癒術師も異世界から来るそうですよ? (夜明けの月)
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プロローグ

はい、夜明けの月です。

新作、よろしくお願いします。

それでは、お楽しみください。


緑が生い茂る森林の中央に湖がある。そこで一人の少女が佇んでいた。淡い青色の肩にかかっている髪、そこに付けられている緑色の髪留め、蒼色の瞳であり、ベージュのカーディガン、その中に青色のTシャツ、灰色の短パン、青のスニーカーを身につけていた。

 

「ここもダメなんだね………。もうやりたくないのに……」

 

『ですが、貴女がしないことにはこの世界は』

 

「分かってる。でも、これはねぇ………」

 

少女は何かと話しながら湖を見る。その湖は廃棄物やらヘドロやらで汚く濁っていた。少女は嫌そうな顔をしてその水面に手を入れる。ドロッとした感じに嫌な顔が一層酷くなる。

 

『ほら、しっかりしてください』

 

「分かってるよぉ~………うぅ」

 

少女は完全に涙目である。だが、その少女は唱える。

 

「"湖を包む汚れよ、全て無に還りなさい"」

 

すると先程まで汚かった湖が一瞬で澄み渡り、綺麗な湖へと変化する。

 

「もうヤダ………」

 

『我慢してください。貴女が辞めることは許されないのですよ?』

 

「でも、もうあの汚いの触るのやだよ……。ドロッとしたのとかべチャッとしたのとかも」

 

『しかし、それが貴女にかせられた使命なんですよ。ほら、次行きますよ』

 

「はーい」

 

少女は気が乗らないようにだらだら歩いて次の目的地へと向かった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

少女の名前は水無月 詩音(みなづき しおん)。彼女は汚れた世界において、汚れを浄化する作用を生まれながらにして身に宿し、人の身に余る術を使う事のできる癒術師(ゆじゅつし)というものだった。

 

癒術師とは、全てが汚れた詩音が住まう世界においてそれを浄化し世界を戻す役割を与えられた人のことである。そして、汚そうとする者を退治するために、魔術、召喚術、錬金術などといった術も使えるのである。

 

そして、その役割を担う人物が詩音一人だけだった。

 

「なんでこんなに世界は汚れちゃったんだろうね」

 

『全て人間のせいです。不法投棄、廃棄物の処理をしないなどといった馬鹿げたことが今の状況を招いたのです』

 

「だからって、それを私になんで押し付けるの?」

 

『それは………』

 

詩音ではない声の主は言葉に詰まる。それもそうだ。その力に目覚めるまでは普通の少女。目覚めた後では汚れを取り除く救世主。そして、自由は完全に奪い去られたのだ。

 

「もう、嫌だよ………」

 

『詩音様………』

 

「こんな事、もうしたくない……。私だって自由に生きたい。自分を抑えつけたくない……」

 

『それは僕らも十分承知しております』

 

「だったら、少しぐらい休ませてよ……。休みなんかなくてそれで、仕事ばっか。もうやだよこんな生活。私だって普通に生活したいよ……。自由に、自由に生きたい……」

 

詩音は足を止めて俯いた。顔からはポタポタと雫がこぼれ落ちている。そんな時だった。突如、右の方の草むらが揺れ、狼が飛び出てきた。詩音は涙を拭い狼を見る。

 

「ワンッ!!」

 

「………フェルンどうしたの?」

 

「ワンワンッ!!」

 

フェルンと呼ばれた狼は口に封書を加えて詩音に差し出す。

 

「私に?」

 

「ワンッ!」

 

「ありがとうフェルン」

 

フェルンから封書を受け取りフェルンの頭を撫でる詩音。封書の裏側を確認すると丁寧な字で『水無月 詩音様』と書かれていた。

 

「何これ……?」

 

『それは貴女の自由への手紙です』

 

「私宛の?誰から?」

 

『それよりも、貴女に言うことがあります』

 

「ん?なに?」

 

詩音に謎の声の主は告げる。

 

『コホン、それでは言います。ーーーー貴女は自由への切符(手紙)を受け取った。そして貴女には選択する権利がある。一つはこの汚れた世界で生き続け、決められた仕事(ルーチンワーク)をし続けるのか。そしてもう一つは、幾多の困難が待ち受ける未知なる世界へと飛び立ち、その先の自由を手に入れる運命を選ぶのか。僕らは貴女の意見に従います。僕らは貴女の従者ですので。さて、貴女の解答を聞きましょう。前者を選ぶのでしたら手紙を破り捨ててください。後者を選ぶようでしたら封書を開け、手紙を読んでください』

 

詩音は封書を見て考える。だが、詩音の頭の中に答えは一つしかなかった。

 

「もちろん開けるよ。未知なる世界なんて楽しそうだもん。それに自由も欲しい」

 

そう言って詩音は封を切って手紙を読む。そこにはこう書かれてあった。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女達に告げる。その才能(ギフト)を試す事を望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我ら"箱庭"に来られたし』

 

その文面を読んだ瞬間、

 

 

詩音は大空に放り出された。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「うお!?」

 

「きゃっ!?」

 

「………え?」

 

詩音は周りを見て状況を確認する。わかる事は、自分を含めた四人と二匹が下にある湖に向かって一直線に落ちているという事だ。

 

「ちょ、ちょっとランス!?困難ってこれの事!?」

 

『さあ?僕には分かりません』

 

ランスと呼ばれた声の主は素知らぬ風に答える。

 

「あーもう!フェルン、風起こして!」

 

「ワォン!!」

 

フェルンが風を起こし落下している詩音達を包むが、

 

「(くそ、これじゃ間に合わない!!)」

 

仕方なく魔術を使い水を操って三人と二匹を受け止める。

 

「ふぅ、なんとかなったね」

 

『……詩音様、自分は?』

 

「あ」

 

直後、ドボンッという音と共に一つの水柱が上がった。

 

こうして詩音の異世界への第一歩は、自分を受け止める事を忘れて自分だけ湖に落下、というなんとも残念な事になった。

 

 

 




どうでしたでしょうか?

上手くかけてるか心配です。

それでは次回もお楽しみに。

次回予告

手紙を開けてみるとそこは異世界だった。

池に落ちた詩音が見たものは三人の人間。感じ取ったものは隠れている不審人物。

「異世界に呼ばれちゃいました♪」


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癒術の心得 説明書 ※ネタバレ要注意

とりあえず主要なオリキャラと十六夜の変更点だけの説明を書きました。
ネタバレ要素が盛りだくさんなので見る場合は注意してください。


水無月詩音

 

元の世界で汚れた世界を癒す役割を担う少女。その使命が嫌になっていたところに箱庭へと行くための手紙を受け取り、箱庭へと旅立つ。

天然、バカ、弄られキャラと色々な属性を持ち、コミュニティのある意味ムードメーカー的な存在。

容姿は淡い青色のセミロングの髪、緑色の髪留め、蒼色の瞳。

服装はページュのカーディガンにその中には青色のTシャツ、白の短パン、青色のスニーカー。

 

元凶"汚れ"を製造した末裔。詩音自身はそのことを知らない。

 

所持ギフト詳細

"癒術師"

汚れや憎悪などの悪しきものを癒したり、傷や病気などを治癒することの出来るギフト。使用するためにはその対象に触れ、詠唱をしなくてはならない。選ばれた者しか使うことはできず、複製などは不可能。

 

"魔術師"

魔術がある程度使えるようになるギフト。使用するほどギフトが成長し、使える魔術が増えていく。

 

"召喚士"

心が通じ合った者を召喚できるギフト。現在詩音が召喚できるのは玉藻前、蒼井真尋、金倉千斗の三人。

 

"調整者"

時空や次元を調整するためのギフト。そのため、座標移動が可能である。例えて言うならば、放った弓を瞬時に敵の目の前まで移動させることができる。だが、現在詩音はこのギフトの使用方法がわかっていない。

 

"魔ヲ撃チ浄化スル者"

詩音が癒術師になった際に得たギフト。ある天使に受け取った神格ギフト。

 

"癒術の心得"

癒力回復を促進したり、治癒能力を高めたりするなどの癒術師に必要な基本的なギフト。

 

"宝具"

真の癒術師に与えられる武具。癒術師はこの内の一つのみを使用することができる。そして他の宝具は信頼することの出来る人物に与えることによって力を発揮する。これを与えられた者は癒術師の眷属になる。譲渡の方法は不明。

 

宝具の種類

・水珠の弓

・翡翠の短剣

・紅蓮の剣

・風刻の槍

・土狂の槌

・戦乙女の盾

・闇死の籠手

・天燐の杖

・氷極の円月輪

・雷轟の大剣

 

 

 

蒼井真尋

 

詩音の幼馴染み。五歳の頃までは一緒にいたが逃走中の殺人犯に殺されてしまう。その後、神様に癒術師となった詩音の護衛役を担うため、円卓の騎士・ランスロットとして転生する。

箱庭に訪れると同時に記憶を取り戻し、ガルドから詩音を救う。

しっかり者で、抜けているところがないと思われる完璧人間であり、黒ウサギと共に問題児たちに振り回されるツッコミ役。ただし、キレると誰にも手をつけられなくなる。

容姿は茶髪で黒目。

服装は黄緑色の上着に無地の灰色のTシャツ、紺色のジーンズ。

 

初代癒術師に頼まれ、戦いを有利に進めるものの開発に携わる。それにより転生の際、ランスロットという役を受けることになった。

 

所持ギフト詳細

"円卓の騎士"

転生する際に神様に与えられたギフト。聖なる力を行使することができ、自分より格の低い悪しき者を一瞬にして葬ることができる。

 

"運命記す刻命剣(エクスカリバー)"

かの英雄、アーサーが使用したとされる剣に真尋が自分流のアレンジを加えた剣。

 

 

 

金倉千斗

 

詩音のもう一人の幼馴染み。真尋と同じように逃走中の殺人犯に殺されてしまう。そして真尋とは別の神によって、詩音の護衛役として狼の姿で転生する。箱庭に訪れる前に記憶は戻るが、姿が戻らなかったため真尋より戻るのが遅くなってしまった。

ノリが良く、十六夜と悪ふざけをすることが多い。詩音のことはシイと呼ぶが、偶に名前で呼ぶ。一つだけ触れてはならない逆鱗があり、詩音が傷つけられると激怒する。

容姿は白いロングヘアで頭に狼の白い耳が生えている。

服装は灰色の和服。

 

所持ギフト詳細

"全てを食らう魔狼"

神様に与えられたギフト。姿を狼にすることができ、万物を食らうことができる。魔狼とあり、ある程度の魔法も使うことができる。

 

 

 

逆廻十六夜

ロイズファクトリーの峠坂日見華に連れ去られて"ペルセウス"の捕虜にされた際、汚れの力を埋め込まれ、その副作用で髪と瞳が白くなった。

 

追加ギフト詳細

"汚れの使い手(ダストユーザー)"

癒す対象とされる汚れをその身に宿したが故に手に入ってしまったギフト。詩音はこれを癒すことは不可能と断定した。汚れを自由に使用することができ、自分を対象にした汚れの攻撃が効かない。

 

 

神倉ユウ

詩音と同じ世界出身の癒術師を自称する者。その実力は未だ不明。

 

所持ギフト詳細

"癒術師"

詩音と同じ能力で、"汚れ"などの悪しきものを癒すことができる。

 

 




少し加筆したのと、詩音のイラストを加えました。
絵下手ですが……大丈夫だと思いたいです。
色無しですが、そこはご了承ください。


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番外編 癒術師と愉快な日常
朝起きたら幼女になっているのは異常だと思う


他の作品が更新できてなくて申し訳ありません……。
できるだけ早くしたいと思います。
今回カオス………ではないことを願いたいです。
それでは本編をお楽しみください。


"ペルセウス"とのギフトゲームより二日が経過した朝、詩音はいつものように起きた。いつもより寝起きが悪く、体が妙に軽い。だが詩音は気にせずベッドから降りる。

 

「痛っ!」

 

だがうまく降りられず顔から落ちる。何か変だと思い、詩音は自分の体を見る。

 

幼い子のような小さい手、ダボダボの淡い水色のパジャマ、そして平らな胸。

 

自室にある鏡を見る。するとそこには

 

 

六歳の頃の詩音の姿があった。

 

「ーーーーーー!?」

 

その後、詩音の悲鳴が響いたことは言うまでもない。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音は即座に部屋を出た。もちろんダボダボなパジャマはそのままである。

 

向かった先は居間である。ドアをバンッと開くとそこはカオスと化していた。

 

「一体どうなっているの!?」

 

「訳分かんないぜ」

 

「………理解不能」

 

「ど、どうして黒ウサギはちっちゃくなってるんですか!?」

 

「それを言うなら俺はでかくなってるんだが」

 

目の前の光景に立ち尽くす詩音。そして次の瞬間、詩音の体は宙に浮く。

 

「わわっ!?」

 

「詩音、あまり暴れないでね」

 

その原因は詩音の脇の下をつかんで持ち上げていた真尋だった。その姿は二十代後半ぐらいだった。

 

「えっと、真尋?」

 

「うん、そうだよ。姿は違うけどね」

 

「なんでこんなことに……?」

 

「……………はぁ」

 

何故か真尋がやれやれといった感じでため息を吐く。一方、詩音はぽかんとした顔だ。

 

「元はと言えば君の原因なんだよ?」

 

「ほぇ?どゆこと?」

 

「みんなが落ち着いたら説明するから」

 

それから全員が落ち着くのに数時間を要した。その間、真尋は小さくなった詩音で遊んでいたのは別の話。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

全員が落ち着いたところで詩音は情況を把握しようと頭を働かせる。

 

「(十六夜は三十路あたり、飛鳥は大学生ぐらいかな。耀は8歳ぐらいで、千斗は二十代前半。黒ウサギは……言うまでもなく幼女だね)」

 

とその場を一言で表すならカオスだった。

 

「こうなった原因はこのロr……詩音にある」

 

「ちょっと待って。今ロリって言った?言ったよね?」

 

「ロリ詩音は放っておいて」

 

「コラー!幼女扱いすんな!」

 

「いや今の姿鏡で見てきたら?じゃなくてこの原因は詩音にあるんだ」

 

真尋がそういうのを聞いてその場の全員が頭の上に?を浮かべる。

 

「詩音には癒力というものがあってね。使いすぎるとあらゆる手段を使って回復しようとするんだ。そしてこういう場合は決まって詩音は小さくなる」

 

「ああ、確かそうだったね。今回は二日遅れか」

 

「それにしても何故私たちも姿が変わっているのかしら?」

 

「それは……そういう力が不安定な状態で周囲にも働いたとしか言えないんだよね。まあ文句は未熟な詩音に言って」

 

「うぅ……反論できない……」

 

真尋の言葉で項垂れる詩音。そこで十六夜が新たな疑問を投げかける。

 

「詩音が未熟なのはどうでもいいとして、いつ元に戻るんだ?」

 

「明日になったら戻るよ。一日で癒力は正常値に戻るからね」

 

「へぇ、なら今日はこのままということかしら?」

 

「うん、そだよ。それがどうかしたの?」

 

「うふふ、ふふふふふふ」

 

「な、何?」

 

飛鳥はニヤリと笑って驚いている詩音に告げる。

 

「なら今日は思う存分詩音さんと耀さんと黒ウサギを弄べゲフンゲフン愛でられるわ」

 

そう言って真尋から詩音を受け取り、耀と黒ウサギを持ち上げる飛鳥。

 

「さて、それじゃあ着せ替えでもしましょうか」

 

「は、離すのですよ!」

 

「に、逃げ………!!」

 

「はーなーせー!」

 

「嫌よ。それにそのぐらいの力で今の私に歯向かおうとするとするのは間違っている気がするわよ?」

 

そう、現在詩音達は幼女化している。そのため、腕力などの力はその時に戻っており、だいたい大人のような体つきをしている飛鳥に力では歯向かえないのだ。

 

「それじゃあ行きましょうね〜」

 

「「「嫌ーーー!!」」」

 

ホクホク顏で出て行く飛鳥に幼女達の断末魔が響く。

 

「あれ止めなくていいのか?」

 

「いいんじゃね?動くの怠い」

 

「止めるのも面倒だからいいんじゃないかな」

 

男性陣も結構酷かった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「はぁ……酷い目にあった……」

 

詩音は飛鳥に散々着せ替え人形にさせられていたが解放され、現在街を散策中である。ちなみに今着ている服はピンクのうさ耳パーカーに白の短パンだ。

 

「とりあえず出てきたけど、どうしよう?」

 

「ねえねえお嬢ちゃん、俺たちと遊ばない?」

 

「ん〜、ギフトゲームは流石に無理だろうし、買い物なんていうまでもないし」

 

「おーい、そこのピンクのお嬢ちゃん」

 

「ん?誰?」

 

詩音は後ろから声をかけられていたことに気づく。そこにいたのはいい年をしたおじさん達だった。

 

「俺たちと遊ばない?いいお店とか知ってるよ」

 

「……………」

 

詩音はここで考えた。そして導き出された答えとは、

 

「……………!!」

 

全力疾走することだった。

 

「(あの人たち絶対に関わっちゃいけない人だ!!)」

 

そう思うのも仕方ないだろう。前の姿であればまだなんとかできたかもしれない。だが今は幼女である。なのに話しかけてナンパしてくるということはそうなのだろうと詩音は理解する。

 

あれは完全にロリコンだと。

 

全力疾走すること数十分。詩音は息を切らしつつ立ち止まった。

 

「はぁ…はぁ……ここまで来れば「おーい待てよ嬢ちゃん」ギャァァァァァァァァ!!!」

 

そして詩音のロリコンとの追いかけっこ(逃走劇)が始まった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

日が傾き始めた頃、詩音は息を切らしながら本拠の入り口の扉を開けた。

 

「ただいまー………」

 

「おかえりってどうした?」

 

「何でもない」

 

そこにいたのはカップに入ったコーヒーを飲む十六夜だった。妙に様になっている。

 

「あれ?他のみんなは?」

 

「真尋と千斗は疲れたらしいからもう寝た。他の奴らもはしゃいで疲れ果てたのか、そこで寝てるぞ」

 

十六夜は指を指す。するとそこには仲よさそうに寝ている飛鳥、耀、黒ウサギがいた。詩音はそれを見た瞬間に笑みがこぼれる。

 

「こう見ると姉妹に見えなくもないね」

 

「だな。さてと、詩音に聞きたいことがある」

 

「何?」

 

「レティシアの居場所を知らないか?朝から見ていないのだが」

 

「ああ。昨日言ってたじゃん。"サウザンドアイズ"に用があるから用事が済むまでは帰らないって」

 

「そうか。さて、それじゃあガキどもの飯でも作るか」

 

「子供達の?」

 

「ああ。そいつらと真尋達はおそらく朝まで起きないと思うからな」

 

「それじゃあ私も手伝う。こう見えても少しぐらいは料理できるんだよ」

 

「そうか。それなら頼む」

 

そう言って二人はキッチンへと向かう。その姿は父と娘の様だったらしい。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

それからすることもなく十六夜に弄ばれて速攻で寝た詩音。朝起きると前日の様な違和感はなかった。

 

鏡の前に立つと以前と変わらない幼女ではない自分の姿が映った。

 

「はぁ、やっぱりこの姿が一番だね」

 

詩音はそう呟き部屋を出て今へと向かう。そして居間への扉を開くと、いつもと変わらない光景が目に入った。

 

「おはよう詩音」

 

「おはようございますなのです詩音さん」

 

「おはよう黒ウサギ。ってあれ?タマモなんでそこに?」

 

「私についてきてもらっていたのだ」

 

そう言ったのはメイド服を着たレティシアだった。

 

「そうなんだ」

 

「まあこっちはこっちで面倒だった様だが、詩音達が元に戻ってなによりだ」

 

「ですね。普通が一番なのですよ」

 

「それ異常な黒ウサギが言う?」

 

「ただの異常じゃないぞ。異常人代表だぞ」

 

「今聞き捨てならない言葉が聞こえたのですよ!」

 

ワイワイガヤガヤといつもの様なやり取りを繰り広げる"ノーネーム"のメンバー。その姿に笑みをこぼしつつ見届ける詩音だった。

 

「異常人代表と弄られ代表、それと天然代表は詩音さんなのですよー!」

 

「聞き捨てならない!訂正して黒ウサギ!!」

 

今日も"ノーネーム"には笑い声が響いている。




すみません、進行に少し訂正があります。
次回はコラボが入りますのですぐには二章にはいきません。
そのため、今回は次回予告はなしとさせていただきます。
アンケートにもご協力よろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに!


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コラボ 癒術師、同志達と出会う
癒術師、冬の体現者と邂逅す


前回宣言した通りコラボ回です!
今回はblizさんの『問題児たちが異世界から来るそうですよ?~箱庭に訪れる冬~』とのコラボです!
吹雪君たちがうまくかけてるか心配です、物凄く。キャラ崩壊してないといいな〜……。
それでは本編をお楽しみください!


現在の季節はおそらく初夏あたりだろう。普通なら太陽が顔を出し、木々を照らしていただろう。

 

「なのにどうしてこうなった?」

 

詩音は本拠の居間でつぶやく。現在、箱庭の天気は雪である。そう、初夏に雪なのだ。

 

「異常気象にもほどがあるでしょ。うぅ、寒っ!」

 

「今暖房をつけたのですよ。それにしても珍しいですね。こんなに降るとは」

 

「何かあったのかしら?」

 

飛鳥が首を傾げながらそういう。こんな異常気象は今までなかったのだ。そう疑うのも無理はない。

 

「………何か原因があると言われても動く気にはなれないなぁ」

 

徐々に暖かくなってきた部屋のソファーで毛布にくるまってそういう詩音。一歩間違えればニートである。

 

「お前はニートか」

 

「なら千斗が調べてきてよ。この異常気象の原因」

 

「嫌だ。なんでこんなに寒いのに行かなきゃならんのだ。お前が行けよ」

 

「嫌だね。私寒いの苦手だもん」

 

「あ?」

 

「は?」

 

「はいそこ睨み合うのやめなよ。でもこれはどうにかしないと」

 

「Yes。放っておくと何か良からぬことが起きるかもしれませんし」

 

「といっても誰が行く?」

 

「それなんですよねぇ。うーん………ここは公平にじゃんけんでいきましょう。それでは」

 

『じゃーんけーん』

 

「チョキ」←千斗

 

「チョキ」←真尋

 

「チョキ」←十六夜

 

「チョキ」←黒ウサギ

 

「チョキ」←飛鳥

 

「チョキ」←耀

 

「チョキ」←レティシア

 

「チョキ」←玉藻前

 

「パー」←詩音

 

その結果に項垂れる詩音。さっきまで詩音と睨み合っていた千斗は大笑いである。

 

「ギャハハハハハハ!!ざまあねえな!!」

 

「五月蝿い!なんで私が〜………」

 

「………詩音、上着とマフラーなら貸してあげるから」

 

「一緒には行ってくれないんだ!!」

 

『だって面倒だし』

 

「あーもう分かったよ!行ってくるよ!」

 

詩音はヤケクソ気味に言って防寒着を着込み外へと出た。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「うぅー寒いぃ………」

 

詩音は雪の降る中、世界の果てへと向かって歩いていた。なぜ世界の果てかというと、

 

「なんとなく行ってるけど……まあいいか」

 

行き当たりばったりだった。そして世界の果て近くの森の中へと入る。木々には雪が積もっており、しんしんと雪が降っている。この景色を一言で言うなら綺麗で幻想的だと言えよう。

 

「風情はあるのに寒いのが否めないんだよね……」

 

腕をさすりながら歩く詩音。するとすぐそばの茂みでガサッと音がした。

 

「………?」

 

そちらを向くといたのは白い毛の狼だった。千斗の狼の姿の時のように毛は触ればフサフサなのは見てわかる。

 

「なんでここに狼?」

 

まじまじと見ているとその狼は詩音をじっと見る。そして小首を傾げる。

 

「………?」

 

詩音もそれにつられて首をかしげる。狼は首を元に戻して一拍おき、

 

「………!!」

 

「何でぇ!?」

 

狼は詩音に襲いかかる。詩音はかろうじて避けて逃げる。

 

「どうして追いかけてくるの!?」

 

何故か始まる逃走劇に悲鳴じみた声を出す詩音。だが、その時だった。

 

「おい待てコラ」

 

どこからか男の声が響く。その声に反応したのか、狼は走る足を止める。

 

「いや、あたりを調べて来いと言ったが人を襲えとは一言も言ってないぞ。まあいいや。とりあえずお疲れさん」

 

すると狼は一瞬にして消え去った。声がする方向を向くとそこには、銀髪で白のパーカーを着た少年が立っていた。その後ろには水色の髪の少女と緑色の髪の少女がいた。

 

「吹雪〜この寒さと雪、どうにかしなさいよ」

 

「俺にどうしろってんだよ……。つーか俺関係ねえよこれ」

 

「お姉ちゃん、八つ当たりは良くないよ〜?」

 

「分かってるわよ。てか、あの子に謝罪しなくていいの?あんたの作った模造品がやったことなんだし」

 

「模造品って言うな。ありゃどっからどう見ても狼だ」

 

「作り物だけどね〜」

 

突然現れた三人は詩音のことには目もくれず話している。そして、詩音はというと、

 

「はぁ……いい天気だなぁ……」

 

面倒なことになると思って現実逃避をしていた。ちなみにいい天気ではない。まず太陽なんて見えてすらいない。全くデタラメ天然娘には困ったものである。

 

「誰が天然だ誰が」

 

デタラメは否定しないのね……。まあそれは置いておいて、銀髪の少年は詩音に向き直り話しかけてくる。

 

「さっきはすまなかったな。うちの「模造品の」狼が襲ってって誰だ模造品って言ったやつ!!」

 

銀髪の少年が叫ぶと水色の髪の少女はわざとらしく口笛を吹き始める。

 

「おいテメェかロリ玲華」

 

「誰がロリよ!この鈍感吹雪!」

 

「あ"?」

 

「は?」

 

いつの間にか詩音から目を離して冷戦(睨み合い)を始める二人。呆然とそれを見る詩音に緑色の髪の少女が横にくる。

 

「ごめんなさいですぅ、こんなことになってしまって〜」

 

「いえいえ、お気になさらず。というか貴方達は?」

 

「私は黄咲楓と言いますぅ。そしてそこで睨み合っているのが白銀吹雪と私のお姉ちゃんの黄咲玲華ですぅ」

 

「ふ、ふーん、そうなんだ……」

 

独特的な喋り方をする緑色の髪の少女元い楓に戸惑う詩音。

 

「それでここはどこなの〜?いきなり飛ばされたんだけど〜」

 

「うん?ここは世界の果てだよ。箱庭の」

 

「箱庭だったんだ〜。朝起きた時と天気が全く違ってたから驚いたよ〜」

 

「コラ楓!あんた何あたし達無視してそのこと話してるの!このアホ吹雪に何か言ってやりなさい!」

 

「誰がアホだと!?味覚子供のお前に言われたくないね!」

 

「何ですって!?」

 

ヒートアップする口喧嘩。そろそろまずいかな〜と思っていると突然後ろから声がした。

 

「詩音、一体どこまで行っているの」

 

「あ、タマモ。どしたの?」

 

「どしたの?じゃないわよ。いつまでたっても帰ってこないから探してたんじゃない。そしたら叫ぶ声が聞こえて来てみればこういうことだし。どういうこと?」

 

「私にも分かんない」

 

状況を知り得る人が全くいない。カオス極まれりとはこのような状況を言うのだろう。

 

「お姉ちゃん、そろそろやめなよ〜」

 

「嫌よ。このアホ吹雪に今日という今日こそ「お菓子あげるから」早く頂戴!」

 

喧嘩腰から一転、楓に速攻でお菓子をねだる玲華。えぇ……という顔をする詩音と玉藻前。

 

「んで、お前ら誰だ?見たことない顔だけど」

 

今更!?と心の中でツッコむ詩音。だが平常を装いその問いに答える。

 

「私は水無月詩音。んで、この子は私のペットのタマモ」

 

「ペットではない。隷属しているだけだ。それにタマモでもない。玉藻前だ」

 

「えぇ……」

 

「残念そうにするな」

 

「じゃあお前らの所属コミュニティは?」

 

「"ノーネーム"だよ」

 

「同じく」

 

「ふむ………」

 

所属コミュニティを聞くと顎に手を当て何かを考える吹雪。そして詩音達を見据えて言った。

 

「どうやら俺たち、別次元から来たらしい」

 

「「は?」」

 

 

 

(吹雪説明中…)

 

 

 

「ということは何らかの原因で吹雪君達のいる世界とは別の私達のいる別次元の世界に飛ばされたってこと?」

 

「うんまあそうだが。水無月、吹雪君ってのはやめてくれ。呼び捨てでいい」

 

「なら私も水無月はやめて。名前で呼び捨てでいい」

 

「OK分かった」

 

「って話逸らしてるけど詩音、貴女全然わかってないでしょ?」

 

玉藻前にそう言われるとそーっと視線をそらす詩音。それを見て肩を落とす玉藻前。

 

「まあ詩音が分かっていなくても私が分かっているからいいだろう。して、君達はどこか行くあてがあるの?」

 

「元の次元に変えれば「帰り方は?」ぐっ…………」

 

「詩音、本拠にこの子たち連れて帰るよ。行くあてなさそうだし」

 

「あ、うん」

 

とりあえず別次元から来た来訪者を連れて帰ることになった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「それで、これはどういうことかな?」

 

「見ればわかるでしょ。拾ってきたの」

 

「この異常気象の原因探りに行って人拾ってきたっておかしくないかな!?何か言うことは!?」

 

「ただいま〜!」

 

「そうじゃなくて………!!」

 

本拠に帰ると同時に真尋が突っかかってきたがさすが天然少女詩音。いとも容易く真尋を沈める。

 

「お〜お帰りってどうしたんだそいつら?」

 

「別次元から来たらしいからここに泊めてくれない?」

 

「最初からそれを言ってよ!」

 

「えー……」

 

「流石に怒るよ………?」

 

「にしても唐突だな。黒ウサギ、構わないのか?」

 

千斗はソファーにもたれ掛かり黒ウサギに問う。

 

「私は構いません。ジン坊ちゃんはどうですか?」

 

「構わないよ。部屋も余っているし、問題はないからね」

 

「流石リーダー太っ腹ぁ〜」

 

そして詩音と玉藻前以外は初対面のため、自己紹介が始まる。

 

「白銀吹雪だ。吹雪って呼んでくれて構わない」

 

「あたしは黄咲玲華よ。よろしく」

 

「私は黄咲楓ですぅ。よろしくお願いしますぅ」

 

「よろしく。俺は金倉千斗だ。んでそこで崩れ落ちてるのが蒼井真尋だ。別次元つーことは十六夜達のことは知ってるんだな?」

 

「まあ知ってるけど……なんか違くないか?脱色されてるっつーか何つーか」

 

そう、他の世界では金髪なのだが、詩音の世界では脱色されて白髪になっているのだ。

 

「脱色されたかどうかは知らねえが、俺は十六夜だ。その事実には変わりはねえ」

 

「それならいいんだが」

 

いつもと違う十六夜が珍しいのか、マジマジと見る吹雪。そんな中、詩音はというと、

 

「玲華ちゃん可愛いね〜」

 

「わ、ちょ、ちょっと……!!」

 

玲華に抱きついていた。詩音は子供好きである。吹雪と同い年にもかかわらず、見た目が子供なのだ。だが、

 

「年齢は関係なくても子供みたいな人を見ると抱きつきたくなるんだよね〜。特にこういう可愛い子は特に!」

 

「子供って言うな〜!!」

 

ジタバタと暴れる玲華。詩音は力負けしたのかあぅ!と言って玲華を手放す。

 

「えぇ〜いいじゃん」

 

「子供扱いは許さないんだから!だったらこっちだってやってやる!」

 

玲華はやり返すように詩音に抱きつく。だが逆効果だった。

 

「抱きつかれる………はぁ…幸せ……」

 

まさに夢心地である。だが抱きつくだけでは終わらない玲華。玲華は詩音の胸をなぜか揉む。

 

「うひゃぁ!?」

 

「むぅ、なんでみんなこんなに大きいの!?ずるい!」

 

「や、やめ………やめてっ!!」

 

「こうしてやる!」

 

「うにゃぁぁぁぁやめてぇぇぇぇぇ!!」

 

詩音の悲鳴が響くが玲華を誰も止めようとはしない。ストッパーである楓すら、あはは〜と笑ってその光景を見守っている。もはやどっちが姉でどっちが妹なのかわからない始末である。

 

「そ、それでは歓迎会でもしますかね。大広間で」

 

「だね。黒ウサギ、料理とかの準備頼める?子供達で会場の方はなんとかしておくから」

 

「YES!了解なのでございますよ!」

 

その後、幾度となく詩音の悲鳴が響いたのは別の話。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

時間や場所は変わって大広間。そこでは別次元から来た吹雪達を祝う歓迎会が開かれていた。

 

「疲れた………」

 

歓迎会は始まったばかりなのだが、詩音はすでにグロッキー状態である。そこにジュースの入ったコップを二つ持っている吹雪がやってくる。

 

「すまないな。玲華が迷惑かけたみたいで」

 

「ううん、別にいいよ。まあ疲れたのは確かだけど」

 

「ほれ、これジュース」

 

「ありがと」

 

詩音は吹雪からコップを受け取り一口飲む。

 

「それにしても驚いたぞ。本拠地入った途端、何故か雪の下に芝生があるんだからな」

 

「まあ私がやったんだけどね」

 

「マジかよ。お前凄いな」

 

「ふふ、もっと褒めてもいいんだよ?」

 

「貶してやろうか?」

 

「どうしてそうなるの!?」

 

「冗談だ」

 

「さっきの目は冗談じゃなかったよ………」

 

項垂れる詩音。吹雪は必死に笑いをこらえている。

 

「む、何?」

 

「いや、単に面白いなぁって。主にお前が」

 

「それ馬鹿にしてる?」

 

「いや、ある意味褒めてる」

 

「褒められてる気がしない……」

 

「そりゃそうだ。褒めてないし」

 

「どういう「貶してるんだよ」ことって結局貶してるじゃん!」

 

「あはは!やっぱお前面白いわ」

 

「むぅ………」

 

吹雪に散々弄ばれふて腐れる詩音。

 

「悪かったって」

 

「じゃあもう弄らない?」

 

「それは無理。だって面白いし」

 

「……もうなんでもいいや」

 

詩音はツッコむことも何もかもを投げ出して会場を見る。

 

ケーキなどの甘いものを頬張る玲華にそれに張り合おうとしている耀。それを苦笑いで見守る飛鳥。笑顔を絶やさず暖かく見守る楓。真尋のご飯にタバスコやデスソースをかけて、それを食べた真尋の反応に爆笑する十六夜と千斗。子供たちと話しながらご飯を食べている黒ウサギとジンと玉藻前。

 

もうこの場をカオスとしか呼べなかった。

 

「まあ何にせよ、帰るまでよろしく頼むぜ詩音」

 

「うん、よろしく吹雪」

 

二人はコップをカツンとぶつけて別次元の同志との出会いを祝福するのだった。

 




どうでしたか?う、上手くかけてたでしょうか?(震え声
ともかくコラボの1話目は無事終了しました。
おそらく総計で四話ぐらいになるかと思われます。
次回はなぜ初夏なのに雪が降っている理由を明かしてギフトゲームに入りたいと思います。
……先に言っておきます。おそらく鬼畜ゲーになる可能性があるのでご了承ください。
それでは次回もお楽しみに!


