やぁ。初めまして、ティグルヴルムド卿」

 

ボクの声に気付き、彼がこちらを向く。

 

「貴女は・・・?」

 

「ボクかい?ボクはシャルパルト=クロフォード。ジェイとプローネの母親さ」

 

「は、母親っ!?」

 

彼は驚きの表情をする。ボクはよく、子供が2人いると言うと大体驚かれる・・・。

 

「そうだけど・・・驚くことかい?」

 

「い、いえっ!?と、とても若く見えたので・・・」

 

少し顔を赤くして言う。

 

「おやおや、口が上手いじゃないか♪ボクの機嫌を取ってハーネスに取り繕うって魂胆かな?」

 

クスクス、とボクは冗談でそんなことを言ってみる、するとあわあわして弁明し始めた。

 

「そ、そんなつもりはないですよ!?お、俺の本心です」

 

「ふふ。なら、素直に受け取っておこうかな、ありがとう」

 

そんな話をしていると1人の兵が黒い弓を持って歩いてきた。

 

「ティグルヴルムド卿!持ってきましたよ・・・そちらの方は?」

 

弓を持ってきた禿頭の兵がボクに気付き彼に問う。

 

「この方はハーネス代表とその姫のお母上だ」

 

簡易に説明し終えてから、ボクは軽く微笑む。

 

「な、何と!?これは失礼致しました!」

 

彼はすぐさま頭を下げる・・・おやおや

 

「君は謝る事をしていない、ボクが言わなかったからだ。こちらこそすまない」

 

「い、いえ!・・・あっ!ティグルヴルムド卿、頼まれてた物です」

 

そう言うと、持っていた黒い弓を彼に渡す。

 

「(なんだ・・・あの弓は。不気味な感じはするが・・・)」

 

ボクは弓を見てそう感じた。勘だが・・・危険な力がある気がする。実物を見れて良かった。

 

「それじゃ、ボクはこれで。今度ゆっくり話そう」

 

ボクはそう言うと自分の幕舎へ向かって歩いた。

 

「(とりあえず、この状況を突破しないと次の舞台には上がれない・・・さぁ、君達の戦を見せてもらうよ)」

 

幕舎に戻ったボクは、持ってきた愛武器を撫でながらそんなことを思っていた。




「---一戦よ」


「・・・有名なのか?」


「任しとき、俺の策は勝利へ導くで!」


「それ・・・竜具の力なのか?」


「このボクを敵にまわしたことを・・・後悔するがいい!」


「流石ジェイとミラだな…。俺も負けてられないな」


「初めに言ったよ・・・。僕達と戦わない方が良いって」



「次回、第13話。「死神&凍漣・黒弓VS赤髭」ボクも活躍するから、見てくれると嬉しいな」


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第13話 死神&凍漣・黒弓VS赤髭

遂に夏休みデース!
いやぁ~楽しみでしたよこの瞬間!小説を投稿できる時間を!
と、いうわけで早くももう投稿です。夏休み中では最低五話載せたいと考えております!応援のほどをお願いします。
では、どうぞ~


「---一戦よ」

 

人差し指を立てて、険しい表情でミラは告げた。

 

「一度の戦いで、ムオジネル軍を打ち破る」

 

ここは『銀の流星軍(シルヴミーティオ)』の幕営にある、総指揮官の幕舎の中だ。数枚の地図を囲んで、ティグルとミラ、ジェイ、シャル、ルーリック、ハイトの6人が座っていた。

ジェイ達がわざわざ出向いたのは、ティグルの部下を安心させるという意味合いが強い。ライトメリッツの兵達はあまりいい感情を抱いておらず、ブリューヌ兵にしても突然現れた相手に戸惑いを隠せないからだ。

 

「できるのですか?」

 

「できるかどうかやない、やるしかないいんや」

 

懐疑的な視線を向ける禿頭の騎士に、ヤーファ国を身に纏う軍師は当然と言わんばかりに言い返す。

 

「・・・」

 

「・・・ティグルはん?」

 

ハイトが声をかけるも反応せず、俺が声をかけようとするとミラの声でかき消された。

 

「---減点」

 

そう言うと「はっ」、として我に返った。ミラは憮然とした表情で凍漣を手にティグルを睨みつけている。

 

「疲れているのはわかるけど、重要な軍議の最中に上の空、というのはどういうことかしら?何を考えていたの?」

 

ミラの問いにティグルはひたすら平身低頭して許しを請い、シャルはクスクスと笑みをこぼし、眺める。聞こえよがしの溜息一つでミラは許した。

 

「じゃあ・・・話を戻すで?---そもそも兄さんらの兵、一戦しかもたへんやろ」

 

その指摘にティグルは苦い顔になった。それにシャルが言葉を続ける。

 

「責めているわけではないよ。二千足らずで二万を撃退するなんてこと自体、無謀なのさ。一日休んだ程度・・・ましてや戦場での休息では、ね」

 

「しかし・・・一戦で、と言うからには何か策はあるのか?」

 

困惑を隠さない表情でティグルが訊いた。それに自信満々にハイトが答える。

 

「任しとき、俺の策は勝利へ導くで!」

 

「と、言っても基本的には、貴方達が二万の敵にやったことと同じよ」

 

ミラがばらすと、ハイトはズルッと滑り頭をテーブルにぶつける。

 

「ミ、ミラ姉ぇ・・・」

 

「兵を無視して将を狙い撃つ。圧倒的多数の敵に対してできることって、食糧か総指揮官のどちらかを狙うしかないもの」

 

「食糧を狙わないのは何故でしょうか?」

 

「その場合、徹底する必要があるからや」

 

腕組みをするルーリックに、テーブルから頭をあげたままハイトが答え、そんなこともわからないのかと言いたげな顔でミラは鼻を鳴らした。

 

「まず、敵をもっと奥深くまで誘いこむ。次に、敵の進路上にある町や村を空にして焼き払う。夜風をしのぐ環境すら与えない。相手が食糧の備えを怠るような愚物でもないかぎり、ここまでやらないと効果は見込めないわ。そして、相手はそんな愚物どころじゃない」

 

「相手について知っているのか?」

 

ミラの緊張した表情を見て、ティグルは率直に尋ねる。凍漣の雪姫(ミーチェリア)は忌々しげに顔をしかめて答えた。

 

「クレイシュ=シャヒーン=バラミール。『赤髭(バルバロス)』の異名を持つムオジネルの王弟よ」

 

シャルは険しい表情になるも、ティグルとルーリックは怪訝そうに顔を見合わせる。

 

「・・・有名なのか?」

 

「この言い方からすると、おそらく」

 

「知らないのは貴方達が無知だからよ」

 

怒気と冷気をはらんだ視線で睨まれ、ティグルは困ったように頭をかいて弁明した。

 

「あ、アルサスはそういう話とは無縁のところなんだ。すまないが教えてくれないか」

 

「まったく・・・エレオノーラは貴方に何を教えていたのかしらね」

 

憮然とした表情でそう不満をこぼしながらも、ミラは説明する。

 

「十年ほど前だったかしら、ザクスタン軍が一千隻もの船団を仕立ててムオジネルに攻めこんだの。そのとき、わずか二百隻で迎え撃ったのがクレイシュよ」

 

「その話の流れからすると、クレイシュが勝ったのか」

 

「圧勝よ。そして、その強さに恐れおののいたザクスタン軍は、畏敬をこめて『赤髭』と彼を呼んだの。ザクスタン語で、バルバロッサと。それがムオジネル語で少し訛ってバルバロスになったというわけ」

 

ティグルとルーリックはげんなりした顔を見合わせた。

 

「まず、アニエスで戦うことは無理ね。後退するわ」

地図を一枚取り上げて、青い髪の戦姫はティグルとルーリックに見せる。アニエスをブリューヌ方面へ抜けた先にある、オルメア平原だった。

緩やかな草原、一本の街道、二つの丘・・・それ以外には説明することもない平坦な地だ。

 

「断崖だらけのアニエスよりよほど、大軍に有利な戦場ではありませんか」

 

ルーリックの声には棘がある。ティグルはなだめるように彼の肩を叩くと、できるだけ穏やかな調子でミラに尋ねる。

 

「わざわざここを選ぶのは、理由があるんだろう」

 

当然だ、という表情でミラはうなずく。

 

「説明してあげてもいいけど・・・その前に二人とも、今回の四万の敵と、貴方達が破った二万の敵の違いについて説明してみなさい」

 

「まず、数が違うな。だから軍の厚みが違う」

 

「先遣隊と、本隊という違いもありますな。先遣隊が得た情報は、ほぼすべて本隊に渡っている渡っていると考えてよいでしょう」

 

「その二点でいいわ。それだけで充分だから」

 

「せやな、敵は地形も、こちらのおおよその数も把握しておる。その上で、警戒しとるしな。だからここでの小細工にはまず引っかかんし、奇襲しても敵将の首には届かへん」

 

「それを、オルメア平原でならなんとかできると?」

 

「あるで?でも俺らだけじゃ数が足りん・・・確か二千人ばかり難民がいるやろ?そん人らにも手伝ってもらうんや」

 

その言葉にティグルは息を呑んだ。苦い薬を飲み下したような顔で訊く。

 

「・・・彼らに何をやらせる気だ?」

 

「囮や」

 

ハイトは地図の何ヵ所かを指で示して説明し二人を驚かせた。

 

「・・・危険な策だな」

 

「怖気づいた?」

 

ミラが挑発的な声音でティグルに問う。それをティグルは静かに首を横に振る。

 

「君はどうしてそこまでしてくれるんだ?」

 

ミラの返答は明快だった

 

「貴方がそう思うほどの貸しができるからよ。貴方なりのやり方で、私を満足させてちょうだい?期待しているわ」

 

ミラがいたずらっぽく笑ってそう言った。ティグルはおもわず彼女をまじまじと見つめると、活力を取り戻した笑みを浮かべてうなずく。

 

「あぁ。ありがとう」

 

軍議を終え、ミラと軍へ戻る。

 

「ちょっと妬けるな」

 

「あら?ふふ♪どうしたのよ、ジェイ」

 

ミラはジェイの頬に手を添え、いたずらっぽく笑みをこぼす。

 

「協力するのに俺も同意はしたが・・・何か面白くない」

 

「もう・・・子供みたいなこと言わないの。私の想いは貴方と共にある・・・でしょ?」

 

「ズルいセリフだな・・・それは」

 

「ふふ♪嫌いなセリフかしら?」

 

「いや・・・それはない」

 

「なら、戦の準備を急ぎましょう・・・敵が例えクレイシュだとしても、私達なら・・・」

 

ミラがジェイの瞳をのぞき込み、問う。

 

「あぁ・・・全てを切り刻んで、終わらせてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムオジネル軍は、第一軍から第四軍までが丘を包囲し、第五、第六、第七軍が奴隷を追って街道を進んでいる。第五軍が先頭に立ち、その後ろに第六軍と、本隊である第七軍が並ぶという形だ。

その第五軍に、丘の陰に身を潜めていた『銀の流星軍』とオルミュッツ軍が雪を蹴立てて襲い掛かったのだ。オルミュッツ軍の先頭にはミラにジェイ、シャルにティグル、リク、ライト、プローネが馬を並べている。ハイトは後方で指示を出している。

ムオジネル軍は長槍を構え、矢の雨を浴びせてこれを迎え撃った。雪の舞い散る空に幾千もの矢の雨が混じる。

しかし、それらはミラとジェイに当たることはなかった。ミラに迫った矢は、彼女に命中する前に凍り付き、粉々に砕け散って地面に溶け、ジェイに迫った矢は突如現れた黒い壁に吸い込まれ矢は姿を消した。常識で推し量れない現象に、ムオジネル兵たちの間から悲鳴があがる。

 

「それ・・・竜具の力なのか?」

 

「大きな声で言わないでね」

 

問いかけを、ミラは軽やかに笑うことで肯定した。

ティグルは黒弓に数本の矢をつがえ、弓弦を力強く引き絞り、矢を放つ。矢の群れは褐色の兵達の頭部を捉え、地面へ倒れる。

初めて見たライトとリク、シャルは驚きを隠せなかった。

 

「凄いな・・・君は」

 

「・・・可能、なのか」

 

「もはや神業ですね・・・」

 

「ぼさっとしてないで、行くわよ!」

 

ティグルの矢で生まれた綻びに、ジェイとミラが躍り出た。ラヴィアスとヘルヘイムを両手で振り回し、敵兵を次々薙ぎ倒す。

二人のコンビネーションは素晴らしいものだった。お互いがカバーしながら敵を撃つ。

 

「流石ジェイとミラだな・・・。俺も負けてられないな」

 

そう言いながら三人も二人に続く。ライトは長剣を構え周囲の敵を一掃し、力の差を見せつける。

 

「初めに言ったよ・・・。僕達と戦わない方が良いって」

 

ティグルと助けた際、リクが敵に言った言葉である。リクは巧みに剣で敵を斬り、その斬った敵から血を集め力を溜める。

 

「(私は・・・もう呑まれない!)さぁ、貴様らの義を見せてもらおう!」

 

プローネは六本の刀を抜き、舞うかの如くに敵を斬り捨て、蹂躙していった。

 

「(久々の戦場だ・・・身体が熱く感じる)このボクを敵にまわしたこと・・・後悔するがいい!」

 

敵が一番恐怖を感じている相手は戦姫のミラではなく、シャルだった。何故なら・・・同じシャルが複数人いて敵に双剣ビブラート・オブ・ヘルを振るっていたからである。

 

「シャル義母様・・・凄いっ」

 

シャルの戦いを目の当たりにし、本心が出る。

この戦場で一番崩れているのはシャルのところである。

 

「さぁ・・・もっと来なよ?相手は女だよ」

 

1人の声のはずなのに、多数の位置から聞こえ、ティグルは耳がおかしくなったのかと思った。

 

「リュドミラ、シャルパルトさんは一体・・・」

 

漆黒の弓を握りしめ、矢を射放って部隊長を射倒しながら問う。

 

「この戦いが終わったら本人に聞きなさいな。でも、これだけは教えてあげる・・・あの方は私より強い」

 

ティグルは眼を見開いた。戦姫より強い・・・?前に戦ったロランを思い出すも、彼女はそれ以上なのかもしれないとティグルは思った。

 

その間に街道に沿って逃げていた難民達を、ムオジネル軍は追いかけていた。

・・・が、ムオジネル軍が追いかけていたのは難民ではなかった。難民に偽装した『銀の流星軍』とオルミュッツ兵だったのだ。彼らは武器を隠して逃げ続け、ティグルとミラが第五軍を襲うのに呼吸を合わせて攻撃に転じたのだ。

本物の難民達はいま、ムオジネル軍二万に包囲された丘の上にいる。

一昨日の夜---すなわちミラ達との軍議を終えた後、ティグルが難民達を説得し、協力を得たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムオジネル軍の偵察兵が、丘の上にいるのが難民であることを見抜けなかったのは、ミラがおよそ半日で偽装をほどこしたからだ。

 

〈城砦の堅固さや備えをじっくり調べるなんて、普通はできないわ。だから、偵察兵には城砦の何ヵ所を素早く観察して把握する能力が求められるんだけど・・・逆に言えば、その何ヵ所かをしっかりできてるように見せれば、一日はごまかせる。それならたいして時間も手間もかけずにすむわ〉

 

守りの戦いに長けるミラならではの仕掛けに、ムオジネル軍は見事に引っ掛けられたのだった。

第五軍が壊滅したという報告を受けても『赤髭(バルバロス)』クレイシュはまったくうろたえなかった。敵は確かに目と鼻の先にいるが、クレイシュのまわりには五千の兵がおり、すぐ隣にはもう五千の兵がいるのだ。

まわりにいる側近達も迫る敵の気配にうろたえかけたものの、泰然としているクレイシュを見て落ち着きを取り戻す。

「第四軍へ伝令を飛ばせ。---予定通り、兵は第一から第三軍で包囲する形をとり、第四軍は援軍として急ぎこちらへ向かうように、とな」

クレイシュは戦端を開く前に何通りかの状況を想定し、その内の可能性の高いものについては、それぞれの軍の指揮官にも伝えておいたのである。

『銀の流星軍』とオルミュッツ軍の連合軍が、クレイシュの直接指揮する第七軍と衝突した。赤馬と黒竜が並んで爆走し、黄金の武装で身を固めた戦神に喰らいつく。

―――だが、『銀の流星軍』は崩れた。

 

「(---限界がきたんだっ)」

 

このブリューヌ兵達は、テリトアールからティグルにつき従ってきた者達だ。ミラに「一戦が限界」と称された兵達である。

 

「・・・ちっ、戦況が悪い」

 

舌打ちをしながらも長剣を操り敵を蹴散らしていく。

 

「後一歩というところで・・・!」

 

氷の槍を振るって殺到するムオジネル兵を革鎧ごと貫き通し、あるいは馬上から叩き落しながらミラは悪態をついた。彼女の髪は乱れ、肌にも絹服にも血の飛沫がこびりつている。呼吸は荒く、すでにどれだけの敵を屠り去ったかは判然としない。

 

「ちぃ・・・!」

 

