機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼 (K-15)
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第1話 舞い降りた流星

これは自分が1番初めに書いた作品を修正したモノです。
もしかしたら見た事がある人も居るかもしれません。
大筋はそのままに文章表現などを変えて以前よりも上手になった文で書いて見ました。



地球への落下コースを進むユニウスセブン。

20万人以上が住むことの出来るこのプラントが地球に落下したときの被害は計り知れない。

政府プラント直属の軍事組織であるザフト軍はすぐに対策に打って出た。

ザフト軍の所属であるミネルバもまた、ユニウスセブンが地球への落下するのを阻止する為に駆けつける。

ミネルバに所属しているパイロット、シン・アスカと、偶然にも艦に搭乗する事になったアレックス・ディノはモビルスーツに乗り最後の破壊活動を行っていた。

艦隊からの砲撃、モビルスーツによる内部からの破壊活動も、そのあまりにも大きすぎる質量を前に苦戦を強いられている。

原型が崩れないまま地球へと迫っていくユニウスセブン、ミネルバのブリッジで艦長であるタリア・グラディスは苦汁の決断を迫られていた。

これ以上の破壊活動はミネルバの破損やクルーの安全を考えると、出撃しているモビルスーツも帰艦させなくてはならない。

続々と送られてくる戦況報告を耳にしながらも次に取るべき行動を思考するタリア。

艦長シートに座って、タリアはプラント最高議長のギルバード・デュランダルに自らの決断を言った。

 

「議長、これ以上はクルーにも危険が及びます。無念ではありますがここは撤退を」

 

「そうか、悲劇はまた繰り返されてしまったか。なら後の事は君に任せるよ艦長。私はこれからの事を考えなくてはならないようだ」

 

ギルバードは静かに目をつむり、ブリッジから踵を返す。

無重力空間での移動で肩まで伸びた長髪が揺れる。

エアロックが解除され圧縮されたエアーが抜ける音が鳴り、ギルバードはブリッジから出て行った。

音だけでギルバードがブリッジから出て行ったのを確認したタリアは、すぐに通信兵に命令を伝達させる。

 

「メイリン、出撃しているパイロットに帰艦命令を。本艦はユニウスセブンの破壊を放棄し、そのまま大気圏へ突入します」

 

「了解しました」

 

通信管制を担当するメイリン・ホーク、赤毛のツインテールが特徴の10代半ばの彼女も、ミネルバの正規クルーである。

耳に付けたインカムのマイクに声を発し、出撃中のモビルスーツにミネルバに戻るように通信を送った。

 

「ミネルバから各機へ。これより本艦はモビルスーツを回収後、大気圏に突入します。撤退を始めてください」

 

ミネルバから出撃しているモビルスーツは4機、その内の2機のザクからはすぐに応答が返って来た。

白い色をしたブレイズザクファントムに搭乗するレイ・ザ・バレル。

赤い色をしたガナーザクウォーリアに搭乗しているルナマリア・ホーク。

レイは通信を返し、共闘しているルナマリアにも声を掛けた。

 

「了解した、帰艦する。ルナマリア」

 

「わかってるわよ。でもこんな……」

 

目の前に見えるユニウスセブンはまだまだ破壊には程遠い。

時間も足りない、人員も足りない、資材も足りない。

さらにはテロリストの反抗によりただでさえ少ないのを削られてしまった。

ルナマリア1人でどうにか出来るモノではないが、地球に落ちるのを見る事しか出来ない状況に悔しさがにじみ出る。

 

「出来るだけのことはした。もう諦めるしかない、すぐに帰艦するぞ」

 

「くっ!! 了解」

 

ルナマリアはザクに装備されているオルトロス砲を構え、最後に1発だけユニウスセブンに放った。

通常兵器よりも大火力であるにも関わらず、ビームはユニウスセブンに消えていく。

もうすでにこの巨大な物体を止める術などはない。

それでもまだ諦めていない男が1人居る。

 

『ミネルバは大気圏突入シークエンスに入ります。全機帰艦してください』

 

ミネルバから通信が入るもアレックスは破壊活動を止めて戻ろうとはしなかった。

 

「ミネルバに戻りますよ!」

 

「だが、まだユニウスセブンは破壊出来ていないんだぞ!!」

破壊活動を続けるアレックスのザクに、インパルスに搭乗するシンも呼びかけるが、それでもまだ止めはしなかった。

大気圏突入の姿勢に入りながらも、地球への被害を減らそうとミネルバは攻撃を続けるがそれでも微々たるものでしかない。

主砲でユニウスセブンを破壊しながら進むミネルバに2人は一向に戻ろうとはしない。

 

「艦長!! シンとアレックスさんがまだ戻っていません!!」

 

飛び交うビームとミサイルの雨、砕け散るユニウスセブンと飛び散る残骸がミネルバにぶつかって来る。

損傷はしないが、残骸がミネルバに雨のように当たる度にすさまじい轟音が鳴り響き、メイリンは叫び気味にタリアに報告した。

 

「インパルスには大気圏突入装備があるから心配いらないわ!! それより周囲の破片の警戒を!!」

 

タリアも大声で叫び返さないとメイリンまで声が届かなかった。

地球に近づくミネルバは次第に引力に引っ張られて行く。

返って来た返事に、今のメイリンには2人の無事を祈るしか出来ない。

「シン、アレックスさん。ちゃんと帰って来てね」

 

引力に引っ張られるデブリは真っ赤に発熱して燃え尽きる。

ユニウスセブンからこぼれ落ちる残骸も地球の引力に呑み込まれて行く。

情報も錯乱し、もう止められないユニウスセブンを諦め自身の生存の為に動いている者が大半だ。

そんな中で流星が通り過ぎて行った事に気が付いた者はいない。

刻一刻と地球へ迫るユニウスセブンにシンとアレックスはまだ居た。

「これ以上は無理です!!」

 

「だが、これでは地球が」

 

「こっちも焼け死んじゃいますよ!!」

 

開発されたばかりの新型モビルスーツ、インパルスとザクウォーリアはまだユニウスセブンに残っていた。

引力に引っ張られ、メインスラスターを吹かしても宇宙へは戻れない。

周囲の景色も断熱圧縮の熱で赤く変わってきていた。

内部から破壊するために来た他のモビルスーツ達は皆、既に見切りをつけて脱出してしまっている。

それでもザクに搭乗しているアレックスはまだここから離れようとはしない。

だが今までの戦闘でザクの左腕は破壊されてしまっている。

片腕のないモビルスーツでは満足に動かすのもやっとでこれ以上の行動は出来ない。

残ったマニピュレーターが握っているビームライフルのトリガーを引きユニウスセブンへ撃つが、着弾したのも確認出来ないくらいに真っ赤に発熱していた。

そしてビームライフルのエネルギーも底をつき、トリガーを何度引いても銃口からビームは出ない。

 

「ここまでなのか」

 

手段がなくなり、握っていたビームライフルを投げ捨てた。

しかし今からではミネルバに帰還する事は不可能。

距離も離れすぎているし、引力を振りきってミネルバに行くだけのエネルギーも残っていない。

 

「クソ、ここからじゃミネルバに追いつけない。シミュレーションでやったけど行けるか?」

 

新型のインパルスは従来のモビルスーツとは違い、換装やオプションパーツがなしでも単独で大気圏突入が可能である。

だがシンはインパルスに乗って日が浅いせいで、実戦で試した事はない。

一抹の不安が頭によぎるが、インパルスはザクの腕を掴みメインスラスターを吹かして無理やり移動を始めた。

このままここに居たのでは地球の引力に引っ張られ大気圏で燃え尽きるだけだ。

インパルスに連れられてユニウスセブンから離れていくザク、目の前には青い水の惑星が広がっている。

シンとアレックスはミネルバに続いて急いで大気圏突入に姿勢に入った。

機体の姿勢を整え地球の引力に引っ張られるようにして進んで行く。

そのすぐ隣には破壊出来なかったユニウスセブンの巨大な姿が目に映る。

 

「くっ!! 何も出来ないで」

 

アレックスは苦虫を潰したような表情を浮かべながらもザクの姿勢制御に集中した。

断熱圧縮により視界に映る映像が赤みが掛かって来ている。

次第に悪くなっていく視界の中でシンはインパルスの操縦に集中していたが、不意に自分達の隣を何かが高速で通り過ぎて行った。

 

「あれはモビルスーツ?」

 

はっきりは見えなかったので機種まではわからなかったが、背部に羽を付けた人型のモビルスーツがユニウスセブンへ接近して行く。

大気にかき消されていくそのモビルスーツの残光を見ながら、シンは地球の故郷を思う。

2人は地球へ落ちるユニウスセブンをただ眺めていることしか出来なかった。

そのモビルスーツは白い装甲を真っ赤に発熱させながらも、羽と背部のスラスターを吹かしてさらに加速する。

量産機ならこの段階まで来ると様々な異常が発生するが、このモビルスーツはまだ耐えて、ついにはユニウスセブンを追い抜いてしまう。

機体を反転させ、地球に向かって背中を向けメインスラスターを全開にし機体の落下スピードを少しでも押さえようとする。

左手には巨大なライフルが握られ。それを前方に構えた。

地球に落下する衝撃で銃口が震えて定まらないが、機体に備わっているシステムとパイロットの技量で、一切の狂いもなく照準は合わさる。

 

『ターゲットロックオン。破壊する』

 

落下するユニウスセブンの頂点に狙いを定め、パイロットは迷いなくトリガーを引いた。

 

///

「各員、衝撃に備えて!!」

 

タリアが指示を出すよりも早くに衝撃波がミネルバを襲う。

艦体が傾き、彼女は自分の座っているシートに何とか這いつくばり目を開けると、そこにあるはずの物が跡形もなく消えていた。

それは誰の目にも鮮明に記憶される。

数秒前までそこにあったユニウスセブンが完全に消滅した。

無事に地球へと降下したミネルバだったが、ブリッジに居る誰も言葉を発することはない。

単独で大気圏に突入したインパルスとザクにもその様子は見て取れた。

 

「何だったんだ今のは……ユニウスセブンはどうなったんだ?」

 

突然の出来事にシンもまた状況を把握出来ないでいる。

無事に単独での大気圏突破に成功したインパルスだったが、破壊による衝撃波でアレックスが乗るザクを手放してしまい離ればなれになった。

幸いにも地球に降下してからだったので燃え尽きる事はないが、損傷して武器もない機体でもしも敵と戦闘にでもなれば生き残る道は険しい。

混乱する思考の中で地球に下りたシンは急いでアレックスのザクを探すが、その目に見えたのは1機のモビルスーツだった。

『任務、完了』

 

地球に降下したミネルバ艦内は慌ただしく動いていた。

周囲の海にはユニウスセブンの残骸がチラホラと浮いている。

この程度の被害で済むなど誰も想像すらしなかっただろう。

そんな中タリアは単独で降下したシンとアレックスに連絡を取るようメイリンに指示を出す。

 

「シンとアレックスさんとの連絡はどうなったの?」

すぐにタリアに返事を返そうとしたが衝撃波による揺れにより体の節々を少し傷めてしまった。

それでも振動から体が慣れ始めたメイリンはすぐに現状を報告する。

 

「依然、2人からの応答はありません」

「そう、なら周囲の索敵も急いでちょうだい。2人を早急に見つけて救援に向かいます」

そんな中でギルバード・デュランダルも目の前で起こった事実について考えていた。

誰も口には出さないがミネルバのクルー全員が気になっている。

それを確かめるために安全な自室からブリッジへ向かった。

ブリッジの扉を開けるとクルーは一斉に起立しギルバードに向かって敬礼をした。

 

「議長、お怪我はありませんか?」

 

「いや、問題ない。それより艦長、先ほどの事をどう思う?」

 

ブリッジに居るクルー全員が聞き耳を立ててその様子を見ようとする。

 

「先ほどのことと言うとやはりユニウスセブンが消滅した事について、ですよね?」

 

「あれだけの質量を一瞬にして破壊するだけのエネルギー、地上から放たれたのだとしたら相当巨大な兵器と言うことになるがそんな情報はない」

 

いくつか挙げられた候補はいずれも確証もなくユニウスセブンが消滅した理由はまだ分からない。

落ち着きを取り戻しつつあるブリッジに同じくミネルバに搭乗していたオーブの首相、カガリ・ユラ・アスハがやって来た。

ブリッジにツカツカと歩いてくると少し高圧的にデュランダルに話す。

 

「議長の方こそなにかご存知ではないですか? ザフトの新型ではないのですか?」

 

ギルバードは驚いた素振りであたかも今気がついたかのようにカガリを視線に入れる。

 

「姫、いらっしいましたか」

 

「質問に答えてください」

「ザフトにあれを破壊できるほどの兵器はありませんよ。もしかすると連合の新型かもしれません」

 

「それは信用してもいいのですか?」

 

「本当に連合軍の兵器かどうかまでは分かりませんがザフトではありません。これは信用して頂きたい」

 

デュランダルの相手を見透かすかのような態度と感情を表に出さない表情にカガリも今は彼の真意が悟れないで居る。

 

「わかった。けれどいずれにしてもあれほどの兵器はオーブにとってもザフトにとっても脅威になる」

 

「仰る通りです。ユニウスセブンにはすぐに調査部隊を派遣させますので」

 

カガリは1度は納得してこの話を切り上げたが完全に信用はして居なかった。

だがこの世界に居る誰もがまだこの答えを知るものは居ない。

////

「大丈夫ですか?」

 

無事に地球に降下したシンはアスランと行動をしていた。

 

「あぁ、だがこれでは満足に動くこともできない」

 

先ほどの戦闘で損傷したアスランのザクは今、インパルスに支えられながら空を飛んで居る。

しかし、インパルスのバッテリーも限界が近い。

 

「早くミネルバを見付けないと沈んじゃいますからね」

 

「そうだな、だがさっきから通信が繋がらない。これじゃ目視で探すしかない」

ユニウスセブンの破壊したときに膨大なプラズマが発生し通信が出来なくなっている。

2人が接触回線で話をしていると機体のレーダーに反応があった。

 

「ん、反応があった」

 

「たぶんミネルバでしょう、よかった、これならなんとか持つぞ」

 

安堵する2人レーダーの反応はミネルバではなかった。

2人はここで異物と遭遇する。

///

 

メイリンは索的班からの情報を読み上げる。

「艦長、索的班からの報告です。レーダーにモビルスーツ3機反応あり、です」

 

「3機、もう一機はいったい?」

 

大気圏突入に伴いインパルスとザク以外の機体はすべてミネルバに収容した。

他部隊の機体も単独で大気圏に突入出来るだけの性能を持っている機体はそう多くない。

それに通常ならば地球へは降りずまだ宇宙に残って居る。

 

(他の部隊の機体が混じったとは考えにくいわね。敵なのか、それとも……)

 

疑問が頭で渦巻きながらも声を張り上げ指示を飛ばす。

今はシンパルスとザクを回収するほうが重要だった。

 

「進路変更、目的地海域B-296。で、よろしいでしょうか議長?」

 

「あぁ、シンくんとアレックス君を迎えにいかなくては。それにもう1機も気になる」

 

姫もですよね、とギルバードは無言でカガリに示す。

 

「あぁ、そうだな!!」

 

カガリは上ずった返事を返した、アスランの正体をばらさないためにも自分からはあまり言わないようにして居る。

見ただけで様子がおかしいとわかるが彼女にはこれが精一杯だった。

カガリのウソが下手というのもあるがギルバードはすでにアスランに気づいて居る。

 

「あの機体は!?」

 

シンは視界に移るあの機体は地球に下りるときに見たモビルスーツだと見てわかった。

まだ敵か味方かもわからないがあのようなモビルスーツはデータにない。

左手に巨大なビーム砲らしきものを持ったそのモビルスーツはこちらを見たまま動こうとはしない。

蛇に睨まれた蛙のように動けないシンだがアスランは冷静に対応する。

「何かはわからないが敵だとしたら不味い。こちらは満足に動けないんだぞ」

 

「わかってます。気になるけど1度ミネルバに帰艦しますよ」

シンは距離を開けながらここから離脱しようとする。

残りのエネルギーを気にしながらインパルスはザクを連れてミネルバに飛ぶ。

///

インパルスが謎のモビルスーツの空域から離脱してミネルバに向かって来る。

損傷したザクを支えながら飛ぶその姿を見てタリアは言う。

 

「インパルスとザクの収容準備をするようマッドに伝えて。本艦は2人を収容した後、アンノウンに接触を試みます。レイとルナマリアに出撃の準備をさせて」

 

カガリはブリッジのモニターに映し出される映像をジッと見てる。

損傷してはいるが無事に戻ってきたザクを見て安堵の息を出した。

 

「よかった、2人とも無事で」

 

「アレックス君が、ではないですか?」

 

すぐ傍に立つギルバードは嫌味のように言うと同時にカガリはまた冷静さを失う。

 

「そっ!? そんなことはない!! 全員無事に生きているほうが良いに決まっている!!」

そう言いながらカガリはユニウスセブン破壊作戦の出撃前にシンと言い争いになった事を思い出して居た。

ギルバードは彼女の考えを見透かすように言葉を続ける。

 

「たしかインパルスのパイロットのシン・アスカ君はオーブのご出身でしたね」

 

ユニウスセブンの落下を阻止する為、シンが出撃する前に言われたことが胸に残る。

2年前の戦争でオーブ国内でも多くの人が死んだ。

今は国家元首となったカガリはこの責任を取らねばならない立場にある。

だがその術を彼女はまだ見いだしていないし、激昂するシンを相手に冷静に対処出来る程に大人でもなかった。

オペレーターのメイリンの声がブリッジに響く。

「インパルス、ザク収容しました。パイロットは両名とも無事です」

 

「これより本艦はアンノウンと接触します。総員警戒態勢に入れ、モビルスーツ部隊は迎撃準備」

 

インパルスとザクを収容したミネルバは全集域に通信を出しアンノウンに接触を試みる。

メイリンはタリアの命令を受け、インカムに声を出しアンノウンに呼び掛けた。

 

「こちらはザフト軍ミネルバである。応答し所属を言いなさい」

 

『……』

 

待つこと数秒、アンノウンから応答はない。

タリアは相手を動きを読めない事に焦りはせず冷静に次にどうすべきかを考える。

けれども副艦長のアーサーは汗を流しながら不安になりタリアに詰め寄った。

 

「やはり危険です、動かれる前に攻撃したほう――」

 

「相手から応答はあった?」

 

アーサーが最後まで言うまでにタリアは無視してメイリンへ話した。

 

 

「いいえ、アンノウンからの応答はありません」

 

「もう1度試してみて」

 

「所属不明機、こちらはザフト軍ミネルバである、応答し所属を言いなさい。繰り返す、こちらは――」

///

『所属不明機、こちらはザフト軍ミネルバである、応答し所属を言いなさい。繰り返す、こちらは――』

通信の途中にもかかわらず何も言わずに回線を切る。

 

「俺には関係ない」

 

両手で握る操縦桿を操作すると人型のモビルスーツが鳥のようなフォルムに一瞬で変形した。

白い翼を広げメインスラスターから大出力の推進力を生み出し、空気を切るように加速すとミネルバのブリッジ部分をかすめるように飛んで行く。

///

「通信、途絶しました」

 

メイリンからの報告で次の行動を考えるタリア、するとアンノウンに動きがあった。

こちらに目掛けて飛んで来るそのモビルスーツは鳥のようなフォルムに変形をし一気にスピードを上げて飛んで来る。

アーサーは攻撃してくるのではと情けなく震えて艦長シートの後ろへ隠れた。

だがアンノウンは攻撃はせず、大空へ青白い炎の影を残してブリッジをかすめるようにして飛び去って行く。

 

「一体、何だったの?」

ブリッジのクルー全員がそう思いながらアンノウンが飛び去った方向を見た。

そこにはシンの故郷オーブがある。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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第2話 帰って来た故郷

オーブへ到着したミネルバは束の間の休息を得て居た。

テロリストとの戦闘により消耗した艦とモビルスーツの修理もありしばらくはここに留まる事になる。

モビルスーツデッキでは帰還したインパルスとザクの整備を急ピッチで進めておりすぐに戦線へ送り出せるように整備兵が汗を流しながら走り回って居た。

艦長であるタリアもオーブ入国に伴い責任者として事務手続きを行わなければならず、戦闘のない安息の地とは言え休む暇はない。

一方、パイロットは戦闘が始まらない現状では体を休ませるのが仕事で、自室に待機しているシンは赤いザフトの制服を着てベッドに寝転がって居た。

 

「まさかもう戻ってくるなんてな、マユ……」

 

妹が残したピンク色の携帯電話を握りしめ誰もいない部屋で1人呟く。

シンの家族は2年前の戦争で彼を残して死んでしまった。

家も戦闘の被害で完全に破壊され、妹が使ってたピンク色の携帯電話だけが唯一の思い出のモノ。

それ以来、シンは戦乱に巻き込まれたオーブを脱出しプラントへ移住。

自分の無力さを目の当たりにし、実感した彼はザフトへ入隊した。

士官アカデミーを卒業したシンは成績上位だった為、それを表す赤服を支給されミネルバに配属する事となる。

夢うつつになりながら天井に設置されたライトを見てると部屋の扉のエアロックが解除され誰かが入って来た。

気だるさの残る体を起き上がらせて扉の向こうで待つ相手を見る。

 

「シン、上陸許可が下りたわよ。みんなでどこか行かない?」

 

入ってきたのは同じアカデミーを卒業したルナマリア・ホークとレイ・サ・バレルだった。

ルナマリアはピンクのプリーツを履き赤いショートヘアーの前髪を揺らす。

2人ともシンと同じように赤い制服に着替えており気分転換も兼ねてシンを誘いに来た。

けれども彼女の誘いを快く受け入れられる程、まだ心の傷は癒えてない。

 

「そんな気分じゃないんだ」

 

「何で……ここはアンタの故郷なんでしょ?」

 

「うるさいなぁ、ほっといてくれ」

「せっかく誘ってやったのに、何よその態度は!!」

 

シンの生まれの事情を知らない彼女には、今のシンの言動はただの癇癪だと思われてしまう。

そんなシンにルナマリアも声を上げるが隣で見てたレイがなだめながらに言う。

「シン、やはりオーブは辛いか?」

「っ!?」

思い出したくもない記憶が鮮明に頭の中で蘇る。

戦闘が始まり家族みんなで林の中を逃げていた。

空には煙が上がり破壊されたモビルスーツの爆発で空気が焼け、抵抗手段のない人々は生き残る為とにかく走るしかない。

シンの家族も抵抗手段を持たない人の1人、避難シェルターに向かって林の中を駆け抜ける。

逃げている途中で妹が携帯を落としてしまう、これが運命の分かれ目になるとは夢にも思わなかった。

(あそこで取りに行かなければ俺も死んでいた。幸運なのか不運なのか、そこでヤツを見たんだ)

 

飛来したビームは跡形もなくすべてを消し去る。

目の前には焼け焦げた地面があるだけで、もうこの場にはシン1人しか居なくなった。

弾幕が飛び交う空を見上げると、その先には6枚の青い翼を持ったモビルスーツ。

 

(6枚の青い翼をもったモビルスーツ、家族の仇。俺はアイツを倒す!!)

アカデミーで出会ったのがこの2人、レイはいつも冷静沈着で感情をあまり表には出さない。

モビルスーツの操縦も正確で戦術的な行動をする事で教官からも評価が高かった。

シンとは対照的な人物だが心を打ち解けあえる仲間と信頼してる。

 

「家族に会いに行ってみたらどうだ?」

「慰霊碑……確かに最近は行ってないな」

 

「次は何時になるかわからない。ミネルバの補給と整備には時間が掛かる。慌てて行く事もないが、きちんと心の整理を付けた方が良い」

 

レイに言われどうするか悩むシン、傷ついた心がそれを邪魔させる。

静寂した空気が支配し誰も何も言わないまま数秒過ぎると、もう一度携帯電話を見つめて決心を固めた。

 

「オーブか」

 

///

 

少年はアテもなく、海を眺めながら砂浜を歩いてた。

空を飛ぶカモメの鳴き声と波の音、静かで心地よい空間で満ちて居る。

けれども少年の心情は穏やかではない。

 

(コズミック・イラ73年、それがこの世界での年号。地球と宇宙、ナチュラルとコーディネーター。細かな図式は違うが互いに対立し血を流すのはどこへ行っても同じか。ウイングゼロをこれ以上使うのは今は危険だ。もっと情報が居る。戦う事しか出来ない俺に何が出来るのか……この世界でどう生きる?)

 

少年は感情を口にしない。

水平線に続く海の先を見てるだけ。

ずっと1人で佇みながら自問自答を繰り返し答えを導き出すべく考えてると、砂浜を歩く足音が聞こえて来る。

視線だけを向け様子を伺うと、そこには麦わら帽子を被ったピンク色の長髪の女性と幼い子ども達が居た。

 

「らくすさま、誰か居るよ?」

 

「お兄ちゃん、迷子なの?」

 

「ヒッ!! 何だかこわい」

 

子どもは思い思いの事を口にするが少年はそれが耳に入っても眉1つ動かさない。

ラクスと呼ばれた女性は優しい笑みを浮かべながら少年の元にまで歩み寄って来る。

被ってた麦わら帽子を手に取り胸元で抱えると軽くお辞儀をした。

 

「ごきげんよう。ラクス・クラインと申します。ここへは観光で入らしたのですか?」

 

「あぁ、そんな所だ」

 

「ここオーブは争いのない平和な場所ですものね」

 

「そうだな」

 

無愛想に応える少年。

けれどもラクスは嫌な表情を浮かべたりせず、コミュニケーションを取ろうと続けて言葉を返す。

 

「観光で入らしたと言いましたがどこから来たか教えて頂けませんか?」

 

「宇宙だ……」

 

「まぁ、プラントから。それは長旅ですね」

 

『プラント』

その単語を聞いてもラクスの表情は変わらないが、一緒に居る子どもは違った。

 

「テレビで言ってた。また戦争が始まったって」

 

「何も悪い事してないのに、どうして戦争になるんだよ」

 

一斉にうつ向き、中には涙を浮かべるモノも居る。

ラクスは屈んで子ども達の頭を撫でであげ気分を落ち着かせ何とか泣き止んで貰う。

 

「この方は悪い人ではありません。むしろその逆、人の心がわかるとても優しい人ですわ。だから皆さんが怯える必要はなくってよ」

 

「ほんとうに?」

 

「本当です。彼は優しい方です」

 

そう言ってラクスはまた少年に視線を向ける。

2人は互いの瞳を見つめ視線が交わるが、少年は口を開けはしない。

それでもラクスは笑みを浮かべて立ち上がり数歩歩く。

視線を動かすだけの少年の目の前に立つとまた言葉を続けた。

 

「よろしければお名前、教えて頂けませんか?」

 

少年はジッと動かない。

鋭い視線を彼女に向けるだけで数秒が経過して行く。

波の音が大きくなる中で、ようやく彼は自らの名前を口にした。

 

「ヒイロ・ユイ」

 

「ヒイロさん、良いお名前で。これからの予定は?」

 

「いいや、まだ決めてない」

 

「でしたら慰霊碑に行ってみてはどうでしょう? 少し遠いですが丘の上に作られてますの。アナタもプラントに住む人なら、1度行ってみるのも良い経験かと」

 

そう提案するラクスにヒイロは何も答えない。

振り返り丘の頂上を視界に収めると、長い時間居た砂浜からようやく動き出す。

礼も返事すらも返さないヒイロだが、遠く小さくなってく背中にラクスは笑顔で手を振った。

 

「機会があれば、またお会いしましょう」

 

///

 

戦争により破壊された街並みも今や復旧されており元のように活気に沸いて居た。

あの悲劇から2年、久しぶりに訪れたオーブは復旧に伴い知らない所が幾つもある。

新しく出来たベーカリーショップ、石畳の路地を住民達が大勢歩く。

さんさんと降り注ぐ太陽光。

海を眺めれば海水浴を楽しむ家族連れなども多く居た。

でも今は変化した街並みを見るよりも重要な事がある。

シンはフルフェイスのヘルメットを被りバイクに跨ると岬にある慰霊碑に向かった。

向かっている最中、海から吹く潮風が心地よくオーブに戻ってきたことを実感させてくれる。

 

(本当に戻って来たんだな。この場所に……懐かしさと同じくらい悲しみが残るこの場所に)

 

岬にある慰霊碑には戦争で亡くなった人々を祀るため、もう2度と悲劇を繰り返さないよう願いを込めて建てられた。

モビルスーツのビームにより姿を消した家族は髪の毛1本も残ってない。

故に墓参りは慰霊碑へ行くしかなかった。

そこへ行った所で遺骨はない。

名前も『先の大戦で失くなった人々』と一括りにされてるだけ。

でもシンにはここへしか行かなければ心の整理を付ける事は出来ない。

左手でクラッチを握りギアをシフトアップさせアクセルを吹かす。

加速するバイク、風が体へ強くぶつかって来る。

段々と近づいて来る岬、その慰霊碑には人影が見えた。

 

(こんな所に誰か居るのか?)

 

舗装された道路から砂利道に入るとブレーキを駆け減速する。

バイクを停止させると甲高くなるエンジンを止め、ヘルメットを脱ぎ慰霊碑に向かって歩く。

ここでシンは2人の男と出会った。

1人は花束を抱えており、もう1人は小柄な少年のように見える。

少年は慰霊碑に刻まれた文字をじっと見たままこちらには振り向く素振りさえない。

シンは音を立てないように彼らの後ろまで来ると、花束を抱えた男が振り返り優しさの漂う眼差しで見つめる。

 

「キミも花を供えに来てくれたの?」

 

「えっ!? えぇ……」

「ありがとう。ここは潮風で花がすぐに枯れちゃうんだ。時々来ては変えてるんだけどね」

 

「いえ、ここに来たのもたまたまなんで。次に来れるのは何時かわかりません」

 

「そうなんだ、じゃあこの人と一緒だね。この人もたまたま来たらしいんだ」

花束を抱える男はジッと動かない小柄な男へ視線を移す。

シンも釣られて視線を移したが、男は見向きもしない。

 

「この人は何でここに?」

 

「さぁ? 話し掛けてもあまり応えてくれないんだ」

 

「そうですか……」

 

「なら、僕はもう帰るよ。少し用事があるんだ」

 

言うと男は慰霊碑の前に花束を添えて、振り返りざまにシンと正面から向き合う。

ゆっくりと歩を進め体が触れるくらいまで近寄ると、また優しい笑みを浮かべた。

 

「また会えると良いね」

 

そう言い残しシンの横を通り抜けて行ってしまう。

慰霊碑には小柄な少年のシンだけになり、重苦しい空気が流れた。

知らない相手に流暢に話し掛ける程、シンも社交的ではない。

だが何もしないのも感じが悪かった。

慰霊碑の前に立つ少年の横へ並ぶとシンは横目でチラリと表情を覗く。

鋭い瞳に何が映ってるのかは誰にもわからない。

 

「お前はこの世界の事をどう捉える?」

 

「え? 俺に言ってるのか?」

 

「平和は戦争が終わった後の結果でしかない。確かに戦争は終わったが、今のようになってたとは限らない。それにまだ、今と言う時代に納得出来ないヤツは居る」

 

(この前のテロリスト。アイツらみたいなヤツが戦争の火を広げるんだ。コイツはその事を言ってるのか?)

 

「時代に相応しいかどうかを決めるのは民衆だ。その民衆が兵士はもう必要ないと叫んだら、お前はどうする?」

 

(俺は……)

 

「兵士は平和の為に戦う。平和が訪れた時、兵士はどう生きれば良い?」

 

「無口なヤツだと思ったけど、結構ペラペラ喋るんだな。そうだ、兵士は平和の為に戦うんだ。だから俺はこれからも戦い続ける。政治の事とか難しくてよくわからないけど、俺なりに思う事はある。平和は勝ち取るモノだ。誰かに頼るモノじゃない。その平和を維持するのも兵士の役目だろ」

 

「それがお前の答えか?」

 

少年はまた鋭い視線を向ける。

それに応えるようにシンも赤い瞳を少年へ向けた。

冷たい潮風の音だけが聞こえる。

 

「わかった。俺が進むべき道が」

 

風にかき消されるくらい小さな声で呟く少年。

2人は暫くの間、慰霊碑の前で立ち尽くす。

 

///

 

シンが少年と出会った数時間後、オーブは大西洋連邦と同盟を結んだ。

オーブの代表であるカガリは理念に反する行為だと会議室で叫ぶが、ここに集まった10人余りの議員にその声は届かない。

父、ウズミの意思を受け継ぎ理想を掲げるカガリだったか、経験の浅い彼女にこの決定を覆すほどの力はなく、数の上で圧倒されてしまう。

 

「今やるべき事はこんな事じゃない!! 戦争による被害の復旧はまだ完全に終わった訳ではないんだ。国家として優先するべきは――」

 

「代表、言いたい事は理解出来ます。ですが現実はそうではありません。宇宙ではまた動乱が始まったのです」

 

カガリの声を1人の議員が遮る。

彼もまた同盟を結ぶ事に賛成派の人間だ。

 

「以前のように戦火がオーブにまで広がる事は充分に考えられます。そうなってからでは遅いのです。軍備を整え拡大させるにも時間と予算か掛かります」

 

「だからそんな事をしてる場合ではないと言った。オーブは争いには関与しない、それが長きに渡り続いて来たこの国の理念だ」

 

「ですが理念で国民は守れません。侵略して来る相手は我々の言葉に耳を貸しません。もしもそうなった時、国民を如何にして守るのですか?」

 

「それは……」

 

カガリにもわかってた、目の前の議員が話す事は正しいと。

現状でオーブ近海で戦闘が起これば防衛出来るだけの力はまだない。

でも父の願いでもあるオーブの理念はどうしても守りたかった。

どちらも天秤に掛けて比べる事など出来はせず、カガリは歯を固く噛み締めながら苦悩するしかない。

 

「だが、以前起こったプラントでの戦闘は一部の過激派に過ぎない。ユニウスセブンも地球には落下せずに終わったんだ。だから――」

 

「だから同盟を結ぶ必要はないと? 国民にも、無事に終わったのだからこのままで良いじゃないか。とでも言うのですか?」

 

再びカガリの声を遮るのはユウナ・ロマ・セイラン。

薄紫の長髪を人差し指でくるくると巻きながら、まだ未熟な彼女を諭すように言葉を続ける。

 

「カガリ、今すぐに理解するのは難しいだろうけどキミは学ぶべきだ。敵対国はこちらの事情など考慮してはくれない。相手が攻撃に打って出た時、オーブはどのような行動するのか? その為の同盟だよ」

 

「だがそれは――」

 

「前代表が続けてきたオーブの理念には反する。それは僕だってわかってるよ。でも時代は変わったんだ。相手に理解を求めるだけでは自国の平和、安全は意地出来ない」

 

「っ!?」

 

ユウナの言葉に反論する事など出来ない。

唇を噛み締め自分の無力さを呪う事しか今のカガリには出来なかった。

 

「別に僕だって理念を無下にしてる訳ではないよ。でもソレとコレとは別問題だ。感情を切り離して考える必要がある。わかってくれるね?」

 

カガリはユウナの言葉に無言で俯向く。

それを肯定したと受け取り、オーブは時代の流れにより変わってく事となる。

 

///

 

連合はユニウスセブン落下に関与したテロリストの受け渡しをプラントへ要求した。

従わない場合、武力により敵勢力を排除すると。

だがこの事件の首謀者は戦闘により死亡してる。

他のテロリストの殆ども同じく戦死してしまった。

そもそもがプラントはこの事件に関係がないため要求に従おうにも無理である。

返事を出せないまま時間が過ぎてしまう。

連合軍はそれを知って居ながら無理な要求を突き出し、一方的にプラント、及びザフトを敵とみなした。

開戦。

連合軍とザフト、地球と宇宙は再び戦う事となる。

当然、連合と同盟を結ぼうとせんオーブも巻き込まれる形になってしまう。

連合軍と敵対するザフトはオーブに留まる事は出来なくなり、補給も間々ならないままミネルバはオーブ領海へ進路を取る。

故郷がまた戦火に巻き込まれるかもしれない。

そう考えるシンの心は穏やかではなかった。

頭の中には現代表であるカガリの顔が浮かぶ。

 

(結局また口だけか!! アスハめ!!)

 

パイロットスーツに着替えるシンは出撃の為にモビルスーツデッキへ走る。

ミネルバの出港を待ち構えてた連合軍は大部隊を展開し目前へ迫っており、後方は出港したと同時にオーブの部隊が展開された。

状況を把握するタリアは親指の爪を噛みストレスを押さえ付ける。

 

「オーブもやってくれるわね。連合との同盟はまだなのに私達を敵対視して来るなんて」

 

「どうしてオーブが?」

 

「それが政治と言うモノよ、アーサー。背中から撃たれないだけマシと思わないと。トリスタン、イゾルテをいつでも撃てるようにして」

 

もう引き返すことは出来ないタリアは肘置きを握り締めるとコンディションレッドを発令する。

ミネルバクルーへ激励の声を上げた。

「前方には地球軍の大艦隊が待ち構えてるが、これを突破する以外に活路はない。各員の持てる技術を全て引き出し勝利への道を切り開いて貰いたい。健闘を期待する」

 

艦内放送で全クルーにそう伝えミネルバも戦闘態勢に入る。

搭乗するモビルスーツを発進させるべくパイロットも各々の機体へ乗り込んだ。

そしてシンも新型モビルスーツ、インパルスで発進する為にシークエンスの終えたコアスプレンダーへ搭乗する。

コンソールパネルを叩きハッチを閉鎖。

両手で操縦桿を握り締め、通信士のメイリンから発せられる発進の合図を待った。

 

『カタパルト固定、水平を維持。進路クリア。コアスプレンダー、発進、どうぞ』

 

「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!!」

 

カタパルトの先には青い空と海が広がるが、それを汚す火線が飛ぶ。

小型戦闘機であるコアスプレンダーのメインスラスターが火を吹き加速する。

コクピットのシンの体にGが掛かり慣性により背中がシートへ押さえ付けられた。

だが訓練を積んだ彼には造作もなく、ミネルバを飛び立つコアスプレンダーはオーブの領空から離れた場所を飛ぶ。

振り返る先には砲身を突き付けるオーブ艦隊が待ち受けて居る。

 

「退路はナシ、ってか。こんな事ならやっぱり帰って来るんじゃなかった!!」

 

悪態をつきながらも目の前の敵部隊を目視とレーダーで確認する。

シンのコアスプレンダーの発進に続きレイとルナマリアのザクも出撃シークエンスへ入った。

 

『レイ、ルナマリア、発進スタンバイ。ブレイズ・ザク、ガナー・ザクで発進』

 

「了解。レイ・ザ・バレル、発進する」

 

「ルナマリア、行きます!!」

 

バックパックを背負った白と赤のザクがカタパルトへ足を乗せる。

白のザクは背部に2基の大型スラスターを背負う事で機動力を向上。

右手に取り回しの良いビームライフルを握り、右足でペダルを踏み込み機体をジャンプさせミネルバの左側甲板へ着地させる。

ルナマリアの赤いザクは折り畳み式ビーム砲を抱え、背部にエネルギータンクを背負う。

レイと同じくメインスラスターを吹かせてジャンプし右側の甲板へ陣取る。

海上戦になる為、空を飛べないザクはミネルバを足場にして戦うしかない。

 

「ルナマリア、間違っても海へは落ちるなよ。敵の集中砲火を浴びるぞ」

「わかってる。レイもちゃんと仕事しなさいよ」

 

「言われなくとも」

 

レイとルナマリアのザクはミネルバの防衛に付き、空を自由に動けるシンのインパルスは単機で敵陣に斬り込む。

チェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットと合体する事でモビルスーツへ換装するコアスプレンダー。

シンはバックパックからビームサーベルを抜きペダルを踏み込み機体を加速させ、ウインダムの大部隊へ攻撃を開始した。

「こんな事で、やられてたまるかぁぁぁ!!」




当時を思い出すとまだまだ下手だったと実感します。
比べれば上手になっただけで今でもまだまた足りない部分はたくさんありますが。
書き直すだけでも文章量が増えるので時間が掛かり気味にはなってしまいます。
次話も2、3日で更新したいと思います。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第3話 運命の歯車

インパルスは戦闘中に各シルエットに換装出来るけど、捨てたシルエットはどうなってるんだろう? アニメではその描写がないんだよね。


バックパックの翼を広げたインパルスが大空を飛ぶ。

メインスラスターから青白い炎を噴射しながら加速するインパルスのコクピットの中で、シンは圧倒的な戦力差を前に顔を歪める。

レーダーに反応する連合軍のモビルスーツ、ウィンダムはミネルバの前方に25機も待ち構えて居た。

 

「無茶苦茶な数を用意しやがって。コイツ!!」

 

ビームライフルを構えスコープで敵機を照準に収める。

ウィンダムへ狙いを付けると高エネルギービームライフルのトリガーを引いた。

ビームは一直線に進むと編隊を組んだウィンダムの中央を突き抜けてくが、相手は回行動に移りビームは空の彼方へ消えて行く。

ソレを合図にしてウィンダム部隊は一斉に動いた。

無数の銃口がインパルスへ向けられビームの雨が降り注ぐ。

 

「くっ!! 数がどれだけ居たって!!」

 

操縦桿を握り、両足のペダルを踏み込み、新型機のインパルスを思い通りに操るシン。

左腕にマウントしたシールドを構えながら各部スラスターを駆使してビームを回避。

高い反射神経と卓越した技術で敵部隊の攻撃を受け流して行く。

それでも限界はあり、反応が僅かに遅れてしまった攻撃にはシールドを構えた。

対ビームコーティングが施されたインパルスのシールドはウィンダムから放たれたビームを完全に打ち消す。

 

「インパルスを舐めるなぁぁぁ!!」

 

シンも反撃に転じる。

素早く照準を定めトリガーを引く。

ビームはウィンダムの右脇腹へ突き刺さり機体は黒煙を上げながら力を失い海へ落下する。

コクピット近くへ直撃してしまったせいでパイロットに直接ダメージが通ったからだ。

更に続けてもう1射。

敵機も回避行動を取るが、動く先を予測してトリガーを2回引く。

 

『は、早い!!』

 

パイロットは反応が追い付かず機体の右脚部と頭部を撃ち抜かれまた海へ落下する。

反撃に備えシールドを前方に構える。

直撃、眩い閃光。

だがアンチビームコーティングがビームを通さない。

攻撃の隙を付きビームライフルを突き付けるインパルスはまたトリガーを引く。

ビームを発射する轟音が響き3機目のウィンダムのコクピットへ直撃させた。

 

「よし、これなら」

 

単機で瞬く間に敵を撃破するシン。

新型機のインパルスの操縦にも慣れて来た事もありそれは自信に繋がった。

 

『貰ったっ!!』

 

「遅い!!」

 

敵の1機が背後からビームサーベルを引き抜き接近戦を仕掛けて来る。

けれどもシンの反応も早かった。

振り返りシールドを掲げるとウィンダムが握りしめたビームサーベルを振り下ろす瞬間。

振り下ろしたビームサーベルはトリコロールカラーの装甲に触れる事はなくシールドに阻まれた。

銃口を胸部へ密着させトリガーを引くと、ビームのエネルギーで青い装甲が溶解し周辺が真っ赤に爛れる。

背部を貫通し風穴が開いた機体はもう動かない。

駄目押しに胴体を脚部で蹴り飛ばす。

 

「4機目、ぐっ!!」

 

だが攻撃を仕掛けて来るのはモビルスーツだけではない。

海上に展開する艦隊もミネルバとインパルスを撃墜せんと砲撃を仕掛けて来た。

VPS装甲を持つインパルスにはバッテリーが続く限り実弾兵器は効果をなさないが、直撃による衝撃はパイロットにまで伝わって来る。

シートベルトが体へ食い込みキツく締め上げるが、視線は目の前の戦闘画面から決して離さず操縦桿を両手で強く握った。

メインスラスターを吹かせて砲撃を回避すべく後方へ距離を離すが、目の前からは依然としてウィンダムの大部隊が迫る。

追い込まれるシン。

けれども後方から強力なビーム砲撃が敵陣に突っ込む。

赤黒いビームは陣形をかき乱し、ビームを照射したまま横へなぎ払う。

群がるウィンダムが波紋のように離れてくが、間に合わなかった2機が両脚部をビームに飲み込まれ制御を失った。

ビーム照射をした味方、レーダーを確認したシンの目に映ったのはルナマリアが搭乗する赤いガナー・ザクウォーリア。

 

『何やってんのよ、シン!!』

 

「ルナか!?」

 

『キッチリ後ろから援護してあげるからちゃんと動きなさいよね』

 

『ミネルバの護衛は俺達に任せろ。シンはとにかくモビルスーツ部隊を切り崩すんだ』

 

『新型機使ってるんだから楽勝でしょ?』

 

通信で聞こえて来る仲間の声に背中を押される。

数の上ではまだ不利な状況が続くが、シンは力強いアシストに力をみなぎらせた。

 

「簡単に言ってくれるよな」

 

そう言いながらもシンは赤い瞳で鋭く敵を睨むとペダルを踏み込みインパルスを飛ばす。

 

///

 

 

連合軍の司令官は舌を巻いた。

新造艦とは言えたった1隻でこの大部隊と対等に渡り合う現状に冷たい汗が流れる。

司令官の男は艦長シートの上で戦況を見極めながらもインパルスがウィンダムを次々に撃破してく状況に焦りを感じた。

25機も居たウィンダムは既に10機あまりにまで数を減らして居る。

 

「なかなかやる艦だな。新造艦と新型モビルスーツの性能は伊達ではないか。ザムザザーはどうした?」

 

シートの隣に立つ副官に向かって声を上げる。

 

「はっ!! パイロットの搭乗は完了済みです。ただちに出撃させます」

「あのザフトの新型モビルスーツの相手をさせろ。鬱陶しい蚊トンボを落とせば敵艦を沈めるのも容易になる」

 

「了解です」

 

「もうモビルスーツを時代は終わりだ。これからはザムザザーのように大型で強力なモビルアーマーが必要なのだ」

モビルスーツを蚊トンボと罵った司令官は不敵に微笑んだ。

司令官からの指示を受けてザムザザーが甲板へ移動する。

複座式のザムザザーには連合のパイロットが3人搭乗しており機長、操縦手、砲手の3つを分担して操作する事でこの巨体を動かす。

コクピットのシートに体を収めた機長はブリッジへ通信を繋げると新型モビルアーマ、ザムザザーが起動した。

 

「進路クリア、発進準備OK。ザムザザー発進します」

昆虫のようなフォルムをした連合軍の新型モビルアーマー。

緑色の装甲に4本の脚。

鋭く光るツインアイ。

大出力ホバークラフターが大きく重い巨体を軽々と宙に浮かせ、激戦の続く前線へと飛びミネルバに向かって行く。

前線で戦うインパルスはバックパックからビームサーベルを引き抜き袈裟斬りしウィンダムの胴体を分断させた。

シールドを構えると同時に機能を停止した機体が爆発を起こし戦闘画面を炎で埋め尽くす。

飛び散った細かなパーツがシールドに当たるだけで機体にダメージはない。

 

「残り少しだ。モビルスーツさえ何とかすれば艦隊なんて」

 

勝利への道が見え始め肩の力を抜くシン。

だがレーダーには新たな敵影が反応する。

そしてソレはレーダーで確認するまでもなくシンの眼前に現れた。

 

「あれは……モビルアーマー!?」

 

その様子はすぐにミネルバも察知し新型のモビルアーマーの全貌がブリッジのスクリーンへ表示される。

タリアは昆虫のようなフォルムを見るとスゥっと目を細めた。

 

「光学映像出ます」

 

「データにはないモビルアーマー、向こうも本気ね。アレに取り付かれたらミネルバでも持つかどうか……メイリン、シンを新型機の迎撃へ向かわせて。レイとルナマリアは後方で援護。アーサー、タンホイザーのエネルギーチャージを初めて。いつでも撃てるように」

 

すばやく状況を判断したタリアはブリッジの各員へ指示を出す。

メイリンは淡々と作業をこなすが、敵の新たな戦力を前にしてアーサーは同様が隠せない。

 

「了解。各パイロット応答願います。ミネルバは――」

 

「は、はい!! りょっ、了解しましたぁ!! 照準、敵モビルアーマー」

 

額に汗を浮かべながらもアーサーは指示に従いミネルバの艦首中央へ格納された陽電子破壊砲タンホイザーの発射準備を進めるべくコントロールパネルを叩く。

タンホイザーはミネルバに搭載された兵器の中で1番の威力を誇り、直撃を受ければモビルスーツどころか戦艦でさえも跡形もなく破壊されてしまう。

あくまでもモビルアーマーに対しての最終手段としてタンホイザーの準備を進めさせる。

前線から1度引きミネルバの元へ戻るシンはコンソールパネルへ表示されるバッテリー残量を確認した。

今までの戦闘で機体を酷使した事もあり残りは30パーセント程しかない。

ビームライフルやビームサーベルを使用すればそれに伴い機体に搭載されたバッテリーを消費してしまうからだ。

 

「メイリン、バッテリーがまずい。デュートリオンビームを。それとシルエットを換装、ブラストシルエットを」

 

『了解です。機体座標確認、デュートリオンビーム発射』

 

インパルスはミネルバを真正面に構えると機体位置をその場で静止させる。

帰還せずとも充電出来るデュートリオンビームだが致命的な欠点があり、モビルスーツは一定時間動きを止めなければならない。

当然、敵から見れば恰好の的になる。

VPS装甲のインパルスの防御力は量産機と比べれば非常に高く実弾兵器は通用しないが、近代のモビルスーツにはビーム兵器が標準装備されるようになって来た。

それを考えると使用出来る場面は限られる。

でも今はシンの活躍によりウィンダムの数は減っており距離を詰められるまでの僅かな時間でもバッテリー充電は間に合う。

そして後方にはレイとルナマリアも居る。

 

『シン、5秒間だけ援護射撃する。その間に態勢を立て直すんだ』

 

『ブラストに換装したらモビルアーマーに一斉射撃。アイツを倒せば終わりよ』

 

「了解!!」

 

 

ミネルバに設置されたデュートリオンビーム送電装置がインパルスの頭部へレーザーを照射した。

コクピットのコンソールパネルに表示されるバッテリー残量は見る見るうちに上昇する。

 

「これでまだ戦える。でも、その前に!!」

 

振り返るインパルスはビームライフルを腰部へマウントさせると背中に背負ったフォースシルエットのスラスターを全開にし、ミネルバへ砲撃する水上艦の1隻へ狙いを定めた。

機体を前方へ加速させながらバレルロール、同時にバックパックを切り離す。

機体を動かす必要のなくなったバックパックは更に加速し、推進剤を積んだソレはさながらミサイルへ変わる。

 

「避けるんだぁ!! 避けろ!!」

 

「間に合いません!! 来ます!!」

 

水上艦の艦長はシートの上で必死に部下へ指示を出すが海上でコレを回避出来る程早く動ける筈もなく、加速するフォースシルエットは主砲を乗せた甲板へ直撃した。

甲板からは大爆発が起こり炎と黒煙が空に舞う。

艦は完全に制御不能になり、乗組員は救命胴衣を着用すると逃げる為に次々海へ飛び込んで行く。

水上艦の1隻を破壊したのを確認したシンは続けてミネルバから発射されたブラストシルエットに換装する為にスラスターを吹かす。

位置を合わせるとガイドビーコンを照射しシルエットと確実にドッキング出来るようにする。

そしてシルエットフライヤーから切り離されたブラストシルエットがインパルスの背部とドッキングした。

青色だったインパルスの胸部装甲が黒に変わり、背中に背負ったビームライフルよりも更に強力な2門のビーム砲、ケルベロスを両手に構えるとミネルバの前方へ位置を取った。

 

「行くぞ、ルナ。タイミングを合わせて同時攻撃、最大出力だ!!」

 

『了解、そっちに合わせるわ』

 

シンとルナは互いにビーム砲の照準をこちらへ迫るザムザザーに合わせる。

一撃で破壊する為に狙うのは機首。

 

「ターゲットロック。3……2……1……」

 

『発射!!』

 

ガナー・ザクウォーリアのオルトロスとブラストインパルスのケルベロスから高エネルギービームが同時に発射された。

3本の赤黒いビームは阻害される事なく、空気を焼き払いながら一直線にザムザザーへ突き進む。

 

『敵モビルスーツより砲撃を確認。陽電子リフレクター作動』

 

機長の報告を聞いて操舵手が機体の制御を行う。

海面に対して水平に飛行してたザムザザーは動きを静止すると、逆立ちするようにして機体上面をミネルバに向けた。

だがそうしてる間に寸前にまで迫る砲撃。

瞬間、眩い光りが両陣を照らす。

シンがそこで見たモノは、バリアーを展開して攻撃を完全に防ぎきったモビルアーマーの姿。

 

「完全に封じたのか!? 無傷かよ!!」

 

『冗談でしょ? アレが通じないならコッチは手出し出来ない』

 

モビルスーツの武器として見れた高い威力を持つ2機のビームを受けても全く無傷のザムザザー。

その様子を見て射撃戦では倒せないと見るルナマリア。

レイも敵が展開したバリアーの性能はハッキリと確認しており脅威と感じるが、すぐに次の手に打って出るべく2人へ通信を飛ばした。

 

『ルナマリア、まだバッテリーは残ってるな?』

 

『え……えぇ。まだ行けるわ』

 

『良し、残存する敵モビルスーツに砲撃。ミネルバに近づかせるな。シン、お前はもう1度フォースシルエットに換装。その間にタンホイザーを撃つ。それでダメなら空を飛べるインパルスで接近戦を仕掛けるしかない』

 

『了解!!』

 

「わかった。メイリン、フォースシルエット射出。ブラストの回収は任せた」

 

右足でペダルを踏み込み飛び上がるインパルス。

ミネルバの上方にまで来ると換装したばかりのブラストシルエットを切り離し甲板の上に放置した。

カタパルトから再び発射したフォースシルエットは大きく旋回し、ミネルバの後方から空中で静止するインパルスへドッキングする。

装甲の色がトリコロールカラーへ戻り、空中を自由に動けるフォースインパルスへ換装した。

それと同時にミネルバの機首に格納されたタンホイザーを敵の眼前に展開させる。

事前にエネルギーチャージは完了させており、モビルアーマーも真っ直ぐミネルバを目指して飛行してる為照準を合わせる必要もない。

ブリッジの艦長シートに座るタリアは即座に命令を飛ばした。

 

「タンホイザー、発射!!」

開放されたシェルターから顔を覗かせる巨大な銃口。

タンホイザーがザムザザーを飲み込まんと大出力ビームを轟かせた。

進路上に立ち塞がるモノは容赦なく全て焼き払いビームはザムザザーへ直撃する。

 

「やったの? 確認を急いで」

 

「映像入ります」

 

切り札であるタンホイザーを使用しミネルバにはこれ以上に強力な兵器はもうない。

タリアはメイリンに呼び掛け、そしてスクリーンに映し出される映像を前に険しい表情へ変わる。

 

「タンホイザーも効果なし……か」

 

「どどっ、どうするんですか!? タンホイザーも防ぐようなモビルアーマーなんて戦略級の戦闘力ですよ!! 連合がコレ程の機体を開発してたなんて……いや、それよりもデータも情報もない相手をどうやって――」

 

「黙りなさい!! そんな事を言われなくてもわかってる!!」

 

「はっ、はいィィィ!!」

 

動揺するアーサーへ檄を飛ばすタリア。

状況は一変して不利になるが、彼女はここで諦めて負ける気などさらさらない。

切り札は防がれてしまったが、この短い攻防の間でザムザザーに対抗する為の手段をいくつか考えて居た。

 

「良い事? 確かにザクとインパルスの攻撃も防がれてしまったし、タンホイザーも効果がなかった。でも幾つかわかった事があるわ。アーサー、何かわかる?」

 

「いえ……あのモビルアーマーがとてつもなく強力なバリアーも搭載してるとしか」

 

「アナタの言う通りあのバリアーは強力よ。ソレは見た人全てがわかる。でもね、防御してる間は動く事が出来ないの。つまり意図的にもう1度バリアーを使わせて後ろへ回り込めば……」

 

「そうか!! あんな姿勢を取る事を考えても全方位に展開されてるとは考えにくい。インパルスに接近させるチャンスを与えれば!!」

 

「そう。まだ勝機は充分にある。こんな所で死ぬつもりもないでしょ? 喚く暇があるなら突破する為の策を考えなさい。そうしなければ戦場で生き残る事は出来ない」

 

「了解しました」

 

意気揚々と返事を返すアーサーだったがタリアが今言った策も完璧ではない。

タリアは自分が今言った事に欠陥がある事に気が付いており、まだ険しい表情が収まる事はなかった。

 

(インパルスを接近させるチャンスをどう作るか? それにもしも接近を防がれてしまえばこちらの考えは見透かされてしまう。どう動くべきか……)

 

考えながらもタリアはこの作戦をレイに伝える。

 

///

 

「タンホイザーも効かないなんて……」

 

陽電子砲を発射されてしまえば避けるしかない。

それくらいに強力な兵器が初めて見る新型モビルアーマーの性能を前にあっさりと防がれてしまい驚愕するシンだがそんな暇はなかった。

戦況が変わったのを気に敵軍はミネルバを撃墜せんと攻めに転じる。

 

「くっ!? どうすれば良いんだ!!」

 

『焦るなシン。冷静になれなければここを突破する事は出来ない』

 

通信から聞こえて来るのは白いザクファントムに乗るレイの声。

シンとは対称的にレイは何でもないとばかりにいつもどおり淡々と指示を出す。

 

『作戦はさっき言った通りだ。お前が先行して敵のモビルアーマーを叩くんだ』

 

「でもアイツのバリアーは――」

 

『それはミネルバが抑える。今から30秒後にモビルアーマーの正面に向かってミネルバが砲撃する。シンはその間に相手の背後に回り込み接近戦を仕掛けるんだ。ルナマリアはシンが回り込むまで敵機を近づかせないように援護。俺はミネルバの護衛に廻る』

 

「わかった。そう言う事なら」

 

『シン、頼んだわよ』

 

それぞれに役割を分担するとすぐに行動へ映る。

ザムザザーの左右に展開するウィンダムの残存部隊。

シンは左舷に向かってメインスラスターを全開にしてインパルスを飛ばす。

ビームライフルを構え待ち構える敵部隊に向かってトリガーを引き、同時に相手からもビーム射撃の反撃が迫る。

シールドで防ぎながらも防衛網を潜り抜けるべく前へと突き進む。

 

「邪魔だぁぁぁ!!」

 

スラスターで機体を制御しながらビームを回避して行き、ビームライフルを腰部へマウントさせると右手でバックパックからビームサーベルを引き抜く。

目前まで接近し左腕のシールドを振り払った。

ビームライフルを構えようとしたウィンダムの銃口を弾き返し、コクピットにビームサーベルの切っ先を突き立てる。

その瞬間、中に搭乗してたパイロットは絶命し機体も機能停止した。

また1機撃破するが頭上からは待ち構えたウィンダムがビームライフルを構えてる。

けれどもトリガーが引かれるよりも早くにルナマリアのガナー・ザクから援護射撃が飛んで来た。

オルトロスから発射されたビームは大勢居るウィンダムの1機を捉えビームライフルごと右腕を持って行く。

 

『シン、急いで!!』

 

「ルナ、助かった!! イッケェェェッ!!」

 

インパルスはメインスラスターから青白い炎を噴射し加速を掛ける。

残存戦力は無視して防衛網を突破するのを合図にミネルバは火力をザムザザーへ集中させた。

タリアが懸念した接近する為のチャンスをシンは意図も容易く掴み取る。

狙い通りにザムザザーは陽電子リフレクターを展開させ、ミネルバからの集中攻撃を受け止めた。

ウィンダムの追撃を振り切って回り込むインパルスはビームサーベルをバックパックへ戻し、腰部へマウントさせたビームライフルを手に取る。

そして銃口をガラ空きの腹部へと向けた。

 

「いくらバリアーが強力でも展開出来なきゃコッチのモンだ!!」

 

今まさにビームライフルのトリガーを引こうとした瞬間。

通信でメイリンの慌てた声が響いた。

 

『新たな敵反応アリ!! 海中から、インパルスの真下です!!』

 

///

 

ヒイロはウイングゼロのコクピットの中に居た。

誰にも見つからないように機体は海底深くに隠してあり普通なら早々見つかる事はない。

短い期間ではあるがオーブに滞在した事でこれからどう生きて行くのかを垣間見る事が出来た。

機体に搭載されてるゼロシステムがヒイロに未来を見せる事はなく、彼は1人考え行動する事を決意する。

深海で音も光りも届かぬ空間で思い浮かべるのは完全平和主義を掲げたサンクキングダムの女王。

 

(平和を求めるオーブの考えはサンクキングダムと似て居る。けれども現代表であるカガリ・ユラ・アスハとリリーナとでは決定的に違う部分もある。平和を求めるのは良いが、それと戦わないのは違う。武器を持たずとも人間は理不尽と戦わなくてはならない。そうしなければ何も変わる事はない。それを考えればユウナ・ロマ・セイランの取った行動は今の所正しいと言える。だがオーブは戦乱の時代に巻き込まれるだろう。逃げる事は出来ない)

 

まぶたを閉じ両腕を組みながら、ヒイロはコクピットのシートに座り自分の考えをまとめて居た。

自問自答しても誰も応えてくれる筈もなく、ゼロシステムも今は何の未来も見せない。

(この戦争は連合軍からの一方的な宣戦布告から始まった。ザフトは表向きは自衛権の行使として攻め込んで来る連合軍を叩くだろうが、それだけで終わるような戦いではない事はわかってる筈。いずれは戦線を拡大させて攻め入る時が来る。それによる民間人の犠牲者も必ず出る。俺は……宇宙の平和の為に戦って来た。なら、俺が取るべき行動は……)

 

ゆっくりとまぶたを開け鋭い視線で前を見る。

両手は操縦桿を握り締め、停止させて居た機体をエンジンを起動させた。

海中でくぐもったエンジン音が響き、機体各部へエネルギーを充填させる。

コクピットのモニターやコンソールパネルにも光りが灯り、ウイングゼロはアブクを上げながら海底で立ち上がった。

頭部のツインアイと胸部サーチアイが緑色に眩しく光る。

ペダルを踏み込む。

背中にあるウイングカバーが展開し大型バーニアが火を吹いた。

ウイングゼロの脚部はゆっくりと海底から離れると、バーニアから大量を気泡を生みながら海上へ向かって浮上する。

加速するウイングゼロは大きな水しぶきを上げて海上に飛び出た。

ずぶ濡れの機体の目の前にはシンが乗ったインパルスが居る。

 

///

 

「コイツは……あの時の!?」

 

シンの目の前に現れた新たな機影。

それはユニウスセブン落下阻止作戦の時に見た機体と同じだった。

思わず目を見開き動きを止めてしまう。

相手は何をする訳でもなく振り返ると右肩へ手を伸ばす。

肩部が展開され格納されたビームサーベルのグリップを掴むと引き抜きざまにザムザザーへ斬り掛かった。

データにない機体が突然現れた事に連合軍のパイロットにも動揺が走る。

 

『ザフトの新型か!?』

 

『姿勢制御!! リフレクターを敵機に向ける。敵艦にウィンダムを向かわせろ!!』

 

陽電子リフレクターを展開したザムザザーが振り返る。

大型クローを超振動させ装甲を分断させるべくウイングゼロへ向けた。

 

「マズイ!!」

 

シンは巻き添えに会う訳にも行かず後方へ下がるが、ウイングゼロはそのまま引き抜いたビームサーベルで袈裟斬りする。

大型クローがトリコロールカラーの装甲に届く前に、高出力のビームサーベルがザムザザーの右腕を溶断してしまう。

 

『コイツ!! ザムザザーがぁぁぁ!?』

 

続けざまに本体へ切っ先を突き立てた。

ビームサーベルは容易にザムザザーの分厚い装甲を溶かし、3人のパイロットが搭乗するコクピットを灼熱に変える。

パイロットは髪の毛1本すら残さずこの世から居なくなった。

操縦者を失ったモビルアーマーは重力に引かれて落下して行き、ウイングゼロが飛び出て来た海の中へ姿を消す。

シンは苦戦させられたモビルアーマーを一瞬の内に倒してしまうその戦闘力に舌を巻いた。

 

「結局、お前は何なんだ? 俺達の味方なのか?」

 

通信で呼び掛けるが相手から返事は返って来ない。

そして背部のウイングを展開させて戦闘機形態に変形すると、またどこかへと飛んで行ってしまう。

シンは呆然と小さくなって行く姿を見守るしか出来ない。

理解が追い付かないのはミネルバでも同じだった。

ルナマリアはいつでも撃てるように照準を向けてたが一瞬の内に射程外にまで移動してしまう。

 

『アイツ、どう言うつもりで?』

 

『今はまだ何も言えない。それよりもまだ戦闘が終わった訳ではない。敵の陣形に大穴が開いた。ここを突破するなら今しかない』

 

『そうね。考えるのは後』

 

ブリッジのタリアも疑問は尽きなかったが、今はこの状況を何とかする方が先決だ。

ザムザザーが破壊された事で敵の陣形は大きく乱れ統率力も下がって居る。

 

「推力上昇、このまま敵陣を突破します。オーブ近海を離れ次第ミネルバ浮上。敵の追撃を振り切ります。メイリン、シンをミネルバの防衛に当たらせて」

 

タリアの指示にメイリンは頷きシンへ通信を繋げる。

ようやく訪れたシンの故郷、オーブは再び動乱に巻き込まれてしまう。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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第4話 ヒイロ戦場に帰る

おかげさまで第3話投稿後ランキングに載る事が出来ました。
この作品を読んでくださる皆様のお陰です。
ありがとうございました。



地球と宇宙。

変革が進みつつあるこの両者の間でアスラン・ザラは自らがやるべき事が何なのかを悩んで居た。

コーディネーターとして産まれプラントで育った彼は2年前の大戦でザフト軍に入隊する。

そして友人であるキラ・ヤマトと戦場で再会し、共に仲間を失った。

両者の戦いは泥沼化して行きプラントにも連合にも正義はないと考えたアスランはキラと行動を共にし長きに渡る戦争を終わらせる。

多くの犠牲を払いながらもようやく手にする事の出来た平和。

でもそれも長くは続かず今もまた地球と宇宙は緊張状態にある。

ミネルバがオーブ領海から連合軍部隊の攻撃を潜り抜けた翌日、彼は近場のビジネスホテルの一室で身の振り方を決断した。

 

(俺はプラントの人間だ。この戦い、連合の一方的な攻撃だ。出来る事なら血を流さず話し合いによる解決を目指したいが現状でソレは無理だ。だとすれば俺はザフトに戻るしかない。でも、今のオーブは大西洋連邦と同盟を結んだ。俺がザフトに戻ればオーブと戦う場面もいつかは必ず来る。俺は……)

 

自問自答して何分も経過したが答えが導き出される事はなかった。

悩みながらもアスランは立ち上がると部屋に備え付けられた電話の受話器を手に取る。

ボタンを押して繋げるのはオーブの専用回線。

数秒後、耳に当てた受話器から聞こえて来たのは彼女の声。

 

『もしもし、誰だ?』

 

「アスランだ。急に電話してスマナイ」

 

『アスランか!! いや、仕事も一段落したし大丈夫だぞ』

 

「そうか。なぁ、カガリ。キミはこれからのオーブをどうするつもりだ?」

 

『アスラン……』

 

気分が高揚してたカガリの声が途端に小さくなる。

アスランも彼女の複雑な事情を考慮して言葉を選びながら声を出す。

 

「今の情勢で大西洋連邦と同盟を結ぶと言う事はプラントと敵対すると言う事だ。今はまだプラントも自主防衛で精一杯だし、連合もザフトの抵抗で思うような結果にはならなかった筈だ。だからまだ大規模な戦闘にはなってないが、いずれはオーブも連合の戦力として担ぎ出される時が来る。その時、カガリはどんな判断をするつもりだ?」

 

『私は……オーブ連合首長国の代表だ。私がやるべき事はこの国と国民を守る事だ。ハッキリ言って私は議会に出席しても他の議員に舐められてる。こんな子どもの声なんてちゃんと聞いてくれない。でも……それでも私は代表なんだ!! だから私は逃げる訳にはいかない。それにここでオドオドしてるようでは他の氏族に代表を奪われる事にもなりかねない。父上が理想とした国、私が理想とするオーブにするには私が代表を務めるしかない。だから――』

 

「わかった。その言葉が聞けただけでも充分だ」

 

カガリも昔と比べて変わりつつあった。

父の死を看取り、世界が動く様を見た彼女はオーブの代表の座に就いたが政治に関してはまだまだ未熟としか言えない。

それでも辞めようと思えば辞められる代表を続けるのは父の意思を受け取ったから。

何よりも彼女がこの国を愛してるからに他ならない。

それを感じ取ったアスランも決意を固める。

 

「カガリ、俺はザフトに戻る。連合軍が一方的にプラントへ攻め入る以上、こちらも無抵抗にやられるつもりはない」

 

『アスラン……』

 

「立場上は敵対する事になってしまう。けれども俺はいつでもカガリの事を思ってる。だからカガリはカガリのやるべき事をやるんだ。俺は俺でやれる事をやる」

 

『わかった』

 

それだけ言うとカガリは電話を切った。

アスランも受話器を元の場所へ戻し、滞在してたこのビジネスホテルを後にする。

再びザフトに入隊する以上はいつまでもオーブに居る事は出来ない。

目指すのはオーブを出たミネルバが向かうカーペンタリア基地。

 

///

 

連合軍との戦闘で負傷したミネルバは大規模なハンガーが設備されてるカーペンタリア基地に入港して整備を受けて居た。

弾薬や燃料の補充、損傷箇所の修理、食料や医療品など様々である。

地上に置けるザフトの重要な軍事基地でもあるカーペンタリアの守りは固く連合軍が攻め入る可能性も現状では限りなく低い。

ミネルバのクルーは修理と補給が終わる短い時間ではあるがつかの間の休息を得る。

それから数日、ミネルバにはパイロットの増員が言い渡され『FAITH』としてアスラン・ザラが合流した。

新型のモビルスーツ、セイバーも導入されミネルバの戦力は増大する。

けれどもその影で秘密裏に動く男の姿。

ヒイロは居住区の一室に潜入していた。

真っ暗な部屋の中では気絶して居るザフト軍の兵士が1人横たわる。

部屋に備え付けられたパソコンの画面を見つめながら淡々とキーボードを叩く。

「認識番号11092、登録者名マーティニー・ニック。データ改ざん」

 

ヒイロはコンピューターにクラッキングすると気絶させて床に寝かせた男、マーティニーと言う名の人物のデータを改ざんして行く。

淡く光るディスプレイの光りを顔に受けながら、尚もキーボードを叩く音は聞こえる。

次々に書き換えられて行くデータ。

新たに書き加えられる項目は全て偽造されたモノ。

「登録者名、ヒイロ・ユイ。出身地、L28。本日付でカーペンタリア基地に滞在するミネルバのモビルスーツパイロットとして所属する。後は使えるモビルスーツを探すだけだ」

 

ヒイロは新たにブラウザを開け、この基地に配備されてるモビルスーツを閲覧した。

ジン、ゲイツR、ザクウォーリア。

次々に表示されるモビルスーツのスペックを見る中で、ヒイロは青いモビルスーツに目を付けた。

 

「気に入った」

 

エンターキーを押してデータ改ざんを終わらせプリンターが用紙を飲み込み印刷を初めたのを確認してヒイロは次の作業に取り掛かる。

暗い部屋の中を見渡しクローゼットを見つけると一直線にそこへ向かう。

扉を開けた中にはザフト軍が使用する緑色の制服がシワ1つなくハンガーに掛けられていた。

ヒイロは無言で制服を手に取り着替え始める。

そしてさっき作ったデータから印刷された偽造書類とカードを右手に持ち、用の失くなった部屋から出て行った。

向かう先は大型ハンガーで修理を受けてるミネルバ。

ザフトとは一切関係のない部外者のヒイロだが、制服を着て堂々と歩いてれば誰も侵入者だとすぐには疑わない。

邪魔される事なくスムーズに目的地へ辿り着いたヒイロはミネルバの居住ブロックに繋がる扉へ偽造したカードを通す。

ロックが掛かり人の出入りが制限されてた扉が数秒後には何事もなく自動的に横へスライドし、ヒイロはミネルバの中へ意図も容易く足を踏み入れた。

向かうのは艦長であるタリアが居るであろう艦長室。

 

(タリア・グラディス、第2世代コーディネーター。そしてこの新造艦ミネルバの艦長に選ばれた女。書類を通して正式に配属されたのだとこの女に認められれば疑われる余地は無くなる)

 

頭の中で次に何をするのかを組み立ててくヒイロ。

鋭い視線のまま通路を歩き艦長室へ向かい歩く中で角を曲がると、向かいから迫るミネルバクルーと体が接触してしまう。

寸前の所で体をずらしたが間に合わずに肩と肩が軽く当たった。

目の前に居るのは赤い髪の毛をツインテールにした少女、通信士のメイリン・ホークだった。

 

「失敬……」

 

「いえ、こっちも気が付かなくて……あれ? アナタはこの基地の人ですか? ミネルバで見た事ないような……」

 

「本日付けでこの艦の配属となったヒイロ・ユイです」

 

「へ~、新しく来るのアスランさんだけじゃなかったんだ。私はメイリン・ホーク、この艦の通信士です。アナタもモビルスーツのパイロットなの?」

 

「はい。自分はこれで……」

 

メイリンに敬礼したヒイロは彼女を避けるとまた艦長室を目指す。

 

「あっ、あの~」

 

背中を向けるヒイロに話し掛けるが振り返る事はなかった。

初めての出会いであるにも関わらず無愛想な態度を貫くヒイロにメイリンは思わず小言を漏らす。

 

「変な人。話しにくいなぁ」

 

一方でミネルバのモビルスーツデッキではヒイロの偽造書類に従いカーペンタリア基地からモビルスーツが1機運ばれて来た。

デッキに運び込まれたモビルスーツに整備兵のヴィーノは驚く。

 

「おい、何だよこのモビルスーツ!? 一体誰が乗るんだ? ってかこんなの聞いてねぇぞ!!」

「本当だな~」

 

一人叫ぶヴィーノに対して同僚であるヨウランはそっけなく答える。

ヒイロのモビルスーツはアスランが搭乗するセイバーのすぐ隣へ固定された。

 

///

 

艦長室へ来たヒイロは直立不動でデスクの前に立つ。

目の前にはミネルバ艦長であるタリアが書類を片手に睨むようにしてヒイロの事を見る。

パイロットが増える事は戦力増強に繋がるが、立て続けに行われる移動にタリアはデュランダルの考えが読めず疑いを向けて居た。

 

(私をFAITHにして、アスラン・ザラを送り込んで来た。更にここへ来てもう1人。あの人は何を考えてるの?)

 

考えてもタリアにデュランダルの考えを読み取る事は出来ず、手に持った書類に目を通し終えるとヒイロの方に向き直った。

もっとも、ヒイロが来た事にデュランダルは一切関わっていない。

 

「わかりました、本日から貴方は本艦のクルーとして一緒に戦って貰います。ヒイロ・ユイ、期待していますよ」

「ありがとうございます」

タリアに敬礼するヒイロ、偽造されたと言う以外は完璧に作った書類にタリアが気づく事は出来なかった。

こうしてヒイロはミネルバに潜入する事に成功する。

再び戦場に戻る為に。

こうして偽造書類による手続きが終わったヒイロはモビルスーツデッキへ行き格納された自分の機体を見上げる。

背部へ装着されたフライトユニット、大型のビーム発生デバイス。

両腕には高周波パルスを発生させるスレイヤーウィップを格納し、頭部の角と肩のトゲは相手に威圧感を与える。

それはザフトが開発したグフ・イグナイテッド。

搭載された武装は依然にヒイロが乗ったガンダムエピオンと良く似てる。

細かな調整をする為にコクピットへ乗ろうとリフトを操作しようとした時、背後から男の声が聞こえて来た。

 

「お前も機体の調整に来たのか?」

 

振り返った先に居たのは赤い制服にFAITHのバッジを付けたアスラン・ザラとルナマリア・ホークが一緒に居た。

アスランはヒイロの顔を見ると微かな疑問が浮かぶ。

 

「見ない顔だな。所属は何処だ?」

 

「今日付けでミネルバに配属されたヒイロ・ユイです」

 

「悪いがIDカードを見せてくれ。そうしてくれれば納得出来る」

 

疑いの眼差しを向けるアスランにヒイロは眉1つ動かさない。

逆に関係のないルナマリアの方が驚いてる程だ。

 

「アスランさん、もしかしてスパイか何かと疑ってるんですか?」

 

「いや、そこまでハッキリした理由はないんだ。でも何か信用出来ない」

 

「こんな堂々としたスパイなんて居ないと思いますけど? それに身長はアタシよりも低いし」

 

「確かにそうだが……」

 

「それにカーペンタリアは軍事基地だけでなく公館としても使用されてるんです。セキュリティーは他と比べても厳重にされてますって」

 

ルナマリアはスパイが簡単に基地内部に潜り込める訳がないと過信してるが、アスランはやはりまだヒイロの事を信用は出来なかった。

幾多の戦場を潜り抜けて来た兵士としての勘はヒイロを疑う。

アスランの追求に対してヒイロは何も言わずにポケットからIDカードを取り出すと素直に差し出した。

 

「少し確認するぞ」

 

そう言うとアスランはIDカードを受け取り表記された情報に目を通した。

印刷された顔、登録番号、名前、年齢、身長と体重、出身地、士官学校をいつ卒業したのか。

その全てが通常のIDカードと同じく正確に記載されており、何処を見てもこれ以上は疑う材料がなかった。

アスランはカードを返すとヒイロはソレを受け取りまたポケットの中に戻す。

 

「疑って悪かった。登録番号11092、ヒイロ・ユイ。俺も数日前にミネルバへ配属されたばかりで勝手がわからない事もあるが、これからは俺が部隊の指揮を執る。よろしく頼む」

 

「アタシはルナマリア。ルナマリア・ホーク、モビルスーツパイロットなんでしょ? よろしくね」

 

彼らの言葉にヒイロはこれ以上耳を貸さず、既に機体の足元へ降りて来たリフトを見るとその上に乗ってしまう。

ボタンを押してコクピットのある胸部まで上昇するリフト。

アスランとルナマリアの2人はリフトの稼動音を耳にしながらヒイロの姿を見上げるしか出来ない。

 

「何よアイツ。感じ悪いわね」

 

「コミュニケーションが苦手なのかもな。俺も人の事は言えないが」

 

「アスランさんはそんな風には見えませんよ」

 

「フォローのつもりかい? 自覚はしてるんだが中々上手くはいかない」

 

「大丈夫ですよ。シンもレイもちょっと癖はありますけどすぐに打ち解けますよ。あ!! 勿論、アタシもですよ。あのヒイロって子はわかりませんけど」

 

アスランはもう1度だけリフトを見上げた。

目線の先にはヒイロの姿は見当たらず、ハッチを開放してコクピットのシートの上に座って居る。

 

「それよりアスランさん、新しい機体見せて貰っても良いですか?」

 

「あぁ、それは構わないが俺はあの機体の調整がまだ完璧ではないんだ。あまりキミに構ってはやれないぞ?」

 

「大丈夫です。邪魔はしませんから」

 

そう言って2人もグフ・イグナイテッドの隣に立つセイバーの元へ歩いた。

ヒイロはコクピットの中でマニュアルを片手に機体の操縦方法を頭の中へインプットさせる作業に没頭する。

モビルスーツと言う概念は同じだが、設計も性能も全てが元居た世界とは異なるコズミック・イラではヒイロと言えどもモビルスーツの操縦を完璧にはこなせない。

操縦桿を握り、ペダルを踏み込み感触を確かめ体にも覚え込ませる。

 

「動力源はバッテリーか。それ以外の操縦系統はそこまで変わらない。時間は掛からずに済むが戦い方を変える必要があるな」

 

ヒイロの作業は暫く続いた。

 

///

 

ブリッジのシートに座るタリアはクルーが持ち場に付くのを確認する。

副官のアーサーも彼女の隣へ直立不動で立ち、ミネルバの修理と補給が終えた事を報告する。

 

「艦長。ミネルバ、何時でも出港可能です」

 

「結構。これよりミネルバはジブラルタル基地へ向かう。その後はスエズ攻略を行う駐留軍と合流し、これの支援をします」

 

「スエズ攻略ですか? しかしプラントはあくまでも自衛権の行使で領土拡大等の目的はない筈では?」

 

「スエズは連合軍の支配下に置かれて窮屈な状態が続いてたわ。そしてプラントとの開戦が宣言されてその風当たりは更に強まった。同時に独立の声も大きくなり今や連合と敵対してるわ。確かに地球圏の領土を奪うつもりはプラントにはないし、評議会もそのつもりはない筈よ。独立に伴う連合への反発に便乗して地球に置ける重要拠点を潰したいのでしょう。あそこはザフトのジブラルタルとも近いしね」

 

「ですが我々が行く必要があるのですか?」

 

「正式に通達が来てるのよ。命令違反で厳罰を受けたいなら無視すれば良いわ」

 

「それはぁ……」

 

アーサーは煮え切らない返事を返す。

エンジンに火が灯るミネルバは作戦指示に従いカーペンタリア基地を出港し連合軍のスエズ基地攻略へ向かう。

護衛として大型水上艦艇ニーラゴンゴを共にして大海原を進む。

何事も無く目的地に到着すると考えても1週間は掛かってしまう。

2隻は海上を進みながらザフトのジブラルタル基地へ進む。

けれどもその裏で連合軍は奇襲を掛けるべく息を潜めていた。

連合軍部隊の指揮を執るネオ・ロアノークは黒いマスクを被ったままレーダーに映るミネルバを確認すると笑みを浮かべる。

 

「ふっ、せっかく修理したばっかりなのに残念だったね。こっちも作戦だから落とさなくちゃね。モビルスーツの発進準備は?」

 

「全機、準備完了済みです。ですがザフトから強奪したガイアは海上戦が出来ません」

 

「それはわかってる。ミネルバが予定ポイントを通過するまで残り1時間を切ってる。戦力を増やした事も充分考えられる。そうなるとこちらの今の戦力では心もとない。インド洋前線基地に回線を繋いでくれ」

 

「了解しました」

 

部下に命令を出すネオは戦闘が開始されるまでもう少しだと言うのに笑みを浮かべたままだ。

命令を出された部下は言われた通りにインド洋前線基地へ開戦を繋げ通信装置をネオに渡す。

 

「繋がりました。リゼル・ノイザー指揮官です」

 

「OK!! ちょっと貸してくれ」

 

通信機を持ったネオは向こうの指揮官に向かって淡々と援護の要求をする。

 

「あ~、こちらは地球連合軍第81独立機動群ファントムペインのネオ・ロアノーク大佐だ。そっちに配備されてるモビルスーツをこっちに廻してくれないか?」

 

『馬鹿を言うな!! 基地に防衛はどうなる? それにここはザフトのジブラルタル基地攻略の為に急ピッチで開発が進められてるんだぞ。何かあれば作戦が大きく狂う』

 

「だがザフトの艦はすぐそこまで来てるんだぞ? ここで撃退出来なきゃ結果的にはやられるぞ」

 

『その為にお前達が来たのではないのか!!』

 

「この前の戦闘データは送っただろ? 生半可な戦力じゃ返り討ちに会うだけだ。さっきも言ったが俺達が負けたらザフトはおたくらの基地にも攻め込んで来るぞ」

 

『ぐっ!! 都合の良い事を言う!! 合流させるのに20分は掛かる。それで良いな?』

 

「ご協力感謝します」

 

回線が切断されネオは通信機を部下に渡す。

ミネルバを落とす為の包囲網は着々と進んでいた。

後は相手が網に掛かるのを待つだけ。

 

「これで少しは楽になると思いたいね。因縁浅からぬ相手だし、確実に決めたい所だ。敵さんから奪ったカオスとアビスも使う。俺のウィンダムも準備を進めとけよ」

 

軽口を叩くネオの表情はマスクに覆われて誰も見る事は出来ない。

 

///

 

海上を進むミネルバの前に展開した敵部隊が待ち構える。

レーダーに映るモビルスーツの数は30機。

けれどもそれらを発進させた母艦は見当たらないし、付近にもこれだけのモビルスーツを格納出来るだけの基地は見当たらない。

ブリッジの艦長シートに座るタリアと隣に立つアーサーは突如現れた敵がどこからやって来たのかを考える。

 

「変ね、連合のモビルスーツ部隊はどこから来たの?」

 

「ミラージュコロイドを使用して隠れてたとか?」

 

「アーサー、初歩的な事だけどミラージュコロイドは水中では使えないわ。海しかないこの場所でミラージュコロイドを使わなくても隠れる手段が相手にはある」

 

「でもどうやって?」

 

「その事を考えるのは後回しよ。現に敵は目の前に迫ってる。あの紫のウィンダム……アーモリーワンで新型のGを奪い取った奴らよ。情けないけれど奪われてから時間も経過してしまった。情報は完全に連合に渡ったと考えると、残る使い道は実戦に投入する」

 

「ザフトが開発したGと戦闘になるのですか!?」

 

「可能性は充分にあるわ。メイリン、コンディションレッド発令。モビルスーツパイロットは出撃準備に入って。指示を出すまでは待機」

 

動揺してばかりのアーサーだがタリアは状況を見極めて淡々と指示を飛ばす。

メイリンもマイクを口元へ近づけると艦内放送で各員へ指示を出した。

 

『コンディションレッド発令。モビルスーツパイロットは発進準備を。その後は伝令あるまでコクピットで待機せよ。居住ブロック隔離、シェルター作動』

 

放送を聞いたクルーはいつでも戦闘に入れるように一斉に持ち場へ走る。

自室で暇をつぶしてたシンもメイリンの放送を耳にするとモビルスーツデッキに向かって全力で走った。

走る通路の先には同じ様にモビルスーツデッキに走るルナマリアの姿が見える。

 

「ルナ!!」

 

「シン、また海上戦になるわね」

 

「奇襲なのか?」

 

「わかんない。とにかく急がないと」

 

制服のままの2人はロッカーのある部屋まで来ると別れてパイロットスーツに着替えた。

パイロットスーツには生命維持装置が備わってるのと吸収しきれずコクピットにまで伝わるGや衝撃を吸収する役割がある。

2人はそれぞれ赤を基調としたパイロットスーツに着替えた後、フルフェイスのヘルメットを片手にブリーフィングルームへ走った。

到着した先では既にアスラン、レイ、ヒイロがパイロットスーツを着用して待って居る。

2人の姿を見るとアスランはキツメの声で呼び掛けた。

 

「シン、ルナマリア遅いぞ!!」

 

隣に立つルナマリアを見るシンは聞こえないように小声で言う。

 

「俺達ってそんなに遅れたか?」

 

「まぁ、あの3人と比べたら遅かったけど……」

 

全員が揃ったのを確認したアスランは端的に現状を皆に伝える。

 

「今回の作戦より俺がモビルスーツ部隊の指揮を執る。馴れない部分はあるだろうが各員指示には従ってくれ」

 

「えっ……」

 

驚いて思わず声を上げてしまうシン。

アスランは鋭い視線を向け言い聞かせるようにして言葉を続ける。

納得の出来ない所はあるがシンは渋々了承した。

 

「シン、わかったな? 俺の指示には従って貰うぞ」

 

「了解……」

 

「今回の戦闘は海上戦だ。敵は連合軍のウィンダムが30機。中にはアーモリーワン襲撃の時に居た紫のウィンダムも確認出来た。恐らくヤツが隊長機だと思われる。強奪されたGが投入される事も充分に考えられる。そこでシンはコアスプレンダーで出撃後、速やかにフォースインパルスにドッキング。俺のセイバーとヒイロのグフ・イグナイテッドで前衛を務める。レイとルナマリアはミネルバの甲板で防衛。作戦概要は以上だ。細かな変更は随時俺が指示を出す。各員、持ち場に付いてくれ」

 

アスランはフルフェイスのヘルメットを被るとブリーフィングルームを後にし、モビルスーツデッキのセイバーの元へ走る。

他の4人も同様で、シンもコアスプレンダーに乗り込むと操縦桿を握りハッチが開放されるのを待つ。

 

『進路クリアー。コアスプレンダー、発進どうぞ』

 

「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!!」

 

メインスラスターから青白い炎を噴射してコアスプレンダーはミネルバから発進する。

カタパルトへ脚部を固定させたアスランのセイバーも、ハッチの外に広がる海と空を視界に入れながら右足でペダルを踏み込んだ。

 

『進路クリアー。アスランさん、戦果を期待してます』

 

「了解、アスラン・ザラ。セイバー、発進する」

 

カタパルトから高速で射出されるセイバー。

ハッチから飛び出すと同時に背中の両翼を広げVPS装甲を展開させる。

灰色だった装甲にバッテリー電力が供給され鮮やかな赤色へと変化した。

ヒイロのグフ・イグナイテッドも続いて脚部をカタパルトに固定させる。

再び戻って来た戦場。

ヒイロは操縦桿を握り締め真っ直ぐに戦闘画面に映る景色を見た。

 

(何処へ行っても同じか。戦う事しか俺には出来ない……)

 

『進路クリアー。グフ・イグナイテッド、発進どうぞ』

 

「了解した。出撃する」

 

ペダルを踏み込んだヒイロのグフ・イグナイテッドもカタパルトから高速で射出される。

フライトユニットを展開し空中を自在に飛ぶ。

ヒイロは再び、戦場へ舞い戻った。




ヒイロの本格的な戦闘は次回になります。
今週中には投稿出来ると思うので。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第5話 震える海

連合軍のモビルスーツ部隊の指揮を執るネオは紫にカラーリングされたウィンダムに搭乗しミネルバを待ち構える。

今までの戦闘でミネルバと搭載されてるモビルスーツの戦闘力はある程度まで分析出来て居た。

数の上では圧倒してるが機体の性能とパイロットの技量の差でどこまで縮められるかはやってみなければわからない。

 

「これだけの数を用意すれば大丈夫だと思いたいな。スティングは俺と一緒に前線、アウルはタイミングを見計らって海中に居る艦船を叩け」

 

『ネオ……ステラは?』

 

画面に映るのはガイアのパイロット、ステラ・ルーシェ。

パイロットスーツも着用しいつでも出撃する準備は出来てる。

ネオは彼女をなだめるように優しい言葉を掛けた。

 

「ステラはお留守番だ。俺達が帰る場所を守ってくれ」

 

『おるすばん? ネオ、帰って来るよね?』

 

「当たり前だろ。スティングとアウルもな。ステラにしか出来ない事だ」

 

『うん!! ステラ、ちゃんとお留守番してる。みんなの帰る場所を守るよ!!』

 

「良い子だ。ウィンダムは左右に展開。敵を挟み込め!!」

 

ステラの精神状態が落ち着いてるのを確認したネオは展開するウィンダムへ指示を飛ばす。

ミネルバを破壊せんと部隊は戦闘を開始するが、レーダーに表示される見慣れないモビルスーツの存在が2機。

 

「ザフトめ、やっぱり戦力を増やして来たか。1つは量産機、だがもう1機はデータにないな。こっちはおたくらから盗まないと新型なんて使えないってのにポンポン投入してくれる」

 

軽口を言いながらもマスクの奥にある瞳は目まぐるしく変化する状況を分析し、新しく投入されたモビルスーツの戦闘力も頭の中へインプットする。

ネオはペダルを踏み込み背部のフライトユニットのメインスラスターで機体を加速させた。

指をコンソールパネルへ伸ばし通信を繋げ、カオスのパイロットであるスティング・オ―クレーに指示を出す。

 

