黒白の英雄譚 (夜空 太陽(新アカ))
しおりを挟む

プロローグ

『父さん!』

 

『よう、シキ』

 

目の前で父と呼んだ四十過ぎくらいの男が腹から血を流している。

 

『俺はな英雄って言われるような正義の味方になりたかったんだ』

 

『これからなれば良いじゃないか!』

 

『けどな俺は一度全てを失ったとき立ち上がることができなかった。俺は正義の味方になるなんて元から資格すら無かったんだよ』

 

『父さん喋るなよ!』

 

『お前は俺の希望だ』

 

『うるせぇ!俺が父さんの希望だってんなら父さんの代わりになってやる!誰かを救えるような!誰かを守れるような正義の味方になる!だから!』

 

『そうか。シキが俺の代わりに・・・。ああ――安心した』

 

目を軽く閉じると俺を育ててくれた義父は二度と目を開けることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中から目を覚ます。

 

「くそ、嫌な夢見た」

 

でも、久々に父さんの顔見れたからよかったのかな。

 

俺はいつもベット代わりにしている柔らかいクッション付きのロッキングチェアから立ち上がると体を伸ばす。

身体の節がパキパキと心地いい音を鳴らす。

 

「んー、ベルとヘスティアは何処だ?」

 

いつもはこのP形の地下室にいるはずの兎とツインテ神様を探すが何処にも居ない。

 

部屋の中央の辺りにある机の上を見ると1枚のメモが置いてあった。

 

『寝ていたので先に行きますbyベル』

 

「ああ、先に行ってたのか」

 

俺は歯を磨いて顔を洗った。

 

その後俺は軽い軽装を着て背中に着ける剣帯を片手剣と一緒に着けた。

 

「ふぅ、さて行くかな」

 

俺は階段を登り隠し扉から外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ども、エイナさん」

 

「あ、シキ君」

 

俺が『ギルド』に入ると受付のところで俺の担当冒険アドバイザーのエイナ・チュールさんが書類を書いていた。

 

「そういえばシキ君ダンジョンに行ってきたようには見えないけど?」

 

「ああ、今日は寝坊してしまって」

 

「そっか、これからダンジョンに行くの?」

 

「はい、少しでも行かないとうちのファミリアは・・・」

 

あはは。と苦笑しながら言った。

 

「そっか、頑張ってね」

 

「は「エイナさぁぁぁぁんっ!」」

 

うちの白い兎が来たか。

 

「ベルか・・・」

 

うちの白い毛並みを持つ兎が帰って来たかと思ってギルドの入り口を見ると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちの白い兎が真っ赤に染まって走ってきた。

 

「エイナさぁぁぁぁんっ!」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を教えてくださぁぁぁぁいっ!」

 

「まずはシャワーを浴びろ!」

 

「ふべら!」

 

スパァンと快音を立ててうちの兎ベル・クラネルの頭に俺の平手打ちが炸裂した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一話

サブタイトルは思い付き次第変更していきます。


「ベル君、キミねぇ、返り血を浴びたならシャワーを浴びてきなさいよ」

 

「すみません・・・」

 

というかよくあの服の血が落ちたな。

 

「まったくだぞ?血には感染病があるかも知れないんだぞ?」

 

「ごめん、シキ」

 

「分かりゃいいんだよ・・・まあ、無事でよかったよ」

 

「シキ!」

 

ベルが感極まって抱き付いて来ようとする。

 

「やめい!」

 

俺の平手がベルの後頭部に吸い込まれるように直撃した。

 

「いったい何があったんだ?」

 

「えっとね」

 

それからベルは今日の出来事を話始めた。

普段通っているダンジョンの二階層から一気に五階層まで降りたこと。

足を踏み入れた直後ミノタウルスに遭遇して追いかけられ殺されそうになったときアイズ・ヴァレンシュタインに助けてもらったこと。

 

「「馬鹿だな(だね)」」

 

「五階層まで降りるんだったら俺も呼べ二人なら逃げるくらいはできるだろ?」

 

「シキは寝てたじゃないか!」

 

「うっ!スマン」

 

エイナさんがコホンと咳払いして口を開いた。

 

「えっとアイズ・ヴァレンシュタイン氏だっけ。うーん・・・ギルドとしての情報を漏らすのはご法度なんだけど・・・」

 

と言ったがその後続けてアイズ・ヴァレンシュタインの事を話始めた。

 

本名アイズ・ヴァレンシュタイン。

主神ロキが率いる【ロキ・ファミリア】の中枢の一角を担う女剣士。

剣の腕は冒険者でもトップクラス。

二つ名は【剣姫】

バトルジャンキーの所もあるらしくそこからついた二つ名は【戦姫】

 

「こんなところかな」

 

「いやいや、ベルが聞きたいのはもっと別だよな?」

 

「う、うん」

 

俺がニヤニヤしていうとベルが顔を真っ赤にして頷いた。

 

「趣味とかそういうのは聞いたことがない・・・っていうかそういう恋愛相談は受け付けてないよ!」

 

「ああ、エイナさんのいけず」

 

「というか、俺たちは色恋の前にファミリアをどうにかしないといけねぇだろ?」

 

「う、うん」

 

「ほれ、魔石を換金してこい」

 

「はーい」

 

ベルはトボトボと魔石を換金する窓口まで歩いていった。

魔石とは魔物を倒すと手に入れられる物だ。

もっとも、俺たちが潜っている低層では欠片程度しか手に入らないがな。

 

「・・・今日は帰るか」

 

「うん」

 

「俺昨日はドロップアイテム結構落ちたから後で回復ポーション分けるぞ?」

 

「うん、ありがと」

 

「・・・ベル君、シキ君」

 

「あっ、はい。何ですか?」

 

返り際出口まで見送りに来てくれたエイナさんに引き留められた。

 

「あのね、女性はやっぱり強くて頼りがいのある男の人に魅力を感じるから・・・えっとね、めげずに頑張っていれば、そのね」

 

「・・・」

 

「ヴァレンシュタイン氏も強くなったベル君になら振り向いてくれるかもよ?」

 

ベルはドンドン顔を笑みで満たし駆け出した。

 

「エイナさん大好きー!!」

 

「えうっ!?」

 

ベルはそのまま去っていった。

 

「あ、そうだ」

 

「どうしたのシキ君?」

 

「俺が強くなったら貴女は俺を見てくれるんですか?なんて」

 

俺はカッコつけて冗談でそう言うとエイナさんは。

 

「お、お姉さんをからかわないの!」

 

顔を赤く染めてそう言った。

 

(ヤバイ、可愛い)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルが死にかけたという話をしているとき俺は怖かった。

 

もちろん、自分がその立場ならというのも考え恐怖した。

 

しかし、何よりもベルが死んでいたらと考えると嫌な想像が頭の中でぐるぐると渦を巻いていた。

 

あの時俺を守って死んだ父さんのように。

 

死んででも誰かを守れるようになりたい。

 

"正義の味方"になりたい。

 

俺は俺を救ってくれた父さんにたいして憧れを思い出した。

 

ドックン。

 

憧れを思い出した瞬間俺の中で何かが切り替わった様な感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

「というか、お前は待て!」

 

「フベラ!」

 

本日三回目の平手打ちがホーム前の扉で炸裂した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話 昇龍昇華

俺とベルは我らがヘスティア・ファミリアの本拠地教会地下室へと入った。

 

「お帰りー、ベル君シキ君」

 

俺達が地下室に入るとソファーに寝転がっている十四歳くらいのツインテールの女の子が話しかけてきた。

女の子―――ヘスティアはソファーから起き上がるとトトトと音を立てて俺たちの目の前までに近づいてきた。

 

「ただいま神様」

 

「ただいまヘスティア」

 

「早かったね」

 

「ちょっとダンジョンで死にかけちゃって」

 

ベルが頬を掻き微笑を浮かべてそう言って。

 

「おいおい、大丈夫かい?君に死なれたらボクはかなりショックだよ。柄にもなく悲しんでしまうかもしれない」

 

「大丈夫ですよ。僕達は神様を路頭に迷わせることはしませんから」

 

「そうだな。俺は天寿を全うしてやるよ」

 

俺達はそう言ってヘスティアに笑いかける。

 

「あっ、言ったなー?なら大船に乗ったつもりでいるから、覚悟しておいてくれよ?」

 

「なんか変な言い方ですね・・・」

 

「主にベルだがな」

 

「え?」

 

「そうだよー。シキ君はボク達のお兄ちゃんさ。ベル君はボクのむふふ♪」

 

「神様!?」

 

俺と、弟みたいなベル、俺達の主神であり妹みたいなヘスティア。

騒がしいけど暖かいこの空間を俺は凄く気に入ってる。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ今日の君達の稼ぎは期待できないね。シキ君は寝てたし」

 

「悪かったって」

 

「仕方ないよ。それより神様は?」

 

「ふっふーんっ!これを見るんだ!デデン!」

 

「そ、それは!?」

 

「ジャガ丸くんじゃないか!」

 

そこに有ったのはジャガイモを蒸かし衣を付け揚げた食べ物ジャガ丸くんだった。

ちなみに売っているのはヘスティアだ。

一応、神なのに・・・。

ちなみに俺が好きなのはチリパウダーを散りばめたホットチリ味だ。

「露天の売り上げに貢献したということで、大量のジャガ丸くんを頂戴したんだ!シキ君が好きなホットチリもあるよ!」

 

「そりゃ楽しみだ。俺もなんか作るかな」

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、それにしても・・・マスコットキャラとして道行く人はみんな可愛がってくれるけど、ボクの【ファミリア】に加わりたいという子は相も変わらず皆無だよ。全く、ボクの名のヘスティアが無名だからって、みんな現金だよねぇ」

 

ジャガ丸くんと俺の作ったコンソメスープを食べながらヘスティアはそう言った。

 

「全くだ」

 

「うーん、どの【ファミリア】も授かる『恩恵(ファルス)』は一緒なんですけどね・・・」

 

神は自分の眷族に下界で使っていい数少ない神の力を使い眷族に恩恵を与える。

神はそんな眷族に色々頼んだり、金を稼いできてもらう。

身も蓋もない言い方をすれば『ヒモ』だ。

 

まあ、何だかんだ言ってちゃんと信仰している人も多いらしい。

ヘスティアに敬意?

何処に?(ニッコリ)

 

ヘファイストスという神はたまに武器を打つことがあるらしい。

ミヤハさんも人数が少ないため薬を自ら調合している。

しかも、ミヤハさんはその回復薬をたまにくれる。

まあ、ヘスティアもバイトしてくれてるから頼りにはなるんだけどな。

 

そういえばヒモと言えばヘスティアの胸の辺りの紐は何だろうか?

前に、ヘスティアに聞いたらゴゴゴと変なプレッシャーを出しツインテールを逆立たせ威嚇してきたのでもう聞いてない。

しかし、どうやってツインテールを逆立たせてるんだ?

父さんが聞かせてくれた超サ○ヤ人か?

 

「はぁ、二人だけに負担をかけるのはボクとしては心苦しいんだけど・・・」

 

「僕達は別に・・・」

 

「それにお前も働いてくれてんだろ?」

 

俺はそう言ってヘスティアの頭を撫でた。

 

「えへへ、本当にシキ君はお兄ちゃんみたいだね」

 

「じゃあ、俺は三人の中で長男か?」

 

「うん!シキ君が長男!ボクが二番目、ベル君が末っ子さ!」

 

「ちょっと神様!神様が一番下です!」

 

「なんだとー!」

 

「まあまあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんねぇ、こんなヘッポコな神と契約させちゃってね」

 

ヘスティアは俺達と契約してから毎日のように言ってくる。

俺とベルはいつも大丈夫だと言っているんだけどな。

 

「大丈夫ですよ!神様!僕達の【ファミリア】は言ってみれば発展途上ってやつです!」

 

「それにな、お前が居なかったら俺達はスタートラインにすら立てなかったんだぜ?感謝こそすれ恨むなんざお門違いだ」

 

「ベル君、シキ君、君達ってやつは・・・!」

 

ヘスティアの目尻が涙が滲んでいた。

 

「ふふっ、君達みたいな子に会えてボクは幸せ者だよ。それじゃあボク達の未来のために【ステイタス】を更新しようか!」

 

「はい!」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

ヘスティアは最近できるようになったという二人同時更新をしている。

 

ステイタスを更新している間ベルはヘスティアから精神攻撃を受けていた。

 

まあ、いいか。

 

「ほら、君達の新しい【ステイタス】だ」

 

俺は差し出された用紙を見る。

 

シキ・クレン

Lv.1

力:H 138→H 160

耐久:I92

器用:H128

敏捷:H102

魔力:I 0

《魔法》

【】

【】

《スキル》

【】

 

これが俺の今のステイタスだ。

 

「あれ?俺今日ベルを三回叩いただけなんだけどな」

 

「僕を叩いてステイタス上がるって酷くない!?」

 

「なんだとー!ベル君を殴ったのか!」

 

「血塗れで町駆け抜けて来て一回。俺に抱きついてきて二回。人と話してるのに駆け出して三回」

 

「じゃあ、仕方ない!」

 

「神様ぁ~」

 

ふと、ベルの方の用紙を見ると敏捷がかなり上がっていた。

 

俺とベルの用紙にはスキルの欄が何かを消したようになっていた。

 

ヘスティアは何かを隠すようにテンションを上げていた。

 

だったら聞かない方がいいよな。

 

 

 

 

 

 

ヘスティアside

 

(おめでとう。君達にもスキルが発現したよ)

 

ヘスティアは心の中でそう言うと二人のステイタスを思い出す。

 

ベル・クラネル

Lv.1

力:I 77→I 82

耐久:I 13

器用:I 93→I 96

敏捷:H 148→H 172

魔力:I 0

《魔法》

【】

《スキル》

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する

・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

・懸想(おもい)の丈により効果向上。

 

 

シキ・クレン

Lv.1

力:H 138→H 160

耐久:I 92

器用:H 128

敏捷:H 102

魔力:I 0

《魔法》

【】

《スキル》

昇龍昇華(アーラン・エイル)

・早熟する。

・何かに憧れる限り効果持続。

・憧れの強さの丈により効果が上昇する。

 

「シキ君のは前に言ってたシキ君のお父さんだとしても・・・。ベル君のは・・・」

 

ヘスティアはそう呟くとベルのことを思って身悶えた。

 

「なにやってんだこの駄神は?」

 

シキの一言はヘスティアの悶えている声で書き消された。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三話 ゼクス・クレン

「ふわぁ、朝か」

 

ロッキングチェアから立ち上がり周りを見るとベルとヘスティアがソファーの上で寝ている。

 

幸せそうに寝ている。

 

「ん?ヘスティア、夜はベットで寝てなかったか?」

 

俺は地下室から出て筋トレを始める。

 

 

 

 

 

筋トレが終わる頃にはベルも準備が終わり地下室から出て来たが俺は地下室に戻りシャワーを浴びた。

 

「そろそろ、行くか」

 

「いってらっしゃい」

 

ヘスティアは目を擦りながらそう言った。

 

「ああ、いってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣を振り相手を斬る。

それがダンジョンだ。

 

今日ダンジョンに入ってから六時間が経過した。

何回かベルに会ったがこの五階層なら強くなるために、あえて別れて帰りに落ち合う約束して別れた。

 

俺が相手にしているのは犬がそのまま二本足で立っている魔物コボルトだ。

 

コボルトが腕を伸ばし爪で俺を切り裂こうとする。

俺はコボルトの爪が到達する前に逆袈裟斬りの要領で伸ばされていたコボルトの腕を斬る。

しかし、体重の乗ったコボルトの突進は止まらなかった。

 

「ふっ!」

 

俺は間髪いれずにコボルトの胴体を返す刃で切り裂いた。

絶命したコボルトは空中で魔石へと姿を変えた。

 

「ふぅ、さすがに七匹は辛いな」

 

決して囲まれないように一対一を七回繰り返すことで殲滅することに成功した。

剣を鞘に戻し七つのコボルトの魔石を回収した。

 

「さて、帰るか」

 

 

 

 

 

シキ・クレン

Lv.1

力:H 160→G 265

耐久:I92→H 128

器用:H128→H 165

敏捷:H102→H 158

魔力:I0

《魔法》

【】

《スキル》

【】

 

「おい」

 

ステイタスの上がり幅が可笑しいんだが?

