吼ゆる狼の見る世界 (烏兎)
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第一話『出陣』

かつて夢を語り合った友がいた

 

俺も友も親の顔すら知らぬ孤児だった

 

本来親から授かるべき真名すら持たず

 

落ちていた書物から文字を学び

 

お互いの真名を考えあった

 

俺は『吼狼』と

 

アイツは『柑菜』と

 

独学で兵法を学び

 

武術を鍛え

 

いつかはどこかに仕官して

 

俺が将軍になりアイツが軍師になって

 

共に戦場を駆け抜けて

 

出自など関係無いと

 

努力さえすればここまでやれるのだと

 

いつか証明したいと語り合った

 

だが・・・・そんな日々も長くは続かなかった

 

『柑菜』が死んだ

 

流行病だった

 

医者に見せる金もなければ

 

見せるべき医者もいなくて

 

最後に『柑菜』は

 

死の間際であるにも関わらず笑顔で言った

 

『大丈夫、君はボクよりずっと頭が良いし腕っ節もある。いつか必ず、君とボクの夢を理解してくれる主君もみつかる・・・・だから』

 

『生きて、ボクの分まで』

 

だから

 

俺は・・・・・・・・

 

―――――――――

 

「・・・・っ、また夢か・・・・」

 

何時もの夢、あの頃の事が走馬灯のように巡り最後にはあの日の光景で夢が終わる。一体、何が言いたいんだアイツは。アレで言いたい事は終わりじゃないのか?だが夢の中では、最後に僅かに口が動いていた。だが声を発しない、そこで俺の夢の方が醒めてしまうのだ。

 

「ホントは俺より頭がイイくせに・・・・いつもいつも言葉足らずなんだよ、アイツぁ」

 

ボリボリと頭を掻きながら、傍らに置いていた大矛を手に取って、それを支えにして立ち上がる。アイツを失ってから十年、どこに仕官するにも家柄や財力が重視される今の時代で俺みたいな貧民がまともに相手にされるわけが無い。試行錯誤を重ねた結果、俺と同じで・・・・仕官したくとも出来なかった奴らを集めて傭兵として動く事にした。

 

「李厳様」

 

李厳、字を正方。それは俺が傭兵稼業を始めた時に世話になった恩人から『名無しが頭目ではカッコがつかんだろう?ならばワシが名をつけてやろう』とつけてもらった名。正直気に入っている、と言うか妙にしっくり来ている。

 

「どうした?」

「巴の厳顔将軍から出兵要請です、戦場は荊州との境界線。相手は五百の賊、この討伐に魏延殿が宛てがわれるのでその側面援護を求むと」

「分かった、張翼と姜維に準備させとけ」

「はっ!」

 

傭兵部隊『飛雷(ひらい)』、総兵数三百の少数精鋭部隊だ。まぁ言ってしまうと、無所属で自由契約だと意地していくのがこれぐらいで限界なわけだ。大きな戦でもあれば別だが。歩兵しかいないが機動力をウリにしており、益州軍に協力して遊撃任務を主として殿軍、拠点防衛、拠点建造と様々な経験を積み、今では事実上益州軍との専属契約を結ぶような形で働いている。

 

「魏延殿はどれほどの兵を連れて来るんだ楓」

「同数の五百、まず遅れは取らないだろうが脇が甘いからその補填を頼む・・・・と書状には」

 

今俺の傍らで書状の内容を読む腰ほどまである黒髪を風に靡かせている少女が黄権、字を行衡、真名を楓。生真面目だが年相応な少女らしさもある『飛雷』の参謀である。元々は成都で軍師見習いとして仕官したらしいのだが・・・・言ってしまえば才能が、頭のデキが良すぎたのだ。昔からの益州名家出身の文官連中からの陰湿な虐めにあい、出奔を考え始めた頃に厳顔将軍の勧めで『飛雷』へと出向。その後、退官届けを提出し正式に『飛雷』へと入隊し今に至る。

 

「・・・・楓、すぐに魏延殿の進軍路を予測。いつでも援護に入れる距離で進軍する」

「はっ!」

 

―――――――――

楓を伴い隊へと戻ると、既に二人の副長が準備を済ませ待機していた。

 

「いつでも出れますぜ、大将」

 

腰から下げた双剣、狐のような細い目の奥に鋭い光を宿す青年が張翼、字を伯恭、真名を蒼真。飄々とした態度の中に確固たる信念を持つ『飛雷』の切込隊長。元は巴郡で暴れまわっていた馬賊に所属していたのだが、その馬賊が討伐された際に逃亡し仲間の仇を討つ機会を伺っていた。用意周到に準備を済ませ、仇である厳顔将軍を討とうとするも偶然近くにいた俺に制圧され捕縛。説得を幾度も重ね、最初こそ首を縦には振らなかったものの最終的には折れて入隊を決意する。

 

「ああ、ご苦労だ蒼真・・・・椿も準備は済ませたか?」

「うん、済ませた。褒めて、ししょー」

 

小柄だが身の丈よりも大きな大槍を肩に担ぎ、どこか小動物のような雰囲気を纏う少女が姜維、字を伯約、真名を椿。言葉は最小、だが戦果は最大の『飛雷』最強の『矛』。早くに両親を失い、形見でもある双刃槍を片手に故郷擁州を出て放浪。各地で賊を討伐し、村からのお礼などで食いつないでいたのだがそれらも無くなってしまい行き倒れていたところを発見したのが剣閣の城塞建築に来ていた俺だった。その後、食料を与え体調が回復するまで世話を焼いてやったところ妙に懐かれ「弟子にして」との申し出が。どうすべきか迷っていたところ、とある人物に「人を育てる事も修行だ」と諭され申し出を受諾、今に至るわけだ。

 

「良くやった」

 

そう言いながら頭を撫でてやると、眼を細め気持ちよさそうにしている。

 

「さぁ、どうせ魏延殿の事だ。後先考えず全速力で先行しているだろう・・・・こちらも最速で追い付きに行くぞ!!」

『応っ!!!』

 

さて、魏延殿があんまり無茶をしていなければ良いがなぁ・・・・




第一話でした。主に吼狼の率いる『飛雷』のメンバー紹介でしたね、原作キャラが本気で出てくるのは三話からの予定になります。


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第二話『軍師』

「あー・・・・大将、斥候役から伝令」

 

蒼真が微妙な表情をして現れたのは、魏延殿とそろそろ合流するかしないかといった頃だった。対外的には飄々として余裕を持った態度をしている蒼真だが、俺ら身内相手だとそうではない。割と表情と言葉に考えや心境が出る、そして蒼真がこういう表情をしている時は・・・・

 

「魏延将軍の隊が賊に包囲されて立ち往生してます、どうやら標的の賊がヤられる前にヤッちまえって事で他の賊と手を結んだみたいですね」

 

あんまり宜しくない報告がある時、と相場が決まっている。しかし包囲されているとは珍しい、益州軍の魏延と言えば爆発力と突破力が近隣諸侯に知れ渡っている猛将だ。それが簡単に包囲されるとは・・・・賊を取りまとめている奴がいる、もしくは・・・・

 

「賊の動きが思ったより良いみたいで、あと逆に将軍の隊の動きがあんまりにも悪いんでもしかしたら新兵が中心なんじゃないですかね?」

 

そう来たか。

 

たかだか賊の討伐、大したこと無い連中なのだから自らの武威を示すと共に新兵の調練をしてしまえ・・・・と。まぁ成程、厳顔将軍が心配になって俺らに救援要請を出すわけだ。

 

「仕方ない、ここからは仕事の時間だ。俺が百を連れて囮になる、蒼真は五十で機を見計らって奇襲を仕掛けろ。楓と椿は残りを連れて包囲が緩み次第魏延殿と合流、隊を立て直し包囲を内側から喰い破れ」