「スティング、お前は赤の可変機に行け。俺はトリコロールの方を攻める」

 

『了解。しくじるなよ!!』

 

///

 

レイとルナマリアのザクは発信後、前回の戦闘と同じ様にミネルバの甲板へ陣取りミネルバの護衛に付く。

前線へ行くアスラン達と敵部隊が接触するまでもう少し。

ルナマリアはコンソールパネルに手を伸ばすとレイのザクへ通信を繋げた。

「レイ、新しく来たヒイロの事なんだけど何か知ってる?」

『いや、艦長から聞かされた事しか知らない』

「前に1回だけ会ったんだけど、なんか近づきにくくってさ。それに来た初日から自分のモビルスーツにこもりっきりで顔も知らない人、結構多いわよ」

 

ヒイロの態度に不満なルナマリア、レイもヒイロの事は少し気にはなって居た。

 

『だがそんなことは言ってられない。これからは一緒に戦っていく仲間だ』

「わかっては居るんだけどさ、掴みどころがなくて」

 

『ヒイロはモビルスーツにずっと居たと言ったな? 俺の予想でしかないがアイツはグフに乗るのは初めてなんじゃないか?』

 

「えぇ~っ!? ウソでしょ!!」

 

『ウソか本当かはわからない。だが機体の感覚を確かめる為にその時はずっとコクピットに居たとも考えられる』

 

「そんなので実戦でちゃんと戦えるの?」

 

『さぁな。俺でも初めて乗る機体を完璧に使いこなそうと思えば3日は欲しい。アイツがどこまで出来るかはこの戦闘でわかる筈だ』

 

「撃墜されなければ、だけどね」

 

『そうならない為にも俺達はバックアップに廻る』

 

レイの意見に耳を傾けるルナマリア。

けれどもレーダーに表示されるアスラン達3機のモビルスーツは敵のウィンダム部隊と接触する。

戦いの火蓋は切られた。

ルナマリアは操縦桿を握りザクにオルトロスを構えさせ、ヘルメットのバイザー越しに空を飛び回るウィンダムへ狙いを定める。

 

「お喋りはここまでね」

 

『そうだな。前衛は3人に任せるしかない。ルナマリア、撃ち漏らすなよ?』

 

「する訳ないでしょ。アタシを誰だと思ってるの?」

 

///

 

数分後に作戦は開始した。

ウインダムの部隊にビームライフルを3発連射するインパルスだがソレを見る敵部隊は散開して攻撃を回避する。

次に来るのはインパルスに対する報復も込めた大部隊によるビームライフルの一斉射撃。

銃口から轟音が響きグリーンのビームエネルギーがインパルスを襲う。

 

「クソ!! 前と同じで数だけは用意しやがって!!」

 

文句を言いながらも各部スラスターを制御してビームの雨を潜り抜けるインパルス。

回避に集中しなければならず反撃すらもままならない状況。

左腕のシールドも駆使しながら1発たりとも直撃はしないシン。

それでも防戦一方の戦いはストレスが溜まる上に体力や集中力の消耗も激しい。

 

「何とかして攻めないと。このままやられるなんてゴメンだぞ」

 

正面から放たれたビームをシールドで受け止める。

アンチビームコーティングが施されたシールドのお陰でビームは全て弾かれ機体は無傷。

けれども立て続けに左下方からも発射されるビーム。

シンはシールドで咄嗟に横一閃し振り払った。

するとビームは弾かれるのではなく屈折して別機体に向かって反射される。

 

『な、なん――』

 

予想だにしない反撃に発射戦場のウィンダムのパイロットは反応するので精一杯でコクピットへ直撃を受けてしまう。

制御を失う機体は海に向かって落下して行く。

驚くのは敵だけでなくシンも同じだった。

 

「ビームを弾き返したのか? こんな使い方も出来るのか……だったら!!」

 

インパルスは振り返ると自身に向かって来るビームを同じ様にシールドで振り払う。

反射するビームは再び敵に向かって飛んで行き、ウィンダムの右膝を吹き飛ばした。

見た事のない攻撃に一瞬だけ攻撃の手が止まる。

シンはその隙を逃さず右手のビームライフルを向け躊躇なくトリガーを引く。

正確に発射されたビームは1発でウィンダムのコクピットを撃ち抜く。

 

「3機目、これなら!!」

 

ビームライフルを腰部へマウントさせバックパックからビームサーベルを引き抜く。

ペダルを踏み込み機体を加速させるシンは攻撃を躊躇した敵部隊に突っ込んだ。

戦闘画面に映る1機のウィンダム。

攻めに転じたインパルスの動きに反応が追い付かず、逃げる事も守る事も出来ずに棒立ちになってしまう。

 

『う、うあああぁぁぁ!!』

 

「落ちろォォォ!!」

 

ビームサーベルで袈裟斬り。

胴体を斜めに分断されビームが接触した所は高熱で赤く発光してる。

機体は完全に機能を停止し重力に引かれて落下するが、シンは推進力でまだ数秒だけ宙に浮く上半身の頭部をシールドで振り払う。

メインカメラのレンズにヒビが入りインパルスのパワーで強引に首の付け根が引きちぎられ、迫る3機編成の部隊へ吹き飛ばされた。

ボールのようにクルクルと回転する頭部は先頭の機体に目掛けて飛んで行き、構えたビームライフルの1射で爆散する。

だがそのせいで爆発の炎が視界を遮った。

シンはまたペダルを踏み込みメインスラスターから青白い炎を噴射させ爆発の中へ突っ込む。

 

「イッケェェェッ!!」

 

爆発の先にはライフルをウィンダム。

けれどもインパルスに照準は合わさって居らず、銃口を向けようとした瞬間にはコクピットにビームサーベルが突き立てられた。

 

「まだ!!」

 

次の敵へ狙いを定めるシンはビームサーベルを引き抜くとそのまま腕を振り被り敵機に目掛けて投げ飛ばした。

 

『なっ!? コイツ!!』

 

敵パイロットはビームサーベルに銃口を向けてトリガーを引くがビームは命中する事なく空へ消えてしまう。

マニピュレーターから手放された事で出力は少し低下してしまうが、ピンク色の残像を残しながら回るビームサーベルは銃口を切断し胸部装甲に突き刺さる。

確認したシンはマニピュレーターを腰部のビームライフルへ伸ばし銃口を突き付けトリガーを引いた。

轟音を響かせ発射されるビームに回避行動を取るウィンダムはシールドでコクピットを守り後退しながらもビームライフルからビームを発射する。

シンはシールドでビームを薙ぎ払おうと左腕で横一閃するが、ビームは反射する事なくシールドに直撃した。

 

「グッ!! 角度が合ってなかったのか? そう何回も上手い具合に出来ないか」

 

衝撃に顔を歪ませながらも操縦桿は握りしめたままインパルスはトリガーを何回も引き逃げる敵機にビームを発射する。

1発、2発、ビームは青空へ消えてしまう。

3発目、ウィンダムの右腕を吹き飛ばしビームの攻撃は止まった。

損傷したせいで満足に戦う事が出来ないウィンダムは背中を向けインパルスから離れて行ってしまう。

シンは深追いはせず、ビームサーベルを投げた敵機を戦闘画面に収める。

パイロットは意識を手放し、ウィンダムは只宙に浮くだけだった。

接近するインパルスは左手でビームサーベルを引き抜き頭部を振り払う。

6機目の敵機を破壊したシンは味方であるアスランとヒイロの動きをレーダーで確認した。

 

「状況はどうなってる? あの2人は……」

 

シンの活躍もありウィンダムの数は作戦開始時と比べて減っては居る。

けれども奪われたカオスと紫のカラーリングをした隊長機のせいでアスランとヒイロは思うように動けなかった。

アスランのセイバーはカオスに射撃戦を挑む。

 

「機体の癖はもう掴んで居る。後は2年のブランクだけだ」

 

『何だよ新型、この程度か!!』

 

カオスはビームライフルと背部に背負う機動兵装ポッドを駆使してセイバーを追い詰める。

重力のある地球でも使用する事が出来る機動兵装ポッドはドラグーンの発展兵器であり、カオスから分離した状態で縦横無尽に飛び回りセイバーを狙って居た。

内蔵されたビーム砲と誘導ミサイルは無視出来る威力ではなく、VPS装甲のセイバーでもビームの直撃を受けてしまえば簡単に破壊されてしまう。

ミサイルのダメージは通らないが爆発により動きが止まってしまった瞬間にビームによる十字砲火が待ってる。

カオスの射撃を回避しながら機動兵装ポッドを意識して動くのはストレスが掛かりアスランは満足に反撃も出来ない。

 

「クソッ!! 俺の腕が劣ってるのか?」

 

『どうなってんだよ!! 1発ぐらい当たれよ!!』

 

カオスはビームライフルと機動兵装ポッドによるビームの十字砲火を続けるが、アスランは機体を匠に駆使して機体に1発も当たる事はなかった。

一方的に攻めるスティングだが追い詰められてるのは連合側。

セイバーは一貫して回避に専念した故にバッテリーの消費は殆どないが、カオスはセイバーを落とさんと

数え切れない程ビームを撃ち、結局は今の拮抗状態に居たり味方のウィンダムの数も減ってしまって居る。

 

「逃げ回るだけではダメだ。何とか持ち直す」

 

セイバーはモビルアーマー形態へ瞬時に変形するとカオスから一気に距離を離す。

戦闘機形態になったセイバーの機動力は凄まじく、機動兵装ポッドではモビルアーマーの加速には付いて行けずカオスの背部に回収される。

 

『今度は逃げる気か? 行かせるかよ!!』

 

カオスもセイバーの同じくモビルアーマー形態に変形する事が出来る。

腰を折りコンパクトになったカオスは距離を離さんとするセイバーに大出力スラスターを全開にして追い付こうとした。

けれども距離は中々縮まらずストレスの溜まるスティングはカオスに搭載された高出力ビーム砲、カリドゥスのトリガーを引き赤黒いビームを発射する。

 

「来るか、なら!!」

 

迫るビームに反応するアスランは変形と解きモビルスーツ形態へ戻り発射線上から外れる。

同時に背部へ背負ったプラズマ収束ビーム砲を両脇から展開させ今度はカオスに目掛けて高出力のビームを発射した。

変形したままのカオスでは機動力は高いが小回りは利かず運動性能も下がって回避が間に合わない。

それでも独特な形態をしてるカオスはモビルアーマー形態でもシールドを使用する事が出来る。

スティングはビームコーティングが施されたシールドでセイバーから発射されたビームを受け止めた。

だがビームコーティングされてるとは言え全てを防ぎきれる訳ではなく、カオスはシールドごと左腕を破壊されてしまう。

バランスを維持する為にモビルスーツ形態へ戻る。

 

『ヤロウ!! やりやがったな!!』

 

頭に血が上るスティングは怒りを晴らさんと更に前に出ようとするが指揮を執るネオから通信が入る。 

『止まれスティング!! ここは撤退しろ!!』

 

『撤退だと? 片腕がやられただけだぞ!!』

 

『カオスは重要な戦力だ。落とされる訳にはいかない。撤退するんだ、イイな!!』

 

『チッ、了解。撤退する』

 

左腕を失ったカオスは損傷箇所から煙を上げながらも前線から撤退する。

アスランは背を向ける相手にビームライフルの銃口を向けるが離れてくのを見ると操縦桿を握る指の力を抜いた。

 

「逃げたか。いや、逃して貰えたが正しいか」

 

奪われた最新鋭機が相手、2年のブランク、様々な要素が噛み合った事もあるが満足に動かせなかった事を悔やむアスラン。

けれどもまだ戦闘は続いており安心出来る状況ではない。

 

///

 

ヒイロは初めて乗るモビルスーツにも関わらず思い通りに操り敵のウィンダム部隊を撃破して行く。

シールドを構えながら前進し右前腕部の4連装ビームガンで連射性の高いビームを連続で発射する。

相手もビームライフルで応戦するがグフのシールドにもビームコーティングが施されており何発かは防ぐ事が出来る為、ヒイロは構わず機体を加速させウィンダムの装甲にビームを浴びせた。

1発の威力はインパルス等のビームライフルに劣るが連射性能を高める事でその欠点をカバーしており、ビームの弾はライフルを弾き飛ばし胸部装甲をズタズタに破壊する。

 

「敵機の破壊を確認。次の行動に移る」

 

 

シールド裏からテンペストビームソードを引き抜き次に現れた敵機に狙いを定める。

敵はビームライフルのトリガーを引きながらグフに迫り来るが、ヒイロはシールドでビームを防ぎながら近接戦闘に移行した。

相手は近づかれまいと更にライフルのトリガーを引くが、ヒイロはシールドの構えを解くと左腕からスレイヤーウィップを伸ばしウィンダムが握るビームライフルを絡み取る。

そのまま腕を引き敵のマニピュレーターからライフルを奪い取りテンペストビームソードを胴体に突き立てた。

ウィンダムはビームサーベルを手に取ろうとするが間に合わず、切っ先は装甲を貫き背部まで簡単に貫通し機能停止する。

レーダーの確認するヒイロは自身に近づく敵増援を見つけるとテンペストビームソードで突き刺したウィンダムを海へ落とした。

振り向いた先には紫のカラーリングをしたウィンダムが高速で迫り来る。

 

「色が違う、データにあった敵隊長機か。速やかに撃破する」

 

ペダルを踏み込み加速するグフ・イグナイテッド。

ヒイロは加速させたままもう1度左腕のスレイヤーウィップを伸ばすと高周波パルスを発生させ通り過ぎるウィンダムに鞭を叩き付けた。

赤く発光するスレイヤーウィップはコクピット周辺を傷付けると同時に高圧電流がコクピットの電気系統にまで伝わり様々なシステムや装置がショートする。

また1機、動く事が出来なくなった敵機体が海へ落下して行った。

その様子を見たネオはヒイロの操縦技術に舌を巻く。

 

『ほぉ、初めて見る機体だが中々やるな。量産機でそこまで出来るか。けど俺を倒せるかな!!」

 

ネオのウィンダムもビームサーベルを抜いた。

ビームサーベルを振り下ろしグフへ斬り掛かるが、ヒイロはスラスター制御で機体を後退させビームの斬撃を避ける。

グフは右手のテンペストビームソードの切っ先をウィンダムへ向け素早く攻撃に転じるがネオもこれをシールドで受け止めた。

初撃を防いだウィンダムは右脚部でグフのわき腹に蹴りを入れたようとするが、ヒイロはパワー任せにシールドで振り払う。

 

『うおっと!? これを避けるか。なら!!』

 

ビームサーベルを戻しビームライフルに切り替えるウインダムはグフに銃口を向けトリガーを引く。

今までの戦闘でシールドの耐久が怪しくなってるがヒイロは構わずに使用しビームを防いだ。

そしてそのままメインスラスターを全開にしてウィンダムへ急接近する。

 

『ナニ!?』

 

接近するヒイロはテンペストビームソードで再び斬り掛かるがウィンダムの反応も早い。

ビームライフルが分断され瞬時に手放す。

充填されたエネルギーが爆発を起こし両者を襲う。

だがヒイロは更に振り払い横一閃、炎の先に居るウィンダムに斬撃を繰り出す。

シールドを構えるウィンダムはソレを受け止めるが発生するビームはジリジリとシールドを溶断して行く。

 

『あんまり良い気になるなよ、新参者!!』

 

ウィンダムは強引にグフを蹴り飛ばし何とか距離を離す。

けれども装備してたシールドの上半分は切断されてしまった。

 

『クッ!! 思った以上にやれるヤツだ。味方機の数も減らされたか』

 

互いにまだダメージはないが手間取ってる間に用意したウィンダムが撃破されてしまった。

状況が悪いと判断したネオは撤退を決意しグフに背を向け距離を離すとコンソールパネルに指を伸ばし味方全軍に通信を飛ばす。

ヒイロは撤退するウィンダムを追撃しようとはせず、小さくなってく後ろ姿を見るだけだ。

 

『聞こえるか? これ以上は分が悪い。全機撤退しろ』

 

『1機も落としてねぇのに撤退すんのかよ?』

 

ネオの指示に異を唱えるのは後方で待機してたアビスのパイロットであるアウル・ニーダ。

彼はまだ戦闘に参加して居らず攻撃の1発すら当ててない現状に納得がいかない。

 

『ウィンダムの数が減らされた。スティングのカオスも損傷したから撤退するしかない』

 

『なら俺がやってやるよ!!』

 

『止めろアウル!!  敵は――』

 

ネオは必死に呼び止めようとしたが遅く、アウルは通信を一方的に切るとアビスで出撃してしまう。

 

『チッ!! 間に合ってくれよ』

 

反転するウィンダムはアビスに追い付こうとメインスラスターを全開にする。

だが今からでは間に合う事はなく、アビスはモビルアーマー形態で海中を進みながら空中で静止するグフの背後を取ろうとした。

 

『所詮は量産機。ネオはこんなのも落とせないのかよ。折角奪い取った新型だ、性能を試してやる』

 

ネオが倒せなかった相手を倒す事で実力を示そうと考えるアウルはモビルスーツ形態に変形して海上に浮上した。

巨大な水しぶきを上げグフの前に現れるアビス。

両手に握るランスの切っ先からビームを発生させ大きく振り下ろす。

 

『沈めよ!!』

 

ビームランスはグフの頭部を撥ねようとしたが構えたシールドがコレを防ぐ。

アウルは完璧に不意を付いたと思った攻撃が防がれた事に困惑する。

 

『ナニィ!?』

 

「遅い!!」

 

『コイツ、艦艇じゃなくて自分が狙われてる事に気が付いてたのか?』

 

ビームランスを弾くグフは至近距離で4連装ビームガンをアビスに向ける。

胸部目掛けてトリガーが引かれビームの弾が高速で大量に発射さるが、アビスが両肩に装備する巨大なシールドが防いだ。

ビームコーティングが施されてるせいでビームガンは通用しない。

 

『へへん、ちょっと驚かされたけどやっぱり量産機だな。次は落とす!!』

 

メインスラスターを吹かしビームガンの攻撃を振り切るアビス。

攻撃が止むと胸部に内蔵されたカリドゥスのビームを撃った。

グフはすかさず回避行動に移り回避すると赤黒いビームは海にぶつかり大量の水分が蒸発し白い煙を作る。

ヒイロはすぐにアビスを照準に収めるが、既にアウルは機体に内蔵された全ての武器の銃口をグフに向けて居た。

 

『これで終わり!!』

 

両肩のシールドに内蔵された3連装ビーム砲と胸部のカリドゥスが一斉に放たれグフを襲う。

目前に迫るビームに対してヒイロは左腕にマウントしたシールドを投げた。

高出力のビームはアンチビームコーティングのシールドを貫き爆発の炎を上げる。

アウルは視界に映る爆発がグフ本体のモノではないと気が付く。

 

『アレは違う。どこに行った?』

 

視界を見渡すが敵の姿は見当たらない。

レーダーを確認するとアビスとグフの座法位置が一致した。

 

『上からか!!』

 

頭上から現れたグフは握るテンペストビームソードを突き立てるとアビスの首元に突き刺した。

可動部への直接攻撃。

切っ先は機体内部を貫くとコクピットにまで到達した。

 

『え……』

 

パイロットのアウルは逃げる事も出来ずに絶命する。

痛みも何も感じずに彼は戦死した。

アビスにテンペストソードを突き刺すグフの頭部には飛び散ったオイルのせいで血が付着したように汚れてる。

 

「俺を相手にすれば死ぬ事になる。性能を過信し過ぎたのがお前のミスだ」

 

動かなくなったアビスはテンペストソードから引き抜かれ海へ落ちて行く。

水しぶきを上げて落下した機体。

数秒後、更に大きな水しぶきが上がるとアビスの機体反応は完全に消えた。




アビスとアウルはアニメではもう少し先でブラストインパルスに負けるのですが早々に退場していただきました。
ストーリーには問題ないと判断してこのようにさせていただきました。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第6話 衝突

レーダーからアビスの反応がロストする。

脱出装置は機能して居らず、それは機体が破壊された事を意味し同時にパイロットのアウルが戦死した事を意味した。

マスクで隠れたネオの表情は見えない。

 

「アウル……馬鹿野郎が!!」

 

操縦桿を固く握りしめるネオは前線から撤退する。

ネオの撤退命令を受けて連合軍の部隊は全機前線から離脱した。

海上にはミネルバと発進したモビルスーツしか居ない。

インド洋前線基地で待機してたステラは空を見上げると、目の前に見える青い機体に憎悪を抱く。

 

「アウルが居ない……アウルが……アウルが……うあああぁぁぁ!!」

 

感情的になるステラはペダルを踏み込みメインスラスターで機体を加速させ飛び出して行ってしまう。

その様子はインパルスに搭乗するシンにも見えた。

 

「レーダーに反応、アレはガイアか? よし!!」

 

シンは奪われたガイアを撃破しようと戦線近くの陸上に向かってインパルスを飛ばす。

モビルスーツ部隊の指揮を執るアスランは単独で先行するシンを通信で呼び止めた。

 

『シン、前に出過ぎだ。敵の陽動かもしれない』

 

「相手は1機ですよ。性能は互角、負ける筈ない」

 

『何か仕掛けてる可能性だってある。単独行動は危険だ』

 

(偉そうに。前大戦の英雄だかなんだか知らないけど、満足に戦えもしないヤツに言われて溜まるか)

 

シンはアスランの声を無視して迫るガイアに向かう。

地上は林に囲まれてるが障害物は少ない。

空を飛べないガイアにインパルスは上空からビームライフルの銃口を向ける。

 

「機体を奪われたままで居られるか。必ず落としてやる!!」

 

『お前らがぁぁぁ!!』

 

発射されたビームは地面へ直撃し大きな土煙を上げる。

ガイアはモビルアーマー形態へ変形し犬のようなフォルムに変わると、迫るビームの襲撃を振り払う。

変形したガイアの機動力と運動性能はモビルスーツよりも高い。

何発も発射されるビームはすべてガイアの後方に直撃し激しい轟音が響く。

 

「コイツ、早い!!」

 

『落とす!!』

 

瞬時にモビルスーツに変形したガイアはビームライフルの銃口をインパルスに向けた。

激高してるステラだが訓練された戦闘技術と集中力は凄まじく、正確な照準はインパルスを捉える。

有利な状況での戦闘に油断がなかっとは言い切れず、発射されたビームに反応するのが遅れてしまいバックパックの左翼を破壊した。

黒煙を上げるインパルスはバランスを崩し空中で上手く動けない。

 

「しまった!? こうなったら接近戦で!!」

 

飛べなくなったインパルスはビームサーベルを引き抜きガイアが待ち受ける陸上へ着陸する。

対するガイアもビームライフルを腰部へマウントさせ、サイドスカートからビームサーベルを引き抜く。

敵を目の前にしたステラは酷く興奮しており力任せに操縦桿を動かした。

 

『落とす……落とす!! うあああぁぁぁ!!』

 

「やってやる!!」

 

走るガイア、インパルスは胸部チェーンガンを連射して牽制した。

インパルスと同じVPS装甲のガイアに実弾兵器は通用しない。

それでも普通のパイロットなら自身が搭乗する機体に攻撃が直撃する事に動揺したりするモノだが、ステラの精神状態は目の前の敵を倒す事しか考えて居らずわずかな動揺もなかった。

弾丸は全て跳ね返され地面に落ちる。

ガイアは接近した所でビームサーベルを振りかぶった。

空気を焼き払いながら切っ先は青い胸部装甲を焦がす。

寸前で脚を引いたインパルス。

握るビームサーベルを相手のコクピットへ突き立てるが、腕を掴まれるとその動きを止められてしまう。

ガイアもまたビームサーベルをインパルスに突き立てる。

 

「コイツ、強い!!」

 

相手の力量に舌を巻くシン。

ビームコーティングされたシールドでガイアの攻撃をなんとか受け止める。

シールドはビームエネルギーを反発し激しい閃光となり両者を照らす。

 

『うぅ、あああぁぁぁ!!』

 

ステラは右手に握る操縦桿を力の限り押し込みシールドを貫こうとするが、それよりも早くにインパルスの膝蹴りがガイアを襲う。

股関節部分を思い切り叩き付けられガイアは背面から地面に倒れた。

 

「これならどうだ? まだ動くか」

 

『左脚がうまく動かない。変形出来ない?』

 

装甲に覆われてない間接部には攻撃がダイレクトに伝わる。

ガイアの左脚はフレームが歪んでしまいモビルアーマー形態に変形出来なくなってしまう。

地上戦で脚部の反応が悪くなるのは致命的で状況は圧倒的に不利だ。

ステラは悔しさに血が滲むまで唇を噛み締め憎悪の眼差しを向けるが、そこにネオから通信が入って来る。

 

『ステラ、聞こえるか!! 撤退するんだ!!』

 

『ネオ……アウルが居ないの。帰って来ないの!!』

 

『とにかく今は逃げるんだ!! 俺とスティングはまだここに居る!!』

 

『でも……でも……』

 

『ステラはよくやったさ。お前まで居なくなったら俺はどうすれば良い? さぁ、戻るんだ』

 

『うん……わかった』

 

左脚部が上手く動かないガイアはメインスラスターを吹かすとその場からジャンプした。

 

「逃げるのか!? クッ!!」

 

シンは逃がすまいとビームサーベルを振り下ろしたがもう遅く切っ先は地面にぶつかるだけだ

ガイアはバッタの様に地面を蹴ると同時にメインスラスターを吹かして飛距離を伸ばしながら戦闘領域から離脱してしまう。

追い掛けてもバックパックが損傷したインパルスでは追いつく確証はなく、シンは小さくなって行く後ろ姿を見るしか出来ない。

 

「また逃げられたのか、クソッ!! ん、レーダーに反応? これは……」

 

インパルスのツインアイが見た先。

コクピットの戦闘画面に映るのは建造中の連合軍基地。

カーペンタリア基地とも距離が近く、このまま建造されてはザフトにとって脅威になる。

だがシンの目に焼き付く光景のせいでそんな事は考えられなかった。

基地内部では民間人までもが労働に加えられており、連合軍兵士にライフルの銃口を突き付けられながら作業を進めて居る。

けれどもインパルスが現れた事により作業どころではなく助かりたい一心で逃げ出すモノも大勢居た。

連合軍の兵士は逃げ出す民間人に向かって容赦なく銃弾を浴びせる。

怒号と悲鳴が交じり合い周囲は血に染まった。

為す術なく殺される民間人を見てシンは見過ごす事は出来ない。

 

「お前ら……やめろぉぉぉ!!」

 

基地へ足を踏み入れるインパルス。

防衛戦力は先程の戦闘で使い果たしておりインパルスに太刀打ち出来ない。

あるのは固定された対空機関砲か歩兵だけ。

ビーム兵器でなければVPS装甲は貫く事は出来ず状況は一方的だった。

 

「む、無理だ。撤退!! 撤退!!」

 

「現時間を持ってインド洋前線基地を放棄する。各員は自身の判断で行動しろ」

 

「ザフトのモビルスーツが来る!?」

 

チェーンガンで対空機関砲を破壊し歩兵も1撃で吹き飛ばす。

基地の至る所で爆発が起こり連合軍兵士は一目散に逃げ出した。

抵抗するだけの力はもう相手にないがそれでもシンは攻撃を止めない。

その現場に合流するアスランとヒイロ。

一方的に攻撃するインパルスの姿を見たアスランはシンに通信を繋げると声を上げた。

 

『シン、やめろ!! もうこの基地には戦闘能力はない』

 

「でもコイツラは民間人を虐殺したんですよ!!」

 

『それでも無抵抗な相手を攻撃しては連合軍と同じだ!!』

 

アスランは必死に呼び掛けるがインパルスが攻撃を止める事はない。

ジッと様子を見てたヒイロはペダルを踏み込みバーニアを吹かすと一気にインパルスに近づいた。

右手にはビームの発生してないテンペストビームソードが握られて居る。

基地に向かってチェーンガンを発射するインパルスに対してヒイロは無言のまま近寄ると、ビームを発生させずにテンペストビームソードで斬り掛かった。

突然の出来事にシンも反応が遅れてしまいインパルスは胴体に斬撃を受けると仰向けに倒れてしまう。

 

「ぐっ!? 何をするんだ、お前!!」

 

「作戦に支障を来たす存在は邪魔なだけだ」

 

「邪魔だと? 俺はここに囚われてる人を助けただけだ!!」

 

自らの言い分を叫ぶシン。

それを聞いたヒイロは倒れたインパルスのコクピットにビームソードを突き付ける。

張り詰めた空気が漂いシンは額に汗を滲ませた。

互いに引くつもりのない両者の間にアスランは強引に割って入る。

『ヒイロ、何をしてるんだ!!』

 

アスランは通信越しに叫ぶがヒイロは顔色ひとつ変えていない。

コンソールパネルに指を伸ばすとアスランに返事を返した。

 

「お前がモタモタしてるからだ。言ってもわからないのならこうした方が早い」

『だが……』

 

「言いたい事は後にしろ。ミネルバから帰還命令が送られた。早くここから撤退するのが先だ」

 

隊長であるアスランを威圧するような態度で言葉を発するヒイロ。

アスランは言い返す事が出来ず緊迫した状況が続いてしまう。

味方に攻撃され、言い分を跳ね返されたシンは苛立ち更に声を上げた。

 

「俺は間違った事はしてない!!」

 

「そうか……」

 

グフが握る右手のソードがらビームが発生する。

切っ先がコクピット部分に触れるか触れないかの位置でこのまま突き刺されたらパイロットは即死。

逃げる事も防ぐ事も出来ない。

ビームはジリジリと空気を焼く。

 

「っ!! 本気なのかよ!?」

 

『ヒイロ、止めるんだ!!』

 

叫ぶアスランはビームライフルの銃口をグフに向ける。

ヒイロはチラリと横目で見るだけでテンペストビームソードを収める気配はない。

 

『これ以上するならお前を撃つ。武器を収めてミネルバに帰還しろ』

 

「了解した。作戦終了、ミネルバに帰艦する」

 

言うとインパルスからビームソードを引き、メインスラスターから青白い炎を噴射するグフは飛び上がりミネルバに向かって飛んだ。

アスランのセイバーもビームライフルを引き、シンはコクピットの中で飛んで行くグフを赤い瞳で睨み付ける。

 

///

 

何とか激戦を潜り抜けたモビルスーツはミネルバのモビルスーツデッキに戻る。

グフも帰還すると同時に整備が始まり消耗したバッテリー電力や推進剤の補充が行われた。

ヘルメットを脱ぎハッチを開放させるヒイロは何もなかったかのようにデッキの上に降りる。

パイロットの仕事は終わったがミネルバの他のクルーはまだ慌ただしく動いており余裕がある状態ではない。

ヒイロはそんな事は気にせず自室に戻ろうと歩き出すがそこに激怒するシンが走って来た。

事情を知らない整備兵のヴィーノは彼の姿を見つけると戦果を祝おうと呼び掛ける。

 

「おっ!! シン、今回も凄かった――」

 

今のシンにはヴィーノの声は耳に入らず、すぐ先に居るヒイロの事しか見えてない。

ヴィーノに肩をぶつけ言葉を塞ぎながらも手が届く距離まで来ると、シンはヒイロの胸ぐらを掴み上げ怒りを爆発させる。

 

「オイ!! 味方に攻撃するなんてどういう事だ!!」

「あの場ではアレが最善の方法だと判断したまでだ」

 

「ふざけるな!! そんなの理由になるか!!」

 

シンの怒号はモビルスーツデッキ全体に響き渡る程大きく、他のクルーも2人の争いに気が付き始め視線が集まる。

眉1つ動かさないヒイロは冷静にシンの言い分を覆すだけた。

 

「基地破壊は作戦行動に含まれていない。お前のやったことは無意味だ」

 

「違う!! あそこには民間人が囚われてたんだ。俺はそれを助けたかっただけだ!!」

 

「ザフトと連合は緊張状態にある。必要以上の戦火拡大は相手に付け入られる口実を与える」

 

「だったら虐殺されるのを黙って見てれば良かったのか!!」

 

「そうだ」

 

「お前っ!!」

 

怒りが頂点に来たシンは拳を握り力を込めた。

周囲では時間と共に人ごみが増える中、セイバーのコクピットから降りてきたアスランはシンが振り上げた拳を掴み声を上げる。

 

「いい加減にしないか!! 」

 

「アス……ラン……」

 

「シン、なぜ指示に従わなかった? 俺の声は届いた筈だ」

「同じ事を言わせないで下さい。俺はあの基地の民間人を助けたかっただけだ。まさかアンタまで見捨てろ、なんて事言わないですよね?」

 

煽るように言い返すシン、モビルスーツデッキに鈍い音が響く。

左頬は殴られた痕で少し赤くなる。

 

「自分勝手な考えでモビルスーツに乗るな!! アレだけの兵器なら連合軍がやった事と同じ事だって出来るんだ。力と責任を託された事を自覚しろ!! ヒイロもだ!! どんな状況でも味方を攻撃するような事はするな!!」

 

納得がいかないシンはアスランを睨み付けるがヒイロは顔色ひとつ変えない。

「了解した」

 

一言そう言うとヒイロは背を向けて自室に向かい歩き出した。

残されたシンもいつまでもこうしてる訳にも行かず悪態を付きながらもモビルスーツデッキから去る。

 

「わかりましたよ、命令には従います。では失礼します」

ようやく静かになった所で集まったクルー達も各自の仕事に戻って行く。

アスランはシンを殴る事でしか従わせる事が出来なかった自身の力不足に苦悩する。

その様子を遠目で眺めてたルナマリアは聞かれないように小さく呟いた。

 

「こんなんでやって行けんのかしら?」

///

 

潮風が流れるペルシャ湾。

ミネルバは命令であるジブラルタル基地支援に向かう為、中継ポイントでもあるマハムール基地へ入港する。

補給に備え各自がモビルスーツでその準備をして居るが、ヒイロだけはモビルスーツを二の次にして整備兵のヨウランの所に来て居た。

以前の戦闘で感じたグフ・イグナイテッド使い勝手を改善して貰う為に相談を持ち掛ける。

 

「話がある。このモビルスーツに別の武器を持たせる事は出来るか?」

 

「グフは凡庸性の高い機体だからな。ある程度は応用が効くぞ。どんなのを使いたい? 火力を上げたいならフライトユニットにビームガトリング砲とかザクのミサイルランチャーを搭載出来る」

 

「これ以上機体が重くなると動かしにくい」

 

「そうか、ならどうする?」

 

「テンペストビームソード、あれでは攻撃した時に機体の重心がぶれる。出来ればビームサーベルの方が使いやすい」

「ビームサーベルか……ソイツは中々難しいぞ」

「インパルスのフォースシルエットのビームサーベルが余っているはずだ。アレで良い」

 

「それは無理だ、ジェネレーターの出力が違うからグフでは使えない。それにインパルスはセカンドシリーズ、最新鋭機体だ。たかがビームサーベル1本って思うかもしれないが、俺の独断でそんなことは出来ないよ」

 

「そうか、邪魔したな」

 

要望が通らず諦めたヒイロは用のないモビルスーツデッキから出て行く。

ヨウランは背を向けるヒイロの姿を少しだけ眺めると思い出したように自分の仕事へ戻った。

次の作戦の為にセイバー、インパルス、ザクを完璧に仕上げる必要がある。

 

(それにしてもビームサーベルがそんなに良いのか? 俺ならビームライフルとか射撃武器を充実させるけどな。まぁ、戦場で戦うパイロットの気持ちまではわからないか)

 

コアスプレンダーのコクピットシートに座るシンも今までの戦闘データをまとめてコンピューターに読み込ませて居た。

情報を蓄積させる事で次のモビルスーツ開発にも繋がるしシンが使いやすくなるように機体にも癖が付く。

データが読み込まれるのを待つだけなのでシートの上でジッと待つだけだったが、そこに同僚のルナマリアが来ると足場を登りコクピットを覗き込む。

 

「よっと!! 何してんの?」

 

「ルナか。別に、データを更新してるだけだよ」

 

「ふ~ん、こうなってるんだ。ソレよりも隊長とヒイロ、あれから話はしたの?」

 

「いや……してない」

その返事を聞いてルナマリアは呆れてため息を吐いた。

 

「あのねぇ、子どもじゃないんだから。いつまでもその調子だとこっちまで気まずくなるんだから」

 

「わかってるよ」

 

「わかってないから今みたいになってるんでしょ? また作戦も始まるんだからこのままだと困るんだけど」

 

ルナマリアの言う事に言い返す事が出来ないシンは目線を反らして口を閉ざすしか出来ない。

 

「隊長は自室に居るってメイリンから聞いたから、ちゃんと会って話した方が良いわよ。データ更新くらいアタシがやるから」

 

「あぁ、行けば良いんだろ。行けば!!」

 

立ち上がるシンはコアスプレンダーのコクピットから飛び降りると、言われたようにアスランに会う為に居住ブロックに向かって歩く。

1人になったルナマリアは空になったシートに座り作業が終わるのを待った。

 

「まったく世話が焼けるんだから。って、データ更新終わってるじゃない」

 

居住ブロックにまで来たシンはアスランの部屋を目指して通路を歩く。

ミネルバの整備作業に忙しくて居住ブロックには殆ど誰も居ない。

シンは自分しか居ない通路を歩き続けてると曲がり角から赤い制服に身を包んだ人物が現れた。

 

「隊長……」

 

「シンか、どうした? もしかして前の事をまだ引きずってるのか?」

 

「っ!?」

 

考えてた事をすぐに見抜かれてしまった事でシンの表情に動揺が走る。

アスランもその事に気が付いており、前置きはナシにして本題に入った。

 

「俺の事が気に入らないか? オーブ現代表の護衛をしてた筈が今はザフトでFAITHにも選ばれて」

 

「関係ありません。これからはちゃんと命令には従いますよ」

 

「突っ掛かる言い方しかしないな、キミは」

 

「だってそうでしょ? いきなり全部を受け入れるなんて俺には出来ません。アナタのやろうとしてる事が俺にはわかりません」

 

「だからインド洋の時も俺の指示は聞かなかったのか? 俺の事が気に食わないから」

 

「それは……」

 

シンはまた言葉に詰まる。

アスランの事が気に入らないと態度で示す事は出来ても真正面から言葉に出来る程無神経ではない。

次に出す言葉が思い浮かばぬまま、アスランが話を続けて来た。

 

「キミの家族は前の戦争で亡くなったと聞いた。だからザフトに入ったのか?」

 

「そうです。力があれば誰かを助ける事が出来る。もう無力で何も出来ないのは嫌なんです」

 

シンが語るのは全てではない。

オーブで家族を失ったシンは戦火を広げたアスハを恨んだし、その時に目にした青い翼を持つモビルスーツの事は今でも鮮明に思い出せる。

家族の敵を取る為、シンがザフトに入隊した1番の理由はソレだ。

 

「前にも言ったが力には責任が伴う。モビルスーツが1機あれば何千人と人を殺す事だって出来るんだ」

 

「わかってますよ」

 

「ザフトは正式には軍ではないが、命令に従って戦うと言う点で見れば同じだ。もう暫くしたらまたミネルバも出港する。敵戦力と戦う事にもなる。さっき言った事は忘れるなよ」

 

「はい。でも1つだけ聞かせて下さい。俺がした事は本当に間違いだったんですか?」

 

「命令違反、規則として見たらキミの行動は間違ってた。事は政治にも関与してる。軽率な行動と言わざるを得ない。けれどもキミは言った、誰かを助けたいと。助ける為にやったと。その感情は絶対に忘れてはダメだ」

 

「は、はい!!」

 

「そうだ。インパルスの正規パイロットとして俺はキミの技術を認めてる。次の作戦でも頼むぞ」

 

そう言うとアスランはどこかに向かって歩いて行ってしまう。

複雑な心境だったシンの心は少しだけ晴れやかになる。

けれどもアスランにはまだ心配事が残ってた。

 

(後はヒイロを何とか出来れば良いんだがソレも難しそうだな。早く話を付ける必要はあるが、まずは次の作戦が先だ。連合のスエズ基地、ローエングリン砲をどう攻略する……)

 

険しい表情になりながらも進むアスラン。

スエズ基地攻略作戦までの時間はあまり残されてない。




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第7話 ローエングリンゲート攻略作戦

ミネルバの次なる目標は連合軍ガルナハン基地のローエングリン砲を陥落する事だ。

目的地であるジブラルタルに向かうにはこのスエズ基地は避けては通れない。

スエズ基地は山道を遮るように建設されており、これを抜けるには大きく迂回するか上空を飛んで跨ぐしかないが、ローエングリン砲がこれを邪魔する。

射程距離の長いローエングリン砲が上空を飛ぶミネルバに砲撃して来られては防ぐ手だてがない。

今後のザフトの作戦行動も考えればここでスエズ基地を破壊する方がやりやすい。

アスランに招集の掛けられたモビルスーツパイロットのシン、レイ、ルナマリアの3人は一緒にミーティングルームへ入った。

ミーティングルームにはまだアスランは来て居らず、ヒイロだけがシートの上に座りながらマニュアルを片手に待って居る。

シンはヒイロの事を睨むようにして隣に立つレイに小さく言う。

 

「アイツ、やけに早いな」

 

「遅れられるよりは良い」

 

「まぁ、そうだけどさ」

 

「次の作戦はこちらから連合の基地へ攻め入るんだ。今までとは違う。雑念は捨てろよ、シン。出来なければ死ぬ事だってある」

 

「わかってるよ。俺はアイツを倒すまでは死ぬ訳には行かないんだ」

 

シンの脳裏にはまだあの時に見たモビルスーツの姿がハッキリ残ってる。

青い翼を持つモビルスーツ。

家族を殺された復讐を成し遂げるまで彼の憎悪が晴れる事はない。

その闘争心を感じたレイはこれ以上は何も言わず設置されたシートの上に座る。

シンとルナマリアも隊長であるアスランが来るまでは待つ他ないので同じ様に座った。

ふとルナマリアは前のシートに座るヒイロが読むマニュアルを後ろから覗き見る。

読んでたのは最新鋭機であるインパルスのマニュアルだ。

 

「何でアンタがそんなの読んでんのよ?」

 

「いずれ必要になる時が来るかもしれない。その時になってからでは遅い」

 

「あぁ、そう。止めはしないけど赤服のシンがやっと支給された機体よ。配属されたばかりのアナタが乗るような事はないと思うけど。インパルスも良いけれどグフの操縦もちゃんとしてくれないと困るわよ」

 

「当然だ。俺はガンダムのパイロットだからな」

 

(ガンダム?)

 

ルナマリアは理解出来ない単語に疑問を持つが、時を同じくして隊長のアスランがミーティングルームに入って来た。

部屋には緊張感が走りさっきまでの会話は頭の隅に押し込みこれからの事に集中する。

4人の前まで来たアスランはファイルを片手に作戦概要の説明を始めた。

 

「スマナイ、艦長との話で少し遅れた。ではこれよりガルナハン基地、ローエングリンゲード突破作戦の詳細を説明する。ガルナハン基地は以前にも現地のレジスタンスが突破を試みたが失敗している。敵との戦力差も勿論あったが、1番の要は敵基地に設置されたローエングリン砲だ。皆も知っての通りアレの直撃を受ければ艦艇と言えども無事では済まない。だが弱点はある。それは連射出来ない、エネルギーチャージに時間が掛かる事だ。敵はその弱点を補う為にモビルスーツ部隊と2機のモビルアーマーを配置させて居る。モビルスーツは既存のモノだがモビルアーマーはデータにない新型が。今スクリーンに映像を映す」

 

言ってアスランが設置されたコンソールパネルに指を伸ばし、シン達の前にあるスクリーンにレジスタンスが突入した時の映像を流す。

資金源もない故に戦力が乏しいレジスタンスが用意したモビルスーツは1番新しいモノでも1世代前の機体。

ビーム兵器は実装されて居らず、敵のウィンダム部隊の前に尽く破壊されて行く。

白兵戦は歯が立たず、長距離からの砲撃を試みるが、結果は1発たりとも敵に届く事はなかった。

連合軍が用意した陽電子リフレクターを搭載した新型モビルアーマー、ゲルズゲーを配備しており強力なバリアによりレジスタンスの攻撃を無効化する。

そうする事でエネルギーチャージまでの時間を稼ぎローエングリン砲で全てをなぎ払う。

 

「見ての通りだ。このモビルアーマーのせいで長距離からの攻撃は通用しない。その為、接近して破壊するしかないのだが渓谷に作られた砲台がどこへ行こうとも狙い撃って来る。周囲に隠れるような場所も存在しない。これを攻略するのが俺達の任務だ」

 

ここまでの説明と映像をヒイロはマニュアルを読む片手間に聞いてただけだ。

一方のシンもアスランを煽るように言葉を続ける。

 

「なら隊長がモビルアーマーを撃破して下さいよ。その間に俺が砲台と基地を攻めますので」

 

「そうだな、俺と他の3人でモビルアーマーは抑える。シンは単独で基地に突入してくれ。当然だが援軍も支援もないぞ。ローエングリンがお前を狙っても自分で何とかしてくれ」

 

「冗談……ですよね?」

 

一瞬、冷や汗を流すシンは恐る恐るアスランに聞き返した。

 

「あぁ、冗談は終わりだ。ローエングリンゲートを突破しガナルハン基地に攻め入る為の作戦はもう考えてある。この周囲には現地人でないと知らない坑道跡が幾つもある。だがモビルスーツでそこを通るのは不可能。そこでコアスプレンダーで谷の坑道跡を通って砲台の裏側に出てローエングリン砲を奇襲する」

 

「やるのは良いですけど、その坑道跡ってのはどんな状況何ですか?」

 

「細かな経路は後で渡す。整備班に頼んで座標データ等は入力して貰った。シンは作戦開始時刻までに進路を頭に入れてくれ。そうしないと坑道跡を抜けるのに時間が掛かる」

 

「どんな所かもわからないのに行けって言うんですか?」

 

嫌味を漏らすシン。

反抗的な態度に表情を険しくするアスランだったが部屋の中にパタンと音が響いた。

全員が視線を向けるとヒイロが読んで居たマニュアルを閉じてシートから立ち上がる。

鋭い視線でシンを睨むとすぐに今度はアスランに向き直り口を開く。

 

「だったら俺がやる。アイツには俺のグフを使わせろ」

 

突然の宣言にシンは驚くと同時にヒイロに食って掛かる。

 

「お前、何言ってんだよ!! そもそもインパルスを動かせないだろ!!」

 

「操縦マニュアルは理解した。問題ない」

 

「マニュアルを読んだだけで出来る訳ないだろ!! だいたい坑道跡って事はコアスプレンダーで行くにしてもかなり狭い筈だ。そんな繊細な操縦技術がお前にあるのか?」

 

「お前には出来ない。俺には出来る」

 

「ナニッ!!」

 

ヒイロの言葉を聞いて頭に血が上るシン。

2人はまたしても一触即発の事態になるが、感情を堪えたシンはアスランに向かって叫ぶ。

 

「インパルスの正規パイロットは俺ですからね!! こんなヤツに任せられるもんか。俺がやります!!」

 

「シン……わかった。コレが坑道跡のデータだ。さっきも言ったが作戦が始まるまでに頭の中へ入れておいてくれ」

 

アスランは上着のポケットから記憶端末を取り出しシンに差し出した。

奪い取るようにソレを持ったシンは1人でミーティングルームから出て行ってしまう。

扉の向こうに行ったのを確認したアスランは次にヒイロに自分の考えを述べた。

 

「ヒイロ、わざとあんな事を言ったな?」

 

「何の事だ?」

 

「とぼけるなよ。やり方はどうかと思うがシンをやる気にさせてくれた。本気でインパルスに乗る気なんてないんだろ?」

 

「俺はそんな回りくどい事をするつもりはない。ここで無駄な時間を使うくらいなら俺が乗る方が早い。それだけだ」

 

言うとヒイロもミーティングルームから出て行ってしまう。

部屋に残る3人。

ルナマリアはレイになるべく小さな声で聞いた。

 

「これが男の友情ってヤツ?」

 

「違うな」

 

ハッキリと言うレイにルナマリアは取り敢えず納得した。

 

///

 

ミーティングが終了して数時間後、ローエングリンゲート及びガルナハン基地攻略作戦が開始された。

戦闘態勢に入るブリッジ。

シートに座るタリアが指示を飛ばすと同時に各クルーが動きミネルバは戦闘へ突入する。

 

「これより作戦を開始します。トリスタン、イゾルデで進路を開きます。メイリン、モビルスーツを順次発進。指揮はアスランに任せます」

 

「了解。ハッチ開放、カタパルトスタンバイ」

 

目前に迫る戦闘。

コアスプレンダーのコクピットシートに座るシンは力強く操縦桿を握る。

 

「こんな作戦、俺1人でやってやる!!」

 

ヒイロに対抗心を燃やすシン。

それは同時に闘士にも繋がり今の集中力はとても高い状態で維持されて居た。

開放されたハッチの向こうに見える景色を見据えて、シンは最後に息を呑んだ。

フルフェイスのヘルメットから通信士のメイリンの声が聞こえて来る。

 

『進路クリアー。コアスプレンダー、発進どうぞ」

 

「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!!」

 

コアスプレンダー、続いてチェストフライヤー、レッグフライヤー、シルエットフライヤーがカタパルトから射出される。

ミネルバの進路上から大きく迂回するコアスプレンダーは当初の作戦通りローエングリン砲を奇襲する為に坑道跡に向かい飛ぶ。

モビルスーツデッキからセイバーがカタパルトへ設置され搭乗するアスランが他の3人に指示を出す。

 

「いいか、残った俺達はシンが奇襲を掛けるまで敵のモビルスーツをこちらで引き付ける。ミネルバから離れ過ぎるなよ。セイバー、発進する」

 

背部の両翼を広げて発進するセイバー。

電力が供給され灰色だった装甲が鮮やかな赤に変わる。

 

「ヒイロは俺と前線に向かう。レイは地上部隊、ルナマリアは砲撃と援護を頼む」

 

セイバーの後方に位置する3機のモビルスーツ。

ヒイロのグフはセイバーと横並びになると言われた通りに前線に向かう。

飛行出来ないレイのザクは連合軍の地上部隊を叩く。

 

「ルナマリア、聞こえたな? 地上部隊は俺がやる。支援は任せたぞ」

 

「了解。でも今回も厄介なヤツが居るから気を付けてね」

 

「大丈夫だ」

 

一方のシンも予定通り坑道跡に到着して居た。

 

「これか? 出口までの距離は16、17分から20分以内にここを抜けてローエングリン砲を落とす。こんなの簡単に出来る」

 

データに入力された坑道跡の入り口を見つけたシンは各フライヤーを引き連れて狭い道を進む。

入った先の坑道はまったく光りが届かず完全な闇で視界はまったく見えない。

コアスプレンダーの羽が周囲の岩にかすり火花が飛ぶ。

「ウソだろ!? ヴィーノにわざわざライト付けて貰ったってのに殆ど何も見えないじゃないか!! ミスしたら岩に激突して死んじまう!!」

 

目に頼って何とか先を見ようとうするがコアスプレンダーの底面に岩がまた少し触れてしまう。

コクピットに激しい振動が伝わりシートベルトがキツく体を固定して来る。

 

「クッ!! これならモビルスーツ戦の方がずっと楽だ。アイツに――」

 

ヒイロはこれぐらい自分になら出来ると断言した。

一瞬だけ任せれば良かったと考えてしまうが頭を振りそんな思いをかき消す。

赤服としてインパルスを任されたプライドがシンを奮い立たせる。

目に頼るのを止め、入力されたデータに従い操縦桿を動かしコアスプレンダーを進めて行く。

 

「いや、あんな訳のわからない奴に任せられるか。インパルスのパイロットは俺だ!!」

 

右足でペダルを踏み出口に向けてスピードを上げた。

機体の角度を細かく調整しながら、それでも時折岩と接触しながらも目標であるローエングリン砲に向かう。

 

「クソォォーーー!!」

///

アスランらはローエングリンの防衛部隊と戦闘に入った。

フライトユニットを装着した105ダガーが編成を組んでセイバーとグフの前に立ち塞がる。

ビームライフルを装備する敵は銃口を向け容赦なくビームを発射して来るが、パイロットの技量も相まって機動力と運動性能の高いセイバーは必要最小限の動きで回避した。

 

「ヒイロ、無理に迎撃しなくても良い。インパルスが突入すれば自ずと敵の態勢は崩れる」

 

「了解した」

 

良いならがアスランも敵にビームライフルを向けてトリガーを引く。

量産機とは違う高い威力を持つビームは105ダガーのシールドを吹き飛ばす。

防ぐ手立てが失くなれば撃破するのは容易だった。

連続して放たれるビームライフルに敵パイロットは回避しきれず右脚も破壊されてしまう。

 

『しまっ!?』

 

バランスを崩した機体は制御出来ずに落下してしまうが、握ったビームライフルの照準はまだセイバーを狙ってる。

照準を合わせトリガーを引く。

発射されたビームはセイバーに向かう。

だがアスランの反応はコーディネーターの中でもトップクラスであり、敵の動きは既に見切られて居た。

スラスター制御でビームを回避するとビームライフルの銃口を向ける。

けれどもアスランがトリガーを引くよりも早くに細かなビームの弾が落下する105ダガーに直撃し爆散した。

見るとヒイロのグフが右腕の4連装ビームガンを向けて居る。

 

「ヒイロか?」

 

「敵の数は多い。雑魚に時間は掛けられない」

 

「そうだな。敵の新型モビルアーマーも居る。俺達で仕留めるぞ」

 

シールド裏からテンペストビームソードを引き抜くグフはメインスラスターを吹かし敵陣に突入する。

敵機はビームライフルの銃口をグフに向けるが、以前の戦闘のようにヒイロはビームコーティングの施されたシールドで無理やりにでも防ぐ。

自身に向かって放たれるビームを物ともせず接近すると切っ先を突き刺した。

 

「まずは1機」

 

戦闘不能になった105ダガーを盾にするようにして次の敵を照準に収める。

もう動けないとは言え味方に攻撃する事に躊躇する連合軍兵。

その隙に左手首からスレイヤーウィップを伸ばし敵機のビームライフルを絡めとる。

高周波パルスを流し込みライフル内のエネルギーを爆発させマニピュレーターごと破壊した。

ヒイロは4連装ビームガンを発射しようと操縦桿のトリガーに指を掛けるがセイバーからの援護の方が早い。

発射されたビームが頭部とコクピットを撃ち抜く。

 

「このまま敵を引き付けるぞ。モビルアーマーが優先だ」

 

ヒイロは無言のまま4連装ビームガンのトリガーを引く。

回避行動に映る105ダガー部隊。

だがセイバーとグフの後方からはミネルバからの砲撃が連合軍の機体を狙う。

戦艦から放たれる高出力のビームに敵部隊も簡単には攻め込めず、アスランとヒイロも必要以上には接近しない。

その事に連合軍司令官を薄々感づいて居た。

岸壁の内部に作られた基地の司令部で男は顎に手を添える。

 

「敵の目的は何だ? こちらを誘ってるのか、新兵器でも投入したのか? ローエングリンの照準を敵戦艦に向けろ。発射後はゲルズゲーを展開、エネルギーチャージを急がせろ」

 

「了解。目標、ザフト艦」

 

司令官の一声でシェルターが開放されローエングリン砲がエレベーターで地下から上昇する。

砲身を地上に見せたローエングリンは遥か先のミネルバに狙いを付けると数秒後には赤黒く強力なビームを発射した。

高出力で太いビームは空気を焼き払いミネルバに迫る。

ブリッジのタリアは直ぐ様、指示を飛ばす。

 

「取舵一杯!! メインエンジンの出力最大!!」

 

進路を変更するミネルバの頭上をビームが通過して行く。

直撃は免れたが地上に激突したエネルギーは巨大な爆発を生み激しい振動と衝撃波がミネルバを襲う。

荒野の荒れた大地から砂埃が巻き上がり視界も悪くなる。

タリアは艦長シートにしがみつきながらも前を見た。

 

「くぅっ!! 第2射はすぐには来ない。アーサー、状況は?」

 

「艦に損害ナシ。敵の地上部隊が展開中です!!」

 

「トリスタンで援護攻撃。タンホイザーのチャージを急がせて」

 

「了解しました!!」

 

地上で戦うレイとルナマリアにも緊張が走る。

砂煙で視界が悪くなる中で連合軍はリニアガン・タンクとダガーLを迎撃に向かわせる。

 

「モビルスーツの数は8。なら、やりようはある」

 

レイはスラスター前部のミサイルポッドを展開させると迫る敵陣に目掛けて全弾発射した。

ミサイルの雨に対してダガーLは着弾する前に撃ち落とそうと頭部機関砲を連射し撃ち落とそうとするが、レイは構えたビームライフルのスコープで正確にコクピットに照準を合わせる。

飛来するミサイルか爆発し空が爆音に包まれ炎と化す。

けれどもその隙に1発のビームがダガーLを狙撃する。

正面と空からの同時攻撃。

ダガーLはミサイルを避ける為に後方へ下がるか、直撃する前に撃ち落とすかシールドで防ぐしかない。

だが後者の場合は正面からザクのビーム攻撃も待ち構えて居る。

対応出来なかったパイロットの機体にはミサイルの1発が直撃した。

 

『ぐあぁっ!! メインカメラが!?』

 

『慌てるな!! ミサイルはこの1回だけだ。編成を立て直しさえすれば――』

 

頭部を失ったダガーLはまたもレイのザクにコクピットを撃ち抜かれる。

力を失くした機体は何も出来ず荒野に倒れた。

ブレイズ・ザクのミサイルポッドに搭載されるミサイルの数は30発。

ミサイルを使い切ったのを読み取った指揮官はまずはこの場を耐えようと考えた。

だが次には高出力のビームが連合軍部隊を分断させて来る。

レイのザクの後方からガナー・ザクがオルトロスを両手に構えビームを照射した。

敵機を狙い撃ち分断するだけでなく、荒野の地面をビームが直撃する事で砂煙が舞い上がり視界は絶望的に悪くなる。

横に薙ぎ払われた照射ビームに指揮官のダガーLが飲み込まれた。

機体は爆散し黒煙が上がる。

 

「1機撃墜を確認。レイ、10秒後にミネルバから援護射撃」

 

「こちらでも確認した。一時後退、その後もう1度攻め込むぞ!!」

 

「了解!!」

 

味方の攻撃に当たらぬようにレイとルナマリアは一旦距離を離す。

視界の悪い状況で連合の地上部隊は手当たり次第に前方に向かってビームライフルのトリガーを引きながら後退して行く。

だがミネルバの砲撃距離はモビルスーツよりも長く、地上部隊は壊滅的に追い込まれてしまう。

 

「作戦開始から12分経過。敵モビルアーマーを2機確認。前と同じで陽電子リフレクターを搭載したタイプだ。こちらからでは手が出せない」

 

「隊長とヒイロの援護に回るしかないわね。時間通りに来なかったら恨むわよ、シン!!」

 

ザムザザーと同じく陽電子リフレクターを搭載したモビルアーマー、ゲルズゲーが2機発進した。

ストライクダガーの上半身と6本の脚、その姿はさながら半虫半人。

防御力は非常に高いがザムザザーとの違いは攻撃力にある。

両手に標準的なビームライフルと頭部機関砲、腹部にビーム砲を備えるが接近戦ではまったくと言っていい程戦えない。

ゲルズゲーの姿を確認したアスランとヒイロは前に出る。

 

「よし、目標のモビルアーマーを確認した。ヒイロ、今は無理に攻める必要はない。タイムリミットまで5分を切った。インパルス突入に合わせてこちらも好戦に出る」

 

「了解した。敵モビルアーマーを引き付ける」

 

ヒイロのグフの唯一の射撃武器である4連装ビームガンでゲルズゲーを撃つ。

だが展開された陽電子リフレクターにビームは全て無効化されてしまう。

 

『ザフトのモビルスーツが4機。1機は攻撃を続けて来ます』

 

『リフレクターは展開したまま先に空の敵を叩く。地上戦力は後でどうとでもなる。ローエングリンのエネルギーチャージが終われば艦艇も潰す』

 

2機のゲルズゲーは両手に構えるビームライフルの銃口をグフに向けトリガーを引く。

ヒイロは発射されるビームに回避行動を取りながらも距離は一定を保ちつつ4連装ビームガンの攻撃も止めない。

セイバーも同様にビームライフルを向け無駄とわかりつつもビームを発射した。

当然セイバーとグフの攻撃は一切通らない。

 

「わかってはいるが無駄だとわかってる事をするのは辛いモノがあるな」

 

「バッテリー残量はまだ充分にある。的を狙う訓練くらいにはなる」

 

「そうかもな。後はシンに任せるしかない!! 被弾はするなよ」

 

「余裕で出来る」

 

2人は当初の作戦通りモビルアーマーを基地から引き離すべく無理に戦わない。

シンが坑道跡を抜けてローエングリン砲に奇襲を掛けるまでの時間は残り僅か。

 

///

 

シンはデータが示すルートに従いひたすら進んだ。

コアスプレンダーのボディーを岩に擦り付ける事はあっても正面衝突して動けなくなる事はない。

ライトも役に立たず一切の光りが届かぬ道無き道を進み続け17分。

目の前には何も見えない黒一色だがデータ状は出口に差し掛かった。

 

「ここが出口なのか? それなら!!」」

 

コアスプレンダーの両翼に装備されてるミサイルを照準も付けずに全弾発射した。

闇だった空間に爆発が起こり岸壁が崩れ去る。

太陽の光りが差し込み長かった坑道跡の出口がようやく見れた。

 

「行っけぇぇぇ!!」

 

コアスプレンダーは外に出た。

同時に引き連れてきた各フライヤーとドッキングしモビルスーツに合体する。

灰色の装甲が鮮やかなトリコロールに変わったインパルスがローエングリン砲のすぐ真裏に現れた。

 

「ローエングリンは?」

『敵反応? すぐ後ろだと!?』

 

『データに該当アリ。ザフトの新型か!!』

 

周囲を見渡すシンは最終目標であるローエングリン砲を探すが防衛部隊もインパルスに目を付ける。

4機のストライクダガーがローエングリン砲を死守しようと壁を作るがそのお陰で位置がすぐにわかった。

ペダルを踏み込みメインスラスターから青白い炎を噴射する。

接近と同時にビームライフルのトリガーを引きストライクダガーに照準を合わせた。

自身に発射されるビームはシールドで防ぎながらトリガーを引く。

ビームはストライクダガーが構えるシールドを吹き飛ばし、その隙を付いてコクピットを撃ち抜く。

だが奇襲に気が付いた連合軍は直ぐ様ローエングリン砲を地下シェルターに格納しようとする。

エネルギー供給ケーブルを切り離しエレベーターでローエングリン砲が地下で移動してしまう。

 

「くっ!! 時間がない!! こうなったら!!」

 

ビームライフルを腰部へマウントさせるとメインスラスターを全開にして被弾も覚悟で突っ込んだ。

飛来するビームの1発がバックパックの右翼が撃ち抜ぬきバランスが崩れる。

 

「そのまま突っ込めぇぇぇ!!」

 

加速するインパルスはビームの中をくぐり抜けストライクダガーに組み付いた。

激しい衝撃がコクピットにまで伝わる。

ストライクダガーを連れたまま地下に移動しようとするローエングリン砲にぶち当たる。

バックパックからビームサーベルを引き抜きインパルスは切っ先をコクピットに突き刺す。

 

「離脱する」

 

インパルスは再びビームライフルを握りローエングリン砲から飛ぶ。

ビームサーベルを突き刺されたストライクダガーは誘爆する。

爆発に巻き込まれ目標であるローエングリン砲は陥落し、同時に地下に作られた基地にも被害が及ぶ。

内部から次々に爆発が起こり地形も変わる。

バランスが不安定ながらも飛ぶインパルスはミネルバに合流すべくメインスラスターを吹かす。

 

「メイリン、ソードシルエット射出!!」

 

『了解。座標位置確認、ソードシルエット射出します』

 

///

 

アスランはインパルスがローエングリン砲を破壊してミネルバに向かって来るのを確認する。

作戦が成功した事で残りは目の前のモビルアーマーを倒すだけ。

 

「ヒイロ、作戦は成功だ。モビルアーマーを落とす」

 

「了解、敵機を撃破する」

 

テンペストビームソードを握るグフは一気にザムザザーに接近する。

ビームはシールドで防ぎメインスラスターを全開。

接近されれば陽電子リフレクターを使ってもどうする事も出来ず、テンペストビームソードで横一閃するとビームライフルを分断させる。

すかさずセイバーが間に割って入り胸部にビームサーベルを突き刺した。

装甲が高熱で赤く発光しザムザザーの上半身に風穴が開く。

 

「さすがだな、ヒイロ。俺には真似出来そうにない」

 

「慣れれば誰にでも出来る」

 

「俺からしたらお前の動きは強引過ぎる。被弾が怖くないのか?」

 

「死ななければ戦える。それを見極めてるだけだ」

 

動かなくなったザムザザーは地上へ落下しクモのような6本脚があらぬ方向にへし曲がった状態で横たわる。

もう1機のゲルズゲーに向かってヒイロはテンペストビームソード1本でまたも先行した。

目の前で一瞬にして味方が倒された所を見て搭乗するパイロットは驚愕する。

 

『近づかれたら陽電子リフレクターは使えない!! 何としても撃ち落とせ!!』

 

『き、来ます!!』

 

両手のビームライフルで接近するグフを狙うがモビルスーツとモビルアーマーでは運動性能が違い過ぎる。

ビームはグフが通り過ぎた後ろに流れて行き簡単に懐にまで接近した。

前足を薙ぎ払い、振り下ろした剣は右肩を切断する。

そのまま上半身へ切っ先を突き立てようとするが腹部ビーム砲がグフの左足を撃つ。

足首から先が失くなってしまい姿勢制御のバランスも崩れる。

 

「くっ!!」

 

「ヒイロ!! 敵は逃げるつもりか?」

 

攻撃が止まった僅かな間にゲルズゲーは戦場からの離脱を試みた。

セイバーは逃がすまいとビームサーベルを握り接近しようとする。

 

『今の内に離脱しろ!! この基地はもうダメだ』

 

頭部機関砲とビームライフルで牽制しセイバーとグフが近づきにくい状況を作る。

アスランでも回避行動を取りながらやシールドで防ぎながら敵に近づくのは難しい。

陽電子リフレクターを展開した相手に射撃は通用せず、距離を離して行く敵影にただ見る事しか出来なかった。

 

『よし、ここまで来れば――』

 

「インパルスの攻撃が届く!!」

 

ゲルズゲーの背後から換装したソードインパルスが迫る。

連結させたエクスカリバーを大きく振り下ろしゲルズゲーを一振りで真っ二つに分断した。

半分にされた機体もまた動く事は不可能になり地上に向かって落下する。

2機のモビルアーマーを最後にガルナハン基地に置ける連合軍の戦力はほぼ壊滅した。

 

「へへっ、隊長にばかり良い思いはさせませんよ。俺はあのクソ狭い坑道をやっと抜けて来たんですからね」

 

「シンになら出来ると思ったから任せた。作戦は成功したろ?」

 

「本当は自分がやりたくなかっただけなんじゃないですか?」

 

「だったらヒイロに任せた方が良かったかな?」

 

「冗談ですよ。インパルスのパイロットは俺ですからね」

 

「わかってる。モビルスーツ隊聞こえるな。作戦終了、全機ミネルバに帰還しろ」

 

ガルナハン基地を突破した事でミネルバは最短距離でジブラルタルに向かう事が出来る。

また1つ、連合軍の地球圏の戦力範囲は狭くなった。




次の話でミーア・キャンベルが登場します。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第8話 偽りの歌姫

ローエングリンゲートを突破したミネルバはそのまま進路を進み黒海沿岸ディオキアに到着する。

ここでは明日ラクス・クラインの慰問コンサートが開催され、クルー達はラクスを見に行けるかもしれないという事で多いに賑わって居た。

通信士のメイリンもその1人でディオキア基地内の食堂で興奮しながら姉であるルナマリアに話しかけて居る。

 

「明日はラクス様のコンサートだよ、お姉ちゃん!!」

 

「朝から何回も聞いたわよ」

 

「生でラクス様に会えるなんてぇ……超楽しみ!! 明日は絶対に行こうね!!」

 

「はしゃぎ過ぎ、もう少し静かにしてよ。」

「だってだって、あのラクス様だよ!!」

メイリンをなだめるルナマリアだったが静まる様子はなく、メニューを選んでる最中もメイリンの口は閉じない。

「わかった、わかったから。も~ゴハンの時くらい大人しくして」

連日ラクスの事を聞かされていたルナマリアはホトホト呆れて居た。

メニューを決めて職員に伝えるとすぐに食事が提供される。

トレイを両手で持ち席を探す2人は既に座って居るヒイロの姿を見つけた。

「隣、使っても良い?」

 

「好きにしろ」

 

そっけない返事を聞くとメイリンとルナマリアはヒイロの横と前の席に座る。

興奮冷めやまぬメイリンは視線をヒイロに向けると食事も後回しにして話し始めた。

 

「ヒイロはラクス様のコンサート見に行くよね!! 今まではテレビとかでしか見た事なかったけど今度は本物だよ!! 朝早く起きて良い席確保しないと」

 

ルナマリアはこれ以上は関わりたくないとその様子を静かに見守るだけ。

ヒイロも2人が来た時には用意された食事を食べ終えており、メイリンの言う事は聞き流して席から立ち上がる。

 

「俺はあの女に興味はない。オーブで――」

「えええええええぇぇぇぇぇ~~~~~~~!!」

 

ヒイロの声をかき消し絶叫が響く。

メイリンの絶叫は空気を震わせ外に居るモノにまで伝わる。

突然の事の食堂に居るモノ全ての視線が彼女に集まり、ルナマリアも動揺して目を大きく見開いて居た。

声の反響によりコップに注がれた水が微かに揺れる。

 

「興味が……ない……」

この世の終わりのような暗く淀んだ顔をするメイリン。

反響が止み、周囲は静寂に包まれる。

だがすぐに目に光を戻すとヒイロの腕を掴んで無理やり歩き出した。

 

「発売されたDVDは初回限定盤で全部買ったから見せてあげる!! ご飯なんて食べてる場合じゃない!!」

 

反論も許されずヒイロは腕を掴まれて食堂から連れ出されてしまう。

ルナマリアは引き止めようともせず、心の中で事が穏便に済むのを願うばかり。

 

(あの様子だと良くて丸1日。そのまま徹夜でコンサートの席取りに駆り出されるでしょうね。ヒイロ、ご愁傷さま)

 

ヒイロを引き連れたままメイリンはミネルバの自室まで戻って来た。

手を離し開放するや否や自室の扉にロックを掛け今までに買ったありったけのDVDを引き出しから引っ張り出す。

その内の1つを手に取るとヒイロの眼前に見せ付けて来る。

 

「これが3年前に発売されたアプリリウスでのコンサート!! ラクス様の初めてのコンサート、今じゃプレミアが付いて中々手に入らないんだから。まずはコレ!!」

 

「オ、オイッ!?」

 

「最後の『静かな夜に』が最っ高なんだから。ほら、コッチに座る!!」

 

メイリンはまたもヒイロの腕を掴むと部屋に設置したモニターの前にまで歩かせる。

ヒイロの意見など全く聞く耳を持たずシートに座らせ手に持ったDVDのパッケージからディスクを取り出しデッキに入れた。

モニターに映像が流れ始めるとヒイロの隣へ座り真剣な眼差しを向ける。

そうして深夜遅くまでラクスのDVDをヒイロとメイリンはノンストップで見始めた。

長い時間の中で休憩が取られる事もなく、聞きたくもないメイリンの解説も聞かされる事となる。

 

///

 

「ねぇ、まだ見てるの?」

 

部屋に戻ったルナマリアは既に寝る準備をして居る。

大音量で映像を見てるメイリンとヒイロに呼び掛けるが聞こえないのか返事がない。

 

「先に寝るわよ」

 

諦めたルナマリアはそう言い残し寝室のベットに行ってしまう。

メイリンは姉の事を意に返さず、映像が終わるとすぐ次のディスクに入れ替える。

休憩もなしで6時間以上も見続けてる事もあり彼女の目元には隈が出てるが全く気にする素振りもなく、映像が再生されるとまたヒイロの隣へ戻った。

 

「でね、次のが半年前に発売されたばかりのヤツ。終戦してから全然出なかったんだけど、再開してから路線変更して派手になったの。今のラクス様は昔と比べて安っぽくなったって言う人も居るけれど私は違うわ!! 今も昔もラクス様は最高なんだから!!」

 

ヒイロは文句も言わずメイリンの見せる映像を見てたが入れ替えたディスクの映像をしばらく見ると目付きが変わる。

 

「今までと動きが違う」

 

「わかる!? ダンスも取り入れたりしてアクロバティックになったの!!」

 

「そうじゃない。比べると歩幅が5センチほど伸びてる、発声もキーが少し高い。決定的なのは薬指の長さだ。最近のは人差し指と薬指が同じくらいの長さだが昔は人差し指の方が長かった」

 

「へぇ~、そうなんだ。私も何回も見てるけど気が付かなかった」

 

ヒイロの『感想』を聞いたメイリンはまた流れる映像に集中する。

彼女はまだ事の重大さに気が付いてなかった。

興奮するメイリンを尻目にヒイロは頭の中である仮定を組み立てる。

 

(あの時、オーブで会った女が本物。半年前から現れたコイツが偽物。プラントの統率を図る為の替え玉か。元々はそうでないにしても今と言う状況に置いては有効に機能してるな。初代プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの娘……替え玉とは言え世間に認知されれば使い道は多いな)

 

「ヒイロ聞いてるの!! 次は『Quiet Night C.E.73』だよ。ちゃんとダンスの振り付けも覚えてよね!!」

 

夜はまだ長い。

翌日、ミネルバクルーの殆どは今日開催されるラクス・クラインのコンサートを見に行った。

メイリンはDVDを解説しながら全て見終わった後、またヒイロの腕を無理やり掴みコンサート会場に日も昇らぬ内に向かう。

空を見上げればまだ暗く、月と星が微かに見える。

 

「じゃあ私は取り敢えず飲み物とか買って来る。この席から絶対に動いちゃダメだからね!!」

 

「わかっている。早くしろ」

 

先乗りしたヒイロは言われた通りにシートに座ると両腕を組んでまぶたを閉じた。

昨日から続くラクスのコンサートDVDをノンストップで見せられた事もあり少なからず疲れて居る。

まだ誰も居ない会場で肌寒い空気に晒されながらも休息を取った。

 

(本物のラクス・クラインがどう動くか? このまま傍観するか、再び表舞台に登場するのかによってプラントの情勢は傾く。現状ではそれは考えにくい。だが、あの時オーブに居たのが気がかりだ。何か意図があると……すれば……)

 

ヒイロは本物も偽物も裏で何をしてるのかを探ろうと思考を巡らす。

けれども気が付けばそのまま寝てしまった。

数分後には戻って来たメイリンに肩を揺らされて目が覚める。

「ヒイロ、ヒイロったら!!」

 

「ん、ここは……」

 

「コンサート会場、戻って来たら寝てるんだもん。全然人が居ないからまだ良かったけど、もし遅かったら私の席が取られちゃう」

 

言いながら両手に紙コップを持ちながら隣へ座る。

 

「はいコレ。炭酸だからスカッと目も覚めるわ」

 

「あぁ。今の時間はわかるか?」

 

「うん? まだ朝の4時だから……5時間後に始まる予定。あぁ、早く生でラクス様見たいなぁ」

 

「そうか。終わったら起こせ」

 

言うとヒイロはまた目を閉じて睡眠を取る。

元からラクスの事に興味のないヒイロにとってコンサートの事など見なくとも良かった。

けれどもこの場から移動しなかったのはメイリンに対するせめてもの配慮なのか。

 

「ちょっとヒイロ!? 寝ちゃダメだってば!! ヒイロ、ヒイロ!!」

 

今度はメイリンがどれだけ呼び掛けても目を開ける事はなかった。

 

///

 

『みんな~、今日は来てくれてありがと~!!』

 

ラクス・クラインのコンサートが開かれて2時間後、最後の曲を歌い終わり無事に閉幕を迎える。

終始興奮した状態で掛け声を上げて居たメイリンの体は疲労しきっており歩くのも辛い。

一方のヒイロはコンサートが終わるまで一瞬たりとも目を覚ます事はなく体力を温存してた。

メイリンは隣に座るヒイロの肩を揺らす。

 

「ヒイロ、ヒイロ終わったよ」

 

「ん、そうか……」

 

「なら次はグッズを買いに行かないと。一緒に――」

 

客足が会場から遠退く中でメイリンは次なる目的の為にヒイロを連れ出そうとしたが、突如として携帯端末の呼び鈴が鳴り響く。

ヒイロはポケットに手を入れて通話ボタンを押すと耳元に端末を当てる。

 

「どうした?」

 

『あ、コンサート終わった? ヒイロも大変ね、あんなのに関わっちゃって』

 

聞こえて来たのはルナマリアの声。

メイリンに連れ回された事に哀れみを込めて言うがヒイロは普段よりも機嫌が悪かった。

 

「そんな事の為に呼び出したのか? 用がないなら切るぞ」

 

『待って待って!! 切る事ないでしょ!! 今、ディオキアの8番街にあるホテルに居るんだけどデュランダル議長が訪問されてるみたいなの。それでザラ隊長から連絡があってアタシ達と話がしていんだって』

 

「何の為だ? 俺はアイツと話す事はない」

 

『そうかもしれないけど!! 軍人なんだから上からの指示には従うの!! シンとレイもコッチで待ってるから早く来る事、良いわね?』

 

「了解した」

 

『ホテルまでの道はわかる?」

 

「問題ない。7分で合流する」

 

『じゃあ待って――』

 

ルナマリアの声を途中で遮断するヒイロはシートから立ち上がり、言われた通り8番街ホテルに向かって歩き出す。

残されたメイリンはどうするべきか悩む間にヒイロの背中は遠ざかってしまう。

 

「あ、えぇ、行っちゃうの? まだグッズ買いたいのに!! あ~もぅ!!」

 

メイリンはヒイロの事を諦めて1人で今度はグッズ売り場まで走る。

ヒイロは全く気にする素振りすらなく、ホテル前に時間通り辿り着いた。

そこには既にアスラン、シン、レイ、ルナマリア、艦長であるタリアまでも居る。

ヒイロの姿を見たルナマリアは途中で通話を一方的に切られた事に対して声を上げた。

 

「アンタ途中で切ったわね!!」

 

「時間には間に合った。問題ない」

 

「そうだけど――」

 

「ルナマリア、話は後にしてちょうだい。議長が中でお待ちよ」

 

言葉で彼女を静止させるタリアは時間がないとホテルの中に足を踏み入れる。

不満が収まらない彼女はヒイロを睨み付けタリアの後に続く。

中はデュランダルが滞在してると言う事もあり護衛兵が至る所で警備に当って居る。

全員はエレベーターで階を上がりホテル内のバルコニーまで来た。

 

「良い事、くれぐれも失礼のないように」

 

念を押すタリア。

言われてシンは襟元を正した。

大きな扉をノックするタリアは中に聞こえるように伺いを立てる。

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。デュランダル議長?」

 

数秒後、内側から扉が開かれる。

中に居るのはデュランダルと護衛兵1人だけ。

バルコニーには彩色された長机にティーポットが用意されて居た。

 

「やぁ、待って居たよ。中へどうぞ」

 

「はい、失礼します」

 

一礼してからタリア他5人は部屋の中へと入る。

デュランダルの誘導に従い用意された椅子の前に立つ。

最初にデュランダルが座るのを見てから5人も席に付く。

 

「折角の休暇にわざわざ来て貰ってありがとう。私もこの様な機会がないと前線で戦う兵と会う事も出来なくてね。キミ達の目から見た地球圏、プラントの現状を聞きたいんだ。余り固くならず自由に発言してくれ」

 

言うとティーポットに手を伸ばすが、気が付いたタリアは立ち上がると代わりに中の紅茶を注ぐ。

 

「助かる、タリア。さて、キミ達ミネルバの活躍は私の元まで良く届いてるよ。特にシン・アスカ君」

 

「は、はい!!」

 

「新型のインパルスを使いこなしてるそうだね。アーモリー・ワンが初陣だと聞いたが良くやってる」

 

「ありがとうございます!!」

 

デュランダルは紅茶の注がれたカップを持つと静かに口に含む。

 

「これからも活躍に期待してるよ。強奪されたセカンドステージの内の1機は破壊したと聞いた」

 

「はい、データも既に連合に渡ったと考えられ戦闘にも投入して来ました。奪還するのは困難と考え撃破しました」

 

そう説明するのはモビルスーツ隊隊長のアスラン。

 

「そうか、それも致し方ない」

 

「奪われた3機の内、破壊出来たのはアビスです。残り2機もまた投入されるかもしれません」

 

「だろうな。充分なデータを採取したのなら後は戦力に投入するだけだ。連合の立場からすれば新型のGは欲しい筈だ。アビスを撃破したのはキミか?」

 

「いえ、自分ではありません。彼です」

 

そう言うとアスランはヒイロに目線を向けた。

この中で唯一制服が緑のヒイロの姿をデュランダルはスゥッと目を細めて見る。

 

「初めて見る顔だね。名前を聞かせて貰えるかな?」

 

聞かれてもヒイロは真正面を見るだけで口を開こうとしない。

 

「ん? どうしたんだい?」

 

「ヒイロ!!」

 

見かねたシンが小さな声を出し見えないように肘を当てる。

そこでようやくデュランダルに視線を合わせると口を開けた。

 

「ヒイロ・ユイです」

 

「ヒイロ君か。単刀直入に聞くがキミは戦争に付いてどう考える?」

 

「それは今の連合とプラントの情勢の事か?」

 

「ソレもある」

 

必要以上の事は言わない。

ヒイロは数秒考えるとデュランダルを睨むように鋭い視線を向けた。

 

「終戦後の世界情勢を見ても連合がプラントに戦いを仕掛ける理由はない。それでも今のようになった理由は戦争による産業の活性化。連合の裏で何者かが状況をコントロールさせてる。」

 

「なかなかするどい着眼点だ。私もキミと同じ様に考えてる。いつの時代も戦争なんて起きて欲しくない。皆がそう考え願うにも関わらず人類は戦いの歴史を積み重ねて来た。何故か? そう願いながらも人が戦うのは避けられない運命なのかもしれない。戦争の裏では莫大な資金がうごめいてる。キミ達が乗るモビルスーツも、艦艇も、1つ作るのに様々な事業と資金が動く。この点だけを見れば非常に効率の良い産業と言える。だがその為にどこかで誰かが死ぬ。そんな事を私は認めない。連合の裏で牛耳る存在、ロゴス。連合と戦うのではなく彼らのような戦争商人を世の中から失くす事が今の戦いを終わらせる1番の道だと考える」

 

デュランダルの言葉に他の5人は静かに耳を傾けた。

けれどもヒイロだけはソレに対して意見を言う。

 

「俺達兵士は平和の為に戦って来た。だが仮にロゴスを壊滅したとしても、世界から兵器と兵士を失くしたとしても、人類の戦いは終わらない」

 

「何故そう考える?」

 

「人は感情で行動するからだ。武器がなくても人は戦いを止めない。大戦などと大掛かりな事をする必要はない。それでも人は常に戦う姿勢は必要だ。世界に対して、社会に対して、自分に対してもだ」

 

「ヒイロ・ユイ君、キミは強い人間だ。私はソレを素晴らしいと思う。けれども人類全てがそうではない。だから私は全ての人々が安心出来る世界を目指す」

 

(ギルバード・デュランダル、俺はお前をまだ信用してない。お前がこの世界に何をもたらすのか、見極めさせて貰う。だがその道を外すようなら、俺はお前を殺す)

 

///

 

会談が終わり5人はミネルバに戻る為、ホテル内の長い廊下を歩いて居る。

シンはヒイロの傍まで近寄ると先程の事を聞いて来た。

 

「オイ、なんですぐ議長に返事しなかったんだ?」

 

ヒイロは立ち止まり横目でシンを睨む。

「なっ、なんだよ」

「いいや。ただ考えが読めなかっただけだ」

 

「どういう事だよ?」

 

「わからないなら気にするな」

 

「お前、俺の事を馬鹿にしてないか?」

 

シンは聞き返すがヒイロはこれ以上は喋らない。

そんな中に昨日嫌ほど聞かされた声が聞こえて来る。

 

「アスラ~ン!! ふふふっ」

 

「ミッ……ラクス」

 

「お久しぶりですわ。会えて嬉しい!!」

 

ラクスが突然来た事に驚くアスラン。

けれども彼女はそんな事はお構いなしで皆が見てる前でアスランに抱き付いた。

 

「今日のライブ、見て下さりましたか?」

 

「い……いや、他にもやる事があって見に行けなかった」

 

「そんな~」

 

2人の様子を見てため息を付いて呆れるタリア。

その後ろからラクスの声を聞いたデュランダルがやって来た。

 

「あっ!! 議長!!」

 

「コンサートは終わったのかい?」

 

「はい、皆様とても楽しんで居ました」

 

「それは良かった。キミのお陰で兵の士気が上がる」

 

デュランダルはアスランの耳元に口を寄せると小声で囁く。

 

「気付いてるかもしれないが、くれぐれも内密に頼むよ」

 

「わかってます」

 

状況を理解してないラクスはただ笑顔を向けるだけ。

自分が蚊帳の外に雰囲気に耐えられずラクスはまたアスランに話し掛けた。

 

「そう言えば!! アスランは隊長なんですわよね?」

 

「あ。あぁ。ミネルバではモビルスーツ隊の隊長をしてる」

 

「わたくし、1度モビルスーツを見てみたいです!!」

 

「そう言われてもな」

 

独断では判断出来ない内容に頭を悩ますアスランだがデュランダルが助け舟を出す。

 

「良いではないか、アスラン。キミに渡したセイバーの戦いぶりを見る事も出来るし良い機会だ。模擬戦でもやってみてはどうかね?」

 

「議長がそう仰るなら」

 

「艦長もそれで宜しいかな?」

 

「異論はありません。では準備もありますので20分後でも宜しいでしょうか?」

 

「構わんよ。では行こうか、ラクス」

 

「はい、議長!!」

 

言うとラクスはデュランダルの左隣へ並びながら歩いて行ってしまう。

喧しい声の主が居なくなった事に安堵しタリアはまたため息を付いた。

 

「なら私達も行きましょう。アスラン、さっき言ったように模擬戦は20分後。すぐに準備を初めて」

 

「了解です。各員はモビルスーツに模擬専用の武器を装備させて発進準備。いつでも出られるようにして来れ」

 

隊長であるアスランの指示に従いシン、レイ、ルナマリアは敬礼する。

だがヒイロだけは通りすぎて言ったラクスの背中をジッと見つめて居た。

 

(替え玉としてアイツを使ったのはプラントの総意か。それともあの男1人の考えか。どちらにしても本物のラクス・クラインがどう動くかによって変わって来る)

 

ラクスが偽物だと気が付いてるヒイロは誰にも言わず1人思考するが、その事に気が付く筈もないルナマリアは横目でジッとラクスの姿を見つめるヒイロの事を覗いた。

 

(ヒイロもあの子に毒されちゃったわね)

 

そんな風に思われてるなど露知らず、模擬戦を始める為に各員はミネルバに戻る。




少しギャグっぽくなってしまった。
メイリンのキャラもこのストーリーの進行に伴い変更させて頂きました。
今回は不満な声が多いかも。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第9話 罪の所在

更新が遅くなってしまい申し訳ございません。


地球連合軍所属、ファントムペイン部隊。

その隊員の1人であるスティングは借りたホテルのベランダから双眼鏡を覗き込みディオキアのザフト軍基地を偵察して居た。

 

「いつまでこんな事を続けてりゃ良いんだ。ネオのヤロウ」

 

成果の得られない偵察任務に嫌気が差し悪態を付く。

後ろを振り返ればベッドの上で寝息を立てるステラが見え余計にストレスが募る。

 

「あ……ウル……」

 

よく見ればそのまぶたからは涙が流れてる。

その事にスティングは気が付かなかったし、無意識にこぼれ出た寝言に関心を示す事もなかった。

握るレンズの向こうでは戦闘が始まる訳でもないのにモビルスーツが数機出撃して居る。

 

「何だ? 呑気にコンサートをやってたかと思えば次は何する気だ?」

 

基地内に現れる4機のモビルスーツ。

確認出来たのは今までにも交戦した事のある機体。

セイバー、インパルス、ザクウォーリアが2機。

自身のカオスに損傷を与え煮え湯を飲まされた相手にスティングの視線は鋭くなる。

 

「アイツラが居るって事はザフトの新造艦もこの基地に居るって事だな。ようやくネオにまともな事を報告出来る」

 

覗き見ながらモビルスーツの動きを観察してわかったのは握られてる武器が演習用のモノだ。

見た目はライフルでもビームも実弾も発射されず出るのはペイント弾だけ。

ビームサーベルをエネルギー供給をカットされておりデータ上で表示されるのみで今の状態では戦闘能力は全くない。

 

「こんな時に演習かよ。今攻め込んだらザフトの奴らを壊滅出来るかもな」

 

冗談を言うスティングだが、その背後から音もなく誰から飛び付いて来た。

 

「なっ!?」

 

「ネオ……ネオはまだ?」

 

「ステラか、驚かせるな。ネオならすぐ迎えに来させる。この事を報告して後は後方部隊に任せてディオキアから出ようぜ」

 

「帰る?」

 

そう言うスティングは暗号通信でネオに伝える為に双眼鏡をステラに渡して持ち込んだ通信装置に向かって行く。

受け取ったステラはつぶらな瞳を向けて立ち尽くすだけだったが、好奇心のままに双眼鏡のレンズを覗き込む。

拡大されて映るホテルの壁。

その場でグルグル回る彼女は外の風景も視界に収める。

青い空と海、人々が居る町並み。

でも見えるのはそれらだけでなく、少し前にスティングが偵察の為に見てたザフトのディオキア基地も当然目に入った。

瞬間、ステラの眼光が鋭くなる。

 

「あ……あぁっぁ……敵、倒さないと。敵、敵、うあああぁぁぁっ!!」

 

前回の戦闘で仲間のアウルが戦死した。

ネオの処置により薬物で一時的に感情を抑えはしたがここに来てそれが爆発してしまう。

エクステンデッド、コーディネーターに対抗する為に人工的に強化された兵士。

けれども非人道的に行われる強化により彼女らの記憶さえも操作されており連合からは戦う為の道具としか認識されてない。

ステラは握ってた双眼鏡を投げ捨てると全速力で部屋の中を走り抜ける。

 

「ステラ!! どう言うつもりだ!!」

 

声に気が付いたスティングは走り出す彼女の腕を掴み何とかして止めようとしたが、今のステラに現状を把握出来るだけの視野はなかった。

強引に手を振り払いホテルの部屋から出て行ってしまう。

 

「ナニをするつもりだ? まさか……冗談だろ!!」

 

///

 

ミネルバのモビルスーツデッキにはヒイロが搭乗するグフだけが残ってた。

パイロットであるヒイロもその場に残っており整備兵であるヨウランと共に機体の調整を行ってる。

 

「お前パイロットだろ? 自分の機体が大事なのはわかるけどこんな事してて良いのか?」

 

「演習をやる意味はない。そんな事をした所で戦えない兵士は死ぬだけだ」

 

「戦闘に対してクレバーな考えなのもわかったけどさ、議長が訪問されてるんだろ? ヤバイって」

 

「オイ」

 

