星崎 祈は勇者になる (小鴉丸)
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「鷲尾須美は勇者である」編
第一話 転校生


唐突に書きたくなって書きました。
「思いの力」より一時的にこっちで活動すると思います。
では第一話ですどうぞ。


「神樹館、ね」

 

僕は夜空を見ながら考える。

神樹、僕はその言葉に不思議な感覚を覚える。最近おかしな夢を見るようになったからだ。その夢は僕が樹に話しかけられるという不思議な夢だ。

 

「(……星崎祈…お前は勇者の素質がある。今この国には三人の勇者がいる。その時が来たら、そいつらと一緒に戦ってくれないか)」

 

事実、この国は神樹の力で守られてる。外の世界がウイルス……バーテックスという敵に滅ぼされてしまい、最後まで残ったこの四国に神たちが集まり力を一つにして一本の樹ができた。それが神樹だ。

 

「( 星崎祈、お前は他の勇者と違い特別だ。わずかながら神力を感じる)」

 

僕が夢で見ている樹は神樹そのものだと思う。バーテックス、勇者、神力などを教えてくれるから間違いないと思う。

 

「(明日から学校か。神樹館、三人の勇者馴染みやすいならいいけど)」

 

僕はそう思いながら眠りについた。

 

 

 

 

~翌日~

 

 

学校の準備はしていたから朝ごはんを食べ、歯を磨いて登校するだけのはずだった。だが一つだけ問題があった。

 

「あ、僕道わかんないや」

 

そう僕はこっちに引っ越してきて一日しかたってない、なら当然道は知らない。親に頼んでも仕事でいないし、誰かいないかな神樹館の生徒さん。

 

「あの、どうかしました?」

 

振り向くと神樹館の制服に身を包んだ少女が立っていた。

 

「あ、いや…(流石神樹館、お嬢さまみたいなのがいるな)」

 

一瞬戸惑ってしまった。こんな美少女に声掛けられて戸惑わない方がおかしい。

 

「神樹館に行きたいんだけど、こっちは来たばかりだから道がわかんなくて」

 

「それでしたら私と一緒に行きますか?」

 

「(心優しい人だな)お願いします」

 

学校へ向かう途中僕らは軽い自己紹介をした。この人は鷲尾須美さん、僕も名前は聞いたことはある。大赦という組織でそこそこ発言力がある鷲尾家の娘だろう、その点鷲尾さんは僕の名前を聞いたことが無いようだった。当然といえば当然だろう。なんせ僕は家系の関係でなく僕「星崎祈」として大赦に関係している。僕が大赦と関係していることは親すら知らない、大赦でも上の地位の人が僅か知ってるだけだ。要は裏で繋がっているという形になる。

 

「そう言えば祈くんは転校生なの?」

 

「ん、そうだね。六年一組が僕の教室みたい」

 

鷲尾さんは驚いた表情をしていた。

 

「そうなの?私も六年一組なのこれからよろしくね」

 

そういう話をしているといつの間にか学校に着いていた。後は職員室に行くだけだ、だが問題が起きる。そう、それは一人の女の子が鷲尾さんに挨拶をした後のことだった。

 

「鷲尾さんおはよう……っ!?」

 

「おはよう。どうかしたの?」

 

「と、隣の男の子だれ?」

 

「今日から転入する祈くんだよ。私たちと同じクラスなんだ」

 

「あ、ああ。転入生ねビックリしたー、鷲尾さんに恋人ができたと思ったから慌てちゃって」

 

「こ…恋人!?」

 

はぁ!?なんでそうなる!まだあって数時間しかたってない、それ以前にただいただけなのに!?

 

「鷲尾さんの恋人?見てみたい~」

 

「どんな子なの?」

 

女子の視線はいいほうだ、だが問題は……

 

「鷲尾さんに恋人!?許せん!」

 

「お前ら準備はいいな!」

 

「おう!まかせろ!」

 

待ってやばい主に男子。やっぱり会った時から思っていたが鷲尾さんは学校でランキング上位に入っていたか。身の危険を感じた僕はダッシュで校内に逃げこんだ。そのまま職員室に行く、職員室の場所を聞いていてよかった。いや、ほんと心の底からそう思う。

 

「ハァ…ハァ。ほ、星崎祈です。先生はいますか?」

 

息が切れてる。

 

「?なんで息が切れてるのですか?」

 

「いえ、走ってきたもので」

 

「(面白い子ねー)教室に案内するわ待っててね」

 

先生について行き六年一組の教室に着いた。そう言えば鷲尾さんもこのクラスだったな。と考えていると出席確認が終わったみたいだ。

 

「三ノ輪さんは今日も遅刻ね。昨日言っていた転入生を紹介します。入ってき……」

 

僕が入ろうとした瞬間何かが凄いスピードで教室に入っていった。その後教室から大きな笑い声が聞こえた。何だったんだろう?

 

「気を取直して、祈くん入ってきて」

 

僕は教室に入って黒板に名前を書いた。

 

「はい!星崎祈くんです。みんな仲良くしてくださいね」

 

先生がこちらに目を向ける。自己紹介をしてくださいという意味だろう。

 

「初めまして、星崎祈です。これからよろしくお願いします」

 

自己紹介が終わり先生が僕の席を教えた。僕の席はなんと鷲尾さんの隣だった。

 

「(嫌な予感がする……うん気のせいだろう、気のせい)」

 

席について鷲尾さんに声をかける。

 

「や、やぁ鷲尾さん。さっきぶり」

 

「っ!?」

 

鷲尾さんはビックリした表情で僕を見た。そしてすぐに目をそむける。

 

「わ、鷲尾さん?」

 

「~~~~!(言えない!少し祈くんを意識してたなんて!)」

 

顔が赤い、熱でもあるのかな?少し心配になってきた。それに周りからヒソヒソと…

 

「今日の鷲尾さん少し変じゃない?」

 

「やっぱり、あの転入生と…!?」

 

そんな声が聞こえる。いや、違うから本当に!そんなんじゃないから!

 

「鷲尾さんも何か言ってやってよ!」

 

とりあえず鷲尾さんに話を流す。それが間違いと知らずに…

 

「あ、うぁ……」

 

顔が赤くなっている、それもさっきよりもだ。しまったもしかして鷲尾さんこの手の話に弱いのか。なら少し強引だけどこれしか手はないな。

 

「ちょっと失礼」

 

「………ぇ?」

 

手を握って走り出した、鷲尾さんの手を握ってだ。屋上に行くと手を離す。

 

「ごめんなさい!これしか逃げる方法が思いつかなくて」

 

「い、いえ。私こそごめんなさい、誤解を広げてしまって…」

 

「いやいいよ(でも途中で抜けたけどいいかな)」

 

普通に考えれば誰か追いかけてくるだろう。でもうまく巻いたから誰もここには(ガチャ………)っ!?

 

「鷲尾さん~いる~?」

 

「おいおい乃木さん、ここには流石にいないだろ」

 

鷲尾さんの友達か?それに乃木?聞いたことが…。考えているとき鷲尾さんが立ち上がった。

 

「鷲尾さんどこ行くの?」

 

「あの二人友達なの、だから大丈夫よ」

 

二人のもとに行くと仲良さそうに三人で話している。鷲尾さんにこっち来ての仕草をされた。足を踏み出しその場へ行こうとした、その時。

 

ドーン!と大きな衝撃が周囲を包んだ。すべての時間が止まっていた。鳥は止まり、時計の針は動かず、風も吹いてない。僕はこの現象を神樹に聞いたことがある、そうか、これが……

 

「神樹の力による、大地の“樹海化”……」

 

そう僕が戦わないと行けない時が来た。自分の役目を果たすために。

 

 

 

 

 

 

 




相変わらずの文章力の無さですねすいません。
僕がこれを書いた理由は単純、タグにもある「銀生存」これをやりたいからです。
アニメ版「結城友奈は勇者である」みたいに次回予告をここでします。


次回予告

「来たんだ、お役目をする時が…」

「さっぱり分かんないね、全部木だよ」

「四人目の勇者!?」

「わぁ、すごいよ、ミノさん!」

「僕は、勇者じゃない…」

次回 勇者の力・神の力



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第二話 勇者の力・神の力

相変わらずのグダグダです。
それでは第二話です、どうぞ


時間が止まった。確か聞いた話ではこの状態のときは勇者以外は動けないようになる。今頃生徒や先生、町の人々はピクリとも動かないだろう。なぜか僕は動ける理由はおおよそ分かる、夢の中で神樹が言っていたこと『勇者でありながら神の力が使える』これの影響だ。勇者達はもう行っているだろう。

 

「(確か大橋に行けばいいんだったな)」

 

僕は屋上の柵から身を乗り出して大橋へ向かおうとした、そこで異変に気づいた。

 

「うーん、もはやどこがどこなのかさっぱり分かんないね、全部木だよ……。自宅も分からない。ねぇ、鷲尾さん、イネスどこかな」

 

「こんな時にイネスの心配をしなくても」

 

「でも、来たんだ、お役目をする時が……」

 

「私たち三人ならきっとやれるよ~」

 

鷲尾さんとその友達が動いている。ということは

 

「鷲尾さん達が勇者?」

 

「誰!?」

 

思わず声が出た。普通樹海化の中では勇者しか動けない、今勇者三人はここにいる。大赦も樹海化した状態で動ける者は勇者の他にいるなんて言っていないだろう。

 

「や、やぁ。鷲尾さん」

 

「え。い、祈くん!?」

 

やはり驚いている。当然だろう、勇者である以前に僕は男だ。

 

「あれ?転入生じゃん、なんで動けるの?」

 

鷲尾さんは少し考えて。

 

「もしかして……四人目の勇者!?」

 

「(そう来たか)僕は、勇者じゃない…と思う」

 

「じゃあ君はなに~」

 

警戒されている。どう答える、ここで本当のことを言うか?だけど……

 

「乃木さん、三ノ輪さん時間が無いわ。お役目を果たしましょう」

 

二人にそう言い僕に近づいてくる鷲尾さん。小声で

 

「(後でちゃんと教えてね)」

 

「(………ごめん、ありがとう)」

 

三ノ輪さんが携帯端末を取り出した。

 

「じゃ、そろそろ……!」

 

三人は一斉にアプリの変身アイコンをタッチした。それと同時にそれぞれの花が咲いた。

 

「いこう、大橋へ」

 

変身した三人娘は、数十メートルを一気に跳躍して、大橋を目指した。三人が見えなくなって僕はつぶやいた。

 

「どうしたんだ、神樹?」

 

屋上にいたはずの僕は夢で見ていた場所に立っていた。今は神樹の目の前にいる。

 

「初めましてだな。星崎祈」

 

「こちらこそ初めまして。神樹」

 

「内容に入る前に自分で気づいてないかもしれないが、今お前は神の力を使っている」

 

僕が神の力を使っているだと?どうやって使うのかも分からないのに。

 

「私の存在に気づくことができるのは勇者だけだ。だが、お前は勇者じゃない。勇者ではないなら同じ神だけが気づける」

 

なるほどそう言う事か、納得がいく。

 

「さて、本題に入ろう」

 

「まて、僕も言うことがある」

 

なんで勇者システムが僕の端末にないのか、僕は勇者なのか。そんな疑問があったから聞いた。すると神樹は

 

「まず勇者システムがない理由だが。お前は神力が使える。役目を果たすには十分すぎる力があると思わないのか?」

 

確かに、神の力が使えるのに勇者の力が欲しいなんてよくよく考えたら贅沢だよな。

 

「先に言うが、星崎祈。お前は勇者じゃなくどちらかというと神だ」

 

は?今、神樹は何と言った。頭の整理が追いつかない、誰だって「あなたは神です」と言われて冷静でいれるわけが無い。

 

「僕が神だって?何を根拠にそんなこと…」

 

「お前は勇者システムがない、なのに樹海化の中を自由に行動できる。それに神力が体から溢れている。自分でわかるだろう」

 

そうか、だから屋上の柵を飛び越えれると思ったのか。

 

「話が逸れたが、大赦にはお前のことを言っている。勇者もお前のことを知るだろう。だが、勇者として話を通している、自分が神の力を使えることは誰にも言うな。話がややこしくなるからな」

 

神としてそれはどうかとは思うが。

 

「それで、僕はどうやって戦えばいい?」

 

「仕方ないから勇者システムの劣化版を端末に追加しておく、変身はそれを使ってくれ。戦闘に関しては神力を使えば何とかなる」

 

「ある程度は理解した。後は戦いの中で慣れていくよ」

 

とりあえず勇者システム(劣化)を使った。使ったんだけど……

 

「何も変化がないんだけど…」

 

僕は制服のままだった。なんで?

 

「見た目のことは文句を言うな。少しだけだか加護をかけているから別にいいだろ」

 

それならいいか。神力を使えばどうにかなるらしいし。

 

「とりあえず役目を果たせ。大橋に転送させるから目をつぶれ、目を開けたら大橋にいるはずだ」

 

「分かった」

 

僕は目をつぶる。さっきとは違い人の声が聞こえる、多分鷲尾さんたちだろう。そして目を開けると……

 

「わぁ、すごいよ、ミノさん!」

 

「ミノさんって……やめてよ!それよりこいつ、意外とモロいよ、いける!」

 

灰色の髪の女の子、あれが三ノ輪銀だろう。もう一人は乃木園子。大赦の中でも発言力が高い方だ。

 

銀は踊るように斧を振るった。敵がスライスされていく。

 

「油断したら駄目、三ノ輪さん。それは―」

 

斬ったはずの敵…バーテックスの傷口が完全に再生していた。

 

鷲尾さんはすかさず、弓を構える。

 

「うわっと……まずい!」

 

三ノ輪さんが言い、鷲尾さんが矢を放とうとする。

 

僕はその時半ば無意識に体が動いていた。気付けば右手には剣があった。僕はその剣で……

 

「……はっ!!」

 

バーテックスに斬りかかる。敵は体勢を崩し攻撃が止まる。三人の勇者は誰が攻撃したのか分からないから戸惑っている、普通なら乃木さんと思うだろう。

 

「ありがとう!乃木さん!」

 

だが……

 

「私じゃないよ~ミノさん~」

 

「?じゃあ、鷲尾さん?」

 

「私でもないわ」

 

全員は混乱する。敵が急に体勢を崩す訳はない、自分たち以外の誰かが攻撃したからだろう。では、誰が攻撃したのか?混乱が大きくなる前に僕は顔を出す。

 

「無事?三ノ輪さん」

 

「「転入生(くん)!?」」

 

「祈くん!?」

 

当然驚いている。後で適当に誤魔化すか……

 

「乃木さん、三ノ輪さん。僕に合わせて」

 

敵は攻撃の準備に入ってる。それにすかさず。

 

「危なかった……ありがとう転校生。この、敵めえ……!!」

 

「えぇぇぇい!」

 

乃木さんと三ノ輪さんが左右から攻撃を仕掛ける。鷲尾さんの援護もある。それに……

 

「くらえっ!」

 

神の力で素早さを強化している僕は、僅かなすきを見つけてそこを叩いている。四人の勇者による怒涛のラッシュ。しかし敵は時間が経てば完全回復する。

 

「うわぁキリがないけど……負けない~!」

 

「こっちだって、まだまだできるんだから!でも本音を言うと、そろそろキツい!」

 

「その意気よ、二人とも。三ノ輪さん、本音は敵に言わないで!」

 

それでも少女達は、己の役目、ここは通さぬと、橋の中央で身構えた。すると敵は、くるりと進行ルートをかえて、そのまま引き返した。

 

「「「ヤッターー!」」」

 

三人ともすごく喜んでいる。自分のお役目を果たしたのだ、とても名誉なことをした。終わった今だからそれぞれ本音を言っている。

 

「(これで終了か。先に戻るか)」

 

僕は三人に気づかれないように学校に戻った。

 




終わらせ方は無理やりですがあまり気にしないでください。


次回予告

「わっしーどうしたの?」

「またか、神樹」

「一緒に行こうよ!」

「眠い……」

「お前はどうする?」

次回 勇者との関わり


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第三話 勇者との関わり

相変わらずのグダグダです。
それでは第三話です。


あの戦いから一日が過ぎた。僕は勇者となって大橋の戦闘に参加し三人の勇者とともに戦った。鷲尾須美、乃木園子、三ノ輪銀この三人が勇者だ。

 

「(でも、あの三人が勇者か……)」

 

勇者にも大赦にも僕のことは『勇者』として広がっているだろう。神樹がそんな風に言っていたから違いない、昨日は戦闘中だったから話を逸らして、学校は早退したから何もなかった。今日はそうもいかないだろう、僕について多く問われる。大赦の人達は適当に流した、問題は勇者三人だ。

 

「学校に行って考えるか」

 

着替えて家を出た、まではよかった。思わぬ事態が起きたから。

 

「あ!祈くん、おはよう!」

 

会ったのは鷲尾さんだった。そして来るなり……

 

「昨日のこと全部話してもらうわよ。そのっちと銀にもね」

 

やっぱりか。いやまぁ、想像はついていたけどさ。適当に話しながら学校に向かっていたら。

 

「おはよ~。わっしー、祈くん」

 

「そのっち、おはよう」

 

「おはよう。乃木さん」

 

乃木さんも昨日のことを聞いてきた。

 

「祈くん、昨日はどうしてあそこにいたのかな~?」

 

「えっと、いろいろとあって。三人揃ったらちゃんと言うよ」

 

ほかの事について話しながら学校に向かって三人で歩いていた。僕は正門前であることに気付いた。

 

「(まて、昨日もこんな感じで面倒なことが起きたな。)」

 

そう、昨日の鷲尾さんの彼氏と思われた事件だ。またそんなことがあったら、たまったもんじゃない。

 

「二人ともごめん!僕用事があるから先に行くね」

 

「わかったよ~」

 

「じゃ、教室で」

 

よし、うまくいった。後は教室で待っておくだけだ。教室に入り席に着く。

 

「お、祈じゃん」

 

「三ノ輪さん?」

 

誰だ?と考えたが聞いたことのある声だった。

 

「銀でいいよ。同級生なんだし」

 

「うん、おはよう銀」

 

「おはよう、祈」

 

挨拶を済まして。教室を見渡す銀。

 

「二人だけだね……」

 

「まだ朝早いからね。鷲尾さんと乃木さんがもうすぐ来ると思うよ」

 

「なんでわかるの?」

 

「なんでって、学校に一緒に来てたからね」

 

銀の表情が少しだけ変わった。嫌な予感がする、のは僕だけだろうか。

 

「ふーん。で、どっちが好きなの?須美と園子」

 

はぁ!?まさか女子に聞かれるとは。

 

「(これはどう答える!?昨日は鷲尾さんと話を逸らすことができたけど)」

 

僕は必死に考える、何とかならないか。

 

「(あ、一つだけあるじゃん)」

 

だかこの方法はある意味恥ずかしい。だけど……

 

「いーのーりー、誰にも言わないからさ」

 

よし、覚悟はある。

 

「……わかったよ」

 

銀は次の言葉に期待している。ま、期待を壊す形になるけど。

 

「僕は……」

 

銀の肩を掴む。

 

「!?」

 

銀が驚く。それと同時に……

 

…………ガラッ

 

「銀が、好きだ『祈くんいる?』」

 

一時的な沈黙。そして

 

「「えぇぇぇぇぇっ!!!!」」

 

「わっしーどうしたの?」

 

何も知らない乃木さんはとても落ち着いていた。

 

 

 

「本当にすいませんでした!」

 

僕は全力で銀に誤っていた。あの後いろいろあったんだ。

 

「い、いや。いいよ。いやー銀さんこんな事されたの初めてだから。あはは……」

 

僕もだか銀も顔が赤い。冗談でも簡単な告白だったから、いくらその場しのぎのためにとった行動がここまで間に受けるなんて、思ってもいなかった。

 

「祈くん、さっきの本気じゃないよね?」

 

鷲尾さんが怖い。感じがする。

 

「(本気じゃないにしても、よく見ると銀はすごく可愛いな。普通に見た目もいいし、元気だ。僕のタイプにストライ……あれ?)本気……じゃ、な、いと思う」

 

「なに!今の間は!」

 

「まぁまぁ須美。落ち着けって」

 

「そういう銀はどうなの!?祈くんのことをどう思っているの!?」

 

「わ、私は、祈のことを……」

 

「はーい皆さん。席についてください」

 

「(ナイスタイミング!先生!)」

 

こんな感じでこの話は一旦終了した。

 

 

 

そのあと学校中で話題になった。昼休みになって。

 

「眠い……」

 

「ごめんなさい、言い過ぎたわ」

 

「ごめんね~祈くん」

 

申し訳なさそうに謝る二人。

 

「ああ、僕はいいよ。でも……銀をどうにかして」

 

「…………………」

 

「おーい、ミノさん~」

 

「ダメだわ、気を失っている。銀、銀」

 

でも銀は反応しない。どうしたものかと考えていると。

 

「じゃあ祈くんが言えばいいんじゃないかな~」

 

園子が言った。最近は嫌な予感しかあたらないんだよな。僕は銀に声をかける。

 

「銀?話し合いをするから戻ってきて」

 

ゆさゆさと体を揺さぶる。

 

「……あ。祈」

 

「ふぅ、銀も戻ってきたし話すよ」

 

僕は答えられるものは答えた。あっちも自分のお役目のことを話してくれた。

 

「じゃあ祈くんも勇者でいいんだよね?」

 

「うん、だからお役目の時は一緒に行動するよ」

 

僕の役目のことは言っていない。神樹を守るためじゃないからね。そこまで話すと昼休みが終わった。

 

そして授業、帰りの会も終わり。教室を出ようとしたところに。

 

「い、祈くん!」

 

鷲尾さんが話しかけてきた。

 

「どうしたの?鷲尾さん」

 

「明日の予定あいているかしら?」

 

明日、土曜日か。何もないなすることないし。

 

「あいてるよ。でもどうしたの?」

 

「みんなでお出かけをしようと思って、そのっちと銀には言っているわ」

 

お出かけね。することなくて暇だしいっか。

 

「一緒に行こうよ!祈!」

 

銀が元気に言ってくる。さっきのこともあるし断るわけにはいかない。

 

「わかった。僕も行くよ。」

 

鷲尾さんは嬉しそうに。

 

「わかったわ。じゃ、また明日ね」

 

「じゃあね、鷲尾さん」

 

学校を出て歩いているとあの時の違和感を感じた。

 

「(気のせいか?いや、これは)」

 

僕はこれを一度だけ感じたことがある。

 

「またか、神樹」

 

気づくと神樹の前に立っていた。

 

「お前はどうする?大赦のために戦うか、勇者のために戦うか」

 

呼びだすなり何を、そんなんいきなり聞かれても困る。

 

「なんでそんなことを聞く?」

 

「それは………」

 

 




次の話に続きます。


次回予告

「祈くん、来たよ」

「楽しもうね~」

「両手に花、ね」

「ここは銀さんに任せなさい!」

「神樹!どういうことだ!?」

第四話 平和な日。それは……


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第四話 平和な日。それは……

急展開です。では、どうぞ。


「なんなんだよ。あいつ」

 

僕は少しイライラしていた、人を呼びだすなり変なこと聞いてきやがって。

 

『大赦のために戦うか、勇者のために戦うか』

 

どういう意味だ?勇者は大赦、神樹のために戦うということは知っている、だが考えると僕は何のために戦っている?勇者のために戦っている、いや勇者を守ることが僕の役目だ。でも何か裏がありそうな感じがする。

 

「寝よう。うん、考えてもわからん」

 

明日は三人とお出かけだ、こんなことを考えていては明日の楽しみが減る気がする。明日を楽しむためにまた今度考えよう。僕はそうして眠りについた。

 

 

 

~翌日~

 

なんか下が騒がしい。

 

「祈~、起きなさい。お友達が来てるわよ~」

 

母親が下で何か言っている。友達誰だろう?予想は付くけど。

 

下の階に行き扉に耳をあててなんの話をしているか聞いてみた。

 

「おい、須美。祈の部屋に入ってみようぜ」

 

「駄目よ銀。いくらなんでも失礼でしょ」

 

「そうだよ~ミノさん~」

 

「じゃあなんだ?興味無いのか?」

 

「う、興味無いと言ったら嘘になるけど……」

 

「私はどっちでもいいかな~」

 

母さんが話に入ってくる。

 

「あら、貴方達祈の部屋に興味あるの?」

 

「はい!」

 

「私は……」

 

「どっちでも~」

 

「祈の部屋はね~」

 

ちょっとめんどくなる前に扉を開け中に入る。

 

「母さん変なこと言わないでね。あと、みんなおはよう」

 

「あら、おはよう祈。変なこととは失礼ね」

 

「お!祈おはよう!」

 

「おはよう祈くん。お邪魔してるわ」

 

「祈くん~おはよう~」

 

やっぱり鷲尾さんたちだった。起きる時間が遅かったから迎えに来たのか?でもまだ七時だぞ、集合時間は九時半の筈なんだけど。

 

「鷲尾さん、なんでこんなにみんな早いの?てか、なんで僕の家にいるの?」

 

「う、それは……」

 

鷲尾さんは目をそらして……

 

「ぎ、銀!パス!」

 

「え!私か!?」

 

鷲尾さんが銀に話を振った。急なことだから銀は困っている。

 

「祈の家に来た理由だよな?」

 

「うん」

 

動揺している銀。そこに乃木さんが……

 

「わっしーとミノさんはね~、祈くんに早く会いたいからきたんだよ~」

 

「は?」

 

鷲尾さんと銀が顔を赤くして慌てて言う。

 

「そそそ、そのっち!?何言ってるの!」

 

「そうだぜ!園子!」

 

冗談だろ?そんなことあるはずが。

 

「青春ね~祈~」

 

母さんが朝ごはんを並べながら言う。

 

「う、うるさ……」

 

並べられたご飯を口に運ぼうとしたら。

 

「これから三人とデートでしょ?モテてるわね~」

 

「「「え!?」」」

 

「はぁ!?」

 

母さんがそんなことを言う。いつもマイペースな乃木さんでも慌てている。僕は箸から食べ物が落としてしまう。

 

「何言ってんの!そんな訳ないだろ!?」

 

「いや、祈が珍しく女の子を呼んだからそうなのかと」

 

 

 

 

その後の二時間は大変だった。母さんの質問攻めで全員やられていた、聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらい。でもそのおかげで全員を名前で呼ぶようになった。

 

「さっきのことは忘れて、今日はたのしもうね~」

 

園子が元気に言う。

 

「そういえばさどこに行くの?」

 

そう、僕は行き先を聞いていない。みんなは知っているっぽいけど。

 

「ここは銀さんに任せなさい!」

 

銀が手を挙げて言う。行き先はイネスという場所らしい。イネスに着く前に僕は母さんに言われた言葉を思い出した。

 

「両手に花状態ね。祈、楽しんできなさいよ」

 

「(両手に花、ね)」

 

「じゃあみんな今日は楽しもう!」

 

「「おおーー!!」」

 

銀が言った後に須美と園子が元気に言う。それに続いて僕も言おうとした。しかし……

 

――――ピタッ。

 

「(樹海化か……)」

 

時間が止まる。全部止まった。お役目の時間だろう。神力を発動して、勇者と連携して行こう、そう思い声をかける。

 

「須美たち、大橋に……!?」

 

何故か勇者である三人も止まっていた。異変だ。こんな事が起きるなんて、神樹に話をしようと思って僕は言葉を飛ばした。

 

「神樹!どういうことだ!?」

 

だけど神樹から返信はこない。だが……

 

「(花びら?)」

 

花びらが周りで散っていてた。それが僕を包んだ、そうして目をあけて見た光景は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(なんだ、バーテックスか?でも数が多すぎる)」

 

知らない場所だ。だけどバーテックスがいる、ということはここは樹海だろう。それに、おくに誰かいる。神力を使い宙に浮く。

 

「(神力を最大限に使ってみるか。ここなら人目を気にしなくていい、例え誰かにバレても僕のことは知らないだろう)」

 

剣を取り出す。そして頭の中に思い浮かんだ単語を口にする。

 

「――神装『天照』」

 

僕は光に包まれる。そこから現れたのは一言で表すなら『神』。全てを照らす光。天を照らす光。『天照大御神』。剣も強い光を宿している。

僕は白を基調とした神装を身にまとっている。神力が溢れているのが分かる、無限に力が湧いてくる。自分の力を試すために剣を振った。

 

「(衝撃波を飛ばすイメージで……)せいっ!」

 

横薙ぎに剣を振る。すると、光の衝撃波が敵を飲み込んでいく。

 

「おおぉ…………」

 

自分でもびっくりしている、まさか神力がここまで凄いとは思わなかったから。力を確認しおくに向かおうとした……そのときだった。

 

 

 

 

 

「君は誰?どうしてここにいるの?」

 

 

 

 

 

この声は……

 

「園子?どうしてここに、止まっていたはずじゃ……」

 

そう言い後ろを振り向く、そこにいたのは。

 

「え?そ、園子だよね?」

 

金髪、声、瞳、それに紫の槍。乃木園子だろう。

 

「なんで私の名前を…………!?」

 

園子は目を見開いて僕を見ている。体が震えてる中、震える口を動かして

 

「い、祈……くん………」

 

そう言うと槍の先端部分が僕を狙い飛んでくる。

 

「!?園子!どうし「い……ん……そ…して……」て?」

 

「祈くんこそどうして!!!」

 

「っ!?」

 

園子の声とともに槍の先端が分裂する。自由に飛び回り僕を狙う。

 

「あの時に約束したじゃん!『また、みんなで遊ぼう』って!なのに、どうして!?どうして死んだの!?」

 

死んだ?僕が?だが考えている暇はない。まずは園子を止めないと。

 

「園子。何か勘違いしているのかは知らないけど、僕は死んでいないし、死なない」

 

「…………………」

 

園子は黙り込んでいる。だけど武器を構え

 

「私は大赦の勇者、乃木園子。私は神樹様に最も近い人間……神として、星崎祈。あなたを排除します。昔を繰り返さないために」

 

園子から神力が出ている。それに応じ僕も剣を構え、言葉を発する。

 

「僕は神、星崎祈。邪魔をするものは神の力を振るい殲滅させる。例え、それが友達であっても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして「『半神』乃木園子」と「『神』星崎祈」の戦いが始まった。




テレビアニメのあの最終バトルのところです。祈が飛ばされた世界の祈は死んでいるという設定です。そこのところは活動報告にて書いておきます。


次回予告

「焼きつくせ!神光!」

「東郷さん!?」

「祈くん……」

「神樹。僕は……」

「まさか、未来の勇者と戦うことになるなんてね」

第五話 別未来の戦闘


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第五話 別未来の戦闘

第五話です。遅くなりすいません、ペースは早くしていくつもりです。

では、どうぞ。


「……とか言っちゃったんだけど」

 

本音を言えば戦う気なんてないんだよね。だって友達だし、園子って実際頭いいらしいし(須美談)それに周りのバーテックスが二つの意味で邪魔。一つは普通に鬱陶しい僕に来るのか園子に行くのかが分かんない。もう一つはバーテックスが目の前に来た時に……

 

……………ヒュッ

 

「うぉっ!?」

 

キィン!

 

慌てて剣で弾く。園子の槍が敵を倒してくれるのはいいんだけど、そのまま僕も狙ってくるんだよね。要はバーテックスが壁になって園子の攻撃が見えなくなる。

 

「(バーテックスを倒せばいいけど、数がな……)」

 

そう考えてる間にも園子の攻撃、バーテックスが襲ってくる。僕はそれを剣で弾く。

 

「………………」

 

園子は無言のまま槍を操っているだが敵に背後を取られ攻撃される。その直前にバリアのようなものが張られる。

 

「……っ」

 

体勢を立て直しバーテックスを攻撃。槍を操り僕を狙う。

 

「(バリア?どちらかというと結界か?神樹め面倒くさいシステムを作ったな。でもあれがある限り僕の攻撃は通じないのか、試してないけど)」

 

愚痴を言いつつも僕は園子に向かって空を駆ける。とりあえず普通に斬ることにした。間合いを一気に詰める、襲い来るものを全て避ける。園子の反撃を弾きそのまま斬りかかる。

 

「くらえっ!」

 

パチッ……

 

斬りかかるが見えない何かに拒まれる。そして近距離での打ち合い。

 

キィン!キィン!