 

「か、神様、これ、書き写すの間違ったりしていないですか?」

 

「・・・君はボクが簡単な読み書きもできないなんて、そう思ってるのかい?」

 

「いや、ヘスティアだし」

 

「シキ君酷いよ!?」

 

「あはは、冗談だ」

 

「ふん!どうだか!」

 

「悪かったって」

 

そんなことを言いながら俺は内心で頬を膨らませるヘスティアに可愛いと思っていた。

 

【ヘスティア初めての反抗期】って本を出したらベストセラーになりそうだ。

 

やろうかな?文才ないだろうし止めとくか俺に色んな物語を書いてくれた父さんだったら売れそうだけど。

 

「ボクはバイト先の打ち上げにいくから!」

 

ヘスティアは外に出ていった。

 

「ベルが騙されたって言う飲み屋に行くか」

 

「・・・うん」

 

何と言うかヘスティアの怒りの矛先がベルにも向いていたような。

 

 

 

 

 

 

 

【豊饒の女主人】

 

そう看板に書いてある店の前へとやって来た。

中を見るとウェイターが全員女の子・・・しかも、全員美少女なんだが。

奥で調理をしている女主人と思える女性も綺麗と言うわけではないが人として好かれるような人だと思える。

 

中を見ていると奥から銀髪のヒューマンの女の子が現れた。

歳は俺やベルと同じ十代の半ばくらいか?

ちなみに俺は十六、ベルは十四だ。

 

「ベルさんと・・・貴方がシキさんですね?」

 

「ああ、君がベルを嵌めたって言うシルさんか?」

 

「ええ、嵌めたって言うのは誤解ですよ?あと、シルでいいですよ?」

 

シルは黒い笑みを浮かべそう言った。

 

「おお、怖い怖い」

 

「あ、あの!シルさん。案内してくれませんか?」

 

「あ、はーい!お客様二名入りまーす!」

 

酒場ってこんなこと言うのか?

少し気恥ずかしいんだが。

 

「こちらにどうぞ」

 

「は、はい・・・」

 

「ああ」

 

案内されたのはカウンター席だった。

真っ直ぐ一直線に席が並ぶカウンターの中、直角に曲がった角の場所。

ちょうど二席あり俺達はそこに座った。

 

「アンタ達がシルのお客さんかい?ははっ、冒険者のくせ可愛い顔しているねぇ。こっちの坊やは・・・」

 

さっきまで笑っていた女将さんの顔が凍りついた。

 

「ん?どうしたんですか?」

 

「あ、ああ済まないね知り合いに何となく雰囲気が似ていたようでねぇ」

 

「もしかして、その人ってゼクス・クレンではないですか?」

 

「アンタ、その名前をどこで知ったんだい!?」

 

「知ったもなにも俺の父です」

 

「父親ぁ?それにしては顔は似ていないようだけど?」

 

「説明が足りませんでしたね。ゼクス・クレンは俺の養父ですよ」

 

「養父?ならアンタ捨て子・・・」

 

「シキ・・・」

 

女将さんとベルが同情に近いような目で見てきた。

 

「ち、違う!両親が病気で死んで五歳の俺が倒れてるときに父さんが通りかかって拾われたんだ。捨て子じゃない!」

 

両親を流行り病でなくし、そのショックで気を失っていた五歳の俺を救ってくれた人。

それが父さん『ゼクス・クレン』だ。

 

「ゼクスは元気かい?」

 

「いえ、父さんは死にました」

 

「なっ!そうか・・・アンタの名前は?」

 

「シキ・クレン。ゼクス・クレンの息子です」

 

そう言うと女将さんは死んだ母さんのような目を俺に向けた。

 

「そうかい・・・ゼクスの息子なら今日は奢りだ!」

 

「え、いや。悪いですよ!」

 

「気にするじゃないよ!ゼクスの子なら私の孫みたいなものだよ!」

 

「は、はぁ」

 

「それに次からは金使ってくれりゃいいさ!」

 

「じゃ、じゃあ、トマトドリア下さい」

 

「あいよ、それはそうとしてみたいな兎の子」

 

「あ、ベル・クラネルと申します」

 

「そうかい、アンタは奢りじゃないよ」

 

「薄々分かってました・・・グスン」

 

「まあ、俺も半分出すよ」

 

「ありがとうシキ」

 

「おう」

 

ベルがパスタを頼むと女将さんは店のキッチンへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当に兄弟みたいだね)

 

豊饒の女主人のドワーフの女将ミア・グランドは出した料理を仲良く旨そうに食べる二人を見てそう思った。

 

「ゼクス。アンタの息子は立派だね」

 

ミアはそうボソッと呟いた。

 

(アンタは死んだのかい。ゼクス)

 

主神()を残して死ぬとはね。主神()不孝者さね」

 

当時最強のファミリアに所属していた散々世話を焼いた青年をミアは思い出してそう呟いた。

過去そして未来永劫二度と現れないと思える程の冒険者。

最強の冒険者。

 

 

 

 

 

 

 

Lv.8白龍神(アルビオン)ゼクス・クレン

 

 

 

 

それが今日現れた青年シキ・クレンの父親だ。




両親の死の下りを少し変更しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四話

「楽しんでますか?」

 

「・・・圧倒されています」

 

「ああ、というかドリア旨いな」

 

「ふっふーん、ミアお母さんの料理は世界一です!」

 

「ああ、世界一と言っても良いかもしれない!」

 

「シキテンション高いね」

 

「まあな、人間旨いもん食ったら楽しくなんなきゃな」

 

そんな話をしているとざわめき声が聞こえてくる。

 

『おい・・・あれ』

『ああ、えれぇ上玉だな・・・』

『ちげぇ! エンブレムを見ろ』

『げっ、ロキファミリアかよ』

『あれが巨人殺しのファミリア……第一級冒険者のオールスターか』

『どれが噂の【剣姫】だ?』

 

「ここって【ロキ・ファミリア】の方も利用するんですね。」

 

「【ロキ・ファミリア】さんはうちのお得意さんなんです。彼等の主神であるロキ様に、私達のお店がいたく気に入れられてしまって。」

 

ロキ・ファミリアの人達が円卓の席に座ると赤毛糸目の男性?いや、女性・・・にして胸が残念な神様と思われる人が叫び出した。

 

ヘスティアは見た目幼女なのにあのバストだぞ!?

 

神なのに何であんな格差が!・・・グスン

 

「余計なお世話じゃぁ!」

 

「どうしたの?」

 

「胸のことで馬鹿にされた気がしてなぁ」

 

「ペチャパイも需要あるって・・・」

 

「アイズたん。それ誰が言ったんや?」

 

ロキは黒い笑みを浮かべそう言った。

 

「ベート」

 

「はぁ!?それ言わねぇ約束だろ!」

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!後でベートは覚えときぃ!」

 

「ひぃ!?」

 

ふと金髪のヒューマンの女の子が目に入った。

 

彼女がアイズ・ヴァレンシュタインさんか。

 

いつか、ベルを助けてくれたお礼を言わないとな。

 

「そ、そうだ、アイズ! お前のあの話、みんなに聞かせてやれよ!」

 

アイズさんの斜め向かいに座っていた獣人の男が、何か話をせがんでいるようだった。

 

「・・・あの話?」

 

「ほら、あれだって! 帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!? そんで、ククッ・・・あん時いたトマト野郎が傑作だったじゃねぇか!」

 

ガタッ!

 

「あの野郎!」

 

俺が立ち上がり文句を言いに行こうとするとベルが俺の手首を握り制した。

 

「大丈夫だから」

 

・・・大丈夫じゃねぇだろ。

 

ベルは歯を強く噛み締めているのを唇の間から伺える。

 

左手はズボンの膝を握りしめている。

 

奴等に目を移すと金髪の少年が幹部達の席で何も言わずにジョッキを傾けていた。

 

無言を貫くその姿は苛立っているようにも昔を懐かしんでいるようにも見えた。

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきたのを返り討ちにしたら、すぐに集団で逃げ出していったアレ?」

 

「そうだよ、それそれ! 奇跡見てぇにどんどん上がっていきやがってよ、俺達が泡食って追い掛けていったやつ!こっちは帰りで疲れてたってのによぉ」

 

全ての事象が俺の脳内で繋がった。

 

じゃあ、ベルが怯えたのも死にかけたのもコイツ等のせいじゃねぇか。

 

「それでな、居たんだよ。如何にも駆け出しって感じのひょろくせガキが!」

 

・・・ふざけるな

 

「いま、思い出しても笑えるぜ! 兎みてぇに追い詰められた挙げ句、情けなくブルッちまってよ! 顔とか超ひきつってやがんの!」

 

・・・黙れ

 

「ふむぅ? それでその子どうなったん?」

 

「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

 

・・・その汚ねぇ口を閉じやがれ

 

「それでそいつ、牛のくっせぇ血浴びてよ・・・真っ赤なトマトにっくっ!ひー!腹痛ぇよ!」

 

「うわぁ・・・」

 

「アイズ!あれ狙ってやったんだろ? そうだろ? そうだって言ってくれよ頼むからよぉ!」

 

「・・・そんなこと、ないです」

 

「それにだぜっ? そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ……ぶっくく。うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんの!」

 

「・・・くっ」

 

ベルはこれまでに無いくらい強く歯を強く噛み締める。

 

「アハハハハハッ! そりゃほんまに傑作やぁ! 冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!」

 

「ふ、ふふっ・・・ご、ごめんなさい。アイズっ、流石に我慢出来ない・・・!」

 

「・・・」

 

「あぁん、ほら、そんな怖い目しないの! 可愛い顔が台無しだぞー?」

 

「しかしまぁ、久々にあんな情けねぇ奴を見ちまって、胸糞悪くなったな。野郎のくせに泣くわ泣くわ」

 

「・・・あらぁ〜」

 

「ほんとざまぁねぇよな。ったく、泣き喚くくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁアイズ?」

 

・・・じゃあ、テメェには弱かった時期はなかったのか。テメェはLv.1すっ飛ばして今の力を手に入れたのかよ。

 

「ああいう奴がいるから、俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪する事はあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

「おーおー、流石エルフ様々、誇り高いこって、でもよ、そんな救えねぇヤツを擁護して何になるってんだ? それはてめぇの失敗をてめぇで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミと言って何が悪い」

 

「これ、やめぇ。ベートもリヴェリアも。酒がマズぅなるわ」

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎を。

あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

 

「あの状況じゃ、しょうがなかったと思います」

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまってよ。・・・質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

「・・・ベート。君、酔ってるの?」

 

「るせぇよ。ほら、アイズ選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」

 

「・・・私は、そんな事を言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

「無様だな」

 

「黙れババァッ。じゃあ、何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのかよ?」

 

「・・・っ」

 

・・・ふざけんなよ。女の子が恋愛沙汰聞かれて答えれるわけねぇだろ。

ましてや夫婦沙汰なら本当の夫婦以外には言えねぇだろうが!

 

「はっ、そんなはずねぇよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねぇ。

“他ならないお前がそれを認めねぇ”」

 

 

 

 

 

「雑魚じゃ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

俺の腕を握っていたベルの手から力が抜けた。

 

次の瞬間ベルは店から出て商店街を駆け抜けた。

 

「「ベル(さん)!」」

 

シルはベルを追って行ったが俺にはやることがある。

 

「なんだぁ、食い逃げかァ?」

 

「うっわぁ・・・ミア母ちゃんの店で食い逃げするなんて、命知らずなやっちゃなぁ・・・」

 

ベルが・・・アイツがムカついてるのはあの狼野郎じゃない自分自身にムカついているんだ。

 

馬鹿にされてそいつがムカツクって心の狭い奴じゃねぇ。

 

ベルは一皮剥けて・・・心を強くして帰ってくる。

 

だったら俺のやることは一つだけだ。

 

「女将さん」

 

「ミア・グランドだよ」

 

「ミアさん」

 

「なんだい?」

 

「少し暴れます」

 

「あんな野郎でもLv.5だ。勝てるのかい?」

 

「関係ないですよ。俺は父さんに約束したんです"正義の味方"になるって大切な人を守れる人間になるって。・・・まぁ九割は私怨ですけど」

 

「ふん、さすがゼクスの息子だね。・・・気を付けな」

 

「はい」

 

俺はムカつく狼野郎に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

「んあ?テメェ誰だよ・・・グハァ!」

 

俺は狼野郎の灰色のジャケットの襟を掴み引き寄せ殴り飛ばした。

 

「テメェが雑魚雑魚言ってるLv.1に殴り飛ばされされた気分はどうだ!」

 

「んだと!」

 

「来いよ、思いやがり発情犬!調教してやる!」

 

 




誤字脱字・感想・その他、お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話 黒と狼

俺と犬野郎は店の外へと出ていった。

 

「そういやぁ、テメェLv.1だったなぁハンデやろうか?」

 

「ああ、貰おうか」

 

「はっ!ハンデ貰わなきゃ勝てないのかよ!」

 

「え?何?Lv.5の貴方はLv.1の俺にハンデなしじゃないと勝てないと。そうなんだ。じゃあ・・・」

 

「わーったよ!ハンデは俺に手と足以外を地面に着けられたらテメェの勝ちだ」

 

「どーも」

 

「あと俺のツレが帰るまで付き合ってやるよ」

 

「え?ツレってアイズさん?残念、全く脈無しですよ?大丈夫?あんなセクハラしておいて何でツレ扱い出来るの?」

 

「ぐぬぬ」

 

「あれ?図星?うっわぁー恥ずかしー」

 

「クソが!」

 

俺に向かって狼野郎が拳打を打ち出してくる。

 

「カハァ!」

 

拳打と飛ばされ壁に当たったことで腹に溜まっていた空気が全て吐き出される。

 

速すぎる・・・これがLv.5!

 

「おいおい、もう終わりかよ!」

 

狼野郎がそう俺を煽る。

 

「・・・まだ・・・まだぁ!」

 

「っは!威勢だけは良いな!」

 

「言ってろ。直ぐにブッ飛ばしてやる」

 

「抜かせ!」

 

速さは分かった。

 

俺は拙いながらも拳打を手全体を使い受け流すように弾き狼野郎から受けるダメージを最小限にする。

しかし、Lv.5の冒険者の拳打の衝撃や風圧はLv.1の俺の手を傷つけるには十分だった。

 

薄皮が切れ血が出て皮膚が赤く染まる。

 

(速いし痛い・・・けど防げない訳じゃない!)

 

「おいおい、血が出てるじゃねぇかよ!雑魚は肌も弱いのかよ!」

 

「うるせぇよ!」

 

痛みと出血で手の感覚が無くなる。

手で足りないなら腕を使え。

両腕を鉄壁の盾にしろ!

 

「しゃらくせぇ!」

 

暫くは防いでいれたが腹にボディブローを一発入れられてしまう。

 

「ガハァ!」

 

俺は倒れ地に伏せ腹を押さえる。

 

「やっぱり雑魚は雑魚だな!これだからLv.1の雑魚は!」

 

脇腹が軋む。

 

「・・・かったのかよ」

 

身体を上げようとすると痛みが雷のように全身を駆け抜ける。

 

「んぁ?」

 

でも良い、痛みで気を失わないですむ。

 

「・・・じゃなかったのかよ」

 

まだ・・・戦える。

 

「なんだよ!」

 

「テメェも元はLv.1の雑魚じゃなかったのかよ! テメェは何の努力も無しに今の力を手に得たのかよ!」

 

「うるせぇ・・・うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!」

 

「図星かよ」

 

「雑魚がぁ!黙りやがれぇ!」

 

狼野郎は俺から距離を取った。

そのまま右腕を引きこちらに向かって突進してきた。

それを見た俺は即座に狼野郎に向かって前傾姿勢で駆け出す。

 

『馬鹿な!あいつ死ぬぞ!』

 

そんな声が聞こえた瞬間狼野郎は腕を繰り出した。

 

(頼む、今だけでいいんだ。動いてくれ!)