「うーっす」

「はい」

「ん」

 

三人がそれぞれ返事をして、持ち場へと散っていく。それを見送ってから、俺と共に囮役になる百人へと向き直る。

 

「さて、理解しているとは思うが俺たちが最も危険な役目だ」

 

千近くにまで膨れ上がった賊を引き付けなければならないのだ、引きつけすぎても引きつけなさすぎてもダメだ。適度に引きつけ、打ち倒し戦力を削ぎ落とし、蒼真が奇襲を仕掛け楓と椿が魏延殿と合流するだけの隙を作らなければならない。

 

「だがまぁ・・・・ここにいる連中は飛雷でも古株の強者ばかり、そうだろう?」

 

そう、俺が選んだのは飛雷の結成当時からいた百人だ。元馬賊、元山賊、元河賊、元益州兵、元ゴロツキの中でも俺が自ら足を運び勧誘し長く戦場を共にした者たち。蒼真や楓、椿のように隊を動かす才は無かった。それでもそれを補って余りある武勇があった、俺と志を同じくし俺の指示に従い殉じ戦う覚悟を持っていた。だからこそ俺はコイツらをはじめとした飛雷の面々を活かし生かす戦いをするのだ。

 

「さぁ戦だ!」

『オォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

―――――――――

あれから一刻、既に戦況は決しつつある。俺が率いる囮部隊に釣られて動いたのが二百程、その二百の抜けた穴を突いて楓と椿の隊が魏延殿の隊に合流。内側から包囲を食い破り始め、浮き足立ち腰の引けたところを蒼真が狙い奇襲を成功させた。それで全てが決するはずだった・・・・のに、未だに抵抗を続けている敵が僅かながらいる。現在はその僅かに残った五十弱の兵士を包囲している状態だ。

 

「・・・・戦況は動かず、か・・・・蒼真、こっちの被害は?」

 

五十が立て篭るように陣を敷いているのは崖際の高台。表からは攻めづらく、崖であるが故に背後を突く事も難しい。魏延殿とてバカでは無い、それを簡単に包囲してしまうとは妙に戦が上手い賊だと思ったが・・・・成程、その中心にいたのがこの五十人の頭目と言うわけだ。

 

「不幸中の幸いで死者は無し、ですがけが人は三分の一を越えましたね。ったく・・・・のらりくらりと追撃もしてこないもんで、こっちは決め手を欠いてますね」

「・・・・指揮官は割り出せたか?」

「まぁおおよそ、中心で声ぇ張り上げて指示出ししてた娘っ子がいましたから多分ソイツですね」

「成程・・・・欲しいな」

 

人材が多いに越したことはない。近頃では隊を割る事も多い、俺、楓と椿、蒼真と大体が三つになる。蒼真は器用に指揮と将としての働きをこなすし、楓が指揮で椿が将と役割分担がしっかりしている。だが実は俺はそうでも無い、指揮をすれば前には出られず、将として働けば指揮にまで手が回らない。個々の能力ならばそこらへんの奴らにはヒケは取らないと自負しているが、なんとも同時にこなそうとすると上手く回らなくなってしまうのだ。

故に普段は戦闘前に全体に大まかな指示を出し、後は他の判断に任せて戦っている。だがそんな戦い方で通用するのは賊相手ぐらいまでだ、これから先に来るであろう時代に立ち向かうには誰か一人、全体を俯瞰し戦と言う図面を描く軍師の役割を持つ者が必要だ。

 

「しゃあない、着いてこい蒼真・・・・説得してみようや」

「うっす」

 

―――――――――

 

「で?説得つってもどうやるんです?大将」

「それはお前、こうやって・・・・」

 

工程その一、先ずはめいっぱい大きく息を吸い込みます。

 

「おー嬢ちゃんー!!あーそびーましょー!!」

 

工程その二、誘いをかける・・・・ほら、かんぺ・・・・

 

「アンタぁアホかぁあああああああっ!!!」

「ぶべらっ!!?」

 

痛ぇっ!殴ったな!?

 

「どこのガキだアンタは!っつか今時のガキでもあんな誘い方しねぇよ!!」

「おいおい、こっちは説得に来てるんだぜ?先ずは誘いをかける事が重要で・・・・」

「だからってあの誘い方はねぇだろうがよぉ!」

 

くそぅ、コイツもとうとう反抗期か?よろしい!ならば戦争だ、徹底的に・・・・

 

「あの」

 

聞こえてきた声に、俺と蒼真が同時に視線を向ける。そこには帽子をかぶり緑色を基調とした衣装を身にまとった少女、蒼真が「ウソだろ・・・・」ってつぶやいてるって事はこの少女が指揮者と言う事か。

 

「貴方ですか、さっきのお誘いは」

「ああ、そうだ」

 

未だにやや放心状態の蒼真を放置し、俺は改めて少女へと向き直り居住まいを正す。

 

「傭兵部隊『飛雷』の長、李厳だ・・・・キミの名前を聞かせてくれないか?」

「・・・・徐庶、元直」

 

少し躊躇いがちではあるが、それでも名前を聞く事ができた。

 

「まぁ小難しい話をするのもなんだから単刀直入に言おう・・・・俺のところに来ないか?徐庶」

「普通・・・・益州軍に降れ、と言うべきなのでは?」

 

徐庶の意見が本来、最もである。個人的な戦いならともかく今回は益州軍の将、厳顔将軍からの依頼なのだ。普通は一度厳顔将軍に引渡し、然るべき交渉をもってして身請けするべきである。だがまぁ・・・・

 

「そこは色々とあるんでね、なんなら今回の報酬にキミを要求する事すら考えている」

「何故、そこまで私に入れ込まれるのです?私は取るに足らない賊の頭目、この場で討ち取ってしかるべきでしょう?それに先程までの攻め、意図して手を抜いていましたね?」

「さっき言った通りさ、俺は人材としてキミが欲しい。例え新兵中心の編成であったとは言え益州屈指の猛将魏延を封じ込め、また手を抜いたとは言え俺の隊の攻めを敵味方ともに無しで抑えるその軍略がな」

 

そこまでを一息に言い切れば、俺はさらに言葉を続ける。

 

「それに、キミは賊の頭目なのだから討ってしまえと言ったが・・・・そんな偏見で才人を殺す程俺は暗愚では無いつもりだ、何より俺たち『飛雷』はキミの言う取るに足らない賊の頭目だった奴らが多くてね」

「え?」

「皆同じなんだ、昔は大きな志を持っていたのに。世間の厳しさに曝され、腐った現実を知り、志をたたみかけてやさぐれて賊なんぞに身を窶して。それでも諦めきれなくて、俺の馬鹿げた妄言に動かされて、折れかけた志を立て直し共に戦ってくれてる」

 

ホント、俺だって馬鹿げた事を言っていた自覚はあるさ。皆農民か貧民出身でロクに学も無くて、独学で付け焼刃な知識を武器に戦おうとしてたのだ。そんな俺らが掲げた志は、良くて笑われるか、最悪国家反逆で斬られてもおかしく無いぐらい馬鹿げた志。

 

「馬鹿げた妄言、とは?」

 

そしてその馬鹿げた志を共にするバカたちの仲間に、徐庶が欲しいと思った。だから俺は徐庶の問いかけに、笑いながら応えるのだ。

 

「中華を完全な形で統一し、泰平の世を創る・・・・それが俺が騙り始め、バカたちがノってくれた妄言さ」

 

俺の言葉を聞いた徐庶が、俯き少しばかり考え込む素振りを見せる。

 

「・・・・ホント、馬鹿な妄言です。ですが・・・・」

 

上げたその顔には、不敵な笑み。

 