 

「(神力を流して……)だあっ!!」

 

速度を上げて全部弾き返しもう一度攻撃。園子がバリアを先に張る。弾かれるはずの攻撃、だが

 

「らぁぁっ!」

 

「え………」

 

バリアを切り裂く、それに園子は驚いて距離を取る。そのあいだに策を考える。

 

「(神力は通るのか。なら、楽勝じゃん)」

 

周りの敵を一掃する。その為に神力を貯めて解き放つ。

 

「焼きつくせ!神光!」

 

神力の開放。神の光が敵を焼く、それとともに照らされていく樹海。園子は攻撃をよけるが槍は光に飲み込まれ消える。輝く樹海を僕は駆けて……

 

 

 

園子に剣を突きつける。

 

「諦めろ。園子」

 

「くっ………私は」

 

勝ちが決まった。そう思っていた、そこにどちらの声でもない声が響く。

 

「乃木さん!」

 

驚いて僕は横を向く、拳が目の前まで来ていた。それをギリギリでガードする。

 

「(なんだ!?)」

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

次は大剣。それを弾く、そして二刀流の赤の剣士。

 

「やぁぁっ!」

 

「ちっ!くそっ!」

 

一刀目をかわし二刀目を弾いた。だが……

 

「いつきぃぃぃ!!」

 

「!!!」

 

剣にワイヤーのようなのが絡みつく。

 

「乃木さん!下がって!」

 

園子が後退する。直前、ピンクの女の子が叫ぶ。

 

「東郷さん!」

 

遠くから光が飛んでくる。だが、それは僕に当たらず空に消えた。

 

「東郷さん!?」

 

それと同時に攻撃が止んだ。剣に絡みついたワイヤーを切り裂き後退する。そして敵を見回す。

 

「(五人か。ちょっときついかな……)」

 

相手は全員ボロボロの状態だ。だけど。

 

「先代勇者を守るのも勇者のやることっしょ!そうよね、樹、夏凜!」

 

「(こくっ!)」

 

「おう!」

 

三人はいつでも迎撃できるようにしている。もう一つはというと。

 

「東郷さん大丈夫?無理しなくてもいいんだよ?」

 

「友奈ちゃん……(あの男の子、私はどこかであっている?)」

 

あの砲台の子ってどことなく須美に似てるな。気のせいか、それよりどうやって抜け出そう……

 

「戦況は五対一……あんたに勝ち目はないわ!これでも戦いを挑むと言うのなら勇者が相手をするわ!」

 

眼帯の人が言う。確かにそうだ勝ち目はない。普通ならだ、だが神力を使えば抜けないこともないのではないか?一か八かで試してみるか。

 

「まさか、未来の勇者と戦うことになるなんてね。相手になるよ勇者達」

 

僕が剣を構えると相手も一斉に構える。ややこしいことになったと後悔しつつ僕は敵に近づこうとした、そのときだった。

 

「(花びら?もしかして……)」

 

来た時みたいに花びらが舞っていた。そして僕の体が消えていく。

 

「ごめんね勇者達。もともと戦う気なんて無かったんだよ」

 

相手は何がなんだかという表情だ。それと敵にだが別れの挨拶を言う。

 

「じゃあね未来の勇者。それと園子と須美みたいな人、銀にもよろしく言っててね」

 

言い終わったあとに園子が心配そうな表情で駆け寄って来る。

 

「祈くん……」

 

「園子、僕は死なないよ。だから安心して」

 

それを言うと同時に僕はその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと僕はイネスの前、あの別世界に行く前に戻っていた。

 

「須美、園子、銀………」

 

「?どうしたの祈くん?」

 

「あ、いや」

 

思わず声が出ていた。適当に誤魔化す。

 

「ああ、気にしないで。行こっか」

 

銀が近づいてくる。

 

「祈どうしたの?急にさ」

 

僕は黙って銀の手を握り歩く。

 

「い、祈!?」

 

 

なぜだろう銀がいなくなる気がした、銀は恥ずかしがりながら。

 

「祈、その……」

 

「いっときでいいこのままでいさせて」

 

「う、うん」

 

いつもと違う僕に銀は戸惑っていた。

 

 

 

 

 

決意は固まる。誰の為に戦うのか。僕は心の中で強く、強く思ったことを言う。

 

「(神樹。僕は……)」

 




次はイネスでのフラグ立てです。

次回予告

「ふぁ!?」

「そういうところだよ〜」

「なんで!手を繋いでるの!」

「ぼ、僕が悪いのか?」

「祈と私が……」

第六話 それぞれが心に秘める思い


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第六話 それぞれが心に秘める思い

遅くなりましたが第六話です。



〜祈side〜

 

 

「ふふっ、そのっちたら」

 

「何やってんの園子」

 

僕と須美はいまイネスのフードコートの椅子に座っている。銀と園子はいろんな場所を食べ歩いている。今園子たちはたこ焼きを食べている。

 

「ひ、ひのはん。あふい!あふいよ〜!(ミノさん。熱い!熱いよ〜!)」

 

「でも美味しいだろ?」

 

「うん〜」

 

あの二人を見ていたらなんだかお腹すいてきたな、僕もたこ焼き買いに行こっかな。

 

「須美もたこ焼き食べる?」

 

そう言って僕は席を立つ。

 

「あ、じゃあ私も……」

 

「須美の分も買ってくるよ、だから待ってて」

 

僕はたこ焼きが売ってある場所に行きたこ焼きを二つ頼む。

 

「いらっしゃい!何がいいか?」

 

「えと、たこ焼き二つお願いします」

 

「二つね、ちょっと待っとけよ」

 

男の人がたこ焼きを焼き始める。僕は他のメニューを見ていた。それと後ろを見ると銀と園子が須美と何かを話している、すると突然男の人が。

 

「お、そうだ坊や」

 

「何ですか?」

 

皿にたこ焼きを乗せながら言う。

 

「彼女は大切にしろよ?人生の先輩からのアドバイスだぜ。ほい!たこ焼き二つ上がり!」

 

「かっ、か!?」

 

何だろう最近そんなことばっかり周りから言われてる気が……

 

「ほら、早く行け王子。姫がお待ちだぜ?」

 

「たこ焼きありがとうございます。あと、須美は彼女ではなく友達ですから!」

 

そう言って僕は早足で席に戻る。最後に男の人が笑いながら

 

「ハッハッハ、青春だね〜少年」

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

「そのっち?なんでそんなことを聞くの?」

 

私は今とても困ってる。そのっちが突然変なことを聞いてきたのだ。その内容は……

 

「わっしーは祈くんのことをどう思ってるのかな〜って」

 

祈くんをどう思っているのか、だった。なぜか銀が少し慌てている。

 

「す、すす須美?どう思ってるんだ?」

 

「どう、って分からないわ。一緒にいると楽しいとは思うけど」

 

自分でどう思ってるのかが分からない。だけど少しだけ好意があるのは実感している。これはイネスに入る前の出来事だが。銀と祈くんが手を繋いでるのを見て。

 

「なんで!手を繋いでるの!」

 

「え、いやこれは祈が……」

 

なんてやりとりがあったのだ。嫉妬かな、まぁこれはとりあえず置いておいて。

 

今度は二人に聞き返してみる。

 

「逆に聞くわ。二人は祈くんをどう思ってるの?」

 

銀が先に答える。

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

「逆に聞くわ。二人は祈くんのことをどう思ってるの?」

 

須美が聞き返してきた。私はなぜかすぐに答えが出た。

 

「私は……少しだけど、祈を意識してるんだと思う」

 

「「え?」」

 

須美と園子がキョトンとしている。

 

「さっき手を繋いで感じたんだけど少しドキッとしたんだ」

 

「それって〜ミノさん、祈くんが好きなの〜?」

 

「ふぁ!?」

 

そこに祈がたこ焼きを二つ持ってくる。

 

「三人とも何してるの……」

 

 

 

 

〜園子side〜

 

 

祈くんがたこ焼きを持ってきて聞いてきた。

 

「今ね〜ミノさんが祈くんのことが好きって言ったんだよ〜」

 

祈くんは頭を抱えて。

 

「はぁ、またその話か……さっき男の人と話してたんだよ、須美と僕が恋人に見えるって。はい、たこ焼き」

 

「こ、恋人!?」

 

わっしーが顔を赤くする。ミノさんは

 

「園子!なんで言うんだよ!?」

 

「でも私は祈くんとミノさんはお似合いだと思うけどな〜」

 

冗談で言ったつもりだったんだけど。

 

「祈と私が……」

 

あ〜、また前みたいになっちゃった。

 

「あまり話をややこしくしないでよ……」

 

祈くんが疲れきったように言う。祈くんも前と同じようにミノさんに話しかける。

 

「銀、おーい」

 

ゆさゆさと体を動かす。なんでだろうミノさんが少し羨ましい、私も本当は祈くんを意識してる。

 

「でもなんでこうなったんだ?」

 

ミノさんを揺らしながら呟いた。

 

「祈くんの優しさ、そういうところだよ〜」

 

祈くんは少し困ったように返答した。

 

「え?ぼ、僕が悪いのか?」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

なぜか今日は疲れることがいっぱいある。朝みんなが家に来て、未来の勇者、園子と出会い、こっちに帰ってきたらこんなことになる。もう何も起きないで欲しい。心から思っていた……………が。

 

「もう今日は疲れた……ん?」

 

突如起こった異変に四人は同時に気付いた。

 

「これ……時間止まってるよね〜?私の感覚がいきなり鋭くなったわけじゃないよね〜」

 

「ええ。それはないわね。敵よそのっち」

 

「おいでなすったァ!休日台無し!」

 

四国は、あっというまに樹海へと姿を変えていった。僕は未来での戦いもあって結構体が重い。

 

「はぁ……また戦うのか……」

 

園子が僕の独り言に気付いた。

 

「また?」

 

「ああ、大したことじゃないから気にしないで」

 

「(ま、園子と戦うよりは楽かな。バーテックスなんて)」

 

そんなことを思いながら僕は大橋へと向かった。

 

 

 

 

大橋につき真ん中で陣を取っていた。すると、ひとつの物体が姿を現した。

 

「何だあれ……天秤?」

 

「天秤が……空に浮いてるね〜」

 

20メートルはあるだろう敵が、ゆらゆらと前進してくる。

 

「全く、どういう生き物なんだか。ウィルスの中で生まれただけで、あんな形になるもんかね」

 

二丁斧を構え、銀が攻撃体制をとる。

 

「なるんじゃない?ウィルスだし」

 

剣を構えて僕が言う。

 

「訓練通りに動くわ。分かってるわね銀」

 

勇者は訓練を受けるらしい。それは突出するな、という須美からの警告だった。

 

「そうだった。つい敵を見ると突撃したくなる。須美よろしく。」

 

熱くなる銀の性格は、頼もしくもあり、危なっかしくもあった。その後に僕も言われた。

 

「銀と同じく、祈くんも気をつけてね?訓練してないから無茶はしないで」

 

「分かった。気をつけるよ」

 

 

 

「そもそもどこが顔なんだろう〜」

 

園子は敵のフォルムをじっくりと観察している。

 

「私が仕掛ける!」

 

遠距離攻撃のできる須美が攻撃をした。何本の矢を敵にめがけて放つ。しかし

 

天秤の分胴部分に吸い寄せられ、矢が刺さっても敵は全くの無事であった。

 

「!もう一度……射かける!!」

 

だがそれも先程と同じようになってしまう。それに須美は悔しがりぐっ、と唇を噛む。

 

「(何故だ、なぜ相手は攻撃してこない?)」

 

僕は警戒を解くことなく相手を見ていた。

 

「ミノさん、祈くん、あの敵、体と体がつながってる部分が、細くてもろいかも〜……!」

 

「接続部分を狙って攻撃ね、了解!」

 

敵の左右から呼吸をあわせて銀と園子が攻撃を仕掛ける。その瞬間、敵が動いた気がした。

 

「?待て!園子!銀!」

 

僕の声を発した、だが遅かった。天秤は分胴を振り回すように、大回転をはじめた。

 

「………くっ!?近づけない」

 

竜巻のような防御に銀と園子が弾き飛ばされる。回転を利用して先程吸い寄せた矢を、お返しとばかりに、僕と須美の方に射出していた。

 

「矢をそんな風に返すなんて!」

 

須美が素早く体をひねる。

 

「ちっ!」

 

僕は剣でそれを弾く。避ける方がいいのだかそれだと。

 

「樹海が……!私の矢で……!」

 

そう。樹海がダメージを受けると、樹海が戻った時に、街に何かしらの形で災が降りかかる。敵は、前進を続けてくる。

 

「このっ……不気味なんだよお前は!!」

 

銀が攻撃を仕掛けるが、やはり回転で弾かれる。それを見ていて。

 

「(竜巻……そうか!)」

 

僕はとある事を思い出してそれを攻撃に活かそうと走る。

 

「祈くん!?」

 

「あいつ!何してんだよ!」

 

敵が回転をはじめる。それと同時に高く、敵より高く跳躍する。園子が僕のしようとしていることに気づく。

 

「そっか!台風の目!」

 

僕のすることそれは台風の目を利用する攻撃。周囲が強くても真上には風があまり吹いていない。でもそれは。

 

「でも竜巻な飛び込むようなものだから、相当危ないわけで……」

 

「だけど、もう祈は……」

 

僕は既に竜巻の中に入っている。中に入れば外からは何も見えない、だから神力が使える。剣に光が集まる。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

僕は敵を切る。すると切った場所を中心に無数の光の斬撃が発生する。光は敵を切り刻む、だけど僕も竜巻の風で傷を負う。

 

「(長い時間この場にいたら僕の方が持たない……動きを止める!)」

 

剣を構え直し敵の方を向く。

 

「止まれぇぇぇぇ!!!!」

 

剣を敵の頭上に突き刺す。大きな斬撃音が鳴り敵の動きが止まった。

 

「みんな!今だ!!!」

 

 

 

 

~須美side~

 

 

「みんな!今だ!!!」

 

祈くんが叫ぶ。

 

「だけど!」

 

「僕のことはいいから!……っ!?」

 

祈くんの顔がゆがむ。それもそうだ風の影響で体中を切り裂かれている、そこから血が出ていてとても動けれる状態じゃない。

 

「須美!園子!行くぞ!!」

 

銀とそのっちが先に走り出して相手の間合いに入りこんだ。

 

「(しまった、タイミングが遅れた!)」

 

須美も一瞬遅れて、相手の間合いに入りこむ。

 

「この距離なら、吸い取れないはず……!」

 

須美は接射、銀とそのっちは敵にまとわりついて、回転を許すことなく、少女達はラッシュを続けた。

 

 

しばらくすると、敵は進路を変え橋を戻りはじめる。数分後に少女達に追い立てられるように橋から撤退していった。

 

「はぁ……はぁ……勝った、の?」

 

戦いが終わったと感じた少女達は大橋で横になった。




夏休みが終って宿泊研修も終わり創作時間が増えると思うので、これからは更新ペースを早くしていきます。これからも応援よろしくお願いします。

次回予告

「……天秤の頭に刺さったままなんだけど」

「合宿?僕も?」

「時間が無いぞ、急げ星崎祈」

「大丈夫だから、ね」

「好きな人の言い合いっこをしよう!」

第七話 合宿


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第七話 合宿

〜祈side~

 

 

戦いが終わったのを見て僕は横になっているみんなの所に歩く。

 

「みんな大丈夫?」

 

「私達のことより自分の心配をしなよ~」

 

「僕は…平気だからさ」

 

「嘘は言うなよ祈、竜巻の中に入ったんだからそんなはず……」

 

銀が僕の方を見る。

 

「(あ、嫌な予感)」

 

「あれ?傷が治ってる?」

 

「祈くんは魔法でも使えるの~?」

 

やはり不自然に思われるか、適当にこの話が来たら流そうと考えていたけど。でも魔法と思われても仕方が無い、竜巻に突っ込んで体中を風の刃に切り裂かれたのだ普通ならこんな短時間で回復するはずは無い。勇者でさえ回復能力が強化されているがここまで早く回復はしない、僕はみんなが敵に攻撃している時に神力で治癒能力を高めたのだ。

 

「(でもここで言うとめんどくさいことになりそうなんだよな)えっと……奇跡が起こったんじゃないかな?」

 

我ながら酷い話の流し方と思った。

それからは樹海化が解除されるまで全員で横になっていた。

 

 

 

それと須美が何か言いたげだったけど何だったんだろう?

 

 

 

 

~須美side~

 

 

「はぁ………」

 

その戦いから祈くんは二日間学校を休んだ。きっと戦いで負った傷のせいだろうと私は思っている。 担任の先生は「家庭の事情で祈くんは何日か休むことになりました」と言っているが本当の理由は違うと思う。先生は大赦の関係者だ、大赦側が祈くんに直接何か言ったから休んだのだろう。そこまで考えていたらそのっちと銀が私の席に来た。

 

「わっしー?今日も行ってみる?」

 

「いいえ、これ以上行っても親の迷惑になると思うから祈くんが来るのを待つことにするわ」

 

「そうだな、祈のお母さんも何か言いずらそうだったし」

 

祈くん……大丈夫かな?

 

 

 

 

~祈side~

 

 

正直めんどくさい、と思っている。表側で大赦とはあまり関わりたくなかったんだが……。

でもしょうがないか、この前の戦いで大赦の人になぜか僕のことを知られてしまったから大赦の人が家に来て「大赦まで来てくれ」と言うことがあった。母さんはもう既に僕が勇者ということも知っていて、三好春信という人が大赦から派遣されて僕の家まで迎えに来た。

今は春信さんの車に乗って大赦に向かっている。

 

「……星崎祈だったな」

 

「はい」

 

「お前が個人で大赦に絡んでいたことは知っている、何をしていたかを教えてくれないか」

 

もう隠しても意味無いか。

 

「神樹と話していました」

 

「神樹様と?」

 

「はい、大したことは話してませんけど」

 

そう言うと春信さんは少し考え。

 

「星崎くんは勇者であり巫女の力もあるんだね」

 

巫女って何だ。いや分かるけど多分僕が思っているのとは違うのだろう。

 

「巫女ってなんですか?」

 

「巫女とは神樹様のお告げが聞ける人のことを言うんだ」

 

お告げか、僕は直接話してるから違うんだろうけどな。そこまで話すと車が鳥居の近くに止まった。

 

「っと着いたよ」

 

「ありがとうございます」

 

僕と春信さんは車から降りて大赦の階段を上り、そして大赦の中に入りとある扉の前で止まった。

 

「ここからは星崎くんだけで入ってくれないか?」

 

「いいですけど。何かあるんですか?」

 

神関連だろう、扉越しでも神力が分かる。

 

「私達でも分からない。ただ上の人に星崎くんを入れろとしか言われてないから」

 

神樹がどうせ何か施してるんだろう。

 

「分かりました、では行ってきます」

 

「私はここで待っておくよ」

 

扉を開けて中に入ると少し広い場所になっていた。そこには七つの武器が置いてある。

 

「武器?」

 

武器は刀、手甲、鎌、旋刃盤、クロスボウ、薙刀そして一番奥に置いてある刀。僕は一番奥の刀に近寄った。

 

「(これが神力を発しているのか?)」

 

その刀を手に取った途端に周りが白くなる。

 

「これは……」

 

何度も経験している、この現象を起こすのは神樹だ。

 

「何度も悪いな」

 

「いや、もう馴れた。で何だ?」

 

「前の戦いの話なんだが」

 

あまり話したくないんだよな、例えば……

 

「言いづらいが、お前の剣についてなんだが……」

 

「……天秤の頭に刺さったままなんだけど」

 

「………………………」

 

「………………………」

 

これはとても触れてほしくないことだった。敵の回転を止めるのに精一杯だったからその後に突き刺さった剣を取るのを忘れていて今は武器がない状態にある。

 

「お前に武器を与える。だからもう一度戦ってくれるか?」

 

神樹が言うと目の前に剣が現れた。

 

「(この剣が僕の新しい武器……)」

 

懐かしい、と言うとおかしいがそんな感じがして仕方が無い。

 

「その刀は神刀『星樹』お前の力を最大限に引き出してくれる」

 

僕はその剣を掴みとる。

 

 

 

 

 

………………!

 

 

 

 

 

「!?」

 

何かが記憶を横切る、思い出すために意識を研ぎ澄ます。

 

 

 

 

 

『若葉…ゃ…、祈く…、手を伸ば……くだ…い!…こにあ……ず…す!』

 

『刀?』

 

 

 

 

 

「『若葉』?……若葉……………」

 

「星崎祈どうしてそれを………」

 

誰だっけ?とても大切な、忘れてはいけない、何かが……

 

「若葉……乃木……。……乃木……若葉……『乃木若葉』?」

 

「………………………」

 

そうか、七つの武器。あれは勇者の……

 

「僕はあの時……」

 

思い出した。この武器の懐かしいという感覚これは僕の武器だったんだ。

 

「そうだ、だが今を見ろ。私の用は武器を渡すだけだからな」

 

目の前は元の光景に戻っていた。それから僕は春信さんがのところまで行き自分の家に帰った。

 

 

 

 

〜神樹side〜

 

 

誰もいない樹海で神樹は祈に声を飛ばした。

 

「(時間が無いぞ、急げ星崎祈)」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

久々の学校だけど特に何も言われることなく放課後を迎えた。教室にそのまま残って欲しいと須美に言われ、いまは教室にいる。

 

「何かしたっけ、僕」

 

思い当たることもないしな。

 

「……祈くん」

 

「話って何、須美」

 

「前の戦いでなんだけど謝っておきたくて」

 

謝る?須美が僕に謝ることなんてないのに。

 

「祈くん、前の戦いで怪我したじゃない?」

 

ああ、それのことか。

 

「そこまで大した傷じゃなかったからいいよ。それにもう治ったから」

 

「でもあの時私、心配で……動けなくなって……祈くんに何かあったら……」

 

須美の目からは涙が流れていた。

 

「(そうか、樹海を傷つけ僕が危険な目にあったから)」

 

須美は抱え込みやすい性格だ。今回のことを抱え込んでいるのだろう。

 

「……ごめん、ごめんね……。私のせいで……」

 

「須美………それでも無事だったんだから、大丈夫だから、ね?」

 

「うん……うん……。ありがとう……祈くん」

 

須美は泣いている、鷲尾須美は勇者だ。だがそれと同時に一人の少女でもある。自分の役目は……みんなに託された思いは……。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

「合宿、ですか?」

 

「そ、今度の三連休、大赦が運営している旅館で合宿してもらいます」

 

先生から勇者四人が空き教室に呼ばれ隊長の任命と合宿のことについて話があった。隊長はそのっちになった、家柄のこともありだろう。

 

「効率的に鍛えれますね、助かります」

 

「合宿……うわぁ、お泊まり会だ〜やった!」

 

「そりゃ楽しみだ、いよいよ夏だし。なんだかワクワクしてきた!」

 

「合宿?僕も?」

 

「はい、星崎くんも勇者ですから一緒に合宿をしてもらいます」

 

「うーん。ま、いっか」

 

須美と三人の温度差を、担任教師はある意味、頼もしく感じた。

少女達が真面目すぎても、お役目の重さに潰される。そういう意味では、鷲尾は苦労するだろうが、いいチームであると。

 

 

――そして、勇者達の合宿が始まった。

 

 

 

少女たちは、道場でみっちりと鍛錬を重ねる。基礎体力から技の型まで、全てその道の達人が指導にあたっていた。

祈くんは私達とは違う場所での鍛錬をしている。

少女たちの自由時間は、夜の鍛錬後、入浴時間からである。

ここから就寝までは、自由に過ごせる。朝は五時起床なので、夜更しは出来ないが。

三人は、温泉にゆっくりとつかっていた。

 

「バランスのとれた食事。激しい鍛錬。そしてしっかりと睡眠。勇者というか体育会系の合宿と全く同じだわコレ……なんかこう、超必殺技をバーンと授けるようなイベントはないのかね?須美」

 

「基礎はとにかく重要だから仕方無いわ銀」

 

「なんだか私、少し筋肉ついてきたかも〜」

 

「やれやれ強くなるのはいいが、これから成長する女の子がこなすには、イロンな意味で厳しいメニューだ。悲しー」

 

「銀、文句が多いわよ」

 

「そりゃ既に色々成長している鷲尾さん家の須美さんは余裕があるでしょうよ」

 

「成長……?」

 

「その胸、クラスで一番大きいんじゃない」

 

「銀!!!!」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「あ〜、汗を流すのに温泉とは大赦もいいことするな〜」

 

僕は須美たちとは別に鍛錬をしていた。鍛錬といっても昔の戦い方を思い出すために、適当に理由を作り一人で鍛錬をしたいと言い許可を貰った。

今はそれが終わり温泉につかっている。

 

「それにしても……」

 

僕は竹で作られた仕切りを見る。

 

「(向こうは須美たちが入ってるんだったな。でも、なんでこんなに騒がしいんだ?)」

 

須美に限って風呂で騒ぐことは無いと思っていたのだが。

 

『その胸、クラスで一番大きいんじゃない』

 

『銀!!!!ひゃっ!?』

 

『それに柔らかい』

 

『ぎ、銀!やめ…て…』

 

「!?」

 

なんの話してんだよ!少し聞き耳を立ててみる。べ、別に興味があるわけじゃないし!

 

『事実を言ったまでだね!むしろ大きいくせに照れてるとか贅沢言うなー!』

 

『まさか反対に起こるとは……』

 

『こんにゃろ!』

 

バシャ!

 

『な、なんて行儀が悪い……』

 

『そんな行儀なんて知るか!それそれ!』

 

『子供のいたずらだわ……耐えるのよ須美』

 

『あぁ、子供だからな、続けるよ。ほれほれ』

 

バシャバシャ!

 

『くっ!このっ!もう我慢できない』

 

『沸点ひくいなー須美』

 

『うるさい、えいっ!』

 

バシャ!

 

『ぶわっ、へへ、お行儀悪いんだ』

 

『ねぇねぇ。 わっしー、ミノさん』

 

『お、どうした園子?』

 

『今の会話、反対側に聞こえてるかもよ〜。ね〜祈くん〜』

 

『〜〜〜!?!?』

 

素直に言うか、隠しても無駄だろうし。

 

「 ごめん聞こえてた」

 

 

『い、祈くんの……』

 

『お、おい須美何してんだ』

 

え、何。何かされるの。

 

『バカーーー!!!』

 

バシャ!!!!

 

「お湯!?」

 

仕切り越しにお湯をかけてきた。でもこれは僕が悪いのか?

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

温泉から上がり私たちは部屋に布団を敷いて寝ようとしていた。だが……

 

「お前ら、簡単に寝られると思ってる?」

 

「私はいついかなる時でもすぐ寝られるよ〜」

 

「明日も早いのよ銀、ほら目を閉じなさい」

「いやだ」

 

須美がいつもの優等生意見を出したが、私は速攻で拒否した。

須美が立ち上がる。それを私は女子なら誰でも興味を持つ話で妨害する。

 

「まぁ待て須美、話がある」

 

「何なの?」

 

ふっふっふ、この流れは私の勝ちだな。

 

「好きな人の言い合いっこしよう!」




次回予告

「だ……誰?クラスの人?」

「え、ええと出撃〜」

「繰り返さない、だから……」

「燃えるような戦い、か……ハァ……」

「戦い方は覚えてる」

第八話 本当の力


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第八話 本当の力

〜須美side〜

 

 

「好きな人の言い合いっこしよう!」

 

その銀の意外な一言で、闘志は消え去った。

 

「銀、好きな人って……」

 

「も・ち・ろ・ん。お父さんとか身内で濁した奴は、勇者の称号剥奪な!」

 

「そ、そういう銀はどうなの?」

 

予想はついてるけど……

 

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

お、一番は私か。

 

「ミノさんの好きな人〜?気になるな〜」

 

「自分からこの話を持ち出したんだから『いない』なんてことは無いわよね」

 

「いや、いるさ。好きな人くらい」

 

園子は期待に目を輝かせている。珍しく須美も話に食いついてきた。

 

「だ…誰クラスの人?」

 

「お、おう……」

 

自分から持ち出したはずなのに段々と恥ずかしくなってきたな。

 

「え〜、ますます気になるな〜」

 

「銀、誰なのよ」

 

うう、須美が強気になってきてる。これは早めに言ったほうが楽になるかな。

 

「い、言うからな……」

 

「わくわく〜」

 

段々体が熱くなってきた気がする。あ〜、ここまで来たんだ言うさ!

 

「私が好きな人は……………祈だ!」

 

よし!言った、言ったぞ!二人の反応は?

 

「「……………………」」

 

あれ、固まっている?