『銀の流星軍』とオルミュッツ軍はまさに、絶対絶命の状況にある。




「ただちょっと、敵の数が多いというだけで、泣き言を言うの?」


「君に誇りがあるのなら、俺にも意地がある」


「・・・これが、ティグルヴルムド卿の力なんだね」


「---貴方はとても頑張ったわ。素敵だったわよ・・・ティグル」


「・・・面白くない」


「ヴォジャノ―イ。仲間内じゃ、そう呼ばれている」


「ティグル!」


「まずは、お疲れ様でした。ティグルヴルムド卿」


「次回、第14話。「死神・凍漣・黒弓VS蛙の魔物」遂に魔物が出てきたか・・・この弓には一体・・・。あっ・・・次の話も見てもらえると嬉しいぞ」


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第14話 死神・凍漣・黒弓VS蛙の魔物

どうもデス~♪
秋休みに入ったので投稿しようと思いやりました~(リアル友達に投稿した日に「次話はよ」と煽られております)
この前魔弾の王と戦姫の全巻Blu-ray揃えることができました!全然見つからなくて探すのに苦労しました・・・達成感が凄いデス♪


合計すれば一万を超える自軍が、六千以下の敵を二方向から攻め立て、あまつさえ半包囲しつつあるのだ。誰が見てもムオジネル軍の勝利は動けぬと思っただろう。

剣を振り上げ、あるいは槍を構えて殺到するムオジネル兵を、ミラは次々に打ち倒した。首を刎ね、胸を貫き、駆っている馬を跳ね飛ばす。雪と泥と兵の死体が積み重なり、凍結して地面をいびつなものへと変えていった。

 

「(いざとなったらミラ達を影に逃がすことはできるが・・・ちっ)」

 

禍々しい鎌を振るい、敵の鎧ごと両断し最悪の時の対処を考えるものの、それは一時的なもので解決には至らなかった。

 

「リュドミラ、ジェイ。ここは俺がどうにかするから、君達は―」

 

「黙りなさい」

 

槍を振るい目の前の敵を永遠に沈黙させながら、青い髪の戦姫はティグルの言葉を遮る。顔には隠しきれない疲労の色があったが、瞳には生気と戦意が強く輝いている。

 

「ただちょっと、敵の数が多いというだけで、泣き言を言うの?」

 

ティグルは答える前に、つがえた矢を素早く射放した。それは風を短く切り裂いて、ミラを狙っていた兵士の首を貫く。

 

「疲れてる女の子に、休めって言うのは、当たり前だろう」

 

「鏡があったら、お前に見せてやりたいよ」

 

「・・・酷い顔よ、あなた」

 

ミラはティグルよりもまだ余裕があるようで、呆れたような苦笑を浮かべる。しかし、すぐ真剣な表情になって言葉を続けた。

 

「私には、戦姫としての誇りがあるわ。母や祖母・・・いいえ、この凍漣を操ってきた今までの戦姫から受け継いだ誇りが」

 

一際大きなムオジネル兵が大鉈を振りかざしてミラに迫る。閃光のような一撃で葬り去ると、彼女の持つ槍は持ち主の戦意に応えて白い冷気を周囲に放った。

 

「休むならお前の方だ、ティグルヴルムド=ヴォルン。お前の背中は俺達が守る」

 

ジェイの表情と声音は決して厳しいものではなく、むしろ彼が操る影のごとく静かなものだった、ムオジネル兵達をたじろがせ、圧倒した。

ティグルも一瞬呆然したが、くすんだ赤い髪の若者は黒弓を握り直すと、青い髪の戦姫の隣に馬を寄せる。

 

「君に誇りがあるのなら、俺にも意地がある」

 

「意地?」

 

「父や・・・たくさんの人達から少しずつもらってきた、男の意地だよ」

 

「ほぉ・・・」

 

「胸を張って報告できることばかりやってきたわけじゃない・・・。でも、とうてい顔向けでくないことは、したくない」

 

「・・・・・バカ」

 

ミラの呟きは、彼女自身にしか聞こえないほど小さいものだったがジェイは聞こえてたらしく、頬を緩めていた。

 

「いいわ。だったら戦いなさい。私と一緒に。私の隣で」

 

凍漣の戦姫が槍を振りかざし、黒弓の若者が矢をつがえ、漆影の戦騎が鎌を肩に担ぐ。そのとき、再び戦況は大きな変化を迎えた。遠くで鬨の声があがったのだ。声の大きさからして、数千の規模かと思われた。

 

「おいおい・・・新手か?

 

「流石に・・・厳しいですね」

 

緊張を顔によぎらせてそちらを見たライトとリクは、おもわず目を疑った。

確かに新手だ。だが、彼らが掲げている軍旗はブリューヌ王国の『紅馬旗(バヤール)』である。

「突撃せよ!ムオジネルの餓狼どもを我が国から叩きだしてやれ!」

 

鉄色の甲冑に身を包み、長槍と長盾を左右の手に構え、馬を駆る五千もの軍勢が、雪を蹴立てて突然現れたかと思うと、喚声をあげて突撃してきたのだ。

その報告を受けたハイトでさえ耳を疑った。

 

「援軍やて?(事前に地形、その他周辺はちゃんと調べた・・・援軍なんて来るわけないと思ってなんやけど)・・・彼らと連携をとり、反撃するんや」

 

そう指示すると、ハイトは戦況の分析を改めて開始した。

 

「ヴォルン伯爵!ヴォルン伯爵はいずこにおわすか!?」

 

若々しさに満ちた叫びが戦場の一角に響く。

 

「ここよ!」

 

と、叫んで凍漣を掲げ輝く冷気で居場所を教える。

鈍色の甲冑の群れの中から三人の騎士がティグルの前に馬を走らせる。いずれも甲冑は冷気で輝きを失い、血と泥がこびりついて奇妙な模様を描いている。それは彼らの勇戦の証である。ティグルより十歳ほど年長だろう騎士が、息を弾ませたままティグルに一礼した。

 

「・・・これが、ティグルヴルムド卿の力なんだね」

 

敵を蹂躙させながらその様子をみていたシャルが呟く。

―彼のこれまでの行いが、正義が、彼らを動かしたのかな・・・ふふ、面白くなりそうだ

「さて、舞台も終盤・・・存分に楽しみたまえ」

 

ビブラート・オブ・ヘルを構え、微笑みながら言う。その笑みを見たムオジネル兵は心底恐怖を感じたという。

 

「---お話は終わった?」

 

待っていたかのように、ミラが馬を寄せてくる。ティグルは彼女に笑顔を向けて力強くうなずいた。ミラもまた、輝くような笑顔で応える。

 

「おかげで一息つくことができたわ。あなたはどう?後ろに下がる?」

 

「いや。まだ弓は引ける・・・助っ人に任せてばかりというのも恰好がつかないからな。もう少し頑張ってみるよ」

 

「そう。はりきりすぎて醜態をさらさないようにしなさいね」

 

呼吸を整えて、ティグル達はムオジネル兵の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士団の援軍が現れたと報告を受けたクレイシュは冷静に指示を出す。しかし、そこに幾度目かの報告がもたらされる。

そう、更なる援軍の報告である。

―――今でも撃ち倒すことはできなくはない・・・できなくはないが問題は、援軍はあれで最後なのかということだ

 

思考と指示を繰り返していると、別の報告がクレイシュの耳に届いた。

 

「海からブリューヌ南部の港を攻めた我が国の船団は、テナルディエ公爵に敗れました」

 

「そうか。つまり、私はこの三万四千で目の前の敵を破り、テナルディエ公も破って南部一帯と港町を確保し、本国の援軍が到着するまで耐え忍ぶということになるのだな」

 

はっはは、と幕舎内に哄笑を響かせた後、クレイシュはあっさりと撤退を決断した。

―――私一人の失敗ということにならないのであれば、かまわん。

 

「あぁ、そうだ。ティグルヴルムド=ヴォルンについて調べないといかんな。それと、やつをせいぜい派手に褒め称えるとしよう。「黒騎士ロランを失おうと、彼に勝るとも劣らない若き英雄あり。ブリューヌの威風は健在なり」、というわけだ。うむ、これなら私の名誉につく傷も小さくできよう」

 

ムオジネル軍はアニエスの街道を通って整然と撤退していく。

『オルメア開戦』はここに終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

撤退したムオジネル軍の使者が現れた、使者は次のように述べた。

 

「私はムオジネル王国の王弟クレイシュ=シャヒーン=バラミールの御言葉を伝えにまいりました。-ヴォルン伯爵。貴君の勇戦、また諸貴族や騎士達を束ねる人望、民を守らんとする気概に、心から敬意を表する。ブリューヌは弓を蔑視している国だと思っていたが、それは誤りであった。戦場を埋め尽くす兵達の頭上を越えて、目標をあやまたず射抜く貴君の弓の技量、我が国の古い伝承にある『流星落者(シーヴラーシュ)』に相応しい・・・・・」

 

流星落者とは『流星さえも射落とす者』という意味であり、ムオジネルにおいて優れた弓使いに送る称賛の言葉だ。しかし、それを知ったジェイ達は複雑だった。

 

「「「「「「「「(銀の流星軍(シルヴミーティオ)の指揮官に対してその異名はどうなんだろう)」」」」」」」」

 

使者はなおも口上を続け、聞いている側がうんざりするほどの美辞麗句を並べ立て、己の敗北を認めてまでティグルを称賛し、それをすませると去っていった。

ミラは心の中で冷淡な罵倒を浴びせたが、表面上は礼儀正しく応じた。これ以上ムオジネル軍と戦い続ける余力はない。不用意な台詞は吐けなかった。

 

「---ティグル」

 

使者が立ち去ってから二十を数えるほどの時間が過ぎたあと、マスハスがティグルの肩をぽんと叩いた。

 

「おぬしの勝ちだ」

 

「・・・信じていいんでしょうか」

 

「間違いないで。罠と考えるには、敵は離れすぎや」

 

ハイトが笑いかけて、ようやくティグルも安心できた。

 

「マスハス卿。申し訳ありませんが、しばらく休ませてもらえますか。その間のことも、あわせてお願いしたいのですが・・・」

 

「うむ。おぬしは本当に戦い詰めだったからな・・・。わしに任せて休むといい」

 

マスハスは灰色の髭を撫でながら頷くと、上機嫌で幕舎を出ていく。それに続きシャル達も出ていく。

ティグルの隣に立っていたジェイとミラも兵の所へ戻る事を伝えようと口を開きかけ―――目を丸く見開いた。

ティグルの身体がぐらりと傾いて、ミラに倒れ掛かってきたのだ。

 

「ちょっ・・・な、何!?」

 

「み、ミラ!?」

 

小柄なミラが、しかも不意を突かれては全体重でのしかかるティグルを支えることは不可能だった。

 

「何をするのよ、あなたは―――」

 

「ミラ、待て・・・寝てないか?」

 

ジェイに指摘され、ティグルの顔を覗き込んでみると寝息を立てていた。

 

―――凍漣でつついて起こしてやろうかしら。

 

「・・・あなたは、ずうっと戦ってきたのよね・・・あなたの意地、確かに見せてもらったわ」

 

そう言いながら、ミラはティグルを優しく横に寝かせる。

 

「---あなたはとても頑張ったわ。素敵だったわよ・・・ティグル」

 

ミラはティグルの髪を優しく撫でながら愛称を呟く、それを見ていたジェイは当然―――

 

「・・・面白くない」

 

拗ねている。

 

「もう、ジェイったら・・・ほら、いらっしゃい」

 

ジェイに手を差し伸べる。ミラの手を掴むとくいっと引っ張られ、今度はジェイがミラに倒れ掛かった。ミラはタイミングを合わせ、ジェイと唇を重ねる。とても柔らかくさっきまでの戦の疲れが一気に癒えたように思えた。

唇を離すと頬を少し赤く染め、優しく微笑む

 

「ん・・・今はこれで我慢してね、ジェイ。ハーネスに戻ったら、改めてご褒美をあげるわ」

 

「俺は子供かっ・・・俺は今もらってもいいぜ?」

 

ジェイはミラに抱き付き密着する。

 

「じぇ、ジェイっ!?こ、こらっ・・・んっ」

 

ジェイに耳を甘噛みされ声をこぼす。だが、流石に自重したのかそこで止まり、耳元で囁く。

 

「・・・戻ったら褒美、期待してるぜ?」

 

「ふふ。えぇ、期待して待ってなさい」

 

お互い見つめ合い言葉を交わすと、どちらからもなく唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝・・・にしてはまだ暗いな・・・って、ミラ?」

 

ジェイが目を覚ましたのは翌日の夜も明けないころである。一緒に寝ていたはずのミラの姿がなく、気を利かせて寝かせてくれたのかと勝手に解釈する。

そう考えていると、ヘルヘイムが唐突に輝きはじめた。

 

「っ!ミラ!」

 

ジェイはヘルヘイムを掴むとすぐさま影の中へ入り、ミラの影を追う。ミラの姿を確認し安堵するものの、戦っている相手見て驚きを隠せない。

―――ミラの攻撃を素手で受け止めた!?

竜具を素手で受け止めるなど常識的に考えて不可能だ。だが、相手の言葉を聞き多少は納得できた。

 

「ヴォジャノ―イ。仲間内じゃ、そう呼ばれてる」

 

ヴォジャノ―イ・・・蛙の魔物と呼ばれている昔話の魔物である。

―――今はそう思わないと説明がつかないな

そう考えているとミラと魔物の戦闘が始まった。俺はミラの竜技が発動した後、影から飛び出し魔物にヘルヘイムを振り下ろす。魔物でさえ、驚いたのか防御をしミラの竜技の氷の上に乗った。

 

「お前は・・・黒鎌か」

 

「俺を知ってるのか・・・だが、今はどうでもいい」

 

「遅いわよ、ジェイ」

 

ラヴィアスを構えながら、少し嬉しそうに言う。すまない、と軽く言うと魔物に向かって影で生み出した槍を飛ばす。魔物は怯むことなく突っ込みジェイに拳を繰り出す。漆影と魔物の拳が衝突する。鉄塊同士を叩きつけたような轟音とともに閃光が炸裂した。ジェイが力で負け、後方へ飛ばされる。その隙にミラへ襲い掛かる。

 

「凍漣の主!お前はここで―――」

 

かたづける、とまでヴォジャノ―イは言えなかった。力を全身で感知して声を呑み、魔物は目を丸く見開いてそちら---ティグルを見つめる。

ティグルは黒弓を握りしめ、矢をつがえてヴォジャノ―イを狙っていた。その鏃には、黒い輝きを放つ力が集束しつつあった。

ヴォジャノ―イは理解した・・・すべてが囮だったことを・・・

 

―――吹き飛べ・・・!

 

強い意志を込めて、ティグルは矢を放つ。凍気を纏った漆黒の矢は、矢とは思えぬほどの速さでヴォジャノ―イを襲った。

魔物の眼は自信に迫りくる矢を正確に捉え、叩き落そうと拳を振るう。

刹那、ヴォジャノ―イの身体は動きを止め、さらに右腕の肘から先が凍り付き、粉々に砕け散り、膨大な力がヴォジャノ―イを捉える。ヴォジャノ―イの身体は鏃を中心に凄まじい勢いで凍り付いていく。そして音もなく吹き飛んだ。

初めて弓の力を目の当たりにして二人は呆然とする。

 

「・・・今のが、あなたの弓の力?」

 

「あぁ・・・まぁね」

 

「立てる?」

 

ミラは手を差し伸べる。ティグルはその手をとる。

 

「この前は気を失った。それに比べれば・・・」

 

「・・・魔物、か」

 

「私だけでは・・・あなたの力がなければ勝てなかったわ」

 

そのときだった、大地を振るわせる馬蹄の轟きを、三人は捉える。それは数百もの大軍だ。

 

「・・・敵?」

 

「いや、違う」

 

近づいてくる旗を見る・・・それはジスタートの軍旗、黒竜旗だった。

 

「ティグル!」

 

エレンがティグルであることを確認し、笑顔で馬を走らせてきたが、唐突に不機嫌な表情に変わる。

 

―――あ、始まるな。

 

ジェイは不意にそう思った・・・が、それはすぐに現実のものに変わった。俺はよく喧嘩する元気があるな、と思いながら見守っていた。二人の喧嘩を避け、リムがティグルの元へ馬を寄せる。

 

「ご説明いただけますね、ティグルヴルムド卿」

 

ティグルはリムに顛末を説明する。

 

「そういうことだったのですか・・・いろいろと申し上げたいことはありますが・・・」

 

そう前置きをしてリムはティグルに向き直ると、あたたかな微笑を浮かべて言った。

 

「まずは、お疲れ様でした。ティグルヴルムド卿」




「---何をやっているんだい、二人とも」


「当たり前だろう。私が、お前を助けにくるのは」


「エリザヴェータだ」


「彼はクロス=アーヴィング、イレ―ネ領主で・・・ボクの恋人さ」



「次回、第15話「煌炎の朧姫と剣聖」やっとボクらの出番だね。まぁ、活躍するのはボクではないけどね(クスクス)。
見てくれると嬉しいよ」


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第15話 煌炎の朧姫と剣聖

お久し振りです~!
いやぁ・・・キツイっ!!!色んな意味でキツイです(小説ではありません)が、皆様はどうでしょうか?
自分は不安だらけですが、「平気、へっちゃら」で頑張ろうと思います!