ヨウランの言葉を無視してヒイロは片膝立ちのグフに握らせたビームサーベルの設定を終える。

連合のウィンダムが使用するビームサーベルをエネルギーケーブルでグフのジェネレーターに無理やり取り付けたモノだ。

 

「完了した。電力を流せ」

 

「ハイハイ、仰せのままに」

 

説得を諦めたヨウランは言われた通りにビームサーベルへ電力を供給させる。

握ったグリップからピンク色のビームが発生するがそれは一瞬で、ジェネレーター出力が大きすぎてエネルギーケーブルが途中で焼き切れてしまう。

ビームの発生も当然止まってしまった。

 

「あ~ぁ、ダメだこりゃ。なぁ、どうしてもビームサーベルでないとダメなのか? 標準装備のビームトマホークやテンペストビームソードでも充分だろ?」

 

「威力は高いかもしれない。だがビームサーベルの方がポテンシャルが良い」

 

「グフはビームサーベル使うように出来てないんだ。いっその事別の機体使うとか」

 

「だがインパルスは使えない。そうなるとこの方法で進めて行くしかない」

 

ヒイロの言い分が曲がる事はない。

こうなってしまった場合、折れるのはいつもヨウランだ。

 

「いつになったら出来るかわからねぇぞ。ソレまでは我慢してくれよ? 俺にだって他に仕事があるしな」

 

「わかった。後は任せる」

 

「サーベルグリップとケーブルは廃棄だな」

 

ヒイロは使えなくなった部品の片付けを任せるとペダルを踏んで片膝を付かせたグフを自立させる。

ゆっくりと進む機体は収納ケージまで来るとヒイロはバッテリーのエネルギー供給をストップさせた。

一方定刻通り準備を終わらせた他のモビルスーツ部隊は基地内に自身のモビルスーツの脚を付ける。

全員が演習用の装備を付けておりアスランが搭乗するセイバーも例外ではない。

周囲を見渡したアスランはコンソールパネルに指を伸ばし通信を繋げる。

 

「ヒイロのグフが見当たらない」

 

『モビルスーツデッキまでは一緒でしたがそこから先は』

 

レイの報告に確信を得たアスランは思わずため息を付いてしまう。

 

「まぁ良い、人数は足りてる。チーム編成は俺とレイ、シンとルナマリアだ。200秒以内に相手を殲滅させた方が勝ち。議長も傍で見てる、演習だからと言って気を抜いたりするなよ」

 

『了解』

 

3人の返事が通信越しに返って来る。

アスランは演習を始めようと操縦桿を握り締めるが突如としてレーダーに敵反応が映った。

そこには連合に奪われたガイアの姿。

 

「ガイアがどうしてここに!? 各員演習中止、1度基地に戻って装備を整える」

 

すぐに演習を中止させモビルスーツを後退させるアスラン。

だがシンはその指示に異を唱える。

 

「でもこのままじゃ街が!!」

 

「今のままでは戦う事も出来ない。気持ちはわかるが引くしかない」

 

「くっ!!」

 

シンの脳裏に蘇るのは目の前で家族が死んだ光景。

何も出来ず、髪の毛1本すら残さずビームに消し飛ばされた。

少し前にもインド洋基地での民間人虐殺を見たばかり。

アスランに力とは何かを問われ答える事の出来なかったシンだったが、確かなのは心の底から沸き上がる悲しみと怒り。

ガイアはメインスラスターを吹かせてジャンプしながら街の中心街から基地へと迫って来て居る。

踏み潰される街。

逃げ惑う市民。

血を流しケガをする人に泣き叫ぶ子ども。

感情を抑え切れないシンは力強く操縦桿を握り締めた。

 

「武器はなくても押さえ付ける事くらいなら出来ます。俺にはこのまま見過ごすなんて出来ません!!」

 

「止めろシン!! 防衛部隊もすぐに展開される。それまで――」

 

言い切るシンは声を無視してペダルを踏み込みメインスラスターを吹かしてインパルスを飛ばす。

武器のない状態でガイアに挑むのは無謀極まりない。

アスランは1人で先行して行くインパルスを止めに行く事が出来なかった。

街中を突き進むガイアはディオキア基地を目指して来る。

周囲の状況を全く試みない相手の行動にシンは怒りを燃やす。

 

「戦うだけならどこでだって出来る。何だってこんな所で!!」

 

「見つけた!! 敵、敵!!」

 

インパルスを視野に収めたガイアはビームサーベルを引き抜き飛び掛る。

武器を持たない今は真正面から戦う術はなく、インパルスはメインスラスターを吹かせ寸前の所で上空に飛び上がった。

ビームはアスファルトを溶かし灼熱の蒸気を上げる。

 

「くっ!! 逃げるな!!」

 

「そうだ、コッチに来い」

 

空を飛べないガイアはビームサーベルを戻し次はビームライフルを握った。

インパルスに照準を合わせようとするがシンはガイアに背を向けて街から離れて行く。

街の中では被害を大きくなるだけ、基地に被害を出す訳にもいかず誰も居ない海岸へ向かって飛ぶ。

ガイアは空のインパルスを狙いトリガーを引く。

発射されたビームは真っ直ぐに目標へ向かって飛んで行くがシンはスラスターで機体を制御してコレを避ける。

 

「当たれ、当たれ!!」

 

立て続けに発射されるビームに背を向けたままでは避けきれず、反転したインパルスはシールドでコレを防いだ。

ガイアとの距離は近づかれ過ぎないように、離れすぎないように調整しながら行き先を誘導して行く。

 

「上手くいってるけど、このパイロットは何なんだ? 周りがまるで見えてない。こんな簡単に引っ掛かるなんて」

 

疑問に思いながらもシンは被害の及ばない海岸に向かって誘導を続ける。

なかなかダメージを与えられない事と戦いにくい事にステラは更に逆上して居た。

 

「ぐぅぅぅっ!! 消えちゃえぇぇぇ!!」

 

「何だって言うんだ!?」

 

我慢出来なくなったステラはガイアをモビルアーマー形態に変形させ背中のウイング前面に展開されたビームブレードでインパルスに突っ込む。

予測出来ない行動にシンは反応が遅れてしまい、回避行動を取るが左脚部を持って行かれてしまう。

態勢を崩されるインパルス。

ガイアは瞬時にモビルスーツに変形し背部に組み付いた。

 

「こ、コイツ!! でもこれなら行けるかも。ガイアは飛べないからな。このまま援軍が来るまでこうしてれば機体を取り戻せる」

 

ガイアは無理やりインパルスに組み付くので精一杯な状況。

このまま攻撃しようと片手を離せば海へ落とされる。

そうなればステラにとって状況は益々不利になってしまう。

ステラは組み付いたまま頭部バルカンでフォースシルエットに至近距離から弾丸を直撃させる。

VPS装甲で作られてるシルエットだが内部パーツはそうはいかない。

弾丸は噴射口から内部を破壊し、青白い炎が黒煙に変わる。

 

「しまった!? パワーが上がらない!!」

 

シンはペダルを踏み込み必死に出力をあげようとするが機体は反応してくれない。

出力の下がったメインスラスターで2機を支える事など出来ず、インパルスとガイアはもつれ込んだまま海へ落下してしまう。

 

「離せよコイツ!! 機体の制御が!?」

 

「アウル、アウルゥゥゥ!!」

 

インパルスはまともに動く事もままならず海に流されて行く。

 

///

 

ミネルバはインパルスを追ってディオキア基地を出港する。

本来ならダーダネルス海峡で連合軍を迎え撃つ為に出港はもう少し先なのだが、ガイアと組み付いて海に落下してから機体の反応を探知出来なくなってしまう。

敵の増援が現れる事も考え充分な戦力を整えてからインパルス、並びにパイロットのシンの救出に向かった。

だが2機の反応は依然として見つからない。

バッテリーが両機とも失くなってしまいどこまで流されたのかわからなくなる。

日が沈めば捜索は更に困難になってしまうので時間との勝負。

だがそれらしき姿は見つけられず周囲は夜の闇に包まれてしまう。

そんな中、アスランは1人潮風のあたる甲板に居た。

 

(俺が無理にでも止めて置けばこうはならなかった。クソッ!! 俺はまた……)

 

両手を手すりにつけゆっくりと目を閉じると強い風が吹き髪が舞う。

頭の中に思い浮かぶのはあの時の言葉。

 

『コーディネイターにとってパトリック・ザラが取った道が唯一正しい物であった事が、何故分からん!!』

ユニウスセブンで戦ったテロリスト。

2年前、アスランは父であるパトリック・ザラの強攻策には反対した。

だがテロリストのその一言はアスランには重すぎる。

そのせいで大戦は泥沼化し被害は更に広がってしまった。

止められる立場に居ながら何もする事が出来ない。

今回のシンの事も重なり思い悩んでると甲板の入り口の開く音が聞こえる。

しかし今は振り向く気力もなく足音が背後に近付いて来た。

「ここに居たのか」

「ヒイロ!?」

 

声を聞き振り返る先に居たのはヒイロだった。

以外な人物が来たことに驚いてしまうがヒイロは気にした様子はない。

 

「何を迷っている。お前がしっかりしないと作戦に支障が出る」

 

「お前でも励ましたり出来るんだな。」

「そんなつもりはない。救出が成功すれば次はダーダネルス海峡で連合と戦闘だ。情報によればオーブも関与してるらしい」

 

「そうか、オーブも……」

 

カガリの国であるオーブともこのままでは戦う事になってしまう。

しかしコレを回避する方法などなく、自身の無力さを呪うしか出来ない。

 

「情けない話だがオーブと戦うことに少し踏ん切りがつかなくてな。俺は、ヒイロがこのミネルバに来る前はオーブに居た。そこで現代表であるカガリ・ユラ・アスハのボディーガードをしてた。前の戦争では英雄視されたりもしたがザフトに居続ける訳にもいかず、カガリの傍に居る事を選んだ。そう決めた筈なのに連合の宣戦布告で放って置けばプラントがまた戦火に巻き込まれる。只見てるだけなんて俺には出来ない。だからザフトに戻ったのに……」

 

「言いたい事はそれだけか? 戦えない兵士など軍には必要ない。だったらお前の敵は誰だ?」

 

「俺の……敵?」

 

「俺の敵は俺の命を狙うモノ、俺の命をもてあそぶモノ、そのすべてが敵だ。お前の敵はどこに居る。倒すべき敵が居ないのに何故お前は軍で戦う?」

 

「今の俺にはわからない……何でなんだろうな」

 

「それを見つければ良い。だが作戦開始まで時間もない。インパルスの捜索もある。戦力にならないようなら戦場に来るな」

 

突き放すように言うヒイロは出口に向かって歩いて行く。

優柔不断だった自身の心にナイフを突き立てるような言葉だが今のアスランには気力が沸いた。

 

「ヒイロ!! 俺の答えを探してみるよ。それと、隊長に向かってお前って言うのは止めろ」

 

「了解した」

ヒイロは静かに呟くと甲板から出て行ってしまう。

夜の闇に染まる空を見上げながらアスランは1人潮風に当たる。

 

「普段からあれぐらい話してくれると良いんだけどな。俺も人の事は言えないか」

 

1人で思い悩んで居た時よりは心が安らいだ。

///

 

波の音だけが聞こえる。

荒波に流された2機は絡み合ったままどことも知れぬ岸に辿り着いた。

バッテリー残量は底を突き指1本とて動かせない。

 

「クソッ!! レーダーも見れないって事は救難信号も出せない。どこだここは?」

 

コクピットのシートに座るシンは文句を言いながらもハッチを手動で開放させる。

シートベルトを外し拳銃を手に取り外の景色を覗くと辺りは夜に変わってた。

身を乗り出し機体から出たシンは海岸の砂浜に足を付ける。

振り返った先にはフェイズシフトがダウンしたインパルス、そして隣に横たわるガイアが居た。

 

「コイツもここに。なら……」

 

スライドを引き銃を構えるシンは動かないガイアのコクピットに走った。

ハッチに手を触れ外から開放させるべくパネルに指を掛ける。

装甲に身を隠しながらパネルを押すとガイアのハッチを開放させた。

中の空気と外気が入り混じる。

緊迫した空気の中で息を殺すシンは敵のパイロットの気配に敏感になるが全く何も感じられない。

呼吸を整え、シンはコクピットに銃口を突き付ける。

 

「え……この子は……」

 

ガイアのコクピットに座るのはシンとさほど年齢も変わらない少女。

パイロットスーツも着ずに気を失う少女はアーモリー・1で出会った少女と同じだ。

 

「う……ん……」

 

「っ!!」

 

口から漏れる声に再び緊張を走らせるシンはグリップを確かに握り締め銃口の先を正確に額へ向けた。

ゆっくりまぶたを開ける少女は虚ろな表情で目の前のシンを見る。

暫くは状況を理解出来ず可憐な姿のままだったが、数秒もすると意識を覚醒させシンの事を敵だと認識した。

途端に変わる表情。

敵意をむき出しにする彼女は両手をシンの首に掛けようと全力で伸ばす。

 

「う゛ううぅぅぅっ!! 敵!! てきぃぃぃ!!」

 

彼女の手はどれだけ伸ばしても空を掴むだけ。

シートベルトが体を押さえ付けてこれ以上は動けないが彼女はそんな事に気が付いてない。

思うのは目の前に居る敵を倒す事だけ。

目の前に突き付けられる銃口でさえも今は見えてない。

シンは少女の異常な行動に恐怖すら覚えトリガーに指を掛けるだけに留まる。

 

「普通じゃないぞ、コイツ。どうしてこんな子が!?」

 

「ぐぅぅぅっ!! あ゛あ゛あああぁぁぁ!! 敵は倒す!! 倒す!!」

 

「意思の疎通も出来そうにないな。だったら!!」

 

彼女が叫ぶように2人はついさっきまでは戦ってた敵同士。

シンはグリップを両手で握り照準を定める。

人差し指に力を込めトリガーを引こうとするが時間だけが過ぎ去って行く。

心の中の葛藤、脳裏に蘇るアスランの言葉と自分の過去の境遇。

次第に額からは汗が流れ指は震えて居た。

 

「ダメだ、無抵抗な人間を殺したら俺まで一緒になる。それにこの子を殺しても何も変わらない。この子は無理やり操られてるだけだ。精神状態が異常なのは薬物の投与か? どっちにしてもここまでするなんて普通じゃない」

 

「ウウウゥゥゥッ!!」

 

「俺は敵じゃない、キミの味方だ。今助けるから」

 

シンは銃を腰に戻し少女が伸ばす両手首を掴んだ。

同じ年代とは思いない力がシンを振り払おうとするが何とか押さえ付けるが姿勢が崩れてしまいコクピットに倒れてしまう。

 

「う、うわぁっ!?」

 

顔が少女の胸の上にぶつかり体が密着してしまう。

表情を赤面させるシンだが少女は気にする事もなく手足をバタつかせ暴れ回る。

 

「大丈夫、大丈夫だから!!」

 

「う゛うっ!!」

 

「もう戦う必要なんてない!! 大丈夫、キミの事を守るから!! 俺が守るから!!」

 

暴れる少女に叫ぶシン。

けれども言葉は届かず少女はシンの首元に八重歯を突き立てた。

 

「ぐぅっ!?」

 

肉を突き破る歯、流れ出る血。

シンは痛みに耐えながら何とか彼女に言葉を聞かせる。

 

「大丈夫だから。もう戦う必要なんてない!! キミは俺が!!」

 

必死の訴えを聞いてくれた少女はようやく腕の力を弱めた。

むき出しの殺気もどこかへ消えて2人の目線が交差する。

口元はシンの血で汚れてしまって居た。

 

「だい……丈夫? ステラの事……守る?」

 

「ステラ……あぁ、俺はキミを傷付けたりしない。大丈夫、キミを守る」

 

「ほんとうに?」

 

「本当さ、約束する」

 

「ありが……とう……」

 

言うとステラは意識を手放した。

力なくシートに体を預ける彼女の姿は歳相応の少女にしか見えない。

シンは体を固定してるシートベルトに手を伸ばし解除してからステラを抱え上げた。

狭いコクピットから這い出たシンは装甲を足場にして再び砂浜に足を付ける。




最近の活動報告は目に余る、ちょっとした愚痴です。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第10話 降臨

集められた枯れ木から火が上がる。

星明かりしか届かないこの場所では目の前で燃える火だけが唯一の光り。

コクピットから非常食を持って来たシンはその内の1つをステラに手渡す。

 

「ほら、持って来たから」

 

「ありがとう」

 

「今日はこれでやり過ごそう。日が出て明るくなったら他に食料がないか探して来るよ」

 

受け取ったステラはビニールを引き裂きブロック上の栄養食を小さな口でひと口食べる。

精神状態も落ち着き普通に食事を取るのを見たシンも心を安堵させ自分の分の栄養食にかぶり付いた。

空腹が完全に満たされる訳ではないが今夜を耐え忍ぶ分には充分。

チューブを手に掴み水を含むと口の中のブロックを喉の奥へ流し込む。

 

(こんな事になっちまったけどミネルバが捜索隊を出す筈だ。でもそれは連合も同じ。連合が先に来たらステラを助けられない。それどころか俺まで連れてかれるかもしれない。ここは信じて待つしかないか)

 

シンは砂浜に寝転ぶと眼前に広がる星空を見た。

何光年も先から届く星の光り。

無限に続く宇宙空間。

幼少期はオーブ、ザフトに入隊してからはプラントに住んでたシン。

夜空を、宇宙をこんなにもハッキリ見たのは初めての経験だった。

 

(そう言えば……夜空なんてちゃんと見た事なかったな)

 

「ほし……キレイ。アウルもあそこに居るのかな?」

 

「アウル? 知り合いか?」

 

「うん!! アウルは……アウルは……」

 

声が段々と小さくなる。

表情も暗くなるステラを見てシンは体を起こし立ち上がると彼女の隣に移動して手を握ってあげた。

 

「大丈夫?」

 

「大事な事なのに……忘れちゃった。なんで? なんでなの?」

 

「友達だったのか? それとも家族とか?」

 

「わかんない……わかんないよ!! うぅっ、あうるって誰なの?」

 

(やっぱり普通じゃない。戦わせる為に無理やり薬物投与やマインドコントロールまでしてるな。精神状態が幼いもそうだ。アウルってのが誰かはわからないけど、こんな忘れ方はおかしい)

 

最後には涙まで流す彼女にシンは何と言葉を掛けて良いのかわからず、只優しく抱きしめてやる事しか出来なかった。

悲しみを同じくするシンは心の中で決意を固める。

 

(今でも目の前でマユが死んだ光景が夢に出て来る。耐え切れなくていっその事忘れたかった時もあった。でも忘れる事でさえも苦しみになるのか。だったら俺は忘れない!! この悲しみも、苦痛も、全部抱えて

力にする!!)

 

シンの瞳は鋭く光り輝く星々を睨んだ。

その先では星の光りとは違う輝きが付いたり消えたりして居た。

 

「アレは……」

 

「流れ星さん?」

 

「違う、星の光りなんかじゃない。爆発、近くで戦闘してる」

 

立ち上がり爆発の先を見つめるシンはここからの距離がどの程度離れてるのかを目視で判断する。

戦闘の規模は小さいが発射されるビームライフルの閃光も一瞬ではあるが見える事からそこまで離れてない。

 

(戦ってるって事はミネルバが近くまで来てるのか? いや、断定は出来ない。どちらにしても連合軍だった場合が1番マズイ。どうする?)

 

考えるシンに対してステラは無垢な瞳を向けるだけ。

悠長にしてる時間もなく、シンはステラを砂浜から立ち上がらせると一緒にモビルスーツに向かって歩き出した。

 

「どうしたの?」

 

「ここも戦闘になるかもしれない。コクピットの中に居る方が安全だ」

 

「アナタも一緒に来るの?」

 

横たわる機体の元にまで来たシンは立ち止まるがステラの質問にすぐに応える事が出来ない。

こうする間にも爆撃音が耳に届くようになり戦闘が近づいてるのがわかる。

手を握り隣に立つ彼女は何も言わないまま見つめるしかしない。

 

「ゴメン、一緒には……行けない」

 

「どうして?」

 

「どうしてって……上手く言ってあげられないけど今は無理なんだ。互いの場所に戻るしかない。でもウソを付いたりなんてしない。俺は絶対にキミを守るから」

 

「ほんとう?」

 

「本当だよ。絶対に守る。約束する」

 

言うとシンは彼女の両手を優しく握り締める。

未練が残りながらも温もりが残る手を離そうとした時、ステラは思い出して最後に口を開けた。

 

「名前、教えて?」

 

「名前?」

 

「私はステラ。ステラ・ルーシェ」

 

「俺は……シン・アスカ。ステラ、また一緒に星を見よう」

 

「うん、わかった!! シンの事も覚えたよ。また一緒に星見よ」

 

「あぁ、約束だ」

 

「やくそく」

 

約束を交わした2人は互いの居場所に戻るしかない。

確定した情報がない状況下で一緒に居るのはリスクが高く離れるしかなかった。

インパルスのコクピットに入るシンは最後の予備電力を使い機体を何とか動かす。

予備電力の使用時間は10分程度しかない。

通信装置に電力を供給させ通信が傍受出来ないかどうかを試して見る。

 

「頼むぞ。ザフトのモビルスーツが居るなら繋がって来れ」

 

運に任せてシンはコンソールパネルを叩く。

雑音ばかりがスピーカーから聞こえて来るばかりで声の類は一切聞こえない。

それでも少ない電力を使ってこうするしかなかった。

ハッチの向こうに光る爆発に気を付けながらもただひたすらに繋がるのを待つ。

 

「頼む、繋がれ。頼むから」

 

10秒経過するもまだ雑音しか傍受しない。

焦りも感じ始め額に汗が滲む。

たった数秒でも時間が長く感じてしまい不安な状況は消えない。

ようやく20秒と時間が過ぎる中でようやく声が聞こえ目を見開いた。

 

『――える――ネルバの――』

 

「ミネルバ!? 捜索隊が来てくれた!!」

 

『聞こえ――シン、聞こ――こちらはミネルバのアスラン・ザラだ。シン、聞こえるなら応答してくれ』

 

「隊長が来てくれたのか?」

 

声もちゃんと聞こえ確証が持てたシンはまたコンソールパネルに手を伸ばした。

 

「こちらはインパルス。隊長、聞こえますか?」

 

『シン、無事だな? こっちは連合のモビルスーツと交戦中だ。お前を回収次第、すぐにこの場から離脱する』

 

(やっぱり相手は連合軍か。こっちと同じでステラを回収しに来たのか。だとしたらやっぱり一緒には行けない……クッ!!)

 

苦虫を噛み潰しながらもシンは操縦桿を握り締めた。

脚部はガイアの攻撃により切断されてしまって立ち上がる事は出来ず、チェストフライヤーとレッグフライヤーを分離させコアスプレンダーだけにする。

主翼を広げメインスラスターの出力を上げるシンは上空に見える閃光に目掛けて機体を飛ばす。

 

「エネルギーは少ないけど合流するくらいなら出来る」

 

飛び立つコアスプレンダーの中でシンは後ろに振り返った。

そこには分離したインパルスのパーツとステラの乗るガイアが立ち上がる姿が見えた。

ガイアのビームライフルは海を漂流してる間に流されてしまっており、サイドスカートからビームサーベルを引き抜くと捨てられたパーツに向かって斬り掛かる。

ビームは容易く装甲を貫きインパルスの残骸は爆発を起こしガイアを飲み込む。

VPS装甲はこのくらいの爆発では傷すら通さず、頭部のツインアイは空を飛ぶコアスプレンダーを見つめた。

 

「シン……名前、覚えた」

 

「ステラ……」

 

シンはペダルを踏み込みコアスプレンダーを加速させる。

いつまでも彼女の事を思って居たかったが目の前には敵も迫っており悠長に出来ない。

 

「セイバーはどこだ? 連合軍のモビルスーツも近くに居るんだろ」

 

『コアスプレンダーの座標位置はこちらで掴んだ。連合のウィンダムとカオスが出てる。交戦は避けろ』

 

「そうは言っても場所がわかんないんじゃ」

 

『ヒイロも一緒に来てる。70秒後には合流するから離脱しろ』

 

「ヒイロも?」

 

『そうだ、俺は敵機を誘導する。離脱してミネルバと合流する事を優先しろ。わかったな?』

 

「了解。こんな状態で戦う気なんてありませんよ」

 

言われた通りにシンはコアスプレンダーの速度を一定に保ちそのまま真っ直ぐに進み続ける。

そして見えて来るのは青い装甲と威圧感の覚える機体のフォルム。

時間通りにヒイロが乗るグフはコアスプレンダーに合流した。

 

『目標視認。任務完了、直ちに帰還する』

 

「ヒイロ、セイバーは?」

 

『敵機と交戦中だ。だが相手の数も少ない。離脱するくらいなら楽に出来る』

 

「そうか」

 

『推進剤はまだあるな。インパルスのフライヤーは捨てて来たか』

 

「情報は漏れないように破壊した」

 

『ならここに居る理由はない。ミネルバに戻る』

 

グフはマニピュレーターでコアスプレンダーを掴むと迅速にミネルバに向かって飛んで行く。

一息付くシンはシートの背もたれに体を預けるとまた後ろに振り返る。

ステラと一緒に居た島はもう見る事が出来ない。

 

///

 

セイバーと交戦するネオはガイアまで目前まで迫ってるにも関わらず近づく事も出来ない事にストレスを募らせる。

ビームライフルの銃口を夜でも目立つセイバーの赤い装甲に向けるが瞬時に回避行動を取られてしまうせいで互いに致命傷は与えられない。

 

「チィッ!! 時間稼ぎか。押すも引くも出来ない。スティング、先行してステラと機体を回収しに行け。もしかすればザフトの新型も頂けるかもな」

 

「了解。その間は赤いヤツを押さえとけよ」

 

言うとメインスラスターを吹かし単独でガイアの居る島へ向かうカオス。

だがアスランは追い掛けようとはせずヒイロからの通信に耳を傾けた。

 

『目標視認、任務完了。直ちに帰還する』

 

「シンを回収したな。ならこれ以上の戦闘は無意味だ」

 

セイバーはモビルアーマー形態に変形すると目の前に居るウィンダムを無視して現空域から離脱して行く。

ウィンダムではその加速に到底追い付く事など出来ず、夜の闇に残る青白い光りを眺めるしか出来ない。

 

「撤退? って事は……スティング、ステラは無事か?」

 

「あぁ、見つけた。外から見る限りは機体に損傷はない」

 

「そうか。ザフトの新型には逃げられたがガイアを奪われなかっただけマシと考えるか。俺も今から合流する」

 

ウィンダムもカオスとガイアが居る島に向かってメインスラスターを吹かす。

島にはインパルスの爆発した炎が目印になってくれてたお陰ですぐに見つける事が出来た。

スラスターを制御しゆっくりと砂浜に着地させるとモニターにガイアの姿を収めた。

スティングの報告通り機体に損傷したような異常はなく、それを確認したネオは胸を撫で下ろす。

 

「ステラ、無事だな?」

 

「ネオ……うん、何ともないよ」

 

「良し、ならこんな所にいつまでも居る理由はない。引き上げるぞ。スティング、左側を頼む」

 

飛べないガイアに2機は両側から腕を伸ばし機体を支えると島から飛び立つ。

動きにくい状態ではあるが3機の推進力を合わせれば飛ぶ事は簡単に出来る。

コクピットの中でネオはステラが単独で飛び出して行った経緯に付いて考えて居た。

 

(スティングの言う事が正しいならステラの記憶の奥にはまだアウルが残ってる。マインドコントロールと薬物投与で人間を完全に操れるとは俺も考えんが……ステラにはまた辛い思いをさせる事になるな)

 

ネオの考える事などわかる筈もないステラはモニターに映る星空を見つめて居た。

 

///

 

ミネルバに帰還したシンには厳しい処罰が待ってる。

アスランの命令を無視した単独行動。

無事に終わったとは言え最新鋭機であるインパルスの機密情報が敵軍に渡るかもしれなかった事。

捜索部隊を派遣する事によりミネルバさえもが危険に晒される状況。

けれどもシンは艦長であるタリアに呼び出される事もなくアスランと一緒に自室に居た。

 

「普通なら独房入りでしょ? どうしてですか?」

 

「自覚はあるようだな。そうだ、普通なら独房入りだ。でも俺がFAITHの権限を使って今回の事は不問にした」

 

「わかりません。どうして?」

 

「お前を止める事が出来なかった俺にも否はある。でも勘違いするなよ。今回の行動はとても許される事じゃない。だが次の作戦開始まで時間は少ない。今は少しでも体を休めてくれ」

 

「その……ありがとうございます」

 

この件に関してシンは一切反論する事など出来ず素直に感謝の言葉を述べた。

けれども言われた通り責任は重々感じて居る。

プラントの為に戦う兵士としての責任は取らなくてはならない。

 

「次の戦闘にはオーブが居るんでしょ。隊長は戦えるんですか?」

 

「戦うしかない。今の俺はザフトに所属する兵士だ」

 

「俺も同じです。この立場が変わらない限り次のオーブとの戦闘は避けられない。でも俺、今日の事で思ったんです。こんな事を繰り返してても戦争の根源には近づけない」

 

「根源? 議長が言ってたロゴス、戦争商人とも言ってたな。俺も議長ほど詳しくはないが、確かに今回の連合軍の開戦の持って行き方は強引だった。言うように裏でロゴスと呼ばれる組織が関与してるのかもしれない」

 

「ロゴスを表に引きずり出さないと戦争が長引くだけです」

 

「だがどうやって? 今のシンにも、俺にも、そんな事が出来るだけの力はない」

 

言われてシンは表情を暗くする。

言葉で言うのは簡単だがそれを実現させるのはシンには不可能な事だ。

名前だけで姿形の見えない相手を倒す事など出来はしない。

 

「でも可能性はある」

 

「可能性? 何なんです?」

 

「連合は強引にプラントと開戦して攻撃を仕掛けて来たが幸いにも最初の核攻撃は防いだ。ユニウス・セブンも偶発的ではあるが地球への落下は阻止された。戦力的に見ればザフトに分がある。その事もあって連合は攻めにくい状況が続いてるし、プラント側が優位に立つ事が出来れば各国同盟が失くなるかもしれない。わざわざ負ける戦争なんてどこだってやりたくない」

 

「でもそれだといつまで掛かるのか……」

 

「そうだな、1日2日でどうこうなる訳がない。仮に今言った通りに進んだとしてもどれだけの時間が掛かるのかは俺にだってわからない」

 

徐ろにアスランはシンの瞳を見ながら心を覗くように言う。

 

「シン、何かあったのか?」

 

「何かって、俺なりに考えてるだけです」

 

「先の事を考えるのは良い事だ。だがさっきも言ったが俺達にも出来る事と出来ない事はある。こんな戦争は早く終わって欲しい。勿論俺だってそう思いながら戦ってるさ。でも今の話を聞いてるとそれだけではないように思えた。やる方法があるなら明日にでも戦争を終わらせる。そう言う風に見れた」

 

「それは……」

 

シンには応える事が出来ない。

連合軍のパイロットと接触した事が露呈すれば立場は更に悪くなってしまう。

それは今回の件を不問にしてくれたアスランを裏切る事にも繋がる。

味方が居なくなった状況でステラを助ける事は絶望的に無理だ。

故に心の中に閉まっておくしかない。

 

「まぁ良い。話はこれで終わりだ。戦闘に備えて体はキッチリ整えておくんだぞ」

 

アスランは返事を聞かぬまま扉を開放させて部屋から出て行ってしまう。

残されたシンは静寂する部屋の中で悩み続ける事しか出来ない。

 

///

 

ヨーロッパとアジアとの境界をなすダーダネルス海峡。

ミネルバは作戦領域へと侵入しレーダーで敵戦力の分析に入る。

今回の戦闘では味方の艦艇も配備されており、今までのように背水の陣で戦わねばならぬ程の危機的状況ではない。

それでも最新鋭の艦艇でもありモビルスーツを搭載したミネルバは作戦の要でもあり失敗する訳にはいかなかった。

眼前にはオーブのタケミガズチ級の艦艇とモビルスーツ部隊が待ち構えて居る。

タリアは瞬時に状況を見極め各員に指示を飛ばす。

 

「メイリン、コンディションレッド発令。セイバー、インパルス、グフは直ちに出撃。レイとルナマリアは甲板でミネルバの護衛」

 

「了解です」

 

「イゾルテ、トリスタンで敵艦艇に砲撃。アーサー、タンホイザーの発射準備」

 

「えぇ!? もう使うのですか?」

 

「大打撃を与えて相手の態勢を崩す。まだどこかで連合軍の部隊が待ち構えてるのよ。相手の思い通りにさせてたらこっちが不利になる」

 

「了解しました!! タンホイザー、エネルギーチャージ開始」

 

ミネルバは開幕早々に大きく打って出る。

出撃準備の整ったモビルスーツ隊もカタパルトから順次発進して行く。

 

「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます」

 

「アスラン・ザラ、セイバー発進する」

 

コアスプレンダーは主翼を広げ青空の下を飛ぶ。

続いて発射されるチェストフライヤーとレッグフライヤーにガイドビーコンを合わせると直ぐ様モビルスーツ形態にドッキングした。

最後にフォースシルエットを背部に背負いバッテリー電力を全身に供給させ灰色だった装甲が鮮やかなトリコロールに変わる。

ツインアイに光りが灯り腰部からビームライフルを掴むとメインスラスターから炎を噴射させた。

アスランのセイバーも灰色だった装甲が赤に変わり、メインスラスターを吹かせてインパルスに合流する。

ヒイロのグフは最後にカタパルトから出撃した。

 

「出撃する」

 

フルフェイスヘルメットのインカムへ端的に言うとフライトユニットを背負ったグフはカタパルトから発射される。

各モビルスーツが大空に飛び立ち、アスランはコンソールパネルに指を伸ばす。

 

「まずはタンホイザーのエネルギーチャージまでの時間を稼ぐ。ミネルバの射線上に敵を誘導するんだ」

 

『了解』

 

『了解した』

 

3機のモビルスーツは目の前に広がる20機を超えるモビルスーツ部隊に向かって突っ込む。

インパルスに搭乗するシンは複雑な心情が絡み合い迷いを捨て切れないで居た。

祖国であるオーブとの戦闘。

ステラがまた敵として出て来た時。

でも戦場での迷いは死に繋がる事を知ってるシンは雄叫びを上げ一時的にでも感情を振り払うしかなかった。

 

「うあああぁぁぁっ!!」

ビームライフルの銃口を向けトリガーを引く。

オーブが開発した可変モビルスーツ、ムラサメは数でインパルスを包囲しようとするが発射されたビームに直撃しあっさりと1機目が破壊されてしまう。

フォースシルエットの加速能力は高く、並のナチュラルが乗った量産機では捉える事も難しい。

回避行動を取り縦横無尽に飛び回りながらも正確な射撃でムラサメのコクピットを射抜く。

 

「クソッ!! 出て来なければやられなかったのに!!」

 

インパルスはシールドを構えると飛んで来るビームに向けって振り払う。

アンチビームコーティングによりビームは反射されまた別のムラサメの頭部に直撃した。

矛盾を孕みながらも今のシンには戦う事しか出来ない。

一方のアスランはオーブ軍に対してなかなか攻撃出来ないで居た。

そうしてる間にもセイバーは包囲されてしまい1機のムラサメがビームサーベルを握り攻撃を仕掛けて来る。

 

「くっ!?」

 

操縦桿を握るアスランだがトリガーが引けない。

振り被られた斬撃を寸前の所で避け、ビームライフルの銃口を至近距離から右足に向ける。

 

「俺の……敵……」

 

躊躇しながらもトリガーは引かれビームは発射される。

ムラサメの右脚部は破壊され、バランスを崩して海へと落下して行く。

ヒイロのグフは右手にテンペストビームソードを構え強引にでも敵機に接近する。

シールドでビームは防ぎきり、メインスラスターを最大出力にして接近戦にもつれ込む。

右腕を振り上げて袈裟斬り。

ムラサメは上半身と下半身を分断され爆発する。

瞬時に目標を切り替え機体を加速。

爆発に巻き込まれないようにするのと同時にまた攻撃へ移る。

機体の見た目も相まってオーブのパイロットは恐怖を覚えた。

 

『まるでオーガみたいじゃないか』

 

『く、来る!?』

 

「邪魔だ!!」

 

戦意喪失したパイロットに勝ち目はない。

逃げる事も間に合わず、突き立てられたテンペストビームソードは胴体に突き刺さる。

戦闘不能になるのを確認したヒイロをムラサメを海に捨て、左手首からエグナーウィップを伸ばした。

高周波パルスを発生させ横になぎ払う。

ムラサメの頭部が首元から弾き飛ばされパイロットは視界が見えなくなる。

 

『うあああぁぁぁっ!!』

 

デタラメにビームライフルの銃口を引きビームを発射するがムラサメの前にはもうグフの姿はない。

右腕の4連装ビームガンで背部を撃つ。

ムラサメはメインスラスターが機能しなくなり黒煙を上げながら落下する。

 

「敵機破壊を確認。次の行動に移る」

 

レイとルナマリアはミネルバの甲板上に乗り近づく敵を迎え撃った。

ザクは空を飛べないため海上での戦闘はミネルバの甲板に上って居る。

いつも数で押して来る連合軍のやり方にルナマリアはイラついて居た。

 

「いつもいつもごちゃごちゃと!!」

ガナーザクはオルトロスを撃つが距離が開きすぎて居た。

ムラサメは左右に展開しビームは空に消えた

「なんで当たんないのよ!?」

「落ち着け、冷静に対処しないと勝てるものも勝てなくなる。」

尚も敵の攻撃は激しさを増す中でレイは牽制のミサイルをばら撒き敵を艦には近づけさせないようにする。

 

「敵の戦闘能力は低い、2人でもやれるはずだ」

「そうね!! シンの鼻っ柱を折るぐらい撃破しまくっちゃうんだから」

レイが撃ったミサイルに気を取られるムラサメに照準を合わせもう1度トリガーを引く。

高出力のオルトロスのビームは直撃すると機体を爆発の炎に包む。

「良し、その調子だ」

 

そう言うとレイもムラサメを照準に入れビームを撃つ。

直撃は出来なくとも手数は増えれば敵もミネルバに近づきにくい。

最初の時間稼ぎは充分に出来た。

ブリッジでタリアは声を上げる。

 

「アーサー、エネルギーは?」

 

「80パーセントまでチャージ完了。いつでも発射出来ます」

 

「宜しい、タンホイザーを使用します。目標敵空母」

数で不利なザフトは形勢を逆転するためミネルバのタンホイザーを使う。

アーサーは言われたようにオーブのタ空母に照準を合わせ発射ボタンに指を添える。

タンホイザーを覆っている装甲がスライドし砲門が外に露出した。

 

///

 

オーブ軍のタケミガズチ級。

ブリッジには当然オーブ軍の兵士が居るが、その中には代表であるカガリとユウナが一緒に居た。

 

「わざわざここに来る意味があるのか、ユウナ?」

 

「勿論さ。同盟を結んだ太平洋連合の為に戦うオーブ軍。その現実をちゃんと自分の目で見て欲しかった」

 

「納得は出来てないが理解はしてる」

 

「それだよ、カガリには納得して貰わないといけない。オーブの理念を壊してはならない、キミはそう言った。でもどうだい? 相手はそんな事一切気にせず攻撃して来る。言葉でどれだけ訴えても無理なんだよ」

 

「そんな事はない!! 例え可能性が僅かでも、ちゃんと会談の機会を用意すれば打ち解ける事だって――」

 

理想を語るカガリだったがユウナはその甘さを遮る。

 

「出来ないよ、そんな事。カガリ、キミは優しい子だ。でもそれを全てに当てはめてはいけない。特に政治にはね。話し合い、打ち解け合う。個人と個人ならそれも出来るけど国と国ではそうはいかない。どちらにも譲れないモノがある。カガリが話し合おうと呼び掛けても相手は耳を傾けもしない。それが外交だ。ならばどうするか? 自らの意見は押し通すしかない」

 

「だからって戦う必要は――」

 

「ある。まぁ、こんな大規模な戦争は大げさだけどね。勘違いして欲しくないけど僕は戦争がしたい訳じゃないんだ。戦争が良い事だなんて思ってない。でも国を導き国民の安全を守るのはそんな簡単な事じゃない事は理解して欲しい」

 

カガリは言い返す事が出来ない。

うつ向き爪が皮膚に食い込む程に手を握り締める

けれども既にカガリ達は戦場に足を踏み入れており、目の前では戦闘が始まって居た。

2年前とは立場が違う。

力のなさを痛感しながらも自国の兵士が戦う姿はハッキリと見なくてはならない。

 

「敵艦艇が動きました!!」

 

通信兵が叫ぶ。

モニターに映るのはザフトのミネルバがタンホイザーをオーブ軍に向けてる所だった。

それを見たカガリは目を見開く。

 

「ユウナ……だったら私は今までの考えを捨てないとダメなのか?」

 

「その覚悟があるのなら……」

 

ミネルバの動きが止まる事はない。

タンホイザーの巨大な銃口から今まさに発射されようとして居た。

閃光。

一筋のビームが飛来する。

タンホイザーは寸前の所で活動を停止してしまう。

 

「どこから!? 索敵を急いで!!」

 

タリアが急いで索敵班に指示を出す。

数秒後にはモニターに映像が映し出され、そこには青い羽を持つ機体が居た。

それは2年前の大戦でも居た伝説的な機体。

 

「あれは……」

 

シンはその瞳に映る機体の姿を決して忘れない。

心の奥底からは怒りの炎が湧き上がる。




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第11話 自由

タンホイザーの破壊によりミネルバに火の手が上がる。

艦内部からの消火作業ではとても間に合わず、苦肉の策でタリアはミネルバを海へ着水させる決心をした。

 

「対空砲火を怠らないで!! 整備班も引き上げさせて、ミネルバを着水させます!!」

 

高度を下げるミネルバはそのまま底面を勢い良く海面に接触させる。

大きな水柱が上がると共に全体の3分の1程度が沈み、破壊されたタンホイザーへ大量の海水が流れ込んで来た。

一瞬の内に火は水の中に埋もれてしまう。

だが消火作業のせいでミネルバは身動きが取りづらくなってしまった。

 

「メインエンジン出力上げ、すぐに浮上して」

 

「艦長、レーダーに反応あり。新たな艦艇です。コレは……アークエンジェル!?」

 

メイリンの報告にタリアは目を細める。

ザフト軍とオーブ軍が交わるド真ん中に真っ白な戦艦が海中から浮上して来た。

そして先に現れたもう1機のモビルスーツ。

先の大戦を経験したモノからすればこれらの存在は決して忘れる事はない。

甲板に立つレイとルナマリアのザクもソレを視認した。

 

「データに該当アリ。やはりアレはフリーダムだ」

 

「でもどうしてこんな所に? ミネルバを撃ったって事はアタシ達の敵って訳?」

 

「もしもそうなら追撃して来ないのは変だ。こちらにはまだ戦闘力は残ってる」

 

「どっちにしてもやられっぱなしって訳にはいかないわ!!」

 

ルナマリアはオルトロスをフリーダムに向け迷わずトリガーを引く。

発射された高出力のビームは一直線にフリーダムに向かうが、パイロットの反応は早く寸前の所で回避してしまう。

 

「はやい!?」

 

「ルナマリア、撃ち続けるんだ」

 

レイもルナマリアに続きビームライフルの銃口をフリーダムに向けてトリガーを引く。

ミネルバから放たれるビームの雨。

だがその全てが白い装甲にかすめる事もなくスルリと避けられ上空に消えて行く。

2機のザクが攻撃を仕掛ける中でアスランはコクピットの中で呆然と見てる事しか出来なかった。

 

「フリーダム……キラ……」

 

セイバーは滞空するだけで動く事すらせずフリーダムをただ見上げるだけ。

すると全周波数に通信が流れて来る。

 

『こちらアークエンジェルのフリーダム。両軍は今すぐ戦闘を止めて下さい』

 

オーブ軍のタケミガズチ級に乗るカガリにもこの通信の声は聞こえた。

久しぶりに聞くその声、カガリは目を見開き驚く。

 

「キラ!? でもどうして……」

 

「艦長、全艦隊に通達。銃口を向けるようならフリーダムとアークエンジェルにも攻撃するんだ」

 

隣に立つユウナは事も無げにそう言った。

姉弟でもあり仲間でもあるキラにカガリは攻撃する事など考えもしない。

ユウナの元に詰め寄ると何とかして攻撃を止めさせようと口を開ける。

 

「止めるんだユウナ!! キラは……フリーダムは敵じゃない!!」

 

「だったら何故このような場所に現れたのです? カガリ、ついさっきまでキミも見てた筈だ。ここは戦場なんだ。連合軍とザフト軍が戦う戦場。そんな所に第3勢力が現れた場合どうするべきかはキミにだってわかる筈だ」

 

「それは……」

 

またカガリは言い返す事が出来ない。

見知った存在が突然目の前に現れた事で動揺してしまったがユウナに諭されるように言われて冷静に考えるカガリには理解出来た。

キラの言い分は通る訳がないし、攻撃の意思がある以上は自衛の為にこちらも攻撃するしかない。

それにザフトのミネルバには1度攻撃してしまって居る。

当然ザフトもキラの言葉など聞かずに報復して来る可能性も充分にあった。

だからカガリには言い返せない。

でもこのまま何も出来ないまま事が進むのを待つ彼女ではなかった。

ブリッジの通信兵が居る所にまで走るとインカムを奪うようにしてコンソールパネルを叩く。

 

「代表!? 一体何を!!」

 

「アイツならわかる筈だ。私が何とかしてみせる!!」

 

フリーダムに送られる通信。

数秒後には回線が繋がりモニターには青いフルフェイスのヘルメットを被ったキラが映る。

 

「キラ、聞こえてるな? カガリだ」

 

『カガリ!? どうしてこんな所に?』

 

「それはコッチのセリフだ。お前こそモビルスーツに乗ってこんな所に居るだろ!!」

 

『でもそれはオーブが戦闘なんてしてるから』

 

「お前の言いたい事はわかるさ。理念を守れって言いたいんだろ? 私だって最初はそう思ってた。でも今の世界情勢を見れば同盟を結ぶしかない。孤立した状態が続けば連合軍が攻めて来るかもしれない。プラント側と同盟を結ぶ事も出来ない。攻め込まれた時オーブだけで守り切る事も出来ない」

 

『だったら一緒にアークエンジェルへ行こう。これ以上こんな事をしてたらいけないよ』

 

「そんな事、本気で言ってるのか?」

 

『オーブはこれ以上戦いなんてしたら――』

 

会話を聞いてたユウナはカガリからインカムを少し強引に取るとマイクに向かって声を出す。

キラの声は途中で遮断されると同時にユウナはフリーダムとアークエンジェルに対して勧告を行う。

 

「代表にこれ以上戯言を吹き込まないで頂こう」

 

「ユウナ……」

 

「承知の上だとは思うがここは戦闘領域である。どこの国にも軍にも所属しないキミ達がこれ以上介入すると言うのなら条約に則りテロリストとして扱う。3分だけ猶予を与える。時間内に撤退しなければ攻撃する。以上」

 

相手からの返事は待たずにユウナは一方的に通信を切った。

ブリッジのモニターに映るフリーダムをカガリは見つめる。

今はまだ感情を心の中に留めて置くしかなかった。

 

///

 

ユウナの宣告に動く事が出来ないキラ。

オーブ軍はアークエンジェルとフリーダムに対して攻撃はして来ないがミネルバは違う。

第1射は既に放っておりタンホイザーが破壊される実害を受けており当然放置する訳にはいかない。

ブリッジではタリアがアークエンジェルに向かって攻撃指令を出す。

 

「目標アークエンジェル!! 全砲門開け!!」

 

ミネルバは容赦なくアークエンジェルを撃墜する気で砲撃した。

艦艇から放たれる高出力のビーム。

数え切れないミサイルの雨。

アークエンジェルの艦長であるマリュー・ラミアスも艦を守る為に声を上げた。

 

「機関最大、対空砲火!!」

 

自衛の為に銃身を向けるアークエンジェルだが瞬時にその間へフリーダムが割り込んだ。

 

「キラ君!?」

 

「ターゲット、マルチロック」

 

コクピットの球体型立体表示パネルが展開しミサイル群をロック、フリーダムは右手のビームライフル、背部の羽に隠されたバラエーナ、腰のクスィフィアスを前面に向け一斉に発射した。

ニュートロンジャマーキャンセラーにより実現した核エンジンの強力なビーム。

5本に分かれた砲撃は正確にミサイルを全て打ち抜きアークエンジェルに届く事はない。

ミネルバからの高出力のビームも回避行動を取られ空に消える。

2年前と変わらぬフリーダムの強さに見るモノは舌を巻いた。

だがそんな事には意にも返さず怒りに燃えるパイロットが1人。

 

「見つけた、見つけたぞ!! 青い羽のモビルスーツ、お前が!! お前がマユを……家族を殺した!!」

 

「何?」

 

加速するインパルスはバックパックからビームサーベルを引き抜きフリーダムに斬り掛かる。

瞬時に反応するフリーダムは左腕のシールドでコレを受け止めビームライフルの銃口を至近距離からインパルスに向けた。

だがコクピットは狙わず左肘に銃口を密着させトリガーを引く。

発射されたビームは関節を溶解させ肘から先は重力に引かれて海に落ちた。

 

「お前だけは絶対に俺が落とす!!」

 

「何だ、この機体!?」

 

怒りに満ちたシンの気迫が機体を通じてキラにも伝わる。

片腕を失くしても尚シンの闘志は衰えず左膝を胴体目掛けて叩き付けた。

ダメージはPS装甲で通らないが一時的に姿勢が崩れわずかに距離が離れる。

 

「ぐぅっ!!」

 

「これで!!」

 

衝撃でコクピットが激しく揺れるがキラはクスィフィアスを展開させ正確にインパルスの両足へ発射した。

インパルスもVPS装甲の性能でダメージは通らないがコクピットに衝撃が走る。

1秒足らず動くのが遅れてしまいその隙にフリーダムは態勢を立て直した。

 

「悪いけど……」

 

「クソッ!! お前だけは俺が!!」

 

インパルスはビームサーベルをフリーダムの装甲に突き立てようと再び接近を試みるが、機体性能とパイロットの技量が合わさりそれは叶わない。

距離を離すフリーダムは中距離を保ったままビームライフルでインパルスを狙う。

発射されるビームを避けるインパルス。

攻撃を受ける事はなくとも接近させてくれないせいで倒す所がダメージを与える事すら出来ない。

怒りが、ストレスが冷静な判断力を失い機体操作にも粗が見え始める。

キラはトリガーを3回引きバラエーナを展開、高出力のビームがインパルスを襲う。

スラスターで姿勢を制御し最初の3連射を回避しようとするシン。

だが3射目は右足のつま先を貫通して行った。

 

「まだだ!! まだ行ける!!」

 

バラエーナの高出力ビームはインパルスの頭部を吹き飛ばす。

メインカメラが機能しなくなりモニターがブラックアウトし何も見えなくなる。

それでもシンはペダルを踏み込みパックパックの出力を上げ機体を加速させた。

直前に見たフリーダムの居た位置をイメージに焼付けビームサーベルを振る。

だが当然、ビームサーベルは空を切るだけでそこには何も居ない。

背後に回り込むフリーダムは頭部バルカンでバックパックの噴射口を撃つ。

推進剤が爆発し主翼も折れてしまいインパルスは飛べなくなる。

 

「ぐっ!! コアスプレンダーなら動く」

 

シートベルトが体に食い込む。

落下するインパルスはチェストフライヤーとレッグフライヤーを分離させコアスプレンダーのみになるともう1度空を飛ぶ。

モビルスーツの時と比べれば戦闘力は殆ど失くなりフリーダムを倒す事など到底出来ない。

けれどもシンは機体の方向をフリーダムに向け機関砲のトリガーに指を掛ける。

人差し指に力を入れようとした瞬間、通信が入って来た。

その声はグフに搭乗するヒイロのモノ。

 

『その状態で戦うつもりか?』

 

「アイツは俺の家族の仇なんだ!! その為に俺は!!」

 

『コアスプレンダーで勝てる相手ではない。ミネルバに帰還しろ』

 

「でも!!」

 

『周囲にはまだオーブ軍も居る。どこかに連合軍の別働隊が居る可能性もある。このまま戦えば戦死するぞ』

 

ヒイロの言う事は正しく攻撃はして来ないがオーブ軍はまだ展開しておりコアスプレンダーでどうにか出来る状況ではない。

両手で操縦桿を握り手前に引き機体の高度を上げるシンは悔しさに体を震わせながらも戦闘領域から離脱する。

 

「クッソオオオッ!!」

 

叫ぶシンの声は誰にも届かない。

インパルスが居なくなった事で動きやすくなったフリーダム。

キラはコンソールパネルに手を伸ばしアークエンジェルに通信を繋げた。

 

「マリューさん、ここは離脱しましょう」

 

『そうね。交渉が通じる状態ではなさそうだし。キラ君もすぐに帰還して』

 

「わかりました」

 

艦艇の向きを変えて離脱を図るアークエンジェル。

だがザフト軍は逃がすまいと一斉に攻撃を始めた。

ラミネート装甲で建造されたアークエンジェルは多少のビーム攻撃ならばエネルギーを拡散させる事でダメージを通さない。

ミサイル等の実弾兵器は対空砲火で撃ち落とし、それでも間に合わないモノはフリーダムはビームライフルで正確に撃ち抜いてしまう。

2年前に開発された艦艇とモビルスーツにも関わらず、その性能は戦略級に強くザフトの兵士は再び伝説を目の当たりにする。

ミネルバの甲板上で攻撃を続けるルナマリアとレイもフリーダムの強さを前に何も出来ない。

 

「データで見た時はウソだと思ったけどここまでなんて」

 

「機体性能だけではない。フリーダムのパイロットは特別なんだ」

 

「特別って?」

 

オルトロスの砲身をフリーダムに向けてトリガーを引く。

赤黒いビームは一直線に突き進むが高い運動性能と反射神経を前に空の彼方に消える。

ルナマリアの赤いザクに狙いを定めたキラは両手で抱えるオルトロスに向かってトリガーを引いた。

 

「来るの!?」

 

ペダルを踏み込みジャンプさせる。

ビームは甲板に直撃し爆発と煙が上がった。

 

「そこだ!!」

 

「避けられない!? キャァ!!」

 

ザクは空中を自在に飛び回る事は出来ず、シールドは肩に装備してるせいで瞬時にビーム攻撃を防ぐ事が出来ない。

咄嗟に装備してたオルトロスを盾変わりにするが防ぐ事は出来ずに破壊されてしまう。

爆発は両手を持って行き、更には貫通したビームが右足にも当たる。

姿勢制御が出来ないザクは背部から破壊された甲板の上に落下した。

 

「っぅ~!! やられた」

 

「ルナマリア、無事だな?」

 

「えぇ、でも機体はもう使えない。整備班、回収頼みます」

 

また1機、戦力を減らされる。

傷1つ付いてないフリーダムは確実にザフトの戦力を減らしつつあり、モビルスーツは全て武装や両手足、頭部のどれかを破壊されて撤退を余儀なくされて居た。

残されたレイは諦める事なくビームライフルをフリーダムに向ける。

だがその先で懸命にフリーダムに接近する機体が1機。

 

「青いグフ、ヒイロか」

 

テンペストビームソードを片手に接近戦を挑むヒイロ。

接近戦を仕掛けるグフに対して長距離からの援護は出来ず、コンソールパネルに手を伸ばしたレイはアスランに通信を繋げた。

 

「隊長、こちらからではヒイロの援護は出来ません。セイバーと2機で攻めれば可能性はあります」

 

レイは呼び掛けるがセイバーに搭乗してる筈のアスランから返事はない。

 

「隊長、応答願います。隊長!! くっ!! ザクでは空中戦は出来ない。ヒイロに任せるしかない」

 

諦めたレイはこれ以上は何も言わずに接近するグフを見守った。

 

///

 

レーダーに反応するグフの存在。

キラは人差し指に力を込めてトリガーを引く。

頭部目掛けて発射されたビームだがアンチビームコーティングのシールドに防がれる。

 

「甘いな」

 

「この機体もミネルバから?」

 

「ヤツの戦闘力は危険だ。ここで排除する」

 

接近しようとするグフに距離を取ろうと後方に下がりながらビームライフルの正確な射撃。

普通のパイロットなら何も出来ずに撃ち抜かれ戦闘不能にされてしまうがヒイロのグフは回避する。

 

「お前の射撃は正確だ。それ故に読みやすい」

 

「普通のパイロットとは違う。それなら!!」

 

連続してトリガーを引く。

メインスラスターの出力を上げてビームを振り切るグフ。

けれどもパイロットの技量が合わさっても量産機では限界がある。

シールドでビームを防ぎながら接近戦を狙うグフにフリーダムはクスィフィアスで左脚部を撃ち抜く。

カバーは間に合わず片足を失うがヒイロは構わずにペダルを踏み込み機体を加速させた。

テンペストビームソードを振り下ろす。

フリーダムはシールドでコレを防ぎながら頭部バルカンでグフの頭部を撃つ。

モノアイが潰され装甲もズタズタにされてしまいコクピットのモニターが見えなくなる。

それでもヒイロは右手に握る操縦桿を力一杯押し倒しシールドにテンペストビームソードを押し付けた。

ラミネートアンチビームコーティング製のシールドだが排熱が追い付かず徐々に表面が真っ赤に焼け爛れて来る。

 

「まだ動くなんて!?」

 

ビームライフルを腰部にマウントしビームサーベルを手に取りなぎ払う。

テンペストビームソードごと右肘から先は切断された。

 

「残りはビームガンとスレイヤーウィップだけか」

 

残された左腕のスレイヤーウィップを伸ばし横一閃。

だが電磁パルスが白い装甲に当たる事はなく、袈裟斬りされると斬り落とされてしまう。

戦闘力の失くなるグフだが撤退する様子はなくキラは警告を呼び掛けた。

 

「もうその機体では無理です。離脱して下さい」

 

「敵の話を聞くつもりはない」

 

「死にたいんですか!!」

 

「お前にやられるつもりはない」

 

コクピットのハッチを開放するグフ。

メインカメラが機能しなくなりヒイロは直接目視する事でフリーダムに左腕のビームガンを向ける。

連続して発射されるビームの弾。

だが背中を青い翼を広げて高速接近するフリーダム。

ビームを回避しながらも左側を通過した瞬間、もう片腕も肘から先が斬り落とされる。

全ての武器を失い両腕と片足もない状態。

それでもまだヒイロは諦めて居らず、ペダルを踏み込みフライトユニットのメインスラスターを全開にさせてフリーダムと密着しようと試みる。

執念深く戦う様にキラは声を上げた。

 

「何をそこまでして戦うんですか!! 僕は殺したくなんてない!!」

 

「お前にわかる筈がない。俺は自分の意思で最後まで戦うだけだ」

 

「この戦いの先に何があるのかわかってるんですか?」

 

「同じ事を言わせるな。敵と話をするつもりはない。お前が俺を落とさないなら俺が落とすだけだ」

 

「もう止めろぉぉぉ!!」

 

まだ戦う姿勢を見せるグフ。

叫ぶキラは背中のフライトユニットの右翼にビームを放つ。

翼は1撃で破壊されて機体は姿勢を維持出来ずに煙を上げながら在らぬ方向に飛んでしまう。

高度も維持出来ず、ハッチを閉鎖したグフは数秒後には海に落下した。

 

「ゴメン、でも……」

 

その言葉がヒイロに届く事はない。

アブクを上げながらグフは海の底へ沈んで行く。




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第12話 疑惑

投稿が遅くなってすみません。
今月から早めていきますので。


艦艇でザフトを待ち構えてたネオは混乱する戦場を目にして顎に手を添えた。

ブリッジから見えるフリーダムの快進撃を止められるモノは居らず、ザフト、オーブ共にモビルスーツを次々に落とされて行く。

フリーダムの強さを良く知るネオはすぐに決断した。

 

「潮時かな。これ以上戦闘しても無駄だろ。被害が出ない内に撤退だ。先鋒さんもな」

 

ネオの指示に従い裏で待機してた連合軍はザフトと一戦交える事もなく撤退を始める。

オーブも同様に後退を初め、フリーダムとアークエンジェルも戦域から離脱して行く。

ネオは今回のフリーダムの登場を見て頭を悩ませる。

 

「厄介事が増えるねぇ。次も相手にするかもしれないとなると、アレを投入する事もあるかもな」

 

かくしてダーダネルス海峡での戦闘は終わった。

オーブ軍、地球連合軍は撤退し、交渉が通じないと見たフリーダムとアークエンジェルもこの場から姿を消す。

戦うべき相手が居なくなったザフトも損害が出たこの状況でこれ以上戦う事は意味をなさず、出撃させたモビルスーツ部隊を帰還させる。

 

「全部隊に通達、ミネルバは現空域から離脱します。モビルスーツ隊は帰還させて」

 

「了解です。全部隊に――」

 

通信士のメイリンはタリアの指示をインカム越しに復唱し部隊に通達させる。

艦長シートの隣に立つアーサーは声を震わせた。

 

「に、2年も前のモビルスーツがこんなに!?」

 

「あの機体にはニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されてる。普通に考えればアナタの言うように2年も前のモビルスーツかもしれない。でもフリーダムの性能なら現行の量産機が束になって戦っても敵わない。それが、ついさっきまで目の前に居た」

 

「あんなのを相手に勝てるのですか? 艦長?」

 

「次もまた私達の前に現れるような事があれば、また戦う事になるでしょうね。そうなった時、勝てなければ死ぬだけよ」

 

「そんな……」

 

アーサーは顔面蒼白になりながらスクリーンに映るフリーダムの姿をもう1度見た。

背中の青い翼を大きく広げ、フリーダムとアークエンジェルはミネルバの索敵圏外にまで行ってしまう。

撤退を始めるミネルバの甲板上に居るレイのザク。

損傷して海に落下したヒイロのグフを探す為、コンソールパネルに指を伸ばしレーダーを活用して機体の反応を探る。

 

「居た、9時の方角、距離は120。そう離れてないな。ヒイロ、聞こえるか? こちらレイ・ザ・バレル。応答願う」

 

通信を送るとすぐに反応が返って来る。

雑音混じりで声はほとんど聞こえないが、まだ生きてる事は確認出来た。

 

『こ――ヒ――き』

 

「すぐ救出に向かう」

 

端的に言うレイは操縦桿を握り締めザクで海の中に飛び込んだ。

太陽が昇る時間帯とは言え視界は暗くレーダーを使用しなければ数メートル先もハッキリとは視認出来ない。

右足でペダルを踏み込みメインスラスターから炎と共に大量の泡を発生させてザクは海中を進む。

赤いモノアイの先、海底に沈むのは周囲の色に紛れ込みながらもボロボロに破壊されたグフの姿。

 

「見つけた。コクピットに水漏れは起きてないな?」

 

『問題ない。ノーマルスーツの生命維持装置も作動してる』

 

「ならこんな所からはすぐに移動するぞ。機体を引き上げてミネルバに帰還する」

 

損傷したグフを抱えたザクはメインスラスターの出力を最大にして海底から浮上する。

ヒイロは邪魔になるフライトユニットをパージして機体重量を軽くし、2機は海上へ飛び出した。

装甲の隙間からは大量の海水が流れだす。

 

「こちらレイ・ザ・バレル。ヒイロのグフを確保した。すぐに帰還する」

 

『こちらミネルバ、了解です。良かった、みんな無事で』

 

通信からはメイリンの声が聞こえて来る。

飛行出来ないザクは長時間空中に留まる事は出来ず、速やかに帰還した。

 

///

 

両軍共に作戦は失敗に終わり、損傷したミネルバは修理の為にマルマラ海の港へ進路を取る。

シンのインパルスはフライヤーを取り替えればすぐに戦闘復帰が可能だが、ルナマリアのザクとヒイロのグフの修理には時間が掛かる。

港に到着したミネルバは急ピッチで修理が行われ、フリーダムに破壊されたタンホイザーを優先して取り掛かった。

特に損傷の激しいヒイロのグフは修理は間に合わないと判断され新しいモノが用意される。

艦と機体の修理が終わるまでパイロットは休む事しか出来ず、シンは各々の機体調整をモビルスーツデッキで見ながら突然乱入して来たフリーダムに毒を吐く。

 

「何なんだよアイツら!! アイツらが変な乱入なんかしてこなけりゃ、こんなことにはならなかった!!」

 

フリーダムが破壊したタンホイザーの被害に合い数名のクルーが戦死し、その遺体が艦から運び出されて行く。

ルナマリアも攻撃を受けており、何も出来なかった悔しさにうつ向く事しか出来ない。

アスランもシンに返す言葉がなく口を閉ざした。

怒りをあらわにするシンにレイだけは傍に立ち寄り肩に手を添える。

 

「今は何もする事は出来ない。次の戦いに備えてやれる事がある筈だ」

 

「次……アイツらはまた来るのか?」

 

「フリーダムは来る。必ず……」

 

「フリーダム……」

 

因縁の相手の名前を胸に刻むシン。

2人の様子を見ながらも、アスランは気配を消して歩を進める。

心の中では以前のフリーダムとアークエンジェルの事がグルグルと渦巻いて居た。

 

(キラとラクスは何を考えてこんな事を? 兎に角、1度会う必要がある)

 

向かった先はタリアの居る艦長室。

壁に設置されたパネルのボタンを押しブザーを鳴らす。

数秒待つとパネルのスピーカーからタリアの声が聞こえて来る。

 

『誰なの?』

 

「アスラン・ザラです。艦長、少しお話が」

 

『あまり余裕がある訳ではないのだけれど。少しなら聞きましょう。入って』

 

「ありがとうございます」

 

返事を返すと目の前の扉が自動で横にスライドした。

室内に足を踏み入れるアスランはデスクで書類を片手に座るタリアの元へ進む。

目と鼻の先にまで近づき、ようやくタリアはアスランに視線を向ける。

 

「どうしたの? 出来れば手短にね」

 

「はい。艦長、今回のアークエンジェルとフリーダムの介入の件は自分に任せて貰えませんか?」

 

「任せる?」

 

疑問を浮かべるタリアにアスランは息を呑んで緊張感を高める。

 

「艦長もご存知だと思いますが、自分は2年前の大戦でアークエンジェルと共に連合とザフト、父でもありプラント最高評議会議長のパトリック・ザラと戦いました。恐らくフリーダムのパイロットもアークエンジェルのクルーも当時と変わってないかと。もしもそうなら自分がよく知る人物です。だからこそ、今回の事が納得出来ません」

 

「アークエンジェルとフリーダムは、アナタ程ではないにしても少なからず知ってます。確かにアナタの言う通りではあるけれど……」

 

タリアは書類には目を通したまま思考する。

自身を見ようともしない態度にアスランは不審に思いながらも言葉を続けた。

 

「彼らの要求はオーブ軍の戦闘停止、及び撤退です。ですがこんな方法は間違ってます。そのせいで両軍にも要らぬ犠牲が出ました。この事で本国と司令部も何らかの対処を進めるでしょう。でも自分なら彼らと接触出来ると考えました。また今回のように介入して来る可能性がないとも言い切れません。そうなる前に真意を確かめ、このような事がないように説得します」

 

「今回の件の犠牲は大きい。出来る事なら金輪際こんな事が起きて欲しくないと私も思う。でも出来るの? アナタに?」

 

「はい。FAITHを与えられた者として責任を果たします」

 

疑いの眼差しを向けるタリアにアスランは力強く応えた。

緊迫した空気が場を支配する。

鋭い視線を向けるアスランにタリアは口から息を吐きだし、持って居た書類をデスクの上に置いた。

 

「FAITHの権限を使うのなら、私に止める事は出来ません。わかりました。アークエンジェルの件はアナタに任せます」

 

「ありがとうございます。では30分後に出港します」

 

敬礼したアスランは踵を返し艦長室から出て行く。

自動で扉が開閉し、1人になったのを確認してからタリアは右手をデスクのパネルに伸ばした。

 

「メイリン、ヒイロとルナマリアを私の部屋に呼んで」

 

///

 

準備を整えたアスランはカバンを片手に自身の機体であるセイバーの元に向かった。

モビルスーツデッキではまだ整備班が慌ただしく動いており、何人かがセイバーの調整を行って居る。

アスランは早足で近づくとその内の1人、ヴィーノに声を掛けた。

 

「おい、セイバーは損傷してない筈だ。何かあったのか?」

 

「あ……スイマセン。整備ミスで回路をショートさせちゃって。急いで修理するんで」

 

「急いでって……どれくらい掛かるんだ?」

 

「どんなに早くしても2時間は」

 

「2時間、そんなに待ってる時間はないぞ」

 

どうしようもない状況にヴィーノでは対処出来ず、アスランにも解決策は見つけられない。

悩んでる所に整備班の班長であるマッド・エイブスが様子を見て駆け付けて来た。

 

「どうした、隊長さん?」

 

「あ、いえ……セイバーが動かせるようになるまで2時間は掛かると言われて。それまで待ってる余裕もないもので」

 

「さっき艦長から聞いた。グゥルならすぐに使える。アレでどうだ?」

 

モビルスーツ支援空中機動飛翔体グゥル。

ザクのように空中で活動出来ないモビルスーツの土台に使用する事で飛行させる。

悩んでる暇はないと考えたアスランはその提案を受け入れた。

 

「わかった、それで頼む。すぐに出撃出来るか?」

 

「推進剤は満タンにしてありますので。オートで稼働させ続けても5日は持ちます」

 

「なら後は頼んだ」

 

アスランは用意されたグゥルに向かって歩を進める。

ヴィーノは遠ざかる背中に向かって敬礼し、見られてないのを確認するとマッドの元に立ち寄り小声で話し掛けた。

 

「良いんですか? セイバーどこも壊れてないんですけど?」

 

「艦長からの指示だ。モビルスーツは使わせるな、だとよ」

 

「やっぱこの前のアークエンジェルと関係があるんですか?」

 

「そんなの整備班が知るかよ。それよりもまだ仕事は残ってるんだ。さっさと終わらせろよ」

 

「わかってますよ」

 

2人の会話は聞かれる事もなく、アスランはグゥルのコクピットに乗り込んだ。

エンジンを起動させるとグゥルは単体でミネルバのカタパルトから出撃する。

 

「アスラン・ザラ、出るぞ」

 

雲1つない青空の中、太陽光を浴びながらグゥルは飛行する。

モビルスーツとは異なり広いコクピットの中でアスランはコンソールパネルを叩き自動操縦に切り替えると、シートの上に体重を預けこれからの事を考えた。

 

「あの時、俺はアークエンジェルとフリーダムに攻撃しなかったからな、艦長や本国に不審がられても無理はないか。まずはダーダネルス海峡に向かう」

 

加速するグゥルは以前戦闘したダーダネルス海峡に飛んだ。

そこから見える1番近い街。

アスランはグゥルを見つからないように海岸に隠し、持って来たカバンを片手に街へ上陸した。

昼時で街には人の姿が大勢見え、アスランは視線を避けるように人数の少ない場所へ歩く。

小型携帯端末を片手にパネルを触る。

通信を飛ばしソレを耳に当てると、繋がるのをただジッと待った。

10秒、20秒と経過しても通信は繋がらない。

けれども交信を止める事はなく、端末を握る指に力を込めてその時が来るのを待った。

 

『はい……』

 

「聞こえるな? アスランだ」

 

『アスラン!? アスラン・ザラ?』

 

聞こえて来るのは女の声。

そしてソレはアスランがよく知る人物。

 

「少し会って話がしたい。この近くに居るんだろ?」

 

『良いけれど……なら1時間後に会いましょ。場所は7番街』

 

「わかった。見つけたらまた連絡する」

 

手短に要件だけを伝えると端末の通信を切る。

伝えられた7番街にアスランは向かう。

サングラスを着用し、ひと目見ただけではすぐに彼だとはわからない。

そうしながらもなるべく人が多い所は避けるようにしながら、陽の光が当たらない路地を歩き目的地へ進む。

けれどもその背後から一定の距離を保ちながら尾行する影がある。

アスランは気が付く事もなく、時間に合わせて7番街に到着した。

ここは住宅密集地で人通りも中心部に比べれば少ない。

周囲を見渡し、住宅街の片隅にある喫茶店を見つけるとアスランはそこへ向かった。

木造建築で風情が感じられる店の前まで来ると、出入り口の扉を開け店内には鈴の音が響く。

中に客は3人しか居らず、その内の1人の女性はカウンター席でカップに入ったホットコーヒーを口にする。

アスランは彼女の隣の席に座ると小さな声で囁く。

 

「ミリアリア・ハウ、久しぶりだな」

 

「アナタもね、アスラン。2年ぶりになるのかな」

 

「そうだな。大戦が終わって、キミは戦場カメラマンか。プラントでディアッカに会った。アイツとは上手くやってるのか?」

 

「あぁ、ソレはもう良いの」

 

「ソレ?」

 

ミリアリアの言い方に疑問を感じたが、カウンターの向こう側から初老のマスターが注文を聞いて来た。

無視する訳にもいかず、チラリとミリアリアが持つカップを見る。

 

「ご注文は?」

 

「俺も彼女と同じので」

 

「ホットになりますが?」

 

「それで良い」

 

「かしこまりました」

 

注文を聞いたマスターは棚に飾られた複数のビンからひとつを選ぶと、フタを開けコーヒー豆を取り出し専用の機械に投入させる。

粉砕され粉になる豆からは芳ばしい香りが漂う。

仕切りなおして、アスランはミリアリアに本題を伝えた。

 

「それよりもアークエンジェルとフリーダムだ。この前の介入は知ってるか?」

 

「えぇ、表向きには公表されてないけれど。あの時、私も遠くから見てたから」

 

「なら話が進めやすい。理由はわからないがキラ達はザフトとオーブの間に割り込んで来た。そのせいで現場は混乱した。要らぬ犠牲も出た。俺はキラ達が何を考えてあんな事をしたのか知りたい」

 

「私を呼び出したのはそう言う理由ね。アークエンジェルと接触したいって事でしょ?」

 

「そうだ。友人だからと言って見過ごせる事ではない」

 

「そう……。アスラン、アナタはまたザフトに戻ったのね」

 

ミリアリアはカップをテーブルに置くと視線を俯けながらそう言う。

かつては敵同士だったキラとアスラン、戦乱に巻き込まれながらも手を取り合う事で2年前の大戦を乗り越える事が出来た。

けれどもアスランはまたザフトに戻り、キラはフリーダムに乗り戦場に現れる。

 

「今と言う状況を考えれば、こうするのが最善の方法だと思ったからだ。俺だって戦いたかった訳ではない。でも連合軍は一方的にプラントに攻撃を仕掛けて来た。戦争を早く終わらせる為にも、俺に出来る事をしたまでだ」

 

「アナタの言い分はわかる。今回の連合軍の攻撃は確かに強引だった。火の粉を振り払う為に戦う。私達も2年前はそうだった。でも……またキラと戦うかもしれない。それでも良いの?」

 

「そうならないように、戦う以外の方法で決着を付ける為にキミを呼んだ」

 

サングラスを外し真剣な眼差しを向けるアスラン。

それに対してミリアリアは数秒だけ考えると、カウンターの上の乗せて居たカバンからメモ帳とペンを取り出した。

開けたページにボールペンでスラスラと文字を書いていく。

書き終わるとメモ帳を閉じ、ペンもカウンターの上に置いた。

 

「暗号回線は教えて貰ってるから繋いであげる。けれども条件がある」

 

「何だ?」

 

「ザフトとしてではなく、アスラン・ザラ個人として会いに行って。それが条件」

 

「わかった。約束する」

 

その言葉を聞き、ミリアリアは先程書いたメモ帳の用紙を手でちぎりアスランに手渡した。

 

「明日の15時、その場所で待ってて。絶対って確証はないけれど」

 

「これだけでも充分過ぎる。俺は手掛かりすら知らないからな」

 

「じゃあ、もしキラやラクスに会えたらよろしく言っておいて」

 

ミリアリアはカップに残って居る冷めたコーヒーを飲み干すとカウンターから立ち上がった。

ポケットから紙幣を取り出しカップのすぐ傍に置いて。

その瞬間からアスランの事は視界に入れず、赤の他人のように無視して店から出て行く。

アスランも横目でチラリと後ろ姿を見ただけでこれ以上は何も言わない。

 

「はい、お待たせ」

 

カウンターの向こう側からは初老のマスターがホットコーヒーを目の前のカウンターに置いた。

淹れたてのコーヒーの香りが漂う。

 

「あぁ、ありがとう」

 

カップを手に取り口に運ぶ。

苦味とほのかな酸味が口に広がり、焙煎した芳ばしい香りが鼻を通る。

 

「上手いな。あの人が喜びそうな味だ」

 

「上手いかい?」

 

「俺はそこまで味がわかる訳じゃないが、知り合いに好きな人が居てね。ブレンドだとか何とか、色々試行錯誤してたのを覚えてる。普段はインスタントでしか飲まないから、それに比べたら違うよ」

 

「ありがとうございます」

 

マスターは笑みを向けながら、ミリアリアが飲んで居たカップと置いた紙幣を手に取った。

 

「マスター、1つ聞きたいんだが」

 

「わたくしにわかる事でしたら。こんな老人に言える事などしれてますがね」

 

「連合とプラントはまた戦争を始めた。戦争なんて誰もが嫌だと思う筈なのに。アナタはこの戦いをどう感じますか?」

 

マスターはステンレスのシンクでカップを洗いながら、アスランが今聞いて来た事を自分なりの考えで答え始める。

 

「産まれた場所、育った地域。それぞれによって人の考え片は変わって来ます。わたくしは産まれも育ちも幼い頃からこの土地でしたから、宇宙のプラントで生きてる人とは価値観が違うでしょう」

 

「まぁ、わかる話です」

 

「2年前の大戦。ナチュラルとコーディネーターの対立が火種となり地球全土と宇宙を巻き込む大きな戦争になった。どちらが正しい、どちらが間違ってる、そんな事はわかりません。ですが、価値観の違いと言うモノは時としてこのような、戦争にまで発展するのだと言う事は有史から続いて来た人間の歴史でもあります。ナチュラルの価値観、コーディネーターの価値観、それぞれがわかりあう事が出来るのかもわかりません。2年前の大戦でも、地球連合を倒せば世界は良くなる、ザフトを滅ぼせば平和は訪れる。そのような両者が話し合いで理解し合うのは容易ではありません」

 

目の前で語り掛けるマスターの言葉が胸に響く。

新型モビルスーツを強奪する為にヘリオポリスに潜入した時に友人であるキラと出会ってしまった。

その時のアスランはプラントのザフト兵としての立場でしか物事を考えて居ない。

相手の考えを理解する余裕などなく、それは連合軍に入隊したキラも同じだった。

そして互いにモビルスーツに乗り、本気で殺意を孕んで殺しあう。

相手を殺せば平和が訪れる。

この両者の間で和平が成立する日が果たして来るのか。

 

「では今のプラントと地球連合はどうすれば? このままではまた悲劇が繰り返されてしまう」

 

「小さな喫茶店のマスターが政治を語るのは恐れ多いです。ですが、あえて言うとすれば宗教と言うモノは人々の懇願なのです。願いを少しでも見える形に変化させたのが宗教でもある」

 

「願い……」

 

「左様、ナチュラルとコーディネーターの願いもまた、違うのかも知れません」

 

(俺が思う願い、カガリが思う願い、キラが思う願い。それぞれ違うのか……)

 

壁に立て掛けられた古い時計の針だけがゆっくりと時を刻んでいく。

 

///

 

喫茶店の外で2人は車の中で息を潜めて状況が動くのを待った。

指向性マイクを向けて店内の音を広い会話を聞き出そうとしてるのはヒイロだ。

ヘッドフォンを装着し、僅かな音も聞き逃さないように意識を集中する。

 

『ア――の言い分はわか――今回の連合軍の攻撃は――強引だった』

 

遮蔽物がある中で音声は正確には拾い切れず雑音が交じる。

ヒイロは聞き取れる少ない情報から内容を読み取りロジックを組み立てて居た。

その隣のシートで彼女、ルナマリアは事が終わるのを待って居た。

 

「店から女の人が出て来たけど普通の客?」

 

「いいや、アスランと何らかの関わりがある」

 

「だったら二手に別れて尾行する?」

 

「アスランは明日、目標と接触する。このまま後を付けて居れば良い。リスクは減らす」

 

「了解。にしても追跡任務だなんて。アスラン、アタシ達を裏切ってるの?」

 

「それを確かめるのが俺達の任務だ」

 

タリアに呼び出された2人はアスランの追跡を命じられた。

かつてはアークエンジェルの一員でありフリーダムと共に戦った仲間であるアスラン。

以前の戦闘介入でザフト軍本部は軍に復帰したアスランに目を付けた。

その命令を受けてアスランの動向を探らせる為にタリアは2人を向かわせ今ここに居る。

 

「行くぞ。ここにはもう用はない」

 

「明日の出方を待つだけか」

 

「機密情報を漏らす場合も想定される。その時はお前に任せる」

 

「出来るなら味方を撃つなんてしたくないんだけど」

 

言いながらルナマリアはチラリと後部座席を見た。

シートの上には黒く細長いアタッシュケースが寝かせてあり、中には長距離射撃が出来るスナイパーライフルが収まってる。

ヒイロは指向性マイクとヘッドフォンを外してこれも後部座席に置くと、尾行してる事がバレないように車を走らせた。




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第13話 それぞれの想い

深海に隠れる天使、アークエンジェル。

あの戦闘介入から連合とザフトの追手から逃れる為にダーダネルス海峡で息を潜めて居た。

長距離を移動するのではなくこの場に留まる事で相手の思考の逆を付く。

両軍ともに損傷しており、捜索の為にダーダネルスに出向けば再び接触する可能性もあり迂闊には出せない。

アークエンジェルにとってこの場に留まる事が最善の策だった。

そのブリッジで艦長であるマリュー・ラミアスはクルーの1人であるアンドリュー・バルトフェルドからコーヒーの入ったマグカップを受け取る。

ブリッジに居るクルーは全員、白と青を基調としたオーブ軍の制服を身に纏って居た。

 

「ありがとう」

 

「いいえ。探してた豆が手に入ったんでね。良ければ感想を聞かせてくれ」

 

「私の感想で良いのなら」

 

マリューは受け取ったマグカップを片手に艦長シートに腰を下ろし、スクリーンに表示された文字に視線を向けた。

CIC担当のダリダ・ローラハ・チャンドラII世はマリューに送られて来た電文を読み上げる。

 

「艦長、ミリアリアからの暗号通信です」

 

「ミリアリアさんから? 内容は?」

 

「ダーダネルスで天使を見た。正義の騎士がアナタを探してます。会いたい。以上になります」

 

「正義の騎士……」

 

意味を探るマリュー、そこへブリッジのドアが開き着物を着たラクスも入って来る。

彼女は場の雰囲気を感じ取り、すぐにマリューの元へ歩み寄った。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「えぇ、ついさっきミリアリアさんから暗号通信が届いたの」

 

「まぁ、ミリアリアさんから。もうあれから2年になりますものね」

 

ラクスは軽く触れる程度に両手を合わせると、久しぶりに聞いた名前に喜びを表す。

笑みを浮かべる彼女にバルトフェルドはまたコーヒーの入ったマグカップを手渡した。

 

「ありがとうございます。あの、お砂糖は?」

 

「勿論、入れてますよ。個人的には豆本来の味を味わって貰いたいのですがね」

 

「すみません、ブラックはちょっと。それでミリアリアさんは何と?」

 

「ダーダネルスでアークエンジェルを見たらしい。それは良いんだが正義の騎士って部分……これはアスランの事か?」

 

正義の騎士、2年前の大戦でアスランはザフトが開発したジャスティスに搭乗し、戦争を終わらせる為に単機で多くのモビルスーツを撃破した。

最後はジェネシスのレーザー砲が地球に発射されるのを阻止する為に機体を自爆させデータベースから抹消される。

 

「アスランもあの場に? ミリアリアさんと一緒なのですか?」

 

「そこまではわからん。だが、もしかしたらアスランはザフトに戻った可能性もある」

 

「ザフトに……」

 

「そうだ。だから悩んでるんだよ。後ろにザフトが居るならそう安々と出て行けないからな。この前の件で俺達はお尋ね者だからな」

 

重苦しい空気が流れる中、またもブリッジのドアが開いた。

その先にはオーブの制服を着たキラが立って居る。

 

「どうしたのラクス? 何かあった?」

 

「ミリアリアさんから電文が来まして」

 

「ミリアリアから!?」

 

驚くキラ、戦場カメラマンとして活動する彼女とはもう久しく会えてない。

バルトフェルドはキラに視線を向けると事の次第を説明した。

 

「この前の介入をアスランも見てたらしい。だがそれと同時にザフトに戻った可能性もある」

 

「アスランが?」

 

「そうだ。俺達と接触したいらしいが、ザフトに戻ったとなると話は別だ。確証がないとこっちも動けない」

 

この話を聞いてキラは即決で判断した。

悩む素振りすら見せず、皆の前で堂々と言う。

 

「会いましょう。アスランに会えるのなら今のプラントやザフトの情勢もわかる筈です。でもアークエンジェルが動くのはまだ早いです。ここは僕だけで行きます」

 

「1人でなんて……」

 

「大丈夫だよ、ラクス。ただ会って話をするだけだし」

 

「ですが……」

 

1人で行くと言うキラを気にするラクス。

それは他のクルーも同じで仲間であるキラを危険に晒したくはない。

頑ななキラにバルトフェルドは1歩前に出た。

 

「だったら俺も行こう。それなら心配ないだろ? キラもだ。万が一と言う事もある」

 

「バルトフェルドさん、わかりました。ならアスランとは僕と一緒に」

 

「あぁ、所で肝心な日時だ。アスランは何処で俺達と会うつもりだ?」

 

ダリダはコンソールパネルを数回タッチしモニターに表示された映像を見る。

ミリアリアの暗号文には座標位置と時間だけが端的に打ち込まれて居た。

 

「明日の15時ですね。座標をモニターに出します」

 

ブリッジの大型モニターにも表示される座標位置。

バルトフェルドはマグカップのコーヒーをひと口飲むとこれからの事を考えた。

 

「場所はそんなに離れてないな。フリーダムを使えばひとっ飛びだ」

 

「でもモビルスーツを使えば目立ちますよ」

 

「海から行けば良い。そうすれば誰にも見えない。それまでは狭いコクピットで2人仲良く缶詰だがな」

 

「海……それなら確かにあまり目立ちませんね」

 

「なら決まりだ」

 

///

 

アスランはミリアリアから渡されたメモを頼りに言われた場所に来た。

時間は14時58分、約束の時間は近い。

周囲は見渡す限りの砂浜。

青空に輝く太陽、潮の流れが耳に届く。

サングラスを付けたアスランは季節外れの砂浜に1人で立って居る。

 

「ミリアリアを信じるしかないか」

 

今のアスランにはアークエンジェルクルーの誰かが来ると信じて待つしか出来ない。

時間を頻繁に気にしながらも、待つ以外の手段はなかった。

 

「うん?」

 

岩場の影から2人の姿がチラリと見えた。

アスランは注意深くその人物に視線を合わせ、相手が何者であるのかを確かめようとする。

歩きながらゆっくりと近づいて来る2人。

それは幼い頃からの友人であるキラ・ヤマトと同じザフト軍だったアンドリュー・バルトフェルド。

 

「キラ!!」

 

サングラスを外したアスランはキラの元へ駆け寄った。

キラもアスランが居る事がわかりいつものように声を掛ける。

 

「アスラン、プラントに居るって聞いてたけど」

 

「こっちにも事情があってな。バルトフェルドさんもキラと一緒に?」

 

「そうだ。単刀直入に聞くぞ。お前、ザフトに戻ったのか?」

 

バルトフェルドの問にアスランは視線を下げてしまう。

それだけでもアスランがザフトに戻った事は簡単にわかったが、あえて何も言わず彼の口から語られるのを待つ。

キラも同様にこの件に付いては何も言及しない。

2人の視線を浴びながら、アスランは重たい口を開いた。

 

「プラントが攻撃されたと聞いて居ても立っても居られなかった。自分にも出来る事を考えたらザフトに戻るのが最善だと判断したまでだ」

 

「それじゃあアスランはあの時もモビルスーツに乗ってたの?」

 

「あぁ、だからアークエンジェルとフリーダムも見た。キラ、何故あんな事をした?」

 

アスランは強い口調でキラに言う。

キラも目を細め、確固たる信念の元に応えを返した。

 

「止めたいと思ったから。オーブにはカガリも居る」

 

「それはわかってる。だが今の世界の動きを見ればそんな事も言ってられない。プラントの敵として来るのなら撃つしかない」

 

「ならアスランが僕達に会いに来た理由は何なの?」

 

「こんな戦闘介入は止めさせたいからだ。こんな事をしてたらオーブにもザフトにも被害が及ぶ。要らぬ犠牲が増えるだけだ。この戦争、切っ掛けはユニウスセブンの落下事件だ。パトリック・ザラ……父の意思に同調したコーディネーターが部隊を編成してテロに打って出た。何とか地球への落下は阻止出来たが、その後の動きはどう考えても連合が悪い。プラントは交戦の意思など示してないのに」

 

「アスランの言いたい事はわかったよ。でもプラントは本当にそう思ってるの?」

 

「どう言う事だ?」

 

「また始まった連合とプラントの戦争。デュランダル議長は本当に早期解決を目指してるの?」

 

「当たり前だ。お前だって議長の言葉は聞いてるだろ」

 

「なら、あのラクスは何なの? 偽物を使って」

 

本物のラクス・クラインはアークエンジェルに居る。

大衆は今活動してる人物をラクス・クラインと信じて疑わないが、キラ達には彼女が偽物だと言う事は当然わかった。

アスランもその事には気が付いてる。

そして偽物のラクス・クライン、ミーア・キャンベルとも会った事があり、デュランダルの思惑に付いても多少は想像が付く。

 

「戦争が始まってプラントの情勢は不安定だ。ザフトの士気を高める為にラクスの存在を使ったのかもしれない」

 

「だったらどうして本物のラクスが殺されそうになるの?」

 

「何だと!?」

 

「オーブに居た時、僕達はザフトのモビルスーツに襲撃された。だから僕はもう1度フリーダムで戦った。もう誰かが死ぬなんて嫌だから。もしアスランが言う事が本当なら、どうしてラクスが狙われないといけないの? それがわかるまで、僕はプラントもデュランダル議長もすぐには信用出来ない」

 

「それは……」

 

初めて聞く情報にアスランは喉を詰まらせる。

必死に頭を回転させるが詳しい情報ない今は答えを導き出す事は出来ない。

キラは黙ってアスランの表情を眺めるだけ。

緊迫し張り詰めた空気が流れる中、隣に立つバルトフェルドの視線が鋭く光った。

 

(この感覚は……)

 

///

 

ヒイロとルナマリアはアスランの姿を追ってこの海岸にまで来て居た。

双眼鏡と指向性マイクを持つヒイロは、アスランとキラの会話を見つからないようにして聞いて居る。

ルナマリアは別地点でスナイパーライフルのスコープを覗き、通信機からヒイロの合図を送られるのをジッと待つ。

貫通力の高いライフルの銃口は正確にアスランの頭部を狙って居る。

 

「目標が接触した。合図を送るまでは待機しろ」

 

『了解』

 

ヒイロは双眼鏡で相手の動きを観察しながら指向性マイクが拾う声を聞く。

情報漏えい、裏切りと見られる行為、アークエンジェルと今も密接な関係があると判断した場合、即刻排除するようにタリアからも命令を受けて居る。

慎重に注意深く、アスランの出方を待つ。

 

『こんな戦闘介入は止めさせたいからだ。こんな事をしてたらオーブにもザフトにも被害が及ぶ。要らぬ犠牲が――』

 

(どうやらアークエンジェルとの関係は2年前に終わってるらしいな。だが動向は探る必要がある。敵になる可能性がある限り、これからもマークする必要があるな)

 

 

狙撃の合図はまだ送らない。

上層部を通してタリアから命令を受けて居るが、繋がりがあると言う事は向こうの情報を引き出す事も出来る。

その逆もまた然りだが、判断を下すにはまだ早い。

 

『戦争が始まってプラントの情勢は不安定だ。ザフトの士気を高める為にラクスの存在を使ったのかもしれない』

 

『だったらどうして本物のラクスが殺されそうになるの?』

 

キラの発言を聞いたヒイロは息を呑む。

表舞台に立つラクス・クラインが偽物だと言うのは見抜いて居たが、本物が狙われる理由は初めて聞く情報。

アスランと同様に情報が少ない現状ではヒイロも全てを知る事は出来ない。

 

(だが連合とプラントの裏で何らかの組織が暗躍してるのは確かだ。デュランダルが言ったロゴスの事か?)