 

「お、おい。須美、園子?どうしたんだよ」

 

「……………………ぇ」

 

「え?」

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」」

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

「そんな!銀も祈くんが好きだったなんて!」

 

私は思わず声を出してしまった。

 

「銀『も』?」

 

「ほー、へー、やっぱり須美は祈のことが……」

 

「ええ!私も好きよ!」

 

胸を張って言う。これで後はそのっちだけとなったが、私や銀はそのっちが誰の名前を出すか何となくだが分かる。

 

「これで後は園子だけだな」

 

「そのっちは誰が好きなの?」

 

 

 

 

~園子side〜

 

 

「ん〜とね〜」

 

二人とも祈くんか〜、いなかったらわっしーとミノさんって言おうと思ってたけどな〜。

 

「私も祈くんだよ〜」

 

「「はぁ………」」

 

二人はやっぱりと言わんばかりにため息をついた。

 

「全員祈くんが好きだね〜」

 

「そうね」

 

「そうだな」

 

う〜ん、祈くんモテてるな〜。

 

「でも二人には負けないよ〜!」

 

「わ、私も負けないわ!」

 

「勇者は恋も全力!やっぱり女子はこんなふうに燃えるような……」

 

その時、三人は、時間の停止を体感した。

 

「燃えるような戦い、か……ハァ……。盛り上がってたのにバーテックスとか勘弁してよ」

 

「気持ちはわかるけどぼやかないの。隊長、号令を」

 

「え、ええと出撃〜」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

温泉から上がり浴衣に着替えて部屋の外に僕は座っていた。星樹を手に持ち空を眺めている。夜だからか周りの音がよく聞こえる。みんなが部屋で何か言っているが外にいて詳しくは分からない、だが盛り上がっていることは確かだ。

今はこの時間を大切にしてほしい。

 

「え、ええと出撃〜」

 

勇者の姿になって園子たちが橋に向かって飛んでいる。敵が来たんだ。気がついたら樹海化が始まっていた。

 

「繰り返さない、だから……」

 

僕は勇者システムを起動する。本来の力を取り戻したからか勇者の姿に変化していた、神装のように白を基調とした姿だ。

みんなの後を追うように僕は橋に向かった。

 

 

 

 

〜園子side〜

 

 

大橋に私たちは武器を構えて敵を待っていた。

 

「来たっ、おぉ今度はなんかビジュアル系なルックスしているね」

 

「と、尖っていて強そう~」

 

「矢で攻撃してみるわ」

 

わっしーが弓を引き絞る。それと同時にバーテックスは橋にずしん、とその巨体をおろした。

四本の牙のような部分が橋に思いきりめりこんでいる。

 

「今回こそ……!!」

 

わっしーが気合いを込めて矢を放つ。竜巻のような螺旋力を纏い、標的に向かって飛んでいく矢。

バーテックスは、小刻みに振動をはじめて。

それと同時に大橋が、樹海が、世界が、グラグラと大きく揺れる。

 

「地震、あいつが起こしているのか!?」

 

「そうみたいだね」

 

ぎいん、と鈍い音がする。

 

須美の矢は、その振動ではじかれてしまった。

 

「う、また通じないというの……?」

 

ああ、わっしーが落ち込んでる。

 

「落ち込んでる暇はないよ、わっしー!この地震を止めないと!敵に近づくよ〜!」

 

「え、ええ」

 

バーテックスは橋から牙を抜き、空に急上昇をはじめていく。

 

「なんだ?地震は止まったけど……このまま逃げる気か!?降りてこいコラァー!」

 

「わっしー、ミノさん!警戒して!」

 

月の光を受けて敵の体が鈍く光る。

 

 

「!ミノさん、敵が何か仕掛けてくるよ!斧で防御して防御〜!!」

 

「えっ……んなっ!」

 

バーテックスは上空から、雨を降らした。正確には雨と形容できるほどの光弾。

 

「避けたら橋も樹海もやばい!上っ等!!野球は結構好きなのよね!!」

 

ミノさんが二つの斧で光弾を上空に弾き返す。

 

「敵を撃ち落とすぐらいはしなければ……!」

 

「わっしー?」

 

わっしーが何かに気づいたみたいだ。

 

「銀、大きいのがくるわよ!」

 

わっしーが叫んだと同時にレーザーじみた攻撃が銀にめがけて撃ち込まれた。

ミノさんは二つの斧をあわせて盾として光線を受け止めようとした。

だがそこに何かが割り込んできた。

 

「………………」

 

白い服に身を包み、刀持った祈くんだった。

 

「祈!?」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

大橋についてまず目に入ったのは光弾が降り注いでる光景だった。

僕は次の攻撃手段に移行しているのに気づいてすぐに銀の場所へ走る。

 

「銀、大きいのがくるわよ!」

 

「(間に合うか?)」

 

銀が斧を盾にしようとしている攻撃はレーザーだった。僕は銀とそのレーザーのあいだに割り込んで力を発動する。

刀は左手に持ち右手を前に突き出して叫ぶ。

僕が降ろす神は……。

 

「『八咫鏡』!攻撃を反射しろ!」

 

僕の前に大きな鏡が現れた。レーザーは鏡に反射され発射したバーテックスに当たった。

僕が降ろした神は『石凝姥命』。三種の神器の一つ『八咫鏡』を作った神だ。

 

「銀、大丈夫?」

 

「あ、ああ」

 

銀は何が起きたのか分からないという顔で僕を見ている。それは他の二人も同じだ。

 

「攻撃をするなら今かな」

 

「祈くん!ミノさん!」

 

園子?どうしたんだろう。

 

「攻撃するなら狙うのは胴体じゃなくて……」

 

園子が指をさす、胴体ではなく――。

 

「園子さん見かけによらず凄いこと考えますね」

 

銀が驚いている。これには僕も銀と同じだ。

まだ体勢を立て直してないバーテックスに須美の弓が放たれる。狙うのは発射口。

 

「任せて〜!」

 

「よっしゃ!行くぞー!」

 

園子と銀は勢いよくバーテックスに突撃する。

僕は刀を鞘から抜き出す。久しぶりの感覚だ。

 

「……戦い方は覚えてる」

 

僕も二人に続いた。

 

「ここから、皆の場所から出ていけ〜!!」

 

四人の一斉攻撃を受けて空から下に落ちてゆく。

気がつけば、壁の近くまでバーテックスを押し戻している。

バーテックスは壁の外へ逃げた。

 

「……いったかな〜?」

 

「みたいだな」

 

「も、戻ってこないよね〜?」

 

「少し待ってみよっか」

 

壁の前で敵がきてもいいように構える。

 

「戻ってくるなら……射ぬく!」

 

その気迫に押されてか、敵が戻ってくる事は無かった――。

 

 

樹海化は解除され僕達は大橋が見える公園にいた。

僕はみんなから少し離れる。

 

「(みんなを守る。誰一人死なせない為に……。それが僕の、みんなの……)」

 

空を見ると星が光ってる。

そう、星は無数にある……




次回予告

「か、可愛い可愛い言うな〜!!」

「あ〜楽しかったね〜」

「え?銀なの?」

「守るから」

「だんだこの光景も見慣れてきたなぁ」

「またね」

「ミノさん……!!」

「――神装」

第九話 願い


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第九話 願い

今回は第四話を全部使ってるからいつもより話が長いです。


〜祈side〜

 

 

僕たちは今園子の家に来ている。今は訳あって園子の部屋の外で待っている。

 

「もう入ってもいいかな?」

 

「いいよ〜」

 

扉を開けて部屋に入る。そこにいたのは。

 

「こ、これは……やっぱりアタシには……似合わないんじゃ、ないだろうか……」

 

「そんな事ないよ〜。ねぇわっしー」

 

「ええ、とても似合ってるわ銀(カシャ)」

 

フリフリした服を着ている銀がいた。園子と須美は普段見ない友人の姿に興奮している。

 

「うおい!やめろ須美、撮るな」

 

「あら、撮ってるのは私だけではないわよ」

 

そう言って須美は僕の方を向く。銀は顔を赤らめている。

 

「い、祈……」

 

「あ、その……」

 

僕は気づかぬうちに端末を取り出して写真を撮っていた。

 

「あー、私も私も、撮影会〜」

 

園子がわたわたと端末を取り出す。

 

「だぁー。はい終わり、もう終わり!」

 

「あぁ〜脱ごうとしないで、私まだ撮ってない〜」

 

「後で画像を送っておくわ、そのっち」

 

なんだろうこの二人の連携。

 

「くぅ〜〜。須美を着せ替え人形にしようと思ったのに、どうしてこうなった」

 

「あら、銀から言い出したじゃない」

 

「そうだよ〜」

 

「え?銀なの?」

 

これには意外だった。まさか銀から言い出したとは。

 

「は?そんなの言ってないぞ」

 

「だって銀が祈くんと「ああぁぁぁぁぁっ!!!!!!」……どうしたのよ」

 

僕?僕が関係するのか?

 

「ど、どうしたもこうしたもないだろう!?」

 

「照れちゃって〜。ミノさん可愛い〜」

 

「僕がどうしたの?」

 

「いや!なんでもないぞ!気にするなよ!」

 

うーん、そう言われるとますます気になるんだよな。

 

「それじゃあ次の服にいきましょうか、そのっち」

 

「うん。まだまだ沢山あるんだよ〜」

 

まだこれは続くんだな。でも……

 

「銀の可愛い姿が見れるならいいか」

 

「「「えっ!?」」」

 

三人が驚いた。銀の顔がもっと赤くなる。

 

「祈……気持ちは嬉しいけど、そういうのは心の中で言ってくれないかな?」

 

「僕、声に出てた?」

 

「うん思いっきり出てたよ〜」

 

はぁ……凄い恥ずかしい。

 

「とにかく!アタシのお着替えタイムはもういいから!」

 

「えー。あんなに可愛かったのに〜」

 

「そうよ、可愛かったわ」

 

「か、可愛い可愛い言うな〜!!」

 

銀は顔が真っ赤になっていた。

ベットの中に避難して丸くなった銀を、須美や園子が追い討ちしていた。

 

「「か・わ・い・い・!!」」

 

「もうやめてくれよぉ〜〜!!」

 

僕は苦笑いを浮かべて、乃木家の使用人達は、園子の部屋からこぼれる談笑を、微笑ましく聞いていた。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

神樹館。

一日の終わり、帰りの会では、生徒皆がソワソワしている。

早く遊びたい子供心と、先生の話を聞かねばという神樹館特有のモラルの高さが、ぶつかっているのだ。

私のクラスでは、担任教師が遠足の説明をしている。

窓から吹き込んでくる爽やかな海風は、七月の暑さを中和していた。

私は背筋を伸ばして、説明を聞いている。

うとうとしている、園子を時々、視線で注意しながら。銀は席が離れすぎてるから注意するには射程距離外だ。

 

「(銀……先生の話はちゃんと聞いてるでしょうね)」

 

チラリと銀を見る。すると銀と目が合った。

 

「っ!」

 

私を見て……いや、正確には私の隣を見ていたのだろう。

 

「…………………」

 

机に肘をついて外を眺めている祈くん。基本暇な時は外を、空を見るか本を読むのが好きだと前に言っていた。

銀もだけど私たち勇者三人は全員が祈くんのことが好き。仲間であり敵。新しくこの関係が出来た。

 

「………と、こんな感じです。祈くん分かりましたか?」

 

先生の説明が終わったようだ。ボーッとしていたから祈くんが当てられたのだろう。

 

「…………………」

 

気づいていない?私は祈くんに声をかける。

 

「祈くん先生が呼んでるよ」

 

「…………………」

 

「祈くん?」

 

どうも様子がおかしい。

 

「ん?どうしたの須美」

 

やっと気づいた。私は今の状況を教える。

 

「で、どうなんですか祈くん」

 

「…大丈夫です。分かりました」

 

「はぁ。ま、よしとしましょう」

 

そうして祈くんはまた空を見始める。

 

「(どうしたんだろう?それに……)」

 

遠足はこの土地を少しではあるが離れることになる。もしそのあいだにバーテックスが攻めてきたら……

 

「(それにしても遠足……大丈夫なのかしら)」

 

 

 

 

 

 

「アハハ、須美考えすぎ」

 

私は放課後、鍛錬が終わった後に、この悩みを仲間達二人に打ち明けた。

シャワーで汗を流した後、服を着ながら、銀は須美の悩みを笑い飛ばした。

 

「でも、遠足している最中にバーテックスが来たらと思うと……」

 

「勇者になれば、少し離れていても大橋まであっという間に到着するから大丈夫だよ〜」

 

「確かにバーテックス達はいつ来るか分からないのがむかつくけどさ、考えすぎてちゃ、何も出来なくなるよ。例えば疲れている今、この瞬間、バーテックスが来たらどうしようなんて思ってしまえば鍛錬もできなくなるし、夜、深く眠ることだって難しくなる。そう思わないかね、鷲尾さん家の須美ちゃんは?」

 

銀の台詞になるほどと頷く。

 

「……確かに分かるわ銀」

 

「たから、でーんと構えて遠足楽しもうよ〜わっし〜」

 

「……二人の精神力が、眩しいわ……」

 

「てなわけで遠足の班は、アタシ達3人と祈ね」

 

「祈くんが私たちの班になった時は周りが凄かったね〜」

 

そのっちが呑気に言う。まぁ、女子だけの班に男子が入ったとなれば他の男子が黙ってない。女子の班に男子が入るのは他にもある、だがそれは女子三人、男子三人というぐあいだ。

 

「でも私が誘った時は断られたんだよね〜」

 

この話は初耳だ。私の時はすぐに了解を出してくれたのに。

 

「ああ、それか。どうも上野達の班に呼ばれてたが私たちのことを知って祈に向こうの班に行っていいぞと上野が言ったらしい」

 

上野くんといえば祈くんとよく昼休みに本を読んでる人だ。

 

「これで遠足も祈くんと一緒だね〜」

 

「そうね」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

遠足当日。

神樹館の遠足場所は、僕達の街から少し離れた場所、県所在地にある。

国内最大級の庭園や、裏山にあるアスレチックコースなどか目玉だ。

僕は行ったことはないが、多くの生徒が行っているらしい。

最初は銀の希望で、勇者御一行はアスレチックコースに来ていた。

 

「勇者ならさ、遊び場のアトラクションぐらい全クリしなくちゃあね」

 

などという銀の謎理論は置いといても、鍛錬が無いので体を動かすには丁度いい、と須美は言っている。

 

「はしゃぐのはいいけど怪我だけはしないでね」

 

三人は今の服でも遊べるコースを軽々と踏破していく。実践と訓練の連続で、須美達の体は、その華奢な外見からは想像でこないほど漲っている。

中学生向けのコースですら、クリアしている。

三人の身軽な動きに、部外者は驚いていた。

 

「あわわ、ゆ、揺れる〜!」

 

園子だけ時々苦戦していたが。

 

「園子、大丈夫?」

 

「うん、ありがと〜祈くん〜」

 

僕が後ろについてサポートしてゴールにたどり着いた。

園子が、えーいと駆け込むようにゴールすると、銀がその体を抱きとめた。

 

「よしよし、よく頑張りました」

 

僕も園子の次にゴールすると、銀が園子の頭をわしわしと撫でた。

 

「うぅ〜次は並んで走れるようになるよ〜」

 

すると、須美がぐいぐいと二人の間に割り込んでくる。

 

「何してるの須美」

 

「仲良くしてるから私も、と思って」

 

「犬かお前は」

 

「きっと、ミノさんに頭撫でられたいんだよ。うまいもんねミノさん」

 

「なんだ甘えん坊さんか。よしよーし」

 

「……」

 

須美は何も言わずに目を細めていた。

次に園子の提案で商工商励館へ。

ここは、工芸品を自分で体験制作する事ができる。園子の立場は、アスレチックの時と、完全に入れ替わっていた。

 

「うぬぬ。器用にできない自分の手が憎い」

 

「そんなことないよ、ミノさんのも素敵〜」

 

「そのっちの作品は……なんというか、凄すぎて溜息しかでないわ」

 

「確かにね」

 

僕もそこそこアレンジを加えているが園子までは到底届かない。

 

「え〜思ったことを表現してるだけだよ〜」

 

「でもスタッフさん達なんか、皆ビックリして、園子の手元に注目してるぞ」

 

「そのっちの独創的な発想、分けて欲しい」

 

須美の作品を見る。須美サンプル道りに作っていた。

 

「須美の作品はサンプルにそっくりだね」

 

「ええ、あまりこういうのは得意じゃないのよ」

 

「アタシは元の型なんて壊していくからな」

 

「サンプル通り作れなかったからって開き直らないでよ」

 

「……やっぱ分かるか、アハハ!」

 

銀は豪快に笑い飛ばす。

結局、園子の作品は展示したいから、譲り受けたいと、商工商励館にお願いされるレベルのものが完成していた。

最後は、僕と須美の場所か。

 

「私の場所はあまり面白くないから祈くんが先でいいわよ」

 

んー、そう言われると僕の場所もつまらないんだけどな。

 

「僕の場所は暇だけどいい?」

 

「いいよ〜」

 

僕の提案で次は日本庭園を散策する。

 

「なんだ私もここに来たかったのよ」

 

どうやら僕と須美の場所は同じだったらしい。

 

「それにしても、素晴らしい景観ね……日頃の疲れが癒されるわ」

 

「そうだね……心が落ち着くよ」

 

和の美しさを前にして、須美がうっすりと目を細める。

 

「確かにいい眺めだけど、ここが一番の楽しみとは、流石須美だ……それと祈は意外だったな」

 

「僕はこういうのを見てると落ち着くから好きなんだよ」

 

こういう静かな場所で本を読んでみたいとかも考えている。

 

「わっしーは少し丸くなった気がするけど、ここはブレてないね〜」

 

「では二人に、ここがどれだけ素晴らしい場所か、おしえてあげるわ」

 

銀と園子の手をしっかりと握って、須美は微笑んでいた。僕はその光景を微笑ましく思った。

 

 

 

 

帰りのバスの中では、皆遊び疲れのせいか寝息を立てている。

 

 

須美達も例外では無かった。

やがてバスは何事もなく神樹館へ。

夕暮れの中、四人は帰途についた。

 

「あ〜楽しかったね〜。またみんなで来たいよ〜」

 

珍しく園子がハイだ。

 

「バスの中で寝てたから元気だね」

 

「祈も寝ればよかったのに」

 

「僕はそこまで眠くなかったからね」

 

それに敵がきたら迎え撃つために。

 

「明日は、お休みだね〜。半日は鍛錬として後、半日はどうしようか?」

 

「そうね……」

 

須美が何をするかを考えている。僕はゆっくりと本を読んで過ごそうと考えた。

 

「よし、じゃあアタシのとっておきイネスフルコース巡りにご招待!」

 

その時、いつもの違和感が四人の体を襲った。

時間が止まり、世界が樹海化する前兆だ。

 

「ご招待したいのはバーテックスじゃないんだけどねぇ」

 

「も〜せっかく楽しい遠足だったのに〜。最後の最後コレなんて無枠ってやつだよ〜」

 

「あはは、でも遠足が終わった後に来た分、まだマシだね」

 

そこに須美からのツッコミが入る。

 

「家に帰るまでか遠足なのよ、祈くん」

 

「先生か!」

 

銀が返し、園子が号令をかける。

 

「じゃあ、いくよ〜!!」

 

いつもより声が大きい、気がした。園子の号令で四人は端末を手に取り、勇者へとその姿を変えた。

 

 

 

 

僕達四人は、大橋の上で敵を待ち構える。

いつものように、世界は樹海化していた。

 

「だんだこの光景も見慣れてきたなぁ」

 

銀が、準備体操をしながら、大橋から見える景色について、そんなことを言う。

 

「油断しないように銀、そういう時が……」

 

「一番危ない、でしょ?分かってる須美」

 

「なんだかミノさん、最近わっしーに注意されるような発言を、わざとしてるみたい〜」

 

「アハハ、なんだかクセになってさ」

 

「勘弁して欲しいわ」

 

「まぁまぁ、こういうのも大事だよ」

 

そうして会話していると敵が見えてきた。

 

「!来たよ〜。え、ええええ?」

 

「どうした?園子」

 

園子が驚いた理由は銀も僕達もすぐに判明した。それは敵が“二体”進軍してきているからだ。

 

「あちゃあ、同時に二体……そうだよなぁ。律儀に一体ずづ来る必要ないよなぁ」

 

「バーテックスは単独行動が基本と聞いていたけれど……」

 

須美達にとっては四度目の実践。だが三人は心を落ち着かせていた。僕は星樹に手を添える。

 

「驚いたけど、大丈夫だよ〜。私とミノさん、祈くんが敵を引きつけるから、わっしーは遊撃で、援護してね」

 

流石だ。若葉の血をひいているだけはある。

 

「流石ね、そのっち。了解!」

 

「じゃあアタシは、気持ち悪い方と戦う!」

 

「どっちの敵も気持ち悪いと思うんだ〜!」

 

「待って、二人とも」

 

僕は二人を引き止める。

 

「どうしたの〜」

 

「銀と園子は針の方を相手して、僕が鋏のやつを相手する。それと須美はなるべく銀達の援護をして僕には気を配る程度でいいから」

 

僕は実践もはるかに多い、過去の記憶も思い出してきている。一体くらいなら余裕だ。もし、危険になったら最悪奥の手を使えばいい。

 

「ダメだわ、危険すぎる」

 

「祈の頼みでもこれは……」

 

反対意見が出てくる。

 

「大丈夫だよ〜。祈くんを信じてみよ〜」

 

「ありがとう園子」

 

「そのっちがそう言うなら」

 

「無茶はするなよ祈」

 

それが合図になった。

銀が突撃し、すかさず園子も続く。

須美も、矢をつがえた。

 

「結構大きい鋏だな」

 

鋏を振り下ろしてくる、それを避けてすきがある時に攻撃をしていく。

 

「若葉ほどの居合いじゃないけど……ねっ!」

 

一閃。

そこに追撃、敵の攻撃がシンプルだから落ち着いて対処できている。

 

「(早く倒してあっちを手伝いに行かないと)」

 

 

 

 

〜園子side〜

 

 

「わっしーの攻撃で敵が怯んだ時に畳み掛けるよ〜。それまでは粘るよ〜」

 

「オッケーだ、園子!」

 

この調子でいけば勝てるよ〜。

バーテックスは私達の連携攻撃で少しずつ後退している。

 

「(みんないいかんじ〜)」

 

その余裕が命取りになった。

 

「みんな!上から攻撃がくる!距離を!」

 

祈くんが叫んだ。

幾千の光の矢が、どしゃぶりの雨のように、降り注いだ。

 

「これ広域だ!逃げられない〜!」

 

私はとっさに頭上で槍を回転させる。ミノさんは二つの斧を重ね合わせる。

 

光の矢を凌ぐ。

しかし、その上空からの謎の攻撃と同時に。

二体のバーテックスも、この矢の雨の直撃を体に浴びながら。

強引に攻撃を仕掛けてきた。

 

「うぁぁぁあああああっ!!」

 

私達の体が宙に舞う。

橋の上にどさりと崩れ落ちる。

 

「あ……あぁ……ぁぁ……い、痛い……」

 

わっしーが激痛に声を漏らす。

どこをやられたのか。全く分からない。

 

「げほっ、ごほっ、ごほっ……」

 

「た、立てるか……須美、園子……?」

 

ミノさんがよろよろと立ち上がるのが見えた。

私も立とうとするが、さっきより倍の痛みが体を駆ける。

それと同時に血をはいた。わっしーも同じだった。

 

「これは……ちょっと……マズイ、かな」

 

ミノさんがバーテックスを見ながら言う。

視界に入ったのは、二体に合流する、三体目のバーテックスだった。

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

「動けるのはアタシ一人か……。こりぁとるべき道は一つかな」

 

アタシは接近戦担当、その分他の二人より防御力が高いらしい。祈のはどうか知らないけど。

アタシは二人を抱えあげた。このままだと全員死んでしまう、だから。

 

「よっと……園子より須美の方が重いかな」

 

「何を言ってるの……銀……こんな時に」

 

「ミノさん、どうするつもり……」

 

どう、ってそりゃぁ。

 

「勇者が逃げたら世界は終わっちゃうから、ここは頑張るしかないっしょ」

 

二人の手をぎゅっと握った。

 

「……銀?」

 

そして、アタシは二人を大橋の上から。

 

 

 

 

 

「アタシに任せてアンタ達は休んどいてよ」

 

 

 

 

 

海に向かって、放り投げた――。

 

「! なっ!?」

 

「ミノさん……!!」

 

 

 

 

 

「またね」

 

最後の言葉。

二人に別れを告げた。

 

「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいん!!!」

 

叫びながら、二人は落ちていく。

やがて園子と須美の姿は、完全に闇に消えた。

 

「さーて、と……」

 

問題は次なんだよな。

 

「……銀」

 

私達の想い人。

刀を手に持ち立ちふさがる。

 

「そこをどいて、祈」

 

星崎 祈。

 

「……嫌と言ったら?」

 

「力づくで通る」

 

アタシは斧を構える。

 

「……………」

 

祈が刀に手を添える。

祈の力は未だに謎が多い。あの刀だってなんなのか私達全員知らないだろう。

 

 

「止めてみなよ」

 

 

それが合図になった。

鞘から抜き放たれた一閃。アタシはなんとか防御する。

 

「くっ!?」

 

「……………」

 

だが、一撃が重い。まるで長年放ってきたかのような。

祈が鞘に刀をしまう。

 

「な!?」

 

「銀、結果は見えてる。諦めて、こんな事をしてる場合じゃ……」

 

今だ!祈は油断している、このタイミングで!

 

「らぁぁぁぁぁっ!!!」

 

アタシは祈に向かって片方の斧を投げる。

それに身を隠しながら突っ込む。

 

「っ、銀!」

 

投げた斧は弾かれる。だが……。

 

「へへっ」

 

まさかこんな場所でするなんてね。

アタシはもう片方の斧を手放し……。

 

「!?」

 

祈に抱きつく。

 

「ぎ、銀?」

 

「祈……アタシ、アンタのこと……」

 

顔を見合う。そして。

 

「―――――好きだよ」

 

橋から突き落とした。

 

「………………!」

 

祈もやがて見えなくなる。

一瞬だけ強く握った両手のぬくもり。

それと……。

 

「ここは任せろって言った以上……責任持たないと、かっこ悪いからね……いっとくかァ!!!!!!」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「ゴホッ……ゴホッ……!」

 

まずい流石に一人で三体の相手は無理がある。四人で戦えば何とかなるのに。

先ほどの銀の行動が過去の記憶と重なる。

 

『後は……私に任せて』

 

一番親しかった。なのに、その言葉が最後になった。

 

「っ!繰り返さないと決めたんだ!」

 

神力を集中させる。

もう一度、力を呼び覚ます。

僕の本来の―――

 

「――神装」

 

『天照大御神』そのものの力を宿す。

体が宙に浮く。星樹も強く輝く。

 

「………銀」

 

神の力。

勇者ではない力を一人の女の子を救うために使う、か。

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

アタシは少しずつ、少しずつ、バーテックスを引き返させていく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

防御を捨てて攻撃しているから苛烈な攻めが展開できる。だが、どんなに一撃が小さくとも相手の攻撃を受け続けているためダメージが少しづつ蓄積されていく。

 

「っ!このまま……出て行けぇぇぇ!!!!」

 

このままいけば押し切れる。そう思っていた。

光の矢が、動きを止めるように、左足を貫いた。

 

「う……あぁ…………ッ!」

 

踏みとどまろうとするが足に力が入らない。

 

「(立て、立て!立て!)」

 

バランスを崩し倒れる。顔を前に向けると、バーテックスがまたこっちへ向かってくる。

二体のバーテックスの後ろに矢を放つバーテックスがトドメを指すようにアタシに狙いを定める。

 

「(ああ、ここまでか……)」

 

脳裏に浮かぶ。弟やクラスの子、須美、園子、そして祈。

 

「みんな……ゴメンな……」

 

光の矢が発射され目をつぶる。どうあがいても死ぬからだ。後は自分の死を待つのみ。

そう覚悟していた。だが、そこにいないはずの声が聞こえた。

 

 

 

 

「勝手に死ぬなんてさせないよ」

 

 

 

 

そこにいたのは光輝く祈だった。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「……祈」

 

光の矢が迫ってくる。

僕はそれを難なく切り伏せる。

 

「銀、守るから。ここで待っててね」

 

銀を敵から離れた場所に置く。

 

「敵は三体か……」

 

敵を見据える。まずはめんどい矢を放つバーテックスを倒すことにした。

敵に向かいながら新たな神を降ろす。僕は同時に複数の神を降ろすことが出来る。

『自分』と武器の『星樹』にだ。

神降ろしで僕は風を身に纏う。降ろした神は『志那都比古神(しなつひこのかみ)』。分かりやすく言えば風神。

光の矢が僕を撃ち抜かんと向かってくる。それは僕の周りに吹く風で消滅してゆく。

間合いを詰め星樹を構える。

 

「『火之迦具土』!焼き祓え!」

 

渦を巻きながら星樹に炎が宿る。横に薙ぎ払い敵の体が真っ二つになる。そこにもう一度攻撃を加える。

敵は跡形もなく焼き消えた。残り二体のバーテックスはそれに怯えたのか引き返してゆく。

だがそれを逃しはしない。

 

「――『建御雷神』よ。力を――」

 

疾風迅雷。

長い尾のバーテックスの上で止まり、星樹を下にし僕自身が雷のように落ちる。剣を地面に突き刺した。

そのバーテックスは落ちてきた雷により消えた。

最後のバーテックスはその隙に逃げたようだ。

 

「ふぅ……」

 

星樹を鞘にしまう。

静かな樹海に今回の戦いは終わったんだと実感する。

 

「い、祈くん……?」

 

振り向くとそこに須美がいた。園子と一緒に銀を背負っている。

 

「……須美」

 

この三人には言った方がいい。

この世界の真実を。

そして……僕自身の……

 

 

 

 

 

「みんな……大事な話があるんだ」




次回予告

「話って……」

「僕は――」

「傷が治ってる?」

「はいはい鷲尾先生」

「それ……本当なの?」

第十話 真実


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第十話 真実

〜祈side〜

 

 

「話って……」

 

「うん。でもその前に」

 

僕は地面に降りて神装を解除する。

 

「二人とも銀を下ろして」

 

「いいけど、何するの〜」

 

「これから話すことに関係あるんだ、まぁ見てて」

 

銀が座る。左足は撃ち抜かれていて血が止まっていない。

 

「はぁ……はぁ……。祈……何をするの……」

 

痛みを我慢しているんだろうが我慢出来る痛みではないはずだ。

 

「これ、病院で治るの?」

 

須美が不安そうに言う。

 

「嫌だよ、ミノさん……私」

 

園子に至っては涙を流している。

 

「二人とも安心して。この程度ならまだ僕でも治せるから」

 

「!本当なの!?」

 

「嘘じゃないんだよね〜!」

 

当たり前だ、こんなとこで嘘をつくようなことはしない。

 

「じゃあ治すから」

 

「…………(こくっ」

 

星樹を鞘から抜き、それを――

 

「っ……」

 

左手に突き刺した。

 

「祈くん!?」

 

「〜〜〜〜!!!」

 

星樹を抜く、左手は血が下に流れ落ちてる。感覚がない左手を握りしめ手に血をためる。その手を開き銀の左足の穴が隠れるように重ねる。

 

「よし。準備完了……」

 

横に落ちてる星樹を地面に突き立て神降ろしを開始する。

 

「―――『蛤貝比売(うむぎひめ)』。勇者の傷を治したまえ―――」

 

僕の血が銀の足の傷に垂れる。三十秒くらいたって手をどかす。

 

「まだ軽く痛みはあると思うけど激しい動きをしなければ大丈夫だよ」

 

手をどかしてそこにあったのは傷一つない銀の足だった。

 

「……どうして?それに痛みも……」

 

「勇者でも回復しないのに……」

 

現実でありえない場面を目にして唖然とする。

 

「樹海化も解けそうだし、話は明日するよ」

 

僕はみんなに背を向ける。

 

「待て祈!お前手は……」

 

僕の左手はまだ血が流れている。

 

「大丈夫だよ」

 

神降ろし『大国主命(おおくにぬしのみこと)』の力。その力は死と再生。

傷口に青い炎が発生し傷が塞がる。

 

「ほらね」

 

そう言って手をみんなに見せる。

 

「傷が治ってる?」

 

「じゃあまた明日」

 

ちょうど樹海化が解除される。

明日は僕の事、それと外の真実を話そう。

繰り返さないために――。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

 

鍛錬が終わった後に私達は昨日の出来事について話していた。

 

「それにしても……」

 

そう言って銀が自分の体を見る。

 

「あの力は何なんだろうな」

 

普通なら死んでもおかしくはない傷を祈くんは治した。勇者の力ではない、その根拠はある。

 

「私の推測だけど、あれは神樹様……神様の力だと思うわ」

 

「どうしてそう思うの〜、わっしー」

 

あの時の祈くんの言葉を思い出す。

 

「祈くんは『蛤貝比売』と言った。これは神様の名前なの」

 

私はここで話を区切る。

 

「余り私が言って間違ってたらあれだから、後は祈くん本人から聞きましょう」

 

「そうだな、一時間後には本人から聞けるしな」

 

一時間後の集合場所はそのっちの家。そこで全てが分かる。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「星崎祈です。失礼します」

 

今は園子の家に来ている。結局朝はのんびりと過ごしていた。一度家には来ているから園子の部屋は既に分かる。

 

「あ〜祈くんだ〜」

 

部屋の扉を開けようとしたらふと後ろから声をかけられる。そこにいたのは園子だった。

 

「他の二人は?」

 

「もう少しで来ると思うよ〜、立ち話もなんだし中に入って〜」

 

「わわ、押さないでよ」

 

部屋に入って園子が扉を閉める。

 

「早速だけど祈くん、質問……と言うか確かめたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「いいよ」

 

ある程度は予想している。

 

「祈くんは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間』だよね?」

 

―――ドクン。

 

一瞬、質問の意味が分からなかった。

 

「……どういう意味?」

 

「ごめんなさい、今のは忘れて……」

 

何だ……。園子に質問された時に自分じゃない『何か』が……。

その時扉が開いた。

 

「はぁー、やっと着いたぞ」

 

そこには満足そうな銀と

 

「ちょっと銀、私のことも考えてよね」

 

迷惑そうにしている須美だった。

園子が僕に近づいてきて耳元で

 

「(わっしー達が来たからこの話は無しってことで)」

 

「(う、うん)」

 

「?二人ともどうしたの?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

「そうか?まぁいいか。じゃあ祈よろしく」

 

昨日言っていた話のことだろう。

 

「分かった。じゃあまずは壁について話すよ」

 

僕らの時代と重ね合わせて話すことにした。

 

「壁?」

 

壁については授業で習っている。だけどそれは一部分、全てではない。

 

「銀?あなたでもこれは分かるでしょ?」

 

「はいはい鷲尾先生」

 

銀はめんどくさそうに答える。

 

「壁の存在理由は四国にいる人間を外の世界で蔓延している死のウイルスから神樹様が結界で護って下さってるんだ」

 

銀は当たり前のように答える。

その答えはこの時代なら百点だ。だが――

 

「外の世界――とか言われてるけど世界なんて言えるものは外には無いよ」

 

「どうゆうこと〜?」

 

「言葉通りだよ外には世界なんてなく、あるのは火の海から無限に生まれるバーテックスだよ」

 

「え……」

 

ありえない。と言わんばかりに目を開く。

 

「それ……本当なの?」

 

「おいおい待てよ、じゃあ今私達がやってることは無駄じゃないか!」

 

銀が声を上げる。そのとおりだ、だけど……

 

「はっきり言えば無駄だ。だけど無駄じゃない」

 

何回倒しても無限に生まれる敵を倒す。

 

「なんでだ?」

 

銀の疑問に須美が答える。

 

「世界を守るため、でしょ」

 

僕は頷く。

 

「それもあるけどもう一つあるよ」

 

これは神樹と僕しか知らない。

 

「神樹の守護者の完全回復」

 

守護者を誰かは知らないが神樹が前にそう言っていた。

 

「神樹様の守護者?」

 

「誰かは分からないが僕は神樹に近い力を持っている者だと考えてる」

 

神に近い力を持つ者、神降ろしが使える僕かと思ったが。「お前ではない」と言われた。

 

「外の世界については何となくだけど分かったわ、次は私達が一番気になることを答えてもらおうかしら」

 

「そうだな、特にアタシの傷を治したカラクリを教えて欲しいな」

 

説明か、どう説明しよう。

 

「まずはこれを見て」

 

とりあえず、僕は刀を星樹を取り出す。取り出すと言ってもバックからじゃなく適当な空間からだけど……。

 

「お〜、すご〜い!」

 

「おお!」

 

「不思議ね……」

 

それぞれの反応は置いといて。

 

「この刀は、神刀『星樹』」

 

「神樹が僕にくれた力。大切な――いや、守るための力」

 

「神樹様がくれた?」

 

「みんなで言う『勇者システム』みたいのだよ」

 

「でもその星樹と何の関係が?」

 

「この刀は神樹が僕に合わせて作ってくれたんだ」

 

つまり、神樹の力が宿った刀。

 

「神樹は地上の神が集合して誕生した、その神樹が作った刀。星樹は神樹に極めて近い特性を持っている。だから僕の力は神樹の力つまり神の力。まぁ、正確には神を力を借りる『神降ろし』。僕の力は神の力と捉えて」

 

「神様の力……」

 

「だから銀の傷も神の力で治療したんだよ。本来の方法じゃなくて僕は血で代わりをしたけどね」

 

「神様の力……なるほどね」

須美が納得したように頷く。

 

「何が〜?」

 

「バーテックスを倒せた理由よ。あれは神降ろしの力だったのね」

 

須美は理解が早くて助かる。でも、昔は普通に倒してたけどね。

 

「だから僕は――」

 

そこまで言いかけて違和感が襲う。

 

「――!」

 

時間が止まっている。

樹海化前の現象。

 

「バーテックスか……」

 

「ミノさん無理はしないでね〜」

 

「ははは、大丈夫だ園子」

 

やっぱり心配だったみたいだ、だから繰り返さないために。

僕はみんなに言う。

 

 

「僕がみんなを守るから――。神としてね」

 

 

自分の役目。勇者を守ること。

 

「ふふっ……」

 

突然須美が笑い始めた。

 

「祈くん、私達が何のために戦ってるか知ってる?」

 

いきなり何だろう?

