死神と艦娘の物語 (ゆーなぎー)
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プロローグ 死神の欠片
プロローグ 死神の残滓 死神の目覚め


初めまして、ゆーなぎーです。
pixivの方でも夕凪で上げてますが、武者修行としてこちらでも活動させて頂きたく存じ上げます。
ただし、こちらにはコラボの内容は投稿いたしません。
ですが、こちらの方には少しだけ加筆もしたりします。
 
出来ればご感想も頂ければ嬉しいです。
コラボ等も恐縮ですが募集しています。


死神の残滓

 

自分は『死神』だ。そう、仲間をも死に追いやる死神。

 だが敵を死に追いやる武器を持っている。敵の首を撥ね飛ばす『』を。

 その死神は20人近い『死神』を従えていた。

 死神達を一度戦場に投下されれば敵は逃げ惑うしかない。逃げなければ『死神』の『鎌』にその命をもっていかれてしまうからだ。

 

 そう、オレは死神だ。オレは『死神部隊』の指揮官だ。あのクソッタレの国際テロリスト共を全て排除をすることを誓った『死神達』の指揮官だ。

 だけど、『死神』も今日で終わりだ。あのテロリスト共の親玉もぶち殺したはずだから。だから…終わりだ。これで全てが片付いた。これで全て終わった。仲間の犠牲もたくさん出た。

その犠牲にオレも含まれてしまうだろうけど…。

 まぁ、オレの犠牲と敵の親玉、天秤にかけても等価だろう。あいつらもオレ達の事かなり恐れてたみたいだし。

敵にとっては大打撃、こちらは部隊の指揮官が死ぬだけ。上出来だな。後の残党狩りは他の奴らでもできるだろう。

 そうなったら死神も必要なくなる。そして世界も平和になるだろう。あいつらも平和だったころの生活に。家族や友達と笑いあっていたようなあの頃に。

オレたちは望んでいたものを手に入れた。オレたちの力で。

 だから、もうオレもこの目を閉じてしまおう。さっきから海の水が目に染みてたまらない。撃たれた脇腹が痛くてたまらない。蹴られた腹も痛い。撃ち抜かれた右手も痛いか…。

痛くてたまらないな。もう逃げても文句言われないだろう。

 死ぬ前って本当に時間が遅く感じるな。何回か経験したことあるけど。

 今までいろんな事がありすぎた。このまま死ぬのは未練だな。平和になった世界もあいつらと見てみたかったな…。皆で暫く騒ぎまくりたかったな…。

 でも仕方がないオレは無理だろう。

 

 でも…

 

 だけど…

 

 だけど…オレは…オレは…

 クソ!本当に未練ばっかりだな…

 

 

 

 

 

死神の目覚め

 

 目が覚めた。酷く周りが眩しく感じる。ずっと夢を見ていたのか?じゃあ、あれは夢か?いや違うあれはオレの中に記憶された現実だ。

オレは額を触る、。

 ああ…やっぱりオレは『死神』のオレだ。

 だが服装はどうだ?プロテクターに覆われたあの軍の服装では無い。これは酷く軽く感じる。右腕を動かして服装を確認しようとする。だが少し動かしただけで凄く体が痛い。何故だ。

右腕を動かしたときに布団がめくれて腹の方も見えるようになった。布団?今めくれて気づいた。布団をかぶっていたのか?

そして服を見て気づいた。患者服だ。そして撃たれた右手も治っているし、点滴の針が刺さってる。ここまでしてやっと気づいた。

 ここは病院か? 部屋一面真っ白だな。そして近くに誰もいない。個室か。個室は高いと聞いているが大丈夫か?

 扉が開く音が聞こえる。中に誰か入ってきた。丁度良いし少し聞きたい事を聞こう。看護婦が近づいてくる。

「すみません」

 少し気恥しい、部隊の中にも女性はいたがこの看護婦さんは知らない女性だ。しかも起きたばっかりだからなんか恥ずかしいのだ。 

 

 と言うかものすごく喉も痛い。本当は痛すぎて何も喋りたくないが、それでも知りたいことがあった。

 

「えっ!」

 

 看護婦さんは若い人だった。その若い看護婦さんが目を見開いて自分の事を見る。そして気になっていたことを聞く。どうでもよいことかも知れないがオレにとっては重要だ。

「今何時ですか?」

 そう時計が見えなかったのだ。首を動かせば確認できるのかもしれないが全身が痛くてかったるい。

看護婦さんはおどおどしながら答えてくれた。

「じゅ、10時14分です。」

わざわざ分単位で、

「ありがとう」

 できるだけ柔らかく笑みを浮かべて答える。看護婦さんは駆け足で個室から出ていく。

…うまく笑顔を作れなくてそんなに怖がらせててしまったのか?

「せ、せんせーい!」

 …まさかの先生経由から通報か?この人絶対危ない人です!って

失礼な確かにオレは軍人だから危ない人では…危ない人だな、オレ。なんか落ち込んだ。

「先生!志崎さんが!志崎生希(しざきいつき)さんが意識を取り戻しました!」

 勝手な推測をしてたが、オレはあの戦場から救出された後、手術して日本に送られたか、日本に送られてから手術しただけじゃないのか?

なのに、なんであんなに騒いでいるんだ?手術の麻酔が切れて目が覚めただけだろうに…。

どたばたと騒がしくオレの病室に入ってくる足音が聞こえる。

そして、さっきの看護婦さんと雰囲気的に先生のような人がオレに歩み寄ってくる。

「生希さんよくぞ戻ってきてくれました。」

 先生らしき人物が手を差し出す。握手の手だ。

わけがわからないがとりあえず手を出そうと上げたが体が痛くて無理そうだ。

「おっと、無理はいけないですね。すみません。ですがしっかりとリハビリをすればまた元にもどりますよ」

先生は笑顔で答える。元に戻る?何がだ?あのひょろっひょろのオレにか?

「元に戻るって何がですか?」

 何か色々整理ができなくなって取りあえず聞く。さっきから頭で考えていることと現実の事が噛み合って無い気がするからだ。

「筋力ですよ。あなたは寝たきりになっていましたから。」

 またまた笑顔で答える先生。なんかこの部屋と相まってかなり眩しく感じる。

だが一つ引っかかる事がある寝たきり?オレそんなに寝てたの?確かに戦争が終わったらゆっくり寝てたいなーなんて考えてたけどどの位だ。

「先生、オレはどの位寝てたのですか?」

何か怖いが聞いてみる。長くて2日位だろうと思っていた。それでも寝すぎだ。5時間にしよう。うん、5時間だ。

「2年です」

「…へっ?」

かなり素っ頓狂な声が出てしまった。

「2年もの長い歳月をあなたは眠っていたのです。」

といっても信じられにくいですよねと苦笑いしながら、携帯端末の日付を見せてくれた。

アレ?思わず瞬きをする。嘘だ…本当に。

「はああぁぁぁぁ?!」

オレの何か色々混じった声が個室にこだました。

 




プロローグ投稿完了。
次第に今書き終わっている本編も書きます


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Chapter 0.5-1 死神とささやかな日常

少し長い1話との間の話。

読まなくても大丈夫ですが、世界観を知りたいお方はどうぞ。


あのまさかの2年過ぎましたよ宣告(正確には1年9ヶ月18日間だったが)を受けた後、ゆっくりとオレのリハビリが始まった。

 まさか2年経つとは。しかも全く体を動かさ無いのですんごく体中が痛くてたまらないのだ。

 お見舞いには同僚や育て親代わりの叔父さんと叔母さん、そして妹も来た。

 殆どの同僚はオレがちゃんと生還したことで、涙を流して喜んでた。…高志オレの背中叩くなって!痛いから!動かして無いからすんごく痛いんだって!

 そして、オレの指揮していた『死神部隊』の同僚も来た。

 懐かしい顔ばかりで本当に充実してた病院生活だと思うな。

 みんな親切に2年の間何が起こったとか説明してくれた。新巻先輩ありがとうございます。実はその説明聞くの通算で5回目なんです…。

 みんな、みんな、優しかった。海外の『死神部隊』だった仲間も来てくれたし、みんなどんな今を送ってるかも聞けて幸せだったかな。

 だけど、その中でも親友のジャ──と一番弟子の─ま─がこなかったのが気がかりだったし、みんなこの二人に関しては教えてくれなかった。

 凄く気になるが、今はリハビリだ。せめてブックをオフる所で一日中立ち読みできる位には、体力をもどさねば。

 こんな体だから凄く妹が世話を焼いてきた。お見舞いの品を食べさせてくれたり、花瓶の水かえてくれたり、テレビのカード買ってきてくれたり。

でも頼ってばっかりじゃいられないから一緒にアイス買って食べたりもしたが。何故か食べさせ合いっことか凄く恥ずかしかったし、妹もめちゃくちゃ顔赤くしてたし。

オレ26歳だぞ?あいつは16だし。こんなことする年齢じゃないだろとか思ったが、まぁ病人補正ということで気にしないようした。

 何か話がずれたがリハビリとして色々やった。歩くあれだとか、重いもの持ち上げたりだとかまぁ色々かな。

 

 そんな病人生活を半年近く送って、無事色々普通に戻ったから今度は軍の施設に戻ってフィジカル・トレーニングやら、プライオメトリック・トレーニングやらスピードトレーニングやらもやって、色んなトレーニングもこなした。

おかげで元のオレに戻ったどころか更に筋肉がついた気がする。

 そんなオレの完全復活を聞いて、大本営に来るように通達を受けた。

 またどっかで、部隊率いて戦争行けとかだったらどんな手段を使ってでも断る気だったが、通達の大元が誰かわかったらそんな気も起きなくなった。

それは、オレがこの軍で誰よりも頼りになり、誰よりも信頼を置いている人物だからだ。

俺は式展用の服を着て、迎えの車を待って黒塗りの高そうな車の中に乗った。

 

 こうして、オレは今大本営に来ている。ちなみに、大本営に着いた日は夜になっていたので近くの超一流のホテルに部屋が借りてあった。(めちゃくちゃ雰囲気が良すぎてガチガチになってたので、正直だされた料理の味とか覚えてない…)

 そして、そこで勲章や賞状の授与が行われた。参列者には総理大臣(選挙で政権が変わっていたので戦争中とは違う人だった)とかもいたし、勲章とかは天皇陛下から受け取った。国連や海外からの偉そうな人もいたし…。

TVも全国ネットの放送だし、多分緊張しすぎてあの時魂が抜けてたと思う。

 オレは世界をテロの脅威から救った、云わば『救国の英雄』として扱われている事は病院で話を聞いていたから知っていたが、まさかこれ程とは…。まぁ、オレだけでなくあいつらがいたからあんなにも活躍できたと思う。

 それと、オレは英雄なんて立場なんかじゃないし、それとは程遠い立場だと思う。 

 

 とにかく、色んなお偉い方達と握手を交わしたり、言葉を聞いている内に授賞式は終わった。



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chapter 0.5-2 日常の終わり

 主人公の一人称が変わるのは仕事とプライベートでわけているからです。
 仲がよくなると普通にオレに変わりますけどね。


 授与式後、オレはある部屋に来るように言われていた。

 その部屋で行きノックする。

 少し緊張してきた。中から声がし、入室の許可が下りる。

「失礼します。」

 私は入室し、できるだけ背を見せないようにして扉を閉めると、相手を見据えて敬礼する。

「志崎生希ただいま到着しました」

 呼び出された部屋は総司令の執務室。そう呼び出したのはこの日本の軍の総司令であり、

「よく来てくれた生希」

 私の叔父その人だ。総司令は執務机にある書類から顔を上げてこちらをみた。総司令は50代に入ったばかりのお方だ。

「は!」

 敬礼をやめ姿勢を正し背筋を伸ばす。

「そんな堅苦しくしなくていいから、そこに座りなさい」

 叔父は優しい笑顔でソファに座るよう促してきた。その笑顔は、社交辞令的なものでなく子供に向けた優しい笑顔だったから、力が抜けてそのままソファに座った。ああ、凄いソファがふかふか。もう抜け出せない…。

 叔父は執務机の高そうな椅子から腰を上げこちらに歩み寄るとオレを抱きしめた。

「お、叔父さん…」

 何か恥ずかしくておどおどしてしまう。叔父はわしゃわしゃと髪を撫でる。

「良いじゃないか~。病院ではお前が辛そうでこんなこと出来なかったし、他の奴の目もあったからな~。」

 お~よしよしと子供をあやすように撫でるその優しい手に思わず眠気が…って、

「違うでしょ!総司令こんな事するためにわざわざ私を呼んだっわけでは」

 仕事モードに無理やり入るはずがまだ息子モードに入ってることを自覚した。

「いや~これも目的だぞ?こうやって子供を愛でるのもな~」

 叔父さんの優しい口調にまたスイッチが入りそうになる。

「髪もこんなに真っ白になってな…」

 オレの髪を撫でながら少し寂しそうな声で言う。

「…色々あったんんです」

 黙ってしまいそうになるが黙ってたら余計に心配をかけてしまうから口を開く。こっちが余計だったかな…。

「そうか…。でもなんとか乗り越えたみたいだな。良かった良かった」

 頭をポンポンと叩き向かいのソファに行ってしまった叔父。頭になんか名残惜しさが残ったな…。

「乗り越えられたかはわからないです。でも立ち向かえてはいたでしょうね」

 笑みを浮かべて返すと、総司令も笑みを浮かべてくれた。良かったちゃんと笑えたか。

 こほん、と総司令がわざとらしく咳をする。どうやら本題に入るらしい。

 向かいの総司令は向かいのソファに座りこちらを見る。

「今呼び出したのは、授与式で粗相があったとかそういう類ではない。」

 …うん、まぁわかってた。これは叔父流の冗談みたいなものだろう。真面目で重要な話をするときはこんな事を言ってこちらの緊張を和らげようとしてくる。

「今、世界は大変な危機に陥ってる」

 室温が下がったような錯覚を感じた。思わず目を見張り、拳に強く力が込める。

「…まだ、テロは続いているのですか?」

 少し怒りがこもっているのを感じた。また戦争になるのか?せっかくオレたちは平和を掴んだのにまた!

「テロ…。これはある意味ではそれ以上の脅威かもしれん」

 何だと?じゃあどうすれば?その脅威とは何だ?

「何ですか?その脅威とは?」

 そんな脅威の情報は全く聞いてない。皆気遣っていたのか?…多分そうだろうな。

「今から話すことは全て事実だ。決して創作の話では無い。」

 こちらを見据えて言ってくる。その強い瞳に事態の重さが伝わってくる。

「わかりました。話してください。」

 一度唾を飲み込み気持ちを整えた。

 

 

 

 

 ある程度簡単に言ってしまうと、危険思想の国家、凶悪なテロ組織の脅威から世界の平和を勝ち得、世界は平和を謳歌していたらしい。 

 壊滅的な損害を受けた都市は、他国と連携をとったりして再復興を遂げようとしたり、国家間で新たな同盟や条約を結び国際平和を強化したり、麻痺した行政機関の立て直しを図っていた。

 様々な摩擦や食い違いを引き起こしながらも世界は良い方向に収束していった…筈だった。

 世界大規模テロ終焉から半年後の事だ。平和な世界をぶち壊すかのように化け物が現れた。深海棲艦と呼ばれる軍艦を模した化け物だ。

 そいつらはこの世界の海上を荒らしまくった。シーレンを破壊し、世界の海上防衛も壊された。

 だがそんな化け物にも人間は屈さなかった。また世界で連合を組み、化け物を絶滅させようとした。

 だが奴らは強かった。圧倒的だったらしい。

 普通の船には無い機動力(まるでスケートのリンクを滑るような滑らかな移動らしい)、人と同等の知能を持って行われる連携能力、高い火力を有し、こちらの軍艦を虫を潰すかのようにあっさりと撃沈していったらしい。

 しかも奴らの全長は人間位なので高い機動力なども相まってこちらの砲撃も爆撃もまともに当らないのだ。

 大損害を受けながらも4ヶ月を耐え抜き奴らの事を研究し、何とか奴らの進行を遅らせてきた。

 だが、奴らにはなぜかこちらの砲撃は効かず世界の国々の資源を消費していくばかりだった。

 そして、このままでは本土への上陸を許してしまうそんなギリギリの所まで来てしまったらしい。

 こうなったら核を使ってでも止めるしか、本当に極限の状態まで来たその時だ。

 救世主が現れた。

 妖精さんである。

 彼らは人類を救うためにある技術を提供してきた。

 それは、軍艦の能力をデータ化し、適性のある人間に適応させる技術だ。

 その適性は何故か女性にしかなかったので、この技術を使って生まれたのが『艦娘』と呼ばれるようになった。

 この技術は今だ安定した物でなく様々な改良が今も加えられ、様々な軍艦の能力が今も再現されつつあるらしい。

 世界は大急ぎでこの技術を広め発展させた。日本では駆逐艦型の艦娘が最初に作られ奴らと互角に渡り合い、撃退。

 そして世界もどんどん艦娘を生み出し、何とか近海を奪還した。

 今では巡洋艦、戦艦、空母の艦娘までいるらしい。

 そうした、海上を防衛・奪還し、軍艦の戦闘能力を再現しどんどんデータ化していっている今、人類は反撃の狼煙を上げ始めていた…。

 そんな時期にオレは目覚めた、ということだ。

 

 

 

 

 まぁ、そんな感じだ。結局簡単じゃなかったか…。

 

「どうかな?わかったかい?」

 総司令は子供に言いつけるように優しく私に聞いている。

 多分オレの表情は釈然としてないだろう。それもそうだろうなんせこんな話フィクションやオカルトの領域だ。

 オレはどちらも嫌いじゃないが、まさか真面目な顔でこんなこと言われると思わなかった。(でも今思うとテレビCMで旅行関係のCMを見てなかった気がする。)

 正直、整理がついてない。わざわざプロジェクターで映像資料を見せてもらったがCGかと疑うレベルだ。

 だけど、あの映像で聞こえた悲鳴は決して演技じゃないことは感覚で理解できた。耳を潰してしまいたくなるほど戦場で聞いたからだ。

 オレは腕を組んで今の話を整理する。…親族とは言え、腕組なんて上司にとる態度じゃないことは理解してたよ。

「流石に、こんな与太話みたいなこと信じるのは難しかったかな?」

 総司令が苦笑しながら言う。不安だったのだろう。全くこの世界の状況がわからない人間にこんなファンタジーな事が起きてるなんて信じられないからだ。

 正直、信じられなかった。病院でも、軍でも、町でもそんな雰囲気じゃなかった。テロリスト共の戦争が始まる前までの平和だった時と変わらないと感じてた。

 だからこそ、この話が信じられなかった。

 でも事実なのだろう。叔父の瞳はとても力強かったが、同時に悲しみを湛えていた。何人もの人が犠牲となったのだろう。

 だから、

「いえ、信じます」

 私は信じることにした。

 この言葉に総司令は深く息をはき、ハンカチで額に浮かんだ汗を拭った。

「ふぅ、よかった。信用してくれたか」

 安堵の笑みを総司令は浮かべた。だが、緊張は解かれていない。もう一つ何かありそうだ。 

「そこで、君にはまた現場で指揮をしてもらいたい」

 少しばかり、反応する。指揮か…。あの部隊で隊長だったのだ。適材適所と言うことだろう。

 だが、総司令が悲しそうな表情を浮かべる。

「君は戦場で何人もの部下を失う立場だった」

 多くは無いが部下を失ったのは確かだ。部下というより同僚に近い関係だったが。

 やむを得ず見捨てることもあったし、この部隊が生き残るために犠牲となってくれなんてことも言わなければならなかった。

 だから、総司令はこのことで深く傷ついてると思っているのだろう。

「君はまだ若いし大きな手柄も立ててくれた…」

 帽子で表情を隠す。

「だが、誰が言おうと君には自由になる権利がある」

 次にくる言葉は総司令でなく、私の育ての親としての言葉だろう。

「だから、軍から退役することも可能だ」

 これは軍人としての思いを押し殺した叔父の言葉だろう。これ以上私が傷つくのを見ていられないのだろう。髪の色は元々は黒だった。だが今は灰のように真っ白な髪だ。

 それだけ見れば、私が戦場でどれだけの『痛み』を味わったかある程度想像できるだろう。

 だが、私はあの戦場で変わった。変わってしまったのだ。

「いえ、やります」

 軍としては、英雄が復活して指揮が高まると感じているはずだしここで退役してほしく無いだろう。

 そんな思惑はどうでもいい私は私の為に戦い続ける事を再び誓った。



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chapter 0.5- 3 死神とそうしれい

0.5のラストです。


「そうか…」

 叔父は安堵したような悲しいようなそんな表情を浮かべた後、表情を引き締めて総司令の顔に戻った。

「だから言ったじゃろ、その若者は大丈夫じゃと」

 急にデフォルメキャラクターのような高くて柔らかい声が聞こえ思わず立ち上がり臨戦態勢をとる。

「どこだ!でてこい!」

 私の声が部屋に響く、

「こっちじゃ」

 部屋を見渡すが何も聞こえない。どこだ?

「ここじゃよ~」

 何か下の方から聞こえる。

「うわ!」

 姿が見えた瞬間、その姿に驚き腰が抜けソファごと倒れてしまった。コントかこれは

「ほっほっほ!良い反応をしてくれてうれしいのぅ」

 よくある老人口調でしゃべる謎の侵入者は

「な、なんだよ!」

 総司令の格好をした15cmあるか無いような老人だった。

 私が上体を起こしてみてみると、テーブルの上にデフォルメキャラのような老人がいたのだ。

「なんだとは失礼な!わしは日本の妖精のなかでいっっっち番偉いのじゃぞ」

 老人はやっぱりデフォルメキャラの声で、デフォルメキャラのように顔を真っ赤にして怒り出す。

「は、はいすみません」

 思わず委縮して、しかも正座までして謝ってしまった。

「こらこら、いそろくさんあまりうちの子を苛めないでくださいよ」

 総司令が楽しそうに言う。なんか仲良さげだな。

「まぁ、良い反応じゃったし許してやろう」

 いそろくとよばれる老人がコホンと息をつき自己紹介をしてくれた。

「わしはいそろくじゃ。日本に艦娘の技術をもたらし、艦娘の手伝いとなる妖精たちを纏める者じゃ、きみたち軍のように言えばそうしれいじゃな」

 …ようするに妖精さんの中で一番偉いお方って事か。

「私は志崎生希ですよろしくを願いします」

「よろしくな若造」

 こちらは人差し指を差出し、そうしれいは右手を出して握手する。

 ああ、なんかとっても癒される。実はさっきまでホントに僅かにこの事ドッキリかな?って疑ってたけどもうそんなことどうでもいいや、うん。

「さて、そちらの自己紹介も終わったし本題に移ろうか」

 総司令が手を叩き雰囲気を変えた。そうだ!私達はさっきまであんなシリアスな空間にいたのに一気に癒し空間になっている!妖精さん恐るべし。

「現場指揮といったけど、具体的には鎮守府に着任して指揮をとって貰いたい」

「艦娘のですか?私がですか?」

 艦娘ってさっきの資料に映ってた女の子か?正直あの娘達でやっていけそうな気がするが…

「ああ、彼女たちは兵器であり女性でもある。だから、上の立場にから支えてくれる人が必要だ」

 …オレの現場経験て活かせるのかこれ?何か不安だな

「大丈夫ですかそれ?全くとは言いませんが、自分が指揮していた時と全然違う気がしますけど…」

 不安になって苦笑いで頬を掻きながら言う。

「いや、君だからこそじゃ」

 そうしれいがデフォルメキャラのような声で力強く言う

「君だからこそ必要なんじゃ。先の戦いで多くの仲間を失った君だからこそ必要なんじゃ」

「確かに君は人の上に立ちそこから指揮をした」

「だが艦娘も兵器である以前に女性なんじゃ」

「だからこそ、戦いの中で傷ついていくであろう彼女たちの痛みがわかる君が必要なんじゃ」

 そうしれいの言葉は力強く、説得能力があり強くオレの背中を押してくれた。

 わかっている。戦場では隊員どうしのメンタルケアはとても重要だ。作戦や指揮にも影響し、信用の深さで戦況も変わっていったりするのだ。ともに理解し、乗り越えてゆくことがとても大事な事だと理解している。

 オレのような奴が彼女たちの痛みを癒して戦場にでる不安を拭えるのなら、それで良いと思う。 

 だから、そうしれいのその期待に応えようと思った。

「わかりました。志崎生希これより提督となり艦娘達を率いて必ずや平和を取り戻します」

「そうか。ありがとう若造、君のこれからの活躍期待しておるぞ」

 二人の拍手の音が部屋に響く(そうしれいの拍手は、小さすぎて聞こえずらかった)

「ありがとうございます」

 オレは気恥ずかしくなって、頬を掻いて照れ笑いを浮かべながら礼を言った。




今思うと初期の作品はかなり落ち着きがないですね。

pixivの方の奴を元に書いているので文字数が足らず、章分けせず一気に投稿する可能性もありますのでご注意を。


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chapter 1-1 車内にて

車内にて

 

オレは病院にてリハビリ、更に軍の施設にてトレーニングを繰り返しみごと復帰した後、総司令に呼ばれこの世界の現状の説明を受けた。

 聞けば深海棲艦という軍艦を模した謎の化け物に世界の平和が脅かされ、その化け物に対抗できるのが人間の女性をベースとし造られた軍艦型兵器『艦娘』だけらしい。

 そして、オレは彼女たちの提督となり、また世界を平和に導く為行動してほしいとの事だった。

 その言葉にオレは承諾し提督となったのだ。

 これが、オレの現状だ。

 

 

 そして、今オレが着任する鎮守府まで高そうな車で送って貰っている。

 その車の後部座席でオレは今、貰った資料とにらめっこしている。

 書いてあるのはもちろん難しい事だ。艦娘ができるまでの経緯や、妖精さんの事、鎮守府の運用方法に施設の説明等々。

 正直、見ていて頭が痛い。吐き気がする…。最近までリハビリや筋トレ、それ以前の経緯は戦場にいたのだ。

 戦争時も隊長として、作戦の報告書や機具とかの運用とかの書類とかもやったりしたが、そこまで難しく無かった。

 だが、これからは提督である。戦場に出て、目標をデストロイしなくていいかわりに、艦娘が安心して戦場に出たり、上層部からの指令をこなしたり、出撃や遠征などの報告書などデスクワークが主な業務となるのだ。

 彼女たちの安心と安全の為とわかっているがやっぱり少しばかり気が重い。この前までほぼ脳筋だったんだぞオレ!作戦たてたりとか、編成とか戦術考えたりとかもしたけど。

 何より女の子ばかりだっていうのが問題だ。部隊にも女性は少しいたけど皆ノリがよかったり、芯が強い人ばっかりで良かったけど、艦娘はかなり個性が強いと聞くしな…。いやあいつらもかなり個性的だったよ!

 あまり色んな女性に対する免疫が無いのだ。皆いい子だといいけど。流石に憲兵さんとか技術師の方たちは男が多いらしいけど。

 後、実はまだ艦娘を見たことがない。資料にも、再現された艦娘の名前と艦種、性能しか書いておらず写真はなかったのだ。楽しみにしておけということなのか…。全く、あの人は…。

 

 オレが着任する鎮守府は、新設された鎮守府だ。

 大本営から、すごい遠いわけでも無く近くもない距離にできた所だ。

 本当だったら他の鎮守府で長く提督として着いていた上官がこの鎮守府に転任する筈だったらしいが、総司令の鶴の一声でオレが着任することとなった。他の上層部の奴らもこの声には逆らえないし、オレをある程度管理・監視しておきたかったそうだから下手に遠くに飛ばすよりはいいだろうし反対する気はそんなに無かったと思うけど。

 だがそんな提督として新米のオレに最初から運営を任せておく訳にはいかない。

 そこで、他所の鎮守府から指導者となる提督が来ることになっていた。因みにまだ誰が指導者になるのか教えてもらっていない。怖えぇ。

 

 資料と勝ち目のない睨めっこをし、だれが指導者となるのか戦々恐々としながら車が目的地に到着するのを待っていた。

 



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chapter 1-2 死神と先輩 死神と初期艦

豪華二本立てです。




 運転手が目的地に着いたことを告げドアを開けてくれた。

 運転手に見送られ鎮守府の門の前で憲兵さんに、挨拶をして門を開けてもらった。

 門をくぐると、学生が着るようなブレザーの女の子がいた。上品な佇まい、風に柔らかくたなびく茶色の髪も目を引くが、何よりも美人だった。

 私がその女性に見とれていると、柔らかく微笑み礼をした。

「初めまして、私熊野と申します。貴方が志崎様ですね。以後、お見知りおきを」

 軍ではそこまで見られなかった女性の上品な佇まいに呆けてしまっていると、熊野に「ふふふっ」と口元を抑えて上品に笑われてしまった。私は慌てて自己紹介を返す。

「私は志崎生希だ。階級は少佐。よろしく頼むよ」

「承りましてよ。では、来客室までの案内をさせて貰う傍ら、この鎮守府内の説明をさせて頂きますわ」

 熊野はゆっくりとした動作で優しく髪を抑え私から背を向け歩き出した。その時に軽く風が吹き髪が優しく揺れていてとても綺麗な光景だった。

 私は門の前で私に敬礼し続ける憲兵に敬礼を返し、熊野後を追った。

 

 

 

 

 

 軽く施設について説明してもらいながら案内して貰っている内に、来客室についてしまったようだ。

 歩いている時に、指導者は誰なのかと聞いてみたが「内緒ですわ」「それは着いてからのお楽しみですわ」と教えて貰えてなかった。そんなんだから不安いっぱいだ。一体誰なのだろう?上手くやっていける人だといいけど。

 そんな物思いに耽っていると、熊野がドアをノックしてしまっていた。あ、あのまだ覚悟が決まって…ええい、知るか!やるしかないんだよ!