次回予告

街でギフトゲームがあると知った詩音達は寒い中、本拠を出て街へと向かう。

そこにはギフトゲーム参加者が大勢いて盛り上がっていた。

だがゲームの内容がこれまた鬼畜でーーー!?

「雪は降り積もり、ゲームの幕は上がる」


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雪は降り積もり、ゲームの幕は上がる

コラボ第2話です。
今回のギフトゲーム、あんまり鬼畜じゃないような気がします。多分だけど。
それでは本編をお楽しみください。


「へ?街でギフトゲーム?」

 

吹雪達が来た翌朝、詩音は黒ウサギから街でギフトゲームが開かれる、という情報を聞いていた。もちろん、その場には吹雪達もいる。

 

「そうなのですよ。それと奇妙な情報が」

 

「何?」

 

「この異常気象の原因はそのゲームの開催コミュニティだと」

 

「………何かあるなこれは」

 

吹雪が神妙な顔をする。ちなみに詩音はポカンとしている。相変わらずである。

 

「おそらく、そのギフトゲームをクリアすることによって、この異常気象の解決策が見つかるかと」

 

「ふーん、なるほど」

 

「詩音、頷いてるけどちゃんとわかってるの?」

 

「さっぱり分からない」

 

「これだから頭の足りない奴は……」

 

「千斗、なんか言った?」

 

「別に〜」

 

詩音がギロッと千斗を睨むが当の本人はどこ吹く風である。吹雪は黒ウサギにギフトゲームの内容を聞く。

 

「どんなギフトゲームだ?」

 

「それが、まだ分からないのですよ。開始寸前に発表するらしくて」

 

「なるほど、なら行くしかないということか」

 

「面白そう!私も行く!」

 

「お姉ちゃんが行くなら私も行くよ〜」

 

吹雪に続き、玲華と楓も行く気らしい。詩音はというと、

 

「私寒いの苦手だからパスで……。それにわざわざ仕事なんてしたくない」

 

ニートっぽいことを言っていた。

 

「詩音、そういや前一緒に風呂に入っているときに気がついたんだけど」

 

「どしたのタマモ」

 

不意に詩音に話しかける玉藻前。玉藻前はニヤリと笑って詩音に告げる。

 

「もしかして太った?」

 

「……………………………っ!?!?!」

 

詩音はその言葉に驚愕し、お腹周りをチェックし始める。玉藻前は計画通りと言わんばかりにニヤけている。おそらく太ったというのは嘘なのだろう。

 

「もしかしてこの頃グータラしてたせいじゃないの?」

 

「そ、そんなことないし」

 

「お菓子ばっか食べてたからじゃない?」

 

「そ、そんなこと………」

 

「じゃあつまみ食い?それともーーー」

 

「うぅ………」

 

言い返せず涙目になる詩音。思い当たる節があるらしい。

 

「なら運動する必要はあるわよね?」

 

「ぐぅ………」

 

「それじゃあ行こうか黒ウサギ。詩音は私が引きずってでも連れてくから」

 

「はいな♪了解なのですよ」

 

こうして街で開催されるギフトゲームへの(強制)参加が決まった。駄々をこねて泣きかけている詩音を見て、その他のメンバーがなぜか癒されたのは別の話。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

一行は東区画の街の中心部にある噴水のあたりまで来ていた。

 

「うわぉ、人がいっぱい」

 

「それほど人気、っとことかしら?」

 

「どうだろうな。まあただ単に、噂聞きつけて、この天気をどうにかしたいって奴もいるだろうよ、多分」

 

吹雪が言うとおりかもしれないと詩音は思う。現在も、以前と変わらず雪が降り続けている。気温も結構低い。

 

「にしてもいつ始まるんだこれ?」

 

「せっかちは嫌われるよ千斗」

 

「五月蝿い」

 

「ですけど、普通なら主催者はいるものですけど、いったいどうしたのでしょう」

 

と、その時だった。噴水の水が突如巻き上がり、竜巻となる。そして勢いよく水が弾ける。そして弾けたところに一人の男性がいた。金髪イケメンと確実に女性のウケを狙った容姿だった。

 

その姿にうえぇと顔をしかめる"ノーネーム"の楓以外の女性陣。楓は笑ったままである。男性陣は、当然のことながら無反応だ。

 

「やあやあ、僕のハニー達。よく集まってきてくれたね」

 

噴水の周りにいた女性達は黄色い悲鳴をあげる。男性は怪しげな目で見ていたが。

 

「なんか胡散臭そうだな」

 

「うわぁ、分かりやすい奴」

 

「あらやだ、いい男♡」

 

……………最後のは気にしないでおこう。気を取り直して"ノーネーム"の面子を見ると、すでにぐったりしていた。

 

「……あの人の話聞くの?」

 

「……そうみたいですね」

 

「……あぁ、お菓子美味しい」

 

「……どうして箱庭の男性ってこう変わっているのかしら」

 

「……右に同じ」

 

「あはは〜」

 

第一印象最悪の男性は爽やかな声で告げる。

 

「今日は、僕らのゲームのために集まってくれてありがとう!」

 

「誰もお前のためじゃないと思うけどな」

 

ある程度大きな声で十六夜が現実を突きつける。

 

「……こ、今回開催するギフトゲームは少し特殊なんだ」

 

「この異常気象の原因かもしれないからね。そりゃ特殊でしょ」

 

十六夜に続き、茶々を入れる真尋。コホンと咳払いして、金髪のいけすかない男性は続ける。

 

「な、難易度も結構高めだから、覚悟して挑んでね」

 

「もう結構鬼畜なやつをクリアしたことあるんだが。しかも、それが結構有名なコミュニティのゲームだったんだが」

 

「別にそんなのどうでもいいし。要はクリアすればいいんだろ?どんな手を使ってでも」

 

千斗と吹雪が、十六夜と真尋の連続攻撃で弱る金髪の男に追加攻撃を加える。

 

「……それじゃあ楽しんでいってね!」

 

そう言い終わると、再度竜巻が現れてそれが消えた頃には男は消えていた。

 

そして次の瞬間、深々と降り積もる雪と一緒に、羊皮紙が降り注ぐ。"契約書類"だ。

 

「やっと開始だね」

 

「Yes!張り切っていきましょう!」

 

全員が"契約書類"を手に取り、内容を確認する。

 

『ギフトゲーム名 雪の中の追跡

 

・プレイヤー条件 この"契約書類"を所持する者。

 

・勝利条件 この街に隠れている主催者側の人間を三人見つけて打倒または捕獲。

 

・敗北条件 日が暮れるまでに勝利条件を満たせなかった場合。

 

・ゲームルール

*ゲームに参加する者は、男女二人一組で行動しなくてはならない。

*ギフト保持者は三回しかギフトを使えない(一連の動作の場合は一回とみなす)。

*クリアしない限り、雪は降り続け、気温は低下し続ける(最低−100℃)。

*プレイヤー側が敗北した場合、参加した者全員が一番大切なものを失う。

 

これよりギフトゲームを開催します。皆様、お楽しみくださいませ。

         "季節の支配者"』

 

「「「……………またか」」」

 

詩音、真尋、千斗が同時に声を上げる。その姿は、もうすでに疲れていた。

 

「なんだこれ?難易度高くないか?」

 

「いや、まだ簡単な方だよ。前なんて、二人だけ参加にもかかわらず、ラスボスの側近が凶化されてて死にかけたんだから」

 

「詩音はその前も死にかけてたけどね」

 

「……壮絶な人生送ってきたんだな」

 

哀れみの目を詩音に向ける吹雪。十六夜は"契約書類"の内容に疑問を持つ。

 

「おい、これって制限時間があるんじゃないのか?」

 

「どういうこと?」

 

「ここに『クリアしない限り、雪は降り続け、気温は低下し続ける』とある。ここで問題だ。ここに記されている『−100℃』になると、俺たち参加者は、いや、箱庭に住む奴らはどうなる?」

 

「……まさか!」

 

黒ウサギがハッとなり何かに気づく。十六夜は真剣な面持ちで告げる。

 

「そう、そのまさかだ。最大まで下がると、箱庭全土で必ず死者が出る。つまり、最大まで気温が下がりきる前にクリアしなければ、俺たちでも危ういということだ」

 

「そういうことか。ギフトゲームに参加していようとなかろうと、俺たちは命をかけてるってことか」

 

「ふぉふぇっふぇふぉふふぃうふぉふぉ?」

 

「お姉ちゃん、口の中の物飲み込んでから喋らないとわからないよ〜?」

 

「(ゴクン)……それってどういうこと?」

 

「簡単に言えば、制限時間内にクリアしなければ俺たちは死ぬ」

 

「私死なないもん」

 

「胸張りながら言うんじゃねえよ。てか、何地味に不死身を気取ってんのお前」

 

疑問が満ちた難易度鬼畜のギフトゲームの火蓋は、切って落とされた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「なんとなく抽選した結果、私と吹雪が組むことになりました!」

 

「誰に話してんの?」

 

「さあ?」

 

「……大丈夫かお前」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「いや、それフラグ」

 

詩音と吹雪は適当に街を歩き回っていた。走ると詩音がついてこれず、ギフトには使用制限があるため歩いているのだ。

 

「あ、一つ思ったことがあるんだけどさ」

 

「何だ?」

 

「この"契約書類"にある『大切なもの』って何だろうね?」

 

「……命、じゃないか」

 

「何で?」

 

「言ってたろ。これクリアしないと全員死ぬ危険性があるって。つまり、クリアできなければ、俺たちは多分死ぬ。そして俺たちにとって一番大切なものは命だ。だから『大切なもの』っつうのは命ってわけだ。まあ、世の中には、自分の命を顧みない奴がいるがな」

 

「……………そだね」

 

吹雪がそういう中、目をそらして冷や汗を出しながら素っ気なく答える詩音。思い当たる節でもあったのだろう。

 

「うーん、どうしよう。このまま歩いてたら埒があかないよ」

 

「それじゃあ走るか?」

 

「………私を迷子にするつもり?」

 

「………じゃあどうしろと」

 

その時だった。突如、詩音の頭上から雪の塊が降り注ぐ。当然のごとく、詩音は雪に埋もれてしまう。吹雪が上を見上げるとそこには、屋根の上でバランスを崩して落ちてくるいけ好かない金髪がいた。

 

「う、うわあああああああ!?」

 

そのまま詩音の埋もれている雪の元へとダイブした。頭から上半身が雪に埋もれていて、足がピクピクしている。

 

「…………………………………」

 

吹雪はその光景を見て思った。

 

「(フラグ回収早すぎだろ……)」

 

吹雪は対応が面倒だと思い、そのまま詩音たちを放置するのだった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「シイの奴、大丈夫かな」

 

「そんなに心配なの?」

 

「あれでも一応女子だからな一応」

 

千斗の物言いは酷いような気がするが詩音なので構わないことにする。千斗の心配は虚しく、現在詩音は雪に埋もれるという不幸に見舞われたことは言わないでおこう。

 

「それにしても寒い」

 

玲華は、体をぶるっと震わせて言った。その手にはお菓子が二袋ほどあるが。

 

「我慢しろ。というかお菓子ばっか食ってねえで、お前も探せ」

 

「ヤダ」

 

「没収!」

 

「あ!!」

 

千斗がお菓子を取り上げる。玲華は取り返そうとジャンプするが届かないため、諦めた。頬を膨らませて不貞腐れているが。

 

ちなみに、千斗と玲華はというと街を歩いていたが、元いた噴水へと戻ってきていた。

 

「にしてもどうするか……。このまま探しても、体力浪費するだけで終わっちまう」

 

「じゃあ休めばいいじゃん」

 

「そうしたいのは山々だが、今回は無理だ。人の命がかかってるのに、休んでるわけにはいかない」

 

「ふーん。あんた、吹雪に似てるわね」

 

玲華は唐突にそんなことを言い出した。千斗はその言葉に驚く。

 

「はぁ?俺が?ていうかどこが?」

 

「なんとなくよ。あとはエグいことして、容赦がなければ完璧だけどね」

 

「全然似てねえよ」

 

そっぽを向いて否定する千斗。ペルセウス戦の時に容赦がなかったような気がするが……

 

「気にすんな」

 

いや、普通気にするから。

 

と、そんな時だった。先ほどまで座っていた玲華が、何かに反応したかのようにいきなり立ち上がった。

 

「お、見つけたか?」

 

「うん、見つけた」

 

「それじゃ「お菓子の匂いがする!」って、テメェざけんなやゴラァァァァァァ!!」

 

そう言い、どこかへと走り去る玲華。それを叫びながら追う千斗。ギフトゲームとは全く関係のない、仁義なき鬼ごっこ?が始まったのだった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「なんか千斗の叫び声が聞こえた気がする………」

 

「気のせいだよ〜」

 

真尋と楓は裏路地を歩いていた。真尋は、剣をいつでも抜けるように背中に背負っていて、駆け出しの冒険者のようだった。楓はというと、辺りを見回しながら歩いていた。

 

「詩音も無事だといいんだけど……」

 

「心配性なんだね〜」

 

「………うん、まぁ、詩音だからね」

 

疲れたような顔をして答える真尋。楓は、上を見上げて言った。

 

「お姉ちゃんも大丈夫かな〜?」

 

「黄咲さんも心配性なんじゃない?」

 

「黄咲じゃなくて楓でいいよ〜」

 

「呼び方については置いといて、それよりも一体どこに主催者側の人間が」

 

「ここにいますわよ」

 

その瞬間、真尋は楓を庇うように構える。声がした方を見ると、雪が降る中凛と佇む女性がいた。

 

「あら、可愛い子ですこと。これは、さぞかし楽しませてくれることでしょうね」

 

「あなたは?」

 

「私はアガテよ。そちらのお嬢さんと可愛い坊やが参加者かい?」

 

アガテと名乗る女性はそう聞いてくる。アガテはドレスに身を包み、誰が見ても美人だと思うだろう。だが、真尋の目にはそうは映らなかった。

 

「………どうして"汚れ"がこんなところにいるのかな?」

 

「坊や、私の正体わかったのかい?なら仕方ないねえ。このゲームの制限時間まで、私と遊んでもらおうかしら!」

 

すると、アガテの周りを黒い風が包む。そして、アガテに寄り添うように、一匹のどす黒い蛇が現れる。

 

「黄咲さん、下がってて!君に戦わせるのは危険すぎる」

 

「うん、分かったよ〜」

 

そう言って剣を抜く真尋。抜いた瞬間、真尋の持つ剣"運命記す刻命剣(エクスカリバー)"は光を帯びる。

 

「どっからでもかかって来なさい坊や!」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「見つかんねえな」

 

「そうだな。だがしかし、このペアはどうなのだ?」

 

「俺に聞くな」

 

十六夜と玉藻前は主催者側の人間を見つけるために歩き回っていた。

 

「黒ウサギたちに待ってもらっている分、私たちが早く見つけないとな」

 

「ああ。でも、こんな雪の中どうやって探せと。歩くには時間がかかりすぎるし、走れば見落とす部分もあるからな」

 

「いっそのこと、敵が自分から来てくれればいいのに」

 

玉藻前がそうぼやく。その次の瞬間、上空から目の前に何かが飛来する。そして着地と同時に雪を巻き上げる。当然、十六夜と玉藻前は雪を被ることになる。

 

「誰だよ。上空から飛んできた挙句、人様に迷惑をかけるのは」

 

「私が知りたいよ」

 

十六夜と玉藻前が睨みながらそこを見ると、いたのは10歳ぐらいの少年だった。

 

「んん?ここどこだ?」

 

「おいコラ。テメェ、人様に迷惑かけておきながら無視か」

 

「……お兄さん達ってゲーム参加者?」

 

「ということは、君は主催者側の………」

 

玉藻前がそう言いかけると地面に降り積もる雪が、突如棘を形成して玉藻前を襲おうとする。

 

「チッ………!」

 

「わわっ!?」

 

間一髪で玉藻前を抱えて後方へと飛ぶ十六夜。その目は完全に戦闘モードに入っていた。

 

「………どういう了見だ。不意打ちとは卑怯じゃねえか」

 

「卑怯?勝てばなんでもいいんじゃないの?」

 

「その見た目でそんなこと言われたら、お前がゲスな奴としか見られないんだが」

 

「じゃあ何?僕に惚れた?」

 

「俺はホモじゃねえ。それにお前みたいなゲス野郎に誰が惚れるか」

 

「残念。じゃあ自己紹介。僕はレクス。君たちが探す、主催者側の人間さ!」

 

レクスが両手を振り上げる。それと同時に降り積もっていた雪が舞い上がる。

 

「ハッ、面白くなりそうじゃねえか!」

 

「全く、早く終わらせて休みたいものだな」

 

「本気で来てよ。僕が遊んであげるから!」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「だはぁ!!やっと出れた………」

 

「お、詩音。遅かったな」

 

吹雪は詩音が雪の中から出てきたのを見てそう言う。詩音はその言葉に怒る。

 

「助けてくれてもよかったじゃん!」

 

「だって面倒だし」

 

「私を殺す気!?窒息しかけたんだよ!?」

 

「いや、そう簡単に人は死なねえって」

 

「窒息したら死んじゃいますけど!?誰でも死んじゃいますけど!?」

 

「落ち着けって」

 

テンションがおかしくなっている詩音を吹雪がなだめる。

 

「誰のせいでこうなったと「いやお前がフラグ立てるから」そう言う理由!?」

 

「それにしてもあいつ、どうする?」

 

「へ?何のこーーーー」

 

詩音は言葉を失う。向いた方向には、上半身が雪に突き刺さり、下半身が外に出ているのだが、足は力なくだらんと垂れている。

 

「し、死んでる…………!」

 

「いや、多分気を失っているだけだと思う」

 

「ならいいや」

 

吹雪の言葉に速攻で納得する詩音。あなたも人命軽視してませんか?というか他人に流されすぎじゃないですか?

 

「気にするな」

 

………………もういいや。

 

「ん?なんかあれ動いてないか?」

 

「ほぇ?」

 

そこを向くと、なぜか足が動き始めていた。何かにもがくように。

 

「早めに黙祷しとこうぜ。多分あれは抜け出せない」

 

「だね」

 

そう言って二人で黙祷を始める。

 

「………ぶはぁ!まだ僕は死んでないよ!」

 

そう言って雪から出てきたのは、先ほど広場でくだらないことを言っていたいけ好かない金髪男だった。

 

「「えぇ……………」」

 

「何その不満そうな顔は!僕が死んでないのがそんなに不満かい!?」

 

「もちろん」

 

「それ常識だよ」

 

「笑顔で言わないでくれるかな!?それに、どうして僕が死ぬことが常識なのさ!おかしいだろ!?」

 

「「おかしいのはお前」」

 

「いいだろう。その挑戦受けて立つ!!」

 

瞬間、黒い風が金髪男を包む。詩音はそれに反応して弓を取り出して構える。

 

「マジかぁ………」

 

「どうした?」

 

「こいつ結構厄介かも……」

 

「まあなんとかなるだろ」

 

「何コソコソ話してるのかなぁ?君達、いま自分の立場わかってる?」

 

「分かってて話してるんだ。察しろ金髪男」

 

「僕は金髪男じゃない。アッシュという名前がちゃんとあるんだ」

 

「分かったよマッシュ」

 

「へぇ、スカッシュって言うんだ」

 

「マッシュでもなければスカッシュでもない!アッシュだ!」

 

「「分かったよマッシュルーム」」

 

「僕は食べ物じゃない!もういい!君達、死ぬ覚悟はできてるんだろうね!」

 

アッシュを包む黒い風は勢いを増して吹き荒れる。

 

「さあて、そんじゃあやりますか」

 

「あんまりあいつの攻撃食らわないでね。事後処理面倒だから」

 

「了解だ」

 

詩音と吹雪はそう言葉を交わして構える。

 

「さあ、殺戮パーティーと洒落込もうじゃないか!精々楽しませてくれよ、人間共!」

 

 




どうでしたかね?
それにしても、詩音のフラグ回収率が半端ねぇ………。
いつからオリ主じゃなくてネタ主になったんだろう。

詩音「誰がネタ主だ」

お前だよ。うちの作品で明らかにフラグ回収率が高いお前だよ。

詩音「ていうか主、あんたって明日から試験じゃない?」

………………………………。

詩音「コラ、耳を塞いでそっぽ向くな」

この際詩音は放っておくとして、うーん、今回のギフトゲームって鬼畜ですかね?なんか感覚麻痺してきた。
それでは、次回もお楽しみに!


次回予告

主催者側の人間と戦闘を始める三組。

制限がある中で問題児たちはこのゲームに勝利することができるのかーーー。

「癒しの風は冬の雪と共に吹き荒れる」


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癒しの風は冬の雪とともに訪れる

よし、やっと書き終わった!
ということでお楽しみください!


十六夜&玉藻前ペアは、レクスと対峙していた。十六夜は完全に戦闘モードに入っていた。

 

「おい玉藻前!お前もさっさと準備しやがれ!」

 

「分かっている!少しだけ待ってくれ!」

 

「三十秒だ。それ以上はもたねえからな!」

 

「承知した!」

 

そう言い残し、レクスに突進する十六夜。レクスは笑みを浮かべて降り積もった雪を舞い上げて、舞上げた雪で矢を作り出して放つ。

 

「これが避けられるかな?」

 

それは全て十六夜に向かって飛ぶ。十六夜はとっさに横にかわすが、矢は十六夜を追尾する。

 

「おいおい……これじゃあ、避けられーーーー!」

 

十六夜はそう言いかけてハッとして何かに気づく。

 

「ヤハハ、いいこと思いついた」

 

悪戯な笑みを浮かべてそう言う十六夜。そんな十六夜を訝しみながらも矢を放ち続けるレクス。

 

「どうしたの?もう諦めた?まあべつにいいけ「いや」ん?」

 

 

 

「残念だが、その逆だ!」

 

 

 

十六夜が正面から迫ってきた矢に対して横によけると、弾丸のようにレクスに迫る赤い影があった。矢は全て撃ち落とされていて、その影はすぐさまレクスの懐までたどり着く。

 

「なっ!?」

 

「ふっ!!」

 

「がぁ!?」

 

一瞬のうちに、レクスが吹き飛ばされる。そのレクスの腹部には五本の切られたような傷があった。

 

「待たせたな十六夜」

 

そこには瞳を真紅に染め、赤い気を纏った玉藻前だった。レクスの傷は、長く伸びた玉藻前の爪から繰り出された斬撃によるものだろう。

 

「ベストタイミングだ。それじゃあ、ヤツが伸びてる間にさっさと終わらせるぞ」

 

「承知したぞ」

 

十六夜は地面を蹴り、倒れているレクスに接近する。玉藻前はタイミングを計っているのか、その場を動いていない。

 

「こ、こんなことで僕が「まだまだいくぜ!」ぐあ!」

 

レクスは起き上がろうとした時に十六夜に空中に打ち上げられる。それを狙っていたのか、玉藻前は地面を蹴ってレクスに迫る。

 

「く、くそッ!」

 

レクスは、そうはさせまいと雪を巻き上げて己の身を隠すが、玉藻前はそれを切り裂いて払う。

 

「このような小賢しい真似で私を止められると思うなよ、ガキ風情が!」

 

「や、やめっーー!」

 

「はぁ!!」

 

玉藻前は、容赦なくレクスの体を切り裂いていく。

 

「十六夜、貴様が決めろ!」

 

「ハッ、了解したぜ」

 

そう言って玉藻前は、レクスの腹部にはかかと落としをする。するとレクスの体は地面を目掛けて落ちる。

 

着地点の側に十六夜は移動して、拳を構えて力を貯める。

 

「さて、終わりといこうぜおチビさんよ!」

 

レクスの体が地面に着く寸前に、十六夜は貯めた力を全てレクスに叩き込む。

 

「しゃらくせぇ!!」

 

ドゴォという鈍い音が鳴り響き、吹き飛ぶレクス。向かいにある建物にぶつかったと思うと、その建物はガラガラと音を立てて崩れ始める。

 

「ヤハハ!大勝利だ」

 

「やり過ぎだ馬鹿者。建造物を壊してどうする」

 

「まあ、これは白夜叉にでも任せるとして」

 

「……………反対はしない」

 

「後の主催者側の人間探しに行くとするか」

 

「それもそうだな」

 

一人目の主催者側の人間は、十六夜&玉藻前ペアの一方的な試合(ワンサイドゲーム)によって倒されたのだった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

一方、真尋&楓ペアはアガテと対峙していた。

 

「いくよ坊や!」

 

アガテに寄り添っていた黒い蛇が素早く真尋に迫る。

 

「やぁ!」

 

真尋は迫る蛇を剣で斬り裂く。蛇は斬り裂かれた瞬間に霧散する。

 

「ほぉ、やるねぇ。だけど、この数ならどうだい!」

 

アガテの周りに無数の黒い蛇が現れる。ウネウネ動いて気持ち悪い。楓の笑顔は、なぜか全く変わっていないように見えるが。

 

「黄咲さん、蛇苦手なら目を瞑っててもいいよ」

 

「大丈夫だよ〜」

 

「本当に?」

 

「本当に大丈夫だよ〜」

 

「……ならいいけど」

 

「お喋りする暇があるのかい!」

 

黒い蛇は一気に真尋へと突撃する。真尋は剣を構える。その時だった。

 

バサッと何かに何かがぶつかる音がした。その方向を見ると呆然しているアガテがいた。その顔には雪が当たっている。

 

そしてその原因は言わずともわかる。真尋は剣を構えているため無理である。なら犯人は、

 

「当たった〜」

 

そう、楓だった。その足元には数十個の雪玉があった。

 

「えっと………黄咲さん………」

 

「こうやってお姉ちゃんと遊んでたんだ〜」

 

「い、いや、今戦闘中………」

 

その時、真尋は尋常じゃない殺気を背後に感じた。恐る恐る後ろを振り返ると、額に青筋を浮かべているアガテがいた。その背後には阿修羅が見える。

 

「あんた達、なめるのもいい加減にしてもらおうかしら?」

 

「くっ……なんて覇気だ……。勝てる気が……しなくもない!」

 

ないんかい!!

 

「もういい。蛇達、殺して「うわぁぁ!!退いて!!」へ?がふぅ!?」

 

アガテが命令しようとした時、何かがアガテに激突した。その衝撃でアガテは顔面から地面に飛び込む。そしてアガテに当たったのは、玲華だった。

 

「あれ?お姉ちゃんだ〜」

 

「あ、楓。こんなところにいたんだ。って今はそんなところじゃ」

 

「み〜つ〜け〜た〜ぞ〜」

 

怒気のこもった声を放ったのは、頭の上の耳を逆立たせていた千斗だった。

 

「げっ!」

 

「テメェ、よくも逃げ回ってくれたなぁ!!」

 

「痛い痛い!!」

 

玲華にヘッドロックをする千斗。この事態に真尋は置いてけぼりである。

 

「もう……なんでもいいや……」

 

ついに考えることを放棄した真尋。そして、先ほどまで倒れていたアガテも置いてけぼりだったのだが、ワナワナ震えて立ち上がる。

 

「くそっ、ここまでコケにしてくれるとは、いい度胸じゃない!ぶち殺して差し上げ「えい〜」ヘブッ!」

 

怒りに満ちた顔で言おうとした途端、また楓が雪玉をアガテの顔面にぶつける。

 

「お姉ちゃんもやろうよ〜」

 

「あ、うん。いい、けど………うー、頭がー………」

 

「お前のせいだろがよ」

 

「千斗、協力して」

 

「お?何だ?」

 

「黄咲さん達があいつに雪玉ぶつけている間にあいつを葬りsゲフンゲフン倒すよ」

 

「今葬り去るって言おうとしたよな?」

 

「してない」

 

「まあいいか。とりあえず、準備すっか!」

 

アガテを倒すために構える二人。真尋の持つ剣は光を放ち、千斗の目の前には魔法陣が現れる。

 

「えいっ、おりゃっ!」

 

「それ〜」

 

「ちょ、痛!やめ、痛い!巫山戯るn痛っ!!」

 

玲華と楓は楽しそうにアガテに雪玉を当てている。

 

「今だ!」

 

「了解!」

 

刹那、剣に宿る光が満ち溢れ、魔法陣は弾け飛ぶ。

 

「"運命記す刻命剣(エクスカリバー)"!」

 

「"全てを食らう魔狼の牙(オールイーター・ウルファンクス)"!」

 

同時に現在出せる最高の力で技を放つ。それは、玲華達の的になっていたアガテに直撃する。

 

「なっ!?ちょ、まギャアアアアアアアアアア!!!」

 

聖なる光と全てを喰らう牙によって葬り去られる。

 

こうして二人目の主催者側の人間は、遊んでいた玲華と楓、そして本気で殺しにかかった真尋と千斗によって葬り去られた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

その頃、詩音&吹雪ペアはアッシュと対峙していた。

 

「もう君達を生きては帰さない。殺し尽くしてやる!!」

 

黒い風はなおも強くなり続ける。詩音は警戒しつつ弓を構える。それにもかかわらず、吹雪は平気な顔をして佇んでいる。

 

「ふ、吹雪?どうしてそんなに落ち着いてるの?」

 

「だって、あいつ雑魚だろ?」

 

「言ってくれるじゃないか。言っておくが、君達には制限があるんだよ?」

 

「それでは問題です。これはなんでしょうか」

 

そう言って吹雪が取り出したのは、雪でできた丸い何かだった。

 

「は?ただの雪玉じゃないのか?」

 

「残念、不正解。正解はー、これでしたっと!」

 

吹雪はそれを上空に投げ捨てる。そして次の瞬間、とてつもない爆音が響く。詩音とアッシュはそれをぽかんと口を開けて見ていた。

 

「実は俺が雪で作った手榴弾なんだよ。他にも、剣や槍なんかもある」

 

「ちょ、ちょっと待て!ギフトは3回まで使用可能になってたはずだ!なのにどうして!」

 

「いや、書いてたろ。一連の動作は一回とみなすって」

 

その言葉を聞いて青ざめるアッシュ。つまり、吹雪は『雪から何かを作る』というのを一連の動作と言いたいのだ。

 

「あ、ちなみにギフトカードの中にそれぞれ数百個あるから」

 

その瞬間、戦況が逆転した。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「おらおら!どんどんいくぞ!」

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

「………もう戦いじゃないよねこれ」

 

戦況が逆転してからというもの、吹雪が手榴弾やら剣やらを投擲して、時々詩音が弓を放つことによって一方的な試合となっていた。

 

「よし、そろそろいいか」

 

「うん?どしたの?」

 

「ちょっと協力してくれ」

 

「何?」

 

「あいつを消し去る!」

 

詩音は言葉も出ない。その姿を見て吹雪はもう一度言う。

 

「あいつを消し去る!」

 

「いや、聞こえてないわけじゃないから」

 

「というかまあ、弓矢で攻撃してくれるだけでいい。あとは俺がやる」

 

「それならいいよ。任せといて!」

 

詩音は吹雪の前に躍り出て、矢を数本、慣れた手つきで同時に放つ。

 

「こ、このぐらい………!」

 

「まだまだいくよ!」

 

「く、くそぉ!!」

 

アッシュはなす術もなく逃げ回る。詩音は、逃げた方向がわかるように狙い撃っている。

 

「はぁ!!」

 

詩音はなお打ち続ける。その時、後ろから吹雪が声を上げる。

 

「もういいぞ。そこを退いてくれ!」

 

「うん、分かった!」

 

詩音が横に避けて吹雪を見ると、吹雪は氷でできた槍を持っていた。

 

「さあ、終わりだぜスマッシュ!」

 

「だから僕はアッシュだ!こんなところでやられてたまるか!!」

 

黒い風が吹雪を襲おうとする。だが、

 

「"天恵浄化ー同士を守護する癒しの鈴の音(パーフィケイト・セイムガレイドル)"!」

 

その黒い風は、詩音が放った言葉と鳴り響いた鈴の音によって遮られる。

 

「ナイスだ詩音!いくぞ、"氷星の軌跡 ―氷槍―(アイスミーティアー モデル・グングニル)! 」

 

吹雪は槍をアッシュに向けて投擲する。それは一直線にアッシュの元に向かい、突き刺さる。

 

「グギ………!?」

 

槍はアッシュの五臓六腑を貫く。

 

「弾け飛べ!」

 

そして槍は、吹雪が拳を握ると同時に弾け飛んだ。それに巻き込まれるかのようにアッシュの体も弾け飛ぶ。血が地面にある雪に飛び散る。はたから見れば、グロテスクなことこの上ない。

 

そしてアッシュが死んだと確認した瞬間、詩音たちの目の前に"契約書類"が出現する。

 

『ゲームクリア

 

クリアおめでとうございます。これにて異常気象と気温低下を終了します。

 

それでは、次のゲームの参加をお待ちしております』

 

そう記されていた。これにて、ゲームは"ノーネーム"のメンバーの圧勝で終わりを迎えた。

 

 




……うん、どれもこれも一方的だなぁ。

詩音「まあ仕方ないんじゃない?」

……ですね。
それでは、次回もお楽しみに!


次回予告

ギフトゲームの翌日。千斗がある提案をする。

それは、別分岐の同士と手合わせをしようとのことだった。

blizさんコラボ最終回!

「癒術師と冬の体現者、激突そして別れの時」


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癒術師と冬の体現者、激突そして別れの時

blizさんとのコラボ最終回です!
では、お楽しみください!