 

拳が繰り出された数瞬間前に俺は感覚の消えた両手を無理矢理地面に着いた。

 

「っっ!」

 

身体を捻り俺の左足が奴の右腕と頭の間に侵入し。

そのまま奴の顎に向かって蹴り抜かれた。

 

沈黙が立ち込める。

 

少しすると誰からともなくざわめき声が立ち初めた。

 

『おい、ベートさんが一撃入れられたぞ!』

 

狼野郎はクラクラと体が上手く操れなく倒れた。

 

「テメェ!何しやがった!」

 

「リヴェリア教えてやってくれ」

 

狼野郎がほざくと金髪の小人族の少年・・・いや、小人族はいつまでも見た目が幼いらしいらしいから分からないか。

 

あの人がロキ・ファミリアの団長か。

一応、団長さんって呼んでおくか。

 

「ああ」

 

リヴェリアと呼ばれた深緑を連想させるような髪をしたエルフの女性が表れた。

 

「生き物には等しく脳が存在する。これは知っているな?」

 

「馬鹿にすんじゃねぇ!んなことは知っている!何で俺が立てないのかを聞いてんだ!」

 

「顎は顔全体のバランスと直結している。頭全体つまりピンポイントで言うと脳を揺らされたことでお前は脳震盪を起こしたんだ。安心しろ意識障害も言語障害も起こしていない記憶喪失になる事もないだろう」

 

どんなに頑強な奴でも人型なら強く脳を揺らされれば全く動けなくなる。

『父さんが自分より強い相手と戦うときは覚えていろ』と教えてくれたことだ。

 

「ありがとうリヴェリア。ベート、君は彼にハンデを与えたとはいえ、雑魚と罵った相手に地に伏せられて負けたんだ。それに何も言わずに黙って聞いていたけど、自分達の落ち度で他の冒険者を危険に晒した上にそれを笑い話にするなんて・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるなよ」

 

 

 

 

その温厚そうな少年のような見た目からは想像ができないような凍てつくような声がその場に居た奴等ほぼ全員を戦慄させた。

 

『お、おい団長があそこまで怒るのは初めてじゃないか』

 

『あ、ああ十年以上このファミリアにいるけど団長のあんな冷てぇ声は初めてだ』

 

『アイズさんが独断専行したときも諭すように叱っていただけだったな』

 

『ああ、今の団長は叱るって言うより』

 

『完全にキレている!』

 

「ちっ!悪かったな!」

 

「さて」

 

団長さんが俺の方に振り向いた。

 

「君はさっき言っていた少年のなんだい?」

 

「仲間。そして一番の親友です」

 

「そうか」

 

そう言って団長さんは俺に微笑むと。

 

「すまなかった」

 

俺に向かって頭を下げた。

 

「え?」

 

「家のファミリアの団員のせいで君の親友を危険な目に遭わせた。本当に申し訳なかった」

 

「え、いやいや!あの狼野郎が謝るならまだしも団長さんが謝る必要なんて!だから頭を上げてください!」

 

「いや、団員の不祥事は団長の僕の不祥事だ。だから謝らせてくれ」

 

「はぁ、分かりました。では狼野郎に一言だけ言わせてください」

 

「分かったベートを連れてきてくれ」

 

団長さんは頭を上げてそう言うと。

狼野郎はファミリアの奴に肩を担がれながらは俺の目の前にやって来た。

 

「んだよ」

 

「お前は幸せ者だな」

 

「は?」

 

「いい団長さんじゃねぇか」

 

「はぁ?当たり前だろ。俺等の・・・団長なんだからよ」

 

狼野郎は恥ずかしげに、しかし少し誇らしげにそう言った。

 

「でもよ」

 

「んぁ?」

 

「今、その団長さんに頭を下げさせてんのはお前だ。その事の意味をよく考えろよ」

 

「それは・・・」

 

「団長さんに謝れ。そして、お前が馬鹿にした奴が成長していたらちゃんと謝ってくれ」

 

「ああ、強くなってたら考えてやるよ」

 

狼野郎の顔はベルを馬鹿にしていた頃のふざけた顔を消えていた。

団長さんに申し訳ないと言わんばかりの表情をしていた。

狼野郎は自分の気持ちを伝えるのが恥ずかしいのか頬を軽く掻いていた。

 

「フィン、あれだ・・・悪かったな」

 

「ああ、もう大丈夫みたいだね」

 

「ああ」

 

「君が馬鹿にした子が成長していたらちゃんと謝るんだよ?」

 

「強くなってたら考えてやるよ」

 

「さて、帰るかな」

 

俺は二人を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

リヴェリアさんに身内の無礼の詫びだと回復魔法をかけてもらって腕が全快しミアさんにベルの分の代金を払って通りを歩き出した頃にはもう空が暁に染まっていた。

 

「ふわぁ、徹夜なんて久し振りにしたなぁ」

 

「・・・あの」

 

俺が欠伸をしていると金髪蒼眼の少女アイズ・ヴァレンシュタインが話しかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「ごめんなさい・・・私が彼を怖がらせてしまった」

 

アイズさんの顔は哀しそうだった。

 

「えっと、アイズさん」

 

「アイズでいい」

 

「分かった、アイズ」

 

「なに?」

 

「多分ベルは君に憧れている。助けてくれた君をあたかも英雄のように称えてる」

 

「でも!」

 

俺はアイズの頭に手を乗せ撫でながらこう言った。

 

「だったらさ、ベルが危ないとき守るんじゃなくて助けてくれないか?」

 

「え・・・」

 

「あ、ついでに俺も頼むな」

 

「うん・・・分かった」

 

アイズそう言ってニコッと微笑んだ。

 

ドキッと心臓が高鳴ったような気がした。

 

「さてそろそろ本当に帰るかなぁ」

 

「あ・・・君の名前は?」

 

「シキ・クレン、Lv.1のしがない冒険者さ」

 

「シキ・・・それが君の名前」

 

「ああ、これからなんとなく長い付き合いになると思うからさ。よろしくなアイズ」

 

「うん・・・シキ」

 

 

 

 

 

 




ちなみに別パターンでベートを背負い投げしたあと重心を踏みつけて動けなくするってのがありました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六話

 

俺たちの住居である聖堂の地下に帰るとベルが爆睡していた。

 

「ただいまヘスティア」

 

「おかえり・・・ってどうしたんだい!?」

 

ヘスティアが振り向き俺を見た瞬間そう言った。

 

「ん?何が?」

 

「何がって血だらけじゃないか!」

 

「血だらけ?・・・あ」

 

よくよく考えてみれば傷は塞いで貰ったが服に着いた血や戦闘中着いた血はそのままだった。

 

「ちょっとベルを馬鹿にした奴と喧嘩しただけだ。傷も同じファミリアの奴がすまなかったと回復魔法をかけてくれたよ」

 

「よかったよ、その喧嘩したって言う相手のレベルは?まあ、Lv.1高くてもLv.2ってとこだろうけ「Lv.5」ど・・・はぁ!?」

 

ヘスティアは驚愕のあまり口が閉じれなくなっている。

 

「き、君は馬鹿か!Lv.1がLv.5に勝てるわけないだろ!?」

 

「いや、一応勝ってきたぞ?」

 

「ふぇ!?」

 

「まあ、相手は酔ってたしさんざん挑発したから・・・もちろん手加減はしていたからギリギリ勝てたんだけどな。精々level2の中位くらいの力だったと思う。ぶっちゃけもうやりたくない」

 

「そこでまたやりたいって言ったらただのMだよ!?マゾだよ!?」

 

マゾってなんぞや?

 

「ボクはシキ君にもベル君にも死んでほしくないんだ。せめて死ぬなら天寿全うして幸せに死んでおくれよ」

 

「はぁ、アホ。お前みたいなおっちょこちょい残して簡単に死ねるかよ。化けて出てでもお前の面倒見てやるし、そもそもまだ死ぬ気なんてサラサラねぇよ」

 

俺はヘスティアを安心させようと頭を撫でながらそう言った。

 

「シキ君!」

 

ヘスティアは俺の名前を呼ぶと俺に抱きついてくる。

 

「はいはい、ヘスティアは甘えん坊だな」

 

俺は苦笑しながらもヘスティアの頭を撫でる。

少しするとヘスティアは俺から離れて真顔になって俺に向き合った。

 

「いったいベル君に何があったんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

俺はヘスティアに全てを話した。

 

「そっか、ベル君はそれで・・・」

 

「多分、あの着の身着のままでダンジョンに行ったんだろう」

 

「そっか・・・シキ君ありがとう」

 

「えっ・・・怒ってないのか?」

 

「いいや!不満タラタラさ!でもね君はベル君なら帰ってくるって分かってたんだよね」

 

「ああ、あいつは・・・ベルは絶対に強くなって帰ってくるそう思っていた」

 

「だからさ。君はベル君を本気で信じていた。だからお咎め無しさ。あのムカツク【ロキ】のファミリアの構成員を殴ってくれたしね!」

 

「ヘスティアお前本当は後半メインだろ」

 

「バレたか」

 

テヘっとヘスティアは右拳を自信の頭に軽く当てる。

あざとかわいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はステイタスが口頭で告げられた。

 

力: G 265→F 315

耐久:H 128→G 295

器用:H 165→G 235

敏捷:H 158→G 223

魔力:I 0

《魔法》

【】

《スキル》

【】

 

やはり、早すぎる。

 

それがヘスティアからステイタスを聞いて俺が思ったことだ。

 

ヘスティアは安全策を取らせるためにステイタスを少なく教える事はあっても多くは教えないだろう。

一番にベルと俺を心配してくれる。

 

ヘスティアはそういう奴だ。

 

一ヶ月近くも一緒にいれば自然と分かる。

 

「とまぁ、熟練度がすごい勢いで延びているわけ。何か心当たりはある?」

 

「俺は昨日Lv.5の冒険者と戦って勝った。ベルは?」

 

「え?シキ!何やってるの!?って勝った!?」

 

「まあ、ベロベロに酔ってたし」

 

「それでもおかしいよ!?」

 

「いいから、お前は?」

 

「昨日は一応六階層まで・・・」

 

「ふーん」

 

ベルの言葉を聞いたヘスティアが頭を捻る。

 

「どうしたんですか神様?」

 

「いやね、シキ君のを聞いたら大したことに感じられないんだ」

 

「ほっとけ」

 

「シキはそのLv.5の人にどうやって勝ったの?」

 

「ん?相手の顎蹴っ飛ばして脳揺らした」

 

「あはは、笑えないね」

 

「うるせ」

 

「はぁ・・・本題に入ろう。今の君達は理由はハッキリしないけど、恐ろしく成長するのが早い。どこまで続くかわからないけど、言っちゃえば成長期だ」

 

「は、はいっ」

 

「ああ」

 

「・・・これはボク個人の見解に過ぎないけどね。君達には才能があると思う。冒険者としての器量も、素質も、君達は兼ね備えちゃってる」

 

それは日頃ベルに対して俺が思っていることを代弁していた。

 

俺は父さんという師事する相手がいたがベルには自分を鍛えてくれる存在がいなかったと自分でも言っていた。

 

一度、俺が格闘技を教えようかと聞いたときベルは俺に負担がかかるから良いと言って辞退した。

 

今、思うと無理矢理にでも覚えさせておけばよかったと思うときがある。

 

「君達はきっと強くなる。そして君達自身も、今よりも強くなりたいと望んでいる」

 

「・・・はい」

 

「・・・ああ」

 

「だったら、約束して欲しい。無理はしないって・・・命は一度失ったらもう戻らないんだ」

 

「神様・・・僕は・・・」

 

「強くなりたいっていう君の意志をボクは否定しない・・・尊重するし、応援もする・・・手伝いも惜しまないし、力も貸そう・・・だから・・・もう、ボクを一人きりにしないでおくれよ」

 

瞬間、ヘスティアの顔が悲しみや不安が要り混ざったように歪む。

 

俺は心の奥に棘が刺さったような感覚を感じた。

 

ヘスティアのこんな顔は初めて見た。

 

ここまで明確に悲しみを隠していない顔は初めて見た。

 

ベルと俺がダンジョンで怪我をして帰ってきたときも不安なのを隠して笑顔作っていた。

 

「馬鹿、少し前にも言ったろ?俺は天寿全うしてやるってよ。世界に寿命はここまでだって言われるまで死ぬ気はサラサラねぇよ」

 

「そうです。 無茶、しません。必死になって強くなりにいきますけど・・・絶対に神様に寂しい思いはさせません。心配、させません」

 

「その答えが聞ければ、もう安心かな」

 

ヘスティアは食器棚の【ヘスティアの紙倉庫】と書かれた紙が張ってある引き出しを漁ると一枚の封筒を取り出した。

 

ちなみに書いたのは俺だ。

 

食事係は俺だから食器棚は綺麗にしておきたいときにヘスティアがいつの間にか紙を入れてたので間違えないようにメモ用紙に書いて付けておいた。

 

「あ!お金払うの忘れてた!ダンジョンに行く前に寄らなくちゃ!」

 

「俺が代わりに払っておいたけどシルが心配してたから行った方がいいだろうな」

 

「あ、そうだボクは数日ほど部屋を留守にするよ。ちょっと友人のパーティーに行ってくるよ」

 

「だったら行ってきてください。友達は大切ですし」

 

「だな、そう言えば俺も数日ほどダンジョンに潜らないから」

 

「え、何で!?」

 

「ちょっと金稼いでくる」

 

「ああ、成る程」

 

ベルが分からず頭を捻っている横で俺とヘスティアはアイコンタクトをした。

 

さて、行くか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

面接に!

 

 

 

 

 

『冒険者依頼

怪物祭の屋台を盛り上げろ!

食べ物の屋台のみ。

面接で料理を作り認められれば屋台を出す権利が与えられる。

報酬はその屋台の利益の三分の二

 

俺がガネーシャだ!

 

ガネーシャ・ファミリア"印"』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七話

ダンジョンの上に『蓋』として天を穿つように建てられた摩天楼施設『バベル』。

『バベル』はダンジョンから出てくる魔物を封じ込めている。

それによりどれだけ地上の人々が救われただろうか。

人々を救った神々があるファミリアの本拠にてパーティを行っている。

 

「はむはむ(サッ!)はむはむ(サッ!)」

 

そこでヘスティアは飯をたかっていた。

ちなみにサッという音はヘスティアが日持ちしそうな料理をタッパーにいれている音だ。

・・・それでいいのかヘスティアよ。

 

『ロリ神何やってんのwww』

『ていうか生きてたのか』

『いや、あいつ北の商店街でバイト頑張ってたぞ。露店で客に頭撫でられてた』

『さ・す・が・ロリ神www』

 

ヘスティアは見た目14歳くらいなので神と気が付いていない客には苦労しているんだなと思われているので哀れみで撫でられている時もある。

 

「なにやってんのよアンタ」

 

ヘスティアがその声に気付き振り返ると右目に眼帯を着けその美しい顔から赤い髪を生やしたヘスティアの神友だった。

 

「ヘファイストス!」

 

「ええ、久しぶりヘスティア。元気そうで何よりよ。・・・もっとマシな姿を見せてくれたら、私は嬉しかったんだけど」

 

ヘファイストスはハァと少し大きい溜め息を吐いた。

 

「よかった!ヘファイストスに頼みがあったんだ!」

 

「お金なら貸さないからね」

 

「し、失敬な!」

 

この、赤髪の女神こそヘスティアの神友でありヘスティアが少し前まで寄生していた相手だ。

 

「いや、私にかなり借りがあるじゃない」

 

「ウグ!」

 

二人は何時も大体こんな感じだ。

まあ、どちらもこの関係を楽しんでいる。

 

「ふふ・・・相変わらず仲が良いのね」

 

「え・・・フレイヤッ!?」

 

ヘスティアが声の先を見ると初雪のような美しい白い肌とは対称的な黒いドレスを着た女神。

彼女を見たら十人が十人全員が美しいと言うだろう。

それほどの美貌を持っている。

 

「お邪魔だったからかしら?」

 

「そんなことはないけど・・・ボクは君が苦手なんだ」

 

「うふふ、貴女のそういうところ私は好きよ?」

 

やめてくれよ、とヘスティアは手を振った。

 

「おーい!ファーイたーん!フレイヤー!・・・ドチビ!」

 

「苦手ならまだいいよ・・・もっと嫌いなやつがいるんだけどね!」

 

「あら、それは穏やかじゃないわね」

 

ヘスティアは顔を膨らませて不機嫌なのを表している。

 

「何しに来たんだい?」

 

「なんや?用がなかったら来たらいかんのか?」

 

「別に!」

 

「まあ、強いてゆえばドレスも着れない貧乏な女神を笑ったろうかと思ってな」

 

(うぜぇぇぇ!)