 

思考するヒイロだが双眼鏡のレンズの先に居る3人に動きが見えた。

キラの護衛の為に一緒に来たバルトフェルドが懐から銃を抜き周囲を警戒する。

それを見てヒイロは通信機に手を伸ばす。

 

「引くぞ。気付かれた」

 

『何で? 600メートルは離れてるのに』

 

「直感的に気が付いた可能性もある。位置を見てもグゥルに忍び込むのは無理だ。別ルートからミネルバに帰還する。後は自己の判断で行動しろ」

 

スナイパーライフルのスコープには光りが反射しないように処置も施されて居る。

それでもバルトフェルドに気付かれたのは長年の経験と勘、第六感が感じ取る自分に向けられる殺意。

ヒイロの通信を聞いてルナマリアはアタッシュケースの中にスナイパーライフルを収める。

行きはアスランが乗るグゥルに隠れてここまで来たが、この状況で再び見つからずに忍び込むのは困難だ。

言われた通りにルナマリアは速やかに狙撃位置から離れて行く。

ヒイロはこれ以上は情報を聞き出す事は出来ないと判断し、ルナマリアと同じく現場から離れた。

 

(ロゴス……調べてみる価値はあるな)

 

影を悟られないように逃げる中、ヒイロは本物のラクス・クライン暗殺を企てた首謀者の事を頭の片隅で考えた。

一方、狙われて居たアスラン達は岩場へ姿を隠す。

遮蔽物に囲まれれば被弾する確率も下がる。

バルトフェルドは銃を構え周囲を警戒しつつも、アスランに視線を向け重い口調で話した。

 

「断言出来る訳ではないが、お前はザフトに狙われてる」

 

「ザフトに!?」

 

「2年前の大戦と今回の事で繋がりがあると疑われてるんだ。無理もない話だがな」

 

「そんな……」

 

「兎に角、今はミネルバに戻れ。俺達と行動を共に出来ないと言うのなら、そうするのが1番安全だ」

 

言いながらバルトフェルドは構えを解き銃口を足元の砂浜に向けた。

 

「引いたか? 気配が消えた」

 

「アスラン、僕には僕の出来る事をする。やっぱり、このままオーブを見てる事なんて出来ない。カガリだって居る」

 

「それはわかってる。だが、お前のやり方に俺は賛同出来ない。幾らお前とフリーダムが強くても、たった1人でどうにか出来る問題ではない」

 

「アスラン……」

 

悲しげなキラの瞳。

アスランはそれ以上何も言わず、グゥルの元に歩を進める。

遠ざかってく背中をキラとバルトフェルドは見つめるだけだ。

 

「良かったのか? アイツはこれからもプラントの為に戦うぞ。俺達がまた戦闘に介入すれば、アイツとも戦う事になる」

 

「今はまだわかりません。僕とアスランが想う願いが違うかもしれないから。でも、カガリを想う気持ちだけは同じだと信じてます」

 

「想いと願いねぇ」

 

陽は沈み始め、海岸は赤い光に包まれる。

 

///

 

アスランが出た数時間後アーサーからの指示でロドニアへの探索任務が言い渡された。

シン、レイはミーティングルームに集まり任務の概要を聞く。

「地域住民からの情報なんだが、連合軍の息のかかった基地があるらしい。今は静かなそうだが以前は車両や航空機、はてはモビルスーツまで出入りしてたかなりの規模の施設らしい。2人には明朝、この施設の調査に行って貰いたい。連合が秘密裏に進める計画を入手出来るかもしれない」

 

「こんな仕事に俺達が?」

 

地味な仕事に不満を漏らすシンにアーサーは続けた。

「そんな仕事とか言うな。ミネルバの移動ルート上にこの基地がある。もし武装勢力が立て篭もってたらどうする? そう言うのも含めた探索任務だ」

「了解しました」

 

「了解」

 

レイとシンは椅子から立ち上がりアーサーに敬礼をした。

けれどもシンは乗り気にはなれず、その声からも覇気は感じ取れない。

 

「良し、明日は早い。きちんと体は作っておけよ。準備も抜かり無くな」

 

言うとアーサーはミーティングルームから出て行く。

扉が閉まるのを確認して、シンは敬礼を崩し椅子の上に座る。

 

「何で俺がこんな事を。ルナとヒイロはどっか行っちゃうしさ」

 

「シン、これも作戦だ。俺達は完璧に遂行する義務がある」

 

「でもさ~」

 

「行きたくないなら俺1人でやる。任務が終わるまで部屋で待ってろ」

 

「わっ、わかったよ」

 

レイに注意されようやく真面目にやろうと考えるシン。

このミーティングから6時間後、シンとレイはパイロットスーツ姿でモビルスーツデッキに来た。

シンはコアスプレンダーのコクピットに乗り込み、発令を待たずにカタパルトから発進する。

 

「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!!」

 

操縦桿を握り、右足でペダルを踏み込むとスロットルを上げる。

メインスラスターから青白い炎を噴射し推進力を生み出すと、コアスプレンダーは空に飛び立つ。

同時にチェストフライヤーとレッグフライヤーもカタパルトから射出される。

ガイドビーコンで位置を固定させコアスプレンダーと各フライヤーはドッキングした。

背部にはフォースシルエットを背負い、バッテリー電力が供給された装甲は鮮やかなトリコロールに変化する。

変形したフォースインパルスの後ろにはグゥルを土台にして空を飛ぶレイのザクが居た。

 

「敵影ナシ。上空を飛行して目的地へ行く」

 

「了解。レイ、ザクで行けるのか? 今ならセイバーもグフもあるのに」

 

「使い慣れた機体の方がやりやすい。それにグゥルはシミュレーションでも確認しておいた。問題はない」

 

「なら良いけど」

 

「では行くぞ」

 

2機はメインスラスターを噴射させミネルバの進路上を先行する。

アーサーから指示された施設はそこまで離れておらず、飛行して30分でそれは見えた。

コンクリートで作られた巨大施設。

手入れどころか使用すらされておらず壁は黒ずみひび割れて居る。

電力も供給されておらず、室内から人の気配は感じ取れない。

 

「見えた。やはりモビルスーツは探知されないな。着陸して内部を探る」

 

レーダーを確認したレイは通信でシンに伝えるとザクの高度を下げさせた。

入り口近くに機体を着陸させるシンとレイ。

ハッチを開放しワイヤーで地面に降り立つ2人は、目の前にそびえ立つ施設を見上げた。

 

「ここは……一体?」

 

「中に入って確かめるしかない。だが警戒は緩めるな」

 

頷くシンは銃を取り出し右手に構え、左手には逆手でフラッシュライトを握る。

レイも防衛の為に銃を取り出してタクティカルライトを装着し、2人は施設内部へ足を踏み入れた。

中は一切光りがなく、静まり返った室内では足音だけが良く響く。

設置された機器の元へ向かいパネルを触るレイ。

長期間触られてない機器には埃が積り、指で触った部分に痕が付く。

けれども電力は供給されてない為、パネルをどれだけ触っても機器に反応はない。

 

「ダメか。だが兵器を開発してたようではないな。もっと別の何か」

 

「なぁ、レイ。この臭いって何だ? もっと奥から来てる気がするけど。嗅いだ事のない臭いだ」

 

シンは眉を潜めながらも奥に向かって歩いて行く。

その先に悪臭の原因がある。

反応がない機器を後回しにしてレイも後から続いた。

暫く暗闇を進んだ先には隔離されるように巨大で頑丈な鉄の扉が広がって居る。

しかし今は僅かな隙間が開き、悪臭と共に冷たい空気が流れ込んで来て居た。

 

「この先か。レイ、左を頼む」

 

「わかった」

 

2人は左右に別れて鉄の扉を力一杯スライドさせる。

サビ付いたレール上の車輪がゆっくり動き出し、中からは耐え難い異臭と冷たい空気が流れ込んで来た。

 

「何だ……何なんだよコレは……」

 

そこには円柱のカプセルのようなものが複数立ち並び、濁った液体が充満して居た。

フラッシュライトで照らし中を覗き見ようとするが、濁った液体は光りをほとんど通さず、けれども何かの影だけは見える。

目を凝らして良く見ると、それは人の手の形をして居た。

驚きで心臓が締め上げられる。

息をするのも忘れて手に握るライトを他に向けると、そこには悪臭の正体があった。

 

「う゛っ!?」

 

思わず目を伏せたシン。

向けられたライトの光りの先にあったのは人間の死体。

床には流れ出た血がもう固まって居る。

死んで腐敗した肉が部屋を覆い尽くす悪臭の原因。

しかもそれは1つや2つではない。

広い部屋の中を見渡すとそこかしこに死体は転がっており、とても長時間ここに居る事は出来なかった。

 

「レイ、ここは普通じゃない。1度ミネルバに戻ろう。レイ?」

 

返事を返さないレイ。

その表情は大きく目を見開いて強張っており、普段と違い血色も良くない。

口は魚のように開いたり閉じたりを繰り返しており、次第に体が震え始め立つ事も出来なくなった。

 

「う゛ぅっ!! ハァハァハァッ、ググッ……はぁ、ハァハァハァ!!」

 

「レイ!! 大丈夫か、レイ!!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ!! カハッ!!」

 

「ミネルバに戻ろう。ここに居たらダメだ」

 

レイの肩を担ぎシンはこの部屋を後にする。

悲惨な現場はもう見るきにすらならず、死体の腐敗臭をこれ以上嗅ぐのも嫌だった。

呼吸をするのもやっとのレイと一緒にシンは足早にこの施設から出て行く。

 

(連合軍はここで何をして居たんだ? 兎に角、ミネルバに報告しないと。レイだって……)

 

思考は後回しにして今は外に出る事を優先した。

待機させたインパルスの足元にまで来るとレイを地面に降ろし安静な状態にさせる。

中に居た時と比べれば呼吸は落ち着いており静かにまぶたを閉じて居た。

 

「良かった、取り敢えずは大丈夫そうだな」

 

シンは伸びたワイヤーに掴まりコクピットハッチまで上昇する。

ものの数秒で登り切ると開放されたハッチからコクピットに滑り込みコンソールパネルを叩いた。

緊急でミネルバに通信を送る。

 

『こちらミネルバ。シン、探索はどうだった?』

 

聞こえて来るのは通信士のメイリンの声。

 

「言われた施設には来たけど、中が普通じゃない。上手く言えないけどおかしいんだ。それにレイも倒れた」

 

『レイが!? すぐに艦長に報告するから』

 

「頼む。それと捜索隊の準備も進めてくれ」

 

『了解』

 

言うべき事を手短に伝えるとシンは通信を切る。

 

///

 

艦艇のブリッジでネオは上層部から送られて来た作戦指示に頭を悩ませる。

ミネルバと介入して来たフリーダムのせいでオーブ軍のモビルスーツは大打撃を受けた。

連合軍の機体には被害が及んでないが、増援がない状態では物量で劣ってしまう。

片手に持った書類をマスク越しに見ながらネオは愚痴を零す。

 

「どうしたモンかね。ポンポン新型を出して来るミネルバをそう何回も相手出来る程、こっちの戦力は充実してないからな。それにフリーダムの件もある。オーブ軍を使えば、また現れる可能性もある」

 

「上層部からの指示はミネルバの足止め。可能ならば撃沈させよ、との事ですが?」

 

「簡単に言ってくれる。最前線で戦う俺達の身にもなってくれ」

 

「そうではありますが……」

 

「あぁ、無視する訳にもいかんしな。完膚なきまでにやられたら、逃げる事も出来るか。それなら文句言われまい」

 

下士官と冗談交じりに話すネオ。

そこにブリッジの扉を開けてステラがやって来た。

彼女の表情はいつもと比べると暗く、視線も下の方ばかりを見て居る。

 

「ネオ……」

 

「ステラか、どうした?」

 

「何だか気持ちが悪い。ざわざわする」

 

「医務室には行ったのか?」

 

「そう言うのじゃない。よくわからないけど違うの」

 

不安がる彼女の腕を掴むネオ。

肌のふれあいから伝わる感覚にネオも危機感を抱く。

 

(鳥肌が立ってるな。何かを感じてるのか?)

 

数秒後、ネオの予感は的中する事になる。

ブリッジに通信が繋がり、スクリーンには『SOUND ONLY』の赤い文字が表示された。

 

『こちら爆撃班。緊急事態です』

 

「何があった? 状況を報告しろ」

 

『はい。ロドニアのラボのすぐ傍まで来てます。ですが我々よりも早くにザフトの機体が敷地内に』

 

「何、本当か?」

 

『はい。あれは……ザフトの新型とザクです。どうしますか? 我々だけではモビルスーツに対抗出来ません』

 

爆撃班はロドニアに建設されたラボ破壊命令を受けて向かってる最中だった。

だがミネルバのモビルスーツ隊の方が一足先に到着しており、モビルスーツが居るとなっては爆撃班は内部に侵入出来ない。

 

「無理に動いてこちらの足取りを掴まれるのも厄介だ。撤退するしかあるまい」

 

『撤退ですか?』

 

「そうだ。今からではどうにもならん。相手に見つかるなよ」

 

『了解です』

 

それを最後に通信は途切れた。

次々に起こる問題にネオはまた愚痴をこぼすしか出来ない。

 

「やれやれ、どうしてこうも良くない事ばかり起きる」

 

「ネオ、ラボってなに?」

 

「ラボって言うのは……そんな事聞いてどうする?」

 

「何か……忘れてるような」

 

ステラの出生を知ってるネオはこの言葉に焦りを抱く。

コーディネーターよりも優れた兵士として開発されたステラ、彼女は強化、開発の為に数年前まではこのラボに居た。

そして開発が終了しファントムペインとして戦闘する頃には、かつての記憶は邪魔になると催眠治療と薬物投与で消されてしまう。

けれどもそれが今、何らかの要因によりほつれが見え始める。

 

(マズイな、昔の記憶を思い出して来てる。1番長く居たのがあのラボだからな。データみたいに人間の記憶を完全に消し去る事は出来ないか)

 

「ステラ、確かめて来る」

 

言うと彼女の行動は早かった。

誰の許可も受けずにブリッジからモビルスーツデッキ目指し走り出してしまう。

ネオが止めようとした時にはもう、ステラは走り出して居た。

 

「待つんだステラ!! チィッ!! 今日は本当にツイてない!! モビルスーツデッキに回線繋げろ。ステラをモビルスーツに乗せるな!!」

 

走るステラは全速力でモビルスーツデッキに向かった。

止めるモノは誰も居らず、数分でデッキに到着すると立ち止まり自分の機体であるガイアを探す。

右へ、左へ視線を移すと装甲が灰色のガイアが直立してケージに収まって居る。

また走り出す彼女の前に、ネオの命令を受けた連合軍兵士が銃を構えて立ち塞がった。

 

「止まるんだ!! モビルスーツには――」

 

「邪魔するなぁ!!」

 

一瞬で詰め寄ったステラは手首を締め上げ銃を奪い取る。

弾が装填されてるのを瞬時に確認し、左の太腿に銃口を密着させるとトリガーを引いた。

 

「ガァァッ!!」

 

甲高い銃声が響くと次には激痛に喘ぐ連合軍兵の悲鳴が聞こえる。

飛び散った血が銃とステラの右手を汚すが、そんな事は一切気にせず開放されたガイアのコクピットの中に滑り込んだ。

慣れた手付きでコンソールパネルを操作しハッチを閉じると、OSを起動させてバッテリー電力を供給させる。

 

「ハッチを開放して。でないと弾き飛ばす!!」

 

装甲に色が宿りツインアイが輝きを帯びる。

握ったビームライフルを向けるガイアに連合軍兵は慌てふためくしか出来ない。

 

「クーデターでも起こすつもりか!!」

 

「ビームはマズイ!? 言う通りにしろ!!」

 

ケージを跳ね除けるガイアはゆっくりと歩きながら閉鎖されたハッチ前にまで来た。

ステラの要求によりハッチは破壊される前に開放され、ガイアはカタパルトも使わずにメインスラスターの出力を上げる。

背部の羽から青白い炎を噴射して、ガイアは艦から飛び出して行く。

 

「ラボ……みんなが居る所……」

 

モビルアーマー形態に変形するガイアは加速して地面を駆け抜ける。




鉄血のオルフェンズは泥臭い男も多くて地上戦も多い感じがするから期待してます。けれども悲しいかな、Gレコがもう過去の作品として扱われるのは…… 批判は多いけど富野の作品だし好きなんだよなぁ。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第14話 ステラとの約束

アスランの偵察から戻ったヒイロとルナマリア、ミネルバの中は物々しい雰囲気に包まれて居た。

報告の為に艦長室に向かったがタリアは居らず、ブリッジに出向くとタリアとアーサーがスクリーンに映された映像に顔を歪めて居る。

 

「ルナマリア、帰還しました。何かあったのですか?」

 

「えぇ、ミネルバ進行上の連合軍施設をシンとレイに調べて貰ったのだけど、内部の状況が見過ごせるモノではなくてね」

 

タリアの説明にルナマリアも表示されるスクリーンに目を向ける。

新たに装備を整えて向かった偵察部隊が送る映像。

そこに映るのは真っ暗な中で血に染まる人間の亡骸。

 

「っ!?」

 

目を見開いたルナマリアは思わず口を両手で塞ぐ。

彼女と同じくタリアに報告する為にブリッジにやって来たヒイロもスクリーンの映像を見ると、鋭い視線に切り替わり映る情報を頭の中で整理する。

巨大な円柱のカプセル、濁った液体と中に居る死体。

血で汚れた壁や床。

赤く染まった白衣を着た男、銃を握る子どものこめかみには風穴が開き乾いた血がこびり付いて居る。

 

「内乱か。この施設の人間は戦力として利用されて居たと考えた方が良いな」

 

「それだけなら良いのだけれど。現実は非情みたいね」

 

タリアの言葉に続いてスクリーンの映像が切り替わる。

既に電力供給はストップして居るが設置された機器のデータはまだ生きて居た。

保存されて居た莫大なデータを抽出しミネルバへと送られると、解析されたモノからスクリーンに映し出される。

それには10代の少年少女の顔写真と身体データが記載されて居た。

だが状況を理解出来ないアーサーは思わず声に出してしまう。

 

「このデータ……一体何なんです?」

 

「連合軍が秘密裏に進めてるエクステンデッド。アナタも噂くらいは聞いた事があるでしょ? 遺伝子操作さえしなければ何をしても良い。薬物投与、記憶操作、戦闘訓練、その為の実験台がコレ」

 

「コレって……」

 

「まさに連合の狂気そのモノ。人間を実験体に仕立て上げ、私達コーディネーターを倒す為にと強化する。

遺伝子操作がどうこう以前の問題。狂ってるとしか言いようがない」

 

アーサーは口を開けてスクリーンを呆然と眺める事しか出来ない。

その間にも送られて来る被験体のデータは100人を超えており、それだけの人間が犠牲になった事を示してる。

だが突如として警告音が響き渡った。

 

「艦長!! 敵影が施設に接近してます!!」

 

メイリンはタリアに振り向きながら大声で叫ぶ。

レーダーには高速で接近する機体の反応が映し出されており、表示される形式番号からその機体は奪われたガイアだと確認出来た。

瞬時に思考を切り替えるタリアは目付きを変え指示を出す。

 

「こちらの動きを察知された。データ解析が終わるまでは敵を近付けさせないで。パイロットは順次発進して。ルナマリア、お願い」

 

「了解です」

 

「コンディション・レッド発令、各員戦闘配置。アーサー、医務室のシンとレイは?」

 

「シンは大丈夫みたいですが、レイは……」

 

「ならシンの出撃を優先させて。インパルスの機動力が1番高いから」

 

「了解しました」

 

タリアの指示を受け敬礼したルナマリアはモビルスーツデッキに向かって走り出す。

アーサーもコンソールパネルに手を伸ばすとモビルスーツデッキにインパルスの出撃を優先するように指示を送った。

 

「ミネルバ上昇、敵機の迎撃に向かいます」

 

「艦長、アスラン隊長から通信が繋がってます」

 

「すぐに廻して」

 

言われてメイリンは回線を繋ぎ、スクリーンに今度はアスランの顔が映し出された。

アスランが乗るグゥルはミネルバの後方に迫って居る。

 

『艦長、ミネルバは出港してるようですが』

 

「緊急事態が発生しました。帰還後、すぐにモビルスーツで出撃して貰います」

 

『緊急事態!? 了解、速やかに帰還する。セイバーの準備頼みます』

 

「先陣はインパルスに出て貰います。ミネルバ、微速前進。他にも敵が居る可能性は充分にあります。周囲の索敵急いで」

 

タリアの声を背にしてブリッジを出たルナマリアはモビルスーツデッキに走る。

けれどもその時にはもう、彼女の視界のどこにもヒイロの姿は見えなかった。

医務室に居たシンは人体に異常がないか精密検査を受けてる最中だったが、敵の存在を確認していつまでも悠長にしてる暇はない。

医師は聴診器を背中に当てて居たが、シンはそれを振り払って椅子から立ち上がる。

 

「警報、敵が近くに居るのか?」

 

「出撃か? なら検査は後回しだ。今の所異常は見られない。体で痛い部分もないだろ?」

 

「大丈夫です。レイの事を頼みます」

 

「あぁ、死ぬなよ」

 

赤の制服を着たシンは医務室から出て行く。

残ったのは白衣を着た軍医と白いシーツが敷かれたベッドの上で眠るレイ。

施設に入った時の症状は今は収まり、目を閉じて静かに眠ってる。

まどろみの中に沈むレイには艦内に響き渡る甲高い警報が聞こえない。

モビルスーツデッキに向かうシンとルナマリアだが、1番初めに到着したのは2人ではなくヒイロだった。

インパルスの出撃準備を進めて居たヨウランは誰よりも早く来たヒイロに驚く。

 

「ヒイロ? 早過ぎないか?」

 

「敵の妨害は充分に予測出来た。グフで出る」

 

「でも艦長からはインパルスを先に出せって言われてんだけど」

 

「気にするな、俺は気にしない」

 

「お、おい!!」

 

言うとヒイロはパイロットスーツも着ずに緑の制服のままでグフのコクピットに入り込んだ。

慣れた手付きでコンソールパネルを触るとハッチを閉じ、バッテリー電力を機体に供給させる。

戦闘モニターにはモビルスーツデッキの壁が映し出され、起動したグフはゆっくりとエレベーターに歩いて行く。

ヨウランが近くに居るにも関わらず動くグフの左足。

数センチ先で動く鉄の塊に、ヨウランは堪らず後ろに飛び退いた。

 

「うわぁっ!! アイツ本気かよ?」

 

『早くしろ』

 

「わかったよ!! 後で艦長に何言われても知らねぇからな!!」

 

外部音声でヒイロはヨウランを急かし、出撃の準備を進める。

グフがエレベーターの位置にまで来ると同時に上昇が始まり、数秒後には開放されたカタパルトから外の景色が見えた。

操縦桿を握りスロットルペダルに足を掛けるヒイロはグフのフライトユニットを展開させる。

けれどもその合間にメイリンから通信が割り込んで来た。

 

『ヒイロ!? 出撃はインパルスが--』

 

「先に出る。俺から行く方が早い。出撃後の護衛はルナマリアにでもやらせろ」

 

『え、でも--』

 

ヒイロは一方的に通信を切るとカタパルトから発進する。

高速で射出されるグフ、背部に接続された電源ケーブルを切り離すど同時にペダルを踏み込みメインスラスターを全開にした。

陽も沈んだ夜の空を青いグフは飛ぶ。

 

「敵機の反応確認。狙いはあの施設か。速やかに撃破する」

 

レーダーに反応する奪われたガイア。

ヒイロは一直線に機体を敵の方向に向けさせ最短距離で接近する。

画面に映るのはモビルアーマー形態に変形し4脚で地面を蹴り高速で進むガイアの姿。

シールドからテンペストビームソードを引き抜き、左腕の4連ビームガンで先制攻撃を仕掛けた。

発射されたビームは上空からガイアを襲う。

 

「上から!? クッ!!」

 

ガイアに搭乗するステラの反応も早い。

スラスターの出力を上げてビームの弾を回避し、右へ左へトリッキーにジャンプする事で軌道を読ませないように動く。

初めて戦うタイプの機体だがヒイロは臆する事なく接近を試みる。

 

「セカンドシリーズの機体データは把握した。確実に仕留めてみせる」

 

「邪魔だァァァッ!!」

 

ガイアは背面の姿勢制御ウイングから青白い炎を噴射して加速、前面のグリフォンビームブレイドを展開してグフに突撃する。

対するヒイロも引く事はせず、テンペストビームソードをマニピュレーターで握り締めガイアと交差した。

上空で交わる瞬間、グフは前傾姿勢になる事でグリフォンビームブレイドをくぐり抜る。

テンペストビームソードはガイアの左ウイングを半分に切断した。

 

「くっ!? コーディネーターめ!!」

 

瞬時にモビルスーツ形態に変形、着地と同時にビームライフルを引き抜きグフに照準を合わせトリガーを引く。

発射されたビームは正確で一直線にグフに向かうが、ヒイロはそれを予期しており振り向きざまにシールドを構えてこれを防ぐ。

だが攻撃はこの程度では終わらない。

2発3発と次々に迫り来る強力なビーム。

ヒイロは回避行動は取らずにシールドで防ぎきり、メインスラスターを吹かし更にガイアに詰め寄った。

 

「一気に方を付ける」

 

「早い!? でも!!」

 

サイドスカートに左手を伸ばすガイアはビームサーベルを引き抜き目の前に迫るグフを振り払った。

眩い閃光が両者を照らす。

激しく飛び散る火花はグフのシールドから発生しており、ガイアに握るビームサーベルは構えたシールドにより防がれて居た。

密着した状態でステラは操縦桿のトリガーを引き頭部バルカンを連射する。

量産機のグフにフェイズシフト装甲は採用されておらず、連続して発射される弾は青い装甲に穴を開けて行く。

ボロボロに破壊される頭部、特徴的な角がへし折れ煙が上がるが、ヒイロは構わずにメインスラスターを全開にした。

強引にパワー勝負に持ち込み、姿勢を崩させようとする。

 

「コイツ、機体が!?」

 

ステラは両足を使って匠にガイアを操縦するが地面には脚部がめり込み、片翼しかないせいでスラスターのパワーバランスも良くない。

2機はもつれ込んだまま地面に倒れ大きな衝撃が生まれる。

ステラは舌を噛まないよう歯を食いしばり衝撃に耐えた。

シートベルトが制服の上から肌に食い込み脳が痛みを訴えるが、目の前の戦闘画面にはまだモノアイを光らせるグフが居る。

痛みなどは無視して、ただ眼前の敵を倒す事だけに集中した。

 

「負けるもんか!! コーディネーターなんかに!! 私は……わたしはァァァ!!」

 

「敵は確実に倒す。今のお前は俺の敵だ!!」

 

メインスラスターを噴射したままのグフはそのままガイアを地面に押し付けながら引きずって行く。

ヴァリアブルフェイズシフト装甲はダメージを通さないが、激しい衝撃が持続的にコクピットを襲う。

殺意をむき出しにして敵を睨むステラ。

右脚部を動かすとグフを蹴り上げ強引に引き剥がした。

姿勢を立て直すガイアはビームライフルを向ける。

けれどもグフの動きも早く、右腕から伸ばすスレイヤーウィップがビームライフルに絡み付く。

 

「遅い!!」

 

「しまった!! ぐっ!!」

 

素早い反応でビームライフルを手放すステラ。

次の瞬間には高周波パルスが流し込まれビームライフルは爆散した。

かろうじてマニピュレーターにもダメージが通ってないガイア、そのまま右手にもビームサーベルを握り二刀流で接近する。

 

「うあああぁぁぁ!!」

 

右手に握るビームサーベルを振り上げるガイア。

ヒイロはまた避ける事もなくシールドで防ぐが、度重なる攻撃に耐久力は下がっておりビームが接触すると激しい火花と閃光が飛ぶ。

高エネルギーのビームはシールドを赤く焼け爛れさせ、ジワジワと半分に切断した。

だがヒイロは付け入る隙を与えず脚を踏み出しテンペストビームソードを突き出す。

 

「っ!! 今までの敵と違う」

 

「チッ、武器が重すぎるんだ!!」

 

寸前の所で姿勢を横に反らし回避するステラ。

一方のヒイロは未だに使い慣れないテンペストビームソードに不満を漏らす。

突き出された右腕に、ガイアはすかさずビームサーベルを振り下ろした。

テンペストビームソードが握られた右腕は肘から先を切断されて地面に落ちる。

それを見てステラは操縦桿を動かしグフから距離を離す。

モビルアーマー形態に変形し縦横無尽に動き回るガイア。

片腕を失っても冷静に状況を判断するヒイロは、地面に落ちるテンペストビームソードを左手に握る。

 

「来るか……」

 

「バランスは悪いけどスラスターはまだ使える。行ける!!」

 

地面を蹴り上げ加速を掛けるガイアは再びグフに向かって一直線に突き進む。

シールドも使えなくなったヒイロは真正面からソレを迎え撃つ。

その行為には一切の緊張も焦りも見受けられない。

 

「はあああァァァッ!!」

 

「叩き落とす」

 

グリフォンビームブレイドを展開するガイアの頭部目掛けテンペストビームソードを突き立てた。

だが切っ先を空を切る。

飛び跳ねたガイアはグフを踏み台にして更に上へ飛び上がりモビルスーツ形態に変形した。

姿勢を崩すグフは背面から倒れてしまう。

 

「貰った!!」

 

「詰めが甘いな」

 

ビームサーベルを逆手に握り降下するガイア、その右脚部にはスレイヤーウィップが絡み付いて居た。

左腕を動かすと空中に居るガイアは何も出来ずに地面に引きずり降ろされる。

 

「そんな……グゥッ!!」

 

「終わりだ」

 

「っ!! まだ--」

 

地面への衝突に耐えるステラの両手にはまだしっかりと操縦桿が握られてる。

機体を立上せようとするが既に遅く、目の前にはテンペストビームソードを振り上げるグフが居た。

シールドを構えるが肘の関節ごと切断されてしまう。

 

「ぐあああァァァっ!!」

 

その切っ先はコクピットハッチにまで到達し大きな切れ込みを作る。

次々にショートする回路、飛び散る火花がステラを襲った。

咄嗟に両腕を交差して顔を守るが、砕け散った画面の破片が左腕に突き刺さり鮮血が流れ出る。

あまりの衝撃に意識を失う。

だがコクピットに穴が開いただけで機体もパイロットもまだ生きて居た。

トドメを刺すべく詰め寄るグフ、だがそれと同時にインパルスとセイバーが遅れて現場に到着する。

様子を見たアスランはコンソールパネルに指を伸ばす。

 

「遅れてスマナイ。ガイアは仕留めたのか?」

 

「まだパイロットは生きてる。確実にトドメを刺す必要がある」

 

「機体は爆発させるな。まだ施設の調査が残ってる」

 

「了解した。機体はそのまま、パイロットには死んで貰う」

 

輝くモノアイは横たわるガイアを睨み付ける。

セイバーと同じく合流したシンも同様に、動かないガイアのコクピットの中を覗き込む。

瞬間、緊張が走ると共に鳥肌が立つ。

 

「ガイア!? って事は」

 

メインカメラをズームさせ穴の開いたハッチの中を良く凝視する。

目を見開いた先に居るのは以前戦闘した時と同じパイロット、腕から血を流すステラ・ルーシェの姿がそこにはあった。

ペダルを全力で踏み込み機体を加速させたシンは、セイバーを追い抜きフルフェイスのマイクに向かって大声で叫ぶ。

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

攻撃態勢に入ったグフの動きが一瞬止まる。

すぐ近くに着地したインパルスはガイアをかばうようにして立ち塞がった。

 

「待てヒイロ、殺すな!!」

 

「ソイツは連合軍のパイロットだ。俺達の障害になる」

 

「わかってる、でも!!」

 

「邪魔をするな。さもなくば死ぬ事になる」

 

「ステラは戦いをするような人じゃない!!」

 

「そうか……」

 

立ち塞がるシンに対してヒイロは敵意を向ける。

ガイアとの戦闘で機体はボロボロにも関わらず、片手に握るテンペストビームソードのみでインパルスに戦いを挑もうとした。

一方のシンもソレを感じ取り、バックパックからビームサーベルを引き抜いた。

 

(コイツ、本気だ……)

 

戦闘が終わったにも関わらず再び緊迫した空気が場を支配する。

一触即発の事態。

だが2人が刃を交える事はなく、アスランのセイバーがインパルスの隣へ着地すると握って居たビームライフルの銃口をグフに向けた。

 

「ヒイロ、前にも言った筈だ。味方を攻撃するな。でないと俺もお前を撃つ事になる。シンもだ。このパイロットは捕虜としてミネルバに連れて行く。それで良いな?」

 

「わかりました……」

 

「了解した。帰還する」

 

テンペストビームソードへのエネルギー供給を切ったヒイロは一言だけ言うと、メインスラスターを吹かし地面からグフの脚を離す。

シンもビームサーベルをバックパックに戻し、横たわるガイアをインパルスで抱え上げる。

 

///

 

モビルスーツ隊がミネルバに戻ると、連れて来られた連合軍の兵の事で話題になって居た。

ヒイロのグフとの戦闘で切断されたガイアの左腕も回収されて、今はモビルスーツデッキで再び使えるように修理が行われて居る。

パイロットであるステラはケガをして居たが命に別状はなく、すぐに医務室へと運ばれた。

軍医によりケガの治療を受け、血で汚れた肌を拭き取られた彼女のベッドの上で静かに眠って居る。

シンはステラが眠るベッドのすぐ傍で彼女の手を暖かく握って居た。

 

「ステラ、もう大丈夫だから。先生、ステラの様態はどうなんですか?」

 

「ケガは問題ない。安静にしてればすぐに治るだろう。治療と一緒に彼女の体を軽く検査させて貰った。シン、キミは彼女の体の事を知ってるのかい?」

 

「はい、推測でしかありませんが。たぶん……ステラはエクステンデッドです」

 

「そうか……薬物投与などの反応が確認出来た。詳しくはこれから調べるが、通常の捕虜としての扱いは出来ないかもしれない」

 

「そんな!? ステラは無理やり戦わされてただけなんですよ?」

 

「そうかもしれない。だが彼女は普通じゃない。暴れ回ってこちらにも被害が及ぶ可能性だってある。それにザフトにはエクステンデッドを治療出来る技術はない。薬物の副作用が出てもどうにも出来ない。最悪の場合、死ぬ事もありえる」

 

「っ!?」

 

突き付けられた現実にシンは愕然とした。

目の前で眠る彼女は穏やかな寝顔をシンに向けるだけ。

そんな彼女とようやく再開出来たにも関わらず、助ける事が出来ない。

 

「ステラ……」

 

呟く言葉は彼女に届かない。

医務室の扉が開かれ、軍医から報告を受けたタリアが室内に入って来た。

タリアは横目でシンとステラの表情を一瞬見て軍医と話す。

 

「報告は聞きました。彼女の様態は?」

 

「今は寝てます。ケガも軽傷です」

 

「結構。治療が終わったのなら拘束具を着用させて」

 

「わかりました」

 

話を進める2人の間に割り込む事も出来ず、シンはステラの手を握る事しか出来ない。

だが突如としてヒイロが医務室に入って来る。

 

「ここに居たか」

 

「ヒイロ? アナタには別の--」

 

タリアの声を無視してベッドまで行くヒイロは懐から銃を取り出しステラに突き出した。

銃には弾が装填されており、セーフティーも解除されてトリガーに指を掛ける。

いきなりの事に全員が驚くが、シンは瞬時に立ち上がりステラを守った。

 

「何をする気だ?」

 

「決まって居る。そいつを殺す」

「ステラは敵なんかじゃない。ただ操られて居ただけだ!!」

「関係ない。そいつは邪魔になる」

「ステラは俺がなんとかする!! みんなの邪魔になんてならない!!」

一歩も引かないヒイロとシン。

ヒイロは今すぐにでもトリガーを引くつもりで居るし、シンもヒイロが動きを見せたらステラを守る為に捻じ伏せる気で居た。

互いの鋭い視線が交差する。

 

「待ってヒイロ。いくらなんでもこの場で殺す事は許可しません。銃を下ろしなさい。シンも、この捕虜の事は上層部の判断を待ちます」

 

タリアの一言でなんとかこの場は治まる。

ヒイロも手に持った銃を懐に戻すと、シンに背を向けて歩いて行ってしまう。

それでもまだ、室内には緊迫した空気が漂って居た。

シンに睨まれながらもヒイロは医務室の扉を開け、同時に振り返ってシンに言う。

「やるからには最後までやれ」

「あ……あぁ!! 約束するよ。ステラは俺が守る!!」

 

それを聞くとヒイロは出て行った。

何も起こらなかったとは言え、タリアは今回の事で更に頭を悩ませる。

自室に戻りながらヒイロは先ほどの連合軍のパイロットに付いて考えて居た。

 

(エクステンデッド、あの施設のデータは見た。戦う事しか知らない人間、俺と同じ存在。俺も戦う事でしか生きてはいけない。他の生き方も出来ない。だがリリーナの存在が俺を変えた。シンが居るなら俺のようにあの女も……)

 

自身と似た境遇のステラを思うヒイロは、かつての自分を増やさない為にもシンに期待する。

「リリーナ……」

ひっそりと呟いた声は誰にも聞こえない。




鉄血に登場するクーデリアがリリーナに似てると言う人も居ますが、Wに登場するキャラは狂人ばかり。
リリーナも例外ではありません。
似てる部分はありますがリリーナの方がインパクトが強いですね。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第15話 包囲網突破

ファントムペインの指揮官でもあるネオは自室で通信機と向い合って居た。

度重なる任務の失敗、更には金の掛かってるエクステンデッドを2人も失い強奪したザフトの機体も1機だけしか残ってない。

先日、突然ガイアに搭乗し出撃したステラは機体と共にザフトに奪われてしまった。

その事を報告するネオの表情は仮面に隠れて見る事が出来ない。

 

『私はキミに期待して居たんだ。だから任務の失敗を攻め立てる事もしないし、出来る限りの支援は行って来たつもりだ。だが無条件でこれまでの事を水に流す事はしない。キミの仕事はなんだ?』

 

通信機から聞こえて来る声。

その主こそ今回の戦争の引き金を引いた主犯格、反コーディネーター組織ブルーコスモスの盟主で、連合軍を裏で操る軍産複合体「ロゴス」の一員であるロード・ジブリール。

その彼に対してネオは従順に返事を返す。

 

「任務の遂行です」

 

『そうだ、それこそキミが成すべき事であり最優先事項だ。エクステンデッドとは言え、戦闘ともなれば死ぬ時は来る。機体も同じだ。その事に付いて今更言うつもりはない。だがこのままではこちらの計画にも支障が出る』

 

「それは理解してます」

 

『なら、さっさと言われた通りに任務を遂行するんだ。ファントムペインには金を掛けてる。ザフトのミネルバに手を焼くのはわかるが、これ以上好き勝手されては邪魔だ。なんとしても沈めろ』

 

「了解です」

 

『目障りなコーディネーター共は地球の害虫だからな。一掃せねばならん』

 

言うとジブリールからの通信は切断させた。

ネオは目前に迫るミネルバとの戦闘を前に、たった2人になってしまったファントムペインがこれからどう動くべきなのかを考える。

新型のモビルスーツを多数搭載したミネルバと正面切って戦うにはそれなりの戦力が必要だ。

だが現状では強奪したカオス以外は量産機しか用意出来ない。

 

「やれやれ、上層部は無理難題を言ってくれる」

 

ネオはいつもの様に軽口を叩くが、状況はそう単純ではない。

通信機に手を伸ばしパネルを触り、次はオーブ本国に通信を飛ばした。

数秒で回線は繋がり、小さなモニターには代表であるカガリとその後ろにユウナの姿がある。

 

「こちらは連合軍ファントムペイン部隊、ネオ・ロアノークであります」

 

『そっちではもうすぐザフトと戦闘だと聞いてる。何かあったのか?』

 

「いえ、ミネルバとの関係も因縁浅からぬものではありますが、次の戦闘では確実に仕留めて見せましょう。その為にオーブ軍にも来て頂いてるのですから」

 

『勿体ぶった言い方だな。他に言う事がないなら切るぞ』

 

「とんでもない、本題はここからです。ミネルバは次第に戦力を高めてます。こちらもそれの対策は取りましたが、戦いは拮抗するかと。当然、戦死者だって出て来ます」

 

『それは……』

 

モニターの向こう側でカガリは視線を反らした。

オーブの理念に反した行為、その為に戦死者が出る。

感情ではこんな事は止めさせたいと思うカガリだが、どうする事も出来ないのが現実。

連合と同盟を結んだ時点でこうなる事は見えてたし、指示に従えないのなら同盟を解かれる事も充分にある。

そうなればオーブの軍事力だけでは自国の自衛はままならず、再び戦火が襲い来るだろう。

理想と現実の狭間に葛藤するカガリだが、悩む暇もなく後ろのユウナが代わりにマイクを手に取ってしまった。

 

『戦闘になるのだろ? 当然だ。この戦いが後のオーブ、引いては世界の平和に繋がるのなら犠牲は止むを得ない。我が軍の兵士はオーブの平和を維持する為に居る。その為になら自らの命を犠牲にしてでも戦う覚悟がある。そうでなければ兵士になる資格はない』

 

「ユウナ殿はその辺りを良く理解してるようで」

 

『これが現実だよ。それよりもこんな事の為に専用回線を使ったのかい?』

 

「そちらの代表はまだ若い。だから前の戦闘でも艦艇に搭乗して前線を見ていましたね。ご自身の国の兵士が死ぬ事の辛さ。すぐに慣れる事は無理でも克服しなければなりません」

 

『何が言いたい?』

 

「我々も全力を尽くします。ですが、それだけ被害も大きくなると言う事です」

 

『変わった男だ。用が終わったのなら切るぞ』

 

カガリの返事を待たずしてユウナは一方的に回線を切断してしまう。

ネオは座ってたイスから立ち上がると、先程言われた事を染み染みと感じて居た。

 

「変わった男ねぇ。そうだな、俺らしくもない……俺らしい?」

 

ネオは自らの言葉に疑問を浮かべるが、答えはわからず喉に引っかかったような感覚は消えない。

 

///

 

医務室で眠るステラは酸素マスクを付けた状態で暴れられないようにベルトで手足を固定されて居た。

シンはあれから頻繁にステラの様子を見に来てるが様態は日に日に悪くなる一方で、軍医もエクステンデッドの知識はない為に手の施しようがない。

辛そうに呼吸する彼女の手を握るシンはただ祈る事しか出来なかった。

 

「先生、ステラは大丈夫なんですか?」

 

「正直言うと良くない。体は薬物投与のせいでボロボロだ。向こうに居た時は一定期間で何かしらの薬物を投与してたんだろ。でなければ体も精神も保たない」

 

「そんな……どうにもならないんですか?」

 

「出来る事ならしてやりたいが……こちらも万能って訳でない。これ以上は連合軍の研究データが必要だ」

 

突き付けられる現実にシンは愕然とする。

ようやく再開出来たにも関わらず、このままでは彼女と共に居る事は出来ない。

その時不意に、ステラのまぶたがゆっくり開いた。

 

「シ……ン」

 

「ステラ!? 大丈夫?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「ステラ……」

 

シンの呼び掛けに応える気力すらなく、荒く呼吸を繰り返す事しか出来ない。

額には汗がにじみ目を開く事も辛かった。

連合から連れ出す事は出来たもののこのままでは死ぬ事すら有り得る状況に、シンは何も出来ない自身の無力さを呪う。

ステラの呼吸音だけが響く病室で、入り口の扉が開かれた。

視線を向けた先には緑色の制服に身を包むヒイロの姿。

 

「ヒイロ……」

 

「例の施設に残ったデータは全てプラントの研究施設に送られて居る。お前がここに居た所で何も出来ない」

 

「あぁ、わかってる。でも少しで良いからステラと一緒に居たいんだ」

 

「その女が気になるのか?」

 

以前のようにいきなり殺そうとする事はないが、ヒイロが向ける視線はいつもの様に鋭かった。

 

「このままだとそう長くは保たないかもしれない。非人道的な強化のせいで体がボロボロなんだ。遺伝子操作で生まれたコーディネーターはダメで、こんなのは許されるのかよ!! クソ……何なんだよ、ブルーコスモスって」

 

「反プラントを掲げる主義者か。シン、お前の怒りは人として正しい感情だ」

 

「何が言いたい?」

 

「遺伝子操作を受けてるコーディネーターだろうと人間には変わりない。ブルーコスモスの様に大義の名の下に思考を停止する事の方が在るべき人間の姿ではない。周囲の環境や状況に流されるな。自分の感情で行動しろ」

 

「それが正しい人間の生き方……」

 

「俺はそう学んだ。だからその感情を忘れるな。怒りも悲しみも抱えるのが人間だ」

 

ヒイロの言葉にシンは静かに頷く。

そして2人がこれだけ長く会話するのはこれが初めての事だ。

 

(そう言えばヒイロとまともに話するの初めてだな。無口で何考えてるかわかんないヤツだけど、こう言う事も言えるのか)

 

初めてヒイロの人間性を垣間見るシン。

だが状況はそんな2人を戦地へと誘う。

ミネルバ艦内に警報が響き渡り戦闘が開始する事を知らせて来た。

視線を合わせた2人は医務室から飛び出すとまっすぐにモビルスーツデッキに走る。

 

「また連合軍が来たのかよ!!」

 

「いいや、以前の様にオーブ軍が居る可能性もある。どちらにしても数では相手が有利だ」

 

ブリッジの艦長シートの上でタリアは敵軍の素早い動きに舌を巻いた。

当初の予定通りジブラルタルへ向けて発進したミネルバ。

だが進路上にはオーブ軍が待ち構えており、退路も抑えられており突破する以外に方法はない。

数だけを見ればヒイロが言った様に相手の方が多かった。

航行を続けるミネルバに、再び連合軍とオーブ軍の同盟軍が戦闘を仕掛けて来る。

 

「コンディション・レッド発令。これより戦闘態勢に入ります。モビルスーツ隊は順次発進して」

 

『コンディション・レッド発令。パイロットは搭乗機にて順次発進』

 

「面舵30、進路を東に」

 

タリアの指示を聞いてメイリンはインカムのマイクに復唱し艦内放送で各員に伝える。

ミネルバの前方に待ち構えるオーブ軍艦隊、その数は護衛艦を入れて7隻。

全ての主砲はミネルバに向けられており、射程圏内に入ると一斉射撃を始めた。

大気を揺らす巨大な弾はミネルバに向かう。

 

「敵艦隊より砲撃です!!」

 

「モビルスーツ発進停止、対空砲火急いで!! 面舵、更に10!!」

 

タリアの声に従いミネルバは機敏に動く。

対空砲火により撃ち落とされる敵の弾、だが爆散する弾の中からは更に散弾が発射された。

ミネルバの頭上で雨のごとく降り注ぐ散弾は広範囲で、容赦なく装甲をズタズタに破壊する。

 

「くっ!! 自己鍛造弾。被害状況は?」

 

「表面装甲第2層まで貫通、甚大な被害です。2時方向よりオーブ艦、更に6」

 

「インパルスとセイバーを出させて。トリスタン、イゾルテで迎撃。目標、敵艦郡。どこかに連合軍の艦隊も居る筈。索敵を急がせて」

 

ミネルバに設置された巨大な砲身がオーブの艦隊に照準を定める。

強力なビームは空気を焼き払いながら敵艦へ発射された。

敵からの攻撃を遠ざける間にモビルスーツ隊を発進させる。

コアスプレンダーに搭乗するシンは祖国であるオーブともう何度目かの戦闘に複雑な心境だった。

 

(またオーブか!! そうやってまた俺達の前に来るなら倒す!! 倒すしかないじゃないか!!)

 

今は悲しみを怒りに変えて、迫り来る敵をなぎ払うしか生き残る道はない。

コックピットに入り込み操縦桿を握り締めるとペダルを踏み込んだ。

 

「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!!」

 

メインスラスターから青白い炎を噴射してカタパルトからコアスプレンダーは発進する。

同じくしてアスランのセイバーもカタパルトに脚部を固定させ発進態勢に入った。

「アスラン・ザラ。セイバー発進する」

 

発進したセイバーの装甲はバッテリー電力が供給されて色が変化する。

コアスプレンダーも各フライヤーとドッキングしフォースシルエットに変形するとメインスラスターを全開にした。

迎撃に出るオーブ軍のムラサメにビームライフルの銃口を向ける。

 

「落ちろ!!」

 

ビームライフルはモビルアーマー形態で空を飛ぶムラサメの胴体を正確に貫いた。

機体はコントロールを失い、黒煙を上げながら海に落下し爆発する。

シンは向かって来る敵に対してビームライフルのトリガーを引きまくった。

 

「こんな所で死ねるか、俺はステラを守るんだ!!」

 

次々に撃ち落とされるムラサメ。

だが敵の数は膨大で落としきれなかった無数の機影が後方のミネルバに向かって飛んで行く。

 

「クソ!! 数がいつにも増して多い!!」

 

その中でセイバーに搭乗するアスランもオーブ軍のモビルスーツを撃退して居た。

向けられた照準は正確でモビルスーツ形態に変形したムラサメの頭部を撃ち抜く。

メインカメラが破壊され視界が完全に効かなくなる。

次の敵に照準を合わせたアスランはビームサーベルを引き抜き機体を加速させ接近戦に持ち込む。

 

(またオーブか!! 俺に撃たせないでくれ!!)

 

プラントの為に戦うと言ったアスランだが、その心の中にはまだ甘さが残って居た。

接近するセイバーに銃口を向けるムラサメ。

発射されるビームは高速で迫り来るが、アスランは寸前の所で回避すると一気にメインスラスターを吹かして詰め寄る。

右手に握ったビームサーベルを振り上げ袈裟斬り。

高出力のビームは装甲を容易に切断し、頭部と右肩に掛けて破壊する。

 

(これなら帰れる筈だ)

 

戦闘能力を失ったのを確認したアスランは標的を切り替える。

レーダーに反応する連合軍の機体。

それはアーモリー1で強奪されたカオスだった。

アスランは背中のフォルトゥス砲を向けるが操縦桿のトリガーを引くのを躊躇してしまう。

 

「コイツはダメだ。強力過ぎる」

 

「寝ぼけてんのかよ!! 今日こそ落としてやる!!」

 

「クッ!!」

 

アスランの感情など知る由もないスティングはビームライフルの銃口を向けてトリガーを引く。

迫り来るビームに回避行動を取るアスランだが、カオスの機動兵装ポッドが死角から来た。

ポッド内蔵のビーム砲がセイバーを襲う。

 

「コイツ、使い慣れてる」

 

「オラオラ!! 反撃して来ねぇのか!!」

 

「このくらい!!」

 

スラスターで姿勢制御するセイバーは発射されるビームを匠に回避して行く。

そしてビームライフルのグリップを再び握り締め、照準をポッドに合わせた。

大型のスラスターにより空中を自在に動き回るポッドだが、アスランは先読みして動く先に向かってトリガーを引く。

発射されたビームはポッドの1つを貫いた。

 

「カオスは元々ザフト軍のモノだ。行動パターンは把握して居る」

 

「スラスターがやられた!?」

 

「あと1つ、そうすれば!!」

 

「やらせるかよ!!」

 

残るポッドに照準を合わせようとするアスランだが、スティングはさっきの動きを見てすぐに呼び戻した。

機体に回収される前に破壊しようとトリガーを引き続けるアスランだが、ビームが直撃する事はなくカオスの背面に取り付く。

機動力を確保したカオスはメインスラスターを吹かしセイバーに詰め寄りながらビームライフルを向ける。

アスランはシールドを構えて回避するだけで攻撃する意思を見せない。

 

(キラのように上手くは出来ない。こうするしか……)

 

オーブ軍の量産機相手ならパイロットを殺さずに無力化する事は容易いが、機体の性能も高くパイロットの技量も備わってる相手にはそう簡単にはいかない。

アスランはセイバーをモビルアーマー形態に変形させると瞬時に加速してカオスから距離を取る。

 

「逃げんじゃねぇ!!」

 

スティングは素早くトリガーを連続して引くが、発射されたビームは雲の中へ消えてしまう。

 

///

無数のモビルスーツが出撃しオーブ軍の空母からは砲撃の雨がミネルバに降り注ぐ。

 

「回避しつつミサイルを撃ち落して!! 」

 

タリアの指示に従い甲板上に居るレイとルナマリアのザクが動く。

ビームライフルとオルトロスの砲撃で迫るミサイルの雨とモビルスーツ軍を撃ち落とす。

ヒイロは今回は前線には出ずにザクと一緒にミネルバの防衛に入って居た。

モビルアーマー形態で高速で接近するムラサメにグフの4連ビームガンを向ける。

 

「戦闘レベル、ターゲット確認。排除開始」

 

 

バラ撒かれるビームの弾は1発では致命傷にはならないが、ビームライフルよりも攻撃が当たりやすい。

当たらずとも牽制には充分で、ビームは装甲をかすめてダメージは通って居た。

敵は容易に接近出来ず変形を解き、ビームライフルでグフを仕留めようとする。

だがモビルスーツ形態になれば機動力や運動性能は量産機止まり。

テンペストビームソードを引き抜くグフはムラサメ部隊に突っ込んだ。

 

『は、早い!?』

 

遺伝子操作を受けてない同じ人間でも戦闘技術はヒイロが圧倒して居る。

振り下ろされた右腕に敵パイロットは反応出来ず機体は両断され炎に包まれた。

ペダルを踏み込むヒイロは機体を加速させ次の敵に迫る。

 

『来るぞ!! 3機で囲い込め!!』

 

正面、左右からグフを囲むムラサメ。

だがヒイロは構わずに正面の敵に突撃する。

ビームをシールドで強引に防ぎながら攻撃が届く距離にまで近づき横一閃。

けれども切っ先は装甲に触れる事はなく、敵パイロットは寸前で後退する。

 

「甘いな」

 

すかさず次の攻撃を繰り出す。

左腕の4連ビームガンがムラサメの右脚部を捉え、連続して発射されるビームにより破壊されてしまう。

 

『しまっ--』

 

爆発により姿勢を崩す機体。

動けない隙を付きコクピットに切っ先を突き立てる。

搭乗してたパイロットは絶命し、制御を失った機体は海へ落下した。

 

『やってくれたな!!』

 

味方が倒された事に逆上したパイロットはビームサーベルを引き抜き加速を掛ける。

目前に迫る敵にヒイロは振り向くと同時に左腕からスレイヤーウィップを伸ばし振り払った。

高周波パルスの流れる鉄の鞭は赤く発光し、鋭くムラサメの胴体に叩き付けられる。

スレイヤーウィップが打ち付けられた装甲はえぐり取られ、パイロットは攻撃された事にも気が付かずに消し飛んだ。

 

「残り1機」

 

『コイツ強いぞ!! 新型でもないのに!!』

 

「逃がすか!!」

 

背を向けて逃げようとするムラサメにヒイロはメインスラスターの出力を全開にする。

恐怖に駆られるパイロットに冷静な判断は出来ず、追い掛けて来るグフに怯えるだけ。

 

『く、来るのか!?』

 

機体を追い抜くと同時にテンペストビームソードで斬り抜ける。

上半身と下半身に分断され、爆発がグフを包む。

 

「敵機撃墜確認。まだ来るか」

 

破壊してもまだ敵モビルスーツ部隊は存在する。

ミネルバから離れて居たヒイロは1度合流する為に敵軍に背を向けた。

 

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

ガナーザクがオルトロスで高出力ビームを照射しモビルスーツ部隊の連携を分断させる。

散開する敵機、そこにレイがビームライフルで確実に撃ち落とす。

合流したヒイロもグフの両手を突き出しビームガンを連射した。

無数に飛び交うビーム、弾、爆発。

レーダーを確認したヒイロはミネルバで砲撃を続ける2人に通信を繋げた。

 

「敵機残り40機以上、奇跡でも起こらない限り勝ち目はないぞ」

「だがやるしかない。出来なければここで死ぬだけだ」

 

「そうよ、こんな所で死ねない!! このぉぉぉぉ!!」

 

『インパルス、敵を抑え切れません!! 右舷よりムラサメ5機、グフは迎撃を』

 

「了解、直ちに破壊する」

 

通信士のメイリンの声を聞くとヒイロはまた前線に向かって機体を飛ばす。

モビルアーマー状態のムラサメに真正面から突っ込むヒイロ、ぶつかる寸前に左マニピュレーターで主翼を強引に掴んだ。

 

『コイツは!?』

 

「無駄だ」

 

SFSのように乗る形となったグフは変形を解かれる前にテンペストビームソードを機体に突き刺す。

黒煙が吹き上がり高度が下がる。

機体が爆発する前に飛んだグフは4連ビームガンを向けビームを撃つ。

迫るムラサメにビームが直撃し爆発、もう1機に照準を合わせトリガーを引く。

無数のビームの弾が装甲を破壊し高度を維持出来なくなった機体は海へ落下し巨大な水しぶきを上げる。

だが残りの2機はグフを通り抜けてしまって居た。

 

「そっちに2機向かった」

「こっちは任せて!!」

 

ルナマリアがオルトロスでヒイロが撃ち漏らしたムラサメを撃ち抜く。

高出力ビームに直撃したムラサメは一撃で爆発し、その炎にもう1機も巻き込まれてしまう。

 

「ヒイロ、大丈夫?」

「問題ない。お前の射撃は当てにしてる」

「当たり前でしょ」

 

「そうだな、次が来るぞ」

連合軍から数え切れない数のムラサメが飛んで来る。

そして射程距離内に入ると大量のミサイルがミネルバに放たれた。

ブリッジでは余りの数にアーサーが冷や汗を流す。

対して艦長であるタリアは一瞬たりとも怯んだりはしない。

「トリスタンで撃ち落して!! 取り舵!!」

 

対空砲火が迫るミサイルを撃ち落とす。

だが全てを破壊する事など出来ず、撃ち漏らしたミサイルが直撃しミネルバから煙が上がる。

損傷したのはミネルバだけでなく、レイのザクもミサイル攻撃により左腕を失って居た。

「この程度、なんともない!! ルナマリア、ミサイルとモビルスーツは俺達でやる。敵艦を撃つんだ!!」

 

「了解!!」

 

レイのザクは残った右手でビームライフルを撃ち続けるがミネルバは完全に防戦一方になって居た。

さっきのムラサメ部隊が旋回しもう一度攻撃を仕掛けて来る。

 

「右舷後方からムラサメ、来ます!!」

「敵を寄せ付けないで!!」

ブリッジではタリアの激が飛ぶ。

だがモビルアーマー形態のムラサメは機動性が高く撃ち落すことは困難、ルナマリアでも1度に10を超える数は捌き切れない。

雨のようにビームと弾が降り注ぐ中、迎撃を掻い潜った1機がミネルバの眼前に来てしまう。

モビルスーツに変形したムラサメはブリッジにビームライフルを向けた。

 

(クッ!! 突破された)

 

顔を歪めるタリア。

だが上空から一筋のビームが飛んで来ると正確にムラサメの右腕だけを破壊した。

レーダーに反応するのは以前にも現れたあの機体。




鉄血の第4話、モビルスーツが映るだけで戦闘しない回があるのがガンダムの良い部分だと自分は思います。クーデリアはリリーナとディアナが歩んだ道を辿って行く感じですかね?
あと、この作品を書く上で1つだけ意識してる事があります。
そんなに大した事ではないのですがわかる人は出るかな?


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第16話 悲しみ深く

「オーブ軍は戦闘を止めて下さい」

 

また戦闘中に現れたフリーダム。

更には海中からアークエンジェルも登場し現場はまた混乱してしまう。

背中の青い翼を広げるフリーダムを見たアスランはコンソールパネルに指を伸ばしキラに通信を繋げた。

 

「キラ、何故また出て来た!! お前はただ戦場を混乱させるだけだ!!」

 

「アスラン……でも僕は……」

 

アスランは戦場に現れたフリーダムに怒りをあらわにした。

ビームライフルでフリーダムを狙い撃つが、キラは反射神経だけであっさり避けてしまう。

 

「アスラン!?」

 

「下がれ!! こんな事をしても何も変わらない!!」

 

ビームサーベルを引き抜くセイバーはフリーダムに詰め寄り袈裟斬り。

だが左腕のシールドで受け止められ閃光がほとばしる。

密着する2機。

そのすぐ後ろにはセイバーを追い掛けて来たカオスが居た。

 

「戦場で止まるなんて死にてぇのか!!」

 

「クッ!! アスラン、ゴメン。でも今だけは!!」

 

キラの視界がクリアになる。

反射神経、反応速度が飛躍的に上昇し目の前のセイバーを蹴り飛ばす。

 

「グアァッ!! キラ!?」

 

ビームサーベルを抜くフリーダムはカオスに詰め寄り一瞬の内に斬り抜ける。

右腕と両脚部を切断されたカオスは重力に引かれて落ちるしか出来ない。

 

「な!? 何だと!!」

 

海へ落下したカオスは水しぶきを上げ沈んで行く。

邪魔になる相手を排除したキラは再びアスランのセイバーと向かい合う。

 

「確かにキミに言う通りかもしれないけど……僕はオーブを撃たせたくない」

 

「だったらお前はミネルバは沈めと言うのか!! 今攻撃を仕掛けて来るのは地球軍とオーブだ!!」

 

「そうかもしれないけど、カガリはこんな事を望んでない!! 死んで行ったウズミ代表とオーブの理念を守る為に!! そうやってアスランはオーブを撃つのか? この犠牲は仕方のないモノだと言って、ウズミ代表やカガリが守ろうとしてる理念を切り捨てるのか?」

 

「ならお前がする事は戦場で戦う事ではない!!」

 

「だったらアスラン、僕はキミを撃つ!!」

 

互いにビームサーベルをマニピュレーターに握らせる。

密接する両者はビームサーベルを振り被り、激しい火花が飛び散り閃光が輝く。

左腕に装備する赤と白のシールドが弾き飛ばされ、アスランは久しぶりに戦うキラの戦闘能力に舌を巻く。

 

「なっ!?」

 

そしてセイバーが破壊されるのも一瞬の出来事。

サイドスカートからもう1本ビームサーベルを引き抜いたフリーダムは一閃するとセイバーの両脚部を斬る。

更に脇下から救い上げるようにして右腕を付け根から切断した。

片腕しか残されてないセイバーにダメ押しで蹴りを当て、アスランは何も出来ずに戦闘不能にされてしまう。

ボロボロにされたセイバーは他の機体と同様に海に落ちる。

 

///

 

ミネルバの甲板上ではレイの指示に従い、ルナマリアが敵艦にオルトロスの高出力ビームを当てて居た。

動きの遅い艦艇、更には海上戦ともなれば動く先も読みやすい。

目標を照準に収めトリガーを引く。

赤黒いビームは一直線に進み、艦艇のブリッジを正確に撃ち抜いた。

全体が炎に包まれ艦は沈んで行く。

 

「これで3隻目!! 次、このぉぉぉ!!」

 

ルナマリアはエネルギーの続く限りトリガーを引き続ける。

発射されたビームは艦艇目掛けて突き進んで行くが、それを敵軍のムラサメがシールドを構えて阻止しようとした。

だがアンチビームコーティングの施されてないシールドでは防ぎきる事が出来ず、機体はビームに貫かれると爆発する。

それでもビームのエネルギーはまだ残っており、ムラサメを破壊してそのまま艦艇にも直撃した。

 

「チッ、一撃で落とせない。もう1発!!」

 

捨て身のムラサメによりエネルギーの出力が落ちてしまい、艦艇に損傷を与えるだけに終わってしまう。

ルナマリアはオルトロスの銃口を向けるが、敵はガナーザクを落とそうと4機編隊を組んで迫って来た。

照準を艦艇ではなくムラサメに合わせるが、その先でヒイロのグフが接近戦を繰り広げる。

 

「ヒイロ!?」

 

「雑魚は俺達がやる。お前は敵艦に集中しろ」

 

加速するグフはテンペストビームソードを振り上げる。

敵は反撃する事も出来ずに機体を両断され爆発に包まれた。

それを見たヒイロは左腕からスレイヤーウィップを伸ばしなぎ払う。

ビームライフルの銃口を向けるがトリガーを引くには間に合わず、ムラサメは右肘から先を溶断された。

 

『そんな!? ぐあああぁぁぁ!!』

 

切っ先が背部から突き出る。

コクピットを貫かれたムラサメは鉄の塊となって重力に引かれて行く。

次の目標に狙いを定めるヒイロだが、敵はビームサーベルを振り上げてすぐ傍まで来て居た。

 

『ザフトの蒼い鬼神は俺が落とす!! 貰った!!』

 

「クッ!!」

 

激しく飛び散る火花。

シールドを構えギリギリの所でダメージは通さない。

だが密着した状態では大振りのテンペストビームソードは使えず、ムラサメは頭部バルカンでグフを撃つ。

青い装甲に穴が空く。

機体がパイロットに異常を訴えるが、ヒイロは操縦桿を固く握り締めるだけ。

敵はそのままバルカンでコクピットを狙おうとするが、一筋のビームが左脚部を撃ち抜いた。

 

『しま--』

 

爆発により姿勢が崩れてしまう。

隙が出来た敵にヒイロはテンペストビームソードで横一閃。

機体は胴体から半分に別れて落ちて行く。

視線を向けた先には左腕を失ったレイのザクが見え、ビームライフルで残りの1機も撃破して居た。

 

「敵の数が減って居るとは言え油断するな。戦況を持ち直す事さえ出来れば、タンホイザーで突破口が開ける」

 

「あぁ、だがその前に敵の編成を崩す必要がある。確認出来ただけで12機、来るぞ」

 

ミネルバの眼前には連合軍からの増援が来て居た。

ストライカーパックを背負ったウィンダム部隊が一斉にミネルバに襲い掛かる。

ブリッジのタリアは口が乾く程に檄を飛ばす。

 

「対空砲火、トリスタンで迎撃!! インパルスとセイバーは?」

 

「セイバー、フリーダムにより戦闘不能。今作業班に回収されました」

 

「シンはどうしてるの? すぐ迎撃に向かわせて!!」

 

「了解」

 

新造艦のミネルバだが至る所で火災が発生しており黒い煙が上がって居る。

かろうじて原型を保ってる状態で余裕など全く無い。

残弾もエネルギーも気にする暇はなく、今は1機1隻でも多く敵を倒すしか生き延びる方法はなかった。

フォースインパルスに搭乗するシンは命令を受け、メインスラスターを全開にして12機のウインダム部隊へ突入する。

 

「コイツら、やれるなんて思うなぁぁぁ!!」

 

ビームライフルでウィンダムの胸部を撃ち抜く。

敵機は一斉にインパルスに向き直り、握るビームライフルの銃口を向けて砲撃を浴びせる。

だがシンはアンチビームコーティングが施されたシールドを構え、横に振り払うと迫るビームを反射して相手に返した。

反射されたビームは右腕に直撃し爆発すると、ウィンダムの右腕は破壊されてしまい撤退を余儀なくされる。

背を向ける相手に今度はシンが銃口を向け、躊躇なくトリガーを引く。

 

「まだ居るのかよ!!」

 

迎撃に当たるシンだが数には敵わず、無情にも突破されてしまう。

加速を掛けるウィンダムはミネルバに取り付こうとするが、ヒイロのグフが立ち塞がる。

先頭のウィンダムに詰め寄りテンペストビームソードを突き刺す。

 

『ザフトの蒼い鬼神もここまでだ!! 例え命に変えても!!』

 

「クッ!! 死ぬ気か!!」

 

負傷しながらも敵パイロットは操縦桿を握り締め、ウィンダムはテンペストビームソードを突き刺された状態でグフに組み付いた。

身動きが取れなくなるグフ。

ルナマリアは助けようとオルトロスを向けるが、威力の高すぎるビームでは味方ごと破壊してしまう。

 

「ヒイロ、逃げて!! このままじゃ--」

 

次の瞬間、耐え切れなくなったウィンダムは爆発を起こし、その炎にヒイロのグフも巻き込まれた。

愕然とするルナマリア。

けれども敵の猛攻は止まらない。

 

「ルナマリア!! グフの反応はまだある、次が来るぞ!!」

 

「レイ……」

 

「撃ち続けるんだ!! このままでは!!」

 

また1機、インパルスを突破したウィンダムが次はガナーザクを狙う。

発射されたビームは甲板に直撃し激しい振動がルナマリアを襲った。

 

「くぅぅっ!! 死んでたまるもんですか!!」

 

トリガーを引く、発射される高出力ビーム。

それは迫るウィンダムの左腕を持ってくが、同時にそこまでだった。

人差し指で何度もトリガーを引くルナマリアだが、銃口からビームは発射されない。

コンソールパネルはエネルギー残量が0になった事を表示して居た。

 

「エネルギー切れ!? だったら!!」

 

オルトロスを捨てシールド裏からビームトマホークを引き抜くガナーザク。

大きく振り被ると投擲し、ウィンダムの頭部にビームトマホークが突き刺さった。

だがそれだけでは敵の動きは止まらず、慣性に乗ってミネルバにぶつかって来る。

大きな爆発と振動が襲い掛かりルナマリアのザクも巻き込まれた。

 

「キャァァァ!!」

 

甲板上で倒れ込む赤いザク。

破壊は免れたがコクピット内部にまでダメージが通っており、破損した部品がパイロットスーツを貫通して体の至る所を傷付けた。

危機的状況の中、ミネルバを助けるかのように海中から天使が現れる。

ブリッジではタリアが神妙な面持ちで見つめて居た。

 

「アークエンジェル……アーサー、タンホイザー発射準備」

 

「えぇ!? ここで使うのですか?」

 

「幸か不幸か敵も怯んでる。ココしかチャンスはない、前面の敵部隊をなぎ払う!!」

 

「り、了解しました!!」

 

ミネルバの機首が開放されタンホイザーが展開される。

再び介入して来たフリーダムとアークエンジェルの存在に敵軍も動揺しており、発射に時間の掛かるタンホイザーだがその時間が確保出来た。

前面に展開する連合とオーブの艦隊とモビルスーツ部隊。

 

「タンホイザー、エネルギー充填率80パーセント」

 

「それだけあれば充分行ける!! 撃ちなさい!!」

 

「タンホイザー発射!!」

 

充填率は完璧ではないが発射される巨大なエネルギーはそれらを容赦なく飲み込み、立ち塞がるモノ全てを破壊した。

レーダーに映る敵艦隊とモビルスーツの数は一瞬の内に消え、ようやく1つの突破口が顔を覗かせる。

滅茶苦茶になる戦況の中でシンは損傷したミネルバ、ザクのコクピットから回収されるルナマリアの姿を見た。

 

「ミネルバが……ルナ……」

 

矛盾して居るフリーダムとアークエンジェルの行動。

負傷した仲間。

そして死にたくないと言う強い生存本能。

感情が爆発したシンは雄叫びを上げた。

 

「こんな所で……こんな所で死ねるかぁぁぁ!!」

 

頭の中がクリアになる。

相手の動きがまるでスローモーションのように見え、反応速度が飛躍的に上昇した。

鋭く睨み付ける赤い瞳はオーブの艦艇、タケミガヅチを捉える。

 

「メイリン、ソードシルエット!! 敵の頭を潰す!!」

 

「了解、ソードシルエット射出します」

 

カタパルトからすぐに発射されたソードシルエット。

シンはレーダーで位置を確認するとフォースシルエットをパージし、ガイドビーコンでソードシルエットを誘導させ背部とドッキングさせた。

トリコロールカラーだった装甲は赤色に変わり、2本のエクスカリバーを連結させマニピュレーターへ握らせる。

タンホイザーが開けた突破口を塞がんと集まるオーブ艦隊目掛け、シンはペダルを踏み込み機体を加速させた。

 

「邪魔をするなァァァ!!」

 

眼前に立ち塞がる連合のウィンダム。

ビームライフルを向けインパルスを狙うが、発射されたビームはシールドに防がれ、巨大なエクスカリバーが振り下ろされる。

機体は一撃で斜めに分断されパイロット諸共機体は爆発した。

接近するインパルスにオーブ艦隊は砲撃を浴びせるが、ヴァリアブルフェイズシフト装甲にダメージは通らない。

無数の砲撃が浴びせられる中でシンは一切怯む事もなく、護衛艦の甲板に着地するとエクスカリバーでブリッジを振り払う。

対艦刀とも呼ばれるエクスカリバーはブリッジを難なく切断し、完全に破壊すべく足元の甲板にも突き立てた。

取り付かれた艦艇に避ける方法はなく内部から爆発が発生し崩壊が始まる。

次の艦に狙いを定めインパルスは飛ぶ。

 

「墜ちろぉぉぉォォォ!!」

 

大きく振り上げたエクスカリバーを勢い良く叩き付ける。

護衛艦は真っ二つに切断され巨大な爆発がインパルスを包んだ。

シンの怒りと悲しみを象徴するかのように、赤い装甲のソードインパルスの猛攻は止まらない。

本命であるタケミガヅチを睨むシン。

だがそれを阻止せんと1機のムラサメが駆け付けて来た。

 

「これ以上やらせる訳にはいかんのだ!!」

 

「やられるかよ!!」

 

海上からジャンプするインパルス。

左手でバックパックからフラッシュエッジを引き抜き、接近するムラサメに備える。

相手はビームサーベルでインパルスに袈裟斬りするが、反応速度の上がったシンは簡単にこれを横に回避すると握ったフラッシュエッジからビーム刃を発生させ切り払った。

ビームサーベルを握る右腕を切断し右脚で胴体を蹴る。

 

「ぐあああぁぁぁ!!」

 

パイロットは為す術なくタケミガヅチのブリッジ前の甲板に落とされてしまう。

損傷したムラサメのすぐ傍に着地するインパルス。

敵は頭部バルカンで懸命に攻撃するが全く通用しない。

 

「ば、化物め!! クルーは脱出してくれ!!」

 

排出される薬莢、弾き返される弾が甲板に散らばる。

インパルスは握ったフラッシュエッジをバックパックに戻すと、仰向けに倒れる敵機の胴体目掛けエクスカリバーを突き立てた。

 

「これで……終わりだ!!」

 

「トダカ一佐、脱出を!! はや--」

 

白い装甲に深々と突き刺さるエクスカリバーの切っ先。

それはタケミガヅチの内部にまで到達してるが、シンの動きはピタリと止まってしまう。

 

「今……何て聞こえた? トダカ……トダカ一佐だって?」

 

愕然とするシンは震える指でコンソールパネルを叩き、カメラをズームさせてブリッジ内部を覗き込む。

そこに居たのは艦長として戦場に立つオーブ軍のトダカだった。

シンは急いで外部音声に切り替えると考えるのも後回しにして彼に呼びかける。

 

「トダカさん!! トダカさんなんでしょ!! どうしてこんな所に!!」

 

『この声は……2年前の……シン・アスカ君か!?』

 

「はい、僕です!! 2年前にアナタに保護して貰ったシン・アスカです!!」

 

『まさかな。プラントに移住した後、ザフトに入隊してたとは。流石に想像出来なかったよ』

 

「どうしてこんな事をしてるのですか!! アナタ程の人ならこんな事しなくても……」

 

『それは違う。私はオーブと市民を守る軍人だ。命令には従わなくてはならん』

 

「そうかもしれないけど、今のオーブは……」

 

『シン君、どのような形であれオーブは連合軍と同盟を結んだ。これは1つの時代が終わった事を示してる。国の為に戦って来た私達だが、オーブの考えが変わってしまった事は残念だ。けれどもそれが戦争でもあり社会なんだ。受け入れるしかない。後は私達軍人の心の中の問題だ。自分の心は自分でしか戦えない。自分の心の中で戦い、そして厳しく結論を導き出さなければならない。例えソレが……2年前の大戦が意味のないモノになるとしてもだ』

 

「トダカさん……」

 

『認めなくてはならない。オーブの理念はこの時代に必要なくなったのだ。だからシン君、時代を受け入れるんだ。強く--』

 

エクスカリバーに突き刺されたムラサメが遂に爆発してしまう。

タケミガヅチは多大な損傷を受け、ブリッジにも炎の手が回る。

崩壊が始まる艦艇の上でシンは必死になってトダカに呼び掛けた。

 

「この艦はもうダメだ。トダカさん、脱出を!!」

 

『もう間に合わん』

 

「そんな……そんな事って……」

 

爆発の範囲が更に広がる。

海水も内部へ大量に流れ込みこれ以上持ち堪える事は出来ない。

瞳からは涙が止めどなく溢れ出す。

炎に飲み込まれるインパルス、だがそれを救出するべく海中から右腕を失ったグフが飛び出して来た。

 

「ヒイロ……」

 

「脱出経路は確保した。ミネルバに帰還する」

 

「待ってくれ!! このままじゃトダカさんが……トダカさんが死んでしまう!!」

 

「そうだ、お前が殺した」

 

「そんな事ない、今ならまだ間に合う筈だ!! 俺の事なんかどうだって良い。トダカさんを!!」

 

「そんな甘い考えで戦って来たのか。無駄だったな、この男の死も」

 

「ッ!!」

 

ヒイロの言葉に息を呑むシン。

グフに連れられてミネルバに帰還する最中、沈み行くタケミガヅチを見守るしか出来なかった。

 

「うあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁァァァ!!」

 

非情な現実にシンは悲しみの悲鳴を上げる。




トダカの生き様には賛否両論ありますが、自分はどちらかと言うと否定派ですね。
故に今回はこのようにさせていただきました。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第17話 離れる希望

窮地を脱出したミネルバ。

だがオーブと連合軍との戦闘で大きなダメージを受けた。

メインエンジンは問題なく動くが火器と船体の損傷は激しく、搭載されて居るモビルスーツもセイバーとガナーザクは大破。

レイのザクファントムとヒイロのグフも中破しており、修理せずとも正常に機能するのはインパルスだけ。

この状態で再び戦闘になれば次は切り抜ける事は出来ない。

目的地であるジブラルタルまでもう少しの距離まで来て居たが、出来うる限りの修理が完了するまでミネルバは立ち往生となる。

パイロットスーツから制服に着替えたシンは医務室に足を運び、ベッドで眠るステラを見守って居た。

彼女を捕虜としてミネルバに入れてから数日が経過したが、その病状は悪化するばかり。

目元には深い隈、酸素マスクを着用ながら荒い呼吸を繰り返す。

苦しむ彼女を傍で見守りながらも、シンは恩人であるトダカを殺してしまった事が頭から離れなかった。

 

(認めなくてはならない。オーブの理念はこの時代に必要なくなったのだ)

 

(そんな甘い考えで戦って来たのか。無駄だったな、この男の死も)

 

「俺は……このまま戦えるのか? 復讐の為にあの人を殺してまで……」

 

今まではオーブ軍であろうと敵である事には変わりなく、相手を倒す事を躊躇しなかったシンだが、以前の戦闘がその決心を揺らがす。

モビルスーツ越しに顔も名前もわからない相手を殺すのとでは精神的負担は当然違う。

家族の仇を討つ為、その為にザフトに入隊した。

しかしそれがまたも悲劇を産んでしまう。

思い悩むシンだが答えは導き出せない。

 

「シ……ン……」

 

「ステラ、大丈夫?」

 

「シンは……私を守ってくれる?」

 

「あぁ、約束した。キミは俺が守るから」

 

「うん……やくそ……」

 

声を出すのも辛いステラは最後の一声を出すと再び眠りに付いてしまう。

シンは優しく彼女の手を握ってあげた。

肌から伝わって来る体温は冷たい。

医学に詳しくないシンでもこのままではステラの体は長く保たない事くらいはわかって居た。

 

「どうすれば良い。どうすれば……」

 

悩むが時間の猶予は残されてない。

1人考えて居ると医務室の扉が開かれた。

視線を向けた先にはレイとヒイロが見える。

 

「レイ、ヒイロも」

 

「どうした、何かあったのか?」 

 

「いや……このままだとステラは生きられない。医学の事とか、エクステンデッドの事は知らないけど、苦しみ方が普通じゃない」

 

「だがザフトにはエクステンデッドの治療法は確立されてない。どうするつもりだ?」

 

「それを考えてた」

 

「気持ちはわかるが今の俺達にはどうする事も出来ない。覚悟だけはしておくんだ」

 

非情ではあるが現実を突き付けるレイ。

シンも不本意ではあるがそれを受け入れるしかないと諦めて居た。

だが話を聞いて居たヒイロがある提案を持ち掛ける。

 

「1つだけ方法がある」

 

「本当なのか!?」

 

「あぁ、確実な方法だ。この女を連合に引き渡す。それしかない」

 

「連合にだって!? アイツラはステラをこんな体にした張本人だぞ!! 信用なんて出来るもんか」

 

「でなければここで死ぬだけだ。この女にはもう自力で生きる選択肢は残されてない。だからお前が選べ。連合に引き渡してでも生かすのか、ここで殺すのか」

 

シンはもう1度だけステラの表情を見つめた。

拘束具に縛られた体はやせ細り、呼吸をするのでさえ苦しんで居る。

会話もままならなくなり、そんな彼女を見てるのは辛かった。

静まり返る病室の中で、覚悟を決めたシンはゆっくりと口を開く。

 

「生きて欲しい。ステラは戦いをするような子じゃないんだ。だから普通の世界で普通に生きて欲しい」

 

「それがお前の答えか?」

 

「あぁ、それに約束したんだ。俺が守るって」

 

「そうか。なら俺がやった事にしろ」

 

「え……でもヒイロが!?」

 

「赤服のお前より俺がやった事にした方が後腐れがない。ミネルバのハッチは俺が開放させる。お前はコアスプレンダーを使え」

 

「わかった。ありがとう」

 

様子を見て居たレイはそれを止める素振りもなく、シンに協力すべく自らも手を差し伸べる。

 

「だったら警備が薄くなる夜の方が良い。警備区画や時間帯は簡単に調べられる。ガイアの通信履歴から連合の回線も割り出せる筈だ」

 

「レイ……」

 

「誰だって生きられるなら生きたいだろ」

 

3人はステラを連合に引き渡す為の計画を練る。

 

///

陽も落ちた頃、休憩室にはメイリン、ヨウランの2人が飲み物を片手に休息を取って居た。

 

「最近のシンすごいよ、この頃。『ミネルバ、ソードシルエット!!』とかガンガン怒鳴ってくるの。もう完璧エースって感じ。普段はツンケンしてるけど戦闘中はもっとすごいの」

 

「へぇ~、この間の敵艦もシンが落としたんだろ?」

 

「敵艦じゃなくて敵艦隊。撃墜数もバンバン増やして、アスランさんも顔負けって感じ」

 

「撃墜数で言ったらヒイロだって凄いんだろ? 毎回毎回機体を壊して帰って来るからこっちとしては大変だけど」

 

「うん。制服は緑なのにレイやお姉ちゃんに負けてないもん。機体の性能もあるんだろうけど、ヒイロがアスランさんやシンと戦ったらどっちが勝つんだろ?」

 

疑問を浮かべるメイリンに、ヒイロのグフの整備を担当して居るヨウランが応えた。

 

「前に議長が訪問した時に模擬戦をやる事になったんだけど、アイツ『演習をやる意味はない。そんな事をした所で戦えない兵士は死ぬだけだ』とか言ってすっぽかしたんだよ。まぁ、ちょうどその時に敵襲があって結局模擬戦はナシになったんだけど」

 

「へぇ~、そうなんだ」

 

和気あいあいと話す2人の元へ、右腕にギプス、頭に包帯を巻いたルナマリアが休憩室に入って来た。

ルナマリアはメイリンの姿を見つけると、目を吊り上げツカツカと歩み寄って来る。

 

「ちょっとメイリン!!」

 

「あっ!! お姉ちゃん、ケガは大丈夫?」

 

「大丈夫? じゃない。お見舞いにも来ないし」

 

「だって仕事だったからしょうがないし」

 

言われて少し気分を落ち込めるメイリン、けれども次の時には笑みを浮かべてさっきの話題の続きを始めた。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。やっぱりヒイロって強いの?」

 

「え? う~ん、ザクとグフだとポテンシャルが違うから一概には言えないけど、ヒイロは性能に頼るような戦い方をしてないから、どんな機体に乗ってもアレくらい動けるんじゃない? パイロットとして見たら優秀な方ね」

 

「だったらお姉ちゃんとヒイロだとどっちが強い?」

 

「あのね、ヒイロの制服は緑。アタシは赤。自分が最強だなんて自惚れる気はないけれど、赤服を任されてるプライドがあるの。負ける訳ないでしょ」

 

「でもザフトの蒼い鬼神って呼ばれてるみたいだよ?」

 

「そんなの偶然よ」

 

ザフトの士官学校を卒業時、成績優秀者には赤服が授与される。

シン、レイ、ルナマリアが当時のクラスで数少ない成績優秀者だった。

けれどもソレはあくまで卒業時のモノであり、配属されてからの戦果は全て自分で勝ち取らねばならず、赤服だからと言って優位にはならない。

現場になれば制服の色に関わらず優秀な者は数多く居る。

ルナマリアも制服の色に甘んじて来た訳ではない。

最前線で戦うミネルバのモビルスーツパイロットとして、自信と責任を持って居る。

他愛もない事を話して居ると、話題に上がって居たヒイロも休憩室に入って来た。

メイリンはそれを見て早速話題を振る。

 

「ねぇ、ヒイロ。ヒイロならもしもシンと戦うってなったらどうやってやるの?」

 

「アンタまた……」

 

「良いじゃん、お姉ちゃんだって気になるでしょ?」

 

「えぇ~と……まぁ」

 

そう言うメイリンにルナマリアも強くは言い返せず、目を逸らしながらも肯定した。

聞かれたヒイロは何もせずに鋭い視線をメイリンに向ける。

視線が交わる事数秒、ヒイロは口を開けた。

 

「インパルスはザフトが開発したXシリーズだ。量産機のグフで戦うには性能差が出て来る」

 

「うんうん、それで?」

 

「シルエット換装とデュートリオンビーム受信を阻止するのが優先させる。射撃戦ではグフに勝ち目はない。接近戦へもつれ込み優位に立つしかない。だが性能差は歴然としてる。長期戦はダメだ、詰め寄った一瞬で勝負を決める」

 

「へぇ、ならヒイロならシンに勝てるの?」

 

「たしかに近頃のアイツは目を見張るものがある。だが怒りに身を任せて戦っていてはいつか破滅する」

「破滅って……」

 

「アイツには昔の俺のようになって欲しくはない。俺がなんとかする」

 

そう言うとヒイロは設置された自販機に指を伸ばしパネルをタッチした。

中からパックされた飲料水が出て来るとソレを手に取り、これ以上は何も言わずに休憩室から出て行ってしまう。

淡々と歩く中でヒイロは過去の自分を思い出して居た。

 

(昔の俺はいつもひとりだった。人間はモビルスーツを動かす道具として割り切り、命令に従い敵を倒す。心の中には誰も居ない、自分さえも……シン、お前は違う筈だ)

 

ステラを連合軍に引き渡す為の計画が進行する中で、シンはガイアの通信履歴を調べる為にモビルスーツデッキに来て居た。

整備班は既に仕事を終えており、デッキに人の姿はほとんど見当たらない。

大破したセイバーとザクがまだ修理を終えておらず横たわる中で、セイバーの近くには隊長であるアスランが居た。

以前の戦闘でフリーダムとの戦いに敗れ自身の力不足を痛感したと共に、キラを説得する事も出来ずに終わってしまった事が心に残る。

 

(そうかもしれないけど、カガリはこんな事を望んでない!! 死んで行ったウズミ代表とオーブの理念を守る為に!! そうやってアスランはオーブを撃つのか? この犠牲は仕方のないモノだと言って、ウズミ代表やカガリが守ろうとしてる理念を切り捨てるのか?)