「熊野です。例の見習いさんをお連れしました」

「おう。ありがとな熊野。入っていいぞ」

 中から応答の声がする。アレ?この声まさか。そんなこと思う間もなく熊野がドアを開けて入るよう促してきた。

「よう!久しぶりだな志崎。といっても一、二ヶ月か前に訓練所でも会ったけどな。」

「せ、先輩!」

 驚いた。本当に驚いた。まさか新巻大智(あらまきだいち)先輩だったとは。

 先輩は軍学校でも結構世話を焼いてくれた方だったし、戦争に参加して生還した方だ。お見舞いに来てくださった時、確かに今指揮官をしていると言っていたが艦隊の指揮をしていたとは!

「お見舞い、それに訓練に訓練に付き合って頂き誠にありがたく」

「はははっ。そこまでかしこまんなって。」

「で、ですが、目上の方には」

「そうだったなぁ。意外と固いところあったもんな」

 先輩は苦笑いを浮かべてソファから立ち上がり私の頭をポンポンと叩いてソファに座り直した。続いて私もソファに座る。先輩の隣には熊野が座っている。

「そういえば『アレ』してないんだな。道理で前髪長いと思ったぞ」

「『アレ』しないのか?なんかあん時もしてたしないと調子が少し狂うな」

 あん時というのは、軍学校時代と戦時中のことだろう。

「付けていいならつけますが?」

「じゃあ頼むよ。志崎も付けて無いとなんか気合でないだろ?」

 そうか、車内で書類ばっかりで頭が痛かったのも、指導者がわかんなくて無駄にドキドキしてたのも『アレ』が無いせいか!私は何か色んな責任を『アレ』のせいにして、帽子を脱ぎ、鞄から『アレ』をとりだして額から頭の後ろまでぐるりと巻いて結んだ。

「やっぱそいつがあった方があった方がお前らしいよ。うん」

 そう『アレ』とは、ズバリ、鉢巻だ。オレは戦場だろうと訓練だろうと授業中だろうと鉢巻を巻いていた。まぁ、鉢巻をする理由としてはちょっとした物があるけど伏せておく。あまり『軍人としての私』に関係ないと思うし。

「私もこいつを付けてた方がしっくりきますよ」

 恥ずかしくなって少しだけ頬を掻く。

「ええ、お似合いですわよ」

 さっきから会話に参加できなくて、頬を膨らませてた熊野が褒めてくれた。あ~あ、ふくれっ面可愛かったのに。

「ありがとう」

「その…鉢巻を付けるのは何か意味がおありで?」

 今脳内で思い返すつもり無かったけど、まさかもう言うことになりそうになるとは…。因みに鉢巻の色は日替わりだ。今日は赤。

「妹がくれたんだよ。だから、つけないとうるさくってね」

 まぁ、少しお洒落したいだけさ。とだけ言っておいた。

「まぁ、そうなんですの。良い妹さんですわね」

 お嬢様特有(?)の柔らかくお上品な笑みを浮かべた。

 ほら、あなたもお洒落してみたらいかがですの?と先輩を小突きながら意地悪く熊野は言った。先輩は少しバツが悪そうな顔をした後、何かを思い浮かんだかのように私に話題を振った。

「そういえば、こいつ俺が指導者だってこと、ここに来る前に言わなかったよな?」

「?ええ、おかげでずっと誰かわからず緊張してましたよ」

 苦笑しながら答える私を見た後、先輩はわしゃわしゃと乱暴に熊野の髪を撫でた。

「きゃあ!なにするんですの!せっかく整えてくださった髪が乱れてしまいますわ!」

「いいじゃないか~。きちっと約束守ったご褒美だってば。お前、おっちょこちゃいな所あるしさ」

「だ、だれがおっちょこちょいですの~!」

 熊野は反抗的な言葉とは裏腹に嬉しそうだし、抵抗もしていない。顔も蒸気が出てるんじゃないかと思うほど真っ赤にしている。凄いこの先輩目の前でいちゃついてくる!リア充爆…おっと失敬。

「…何か物騒な事考えて無いか?」

「いえ全く」

 危ない危ない。こんな事先輩にばれたら私が年齢=彼女いない歴だとばれてしまう(もう先輩は知っているかもしれないが)。

「お前もこんな風に接することができる艦娘ができるようがんばれよ」

 まぁ、お前はモテる方だし大丈夫だろ。という訳のわからないことを言いなが先輩は高笑いをしている。この空間つらい憲兵さん呼ぼう…。

 私がそんな事思っていると一つ引っかかるものがあることに気付いた。艦娘だって…

「その娘が艦娘なのですか?」

 疑問気な顔を浮かべた後、納得した顔となりほうほうと頷いた。

「そうかあの人も意地悪だね。まさか彼女たちを見せないとは」

「全くです。でも本当に艦娘なのですか?資料にあったような艤装などはしてないですけど」

「ああ、彼女たちは自分たちの意志で艤装を出すことができるんだよ。熊野見せてあげてよ」

 熊野は先輩が撫でるのをやめた事で、ハッとした顔となり咳払いをして立ち上がった。

「いいこと?一回しか見せませんのでしかとその目に焼き付けてくださいまし」

 熊野は目を瞑る。そう、まるで精神力を統一しているかのよう。そしてカッと目を開き高めた精神力を解放すると、熊野から光が発生し包まれた。そして光のベールが剥がれると全身に艤装を装備した熊野が現れた。

「おお!すげえ!」

 オレは凄く興奮した。それはもう初めて特撮ヒーロー物の変身をを見たような気持ちになったさ!だって変身ですよ変身!男の子ならただのベルトをライダーベルトの代わりにして変身の真似した筈だよ!そして後にCGという技術により作られた演出だとわかりがっかりしたけどさ。その男の憧れの変身が今目の前で

「お、落ち着いてくださいな。そんなに喜んで頂けると少々照れますわね」

「そうそう落ち着け志崎。初めて特撮ヒーローの変身を見た子供見たいな目をしてたぞ」

「だって先輩。変身ですよ変身。先輩だって一度は憧れたでしょ!」

「ああ、わかるとも!」

「何を隠そう最初この変身を見たとき俺も滅茶苦茶興奮して飛び上がったくらいだ!」

「流石先輩!やっぱり話が合いますね!」

「ああ!俺もこんなに良い後輩を持てて幸せだ!」

 オレと先輩はパアァン!と強く手を叩いた後、強くひしと抱きしめ合った。やっぱりいい先輩だよこの人!

「ははは!今日は朝まで飲むか兄弟!」

「何言ってるんですの!今から志崎さんのご指導をするんじゃありませんの!」

「ホントですよ何言ってるんですか先輩!オレも先輩も酔いやすいでしょ!」

「酔ったら熊野に介抱して貰えばいいじゃないか!」

「そんな事しませんわよ!」

「いいですね。こんな美人の娘の膝枕とか最高ですね!」

「貴方も何をおっしゃているんですの!」

「ははは!だが熊野はやらんぞ!こいつは俺の熊野だからな!」

「全く羨ましいですよ!こんな可愛い子が彼女で!」

「彼女じゃない嫁だ!」

 ガハハとアメリカのコメディものみたいに笑いあうオレらと、無視された怒りや恥ずかしい事いわれた事やら色んな理由で顔を真っ赤に染まる熊野。物凄いカオスな空間だが気にしない。この空間がオレらにとってのベストプレイスだからさ!

  

 後に聞いたことだが、この変身は普段こんなに派手じゃないらしい。残念だ…。 

 

 

 

 

死神と初期艦

 

 だが、このカオスな空間をぶち破るように廊下から足音が聞こえてきた。

 流石にこんな宴会のような馬鹿騒ぎを聞かれてしまうのは恥ずかしいし、先輩が慌てたようにすぐさま椅子に座り、熊野も姿勢を正して座り直したので、私も急いでソファに座り直す。

「そ、そうだ。お前に一つ言い忘れるところだった」

「な、なんですか?」

 お互いどもってしまう。さっきまであんな馬鹿騒ぎしてたのが恥ずかしくて皆目を合わせられないのだ。だが後悔はしてない男のロマンとは恥を押し殺した先にあったりもするからだ。

「今日お前の部下となる艦娘が来る。多分もうすぐ到着する筈だ。」

 だから慌ててたのか。いやあの足音が誰であっても慌てるだろうけど。

 そんな事考えてるうちにドアがノックされた。先輩は私に返事をするように促した。

「入っていいぞ」

 少し偉ぶって応答した。何か偉そうな感じするな。悪印象を与えないといいけど。

「失礼します」

 しっかりとした挨拶だ。良い娘だといいな。

 ドアが開き挨拶の主が入ってくる。

「陽炎型 9番艦天津風ただいま到着しました。」

 入ってきたのは腰まである長い銀髪のツインテールの女の子だ。丈の長いこげ茶のワンピースに黒のニーソックスをガーターベルトで吊っていて絶対領域が眩しい。その女の子が敬礼しながら挨拶をしてくれた。

「私が志崎生希だ。今日から君の指揮をさせて貰う。よろしくな」

 柔らかく微笑み手を差し出す。天津風は少し恥ずかしそうに手を差し出す。

「ええ、こちらこそ。よろしくお願いするわ」

「君は私が初めて指揮をする艦娘だ。初めてで荒削りかもしれないがお手柔らかに頼むよ」

「ふふふっ。期待してるわね」

 うん、凄くいい子そうだ。これは将来安泰だな。

 こんなのんきな事を考えているがオレはこの時気づいて無かったのだ。これから恐ろしいほど賑やかな提督生活を送ることになることを…。

 




…本当にテンション高いなぁこの頃。


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chapter 2-1 死神と初めての出撃

忙しくて更新できませんでした。
申し訳ないです。
…読んでくださる方はほぼいないと思いますけど。


死神と初めての出撃

 

 さて、ここはさっきまでの来客室ではない。軍港だ。

 実はさっきまでは執務室にいたのだが何故軍港にいるのかという経緯を言ってみるとこんな感じだ。

 私の部下となる艦娘も到着したので、来客室から出て執務室に移ったのである。

 そんなわけで、私には先輩が、天津風には熊野がつきっきりで執務についての手ほどきを受けている。

 私は先輩曰く、呑み込みがいいらしいので滞りなく進んでいるが、天津風の方は結構うーうー唸っており、あんまり進んでいないらしい。

 そこで二人が、この微妙な流れを変えるために艦娘の出撃の指導を行うことになった。

 正直、うーうー唸ってたまにこっち見る天津風は中々に可愛く、私はそれを集中が途切れないようにする繋ぎとしていたのだが、流石に30分も唸っているのはよろしくは無いと思いそれに同意し、天津風は飛びつくようにその提案に賛成したのだ。

 その時の天津風の目のキラキラ具合と言ったら本当に半端なかった。それはもう初めて子供が「おーい聞いているかー志崎ー?」

 先輩の心配したような声が聞こえたので、急いで気を引き締めピンと背筋を伸ばす。

「はい!聞いてますとも!」

「この無線で艦娘達と連絡を取り、この偵察機から流れる映像で艦娘の状況を判断し、指令を送るのですよね!」

 よし決まった。ふふん、私は思考を巡らせながらもしっかりと話を聞くことができるのだ。

「ま、まぁその話したけど今は陣形の話な」

 先輩ちょっと引き気味。何か無駄に力強く言ってしまったせいで、強く咎めることができなくなってしまったようだ。申し訳ない。

「まぁ、いいや。この話難しいしな。」

「軍学校でも習ったかもしれんが、これはおさらいみたいな話だし」

「だからと言って聞き逃していい話でもない。これは、艦娘達の生存率を左右する重大な物だ」

「だから、しっかり聞いて、しっかり理解してくれよな」

「はい。すみません」

 子供に言い聞かせるような優しいお叱りを受けたので素直に謝る。

 何だろ。私はこんなに小説チックに回想したりしないと思ったけど、まぁいい。それほど平和なんだろう。…平和じゃなかったっすね。

「もうしっかりしてよね」

 天津風からもお叱りを受けてしまった。

 顔を見てみると、緊張が解けたかのようにふふっと緩い笑みを浮かべているので、彼女はここに来てからかなり緊張していたのかもしれない。

 私は苦笑いを浮かべながら頬を掻いた。

「もう、しっかりしてよね!あなたを頼りにしてるんだから」

 少し怒った表情をされてしまった。それほど私は締まりがない苦笑いを浮かべてたのかよ。

 だけど、頼りにしてるという言葉を聞いて安心した。どうやら彼女は私を信用できると判断してくれたようだ。何を根拠にしたのかわからないけど。

「わかってる。頼りにしてくれよ」

 その言葉に心がじんわりと暖かくなったので、天津風の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「もう、髪が乱れちゃうじゃないの!」

 天津風は顔を真っ赤にして怒ってきた。可笑しい妹はこれやると喜ぶのに。

 でも抵抗はしないから怒っては無いのかな。

「も、もう調子がいいんだから」

 あ、うん。怒っては無いのかな?俯いてなでなでを受け入れてくれてるし。

「んじゃ。なごんでるとこ悪いけど。そろそろ実戦に移ってもらうぞ」

 天津風は私以外の二人の存在を思い出したのか、すぐさま私から距離をとって髪を整え直した。

 残念だが仕方ない。今は講習を受けているのだ。むしろこんな和んだ雰囲気なのがおかしいのだ。いや別に和むのもわるくないけどね。

 天津風は艤装を展開し、水面に立った。

「今回は天津風一人で行って貰う。熊野の援護は無しだ」

「まぁ、今回行って貰うのは鎮守府正面の海域の哨戒だ。」

「正直こんなところにくる深海棲艦はあまりいないし心配もいらないと思う。」

「だから散歩気分でも大丈夫だ」

「でも警戒を怠ったらダメですわよ」

「思いがけないところから現れて不意打ちなんて事もありえますから」

 あ、熊野がこの出撃の説明中に久しぶりに聞いた気がする。そんなことでくだらない茶々も入れる気はしないし、折角いい雰囲気なのでそれをぶち壊すのは御免である。

「ええ、わかってるわ。心配は無用よ」

「ほら、志崎。部下に言葉をかけてやれよ」

 言葉か、そんなものきまっているさ

「無理をするな。無理だと思ったら迷わず撤退していい」

「私にとって君が全てだ。私は深海棲艦と戦う力は無いからな」

「だから、無理なら迷わずここに帰ってこい」

「私は戦果を挙げられなかった事で怒ったりも責めたりしないからさ」

「君の代わりなんてもの、だれ一人だっていやしないんだからな」

「まぁ、私の指揮下にいる以上誰も死になんかさせるつもりはないけどね」

 あーあ。こんな台詞死神なんて言われた奴が言うことじゃないよな。戦場でこんな事通用しないってわかってるのにさ…。でもいいよ。これは私の願いだ。生きてればまた別の形でチャンスがある事をよく知っているからな。

 こんな台詞聞いてこの子なんて思うかな。甘い考えねなんて笑われるのがオチかな。結局甘言だって事一番よく分かってるさ。

「・・・」

 アレ?顔真っ赤にして俯いてる。やばい地雷踏んだか?

「…わかったわよ。必ず生きて帰るから、安心してよね」

 何だろう。アレか?こんな甘っちょろいこと言ったせいで怒りを通り越して呆れとなったのか?

 天津風は俯いたまま私達から背を向け水平線所を見渡した。

「いい風ね」

 海に吹く風が彼女の髪を優しく揺らしている。輝く海、銀に輝く綺麗な髪が風にたなびいている。

 美しい。

 この海の景色よりもこの海の上に立っている彼女が。

「さあ、行くわよ!第16駆逐隊天津風、抜錨よ!」

 威勢よく彼女が水面を滑っていきすぐさま点となり見えなくなってしまった。

「まぁ、何かあったら熊野が救援に行くから安心しろよ」

 先輩が私の肩を叩きながら言ってくる。

「それにしてもお前やっぱり歯が浮くような台詞いうよな~」

「ええ。私も少々恥ずかしくなってしまいましたわよ」

 先輩の台詞に熊野が同意する。熊野は私の台詞を思い出したのか顔を赤くしている。

 そんな恥ずかしい事だったかな?思ったこと言っただけなんだけど。

「まさか、意識せずに言っていたのか?お前かなりの女難だと思うぜ」

 まさか、彼女なんていた事ありませんよ。

「全く、貴方も初めて会ったときこんな感じの事を言ってくだされば良かったのに」

「おいおい、勘弁してくれよ」

 この後、暫く先輩と熊野の話で盛り上がった。

 あっ、天津風の事に関してはしっかり指揮してましたよ。

 お二方は天津風の評価とかもしてましたしね。

 因みに天津風は最近実装されたらしく、先輩も保有して無かったらしい。



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chapter 2-2 死神とはじめての中破帰投

 只今私たちは執務室にいる。港にいてもよかったのだが熊野が寒がっていたので中に入っていたのだ。

 ちなみに今は冬だ。ミニスカートの女子がこの格好で外に出てたら寒いよな。

 艦娘達は艤装を展開してるときはある程度体温の調節ができるらしいけどね。

 執務室からも天津風の指示はできるので、映像を見ながら無線で天津風の指示を飛ばしていた。

 哨戒中に会敵したりしたが、あまり指示は飛ばさなかったな。今いるの天津風一人だし。

 でも、軽巡と駆逐と会敵した時は焦った。撃沈させることはできたが、天津風は中破していまった。

 天津風の服装がめやくちゃやばい(エロティックな意味で)になってしまったので画面から目をそらしかけた。そんなことしてたらまともに指示を飛ばせないからそらせんかったっけど。

 そんな風に目をそらしかけたら先輩に笑われた。だって中破の時とかってもっとグロイことになると思ってたし。

 まぁ色んなトラウマがフラッシュバックすることがなさそうだし、ある意味は健全なのだろう。

 全然健全じゃないけど。

 そして今、天津風の帰投を待っているのだ。

 凄いそわそわしてる。痛がってないだろうかとか、これからに支障がでるような怪我は無いだろうかとか色々な不安があるからだ。

「艦隊帰投ね、お疲れ様」

 そんあこんなで天津風が帰ってきたってわあぁぁぁ!!!!

 物凄い何というかそう破廉恥だ!破廉恥な格好になてるし!!!

 天津風の余りの格好に目を逸らした。

 いや、だってあのですね。まず天津風の服の前側がですね全部無いのですよ。それにですねあの天津風のお年頃で履くような感じじゃないパンツも左側の紐が切れちゃっているんですよ。

 それで天津風の手はどうしているのかと言うと。右手で胸をおおて、左手で紐を持って何とか局部を隠している。

 んで表情はというと、この服装の有様の恥ずかしさを我慢してるのか、顔を真っ赤にして涙目で睨みつける様に私をみている。

 そして、彼女が連れていた連装砲くんもボロボロだ。

 正直ヤバい。うんヤバい。凄いエロイ。別に連装砲くんは別にエロくないぞ。

 柔らかそうな肌、肉付きのいい体、胸は後4年後くらいに期待か?ちらっちらっと見てしまうのは悲しい性だろうか。

 でもでも、天津風まだまだ中学生位だよな?そんな子に劣情を抱きかけてるオレっていったい…。

「そ、そんなに見ないでよ…」

 ヤバい…。顔を俯かせて恥ずかしそうに言ってきたよ。滅茶苦茶な破壊力ですって!

 ってそんなこと考えてる場合じゃない。

「先輩!天津風をどこに連れてけば」

「ああ、入渠ドッグだ」

「じゃあ、あなた許可をって、きゃあ!」

 もう頭の中が真っ白になってた。私は天津風のひざ裏を抱え上げ、肩に手をまわして支えた。

 そうお姫様抱っこだ。

「だ、大丈夫だから!独りで行けるから~」

「遠慮するな。すぐにつれてってやるからな!」

 すぐさま私は入渠ドッグに向かって走り出す。ついでに連装砲くんは私の肩に引っ付いている。

 天津風から、泣きそうな声でやめてくれと言われたが無視。ジタバタ暴れてなおさら18禁に近づいているが無視だ!

「お前はこの戦いの功労者なんだ。この位の礼はするさ。」

「それにそんなに重くないから安心しろ!」

 アレ?ちょっと失礼な事言ったか?女性に体重関係はタブーだよな。

 まぁ気にしない今は緊急事態だ。

「う、うぅぅ」

 天津風は唸りながらも暴れるのを止めてくれた。

 まったく、こんなに疲れてるなら無茶するなっての

 

 入渠ドックに着いて、いい加減降ろしてくれと言われたので降ろした。

 中は家族風呂みたいな個室になってたし私が行くわけにはいかないしな。

「ねぇ?」

「うん?何だ。別に覗いたりしないから安心してくれ」

「そんな覗いてくれなんて言わないわよ!」

「違うの。ここまで連れてきてくれてその」

「どうした?」

「その…ありがとう」

 恥ずかしかったのか顔が真っ赤だ。今日は顔が真っ赤の天津風を見てばっかだ。今日初めて会ったけど。

「いいってことさ。部下の状態の管理も上司の役目だ」

「まぁ、今回の失敗は君に落ち度は無いからオレに失敗を押し付けて貰っても構わん」

 実際もっとうまくやれたかなーとかは思ってる。正直少破には抑えられたかなって。

 まぁ戦いに過去もIFもない。あるのは結果だけだから未来につなげるには追求と反省するだ。

「いえ、貴方のせいじゃないわ。悪いのは私の練度が足りないせい…」

 二人して黙り込んでしまう。彼女も彼女で落ち度があると感じてるらしい。

 あぁもう!

「取りあえず入ってこい!責任云々の話はもうどうでもいいから」

「ええ、わかったわ」

 歩いて個室の一つに入る前に一回こちらを振り返って口を開いた。

「ねぇ?」

「はぁ…。早く入れよ」

「そんな扱い酷くないかしら?」

「もう知らない!」

 ぷんぷん怒って中に入ろうとしている。だけどまたこっちを見てきた。

 早く入ってくれよ。色んな意味でドキドキが止まらないんだって。

「心配してくれてありがとうね」

 気恥ずかしくなったのかこの言葉を言った後に即座に入っていってしまった。

「おうよ」

 まぁ、オレも顔見られなくて安心した。

 何故なら彼女がお礼を言った後に見せた笑顔に見惚れてしまって顔が真っ赤だからだ。

 

 その後天津風は高速修復材(通称バケツ)を使って即座に復帰。

 天津風が勝手に使ったわけじゃないぞ。もちろん私が使用を許可した。

 で私の記念すべき第一歩を祝って、4人で甘味処に行ったりした。(この甘味処は間宮と伊良湖という補給艦が経営している)

 その後また執務に戻って天津風が唸っていたけど無事にこの日の業務は終了した。

 言い忘れてたが研修期間は1~2週間の間だ。

 ようするに先輩の判断次第だ。先輩の鎮守府は大本営から派遣された人がかわりに業務を執行しているらしい。

 早く一人前にならないとな。

 明日も新しい艦娘が来るらしい。

 明日はどうなる事やら…。

 



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chapter 3-1 死神と朝の食堂

 頭痛い。

 何で痛いのかというと、変な夢を見たからだ。

 昔の夢では無かったし、良くある変な世界に迷い込むような夢では無い。

 どんな夢かというと、オレが沢山の艦娘らしき女性に囲まれてグハハハッって感じに笑っていた夢だ。

 何かよく漫画などにいる醜い悪役の貴族見たいな感じだった。あんな感じにはなりたくないなけどな。

 オレは昔から夢を見ることが少ない。自慢じゃ無いが初夢を見た年が無かった事だってあった。眠りが深いのかな?

 そしてなんでまた小説風に思ってること頭に思い浮かべいるんだろう?まぁ気にしたら負けってやつかな?

 取りあえず頭痛も治まったし顔を洗って着替えよう。

 今の時間は?

 0710か悪くない時間じゃないか?執務室で今日の指導を受けるのは0830位だった筈だし。

 おなかも空いてきたし、早く食堂に向かおうか。

 今日の朝食は何だろか?

 ちなみに昨日の夕食はざる蕎麦を食べた。

 夕食も間宮さんと伊良湖さんが作ってくれた。

 彼女たちは時間帯で食堂でご飯作ったり、甘味処でお菓子を作ったりしているらしい。地味に忙しそうだな。甘味処は二人の趣味らしいけど。

 さて、着替え終わり。今日のハチマキは緑だ。というか今更だがバンダナでもいいのかこいつ?某蛇もバンダナって言ってたしバンダナって言おうかな?

 取りあえずコイツの位置を鏡をみて変になってないか確認する。おっけー.。相変わらず髪も真っ白だ。

 

 さてさて、早く食堂に向かおうかね。しっかり戸締りも確認したし、早く鍵を閉めるか。

 …鍵見っかんねーし。

 アレ?どこに鍵締まったかな…。

 

 何とか鍵を見つけた。今は欠伸をしながら食堂に向かっているところだ。

 

「おはよう」

 

 何か曲がり角から聞こえた気がする。でも丁度オレが欠伸した時に被ってよく聞こえなかった。

 まぁ、いいか。猫の鳴き声だろ。

「ちょっと!無視しないでよ!」

 怒ったような声が聞こえる。また出そうになった欠伸を噛み殺して振り返る。

 あっ。居たんだ。気づかなかった。

 猫というのはあってたかもな。だって猫耳っぽいのあるし。

 

「ごめん。丁度欠伸してて聞こえなかった」

 

 オレに声を掛けたのは中々の際どい服装の少女こと天津風だ。彼女はオレが提督になって初めてきた艦娘だ。

 

「全く。だからと言ってレディに気付かないのはよくないと思うけど?」

 

 レディは最近のレディはそんな際どい恰好をするのか?

 オレの眠ってた2年のうちにちょっとした常識が変わったとでも?

 …すげー妹が心配になってきた。よくいるギャルチックな感じでは無かったけど。女の子は流行に敏感だっていうしな。

 熊野は何かどっかの学校の生徒みたいなふくそうだけどな。

 彼女はオレの横に付いてきた。

 オレが朝の起きたての倦怠感を引きずっているのに対し、彼女はスッキリとした感じだ。

 多分目覚めがいい方なんだろう。羨ましい。

 

「もうご飯食べたのか?」

「いや、まだよ。早くいきましょうよ」

 

 彼女がさりげなくオレの手を繋いで早歩きで歩き出した。

 

「おいおい。ちょっとペース落としてくれって」

「早くしないとご飯冷めちゃうでしょ?」

 

 いや、あの二人はできたてを提供してくれるんじゃないのか?

 それにオレはまだ起きたてでふらふらしてるのだ。

 オレは結構朝の倦怠感を引きづるので普段は朝食の20~30分前には起きてる。

 が、今回は枕が変わったせいなのかかなり引きずってる

 正直どういう意図で手を繋いでくれたのかわからないがちょっとありがたい。廊下でまた寝るか倒れる自信があるし。

 天津風の耳がちょっと赤くなっているのが見えて、ちょっと可愛いな~なんてぼんやりとした頭で思った。

 

 食堂に無事に着き適当に注文した。

 来たのは味噌汁に白米、それと鮭だ。普通に美味しそうだ。というか美味しかった。

 天津風はハニートーストとコーンスープだ。

 そっちも美味そうだったが日本の男はやっぱり白米だろう。普通にパンも食うけど。

 食べてる途中天津風に過去の経緯を少し聞かれたが、色んな国の落ちこぼれ共で構成されたの部隊の隊長やってたとだけいった。

 多分部隊の奴らが聞いたら、間違えなく殴られるだろう。というかころころされるかもな。

 その後は髪が白い理由や何故バンダナつけてるのか聞かれた。

 バンダナはお洒落と言って適当に流し、髪が白いのはノーコメントにした。

 

「少しはミステリアスな方が面白いだろ」

 

 適当な事言ってるという自覚はある。正直本当の事言っても面白くないし。

 何より…いやいいか。あんまオレが落ち込んだりしたくないし。

 

「何よそれ?」

 

 天津風は呆れたように笑う。

 まぁ、オレも話にくい内容だし、優しいそうなこの子はこれを聞いたら多分謝るだろう。

 それだけは勘弁だ。

 折角少し距離が縮まったかなと思か感じたのだ。変な空気になって距離とられたりするのやだし。

 でも彼女が人見知りしない子で良かったと思う。ギスギスした関係で指揮を取るのは勘弁だ。

 

 その後は他愛のない会話をして、なんやかんやで楽しい朝食を送れた、と思う。

 やっぱりご飯は誰かと食べるのが一番だな。うん。

 



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chapter 3-2 死神と新艦娘

さて、朝食も終わりしっかり歯も磨きバンダナの位置も確認した。

多分どこに行っても恥ずかしくない格好だと思う。

帽子は、別にかぶろうがどっちでもいいんじゃね?と先輩に言われたので被らない。

バンダナ+帽子を想像してみよう。中々変だろ?帽子かぶるのなんて寝癖直すときだけだ。

 

んで、今は執務室にて皆で今日のミーティング中。

今日新しく来る艦娘と共に今日中に南西諸島沖の防衛に行ってこいとの事だ。

防衛と行ってもそこまで危険地帯じゃないので安心して良いとの事。そしてやっぱり油断はするなとの事。

昨日は結局中破させてしまったので気を付ける。うん。

中破は無傷といって進軍する提督もいるらしいが、私はその時の状況と艦娘の意志しだいとするかな

 

新しい艦娘が来るまで執務の指導をして貰った。

まぁ、私は昨日のうちに覚えたので先輩は執務室の来客用のソファでくつろいでるが天津風はいまいち覚えが悪いようだ。

…なんか一瞬睨まれた気がする。多分彼女はエスパーじゃないしこんな事考えてもわかるはずがない。気のせいとしよう。

熊野は教えながらふふふっと優雅な笑みを浮かべている。何か姉妹のようだというよりは、優しい家庭教師と呑み込みが遅い教え子だな。

そんな事考えてほんわかしてたらノックの音が聞こえた。

どうぞと返答し入室を許可した。

 

「失礼します」

 

凛とした綺麗な声だ。声の感じからすると綺麗なお姉さんっぽいかな。ちょっと期待。

そして現れたのは、腰くらいまである長い茶色の髪をポニーテールにしてまとめた艦娘だ。

服装は、肩が露出しているが脇下で繋がっているという不思議なセーラー服をきて赤のミニスカート。

何気に腰のあたりの布が無いため下着の紐が見えてる。

私の感想をいうと、大和撫子な感じがする優雅なお姉さんだ。ぶっちゃけ私の好みのかもしれない。

 

「大和型戦艦、一番艦、大和です。よろしくお願いしますね」

 

柔らかくてお姉さんらしい優しい笑みを向けられた。

やばい。すごく綺麗だ。

って、大和?