 

ヘスティアは心の中で叫んだ。

 

「ふん!そんなことをするためにわざわざ恥を晒しに来たのかい?」

 

「なんやと?」

 

「その貧相な胸を笑われに来たのかいって言ってるんだ」

 

「むっきー!」

 

いよいよ取っ組み合いになった。

 

 

 

三十分ほど過ぎるとロキとのケンカが終わるとロキとフレイヤは二人のそばから離れていった。

 

「そういえば私に頼みがあるって言っていたわね。何なの?」

 

「あ、あの。ボクのファミリアに二人の冒険者がいるんだけど」

 

ヘファイストスは記憶の中からヘスティア・ファミリアの冒険者を思い出す。

 

「白い子と黒い子だっけ?覚えやすいわよね」

 

「うん。ベル君とシキ君だよ」

 

「その二人が何なの?」

 

「その・・・」

 

「なによ?」

 

ヘスティアは正座し手を地に着けた。

いわゆる土下座だ。

 

「ベル君に武器をシキ君に防具を作って欲しいんだ!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八話 覚醒

ヘスティアが帰らなくなってから数日後。

今日は怪物祭の日だ。

 

「いらっしゃーい!」

 

俺は焼きそばを焼いていた。

豚肉とキャベツ、玉ねぎを鉄板で炒め火が半分くらい通ったら蒸しておいた中華麺を入れ、また炒める。

少ししたら自家製の焼きそばソースを加える。

また、炒め水気を飛ばす。

ガネーシャ・ファミリアから渡されたタッパーに入れて完成だ。

 

「焼きそば三つくださーい!」

 

「あいよ!」

 

同じくガネーシャ・ファミリアから渡された紙袋に焼きそばのタッパーを三ついれ手渡す。

 

「焼きそば三つで六百ヴァリスになります!」

 

客は俺に六百ヴァリスを渡すと去っていった。

 

「ありがとうございました!」

 

俺の焼きそばの露店は思った以上に繁盛している。

祭りは多少ぼったくるくらいが丁度いい。

いやー、儲かる儲かる。

 

なぜこんなに儲かっているのかというと・・・。

 

「シキさん」

 

「ん、おおシルじゃねぇか」

 

最初の焼きそばを焼き終えると匂いに釣られたのかシルが現れた。

 

「どうも。焼きそばください!」

 

「おう。ほら、二百ヴァリスだ」

 

シルはポケットに手をいれると青ざめた。

 

「・・・お財布忘れてしまいました」

 

見るからに落ち込んでいるので演技ではないようだ。

 

「はぁ、しょうがねぇな」

 

「え?」

 

俺はシルに焼きそばが入った紙袋を差し出した。

 

「ほれ、何時もベルが世話になっている礼だ」

 

「ありがとうございます!」

 

「その代わりに宣伝してくれよ?」

 

「はい!宣伝して回ります!」

 

「頼んだぞ!」

 

それから続々と客が現れて、今やガネーシャ・ファミリアのスタッフが列整理をしている。

 

シルの情報拡散能力すげぇな。

 

「スミマセン!五百食売り切れです!」

 

たった今、全ての食材を使いきってしまった。

今は四時くらいか。

えっと、利益は。

(値段200-材料費50)×売った数499×場所代0.8=59880

59880ヴァリス!

約六万ヴァリス!

計算していたら興奮してしまいガッツポーズをしてしまった。

 

「あの~、食材持ってくるので、また焼いてもらってもいいですか?」

 

「ああ、はい。いいですよ」

 

俺はそういうと焼きそばのタッパーを入れた箱全てを運び外に出た。

 

「では、一時間ほど休んでいてください」

 

「了解で・・・」

 

ドッガァン!

 

急に屋台が崩壊した。

いや、正しくいうと崩壊させられた。

潰れた屋台の上に乗っていたのは体が鉄で出来ているように見える鉄の皮膚を持つ1.5Mくらいの翼を持たない二足歩行の龍・・・メタルリザードだった。

 

「てめぇ!何しやがる!」

 

俺は護身用に持ってきていた剣を抜き斬りかかった。

しかし、かなりの硬度で剣は通らなかった。

 

「硬いな」

 

回りを見たがlevel1の冒険者か一般人なのかみんな呆然としていた。

 

「ちっ!此方だ!」

 

俺はメタルリザードを引き連れ人が少ないところに向かって走った。

 

 

 

 

 

 

「はぁ!はぁ!」

 

十分くらいは走っただろうか。

俺は随分人の少ない所に出た。

 

「ここなら大丈夫か」

 

壁に三方向をおおわれた広間のような場所で立ち止まるとメタルリザードが加速し襲いかかってきた。

 

「GAAAA!」

 

メタルリザードが前足の爪で俺を引き裂こうとするが俺は剣で防ぐ。

バックステップで離れる直前下がりながらも斬りつけたが鉄の皮膚で遮られる。

 

「やっぱりこのナマクラじゃ斬れないか」

 

剣と鉄の爪の剣戟が打ち鳴らされる。

俺が斬りかかるとメタルリザードが爪で防ぐ。

メタルリザードが爪で切り裂こうとすると俺が剣で弾く。

 

十数回ほどは打ち合っただろうか剣と爪が弾き合い俺とメタルリザードは間合いをとった。

剣の刃はボロボロになっていた。

 

その時だった。

俺から見て左側の壁の一部がドアのように開き中から薄桃色の髪を少し長めのショートヘアーにしている俺と同じくらいの歳と思われる少女が現れた。

 

「なっ!?」

 

手に荷物を持っているということは隠れた店とかだったのだろうか。

中に戻ろうとしないということは中から外の一方通行だったのだろう。

 

「GAAAAA!」

 

あろうことかメタルリザードが少女に向かっていった。

 

「させるか!」

 

俺は少女の前に回り込んで剣を横薙ぎに振るった。

するとメタルリザードは剣を牙で噛んで止めその強靭な顎で砕いた。

 

「ヤバッ!」

 

メタルリザードはそのまま俺に向かって突進してきた。

俺は吹き飛ばされ5M先の石の壁に背中をぶつけた。

 

「ガハッ!」

 

肺の中の空気が全て吐き出される。

 

「ゲホッ!ゲホッ!」

 

口の中が切れたのか咳には少し血が混じっていた。

何回か咳き込むと呼吸が落ち着く。

隣の少女を見るとやはり俺と同じくらいの歳に思えた。

幼さを残した顔が青冷め瞳が恐怖に染まっている。

 

「・・・助けて」

 

誰に求めるもなく少女の口からその言葉が溢れ落ちた。

きっと、俺に向けられた言葉じゃない。

目の前でボコボコにやられた俺に向けられた言葉じゃない。

分かってる。

でも、俺は・・・俺は・・・。

 

 

 

 

 

 

 

────俺は・・・それでも目の前で脅えているこの娘を助けたい!

 

 

 

 

 

 

 

そのとき俺の背中から暖かい感覚を感じた。

そして、一度失った言葉が再び魂に刻まれる。

 

「下がってろ・・・ってのは少し可笑しいな」

 

「これ以上戦ったら!」

 

「いいからそこで待ってろ」

 

「武器もないのに!」

 

「大丈夫だ。今から"創る"」

 

「え?」

 

メタルリザードが少し俺から間合いを取った。

 

「悪いな」

 

「GAAAAAA!」

 

その直後メタルリザードが突進してくる。

 

───このままじゃ死ぬ。

 

───武器だ、この状況を覆す武器がいる。

 

俺は魂に刻まれた言葉を詠唱した。

 

 

 

 

「───投影、開始(トレース・オン)

 

 

 

 

メタルリザードの突進が俺に当たり止めを刺す筈だった。

その刹那、俺は腕を振り抜く。

次の瞬間メタルリザードの鉄の皮膚に罅が入っていた。

 

俺の両手には二降りの剣が握られていた。

黒と白の二刀一対の夫婦剣。

メタルリザードに罅を入れた夫婦剣の真名は。

 

 

 

 

 

 

 

 

干将・莫耶

 

俺の父───ゼクス・クレンの最も愛用していた武器だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

九話

右手の莫耶を振るう。

メタルリザードは自身の爪で防ぐが先程のナマクラの剣とは違い爪の三分の一ぐらい食い込んだ。

 

「やっぱり。これがシックリくる!」

 

俺は父さんに魔道書を昔に読まされ魔法【投影】を覚えた。

しかし、父さんが死んでから何故か投影が全く使えなくなっていた。

 

干将・莫耶を投影してからは俺の優勢だった。

本来の二刀流という先頭スタイルを取り戻し手数も増えた。

しかし、一度魔法を失ったせいで魔力が殆ど無いことに自分で気付いていた。

 

(干将・莫耶の投影はあと二回が限界か)

 

数回の剣戟の後、干将・莫耶のどちらにも罅が入った。

メタルリザードの両の爪も罅が入り残り一撃だと理解しているようだった。

俺が腕をクロスにして引き絞るとメタルリザードは両腕を振り上げ斬り降ろそうと構えを取る。

 

風が吹き荒れる。

風が止まった瞬間俺とメタルリザードはどちらからともなくに動き始めた。

俺達の体が接触する直前俺は干将・莫耶を斬り上げメタルリザードは両腕を降り降ろした。

四つの刃は砕けた。

メタルリザードは残された最後の武器()を使い俺を噛み砕こうと顎門を開いた。

 

「―――投影、開始(トレース・オン)

 

その数瞬前に俺は後ろへ飛び退き両手の干将・莫耶の柄を放し新たな干将・莫耶を投影しメタルリザードに投げ付ける。

しかし、その干将と莫耶の二つの軌道は奴の左右へとの離れる。

だが、それこそが狙いだ。

 

──鶴翼、欠落ヲ不ラズ

 

二つの刃は壁に当たる直前、起動を直線からブーメランのように弧を描いた。

 

──心技、泰山ニ至ル

 

干将と莫耶は互いを引き付ける性質がある。

それによりこの技が成り立つ。

 

 

「───投影、開始(トレース・オン)

 

俺は最後の一組を投影すると弧を描きメタルリザードの元に到達するのと同時に全力で双剣を振り下ろす。

 

──心技、黄河ヲ渡ル

 

本来なら三組で行う技だが今の俺には二組が限界だ。

 

───唯名、別天ニ納メ

 

しかし、目の前の敵を倒すにはこれで十分だ。

 

───両雄、共ニ命ヲ別ツ

 

干将・莫耶の性質を活かし二つの×を同時に相手に叩き込むそれが───

 

「───鶴翼二連!」

 

前回よりイメージを固め魔力を込めた二組の双剣はメタルリザードの頭蓋骨を砕き脳を斬り裂いた。

 

「GIAAAAA!」

 

「・・・勝った」

 

(ヤバ・・・魔力枯渇(マインドゼロ)か)

 

俺はメタルリザードが魔石になるのを見届けると気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると知らない天井だった。

体を起こして周りを見ると木で出来た家のようだった。

 

ガチャ。

そんな音と共に扉が開いた。

そのから入ってきたのは俺が守った薄桃色の髪をした少女だった。

 

「起きたんですね!」

 

「ああ、看病してくれたみたいでありがとう」

 

「いえ!命を救って頂いたんです!これぐらい!」

 

「怪我してないか?」

 

「はい。貴方は?」

 

「細かい痣はあるけど骨は折れてないし。多分、倒れたのは魔力枯渇のせいだしな」

 

魔力枯渇は魔法の使いすぎなどで魔力が枯渇したとき体が防衛本能で気を失わせるというものだ。

 

「俺の名前はシキ・クレン。ヘスティア・ファミリア所属の冒険者だ。君は?」

 

「わ、私はフィリア・リーンベルト。ヘファイストス・ファミリア所属です」

 

「分かった。リーンベルトよろしくな」

 

「あ、あのフィリアでいいです。クレンさん」

 

「ああ、分かったフィリア。俺もシキでいい。改めてよろしく」

 

「はい!シキさん!」

 

俺とフィオナは握手を交わした。

 

 

 

 

 




シキ・クレン
Lv.1
力 :F 315
耐久:G 295
器用:G 235
敏捷:G 223
魔力:H65
《魔法》
【投影】
・構成を解析し魔力を媒介に何かを作り出す。
・本人の特性上、近接武器が一番魔力効率がいい。
詠唱
―――投影、開始

《スキル》
【昇龍昇華(アーラン・エイル)】
・早熟する。
・何かに憧れる限り効果持続。
・憧れの強さの丈により効果が上昇する。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十話

背中合わせになっていた俺とベルが同時に動き出す。

俺の手には干将・莫耶が握られている。

 

今回の相手は赤い巨大な蟻キラーアントだ。

この魔物には大きな特徴がある。

単体ではあまり強くないキラーアントだが瀕死になると他のキラーアントを引き寄せるフェロモンを発生させる。

なので瀕死にしたら即止めを刺さなければいけない。

 

目の前には近くに二体少し遠くに一匹のキラーアントがいる。

一瞬で二匹のキラーアントとの間合いを詰め数瞬の間にキラーアントの首を斬り落とし胴体を切断する。

残りのキラーアントが逃げようとするので右手の莫耶を投擲しキラーアントを縦一文字に切断した。

 

「おーい!シキ!こっちは終わったよ!」

 

「此方もだ!」

 

俺もベルに戦闘終了の旨を伝えると干将・莫耶を消して魔石を集め始めた。

魔力を鍛えるために干将・莫耶は一々投影するようにしている。

 

「シキの魔法ってすごいよね!」

 

魔石を集めているとベルがふと、そう言った。

 

「でも、これって一度見た武器じゃないと投影出来ないし魔力が低いと上手く再現出来ないから最も本物並みにするにはレベルアップが必要になるな」

 

「そうだね!じゃあ頑張ろう!」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七階層!?」

 

エイナさんの声には明らかに怒気が混ざっていた。

まあ、心配七割言うこと聞かなかった三割なんだろうが。

 

「君たちは!何で下層に降りる真似をしたの!・・・死んじゃったらどうするの」

 

最後の方のエイナさんの声は悲しそうな声だった。

恐らくこれまで面倒を見ていた死んでしまった冒険者達を思い出してしまったのだろう。

 

「まあ、大丈夫ですよ。二人ともアビリティもいくつかEにいってるんですし」

 

俺がそう言うとエイナさんはI,H,G,F、Eと二回ほど数えると意を決したように俺達に向かってこう言った。

 

「二人とも君達の背中のステイタスを見せてくれないかな?」

 

「えっ!?」

 

ベルが何処か間の抜けた声を出した。

 

「あっ、君達の言っていることを信じてない訳じゃないんだけど・・・」

 

ステイタスというのは冒険者が他人に教えてはいけないことの一つだ。

ステイタスというのは、正しく冒険者の生命線だ。

他人ならだ。

 

「良いですよ。何処か個室空いてますか?」

 

「え?いいの!?」

 

ベルがそう言った。

続いてエイナさんが。

 

「わ、私は他人だよ!?そんなに簡単に見せちゃ・・・」

 

「エイナさんは他人じゃないですよ(恩人的な意味で)。それにエイナさんなら絶対に誰にも話さないって信頼してますし」

 

「うん。私は誰にも話さないと約束する。もし、君達のステイタスが明るみになることがあれば、私は君達に絶対服従を誓うよ」

 

(なん・・・だと!?)

 

(流してもいい!むしろ、流してください!)

 

俺はそんな心の叫びをどうにかして押さえ込んだ。

しかし・・・。

 

「ブハッ!」

 

鼻血が吹き出してしまった。

 

「シキ君!?どんな想像してるの!?」

 

「こちとら健全な青少年なんですよ!?エイナさんみたいなきれいなお姉さんにそんなこと言われたら・・・そんな想像しないと逆に失礼だ!」

 

「た、確かに!」

 

「シキ君!ベル君も確かにじゃない!」

 

 

 

 

 

 

そんなこんながあって俺達はエイナさんにステイタスを見せることにした。

 

シキ・クレン

Lv.1

力 :D521

耐久:E462

器用:F375

敏捷:E324

魔力:H185

 

エイナさんは俺とベルのステイタスを見て唖然としている。

 

(確かに自分でもおかしいって思うしな)

 

「あのー、エイナさん。まだですか?」

 

「ぁ・・・も、もういいよ!」

 

ベルが恥ずかしそうな声を出すとエイナさんが顔を赤らめその可愛らしいエルフ耳をピクッ!と動かし後ずさった。

 

(今日のエイナさん。滅茶苦茶可愛い!)