「そんな妄言を『楽しそうだ』と思ってしまった私も、バカなのかも知れません」

「バカで結構、そんなバカの集まりなんだからさ」

「ええ、そうですね・・・・改めまして、徐庶です。以後宜しくお願いします」

「んじゃあ改めて李厳だ、宜しくな」

 

俺が手を差し出せば、徐庶がその小さな手で握り返してくる。

 

「んじゃまぁお仲間になった、って事で・・・・俺は張翼ってんだ。宜しくな」

「奇襲してきた部隊を指揮していた方ですね?」

「お、よく見てるもんだね」

「私の武器は知識と見る事ですので」

 

と、二人がそれなりに良好な初交流を行う中・・・・俺は・・・・

 

「さてさて・・・・厳顔将軍と魏延殿、どうやって説得しようか」

 

上手く事後承諾を得る方法を、模索するのだ。




第二話でした。感想で李厳に姜維、黄権ってスゴいメンバーじゃ?とありましたが・・・・それに輪をかけるように徐庶参入、ゲームだったら最高のバランス力です。
やっと次回から原作キャラたちの登場ですね。


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第三話『潮時』

―益州・巴郡―

草木も眠る丑三つ時、机を挟んで俺の前には三人の女性が座っている。徐庶とその配下の助命嘆願と、引き入れの許可をもらいに来たのだ。

 

「んー、吼狼君らしいと言えばらしいのだけれども・・・・」

 

巴の副将その一、黄忠、真名を紫苑。弓の名手で落ち着いた戦運びをする益州で三指に入る戦巧者。暴走しがちである他二将の抑え、もしくは補佐を行うのが主な仕事。『飛雷』結成当時に世話になったうちの片割れで、椿を弟子に取る事を勧めて来たのもこの人だ。また、俺の弓術の師でもある。一児の母。

 

「私は今回は吼狼に助けられた、その吼狼がそうだと言うならば否応は無い」

 

巴の副将その二、魏延、真名を焔耶。益州屈指の猛将で、バカでは無いが直情的なためか考えるよりも先に身体が動いてしまう。『飛雷』結成時にひと悶着あったが、その結果で認めてもらった。意外と面倒見が良く、新兵たちからも好かれやすい姐御肌。蒼真とは武で切磋琢磨しあう、好敵手のような関係でもあった。

 

「ふむ、それは構わぬ・・・・構わぬが・・・・」

 

そして巴の主将、厳顔、真名を桔梗。轟天砲と呼ばれる杭を射出する絡繰兵器を駆使し戦場を駆ける宿将。頭も良い、腕っ節もある、が・・・・一時の勢いに身を任せるがために紫苑さんの頭を悩ませている。『飛雷』結成に際し最も尽力してくれた恩人で、この人がいなければ『飛雷』は無かったとも言える。

 

「お主とてバカでは無いのだから分かるじゃろう?」

「戦力が過剰、ですか?」

「・・・・・・・・うむ」

 

蒼真や椿は戦場での槍働きが際立ってるし、元々益州軍所属だった楓を引き抜いたもんだから昔からいる爺らが面白く無いんだろう。兵にしたって元賊が多い、今回徐庶を引き入れた件でさらに拍車がかかるだろう。

 

「いくら若がお主を庇おうとも限度がある、それは分かるじゃろう?」

 

若とは益州刺史劉焉の息子、劉璋の事だ。何度か戦場で彼を助けているうちに妙に親しく接してきて、気が付けば真名を交換していた。彼自身の才は凡庸だが政治を重んじ、また温厚な人柄故か、文官勢からの指示は絶大。だが逆に脆弱な後継である、と大多数の武官からは非常に嫌われている。そんな立場であるにも関わらず、俺との親交を重んじ元々険悪だった武官勢と対立しているのだ・・・・負担をかけてしまい心苦しいと思う事が多々ある。

 

「・・・・そろそろ潮時、って事ですかね?」

「端的に言えば、じゃな。ワシや紫苑、張任、呉懿はお主らの実力を認め、また益州の将来のためには必要だと思っておる。じゃが龐羲をはじめとした古株の爺どもが劉焉殿に色々と吹き込んでおる、劉焉殿は暗愚では無い。そのへんの分別はある、じゃが如何せん気が弱い部分もある・・・・押し切られればお主らを反逆者とし軍勢を差し向ける可能性すらある」

「・・・・結構馴染みの店とかできて、愛着もあったんですけどね・・・・」

 

そして、その影響は恐らく桔梗さんや紫苑さん、焔耶や他にも俺を贔屓にしてくれてる将軍方にも及ぶだろう。それは俺が望むところではないし、ぶっちゃけそこまでして居座る理由も無い。

 

「まぁ、あれです。これまで世話ぁなりました、って事で」

「これまで数え切れぬほどに益州に貢献してくれたお主らを追い出すような真似、正直心苦しくもあるが」

「仕方無いでしょ、それは」

 

桔梗さんらが悪いわけじゃない、正規軍でも無い上に賊上がりと俺たちを蔑み、自分たちの無能さを棚に上げて妬んでくるような奴らが悪いんだ。

 

「椿ちゃんがいなくなると璃々も寂しがるわ」

「璃々ちゃんは紫苑さんに似て聡い子ですから、理解してくれると信じてますよ」

 

紫苑さんの一人娘、璃々ちゃんは椿に非常に懐いていた。仕事が無い時は椿が「私がお姉ちゃん」と言って、面倒を見て遊んであげていたから余分にだろう。

 

「あ、そうそう・・・・お前はもう少し落ち着いて考えろよ?今度からはこの間みたいな事になっても俺は助けにこれんぞ?」

「ああ、分かっている・・・・もう少し、考える戦をしてみようと思う」

 

焔耶の唯一の欠点は安易な考えで動いてしまう事、そこさえ改善されれば大陸屈指の名将と言うのも手が届くのだ。そこら辺は桔梗さんと紫苑さんに期待しておこう。

 

「吼狼、これを持って行け」

 

桔梗さんが差し出して来たのは益州の関門を抜けるための手形だ、確かにこれがあれば奴さんらが難癖つけて追いかけて来ても逃げ切れるだろうが・・・・

 

「ソイツは受け取れませんや、それこそ迷惑をかけてしまう」

 

関門を何事もなく抜けてしまえば、今度は誰が手形を渡した、と騒ぐだろう。恐らくは俺たちに反逆の罪でも着せて追いかけて来るだろうから同罪だ、とか何とかで桔梗さんらが失脚してしまうかも知れない。

 

「恐らく追いかけてくるっつっても龐羲の派閥の奴でしょ?だったら逃げ果せてみせます・・・・それとも、俺たちがそんなに頼りないですかね?」

「・・・・ふっ・・・・はははははははははっ!!そうじゃな、お主らはそう言う連中の集まりじゃった!失念しておったわ」

 

爆笑しながらそう言う桔梗さんを、紫苑さんも焔耶もキョトンとした表情で見ている。

 

「ならば良し!自ら言うたのじゃ、手加減は無用!見事に逃げ果せて見せい!!」

 

部下に命令を下すように、バッと手を掲げそう語る桔梗さん。それに対し、俺はのるように拱手し返答を返した。

 

「承知、愉快、痛快、通行料に相応しい置き土産を置いていく事にしましょう」

 

―『飛雷』野営地―

 

「ってわけだ、九割方来るだろう追撃部隊を面白おかしくからかったあげく滅多打ちにして荊州に抜けるぞー」

 

兵士たちが、口をあんぐりと開けている中で蒼真が苦笑しながら言葉を発する。

 

「やっぱこうなりましたか、まぁいつか来るとは思ってたんだ。どうせなら派手にやっちまいましょうや」

 

こういう時、一番ノリ気なのは付き合いの最も長い蒼真だ。

 

「永安を抜ける事になるのでしょうか?ならば追撃部隊を蹴散らしたら直ぐに長江沿いを浸走るべきでしょう」

 

そして俺と蒼真を呆れた目で見ながらも、先の事を考えてくれるのが楓だ。

 

「頑張る、全部ぶっ飛ばせば良い?」

 

そこに何も考えず、大槍をブンブンと振り回しながら準備をするのが椿。

 

「参入して直ぐにコレですか、まぁ・・・・面白そうなので良いでしょう」

 

最後に不敵な笑みを浮かべ、楓と共に策を練り始めるのが徐庶だ。

 

「益州での最後の戦だ、派手に、愉快に、痛快に、やっちまおうぜ!」

『オォオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

さぁ、戦いの始まりだ!