 

「「大和ぉ!!!!」」

 

先輩と二人して驚いた。

大和ってあの大和でしょ?ほら宇宙戦艦とかの元ネタと言える。

先輩が無邪気に笑いながら私に近づき肩に肘を乗っけた。重いっす。

 

「いいなあお前!大和だぜ大和!」

「こいつもまだ実装されてなくってよぉ!」

「ホント、羨ましいな!やっぱり総司令官殿の親族だからかねぇ~?」

 

 

耳元でひそひそと言ってきて、このこのと肘で頬をついてくる。先輩は優しくしているつもりだろうけど地味に痛い。

歯がガチガチいっとる。

艦娘二人のリアクションもそれぞれ違った。

天津風は大和が持つ自分にはない年上の魅力を感じたのか、ぐぬぬと言った感じだ。

熊野は何か自分の胸部と大和の胸部を見比べて俯いてるし。

先輩の肘を離してもらい挨拶をする。

 

「私が志崎生希だ。これからよろしくな」

「ええ。存じてるわ。こちらこそよろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を垂れて挨拶をする。

何とも優雅だ。凄く気品も感じる。

熊野とは何だったのか…。

 

「優雅さでは熊野に引けを取らんかもな」

 

先輩がうんうんと一人うなずく。

やっぱ先輩もそう感じてたか。

今度飲みに誘おう。多分大惨事になるけど。というか昔大惨事になった。

おかげで私も先輩も飲みに誘われにくくなった。情報の伝達速度は恐ろしいね。

 

「…もっと精進いたしますわ」

 

熊野が負けを認めてる!中々に気が強い熊野が!

負けを認める気分もわからなくはないけどさ。もっと自信持っても大丈夫かと。私から見てもお淑やかで綺麗だし。

 

「いや、そんまんまのお前で大丈夫だ熊野」

「十分お前は綺麗だ」

「これ以上綺麗になったら俺の手に余る位だ」

「そんな私には貴方しかいませんのに。だからこんなにも精進しようと…」

「熊野やっぱりお前は俺には勿体ない位だよ」

「勿体ないなんておっしゃらないでくれないかしら?」

「私にとって貴方が最高の夫ですわ」

「熊野…」

「大智さん…」

「熊野!」

「大智さん!」

 

…何か二人が愛の劇場初めて抱き付いてキスしようとしてるー。

大和はいきなりすぎてぽかんとした表情浮かべてる。可愛い。

天津風はこの二人を見て顔が真っ赤だ。

私はリア充爆破しろという気分になったので、この雰囲気をぶち壊す事にした。

 

「んで。先輩早く今日の課題に移りましょうよ。ねぇ?」

 

声に少しドスを聞かせて威圧するように言った。

性格悪いと思うかも知れんが目の前で友達のカップルがする所なんて見るの嫌でしょ?

後でギスギスするだけですよ?

二人は顔を真っ赤にして素早く離れた。

熊野は恥ずかしそうに顔を手で覆い、先輩はジト目でこちらを見てきた。

私に落ち度は無い…はずなんだけど天津風もジト目でみてるし。

そういうことが気になるお年頃なのかねぇ。

…やっぱり止めない方がよかったのかな。正直、ネタに走ったようなものだし。

 

「すいませんでした」

「…わかればいいのよ」

 

何故天津風が許す?やっぱり気になってたのか。

 

「まぁ、うん。俺が悪かった。すまない生希。だけど少し恨むわ…」

 

うわぁ、止めない方がよかったのか…。

でも表情も笑顔だし、目も笑ってる。冗談だとすぐに気づけた。

熊野は「またやってしまいましたわ…」って小さい声で言ってる。

先輩の鎮守府ではこの劇場が日常茶飯事なのかもな。

先輩の他の艦娘はどうおもってるんだろ?慣れっこなのかねぇ。

 

大和はオレの行動に苦笑いを浮かべた。そりゃそうだよな。ごめんなさい。

次から気を付けますんで失望しないでください…。

 

「んじゃ。大和も来たことだし改めて今日の事をおさらいするか」

 

大和も加わり再び今日のミーティングが始まった。

 



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chapter 3-3 死神の指揮

 

さて、言われていた通り今日は南西諸島沖の哨戒だ。

この海域は、私が着任する前より昔に先人方が制海権を取り戻しているらしいが、いつ深海棲艦が現れるかわからない状態らしい。

この海域に出現する深海棲艦は弱い方なので着任したての提督にとって指揮の経験を積んだり、艦娘の練度をあげるのにも悪くない海域だそうだ。

提督の指揮は難しい。私たちは画面越しに戦況を把握しており、現場にいないから臨機応変の指揮は難しい。

基本的には執務室である程度のプランを練り、この敵に会えばこの陣形で、この海路を進む事になったらここを警戒しろとかそんな事位しかできなかったりする。

護衛艦に乗って間近で艦娘達の指揮をとることも可能だが、今は止められている。

彼女たちの練度が低く、護衛艦を守りながら戦うのは難しいからだ。

お荷物になりに戦場に行くわけでは無いので私からも乗る気はしない。

 

だから、基本的にはその時の艦隊の旗艦が現場で指揮を取ることになる。

だが、追撃と撤退の命令はこちらから命令する。

流石に無理な事をされて撃沈なんかされたらたまらないし、私が永遠と泣く自信がある。

まぁ、泣くかどうかは置いといて無理はするなということだ。

今は余裕があるようだし、生きてる限りチャンスがある。無駄に命を散らさなくていいのだ。

 

と、そんな事を今日の旗艦の大和に伝えた。

彼女は笑顔で返し私の事を「優しい提督ですね。」と言った。

優しいか…甘いだけだと思うけどね。

その後、大和と天津風に今回のプランを言う。

今回は大和を旗艦にし、陣形は単縦陣(というか艦の数が少ないのでそれしかできない)。

戦術は大和が派手に砲撃して注意を引かせ、側面から天津風で攻撃するといったもの。

何ともシンプルだが、これしか出来ないのだから仕方ない。

もう一つの方法として天津風を囮に使いできるだけ敵艦隊を近くに纏めて、大和の砲撃で一網打尽にする方法も思いついたが却下。

余り危険な橋を渡りたくない。ここは無茶をしていい場面では無いしな。

 

「では、二人とも無茶はせずに頑張って来てな」

「了解です!」

「わかったわ!」

 

いい返事だ。

今日も無事である事を祈り二人を見送った。

 

敵偵察艦と会敵し撃退したところまでは良かった。

だが敵主力と会敵した時気づいておくべきだったのかもしれない。

 

作戦は上手く行き主力と会敵するまでは二人とも無傷で問題も無かった。

だが、敵が5隻から3隻までに減ったとき急に撤退をし始めた。

 

「提督どうしますか?」

 

大和の声が聞こえる。どうするとはこのまま追撃するかどうかということだ。

このまま追撃してもいいが何か引っかかる。戦力的には深海棲艦側は敵わないだろうが、あちら側から撤退することはまず無いという。

だから、怪しいが迷っている暇は無い。

 

「追撃を許可する。だが無茶をするな。何か引っかかる」

「了解です。第一艦隊これより追撃を開始します」

「心配しなくて大丈夫よ!私達に任せなさいな」

 

大和の落ち着いた声と不安を掻き消すような天津風の明るい声が聞こえる。

少し気分を落ち着かせる為に、先ほど熊野が淹れてくれた紅茶を飲む。

美味いし香りもいい。熊野の事だし何かこだわりがあるのだろうな。

 

「何かおかしいな」

 

先輩も紅茶を飲みながら偵察機から送られる映像を見る。

 

「さっきから、お互いの距離が縮まんない」

「しかもあいつらから振り切ったり、応戦する気配もないし」

 

そう先ほどから互いにつかず離れずなのだ。

だから上手く接近も出来ないし、威嚇の砲撃も出来ない。

どうにも怪しい、まるで―――

 

「―――!大和!天津風!今から遅くは無い!撤退しろ!」

「なんでよ?もうすぐ追いつけるわよ?」

「そうですよ提督。大和たちは無茶はしていませんよ」

「いや追いつける筈がない!これは―――」

「おい!まずいぞ!」

 

先輩が叫びを上げる。

画面をみると敵の反応が多数に増えいつのまにか大和たちが囲まれていた。

 

「クソ!」

 

机に思いっきり拳を叩きつける

これは誘導だ。深海棲艦達の狩場への誘導だったのだ。

敵の反応は戦艦や空母まで補足している。

なぜこんな駆け出しの提督の貧弱な艦隊を狙ったのかわからないが、恐らく大和を恐れてのだろう。

これから多くの鎮守府でも配属されるであろう、戦艦の花形といえる存在をここで一隻でもいいから叩き潰しておきたかったのだろう。

それが本当の狙いかわからないがとにかく危険だ。

最悪な事に偵察機からの映像の映りが急に悪くなった。

 

「大和!天津風!応答しろ」

 

無線もノイズがひどくなり戦場の状況がわからない。

 

「クソ!浅はかだった!」

 

手で目元を覆い浅慮な行動を悔やむ。

だが悔やんでいる場合じゃないこの状況を打破しなければ。考えろ、考えるんだ。

 

「熊野!」

「はい!」

「コイツの艦隊が包囲されつつある。今すぐ救援に向かってくれ!」

「わかりましたわ!編成はどういたします?」

「お前を旗艦に金剛、榛名、瑞鶴、翔鶴、鈴谷だ」

「俺から俺の鎮守府に緊急で連絡をいれる。お前は早く現場に向かえ!」

「大和たちに向かう途中で金剛達と合流してそのまま救援に向かうんだ!いいな!」

「ええ、了解しましたわ。重巡熊野、推参いたします!」

 

先輩がこの状況を打破するべく、救援を向かわしてくれた。

 

「たまにはいいとこ見せねぇとな」

 

先輩が優しく肩を叩いてきた。

 

「心配すんな。絶対皆で帰って来てくれる。俺の艦隊をなめんなよ」

 

本当に心強い人だ…。

だが甘えてばかりではいられない。

こちらもこの最悪の状況を打破すべく、映像が戻らないか試していたところ上手く戻ってくれた。

やった!束の間の安堵に浸りたかったがそんな暇は無い。映像は砂嵐が混じったりしているがそれでも情報が必要だ。

先輩と二人で映像を見る。

そこにいたのは、大破の状態で砲撃を続ける大和と上手く砲撃を交わし駆逐と軽巡に向けて砲撃を続けている天津風がいた。

 

 

 

 

 

「大和!!聞こえるか!?」

「はい…何とか…」

 

ノイズ交じりにとても弱弱しい大和の声が聞こえる。出会った時のような優雅さやその中に秘めた戦艦大和としての力強さは感じられない。

 

「偵察機の調子が悪い。そちらの現状が把握できない。現状はを報告してくれ!」

「敵艦は現在前方に11隻、後方6隻で包囲されています」

「前方には駆逐艦6、軽巡2、軽空母1、正規空母1隻、戦艦一隻です」

「後方は駆逐艦3隻に軽巡1隻と重巡1隻よ!」

 

二人で前方後方に分かれて抑えているらしいが二人とも限界が近づいているみたいだ。

大和は大破し、天津風もよく見ると少破の状態だ。

 

「もうすぐ救援が到着する。何とか持ちこたえられそうか?」

「無理ね。敵の攻撃密度が高すぎて今の私達じゃこれ以上は持ちこたえられない!」

「提督このままだと全滅します!」

 

何で陽動なんて簡単な事に気が付かなかったんだ。

このままじゃまた仲間がオレの軽率な判断で仲間が居なくなる。

嫌だ。それだけは。もう誰かが目の前で死ぬのは嫌だ。

頭が痛い。思わず手で額を抑える。

誰かが死ぬのはやだ。誰かが泣くのも嫌だ。そのせいで誰かが悲しむのもの嫌だ。オレが泣くもの嫌だ。だけど誰かの涙の方がもっと辛い。悲しむようなことは…嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

嫌な記憶がぐるぐる頭を駆け回る。

目の前で仲間が殺されたときの記憶が。

傷がひどく苦しみながら喚けた仲間の命を奪った記憶が。

そして、自分だけが生き残り、周りが仲間の死体で埋め尽くされた戦場で目が覚めた記憶が。

 

だんだん視界がぼやけて全てが真っ赤になった。吐き気がしてきたし呼吸も上手くできない。

異常に興奮した頭を押さえつけるため何とか落ち着かせる事が出来るものを探す。

まだ最悪の記憶を思い出そうとする頭を無理矢理押さえつける為に近くにあった万年筆を右手に持つ。

そして左手を机の上に置き、右手を振り上げた。

だが振り上げた所で右手を掴まれた。

 

「落ち着け。まだ誰も死んじゃいない。お前なら何か案が浮かぶだろう?」

 

先輩の落ち着てそれでいて慰めるような声が聞こえる。

一気に頭が冷え、真っ赤になった視界も元の色彩に戻った。

 

「提督!?大丈夫ですか!?そちらにも何か異常が!?」

 

大和の心配した声が聞こえた。本当に危ないのはそっちなのに

 

「大丈夫だ。また偵察機の調子が悪くなっただけだ。」

「そうですか。良かったです」

「今から作戦の指示をだす。生き残るための作戦だ。二人とも何とか持ちこたえてくれよ」

「「了解です!(わかったわ!)」」

 

ふたりとも少し活気が戻ったようだ。声に明るさが戻った気がする。

だがここからが本番だ。

 

「よし、いい返事だ。これより作戦の指示をだす。まず何とか――――」

 

 

 

 

結果として、私の作戦は成功し何とか救援が間に合った。

作戦はいたってシンプルなのもかもしれない。

何せ、前方の敵の装填のタイミングを見計らってすべての弾薬を使い込むつもりで大和が後方の敵に向かって弾幕を張りって陣形を崩し、狙いを正確に定めた天津風が迎撃するだけのものだったからだ。

正直、主砲や副砲で弾幕を張るものじゃないということは理解している。

消費が激しいし、そもそもそんな使い方じゃない…筈。

だから賭けだった。

敵が波状攻撃を仕掛けてくればこんな作戦すら成り立たなかったし、本当にどうしようも無かった。

だが敵に妙な間があったのでそこを突いたのだ。これは逃げ道を作り、救援の到着までの時間稼ぎのための作戦だったが二人とも上手く動けなかった。

後方をどうにかした時、前方の艦隊も少し動揺したのか間が長かったがその隙を付けるほどの余裕がなかった。

敵の陣形が組み直され万策尽きたその時、熊野が到着し救援が間に合ったことに先輩と二人で喜んだ。

 

先輩たちの艦娘達は強かった。

動きからして高い練度であったのはわかるし、連携もしっかりととれていたし、先輩が指示を下さなくても彼女たちは自分で行動していた。

本当に自分はまだ未熟であるか思い知らされた。

オレは撤退の援護かと思っていたら、先輩の艦隊は残った敵艦を全滅させたのだ。

そして何より先輩の艦隊で印象に一番残ったことは、熊野の「とぉぉ↑おう↓」という雄叫びが印象的だった。

 

「艦隊、帰投しました」

 

大和が私たちを心配させないためか私を見て微笑んだ。。

とても痛々しく逆に心配させる事に気が付いてないのかこの子は?

オレは席を立ち大和に近づいて抱きしめた。

 

「て、提督!?」

「全く心配させやがって、お前たちが居なくなったら泣くって言っただろうが!」

 

彼女は無茶をしたのだ。

帰投中に聞いた報告だと大和は何度も天津風に向かった砲撃をその身で受けて耐えていたのだ。

彼女は戦艦だ。耐久も高く装甲も厚い。

だが天津風は駆逐艦だ。装甲、耐久共に低く、ちょっとしたダメージが命取りとなる。

だから、彼女はその身で砲撃に耐えていたのだ。

止める天津風に向かって、何度も「私は戦艦大和よ。このぐらい大丈夫!」と言って耐え続けていたらしい。

 

何て気高い娘何だろう。

だからこそ、こんなところで轟沈しなくてよかったと思う。

 

「…泣いているのですか」

 

彼女の肩に僅かに水滴が当たっていたのだろう。

だがここは強がらせて貰う。

私に矜持がある。

 

「…泣いてないさ。嬉しいんだよ。君を轟沈なんてさせなかった事がさ」

 

大和は優しく私の灰のように真っ白な頭を撫でる。

とても落ち着く優しい撫で方だ。

 

「はい。提督のおかげで大和たちは無事に帰投できました。ありがとうございました」

 

優しく諭すような声が心地いい。

大和は優しく微笑みながら私を見つめている。

なんかいい雰囲気なりかけていくその時。

 

「いい雰囲気の所失礼するよ」

 

…急に小さい小学生位の銀髪の子が入ってきた。

私と大和はすぐさま距離を取った。

互いに顔を合わせられない。

あまりの恥ずかしさに頬を掻きながら少女の方に向き直る。

 

「えっと…君は」

「響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ」

 

とてもクールな子だな。でもとても可愛らしい。小学生は最高とかいう人の気がわかる気がする。

何せ、軍に行かなきゃ私は保育士か教師になる予定だったし。

 

「そうかこれからよろしくな響。大和君は入渠していって大丈夫だよ。そんな体で態々報告に来てくれてありがとね」

「了解しました。では行ってきますね」

「所で天津風はどうしたんだ?」

「彼女は先に入渠するようにいいました。旗艦は私ですし何人も押しかけては迷惑かと思って」

 

こんなちょっとした気遣いもできる彼女は本当にいい子だ。

 

「では、今度こそ行ってきます」

「ああ、バケツ使用しても構わないぞ」

「ありがとうございます。早く治してきますね」

 

軽く手を振って大和を見送った後、入れ替わるように熊野が入ってきた。

 

「熊野もありがとう。君たちが居なきゃ私達の艦隊は全滅していた」

「その台詞は大智さんに言ってくださいな。大智さんの迅速な対応があってこそ、ですわよ?」

「ああ、その通りだな。先輩ありがとうございました」

「いいってことよ。後輩が躓いたら先輩が道を開くもんだろ?」

 

この人は相変わらずかっこいい事言うなこの人は。

 

私は先輩の偉大さを改めて思い知った。

 



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chapter 3-4 死神と波乱の艦娘達

「それよりいつまでも響さんを立たせたままはどうなんですの?」

 

そういえば放置してた。ずっと突っ立たままは可哀想だし座らせるか。

 

「ああ、そうだな響好きな所に座っていいぞ」

「Спасибо」

 

…?何故にロシア語?しかもスパススィーバって言ったのか?

ロシア語なんて最近だと病院で見舞いに来た時の元『死神部隊』の隊員としか話してないから不安だな。

 

取りあえず、私は執務机の椅子に座った。

 

…なぜか響は私の膝の上に座った。

 

ほら、先輩と熊野驚いてるよ。

熊野なんてなんてはしたないとか言ってるよ!

別にはしたない事してないからね熊野さん!

 

「あの、響さん?」

「なんだい提督?」

「何故に私の膝の上に座ったんだい?」

「そんな事かい?それはね」

「それは?」

「私が司令官の事をこうやって背中を預けられる人だと思ったからさ」

 

…はい?背中を預けるってこんな風に?

背中を預けるって椅子のようにかい?

 

「わかりやすくいおうか?私は司令官に惚れたんだよ」

 

先輩が冷めた紅茶を噴き出した。

熊野は顔を真っ赤にしてわなわな震えて「何でそんなに真っ直ぐ言えるんですの」とか言ってる。

多分先輩と恋仲になるのに苦労したのかな。いや夫婦関係か。

 

「「なんですってー!!!」」

 

ドアから何か異常に興奮した天津風と大和が入ってきた。

お前ら早くね!?絶対ドアの所にいたよね!?

 

「あなたそんな小さい子に手を出すつもり!?」

「そうです提督!ロリコンの称号を与えられてもいいのですか!?」

「そうよ!ロリコン提督なんて言われていいの?!」

 

いやそれは嫌だけど。手を出すって話が飛躍しすぎてないか?

それにまぁアレだろ?小さい子がちょっといい言葉聞いてその人を気に言ったとかそんな事だろ?

後、天津風お前もロリギリギリだ。見た目的に小学生と中学生の狭間だし。

 

「いや、まぁ、うん。響よ。その感情は憧れとしてだろ?外でオレが言った言葉聞いてこの人いい人だな~て思っただけだろ?」

「いやこれは恋だよ」

「いやあの…」

「多分言葉の件もあるけど、これは間違いなく一目ぼれさ」

 

昔から子供の扱い上手かったから、近所の子に「生希お兄ちゃんのお嫁さんになる!」って言われたことはあったけど、ここまで最速は無かったぞ。

 

「証拠が欲しいかい?」

 

そう言うなり響は帽子を脱ぎ、オレの膝の上に膝立ちになり向き合う形になった。

可愛らしい響の顔がオレの視界いっぱいに映る。他の何者も写すことを許さないとばかりだ。

そして、目を閉じた響が近づいていき

オレの頬に唇を落とした。

 

「「あー!!!」」

 

二人の絶叫に似た声が聞こえた。

オレは超絶ポカーンとしている。

熊野は皆の前でキスという中々衝撃的な場面を見て石になった。

先輩は何故か俯いて笑いを堪えている。

 

「これが私の気持ちさ」

 

響は顔を真っ赤にして、膝の上にまた座り直しオレの手を自分の頭の上にのせた。

オレは無意識に響の頭をなでなでしていた。

 

「ふふふ、撫でるの上手いね司令官。少し眠くなってきたよ…」

「そうかならよかったよ。眠たいのなら眠るといいさ」

 

響は多分幸せそうに目を細めているだろう。

何かさっきいい意味でショッキングな事があったのかもしれないけど気にしないように―――――

って無理無理流石に気にしないことができないって!!!!

いや、まさかこんな事になろうとは。

 

「ちょっと響何てことを!」

「?いいじゃないか頬にしただけだよ?」

「そういう問題じゃないんです!!」

 

何か二人が必死になってる。もうなんだこれ。

熊野は何かを期待しているかのごとく先輩をチラッチラッと見てるし、先輩は何か腹を抱えて笑ってる。

何だこの状況?

天国なのか?それとも地獄なのか?

 

「いいから離れなさいよ!」

「そうです!!提督が内心重いっていやがってますよ!!」

 

いや思ってないし、いいじゃん別に。響の体温高くていい感じだし。

響湯たんぽか。いいな、それ。妖精さんたちに作って貰おうかな。

あ、やっぱ別に形は響を模して無くていいです。

アレ?普通の湯たんぽじゃね?

むしろサイズでかいから邪魔じゃね?

 

「離れる理由が無いね天津風。それに大和、君よりは断然軽いよ」

「「な、何ですってー!!!!」」

 

何か危険を察知したのか響はまたオレと向き直ってしがみついてきた。

二人が響の両サイドに展開し、二人で響の襟首を掴み引きはがそうとする。

 

「や、やめろ!馬鹿!馬鹿!」

「提督もう少しの辛抱です!今からこの小娘に恋愛とは何かをしっかりと叩き込みますから!!!」

 

何それ怖すぎる。オレ昼ドラそんな好きじゃないのに

いやちがうそんな事の心配じゃないって!

助けを求める為に視線を動かす。そうだ先輩がいた!

その先輩が何か熊野といちゃらぶしていた。

その光景+さっき何故か笑われたのに腹が立ったので近くにあった朱肉ケースのふたを投げつけた。

 

「んげ?!」

 

ビューティホー

見事に命中!先輩に2,147,483,647ダメージ!

先輩は気絶した!

熊野は先輩が気絶したことに驚いて、まるで目の前で彼氏が殺された演技をしている女優みたいな感じの事をしてる。

 

その光景を見て内心ガッツポーズを決めた所で目の前の現実を振り返る。

かなりデッドヒートしておりオレの心配事が現実になりそうだ。

 

「お、おい!もうよしてくれ!」

「大丈夫よあなた。もうそろそろこの子に恋の厳しさを認識させてあげるから」

「だからこわいって!」

「ふっふっふっ。その程度で私と私の司令官の愛の絆を引き離そうといったってそうはいかないよ」

「だれが『私の』司令官ですか!」

「だからもうやめろって!」

「私の心配はいらいよ司令官。何度中を引き裂かれようと不死鳥のようにまた結ばれるはずさ」

 

違うお前らの事じゃない

オレが心配しているのは―――

 

ブチィ

 

「「「あっ」」」

 

三人の声が被る。

オレの視界にはボタンが何故か宙に浮かぶ二つのボタンが。

心配してたことが現実になった…。

 

「………」

 

そして流れる沈黙。

響はいつの間にか膝の上から降りて、三人とも横一列に並んでいる。

 

「えっと…」

「「「ごめんなさい(Извините)」」」

 

三人同時に頭を下げて謝った。

 

「縫うのは大和がやりますので…」

「なっ!大和は色々合って疲れてるでしょ?私がやるわ!」

「いや私が」

「私よ!」

 

何かまた火花を散らしてるんだけどどういうことなの。

折角落ち着けると思ったのに。

ここで響を見てみる。

響は俯いて拳をぎゅっと握っている。

…多分裁縫出来ないんだろうな。

そうやって静かに悔しがっている響が可愛く見えたのでポンポンと頭を撫でた。

 

いい加減このよくわからない争いを収める為に一つの提案を下す

 

「オレが縫う。依存は無いな?」

「「でも…」」

「これは命令だ。いいな?」

「「はい…」」

 

二人がシュンと項垂れて罪悪感が少し湧いてきたが押さえつけてゴミ箱にシュゥゥゥゥゥゥウウウ!!!!した。

超気分爽快!!…何か違う気がするがまぁいい。

もうこれでよくわからん争いはいいだろう。

 

「んじゃ話も纏まった事だし。今日の業務は他に何がありま…」

 

先輩の方に向きかえるとまだ気絶したままだった。

熊野が必死で「大智さん!大智さん!」と先輩の体を揺すっている。

 

「ううう…」

 

先輩が目覚めた。ひどく苦しげな感じだ。

 

「大智さん!」

 

熊野が口元を抑え目を涙でいっぱいにしながら先輩の名を呼ぶ。

 

「熊野…俺はもう…ダメだ」

「大智さんそんなこと言わないで!貴方が死んだら私達はどうすればいいんですの!」

「大丈夫だお前たちならどこでもやっていけるさ…。幸いそこに優秀すぎる後輩もいる」

「大智さんいかないで…いかないでくださいまし!」

「熊野今までありがとうな…。お前の事ずっと愛してるからな…。できれば80年位後に向こうに来てくれ」

 

先輩はゆっくりと瞼を閉じる。

その様子は愛した人にこの言葉を伝える為に全てをつぎ込んだようだ。

 

「大智さん!嫌、嫌あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

熊野の痛烈な叫びを上げる。

天津風はその二人から背を向け、大和はハンカチで口元を抑え、響は帽子で目元を隠し表情を隠している。

オレは先輩のそばに近づき、

 

「ふん!」

「ぶるぁあ!?」

 

腹を軽く踏みつけた。

先輩は復活した。

 

「痛えじゃねぇか!もう少し手加減しろ!」

「もう茶番はいいでしょ!早く仕事です!!もう夕方なんですよ!!夜遅くまでやるの嫌ですからね!!」

 

只今の時刻は1747。

色々あってこの時間帯となった。

ちなみに今の所出撃は正午近くに行っている。

いつもお昼ご飯を食べる時間が早いのだ。今日はおやつも無いしおなかが減った。

 

 

先輩は腹を抑えながら立ち上がる。

ちょっとやりすぎたかもしれない。

 

「仕事はもうないぞ。しいていうならお前の艦娘達に秘書艦の業務を教えるくらいだな」

「そうだったんですか。じゃあもう一回寝ます?」

 

少しイライラしていた上これ以上ふざけられても困るので、懐にあるFive-seveNをちらつかせる。

中身は暴徒鎮圧用のゴム弾なので死にはしない。

ちょっと気絶する位だ。

 

「よ、よーしさっそく秘書艦のお仕事教えようか!熊野頼んだぞ!」

「ええではお願いしますね」

 

先輩は茫然としてる艦娘達に指示を下し、オレはその光景をほほえましく見守る。

 

今日もなんやかんやで平和だな!