 

「そうかもしれないが……俺は……」

 

「こんな所に居たんですか」

 

声を聞き振り返ったアスラン、目の前には鋭い視線を向けるシンの姿があった。

 

「シン……」

 

「英雄と言われたアンタでもフリーダムには勝てませんか。最新鋭の機体も与えられて、FAITHの称号まで持ってるのに何も出来ないんですね」

 

「何だと? シン、お前は!!」

 

いつにも増して鼻に付く言い方にアスランは口調を強くし嫌悪感を示す。

だがシンもアスランに対して積もった感情がある。

これまでの戦闘でアスランはオーブ軍とフリーダムに気を取られてばかりで満足な戦果を上げてない。

そしてセイバーは破壊されてしまい、現状でアスランは戦力として換算されておらず負担は増えるばかり。

感情を高ぶらせるシンは思いの限りをぶつけた。

 

「何も出来なければ同じです!! アンタはプラントの為にザフトに入ったんでしょ? だったら何で敵を倒す事を躊躇するんですか!! 悪いのは戦闘を仕掛けて来る連合軍だ。だったら俺は、俺達ザフトはプラントを守る為に戦う。アンタだって同じだろ!!」

 

「それは……」

 

「俺は向かって来る敵は倒すだけです」

 

そう告げるシンはアスランの前から立ち去った。

1人残るアスランはここに来て決心が揺らぐ。

 

///

 

電力供給も必要最小限にされた夜、シンは行動に移った。

闇に隠れながら素早く医務室を目指しで走る。

レイのお陰で警備の隙を付いて誰にも見つかる事なくスムーズに医務室まで来る。

壁のパネルを叩きロックを解除すると中に入ると既に明かりが付いており、床には担当医が気絶して床に倒れ込んで居る。

そこにはヒイロの姿があった。

 

「ヒイロ!?」

 

「来たか、やるなら早くしろ。手筈通りに進める」

 

「あ……あぁ、わかった」

 

シンはステラの眠るベッドに急ぎ体を固定する拘束具を外して行く。

目を開けるのも辛く、口から荒く息をするステラ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「ステラ、もう少しだから。もう大丈夫だから」

 

「シン……」

 

酸素マスクを外すシンは彼女を優しく抱き、モビルスーツデッキのコアスプレンダーに向かうべく医務室を後にする。

ヒイロも一緒に扉を潜り通路に出ると、お互いに次の行動に移った。

 

「ハッチは俺が開放させる。後はお前次第だ」

 

「わかった。行こう、ステラ」

 

「うぅ……」

 

シンはモビルスーツデッキ、ヒイロは制御室に向かって走る。

秘密裏に行動してる以上は時間に余裕はなく、最短ルートで制御室に到着したヒイロは壁に設置されたパネルを操作しロックを解除しようとした。

だがその必要はなく、制御室の扉は自動的に開放される。

中に足を踏み入れたヒイロを待って居たのは、既に仕事を終えた筈のレイだった。

 

「遅かったな。準備は済ませておいた。後はシンが出るのを待つだけだ」

 

「そうか……コアスプレンダーが発進すれば警備隊にも見つかる。どうするつもりだ?」

 

「お前と一緒に暫くは営倉入りだな。それよりも、ヒイロがこんな事を言い出すとは予想出来なかった。聞いたぞ。ステラが捕虜として連れて来られた時、撃ち殺そうとしたらしいな」

 

「アイツは人為的に強化されて居る。普通の捕虜として扱えば被害が及ぶ」

 

「だから殺そうとしたのか?」

 

「精神面も操作されてるのは見ればわかる。敵の情報も引き出せないなら、殺してしまった方が手間が省ける」

 

「確かに、ヒイロの言う通りにするのが効率的だ。でもそうはしなかった」

 

「あの女を守るとアイツは言った。だから好きにやらせてやるだけだ」

 

静かな制御室の中で淡々と会話は進んで行く。

レイはシートに体重を預けながら、ヒイロは壁に背を付け腕を組んだ状態で視線も合わせる事なく話は進む。

 

「それで連合に引き渡すのも何も言わなかったのか。だが引き渡しに成功した所で、本気で助かると思って居るのか?」

 

「ここに居るよりかは生きて居られる。それでも体が治れば、またパイロットとして担ぎ出される。戦闘の為の道具として作られたアイツは金が掛かってるからな。戦場でしか生きる事を許されない」

 

「認めはしなかったがシンもわかってる筈だ。また辛い現実を突き付けられるかもしれない」

 

「アイツはそこまで弱くはない」

 

「ほぅ、どうしてそう思う?」

 

「アイツがガンダムに選ばれたパイロットだからだ」

 

「ガンダム?」

 

疑問を浮かべるレイにヒイロはこれ以上説明しない。

モビルスーツデッキに到着したシンは、抱いたステラと一緒にコアスプレンダーのコクピットに乗り込む。

酸素マスクを外した彼女の表情はベッドで眠って居た時よりも険しい。

「もう大丈夫だから、ステラ。一緒に行こう」

「うぅ……シン……いっ……しょ」

バッテリー電力を供給させメインスラスターに火を灯す。

エレベーターが起動すると同時にハッチも開放され、冷たい風邪が入り込んで来る。

左腕はステラを抱き、右手で操縦桿を握りペダルを踏み込みコアスプレンダーはカタパルトから加速した。

 

「良し、時間通りだ。発進する」

 

ミネルバから発進するコアスプレンダー。

シンは事前に入手したガイアの通信履歴から回線を割り出し、ガイアの識別コードとそれを使用し連合軍に通信を送り続ける。

コンソールパネルを叩くとヘルメットのインカムに向かって声を吹き込んだ。

 

「ネオ、ステラが待って居る。ポイントS228へ1人で来られたし。繰り返す。ネオ、ステラが待って居る--」

 

シンは繰り返し通信を続けた。

こうしてる間にもステラの体力は弱って行くが、粘り強くやり続けるしか方法はない。

通信を続けながら、夜の空を滑空する。

 

///

 

「大佐!! 本当に行く気ですか?」

 

「名指しで私を呼ぶ以上、無下には出来んだろう。他のモノは戦闘態勢で待機させろ。何かあればこちらから指示を出す」

 

「ですが……」

 

「こんな罠に掛かる程間抜けではないつもりだ。ウィンダム、出るぞ!!」

 

ネオは部下の静止に止まる事はなく、あえて通信に乗る事を決断する。

連合の艦艇から紫にカラーリングされたウィンダムは、背部のフライトユニットの主翼を広げ大空に飛ぶ。

メインスラスターから噴射する青白い炎は闇の中に一筋の光りを灯す。

 

「だが、ガイアのコードを使ってるのが気になるな。どう言うつもりだ?」

 

レーダーで位置を確認しながら、指定されたポイントに向かって飛ぶウィンダム。

メインカメラの望遠レンズを最大にして先を見る。

 

「アレは……」

 

スクリーンに映し出された映像には岩場の多い陸地へ着陸して居るコアスプレンダー。

用心の為に周囲の敵影も索敵するが、レーダーにはソレ以外の反応はない。

生唾を飲み込むネオ。

操縦桿を引き、ウィンダムはコアスプレンダーのすぐ傍に着陸した。

 

(地雷や爆発物が仕掛けてある訳でもないな)

 

警戒を解いた訳ではなくが、少なからず安全である事を確認したネオは外部通信で相手に呼び掛ける。

 

「こちら、ネオ・ロアノーク。約束通り1人で来たぞ」

 

呼び掛けて数秒、動きのなかったコアスプレンダーのハッチが開放された。

コクピットにはまだ10代の少年と、苦しそうに息をするステラが見える。

 

「ステラ!?」

 

「ネオだな、ステラを返す。武器も持ってないし、罠も仕掛けたりしてない。モビルスーツから出てくれ」

 

「……わかった」

 

シートベルトを外しハッチを開放させるネオ。

夜の冷たい風が長髪をなびかせ、ワイヤーにぶら下がり地上に降りる。

すぐ目の前にはステラと、彼女を抱えるザフトの少年の姿。

少年は歩み寄り、抱える彼女をネオに受け渡した。

 

「死なせたくないから返すんだ。これ以上ステラを戦わせないでくれ。彼女は戦いをするような人じゃないんだ!!」

 

心の内を叫ぶ少年の言葉にネオの表情はピクリとも動かない。

弱々しくなってしまったステラの体を抱え、ネオは返事を返した。

 

「わかった、約束しよう」

「本当だな? ステラの事」

「本当だ」

 

祈るようにシンはもう一度だけ聞く。

 

「ステラの病気は治るんだよな? もう苦しまなくても良いんだな?」

「あぁ、約束する」

 

「彼女の事、頼みます!!」

シンは彼女との別れに涙を流し、コアスプレンダーへ走った。

その場に留まるネオはコクピットに乗り込み発進して行くコアスプレンダーをただずっと見続けるだけ。

夜の闇から太陽の光りが差し込み始める中で、ネオは風にかき消される程の小さな声で呟いた。

 

 

「出来るなら、な……」

マスクの裏側の涙はもう枯れてしまって居た。




シンとルナマリアとの絡みは作ったのにレイとの絡みは少ないと思い組み込みましたが、中々に扱いが難しいキャラです。
ビルドファイターズの短編、誠意作成中。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第18話 燃えるベルリン

ミネルバに着艦したコアスプレンダー。

けれどもコクピットから出たシンを待って居たのは武装した警備兵。

いくつもの銃口を向けられ、無抵抗の意思を示すべく両手を上げる。

 

「シン・アスカ、軍法違反の規定に乗っ取りキミを拘束する」

 

(ッ!! 当然か……)

 

覚悟の出来て居たシンは言い訳すらせず黙って頷いた。

近づく警備兵は手錠を持っており、何も言われずともシンは両手を手錠にはめられる。

肌から伝わる鉄の感触は冷たい。

けれどもステラを連合に返した事を後悔はして居なかった。

 

「艦長がお呼びだ。付いて来い」

 

「はい……」

 

武装した警備兵が前方と後方でシンが逃げれないように挟みながら、タリアが待つ艦長室に向かって歩き出すシン。

誰も居ない通路では足音が良く響く。

緊迫した空気を感じながらも恐れは抱かない。

艦長室の前にまで来たシンは警備兵と共に立ち止まる。

 

「少し待て」

 

前の警備兵がそう言うと壁のパネルを触り、中に居るタリアに音声を繋げた。

 

「シン・アスカを連行しました」

 

『宜しい。入室を許可します』

 

「了解です」

 

音声が途切れると目の前の扉が自動的に開放された。

警備兵に続いて中に入るシン、そこには鋭い視線を向けるタリアがデスクに座って居る。

敬礼を済ませた2人はシンが逃げないように扉のすぐ前で待機した。

何も言わず1歩前に出る。

 

「アナタのした事は重い軍機違反です。無断でのコアスプレンダーの使用、連合の捕虜を脱走させ、更には敵と接触を図った。これがどう言う事かわかっていて?」

 

「はい、覚悟は出来てます」

 

「状況はレイとヒイロから聞きました。戻って来た事だけは褒めてあげる。でなければ次にアナタを見た時には銃を向ける事になって居た。何故こんな事を?」

 

「俺は彼女を助けたかった。それだけです」

 

「それがどう言う事態を招くのかわからない訳ではないでしょう?」

 

「ですがあのままではステラは衰弱して死んでしまう。治療する術がない以上、コレしか方法はありませんでした」

 

シンの言葉にタリアは怒りをあらわにし、握りこぶしでデスクを叩き付けた。

鈍い音が室内に響き、束ねられて居た書類がヒラリと床に落ちる。

 

「彼女は連合の兵士であると同時にエクステンデッドなの!! アレだけの戦闘力を持ったパイロットがまた戦場に投入されれば、こちらにも大きな被害が及ぶ!! シン、アナタは自分だけでなく味方を危険に晒したのを自覚しなさい!! この事は評議に掛けます」

 

「軍人として考えれば艦長の言う事が正しいです。ですが自分は人として彼女を助けたかった。そのせいでどれだけのリスクが出るのかはわかってるつもりです。僕の……僕の弱さです」

 

「ッ!!」

 

鈍い音が響く。

下唇を噛み締めたタリアはまたデスクを叩き付けた。

激怒する彼女は声を張り上げながらシンに叫び、艦長室から出て行かせる。

 

「営倉入りを命じます!! 指示があるまで何があろうと出る事は許しません!! 連れて行け!!」

 

下された裁決。

シンは口を閉ざしたまま頭を垂れ、もう口を開く事はない。

歩を進めるシンはゆっくりと艦長室から出て行き、レイとヒイロも居る営倉に向かって歩き出した。

1人になるタリアだが、静かになった部屋の中ではまだ腸が煮えくり返る。

 

(人として……道徳的にはそうかもしれないけれど、それが出来ないなら軍に入るんじゃない!! こんな……こんなバカげた事を!!)

 

閉鎖された艦長室からはまた鈍い音が聞こえて来る。

警備兵に連れられて歩く事数分、営倉の牢屋前まで来たシン。

周囲を見渡すと、既にそこにはレイとヒイロの姿があった。

2人は視線を向けるだけで声を掛ける事はなく、黙ってシンは冷たく暗い牢屋の中に入れられる。

警備兵は牢屋の扉にロックし、中からは絶対に出られないようにした。

 

「軍規に乗っ取り、食事は1日に3回出す。何か聞く事はあるか?」

 

「いいえ、何も」

 

「良し、手を出せ」

 

鉄格子の隙間から手錠に繋がれた両手を出す。

途中で暴れたりしないよう手首をがっちりと掴み上げ、もう1人が手錠のロックを解除した。

自由になった手首を軽く撫でたシンは設置されて居るベッドに背を預ける。

明かりもない、真っ暗な天井を見上げて、ポツリと呟く。

 

「レイ……ヒイロも……ありがとう」

 

「彼女は無事に引き渡せたのか?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「ならそれで良い」

 

「でも……本当なら俺1人で良かったんだ。レイまでこんな事に付き合わなくても」

 

「違うぞ、シン。これは俺がやりたいと思ったからやっただけだ。お前は悪く無い。気にする必要もない」

 

「レイ……」

 

レイの言葉に安堵するシン。

だがすぐ近くの牢屋に幽閉されて居るヒイロはステラが連合に戻った事を危惧して居た。

 

「安心するのはまだ早い。あの女はミネルバに長く居すぎた。衰弱した体が回復しなければ処分される可能性がある」

 

「処分って!? 約束したんだ。ステラを助けてくれるって。ステラは戦いをするような子じゃない、そう約束した!!」

 

「信じるのは勝手だが、現実を直視する覚悟は持て。エクステンデッドを開発するには時間も金も掛かる。連合はお前のようにあの女を人間としては扱わないだろう。戦場で戦う事しか生きる術はなく、使えなくなれば捨てられる」

 

「まるで知ってるみたいに言うんだな」

 

「そうだな……」

 

「ステラは自分の意思でエクステンデッドになった訳じゃないんだ。俺みたいに望んで軍に入ったのとは違う。お前はあのまま死んだ方が良いって言うのか?」

 

「そうしたくないから助けたんだろ、お前は? 混沌とする時代の中で正しい道を進む事は難しい。なら最後は自分の意思を信じるしかない。シン、お前がそうしたいと思ったのならそれで良い。俺はこれ以上、何も言うつもりはない」

 

ヒイロの言葉をシンは素直に受け止めた。

死と隣合わせの日々、その中ではタリアが言った言葉もヒイロが言う言葉は正しくはある。

だがシンの感情も決して間違ってはない。

矛盾が蔓る戦場で戦う兵士が答えを導き出すのは難しかった。

 

(覚悟……マユやみんなが死んだ事も、トダカさんを殺してしまった事も、またステラと戦うかもしれない事も、全部受け止めて正しい道を進む。その為の力を俺は持ってる筈だ。俺はもう迷わない!! 突き進む!!)

 

赤い瞳は今まで以上に力強い。

営倉に入れられて数時間、ヒイロは片手に持てるサイズのプロジェクターを取り出し、壁に向かって光りを当て内容を閲覧して居た。

秘密裏にデータ化して持って来て居たのは取り返したガイアのマニュアル。

突然の光りにレイは視線を向けヒイロが囚われて居る営倉の中を覗く。

ヒイロはただ黙々とマニュアルを頭の中に入れて居た。

 

「ガイア? 乗るつもりか?」

 

「何かが起こった時の為に最善の事をしてるまでだ」

 

「そうか……そうだな。いつまでここに入れられるかはわからない。最悪の場合もあるかもしれない。だがその時に備えて、いつでも動けるようにはして置いた方が良いか」

 

黙々とデータを取り入れるヒイロ。

明かりもない営倉の中ではプロジェクターの光りだけが溢れ出すが、突如として来訪者が現れる。

咄嗟に握ってたプロジェクターを隠すヒイロ、シンとレイが向けた視線の先にはアスランが居た。

緊張感が走る中、アスランは何も言わずにシンの牢屋の前にまで来るとゆっくりと口を開ける。

 

「釈放だ」

 

「え……どうして?」

 

「釈放だと言ったろ。今から開ける」

 

ポケットの中からカードキーを取り出したアスランは鉄格子のロックを解除した。

不信に思いながらもベッドから立ち上がるシンは開放された牢屋の中から外に出る。

レイ、ヒイロも同様に釈放され、3人は重罪を犯したにも関わらず数時間で営倉から開放された。

アスランは3人から視線を浴びながらも自由にするとその理由を説明する。

 

「デュランダル議長が手を回してくれた。今までの功績を考慮し、今回の事は不問にするそうだ」

 

「議長が?」

 

「あぁ、何を考えてなのかは理解出来ないが。普通ならこんな事にはならない」

 

「癪に障る言い方ですね。もっと閉じ込めて置きたかったんですか?」

 

「そうじゃない。だが……」

 

「議長はアンタより俺の力を信用してるって事じゃないですか? そうじゃなかったらアンタに任せてる筈だ」

 

「シン、力だけが全てではない。確かにお前は強くなった。でも力だけでは何も解決しない。今回の事だってそうだ。彼女を連合に引き渡した所で根本的な解決には繋がってない」

 

「だったらステラはあのまま衰弱死させれば良かったのですか? 敵味方に分かれてるから容赦するなと?」

 

「それは……」

 

アスランにも思いがある。

2年前、カガリと初めて出会った時は敵と味方に分かれて居た。

レジスタンスとしてザフトと戦ってた彼女をアスランは殺す事はせず、後に志を同じくし連合とザフトと戦う事になる。

シンがステラを返した事が許される事でないのなら、あの時カガリを生かした事も政治的に見れば許される事ではない。

その事を思えばシンの言葉に強く言い返す事は出来なかった。

 

「俺に偉そうに言うのなら連合と、オーブと戦って下さいよ!! 敵として向かって来る相手を倒す。その為の俺達だ。それが出来なかったアンタの言葉なんて聞く気になれませんね!!」

 

「っ!?」

 

何も言い返せないアスラン、言い放ったシンは力強く歩き営倉を後にする。

 

///

 

損傷したミネルバの修復の為に停泊して3日。

戦闘もなく、修理の目処も立って来た艦内で通信士であるメイリンは休暇を申請した。

購入したが時間がなく見れなかったラクスの映像ディスクを流し、興奮した様子でモニターを見て居る。

 

『みんな~、今日は全力で楽しんで行ってね!!』

 

「ラクスさま~!! やっぱりいつ見ても素敵!!」

 

モニターの向こう側のラクスに向かって歓声を上げるメイリン。

甲高い声は部屋中に響き渡る。

けれども彼女の部屋は共同部屋であり、もう1人の住人は耐え切れず怒りをあらわにした。

 

「メイリン!! 見るのは良いけど静かにして!!」

 

「だって~」

 

「だってじゃない!! こんなんじゃ治るケガも治んないわよ!!」

 

姉であるルナマリアは頭に包帯を巻きながらも大声を荒げる。

それでもまだスピーカーから流れる大音量の音楽は空気を揺らして居る。

メイリンも言われても尚、握ったリモコンから音量を下げる気配は見せなかった。

 

「ようやく取れた休暇なんだから好きな事やらせてよ」

 

「だからって限度ってモンがあるでしょ!! せめてヘッドフォン付けるとか」

 

「部屋にあるヤツ安くて音質が悪いんだもん」

 

止める気のないメイリンの態度にルナマリアも我慢の限界だった。

怒りに震える体、けれどもケガをした今の状態では満足に動かす事も出来ない。

考えた彼女は徐ろにテーブルの上に置かれたガラス製のコップを手に取り、ラクスの映像が流れるモニターの前に仁王立ちした。

 

「あぁ、そう!! これじゃ埒が明かない。今すぐにコレを消さないならコイツでモニター叩き割る!!」

 

「う゛えぇ!? そんなに怒らなくてもお姉ちゃん。テレビも見れなくなっちゃうよ。冗談……だよ……ね?」

 

ルナマリアの怒る瞳からは凄みが見えた。

それを感じ取るメイリンは握り締めたリモコンでゆっくりとモニターの電源を切る。

流れてた映像も消え、部屋の中には静寂が漂う。

けれども冷めぬルナマリアの怒り、無言の圧力。

耐えかねたメイリンは渋々、ラクスの映像ディスクを持ち自室を後にした。

ミネルバの通路に出ると修理作業の甲高い音が耳に入って来る。

パッケージを抱いた彼女はどうすれば良いかと悩む。

 

「この感じだとヨウランやヴィーノは仕事だろうし、アスランさんにこんな事頼めない。シンとレイも営倉から出たばかりだし頼みにくいなぁ……そうだ!!」

 

考えが決まったメイリンは通路を走り出した。

向かう先はそう離れておらず、居住スペースのヒイロの部屋。

数分で部屋の前にまで辿り着いた彼女は壁のパネルに指を伸ばしベルを鳴らした。

 

(ヒイロなら前にも一緒に見たし大丈夫な筈!!)

 

根拠もなく扉の前で本人が出るのを待つメイリン。

数秒経過すると内側からロックされたドアが解除され中からヒイロが現れた。

 

「何をして居る?」

 

「ヒイロ、お願い!! 部屋に入れて!!」

 

言いながらも足を1歩前に出し既に室内へ足を踏み入れて居る。

触れる程に近づく彼女にヒイロはにべもなく呟いた。

 

「好きにしろ」

 

「ありがとう、ヒイロ!! あの~、それで1つお願いが~。出来ればモニター使わして欲しいんだけど……」

 

部屋に入れてくれた事に感謝するメイリンだが、それだけでは目的は達成出来ない。

申し訳なさそうに言う彼女の言葉尻は消えるように小さい。

更なる要求にもヒイロはいつもの態度のまま、鋭い視線を向けて静かに応えた。

 

「勝手にしろ」

 

「ありがとう!! じゃあ借りるね!!」

 

許可を受けたメイリンは顔を輝かさせると部屋主よりも早くに奥へと進んで行く。

ヒイロも少し遅れて後ろから続いた。

室内は割り当てられた時のまま何も変わった所はなく、私物と呼べるようなモノは殆ど目につかない。

だが今のメイリンにはそんな事は関係なく、備え付けられたモニターの前にまで来ると素早くパッケージを開けディスクを挿入した。

 

「ねぇ、ヒイロも一緒にみ……って、何してるの?」

 

興奮した様子のメイリンが振り向くと、ヒイロはイスに座り作業を進めて居た。

気になった彼女は傍に近寄り、手に何を持ってるのかを覗く。

 

「テディベア? もしかしてヒイロが作ったの!?」

 

似合わない組み合わせに素っ頓狂な声を上げるメイリン。

ヒイロは裁縫道具を片手にジッと熊の出来栄えを見て居ると、そっとテディベアをメイリンに差し出した。

「欲しければ持って行け。それは失敗した」

「失敗って……こんなに上手に出来てるじゃない。良いの、貰って?」

「良いと言ったろ」

ヒイロの作った人形は店で売ってるモノのように精密に作られて居た。

片手で持てる程の小さなサイズ。

生地のホツレなどもなく、製品として売り出しても問題ない程に

失敗作の理由を語らない為にメイリンにはソレがわからないが、受け取ったテディベアを喜んで腕に抱える。

そんな彼女の様子を見る事もなく、新しくもう1体目を作ろうと生地に手を掛ける。

が、ヒイロの腕は強制的にメイリンに引っ張られてしまう。

 

「じゃあ一緒にラクスさまのコンサートを見よ!! 今度のも凄いの!! コレは--」

 

ヒイロの意思とは関係なく、メイリンが持って来たラクスのコンサート映像を3時間以上も見せられる事になる。

普通なら文句の1つでも溢れるだろうが、ヒイロは淡々と流される映像を眺めて居た。

 

///

 

満足したメイリンはパッケージを手に持ち、部屋のドアの前に立って居る。

もう片手には受け取ったテディベアを持ちながら。

 

「今日はありがとうヒイロ。テディベア、大事にするね」

 

「そうか……」

 

「また来るから、その時はよろしくね!!」

 

そう言って笑顔でルナマリアの待つ自分の部屋に帰って行った。

ヒイロは暫く通路で彼女の背中を睨み付けたが、何も言わずに部屋の中へ戻る。

艦内ではライトが点灯され、強化ガラスの向こうに見える景色は真っ暗で何も見えない。

歩いて戻った自室の中では、姉のルナマリアが帰りを待って居た。

 

「遅い、どこに行ってたの?」

「ヒイロの部屋でラクス様のコンサートの続きを見させて貰ってたの。お姉ちゃんが見せてくれないから」

嫌味を込めて言うメイリンだが、ルナマリアはその異変に気づく。

「どうしたの、その人形?」

「ヒイロに貰ったの。なんか失敗しちゃったんだって」

「こんな上手に作ってて失敗、ね~」

テディベアを見てそう呟くルナマリアはある結論を見い出す。

「普通こんなのを失敗した、なんて言ってあげたりしないわよ」

「それってつまり?」

「さぁ~、自分で考えなさい。」

 

///

 

1週間も使用して何とか艦の修復を終わらせたミネルバに新たな命令が下る。

ドイツの首都、ベルリンに連合軍の巨大モビルアーマーが出現し無差別に街を攻撃し甚大な被害が出て居た。

首都を防衛する為にモビルスーツを出撃させるが、ザムザザーと同じ陽電子リフレクターに防がれダメージは通らない。

モビルアーマーの大火力の前に通常のモビルスーツでは歯が立たず、これを倒す為ミーティングルームで作戦会議が開かれた。

 

「見ての様にこのモビルアーマーは陽電子リフレクターを装備しており通常のビーム兵器は効果がない。そこでヒイロのグフでこれをかく乱、その間にシンのインパルスで接近戦を仕掛ける」

 

ミーティングルームではアーサーが作戦の概要を説明して居た。

シンのインパルスとヒイロのグフしか満足に動けるモビルスーツはない為、ミーティングルームには2人しか居ない。

戦う覚悟を決めたシンはいつもより熱心にミーティングに取り組んでおり、入手した敵モビルアーマーの戦闘データと映像を頭の中に取り込む。

 

「取り返したガイアは?」

 

「ガイアは空中で活動出来ない。これだけ広範囲に攻撃出来る機体だ。地上部はボロボロだろう。行動も制限される場面が出て来る。そうなれば圧倒的不利になる。故に今回は空中でも活動出来るインパルスとグフのみで作戦を行う」

 

納得したシンは頷きまた視線を映像に向ける。

一方ヒイロはモビルアーマーがビームを弾く映像を見ると椅子から立ち上がり、何も言わずにミーティングルームを出ようとした。

当然、アーサーは無断で出て行こうとするヒイロを高圧的に呼び止める。

 

「ヒイロ、どこへ行くつもりだ? まだミーティングは途中だ」

 

「ゼロが必要になった」

 

「はぁ? ゼロ?」

意味不明な単語に困惑して居るとヒイロはアーサーを無視して出て行ってしまう。

「おっ、おい!? まったく、またかよ~。艦長に怒られるのは俺なんだぞ」

アーサーは涙目になりながら地面にしゃがみ込み頭を抱えた。

1人ミーティングルームを後にしてヒイロはモビルスーツデッキに向かって真っ直ぐに進む。

デッキではまだ修理途中のザクとセイバーが横たわっており、その中でグフとは違う目的の機体を探す。

回収したガイア。

損傷箇所は少なかった為機体は万全の状態で整備されており、ヒイロはハッチを開放させコクピットに乗り込んだ。

流れるようにスムーズな動きでコンソールパネルを叩き、OSを起動させバッテリー電力を供給させる。

 

「システムオールグリーン。機体に問題なし」

 

ツインアイに光りが灯りヴァリアブルフェイズシフト装甲が灰色から黒に変わる。

突然の出来事に整備班は動揺を隠せない。

特にヨウランは何度目かわからない命令違反に呆れるしかなかった。

 

「今度は何だぁ? 何でガイアに乗ってんだよ!! まだ使用許可は出てないんだぞ!!」

 

「離れてろ、邪魔になる。グゥルも借りるぞ」

 

「ウソだろ、うぉっ!?」

 

近くに人が居るにも関わらず動き始めるガイアに、ヨウランは逃げる様に立ち去った。

エレベーターで上昇し、カタパルトに脚部を固定させる。

だが目の前のハッチはまだ開放されておらず、ブリッジから通信が飛んで来た。

コンソールパネルを叩くヒイロ。

戦闘画面には艦長であるタリアが映し出された。

 

『どう言うつもりヒイロ。無断でモビルスーツを使えばどうなるか充分にわかってるでしょ?』

「あのモビルアーマーを倒すにはグフでは無理だ。代わりの機体を取って来る」

 

『許可出来ません。本艦はこれより作戦行動に入ります。これ以上私の指示を無視するのならザフトを抜けて貰います』

「このまま戦ってもミネルバは勝てない」

 

『それはアナタの考える事ではない』

「シンは死ぬぞ」

無機質な目でヒイロはタリアに訴え掛ける。

互いに譲る気はないが、時間を考えればいつまでも硬直状態を続けてる訳にも行かず、先に根負けをしたのはタリアだった。

 

『わかりました。ただし作戦時間までには戻って来る事』

 

『艦長、良いんですか!?』

 

『仕方がない。本艦はこれよりベルリンのモビルアーマー破壊作戦に出ます。シンはいつでも出られるように準備をさせて』

 

途中、アーサーが割り込んで来るがヒイロは気にせず機体の発進態勢に入る。

 

「了解した」

 

静かに呟くとコンソールパネルを叩き通信を切断した。

開放されるハッチにヒイロは両手で操縦桿を握り締める。

右足でペダルを踏み込みメインスラスターを全開にして、ガイアはカタパルトから射出された。

ヒイロが操縦するガイアはそのままメインスラスターの出力を全開にして空中に留まると、続いて自動操縦でグゥルが射出される。

ガイアのすぐ傍にまで来たグゥル、ヒイロはその上に機体を着地させ一気に加速させた。

向かう先は隠したウイングゼロの元。




ウイングゼロの登場はまだもうちょっとだけ待って下さい。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第19話 ゼロの鼓動

グゥルを土台にして空を飛行するガイア。

コクピットに座るヒイロが向かう先は海の底に隠したウイングゼロの元。

ミネルバから出撃して1時間が経過し、ベルリンで暴れるモビルアーマーを撃退作戦の時が刻一刻と迫る。

操縦桿を握るヒイロに焦りは見当たらず、レーダーには敵影の姿もなく海と時折島が映るだけ。

ウイングゼロを隠した地点まであともう少し。

だが連合もザフトも戦力圏ではないこの場所で、第3の勢力が息を潜めて居た。

向かう先にある1つの無人島、その地下に建造された秘密基地。

ここでは完成したばかりのドムトルーパーの運転試験を行っており、薄暗い司令部では突然現れたガイアに動揺して居た。

 

「どう言う事だ? バレたのか?」

 

「だがそれなら1機だけなのは変だ。アイツの識別反応は?」

 

司令部に居る数人の男は島に設置されたレーダーとカメラで空を飛ぶモビルスーツが何なのかを確認する。

イスに座りながらパネルを叩く男は解析を素早く終わらせ、振り向き司令官に状況を報告した。

 

「データーベースに照合、解析完了しました。これは……ザフトのXシリーズ。ガイアです」

 

「ガイア……だがXシリーズは連合に奪われたと聞いた。パイロットは連合か?」

 

「そこまでは……」

 

「真っ直ぐにこちらへ向かって居る。先制攻撃をされてからでは遅いぞ」

 

極秘裏に進められた地下基地の建造、及びモビルスーツ開発。

ここでバレては全てが水の泡、だが情報管理には絶対の自信があった。

偶然なのか、本当に情報が漏れて居たのかがハッキリしない現状では動く事が出来ない。

だがこうしてる間にもガイアは着実に地下基地へ迫って来て居た。

決断を決めかねる司令官は額から汗を滲ませる。

重苦しい空気が漂う中、司令部の扉が突如として開かれた。

そこに居たのはザフトの黒いパイロットスーツを着用した3人のパイロット。

先頭に立つ右目に眼帯を付けた女は前に出ると司令官に詰め寄る。

 

「どうした? 何があった」

 

「いや、ザフトの機体がここに接近して来て居る」

 

「数は?」

 

「1機だ、それが不思議でならない。何の為にここに居るのか。本当にこの場所が見つかったのか、偶然なのか」

 

「ウジウジ考えてても始まらないよ。それにザフトはベルリンのモビルアーマーに手一杯なんだろ?」

 

「あぁ、そうだが。何をする?」

 

「だったら援軍の事は考えなくても良い筈だ。ドムは宇宙での最終テストを残すだけ。地球での最後のテストは実施試験と行こうじゃないか!!」

 

「ま、待て!! 相手の目的もまだ--」

 

先頭に立つリーダー格の女パイロット、ヒルダ・ハーケンは司令官の静止も聞かずに後ろの2人を引き連れて出て行ってしまう。

レーダーには確実に接近して来るガイアの反応。

けれどもソレ以外の反応は一切見当たらない。

モビルスーツ格納庫まで来た3人はフルフェイスのヘルメットを着用し、それぞれ割り当てられた機体に搭乗した。

ドムトルーパーには左肩部と右脚部に識別用のナンバリングが施されており、ヒルダの機体は『003』、

もう1人のパイロットであるヘルベルト・フォン・ラインハルトが『004』、マーズ・シメオンが『009』になっている。

ヒルダはコンソールパネルを叩きバッテリー電力を供給させ、2人に通信を繋げた。

 

「Xシリーズっても相手は1機だ。抜かるんじゃないよ!!」

 

『心得た』

 

『俺達の存在はまだ世界に知られる訳にはいかないからな』

 

「そうだよ。全てはラクス様の為に!!」

 

3機のドムトルーパーは地下基地のエレベーターから地上へと出撃する。

 

///

 

島に接近するガイア。

ヒイロはレーダーでウイングゼロを隠した座標位置を確認するが、不意にモビルスーツの反応が3機現れた。

 

「レーダーに反応。データに該当なし。新型か」

 

木々が生い茂る中から現れたのは紫を基調とした1つ目のモビルスーツ。

右手にはバズーカを担いでおり、ソレらは照準をガイアに向けると一斉にトリガーを引いた。

発射された弾道は一直線にガイアへと進み、回避する事もなく直撃すると機体は巨大な爆発に包まれる。

その光景を目にしても、ヒルダはまだ緊張感を解いてない。

 

「まだ反応は残ってる。来るよ!!」

 

「戦闘レベル、ターゲット確認。排除開始」

 

炎の中から一筋のビームが発射された。

ヒルダ達は回避行動に移りコレを避ける。

着弾したビームは木々を焼き払い地面を抉った。

赤く光る球体の中からツインアイを輝かせ黒いモビルスーツが飛び出す。

 

「3体1とは言えザフトの新型だ。気を抜くんじゃないよ!!」

 

島に上陸したヒイロはマニピュレーターに握らせたビームライフルを向け、まずは牽制射撃を行う。

正確に発射されたビームに対して、ドムは脚部のホバークラフトを使い地上を滑るようにして移動した。

初めて見る相手の動きでもヒイロは冷静に分析し対応しようと体を動かす。

 

「あの動きは……地上専用機か」

 

「見せ付けてやろうじゃないの。このドムトルーパーの性能をね!!」

 

地上をホバーリングするドムの動きは既存のモビルスーツと比べてトリッキーな上に早い。

陸上戦に限って言えばそれだけでも優位を取れる。

ヒイロはビームライフルの銃口を向けて更にトリガーを引く。

だが相手は減速する事なく縦横無尽に動きまわりビームを容易く避ける。

接近してバズーカを構えるドム。

操縦桿を瞬時に動かしガイアをモビルアーマー形態に変形させ、ヒイロはメインスラスターを全開にして目の前の敵に飛び掛かった。

 

「なっ!? 正気かい!!」

 

発射されるバズーカに直撃するガイアだが、ヴァリアブルフェイズシフト装甲はダメージを通さない。

それでも衝撃はコクピットにまで伝わる。

強く握り締めた操縦桿を手放す事はなく、背部のグリフォンビームブレイドでドムの左腕を切断しようとした。

しかし、切断されたのはガイアの左ウイング。

 

「あれは、ビームシールド」

 

「ふん、Xシリーズが形無しだね!!」

 

「射撃戦をしても不利か。接近戦で仕留める」

 

着地したガイアは3機のドムをすり抜け中央部に向かって駆け抜ける。

だが片翼しかないせいで加速性能は下がってしまい、後ろから追い掛けて来るドムを引き離す事が出来ない。

ホバーリングで地面の砂を巻き上げながら、ドムはガイアの背後に取り付こうと追い掛ける。

 

「相手が悪かったね。地上戦でアタシ達に勝ち目はない」

 

「来るか……」

 

チラリと背後を振り向くヒイロ。

ドムはすぐ後ろにまで迫っており逃げ切る事は出来ない。

ガイアをモビルスーツ形態に変形させ脚部を地面に押さえ付けブレーキを掛ける。

同時にサイドスカートからビームサーベルを引き抜くと、迫り来るドム3機を迎え撃つ。

ヒルダは構えたバズーカの発射口下段にあるビームを撃たんとガイアに照準を合わせる。

 

「その装甲ではビームは防げまい!!」

 

先頭のヒルダ機から発射される高出力ビーム。

ガイアは回避すると共にメインスラスターを吹かしジャンプすると左肩を蹴った。

 

「コイツ!? 踏み台にしたのか!!」

 

飛び越えたガイアはヘルベルト機のドムにビームサーベルを振り下ろす。

だが切っ先は装甲を捉えるまでは行かず、構えてたバズーカの銃口を切り落としただけ。

 

「チッ、浅かったか」

 

「反撃は間に合わない。マーズ、援護しろ!!」

 

「敵の動きは見えてる」

 

着地したガイアに背部にマウントされた強化型ビームサーベルを引き抜いたマーズ機が迫る。

ホバーで加速するドムはそのままガイアに向かって横一閃。

両者の間で激しい閃光が飛ぶ。

ヒイロは左腕のシールドでビームサーベルを防いだ。

 

「付け入る隙が見えた。ここだ!!」

 

アンチビームコーティングが施されたシールドは一撃では破壊されない。

そのままドムの攻撃を受け流し、機体を反転させ頭部バルカンでバックパックを狙う。

ホバーで移動するドムは前方向には瞬時に動けるが、後退、反転は従来の機体と比較してもこれだけは格段に遅い。

連続して発射されるバルカンはバックパックに直撃し、ドムのメインスラスターを損傷させる。

 

「しまった!! 隙が出来たか」

「マーズ、3機でアイツを囲い込む。時間差攻撃だ!!」

 

「了解」

 

メインスラスターは損傷したが脚部のホバーが生きて居ればドムは充分に動ける。

態勢を立て直した3機は円のようにガイアを囲み、どこからも逃げられないようにしジワジワとプレッシャを与えた。

ヒイロはビームサーベルを構えたまま相手の出方を待つ。

 

(地上での動きが早い以外は標準的な武装しか装備してない。ビームシールドは厄介だが、確実に仕留めてみせる)

 

グルグルとガイアの周囲を回るドム。

連携と取る3人は円を解くと遂に攻撃を仕掛けた。

背後からヘルベルトのドムがビームバズーカを発射する。

けれども見えないとは言え読みやすい。

回避行動を取るヒイロはコレを避け、次に連続してマーズのドムがビームサーベルを構えて突撃した。

 

「これなら!!」

 

「甘いな」

 

振り下ろされたビームサーベルをシールドで受け止める。

再び激しい火花と閃光が飛ぶが、ヒイロは視覚が悪いにも関わらず握ったビームサーベルを振った。

そしてドムの動きを逃がす為にその場から飛び退く。

マーズのドムの左脚部が僅かではあるが斬られて居た。

けれども動きが早いせいで致命傷には至らない。

 

「クッ、俺を集中して狙ってきやがって!! 1番倒しやすいとでも言いたいのか!!」

 

損傷したマーズ機は一旦引き、初撃を繰り出したヘルベルト機が更にビームバズーカを撃つ。

ヒイロは避けようともせずにビームをシールドで受け止め、動きの止まった隙にヒルダのドムが前に出た。

強化型ビームサーベルを引き抜き、ガイアの胴体に狙いを定め突き立てる。

 

「貰ったよ!!」

 

「遅い!!」

 

ヒイロはビームサーベルが届く軌道を読んで居た。

ビームが機体には触れないように、シールドを前面に突き出し体当たりを掛ける。

強引に姿勢を崩しコクピットにビームサーベルを突き刺そうとするが、ヒルダはそれをさせない。

左胸部に装備されたスクリーミングニンバスが赤い粒子を放出した。

 

「これは!?」

 

一瞬の判断で退避するガイアだが、ドムに当てた左腕は肘から先が持って行かれてしまう。

ギリギリの所で破壊は免れるが片腕を失ってしまい、ヒイロは厳しい状況を突き付けられる。

 

「データにはない新兵器か」

 

「中々やるパイロットだね。まさか1機倒す為だけにコイツを使うとは思わなかったよ。でもこっからは遠慮しないよ!! ヘルベルト、マーズ、コイツにジェットストリームアタックを掛ける!!」

 

スクリーミングニンバスを展開する3機のドム、ヒイロはビームサーベルをサイドスカートに戻しビームライフルに切り替えると銃口を相手に向ける。

躊躇なく引かれるトリガー。

だが発射されたビームは赤い粒子の膜により装甲へは届かない。

 

「効果がない。プラネイトディフェンサーと似たようなモノか」

 

2発、3発、どれだけ撃ってもスクリーミングニンバスの前では通常のビーム兵器は無力。

攻撃にも防御にも使えるシールドを張りながら、グフはガイアに向かって攻撃を仕掛ける。

強化型ビームサーベルに持ち替えたヒルダ機は左腕のビームシールドも展開させ、ホバーで高速移動してガイアに迫った。

 

「コレで決める!!」

 

「クッ!!」

 

苦しい表情をするヒイロはメインスラスターを駆使して右側に飛び退いた。

さっきまで居た場所を通過するドムにビームライフルの銃口を向けトリガーを引く。

方向展開が遅い短所を狙って背部を狙うが、ヘルベルト機のスクリーミングニンバスがコレを防ぎ、同時にビームバズーカでガイアを撃つ。

 

「いつまで逃げられる? たった1機で?」

 

「まだ方法はある」

 

機体をジャンプさせビームを避けるガイアは島の奥に向かって移動を始めた。

当然それを見逃す3人ではなく、ドムは逃げるガイアの後ろを追い掛けて行く。

バッタのようにジャンプしながら移動するガイア、ホバーリングで高速移動するドムにとって容易く捉える事が出来る。

だがマーズ機だけはビームサーベルで斬られた左脚部が正常に機能しないせいで速度を上げられない。

 

「機能不全か。スピードがこれ以上出ない」

 

「後はアタシ達に任せな。まだ完璧に完成した訳じゃないんだ。宇宙でのテストも残ってる」

 

「わかった。一時撤退する」

 

損傷したマーズ機を置いてヒルダとヘルベルトはガイアを追う。

ヒルダはビームバズーカの照準を合わせトリガーを引き続ける。

発射されたビームは木々をなぎ倒し黒い装甲に迫るが捉える事はない。

 

「すばしっこいヤツだね」

 

2機に追われながらもヒイロは操縦桿を握り締め目的の場所に向かう。

ジャンプしながら進むガイアだが陸地がいつまでも続く訳ではなく、辿り着いた先は海が見える崖。

 

「島はここまでか」

 

立ち止まり振り返るとビームライフルを向けてトリガーを引く。

けれども何発撃った所でスクリーミングニンバスに防がれてしまう。

 

「追い詰めたよ」

 

「随分手こずらせてくれたがこれで終わりだ。ここの存在はまだ誰にも知られる訳にはいかんのでな!!」

 

強化型ビームサーベルを握ったヘルベルト機は逃げ場の失くなったガイアに突っ込んだ。

シールドもなく、逃げる事も防ぐ事も出来ない状況で、ヒイロは銃口を足元に向ける。

発射されるビームは爆発と大量の土煙を引き起こす。

 

「煙幕か!? 小賢しいマネを!!」

 

振り下ろされたビームサーベルは土煙を掻き分けるも空を斬る。

モノアイが映す先にはガイアの姿はない。

 

「反応!? 上からか!!」

 

飛び上がったガイアはビームサーベルを引き抜きドムの真上から降下して来た。

 

「だが読みが甘いぞ!!」

 

スクリーミングニンバスは機体正面にしか展開出来ない。

それでもドムは左腕のビームシールドを構えガイアのビームサーベルを防ぐ。

激しい閃光、同時にビームシールドの形状が変化し腕よりも長く伸びた。

ビームで形成されたシールドは押し付ければ武器にもなり、実体のある盾とは違い形状も自在に変化させられる。

ガイアの右脚部は簡単に切断されてしまう。

そしてダメージも与えられぬまま着地も出来ず地面に激突しコクピットに衝撃が襲い掛かる。

 

「ぐぅっ!!」

 

「満足に動く事も出来まい。これで終わりだ!!」

 

振り上げられる強化型ビームサーベル。

次の一撃で機体は確実に破壊されてしまう。

だがヒイロはそれを目の当たりにしても戦う意思を失っておらず、操縦桿を動かすと残った右手が握ったビームサーベルを地面に突き立てた。

そして素早く頭部バルカンをビームサーベルのグリップに撃つ。

充填されたエネルギーが爆発を起こし、ガイアとヘルベルト機が立って居た地盤が衝撃に耐え切れずに崩れ落ちる。

 

「なっ!? コイツ!!」

 

「ヘルベルト!!」

 

「作戦は上手く行った。あとは--」

 

姿勢が崩れてガイアにビームサーベルを突き立てる事が出来ない。

咄嗟の操作も間に合わずにドムは崩れ落ちた岩と一緒に海へ落ちて行く。

ヘルベルトが見た先では動けなくなったガイアもそこに居る。

激しい音と水しぶきを上げて2機のモビルスーツと岩は海中へと沈んで行く。

 

「水の中ではミラージュコロイドもビーム兵器も使えない。だが、このまま逃がす訳には行かん!!」

 

モノアイを光らせ海の中に逃げ込んだガイアの姿を探すヘルベルト。

水中戦が出来る機体ではないが万心不全の機体にトドメを刺すくらいなら出来る。

外からの光りが届かない海中で装甲の色が黒いガイアを目視で見つける事は困難。

レーダーを頼りにおおよその位置は確認するが、ヘルベルトは敵の姿を掴めない。

 

「どこだ? 近くに居るのはわかってる。どこに居るんだ?」

 

右へ、左へ。

闇の中で反射する一筋の光り。

ガイアのツインアイがヘルベルトの目に留まる。

動かないまま水底に横たわる機体にヘルベルトはビームサーベルを密着させて使う事でコクピットを破壊しようと考えた。

カメラをズームさせその姿を確実に捉え戦闘画面に映す。

 

「何? ハッチが開いているだと!? パイロットは……」

 

打ち捨てられた機体。

その事実に驚くヘルベルトだが、突如として新たな機体反応が現れた。

 

「データにない機体。後ろだとぉ!?」

 

気が付いた時にはもう遅い。

伸ばされたマニピュレーターは右肩からビームサーベルを引き抜き、海中にも関わらず強力なビームを発生させる。

そのまま振り下ろされた右腕。

ドムトルーパーは為す術もなく袈裟斬りされ、機体は巨大な爆発を起こす。

島の陸地で様子を見守って居たヒルダはレーダーから消えたヘルベルト機の反応、そして海面から巻き上がる巨大な水しぶきを前に背中から冷たい汗を流した。

 

「冗談だろ……この状況下でヘルベルトが負ける筈がない。一体何が……」

 

そして現れた新たな機影。

海面から勢い良く飛び出したソレは背部の両翼を広げ、胸部サーチアイを輝かせる。

 

「アレは……」

 

「機体状況に異常なし。行けるな」

 

トリコロールカラーの装甲、巨大な両翼。

赤いシールドに2門のライフルが重ねられたその機体はゼロと呼ばれたガンダム。

 

「逃がすものかァァァ!!」

 

「邪魔だ!!」

 

メインスラスターを吹かしジャンプするヒルダのドム。

スクリーミングニンバスを展開し、背部の強化型ビームサーベルを引き抜く。

万全の態勢で挑んだヒルダだが、振り下ろしたビームサーベルはシールドに容易く防がれてしまう。

スクリーミングニンバスも効果が見当たらず、ウイングゼロは右手に握ってビームサーベルで横一閃。

 

「そんな馬鹿な!! があぁぁっ!!」

 

強力なビームはスクリーミングニンバスを引き裂き右腕を切断する。

ドムは何も出来ないまま投げ落とされ、背部から地面に激突した。

衝撃がパイロットを遅い、意識を失ってしまったヒルダは操縦桿から手を離してしまう。

ヒイロは動かなくなったドムを視界に入れるが、動きがないのを見ると右足でペダルを踏み込みその場から立ち去った。

 

(今はこいつらの相手をして居る時間はない。ゼロが見せる未来……シン)

 

人型だったウイングゼロはネオバード形態に変形した。

更に速度を上げるウイングゼロはミネルバが向かうベルリンへと進路を取る。




ドムトルーパーの性能は量産機なのに強すぎです。アニメでもわずかに損傷しただけで弱点らしい部分は設定を見ただけでは思いつきませんでした。
ガイアの性能とパイロットの技術を考慮しても3体1で勝てる絵が想像出来ませんでしたので今回はこのようにしました。
次回からベルリンのデストロイ戦です。
シンとステラはどうなるのか? お楽しみに。


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第20話 その名はガンダム

ベルリンでは依然として、連合が投入した新型モビルアーマーにより街が蹂躙されて居た。

ザフト軍は必死に抵抗するが量産機がどれだけ束になってもキズひとつ付けられない。

巨大な足は目の前に立ち塞がるモノを全て踏み潰し、四方から発射されるビームはモビルスーツを、街を、人を焼き払う。

未だに避難出来てない民間人も多く、モビルアーマーの行動は完全な無差別攻撃。

街並みは瓦礫へと姿を変え、戦争と言う枠組みを超えてしまって居る。

 

「消えろ……消えろ……消えろぉぉぉ!!」

 

モビルアーマーは絶え間なくビームを発射し続ける。

爆発と衝撃による地響きが鳴り止む事はなく、街には更に炎が広がって行く。

モビルアーマーに搭乗するパイロット、ステラ・ルーシェは限界が迫る体で機体を動かして居た。

薬物投与で衰弱した体を無理やりに回復させ、また戦う為に酷使させる。

ステラはまた命令のままに、自身の意思とは関係なく機体に乗り込み戦って居た。

ザフト軍は侵攻を阻止すべく部隊を派遣したが、新型のデストロイに攻撃が届く事はない。

ザムザザーにも搭載されて居た陽電子リフレクター、コクピット付近にはトランスフェイズ装甲を採用し今までにない高い防御力を持って居る。

全方位攻撃により近づく隙を与えず止める術がない状況で、ミネルバが到着するよりも前に事態を嗅ぎ付けたアークエンジェルが現れた。

ブリッジのスクリーンには焦土と化すベルリンの街並みとデストロイの姿。

全てのモノに容赦のない攻撃にマリューは思わず口元に手を当てる。

 

「これは!? ひどい……民間人の避難も終わってないのに。こんなの戦争ですらない。一方的な虐殺よ!!」

 

燃えるベルリンを見てマリューが嘆く。

人々の姿はデストロイのビーム攻撃を前にして消えてしまう。

次々と瓦礫の山に消え、業火に焼かれて骨すら残らない。

この光景を前にキラも黙って見て居る事など出来なかった。

 

「マリューさん、フリーダムで出ます」

「えぇ、お願い。アークエンジェルもモビルアーマー撃退のため前に出ます」

 

「援護をお願いします」

 

言ったキラはこれ以上被害を出させない為にモビルスーツデッキに走った。

マリューも敵の照準を少しでもこちらに向けるべく各クルーに指示を飛ばす。

 

「キラ君が発進後、援護射撃。ここではローエングリンは使えない。ゴッドフリートで注意を引きます」

 

フリーダムのコクピットに乗り込むキラはエンジンに火を入れ機体のOSを起動させる。

コンソールパネルに表示される文字。

エネルギーが供給されたフリーダムのツインアイが光り、脚部をカタパルトに固定させる。

開放されたハッチの先に見えるのは黒煙により灰色に染まる空。

 

「キラ・ヤマト。フリーダム、行きます!!」

 

メインスラスターの出力を上げカタパルトから放出されるフリーダム。

フェイズシフト装甲を展開し装甲がトリコロールカラーに変わり、背部の青い翼を広げベルリンのモビルアーマーへ飛ぶ。

目の前には炎の中に立つ巨大な影。

「なんて大きさだ!? 部分的に破壊してもダメだ。コクピットを!!」

 

フリーダムは背部のバラエーナを撃つが、デストロイは随時陽電子リフレクターを展開しておりビームは全く効果がない。

バラエーナのビームを防いだ事でステラはフリーダムの存在を目にする。

 

「敵!! 倒すべき……敵!!」

 

デストロイ前面から放たれる大量のビームはフリーダムに向けられる。

雨のように迫り来るビームに流石のキラでも緊張が走った。

迫り来るビームをしっかりと視認し、機体をバレルロールさせ相手に向ける面積を減らし攻撃を潜り抜ける。

それでもたった1回攻撃を避けただけに過ぎず、デストロイの攻撃が止まる事はない。

貯蔵されたエネルギーを使い尽くすまでは動き続ける。

絶え間なく襲い来るビームの雨。

 

「このままじゃ攻撃も出来ない。それなら!!」

 

キラは意識を集中させ、潜在能力であるシードを覚醒させ常人とは比べ物にならない反射神経を引き出す。

ビームライフルを腰にマウントさせ、サイドスカートからビームサーベルを引き抜く。

シールドでビームを防ぎ、メインスラスターで加速。

デストロイとの距離を詰めようとするが、近づくにつれて攻撃の密度は高くなる。

ビームサーベルを振るい発射されたビームを斬り落とすが、動きが止まってしまいこれ以上詰め寄る事が出来ない。

 

「くっ!? 近づく事も出来ない」

 

「沈めぇぇぇ!!」

 

胸部から発射される赤黒いビーム。

キラはペダルを踏み込んでコレを避けるが、発射された先に直撃し街の一部が焦土と化す。

攻撃する隙もない、防ぎきるにも限界がある、回避すれば街の被害が広がる。

動きが制限されてしまい流石のキラも苦しい表情に変わった。

レーダーにはデストロイだけでなく紫色にカラーリングされた隊長機、ネオのウィンダムの居る。

フライトユニットを装備して加速する機体、デストロイに近付けさせまいとビームライフルの銃口を向けトリガーを引く。

 

「モビルアーマーだけじゃないのか。このままだと止められない」

 

迫るビームをキラはまたビームサーベルで一閃し斬り落とす。

 

「チィッ!! よりにもよってフリーダムが来たか。ステラ、気を付けろ!! 相手はフリーダムだ」

 

「フリーダム? ネオの敵なの?」

 

「そうだ、ヤツは敵だ。必ず食い止めるんだ。出来るな?」

 

「うん!! わかった!!」

 

(ステラ、今だけは耐えて来れ。アイツが来るまでは)

 

ネオはステラの邪魔はさせまいとフリーダムの相手をする為に前に出た。

そしてデストロイも雄叫びを上げるように本来の姿をあらわにする。

2足歩行だったモビルアーマーから両腕が出現し、さっきまでよりも全長が伸びた。

そのフォルムは人型であり、モビルアーマーとは違い手足と頭部がある。

姿を変えたデストロイは地響きを鳴らしながら歩を進め、更なる攻撃をベルリンの街に加えた。

 

「フリーダム、これ以上はやらせん!!」

 

「時間がないのに!!」

 

キラはウィンダムの右脚部に狙いを定めサイドスカートのクスィフィアスを展開し発射した。

高速で射出される弾丸は正確にウィンダムに向かうが、ネオはスラスターを制御すると寸前の所で回避する。

そして次の攻撃が来る前にネオはビームライフルのトリガーを引く。

コクピットに目掛けて1射、回避した先を予測してもう1射。

 

「これは……」

 

キラは頭の中で不思議な違和感を抱く。

自身に目掛けて発射されたビームを回避するが、その先にはもう一筋のビーム。

瞬時に反応してシールドでこれを防ぐが、1体1の射撃戦でシールドを使うのは珍しかった。

確認するかのように、キラはビームサーベルをサイドスカートに戻しビームライフルを握らせると、距離を離しつつビームを撃つ。

寸分の狂いもない正確な射撃。

ウィンダムはメインスラスターの出力を上げ大きく機体を動かすとビームの射線上から離れる。

逃げる機体に照準を定めさらにトリガーを引く。

だが発射されたビームがウィンダムの装甲に当たる事はない。

 

「この回避パターン……もしかして!? 確かめてみるしかない!!」

 

感じるモノがあったキラは右足でペダルを踏み込むが、後方からモビルスーツに変形したデストロイの砲撃が飛んで来る。

背部のフライトユニットから大量のミサイルが発射され、高い追尾性がフリーダムを襲う。

20を超えるミサイルの雨。

頭部バルカンを連射し迫るミサイルを撃ち落とす。

大量に吐き出される薬莢。

次々と発射される細かな弾丸はミサイルに直撃し爆発の炎を上げる。

全てのミサイルはフリーダムに着弾する事はなく爆発してしまう。

 

「どれだけの武器を搭載して居るんだ?」

 

『キラ君、ゴットフリートで援護するわ。当たらないように注意して』

 

「マリューさん、でもあのバリアは」

 

『何もしないよりはマシ。それに注意を引き付ければそれだけ近づきやすいでしょ?』

 

「幾らアークエンジェルでも狙われたら逃げれません。気を付けて下さい」

 

『わかってる。ゴッドフリート照準、撃てェェェ!!』

 

アークエンジェルの主砲がデストロイを狙う。

戦艦から放たれる高出力のエネルギー、それは空気を薙ぎ払いながら一直線に目標へと突き進む。

だが搭載された陽電子リフレクターはこの程度の威力ではビクともしない。

連続して発射される主砲を前にしてもデストロイにはキズひとつ付かなかった。

 

「やっぱりゴットフリートでもダメか。新しい反応、ミネルバ!?」

 

///

 

フリーダムがデストロイの相手をする中で、ザフトのミネルバは最前線にようやく追い付く。

ブリッジの艦長シートに座るタリアは、また関係のない戦闘に介入して居るフリーダムとアークエンジェルの存在を目にする。

 

「また戦闘介入をしてるの?」

 

「ですがフリーダムが居るなら、あのモビルアーマーを止められるかも」

 

「敵の敵が味方だなんて、そんな短絡的な訳がないでしょ!!」

 

アーサーの一言にタリアは檄を飛ばす。

鋭い視線で状況判断をしながら、タリアはインパルス発進の指示を出した。

 

「今回の作戦進行にフリーダムとアークエンジェルは関係ありません。この状況で積極的に狙う必要はないが、味方とも思わないように。最優先事項は連合のモビルアーマーの阻止、余裕はない。彼らの処置はその後に決めます。コンディション・レッド発令、シンを出撃させて」

 

パイロットスーツを着用し、いつでも出撃出来る準備をして居たシンはデッキでその時を待って居た。

レイ、アスラン、ケガをしたままのルナマリアも一緒にここで待機して居る。

もうすぐ始まる戦闘を前に、ルナマリアはポツリと呟く。

 

「ヒイロ、間に合わなかったわね。まさかとは思うけど、敵前逃亡なんて事……」

 

「心配するな、アイツは戻って来る」

 

そう言ったのはレイだった。

不安に思うルナマリアとは対称的に、彼はいつも通りで冷静に言葉を返す。

 

「あれだけの戦闘技術を持ったヤツが早々の事で逃げ出すとは思えん。それに、もしも逃げ出すにしてももっと上手くやる筈だ。ヒイロは戻って来る」

 

「レイはヒイロの事、信用してるのね」

 

「あぁ、仲間だからな」

 

ルナマリアはレイの言葉を聞き安堵の表情を浮かべる。

短い期間ではあるが、ヒイロは兵士としてミネルバ及びザフトに貢献した事実はクルーに定着して居た。

間近で戦闘を見て来たルナマリアにはそれが良くわかる。

 

「そうね、戻って来るわよね」

 

たった1人の出撃に緊張感の走るシン、ベルリンに現れたモビルアーマーのデータを出撃ギリギリまで見て居た。

陽電子リフレクターによりビームが効かない事は既に分析済み。

(アイツを落とすにはアレを潜り抜けるしかない。問題はどう接近するかだ。それが出来ないと……)

 

携帯端末に表示されるデータをじっと見つめるシンをアスランは黙って見て居るしか出来なかった。

以前の戦闘でモビルスーツが損傷した為、今回の出撃はシンのインパルスだけ。

それぞれが思って居る中で、戦闘領域に突入したミネルバ艦内ではコンディション・レッドが発令されけたたましい警報音が響き渡る。

 

「ヒイロが居なくても俺一人でやってやりますよ。隊長はそこで見てて下さい」

「シン……」

 

そんなアスランを見下すシン。

ヘルメットを片手にシンはデッキからコアスプレンダーに乗り込む為に出て行った。

残された3人は作戦が成功するのを見守るしかない。

モビルスーツデッキに走るシンはコアスプレンダーのコクピットに搭乗し、慣れた手付きでコンソールパネルを叩く。

エンジンを起動させると、ブリッジのタリアから通信が繋がった。

 

『聞こえて? 想定より状況が思わしくない。すでに友軍は壊滅状態、前線ではフリーダムとアークエンジェルが現れて敵モビルアーマーと戦闘してます』

「そんな!? 何でフリーダムが?」

『思惑はわからない、でも敵を間違えないで。今優先すべきは連合のモビルアーマー。なんとしてもアレを止めて』

 

「了解。シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!!」

メインスラスターを全開にして、コアスプレンダーはカタパルトから射出される。

灰色に染まる空を飛ぶ。

続けてすぐにチェストフライヤー、レッグフライヤーも射出された。

ガイドビーコンで位置を合わせてコアスプレンダーとドッキングする。

背部にはフォースシルエットを装備し、全身に電力を供給させると装甲がトリコロールカラーに変化した。

左腕にシールド、右手にビームライフルを装備してメインスラスターから青白い炎を吹かす。

メインカメラが映すのは炎に燃えるベルリンと黒く巨大なモビルスーツ。

 

「モビルスーツ!? モビルアーマーじゃなかったのか? それにフリーダムも」

 

前線ではフリーダムがデストロイの相手をしているが陽電子リフレクターを突破出来ずに居た。

しかしデストロイの動きは当初に比べれば鈍くなって居る。

傍で見守るネオはその事に気付いており、このままではいつかステラの体力が尽きる。

「わかっちゃ居るんだがな。そうも言ってられんか。新手が来たな!!」

 

「あのカラーリングのウインダム!! ネオだな!!」

 

「その声……あの時のボウズか!!」

 

「今はアンタを相手にしてる暇はない。モビルアーマーを!!」

 

ビームライフルを腰部にマウントさせるシンはバックパックからビームサーベルを引き抜いた。

デストロイの注意は今フリーダムに引き付けられており、ビームの網目を掻い潜り一気に詰め寄る。

 

「はぁぁぁ!!」

 

巨大な胸のコクピット部分を袈裟斬り。

陽電子リフレクターではビームサーベルを防ぐ事は出来ないと知ってるシンは迷わずコクピットを斬り付けるが、角度が浅いのと分厚い装甲に阻まれて決定打にはならない。

 

「クソ!! 見た目通りに硬いヤツだな!!」

 

デストロイの胸部はビームサーベルの熱で赤く爛れて居るが機体は未だに攻撃するのを止めない。

シンはもう1度仕掛けようとするが、横からウィンダムがメインスラスターを全開にして組み付いて来た。

ぶつかった衝撃にコクピットが揺れ、シートベルトがパイロットスーツの上から食い込む。

ウィンダムは組み付いたまま離れようとはせず、加速したままインパルスをデストロイから引き剥がして行く。

 

「コイツ!? アンタの相手をしてる暇はない!!」

 

「やめろボウズ!! あれに乗ってるのはステラだぞ!!」

 

「なんだって!?」

 

接触回線から聞こえて来るネオの一言。

それを聞いて思わず目が見開き、操縦桿を握る手の力も緩んでしまう。

 

「なんで……なんで……ステラが」

 

絶望するシン。

インパルスの動きは空中で静止しており、そんな事を知らないステラは顔面口部のビーム砲をインパルスに向けた。

 

「動けボウズ!!」

 

「え……」

 

発射される巨大なビーム。

ネオはペダルを踏み込みウィンダムを加速させると再びインパルスに組み付き発射されたビームを回避した。

一命を取り留めるシンだが、次の時には怒りが湧き上がり震える手で操縦桿を力一杯握り締める。

 

「お前……お前が、お前がァァァ!!」

 

「っ!!」

 

握ったビームサーベルを振り上げウィンダムを斬り付ける。

ネオは咄嗟にシールドを構えるが、ビームサーベルを前に簡単に両断されてしまい態勢を崩してしまう。

離れようとするネオをシンは逃がすつもりはなく、メインスラスターを全開にして接近する。

一気に詰め寄り袈裟斬り。

だが切っ先は空を切る。

更に近寄り横一閃。

スレスレの所でビームが装甲に触れる事はない。

威嚇のつもりでビームライフルの銃口を向けるがシンはそんなモノは全く目に入って居らず、一切気にする事なく再び接近してビームサーベルを振り下ろした。

ウィンダムが構えてたビームライフルは真っ二つに両断され、爆発により右マニピュレーターごと吹き飛んでしまう。

 

「はあああァァァ!!」

 

殺意をみなぎらせるシンにネオは攻撃しようとはせず、残された左手でインパルスの右腕を動かせないように掴んだ。

そして密着する事で更に動きを制限させる。

 

「お前!! ステラをもう戦わせないて言ったろ!!」

「あぁ、だからエクステンデットに関するデータをお前にやる!!」

「なに!?」

「データはデストロイのコクピットの中に隠してある。だから頼む、ステラを救ってやってくれ!!」

 

ネオには上層部に逆らうだけの力は無い。

だからせめてもの望みを託しコクピットにデータディスクを隠し、そしてインパルスがもう一度やって来るのを信じた。

 

「勝手な事を!! お前が居なければ!!」

 

(わかって居るさ。ステラ1人を救う為に関係のない民間人を何百人と巻き込んじまった。今の俺が許される筈がない!!)

 

「ネオから離れろ!!」

 

「ステラ!?」

 

デストロイの巨大な手がインパルスに迫る。

ウィンダムを膝で蹴り飛ばしたシンはその場から瞬時に離れ、捕まらないように空中を飛行した。

けれどもインパルスに乗っているのがシンだとわからないステラは攻撃をやめない。

シンは何とか呼び止めようと通信を繋げて呼び掛けた。

 

「止めるんだステラ!! 僕だ、シン・アスカだ!!」

 

「無理だ、投与した薬も切れかけてる。今は何を言っても届かない」

 

「アンタがそうした!!」

 

「虫が良い話なのはわかってる。だが、今の俺にはこんな事しか出来なかった。ステラを助けてやれるのはお前だけなんだ」

 

ステラが搭乗してる事を知ったシンにデストロイを攻撃する事は出来ない。

それを傍から見て居たキラは援護のつもりでデストロイにビームライフルを発射した。

無論ダメージが通る事はないが注意は引き付けられる。

 

「インパルスのパイロットはどうしたんだ? こんな所で止まったら落とされるぞ」

 

自分に向けられるビームの雨を掻い潜り、反転して全門一斉射撃。

ハイマットフルバーストで迫り来るミサイルを撃ち落とすと同時に攻撃を加える。

陽電子リフレクターの性能の前にコレも意味を成さないが、キラにもデストロイの動きが鈍くなって居るのがわかった。

 

「さっきまでよりも攻撃の精度が悪い。手数も減って来た今なら!!」

 

青い翼を広げたフリーダムは加速しデストロイに目掛けて接近を試みる。

胸部の3連装大口径ビーム砲が発射され、赤黒い巨大なビームが来るがコレを容易に回避し、両手の指から発射される10本のビームも掻い潜ると接近戦が出来る距離までもう少し。

ペダルを踏み込み更に加速、翼は風を切り右手にビームサーベルを握る。

 

「ごめん、殺したくはないけれど。でもキミを止めないともっと多くの人が巻き込まれる。だから今だけは!!」

 

キラはデストロイを止める為に覚悟を決める。

胸部目掛けて突き立てたビームサーベル。

だが間に割り込んだインパルスはシールドを前方に構えビームサーベルを受け止めると、激しい閃光が両者を照らす。

 

「ステラは俺が必ず守る!!」

 

「インパルスは何を!?」

 

「やらせるもんか!! お前にだけは、絶対にやらせるもんか!!」

 

デストロイを止める折角のチャンスを止めるインパルスの行為に驚くキラ。

間一髪の所で阻止するシンだが、その背後ではデストロイが胸部の3連装大口径ビーム砲を発射せんと巨大な体をインパルスに向けて居た。

エネルギーがチャージされ、今まさにトリガーを引かれようとして居る時。

 

「うるさい雑魚、ネオの邪魔をしないでよぉぉぉ!!」

 

『ターゲット、ロックオン』

 

上空に現れた新たな機影。

瞬間、デストロイに光りが降り注ぐ。

シンとキラも思わず目線を空に向けてしまう。

 

「えっ!?」

 

「なんなの!?」

レーダーに映るモビルスーツの反応。

それははるか上空から大出力のビームを発射し、陽電子リフレクターを展開するデストロイに直撃する。

通常兵器では陽電子リフレクターを貫く事は出来ない。

が、ソレはリフレクターを貫通するとデストロイの左腕をゴッソリと持って行った。

腕が吹っ飛びデストロイが態勢を崩して地面に膝を着く。

発射されたビームのあまりの威力にキラは舌を巻いた。

「バリアを貫通した……」

 

「あれは……あの時の!!」

 

シンが見上げた先、インパルスのメインカメラが捉え戦闘画面に映し出された映像には、ツインバスターライフルを構えるウイングゼロの姿。




少し古い情報ですがフルメタが再びアニメ化されるようで歓喜しております。
オルフェンズのバルバトスも第4形態が登場して興奮が冷めやらぬ状態です。
あの刀は高周波ブレードとかそう言うのなのかな?
プラモデルは買ってないのでまだ細かな設定がわかりませんが、次が楽しみですね。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第21話 ゼロ対フリーダム

レーダーに反応する機影に識別コードは認識出来ない。

けれどもメインカメラを通して見るあの機体をシンは見間違える事はなかった。

トリコロールカラーの装甲、背部に背負う翼と大型バーニア。

そして今さっき発射したユニウスセブンを消し飛ばし、陽電子リフレクターを貫ける強力なビーム砲。

あまりの光景に操縦するのも忘れて見とれて居ると、謎の機体から通信が繋がって来た。

シンはゆっくりとコンソールパネルに指を伸ばし、敵か味方かもわからぬ相手と接触を図る。

 

『インパルス、聞こえるな?』

 

「その声!? ヒイロなのか!!」

 

『話をして居る時間はない。目標のモビルアーマーを破壊する。邪魔になる、離れて居ろ』

 

ウイングゼロは上空から再びデストロイに狙いを定め、ツインバスターライフルの銃口をその頭部に向けた。

ツインバスターライフルの出力なら陽電子リフレクターを容易に貫き、強固だったデストロイに大ダメージを与える事も出来る。

それでも一撃で仕留められなかったのはバリアにより射線がズレてしまったから。

幾らヒイロといえども初めての機体や武装には反応や対応が遅れてしまう。

照準を合わせ、第1射の時の誤差も含め再び操縦桿のトリガーに指を掛ける。

だがシンはデストロイを破壊する事を良しとはせず、慌てて通信越しに叫んだ。

 

「待って来れ!! あの機体にはステラが乗せられてるんだ!! 本心じゃない!!」

 

『次に動き始めるまで時間がない。どうするつもりだ?』

 

「ステラは俺が止める!! 俺はただ助けたいだけなんだ!!」

 

シンの言葉は答えになって居ない。

それでもヒイロはその言葉を飲み込み、デストロイをツインバスターライフルの照準から外した。

 

『わかった。モビルアーマーはお前に任せる』

 

「ヒイロ……」

 

『だが余裕がある訳ではない。フリーダムは俺が何とかする』

 

言うと背中のバーニアから青白い炎を噴射してウイングゼロは急降下して行く。

進む先はフリーダム。

ウイングゼロの動きはシンだけでなくネオも捉えて居る。

突然の戦闘介入、けれども初めて見る機体の戦闘能力はあの一撃だけでも充分に把握出来た。

 

「フリーダムの次は……今度はなんだ? ややこしい事ばかり起きやがって!!j

 

操縦桿を握るネオは叫ぶ。

現状を把握出来てない為、インパルス以外の機体は敵として認識するしかない。

フリーダムがデストロイに接近して居る状態でシンは動きにくいと判断し、ペダルを踏み込み背後から加速を掛けて接近する。

左手でビームサーベルを握り、空中で静止するフリーダムに不意打ちを掛けた。

 

「悪く思うなよ!!」

 

「ッ!?」

 

振り下ろされたビームサーベル。

だがキラは卓越した反射神経だけでコレに反応しシールドで防いだ。

 

「そう簡単にはいかしてくれないか。ボウズ、早くしろ!!」

 

「やっぱりこの動きは!!」

 

トリガーを引くキラは頭部バルカンを発射し、ウィンダムのメインカメラをズタズタに破壊する。

レンズが割れ、装甲には穴が開きバラバラになった内部パーツがスパークを起こす。

思う所があったキラは機体を後ろに一回転させる事でウィンダムのビームサーベルが空を斬る。

そして回転が終わりかけの所で加速を掛け、通り過ぎざまにウィンダムの両脚部、膝から先を切断した。

姿勢を制御出来なくなるウィンダムに、キラはダメ押しでバックパックを蹴る。

 

「ぐあああっ!!」

 

損傷したネオのウィンダムは何も出来ず、重力に引かれて落ちてしまう。

衝撃を吸収するモノなどなく、落下による激しい衝撃がコクピットを揺らす。

シートベルトは制服の上から肌に食い込みながらも、ネオがシートの上から投げ出されるのを止めてくれる。

だが手は操縦桿から離れてしまい、意識も失ってしまう。

完全に戦闘不能になったウィンダムを上空から見下ろすキラは、コンソールパネルに指を伸ばしアークエンジェルに繋げる。

 

「マリューさん、ウィンダムの回収を」

 

『それは構わないけれど、今は連合のモビルアーマーを』

 

「わかってます。でも、感じたんです。あの機体のパイロット、もしかしたらムウさんかも」

 

『なんですって!?』

 

「ソレを確かめたいんです。だから回収を」

 

キラの言葉を聞いてマリューは目を大きく開けたまま、思わず固まってしまう。

2年前の大戦、アークエンジェルを守る為に自らを犠牲にしたムウ・ラ・フラガ。

戦闘が終結した後に大破したストライクを回収するもパイロットは乗っておらず、捜索するも広い宇宙でたった1人の人間を見つける事など困難を極め、彼はそのまま戦死扱いにされた。

戦いの中に生きる兵士には常に死が付き纏う。

その事をわかっては居るつもりだったが、マリューは愛した男が死んでしまった事に涙を流した。

そんな彼が生きて居たと聞いて、心の中から感情が溢れ出す。

 

「ムウが……生きて……」

 

「艦長、俺が行こう」

 

「バルトフェルドさん……」

 

「まだ戦闘は終わってない。新型とインパルスの動きも気になる。俺はストライクで出る」

 

言うとバルトフェルドはブリッジから出て行ってしまう。

デストロイは未だ活動を続けており、ベルリンの炎は広がるばかり。

 

///

 

片腕を失いながらも立ち上がるデストロイ。

再び攻撃を始めるステラにシンは懸命に呼びかけて居た。

けれどもステラは泣き叫ぶだけで、シンの声は届かない。

 

「ステラ、俺だ!! シン・アスカだ!!」

 

「うわぁぁぁーーーーー!!」

 

デストロイは胸部の3連装大口径ビーム砲をインパルスに放つが、メインスラスターを吹かし機体を上昇させるシンはこれを避けた。

だが反撃は一切せず、それどころか構えを取ることもなくデストロイに近づいて行く。

ウィンダムを退けたキラはインパルスの正気とは思えない行動に驚く。

「何をしてるんだインパルスは!? 死にたいのか!!」

 

キラはインパルスを守ろうとフリーダムで前に出ようとしたが、目の前から高速で接近する機体にレーダーが反応する。

 

「なに?」

「邪魔はさせない」

右肩からビームサーベルを展開し右手に握ったウイングゼロがフリーダムに襲い掛かる。

自らに攻撃して来た事で相手を敵と認識するキラ。

インパルスとデストロイは気になるがこのままやられるわけにもいかず、ウイングゼロに照準を合わしビームライフルのトリガーを引き、続けて背部のバラエーナを発射した。

正確で素早い攻撃は普通のパイロットなら避ける事は難しい。

ヒイロはペダルを踏み込み大型バーニアの強大な推進力を駆使してフリーダムの攻撃を回避した。

 

「避けた!?」

「今までの戦闘でお前の動きは読んで居る」

「どうして邪魔するんだ!!」

 

「お前は俺の敵だ!!」

 

ウイングゼロは握ったビームサーベルで横一閃、フリーダムはこれをシールドで受け止めた。

ラミネート装甲で作られたシールドは強固で、ビーム攻撃を受けても簡単に壊れる事はない。

それが相手のビームサーベルはジワジワとシールドを溶解させて行く。

 

「そんな!? シールドが!?」

 

普通では考えられないビームサーベルの出力に脅威を感じるキラは、ウイングゼロわき腹に蹴りを居れ距離を離す。

そしてその隙にクスィフィアスレールガンを撃つ。

高速で発射されるレールガンの弾は確かに命中するが、その機体には目立った損傷は見当たらない。

 

「実弾が通らない。フェイズシフト装甲か」

 

「障害は取り除く」

 

「くっ!! どうして、アナタはこのまま街が破壊されても良いんですか?」

 

「敵と話す舌は持たん。俺の前に立ち塞がるなら、お前は敵だ」

 

「今の僕達が戦う理由なんて、どこにもない!!」

 

キラの叫びにヒイロは全く耳を貸さない。

シールドにマウントさせたツインバスターライフルを向けると、躊躇なくトリガーを引いた。

発射される膨大なエネルギー。

フリーダムは翼を広げ必要最小限の動きで機体を上昇させビームを回避する。

右脚部のすぐ傍を通り抜けるビーム。

でもそれは、触れてもないフリーダムの足の装甲を溶かし、耐え切れなくなった右足は小さく爆発した。

陽電子リフレクターを貫いたその威力を知るキラだが、改めてその威力に舌を巻く。

 

「かすめただけで、なんて威力なんだ!?」

 

「戦場で、お前達の存在は無意味だ」

 

「僕はただ、オーブを戦闘に巻き込みたくないだけだ」

 

「だからこんな真似をして居るのか。そんな事では何も変わりはしない」

 

「何も出来ないよりは遥かに良い!!」

 

ビームライフルを腰部にマウントさせたキラはサイドスカートからビームサーベルを引き抜く。

翼を広げ、最大加速で詰め寄るフリーダムはウイングゼロにその切っ先を突き立てる。

ヒイロはシールドでビームサーベルを受け止め、なぎ払い、自らもビームサーベルを振り降ろす。

フリーダムの半壊したシールドで防ぐが2回は持たず、真っ二つに分断されると重力に引かれて行く。

 

「くっ!! でも!!」

 

キラは素早く右手のビームサーベルで袈裟斬り。

ヒイロのウイングゼロのそれに合わせてビームサーベルを振るう。

交じり合う2本のビームは両者を眩い閃光で照らす。

だが、勝ったのはウイングゼロだった。

 

「サーベルのパワーが負けてる!?」

 

ニュートロンジャマーキャンセラーにより実現した核エンジン搭載モビルスーツ。

フリーダムはそのお陰で他の機体とは違い、高出力のビーム兵器を事実上無限に使う事が出来る。

開発されたのは2年前だが、未だに他の追随を許さない。

そのフリーダムが一方的に負けた。

ウイングゼロのビームサーベルは、フリーダムのビームサーベルを物ともせずに、左肘から先を切断してしまう。

 

(負ける……このままじゃ、負ける!!)

 

あまりの性能の差にキラは意識を集中させ本気を出す。

プロヴィデンスとの戦い以来、キラは全力を出してウイングゼロと対峙する。

 

「強い、確かにアナタは強い。でも僕にも、譲れないモノがある!!」

 

「ヤツの動きが変わった」

 

「みんなの想いを守る為に、僕は戦う!!」

 

覚醒するキラは残された手にビームサーベルを握らせ再び接近戦を挑む。

一瞬で間合いを詰めるフリーダムは左腕を振り上げ袈裟斬りを繰り出す。

またもシールドに止められてしまうが、ウイングゼロが反撃に移るよりも早くに次の動作に入る。

機体をバレルロールさせ上を取るとバラエーナを展開し、至近距離から頭部に撃ち込んだ。

発射される高出力プラズマビーム、だがその先にウイングゼロは居ない。

 

「僕の反応速度に付いて来る!? でも!!」

 

「ゼロの予測よりも動きが早い。だが!!」

 

ウイングゼロはビームサーベルを振り上げるとフリーダムのバラエーナの右門を切断した。

だがフリーダム本体にはダメージは通ってない。

姿勢を瞬時に戻すフリーダムは左脚部で相手の胸部を蹴った。

 

「グッ!!」

 

態勢を崩すウイングゼロ、コクピットに伝わる衝撃にヒイロは歯を食いしばる。

ヒイロはツインバスターライフルの銃口を向けるが、まだ街で暴れて居るデストロイが放つビームの内の1射が飛んで来てしまう。

スラスター制御で機体の位置を移動させビームを避けるが、視界からフリーダムの姿が消えて居た。

 

「今だ!! 当たれぇぇぇ!!」

 

背後に回り込むフリーダムはウイングゼロの背後からハイマットフルバーストを繰り出した。

ヒイロでも避ける事は出来ず、フリーダムの攻撃を直撃してしまう。

巨大な爆発が機体を襲い、ウイングゼロは重力に引かれて落ちて行く。

それでも、ハイマットフルバーストの直撃を受けても尚、その装甲は原型を保って居た。

 

「なんて装甲だ、ダメージが通ってないのか? でも今は!!」

 

翼を広げ、フリーダムはデストロイを止めるべく飛ぶ。

一方のヒイロのウイングゼロは破壊された建造物の瓦礫に上に横たわって居た。

ガンダニュウム合金はまだ破壊されていない。

ヒイロは地上から飛び立つフリーダムの姿を見上げて居た。

 

「任務失敗か……ゼロの予測では、あの女に未来はない」

 

ゼロシステムが見せる未来には、デストロイのコクピットにビームサーベルを突き刺すフリーダムの姿が見えた。

 

///

 

「ステラ、キミは戦っちゃいけない!!」

 

「うるさァァァイ!!」

 

シンの説得も虚しく、デストロイは町を焼き払う。

それでもヒイロがフリーダムを食い止めて居る間だけはと、懸命に声を出し続ける。

 

「ステラ、止めるんだ!!」

 

「うわあああぁぁぁっ!!」

 

「僕だ、シン・アスカだ!! キミを守るて約束したろ!!」

 

シンの『守る』と言う言葉にステラはわずかに記憶が蘇り操縦桿を握る手の力が弱まる。

わずかな時間ではあるが時を共に過ごした事、約束を交わした事。

 

「シン? マモル……」

 

「そうだよ、約束した!! キミは俺が守る!!」

 

「ヤクソク……」

 

今まで猛威を振るって居たデストロイの攻撃が止まった。

その間は、ベルリンの街にわずかばかり静寂が戻って来る。

 

(意識が戻りかけてる!! もう少し……もう少しで!!)

 

インパルスはデストロイのコクピットのすぐ傍にまでゆっくり近寄る。

シンはステラを救うためコクピットのハッチを開放し、ヘルメットを脱ぎタラップに足を掛けると更に呼び掛けた。

灰に汚れた冬の風がシンの髪の毛を揺らす。

 

「そうだよ、キミを守るって約束した」

 

「約束……星……流れ星さん……」

 

「ステラ、一緒に行こう。一緒にまた星を見よう!!」

 

「シン!! 逃げて!!」

 

遂に記憶が蘇ったステラ。

だがウイングゼロを退けたフリーダムが、デストロイを止めようとこちらに迫って来た。

 

「今を逃したら、もうチャンスはない!!」

 

射撃武器の効かないデストロイにビームサーベルでトドメを刺すべく、フリーダムは翼を広げ懐に潜り込む。

 

「来るなぁぁぁ!!」

 

ステラはシンを助けようと残った右腕でインパルスを守ろうとした。

だが外から見たキラにはインパルスを潰そうとしているようにしか見えない。

 

「もうこれ以上は!!」

 

「フリーダム!? やめろぉぉぉ!!」

 

コクピットに戻るシンはインパルスのシールドでフリーダムのビームサーベルを防ぐ。

だがシールドにはもう耐久力は残って居らず、突き抜けたビームサーベルは左肘を切断した。

シンはバックパックからビームサーベルを引き抜くと同時にフリーダムに袈裟斬りする。

 

「インパルスは何を!?」

 

「はァァァ!!」

 

回避行動に移るキラだが、インパルスのビームサーベルは右脚部に届く。

片足も失い満身創痍の機体で、キラが取れる行動は限られてしまう。

このまま戦闘を続ければデストロイを止めるどころか生きて帰れないかもしれない。

 

「このままだと……え?」

 

突然、警告音がコクピットに鳴り響く。

下方から高出力のビームが発射され回避に移るも間に合わず、フリーダムの右翼が消し飛んだ。

見た先に居るのは戦闘に復帰したウイングゼロ。

 

「直撃を受けたのに、もう来たのか?」

 

「ゼロの予測を超えたか、シン」

 

「くっ!! もうフリーダムは戦えない……」

 

ツインバスターライフルを向けられキラはフリーダムでこの場から離脱を始めた。

ヒイロは背を向けるフリーダムをこれ以上追う事はしない。

戦闘領域から離脱するアークエンジェルとフリーダム。

戦闘は終結し、シンはデストロイのコクピットに乗り移るとコンソールパネルを叩きハッチを開放させる。

広いコクピットの中では、ピンク色のパイロットスーツを着用したステラがシートの上で意識を失って居た。

 

「もう大丈夫だから。ステラ」

 

シンは彼女のシートベルトを外し体を抱えると、足元に置かれたアタッシュケースを目にする。

ネオが言ってた通り、中にはエクステンデッドの資料とデータが入っている。

ステラと一緒にケースも持ち運び、インパルスのコクピットの中に戻った。

ハッチを閉鎖し、パイロットの居なくなったデストロイから距離を離すインパルス。

シンの胸の中で彼女は静かに眠って居る。

 

「終わったな」

 

「ヒイロ、ステラはもう戦わなくて良いんだ。治療が上手く行けば、普通の女の子に戻れるんだ」

 

「あぁ、そうだな。だがそのモビルアーマーは破壊しろ。邪魔になる」

 

「わかってる。こんなモノ!!」

 

操縦桿を握り右手にビームライフルを握らせるとコクピットに狙いを定めトリガーを引く。

エネルギーの続く限り、とにかくビームを発射し続ける。

パイロットが搭乗してないデストロイはもう、陽電子リフレクターは発動しない。

コクピットが破壊され、ビームの直撃を受けた箇所が次々に爆発する。

黒い巨人は音を立てて崩れ落ち、最後に響く地鳴りは断末魔の悲鳴のようにも聞こえた。

デストロイはベルリンの街に沈む。

 

「終わったんだ……もう……」

 

「任務完了。ミネルバに帰還する」

 

1つの戦いが幕を閉じる。

脅威の去ったベルリンで、フリーダムとアークエンジェルも撤退を始めた。

大破したフリーダムのコクピットの中で、キラはウイングゼロの圧倒的な性能に脅威を感じる。

 

「フリーダムでも相手にならなかった。あの機体……」

 

///

 

ミネルバのモビルスーツデッキには新たな機体が格納されて居た。

ヒイロが突然持ち出して来た機体、ウイングゼロ。

新型機に整備班のヴィーノとヨウランは興味津々でフォルムを眺めて居る。

 

「すっげー!! なんだよこれ!? なぁ、これヒイロが乗ってたんだよな?」

 

「そうらしいな。それより持ち出したガイアはどうしたんだよ? 許可もナシで使ったXシリーズを失くした、だなんて始末書で済むのか?」

 

そのコクピット内部には様々なケーブルが繋がれ、機体データを取る為の準備が進められて居た。

整備班の班長であるマッドは他の仕事を部下に任せ、最優先でこの機体の調査に当たる。

 

「良し、コネクターは全部繋げたな。テストはいつでもOKだ、隊長さん」

 

「わかった。シミュレーションのB16をやれば良いんだな?」

 

言うと赤い制服に身を包むアスランがウイングゼロのコクピットの中に潜り込む。

操縦桿を握り軽く動かすと初めて乗る機体の感触を確かめる。

 

「操縦性はそこまで変わらないか。だが変わったコンソールを積んで居る。ジャスティスのマルチロックオンシステムとは違うのか」

 

コクピットの構造に疑問を抱くアスランだが、実際にやってみない事には答えはわからない。

ハッチを開放したまま、マッドに言われたようにシミュレーターを起動させた。

 

「シミュレーター起動。データの採取、お願いします」

 

「任せときな。外で他にも分析を進めとくからよ。終わったらまた呼んでくれ」

 

マッドはコクピット付近から離れて別作業に移り、アスランも始まったシミュレーターに意識を集中させる。

その間、持ち主であるヒイロは艦長室のタリアに呼び出されて居た。

定刻した作戦時間に間に合わなかった事もそうだが、1番の問題はウイングゼロ。

艦長室で座るタリアにヒイロは直立不動で動かない。

 

「どう言う事なのヒイロ。あのモビルスーツは何?」

 

今まで数回遭遇した謎のモビルスーツ、そのいずれも接触する事は出来なかった。

それをヒイロが乗って居る事の納得出来る理由が必要だ。

張り詰めた空気の中でも、ヒイロの表情はいつもと変わらない。

 

「あの機体は譲って貰っただけだ」

 

「そんな言い訳が通じるとでも思っているの? 正直に白状なさい。でないと、アナタは評議に掛けられる事になる」

 

「事実だ、あの機体は譲って貰った。それより前の事は知らない」

 

言う事を変えないヒイロにタリアの表情は険しくなる。

話す言葉の口調も次第に強くなって行く。

 

「では何処で誰に譲って貰ったの? アナタの言う事が事実なら、説明が出来る筈」

 

その質問にヒイロは答えようとはしなかった。

緊迫した部屋の空気が更に重くなり、タリアは目を細める。

 

「答えられないの? ではこの件について正式に議長に報告させて頂きます。それまでは許可ナシにあのモビルスーツに乗らないで」

 

「了解した……」

 

意義を申し立てる事もなく、ヒイロは端的に返事を返すだけ。

すると突然、艦内部から轟音が響く。

数秒後にはモビルスーツデッキから内戦が繋がり、タリアは急いで受話器を取った。

 

「さっきの音は何事? 事故なの?」

 

『いえ、それが……』

 

「ハッキリ言いなさい!! 緊急事態なら人員をすぐに向かわせます」

 

『隊長さんがいきなり暴れ出したんだ!! ヒイロが持って来た機体のデータを取ってる最中に!!』

 

「どう言う事……アスランが? とにかく人を向かわせます。非戦闘員はその場から退避して!!」

 

『了解だ!!』

 

想定外の事態にタリアは頭を悩ませる。

ヒイロはその会話を聞いても尚、鋭い目線を向けるだけ。




無傷でフルボッコと言うのは嫌だったのでこのようにしました。
アニメではこの次にインパルスがフリーダムを撃破しますが、キラが生き残る事の説明がアニメ通だと納得出来ないし、それに変わるモノを考え付かないのでこの作品ではありません。
ストーリーも半分を過ぎてきました。
これが終わればクロスアンジュかなのはstsだ!!


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第22話 真の敵

ウイングゼロのコクピットシートに座るアスランは操縦桿を握り、シミュレーターを起動させ戦闘データを取る。

多少の違いはあるが操作性は従来の機体とそこまで変化はなく、データ上で連合軍のモビルスーツ達と戦闘を繰り広げた。

 

(凄い機体性能だ。パワー、スピード、運動性能、どれも最高水準だ。ジャスティスやセイバーよりも遥かに強い。これならキラのフリーダムに勝てたのも頷ける)

 

両翼を展開しての大型バーニアによる加速は他のどんな機体の追随も許さない。

胸部のマシンキャノンを展開しトリガーを引けば、シールドを構えて居るウィンダムを数秒で粉砕した。

フェイズシフト装甲の備わってない機体では、強固なモビルアーマーでもない限り防ぐ事は出来ない。

 

(武装は少ないがポテンシャルが良い。今までに乗ったどんな機体とも違う。この機体なら俺もキラに……)

 

右肩に収納されたビームサーベルを引き抜き瞬時に加速。

目の前のウィンダムに袈裟斬りし右肩から切断するとそのまま横一閃。

更に振り返るど同時に左腕のシールドで相手のビームサーベルを防ぎ、右手に握るビームサーベルをコクピットに突き立てた。

瞬く間に2機のモビルスーツを撃破し、倒された機体は視界から消える。

 

(このビーム砲を使わなくても、量産機相手ならどれだけの数が居ても勝てる。次は?)

 

上空に現れる新たな機影、それは2年前のあの光景。

対艦刀を両手で振り上げるソードストライクがアスランに迫る。

 

(ストライクだと!? パイロットはキラなのか?)