本日二話目の投稿になります。
三話目にして益州から脱出するとか・・・・自分でも話の展開が少し早い気がしましたが、殆どノリだけで書いてますので読者の皆様ご容赦下さい!
そう言えばお気に入り登録数が早くも10に到達、ホント感謝してます。
さて次回は長阪的なノリで『飛雷』の益州脱出です、どんな感じになるのか、乞うご期待。


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第四話『事変』

「大将、西方五里に騎馬隊三千。旗は高と楊」

 

巴から出て五日目、疲れぬようにと敢えて鈍行で行軍を進めていた俺たち。そこに蒼真の放った斥候が持ち帰った情報がそれだった。

 

「って事は高沛と楊壊か?」

「まぁ、でしょうな」

 

高沛、楊壊は共に戦歴はそれなりに長いが全てにおいて良くも悪くも凡庸、それでも・・・・いや、それ故に自らより有能な者を嫌う龐羲に信用されているのだ。そして龐羲は家柄と劉焉の益州刺史就任時の功績と財力、それだけで益州北部を任されているような男だ。もとより軍事の才など無く、その龐羲より幾分かマシな程度な二人だ。

 

「椿と楓は?」

「予定通りです、斥候の連中にはあちらさんの斥候に見つかって俺らの場所を知らせてから合流するようにと伝えてあります。早けりゃ二日で追いついてくるでしょう」

「徐庶は?」

「五十に護衛させて先に荊州に入らせてます、荊州刺史劉表と知り合いだそうで・・・・通行許可を貰っとくそうです」

 

通行許可、そう聞けば一瞬疑問が頭に浮かぶも直ぐに解決する。何故逗留では無いのか、恐らくは荊州にも龐羲のような奴がいるんだろう。長居どころか、戦の手伝いに駆り出されるのすら拒否すると言ったところだろう。それほど面倒だという事だが‥‥まぁいい、今はな。

 

「了解、じゃあ直ぐに動こう。予定地点まで三千を引っ張り込むぞ!」

「うっす」

 

―――――――――

私が現在椿ちゃんと二人で兵を伏せているのは益州から荊州へと抜ける山道の一つ、それを崖上から見下ろす形で待機してます。私が三十、椿ちゃんが二十、徐庶ちゃんが五十を連れて行ってるから残る二百五十を連れて吼狼様と蒼真さんが三千の追撃部隊を引きずり込む。この場所を通り過ぎたら準備している大木と岩を落とし、椿ちゃんの隊は崖を下って敵内部の撹乱、吼狼様と蒼真さんが引き返してきて挟撃の形を取る。そして私の隊がこのまま崖上から弓矢での援護射撃、当初は私も逃げるべきだと進言したのですが・・・・

 

『桔梗さんとの約束がある、何より逃げるだけじゃ性に合わない。『飛雷』の真髄は攻めだ、どうせなら逃げるのも攻めだ』

 

との事でしたので、こんな作戦になりました。極端な派手さはありませんが数の不利さを逆手に取る作戦です。この狭い渓谷ならば相手の数が多かろうが関係ありません、狭いが故に一度に戦える数には限りがあり、一度に戦う数が同数ならば平和ボケしている龐羲の兵に『飛雷』の兵が負ける道理がありません。

 

「黄権様、二里先に李厳様と張翼様率いる隊が接近中。その後方から目測三千の隊が接近中です!間も無くここに到着すると思われます!」

「分かりました、向かい側の隊にも伝令は行ってますね?」

「はい、既に」

「ならば結構、そのまま隊に加わり待機していてください」

「はっ!」

 

しかし、どうやって三千全てを引っ張ってきたのでしょうか?パッと見で数が足りないのは分かっていたはずでしょうに、それすら分からない程の凡将では無かったはずですが・・・・一体どんな挑発をすれば・・・・

 

『オラオラどうした!それで梓橦の主将と副将?それでなれるんだ?益州軍は敷居が低くていいねぇ!!』

『おのれぇええええええええええっ!!!』

『我らを侮辱するかぁああああああっ!!!』

 

・・・・半端なく煽ってますね、二人の煽り耐性が低い事もあるのでしょうがそれを差し引いても半端ない煽り方してますよ。

 

「では準備を」

 

椿ちゃんもきっと上手くやってくれます、だから私は私の仕事をすることにしましょう。

 

―――――――――

さてと、お二人さんがいい感じに煽られてブチ切れながら追って来てる。もう少しで予定地点だし、気合入れて逃げますか。

 

「しかし大将、『あの方』は動いてくれますかね?」

「・・・・さぁな、だが俺は益州で積み重ねた年月を信頼している」

 

そう、俺はこの三千を壊滅させる程度で桔梗さんらへの置き土産とするつもりはない。俺が画策しているのはもっと大きい事だ、そのためにはここにこの三千を釘付けにしなければならない。龐羲派閥の数少ない将軍職二人を、だ。

 

「信じるしかねぇのさ、蒼真!」

「ですねぇ・・・・じゃあ予定通りでいいんですね?」

「ああ、合図する機を違うなよ?」

「お任せを」

 

うん、まぁ普通に壊滅狙いなら機をはかる必要なんてない。落石のこちら側に楊壊と高沛さえ揃っていればそれで良いのだ、が・・・・今回ばかりは事情が違う、三千全てがこちら側にいる必要があるのだ。

 

「今だっ!合図をだせぇええっ!!」

 

蒼真の掛け声と共に高々と掲げられる黒地に黄色の『飛』の一文字、そして鳴り響く轟音の後には三千の退路を塞ぐ大量の岩。

 

「っし、転進!!事前の打ち合わせ通りに戦え!」

『オォオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

―――――――――

あれから僅か四半刻、俺たちの目の前には手足を縛られ身動き出来なくなった三千の兵。精兵、とは名ばかり・・・・戦とは無縁な立ち位置にいた龐羲ごときが直々に鍛えたと息巻いたところでこんなものだ。とは言え、こちらの練度もまだまだだ。かつて秦の穆公を助け戦った馬酒兵は俺たちと同じ三百で十数万の晋軍を撃退してみせたと言う、どうせならばそこを目標としてみたいものだ。

 

「何故だ李厳!何故ワシらを殺さぬ!」

「戦ったからには覚悟はしておったと言うのに!」

「あーじゃかあしい、直ぐに分かるさ」

 

何を言っているか分からないと顔色に出る楊壊と高沛、と言うか全ての事実を話してある蒼真以外は楓や椿も同じ顔になっている。

 

「両軍戦闘を止め・・・・・・・・終わってるじゃないか!!!」

「だから申し上げましたでしょう若、絶対に間に合いませんと」

 

そこに現れたのは、五百の騎馬隊を伴った青年だった。その隣を固める老将軍が益州の四将軍と数えられる、呉懿将軍だ。

 

『りゅ、りゅりゅりゅりゅ劉璋様!!?』

 