 

その後、今更かもしれないが、響は戦場で見つかった所属不明艦としてこの鎮守府に加わった事がわかった(通称ドロップというらしい)

戦場で見つかった艦娘は、こちらと対立するつもりはないらしいからこうやって艦娘達を増やしていくらしい。

先輩曰くよくある事だから覚えとけとのこと。

 

因みに秘書艦としての処理速度は大和がダントツだったので大和にこれから頼もうとしたら、響と天津風がものすごい剣幕でその提案を却下したのでやめた。

秘書艦は交代制となった。

 

因みに因みに今日の資材の支出を見た結果、大和は暫く出撃は禁止になった。

だって燃料と鋼材が一桁だったんですよ…。

今のままじゃ破産してしまうって。

自腹切ってなんとか資材元にもどしたけどさ…。

こんまんまじゃ運用できなくなるって…。



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chapter 4-1 死神と?

ごち○さのようなほんわかを目指していた時期もありましたとさ


どこだろうここ?

『オレ』は今白い花の咲く花畑の中にいる。

なんだここ?

懐かしいような気もするし、来たくない場所のような気もする。

 

だが、そんな思いは幼い好奇心に負けた。

花を一つ摘み取ってみる。

こんなに綺麗な花なのだ持って帰ったら『お姉ちゃん』が喜ぶだろうな。

『ぼく』は『お姉ちゃん』の笑顔を思い出し口元が緩んだ。

 

そして、流れるように摘み取った花を口元まで持っていき匂いを嗅いでみる。

だが花の蜜の香りがしない。

あれ?おかしい何で?

そんな事を思って今度はてのひらの中にあるままの花を握りつぶす。

そういえばこうしてみるといい匂いがするのもあるからね。

潰れちゃってもあた新しいのを摘めばいい。

そんな事を思いながら感覚を確かめる。

が、握りつぶした感覚が無い。

 

てのひらを開いて見てみる。

中にあった花は摘み取った時のままだ。

 

ああ、そうかやっと『オレ』は気づいた。

ここは夢の中だ…。

 

自分の手を見て思った。

これは今のオレの手じゃない。

もしかしたら『オレ』じゃない誰かかと思ったが、近くにあったみずたまりで姿を確かめられた。

『オレ』だ。

いやこの頃だから『ぼく』なのかもしれない。

『ぼく』は外見年齢の割に不相応な乾いた笑みを浮かべながら思う。

あのころはよかったなんかと思いながら乾いた笑いを浮かべ続ける。

よく見たらバンダナをしていない。

 

はははっ。ますます笑えてくる。

本当に何もかもよかった時の姿じゃないか。

そうこのころはよかった。

何もかも気にせずに笑っていた。

平和だった。

幸せだった。

『大きな幸せ』も『小さな幸せ』もたくさんあった。

それが当たり前のことのように享受していた。

だが当たり前じゃなかったんだ…。

 

『ぼく』は何者かに操られるかのように歩き出した。

いや、わかってる。本当はここにとどまるのが嫌だったからだ。

だけど、楽しかった思い出を忘れられず、そこにずっと居たい思いも強かった。

でもそれじゃ駄目なんだと自分に言いつけ歩みを進める。

 

また水たまりだ。

姿を確認してみる。

そこには×に××があった少年がいた。

周りを見まわしてみる。

白い花はいつの間にか枯れかていてほとんどが萎れている。

 

 

この頃の『僕』は多分『僕』の歯車が狂った後だろう。

だがこの頃はまだましだった。

それ以上の地獄を見ることになったのだから…。

 

また歩みを進める。

この頃には大事すぎる思い出が沢山ある。

この思い出を留まることで安いものにしたくなかった。

その思い出にすがりたくなかったのだ…。

あまりにも多くの『小さな幸せ』が多かった。

ここに留まったら、もう無理にでも歩みを進めることができなくなるからだ…。

この頃にも悲しい事があった。

だがそれ以上に×と過ごした日々が眩しく感じた。

その事を心に深くしまっておけば大丈夫だった。

そうだと思いたかったのだ…、

 

また水溜りだ。

中を覗いてみる。

今度映っていたのは戦闘服を着た青年だ。

額にはしっかりバンダナも巻いてある。

周りの花は全て枯れてしまっていた。

 

この頃は少年の頃に忘れかけてた者を思い出せた気がした。

『オレ』の閉じられてしまった心の扉をまた開いた頃だったのだ。

だが扉を解き放ち、そこから出てきたのは、ただの真っ赤な血だったのだ。

 

そしてこの頃の『オレ』は思ってしまった。

『自分は何の為に歩んでいるのだろう』と。

 

それから歩みだすのが怖かった。

そして掃き溜めに送られた。

 

だがそんな掃き溜めにも救いはあった。

『あいつら』がいてくれたのだ。

そして、あいつらと共に地獄の中にいたがいつも笑っていた。

久しぶりにまた『大きな幸せ』がなにかわかった気がしたのだ。

 

いつの間にか私は歩き出していた。

だが目の前の水溜りでまた歩みを止めた。

 

この水溜りは覗きたくない!

その思いが私の体を支配し目を閉じた。

 

だが何かが訴える。

見ろと。逃げるなと。

 

頭が痛くなり吐き気がする。

ここは夢じゃないのかよ?!

なんでこんなに頭が、何でこんなにも×が痛いのだろうか。

 

そしてその痛みに耐えきれず目を開けてしまった。

 

そこに映っていたのは歪んだ笑みを浮かべる灰のように真っ白な髪をした『私』だった。

 

周りの景色は真っ白で何も無かった。

 

そして水面に映る『私』は黒革のカバーの手帳を見せる。

 

止めろ…。

 

その手帳はお前のものじゃない。『オレ』の物だ!

 

『私』なんかが、『オレ』なんかが触れるな!

 

汚れた『私』が触れるな!

壊れた『オレ』が触れるな!

死にたがりだった『オレ』が触れるな!

仲間を信じ切れなかった『私』が触れるな!

未来を信じることができなかった『私』が触れるな!

過去を受け入れられなかった『オレ』が触れるな!

 

全てから逃げた『オレ達』が触れるな!

 

触れるな!触れるな!触れるな!

 

水面に映る『私』が銃を取り出し、こめかみに銃口を向ける。

そして引き金に手をかける。

 

『オレ』はそのざまを無様だとあざ笑う。

この世界に耐えられないのか?と

お前は弱虫だな?と

 

だがそこで気づいた、こめかみに銃口を向けているのは『私』だ

その『私』とは『オレ』なのだ。

視界が真っ赤に染まり、世界が歪む。気づいてしまった。

―――気づかなきゃ良かったのだ。

『オレ』は『私』だ。

―――指に力が籠り手が震えている。

つまり今銃口をこめかみに向けこの世界から逃れようとしているのは――――――

『オレ』……なのか?

 

 

 

 

目が覚めた。

気持ちが悪い夢をみた、気がした。

 

夢の内容を思い出そうとするが何も思い出せない。

思い出そうとすると頭が痛くなる。

風邪か?勘弁してくれ。

 

近くのスマホのスリープを解除し時間を見る。

0426だ。起きる時間には早い。

水でも飲んでまた眠るとする。

台所に向かい手近にあった計量カップに水道の水を入れ飲む。

だがすぐに吐き出す。

変な所に入って咽てしまった。

何だこの味は、まるで…。

 

嫌な考えを振り払い、また寝室に向かった。

 

もう寝よう。

布団に入ろうとした所で気が付いた。

布団が異様に膨らんでいる。

布団をゆっくりとめくる。

中には水玉の可愛らしいパジャマを着た響がいた。

何でこんな所に…。

一応言っておくがオレは戸締りはしっかりするぞ?

何せ家出る時と、寝る前の戸締りの確認は二回もする位だ。

まぁ、いいか。この時間に自分の部屋に戻って寝ろなんて言って後で寝れませんでした何て、苦情が来るのは嫌だ。

 

それに彼女は幼い見た目をしている。

だから一人だと寂しいのだろう。

あれ?そういえば、だだっ広い部屋で独りで寝るのは寝るのは寂しいだろうからしばらくみんなで寝れば?って言った気もするけど、まぁいいか。

 

っとそんなこと考えてたら響が寒そうに体を丸めているではないか。

オレもこんな寒い中布団無しは嫌なので布団に入る。

 

響はオレに背を向けるように横向きに寝ている。

そしてオレが落ち着く体温をしている響を優しく抱きしめる。

 

「お休みなさい」

 

静かに優しく言って、響の髪にキスを落とす。

別に響に恋愛感情があるわけではない。

 

だがオレだけキスでドキドキさせられて少し不満だった。

 

だからこうしてお返ししてやる。

 

なぁに、こういうのも悪くないだろ。

 

「なぁ、響?」

 

響は急に体を更に縮こまらせ手を重ねてきた。

 

だけど、それは寝ているときに体が動いただけだ。

それに彼女の体温が上がったきがした。

 

だけどそれは気のせいだろう。

何故なら、彼女は寝ているはずなのだから…ね。

 

なんか恥ずかしくなってちょっと抱きしめる力を強くする。

 

キス何てしたのは久しぶりだ。

最後にした時は、妹が頬にしてきたから同じように返したんだっけ?

ちなみにファーストキスはもうない。

(多分)事故的な物で失った。

 

響が何か言っている気がするが寝てしまおう。

おやすみなさい。

 

朝起きたら響はいなかった。

オレが寝ぼけてただけなのか?

まぁ、今日も元気に行きますか。

今日のバンダナは赤の迷彩だ。

 

 



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chapter 4-2 死神と演習

 今日の朝食は、まぁ忙しかった。

 また、響がオレの膝の上に座ったため、また二人が騒ぎ出し、また響を膝の上から引きずりおろそうとした。

 

 そして響は昨日のことで反省したのか今度はズボンに引っ付いてきた。

 ちなみにその時オレは紅茶の入ったティーカップを持っていた。

 

 まぁ大体この後のことは予想がつくだろう。

 響がしがみ付いてきたことで下半身がとんでもなくシェイクされ紅茶をこぼしかけてしまった。

 それで皆に紅茶をかけないように受け皿で何とかこぼさないようにしていたのだが、結局こぼれて制服についてしまった。

 

 せっかく昨日ボタンを縫い直したのに今度は紅茶がついてしまったのだ。

 ちなみにその時、手にもかかっていたのだが根性で耐えていた。

 

 その後、皆すぐに制服の惨状に皆気づきこの謎の争いが収まった。

 取りあえず響が膝の上に座ることを自重するよう言ってくれと言われたので、とりあえず『食事中』は止めてくれと言った。

 

 大和と天津風の顔はまだ不満気味だったので、「こんなに小さいんだからいいじゃん。甘えたい年頃なんだよな?」とか言いったら、二人から謎の怖いオーラを感じたのですぐに「やっぱり。時と場所は考えるべきだよな!」とすぐに弁明した。

 オレってこんな感じの性格だったかなぁ…

 

 正直、二日目で平和な朝食が壊れると思わなかった。

 というか予測できないだろこんなの!?

 

 

 さて、今日の業務だ。

 今日は演習を行うらしい。

 

 制服は脱いで今はワイシャツだけの状態だ。

 あの制服はクリーニング出すことにした。

 流石にシャツだけだとラフすぎるのでワイシャツだけになっている。

 

 ちなみに今日着任した艦娘は三隻も来た。

 三隻もだ。

 まさか一気にこんなに来るとは!

 

 三隻が多いというべきかわからないが私にとっては多い。

 なんせ駆け出しがもう六隻も揃えれたのだ。

 立派な艦隊になった。

 提督の練度などによって日に日に着任する艦娘が増えるらしい。

 今回来たのは、夕張、木曾、祥鳳の三隻だ。

 この三人のつながりがわからないがとりあえず来てくれたのは喜ばしい事だ。

 うん。本当にね。

 

 取り敢えず、三人と挨拶を交わし大和、響、天津風を加えて皆でミーティングを行った。

 

 先輩に今日は近くで演習を行うと言われたので、演習を行うことになった。

 

 演習の相手は勝手に決めらるとのこと。

 そしてお互いに同意を得た後、時間を決め、近場の演習場に移動しそこで演習を行う。

 

 演習では模擬弾を用いるので傷を負う心配はまずない。

 大破などの判定は艦娘達にライト付きのブザーを付け、ブザーに付けられたライトの色とブザーの音でダメージを把握し、ブザーが大音量で鳴ったとき轟沈判定となるシステムだ。

 便利なシステムだと感心するばかりである。

 

 予めこちらと相手の編成は決めておかなければならないのもルールだ。

 相手がどのような艦種で来てどのような戦術で有利不利に持っていくか、自分が不利な編成でどこまで優勢でいられるか、ということを学べということらしい。

 

 だが装備はどのような装備かは決めておかなくていいので不利な編成から装備で逆転も可能という訳だ。

 駆逐艦VS戦艦になったときは回避率を装備で上げ昼の砲雷撃戦を生き延び、夜戦で有利に持っていくというのがいいれいかもしれない。

 

 

 まぁ、他にも言うべきことがあるけど割愛。

 

 簡単に言うと減るのはあ資材だけで、経験値ががっぽりと貰えるということだ。

 

 演習の相手は初戦は先輩、次に全く知らない提督だ。

 

 こちらの陣営は今いる全員だ。

 先輩の編成は駆逐艦2隻(村雨、睦月)、軽巡二隻(長良、天龍)、そして鈴熊コンビだ。

 

 勝てる気がしないのは気のせいじゃないだろう。

 だって、見ただけでわかるけど、練度が違いすぎるのだ。

 前からいる三人は敵の動きについて議論を行っている。

 今日きた艦娘達の反応はというと、

 木曾は「面白い!」とか言いながら同じ眼帯の天龍に敵対心を燃やしてるし、夕張は先輩の艦隊の装備が気になって仕方無いみたいだし、祥鳳はしっかりと装備を確認している。

 

 悪くない空気だと思うがこれじゃ駄目だ。

 これは個人戦じゃない、チーム戦だ。

 この三人にもしっかりと作戦を考えて貰わないと。

 手をパンパンと叩いて私に注目させる。

 

「ほら新任たち、君らも作戦考えて。」

「木曾、対抗心燃やしても勝てなきゃ意味ないぞ、」

「夕張、装備が気になるのはわかるが今は作戦に集中すること。装備で何かアドバイスができるなら言ってくれ」

「翔鳳、装備を確認するのはいいが、いい装備でも計画がしっかりして無いと意味をなさないぞ」

 

「そうだな。協力は大事だよな。」

「ええ、装備に関しては任せてください!」

「そうですね。一生懸命考えます!」

 

 こうして皆加わり、作戦会議は始まった。

 演習の時間は20分後。短時間でどれだけ綿密に作戦を練るかも重要な課題だ。

 

 皆で出した作戦はこうだった。

 祥鳳が制空権を維持し、大和の弾着観測射撃で熊野と鈴谷を轟沈判定に持ち込ませる。

 二人を轟沈判定に追い込ませるまで、響、天津風で大和を護衛する。

 そして、木曾が前線に出てで他の艦娘特に駆逐艦を抑え、夕張は木曾に注意を向かわせている内に側面から駆逐艦を攻撃し撃沈判定にさせる。

 木曾が囮になっている間、翔鳳は制空権の維持と夕張の援護をお願いした。

 その後残った軽巡をみんなで叩くという訳だ。

 

 

 

 さて、どこまで上手く行くだろうか。

 全て上手く行くとは限らない。

 だから、他のプランも考え、メインが失敗した場合そちらに移れるようにもした。

 だが、私は皆に勝って貰う。

 

 出来るだけこちらでも指示を飛ばし対応できるようにする。

 最善は尽くす。

 結果は彼女たち次第だ。

 

 私は指揮官だ。画面越しにしか状況がわからない。

 私の把握能力と対応力、そして彼女たちに対する信頼が今の私の武器だ。

 まだ、指揮官としての心構えが未熟かもしれないが、これが今の私なのだ。

 だから今の私にできることをするただそれだけだ。

 

「じゃあ、皆勝って来てくれよな!」

「「「「「「はい(おう(了解))!!!」」」」」」

 

 いい返事が聞けた。

 

 皆が部屋から出ていく姿を見送る。

 

 さてどこまで通用するだろうか…。

 少し燃えてきている。

 

 自分たちがどこまで通用するかわかるのだ。

 演習も悪くは無いと思う。

 

 

 

 

 結果は、先輩の戦術的勝利に終わった。

 最初のうちは良かった。

 翔鳳が制空権を確保できたので大和で観測射撃を行い鈴熊コンビを中破まで追い込んだが、鈴熊の嵐のような砲撃で護衛組みがやられてしまった。

 敵の駆逐艦をいち早く轟沈まで追い込ませた木曾が、次の大和の砲撃までの間、時間を稼ごうとしたが軽巡組みに足止めされてしまい、撃退されてしまった。

 そして護衛がいなくなった大和は鈴谷と熊野の集中砲火を浴びながらも鈴谷を轟沈まで追い込み相打ちとなった。

 その後、熊野は翔鳳を倒し。軽巡組は夕張を追い詰め熊野が止めを刺した。

 

 判定としては紙一重だったらしいがそれは嘘だ。

 先輩ももっと作戦を練れたはずだが、今回はこちらの作戦に乗ってきたうえ正面突破してきた。

 やはり練度の差が勝負を分けたのだ。

 

 皆が帰投してきた。

 

 皆沈んだ顔だ。

 オレは帰投してきた皆に声をかける。

 

「よくやった皆!勝てはしなかったがおしい所だったな」

 

 オレは笑顔で皆を迎え入れる。

 皆驚いた顔だ。

 怒られるとでも思ったのか?

 そんなことはしないっての。

 

 

「なんで…」

 

 祥鳳が小さく呟く。

 それは怒られると想像して縮こまっていた子供みたいな目をしていた。

 

「何でオレらを責めないんだよ!!!」

 

 木曾は突っかかってくる。

 彼女は大和をカバーが間に合わなかったことについて責任を感じていたのかも知れない。

 

「そうです!私のアドバイスも全然役に立ってませんでした…」

 

 夕張は言葉は段々小さくなっていた。

 彼女も装備についてアドバイスをくれた。簡潔に言うと相手の艦隊からして対空は薄めで物量で押してくるだろうという予測だった。

 この予測はそこまで外れていなかったが、観測射撃は安定しなかった。

 そのせいで勝てなかったのだと思っているのだろう。 

 

「それに私たちの護衛もすぐに潰されちゃったし…」

 

 天津風の言葉に無言で響がうなずく。

 

「いえ、彼女たちのせいでは無いですよ…。作戦のメインであった私の砲撃が上手く行かなかったのがいけないんです」

 

 大和が俯き加減に言う。

 

 私は思わず笑みが漏れてしまう。

 この子はいい子達だと。

 

「っ!何がおかしいんだよ!!」

 

 木曾が噛みついてきた。

 

「いや。可笑しいわけじゃ無いよ。ただ皆いい子だと思ったことだ」

「なっ!?」

 

 木曾が顔を真っ赤にしている。

 こんな事言われると思わなかったんだろうな。

 

「君たちはそれぞれ自分の落ち度を自覚しているだろ?」

「どうせ、君たちはここに来るまで皆でずっと「私の責任だー」って言い合ってたんだろ?」

「だから思ったんだいい子達だなってな」

 

「だからと言って、それとこれとは関係ないだろ!!」

 

「関係あるさ。責任を自覚しているからこそ君たちはかばい合っていたんだろ?」

「自分の責任を自覚してもその責任の重さに耐えきれずに押し付けたりするやつもいるからな」

「そんな奴と比べると、君たちはとても強くていい子なんだよ」

「だけど、一つ叱っておかないとな」

 

 場の空気が変わる。

 皆私の目を見ていることを確認してから、咳払いをして私の気持ちも整える。

 

「責任を感じるのはいい。だがその事重く引きずるな」

 

 皆の表情が変わる。意味が分かったかのように俯くような子もいるが、意味が分からないという子もいる。

 

 私は苦笑いを浮かべてしまった。

 

「簡単に言ってしまえば責任感じてることはいいことだけど、一人で抱えるなってことだ」

「私たちはチームだ。その成功も失敗も報酬も罰もチーム全員の物だ」

「だから一人で抱え込むのは許さないって事さ」

「ケーキ1ホール皆で分けろって言われた時、形や大きさが不揃いだと嫌だろ?」

「だから、良かったことも悪かった事も皆で分け合おうぜって所だな」

 

 皆がこちらを見つめている。

 私も、何か言ってて恥ずかしくなったので響とかがやってるように帽子で表情を隠そうとしたが、無かったのでバンダナで目を隠した。

 って

 

「うわ。何やってんだオレ!?ちょっとカッコつけようとしたのに何でここまでしめがカッコつかないかな?!」

 

 何とも間抜けな行動をさらしてしまった。死にたい…。

 

「ふふっ、ははははは!!!」

 

 なんか夕張がお腹を抱えて笑ってる、気がする…。

 そんな雰囲気じゃないのにいきなりこんなコメディチックなこうどうされたらな…。

 

「何やってるの貴方、はははは!!!」

 

 天津風にも笑われた。

 なんとなく気配で響は帽子で顔を隠しながら静かに笑っている気がする。

 

「そうですよ提督、ぷくく」

「ふふっ、そ、そうですよ提と、くっふふ」

 

 大和は何とか笑いを堪えていると思うがちょっと漏れている。

 祥鳳も笑いを収めようとしているがまた噴き出しそうだ。

 

「あー、死にたい…」

 

 バンダナを額に戻し、項垂れる。

 

「それは困るな。お前はオレらの指揮官なんだからな」

 

 木曾は何とも思っていないのだろうか…。

 いや、思ってる。凄い苦笑いになってる。

 

「すまない。無様な姿を晒した…」

「全くだな」

 

 木曾が肯定する。なおさら死にたくなってきた。

 

「だけど、お前のような奴も悪くないと思うぜ」

「オレ達はまだまだ未熟でさっきのような無様な姿をまた晒すかもな」

「だけど、お前の言葉とそのふざけた行動を見てたら、深く気負いすぎるのも馬鹿馬鹿しいと思ってな。」

「だからこんな未熟な奴には、お前のような未熟な指揮官が丁度いい」

「だから、これからもよろしくな提督」

 

 木曾がそう言って手を差し出してくる。

 残念ながら木曾よ。私はこう見えて軍人経験は6年だ。

 一年ちょっとは訓練期間だったが後の五年は実戦だ。

 だけど、今言ったらそれは強がりのように聞こえるだろうから黙る。

 

 私は木曾の手を強く握り返した。

 

「いい顔だ」

 

 木曾は柔らかく微笑みながら言った。

 オレが思ってた事言われたけど、もういいです。

 

「お前こそな」

 

 木曾も強く握り返す。

 今まで笑ってた筈の周りの奴らが拍手してきた。

 オレは一気に苦笑いを浮かべた。

 

「お、おい!茶化すなよ!!」

 

 木曾が真っ赤になって言い放つ。

 ちなみに今も握手したままだ。

 オレは全然力を込めてないから早く離せばいいのに。

 オレが離せって?いや無理ですよ。

 だって、木曾の手結構スベスベで握ってて気持ちいいですし。

 

「お前もさっさと離せ!」

 

 そんな事思っていたら怒られた。スンマセン…

 

「はいは!お疲れ~。じゃますんぞ~」

 

 先輩が部屋のドアの蹴破るような勢いで開けてきた。

 バゴンッ!っていってましたけど?!

 

「もう!お下品ですわよ!」

「いいじゃん。どうせ落ち込んでいるだろうしその空気をぶち壊す為に…ってアレ?」

 

 熊野に窘められながらも先輩は部屋に入ってきてその雰囲気に驚いたようだ。

 もっと沈んでると思ったのだろう。

 だが実際は作戦会議をする前までより明るくなっていたのかもしれない。

 

「へ~。皆いい雰囲気だな。こりゃ悪かった」

「だから言ったんですのよ。あのこ達は大丈夫ですって」

 

 先輩はあまり反省していない雰囲気で軽く謝り、熊野はその様子に呆れている。

 いつも思うが、先輩と熊野はちょっとでこぼこなコンビだと思っている。

 先輩の近くにいる熊野はからかわれたり、いじられたりしてばかりの姿ばっかりだ。

 でも二人は深く心を通わせ、深く結びついている。

 本当に人とは不思議なものだ。

 

「んじゃ、ここから先はお前らの反省会だ。熊野、お前からも反省点をあげてやれ」

「了解しました。じゃあ、皆座ってくれ。オレはホワイトボード持ってくるから――」

「いえ、私が持ってきます」

「ありがとう。大和助かるよ。じゃあ、大和が席に着いたら始めよう。次の演習は――」

「一時間半後ですね提督」

「ありがとう祥鳳。夕張は後で皆の装備のメンテナンスも頼む」

「了解です。任せてください!」

「天津風先輩達の椅子持ってきてくれてありがとう。響、今回オレは進行役として立ってるからずっと座る予定はないぞ。残念だったな」

「この位大したことじゃないわ」

「そうか残念だよ…。じゃあ私は司令官の椅子を温めておくよ」

 

 と、突然目の前にペットボトルのスポーツドリンクが差し出された。

 これは、皆が帰って来たとき疲れているだろうからと、みんなの帰投中に買ってきたものだ。

 

「ほら、お前も指示飛ばしてたしのど乾いているだろ?こいつ、飲むか?」

「ありがとう木曾。助かる」

 

 画して、会議の準備は整い反省会は始まった。

 

 会議中に響から「木曾と間接キス…」という声が聞こえたが気にしないようにした。

 

 何か気にしたら負けのような気がしたからな。(他の奴らに聞こえてなさそうで助かった…。)

 というかお前は頬にしてきただろ。

 

 

 

 

 

次の演習はオレ達と同じように新米だ。

編成を見てみると、低速艦が多くこちらの高速艦達の機動力をいかした作戦となった。

更に先輩との戦いの反省を経てより綿密で現場でも作戦計画に縛られ過ぎないものにした。

 

結果は大勝利。

皆軽くダメージを受けただけですんだ。

 

余りにも嬉しかったので、甘味処で奢ることにしたのだが皆滅茶苦茶頼んだうえ何故か先輩たちの分も奢る羽目になった。

まぁ、いいや。

スキンシップは大事だよな。

実はお金滅茶苦茶あるんだよなぁ。

 

だからと言って、使いすぎるのはよくないけどな。

 

みんなも調子に乗って使いすぎるなよ!

お年玉とかは大事にな!



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chapter 5-1 死神とお泊まり会?

読めば読むほど、今のとテンションと書き方が違う…。


 さて、今日もいい日だ。

 寝不足という意味でな!

 

 何故寝不足なのかというと。

 昨日の夜は、響が枕もってオレの部屋に来たから流石に一緒に寝ていいかと聞いてきた。

 枕をぎゅっと抱きしめて目を潤ませて上目使いの響を想像してみてくれ。

 萌えたろ?

 いや、そうじゃない。

 何とも庇護欲をそそられるこうけ―――。

 いや、だから、そうじゃなくてだな…。

 そう…そうだ!

 とても不安そうな顔だったのだ!

 

 つまりはそういう事だ。

 だから仕方なく。本当に仕方なく一緒に寝ることを許可しようとしたが、他の子に見つかってしまった。

 

 最初、天津風が響を連れ戻そうとしたので、天津風も一緒に寝ないかと誘う

 ↓

 天津風「え、そんな…。私はそこまで子供じゃないわよ…」

 ↓

 天津風俯きながらチラッチラッっとこっちを見てくる

 ↓

 志崎氏萌える

 ↓

 その後、大和も顔を赤くしてもじもじしながら聞いてきた

 ↓

 大和「あ、あの…。大和もいいですか?」

 ↓

 何とも控えめな聞き方である。

 ↓

 志崎氏その容姿と普段の凛とした雰囲気とのギャップに萌える。某 外国人4コマのAAを張り付けたい位である。

 ↓

 何故か夕張達も来た。

 ↓

 夕張「じゃあ、お泊まり会しませんか?」

 ↓

 木曾、祥鳳も乗り気になり志崎氏の事を胴上げするような感じで無理やり大部屋に連れていかれる。

 ↓

 そこで始まるまくら投げ

 ↓

 大人げなくやりすぎてしまう志崎氏、祥鳳に注意され反省

 ↓

 木曾「いいぜ。かかってこいよ」

 ↓

 かなり本気でぶつかり合うオレら。木曾が劣勢になるや否や、他の艦娘が木曾の援護に。

 ↓

 志崎氏敗北。やっぱり戦いは数だよ…。

 ↓

 その後、始まる女子トーク。

 ↓

 何故かオレも巻き込まれる。

 ↓

 そして、オレの好きな人のタイプを聞かれいじけて寝る。

 ↓

 何故か皆が引っ付いて寝てくる。

 ↓

 志崎氏寝れない。みんな幸せそうに寝ている。

 ↓

 志崎氏理性的な何かと戦い続ける

 ↓

 オレの戦いはこれからだ!

 ↓

 寝不足END

 

 何だこれ?