さて、今回は珍しく(初めて)、タイトルに「死神」がなく、視点も変わります!
さてさて、どうなることやらw


 やぁ。ボクはシャル、シャルパルト=クロフォードだ。

 ボクはジェイ達と共にブリューヌへ行き、ティグルヴルムド卿と合流し、ムオジネル軍と戦ったのは知っているだろう?

 ボクは着いた時疑問に思った・・・『エレオノーラ=ヴィルターリアは何故居ない?』とね。

 今回紡ぐ物語は、ティグルヴルムド卿が戦っていた時のエレオノーラ=ヴィルターリアのお話・・・。

 

 エレオノーラ=ヴィルターリアがティグルヴルムド卿の側を離れたのには理由があった。

 その理由とはエレオノーラの親友の戦姫『アレクサンドラ=アルシャーヴィン』のレグニーツァに攻めてきたもう一人の戦姫から守るためである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、エレオノーラとリュドミラの争いを仲裁するのはもっぱらソフィーの役目になってしまっているが、二年前はどちらかといえばサーシャの仕事だった。病が悪化して彼女がレグニーツァから出られなくなったため、その期間はきわめて短いものだったが。

サーシャのやり方はまず喧嘩している二人を引き離し、それぞれの言い分を聞いた上でいくらか冷静になってきた翌日に、サーシャを含めた三人で話して和解させるというものだった。

 ただ、一度だけ実力行使に及んだことがある。

 王都シレジアの王宮を出てすぐにある人気のない広場で二人が喧嘩をしていた。しかも竜具(ヴィラルト)を構えながら。

 互いの武器が風を巻き起こし・大気を凍てつかせている。凄絶な視線をかわし、間合いをはかり、機を窺う二人の間に突如として厳しい声が割り込んだ。

 

「---何をやってるんだ、二人とも」

 

 当時、エレオノーラもリュドミラも十四で、サーシャは十九歳だ。また、戦姫になって一年も過ぎていない二人に比べて、サーシャは十五歳のときに竜具に選ばれている。

 二人では抗しきれない威厳と凄みがあった。

 

「「こいつが・・・!」」

 

 異口同音に二人がお互いを指す。サーシャは呆れたように溜息をついた。

 

「分かった。君達二人の相手をボクがしよう」

 

 サーシャの竜具は、腰の左右に帯びた双剣だ。通常の剣よりも拳二つ分ほど短いその刀身は、それぞれ金色と朱色に輝いている。それを音もなく、彼女は抜き放った。

 サーシャには『煌炎の朧姫(ファルプラム)』『刃の舞姫(コルティーサ)』などといった異名があるが、彼女の第一印象は物静かで温厚、落ち着きがあるというものだ。

 黒髪は肩にかかるぐらいで切りそろえており、細面でどこか中性的な印象を与え、その風変わりな一人称もあって優男に見えなくもない。肌は白く、やや痩せている。

 口調も穏和で、相手を威圧する類のものではない。

 にもかかわらず、二人は双剣を構えた彼女に怯み、たじろいだ。

 

「あ、貴女には関係ないでしょう」

 

 リュドミラが口をとがらせて言い立てる。エレオノーラも激しく頷く。

 

「これはあくまで私とこいつの話だ。サーシャは下がっててくれ」

 

 しかし、むろんというべきかサーシャは引き下がらなかった。

 

「言っても聞かない子に、力ずくで分からせてあげると言ってるんだ。そうでもしないとおとなしくなりそうにないからね。二人とも」

 

 金色の刀身をエレオノーラに、朱色の刀身をリュドミラに向けて、サーシャは静かに続ける。

 

「面倒だから二人揃っておいで。もしどちらかの刃がボクにかすりでもしたら、負けを認めるよ。二度と君らの喧嘩に口を出さないし、今日一日二人の言うことを何でも聞こう」

 

 大盤振る舞いもいいところである。

 二人の戦意に火が灯ったかと思うと激しく燃え上がった。サーシャの台詞は、彼女らの自尊心を強く刺激した。ようするに癇に障ったのだ。

 先ほどまでのいがみ合いはどこへやら、二人はすばやく視線をかわして地面を蹴り、左右から同時に襲い掛かった。サーシャはその場から動かない。

 刹那、一つの音が虚空に響き、それから鳴りやまぬ内に二つめの音が重なる。

 冷たく見下ろすサーシャの視線の先、エレオノーラとリュドミラは地面に転がり、這いつくばっていた。攻撃を弾かれ体勢を崩して派手に転倒し、あるいは膝をつかされたのだ。

 竜具を持つ手には痺れが走っており、落とさないようにするのが精いっぱいだった。

 

「---まだやる?」

 

 二人とも力なく首を横に振る。二人がかりで、渾身の一撃をそろって弾かれたのだ。圧倒的な実力の差を、高すぎる壁の存在を感じずにはいられなかった。

 サーシャはそう、と呟くと双剣を静かに鞘に納めた。それから二人を順に起こし、身体についた土を払ってやる。

 

「君達はまだ若いから、多少の喧嘩は仕方ないとしよう。でも、刃を相手に向けては駄目だよ。取り返しがつかなくなる。ましてや竜具をね・・・」

 

 十九歳とは思えない分別くささだが、そう言った時のサーシャは二人の見慣れたいつもの彼女だった。一瞬前のサーシャは幻ではないかと思ってしまう程の。

 しかし、二人の右手の痺れはいまだ解けていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーシャの公宮は、砂色の石を積み上げた中にところどころ白大理石が混ざっていて、それが妙な味わいを与える。公宮そのものの造りは堅実とも地味ともいえるのだ。変わったところこそないが、誰もが落ち着いて生活を送れるように設計されていた。

 エレンとリムは従僕に連れられ、等間隔に篝火の焚かれた回廊を通り抜けてサーシャの部屋の前に立った。

 

「サーシャの具合はどうだ?」

 

「はい、良くなってきております。詳しくはアレクサンドラ様より」

 

 主であるサーシャよりも長くこの公宮に勤めている老いた従僕は、しわがれた声で言った。

 

「積もる話もあると存じます。アレクサンドラ様もお喜びになるでしょう。ですが、半刻程で一旦お話を止め、その後、アレクサンドラ様にはお休みいただいてまた夕食のあとにでも、ご様子を見ながらお願いいたします」

 

 エレンは頷いた。まず従僕がサーシャの部屋に入り、確認をしてすぐに出ると二人に一礼をする。

 従僕に礼を言って、エレンは扉を押し開ける。

 簡素な部屋だった。ほとんど最低限の家具しか置かれておらず、窓際に飾られた冬菫(フィアールカ)だけが、室内に少ない彩りを添える。壁の一画には煉瓦造りの暖炉が設置され、炎が赤々と燃えていた。

 

「---久しぶりだね」

 

煌炎の朧姫(ファルプラム)』サーシャはベッドに身体を起こし、エレン達を微笑で迎えた。その膝に上には二本の剣がある。金色と朱色の刃を煌かせ、二本で一対となる双剣。

 煌炎バルグレン。『討鬼の双刃』の二つ名を持つ竜具(ヴィラルト)だ。

 

「すまないね。来てもらって」

 

「当たり前だろう。私が、お前を助けにくるのは」

 

 ゆったりとした白い服から伸びた手は肉づきが薄く、エレンはとっさに握ることをためらったあと、貴重なものを扱うようにそっと両手で挟みこんだ。

 

「好みは相変わらずみたいだな」

 

 サーシャの好みは、黒か白だ。黒一色、あるいは上下とも白の装いをした彼女の姿を、エレンは何度か見たことがあった。当人に言わせると気分次第らしいが、エレンの見る限りでは戦場に立つときは黒、そうでないときは白の割合が高い。

 

「寝ているときは白い方が落ち着くだろうって部下が用意してくれてね。ありがたく着させてもらっている」

 

 サーシャは椅子を勧め、二人はベッドの側に並んで座る。

 

「話したいことは山ほどあるが、重要なものからいこう。この地に土足で踏み込んできた礼儀知らずについてだが―――」

 

「エリザヴェータだ・・・。エレン、冷静になって聞いてほしい」

 

 そう前置きをして、暖炉の火を眺めながら説明を始めた。

 

「夏の半ばのことだ。ボクとエリザヴェータは協力して、沿岸の海賊討伐を行なった・・・。海賊退治そのものは滞りなくすんだ。問題は事故処理でのことだ」

 

「事故処理で、ですか・・・」

 

「あぁ。彼女は苦情を述べてきた。ボクの軍が、ことさらに海賊をエリザヴェータの軍の方へ誘導して、彼女の軍より負担を強いたと言ってきたんだ」

 

「それは事実なのか?」

 

「部下達は、もちろんそんな風にはしていないと言っている。ただ、報告書を見るかぎりではどちらとも言えない」

 

 サーシャは虚空に指を伸ばして、おおまかな地形と軍の動きを描く。エレンとリムはそれぞれ難しい顔になった。

 

「夏の終わりごろにボクは調子を崩してね、それからは手紙でやりとりしていたんだけど、秋の半ばでそれが途絶えた」

 

 そして、エリザヴェータは兵を率いてきたというのだった。

 

「気の短い、などというものではないな」

 

 だからあの女は嫌いなんだ、と言外に含ませてエレンはしかめっ面で腕を組む」

 

「こういう事情だから、彼女の言うこともわからないではない。ボクとしては穏便に済ませたかったんだけど」

 

 サーシャは沈痛な表情でエレンに答えると、膝の上の双剣にそっと手を置いた。

 

「ボクが動ければ良かったんだけどね。あるいは―――」

 

 翳りのある微笑を浮かべてその鞘、鍔、柄を愛おしそうに撫でる。

 

「この子達が、ボクに戦姫の資格なしと判断して離れてくれれば。そうすれば、君を頼らずに済んだはずなんだ。でも、この子達はボクから離れなくてね・・・」

 手のかかる子供にかけるような台詞にこたえたのか、煌炎の鍔が一瞬光を放つ。見た目は変わっていないが、熱を発して主を暖めようとしているのだと、エレンには分かった。

 

「気に入られて、良かったじゃないか」

 

「・・・エリザヴェータ様は、今どちらに?」

 

「一番新しい報告では、ボロスローだね。彼女は北東の国境に近い城砦を一つ落とした後、それ以上内側へ踏み込んでくることはなく、城砦にたてこもりもせずに後退したらしいんだ。村や町が襲われたという報告も、いまのところはない」

 

エレンに説明していると、コンコンコン、とノックがし、男性の声が聞こえた。

 

「・・・サーシャ、入ってもいいか?」

 

「おや、もう来たのかい?いいよ」

 

 サーシャの許可を得て、一人の男性が部屋に入る。

 長髪で色はエレンと同じ銀色。前髪は左眼だけを完全に隠している、眼の色は碧眼。

 

「サーシャ、こいつは?」

 

「彼はクロス=アーヴィング、イレ―ネ領主で・・・ボクの恋人さ」

 

 サーシャは少し頬を赤らめ、微笑みながら言う。

 

「・・・はぁ!?こ、恋人なんていたのか!?」

 

 エレンは驚きを隠せずサーシャに近づく。

 

「ふふ、まぁね。そうだ・・・次の手紙で伝えようとしてたんだけど・・・実は、クロス・・・クロのおかげでボクの病が消えたんだ」

 

「何っ!?本当かっ!」

 

「・・・我がイレ―ネの書物にそれを可能にする儀式(リチュアル)を見つけてな。それを行ない、無事成功した・・・俺の左眼を代償にな」

 

 クロスはそう言いながら前髪を上げ、眼を見せる。眼は開いているが左眼は光を宿していないのが見て分かった。

 

「・・・それはともかく。成功したとしてもサーシャのもかなりの負担がかかっている。今は回復中、と言ったところだ」

 

 クロスの説明が終わると、扉を叩く音が聞こえた。刻限がきたのだ。

 

「あぁ、時間か。おかげで楽しい時を過ごすことができたよ、ありがとう」

 

「そう言ってくれると助かる。それじゃあゆっくり休んでくれ」

 

エレンとリムが部屋を出て、サーシャとクロスの二人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・サーシャ、体調に違和感はないか?」

 

「それ、前も聞いてきたじゃないか。何にもないよ、好調さ・・・。ねぇ、クロ。近くに来てくれないかい?」

 

 クロスは言われた通りサーシャの近くに寄る。するとサーシャはクロスの前髪をはらい、両眼でクロスを見つめ

 

「ボクは君に感謝しかないよ・・・死ぬ運命から逃れることができた、クロのおかげさ。ボクの為にありがとう、クロ。大好きだよ」

 

そう言い、二人の影は一つに重なった。




「エレンを守ってあげてほしい」



「非才なる身の、全力をもって」



「・・・レーヴァテイン、行くぞ」



「それはもちろん、貴女に会いたかったからですわ、エレン」




「・・・次回、第16話「異彩虹瞳」サーシャは俺が守ると誓った・・・負けるわけにはいかない」

「クロ、クロ。次回予告だよ?」

「・・・見てくれると、助かる」


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第16話 異彩虹瞳

お久し振りでございます。

長らくお待たせいたしました(待ってない)、リアルが忙しく投稿出来ませんでした。

ですが原稿はあります~。
更にアクセル以外も余裕があれば投稿しようと思います。

では、ごゆっくり


 レグニーツァの公宮に一室を与えられたエレンとリムは、サーシャとの話が終わった後はすぐに食事を済ませ、早々に眠りについた。

 二人が目を覚ましたのは、夜が明けるより一刻ほど早いころだ。公宮の外れにある神殿で休んでいる兵たちにも、起きるよう命じる。同時に数も確認したが・・・昨夜までに神殿に辿り着いた者は、一千三百ほどで全員・・・とまではいかなかった。

 エリザヴェータ軍は四千ほどの兵を率いているという。

 

「サーシャは三千の兵を用立ててくれると言ったが・・・」

 

単純な兵力を比べればこちらがわずかに上というところだが、エレンとしては短期で決着をつけるためにももう少し兵が欲しかった。

 

「その事ですが、アーヴィング様が一千を率いるとの事です」

 

「おぉ!それは助かるな」

 

 二人が話をしていると廊下に通じる扉が外から叩かれた。エレンより三つ年上の副官が応対に出ると、老いた従僕が立っていた。

 内容はリムに声を聞いて欲しいという者がいるという。

 

「リム、行ってこい。ここはサーシャの公宮だ。どういった要件かは知らんが、私やお前に害するものであるはずがない。ただ、忙しいから手短に済ませてもらうようにな」

 

 エレンの表情には一切の陰りがなく、紅の双眸に宿る輝きは純粋にサーシャと、そしてリムを信頼しているものだった。確かにその通りだと考え直し、従僕についていく。

 そこは昨日通った道と同じと気付いた。

 予想はまもなく現実となり、リムはサーシャの部屋の前に案内された。

 

「---ここはアレクサンドラ様のお部屋では?」

 

「いかにも」

 

 従僕は短い返事でリムの言葉を肯定し、一礼すると扉を開けるように促した。

 

「わざわざ来てもらってすまないね」

 

 リムは一礼して中へと足を踏み入れ、彼女の前に立つ。近くの椅子にはアーヴィングが腕を組んだまま眠っている。

 

「アレクサンドラ様。どのようなご用件でしょうか」

 

 自分だけを呼んだということは、エレンには聞かれたくない話なのだ。

 

―――あるいは、エレオノーラ様もそれを察しておられたのかもしれませんが。

 

 サーシャは一つ頷くと、生真面目過ぎる表情でリムを見上げた。

 

「エレンを守ってあげてほしい」

 

 リムは驚いて黒髪の戦姫をまじまじと見つめた。そんなこと言われるまでもない。エレンが戦姫になるより前から、リムは彼女と共にあり、守り、守られてきたのだ。それをサーシャが知らないはずがない。

 リムはそうした感情の揺れを表に出さなかったが、サーシャは読み取ったらしい。彼女は静かな声音で続けた。

 

「君にいまさら言う事でもないのは分かってる。それでも、改めてお願いしておきたかった。相手がエリザヴェータではね」

 

 エレンとエリザヴェータの間には因縁がある。

 エリザヴェータの父、ロジオンが問題を起こし・・・王の命を受けたエレンに討たれたのだ。エリザヴェータはそれを分かってはいたが、胸中に激しい感情が渦巻くのを抑える事ができなかった。

 その後、エリザヴェータはエレンに決闘を挑み―――まるで敵わず、敗北した。

 

「ボクは、どちらが正しいとも間違っているともいえない・・・二人ともやるべきことをやった。それだけ」

 

「アレクサンドラ様は、エレオノーラ様のお味方をしてくださると思っておりました」

 

「エレンが正しいと思ったときは、どんな状況であっても味方するつもりでいるよ。あいにく、今のボクでは難しいけれど」

 

 椅子に座り眠っているクロの頬を撫でながら、寂し気な表情を浮かべた。しかし、すぐに真面目な顔つきになってリムを見上げる。

 

「戦姫を止められるのは戦姫だけ。ただ、エリザヴェータと対峙したらエレンは虚心ではいられないと思う。エリザヴェータはまっすぐ向かっていくだろう。激しい感情はよい方向へ動くこともあるけど、悪い方向へ動くこともある」