 

「神樹と世界のため?」

 

「そうだよ〜。つまり〜……」

 

「神樹様はこの国の神様。ようは私達は神様を守っている」

 

三人は息を合わせて言う。

 

「「「それなら私達は!―――」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは昔では考えれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「祈くんを――」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕には新鮮な

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「勇者として守る!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、不思議な思いだった。




段々とオリジナルに入っていく予定です。

次回予告

「行こう!みんな!」

「おーい、祈ー!」

「お前は俺だ」

「い、祈くん?」

「守り守られる関係か……」

第十一話 守り守られる関係


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第十一話 守り守られる関係

〜祈side〜

 

 

「(守り守られる関係か……)ははっ……頼もしい『勇者』だね」

 

心強い、これなら負ける気がしない。

 

「行こう!みんな!」

 

それぞれの戦闘用の衣装に変化する。そして僕らは大橋へ向かった。

 

 

 

 

 

〜園子side〜

 

 

大橋に着いた私達はそれぞれ強い気持ちを持って敵を待っていた。

 

「みんなを守るわよ!銀!」

 

「おう!任せろ!前みんなに迷惑をかけたからな」

 

わっしーとミノさんはいつでも敵が来ても動けるように構えている。

 

「無理はしないでね〜」

 

そんな会話をしている時に。

 

「敵だ……」

 

祈くんが奥を見据える。そこにいたのは布らしき物を身につけたバーテックスだった。

 

「わっしー!」

 

「了解!」

 

合図とともに戦闘が始まった。わっしーが弓で文字通り、天から矢の雨を降らせた。そのあいだに私、ミノさん、祈くんが敵に接近する。

 

「僕があいつを消滅させる。だから合図を出したら後ろに下がって」

 

「了解!」

 

そこで祈くんは足を止める。敵の方を向くと布の部分を大きく回転させて、矢を巻き落とされた。

 

「まだまだっ!」

 

須美は次々と矢を発射していく。

 

「凄いな……よし!負けてられねぇな!!」

 

「うん〜!行こうミノさん!!」

 

ミノさんと私で交互に攻撃をする。素早く攻撃を繰り返し敵を錯乱させ、ミノさんが大きな一撃を加える。

 

「うおおぉぉぉっ!!!!」

 

「勇者は根性〜!!!」

 

攻撃を受けながらもバーテックスは尻尾と思われる部分から、何かの塊を射出した。

 

「! 撃ち落とす!」

 

飛んでくる塊に対して矢を命中させた。矢は塊を穿つ。その塊はわっしーに届く前に爆発した。

 

「ミノさん!」

 

「おうとも!須美!」

 

「ええ!」

 

その隙を見てわっしーが援護する。そうして少しづつ追い返していく。

 

数分後。

 

「(もうそろそろかな〜?)」

 

チラッと祈くんの方を見る。

 

「……みんな!下がって!」

 

私達が下がる時にはバーテックスは後退を始めていた。そこに祈くんが追い討ちをかける。

祈くんは刀に炎を宿してバーテックスに迫る。

 

「これで………っ!?」

 

炎の刀を横に薙ぎ払おうとしていた祈くんの体がガクンと崩れ、炎が消えて刀が地面に落ちた。

 

「祈!?」

 

「くっ……ごめん」

 

バーテックスはそのあいだに壁の外に逃げていった。

 

「祈くん大丈夫?」

 

わっしーが祈くんに駆け寄ってきた。

 

「うん?だ、大丈夫?」

 

「何で疑問形なんだ?」

 

「あ、いや、何でも無い」

 

戦いが終わって結界が解かれる。私達は大橋記念公園に転送された。

 

「ふ〜、無事に勝てたね〜」

 

「でも祈、さっきはどうしたんだ?」

 

ミノさんが祈くんに質問する。

 

「視界が少しぼやけて……」

 

そう言って片目を手で隠す。

 

「大丈夫なの?」

 

「今は大丈夫だよ。ごめんね心配かけて」

 

「それなら良かったよ〜」

 

でも気になることもある。

 

「(本当に大丈夫かな〜)」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

大橋記念公園に転送されて僕らは解散した。

さっきの戦いの途中に『火之迦具土』を星樹に宿した、だけど急に視界がぼやけて………。

 

『お前は俺だ』

 

声が脳に響いた。

それに気がついたら『火之迦具土』の力が消えていた。神降ろしは自分の意思に関係なく解除はされない。

 

「何だったんだ……あれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……知りたいか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

あの時の声が聞こえた。

 

『俺もいつまでもこうしてても退屈だしな』

 

こうして?どういう事だ。

すると、僕の目の前から人が現れた。

 

「やぁ初めまして。俺」

 

「はぁ?」

 

会って早々そんなことを言われた。

でも、とても僕に似ている。鏡に写したかのように。

 

「俺、って名前は?」

 

「俺は……名前、かぁ。強いて言うなら『天照』かな」

 

「天照ねぇ」

 

ますます疑問だ。

 

「お前が神装を発動させるだろ、あれは俺の力を半分引き出すやつだぞ」

 

「引き出す?」

 

「ああ、だから言ってるだろ。お前は俺だって」

 

「あー、ごめん分かんない」

 

全く理解出来ない。

とりあえず話をそらす。

 

「この後君はどうするの?」

 

「……お前について行きたいが、もう少しだけ隠れとくわ」

 

「隠れるって、はぁ……」

 

何か聞き返すのがめんどくさくなる。

 

「じゃあな〜。祈〜」

 

そう言うと天照は僕の前からいなくなった。ほんとよく分からない奴だった、今度会ったらちゃんと話を聞こう。

 

「……帰るか。ん?」

 

端末が振動していたからポケットから取り出す。

 

差出人:三ノ輪銀

件名:明日何か用事あるか?もしも空いてるならアタシとどこか行こうぜ!

 

明日か。明日は何も無かったような気がする。断る理由も無いし……いいか。

僕は素早く文字を打ち返事を返す。

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

家に着いたら弟は寝ていた。それを確認したアタシは自分の部屋に入り、ベッドに横になった。

 

「はぁ〜〜、疲れた〜〜!」

 

一気に体から力が抜ける。弟を世話することもだが、寝ることや友達と会うこともアタシの心の安らぎだ。

 

「ん、メールか」

 

差出人:星崎祈

件名:いいよ。じゃあ明日銀の家に行くね

 

なんとオーケーが出た。

 

「(よ、よし!これはチャンスじゃないか!?)」

 

祈を誘ったのは理由がある。アタシ達三人の勇者は祈が好きだ。だから勝負みたいなのをしている。

それにアタシはあの時に好きなんて言ったから……

 

「(ひょっとしてこれは、祈に気づいてもらえるんじゃないか!?)」

 

何か寝る前にやる気が出てきだぞ。勇者は根性!それは恋愛もだ。押して押して、押しまくる!

 

「須美、園子悪いな、先に仕掛けさせてもらうぜ」

 

明日が楽しみだ。

こうも楽しみな日は今まで無かったからな。

そうしてアタシは眠りについた。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「おーい、祈ー!」

 

向こうから元気な声が聞こえる。

 

「おはよう、銀」

 

今日は銀とイネスに行くことになった。僕はどうせ暇だったからちょうど良かったけど……。

 

「ねぇ銀」

 

「どうした?」

 

イネスに向かいながら銀に話しかける。

 

「僕を誘うくらいなら須美や園子を誘って行けばよかったのに……せっかくの休みがもったいなくない?」

 

「はぁ……そんな事か……」

 

ため息をついてから僕の方を向き。

笑いながら。

 

「アタシは祈と一緒に行きたいんだよ」

 

「っ……そ、そう言ってもらえると嬉しい、かな」

 

あー、銀が可愛い。

そういえば今日の服はあの時園子の家で着たのにとても似ているし、より可愛く見える。

 

「あはは、今日は楽しくなりそうだね」




次の話はイネスでの話です。

次回予告

「やっと着いたー」

「ダメだ!意識するな!」

「あれって須美に園子?」

「何するの?」

「で、デート!?」

第十二話 勇者の休日


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第十二話 勇者の休日

十日以上たちましたけど明けましておめでとうございます!
今年も頑張っていきますのでよろしくお願いします!


〜祈side〜

 

 

「やっと着いたー!」

 

「うん……そうだね……」

 

何だろう、本当にやっとって感じがする。聞いてはいたけど銀のトラブル体質は凄い。

迷子になった子供の親を探したり、腰が痛いと言ったお婆さんわ家に送ったりといろいろあってイネスに着いた。

 

「(須美達が言うには大抵こんな事が起きてるんだよな、何かそう考えると……)」

 

「ん、どうした祈?」

 

ずっと見ていたから視線を感じたんだろう、歩きながら後ろを振り返って僕を見る銀に。

 

「なんていうかさ、不運だよね」

 

「え?何の話?」

 

「いや、何でもないよ」

 

「? 変なやつだな」

 

ところでさ、と歩きながら銀が話しかけてくる。

 

「まずはどこに行く?」

 

そういえば決めてなかった。うーん、行きたい場所って特にないもんなぁ。

 

「(服……服屋か、服は今のままでいいし、ゲームセンターは……ダメだしね。)……ん?」

 

僕はふと後ろを振り向く。

 

「どうした、祈」

 

「何か視線を感じて、気のせいかな?」

 

「疲れてるんじゃないか」

 

「そうかな」

 

そのまま後ろを向いていると、とあるチラシが目に入った。

 

「(こ、これは……!?)」

 

行きたい場所あるじゃんか!最近いろいろあって忘れていた。そうだよ上野が騒いでいたじゃないか。

 

「ほ、本屋に行ってみてもいいかな?」

 

「本屋か、確か三階だったな。よし!じゃあ行くか!」

 

目的地が決まった僕達は足を進めた。

 

 

 

 

〜園子side〜

 

 

「ふ、ふ〜。危なかった〜」

 

私とわっしーはミノさん達を追ってイネスに来ています。

 

「だからあまり見ない方がいいって言ったのよ」

 

そうは言っても〜。

 

「わっしーこそあの時凄く見てたよ〜」

 

「あ、あれはそのっちが変なことを言うから……」

 

わっしーが言う変なこととは、きっとあれだと思う。

 

「デート?」

 

私がニヤニヤしながら言うとわっしーは。

 

「それよ!それ!」

 

その時にわっしーは「で、デート!?」と言って声を上げたのだ。って、言っても。

 

「(私も結構……ね。まさかミノさんがこうも恋愛に熱いとは、予想外だったね〜)」

 

「そのっち、祈くん達がエスカレーターに乗ったわ」

 

「どこに行くんだろ〜?」

 

「可能性としては三階かしら」

 

「成程〜、本屋か〜」

 

わっしーは小さく頷いて、私達はその後を追った。

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

「銀はここで待ってて、すぐに戻ってくるから」

 

そう言うと祈は嬉しそうに本屋に入っていった。ちなみに何の本を買うかは教えてもらえなかった。

それにしてもこの後はどうしよう、時間は十二時くらいか……。

 

「(ご飯かな、フードコートにでも……)」

 

そこで違和感に気づく。先程祈は視線を感じると言った、それは本当かも知れない。確かに誰かに見られてる。

 

「(誰だ?……って、あれは)」

 

なんて言うか面白い光景だ。あれは隠れているのか?そう思ってしまう。

 

「(あれって須美に園子?)」

 

ここ三階は普通に全体が見えるようになっている。イネスでこういうのも何だがかくれんぼ系には向いてないだろう。

 

「銀、僕の方は終わったよ。で、次は何するの?」

 

いつの間にか祈が戻ってきていた。

 

「フードコートに行こう、そろそろ昼だしな」

 

どうせ二人もついてくるだろうな。

 

 

 

 

 

 

「祈って、結構以外だよな」

 

食べながらいろいろと話をしていた。その中に好きな食べ物の話があったのだが。

 

「んー、そうかな。チョコは食えるけどね、何かねー」

 

祈はどうもチョコが苦手らしい、いま食べてるのはアタシがたこ焼き、祈が焼き飯だ。

 

「それよりもさ、これを食べた後はどうする?」

 

「することね、僕はもう無いね」

 

アタシは飲み物を買うために席を立って。

 

「じゃあ少しアタシに付き合っ――」

 

て。と言おうとしたら突然ふらっとして。

 

「うわっ!?」

 

「銀!?」

 

祈が慌てて席を立つ。

 

気がついたら―――。

 

 

 

「い、いてて。銀、大丈夫?」

 

「う、うん。何とか……っ!?」

 

う〜〜っ!!これはまずい、非常にまずい。主にどこかで見ているだろう須美と園子が。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

こ、これは……。

 

「ううっ……い、祈……」

 

他から見ると銀が僕を押し倒してる形になる。いや、これは押し倒していると言うよりも。

 

「と、とりあえず立とうか?」

 

「……うん」

 

銀が僕の上に倒れ込んでいる。このままだと、ちょっといろいろと……こう、当たって。

 

「ご、ごめん……祈……」

 

「(か、可愛い!はっ、ダメだ!意識するな!)い、いやいいよ!」

 

早く銀を立たせないと!もしも他の人に見られたりしたら……。

 

「「祈くん!!!」」

 

何だろうね。ある意味他の人に見つかった方がマシだったのかもしれない、と思えるよ。他の人がいないんだけど……。

 

「……須美に園子、どうしたの?」

 

「どうしたの?はこっちのセリフだよ〜!」

 

あら?珍しく園子が怒ってる。

 

「二人こそ今どういう状態か分かってるの?」

 

慌てて銀を起こす。幸い周りには人がいなかったから良かったが。

 

「こ、これで大丈夫だろ?」

 

起き上がった銀が言う。それに続けて僕が質問をする。

 

「二人は何してたの?」

 

「え……あー」

 

「うーんと……ね〜」

 

困った様子をする二人。一体どうしたのかと考えていると、銀が二人を向こうに連れていく。

 

「何?どうしたの銀?」

 

「…祈は少し待ってて」

 

そうして三人はフードコートの外に出た。

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

二人の手を引きアタシはフードコートを離れた。

 

「ど、どうしたの銀?」

 

「(ここまでくればいいか……)二人とも今日は何してたんだ?」

 

祈が言ったことをもう一度言う。

 

「えっとね〜、わっしーと買い物を〜……」

 

「嘘だね」

 

「うっ……」

 

園子が答えるが私はそれを否定する。

 

「アタシ達をつけて来たんだろ?」

 

「いいえ銀、私達は買い物に……」

 

「その割には何も手に持ってないのはどうしてだ?」

 

「はぁ……認めるわ、でもいつ気付いたの?」

 

「祈が本屋に行った時だ。イネスに入った時に祈が視線を感じるって言ってたから少し警戒してたらまぁ、見つけたわけですよ」

 

二人ともがっかりした様子だ。

 

「須美、園子この後どうするんだ?」

 

「私はわっしーについて行くよ〜」

 

須美は少しだけ考えて。

 

「もう少し回って帰るわ」

 

どうも予定は無いらしい、じゃあ今日は私達の観察をしに来ただけだったのか。

 

「じゃあさ……」

 

初めの予定もは全然違うけど、やっぱりみんなの方が楽しいからな。

 

「アタシに着いてきてよ」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

三人がどこかに行って待っとけと言われたので、待つことにした。だけどただ待っとくのもあれだから何かを食うことにした。

 

「たこ焼き一個〜」

 

食べるのはたこ焼き。お腹空いたからじゃなくてただ単に話し相手が欲しかっただけかもしれない、たこ焼き屋の人とはあれ以来仲良くなった気がする。

 

「あいよ!相変わらずモテるね〜少年」

 

ちょっと前の出来事を見ていたらしい。

 

「何ですかね、そう言われるのなれてきましたよ」

 

軽く笑いながら言うとおじさんが少し驚いた様子を見せた。

 

「少し変わったな」

 

たこ焼きをパックに詰めながらそんなことを言われた。

 

「そうですか?」

 

「ああ、覚悟を決めたようにな。……っと!お待ち!」

 

お金を払って自分のもといた席に戻った、さっき言われた言葉を僕は思い出す。

 

「変わった、か……」

 

最近変わったことは……過去の記憶が戻ったこと?若葉達一緒にいたときは中学二年だったから、小学六年の勉強は当然簡単に思えるしね。覚悟か、ま決めないといけないし……。

たこ焼きを食べながらいろいろと思う。

 

「でも……」

 

僕は少し笑いを浮かべる。

 

「祈く〜ん!」

 

声が聞こえる方に顔を向ける。

 

「やっぱりみんな一緒じゃないとな!」

 

「ありがとう……銀」

 

「あはは〜、みんなで楽しもう〜」

 

昔のように覚悟を決めても。

 

「祈ごめんな、予定が狂っちゃって」

 

「いやいいよ、銀も思ってるんでしょ?」

 

「! さすが祈!話が分かるな!」

 

僕が思っていること、それは恐らく銀も思ってるだろう。

 

「やっぱり、みんなでだよね」

 

「おう!」

 

みんなでいるこの時間を大切にしたい。どうなるか分からないから……。




次回予告

「お前さ、結構暇なの?」

「あひゃん、冷たい〜!」

「ゆ、浴衣似合ってるよ……」

「そろそろ時間か……」

「どうしたの園子?」

第十三話 お祭りと……


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第十三話 お祭りと……

学校や部活で執筆時間があまりとれないので今後の更新ペースは遅くなると思いますが、それでも見て下さるならとても嬉しい限りです!
それでは第十三話です!


〜祈side〜

 

 

「暑い……」

 

そろそろ夏だ、という感覚がわいてくる。

僕はクーラーの効いている部屋の中に入り窓を閉めた。今頃三人はトレーニングを行っているのだろう。この暑い中でも三人はトレーニングを行っていると考えると、なんというか酷に思う。それもこの国のためだからしょうがないが……。

ちなみに僕は毎度のごとく家で本を読んでいる。休みの日にはほぼ毎日と言っていいほどこうしている。が……。今日はいつもとは違った。

 

「………………」

 

どこの学校の制服か分からないが、その制服を着ている。

黙々と僕の部屋の本を読む、そいつの横にはざっと三十冊くらいはあるだろうか。休みの日に僕の家に来るのは勇者組かクラスメイトの上野ぐらい、だか今回はそのどちらでもない。

 

「祈、次」

 

そう言ってそいつは手を僕の方に伸ばす。

 

「……次、って何」

 

「何って言われてもな〜、分かるだろ?」

 

分かってるさ、分かっているがそれよりも。

 

「何でお前がここにいるんだよ」

 

「え?」

 

そう言って動きを止めた人物――天照がこちらを振り向く。

 

「何でって……そりゃあ」

 

こいつが僕の家にいるのは普通に考えておかしい。

 

「お前さ、結構暇なの?」

 

僕は天照には少々荒い感じに接している。そりゃあ自分に似た(実際鏡に移したような)やつに優しく接するのがなんかあれだと思ったからだ。

 

「ああ!暇だ!」

 

ハッキリと言われた。ちょっと前は隠れるどうのこうのとか言ってたくせに。

 

「だから――」

 

そう言ってまた手を伸ばす。何回やっても続きそうだから諦めて本をしょうがなく渡す。

 

「何でもいいだろ?」

 

「おう。ラノベならな」

 

残念、ラノベしかないです。本当にこいつ何から何まで僕に似てるな、……って前に「俺はお前」とか言ってたっけ?

 

「じゃあ……はい」

 

渡した本は、とあるゲーム空間に閉じ込められた主人公が剣で戦い抜くという本。実際この本で上野と知り合ったと言っても過言ではない。

 

「……なかなか面白そうじゃないか」

 

「僕は凄く好きだけどね、君が好きになるかは……」

 

天照はパラパラ、と軽く最後まで見る。

ぱたんと本を閉じて。

 

「いい本じゃないか……」

 

それっきり天照は黙り込んでしまった。どうやら気に入ってくれたようだ。

 

「(僕も読むか……)」

 

今日は珍しく何も予定がない。ゆっくり本を読んですごそう。

コイツといれば退屈にはならないかもね……。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

私達は大赦の施設内でトレーニングを行っていた。

基礎的な鍛錬から槍の素振りまで。一通りを終えたそのっちが、ぜいぜいと呼吸を乱している

 

「はぁっ、はぁっ、はぁ……」

 

「園子。ちゃんと水分はとれよ、ほら」

 

銀が、冷えているドリンクをそのっちの首筋にぴったりとあてる。

 

「あひゃん、冷たい〜!」

 

「何だそれ」

 

銀は笑いながらそのっちに渡す。

 

「ありがと、ミノさん〜……ごくごく、ぷは、ん〜この一杯のために生きている」

 

夏に相応しい弾ける笑顔を見せるそのっち。

 

「ほら、須美も飲めよ」

 

「ん、ありがとう銀」

 

ドリンクを受け取り、ごくごくと私も飲む。

銀も少しドリンクを飲んでから。

 

「……もう夏なんだな、八月だぞ」

 

「今日はどれぐらい暑くなるのかしらね」

 

三人は空を見上げる。でかでかと自己主張する入道雲。無限に広がる青の色。

 

「夏、だねぇ……」

 

そのっちが改めて口にする。

 

「うわぁー!暑いー!プールで遊びたい!」

 

そんなことを言って床に寝そべる銀。って、ちょっと前に遊んだじゃない、と心の中でツッコミを入れる。

銀が言うのも最もだ、今年は去年に比べて格段に暑い。

 

「……祈くんは今頃何してるのかな?トレーニング?」

 

「それはないな」

 

そのっちがふと口にした疑問に銀が即座に答える。

 

「早いわね」

 

「普通に考えろよ、してると思うか?どうせ本でも読んでるんだろう?」

 

「あー」

 

「……確かに」

 

納得してしまった。そのっちもうんうんと頷いている。

 

「鍛錬を再開しましょうか。いよいよ支給される私達の新しい力を使いこなせるように」

 

「うん。勇者システムが最新版になった時に私達自身がしっかりしておかないと、意味ないもんね〜」

 

お役目と全力で向き合う、少女たち。

夏休みだからどこかに遊びに行こうという、小学六年生なら当たり前の思考も、今の須美達には無かった。

 

「でもでも、新しい勇者システムって、どんな外見になるんだろう〜。旧世紀の武者みたいなやつだったりして〜」

 

「! そうなったら私はちょっと嬉しいけど」

 

「武者?鎧とか来て戦う?」

 

「……………」

 

「でも性能と違って外見はそれほど今の勇者システムと大きく変わらないんだろ?」

 

「そうだったわね……はぁ……」

 

「後は武器が少し変わってサポートが付くとも、言ってたわ……サポートって何かしら」

 

私達の新しい力。今それは実戦投入に向けて、最終調整の段階に入っているという。

それを即座に使いこなせるように、体作りをしていた。

今は神樹館もちょうど夏休みで、鍛錬にさく時間はたっぷりあった。

前の戦い以降バーテックスは攻めてきていない。

 

 

 

「あぁ、サポートというのは精霊のことよ」

 

職員室で、担任教師は教え子の質問に、さらりと答えてくれた。

 

「せ、せいれい……ですか〜」

 

そのっちがあたふたしはじめた。

 

「も、もしかしてそれって、うらめしやって言う……うわわ〜」

 

「落ち着け園子。それは幽霊だぞ」

 

「そうよ、そのっち」

 

「あれクール。二人は幽霊平気なの〜?」

 

「ええ。冷房代わりによく読んだり聞いたりするわ、怪談」

 

「アタシはもともと平気かな、何かあったら守ってやるよ」

 

そう言って拳を前へ突き出す。

 

「かっこいいなぁ〜勇者だよ」

 

「私からみれば虫が平気なそのっちの方が、かっこいいわ、勇者よ」

 

「アタシはどっちも平気だけどな」

 

「銀はもう、尊敬するわ」

 

そろそろいいかしら、と先生が口を開く。

 

「で、精霊なんだけど……これがどういうものか口で説明するのは難しいかな。新型の勇者システムが支給された時のお楽しみね」

 

「ワクワクが止まらないな」

 

「ハードルあげますねぇ、先生」

 

「分かりました。可能な限りで答えて頂き、ありがとうございます」

 

「それより三人には特別なお役目があるの」

 

改まった担任教師の口調。

私は自然と直立不動の姿勢をとっていた。

 

「貴方達三人は、今晩、お祭りに行って楽しんでくる事を命じます」

 

「え……?」

 

予想外の言葉に、思わず声が出てしまった。

 

「知ってるでしょ?お祭りなのよ今日は」

 

「でも私達は勇者としてお役目を……」

 

担任教師は、私の言葉をさえぎった。

そして、目をじっと見つめる。

 

「詰め込みすぎて体を壊したら元も子もないじゃない?夏休みに入ってずっと鍛錬続きだから、たまには休んでもいいのよ……適度に休んだ方が何かあった時に、いっぱい力を出せると思う」

 

「先生、私は」

 

「そういうわけで命令よ。行ってきなさい、お祭り。大赦の許可も出ているわ。というか祭りが行われる神社がそもそも大赦と同義だもの。こう考えれば気が楽でしょう?お祭りには出なくちゃ。ね?」

 

これくらい強引に言わなければ私が了承しないことを、担任教師は知っていた。

 

「須美、ここは先生の言葉に甘えようぜ」

 

銀が言ったことはそのっちも言いそうだった。

 

「……分かりました」

 

「先生、ありがとうございます〜」

 

「楽しんでくるのよ」

 

話が終わって私達は職員室から出ようとしたその時、先生が私達に向かって歩いてきた。

 

「? どうかしました」

 

「祈くんには私から連絡は入れてあるわ、頑張りなさいよね」

 

「……頑張る、って何をですか」

 

「ふふっ、何をでしょうね〜」

 

先生は何かを含んだような笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

パタン。

 

「………………ふぅ」

 

天照が本を読み終わり一息つく。

時間を見てみるともう五時半をまわっていた。

 

「どうだった?」

 

「いやぁー、面白かったね。なんか……こう……真似したいくらい」

 

ま、真似?何を?と思ったがあえて堪えることにした。

 

「お前は今からご飯だろ?母親がさっきから呼んでからな」

 

そうだった。僕は立ち上がりドアに向かって歩いた。ドアノブに手をかけたところで。

 

「天照はどうする?まだ本を読んどく?」

 

「ん〜、少し休憩しとく」

 

天照はベットに横になった。

 

「読みたくなったら読んでていいからね」

 

「りょーかい」

 

部屋を出て下に降りると、ご飯を作ってる最中だった。

 

「今日のご飯は?」

 

「その事なんだけどねー。祈、今日何があるか知ってる?」

 

今日?何かあったっけ?

……思い当たるふしがない。

 

「その様子だと知らないみたいね。今日はお祭りがあるのよ」

 

知らなかった……。

夏休み入る前に学校が盛り上がってたのはそのせい?

 

「そのお祭りがどうかしたの?」

 

はっきり言って、僕はお祭り事には興味が無い。

 

「先生からそのお祭りに行くようにだって。あの三人も来るわよ」

 

きっと強制だろう。

話を長くしたら行くのの準備に時間が足りなくなる、これは素直に言うか。

 

「分かった。準備したら行ってくるね」

 

僕はそう言って部屋に戻った。階段を登ってる最中に母さんが「お金は置いとくわよー」と言ってるのが聞こえた。

自分の部屋の扉を開けると天照がベットで横になっていた。

 

「早かったな」

 

「ご飯は食べてないよ、少し用事が出来たから外に行ってくる」

 

天照が何かわからないように質問をしてくる。

 

「用事?何だ、デートか?」

 

僕は着替えをしながら冗談を軽く流す。

 

「違うよ、お祭りだって。息抜き程度に行けって、先生が」

 

「祭りか……じゃあ帰りは遅いのか」

 

「うーん?どうだろう。須美達に合わせて行動するからね」

 

「ふん。やっぱりデートじゃないか……」

 

「何か言った?」

 

何か言われたような気がした。声が小さくて聴き取れなかったが。

そんな事をしているうちに準備が終わった。

 

「いや、別に。楽しんでこいよ〜。俺はここにいるし」

 

「さっきも言ったけど好きな時に本は読んでていいからね」

 

「おう、分かった」

 

持っていくのは財布くらいだからバックはいいか。

じゃあ行くかな。

 

「じゃあ行ってく――」

 

そこまで言いかけた時だった。

 

「あ、待て。聞きたいことがあった」

 

聞きたいこと?何だろう。

 

「聞きたいことって何?」

 

少し天照が下を向いて、悲しそうな顔をしながら言う。

 

「お前“栞那”という名に覚えはあるか?」

 

栞那?