 取りあえず皆オレの事を信頼して来てくれてるのはわかったけど、何だろ…。

 ハーレムフラグ?

 まさか年齢=彼女いない歴のオレがか?ありえないって。

 

 皆まだ寝ている。

 オレは皆を起こさないように布団から抜けた。

 

 いやー今日もいい天気だなー。

 大部屋の窓からチラッと空を見てみる。

 オレの眠気を誘うような曇りだった。

 ちくしょう…。

 

 その後部屋に戻り1時間半位の仮眠を取った。

 別に眠る時間が少ないのは慣れていたが、戦場にいたのも2年前だ。

 その時は見張りの交代とかで寝る時間もこれ以下の時もあったが、やっぱり人間寝れるときには眠りたいものなのだ。

 それに2年も寝たきりだったのでこういう感覚的な経験はほとんど体から失われてしまった。

 

 まぁ何が言いたいのかというと凄く眠いのだ。

 

 だけど朝食時の皆のすっきりしたような笑顔をみたらどうでもよく感じてしまった。

 訂正やっぱどうでもよくない。

 

 寝不足で頭痛い。

 痛みが気持ちを上回っているようだ。

 

 後で頭痛薬飲むか…。

 




クソ長い五話目へようこそです。

因みに黒歴史気味です。


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chapter 5-2 死神とアロハおじさん

叔父さん登場。

今のと大分口調が違う…。


今日来てくれた子は、村雨、夕立、雷、電の4人だ。

今更だが、艦娘達を人で数えるのはおかしいのだろうか?

だってどう見ても女の子じゃん。軍的には船扱いらしいから、隻って数えるべきなのかな?

まぁいいや。どう見ても女の子だし。

 

まぁ今日来てくれた子はみんな双子的な子だ。(村雨達は進水日的に、電達は見た目的に)

 

電と雷は、響の手を取ってピョンピョンと飛び跳ねて喜びを体で表していた。

響は俯いて帽子のつばで表情を見えないようにしていたが口元は緩んでいた。

良かったな響たち。後は暁って子だけかな。

 

夕立は白露と時雨はいないか聞いてきたが、残念ながらまだいないといった。

項垂れる夕立を村雨が慰めていた。

村雨も心なしか悲しそうな目をしていた。

ごめんな二人とも。この問題ばかりはオレじゃどうしようもならない。

だけどすぐに再会できるよう頑張るからと言ったら、ありがとう提督さんと言って抱き付いてきた。

 

これには村雨も苦笑い。

純粋でいい子だと思いながら、ポンポンと頭を撫でた。

突然部屋にダークネスが満ちた気がした。

 

また、先輩が笑い声を上げたので朱肉ケースを(以下例の茶番まで同じ、何故か皆涙を流して茶番を見守っていた)

 

その後、顔にちょっとふたに残ってた朱肉が付いたままの先輩から今日は遠征をやると言われたので行った。

編成は響、雷、電、村雨、夕立だ。

姉妹がここにいる同士だしいいかなって思ってこの編成にした。

ぶっちゃけ何も思わず編成してました。はい。

 

そして、遠征の帰りを待っているついでに今日の秘書官の大和と書類を片しているときある人物が来たのだ。

 

始まりは突然、内線電話が鳴った事だった。

 

「はい。どうした」

「すみません提督」

 

電話の相手は大淀さんだ。

彼女は基本的に任務とかの受付や、事務などをやって貰う艦娘だ。

司令室でレーダーなどを使ってサポートもしてくれる。

戦闘もできるらしいが私は許可書を持っていないのでどうしようもない。

ちなみに明石さんもいますよ。

彼女は酒保と装備の開発などを行う艦娘だけど。

簡単に言うと、基本は売店の人ですね。

同じく許可書が無いので戦えないけど。

 

「提督にお客様が来ているのですが」

「へ、客?今日そんな予定無いはずだけど…」

 

客と聞いて熊野や私の艦娘達と話していた先輩の背筋がピンとなる。

そして急いで身だしなみを確認し始めた。

 

「もう、しっかりしてくださいな」

 

熊野にも確認手伝わせているを。

いいなぁ~爆発しねぇかな~。

 

「えっと、誰?」

「はい。あのちょっと!?勝手にいかないでください!今アポの確認をしますから!」

「あの、大丈夫?大淀?」

「えっと、執務室に向かわれてしまわれまいました。後は何とかお願いします!私では止められません!」

「あの、ちょっと待ってく――」

「ご武運を提督!」

 

ありゃ切れた。

先輩は誰だと目で聞いてくる。

私は黙って首を振る。

 

すると突然ノックが聞こえてきた。

 

「入るぞ~」

 

扉が少し開いた瞬間オレと先輩で蹴ってまた閉めた。

先輩も声で誰かわかったのだろう。かくいうオレもだけど。

 

(お、おい何でこの人がここに来るんだよ?!)

(知りませんよ!私が聞きたいくらいですって)

(しかも、アロハシャツに短パンだったぞ。今冬なのに!)

(なおさら知りませんよ!冬にそんな両津○吉みたいな格好する人なんて!)

 

私達はひそひそと話す。

先輩がドアノブに近かったから、ちょっと姿が見えたのだろう。

なんだその恰好!?

でも確かあの人年中半袖だったかな。通称半袖族だ。

どんどんと扉が叩かれるが私達は何とか抑え込んでいる。

 

「ねぇ誰だったの?」

「そうですよ。いくらなんでも失礼です」

「全くはしたないですわよ」

 

天津風、祥鳳、熊野から非難の声が聞こえる。

ちなみに夕張と木曾は工廠で明石と装備の相談をしてる。

よかった、この人のこんな姿を見せなくて。

 

「そうだぞ。開けてくれよ生希。それに大智君も酷いじゃないか」

「お、俺は真冬に小学生みたいな恰好している上司なんか知りませ~ん!」

「わ、私も自分の業務をさぼってこんな所に来る人知りませ~ん!」

「ぐ、痛いとこついてくるな君たち。後、大智君何気に私の格好を馬鹿にしたな。減給だ」

「わー!!!すみませんでした総司令!今開けますからご勘弁を!」

 

先輩がドアから手を離す。

扉がまた開きそうになって、一人で抑える。

 

「もう止めろ!俺の給料が死ぬだろうが!!」

「いやです!ここで私が恥をかいてでも叔父の威厳をまもるんですぅ!!!」

「ちょっと待ってよ!今総司令って?!叔父って?!」

 

天津風が何か突っ込んでくる。

ゴメン今構う暇が無い!

 

「あんな格好で来た時点で威厳もねえよ!」

「大智君やはり減きゅ――」

「すいませんでしたぁ!!今開けますのでお許しをを!!!」

 

先輩が私をドアから引っぺがそうとしてくる。

僅かにドアが開こうとしたとき、渾身の力を込めてまた閉めた。

ドアの前が静かになった。

 

ふぅ、と小さく息をつき額の汗を拭う。

いい仕事をした。

 

そして向き直り、執務机に戻ろうとしたとき部屋が異様に静まり返っている事に気が付いた。

 

天津風達は驚きの表情で固まっていて、大和は秘書艦用の机から立って臨戦態勢をとろうとしている。

横にいる先輩は汗だらだらで「お久しぶりです」と言って固まっている。

そこで私は異様な気配を感じた。

 

ここまでの間0.64秒である

 

私は懐からサバイバルナイフを取り出し気配に対応しようとしたその時、

 

ぷにっ

 

頬を指でつつかれた。

 

「威厳もクソも無くて悪かったね」

 

少し土怒気を含んだ声が聞こえる。

つつかれた頬の方に顔を動かしてみる。

 

そこには真冬なのにアロハシャツと短パンの姿の素敵なおじ様がいた。

 

嘘だろ!?

どっから入って来たし!?

やっぱこの人異常だわ?!

 

そんな事を思っていると、おじ様が執務机に座った。

 

「何をしているんですか!!」

「大和。警戒を解いて大丈夫」

「で、ですけど本当に大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫…」

 

大和がまだ警戒していたので、警戒を解くように言った。

オレはもう色々と疲れたよ。まだお昼じゃないのに昼寝したい気分だよ。

 

「やぁ、初めましての方が多いかな?私は神尾譲治(かみおじょうじ)という」

 

神尾おじさんの言葉に艦娘達が固まる。

そりゃそうだろう。

だってこの人は――

 

「この国の軍の総司令官を任されている人間だ。そして――」

 

一部の艦娘は余りの衝撃的展開について言ってないようだ。

 

そして、おじさんは私の頭に手を置いて

 

「そして、この志崎生希の叔父であり養父だ。以後よろしくな」

 

そんな事を言い放ちやがった。

しかも滅茶苦茶いい笑顔で、だ。

 

「「「「えええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!」」」」

 

艦娘達は物凄い叫び声を上げた。

 

オレは何かもう色々籠ったため息をついた。

 

「今日は厄日か何か…」

 

 

 

 

 

死神を誘拐

 

 

その後、艦娘達に色々聞かれたがとりあえず、特別甘くされた覚えがない事と、この地位に就いたのも七光りじゃないことを説明した。

今更だが、彼女たちはオレの過去の経緯を知らないようだ。調べりゃ、いくらでも出てくるだろうに。

でも知らない方がありがたいかねぇ…。ああ、複雑。

 

その後、艦娘達と叔父さんが楽しそうに話している中執務をこなしていたが、突然オレと先輩は首根っこを掴まれた。

 

「何するんですか総司令!」

「そうですよ!!ふざけるのもいい加減に――」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。後生希よ、『叔父さん』と呼ばないと減給ね。『父さん』でも可だよ?」

「とにかくふざけるのも大概に―――」

「はぁ、うるさい若者だなぁ。少し静かにしておくれよ」

 

ベキッ

 

あ、隣から何か嫌な音が―――

 

「ぐぇっ」

 

ああ、意識が真っ暗に――――

 

「「「「提督(貴方)!!!!!」」」」

 

ああ、皆の声が聞こえるなぁ――――



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chapter 5-3 提督救出作戦

(この頃の)いつもと書き方違うので注意です。


 大和です。

 なんという事でしょう。提督が攫われてしまいました。

 直ぐに助け出そうにも、あの総司令らしき人物の姿はすぐに消えてしまいました。

 

 何故攫われたかわかったのか?何故そう思うのかと言うと、

 

 譲治「じゃあね。お嬢さん方、こいつらを生きて返して欲しければ私の居場所を当ててごらん」

 

 と、とんでも無い殺気を放ちながら言ったからです。

 

 あの人の身のこなしは素晴らしかったです。

 部屋に入った時の気配も姿も全くとらえることができませんでした。

 だから臨戦態勢に入るのも遅れてしまいました。

 そして、執務室から出る時も影も形もなく消えてしまいました。

 

 熊野さんは涙をながしています。

 天津風と祥鳳さんが慰めてます。

 

 許せない…。許せません!

 今すぐあの

 

 必ずやあの不審者から提督たちを連れ戻さなければ!

 

(そうすれば、あの提督にまた一歩近づけるかな?)

 

 という事も思っています。

 

 提督と深い関係になるにはまずお互いが深く結びつかなければ。

 大和は恋愛に関しては一歩ずつ着実にというタイプです。

 でもたまに段階をすっとばすかもしれませんが気にしないでください。

 

 話が逸れましたね。

 とにかく提督を救出するための手筈を、

 今日の秘書艦は私なんだ。だから私がしっかりしないと。

 

 大和「天津風、夕張と連絡を取って」

 天津風「わかったわ!」

 大和「祥鳳さん艦載機の調子は平気?」

 祥鳳「大丈夫ですけど、どうするんですか?」

 大和「夕張が来てからのお楽しみよ」

 大和「熊野さんは近くにいる人に聞き込みお願いできますか?」

 熊野「ぐすっ、泣いてばかりはいられませんもの。私もやらさせて頂きます」

 

 私は提督のノートPCを立ち上げる。

 私は、夕張がくるまでにあの総司令官が本物か調べておこう。

 

 夕張を待っている内に、遠征の皆も帰ってきました。

 

 夕立「ねぇ、提督さんは?」

 村雨「おかしいわね。何で居ないのかな?」

 

 夕立、村雨が不安そうな表情で聞いてきます。

 

 大和「提督達は…誘拐されました」

 響「なっ?!」

 雷「えっ?!」

 電「なのですっ?!」

 

 響たちが可愛らしいリアクションで返してくれました。

 とても可愛らしい。提督も甘やかしたくなるのがわかる気がする。

 

 だけど今はそれどころじゃないわ。

 

 響「誰が!?何で?!!」

 

 響が私に噛みつくような勢いです。

 凄く迫力があります。提督に甘えているときもあまり表情を変えないのに、今は顔いっぱいに怒りを表しています。

 

 大和「提督たちを誘拐したのは神尾譲治総司令官です。誘拐した動機は不明よ」

 

 遠征組に衝撃が走ったようね。

 こんな事、言われても困るわよね。

 

 雷「ちょっと何で総司令官が提督を攫うのよ!」

 電「全然わけがわからないのです!」

 

 雷、電も噛みついてきた。

 

 夕立「そうよ。わけがわからないっぽい」

 

 夕立も顔をしかめています。

 理解に苦しむといった表情をしています。

 

 夕張「夕張只今到着しました!」

 木曾「全くどうしたんだよ…」

 

 夕張と木曾も来ました。

 

 熊野「はぁはぁ、聞き込み終わりましたわよ」

 

 熊野さんも息を切らせて終わりました。

 

 大和「では、今から提督救出作戦会議を開始します!!!」

 

 こうして、提督の救出をするための会議を始まりました。

 

 待ってください提督すぐに助け出しますから―――

 

 夕張と木曾、遠征組にも総司令官が来てからの事を話しました。

 情報の共有は重要だからです。

 

 木曾「まさかなぁ…」

 夕張「ええ、提督が総司令の親族だとは思っていませんでした」

 天津風「姓名が違うからわからなくてもしかたいわよ」

 熊野「ええ、大智さんも教えてくれませんでしたし、私も知りませんでした。」

 夕立「でもそれってすごい事っぽい」

 村雨「そうだね。でも大和たちも知らなかったんだね」

 大和「提督は最近着任した方ですし」

 響「何より。提督自身があまり自分の事をしゃべらなかったからね」

 

 響、そこは提督の席です。という無難な突っ込みはよしましょう。それどころじゃないんです。

 

 雷「でも、なんですぐに追いかけなかったのよ?」

 電「そうなのです。大和さん達ならすぐに追いかけられたはずなのです!」

 祥鳳「総司令の動きはとても人の物とは思えないものでした」

 大和「ええ、艤装を外した私でも姿をとらえることが出来ないほどです」

 

 皆驚いています。

 艦娘は艤装を付けているとき、よく原理はわかりませんが身体能力が格段に上がります。

 艦種によって身体能力に違いはありますが普通の人間では太刀打ちできなくないです。

 艤装を外した状態でも普通の人間よりは格段に身体能力は高いです。

 艤装を外した戦艦クラスで言うと、ヘビー級の世界チャンプが5人いても一方的にぼこぼこにできる強さです。

 その私ですら姿を捉えられなかったというわけです。

 

 木曾「本当に人間なのか?」

 

 木曾の顔がひきつっています。

 それはそうなるわよね。

 

 大和「いざとなったら艤装の展開も許可します」

 天津風「!それは―」

 大和「ええ、人間に対して艤装を展開することは禁止されています。ですが非常事態です。全ての責任は私が取ります」

 響「…解体も覚悟しているということだね」

 

 解体それは艦娘ではなく、ただの一人の女性に戻るという事。

 艦娘の時の記憶はよほど重要な事が無い限り消される。

 つまり軍部とつながりが無い限りもう提督たちと会うことは二度と無くなるという事だ…。

 だけどそれでも大和は構いません。それで提督が無事に過ごせるのなら。

 

 村雨「そ、そんな。何もそこまで…」

 夕張「でもその展開はあり得ます。これを見てください」

 

 夕張がPCの画面を見せてくる。

 そこには総司令が過去にとった賞状や大会の記録だ。

 武術の賞が沢山ありどれも異例の記録を成し遂げている。

 

 電「総司令官さんすごいのです」

 木曾「面白い」

 雷「感心している場合じゃないわよ!」

 

 雷が机をバンッと力強く叩いて立ち上がる。

 夕立も続いて立ち上がった。

 

 夕立「尚更早く助けに行かないとまずいっぽい!」

 雷「そんな人に連れ去られていつまで無事かわからないじゃない!」

 

 二人が部屋から出ていこうとするのを天津風と祥鳳が止めた。

 

 天津風「貴方たち二人で何ができるのよ?」

 夕立「でも早くいかないとまずいっぽい」

 祥鳳「提督たちの場所はわかっているのですか?」

 雷「で、でも」

 大和「でもじゃ、ありません!皆落ち着いてください!」

 熊野「そうですわよ。慌てても何もできませんわ」

 熊野「大和は解体なんかさせません。艤装を展開して仲間を失わず、皆無事にここに戻る為に作戦を立てているのですのよ」

 熊野「それに私は貴女方の先輩ですわ。もし何かあったら私が責任を取ります」

 電「はわわわ。でもそれじゃ熊野さんが…」

 熊野「大丈夫ですわ。何があってもあの人はまた私を探してくれますわ」

 

 熊野さんは輝かしい笑みを浮かべる。

 それは本当に新巻さんを信用していることがわかる笑みでした。

 私も提督とこんなに信用し合える仲になりたいです。

 

 木曾「責任なんか押し付けたりしないから安心しな」

 祥鳳「ええ、私達はチームです。喜びも悲しみも、もちろん責任だってチーム皆のものです。」

 夕張「それにそんな事が起きないように作戦を立てるんですからね」

 村雨「皆で迎えるハッピーエンド。これが一番ね!」

 電「なのです!」

 熊野「皆さん…」

 

 熊野さんが感極まって涙を流した。

 ええ、そんな事させませんとも。皆でこの執務室まで帰るまでが目的です。

 

 大和「では改めて会議を始めます!皆で成功させるわよ!」

 皆「おー!!!!!!!」

 

 皆の意志が一致しました。

 さて、本格的に始動します!

 提督、皆で必ず助け出しますからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて作戦開始です。

 

まず夕張に監視カメラの映像を確認させましたが、あの総司令が映ったと思われる映像は砂嵐になっていました。

でも鎮守府の門の映像は無事だったので、この鎮守府無いから出て無い事がわかりました。

 

熊野さんの聞き込みにも誘拐から門が開いた形跡はないそうです。

 

そこで駆逐艦の皆と木曾には鎮守府の施設の捜索をお願いし、祥鳳さんの艦載機に乗る妖精さんにカメラを持たせ、PCにライブで映像を送れるようにしました。

 

もし見つけても手を出さず様子を見てくれるように言いました。

 

一人ではおそらくあの総司令官に敵わないからです。

艤装展開無しの私でも厳しいでしょう。

だから皆で包囲することを決めました。

一人でダメなら皆でやればいい。

昨日のまくら投げで学んだことです。

 

祥鳳「艦載機から伝達です!第二倉庫から声が聞こえるそうです」

 

2番倉庫?確か資料にはまだ使用されておらず、鍵をかけたままの筈の倉庫です。

 

夕張「映像つなげます!」

 

プロジェクターから映像が流れる。

映像は倉庫の中の物だった。

 

大和「提督!」

 

映像には何故か戦闘服に着替えた提督と総司令が肉弾戦を繰り広げてます。

そして二人の声が聞こえます

 

生希「クソッ!やっぱ規格外だよ叔父さんは!」

譲治「ふふふっ。君も中々やるね。何回打ち込んでも倒れない。さすが、『不死(アンデッド)』と言われただけはあるな」

生希「その名で呼ぶな!!!」

 

提督が歯をむき出しにして、総司令に殴り掛かっています。

総司令はそれを捌き腕を掴み投げようとしましたが、投げられる寸前で腰に膝蹴りを食らわせて掴んだ手を外させました。

その後、総司令の後ろ蹴りを躱し、カウンターで足払いを食らわせダウンさせそのままマウントを取ろうとしましたが、総司令が提督の足を絡ませ提督もダウンさせました。

 

私達はその光景をただ見つめています。

何というか、提督も十分人外な気がします。

だって、実は今の大和は艤装を展開してこの戦いを眺めています。

何故なら艤装なしではこの戦いについていけてないからです。

 

夕張「何て言うか…」

祥鳳「提督凄く強いんですね…」

 

二人ももちろん艤装を展開してます。

確かに昨日のお泊まり会の時に提督の腕を触らせて貰いましたが、かなり硬かったです。

ですが、筋肉と格闘術は比例するとは限らないですが、提督はその心配はありませんね。

 

熊野「大智さん…」

 

大智さんは鉄骨を背にあて何とか立っている状態です。

顔を見るとかなりボロボロです。

良かったですね、大智さんはまだ人間を止めて無いようです。

熊野さんは新巻さんの無事を見てほっとしています。

 

って、二人の戦いに見惚れている場合じゃありません!

二人とも互角に見えて実は提督がかなり劣勢です。

 

譲治「おいおい。この程度かい?『タスクフォースGR』の隊長さんは?」

 

そう言って総司令は提督の腹に拳をめり込ませます

 

生希「ぐはっ」

 

提督は腹を抑えて崩れ落ちてしまいました。

更に総司令は背中を踏みつけます。

 

生希「はぁっはぁっ」

 

提督は転がって足をどかし、転がった勢いで何とか立ち上がりましたがもうよろよろです。

 

大和「夕張!皆に第二倉庫に来るように言って!祥鳳は私と一緒に来て!」

熊野「私も行きますわ!」

大和「ありがとうございます。夕張は中の様子を見張ってて!じゃあ、行くわよ!」

熊野祥鳳「はい!!」

 

玄関から出る時間も無いと判断した私は、窓から飛び降ります。

続いて二人も来ました。

 

居場所は突き止めました。

後は救出するだけです。

この作戦必ず成功させます。

 

 

 

 

 

倉庫に着きました。

 

私と熊野さんは正面の入り口につき、駆逐艦の皆と木曾は二階と側面に、祥鳳は倉庫の周りに艦載機を飛ばして見張って貰ってます。

 

もし総司令が逃げようとしてもすぐに対応できるようにです。

 

私達は夕張からの突入の合図を待ちます。

 

夕張「3」

 

緊張が私達を包み込みます。

 

夕張「2」

 

ですが失敗できません

 

夕張「1」

 

だから必ず成功させます!

 

夕張「0。突入!」

 

皆一斉に突入します。

 

大和「動かないでください!」

木曾「お前は包囲されている」

電「おとなしく投降するのです!」

 

中にいたのは提督の襟首を掴んで殴り掛かろうとしている総司令だった。

 

総司令は提督を掴んでいた手を笑って離し、両手を挙げた。

 

譲治「私の負けだよ。お嬢さん方。大人しく投降する」

 

頭の後ろに両手を付けて膝立ちになる。

木曾が近づいて背後から拘束します。

 

大和「提督!ご無事で」

 

提督の息は荒い、あちこちに傷が出来ている。

 

生希「叔父さん何でこんな事になってるの?」

大智「そうですよ総司令。何でこんな大掛りに」

譲治「知らなかったのかい?私は君たちを誘拐したんだよ?」

 

あれ?提督たちは誘拐されたのになんでこんなに危機感が無い感じなのでしょう?

それとも誘拐に慣れているのかしら?

 

総司令は立ち上がろうとしたので木曾さんが押さえつけてはっ倒してしまいました。

 

譲治「痛い!痛いよ!お嬢さん!!もう何もしないから離して頂戴!」

木曾「本当に大丈夫か?」

 

木曾は提督に確認を取ります。

 

生希「どっちでもいいぞ?と言うか本当に何でこんな事になってるの?」

 

提督がよろよろと立ち上がり腕を組んで考えています。

 

映像を見た時ももの凄い焦っていたり切羽詰まった感じではなかった気がします。

むしろ楽しんでいるような…

でも怒っているような時もありました。

 

譲治「まぁその事についても説明しよう。取りあえず私を離して、痛い!お嬢さんいい加減離して!間接極めないで!私こう見えても歳だから傷とか治りにくいんだよ!」

生希「いいざまだ」

 

提督がボソッと言います。

さっきまで打ちのめされた事を根に持っているのでしょう。

 

大智「全くだ」

 

大智さんは割と大声で言ってしまいました。

 

譲治「痛いってお嬢さん!いい加減離して!後、大智君はやっぱり減きゅ―――」

大智「わー!!嘘でそれだけは勘弁してください」

熊野「大智さん。いい加減学習すべき、ですわよ」

大智「熊野ぉ。お前だけは味方だと思っていたのに。やっぱり俺は夫失格――」

熊野「そそそそ、そんな事無いですわよ!貴方はとてもいい人と言うか、私のような女性をあ、愛して―――ってもう知りませんわ!!」

大智「ちょっ!待って熊野!そう怒んなよ~!」

 

そう言って、熊野さんは倉庫から出て言ってしまいました。

顔が真っ赤だったので熊野さんは好意を言葉にするのが恥ずかしいんでしょうね。

大智さんはその様子を怒ったと思って急いで追いかけていきました。

何というか、とても微笑ましい光景ですね。

こんなシーンでも二人の熱愛ぶりがわかります。

 

生希「いいねぇ。ああいうの」

大和「ええ、そうで――」

天津風「とても微笑ましい気分になるわね」

村雨「本当ね。何というかこっちまで暖かくなるような」

雷「こっちまで幸せになるような」

祥鳳「そんな気分になりますね」

電「そうなのです!」

夕立「そうっぽい!」

大和「もう、皆で私の台詞を取らないでください!」

 

頬を膨らませて皆に抗議の目を向けます。

みんな困ったような笑顔を浮かべます。

 

生希「ふふふ、はははは!!!」

大和「も、もう提督まで。ふふふ」

皆「はははは!!!!」

 

提督の笑いにつられて皆笑ってしまいました。

ああいう、恋愛シーンを見て暖かくなるのもいいですが、こうして皆で笑いあえるのが一番いいです。

皆で幸せを共有できているって事がわかりますからね。

 

譲治「はっはっはっ。って痛い、痛いよお嬢さん!いい加減離して!」

 

総司令官も笑っていましたがまだ木曾に取り押さえられています。

木曾もいい加減離してあげても―――

 

木曾「うるせぇ!オレ達の提督をここまで痛めつけたやつをそう簡単に信頼できるか!!」

譲治「痛い!痛いって!私一番偉い人だよ!いたたたた!」

 

皆「はははは!!!あはははは!!」

 

皆の笑いがどんどん加速していきます。

総司令には悪いですけど、皆の笑顔が増えるのでもう少しこのままにしましょう。

提督も助ける気は無いようですし。

 

まだ、人数は少ないですけどこうやって皆で団結できて、皆で笑いあえていいところに配属されたと実感できました。

これからも皆でこの明るい鎮守府を維持していきましょう。

皆が笑顔で居られるようなこの鎮守府を。

 



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chapter 5-4 誘拐の真相

 志崎生希だ。

 

 今オレ達は第二倉庫にいる。

 救出作戦(?)のオペレーターだった夕張も来ている。

 

 夫婦漫才を繰り広げていた先輩方も戻って来たので、叔父さんが今回のよくわからん事の顛末を説明してくれるようだ。

 

 私は第六駆逐隊(暁不在)の皆から傷の手当てをされ、先輩は熊野と翔鳳の手当てを受けている。

 

 叔父さんは周りを見回し、話を聞くのにキリがいいところを見計らっている。

 

 譲治「じゃあ、説明しよう。私が彼らを誘拐した顛末をね」

 

 今、叔父さんは縄でぐるぐる巻きになっている。

 

 木曾には拘束を解いていいと言ったのだが、どうも叔父さんの事を信用しきれなかった用で、こうして縄で拘束することで妥協して貰った。

 

 今も叔父さんの傍で見張っている。

 

 譲治「まずこの誘拐は生希と生希の艦娘達の信頼度などを確かめる為に行った。私の独断でね」

 

 誘拐ねぇ。そんな感じしなかったけどな。

 何かオレが目が覚めた時何かの機材の前でめっさ慌ててたのは覚えているけど。

 

 生希「信頼ねぇ。もちろんオレはしてるけど。まぁ、言葉で言ったら安くきこえるかなぁ…」

 響「そんなこと無いさ。私は司令官が私達の事を深く考えてくれることはわかっているつもりだよ」

 天津風「そうそう。私の中破をみて凄く取り乱してたもんね」

 大和「ええ。私が大破した時なんか泣いて帰還を喜んでくれましたしね」

 

 いやー。恥ずかしい。

 こういう事を言葉にされるの弱いんだよな。

 だけど結構嬉しいな。

 こういう事は態度じゃわかりにくい事だ。だから、言葉や話し方でどれだけ信頼してくれるのかわかる。

 

 他の皆もうんうんと頷いている。

 今日来た子たちも取りあえず信頼できると感じてくれたらしい。

 

 譲治「ああ、それは皆がここまでして君を救出しに来たからわかる。優秀でいい部下達だね」

 祥鳳「いいえ。私たちが優秀だとかそれだけではありません」

 木曾「むしろ、今のオレらは優秀とは程遠いな。だけどコイツがオレ達を必死に運用できるように作戦とかを立ててくれるんだよ」

 夕張「そうです!提督も私達の事をしっかり考えてくれて、心配してくれるからこうやって心を開いても大丈夫とわかっているんです」

 

 私はいい部下を持ったと言われ、嬉しかったが他の艦娘がその言葉を否定した。

 自分らを卑下する事も無いのにと思ったが、どうやら私がみんなの事を大切に思っていることが伝わった事を言っているようだ。

 

 恥ずかしい。

 思わず背を向けようとも思ったが、そんな事をしたら彼女たちに誇れる提督と言えなくなると考えたので、頬を掻いてその言葉を受け止めた。

 多分目が泳いでいるな。

 だって、恥ずかしいって。

 学校とかで忘れ物して教室戻ろうとしたら、あいつ頑張っているよな。とかそんな会話を聞いた気分だ。

 

 いや、それより恥ずかしい。

 

 女子にチョコ渡されて浮かれかけているときに「これ、○○さんに渡して!」って言われた時のような気分だ。

 

 いや、恥ずかしいのベクトル違うし、その後にむなしくなるよな…。

 その後、その女子にちゃんとチョコ届けたって、罪悪感生ませないために頑張って笑顔作っていったら「そう…。ありがとう志崎君…」って凄い虚ろな目で言われた。

 何でだ。オレは良い事した筈なのに。

 

 それ以来バレンタインはちょっと苦手だ。

 

 何か善意が抉られる…。

 

 と、関係ない話をしてしまった。

 

 まぁ、ようするに嬉し恥ずかしと言う奴だ。

 

 雷「それに暁も探してくれるって言ってくれたわ!」

 夕立「白露と時雨も探してくれるって言ってくれたもん!」

 電「そうなのです。まだいない子達も探してくれるといってくれたのです!」

 村雨「皆が再会できる時を楽しみにって言ってたしね」

 

 そこまで言ったかなとか思ったけど、純粋な彼女たちが言うんだから間違いないだろう。

 どっちにしろ、わいわいがやがやがいいと思うし。

 

 譲治「まぁ、とにかくそんなわけだ。君たちの信頼度はわかった。だからこの縄解いて」

 大智「ちょっと待ってくれ!総司令確かに前、俺はアンタに誘拐されたことあったけど今回は組手じゃないのか」

 熊野「そういえば。大智さんが誘拐された事が…うぅぅ」

 祥鳳「わわ。熊野さん泣かないで」

 大和「そうです。大智さんはここにいますから」

 

 熊野が泣き出してしまった。

 というか、熊野よ今思い出したのか?