"季節の支配者"とのゲームが終了した翌日、"ノーネーム"の一同は居間でグータラしていた。

 

「そういやそろそろだっけ?吹雪達が帰るのって」

 

「ああ。今日の夕方辺りかな」

 

「それまでどうするー?することは全てした気がするんだけどなー……」

 

詩音は頭を抱えて唸る。床に突っ伏している千斗が何か思いついたかのように起き上がった。

 

「あ、そうだ。決闘しよう」

 

「「は……?」」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「なんでこんなことに………?」

 

「俺が聞きてえよ……」

 

詩音達は千斗の提案によって手合わせをすることになった。その理由はというと、

 

『別分岐の奴との手合わせとか面白ゲフンゲフン楽しそうじゃないか』

 

『言い直せてない!!』

 

ということだった。

 

「でも、どうするの?玲華ちゃんと楓ちゃんはやる気ないんだよね?」

 

「わざわざ疲れることしたくない」

 

「お姉ちゃんがやらないなら私もやらない〜」

 

「じゃあ、吹雪は?」

 

「ん?面白そうならなんでもいいが」

 

「うん、聞く人間違えてた」

 

詩音は痛そうに頭を押さえる。この中で常識人はほとんど、いや全然いないのだ。強いて挙げるなら詩音(天然などの属性は除く)と真尋なのだが、

 

「真尋は賛成しちゃったしなぁ……」

 

そう、真尋は千斗の案を真っ先に賛成した人なのだ。その理由は、

 

『別にいいんじゃない?僕が苦労しないならそれで』

 

ただ面倒ごとを避けたいだけだった。現に手合わせには参加しないと宣言している。

 

「で、言い出しっぺの千斗は?」

 

「頑張れシイー」

 

「観戦する気満々かよ!!」

 

拳を突き上げて言う千斗にすぐさまツッコむ詩音。

 

「つーことは詩音とやればいいのか?」

 

「えー、私ー………?」

 

「まあ、いいんじゃねえの?それに、俺もお前の実力は気になってたんだよな。何かを秘めてるというか、なんとなくだが」

 

「……………はぁ、分かったよ。それじゃあ黒ウサギよろしく」

 

「はいな!それでは今から吹雪さんと詩音さんの手合わせを始めます!」

 

そう宣言すると、詩音と吹雪の目の前に"契約書類"が現れる。

 

『ギフトゲーム名 氷雪の奇跡と癒心の心得

 

・プレイヤー一覧 水無月 詩音

       白銀 吹雪

 

・勝利条件 敵プレイヤーの打倒。

 

・ゲームルール

*殺害禁止

*攻撃を受けた場合は、傷などではなくフィードバックが生じる。

*勝者は、敗者になんでも一つだけ命令できる。なお、敗者はそれを断ることはできない。

*使えるギフトは一つだけ。

*武具などの使用は無制限。

 

上記を尊重し、我々はゲームを行います。

        "     "印』

 

「なにこれ!?なんで命令権一回とかついてるの!?」

 

「いや、その方が面白いかと思いまして」

 

「この駄ウサギ!負けられないじゃんか!」

 

「誰が駄ウサギですかこの天然様!」

 

"契約書類"の内容に文句がある詩音は、黒ウサギと言い合いを始める。

 

「あのさ、始めていいか?」

 

「ああもういいよ!どうにでもなれ!」

 

「よし、それじゃあせーのっ!」

 

詩音がヤケクソ気味に叫ぶと吹雪が何かを放り投げる。それは放物線を描き、詩音の元へと落ちていく。

 

「………っ!」

 

ハッとして何かに気づいた詩音は、弓をギフトカードから取り出して矢を放つ。矢は、吹雪が放り投げた何かの真ん中を居抜く。すると次の瞬間、爆音が鳴り響く。

 

「やっぱり持ってたか、雪爆弾」

 

「流石に分かるか。まあ別にいいか。ストックはまだまだあるし」

 

ニヤァと嫌な笑みを浮かべて雪玉を取り出す吹雪。詩音の背中を嫌な汗が伝う。

 

詩音は悟った。このゲームは一筋縄でいかないなんてものじゃない。縄で縛られた挙句、火災現場(既に火の手が全体に行き渡っている)ところから逃げ出すぐらいに苦戦するだろうな、と。

 

「とりあえず百連発逝っとくか!」

 

「全部撃ち落とす!」

 

こうして射撃大会は幕を開けた。………ギフトゲームはどこに行った?

 

「気にすんなって」

 

「ていうか吹雪、いつもと戦い方一緒じゃん」

 

「ブレないね〜」

 

「いや、いつもやってんなら少しはなんか言ってやれよ」

 

そんな風に爆音が響いている間も呑気に言い合う観客たち。

 

「だって言っても無駄だし」

 

「場合によってはもっとえげつない戦法使ってるけどね〜」

 

呑気に言ってる場合ですか黄咲姉妹。

 

「詩音、強く生きて」

 

真尋は目を閉じてそんなことを言う。

 

「詩音さん、死なないように頑張りなさい」

 

「詩音、幸運を祈る」

 

飛鳥さん、耀さん、それ案に死ぬ可能性があるってことになるんじゃ………。

 

「「大丈夫だ、問題なんて多分詩音が吹き飛ばしてくれるさ!」」

 

千斗君と十六夜君に限ってはフラグ乱立させてますよね!?

 

「「「「気にするな」」」」

 

………もうやだこの人たち。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

一時間それを続けたところで吹雪の手榴弾のストックが尽きた。

 

「チッ、もうねえのか」

 

「なく、なって……もらわな、きゃ困、る………」

 

肩で息をしながらボヤく詩音。現在、どちらかというと詩音が劣勢である。

 

「よし作ろう」

 

「させるかっ!」

 

させまいと矢を放つ詩音。吹雪に隙を作らせないように、間隔を空けずに放つが、吹雪はこれを難なくかわす。

 

「思ったんだが、お前ギフトを二つぐらい使ってないか?弓はいいとして、疲労回復やら治癒やらに使ってたやつと、その矢を生み出してる魔術的なものとの二つ」

 

「残念だけどこれ一つのギフトなんだよね。"癒術師"ってギフトは弱い魔法も使えるようになるんだよ。魔術と比べて精密さや火力とかは確実に劣るけどね」

 

「なるほど。矢を作る程度はできると……。まあそれはいいか」

 

「吹雪ー、そろそろ真面目に戦いなさいよー」

 

「頑張れ〜」

 

「………分かってるよ。まあ防戦一方ってのも嫌なんでそろそろ反撃行くぞ」

 

先ほどまでバックステップでかわしていた吹雪は、地面を蹴り、前進する。ギフトカードから剣を二本取り出して、詩音が放つ矢を切り捨てていく。

 

「終わりだ」

 

「"天恵浄化 ー護りの鈴の音ー(パーフィケイト・ガーディアルベル)"」

 

「んな!?」

 

吹雪が斬りかかろうとした時、詩音は瞬時に左手を突き出してそう叫んでいた。すると、凛と響く鈴の音とともに波紋のようなものが現れる。それによって、剣が阻まれる。

 

「ナイス切り返しだシイ」

 

「でも、あれってそこまで防御力なかったよね」

 

「「「詰んだな/わね/ね」」」

 

「そこ詰んだって言うな!」

 

千斗は褒めたのだが、他の全員は褒めるどころか詰んだと宣言しているほどである。

 

「くそッ、これが癒術師ってか」

 

「使い方間違ってるけどね」

 

「じゃあ本物の使い方ってもんを見せて欲しいものだ」

 

「残念ながら今は無理ってちょっと待って!いきなり力入れたら………!」

 

「話に集中してちゃ、勝てるもんも勝てねえぜ!」

 

吹雪は波紋に阻まれていた剣を振り下ろす。すると、波紋は消え去り詩音は後ろに飛ばされる。

 

「きゃっ!」

 

「さて、そろそろ終わりといくか」

 

吹雪は、槍を取り出す。アッシュを葬り去ったあの槍だ。

 

「うげっ!それ使うの!?」

 

「使えるもんは使わないとな。まあせいぜい耐えて見せやがれ、"氷星の軌跡 ―氷槍―(アイスミーティアー モデル・グングニル)"!」

 

吹雪が放った槍は、冷気を纏って詩音の元へと直進する。そのまま詩音に当たるーーーーーーーはずだった。

 

「"全て無へと帰しましょう。その力が私に牙を剥いたなら、それを無にしましょう。もし、貴方の心が黒に染まるなら、それを無へと帰しましょう"」

 

詩音は地面に座り直して紡ぐ。

 

「"貴方の心が黒でなく、その力が間違った方へと使われたなら、それを矯正しましょう。その力が、他が為に使われるように願い、紡ぎましょう『天恵浄化(パーフィケイト)』」

 

紡ぎ終わると、詩音に向かって飛んでいた槍は、先端から光の粒子となって消え始め、詩音の元に着く頃にはキレイさっぱり無くなっていた。

 

「ふぅ、なんとかなった……」

 

「おいおい、流石に洒落になんねえぞ………」

 

詩音はホッと息を吐き、吹雪は驚愕する。それを見ていた十六夜達も驚きを隠せなかった。

 

「嘘っ!?吹雪のアレを消したの!?」

 

「わー!詩音ちゃん凄い〜!」

 

「おいおい、流石にありゃやばいだろ……」

 

「詩音、流石」

 

「ええ、そうね。流石は詩音さんね」

 

「凄いのですよ!」

 

そう驚愕したり褒めたりしているが、詩音のことをよく知る真尋と千斗は冷や汗をかいていた。

 

「なぁ、あれってさ」

 

「うん、多分」

 

「「確か使ったら一定時間動けなくなるはずなんじゃなかったっけ?」」

 

その次の瞬間、詩音の動きが止まり、そして地面に倒れる。

 

「あ………忘れ、てた………」

 

「「またか!!」」

 

「……なんか歯切れ悪いけど、これで終了か」

 

詩音と吹雪の手合わせは、詩音の自滅ということで幕を閉じた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

手合わせが終わってから詩音は吹雪の命令を受けた。その内容は、『今まで自分がしたことない服装をしろ』とのことだった。

 

詩音の持っている服に来たことのないものはなかったので、黒ウサギから服を借りた。その結果、服装は白のフリフリのメイド服となっている。

 

「く、屈辱………」

 

顔を真っ赤にしてそう言う詩音。それを見て頷く吹雪。

 

「うん、こんな使用人がいたら普通にいいな」

 

「詩音ちゃん可愛い!」

 

「可愛い〜。似合ってるよ〜」

 

目を輝かせながら玲華は詩音に飛びつき、楓はそれを笑顔で見守っている。

 

他はというと、

 

「「(お持ち帰りしたい………)」」

 

などと、危ない感じがすることを考えていたり、

 

「ヤハハ、似合ってるじゃねえか」

 

普通に褒めていたり、

 

「うん、やっぱり何でも似合うなシイは」

 

頷いて自慢げに言っていたり、

 

「今までそんな格好してこなかったから新鮮だね」

 

普通に感想を述べていたりしていた。

 

すると突然、吹雪達三人の姿が透け始めた。

 

「お、戻るらしいな」

 

「えー!もっと詩音ちゃんといたい!」

 

「駄々こねるな」

 

「そうだよお姉ちゃん〜」

 

詩音から玲華を引っぺがす二人。詩音は三人に向かって言った。

 

「楽しかったよ。まあ、苦労したこともあったけど……」

 

「だな。以外と楽しかった」

 

「また来たらいいよ。今度はゆっくりしたいけどね」

 

「うん、そうするよ〜」

 

「菓子ばっか食いすぎんなよ」

 

「分かってるって」

 

「じゃあな詩音(癒術師)。また会おうぜ」

 

「じゃあね吹雪(冬の体現者)。また会おうね」

 

そう言葉を交わして、吹雪達は自分達の世界へと帰って行った。

 

 




blizさん、コラボありがとうございました!

詩音「なんでメイド服……」

自分で選んだんでしょう?

詩音「そりゃそうだけど……」

ということで次回からは本編に戻りたいと思います。
第2章突入ですかね。

詩音「だね。それじゃあ締めようか」

あと、今回は次回予告なしです。
それでは、次回もお楽しみに!


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Yes!箱庭に来ちゃいました♪
異世界に呼ばれちゃいました♪


少し遅くなりました。

少し短いですが………。

それでは本編をどうぞ!


今、私は湖の中にいます。なぜかって?自分のこと忘れて他人だけ助けたからだよ。

 

『詩音様、ご自分のせいですのでそう機嫌を悪くしないでください』

 

ランスに慰められているのか貶しているのか分からないようなことを言われた。

 

「分かってるよー………どうせ自分のせいですよー…………」

 

そう言って一人湖から陸へと上がる私。助けたのになんかカッコ悪い………。

 

上がろうとすると目の前に手が差し伸べられる。見上げると金髪の学生服を着た男の子がいた。

 

「上がれるか?」

 

「あ、うんありがと」

 

その男の子に引き上げてもらう。いい人だな……この人。

 

「さてと、全員揃ったところで、ここはどこだ?」

 

「さあ?どこかしらね?」

 

「………………見たことない場所」

 

「どこもかしこも澄み渡って綺麗だね〜」

 

各々の感想を述べる。どうやら他の三人も知らないらしい。

 

「それで、お前らにもあの変な手紙が?」

 

「その前に、そのオマエというのを訂正してくれるかしら。私は久遠飛鳥よ。以後気をつけて。それで、そこで猫を抱えているあなたは?」

 

うわぉなんと高圧的な自己紹介。ってそんなこと気にしてるの私だけ?

 

「…………春日部耀。以下同文」

 

こっちはこっちで無表情決め込んでるし。少しは笑えばかわいいのに……。

 

「そう、よろしくね春日部さん。それで、私達を助けてくれて自分の事を忘れていたどこか抜けてそうなマヌケな貴女は?」

 

「ま、マヌケじゃないし抜けてないよ!それと私は水無月詩音!よろしく!」

 

思いっきりその場のノリと勢いで自己紹介をする。

 

「よろしく水無月さん。最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

 

一番問題児そうな男の子に言う。といってもその人私が湖から上がる時に手を貸してくれたから優しいと思うよ?凶暴そうには見えないけどな〜。

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と容量を守った上で適切な態度で察してくれお嬢様」

 

こっちもこっちで盛大な挑発してるし。

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

売り言葉に買い言葉で返す二人。こんな人たちと一緒なんて……、これから私どうなるのでしょう………?

 

「グルルル……………」

 

「どしたのフェルン?」

 

突然フェルンが唸り声を上げる。少し離れたところにある茂みのほうを向いて。

 

私はそこを睨む。するとガサッと茂みが揺れる。

 

ははーん、あそこに隠れてるな。この状況を作り出した張本人が。

 

「フェルン、レッツゴー!」

 

「ワォン!!」

 

フェルンは私が言うと獲物に襲いかかるように走っていった。そして茂みに飛びかかる。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!!く、黒ウサギは何もしてないのですよ!!」

 

フェルンが襲ったことによって茂みから出てきたのは、ウサ耳を生やした少女が出てくる…………ってウサ耳!?

 

「い、一体全体なんなのですか〜!?」

 

「グルルル、ワン!」

 

「ちょ、お願いだから来ないでください〜!!」

 

ウサ耳の少女は涙目になりながら爆走する。

 

「フェルン、もういいよ」

 

私がそういうとフェルンは私の元にやってきて尻尾を振る。いつも通り頭を撫でてやる。

 

「た、助かりました………」

 

「それで、お前は誰なんだ?てかなんであんなところに隠れてた?」

 

少女の体がビクゥ!と震え、そっぽを向く。

 

「答えないならまたはフェルンに襲わせるよ?」

 

「ちょっとお待ちを!答えます、答えますから!」

 

必死にそう言う少女は気づいていないだろう。忍び寄る春日部さんに。

 

「えい」

 

「フギャ!?」

 

思いっきり耳を引っ張った。それにしてもなんとも女の子とは言えないような悲鳴ですな。

 

「ちょっとお待ちを!触るならまだしも遠慮無用に引っこ抜きにかかるとはどういう了見ですか!?」

 

「好奇心のなせる業」

 

「自由にもほどがあります!!」

 

そして耳に興味を持つ二人が少女の背後に立つ。

 

「へえ、この耳本物なのか」

 

「そうなのね」

 

「え……?お、お二人とも、ちょっとお待ちを!!」

 

十六夜と飛鳥は少女の耳を掴む。少女は涙目でこちらを見てくる。

 

ウサ耳少女が助けて欲しそうにこちらを見ている。

 

助ける

暖かい目で見守る

無視する

後でモフる

 

その中での私の答えは、

 

助ける

暖かい目で見守る

無視する

後でモフる◀︎

 

ということで、

 

「後でモフらせて〜」

 

「は!?」

 

「「「了解」」」

 

「なぜあなた方が返事をするのですか!?するのは黒ウサギでないのですか!?お願いだからやめてくださいーーーーーーー!!!」

 

その後、一人の少女の悲鳴が響き渡ったことは言うまでもない。

 

 




どうでしたか?今回は短いですが……。

さて、最初の方は暴走しますよ!(おい

ここまで読んでくださりありがとうございました。次回もお楽しみに。


感想、評価、誤字脱字の指摘、駄目出し等もよろしくお願いします。

次回予告

ウサ耳少女、黒ウサギによる説明により召喚されたのが箱庭だと分かる。

そこで十六夜はフリーダム、飛鳥と耀もフリーダム。こんなので大丈夫なの?と疑問に思う詩音。

そして箱庭の街である外道がエンカウントする。

「唐突に外道はエンカウントする、ということもあるよね?」


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唐突に外道はエンカウントする、ということもあるよね?

さてさて、三話目ですね。

今回はいつも通りの文字数ですので前よりか長いです。

それでは本編をお楽しみください。


一通り十六夜達は弄り尽くし、私はモフりまくったので満足して黒ウサギ弄りをやめた。

 

「あ、ありえないのですよ…まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況をいうに違いないのデス」

 

「うわ〜モフモフだ〜」

 

黒ウサギは半ば本気の涙を浮かべている。詩音はそれに抱きつきウサ耳を触りまくっている。

 

「ひゃ!?ちょそこはやめてください!」

 

「んにゃ〜やめらんないね!だって触り心地いいんだもん♪」

 

「おい水無月、その辺にしとけ。話が聞けねえ」

 

暴走し始めようとした詩音を十六夜が制する。詩音は口を尖らせるがそれに従い渋々黒ウサギから離れる。

 

「コホン……、それではいいですか御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言いm

 

 

 

(ものすごく面倒というか既に読んだことがあるかもですので割愛)

 

 

 

話が終わり、三人と二匹は黒ウサギにコミュニティへと連れて行ってもらっていた。

 

「ジン坊ちゃーん!新しい方を連れてきましたよー!」

 

「おかえり黒ウサギ。そちらの女性三人が?」

 

「Yes!こちらの御四人方がーーー」

 

黒ウサギはクルリと振り返りカチンと固まる。そう、一人足りない。

 

「あれー!?もう一人は………?」

 

「あ、十六夜君のこと?彼なら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ』とか言って駆け出していったわよ」

 

あっちの方に、と指さすのは断崖絶壁だった方向。そして硬直から治った黒ウサギはウサ耳を逆立てて三人に問う。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!?」

 

「『止めてくれるなよ』と言われたから」

 

「どうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「『黒ウサギには言うなよ』と言われたから」

 

「ならどうして何も音がしなかったのですか!?」

 

「フェルンの力使って黒ウサギに音が聞こえないようにしていたから」

 

「最後のはいいとして言うのが実は面倒くさかっただけでしょう!?」

 

「「「うん」」」

 

ガクリと前のめりにうなだれる黒ウサギ。

 

「た、大変です!"世界の果て"にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「ワウ?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す意味で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ちできません」

 

「あら、それは残念。ということは彼はもうゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」

 

「ふざけている場合ではありません!」

 

ジンは必死に二人にことの重大さを訴える。だが二人は方をすくめるだけである。

 

「ワォン♪(そうだ、"世界の果て"に行こう)」

 

「こらフェルン!あんたは絶対に行くな!何があっても行くな!」

 

詩音は嬉々として"世界の果て"へと行こうとするフェルンを全力で止めていた。

 

「ジン坊ちゃん、申し訳ありませんが御三人様のご案内をよろしくお願いします」

 

「黒ウサギはどうするの?」

 

「問題日を捕まえに参ります。ついでにーーー"箱庭の貴族"と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、髪を淡い緋色に染める。

 

「一刻ほどで戻ります。皆さんはその間にゆっくりと箱庭ライフを御堪能くださいませ!」

 

そう言って黒ウサギは全力で跳躍し、弾丸のように飛び去る。

 

「………箱庭の兎は随分早く跳べるのね」

 

「ウサギたちは箱庭の創始者の眷属ですから」

 

そう、と空返事をする飛鳥。飛鳥はジンに向き直り、

 

「黒ウサギもああ言ってたことだし、先に箱庭に入りましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩者ですがよろしくお願いします。三人の名前は?」

 

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」

 

「春日部耀。で、そこで狼に………なんで押さえつけられているの?」

 

「た、助けて〜!」

 

淡々と自己紹介をしていく中、なぜか詩音はフェルンに地面に押さえつけられていた。身動きが取れないようで詩音は涙目である。

 

「水無月さんが立てないから退いてあげて」

 

「ワウ?」

 

「…………?」

 

お互い首をかしげる耀とフェルン。フェルンが首を傾げて押さえつける力が弱まった隙に詩音は立ち上がる。

 

「……………フェルン後でお話ね」

 

詩音はフェルンを見下ろして笑いながら言う。だけど、目が笑っていない。

 

「わ、ワウ………」

 

「それで貴女は?」

 

「水無月詩音だよ。よろしくねジン!」

 

そうして一行は自己紹介を済ませて箱庭の外門をくぐるのだった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

箱庭の中に入った後、四人はとある店に入り飛鳥、耀、ジンはお互いの事について話し合っていた。詩音はというと、

 

「……………」

 

無言でサンドウィッチを頬張っていた。そして話しつつもモグモグと食べる詩音を横目で見る飛鳥と耀とジン。

 

「………ねえジン君」

 

「………なんでしょう?」

 

「この可愛らしい生き物は何かしら……?」

 

「僕が聞きたいくらいです」

 

飛鳥にはサンドウィッチを頬張る詩音が小動物に見えたらしい。ジンと飛鳥は詩音のその姿に癒され、耀にいたっては背後からそーっと近寄っている。そして背後から抱きつく。

 

「………!?」

 

抱きつかれて食べるのをやめて咄嗟に背後を向く詩音。

 

「な、何?どしたの耀ちゃん?」

 

「ねえ、お持ち帰りしていい?」

 

「ふぇ!?お、お持ち帰り!?」

 

だが次の瞬間、その和んだ空間は突然の来訪者によって崩される。

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ二ティ"名無しの権兵衛"のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

品のない高ぶった声が聞こえ、その方向には二メートルを超えるピチピチのタキシードで身を包む変な男がいた。

 

「あの……どちら様?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層を陣取るk「水無月さん、そこの変な人(・・・)は放っておいて私たちとお話しましょう」

 

「ふぇ?」

 

「うん、久遠さんの言う通り。あの変な物体(・・・・)は放っておいて話そう。水無月さんや久遠さんの事知りたいし」

 

「春日部さん、私の事は飛鳥でいいわよ」

 

「あ……私の事詩音って呼んでいい……よ?」

 

飛鳥は微笑みながら、詩音は頰を少し赤くし俯きながら言う。

 

「じゃあ私の事は耀でいい。よろしく二人とも」

 

「ええよろしく」

 

「う、うん……」

 

三人が微笑ましい雰囲気を出す。ジンとその他の周りの人はそれを温かい目で見守っている。そして状況を読み込めていない人が一人。

 

「え……いやあの……「そうだ詩音、詩音はどんな世界でいたの?私知りたいな」

 

「それもそうね。詩音さん、教えてくださる?」

 

「え、あ〜、話してもいいけど……聞いてもあんまり面白くないよ?」

 

「いいのよ。私は詩音さんや耀さんと仲良くなりたいんだもの」

 

「うん、私も飛鳥や詩音と仲良くなりたい」

 

「そ、そうなんだ。じゃあ、話そうかな………」

 

飛鳥と耀にそう言われて嬉しいのか、顔を赤くしニヤける詩音。

 

「じゃあ、まずは「話を聞けや小娘共ォ!!」

 

微笑ましい光景をぶっ壊したのはタキシードを着たさっきまでハブられていた男だった。

 

「五月蝿いわよ変人。私たちは今交友を深めようとしているの。邪魔しないでくれるかしら?」

 

「……変な物質のくせに話しかけてこないで。虫唾が走る」

 

飛鳥と耀は男を睨む。それを見ていたジンは冷や汗をかきつつその光景を見守っている。だが、睨みにひるむ事なくタキシードの男は言う。

 

「誰が変人だと!?俺にはガルド=ガスパーという名前があるんだよ!!」

 

「はいはい。それで何の用かしら変人のガルドさん?」

 

「用件があるなら早くして。ないならどっか行って。目障り」

 

「この……いい加減にしろや小娘共ォ!!!」

 

その瞬間、ガルドの姿が豹変する。巨躯を包むタキシードは膨張するように後背筋で弾け飛び、体毛は変色して黒と黄色のストライプの模様が浮かび上がる。その見た目は虎と人間を掛け合わせたかのように思われるものだった。

 

「テメェらどういうつもりでこの俺を無視してくれてんだああ!?俺の上に誰がいるのかわかってんだろうなァ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後身人だぞ!!その態度は俺に喧嘩を売ってるって判断してもいいんだよなァ!?」

 

「別に、そう思ってくれても構わないけれど。あなたのような外道に構っている暇はないもの。ねえ二人共」

 

「うん。こんなの生きてる方がおかしい」

 

「というか心がドス黒いね君。もしかして過去に殺しでも犯したのかな?」

 

「ああそうだ!俺はギフトゲームの対戦相手のコミュニティから女子供を攫って脅迫したのさ。これで俺はコミュニティを大きくしていった」

 

「ふーん。で、その人達は?」

 

「はっ、殺したに決まってるだろうが!ギャアギャア五月蝿ぇから全員殺したよ!」

 

「へー。でさ、それ口外してよかったの?」

 

詩音が何気無い顔でそう言うとハッと何かに気づくガルド。

 

「絵に描いたような外道ね」

 

「最低、クズ、馬鹿、間抜け、死ね」

 

飛鳥は軽蔑の目でガルドを見て、耀にいたっては死んだような目でガルドを蔑む。

 

「テメェら、あれを聞いたからには生きて返さねえぞ……覚悟はいいんだろうなァ小娘共ォ!!!!」

 

ガルドは三人に襲いかかる。最初にその中でも一番ひ弱そうな詩音に飛びかかる。

 

「はぁ………ランス、やっちゃって」

 

「承りました詩音様」

 

淡々と詩音がそう言うとガルドの目の前に白い鎧で身を包む青年が立っていた。

 

その青年は飛びかかるガルド腕を掴み飛んできた方向へと投げる。ガルドは容易に投げられ尻餅をつく。そして、尻餅をついたガルドに青年は剣を突きつける。

 

「あなたのような外道は初めて見ましたよ。それで詩音様、どうしましょう」

 

「そうだね……。ジン何かない?手っ取り早くそこの訳のわからない奴を懲らしめる方法」

 

「あります。この箱庭ならではの方法ですが」

 

「あ、ギフトゲームって奴か!」

 

「そうです」

 

黒ウサギの話を思い出してそう言う詩音に肯定するジン。

 

「それじゃあさ、なんか気に食わないからあんたとゲームする。仮に私たちが勝ったらあなたは箱庭を出て行く。でも私たちが負けたら、そうだね………私があなたの奴隷になるってのはどうかな?」

 

詩音はガルドにそう提案する。

 

「ちょっと待ちなさい!私たちが勝った場合はいいわ。でもなぜ負けた場合詩音さんが奴隷になるのよ!?」

 

「え?ダメかな?」

 

「ダメ、絶対にダメ」

 

「いや、負けなきゃいいだけの話じゃん。ね、フェルン」

 

「ワォン!」

 

飛鳥と耀から抗議の声が上がるがさっきの提案を変更する気はない詩音。だが、ガルドも納得がいかなかったらしく、

 

「なんだと!?巫山戯るな!!誰が貴様らの提案をーーーー!?」

 

不満の声が上がったがそれもすぐに言葉を詰まらせる。原因はというと、

 

「お前に詩音様の提案を否定する権利などないぞ外道。お前は黙って従っていればいいのだ」

 

青年の殺気のこもった目によって言葉を詰まらせていた。

 

「それでは明日ゲーム開始ね。楽しみにしてるよ虎さん♪」

 

楽しそうに詩音はそう言った。こうして翌日にガルドの追放と詩音の奴隷化をかけたギフトゲームが行われることになった。

 

 

 




さて、どうでしたか?

完璧に無視されるガルドを書いてみたかった(笑)

それでは今回はこの辺で。

ここまで読んでくださりありがとうございました!次回もお楽しみに!

感想、評価、誤字脱字の指摘、駄目出し等もよろしくお願いします。


次回予告

詩音の独断で決まったガルドとのギフトゲーム。

そのギフトゲームに備えて一行はギフト鑑定をしてもらうことに。

だがその目的地でも色々問題があってーーー!?

「和装ロリは変態だそうですよ」


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和装ロリは変態だそうですよ

遅くなりました!

この頃書くスピードがめっきり遅くなってきました……どうにかしないと……。

ということで、本編をお楽しみください。


「何をやっているんですかお馬鹿様!!」

 

詩音のフリーダム発言の後、黒ウサギ達と合流して先ほど起きたことを話す。すると黒ウサギはウサ耳を逆立てて激怒する。

 

「何故あの短時間のうちに"フォレス・ガロ"のリーダーと出会い、喧嘩を売る状況になるのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリーの中で戦うなんて考えなしにも程があります!!」「準備している時間もありません!」「どういう心算のあってのものです!!

 

聞いているのですか御四人方!!」

 

「「私たちは無視しただけであって悪くはない。故に反省などしない」」

 

「僕は流されていたので悪くはないですが反省はします」

 

「面白そうだから喧嘩を売った!反省なんて言葉は知らない!」

 

「黙らっしゃい御気楽カルテット!!」

 

スパパパパァーンと黒ウサギはハリセンで鎧を纏う青年以外の四人の頭を叩く。

 

「まあいいんじゃねえか。見境なしに喧嘩を売った……………訳じゃないよな?」

 

十六夜でさえ疑問に思い詩音に聞く始末。そして詩音は、

 

「え?いや、単に面白そうと思って」

 

そう言った。それを聞き頭を押さえる十六夜。

 

「しかも何ですかこの"契約書類(ギアスロール)"は!デメリットが大きすぎるじゃないですか!!」

 

そう、"契約書類"には先ほど詩音が言ったように、こちらが勝った場合はガルドが箱庭を去り、負けた場合は詩音が"フォレス・ガロ"の奴隷になるということになっている。

 

「うんまあ………これはダメだろ………」

 

「ええ!?なんで!?」

 

「いや、なんでと言われても………」

 

詩音の問題児っぷりに手を焼く十六夜。それを見かねた白の鎧を身に纏う青年が言う。

 

「詩音様、それ以上お仲間を困らせてはなりませんよ」

 

「え〜、いいじゃん。お馬鹿なランスは黙っててよ」

 

「………誰がお馬鹿だって?」

 

ランスと呼ばれた青年はニコリと笑い詩音に言う。額に青筋が浮かんでいるが。

 

「ご、ごめん……」

 

「分かればいいんです」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!貴方は誰なのですか!?」

 

「それは私も気になったことよ。貴方は一体誰なの?」

 

「ん?僕ですか?僕には名前はないですよ。しいて言うならランスロットと言うべきでしょうか」

 

な!?と詩音以外が固まる。

 

「ら、ランスロットってあの………!?」

 

「ということはお前はアーサーに仕えた円卓の騎士ということか?確かあれは物語上の人物だったような気がするんだが」

 

「あー、ちょっとそれとは違いますね。僕はアーサー王には仕えてはいません。まあその代わり詩音様に仕えてますけど」

 

「ということは詩音はアーサー王?」

 

「へ?アーサー王?何それ?」

 

可愛らしく首をかしげる詩音。その瞬間その場の全員が思った。『あ、こいつ馬鹿だ』と。

 

「それで、どうするの黒ウサギ?これからどうするつもり?」

 

詩音にそう言われハッとする黒ウサギ。

 

「そうでした!これからギフト鑑定に行くのですが、ジン坊ちゃんはどうします?」

 

「僕は先に帰っているよ」

 

「分かりました。お気をつけて」

 

そう言って一行はジンと別れ、黒ウサギについて行った。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音達が向かっているのは、黒ウサギによると"サウザンドアイズ"と呼ばれる商業コミュニティらしい。そこに鑑定してくれる人がいるとか。

 

「ん?あれは、桜かしら?真夏だというのによく咲いてるわね」

 

「いや、まだ初夏だったはずだから気合の入ったのは生き残ってる可能性は高いぞ」

 

「………?今は秋だったはずだけど……」

 

「そもそも季節なんてないんですけど……」

 

何やら話が噛み合わない三人(季節がない詩音は除く)。それを見て微笑む黒ウサギ。

 

「は?どういうことだ?」

 

「御四方はそれぞれ違う世界から召喚されてきたのです。元いた時間軸以外に歴史や文化、生態系などと色々違う点があるはずですよ」

 

「バレットワードってやつ?」

 

「それを言うならパラレルワールド。なんだよバレットワードって」

 

「あはは、ちゃんと覚えてなかった」

 

「パラレルワールドに近いのですが、正しくは立体交差並行世界論というのですが、話すと長くなりますのでそれはまたの機会に」

 

そう言うと黒ウサギはあるところに目を向けた。おそらくそこが目的地なのだろう。だがそこには店じまいをしようとする割烹着を着た女性店員がいた。それを見て黒ウサギは走っていってそれを止めようとする。

 

「まっ」

 

「待ったなしです。うちは時間外営業をやっておりません」

 

だが止めることはできなかった。黒ウサギは悔しそうに店員を見つめる。

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるなら他所へどうぞ。今後あなた方は出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁なんておかしいのですよ!!」

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷たい視線を向けた。

 

「あのさ、嘘はあんまりよくないよ?」

 

「は?」

 

「にはは〜♪」

 

詩音はそう笑いながら店員に言う。だがその笑顔にはどこか違和感がある。顔には出していないが怒っている感じだった。

 

「誰も嘘など「イヤッホォォォォォォォ黒ウサギィィィィィ!!!」

 

「へ?キャアアアアァァァァァァ!」

 

バシャァンと音を立てて水路に飛び込む黒ウサギと白い何か。

 

「おい、ここの店ではあんなドッキリやってんのか?それなら俺にも」

 

「やってません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

「なら私がやってあげようか?」

 

「え、は!?」

 

「?…………!!」

 

十六夜が店員に真剣にそう言っていたところに詩音が言う。突然のことに不意をつかれたのか顔を少し赤くする十六夜。そして自分が何を言ったのか理解して顔をトマトのように真っ赤にして俯く詩音。

 

「ちょ、白夜叉様!?どうしてこんな下層に……!?」

 

未だ黒ウサギに張り付いている白い何か。それが言っていることといえば完全にセクハラ発言ばかりである。

 

「離れてくださいっ!!」

 

黒ウサギは張り付いている白いものを引っぺがし投げる。それは十六夜の方向へと飛んでいく。それを十六夜は、

 

「てい」

 

「ゴバァ!!?」

 

「あ、詩音。すまんそっちにいったー(棒」

 

「へ?キャア!?」

 

詩音の方へと蹴り飛ばす。詩音は白いものがぶつかった衝撃で倒れる。

 

「おんし何を………おぉこれはこれで良いのぉ〜むほほほほほ」

 

「ちょっと何をふにゃ!?や、やめ、おねが、いやめやんっ!!」

 

その白いものは詩音に抱きつき、詩音の(ある程度育っている)胸を揉み始める。

 

「おねが、いやめやんっ!!やめ、やめろって言ってんだろうが!!!」

 

詩音は渾身の力で引っぺがし、壁へと投げつける。それは見事に壁にクリティカルヒット。白いものは崩れ落ちる。

 

「お、おんし、少しは手加減してもよ、良いのではないのか……?」

 

「うぅ……穢された……もうお嫁にいけない……」

 

白いものが言うことを完全に無視して涙目でそう言う詩音。

 

「ま、まあ良い。それで、おんしらも一揉みどうだ?」

 

「遠慮するわ」

 

「絶対嫌」

 

「白夜叉様、それでは売り上げが伸びません」

 

「まあ良いではないか。それでおんしらは何の用できたのだ?」

 

「そ、そうでした!」

 

「まあ良い。立ち話で済む話でもないだろう。私の部屋を使えば問題あるまい」

 

「そ、そんな!うちは"ノーネーム"お断りでは……!」

 

「うちの店員が無礼を働いたその詫びだ。それぐらい構わんだろう?」

 

「そ、それは………」

 

白い着物を着た少女がそう言うと言葉に詰まる女性店員。

 

「おっと、自己紹介を忘れておったな。私はコミュニティ"サウザンドアイズ"の幹部、白夜叉である」

 

この時詩音は思った。"サウザンドアイズ"は大丈夫なのだろうか、と。

 

そう思いつつ、詩音は白夜叉について行った。

 

 

 




次回かその次あたりに詩音のギフトが発覚します。

まずはギフトゲームですね……。

それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。次回もお楽しみに!