 

エイナさんは俺とベルの爪先から頭を見る。

 

「ねぇ、二人とも」

 

「は、はい?」

 

「なんですか?」

 

「明日予定空いてる?」

 

「へっ?」

 

「は?」

 

え?まさかの逆ハーレム?

 

 

 

 

 

 

あ、帰りに髭剃り買わなきゃ。

 

エイナとのおでかけより最近生えてくるようになった髭に悩まされるシキだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十一話

最近、今更ながら那由多の軌跡をプレイして嵌まっている作者です。


クレハとノイが可愛い!


 

あれから一日が経過した。

オラリオの中でも有名な広場を俺とベルはいた。

 

『ねえねえ、あれ二人でデートかな?』

『シッカリした体の黒が攻めで、細い白い子が受け?』

『黒×白。いや、白×黒かな?ジュルリ』

 

ゾクッ!

背中に悪寒を感じた。

 

「おーい!シキくーん!ベルくーん」

 

エイナさんの声が聞こえた方を見るといつもと違う服装をしていた。

レースをあしらった白いブラウスに丈の短いスカート。

 

「実は私も楽しみにしてたんだよね」

 

「逆ハーレムが?」

 

「違うわよ!」

 

「冗談ですよ」

 

最近のエイナさんが可愛すぎて弄りたくなってしまった。

 

エイナさんはコホンと咳を吐くとこっちをチラチラと見ながら言った。

 

「それで二人とも?」

 

「なんですか?」

 

「ん?」

 

「私の私服姿を見て、何か言うことはないかな?」

 

エイナさんはニヤッと笑ってそう言った。

 

「いつもは綺麗な感じだけど今日は可愛いって感じですね」

 

「いつもより若々しく見えます!」

 

エイナさんはベルの後ろに回り込むと緩めのヘッドロックを決めた。

 

「わーたーしーは!まだ十九だぞぉ!」

 

「ぐぇ!止めてください!エイナさん!」

 

エイナさんの頭には青筋が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、今日はどこに行くんですか?」

 

「着いてからのお楽しみ、だと流石に意地悪かな? うん、じゃあ、教えてあげよう。今日行くところは――ダンジョンだよ」

 

「えぇっ!?」

 

「正確にはダンジョンの上にある、バベルだね」

 

「バベルって・・・冒険者用のシャワールームとか、公共施設があるだけじゃないんですか?」

 

そう、バベルにはギルドが管理する公共の施設がある。

ダンジョンの汚れを落とすシャワールーム。

毒や怪我を治す治療施設等がある。

 

「キミは本当に何も知らないんだね・・・。でも、まだ冒険者になって1ヶ月も経ってないからしょうがないのかな・・・。じゃあ、今日は役に立つ情報をかい摘まんで教えるね?」

 

ベルの体がビクッと震えた。

何故かというと俺とベルが冒険者の登録をしたときにダンジョンの基礎知識をみっちり叩き込まれたからだ。

それで数日潰れたしな。

 

(まあ、それのお陰で死なないですんでる部分があるんだけどさ)

 

「ギルドが所有しているバベルは、ベル君の言った通り冒険者のための公共施設という役割がまず1つ。

シャワールーム以外にも簡易食堂や治療施設の他に、換金所もあるなんて知ってた?」

 

「そ、それは知りませんでした・・・ギルドの支部や本部だけにあるものかと・・・シキは知ってた?」

 

「ああ、たまに治療施設で擦り傷に軟膏塗ってもらったりしてるしな」

 

「何で教えてくれなかったの?」

 

ベルがブスーと頬を膨らませて拗ねたように言った。

 

「いや、一応常識だぞ?」

 

「ウグッ!」

 

「で、もう1つは、これが今日の目的でもあるんだけど、バベルにも一部の空いてるスペースがあって、そこを色々な商業者にテナントとして貸し出しているの」

 

大体の流れからして、今から向かうところは、バベル内にある武具テナントという話になるな。

 

「ダンジョンの真上に建っているだけあって、お店は全部、冒険者のための専門店。多くが商業系のファミリアだよ。

ヘファイストス・ファミリアなんかは、出店しているお店の中でも、その代表だね。名前くらいは聞いた事あるかな?」

 

「は、はいっ」

 

俺は不意にベルの腰元を見る。

そこには真っ黒な鞘に真っ黒なナイフが納められていた。

神のナイフ。

ベルがヘスティアから贈られたナイフだ。

神のナイフはベルのステイタスが向上すればするほど、ナイフの能力も向上するらしい。

俺の投影も似たようなものだが正直少し羨ましい。

 

「2人はヘファイストス・ファミリアの事についてどのくらい知ってる?」

 

「えっと、武具を扱う大人気ファミリアで、すごく品の価値が高くて、冒険者なら誰でも欲しがるってことぐらいですかね・・・」

 

「後は主神のヘファイストスさまはヘスティアの神友ってくらいですね」

 

「うん、間違ってはないね。そして、なんと! 私達が今日向かうのが、そのヘファイストス・ファミリアのテナントなのでしたぁー」

 

「え、ええぇーーーー!?」

 

ヘファイストス・ファミリアの辺りでベルが叫ぶのが容易に想像できたので耳に手を当て耳を塞いでおいた。

 

「エイナさん、どういうことですか!? 僕、ヘファイストス・ファミリアで買い物出来るような大金持ってないですよ!」

 

「まぁまぁ、それは着いてからのお楽しみってことで」

 

「僕はずっとハラハラしっぱなしですよぉ!」

 

「まあ、落ち着けよ」

 

「でもぉ!」

 

「うるさい」

 

「・・・はい」

 

俺がそう言うとベルが項垂れたので俺はベルの着ているシャツの後ろ襟を掴んで引っ張ってバベルに向かった。

 

回りを歩く人たちが『ウサギを散歩させてるみたい』と言っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十二話

 

「にしても。すごいなコレ」

 

俺達がバベルに辿り着くとエイナさんに導かれ昇降魔道具に乗っていた。

えっと、魔石の魔力を浮力に変えてるんだっけか?

 

ほどなくして、バベルの四回に到着する。

 

「お目当てのお店はまだ上の階なんだけど、せっかくだから寄っていこうか?」

 

俺とベルが頷くと通りを歩くことになった。

ざっと見ただけでもすごい武器が並んでいた。

ベルがキラキラとした目で見ていたので投影してやろうとしたが俺の投影の練度では触らずには解析できないので諦めた。

よく見ると全ての武器にヘファイストス・ファミリアの刻印があった。

 

「ああ、この四階から八階のテナントは全部ヘファイストス・ファミリアのものだからね」

 

「すごいな」

 

「三千万ヴァリス!?」

 

短剣を見たベルはクラっと目眩を起こした。

 

「いらっしゃいませー今日は何の御用でしょうか、お客様!」

 

よーく見たことのある店員がいた。

可愛らしいツインテールに豊満なバスト。

ヘスティア・ファミリアの主神(バカ)ヘスティアだ。

 

「いや、何やってんだ。ヘスティア?」

 

「神様!?」

 

ヘスティアの店員スマイルが凍りつく。

 

「何でこんなところにいるんですか、バイトのかけ持ち!? 到達階層が増えてお金にちょっと余裕ができるようになったって、僕言ったばかりじゃないですか!?」

 

「いいかいベル君、今この瞬間を全部忘れて、大人しく帰るんだ! 世界には知らなくていいこともあるんだっ!」

 

「無理ですって! いいから、ほら帰りましょう! 神様は神様なんですから恥も外聞も捨てちゃダメですってば!」

 

「いや、今更だろ?」

 

そんなものとっくに捨てているだろう。

 

「そうだけど!」

 

「ベル君酷い!」

 

俺達が店頭で騒いでいると中から怒鳴り付ける声が聞こえてきた。

 

こらぁっ、新入り! 遊んでんじゃねぇぞ! 仕事しろ!」

 

「はぁーい!!」

 

「あっ!?」

 

ベルの手を振り払いヘスティアは業務に戻っていった。

 

「かみさまぁ……」

 

「・・・あ、相変わらず、変わった神様だね」

 

その言葉には俺にも苦笑で返すしかなかった。

 

「あ、そうだ」

 

ヘスティアが店の中から顔を出してきた。

 

「シキ君はちょっと残ってくれるかい?」

 

「なんだよ」

 

「いいから、いいから。後二十分くらいで休憩だから待ってて遅れよ」

 

「わーったよ。ってことだ先行っててくれ」

 

「分かった。先に行ってるね」

 

「おう。エイナさんもベルのお守りよろしくお願いします」

 

エイナさんは、あははと笑う。

 

「ちょっとシキ!?」

 

「了解だよ。シキ君」

 

「エイナさんまで!?」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十三話 コート・オブ・ヘスティア

二十分くらい店内で待っているとヘスティアが出てきた。

 

「お待たせシキ君!行こうか」

 

どこか誇らしげに歩いているヘスティアに着いていくと扉の前に着いた。

扉の看板には執務室と書いてあった。

ヘスティアは二回ノックする。

二回はトイレだぞ?

 

「入りなさい」

 

「入るよ!」

 

「失礼します」

 

俺とヘスティアが執務室に入ると二人の女性がいた。

 

「フィリアじゃないか」

 

「こんにちはシキさん」

 

一人は薄桃色の髪をした少女フィリアだった。

もう一人は・・・。

 

「貴方がシキね」

 

「はい」

 

「私はヘファイストス。ヘファイストス・ファミリアの主神でこのバカの神友よ」

 

眼帯をしている赤髪の女神ヘファイストスさんだった。

 

「あの、俺は何故ここに?」

 

「ああ、それはね。フィリア持ってきて」

 

「はい」

 

フィリアは扉の先から漆黒の布地に軽装を着けたコートを纏っているマネキンを持ってきた。

 

「コレは?」

 

「コレはねコート・オブ・ヘスティア。ボクから君への贈り物さ!」

 

「贈り物?」

 

「うん!ベル君のヘスティアナイフの防具バージョンなんだ。君のステイタスによってこのコートは強くなるんだ」

 

「何で俺には防具なんだ? 」

 

「君の魔法は以前に聞いていたし君はベル君やボクを守るためなら自分の身を省みないだろう」

 

否定は出来なかった。

自分が死ぬかヘスティアとベルが死ぬか選べと言われたら迷わず俺は前者を選んでしまうだろう。

 

「そして君は未来を切り開く力を持っている」

 

恐らく俺の投影の事を言っているんだろう。

 

「だからボクはヘファイストスに頼んだんだベル君に未来を切り開くための刃を、シキ君にはその身を護る盾を作ってくれってね。盾は比喩だけどね」

 

「ヘスティアには一泡吹かされたわ。私は鍛冶の神なんだから布関係には疎いから布防具のスペシャリストのフィリアの手を借りたのよ?」

 

「えっへん!私のスキルで自己修復(アヴァロン)も付与してあるんですよ」

 

フィリアはその小さな胸を胸を張っていた。

ちなみに俺はどんなに胸が小さかろうか大きかろうか問題ない。

ロキさんのような無乳はさすがに無理だが。

あれ、もう男だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんやと!」

 

「どうしたんだい?ロキ?」

 

「フィンか。なんや胸の事をバカにされた気がしてなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとな。ヘスティア」

 

「うん!」

 

「で?」

 

「なんだい?シキ君?」

 

「コレいくらだ?」

 

ヘスティアは俺から目を反らした。

 

「ヘファイストスさん?」

 

「ヘスティアナイフと合わせて四億・・・はぁ、儲け無しで二億で良いわよ」

 

「ありがとう!ヘファイストス!」

 

ヘスティアがヘファイストスさんをじっと見つめると仕方ないと値を下げてくれた。

 

「それでも返すのに何年かかることやら」

 

「大丈夫だよ!ボクは不死だ!いつかは必ず返せるさ!」

 

「俺ももっと稼げるようになったら俺も払うからな」

 

「あはは。ごめんね」

 

「大丈夫だ。お前は友達であるヘファイストスさんに頭を下げてくれたんだろう?俺はそれだけで充分だ」

 

俺はヘスティアの頭を撫でてそう言った。

「ありがとうシキ君!それにヘファイストスにフィリア君コートを作ってくれてありがとう」

 

「ええ」

 

「はい」

 

二人は笑顔で頷いた。

 

「あ、シキさん」

 

フィリアが唐突に俺の名を呼んだ。

 

「何だ?」

 

「コレは助けてくれたお礼です」

 

フィリアはいつの間にか二つの箱を持っていた。

ヘファイストスさんの机に二つの箱を置き開けると手の甲から肘までの長さで指貫のガントレットとブーツとグリーブが入っていた。

全て夜のような漆黒をしていた。

 

「珍しくフィリアが防具を作って私に対価として金属部分の発注したのよ感謝しなさい」

 

「本当にありがとうフィリア」

 

「どういたしましてシキさん!」

 

フィリアはニコッと笑った。

 

(ヤバい。すごく可愛い)

 

左手で顔を抑え顔が赤くなるのを抑えた。

 

「ヘファイストスさん着てみてもいいですか?」

 

「いいわよ。隣の部屋を使いなさい」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・」

 

「見事に真っ黒ですね」

 

「黒くないのが顔と指だけね」

 

下に着ていたシャツの色も黒だったので全身真っ黒だ。

いや、黒好きだからいいんだけどさ。

 

「まあ、俺黒好きなんで」

 

「でも、よく似合ってますよ」

「「たしかに」」

 

フィリアに二人の女神が同意する。

 

ふと、窓の外を見ると日がオレンジ色になりそうになっていた。

 

「あ、俺そろそろベル達の所に行かなきゃ」

 

「あ!ボクも!」

 

「あんたはあと、一時間バイトでしょ?」

 

「はい・・・」

 

「じゃあなフィリア」

 

「はい。また会いましょうシキさん」

 

「ああ!ヘファイストスさんお世話になりました」

 

「ええ。もっと稼げるようになったらヘファイストス・ファミリアを宜しくね」

 

「はい!では・・・」

 

俺は扉を出て昇降魔道具のところへと向かった。

 

 

 




アヴァロンはfateからいただきました。
fateではアヴァロンはエクスカリバーの鞘のことですね。
士郎の時は傷口を縫合するようにしていたので自己修復機能の名をアヴァロンにしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十四話 エイナ

昇降魔道具の扉のところに着くと箱を抱えているベルとエイナさんが待っていた。

 

「悪い待たせたか?」

 

「あ!シキ!大丈夫・・・って!何その防具!」

 

「ヘスティアからの贈り物だよ」

 

「ああ、僕のと同じ」

 

「どういうこと?」

 

エイナさんが俺達に聞いてきた。

 

「俺とベルはヘスティアから武具をプレゼントされたんですよ」

 

「ていうか、シキなんか多くない?」

 

「ああ、怪物祭の時助けたヘファイストス・ファミリアのメンバーからも贈られたんだよ」

 

「ズルいなぁ!」

 

「お前はヘスティアを助けたんだろ?」

 

「そうだけどさ」

 

「なら、充分だろ?」

 

「うん!僕はシキと違って俗物じゃないしね!」

 

「そうかそうか。死ね」

 

俺はベルに逆海老固めを決める。

 

「ギャァァァァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足と腰が痛い」

 

バベルの途中の階でベルはそう言い湿布をもらいに治療室に行っている。

俺とエイナさんはバベルの近くの広場にいる。

 

「あっ、そうだシキ君。はいこれ」

 

エイナさんが突然俺に布の包みが入っていた。

布を広げるとバックルが入っていた。

 

「これはね。魔力をほんの少しだけ上げる魔道具なんだよ」

 

「え?」

 

「アビリティにすると5~10程度だから、すごく安いんだけどね」

 