 

振り下ろされる対艦刀をアスランはシールドで防ぐ。

艦艇やモビルアーマーをも破壊する事を想定して作られた武器だが、ウイングゼロは片腕で難なくソレを受け止める。

マシンキャノンを展開しトリガーを引き弾丸が連射されるが、フェイズシフト装甲のストライクにダメージはない。

それでも右腕の小型シールドで防ぎながら距離を取る。

 

(あの時のアイツは戦闘経験は俺達よりも浅かった。それなのに、優位な立場にありながら負けた。そのせいでニコルが……)

 

(アスラン、下がって!!)

 

声が聞こえる、あの時と同じ声。

右腕を失い、左手にランサーダートを握りソードストライクに走る。

それは未だに鮮明に残る記憶と全く同じ光景。

 

(ニコル!? 止めろ、ソイツは!!)

 

身を引くソードストライクの対艦刀のレーザー刃がコクピットに触れる。

だがブリッツの動きは止まらずに、そのままランサーダートを左脚部に突き立て組み付いた。

 

(今です!! 僕ごとストライクを!!)

 

(そんな!? だが、撃つなら今しか……)

 

左手のバスターライフルの銃口をブリッツとソードストライクに向ける。

だがトリガーに掛けた指は鉛が付いたように重く、アスランは2人を撃ち抜く事が出来なかった。

 

(俺の……俺の敵は?)

 

(アスラン、キミがトールを殺した!!)

 

(キラ!! だったら、だったらお前はどうなんだ!! お前だってニコルを殺した!!)

 

いつの間にか視界からブリッツは消えており、目の前にはエールストライクが立ち塞がる。

振り下ろされたビームサーベルはウイングゼロの左腕を切断した。

 

(グッ!! 俺はお前を……お前を!!)

 

アスランもビームサーベルを振り上げるとエールストライクの左腕を斬った。

態勢はそのままに、ビームサーベルを投げ捨てマニピュレーターでエールストライクの頭部を掴むパワー任せに引き上げる。

ツインアイのレンズが割れ、歪む装甲。

激しいスパークを上げながら伸びるケーブルごと頭部を引きちぎる。

 

(これなら!!)

 

(いいや、こう言う手もあるよ)

 

冷たく呟くキラ、エールストライクはウイングゼロに組み付くとコンソールパネルを叩くとハッチを開放してその場から離脱してしまう。

動けなくなるウイングゼロ。

 

(アイツ、まさか!!)

 

その意図に気が付いた時にはもう遅く、自爆装置の発動したエールストライクにウイングゼロは巻き込まれてしまう。

獄炎の炎の中、アスランは本当に死んでしまったような錯覚に陥る。

 

「あ゛あ゛あ゛あああァァァ!! はぁ、はぁ、はぁ!! 生きてる? 今のは何だったんだ? 俺は……」

 

システムに翻弄されるアスラン。

眼前には再び、フリーダムに乗るキラが現れた。

向けられるビームライフルの銃口、けれどもアスランは心の中で懸命に叫ぶ。

 

(違う、違う違う違う!! キラは敵じゃない!! 俺もアイツもただ戦わされて居ただけだ!! 俺の本当の敵はキラじゃない!!)

 

心でそう叫んだ時、自身に襲い来る幻影は彼方へ消えた。

だがコクピットに居る限り、システムはアスランに戦うべき敵を見定めようとさせる。

兵士として訓練を受けた彼でもゼロシステムに打ち勝つ事は難しい。

 

(言葉は信じれませんか? なら、ご自分でご覧になったモノは?)

 

(ラクス!?)

 

(戦場で、久しぶりにお戻りになったプラントで、一体何を見て来たのですか?)

 

(それはキミ達にだって言える事だろ? 2年前の大戦は何だったんだ? 俺達は平和の為に戦った筈なのに、どうしてこんな事をするんだ!!)

 

(信じるモノの為に。アスランが信じるモノは何ですか? 頂いた勲章ですか? それとも、今は亡きお父様の幻影ですか? 信じるモノも、守るべきモノもないと言うのに、どうして戦うのですか?)

 

(キミ達にはあるのか? 信じるモノ、守るべきモノが?)

 

(はい、それがなければキラは再びアナタの敵になるかもしれません。わたくしもそうです)

 

(敵になるのか? ラクスが敵?)

 

悩むアスランにラクスは微笑み掛けるだけ。

以前にも見た光景、アスランは無意識に右手を突き出すと握った銃をラクスに向けた。

でもそれは強がりでしかない。

威嚇のつもりで向けてるだけで本当に撃つつもりはなかった。

けれども震える指はフレームではなくトリガーに掛かっており、力んだ彼は引いてしまう。

閃光が視界に広がる。

 

(ラクス!? ウソだ、こんな……)

 

血に染まるラクスの体。

殺したのは紛れも無く自分自身。

混乱するアスランの元に武装した黒服達が現れた。

これも以前に見た事がある。

 

(アスラン・ザラ、よくぞやってくれました。彼女は国家反逆罪に問われる身。ザフトの障害です)

 

(違う、これは幻覚だ!! ラクスは生きて居る!! 俺は彼女を殺してない!!)

 

叫ぶアスラン。

すると黒服達の姿が霞みと消える。

場面は再び彼女と対面した時へと戻った。

 

(アスラン・ザラ。アナタは何を信じるのですか? 信じるモノがないのに戦うのですか?)

 

(俺はこの戦争を終わらせる為に、プラントの為に!!)

 

(では、わたくし達に手を貸して下さいませんか? キラも一緒です)

 

手を差し伸べるラクス、銃を突き付けるアスランの手は震えて居る。

だが一瞬の躊躇が、彼女の肌を再び血に染めた。

響き渡る銃声。

地面に倒れるラクス。

振り向いた先に居たのはかつての父、パトリック・ザラ。

 

(どうして、何故アナタがココに居る!?)

 

(未だに迷いを振り切れんか。哀れだな)

 

(クッ!? アナタにそんな事を言われる筋合いはない!! 2年前の大戦で、どれだけの人間が巻き込まれたと思って居るんだ!!)

 

(それがコーディネーターの、プラントの未来の為)

 

(戯れ言を!! そんな事では何も変わりはしない!!)

 

アスランの叫びにパトリック・ザラはギルバード・デュランダルに姿を変えた。

 

(ならば私に手を貸して欲しい。その為にキミをザフトに呼び戻したのだ)

 

(議長……)

 

(父上の幻影を振り払いたいのだろう? だったら私の言葉に耳を貸すんだ。プラントの真の平和を勝ち取る為に、敵を撃つんだ)

 

(敵……俺の敵……)

 

(そうだ。私達の真の敵は地球連合軍の裏に潜む闇の商人、ロゴス。そして、戦場をかき乱し新たな動乱を生むアークエンジェルとフリーダム)

 

(キラが……敵?)

 

(私達の前に障害として立ち塞がるなら敵として見るしかない。キミはその為にザフトに居る)

 

デュランダムの言葉が頭に響く。

もうろうとする意識に中で、アスランは1つの答えを導き出す。

 

「議長、キラは敵じゃない!! アナタがキラを撃つと言うのなら、俺はアナタを撃つ!!」

 

アスランはコンソールパネルに指を伸ばしシミュレーターを強制終了させ、機体のエンジンを起動させる。

活動を停止して居たウイングゼロのツインアイとサーチアイが緑に輝き、ハンガーに固定された状態がら強引に動き出す。

鉄の骨組みが軋み、鉄が擦れる激しい音が響き渡る。

傍で別作業をしてたマッドは突然の事に驚き、大声でコクピットのアスランに呼び掛けた。

 

「どうした!! 何があったんだ!!」

 

「俺は倒さなくちゃダメなんだ!! 俺の敵を!!」

 

「マズイぞ、コイツは!? 全員持ち場から離れろ!! 退避しろ!!」

 

他の技術スタッフに呼び掛けながら逃げるマッド。

ウイングゼロによって破壊されたハンガーは重力に引かれて落下し、激しい金属音と衝撃を発生させる。

動き出したモビルスーツ相手に生身の人間では手が付けられず、マッドは壁に設置された内線を取り艦長室のタリアに急いで繋げた。

 

『さっきの音は何事? 事故なの?』

 

「いえ、それが……」

 

『ハッキリ言いなさい!! 緊急事態なら人員をすぐに向かわせます』

 

「隊長さんがいきなり暴れ出したんだ!! ヒイロが持って来た機体のデータを取ってる最中に!!」

 

『どう言う事……アスランが? とにかく人を向かわせます。非戦闘員はその場から退避して!!』

 

「了解だ!!」

 

受話器を戻すマッドはとにかく現場から走った。

動き始めたウイングゼロはカタパルトに繋がるエレベーターに向かって歩き出す。

だがそこに、白いザクが立ち塞がった。

 

「やれ、ルナマリア!!」

 

「行っけェェェ!!」

 

コクピットに座るルナマリアはザクを操縦し、動くウイングゼロへ強引に組み付いた。

マニピュレーターで腕を掴み、動けないように機体を壁に押さえ付ける。

その間にコクピットハッチを開放させ、中からレイが現れた。

 

「そのまま押さえて居るんだ」

 

「わかってる!! でも何秒も保たないかも」

 

ルナマリアは全力で両手の操縦桿を押し込んで居るが、ウイングゼロは簡単にそれを押し返そうとして来る。

更には胸部のマシンキャノンを展開するとアスランは躊躇なくトリガーを引く。

 

「アスラン、ウソでしょ!?」

 

だがマシンキャノンは稼働するも残弾がなく、カタカタと音を立てて回転するだけだった。

 

「弾切れだと? クッ、ならビーム砲で!!」

 

ザクのマニピュレーターに押さえ付けられる左腕を動かすアスラン。

ルナマリアも懸命に操縦桿を押さえ付けたが敵わず、耐久限度を超えたザクの腕は根本から引きちぎられた。

 

「そんな!? 保たないなんて」

 

衝撃に倒れるザク。

レイは密着した距離から離れる前に開放されたままのウイングゼロのコクピットに飛び移った。

背後では倒れたザクの甲高い音が響く。

 

「アスラン、どうしてこの様な事を!!」

 

「敵だ!! デュランダル議長は俺の敵だ!!」

 

「何を言って居る? 気でも狂ったか!!」

 

「議長を倒す事が平和への道だ!! 父の思想をこの世から消す。お前もだ、レイ!! ラウ・ル・クルーゼをこの世界に残して置く訳にはいかない!!」

 

「何!? アスラン、何故知って居る!! 貴様は何を--」

 

コクピットに入り込みアスランを取り押さえようとするレイ。

けれども不意に、頭の中に情報が流れ込んで来る。

思わず動きを止めてしまうレイ。

そして彼も見る、システムが導き出す未来を。

 

(この感覚はなんだ? 俺は何を見てるんだ?)

 

レイにまで干渉するシステムの幻影。

しっかりと開いてる筈の目から見えるのはコクピットに座るアスランではなく、2年前の大戦で敗北したプロヴィデンス。

マスクを付けたラウ・ル・クルーゼの姿。

 

(ラウ!?)

 

(これが定めさ。知りながら突き進んだ道。どの道、私は長くはなかった。最後は自分にまとわりつく忌々しい輪廻を断ち切るくらいしか出来ない。だがそれも失敗に終わったがね)

 

(輪廻……俺を生み出し、そしてヤツへと繋がる遺伝子!!)

 

ラウ・ル・クルーゼが搭乗するプロヴィデンスはフリーダムのビームサーベルにコクピットを貫かれる。

そして発射されるジェネシスのガンマ線により機体は焦土と化す。

 

(それでも!! 力だけが、僕の全てじゃない!!)

 

(違うな、誰もそんな事をわかりはしない。やはり貴様は俺の敵だ!! 輪廻は俺が断ち切る、スーパーコーディネーター、キラ・ヤマト!! そして……)

 

レイが見る先に居るのは青い翼を広げるフリーダムと、寄り添うように立つジャスティスの姿。

 

(アスラン・ザラ!!)

 

レイはコンソールパネルに手を伸ばし、稼働したウイングゼロのエンジンを強制的にストップさせる。

倒れるザクにツインバスターライフルを向けるウイングゼロだが、突如として動きが止まりツインアイの輝きも消えた。

コクピットに座るルナマリアは背中から冷たい汗を流しながらも、ギリギリの所でウイングゼロが止まった事に安堵し、口から大きく息を吐く。

 

「止まった? はぁ、何とかなったわね。あんなの撃たれたらミネルバごと吹っ飛ぶわよ。でもアスラン、どうして……」

 

ルナマリアが見つめる先、ウイングゼロのコクピットの中でアスランは気を失って居た。

レイもまだ意識がハッキリとしないが、シートに座るアスランを担ぎ出しタラップへと出る。

 

「ルナマリア!! 無事か!!」

 

『コッチは何とかね。すぐに降ろすわ』

 

ザクを立ち上がらせ、残った右手をハッチに添える。

マニピュレーターに飛び移ったレイは、少しずつ遠ざかるウイングゼロの姿を睨んだ。

 

(あの機体に積み込まれたシステム……アスランがこうなったのはそれが原因か。そして俺も……)

 

片膝を付くザクはマニピュレーターを床に付けレイとアスランを地上に降ろす。

安全が確保されたのを確認した彼女もコクピットから降り、アスランを抱えるレイの元へ走った。

 

「レイ!! アスランは?」

 

「ひとまずは無事だ。だが医務室へ運んで検査をする必要はあるな」

 

「あのビーム砲、アスランは本気で撃とうとして来た。FAITHにも選ばれた人が裏切っただなんて考えたくないけれど……」

 

「詳しい事はまだわからない。取り敢えず出来る事から始めよう。俺はアスランを連れて行く。ルナマリアは艦長に報告だ。それと、あの機体には絶対に乗るな」

 

「それはわかったけど、どうして?」

 

「上手く言葉では説明出来ない。ともかく、あの機体に無防備に近づくのは危険だ。ヒイロに任せるしかない」

 

言うとレイはその場から離れて行く。

艦長室では事態の収拾を聞いたタリアが受話器を手に持つ。

ヒイロは未だに直立不動のまま、彼女の前に立ち続けて居る。

 

「えぇ、わかりました。調査は中断、指示があるまでは誰も近寄らせないで。彼の処分は追って連絡します」

 

受話器を戻すタリアはヒイロに向き直ると、鋭い視線を向けた。

 

「アナタが持って来た機体、ウイングゼロのデータ収集を行って居たアスランが突然暴れ出したみたい。今は落ち着いたけれど、あのビーム砲を撃たれて居ればこのミネルバは簡単に沈んだでしょうね。何か仕掛けでもあるの?」

 

「言った筈だ、俺は何も知らないと」

 

「ここまで来ても白を切るつもり? アナタがそう言うのならわかりました。艦長権限によりヒイロ・ユイ、アナタに営倉入りを命じます。従わなければ最悪の場合、銃殺刑も有り得る」

 

「了解した」

 

抵抗する事もなく、ヒイロはタリアの命令に従った。

この事件によりウイングゼロに触れる事は整備スタッフでも許されず、タリアの許可があるまでは何人たりとも近づく事すら許されない。

意識を失ったアスランから事情を聞くまでは。

 

///

 

ベルリンの戦いから数時間後、ギルバード・デュランダルはある決断をした。

地球圏、プラント全域の各メディアにジャックし、デュランダルは今起こってる戦いの根源を世界に流す。

無許可によるメディアジャックは許されるモノではなく、その後に多大な責任を要求されるが、それでも彼はソレを選んだ。

設置されたカメラのレンズの前に用意されたデスクに座り、デュランダルは声を上げる。

 

「皆さん、突然の無礼をお許し下さい。私はプラント最高評議会議長、ギルバード・デュランダルです。本来ならこのようなメディアの活用は禁止されております。ですが、このような愚行に打って出ても言いたい事がある。聞いて貰いたい事があるのです。我々プラントと地球連合軍は、現在対立状態にある。また2年前の悲劇が繰り返えされて居ます。ですが戦争と言えどもルールはある。数時間前、地球のベルリンが連合軍の兵器により破壊されました。今から流れる映像がソレです」

 

言うと、放送されて居る映像にはベルリンでデストロイが暴れる映像が映し出される。

あまりに突然の事に民間人は避難する時間もなく、灼熱のビームは建物ごと人々を焼き払った。

鳴り響く怒号、悲鳴、流れる血。

炎は街全体を包み込み、昇る煙は空を黒く染める。

ザフトのモビルスーツが防衛網を貼るも、デストロイの火力の前には無力。

 

「地球と宇宙、住む場所が違えば主義や考えが違うのは当然の事。それにより時には対立してしまう事もあるでしょう。本来ならそうななりたくない、ですが人間はそれ程万能ではない。その時の為に我々は力を、武器を手に取り、兵を、軍を作った。覚悟を持った人間が国の為に戦う。今と言う時代にはまだ必要な犠牲と考えます。ですが、コレはナンセンスだ!! 主義主張の為に関係のない人まで虐殺する事が許される筈がない!!」

 

声を荒げるデュランダル。

ミネルバに居るシンは、自室でこの放送を見て居た。

 

「地球連合軍のこの巨大兵器は、数時間後に大勢の犠牲者を出しながらも止める事が出来ました。勧告もなしに攻撃して来た地球連合、そして攻撃された場所は地球の都市です。何故今、我々は戦うのか? それは人類が地球から飛び立つ前の時のような、領土や権力争いとは違う。2年前の大戦、ナチュラルとコーディネーターとの違いでもない。我々プラントは、迫り来る火の粉から身を守りたいだけなのです。では戦いはいつまで続くのか? 地球連合の主張はザフトに占領された地域の開放と言ってますが、このベルリンの惨劇を見てもそう言えるでしょうか? 地球に住む、善良な一般市民を街ごと焼き払う事が、彼らの言う主張として正しいのでしょうか?」

 

映像は切り替わり、画面の向こうに映るのは星の髪飾りを付けたラクス・クラインの姿。

 

「確かに、この戦争の火種は私達コーディネーターの一部の過激派が引き起こした惨劇です。工業用プラント、ユニウスセブンの落下。幸いにも地球に落ちる事はありませんでしたが、この事件によりコーディネーターやプラントに不信感を抱く人も居るでしょう。これを事前に止められなかった事が、新たなる戦いの引き金になってしまいまったのかもしれません。ですが、今のような戦争を繰り返した先に何がるのでしょうか? 多くの血と涙が流される戦争で、一体何が残るのでしょうか? この戦いからは何も産まれない、残りません。それは2年前の大戦で、わたくし達は充分に理解した筈です。憎しみの感情を断ち切り、涙を拭い前を歩く。それが平和への第1歩だと思います。わたくし達にはそれが出来ます。それが、皆が信じる平和へと繋がる事を信じます。光りある、希望溢れる未来に向かって、共に歩んで行きましょう」

 

ラクスの言葉は絶大だった。

透き通る声から来るその言葉は人々の心を癒やし、そして希望を与える。

プラントでカリスマ的存在でもあり人望もある彼女だから出来た事。

場面は再びデュランダルへと切り替わる。

 

「ですが我々の言葉には耳を貸さず、どうあっても戦争を続けようと考えるモノが居る。コーディネーターは間違った存在だと忌み嫌うブルーコスモスも、彼らが作り上げた存在。地球連合、ブル―コスモス、その背後に隠れ戦いを牛耳り、戦争を商業として操って居る存在。利益の為に世界を戦いに巻き込もうとする存在。その組織の名はロゴス!! 彼らが居る限り、この戦争は終わらない。平和を望む我々の真の敵!!」

 

デュランダルの宣言と同時に画面にはロゴスに関係する人物達の顔写真リストが公開された。

それは地球連合にもプラントにも、世界のあらゆる国や地域で潜んで居る。

デュランダルは同じプラントでも身を切る覚悟だ。

 

「我々プラントが戦うべき相手は地球連合ではない。ロゴスこそ滅ぼさんと戦う事を、私はここに宣言します!!」

 

地球圏全土、プラント全土に流されたこの映像により、時代の影に隠れて居たロゴスの存在が浮き彫りになる。

ロゴスの一員であるロード・ジブリールは潜んで居た地球から逃げるべくいち早く動き出す。




舞台はもう少しで宇宙、物語もいよいよ架橋です。
システムにより未来を見たアスランとレイはどう動くのか?
そして営倉に入れられるヒイロ。
次回をお楽しみ下さい。

この作品とは違いますが、予定とは違う新しい企画を考えてます。
読者が少しでも参加出来るモノを考えてます。


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第23話 動き出す運命 

アークエンジェルはベルリンでの戦闘の後、海底へと身を隠して居た。

戦闘の最中に鹵獲した機体、紫のウィンダムのパイロットであるネオ・ロアノークは医務室で目を覚ます。

 

「っ!? ったく、どこだここは? 見た事のない場所だな」

 

周囲を見渡す彼は自分の腕に点滴のチューブが繋がってるのを目にした。

医務室には自分しか居らず、心拍数を計測する機械だけが無機質の電子音を鳴らす。

そこでようやく思い出した。

自分がどこに居て、何をして居たのかを。

 

「そうか……あの時、フリーダムに負けた俺はアークエンジェルに。デストロイはどうなったんだ? ステラは……」

 

途中で意識を失ったネオには、ベルリンでの戦闘の結末がどうなったのかを知らない。

インパルスのパイロットであるシンがどう動いたのか、ステラがどうなったのか。

けれども考えてもわかる筈もなく、長時間寝たきりであったが為に空腹が悲鳴を上げる。

 

「取り敢えずメシだな。ここまでご丁寧にしてくれてるんだから、目を覚ました途端に尋問とかはしないだろ。食い物くらい寄こしてくれんだろ」

 

ネオはベッドに用意されたスイッチを手に取りボタンを押し込んだ。

数分もすると、呼び出しコールを聞き付けて誰から医務室の扉を開放した。

ベッドに寝たままの状態で顔だけを向けた先に居たのは1人の少年と、ウェーブの掛かった長髪の女性。

女性は目を覚ました彼の顔を見た途端、瞳から涙をこぼした。

 

「ムウ……生きて……」

 

「ムウ……だと?」

 

感情が溢れだした彼女はネオの胸に抱き付き顔をうずめた。

けれどもネオは状況を把握する事が出来ず、彼女に何をしてあげる事も出来ないままもう1人の少年に視線を向ける。

 

「ご婦人に抱かれるのは嬉しいけどね、そう涙を流されても困るんだが。オイ、そこのボウズ。悪いが何とかしてくれ」

 

「ムウさん、覚えてないんですか?」

 

「覚えてないって何を? それにな、ムウって何だよ?」

 

「何って、アナタの名前じゃないですか!? ムウ・ラ・フラガ、2年前に僕達と一緒に戦った」

 

「知らねぇよ、そんな奴。俺はネオ・ロアノーク。ムウ・ラ・フラガだなんて名前は聞いた事もないね」

 

「そんな……」

 

昔の記憶がない事にキラは愕然とする。

それどころか自分が何者なのかさえ覚えて居ない。

全くの別人と、目の前のムウ・ラ・フラガは言う。

 

「ずっとこうしてるのも悪くはないが、女が泣いてるのを見るのは好きじゃない」

 

「ムウ……」

 

「あ~、取り敢えず落ち着いた方が良い。こんな事をしてても何にもならないしな。それに俺、腹減ってるんだよ。贅沢言わないから食えるモノがあると嬉しいんだが?」

 

ネオの言葉にマリューは返事を返さず、何も言わず口元を手で隠しながら医務室から出て行ってしまう。

瞳から涙は流れたままだ。

残るキラは彼女の背中を見送ると、ネオの顔に向き直る。

久しぶりに見る彼の顔、鼻元には一筋の傷跡。

 

「アナタが寝てる間に少し調べさせて貰いました。アナタの血、DNAは、この艦のメディカルデータと完全に一致してます。今は何かが原因で記憶を失くして思い出せないかもしれないけれど、アナタは間違いなくムウさんです。僕達が知ってるムウさんで間違いないんです」

 

「そうは言われてもね、思い出す以前に記憶にないんだが?」

 

「それでも、アナタはムウ・ラ・フラガだ!!」

 

声を荒げるキラだがネオはそれを感じ取ってはくれない。

いつまでも同じ事は言われていい加減にネオは嫌気がさしていた。

 

「はいはい、わかりましたよ。わかったからメシ、持って来てくれないのか?」

 

「わかりました。少し待ってて下さい」

 

言われてキラも医務室を後にする。

残された部屋で1人ベッドの上で考えるのは、シンとした約束とステラの事。

 

///

 

戦闘を終えたミネルバは修理と補給の為に、ザフトのジブラルタル基地へと入港する。

地球へと降下してから、目的地であるここまでようやく辿り着く事が出来た。

現在、ジブラルタル基地は先のデュランダルの放送もあり、ロゴス打倒の為に戦闘準備を進めて居る。

基地では作業員が慌ただしく動いており、物資や生産されたモビルスーツが次々と艦艇に積み込まれて居た。

あの放送の後、公開されたロゴスのメンバーは各地のレジスタンスや武器を手に取る民衆により次々に捕らえられる、もしくは有無を言わさず殺されて居る。

中でも逃げ出したモノはロード・ジブリールを筆頭にアイスランド島にあるヘブンズベースに逃げ込んだ。

そしてザフト、民衆の手から逃れる為に脱出する準備を進めて居る。

ジブラルタル基地はこのヘブンズベースのすぐ近くに建造されており、彼らを逃さんと大規模な戦闘準備が行われて居た。

シン、レイ、ルナマリアは基地へ上陸出来るようになるまで休憩室に待機し、ミネルバが入港するのを待つ。

シンはここに居ないアスランとヒイロの事が気になった。

 

「ヒイロは営倉入りで、アスランは医務室か。レイとルナは見てたんだろ? 何があったんだ?」

 

「データ採取をして居た。ヒイロが持って来た機体のな。その時に乗って居たのがアスランだ」

 

「だから、それがどうしてあんな事になるんだ?」

 

「上手く口では説明出来ない。けれどもはっきりとしてるのは、普通の人間にはあの機体を乗りこなす事は出来ない」

 

「何か、レイにしてはややこしい言い方だな。あの機体、そんなにピーキーなのか?」

 

「そう言う意味ではない」

 

「ならどう言う意味なんだよ? ルナも見てたんだろ? 教えてくれよ」

 

必要以上に話そうとしないレイの言葉をシンは理解出来ない。

すぐ傍に居る彼女にも質問を投げ掛けるが、ウイングゼロに搭乗した事のある人間はヒイロとアスラン、そしてレイだけだ。

 

「私にだってわかんないわよ。いつの間にかあんな事になって。あの機体、ウイングゼロって言うんだって」

 

「ウイングゼロ……」

 

「艦長からの命令で指示があるまでは誰もあの機体に近づくなって。アスランが目を覚まして、事情を聞いてからでないと。流石にあのビーム砲を所構わず撃たれたらたまったもんじゃないわ」

 

「そうなのか。なら本人に聞くしかないな」

 

「やめといた方が良いわよ。もうすぐ大きな作戦が始まるし、みんなピリピリしてる。変な事してるってバレたら艦長が酷いわよ」

 

ルナマリアの忠告で踏み止まるシン。

けれどもやはり、あの機体はモビルスーツのパイロットとしてどうしても気になる。

そうこうしてる内に、ミネルバはジブラルタル基地へと入港した。

 

『ミネルバ、着艦を確認。作業員は速やかに所定の作業に入って下さい。ミネルバはこれより修理、補給作業に入ります』

 

艦内放送が全域に流される。

ミネルバで動かせる機体はインパルスしかなく、他の機体は損傷により大規模な修理をしなければ動かす事は出来ない。

そのインパルスも機体構造のお陰で何かをする必要はなく、3人はその場に留まった。

 

「ジブラルタル入って、次はどうすんのかな? 動ける機体はインパルスしかないし、作戦までにレイやルナの機体を間に合わせてくれるのか?」

 

「さぁな、だが先日の議長の言葉に沿った形での作戦が展開されるだろう。今の俺達に出来るのは、その時に備えて万全の態勢を整える事だ。その為に最善の事をする」

 

「そんな先の事考えるなんて、シンらしくないわよ」

 

「良いだろ!! 俺だって考える事くらいあるんだ!!」

 

「議長はベルリンの惨劇を見てロゴスを撃つと決心なさったのだろう。あの悲惨な状況を見られて」

 

レイの言う通り、ベルリンでのデストロイの被害は甚大だ。

日に日に死者は増え、未だに復旧の目途も立たない。

勧告もなしに行われた無差別攻撃に親や兄弟を亡くした人がたくさん居る。

2年前の大戦で家族を亡くしたシンには、その気持ちが良くわかった。

流される血と涙、悲鳴と叫びは残されたモノの心の中に深く刻まれる事だろう。

 

「議長が言うロゴスを撃てば、この戦争は終わる。もうこんな悲劇は繰り返しちゃいけないんだ。これ以上、ステラのような人を増やさない為にも、俺はロゴスを撃つ。最後まで戦い抜く。それが、この戦争を終わらせる唯一の方法だから」

 

確固たる決意を言うシン。

その鋭く赤い瞳に、ルナマリアはいつの間にか自分より成長した事に驚く。

 

(いつまでも子どもみたいに思ってたけど、少しは成長したのかな)

 

『シン・アスカ、アスラン・ザラ。両名は速やかに3番格納庫に来られたし。繰り返す。シン・アスカ、アスラン・ザラ。両名は――』

 

「何かしら? 急に呼び出し、しかも格納庫だなんて」

 

「取り敢えず行くしかないだろ。でもアスランは……」

 

「シン、俺も行こう。誰かはわからないが事情を説明する必要はある。1人で行くよりは良い筈だ」

 

「そうだな。3番格納庫か……レイ、行こう」

 

言うと2人はミネルバの休憩室から出て行く。

残されたルナマリアは設置された自販機のボタンを押し、紙コップにコーヒーが注がれるのを待った。

 

///

 

エレカに乗り放送で言われた3番格納庫にまで来たシンとレイ。

モビルスーツの搬入作業に忙しい事もあり、周囲からは甲高い機械音がひっきりなしに響く。

そこでは銃を装備した護衛兵が2人待機しており、シンがすぐ傍にエレカを止める。

 

「ここだよな?」

 

「間違ってはない。降りるぞ」

 

運転席から見上げる格納庫はモビルスーツが何機も入れる程に巨大で無骨だ。

エンジンを止めドアを開けて降りる2人は待機する護衛兵の所にまで歩く。

 

「シン・アスカだな。アスラン・ザラはどうした?」

 

「彼は現在、戦闘により負傷して動ける状態ではありません。代わりに私が来ました」

 

「名前は?」

 

「レイ・ザ・バレルです」

 

「わかった。少し待て」

 

言うと護衛兵は通信機を手に取りどこかに繋げ後ろを向いてしまう。

声を聞き取り会話内容を盗み聞きする事は出来ず、2人は背を向ける護衛兵の通信が終わるのを待った。

 

「わかりました。レイ・ザ・バレル、許可が降りた。シン・アスカと共に内部に入る事を許可する」

 

「ありがとうございます。それで、中には誰が?」

 

「行けばわかる。くれぐれも失礼のないように」

 

護衛兵は道を開け、シンとレイは言われた通りに格納庫内部へと歩いて行く。

運搬作業の行われてる他の格納庫とは違い、この3番格納庫は驚く程に静かだ。

薄暗い通路を進む2人、扉を抜け進んだ先に居たのはプラント最高評議会議長のギルバード・デュランダル。

シンはデュランダルを目にすると驚くと共に敬礼を取る。

 

「お久しぶりです議長。先日のメッセージ、感動しました」

 

「ありがとう、私もキミの活躍は聞いているよ。良く頑張ってくれた」

 

「ありがとうございます」

 

シンは喜んで返事を返す。

隣に立つレイは敬礼を解くと、この場にアスランが居ない事を説明する。

 

「お久しぶりです、議長」

 

「レイ、キミも良くやってくれて居る。ミネルバには随分無理をさせてしまった」

 

「いえ、命令を遂行するのが我々の仕事です。アスランの件なのですが」

 

「あぁ、彼にも来るように伝えたのだがね。負傷したと聞いたが大丈夫なのかい?」

 

「はい、今の所は。後で詳しく報告させて頂きます」

 

「頼む。さて、もう知っている事だと思うが、私は全世界にロゴスの存在を露呈させた。これにより出口の見えなかったこの戦争も、ようやく終わらせる事が出来る」

 

「自分は議長の言葉を信じます。一刻も早く、この戦争を終わらせましょう」

 

「期待してるよ、シン・アスカ君。さて、まだ話したい事はいろいろあるが、まずは見てくれたまえ」

 

デュランダルが視線を向ける先には2機のモビルスーツが立って居た。

薄暗い格納庫では詳しい全貌を見る事は出来ないが、数秒後にはライトが照らされる。

用意されて居たのは、見た事のない新型モビルスーツ。

2人はそれを見て息を呑んだ。

 

「ZGMF-X42Sデスティニー、ZGMF-X666Sレジェンドだ。激化する戦闘に合わせて開発された新型モビルスーツ。先日のベルリンの件と良い、連合はモビルアーマーの開発に力を入れて居る。モビルアーマーはコストは掛かるが、単機で戦況を変えられるだけの戦闘力がある。デスティニーはそれに対抗すべく作られた機体だ。この機体はシン・アスカ君、キミに乗って貰う」

 

「自分にですか? ですがインパルスは?」

 

「インパルスはレイかルナマリア君に乗って貰う。デスティニーはキミの今までの戦闘データを組み込んで調整されて居る。キミの為の、新しい機体だ。使ってくれるね?」

 

「俺の……新しい機体……」

 

デスティニーを見上げるシンは喜びの表情を浮かべる。

一方のレイはレジェンドと呼ばれる機体に因縁めいたモノを感じ取った。

 

「議長、もう1つの機体。レジェンドのパイロットは?」

 

「レジェンドにはアスランに乗って貰う。ここに呼んだのは最後の微調整をして欲しかったからだ。デスティニーは出来るが、レジェンドは彼の回復を待つしかない。この新しい機体、デスティニーとレジェンドが新しい時代を切り開く」

 

「議長にはそれが出来る。私達はその為に戦います」

 

「戦いを終わらせる為に戦うと言うのも矛盾した話だがね。しかしこの戦争が終われば、私は人々が幸福に過ごす事の出来る世界を作って行く。シン・アスカ君、デスティニーをキミに託す」

 

デュランダルの綺麗な言葉にシンは心を奪われる。

 

「レイ、行こうか」

 

「はい、議長」

 

役目を終えたデュランダルはレイと共にこの場から立ち去ってしまう。

 

///

 

格納庫から移動したレイは、デュランダルの為に用意された部屋まで来た。

デュランダルはソファーの上に腰を降ろし、レイも向かいに座る。

レイは口を開けると、アスランが来なかった理由を話し始めた。

 

「ギル、アスランは危険です」

 

「穏やかな話ではないな。どう言う事だ?」

 

「あの男は2年前の大戦でアークエンジェルと共に行動してました。その時の感情をまだ引きずって居ます」

 

「そうか、期待して居たのだがね。やはりダメかな?」

 

「彼のアークエンジェルとフリーダムに対する思いは強いです。このままでは裏切る事も」

 

「裏切り……そうなってしまうか。パイロットとしての技術がどれだけあろうと、彼もまた1人の兵士でしかない。戦いが終わった後の世界を作るのは政治家だ。余計な事を考え過ぎるのは良くない。そのせいで、折角の力を充分に使えない。フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトと言ったか?」

 

「はい、奴が居なければこうはならなかったかもしれません」

 

「彼との出会いが不幸と言う事か。今更その運命は変えられない」

 

アスランの今までの経緯はデュランダルに筒抜けだった。

2年前から今に至るまで全て。

ミネルバに乗船してからも、フリーダムを意識するあまり戦果を上げられなかった事も。

けれどもそれさえなければアスランはパイロットとして最上位の存在だ。

そんな彼が再びザフトを裏切り敵に付けば、こちらの損害は計り知れない。

 

「アスランの事は私に任せて貰えますか? こちらの不利益になるような事はさせません」

 

「頼む。私はこれからの事で忙しい。後で艦長にも伝えるが、ミネルバには宇宙へ行って貰う」

 

「宇宙……ヘブンズベースの攻略は?」

 

「他の部隊に任せる。ミネルバはもしも逃げられた時の為に宇宙へ先回りして貰う。だがそれも、修理と補給を終わらせた後だ。もしも逃げられ、その上間に合わなかったら、また別の指示を与える。レイ、アスランの事は頼んだ。罪状はある、拘束も許可する。裏切りだけはあってはならん」

 

「了解しました」

 

立ち上がるレイはデュランダルに敬礼する。

向かう先は、アスランが眠るミネルバの医務室。

 

///

 

ゆっくり開けたまぶたから光りが差し込む。

目を覚ましたアスランは自身の身に何が起こったのかを思い出す。

 

(そうだ、俺は……あの機体に搭載されたシステムなのか? どちらにしても、ここにはもう居られない。アークエンジェルと合流する。それしか)

 

白いベッドから起き上がるアスランは急いでカーテンを開けた。

出た先には酸素マスクを付けて眠るステラと軍医の姿。

音に気が付いた軍医は振り返り、彼の様態を確かめようとする。

 

「あぁ、目が覚めたのか。気分はどうだい?」

 

「もう大丈夫です。急ぐので失礼します」

 

「急ぐって、艦長から――」

 

軍医の話も聞かずにアスランはこの場から立ち去ろうとする。

扉を開け通路に出た先で待って居るのは、鋭い視線を向けるレイの姿。

 

「アスラン、気が付いたのですね。今回の件、覚えて居ますか?」

 

「ルナマリア、彼女には悪い事をした。それに関係のないクルーにも。俺がしてしまった事は自覚して居る」

 

「ならばどうするべきか、わかる筈ですね?」

 

「レイ、キミもあの機体で見たのか?」

 

探るように、アスランは静かに問い掛ける。

これ以上の言葉は必要なく、レイもその意味を理解して居た。

 

「見ましたよ。アナタは――」

 

「やはりお前は――」

 

レイは素早く手を腰にホルスターに伸ばし銃を抜くと銃口をアスランに向けた。

アスランも殺気を感じ取り素早く走り抜ける。

 

「俺の敵だ!!」

 

銃声が響く。

アスランは発射される弾丸を避け、銃を構えるレイに組み付いた。

2人分の体重が背中に掛かり背後から倒れるレイ。

衝撃が体に伝わり、握ってた銃を手放してしまう。

レイよりも早くに態勢を立て直すアスランは、逃げる為に通路を走る。

 

「ぐっ!! 逃がすモノか!!」

 

 

投げ出された銃を拾い再び銃口を向けるが、アスランの姿は通路の角へと消える。

追い掛けるレイ。

だが角を曲がった先には幾つかの扉があるだけで誰の姿もない。

 

「中に隠れたか。だが武器もない状態では袋のネズミだ」

 

壁に設置されたコンソールを叩き1つ目の扉を開放させる。

中に光りはなく、ベッドが1つ用意されてるだけ。

レイは銃口をベッドに向けトリガーを引くと、マズルフラッシュが部屋を照らす。

弾丸により穴が開くがそれだけだ。

室内に入り込み逃げ込んでないか探すレイだが、人が隠れてる様子はない。

 

「ここには居ない。次だ」

 

部屋から出るレイはすぐ隣の部屋のコンソールパネルに指を伸ばす。

アスランは逃げ込んだ部屋の中で次の行動を模索して居た。

中は殺風景で、配給されたばかりのように何もない部屋。

唯一あるのは部屋の隅に置かれたカバンだけ。

中を確かめると、そこにあったのは何丁かの銃とマガジンだった。

 

「誰の部屋なんだココは? でもこれで対抗出来る」

 

銃を右手に持ち、左手にはカバンを持つアスランは警戒しながらも扉を開放させる。

出ると同時に銃を構え、視線の先には同じ様に武器を構えるレイの姿。

生死の境目に立たされ、躊躇なく引かれるトリガー。

レイが放つ弾丸は髪の毛をかすめる。

もう1つの弾丸は一直線にレイの元に向かい、握ってた銃に直撃した。

衝撃に銃は弾け飛び指を挫く。

 

「ぐっ!? アイツめ!!」

 

(あのシステムを見たのなら、レイにとって俺は敵だ。そして俺にとっても)

 

アスランはミネルバから、ジブラルタル基地から脱出する為に走る。

レイは一旦追跡を諦め、壁に設置された通信機で司令本部に繋げた。

 

「脱走だ、裏切り者が脱走した!! シェルターを閉鎖、モビルスーツデッキには行かせるな!!」

 

叫ぶレイ、数秒後には艦内全域に警告音が響き渡る。

走るアスランはゼロシステムで次に起こる事を既に見ており、モビルスーツデッキには向かわずミネルバから降りた。

今なら大量にモビルスーツは用意されており、隙さえ付ければ簡単に奪う事が出来る。

外は闇に包まれており、激しい雷光と雨が降り注ぐ。

 

(すぐに追手が来る。モビルスーツを奪うなら水陸両用、空からだと逃げられない。ゾノを探すんだ)

 

システムで未来を見た恩恵は大きい。

この状況になれば自分に味方するモノなど居らず、目に映る人間全てが敵だ。

それでもアスランは的確に逃走ルートを見定め、脱出に使うゾノを見つける。

ワイヤーに足を掛け、開放されたハッチにまで上昇するとコクピットに乗り込む。

流れるようにコンソールパネルを叩きOSを起動させバッテリー電力を供給。

ピンクに光るモノアイがギョロリと動き、周囲の状況を視界に入れる。

 

「まだ防衛部隊は展開してないな。今なら逃げられる」

 

ハンガーを解除し動き出すゾノ。

丸みを帯び緑の装甲をした機体は海に向かって歩き出す。

モビルスーツはまだ展開されてないが、それでも武器を携帯した兵が異常に気付きライフルの向けて来た。

 

「こちらB-19区画。脱走者を発見した。ゾノを強奪、海から逃げるつもりだ。至急、応援を要請する」

 

「撃ち方用意!! 撃てぇ!!」

 

無数に飛び交う弾丸。

けれどもモビルスーツの前には豆玉も等しい。

居場所を知られた以上、長居は無用。

操縦桿を両手に握り機体を操作するアスランだが、レーダーに新たな反応が映し出される。

 

「追手が来たにしては早過ぎる。何だ、データにない機体」

 

現れたのは血の涙を流し、赤い翼を持つ機体。




シンに与えられて新型機デスティニー、どのような活躍を見せるのか?
アニメとは少し違う展開、アスランの動向は如何に?
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第24話 雷光の夜

ミネルバ、そしてジブラルタル基地全域に鳴る警告音。

アスランの脱走により動ける兵は緊急事態に騒いで居るが、薄暗い営倉の中に居るヒイロは慌てる事もなくただジッとして居た。

そんな中で通路に繋がる扉が開放され強い光りが差し込む。

素早く視線だけを向けた先に居たのは、トレーに乗せられた食事を運ぶメイリンの姿。

彼女はそのまま檻の前にまで来ると床下に作られたわずかな隙間からトレーを中に入れる。

 

「ヒイロ、ご飯持って来たよ」

 

「そうか……」

 

「脱走者が出たんだって、お姉ちゃんも急いで走ってったよ。もうミネルバも基地も大騒ぎ。みんなで血眼になって探してる。でも逃げ出すなんて誰がしたんだろ? こんな事してもすぐに捕まっちゃうのに」

 

何も語らないヒイロはトレーを受け取り、置かれて居るパンを掴みひと口頬張る。

 

「だからって係の人まで行く事ないのにね。たまたま食堂でご飯食べてたら全員居なくなっちゃって。私も行くか迷ったけど、基地総出で探してるって聞いたからコッチに来ちゃった」

 

メイリンが話してる最中もヒイロは目すら合わせず黙々と食事を取る。

 

「でもまた営倉入りだなんて。やっぱり艦長、あの機体の事許してくれなかったの?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「ヴィーノも言ってたけど、あの機体は何なの? 装甲が普通のモビルスーツとは違うって。でもそれを調べるだけの機材がないからミネルバではわからないって言ってた。ヒイロ、もしかして連合軍から……」

 

疑惑の眼差しを向けるメイリンに、ヒイロは初めて口を開く。

それでも、言える情報は極僅かだ。

 

「あの機体は連合のモノでもザフトのモノでもない」

 

「だったらどうしたの?」

 

「俺は譲って貰っただけだ」

 

「譲るって、モビルスーツだよ? 普通そんなの貰えないよ?」

 

「同じ事を2度言うつもりはない。俺はこれ以上の事は知らない」

 

「ヒイロ……」

 

だんまりを決め込むヒイロにメイリンはもう追求出来ない。

静かで薄暗い営倉では咀嚼する微かな音だけしか聞こえる。

暫く食べ続けるヒイロを眺めるメイリン、するとようやく向こうから口を開き話題を出す。

 

「ザフトは大規模作戦に打って出るか。アイツの言うようにロゴスを倒せば、この戦争は終わる」

 

「あの放送があってから各地で暴動が起きてるって。リストに上がってた人達が次々に捕まって、それでも逃げたメンバーがヘブンズベースに立て籠こもってる。でもあそこも大きな基地だから、急がないとどこかに逃げられちゃう」

 

「逃げるとしたら宇宙だ。地続きの地球では逃げる場所も限られる」

 

「だから絶対に失敗出来ないんでしょ。それなのに脱走者だなんて……」

 

「連合も戦力を強化して居る。またあの時のモビルアーマーが投入される可能性もある。そうなれば苦戦は免れない。だが、仮に上手く行って戦争が終わったとしても平和になるとは限らない」

 

「どう言う事? その為に議長はあそこまでしたのに。ならどうしたら世界は平和になると思うの?」

 

メイリンもギルバードの放送を聞いた1人であり、彼の言葉に感化されそれ以外に平和になる方法はないと信じて居る。

異論を唱えるヒイロは、過去の経験からプラントの未来を考えた。

 

「ロゴスと連合を倒す。その次はザフトだ」

 

「ザフトって、味方なのにどうして!?」

 

「この世にモビルスーツがある限り世界は平和にはならない。兵器がある限り、また俺達のような兵士が必要となって来る」

 

「だったらモビルスーツを失くすだけでザフトを倒す必要は無いんじゃない?」

 

「平和に必要なのは主義や主張ではなく平和を望む心だ。それが実現出来ればザフトは必要ない。この戦争が終わった後の事、少しは考えておけ」

 

ヒイロの言う通り、デュランダルは戦争後の統治をどうするのかを一切言葉にしてない。

けれども今の目標はロゴスを撃つ事であり、その後の事は誰にもわかる筈がなかった。

言われてメイリンはプラントで過ごす両親の事を思い出す。

 

///

 

警告音が響き渡る中で、デスティニーの調整作業を進めて居たシンはコクピットに乗り込んだ。

コンソールパネルに指を伸ばしOSを起動させる。

バッテリー電力を供給させ、司令部に通信を繋げた。

 

「こちらミネルバ隊のシン・アスカです。何があったのですか?」

 

『脱走者だ。今居場所を突き止めてる』

 

『脱走だって!? こんな時に!! それで、誰が逃げ出したのですか?」

 

怒りをあらわにするシン。

裏切り者をこのまま逃がすつもりはなく、許すつもりもない。

司令部に聞き返すが、突然他の通信が割り込んで来る。

繋げると戦闘画面に『SOUND ONLY』の文字が現れ、レイの声が聞こえて来た。

 

『シン、聞こえるな?』

 

「レイ、どうした? 脱走者が――」

 

『その脱走者はアスランだ!!』

 

声を上げるレイにシンは息を呑む。

考えは同調出来なかったがまさか敵になるなどとは想像出来ない。

自分達を裏切った事に怒りがこみ上げるシン、は操縦桿を強く握り締め歯を食いしばる。

 

『俺は地上から奴を追い掛ける。シンはもしもの為にモビルスーツの準備を』

 

「わかった。デスティニーを使う」

 

『頼む』

 

端的に言うレイは通信を切る。

シンも体にシートベルトを通すとヴァリアブルフェイズシフト装甲を展開させた。

灰色だった装甲がトリコロールカラーに変わり、ツインアイに光が灯る。

その瞳からは赤い血の涙が流れてるかのよう。

 

「司令部へ、ハッチを開放してくれ」

 

装甲の至る所に付けられて居たケーブルがカットされ、ゆっくり歩き出すデスティニーは開放されたハッチから格納庫を出る。

外は夜の闇に覆われ、雷光と雨が吹き荒れて居た。

 

『こちらB-19区画。脱走者を発見した。ゾノを強奪、海から逃げるつもりだ。至急、応援を要請する』

 

「レーダー確認、そう遠くないな。武器は……」

 

初めての機体に操作がまだ完璧ではない。

マニュアルを確認し、背部にマウントされた大型ビームソード、アロンダイトを選択しマニピュレーターを伸ばす。

グリップを掴み前に構えるデスティニー。

折り畳まれた刀身が展開され、全長を上回る刀身があらわになる。

シンはペダルを踏み込みメインスラスターを吹かし、赤い翼を広げデスティニーを空に飛ばす。

大空にはばたくデスティニーは海へ逃げようとするゾノを視認した。

 

「見つけた、アイツだな!!」

 

敵を見つけてからの行動は早かった。

加速する機体は雨を振り払い、空気を斬り裂くように突き進みゾノの頭上を取る。

アロンダイトを両手で握り大きく振り上げ、急降下と同時に振り下ろす。

 

「はあああァァァッ!!」

 

鋭い切っ先は空気を裂き、エネルギー刃は触れるモノ全てを焼く。

だがそれも、ゾノはスラスターを駆使して前方に飛び付くようにして何とか回避する。

頭部に付けられて居た白いアンテナは半分に切断された。

コクピットに座るアスランは、見た事のない新型機に舌を巻く。

 

「ヘブンズベース攻略用に開発された新型か。ともかく今は、海に逃げるしかない」

 

アスランにはこの機体で海に逃げる他選択肢がない。

何とか外を目指すが、目の前にはデスティニーが立ち塞がる。

 

「くっ!? もう少しの所で」

 

「抵抗せずに投降しろ!! もう逃げられないぞ!!」

 

「その声は……シンなのか!?」

 

外部音声から聞こえて来るのは一緒に戦って来た仲間のシンの声。

相手であるシンにもその声は届いて居た。

 

「アスラン!? どうしてアンタがこんな所に居るんだ!!」

 

「止めろシン!! 俺はもうここには居られない。議長の言葉には従えない!!」

 

「なに!?」

 

「俺はもうオーブとは戦わない。アークエンジェルともだ。本当の敵が誰なのかがわかった」

 

「本当の敵だって……」

 

「俺はザフトには居られない。お前だって、オーブとは戦いたくない筈だ。ロゴスにはオーブの政治家も関与して居る。また戦うかもしれないんだぞ」

 

その言葉にシンは息を呑み、そしてトダカに言われた言葉を思い出す。

 

(認めなくてはならない。オーブの理念はこの時代に必要なくなったのだ。だからシン君、時代を受け入れるんだ。強く--)

 

強く胸に刻まれた言葉。

彼の最後の声は今のシンを強く奮い立たせる。

怒りではなく、確固たる信念で。

 

「俺は自分の意思で戦って来た。またオーブと戦う事になっても、それが平和へと繋がるのなら誰だろうと戦う!! アンタとだって!!」

 

「くっ!!」

 

海へ逃げようとするアスランのゾノはアスファルトの上からスラスターを全開にして滑るように突き進む。

装甲と擦れ合い飛び散る火花は濡れた路面に消える。

足元へ突き進んで来るゾノに、シンは反射的にメインスラスターを吹かし飛び上がった。

加速し突き進むゾノは反転し視界を確保すると、両腕に内蔵されたビーム砲をデスティニーに向ける。

トリガーが引かれ、細かなビームが連続して発射されるが、左腕のシールドに防がれてしまう。

 

「アスラン。アンタが敵になるのなら、俺は撃つ!!」

 

戦いながら思い出すのは、ローエングリンゲート攻略作戦後に言われたアスランの言葉。

初めて乗る最新鋭機を動かしながらも、シンの頭の中にはその時の記憶が鮮明に蘇る。

 

(はい。でも1つだけ聞かせて下さい。俺がした事は本当に間違いだったんですか?)

 

(命令違反、規則として見たらキミの行動は間違ってた。事は政治にも関与してる。軽率な行動と言わざるを得ない。けれどもキミは言った、誰かを助けたいと。助ける為にやったと。その感情は絶対に忘れてはダメだ)

 

シールドを構えビームを防ぎながら加速するデスティニー。

最新鋭のデスティニーの機動力を前に、水陸両用のゾノでは相手にならず簡単に追い付かれてしまう。

ビームの中を掻い潜りアロンダイトで横一閃。

一瞬にして溶解する装甲。

ちぎれ飛ぶゾノの右腕は駐車されて居たエリカの真上に落下しボディーを押し潰す。

それでもまだスラスターを全開にしてアスファルトの上を滑るように移動する。

逃すまいとシンは機体を加速させ、右マニピュレーターをズングリしたゾノの頭部へ伸ばした。

 

「もう迷いはない!! プラントの平和の為に、俺は戦う!!」

 

「シン!! 議長は――」

 

裏切ったアスランの言葉がシンに届く事はない。

伸ばされたマニピュレーターは、残されたゾノの大型クローを掴んだ。

ビーム砲の銃口をアスランはデスティニーに向けようとするが、マニピュレーターに内蔵されたむき出しのビームジェネレーターから光りが発生し、ゾノの左腕を吹き飛ばす。

 

「ぐぅぅぅっ!! だが退路は見えた!!」

 

損傷するゾノにはもう満足な戦闘能力は備わってないが、損傷による爆発をも利用してアスランは機体を動かす。

残って居るスラスター出力を全開にし、装甲を擦り付けながら滑る先には、小型船舶の港がある。

ボロボロになりながらも、ゾノは海中へと逃げこんだ。

レーダーにも探知されず、真夜中の海ともなれば視認も出来ない。

デスティニーと言えども水中での動きは汎用機と大差がなくなってしまい、損傷してるゾノに追い付く事は出来ず、雨が吹き荒れる中でシンはずっと眺めて居た。

 

「アスラン……コレが俺の導き出した答えだ」

 

///

 

嵐は過ぎ、翌日にはデュランダルからタリアにアスランが脱走したと伝えられた。

原因は未だ不明だが軍として彼を許すわけにはいかず、アスランはザフトから除名される。

突然の事で混乱するクルーも居るが、そんな事を言って居る時間はない。

デュランダルはジブラルタル基地の戦力を集結させ、ロゴスの逃げ込んだヘブンスベースの攻略作戦を言い渡す。

けれどもミネルバはこの作戦には参加せず、マスドライバーで宇宙に上がる準備を進めて居た。

艦のモビルスーツデッキには2機の新型が運び込まれ、ハンガーに固定された状態で最終調整に入る。

デスティニーのパイロットはシン、レジェンドのパイロットはアスランの代わりにレイが任命された。

残るインパルスはルナマリアが搭乗する事となり、ヒイロは営倉に入れられたまま。

3人はデッキに集まり、今後の事に付いて話し合った。

 

「俺達はこの作戦に参加出来ないのか。ロゴスを撃てるかもしれないのに」

 

「シン、これも作戦の内だ。もしも逃げられた時の事を想定して宇宙にも部隊は必要だ。地上は気にせずとも他の部隊がやってくれる。今は目の前の事に集中するんだ」

 

「わかってる。この戦いでロゴスを撃てれば、世界から戦争は失くなるんだ」

 

「あぁ。この戦いが終われば、議長が導いて下さるだろう」

 

刻一刻と時間が過ぎる中で、ルナマリアは窓から外の様子を見た。

準備された100を超えるモビルスーツや艦隊を前にして、あまりの迫力に息を呑む。

 

「凄い!! これじゃ制圧されるのも時間の問題ね」

「だが向こうも戦力を整えてる筈だ。一筋縄では行かない。あの時のモビルアーマー、デストロイが配備されてる可能性もある」

 

「デストロイ……そう言えばシン、あの子はどうなったの?」

 

あの子、ステラ・ルーシェはミネルバに救助され医務室で眠って居る。

ネオが用意したデータのお陰で治療はスムーズに進んで居るが、それでも数日で治るようなモノではない。

今もまだ、呼吸器を付けた状態のまま動けないで居る。

 

「ステラはもう大丈夫。すぐには無理でも、体は確実に良くなってる。時期に動ける日も来るって先生は言ってた」

 

「そう。ロゴスを倒せは、ステラみたいな子も居なくなるよね? その為に戦うのは、充分な理由になると思う」

 

「こんな事は繰り返えさせちゃダメなんだ。絶対に」

 

敵を倒し、戦闘を失くし、世界に平和を呼び戻す。

3人は決意を新たにして宇宙へと上がる。

 

///

 

ジブラルタル基地から無事に逃げたアスランは、クライン派のメンバーに保護され海底基地で修理をしているアークエンジェルに行く。

アークエンジェルは今までの戦闘のダメージの蓄積と、フリーダムが動けない状態では戦力が圧倒的に下がる為に動けないで居た。

モビルスーツデッキには破損したままの状態でハンガーに固定されたままのフリーダムと、逃げ出す時に使用したゾノ、そしてストライクしか配備されてない。

 

「だいぶ酷くやられているな」

 

アークエンジェルの現状を把握するアスランはデッキで機体を眺めて居ると、奥から艦長であるマリューがやって来た。

久しぶりに見るアークエンジェルのクルーを見てアスランは安堵する。

 

「ラミアス艦長!! お久しぶりです」

 

「アスランこそ久しぶりね。でも急にどうしてこんな事を?」

 

「このまま議長の指示に従うのは危険だと感じました。確かに彼の言う事は正しい様に聞こえますが、その為に邪魔となるモノは強引にねじ伏せています。このままではまたオーブと戦う事になる。それが嫌で……」

 

「そう、わかった。でも見ての通り、今はどうする事も出来ない。デュランダル議長の宣言で世界の動きも気になるし、戦力が整ったとしても迂闊には出ては行けない」

 

「わかってます。だから出来る事から始めて行きます」

 

「なら医務室に行ってくれる?」

 

「医務室……ですか?」

 

素っ頓狂な声を上げるアスランに、マリューは意地悪く笑みを浮かべるだけ。

それ以上は何も言わずに、アスランは黙って医務室に向かうしかなかった。

久しぶりに歩くアークエンジェルの内部はどこも変わっておらず、アスランは懐かしさを噛み締める。

向かった先にある医務室の扉、壁に設置されたパネルを触りエアロックを解除すると中に足を踏み入れた。

中に居たのは親友であるキラの姿。

 

「ムウさん。水、持って来ましたよ」

 

「何回言えば分かるんだ? 俺はネオ・ロアノークだっつてんだろ!!」

 

「今はまだ思い出せてないだけです。暫くすれば元に――」

 

エアロックの音に言葉を切り振り返るキラ。

視線を合わせる2人は、久しぶりの再開に心から喜んだ。

 

「キラ、数カ月ぶりだな」

 

「アスランも。あの時より、少し痩せたんじゃない?」

 

「いろいろあったからな」

 

皮肉を込めて言うアスランにキラは微笑むだけ。

その様子を傍から見てたネオは、キラが持つ水の入ったチューブを奪い取り喉を潤す。

 

「あっ!?」

 

「フン、お前がさっさと渡さねぇからだよ」

 

アスランはベッドに座る人物を見て息を呑んだ。

それは2年前の大戦で戦死したと思われたムウ・ラ・フラガの姿だから。

驚きに目を見開き、そして早足で彼に駆け寄る。

 

「フラガ大尉、生きて居たのですか!?」

 

「あん、誰だお前? それとな、俺の名前はネオ・ロアノークだ。1回で覚えろよ」

 

「ネオ? 何を言って。アナタは――」

 

驚くアスランだが、そこでキラに肩を掴まれてしまう。

無言で頭を左右に振る彼に、アスランは口を閉じた。

 

「行こう。この事は部屋で説明するから。まだキミの部屋は残したままなんだ。ムウさん、飲み終わったらちゃんと自分で捨てて下さいね」

 

「チッ、わかってるよ。ガキじゃねぇんだぞ」

 

名前を間違われて舌打ちするも、諦めたネオは渋々返事を返す。

キラもそれを確認すると、アスランと一緒に医務室を出た。

通路を歩き向かう先は、昔と変わらない場所に割り振られたアスランの部屋。

エアロックを解除して、2人は部屋の中に入った。

 

「本当に何も変わってないな」

 

「そうだよ。それよりもさっきの事だけど」

 

「あぁ、まさか生きてるとは思わなかった。2年もどうやって……」

 

「あの後にどうなったのかはわからない。けれどもムウさんは記憶を失くして連合軍に入ってた」

 

「連合軍に?」

 

「うん、記憶が失くなっても操縦の感覚は残ってるのかも。それでパイロットを。今は自分の事をネオ・ロアノークだと思ってる」

 

「そうか、そんな事が」

 

ようやく現状を把握出来たアスラン。

生きて居た事を喜ぶも記憶の事はどうしようもなく、時間が解決するのを待つしかない。

アスランは動けないアークエンジェルでこれからどうするのかをキラに聞く。

 

「だいたいの事は理解した。フリーダムは大破、いくらお前でも旧型のストライクで戦うのは無理がある。これからどうする?」

 

「ラクスが宇宙に上がって新しい機体を準備してくれて居る。アスラン、キミのもね。でもロールアウトするのがいつになるかまでは僕にもわからない。ラクスも急いでくれてるけど」

 

「ザフトと言う強大な戦力を持っている議長が連合とロゴスを撃った後にどうするのか。強大な権力や力は人を狂わせる、議長もその1人なのかもしれない」

 

「ザフトはロゴスを撃つと世界に放送したけれど、リストの中にはオーブの政治家も居た。このままだと、オーブはまた戦闘に巻き込まれるかもしれない。悔しいけどどうする事も出来ない。カガリを信じるしか」

 

「カガリ……」

 

部屋の雰囲気が重くなり、それに気が付いたキラはなんとか場を和ませようと周囲に視線を巡らす。

アスランの部屋にはゾノのコクピットに入ってたカバンが持ち込まれており、キラはその中身が気になった。

部屋の隅に置かれたカバンに指を指す。

 

「ねぇ、アスラン。そのカバン何が入ってるの?」

 

「あぁ、たいした物なんかじゃない。ここに来る前に使った銃が入ってるだけだ。ロックは掛かってると思うが注意してくれ」

 

言うとアスランはカバンに近寄り中を開け武器を取り出した。

使用した銃、そのマガジン。

手榴弾も数個入って居た。

取り出した武器を床に並べていくが、その中で1つだけ異彩を放つ物が入って居る。

 

「これは……」

 

「クマの人形? どうしてこんなのが?」

 

「そもそも俺のカバンではないからな。誰のかもわからない部屋に入ったら置いてあったんだ」

 

無骨な武器ばかりが並ぶ中で、手触りも柔らかい人形がアスランの手に。

疑問に感じるアスランだが、あの時は必死でカバンの中に人形が入ってる意味は考えてもわからない。

部屋のインテリアにするつもりもなくどうするか悩んでると、キラはその人形を手に取った。

 

「ラクスはこうゆうの好きだろうから。貰っても良いかな?」

 

「あぁ、彼女なら喜ぶだろ」

 

「ありがとう、大事にするよ」

 

一時的ではあるが訪れる安息の時間。

それでも今、世界は激動の時代の流れに飲み込まれて居た。




おかげさまで一時ではありますがランキング一桁に入る事が出来ました。
これからも見てくれると嬉しいです。


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第25話 決戦の宇宙

遂に始まるロゴス殲滅作戦。

連合のヘブンズベースに逃げ込んだメンバーを捕まえる為に、ザフトは大規模部隊をジブラルタル基地から送り込む。

けれどもそこにロード・ジブリールの姿はない。

数時間にも及ぶ激闘の末にヘブンズベースは陥落。

ロゴスのメンバーも多数捕まるが、本命であるジブリールが居なくては意味がなかった。

捕まえたモノ達の証言から、ジブリールはオーブに逃げた事がわかる。

この事はザフト全軍に伝えられ、ヘブンズベース攻略後に行き着く間もなくオーブ本島へとザフトは向かう。

オーブ連合首長国代表首長のカガリ・ユラ・アスハは、自国に亡命して来たジブリールと謁見する事となる。

スーツを身に纏い会議室に向かうカガリ。

大きな木製の扉を開けた先には、長机と幾つもの椅子を挟んだ向こう側に彼が居た。

カーキ色のスーツ、唇には紫の口紅。

気を引き締めるカガリは大きく口を開け声を張る。

 

「ロード・ジブリール氏、お待たせした。オーブ連合首長国代表首長のカガリ・ユラ・アスハだ」

 

「代表自ら来て下さるとは」

 

「今の世界の状況をおわかりか? 世界中がアナタを狙ってる」

 

「それで? 指示は届いてる筈ですよ。太平洋連合と協力しザフトを退けろ、と。オーブはもう連合と同盟を結んだ。オーブだけ独自に動くなどしたらそれなりのペナルティはある。最悪の場合、同盟を解き連合とザフトに板挟みにされる。それでも良いのですか?」

 

「それは……」

 

カガリの心情では、このままジブリールを野放しにして置く事など出来ない。

だか彼の言う通り現在オーブは連合と同盟を結んでおり、たった1人の私情で相手国の通達を無視など出来る筈がなかった。

苦虫を噛み潰した表情になるカガリだが、ジブリールの言葉に逆らえない。

 

「代表、アナタは自分の責務を真っ当して下さい。私はマスドライバーで宇宙に上がる。それまでザフトの相手は任せます。心配せずとも大丈夫、私が宇宙に上がればレクイエムが流れる」

 

「レクイエム?」

 

「えぇ、そうすればザフトなど恐るるに足りません。勝てるのです、この戦争に。その時こちら側に居たければ、何をすべきかはおわかりですね?」

 

ヘブンズベースが陥落した事で連合軍の増援は期待出来ない。

これから数時間後には来るであろうザフトを前に、オーブは自国の戦力のみでジブリールを逃がす為に戦わなくてはならなかった。

オーブの戦力だけでザフトに勝てる可能性は低く、ジブリールは自分が逃げる為だけの捨て駒程度にしか思ってない。

その事が余計に悔しく、爪が食い込む程に両手を握り締め震えるが、ジブリールは見透かしたように鼻で笑うだけ。

 

「では、私は失礼するよ。悠長にしてられる程の時間はないのでね。アナタも急いだ方が良い。でないと、オーブは再び戦火に飲まれる事になる。もうすぐザフトが来る」

 

言うとジブリールは1人この場から去ってしまう。

残されたカガリもこのままここに居る訳にはいかず、市民の誘導や現場を把握する為に作戦司令部に向かおうと振り返る。

扉を開け会議室を出ると、そこに居たのはユウナの姿。

 

「ユウナ……」

 

「悔しいかい? 1番の悪が逃げてくなんて」

 

「デュランダル議長の言う事が正しいのなら、アイツがこの戦争を引き起こした。利益の為だけに大勢の人間を巻き込んで。その上まだ自分だけは逃げようとして。許せるもんか」

 

「でも彼の言う通りオーブは同盟を結んでる。通達も来た。数時間後には来るザフトを何としても退けろ、とね。僕だって別にアイツの肩を持つつもりはないけれど、そう言う風なシステムになってしまってる」

 

「このままアイツの思い通りに事を進めるしかないのか? 私は……」

 

「いいや、やりようはあるさ。幸いにも連合はヘブンズベースをやられたせいで戦力は乏しい。本土の防衛はこちらの軍だけでやらなくてはならない」

 

「それが何だと言うんだ? どちらにしても戦闘は避けられない。連合に加担しても、裏切っても、その先にあるモノは……」

 

悔しさを滲ませるカガリの肩にユウナはそっと手を乗せた。

 

「状況を良く考えるんだ、カガリ。連合を裏で牛耳って居たロゴスが失くなれば、向こうは存続の維持に立たされる程の危機だ。何と言っても連合だってロゴスの商業システムにハマってるんだ。彼らが居なくなれば資金源も失くなる。そして戦う意味も意義も失ってしまう。そうなれば解体だって視野に出る」

 

「連合が……解体……」

 

「そうさ。連合は設立されてまだ日が浅い。各国の首脳も、そこまで思い入れがあるものか。まずは自国を優先させる。僕達だってそうだよ。ロゴスなんて後回しさ」

 

「でも……そうすればオーブは連合から報復されるぞ?」

 

「オーブが同盟を結んだのは連合とだ。それなりの形にはするさ。その為には、軍の配置を少し変える必要がある。手伝ってくれるね?」

 

提案するユウナの言葉にカガリは力強く頷く。

さっきまでの弱気は奥底に押し込み、2人は基地司令部へと急いだ。

数時間後、オーブ海域にはザフトの艦隊が押し寄せて来る。

デュランダルはジブラルタル基地から、むかわせた艦艇と通して現場の状況を見て居た。

 

「この配置……どう思う、艦長?」

 

「どう、と言われましても。基地を守る気がないとしか……」

 

基地司令部で、デュランダルの隣に立つ白服の男は言う。

レーダーに反応するのはオーブ本島に建設された基地。

ところが防衛部隊は1機たりとも居らず、殆どの機体が線を引いたように民間居住区を守る為に横並びで立って居る。

そして残る機体はマスドライバーをグルリと囲んで居た。

 

「地下シェルターに残りの戦力を隠して居るとも考えにくい。やはり気になるのはマスドライバーだな。艦長、念の為に私からオーブに最終勧告を行う。繋げてくれ」

 

「はい、わかりました」

 

デュランダルは少し歩き通信士の座る通信機にまで足を運び、使ってたインカムを受け取るとマイクに向かって声を出す。

 

「私はプラント最高評議会議長のギルバード・デュランダル。オーブ連合首長国代表のカガリ・ユラ・アスハと話がしたい。応答願う」

 

デュランダルの言葉から数秒後、重苦しい空気が漂う中でモニターの映像が切り替わる。

そこに映るのは代表であるカガリと補佐を務めるユウナの姿。

デスクに座る彼女の視線はモニター越しでも鋭い。

 

『私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハだ。議長自らとは、如何な事情か?』

 

「通達は行いました。そちらのオーブに我々が求める人物が逃げ込んで居る。付きましては無条件でこちらに引き渡して貰いたい』

 

息を呑む音。

覚悟を決めるカガリはデュランダルに対して答えを言う。

 

『現在、オーブは連合と同盟関係にある。その連合から、彼を宇宙に逃がすようにと指示があった。同盟国であるオーブは、その指示に従う必要がある』

 

「では私の言葉は聞き入れるつもりはないと?」

 

『オーブは彼を宇宙に逃がす。ザフトがそれの邪魔をすると言うのなら、戦闘行為も止む終えない』

 

「そうですか。わかりました」

 

言うとデュランダルはインカムを通信士に返し、通信が途切れると同時にモニターに映る彼女の姿も消えた。

顎に手を添えて考える彼は、数カ月前のカガリを思い出す。

 

(あの時と比べれば、少しは成長したと言う事か。被害は最小限に、表面上はこちらの要求を跳ね除け、同盟を結んだ連合の指示に従う。ロゴスが居なくなれば連合の存続も危うい。問題はそれまでの間、自国の戦力だけで持ち堪える事が出来るかどうか。そこは彼女の力次第か)

 

デュランダルはカガリが言った、ジブリールが宇宙に逃げると言う言葉を信用した。

レーダーに映るオーブ軍の配置を再度確認し、前線部隊に指示を出す。

 

「ジブリールはマスドライバーで宇宙に逃げるつもりだ。全軍、シャトルの発射前に奴を叩け!!」

 

デュランダルの宣言に従い、前線部隊は行動を開始する。

領海内にまで侵攻するザフトに対し、オーブ軍は一切の攻撃をしなかった。

その行為はシャトルで脱出を図るジブリールにも伝わり、彼は心底怒り狂う。

 

「何を考えてる!! これではここに居る事が丸わかりではないか!! あの小娘、私を売ったな!!」

 

叫ぶジブリール、それでも状況が変わる事はない。

迫り来るザフト軍にオーブ軍は抵抗らしい抵抗をしなかった。

ビームや砲撃をしても威嚇や牽制のみで本気で当てるつもりはない。

近づいて来ればすぐに後退し、完全なる出来レースが行われて居た。

カガリはユウナと共に基地司令部で事の成り行きを見守りながら、これからに付いて考える。

 

「いよいよ始まったのか。これで被害を抑えられれば良いのだが」

 

「こちらの意図は相手にも伝わってる筈です。現にザフトの殆どの部隊がマスドライバーに向かって居る。問題はシャトルの準備は全て向こう側が進めてると言う事。急いでくれないと間に合わないかも」

 

「だが、もしも逃げられたら……」

 

「その時はまた別の行動を取るまでだ。カガリ、相手の動きを見てから動いて居たのでは遅すぎる。その為の準備、2手3手先を読んで作戦を考える必要がある。市民の避難準備も進めて居る。それに思惑通りに行こうが行くまいが、連合とザフトとは会合する必要がある。キミはそこまで考えて動かなくてはダメだ」

 

今のカガリには目先の現実に対処するのが精一杯で、この後の事まで考えられる余裕はない。

そう言われても、目の前に起こるザフトの侵攻とジブリールの脱出が気になって、他の事を考えてる場合ではなかった。

侵攻から暫く時間が経過すると、マスドライバーに動きが見える。

1隻のシャトルがマスドライバーのレールの上に乗った。

 

「もう準備が出来たのか? 早すぎる」

 

カガリの声にユウナは目を細める。

映像に映るのはオーブで用意したシャトルではあるが、何か違和感を感じた。

けれども答えを導き出すよりも早くに、ブースターを装着したシャトルはレールから動き出す。

ザフト軍も当然シャトルを見つけ出し攻撃に移る。

ブースターから点火したシャトルは速度を上げて空を飛ぼうとするが、推進剤の量が少なく本来よりも遅く、レールから飛び立つ前に撃破された。

 

「アレはジブリールが乗ったシャトルだったのか?」

 

「わからない。でも何か変だ。彼がこんな無謀な事をして死ぬような人間には思えない。何か他に……」

 

シャトル撃墜によりザフト軍の侵攻も緩やかとなる。

ジブリールは既にマスドライバーから移動して居た。

カガリの思惑を知ったジブリールはこのままでの脱出は困難と判断し、セイラン家が独自に所持する地下施設へ向かう。

そこにあるのはいつでも宇宙に上がれるように準備された別のシャトル。

 

「あるではないか。これで逃げられる。すぐに準備しろ、遅くなればここで死ぬだけだ!!」

 

言われてジブリールの護衛に当たる複数の連合兵はシャトルのコクピットに乗り込んだ。

今の基地は被害を最小限に留める為にもぬけの殻にして居た。

その事が仇となり、ジブリールにシャトルの存在を知られてしまう。

 

「ふふふ!! 私さえ生きて居れば状況は立て直せる。そしてレクイエム!! オーブ……カガリ・ユラ・アスハ!! まずは貴様に生け贄になって貰うぞ!! この怒り、2度と忘れん!!」

 

ジブリールを乗せたシャトルは動き出す。

外では戦闘の音は鳴り止んでおり、波の音が聞こえるくらいに静まり返る。

発進したモビルスーツも武器を収め周囲の索敵に務めており、あまりに呆気無い結末にザフトも警戒して居た。

オーブのカガリも正確な状況が把握出来ず、軍に指示を出す事が出来ない。

 

「残骸を回収するしかないな。マスドライバーもシャトルもオーブのモノだ。ザフトも干渉して来ないだろう」

 

「現状ではそれしか出来ないけれど……」

 

疑問を浮かべるユウナだが、出来る事は限られて居る。

カガリの言うように破壊したシャトルの残骸を確かめるしかないと考えて居ると、突如として地下シェルターが開放された。

そこにはセイラン家が独自に用意したシャトルが配備されており、ジブリールはそこに居る。

だが気が付いた時にはブースターに点火しており、加速するシャトルは重力から解き放たれた。

高々と上がる白い雲、もはや止める術はない。

 

///

 

宇宙へと上がったミネルバ。

もしもの時の為と準備して居たが、その状況が本当に起こってしまう。

ブリッジでは宇宙に上がる1隻のシャトルをレーダーで確認し、逃すまいとタリアは進路を取る。

 

「ミネルバ面舵50、オーブのシャトルを追います」

 

「艦長、あの方角は月に向かってるのでは?」

 

「わかってます。月には連合のダイダロス基地もある。防衛部隊が展開されれば我々だけでは太刀打ち出来ない。その前に追い付けなければ、また取り逃がす事になる。だから急いで!!」

 

「了解です!!」

 

返事を返すアーサーはレーダーにもう1度視線を移す。

ダイダロスの防衛圏内にシャトルが到達するまでに間に合うかどうかはギリギリの所だった。

ミネルバが作戦を開始する中で、ルナマリアは自室でアスランが脱走した事に心痛めて居る。

仲間として、上官として信用して居た彼が理由もわからずに居なくなり、彼女の精神状態は酷く不安定だ。

ジブラルタル基地からミネルバに戻ってからはずっと自室に引き篭って居る。

 

「アスラン、私どうしたら……」

 

電気も付けずベットのシーツに包まる。

メイリンは自分の業務がありまだ部屋に戻れない。

何もやる気が起こらず、このまま寝てしまおうと思って居ると、突然部屋のブザーが鳴った。

 

「今はそんな気分じゃないの……」

 

居留守を使おうとするがブザーは鳴り止まない。

いつまでも鳴り続けるブザーに耳が痛くなり、我慢出来なくなったルナマリアがベットから出る。

 

「わかったわよ、うるさいわね」

 

ゆっくりと歩きながら部屋のドアを開けると、そこには意外な人物が立って居た。

 

「ヒイロ!?」

 

「メイリン・ホークは居るか?」

 

「今は部屋には居ない。ブリッジじゃない?」

 

「そうか、ならコレを頼む」

 

そう言ってヒイロは手に持った物を渡す。

それはラクス・クラインの映像ディスクのパッケージ。

ルナマリアは手渡されたソレを見て、妹の行為に呆れてしまう。

 

「この前メイリン・ホークが部屋に来たときに置いていった」

 

「そう……ありがと。後で渡しておくから」

「話はそれだけだ」

 

ヒイロは用が済むとルナマリアの部屋から出て行こうとする。

背を向けるヒイロにルナマリアは大声で呼び止めると感情をぶつけた。

 

「待って!! ヒイロはアスランの事どう思ってるの?」

 

「またモビルスーツに乗って戦場に来れば、アイツは俺の敵だ。許される行為ではない」

 

「そう……そうよね」

 

「アスランはまた戦場に来る。そうなったらお前は戦う事が出来るのか?」

 

ルナマリアはその質問に答える事が出来ず下唇を噛む。

アスランの脱走はあまりに突然の事で気持ちの整理がまだ付いてない。

 

「あと少しで戦闘が始まる。気持ちに迷いがあると死ぬぞ」

 

言い捨てるヒイロはルナマリアの部屋を立ち去る。

ヒイロの言葉をルナマリアはただ呆然と聞くしか出来なかった。

ジブリールが宇宙に逃げた事で、ジブラルタル基地のデュランダルとラクスもシャトルで上がる準備を進める。

ザフトの機動要塞メサイアに戻り、地球連合軍、ロゴスと最後の戦闘を行う。

メサイアに指示を送るデュランダル。

そしてラクスは宇宙に集結しつつあるザフト軍に通信越しにエールを送った。

 

「ラクス・クラインです。長きに渡るロゴスとの戦いも終わろうとして居ます。ロゴスがこの世から無くなる事で、世界は平和への第1歩を踏み出す事が出来る事でしょう。平和を望むプラントの人々の為にも、ロード・ジブリールなる人物を許しておく訳には参りません。ザフト軍の兵士の皆様、勇気と誇りを胸に最後まで戦い抜いて下さい。今の私に出来る事はコレぐらいしかありません。ですが、平和を望む気持ちは皆様と同じです。せめてもの祈りを捧げます」

 

目をつむり両手を握り締めるラクス、その姿を見て兵の士気が高まる。

数秒後には画面が切り替わり、今度はデュランダル議長が映し出された。

 

「諸君、通達した通りロゴスのロード・ジブリールは宇宙へ逃げた。今はミネルバ隊が彼を追ってるが、もしも間に合わなければ月のダイダロス基地との戦闘になるかもしれん。だが、どんなに辛く厳しい戦いであろうとも、彼を撃つ事が出来ればこの戦争は終わる。もうこれ以上ロゴスの暗躍は許しておく事は出来ない。よって次が最後の戦場となる!! 地球とプラント。ナチュラルとコーディネーター。ロゴスが居る限りは、この両者がわかりあう事もない。諸君らの力を今一度貸して欲しい。そして私は、プラント最高評議会議長として、今の世界をより良い世界に変えると約束しよう!!」

 

各地で上がる歓声。

シンはステラの眠る病室で議長の宣言を見て居た。

彼女の隣でモニターを鋭く見つめるシン。

 

「戦争が終わる。今度こそ本当に……」

 

デュランダルが宣言したより良い世界、シンはこの言葉の意味を考えて居た。

 

(戦争が終わったら、世界はどう変わるんだ? そして戦争が終わっても、俺は軍に居るのか?)

 

ポケットのマユの携帯電話を握り締める。

震える怒りと悲しみは今の戦争が終わっただけでは収まらない。

家族を殺した青い翼を持つモビルスーツ、フリーダムだけは許す訳には行かなかった。

 

「けれど戦争が終わっても、アイツだけは!!」

 

「シン……顔怖い……」

 

「えっ!?」

 

驚きながらも視線を向けると、ベッドに眠るステラが目を覚ました。

まだ血色は悪く、まぶたを開けるのも弱々しい。

震えるステラを見て、シンは瞳に涙を溜めて彼女を強く抱き締めた。

 

「ゴメン、ステラ。もう大丈夫だから、安心して」

 

「シン?」

 

(そうだ、ステラを守る為にも俺は戦わなくてはならない。今度こそ倒す、絶対に!!)