大口をあんぐりと開け、楊壊と高沛をはじめとした三千の兵、そして俺と蒼真以外の飛雷の連中までが同じ反応をしていた。

 

そう、このどこか抜けている青年こそが現益州刺史劉焉の息子、劉璋、真名を(あきら)。俺たちが長くこの益州で雇われていたのは、桔梗さんらの援助もあったがこの陽に気に入られていた事も大きい。陽が自らの難しい立場を省みず俺たちのためにと、立ち回ってくれたからこそである。

 

「ここに呉懿さん伴って来た、って事ぁ全部上手く行ったみたいだな」

「ああ、キミには感謝してもしたりない」

 

いやはや、うまくいって何より。

 

「あの・・・・吼狼様、これは」

 

ようやく、楓が絞り出すように声を発する。と、呉懿将軍が前へと進み出て今日起きた出来事を語り始めた。

 

「二日前・・・・ちょうどこの隊が成都を発して間も無く、龐羲をはじめとした数十名が謀反の疑いで捕縛された」

『!!?』

 

この事に最も狼狽したのは楊壊、高沛の両将だ。

 

「劉焉様は劉璋様を後継に指名していたが龐羲がこれに対し異を唱えたが聞き入れられず、それに同調した者たちと共に梓橦を拠点とし反乱を企てた。数は八万、その中には劉潰や鄒靖ら古参の将軍や劉家分家の長や後継たちも含まれていた。が・・・・既にこれを予見していた私と張任将軍をはじめとした成都軍により鎮圧された、恐らくはその全てが処断される事になるだろう。また今回の事は自らの不徳さが要因であるとし、劉焉様は隠居なされ劉璋様が刺史の座を継がれることとなった。一両日中に朝廷より正式な任命が来るだろう」

 

ある程度予想していたとは言え、規模は想像以上のものになった。元々、陽はこれから来る時代のためには新しい事を取り入れようとしていたためか古くからいる連中からの受けはさほど良く無かった。更には役人と豪族の癒着を暴くべく影で色々と暗躍しており、その中でも腹を探られ最も困るのが龐羲だったと言うわけだ。

 

「楊壊、高沛・・・・私はキミらを処断しに来たのではない、キミらに再び私の下で働いて欲しくてここへ来た」

 

楊壊と高沛の目の前で、膝をつく陽が二人の肩へと手を乗せた。

 

「父は二人を忠実に命令をこなす忠臣である、と評価していた。確かに今回、龐羲に与してはいたものの反乱に加担した訳ではなく、こちらの協力者であった李厳と矛を交えたのも立場ゆえの事だったのだから咎めるつもりはない」

 

そして、両膝をつき地に頭を擦り付け。

 

「私はまだまだ若輩者だ、張任に呉懿、厳顔、黄忠らがいるがそれでもまだ足りない・・・・だからこそ!諸君らには引き続き益州を、この若輩者を支えて欲しい!」

 

心からの嘆願、故にだろうか・・・・両の手を後ろに縛られた楊壊、高沛両将をはじめとした三千の兵全員が、一糸乱れず地に頭を擦り付け平伏したのだ。

 

「一件落着、ってか?」

 

劉璋の下に益州は一つにまとまっていくだろう、そんな確信に近い予感を抱きつつ、俺はそんな事をつぶやいていた。




第四話でした、なんか書いてて詰め込み過ぎた感がハンパ無かったです。因みに原作突入まではもう少し、かかる予定です・・・・うん、予定です。


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第五話『事後』

「龐羲を騙す演技では無かっただと!?」

 

そんな陽の絶叫が永安城内で響き渡った。

 

『龐羲をはじめとした謀反の火種は刈り取った、これで大手を振って共に戦えるな!吼狼!』

『あ、悪ぃ。俺らこのまま益州出るから』

 

その絶叫の前にあったやり取りがこんなんである、どうやら俺らが益州を離れると言うのが龐羲らを動かすための演技だと思い込んでいたらしい。

 

「潮時だと思ってたのはホントさ、龐羲の事が無かったとしてもな」

「何故だ、私はキミらを信頼している。長が父から私へと入れ替わり、不安定な状況になるからこそキミらの力を借りたいとも思っている」

「ソイツぁダメだ、俺らみたいな正規軍でもねぇ部外者がのさばってちゃあ元々いる御歴々の顔を潰すし新人連中が力を発揮する場を奪う事になっちまう」

 

そう、確かに陽と親しくはしているがあくまで俺らは傭兵。あくまで部外者、なれば大きな顔をしてはいけないのだ。本来、一所に留まるべきですら無かったのにとどまってしまったのは俺が未練がましかったせいもあるのだろうが。

 

「俺がいなくとも呉懿将軍がいる、張任将軍もいれば厳顔将軍、黄忠将軍もいる。若い連中だって魏延や法正、孟達、呉蘭、雷同と才覚を発揮しつつある者も多い。文官だってお前が中心となり若手を育てて行けば良い」

「・・・・だが、私は・・・・」

 

それでもと言い淀む陽、正直言って嬉しいのだ。そこまで評価してくれている事が、そこまで信頼してくれている事が。だがそれでもなお、いやだからこそ俺は陽を突き放す。

 

「お前なら出来るさ、それとも・・・・俺のダチは俺がいなけりゃ何もできない赤ん坊なのか?」

「っ・・・・狡いぞ吼狼、そう言えば私が断れないと知ってて言ってるだろう」

 

そう、陽は俺がこう言うとなぜか断れないのだ。狡いとはわかっているが、それでも今回は使わせてもらおう。

 

「分かった、ならば目にもの見せてやろう!キミが私の誘いを断った事を後悔するぐらい、この益州を栄えさせて見せる!」

「おう、その意気だダチ公」

 

お互いに笑みを浮かべ、お互いの右拳をぶつけ合うのだ。

 

―――――――――

そうとなれば送迎会だ、との陽の言葉で荊州から戻って来る徐庶を待って大宴会が開催された。桔梗さんや紫苑さん、焔耶、呉懿将軍に張任将軍、法正、高沛、楊壊らまで集まっての大騒ぎとなっている。

 

「お姉ちゃん行っちゃうのヤダー!」

「えぅ・・・・璃々・・・・(オロオロ)」

「あらあら・・・・」

 

紫苑さんの娘、璃々ちゃんに泣きつかれてオロオロしてる椿・・・・を見て笑う紫苑さん。

 

「ガハハハハッ!!蒼真に焔耶よ、飲め!もっと飲め!さらに飲め!倒れるまで飲めぇい!!」

「ちょい待ち旦那っ!それいじょガババババババ」

「刈様!飲めません!それいじょガババババババ」

 

呉懿将軍・・・・刈さんに無理やり口から酒を突っ込まれる蒼真と焔耶。

 

「ですからこの場合は騎馬を迂回させてですね」

「ですがそれでは本営が先に落とされるでしょう?だからここは・・・・」

 

法正と兵法議論を交わす楓。

 

そして・・・・俺の差し向かいには張任将軍・・・・仁さんが座っている。

 

「今後は、どうするつもりだ吼狼」

 

最初に口を開いたのは張任将軍・・・・仁さんだった。

 

「中原で色々やってみようと思ってる、兵数もぼちぼち増員してーし・・・・そろそろな」

「・・・・夢に向かって、か」

「はい」

 

桔梗さんが恩人ならば、仁さんは俺にとって父親のような存在である。アイツと死に別れ、生きる気力を失いかけていた俺を拾ってくれたのは仁さんだった。

 

『死なせてくれよ・・・・俺は、もう・・・・』

『お前に何があったのかは聞かん、だが・・・・頭を冷やして考える事だ、本当に死にたいのか?死んで・・・・どうする?』

『・・・・』

『全てを失ったような顔をしているが・・・・失ったものばかり数えるな、残ったものを省みてもいいのでは無いか?』

『・・・・俺は、俺には・・・・ああ、そうだ。約束がある、アイツとの約束が・・・・』

 