そんなことはないだろう。

安いとはいえ魔道具だ一万ヴァリス位は普通にしただろう。

 

「いやいや!悪いですって!」

 

「受け取ってよ。私ねシキ君もベル君も大好きなんだ。二人には死んでほしくない、だから私のためにね」

 

(受け取ろう。その代わり絶対にこの人を悲しませないようにしよう)

 

「分かりました。その代わり目を閉じてください」

 

「う、うん」

 

エイナさんは戸惑いながらも目を閉じた。

エイナさんの顔は真っ赤になっていた。

俺はエイナさんの後ろに回り込むと一つの箱を開けその中に入っていた物をエイナさんの首に着けた。

 

「目を開けてください」

 

「え?どうしたのシキ君・・・え?」

 

エイナさんの首元には彼女と同じエメラルドの輝きを持つ涙型の宝石のネックレスがあった。

エメラルドの中には十字架が堀込んである。

 

「コレは?」

 

「俺からの贈り物です」

 

エイナさんはエメラルドの裏の金属部分を見て驚愕の色を浮かべた後、青冷めていった。

それもそうだろう金属部分に書いてあるのはヘファイストス・ファミリアの刻印なのだから。

ヘスティアを待っているときに見つけ値段交渉し買った。

エメラルドの護り

定価四万ヴァリス→値引き後二万ヴァリス。

店長泣いてたなぁ。

後で聞いたことだがベルの買った軽装より高かったらしい。

怪物祭で六万ヴァリスほど稼いでおいてよかった。

ヘスティアは納めるのはいつもと同じだけでいいって言っていた。

 

「シキ君これ・・・盗んだの!?」

 

「失敬な!買ったんですよ。まあ、ヘファイストス・ファミリアのお守りでも一番安いのを値切ったやつですけど魔法のダメージを一回だけ無効果するらしいですよ」

 

「な、何で私に!?」

 

「ここは迷宮都市です何が起こるか分かりません。だからその・・・」

 

ヤバい顔が赤くなるのを抑えられない。

 

「その?」

 

「・・・エイナさんには傷付いてほしくないんです」

 

俺は赤くなった顔を隠すように反らして言った。

 

「シキ君・・・。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「後ねシキ君」

 

「私のことエイナって呼んでくれないかな?」

 

「はい?」

 

「それと敬語も無しね?」

 

「でも・・・」

 

「いいから!シキ君は皆とタメ口でしゃべるから私もタメ口で喋ってほしいの!」

 

「はぁ、分かったよエイナ。これでいいか?」

 

「うん!」

 

俺が顔を一度収まった赤面を再発させて言うとエイナさん・・・いや、エイナは笑顔で返してきた。

 

「シキー!エイナさーん!」

 

不意にベルの声が聞こえた。

 




そう言えばTwitter始めました。
https://twitter.com/hirok4886gmail1?s=09
向こうではシキで通しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十五話

「ちょっと遅くなっちゃったね」

 

「そうだな」

 

 

 

『 私のことエイナって呼んでくれないかな?』

 

俺はエイナさん・・・エイナに言われた事を思い出していまだにドキドキしていた。

エイナに感じてるのは恋愛的なドキドキ感じゃない。

例えるなら親戚のお姉さんにちょっとエッチなイタズラされたようなそんな感じだ。

まあ、ドキドキしてるのは同じなんだけど。

 

「シキ、顔赤いよ?」

 

「う、うるさい!」

 

「!・・・シキ」

 

「ああ」

 

俺達は裏路地を歩いている。

そんなところに二つの走る足音。

しかも小さなのと大きいなのが有ったらどう思うだろう?

 

「誘拐か?」

 

「分かんない。それよりどこから・・・?」

 

ベルが次の曲がる道を除き混もうとすると走ってきた影に足を掛けてしまった。

 

「何やってんだ!」

 

「すみません!大丈夫ですか!?」

 

「悪いな俺のツレが」

 

そこに居たのは灰色のローブを着ていた栗毛のパルゥムの少女だった。

パルゥムとは成長してもヒューマンの子供並みにしか育たないと言われている。

知り合いだとロキ・ファミリアの団長フィンさんだ。

 

「追い付いたぞ!糞パルゥムがっ‼」

 

ベルが少女の手を取ろうとしたとき怒声を上げながら一人のヒューマンが現れた。

その瞳には明らかに怒りが現れている。

 

「もう逃がさねぇぞ!」

 

男が叫び声を上げる。

何こいつ、ロリコンストーカー?

 

取り敢えず、間違いなく少女が危険な目に遭いそうな気がしたのでベルと少女の前に庇うように前に出た。

 

「んだよテメェ!そいつを今から殺るんだから退きやがれ!」

 

え?ヤる?

ロリコン、ストーカー、ヤる・・・。

ロリコンレ○プ犯(違う)!?

 

「おい!テメェ何で引きやがった!」

 

「あ、あの・・・今からこの子に、何をするんですか・・・?」

 

ベルが怯えながらもそう聞いた。

いや、何をってナニだろ?

 

「うるせぇぞ!ガキッ‼今すぐ消え失せねぇと、後ろのそいつごと叩きっ斬るぞ」

 

「ああ!ヤるって殺すの方の殺るか!」

 

「シキ!?何言ってんの!?」

 

「テメェ!殺す!」

 

ヒューマ・・・ロリコンでいいや。

ロリコンが俺を斬ろうと剣を上段に構える。

 

投影、(トレース、)開始(オン)

 

誰にも聞かれないような小さな声で呟いた。

俺は恰もコートの中から出したように干将・莫耶を投影した。

 

「死ねぇ!」

 

ロリコンが剣を降り下ろす。

俺は左斜め前に踏み出すとロリコンの剣を右手の莫耶の切っ先を裏拳の要領でロリコンの剣の腹に向かって突き出し折った。

なんか、ロリコンの剣って言うと卑猥に聞こえるな。

 

「テメェ!」

 

「止めなさい」

 

ロリコンが折れた剣を俺に突き刺そうとした瞬間鋭い声がここにいる全員を貫いた。

貫いた声の主は若木の葉のような髪を持つエルフの少女だった。

えっと、豊穣の女主人にいた人だが名前は知らない。

 

「次から次へと・・・!?お前らは何だぁ!?」

 

「貴方が危害を加えようとしているその人は、私のかけがえのない同僚の伴侶となる方です。手を出すのは許しません」

 

何を言ってるんだ?

エルフの少女の同僚・・・豊穣の女主人のスタッフ。

ベルと親しい・・・シルか?

了解。納得した。

 

「どいつもこいつも、わけのわからねえことをっ・・・!ぶっ殺されてえのかあっ!ああ!?」

 

「吠えるな」

 

再び鋭い声が全員を貫いた。

次は凍てつくような声だった。

例えるならフィンさんの狼野郎を叱ったときの声だった。

 

「手荒なことはしたくありません。私は“いつもやり過ぎてしまう”」

 

「く、くそがぁ!?」

 

ロリコンは顔を真っ青にして、逃走した。

 

「大丈夫でしたか?」

 

「あ、ありがとうございます。助かりました・・・」

 

「いえ、こちらこそ差し出がましい真似を・・・私がそうせずとも、貴方達なら何とかできたでしょう」

 

「アハハ・・・」

 

俺はエルフの少女に礼を言う。

 

「ありがとう。助かった」

 

「えっと貴方はクラネルさんと一緒にいた」

 

「シキ・クレンだ。君は?」

 

「リューと申します。クレンさん」

 

「よろしくなリューさん」

 

俺はリューさんに手を差し出した。

 

「リューで結構です」

 

リューは俺の手を見て戸惑っていたがそう言って俺の手を握り返した。

 

「分かったリュー」

 

「リュ、リューさんはどうしてここ?」

 

ベルはオドオドしながらリューに聞いた。

 

「夜の営業に向けて買い出しをしていました。昼間とは異なり冒険者が店に押し寄せますから、準備をしておかないと大変な事になるので。その途中で貴方達を見掛けてしまい、つい」

 

昼間は食堂みたいな感じなのかな?

その時間帯は大体ダンジョンに行ってるから休みでもあったら夜とは違う豊穣の女主人に行ってみるかな。

 

「貴方達はここで何を?」

 

「あっ、そうだ、あの子・・・あれ?」

 

ベルが辺りを見渡す。

しかし、先程の少女は煙のように姿を消していた。

 

「誰かいたのですか?」

 

「はい、そのはず・・・なんですけど・・・」

 

終われてたのは、やはり疚しいことがあったのか?

 

「では、私はこれで」

 

「はい。本当にありがとうございます」

 

「本当に助かった。ありがとう」

 

俺達はお辞儀を交わし合い、

帰路に着いた。

 

リューの買い物袋に入っていた林檎が旨そうだったのでちょっと近くの八百屋で林檎を三つ買って帰った。

 

 

 

 

 

「よし・・・」

 

ベルは姿見で黒のアンダーの上に銀色の軽装を着けた自分の姿を確認していた。

俺は先にコートを羽織りその上から軽装を着けガントレットを装着してグリーヴを装着してあるブーツを履いた。

ちょっと行程が多いな。

もちろん中に履いている黒のジーンズのベルトの中央にはエイナがくれたバックルが輝いている。

 

「神様、じゃあ行ってきますねー!」

 

「ヘスティア行ってくるからな!」

 

「二人とも、気を付けてね~」

 

眠そうだな。

 

 

 

 

俺達がバベルの前にやって来ると俺たちに向けられたと思われる声が聞こえる。

 

「お兄さん。お兄さん。白と黒の髪のお二人のお兄さん」

 

「えっ?」

 

「ん?」

 

「お兄さん下、下ですよ」

 

声に誘導され下を見ると既視感のある少女がいた。

 

「初めまして、お兄さん方。突然ですがサポーターなんか探していたりしませんか?」

 

最近考えなくもなかった。

エイナにサポーターが居れば効率がグンッと上がると言われていたからだ。

それに、ベルは明らかに見える位置にバックを持っていたからな。

俺は父さんが昔使っていたサイドバックを使っている。

容量はベルのバックとは比べ物にはならない。

 

「混乱しているんですか?でも今の状況は簡単ですよ?冒険者様のおこぼれにあずかりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです」

 

「いや、そうじゃなくて・・・。君、昨日の・・・」

 

「・・・?お兄さん方とは初対面のはずですが?」

 

首を傾げる少女に俺とベルもつられて首を傾げそうになった。

 

「それでお兄さん、どうですか、サポーターはいりませんか?」

 

「ベルが決めていいぞ?」

 

「えっと・・・で、出来るなら、欲しいかな・・・」

 

「本当ですかっ!なら、リリを連れていってくれませんか、お兄さん方!」

 

「いや、それはいいんだけど、うーん・・・?」

 

「あっ、名前ですか?失敬、リリは自己紹介もしていませんでした」

 

少女は改まると名を告げた。

 

「リリの名前はリリルカ・アーデです。お兄さん方のお名前は何と言うんですか?」




今更ながらfateのVita版を買ってセイバールートクリアで力尽きた作者がいる。

シキ「堪え性がねぇな」

いや、まさかセイバールートで二十時間かかるとは・・・。

だけど・・・

―――――その道が。
今までの自分が、fateに費やした時間が、間違っていなかったって信じている!

シキ「セイバールートの名言をここで使うな!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十六話

 

俺はサポーターという存在に戸惑っていた。

何故かと言うと丁度、練習中の投影からの射出が出来ないからだ。

雇うことになったリリルカ・アーデは他のファミリアのメンバーだ。

完璧に完成しているならまだしも、今の射出の命中率は七割を切れば良い方だ。

せめて、九割切れば戦闘で使っても大丈夫なのだが。

 

「まあ、今は目の前の敵か」

 

今は第7階層で戦闘中だ。

 

「どうしたのですか、シキ様?」

 

「いや、何でもねぇよ」

 

「シキ!」

 

ベルが巨大蛾パープル・モスの片翼を切り落とし、落ちてきたところをベルは躊躇なくヘスティア・ナイフを突き刺すと絶命する。

 

パーブル・モスによって視界を防がれているところから二体のキラーアントが現れる。

俺はベルの横のダンジョンの壁を蹴り横から左側のキラーアントを右手の干将で一閃にて分断すると呆気に取られている右のキラーアントの首を残った左手の莫耶で斬り飛ばす。

 

「また、産まれました!」

 

「ベル!」

 

「うん!」

 

ベルは産まれてまだ壁面に埋まっているキラーアントの首を飛び蹴りで折った。

埋まったままなのでリリルカが魔石を回収しようとするが届かない。

 

「あ~ぁ・・・どうするんですか、ベル様?」

 

「そうだぜ。どうすんだよベル」

 

「ど、どうしようかっ?」

 

「リリが手が届けば回収できるのですが」

 

「ん、そうだ。リリルカ少し良いか?」

 

「はい?・・・うわぁぁぁ!?行きなり何をするんですか!」

 

何をしたかと言うと俺がリリルカを抱えて手が届くようにしたんだ。

 

「これなら手が届くだろ?」

 

「そうですけど・・・」

 

リリルカが少しブスッとしながらも魔石を回収していた。

 

 

 

 

 

 

 

「今日はそろそろ帰りませんか?」

 

「何でだ?」

 

「パーブル・モスの鱗粉には微量ですが毒の効果があります。この毒は遅効性です。今はなんともなくても戦闘中に毒の症状が出ると大変なことになります」

 

「じゃあ、戻ろうか」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

毒の治療が終わるとギルドに行き換金を終えると俺は重要なことを思い出した。

 

「あ!今日は肉屋が安売りやってんだった!」

 

「お肉!?」

 

「ああ!今日はハンバーグだぞ!」

 

「やった!」

 

「良かったらリリルカも来るか?」

 

「良いんですか?収入も山分けで、しかも、ご馳走になって・・・」

 

リリルカは気不味そうに言った。

 

「何言ってんだ?飯ってのは大人数で食った方が旨いに決まってんだろ?」

 

「そうだよ、リリ!」

 

「・・・すみません。リリはこのあと少し用があるので行けません」

 

一瞬、喜ぶような仕草を見せたが次の瞬間には申し訳なさそうな顔に戻っていた。

 

「そうか・・・ベル、リリルカをもう少し治安の良い所まで送ってやってくれ」

 

「シキは?」

 

「俺は夕飯の買い物行ってくる」

 

「分かった」

 

「じゃあ、リリルカ明日も頼むな?」

 

「はい、シキ様」

 

俺は商店街に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ということがあってさぁ」

 

俺が付け合わせを作り終えハンバーグの種を作っているとベルが帰ってきた。

ベルはあの後リリルカと別れるとギルドへ行ったそうだ。

そこでエイナにヘスティアナイフが無いことを指摘されヘスティアナイフを無くしたことに気付いた。

ナイフを探してるとリリルカと出会いリリルカを追うように来たリューとシルにも出会った。

リューとシルは男のパルゥムを追っていたそうだ。

そのパルゥムが持っていたのがヘスティアナイフだった。

それを回収したリューがベルに手渡した。

 

「そうか・・・」

 

恐らく犯人はリリルカだ。

姿を変化させたのは・・・魔法だ。

魔道具という可能性も残っているがそれはない。

最底辺の魔剣ならまだしも、そんな高性能な魔道具は数千万ヴァリスから、下手したら数十億ヴァリスはする。

そんなものLv.1、しかもサポーターが所持しているわけがない。

 

「ベルはどう思うんだ?」

 

「えっと、僕が落としたのをパルゥムの人が拾って、その人がまた落としてリューさんが拾ってくれた?」

 

「そうか・・・」

 

ベルは純粋だ。

だからこそ守ってやりたい。

いざというときは俺が前に出て守ってやろう。

 

「それが、兄貴分だもんな」

 

俺はそう呟いた。

 

「何か言った?」

 

「何でもねぇよ」

 

俺は微笑んでそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハンバーグまだ~?」

 

「もう少し待ってろ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十七話

「にしても、リリルカ」

 

「はい、何でしょうシキ様?」

 

「そのバック重くないか?」

 

魔石やドロップアイテムなどで膨らんだバックを指差して言った。

 

「そうだよね。リリは僕たちのお腹ぐらいしか身長無いし。大変じゃないの?」

 