 

「……いや、知らないね。その人がどうしたの?」

 

「知らないならいいんだ。……悪かったな少し時間を貰って、楽しんでこいよ」

 

「う、うん。楽しんでくるよ?」

 

なぜか疑問形になってしまった。

僕は家を出てから神社に向かって走り出した。

 

 

 

 

〜天照side〜

 

 

俺は祈が部屋を出る前にある事を聞いた。

 

 

『お前“栞那”という名に覚えはあるか?』

 

 

その質問に対して祈は知らないと答えた。

 

「やっぱり……か」

 

祈は過去のことは覚えている。

若葉、ひなた、球子、杏、友奈、千景。だが、栞那のことは忘れている。

俺は自分の右手首を見る。

そこには、大切な人――栞那が俺にくれたブレスレットがある。

 

「(栞那……お前の言葉はこれを見る度に思い出すよ)」

 

祈は栞那を覚えていない。つまり一番辛いことを……悲しいことを忘れていることになる。

 

「あんな思い、絶対にさせないようにしないとな」

 

それに最悪の場合も考えないと、な――。

誰もいない部屋にそう言い残し俺はその場から消えた。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

夕日を浴びながら、私達は神社への道を歩いていた。

瀬戸の潮風が、心地よく吹いてくる。

 

「……いいのかしら、お祭りで遊んで」

 

「そんな事言って、須美さんは、ばっちり浴衣を着てきてるじゃないか」

 

「これは親に着させられたのよ」

 

「……とかいいつつ、実は自分でも嬉しかったりするわ」

 

私は素直に自分の心境を認めた。

 

「うんうん、似合うよわっしー、お人形さんみたいだよ、くるくる回ってみて〜?」

 

「こ、こうかしら」

 

 

くるりくるり。

 

「わぁ〜ノリノリだ〜、ミノさんミノさんシャッターチャンス」

 

「何!?」

 

そのっちがわたわたと携帯端末を取り出す。

それに比べて銀はもう端末を取り出して構えていた。

 

「こらこら撮影は禁止よ恥ずかしい」

 

「えぇ〜。待ち受けにしようと思ったのに」

 

「恥ずかしいからやめて!」

 

「園子は今も須美が待ち受けだろ?」

 

「でも撮りたいの〜」

 

「ちょっと、やめて本当恥ずかしいから」

 

「私の携帯だもん、私の自由だよ〜」

 

「もう……じゃあ私はそのっちを待ち受けにするわよ。浴衣、似合ってるからそぞや絵になるでしょうね?フフ」

 

にやりと笑う。

 

「わぁ〜私でいいの〜?」

 

そのっちはにこりと笑い返した。

 

「そこは恥ずかしがらないの……!?」

 

「園子だしな〜」

 

赤く染まった世界で、少女達は無邪気にはしゃぎあっていた。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「すっかり暗くなったな」

 

神社の境内は出店で埋め尽くされていて、大勢の人で賑わっている。

 

「うーん、この人の中で探すのは大変だな」

 

神社に到着した僕は須美達を探そうとしていた。

ぐるっと周りを見てみるがいないようだ。そのかわり、同じクラスの人は何人か目に入った。

 

「星崎ー!」

 

「おぉ、上野も来てたんだ」

 

同じクラスのラノベ仲間、上野が声をかけてきた。

 

「一人なのか?」

 

「え、いや、人を探してる」

 

「手伝おうか?俺は暇だし」

 

「いいの?」

 

「探してる人はある程度想像はつくからな。鷲尾達だろ、さっき見たぞ」

 

「正解。つか上野は何してたの?」

 

先ほど見たと言った場所に案内されながら話をする。金魚すくいの場所にいたらしい。

 

「ん、俺か?見ての通りラノベの補充」

 

そう言って手にぶら下げていた袋を見せてくる。

話を聞くと本を買ったついでに、たまたまここに寄っただけらしい。

 

「さっき見た時はここにいたんだけど……」

 

周りを見てみるが須美達の影は見当たらない。

とりあえず上野にはお礼を言っとくか。

 

「ありがとう上野。このお礼はいつか返すよ」

 

「楽しみに待っておくぜ」

 

挨拶をして僕らは別れた。

 

「さて、僕は須美達を探すか……ん?」

 

探そうとした時に一つの屋台が目に止まった。

 

「(後ででいいか)」

 

今はそれよりも探さないと、奥に行けばきっといるだろ。

そう思い、少し奥に行くと。

 

「あ、いた」

 

須美達の声は聞こえないが盛り上がってるのはすぐに分かった。

 

「おーい須美ー」

 

名前を呼びながら近くに行く。

それにしても、人が多いので思うように進めない。何とか須美達の所にたどり着いて、改めて声をかける。

 

「須美、一体何して……」

 

「あ〜!祈くんだ〜!」

 

「園子?」

 

振り向くとそこには浴衣を着た園子と銀がいた。

 

「どうしたの、そのっ――って祈くん!?」

 

須美は園子に気づいて後ろを見たら僕がいたから驚いている。

 

「ふぅ、結果オーライ。これで全員集まったな」

 

園子が僕に近づいてくる。

 

「ねぇねぇ祈くん〜」

 

「ん、どうしたの園子?」

 

「私の浴衣どう〜?」

 

きっと感想を求められているのだろう。

 

「どうって、そりゃあ……」

 

園子の質問に答えようとした時、二人が割り込んできた。

 

「い、祈くん!私は!」

 

「アタシはどうだ!?祈!」

 

えっ、どうして二人がこんなにも押してくるんだ?

 

「ゆ、浴衣似合ってるよ。正直可愛いと思う……」

 

この時三人の反応をクラスメイトがたまたま見てそれがクラスの話題になるのは、また別の話。

 

 

 

 

 

「(そろそろ時間か……)」

 

そう思い、僕は空を見上げる。

 

 

ヒュルルルル――。

 

「あっ」

 

その声と同時に、どぉんという大きな衝撃が神社に響いた。

 

「花火が始まる前にみんな揃ってよかったね〜」

 

僕らは神社の階段に腰をかけて花火を見ていた。

神社の奥の方だから人が少なく周りは静かだ。

 

「綺麗〜…」

 

園子は夜空を彩る大輪の花に夢中だった。

 

「……そうね」

 

みんな花火に夢中だ。

次々と天に打ち上げられては、消えていく花火。

夜空が様々な色に染まっていく。

 

「花火師さん達の、職人芸しかと見届けましょう」

 

「おぉ〜ひたすら連発きた〜お腹に響く〜」

 

「ほんといい景色だよなぁ、……バーテックスが来なくてよかったよ」

 

まぁ、確かに。この景色を台無しになんてされたくない。

 

「このタイミングで攻めてきたら、僕もキレていたかも」

 

「お〜私もだよ〜」

 

「私もそうかもしれないわ」

 

楽しい時間は、邪魔されることなく。

花火は存分に夏の夜空を彩っていた。

 

 

 

 

 

「……あぁ花火終わっちゃった」

 

「おもしろうてやがてかなしき鵜舟かな……」

 

「俳句か?」

 

「かの有名な松尾芭蕉の俳句だね」

 

「花火終わると寂しいよね〜」

 

楽しい時間ほどそれが終わるとその分悲しくなる。

 

「でも来年またこの四人で見ればいいだけだな」

 

銀が素直な気持ちを口にする。

 

「そのためには、みんなお役目を頑張らないとね」

 

僕がそんな事言うと。

 

「祈くんも一緒に、よ」

 

「私達は四人で勇者だからね〜」

 

園子が何気なく言った言葉が銀はとても気に入った様子で。

 

「そうだな!私達は四人で勇者だからな!」

 

全員、銀の言葉に頷く。

 

「……どんな事があっても、この四人なら切り抜けるさ」

 

それはきっと僕の心からの願いだろう。

過去を経験してるからよく分かる。

 

「敵はいつ来るか分からないわ、いつ来てもいいように鍛錬は怠らないようにしましょう」

 

「いっぱいリフレッシュできたもんね〜」

 

園子が戦利品の水ヨーヨーをバシバシと叩く。

 

「こりゃ、帰ったら早速鍛錬だな」

 

「あら、珍しく意見が一致したわね」

 

「頑張ろうね〜」

 

鍛錬か、昔は僕もやってたな。

懐かしい思い出が蘇る。

 

「ねぇ、須美」

 

「どうしたの祈くん?」

 

「その鍛錬、僕も参加していいかな?」

 

「祈も参加するのか!?」

 

銀が目を輝かせている。

 

「きっと、参加していいって言うに違いないわ。……私達的にはそっちの方がいいんだけどね」

 

「わっしー、わっしー。本音が出てるよ〜」

 

「あはは……」

 

須美は照れ隠しをするように話を逸らす。

 

「お、おほん。その前に、荷物を置いてから集合しましょう」

 

「僕は用事があるから、先に戻っておくね。集合場所は連絡しておいて」

 

「分かったわ。じゃあ、また後でね」

 

僕はみんなと後で会う約束をして別れた。




次回予告

「就寝タイムだよわっしー!ミノさん!」

「私が、巫女……」

「大丈夫……大丈夫だから……」

「しょうゆ味こそ最高だよな!」

「神樹?」

「行こう!みんな!」

第十四話 不安と覚悟


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第十四話 不安と覚悟

年明け前に投稿――相変わらずの文章力、ですが読んでいただけると嬉しいです!(無理矢理感が目立ちますけど温かい目で見守って頂けると幸いです)


〜祈side〜

 

 

「ただいまー」

 

「お帰りなさい祈」

 

祭りが終わり家に帰った僕は母さんに泊まりのことを伝えた。

 

「それならいいわよ〜、国のためだものね〜。でも……」

 

思ったとうりに了解が出た。だが他になにかあるようだ。

 

「須美ちゃん達に手を出さないようにね」

 

何かと思ったら……。

 

「出すわけないでしょ。じゃ僕は寝るから」

 

呆れて適当に流した。

 

「はいはい。お休みなさい〜」

 

部屋を出る前に母さんの顔を見るとニコニコしていた。

 

二階の自分の部屋に行く。

 

「(天照は居ないか)」

 

扉を開けて部屋を見渡すと天照の姿はなかった。服を着替えてベットに横になる。

 

「(明日から訓練か、昔のようにやるとしても一人じゃないとしずらいな、何とかして頼んでみるかな)」

 

昔ならあいつとか――

 

「ん?」

 

“あいつ”って誰だ?

僕はいつも若葉と……そう考えてるうちに僕は意識を手放していた。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

「よろしくお願いします!」

 

私達は声を揃えて言った。合宿場所は前と同じだ。夏休みが終わりに近づいてくる中、私達は夏の最後の仕上げに入った。戦闘においてチームワークは大切だ。それをより深く高めるために夏休みを使い合宿をし、なるべく四人で訓練をして連携をとれるようにする。

 

「とりあえず荷物を部屋に置いてきてください」

 

「はい!」

 

部屋に荷物を置いて、私達の二回目の合宿がはじまった。

 

 

 

 

と、思ったのだが。

 

「えー!祈は一緒にしないのかよー!」

 

「あはは、ごめん……」

 

祈くんが私達と別に訓練したいと言ったのだ、大赦の人はそれを認めているらしい。

 

「(私達とは力が違うからかしらむしろ私達が迷惑に?)」

 

「でもお昼ご飯は一緒に食べるからさ、それまではお互いに頑張ろう」

 

「んー祈がそう言うならしょうがないか。じゃまた後でな!」

 

銀が言った。そのっちは私と同じことを考えているのか少し表情を曇らせていた。

 

「うん三人とも後でね」

 

そして祈くんは私達とは別の場所で訓練をするために移動した。

 

「それじゃあ私達も始めましょう」

 

「うん!」

 

「おう!」

 

足を引っ張らないように頑張らないと。

私達も勇者だから、祈くんにだけ無理はさせれない。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「随分話が上手く進んだな」

 

須美達と別々になって僕一人になった時に天照が現れた。

 

「大赦側に手を貸してくれる人がいるからね」

 

本当に感謝しないとな春信さんには。

今回の合宿をするにあたり僕の都合のいいように話を回してくれたらしい。

 

「そのおかげで俺は実体化出来るしな」

 

浮いていた天照は地面に降りる。そしてぽん、と僕の肩を叩いた。

 

「ま、話すのは後からだな教えることは教えてやるから早速準備しろ」

 

「はいはい」

 

近くの岩にジャージを投げ星樹を取り出す。

 

「で何するの?」

 

地面に剣を突き刺して天照に話す。

 

「最初は軽い運動その後に神降ろしの使い方だ。どうやらこの時代はそれじゃないとあいつらを殺せないからな」

 

それとはバーテックスの事だろう、確かに須美達はバーテックスを退けるのが精一杯だ。

 

「じゃあ頼むよ」

 

「よし、始めるぞ」

 

まずはストレッチや走り込みから始まった。天照も一緒にしたから最初は驚いたけど見てるのが暇だからかな?そして筋トレをして一旦休憩を挟んだ。

その後は星樹を使った特訓、何だけど……

 

「え……何で天照も持ってんの?」

 

「持ってちゃ悪いか。俺のでもあるんだぞ」

 

「いやそういう事じゃないけど」

 

天照も星樹を手に持っていた。二本ある事に疑問を持つが天照が自分で頼んで作ってもらったらしい。

 

「取り敢えずかかってこいよ遠慮は無しだ」

 

剣を構える天照。

うわぁ、妙な威圧があるな。そんな事を考えながら僕も構えた。

 

「もとからそのつもりだし!」

 

地を蹴って天照に走る。その場には剣を打ち合う音が響いた。

 

 

 

 

〜園子side〜

 

 

「ふ〜、疲れたよ〜」

 

ゴロンと私は畳の上に寝転んだ、そのままコロコロと転がる。

 

「横になるのはいいけど寝ないでねそのっち」

 

「大丈夫大丈夫〜……ふぁ〜っ」

 

欠伸が出てしまった。

横になったら何だか眠く――

 

「そのっちそのっち、はぁだから言ったのに」

 

わっしーが顔を両手でぺちぺちとしてくる。

 

「わっしーの手〜冷たいなぁ〜。気持ちいいよ〜」

 

「そ、そのっち恥ずかしいわ」

 

私が手を握ると恥ずかしがるわっしー、えへへ〜可愛いよ〜。

 

「おーっす飲み物貰ってきたぞー。って何してんだ二人共?」

 

その光景を飲み物を取りに行ってたミノさんが見て微妙な表情になる。

 

「わっしーとじゃれてるの〜」

 

「もう!そのっち!」

 

「とてもそうには見えないけどな、まぁもうすぐ昼ご飯だから準備しろよー」

 

「ご飯!?」

 

ぴょんと起き上がる。

 

「相変わらず反応が早いわね」

 

「ほらほら二人共行こうよ〜!」

 

「ホントだよ」

 

二人を引っ張る私とそれに少し呆れつつ笑うわっしーとミノさん、ご飯を食べたら昼も訓練の続きがある。それと祈くんは昼には戻るって言ってたから今から会えるだろう。

 

「(ふふっ、早くお話したいな〜)」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

やっと終わった……!

みんなより一足先に食堂に着いた僕は机に突っ伏していた。

 

「はぁ〜!腹減ったな〜!」

 

「うるさいぞ、少しは静かにしろ」

 

「お前のせいで疲れてんだよ!それにお腹空いた!」

 

「そんなん知らん」

 

天照は呆れた顔をしつつ僕を見ながら言った。

結構全力を出したつもりなのに歯が立たなかった、天照には褒められた(?)けど自分では認めれない動きだったし。

 

「他の勇者が来る前に俺は戻るぞ。それと昼は神降ろしの事についてだ」

 

「分かった。……ってご飯は?」

 

どこかに行こうとする天照に声をかける。お腹は空くだろう?多分……。

 

「適当にそこら辺で食べるぞ?金はあるからな」

 

ポケットから財布を取り出して動かす。

 

「へ、へぇ……」

 

「じゃまた後でな」

 

そう言ってその場から消えた天照。それと入れ違いで須美達がやって来た。

 

「祈くん早いのね」

 

「そんなにお腹空いたのか?」

 

「まぁそんなとこ。それと――」

 

「それと?」

 

言葉を繋げようとした口を閉じて言い直す。

 

「全員揃ったなら準備しよっか」

 

お腹空いてるのは別に否定する理由は無いし。僕は先に食事の準備を始めた。

 

「そうだね〜」

 

それと、わいわいしてる時間が僕は好きかな……。

三人を見ながら心の中で言った言葉は誰にも聞こえない、そうして準備をする手を動かした。

 

 

 

 

〜天照side〜

 

 

祈にはああ言ったが嘘っぱちだ。本当は樹海に用があった。

 

「おい来たぞ」

 

『済まないな星崎祈』

 

なぜか神樹は俺のことをずっとこう呼んでいる。

 

「……で、何なんだ?わざわざ呼び出して」

 

『…………』

 

「神樹?」

 

急に黙ったから何かと思う。

 

『近いうちに敵が一気に攻めてくる、巫女にも連絡はするが星崎祈に言っておこうと思ってな』

 

「それをなぜ俺に言うんだ。それこそ祈に言うべきだ」

 

そうだ。俺に言う意味が分からない。

 

『もしもの時のためだ』

 

こいつが“もしも”ね……。

俺は手につけてるブレスレットを一度見て。

 

「あぁ、分かったよ。その時は俺も出る、だけど完全に戻ってはないぞ」

 

『今の勇者達のシステムに新しい力を追加したから少しは手助けになると思う』

 

新しい力?

 

「どんな力だよそれ。前みたいな神降ろしか?それとも違うやつか?」

 

『違う。システムの名は満開、一時的に強大な力を得ることが出来る』

 

「それは凄いな……で、代償は」

 

問題はそこだ。どのような力が、じゃないどのような代償が払われるか、だ。

俺の質問に神樹は答える。

 

『力の代償は――――』

 

 

 

 

 

「……相変わらずたちが悪いな」

 

それを聞いて俺はもう十分という感じで去る、それを神樹は何も言わずに俺を返してくれた。

俺は元の世界に帰りふと思ったことがあった。

 

「(その代償は()が黙ってないぜ)」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「天照遅いなー何してんだ」

 

ご飯を食べて僕は先に訓練場に戻ったがそこに天照の姿はなかった。

 

「悪い遅くなった」

 

と思ってたら来た。

 

「長かったね、何食べてたの?」

 

「いろいろだよいろいろ」

 

深く聞くのはやめておこう。で確か昼は神降ろしか。

 

「神降ろしって他になにかあったっけ」

 

天照が説明をする。

 

「二種類あるな。一つはお前が前に使った星樹に力を宿すもの、そしてもう一つはその神に関係する武器を具現化するのだ」

 

「武器?」

 

「んー例えば――」

 

片手で頭を掻きながらもう片方の腕を前に出して手を開く。そして言葉を発する。

 

「神具顕現――天之尾羽張」

 

開いている手に剣の形が作られていき手に収まった。よく見るとその剣は少しだけ赤みを帯びている。

 

「と、まぁこんな感じ」

 

「神具顕現……か」

 

「これは勇者に渡すことも出来るぞ。力の共有だな」

 

顕現させた武器を消失させる。

 

「宿す方の神降ろしは複数体降ろしたらその分危険もあるんだ、強大だからな。それと違って顕現はあまり大きな危険は無い」

 

「ふ〜ん。じゃあ考えないといけないのか」

 

「そうだ、自分の体がどうなってもいいならやればいいだけだしな」

 

それって――

 

「自分のことでしょ?」

 

昔を思い出して言う。

 

「当たり。それとお前でもある」

 

説明すんだしやるか、と言って午前の続きが始まる。

 

「(逃げたな)朝みたいになると思うなよ。次は僕が勝つ」

 

「勝負じゃないんだがな」

 

笑を浮かべながら天照と僕は剣を構えた。そして――

 

キィン!

 

剣と剣がぶつかり合う。

気合を込めて振り払い流れをこちらに持ってこようと考える。

 

「(あいつに流れを来させないように……)」

 

バーテックスとの戦いでも攻め続けて敵に攻撃の隙を与えないようにする。

距離を詰めて連撃、だけど天照はそれを避ける。

 

「らあああぁぁああっ!!」

 

声を上げて攻撃の速度を上げる。

 

「…………」

 

避けてる最中に剣を持ってない方の手を少しあげる、それに僕は一瞬だけ目を向けた。

 

「(何だ?)」

 

そして視線を前に戻した。

 

「っ!?」

 

いつの間にか首筋に天照の星樹が当てられていた。

 

「単純だな。そんなんだと死ぬぞ?」

 

剣を下ろして言葉をかけられる。

悔しいが何も言えない、これがバーテックスとだったら確実に死んでいたのだから。

 

「はぁ……」

 

地面に横になる僕とそれを見下ろす天照。まさしく敗者と勝者の絵だ。

 

「だけどまだやるよ、体は動くからね」

 

「そう来ないとな」

 

それから僕らは暗くなるまで剣を打ち合っていた。

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

「ふう〜!癒されるな〜!」

 

「そうね。……先に忠告しとくけど前みたいなことをしたらただじゃ済まないわよ?」

 

おおう、須美さん目が怖いです。

特訓が終わって夜になり寝る前に私達はお風呂に入っている。

 

「そういえば明日はどこに行くんだっけ〜?」

 

「神樹様に会いに行くんだろ?忘れるなよ」

 

「以外だわ、銀が覚えてるなんて……」

 

目を見開いて驚いてる須美。

アタシってそんなにアレか?

 

「そりゃあ覚えるさ。三人で立てることが凄いことだしな」

 

須美や園子の家は格式が高く有事の際に神樹との接触が許されてるらしい、私の家は発言力があるだけでこのような事に立ち会えるのは珍しい。恐らく勇者だからだろうが……。

 

「あ〜思い出したよ〜!でも何で祈くんは来ないんだろうね?」

 

夜ご飯の時にその話は出た。どうやら祈は家の格式関係なく大赦側から特別扱いをされている。

 

「色々とあるんじゃないか?」

 

「本人も聞かないでって言ってたものね」

 

大赦側は私達と違う力って気づいているのだろうか?

 

「昼は自由なんだっけー?」

 

考えていると園子が話しかけてきた。そういえばそうだったな、なんて思う。

 

「それならイネスでも行く?ジェラート食べに」

 

その言葉にすかさず反応するアタシ。

 

「しょうゆ味こそ最高だよな!な!」

 

「はいはい」

 

「わ〜!わっしー冷たい〜」

 

 

 

そんなにやり取りをしていてお風呂から上がったらやっぱりというか園子が話題を持ち出した。

 

「就寝タイムだよわっしー!ミノさん!」

 

「私は眠いわ」

 

「うわ〜ん!まだ何も言ってない〜!」

 

何、とは前と同じことと思う。

 

「結果は変わらんだろ?」

 

「……うん」

 

「ええ」

 

「それなら今日はもう寝ようぜ、明日は早いんだ」

 

「それでいいそのっち?……そのっち?」

 

「Zzz……」

 

寝てる。なんて早さだ。

 

「おい須美、アタシ達も寝よう」

 

「え、ええそうね。おやすみ銀」

 

「おう、おやすみ須美」

 

言葉をかけ合いアタシ達は眠りについたのだった。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

次の日の朝、神樹様に会いに行くために私達は滝にうたれ身を清めた。その後に神樹様に会う。

 

「こ、これが神樹様」

 

「…………」

 

私は神樹様の前に立って言葉を失っていた。見た目は普通の木だ、樹海化したときのような大きさもないだけど雰囲気が凄かった。

私達は巫女さんの許しを得て神樹様に触れた。

 

「神樹様って少し温かいんだねわっしー、ミノさん」

 

「そうだな。……って須美?大丈夫か?」

 

「…………(な、何これ……頭に)」

 

「どうした須美?体調でも」

 

「い、いや……大丈夫、でも……頭に何かが流れ込んで……」

 

私の言葉を聞いた巫女さんが驚いたように後ろで声を上げた。

 

「流れ込む?まさか……神樹様とお話が!?」

 

その言葉に全員が驚く。

だけど私は痛みに耐えながらその流れ込むものを見ていた。

 

「(……空?それに星?)」

 

そこがどこなのかは分からない。何が映ってるのかも分からない。けどそこには星ともう一つ……はっきりと見えるものが――

 

 

 

 

「お?目を覚ましたぞ!」

 

「ここは?」

 

「わっしーの家だよ〜!もう心配したんだから〜!」

 

そのっちが抱きついてくる。

そうか私はあの後に気を……。

 

「神樹様に触れた時に流れ込んできたの。星が流星のようにふってくる……」

 

「星って夜に見えるやつか?」

 

頷く。

 

「神託、そう私達は呼んでるわ」

 

すると先程連れていってくれた担任の先生が襖を開いてやって来た。

 

「先生……」

 

話を聞く限り私は勇者でありながら神樹様の声を聞ける巫女としての素質があるらしい。

私が、巫女……。言われても実感なんてわかなかった。

そこからは先生の顔が今までに見たことのない険しさになっていた。

 

「それでどんな光景を見たの?その光景から敵の襲撃を予測出来たりするの」

 

「え、えっと――」

 

私は見た光景を先生に話した。

 

「お告げがあった期間だったけど……そういう事ね。それはね、近日中に敵が襲来することを伝える緊急メッセージよ」

 

私の証言をもとに先生は予想を立てていく。結果は複数のバーテックスが近日中に襲来する、というものだった。

 

「つまり決戦、ってことか」

 

拳を握りしめる銀。

 

「でも私達は負けないわ。それほどの力はあるもの」

 

「勇者システムもアップデートしたもんね〜」

 

負ける気はしない。その時三人の気持ちは一つになっていた。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「決戦ね」

 

学校での昼休みに須美達にそんなことを聞かされた。

 

「それまでは大赦側が自由に過ごしていいだって〜」

 

「いつ来ても私達は準備バッチリだからな!」

 

「でも油断はだめよ。油断大敵」

 

須美言うことは正しい、けど気を張りすぎてもキツイだけだ。

 

「(自由か……それなら話にでも行くか)そういえば今日家の用事があるんだよね」

 

「あらそうなの?」

 

「うん。だからもうすぐ帰るから、そこんとこよろしく」

 

「分かったわ」

 

座ってた椅子から降りてみんなに挨拶をして職員室に僕は向かった。

 

『神樹のとこか?』

 

「ああ。詳しく聞くだけだ」

 

走りながら天照に答える。あまり長く喋ると独り言が激しいように思われるからな。

 

『心の中で俺に話しかければいいじゃないか』

 

「そんな事が出来るのか?」

 

『やってみろよ』

 

不安半分でやってみる。

 

「(……どう?聞こえる?)」

 

『おう』

 

ほんとに聞こえるんだ。

そう思っていたら職員室に着いた、そして僕は先生を呼ぶ。

 

「六年一組星崎祈、先生に用があって来ました」

 

どうぞ、と担任の先生が言ってくれたので失礼しますと一言言って中に入った。

 

「どうしたの祈くん?私に用事って」

 

体をこちらに向けて先生が言う。先生は僕が何を言うのか想像もつかないだろう。

僕は周りに聞かれると厄介だから小声で言った。

 

「神樹の場所に連れていってくれませんか」

 

「……ここでは話しずらいわね、外に行きましょう」

 

外に出て人気のない場所に行く。すると先生は僕の声から感じ取ったのか表情が変わっていた。

 

「神樹様に用事があるの?」

 

「はい。少し聞きたいことがあったので」

 

「祈くんも声が聞こえるの?」

 

先生が怪しむように言う、巫女でもないのに聞こえるのは変だからだろう。

 

「(どうする天照?なんて言えばいいかな?)」

 

『俺が話す。準備が出来たら言え』

 

どうやら天照が話すらしい。それはそれでややこしくなる気が……まいっか。

 

「あ〜、えっと〜ここから先は僕じゃなくてこいつに答えてもらいますね」

 

「?何を言って――」

 

「(頼む)」

 

心の中で天照を呼ぶ。

突然僕の横が光ってそこに神樹館とは違う制服を来た人物が立っている。

 

「!?い、祈くんが二人!?」

 

「えらく雑に振ったな。別に俺はどうでもいいが」

 

「手短に頼む」

 

僕から視線を先生に移す。

 

「え、えっと――」

 

「俺は天照。お前らが言う精霊に近い存在だ」

 

「じゃあ天照、さん?」

 

戸惑う先生、無理もない。姿は似ていてもここまで違うんだ。

 

「呼び方はなんでもいい。それより本題だ。祈が大赦で妙なふうに言われてる事は知ってるか?」

 

「ええ、私達の間でも混乱が起きてるわ。重要機密の様な扱いだからね」

 

そんなふうになってるのか。

 

「先にこいつは勇者なんかじゃない。それと俺も精霊に近いとか言ったけど全然違う」

 

「……どういう事なの」

 

天照は僕を一度見る、それに頷く僕。話の核を言うつもりだろう。

 

「これは大赦側から言われるまで黙っててくれ。まぁこいつが死んでも言わないと思うがな」

 

「そんな物騒なこと言うな。さっさと言えよ」

 

はいはい、と手を振って先生に伝えた。

 

「祈は神に近い存在だ、で俺は一応神。だから神樹とも会話が出来る」

 

「え、ええ?」

 

「信用するしないはお前の自由だ。――俺はもういいか?」

 

「うん、ありがと天照」

 

その場から消える天照。先生はまだ何が何だかという感じだ、だけど。

 

「分からない事だらけだけど取り敢えずは神樹様の場所に連れていけばいいのね?」

 

「お願いします」

 

それから先生は学校側に話を付けて僕を神樹の場所に連れていってくれた。

 

「ありがとうございました先生」

 

頭を下げてお礼を言う。

先生はどういう意味を込めたのか頑張ってねと言って帰った。

 

『俺はここで待っとく。お前だけで話してこい』

 

「うん」

 

僕の場合は顔パスで通れる、須美達のように格式の問題じゃなくやはり特別な扱いを受けているかららしい。

何もなく神樹の前に着いた。そして話しかける。

 

「神樹」

 

『星崎祈か、どうしたんだ?』

 

「次で終わるのか?」

 

『……お前も分かってるだろう終わりなんてない』

 

知ってるよ、当然。

 

「須美達は――どのタイミングで終わらせるんだよ」

 

『動かなくなるまでだ。強大な力も与えたんだ、時間は稼げる』

 

「そう……か……」

 

『お前が勇者に全てを伝えたのは知っている。それの上で勇者は戦っている、これはありがたいことだ』

 

そうだ、僕がみんなに真実を教えたのに役目を果たそうとしている。

その先に絶望があるとしても――

 

「っ!」

 

その時体が違和感に襲われた。樹海化が起きているのだ。

 

『頼んだぞ』

 

何も答えずに僕は大橋に向かった。

 

 

 

 

「みんな!」

 

丁度学校が終わったタイミングだろう。みんな先に大橋に着いていた。

 

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

園子は両手を前で握る。

 

「決戦……へへっ!イイじゃん」

 

準備体操をしている銀。

 

「祈くん、合図を」

 

短く頷く、そして言葉を発する。

 

「今までとは比べ物にならない戦いになると思う、文字通りの決戦だ。だけど僕らならいける……だから――」

 

同時に携帯を取り出して変身の準備をする。

 

「行こう!みんな!」

 

この戦いを終わらせるために。




次回予告

「満開!」

「え?か、体が――」

「神装」

「祈くん!」

「お前も馬鹿だよな」

「アタシも……勇者だからな」

「次の勇者への架け橋に、か」

「そういう終わり方もいいかなって」

「何で!?どうしてなの!?」

「じゃあね、みんな」

最終話 またいつか


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最終話 またいつか

わすゆ編最終話です


〜天照side〜

 

 

「…………」

 

ただ、遠くを見ていた。別に何かが見えるわけでもないのに、神樹の近くに座って俺は遠くを見続けた。

 

『どうしたんだ星崎祈』

 

「始まったな、って」

 

『そうだな』

 

バーテックスの総攻撃。どの時代も苦しまされ絶望する、それに勇者達がどれだけ抗えるか……。

 

「……俺は、何をしているんだろうな。あいつのような事は繰り返したくないなんて言う割にはこんな――」

 

『星崎栞那か』

 

最愛だった人物の名前を神樹が言った。

動かない体を勇者の切り札で無理やり動かして当時の勇者達を救ってくれた、致命傷を負った体はバーテックス達を退けてさらに酷くなり――

 

「満開だったか。同じような事がなければいいが」

 

勇者に新しく与えられた力は制限はかかってるが前と変わらないもの……ではないな。力に対する代償が大きすぎる。

 

「……あいつの行動次第だな」

 

俺は神樹の横で戦闘の行く末を見ていた。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「それが精霊?」

 

「そうらしいな」

 

勇者に変身した皆の横にふよふよと浮いているもの。これが勇者システムのアップデートで追加された精霊だそうだ。

 

「私はカラスだよ〜」

 

鴉天狗って言ってあげて、と須美から突っ込みが入る。

 

「須美の精霊は……卵?」

 

「青坊主よ。まぁ見た目は卵だけど……」

 

そう言い須美は青坊主を撫でる。

 

「それにしても銀の精霊は羨ましいわね、武者かしら?」

 

「諸行無常」

 

「おー!喋ったよ〜!」

 

「逆にこれしか喋らないんだけどな。因みに義輝って名前らしい」

 

「諸行無常」

 

ほんとにそれしか喋らないのか。謎の威圧感があるような無いような。

 

「私達は変わったけど祈くんは何も変わらないね〜」

 

園子が僕の姿を見てる。自分の格好を見下ろしてみて神樹館の制服が目に入る。

 

「僕は勇者システムのアップデートは無かったからね」

 

そもそも勇者システムではないと思うし。

そこに須美の声が入った。

 

「話はこの戦いが終わった後ね」

 

その言葉で今の状況に引き戻された。

そうだ今は話してる場合じゃなかったな。……でも皆だからこんな時に話せたんだろうな。

僕は須美の精霊、青坊主から端末を見せてもらい敵を確認する。

 

「(敵は三体……先に僕が切り込めば皆は安心して攻撃出来るはず)」

 

星樹を取り出して皆に提案。

 

「先に僕が行くからその後にみ――「待った」――?」

 

銀が僕の話を遮った。どうしたのだろうか?