 

 リムは頷いた。それに二人の間にある深い確執とは別に、エレンがエリザヴェータに怒りを抱く理由が二つある。

 一つは、親友であるサーシャの公国を蹂躙しているということ。

 もう一つは、サーシャを助けるためにブリューヌから―――ティグルのそばから離れるという決断をさせたことだ。

 

「それと、ティグルヴルムド=ヴォルンだったね。彼の事・・・昨日の話でエレンが彼を大切に想っていることがよく分かった。友情なのか好意なのかまでは判別できなかったけれど・・・。数ヶ月前に戦場で会った他国の男性、にしてはずいぶんな気に入りようだね」

 

「アレクサンドラ様がそう思われるのもご無理はありません。私も、彼が捕虜としてライトメリッツにいたころは、生かしておくべきではないと考えておりました・・・ですが---ティグルヴルムド卿は、エレオノーラ様の信頼を得るにふさわしい器量を持ち、短い期間のうちにそれを示し続けたのです」

 

「なるほどね・・・でも、エレンは大丈夫かな?彼の元へ急いで帰らなければと、焦らずにいられるだろうか」

 

「それは・・・」

 

 サーシャの問いかけに対し、とっさにリムは答えられなかった。

 

「一年前、エレンは彼女に勝った。でも、怒りに焦りが加わればどうなるか分からない。だから、彼女と傭兵だったころからずうっとそばにいる君に頼んでおきたかった」

 

 ---どうかエレンを守ってあげてほしい---

サーシャはもう一度そう言い、粛然としてリムは頭を垂れた。

 

「非才なる身の全力をもって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとまずの別れになるな」

 

 リムが戻ってくるのを待って、エレンはサーシャの所へ行った。

 

「昨日も話したが、私は他に助けてやらねばならない奴がいる。エリザヴェータをこの地から叩きだしたら、そのままそちらへ向かうつもりだ」

 

 差し出されたエレンの手をそっと握った。

 

「エレン、一つ頼みがある」

 

 親友の手を握ったままエレンが首を傾げると、サーシャは静かな声音で言った。

 

「もし迷うようなことがあったら、ボクやレグニーツァにこだわらないで。君のやるべきことを優先してほしい。ここに来るのでさえ時間がかかっているんだから」

 

 ティグルのことかとエレンは察し、彼女を元気づけるように力強く笑ってみせた。

 

「お前は待って寝ていろ。エリザヴェータは私がしっかり叩きだしておく」

 

そう言うとエレンとリムは部屋をあとにする。

 

「・・・ま、俺も出る。心配するな、サーシャ」

 

「クロ・・・ありがとう、ここで君達を祈ることにするよ。少しこっちに寄って?」

 

 サーシャの頼みにクロは素直に従う。すると頬に柔らかく暖かいものが触れた。

 

「君だけのおまじないさ」

 

 サーシャは恥ずかしいのか頬を赤く染めている。

 

「・・・これは、効きそうだな」

 

 クロは代わりに頭を軽く撫で、部屋を後にする。エレンたちと合流し、戦の場になるボロスローに到着したのは、翌日の翌日の昼直前の頃だった。

 

「・・・レーヴァテイン、行くぞ」

 サーシャを、サーシャの国を・・・守る、それが俺の意志だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少女が、馬のたてがみに背を預けるようにして、寝そべっている。ふと、彼女は左目をつぶって金色の右目だけで空を見上げる。かと思うと、今度は右目をつぶって碧い左目だけで見た

 

---瞳の色が違っても、見える景色は変わらない---

 

 そんなことは幼い時から分かっている。それでも、いつか変化が訪れるのではと心のどこかで期待している。

 『異彩虹瞳(ラズイーリス)』。この少女---エリザヴェータ=フォミナのような、左右で異なる色の瞳を持つ者をジスタートではそう呼ぶ。ただし、それに対する解釈は地域ごとバラバラだ。

 彼女の生まれ育った地域では不吉なものとして扱われていたし、戦姫として統治しているルヴーシュでは吉兆として尊ばれている。

 エリザヴェータ=フォミナは十七歳。鮮やかな赤い髪は腰まで届き、身に纏っているのは紫を基調として布地を幾枚も重ね、フリルやレースをふんだんに用いたドレスだ。豊かな胸と細い腰を強調し、派手ではあるが決して下品ではない作りだった。

 しかし、彼女を見る者の視線は、まずその特異な双眸に向けられる。紅の髪でも、豊かな胸でも、瞳より目立つように作らせたはずの華美なドレスでもなく。

 

「戦姫様、偵察隊より報告です。南の方角に三千ほどの騎影を発見したと」

 

「軍旗は?」

 

 紅の髪をかきあげてエリザヴェータは問う。予想していただろう、騎士は即答した。

 

「三つあります。黄地に朱色と黄金の刃が斜めに交差したものと、青地に黒の剣を描いたもの、黒地に銀の剣を描いたものです」

 

 その報告を耳にした瞬間、エリザヴェータのあでやかな唇の両端が吊り上がり、凄絶な笑みを描く。一つ目、二つ目はどうでもいい。彼女にとっては最後の軍旗こそが重要だった。

 

---来たわね、エレン・・・!

 

「ご苦労でした。それでは手はず通りの配置についてちょうだい。くれぐれも、戦姫を見かけたら戦おうなどと考えずに後退すること。私が引き受けますわ」

 

「ですが・・・もし相手が二人いたら、どうなさるおつもりです。アレクサンドラ様が病身をおして現れる可能性も」

 

「無用の心配ね。もしアレクサンドラが望んだとしても、エレオノーラが許しませんわ・・・。さて、では参りましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレン率いるレグニーツァ、ライトメリッツ、イレ―ネ連合軍と、エリザヴェータ率いるルヴーシュ軍とが対峙したのは昼過ぎのことだ。

 両軍あわせて七千の兵がボロスローの野に展開し、二人の戦姫はそれぞれの軍の先頭に立って強烈な視線をぶつけ合う。

 

「そのように整然と並んでいるということは---」

 

 先に口を開いたのはエレンだ。

 

「我々がここに来るのを知っていたのだな?よく逃げなかったものだ」

 

「それはもちろん、貴女に会いたかったからですわ、エレン」

 

 エレンの怒気をはらんだ鋭い声を、エリザヴェータは優しげな笑みを浮かべて受け流してみせた。口調は明らかに馬鹿にしたものだが、嘘ではない。そうでなければ、こんなところからさっさと立ち去っている。

 

「・・・貴様に、私をそう呼ぶことを許可した覚えはない」

 

 エレンの声が雪さえ凍てつかせるほどの冷気を帯びて一段と低くなった。

 

「私のこともリーザと呼んでくれてかまいませんわよ、エレン」

 

 エリザヴェータは手に持った短鞭をくるくる振りまわして楽しげに応じる。

 

 ---許せ、リム---

 

 紅の髪の戦姫の挑発に、あえて乗ることにした。心の中でリムに謝罪する。

 腰の長剣に手をかける。エレンを励ますかのように、あるいはせきたてるかのようにアリファールが風をそよがせた。

 

「一度だけ機会をやる。---いますぐ馬を降りて雪の中に這いつくばり、許しを請え。私ではなく、レグニーツァの民にだ」

 

「お断りしますわ」

 

「ならば---くたばれ」

 

 腰の長剣を抜き放ち、振りかざし、振り下ろす。刃の先端は、まっすぐ紅の髪の戦姫へ。

 

「突撃!」




「あまり抵抗すると、痛くなってしまうわよ、エレン?」



「その言葉、そっくり返してやる」



地迷宮(ラビリンス)・・・戦いが終わるまで、彷徨うがいい」



「それでは、私は行くぞ」



「次回、第17話「決着 銀閃VS雷渦」。エレン・・・私の力、見せて差し上げますわ!」


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第17話 決着、銀閃VS雷渦

お久しぶりデス!
色々あって投稿が遅くなってしましました・・・申し訳ありません
ですが!
地道に投稿していくので、応援していただけると嬉しいです!
感想などもばんばんお願いします!


「突撃!」

 

 およそ七千人分の鬨の声が、灰色の空に響き渡った。馬蹄の轟きが大地を揺るがし、雪を蹴散らす。舞い散る雪は人間達に触れるよりも早く、彼らの熱で蒸発した。

 正面からの激突となれば、数の多いエリザヴェータの軍が有利に思われる・・・だが、戦意はレグニーツァの兵達が圧倒的に高い。自分達の公国を蹂躙されたという恨みを。彼らは武器に込めて敵に叩きつけた。

 ここにあるのは、阿鼻叫喚に包まれたこの世の地獄だった。わずか半刻前の、雪と静寂に包まれた幻想的な銀世界を思い出すことは、もはや誰にとっても不可能だろう。

 その中で先頭に立ってぶつかりあったのが、エレンとエリザヴェータだった。

 

「--大気ごと薙ぎ払え!(レイ・アドモス)

 

 馬を走らせて距離を詰め、エレンは一切の躊躇なく竜技(ヴェーダ)を放つ。長剣から放たれた巨大な風の刃は、雪を吹き飛ばし、凍てついた大地を削りながらエリザヴェータに迫った。

 エリザヴェータもまた、躊躇うことなく己の馬を捨てた。鐙から足を離し、鞍を蹴って高く飛翔する。エレンの放った竜技は馬に直撃した。悲鳴をあげることなく、馬は骨までずたずたに引き裂かれた。

 その上空で、エリザヴェータはドレスの裾をふわりと広げながら、短鞭をかかげる。

 刹那、漆黒の鞭が金色の光を帯びた。それは大気を弾きながら蛇のようにのたうち、曲がりくねる。エリザヴェータがエレンを狙って振り下ろしたとき、彼女の手にあるものは長さが四十チェート(約4メートル)はあるだろう長大な雷光の鞭と化していた。

 その尋常ならざる破壊力を、エレンはよく知っている。『異彩虹瞳』ではない、戦姫としてのエリザヴェータの異名である『雷渦の閃姫(イースグリーフ)』にふさわしい光景だった。

 己の操る風でそらすことはできない。やむなく馬を捨てて地面へ跳躍、雪をまとわりつかせながら転がった。音に近い速さで光の鞭が大気を引き裂き、鋭い衝撃音を響かせる。

 一転して立ち上がったとき、エレンの視界に飛び込んできたものは太い首を切断されて倒れる馬の死体だった。

 

「あまり抵抗すると、痛くなってしまうわよ、エレン?」

 

 雪の中に軽やかに降り立ったエリザヴェータが、手首をひねって鞭で地面を叩く。それに応えるかのように、光の鞭が無数の小さな火花を大気に青く散らした。

 

「私も、この雷渦も手加減はとても苦手なんですから」

 

 それがエリザヴェータの持つ竜具(ヴィラルト)の名。

 雷渦ヴァリツァイフ。『砕禍の閃霆』とも呼ばれる雷撃を操る鞭だ。

 

「その言葉、そっくりかえしてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁ!」

 

 クロは馬を走らせながら巧みに剣を操り、ルヴーシュの兵を次々に斬り捨てていく。剣聖の名にふさわしい姿だった。

 

―――エレオノーラはエリザヴェータと1対1をしているはず・・・なら、そっちが終わるまで時間を稼ぐ。被害を最小限に、効果を最大に―――

 

 

 クロは馬から降り、自分の剣を地面に刺す。そして眼を閉じる。

 

「クロス・・・殿?」

 

 リムは疑問の眼差しをクロに向ける・・・すると、クロの剣が淡い青い光を放ち始めた。次の瞬間、リムの視界に入っていた敵兵の姿が見えなくなった。

 

地迷宮(ラビリンス)・・・戦いが終わるまで、彷徨うがいい」

 

 地面から凄まじい勢いで天に向かっていくように、土の壁が出来上がった。

 

「リムアリーシャ殿、囲いきれなかった敵兵はそちらに任せても?」

 

 後ろを向き、リムに問いかける。リムは少し間は開いたものの承諾し、兵を率いて追いかけに行った。

 

―――あれが、【戦騎】の力ですか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦姫二人の戦いも終盤にさしかかっていた。

 

「そのふざけた怪力は、一年そこらで身に付けられるものではない」

 

「でも・・・それでも、私が力で貴女を上回っているのは事実・・・ですわ」

 

「だからどうした・・・。勝ち誇りたければ―――勝ってみせろ」

 

 エレンのかかげた銀閃が、周囲の大気を巻き取っていく。雪の欠片を含んだ冷気をもまとめて取り込み、氷の粒子が光を反射して彼女の身体は燦然と輝いた。頭上で唸り声をあげる嵐の刃は、先ほど放ったものより遥かに大きい。

 エリザヴェータの雷渦もまた、主の意志に応えて眩いばかりの光を放つ。膨れ上がった雷撃が周囲の大気に悲鳴をあげさせ、無数の放電が生じた。

 

「---大気ごと薙ぎ払え!(レイ・アドモス)

 

「---天地撃ち崩す灼砕の爪!(グロン・ラズルガ)

 

 咆哮をあげて猛々しく襲い掛かる九つの稲妻と、触れるものことごとく引きちぎる嵐の刃が衝突した。『砕禍の閃霆』の生み出した雷撃は嵐の渦を食い破らんとし『降魔の斬輝』の織りあげた風の大鉈は雷火を吹き散らさんとせめぎ合う。

 一瞬ごとにエレンの身体には赤い火傷の痕が走り、エリザヴェータは纏うドレスは暴風によってボロボロに引きちぎられ、白い肌にはかまいたちにも似た裂傷刻まれていった。

 竜技が同時に消滅した。エレンは不敵な笑みで長剣構えていた、エリザヴェータは「互角」と言いかけて言葉を飲み込む。エレンは竜技を放った位置から動いていなかったが、自分は二歩後退していた。

 

「---私の負けのようですわね」

 

 その光景を遠くに眺めて、エリザヴェータは歪んだ笑みを浮かべる。半ば虚勢だ。

 

「まだお前の首は落ちていないが」

 

 エレンは銀閃をかざして一歩踏み出す。エリザヴェータは鞭を構えるでもなく艶やかに微笑むと、用意していたらしい言葉をゆっくり口から滑り出した。

 

「貴女には急ぎの用事があるのではなくて?エレン」

 

「何?」

 

 一瞬、脳裏に一人の若者の顔がよぎる。

 

「テナルディエ公爵もガヌロン公爵も、とうに兵を動かす準備はできていた。これまではお互いに牽制しあっていただけ。でも―‐―少なくともガヌロン公は、兵を動かすことを決めましたわ。誰に向けてかは知りませんけど」

 

 エレンは黙ってエリザヴェータの話を聞く。

 

「もうひとつ。ムオジネルがブリューヌへ攻め込んだそうですわ。何万という規模で」

 

 一瞬、エレンの呼吸は止まった

 

―――ムオジネルが?

 

「今一刻を争うのは、私と貴女のどちらかしら?私の首が欲しい?私は続けても構わなくてよ―――私も、私の兵達も一刻や二刻で倒されてあげませんけどね」

 

―――そんな戯言に・・・!