次回予告

目的地だった"サウザンドアイズ"にたどり着き白夜叉にあった一行。

だがそこで問題児たちは白夜叉に喧嘩を売りギフトゲームをすることに。

だがそれは詩音だけ違う内容で!?

「ギフトゲームは鑑定の前に」


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ギフトゲームは鑑定の前に

すっみませんでしたぁぁぁ!!ものすごく遅れてしまいましたぁぁ!!(土下座)

新作の方に集中してしまってました、すみません……。

ということで本編をお楽しみください。


「しておんしらは何用で私を訪ねてきたのだ?」

 

「あ、いろいろ頼みたいことがありまして」

 

現在詩音達は白夜叉の自室に通されていた。和室に入るのは初めてのためキョロキョロとしている詩音。

 

「む?どうしたおんし。何やら珍しいがっておるが」

 

「えっと………和室って入るの初めてだから……」

 

その言葉に周りの全員が固まる。詩音は恥ずかしそうにもじもじしているためその様子に気づいていない。

 

「お前、日本人か……?」

 

「失敬な!純血の日本人だよ!!」

 

「純血?まあそれはいいわ。それより珍しいわね。和室が初めてな人」

 

「そうだね。初めて見たかも」

 

「Yes。黒ウサギも初めて見たのです」

 

「まあ良いではないか。それで、なぜおんしはこういうところは初めてなのだ?ならば元の世界の寝床はどのようなものなのだ?」

 

白夜叉がそう言うと黙り込む詩音。他の全員はそれを不思議そうに見る。すると、詩音は意を決したかのように言う。

 

「の、野宿………」

 

「「「「「は?」」」」」

 

「野宿だよ……………」

 

「「「「「はぁ!!!??」」」」」

 

「8歳の頃から」

 

「「「「「はあああぁぁぁ!!!!???」」」」」

 

その発言に大声を上げて驚く五人。それもそうだろう。年頃の少女が野宿をしていると言われたらそうなる。

 

「だ、だって仕方ないじゃん!私だって野宿は嫌だったよ!!」

 

「なぜ野宿なの!?あなたは旅人だったの!?」

 

「…………違う」

 

「じゃあ放浪人?」

 

「……少し当たってるかもしれないけど違う」

 

「なら何かしらの仕事があって何処かに留まっている暇がなかったとか」

 

十六夜がそう言うと詩音は返事も返さず俯く。

 

「図星か?」

 

「うん………」

 

「ならその仕事とはなんなのだ?」

 

「……………」

 

「今は言えない、ということですか?」

 

黒ウサギがそう言うと詩音はこくんと頷く。

 

「なら話すまで聞かねえよ。それで俺たちは白夜叉に用があったんじゃねえのか?」

 

あの十六夜が気の利かせた一言を言い自ら話題を変える。普通なら面白がりそうなのに、意外!!

 

「しばくぞテメェ!!」

 

はいはいナレーターにツッコまないでね。ゴホン、それでは話を戻そう。

 

「ああ、そうでした!今日はお願いがあってきたのです!」

 

「何だ?この"階層支配者(フロアマスター)"の超絶美少女の私に何を頼みたいのだ?」

 

「「「盛りすぎ。変態和装ロリ」」」

 

「おんしら少し酷くはないか!?」

 

「「「何言ってる(の)?俺(私)達優しいじゃない」」」

 

「息ぴったりというところが胡散臭いぞ………」

 

「それで話し変わるが"階層支配者"って何だ?」

 

十六夜がまた話を変える。白夜叉はおお!と言い"階層支配者"の説明とその他諸々の説明を始めた。

 

 

    "閑話休題"

 

 

「どうしてこうなった…………」

 

詩音は頭を痛そうに押さえる。その原因は白夜叉が強いと分かった瞬間立ち上がり挑もうとする三人だ。

 

「ちょっと皆さん!!」

 

「よいよい。私も遊び相手に飢えていたところだ。それで、おんしらが望むのは"挑戦"か?それとも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"決闘"か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間世界が変わる。辺り一面氷に覆われ、太陽は水平に回っている。

 

「な、なんだ!?」

 

「これは私のゲーム盤だ」

 

「これだけの土地が……ゲーム盤ですって!?」

 

「凄い………」

 

「へぇ……水平に廻る太陽……なるほど"白夜"と"夜叉"か」

 

詩音がそう呟くと白夜叉は目を見開いて驚く。

 

「ほお、おんし知っておるのか」

 

「こういうの見たことあるから」

 

詩音はそう淡々と返す。見たことがあるのがさも当然のように。

 

「そうか。しておんしらどうするつもりだ?己が力を試す"挑戦"かそれとも対等な"決闘"か。この"白き夜の魔王"、白夜叉はどちらでも受けて立つぞ」

 

その言葉に三人は冷や汗をかく。そして十六夜が、

 

「降参だ。大人しく試されてやるよ」

 

と言った。他の二人もそれに同意らしい。

 

「まったく皆さんはどうしてそうなのですか!!それに白夜叉様も魔王だったのはずいぶん前の話でしょう!?」

 

「まあ良いではないか。しておんしはどうする?」

 

「勿論"挑戦"で。さすがに得体が知れないものと戦いたう趣味はないよ」

 

「やけに慎重だの。まあ良い。おんしらの挑戦するのはこれだ」

 

白夜叉はパンパンと手を叩く。すると目の前に羊皮紙が現れる。"契約書類(ギアスロール)"だ。内容は、

 

『ギフトゲーム名 鷲獅子の手綱

 

・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

       久遠 飛鳥

       春日部 耀

 

・勝利条件 グリフォンの背にまたがり湖畔を舞う。

 

・クリア条件 "力"、"知恵"、"勇気"のいずれかでグリフォンに認められる。

 

・敗北条件 上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗の下、ギフトゲームを開催します。

       "サウザンドアイズ"印』

 

そう記されていた。

 

「ちょっと待って」

 

「なんだ?何か不満でもあるのか?」

 

「なんで私の名前がないの?」

 

「おんしには特別に他のギフトゲームを用意しておる故心配せんでも良いぞ」

 

「み………が………」

 

「ん?」

 

詩音は俯きつつ拗ねたように口を尖らせて少し涙目で言った。

 

「みんなと一緒がよかった…………ぐすっ」

 

その自体を飲み込むのにかかった時間およそ二分。その間、その場の全員はフリーズしていた。

 

そしてフリーズから解けると飛鳥と耀は詩音に抱きつく。

 

「はぁー、前の世界にこんな可愛い子いなかったわぁー」

 

「癒される」

 

そしてそれを暖かい目で見る黒ウサギと白夜叉。もう保護者目線である。

 

そして十六夜はというと、

 

「(なにも見てない何も見てない何も見てない何も見てないーーー)」

 

明後日の方向を向いて自分に暗示をかけていた。その頰はほんの少し赤くなっていた。

 

その後、三人がギフトゲームに楽々と勝ったのは言うまでもない。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「それでは次に詩音のギフトゲームを始めたい……のだが、頼む早く始めさせてくれ」

 

「私も始めたいけど………わわっ!!」

 

「怖かった。だから癒させて」

 

先ほどのギフトゲームでグリフォンの手綱を握っていた耀が怖かったということを口実に詩音に抱きついていた。そのためギフトゲームが始められない。詩音もまんざらではなさそうだが。

 

「お、お願い耀ちゃん!ギフトゲームさせて!」

 

「じゃあ後で存分に甘える」

 

「なんか最初の印象がだんだん崩れてきてるんだけど……」

 

僕もそう思います。どうしてこうなった?

 

「それでは、詩音のギフトゲームを始める。準備は良いな?」

 

「うん」

 

「おんしにはこやつの相手をしてもらうぞ」

 

そう言うと白夜叉の後ろに狐火が現れる。そしてそれが肥大化し人型となり人が現れる。狐耳と尻尾を生やした和服の女性が。

 

「………ん〜?ここは〜?」

 

「私のゲーム版じゃよ。おんしにこやつのギフトゲームの相手を頼みたい」

 

「え〜、私あまり気が乗らな……い…………」

 

狐耳の女性は詩音を見るや否や目を見開き驚く。そして、

 

「分かったやる絶対やる!そしてこの子に勝ったらこの子私のペットにしていい!?」

 

「気にせんでいいぞ。こやつは可愛い小動物のような奴を見ると必ずこう言うのだ」

 

先ほどの一言により詩音のやる気は地に落ちる。目が完全に死んでいる。

 

「これ玉藻前よ。頼むからちゃんとしてくれ」

 

「む〜分かったわよ〜。それじゃあお嬢さん、やりましょうか♪」

 

そう言った途端、詩音の目の前に"契約書類"が現れる。

 

『ギフトゲーム名 狐の炎と癒し人

 

・プレイヤー一覧 水無月 詩音

 

・勝利条件 玉藻前に認められる。

 

・敗北条件 立てなくなる、気絶、失神、死亡のいずれかの状態になった場合。

 

宣誓、上記を尊重し、ギフトゲームを行います。

       "九尾の狐"印』

 

そしてギフトゲームは始まった。

 

 




どうでしたか?

詩音?主人公だが弄られ枠そして癒し枠だよ。

今のところいいとこ全くなしの詩音。次回は活躍できるのか!?

……いや活躍します、多分!それと玉藻前が変態になってしまった……。なんとかなるか。

それでは次回もお楽しみに!


次回予告

玉藻前とギフトゲームをすることになった詩音。だがあまり乗り気でない様子。

それを見た玉藻前は詩音をやる気にさせるために本気を出す。

癒し系弄られ少女、詩音は玉藻前に勝てるのか!?

「私、今から本気出すよ」


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私、今から本気出すよ

どうも。あと注意です。今回うまくかけてるかどうか本当にわかりません。ご了承ください。

それでは本編をお楽しみください。


「それじゃあ始めようかな。ルールは簡単。私にあなたの力を認めさせて」

 

「OK。始めよう」

 

詩音は構えて戦闘態勢に入る。その後ろには黒ウサギ達がいる。

 

「詩音さん頑張ってください!」

 

「頑張れ」

 

「あなたなら大丈夫よ」

 

「それがそうでもないんですよね」

 

「あ?」

 

そこに突如ランスが現れる。ランスは険しい顔で言う。

 

「詩音様の力は特定の(・・・)敵に一番効果があるんですが、それ以外だと……」

 

「あまり効果が出ないのか?」

 

「そういうことになります。簡単に言えば、特定の敵以外はあの人は普通の女の子と変わりません。身体能力も秀でているわけではないし、あの力さえなければあの人は普通の年頃の女の子です」

 

「何………?」

 

ランスの言葉に十六夜は顔をしかめる。つまり、詩音は特別身体能力も優れていなければ、致命傷を受ければ死んでしまうのだ。

 

「こればかりは詩音様にどうにかしてもらうしかありません。僕達ではどうにもできませんから」

 

そう言ってランスは詩音の方へと向く。玉藻前は詩音に迫っていた。

 

「くっ!?」

 

「避けてばかりじゃどうにもできないよ、っと!」

 

玉藻前は狐火を出す。それを詩音に向けて放つ。詩音はかわすが、

 

「がら空き、だ!」

 

「ガッ!?」

 

脇腹に玉藻前の蹴りを受ける。そのまま吹っ飛び地面を転がる。

 

「どうしたの?あなた本気じゃないでしょ?」

 

「ケホケホッ………本気だよ、私はいつでも……だって今度は守りたいから(・・・・・・・・・)

 

「ふーん、まあ別にいいけど」

 

「だから、弱くても、立ち向かうんだ!」

 

詩音は起き上がり地面に触れる。すると地面を覆う氷が一部割れて氷塊となって空中に浮き上がる。

 

「へえ、そんなことできるんだ。でも」

 

玉藻前は自分の周りに狐火を生み出す。

 

「これ、どうにかできる?」

 

その言葉と同時に狐火と氷塊は激突する。双方が当たった瞬間弾けて消える。その瞬間に詩音は立て直そうとするが、

 

「隙あり」

 

玉藻前はそれを逃さなかった。もう一度脇腹を蹴り転がせる。

 

「か………くぁ…………」

 

「あれ〜、私の見当違いだったかな?強いと思ったのに弱いね」

 

「……………そ、れは」

 

「これじゃあ長引かせるのも癪だね。さっさと終わらせるね。私さ

 

 

弱い女って嫌いだから」

 

その瞬間、玉藻前の霊格が上がる。亜麻色の髪は白くなり爪が長くなっている。

 

「絶対絶命ってやつかな…………」

 

詩音は諦め気味に立ち上がる。

 

「(まさか……速攻で異世界に来て、あんな啖呵まで切ったのに、ここで終わりなんて………)」

 

詩音は目の前にいる敵を睨む。せっかくの自由は、目の前の敵にうばれようとしているのだ。

 

「(でも……私じゃ………)」

 

『君は強くない』

 

不意に詩音の頭の中で何かが響く。

 

『確かに君は弱い。強くないし、いつも僕らの足を引っ張ってばっかだよ』

 

「(これ………いつ聞いたっけ………)」

 

『でも君なら僕より強くなれる。癒術っていうのは鍛えて強くなるものじゃない。あいつらにしか効果はないし他の奴らなんか来たら僕らはおしまいだ』

 

その声は淡々と告げる。

 

「(ああ、あの時か………私が癒術師になった………)」

 

『僕はもう長くない。だから君にこの力を託す。この力は君を強くする。だからもう一人にはならないよ。君を助けてくれる人はこの先必ず現れる』

 

その声は淡々とそう告げる。

 

「(そんなことも言われたっけ………)」

 

詩音は懐かしそうに目を瞑る。

 

「(でも……もう無理ーーーー)」

 

『だから君はこんなところで死んではいけない。目を覚ませ。君は君だろう詩音!』

 

その声が響く。あの懐かしい声が、響き渡る。

 

「さて、もう終わらせるかな。じゃあね」

 

玉藻前は狐火を撃ち出す。それに詩音は気づいていない。

 

「詩音様!!」

 

「詩音!?」

 

「よけて!!」

 

ランス、飛鳥、耀は叫ぶが詩音はそれに気づかない。

 

「……………まだだよ、まだーーー」

 

そして狐火は詩音に飛んでいき、地面に炸裂する。確実に詩音に当たっている。爆炎は詩音が立っていたところを燃やし煙を上げている。

 

「う、そ………」

 

「詩音さん!!」

 

それを見ていた黒ウサギは顔面蒼白で叫ぶ。十六夜と白夜叉の顔は険しく、飛鳥、耀は目を見開き動揺していた。

 

「まだ、終わってない!!」

 

凛と声が響いた途端、爆炎は消え去る。煙が晴れてそこにいたのは、

 

「詩音さん………」

 

「無事だったんだ………」

 

「ごめんね心配かけて」

 

詩音は力なく笑いかける。そして玉藻前に不敵に笑う。

 

「あなたのおかげで大切なこと思い出したよ」

 

「死にかけたというのに?」

 

「うん。おかげで、あなたに勝てる」

 

玉藻前はまるで訳が分からないという様子だ。詩音は魔法で水を生成する。その水をある形にしていく。

 

「癒術師は汚れを浄化するために生まれてきた、私はそう思ってた。でもある人が教えてくれたんだ。私は、そんなために生まれてきたんじゃない。誰かを救うためにここにいるんだ!!」

 

ある形を成していた水は弾け飛ぶ。そして先ほどまで水があった場所には蒼い弓があった。

 

「"水珠の弓"だっけ。ってなんでもいいか。とりあえず、私今から本気出すよ」

 

詩音は弓の弦を引っ張る。するとそこに水でできた矢が生み出される。

 

「これまでの私とは違うよ!!」

 

詩音は矢を放つ。不意をつかれた玉藻前は避けることができず右腕に矢が突き刺さる。

 

「つっ………!!」

 

「まだ!」

 

矢を射続ける詩音。玉藻前は右腕を押さえつつ矢をかわしていく。

 

「貴女はなんなの!?いきなりこんな力……ふざけてるとしか思えない!!」

 

「そんなの決まってるじゃん」

 

詩音は玉藻前を見据えて叫ぶ。

 

「私は(癒術師)だ!」

 

そしてもう一度矢は放たれる。次は玉藻前の右足を射抜く。

 

「ぐあ……!」

 

「終わらせない、本気で、全力でやってやる!!」

 

詩音は矢を放ち続ける。それは玉藻前の左足、脇腹、左肩と射抜いていく。

 

「はぁ……はぁ……私はね、もう失いたくないの。誰かが目の前でいなくなるなんてもう嫌なの。だから」

 

貴女に負ける訳にはいかない、と真剣な眼差しで言う。玉藻前は気圧されたのかその場に崩れ落ちる。その次の瞬間、詩音の目の前に羊皮紙が現れる。

 

『勝者 水無月 詩音』

 

とそう書かれていた。

 

「ありゃ……?以外に呆気ない?」

 

詩音は間の抜けた声を上げる。そしてその目の前で座り込んでいる玉藻前は、

 

「ぐぅ………うぅ……」

 

なぜか泣いていた。

 

「は、え?」

 

その姿に詩音は驚きを隠せない。

 

「………どういうこと?」

 

詩音は後ろに振り向きそういった。その顔は若干引き攣っている。

 

「そやつはあまり負けたことがなくてな。自分が仕掛けたギフトゲームに負けたらそうなるゆえ気にせんでいい」

 

「でも、これって私のせいだよね?」

 

「まあ少しはな」

 

白夜叉はそういったため罪悪感で押しつぶされそうな詩音。詩音は玉藻前の近くに行き頭を撫でる。

 

「ごめんね。私も負けたくなかったんだ」

 

「ぐすっ、いい気にしてない」

 

玉藻前はそっぽを向いてそういう。

 

「そういう訳にもいかないよ。そうだ!!こうすればなきやむかな」

 

詩音はそう言って玉藻前に抱きつき頭を撫でる。

 

「ごめんね」

 

「なん、で……私、貴女を殺そうと……」

 

「そんなの関係ないよ。結果的に死ななかった。それでいいじゃん。それに私、あなたとお友達になりたい!」

 

「え?」

 

「だってこんなに可愛いんだもん!毎晩抱き枕にしたいくらい!」

 

目を輝かせながら玉藻前を抱きしめる詩音。さっきまでの雰囲気はどこへ行ったのだろうか。突然の変わりように白夜叉以外が口をぽかんとだらしなく開けている。

 

「なら、隷属する。名前教えて?」

 

「私は水無月詩音。あなたは?」

 

「玉藻前」

 

「ならタマモだ!むふふ、これで抱き枕確保だー」

 

笑顔を浮かべてそういう詩音に玉藻前は困惑する。

 

「気にしなくていいですよ」

 

「へ?」

 

困惑する玉藻前に話しかけたのはランスだった。

 

「いつもこんな感じですから。戦闘が終わったら何もかも忘れたかのように振る舞うんですよこの人は」

 

「は、はぁ………」

 

「とりあえずよろしくお願いします。僕はランスロットです」

 

「どうも………」

 

かくして詩音のギフトゲームは詩音の勝利で幕を閉じた。

 

 




どうでしたか?詩音の本気は。

あの矢も一応詩音の所持品です。

そして次回はギフト鑑定!詩音のギフトがわかりますよ!

それでは次回もお楽しみに!


次回予告

玉藻前とのゲームに勝った詩音。そしてとうとうギフト鑑定をする時が来る。

白夜叉にもらったギフトカード。そこに記されていたのはーーー?

「ギフト鑑定ってなんだか呆気ないね」


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ギフト鑑定ってなんか呆気ないね

僕は後悔していない、していないぞ!

タグ詐欺になるかもしれないが後悔しないぞ!

それでは本編をお楽しみください。


詩音のギフトゲームが終了し、玉藻前が落ち着いたので白夜叉が、

 

「うむ、それでは何か選別でもくれてやるかの」

 

と言ってきた。

 

「選別?」

 

「まあコミュニティ復刻の前祝いのようなものだ。遠慮せず受け取ると良いぞ」

 

そう言って白夜叉は手を叩く。パンパンと軽快な音が鳴り響くと詩音たち四人の目の前にはそれぞれ違った色をしたカードが現れる。

 

「そ、それは、ギフトカード!?」

 

「何それお中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「認証カード?」

 

「違いますよなんで皆さんそんなに息ぴったりなのですか!?これは自分の所持するギフトを収納できる優れものなのですよ!それ故にものすごく高価な代物なのです!」

 

「つまり超レアアイテムってことか?」

 

「売ったらどのぐらいするのかな?」

 

「ああもうそれでいいです!それと詩音さんは貰ってすぐに売値の話とかやめてもらえませんか!?」

 

「ヤダ」

 

「ワガママ禁止!!」

 

スパァンと黒ウサギはハリセンで詩音の頭をぶっ叩く。そして何もなかったかのように各々が自分のギフトカードを見る。

 

逆廻十六夜

コバルトブルーのカード

・ギフトネーム"正体不明(アンノウン)"

 

久遠飛鳥

ワインレッドのカード

・ギフトネーム"威光"

 

春日部耀

パールエメラルドのカード

・ギフトネーム"生命の目録(ゲノムツリー)"、"ノーフォーマー"

 

水無月詩音

スカイブルーのカード

・ギフトネーム"癒術師"、"魔術師"、"召喚士"、"調整者"、"円卓の騎士"、"全てを食らう魔狼"、"九尾の狐"、"魔ヲ撃チ浄化スル者"、"癒術の心得"、"宝具"

 

そしてそれを見た詩音はうへぇ、時の抜けた声を上げる。

 

「なんでこんなにあるの〜………」

 

ギフトを見た瞬間にグロッキー状態である。

 

「しておんしはどうだったのだ?私的にも気になるのだ」

 

「ん?見ていいよ」

 

詩音はそう言って白夜叉にギフトカードを見せる。すると白夜叉は目を見開いて驚いた。

 

「な、何故おんしが"癒術師"を持っておるのだ!?あれはあやつしか持っとらんものだろう!?」

 

「んなこと言われたってしょうがないじゃん。私このギフト気づいたら持ってたんだもん」

 

「ふむ、まあそれは良いか………。あと一つ聞きたいことがあるのだ。この宝具というのはなんだ?」

 

「ん?書いてあるんじゃない?」

 

詩音はカードの下の方へと視線を下ろしていく。するとそこには、

 

"水珠の弓"

"翡翠の短剣"

"紅蓮の剣"

"風刻の槍"

"土狂の槌"

"戦乙女の盾"

"闇死の籠手"

"天燐の杖"

 

とあった。

 

「うはぁ……いっぱいある」

 

「どれもこれも神格級の宝具だのお。使い方は全く分からんが」

 

「え、そんなにすごいの?」

 

白夜叉の言葉に少し驚く詩音だが、白夜叉はそんなことないと返す。

 

「使い方がわからん故、これがどのような力を持っておるかさえ不明だが、まあ何か困ったことがあればいつでも訪ねて来ると良い」

 

「おかしい……変態ロリの白夜叉が何故かかっこよく見える………!私の目はとうとう狂ったの………?」

 

「狂ってなどおらんわ!というか誰が変態ロリだ!?」

 

「「「「あんただよ」」」」

 

「うわーん慰めて黒ウサギー!」

 

「近寄らないでくださいって言ったそばからダイブするんじゃありませんこのお馬鹿様!!」

 

今日も箱庭は平和(カオス)です by作者(遠い目)。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「何かあるならまた来ると良い。私がいつでも相談に乗ろう。そして揉むならいつでも揉んでやるぞ?」

 

「「「「お断りします」」」」

 

「あと一つ忠告です。次詩音様に手を出したら」

 

「?出したら?」

 

「その穢れた心共々闇に葬ってあげますからそのつもりで」

 

ランスは淡々と告げるがオーラが黒い。それに気圧されたのか白夜叉は首を上下に振るだけである。

 

「それでは行きましょうか」

 

また黒ウサギを先頭にして今度はコミユティに向けて歩き出した。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「しかし、あやつが癒術師とはな。どうなるかわからんのこれでは」

 

白夜叉は自室に戻って呟いていた。

 

「そうは思わんか?」

 

「アハハ、バレてた?」

 

「バレるに決まっておろう。私を誰だと思っておるのだ」

 

「変態ロリの白夜叉様だよ」

 

「その不名誉な名前はやめていただきたいのお」

 

白夜叉は部屋の襖に軽くもたれかかり反対側にいる人に話しかける。

 

「してあやつはおんしの教え子か?はたまたただの知り合いか?」

 

「ただの知り合いだよ。だけど、僕が彼女を仕立て上げたって言っても過言ではないかな。っとそれじゃあ僕はそろそろ行くよ」

 

そう言って立ち去ろうとする足音が響く。

 

「今度はどれくらいで戻ってくるのだ?」

 

「さあね。僕は放浪しているだけだから飽きたら適当に帰るよ」

 

「まあなんにせよ無事に帰ってくるのだぞ。"サウザンドアイズ"の傘下"桃源郷"リーダー、神倉ユウよ」

 

「ふふふ、それじゃあね白夜叉」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音たちは黒ウサギに連れられ"ノーネーム"のコミュニティにいた。その本拠は悲惨という言葉だけでは表せないぐらいのものだった。

 

「おいおい、こりゃ一体なんの冗談だ?」

 

「土地が死んでる……?」

 

「動物の気配が全くしない……」

 

「魔王によってここまでされてしまいました。しかもこれは三年前のことです」

 

黒ウサギが言うにはこれはたった三年前に起こされたと言うのだ。信じろと言われて信じる者はおそらくいない。

 

「ふざけるな。この土地の風化の仕方だとざっと数千年ぐらい立たなきゃ無理だぜ?」

 

「それほど魔王の力は強かったのです。この土地を遊びで滅せるほどに」

 

その言葉に戦慄する。十六夜は不敵に笑い言う。

 

「いいねいいないいぞおい!魔王か……クソ楽しそうじゃねえか!!」

 

心底楽しそうに、そして怒りを込めていった。戦慄するメンバーの中に全く話さない人物がいた。詩音だ。

 

「これならこうしてああすれば…………よし!」

 

詩音は黒ウサギの前まで歩く。

 

「どうしたのですか詩音さん?何かあったのですか?」

 

「ええとね、ちょっと見てて」

 

そう言って詩音は両手を胸の前で結ぶ。

 

「"荒れ果て朽ちた地よ、誰かに必要とされなくなった地よ、今私が元に戻しましょう。今の姿を幻想とし、仮初めの姿を与えましょう。仮初めはいつか真実となり、今が仮初めとなります。そのために私が癒しましょう。この地(あなた)は私が癒します。だから、また誰かに必要とされる土地(あなた)へとーーーー今生まれ変わりなさい"」

 

そう詩音が紡ぐと地面から光が溢れる。眩い光は強くなり全員の視界を奪う。そしてその光が消えて目を開くとそこには、

 

 

 

 

一面が緑で染まっていた。

 

 

 

 

「「「「えっ……………?」」」」

 

「よし大成功!」

 

目の前の光景を疑う四人とガッツポーズをする詩音。そしてようやく状況が飲み込めたのか目を見開き驚きの声を上げた。

 

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」」」」

 

四人は口を開け目を見開いている。朽ち果てていた土地がいきなり緑で埋め尽くされたのだ。そうなるのも頷ける。

 

「ちょ、は?え?」

 

「な、何が起きたと言うの………?」

 

「理解不能………」

 

「ヤハハ、こりゃ驚いたな」

 

各々が感じたままに感想を述べる。

 

「ふふん、凄いでしょ?」

 

「って一体全体何をやったのですか!?あんなに朽ち果ててたのに!?」

 

「癒したんだよ」

 

「癒した?」

 

「そ。それが癒術師だからね。こういうのも"汚れ"に認知されるし」

 

「"汚れ"?」

 

「私が癒す対象のこと。まあとりあえず案内してよ黒ウサギ」

 

悪戯な笑みを浮かべて黒ウサギに笑いかける詩音。こうして詩音達はコミュニティへと着いたのだった。

 

 




はい詩音がチート予備軍になりました。

まあなんとかなるかな。

それでは次回もお楽しみに!


次回予告

コミュニティの本拠に着いた詩音達。

すぐさまお風呂へ入った詩音達はガールズトークをすることになる。

そこで詩音は自分のことを聞かれて元の世界での話をすることにする。

「過去の記憶」


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過去の記憶

今回は………なんでしょうね。シリアスとコメディ?の比率が3:7いや2:8ぐらいになってます。

それでは本編をお楽しみください。


"ノーネーム"の本拠に着いた詩音達は黒兎に連れられ枯れ果てた水路にいた。

 

「あ、おかえり黒ウサギ!てかこれは何が起きたの!?」

 

「ジン坊ちゃん……これは詩音さんがやったのですよ」

 

「し、詩音さんが!?」

 

「私、癒術師なので」

 

ふふんと胸を張る詩音。他の子供達はというと、

 

「わーい!!」

 

「突然草が生えた!!」

 

「面白い〜!」

 

驚かずキャーキャーと走り回ったりはしゃいだりしていた。

 

「ほらみんな、新しい人が来たよ!」

 

「え、来たの!?どんな人!?」

 

「カッコいい人?可愛い人?それとも優しい人?」

 

「全てを兼ね備えている人たちなのですよ!」

 

「「「過大評価しすぎ」」」

 

「それは褒め言葉と受け取ればいいの?それともある種の皮肉なのかな?」

 

「褒め言葉です!それでは自己紹介しますのでみんなは並んでくださーい!」

 

黒ウサギの言葉で詩音達の目の前に並ぶ子供達。その目は期待しているのかキラキラしている。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、水無月詩音さんです」

 

「(うわ、これ全部ガキか………)」

 

「(私やっていけるかしら………)」

 

「(うぅ、子ども多い………)」

 

「よろしくね〜」

 

十六夜、飛鳥、耀の顔は引き攣り、詩音は笑ってそう返した。その顔はいつもより緩んでいる。

 

「それでみんなはこの方達のために「みんな可愛い〜♪」ちょっと詩音さん!?」

 

黒ウサギが話し始めようとした瞬間、詩音が数名の子供達に抱きついた。

 

「動物の耳生えてる子も耳フサフサで可愛いし、こんな可愛い子供達がいるなんて〜。は〜、ここは天国だね〜」

 

満足げに子供達を撫で回す詩音。子供達もそれを嫌がらず、気持よさそうに目を細めたりキャーキャー言って喜んでいる。

 

「な、なんなのですか………?」

 

「多分子供好きなんでしょ、詩音は」

 

そこにはいつの間にか出てきた玉藻前がそういった。今の詩音は誰が見ても極度の子供好きとしか思えない。

 

「実際のところそうなんですよ」

 

「ランスさん」

 

「元の世界でも行った地域の子供達は誰でも愛でてましたから。そのおかげで子供達からはずっと評判が良かったんですよ」

 

ランスは遠い目をしながらそういう。その姿からは何かしらの苦労が見られる。

 

「詩音さん、それぐらいにしてくれませんか?今から少しやることがありますので」

 

「ん?あ、そうなの?分かったよ」

 

「えー」

 

「やだ〜!」

 

「駄々をこねないの。同じコミュニティに所属してるんだからいつでも会えるでしょ?また遊んであげるから」

 

そういって子供達から離れる詩音。黒ウサギはギフトカードから水樹の苗を取り出す。

 

「それではこの水樹の苗を設置したいと思います。十六夜さんは水門を開けていただけますか?」

 

「了解だ」

 

十六夜は水路へと降りて水門を開ける。その間に黒ウサギは水樹の苗を縛っていた紐を解く。すると勢いよく水が溢れ出した。

 

「うわぉ♪この水樹の苗は元気な子ですね♪」

 

「おいちょっと待てやゴラァ!!濡れるなんてお断りだぞ!!」

 

そういって跳躍する十六夜。だがその近くには、

 

「へ……………?」

 

詩音がいた。詩音の足場は崩れ水路へと落ちる。二度目の着水だ。

 

「あ、やべ」

 

「し、詩音様!?」

 

「あらら、詩音ドンマイ」

 

ランスはおどおどして玉藻前に関しては助けることなどを諸々放棄した。詩音が救出されたのはこの五分後だった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「あぅ………また私だけずぶ濡れ………」

 

救出された際、黒ウサギが「湯殿の準備をしてまいりますので少々お待ちください!」と言って飛んで行ったの詩音達は準備が終わるのを待っている。詩音は涙目で服と髪は濡れている。

 

「それで詩音」

 

「何タマモ〜?」

 

「なぜ抱きつくの?服が湿るからやめてほしいんだけど」

 

「慰めてー!」

 

「ちょ、泣きながら抱きついてこないでよ!」

 

そんなことをしていると黒ウサギが息を切らして言ってきた。

 

「ゆ、湯殿の準備ができました……女性の方からどうぞ………」

 

「やっとお風呂に入れる………」

 

「それでは僕らは適当にぶらつきますか」

 

「そうだな」

 

「それでは行きましょうか」

 

「うん」

 

そういって男性陣と女性陣は別れる。

 

「それじゃあ私もそこら辺をぶらつこうかなっておい。詩音離せ」

 

「タマモも一緒に入るの」

 

「嫌だ。なんで私がーーー」

 

「………ダメ?」

 

詩音は玉藻前にそう頼む。玉藻前はたじろぐ。何故そうなったのか。それは詩音による上目遣い+涙目+ほんのり赤く染まった頬による三連コンボを食らったためである。

 

「う、うぐ…………」

 

「ダメなら仕方ないよね………」

 

シュンとして落ち込む詩音。

 

「わ、分かったよ!入ればいいんでしょ入れば!」

 

そうして玉藻前が折れた。可愛らしい女の子があからさまに誰でも落ち込んでいるというのが分かるというのにそれを無視しようものなら良心が痛む程度では済まないだろう。

 

「本当!?」

 

先ほどの暗かった雰囲気は一気に変わる。落ち込んでいたのは玉藻前の言葉によってパァっと笑顔を咲かせる。

 

「う、うん………」

 

「それじゃあ行こ!」

 

「わわ、ちょっと引っ張んないの!」

 

玉藻前は詩音に引っ張られていった。それを見て飛鳥が一言。

 

「あの二人、姉妹みたいね」

 

「詩音が妹の方だと思うけどね」

 

「同感なのです」

 

少し遅れて3人も風呂へと向かった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「わぁ、広い!」

 

「こら、あんまりはしゃぐと転ぶよ」

 

詩音は現在風呂を見て感想を述べる。

 

「だってこんなお風呂はいったことがってわわ!?」

 

「ちょっと詩音!?」

 

「とと、問題ない!」

 

「まったく」

 

玉藻前は痛そうに頭を押さえる。玉藻前は苦労キャラとして覚醒した!