 いやショックな記憶だろうから蓋をしたがるよな…。

 そして、それを祥鳳と大和が慰めている。

 そんなに思い出したくないほど、そっちの鎮守府はパニックになったんだな…。

 オレの鎮守府より人数も多いだろうし尚更大変な事になったんだろうな…。

 

 雷「組手って?あの組手でいいのよね?」

 響「司令官は総司令と組手をしてたのかい?」

 電「わ、私たちが突入した時は、一方的に殴られてたように感じましたけど」

 生希「あ、ああ。いきなり倉庫に連れてこられて驚いたけど『よっし、書類仕事ばかりの君達に稽古をつけてやる!ほら、かかって来なさい!』って言われたぞ」

 

 そう、オレが目覚めたときこういわれた。

 先輩はまだ気絶していたので、叔父さんに言われてゆすり起こしたのだ。

 そして、叔父さんがいつの間にか用意した戦闘服に着替えさせられ、この組手が始まった。

 

 というか先輩、叔父さんに誘拐された事あったんですね。

 というか叔父さんやっぱり本当に人間ですかね?

 

 艦娘達がいっぱいいる鎮守府から提督掻っ攫って、しかも鎮守府内に潜伏するって…。

 よっぽどその鎮守府の事をわかってないと無理だし、鎮守府内の誰かに協力して貰ったのかな。

 

 やっぱり叔父さん今の立場につく前に潜入任務でもやってたのかな…。

 

 譲治「その話は今は置いといてくれ。本当だったらあの機材で君たちを柱にしばりつけた所をPCを経由して放送する予定だったんだが…」

 

 あの機材と言うのは倉庫の隅っこにある奴だろう。

 組手で夢中で気づかなかったけど、よく見たらカメラだな。

 

 譲治「機材の調子が悪かったのかわからないけど、上手く放送のテスト用のPCに映ってくれなくってね」

 譲治「それで、何か生希が目を覚ましたような雰囲気だったから急いで機材をどかした訳だ」

 

 なるほどでは何でその人質の様子を放送しようと思ったのだろう。

 

 譲治「放送は場所のヒントにするためさ。彼女たちが場所を迷わないためにね」

 大智「俺の時は、目隠しと口枷までされたな」

 熊野「本当に…本当に酷い状態で」

 譲治「演出の為に血糊や制服も破いたからね。はっはっはっ。痛い!」

 

 叔父さんが先輩を誘拐した時の事を子供の頃のいたずらを思い出したように笑っていたのに腹を立てたのか、熊野が涙目で叔父さんの頭を割と本気そうな勢いで叩いた。

 珍しい、普段おっとりとした感じの熊野がここまで怒るとは。

 でもそれほど心配をしたという事だろう。

 

 木曾「で、なんで組手と称してリンチをしてたんだ?」

 譲治「ああ、それは機材の不調でノーヒントじゃかわいそうだから悲鳴でも上げさせてヒント代わりにでも、って痛いよお嬢さん!止めて死んじゃう!」

 

 嘘付けよアンタ。事故とかの後でもぴんぴんしてたの知ってるぞ。

 後オレが散々死にかけて無事だったんだから、血筋的に叔父さんも死なないだろ。

 

 ちなみに、組手はオレと先輩のペアVS叔父さんだった。

 先輩は開始三分でダウンし、オレはその後も何とか耐えきったが急にボコボコにされかけた。

 

 多分偵察機がオレ達の事を発見した時だろう。

 オレも何か見られている気がしないでもなかったが、叔父さんははっきりと見られているのがわかったのだろう。

 

 やっぱり化け物だな。

 

 ちなみに格闘術の師匠は叔父さんだ。

 

 オレの母さんは叔父さんより強かったらしい。

 

 じゃあ、オレもその領域までいくのか?

 怖いなぁ。

 

 譲治「でも良かった。二年過ぎただけで色んな事がおきたからね」

 譲治「でも君は古くからの仲間や新しい仲間と一緒にこの新しい困難に立ち向かってくれた」

 譲治「私はそれだけで嬉しいよ」

 

 叔父さんはいつの間に縄から抜けたのか、オレの事を抱きしめていた。

 

 譲治「これからも色々な困難にぶつかるかもしれない。」

 譲治「だけど、君達ならきっと大丈夫なんだろうな」

 譲治「もちろん上の人間としてこれからも君たちの事はサポートしよう」

 譲治「甘やかすつもりは無いけどね」

 

 叔父さんはわしゃわしゃと頭を撫でてくる。

 懐かしい優しい気持ちになる。

 母さんも確か頭を撫でるのが上手くなかった気がする。

 よくある優しい撫で方は父さんがしてたな。

 母さんは男勝りでしゃべり方も女性的な感じだったな。

 

 譲治「コホン。今から志崎生希の研修を終わりとする」

 大智「総司令!それは俺が決める事じゃ!」

 譲治「上司に逆らうなよ大智君。それとも減―――」

 大智「わー!!嘘です。面倒事が無くなって助かりましたありがとうございます!!!」

 譲治「君には信用して私の子を預けたつもりだったのだが面倒事だと思っていたのか…。すまない面倒事を―――」

 大智「いえ。面倒事だとは思ってませんよ。こいつとは久しぶりに一緒に過ごして楽しかったです」

 大智「だから、ホントのコト言うと寂しいっすよ」

 

 先輩は屈託のない笑顔を浮かべて言ってきた。

 流石だな。

 流石、抱かれたい日本軍の軍人ベスト5に入るお方だな。

 あっ、このアンケートの主な回答者は男です。

 

 譲治「じゃあ。研修期間が終わった記念だ。私のお気に入りのいい料理店の予約取っているんだ、皆で行くぞ」

 譲治「勿論私が全額持つぞ!」

 皆「おー!!!」

 

 いいお店とおごりと言う言葉を聞いて皆ハイテンションだ。

 駆逐艦の皆なんか飛び跳ねてる。

 皆スカートの事、少し気にしなさい

 はしたないですよ!

 

 大智「今日は騒ぐぞ!」

 熊野「程々にしてくださいな。介抱するのも大変ですのよ?」

 電「おいしいお菓子とかあると嬉しいです!」

 雷「あるわよ。何せ総司令官のお気に入りのお店なんだし」

 響「ロシア料理もあるかな?」

 祥鳳「私、とても楽しみです!」

 夕張「お料理のデータでもとってみるかな」

 木曾「気前がいいな総司令官は」

 夕立「ごっはん~ごっはん~♪」

 村雨「夕立ちゃんご機嫌ね」

 天津風「どんなお店なのかしら?ふふ、わくわくするわね」

 大和「提督、早く行きましょう!」

 生希「ああ、行こう!」

 

 皆に手を引かれ歩きだす。

 

 これから、沢山の試練や困難にぶつかるかもしれない。

 

 だけど、皆で乗り越えて見せよう。

 

『死神部隊』にいた時のように、どんな難題でもこなしてやる。

 

 ここにいるみんなは『大切な仲間』であり、『家族』だ。

 

 この『家族』と笑いあえる一時は、みんなで護っていこう。

 

 そして、こうやって笑いあえる一時がずっと続いていけるように戦い抜こう。

 

 オレは改めて誓った。

 

 絶対に平和な未来を掴みとろうと。

 

 ―――もう、誰かが泣くのは嫌だから。



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chapter 6-1 死神の一日 午前

鎮守府の一日


二ヶ月間にあったことのダイジェスト

 

 

あの研修期間から二ヶ月が経った。

 

あれから何かあったのかと言われたら特に何もない。

 

強いて言えば、艦娘が100人位増えた事だ。

他には研修の頃とは比べ物にならない位の書類の量を前に泣きそうになったり。

先輩と連絡を取り合って、海域の攻略をしたり。

叔父さんと組手しているのを見た長門とかがオレに弟子入りしたり。

後、元同僚が遊びにきたり。

世話になった変態技術屋がいらんお土産置いて来たり。

夕張達が作ったス○ウター的なものでオレの数値が何かおかしいとか言われたり。

ブラックな鎮守府やってたクソガキと賭け勝負をして、クソガキの鎮守府から艦娘を譲り受けたりした事位か。

 

 

大したことないな。

ごく一般的過ぎて欠伸が出るくらいだろう。

高校生の日常風景の方が面白いんじゃないか?

 

鎮守府は賑やかになった。

賑やかすぎてうるさい位だ。

 

でもそれでいいのだろう。

なんせ、昔の夢だった保育士とかが叶えられている気がするしな。

 

執務室はいつも賑やかだ。

秘書艦当番じゃない子もよく遊びに来る。

主に駆逐艦かな。

おかげで仕事が進まない事が多いが、何やかんやでいう事聞いてくれるから助かる。

 

加賀や不知火、響、日向などのクールビューティー組が何度も「仕事が終わらないと遊ぶ時間もとれなくなるよ」と言い聞かせたらしい。

…実際、クールビューティー(笑)軍団な気もするのだが―――おっと、どこからか殺気を感じる。これ以上はよしておこう。

 

まぁ、とにかくみんないい子ばかりで助かっている。

鎮守府の運営も上手く行ってるし資材も沢山ある。

最初の頃は、大和は演習しかだせずに窮屈な思いをさせてしまうくらい貧者な備蓄状況だったが、今は結構な頻度で出撃させている位だ。

 

駆逐艦、軽巡洋艦の皆にはいつも感謝している。

彼女たちがいなければ、余る位資材が集まる事は無かっただろう。

 

オレとしても彼女たちに労いの言葉だけでなく、できるだけの事はしてあげたいと思っている。

 

だから、遊びに来た子の相手をして仕事が押してしまってひっそりと自室で仕事の続きやってたけど、過労で倒れたりな。

その時は、色んな子に泣かれたり、怒られてしまった。

 

無理をさせてまで、遊んでとか言ってごめんなさい、とか。

どうしてこんなことになっているのに誰も頼ってくれないんですか!とかね。

 

まぁ、こんな事があったからクールビューティー組の言葉が皆身に染みてわかったのだろう。

無論オレもだが。

それからは、きちっと仕事を分担する事にしたりね。

 

 

まぁ、改めて思い返してみると色々あったか。

何が高校生の日常生活の方が面白い、だよ。

 

オレの日常生活も楽しくて面白いじゃねーか。

 

だから、研修から二ヶ月経った後のオレの一日を紹介する。

 

あれ?なんでさっきからこんな風に小説みたいに―――もういいや考えたら負け的な何かだろう。

それじゃあ、いってみよう!

 

 

0510

 

 

目が覚めた。

しかもいつもの起床時間じゃない。

何故わかるかというと、部屋には僅かな光もさしていないからだ。

今はまだ冬。

7時台じゃないとまだまだ暗い。

 

時計を見てみる。

0510かよ。

もう一度寝るか。

 

一応、布団を勢いよくめくってみる。

この時間に起きるのは、オレの他に誰かが布団に入っている時が、多いからだ。

 

よし、中には誰もいない。

最近、色んな奴が入ってきている。

 

最初は響だけだったが、第六駆逐艦隊全員が入っていたり、不知火と陽炎が入っていたり、白露型(五月雨と涼風は無かった、後春雨はうちにはいない)が入っていたり色々ある。

因みに一番ヤバいと思ったのは如月だ。

オレのズボン掴んだまま寝ていた。

ナニする気だったんだ?

 

こんなこともあって、オレの部屋のカギは二ヶ月の間に10回も変えたのだが、意味をなさなかったので変えるのも止めた。

ホントどっから入ってきているのか不思議で仕方がない。

いつも戸締り確認してから寝るのに。

セキュリティ大丈夫か?

というか皆どっから侵入してるんだよ!

 

あぁっもう!

気にしたら負けだ!

寝ようお休み!

 

0710

 

心地よい。まるで母親が優しく子供を起こそうとしているみたいだ。

 

優しい声につられて目を開ける。

 

「あっ、目が覚めたようですね。おはようございます」

「ああ、おはよう鳳翔」

 

声の主は鳳翔だ。

 

彼女には昨日秘書官を任せていたんだっけ?

前日秘書艦にだった艦娘には基本的にオレの部屋のカギを持たせている。

オレに何かあったらすぐに部屋に入れるようにだ。

 

前日秘書艦だった艦娘はその鍵を使って部屋を開けて、オレを起こしてくれたりもする。

 

ここまでしなくていいといつも言っているが、書類をこっそり私室に持っていって一人でやって無いかを監視する為と言う目的もあるとの事。

 

無理していた前科があるのでこういわれるとどうしようもない。

 

オレは上半身を起き上がらせた。

 

「ふわぁ~あ」

「ふふ、いい欠伸ですね」

 

まだ眠たい為か欠伸が出てしまって鳳翔に笑われてしまった。

何かその優しい表情とか本当にお母さんみたいだな。

 

「まだ、冬だしね。おかげでまだ眠いよ」

「眠くても起きてくださいね?今日はお仕事の日なんですから」

「いつもお仕事の日だよ。起こしてくれてありがとう鳳翔」

「いえ、これくらいなんともないです。では外で待っていますね」

「ん。了解」

 

そういうと鳳翔はオレの私室から退室した。

流石の鳳翔。

オレが着替えることを察してくれたようだ。

流石に男でも着替える時には視線が気になったりする。らな。

誰得だよ。男の生着替えなんてさ。女性でも得すんのかね?

 

さて、下らないこと思っている場合じゃない。

早く顔洗って着替えないとな。

 

表に女性を待たせているからな。

 

さぁ、早く身支度をしよう。

 

今日のバンダナは赤のペイズリー柄だ。

普通だな。

 

戸締りを確認する。

不安だからまた戸締りを確認する。

本当に大事な事だから別に二回確認してもいいだろ?

 

今度こそ…よし!

私室から出ると鳳翔がいた。

 

それもそうだな。

だって、さっき待ってるって言ってたし。

 

「んじゃ、食堂に行こうか」

「ええ、みんな待っていますよ」

 

鳳翔の歩くペースに合わせて食堂に向かう。

途中でまた欠伸が出てしまい笑われてしまった。

 

まいったな、本当に朝は弱い。

 

 

 

 

0730

 

この時間は、食堂で朝食を食べる時間だ。

 

食堂は0700から開いているが、朝練をしている娘達は一番に来るが、他の艦娘はオレくらいの時間帯に来る。

 

食堂は基本的にオーダー制。

ある程度メニューは決まっているが、メニューになくても頼めば大方の物はすぐに作ってくれる。

 

今日のオレの朝食は、色んな具が入ったおにぎりと味噌汁、それとなすときゅうりの漬物。

 

幼いころから和食中心で育ったため、朝食は和食が多かったし、朝食でパンはあまり食べたことが無かった。

だから、朝食は和食に限る。

 

間宮たちから朝食を受け取り、席をつく。

両手を合わせて頂きますと言おうとした所に

 

「いっちばーん!」

 

白露が元気よく右隣に座って来た。

おいおい折角の朝食がこぼれるぞ…。

 

「おはよう提督!今日もあたしが一番だね!」

「おはよう白露。一番で、いいけど食べ物は大事にな」

 

イエイ!とVサインをしてきてアピールしてきた。

元気がいいな。この元気の良さが白露の良い所だろうな。

やっぱりお姉ちゃんは元気で無いとな。

 

この食堂のテーブルは六人席で分かれている。

最初は適当にテーブルの角に座っていたけど、色んなこに何か変な文句付けられたので真ん中に座る羽目になった。

それで、早く来ていたいたり、オレより少し遅く来ていたことかがオレと相席する。

 

白露はオレより少し後に来るので、大体一番にオレと相席する。

 

「今日も長良達とランニングしてきたのか?」

「うん。そっちも一番だったよ!」

「そっか、がんばったな」

「えへへ」

 

頑張ったらしいので労いの言葉をかけながら頭を撫ででやる。

白露は嬉しそうに頭を撫でられている。

別にあいつら競争する気ないだろうけどな。

 

長良達というのは、長良、鬼怒、大鳳の事だ。

あいつらは毎朝鎮守府内を走ってる。

それに他の艦娘やオレも参加したりしている。

運動不足はよくないからな。

元現場指揮官が書類仕事で体が鈍ったなんて事になったら笑いもんだしね。

まぁ、他にもこっそりなんかやったりしてるけど。

 

「おはようございます司令官。隣失礼します」

「ん。おはよう不知火」

 

左隣に座ってきたのは不知火だ。

相変わらず表情が全く変わらない。

無愛想だと思うがこれが不知火らしさである事は知っている。

 

その変わらない冷たさすら感じそうな表情のまま椅子をオレの近くに動かして、引っ付いてきた。

うん、これもこの鎮守府の不知火らしさだ。

 

「不知火に何か落ち度でも?」

「いや。全く」

 

落ち度なんてないだろうに。

突然こんな事聞かれても困る。

ちょっと前はまでは、こんな風に引っ付かれて食べにくいとか文句を言ったりしたが、今は別に困る事は無い。

むしろどこか心が温かくなる気がする。

 

「おはようございます」

「おはよう鳳翔さん!」

「鳳翔さんおはようございます」

 

鳳翔はオレの目の前に座る。

 

「ふふふ、二人とも甘えん坊ですね」

「いいじゃん。あたし頭こうやって撫でられるの好きだよ」

「不知火は甘えん坊なんかじゃ…」

 

甘えん坊でもいいと認める白露と、甘えん坊であることを否定する不知火。

いやー、本当に心が温まる光景だ。

この温かさを還元するために二人の頭を少し乱暴にわしゃわしゃと撫でる。

 

「もーう、ていとくー。髪が乱れちゃうってばー」

「し、司令…」

否定的な台詞を言いながらも嬉しそうに目を細める白露と、俯いて恥ずかしそうにする不知火。

 

「髪ぐらいいいだろ?食事の後に直せるだろ。それに不知火、お前秘書艦のとき―――」

「し、司令!」

「何か気になる話をしてますね」

「か、加賀さん!?」

 

鳳翔の右隣に加賀を見て驚く不知火。

不知火は加賀を目標としているからこんな恥ずかしい事聞かれたくないだろうな。

まぁ、不知火が想像しているより加賀は控えめなクールビューティーでは無いけど―――おっと、急にオレの体温が下がった気がする。これ以上は止めておこう。

 

「おはよう加賀」

「加賀さんおはよー!」

「加賀さんおはようございます」

「おはようございます」

 

加賀もあんまり表情変わらないよな。

でもまぁ大体どういう表情なのかわかる。

今は皆挨拶をしてくれて嬉しいと感じているのだろう。

 

「提督おはよう」

 

鳳翔の左隣に、長門が座って来た

 

「おはよう長門。今日はどうする?」

「ああ、頼む」

「んじゃあ、オレの業務が終わり次第格技場な。他の奴らにも言っておいてくれ」

「心得た」

 

これは、今日はオレと修行するかと言う確認だ。

ひょんな事からオレに弟子入りする艦娘が出てきた。

教えているのは近接格闘術だ。

艦娘に近接格闘なんか必要なのかと思うが、意外と馬鹿にならない。

格闘術を磨くと戦場での洞察力だとか、次に相手が何するのか予測しやすくなる。

戦艦級の深海棲艦も相手に近づいて近距離戦に持ち込んだりするし、弾薬を節約するために外さない距離に近づいたりするときにも役に立つからな。

 

長門は、オレが提督になってからの弟子第一号だ。

だから、彼女が一番オレと修行しているし、覚えもいいから助かっている。

他にも色んな艦娘が弟子入りしているが今は割愛。

今は、お腹空いてんだよ。

 

「んじゃ、いい加減食べようぜ」

「「「「「はい(了解した(了解しました))」」」」」

 

オレが両手を合わせると後から皆手を合わせてきた。

それじゃあご一緒に

 

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

さぁさぁ、楽しい朝食の始まりだ。

 

皆と楽しく談笑しながら朝食を食べ終えた。

 

皆の相部屋の艦娘とどんなことしてたかとか、昨日オレの執務中にこんな事してたとかが主な話題だな。

皆楽しそうに話すからオレまで楽しくなる。

それがオレ達の朝食だ。

 

 

0900

 

 

この時間から私のいつもの仕事が始まる。

 

あ、オレの一人称は仕事中は私になるから注意な。

よくオレって言っちゃうけど。

 

本当は朝食後に部屋に戻って歯磨いたり身嗜みの確認とか、0830から今日の出撃や合同演習についての会議もあるけど割愛。

 

だって、会議とか重苦しいだけだしつまらないだろ?

メンバーだって、霧島、不知火、加賀、響、夕張etcと真面目な子ばっかりだ、し殺伐としてるぜ?

 

だから、割愛な。

 

「0900、これより秘書艦の業務を大和へと委任します」

 

鳳翔が敬礼をしながら私と大和に伝える。

鳳翔は真面目だからこの『秘書艦引継ぎの儀』を毎回やる。

 

うちの秘書艦は当番制だが、やりたい子がオレに言えばいいと言う志願制でやってる。

結構やりたいという子が多いから、しっかりローテーション組めて助かっている。

 

「本日の秘書艦の業務、大和への委任を承認する」

 

私も荘厳な雰囲気を纏い重くうなずく。

 

「了解。0900、大和、本日の秘書艦の業務謹んでお受けいたします」

 

大和も敬礼をして鳳翔に返す。

 

そして鳳翔が懐から何かを取り出し、大和に手渡す。

 

まぁ、その何かっていうのは私の部屋鍵なわけだけど。

 

この『秘書艦引継ぎの儀』(私が勝手に呼んでる)は、鳳翔や加賀とかの真面目な艦娘がやっている。

別にこの儀式をやる必要性は無い。

駆逐艦同士だと

『今日お願いね』

『うん、夕立提督さんのお手伝い頑張るっぽい!』

『ぽいじゃなくて、本当に頑張ってくれよ』

『ぽい!』

なんかで済ましてるしな。何か回想に私の突込みと言う不必要な要素があったけど気にしないでくれ。

 

何か肩肘ついてこんな事思っていたら、大和も鳳翔もいなくなっていた。

 

鳳翔は、今日出撃予定のない駆逐艦とかの遊び相手になってあげに行ったのだろう。もしくは間宮達の手伝いか。

それか、空母の指導にあたっているか。

 

まぁ、大和が居なくなったのは、

 

「お待たせしました提督」

 

両手いっぱいに書類を抱えて執務室に入って来た。

 

『秘書艦引継ぎの儀』の後、事務の方から今日の書類を受け取って来たのだろう。

 

うわー、今日もたくさんの書類だー。

 

「さぁさぁ、溜め息ついてないで、本日も頑張りましょう提督」

「りょうかーい」

 

秘書艦席について大和が書類の整理を始める。

目を通すだけでもいいもの、こちらの承認が必要な物などにわけるのだ。

これをやってくれるだけで、かなり捗る。

書類を分けてくれている内に、確認したい事を大和に言う。

 

「今日の出撃は1000からだよな?」

「ええ、指揮お願いしますね」

「合同演習は結局何時になったんだ?」

「提督聞いていなかったんですか?」

「ほら、会議中に腹壊して席外してただろ?」

「ふふふ、そうでしたね。失礼しました」

「笑うなよぅ」

「失礼しました。合同演習は1100と1530からです」

「了解」

「提督、書類整理終わりました」

「了解。流石大和だな。仕事が早くて助かる。」

「お褒め頂き感謝します」

 

口元を抑えて上品に笑う大和。

この笑顔を糧に今日の書類仕事が始まる。

 

今日の天気は晴れ。

出撃するにも遠征を出すのにもちょうどいい。

 

何より、昼寝は晴れの日に限る。

 

「提督。ペンを持ったまま寝ないでくださいね」

「もうそんなドジはしないさ」

「嘘ばっかり。この前も加賀さんに怒られてでしょ?」

「…善処します」

「宜しい。子供みたいに変な意地を張らないでくださいね」

 

またまた、大和に笑われてしまった。

今日は駄目だ。

考えを巡らせるのが下手だな。

まぁ、昼寝するにもまだ早い。

今は書類仕事をして、午後にぐっすりと寝る予定だ。

 

子供っぽいねぇ。

そういえば聞きたい事があったかな。

 

書類を手伝っている大和の方に向き直る。

大和はかなり集中して書類を書いてくれている。

 

字も綺麗だし、大和も綺麗だし最高級の秘書艦だと思う。

 

まぁ、最近だと正確で処理が一番早いのは加賀と不知火何だけどね。

 

「なぁ、大和?」

「何でしょう?」

 

書類から目を離さないまま大和が返事をしてきた。

 

「この前、一緒に間宮にいったじゃん」

「ええ、行きましたね」

 

この前、大和が頑張ってくれたので間宮たちの経営する甘味処の限定商品のチケットを二枚あげた。

 

二枚上げたのは、仲のいい子と一緒に行けるようにだ。

別に大和と武蔵でもよかったけどな。

 

んで、良かったら一緒に行こうと言われていったのだ。

仕事も一段落ついてたし、特に断る理由も無かったからね。

 

「あの時さ、大和が私の抹茶パフェ羨ましそうに見てたじゃん」

「………」

「んでさ、その時、っておーい大和さーん?」

 

大和の方からペンを走らせる音が聞こえなくなった。

何か、顔も紅いし大丈夫か?

 

「おーい。大丈夫か」

「は、はい!大和は大丈夫でしゅ!」

 

私の方にバッと向き直り、顔が真っ赤な上ちょっと目が潤んでる。

可愛い。

じゃなくて、

 

「それ榛名の台詞だし。後噛んでるし」

 

そのころある部屋では、

 

「はくちゅ!」

「ひえー!榛名、風邪ですか!?」

「いえ、榛名は大丈夫です」

「無茶は良くないですよ?」

「榛名。無茶はNOですよ?」

「ですけど、この会議欠席する訳にはいきません。続けてください!」

「わかりました。お姉さま方『志崎提督を金剛型姉妹の婿にする為の会議』続けましょう」

「「「イエス!!!」」」

 

執務室に戻る。

 

「そ、それでその時の事がどうにかしましたか?」

 

顔をずいっと近づけてきたので、私の腰が少し引けた。

いきなりだったので、ちょっとびびった。

 

「あ、ああ。その時、大和にあーんしただろ?」

「え、ええ。しましたね」

「あれって、子供っぽいのか?」

 

そう甘味処に行った時、大和が羨ましそうに見てきたので、クリームとスポンジ部分をスプーンで取ってあーんしてあげた。

昔は妹とかによくしてたのでついついやってしまったが、アレって子供っぽいのかな?

 

何か大和の顔もめっちゃ赤かったし。

こんな子供っぽい事恥ずかしいという事だろうか?

しかも店にいた他の艦娘達の視線が氷点下だった気がするし。

 

うわー。今思うと超恥ずかしい。

あいつら子供みたいな事してるー。って事か?

消えてしまいたい……。

 

「あの……。えっと……」

 

大和は困惑顔だ。

うわー。大和に恥をかかせてしまってたのか?