 

「・・・だが、今貴様を討たねば、またいつ襲い掛かってくるかわかったものではないだろう」

 

「それなら誓約書でもかわしましょうか?」

 

「・・・誓約書?」

 

「アレクサンドラへの城塞の返還・・・無償とはいきませんけれど。海賊討伐の件についての交渉再開。とりあえず一年ほどの不可侵条約―――こんなところかしら」

 

 楽し気な笑みを浮かべて、これ以上戦いを続ける意思がないことを示すようにエリザヴェータは雷渦の形状を短鞭へと変え、くるくる振り回した。

 

「・・・一つ付け加えろ」

 

「何かしら?」

 

「詫びろ」

 

 簡潔で率直な要求には、膨大な感情が封じこまれている。それを、鋭い声音からエリザヴェータは感じ取った。正確には知覚された。

 

「這いつくばれ、とまでは言わん。真摯に、誠実に、謝罪しろ」

 

「・・・承知しましたわ」

 

 エレンの声をしっかり聞いたといわんばかりに、耳に手を添え、答える。

 

「もしも違えることがあれば―――今度こそ潰す」

 

 エレンがエリザヴェータの提案に乗ったのは、サーシャの言葉を思い出したからだった。

 

『もし、迷うようなことがあったら、ボクやレグニーツァにこだわらないで』

 

 という、彼女のセリフはこの事態を予期してのものではないだろう。だが、このまま戦い続ければ、あの黒髪の戦姫は口には出さずともひそかに胸を痛めるだろうことを、エレンは分かっていた。

 

「それでは、私は行くぞ」

 

 エレンは長剣を腰の鞘に収めると、彼女に背を向けた。いつのまにかだいぶ離れてしまっていた戦場へ足を進める。エリザヴェータは黙ってその背中を見つめていた




「朝早くからどこをほっつき歩いておったんじゃ」



「私は・・・私は、ついこの前までレグナスという名前で生きてきました」




「・・・それで、どうする、ティグル?」



「---行こう。ルテティアへ」



「次回、第18話「死神と明かされる真実」やっと俺の出番が戻ってきたぜ・・・さっ、盛大に行こうぜ!」


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第18話 死神と明かされる真実

どうも、ジェイです
いい感じのペースで投稿できてますー
それも読んでくださる方がいるからですよね!これからも頑張らせていただきますので、応援のほどお願いします!
感想お待ちしております~では、ごゆっくり


 それぞれの戦姫が自軍に戻ると、両軍は自然と距離を取り離れて行った。

 

「ご苦労様でした。貴方達のおかげで、目的は達成できましたわ」

 

 エリザヴェータの目的は、二つ。一つはエレンをここまでおびき寄せる事、もう一つは彼女と戦って自分の力量を試すことにあった。

 

―――一年前はまったく敵わなかったことを思えば、あれに触れた甲斐はあった。

 

 その名前を、思い浮かべる気にすらなれない存在。それに接触して、エリザヴェータは人間を超越しうる強大な力を手に入れたのだ。まだその力の一割ほども扱いきれていないが、それでも、膂力にかぎってはエレンを圧倒出来た。

 

―――それにしても、流石はエレオノーラだわ・・・。

 

 エリザヴェータ自身も迂闊だったとはいえ、力をだけが強くなったことを正確に見抜かれた。そして、悔しいことではあるが、まだ彼女には及ばないということも認識させられた。

 もっと強くならなければ。もっと、この力を使いこなせるようにならなければ。

 

「・・・そういえば」

 

 ふと、エリザヴェータはあることを思いついた。

 

「ティグルヴルムド=ヴォルン、でしたわね。たしか」

 

 自分と戦っていたときのエレンの葛藤を見る限り、政事や戦略の都合だけで協力しているとは思えない。

 

「ひとまず贈り物でもして、反応を見てみようかしら」

 

 ティグルが勝ったときのことを考えて、今のうちに繋がりを持っておくのは悪い事ではないだろう。

 

「そう。私は、負けない」

 

 強い口調ではっきり言って、エリザヴェータは色の異なる瞳で空を睨む。

 彼女のために、そして彼女を支えてくれるルヴーシュの民のために、エリザヴェータは新たな策を考えはじめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうだったかな?エレオノーラ達の戦いは。これがあったから、ティグルヴルムド卿のそばにエレオノーラが居なかったんだね。

 それじゃあ、そろそろ時計の針を戻すとしよう・・・。

 

・・・え?どこまでいってたか忘れたって?ふふ、なら読み返すことを勧めるよ(クス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムを伴って総指揮官用の幕舎に戻って来たティグルを迎えたのは、マスハスだった。

 

「朝早くからどこをほっつき歩いておったんじゃ」

 

「・・・すみません。疲れていたとはいえ、早く寝すぎたようです」

 

「・・・(魔物と戦ってました・・・なんて、言えるわけねぇし信じるわけねぇもんな)」

 

 それから老伯爵はリムとも挨拶をかわす。

 

「戦姫殿は戻られたか。しかしまあ、お互い、よく無事に再会できたものだて」

 

「簡単には死ねません。放っておけない方が幾人かおりますので」

 

 リムの回答にマスハスは違いないと笑ったものだった。

 

「ところで、マスハス卿。こんな朝早くからどうされたのです?」

 

「うむ、それがな・・・」

 

 マスハスは一瞬言いよどんだが、三人の視線を受けて思い切ったように口を開いた。

 

「この幕営で、王子殿下によく似た者を見かけたという報告があってな。見た者の話では瓜二つどころではないと。そこで、おぬしに聞いてみようと思ったのだ」

 

「王子殿下に?」

 

「そうじゃ。短い金色の髪に碧い瞳・・・」

 

 マスハスの言葉に、ジェイとティグルは自然に隣に立っているリムを見た。彼女も短くはないが金色の髪に、碧というほど鮮やかでなはいが青い瞳をしている。この髪も瞳も、ブリューヌ人にもジスタート人にも珍しいものではない。

 

「それだけでは・・・その人の名前などは聞かれなかったのですか?」

 

「うむ。それが、驚いている間に兵達の間に紛れて見失ってしまったらしくての」

 

 残念そうに溜息をこぼすマスハスに、横からリムが口をはさむ。

 

「ですが、王子殿下は亡くなられたのでは?」

 

---なんか、ついていけねぇ

 

 こういった話は得意ではないジェイは興味が湧かなかった。

 

---死んだ王子の怨念じゃあるまいし

 

「悪い、俺は先に戻ってるぜ」

 

 俺が出ようとすると入れ違いで一人の兵が中へ入ってきた。そのまま歩いていき、話にあった特徴の子とすれ違い、まぁこんな感じかなと思った。

 すると、恐らくその子の声だろう声を聞いて思考が固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は・・・私は、ついこの前までレグナスという名前で生きてきました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありえない言葉を聞き、身体も一緒に固まってしまったらしい。

 

---レグナス王子殿下が生きてる・・・?

 

 彼女達の声は耳に入らず、完全に自分の世界に入ってしまったジェイの前に二人の戦姫が近づいてきた。

 

「---イ、ジェイ!」

 

「・・・っ!?」

 

 思わずビクッ、と驚いてしまう。前を見ると顔を覗き込んでいるミラと、隣にエレオノーラがいた。

 

「ふ、二人か・・・」

 

「また自分の世界に入ってたのね」

 

 やれやれ、といった感じに首を振るミラ。そしてそのまま部屋へ入るエレオノーラ。

 

---あ。

 

「誰だ、この女は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムに手伝ってもらってマスハスを介抱しながらティグルはレギンのことを、エレンとミラ、ジェイ、シャルに説明した。二人の戦姫に戦騎、その母君の反応は非常に酷似しており、胡散臭い厄介者を見る眼差しを、レギンに向ける。

 

「エレオノーラ殿、キミがディナントで討ち取ったんじゃないのかい?」

 

「敵を蹴散らしてたら、そんな騒ぎが聞こえてきたという感じだったな・・・。私や私の配下の者が討ち取っていれば、そいつはもっと有名になっているはずだ。首をとったわけでもないから、国王陛下への報告も戦死したらしい、としか言えなかったしな」

 

「・・・恐らく、テナルディエとガヌロンの共謀やろうな。戦場なら、不自然な死に方でも戦死として押し通せるやろ?」

 

 そこに、入り口からゆっくりとした足取りでハイトが扇子で口元を隠しながら説明した。

 

「ハイト・・・聞いてたの?」

 

「姉さんらがいーひんから、探してたんや。んで、此処におるて聞いたから来てみれば・・・って感じや」

 

 更に人が増えたこと、エレンが戦った戦姫だと分かった途端、ティグルの袖を掴んで肩を震わせ、小動物のように怯えている。

 

「大丈夫だ。俺を信頼してくれるなら、彼女も同じくらい信頼してくれ。それぐらい、俺はエレンを信頼している」

 

 ティグルがそう言ってレギンをなだめている間、エレンがミラに対して無言で勝ち誇り、リムが情けないという顔で主を見つめていた。

 

「一ついいかい?そもそもの話、何故キミは女性なんだい?まだ王子の腹違いの妹とか言われたほうが納得できるんだけどね」

 

 レギンは言いよどんだが、うつむきがちに答えた。

 

「母と、私のためです。このブリュ―ヌでは、娘しか産めなかった王妃は蔑視されます。また、王女の王位継承権はかぎりなく低い・・・ないと言ってよいようなものです」

 

「それで王子だと偽ったの?無茶な手を打つものね」

 

「まったくだな。当時はそれでいいかもしれんが、リムやソフィー並みに胸が育ったらどうするつもりだったんだ。切り取るわけにもいかにだろう」

 

「話を脱線させないで下さい、エレオノーラ様」

 

 エレンの感想を、リムが頬を赤らめて咎める。ミラは憮然とした顔をし、シャルとハイトはクスクス笑い、ティグルとジェイは聞かなかったことにしようとした。

 

「しかし、テナルディエとガヌロンはお前を殺しそこねたのに、戦死したなどと言ってしまったのか。案外間が抜けて・・・」

 

 そこまで言ってから、そうかとエレンは手を打った。

 

「殺したことにしてしまえば、ひとまずそれでよかったのか。レギンでいいな?王子が実は女だったということを知る者は、お前の知る限りブリュ―ヌに何人いる?」

 

「私と母と陛下だけのはずだったのですが、彼らのやり方を考えるとテナルディエ公とガヌロン公も知っていると思います」

 

---なるほど。一度死んだことにしてしまえば、あとからレギンが出てきても、王子の名を騙る不届きな娘、ということでかたづけてしまえる。証拠の品があっても、ディナントの戦場で拾ったのでは、と言って押し切ることができる。二人の権勢をもってすればなおのこと・・・

 

「---イ、ジェイ」

 

 考えていると、腕に軽い痛みが走った。見てみるとミラがつねっていた。

 

「まったく・・・その癖、治さないとダメね。話、進んでるわよ」

 

 ミラにそう言われ、意識をレギンの方へ向ける。

 

「・・・それで、どうする、ティグル?」

 

「どうする、って?」

 

 エレンの質問の意味がわからず、ティグルは訊き返す。

 

「力を貸して、ってさっき言ってたけど、この人、はっきり言って邪魔よ」

 

 ・・・そんなこと言ってたのか

 

 身も蓋もない台詞を言い放ったミラ、それに同意を示してシャルが言葉を継ぐ。

 

「実は王子は生きていました、ガヌロンとテナルディエが殺そうとしたのです、と叫ぶとしよう。その王子が女性な時点で信用してもらえないどころか、不届き者や逆賊と呼ばれる可能性がある、ボクらが」

 

 その意見にティグルは懐疑的な表情で首をひねった。

 

「シャルさんやミラの言うことは分かるけど・・・でも、国王陛下にさえ声が届けば、何とかなるんじゃないか?病に伏せておられるとは聞いてるけど」

 

 その言葉に、マスハスがむせた。見ると、老伯爵はかつてないほど深刻な表情で、汗すらにじませて唸っている。灰色の髭の老将が語ったのは、王子の戦死を聞いた国王が、精神的に極めて不安定な状況にあるということだった。

 

---だとしても、大分経っている・・・何か裏がありそうだね

 

 シャルは腕を組み、思考を廻らせていた。

 その間に話が進んでいたらしく、内容は国王陛下の御子として証明できるものになっていた。

 

「ルテティア・・・」

 

「・・・ガヌロン公の領地ですな。そこに手がかりがあるのですか」

 

 マスハスが丁重な態度で尋ねる。レギンはうなずいた。

 

「ルテティアの中心都市であるアルテシウム・・・。この都市の地下に、王家の者にのみ開ける方法が伝えられている扉があります。これは王宮にも記録が残っていますし、宰相ボードワンも知っていることです。彼を審査者として立てれば・・・」

 

「そういうことなら話が変わってくるな」

 

 興味が湧いたらしく、エレンが身を乗り出した。

 

「それが本当なら、そのことを喧伝してアルテシウムまで進むという手がとれる。阻もうとする者は、それこそ逆賊呼ばわりできるぞ。こちらはただ、この娘が王族であることを証明しようとしているだけなのだから、な」

 

「せやね。んで、これで王族と証明できりゃ、発言の信頼性が一気に上がるっちゅうもんや」

 

 ハイトもうなずいて同意する。

 

「ティグル、どうする?」

 

 楽しそうに紅玉の色の瞳を輝かせてエレンが訊いた。

 

「ここから西へ進んでネメタクムへ入り、テナルディエ公爵を討つか。北へ向かい、ルテティアを目指してガヌロンと戦うか」

 

 ティグルはすぐに答えず、この場にいる者達の顔を順に見回した。

 エレン、リム、ミラ、ジェイ、シャル、ハイト、マスハス、レギン。

 つくづく不思議なことになったと思う。助けてくれたり、支えてくれたり、頼ってくれたり。この場にはいない者達にしてもそうだ。

 彼らは、いつまで共にいてくれるだろうか。一緒にいてくれる間に、自分は彼らから受けたさまざまなものを返すことができるだろうか。

 分かっていることは、一日も早くこの状況を終わらせなければならないということだ。

 

「---行こう。ルテティアへ」

 

 ティグルは考えたら、はっきりそう答えた。




「久々だな・・・ミラの温もり」



「夜が明けたか・・・」



「真っ白なドレスを着た女の幽霊だそうよ。私は見たことないけれど」




「次回、第19話「死神と安らかな一時」普段堅いミラやジェイのイチャイチャが見られるかもしれないよ♪
ボクのはそう簡単には見れないよ(クス」


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第19話 死神と安らかな一時

どうも、ジェイです!!!
ヒロアカ後の投稿でございます

決して魔弾に飽きたわけではございませんのでご安心下さい。

さて、今回は・・・w
うん、見てもらったほうが早いですねw

それではごゆっくり~~~


 オルメア平原―――銀の流星軍(シルヴミーティオ)とムオジネル軍が激突した地から、街道を北へ四日ばかり進んだ所にペルシュ城砦がある。南北と東西を結ぶ二本の街道が交差する所に建てられた、交通の要衝だ。

 城砦を守る兵の数はおよそ四千。

 城砦周辺の街道はいま、武装した兵と軍馬の群れ、無数の幕舎に埋め尽くされていた。鉄の甲冑で隙間なく身を固め、その上に毛皮を巻いて寒さをしのいでいる者がいれば、服を重ね着して冬の風に耐えている者もいる。

 使い古されてところどころほつれている幕舎があれば、この日の為に用意したとでも言うかのような豪奢な幕舎が隣り合って設営されたりしていた。

 彼らこそが銀の流星軍である。とはいえ、その構成は非常に混沌としていた。ブリューヌ貴族の私兵に、国内の平和を守るのが務めの騎士団、さらには他国の軍までいる。

 言ってしまえば寄せ集めのこの集団を統率しているのは、弱冠十六歳の若者だ。

 名を、ティグルヴルムド=ヴォルン。親しい者にはティグルと呼ばせている。

 

「よくここまで来れたな・・・ティグルは」

 

 空には暗闇が広がっており、朝には程遠い時間、食事等を済ませた後各々部屋に戻った。

 ジェイはベッドに寝っ転がり天井を眺めながら、ふとそんな事を呟いた。

 それもそうだ、誰が想像できるだろうか。ただの田舎貴族で、剣などは上手く扱えない代わりに弓だけが得意で、ある戦で敵国の捕虜になった貴族が・・・その国の力を得て母国に帰り、ただ自分の領地を守りたいという一心だけでここまできた貴族を。

 

「エレオノーラ・・・ソフィー様・・・ミラ・・・そして俺達まで・・・ふっ、お前の矢は何処まで飛んでいくんだ?」

 

 ジェイは身体を起こし窓から空に輝く月を眺めながら言った。言い終えた数秒後、扉を叩く音が聞こえた。声の主はミラだった。

 

「ジェイ。いるかしら?」

 

「あぁ、いるよ。今開ける」

 

 ジェイはそう言い、ベッドから降りて扉まで歩き、扉を開けた。

 

「どうした、ミラ?こんな夜遅くに・・・何かあったのか?」

 

「別に何もないわよ?ただ貴方に逢いに来ただけ」

 

 ミラはそう言うと少し頬を染め、微笑んだ。それを近距離で見たジェイも顔を赤くする。前も今も、ミラの不意打ちには弱いジェイ。

 

「ふふ、死神なのにずいぶん赤いわね」

 

「し、仕方ねぇだろ・・・!」

 

「ふふ♪中に入っても良いかしら?」

 

「あ、あぁ・・・どうぞ?」

 

 そう言うとジェイは少し後ろに下がり、ミラに道を作る。

 

「ありがと、ジェイ」

 

 ミラはジェイの部屋に入り、扉を閉める・・・するとミラはジェイに抱き付く。ミラのこういった行動【だけ】は耐性があるジェイは優しく抱き締める。

 

「久々だな・・・ミラの温もり」

 

「確かにそうかもね・・・戦い続きだったものね」

 

 そう言いながらミラは俺が此処にいるのを確かめるようにすりすり甘えてくる。

 

「・・・っ///(か、可愛すぎるだろ)」

 

 ジェイはミラの行動に耐えながら、優しくミラの頭を撫でる。それを気持ちよさそうに目を細めるミラ。

 

「ミラ。今夜は此処で寝るか・・・?」

 

「・・・言わせる気?」

 

「・・・だな。俺は先に入ってるから、寝間着に着替えておいで」

 

 そう言い、ミラは手に持っていた服を着る為にクローゼットの方へ向かい、ジェイはベッドに入りミラを待つことにした。

 少し経つと、ミラがこちらに歩いてきてベッド端に腰をかける。

 

「お待たせ、ジェイ」

 

 そう言われ、ミラの方を見る。見た途端、ジェイの眠気は一瞬で消えた。

 ミラの恰好は薄地の夜着だった。ほっそりした首筋からなだらかな肩、胸元まで露わになっていた。

 ミラが伸びをした拍子に、胸がかすかに揺れる。その瞬間、ジェイの中の何かが鎌に切り刻まれた。

 ミラの手を取り軽く引き寄せると、ミラはなんの抵抗もせず引き寄せられる。ミラはそのままベッドに横にさせ、ジェイはその上に覆いかぶさる。

 

「ジェ、ジェイ・・・?///」

 

「そういや・・・まだ【ご褒美】もらってなかったな」

 

 そう言うと、ジェイの口角が上がり、いたずらっ子のような顔をする。それを聞いたミラは顔を真っ赤にする。

 