「心配はお無用ですよ、シキ様、ベル様。リリも『神の恩恵』を授かっている身ですからね、荷物が嵩張ったくらきでへばったりしません」

 

いや、まあ、分かってはいるんだけどさ。

十歳くらいの女の子に荷物運びさせる二人の青年って事案が発生しそうな気がするんだが。

 

「それに一応リリにはスキルの補助があるので、万が一にも運搬作業で足手まといになることはありえません」

 

「いいなぁ、僕はスキルも魔法もないんだよ。あ、でもシキは魔法あるよね」

 

「馬鹿か!お前は!ステイタスは他のファミリアの奴の前で言う物じゃねぇだろ!」

 

「あ!ゴメン!」

 

「シキ様は魔法をお持ちなのですか?」

 

リリルカが首を傾げて言った。

 

「・・・はぁ。ああ、持ってるよ」

 

「どのような魔法なのでしょうか?」

 

「投影って言って魔力を媒介に武器を作る魔法だ」

 

「はぁ」

 

リリルカはシックリこないのか首を傾げていた。

 

「しょうがないな・・・投影、開始」

 

俺は前にベルが使っていた初心者用の短剣を投影した。

 

「・・・すごい」

 

「この程度なら少しの魔力で作れる。一応解析しないと投影できないのが難点だけどな。大抵の武器なら視覚で捉えるだけで投影出来る」

 

リリルカは開いた口が塞がらないといった感じだ。

その横で俺は用済みになった短剣を消した。

 

「あのー。もしかしてベル様の短剣も投影できるのですか?」

 

「出来なくもないと思うがあれ程になると投影した物のランクが少し下がるな」

 

「そうですか・・・」

 

リリルカは表情を陰らせる。

 

「あ!あとさ、本当に契約金とか前払金はいいの?」

 

ベルが雰囲気を変えようと唐突にそう言った。

 

リリルカとはダンジョンに入る前に契約の儀式の真似事をした時に自分の収入はダンジョン探索の分け前だけでいいと。

 

「ええ、御二人もその方が楽でしょう?」

 

リリルカは俺とベルに隠して歪んだ笑顔浮かべた。

まあ、俺は見えてたんだけどな。

何と言うかその笑顔が気に食わない。

リリルカがじゃないそんな笑顔をさせてしまっている環境が彼女を包んでいることが凄く気に食わない。

だからって俺は何もできない。

でも、リリルカ自身が望めば俺は出来る限り手を貸したい。

 

『シキはお人好しだな』

 

うるせ、五歳のガキを拾って一端の男に育てたお人好しには言われたかねぇよ。

俺は唐突に父さんに言われたことを思い出した。

 

「さあ行きましょう。御二人が頑張ってリリの食いぶちを増やしてくれれば、何も問題はありません!」

 

リリルカの言葉に俺は思い出の中から戻ってくる。

 

「・・・そうだな」

 

「う、うん」

 

リリルカは歩き出すと急かすように振り返った。

その時、リリルカの瞳は絶望ような闇を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「36000ヴァリス・・・」」」

 

「「やあぁーーーーっ!」」

「しゃあぁーーーーっ!」

 

まさかここまで稼げるとは思わなかった。

 

「夢じゃないよね、ってシキいひゃい!」

 

俺はベルの頬を引っ張った。

 

「さすがです!御二人様!」

 

「いやいや、ほら、兎もおだてりゃ木に登るって言うじゃない? それだよ、それ!」

 

「いや、意味わかんねぇよ!」

 

「僕も分かんない!」

 

「「おい!」」

 

俺達は周りから見て絶対変なテンションになってるだろう。

 

「では、そろそろ分け前を頂けませんか?」

 

「ほれ」

 

俺はリリルカに12000ヴァリスの入った麻袋を手渡した。

 

「・・・・・へ?」

 

「これなら、中華鍋が買える・・・」

 

俺は無意識に呟いた。

高火力魔石式コンロと中華鍋があれば料理のレパートリーが増える!

 

「シ、シキ様、これは?」

 

「何言ってんだ?分け前に決まってんだろ?」

 

「そうだ!一緒にご飯食べに行こうよ!いいお店知ってるんだ!」

 

「そりゃあいいな!」

「じゃあ、行こうリリ!」

 

「行くぞリリルカ」

「・・・二人だけで独占しようとか・・・思わないんですか?」

 

「は?お前が居なかったら戦闘が五回は少なかった。これは正当な分け前だ」

 

「そうだよ、リリ!僕等は仲間なんだから分け前が山分けは当然だよ!」

 

ベルがリリルカに手を差し出す。

リリルカはおすおずと自分のものと重ね合わせた。

俺はそれが仔犬のようでつい頭を撫でてしまった。

 

「・・・変なの」

 

その本心からの呟きをベルは聞き逃した。

ちなみに俺はしっかり聞いて微笑ましい気分になっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十八話

「ぬぁぁぁぁぁっ!」

 

朝起きたら駄神(ヘスティア)が二日酔いになっていた。

昨日ミアハさんと飲んでいて泥酔したところをそのまま送ってきてくれた。

飲み代はミアハさんが払ってくれたらしい。

その時、泥酔した理由を聞いた俺はそっとミアハさんに2000ヴァリスを握らせた。

 

「ほら持ってけ」

 

俺はハチミツを入れたホットミルクを木のコップに入れベルに手渡した。

 

「うー、シキ君ありがとう・・・」

 

俺はベルと自分の分のホットミルクをコップに入れるとミルクを暖めた鍋を洗い始めた。

 

「ベル今日は休みにするか?」

 

「そうだね」

 

俺は鍋を洗い終わるとベルにホットミルクを手渡した。

 

「ん!美味しい!」

 

「父さんが二日酔いした時に飲ませたら元気になったからな。ハチミツの量は俺の好みだ」

 

「ふーんだ!ベル君とシキ君は昨日美味しい料理を食べてきたんだろ!ボクはおつまみ無しで安酒さ!」

 

「つまみ無しで酒飲んだのか?そりゃ悪酔いするわけだ」

 

「あーあ、僕も行きたかったなぁ!」

 

「なら二人でいってこいよ。どうせ今日は休みにするんだろ?」

 

「え?シキは?」

 

「俺は今日は久しぶりに弓の練習をしようと思ってるしな」

 

俺はヘスティアの耳元によると。

 

「頑張れよヘスティア」

 

と呟いた。

 

「うん!シキ君!」

 

「神様、体調は?」

 

「ホットミルクで直った!」

 

んなわけねー。

まあ、病は気からって言うしな。

ヘスティアは自分が酒臭いのに気づくと。

 

「ベル君六時だ!」

 

「は、はい?」

 

「六時に南西のメインストリート、アモールの広場に集合だ!」

 

ヘスティアは何やら着替えとタオルを持ってホームを飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ」

 

オラリオ郊外の森で弓の練習をしている弓と矢は投影した。

まあ、弓は短剣よりも消費魔力が多いが矢は短剣の五分の一程度なので問題はない。

 

「止まっている物に対しての命中率は100%と」

 

ちょっとした大木に二十本ほど射ったがすべて命中した。

まあ、投影するときの一瞬でイメージを固めるのに比べたら楽なもんだ。

 

「矢に細工でもしてみるか?」

 

今のだったら上層の魔物なら倒せるだろうが10層を越えたら難しくなるだろう。

ならどうにかして矢を強化するしかない。

 

「矢を投影するときに魔力をより多く込めてみるか?」

 

投影(トレース)開始(オン)

 

今度は五倍の魔力を込めて投影した。

矢を投影すると俺はざっと見た中で一番大きい木に向かい矢を放った。

すると・・・。

 

「いやこれは無いだろ」

 

矢が大木を貫通しその後ろの木に刺さっていた。

 

「やり過ぎたな・・・」

 

弓の腕も落ちてないことだし帰るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

森から戻ると昼頃になっていた。

バベルでシャワーを浴び帰ってくるとホームの辺りで何やらこそこそしている者がいる。

 

「ん、お前はヘスティアの所の・・・」

 

「シキ・クレンですタケミカズチさん」

 

「おお!シキだったな」

 

「えっと、今日は何用で?」

 

タケミカズチさんは極東の国から来たヘスティアのちょっとした知り合い何だそうだ。

 

「うむ、今日は我等のファミリアで米が出来たのでなお裾分けだ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

正直助かった。

最近、米の値段が上昇してるからな。

 

「そうだ、良かったら」

 

俺は地下室に行くと一昨日に浸けたキュウリの浅漬をタッパに入れて手渡した。

 

「少ないですが」

 

「いやいや、これは旨そうだ!」

 

「良かったらファミリアの方とどうぞ」

 

「うむ、今日もいい食事になりそうだ!」

 

タケミカズチさんは、ではなと手を降ってホームから離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、買い物にでも行くかな」

 

俺は財布を持ち商店街へと向かった。

商店街に着くと鶏肉と卵と葱を買った。

どれも今日安売りだったためつい買ってしまった。

 

「でも、いい買い物できたな」

 

ふと前を向くと見覚えのある後ろ姿があった。

スーツできっちり固めたハーフエルフ・・・エイナだ。

 

「おーい、エイナ」

 

エイナは聞こえないのかそのまま歩いている。

歩いているのだがふらふらしながら歩いている。

と、その時エイナの体が倒れた。

 

「エイナ!」

 

俺が駆け寄ると地面に頭が着く寸前で抱き止めることに成功した。

 

「息が荒い。熱は・・・熱っ!」

 

ざっと、39度ってところか。

俺はエイナを抱き上げると前に聞いたエイナの家のある通りまで駆け出した。

 




もう、エイナがヒロインで良いんじゃないかと思う今日この頃。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十九話

「ん」

 

夕焼けも暗闇に染まる寸前、午後七時になるという頃エイナは自身の住んでいるギルドの集合住宅の自室で目を覚ました。

 

(あれ?私、商店街に居たはずじゃ?)

 

「目が覚めたか」

 

エイナの部屋に隣接するキッチンからシキが顔を除かせた。

 

「シ、シキ君!?」

「勝手に邪魔してるぞ」

 

シキは何事もないようにそう言った。

 

「な、何でシキ君が・・・」

 

「お前、商店街で急に倒れたんだよ。ギルドの集合住宅に住んでるのは知ってたから運んできた。鍵は大家に借りた」

 

シキは林檎を擦りおろすと皿に盛り付ける。

蛇口を捻りホームに一旦帰り持ってきた料理道具の一つのおろし金を洗った。

 

「そ、そうなんだ」

 

「ほら、今お粥作ってるから少し腹に入れとけ。急に熱いの入れると胃がビックリするからな」

 

エイナはシキから差し出された林檎の皿を受け取りスプーンで林檎を口に含む。

 

「甘い」

 

「そっか、熱は無さそうだな」

 

シキはそっとエイナの額に手を当てた。

 

「え!?何するの!」

 

「熱は計んないとダメだろ?えっと、37度ちょいって所か。熱も下がったな」

 

エイナは顔を真っ赤に染めてしまった。

 

「おい!また熱くなったぞ!?」

 

「大丈夫だから!」

 

「お、おう。じゃあ、お粥を仕上げてくる」

 

シキはそう言ってキッチンに戻っていった。

 

 

 

 

シキside

 

「ふう、どうしたんだっての」

 

俺はお粥の鍋を見ながらそう呟いた。

そうだ、塩入れないと。

しかし、塩が入っていただろう容器には塩がなかった。

 

「エイナー塩借りるぞ」

 

俺は棚を開けながら言った。

 

「いいよー」

 

エイナの声が部屋越しに聞こえた。

 

「えっと、これか?」

 

塩を探していると見つけてはいけないものを見つけてしまった。

 

『絶対に痩せる!これで理想のエルフに!【エルフ青汁】』

 

よし、俺は何も見てない。

見てないったら見てない。

と言うか、絶対に騙されてるぞ。

ってこれ一袋しか使ってないぞ。

 

「不味かったんだろうな・・・」

 

俺はそれ以降無言で調理を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しかったよ・・・確かに美味しかった・・・。けど・・・っ!」

 

エイナはお粥を食べ終えた後そう悔しげに呟いた。

 

「お、おい。どうした」

 

「なんで・・・何でシキ君が私より料理上手なの・・・」

 

「は?」

 

『覚えておけよシキ。旨すぎる男の料理は時に女のプライドをズタズタにするんだ』

 

「ああ、こういう意味だったのか」

 

父さんの一言を思い出した。

あの時は父さんの料理が壊滅的だった言い訳かと思ったんだが。

まさか本当だとはな。

 

「なんか、すまん」

 

「謝らないで・・・惨めになるから」

 

「悪い」

 

俺はエイナが食べ終わった後の食器を片付けた。

洗い物も済んで戻ってくる。

 

「あ、そうだ。エイナ今日泊まるから」

 

「うん・・・って、ええ!?なんで!」

 

「弱ってるお前放っておけないだろ。お前少し体調よくなると無茶しそうになるし」

 

「・・・」

 

エイナは否定しなかった。

自分にも思い当たる節が有るのだろう。

 

「まあ、お前が嫌ってんなら帰るけど」

 

「嫌って訳じゃないけど・・・」

 

「なら、いいか?」

 

「うん・・・分かった」

 

エイナは仕方なくといった表情で肯定した。

 

「でも、シキ君の分の布団を出さなきゃ・・・」

 

「いや、俺はタオルケットでもあれば大丈夫だ」

 

「タオルケットならタンスの一番上に・・・あ!絶対に三段目を開けないでね!」

 

エイナはタンスの一番上を指差して言った。

三段目に何があるんだ?

・・・下着か?

「分かった」

 

俺は三段目を開けたい気持ちを押さえ一番目を開けてタオルケットを取り出した。

 

「もう、寝るか」

 

「うん。そうだね」

 

俺が証明の魔道具のスイッチを切ると部屋の光源は月の光のみになった。

 

「お休み」

 

エイナの声がした。

 

「ああ、お休み」

 

と、小さく返した。

その後、すーすー、と寝息を立てる音だけが聞こえたので俺は目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

エイナside

 

私が眠る演技をすると直ぐにシキ君は眠りに就いた。

私は物音を立てずに布団から出てタオルケットにくるまって眠るシキ君を見た。

寝息を立てながら眠るシキ君はいつもの大人びた雰囲気とはガラリと変わり年相応・・・いや、それ以上に子供っぽい寝顔をしていた。

 

「いつも、頑張ってるんだよね」

 

たぶんシキ君は『自分が頑張らないといけない』と無意識に気を張ってしまっているんだろう。

きっとこの寝顔こそが本来のシキ君なのだろう。

イタズラ好きで子供っぽいそれこそがシキ君の本当の正確なのだと思う。

そんな16歳の少年が19の私と遜色ない・・・いや、私より大人びているのは、きっと誰よりもシッカリしなきゃいけないと思ってしまっているからなのだろう。

 

「シキ君は頑張ってるんだよね」

 

私はシキ君の頭を軽く撫でた。

その髪はサラサラでちょっと羨ましかった。

私はこっそりとシキ君の前髪を上げて・・・。

 

「大好きだよ・・・シキ君」

 

そう言って彼の額にキスをした。

本当は唇にしたかったけど恥ずかしかったので額にした。

 

「それに・・・唇は起きてるときが良いな」

 

私は物音を立てず布団に戻っていた。

最初の一分くらいは恥ずかしくて寝れなかったが、やはり体が休息を求めているのか直ぐに眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シキは夜の中、目を開けた。

これが意味することは明確だ。

つまり、シキは起きていた。

エイナに頭を撫でられたときも。

エイナが額にキスしたときも。

起きてるときに唇にキスをしたいと言ったときも。

シキは顔を赤くしないために全力を注いでいたために顔が赤くなりばれることはなかった。

 

「起きてるよバカ」

 

シキは一言そう呟いた。

その一言は幸運にも誰にも届かず夜の闇に消えた。

 

次の日、起きたシキはエイナが起きるのを待ってから何事もなかったようにベル達の元へ向かった。

 

 

 

 




はっ!
六巻の内容でアポロンがソーマファミリアを連れてきて2対1を申し込んできてアイズとフィンにシキとベルが1日だけなら何でも言うことを聞くという条件で連合を組むことになり。
ヘスティア・ロキ連合対アポロン・ソーマ連合
という構図が浮かんだ!