仁さんのおかげで約束を思い出す余裕が生まれた、仁さんがいたから今の俺がある。武術も馬術も兵法も、ありとあらゆる事を俺に教えてくれたのは仁さんだ。孤児だったがゆえに、両親の顔は知らない。だがもし父がいたならば、こういう人だったら良いなと思うのだ。

 

「もう十年早ければ、もし益州と言うしがらみさえ無ければ・・・・私もお前と共に行ったかも知れん」

「仁さん・・・・」

「そう思えるほどに、お前らの掲げる理想は眩い。だからこそ誇れ、そしてその理想を共に目指せる主君を見つけろ。そうだな、甘っちょろくてお人好しで心優しい・・・・そう言う主君がお似合いかも知れんな」

「甘っちょろくてお人好しで優しいって・・・・どんだけ聖人君子な、と思うが・・・・心に留めておきましょ」

 

仁さんの目は確かだ、俺にそう言う主君が似合いだと言うなら本当なのだろう。探すだけ探してみるのも良いだろう。

 

「おぉ、ここにおったかお主ら」

「探しましたよ、李厳様」

 

桔梗さんと徐庶とは、物珍しい組み合わせだな。

 

「ワシは徐庶をここに連れて来ただけじゃ、徐庶が吼狼に用事があると言うのでな」

 

ポン、と桔梗さんが徐庶の背中を押し出す。仁さんが立ち上がり場所を譲ると、徐庶がそこへと座る。

 

「私を仲間へと誘った時、言ってましたね。泰平の世を創る、それが志であると」

「ああ、言った」

「・・・・李厳様が長となり一つの勢力を作り上げる、そう言う方法もあると思うのですが・・・・」

「あー無理」

 

同じ事は蒼真にも、楓にも、椿・・・・は言わなかったが元頭目を張っていたような連中には皆聞かれた。楓には説得もされた、それでも俺の考えは変わらない。

 

「俺はダメだ」

「なぜ?」

「天下を統べる者にはいくつかの条件がある、と思っている」

 

そう言って俺は、指を三本ピッと立てる。

 

「その中で最も重要なのは・・・・『人を惹き付ける魅力』『万人を従わせる覇気』『従う全てを魅せる大志』の三つだ」

 

魅力、覇気、大志。その三つを兼ね備えた者を世は覇者と呼ぶ。秦の始皇帝も、その始皇帝を打ち倒し漢を築いた劉邦も、その三つを兼ね備えていた。俺には足りないものばかりだ、魅力も、覇気も、大志も明らかに足りない。

 

「だからこそ、その三つを兼ね備える。もしくは将来的にその資質を持つであろう者を主として仰ぎ、その者の進む覇道でも、王道でも、俺らの理想と寄り添える大志を持つならば俺はその道を全力で支える」

 

手酌で盃へと酒を注ぎ、一息にそれを飲み干す。

 

「それが俺の、天下を取るやり方だ・・・・不満か?」

「私は・・・・」

「お前が必要だ、俺は勧誘した時確かにそう言ったがな。気に食わなけりゃ別に良いんだぜ?無理をしたって良い事なんざ一つも無ぇんだからよ」

 

無理強いさせて手元に置いたとして、そのものが本当の実力を発揮してくれるとは限らない。それでは本末転倒なのだ、良き人材ほど望む場にて全身全霊でその才を振るわせるべきなのだ。

 

「友里」

「え?」

「私の真名です、李厳様へと預けさせて頂きます」

「・・・・吼狼、それが俺の真名だ・・・・」

 

いつの間にか、他の『飛雷』のメンツが集まってきていた。蒼真、楓、椿が一歩前で俺たち二人を囲み、他の面々はその外を円を描いて囲い込んでいる。そしてその外で、陽、仁さん、桔梗さん、紫苑さん、璃々ちゃん、刈さん、焔耶、法正、楊壊、高沛が興味深そうに覗き込み、永安兵たちも一緒に見学している。

 

「先ずはこれを受け取れ」

 

懐から俺が取り出し差し出したのは、飛雷の旗の下地にも使われている黒い布、それに『飛』の一文字を刺繍したものだ。友里が、それを受け取って手に取り、興味深そうにしげしげと見つめている。

 

「それは『飛雷』に正式に所属した証だ、頭や腕に巻くなり愛用の武器に巻くなり好きにしろ」

 

友里は受け取ったそれを、腰帯へと括りつけた。因みに蒼真は頭に、楓は首に、椿は大槍の石突にそれぞれ巻きつけている。俺は外套と腰布に大きく『飛』の一文字を縫っている。

 

「そして『飛雷』にはたった一つの掟がある、それを・・・・心に刻むんだ」

 

視線で合図を送れば、『飛雷』の皆が頷き俺と共に口を開く。

 

『みっともなくても良い!地を這いずり回り!泥と恥辱に塗れてなお!生きる事を最優先とせよ!』

 

正規の軍隊よりも雄々しく、気高く、高らかに叫ぶ『飛雷』の勇士たち。

 

「改めて・・・・よろしくな、友里」

「はい、宜しくお願いします・・・・ご主人様」

 

友里が正式に参入する事になったこの後の宴の続きで、この友里のご主人様呼びにより幼女趣味疑惑をかけられた俺は・・・・陽に桔梗さんや紫苑さんからさんざんからかわれる事になった。




第五話でした。お気に入り登録数がはやくも五十件を超えまして、ちょっとテンションが上がっております。次話から益州を離れ大陸各地を巡る吼狼と飛雷の話に入って行きます。


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第六話『遭遇』

益州を離れた俺たちは、一路荊州の江陵へと・・・・向かおうとしたのだが、とある人物からの書状により進路を変更して擁州、涼州方面へと抜けるように移動をしていた。

 

『劉荊州様は応諾なされたが蔡瑁一派が貴殿らよそ者を通行させる事を快く思っていない、何かがあってからでは遅いゆえ・・・・誠に申し訳ないが荊州を迂回する事を勧める』

 

この書状を寄越したのは江夏の太守黄祖、友里が懇意にしていた荊州の将軍だった。

 

「黄祖将軍の助言に従いましょう・・・・面倒事はゴメンです」

 

確かにこれ以上の面倒事はゴメンだ、が・・・・どこへ向かおうか。

 

「・・・・擁州に、行こ」

 

全員が思わず視線を向けたその先に、椿がいた。普段はこういう話には絶対に加わらない椿が口出しをした、その事実に付き合いの短い友里と新人五十人を除いた全員が絶句していた。

 

「・・・・椿、お前・・・・風邪でもひいてんのか?」

「椿ちゃん・・・・だ、誰か医者を!名医をー!!」

 

蒼真、楓・・・・お前ら動揺しすぎだろうがよ。ったく・・・・

 

「椿、理由を聞かせろ」

「んと、友達が擁州で偉くなった。いつか皆を連れて、遊びに行くって約束してた」

 

成程、椿らしい理由だ。友達、と言うのは時々手紙を書いていたのを見た事があるからその相手の事だろう。理由はどうあれ着眼点は悪くない、擁州は羌族の侵攻が涼州に継いで多い地域だ。そのそれなりに偉いと言う椿の友人に口利きしてもらえればうまく仕事も回してもらえるだろう。

 

「良し、椿の提案通りに擁州に向かうぞ。友里、斥候を放ってくれ」

「はい、お任せを」

「蒼真、百連れて適当な野営地探して準備しとけ」

「うっす」

「椿は五十連れて猪か熊狩ってこい」

「行く・・・・」

 