「そ、それはハーネスに戻ってからって言ったでしょ!?///」

 

「そんな恰好されたら・・・無理に決まってるじゃん♪」

 

 ミラの反論に対して、とてもいい笑顔で返事をするジェイ。

 顔を近づけ、ミラに唇を重ねようとする。ミラは真っ赤になりながらも眼を閉じ、ジェイを受け入れた。

 身体を重ねた回数は互いの立場上多くもなく少なくもないが、口づけだけは二人きりになれる状況をつくって何度も重ねている。

 お互いの額といわず頬といわず唇を押し付けあったこともあれば、軽く呼吸をしながら長く重ねたこともあれば、舌を絡めあい、その行為と感触に酔うような激しい口づけをしたこともある。

 今回の口づけは後者である。部屋に舌を絡める音が響く。

 

「ん・・・ちゅっ・・・あむ、んっ・・・ちゅ・・・///」

 

 十秒程続き、顔を離すとジェイの舌とミラの舌の間に銀の橋が架かり、途中で切れミラの口の中に落ちる。ミラの眼はトロンとしていて、口づけが長かったせいか肩を動かしながら呼吸をしている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・な、長い、わよ・・・///」

 

「言っただろ?【久々】ってな」

 

 そう言いながら、ミラの右頬を優しく愛おし気に撫でる。それを「んっ」と言いながら受けるミラ。

 右手をそのまま動かし、頬からうなじを撫で、耳の形をなぞり、額に触れる。

 

「ジェ、ジェイ・・・んっ」

 

 そのまま肩に触れ、腕をさすり、ミラの手に触り、手と手を合わせ握る。

 

「こ、声・・・外に・・・」

 

「大丈夫、ヘルヘイムで既に部屋囲ってるから外に漏れないさ」

 

「じゅ、準備早過ぎない!?///」

 

「フフフ・・・俺は死神だぜ?こんなの簡単簡単」

 

「そ、それ理由になってないわよ!?・・・んぁっ」

 

 ジェイの手が再び腕を撫で、鎖骨を経由してミラの柔らかな胸に触れる。

 

「やわらかい・・・。ふにふにしてて、手に収まる感じ。気持ち良いな・・・やっぱり」

 

「な、何一人で・・・んっ、納得、してるのよ」

 

「ごめんごめん。ミラが変に胸の事気にしてるから、それを解いてあげようと」

 

「う、うるさいわね・・・もう気にしてないわよ」

 

 ミラはジェイの頬に右手を添える。

 

「ジェイが言ったあの時から、もう気にしてないわよ。ジェイは【私】が好きなんだものね」

 

 と言うと、愛おし気に微笑む。

 

「・・・それは反則だぞ///」

 

「え・・・?んぁっ///」

 

 ジェイは反射的に右手でミラの左胸を包んだ。感触を楽しむかのように何度も指を動かす、そして動かすたびにミラの口から甘い吐息が聞こえてくる。

 

「んぁ・・・ん、んん・・・あっ・・・///」

 

 その声を聞くたび、ジェイのテンションも上がっていく。

 

「さぁて・・・盛大なパーティーの、始まりだ」

 

「~~~っ!!///」

 

 その夜にどの部屋でも大きな声が聞こえた、と言う報告は無かった。知っているのはその部屋に居た者だけだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜が明けたか」

 

 徹夜だった。執務室から聞こえてきた鳥のさえずりにティグルは疲れきった声で呟いた。

 

「ティグル。昼からは軍議じゃ。それまで寝てこい」

 

 横で手伝っていたマスハスが見かねて、労わりの声をかけた。ティグルは虚勢を張らず、眠たげに瞼をこすりながら立ち上がる。

 

「お言葉に甘えさせてもらいます。マスハス卿は大丈夫ですか?」

 

「わしは夜のうちに仮眠をとったのでな。もう少し片づけてから休ませてもらう・・・あ、すまん、ティグル。部屋に戻るついでにルリエ殿を起こしてきてもらえんか」

 

「彼女がどうかしたのですか?」

 

「幕舎の配置の問題で相談があるのだ。危うく忘れるところじゃったわ」

 

「・・・分かりました」

 

 ミラの部屋は、ここから自分の部屋へ戻る通路の途中にある。だからマスハスも頼んできたのだろう。

 ミラの部屋に着くと、扉の前にはジスタート兵が立っている。ミラの部下だ。

 

「彼女はまだ寝ているかな」

 

 兵に尋ねると、昨夜ジェイと話があるからジェイの部屋に行ったこと、用があるならジェイの部屋に来るように、と言われたことを話してくれた。

 ティグルは兵に礼を言うと少し離れたジェイの部屋へ向かった。ジェイの部屋の前には兵はいなかった。なのでティグルは扉を三回軽く叩いた。

 すると、ジェイの部屋から別の声が聞こえた。

 

「誰かしら?」

 

「俺だ、ティグルだ。少し話があるんだけど、いいかな?」

 

「・・・入ってきなさい」

 

 ティグルは戸惑いつつ、扉を開けて室内に足を踏み入れる。

 夜が明けてばかりのせいか、部屋の中はまだ薄暗い。奥の方にぼんやりとベッドらしき輪郭が見えた。そのあたりでもぞもぞと何かの動く気配もする。

 

「朝早くすまないな。でも、入ってよかったのか?」

 

「当然でしょ。些細なものであれ、廊下で話させるわけにはいかないわ。貴方の言葉の断片が、誰かに変な風に伝わったりしたらおおごとじゃない」

 

 ---ごもっとも---

 

 ティグルはベッドのそばへ歩いていく。少しずつ薄闇に慣れてきて、青い髪の戦姫の姿を認識した・・・途端、眠気が吹き飛んだ。

 何故ならミラの格好が乱れていたからである。腰から下を覆っている毛布の端からわずかに覗く太腿が、妙に艶めかしく見える。

 

「どうしたの?」

 

 ティグルを見上げて、ミラは不思議そうに問いかける。

 

「さ、寒くないのか?」

 

「平気よ。私にはラヴィアスがあるもの・・・それにジェイも、ね」

 

 ベッドの傍らに立てかけていた短槍を手に取って、ミラは愛おし気にその穂先を撫でる。

 

「でも、そんなに私の格好が寒そうに見えるなら、温めてくれてもいいのよ?」

 

「もし俺が分かったと言ったら、ここで寝かせてくれるのか?

 

 半分は本音である。今すぐベッドに横になって昼までぐっすり眠りたい心境だった」

 

「かまわないわ。この前、一緒に寝たばかりじゃない」

 

 くすりと笑っての即答に、ティグルは早くも降参した。一言謝ってから、口早に用件を告げる。これについては彼女は真面目な顔で聞き、あとでマスハスのところへ赴き、対処すると答える。

 

「わざわざご苦労様。それじゃ、おやすみなさい。ティグル・・・あ、そういえば兵達から聞いたのだけど、最近この城砦に幽霊が出るらしいわ」

 

 予想だにしなかった単語を聞かされて、眉をひそめる。

 

「真っ白なドレスを着た女の幽霊だそうよ。私は見たことないけれど」

 

「ありがとう。とりあえず調べさせておくよ」

 

 ミラに礼を言い、ティグルは部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かに閉じられた扉を三つ数える程時間見つめて、ミラはそっと視線を隣に眠る死神に移した。

 

 ---まったく、ぐっすりに寝ちゃって・・・まぁ、昨夜は・・・その、は、激しかったからしかたないのかもしれないけど///―――

 

 思い出しただけで顔が熱くなっているのがすぐ分かった。

 

「もう・・・【ご褒美】はちゃんと渡したんだから、ね」

 

 そう言いながら、ミラはジェイの頬にキスを落とす・・・としようとしたら、不意にジェイの顔の位置がズレ、唇に落ちた。そこまでは別によかった、予想外なのは自分の後頭部と腰にジェイの手が回っていることだ。

 

「んっ!?///」

 

 ミラは恥ずかしくなり直ぐに離れようとするも、ジェイに押さえられているため逃げられない。そのまま甘いキスをして数秒、唇が離れた。

 ミラは力が入らず、ジェイにもたれかかった。

 

「ジェ、ジェイ・・・っ!///」

 

「ご馳走様、ミラ」

 

 いたずらが成功した子供のような顔をしてミラに言う。

 

「お、起きてたの・・・?」

 

「まぁな。なんか話してんのが聞こえてな。内容は分からなかったけど」

 

 そう言うジェイに、ミラは話の内容を伝える。

 

「---と、言うことで。これからマスハス卿の元へ行こうとしてたところよ・・・どこかの死神のせいで遅れるけど」

 

 軽くジェイを睨みながら言う。

 

「ま、まぁまぁ・・・気持ち良かった、ろ?」

 

「そういう問題じゃないわよっ!?///」

 

 ミラとジェイがマスハス卿の元へ着いたのは、それから半刻後だった。




「こうして見ると、私がジスタートに戻っていた間にいろいろあったのだと、改めて実感させられるな」



「・・・あらあら。私の心配とはずいぶん偉くなったものね、エレオノーラ。肝心の戦に間に合わなかった分際で」





「次回、第20話「死神と進む道」。もう20話なのね・・・これも応援してくれる貴方達のおかげよ、ありがとう(微笑)」


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第20話 死神と進む道

遅くなり大変申し訳ございません!!!!!!!
自分のパソコンを買えたのですが・・・仕事➔PCゲームの繰り返しで・・・。これからはちゃんと此処と他の二つも更新していきたいと思います!
それではごゆっくりどうぞ


 日が昇るにつれて雲は少しずつ散っていき、冬の陽射しは弱々しいながらも地上を照らしている。

 昼と呼ぶにはまだ早いころ、ぺるしゅ城砦を囲む城壁に二人の少女の姿があった。いずれも十六、七歳ぐらい。軍衣を纏い、一人は腰に長剣を帯び、もう一人は槍を抱えて腕組みしている。

 城砦の外に広がり、せわしなく動き回っている無数の人馬と幕舎を二人は見下ろしていた。

 

「こうして見ると、私が少しジスタートに戻っていた間にいろいろあったのだと、改めて実感させられるな」

 

「そのままジスタートにいても良かったのよ。ライトメリッツを離れて数ヵ月。公主の不在はそろそろ限界ではないかしら?」

 

 やや悔しさの滲んだため息を零すエレオノーラに、ミラは皮肉めいた笑みを浮かべて挑発するような言葉を投げかけた。

 

「・・・お気遣いいただいて恐縮だが、私の部下は有能揃いでな。我がライトメリッツに後顧を憂うようなことなど何一つない。お前こそ、そろそろ故郷恋しさに泣き出したくなっているのではないか?」

 

「・・・あらあら。私の心配とはずいぶん偉くなったものね、エレオノーラ。肝心の戦に間に合わなかった分際で」

 

「肝心の戦か・・・。そうだな。確かに私は間に合わなかった」

 

 エレンの声が、急に力を失って弱々しいものになる。どんな反撃がくるかと待ち構えていたミラは意表を突かれ、思わず白銀の髪の戦姫に振り向いた。

 

「話を聞く限り、ブリューヌの貴族や騎士たちでもティグルを助けることはできなかっただろう。その点に関してはお前に礼を言うしかない。---。ありがとう、リュドミラ」

 

 最後の感謝の言葉に、ミラは若干の狼狽を表す。それほど真摯な響きを、エレオノーラの声は帯びていた。どう返したらいいものかととっさに思いつかずに言葉を探していると、エレンが再び口を開いた。

 

「だから、だ。お前の出番はもう終わった!さっさとオルミュッツに引き上げて大好きな紅茶でも飲みながらこの思い出を胸に抱いて余生を送るがいい!」

 

 ミラの顔は呆然からすぐに憤怒へと一変した。

 

「あ、貴女に人並みの心を一瞬でも期待してしまった私が愚かだったわ!戦姫ともあろう者が幼児以下の精神性と倫理観しか持っていないなんて恥を知りなさい!」

 

 可能な限り声を押し殺して、ミラはエレオノーラを怒鳴りつける。エレオノーラもまた声を抑えて、憤然とした感情を吐き出した。

 

「そのセリフはそっくり返してやる!自分の言葉を省みて、幼児以上の精神性であると胸を張れるかどうか考えてみろ!---あぁ、すまん。張れるほど胸はなかったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―たまたま城壁を散歩していたら、中々面白いものを見つけたものだ・・・フフ、流石ボクだな―

 

「(エレオノーラとミラは会うたび喧嘩をすると聞いてはいたが、本当に喧嘩ばかりなんだな)」

 

 と、心で思ってはいるものの実際はお腹を抑えて笑いを堪えるのに必死である。

 

 -な、内容がただの子供の喧嘩と変わりないじゃないか。【戦姫】と言っても、やはり年相応の女の子・・・と言ったところかな―

 

「さてさて、次はどんな言葉かな♪」

 

【「そのセリフはそっくり返してやる!自分の言葉を省みて、幼児以上の精神性であると胸を張れるかどうか考えてみろ!---あぁ、すまん。張れるほど胸はなかったな」】

 

 -・・・むぅ、胸か―

 

「(ボクももうこの歳だし、ボク自身は自分の身体に何の不満も無い。愛しの旦那様も愛してくれるからね。)」

 

 ―だが、言われると気にしてしまうな・・・やれやれ、ボクもまだ女ということかな?-

 

「母さん?こんなところでどうしたの」

 

 なんて、考えていると息子の声が聞こえた。

 

「別になんでもないさ・・・言うなら、【男】には分からない話・・・と、いうわけさ」

 

「お、おぉ・・・そうだ、ミラ見てない?」

 

「ミラかい?さぁね、案外近くにいるかもしれないよ?」

 

 ボクはそう言い残すとジェイの肩をポン、と叩きその場を後にする。

 

 -帰ったらデュオに可愛がってもらおうかな?まぁ、拒否権は無いけど、ね♪-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・フ、くだらないわね。胸の大きさが何だっていうの?」

 

「心にゆとりが持てるぞ?損得しか考えられない誰かさんとは違ってな」

 

「あら、胸が無ければゆとりが無いみたいな言い方ね?まるで子供みたい」

 

「何?」

 

 胸の事で挑発すれば食いつくか、話題を逸らすかしてくると思ったエレオノーラは意外な反応に眉をひそめる。

 するとそこに死神が現れた。

 

「ミラ、いるのか?」

 

 ジェイはミラがいるのを確認すると、いつものように傍に寄って来る。

 

「教えてあげるわ、エレオノーラ。胸しかゆとりが取れない貴女と違うってことを」

 

 そう言うとミラは寄って来るジェイの左側により歩いて行くと、慣れた動きでジェイの腕に抱きつく。

 

「なっ・・・」

 

「フフ、どう?胸だけじゃ手に入らないものの方が多いこともあるのよ」

 

 腕にギュッと抱き着いたまま勝ち誇った顔したミラ、そのミラを睨み歯噛みするエレオノーラ。

 

「フンっ、私は中へ戻る。貴様と違ってやることがあるのでな」

 

 そう言い残すと背を向け、そのまま中へ戻って行った。

 

「また喧嘩か、ミラ?