 

「覚醒なんぞしておらんわ!」

 

どこかに突っ込みをしている間に詩音はお湯へと飛び込む。バシャァンという音とともに周りに水しぶきが飛ぶ。

 

「行儀悪いことしない」

 

「一度してみたかったんだもん!」

 

「はいはい」

 

玉藻前が注意すると詩音は頬を膨らませて拗ねようとするが玉藻前はそれをスルーする。その光景を微笑ましく見守る三人。

 

「ちょっと、なんでさっきからあなた達は喋らないの?」

 

「いや、邪魔しちゃ悪いかと……」

 

「は?」

 

「なんでもないのですよ!それではみなさん入りましょう!」

 

そういって全員が湯船に浸かる。三毛猫は桶の中の湯に浸かり、フェルンは湯船に浸かって犬かきをしている。

 

「それではガールズトークをしましょう!」

 

「どうしたの唐突に」

 

「私一度こういうのがしてみたかったのですよ!」

 

ウキャーとはしゃぐ黒ウサギ。やはりそれほど苦労しているのだろう。まったく誰のせいだろうか。

 

「あなたのせいなのですよ!」

 

はいはい話に戻りましょうね。そんな時、耀が言った。

 

「詩音、今日箱庭に入った後言ったよね。私詩音のことが知りたいって」

 

「確かにそうね。ならガールズトークというものをするのだったらこういうのはどう?詩音さんは元の世界に好きな人がいたのかとか」

 

「おお、それいいのですよ!!」

 

「ええ!?」

 

飛鳥の提案に頬を赤くして狼狽える詩音。だが詩音以外はその案に賛成する。

 

「い、いないよそんなの………」

 

「目をそらしながら言っても説得力がないぞ。いたんじゃないか?」

 

「ワフゥ?」

 

「だからいないって!!なんでみんなそんなに疑「なら無理やりにでも効き出すしかないわね」へ?」

 

そう言って飛鳥は詩音に飛びかかった。

 

「ちょ、え!?きゃ!!や、やめて!!」

 

「ふふ、素直に言えばやめてあげましょう」

 

「なら私も」

 

「私もやるのですよ」

 

「さっきのやり返しとしてやるか」

 

「うにゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

風呂場に詩音の断末魔?が響く。結果をいうと詩音が折れた。

 

「はぁはぁはぁ…………」

 

「まったく手を煩わせてくれるわね」

 

「さあ、早く言って。じゃないと………」

 

そう言って手をわきわきする耀。詩音はそれを見て観念したのか下を向く。

 

「い、いた………けど忘れた」

 

「忘れた?どういうこと?」

 

「結構前に、おそらくこの力が目覚めてない子供の頃に仲良くしてくれてたお兄さんがいたんだ。いつも一人だった私を気にかけてくれて、暇があるとどこかに連れて行ってくれてた。だけど」

 

そこで一旦区切り、また喋り始める。

 

「ある時私が連れ去られたんだ。その時助けに来てくれたんだけど、助けてもらった後は会ってなくて………」

 

「それで忘れたの?」

 

「うん………でも言われて嬉しかったこととかは覚えてるんだ。『お前は一人じゃない。もし一人になった時は必ず僕が助けてやる』とか『お前は可愛いんだから自信持て』とか」

 

そういう詩音の顔は完全に緩んでいた。他の人が見ればその人に夢中ということが嫌でも分かる。

 

「好きなのねその人」

 

「多分だけどねを。次会ってみないとわからないよ」

 

「じゃあその他のことを聞かせて。詩音のこと」

 

「じゃあ次は交友関係とかについて聞きたいのですよ!」

 

「交友関係、か………」

 

詩音の顔は先ほどとは違い気が進まないというふうだった。

 

「小さい頃に遊んでくれてた男の子が二人いたんだ。さっき言った人と会うより前のことだよ。その二人の名前は蒼井真尋(あおいまひろ)金倉千斗(かなくらせんと)っていう人なんだけど、いつも三人で行動するぐらいに仲は良かった」

 

「へえ、羨ましいわね」

 

「でも、殺された。私を悪い大人から守るために、自分を身代わりにして」

 

その言葉を聞き瞬間空気が凍る。

 

「う、嘘………」

 

「私も信じたくなかったよ。でもだんだん冷たくなる二人の肌と目を瞑って何も言わないのを見たら流石に諦めがついたよ。それからあの人に会うまでは心を閉ざしてた気がする」

 

詩音の話を聞き場の空気が暗くなる。

 

「ごめんねみんな。こんな空気になって」

 

「いえ、元はと言えば私が聞いたことだから気にしないで」

 

「た、楽しい話をしましょう!暗い空気なんてダメです!」

 

「そうだね」

 

「話題を変えよう。例えば………なんだろう?」

 

「いや知らないよ」

 

そんなこんなでガールズトークは盛り上がったらしい。途中玉藻前が弄られたがそれはまた別の話。

 

 




玉藻前が苦労キャラかつ弄られキャラの仲間入りを果たしました。

いつか番外編であの二人の姉妹のようなやり取りを出したい………。

それでは次回もお楽しみに!


次回予告

ようやく始まる"フォレスガロ"とのギフトゲーム。

だがフィールドの様子がおかしくガルドの様子もおかしい。

そんな中詩音が取った行動とは!?

「ちょっと厳しいかな」


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ちょっと厳しいかな

すみません、少しサブタイトル変えました。
そして更新が少し遅れた理由は……聞かなくてもわかると思います(涙)
あと一つだけ。今回ちょっと路線を変更したため変になっているかもしれませんがご了承ください。
それでは本編をお楽しみください!


「よーし、張り切って逝ってみよー!」

 

「「「おー」」」

 

「「ちょっと待って(ください)何かおかしくなかった(ですか)!?」」

 

詩音がかけた掛け声に腕を振り上げ返す問題児三人とツッコミ役(作者命名)の二人がツッコむ。

 

「おかしくないおかしくない」

 

「字が違う気がしたんですけど!?」

 

「噛みました」

 

「嘘吐くな!てか噛んでないでしょ!?」

 

「かみまみた」

 

「訳が分からん!」

 

「神はいた」

 

「どこに!?」

 

「ここに」

 

天然お馬鹿女(詩音)が神な訳あるか!!」

 

スパァーンという軽快な音が響く。玉藻前が詩音の頭を赤色のハリセンで叩いたのだ。

 

「い、たい………」

 

頭を押さえて蹲る詩音。

 

『自業自得です』

 

「ワウ(詩音のバーカ)」

 

「こればかりは味方出来ねえな」

 

「まあ自業自得よね」

 

「どんまい詩音」

 

「うぅ………」

 

同情そして味方がいないというトドメを刺された詩音はその場に体操座りをして重い空気を纏う。

 

「いいよ……どうせ私はお馬鹿で何の役にも立たない天然女ですよーだ……」

 

目に見えて拗ね始めた詩音。そんなことをしていると約束の時間が迫っていた。

 

「ほら行くよ詩音」

 

「もうゲームなんてどうでもいいや……」

 

「拗ねてないて行くぞ!!」

 

「にゃー…………」

 

玉藻前に首根っこを掴まれ引きずられていく詩音。その姿を見たものは

 

『あの青色の髪の子、狐耳と尻尾つけたら完全に姉妹だな』

 

と思ったらしい。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

"ノーネーム"一行は約束の場所へと来ていた。

 

「ほぉ、ここが"フォレス・ガロ"の本拠か………」

 

「なんというか………」

 

「ジャングル?」

 

「わぁー物凄く入りたくない」

 

「詩音、諦めろ」

 

約束の場所とは、以前決めていたガルドとのギフトゲームを実行する"フォレス・ガロ"の本拠だ。

 

「とりあえず"契約書類(ギアスロール)"を見ましょう。あそこにありますし」

 

影になりつつあったジンが"契約書類"を指差して言う。

 

「えーとなになに?

『ギフトゲーム名 地獄の狩り(ハンティング) ーハードモードー

 

・プレイヤー一覧 久遠 飛鳥

       春日部 耀

       水無月 詩音

       ジン=ラッセル

       #@☆♪○*

       ☆♪¥$%○*

 

・勝利条件 指定武具または指定ギフトでガルド=ガスパーの打倒または殺害。

 

・敗北条件 プレイヤーが一人でも死亡した場合。

 

〜ルール設定〜

・ガルド以外の生物を殺した者は天罰が下る。

・指定武具と指定ギフトはフィールド上には存在しない(・・・・・)

・指定武具または指定ギフト保持者が死亡した場合、ゲームはプレイヤー側の負けとなる。

 

上記を尊重し、誇りと御旗の下、ギフトゲームを開始します。

         "フォレス・ガロ"』

って書いてあるよ」

 

「嘘でしょう!?」

 

「いきなりどうしたの?」

 

「そんな……それでは……」

 

ギフトゲームの内容を知った途端にジンの顔が真っ青になる。何かに恐れているかのように。

 

「何がどうしたのよ」

 

「このギフトゲーム……僕らの勝てる確率は無いに等しいです……」

 

「なんで?」

 

「まず第一に指定武具と指定ギフトでしかガルドは倒せないということです。例えて言うと飛鳥さんの"威光"はガルドには効かないということです。そして第二に、それがフィールド上に無いということはーーー」

 

「指定武具も指定ギフトも探すことが不可ということですか!?」

 

「うん、そういうことになるんだ」

 

黒ウサギとジンは苦虫を噛み潰したかのような顔をする。

 

「一つ質問があるんだけど」

 

「なんですか?」

 

詩音が手を挙げて言う。

 

「もしかしてさ、その指定武具とかって私たちが持ってるということはあり得るんじゃない?」

 

「え……?えと、その可能性はありますけど……」

 

「なら大丈夫じゃん!それじゃあ行ってみよう!」

 

「「おー!」」

 

「ちょっと待ってください!!てか置いていかないで!!」

 

そう言って詩音達は"フォレス・ガロ"の本拠へと入っていった。それを見ていた十六夜が黒ウサギに尋ねた。

 

「おい黒ウサギ。少しきになる点がある」

 

「はいな。なんでしょう?」

 

「"契約書類"っつうのはバグったりするもんか?」

 

「バグ?」

 

「だって見てみろよ。ここ、文字化けしてやがるぜ?」

 

「どれどれ…………?」

 

黒ウサギが見るとそこには確かにプレイヤー一覧のところに文字化けしている二人の名前があった。

 

「本当ですね。ですがおかしいです。こんなことは今まで一度もなかったことなのに」

 

うーんと唸る黒ウサギ。そんな時、十六夜はある仮説を立てた。

 

「もしかして、未だに正体の分かっていないあいつらじゃねえのか?詩音の従者とか言ってたランスロットとあとはあの狼」

 

「フェルンさんですか?」

 

「そうそれ。そいつらどうもおかしいんだよ。フェルンは気ままに生きてる気がするから分からんが、ランスロットは何か違う気がする。まるで何かに囚われているがため、詩音に仕えているような」

 

「囚われている?」

 

「そこまでは分からねえ。まあとりあえずあいつらの勝利を願おうぜ」

 

「は、はいな!」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音達は荒れ果て木々に覆われた本拠の中をさまよっていた。

 

「さてと、どうしようかしら」

 

「指定武具も指定ギフトも無い。あとガルドの居場所も分からないよ?」

 

「そうですね。どうしましょうか」

 

「まずガルドのとこ行こうよ。場所なら分かってるし」

 

「「「え!?嘘!?」」」

 

「嘘」

 

「「「驚かせないで(ください)!!」」」

 

「あぅ!」

 

大事なときに嘘をついた詩音は三人からの手刀を脳天にくらう。そして蹲る。

 

「でも嘘じゃないんだよ〜フェルン〜」

 

「ワウ(鬱陶しい)」

 

「何で!?」

 

フェルンにも否定され気に頭をつけて蹲り地面にのの字を書く詩音。三人はそれを無視して話を進めるが、

 

「ワン」

 

フェルンが突然走り出した。

 

「え、フェルン!?」

 

「一体なんですか!?」

 

「ちょっと詩音さん!フェルンがあっち行っちゃったけれど!?」

 

「私は……なんのために生きてるんだろうね……」

 

「早く戻って来なさいっ!!」

 

「あだ!」

 

飛鳥は詩音の脳天に拳骨を落とす。

 

「はっ!ここはどこ!?私は何!?」

 

「何じゃなくて誰でしょう!?そうじゃなくてフェルンがあっち行っちゃったけれどどうするの!?」

 

「あ、それじゃあフェルンについて行こう」

 

「はぁ!?」

 

「それでガルドのところにつけるはずだよ。それじゃあレッツゴー!」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

一行はフェルンを追って走り出した。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

着いたのは草やツルに覆われた館だった。

 

「お疲れフェルン」

 

「ワゥ」

 

「それにしてもここに本当にいるのかしら?」

 

「いるよ。さっき影が見えた」

 

「耀さんナイスです。それでは「ちょっと待って」はい?なんです?」

 

「ひとつ提案があるけど聞いてくれる?」

 

詩音がそう言って自分の提案を話し始める。

 

「私が今から館の二階を見てくる。その間、みんなにはここで退路の確保をしていて欲しいの。フェルンとランスもここで居させるから多分大丈夫だよ」

 

「待ちなさい。それは詩音さんが危険にされされる、と暗に言ってるようなものだけど?」

 

「ん?私は大丈夫だよ」

 

「そう………だけど「信じて」え?」

 

「私を信じて。約束する、必ず無事で戻ってくるって」

 

詩音は微笑みながら優しくそう言って館の二階へといった。だが、その約束は果たされることはなかった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音は二階の部屋を片っ端から調べていった。だが一つの部屋以外には見つからなかった。

 

「(あとはあの大きな扉の部屋………あそこが一番怪しかったから後に回してたけど)」

 

詩音は扉の前に立つ。その足は少し震えていた。

 

「震えるな……大丈夫大丈夫………………よしっ!」

 

そう言って詩音は扉に手をかけ押し開ける。そこには、

 

「G、GAAAAAaaaaaaaa!!」

 

咆哮を放つ白い虎がいた。

 

「っヤバ!!全員逃げて!!」

 

詩音は大声でそう叫んだ。届いたかどうかなど詩音が知る由もないが。

 

「これは……ちょっとヤバいかな……」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

飛鳥たちの元には詩音の声は届いていた。

 

「詩音さん!?」

 

「た、助けに……「ダメです!」

 

「フェルン、皆さんとともに逃げますよ!」

 

「待ってください!まだ詩音さんが!」

 

「ガルァ!!」

 

フェルンが吠えると一回り体が大きくなる。そして飛鳥と耀を背中に乗せる。ジンはランスが担いでいる。

 

「詩音様、どうかご無事で………!!」

 

「ワォウ!!」

 

そうして詩音以外の全員は詩音の声に従いそこから逃げていった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「GAAAAAaaaaaaaa!」

 

「くっ……早いっ!!」

 

一方詩音はというと苦戦を強いられていた。相手が異常に素早く、身体能力がずば抜けていない、というより普通の詩音はついていけるはずもなかった。

 

「(時間稼ぎは十分、ならあとは一旦逃げて………)」

 

だがその時だった。詩音の視界からガルドが消えたのだ。

 

「えっ!?」

 

そして現れたのは詩音の目の前。ガルドは詩音に体当たりして詩音を吹き飛ばす。後方の壁にあたる。

 

「かはっ………!」

 

詩音はここで理解した。自分の選択が間違えていたと。

 

「く、そっ!!」

 

詩音は痛みを我慢してすぐさま立ち上がり、部屋の入り口まで走る。だがそれをガルドが見逃すはずがなかった。

 

「GAAAAAaaaaaaaa!」

 

「嘘!?」

 

ガルドは一瞬にして詩音に詰め寄り、鋭い爪で詩音を引っ掻く。詩音は間一髪でそれをかわす。

 

「(これじゃ………逃げられないじゃん!仕方ないか!)」

 

詩音は逃げられないことを悟り、戦うことにする。ギフトカードから宝具を取り出そうとしたその時だった。

 

詩音は胸部の辺りに違和感を感じた。なぜか焼けるような痛みが襲う。

 

そこを見ると赤い何かに濡れた白い毛と鋭利な爪があった。そして後ろには獰猛な目をしたガルドがいた。

 

「……………え」

 

ガルドの腕が詩音の心臓を貫いていた。

 

そしてガルドが腕を抜いた途端、鮮血が飛び散る。痛みと苦しみが同時に詩音を襲う。

 

「(そ、んな……嘘でしょ………)」

 

その事実に絶望する。下手すれば、下手しなくても詩音はここで死んでしまう可能性が高い。

 

「(苦しい……痛い………)」

 

激しい痛みで意識が朦朧とするがなんとか意識を保つ。

 

「(は、はは……これは私が、招いたことだよね……ならーーーー最後まで抗ってやろうじゃない、この運命()っていうやつに!)」

 

詩音はガルドを見据え宝具ー水珠の弓ーを取り出して握りしめた。

 

 




はい、まさかの主人公大ピンチです。
次回のことを考えるとこうするしかなかったんですよ。
あとギフトゲームの内容がほとんどというか全部変わってます。ハードモードになってますし。
それでは次回もお楽しみに!


次回予告

心臓を貫かれ大ピンチの詩音。だが死なないために、みんなのもとに帰るためにガルドと戦うことを決意した。

一方その頃逃げることに成功したランスはとてつもなく不穏な感じがするといって詩音の元へと戻る。

そしてガルドと戦っている詩音を見た彼が起こした行動とはーーー。

「僕が必ず守ると言ったはずだ!!」


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僕が守ると言ったはずだ!!

もうテストヤダァ…………。

ということで本編をお楽しみください。


詩音は心臓を貫かれた時、飛鳥達は森の中心部あたりにいた。

 

「ふぅ……ここまで逃げれば大丈夫でしょう」

 

「ガルゥ……」

 

「お疲れ様ですフェルン」

 

「貴方達………どういうことかしら………?」

 

「なんで詩音を置いてきたの」

 

息を切らすランスに飛鳥達は尋ねる。

 

「それが詩音様の命令だからです」

 

「命令だからって……それで詩音さんの命を失ってもいいっていうの!?」

 

「詩音様がそれをお望みとあらば」

 

「ふざけないで………ふざけないで!!これじゃ貴方はあの似非紳士とやっていることが一緒じゃない!」

 

飛鳥は叫ぶがランスはきょとんとした顔で言った。

 

「何が一緒なのですか?」

 

「これで詩音が死んだら貴方はガルドと同じ人殺しってこと」

 

「……そうですか。ならそれでも構いません」

 

「!!」

 

「僕は……詩音様の命令に従うだけです」

 

その言葉に苛立ちを隠せない二人。しびれを切らしたのか二人は詩音がいる館へと行こうとする。

 

「呆れた……そんな人だなんて思わなかった」

 

「行きましょう耀さん。この人と話してても無駄だわ」

 

「本当に行かれるのですか?」

 

「ええ」

 

「では仕方ありませんね」

 

するとランスは飛鳥と耀の後頭部に手刀をおとす。

 

「ガッ…………!?」

 

「な、なにが…………」

 

「すみません。これ以上は足手まといになると思いこうさせていただきました。納得いただけないとは思います。弁明ならば後でいくらでもしますので」

 

ランスがそう言い終わると二人は意識を失い地面に倒れようとするが、玉藻前が地面に着く前に二人を受け止める。そしてランスに問う。

 

「どうしてこんな手荒い真似を?」

 

「この人たちを巻き込みたくありませんからね。あそこから逃げた理由も知られたくありませんし」

 

「そうか……まあ気をつけなよ」

 

「ええ、それではそこのお二人を頼みます。フェルンもお願いしますね」

 

「ワウ」

 

そう告げてランスは元いた館に向かって走り出した。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

ランスが館へと向かっている時、館では詩音が苦戦を強いられていた。

 

「くっ………!」

 

「GAAAAAAAaaaaaaaaa!!」

 

俊敏に動くガルドに致命傷を負った詩音が追いつけるわけがなかったのだ。

 

「(このままじゃやられちゃう……!でも、打開策なんてなにも………)」

 

そう考えている瞬間にガルドは詩音に急接近し、右前足で詩音の体をなぎ払う。詩音はその衝撃で壁に激突する。

 

「ぐぁ…………!」

 

先ほどまで収まっていた胸部からの出血がまた始まる。

 

詩音は"癒術師"というギフトを所持しており、そのギフトは汚れと認識されたもの浄化する他、他人や自身の傷を癒したりなどもできる。だから傷が少しふさがり出血も収まっていたのだ。

 

「チッ……やぁ!!」

 

詩音は水で作った矢をガルドの脳天めがけて放つ。だが、いとも容易くかわされる。

 

「くっ、そ!!」

 

続けて三つの矢を放つが、先ほどと同様にかわされる。

 

「(読まれてる………。でもどうしようもーーー)」

 

その時だった。先ほどガルドが逃げ出さないように閉めた部屋の扉が勢いよく開かれる。そこには白い鎧を身に纏い、息を切らしている青年がいた。

 

「ラ、ンス………?」

 

「詩音様!?そのお怪我はどうしたのですか!?」

 

「なんで……何、で戻ってきたの!?逃げてって……行ったじゃない!!」

 

詩音がそう叫んだ途端、ガルドが詩音に迫る。だが詩音はそれに気づいていない。ランスはそれに気づき、腰に差していた片手剣を抜いてガルドの爪を弾く。

 

「くっ!」

 

「だから、逃げてって!私は大丈夫だから………お願い、だから……逃げて………………!!」

 

詩音は誰も失いたくないという自分の願いを力を振り絞り叫ぶ。だが、

 

「嫌です」

 

ランスはその願いを打ち砕く。

 

「なんで………なんで………!!」

 

「僕は前に君に約束を言った。ここにいることで約束を守ることになるんだ」

 

「え…………?何を………」

 

「僕はこう言ったはずだ、ああ言った、

 

 

『僕が必ず守ると言ったはずだ!!』」

 

ランスは力強くそういう。詩音の頭にはその声と同時にもう一つの声が響く。それは酷く幼く、そして震えて今にも泣きそうな声だった。

 

「う……そ……………」

 

詩音は信じられないという風な顔をする。現実を認識できない、目の前の現実というものを。

 

「そん、な……だって…………」

 

「君はここで見ていろ。手負いの君をこれ以上傷つけさせるわけにはいかない。任せろ、あの時(・・・)のようにはならないから安心してみていてくれ詩音(・・)

 

そう言ってランスはガルドを睨む。ガルドは野生の虎と言われても仕方がないほどに理性が崩れていた。

 

「(これは……大変なことになりそうだな……。でも、負けられないよね)」

 

ガルドは地面を蹴りランスに急接近するがそれをランスは剣で止める。

 

「ぐっ……強い!」

 

少し押されるが力ずくで弾きかえす。そのままの勢いでガルドを押しのけた方へと走り、ガルドの体を斬る。するとそこから鮮血が溢れ出した。

 

「(!?指定武具と指定ギフトでしか傷つけられないはずーーーもしかして)」

 

ランスは自分の手に持つ片手剣を見る。見た目はさして普通の剣とは変わらないのだが。

 

「(これが……指定武具だったのか!?)」

 

もっと早くに試しておけばと歯噛みするランス。

 

「(過ぎたことは仕方がない。だけどどうやって倒そうか。奴の動きは早い。でもついていくしかないか)」

 

ランスは剣を構え、ガルドに斬りかかる。ガルドもそれに反応してかわそうとするが先ほどの傷が痛むのか、速さは先ほどよりも遅くなっていてかろうじてガルドの右前足を斬ることができた。

 

ガルドはそれによってバランスを崩し床に転がる。

 

「(今なら……今なら速攻で終わらせられる!)」

 

ランスは剣を頭上に振り上げる。すると剣が白く輝き始める。

 

「"我が剣は主人を守護し、世界を拓く。この光は聖なるものである。今聖なる光の導きのままに、汝を滅せよ"」

 

ランスがそう紡ぐと光が一層強くなると同時に周囲から光が剣に収束されていく。

 

「"今ここに我が記した物語を運命を、全てを照らす希望の光で満ちたこの剣でーーー刻め!!"」

 

剣が纏った光は光の柱となって天井を貫く。詩音はそれをただただ見ておくしかなかった。

 

「GAAAAAAaaaaaaaaaaa!!」

 

「終われ、虎風情がーーー"運命記す刻命剣(エクス・カリバー)"!!」

 

その光の柱はランスが剣をがるどの方向に振り下ろすと同時にガルドに命中する。それはガルドに当たった途端、その光を一層増してガルドを飲み込む。その光は衰えることなく強くなっていく。

 

そして光が消えた時、ガルドの姿はそこにはなくあるのは消え去った天井と壁、そして荒れ果てた部屋だった。

 

「はぁはぁ………終わった、か………」

 

「嘘……あのガルドを、一撃で………」

 

腰に剣を戻すランスと現在の現状を飲み込めず呆然としている詩音。

 

「そんな………ランス、貴方何……者……………………」

 

詩音の視界は突然揺らぎ意識を落とす。地面に倒れる前にランスは詩音を受け止め小さな声で囁くように言った。

 

「別に、ただの君の傭兵だよ詩音。後、いつか君にこう言いたかった。また会えて嬉しいよ詩音」

 

ランスはそう言って詩音を抱きかかえて飛鳥たちの元へと戻っていった。

 

 




さーて、ランスもチートになっちゃいましたね。強化ガルドを一撃で仕留めましたからね。

次回は……どうなるんだろこれ。

それでは次回もお楽しみに!


次回予告

ガルドとのギフトゲームが終わった詩音たち。

気を失っていた詩音は目覚まし、ランスと2人きりで話がしたいと申し出る。

そしてそこでランスから聞いた真実とはーーー?

「だから君は私の側にいたんだね」


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だから君は私の側にいたんだね

毎日忙しい日々が続いています。皆様如何お過ごしでしょうか?

僕は死にそうです。睡眠不足、学校、etc...

ということで本編をお楽しみください。


詩音が気を失って数時間後、すべての後処理が終わったランスは詩音が寝ている部屋に来ていた。

 

詩音は未だすぅすぅと寝息を立てて眠っている。ランスはその傍で椅子に座って佇んでいた。

 

ランスが座って待つこと数十分、詩音の目が少しずつ開く。

 

「んぁ…………」

 

「目が覚めた?」

 

「ん………ランス?」

 

詩音は目をこすって眠そうにそう言う。ランスは苦笑いでうんと答えた。

 

「ここは?」

 

「本拠の詩音の部屋。ギフトゲームで気を失ったからここに運んだんだけど」

 

「あ、そうだ。確か私………」

 

詩音は胸のあたりを手で触る。ガルドに貫かれた場所だ。

 

「問題なくそこは治ったよ。やっぱり詩音の癒力は異常だね」

 

「………生まれ持ったんだから仕方ないじゃん」

 

「でもそれで助かったんだけどね」

 

「むぅ………」

 

詩音は頬を膨らませる。ランスはその姿を見て懐かしそうに笑う。

 

「こうやって対等に話すのはいつぶりかな。ものすごく久しぶりな気がする」

 

「?何の話?」

 

「こっちの話」

 

詩音は小首を傾げる。そしてあるものが詩音の目にとまる。

 

「あれ?ランスの髪って金色じゃなかった?なのにどうして茶髪に………?それに目も」

 

「ああこれ?」

 

詩音はランスの頭を指差していう。詩音が言った通り、ランスの髪は以前とは打って変わり茶髪になり、目の色は白から黒に変わっている。

 

「これはまあなんというか……呪い、みたいなものだったんだけど……知らないうちに解けててね」

 

「何、その呪いって?」

 

「ある種の特典、かな」

 

「特典?」

 

詩音はまた小首を傾げる。そして詩音はうーんと唸る。

 

「えーと、呪いが特典で何かしらしてた間に特典が解けて呪いにってあれ?呪いが特典で解けてってあれ?」

 

「僕も分からなくなるからやめて」

 

詩音の頭はショート寸前だった。ランスは苦笑いを浮かべる。

 

「まあ前からそう言うのを理解するのが難しいことは知ってるからいいんだけど」

 

「ま、前からって私そんなに頭悪そうに見えるわけ!?」

 

「もちろん」

 

「嘘だッ!!」

 

「ネタ古いよ」

 

目をくわっと開いていう詩音にランスはツッコむ。

 

「じゃあ一体全体ランスはなんなの?」

 

「ん?あえて言えば転生者かな」

 

「転生者……?」

 

「そ。一度死んでもう一度前世の記憶を引き継いで生き返った人のことかな。そして僕もその一人ということ」

 

ここで詩音の頭に新たな疑問が浮かび上がる。ランスは一体誰なのかと。

 

「僕は君の近くにいた。だけど一度死んでしまったんだ。だけど、神様は僕にもう一度チャンスを与えてくれた。君を守る役割を果たすために新たな姿を、力を与えてくれたんだ。だから僕はここにいる」

 

ランスは詩音を見据えていった。

 

「また会えて嬉しいよ詩音」

 

ランスは優しく詩音に微笑んでそう言った。詩音はその微笑みに見覚えがあった。いや、見覚えがなくてはおかしかったのだ。

 

「嘘でしょ………。もしかして………」

 

「改めて自己紹介。ランスロット改め、蒼井真尋(あおいまひろ)。よろしくね」

 

「う、嘘………」

 

「嘘じゃないよ。現に僕はここに存在している」

 

「ふぇ……」

 

詩音の瞳から涙が落ちる。一度死んでしまった友人が今ここにいるのだ。

 

「ごめんね。あの時辛い思いさせて。もうあんな思いはさせないから」

 

「ふあああぁぁぁぁぁ!」

 

ベッドの上で涙を流し続ける詩音を真尋は詩音が泣き止むまで頭を撫で続けた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「………うん」

 

目元を赤くした詩音は弱々しく頷く。

 

「でもどうして最初から招待バラしてくれなかったの?」

 

「さっき言ったように僕には特典と同時に呪いを神様から貰ったんだ。特典というのは"円卓の騎士"というギフトと僕の持つ剣、"運命記す刻命剣(エクスカリバー)"だったんだ」

 

「じゃあガルドの時のは」

 

「特典でもらった剣の能力、"浄化の光"を使ったのさ。あれは確実にやられてたからね」

 

「や、やっぱり………」

 

詩音は顎に手を当て考える。

 

「(じゃあやっぱり関与してるのはあれ(・・)ってこと?でもなんで箱庭にまで………)」

 

「詩音?」

 

「あ、いやなんでもない!で、特典ってのは分かったけど、呪いって?」

 

詩音はある予想を頭の隅に追いやり、真尋に問う。

 

「呪いってのは僕が伝承にあるような"円卓の騎士"を演じさせられていたんだ」

 

「演じさせられていた?」

 

「そう。僕がどうにかしようとしてもできないようにされてたんだ」

 

「でもそれじゃあ今は?なんで普通に喋れてるの?」

 

詩音は頭上に?を浮かべて問う。呪いが現在も続いているなら"円卓の騎士"を演じさせられているはずだと思ったのだろう。

 

「呪いはもう消えたからね」

 

「え?」

 

「箱庭に召喚されたと同時に呪いの効力が薄れてきてたんだよ。何かしらの力が僕の呪いに効いたんだと思う」

 

詩音は小首を傾げる。そして答えにたどり着く。だったらもう少し早く正体を明かすことができたのではないかと。

 

「じゃあなんでこのタイミング?」

 

「えーと、なんとなく。あと気付いたのはガルドと会った時」

 

「だったら早く話してよ!」

 

「は、話すタイミングが見つからなかったんだよ!」

 

「むぅー」

 

「そ、そんなに怒らないでよ」

 

詩音が頬を膨らませて怒る姿を見てあたふたする真尋。

 

「でもなんで真尋だけ?千斗(せんと)は?」

 

「……それは分からない。今千斗がどこにいるのかも、転生したのかも分かっていないんだ」

 

「そう………」

 

詩音はその言葉を聞き少し落ち込む。千斗というのは詩音のもう一人の友人、金倉千斗(かなくらせんと)である。

 

「でも真尋が生きてたなんて驚きだよ」

 

「そうだね。さっき泣いてたもんね」

 

「そ、それは忘れて!」

 

「やだ」

 

「あ"?」

 

「脅しても忘れないよ〜」

 

「むぅー」

 

「それさっきもしてたよ?」

 

「むぅーーーー」

 

頬を膨らませ続ける詩音を見て真尋はプッと吹き出す。

 

「何?」

 

「ふふ、いやなんでも」

 

「なんなの〜?」

 

「何でもないよ。あ、そうだ。傷の方はどうなの?」

 

真尋は詩音に聞く。詩音は胸元を触る。そして服をめくって傷口があった場所を見る。その時瞬時に真尋が後ろを向いたのは言うまでもない。

 

「ん〜、綺麗さっぱり、とはいかないけど治ってるよ。傷跡は少しあるけど」

 

「傷跡か……治らない?」

 

「さあ。いつか消えるでしょ」

 

詩音はけろっとそういう。

 

「(普通の女の子なら傷跡とか気にするんじゃないのかな?詩音が普通じゃないのは気づいているけどさ)」

 

「なんか失礼なこと思われた気がする」

 

「なんのこと?(なんで考えていることがわかるの!?)」

 

「エスパーだからね」

 

「嘘つけ」

 

詩音はドヤ顔で胸を張る。和んでいた部屋の空気は真尋の次の言葉で一瞬にして変わった。

 

「それとさっき言ったと思うんだけど、ガルドに関与してたやつのこと」

 

「ああ、あれのこと?」

 

「おそらく"汚れ"の仕業じゃないかな?」

 

「やっぱり真尋もそう思う?」

 

「ああ。あの力は異常だった。だけど"汚れ"だけじゃない。もう一つ何かあった」

 

真尋は真剣な顔でそう断言する。

 

「もう一つ?」

 

「"汚れ"だけじゃあんな力は出ない。それに"汚れ"というのは力の増幅じゃないだろう?」

 

"汚れ"とは詩音のいた世界で多くの自然を汚していたものだ。そしてそれは人や動物にも移る。だが移ったところでそこまで影響はないのだが、

 

「でも"汚れ"と同調しちゃうと一体化して"汚れ"が意志を持つんだよね。そして異常な力が使えるようになると。個人差あるけど」

 

「そうだけど、今回は違う。"汚れ"が意志を持ってなかった。それに誰が"汚れ"をあの虎に同調させたのか気になる。あれを扱えるのはごく一部だからね」

 

「もしかして…………"ロイズファクトリー"………」

 

「かもしれないね」

 

"ロイズファクトリー"。詩音が知る数少ない"汚れ"を扱う集団である。だが詩音はそれはあり得ないと断言した。

 

「でもあの人たちはこの箱庭にはいないはずだよ。元いた世界にいた奴らがここに来れるわけない」

 

「まあそうだね。ちゃんとしたことがわかるまではこの件は保留にしておこう」

 

詩音はそれを肯定する。そのすぐ後に詩音の部屋に十六夜たちが入ってきて詩音に女性陣(玉藻前除く)が勢いよく抱きついたのは別の話。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

元"フォレス・ガロ"本拠。

 

そこに佇む二人の男女がいた。

 

「あーあ、あの虎ダメだったか」

 

「仕方ないんじゃない。あそこまで理性失って肉弾戦してたら」

 

「ったく、何のために力与えてやったと思ってんだ虎風情が」

 

白髪の少年はもうそこにはいないガルドに対しての暴言を吐き続ける。銀髪の少女はそれを見てクスリと笑っている。

 

「んで、次は誰にするんだよ。あの虎でダメなら次は人間か?」

 

「いいえ、次は少し違った生き物でいきましょう。どうせいるわ。私達を頼る者が、そしてその者が所有する異常な生き物が、ね」

 

少女は不気味に笑う。少年はそれを見て少し引き気味に答える。

 

「お、おうそうだな。それにしてもあれだな。お前のその笑みには未だに慣れないな」

 

「笑うのが下手とでも言いたいの?」

 

「そんなこと言ってねえ。とりあえずだ、癒術師共に動きがあるまで待機ってことでいいのか?あいつら動かねえと頼る奴らなんて現れねえだろ」

 

「ええそうね。待っていれば時期に来るわ。それに、彼らに再会する日も近くてよ」

 

「へえ、そりゃ楽しみだね。それじゃあ行こうかヒミカ」

 

「ええシュンヤ」

 

そして二人の男女は虚空へと姿を消した。

 

 




どうだったでしょうか?