どうしよう。どうすべきだろう。

 

「…提督は私からあーんされて、恥ずかしくなかったのですか?」

「いや全然恥ずかしくないけど」

 

私は全然恥ずかしくない。何せ昔からやってたからだ。

 

私があーんした後、大和があんみつをあーんし返したので、笑顔で受け取った事まで覚えてる。

あんみつ美味しかったな。

また食べたい。

でも今の時期だからお汁粉もいいかも

 

「だって、昔から家族とやってたからな。恥をかかせたらすまない」

「い、いえ。そういう訳では。私も懐かしい気分に浸れましたし」

 

両手をぶんぶん振って否定する大和。

そこまでのジェスチャーしなくても大丈夫だって。

 

「そ、そうかい。気を悪くしてないならよかったよ」

「え、ええ。大丈夫です」

 

お互い書類に向き直り、仕事を再開する。

 

でも執務室に漂う沈黙は気まずさから来るもので、心地よくは無い。

 

ど、どうしよう。

こんな空気にしたの私だし、私が何とかするべきだよな。

さ、さぁどうやって空気を元の流れにしようか……

 

「あ、あの!」

 

大和が席を立ち聞いてくる。

 

「な、なに?」

「お茶入れましょうか」

「じゃ、じゃあお願いするよ」

「は、はい!」

 

大和が嬉しそうな笑顔で返してくれた。!

結局、大和に気を遣わせてしまった。

 

だらしない…。

 

「では、休憩室からお茶を入れてきますね」

「うん、お願いするよ」

 

執務室内には休憩室への扉もある。

休憩室では、料理を作る事も寝る事も可能だが、私はあんまり使ってない。

執務室で寝る時も腕を枕にして机で寝るか、ソファで寝ることが多いからだ。

だから主に使っているのは秘書艦のこだな。

 

大和が休憩室の扉に手をかけた所で振り返ってきた。

 

「あの!さっきのあーんの件ですけど」

「ああ、うん。どうした急に?」

「大和は子供みたいだとは思いません」

 

そういえば質問に答えて貰って無かった。

どうやら大和はそう思ってないらしい。良かった。他の子にやっても馬鹿にされないな。

 

「ですけど、他の娘にやるのは出来ればよしてくださいね!」

「はいぃ!?それってどういう―――」

「失礼します!!」

 

………どういう事だってばよ?

まぁ、いいや。できるだけ、あーんはよしておこう。

あーんをよく思わない子もいるから気を付けろという事だろう。

深く考えないようにしよう。

 

さて、大和のお茶が楽しみだな。

大和がいれてくれるお茶は美味しいからな。

 

この後、滅茶苦茶苦いお茶が来た。

何でセンブリ茶があるんだよ!

と言うか、誰か注意書き張っておけよ!

万人受けするお茶じゃないだろ!

いつものお茶用の茶筒に入れるなよ!

 

でも大和が涙目で謝って来たので、笑って許して飲み込んだ。

苦いもんは苦いが、空気がいつものような陽気な物に戻ったからか、この苦味も悪くは感じなかった。



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chapter 6-2 死神の一日 午後

クソ長くなりました 注意デース。


 1230

 

 この時間は昼食の時間だ。

 

 え?午前にやった演習と出撃の指揮について書けって?

 勝ったから特にいうこと無いです。

 書類に書くことが増えただけなんで。つまんないですよ?

 

 昼食は秘書艦が作ってくれたりもするが、仕事や場合によっては出撃なんかもさせるわけで。

 だから、あまり負担をかけないためにも一緒に食堂に行って食べることが多い。

 

 そんなわけで、今日も食堂で昼食を取ろうとしているわけです。

 

 食堂も基本的に三、四種類の日替わりランチから選ぶことになっているが、ちょっとしたおかずが欲しいとかいうとすぐに作ってくれる。

 でも、あんまりそういう事はしないけどね。

 

 折角決めてくれたメニュに―にケチつけるみたいだし。

 

 今日は、Bランチに白身魚のフライがあるな。

 これにするか。

 カウンターに行って注文する。

 

「間宮、Bランチ頼むよ」

「は~い!少々お待ちくださいね~」

 

 気が抜けるような感じの間宮の返事がきた。

 

「ご飯はいつものように大盛りでいいですよね?」

「キャベツも大盛りで頼むよ」

「わかってますって」

 

 伊良湖は人懐っこい笑みを浮かべていつものようにでいいかと聞いてきた。

 だから、私も笑顔で返すと、伊良湖は大盛りのご飯をよそった茶碗をお盆に乗っける。

 

「フライ上がったからよろしくね伊良湖さん」

「了解です!」

 

 揚げたてのフライが乗ったお皿に大盛りのキャベツを盛りつけ、お盆に乗っける。

 続いて、味噌汁、漬物をお盆に乗っける。

 

「お待たせしました。Bランチです」

「ありがとう。頂くよ」

「はい。美味しく召し上がってくださいね。あっ、でもソースとかはかけすぎないように、ですよ?」

「わかってるよ。というか私がソースあまりかけないの知っているだろ?」

「ふふふ、そうでした」

 

 いたずらっぽい笑みを浮かべる伊良湖。

 何かその笑顔には敵わないなといつも感じる。

 

「伊良湖さん、おしゃべりもいいけどそろそろ次の人に…」

「はいぃ!そうでした!では、提督さんごゆっくり!」

「ああ、ありがとう。間宮、伊良湖」

 

 厨房の二人に礼を言ってからカウンターを離れる。

 

 席は今ほぼ満席だが、いくらか空いているテーブルもある。

 なので、まだだれも座っていないテーブルに座る。

 だって、自分から相席していいか聞くのって結構恥ずかしいじゃん。

 

「提督、お待たせしました」

 

 大和がハンバーグがメインのAランチを持って右隣に座った。

 

 大和型は、成人男性の私より食べる量が多いのだ。

 ご飯は、私のより大きいし、ハンバーグだってお皿からはみ出そうだ。

 

 このように食堂では、それぞれの艦種に合わせた量の食事が出てくる。

 下手に食事を抜いて実戦時に実力が出ないなんていう事態を避けるためだ。

 

 朝食だって、実は戦艦と空母が私より食べてたりする。

 ウィンナーなんて、一袋分をぺろりと食べている。というかそれより多いかも。

 

「どうしました提督?」

 

 大和の昼食をじっと見ていたので不審に思われてしまった。

 

「いや、何でもないさ。相変わらずよく食べるなって思っただけだよ」

「提督はたくさん食べる女性は嫌いですか」

 

 大和が落ち込んだように俯いて聞いてくる。

 何で、私の女性のちょっとした好みを聞いてくるんだろう…。

 まぁいいや。答えない理由もないし。

 

「私は、たくさん食べる女性は好きだぞ。こんなご時世だが無理して食事抜いて辛そうにされるより、おいしそうに食事を食べている方がこちらも嬉しいし。まぁ食べすぎはよくないと思うが―――」

「そうですか!」

 

 大和が顔を上げ、私の事を見てくる。

 その時の、太陽のような笑顔はとても綺麗な物だった。

 

「じゃあ、私無理なんかしなくていいんですね!」

「言った通りだろう大和。そんなくだらない心配するなと」

 

 私達の背後から突如声が聞こえてきた。

 

「武蔵!?」

 

 大和が声の主に驚いた声を上げる。

 背後にいたのは、相変わらず際どい恰好の武蔵だ。

 祥鳳だって、鎮守府にいる時は、上着来ているぞ。

 戦闘時は、金さんみたいなスタイルになるけど。

 武蔵は演習組の旗艦になって貰っていたので、艤装のメンテが終わって今さっき食堂に来たのだろう。

 

「提督。隣失礼するぞ」

「おう。武蔵演習ご苦労様。いい活躍だったな。まさか大破状態から相手を無理矢理轟沈判定に持ち込むとは思わなかったぞ」

「フッ、日頃の経験と指揮のおかげだ。感謝するぞ相棒」

 

 そう言って、武蔵は麦茶を口に含む。

 

「まぁ、その指揮を無視して突撃した結果だけどな」

「うっ!?ゲホッゴホッ!?」

 

 武蔵は麦茶を喉に詰まらせてしまった。

 私は慌てて武蔵の背中をさする。

 武蔵の突かれたくないところを突いてしまったようだ。

 どのみち、後で注意する予定だったし丁度いい。

 

「お、おい!大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ。でも結果的には良かっただろう」

「良くはないさ。あの後、轟沈判定になったくせに」

「だが―――」

「本当の戦場にIFも過去も無いんだよ。死んだら終わり。残されたものはその事を反省し前に進むしかない。それはよくわかっているだろ?もしもにならないように作戦も指揮も綿密に立てて、その可能性を潰すんだ。それこそ、予想外の事があったら迅速に対応できるようにして、計画通りに事を進める。わかっているだろう?」

 

 作戦とはそういうものだ。

 何度も経験したからわかっている。

 どんなに完璧だと思える計画でも結局は、ちょっとしたひび割れから崩れてしまうのだ。

 だから、予想外の事が起きても自分と仲間で意思疎通し『予想外の時の対応』をできるようにするのだ。

 

 今回は皆が、武蔵の無茶な突撃と言う、予想外の事にすぐさま対応できたからよかった。

 もし皆が、武蔵のせいで崩れた陣形を正せず次々と武蔵のように無茶な突撃して、負けていたのかもしれない。

 今回の演習は、オレと旗艦の機転で、武蔵の援護に回るという事で、犠牲は命令違反をした武蔵だけですんだ。

 その後は、元のプランに従い作戦勝ち(?)をした。

 

 作戦会議の時も誰が危機に陥ったらこの行動に移るとか、割と細かくやっていたりもする。

 まぁ、細かすぎても良くないからプランは3~5個位になってるけど。

 どのプランでも、最悪大破だけで済ますというプランだけどね。

 

 武蔵もそこの所は理解していると思う。

 

 この子、護る事に対して責任感が強いからな。

 ここに来たのも最近だし、仕方ないとは少し思うけどさ。

 多分、味方が大破したのを見て周りが見えなくなったんだと思う。

 

 今回が演習で本当に良かったよ…。

 

「…ああ。すまなかった」

「宜しい。でもお前のそういうやんちゃな所オレは嫌いじゃないんだぞ?だから、下らない事で命を落とすようなマネすんなよ?」

 

 怒っているわけでは無い。だから、武蔵の頭を撫でて安心させてやる。

 はははっ。武人気質だからこういう身嗜みとか気にしない方かと勝手に思ってたけど、柔らかくていい髪してるな。

 

 武蔵は俯いてしまった。

 

「そうか。…そうか」

「そうよ武蔵。無茶は駄目。確かに自分で考える事は大事だけど、あれは周りが見えなくなっていただけ。あの戦闘はあの無茶をしなくても勝てたわ」

 

 大和が武蔵に近づき、武蔵の手を握りながらしゃがみこんで武蔵を見上げる。

 こういうの見ると姉妹って感じするよな。

 やんちゃな妹に注意するお姉ちゃんって感じで。

 実際その通りなんだが。

 

「……うん」

「演習だから良かったけど。あんな無茶しちゃだめよ?貴方がいなくなって悲しむ子は沢山いるんだから」

 

 武蔵もその武人気質と面倒見の良さで、駆逐艦の子達から慕われている。

 だから、武蔵がいなくなった鎮守府なんて想像したくもない。

 皆悲しむし、オレも悲しむ。

 

 そして、オレも皆も泣くだろう。

 泣くのは嫌いだ。

 泣くのは勘弁だしな。

 

「演習では、ある程度無茶をしてもいい。だけど、実戦で無茶はするな?わかったか?」

 

 そう言って、武蔵に小指を突き出す。

 

「…それは」

「ほれ、ゆびきりだよ。知っているだろ?」

「いくら大事な約束事だからと言ってそれは…」

「武蔵。こういうのは形が大事なんだよ。こうやって言葉と一緒に行動も記憶に残しておくといいんだ。わかる?」

「そういうものなのか?」

「そういうものですぜ」

 

 武蔵は納得がいかなそうな顔で小指を絡める。

 まぁ、こんな子供っぽい事気に入らないだろうな。

 でもこういうのは、形を残しておくのも大事だとオレは思っている。

 

 

「ゆびきりげんまん―――」

「待て歌うのか!私もべき歌うのか!?」

「勿論。出ないと意味ないだろ?」

「しかし―――」

「しかしも透かしも無いんだよ。ほれ、やんぞ」

「わ、わかった!わかったからちょっとまってくれ!」

 

 武蔵は胸に手を置いて息を吸って吐いてを繰り返した。

 やがて覚悟が決まったのか、目つきが良くなった。

 

「よし、来い!」

「よし行くぞ」

「「指きりげんまん嘘ついたら針千本飲~ます、指きった!!」」

 

 大和が小さく拍手をしてる。

 何故か目じりに涙を浮かべて。

 そんなに感動する場面だったのか。

 まぁ、重要な場面だけどさ。

 

「武蔵無茶をしたらダメだからね?」

「ああ…」

「約束破るなよ」

「ああ……」

 

 そういうと、武蔵はオレと絡めた指どこか愛しそうに撫でる。

 …まぁ、気のせいだと思うけど。

 

「この武蔵が約束をやぶると思うなよ?」

 

 そして、いつもの武人らしい誇り高い笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、昼ごはんちょっと冷めちゃったけどいい加減食べようぜ?」

「ええ、そうですね」

「ここの飯は冷めても旨いから大丈夫だろう」

「じゃあ、食べましょうかね?」

 

 皆で手を合わせて言う。

 

「「「頂きます!!」」」

 

 少し時間がたってしまったが、私達の昼食が始まった。

 

 

 

 

 1310

 

 

 この時間は、皆のお昼休憩だ。

 

 勿論、オレも含めて。

 

 この時間は、仕事の時間じゃないから、一人称はオレになるぞ。

 

 基本この時間は、駆逐艦の子たちと遊んだり、執務室に籠って本を読んだりする。

 オレは乱読家だから色々と読んだりする。

 最近読んでいるのは、艦隊これ○しょんという名のあちこちの鎮守府の事を題材にしたラノベを読んでるが割愛。

 こいつは高校の時の悪友からダンボールで送られてきたものだ。

 

 添付されていた手紙には、

 

『いっちー!お前もこんな生活送っているのか!?何ともうらやま――ゲフン!けしからん』

 

 と、筆ペンで書いてあった。

 

 何か突っ込みたい事いっぱいあったが、メールで返事として、

 

 

『還れ。本は預かっといてやるから』

 

 とだけ返した。

 

 まぁ、悪態じゃなくていつものやりとりみたいな感じだ。

 

 後、還れは誤字じゃない。そのままの意味だ。

 

 さて、話が逸れた。

 

 今日は、お昼の時に夕立達に遊ぼうと言われたので中庭に行く。

 

 天気は、晴れ。冬だが結構暖かいのだから遊ばなきゃ損だろう。

 

 動きづらいので、上着は脱いでウィンドブレイカーを着てから向かう。

 

「提督さんこっちこっち」

 

 中庭に向かうと夕立の元気な声が聞こえた。

 

「今行くぞ」

「早く!早く!」

 

 夕立の急かす声が聞こえたので小走りで夕立達の所に行く。

 

「おっそーい!提督、私はもっと速いよ!」

 

 何故か隣に島風がいた。しかも、煽り付きだ。

 その島風は、スピードを上げてオレの事を引き離そうとしてくる。

 

 オレはため息をつきながら隣で走っている島風のペースに合わせる。

 

「やるね提督!どんどんスピード上げるからね!」

「いいぜ。夕立達の所まで競争だ。今日こそ勝ってみせろよ」

 

 島風との突然なかけっこ勝負は、9勝0敗一分けだ。

 ずっと、勝っている。

 

 水上なら絶対に勝てないが、ここは陸地。

 ましてや島風は、駆逐艦だ。

 いくら速度が速くても海上での話。

 陸上なら、勝てる奴は何人かはいる。

 まぁ、同年代ならだれも島風の相手にならないのは事実だし、全国大会行くくらいじゃないと島風には勝てないだろうけどな。

 

 残り30m。

 

 いつの間にか、睦月と天津風がゴールテープを広げていた。

 

 残り20m。

 

 島風が、更にスピードを上げるがオレは歩幅を大きくすることで隣に並ぶ。

 まだまだ、余裕と言う笑みを島風に浮かべる。

 

 残り10m。

 

 ここからは、オレも本気。

 腕の振り方を適当な振り方から、大きく素早くに変える。

 このまま、風と一体化するように走り切るのだ。

 

 残り、5m。

 

 僅かながら、オレの優勢。

 このまま維持する。

 だが、油断はしない。

 島風の爆発力は侮れない。

 

 残り、1m。

 

 オレは足はゴールに届きかけているが、胸部はまだゴールから遠い。

 だが、島風は飛び込むような走りを見せ、ゴールテープに飛びつこうとした。

 

「「ゴーーーール!」」

 

 村雨と天津風の声が、風を切る音に混じって聞こえたのでスピードを落とした。

 

 オレは、膝に手を置いて呼吸を整える。

 正直、上着を脱いだとは言え、制服のズボンのままなのだ。地味に動きづらい。

 とはいっても、負けてもこれを言い訳にはしない。

 勝負を受けたのはオレ自身の意志だからだ。

 

 島風はぺたんと地面にへたり込んで息を整えている。

 

 オレ達から見ると、同着のゴールだった果たして、

 

「「判定は!!」」

 

 オレと島風の声がハモる。

 

「ちょっと待っててね」

 

 時雨がゴールで構えてたビデオカメラの映像を確認する。

 

「結果が出たよ」

 

 少し時間が立って時雨と一緒に判定をしていた響が白露耳打ちする。

 

 白露が、オレと立ち上がった島風の間に立ち腕を持つ。

 

「さーあ、果たして一番は?」

 

 村雨、陽炎、雷が結果発表の時のドラムロールの音マネをする。

 

「一番は!!!志崎生希提督です!!!!」

 

 白露が、オレの腕を空高く掲げた。

 

「よっしゃあ!!!!」

 

 勝利とはたとえ小さなものでも嬉しく感じるものだ。

 それに、歳や性別など関係しない。

 なので、オレは大声で勝利の雄叫びを上げている。

 

「また、負けっちゃったか~。でも次は負けないからね!」

「おう、また何度でも勝負を挑んで来いよ。また、受けて立つからさ」

「うん!!!」

 

 勝者と敗者、今その隔たりを無くし、好敵手として認め合った者同士としての握手を交わす。

 周りからは、歓声と島風とオレによく頑張ったという声をかけてきた。

 だが、このかけっこだけで、昼休みは終わらない。

 

「夕立またせたな。早く遊ぼう」

「ううん。大丈夫っぽい!」

「今日は何するんだ」

「今日は、ドッヂボールをするのです」

 

 ドッヂボールか懐かしいな。

 高校生の時にやったのが最後だったな。

 上手くなげれるかな…。

 

 いつの間にか、オレらの周りに白線が引かれていた事に気が付いた。

 

「良いよ。早くやろう」

 

「はーい。じゃあ、皆近くの人とじゃんけんしてねー。じゃんけんの勝ちチームと負けチームに分かれるからねー!」

 

 村雨の言葉で皆近くにいた子とじゃんけんを始める。

 オレは近くにいた暁とじゃんけんしてパーで負けたので負けチームとなった。

 

「じゃあ、始めっぽい!」

 

 夕立の元気な声を合図としてドッヂボールが始まった。

 結果として、オレらのチームは僅差で負けた。

 

 オレは最後の方まで生き残っていたのだが、壮絶なフェイント合戦と言う名の読み合いに負けてしまい当たってしまった。

 何回か外野から当てて戻ったりしたんだけどな。

 やっぱり、現場で背中預け合っている奴らにはかなわないのかもなぁ。

 

 

 

 

 

 1400

 

 

 

「――督、起きてください。提督」

 

 優しく、気遣われるような揺れで私は目を覚ました。

 顔を上げて、バンダナの位置を軽く直す。

 ここでやっと大和が肩を揺すって起こしてくれたことがわかった。

 

「んあ?あ、おはよう大和」

 

 欠伸を噛み殺して挨拶をする。

 また瞼が閉じそうになったので、目を擦る。

 

「おはようじゃありません。もう休憩は終わりましたよ」

 

 時計を見ると1400だった。

 

 お昼休憩は、1300から1350までだ。

 

 ドッヂボールは、1315から始まり、1340で終わった。

 

 少し手持無沙汰になったので執務室で腕を枕にして机で寝てたという訳だ。

 

 何故1400に起こされたかと言うと、1350から1400までは午後の業務に移るための艤装の点検やら準備やらの時間だからだ。

 だから、既に準備を終えていたりする奴らには暇な時間で、準備時間の10分は休憩時間の延長みたいなものだ。

 なので私もその暇な一人だ。

 だって、執務室で書類やる準備すればもう終わりだし。

 

「提督涎が垂れていますよ」

 

 大和がハンカチを取り出して、私の頬に優しく触れる。

 そして、そのまま何か冷たく感じていた部分にハンカチが触れたようだ。

 

「少しは身嗜みも気にしてくださいね」

 

 ふふふっと優しいお姉さんな笑みに目を奪われそうになったが、伸びをして平常心を取り戻す。

 

「はいはい。ごめんな大和」

「全く子供なんですから」

 

 またもやあの優しい笑みを見せてくれた。

 本日二回も子供と言われたことに、バツが悪くなったことにして頬を掻いた。

 

「そう子供扱いするなって。私は昔はこれでも現地指揮官だったんだぞ?」

「知ってますよ。でもいいじゃないですか。指揮官がそんな面を持ってたって」

「そんなもんかねぇ」

「そんなものです」

 

 そんなもんかねぇと、いまいち納得のいかない顔を浮かべる私に大和は苦笑いだ。

 何か、すっかり私も丸くなったのかもな。

 

「でも、しっかり皆が無事に帰るための作戦を立ててくれる素晴らしい指揮官だと思ってますよ」

「そうですよ」

「そうです。多分みんな思ってますよ」

「大井はよく作戦が悪いだの言ってくるぞ?」

「それもわかってます。大井もしっかりと提督の事わかってくれていると思いますよ」

「そうかな」

「そうですよ。提督も反省会に毎回参加しているじゃないですか。提督の誠意はわかってくれてますよ」

 

 こ、この大和と言う娘は女神か何かなのか!?

 何でこんなに、お姉さん系が好みと勝手に私に聞く台詞ばっか言ってくるのだ!?

 クソ!私キラーの属性があるのか!?

 現地潜入でも下手な誘惑に負けたこと無かったのに。

 

「あ、ありがとう…」

「はい。提督がわかってくれれば宜しいです。あなたは私達の指揮官なのですからもっと胸を張ってください」

「お、おう、助かるよ」

「どういたしまして」

 

 すんごく恥ずかしくなったので大和から顔背ける。

 何か、頬が熱い気がする。

 

「提督って可愛い所ありますよね」

「う、うるさい。軍人に可愛さなんて不要だ!」

「ほら、そういうところ。何でしょう?私のお姉さんな所がくすぐられるのでしょうか?」

「うるさいうるさいうるさいうるさーーーーい!!!!!」

 

 うー。やっぱりお姉さん属性に甘えたい一面が出てしまうのか。

 

 何とかしないと。

 

 でも、あまり治す気はしないけどな。

 

 

 

 

 1530

 

 

 大和と書類について相談し合っていると、突然扉がバーーンと開かれる。

 

 私と大和は特に気にも留めず相談を続ける。

 

「HEY!テイトクゥ~!」

「私達とお茶会にしましょう!」

「書類仕事もお疲れですよね?」

「休憩も大事だと思いますよ?」

 

 突入してきたのは金剛型の四姉妹だ。

 彼女は、茶器の入ったバスケットとお菓子の入ったバスケットを持っている。

 

 大和は彼女たちの方に向き直ると

 

「帰ってください」

 

 とひきつった笑みを浮かべて彼女たちの誘いを断った。

 

「大和さん、貴方には聞いてません」

「そうです。私達は提督にお聞きしたんです」

 

 霧島の言葉に、榛名が同意する。

 

 大和に青筋が浮かんでいる気がする。

 ヤバい。絶対ヤバい。

 

「何ですって!!!」

「ヤマト、そんなに怒っちゃNOですヨ」

「お姉さまの言う通りです。怒ると小皺が増えちゃいます」

 

 金剛の言葉を比叡が笑顔で毒を吐くことでアシスト。

 大和が笑顔で持っていた書類をくしゃくしゃにしてる。

 別に目を通すだけの奴だからいいけど。

 ヤバい。ヤバいって!

 

「大和さんは今日は秘書艦として、提督とずっといるじゃないですか」

「そうです。大和さんは提督を独占しているようなものじゃないですか!」

 

 霧島の言葉に、比叡が続ける。

 

 いや独占も何も秘書艦だから当たり前じゃないか。

 

「提督もお疲れの筈です。休憩も必要ですよ」

「だから、ワタシ達とTea timeにするデス!」

 

 榛名の気遣いの言葉に、金剛が同意しお茶会の開催を大和に要求する。

 

 だが、大和も引かないだろう。

 

「必要ないです!提督が喉が渇いたと言ったら、大和が用意しますしお茶菓子も完備しています!」

 

 大和さんやそこまで否定しなくても…。

 

 別に今日の業務は多い方じゃないし、お茶会してもいいと思うけど。

 

「和菓子ばかりだと、提督も飽きてしまいますよ」

「だから、お姉さまと私達でスコーンやクッキーも用意しました」

「それに書類ばっかりで変化なしではつまらないでしょう?」

「今日は英国のRoyal family御用達のteaもありマース」

 

 そういうと、金剛は幸せそうな顔でバスケットの中から茶葉の入った缶を取り出した。

 

 王族御用達の紅茶。興味がある。

 緑茶も好きだったが、イギリスの空母に世話になっていた時に飲んだ紅茶がきっかけで紅茶もかなり好きになっている。

 

 今更だがクッキーにも紅茶が練りこまれているのだろう。

 

 室内が紅茶の匂いで満たされていることに気が付いた。

 

「別にいいんじゃないか?」

「て、提督!ですけど…」

「Oh!流石、テイトク!」

「そのかわり大和も入れてやる事。それが条件」

「榛名は構いません」

「私も大丈夫です」

「さっきは突っかかってしまいましたが、もとよりそのつもりですよ」

「YES!皆でやるデス!」

 

 何とか場の空気も落ち着いたか。

 折衷案出すの遅かったら拙かったかもしれないな…。

 決して、紅茶につられてわけじゃないぞ!

 そこは間違えるなよ!

 

 金剛達はてきぱきと来客用のテーブルにお茶会の準備を進める。

 

「大丈夫ですか提督…」

「まぁ、大丈夫だろ。…どんだけ居座るかが問題だけどさ」

「その時は、大和が何とかしますのでご安心を」

 

 大和が何やら黒いオーラを纏って返事をしてきた。

 すごく、怖いです。

 

「提督。準備が出来ましたのでどうぞこちらに」

 

 榛名に促されたので、私と大和は来客用の席に座る。

 

 画して、お茶会が始まった。

 

 王族御用達の紅茶はやっぱり美味しかった。

 何だろう、香りも良いしちょっとした苦味もおいしさとして受け入れられる味だった。

 

 金剛達お手製の洋菓子も美味しかったので文句なし。

 丁度良いお茶請けだった。

 

(ヤマトもいましたケド)

(お茶会計画は成功ですねお姉さま!提督の胃袋もがっちりです!)