 

 ジェイはミラの頭を優しく撫でながら問いかける。

 

「んっ。仕掛けてきたのはあちらだもの、火の粉を払ったまでよ」

 

 撫でを拒むことなく、気持ちよさそうに受けながらミラは答える。

 

「・・・ったく。俺達も中に戻ろう、冷える」

 

「仕方ないわね」

 

 その後、部屋に戻り紅茶を飲んだ後、会議に向かった。

 




どうでしたでしょうか?一応頑張りましたw
次は20.5みたいな話にしてみたいと考えています。ネタがなかったらそのまま続きになりますw
【@J_Death_Alice】Twitterでも感想など受けております~


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第21話 死神と進む道2

大っっっっっっ変永らくお待たせ致しましたぁぁぁぁぁ!!!
本当に申し訳ありませんでした・・・仕事で色々変更などありまして、書く時間がランダムになってしまい・・・。はい、言い訳です。
ミラがメインヒロインの小説は特典込みで全巻回収済みです、当たり前ですよねぇ。
メインの方のイチャイチャネタを利用するかもしれませんが気にしないで下さいw分からない人は【ダッシュエックス文庫《魔弾の王と凍漣の雪姫》】をお買い求め下さい。ミラが可愛すぎますので、ミラ好きの読者がおりましたらオススメします!冬には漫画も始まるみたいですのでチェックしましょう!
前置きが長くなりましたが、本編をお楽しみ下さい。


城砦の奥にある一室で、9人の男女がテーブルを囲んでいる。

メンバーはティグル・エレン・リム・マスハス・ミラ・ジェイ・シャル・ハイト。9人目は、肩の辺りで切りそろえた淡い金色の髪と、澄んだ碧い瞳を持つレギン。レグナスという名前で王子として育てられたブリューヌの王女である。

 

 「ーー出兵の準備は整った。その気になれば明日にでも出立できよう」

 

ずんぐりとした体躯を甲冑で包んだマスハスが、一同を見渡して厳かに告げた。最近ティグルに協力を申し出た貴族や騎士達のまとめ役を、マスハスが務めている。

 

 「兵の数はどれくらいになりそうなんや、マスハスはん」

 

 「ブリューヌの者だけで言えば騎士が四千。歩兵が六千といったところだ。これにジスタート軍の騎兵三千が加わるの」

 

ハイトの質問に、マスハスは答える。マスハスの挙げた数字を聞いて、エレンは怪訝そうな視線をミラに向ける。騎兵三千ではライトメリッツ軍だけだ。

 

 「私の軍は三百程度残してオルミュッツに帰らせるわよ、元々長期遠征の準備はできてないもの。ジェイのハーネスも同じ理由よ」

 

 「だったらお前も帰れば良いだろう」

 

そう毒づいたエレンを、ミラは鼻で笑った。嫌味たらしく口元を歪ませる。

 

「それは無理ね。私は貴女の監査役だもの」

 

「頼んだ覚えは無い」

 

憮然としてエレンは言い返したが、それ以上言葉を続けることはせず腕組をして口を引き結んだ。

 

 「まっ、エレオノーラの姉さんとミラ姉は相性最悪やからなぁ。そら監査役、ミラ姉が適任やな」

 

 「ハイト、最悪なのにか?」

 

ハイトの発言に疑問に思ったティグルは、ハイトに問い掛けた。

 

「親密やと、不正を疑われる可能性あるやろ?過去にもそういう事例はぎょうさんあるしなぁ」

 

なるほど、と納得するティグルの右隣で、レギンが首を傾げた。

 

「全て合わせると一万三千ですか・・・。この城内にはそれ以上の兵が居るように思えましたが」

 

軽い驚きに目を瞠りながらも、マスハスは王女に頷いてみせた。

 

「殿下の仰るとおり、この城砦にいる兵は二万弱。リュドミラ殿の兵を除いても、一万七千近くはいるでしょう。ただ、この城砦の守備に食料や燃料、飼料、武具…更に兵の強さなどの問題から、全ての兵を連れていくのは不可能なのです」

 

「なるほど…分かりました。話を進めて下さい」

 

マスハスがテーブルに地図を広げる。ブリューヌ王国全体を描きたものだ。

 

「先程は明日にでも出立できると言ったが、実際にこの城砦を発つのは七日後を予定しておる」

 

「理由は二つある」

 

マスハスの言葉に続き、シャルが答える。

 

「一つは、テナルディエ公爵とガヌロン公爵を噛み合せるため。ボクらの元へもたらされたによれば、両公爵の軍は王都付近で激突後、テナルディエ公爵軍が劣勢となって南へ後退を繰り返し、両軍は現在ネメタクムあたりにいるようだ」

 

「それぞれの軍を率いているのは誰なのですか、シャルお義母様?公爵達が自ら戦場にいるのは考えにくいのですけど…」

 

シャルの指が示す地図の一点を見据えながら、ミラが訊いた。その回答にシャルの隣に居たハイトが答える。

 

「ミラ姉の言う通り、公爵自らちゃうな。テナルディエ公爵の軍を率いているのはスティードと言うて、テナルディエ公爵の側近や。ガヌロン公爵の軍を率いているグレアスト侯爵。こっちもまた、ガヌロン公の腹心とも呼べる方ですわ」

 

 「グレアスト……。あの男か」

 

ティグルと、そしてエレンの記憶に不快な映像が蘇った。黒騎士ロランと対峙する前、ガヌロンの名代として現れた男の姿を思い出したのだ。

特にエレンはよほど不愉快だったようで、表情が一気に険しいものになる。

 

  「ムオジネルが攻めてきていたというのに、呑気なものね。それともガヌロン公爵は分かっていて兵を動かしたのかしら」

 

青の瞳に冷気を宿したミラが鼻を鳴らした。マスハスは頷く。

 

「恐らくは。ムオジネル軍は陸と海から兵を動かしており、陸からはティグル……ヴォルン伯爵と貴女が撃退してくださった。海からの軍ーーー船団は、これはテナルディエ公爵が迎え撃ったらしい」

 

「テナルディエ公爵の勢力圏は、ネメタクムを中心にブリューヌ王国南部に広がっています。ガヌロン公爵との一大決戦を前にして、ムオジネル軍を放っておくことなどできなかったのでしょう。そこを突かれた形ですね」

 

マスハスの説明をリムが捕捉する。

 

「ムオジネルが退いた以上、テナルディエ公爵がはガヌロン公爵との決戦を急ぐやろなぁ。そんなとこへ、俺らがのこのこ姿を晒す理由なんてあらへん」

 

そう説明しながらハイトは地図に駒を置いていく。どちらかが倒れるのを待ち、生き残って傷つき疲弊している方を討つ。それが基本方針だった。

 

「二つ目の理由は?」

 

ティグルの質問に答えたのはシャルだ。

 

「ムオジネル軍は撤退する際、キミを称賛していただろう?彼等はその後も、ブリューヌ王国内でキミの活躍を吹聴してまわっているみたいなんだ」

 

「テナルディエとガヌロンの争いに、第三勢力としてのティグルを登場させて混乱を長引かせるつもりじゃろうな」

 

あまりにも見え透いている意図に憮然として、マスハスがしかめっ面をつくる。それと分かっていて乗らなければならない現状が、マスハスは腹立たしかった。

 

「私の名を…役に立てることは、出来なさそうですか?」

 

微かに悔しさを滲ませた表情でレギンが尋ねた。

 

「その案は出たが、私が頼んでやめてもらった」

 

つまらなそうな顔でエレンが答えた。レギンは不思議そうに問いかける。

 

「貴女は、私が王族であることを喧伝するつもりだったと思いましたが」

 

レギンが王女であることを明かし、それを証明するものがアルテシウムにあると悟ったとき、それを広く知らせることを考えたのは他ならぬエレンだ。

 

「見通しが甘かった」

 

表情は憮然として素っ気ない。

 

レギンは困惑気味に眉をひそめ、ティグルに助けを求める視線を向ける。それを見て、マスハスが一つ咳払いをした。

 

 「僭越ながら殿下にご説明を---」

 

 「マスハス卿。殿下には俺から説明します」

 

 マスハスの言葉を遮って、ティグルは明るい表情をレギンに向ける。

 

 「ムオジネル軍を撃退したオルメア平原からこの城砦へ来るまでの間・・・いえ、この城砦に来てからも、俺は多くの貴族や騎士、商人らと会って話をしました。彼らがこの城砦に集まった理由は様々です。ムオジネルと戦った俺を認めてくれた人もいれば、両公爵に協力したくないから俺の所へ来たという人もいます。それで分かったことは・・・俺はまだ、彼らの信頼を勝ち得ていないということです」

 

 「信頼・・・?」

 

 レギンが碧い瞳を曇らせる。

 

 「理由はどうあれ、俺がジスタート軍を国内へ呼び込んだことは事実です。爵位を剥奪されたことも。彼らはそれを知っている。何人かは、俺がどのような人間なのか見極めようとするふうさえありました」

 

 ---もっとも、ティグルヴルムド卿は気づいておりませんでしたが---

 

 と、口には出さず心で思うリムであった。

 

 「この状況で俺が殿下のことを話してアルテシウムへ向かうと告げたら、彼らは動揺し、むしろこちらに疑惑の眼差しを向けてくるでしょう。何を企んでいるのかと。そうなったら、アルテシウムへ向かうどころではなくなってしまいます」

 

 エレンの言った、見通しが甘かったというのはこのことだ。

 

 「そういった事情から、殿下の名はこれより後の段階で活用させていただきたいと思っています」

 

 「・・・後の段階?」

 

 無念そうに俯いたレギンだったが、ティグルの言葉に目を瞠って顔を上げた。そして、待っていましたと言わんばかりにシャルがティグルが言おうとしたセリフを述べる。

 

 「その通り、ボク達が勝利を得たとき。それをより確実なものにするために、キミの御名を借りることがあると考えているのさ♪」

 

 「・・・シャルパルトさん、俺のセリフを取らないで下さいよ」

 

 苦笑しながらシャルに述べ、レギンを改めて見つめる。

 

 「・・・と、シャルさんが話した通りです。殿下」

 

 「分かりました。元より私は貴方を頼っている身。お任せします」

 

 「恐縮です、殿下。ただ---今申し上げたことと矛盾するように聞こえますが、ある程度のこと・・・例えば【王家に連なる女性を保護している】ぐらいの情報は流すつもりでいます」

 

 テナルディエかガヌロンがレギンの素性を明らかにした場合に備えてのことだ。【ティグルヴルムド=ヴォルンはある王族を匿っている。秘密にしていたのは、もちろん己の私欲のためだ】などの吹聴を警戒してのことだ。

 

 「明らかにもできず、隠しておくのも危険。難しいのですね・・・」

 

 「殿下に害が及ぶことの無いよう、微力を尽くします」

 

 そうして、軍議は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・まさか、こんなことになるとはな。予想外も良い所だ」

 

 ライトは自室で弟であるハイトに軍議でのことを聴き、ため息をつきながら素直な感想を述べる。そんな兄をみて苦笑するしかない弟、ハイト。

 

 「アハハ・・・、こればっかりはしゃあないわ。いくら軍師やかて、死んだ相手が生きていて自陣にいるなんて思わへんやろ、兄さん。とりあえず、今話した通りで次はアルテシウムへ行くで」

 

 「はぁ・・・それもそうだな。了解した、お前はリクにも話してこい」

 

 「リクにはシャル義母さんが説明しに行ってるで。だから大丈夫や・・・今は身体を休めるぅ」

 

 そう言いながら、ハイトは部屋を後にし自室へ戻る。

 

 「アルテシウム・・・嫌な予感しかしないが、行くしかないか。ヴォルンの行く末も気になるし・・・まぁ、いいか」

 

 そう言うと、ライトは読書を始めた。タイトルは【魔弾の王と戦姫】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・と、言うわけでボクらは次、アルテシウムへ向かうことになったから。二人ともよろしく頼むよ?」

 

 「「・・・」」

 

 シャルに呼ばれたリクとプローネは簡潔に話を聞かされポカン、とした表情で目の前の女性を見つめていた。

 

 「おや、どうしたんだい。二人とも?」

 

 「どうしたも何も・・・」

 

 「色々あり過ぎだろう!?母様!」

 

 正気を取り戻した二人は呆れ、動揺していた。

 

 「まぁ、そうなって当然だね」

 

 ハハ、と笑うシャルにリクは質問をする。

 

 「父さん達に援軍など、何か要請した方が良くないですか?」

 

 「無駄さ。今更要請した所で、知らせが届いてこちらに来てる頃にはこの物語は終わっているさ」

 

 首を左右に振り、残念な風に告げるが娘は騙されなかった。

 

 「母様・・・この状況楽しんでいるな!?」

 

 「・・・流石ボクの娘、騙せなかったか」

 

 クスクス、と笑いながら娘の頭を撫でる。撫でられた娘は気持ちよさそうな表情をする。

 

 「恐らくデュオも、この状況なら楽しんでると思うな。実は王子は生きていました、王子は本当は王女でした、これからボクらはブリューヌの最大二勢力と言っても過言でもないテナルディエ・ガヌロンと戦う可能性が極めて高く、この公爵のどちらかは竜を使ってくる可能性もある・・・普通は絶望に近いが、ボクはワクワクしている。リク、何故か分かるかい?」

 

 「・・・その状況でも、前に進むヴォルンがいる。からですか?」

 

 「その通り、正解だ。ボクは絶対的な有利より、不利な方が燃える人種でね」

 

 満面の笑みで答えるシャルを見て、二人は苦笑する。

 

 




 「燃えたというのはどういうことだ?」



 「ありがとうございます、ティグルヴルムド卿」



 「あくまで、又聞きではございますが」



 「陣取り合戦か」



 「喧嘩はやめてくれ。俺は二人とも頼りにしているんだから」



 「次回、第22話。【死神と進む道3】、読んで頂けると幸いです。私の為に動いて下さり、ティグルヴルムド卿達には感謝しかありません・・・!」


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第22話 死神と進む道3

待っていた方々、申し訳ございませんでした。
やっと投稿でございます。いつも謝罪から始まってしまいごめんなさい・・・投稿は遅くなっておりますが、小説は買って読んでおります。
リムが主役の本も出るとは思いませんでしたね、そして冬にはドラマCDとセットで発売されるとの事!これは買わなければなりません!
・・・すいません、興奮しました。
では、そろそろ本編をどうぞ


 一夜明けて、ペルシュ城砦の会議の会議室には緊張と不安に満ちた空気が渦巻いている。テーブルを囲んでいるのはティグル・エレン・リム・マスハス・ミラ・ジェイ・シャル・ハイト・レギンの9人だ。

 

 「燃えたというのはどういうことだ?」

 

 口火を切ったのはエレンだ。顔をかしめ、腕を組んで苛立たし気に椅子を揺らす。答えたのはマスハス。

 

 「言葉通り、の意味の様ですな。ガヌロン公爵が己の都市に火を放ったと・・・」

 

 「誤報ではないの?都市の何処かで小火があって、それが誇大に伝わったとか」

 

 ミラも首を傾げる。マスハスは灰色の髭を撫でながら深刻な顔で答えた。

 

 「確かにこの季節、失火から火事になることは珍しくない。ましてルテティアはブリューヌでも北にあり、より風の冷たい地域。じゃが、いわばガヌロン公のお膝元でそうした事態になるのは考え難い」

 

 「大都市が燃えるとしたら、他に敵軍が放つというのも考えられるんやけど・・・テナルディエ公の軍は、まだ王都ニースよりも南に居るんやろ?」

 

 「あぁ、その通りだ。ボクが斥候を放っておいたんだが、報告ではテナルディエ公の軍勢はガヌロン公の軍を破った後ゆっくりとではあるが北上しているようだ」

 

 ティグルが一瞬深刻な表情をしたが、顔面蒼白で無言になっているレギンに気付き、表情を元のティグルに戻した。

 

 「殿下。我々の予定は変わりません。ともかくアルテシウムへ向かいましょう」

 

 「ありがとうございます。ティグルヴルムド卿」

 

 そんな2人を見守った後、各自出発の準備に取り掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【銀の流星軍】ペルシュ城砦を発ったのは、翌日である。本来なら3日後のはずだが、予定を早めたのだ。

 

 中核となるのはティグルとマスハス、シャル。オージェらの率いていた兵に加え、エレオノーラの率いるライトメリッツ軍と、ミラの束ねるオルミュッツ軍。更にジェイの率いるハーネス軍だ。異国の軍が主軸となっていることには不満も出たが、マスハスとシャルが彼らを宥め、説得した。それ以外には、今回のムオジネル軍との戦で戦列に加わった騎士団や貴族の兵がいる。

 ルテティアへ通じる街道を進みながら、ティグルとシャルは随時斥候を多方面へ放っていた。周辺の地図を作らせる為だけの部隊もあれば、テナルディエ公の軍の動き探る為の部隊もいる。もちろん、ジェイも放っており、ルテティアの様子を調べる部隊を放っている。

 1日経つ度に情報が増え、正確さが増していく。また、隊商や旅人と遭遇するとティグルは幕舎に彼らを招き、食事や酒を振舞いながら話を聞いていた。特に話すことが好きなハイトやシャルが話し相手を務めていた。

 

 「いきなりすまないね、貴方達は何処から来たんだい?」

 

 「へ、へぇ。ルテティアの方からです」

 

 「え、ホンマか!実はな、俺らルテティアのアルテシウムが燃えたって聞いたんやけど、もちっと詳しく知ってへんか?」

 

 「あくまで又聞きではございますが」

 

 聞いた話を纏めると、戦に負けて狂って自分の屋敷や都市に火を放ち、更には5つの門を閉じた・・・と言うことだ。これを聞いた2人は表には出さなかったが、正直困惑していた。それが事実ならまともな話ではないからだ。この話を2人はティグル達に伝えた。するとライトは小さく息をつく。

 

 「今の話が事実なら、尋常じゃないな・・・」

 

 「と言うか・・・正気の沙汰じゃないね。いくら戦に負けたからって、それを都市にぶつける・・・?」

 

 リクも疑問に思い口に出すが、ここで過ぎたことを話し合っても現実は変わらない。

 

 「2日後にはルテティアに入るわ。テナルディエ公爵も王都ニースを素通りして北上しているというし・・・」

 

 「はは、陣取り合戦でもするかい?それもまた一興じゃないかな」

 

 「陣取り合戦か」

 

 「シャル義母様、流石にそれは危険です!負ける可能性の高い博打です」

 

 「今回ばかりは私もこいつの意見に賛成だ。やめた方が良いと思う」

 

 「・・・そんなに難しいことを言ったか?」

 

 「ブリューヌを代表する貴族の住む北部最大の都市、なんでしょう?私達の倍以上の住民が居たはずよ。はっきり言って、手に負えないわ」

 

 「それにティグルさん、仮に都市の半分が焼けていたとしたら万を超える死体があると思うよ。疫病が蔓延している可能性がある。何より、住民達に時間を割いている間にテナルディエ公爵の軍が現れる可能性が浮上します。それが1番恐ろしい」

 

ミラ、リクの言う事はもっともだった。何より銀の流星軍も食糧や燃料をそんなに余分に持っている訳では無い。

 

「殿下かマスハス卿を通じて王都に働きかけ、食糧と水、燃料など必要な物を運んでもらうというのはどうだろう?」

 

 必死に提案するティグルにエレオノーラは肩をすくめて大袈裟に溜息をついた。

 

 「まぁ、全く何もしないというのも寝覚めは良くないな。王都に援助を求めるのは良い案だ。それから、この辺りを治めている貴族や、城砦を守っている騎士団に呼びかけるというのはどうだ?」

 

 「貴女にしては珍しく悪くない考えね。その反応次第で味方に取り込むかどうかを考えることもできるでしょうし」

 

 「ほほぉ?負け惜しみ以外の言葉を吐くことができたのだな?それともこれは天変地異の前触れかな?」

 

 「もしも天変地異が起きたら、それは貴女が頭を働かせた結果でしょうね。良さそうに見えることをしても直ぐに台無しにしてしまう貴女らしいわ」

 

 「喧嘩はやめてくれ。俺は二人とも頼りにしているんだから」

 

 ティグルは懸命に宥めようとしたが、その台詞が逆効果だった。

 

 「私の方が明らかにコイツよりも頼りになるだろう?新参者を甘やかすとつけあがるぞ」

 

 「長さしか誇れるものがないような古株に気遣うことなんてないのよ、ティグル」

 

 「はいはい。痴話喧嘩はやめようか、2人とも。ミラも彼女に対抗したいみたいだが、その台詞は【とある人物】が嫉妬・ヤキモチも焼いてしまうぞ?」

 

 その場にいた一部を除き疑問符を浮かべていたが、シャルがとある方を顎でくいっ、と向けると面白くなさそうな表情をしたジェイが立っていた。ミラは「あ・・・」と一瞬青ざめた顔をし、ジェイは「纏まったら教えてくれ」と言い残し幕舎を後にした。それを見たエレオノーラはミラに追撃をかけようと口を開けようとしたら焦った表情をし顔を左右に振るプローネに止められた。流石にエレオノーラも追撃はやめ、コクコクと頷いた。

 

 「やれやれ・・・ミラ、後のことはボクに任せてジェイの所に行ってきな」

 

 「・・・ごめんなさい、シャル義母様」

 

 シャルの言葉に甘え、ミラはジェイの幕舎へ向かって行った。現状を理解出来ていないマスハスとレギン、そしてそれに気付いたライト。

 

 「あぁ、2人は知らなかったな。ジェイとミラは恋人関係なんだ、まぁ他言無用で頼むぜ?」

 

 それを聞いた2人は驚きの表情を隠せず、それを見たハイトは笑ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・じぇ、ジェイ?