隠されていたランスの正体。浮上した新たな疑惑。そしてガルドに手を貸した男女とは。いろいろ詰め込みすぎましたかね?

それでは次回もお楽しみに。


次回予告

目を覚ましたことを確認された詩音は十六夜、飛鳥、黒ウサギに連れられ"サウザンドアイズ"へと来る。

そこにいたのはイケメン?系残念男子のルイオス=ペルセウスだった。

呼び出された要件は元同士の取引!?半ば拉致られた詩音は一体どうするのか?

「英雄さん(笑)との取引」


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英雄さん(笑)との取引

少し間があいてしまって申し訳ありません。
学校が忙しすぎる……!
そして今回タイトル詐欺になってないか不安です(主に英雄さん(笑)のところ)
それでは本編をお楽しみください!


「それで、私はなんで引きずられてるのかな?」

 

「ん?なんとなく」

 

目を覚まし、もみくちゃにされた詩音は着替えさせられ、十六夜に首根っこを掴まれ引きずられていた。

 

「今から元仲間を取り戻すための交渉に行くのよ」

 

「なんで私まで?」

 

「すみません。本当は耀さんでも良かったのですが………」

 

「問題発言しかねないから詩音さんにしたって訳」

 

「うん訳わかんない」

 

詩音はガックリ肩を落とし引きずられていく。十六夜、飛鳥、黒ウサギに連れられて着いた場所は"サウザンドアイズ"の支店だった。そこには心底疲れはてたような顔をしている割烹着の女性店員がいた。

 

「お待ちしておりました………」

 

「どしたのその顔?」

 

「中に入れば理由が分かると思いますよ。まあ、私みたいになるかもしれませんがね、ハハ………」

 

やつれた顔で乾いた笑いを浮かべる女性店員。

 

「それじゃあお邪魔するのですよ」

 

「よし行くか」

 

女性店員の忠告を全く気にする気もない黒ウサギと十六夜。女性店員を哀れみの目で見つめる飛鳥と詩音。

 

「………頑張ったのね」

 

「……強く生きて」

 

飛鳥と詩音はそう言って店の中へと入っていった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音達が店に入るとガシャァンという何かが勢いよく割れた音がした。音がした部屋へと向かうとそこにいたのは眉間にしわを寄せている白夜叉とチャラそうな男だった。

 

「うわぉ!本物の月の兎じゃないか!」

 

「待っておったぞ小童共。とりあえずこの馬鹿をどうにかしてくれんか?」

 

「馬鹿とはご挨拶だね白夜叉。同じコミュニティの幹部同士仲良くしようじゃないか」

 

「おんしとは仲良くしとうない」

 

その部屋に悪い空気が流れる。どうやら男と白夜叉野中はそこまでいいものではなさそうだった。

 

「それで白夜叉、早速交渉を始めたいんだが」

 

「おおすまんのう。ここは少し散らかってしまったから別の部屋を使うとするかのう」

 

そう言われて部屋を移動する。そんな中詩音はというと、

 

「(なんだろう、この胸騒ぎは)」

 

違和感を覚えていた。この違和感が後に大変なことをなることを詩音はまだ知らない。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「嫌だね」

 

「何ですって!?」

 

交渉の結果はNOだった。元仲間の取引には応じてくれないらしい。

 

「どうしてなんだ?」

 

「あれは結構需要があってね。もう取引先が決まってるんだ。箱庭の外の客でね」

 

「ちょっと待ってください!箱庭の外ではレティシア様は………」

 

詩音はあとから聞いたが、元仲間の名前はレティシアといい、吸血鬼らしい。吸血鬼は箱庭の中であれば天幕が太陽の光から守ってくれるが、外ではそうもいかないらしい。

 

「牢獄の中で鎖で繋がれて遊ばれる。これって結構エロくない?」

 

ニヤァと嫌な笑みを浮かべるルイオス。

 

「キモい………」

 

「最低ね。こんなクズ消えればいいのに」

 

「ハッ、名無し風情が僕に口出しすんなよ。なんならどうだ?取引しないか?」

 

「何?」

 

笑みを浮かべてルイオスはある提案をしてくる。

 

「月の兎と交換するならばそっちの要求を呑んでも構わないぞ」

 

「何ですって!?」

 

「ふざけないで!そんな提案のむわけないじゃん!ねえ、黒ウサギ!」

 

「…………………」

 

怒りを露わにする飛鳥と詩音。二人は黒ウサギの方に振り向くが黒ウサギは俯き腕を震わせていた。

 

「……私があなた元へ行けばレティシア様を開放してくれるのですね?」

 

「ちょっと黒ウサギ!?」

 

「ああ、約束する」

 

「…………すみません、一週間ほど考える猶予をください。仲間との話もありますので」

 

黒ウサギは暗い顔でルイオスの提案を呑むような発言をする。

 

「くくく、まあそれぐらいはいいか。なんたって月の兎は自ら豪華に飛び込むんだもんな。誰かのためなら。安心していいぞ。こっちに来た暁には三食首輪付きで楽しませてやーーー」

 

「"黙りなさい"!!!」

 

ガチンッとルイオスの口が閉じる。飛鳥がギフトを使ったのだ。

 

「五月蝿いわよ外道。誰があなたの提案を呑みますか。あなたもあなたよ黒ウサギ。こんなやつの提案のむなんて何を考えているの?」

 

「で、ですがそうでなければレティシア様は………」

 

「だからってこいつの言うこと聞かなくていいじゃん。こんなやつに従っちゃダメだよ」

 

「それに、私のギフトにかかっているようじゃ、そこまでの力は持っていないのでしょうどうせ」

 

「……るせぇ」

 

「?」

 

その次と瞬間、怒号が鳴り響いた。

 

「五月蝿え名無し共ぉ!!こんな手が通じると思うな馬鹿が!!」

 

ルイオスはギフトカードから剣のようなものを取り出し飛鳥に突き付けようとする。

 

「ガルァ!!」

 

詩音のギフトカードの中にいたフェルンが突如出てきて吠える。その途端、ルイオスの動きが止まる。

 

「な……!?動け……ない………!?」

 

「グルルルルル」

 

「こ、の……犬風情がっ!!」

 

ルイオスはフェルンの拘束を破りフェルンに斬りかかる。それを十六夜が間一髪で止める。

 

「おいおい穏やかじゃねえな」

 

「くっ………!」

 

「やめんか小童共。このまま続けるのであれば門前へと放りだすぞ」

 

白夜叉が痺れを切らしたのか眉間にしわを寄せて怒鳴る。両者は離れルイオスは舌打ちする。

 

「とりあえずだ、いい知らせを待っているぞ月の兎」

 

そう言って立ち去るルイオス。交渉は失敗に終わってしまった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

結局、詩音たちはその後本拠へと帰り、ジンに全てを話した。するとジンは黒ウサギに反省するように自室謹慎にしてしまったのだ。そしてすぐに交渉から一週間が過ぎてしまった。

 

「飛鳥や耀が黒ウサギのところに行ったし、真尋と十六夜はどっかいったまま帰ってきてないし………私はどうすりゃいいの〜?」

 

悲痛な声とともに頭を抱える詩音。隣にいる玉藻前は詩音を一瞥して言う。

 

「別に、流れに身を任せていればいいんじゃない?下手に動くと大変になることもあるし」

 

「でも」

 

「とりあえず待ちなさい。十六夜達が権利取りに行ってくれてるんだから」

 

「うぅ………」

 

権利とは、"ペルセウス"にギフトゲームを挑むための権利だ。クラーケン、グライアイを倒すことで手に入れられるらしいので十六夜と真尋が手分けして取りに行ったのだ。

 

「だけど帰ってくるの遅くない?そろそろ帰ってこないとおかしいでしょ」

 

「まあそうなんだけれど…………。あ、誰か帰ってきた」

 

玉藻前の狐耳がピンと伸びて何かに反応する。すると本拠の玄関のドアが荒々しく開けられる。

 

「はぁはぁ………十六夜はいるか!!」

 

真尋が険しい顔でそう叫ぶ。

 

「いない、というか帰ってきてないよ」

 

「そうか………くそッ、あいつどこに行ったんだ!?」

 

「どこに、とはどういうことだ?彼奴は権利を取りに行ったのではないのか?」

 

「そうなんだけど………」

 

「何があったの?」

 

詩音がそう聞くと真尋は深呼吸をして落ち着いた口調で話し始める。

 

「実は僕らは出発して別れる時に四日後にある場所で落ち合うはずだったんだ。だけどそこには誰もいなかった。そこにあったのは十六夜がとってきたであろう権利が入った風呂敷だけだった。その後もちろん探したよ。それから三日かけて探したけれど見つからなかった」

 

「だからこんなに遅くなったんだ」

 

「聞いていたからね。黒ウサギがルイオスの元に行くか否かを決めるのが今日までってこと」

 

真尋はそう言って風呂敷包みを二つ持ち上げる。おそらくそれが"ペルセウス"に挑むための権利だろう。

 

「黒ウサギ達に知らせないと……」

 

「私が知らせてこよう。二人は準備をしていて」

 

そう言って玉藻前が走って黒ウサギの自室へと向かう。詩音は手を顎に当て考える。

 

「一体、十六夜はどこに………?」

 

そして"ペルセウス"の本拠へ行く準備が整っても十六夜が帰ってくることはなかった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「くくく、おいこれはどういうことだ?笑が止まらないぞ」

 

「ふふ、契約に沿ったまでよ」

 

"ペルセウス"の本拠の執務室ではルイオスと銀髪の少女が笑っていた。

 

「それにしてもまさかあいつをここまで強化できた挙句、こんな土産まで持って帰ってくるなんて……契約料足りないんじゃないか?」

 

「いえ、足りてるわ。私たちが欲しい物を貰えればそれで十分よ」

 

「だとしても強化したあいつの情報だけでいいのか?なんなら金や他にも色々と渡すが」

 

「いいえ、私たちがお金なんて持っていたところで有り余るだけだわ」

 

「そうか」

 

ルイオスは部屋の中心に佇む人物を見てニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 

そこにいるのは白髪で学生服を着ている少年だった。目は虚ろであり一言も言葉を発しない。

 

「くくく、さあ来い名無し共!貴様らの全て、僕が貰い受けてやる!あははははははは!!」

 

ルイオスは狂ったように笑う。銀髪の少女はクスリと笑う。

 

「見せてもらおうかしら。貴女の癒術師としての力を。そしてこれを目の前にしてどれだけの力が出せるのかを」

 

そして銀髪の少女はそう言い残し虚空へと消えていった。

 

 




どうでしたか?ルイオスが完全な外道と化しました。
今回もギフトゲームが激ムズになりそう。
………タグ追加するか。
行方不明の十六夜はどこに行ったのか、強化してもらった"あいつ"とは、白髪の少年は誰なのか、次回はオリジナル要素たっぷりになりそうです。
それでは次回もお楽しみに!


次回予告

十六夜不在で始まることになった"ペルセウス"とのギフトゲーム。

だがその難易度はガルドの時同様、クリアが難しい物だった。

そして"ノーネーム"のメンバーの前に倒すことのできない敵が現れる。

「こんなの……こんなの嘘だよ!!」


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こんなの……こんなの嘘だよ!!

さてどうも夜明けの月です。
すみません、今回出来上がりが非常に微妙になっています。ご了承ください。
それでは本編をお楽しみください!


十六夜が行方不明になって二日後、詩音たちは白い宮殿の前にいた。

 

「ここがゲームエリア………」

 

「……綺麗なところね」

 

「でもここに外道がいる」

 

「よし、潰すか」

 

「ガウ(賛成)」

 

「やめろ」

 

何故ここにいるかというと、真尋が持ってきたゲームへの参加権をルイオスに渡し、ゲームする事が決まったからだ。そしてギフトゲームのエリアはここらしい。

 

「それで、あの外道はどこなのかしら?」

 

「確か宮殿の門の前にあるとか言ってたような」

 

詩音はそう言いながら門の前へと行く。門には"契約書類"が貼り付けられていた。

 

『ギフトゲーム名 "FAIRYTALE in PERSEUS"

 

・プレイヤー側コミュニティ "      "

 

・ゲームマスター側コミュニティ "ペルセウス"

 

・プレイヤー側勝利条件 白亜の宮殿の入り口から入り、最奥までたどり着き、そこで待つルイオス=ペルセウスを打倒する。

 

・プレイヤー側敗北条件 上記の勝利条件を満たせなくなった場合、またはルールに背いた場合。

 

ゲームルール

・白亜の宮殿の入り口から入れるのは二名のみ。

・最奥に着くまでに見つかってはいけない。

・プレイヤー側コミュニティのメンバーがゲームマスター側コミュニティに二名以上捕らえられた場合、プレイヤー側コミュニティの負けとなる。

・最奥にたどり着いた者のみ、戦うことが許される。

 

上記を尊重し、誇りと御旗の下、ギフトゲームを開催します。

         "ペルセウス"』

 

「なんかまた難しそうなんだけど………」

 

"契約書類"に書かれていた内容を見て項垂れる詩音。他のメンバーも疲れたような顔をする。

 

「これは面倒ですね……」

 

「今嘆いたところでこの事実は変わらないわよ。ところで、宮殿の中に入るのは誰にするの?」

 

「よし、僕が行こう」

 

「「「却下で」」」

 

「何で!?」

 

「「「前にガルドやったじゃん」」」

 

「そんな理由!?」

 

大声でツッコむ真尋を放っておいて詩音が名乗り出る。

 

「なんか嫌な予感がするし、私が行く」

 

「………大丈夫なの?」

 

「多分なんとかなるよ」

 

「そ、それじゃあ僕がお供を」

 

「フェルン、お願いできる?」

 

「無視なんだ、無視するんだ!!」

 

「ワウ(哀れ)」

 

こうしてゲームは開始した。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

白亜の宮殿内。詩音とフェルンは物陰に身を隠して動いていた。

 

「でもどうしよう……このままじゃいつか見つかるよね」

 

「ガルゥ」

 

詩音がそう言うとフェルンが詩音と自分に風を纏わせた。

 

「これ何?」

 

「ガウ」

 

「……?不可視の風?聞いた事ないよそれ」

 

「ガルゥ!」

 

「痛っ!いいから行けって乱暴すぎない!?」

 

「ガウァ!」

 

「痛いっ!ごめん行くから!」

 

側から見たら大丈夫か?と思える感じで詩音たちは進んでいった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

白亜の宮殿の最奥では黒ウサギたちが詩音の到着を待っていた。

 

「ふぁ〜、眠……」

 

奥から間の抜けた欠伸が聞こえてきた。そこには"ペルセウス"のリーダーであるルイオスとローブを被った人がいた。

 

「遅えな……もう失格になったんじゃねえの?」

 

「そんなことない。詩音は必ず来る」

 

「ハッ、どうだか。それとも、怯えて逃げ出したか?」

 

ニヤニヤと陰湿な笑みを浮かべて言うルイオス。

 

「黙れ外道。少しぐらい待っていられないのか?というかお前が英雄とは信じられないな」

 

横目で真尋がルイオスを睨む。

 

「何だと?」

 

「それで英雄を名乗るとはね。全く、恥晒しだよ」

 

「おいお前、僕をあまり怒らせるなよ」

 

「はいはい」

 

真尋は挑発するように適当にルイオスの言うことを聞き流す。するとその時だった。

 

「はぁはぁ………や、やっと着いた………」

 

ふと、どこからか声がした。声がした方にいたのはボロボロになっている詩音だった。

 

「詩音さん!」

 

「無事だったのですね!」

 

「どうしたのそれ?」

 

「ああ、それはね………」

 

「ガルァ!!」

 

「痛ぁ!!」

 

理由を説明しようとした途端、フェルンが詩音の腕に噛み付く。

 

「こういうこと」

 

「グルルル」

 

「痛っ!もうやめ痛ぁ!!ちょ、頭はダメ!!やめてぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

フェルンが頭に噛みつき、痛みで悲鳴に近い叫び声を上げる詩音。

 

その光景を見て全員が思ったことはただ一つ。

 

『これで大丈夫なのか?』

 

"ノーネーム"のメンバーはそう思いながらため息をつくのだった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「よし、それじゃあ戦おうか」

 

「ガウ」

 

「詩音さん詩音さん、仁王立ちでそういうのはいいんですけど、そう言える姿じゃないですよね?」

 

現在の詩音の姿はというと、身体中に引っ掻かれたり噛まれたりした傷があり、服なんかはもう戦う前からボロボロだ。

 

「それはフェルンに言って」

 

「グルゥ」

 

「とりあえず始めようか」

 

「そうね。そろそろ外道の調理に入らないと」

 

「おいおい、ちょっと待て。どうしてお前らが戦おうとしてるんだ?」

 

ルイオスが呆れたような声で言った。"ノーネーム"のメンバーは頭の上に?を浮かべる。

 

「お前らだよお前ら。最初からこの最奥にいた奴らだよ」

 

「それがどうした?」

 

「"契約書類"をちゃんと読めよ」

 

「は?」

 

そう言われて真尋は"契約書類"を取り出し文面を読む。そしてある分に目が留まる。

 

「くそッ……そういうことか……!」

 

「どういうことなの?」

 

「あいつが言っているのは、『どうして最初から最奥にいた奴らが戦おうとしているのか』だった」

 

「それが何?」

 

「"契約書類"には勝利条件に『入り口から入って最奥にたどり着き、そこで待つルイオス=ペルセウスを打倒する』とある。これがどういうことか分かる?」

 

飛鳥と耀は首を傾げる。黒ウサギはハッとしてその問いに答える。

 

「まさか……入り口から入って最奥に来なかった私たちには………参加権がない……!?」

 

「御名答。つまりお前らには僕らに挑戦する権利がない(・・・・・・・・・・・・)のさ。入り口、つまりあの門から入ってきたそこの一人と一匹にしか僕に挑戦することができるのさ」

 

それを聞いた真尋は歯噛みする。黒ウサギはオロオロし始める。

 

「ど、どどどどうしましょう!?」

 

「どうすれば……どうすれば……!!」

 

「ハッ、そんなの決まっているだろう?お前らのお仲間が殺され僕の物となるのを見ていればいいのさ。君らに戦いに参加する権利はない」

 

そう言ってルイオスはブーツから翼を生やして空中に浮く。

 

「さて始めるか。恒例のセリフは……面倒いからいいや」

 

「空中に浮くなんてずるい!」

 

「なんでこの僕が君らのような下等な生き物と同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ。そういうのは従者の務めだろう」

 

ルイオスがそう言うとローブを被っている人が詩音達の前に来る。そしてルイオスは首につけているチョーカーについている丸い何かを外す。

 

「さあ、奴らに力の差を見せてやれ!生まれ変わったお前の力を!アルゴォール!!」

 

するとそこからは褐色の光が満ち溢れる。その光が収まるとそこには禍々しい黒い毛の髪、正気を失った目、屈強な体を持った女性がいた。そして詩音達の目の前にいるローブの人はローブを脱ぎ捨てる。するとこそには白髪の学生服を着た、詩音も良く知る人物がいた。

 

「う、そ…………」

 

詩音は目を見開き口をパクパクさせる。そこにいたのは紛れもなく詩音の知り合いだった。

 

「い、十六夜………?」

 

「くくく、くはははははは!!どうだ!?行方不明だったお仲間と再会できて。くく、こいつは俺の捕虜になった。だからここにいる、そしてお前らと戦うのさ!」

 

「そ、そんな!」

 

「残念だがこれは強制なんだよ、お前らが変えられるものじゃない。それに、そのガキにお前ら名無し風情の言葉なんて届くわけねえしな!」

 

驚愕する"ノーネーム"のメンバーを見て高笑いをするルイオス。だがただ一人、いや一匹だけは十六夜を見ていなかった。

 

「グルルルルル」

 

フェルンだけは十六夜には目もくれず高笑いするルイオスを唸りながら睨んでいた。

 

「さあやれアルゴールに白髪!そいつらをぶっ殺せぇ!」

 

「GYAAAAAAAaaaaaaaaaa!」

 

「………」

 

アルゴールは空中を蹴り詩音の元へと飛び、十六夜は地面を蹴って構える。反応が遅れた詩音はギフトカードから弓を取り出して後ろに飛ぶが、

 

「距離が……!」

 

「………!」

 

十六夜が詩音の目の前まで迫り拳を突き出す。詩音は目を閉じる。だが衝撃がこない。その代わりに、

 

「ギャウ!」

 

という鳴き声が聞こえた。

 

「フェルン!?」

 

フェルンは詩音を庇い十六夜の拳を受けたのだ。その衝撃でフェルンは壁まで飛ばされ、壁に激突する。

 

「グ、グルゥ………」

 

「フェルン大丈夫!?」

 

「ガルゥ………」

 

「戦いに集中しろって……フェルンを放って!?そんなのできないよ!」

 

「ガルゥ!!」

 

「いいから行けって言われても……そんなの………!」

 

「ガルァ!!」

 

「…………………分かった。すぐ終わらせるから休んでて」

 

詩音はフェルンを撫でて十六夜とアルゴール、そしてルイオスに向き直る。

 

「私の友達に、よくも手を出してくれたね。覚悟は、出来てるよね!!」

 

詩音は弓を構えて走り出した。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「はぁ、はぁ………」

 

「………………」

 

「GYAAAAAAaaaaaaaaaa!」

 

「諦めろよ。その二人にここまでやれたんだ。十分だろ?」

 

あれから数時間が立つが未だ決着がついていない。詩音は二人を相手にしてきたが全く歯が立たなかった。ただやられる一方だった。

 

「ふ、ざけないで……まだ…終わっ、たわけじゃ………」

 

「ほとんど無傷のアルゴールと白髪相手にまだやる気か?もうお前は戦える体じゃないだろ?」

 

詩音の体は傷だらけであり、左腕の骨が戦っている途中で折れていた。そのため右手に持っている弓は途中から使えずにいた。

 

「そうだ、いい提案がある。お前が僕のコミュニティに来てくれるならお前らの元からの望みであったあの吸血鬼は返そう。どうだ?」

 

「………それしたら私たちの負けになっちゃうじゃん」

 

そう、"契約書類"には『プレイヤー側コミュニティのメンバーが捕虜になった場合、プレイヤー側コミュニティの負け』と書いてあるのだ。この場合、詩音がルイオスの提案をのんでしまうと"ノーネーム"の負けが即決定してしまう。

 

「は?何を言っている。もう負けたも同然なんだからそんなことどうでもいいだろう?そんなことよりも、僕はお前が気に入った。なんなら三食首輪付きでもいいぞ」

 

「お断り。誰があんたなんかのコミュニティに……」

 

「そうかい。なら仕方ない。お前ら、手加減しなくていいぞ。その女を殺せ」

 

ルイオスの命令を聞き、十六夜とアルゴールは詩音に迫る。主人の命令を遂行するために。

 

「(まだ……まだ終わりたくない……!!)」

 

詩音は迫る二人をどうにかしようと弓を構えようとするが左手が動かない。動かそうとするたびに激痛が走る。

 

「(動いて!お願い動いてよ!!)」

 

だがピクリとも動かない詩音の左腕。詩音は目を瞑って激痛に堪えながらも動かそうとする。

 

「(お願い…………動いて……)」

 

そんなことをしているうちに十六夜たちは詩音の目の前まで迫っていた。

 

「(ごめん、みんな。私、もう………)」

 

詩音は悔しさのあまり涙を流す。自分の不甲斐なさに腹を立てていた。

 

「(ごめんね………)」

 

『どうして謝る?』

 

そんな時だった。突如、詩音の頭の中に声が響く。

 

「(自分が……不甲斐ないから……)」

 

『お前、生きたいか?』

 

「(…………え?)」

 

『もし助けてくれる、お前を救える救世主がいたとするなら、お前は生きたいか?そしてあいつらに勝ちたいか?』

 

その声は淡々とそう告げる。詩音は思い切り目を瞑り思った。

 

「(……生きたい。私だって生きたい!でも、このままじゃ………)」

 

「だから俺がいるんだろうがバーカ」

 

「へ………?」

 

詩音は素っ頓狂な声を出し目を開ける。そこには十六夜とアルゴールの姿はなかった。二人は詩音の目の前にいる人物に弾き飛ばされたのか、向かいの壁まで吹き飛んでいた。

 

「全く、美人に涙は似合わないぜ。笑ったほうが断然いいだろ」

 

白く長い髪に狼の耳を生やして和服を着た少年がそう告げる。

 

「な、誰だお前!?」

 

「はぁ?誰って言われてもなぁ……」

 

詩音は呆然とその姿を見ていた。というより状況が飲み込めていなかった。

 

「貴方は……一体……」

 

「かか、驚くのも無理はねえよな。だって十数年後の再会だもんな」

 

その言葉に詩音は目を見開き驚く。十数年前、詩音は知り合いが二人しかいなかった。しかしその二人はもう死んでいたはずだ。そしてこの間、真尋との再会を果たした。

 

その"十数年前"という条件に当てはまるのはもう一人しかいない。

 

「千斗………!」

 

「覚えてたか。まあそりゃそうだよな」

 

千斗と呼ばれた少年は頭をガシガシと掻く。そして満面の笑顔で告げた。

 

「ああそうだ。フェルン改め金倉千斗(かなくらせんと)だ。久しぶりだなシイ」

 

詩音はその言葉を聞き涙を流す。小さな嗚咽が戦場に響く。

 

「すまねえな。もうちょっと早く出て来られればここまで傷つけずに済んだのに」

 

泣きじゃくる詩音の頭を撫でる千斗。そしてルイオスたちの方へと向く。

 

「さぁて、よくもシイをここまで傷つけてくれたなクソ英雄」

 

「な、なんだと!?」

 

「ここからは俺が相手だ。少しイライラしてるんでな。手加減はできねえから、やられる覚悟しとけよクソ野郎」

 

途端、千斗の霊格が凄まじい勢いで上がる。その霊格の高さはまるで千斗の怒りを表しているかのように。

 

「さあ始めようぜ。お前らに見せてやるよ、"全てを食らう狼"金倉千斗様の実力をな!」

 

 




……皆さんに謝りたい。十六夜とアルゴールの実力を見せていないのと鬼畜仕様のギフトゲームになってしまったことを。
実力は次回わかるとして、鬼畜仕様はどうやったら直るのだろう……。この件は本当にすみません。おそらくこれずっと続きます。
さて、次回はフェルン改め千斗と詩音がメインです。
それでは次回もお楽しみに!


次回予告

詩音に危機を救った千斗。ルイオスは完全にキレてしまいアルゴールと十六夜に二人を殺すよう命じる

そして千斗はアルゴールと十六夜を相手に苦戦を強いられる。

その時、傷だらけの詩音が取った行動とは!?