(強いて失敗を言うとしたら)

(((榛名がちゃっかり提督の横に座っている事ですね(デス))))

 

「…?どうした金剛、霧島、比叡?」

 

 こそこそ話している三人が気になったので声をかける。

 

「「「いえ、何でも」」」

 

 オレの中の疑問は解消されなかったけどまあいいや、隣で幸せそうに駆逐艦の子達と遊んだ時の事を榛名に視線を戻した。

 

「それで、その時吹雪ちゃんがですね――――」

「ああ、吹雪はああ見えて結構芯が強いから――――」

「そうですか!提督もわかってくれますか!」

「ああ、もちろん。ああいう子達の頑張る姿を見るのは楽しいからな」

「ふっふー。テイトク、ワタシも頑張ってますヨ?」

「ああ、知っている。訓練の監督ありがとうな」

「私もお姉さまみたいに頑張ってます」

「ああ、金剛の良い所はいっぱいあるが、比叡は比叡だ。比叡らしいのが一番だぞ。無理はせずにな」

「霧島も作戦の内容いつも考えさせていただいてます」

「わかっているよ。ありがとう霧島。君の手伝いのおかげでこうして仕事の合間にお茶会ができる」

「もう、大和だってがんばっているのに」

「わかってる。大和には練度の低い子達の艦隊の旗艦を任せているからな。とても心強く思っているよ」

 

 何かいいかもな。

 たまには皆にこうして感謝の言葉を言うのも。

 私は別にこういう言葉をかけるのは恥ずかしく思わない。

 私達はいつ死ぬかわからない。

 勿論、誰一人として勝手に逝かせる気は無いけどな。

 だから、こういった言葉はしっかりかけておかないと。

 皆には感謝してもしたりないから。

 

 私は、深海棲艦にまともに太刀打ち出来ない、ただの提督でしかないのだから。

 

 優しい紅茶の匂いに包まれた憩いのお茶会は幕を閉じ、私と大和は業務を再開した。

 

 

 

 1820

 

 

 

「本日の業務は終了。お疲れ大和」

「はい。お疲れ様です提督」

 

 今日も無事に業務を終えることが出来た。

 

 幸い今日の書類の数は少ないしもう事務に提出した、出撃も練度の低い艦娘達を近い海域に出撃するだけなのでそんなに忙しく無かった。

 遠征も資材は潤沢だから必要なし。

 よって、今日の業務はすべて終わりだ。

 

 大和と共に執務室を出て鍵をかけた。

 

「提督これからどちらに向かうのですか?」

「オレの部屋。今日は格闘術の指導するからな。道着着ないとな」

「そうですか…。提督と夕ご飯一緒に食べれると思ったのですが…」

「悪いな。また今度一緒に食べよう」

「ええ、約束ですよ?」

「ああ、その時は大和が夕ご飯作ってくれないか?大和のごはん美味しいからさ」

「その時は腕によりをかけて作りますね」

「うん。ありがとう。お疲れ様」

「お疲れ様です」

 

 大和に手を振って別れる。

 大和は笑顔で見送ってくれた。

 

「んじゃあ、早く弟子共の相手しないとな」

 

 肩を回し、指の関節をパキパキとならす。

 まだ、指導は始まって無いがもう気分が高揚している。

 何せ、提督になってから唯一暴れられる時間と言っていいのだ。

 

 ははは。早く道着に着替えないとな。

 

 少し、歩くペースを速めて私室に向かった。

 

 

 1920

 

 

「長門!もっと踏み込め!川内!掴むならもっと懐に入ってから掴め!」

「心得た」

「了解っ!」

 

 只今、格技場にて指導中。

 今日の弟子は、長門、武蔵、川内、神通、日向、加賀、利根、祥鳳、木曾、不知火、の10人だ。

 

 皆道着に着替えている

 基本参加は自由だし、強制もしない。

 習いたい奴だけが習う感じだ。

 

 オレは、叔父さんから神尾流古武術と父さんの方のじいちゃんから名黒流殺人武術を習ってた。

 

 オレの母さんの家系にのみ伝わる神尾流、これは敵を制圧するだけの柔術系の格闘術だ。

 オレの父さんに伝わる名黒流暗殺術は、志崎の家系の本家と言われる名黒が大陸を渡り歩いて極めたいわば殺人空手みたいなものだ。

 

 相対する二つの武術だが、この二つを上手く組み合わせてオレの物にしている。

 

 本来両方とも自分の親族にしか伝承してはいけないのだがある程度は教える事を認めている。

 

 家系だけに伝えたらいつか流派が衰退してしまうからとの事。

 

 殺人武術とか言っているけど特にご心配なく。

 今はある程度マイルドになっているらしいので。

 まぁ、そっちの物はあまり教えるつもりは無い。

 普通に危険で命奪える技とか沢山あるし。

 

 だから、主に神尾流の方を教えているわけです。

 

 因みに、オレは二つとも師範まで行ってます。

 

 叔父さんは名誉師範です。

 普通におかしい人です。

 何だよ名誉師範って。何したんだよ。

 

 只今、皆で組手中。

 急所を狙うのは無しだけど、投げも関節技もありにしてる。

 但し、明日の業務に響くような傷は負わないようにさせることが条件だ。

 

「ふっ、流石は長門中々いい拳だ」

「武蔵こそ。不格好だがいい蹴りだ。お前がしっかりとした蹴りをうてるのを楽しみにしているよ」

 

 長門の拳を武蔵が掌で受け止めてそのまま流し、蹴りを喰らわそうとしたが不格好故長門に足を掴まれそのまま片足で武蔵が硬直している図。

 

 長門は、武蔵の脛に下段前蹴りを喰らわせ前のめりにダウンさせた。

 すぐさま武蔵の背中に乗り右のひじの関節に武蔵の顎を乗せ、顔を腕で固定し武蔵の額の近くで左腕を交差させ、武蔵の顔面を拘束した。

 そのまま、ゆっくりと左周りに顔を動かしていく。

 

 終わりだな。

 武蔵は上手く抵抗できて無い。

 両手は長門の足に抑えつけられていて上手く動かせないからだ。

 武蔵は辛そうに息を吐き始めた。

 

「長門、止めてやれ」

「了解した」

 

 流石にそれ以上やると、あらぬ方向に顔が行ってしまうで止めるように促す・

 長門も拘束を外し、武蔵の上から立ち上がる。

 

 武蔵も立ち上がり息を整える。

 

「流石、長門。教えていた期間が一番長いだけはある」

「当然だ。私をなめるなよ?」

 

 長門は得意げな笑みを浮かべる。

 

「でも、アームロックはやりすぎ。両腕を背中で拘束するか腕ひしぎ何かで良かった。わざわざアームロックするな」

「むぅ、すまない」

「武蔵は下手に隙を見せすぎ。狙いが露骨。褒められたものじゃないけど、防御を無理矢理崩せる力があるのはいいかもな」

「そうか。でもまだまだということか」

 

 長門は、弟子1号だから今いる奴らの中でも強い部類だ。

 武蔵は最近着任したので、まだまだ動きは不格好、だからと言って手加減してやれとは言わないけど。

 

「そう。もう一回長門の相手を務めてやってくれ」

「心得た」

「武蔵も長門の動きから学べる所は学んでくれ」

「わかった。では長門、頼むぞ」

「ああ、こちらこそ」

 

 二人はちょんっと拳を合わすとまた構えを取り組手を始める。

 

 

 さて、次の子は、

 

「神通ちゃん、遠慮はいらないから早く来なよ」

「その通りだ神通。下手に遠慮はしなくていい。甘えは隙を生む」

「……はい!」

 

 川内は、割と最初期からいた。神通は一か月前位だ。

 

 川内の胸部にパンチを打ち込もうとするが、川内は神通の腕を掴み自分の背を神通の腹部に当てそのまま投げる。

 神通は受け身を取って衝撃を緩和する。

 

「綺麗な動作だな川内」

「ふふふ、甘いよ神通ちゃん。そんなんじゃいつまでたっても私に勝てないよ」

「まだ…いけます!」

「良い眼だ神通。華の二水戦旗艦の力その程度じゃないだろう?」

「はい!」

 

 そして、川内、神通はまたにらみ合った。

 

 ここも大丈夫かな。

 

「なぁ、何でお前らも来てるの?」

「それは―――」

「私達はまだまだだと自覚しているからです。だから本日も参加した次第です。」

 

 さっきから高度な読み合いを続ける日向と加賀が答える。

 

 二人とも最初期のメンバーで、弟子2,3号位かな。

 

 正直この二人はここに通わなくても十分強い。

 

 毎朝鍛錬を怠ってないのは知っているし、オレも普通に苦戦する位には強い。

 負けることは無いけど。

 だから、正直後は朝練組で高め合っているだけでも十分なのだ。

 

 今でも十分綺麗な動きをしているのでオレの教える武術で余計な動きを加えたくないのが本心だけど。

 

「まぁ、いいや。そうやって頼ってくれるのは嬉しいし」

「では、別に構わないだろう」

「いやそうだけど。お前たちの綺麗な動きに別の流派の動きを混ぜて下手に崩したくないんだが」

「二つの流派を組み合わせた動きをしている貴方が言えた事で無いでしょう」

「ぐっ!?まぁそうだけど」

「まぁ、そうなるな。下手な言い訳はよすことだ」

「言い訳じゃ無くて割と本心なんだけど」

「さぁ、早く再開しましょう」

「ああ、そうだな」

 

 二人は再び構え直す。

 

「そう言えば。この前、こっそりと提督と二人っきりで剣術の特訓をしていたらしいけど本当なのかしら?」

「君こそ、この前提督に逆セクハラまがいの事をしながら弓術を教えていたらしいじゃないか」

「さぁ、何の事かしら?」

「そうか、それなら私も身に覚えがないな」

 

 お互いあまり表情を変えることが無いのに何だろう二人の無表情がとても怖く感じる。

 

「ふふふっ、気分が高揚します」

「ふっ、こちらこそ興が乗って来た所だ」

 

 そして、二人が激突した。

 

 もうこいつらは心配するだけ損な気がする。

 

 とはいえ、オレの教えでどんどん無駄に強くなっているのは事実だけど。

 

 さぁ、次は、

 

「さぁ来い。吾輩は逃げも隠れもしないぞ」

「はい。よろしくお願いします」

 

 利根は、弟子5号だ。

 祥鳳も割と最近習いに来た子だな。

 

 利根は妹の筑摩に甘えっぱなしだと思われることが多いが、うちの利根は結構姉御肌である。

 新しく来た子に教えるのも上手いから助かっている。

 

「利根、祥鳳はどうだ?」

「うむ。筋は悪くない。正直吾輩としても教えることが無くなってきているほどじゃ」

「いえ。私なんかまだまだですよ」

「そういう謙虚な姿勢もいいところじゃ。後はひたすら経験を積むといったところだ」

「だってさ。頑張れ祥鳳」

「はい!ありがとうございます!」

 

 祥鳳は一度利根に礼をしてから構え直し、利根に掴みかかった。

 

 ここも心配いらないかな。

 

 次は、

 

「言いねぇ。その蹴り痺れるよ不知火」

「あまりなめてかかると寝首をかかれますよ?」

 

 おー、怖い怖い何か不知火が殺気だってるよ。

 木曾は飄々と不知火の攻撃を捌いたり躱したりしているが、不知火は攻撃が当たらずいらだっているようだ。

 

 木曾は弟子6号だな。

 不知火は1か月前から武術を習いに来た。

 

 木曾は空手の殴り合いが得意だ。

 こちらとしても空手の技術は教える手間があまりかからないので助かっている。

 

「不知火、あまり何も考えずに殴るのはよくない。動きが単調になってるぞ」

「っ!はい!」

「木曾たまには反撃しろ」

「そうか。じゃあ」

 

 木曾は躱すのを止め不知火に前蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐっ!」

 

 不知火は畳の上に膝をつき、お腹を押さえてうずくまる。

 いい蹴りだった。木曾が躱すのに専念していると思わせてからの前蹴り。

 中々に躱しづらいものがあるのだ。

 

「甘いぞ不知火。そんな調子じゃいつまでたっても俺に勝てないぞ」

「うっ……。なめるなぁ!」

 

 猟犬のような眼で木曾を睨みつける。

 俗に言う、戦艦並の眼光という奴だが。

 木曾は軽く肩をすくめるだけでその眼を恐れたりはしない。

 不知火は、立ち上がると木曾に掴みかかるが、すぐさま振りほどかれてしまう。

 

「頭に血が上りすぎだ不知火。もう少し落ち着いて戦況を分析しろ」

「すいません司令官」

 

 不知火は一旦木曾から離れ、深呼吸を繰り返して平常心を取り戻した。

 

「見苦しい所をお見せしました木曾さん。」

「平気だ。それより落ち着いたか?」

「はい。何とか…」

「じゃあ、楽しもうぜ?」

「ええ。今度は簡単には行きません」

 

 二人は、好戦的な笑みを浮かべて睨みあい、やがて激突した。

 

 オレは皆の様子が見られるところで正座し組手の様子を見守ることにした。

 

 ―――――――

 

 その後も、組手の相手を変えたりしてつづけた。

 オレは組手に参加したかと言うと、最後の一回だけ参加した。

 何故、一回しか参加しなかったかと言うと

 艦娘達は入渠施設に行けば早い時間で傷が治るがオレは人間だ。

 残念ながら、怪我なんかしたら次の業務に響くし、完治には結構な日にちがかかってしまう。

 本当は皆と組手したいのだが、こういった理由で、艦娘達から手加減されるのも嫌なので、一回だけ参加する事にしている。

 

 あーあ、オレも艦娘みたいな強化が受けられたらいいのに。

 そうしたら、こいつらと戦場で暴れまわれるのに…。

 楽しそうだなぁ。戦場に楽しさを求めるのは戦士としての性なのかもな。

 

 

 だからと言って、ニューハーフにはなる気はないからな!

 なったところで、艦娘に慣れる保証もないしな!

 と言うか、オレは男でいいからな!

 

 

 

 

 

 

 2000

 

 

「じゃあ、今日の稽古は終わりとする。次の稽古までに各々の課題に取り組むこと。わかったか?」

 皆「押忍!!!!ありがとうございました!!!!!!!」

 

 やっぱり、武道の掛け声は押忍だよなー。

 オレも教えて貰っていた時これだったし。

 

「提督。次の開催はいつですか?」

 

 不知火がタオルで汗を拭いながら聞いてきた。

 この稽古は、不定期なので、次やるのは何日だとかはあまり言えない。

 

 不定期の理由は、オレの業務は基本的に忙しいからだ。

 だから、今日みたいに仕事が少ない日にしか出来ない。

 仕事の多さは書類次第だしさ。

 今日は、偶々書類少ないの知ってたから朝長門に言えたけど。

 

 長門を師範代に任命するのは早くても6~8年先だと思うし。

 師範代がいればいいんだけどね。

 そうすれば、オレの都合に左右されにくくなるし。

 

「悪いけど、わからないな。また、連絡するよ」

「そうですか…」

 

 不知火はがっくりした顔で俯く。

 不知火なりにこの稽古の時間を楽しんでくれているのかな?

 そうだといいけどな。

 

「次の開催を楽しみにしてますね」

 

 神通が儚げな笑顔を浮かべて言ってきた。

 神通も楽しんでくれているようだ。

 こうやって、行ってくれる子がいるからやりがいがあると言えるだろう。

 

「じゃあ。格技場閉めるからみんな早く出てくれ」

 

 皆が格技場からでていった事を確認し、格技場の鍵を閉めた。

 

「ねぇ。提督一緒に夕ご飯食べない?」

 

 鍵を閉めた所で川内に夕食に誘われた。

 まぁ、大和との約束は今度夕食作ってもらう約束だし。

 

「まぁ、いいぞ」

 

 オレの返事を聞いた川内は嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「やった!神通ちゃんも一緒に行こ?」

「ええ、じゃあ那珂ちゃんも呼びましょうか」

「オレは何人いようと構わないぞ」

「ありがとうございます提督」

 

 食事は一人だとつまらないしな。

 やっぱり大人数で話したりしながら食べるのが一番だな。

 行儀は良くないかも知れないが、そっちの方がご飯も美味しく感じるし。

 

「後、それとさ…」

 

 川内がちょっともじもじしながら聞いてくる。

 そして、神通から隠すようにオレの耳に手を当てて言ってきた。

 

「今日も一緒に寝ていい?」

 

 ちょっと待ってくれ。

 この忍者何と言った?

 今日『も』?

 そうか、そういう事か。

 お前か夜戦忍者。

 今日の朝、起きるの早かった原因は。

 

「駄目だ。お前今日布団に潜り込んでいたんだろ」

「いいじゃん。ケチ~」

「姉さん?提督に迷惑をかけてはいけないといいましたよね?」

 

 何か神通が駆逐艦たちの訓練の時以上に怖いオーラを纏っている。

 しかも、神通特有の儚げな笑顔なままだから尚更怖さに拍車をかけている。

 

「わー!!待った!落ち着いて神通ちゃん!」

「姉さん。私はとっても落ち着いていますよ?」

 

 うわー。黒いオーラが更に黒くなってる。

 さっきの稽古中にもそのくらいの気迫出してくれればいいんだけどな。

 そうすれば、逆に川内に勝てるだろうに。

 そんなこと思いながら二人の仲睦まじい姿を傍観してると追い詰められた川内がこんな提案をしてきた。

 

「そ、そうだ。神通ちゃんも一緒にどう?勿論、那珂ちゃんも一緒にさ!」

「おい、2日続けて安眠妨害は止めろ!」

「いいじゃん。減るもんじゃないし」

「減るんだよ!オレの大切な何かが」

「て、提督と添い寝…」

 

 神通はオレと眠る事を想像してか、顔をほんのり赤くして顔を振っている。

 

「ほら、提督。神通ちゃんも満更じゃないみたいだよ?」

「やん!提督そんなところ…」

「神通戻って来い!変な想像すんなって!」

 

 この後、結局二人に押し切られ、一緒に寝る羽目となった。

 しかもオレの部屋で、だ。

 逃げ場が無い…。

 助けて。何でこんな事になったんだ…。

 

 

 

 

 2320

 

 

 稽古の後、それぞれの入浴場にて汗を流し、川内型姉妹はオレの部屋に来た。

 その後、姉妹で料理を振る舞ってくれた。

 

 凄く美味しかった。

 前も料理を作ってくれたけどまた腕を上げたようだ。

 

 その後は、ゲームをしたりテレビを見たりトランプをしたり、興が乗ったので少しだけトランプを使った手品を披露したりした。

 

 そして今は、その手品が終わったところだ。

 

「凄いね。どうしてわかったの?」

 

 川内が聞いてくる。

 

「秘密だ。考えれば結構簡単な物だ」

 

 今回行った手品は、スペード、ハート、ダイヤ、クローバーの1を使った物だ。

 

「うー。那珂ちゃんわかんないよー!神通ちゃんはわかった?」

「いえ、全く…」

 

 どうやら、皆わかって無いご様子。

 まぁ、そう簡単にわかられても面白くないから迷って貰って結構。

 

「迷え、迷え。そういう顔とか見るの楽しいしな」

「うー、提督のイジワル」

「何とでも言うがいいさ那珂よ。言った所でタネは教えないがな」

 

 おー良い反応。

 こいつは今度の手品ショーで使えるな。

 

 オレの鎮守府では月に何回かオレの手品ショーをやることになっている。

 

 元々は響が秘書艦の仕事終わって、他の暁型の子と一緒に暇だとごねてきたときに手品を披露したのが始まり。

 その後も本当に稀に色んな子に披露してたけど、皆がもっとたくさんやってほしいと言ってきたので手品ショーをやる羽目となった。

 手品ショーでは、難易度レベル1~3までのマジックを行い、タネが解った奴からオレに手品を再現する。

 そして、再現できた手品によってご褒美を与えるというシステムだ。

 期限は夕飯までだ。

 

 レベル1の報酬が、オレの手作りのお菓子をあげる。

 レベル2が間宮達の甘味処の限定スイーツが食べれるチケットをあげる。

 レベル3が、オレが同意できるレベルで「何でもいう事を聞く」というものだ。

 

 何でもと言うのは、休暇が欲しいとか、どこどこに行きたいとかでもオッケー。

 他の要望も叶えられそうなら聞くというもの。

 

 まぁ、レベル3は結構難しいからあんまり達成できた奴はいないけど。

 でも、達成したこもいるけどね。

 あれは、驚いた。

 どんな要求をされるのかとビクついたが意外とあっさりとした要求だった事にも驚いた。

 

 今披露した手品は、レベル2.5相当かな?

 

 ちょっと難しいかな。

 何せ、川内が引いたカードが悪かったかもしれない。

 まさか、ダイヤを引くとは…

 

「ほら、シンキングタイム終了だ」

「え~もうちょっと待ってよ」

「ね、姉さん。いくらなんでも…」

「わかった。神通もそんな寂しそうな顔すんなって。後5分待ってあげよう」

「ねー提督。もう一回やってよ」

「よしきた。じゃあ、今度こそ見破ってみせろよ?」

「うん!」

 

 おー、いい那珂ちゃんスマイルだ。

 いつもの那珂ちゃんスマイルもこんな風な笑顔だったら色んな子がライブを見に来るだろうに。

 

「じゃあ行くぞ?」

 

 スペード、ハート、ダイヤ、クローバーの1を裏面にしてシャッフルする。

 

「私にもやらせてよ」

「いいぞ川内」

 

 この時のシャッフルを怪しまれたのか、川内にシャッフルさせろと言われたが問題ない。

 気の済むまでシャッフルできたのか得意げな顔で山札を渡してきた。

 

「はい。取りあえず怪しい所は無いかな」

「よし。じゃあ、神通この中から一枚を選んでくれ」

 

 トランプをテーブルの上に広げる。

 たった4枚だが、素早く綺麗に扇形に広げる。

 魅せは手品師の重要なポイントだ。

 

 ほら、那珂の目がきらきら光っているぞ。

 二人もおぉーと関心の声を上げる。

 

「ほらほら。神通早く」

「すっ、すみません。ではこれを」

 

 ちょっとぼおっとしていたのが恥ずかしかったのか、耳を赤くしてカードを取る。

 

「じゃあ、オレは残りのカードは後ろ手に持って見えないようにするから、神通の選んだカードを覚えてくれ」

「ふむふむ、なるほど」

 

 川内が含みのある笑みを浮かべてこちらを見るが、オレは涼しい笑みを浮かべえるだけ。

 眼も川内から離さない。

 目は口ほどに物を言う。離すと返って怪しまれる。

 まぁ、目を見ても無駄なんだけどね。

 

 ずっと、見つめ合ってて恥ずかしくなったのか少し頬を赤くして川内が目を逸らした。

 おーおー、うい奴じゃのう。

 

「そろそろいいだろう。じゃあ、カードを好きな所に戻してくれ」

「はい。ではここに」

 

 そう言って、おずおずと神通は一番下にカードを戻した。

 

「じゃあ、那珂。山札を切ってくれ」

「えっ!?大丈夫なの?」

「おう、平気だ。だからやってみ?」

 

 那珂はオレから山札を受け取ると、元気に1、2、3と言いながら山札を切る。

 神通が訝しげな眼を浮かべてきたが、知らんぷり。

 だって、本当に大丈夫だし。

 

 十分切れたと判断した那珂が山札を返してきた。

 

「じゃあ、カードを広げるよ」

 

 そして、カードをまた鮮やかに広げた後、全て表面にする。

 

「さぁ、提督!私達が選んだカード当てて見せてよ!」

 

 どこか自信ありげな、表情の川内。

 

「じゃあ、行くぞ。皆オレの目を見てくれ」

 

 本当はちょっとした前口上があるのだが割愛。

 さっき言ったからテンポが悪くなるだけだし。

 

 そして、川内、神通、那珂の目を見た後、カードを手に取る。

 

「貴方達が選んだカードは…」

 

 三人とも緊張している表情だ。

 川内はぎこちない笑みを浮かべてる。

 神通は心配性な表情。

 那珂ちゃんは那珂ちゃんスマイルで悟られまいとしている。

 

 対するオレは――――

 

「これだ!」

 

 勿論、余裕の笑みだけどな。

 オレが手に持ったのは又してもダイヤの1。

 三人は驚愕の表情を浮かべている。

 

 いやー。愉快愉快

 

「どうだ。わかったか?」

「いや~。無理だねお手上げだよ」

「私も…わかりません」

「う~ん。全然掴めないよぉ」

 

 三人ともやっぱりわからないと、がっくりした表情を浮かべる。

 

「コイツは次の時にレベル3で発表するか」

 

 からからと笑みを浮かべながら言う。

 

 三人は何とも言えない表情だ。

 

「レベル3だったのか。それは難しい訳だね」

「私達、レベル3を再現できたことありませんし…」

「でも今みせて貰ったからちょっとだけ有利になったよ!」

 

 落ち込んだ表情を浮かべる姉たちと違い、妹の那珂はきらきらとした表情だ。

 

「その通りだ。次の発表はいつか分からないしその時までに考えればいい」

「そっか。その通りだね!」

「はい!この謎必ずや解き明かします!」

「じゃあ、次までに頑張ろう!」

 

 三人はハイタッチをして、タネを明かす決意を固めた。

 

「じゃあ、意気投合しているところ悪いけど。そろそろ寝るぞ」

「え~。夜はこれからだよ。まだまだ遊ぼーよー」

「姉さん。明日の秘書官が私だという事、わかってますよね」

「わーごめんなさい神通ちゃん!早く寝ないとだめだよね!」

「あはは、神通ちゃんこわーい」

 

 必死に許しを請う川内、またもやはかなげな笑顔で黒オーラを纏う神通、そして苦笑を浮かべる那珂が只今の図。

 

 偶に姉が誰だかわからなくなるのがこの姉妹だ。

 今だに姉が誰か迷うのは睦月達だけど。

 

「じゃあ、歯磨いて寝るぞ」

「はーい」

「わかりました」

「じゃあ、行って来まーす」

 

 それぞれ返事をすると洗面所に向かった。

 

 オレは川内達に出してたお茶やお菓子を片づけてから向かった。

 

 

 

 2350

 

 

 

 さて、只今の状況を言おう。

 川内型三姉妹がオレに抱き付いて寝ている。以上だ。

 

 って!そうじゃねぇよ!また、この時間だよ!

 先週は、暁達でこの体験したよ!

 

 こうなったら、緊張やらこの子達の体の柔らかさやら、シャンプーや女性特有の甘い匂いで眠気が失せる。

 おかしい…。さっきまで眠くて仕方が無かった筈なのに!

 

 川内止めろ。そんなに頬ずりすんな。

 神通どうしたそんなにオレの右腕を抱きしめて…。神通らしからぬ行動力じゃないか。

 那珂ちゃんよすんだ。そんな風に心臓の音を聞かれるとはずかしいから!

 

「ねえ提督。今日はこんなお願い聞いてくれてありがとう」

 

 川内が耳元で言ってくる。

 止めなさいぞわぞわするから!

 

「夜の僅かな時間だったとは言え楽しかったです」

 

 神通が更に力強く抱きしめる。

 止めるんだ。更に体の感触がわかってしまうだろ!

 

「那珂ちゃん達ね、提督と過ごす時間すっごく大好きだよ!」

 

 那珂が胸に顔を埋めてくる。

 凄く、恥ずかしい感じがする。

 

「今度、手品再現出来たらまた添い寝をお願いしようかな」

「川内ちゃん!那珂ちゃん達も入れてよね!」

「勿論だよ。神通ちゃんも那珂ちゃんも一緒。私だけで独占なんかしないから」

「そうですか。ありがとうございます姉さん」

「だって私達提督の事好きだからさ」

 

 皆の抱きしめる力が強くなる。

 ちょっと痛い位だ。

 

「すまん。ちょっと痛い」

「ああ、ごめんね。でも皆それほど思いが強いって事。ねー皆?」

「はい!」

「うん!」

 

 二ヶ月経って変わった事がもう一つあった。

 それは、オレに好意をぶつける艦娘が増えたこと。

 

 何でオレがこんなにモテているかは不明。

 男は整備士や憲兵もいるし。

 オレなんか、偶に皆と遊んだり、出来るだけ姉妹で出撃できるように工夫したり、皆が無事に帰れるように作戦を立てたり、皆が快適に過ごせるように努力したりとか、上官としてできて当たり前の事しかやってないのに。

 

 でも、出来て当たり前の事が出来てるから、こうやって深く信頼してくれていると思うと嬉しいかな。

 

「皆ありがとうな」

「いいの。いいの」

「ええ構いません」

「那珂ちゃんもそうやってお礼を言われるのは嬉しいかな」

「でも、いつかはちゃんと答えを聞かせてほしいな」

「何に対してのだ」

「もう、わかっているでしょ!」

「意地悪はよくないですよ」

 

 那珂が強く胸を叩き、神通はキリキリと腕を締め上げる。

 

「痛い痛い!わかった!わかったから!」

「わかればいいんです」

「皆待っているからね!」

 

 皆の頭を撫でながら苦笑を浮かべる。

 

 答えか…

 軽く目を瞑る。

 瞼の裏に映っていたのっは、涙を流している男の子。

 この男の子を見ると胸が痛くなる。

 思わず泣いてしまいそうになる。

 その男の子の正体が何かわかっているからだろう。

 

「悪いな…」

 

 答えが出るのは当分先だ――――

 

「ん?何か言った?」

「いやなんでも無い。気にするな」

 

 クエッスチョンマークを浮かべた表情の川内に適当な事を言ってはぐらかす。

 

 オレは欠損しているのだ。

 あのころからオレには無くなってしまった…

 大切だった何かが…

 そして今も持っているはずの何かが…

 本当は何かわかっているのかもしれない。

 だけど、その答えと向き合えるのは当分先だろう。

 

「それより早く寝よう。明日に響くぞ」

「うん。そうだね早く寝よっか」

「はい。おやすみなさい提督」

「おやすみなさーい」

 

 二人から返事が聞こえた後優しい寝息が聞こえた。

 神通が抱きしめたままの右手で那珂の頭を、左腕で神通の頭を撫でる。

 

「むっ。私は撫でてくれないの」

 

 また川内が耳元で言ってくる。

 ぞわぞわするから止めてって。

 

「二人がちゃんと寝てからな」

「じゃあ、我慢してあげる」

 

 そういうと川内は自分の頬をさらにひっつけた。

 

「川内さん苦しいでひゅ」

「だーめ。やめて欲しかったら早く二人が寝る事を祈る事だよ」

 

 上手く言葉になってくれないからでしゅ口調になってる。

 頼む二人とも早く寝てくれ!

 オレの安眠の為に!

 

 

 

 その後、二人はあっさり寝て、川内もいつの間にか寝ていたがオレは寝れなかった。

 何故寝れなかったって?そりゃわかっているだろ?

 戦い抜いていたのさ。漢の戦場をな。

 

 結局寝れたのは深夜の3時位だった気がする。

 オレの体内時計が正しかったらの話だが。

 

 次の日、前日秘書艦だった大和が起こしに来た。

 後の事はお察しの通り、オレだけ怒られた。

 解せぬ。

 

 怒られた理由は、そんな簡単に女の子と寝ちゃいけませんだとかそんな事。

 何か語弊があるがいかがわしい事はしていない。

 大和はそこの所わかっているはずだし。

 …わかってるよね!?

 

 その日は、翔鶴瑞鶴姉妹に添い寝を要求された。

 もう寝不足は嫌なのだが…。

 

 

 

 

 まぁ、こんな鎮守府だ。

 悪くは無いだろう?

 

 オレは毎日が楽しくて、充実している。

 

 そして今日もオレの提督生活が幕を開ける。

 

 さあ、皆で暁の水平線に勝利を刻むとしますか!!!



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