 

 ミラは恐る恐るジェイのいる幕舎に入り中を確認する。中に入ると簡易に作られたベッドで横になり休んでいた。傍でとぐろを巻いていたヨミはミラに気付くとミラの足元まで寄って来る。ミラはしゃがみ手を差し伸べ、ヨミは手に乗りそのままミラの肩まで登る。上り終えるとミラの右頬にスリスリと甘えてくる。

 

 「ん・・・よしよし、ヨミ。ちょっとジェイに用があって来たのよ」

 

 ヨミを肩に乗せたままベッドの腰掛け、話しかける。

 

 「ジェイ・・・機嫌直して?私が好き・・・ううん、愛してるのはジェイだけよ?信じられない?」

 

 「・・・ミラを信じてない訳じゃないけど、何かこう・・・つまらない」

 

 身体を起こしミラを見つめ話すジェイ、それを聞いたミラは少し呆れた表情を浮かべる。

 

 「子供じゃないんだから・・・でも、私もごめんなさい。ついエレオノーラに対抗するようなことを言ってしまったわ。これから気を付けるわ」

 

 ぺこ、と頭を下げて謝るミラ。それに便乗し一緒に頭を下げるヨミ。

 

 「いや、オレも子供過ぎた・・・こっちこそごめん、ミラ」

 

 ジェイもぺこ、と頭を下げて謝る。互いに頭を上げ、ぷっ、と一緒に笑った。笑い終えた時にはどちらからもなく唇を重ねた。

 

 「ミラ、絶対に勝つぞ」

 

 「誰に言ってるのよ?当然でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、アルテシウムから徒歩で1日半程離れた草原で進軍を止めた。偵察部隊の報告で、テナルディエ軍もまたアルテシウムへ向かってこの近くを進軍中と知った為だ。

 

 「テナルディエ公はボク達の居る此処から5、60ベルスタ(5、60キロ)の所にいるのか。互いに詰めれば今日中に接敵しそうだね」

 

 そこでシャルが提案したのが休憩だ。幕営を設置させ、兵達の長い行軍の疲れを取らなければならないからだ。

 

 「さてと・・・状況を整えようかな。まずボク達の軍は2万になった。ガヌロン公に従っていた連中だが、兵力が増えるのは純粋に良いことだ・・・だけど、人が増えれば食料も更に増やさなければならない。食事の具材の量や味の変化だけで兵達は困惑してしまうからなぁ、これ以上は無理だね」

 

 「それに、テナルディエ軍は確実に2万を超えている兵力に竜が5頭いる。竜はミラ姉様達に任せるとして、兵だけならまだ私達もいるから勝機はある」

 

 娘のプローネも一緒に確認していた。娘の発言に疑問に思った母は、娘の頭を撫でながら訂正する。

 

 「勝機がある?違うよ、プローネ。【勝つ】のさ」

 

 自信満々の笑みを見た娘は苦笑するしかなかった。




「テナルディエ公爵からの使者が来たそうじゃ」

「安心して下さい。エレオノーラ様とリュドミラ様が、負けるはずありません」

「双頭竜なんて初めて見たわ・・・」

???「久方振りの竜の血だ・・・たんまり喰わせてもらうぜ!」


「次回、第23話【死神・凍漣・銀閃ⅤS火竜&双頭竜・・・に乱入者】。さぁて、ようやくオレの出番だ。せいぜい楽しませてくれよ!」


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第23話 死神・凍漣・銀閃VS火竜&双頭竜・・・に乱入者

どうもお久しぶりでございます。
他の作品も投稿しているので久しぶりではない方もおられますが、この小説の投稿自体久しぶりなのでご挨拶を。
色々アイディアが出てきてはおりますが、他の趣味に走ってしまう所がありまして投稿が遅くなってしまいました・・・申し訳ございません。
この作品に飽きた・疲れた等は一切ございませんのでそこはご安心下さいませ。
それはそうと。先日、公式様からのツイートで【魔弾の王と凍漣の雪姫】のタペストリーが在庫がある、ということをつぶやかれておりまして・・・無事購入することができました!!
いやぁ、眼福目の保養です。
もちろん、小説の方も買わせていただき愛読中でございます。
さて、本作はまだ原作の5巻辺りですが楽しんでいただけたらなと思っております。
長くなりましたが、本編をどうぞ


ティグル

 「・・・一度、テナルディエ公爵に休戦を申し込んでみようか」

 

 仲間をぐるりと見渡して、ティグルはそう提案してみた。もっとも早く反応したのはエレンで、紅の双眸を鋭く光らせる。

 

エレン

 「それは、アルテシウムを救うためか?」

 

 ティグルは頷き、迷いながらも理由を述べる。

 

ティグル

 「ムオジネル軍が海から攻めてきたとき、テナルディエ公爵は海に面した諸都市を守るために兵を率いて向かったと聞いている。ブリューヌの覇権を狙っているなら、アルテシウムは自分のものにばる可能性のある都市だ。早く再建出来るなら、それに越したことはないんじゃないか?」

 

 自分の意見を伝えてみたが、此処にいる者からは良い反応が得られなかった。

 

エレン

 「お前の考えは正しい。しかし、恐らくテナルディエ公は乗ってこないだろう」

 

ハイト

 「ティグルはん。あんさんが今申し出ても、相手は時間稼ぎを疑うだけや。ムオジネル軍を撃退したっちゅう声望で、兵を集めることが可能やからな」

 

 エレンに軍師であるハイトに反対され、他のメンバーを見渡す。しかし、期待したような返答は得られなかった。

 

シャル

 「ボクが相手の立場なら、キミの殲滅を優先するね。今の彼の立場で言えば、今すぐ手をつけなければいけない訳ではないからね。勝ちさえすれば、キミが妨害したと責任をなすりつけられるからね」

 

リク

 「ティグルさん、貴方のこころばえは貴いものです。ですが、何もかも出来るわけではありません。せめて一勝しないと・・・」

 

ティグル

 「・・・分かりました」

 

レギン

 「ティグルヴルムド卿、責めを負うべきは私です。必要以上に苦しまないで下さい」

 

ティグル

 「ですが、殿下・・・」

 

 そう話をしている際に、謁見を求める兵士の声が響く。マスハスが対応し、兵士から話を聞き戻って来ると気難しい顔で告げる。

 

マスハス

 「テナルディエ公爵からの使者が来たそうじゃ」

 

 使者からの話を聞き終え、再び話し合いを始める。

 

ハイト

 「いやはや、何とも慣例的な要求やったなぁ。ティグルはんの首を出せばその他貴族は全て助け、領土や爵位も安堵させるとは」

 

ライト

 「おまけに戦姫やオレらはさっさと国へ帰れ、か」

 

リク

 「・・・レギンさんの言及は、ないみたいだけど」

 

エレン

 「どうする、ティグル」

 

 使者を別の幕舎で待たせ、エレンはティグルに問う。

 

シャル

 「何なら、さっきの休戦の話でもしてみるかい?結果は目に見えてると思うけどね」

 

 そもそも相手の話を信用しておらず、シャルは先ほどの提案を持ち出した。

 

ミラ

 「万が一、休戦したとして。休戦する代わりに何を要求されるか分かったものじゃないわ」

 

ジェイ

 「向こうは、一応降伏を勧めたという形が欲しいだけだろう。こっちからも高圧的な要求をしてやったらどうだ?」

 

エレン

 「おぉ、それは良い案だな死神。ティグル、やってやれ」

 

 2人の言葉に乗って、ティグルは次のような返事を使者に持たせて帰らせた。

 

 【貴方の息子が、アルサスに鉄靴で踏み込んだことへの詫びはまだか?】

 

 分かっていたことだが、当然交渉は決裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイト

 「こっちは2万、あっちは2万4千くらいか・・・純粋な兵力なら何とかなりそうやけど、兵力以外に竜までおるのはズルいわぁ。まぁ、こちらには姉さん兄さんらがおるし一方的な戦にはならんはずや」

 

 と、言いながらも竜と対峙するのは初めてのハイト。僅かながら身体が震えていた。そんなハイトに気付いたリムは肩をポンと叩き

 

リム

 「安心して下さい。エレオノーラ様とリュドミラ様が負けるはずありません」

 

 と、優しく微笑む。それを見たハイトは落ち着きを取り戻し

 

ハイト

 「・・・せやね。良し、やったるで!」

 

 拳を空へと掲げる。そして朝と昼の半ば、両軍は甲冑を鳴らしながら動き出した。

 

ジェイ

 「さぁ・・・戦の始まりだ」

 

 先に仕掛けたのはジスタート軍。一斉に矢の雨を浴びせ、テナルディエ軍は長盾をかざし矢を防ぐも、防ぎそこねた数十人は倒れる。しかし、テナルディエ軍は怯む事なく進軍する。双方の剣や槍、戦斧で相手を地に落とす。殺し殺されの連鎖が戦場の各所で起こる。

 

シャル

 「・・・よしよし、相手は餌に食い付いた。ミラに合図を」

 

 ジスタート軍の右翼を少しずつ下げており、それに相手の左翼が勢いこんで前進したが

 

シャル

 「残念だったね、それは罠なのさ」

 

ハイト

 「ミラ姉さんに少しばかり離れてもろて、このタイミングで相手の左翼に横撃を喰らわす」

 

シャル

 「そして、それに合わせて反撃を開始する・・・良いねぇ、今の所流れは此方にある」

 

 後方で指揮しているティグル達の所で一緒に指揮をしているハイトとシャル。しかし、ハイトは此処にシャルがいることに疑問に思っていた。

 

ハイト

 「そういや、前に行かれへんのですか?」

 

シャル

 「うん?竜が出て来そうな時にでも行かせてもらうよ。私が前に出たらあの子達の手柄を独り占めしてしまうからね」

 

 はは、と笑いながら話すシャル。それを見たハイトは苦笑いするしかなかった。すると兵より新たな報せが届いた。

 

兵1

 「新たに新手が出現、その後方に竜が5頭見えております!」

 

ハイト

 「鱗の色は?」

 

兵1

 「黄土が3・赤茶・鉄が1つずつです!」

 

ハイト

 「らしいでっせ、シャル義母様?」

 

 と、シャルに伝えると。シャルは武器を構え出る気満々だった。

 

シャル

 「良し、伝令ご苦労。キミは暫く休め。ハイト、指揮は任せた!」

 

 そう言い残し、シャルは意気揚々と馬を駆り戦場へと向かう。

 

ハイト

 「・・・ホンマ、あの人だけは敵に回したくないもんや。なぁ?」

 

兵1

 「あはは・・・その通りですな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラ

 「双頭竜(ガラ・ドヴァ)なんて初めて見たわ・・・」

 

 双頭竜は奇形であり、ジスタートでは凶兆を運ぶとも言われている。しかし、ジェイは1つ気になる事があった。

 

---火竜(プラーニ)双頭竜(ガラ・ドヴァ)だけ、何で鎖みたいなのが付けられているんだ?---

 しかし、ジェイは考えるのを此処までにしておいた。戦場で思考の海に沈んでは命に関わるからだ。

 

リク

 「それにしても、本当に従っているみたいですね・・・ボクらの国ですら、そんな例はないのに。いったいどんな手を・・・」

 

ライト

 「それについては関わっていないから何とも言えないが、これだけは分かるぞ。まともな手でなないな」

 

 などと言っていると、敵兵の壁の奥から竜の咆哮が戦場を包み込む。敵味方、人馬問わず仰天しその場に立ち尽くす。ミラやジェイ達は軽く仰け反った程度だが、彼らの馬はそうはいかずがくがくと身体を震わせる。5体のうち、地竜3体が動き出した。それはジェイ達にとっても脅威だが、相手からしても脅威だった。何故なら・・・

 

エレン

 「竜に人間の敵味方なぞ関係無いからな。敵兵も死にたくないから凄い勢いで左右に散っているぞ・・・さて、時間が惜しい。纏めて行くぞ」

 

ミラ

 「そうね。5頭もいることだし、いちいち相手ににてられないわ」

 

???

「確かにそうだね、それに此処で竜を仕留めてしまえば戦力を大きく減らせるし。何より士気も大幅に落とせるはずだ」

 

ミラ

「シ、シャル義母様!?何故此方に?」

 

シャル

「いくら戦姫でも、5頭はキツイかなぁって思ってね。まぁ、ジェイやプローネ達もいるから大丈夫だとは思うけど」

 

エレン

「・・・シャルパルト殿、本音は?」

 

シャル

「竜とは戦ったことがないから来た」

 

ーーーそもそも、竜と戦いたいと言う人間がいる方が可笑しいだろーーー

 その場にいたジェイ達は恐らく同じことを思ったが、口には出さなかった。出したら竜相手より恐ろしいことになるのが目に見えているからだ。

 とにかく、戦姫2人の竜技発動後動こうとしていた・・・が、ジェイ達より先に地竜に攻撃(・・)を仕掛けた者がいた。それに気が付いたのは何か大きな物が飛んでくるよな空を切る音、そしてそれが大剣と分かったのは地竜の頭部に刺さってからだ。突然のことで動揺を隠せないジェイ達。

 

エレン

 「なっ、た、大剣だと!?一体どこから!?」

 

ミラ

 「ジェイ!貴方、何か知っているの!?」

 

ジェイ

 「いや、知らないな・・・ハイトの策なら必ずオレ達に話しているはずだ!」

 

ライト

 「それって・・・」

 

リク

 「つまり・・・」

 

シャル

 「何者かが、この戦に乱入したみたいだね・・・さぁ、ご本人様のご登場だよ」

 

 シャルが指を大剣へ向けると、地竜へ向かって跳躍している人物がいた。その男は大剣を掴むと引き抜かずに、更に奥へと大剣を突き刺した。当然地竜も抵抗しようとするも、頭部に刺さった大剣を押し込まれ、脳へと到達し絶命してしまった。力無く崩れる地竜、すぐ側にいた地竜も巻き込まれ体勢を崩す。そして、地竜を一瞬で1頭仕留めた男はこう言った。

 

???

 「久方振りの竜の血だ・・・たんまり喰わせてもらうぜ!」

 

 先ほどジェイ達が思っていたことと真逆の人間が突如目の前に現れ、唖然とするしかなかった。




「エレオノーラ!貴女、何てことを・・・!」

「エレオノーラ様!リュドミラ様!ご無事ですか!」

「踏み止まれ!ここで退けたら、何も得られないばかりか、今持っているものさえもことごとく失うぞ!お前達は何の為にここにいる!」

「オレの目当ては【竜】、特に【竜の血】だ。それさえ手にできればお前さん達の邪魔はしねぇさ」

「打ち消した?」

「手は2つある」

「次回、第24話【死神・凍漣・銀閃VS火竜&双頭竜・・・に乱入者(2)】本当に、乱入してきたあの男、一体何者なのかしら」


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