「"全てを食らう狼"と"汚れを祓う癒しの力"」


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"全てを食らう狼"と"汚れを祓う癒しの力"

今回でペルセウス戦は終了です。
それと今回少し長めです。
それでは本編をお楽しみください。


「さあて、始めようぜ」

 

千斗は戦闘態勢をとる。

 

「くっ、やれ二人共!」

 

ルイオスの命令でアルゴールと十六夜が地面を蹴る。瞬く間に千斗に迫る。そして、

 

「喝っ!!」

 

千斗の声だけで弾き飛ばされる。

 

「おいおい、弱すぎるだろ。お前らそこの英雄さんのお守りじゃねえのか?」

 

「GYAAAAAAAaaaaaaaaaa!!」

 

するとアルゴールから褐色の光が千斗に向けて放たれる。

 

「千斗!!」

 

「ハッ、こんなもんが"全てを食らう魔狼"()に通じると思うな!」

 

千斗はかわすことなく真っ向からその光を受ける。

 

「黒ウサギ、あの光の効果は!?」

 

「おそらく石化の能力があるかと思われます。あの光を受けたとなると……」

 

「それなら彼は……」

 

「残念ですがーーー」

 

「おいおい勝手に殺すなよ」

 

だが予想に反して褐色の光が収まった場所には、無傷の千斗がいた。黒ウサギは驚きで言葉を失う。

 

「石化とかズルい手を使うなぁ。ま、俺には効かねえけどな」

 

「くそ、おい白髪!あいつを殺れ!」

 

十六夜は瞬時に千斗に迫る。そして渾身の拳を叩き込もうとするが、千斗は身を翻し回し蹴りを十六夜の脇腹に叩き込む。

 

「あのなぁ、もうちょっとないのか?こう強い攻撃ってのがさぁ」

 

千斗は心底つまらなそうに愚痴る。その姿に"ノーネーム"の面子は言葉を失い、ルイオスは苛立っている。

 

「なめやがって………!もういい、白髪、アルゴール、与えられた力を解放しろ!!」

 

その命令で十六夜とアルゴールが纏う雰囲気が変わる。先ほどとは全く違う、何か禍々しいものに変わっていく。詩音はその雰囲気に心当たりがあった。

 

「(………これ、まさか!?)」

 

体の所々が痛むが気にせず立ち上がる詩音。それほど事態はマズイ方向へと進んでいた。

 

「(間違えるわけがない。あれは"汚れ(ダスト)"だ。でも何で?あれ扱えるのは"ロイズファクトリー"の奴らだけーーーってまさか!?)」

 

詩音のその予想は当たっているかがわからないが今はそれどころではない。おそらくこのままでは傾いている戦況がひっくり返される場合があるのだ。

 

「(でも私はまともに動けない。どうしたら………)」

 

詩音が悩む中、戦闘は再度始まっていた。

 

「GYAAAAAAAaaaaaaaaaaaaa!」

 

「グガァァァァ!!」

 

「ほっ、よっと!」

 

アルゴールと十六夜の攻撃を軽く避ける千斗だが、だんだん追い詰められていた。

 

「(動きがさっきと変わってやがる。これ一発でももらったらアウトだな)」

 

そう考えていると十六夜の拳が千斗の顔に迫る。それを千斗は手で受け止めた。

 

「おいおい危ねえな」

 

「グラァ!!」

 

「おお怖い怖い」

 

そして左からアルゴールの拳が迫るが、千斗はそれを避けることなく受けた。

 

「ぐぁ!」

 

アルゴールの拳は異様に強く、千斗は地面を転がり壁にぶつかる。

 

「千斗さん!」

 

「千斗、無茶するな!」

 

「ってぇな……、手加減なしかよこの野郎」

 

頰についた泥を手で拭いながら立ち上がる千斗。だが目立った傷はない。

 

「次はこっちから行くぞ!」

 

すると突然、千斗の目の前に魔法陣のようなものが現れる。だが、御構い無しに十六夜とアルゴールがその魔法陣を殴る。

 

「"衝撃食らい(インパクトイート)"」

 

千斗を吹き飛ばす勢いの拳が当たったにもかかわらず、壊れる気配すら見えない魔法陣。そして千斗は不敵に笑う。

 

「自分らの攻撃を食らいな!"吐き出す衝撃(リターン)"!」

 

魔法陣が光を帯びる。そして十六夜達を吹き飛ばした。

 

「どうだ?自分の力の味は」

 

「な!?どういうことだ!?」

 

「返したのさ。俺が食ったそいつらの衝撃をな。おかげでこっちは全くダメージを受けずに済んだし」

 

「な!?なんなんだよお前は!?」

 

「言わなかったか?俺は"全てを食らう魔狼"って。まあ簡単に言うならフェンリルってやつだが」

 

「フェンリルですって!?」

 

千斗の言葉に驚きの声を上げる黒ウサギ。

 

「そ、そんな……箱庭の二桁と同等の力を持った神獣が何故ここに!?」

 

「さあ?俺が転生して与えられた役割はそれだったし、桁とかそんなことは知らない」

 

「円卓の騎士に箱庭二桁の神獣……。もう訳がわからないわね」

 

「でも、この状況はどうにもって詩音!?」

 

すると突如全員の視界に詩音が現れる。即座に十六夜の死角へと回り込み肩に触れる。そして詩音が立つ場所が光り輝く。

 

「……………」

 

ブツブツと何か言っているが千斗達の元には届かない。そして光が強くなると同時に詩音の声が聞こえた。

 

「"天恵浄化ー終焉を迎える鈴の音ー(パーフィケイト・ベルサウンド)"!」

 

光はそこにいる全員の視覚を奪う。詩音の声は鈴のように凛と響く。そして光が収まると同時に見えた光景にその場の全員が驚愕する。

 

「う、嘘!?」

 

「十六夜さんが……十六夜さんが倒れてるですって!?」

 

そう、十六夜は力なく地面に倒れ伏しているのに対し、詩音は立っていた。

 

「やっぱり……出てきなよヒミカ。あんたがいるのは分かってるんだから」

 

「ふふふ、やっぱり詩音は鋭いわね」

 

そう言って突如現れた玉座の前に立てっている銀髪の少女。

 

「でも、気付くのが遅かったわね。その子は逃したけれど、もう一人は最終段階(ファイナルフェーズ)まで行ってる。残念だけど貴方じゃ癒せないわよ?」

 

ヒミカがそう言うとその隣に現れる黒くくすんだ物体。それはどこかアルゴールに似ていた。

 

「さてと、それじゃあ私はそろそろ。また会いましょう癒術師さん」

 

ヒミカがクスリと笑って消える。そしてアルゴールのような物体の形がぐにゃりと変形する。そしてその姿はアルゴールを肥大化したようなものだった。

 

『GYEEEAAAAAAaaaaaaaaa!!』

 

その黒い物体は唸り声をあげて褐色の光を全身から放つ。

 

「ケッ、効くかよ!"恩恵を食らう牙(ギフトイート)"!」

 

褐色の光は全て千斗が作り出した魔法陣に吸い込まれていく。

 

「おい詩音!なんなんだよあいつは!?」

 

峠坂日見華(とうげざかひみか)。ロイズファクトリーの」

 

「おいおい、まさかの黒幕さん登場か?」

 

「いや、あの子は手を下さない。その代わり、ああいう風に誰かに力を与えて攻撃させる。それがあの子のやり方だよ。まあそれはいいとして、アルゴールをなんとかしないと」

 

「なんとかするって………お前結構体力やばいだろ?」

 

「へへ、大丈夫だよ。これ終わらせたら存分に休むつもりだから」

 

笑顔を見せる詩音だが、その笑顔はどこか無理矢理作ったようなものだった。

 

「そうか。無理すんなよってもう無理してるか」

 

「うん。とりあえず、あいつの注意引いてくれる?その間にルイオスをなんとかするから」

 

「了解だ」

 

そう言って千斗は先ほど食らった褐色の光を放つ。アルゴールはそれを自らの拳で打ち砕く。

 

「ギフト無効化か?いやたんに自分自分のギフトが効かないだけか」

 

『GYAAAAAAAaaaaaaaaa!』

 

つん裂くような叫び声を放ち千斗へと接近するアルゴール。

 

「へっ、来いよ三流!格の違いってもんを見せてやらぁ!!」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

千斗がアルゴールの注意を引いている中、詩音は事態についていけずに困惑しているルイオスに目をつけていた。

 

「(所詮は親の七光りってことか………。でも狙うなら今しかない)」

 

詩音はギフトカードから"水珠の弓"を取り出して構える。

 

「(狙いは両肩と両足。あとは地面に墜落するようにあのブーツの破壊ぐらいかな。腕がもつかわからないけどやるしかない!)」

 

魔術で水の矢を作り出し、弦を引っ張り放つ。それはルイオスの右肩に吸い込まれていき命中した。

 

「ぐあ!?」

 

突然の事に体勢を崩すルイオス。詩音はそれを見逃さず、次々と矢を打ち込んでいく。

 

「い、一体誰が………!?」

 

「これで終わり!」

 

最後に二本の矢を同時に放ち両足のブーツを破壊する。ブーツに生えていた羽は消え、ルイオスは地面に落ちる。打ち所が悪かったのか、すぐに気を失った。

 

「よし!千斗、あとお願い!」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音がルイオスを地面に落とした頃、千斗はアルゴールの相手で手一杯だった。

 

「この野郎、手加減ってもんを知らねえなオイ」

 

『GYAAAAAAAaaaaaaaaa!!』

 

「だあぁぁぁ、ギャアギャア五月蝿え!」

 

あえて全力を出さず、なかなか攻められずにいたためイライラが募る千斗。その時だった。

 

「よし!千斗、あとお願い!」

 

詩音がそう叫ぶ。その言葉を聞き、ニヤリと笑う千斗。

 

「待ってました!さあて、エンディングの時間だぜ星霊さんよ!」

 

千斗は拳を握り構える。するとその拳の甲に狼を主にした刻印のようなものが現れる。

 

『GYAAAAAAAaaa!』

 

「終わりやがれ!"全てを食らう魔狼の牙(オールイーター・ウルファンクス)"!!」

 

千斗はその拳でアルゴールを殴る。すると、

 

 

アルゴールの半身が消し飛んだ。

 

『G、Gugya………!?』

 

「じゃあな星霊さんよ。これにてゲームは終了だぜ」

 

アルゴールは千斗の攻撃によって霧散する。その一撃で"ノーネーム"の勝利が決まった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「やっと帰ってこれたぁ………」

 

"ノーネーム"の本拠の居間にあるソファーにダイブする詩音。身体中に包帯やら絆創膏やら貼られていたが御構い無しである。

 

「体が痛みますよ?」

 

「………先に言って」

 

詩音はソファーの上でピクピクと震えている。

 

「んで、どうすんだこいつ」

 

「あの、黒ウサギ。私はどうしたら………」

 

復活した十六夜がレティシアを指差して言う。

 

十六夜は復活したのは良かったが、髪は元の色には戻らず白のままであり、そしてギフトに"汚れの使い手(ダストユーザー)"というものが追加されていたのだ。詩音曰く、「これはどうする事もできない」らしい。

 

「レティシア様が戻ってこられて本当に良かったのですよぉ〜!」

 

「こ、こら黒ウサギ!抱きつくんじゃない!」

 

レティシアに抱きつく黒ウサギ。側から見れば金髪ロリに抱きつく変態ウサ耳コスプレ少女である。

 

「レティシア様は以前ここで「メイドとして」過ごしていたようにしてもらって構いませんって誰ですか変な言葉加えてきた人は!」

 

真尋と千斗、レティシア以外の全員が明後日の方向を見て口笛を吹く。レティシアはというと、顎に手を当て真剣に考えていた。

 

「メイドか……。助けてもらった恩もあるし家政婦をやれというのであればやろうではないか」

 

「レティシア様まで〜!?」

 

「ふふ、金髪少女の使用人ってちょっと憧れてたのよね」

 

「メイド……あんまり見たことないなぁ」

 

「俺は見たことあるがな」

 

「まずそういう存在がいなかった」

 

「纏まりがないなここは」

 

「そういうものだって認識しておかないともたないよ?」

 

「それではよろしく頼むぞ。えーと……ここは主人殿と呼べば良いのか?いや良いのですか?むむ、少し違うな。良いのでございましょうか?」

 

「それ黒ウサギの真似ならやめたほうが良いよ?馬鹿がうつ………苦労することになるから」

 

「今馬鹿が移ると言いかけましたよね?言いかけましたよね!?」

 

そんなこんなでレティシアが"ノーネーム"に加わった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

その日の夜、"ノーネーム"は野外で歓迎会を開いていた。

 

「皆さん!今日はこのコミュニティに来てくださった詩音さん達の歓迎会です!羽目を外しても構わないので存分に楽しみましょう!」

 

「「「「はーい!!」」」」

 

子供達が笑顔で返事をする。詩音はその姿に癒されていた。

 

「はぁ……子供達可愛いなぁ……」

 

「私はああいうのはあまり得意ではないわね」

 

「子供はあまり好きじゃない」

 

「ええー!?何で!?」

 

「「いや何でと言われても」」

 

詩音は飛鳥と耀と話していた。そこに料理を盛った皿を持っている十六夜、真尋、千斗が来る。

 

「まあ人には好き嫌いがあるからな」

 

「詩音のそれは行き過ぎてる気がするけどね」

 

「ま、俺はあまり嫌いではないな。撫で回されるのは苦手だが」

 

「それ姿が狼の時でしょ?」

 

楽しく会話をしていく中、黒ウサギが両手を広げて言った。

 

「それでは皆さん、本日の大イベントです!天幕にご注目してください!」

 

そう言われて上を見上げる詩音達。するとそこには数多の星が流星のように降り注いでいた。

 

「わぁ……!」

 

「綺麗ね……」

 

「この流星群は新たな同士達によって生み出されたのです!私達に敗北した"ペルセウス"は"サウザンドアイズ"を追放され、あの星々から旗を降ろすことになったのです!」

 

その事実に飛鳥は驚愕する。

 

「まさか……あの空から星座を無くすっていうの!?」

 

そこに先ほどまで司会をしていた黒ウサギが来る。

 

「どうでしたか!驚きましたか!」

 

ふふん、と胸を張って言う黒ウサギ。

 

「ああ、度肝を抜かれたよ」

 

「まさか星座をねえ……。あ、なかなか面白そうなこと思いついたぜ」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

「何ですか千斗さん、十六夜さん」

 

千斗と十六夜は空を指差して宣言した。

 

「「夜空(あそこ)に俺たちの旗を飾るってのはどうだ?」」

 

その言葉にポカンとだらしなく口を開ける黒ウサギ。詩音達はというと、その言葉に笑顔を見せていた。

 

「それ面白そうだね」

 

「良いじゃない。高い目標は嫌いじゃないわ」

 

「面白そう」

 

「千斗にしては良いこと思いつくじゃないか」

 

「一言余計だこの野郎」

 

「どうだ黒ウサギ。とてもロマンがあるとは思わないか?」

 

放心状態の黒ウサギに十六夜が問う。黒ウサギはあってから見せたことのないような満面の笑顔で頷いた。

 

「はい!それはとてもロマンがございますね!」

 

「じゃあ決まりだな」

 

「楽しくなりそうだね!」

 

こうして夜は更けていった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「詩音」

 

「ん?どしたの真尋?」

 

歓迎会が終わった後、詩音は風呂に入りパジャマで部屋に向かっているところを真尋に呼び止められた。

 

「少し話がある」

 

「何?」

 

「今日のことについてだ」

 

そこには千斗もおり、二人は真剣な顔をしていた。

 

「今日?"ペルセウス"の白亜の宮殿でのこと?」

 

「ああ。お前、あいつの知り合いか?」

 

あいつとは、途中で出てきた銀髪の少女、峠坂日見華のことだ。

 

「ヒミカのこと?」

 

「そうだよ。誰なんだよあいつは」

 

詩音は少し考えるようなそぶりをして真剣な顔で話す。

 

「二人は"ロイズファクトリー"って知ってる?」

 

「うん。確か唯一"汚れ"を扱うことのできる集団だよね」

 

「そう。彼女はその最高権力者のうちの一人だよ」

 

詩音が淡々と言う。その言葉に言葉を失う二人。

 

「一戦交えたことはあるんだよ。でも徹底的ににやられた。しかもあの子は戦闘員じゃないというね」

 

「おいおい、どうして最高権力者が………」

 

「さあ?私には分からない。今のところは」

 

「今のところは?ということは後になればわかるの?」

 

「さあね。私は預言者じゃないからわかんないよ」

 

「だよね。呼び止めてごめんね」

 

「それじゃあおやすみ詩音」

 

「うん、おやすみ〜」

 

詩音は二人と別れ自室に向かう。

 

「何か大変なことが起きなきゃいいんだけどね」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

三桁のとある大きな屋敷の最奥の部屋。そこには6人の人がいた。

 

「ヒミカ、結果報告を」

 

「ええ。結果は上々ですわ。研究資料は大変いいものが手に入ったわ」

 

「ふむ、そうか。それなら研究の方は任せたぞ」

 

「分かったわ」

 

くすくすと笑っているヒミカと大きな椅子に腰掛けて頬杖をついている男。そのやり取りに一人の青年が言った。

 

「おーい、俺の出番はまだかよ。じっとしてるのは嫌いなんだが」

 

「五月蝿い。あんたは我慢というものを知らないの?」

 

「んだとコラ」

 

「二人とも、言い争いはよくねえぞ」

 

「そうじゃぞ。やめておくのじゃ二人とも」

 

「シュンヤとシキの言うとおりだ。やめておけマナ、ミカゲ。そんなことに労力を使わずに力を貯めておけ。すぐに必要になるぞ」

 

椅子に座っている男にそう言われ言い争いをやめる青年と女性。

 

「もうすぐ全員が集まる。それまでは力の解放はするな。我らの目的のためにな」

 

椅子に座る男は不気味な笑みを浮かべてそう言うのだった。




これにて第1章は終了となります。
1話ぐらい番外編を挟んで2章に行きたいと思います。
それと活動報告で真尋と千斗のヒロインアンケートをしております。
よければ回答よろしくお願いします。
あと、コラボなども募集しています。
それでは次回もお楽しみに。


次回予告

"ペルセウス"との戦いから二日後。詩音は朝起きると体に違和感があった。

部屋にある鏡を見るとなぜか姿が6歳の頃ぐらいのものになっていた。

他のメンバーも実年齢と姿が一致していなかった。それが起きたのはなんとも意外な理由でーーー!?

「朝起きたら幼女になってるのは異常だと思う」


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"魔王と汚れ"襲来のお知らせ?
ハプニングから始まる祭りへの道


激しくタイトル詐欺な気がしますが……。
とりあえず、遅れてしまって申し訳ありません。
では、本編をお楽しみください。


街中を歩く幼い少女がいた。俯き、周りを見ようともせず、ただただまっすぐ歩いていた。街に住まう人たちはそれを遠目に見ていた。

 

「見て……あの子よ、災いの子」

 

「嘘だろ……あんな幼い子がか?」

 

「嘘な訳ないだろ。世界中で有名だぞ。あんな分けわからないものを消せる奴だぞ?」

 

「怖いわねぇ……。あんな子が、そんなものだなんて」

 

ヒソヒソと話し合い、後ろ指をさすかのように睨めつけていた。その時だった。少女の近くに同じ歳ぐらいの女の子が走って近寄ってくる。

 

「ねぇ、どうしてそんなにボロボロなの?」

 

女の子は首を傾げて尋ねる。少女は顔を上げるだけで答えようとはしない。それを答えてはいけないかのように、そして、聞いてくるなと願うように。

 

「こら!その子に近づいちゃダメって言ったでしょ、瑞希!」

 

「わっ、お母さん!」

 

女の子がその母親に連れて行かれると同時に少女が歩き始める。

 

今日も一人で、たった独りでーーー。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「嫌な夢見たなー………」

 

詩音は額の汗をぬぐいながら体を起こす。

 

ペルセウスとのギフトゲームから数週間、"ノーネーム"の面子はいたって平和な生活を送っていた。多少の事件はあったものの、被害は詩音が受けたためそこまで問題はなかったが。

 

「よし、このままじゃなんだし着替えよ」

 

そう言って着替え始めた時だった。詩音に当てられていた部屋の扉が勢いよく開け放たれる。

 

「おい詩音、いい知らせ持ってきてやったぜ!」

 

「ーーーーーへ?」

 

扉を開け放ったのは白髪白眼の十六夜だった。

 

現在十六夜の髪と目は、ロイズファクトリーに囚われていたことにより白く染まっている。

 

そんな十六夜と、詩音の視線が交錯し、停止する。現在の状況を軽く説明すると、

 

詩音起床→着替えしようか→十六夜参戦→詩音下着のまま停止(←今ここ)

 

詩音は先ほどまで平然としていた顔を真っ赤にして涙目になる。そして、

 

「ぁ、きゃああああああああああーーーー!!」

 

つんざくような悲鳴をあげる。この悲鳴がコミュニティー全体に響き渡ったのは別の話。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「シイ、そろそろ機嫌直せよ」

 

「奪われた……私の大事なものが……」

 

「誤解を招くような言い方すんじゃねぇ!!それとさっき機嫌直ってただろうが!面白いからって演技するんじゃねえ!!」

 

場所は変わって、いつもの町を歩いている詩音達。どうしてここにいるかというと、十六夜が持ってきた『いい知らせ』が原因だった。

 

 

 

「十六夜の変態、スケベ!!」

 

「悪かった。というか着替えてると知らなかったんだよ」

 

「うぅ……」

 

「「十六夜/君最低……」」

 

「だから不可抗力だとーーー」

 

「「で、十六夜感想は?」」

 

「すごかーーってそういうことじゃなくて、一旦テメェら落ち着きやがれくそったれがぁぁぁぁぁ!!」

 

と、こんな感じのやりとりがあった後に十六夜がある手紙(意味深)を詩音に渡した。

 

「おいコラいい度胸じゃねえかこっちきやがれ駄作者」

 

ごめんなさい本当に止めて原型なくなるから……。

 

気を取り直して、詩音に渡された手紙は、"火龍誕生祭"の招待状と書かれたものだった。

 

「なになに……?『様々なギフトゲームを取り揃えており、屋台などの催し物も多々あります。そして、今回参加者を多く募るギフトゲームも開催いたします』?"火龍誕生祭"って何?」

 

「知らないけど、面白そうだから行こうってことになったんだけど、詩音を残していくのは後でめんど……かわいそうだと思って」

 

「今面倒って言おうとしたよね真尋?」

 

「でも、その十六夜がもう消沈気味なんだよなぁ……」

 

千斗が指差す方向には、地面に蹲って暗い雰囲気をまとっている十六夜がいた。

 

「俺は悪くねぇ俺は悪くねぇ俺はーーー」

 

「これどうしようかしら?」

 

「運んでいく?」

 

「うーん……」

 

そんな十六夜を連れて行く方法を考える四人。そんな中、詩音は十六夜の横まで行き提案を持ちかけた。

 

「十六夜、一つだけ私の言うこと聞いてくれたらさっきの事は全部とはいかないけど、水に流してあげる」

 

「………その内容は?」

 

「屋台の食べ物幾つか奢って。それで許してあげない事もない」

 

「本当だな?」

 

「私は嘘つかないよ」

 

「了解だ。いくらでも奢ってやる」

 

「交渉成立だね。じゃあ行こう」

 

 

 

というようなやりとりがあって、今に至る。

 

「というかこれどこに行ってるんだ?」

 

「変態の住処」

 

「「「なるほど把握した」」」

 

「白夜叉の扱いがぞんざいになって来たなぁ」

 

「まああれはそういうもんだからいいんだよ」

 

そんな話をしていると、六人はいつの間にか変態の住処もとい"サウザンドアイズ"の支店にいた。

 

そこにはいつも通り外で掃除をしているのか、割烹着を着た女店員がいた。

 

「………またあなた達ですか」

 

「なんだその目は。こっちはわざわざ来てやったんだぜ?」

 

「願い下げです。というより頼んでいませんよ。来いとも一言も告げてませんし」

 

「つーことで入らせてもらうぜ」

 

「無理です!というよりどういう経緯で入るということに至ったんですか!?」

 

「え?さっきのOKって意味じゃないの?」

 

「あからさまな拒絶だったはずだったんですがそうは捉えなかったんですか!?バカですか!?」

 

「だってバカだもん」

 

「……………………っ!!」

 

千斗と女店員が攻防を繰り広げるが、千斗の自由さに翻弄され現在睨みつけている女店員。それを気にも留めない千斗は奥に進もうとする。

 

「待ちなさい!今、白夜叉様はいません!ですので今日はおかえりにーーー」

 

 

「イヤッホォォォォォォォ!元気にしとったか小童共ォ!」

 

 

どこかから聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思うと、上空から何かが飛来する。その声に聞き覚えがあったのか、女店員は頭を痛そうに押さえている。

 

「白夜叉様………」

 

「くく、超絶美少女の白夜叉様見参じゃ!!」

 

「ここの店長はぶっ飛んだ現れ方しなければ気が済まんのか」

 

「………………」

 

十六夜のごもっともな発言に無言を貫くしかない女店員。斬新な登場の仕方をした残念系和服ロリ(超絶美少女)の白夜叉は店の中へと入っていく。

 

「どうしたおんしら?私に用があったのではないのか?あるなら中に入るが良い。私が許す」

 

「ちょ、白夜叉様!?」

 

女店員の驚きは無視するかのように白夜叉は中に入っていく。六人はそれを追うように支店の中へと入っていった。

 

「ていうかさっきから気になってるんだけど、なんでジンは千斗に引きずられてるの?」

 

「当然の報い、かな?」

 

「……?」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

一方その頃、"ノーネーム"の本拠では、黒ウサギとメイド服に身を包んだレティシアが畑の有様を見て頭を悩ませていた。

 

「これはどうしたものか……」

 

「Yes、少しでも農地が復活すればコミュニティのお財布事情がどうにかなるのですが……」

 

「詩音が土地を復活させてくれたのはいいのだが、さすがに完全にとはいかなかったか」

 

詩音が"ノーネーム"に来た初日に本拠の土地を元の状態に戻したのだが、完全に土地が元に戻ったというわけではなかった。詩音がしたのは、『土地を死んでいる状態から生き返らせること』のため、ただ生き返っただけであり、農作物が作れるというほど土壌や成分などはほとんど戻ってはいなかったのだ。

 

「うーん、詩音さんに頼んでみましょうか」

 

「まあ、それしか手はあるまい。頼れるものには頼っておかなくては」

 

そう言って詩音を探しに行こうとした二人を止める声があった。

 

「黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁぁぁん、大変なことがーーーー!」

 

「どうしたんですかリリ?」

 

走ってきたのは、頭上に狐耳と腰のあたりから狐の尻尾を生やした少女、リリだった。リリはパタパタと尻尾を振りながら黒ウサギに手紙を手渡す。

 

「あ、飛鳥さん達がこれを黒ウサギのお姉ちゃんにって」

 

「私にですか?」

 

そう言って中身を見る黒ウサギ。そこにはこう書かれてあった。

 

『黒ウサギへ

北側四○○○○○○外門と東の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。あなたも後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。

私達に祭りのことを意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合、()()()()()()()()()()()()退()()()()。死ぬ気で探してね。応援してるわ。

P.S ジン君は道案内に連れて行きます。』

 

それを読んだ瞬間、口をポカンと開けて呆然とする黒ウサギ。横から覗いていたレティシアはため息を吐き、リリは未だにオロオロしている。

 

そして三十秒後、黒ウサギはハッとして叫ぶ。

 

「な、何言っちゃってんですかあの問題児様方ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音達が"サウザンドアイズ"へ到着したと同刻、トリトニスの滝では一人の少年が白い蛇と話していた。

 

「白雪、ここらあたりは大丈夫?」

 

『うむ、問題はないぞ。しかし珍しいな。貴様がここまで来るとは』

 

「北に行くついでだよついで。ここも以前は"汚染"されかかってたし」

 

白雪と呼ばれた蛇は少年に顔を近づけ、睨みを効かせる。

 

『また何を企んでおるのだ?北には"汚れ"はおらんだろう?』

 

「まあそうなんだけど、少しきになることがあってね」

 

少年は白雪に笑いかけ、頭を撫でる。

 

「それに、気になる人もいるし」

 

ボソッと呟くが、白雪には聞こえていなかったのか、撫でられるのが気持ちいいのか目を細めている。

 

「それじゃあ行くよ。何かあったら白夜叉経由で教えて」

 

『分かったぞ。気をつけるのだぞユウよ』

 

「分かってるって」

 

苦笑を浮かべた少年は、一瞬にしてその場から忽然と消えた。

 

 




なんかいつもより駄文な気が……。

詩音「いつも通りじゃん」

あ、あと、この作品での十六夜君が快楽主義ボケ担当→苦労系ツッコミ担当(たまにボケ役)へジョブチェンジしました!

十六夜「嬉しくねぇ………」

詩音「……どんまい」

では、次回もお楽しみに!


次回予告

白夜叉に事情を説明し、無事北側へとたどり着く。

だが、その時彼女らを捉えるべく北側へと向かった黒ウサギも到着し、六人と対峙する。

ここに今、負けたらお仕置きの鬼ごっこが始まる!

「黒兎鬼ごっこはハードな運動」


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黒兎鬼ごっこはハードな運動

今回どう考えてもタイトル詐欺な気しかしない………。
あと更新遅れてすみませんでした。


支店の中に入って白夜叉の話を聞くと、北で開かれる"火龍誕生祭"における護衛みたいなものをして欲しい、とそういうことだった。

 

「なんで護衛なんかしなくちゃなんねえんだ?」

 

「ふむ。簡潔に言うと、この頃箱庭に得体の知れん"物"がうろついておるという」

 

「得体の知れない物?」

 

耀は首を傾げ、白夜叉に問う。白夜叉は真剣な眼差しで答えた。

 

「私は見たことはないのだが、どす黒い泥のような物に人が呑まれるのを見たというやつがいたらしい。その後、その人を見たことはなかったと聞いたが……。実際はほとんど分かっておらん」

 

白夜叉は困ったという風に頭に手を当てる。詩音と真尋、そして千斗はこの話の『泥のような物』に心当たりがあった。

 

「間違いなく"汚れ"だね」

 

「十中八九そうだろうね」

 

「でもよ、そんな人呑み込むようなことするか?あの知能がないような物質が」

 

千斗が顔をしかめて言った。千斗の言い分は確かに正しい。

 

今まで詩音たちが対峙してきた"汚れ"は、知能を一切持たず、命令されなければ動く生命体には手を出さないような物だ。基本は自然的な物に取り憑くものだが、白夜叉が言ったものは違った。

 

人を呑み込んだとしても、その人を操ってどこかに連れて行くなんて事は普通はできない。ただし、その"汚れ"が操られていなければの話だが。

 

「という事は………」

 

ロイズファクトリー(奴ら)絡みなんだろうね」

 

「ったく飽きねえなあの汚れ集団」

 

三人はそう結論付け、白夜叉の話を聞こうとするが、当の白夜叉は不敵な笑みを浮かべて柏手を打つ。

 

「ほれ、北側に着いたぞ」

 

『は?』

 

これほどピッタリ息があった事はないというほどに声が重なり、全員口をあんぐりと開けている。そして硬直が解けるとすぐに外に出て見たこともない景色に全員が見とれる。

 

赤く煌めく街、暖かさを感じさせる色合い、そこが北側の"煌炎の都"であった。

 

「綺麗ね……」

 

「おぉ………」

 

飛鳥と詩音は簡単の声を上げ、耀に至ってはキラキラと目を輝かせ、見入っている。男性陣はというと、その後ろで女性陣を見ながら街を見ていた。

 

「いい眺めだな」

 

「そうだな」

 

「君ら後で殺されても知らないからね……?」

 

十六夜と千斗がふざけたその時だった。背後の遠くの方から声が聞こえてきた。六人にとっては最も聞き覚えのある声が。

 

 

「みぃぃぃぃぃぃぃつけたのですよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」

 

 

ズドン、という着地音と土煙とともにその物体は飛来する。土煙が晴れ、そこに見えたのは、黒ウサギならぬ修羅ウサギだった。

 

「見つけましたええ見つけましたよこの問題児様方!今朝リリに渡した手紙の件でお話があるのでさっさと捕まってくれるとありがたいのですがいいですよね捕まってくれますよねというか返答は聞いてませんから捕まりやがれですよこのお馬鹿様方!」

 

修羅と化した黒ウサギは有無も言わせぬ形相と早口で六人に迫る。流石にあの手紙を出した手前早々捕まってたまるか、と思っていた五人(詩音以外)は瞬時に逃げようとしたが、

 

「捕まえましたよ耀さん!」

 

「わ、わわっ……!」

 

耀はギフトを使って飛び上がったところで、黒ウサギに足を掴まれて逃走に失敗する。状況がいまいち飲み込めていない詩音はというと、

 

「…………とりあえず逃げよ」

 

考えることを放棄して、場に身をまかせることにした。

 

だが、黒ウサギはこれを許すこともなく、容赦なく詩音に掴みかかろうとする。

 

「待ちなさい詩音さん!」

 

「やらせるかよ!」

 

あとほんの少しで掴もうとしたところで千斗が詩音の襟首を掴んで、街の方へと放り投げる。こんな状況になると思ってなかった詩音は顔を青ざめて千斗を見る。

 

「頑張って逃げろよ!」

 

「あとで覚えてろこの駄狼がぁぁぁぁ!」

 

そう叫びながら詩音は展望台から落ちていった。

 

黒ウサギは捕まえた耀を乱雑に白夜叉に投げつけ、近くにいた千斗も同じところに投げつける。当然のごとく、白夜叉は二人によって押し潰される。

 

「白夜叉様、お二人の事をお願いします。私はあのお馬鹿様方を捕獲もとい地獄への片道切符をワタシニマイリマスノデ」

 

黒いオーラを漂わせながら、黒ウサギは地面を蹴って街へと跳んでいく。今、問題児四人と修羅ウサギの鬼ごっこの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

いち早く一人で逃げた十六夜は、手持ち無沙汰だったので、観光がてら街をぶらついていた。

 

周りに人も大勢いるため、黒ウサギには見つからないだろうとたかをくくっていたのだ。

 

「それにしても、やっぱり祭りだからか人が多いな。ま、別に楽しむ事に支障がなければ問題はねえんだが」

 

頭の後ろで腕を組み、辺りを見渡しながら歩く。所々にめっらしい骨董品やら創作品などが展示されている。これも祭りの一環なのだろうと思いながら見ていると、街の中心部の方からなにやら大勢の罵声やら怒号やらが聞こえてくる。

 

「喧嘩か……?」

 

十六夜は吸い寄せられるようにそこに近づく。するとそこには、小学生くらいの少年とそれよりも幼い少女がいた。その二人を取り囲むように厳つい男達が五、六人立っている。その全員が額に青筋を立てていた。

 

「おいクソガキ、テメェ人にぶつかっといて謝罪の一言もなしかアア?」

 

「……ぶ、ぶつかってきたのはそっちじゃないか!」

 

「アア!?罪をなすりつけるとはいい身分じゃねえか、よぉ!」

 

「ぐぅっ……!」

 

男達は口答えしたのをしきりに少年を殴り、蹴る。はたから見ればただの理不尽なリンチだ。

 

十六夜は舌打ちをしてその男達に近寄ろうとする。その時、一帯を包んでいた喧騒を切り裂くような声が響く。

 

 

「そんな事して恥ずかしくないの?大人として」

 

 

声がした方向には、笑みを浮かべている緑色のヘアバンドをした青年がいた。青年は男と少年の間に入り、少年に手を差し伸べる。

 

「大丈夫かい?」

 

「……………」

 

少年はよほど痛かったのか、涙ぐんでいたが青年の問いかけに頷いて答える。青年は満足そうによし、と言って少年と少女をそこから立ち去らせた。

 

勝手な事をしたため、当然のごとく男達は怒りを露わにする。

 

「なあ、何勝手なことしてんだテメェ」

 

「勝手なことねえ……。僕はただ、あの子達には罪がないから帰らせてあげただけなんだけど?」

 

「んなこと知るかよ。俺は勝手なことすんなつったんだよ。テメェには関係ねえだろ」

 

「うん、そうだね。でもね、そういうふざけたことやってるとーーー」

 

 

ーーーーー潰すよ

 

 

その一言と共に静かな殺気が辺りに広まる。その殺気は、規格外の力を持つ十六夜でさえも動けなくなるほどのものだった。

 

「ぁ…………………」

 

「僕はあまり無駄に争いたくはないんだよ。だからさ………分かるよね?」

 

「く、ぁ………くそっ!もういい、行くぞ!」

 

男達は顔を青ざめながらその場を去っていく。周囲にいた野次馬達も蜘蛛の子を散らすように去っていく。そんな中、十六夜だけはそこを動かずにいた。否、()()()()()()

 

こんな威圧を、自分を動けなくなるほど圧倒する殺気を放てるような人物がいることが信じられなくて。

 

そんな十六夜に割り込んできた青年は声をかけた。清々しい笑顔を浮かべながら。

 

「やあ、君が白夜叉が言ってた十六夜君だね?」

 

「………誰だお前。それとどうして俺の名前を知ってやがる」

 

十六夜は眉を顰めて目の前の青年を睨む。少なからず含まれている威圧に動じず、青年は優しそうな笑みを浮かべている。

 

「僕はね、"サウザンドアイズ"の傘下"桃源郷"リーダーにして癒術師である神倉ユウだよ」

 

笑顔のまま青年、神倉ユウは告げた。

 

 




さて、本格的にユウさん始動でございます。
そして相次ぐ詩音の不幸。
次回もさらなる理不尽が……襲うかも。
では、次回もお楽しみに!