 

ステラはこれ以上は何も言わず、ゆっくりシンの背中に両腕を回すとそのまま眠ってしまった。




モビルスーツ戦がなくてスミマセン。次回はある予定ですので。
オーブの在り方はアニメとは変更しました。
後はジブリールとアークエンジェル隊の動きはどうでるのか?
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第26話 闇に現れる光

「後ろにはミネルバ、月にもザフトのメサイアが向かって居るか」

 

シャトルに乗るジブリールはシートに座りながら不敵な笑みを浮かべる。

危機的状況にも関わらず不安を全く感じてない彼は、備え付けられた通信機を片手に月のダイダロス基地の司令部に繋げた。

 

「私だ。手筈通りレクイエムの準備は進めて居るな?」

 

『はい、問題ありません。エネルギー充填率70パーセントを超えました』

 

「80パーセントを超えたら発射しろ。権限は私が持つ」

 

『目標は如何しますか?』

 

「プラント首都、アプリリウス。これさえあれば一撃で仕留められる。その次は地球に向けろ」

 

『地球……ですか?』

 

「そうだ。第2射でオーブを撃つ。あの小娘共が、私をコケにした報いだ」

 

『了解です。第2射、目標オーブ』

 

「デュランダル……奏でてやるよ、レクイエムを」

 

通信機を戻すジブリールは再び不敵な笑みを浮かべる。

月のダイダロス基地司令部では、エネルギー充填が完了したレクイエムの発射態勢に入った。

基地地表面に建造された巨大なシェルターがゆっくりと解放され、蓄積されたエネルギーは今にも発射される。

司令官であるレゾン・クレブルはスクリーン上に表示される座標位置、数カ所に渡り配置されて居る廃棄コロニーの角度を見た。

 

「3番のスラスター制御を急がせろ。それが終わり次第、レクイエムを発射する!!」

 

前大戦で連合はプラントを直接攻撃した。

その時に破壊し、廃棄されたコロニープラントを改良し各所に配置させる事で、戦略兵器レクイエムは更なる力を得る。

ザフトも廃棄コロニーが兵器に使用されるとは考えが及ばず、ロゴスも小規模ながら廃棄コロニーを防衛する部隊も展開させており、今から発射を食い止める事は出来ない。

ジブリールの通信から数分後にはエネルギー充填率が80パーセントを超え、廃棄コロニーの角度も整った。

 

「1、3、5番コロニーの配置完了です」

 

「良し、レクイエムを発射する!! 青き清浄なる世界の為に!!」

 

司令官の一声と同時にレクイエムの発射ボタンが押された。

月に建造された巨大な戦略兵器がそのベールを脱ぐ。

全てを焼き尽くす光。

開放されたシェルターから強力なガンマ線となって、膨大なエネルギーが発射された。

けれどもその発射線上には何もない宇宙が広がるだけ。

無数に漂うデブリを飲み込みながらも進むガンマ線。

それは意図して配置された筒状の廃棄コロニーを通ると射角を変えた。

ジブリールはシャトルの窓から見える光の筋を見て勝利を確信する。

 

「そうだ、それで良い。コーディネーターは宇宙に漂う害虫だ。塵となって消えろ!!」

 

ガンマ線が生み出す憎しみの輝きはミネルバからも確認出来た。

廃棄コロニーを通過する事で屈折し、また次の廃棄コロニーを通過する。

ブリッジでは発射されたエネルギーがどこに向かってるのかを早急にコンピューターに計算させ弾き出す。

タリアは目の前の光景に思わずシートから立ち上がり、スクリーンに映る映像に目を見開く。

 

「この光は何なの? メイリン、目標地点は?」

 

「計算結果……出ました。これは……プラント首都!? アプリリウスです!!」

 

「まさか!?」

 

1度発射されたガンマ線を止める術はない。

狙われたプラント首都。

ブリッジに居るクルーはその光景をただ見る事しか出来ない。

副官であるアーサーの背中にも冷たい汗が流れ、目の前の事実に恐怖した。

 

「こ……こんな事までしてくるのか? ロゴスは? 急いでアプリリウスに通達を!!」

 

「無理、もう間に合わない」

 

「そんな!? 艦長!!」

 

「今は泣き言を言ってる時間はない!! 作戦変更、これより我が艦は敵戦略兵器の阻止に向かう」

 

「ですが、それではジブリールが!!」

 

「第2射が撃たれればプラントは壊滅的な打撃を受ける。その前に何としても阻止しないと。ここから1番近いのはミネルバだけ。行くしかない」

 

タリアの決断にアーサーは反論する事など出来る筈もなく、口を閉ざしスクリーンに映るレーダーを見る。

あれだけのエネルギーを充填させるにはそれなりの時間が必要となるが、それにどれだけ掛かるのか皆目検討が付かない。

次の発射を阻止するには今からの行動を迅速に行うしかなかった。

 

「廃棄コロニー、これに何か仕掛けてあるんだな。月のダイダロス基地から1番近い廃棄コロニーを破壊すれば、発射までの時間を更に稼ぐ事が出来る。艦長、指示を」

 

「コンディション・レッド発令、モビルスーツパイロットは各機のコクピットで待機。いつでも出られるように準備を急がせて」

 

タリアの指示に合わせて艦内に警報が響き渡る。

戦闘に備えてブリッジは遮蔽され、放送によりモビルスーツパイロットは出撃の為にパイロットスーツに着替えた。

デスティニーのパイロットであるシンもパイロットスーツに着替えるとモビルスーツデッキに急ぐ。

その最中、通路の合流地点でヒイロと対面した。

 

「ヒイロ、急ぐぞ。敵の新兵器みたいだ」

 

「わかって居る。新型のデスティニー、使いこなして見せろ」

 

「当たり前だ。俺は赤なんだぞ」

 

「そうだな。操縦マニュアルは見させて貰った。対モビルアーマー用に調整された機体だが、お前なら行ける筈だ」

 

「そうかよ」

 

2人は無重力の通路の床を蹴り、並走しながらモビルスーツデッキに向かった。

整備兵が慌ただしく動く中、新型のデスティニーとレジェンドの準備は既に完了して居る。

レイはもうコクピットへ入っており、ルナマリアもコアスプレンダーのシートに座り発進準備を完了させて居た。

シンも急ぎデスティニーのコクピットに搭乗し、コンソールパネルを叩くとコクピットハッチを閉鎖させる。

エンジン出力を全開にして前進するミネルバ。

ブリッジで指示を出すタリアは、艦尾両舷に設置されたトリスタンの砲身を迫る廃棄コロニーに向け高出力のビームを発射する。

 

「全砲門開放。トリスタン、イゾルデ、一斉射撃!!」

 

タリアの叫び声がブリッジに響く。

ミネルバの主砲、副砲が火を吹き、廃棄コロニーへと発射される。

けれどもロゴスは廃棄コロニーにも小規模ではあるが防衛部隊を展開させており、艦艇が一斉にミネルバの存在に気が付く。

ミネルバの主砲、トリスタンの高出力ビームはコロニーに直撃するが、艦艇を超える巨大な質量を前に数発程度ではビクともしない。

敵艦隊も主砲をミネルバに向け、ビームと砲撃の飛び交う艦隊戦へと移行する。

 

「モビルスーツ、全機発進させて。ミネルバ、微速前進。アーサー!!」

 

「了解です。タンホイザー、エネルギー充填開始します」

 

「ブリッジからパイロットへ。モビルスーツ全機発進。ハッチ開放、カタパルト準備」

 

インカムを通しメイリンの声がコクピットの各パイロットに伝わる。

それを聞いたレイは操縦桿を握り機体を移動させ、カタパルトに繋がるエレベーターに搭乗させた。

モビルスーツデッキからカタパルトに上昇する僅かな時間、レイの心にあるのは確固たる信念のみ。

 

「ここまで来て、ギルの邪魔を許す訳にはいかない」

 

『進路クリア。レジェンド、発進どうぞ』

 

「レイ・ザ・バレル。レジェンド、発進する!!」

 

脚部を固定したカタパルトは機体ごと高速で前進し、メインスラスターを吹かすと同時に開放、背部のエネルギーケーブルも切り離してレジェンドは一気に加速した。

もう一方のカタパルトからは、コアスプレンダーに乗り換えたルナマリアが初めての機体の感触を確かめるようにして、発進態勢に入る。

 

「シミュレーターは何度もやった。大丈夫、行ける……」

 

『進路クリア。コアスプレンダー、発進どうぞ。頑張って』

 

「メイリン……了解!! ルナマリア・ホーク、行きます!!」

 

右足でペダルを踏み込み、加速するコアスプレンダーは開放されたハッチから発進した。

続けて各フライヤーも射出され、ルナマリアはコンソールパネルを叩きガイドビーコンを照射する。

赤いレーザーに誘導されるフライヤーは、主翼を折り畳みコンパクトになるコアスプレンダーとドッキングした。

最後にフォースシルエットを背部にドッキングさせ、バッテリー電力を機体に供給させる。

灰色だった装甲はトリコロールカラーに代わり、右手にはビームライフル、左腕のシールドを展開させメインスラスターを吹かし加速した。

シンのデスティニーもカタパルトに脚部を固定させる。

開放されたハッチの先に見えるのは、ビームが生み出す幾つもの光。

 

「このデスティニーなら出来る筈だ」

 

『敵もモビルスーツを展開して来ました。デスティニー、発進どうぞ』

 

「シン・アスカ。デスティニー、行きます!!」

 

カタパルトから発進するデスティニー。

バッテリーと核エンジンのハイブリットで構成されたデスティニーとレジェンドは他の機体と比べ一線を越える性能を持つ。

ツインアイを輝かせ、背部の赤い羽を広げ光の翼を展開させるデスティニー。

3機は横並びで敵防衛部隊を補足する。

先頭に立つレイは通信を繋げると2人に指示を出した。

 

「俺とドラグーンで敵を撹乱する。ルナマリアは各個撃破、シンは先行して艦艇を叩け」

 

「わかった。シン、先に行って」

 

「了解。ヒイロの出撃、遅すぎないか?」

 

「今は3人でやるしかない。来るぞ!!」

 

展開したウィンダムとダークダガ―Lが装備したビームライフルのトリガーを引き、3機にビームの雨を浴びせて来る。

瞬時に散開する3人。

レイはレジェンドのバックパックに装備されたドラグーンを全機展開させ、迫る敵部隊の中心へ潜り込ませる。

ミネルバで1人出撃してないヒイロ。

ウイングゼロのコクピットには入ったものの、腕を組み目を閉じたまま動こうとはしない。

整備兵のヨウランはいつまで経ってもエンジンすら起動させないヒイロの所にまで急いで詰め寄って来る。

 

「何やってんだよ!! 出撃命令は出てるんだぞ!!」

 

「まだ俺が出る必要はない」

 

「はぁ? 敵はもう目の前なんだぞ!! 今出なくてどうする!!」

 

ヨウランは大声で叫ぶが、ヒイロは口を閉ざしこれ以上言葉を発しようとはしない。

どうしようもないと諦めたヨウランはハッチから離れ愚痴を零す事しか出来なかった。

 

「ガイアで勝手に出撃したかと思えば、今度は命令されても出ないと来た。やっと営倉から出して貰えたのに。次はどうなっても知らねぇかんな!!」

 

離れて行くヨウランにヒイロは見向きもしない。

見えて居るのはもっと先に起こる展開。

 

///

 

ミネルバを振り切るジブリールの乗るシャトルは月のダイダロス基地に入港した。

ジブリールは入港するとすぐに司令部に向かう。

扉のエアロックを解除し中に足を踏み入れると、司令官であるレゾン・クレブルが出迎えた。

 

「ジブリール様、よくぞご無事で」

 

「第1射はアプリリウスに向けたな?」

 

「はい、指示通りに」

 

「プラントはどの程度沈んだ?」

 

「アプリリウスに直撃。今頃、評議会は機能してないでしょう。周辺のプラントも3基まで大破。数分もすれば形を維持出来なくなり宇宙のゴミとなります」

 

「ふふふ、デュランダルの顔が目に浮かぶ。再充填までどれだけ掛かる?」

 

「残り10分です。ですが3番コロニーにザフトのミネルバが」

 

「たかが1隻でどうにか出来る訳がない。充填を急がせろ!! 終わり次第、地球のオーブに発射するんだ!!」

 

「了解です」

 

ジブリールは本気でコーディネーターをこの世から抹殺しようと企んで居る。

そして自分に歯向かう相手も全て。

レクイエム発射のエネルギーが充填されるまで、あまり時間は残されてない。

 

///

 

砲撃を続けるミネルバ。

装甲に砲弾が直撃し艦内が激しく揺れる。

シートに座るタリアは肘掛けで体を支えながらも各員に指示を出す。

 

「くっ!! 直撃を受けた、被害状況を知らせ!!」

 

「軽傷です、稼働に問題ありません」

 

「艦長、ダイダロス基地に高エネルギー反応!! 第2射が来ます!!」

 

「なんですって!? 廃棄コロニーの射角を調べて。それで大まかな狙いが掴める」

 

言われてクルーはレーダーに映る廃棄コロニーの角度から、レクイエムの着弾点を割り出す作業を急ぐ。

艦隊戦を行いながらも、数十秒後には着弾点が割り出される。

スクリーンに映し出される結果を見て、クルーの顔が青ざめた。

 

「これは……艦長!! 敵の第2射の目標は地球です!!」

 

「っ!? シン達に伝えなさい!! あの艦隊を早く突破出来なければ地球にも被害が及ぶ!!」

 

ミネルバのタンホイザーをここで撃つ事は出来ない。

モビルスーツの火力だけで廃棄コロニーを瞬時に破壊する事など到底無理。

タンホイザーを直撃させても破壊出来るかは怪しいが、この状況になってもヒイロのウイングゼロは出撃せず、それしか方法はなかった。

前線で戦うレイはビームライフルでウィンダムの胸部を撃ち抜くと、コンソールパネルに指を伸ばし通信を繋げる。

 

「わかったぞ、奴らの次の目標は地球だ」

 

「地球だって!? あんなのが打ち込まれたら、どれだけの被害が出るかわからないぞ」

 

「急ぐしかない。ルナマリア、シンを援護だ」

 

「了解!!」

 

3機のウィンダムを相手に、レジェンドのドラグーンが飛ぶ。

宇宙空間を自在に動き回る小型のドラグーンを並のパイロットでは見切る事が出来ず、発射されるビームに四脚を撃ち抜かれる。

更にはレジェンド本体からのビームライフルの砲撃。

レイはドラグーンでウィンダムの右脚部を破壊し姿勢制御が困難な相手に銃口を向け、コクピットに正確にビームを撃ち込む。

 

「お前達を相手にする時間はない。コロニーを!!」

 

レジェンドの前にはまだ2機のウィンダムが残って居る。

相手もビームを撃って来るが、新型のレジェンドにはビームシールドが装備されており、造作もなく攻撃を防ぐ。

敵の攻撃はビームシールドで防ぎながら、こちらはビームライフルとドラグーンで一方的に攻撃を仕掛ける。

全方位攻撃をそう何度も避け切る事も出来ず、片方はドラグーンのビームに手足を破壊され爆発に飲み込まれた。

射撃戦では勝てないと踏んだ相手はビームライフルを投げ捨てビームサーベルを抜く。

メインスラスターを全開にし、左腕のシールドを構えて一気に詰め寄る。

ドラグーンの追撃を振り切りレジェンドにビームサーベルを振り下ろすが、ビームシールドに防がれ眩い閃光が走った。

 

『レクイエムの邪魔はさせん!!』

 

「それはこちらも同じだ。議長の理想を実現する為に、障害となるモノは全て消し去る!!」

 

一旦引くウィンダム、そして続けざまにビームサーベルで横一閃。

レジェンドもAMBACとスラスター制御でこれを避け、距離を離そうとメインスラスターを吹かす。

だがウィンダムも逃がすつもりはない。

加速を掛け、ビームサーベルの切っ先をコクピットに伸ばした。

再び閃光が走る。

ビームシールドはその切っ先を通す事はない。

そして展開させて居たドラグーンはレジェンドのバックパックに戻ると同時にエネルギーを供給され、マウントしたまま前方に向きを変えた。

 

『っ!?』

 

「遅い!!」

 

ウィンダムは逃げる暇もなく、次の瞬間にはドラグーンの一斉射撃が白い装甲を貫いた。

両手足を吹き飛ばされ機能不全に陥る敵機に、レイはトドメの一撃を放つ。

先行するシンのデスティニーとルナマリアのインパルス。

当初の作戦通りには行かず、デスティニーは艦艇に取り付けずに居た。

 

「クソ!! 思ったよりも数が多い」

 

「時間がないってのに!!」

 

右肩にマニピュレーターを伸ばしフラッシュエッジを掴み、大きく振りかぶって投げ飛ばす。

回転するフラッシュエッジはブーメランのような軌道を描き、迫るダークダガ―Lの右膝から先を切断しデスティニーの位置を戻って来る。

態勢が崩れた所をルナマリアはすかさずビームライフルを向けトリガーを引いた。

 

「1機撃破。でもこんな事してたら撃たれる!!」

 

「もう少しだけ接近出来れば長射程ビーム砲が撃てる」

 

「だったらここはアタシが抑える。シンは早く行って!!」

 

「でもそれだと……」

 

「時間がないの。早く!!」

 

ルナマリアに急かされ、シンは艦艇に取り付く進行ルートを見出す。

光の翼を展開し、敵防衛網の中を一気に駆け抜ける。

 

「突破する。撃たせるもんかぁぁぁ!!」

 

先行するシンの背中を見守りながら、ルナマリアは残存部隊がデスティニーを追い掛けないように相手をしなければならない。

メインスラスターを全開にして、左腕のシールドを突き出しながら加速する。

背を向けるダークダガーLへ、突き出したシールドの先端をぶつけた。

 

「行かせないって言ってんでしょ!!」

 

ビームライフルの銃口を装甲に密着させてトリガーを引く。

背後から撃ち抜かれた機体は爆発し、インパルスは次の目標に照準を定める。

 

「あぁ、もう!! 右と左、上からも!?」

 

3方向からのビーム攻撃にインパルスは回避行動に移る。

発射されたビームは闇の中を通り過ぎて行くが、右舷からはダークダガーLが迫って来た。

ビームライフルの銃口を向けビームを連射。

発射されるビームは敵機に迫るがシールドに防がれてしまった。

それでもビームコーティングが施されてないシールドは一撃で破壊され、ルナマリアはトリガーを引き続けながら相手に接近する。

防ぐ手段のないダークダガーLはビームライフルを向けながらも回避行動を取るが、インパルスの機動力に追い付かれてしまう。

トリガーを引いてビームを発射するも、アンチビームコーティングのシールドに防がれてしまい、ルナマリアはそのまま左腕を横に振り払った。

シールドは敵機の頭部の装甲を歪ませ、特徴的なバイザーにヒビを入れる。

 

「落ちなさい!!」

 

頭部バルカンと胸部チェーンガンを一斉射撃。

大量に発射される弾丸は黒の装甲をズタボロに破壊し、ダークダガーLは内部から爆発した。

 

「次から次へと!!」

 

インパルスに迫る2機のダークダガーL。

ビームライフルを腰部にマウントさせ、バックパックからビームサーベルを引き抜き、ルナマリアはペダルを踏み込み機体を加速させた。

シンのデスティニーは後方をレイとルナマリアに任せて艦艇へ取り付ける距離にまで来る、

背部左ウェポンラックに装備された大型ビームランチャーを構え照準を敵艦に合わせた。

 

「艦隊を潰せばレイとルナも合流出来る。当たれぇぇぇ!!」

 

大型ビームランチャーから高エネルギービームが発射される。

赤黒く太いビームは艦艇に一直線に進むが、護衛に駆け付けたウィンダムがシールドを構えてこれを防いだ。

機体は一撃で爆散し、それでも残るエネルギーは艦艇に直撃するが破壊するには至らない。

 

「クッ!! なら接近して仕留める!!」

 

大型ビームランチャーを折り畳みウェポンラックに戻し、対艦刀アロンダイトをマニピュレーターに握らせる。

光の翼を展開し高速移動するデスティニーにビーム砲撃の雨と防衛部隊が立ち塞がった。

 

「邪魔だ、退けぇ!!」

 

大きく振り下ろされるアロンダイトは一太刀で敵機を両断し爆発の炎に包まれる。

 

「間に合わないと!! このままだと撃たれる!!」

 

シンの思いとは裏腹に敵部隊はデスティニーを阻止せんと展開する。

モビルスーツを相手にして居ては艦艇を破壊出来ない。

 

「全部で9機、抜けられるか?」

 

敵のモビルスーツは無視してでも突破を試みるシン。

だが迫り来る砲撃はデスティニーが先行するのを許さない。

ビームコーティングが施されたシールドでビームを防ぎながら、シンは決死の覚悟で防衛網の中に突入した。

 

「やるしかないんだ。デスティニーの性能なら行ける!!」

 

ペダルを踏み込み機体を加速させるシン。

一直線に敵モビルスーツ隊に突撃し、左マニピュレーターで頭部を掴む。

開放型のビームジェネレーターから発生するエネルギーがウィンダムの頭部を吹き飛ばした。

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

1点だけ開いた穴から機体の機動力に任せて突き抜ける。

高い機体性能とパイロットとしてのシンの技能で、前後で挟み込まれビームを撃たれながらも、被弾する事なく敵艦艇に取り付いた。

 

「はぁぁぁッ!!」

 

全長を超える長さのアロンダイトで機首を横一閃。

激しい火花を飛ばしながら、モビルスーツによる一撃で艦艇を機能不全に追い込む。

そして大型ビームランチャーを素早く展開し、更にトリガーを引く。

高エネルギービームは艦艇を貫通し、巨大な爆発が発生する。

 

「もう少しでコロニーに!!」

 

『未確認の機体が接近してます!! 早い!? シン、気を付けて!!』

 

「未確認の機影!? 反応は2機、アレは……」

 

///

 

レクイエムの発射はいよいよ秒読み態勢に入る。

ほくそ笑むジブリールは今か今かと発射ボタンを押す瞬間を待って居た。

 

「これでオーブの忌々しい小娘にも一泡吹かせられる。そして次はメサイアだ。私はアズラエルのような小僧とは違う。今度こそ……コーディネーターを世界から抹殺する!!」

 

「エネルギー充填、完了しました」

 

「デュランダル!! 奏でてやる、貴様へのレクイエムをな!!」

 

ジブリールは今まさに発射ボタンへ指を伸ばしたその瞬間、通信士から慌てて報告が上がる。

 

「し、司令!! 3番コロニーが!?」

 

「どうした? もう発射準備は整ったのだぞ」

 

「それが……3番コロニーの機能が停止しました!!」

 

「そんな馬鹿な!! ミネルバもモビルスーツも接触出来る距離ではない筈だ!!」

 

「所属不明の機体が2機現れました。防衛部隊は壊滅状態です」

 

「すぐに状況を調べろ!! ここまで来て……」

 

///

 

どの機体よりも早く駆け抜ける白いモビルスーツ。

デスティニーが戦う戦闘領域に侵入したかと思うと、両手に握ったビームライフルとサイドスカートのレールガン、背部の翼に設置されたドラグーンを展開させる。

コクピットの球体型立体表示パネルが展開し、眼前に広がる敵機を1度にロックした。

 

「ターゲットロック、マルチロック。こんなモノはもう、必要ないんだ!!」

 

一斉に発射されるビーム。

正確な射撃は機体の武装とメインカメラなど、パイロットを殺さないようにして機能不全にする。

その中でもデスティニーだけはシールドを構えて攻撃を防ぐが、耐え切る事が出来ずに爆発し破壊されてしまう。

発射されたビームの先、シンの赤い瞳は目の前に突然現れた機体に釘付けだった。

 

「アレは……あの機体は……」

 

白い機体とは対称的に、もう1機現れた赤い機体は巨大補助兵装ミーティアを装備して廃棄コロニーに接触すると、モビルスーツの腕で操作出来るウェポンアームから巨大なビームサーベルを発生させコロニーを破壊して行く。

元々が廃棄されて居た建造物。

筒状だったコロニーは瞬く間に原型を崩し、発射されたガンマ線を屈折させる事は出来なくなってしまう。

 

「間に合った。でもアレはデータにない。ザフトの新型なのか?」

 

「デスティニー、パイロットはシンか」

 

突如現れた未確認機体。

それはシンの因縁の相手でもあり、裏切りの相手でもある。

 

「フリーダムとジャスティス!! 貴様らがぁぁぁ!!」




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第27話 自由と正義

シンの眼前に現れた2機の新型モビルスーツ。

青い翼を持ち、内部フレームが全て金色に染められたソレは、細かな箇所は変更されて居るが紛れも無くフリーダム。

そしてミーティアとドッキングするもう1機のモビルスーツ。

赤い装甲、銀色の内部フレーム。

バックパックにマウントされた航宙・航空用リフターは、2年前の大戦で使用されたジャスティスを彷彿とさせる。

 

「良くも戻って来れたな。アスラン・ザラ!!」

 

「シン、お前は!!」

 

ペダルを踏み込みメインスラスターを吹かすシン。

アスランのジャスティスもドッキングしたミーティアから分離する。

加速するデスティニーは握ったアロンダイトを構え大きく振り下ろした。

眩い閃光が走る。

左腕の実体シールドに内蔵されたビームジェネレーターから発生するビームシールド。

発生したビームの膜はデスティニーのアロンダイトの刃を通さない。

 

「アンタが裏切るから!!」

 

「聞くんだ、シン!! 議長は――」

 

「うるさい、黙れ!!」

 

一旦引くシンは右肩にマニピュレーターを伸ばしフラッシュエッジを握る。

間髪入れず腕を振るいフラッシュエッジをジャスティスに投げ付けた。

ピンク色に光るビーム刃が回転しながらアスランに迫る。

それでも、歴戦の兵士である彼の反応も早かった。

 

「この程度なら!!」

 

実体シールドの先端からビームが伸びる。

横一閃するジャスティス、迫るフラッシュエッジをはたき落とす。

頭に血が上るシン。

攻撃を防がれても尚、ジャスティスへの攻撃は止めない。

光の翼を展開しアロンダイトを構え加速する。

瞬間的に迫って来るデスティニー、ジャスティスはまた左腕のシールドを前方に突き出す。

内蔵されたワイヤーアンカーが伸び、デスティニーの左脚部に食い付く。

 

「しまった!? ぐぅっ!?」

 

「性能もわからない相手に突っ込み過ぎだ。シン!!」

 

「いいや、まだだ!!」

 

食い付いたワイヤーは強引にデスティニーの姿勢を崩し、ジャスティスの元へ引き寄せる。

右手にはビームライフル。

密着して撃たれれば新型のデスティニーでも致命傷になる。

意識を集中させるシン。

怒りに身を任せて戦って居たが、途端に頭の中がクリアになる。

反射と反応速度が飛躍的に上昇し、突き付けられるビームライフルの銃口を半身を反らし回避した。

引かれるトリガー。

発射されるビームは闇に消える。

 

「なっ!? 避けた!?」

 

一時とは言えデスティニーと交戦したアスランはその性能をわずかではあるが知って居る。

そして乗って居るパイロットの動きや癖も熟知して居るつもりだった。

絶対の自信を持って居たが、予想を上回るシンの動きに舌を巻く。

伸ばされるマニピュレーターがジャスティスが握るビームライフルを掴んだ。

 

「っ!!」

 

瞬時に反応するアスラン。

握ってたビームライフルを手放した瞬間、パルマフィオキーナが炸裂する。

至近距離で起こる爆発、同時にワイヤーアンカーもデスティニーを手放してしまう。

ヴァリアブルフェイズシフト装甲が採用されて居る両機にダメージはない。

 

「今の俺なら、どんな敵にだって勝てる!!」

 

「何を!!」

 

「アンタは裏切ったんだ。俺の敵だ!!」

 

「俺はまだ、お前にやられるつもりはない!!」

 

匠に操縦桿を操作するアスラン。

膝からつま先に掛けて設置されたビームブレード。

デスティニーを右足で蹴り上げようとする。

だがソレよりも早く、シンはパワー任せに右膝をジャスティスの股関節部にぶつけた。

 

「ぐっ!!」

 

姿勢を崩す機体、激しく揺れるコクピット。

AMBACとスラスター制御で態勢を整える。

距離を離しつつ、リフターのフォルティスビーム砲と実体シールドのビームジェネレーターからビームを撃つ。

デスティニーも左腕のビームシールドで迫るビームを防ぐ。

 

「逃がすものか!! アスラン!!」

 

追い掛けようとするシンだが、レーダーにもう1機の反応が映る。

 

「フリーダム!!」

 

「アスラン、ここは1度引こう。ミーティアを。ザフトは僕が抑える」

 

「キラ、頼む」

 

デスティニーの相手をキラに任せるアスラン、放置したミーティアとドッキングしエターナルと合流すべく大型スラスターに火を付ける。

そしてフリーダムは迫り来るデスティニーに右手のビームライフルを向けた。

 

「どうして!? 僕達が戦う理由なんて……」

 

「お前にはなくても、俺にはある!!」

 

「くっ!!」

 

発射されるビームは左腕のビームシールドに防がれる。

光の翼を広げるデスティニーは接近戦を仕掛けるべく加速するが、フリーダムも背部のドラグーンを展開させると光の翼を展開した。

戦場を駆け抜ける2つの翼が交わる事はない。

縦横無尽に飛び回るドラグーンはデスティニーを囲み全方位攻撃で攻め立てる。

素早く動かす操縦桿。

AMBACと細かなスラスター制御。

シンは卓越した集中力でドラグーンの攻撃を避け続ける。

 

「クソ!! 近付けない。それに……」

 

視界に捉えるフリーダムの姿。

その動きは新型である筈のデスティニーよりも早い。

高い機動力と運動性能を見せつけながら、両手に握るビームライフルからビームが撃たれる。

 

「ただ改修しただけじゃない。こっちも新型に乗り換えて強気になってたけど、甘かったって言うのか!!」

 

「もう止めろ!! こんな事をしても意味はない!!」

 

回避ばかりで攻撃に転じる事が出来ないシン。

デスティニーの周囲を飛び回るドラグーン。

そこにまた、別の形状をしたドラグーンが飛んで来た。

 

「ドラグーンはまだ使い慣れてないようだな」

 

「レイか!?」

 

「シン、先行しろ。ルナマリアも居る」

 

入り混じる青と灰のドラグーン。

両機とも小型ではあるが、レイの方がドラグーンの動きが洗礼されて居る。

互いに発射されるビーム。

その中で灰色のドラグーンはビームを避けながらも、フリーダムのドラグーンを2機落とす。

武装が破壊されただけだが、キラの乗るフリーダムもロールアウトされたばかりの新型。

この段階でまだ機体にダメージを通す訳には行かなかった。

 

「ドラグーンが!? 右からも来る!!」

 

展開させたドラグーンを回収しようと意識を傾けるが、レーダーには更にもう1機モビルスーツの反応。

ルナマリアの乗るインパルスは、加速しながらビームライフルのトリガーを引く。

 

「新型だからって!!」

 

「3つの敵が!?」

 

右腕のビームシールドを展開するキラはインパルスのビームを防ぐ。

だがその間にも目の前からは接近するデスティニー。

シンは右肩のフラッシュエッジを掴み大きく振り払う。

回転するビームブーメランはフリーダムに迫る。

考えるよりも前に反射的に体が動く。

展開するサイドスカートのクスィフィアスレール砲。

高速で発射される弾丸はフラッシュエッジに直撃し爆発の炎を上げる。

 

「行ける!!」

 

瞬時に機体を反転。

両手に握るビームライフルを連結させインパルスの左腕を狙う。

構えて、狙い、トリガーを引く。

常人を超えるキラのスピード。

発射されるビームは通常よりも速度と貫通力が高く、アンチビームコーティングの施されたシールドごとインパルスの左腕を貫く。

まさに一瞬、1秒と掛かってない。

ビームにより爆発する左腕はインパルスからちぎれ飛ぶ。

 

「ぐぅっ!! でも、まだぁ!!」

 

「来るのか!?」

 

被弾しても尚、ルナマリアはペダルを踏み込みインパルスを加速させる。

ビームライフルのトリガーを引くが、高い運動性能とパイロットの技量の前に全て避けられてしまう。

それでも諦めずにメインスラスターを全開にして迫るルナマリア。

フリーダムに劣りはするが、インパルスも開発されて1年と経過してないモビルスーツ。

両者の間は一気に狭まり、射撃戦の出来る距離ではなくなって居る。

左サイドスカートにマニピュレーターを伸ばすキラ。

 

「メインカメラが失くなれば」

 

一方のルナマリアはビームライフルを投げ捨て、右腕を伸ばしフリーダムに組み付く。

フリーダムが握るビームサーベルの切っ先はインパルスの頭部を貫いた。

だが両機は完全に密着しており、切り離すには破壊するしかない。

 

「今しかない!! シン、撃って!!」

 

「味方ごと撃つのか!?」

 

「大丈夫ッ!!」

 

言われてシンは左ウエポンラックから大型ビームランチャーを展開し、照準を重ね合わさる2機に合わせた。

躊躇する事なく引かれるトリガー。

高出力のビームが一直線にフリーダムとインパルスに飛ぶ。

それを見たルナマリアはコンソールパネルに指を伸ばし、コアスプレンダーと各フライヤーとを分離させた。

発射されたビームが届くよりも早く、コアスプレンダーのメインスラスターを吹かす。

 

「っ!!」

 

目を見開くキラ。

右手に握る連結ビームライフルを手放し、両腕のビームシールドを全開にして迫る高出力ビームの方向へ向き直る。

電力供給が絶たれたインパルスの装甲がビームシールドに焼かれた。

そしてデスティニーの発射したビームは背部からインパルスを貫き、フリーダムの爆発に包み込む。

 

「グゥゥッ!! アークエンジェルは?」

 

メインスラスターを吹かし、爆発から脱出するフリーダム。

コクピットを激しく揺らしたが、白い装甲にダメージはない。

アスランのジャスティスとミーティアは戦闘領域から離脱しており、アークエンジェルとミーティアも近づいて居る。

レーダーで確認したキラはこれ以上の戦闘はせず、後方部隊と合流すべくデスティニーとレジェントから背を向けた。

当然、シンは逃げるフリーダムを追い掛けようとする。

 

「逃がさないって言ってんだろ!!」

 

「待て、シン。ここはミネルバに帰艦する」

 

「何で、邪魔しないでくれ!!」

 

「いいや、ダメだ。ルナマリアのコアスプレンダーでは戦力にならない。それにこのまま近付けば艦隊戦になる。今のミネルバには時間がない。帰艦してジブリールを追う方が先だ」

 

「クッ!! 目の前に居るって言うのに……」

 

苦虫を噛み潰した表情をするシン。

フリーダムから背を向けるデスティニー、レジェンド、コアスプレンダーはミネルバへと帰艦する。

 

///

 

廃棄コロニーが破壊されて暫くの時間が経過した。

ダイダロス基地のジブリール。

この基地に逃げ込んだ事はミネルバからの報告でザフトにバレており、時間と共に増えつつあるザフト軍をモニターで見て居た。

しかしその顔は、追い詰められつつあるというのに余裕の表情。

 

「ギルバード、全軍を率いてこの私を打ち倒しにくるか。だがそう簡単にはやらせんよ」

 

ジブリールは連合軍の司令官にレクイエムのチャージを急がせる。

突如として現れた新型のフリーダムとジャスティスにより、月からもっとも近い位置の廃棄コロニーは破壊されてしまった。

それでも残された廃棄コロニーの角度を軌道修正する事で、また狙った位置にレクイエムを撃ち込む事が出来る。

 

「この私を捕まえる事にずいぶん意気込んで居るようだがそれが命取りだ!! チャージが終わった瞬間、ザフトは宇宙の塵と消える!!」

 

月の表側のアルザッヘル基地、及び戦略兵器レクイエムを死守するべく、基地内部から大部隊が発進しザフト軍を迎え撃つ。

その中には、かつてシンを苦しめたデストロイが4機も居る。

 

「いいか、なんとしても守りきれ!! 今1度レクイエムを撃つ事が出来ればこちらの勝ちだ!!」

 

基地からはブースターを装備した艦艇が次々と基地から飛び出して行く。

月の表面にも展開される大部隊。

 

「エネルギーチャージ40パーセント充填」

 

着々とチャージの進むレクイエム、ジブリールはその瞬間を今か今かと待ち望んで居る。

 

///

デュランダルは自らが機動要塞メサイアの司令部に立ち、何としてもこの戦争を終わらせようとして居た。

ザフトも部隊が集結しつつある中、通信士からロゴスに動きがあったと報告を受ける。

 

「向こうが先に動き出したか。全軍に通達、これよりダイダロス基地攻略作戦を開始する。この戦いが終われば戦争は終わる。各員の健闘に期待する」

 

デュランダルの言葉は全軍に伝わり、同時に士気が向上した。

ミネルバもデュランダルからの指示を聞き、ダイダロス基地攻略部隊との合流を急がせる。

モビルスーツのパイロットはデッキで合流後の作戦会議をして居た。

アスランが居なくなってから作戦の指揮はレイが取る事になる。

 

「もうすぐ前線部隊と合流する。初手はヒイロのウイングゼロが出てくれ。バスターライフルで敵の防衛網に穴を開ける。その隙にシンと俺で基地に取り付く。ルナマリアはミネルバの防衛と俺達が突入した後のヒイロの援護をしてくれ」

 

レイが作戦の概要を伝えるが、それに対しルナマリアが意見する。

 

「でもヒイロ1人じゃ危険じゃない? それならアタシと一緒の方が」

 

「いや、レイの作戦は正しい。お前はミネルバの防衛に専念しろ」

 

ヒイロはあくまで一人で行こうとする。

ルナマリアは心配するがそれ以上は何も言わず、レイは作戦の説明を続けた。

 

「敵の戦略兵器のデータも回って来た。アレはゲシュマイディッヒ・パンツァーを搭載した廃棄コロニーを通す事でガンマ線を屈折させる。屈折を繰り返す事で狙った位置に撃ち込む事が可能にして居る。フリーダムが廃棄コロニーの1つを破壊した事で奴らも今はまだ使えない。でもそれも時間の問題だ。第1戦で月周回軌道の敵部隊を崩して突破する。補給した後、月面のダイダロス基地だ。シン、敵はデストロイも準備して居る。今のお前とデスティニーなら行ける筈だ」

 

「わかった」

 

力強く頷くシン。

作戦の説明が終わると放送でメイリンの声が流れて来た。

 

『コンディション・レッド発令。パイロットは搭乗機で待機して下さい』

 

「行こう、レイ。もう戦いを終わらせよう」

 

立ち上がる4人はモビルスーツデッキに待機する自分の機体へ向かう。

シンも自らの搭乗機であるデスティニーに急ぐ。

ハンガーに固定された機体を確認してシンは走ろうとするが、突然誰かに後ろから肩を引かれる。

振り向いた先に居たのはヒイロの姿。

 

「どうした? 時間がないんだぞ」

 

「デスティニーは俺が乗る。お前はゼロを使え」

 

「はぁ!? お前、何言って――」

 

「ゼロシステムがお前の戦うべき敵を見出してくれる。それと、他にやる事が出来た。デスティニーの方が動きやすい」

 

「やる事って……」

 

シンの言葉も聞かずにヒイロは言葉を続ける。

そしてそのまま本来のパイロットである筈のシンを置いて、1人勝手にデスティニーのコクピットに入り込んだ。

 

「操縦系統は他と変わらない。お前なら出来る筈だ」

 

「だからって!!」

 

ヒイロはそこまでしか言わず、強引に機体のハッチを閉鎖した。

残されたシンは言われた通りにウイングゼロに乗るしか道はない。

 

「何だって言うんだよ、アイツは!? クソォォォ!!」

 

///

 

アークエンジェルとエターナルも月のダイダロス基地へ向かって居た。

それでもザフトの進軍と比べればその速度は遅い。

ブリッジではこれからの動きに付いてマリューが頭を悩ませ、彼女の隣にはキラが居る。

 

「ザフトも必死か。メサイアと投入してでも、ジブリールを撃つ気で居る」

 

「戦力は増強しましたけど、過信は出来ませんね」

 

「えぇ、両軍の動きを見てからでないと。また、2年前と同じになってしまうなんて」

 

「あの時はそれしか方法がありませんでしたから。未来はどうなるかわかりませんけれど、今度こそ良くなるようにと願って僕達はココに居る」

 

新しくなったフリーダムとジャスティス。

合流したラクスのエターナルとミーティア。

戦力は増えたが、このまま突入すればロゴスとザフトの挟み撃ちに会い勝てる見込みは全くない。

迂闊に突入する事も出来ないが、両軍が交わり合うのも時間の問題。

すると、並走するエターナルから通信が繋がって来た。

モニターに表示された先には艦長シートに座るラクスの姿。

 

『マリューさん、そちらの準備は?』

 

「こっちは問題ありません。それよりも両軍の動きが気になります」

 

『ダイダロス基地攻略にはミネルバが来てます。なんとか共闘出来れば次の発射には間に合うかもしれん』

 

「残念ですがそれは無理でしょう。ですがアレをまた撃たれれば、また甚大な被害が出ます。こちらはこちらで行動に移りましょう」

 

マリューの言葉にラクスは静かにまぶたを閉じる。

そしてまたゆっくりと開き、鋭い視線でキラに目線を移す。

 

『キラ、アレをまた撃たせる訳には参りません。厳しい戦いでしょうが頑張って下さい』

 

「わかってる。アスランにも伝えて」

 

『えぇ、わかりました。では』

 

途切れる通信。

エターナルのブリッジでラクスはシートに座ったまま首を傾けた。

その先に居るのは、ザフトから逃亡したアスラン。

 

「アスラン、聞いての通りです。次の戦場にもミネルバが来ています。また彼らとも戦う事になるでしょう。ですがわたくし達は止まる訳には参りません。ダイダロス基地を制圧出来れば、次はミネルバと戦う事になるやもしれません」

 

「覚悟は決めた。ジブリールを止める、そしてこの戦争も終わらせる。例えまた、アイツラと戦う事になろうとも」

 

決意を口にするアスランに、ラクスは何も言わない。

ロゴスとザフト、両軍の決戦の火蓋は切られようとして居た。




戦闘シーンは入れたのですが、ストーリーが進んでない……
でも最終回まではもう少しですので、更新をお待ち下さい。


活動報告、更新しました。
意見を貰えると嬉しいです。


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第28話 シンが見る未来

月表面に展開するロゴスの防衛部隊。

ミネルバはこの防衛網に穴を開けるのが仕事だ。

開放されたハッチからは、発進準備の完了したモビルスーツが順次発進する。

 

「レイ・ザ・バレル。レジェンド、発進する」

 

カタパルトから発進するレジェンドはメインスラスターを吹かし加速する。

バッテリー電力の供給によりヴァリアブルフェイズシフト装甲を機能させ、ツインアイが輝く。

隣のハッチからはルナマリアのコアスプレンダーが発進し、各フライヤーとドッキングする事でフォースインパルスへと変形した。

カタパルトで発進態勢に入るデスティニー。

アームが自動的にマニピュレーターへビームライフルと実体シールドを運びそれを装備する。

ハッチの先に見えるのは、目前に迫る巨大な月。

 

『進路クリア、デスティニー発進どうぞ』

 

「了解した。デスティニー、出撃する」

 

『えっ!? どうしてヒイロ――』

 

モニターの向こう側では通信士のメイリンが驚きの声を上げるが、ヒイロは言うべき事だけを言うとコンソールパネルに指を伸ばし通信を切ってしまう。

両手で操縦桿を握り、ペダルを踏み込むヒイロはデスティニーで出撃する

反対側のハッチからはウイングゼロに搭乗したシン。

メイリンは急いで通信を繋げ、モニターにはヘルメットを装備したシンが映る。

 

『どうしてシンがそっちに居るの!? デスティニーは?』

 

「俺が聞きたいぐらいだよ。兎も角、今は時間がないんだ。敵部隊も展開してる。この機体で出る!!」

 

『それはそうだけど……。わかった、気を付けて』

 

「シン・アスカ、ウイングゼロで行きます!!」

 

カタパルトから発進するウイングゼロ。

初めての機体に操縦性を確かめながら動かすシンは、先行する3機と合流する。

合流した先でも、ヒイロ以外は戸惑うばかりだ。

 

「どうしてデスティニーにヒイロが乗ってるの!? シンもどうして?」

 

「そんなの俺だってわからねぇよ。ヒイロに直接聞いてくれ」

 

「俺もあまり人の事は言えないが、少し勝手が過ぎるぞ。ヒイロ、シンをウイングゼロに乗せる事に意味はあるのか?」

 

モニター越しに冷静に言及するレイに、ヒイロは応える。

 

「意味を見いだせるかどうかはアイツ次第だ。俺は俺でやる事がある。その為にはデスティニーが動きやすいと判断したまでだ」

 

「やる事?」

 

「あぁ、別ルートからアークエンジェルも月へ向かって居る。奴らの動向を探る」

 

ヒイロの言葉を飲んだレイはまぶたを閉じ、ゆっくり口を開けた。

 

「わかった」

 

「ちょっとレイ!? 本当に大丈夫なの?」

 

「ここで議論した所で無駄な事だ、既に作戦は開始して居る。ルナマリアも今は自分の役目を真っ当するんだ。行くぞ!!」

 

「っ!? 了解!!」

 

前面に展開する敵モビルスーツ部隊。

レジェンドはドラグーンを展開させ、インパルスはビームライフルで敵機を狙い撃つ。

ヒイロが乗るデスティニーは翼を広げメインスラスターを全開にした。

近づく4機のウィンダム。

ビームライフルの砲撃がデスティニーに迫るも、高い運動性能と左腕の実体シールドがこれを防ぐ。

銃口を向けるヒイロはまず、中央に数発トリガーを引いた。

発射されたビームを避ける為に一時的ではあるが4機の編成が崩れる。

一気に距離を詰めるデスティニー。

バラバラに別れた1機に照準を合わせ、更にもう1発。

ビームはウィンダムが握るビームライフルを破壊して右肘から先を持って行く。

態勢が崩れた瞬間、コクピットに光が差し込む。

敵パイロットは髪の毛1本すらこの世に残さず、灼熱のビームに飲み込まれた。

 

「敵機の破壊を確認。次のターゲットに移る」

 

照準を変えるヒイロ。

ビームライフルを腰部にマウントさせ、左肩からフラッシュエッジを掴む。

ペダルを踏み込み加速するデスティニーは次のウィンダムへ接近し、短いビームサーベルを発生させると腕を振り下ろす。

シールドを構えるウィンダムだが、ビームの刃に腕ごと斬り落とされた。

ヒイロはトリガーを引く。

頭部バルカンから吐き出される弾丸は機体の胸部へと集中し、パイロットは数秒後に炎へ包まれた。

 

「残り2機。70秒で方を付ける」

 

瞬時に機体を動かす。

接近戦の強いデスティニーに残る2機はビームライフルで攻撃しながら中距離を維持する。

アンチビームコーティングの施された実体シールドでコレを防ぐ。

そして背部の翼を広げ光の翼を展開するデスティニー、残像を生み出しながらビームの中をすり抜けて行く。

ヴォワチュールリュミエールによる残像は機体の速度も然る事ながら、残像による撹乱で敵パイロットを翻弄する。

接近するヒイロはまず左のウィンダムをターゲットに設定し、握るフラッシュエッジで振り払った。

切断するビームライフル。

ウィンダムのパイロットは直ぐ様武器を投げ捨て、サイドスカートからビームサーベルを引き抜いた。

残ったエネルギーが爆発し視界を遮る。

ウィンダムはそのまま加速し爆発の煙のに突っ込み、握るビームサーベルをデスティニーに突き立てた。

 

「甘いな」

 

遮られた視界の先から半身を反らす。

ビームサーベルの切っ先は空を斬り、伸ばされた右腕をデスティニーは左マニピュレーターで掴む。

炸裂するビーム。

パルマフィオキーナがウィンダムの腕を吹き飛ばす。

 

「あと1機」

 

デスティニーの背後に迫る敵機。

ヒイロはレーダーで感知するも相手の方が動きが早い。

向けられる銃口から放たれるビームは背部に突き進む。

展開した光の翼がより一層強く輝く。

ビームはデスティニーに直撃する事はなく、寸前で屈折し装甲にダメージはない。

眼前のウィンダムが残った左腕のシールドで振り払う。

AMBACで姿勢を低くし頭上を通り過ぎる。

再び左のマニピュレーターを突き付け閃光がほとばしった。

放たれる閃光はコクピットを吹き飛ばす。

振り返り戦闘画面に映る敵機。

ビームライフルで牽制しながら後退するウィンダムに腕を大きく振り払いフラッシュエッジを投げる。

弧を描きながら飛ぶビームブーメラン。

損傷を阻止すべく、ウィンダムはライフルの銃口をフラッシュエッジに向け、兎に角トリガーを引き続ける。

何発もビームが発射された末に、フラッシュエッジは敵機の装甲に当たる事なく破壊されてしまう。

けれどもその時には光の翼を展開したデスティニーがウィンダムを通り過ぎて居た。

後を追い振り返ろうとするも、先に撃たれたビームが右脚部、そして頭部を撃ち抜く。

 

「敵部隊の壊滅を確認。来たか……」

 

レーダーに映る新たな反応。

別ルートから進んで居たアークエンジェルとエターナルから出撃するモビルスーツ。

ストライクフリーダムとインフィニットジャスティス。

そして護衛として派遣された2機のドムトルーパー。

ヒイロだけでなく、ウイングゼロに乗るシンにもレーダーで確認出来た。

 

「あいつら、性懲りもなくまた来るのか!!」

 

先行しようとするシン。

だがレイのレジェンドが肩にマニピュレーターを接触させる。

 

「止めろ、シン。今はロゴスの防衛部隊を叩く方が先だ」

 

「でも!!」

 

「奴らもこの部隊を前に突入して来る程自惚れては居ない。今動いてもフリーダムは倒せない。それどころかロゴスに挟み撃ちに合うぞ」

 

「クッ!!」

 

「今は目の前の敵と任務に集中するんだ」

 

言うとレジェンドはメインスラスターを吹かし戦線に復帰する。

シンも同様にウイングゼロで敵部隊の殲滅に掛かった。

右足でペダルを踏み込み、両翼の大型バーニアを展開し加速する。

等速運動を無視するかのような急激な加速。

コクピットに伝わるGはダイレクトにパイロットの負荷となる。

 

「グゥゥッ!!」

 

歯を食いしばり、強烈な負荷に耐えるシン。

滝のように流れる景色。

食いしばる歯茎からはいつの間にか血が滲んで居る。

 

(なんて加速だ!! こんな機体にアイツは乗ってたのか!?)

 

戦線を突き抜けるウイングゼロ。

なんとかペダルと操縦桿を戻すシンは機体の速度を減速させ、右肩からビームサーベルを引き抜く。

迫る敵部隊に接近戦で挑む。

ビームライフルで牽制して来るウィンダムに狙いを付け、シンは再び機体を加速させた。

 

「この機体のパワーなら行ける!!」

 

加速しながらも、高い運動性能で発射されるビームを回避する。

一瞬の内にウィンダムの懐に入り、握ったビームサーベルで袈裟斬り。

敵機の白い装甲は熱した包丁でバターを切るかのように簡単に破壊された。

貯蔵されたバッテリーのエネルギーが爆発するよりも早く、シンは次の敵に狙いを定める。

 

「もっとだ、もっと来い!! 俺が全部叩き斬ってやる!!」

 

四方から発射されるビームを物ともせず、シンは敵陣の中に突入する。

ウイングゼロの機動力を前に量産機では逃げる事も出来ず、接近されビームサーベルを振るわれれば防ぐ事も出来ない。

ビームサーベルで横一閃。

シールドを構えるウィンダムを何もないかのように分断する。

振り返ると同時にビームサーベルを振り下ろす。

ウィンダムが左右に別れ、次の瞬間にはウイングゼロを炎で包む。

至近距離からの爆発であるにも関わらず、白い装甲にはキズひとつ付いてない。

 

「7時の方向、敵の巡洋艦か!!」

 

モビルスーツの攻撃に混じって、艦艇から強力な主砲がウイングゼロに向けられる。

ビームが届くよりも前に主翼大型バーニアを展開し回避行動に移るシン。

艦艇の援護を受けながら更にモビルスーツが送り込まれて来た。

操縦桿のトリガーを引き、両肩に内蔵されたマシンキャノンを展開するも弾は既に使い切っており、カタカタと音をならして回転するだけ。

 

「弾切れなのかよ。だったら!!」

 

装甲に格納されるマシンキャノン。

シールドのマウントされたツインバスターライフルを向けるシンは、敵の艦艇に狙いを定める。

エネルギー出力は抑え気味にしてトリガーを引く。

発射されるビームはそれでも高出力で、艦艇の機首に突き刺さると内部から爆発し一撃で破壊してしまう。

 

「凄い……この機体ならどんな奴にだって勝てる!! アイツラにだって!!」

 

頭の中に思い浮かべるのは家族を殺した仇であるフリーダムと、自分達を裏切ったアスランの姿。

同時に発動するゼロシステムはシンに倒すべき敵を見せる。

 

「ロゴスを倒す!! そうすればあの2人も倒せる!!」

 

先行するウイングゼロは更に敵機を撃破して行く。

突き出す右手のビームサーベルはウィンダムのコクピットを貫く。

怒りを闘志に変えて戦うシンに、ゼロシステムは更なる力を与える。

 

「落ちろぉぉぉ!!」

 

袈裟斬りするウイングゼロはまた1機、敵機を破壊した。

大量のビームと弾丸、爆発が入り混じる中で、シンは敵の防衛網を崩す為にレーダーに反応する敵機を次々と撃墜する。

パイロットの脳へダイレクトに伝わるビジョン。

それは一種の幻覚を生み出す。

次にシンが見た敵は、ここに居る筈がないフリーダムの姿。

 

「フリーダム!? どうしてこんな所に!!」

 

ペダルを踏み込み加速。

握るビームサーベルで袈裟斬りするも相手の動きは早い。

切っ先は空を斬り、フリーダムが展開したドラグーンが背部を撃つ。

ビームは装甲に直撃し、激しい爆発が機体とパイロットを襲う。

 

「ぐぅっ!! まだ終わってない!!」

 

主翼大型バーニアを展開し更に加速。

再び接近し、右腕を勢い良く振り落とす。

だがフリーダムは左腕のビームシールドでコレを防ぎ、両腰のクスィフィアスが至近距離で展開する。

 

「なっ!?」

 

反応するが既に遅い。

高速で発射される弾丸は再びウイングゼロに直撃し、激しい振動がパイロットに掛かる。

それでもまだ機体は動くし、シンの闘志も衰えては居ない。

 

「今のがビームだったらやられて居た……クソッ!! 舐めやがってぇぇぇ!!」

 

シンは果敢に攻め立てるが、ビームサーベルの切っ先がフリーダムに触れる事はない。

袈裟斬り、振り払い、更に袈裟斬り。

そのどれもが空を斬り、隙を晒してしまう。

フリーダムは武器を構えずとも胸部カリドゥス砲を正面に発射する。

高出力の赤黒いビーム。

左腕のシールドで防ぐシンだが、全く反撃に移る事が出来ない。

 

「何が違う、何が足りない!! これだけの性能を持った機体でも、アイツに勝てないのか?」

 

力の差に嘆くシン。

ウイングゼロの性能を頼りにしてもフリーダムに一太刀浴びせる事も出来ない。

カリドゥス砲を受け切り視界を開けた瞬間、眼前には全ての武装を構えるフリーダム。

 

(間に合わない、死ぬ!?)

 

息を呑み目を見開く。

何本ものビームが一斉に発射され、避ける事も防ぐ事も出来ずに無数のビームの直撃を受けてしまう。

 

「うあああぁぁぁっ!!」

 

ビームの直撃を受けて流されるウイングゼロ。

コクピットでは、肩で息をしながらもなんとか操縦桿を握る手に力を入れるシン。

バイザーを閉じたヘルメットの中では粒状になった汗が幾つも浮いて居る。

 

「はぁ、はぁ、どうなってる? 俺は生きてるのか?」

 

ヘルメットに手を伸ばしバイザーを開け浮いた汗を出す。

混乱しながらも戦闘画面とレーダーを確認すると、フリーダムの姿はもうどこにもなかった。

だが、まだもう1人因縁の相手は居る。

右手にビームライフルを握る赤い機体、ジャスティスが目の前に現れた。

 

「アスラン!!」

 

「もうこんな戦いは止めるんだ、シン!!」

 

「うるさい!! アンタが裏切るから!!」

 

ジャスティスはシールドのワイヤーアンカーを射出しウイングゼロの動きを制限しようとするが、高い機動力と運動性能を駆使してシンは避けながらジャスティスに接近する。

 

「もうこんな……復讐に囚われた戦い方は止めろ!! そんな事をしても、何も戻りはしない!!」

 

「うるさい!! アンタなんかに何がわかる!! 裏切り者のくせに!!」

 

振り下ろされるビームサーベル。

ビームシールドで攻撃を防ぐジャスティスは、右手のライフルの銃口を密着させトリガーを引く。

発射されるビームで爆発が起こり、機体は激しく揺れる。

 

「まだだ、この機体ならまだ戦える!! アイツに勝てるだけの力がある!!」

 

ツインバスターライフルの銃口を向けるシン。

トリガーを引こうと指に力を入れた瞬間、死んだ筈の妹の姿がジャスティスと重なる。

 

「そんな!? どうしてマユが……」

 

「お前が求めて居たモノはなんだ? フリーダムを倒す事か? その為の力か?」

 

「俺は……俺は……グゥゥッ!!」

 

再び機体が激しく揺れる。

呼吸が荒くなり、視界もぼやけ意識が薄れる中で、シンは目の前の敵を見た。

視界に映るのはフリーダムとジャスティスの2機。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ!! 俺が倒すべき敵……俺が求めるモノ……アイツラを倒す力!! それさえあれば!!」

 

ツインバスターライフルの出力を全開にして、銃口を眼前の敵に突き付ける。

力強く引かれたトリガー。

高出力ビームが全てを飲み込まんと発射された。

けれどもそれを遮るのは、味方である筈のルナマリアのインパルス。

 

「ルナ!? なんで、やめろォォォッ!!」

 

ビームに飲み込まれるインパルス。

装甲は一瞬の内にエネルギーの濁流の前に消え去り、ネジ1本として残さずシンの視界から居なくなる。

呆然とするシンは頭を左右に振り目の前の光景を否定した。

 

「そんな……ウソだ!! ジャスティスを……アスランを倒しても、こんな事じゃ……」

 

「勝つと言う事はこう言う事だよ」

 

ゼロシステムが見せる新たなるビジョン。

それは平和な世界を作るを宣言した男、ギルバード・デュランダル。

 

「議長……」

 

「誰がの屍を踏み付ける事で勝ちを得る。時には味方でさえも。そこまでしなければ勝ち取る事は出来ないのだよ。キミはその踏み付けた屍で何をする?」

 

「屍、ルナが!? 嫌だ……嫌だァァァ!!」

 

「ならば何も出来ないまま死ぬが良い。因縁の相手によってね」

 

見ると2丁のビームライフルを連結させたフリーダムがシンを狙って居た。

息を呑み恐怖する。

頭が混乱に体も動かない。

だがビームが撃たれる事はなく、レイのレジェンドがフリーダムへと組み付いて居た。

 

「撃つんだ、シン!! 俺ごとフリーダムを!!」

 

「何で、どうして!! 俺はこんな事をしてまで倒したい訳じゃない!! 僕には撃てない!!」

 

「そうだ、それで良い」

 

「レイ……」

 

目の前から消えるビジョン。

システムの幻覚状態から逃れたシンが見た光景は、敵のウィンダムのコクピットへビームサーベルを突き立てて居た。

 

「今までのは何だったんだ? 俺は何をして居た……」

 

ビームサーベルを引き抜くと、動かなくなった機体が流れて行く。

周囲に漂うのは破壊されたモビルスーツの幾つもの残骸。

現実と幻覚との堺が曖昧な状態ではあるが、前に出過ぎて居るシンは後方部隊に合流する為に操縦桿を動かす。

 

///

 

アークエンジェル、エターナルから発進する2機のモビルスーツ。

フリーダムとジャスティスはミーティアとドッキングすると、先行して敵部隊を叩きに行く。

既にザフトとロゴスの戦いが始まって居る中で、優先すべきはロゴスにレクイエムを使わせない事。

 

「行こう、アスラン。もうこんな事は終わらせないと」

 

「あぁ、ロゴスの暗躍もここで終わらせる。その次はザフトの在り方だ。ラクスが集めた情報、そして俺がウイングゼロで見た未来。デュランダル議長の計画はなんとしても阻止する」

 

「うん。僕達はその為に来たんだ」

 

ミーティアの大型バーニアを点火させ進むフリーダムとジャスティス。

けれどもそこに近づくモビルスーツの反応が1機。

レーダーが捕らえ、戦闘画面に表示される形式番号から、接近して来るのはデスティニーだとわかる。

 

「デスティニー、シンか。まだ俺やキラに執着して居るな」

 

「あまり時間を掛けると攻め込むタイミングな失くなる。強い相手だけど、一気に決めよう」

 

進路変更を視野に入れるキラだが、エターナルから更に2機のモビルスーツが発進した。

加速する2機はドムトルーパー。

ヒルダ機は先行するフリーダムの肩にマニピュレーターを触れさせる。

 

「キラ様、ここは任せて下さい。お2人はダイダロスを」

 

「ですが、あの機体は……」

 

「撃破は無理でも時間稼ぎくらいは出来ます。急いで下さい」

 

「わかりました。気を付けて」

 

ヒルダとマーズにデスティニーを任せ、フリーダムとジャスティスは前線へと向かう。

アークエンジェルとエターナルの防衛を任された2人は、迫るデスティニーをモノアイに収める。

 

「行くよマーズ!! これからの戦いは、全てラクス様の為に捧げる!!」

 

「了解。仕掛けるぞ」

 

メインスラスターを噴射する2機。

青白い炎の線を描きながら、ドムとデスティニーが交わる。

ビームバズーカを構え、ヒルダは先制攻撃を仕掛けた。

 

「ぶっ飛びな、赤羽!!」

 

「戦闘レベル、ターゲット確認。排除開始」

 

太い銃口から放たれる高出力ビーム。

バレルロールを駆使して簡単に回避するヒイロもビームライフルを向けてトリガーを引く。

地上での動きが早いドムだが、宇宙に出てもそれは健在だ。

既存の量産機とは一線を越す性能。

難なく回避するヒルダは更にビームバズーカを撃つ。

 

「相手が新型だろうと関係ないね!! こっちだってロールアウトしたばかりの新型機だ!!」

 

「この動き……パイロットはあの時と同じか」

 

「沈みな!!」

 

次々に撃たれるビームを避けながら、時にはシールドで防ぎながらヒイロもビームライフルを撃つ。

互いに中距離戦を繰り返しながらもマーズのドムが右脇から攻める。

 

「これなら!!」

 

強化型ビームサーベルを振り落とすドム。

瞬時に反応するヒイロは振り向き左腕の実体シールドを構えるが、度重なる攻撃により消耗しており半分に分断されてしまう。

斬られたシールドが漂う中で、使えないシールドを腕からパージしてすぐにマニピュレーターを右肩に伸ばした。

フラッシュエッジを掴むデスティニーは素早く横一閃。

両者を照らす閃光。

展開するビームの刃はビームシールドに防がれる。

 

「舐めてんじゃねぇぞ!!」

 

「マーズ、そのまま押さえな!!」

 

スクリーミングニンバスを起動させ機体前面に赤い粒子を展開するヒルダ機。

強力なバリアを張りながら、接近しつつビームバズーカを撃つ。

ペダルを踏み込むヒイロはマーズ機から距離を離し回避行動に移る。

だが態勢を立て直す時間を与える2人ではない。

 

「逃がすものか!! ジェットストリームアタックで仕留めるよ!!」

 

「OKだ。スクリーミングニンバスを展開させる」

 

バリアを展開する2機のドム。

ヒイロはフラッシュエッジを戻し、背部のウェポンラックから大型ビームランチャーを展開させ、ヒルダ機に強力なビームを発射した。

一直線に突き進む赤黒いビーム。

それでもスクリーミングニンバスはその全てを受け切った。

 

「そんな攻撃に!!」

 

ビームバズーカで迎撃するヒルダにヒイロは素早く大型ビームランチャーを背部へ戻す。

再びフラッシュエッジを掴むと同時に、背中の赤い翼を大きく広げた。

目前に迫るビーム。

だが次の瞬間、デスティニーはそこに居ない。

 

「なっ!? 残像だって言うのかい!!」

 

光の翼を展開して動くデスティニーの動きに翻弄されるヒルダ。

それはマーズも同様で、ビームサーベルを振り下ろした先にあったのはミラージュコロイドが生み出す残像。

 

「早い!?」

 

「敵を挟み込み攻め落とす。戦略としては間違ってない。だが相手の力量を見誤ったな。何より機体の性能を過信し過ぎたのがお前のミスだ」

 

マーズ機の背後に回り込むデスティニーは頭部バルカンでドムの頭部をズタズタに引き裂く。

そしてフラッシュエッジでバックパックを斬り付け爆発が起こる。

姿勢を崩すマーズ機は宇宙の闇へ流されて行く。

 

「お前、よくもやってくれたね!!」

 

「甘い!!」

 

ビームバズーカを投げ捨てるヒルダはビームサーベルを引き抜くが、既に目の前にデスティニーの姿はない。

スクリーミングニンバスを展開するドムに回り込むヒイロはフラッシュエッジで右腕を斬り落とした。

 

「こんな……こんな事が!?」

 

「目標は達成した。次の任務に移る」

 

戦闘能力を失ったヒルダ機を置いてヒイロは流されて行ったマーズ機の後を追う。

残されたヒルダは悲痛の叫びを上げるが、その声は宇宙に消える。

 

「マーズ……マァァァズゥゥゥッ!!」

 

///

 

ミネルバのブリッジでタリアは戦況を分析する。

激しく揺れる艦艇の中、シートに座りながら通信士のメイリンに指示を出す。

 

「モビルスーツ隊を1度帰艦させて。補給が終わった後、再び攻め込みます。月の防衛網を破るまで後少し。各員気を引き締めて」

 

「こちらミネルバ。モビルスーツ隊はただちに帰艦して下さい」

 

出撃した4機に飛ばされる通信。

それを受けてインパルスとレジェンドは指示に従いミネルバへと戻る。

けれどもその中にデスティニーの姿はなかった。

ビームサーベルでウィンダムを斬り落としたシンは、ミネルバに帰艦すると同時にデスティニーの行方も探す。

 

「帰還命令が出てるってのに、アイツは何やってんだ? デスティニーは俺の機体なんだぞ」

 

レーダーと目視で機体を探すシン。

暫く時間が経過した後、戦闘領域から少し離れた場所にデスティニーの反応が見つかった。

ペダルを踏むシンは急いで機体の回収に向かう。

 

(この機体に乗ってわかった。俺はこの機体のパワーに引かれたけれど、戦う力を機械に求めたらダメだ。俺は自分の力で勝ち取る。そして倒すんだ、あの2機を!!)

 

戦闘画面に映るデスティニーの姿が少しずつ大きくなる。

機体の動きは完全に止まっており、ヴァリアブルフェイズシフト装甲もダウンして灰色の装甲になって居た。

 

「どうした? ヒイロ、応答しろ。ヒイロ!!」

 

コンソールパネルに指を伸ばし通信で呼び掛けるシン。

だが機体に目立った損傷箇所は見当たらないにも関わらず、デスティニーから返事は返って来ない。

機体を回収する為に急いで接触するが、動かないデスティニーのコクピットハッチは何故か開放されて居る。

カメラでコクピット内部をズームして確認するも、搭乗して居る筈のヒイロの姿はなかった。

 

「ヒイロ……」

 

ウイングゼロはパイロットが居なくなったデスティニーを抱えてミネルバに帰艦する。

ロゴスの防衛網は確実に崩壊しつつあった。

ザフト軍の猛攻、そしてミーティアとドッキングしたフリーダムとジャスティスの活躍により、ダイダロス基地への侵入経路が見えて来る。

キラとアスランはその段階まで来るとアークエンジェルとエターナルへ帰艦した。

核エンジンを搭載して居ても推進剤や実弾兵器は消耗する為、必ず補給の為に戻らなくてはならない。

モビルスーツを帰艦させたエターナルのブリッジでは、艦長であるラクスとバルトフェルドが戦況を見定めて居た。

 

「戦況はザフト側に傾いたようですね。ですが、わたくし達の目指すモノはその先にあります。ナチュラルとコーディネータ、この戦いの輪廻を断ち切らねば」

 

「あの戦略兵器の第2射は阻止しないとな。中継ポイントが復活する前にダイダロスのジブリールを叩く」

 

「バルトフェルド隊長」

 

「ダゴスタ君、何かあったか?」

 

「前方から不審なモビルスーツが流れてきます。どうしますか、迎撃しますか?」

 

「うん? ちょっと待て、アレは……」

 

ダゴスタの報告でモニターを凝視するバルトフェルド。

そこには居なくなったマーズのドムが居た。

 

「機体が損傷しているな。緊急着艦の用意、医療班も待機させてくれ」

 

ダゴスタに指示を出しドムを収容する為の準備に入る。

損傷するマーズ機は、辛うじて生きて居るバーニアを吹きながらゆっくりエターナルに向かって来た。

頭部は破壊され、メインスラスターも正常に機能しない。

右腕も失くなっており、コクピットハッチもズタズタにされて居る。

そこまで見て、バルトフェルドは異変に気付く。

 

「いや違う!! ダゴスタ、ハッチを閉じろ!!」

 

ボロボロのハッチから僅かに覗く隙間。

そこから見えるパイロットスーツはマーズのモノではない。

それに気付き急いでハッチを閉じようとするが、目前にまで迫るドムはエターナル内部に滑り込んで来た。

ボロボロの機体を壁に擦り付け、火花を上げながらカタパルトを進む。

壁に激突するとドムは動かなくなり機体から火の手が上がる。

「モビルスーツの消火作業に回れ!! 他のクルーは侵入者を逃がすな!! ダゴスタはラクスを頼む、ブリッジは狙われやすい。俺は賊を追う」

 

「了解です。さぁ、ラクス様」

 

「えぇ、お願いします」

 

ダゴスタはラクスを連れて、バルトフェルドは懐から拳銃を抜き侵入者を捕らえる為にブリッジから走る。

 

「チッ!! やってくれるな」

 

ラクスは護衛を付けて自室に向かう。

けたたましく鳴り響く警報音。

その中でも彼女はいつもの様に余裕を持って居た。

 

「ラクス様はお部屋にてお待ち下さい。ここは自分が何としても」

 

「お心遣い、ありがとうございます。ですが私は大丈夫です。ご自分の仕事に戻って下さい」

 

「しかし!!」

 

「バルトフェルドさんにはわたくしから言って置きます。心配はご無用ですわ」

 

悩むダゴスタだが、ラクスに直接言われたのでは拒否出来ない。

心残りはあるが、彼女の指示に従う事にする。

 

「わかりました。ですが何があっても部屋の扉は開けないで下さい。侵入者は必ず自分達が捕まえます」

 

「頼もしい限りです」

 

言うとラクスはダゴスタに背を向けて部屋に入ってしまう。

閉じられる扉、それそ確認してからダゴスタも侵入者の追跡に出た。

けれどもその様子を影で覗く人物が1人。

 

「警護が引いたか。作戦を遂行する」

 

それを見たヒイロは銃を構えてラクスの部屋に足音を消して走った。

周囲を警戒しつつ、壁のパネルを操作してロックを解除する。

自動開閉を機能させず、右手に銃を握ったまま残る左手で重たい扉をゆっくり音を立てずに開けた。

中へ足を踏み入れるヒイロ。

息を殺しながら進む先に彼女は居た。

ラクスは警戒心の欠片もなく、背を向けてソファーに座っている。

こちらに振り向く素振りもない。

ヒイロは握る銃をラクスの後頭部に突き付ける。

 

「動くな」

 

聞こえて来たのはヒイロの声ではない。

鋭く視線を向けた先には、黒く光る銃口が見える。

 

「アスラン・ザラか」

 

「銃を下ろすんだ。キミを撃ちたくはない」

 

こめかみに突き付けられる銃口にヒイロは構えを解き握る銃を床に落とす。

重たい鉄の音が鳴る。

それを聞いて、ラクスはソファーから立ち上がりヒイロに振り向いた。

 

「お久しぶりです、ヒイロ・ユイ。オーブの海岸で出会って以来ですね」

 

「ラクス・クライン」

 

「はい、そうでございます」

 

「何故こんな無意味な事をする? ロゴスはもう保たない。地球連合の組織の枠組みもいずれ失くなる。お前のして居る事は無意味だ」

 

ホールドアップされて居るにも関わらず威圧的に話すヒイロ。

それでもラクスは笑みを浮かべて話を続けた。

 

「えぇ、わたくしもわかっています。ですがデュランダル議長のデスティニープランをこのまま見過ごすわけには参りません」

 

「デスティニープラン?」

 

「アレは人の自由を奪う物です。たとえ今の世界から戦争が失くなろうとも、人々の未来を奪うなどと言う行為を許す訳にはいきません。ですから、わたくしは今ここに居ます」

 

「だがお前達が戦う事で戦争での犠牲は増えていく」

 

「とても悲しい事です」

 

「わかった……」

 

そう言うとヒイロは静かに目を閉じた。

アスランは持って居る手錠をヒイロの手首に掛けようとするが、ラクスがそれを静止する。

 

「待ってくださいアスラン。彼を自由にしてあげてはくれませんか?」

 

「ラクス!? でもヒイロはキミを殺しに来たんだぞ?」

 

「彼は心の優しい方です。お願いします」

 

そう言われてアスランは手錠を外した。

ラクスの計らいで、ヒイロは捕まる事もなくエターナルに居る事になる。




エターナルに侵入したヒイロ。
戦いはこれからどうなるのか? ウイングゼロはどうなるのか?
次回をお待ち下さい。


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第29話 変革へと繋がる終焉

月表面の防衛網を突破したザフト。

取り付くミネルバはダイダロス基地のレクイエム破壊を向かう。

だがロゴスの戦力は未だに健在だ。

基地からは複数のモビルスーツが発進し、更には巨大モビルアーマーのデストロイも投入して来る。

かつてシンを苦しめた機体。

それが1機どころか2機、3機、まだ出て来る。

歩くだけで地響きを鳴らす巨体が6機も現れた。

モニターで視認するタリアはシートの肘掛けを強く握り締め、鋭い視点を敵へ向ける。

 

「アーサー、これより本艦はダイダロス基地に攻め込みます。そのことを司令部にも通達して頂戴」

 

「えぇ~っ!? 無理ですよ、ミネルバだけであの防衛網を突破出来る訳が――」

 

「いいから!! 中継ポイントの制圧が予定より遅れてる。このままあれを撃たれたら部隊は全滅するかもしれない。補給が完了したモビルスーツから順次発進!!」

 

「はっはい!」

 

タリアの気迫に押されて言う通りにするアーサー。

ミネルバはダイダロス基地に向けてスピードを上げる。

待機室では補給に戻ったパイロット達がわずかな休息を得ていた。

けれどもそこに、戻って来ない人物が1人。

 

「ヒイロが居ない? どう言う事?」

 

「俺にだってわからない。機体の信号をキャッチして合流した時にはもうコクピットには居なかった」

 

「戦死したって言うの?」

 

「いいや、デスティニーのバッテリも推進剤もまだ充分に残ってた。アイツの技術があれば逃げる事くらいは出来る筈だ」

 

「そっか……ねぇ、レイは何か聞かされてないの?」

 

チューブに入った水を飲むレイは視線をルナマリアに向ける。

休憩もないまま連戦をし、流石のレイの表情にも疲れが見えた。

 

「俺は何も知らない。そもそもアイツは他人に言う性格ではない。生きてるのだとしたら、独自に行動してる筈だ」

 

「勝手な奴、言ってくれれば手伝うくらい……」

 

「俺達の本命はロード・ジブリールの抹殺だ。それの障害になると考えたのかもしれない」

 

元は5人だったパイロットも今や3人にまで減ってしまった。

脱走したアスラン、行方不明のヒイロ。

だが寂しさを感じてる暇などなく、メイリンの声が放送で響く。

 

『パイロットは搭乗機にて待機して下さい。繰り返します、パイロットは搭乗機にて待機して下さい。ミネルバはこれより、ダイダロス基地への攻撃を開始します』

 

「シン、ルナマリア、行くぞ。奴は必ず仕留めなくてはならん」

 

「あぁ、この戦争を終わらせる」

 

「えぇ、必ず」

 

「敵の戦略兵器が厄介だ。まずはアレを沈める必要がある。3人で戦略兵器を目指す。1人でも取り付けば、後は基地の制圧に掛かる。そうすれば味方も合流しやすくなる」

 

「わかった」

 

「なら、アタシはブラストで出る」

 

目的を共有した3人は互いに視線を交え、一呼吸した後にモビルスーツデッキへと向かった。

集中力を高める為、通路に出てから口を開けるモノは居ない。

各自、自分の機体へ搭乗し速やかに発進態勢に入る。

シンのデスティニーも脚部をカタパルトへ固定させ、開放されたハッチから出撃した。

 

「シン・アスカ。デスティニー、行きます!!」

 

ミネルバから出撃する3機のモビルスーツ。

行く手を阻むのは、複数用意されたデストロイ。

メインスラスターから青白い炎を噴射しながら接近する3人は、目の前に展開する敵部隊に舌を巻く。

 

「敵もなりふり構わずやって来るな」

 

「デストロイの攻撃力は確かに驚異的だ。だが、あんなモノを基地周辺で使えばどうなるか……シン、ルナマリア、デストロイを相手にする必要はない。兎も角、今は戦略兵器を沈めるんだ」

 

ダイダロス基地へ乗り込む為、3機はメインスラスターを全開にする。

当然デストロイは一斉にビーム砲撃を繰り出す。

1発直撃するだけで艦艇を沈められるだけの威力があるビーム

それを前にしながらも3人は機体を加速させるのを止めない。

デスティニーとレジェンドにはビームシールドが備わっており、デストロイのビームであろうとも防ぎきる事が出来る。

インパルスは2機を壁にしながら前へと進む。

 

「ビームスパイクで隙を作る」

 

レジェンドの背部プラットフォームに装備された2基の大型ドラグーン。

スラスター制御で進むドラグーンは銃口に鋭いビーム刃を発生させて、縦横無尽に飛んで来るビームの中を掻い潜る。

デストロイの懐に潜り込んだビームスパイクはスラスターで加速し、関節部である膝に突撃した。

右脚部に穴の開くデストロイ。

その巨大なボディーと重量は片足で支えられるモノではなく、地響きを鳴らしてデストロイは陥没する。

 

「もう少しでシェルターに!!」

 

///

 

ミネルバの医務室。

真っ白なシーツが敷かれたベッドで眠るステラは、激しい振動に目を覚ました。

 

「ぅん……シン?」

 

ベッドから体を起こす彼女だが、そこにシンの姿はない。

見えるのは椅子に座る軍医だけ。

 

「目が覚めたのかい?」

 

「だれ……?」

 

「キミの治療を担当してる主治医だよ。本当なら、こんな戦艦にキミを置いておくべきではないのだろうが」

 

「シン……シン……どこ?」

 

「彼なら出撃して居る。心配しなくても彼なら――」

 

再び激しく揺れるミネルバ。

軍医は机で体を支え、ステラもベッドにしがみつく。

数秒後には揺れは収まり、ステラはベッドから立ち上がった。

ふと視線を向けた先には設置されたモニターがあり、それにはかつて自分が乗って居たデストロイが映って居る。

 

(あの機体……私……私だけじゃない。スティング?)

 

かつての仲間、今は解体されたファントムペインのモビルスーツパイロット、スティング・オークレー。

彼もステラと同じくエクステンデッドであり、強引に体を調整してデストロイに乗せる事は可能だ。

その可能性が頭に浮かんだステラは居ても立っても居られず、薄い病衣のまま医務室から走り出す。

 

「うううゥゥゥ!!」

 

「ステラ!? ここから出てはダメだ!! ステラ!!」

 

軍医の声は届かず、ステラは扉を開けて出て行ってしまう。

戦闘中の艦内の通路にはクルーの1人も居らず、彼女を止められる人間は居ない。

寝たきりの体にも関わらずその動きは俊敏で、ロゴスにより強化された体は素早く彼女を走らせる。

 

(そと、宇宙に……待ってて、スティング)

 

通路を走り抜ける彼女が向かう先はモビルスーツデッキ。

ミネルバの細かな構造は把握出来てないが、今までの任務の経験から大まかな位置はわかる。

数分も全力疾走で走り続ければ、目的の場所は見付けられた。

パイロットスーツに着替える事もなくモビルスーツデッキに入り込むステラ。

中には当然整備兵も居るが、今1番重要なのは使える機体があるかどうか。

素早く視線を左右させ周囲を見渡すステラは、まだ出撃してない1機のモビルスーツを見付けた。

 

「あれ……」

 

「うん? あの娘は……」

 

整備兵の1人であるヨウランは目立つ彼女の姿を見付けた。

慌ただしいモビルスーツデッキで自分の仕事以外には見向きもしないモノが殆ど。

ヨウランはステラの元へ近づこうとするも、それより早くに彼女は機体のすぐ傍のリフトに乗ってしまう。

 

「お、オイ!! 何やってんだ!!」

 

「じゃましないで!! スティングが居るの!!」

 

「その機体はキミが乗れるようなモノじゃない!! 兎も角、戻って来るんだ!!」

 

ステラはヨウランの言葉にも耳を貸さない。

コクピットハッチまで上昇するリフト。

開放されたままのコクピットに乗り込む彼女はシートベルトを装備してハッチを閉じる。

両手で操縦桿を握り、エンジンを起動させた。

 

「マズイ!? 親方、ウイングゼロが!!」

 

ツインアイとサーチアイが眩しく輝く。

動き出したウイングゼロはそのままエレベーターへと歩いて行く。

 

「なんだろ? 変な……感覚」

 

エレベーターで上昇するウイングゼロ。

登り切った先でハッチは開放されて居た。

報告を受けたブリッジでは、タリアの判断によりウイングゼロを外に出すことを選択する。

 

「良いのですか、艦長?」

 

「良いも悪いもない、こうするしかないでしょ!! この重要な時に!!」

 

怒りをあらわにするタリアは肘掛けを思い切り叩き付けた。

 

「ですがこのままだと撃破されるかもしれませんよ!!」

 

「中で暴れられるよりはマシだと考えなさい!! トリスタンで敵モビルスーツ部隊を迎撃、タンホイザーのチャージを急がせて!!」

 

ステラはウイングゼロに乗って戦場へと飛び出した。

背部の大型バーニアが展開しウイングゼロはする。

だが、既存の機体を遥かに超える加速性能はパイロットを容赦なくGの負荷に掛けた。

シートベルトが少女の柔肌に食い込む。

 

「ぐぅぅぅっ!? 凄い……加速……」

 

加速する限りは絶え間なく続くGの負荷。

筋肉が、骨が軋む。

集中力が切れれば意識が飛びそうになるほど。

それでもステラはスピードを落とそうとはしない。

最大加速のまま、シン達が戦う前線へと足を踏み入れる。

 

「スティング……どこ?」

 

デストロイはまだ5機存在して居る。

その中でスティングが搭乗して居る機体を見つける事など普通では出来ない。

ステラはわずかな可能性を信じて、一心不乱に外部音声で呼び掛けた。

 

「スティング……スティングゥゥゥ!!」

 

戦場で彼女の呼び掛けを聞くモノなど居ない。

前方からはウィンダムの3機編成がウイングゼロの迎撃に当たった。

 

「敵、邪魔!!」

 

右肩からビームサーベルを引き抜くウイングゼロは、そのまま腕を振り下ろし袈裟斬り。

高出力のビームは眼前のウィンダムの装甲を容易に斬り裂いた。

機体は爆発し炎に包まれる。

それでもトリコロールの装甲にダメージはない。

ウイングゼロの戦闘力を目の当たりにし、ビームライフルの銃口を向ける2機のウィンダムは距離を離しながらトリガーを引く。

 

「このくらい!!」

 

メインスラスターから青白い炎を噴射してビームを避ける。

そして逃げようとするウィンダムにステラは再び詰め寄り、ビームサーベルの切っ先をコクピットに突き立てた。

敵はシールドで防ごうとするが、アンチビームコーティングすら施されてないシールドでウイングゼロの攻撃を防ぐ事は出来ない。

シールドをバターのように一瞬で溶かし貫く切っ先は、パイロットの居るコクピットに突き刺さった。

 

「あと1機……」

 

ビームサーベルを引き抜くと、力を失くしたウィンダムは月の重力に引かれて落ちて行く。

左手に握るツインバスターライフルを残る1機に向けるステラ。

照準を合わせ、操縦桿を握る指に力を込める。

 

「っ!? なに……」

 

瞬間、視界がボヤける。

トリガーを引く事を躊躇してしまい、その間にビームの直撃がウイングゼロを襲う。

 

「ぐぅっ!! あんな奴に!!」

 

激しく揺れるコクピット。

ステラは歯を食いしばりながら、ツインバスターライフルを最大出力で発射した。

高出力のビームは一瞬の内にウィンダムを飲み込み、そしてネジ1本としてこの世に残さない。

だが、最大出力のビームはこの程度で止まる事はなく、突き進んだ先で月面に直撃した。

全てを包み込む巨大な炎、割れる大地。

 

「なに? 何なの、コレ? 私が……う゛ぅっ!?」

 

こみ上げる吐き気に思わず前屈みになってしまう。

震える体、焦点の定まらない視界。

システムが見せる幻影に彼女の精神が拒絶する。

 

「嫌ぁ……嫌、いや、イヤァァァ!! 助けて、ネオ!! ネオ!! 1人はイヤァァァ!!」

 

コクピットの中で涙を流しながら叫ぶステラ。

両手で頭を抱え、戦うのも忘れて体を振り回し暴れ回る。

次第に体を保持する為のシートベルトが肌を削り血が滲む。

それでもコクピットに居る限り、システムから逃れる事は出来ない。

割れるような頭痛が彼女を苦しめる。

 

「来るなァァァッ!! 私に触るな!! もう嫌、痛いのはイヤァァァ!! ネオ、助けて……助けてよぉ」

 

忌まわしい過去、恨むべき過去は、自身ですら手の届かぬ心の奥底に封印されて、今のステラは存在する。

それが今、システムにより無慈悲にこじ開けられた。

到底耐え切れるモノではなく意識を手放してしまいそうになるが、パイロットを勝利へ導く事だけを目的としたゼロシステムはそれを許さない。

命ある限りパイロットは最後まで戦わせる。

けれども精神が耐え切れない反動は体に現れた。

早くなる鼓動、血の流れ。

鼻からは血が溢れだし、眼球も赤く滲む。

 

(痛いのも……苦しいのも……助けて、ネオ……たすけ……て……)

 

耐え切れなくなった精神は遂に、生命維持を停止しようとした。

ゆっくりとまぶたを閉じた先に見えるのは、素顔も知らない仮面の男の姿。

 

(大丈夫、キミを守る)

 

(ほんとうに?)

 

(本当さ、約束する)

 

(ありが……とう……シン……シン? 私はこの人の事を知ってる。覚えてる。約束……約束した!! また、一緒に星を見るって。だから……)

 

閉じられたまぶたが再び開かれる。

視界には血と涙の粒が所々に浮かんでるが、彼女は気にもせず操縦桿に手を伸ばす。

覚醒した意識はステラに力を与える。

 

「こんな所で……死ねない!! シンとの約束は守る!!」

 

大型バーニアを展開させるステラは機体を加速させ前へと進む。

 

///

 

ダイダロス基地へ取り付いた3機は各自の判断に任せて3方向に別れる。

ルナマリアのブラストインパルスも向けられる砲撃を掻い潜りながら、作戦目標であるレクイエムを目指す。

侵攻を阻止すべく駆け付ける敵モビルスーツ部隊。

 

「ウジャウジャと。時間もないのにエネルギーも節約しないといけない、コッチの身にもなりなさいよ!!」

 

バックパックに装備されたケルベロスと一体になる4連装ミサイルランチャー。

そして肩部にある2門のレールガンを前面に展開し残弾を気にせず一斉射撃。

実弾兵器の使用ではエネルギーの消耗はない。

ミサイルの直撃により爆発の炎が視界一杯に広がる。

眼前の敵部隊を薙ぎ払い、2人よりも先にレクイエムに取り付く事に成功した。

目前と迫まるレクイエムのシェルター、だが基地地下から新たにもう1機のデストロイがルナマリアの前に立ち塞がる。

 

「うそ!? 寄りにもよって!!」

 

両腕を前方に突き出すデストロイはインパルスに集中してビームを一斉射撃する。

無数のビームを前に全てを避ける事など出来ず、シールドを構えて機体を守るが、そのせいで前に進む事が出来ない。

 

「こんな所で、止まれないの!!」

 

陽電子リフレクターにビームは効果がない事はルナマリアも知って居る。

ブラストのケルベロスを使用してもデストロイを退ける事は出来ないし、接近しようにも圧倒的な火力でインパスルを寄せ付けない。

それでもルナマリアはビームジャベリンを引き抜き、メインスラスターを全開にして強引に突っ込む。

 

「こんのぉぉぉォォ!!」

 

絶え間なく発射されるビームを防ぎきるが、シールドはすぐに限界が来た。

砕け散るアンチビームコーティング性のシールド。

 

「しまった!? クッ!!」

 

防ぐ手段の失くなったインパルスに、デストロイは更に追い打ちを掛ける。

発射される大口径のビームは機体の左脚部を飲み込む。

辛うじて大破は免れたが、インパルスの動きは止まってしまう。

 

「絶体絶命ね。ゴメン、メイリン……」

目の前にそびえ立つデストロイへの恐怖でルナマリアは動く事が出来ない。

瞳に涙を浮かべ、体がすくんでしまう。

次の瞬間にはインパルスを確実に破壊するビームが発射される。

 

「ルナマリア、だめぇぇぇ!!」

 

「え……」

 

デストロイから発射されたビームの先に、インパルスの姿はない。

動けないルナマリアを助けたのは、どこからか駆け付けたウイングゼロ。

だが、その機体に乗って居るのはヒイロではない。

 

「その声……ステラなの!?」

 

「大丈夫、生きてる?」

 

「え……えぇ。でも、どうしてこんな所に?」

 

「スティングを助ける。だから、ルナマリアもこんな所で諦めないで。シンが悲しむ」

 

「そうしたいけど機体が……」

 

インパルスは脚部が破壊されたのと同時にメインスラスターにも障害が起こった。

本来の出力が出ないせいで逃げる事も出来ない。

 

「なら、私が何とかする。離れないで」

 

右マニピュレーターでインパルスの腕を掴むとウイングゼロは加速した。

ツインバスターライフルを構えて一気に接近するステラ。

2機居るにも関わらず物ともしない加速性能。

ビームの雨を掻い潜り懐に入り込むステラはツインバスターライフルの銃口を突き付けた。

 

「これなら!!」

 

けれどもステラはトリガーを引かない。

動きの止まったウイングゼロにデストロイは当然ビームを放つが、寸前の所でスラスターを吹かし回避する。

 

「なに? どうしたの、ステラ?」

 

「スティング……アレに乗ってるのはスティングだ!!」

 

「どうしてわかるの?」

 

「この機体のお陰」

 

「ウイングゼロの……」

 

「スティング、ステラだよ!! 返事して、スティング!!」

 

ステラは攻撃を仕掛けて来るデストロイに懸命に呼び掛けた。

声は届いて居るが、目の前の敵が攻撃を止める事はない。

 

「こんなの無謀過ぎる。ステラ!!」

 

「やってみないとわからない!! シンは私を助けて来れた。だったら、私にだって出来る!! スティング、攻撃を止めて!! 私の声を聞いて、スティング!!」

 

何度目かの呼び掛け。

ずっと続いて居たビームの雨がピタリと止んだ。

デストロイは力を失くしたかのように頭を垂れる。

 

「うそ!? 止まったの?」

 

「やっぱり、アレに乗ってるのはスティングなんだ!! スティング、聞こえる? ステラだよ!!」

 

喜びに満面の笑みを浮かべ、再び呼び掛けるステラ。

その声にデストロイのパイロットであるスティング・オークレーは応えた。

 

「ス……テラ……」

 

「スティング!! 良かった、無事で。待ってて、すぐに助けるから」

 

「無事じゃ……ねぇよ。へへ、酷い顔してるぞ。お前」

 

モニターに映る彼女の顔は溢れでた鼻血により、肌どころか病衣、果ては髪の毛までも汚れて居た。

それよりも、今のステラはファントムペインに所属して居た頃と比べて明確に違う部分がある。

明確な自分の意思。

ステラの瞳には強い意思が戻って居る。

体は成長して居るのに幼子のようだった彼女の姿はもうない。

インパルスを引き連れてデストロイに接近するウイングゼロ。

もう少しでコクピット部に着こうとした所で、レクイエムが発射されるシェルターが開放された。

 

「シェルター、またアレが撃たれる!? ステラ、止めて!! アレが撃たれたら」

 

「わかった!!」

 

インパルスを手放すウイングゼロは背部大型バーニアを展開してレクイエム直上に移動しようとした。

しかし、突如としてバーニアの出力が低下してしまい、目前の所で機体は動かなくなってしまう。

握る操縦桿を激しく上下に動かすが、どれだけやってもバーニアに反応はない。

 

「どうなってるの、推進剤が切れた!? なんで整備してないの!!」

 

「ビーム砲は? それだけの威力があれば撃ち抜けるでしょ」

 

「それはダメ。微調整のやり方がわからない。このまま撃ったら月ごと破壊しちゃう」

 

「そんな!? 兎に角、そこから離脱して。そんなに近い所だとエネルギーの余波で機体が危ない」

 

「完全に推進剤が失くなってAMBACしか出来ない。間に合わないよ!!」

 

ウイングゼロはジタバタと足掻くだけで前にも後ろにも進む事が出来ない。

ルナマリアのインパルスも自由に動く事が出来ず、レクイエム発射は刻一刻と迫る。

ここで動いたのはスティングのデストロイ。

 

「ちょっとアンタ、どうする気!?」

 

「ステラの奴も助けて、レクイエムの発射も阻止する。それだけだ」

 

「モビルアーマーみたいな巨体で間に合うって言うの?」

 

「間に合わせる!!」

 

地響きを鳴らしながら歩行するデストロイはレクイエム発射口へと向かう。

ボディーと同じく巨大な腕を伸ばしながら、宇宙を漂うステラに呼び掛けた。

 

「掴む事くらいなら出来るな?」

 

「うん、それぐらいなら」

 

巨大なマニピュレーターにしがみつき一命を取り留めるステラだが、スティングは進む方向を変えなかった。

 

「スティング、なにを!?」

 

「お前はこのままインパルスの母艦に回収されろ。俺はコイツを止める」

 

「あんなの……無理だよ!! いくらデストロイでも耐え切れない!!」

 

「黙って見てろ!!」

 

ウイングゼロを掴んだ腕は本体から切り離されて、スラスター制御でインパルスの元へと向かって行く。

その間にパイロットの乗るデストロイはレクイエム発射口に飛び込んだ。

 

「スティング!! 待って、スティング!!」

 

(グゥッ!? 意識が……)

 

ステラの声を聞いて一時的に解けたマインドコントロールが元に戻ろうとスティングを苦しめる。

最後の意識を振り絞りコンソールパネルに指を伸ばし、全武装をオートで発射させた。

月の引力に引かれ落ちて行く先はレクイエムの砲身内部。

 

(また1人にさせちまう。悪ぃ、ステラ……)

 

スティングが最後に見た景色は、視界一杯に広がる眩い光。

 

///

 

ダイダロス基地の司令部では、突如反乱を起こした1機のデストロイに慌てふためく。

エネルギーチャージが完了し、発射スイッチも押してしまった今、もうレクイエムを止める事はジブリールでも出来ない。

 

「どう言う事だ!! 何故、駒である筈の奴らが邪魔をする!!」

 

「ジブリール様、このままでは!? 急いで脱出を!!」

 

「間に合うモノか!! このままデストロイごと薙ぎ払うしかない!! それが出来なければ――」

 

基地全体が大きく揺れる。

エネルギーチャージの完了したレクイエムが同時に発射された。

膨大なエネルギーは巨大なデストロイをも簡単に飲み込むが、放たれる攻撃に内部部品が破壊されてしまう。

動力パイプも分断され、行き場を失ったエネルギーは基地そのモノを破壊して行く。

分厚い鉄板で作られた通路も潰され、爆発の炎が舞い上がる。

激しい振動がいつまでも続き、基地全体が地下に雪崩れ込んで行く。

司令部も例外ではなく、逃げる事の出来ないジブリールは深い闇の中へ飲み込まれた。

 

「デュランダル!! 私は、貴様をォォォ――」

 

至る所から上がる炎の手。

司令部とレクイエムの陥落、ロゴスの防衛部隊も戦線を維持出来ず、撤退するモノも現れる。

ロード・ジブリールがこの世から消えた事で、ロゴスの最後のメンバーも居なくなった。

ザフトと地球連合軍、ロゴスとの戦いも集結を迎える事となる。

けれどもこの戦争で流れた血は多く、ステラの悲しみは戦場を駆け巡った。

 

「スティング……スティング……スティング、スティングスティング……うぅっ、あ゛あ゛ああァァァ!!」




両主人公の出番が少なくてすみません。
次回からエターナルでのヒイロの動きを書きたいと思います。
あと、富野監督がファンネルを使わなくなった理由がわかる気がしました。
あの武器は強いですが、戦闘シーンを演出しようと思うと途端につまらなくなる感じがします。
だからレジェンドの描写はかなり駆け足気味です。
ストーリーも残りわずか、アークエンジェル戦を残すのみ。

ご意見、ご感想をお待ちしております。


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第30話 デスティニープラン

戦いは終わった。

ロゴスの首謀であるロード・ジブリールは死に、地球連合軍が戦う理由は失くなり、同時にザフトが戦う理由も失くなる。

ジブリールがこの世から居なくなった事を確認したデュランダルは、メサイアの司令部のシートの上で安堵の息を零す。

 

「終わったか……そして始まりでもある」

 

鋭い視線を向けるデュランダルは力強くシートから立ち上がり、司令部から歩いて行く。

全世界にこの事を伝える為、カメラも設置されて居る広報室へ向かう。

扉を開けた先では既に準備が整って居る。

 

「議長、お疲れ様です。いつでも出来るように準備は出来ております」

 

「ご苦労。なら早速始めよう。この瞬間から、また新たな世界が生まれる」

 

用意されたカメラの前に立つデュランダル。

息を止め、まぶたを閉じて集中する。

そして数秒、ゆっくりと開かれる瞳と世界に向けて発せられる言葉。

メサイアからデュランダルの言葉はプラント、地球圏と、全世界へ伝えられる。

 

「皆さん、私はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです。私は今、ここで宣言させて頂きます。ロゴスとの戦いは終焉を迎えたと。ロード・ジブリールは我々の手により抹殺されました。しかし、この戦争により失われた命は戻って来ません。何故、このような事になったのか。何故、もっと早くに戦争は終わらなかったのか。その感情は、私も皆さんと同じです。つい2年前にも戦争は起きました。その時に私達は誓った筈です。もう目の前で人が殺されるのも、戦うのも見たくはないと。こんな事はもう2度と繰り返さないと。しかし、テロリストによりユニウスセブンは地球に落とされようとした。それを切っ掛けに地球連合とプラントは、再び戦争状態となりました。我々は戦争を停止しようと努力しましたが、それも目の前の利益を前には虚しく過ぎ去られ、同じ過ち、同じ苦しみを繰り返す事になってしまいました」

 

///

 

この声明をラクス・クラインはエターナルのブリッジで聞いて居る。

すぐ傍にはバルトフェルド、ダゴスタ、そしてヒイロが居た。

 

『愚かな悲劇の繰り返し……その一旦は先にも言いましたようにロゴスの存在です。敵を作る事で戦いを引き起こし、人が大勢死ぬ事も厭わず、それを食い物にして来たロゴス。ですが、ロゴスはもうこの世に存在しません。だからこそ私は申し上げたい。私達は今度こそ、もう1つの最大の敵と戦って行かなければならない。それに打ち勝ち、開放されなければならないのです』

 

「ロゴスのロード・ジブリールが撃たれたと言うのは本当でしょうか?」

 

「あぁ、こっちでもついさっき確認した。戦略兵器レクイエムの崩落、それに巻き込まれるようにして死んだらしい。ダイダロス基地にはもう連合軍の戦力もない。残るのはザフトだけだ」

 

「そうですか。これで、わたくし達の目的の1つは達成したと言えるでしょう。ですが……」

 

「この次が問題なんだ。議長がこの宣言で何を示すのか。それに掛かってる」

 

ブリッジの巨大スクリーンに映し出されるデュランダルの姿を4人は固唾を呑んで見守るしか出来ない。

ヒイロも同様に、鋭い視線をスクリーンに向けるだけだ。

 

『有史以来、人類の歴史から戦いが失くならない理由。常に存在する最大の敵。それはいつになっても克服出来ない、私達自身の無知と欲望だと言う事を。人類が宇宙に進出して幾年が経過しても尚、人は人を信用出来て居ない。幸福を求める手は際限なく伸ばされ、燃えないゴミを増やしていく。それが今の人類です。争いの種、問題は全てそこにある』

 

「人間の欲……本能とも言えるモノ……」

 

「だが、それがなければ文明が進む事もなかった。表裏一体の存在だ。一体、何をするつもりなんだ?」

 

「わたくし達はまだ、戦う事を止められない……」

 

ラクスにはデュランダルが言おうとして居る事が予測出来た。

しかしそれは、まだ戦う事を止めてはならないと言う事でもある。

 

『だが、それももう終わりにする時が来ました。終わらせ方を私達はもう知って居る。全ての答えは、皆が自身の心に持って居る。それにより、人を知り、自分を知り、明日を知る。これこそが繰り返される悲劇を止める唯一の方法です。私は人類最後の存続を掛けた防衛策として、デスティニープランの実行を今ここに宣言します!!』

 

「デスティニープラン……人々の運命を変える計画……」

 

ラクスはシートの肘掛けを強く握り締めた。

デュランダルの掲げるデスティニープラン、それは遺伝子操作により人々を統治、管理する計画。

コーディネーター技術も発達し、デュランダルの唱える計画を実行に移せる段階にまで来た。

デスティニープランを実行する事で、遺伝子から『戦う』と言う情報を取り除く。

そうして人類を管理する事で世界から戦いや争い、戦争を失くす。

 

「このプラン、要するに全人類をコーディネーター化させるって事か? 本気なのか、デュランダル議長は?」

 

「彼は本気です。そしてその為ならばどんな犠牲を払ってでも厭わぬ覚悟があります。わたくし達人類は、なまじ知性があるせいで、文明を広げすぎたのかもしれません。国、人種、性別、そして……ナチュラルとコーディネーター。2年前も、そしてこの戦いも、普通の戦争ではありませんでした。ヒイロさん」

 

視線を変えるラクスはブリッジの壁へ背中を預けているヒイロに声を掛ける。

自身を殺そうとした相手にも関わらず、向けるその評定はいつものように可憐で優雅。

 

「アナタならわかる筈です。この戦いが普通の戦争とはどう違うのかが」

 

鋭い目付きでラクスを見るヒイロ。

バルトフェルドとダゴスタはザフト兵でもあり、エターナルに侵入して来たヒイロを心良くは思ってない。

いつ、またラクスが狙われるのではないかと、常に警戒し様子を監視して居る。

ピリピリとした緊張、そしてそのまま数秒が経過して、ヒイロはようやく口を開け問い掛けに応えた。

 

「戦争とは言え人間が引き起こしたモノだ。そこには主義や主張がある。問題はその主張にある。ナチュラルもコーディネーターも、互いに唱える主張は同じだ。ナチュラルの抹殺、コーディネーターの抹殺。そこが決定的な違いだ」

 

「はい、そうです。どちらかが戦えなくなれば戦争は終結します。そしてどちらかの主張が通る事となる。ですが2年前の戦争は違います。連合とザフト、どちらかが戦えなくなったとしても戦いは終わりません。ナチュラルを、或いはコーディネーターがこの世から1人足りとも居なくなるまで戦いは終わらない。これはもはや、戦争と呼べるモノではありません」

 

「だからデスティニープランを考えた。デュランダルが目指す未来、奴はコーディネーターである事を選んだ。違いがあるから格差も生まれる。全てを統一し、更に統治する。確かにデュランダルの計画通りに進めば、今のような戦争はなくなる」

 

「そうかもしれません。ですが、わたくしは戦争根絶などと大層な主張をするつもりはありません。国と国、人と人、衝突が起こる事は必ずあります。ただそれを、元の鞘に戻したいだけなのです」

 

「その為にどうするつもりだ? ザフトと戦うか?」

 

「いいえ、出来る事なら話し合いで解決したいです」

 

「奴がお前の言葉を聞くとは思えん。話し合う段階はもう終わってる」

 

「ですが、可能性が0と言う訳ではありません。試す価値はあると思います。ダゴスタさん、機動要塞メサイアに通信を」

 

言われたダゴスタはパネルを素早く叩きメサイアに通信を繋げる。

スクリーンに表示される映像。

通信が繋がって暫くすると、そこにはデュランダルの顔が映し出された。

 

「デュランダル議長、はじめまして。わたくしはシーゲル・クラインの娘、ラクス・クラインです」

 

モニター越しに自己紹介をするラクス。

それを見るデュランダルの表情は笑みを浮かべて居た。

 

「自己紹介などして頂かなくても、アナタの事なら承知してます。ラクス嬢」

 

「デュランダル議長、先程の放送……デスティニープランは、本気で実行されるつもりですか?」

 

「えぇ、本気です。その為の宣言です」

 

「わたくしはデスティニープランの実行を容認する事は出来ません。それは人々の自由を奪う事です。全人類をコーディネーター化など」

 

「ですがそこまでしなくては人類は戦いを止める事など出来ない。2年前、そして目の前で繰り広げられた戦いを見て、アナタにも理解出来ると思ったのですが」

 

「だから人々の自由を奪うのですか?」

 

「何も奴隷にする訳ではありません。本人の意思はあります。世界から軍を失くし、兵士を失くす。そして戦争のない世界へと管理する。ニュートロンジャマーが打ち込まれたのも、血のバレンタインが起きたのも、ユニウスセブンが地球へ落とされようとしたのも、レクイエムなどの戦略兵器が作り出されたのも、全て人類の過ちだ!! もはや人類はこのような過ちを繰り返してはいけない。その為のデスティニープランだ!! そこまでしなくてはならない段階へと来て居る!!」

 

「人の業……アナタが全て背負うつもりですか?」

 

「そうです。この計画が成功すれば人類はより良き未来へ導かれます」

 

「ならわたくしは、最後まで抗ってみせます。コーディネーターとしてではありません。人としての感情を持った、1人の人間として」

 

「キラ・ヤマトと交友のあるアナタなら、わかって頂けると思ったのですが。わかりました、では」

 

スクリーンに映るデュランダルの顔が消える。

シートに体を預けるラクスは口から大きく息を吐き、体の力を抜いた。

 

「戦いはまだ続くのですね」

 

「ラクス、どうするつもりだ? キラもアスランも出撃して居る。こちらから仕掛けるには無理があるぞ」

 

「ザフトも消耗して居ます。ここは1度帰艦して貰い、改めてどう動くのかを考えます。なるべく早く。2人はどこに?」

 

「ザフトの新型と交戦中だ」

 

チラリとスクリーンに表示される座標を覗くヒイロ。

そのに映るのはデスティニーとストライクフリーダムの信号。

 

(ゼロで未来を見たシンなら、ここから先も戦える筈だ。あとは俺がどう動くか)

 

戦況は刻々と変化する。

エターナルに潜入してから状況を見守って居ただけのヒイロだが、いよいよ動き出す気配を見せた。

ブリッジを後にしようと出入り口に向かうが、ダゴスタは銃を抜くとヒイロの後頭部に照準を定める。

 

「待て、どこへ行くつもりだ? 貴様はラクス様の恩恵を受けて居るから、牢屋にも入れずに自由にした。だが、これ以上の勝手は許す訳にはいかない」

 

「俺を殺したいなら撃てば良い。ただし、少しは抵抗するがな」

 

振り向くヒイロと銃を突き付けるダゴスタ。

視線が交わる2人からは殺気すら漂う。

でもそれも一瞬の事で、シートから立ち上がるラクスがダゴスタを静止する。

 

「お止めなさい。ダゴスタさんも銃を降ろして下さい」

 

「ですがラクス様!?」

 

「彼は心の優しい方です。どうかここは、わたくしを信じて下さい」

 

「コイツが?」

 

もう1度ヒイロを見るダゴスタだが、モビルスーツを奪ってまで侵入して来た相手を信用出来る筈もない。

それでもラクスの言葉に反する事も出来ず、渋々構えた銃を降ろした。

ダゴスタから戦闘の意思が失くなったのを確認したヒイロはラクスに言葉を掛ける。

 

「何故、俺をそこまで信用する?」

 

「オーブの海岸で初めてお会いした時に感じました。アナタの瞳は悲しさを知って居ます。悲しさを知るからこそ、人に優しくする事も出来る方だと」

 

「人の事を信用し過ぎだ」

 

「そうでしょうか? わたくしはそう思ったのですが?」

 

「まぁ良い、借りは返す。俺なりのやり方でな」

 

そう言ってヒイロはブリッジから出て行ってしまう。

ラクスが向ける表情は最後まで慈愛に満ちて居た。

 

///

 

アロンダイトを構えるデスティニーは、その大きな剣を振り下ろした。

黒く分厚い装甲は引き裂かれ、目の前のデストロイは動きを止める。

トドメにコクピットへパルマフィオキーナを打ち込み、ロゴスが用意した最後のデストロイが沈んで行く。

 

「これでもう、ロゴスに戦う戦力はない。なら、あと残るのは!!」

 

レーダーに反応する機影。

因縁の相手であるストライクフリーダム。

ペダルを踏み込み、メインスラスターから青白い炎を噴射して機体を加速させる。

 

「フリーダム!! 今こそお前を落とす!!」

 

「あの機体は!?」

 

フリーダムは握るビームライフルで牽制射撃をするが、デスティニーは光の翼も展開させ更に加速する。

その動きに警戒するキラは距離を取りながら、2丁のビームライフルを連結させ頭部を狙う。

素早く発射されるビーム。

だがデスティニーは回避行動を取らず、一直線に突き進んだ。

 

「はぁァァァッ!!」

 

アロンダイトがビームを弾く。

突き進むデスティニーはアロンダイトを大きく振り下ろした。

 

「っ!?」

 

連結ビームライフルが切断され、マニピュレーターから素早く投げ捨てた。

サイドスカートからビームサーベルを両手に掴み、キラは相手に呼び掛ける。

 

「どうして!? もうこれ以上戦う理由なんて」

 

「お前にはなくても、俺にはある!! 家族の仇だ!!」

 

「仇? 僕が……キミの?」

 

「そうだ!! だが、それ以上に!!」

 

アロンダイトで袈裟斬りするデスティニーに、フリーダムはビームサーベルで振り払う。

交わるビーム刃。

激しい閃光は両者を照らし、アロンダイトは一方的に両断される。

 

「行ける!!」

 

「クッ!! ドラグーンを」

 

突き出されるマニピュレーター。

反応するキラはメインスラスターを吹かして後退しフリーダムの背部から6基のドラグーンが射出する。

次の瞬間にはデスティニーのマニピュレーターが光る。

だがフリーダムは既にそこには居らず、デスティニーの動きを封じる為にドラグーンが周囲を飛び回り、メインカメラや四脚を狙い撃つ。

四方から発射されるビーム。

けれどのデスティニーはその全てを避けた。

 

「アンタはもう、これからの未来には必要ない!! ヤキンのフリーダムはここで倒す!!」

 

意識を集中するシン。

視界がクリアになり、反射速度が飛躍的に上昇する。

腰部のビームライフルを掴み、縦横無尽に飛び回るドラグーンの1基を捉えた。

引かれるトリガー。

発射されたビームはドラグーンを撃ち抜く。

 

(今の俺なら出来る!! 次!!)