―――――――――

蒼真が陣取っていたのは陳倉の地、険しい山岳地帯ではあるが夜風は当たりづらく寝るには思ったよりも良い場所であると言えるだろう。

 

「おーしお前ら、手ぇ止めるなよ?今の速度のまま回し続けろぃ」

『オーッス!!』

 

妙に張り切った椿たちが猪を十頭捕まえてきた、ので在庫の米や野菜を使った野戦料理を作る事にした。毛を丁寧に処理してから内蔵を引き抜き、水で血を洗い流してから笹で包んだ米と野菜を抜いた内蔵の代わりに突っ込む。で、それをジックリと焚き火で均一に火を通しながら塩をふりつつ焼く。豪快で適当にも見えるが、これが美味いのだ。中で蒸してる米や野菜に肉汁が染み込み、それらと焼いた肉を一緒に食べる・・・・餞別にと桔梗さんからもらった酒もある、パーっとやろう。

 

「ご主人様」

「どうした、友里」

「最終の斥候が・・・・お客を連れて戻って参りました」

「・・・・客?」

 

客、ねぇ。こんなところでどんな客がいるもんだろうか、賊とかそう言う奴じゃないのは確かなんだろうが。

 

「人数は?」

「三人、女の子が二人に男が一人ですね」

「連れてきな・・・・何かの縁だ、あちらさんさえ良けりゃ飯に誘え」

 

ペコリ、と友里が一礼しその場を離れると直ぐに蒼真が寄ってくる。

 

「どこの誰とも知れない奴を招き入れるんで?」

「少なくとも賊の類じゃあるまい、そう言う連中だったら友里なら始末するさ。友里がやらなかったとしても手空きだった楓がやる、二人が何もしてない以上は問題ない・・・・そういうこった」

「ま・・・・筋は一応、通ってますがね」

 

―――――――――

 

「なんやスマンなぁ」

「誠に申し訳ない」

「・・・・(ぎゅるるるるる)ごはん・・・・」

「まぁ聞きたい事もいくつかあるが、今は飯だ・・・・全員盃は持ったか!」

『応っ!!』

「んじゃま乾杯っ!!」

『乾杯っ!!』

 

俺、蒼真、楓、椿、友里に客人三人が一緒に一つの火を囲んでいるのだが・・・・

 

『ガツガツもぐもぐパクパクむしゃむしゃ』

 

食欲魔人が二人に増えた。元々、『飛雷』には椿と言う大食らいがいる。だがこの客人の一人、赤毛の少女は椿と同等の速度と勢いで口の中にほおばっていく。どっちも詰め込みすぎて頬が膨らんでいる、でそれを見た楓がスゴい和んでいる。

 

「アンタぁイケる口だねぇ!」

「ウチもやけどアンタもイケるやん!」

 

蒼真は紫髪の少女と飲み比べになっている、飲み比べってか・・・・二人とも樽を傍らに置いて盃でザバザバと掬って飲んでる。

 

「重ね重ね、申し訳ない」

 

俺と差し向かいに座って適度に食し、適度に飲んでいた青年が頭を下げている。

 

「あー、気にすんな。賑やかなのは嫌いじゃねぇよ、それに飯は皆で食った方が美味ぇだろ?」

「・・・・確かに、既に二人程遠慮なしに食べているようだしな・・・・私も相伴に与ろう」

 

―――――――――

全く、不思議な連中だ。見ず知らずの俺たちを信用し、共に飯を食い酒を飲む。

 

「あー、気にすんな。賑やかなのは嫌いじゃねぇよ、それに飯は皆で食った方が美味ぇだろ?」

 

本当に不思議な感覚だ、話をしていて性格も放つ気も何もかもが違うとハッキリ分かる。なのにどことなく、お嬢と同じ雰囲気がするのだ。それに・・・・

 

『ごはんはみんなでたべたほうがおいしいよ、だからいっしょにたべよ?』

 

似たような事を真顔で言う、いつかはお嬢とこの人物を合わせてみたいとも思うのだ。

 

「そう言えば・・・・自己紹介がまだでしたな、私は高順。天水太守、董卓様にお仕えしております」

「ほう・・・・天水太守、ねぇ」

 

何やら、含みを持たせたような言い方だが・・・・表情と眼差しに悪意、敵意、それに該当するようなものは感じられない。

 

「あちらの大食いが呂布、大酒飲みが張遼、二人共私の同僚になります」

「成程、まぁわかりやすい紹介だな・・・・で?なんでアンタらここにいるんだ?」

「・・・・なぜ、とは?」

「陳倉は長安太守の領地だろう?そこになんで、天水軍のアンタらがいるかが気になってな・・・・言いにくい事なら構わんぜ、話したくねー事もあるだろうしな」

「・・・・少女を一人、勧誘しに来たのですよ」

 

隠す事でも無い、そう判断して私は話す事にしたのだ。

 

―――――――――

 

「少女を一人、勧誘しに来たのですよ」

 

高順の口から語られたのがそれだ。

 

「にしちゃあ・・・・随分なメンツで行くもんだな」

 

高順にしろ、椿とまるで姉妹のように寝転がる呂布にしろ、蒼真と二人して飲みすぎで顔を真っ青にしている張遼にしろ、相当な実力者だと思う。焔耶・・・・よりも三人とも上、個の武ならば仁さんにも勝るだろう。

 

「白波賊をご存知ですか?」

「いや、知らんが・・・・面倒な相手なのか?」

「色んな意味で、盗み殺しは当たり前、誘拐、人身売買、薬のバラマキまでなんでもやる連中です・・・・その少女がいると情報が入ったのがその白玻賊が縄張りとしているあたりなのですよ」

 

自衛、とも一瞬思ったがこの三人だ。一人だけでも十分だろうし、そこら辺にコイツらより強いのがそうそういるとも思えない。

 

「最悪、既に拐われている事を仮定しもしもの場合は力づくでも奪い返すため・・・・か?」

「・・・・そういう事になります」

「成程・・・・白波賊の規模は?」

「全体で五千、目的地付近には一千近くが潜伏しているとも」

 

例えこの三人が強くとも、一千相手では万が一がある。となれば・・・・

 

「なぁ、提案があるんだ」

「提案、ですか?」

「ああ・・・・」

 

これは売り込みだ、まぁそれ以上にこいつらを気に入ってしまっていると言うのもある。こいつらをまとめあげていると言う天水太守董卓にも、興味が湧いている。

 

「俺たちを、雇ってみないか?」




第六話でした。因みに私が好きな恋姫キャラは趙雲、張遼、呂布、董卓、馬超、顔良・・・・友人からなんで一人だけ魏キャラなんだ!とツッコまれた事がありましたが・・・・気にしない!
それと、お気に入り登録数が順調に伸びてきまして正直驚いてます。今後も、引き続きご贔屓に。


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第七話『邂逅』

「気ぃつけろ、こういうところにゃ大抵罠が張ってあるからな」

「本当に、詳しいものだなキミは」

 

あの後、報酬後払いの約束で高順と契約を結んだ俺らは高順らと共に少女の捜索を行っていた。・・・・のだが捜索開始当日に既に件の少女が既に拐われていた事が発覚、事は急を要すると言う事で手段を選ばず白玻波賊の下っ端を見付けて締め上げ本拠地を割り出し、救出へと赴く事になった。とは言え、全員で歩くと色々目立つので俺、高順、椿、呂布が捜索。蒼真、楓、友里、張遼が兵たちと共に待機し有事の際には動く、と言う形を取る事になった。

 

「元々こういう連中の相手をしてたんだよ、益州ではな」

「・・・・噂には良く聞いていたよ、益州には全てを射抜く雷がいたとね」

「んじゃあその雷が益州を離れ北上していた事も?」

「・・・・キミには隠し事は出来ないようだ・・・・その通り、私たち三人の任務は先にも言った少女の保護と勧誘、そして州境へと近づいていたキミらの調査だ」

 