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まさかの再会

はい、弁明の余地もございません。
遅れて申し訳ないです。
他の作品の進行を先にしてたらこっちがおろそかに……。
今後気をつけます。
では、本編どうぞ。


場所は変わって、北側の展望台下ーーー

 

「あの馬鹿狼絶対にしめる………」

 

詩音は、頭や服に木の葉や枝を付けたまま多大なる怒りを込めながら呟く。

 

現在詩音は、黒ウサギから逃げようとしたところ、千斗に首根っこ掴まれ、街の方へと放り投げられたせいで落下位置にあった木に引っかかりながら街付近へと落ちていた。

 

幸い、レンガ畳みに直撃するということは避けられたため、怪我もほとんどない。高所から投げられるという恐怖は味わったが。

 

「はぁ……これからどうしよ。黒ウサギも行っちゃったし」

 

黒ウサギは詩音が落ちたのを見たにもかかわらず、他の人を追うために跳躍していったのだ。落下中、詩音はそれを目にした時思った。

 

ーーー何故私を先に捕まえないのか、と。

 

そんなことはさておき、すぐさま放置された詩音は、これからどうしようか悩み、すぐに歩き出す。

 

「お祭りやってるみたいだし、とりあえず歩いて回ろっと」

 

考えることと、今起こっていることに関する疑問を全て放棄して楽しむことに専念した。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

街に足を踏み入れると、そこは展望台から見た通りの幻想的な街並みだった。

 

森や活気のない街ばかり見てきた詩音にとっては、魅力的で興味をそそるものばかりだった。

 

「おぉ〜!賑わってるねぇ」

 

目を子供のように輝かせながら感嘆の言葉を漏らす。

 

様々な屋台、美しい彫刻品などの作品、橙色の街灯の明かり。それら全てがキラキラと輝いている。

 

祭りというもので胸を満たしながら歩いていく。そんな時だった。

 

「わぷっ」

 

「ん?」

 

詩音は突然足に衝撃が来て立ち止まる。コツンと何かが当たったような気がした詩音は、足元を見下ろして固まる。

 

「……誰よ、前を見て歩いていない大馬鹿者は」

 

風になびく綺麗な銀髪、リリ達年長組と同じような背丈、そして聞き覚えのある声。

 

その条件が頭の中で揃った途端、詩音は口をあんぐりと開けてわなわな震える。

 

「まったく、こっちはお祭りを楽しんでいるというのに。ちょっと、あなた聞いて……る……………」

 

銀髪の少女は顔をあげて詩音を確認し、詩音のように口をあんぐりと開けてわなわなと震える。

 

「日見華!?」

「詩音!?」

 

「「どうしてあんたがここに!?」」

 

まさかの再開に双方ともに大声を出して驚愕で数十秒動けなかった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「今思えば、あんな事書くんじゃなかったわね」

 

「今思ったところで後の祭りだけどね」

 

「………駄洒落?」

 

「そんなつもりまったくなかったんだけど……」

 

一方、逃げ延びた真尋と飛鳥は仲睦まじく腕を組みながら街を歩いていた。

 

なぜ腕を組んでいるのか、それは飛鳥のある一言が原因だった。

 

 

 

時は黒ウサギから逃走直後まで遡る。

 

その時、二人は街の噴水のあたりで膝に手をつき、荒い息を吐いていた。

 

体力や運動神経が転生特典で強化されている真尋に比べて、飛鳥は誰かを自分の命令に従わせる事ができるだけで他は普通の女の子だ。

 

そのため、真尋にあわせることはできず、かといって抱きかかえられたりするのも恥ずかしいので走って逃げたのだが、思ったより疲労したのだ。

 

真尋は真尋で、なぜか祭りを一緒に回らないか?という通りすがりの女性達の誘いを断り、かわしながら走っていたため、余分に体力を使ってしまったのだ。

 

「まさ、か……逃げるのが、こんなに大変、だなんて……」

 

「僕も、そう、思うよ………」

 

はぁー、と息を吐き出すと、飛鳥は周りを見渡した。いつの間にか踏み入れていた街並みに感嘆の息を漏らす。

 

「凄いわね……。あの高いところから見たよりも魅力的だわ……」

 

「そりゃ、そうだろうね。ここは異世界で、僕らの見たこともないものが沢山あるんだからさ」

 

「それもそうね……」

 

真尋は飛鳥の街並みに見惚れている姿に笑みを浮かべて、立ち上がって飛鳥に手を差し出す。

 

「それでは、お祭りへと行こうか。エスコートは任せてくださいませ、お嬢様」

 

「あら、そんなことしてくれるのかしら?」

 

「これでも一応騎士の端くれだと思っているからね」

 

「ふーん、それなら任せるわ」

 

「それでは、お手をお借りいたします」

 

真尋は差し出された飛鳥の手をとって歩き出した。

 

 

 

そして時は戻る。最初は手をとって歩いていただけのはずなのだが、いきなり飛鳥が腕を組むように指示してきたため、真尋はされるがままになっていた。

 

周りから仲睦まじいカップルだと勘違いされながら、それを知ることもなく二人は祭りを楽しんでいく。

 

「(……せっかく腕を組んだというのに、反応薄くてつまらないわね)」

 

「(とか思ってるんだろうけど、そんな思惑にははまらないからね)」

 

と考えがバレバレな飛鳥であった。

 

そんな時、人混みに紛れてあまり見えてはいないが、二人を殺気のようなものが襲った。

 

二人はその殺気を感じ取ったのか、ビクゥッと飛び上がり、真正面に視線を向ける。その先には、目を不気味に光らせ、頭に生えた耳のようなものをピンと張って、修羅のような雰囲気を放っているウサギがいた。

 

「ミィィィィツケタ、のですよ」

 

ホラー映画か、と思われるような声音で言った途端、地面を思いっきり蹴って二人に迫る。

 

「ま、まずいっ!久遠さんはあっちに、僕はあっちに逃げるから!」

 

「わ、分かったわ!」

 

二手に分かれて逃げ出す二人。黒ウサギは、悩むことなく、反射的に真尋の方へと方向を転換する。

 

「くそっ、僕の方に来たか!」

 

「逃がさないのですよ!」

 

地獄の鬼ごっこは、真尋vs黒ウサギという二人によってクライマックスを迎えようとしていた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音は、街中のベンチに神妙な面持ちで座っていた。

 

その原因は、詩音の横に座っている少女にあった。

 

「これ、食べる?」

 

「え、あ、うん。ありがと…………………じゃなくって!なんでこのにいるの!?」

 

「誰だってお祭りは楽しみたいでしょう?」

 

「黒幕かつ事件の種が何を言うか!」

 

「ほらほら、周りの人の目が痛いから座ってりんご飴でも食べてなさい」

 

「私りんご飴大好きーっじゃなくって!」

 

詩音は、突然出くわしたロイズファクトリーの幹部、峠坂日見華となぜか同じベンチでぎゃあぎゃあ騒いでいた。ほとんど騒いでいたのは詩音だが。

 

「なんでここにいるの」

 

「ん?私はただお祭りを楽しみに来ただけよ。悪巧みとかはないわよ」

 

「本当に?」

 

「本当よ。今回はね」

 

日見華のその何か意味のありそうな言葉に顔をしかめる。今回は、というところが気になったが、詩音はそれを無視して話を進める。

 

「なら、なんであなた一人なの?」

 

「あら?レディが一人で出歩いちゃダメなのかしら?」

 

「レディというよりガールって言った方がいいんじゃない?」

 

「ふーん、見る目ないのね。こんな立派なレディなのに」

 

日見華が(ない)胸を張ると、詩音はぷっと吹き出す。

 

「お子様のくせに何を言うか」

 

「…………誰がお子様よ脳内お花畑」

 

「だ、誰がお花畑だこの腹黒女!」

 

「五月蝿いわよ身体つきだけが取り柄の淫乱ビッチ」

 

「私そんなのじゃない!」

 

「どうだか。コミュニティの男たちを夜這いやらお風呂へ潜入やらしてその身体で射止めているんでしょ?」

 

「誤解招くようなこと言わないで!私そんなことしない!ていうかできるわけない!」

 

日見華は、顔がトマトのように真っ赤になっている詩音を一瞥してくすくすと笑う。

 

誰かをからかった奴は、その仕返しが倍くらいで帰ってくる、という以前真尋から聞いたことを実感した瞬間だった。

 

「そ、そんなことはどうだって「へぇ、してるのね夜這い」〜〜〜ッ!!もうそのことはいいの!それよりも、本当に悪巧みとかしてないよね?」

 

「まだその話をするつもり?今回は私は関係ないわよ。…………他の面子が何をしでかすかわからないけど」

 

「え?」

 

「なんでもないわよ。それじゃあ、私は行くわね」

 

そう言ってベンチから立ち上がって去っていく日見華。

 

そんな中、詩音の頭には日見華がボソッと小さく呟いた言葉だけがぐるぐると回っていた。

 

『他の面子が何をしでかすかわからないけど』

 

「また、何か起きるっていうの……?」

 

そんな不安に満ちた詩音の声が、虚空へと消えていった。

 

 

 




フラグは立てていく。これは基本ですね(回収しきれる範囲なら)

現在、真尋と千斗のヒロインに関してのアンケート募集中です。
第2章が終わるまでしているので、よろしくお願いします。

では、次回もお楽しみに。


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拭い去ることのできない真実とささやかな願い

本当に申し訳ありませんでした(土下座)。何言われても返す言葉もありません。

そしてなんと…………、僕は明後日から試験です(涙)。もう……終わっていいよね……始まってないけど。
ではでは、本編へどうぞ。


コミュニティ"桃源郷"のリーダーであり、癒術師と言った青年、神倉ユウと出会った十六夜は、ユウと共に行動を共にしていた。

 

「んで、どうして一緒に行動する必要があるんだ?」

 

「ちょっと試したいことがあってね。とりあえず、人目につかないところまで移動するよ」

 

そう言って路地裏の方に先導して入っていくユウに疑問符を浮かべながらおとなしくついていく。

 

その間、十六夜はユウを後ろから観察していた。十六夜の知る癒術師である詩音とは雰囲気が全く異なり、詩音が小動物を思わせるなら、ユウは靄にかかった物体を思わせるような正体不明感があった。

 

路地裏を歩くこと数分、二人は空き地のような開けた場所に出た。

 

「さてと、ここなら思う存分できるね」

 

「なんのことだ?というか、どうしてここに俺を連れてきた?」

 

「どうして、ねぇ……そうだなぁ……。癒術師のした()()と僕の力の証明ってところかな」

 

「癒術師の、愚行……?」

 

その言葉に十六夜は耳を疑う。詩音は癒術師は"汚れ"を癒し、悪しきものを祓う者だと聞いた。現に"ノーネーム"の荒廃した大地を緑生い茂る土地へと癒して見せた。だが、ユウはそういったことをした詩音(癒術師)が過ちを犯したと言ったのだ。

 

十六夜は到底信じられなかった。あの鈍臭く、天然で、バカで、能天気で、誰よりも真面目な詩音が愚行を犯したなどとーーー

 

「あ、言い忘れてたけど、愚行をやったのは詩音じゃない。()()()()()()さ」

 

「初代………ってことは、何年も前から癒術師はいたってことなのか!?」

 

「何年も前ってレベルじゃない。多分だけど、癒術が生み出されたのはかの大帝国のブリテン、今で言うイギリスだったらしいよ」

 

「な………ブリテンだと!?」

 

ユウの言葉に声を荒げて驚く十六夜。直後、十六夜の脳内にある疑問が浮かび上がる。何故、何十世紀も前に生まれたものが今もまだ続いているか、ということだった。

 

「………仮にそうだとして、どうしてそんな前から?」

 

「僕らの世界では、大帝国のブリテンで"円卓の騎士"と呼ばれる選ばれた数人に人々が世の平定のために尽力していた。だが、それはいかに兵の力、武力、その他もろもろを行使してもその願いは果たされそうになかった。だが、そこである人が現れた。それが、癒術を生み出した者であり、詩音の先祖でもある」

 

「ちょっと待て!いろいろ突っ込みたいことがある!何故、円卓の騎士が()()()()()()()()苦戦している!?というより、円卓の騎士は伝説上の人物じゃーーー」

 

「何を言っているんだ?君は知ってるはずだろう。詩音は、君たちとは全く関係ない世界から召喚されたこと」

 

「ーーーーっ!?」

 

ユウに指定され、ハッとなって気づく。

 

十六夜と共に箱庭に召喚された飛鳥、耀、詩音はそれぞれ別の世界から召喚されているのだ。

 

つまり、来る前の世界に違いが出てくることもあるということだ。

 

他の世界では存在しない()()()()()がいてもなんら不思議ではないのだ。

 

「話を戻すよ。そこで詩音の先祖は円卓の騎士のうちの二人、ランスロットとモルドレッドにある提案を持ちかけた。『私が戦況を有利に進めるものをお作りいたしましょう。そのために協力していただけませんか?』とね」

 

「…………………なるほどそういうことか。だから真尋の奴はランスロットって役を担わされてたのか。過去にあった物事自体を再現するためにってわけか。でも待ちやがれ。それと愚行となんの関係があるってんだよ?」

 

「質問に質問で返すようで悪いけど、なら何故癒術師だけが"汚れ"を癒せるのかな?それっておかしくない?」

 

質問に質問で返された十六夜は顎に手を当てて考える。

 

詩音は"汚れ"を癒術師以外はどうにもできないと言っていた。それは何故か。

 

だが、いくら考えても回答が思いつく気がしない。

 

「(なら、"汚れ"をパズルに起きかけて考えてみればいい。俺製のパズル誰にも解けず、それはどんな人材でもクリアできない矛盾したパズルだが、俺だけがそれを解けるということにすればいいだろう。その場合、どうして俺が解けるのか。そんなのは簡単だ。製作者である俺だけがそのパズルの構造を細部まで知っ………てーーーー!?)」

 

「その顔は気付いたようだね」

 

してやったりといった風にニヤリと笑うユウ。十六夜は信じられないと言わんばかりに目を見開き拳を戦慄かせる。

 

そして口にする。癒術師が犯した愚行を。

 

「じゃあ……"汚れ"を作ったのは、癒術師なのか……!?」

 

「ああ、それが癒術師の愚行。拭い去ることのできない罪だ」

 

「…………おい、神倉。詳しいこと教えろ。まだ何か知ってるだろう?」

 

「うん、知ってるよ。でも、僕にも協力してほしいけど、いいかな?」

 

「それくらい構わねぇよ」

 

十六夜の返事に満足そうに笑みを浮かべるユウ。愚行についてはある程度把握した十六夜だったが、一つだけ引っかかることがあった。

 

「(なら、どうして千斗の奴はフェンリルなんて役を与えられたんだ?どう考えても関係がなさそうだが……)」

 

そんな疑問だけが十六夜の頭の中をぐるぐると回っていた。その疑問が解決されるのは、そう遅くならないことを十六夜はまだ知らない。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

峠坂日見華と別れた詩音は、呼び出した玉藻前の尻尾をもふもふしながら思考を巡らせていた。

 

「(ロイズファクトリーの他のメンバー……誰だろう。会ったことないからわかんないけど、ヤバいのは確かだよね)」

 

「おい詩音、何故私は呼び出されたのだ?」

 

「なんか、嫌な予感しかしないから少しだけこの不安感紛らわせて〜」

 

「だからって私の尻尾を触ることになんの意味が「それはただの気分」今すぐ離せ!」

 

「やだ〜!」

 

「いい年して駄々をこねるな!」

 

二人が言い合う光景は、周囲から見れば身なりは違うが姉妹のように見えたらしい。

 

数分間その言い合いを続け、玉藻前は不毛だと判断して言い合いを打ち切る。

 

「で、何か私に用があったんでしょ?」

 

「いや、だから不安だったから紛らわせようと「それだけじゃないでしょう」……あはは、バレてたか」

 

玉藻前に強めに否定され、力なく詩音は笑う。だが、すぐに表情をいつもの状態に戻す。

 

「ちょっとこの街見て回りたいんだ。だから、一緒に行こ?」

 

「最初からそう言いなさい。全く………。別にそれぐらいならいいわよ」

 

「やった!」

 

玉藻前が了承して満面の笑みになる詩音。

 

そして、二人は仲よさそうに手をつないで街の散策を再開する。

 

「私ね、夢だったんだ」

 

「ん、何が?」

 

「こうやって誰かとお祭りに行くこと」

 

「…………そう。よかったわね」

 

「あと、こうやって平穏な日々が過ごせることかな」

 

「うん、まあ平穏ではあるんだけど、黒ウサギのことーーーいや、やっぱりいい」

 

「うん?何か言った?」

 

「別に。ほら、さっさと行くよ」

 

玉藻前が先導するように詩音を引っ張る。詩音はそれに応えるかのように微笑み、ついて行った。

 

 

 

こんな平穏な日々が続きますように。

 

 

 

そう詩音は心の中で願う。だが、その願いはーーー叶うことはなかった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

時は詩音が日見華と遭遇する前まで遡る。

 

早々に捕まり、鬼ごっこからリタイアした耀と詩音を展望台からぶん投げたせいで逃げ遅れた千斗は白夜叉の前で正座していた。

 

「いや、それにしても脱退はいささかやりすぎではないかのぉ」

 

「………でもその方が」

 

「確かに、スリルはあって面白いかもしれん。だが、少々やりすぎじゃ。あやつの気持ちも考えよ」

 

「まぁ……、確かにやりすぎた感はあるけどな。マジギレしてたし」

 

白夜叉に指摘され、反省の色が見え始める二人。その様子を見て白夜叉は口角を釣り上げてある一枚の羊皮紙を取り出す。

 

「ならば、これに出て優勝商品を詫びの品にするというのはどうだろうか?」

 

そう言って差し出してきたのはただの羊皮紙ではなく、ギフトゲームの詳細が書かれた"契約書類"だった。

 

『ギフトゲーム名 "造物主達の戦い"

 

・参加資格、及び概要

   ・参加者は創作系のギフトを所持。

   ・サポートとして、一名まで同伴を許可。

   ・決闘内容はその都度変化。

   ・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ず。

 

・授与される恩恵に関して

   ・"階層支配者"の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

        "サウザンドアイズ"印

         "サラマンドラ"印』

 

「創作系のギフト?なんだそりゃ」

 

「うむ。人造・霊造・神造・星造を問わず、製作者が存在するギフトのことだ。そのため、おんしの持つ"生命の目録(ゲノム・ツリー)"は技術、美術に優れておる。その木彫りに宿る"恩恵"ならば、力試しとしても勝ち抜けると思うぞ」

 

「そうかな?」

 

「そうとも。幸い、サポート役としてそこで伸びておるジンや千斗もおるだろう」

 

「ちょい待て。質問がある」

 

話がトントン拍子で進んでいたところに千斗は待ったと手を挙げて話を遮る。

 

白夜叉と耀は疑問符を浮かべて首をかしげる。

 

"契約書類"(これ)読んでて思ったんだが、サポート役ってのは創作系ギフト縛りって効くのか?あるとしたら俺は役にはたたねぇぞ?」

 

「おぉ……そうだったのぉ……。確かに、このギフトゲームでは()()()()創作系のギフト以外の使用を禁じておる。それにおんしが持つのは、かの魔狼のギフト。見事に役に立たんな」

 

「だろ?どうすんだ?」

 

「うーむ……いいだしたのは私だしのぉ………。よし分かった。こちらでおんしに相応しい創作系ギフトを用意しよう」

 

「マジで?」

 

「その代わり、貸し与えるだけじゃ。ゲーム後は返却してもらうぞ」

 

「それでも構わねぇよ。んじゃ、いっちょ頑張るとしますかね!」

 

心底楽しみそうな笑顔になる千斗。耀はそれを見て小さい子供みたいだな、と思い、微笑んでいた。

 

 

 




今回で今まで建てた大体のフラグは二章で回収できそうです。
次はいつになるかわかりませんが、待っていただけるとありがたいです。

では、次回もお楽しみに。
感想、評価、指摘、アドバイスなどもお待ちしております。



次回予告

飛鳥と別れた真尋は黒ウサギに追跡されていた。

埒があかないと思った真尋は黒ウサギにある提案をする。

その同時刻、十六夜と共にいる神倉ユウは自分が求めた"協力してほしいこと"を十六夜に告げるのだった。

「激怒黒兎 vs 湖の騎士」


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激怒黒兎 vs 湖の騎士

一年も開けてすみませんでした!本当にすみません!
ネタ不足とかではないんです。ちょっとこれからの方針を練り直していたところでして……。とりあえず更新は再開いたしますので、お待たせしてしまった皆様、本当に申し訳ありません。
これからもよろしくお願いします。

ということで、本編へどうぞ。
※今回、久しぶりにこれを書いたので、文章が多少おかしい可能性があります。





出店や展示物などで賑わう大通りを、真尋は人の合間を駆け抜けていく。一心不乱に、そして何かから逃げるように。

 

そしてその後からは、

 

「待つのですよぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

髪を緋色にし、憤怒の形相で爆走する黒ウサギがいた。

忌々しそうに後ろを見ると、走る速度を上げてどうにか逃げ切ろうと計るが、それに合わせたかのように黒ウサギも走る速度を上げる。

 

「ああ、もう鬱陶しい!!」

 

「そう思うならさっさと捕まってくれませんか!」

 

「それとこれとは別だね。残念ながら、今捕まるわけにはいかないんだよね」

 

「そうですか。ならば、実力行使あるのみなのです!!」

 

一際強く踏み込み、屋根の上まで飛び上がる黒ウサギ。嫌な予感を覚えた真尋は、急ブレーキをかけて細い路地へと逃げ込む。それを見逃さなかった黒ウサギは、屋根の上から真尋を追従する。

真尋は路地から出ると、右足裏に光を収束させ、それを爆発させた勢いに身を任せて急加速する。

それを読んでいた黒ウサギは、真尋同様速度を上げ、追従し続ける。

 

「(あぁもう………しぶといなぁ。逃げておきたいけど、これ以上このままにしても拉致があかないし………。仕方ないか………)」

 

真尋は先ほどと同様に足裏に光を収縮させ爆発、その威力を利用して黒ウサギ同様、民家の屋根へと降り立つ。

黒ウサギは予想もされない行動をされたので、急ブレーキををかけて止まる。

二人は通りを挟んで民家の屋根上で対峙する。

 

「おや、どうしたのです?もしかして諦めて投降して下さるのですか?」

 

「そんなわけないでしょ。このままじゃ埒があかないから、手っ取り早く済ませる方法を思いついたんだよ」

 

「そんな方法があるのです?」

 

「まあね。それに、ギャラリーをこんなに集めたのに無視ってのも気がひけるし」

 

「は?………………え!?」

 

真尋が眼下に視線を向けると、そこには大通りに引けを取らないほどの人が群がっており、黒ウサギと真尋を見ていた。

全く意識してなかったのか、黒ウサギは真尋の視線に誘導されるように視線を移すと、一瞬動きが止まったが、すぐさま目を見開いて驚く。

 

「な、なななな……………!?」

 

「あんだけ走り回って注目されないとでも思ったの?」

 

「そ、それはそうですが………!でも、このギャラリーをどうするつもりです?」

 

「こうするのさ」

 

真尋は右手を前にかざす。すると、虚空から羊皮紙が現れる。そこにはこう記されていた。

 

 

『ギフトゲーム名 "月の兎と湖の騎士"

 

・プレイヤー一覧

蒼井 真尋

黒ウサギ

 

・勝利条件 先に相手の体に触れる。

 

・勝利報酬 勝者は敗者に三つ、なんでも好きなことを命令できる。(命令拒否不可)

 

上記を尊重し、ゲームを開始します。

"  "印』

 

「ギフトゲーム、ですか?」

 

「そう。これなら対等かつ、手っ取り早く決着が着くってわけ」

 

真尋は目の前に現れた羊皮紙をヒラヒラと煽りながら得意顔で言う。

黒ウサギは得意げにニヤリと笑い、真尋を煽る。

 

「へぇ、いいんですかぁ?さっき逃げきれなかったくせにそんなに余裕で」

 

「そっちこそ、見失わないのが精一杯って様子だったじゃないか。そんなに余裕こいてたら足元救われるよ?」

 

「ほぉ〜、この黒ウサギが本気を出せばすぐに追いつけるので手加減していただけですよ?それを全力だと勘違いしてしまうあたり、やはりこれは黒ウサギに勝機があると思えますねぇ〜」

 

「それはそれは、素晴らしい慢心のようで。本気を出せば追いつける、なんて言ってる人は本気出したとしても遅いのに変わりはないし、追いつけないと言う事実は不変なんだよ?そこら辺弁えたほうがいいんじゃない?」

 

「いえいえ、何をおっしゃるかと思えば。この"箱庭の貴族"と謳われたこの私が、あの天然お馬鹿様に手を焼いているようなしがない騎士一人に負けると?冗談もほどほどにしてくださいよ〜。まだ他の嘘の方が笑えますよ?」

 

「そっちこそご冗談を。仮にも"湖の騎士"のこの僕が、たかがお馬鹿で振り回されることしかできない能天気ウサギに負けるって?それこそ他のジョークの方が笑えるね」

 

「「………………………………」」

 

過激な言い争いの末、二人は相対する敵を睨みつける。

 

「鈍足鎧騎士」

 

「ノロマウサギ」

 

「「よしその喧嘩買った!!!」」

 

双方ともにこめかみに青筋を立てながら屋根を蹴り、駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒ウサギと真尋の間で戦いの火蓋が切って落とされた頃、十六夜とユウは相変わらず空き地で相対しながら話していた。

 

「要するに全ての元凶が癒術師にあるのは大まかに理解はした。だが、それとお前が協力してほしいことへの関係が理解できない。どう考えても言わなくていい事実だったように思えたが?」

 

「早めに話しておいたところで何か支障が出るわけでもないから。別に話しても問題はないのさ」

 

「…………じゃあ、俺があいつに言っちまうってことは予想しなかったのか?」

 

「詩音を信頼している君に話せるとは思わないけどね。それに彼女、君の命の恩人なんだろう?そんな人の心を不安定にするようなことは言わないと僕は踏んだわけさ」

 

「俺はそんなんじゃねえが……。まあいい。で、俺に協力してほしいことってなんだ?」

 

十六夜が一旦話を切り、もともと呼び出されていた理由の一つを問う。

すると、ユウの若干軽かった雰囲気が一気に引き締まる。

 

「そうだね………。簡単なことなんだけど、君にとっては厳しいかもだね」

 

「さっさと言え。決めるのは俺だ」

 

「だね。僕のいう協力っていうのは、君には詩音を守ってほしい、ということだけさ」

 

「…………は?」

 

あまりにも拍子抜けの内容に、十六夜の動きが完全にフリーズする。

人気のないところに呼び出され、最初は重要な話かと思えば、後に話されたのはいたって簡単で単純なこと。

流石の十六夜ですら固まってしまっていた。

 

「い、いやちょっと待て。こんなところに呼び出しといて、そんなことか?」

 

「うん、僕が頼みたいことはこれだけだからね」

 

「………流石に高笑いもできやしねぇ。一体全体何が狙いだ?」

 

「別に?これといった狙いはないよ。ただ、詩音を守ってほしい、それだけの事(・・・・・・)さ」

 

そう微笑むユウを十六夜は半眼で睨みつける。

これは何か裏がある、と。雰囲気からしてろくなことを考えてないだろう、と。

今のところは要注意人物と断定して、十六夜はその要求に首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小賢しい!さっさと捕まりなさい!」

 

「死んでも嫌だね!もう一度言う、絶対に嫌だ!!」

 

黒ウサギと真尋の鬼ごっこはさっきよりも一層激しさを増していた。

追っては追われ、追っては追われの繰り返しで、一向に決着がつきそうになかった。

 

「(このままじゃ泥沼だな………。さして遮蔽物もないし、どこにどう逃げてもバレるなこれ)」

 

「(て早く終わらせたいのですが………、やはりそうはさせてくれませんよね。ですが、これでおしまいです!)」

 

黒ウサギは内心でほくそ笑むと、民家の屋根に穴を開ける程の力で屋根を蹴り、加速する。

高速で迫る黒ウサギをいなすように身を翻そうとするが、

 

「やばっ!?」

 

足がもつれ、その場でよろけてしまう。

だが、黒ウサギが跳んだ直線上からはズレており、急加速した黒ウサギは止まれるわけもなく、真尋を通り過ぎたところで止まる。

その隙に真尋は立て直し、黒ウサギと逆の方向へ駆ける。真尋を捕まえ損ねた黒ウサギもすぐさま立て直して追う。

 

「あーもう、鬱陶しい!!」

 

「ならば早く捕まってください!」

 

「だから、嫌だって言ってるだろう!?」

 

「そう言うから追いかけてるんじゃないですか!!」

 

「そっちが諦めればいいだろ!」

 

「それは黒ウサギの沽券とプライド、そしてあの悪ふざけに対する怒りに対する冒涜なのですよ!!」

 

「あれは十六夜達が勝手にーーー」

 

「問答無用!!」

 

「って聞く気なしかよ!!」

 

舌打ちをし、真尋は走りながら周りを見渡す。

その視界の端に大きな時計塔のようなものが映る。

 

「(………あれなら)」

 

すぐさま方向転換し、時計塔に向かい、真尋はその死角に回り込む。

黒ウサギはその後を追うが、先程死角だった場所にはいるはずの真尋はいない。

 

「う、上ですか!?」

 

すぐさま上を向くが、そこには真尋はいなかった。

黒ウサギが真尋を探している間、真尋は黒ウサギからまたもや死角になる方向に走っていた。再度、黒ウサギが等の反対側を見なければ見つからないように。

だが、

 

「(そういえば、貴種のウサギ……『箱庭の貴族』って耳もいいんだったよね………)」

 

いい作戦かと思ったが、完全に付け焼き刃だと理解した真尋は、とりあえず距離を置こうと大通りを民家の屋根を蹴って、飛び越える。

真尋が向かいの民家に着地した時、それは起こった。

 

 

突如として時計塔が崩れ始めた。

 

 

「……………………え?」

 

斬られる音も、爆破されたような音もなく、ただ緩やかに接着される前の煉瓦に戻るかのように、まるでスローモーションを見ているかのように端から崩れ始める。

 

その端は黒ウサギがいた方向で

 

「黒ウサギッ!!」

 

真尋は民家を壊すぐらいの勢いで蹴って加速する。

すぐさま塔の反対側に辿り着き、呆然と立ち尽くす黒ウサギをタックルでもするかのように抱きしめて瓦礫を避けて近くの通りに着地する。

 

「………危なかった。大丈夫かい、黒ウサギ」

 

「え…………、あ、はい……………」

 

黒ウサギは未だ放心状態で、何が起きたか理解できてないのだろう。

その後、先ほどまで黒ウサギがいた場所に、崩れた塔の一部が降り注ぐ。瓦礫は民家を押しつぶし、大きな土煙をあげる。

判断が遅れてしまっていたら、黒ウサギがあの瓦礫に押しつぶされていたかもしれない。真尋の脳裏にはその光景が容易に浮かんでしまう。

真尋はその光景を振り払うように頭を振る。

 

「(………それにしても、なんでいきなり)」

 

その点が不思議だった真尋は、その塔に近づこうとするがーーーーー

 

「止まれ!貴様ら、そこで何をしている!」

 

怒号にも似た声に止められて、その声がした方に向く。

そこには顔を赤くして怒りを滲ませる赤髪の男と衛兵のような人が数人立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、耀と千斗は白夜叉に提示されたギフトゲームに挑んでいる最中だった。

敵は向かいにいるゴーレムだった。

造物主の戦い、ということで基本的に自らが作ったもので戦いに挑まなくてはならない。

耀はそのゴーレムを空中から蹴ってゴーレムをよろけさせる。

 

「千斗、お願い」

 

「リョーカイ、吹き飛べ土塊!」

 

千斗は白い手袋をつけた右手でゴーレムを殴る。

ゴーレムは吹き飛ぶことはなかったが、千斗が殴った位置は穴が空き、次の瞬間には内部から弾け飛んだ。

 

『勝者、"ノーネーム"所属、春日部耀!』

 

数回聞いた定例文を聞くこともなく、耀と千斗はハイタッチを交わす。

 

「ナイス。あの拳は良かった」

 

「良かったっていうなら少しぐらいニコリと微笑んでくれればいいんだけどよ………まあいいか。とりあえず、これで準決勝にまでいけたな」

 

「大して強い相手がいなかったとも言える」

 

「お前……意外と身内以外には辛辣なのな」

 

「負ける方が悪いと思うの」

 

「勝負の世界ではそうだが、それどこでもいうんじゃねえぞ。敵を作りかねない」

 

「私には千斗がいるし、みんなもいる」

 

「俺の名前を単体で出してくれたことはありがたいが、そういうことは少しぐらい笑って言えっての」

 

「…………………?」

 

「あー、はいはい。もういいから………」

 

千斗と耀がそんなやりとりをしている間に次の準決勝での対戦相手は決まっていた。

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"か。そろそろ気合い入れた方がいいな」

 

「なんで?」

 

「勘だよ勘。まぁ、特筆するようなことがないような奴らがいいんだがな」

 

「とりあえず勝つ。で、黒ウサギと仲直りする」

 

「ま、今の所はそれだわな。…………それにしても、あいつらまだ捕まんないのか?」

 

「さぁ………?」

 

二人は白夜叉に指定された宿に向かって、次の相手に対する作戦などを練りながら歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公出てきてなくてすみません……。多分次回は出るかと……。
で、では、次回もお楽しみに!

感想、評価、指摘などもお待ちしております。

次回予告

真尋と黒ウサギが塔の倒壊にあっている頃、詩音は至って平和的に玉藻の前とともに街を歩き回っていた。

そこに、息を切らしていた飛鳥に遭遇する。

「お祭りって必ず何かが起こるよね」



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