 

「アタシ達は仲間、チームメイトだろ?一人で突っ走るなよ。私達だって強くなったんだぜ」

 

銀の言葉に須美と園子が頷く。

……そうか、昔と違って僕はいつの間にか一人で行動してたんだな。

 

「……ごめん。指示をお願い」

 

園子の目を真っ直ぐに見て言う。

 

「分かったよ〜!えっとね〜……」

 

園子の作戦は銀と園子、僕と須美の二手に分かれて敵を攻撃するというのだ。幸いバーテックスの一体、獅子座のバーテックスは動こうとしない。二体目は魚座のバーテックスだ、これを僕と須美が。最後の牡羊座を銀と園子が相手をする。

 

「了解よそのっち」

 

いつの間にか須美の手には弓ではなく銃が収まっていた、その形状からして確かスナイパーライフルだった気がする。

そう、勇者はシステムのアップデートに伴い新しい武器が追加された。と言っても追加されてないのもあるらしいが……。

 

「お、カッコイイな須美!」

 

「私はそのままだよ〜。使い慣れてるからいいけど〜」

 

須美に続いて武器を出す二人。

その例が園子だ相変わらずの槍、そして銀はというと。

 

「ミノさんの斧は少し形が変わったね〜」

 

「……くっつく?」

 

須美が不思議そうに言う。

 

「お!よく気づいたな!見てろよ〜……」

 

二丁の斧を刃が外を向くように合わせて大きな一つの斧に、そしてそれだけでなく……

 

「へぇ……」

 

思わず声を出してしまう。

銀はもう一度斧を二丁にし両手首のスナップをきかせたかと思うと刃の部分が180度動き今度は二丁斧ではなく二本の大きめの刀になった。これは前の武器に似ている。

 

「からの〜、二刀流!」

 

手に持ってた斧が消え手に二本の剣が現れる、その剣こそアップデートで追加された武器なのだろう。

 

「! 凄いわ!」

 

「わぁ〜!」

 

珍しく須美が声を上げている、園子は目を輝かせる。僕らの反応を確認した銀は剣を出した時に追加されたのであろう腰の部分にある鞘に剣を入れた。

 

「斧、刀、双剣に使い分けが出来るのね」

 

「おう!パワーにスピード両方を兼ね備えてるんだ!」

 

自慢げに話す銀。

 

「じゃあそれぞれの武器の性能も分かったし今度こそ行こっか」

 

僕が星樹を取り出して皆に言った。

 

「あ〜ちょっと待って〜」

 

「どうしたのそのっち、バーテックスもいつまでも待ってないのよ?」

 

視線をバーテックスに向けるが何故か三体とも動こうとしない。

待ってるのか?それならありがたいが……とても複雑な気分だ。

 

「でもでも〜、一つだけしたいのがあるんだよ〜」

 

「何をするんだ?」

 

「えっとね、肩を組むやつだよ〜」

 

きっと円陣の事だろう。僕らの時もやってた記憶がある。

 

「ほらほら来て来て〜」

 

「わわっ……」

 

園子に集められる三人、そしてそのまま肩を組んだのだが園子が微妙な表情をしている。

 

「…………」

 

「園子掛け声は?」

 

「考えてなかった〜!」

 

銀の問いに笑いながら答える。こういう所はしっかりしてないと思う。

 

「サブリーダーお願い〜」

 

え?僕?

唐突に振られた。それにサブリーダー?

 

「祈になら任せれるな!頼むぜサブリーダー!」

 

「お願い祈くん」

 

銀と須美もこう言ってくる。まぁいいか。

すぅ、と息を吸って声を上げる。

 

「今回の戦いは今まで以上に大変だと思う、けど僕らならやれる!この戦い……勝つのは僕らだ!ファイトーー――」

 

「「「「オーッ!!!」」」」

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

円陣をした後にアタシ達は二手に分かれ戦闘を開始した。相手は牡羊座のバーテックス。

 

「う……何だか気持ち悪いな」

 

ニョロニョロと大橋を突進してくる、それにアタシと園子は武器を構えた。

 

「行くぞ園子!」

 

「任せて〜!」

 

アタシは一丁の斧にして敵に振り下ろす。

 

「変な動きをしやがって、気持ち悪いんだよ……止まれえっ!」

 

その攻撃で脳天を真っ二つにした。続いて園子が関節部分を攻撃しバラバラに切り離す。

 

「終わりだな!」

 

身体がバラバラになったバーテックスを見て言う。だが……。

 

「あれ?待ってミノさん〜、このバーテックス……」

 

園子が真っ二つにしたバーテックスを見ている。

 

「こいつ再生してる!?」

 

「いや再生よりもこれは〜――」

 

アタシ達が斬った部分から体が生えてきている。

 

「まったく!気持ち悪い……な!」

 

「斬ったら増殖するなんて〜、これじゃ迂闊に攻撃出来ないよ〜」

 

一丁の斧を団扇のようにして風を起こす、それで取り敢えず敵を後退させる。園子は槍を器用に使い敵の攻撃を受け流す。

 

「! 園子後ろだ!!」

 

やはり増えた相手を二人だけでは厳しい。

数で押し切るようにして園子の横から増殖したうちの一体が強烈なタックルを仕掛けた。

が、その瞬間バーテックスと園子の間に園子の精霊、鴉天狗が現れて攻撃を防いだ。

 

「(アレが精霊バリアか、心強いな!)」

 

園子は衝撃で弾かれはしたがダメージは全く無いように見える。

アタシは心の中で思った。これは大きな力だ、前みたいに大怪我をしなくてもすむ。

だけど無敵ではないから油断は出来ないな。

 

「もう強引にきたって通じないよ〜!」

 

アタシ達は一斉に襲ってきた敵を斬る。やはりだが、それはバーテックスを増殖させるだけになる。

 

「諸行無常」

 

「ん?どうした義輝?」

 

義輝が端末をアタシに見せてきた。

 

「(何でレーダーを……ってん?)」

 

レーダーを見ておかしな事に気づいた。アタシ達が敵を斬って増えてるはずなのにレーダーは敵を示す印が一つしかない。

 

「(どういう事だ?)」

 

その場所を見てみるとそこには増殖した個体に囲まれている一体がいた。

 

「なるほどな!」

 

斧を消して鞘から剣を取り出す。

 

「だけどどうやって行こうか……」

 

うじゃうじゃとして斬り込んでも増えるだけだろう。園子も囲まれている一体を目指そうとするが敵に阻まれて思うように移動できないように見える。

 

ヒュッ――

 

何かがアタシ達の間、隙間を通り抜けた。

その後に囲まれている一体が何故か怯んで増殖した個体の動きが止まる。

 

「今よ!祈くん!」

 

後ろから須美の声が聞こえる、となると今のは須美の狙撃だろう。

 

「逃がしはしないぞ!」

 

神装状態の祈が上から炎を纏わせた刀を持って急降下していた。

その刀をバーテックスの上で横に薙ぎ払う、その一振りは本体と増殖した個体を同時に消し去った。

 

「やっぱり祈くんは凄いな〜」

 

「こりゃアタシ達も頑張らないとな」

 

須美と合流し祈も上から降りてきた。

 

「わっしー魚座はどうしたの〜?」

 

「それが……海に潜って出てこないのよ」

 

レーダーを確認すると同じところから動いていない。

 

「須美が攻撃をしたのはいいんだけど、その後に潜ってそのままなんだよ」

 

そう言い祈は橋の向こうを見る。そちらに視線を移すと獅子座が前進を始めていた。

獅子座の動きは、大橋を沿うように海の部分を進んでいる。

 

「どうやら魚座の方も来たみたいね」

 

須美が銃でいつでも撃てる状態に入る、アタシと園子、祈もそれぞれの武器を構えた。

 

そして地鳴りとともに海中から魚座が飛び跳ねてきた。

最初に須美の狙撃で体勢を崩す事ができた。

 

「おおぉぉぉぉッ!!!!」

 

気合を込めて敵に斬りかかる。

体勢が崩れた斬り裂くのは簡単だ。

アタシは斧を二つにして刀モードで十字に斬る、続けて園子が槍で連撃を加える。

 

「お前も――っ!?」

 

再び祈が炎を纏わせた刀で斬りかかろうとした、その時……。

獅子座から極太のレーザー砲が放たれた。

 

「狙いは……神樹様か!」

 

獅子座が狙ったのはアタシ達勇者ではなく神樹本体だった。

幸いにもレーザーは神樹様に届かず霧散した。

その隙に魚座は海に潜っていった。

 

「近づいてきてるよ〜!」

 

距離を詰められれば確実に神樹様に届く、そして破壊される。それだけは何としても避けなければいけない。

 

「撃たれる前に――撃つ!満開!!」

 

瀬戸大橋に花が咲き誇る。

後ろでは須美が満開――勇者に与えられた新たな力を使っていた。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

「(これが満開……)」

 

不思議と力が湧いてくる。

今の私は宙に浮いていて、極太の砲座を束ねている。

 

「わぁ、巨大戦艦わっしーだ!」

 

「いけぇ須美!フルバースト!」

 

そのっちと銀が下で何か言っている。

銀に至ってはどういう事か分からないけど何かのゲームだろうか。

 

「この力、その身で受けてもらう!」

 

獅子座に空から砲撃の雨を降らす。

やはり火力が違う、一撃当たるだけでも大きな巨体を崩すことが出来た。

 

私の放った砲撃が何発も当たって海の中に獅子座は消えていった。

橋の上に私は着地する。

 

「二体とも海に沈めたわね……」

 

「もうそのまま帰ってくれてもいいけどな」

 

銀がそう言ってレーダーを眺めた。しかし、敵の位置に変化は無い。

再生をして仕掛けてくるのだろう。

 

私の満開が解除される。

 

「長時間の満開は不可能のようね」

 

「お疲れ須美。満開、凄かったよ」

 

祈くんが近づいてきた。

 

「(そういえば祈くんの神装は私達の満開と違うのかしら?……ずっとその状態でも平気のようだけど)」

 

神装を纏っている祈くんを見続ける、その体からは淡い光が溢れている。

その光は眩しいというよりも少しだけ温かく、包み込んでくれるような――。

 

「……須美?どうかした?」

 

いけないわ。

別の事を考えてしまっていた。

 

「いえ少し疑問があって。私の満開は短時間しか無理らしいけど、祈くんの神装は長時間可能なのよね?」

 

「長時間……うん。その気があればずっとこの状態でいられるけど神降ろしを使いすぎるとその分の反動がくるんだよ。まぁ、後のことを考えなければ神降ろしを何回使おうが――ってこんなのは話さない方がいいよね」

 

微笑みながら言う祈くん。

 

「やっぱり凄いわね、祈くんは……!?」

 

がくんと急に足に力が入らず倒れそうになる。が地面につく前に祈くんが支えてくれた。

 

「どうしたの?」

 

「? 足に力が……、いえ、足が、動かない」

 

そのっちと銀も近くにくる。

 

「どうしたんだ祈?」

 

「いや、足が動かないらしくて……」

 

「どうして〜?敵に攻撃でも受けたの?」

 

「いいえ。敵には攻撃は受けてないわ」

 

何故?

その言葉が頭の中でぐるぐると回る。

 

「っと、敵さんもまた来たな」

 

再生を終えた獅子座、魚座が再び動き始めたらしい。

 

「じゃあ今度は私が満開をするよ〜」

 

「アタシもこの際一気に攻めるぞ!」

 

二人も満開のゲージが溜まっていた。増殖体の牡羊座を相手した時に溜まっていったのだろう。

 

「そういえば須美。援護は出来るか?」

 

「ええ、動けなくてもそれくらいは出来るわ」

 

「うっし!それは助かるな!」

 

海から魚座が襲ってくる。

 

「まずはコイツからだ!」

 

「うん〜!」

 

「「満開!!」」

 

銀とそのっちが満開をする。

再び大橋に大輪の花が咲く。

 

「僕も行ってくるよ」

 

「了解、援護は任せて」

 

祈くんが刀を構えて魚座に向かう。

私は銃を数発撃ち援護射撃をする。

 

「ありがとう〜わっしー!」

 

そのっちは満開して変化した槍を操る。どうやら槍の穂先にある刃の数が増えているようだ。

その一つ一つを自由に操り敵を斬る。

 

「次はアタシだ!」

 

銀は満開してからは自分以上の腕が四本追加され、それぞれの大きな刀を持っている。やはり武士をイメージしているのだろうか、腕には二つづつ鎧の一部のような物が付いている。

銀が腕を振るうと腕が連動して動く仕組みのようだ、その四本の腕で刀を操り連撃を加える。

 

「銀下がって!後は僕が――」

 

銀が下がりその後ろから祈くんが刀を構えて敵に突撃する。

 

私と祈くんの距離は離れているがパチッと音が聞こえた気がする……。

 

「火雷神よ――」

 

敵を二、三回斬り、刀を逆さに持つ。

そしてそれを敵に刺して――。

 

「その力を示せ」

 

バチッ!!

 

轟音。そして一瞬だが視界が真っ白に染まった。

視界を取り戻して目を開けるとそこには魚座の姿は跡形も無く消え去っていた。

 

その間に銀とそのっちが獅子座を攻撃していた。

二人の止まらない連携攻撃で獅子座は再び海に沈む。

 

「雷、か?すごい音だったけど……」

 

「ぴかっ、どーん!だったね〜」

 

満開が解除された二人と祈くんが橋に降りてきた。

 

「雷であってるわよ。祈くんの力のね」

 

「お〜!さすが祈くん〜!」

 

そのっちに褒められたからか少し顔が赤い祈くん。

それを隠すようにレーダーを見る。

 

「これで魚座と牡牛座を倒したから後は獅子座だけだね」

 

銀の精霊にお礼を言って頭をぽんぽんと叩く。

 

「でもまだ海に潜ってるみたいね」

 

点が動いていないことからまた再生をしているのだろう。

 

「レーダー、レーダー……あれ……?」

 

そのっちが片目をこする。

 

「どうしたの園子?」

 

「あれ……あれれ?目が……片っぽの目が見えない〜」

 

「え?」

 

どくん。

何故か嫌な予感がする。そう考えていた矢先に……。

 

「……アタシは腕が動かない」

 

銀は右腕を左手で掴みながら言う。

自分の足も動けない状態なのだ、なのにこうも続けて同じような状態が起きるなんて……。

 

「敵の攻撃?やられたら呪詛を送り込むとかか?」

 

「神樹様の力を持ってるのに呪詛なんて効くのかしら……今は精霊だっているのよ?」

 

「じゃあ、どうして〜?」

 

攻撃をしたから?いいや、それなら今までだって――。

 

「……! 祈くんは!?」

 

もしかして……と思い祈くんを見る。

 

「いや、僕はなんとも無いけど」

 

何事もなく立っていた。

 

「敵を倒した、からじゃなさそうだね。それなら僕だってなる筈だから……っ!」

 

「どうしたの〜祈くん〜?」

 

「…………」

 

そう言って神樹様の方を見る祈くん。神樹様の安全を確認しているのだろうか。

 

「(それにしても敵の攻撃でもない、倒したからでもない……それなら何が原因なの?)」

 

まるで考えが思いつかない。

疑問を抱えている私達の事なんて当然考えるわけでもなく、獅子座は再び動き始めた。

 

「くそ……ふざけるなよ……!」

 

「祈くん?」

 

それと同時に祈くんは地面を蹴って獅子座に向かった。

 

「アイツ!精霊も無いのに何してんだ!」

 

「私達も追おう〜!」

 

「満開で祈くんをサポートしましょう、二人共頼むわよ!」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「(そういう事か神樹!)」

 

須美、銀、園子の状態の事で嫌な予感が付いてしまう。

 

『動かなくなるまでだ』

 

この戦闘が始まる前にした神樹との会話。あの言葉は文字通り(そのまま)の意味なのだろう。

 

「見えた……!」

 

獅子座が見えたと思ったら、僕の横を何かが通り過ぎそれが獅子座に当たって獅子座が傾く。

 

「今の、まさか!」

 

後ろを振り向くと、やはり須美が満開をしていた。そして銀と園子もだ。

須美の砲撃で敵が怯んでいる隙に銀と園子が攻撃を畳み掛ける。

が、獅子座は攻撃を仕掛けようと怯みながらも砲撃のチャージを続ける。

 

「下がって二人共!」

 

僕の指示で下がる二人。

 

「! わっしー!」

 

そして園子は叫びながら後ろに向かう。

そちらを向くと満開を解除した須美が橋の上で倒れていた、そしてそこには倒したはずの牡羊座のバーテックスが一体いた。

 

「どうしてあのバーテックスが?」

 

銀もそちらに気が取られてしまう。

そしてその一瞬が命取りになる。

 

「銀!」

 

獅子座の砲撃を開始した。その砲撃は拡散し狙いは定まってないように思える。だが、流れ弾が僕らに当たらないとは限らず……。

 

「え……」

 

砲撃の一部が銀に向かっていた。

 

距離がそう遠くなくて助かった。僕は銀を片手で自分に寄せて攻撃を防ぐ。

 

「神具顕現――八咫鏡!」

 

僕よりも少し大きめの鏡が目の前に出現する。前に神降ろしで出したのとは違い、今回のはただの盾だ。

攻撃を防ぎきった僕は一旦後退することにする。橋に銀を下ろし牡牛座の残り個体を星樹で斬りつけて消滅させた。

 

「……皆、体に変化は?」

 

聞きたくないが聞く、これでハッキリと分かるからだ。

 

「アタシは……え?か、体が――」

 

「わっしーは気絶してるよ。私は今度は左腕が……」

 

満開を解除した二人はやはり体に異常が起きていた。

園子は左腕、銀はどうやら体が自由に動かないようだ。

 

獅子座を見ると砲撃を放とうとしていた。

 

「園子、須美を持って!絶対に離さないでよ!」

 

「え?う、うん〜」

 

星樹を一旦消して両手で二人を抱える。

砲撃が来る前に陸地に移動して二人をおろす。

 

「あぁ!瀬戸大橋が――!」

 

大地が揺れた。

それは大橋が獅子座の砲撃で崩れたからだった。

 

満開――勇者の新しい力。

その力の代償、神樹の言葉の意味……。これを分かってしまった僕は二人に告げる。

 

「二人共、もう満開は使わないで……後は僕一人でどうにかするからさ」

 

「い、祈……」

 

銀はもう戦える状態じゃない。

園子が声を上げる。

 

「何で!?どうしてなの!?」

 

「自分でも分かったんだろ、満開の代償を」

 

「っ!?」

 

いざという時に強い園子は分かったのだ、満開を。そして使い続けると最終的にどうなるのかも。

 

「だから須美を今起こしていない」

 

「で、でも!私達だって戦えるよ〜!だから一人でなんて――」

 

三人を順に見る。

 

「とてもそういう状態じゃないけどね。園子も限界でしょ?」

 

「限界じゃないよ〜!戦えるもん!」

 

「そ、園子……」

 

武器を持つ園子だが、その手は震えている。

満開を使えば動かない部分は回復するが、解除されればまた何かが動かなくなる――その恐怖は大きい。それも一人の少女にしては、だ。

 

「園子、ここは祈に任せよう。ちゃんと……ちゃんと帰ってくるんだよな」

 

銀も分かったらしく僕を真っ直ぐに見て質問してくる。

 

「うん、帰ってくるよ。皆の場所に」

 

「よし!それなら行ってこい!!ただし――」

 

そう言って片腕で自分の髪留めを外した。そしてそれを僕に渡す。

 

「? これは?」

 

「ま、お守りか何かだと思っててくれ。アタシも……勇者だからな、せめてそれくらいさせろよ」

 

僕はそれを髪に付けてみる。

すると二人はくすっと笑う。

 

「え?何?おかしいかな?」

 

「あはは、祈くん可愛いよ〜!」

 

「祈に意外と似合うよな」

 

三人で笑い合う。

そうしてるうちに獅子座はゆっくりと進んでくる。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ。神樹には先に送り返すように言っとくよ」

 

星樹を取り出して、最後に皆の顔を見る。

 

そして――

 

「じゃあね、みんな」

 

一言。そう言って飛び立つ。

目標は獅子座。皆が痛めつけてくれたおかけで一人でも楽そうだ。

 

「神樹!皆を元の世界に返してくれ!後は僕一人でやる!」

 

その声が届いたのどうかは分からないけど、きっと届いただろう。

 

『お前も馬鹿だよな』

 

「天照か、どうした?」

 

急に天照の声が響く。

 

『俺も手伝ってやるよ。獅子座は任せろ』

 

「任せろって……一体何を――」

 

聞き返そうとした、その時。

獅子座の巨体は少しずつ消滅していった。

 

「……一体何をしたの?」

 

「別に。普通に殺しただけだ」

 

先程まで獅子座が浮かんでいた場所には天照が星樹を持って、宙に浮いていた。

 

「一旦神樹の場所に行くぞ。話があるらしい」

 

バーテックスはいないが樹海化はまだ続いている。僕と天照は神樹の場所に向かった。

向かう途中に皆がいた場所を見るとそこには誰も居なく、神樹が返してくれたのだと思った。

 

そして、神樹のところに着いた。

 

『来たか』

 

天照は僕の少し後ろで待っている。

会話は僕だけにらしい。

 

「で、何?」

 

『そこの星崎祈は今から壁の外に行って時間稼ぎをする。それが元々の使命だ。お前達は星崎祈の回復するまでの間を稼いでくれて本当に助かった、感謝する』

 

「……お前なんかに感謝されてもな」

 

吐き捨てるように言う。

 

「そうだ、感謝するくらいなら僕の願いを聞いてくれ」

 

『ふむ?』

 

「…………」

 

「勇者達の満開の代償、あれを僕が受ける。というか代わりになるのはダメか?……そうだな、僕自身をお前に捧げるとかかな」

 

これなら釣り合うだろう。

後ろでは天照が笑ったような気がする。

 

『本当にいいのか?それほどまでしてあの勇者達のことを守りたいか?』

 

「うん、守り守られる関係だからね」

 

神樹は少し間を置いて。

 

『それなら現勇者達の満開の代償は無しにしてお前の体を供物とする。機能を奪うのではなく星崎祈と共に時間稼ぎを頼む』

 

「了解だよ。行こう天照」

 

くるっと後ろに進む。

 

「じゃあ頼むぞ神樹」

 

『ああ。それでは次の勇者が来るまで持ち堪えてくれ――』

 

神樹がそう言って視界が光に包まれる。そして目を開けたら――。

 

そこには無数のバーテックスがいた。

僕は先程の言葉を思い出す。

 

「次の勇者への架け橋に、か」

 

「……無理そうか?」

 

「いや。そういう終わり方もいいかなって」

 

「終わる前提かよ。まぁ、いいけどな」

 

天照は地面に星樹を突き刺して力を呼びだす言葉を口にする。

 

「神装」

 

そこには僕と同じのを纏った天照が立っていた。

 

「足は引っ張るなよ……()

 

「ははっ、頑張るとするよ(天照)

 

拳をお互いの拳にぶつけて言葉を交わす。

 

いつ終わるか分からない戦い。

だけど次の勇者達のためにもここは踏ん張らないといけない。

 

そうして僕らは神の力を振るう。

この、終わりの見えない戦いで。




無事わすゆ編を完結できました!
今回も読んでもらいありがとうございます!

完結なんて言っちゃいましたけどわすゆ編はまだお話が残っています。それは――
その時になるまでのんびりと待っててもらえると嬉しいです。

ご都合主義が結構目立っていた作品ですけどここまで読んで下さった方に感謝をしつつ終わりたいと思います。

それではまた!
勇者達の新たな物語にて会いましょう!


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番外編 あれから一年 ―動き始める物語―

最後は今までとは違う書き方をしていますのでご注意を
それでは番外編です


~須美side〜

 

 

あの瀬戸大橋での戦い……瀬戸大橋跡地の合戦と名付けられた戦いからもう一年も経った。私達は神樹館を卒業し今は中学生となっている。

 

戦いが終わった後は色々とあった。

まずは私の名前、旧姓旧名の東郷三森に戻されたのだ。理由はもう勇者として戦うお役目が終わったかららしい。それと同時に勇者システムも端末から回収された。だからだろうあれ以来、樹海化はしなくなった。

次は元勇者の私達の中学校が大赦側に決められた事。

讃州中学校。それが私達が通う学校だ、それに伴い家を銀とそのっちは学校近くにあるマンションに私は元々の家――東郷家に住むことになる。

入学してもう半年経つくらいになる今は既にその生活に慣れている。

 

そして――

 

 

 

 

ピンポーン。

 

「銀ー?学校行くわよー」

 

マンションのとある部屋、そこのベルを鳴らして住んでいる人……銀を呼ぶ。

 

…………

 

「返事無いね〜。寝てるのかな〜?」

 

隣にいるそのっちはその隣の部屋で私が毎回二人を迎えに来て学校に行っている。

 

「……入りましょう、仕方ないわ」

 

あらかじめ貰っていた合鍵を使って部屋に入る。外は既に明るいが部屋の中はカーテンが閉まっていて暗い状態だった。

つまり……。

 

「ううん……やめろぉ須美ー、それはアタシの~……zzz」

 

寝ていた。それも何かの夢を見ている。

 

「えぇ~!わっしーミノさんからなにか取ったの〜?」

 

「取ってないわよ。全くどんな夢を見てるんだか……起きなさい銀、朝よ」

 

ゆさゆさと体を揺さぶる。がくんがくんと揺れる銀、そして目を覚まして一言。

 

「……?アタシのジェラートは?」

 

「知らないわよ……ほら早く準備して」

 

ため息混じりに返す。

こんな事がしょっちゅうあるから私としては慣れているのだが。

 

「朝ごはんはおにぎりを握ってきたわ」

 

椅子に私のそのっちが座り机にお茶を注いで銀の準備を待つ。

 

「毎度毎度助かるな〜」

 

制服に着替えて椅子に座る銀。そして勢いよくおにぎりを食べる。

 

「そんなにがっつかなくても食べ物は逃げないわよ」

 

「……ん!?んん!!」

 

胸の部分を手で叩く、どうやら詰まらせたようだ。

 

「はいお茶だよ~」

 

そのっちが注いでいたお茶を銀に差し出す。

ゴクッゴクッと飲むが。

 

「ゴホッゴホッ!あ、熱い!!」

 

「朝から元気ね。さっき起きたばかりというのに」

 

「ふー!ふー!仕方ないだろ!?」

 

「あはは~ミノさん面白いよ〜」

 

とてもあんな大きな戦いがあった後とは思えないほど平和な日常。

 

銀がご飯を食べてから三人で学校に向かう。学校までは歩いて向かう。

 

「あれ?今日は友奈はいないんだな」

 

「今日は先に行くって言ってたのよ」

 

「やっぱりあの部活〜?」

 

「ええ、そうらしいけど」

 

友奈というのは私の家の近くの結城さんの事だ。とても明るく元気な少女、私達と同じ中学でもある。

 

「ほんと面白い部活だよな。勇者部って」

 

勇者部。名前を聞くだけなら何の部活だろうと思うがただ単に人助けやらボランティアやらをする部活らしい。それに結城さんは所属している。

 

「結城さんに進められているけど……少しその単語は、ね」

 

勇者、ゲームなどでは主人公の位置。誰もが憧れるだろう。でも私達はその言葉は心にくるものがある。

 

「思い出しちゃうからね~、祈くんの事」

 

「……だな」

 

少し暗い雰囲気になる。

あの戦いが終わって祈くんだけが戻ってこなかった。二人に話を聞けば私が気絶している間に色々あったらしい。

 

「でもちゃんと帰ってきてくれるよ~。約束は守るからね~祈くん」

 

少し笑顔で言うそのっち。

 

「ええそういう男よね、祈くんは」

 

釣られて微笑む。その私を見ていた銀がからかってくる。

 

「おやおや?クラスで相変わらず人気の高い須美さんがそんな事言っていいのかな〜?」

 

この二人は今でも昔の名前……で呼んでくれる。まぁ、今の方が昔なんだけど。

 

「いいのよ、好きなんだから」

 

「おお~わっしー大胆〜!でも私も好きだよ〜」

 

「ふふっ、アタシだって祈が大好きだけどな!」

 

祈くんが居なくなって前よりも更に大きくなっていた私達の気持ち。

 

登校中は楽しい会話をしながら肩を並べて歩く。

そして丁度通学路にある橋を渡った場所には、毎朝ある二人組が橋の下のゴミを拾っている。その二人は学生や走っている地域の人達とすれ違う度に笑顔で挨拶をしている。

 

「おはようございます!……あ!」

 

そのうちの一人、赤髪の女の子が私達に気づく。

 

「おはよー!東郷さんー!」

 

手を振りながら挨拶をしてくる。私はその女の子――結城さんに近づいて挨拶をする。

 

「おはよう結城さん、今日も頑張ってるのね」

 

「うん!勇者部の活動の一つだからね!」

 

後ろから銀とそのっち、結城さんの方から黄色髪の人が私達に寄ってくる。

 

「あら東郷じゃない、おはよー」

 

「犬吠埼先輩、おはようございます」

 

頭を下げて挨拶をする。

この人は勇者部部長の犬吠埼風先輩、二年生で勇者部を立ち上げた本人でもあるらしい。

 

「あ、風じゃんおはよーっす!」

 

「部長さんおはよーごさいます~」

 

「はぁ……銀には二人を見習って欲しいわね」

 

何故か銀は犬吠埼先輩に敬語を使わない、理由は分からないが……。

 

「銀ちゃん、そのちゃんおはよー!」

 