つまりはいざという時、生還し情報を持って帰るために手練の三人で来たわけだ。誰か一人でも帰れれば良い、と・・・・だがこの二人の、強さを見る限りではどちらかといえば揃って無事に帰還するためにこの三人を選んだと見るべきだろう。

 

「一つ、質問に答えて頂こう」

「一つと言わずいくらでも、答えられる事なら答えるぜ」

「・・・・益州での事変は耳に入っている、その後のキミらが擁州に来た理由は?」

「うちの姜維のダチが擁州でそれなりに偉くなったらしくてな、で・・・・そのうち遊びに来てくれって言ってたから行ってみようぜーって話に」

 

そう言えば、すっかり高順たちの手伝いをする事に頭がいってたがもともとの目的はそれだったな。

 

「ほう、姜維殿のご友人が・・・・因みにお名前をお伺いしても?」

「えっと・・・・椿?」

 

そして肝心な椿の友達の名前を聞いた事が無い、名前を知らなければ探しようも無い。

 

「とーたく」

 

そうか、とーたくねぇ・・・・とーたく・・・・とうたく?董たく?とう卓?・・・・董卓?

 

「・・・・あの、聞き間違いでなくば・・・・董卓、と」

「あー、うん。きっと聞き間違いじゃねぇよ、俺も同じように聞こえたもんよ」

「椿、(ゆえ)と友達?」

「うん、月と友達。(れん)とも友達」

 

うん、まぁアレだ。真名を交換しあうぐらい仲が良いようで何より、だが・・・・聞かなかった俺も悪かった、だがそんな重要な事はもっと早く言って欲しかったと思うんだよ。

 

「・・・・ところで高順、目的地までどれぐらいだ?」

「約一里、幸いにも拐われたのはつい先日との事。よほどの事が無くば売られている事は無いでしょう」

「だと良いがな・・・・ん」

 

ふとした違和感、三人に対し停止の合図を出せば直ぐに地面に耳を付ける。騎馬の足音、数は・・・・百近いな。

 

「騎馬がおおよそ百、か」

「厄介ですね」

 

通常、騎馬と歩兵には絶対的な力関係がある。騎兵百騎で千の歩兵と同等、と言われる程だ。馬の持つ脚力、騎上からの長物による広い間合い、どちらも歩兵にとって強力すぎるのだ。・・・・まぁ、ここにいるメンツにとってそれほど厄介な事でも無いが。

 

「だが大した問題じゃあない・・・・だろ?俺らなら」

「・・・・確かに」

「っつーわけだ、椿、呂布・・・・やれるな?」

 

無言で頷き、それぞれが大槍と方天戟を構える。俺も大矛を、高順も長刀を構える。次第に近づく蹄の音、機は一瞬、恐らくは先頭を駆けてくるであろう頭領格とその周辺を固めているだろう連中を一息に始末する。それで他は混乱するだろう、逃げるならば本拠までの道案内とし、向かって来るだけの気概があるならば捕縛して勧誘するのもありだろう。

 

「・・・・おい、アレ・・・・」

 

目視出来る距離まで来た時、気づいた。統一された兵装、統率された馬脚、何より先頭に立つ将の立ち居振る舞い。間違いなくアレはどこかの正規兵だ、旗印は『龐』・・・・

 

「・・・・高順、『龐』って誰だ?」

「・・・・分かりません、少なくとも天水軍所属の者に龐姓の将はいない。長安や安定、擁州の将にもいない」

「わからんなら、やるしかあるめぇよ」

 

あーだこうだと考えても仕方が無い、ならば動くべきだ。

 

「お前ら何モンだ!!」

 

―――――――――

最近、隣の擁州の賊が涼州領内で色々と動いていると言う情報を得た。本来ならば擁州諸侯の誰かに許可を求めるべきなのだろうが、既に馬騰様を始めとした馬一族の方々がキレかけている。ヘタをすれば大軍を連れてその賊の討伐に動きかねない、そうすれば涼州に食指を伸ばそうと画策している中央の高官連中に馬一族を排除し涼州支配へと乗り出す大義名分を与えてしまう。

それだけは避けねばならず、何とか自分を始めとした百騎が秘密裏に擁州へと潜り込み賊を討伐する事で納得させたのだった・・・・が。

 

「お前ら何モンだ!!」

 

まさかイキナリ誰かに見つかるとは思わなかった、現れたのは四人。大矛を持つ青年、長刀を携えた男、大槍を肩に担ぐ少女と方天戟を持つ少女。四人ともが一騎当千、強者のみが持つ闘気を放っている。その中でも大矛を持つ青年は主君でもある馬騰に勝るとも劣らぬ覇気を放っている。

 

「・・・・人にモノを尋ねる時は先ずは自分、と教わらなかったかね?」

 

恐らくだが彼らは擁州軍の者、本来ならば彼らの質問に非は無い。だが、それでもなお聞きたかった。主君と同じ覇気を持つこの青年の名を、何を考え、何を思っているか、振るう武の重さ、とにかく知りたいと・・・・始めての感覚だ。

 

―――――――――

 

「人にモノを尋ねる時は先ずは自分、と教わらなかったかね?」

 

俺の質問に、まさかそう返してくるとは思わなかった。兵装からして益州軍じゃあない、そして擁州軍でも無いとなれば涼州軍か司州軍か荊州軍となるわけで。ヘタをすれば逆上して襲いかかってくるとも思ったが冷静に返してくるとは思わなかった。

 

「・・・・傭兵部隊『飛雷』を率いてる、李厳ってモンだ」

「益州の曇天を舞う雷、と評されたあの『飛雷』か」

 

なんだその評価、初めて聞いたぞ俺は。っつーか益州領内でしか戦った事ねぇのになんでそこまで名が知れ渡ってんだ?

 

「何故名が益州領外に広まっているか、と言う顔をしているな。単純な話、それだけキミらの戦いざまが鮮烈で華があったからだ。例えキミらにその自覚があろうが無かろうが、それだけキミらの戦いは周囲を惹きつけたと言う事だ」

「へぇ・・・・」

 

風評、ってやつか?そう言えば桔梗さん、俺たちが活躍するととにかく『飛雷』の名で勝ち名乗りをさせていたがそういう事だったのか。これから先、広い中華に打って出るには必要なものだ。矢張り桔梗さんには感謝だな。

 

「さて・・・・いい加減質問に答えよう、私は龐徳。涼州刺史馬騰配下の将、此度・・・・白波賊の涼州侵入を受け、先手を打ち討伐するために此処にいる」

 

龐徳と名乗った男の、眼前へと進み出たのは高順だ。

 

「私は天水太守董卓が配下、高順と申します。龐徳殿、貴殿ら涼州軍が擁州に入るという話は聞いておりませんでしたが・・・・まさか無断での侵入でしょうか?であれば涼州刺史の釈明、及び・・・・」

「・・・・無断での侵入だ、それについては謝罪しよう。だが・・・・こちらの話を聞いて欲しい、全ての判断はそれからにして欲しい」

 

高順と龐徳がにらみ合う中、俺は二人を交互に見比べながら椿へと問いかけていた。

 

「なぁ椿、どう思うよ?」

「?」

 

何が?と言いたげに首を傾げる椿、俺は笑いながら答えた。

 

「あの二人、欲しいな」




第七話でした。因みに・・・・英雄譚キャラは出演予定は今のところ無いです。未プレイだからキャラが把握できませんで・・・・次回はVS白波賊です。

そしてお気に入り登録数が百を越えました!皆様マジありがとうございます!今後共宜しくっす!


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