勇者「蹂躙せよ!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話 魔法と名前

「これは・・・」

 

ダンジョンから帰るとベルが寝ていた。

そこは大して問題ではない。

寝る前にベルが読んでいた本が問題なのだ。

 

「『ゴブリンでもわかる現代魔法』ね」

 

これは、あれだ。

魔導書(グリモア)だ。

昔、父さんに読まされた。

俺の読んだやつは『ドラゴンでもわかる古代魔法』だったな。

どっちも教えちゃいけないだろ。

 

「ベルは何を願ったんだ?」

 

俺が魔法に願ったのは『父さんのように強くなりたい。いつか偽物の俺が本物になるための力』だった。

そろそろ起こすか。

 

「ベル起きろ」

 

「ん・・・シキ?」

 

ベルが気怠そうに目を開けた。

 

「おはよう。いい夢見たか?」

 

「うーん。あんまり覚えてないや」

 

「そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘスティアがベルのステイタスを更新していると。

 

「魔法が・・・」

 

「は?」

 

「どうしたんだ?」

 

「ベル君に魔法が発現した」

 

ヘスティアは驚愕に顔を染めて言った。

 

「やっ「まあ、魔導書読んだしな」へ?」

 

「シキ君。今なんて言ったんだい?」

 

「ん?魔導書のことか?」

 

「魔導書・・・どうしよう」

 

「ちなみに魔導書って幾らなんだ?」

 

俺は父さんの前に居たファミリアのメンバーに貰ったのを読ませてもらった。

 

「少なくとも七千万ヴァリス以上」

 

「燃やすか」

 

「ええ!?ダメだよシキ!」

 

ふざけるな!もう二億も借金があるのにこれ以上増やせるか!

 

「明日豊暁の女主人に行ってくる」

 

「ああ、逝ってこい」

 

「何かおかしくない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

夜寝ているとベルが外に出ていった。

 

「やっぱり、魔法を試しに行ったのか」

 

俺が行かなくても何とかなるだろうが・・・。

 

「はぁ、仕方ない」

 

俺はコート・オブ・ヘスティアの軽装部分以外を装備しヘスティアを起こさないようにダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七階層に到達した頃ベルの気配を感じた。

しかし、それに気づくと同時に他の人間の気配を感じた。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

俺は弓と矢を投影して構え近づいていく。

 

「動くな!」

「・・・動かないで」

 

俺の声と聞き覚えのある声が重なった。

 

「アイ・・・ズ?」

 

「・・・シキ?」

 

そこには二週間ほど前に出会った少女が居た。

アイズは剣を構えていた。

・・・ベルを膝に乗せながら。

 

「何してんだ?」

 

「償い」

 

「は?」

 

償い?

 

「この子を怖がらせた。この子を貶した」

 

「お前が貶したわけじゃないだろ」

 

実際アイズが貶したわけではない。

悪いのは発情狼(ベート)だ。

 

「悪いのは狼野郎だろ」

 

「それでも」

 

アイズはベルの髪を撫でながら言った。

ベルを見つめる瞳には後ろめたさがあった。

 

───ああ、アイズはベルとは違った純粋さの持ち主なんだ。

 

例えるならベルの純粋さは少年特有の純粋さだ。

何もかもを良い方向に考えてしまう。

そんな純粋さだ。

それに対してアイズの純粋さは赤ん坊のような純粋のような気がする。

自分の感情に真っ直ぐなんだ。

それはきっと、良い方向にも悪い方向(憎しみ)にも・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はダンジョンの壁に背中を当ててベルが起きるのを待っている。

二時間ほどが経っただろうか。

あれから二時間。

そろそろ、深夜三時くらいか。

小腹が空いてきたな。

 

「握り飯でも持ってくれば良かったか?」

 

「お腹空いたね」

 

「悪い聞こえてたか?」

 

くぅー

 

可愛らしい音が聞こえてきた。

アイズの腹から。

アイズの顔を見ると真っ赤になって顔を伏せていた。

 

「くくく」

 

「・・・笑わないで」

 

「悪い悪い。ベルが目覚めたら三人で飯でも行くか?」

 

「・・・ジャガ丸くん」

 

あの屋台は九時からだったな。

 

「ジャガ丸くんだったらまた今度だな」

 

「・・・うん。楽しみにしている」

 

アイズがベルの髪をもう一度撫でる。

 

「おかあさん」

 

『〇〇〇〇〇』

 

ベルの言った母という言葉により過去の記憶が一瞬蘇り言葉を思い出す前に消え去った。

輪郭しか分からないが綺麗な女性。

それが母親だということは分かっている。

五歳より前の記憶。

つまり、父さん(ゼクス・クレン)に拾われる前の記憶がない。

ついでに言うと俺の本名はシキではない。

シキという名は父さんが着けてくれたものだ。

しかし、本名を知っても俺はシキと名乗るだろう。

それだけこの名前には愛着がある。

 

「ごめんね。私は君のお母さんじゃない・・・」

 

「・・・え」

 

ベルの顔を見るとうっすらと瞳を開いていた。

 

「起きたかな・・・?」

 

「目、覚ましたか」

 

ベルはゆっくりと上半身を起こすと。

 

「幻覚?」

 

「・・・幻覚じゃないよ」

 

アイズがむっ、と頬を膨らませていった。

俺はそれを端から見て笑っていた。

 

「だぁあああああああああああああ!?」

「あ、逃げた」

 

ベルは顔を真っ赤にすると全力で駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何で、いつも逃げちゃうの?」

 

アイズの寂しそうな声がダンジョンへと消えていった。




シキの本名は原作によって伏線の具合が変わっていきます。
自分はWeb版を読んでないので展開を知りません。
まあ、クライマックスになったら回収すると思います。
本名もちゃんと考えてはあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十二話

今日の探索はリリルカが今日中に纏まった金額を稼ぎたいということで第十階層に挑むことになった。

しかし・・・。

 

「悪い、ベル本拠(ホーム)に忘れ物しちまった」

 

「え、大丈夫なの!?」

 

「必要な物だから取ってきたい。だから、先に行ってくれるか?」

 

「う、うん。分かった。行こう?リリ」

 

「は、はい」

 

肯定するベルにリリルカ。

二人は第十階層に繋がる階段を降り始める。

 

 

 

俺は二人が階段を降りるのを確認すると気配を消しある人物を探し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリルカside

 

 

────やった!やってやりました!

 

リリはベル様からあの、ナイフを奪ってやりました!

やっと、あのファミリアから抜けられる!

 

「あの、地獄のような日々から抜け出せる・・・!」

 

リリの人生は辛いだけでした。

ソーマ・ファミリアに所属する両親だった人が性欲を満たす為だけにした行為で生まれた子供。

それが、リリ。

リリルカ・アーデです。

両親からの愛なんてなかった。

両親はお金を手に入れるための道具としてリリを育てました。

神酒(ソーマ)を手に入れるための道具として。

リリが所属するファミリア【ソーマ・ファミリア】の主神ソーマ様が造るお酒。

それが、神酒です。

神酒は不出来な物でも数万ヴァリスで取引されます。

それの完成品を飲ませて。

また、飲みたければ金を納めろという方式でソーマ・ファミリアは成り立っています。

リリは飲んだことはありません。

飲むことを拒否してきました。

飲んだら抗えずにあの人達(両親)と同じ神酒の為だけに働く歯車に成り下がってしまう気がするから。

 

「抜け出せたら昔迷惑を掛けたお花屋さんに謝りに行きたいな」

 

出来れば、また・・・・

楽しい想像が止まりません。

しかし、

 

────リリ

 

────リリルカ

 

数日だけ一緒にダンジョンに潜った兄弟の様に仲の良い二人の冒険者の声と共に罪悪感が蘇る。

こんな事は一度も無かった。

裏切り裏切られるのが世の常だと知っていたからです。

 

────今更、何で!

 

その時、リリの頭に二人は元々裏切るつもりは無かったのではという考えが浮かびました。

 

────そんなのは認めない!認めてはいけないんです!認めてしまったら・・・

 

リリは頭を振ってその考えを振り払った。

第八階層に入った瞬間・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、アーデ」

 

 

 

 

 

 

 

そこに見知った大嫌いな顔を見つけてしまった。

ソーマ・ファミリアのLv.1冒険者犬人(シアンスロープ)のカヌゥでした。

 

「何・・・で」

 

「お前結構溜め込んでるらしいじゃねぇか。分けてくれよ助け合いだろぉ?」

 

「い・・・嫌」

 

「ああ!?な~に言ってるんだよ!テメェに選択肢なんて無いんだよ!」

 

「グフッ!」

 

カヌゥがリリのお腹を蹴り飛ばしました。

そして、私のマントを剥ぎます。

 

「きゃっ・・・!」

 

「グヘヘ!良い物持ってんじゃねぇか!」

 

リリのマントの中から赤い炎のような刀身を持つ短剣リリの秘密兵器の魔剣を奪い去ります。

 

「そ、それは!」

 

「うるせぇ!」

 

───何でこんな事に

 

いや、リリは分かっています。

シキ様とベル様を裏切ったからです。

きっと、御二人を裏切らなければ何とかまではいかなくてもこの人からは守ってくれたかもしれない。

 

───ごめんなさい

 

信じられなくてごめんなさい。

都合のいい話かもしれない。

それでも・・・。

 

「・・・助けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、良い姿じゃねぇかリリルカ」

 

「シキ・・・様?」

 

そこには黒い髪を靡かせた数日だけパーティを組んだ青年が居た。





次の話が個人的に二章のメインのつもりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十三話 後悔と弟子

「はぁ、そんなこったろうと思ったよ」

 

俺は岩の影からリリルカを強いたげる声を聞いていた。

事は簡単だ。

リリルカは俺達に何かを仕掛けるつもりなのに気づいた俺は確実にリリルカと二人きりになれる場所を探した。

結果、リリルカを嵌めようとしていた男の一人であろうリリルカと揉めていた男を見つけその近くの岩に隠れていた。

男の仲間がリリルカを見つければ尾行し男が見つければそいつを追い払えば良い。

それでも、黙って傍観してるなんてベルに対する裏切りだ。

 

「んなこと始めっから分かってるよ」

 

それでも、リリルカはケジメを付けなきゃいけない。

それでも・・・。

それはきっと搾取や死ではない筈だ。

 

「・・・助けて」

 

リリルカの悲痛の叫びが洞窟型のダンジョンに虚しく消えていった。

 

「っ・・・!」

 

俺は無意識に岩の影から出ようとしていた。

俺は気づかずに歯を噛み締めていた。

 

「ああ、これは駄目だ」

 

ったく。

父さんのこと言えねぇな。

 

「おいおい、良い姿じゃねぇかリリルカ」

 

俺は岩の影から出てリリルカを嘲笑うように言った。

 

「シキ・・・様?」

 

「テメェは・・・ああ、こいつに騙された奴か。おい、お前もこいつをハメ殺そうぜ」

 

ソーマ・ファミリアの・・・なんだっけ?

リリルカがなんか言ってたような。

まあ、屑で十分か。

ソーマ・ファミリアの屑がそう下品な笑顔で言った。

嵌めるが違う意味に聞こえるんだが。

主に陥れるじゃなくて性的な意味で。

 

「ふーん。それも良いかもな」

 

俺はリリルカに近づく。

 

「だろ?一発目はお前に・・・「なんて言うと思ったのか?」え?」

 

俺は屑との距離を瞬時に詰めると右手の莫耶で屑の左腕を斬り飛ばした。

というか、やっぱりそっちの意味かよ。

 

「ぐあぁぁぁぁ!」

 

屑の苦痛から生じた叫びがダンジョンに響く。

 

「テ、テメェ何しやがる!」

 

「ほう、腕を飛ばされて直ぐに喋れるのか。流石に神の恩恵(ファルナ)を受けているのは伊達ではないようだな」

 

俺は感心したように苦痛に耐える屑を見下した。

 

「テメェ!」

 

「次は右腕をもらう」

 

ピタッと屑の動きが止まる。

 

「その次は左足、そのまた次は右足」

 

「何を・・・」

 

屑の顔が段々と青白くなっていく。

 

「最終的には首を貰う」

 

「テメェそんなことをしたら死刑・・・」

 

「ならねぇよ。一応パーティメンバーが襲われたんだ。正当防衛が成立する」

 

「ふざけんな!」

 

「お前の言い分なぞ知らん。こいつの罪は俺が決める。二度とこいつに近づくなよ?次にリリルカにちょっかいを掛けたり嘘をついたならば・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命の保証はしない(殺すぞ)

 

屑は顔を青冷めさせ逃亡した。

厄介な置き土産を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、リリルカ」

 

「シキ様?何故此処に?」

 

「お前に聞きたいことがあったんだ」

 

「え?」

 

リリルカは恐らく自分の手で決着を着けたかったとでも思っていたのだろう。

 

「お前は後悔しているか?」

 

「え?」

 

「え、じゃねぇよ。あの屑に襲われたときベルを裏切ったことを後悔しているのかって聞いてるんだ」

 

リリルカの顔が陰る。

良く見るとリリルカは唇を噛み締めている。

すると、リリルカは決心した様に口を開いた。

 

「後悔・・・しています」

 

そのリリルカの声は辛そうだった。

 

「何故?」

 

「裏切ってしまったこと・・・そして、自分が裏切るという手段を取るくらい弱いことに・・・」

 

「強くなりたくはなかったのか?」

 

「成りたかったですよ!でも!」

 

「お前は強くなろうとしたのか・・・お前は努力したのか?」

 

俺はリリルカの叫びを遮るように言った。

 

「え?」

 

「毎日、得物を素振りするでも随分違う。そんなことを一つでもしたのか?」

 

リリルカの表情がさらに陰る。

 

「・・・してません」

 

「はぁ、どうせ小人族(パルゥム)だからって諦めてんだろ?」

 

「そうですよ・・・小人族は他の種族より弱い。人間族(ヒューマン)の劣化盤なんて言われています!」

 

「しかし、ロキ・ファミリアの勇者(ブレイバー)フィン・ディムナも小人族だぞ」

 

「あの方はファミリアに恵まれています!あんな巨大なファミリアなら強くなって当たり前です!」

 

「ふざけるな!フィン・ディムナが恩恵(ファルナ)を受けた時彼のファミリアは彼一人だったそうだ」

 

リリルカは開いた口が塞がらないといった様子だ。

 

「俺がお前を強くしてやる」

 

「え?」

 

俺はある短剣を投影する。

刀身はチンクエディアの様であり柄には宝玉が嵌め込まれておりこの世の言語ではないようなAZOTHという記号が書かれている。

 

「これは魔力を溜め込む短剣アゾット剣・・・を改造した物だ。改造したのは俺の父さんだ。本来なら溜め込んだ魔力を魔法を使うときに足しするだけだが。このアゾット剣は溜め込んだ魔力と己の意思で唯一度だけ望んだ魔法を発動させるものだ。まあ、強すぎる能力ゆえに意思が弱かったら発動しないけどな」

 

「これをリリに?」

 

「その代わりにお前は俺の弟子になるんだ」

 

「弟子?」

 

「ああ、俺は誰かを育てられるほど強くはない。けどな、俺はリリルカお前を強くするって約束してやる」

 

「リリは・・・」

 

俺は刀身を刃に触らないように持ちリリルカのギリギリ手が届く位置に柄を差し出した。

 

「強くなりたければこの剣を取って立ち上がれ」

 

リリルカは震えながら手を出してくる。

リリルカの目にはまだ怯えが残っている。

 

「大丈夫だ。俺がお前を強くしてやる」

 

「・・・はい!」

 

リリルカがしっかりとアゾット剣の柄を握った。

 

「さあ、弟子よ。最初の試練だ」

 

「はい?」

 

思いっきり忘れていたがあの屑が残した厄介な置き土産とは。

"死にかけ"のキラーアントだ。

キラーアントは死に貧すると仲間を呼ぶフェロモンを出す。

つまり、

 

「キラーアントの団体さんの御到着」

 

「ええ!?」

 

俺たちの周囲に十五を優に越えるキラーアントの群れが出来ていた。

 

 

 

 




ちなみにキラーアントさんは空気を読んで。
「行くか?」
「いや、待ってようや」
「せやな」
みたいなことをして待っていました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 5~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。