「おはよーだな友奈!」

 

「おはよーゆーゆ」

 

挨拶を終えたそのっちが鞄を下ろして袋を持つ。

 

「手伝うよ~部長~」

 

そのっちはこの部活に興味があると前から言っていてたまにこの様に手伝う、それに流されて私達も手伝う事がある。

 

「おお、やっぱり乃木はいい子だな~」

 

「えへへ~」

 

頭を撫でられるそのっち。

 

「私達も手伝いましょうか、銀」

 

「え?学校は?」

 

起こしに来たから遅刻する前だと思っているのだろう。

 

「今日来た理由はあのままだと遅刻してたでしょ?だから早めに起こしに来ただけよ」

 

まだ時間はあるわ、と言って近くの時計を指さす。

 

「なーんだそれならいいか」

 

私と銀も鞄を置いてゴミ拾いに参加する。

 

「もう東郷さんも入ればいいのに楽しいよ?勇者部」

 

「考えるわ、入っても来年だけどね」

 

「あら部長権限で今すぐにでも入部させるわよ?」

 

「わぁ~!」

 

「それっていいのか?ちゃんと段階とか……」

 

「権限で打ち消すわ」

 

笑い声が響く。

 

こんなにも平和、だけど物足りない。それはやっぱり祈くんの存在……いつの間にか私達の中で大きくなっていて、居なくてはならなかった……。

 

「(私達は待ってるわ、いつでも帰ってきてね)」

 

心の中で願う。

この願いがいつか――届くようにと。

 

「もういっそ入るか?この部活」

 

「私は賛成だよ~!ね、わっしー?」

 

「だから待ってって言ったでしょ?せめて来年ね」

 

「来年入るの!?」

 

「賑やかになるわね、来年は妹もくるから楽しくなるわ」

 

……心のどこかでこの輪に祈くんが居れば、なんてわがまますぎるわね。

 

 

 

 

〜???side〜

 

 

『お前達は……』

 

「久しぶりですね、神樹様」

 

「……これがあの神樹様?」

 

『どうやってこの場所に来た。星崎祈ではないと――』

 

「その祈ってやつは私は知らないけど、この子と関係あるのよね。話に聞いたけどそいつと同じらしいわよ、この子」

 

『同じだと?……なるほどな、やはり兄妹か。神装に手を出したな』

 

「お兄ちゃんが頑張ってるのにわたしが何もしないなんて、そんな事出来ないもん」

 

『で、どうしたいんだ?』

 

「お兄ちゃんに会わせて」

 

『無理だ』

 

「どうして?この子なら力に――」

 

『まだ次の勇者が揃っていない。もう少しだからそれまで待て』

 

「…………」

 

『それまでは干渉するな。お前達が早めに来ると混乱する、イレギュラーが二人も居るのは私としても予想外だからな』

 

「あれ、私も?」

 

『当然だ』

 

「わたしの力を使えるからね。ごめんね巻き込んじゃって」

 

「いいって、何回も言ってるじゃない」

 

「じゃあわたし達は戻るけど最後に一つだけ。お兄ちゃんは無事だよね?」

 

『……ああ、星崎祈(・・・)は無事だ』

 

「……分かったよ。ありがとう教えてくれて」

 

「じゃ、失礼したわ」

 

 

 

 

『まさかお前も来るなんてな。……もう少しだけ耐えてくれ星崎』

 

 

 

 

〜???side〜

 

 

「はぁ、はぁ……っ」

 

視界がぼやける。

 

手に力が入らない。

 

「もう俺がやる。お前の体を寄越せ。神降ろしの使いすぎだ」

 

「そう……する、よ……」

 

声の主に体を支えられ意識が薄くなっていく。

 

何か大事な事が思い出せない。

 

――――約束、してたんだけどな。

 




次回予告

「何だかんだで入っちゃったわね」

「部長の命令は聞くべきよ!」

「と、東郷先輩?」

「お役目は続いている、ね」

「こ、ここは……?」

第一話 勇者部





次回“星崎 祈は勇者になる 「結城友奈は勇者である」編”開幕――



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「結城友奈は勇者である」編
第一話 勇者部


星崎祈は勇者になる 新章 開幕です


〜友奈side〜

 

 

ここはとある幼稚園。

そこで私達、讃州中学勇者部は人形劇をしています。

 

「姫を返せ!魔王!」

 

「ふははは!!姫が欲しければ私を倒してみろ!」

 

「僕は君と戦いたくはないんだ!」

 

「そうだ魔王、話し合おう!そうすれば姫も――」

 

人形劇は私が勇者役、銀ちゃんが勇者の仲間、風先輩は魔王役になっている。そのちゃんがお姫様で東郷さんと樹ちゃんは司会の係。

 

「勇者様……」

 

「ええい!うるさいうるさい!何が話し合おう、だ!誰も私の話は聞きはしないそれはお前達も同じだろう!!」

 

物語は終盤。

子供達が頑張ってー!と言う声も聞こえる。

 

「同じじゃないよ!僕は君と話し合う!そして君を!――」

 

私はつい盛り上がって右手を横に振る。その手は舞台にぶつかってしまい……。

 

「「「あ……」」」

 

倒れてしまった。

風先輩と銀ちゃんが小声で私に話しかけてくる。

 

「ちょ!友奈何してんのよ!」

 

「これ、どうすんだよ」

 

周りを見ると子供達は口を開けたまま止まっていて後ろに座っている先生達は微妙な表情をしている。

 

「あわ、あわわ……。え、えーと……」

 

そこでたどり着いた答え、それは。

 

「勇者キーーック!!」

 

「ええぇぇええ!?」

 

魔王(風先輩の左手)を攻撃した。

 

「い、痛!それはキックじゃ――じゃなくて!さっき話し合おうって言ったばっかりじゃないの!?」

 

「わわわ……」

 

「おのれ〜!そっちがその気ならこちらだって……。魔王ドリルヘッドバット!」

 

風先輩もさっきの私のように攻撃をしてきた。

 

「う、うわー!」

 

「樹!ミュージック!」

 

「え?えーと……じゃあこれで」

 

樹ちゃんが流した音楽、それは魔王のテーマだった。

 

「これって魔王のじゃない!?」

 

「勇者!前前!」

 

「え、前?」

 

銀ちゃんに言われて前を見るとそこにはノリノリの風先輩が立っていた。

 

「ふはは!!さっきはよくもやってくれたな勇者よ!そこの仲間と共に葬り去ってくれるわ!」

 

えー!

私が困って東郷さんを見つめる。それに気づいたのか東郷さんはサポートを入れてくれた。

 

「皆!勇者を応援しましょう!はい、がーんばれ!がーんばれ!」

 

がーんばれ!がーんばれ!!

 

東郷さんの誘導により子供達が応援してくれる。

 

「くっ!な、なんだこの力は――!力が、力が無くなる~!」

 

風先輩が台本に無かった演技で繋いでくれた。

 

「お姉ちゃんナイスアドリブ!」

 

「今だ勇者、一緒に!」

 

「うん!」

 

「「ダブル!勇者キーーック!!」」

 

銀ちゃんと共にキック……基パンチをやり魔王をダウンさせる。

 

「勇者様~!」

 

「姫様!無事でしたか?」

 

「ええ。勇者様とそのお仲間のおかげで〜」

 

子供達の歓声が残ってる間に風先輩が東郷さんに私達に聞こえる程度の声で指示をした。

 

「東郷、しめてしめて!」

 

少し戸惑った東郷さんはすぐに話をしめてくれる。

 

「と、いう訳で皆の力で勇者は姫を救うことができ二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

 

「皆のおかげだよ!ブイ!」

 

手をピースして子供達に向ける。

喜んでる子供や楽しかったー、と言ってくれる子もいる。

 

と、こんなふうに私達勇者部は活動をしています。

そして場所と日付が変わって今は学校の放課後。

 

「起立」

 

私の号令で皆が立つ。

 

「礼」

 

先生と生徒がお互いに礼をする。

 

「神樹様に、拝」

 

教室の外が見える窓側に向かい両手を合わせ拝をする。

 

「はいさよなら〜」

 

さよなら〜、と生徒達がそれを合図にそれぞれの行動を始めた。

 

「わっし〜、ゆーゆー部室行こ〜」

 

「ええ、分かったわ」

 

そのちゃんが銀ちゃんと一緒に来てくれる。

私達は偶然にも、二年生で全員同じクラスになった。きっと神樹様が私達に起こしてくれた奇跡なのだろうか?

 

四人で教室を出て部室に歩く。

 

「そーいえばさ」

 

「なに~?」

 

「いや結局須美も入ったな~、って」

 

「そうね、何だかんだで入っちゃったわね」

 

「そのおかげで東郷さんと一緒に居れて私は嬉しいけどな~」

 

「友奈ちゃんありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

微笑む東郷さん。

やっぱり綺麗だな……なんて自然と思ってしまう。

 

「お?いつから平気でそんな事言えるようになったんだよ~」

 

ぐいぐいと銀ちゃんが東郷さんにする。

 

「いつからでもいいでしょ」

 

が、それを軽く流す対応をとる。

そんなやり取りをしてる間に部室の前に着いた。

 

「部室にとうちゃーく!」

 

着くや否や部室に入る銀ちゃん。

 

「失礼します」

 

「部長〜こんにちは〜。いっつんも~」

 

それに続いて東郷さんとそのちゃんも入っていく。

 

「部長!今日は何をするんですか?」

 

「相変わらず元気ね〜。ミーティングするから椅子に座って~」

 

私も入って置いてある椅子に座る。

風先輩は写真を数枚黒板に貼って今日のミーティングが始まる。

 

「子猫の飼い主探し……ですか?」

 

「そ。こんだけ解決してない依頼があるのよ~、だから今回は学校も巻き込んで対応するわ。ちなみに学校の方は私が手をつけるから大丈夫ね」

 

「おお~!流石です部長~!」

 

「ふふふ、褒めても何も出ないぞ乃木」

 

得意げに言う風先輩。

 

「それでホームページは……東郷任せた!」

 

「はい、任せてください」

 

そう言って東郷さんはパソコンが置いてある机に向かった。

 

「それで風、アタシ達は何をすればいいんだ?」

 

「今までどうりにだけど~今まで以上に頑張れ!」

 

「うう、アバウトだよお姉ちゃん……」

 

「ど、どんな事でも部長の命令は聞くべきよ!」

 

気まずそうに小さくなる。

そこにそのちゃんが意見を出した。

 

「朝の掃除の時に〜地域の人に声をかけるのはどうかな~?」

 

「お、それはいいな。人は多くて困らないからな」

 

「それなら少し別れて掃除をしましょうか、そうした方が会える人も多いと思うわ」

 

アイデアを出し合っているとそこに東郷さんの声が入る。

 

「ふぅ、ホームページの強化終わりました」

 

「はやっ!?」

 

「流石だな須美」

 

「わっしーこういうの得意だよね~」

 

「ついでに携帯からもアクセス出来るようにしておきました」

 

「凄いわ東郷……」

 

私と樹ちゃん、風先輩は目を丸くする。東郷さんは機械系にとても強い、最初もとても驚いていたことを思い出してしまう。

 

「ま、まぁ今回は短いけどこれで終了ね。今日のメインは昨日の打ち上げだし」

 

「かめやですか!?」

 

打ち上げという言葉を聞いてすぐに反応してしまう。

 

「そうよ。じゃ行きましょうか」

 

 

そうして場所を勇者部部室からかめやへ。

 

「それにしても昨日は大成功でしたね!」

 

「果たしてアレを大成功と言えるのか……」

 

うどんを食べながら会話をする。

 

「須美のサポート、風のアドリブのおかげで何とかって感じだったもんなー。うん美味い!」

 

「ああするしかないじゃない……。内心とても焦ってたわ」

 

「でも流石わっしーだよ~」

 

「ほんと東郷には感謝だわ。――んくっ、んっ……ぷはぁ!ご馳走様」

 

確か三杯目だったような気が……。

私もうどんは好きだけどこの短時間で食べるのは無理だろう。

 

「うどんは女子力を上げるのよ〜?」

 

「だってよ~わっしー、ミノさん〜」

 

「園子にも言える事だろ?」

 

「えへへ~」

 

そのちゃんが意味ありげな言葉を東郷さんと銀ちゃんに言っている。それに風先輩が興味を持つ。

 

「お?なになに、恋バナ?」

 

「まぁ、そんなところですね」

 

「と、東郷先輩?」

 

「ん?どうしたの樹ちゃん」

 

樹ちゃんが東郷さんに話しかける。

 

「すす、好きな人がいるんですか……?」

 

「……ええそうよ」

 

おお〜!

風先輩、樹ちゃん、私が声を上げる。

 

「意外ね。三年にも東郷の話は回ってきてるけど、その本人が思いを寄せる人がいるなんて……。どれだけいい男なのよ」

 

先輩は意外とこういう話には積極的だ。

……先輩には言ってないけど、二年のクラスでは風先輩も人気があったりなんだけど……。

 

「かっこよくて〜強くて〜、優しいんですよ〜」

 

「だな」

 

「あれ、その様子だと……二人も?」

 

「えへへ~」

 

「ま、まぁ……な」

 

少し照れくさそうにする二人。

 

「その男は罪ね。こんな美少女三人から思いを寄せられるなんて、これは軽く死刑だわ」

 

「物騒だよお姉ちゃん」

 

「まぁいつか見てみたいわね。この中学なの?」

 

「あっ――」

 

風先輩の何気ない質問、だけど東郷さんは一瞬暗い顔をした。

 

「?」

 

風先輩はそれに気づいていないらしく返答を待っている。

 

「今は、会えないですね。少し……遠い所に居るから」

 

「須美……」

 

「そう。それは残念ね」

 

風先輩は何かを考え込むようにして。

 

「そうね、それじゃあ今日はこれについて話しましょうか!先輩が色々と男を落とす方法を伝授してあげるわ!」

 

そうしてこの打ち上げは恋愛トークになっていったのでした。

 

 

 

 

〜銀side~

 

 

「なんというか、昨日の活動は謎だったな」

 

「そうだね〜」

 

次の日、アタシは席の近い園子と話をしていた。内容は昨日の事についてだ。

 

「『不意なキスは相手を意識させるわ』か~。あー私しておけばな〜」

 

「お、おう……。そうだな……」

 

急に顔が熱くなる。

 

「(そういえばアタシはしたんだよな……)」

 

あの死を覚悟した時に、キスではないが告白を。

結局は祈に助けられて生きてるわけだが。

 

「どうしたのミノさん?熱?」

 

「い、いや何でもないぞ?」

 

「変なミノさん〜」

 

くすくすと笑う。

時計を見るとそろそろ授業が始まる時間だった。

 

「じゃあそろそろ私は席に戻るよ〜」

 

「りょーか――ん?」

 

園子と言葉を交わそうとしたら教室に妙な音が響く。多分携帯の音だろうけど……。

音が聞こえる方を見ると、友奈が携帯を持ってあわあわとしていた。

 

「あわわ!」

 

「友奈のかよ、マナーモードにしとけよなー」

 

「えへへ、ごめんなさい」

 

クラスの男子から注意を受ける。

そしてその音が止まったと同時に――

 

アタシは意識を失った。

 

 

 

 

〜友奈side~

 

 

「あ、あれ?皆どうしたの?」

 

携帯から変な音が鳴って止まった次の瞬間、世界が停止したような静かさが訪れる。

いや、この表現はとても正しい。外の葉っぱは飛ばされてるまま止まって、クラスの皆……さっき私の方を向いて注意してくれた男子がそのまま止まっている。

 

「私だけ?動ける?」

 

それだけでは終わらず、不思議な現象は続く。

 

謎の光が海から学校に押してきているのだ。私はどうする事も出来ずにそれに飲み込まれて――

目を開けたらそこは――

 

「え?え?こ、ここは……?」

 

教室ではなく不思議な空間に一人で立っていた。

 

 

 

 

〜須美side~

 

 

「――結城さん……ってあれ?」

 

結城さんに話しかけようとした私。だけどそこには結城さんやクラスの人の姿は無く、あったのは……。

 

「……樹海?」

 

二年前に勇者として世界の敵バーテックスと戦っていた時に起きていた現象、樹海化した時の風景に似ている場所。

 

「これは夢?勇者のお役目は終わったんじゃ――」

 

「おーい!須美ー!」

 

「わっし―!」

 

一人で悩んでいると聞き覚えのある声が聞こえた。そちらを見るとやはり銀とそのっちがこちらに走ってきている。

 

「無事だったか、よかった~」

 

「ねぇわっしー……これってやっぱり〜」

 

胸をなで下ろして安堵した様子の銀と、この状況を私に確認するそのっち。

 

私はそれに頷いて答える。

 

「ええ、恐らく樹海化よ」

 

そして続けて言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

 

「お役目は続いている、ね」

 




次回予告

「風先輩!」

「この姿も久々だな」

「お姉ちゃん……」

「どうしてあんた達が――」

「ははっ……久しぶり、だね」

第二話 再開


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第二話 再開

~友奈side~

 

 

「友奈ー!」

 

「友奈先輩ー!」

 

「! 風先輩!樹ちゃん!」

 

その場から離れずにいると先輩と樹ちゃんが来た。

 

「無事だったわね……よかった」

 

「せ、先輩ここは……ここはどこなんです?」

 

「…………」

 

風先輩は黙り込んで、何かを決意した様に口を開く。

 

「二人共、今まで黙っててごめんなさい。ここがどこなのか、それと何で私達だけなのか……教えるわ」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

樹ちゃんは両手を胸の前で握りしめる。

風先輩がいつもと雰囲気が違うから不安なのだろう。

 

「まずここは樹海という場所よ。ちょっと自分の端末を見てみて」

 

そう言われて手に持っている端末を見る。そこにはマップが表示されていて、私達三人の名前が表示されている。

 

「こ、こんな機能あったっけ?」

 

「それは緊急用のアプリよ。個人的に呼んで入れさせたやつね」

 

「あの時の……」

 

勇者部に入部する時に呼ばれてこのアプリをダウンロードしていたのだ。何のアプリかは知らなかったが。

 

「ね、ねぇお姉ちゃん……」

 

「どうしたの樹?」

 

「他にも点があるんだけど……」

 

「点?」

 

樹ちゃんの質問に疑問を持っている先輩。

 

「ノイズ?バーテックスじゃないわね、じゃあこれは……」

 

それを自分の端末を見て考える。

 

「この点、近づいてきてません?」

 

私も見てみると先程無かった点が三つあり、それがこちらに近づいてるのが分かった。

 

「友奈、樹、私の後ろに来なさい」

 

大人しく風先輩の後ろに隠れる、そして先輩は私達を庇うようにして立つ。

その間に段々と点は近づいてきて――

 

空から影が降りてきた。

 

「あれ?先輩?」

 

その影に話しかけられ視線をそちらに向ける。するとそこには。

 

「? 東郷?」

 

そこには制服ではない違う服装に身を包んだ東郷さん、それと――。

 

「風に友奈?それと樹も居るのか」

 

「わぁ~、勇者部勢揃いだ~」

 

銀ちゃんとそのちゃんもいる。

それを確認して風先輩の後ろから前に出る私達。

 

「どうしてあんた達が――」

 

風先輩は目を丸くしている。

 

「まぁ、いろいろとありまして」

 

 

 

 

~須美side~

 

 

「という事は〜……」

 

「どうしたのそのっち?」

 

私の言葉を聞いてそのっちが端末を操作し始める、そして数秒するとその体に変化が起きた。

 

「やっぱりだよ〜!」

 

光に包まれたかと思うと花びらが舞って、姿が制服から変化していた。

その姿は微妙な変化はあるが、過去に四人で戦っていた時に身にまとっていた服――勇者の装束だった。

 

「どうして?勇者システムは確かに回収されたはずじゃ……」

 

「そんな事はどうでもいいだろ!」

 

銀も端末を操作して変身をする。私もそれに続く。

 

「ふぅ……この姿も久々だな」

 

「ええ、そうね」

 

やはり、という感じで前の戦いを思い出してしまう。

 

「あれ~?他に人が居るみたいだよ〜」

 

「!? 祈くんかしら!?」

 

「お!それはあるな!」

 

期待を膨らませる。

祈くんは一人でバーテックスと戦っているらしい、そしてこの状況会える可能性だってある。

だが帰ってきた言葉は違うものだった。

 

「いや~それが三人なんだよ~。それもノイズで文字が化けてて分からない~」

 

一人なら可能性はあったが三人となると確実に違う事が分かる。

 

「三人?アタシ達の他に勇者か?」

 

大赦からの連絡もあれから来ていない。てっきり勇者のお役目は終わったと思っていたのだが、そんな事はなかったという事なのか?

 

「嘘を教えられた?」

 

「いやそんな事は――ありそうだなぁ」

 

「とりあえず行ってみようよ~」

 

「そうね」

 

確認するにはその場に向かった方が早い。

私達はノイズの場所に飛んだのだった。

 

 

 

 

〜友奈side〜

 

 

「――とこんな感じですね」

 

東郷さんがこの経緯を軽く話してくれた。

 

「……聞きたいことはいろいろとあるけど、それも後からね」

 

それを先輩は聞いて、端末を見た後に奥を見た。

 

「な、なにあれ……」

 

異様なシルエットが見える。

動物でも人でもない、例えるなら化け物だ。

 

「来たわね」

 

「お姉ちゃんあれ何……?」

 

樹ちゃんは恐ろしがっている。私も手が震えているのが分かった。

風先輩はそれに冷静に答える。

 

「あれはバーテックス。この世界を滅ぼそうとするものよ」

 

その間にも徐々に近づいてくる。

 

「そしてこの空間に居る私達はこの世界――神樹様を守る勇者。バーテックスを倒すことが出来る唯一の手段」

 

そう言うと端末を操作して体が光に包まれる。

 

「樹と友奈は逃げなさい。後は私が何とかするわ」

 

背を向けて言う。だけどそれに樹ちゃんは――

 

「わ……私も戦う。お姉ちゃんと離れたくないもん!」

 

「樹……」

 

あまり感情を表に出さない樹ちゃんが覚悟を示している。

それなのに私はまだ震える。

 

「友奈ちゃん、怖いのなら逃げてもいいのよ?これは辛い戦い。国を背負う戦いなのだから」

 

優しく私に言いかける東郷さん。その顔は何かを物語るようで――。

 

「わっしー!攻撃、来るよ~!」

 

化け物、バーテックスと呼ばれたものから何かが出てきてこちらへ飛んでくる。

 

「! 友奈ちゃん!私の後ろへ!」

 

珍しく大きな声で言う、その背中はとても大きく見えた。

 

「銀は先輩の援護!そのっちは私を手伝って!」

 

「「了解!」」

 

東郷さんの手の内に二丁の銃が現れる。

そしてそれを慣れた手つきで飛来物を狙い撃つ。そのちゃんも東郷さんが撃ち漏らしたものを槍で払う。

 

「……凄い」

 

自然とそんな言葉が漏れていた。

銀ちゃんも二本の剣を自在に操り切り払っている。

 

そして私の中の震えは皆を見ていたら消えていた。それどころか――。

 

「友奈ちゃん?」

 

私は端末を操作する。

すると先程まで無かった花のマークが表示されていてそれを自然とタッチする。

次の瞬間私の体が光に包まれる。

 

「で、出来た……」

 

私の服がピンク色の別の服に変化していた、それは樹ちゃんもだ。

不思議と体の内側から力が湧く。

 

「これなら――!」

 

「友奈ちゃん!?」

 

突然前に出た私に驚く東郷さん。だけど私はバーテックスに向かって走り続ける。

 

「おおぉぉぉおおおおおッ!!!」

 

そして跳躍。

拳を握りしめて、力を込める。

 

「戦える!!」

 

振りかざした拳は敵を貫いて大きな穴が空いた。

 

「続くわよ!」

 

風先輩の声が上から響く。

東郷さんの狙撃で敵を怯ませ樹ちゃんがワイヤー(?)で敵を縛り動きを抑える。

その隙に風先輩、銀ちゃん、そのちゃんが攻撃を仕掛けた。

 

「友奈凄いじゃない!」

 

「流石ゆーゆだよ〜」

 

攻撃を終えた二人が私に寄って来る。

えへへ、何だか褒められると照れるなぁ。

 

「再生する前に押し切る!」

 

銀ちゃんはまだ攻撃を続けている、東郷さんもその援護だ。

 

「銀、東郷!一旦私の場所に来て!」

 

風先輩が端末で連絡を入れる。

そして二人が飛んでくる。

 

「どうしたんですか先輩。早く押し返さないと――」

 

「何をしようとしていたかは分からないけどあいつを封印するわ。やり方は説明が書いてあるからこれを見て!」

 

風先輩はそう言って敵の奥に走る。

 

「待ってよお姉ちゃん~!」

 

樹ちゃんもそれに続いていく。

東郷さん達は端末を見て納得をしている。

 

「なるほど、追い返すのではなく封印……」

 

「前よりも楽だね〜」

 

「アタシ達も行くぞ!友奈も!」

 

「え?う、うん!」

 

敵を六人で囲むようにして立つ。

 

風先輩がさっき言ってた封印の方法はまず精霊を出す事かららしい。その手順がアプリに書いてある。

 

「(これを読まないといけないの?何だか難しいなぁ~)」

 

思いながら口にする。

二行くらい読むと精霊と呼ばれるものが出現した。

 

「大人しくしろぉぉぉおおッ!!」

 

「「ええっ!?」」

 

大剣を地面に叩きつけて精霊を出現させた風先輩を見て驚く私と樹ちゃん。

 

「要は気合を込めればいいのよ」

 

「だな!」

 

東郷さんとそのちゃんは既に精霊を出していて銀ちゃんは一本剣を地面に突き刺して出現させる。

それと同時に敵を囲う円が浮かび上がった。

そして敵の一部分が剥がれて何かがゆっくりと出てくる。

 

「なんか出たー!」

 

「あれは御霊よ!あれを壊せばバーテックスは消滅するわ!」

 

「なるほど!それじゃあ私が行きます!」

 

跳躍、そして御霊に目掛けて攻撃する。

 

「勇者――パァァアンチ!」

 

ゴッ、と鈍い音が鳴る。そして私の腕が痺れて――。

 

「かっ、硬い……。痛い……」

 

手を抑える。

その手はジンジンとして腫れたような感じしかしない。

風先輩が続いて攻撃するが傷一つ付いていないように見える。

 

「くっ!」

 

そのちゃんが槍で攻撃するも結果は一緒だ。

 

「ほんと硬いね~」

 

「時間はかけてられないわ、私が渾身の気合を込めて――?」

 

風先輩が剣に力を込めて攻撃しようとした瞬間。

私達六人とは別のシルエットが御霊の上に見えた。

 

 

 

 

~須美side~

 

 

「あれは?」

 

先輩が上を見ながら言う。

上には御霊があるだけだと思うが……。

 

「園子!須美!」

 

銀が目を開いて私達に話しかける。

 

「うん〜!多分そうだよ〜!」

 

そのっちは少し嬉しそうだ。その二人の反応を見て私は一つの答えにたどり着く。

 

「あれを知ってるの?」

 

先輩が聞いてくる、それに私は自身を持って答えた。

 

「ええ、知ってます。あれは……私達の神様ですよ」

 

その影は段々と近づいてくる。

その度にはっきりと見える。

 

淡く輝く、白い装束に身を包み、刀を構える。その刀には炎を宿らせ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははっ……久しぶり、だね」

 

御霊ごとバーテックスを消し去った影――一人の男の子が宙に浮いたまま私達に話しかけた。

 

前とは違いボロボロの服を身にまとっている男の子。それは、私達三人が待ち望んでいた――

 

「「「祈(くん)!」」」

 

その期待(約束)に。

 

「ただいま。須美、園子、銀」

 

答えてくれた。




次回予告

「祈くん~!」

「二人?」

「直接会うのは初めてだな」

「先代の勇者ね……」

「帰ってきたよ」

第三話 守られた約束


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第三話 守られた約束

~風side~

 

 

「祈……?」

 

宙に浮いている男を見ながら言葉を漏らす。

降りてくる場所に東郷ら三人は駆け寄っている。私、友奈、樹は分からないのでその様子を離れて見ていた。

 

「何だか三人とも楽しそうだね」

 

「そうですね……それにしても誰だろう?」

 

樹の言葉は私の思っている事だった。

大赦から東郷達も勇者だなんて聞いてもいない、そしてあの男もだ。だが状況からしてあの男と東郷達は仲間だろう。

 

「……樹海化が解除されるわ。話はその後ね」

 

そう二人に言う。

丁度花びらが舞う、これは樹海化解除の合図でもある。

私は二人にこの事を話すと同時に他の部員に自分達の事を教えてもらう事にした。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

花びらが舞う。

気がつくとそこは僕が全く知らない場所だった。少し周りを見てみると学校、の屋上だろうか?

 

「ふぅー、帰ってきたなー!」

 

「ええ、そうね」

 

銀と須美が会話をしている。

 

僕は空を見て身をもって実感した。“帰ってきた”と。

 

「祈くん~!」

 

「うわっ!」

 

ドサッ、と園子が飛びついてきた。その衝撃で尻餅をつく形で倒れる。

懐かしい友の顔を見て自然と気が抜けてしまう。

 

「おかえりなさい~」

 

「うん、帰ってきたよ」

 

そういい僕の胸に顔を埋めて頭を動かす。

 

「そ、園子……嬉しいけど少し離れてくれないかな?この服汚れてるし」

 

「それでもいいよ〜。二年も会えてないんだから〜」

 

服と言っているが神装だ。

あれから解除してないからどうなるか分かったもんじゃない。前の姿になるのか、それなら困る。歳としては中学二年生だ、背とかももちろん成長している。絶対神樹館の服なんて――、とそこまで考えた時に別の声が頭に響いた。

 

『解除しても別にいいぞ』

 

「(え、本当に?)」

 

天照だ、姿は見えないが近くにいるのだろう。

 

『ああ、だけど体の一部は動かないからな。まぁ一日二日寝れば治ると思うけどな』

 

「(それなら……)」

 

神装を解除する。

すると僕の服は天照が着ていた服になっていた。

 

「――っ!?」

 

解除と共に身体中に激痛が走る。

試しに右手を動かそうとするがピクリともしなかった、おそらくこれが神降ろしの代償だろう。

 

「? 祈くんどうしたの~?」

 

「い、いや何でもないよ」

 

神装の時は痛みは無くてただ動かないだけだったが……。

どうやら神装の状態では痛みが少なくなるらしい。だから多少の無理はしていた。

 

そう考えてる間にも園子は顔を動かす、何だか小動物みたいだな。

 

「そ、そのっち……私も……」

 

「いーのーりー!」

 

須美と銀も近寄ってきたと思ったら銀も僕に飛びついてきた。

 

「お前心配してたんだぞ!無事じゃなかったらどうしようって――」

 

そう言う銀の顔を見る。その目には少しだが涙が浮かんでいるのが分かった。

 

「銀のお守りのおかげかな?それにこうして皆の場所に戻って来たんだからさ」

 

銀と園子、そして須美を見てから言う。その言葉を言った後に須美も飛びついてきて――。

 

「祈くん!」

 

「おわっ!?」

 

僕の上に三人が乗る形になってしまう。

 

「(ちょ、ちょっとこれは!)」

 

まずい。

その単語が頭に思い浮かぶ。皆は中学二年、なんというか……その、体の一部分が成長している(特に須美)ので自然とそこを意識してしまう。園子や銀も須美ほどではないがあるにはあるのだ。

 

「祈くん〜」

 

「祈〜」

 

「えへへ〜、祈くんの匂いだよ〜」

 

当の本人達は気づいていない。

 

「(くっ――!意識をするな!そう無心だ!)」

 

『何やってんだかこの馬鹿は』

 

謎の戦いに呆れる天照。

そうだろう馬鹿だと思うだろう、でもこっちは本気なんだよ!