 

ビームはまた1基、ドラグーンを落とした。

卓越した技術と集中力でシンは全てのドラグーンを撃ち落とす。

それを見たキラも意識を切り替え、デスティニーを自身と対等に渡り合えるだけの実力者だと認識した。

クリアになる視界は正面にデスティニーを捉える。

腹部のカリドゥス砲を瞬時に発射された。

シンもウェポンラックから大型ビームランチャーを展開し高出力のビームを撃つ。

赤黒いビームがぶつかり合い閃光が走る。

光の先から出て来るのは、フラッシュエッジを振り下ろすデスティニー。

 

「遅い!!」

 

「僕はまだ、負ける訳にはいかないんだ!!」

 

振られるフラッシュエッジ。

フリーダムは武器を握るその腕を左手で掴み上げ、右手に握るビームサーベルで攻撃しようとする。

だが、この状況になってもまだ、キラは相手を殺さないように戦って居た。

全力を出したシンと比べ、その考えの差にわずかばかりの隙が生まれる。

デスティニーのもう片方の腕からマニピュレーターが突き出された。

パルマフィオキーナの輝きがフリーダムのコクピットを狙う。

 

(これが僕の弱さなのか? この機体のパイロットは……強い!!)

 

(もう逃さない!! 終わりだ!!)

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

宇宙に轟く叫び。

突然に事にシンは一瞬、気をそらしてしまう。

キラはペダルを踏み込み後退、同時に2機の間へビームブーメランが高速で突撃して来た。

距離を離す2機。

その場に合流して来たのはアスランのジャスティス。

 

「止めるんだ、シン!! ロゴスが消滅した今、俺達が戦う意味はない」

 

「どういうつもりだ? まだ俺の事を味方とでも思ってるのか!!」

 

我慢出来なくなったシンはフラッシュエッジを構えてジャスティスに突っ込む。

アスランは反撃しようとはせず、実体シールドからビームシールドを発生させてコレを受け止めた。

 

「止せシン!!」

 

「うるさい!! どうして裏切った!!」

 

「確かに何も言わずに軍を抜けたのは悪いと思って居る。けれど議長の言葉を信用する事は出来ない。デスティニープランもこのまま実行させる訳にはいかないんだ」

 

「そんな事で!! じゃあ今、自分のしている事は正しいのかよ!!」

「どうしても戦うつもりか? なら!!」

 

シンを相手にアスランも全力を出す。

クリアになる視界、握るビームライフルのトリガーを連続して引いた。

光の翼を展開して回避するデスティニーだが、逃げた先にはフリーダムが先回りして居る。

 

「くっ!?」

 

レール砲が撃たれる。

瞬時に反応するシンは左腕の実体シールドで弾を防ぐが、目の前には連結ビームサーベルを振るジャスティスの姿。

息の合った連続攻撃。

振るわれる連結ビームサーベルの斬撃も実体シールドで防ぎ閃光が走る。

防がれたのを見たアスランは更にビームサーベルを振った。

尚も防ぐシン、両者を照らす閃光は激しさを増す。

 

「俺は負けない!! フリーダムにも、アンタにもだ!!」

 

「シン、お前は!!」

 

グリフォンビームブレ―ドを発生させて、ジャスティスは脚部でデスティニーを蹴る。

ビームの刃は白い装甲を容易く斬り裂き、両脚部の膝から先を切断した。

 

「ぐああァァァッ!! でも、まだだ!! デスティニーは!!」

 

両足を失っても尚、シンは戦いを諦めては居ない。

腰部からビームライフルを引き抜き銃口をジャスティスに向けるが、フリーダムがそれを許さず、レール砲により破壊されてしまう。

 

「負けられないのは俺も同じだ」

 

最後にはビームライフルにより頭部を撃ち抜かれてしまう。

武器も失い、動く事も出来ず、前を見る事すら出来ない。

戦う力を奪われるデスティニーは月の重力に引かれて落ちようとして居る。

それでもシンは操縦桿を握る手の力を弱めはしない。

 

「まだ終われない!! こんな所で終わる訳にはいかないんだ!!」

 

落下して行くデスティニー、だがそこに新たな機影が現れる。

発射される無数のビームに回避行動を取るフリーダムとジャスティス。

 

「エターナルから帰還命令が出て居る。キラ、撤退だ」

 

「わかった。フリーダムも修理しないと」

 

青白い炎を吹かしこの領域から撤退して行く2機。

デスティニーの救援に現れたのはレイが搭乗するレジェンド。

2機が離れて行くのを確認するレイは、機能不全に陥ったデスティニーの腕を掴み、ミネルバへ帰艦する為戦闘領域から離脱する。

 

「離せレイ、俺はまだ!!」

「その機体ではもう戦えない。まさか、ここで死ぬつもりか?」

 

「それは……」

 

「わかれば良い。ミネルバに帰艦する」

 

シンとレイのモビルスーツを収容したミネルバはダイダロス基地から離脱し、メサイアの本部隊と合流する。

ザフトはこの戦いで宣言通りロゴスのジブリールを撃つ事が出来た。

それにより連合軍の統率が崩れ、存続に危機にすら立たされる。

だがザフトの戦力も疲弊しており、更にはレクイエムの一撃により破壊されてしまったプラント首都アプリリウスの損害状況を把握せねばならず、現状ではもう満足に戦う事は出来ないで居た。

フリーダムのジャスティスを退けるだけの準備も整っておらず、両者はにらみ合いを続ける。




ヒイロが動くと感想で返事を返しましたが、もう少しお待ち下さい。
破壊されてしまったデスティニー、シンにはもう戦う力は残されてないのか?
もう少しで完結です。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第31話 運命の衝撃

ミネルバに帰艦したシンは、パイロットスーツも着たままに、モビルスーツデッキにワイヤーとアンカーで吊るされたデスティニーを見上げて居る。

武器は予備があるが、破壊された両足と頭部はどうにも出来ない。

シンの為に用意された最新鋭機。

消耗部品なら兎も角、ここまで大規模な修理は予定されておらず、アークエンジェルとフリーダムとの決戦を前に悠長にして居る時間もない。

何人かの整備兵が機体を動かないように固定した所で作業は止まってしまう。

 

「俺の機体……俺のデスティニー……」

 

呆然と呟くシン。

アスランに呆気なくやられてしまった自分が悔しかった。

でも機体がない今、シンにはなにもする事が出来ない。

シンがミネルバで待機している間も月での戦闘は続いて居る。

ザフト本体と合流したミネルバはアルザッヘル基地へ立てこもるアークエンジェルとの戦闘を開始した。

補給を済ました他のモビルスーツは戦線に復帰し、フリーダムとジャスティスを討ち取らんと出撃する。

だが、ロゴスとの戦いに消耗して居るザフトに、フリーダムとジャスティスを退ける程の充分な戦力はなかった。

それでもデュランダルの理想を実現する為に、ザフト兵は戦場へ趣き戦わなくてはならない。

レイとルナマリアも機体の補給が完了し戦線に復帰する。

 

「レイ・ザ・バレル。レジェンド発進する」

 

「ルナマリア・ホーク。コアスプレンダー、出るわよ」

 

コアスプレンダーは出撃するとフォースインパルスにドッキングし、レジェンドと共にアークエンジェルに攻め入る。

 

 

「奴らも戦力を整えたか。データに登録されてない機体もある。ルナマリア、他は無視しろ。狙いはフリーダムだけだ!!」

 

ルナマリアに指示を出し、一目散にフリーダムの居る戦闘領域までメインスラスターを吹かす。

加速するレジェンドはビームの雨を潜り抜け、正面にフリーダムを捉えるとドラグーンを全基射出した。

 

「この感覚……来る!!」

 

デスティニーとの戦闘でわずかばかりに損傷したフリーダムだが、レイの視界に映る白い機体はロールアウトしたばかりのように輝いて居た。

感覚で敵意を捉えるキラは、背部のドラグーンを全基射出し高機動形態に入る。

フリーダムの背中から光の翼が発生し、機体の機動性を飛躍的に上昇させた。

常人を超える反応速度で、キラはレジェンドのドラグーンのビームを掻い潜る。

援護しようとビームライフルの銃口を向けるルナマリアだが、そのスピードに圧倒されてしまう。

 

「早い!? デスティニーと同じなの?」

 

高機動形態になったフリーダムのスピードは今までと比べ一段と速くなって居る。

インパルスのビームを簡単に回避するフリーダム。

そして両手に握るビームライフルを連結し、インパルスに照準を定めトリガーを引いた。

 

「悪いけど」

 

ルナマリアは反応する事が出来ず、機体の右腕を破壊されてしまう。

激しく揺れるコクピットで歯を食いしばりながらも、コンソールパネルに手を伸ばした。

 

「っく!! メイリン、チェストフライヤー、フォースシルエット!!」

 

破壊された上半身を放棄し、フォースシルエットのメインスラスターを全開にしてフリーダムに放つ。

 

「同じ手で!!」

 

キラはこのやり方を以前にも見て居る。

パイロットが居ないチェストフライヤーに、躊躇なくカリドゥス砲を撃ち込んだ。

赤黒いビームは灰色の装甲を貫き、爆発の炎が上がる。

その間にも、インパルスは新たなチェストフライヤーとドッキングし、ビームライフルを右手に握った。

レイはルナマリアと合流し、2人掛かりでフリーダムを落としに行く。

 

「1人では無理だ、俺が奴を牽制する。ドラグーンで動かしながら、インパルスで攻撃を仕掛ける。俺は背後から奴を狙う。3段構えだ」

 

「了解!!」

 

「フリーダム、これ以上はやらせない!!」

 

レイとルナマリアはコンビネーションを取りフリーダムに戦いを挑む。

///

 

戦況はザフトに不利だった。

フリーダムの動きはミネルバ隊が押さえて居るが、それ以外の戦力は残るザフトの戦力で相手をしなければならない。

疲労する兵士、消耗する機体。

この状況で、ミーティアとドッキングしたジャスティスを相手にするのは非情に厳しい。

更には増産されたドムトルーパーと、オレンジ色のガイアに搭乗するバルトフェルドも現れ、数の上では圧倒してるザフト軍であるが、それ以外に勝算がなかった。

 

「バルトフェルド隊長、ミーティアで先制攻撃します。ガイアとドムはその後に続いて下さい」

 

「了解だ、頼んだぞ」

 

意識を集中するアスラン。

コクピットの球体型立体表示パネルが展開し、ミーティアとジャスティスの全武装が正面に展開するザフト軍を狙う。

次々と敵機がロックされ、構えると同時に全弾発射された。

無数に交差する弾道。

発射されたビームとミサイルの狙いは正確で、出撃した機体の四脚を撃ち抜き戦闘能力を削いだ。

 

「これなら、もう戦わなくても良い筈だ」

 

「良くやった、アスラン。全軍、メサイアに攻め込むぞ!!」

 

待機して居たバルトフェルドとドムトルーパー部隊も動き始める。

損傷した機体では立ち向かう事など出来ず、背を向けて後退して行く機体が多く居た。

それでも立ち向かう機体も居るが、性能で勝る相手に勝つ事は容易ではない。

更にはミーティアとジャスティスの攻撃力も加わり、ザフトの戦線は後退する一方。

メサイアの司令部で状況を見るデュランダルは、シートから立ち上がり声を上げた。

 

「ミネルバをメサイアに呼び戻せ。このままでは無駄に戦力を消耗してしまう。その間に1度、体勢を立て直すんだ」

 

戦況を見かねたデュランダルが命令を下し、全部隊に指示が回される。

アークエンジェルとフリーダムの相手をするミネルバにも指示はすぐに伝わり、メイリンは指令文をタリアに報告した。

 

「艦長、メサイアから入電です。前線部隊が苦戦、エターナルの侵攻を阻止せよ」

 

「こちらも手一杯だと言うのに。わかりました、ミネルバは現領域を離脱します。モビルスーツをを帰艦させて」

 

ミネルバも消耗して居る為これ以上の戦闘は厳しいが、命令に従わない訳にもいかない。

撤退信号を出し、出撃したレジェンドとインパルスを呼び戻す。

モビルスーツデッキでは、動きのなかったデスティニーの修理作業がようやく動き出した。

整備兵総出で壊れた機体の修復に当たる。

その様子を見守るシンは、同僚であるヴィーノを捕まえた。

 

「直るのか? 俺のデスティニー?」

 

「あぁ、ちょっと違うけどな。まぁ期待して待ってろ。そんなに時間は掛からない」

「おい、何をやってる!!」

 

「悪い、呼ばれてるから。じゃぁな~」

 

シンと話しをて居るとマッドに怒鳴られたヴィーノは走って行ってしまう。

 

///

 

撤退するレジェンドとインパルス、そしてミネルバ。

それを見るキラも状況が変わったのを理解した。

 

「引いて行く。アスランが上手くやったのか?」

 

『キラ君、ザフトの前線が後退してる。エターナルと合流してミーティアで追い込みを掛けて』

 

「わかりました。先行します」

 

通信でマリューに告げたキラはペダルを踏み込み、エターナルと合流すべく機体を加速させた。

一方で、エターナルは機動要塞メサイアに着々と侵攻して居る。

ブリッジで指揮を取るラクスは、未だに何をするでもなく状況を見て居るだけのヒイロを気に掛けた。

 

「ヒイロさん。アナタは動かないのですか?」

 

「俺はこの戦いの成り行きを見るだけだ」

 

「この戦いが終われば、世界は確実に変革への1歩を踏み出します。アナタはそれで宜しいので?」

 

「俺には関係ない。どんな世界だろうと、自分を信じて戦うだけだ」

 

「その考え……やはりアナタはお強い方ですね」

 

2人の会話を遮るように、エターナルに通信が繋がる。

送信者は、もうすぐそこまで近づいて来たフリーダムに搭乗するキラ。

レーダーにも機体の反応が映る。

 

『こちらキラ・ヤマトからエターナルへ』

 

「キラ、ザフトのミネルバは?」

 

『まだ動きは止められてない。でも、なんとかする。ミーティアの準備を』

 

「わかりました。ミーティア、リフトオフ」

 

エターナル機首のガントリーに固定されたミーティアが開放され、接近するフリーダムは素早く正面に回りこみドッキングした。

後方から迫るミネルバの迎撃に当たるべく、大型バーニアに火を入れる。

巨大な質量を持つミーティアが徐々に加速するが、そこに前線で戦ってる筈のアスランが合流し通信が入った。

 

「アスラン?」

 

「ミネルバは俺がやる。キラはザフト本体を」

 

「でも……」

 

「気にするな。これは俺自身が決着を付けなくちゃならないんだ。行くぞ!!」

 

そう言うと、アスランはミネルバへ、キラはメサイアのあるザフト本体へ向かう。

ミーティアで加速するアスランは正面にミネルバを捉え、そのカタパルトからは2機のモビルスーツが出撃して来た。

 

「あの機体は……ルナマリアとレイか!!」

 

ザフトに所属して居た過去を清算すべく、アスランの戦いが始まろうとして居た。

 

///

 

「戦闘が始まってるか? ヴィーノ、まだ終らないのか?」

 

急ピッチで進んで居るデスティニーの修理も大詰めの所まで差し掛かって居た。

破壊された頭部も両足も復元し、残す所はあとわずか。

それでも本来の規格とは違う部品を多用して居るせいで、どのような不具合が出るかわからない。

 

「今終わった!! でも急場しのぎで作っただけだからな。無茶はするなよ!!」

 

「わかった!!」

 

修理が完了した機体のコクピットに入り込むシン。

シートベルトを装着し、コンソールパネルを叩きハッチを閉鎖させる。

両手で操縦桿を握り、カタパルトへ脚部を固定させた。

モニターには通信士のメイリンが映る。

 

『進路クリアー、発進どうぞ』

 

開放されるミネルバのハッチ。

発進体勢に入るシンの新たな機体。

外に見える景色には無数の光が飛び交って居た。

 

「シン・アスカ、行きます!!」

 

ミネルバの前方では、ルナマリアのインパルスがビームライフルをジャスティスに目掛けてトリガーを引く。

ミーティアとドッキングして居るジャスティスは、それでも卓越した操縦技術で攻撃を避け続ける。

 

「アスラン!! ねぇ、どうして!!」

 

「止めるんだルナマリア!! キミだっていつか議長に」

 

説得を試みるアスランだが、意見が食い違う両者が歩み寄る事はない。

そんな2人の間に入るようにレジェンドが割り込んで来る。

 

「ルナマリア、ヤツの戯言に付き合うな!!」

 

「レイか!!」

「裏切り者が!!」

 

「くっ!」

「ルナマリア、援護しろ!!」

 

レジェンドのドラグーンを射出しインパルスからジャスティスを遠ざける。

銃口から発射される無数のビームを前に全てを回避する事は出来ず、ビームシールドを展開し攻撃を受け切った。

レジェンドはドラグーンとビームライフルを使い再びジャスティスに攻める。

だが心に区切りを付ける事の出来ていないルナマリアのインパルスの動きが戸惑っており、満足に援護が出来ないで居た。

レジェンドと攻防を繰り広げながらもその事に気付いたアスランは、数を減らす為にインパルスに狙いを集中する。

ビームシールドでドラグーンから発射されるビームを弾き返す。

そして素早くウエポンアームを握り、ミーティアの左アームから巨大なビームソードを発生させた。

ルナマリアは回避行動に移るが、振り下ろされるビームソードはインパルスの左腕を切断する。

 

「くっ!! シールドが!?」

 

「アスラン、これ以上はやらせん!!」

 

尚も攻めるレジェンドだが、ミーティアに装備された対艦ミサイルが無数に発射される。

ビームシールドを展開しこれを防ぐが、足止めを食らってしまう。

その隙を見逃さず、アスランはレジェンドを無視してインパルスを落とそうと、再びビームソードを展開した。

 

「これで終わりだ、ルナマリア」

 

「くっ!? まだ!!」

 

ビームライフルを向けるが、大型バーニアにより機動力と運動性能はミーティアを見た目以上に機敏に動かす。

発射されるビームの光は宇宙の闇に消え、ジャスティスはルナマリアの眼前に現れる。

圧倒的な性能差、技量の違いに冷たい汗を流すルナマリア。

大きく振り上げられたビームソードを前に動く事も出来ない。

 

(ここまでなの? こんな所で……)

 

「ルナァァァ!!」

 

振り下ろされたビームソードがインパルスに装甲に触れる事はなかった。

ミーティアの左アームは途中で切断され、デブリとして宙を漂う。

ルナマリアを助け、アスランの攻撃を止めたのは、この場に現れた新たな機体。

白い装甲、背面から広がる青い翼。

その両手には巨大な対艦刀、エクスカリバーを握って居る。

 

「シン……なの?」

 

「あぁ、なんとか間に合った。下がっててくれ。コイツは俺が倒す!!」

 

損傷するミーティアの前に現れた機体。

アスランはその姿を見てパイロットがシンなのだと確信する。

 

「デスティニー、いや、インパルスか? どちらにしても乗って居るのはシンだな」

 

「そうだ!! 今度こそ決着を付ける!! このデスティニーインパルスで!!」

 

戦場に再び舞い戻ったシン。

新たに蘇った機体はデスティニーの力を受け持つインパルス。

レイはシンの乗ったデスティニーインパルスを見ると、ドラグーンを収納しマニピュレーターを肩に触れさせる。

 

「シン、ここは任せる。俺はフリーダムを追う」

 

「1人で行けるのか?」

 

「当然だ。お前はジャスティスを」

 

「わかった」

 

そう言うレイはアスランとの戦いをシンに任せてフリーダムの元に向かい加速する。

損傷するインパルスの前に出てルナマリアを守るシンは、エクスカリバーの切っ先をアスランに向けた。

 

「アスラン、俺はアンタを許しはしない!!」

 

「シン、俺はウイングゼロで未来を見た。議長が言うデスティニープランが実行されれば、世界は議長にゆだねられる事になる。俺は……議長のデスティニープランを実行させる訳にはいかない!!」

 

「だとしたら、やっぱりアンタは間違ってる!!」

 

「聞け、シン!! デスティニープランによって人類は遺伝子で振り分けられる。そして人間を制御し、未来を決める。たしかに人間を制御出来れば戦いは起こらないだろう。でもそれは――」

 

突然発射されるビーム。

口を閉じ、ビームシールドを構えるジャスティスは、難なくコレを受け止める。

攻撃して来たのは、目の前に居るシンのデスティニーインパルス。

 

「さっきも言った筈だ。アンタのやり方は間違ってる!! ウイングゼロに乗って未来を見ただって? だとしたらアンタは、そんなつまらない事の為に俺達を裏切ったのか? 機械に戦う理由を求めるだなんて、そんな事は間違ってる!!」

 

「シン!!」

 

「アンタが言ってる事が正しいと言うのなら、俺に勝ってみせろっ!!」

 

両手に握るエクスカリバーを連結させ、デスティニーインパルスは光の翼を広げた。

 

///

 

ロゴスとの戦いで消耗した戦力でメサイアに迫り来るアークエンジェルとエターナルを押さえるザフト。

だが、当初に危惧した通り、量産機ではアークエンジェルの最新鋭のモビルスーツを食い止める事が出来ず、戦力は次々と減るばかりだ。

 

「エターナルとフリーダムはまだ沈められんのか!!」

 

「部隊の損傷率、50パーセント切りました」

 

「消耗した戦力ではアークエンジェルを止められんか」

 

メサイアの司令部でデュランダルは現実を目の当たりにしてモニターを睨み付けるしか出来ない。。

そんな彼の隣に1人の少女が恐る恐る近づき声を掛けた。

 

「デュランダル議長……」

 

「ラクスか? ここも危険になるかもしれない。いつでも逃げられるようにしておくんだ」

 

「そうかもしれません。でも、議長は? ここで死ぬなんて事ありませんよね?」

 

言い終えると司令部が激しく揺れた。

咄嗟にシートの背もたれへ手を伸ばし体を支えるラクス。

数秒にも及ぶ激しい揺れが収まると、通信兵が損害状況を声高く報告した。

 

「フリーダムです!! 陽電子リフレクターが破壊されました!!」

 

「押し返す事も出来ず、防御もままならんか。仕方ない、非戦闘員は脱出の準備をしてくれ」

 

その言葉を聞きメサイアの司令部に居るクルーが振り返り驚きの表情を浮かべる。

デュランダルの表情は笑って居た。

 

「ラクス、キミも良くやってくれた。早くここから脱出するんだ」

 

「ですが……」

 

「ここもあまり長くは保たない。私もすぐに追い付く」

 

「でしたら議長、最後に1つだけよろしいですか?」

 

彼女の瞳は強さに満ちあふれて居る。

偽りのラクス・クラインとしてではなく、ミーア・キャンベルとしてデュランダルに申し出る。

 

「聞こう。言ってみてくれ」

 

「今のこの戦闘を世界に流してはくれませんか?」

 

「わかった」

 

シートから立ち上がるデュランダルは歩を進め、通信士の所にまで来るとパネルを操作して各プラントと地球圏に、今行われて居る戦闘映像を流す。

ミーアはそれを確認し、再びデュランダルの隣まで行くとマイクを手に取った。

ザフトとアークエンジェル隊が戦闘を行う様子は、リアルタイムで全世界に配信される。

テレビやラジオなどの通信機器、街の巨大スクリーンにも映し出され、人々はその光景に目を奪われた。

そこに映るのはジャスティスと戦うデスティニーインパルスの姿。

エクスカリバーを振り上げるデスティニーインパルスは、ジャスティスの猛攻を潜り抜けてミーティアにその切っ先を突き立てた。

 

「どう言う事だ? ロゴスは滅んだのに、どうしてまだ戦ってるんだ?」

 

「戦争はもう終わったんじゃないの?」

 

「ザフトはどうしてまだ戦うんだ? デスティニープランがあれば、もう戦争なんて……」

 

『この放送をご覧になっている皆さん。私達はロゴスが居なくなっても尚、戦闘をしています』

 

映像と同時に聞こえて来るのはラクスの声。

民衆は増々、目の前の映像と声に引き込まれる。

 

『ロゴスとの戦闘により多くの死者が出ました。しかし、今行われている戦いに勝利しても、ザフトにもプラントにも見返りはありません』

 

「ラクス・クライン……」

 

「どう言う事なの……」

 

『ですがこの戦いは必然です。これが集結しない限り、世界に平和は訪れません。見えますか、この悲惨な戦いが。見えますか、この戦いの向こうにある平和が。そして、世界が平和になろうと、戦う意思は無くさないで下さい。平和は自分達で掴み取るものです。例え同じ過ちを繰り返そうとも、その意思さえあれば、再び世界に平和は訪れるはずです。ですから、わたくしの言葉を聞いて居る皆様は、最後まで諦めず戦って下さい。武器を手に取る事だけが戦いではない筈です。それが、この戦争により失くなった人々が真に願った未来だと、わたくしは信じます』

 

演説がが終わるとミーアは握ったマイクをコンソールパネルの上に置いた。

そして、周囲からは割れんばかりの拍手が鳴り響く。

司令室に居るクルー全員が立ち上がり、今の演説をしたミーアの為に拍手をして居た。

デュランダルも手を叩きながら、ミーアに優しく声を掛ける。

 

「すばらしい演説だったよ」

 

「いえ、本物のラクス様ならこうすると思っただけです。議長、今までありがとうございました。私はもう1度、ミーア・キャンベルとして生きようと思います」

 

「そうか、無理に引き止めはしない。今までご苦労だった」

 

2人はそれ以上は何も言わず、ミーアは司令部のクルーと共にメサイアから脱出する。

この日を最後にミーアは表舞台から姿を消した。

デュランダルはただ1人、崩壊が進むメサイアに残り続けた。

///

エターナルのブリッジに居るだけだったヒイロがいよいよ動き出す。

ダゴスタの居る所にまで進むと威圧するように鋭い目付きで睨む。

 

「おい、ここのモビルスーツを貸せ」

 

今は補給中のヒルダのドムが1機あるだけ。

それでも、素性の分からないヒイロにモビルスーツを渡す訳にはいかない。

 

「お前のような奴に? 無理に決まって居る!!」

 

「そうか……」

 

交渉する訳でもなく、ヒイロは素直に引くとブリッジから出て行こうとする。

ラクスの隣を通り過ぎる時、彼女はシートから立ち上がり手を伸ばし、ヒイロの肩に手を触れた。

 

「ヒイロさん、何処へ行くつもりですか?」

 

「この艦に置いてくれた事の感謝はする。俺なりのやり方でな」

 

手を振り払うヒイロはそう言い残しブリッジを後にする。

その時、誰にも気付かれない所でタイマーが作動した。

ラクスの部屋に置かれたテディベアから無機質な機械音が響く。

通路を進み、モビルスーツデッキへ向かう。

エターナルに搭載された機体はヒルダのドムを覗いて全て出撃して居た。

緑色のザフトのパイロットスーツを着ているヒイロの姿は、他のクルーから見れば良く目立つ。

補給の為に帰艦して居たドムの前に近づこうとすると、当然誰かに呼び止められた。

 

「オイ、そこのお前!!」

 

歩みを止め振り返った先に居るのは、このドムのパイロットであるヒルダの姿。

銃を引き抜くとヒイロの額にその銃口を突き付けた。

 

「あの時の侵入者だな。どうしてココに居る?」

 

「ラクス・クラインに許可は貰った」

 

「そんな事は聞いてない!! どうして――」

 

艦内部から爆発音が響く。

思わず意識を反らしてしまうヒルダ。

その瞬間に銃を奪い取り、固いブリップ部分でこめかみを殴り付けた。

 

「ぐぁぁっ!!」

 

「悪く思うな。殺しはしない」

 

「クッ!! 待て!!」

 

肌の痛みと脳へのダメージで視界は一時的にぼやけ、ヒルダはすぐに動けない。

機体足元に設置されたリフトにまで来るヒイロはパネルを操作し、コクピット部分にまで上昇しハッチを開放させる。

 

「行けるな」

 

素早くドムのコクピットに乗り込んだヒイロはハッチを閉鎖し、コンソールパネルを叩くとOSを起動させる。

整備は既に完了しており、バッテリーも推進剤も満タンだ。

操縦桿を両手に握り、艦内部でドムは強引に動き始める。

 

「何だ!?」

 

「誰が操縦してるんだ? ヒルダ隊長ではないのか?」

 

「ブリッジに連絡だ!! 出撃してるバルトフェルド隊長にも」

 

カタパルトにまで移動したドムは、閉鎖されたままの外部ハッチに、装備したビームバズーカの銃口を向ける。

躊躇なくトリガーは引かれ、発射されたビームはハッチを簡単に破壊した。

ペダルを踏み込み、メインスラスターから青白い炎を噴射して、ドムはエターナルから発進する。

 

「ミネルバは後方か。メサイアが落ちる……」

 

エターナルから離れて行くドム。

内部から爆発の起こったエターナルの状況を確認すべく、ガイアに搭乗するバルトフェルドが戦線から戻って来た。

外から艦の様子を見るが、そこまでダメージはない。

 

「こちらバルトフェルド。ダゴスタ、何があった?」

 

『内部から爆発が。恐らくアイツです』

 

「爆発の場所は特定出来たか?」

 

『はい、ラクス様の個室です。クソ!! いつの間に仕掛けたんだ』

 

(アイツ、何が借りは返すだ。恩を仇で返しやがって!!)

 

苦虫を噛み潰した表情をするバルトフェルドは、すぐに逃げ出したドムを追い掛けようとするが、既に追い付ける距離ではなかった。

爆発と捕虜の逃走により混乱するエターナルだが、逃げ出したヒイロから通信が飛んで来る。

ブリッジのモニターに、コクピットに座るヒイロの顔が映し出された。

 

「ヒイロさん、やはりアナタだったのですね」

 

「ラクス・クライン。例え戦争が無くなろうとも、人は戦う事を止めない。偽物のラクス・クラインがさっき言った通りだ」

 

「アイツ!! 何が借りは返すだ!!」

 

モニターに映るヒイロの顔を見て、ダゴスタはさらに激怒する。

そんな状況でもラクスは冷静に、モニター越しにヒイロに語り掛けた。

 

「アナタはこれからどうしていくのですか?」

 

「世界が変わろうと、俺は自分の意思で戦い続ける」

 

「ヒイロさん、私には何が正しいのかは分かりません。ですが私達はまだ引く訳には参りません」

 

「了解した」

 

その言葉を最後に通信は途切れ、エターナルから脱出したヒイロは激戦の真っ只中をバーニアを全開にして駆け抜ける。

そんな中でもコンソールパネルに手を伸ばすと、次はミネルバに通信を繋げた。

戦闘画面に映るのは、通信士であるメイリン。

 

「ミネルバ、こちらヒイロ・ユイ」

 

『ヒイロ!? 良かった、無事で……』

 

通信が繋がるとメイリンが驚いた様子で出た。

生死が不明のヒイロが生きて居た事で目に涙を浮かべるメイリンだが、ヒイロはそんな事は意に介さない。

 

「ゼロが必要になった。これより帰艦する」

 

『ちょっと待って。艦長に代わります』

 

映像が停止し、数秒後にタリアへ切り替わった。

 

『ヒイロ、無事で良かったわ。現在、フリーダムがメサイアに取り付いてます。本艦はそれの迎撃に当たります。帰艦したらすぐに出撃して」

 

「了解した。通信終了」

 

コンソールパネルに指を伸ばす。

ミネルバに帰艦したヒイロはウイングゼロに搭乗して出撃する。




恒例のMSV機体の登場です。
デスティニーインパルスで再び戦いを挑むシンはアスランに勝てるのか?
ご意見、ご感想お待ちしております。


これが終わったらロボットモノではない奴を書きたい。


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第32話 シンとアスラン

ミーティアとドッキングするフリーダムはメサイアを陥落させるべく先行するが、それを阻止せんとレジェンドは立ち塞がる。

搭載するドラグーンを全基射出し、無数のビームを発射する事でフリーダムの動きを制限させた。

 

「キラ・ヤマト!! 今度こそ終わらせる、全てを!!」

 

「ミーティアの機動力なら!!」

 

大型バーニアの推進力を駆使して迫り来るビームを全て振り切る。

キラはレジェンドの戦い方を見て、2年前に戦ったラウ・ル・クルーゼの面影を重ねた。

 

「この戦い方……アナタは!?」

 

高い機動性とビームシールドでドラグーンのビームを防いで行く。

視界をクリアにして反応速度を高める。

 

「これはどう言う事なんだ? ラウ・ル・クルーゼは倒した筈なのに?」

 

2年前の大戦で死んだ筈のクルーゼが生きて居る、でもクルーゼとも違う。

戦いながら感じ取るキラはその事に混乱する。

 

「キミは誰だ……誰なんだ?」

 

「キサマには分かるはずだ。俺はラウ・ル・クルーゼだ!!」

 

「ラウ・ル・クルーゼ……ぐぅっ!!」

 

レジェンドのビームスパイクがミーティアの大型バーニアを貫く。

もう使えないと判断したキラはドッキングを素早く解除。

次の瞬間にはドラグーンから発射される無数のビームがミーティアの装甲をズタズタに破壊して行った。

炎に包まれるミーティアを眺めるキラ。

そして数秒後には巨大な爆発に包まれてしまう。

強力な武装を失くしたキラだが、単独でレジェンドと対峙する。

 

「フリーダムはまだ戦える。僕はもう1度、アナタを倒す!!」

 

「キラ・ヤマト、人類が生み出したすばらしき結果。だがその存在を俺は許しはしない!」

 

レイは展開するドラグーンをフリーダムの周囲に展開させる。

それを見るキラも、背部のドラグーンを全基射出させた。

縦横無尽に飛び回るドラグーンは互いに相手のドラグーンを狙いビームを発射する。

スラスター制御で機敏に動き攻撃、そして回避行動。

だが、如何にフリーダムの性能が優れて居ても、ドラグーンの武器としての性能だけを見ればレジェンドに軍配が上がる。

フリーダムのドラグーンは1基に1門のビーム砲しか備わって居ない。

対してレジェンドはドラグーン自体の数も、1基に備わる門数も多かった。

そしてドラグーンの使い方もレイの方が慣れて居る。

無数に飛び交うビームの中で、フリーダムのドラグーンは1基、2基と、着実に落とされて行く。

 

「ドラグーンの使い方は俺の方が上らしいな」

 

「でも!!」

 

両手に握るビームライフルを左右に展開しトリガーを引く。

正確無比に発射されるビームは更にその先を読んでおり、レジェンドのドラグーンを撃ち抜いた。

常人を超える反射神経で機体を動かし、回避と同時に反転し両手のトリガーを引く。

展開するドラグーンを一瞬の内に4基も破壊するキラ。

優位に立てたと思えば一転、キラは簡単にその逆境を跳ね除け、レイはその能力の高さに激昂した。

 

「俺もお前もこの世界には必要ない!!」

 

「それは違う!!」

 

レジェンドが展開した2門のビームスパイクは残り4基のフリーダムのドラグーンを蹴散らす。

そしてスラスターを全開にして、フリーダムの眼前へと迫る。

 

「ラウ・ル・クルーゼは、もう居ない!!」

 

キラは左腕のビームシールドを展開し防御してなぎ払うと同時に、ビームスパイクを斬り裂いた。

ペダルを踏み込むと背部から光の翼を展開、高機動形態に入るフリーダム。

レジェンドが展開する4基のドラグーンを撃ち落とした。

 

「だからその命はキミだ。彼じゃない!」

 

「そうだ!! そしてその俺が決めたんだ。ラウになると!!」

 

レジェンドはビームサーベルを引き抜きフリーダムに振りかぶった。

だが、高機動形態に入ったフリーダムに追い付く事は出来ず、切っ先は空を斬る。

隙を見せるレイ。

素早く2丁のビームライフルを連結させるキラはレジェンドの右脚部を撃ち抜く。

 

「ぐああァァァッ!! だが、まだだ!!」

 

「どうして!? ん、これは……」

 

咄嗟に回避行動に移る。

瞬間、目の前を大出力のビームが通り過ぎて行った。

 

「何だ!?」

 

キラが見るその先、そこに居たのはバスターライフルを構えならが接近して来るウイングゼロの姿。

 

「ここで沈めェェェ!!」

 

「ッ!?」

 

メインスラスターを全開にして、青白い炎を噴射する。

加速するレジェンドは、一瞬の気を許したフリーダムに接近し右手のビームサーベルを振り上げた。

それでも反応するキラは連結を解除したビームライフルで、振り上げられた右腕を撃つ。

至近距離で発生する爆発。

攻撃は失敗に終わるが、レジェンドの動きは止まらない。

加速したまま、強引にフリーダムへ組み付いた。

 

「撃てヒイロ!! 俺ごとフリーダムを撃つんだ!!」

 

「アナタは!? 自分も死ぬつもりですか!! そんなの――」

 

「そうだ!! もう俺達のような存在は世界に必要ない!! 撃て、ヒイロ!!」

 

フリーダムはレジェンドに取り付かれて身動きが出来ない。

この状況では腹部のカリドゥス砲を撃ちレジェンドを破壊するしか脱出手段がないが、それではパイロットも殺してしまう。

そのせいでまた、キラは撃てないで居た。

 

「それがお前の導き出した答えか。……了解した」

 

ヒイロは組み付く2機に、ツインバスターライフルの銃口を向けた。。

///

「キラ?」

 

アスランはシンの乗ったデスティニーインパルスと戦闘に入りながらも、直感的にキラの存在を感じ取る。

だが現状では合流する事すらままならず、自身に敵意を向けるシンと戦うしかない。

ミーティアに取り付くデスティニーインパルスは、握るエクスカリバーで装甲を斬り裂いて行く。

 

「クッ!! 切り捨てるしかないか」

 

コンソールパネルに手を伸ばし、ミーティアとのドッキングを解除するアスラン。

単独で動くジャスティスを見たシンは、ミーティアへの攻撃を中断し、ジャスティスへの攻撃を開始した。

 

「落ちろォォォ!!」

「シン!!」

 

2人が戦う間にも、アークエンジェルはメサイアへの侵攻を進めて行く。

量産されたドムトルーパーのお陰で、少ない戦力でもザフトと対等以上に戦う事が出来て居る。

そのアークエンジェルで、ネオは激しい揺れに耐えながらブリッジへ向かって居た。

 

「何か、すごい事になってんな。頼むから撃沈はしないでくれよ」

 

軽口を叩きながらも、戦闘中で誰も居ない通路を進んて行く。

そしてようやくブリッジにまて到着し、エアロックを解除して中へ入ると、艦長シートに座るマリューが目を見開いた。

 

「アナタは!? こんな所で何をしているの!!」

 

「こんなうるさくちゃ満足に寝れねぇよ。こんな所で死ぬなんてゴメンだからな。えぇ、艦長さんよ?」

 

「わかってます。戦況はこちらに傾いてます」

 

「本当だろうな?」

 

「えぇ、だからアナタはすぐに医務室へ戻って。ここに居てもやる事なんてない」

 

言われてネオはブリッジを後にしようとするが、スクリーンに映し出される映像がふと目に入った。

思わず足を止め、注意深くそれを覗き見る。

 

(アレは……ミネルバ? だとしたら、あのボウスもどこかに……)

 

長時間に及ぶ戦闘でミネルバも消耗してい居るのが見て取れた。

ネオはそれを確認すると、マリューに言われた通りにブリッジから出て行く。

 

「確かに、ここに居ても俺の出来そうな事なんてないな。じゃあな、艦長さん」

 

「ムウ……」

 

最後に彼女が呟いた言葉が彼に届く事はない。

ブリッジを後にしたネオは、素早くモビルスーツデッキに向かった。

アークエンジェルに搭載されて居るモビルスーツは少ない。

その中で唯一、誰にも使われてない機体。

かつてキラが乗り、ムウ・ラ・フラガも乗った事のある、ストライクがそこにあった。

フェイズシフト装甲が展開されてない、灰色の機体を見上げるネオは感慨に浸る。

 

「ストライク……2年も前の旧型だが……」

 

無意識に言葉にした機体の名称。

それでも、ムウ・ラ・フラガとして生きた記憶が戻る事はなかった。

リフトに向かうネオはパネルを操作して上昇させると、開放されたままのコクピットに入り込む。

 

「まぁ、何とかなるだろ。助けてくれた礼だ。攻撃はしないで置いてやる」

 

コンソールパネルを叩くネオはOSを起動させ、バックパックを装備する作業に移る。

遠隔操作でストライカーパックを背部にマウントさせ、エレベーターでカタパルトに上昇させた。

 

「良し、ここまでは良いな」

 

『ちょっとアナタ!! 何を勝手な事を!!』

 

(チッ!! やっぱバレるか)

 

画面に映し出されるのは艦長であるマリュー。

ストライクが動き出し、発進態勢に入った事はブリッジの彼女に伝わった。

心の中で悪態を付きながらも、この場を何とか潜り抜けようとネオは咄嗟に口からでまかせを言う。

 

「あぁ~、記憶が戻ったんだ。今からフリーダムの援護に行く」

 

『記憶が……ねぇ、本当なの? ムウ……私の事、思い出したの?』

 

「それは……」

 

映像で映る彼女の瞳からは涙が溢れて居た。

それを見てしまい、ネオの心は揺れる。

ウソを貫き通す事は出来ず、良心が勝ってしまった。

 

「ったくよ!! ウソだよ!! ウソ!! この機体は貰ってくからな!!」

 

『ちょっと待って!! まだ――』

 

「10秒以内にハッチを開けろ!! でないと、ビームライフルで内側からぶち破る!!」

 

『ムウ……やっぱり、アナタは……』

 

怒気を孕んだ声で叫ぶと、アークエンジェルのハッチが開放される。

ネオは何も考えないようにして、カタパルトから発進した。

メインスラスターから青白い炎を噴射して、宇宙の暗闇に線を引く。

加速するストライクは、ミネルバの防衛に当たるインパルスの居る場所を目指した。

 

「ミネルバの位置は……あそこか!!」

 

メサイア防衛の為に戦うミネルバだが、状況は思わしくない。

ドムトルーパーの高い戦闘力を前に、メサイアの防衛ラインは確実に後退して行く。

インパルスに搭乗するルナマリアも、初めて相手をする機体に苦戦を強いられて居た。

 

「何なの、コイツ!! ビームシールドなんてインパルスにもないのに!!」

 

最新兵装を持つドムトルーパーはインパルスと対等に戦える。

スクリーミングニンバスを展開し、ビームバズーカを構えて突撃して来るドムトルーパーに、インパルスは回避行動を取りながらビームライフルのトリガーを引く。

発射されるビームはドムトルーパーの前面に展開される赤い粒子の前に無力化される。

 

「ビームが効かない!?」

 

構えるビームバズーカの銃口から大口径のビームが発射される。

咄嗟にシールドを構えるが一撃で破壊されてしまう。

 

「来る!?」

 

『これで終わりだ!!』

 

強化型ビームサーベルを抜いたドムトルーパーが加速する。

スクリーミングニンバスを展開する相手にインパルスの攻撃は通用しない。

目前にまで来る敵機はインパルスの胴体部目掛けてビームサーベルを振り払った。

 

『ナニ!?』

 

「アタシだって赤なのよ!! 舐めるな!!」

 

手応えがない。

ビームサーベルはインパルスの装甲を捉えておらず、斬り抜けた先には何もなかった。

寸前の所でチェストフライヤーとレッグフライヤーを分離させたルナマリアは、ビームサーベルを潜り抜け再びドッキングする。

振り向くと同時にバックパックからビームサーベルを引き抜くと、背を向けるドムトルーパーの背部にその切っ先を突き立てた。

 

「ふぅ、何とかなった」

 

背中に冷たい汗が流れる。

ギリギリに所で撃破したルナマリアだが、その心中は穏やかでない。

敵機の背部からビームサーベルを引き抜くと、ドムトルーパーはモノアイから輝きを失い、力なく宙を漂って行く。

けれどもまだ戦闘は終わってない。

レーダーを確認すると、また新たな機影が接近して来る。

 

「また増援か。GAT-X105ストライク? 2年も前の機体が何で?」

 

表示される形式番号に思わず声を上げるルナマリア。

そうしてる間にもストライクはインパルスの間合いにまで近づいて来た。

操縦桿を動かしビームサーベルを振るおうとするが、それよりも早くに腕を捕まれ、密着した状態で動けなくされてしまう。

すると、相手は接触回線で通信をして来た。

 

「インパルス聞こえるか? 俺だ、ネオ・ロアノークだ」

 

敵機から通信が入るが、ルナマリアは訳の分からない通信を無視して操縦桿を全力で押し込んだ。

互いの機体のフレームがミシミシと悲鳴を上げながら、それでもインパルスはビームサーベルを突き立てようとする。

敵を倒そうとする彼女の行動に、頭に疑問を浮かべながらもネオは再び呼び掛けた。

 

「ボウズ、聞こえないのか?」

 

「誰がボウズよ、誰が!!」

 

通信から聞こえて来るのは、聞いた事がない女の声。

目の前のインパスルのパイロットがシンではないと気が付くネオは、ジャスティスと戦うもう1機のモビルスーツを視界に入れた。

 

「ボウズじゃない。って事はジャスティスと戦ってるアレか?」

 

ネオは組み付いたインパルスから離れるとメインスラスターを吹かす。

離れた瞬間にビームサーベルの切っ先が襲い来るが、簡単にそれを避けジャスティスの元へ向かう。

 

「逃げるな!」

 

「相手をしてる暇がないもんでね。俺よりも向こうをどうにかした方が良いと思うけどな」

 

言われて視線を変えるルナマリア、その先に居るのはミネルバの行く手を阻まんと迫るドムトルーパー。

ストライクの追撃を諦め、ミネルバを防衛する為に機体を反転させる。

追撃を振り切ったストライクは一直線に目的の場所へと向かう。

一方、アスランはデスティニーインパルスとの戦いに苦戦して居た。

 

「アークエンジェルの防御が薄い。それにシン、どうすれば……」

 

回避行動を取りながらビームライフルを向けトリガーを引くが、そんな攻撃に当たるシンではない。

エクスカリバーを構え、光の翼を展開し一瞬の内に距離を詰められる。

 

「くっ!!」

 

大きく振り下ろされるエクスカリバーに、アスランはビームシールドで受け止める。

激しい閃光が両者を照らす。

攻撃を受け止めながらも、脚部のビームブレイドを展開しデスティニーインパルスの脚部を蹴る。

 

「同じ攻撃なんか!!」

 

「反応が早い。だが、俺も負ける訳にはいかないんだ!!」

 

距離を離すデスティニーインパルス。

ジャスティスの蹴りは空を斬る。

それでも接近戦ならジャスティスの方が強く、シールドのワイヤーアンカーを射出して引き寄せようとした。

両手でエクスカリバーを握るデスティニーインパルスは、胸部チェーンガンでワイヤーアンカーを狙う。

無数に吐き出される空薬莢。

ワイヤーアンカーは1度は煙に包まれるが、破壊される事なくデスティニーインパルスに迫る。

 

「このくらい!!」

 

連結させたエクスカリバーを分離させ、右腕のビームシールドを構えた。

寸前の所でワイヤーアンカーは光の盾に消える。

そして背部のテレスコピックバレルを展開するシンはジャスティスに照準を合わせトリガーを引いた。

発射される赤黒い2本のビーム。

メインスラスターを吹かし回避するジャスティスだが、下方から別のビームが飛んで来た。

 

「なんだ!?」

 

ビームはジャスティスのつま先をかすめる。

アスランが視線を向ける先に居たのは、ビームライフルを向けるエールストライク。

 

「ストライク!? 誰が乗ってるんだ?」

 

「聞こえてるなボウズ!! 援護するぞ!!」

 

「その声……フラガ大尉!?」

 

「俺はネオだ!!」

 

接近するストライク。

2機に挟まれるアスランは不利な立ち位置から逃れるべく、メインスラスターを全開にして距離を離す。

その間にもストライクとデスティニーインパルスは合流し、腕を触れさせ接触回線を繋げる。

 

「大丈夫か、ボウズ?」

 

「ネオか!? 生きてたのか?」

 

「あぁ、なんとかな。それよりも、お前がやられたら誰がステラを守るんだ? しっかり頼むぜ」

 

「わかってる。俺はもう負けない!! 誰が相手でも!!」

 

「その意気だ。火力と機動力、俺が牽制で動かす。トドメはお前がやれ」

 

デスティニーインパルスとストライクの2機でジャスティスを一気に攻め落とそうとする。

ストライクはビームライフルでジャスティスをかく乱し、機動力の高いデスティニーインパルスが隙を付いてエクスカリバーを振り下ろす。

2機の連携にアスランは何とか回避していくが、このままではメサイア攻略に支障が出てしまう。

 

「フラガ大尉、アナタを撃ちたくはない」

 

「気に入らないな。その態度!!」

 

「クッ!! 2対1じゃ不利だ。シン、俺は本当にお前を……」

 

視界をクリアにして集中力、反射速度を飛躍的に上昇させる。

ビームライフルと背部に装備したファトゥム-01のビーム砲をストライクに向け、一斉にビームを連射した。

核エンジンが生み出す無限のエネルギーは、強力なビームを無尽蔵に発射する。

シールドを構えるストライクだが、そういつまでも耐えられるモノではない。

 

「性能に物を言わせやがって」

 

「アナタが誰であろうと、これ以上邪魔はさせない!!」

 

「やってみな!!」

 

シールドからシャイニングエッジを掴み取り、ストライクに目掛け振り投げた。

ビーム刃が回転しながらストライクを襲う。

 

「おおっと!? このくらい」

 

「まだ!!」

 

続けて更にビームライフルとビーム砲のトリガーを引き、弾幕を形成するジャスティス。

ネオはメインスラスターをAMBAC制御で機体を匠に動かし、時にシールドでビームを受け止めて損傷を回避して行く。

それでも防戦一方で反撃に打って出る事は出来ない。

 

「このままだとマズイか? ボウスこのまま――」

 

シンに通信を繋げた一瞬の油断。

投げられたシャイニングエッジが軌道を変えると、ストライクを今度は背後から襲う。

反応が遅れたネオは対処する事が出来ず、機体の右腕が切断された。

 

「しまった!? こんな所で」

 

「悪いが!!」

 

照準をコクピットに定めるアスランはビームライフルのトリガーを引いた。

発射されるビーム。

咄嗟に装備したシールドでコレを防ぐが破壊されてしまい、姿勢制御が追い付かずストライクはどこかへ流されてしまう。

 

「ぐああァァァッ!!」

 

「ネオ!! っ!?」

 

シンはすぐに流されて行くストライクの救護に向かおうとするが、目の前からは回転するビーム刃が迫り来て居た。

右肘のフラッシュエッジを掴み取るデスティニーインパルスは、大きく振り被ると眼前のビーム刃目掛けてそれを投げる。

互いに弾き飛ばされるビームブーメラン。

両者は素早くビームライフルを構えてトリガーを引くと、発射されたビームがぶつかり合い眩い閃光を生む。

 

「シン、まだ戦う気か!!」

 

「俺は、裏切ったアンタを絶対に許さない!!」

 

「過去に囚われたまま戦うんじゃない。そんな事で何も戻りはしない!!」

 

閃光から抜け出す2機は再びビームライフルを向けた。

だが、アスランの方がトリガーを引くのが早い。

瞬きする暇もない一瞬の差。

デスティニーインパルスのビームライフルを撃ち抜かれてしまい、シンは即座にソレを投げ捨てもう1本のフラッシュエッジをジャスティスに投げた。

弧を描き飛んで行くフラッシュエッジは、構えたジャスティスのビームライフルに突き刺さる。

 

「クッ!! やるようになった」

 

アスランも使えなくなったビームライフルを投げ捨て、サイドスカートのビームサーベルを抜き取り連結させる。

メインスラスターを全開にして一気に詰め寄り、連結ビームサーベルで袈裟斬り。

だがビームシールドで受けられてしまう。

 

「シン、もうこんな戦いは止めるんだ!! お前は未来まで殺す気か!!」

 

「俺はステラを守るって約束した。ステラの居る世界に、アンタ達は必要無い!!」

 

光の翼を展開してジャスティスを押し返す。

そしてエクスカリバーを連結させて大きく振り上げた。

 

「はああァァァ!!」

 

「くっ!!」

 

両者のビーム刃がぶつかり合う。

激しい閃光は2機を照らす。

数秒後、エクスカリバーは切断されてしまい、ジャスティスは脚部のビームブレイドを展開してデスティニーインパルスを蹴る。

 

「いいや、まだだ!!」

 

蹴りが装甲に届くよりも前に、マニピュレーターがジャスティスのつま先を掴んだ。

瞬間、パルマフィオキーナが脚部を吹き飛ばした。

 

「なにぃ!?」

 

テレスコピックバレルを展開して赤黒いビームを撃つ。

アスランはシールドでコレを防ぐと同時に、握って居た連結ビームサーベルを振り投げた。

攻撃はビームシールドに防がれてしまい、投げられた連結ビームサーベルはテレスコピックバレルの砲身を切断する。

それでもシンは攻撃の手を緩めず、光の翼を展開して一気に接近した。

目前に迫るデスティニーインパルスに、アスランは残された脚部のビームブレイドを展開して蹴ろうとするが、それよりも早くにマニピュレーターがジャスティスの頭部を掴む。

 

「俺の……勝ちだっ!!」

 

パルマフィオキーナが光る。

頭部は爆発し、戦闘能力を失ったジャスティスは宇宙空間に流されて行く。




次回、最終話!!


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最終話 勝利の果てに

6機のドムトルーパーの襲撃に会うミネルバ。

残されて居るのはルナマリアのインパルスのみで、単機で相手をするには厳しい戦いだ。

ブリッジからはインパルスを援護するようにとタリアが檄を飛ばす。

 

「タンホイザーのチャージを急いで。トリスタンで迎撃、敵を寄せ付けるな!!」

 

「了解!! トリスタン、撃てぇぇ!!」

 

「ルナマリア、本艦は現領域から撤退します。司令部からもメサイア放棄の指示が出た。防衛に専念して!!」

 

「わかってますけど、敵に言って下さいよ!! 敵に!!」

 

ルナマリアはペダルを踏み込み、撤退するミネルバの防衛に当たる。

ビームライフルの銃口を向けトリガーを引くが、スクリーミングニンバスを展開する相手は回避行動すら取らずに突き進んで来た。

 

「またソレなの!? こうなったら!!」

 

左腕のシールドを投げ飛ばす。

ビームの直撃すら防ぎきる相手にシールドをぶつけた所にダメージにはならない。

敵は容易に投げられたシールドを回避すると、装備したビームバズーカを構え照準をインパルスに向ける。

 

「落ちなさいよ!!」

 

ルナマリアは投げ飛ばしたシールドに目掛けてトリガーを引いた。

発射されたビームはシールドに対して斜めに当たり、アンチビームコーティングがコレを反射する。

その先に居るのは、ビームバズーカを構えるドムトルーパー。

ビームはスクリーミングニンバスが展開されてない背部のバックパックに直撃し、爆発する機体と推進剤は大きく姿勢を崩させる。

 

『そんな馬鹿な!?』

 

「まずは1機!!」

 

満足に態勢も立て直せない相手の背部へ更にもう1発ビームを撃ち込む。

ビームは機体を貫通し、ドムトルーパーは爆発の炎に包み込まれる。

それでも、まだ楽観視は出来ない。

小手先の技で撃破しただけで、数と性能を押し付けられれば負ける。

宙に漂うシールドをもう1度回収する時間もなく、残る5機のドムトルーパーが眼前に迫って居た。

 

「残り5機……どうする!!」

 

ビームライフルを腰部にマウントさせ、バックパックからビームサーベルを引き抜く。

すると、目の前を大出力のビームが通り過ぎた。

太いビームは2機のドムトルーパーを飲み込み、ネジ1本としてこの世に残さない。

 

「このビーム……ヒイロなの!?」

 

振り向く先、そこに居るのは背部の大型バーニアを展開してこちらに向かって来るウイングゼロの姿。

合流するとマニピュレーターを肩に触れさせ、接触回線で通信を繋げる。

 

「機体にダメージはないな?」」

 

「やっぱりヒイロ!? 居なくなったと思ったらいつ戻って来たの?」

 

「その事は後だ。機体にダメージはないな?」

 

「それは大丈夫だけど」

 

「残りの敵機は俺が仕留める。お前はミネルバに行け」

 

「わかった。後はお願い」

 

後退するインパルスを見るヒイロ。

そして操縦桿を押し倒し、バーニアから青白い炎を噴射してドムトルーパーと対峙する。

左手に握るバスターライフルを向けトリガーを引き、高出力ビームはド敵機を襲う。

それでも、量産機としては破格の性能を誇るドムトルーパーはコレを回避し、ビームバズーカの照準をウイングゼロが握るバスターライフルに合わせた。

発射されるビームはバスターライフルを撃ち抜く。

だが、直撃を受けても破壊される事はなく、マニピュレーターから離れて宇宙の闇へ流される。

 

『ビーム砲がなければ!!』

 

「甘いな」

 

右肩のアーマーを展開、ビームサーベルを引き抜きウイングゼロは加速する。

一直線に突き進み、抜くと同時に袈裟斬り。

スクリーミングニンバスのアンチビームフィールドを物ともせず、ビームの刃はドムトルーパーを両断した。

 

「敵機撃破を確認。残り2機、速やかに破壊する」

 

爆発を背後にしながら、ウイングゼロの攻撃が始まる。

どれだけ性能が良くても、量産機であるドムトルーパーでは到底太刀打ち出来ない。

機動力も攻撃力も桁違いのウイングゼロ。

優位だった筈が一転、振られるビームサーベルに機体は一瞬の内に破壊された。

レーダーに映って居た6機のドムトルーパーは全て破壊し、インパルスもミネルバへ合流する。

 

「ターゲット、全機撃破。次の行動に移る」

 

大型バーニアを展開するウイングゼロはメサイアを目指した。

 

///

 

「生きてる……ここは……」

 

ボロボロになったフリーダム、そのコクピットの中でキラは目を覚ます。

バスターライフルのトリガーが引かれた瞬間、両腕のビームシールドを全開にしてコクピットを守った。

奇跡的にも機体は破壊されず、生還したキラ。

それでも頭部は半分に溶け両腕も無い。

背中の機動兵装ウイングも見る影もなく、脚部も左足が残っているだけ。

核エンジンも出力が不安定になり、特徴的な金色のフレームも輝きを失い灰色へと変わって居た。

まだ意識がもうろうとする中で、操縦桿に手を伸ばし力を振り絞るがまともに機体は動かない。

 

「これも……ダメか。バーニアは……」

 

何とか動かそうとペダルを踏み込みコンソールパネルを操作して居ると、ミーティアのラクスから通信が入る。

コクピットのモニターもヒビが入っており、音声しか聞くことは出来ない。

ザーザーと通信に雑音が混じる。

 

『キラ、ご無事なのですか?』

 

「ラクス、戦況はどうなってるの?」

 

『ザフトは部隊を引いています。ですが、アスランがまだメサイアで戦闘してます』

 

「まだアスランが? 行かないと」

 

それを聞いてフリーダムのバーニアを吹かしメサイアに行こうとするが、大破寸前の機体では出力は殆ど出ず、バーニアは途切れ途切れ。

そのたびにコクピットに振動が伝わるが、操縦桿は決して手放さずメサイアを目指した。

すると、辛うじて生きて居るレーダーに反応が出る。

一緒に居た筈のレジェンドの姿はどこにも見当たらず、だがその前にはウイングゼロが立ち塞がった。

しかし、相手は攻撃して来ない。

 

『メサイアに行くつもりか?』

 

通信越しに聞こえて来る声。

それは目の前の機体のパイロットであり、オーブの慰霊碑で出会った少年でもあった。

 

「そのモビルスーツのパイロットはキミだったのか」

 

『メサイアにはまだデュランダルが居る筈だ』

 

「どうしてそんな事を? 僕は敵じゃないのかい?」

 

『この戦争が終結すればそんな事は関係なくなる。その為にお前達は来た筈だ』

 

「そう……僕はデュランダル議長を止める。その為にここに来たんだ」

 

『なら急いだほうが良い。着いて来い』

 

通信は切断され、ウイングゼロはボロボロになったフリーダムを誘導してメサイアに進む。

アークエンジェル隊の攻撃によりザフト軍はメサイアから既に撤退しており、2人が内部へ侵入するのは容易だ。

モビルスーツを降り、薄暗く物静かな通路を進んだ先に彼は居た。

 

「ようやく来たか。でも、キミがここに来るなんて思わなかったよ。ヒイロ・ユイ君」

 

デュランダルは広い司令部でただ人、シートに座りながら目的の人物が来るのを待って居た。

もぬけの殻となったこの場所でただ1人。

言葉を掛けられたヒイロはそのままゆっくりと彼の元にまで近づいて行く。

広い空間にはヒイロの足音だけが響き渡る。

デュランダルから数歩の距離にまで来たヒイロ。

鋭い視線を向けながら、ようやく口を開き返事を返した。

 

「いいや、俺だけじゃない」

 

そう言われてデュランダルが視線を向けた先。

そこにはケガをして遅れて来たキラの姿があった。

 

「ほぅ、キミもかい。キラ・ヤマト君」

 

怪我をして顔からは脂汗を流すキラ。

負傷するキラを見ても、デュランダルはいつもと表情を変えない。

ゆっくりこ近づいて来るキラの様子を見ながら、目の前のヒイロに向かって話を続ける。

 

「で、私をどうする気だい?」

 

「ギルバート・デュランダル、お前を殺す」

 

それを聞いたデュランダルが小さく笑い、再びヒイロに問い掛けた。

「面白い事を言うね。それで私を殺してどうする気だい? このままだとまた、世界は混迷の1歩を辿る事になる。そうさせない為には、私が提示したデスティニープランを実行するしかない」

 

「ギルバート、世界は自らの意思で平和への道を歩き出して居る。お前の存在は必要無い」

 

「だが人は同じ過ちを繰り返す。人類が居る限り破壊と戦争は終わらない」

 

それを聞くキラは痛みに耐えながらも前に出た。

 

「だけど、アナタのプランを実行させる訳にはいきません。どんなに苦しくても、変わらない明日はイヤだから」

 

「傲慢だね。さすがは最高のコーディネーターだ」

 

「僕は1人の人間だ、みんなと変わらない」

 

「だがキミ達の言う世界と私の望む世界。民衆が求めるのはどちらかな?」

 

キラに語りかけるデュランダルはいつまでも余裕の笑みを浮かべる。

緊迫する指令室の中、キラは銃を取り出し照準をデュランダルの額へ向けた。

ゆっくりと掛けられるトリガー。

静まり返る空間で、1発の銃声が響き渡った。

 

「ギル!! 早く逃げて!!」

 

「レイ……」

 

振り向いた先、そこに居るのは銃を構えるレイ。

その銃をキラの方向に向けながら、デュランダルを守る為の盾になろうと彼の前にまで移動する。

 

「あなたは世界に必要な人です。こんな所で死んではダメです」

 

すると司令室がまた一段と大きく揺れる。

陽電子リフレクターの展開出来ない今のメサイアは、巨大な的になってる状態。

状況を判断するヒイロは、キラを置いてデュランダルの元から立ち去った。

 

「行くぞ」

 

「え……」

 

「みんな変わらないんだろう。だったらこの2人もそうだ」

 

そう言われてキラは2人を見た。

目に映るのは、デュランダルを守ろうと必死に銃を構えるレイの姿だけ。

 

「早くしろ。ここから脱出する」

 

ヒイロに言われて銃を下ろすキラ。

2人の姿を目に焼き付けて、踵を返すと司令室から出て行こうとする。

 

「もう良い……レイ……」

 

「ギル?」

 

キラを追い掛けようと考えて居たレイに、デュランダルはゆっくりと静かに声を出した。

そんな事を言うデュランダルに、目を見開き驚く。

 

「レイ、キミも早くするんだ。ここも安全と呼べる場所ではない」

 

「ギル……何で……」

 

「ミーア君が言っていたよ。何があっても戦う意思を無くしてはダメだと。私ももう1度、この運命と戦ってみようと思ってね」

 

「例え勝てないと分かっていても?」

 

「そうさ、そしてソレを糧に人は前に進める。時代を決めるのは勝者ではないのかもしれないな」

 

「ギル……」

 

司令部を後にしてヒイロとキラは、ウイングゼロとフリーダムがメサイアから脱出する。

レイはそれを残り少ないモニターで見るとパネルを操作した。

メサイアに搭載された最終兵器。

巨大な砲門の先には半壊したフリーダムがフラフラと飛んで居る。

 

「レイ!!」

 

「ギルの言う事でもコレだけは譲れない。アイツは、アイツだけは!! キラ・ヤマトは世界に存在してはならない!!」

 

最後の安全ロックを解除し、モニターにネオジェネシスが起動したことが表示された。

1度押された発射指令は解除する事が出来ず、フリーダムを破壊するためエネルギーチャージが開始される。

デュランダルはそれを承知の上で解除を試みるが、ネオジェネシスの発射が止まる事はなかった。

 

「何て事を……えぇい!!」

 

苛立ちに拳でパネルを叩き付ける。

 

「レイ、自分が何をしているのか分かっているのか!!」

「わかっています。フリーダムの先には月のコペルニクスがある」

///

撤退を始めるミネルバにメサイアから通信が入る。

艦長シートに座るタリアは疑問を浮かべながらも、メイリンに通信を繋げるように指示を出す。

 

「音声のみになります」

 

メイリンがそう言うとモニターに『SOUND ONLY』と表示され、聞こえて来るのは忘れもしないあの男の声。

 

『タリア、これが私からの最後の頼みになる』

 

「ギルバート……」

 

『今、メサイアのネオジェネシスが発射体勢に入って居る。発射まで時間がない。このままではコペルニクスに直撃する。なんとして――』

 

「通信途切れました!! 艦長!?」

「今メサイアに一番近いMSは?」

 

「シンとヒイロです。でもヒイロとは以前から通信が途絶えてます」

 

「ならシンに伝えて!! 急いでメサイアの動力部を破壊してちょうだい。時間がない!!」

 

「はい!!」

 

すぐにメイリンがメサイアの近くにまだ残って居るシンのデスティニーインパルスに通信を繋げた。

 

「シン、聞こえる? メサイアの動力部に向かって!!」

 

「メサイアだって!?」

 

「早く!! 今から構造図も送るから、ナビ通りに行けば辿り着ける」

 

「動力部を破壊すれば良いんだな? 了解!!」

 

メイリンからの通信とメサイアのデータを受け取るシンは、機体のバーニアを噴かせメサイアに向かう。

今までの戦闘ですでにボロボロになっているメサイア。

周囲には壊れてパイロットの居なくなったモビルスーツが漂う。

あれだけ固めて居た防衛網も今や形無しであった。

 

「ココから入るのか。良し!!」

 

データを頼りに動力部に1番近い通路から進入しようとする。

歪んだシェルターをパルマフィオキーナで吹き飛ばし通路を突き進む。

中に入ると壁が壊れてデブリが漂い、進むたびに装甲に何かが当たる。

いくつもの角を曲がり、チェーンガンで邪魔な瓦礫を排除しながら進んだ先で、一際大きなシェルターにぶち当たった。

 

「この先だな。パルマフィオキーナの出力を最大にすれば!!」

 

分厚いシェルターに両手を密着させ、コンソールパネルで出力を上げてパルマフィオキーナを放つ。

 

「吹っ飛べェェェッ!!」

 

眩い光は視界を遮り、突き進むデスティニーインパルスは目の前の障壁を消滅させる。

数秒後にはエネルギーを出し切り、その先には機体が通れるだけの大穴が開いた。

 

「ここなのか!?」

 

動力部までたどり着くシンはメサイアを動かす巨大なエンジンを見上げる。

 

「残った武器は……」

 

ビームライフルもエクスカリバーもテレスコピックバレルも破壊されてもう使えない。

フラッシュエッジも失い、トリガーを引いてもチェーンガンはカタカタと音を鳴らすだけ。

最後のパルマフィオキーナを使おうとするも、さっきの最大出力のせいで機体のバッテリーが底を突き、フェイズシフトがダウンして装甲が灰色に変わる。

デスティニーとインパルスを急場しのぎで強引にハイブリットしたせいで、ハイパーデュートリオンエンジンの本来のパワーが出ない。

それでも、目の前の巨大なエンジンを破壊するのに残って居るのは、ハイパーデュートリオンエンジンに使用して居る核エンジン。

時間がない中で覚悟を決めるシン。

最後は機体そのものをぶつけようと考えるが、寸前になって眼前にモビルスーツが立ち塞がった。

 

「何回言わせる気だ? お前が居なくなったら、誰がステラを守るんだ?」

 

「ネオ!?」

 

「コイツを壊せば良いんだろ? だったら俺がやる!!」

 

右腕を破壊されたストライク、ネオがシンの元に現れる。

そしてバックパックからビームサーベルを抜き、有無を言わさずメサイアの動力部にそれを突き立てた。

瞬間、動力部からは爆発が起こり、メサイアは激しい揺れに襲われる。

 

「止めろ、ネオ!! このままじゃアンタまで!!」

 

「ステラの事は……頼んだぞ!!」

 

「ネオォォォッ!!」

 

///

 

「メサイアより爆発を確認。ネオジェネシスの砲門が崩れた!? 艦長!!」

 

「はぁ~~っ、よかった~~」

 

メイリンからの報告を受けミネルバのクルー全員が安堵の息を付く。

その中でもアーサーだけは一際大きな声を上げる。

ソレを見て周囲からクスクスと笑い声が聞こえて来るが、事態はそれだけでは終わらなかった。

動力部を破壊された事でネオジェネシスの発射を未然に防ぐが、巨大な爆発によりメサイアの軌道が大きく変わる。

爆発が推進力となり、メサイアは月の引力に引かれた。

「待って。アーサー、メサイアの動きを調べて」

 

「は、はい……これは!? コレはマズイですよ艦長!! あんなのが月に落ちればどれだけの被害が!?」

 

「被害状況を考えるのは後!! どうやらまだ終われないみたい。全軍に通達!! 本艦もコレより、メサイアの阻止に向かいます。180度反転!!」

 

『ルナマリア・ホーク、インパルスで行きます!!』

 

撤退を初めて居たザフト全軍が、タリアの指示によりメサイアの破壊活動に移る。

 

///

 

自らの拠点でもあったメサイアを破壊する。

全軍は月へ落下するまでにこの巨大な拠点を止めるべく攻撃を開始した。

だが、相当な質量を持つメサイアを壊すのは容易ではない。

戦艦の主砲により攻撃、モビルスーツはメテオブレイカーを設置するべく各自で動く。

 

「おい、イザーク。到底間に合う距離じゃねぇぞ。月までもう目と鼻の先だぜ?」

 

「わかって居る!! 喋ってる暇があるなら少しでも動け!!」

 

イザーク・ジュールとディアッカ・エルスマンはモビルスーツに搭乗して、メテオブレイカーの設置を急がせる。

大型粉砕機をメサイアに運ぶ真っ最中で、メインスラスターを全開にして目標に進む。

その最中、イザークは視界にインパルスの姿を見つけると、コンソールパネルを叩き通信を繋げた。

 

「そこのモビルスーツ。単機で破壊は無理だ。コッチを手伝え!!」

 

『了解です』

 

「間に合うのかねぇ?」

 

「間に合わさせるんだ!! こんなモノが月に落ちれば、地球にだってどんな影響が出るのかわからんのだぞ!!」

 

怒鳴るイザーク。

合流するインパルスはメテオブレイカーを掴みメインスラスターを全開にする。

向かう最中も雨のように降り注ぐビームがメサイアの外壁を攻撃するが、その形状を壊すまでには至らない。

刻一刻とメサイアが月に近づく中で、ふと、視線を反らしたルナマリアはあるモノを目にした。

 

「アレは……」

 

「どうした? 時間がない、急ぐぞ!!」

 

「こんな事してても間に合いませんよ。別行動に移ります」

 

「オイ、待て!!」

 

突如として離れて行くインパルス。

振り向く素振りすら見せず、メインスラスターから青白い炎を吹かしその場から去ってしまう。

理由も言わずに去るインパルスを見て、イザークは苛立ちを抑え切れずコンソールパネルを思い切り叩き付けた。

 

「クソッ!! 何を考えてるんだ、アイツは!!」

 

「それもそうだがもうすぐメサイアに着くぜ。コイツのセットの方が先なんだろ?」

 

「チッ!! 確かミネルバのモビルスーツだったな? 忘れんぞ!!」

 

イザークの指示を無視してルナマリアが向かう先。

そこにはウイングゼロが手放したバスターライフルがある。

素早くバスターライフルを掴み上げると、レーダーで位置を確認して次の場所を目指した。

 

「アイツは……どこに居るの? アレなの?」

 

視線を向けた先に居たのは何をするでもなく立ち尽くすウイングゼロの姿。

コンソールパネルに手を伸ばし、すぐ傍にまで接近すると通信を繋げた。

 

「ヒイロ、受け取って!! 忘れ物よ!!」

 

回収したバスターライフルをウイングゼロに渡すルナマリア。

ヒイロも機体のマニピュレーターでグリップを握り締め、自分の役割を理解した。

 

「任務了解!!」

 

「じゃ、後は頼んだわよ」

 

バッテリーが切れインパルスの装甲の色が変化する。

フライヤーを分離させるルナマリアはコアスプレンダーでミネルバへと帰艦する。

それを見届けるヒイロは操縦桿を押し込み大型バーニアを展開して加速した。

 

「ミネルバへ。艦長、応答願います」

 

『こちらミネルバ。ルナマリア、何かあったの?』

 

「ヒイロにビーム砲を渡しました。これより帰艦します」

 

報告を聞いたアーサーの表情からは驚きと安堵に満ち、目殻は涙が溢れ出しそうだ。

 

『聞こえましたか、艦長!!』

 

『えぇ、全軍に通達。速やかに現領域より撤退します。ここに居たのでは邪魔になる』

 

タリアの指揮により、メサイアの破壊活動をして居た部隊が撤退を始める。

残されたのは、メサイアと月の狭間でバスターライフルを構えるウイングゼロだけ。

 

「ターゲット、ロックオン!! 最大出力で破壊する……」

 

バスターライフルの銃口から放たれる大出力のビーム。

メサイアの外壁に直撃するソレは全てを消滅させ、最後に見えるのは眩い光だけ。

 

///

 

長きに渡る連合とザフトの戦いが終結して1年。

ロゴスが消滅した事で地球連合軍の後ろ盾は失くなり、時間とともに消えて行った。

ザフトもこの戦いで多大な損害と消耗を蒙り、更にはプラント最高評議会議長であるギルバート・デュランダルの消息が途絶え、デスティニープランも時代の中に埋もれて行く。

そして今やプラント市民の運動により、ザフトの存在も失くなろうとして居た。

オーブの代表であるカガリ・ユラ・アスハは、終戦から1年経過しても復旧しない国を早急に立て直す仕事がある。

 

「地球連合も解体された今、各国は独自に軍備を整えて居る。確かに軍備増強も大事だが、少しでも早く戦争の傷跡を治す事の方が、国民への安心と信頼に繋がる筈だ」

 

「ですが、周辺各国で軍備増強が進んで居るのは事実。現に領空侵犯も数度行われた」

 

「それに関しては、私が直接大統領と話を進める。その為に明日、訪問する準備を進めて来たのだろう?」

 

「わかっては居ます。ですが、何かあってからでは遅いのですぞ?」

 

「大丈夫だ。腕利きの護衛も連れて行く。もしもの時でも、アイツが居れば帰って来る事くらいは出来る」

 

「本当に信用出来るのですか? 元ザフトのあの男が?」

 

「あぁ!! 私は信用して居る!!」

 

「婚約者とは言え、過信し過ぎて居るような気もしますがね」

 

議会の中で、カガリは国の為に自分の戦いを続けて居た。

オーブ近海に住居を建てて生活するラクスは、何も言わずに今ある生活を謳歌して居る。

戦争孤児である子ども達を共に、日がな一日をゆっくりと過ごして居た。

 

「もうあの戦いから1年なのですね……」

 

砂浜でビーチパラソルを広げながら、燦々と光る太陽を覗く。

海ではキラと子ども達が一緒になって水上スキーの修理を行って居た。

 

「ねぇ、まだエンジン掛かんないの?」

 

「ちょっと待ってね。フューズが跳んでるみたいだから。新しいのに差し替えれば……」

 

シートに座りながら焼き切れたフューズを交換すると、止まって居た水上スキーのエンジンが掛かる。

エンジン音を聞いて、キラは喜びながら隣の少年に微笑んだ。

 

「エンジン直ったの!?」

 

「うん、これで動かせ――」

 

瞬間、水上スキーは加速してシートの上のキラを振り落とした。

同時に動きも止まり、キラは海水によりビチャビチャにされてしまう。

 

 

「大丈夫なの?」

 

「びっくりしたぁ……なんともないよ。今、戻るから」

 

ラクスは水上スキーを押し歩きながら戻るキラの様子を遠目で眺めながら、変わりつつある時代の流れを肌に感じる。

 

 

///

 

「ルナマリア、早く走って!! もうレース始まってる!!」

 

「アンタが道を間違えたからでしょ!!」

 

「ルナマリアも服選ぶのに時間掛け過ぎ!!」

 

ステラとルナマリアは走って居た。

向かう先はオーブに建設されたサーキットであり、今行われて居るレースを見る事が目的。

公式レースではない為、チケットを買う事もなく観客席へ走る2人。

既に始まって居るレースは既に最終ラップで、甲高いエンジン音を吹き上げながら青いレーシングカーが横切った。

 

「あの車、シンが乗ってるんだよね?」

 

「えぇ、タイムアタックって言ってたから1台だけの筈よ。これに合格出来ればライセンスを貰えるって」

 

「シン、出来るかな?」

 

「大丈夫、信じて上げないでどうするの?」

 

エンジン音とタイヤのスキール音を鳴らしながら走り切った、シンが乗るレーシングカーはピットインする。

その様子を見た2人は、表示されるタイムも気にせずに戻って来た彼の元へまた走った。

 

「帰って来た!! シン!!」

 

「ちょっと待って!! 勝手に行くんじゃない!!」

 

観客席から立ち去るステラとルナマリアは開放されたままのピットへ向かった。

そこに居るのはチームの責任者と、青いレーシングスーツを着るシン。

今回のタイムアタックに付いて話して居る2人の状況など目にも留めず、ステラはシンの体に飛び込んだ。

 

「シン!!」

 

「ステラ!? うわぁっ!!」

 

「アハハッ!! ねぇ、合格出来たの?」

 

彼女の体を抱くシンは何とか態勢を維持しながら、ステラの足を地面に付けさせた。

 

「なんとかな。これでライセンスも発行されるから、後は契約してくれるチームを探さないと」

 

「じゃあお祝いだね!! ルナマリアなんかの家じゃなくて、アタシと――」

 

シンに抱き付いて居たステラの体が強引に引き剥がされ、そしてギュッと力強く片耳を引っ張られた。

痛みに顔を歪めるステラ。

そうするのは、追い付いたルナマリアだった。

 

「痛い痛い!! ルナマリア痛い!!」

 

「聞こえたからね!! ルナマリア`なんか`って言ってたでしょ!!」

 

「ゴメン、謝るから!! 謝るからぁっ!!」

 

「じゃあシンは私と1日デートだから」

 

「そんなのダメ!!」

 

やられっぱなしだったステラは反撃に移り、間近のルナマリアの頬を両手で思い切り引っ張った。

やり返されたルナマリアは増々機嫌を悪くする。

 

「痛いでしょ、何するのよォォォ!!」

 

「そっちだってぇぇぇ!!」

 

戯れ合う2人の様子を見て、シンはかつて家族と一緒に暮らして居た頃の光景を思い出す。

世界の状況は変わらない部分が多い。

そんな中でもシンの周囲の状況、シン自身が少しずつ変わりつつある。

見上げる空はどこまでも続き、どこまでも青い。

太陽の輝きは光り輝く。

 

///

 

撃ち抜かれるリーブラが爆発する。

眩い光に周囲は包まれ、ウイングゼロの姿はレーダーにも映らない。

地球圏統一連合とホワイトファングとの戦いを終えた他のガンダムのパイロットが固唾を呑んで見守る中で、閃光の中から1つの影が映る。

 

「来た!!」

 

そのシルエットはネオバード形態に変形するウイングゼロ。

 

「やったな、ヒイロ!!」

 

「ふんっ、当然だ」

 

「たいした男だ……」

 

「今、わかりました。宇宙の心は彼だったんですね」

 

「任務……完了……」




少し駆け足気味ではありますが以上で完結です。今まで見て頂きありがとうございます。
もっと早くに完結させるつもりだったのですが、半年以上も掛かってしまいました。
次回作は少し休憩させて下さい。
今まではロボットモノばかり書いて居ましたが、次はそうではないモノを書く予定です。


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