 

などと変な事をしていると金髪の女性が三人の後ろから声をかける。

 

「おーい、そこの少女三人~もうすぐ授業だから教室に戻りなさい〜」

 

ビクッ、と体を震わせて何をしているのかを理解したらしい。

 

「あわっあわわ!」

 

「じゃっ、じゃあな祈また今度!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

三人は顔を赤くして去ってしまう。

助かった、と思う。

 

「あなた達の関係はよく分からないけど話がしたいのなら学校が終わってから……まぁ四時くらいね。そのくらいにここに来なさい」

 

私もあなたに聞きたい事があるし、と言い残し僕に紙切れをくれた後にその人も去る。

 

そしてこの場には僕一人となる、さてどうしよう。

 

「とりあえず家に帰るぞ」

 

天照が実体化して僕に話しかけてきた。今の僕と天照は昔以上に瓜二つだ。

 

「どうやって?今いる場所も分からないのに」

 

「そこは大丈夫だ、俺がそこまで移動する」

 

そう言って手を差し出してくる。握れという事だろう。

 

「いつまでもここにいても仕方ないね。じゃ頼むよ」

 

天照の手を握る。

すると僕と天照の姿はその場から消えた。

 

 

 

 

 

「ほら、着いたぞ」

 

そう言われて僕は気づく、そうここは僕の家だ。

 

「待っとくから行ってこい。親には顔を見せないとな」

 

「分かってるよ」

 

家のインターホンを鳴らす。家の中から返事が聞こえて鍵を開ける音がした。

何故か緊張している、久しぶりだからだろうか。

 

「どちらさ――」

 

言いかけた母さんの声が止まる。

 

「え、えっと帰ってきました……」

 

頭を掻きながらもじもじとしながら言う。

そんな僕を見て母さんは優しく微笑みこう言って家に入れてくれた。

 

「おかえりなさい祈、お役目お疲れ様」

 

 

 

 

〜天照side〜

 

 

祈が家に入ったと思ったら出てきて俺も入れと言ってきた。

リビングに着いたら祈の母親が椅子に座っていた。

 

「そこにいるのかしら?」

 

「うん。天照実体化して」

 

別にいいが何をするんだ?

疑問に思いながら実体化をする。

 

「どうも」

 

「あら……そっくりね」

 

祈の母親は目を丸くする。

 

「そりゃそうだ。俺は過去のこいつだからな」

 

「過去?」

 

「まぁそこら辺はあとから話すよ。で、本題の僕のお役目の事なんだけど……」

 

「俺の手伝い――神樹の守護だな」

 

俺が割り込んで言う。

 

「勇者なんて存在がいるがそいつらは俺の力の回復までの時間稼ぎに過ぎない。今回からは本当の意味での……悪い言い方をすれば使い捨てになった。ま、それをこいつが認めたくなかったみたいで変な要求を神樹に言って、それが――」

 

「天照の手伝いになった訳」

 

頷き質問される。

 

「そのお役目は何時ぐらいに終えるのかしら?」

 

「終わりなんて無い。言うなれば祈が死ぬまでだな、戦い続ければ百年や二百年は普通に行く場合もある」

 

現に俺がそうなんだが。

 

「じゃあ私が死んだ後でも……」

 

「戦い続けるな、それもお前らが知らない空間で。こっちに戻って来るのはその時代の勇者がいる時だけだし」

 

「そう……」

 

「…………」

 

祈と母親が暗い顔になる。だが。

 

「それなら頑張らないとね」

 

「母さん?」

 

どこか納得したように言った。

 

「どんなに時間が経っても、あなたの家はここ。そして私は離れていても応援し続けるわ」

 

「……ふん。いい母親じゃねぇか」

 

「ありがとう母さん」

 

俺とは大違い――いや勝手にやってるだけだしな。

俺がこれを始めた理由、それはある意味復讐に近い。栞那が死んでそれを認めたくなくて……力を求めて……、辿り着いたらこれだ。

……確か、他の勇者に言われたな「怒りに身を任せて力を振るっても意味が無い」。本当その通りだ、もはや俺は何のためにやってるんだろうか?なんて思う。

 

「……天照?」

 

「あ?」

 

祈の声で意識を戻される。しまったな完全に考え込んでしまった。

 

「なんだ?」

 

「ちょっと大赦に行こうか、って」

 

「分かった」

 

外に出て学校の時のように手を差し出す。

 

「じゃ母さん行ってきます。後で戻ってくるからね」

 

「行ってらっしゃい。祈、天照くん」

 

祈の母親にそう言われ頭を搔く。

 

「……行ってくる」

 

「ふふっ」

 

祈が左手で俺の手を握る、そしてまた場所を移動した。

 

苦手だな、こいつの親は。

 

 

 

 

~???side~

 

 

「勇者、ねぇ」

 

大赦から出て私――三好夏凛は呟く。

 

「どうかしたの?」

 

それに反応する私の精霊の月詠。

 

「次の戦闘は見に行ってみようかなって」

 

神樹様に聞いた話、どうやら勇者が揃ったらしい。

 

「参加はしないの?夏凛ちゃんの力ならすぐにでも――」

 

「私の力はあんたと一体化しないと全力は出せないじゃない。逆にあんた一人で私の体を使った方が早いわよ」

 

「え~、それなら二人で戦おうよ〜」

 

この子、月詠は私よりも身長は少し低い(今は浮いているから高いが)。そしてどこの制服か分からないのを着ている。

 

「それよりも祈ってやつの事も気になるわ」

 

「お兄ちゃん?なんで?」

 

首を傾げる。

祈というのはこの子の兄らしい。

 

「私と同じ力でしょ?気にもなるわよ」

 

私は実践はまだした事が無い。この子は過去にあると聞いた。やり方としたらその祈ってやつに聞いた方が手っ取り早いと考えたわけだ。

 

「わたしもお兄ちゃんの事は気にな――」

 

そこまで言いかけ、突然目の前に人が現れる。

 

「「え?」」

 

「は?」

 

「わわっ」

 

驚いてその瞬間に月詠は消える。

左手で手を握っている男と目が合う。そして微妙な空気。

 

「えーと……どうも」

 

「え、ええどうも」

 

「「…………」」

 

互いに言葉が出てこない。

 

「お前よく聞け、これは夢だ。よし行くぞ」

 

シュッ、と姿が消える。

 

いや夢って。

 

「今のは……」

 

そして月詠――栞那が入れ替わりで出てくる。

 

「夢、夢ねぇ。とにかく帰るわよ栞那」

 

「う、うん」

 

どこか浮かない表情の栞那と共に家に帰ったのだった。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

学校が終わった私達はいつも通りに部室へ向かう。そして部室に着いた私達を待っていたのは先輩と樹ちゃんだった。

 

「さて、今日の事について話してもらうわよ」

 

先輩が椅子に座っている。

 

「言われなくても話すさ」

 

銀が言い話が始まった。

 

「アタシ達も勇者だ」

 

「みたいね。大赦からは何も聞いていないけど」

 

「それはこちらも同じです。そもそも私達の端末から勇者システムは回収されたはずなんですから」

 

そう、私達の端末から勇者システムは二年前に回収されている。その時にお役目も終わったと伝えられた。

 

「その事は私から聞いておくわ。それで、あなた達はどうして勇者なの?」

 

「どうしてって……」

 

「私達二年前にも戦ってたんですよ~」

 

「……二年前?」

 

「どうして、と言われたらその時に選ばれたからとしか答えれませんね」

 

「選ばれた……そう、二年前……」

 

「?」

 

先輩が下を向き何かを言っているが聞き取れない。その後私達の方を向いて。

 

「まぁいいわ。つまりあなた達は先代の勇者って事ね」

 

「(先代の勇者ね……)」

 

複雑な気持ちになる。

勇者といっても結局はずっと祈くんに――

 

コンコン。

 

ドアが叩かれた。

 

「ん、来たわね入っていいわよー」

 

先輩は誰か知っているような感じだ。友奈ちゃんが先輩に聞く。

 

「風先輩、お客さんですか?」

 

「ええ。ま、正確には先代チームのね」

 

「私達にお客様〜?」

 

分からないままに扉が開く。

 

「失礼します」

 

「え……祈くん?」

 

そこには祈くんが立っていた。

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「来たわね。さ、こっちに座りなさい」

 

言われるがままに指定された椅子に座る。

 

「この子達の事については大まかに聞いたわ。あなたは何なのかしら?勇者?」

 

いきなり質問される。なんだ、そっちも聞きたい事があったのか。

とりあえずこの人の質問に答える。

 

「神樹の守護という言葉上は勇者という括りでいいと思います。でも僕のお役目は神樹の守護者……の手伝いをやってます」

 

そこで須美が疑問を持ったようで質問をしてきた。

 

「神樹様の守護者って結局誰だったの?」

 

そうか須美達には分からないと言っていたことを思い出す。あの時は本当に分からなかっただけなのだが……。

これは本人に言ってもらおう。

 

「天照お願い」

 

呼ぶと僕の横に現れる。

他の人はそれに驚く、やっぱり驚くよね。

 

「ああ?前の勇者には言ってないのかよ」

 

「いやー分からなくて」

 

「……まぁ、別にいいが」

 

面倒くさそうに話をする。

 

「直接会うのは初めてだな。神樹の守護者の――あー……星崎祈だ。一応こいつの精霊でもある」

 

「? 祈くんが二人?」

 

まぁそうなるよね。

 

「天照――あ、こいつの事ね。は過去の僕らしい」

 

銀やピンク髪の子は首を傾げる。正直、何言ってるか分からないよね。

続けて僕の代わりに金髪の人の質問に答えてくれる。

 

「それで祈だが半分は人間、半分は俺と同じ神になっている」

 

「先代勇者の次は半分神様ときたか……」

 

苦笑いをされる。

というか。

 

「(それ、僕も初耳なんだけど)」

 

心の中で天照に語りかける。

 

『薄々分かるだろ。神降ろしの代償、半分はもう侵食されてるぞ』

 

だから体半分は動かないのか?でも何回か外で腕やら足やらを噛みちぎられてその度に神降ろしで再生させてたからな〜。

 

「ふぅ……今日は大赦から聞いてない事だらけのオンパレードね」

 

疲れた様子でため息を漏らす。

 

「話聞いてたら頭痛くなったわ、うどん食べましょうかうどん。あなた――祈も来るわよね」

 

「え?僕ですか?」

 

「天照もいいわよ、私の奢りで」

 

「お、ラッキー乗っとこうぜ祈」

 

見ず知らずの人に奢ってもらうのはちょっと……。

 

「ねね!祈くんも行こうよ~」

 

「久々にいっぱい話したいしな!」

 

「先輩の提案に乗るべきよ祈くん。私達とも長くいれるし……」

 

悩んでいたところに三人から腕を掴まれる。そしてピンク髪の子と金髪の大人しい子から声をかけられる。

 

「私も君とお話したいな!」

 

「わ、私もお話聞きたいです」

 

「い、樹が自分から――!ううっ……お姉ちゃんは嬉しいわ!」

 

何故か泣いている。

うーん、こうも言われたら断るにも断れない性分で。

 

「じゃあお言葉に甘えて」

 

と言うがまだ泣いていて、とても聞こえてる様子ではない。

 

「祈行こうぜ!」

 

銀に手を引かれる。

 

「お姉ちゃんは後で連れてきますので先に行っててもらえませんか?」

 

「お願いね樹ちゃん」

 

「うどんだー!」

 

「ミノさんずるいよ〜!」

 

この騒がしいのが楽しく感じる。

 

「平和だな」

 

「うん。でもこれが丁度いいよ」

 

腕を引っ張られて部屋を出る。

そして僕と勇者部との関係が始まった。




次回予告

「大丈夫か?」

「まさかこんなに増えるとはね」

「平和だ……」

「あ、あの!」

「羨ましいわ」

第四話 新たな仲間


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第四話 新たな仲間

お久しぶりです、小鴉です。

待っててくれた人がもしもいたのならすいませんでした。

時間は空きましたが第四話です。


~祈side〜

 

 

「祈様、どうぞ」

 

「う、うん」

 

大赦の人に扉を開けてもらい中に入る。

次の日にも僕は大赦に来ていた。

 

「学校側には昨日の話は通してあります。……それで例の件ですが」

 

例の件とは昨日話した内容の一つだ。その内容は

 

「現勇者との連携及び監視、それと大赦の守護……その役割受けるよ」

 

「ありがとうございます」

 

頭を下げられる。

大赦の守護とは勇者が暴走した場合に大赦へ反乱した時に大赦を守るというのだ。

 

「まぁ大赦(ここ)に潰れられても困るからな」

 

「天照様もご一緒でしたか」

 

「おう」

 

片手をあげる。

 

「それで今日は何で呼んだの?」

 

二日はゆっくりと家で過ごしたかったのだが。まだ腕が回復していないのだ、余計な事は頼まれたくはないけど。

 

「来週から讃州中学に転入するにあたり、こちらで新しい住まいを準備させていただきまして」

 

相変わらず準備がいいな、一日でなんて。

 

「そこに家具や必要なものを運んでもらおうかと。人はこちらで出しますので」

 

「分かったよ、それじゃあよろしくね」

 

それなら家に帰っていろいろ準備をしないと。

そう思い挨拶をして大赦を出る。

 

「さてと帰るか」

 

「うん。天照お願いしてもいいかな?」

 

家までの移動を今回も天照に頼む、が。

 

「……お前も転移は出来ると思うがな」

 

「ってどうするか分からないよ?」

 

「行きたい場所を念じれば出来る」

 

教え方が雑だ。

とりあえず家をイメージして念じる。

 

「(む、むむむ……)」

 

目を閉じてるから暗くて何も見えない。と、そこに天照から声をかけられる。

 

「出来たじゃねぇか」

 

「え?」

 

目を開くと目の前は家だった。

 

「本当だ……、感覚なんてなかったのに……」

 

「そういうもんだ。さっさと準備するぞ」

 

家に入って僕は引越しの準備を始めた。

 

 

 

 

〜園子side〜

 

 

祈くんと再開して一日が経った。

 

「それにしても昨日は楽しかったね~」

 

「だな。祈とまた話せるなんて……ラッキーだな!」

 

「祈くん家に居るのよね?明日にでも会いに行ってみる?」

 

私達三人はその話題で持ちきりだ。今は部活が終わって帰宅中。

 

「三人ともあの人の事が好きなんだね〜」

 

ゆーゆが何気なく言ってくる。

 

「大好きだよ~、祈くん」

 

にこにことしながら言う。

思い返してみると男の子だからか随分成長してた気がする。背が伸びてて全体的に少し大きくなってる気がした……昨日抱きついた時も――。

 

「? どうした園子?顔赤いぞ?」

 

「な、何でもないよ~」

 

手を前で交差させて言う。

つい考えてしまった、少し気をつけないと。

 

途中で私とミノさん、わっしーとゆーゆで帰り道が別れる。

 

「須美、友奈また明日な」

 

「じゃあね〜二人共~」

 

「また明日」

 

「ばいばーい!」

 

別れる前に挨拶をする。

そして私達はアパートに着く。そこであることに気づいた。

 

「あれ?大赦の車じゃないか?」

 

ミノさんが指をさして言った。見てみると確かに大赦の車だった。

 

「どうして?私達に用事かな〜?」

 

少し不安になる。

大赦の人とは大抵勇者関連の話になる。今回の戦いだってお役目が続いているのだ、理由が無いとこんな事はおかしい。

考えているとアパートからスーツ姿の男の人が出てきた、そして車に乗る。

 

「あの人が?」

 

「あの人なら大赦で見たことあるよ〜、名前は覚えてないけどね~」

 

車に乗ったという事は私達に用事じゃないのだろうか?

じゃあ一体誰に……、なんて疑問はすぐに解けた。

その後によく知っている人物が現れた。

 

「今回はありがとうございました、春信さん」

 

「いやいや大丈夫だよ。後は頑張ってね」

 

「はい、それではまた」

 

私達は目を丸くする。それはそうだ、だって――

 

「……い、祈、だよな……?」

 

「うん……でも、人違いかな?」

 

驚いてる間に車は私のいる方向に走っていった。それを目で追っていた祈くんと私達の目が合う。

 

「あれ?」

 

そしてこちらに走ってくる。私達の目の前に止まり。

 

「園子と銀じゃん。何してるの、こんな場所で」

 

昔の様に、話しかけてくれた。

 

 

 

 

~祈side〜

 

 

「成程、二人もここに住んでるのか」

 

園子と銀に出会った僕は話を聞く。ちなみに今は僕の部屋に居る。

 

「驚いたよ〜まさか祈くんがこっちに来てるなんて〜」

 

「僕もだよ。でも知ってる人が居てくれて助かるかな、こっちの事は全く知らないから」

 

例えこっちの世界にいようが外にいようがこればかりは変わらなかっただろう。でも二年という時は思いのほか多くのものを変化させるようだ。

 

「(僕も少し変わったけど)」

 

というのは言わないでおく。

昨日もうどん屋で話をしたが正直話どころじゃなかった。腕が動かないからか須美、園子、銀に食わされていた、それを面白そうに天照は見ていたわけだが……。

 

「ここに住むという事は……学校は!?」

 

銀は目を輝かせながら聞いてくる。

 

「讃州中学だよ、期待通りのね」

 

「「おお〜~!!」

 

二人は声を揃えて言う。

 

「いつから登校するの〜?」

 

「週が明けたらかな」

 

今日は金曜日、明日は家を整理したり必要なものを買いに行く。だから通うのは来週という事になる。

 

「これは須美には黙っとくか……」

 

にひひと意地悪そうに銀が言っている。

 

「来週のお楽しみだね~」

 

それから少し話をして二人には家の片付けをするから帰ってもらった。

 

「ばいばい~い」

 

「じゃあな祈」

 

「うんじゃあね。……って言っても隣だけど」

 

少し笑いながら言う。

 

「そこは気持ちの問題だよ〜」

 

「だな」

 

二人は笑う。その光景はひどく懐かしく感じた。

 

「(平和だ……)」

 

思わずそう思ってしまう。

そして二人は家の中に入った。それを確認して僕は呟くのだった。

 

「さて、片付けるかな」

 

 

 

 

~天照side〜

 

 

外はとてもいい天気。少し暑いくらいだ。

 

「何で俺が買い物をしないといけないんだよ……」

 

ぶつぶつ独り言を言いながら歩く。

そう事の発端は数分前に遡る。

 

 

「あー、天照ー?」

 

「んー何だー」

 

今朝片付けを手伝いながら返事をする。

 

「買い物を頼みたいんだけどさ」

 

「何で俺だよ、自分で行けばいいじゃないか」

 

「僕は別の場所に買いに行くからね」

 

さらっと言う。

……こいつ。

 

「そういえば天照って料理は出来るの?」

 

料理か。

栞那とよく交代で作ってた事もあり自分はまぁ出来る方にある。

 

「そこそこは出来るぞ。軽くだがな」

 

「じゃあ天照は食材をお願いしていい?何を買ってくるかは任せるよ」

 

 

という事があり現在に至る。

 

「(はぁこんな事なら手伝わなければ……、って一応あそこに俺も住むわけだから手伝わないとなぁ)」

 

真っ直ぐな道を歩く。すると最近見た顔を見つける。

 

「(あれは確か――)よう」

 

「えっ、あ。こんにちは星崎先輩」

 

ぺこりと頭を下げて挨拶をする。

犬吠埼樹。風の妹、大人しく礼儀正しい少女だ。

 

「買い物帰りか」

 

手に下げている袋を見て言う。

 

「そうですよ。星崎先輩は?」

 

「俺は今から買い物かな、祈に頼まれてな」

 

「あっ――」

 

「? どうした」

 

樹は口を手で隠して申し訳そうに言った。

 

「天照さんの方ですか?」

 

そう言われて気づく。

そうか似てるもんな、そりゃ間違うか。

 

「悪い、先に言っとけばよかったな」

 

「い、いえ! でも本当に似てますね……」

 

これは見分ける方法を教えといた方がいいか。

俺は右手首に付けてるブレスレットを樹に見せる。

 

「右腕にこれが付いてると俺、付いてないなら祈。ま、見分けるならここが一番分かりやすいかな」

 

ふむふむと顔を動かす。

 

「なるほどです。あ、買い物に行く途中でしたっけ。止めちゃってすいません」

 

「いや気にしてないからいいぞ」

 

「ふふっ、優しいんですね」

 

――あぁ。

俺はとある記憶と今の樹の動作が重なって見えた。

 

「そうか? それよりもそっちは大丈夫か」

 

「大丈夫ですよ。もう少し話してたいですけどもう帰りますね」

 

足を進める樹。

 

「気をつけろよー」

 

その背中を見ながら声をかけた。

 

「はい、ありがとうございま――ひゃ!?」

 

すると樹が石につまづき前に倒れそうになる。

 

「っと、大丈夫か?」

 

樹の前に転移し、それを片手を引いて俺の体を壁になるようにして受け止めた。

ぽすっと樹は俺の胸の部分に顔が当たり止まる。

 

「あっ、あっ……だ、大丈夫……です……。えと、えと、あ、あの!ありがとうございました!」

 

下を向いて顔を隠しながら言う。そして返事をすると慌てる様にどこかに行ってしまった。

 

「どうしたんだ?」

 

樹の背中を見ながら疑問に思う。それと――

 

「(何となく、栞那に似てるな……。危なっかしい所とか)」

 

そういえば、と買い物に行く途中だったことを思い出して俺は店に向かうために足を進めた。

 

 

 

 

~祈side〜

 

 

食料は天照に任せて僕は日用品を買った。必要最低限の物は買ったから家に帰ることにする。

もし必要なものがあれば次に買い足せばいい。

 

「そろそろあいつも帰ってる時間かな」

 

携帯で時間を見ると十一時半、家に着くのは十二時前になりそうだ。

 

「あら。祈じゃない」

 

後ろから唐突に声をかけられる。

 

「風先輩……?」

 

振り向くと犬吠埼風先輩が立っていた。

 

「持ちましょうか?腕、治ってないんでしょ」

 

僕の返事を待つ前に右腕に掛けていた袋を取って持ってくれる。

 

「あ、ありがとうございます先輩」

 

「いいってことよ。人を助けるのが勇者の役目だしね」

 

いろいろと質問されながら家までの帰路を二人で歩く。その中で。

 

「そういえば祈って中学生よね。どこに通うの?」

 

大赦側から連絡はまだいってないのか?勇者のリーダーは先輩だと聞いていたが。

 

「そのうち連絡が来るかと思いますが、讃州中学にですね。もちろん勇者部に入りますよ」

 

「あらそうなの。それじゃあ更にって言うか……まさかこんなに増えるとはね」

 

前に勇者部とうどんを食べた時に話したが須美達が勇者部に入ることは予想してなかったらしい。それもそのはず、勇者部は勇者で構成される予定だったのだ。

まぁ結果は全員勇者な訳だが。

 

「そして祈はあの子達にとても信頼されてるじゃない。部長として羨ましいわ」

 

「ま、昔は色々ありましたからね――。っと、それでは僕はこっちなんで失礼しますね」

 

家の近くに来て道が違うので別れる。

 

「家まで持ってあげましょうか?」

 

「いえ気持ちだけで十分ですよ。それではまた明後日会いましょう、先輩」

 

「ふふ。そうね明後日、楽しみにしてるわ」

 

そう言葉を交わして僕達は別れた。




次回予告

「星崎祈です。よろしくお願いします」

「飯は作ってるぞ」

「おはよー!」

「来たわね祈!」

「一緒のクラスだなんてね」

第五話 讃州中学




前書きでも言いましたがお久しぶりです。最近はほかのゲームにハマってしまいそっちの創作ばかりしてました(バンドリ)。
こんな僕の作品ですがこれからもこのほしゆを読んでくれる方がいるのなら感謝です。

それでは読んでもらいありがとうございました。


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第五話 讃州中学

ゆゆゆい楽しいですね〜。

それでは第五話、どうぞです。


~祈side~

 

 

こっちの世界に帰ってきて何日か経った朝。ずっと外にいたからかまだこのベットの上にいるというのが変に感じる。

 

体を起こしてカーテンを開ける。陽の光が差し込んできて寝起きだからだろう、眩しく感じた。

 

「おーい祈ー。起きてるかー?」

 

「あ、おはよー」

 

天照がエプロンを着て僕の部屋に入ってきた。

 

「飯は作ってるぞ、もう少ししたらこっちに来いよ」

 

「うん、ありがとう」

 

二度寝はするなよー、と軽く言って部屋を出ていった。

 

洗面台に行って顔を洗う。

右腕は昨日には治っていた。痛みはなく自由に動かせる。

 

「(動かなかったら初日から大変だよね)」

 

転入初日に腕を怪我して動きません、なんて事は絶対に困る。

そんなことを思いながらリビングに向かう。

 

そして扉を開けると……。

 

「おはよー!」

 

「おはよ~祈くん〜」

 

既にご飯を食べてる女の子が二人椅子に座っている。天照はコーヒーを飲んでテレビを観ていた。

 

「……何で二人が居るの?」

 

取り敢えず聞いてみる。

 

「何でって、そりゃ朝ご飯を食べにだよ」

 

「それと迎えに来たんだよ~」

 

当然と言わんばかりに言われる。

 

食べに来ていいなんて言った記憶はない。……駄目と言ったこともないが。

 

「別に二人が来て困る事もないだろ。そんな事より早く食べろ、初日から遅れていいのか」

 

「はいはい。分かったよ」

 

考えるのはやめよう。どうせこの生活が続くんだ……同じアパートに住んでるんだし。

 

 

 

 

 

 

「祈――じゃなくって、天照のご飯は美味しいな! 」

 

「別に、俺も“祈”なんだけどな」

 

「うーん……天くん! 天くん!」

 

「天くん? それって俺の事か?」

 

「そうだよ~。天照から天を取って、天くん!」

 

「……呼び方はあまり気にしないからいいけどさ」

 

二人とのやり取りに少し疲れてる天照。その光景が可笑しくてつい笑ってしまう。

 

「笑うなよ」

 

「いや、だって……くくっ……」

 

天くんは笑う。もはや神様の威厳も何も無い。

 

「はぁ。いいから早く飯を食べろ」

 

逃げるように言われる。

 

僕は残りわずかの食べ物を口に入れ込み、よく噛んでから飲み込む。

 

「ご馳走様。今日も美味しかったよ」

 

流し台に食器を置いてから礼を言う。

天照は「おう」と一言。

 

それを聞いて僕は歯を磨き、部屋で制服に着替える。

 

初めて手を通した制服。まだ固く、新品なのだど実感させられる。

 

「(中学生、なんだよなぁ)」

 

と思い始めたのは最近の事。

 

二年間もの間、同じ空間に居て異形な形の敵(バーテックス)と戦っていたのだ。それも現実とは思えないような戦い。

 

神の力を振るい、隣には実際の神様(の力を持つ者)が肩を並べていて。

バーテックスは昔倒したやつや、見たことのない形のバーテックスもいた。

 

戦いの最中に僕の腕や足は噛み千切られてその度に神降ろしで再生させていた。……おそらく時間的には一年くらい経った時だろうか? その時には腕を噛み千切られたくらいだと痛みの感情は既に無く、流れるように再生させていた。

 

そんな事からこの世界に戻ってこれたのは今でも不思議だ。

天照は力の回復の期間、だなんて言ってる。きっとこれが勇者の存在理由なんだろう。

 

「(こうして考えると変な話だよなぁ。大赦側は知ってるのか? いや僕が考えても仕方ないか)」

 

ついついため息が出てしまう。

 

「……あ」

 

机の上に置いてある物に目が止まる。僕はそれをポケットに入れてから鞄を持って皆がいるリビングへと向かう。

 

「準備出来たよ。いつでも学校行ける」

 

「わぁ~! 祈くん似合ってる!」

 

「あはは、ありがとう園子。それじゃあ行こっか」

 

その前に、二人には外で待ってもらい僕は天照と玄関で少し話す。

 

「あぁそうだ祈。現勇者、鷲尾や三ノ輪達じゃない方な。には外の事や満開の事を伝えるなよ」

 

「言うつもりは無いけど……。だってそれを言ったら駄目でしょ」

 

須美達は元々勇者という事を知っていて命をかけてお役目をしていた。

 

だけど今回はどうだ?

複数の適正者からバーテックスの襲撃時に初めて自分が勇者だと分かり、常識離れした戦いに身を寄せる……それも自分は精霊の絶対的な防御がありちょっとやそっとじゃ傷つかないときた。

 

「満開と精霊……。今回の勇者システムは酷だよ。これなら死んだ方がまだいいと思う」

 

「お前や俺は精霊のバリアを貫通出来るけどな」

 

そう、天照の言う通りだ。

 

僕は一度未来に飛ばされた事がある。よく思い出せばその時に見た事のある顔が何人も勇者部にいる。

その時に未来の園子と剣を交えて神力を持った攻撃でバリアを普通に破った。

 

「僕らなら勇者を殺せるって? そんな事はしないさ。無いと思うけど大赦に反抗されない限りね」

 

「流石に反抗は無いだろ。どの時代の勇者かは覚えてないけど二、三人は反抗したのもいたな」

 

「その人ってどうなったの?」

 

つい聞いてしまう。

 

「大赦に直接来たやつは俺が止めた。面倒なのは壁を破壊しようとした勇者だな」

 

「は?」

 

耳を疑った。

 

壁を破壊って、(それ)を壊したら西暦の繰り返しになるじゃんか。

 

「おーい! 祈ー! 遅れるぞー!」

 

外から銀の声が聞こえる。

 

「っと悪かったな。続きは帰ってきてからだ。それと勇者部には俺も来るから」

 

「りょーかい。それじゃ、行ってくるね」

 

「おう。頑張ってこいよ」

 

軽く挨拶をして僕は家を出たのだった。

 

 

 

 

〜須美side~

 

 

今日は朝から珍しい事があった。

銀が私よりも早く学校へ登校していたからだ。「悪い須美! 用事があるからアタシと園子は先に行くぞ!」とメッセージが端末に入っていて驚いていた。

 

「おはよう」

 

「おっはよー! 銀ちゃん! そのちゃん!」

 

私と一緒に登校した友奈ちゃんが同じく銀とそのっちに挨拶をする。

 

「おう! おはよう!」

 

「おはよ〜、二人共〜」

 

自分の席に鞄を置いて四人でいつものように友奈ちゃんの席の周りに集まる。

 

「それにしても……今日は騒がしいわね。何かあったかしら?」

 

「うん。皆ざわざわしてるよね」

 

今来たばかりの私達は分からない。見渡すといつもより騒がしいのだ。

 

その質問にそのっちが答えてくれる。それも何故か得意気に。

 

「ふっふっふ~。今日はねー、転入生が来るんだよー!」

 

「へぇー! 男の子? 女の子?」

 

友奈ちゃんがそれに食いつく。

私としてはそこまで興味を持てなかった。でも――。

 

「(転入生、祈くんを思い出すわ)」

 

小学六年生の記憶。二年前の戦いの始まり。そして祈くんとの出会い。

 

ついその単語には反応してしまう。

 

「男の子だよ〜。それも超カッコイイんだって~」

 

「クラスの女子が惚れちゃうかもな」

 

「あら本当に珍しいわ。銀がそんな事を言うだなんて」

 

「へへ。そりゃあカッコイイからな」

 

この口ぶりから銀と転入生は知り合いなのだろうか? 他の人達の会話に聞き耳を立ててみる。

 

「今日の転校生、凄くカッコイイらしいよ」

 

「ほんと? ちょっと私話しかけよっかなー?」

 

「運動神経抜群らしいぞ? これはサッカー部だろうな」

 

「は? 野球部だろ。お前らになんか譲らねぇからな」

 

色々と噂されている。

一体どこからそんな情報が出てくるのか……。

 

そこでチャイムが鳴り響く。

 

先生が来てそれぞれが自分の席につき始めた。

 

「挨拶の前に皆さんにお話したい事があります。今日から新しくこのクラスに仲間が増えます」

 

先生のその言葉でクラスがざわつく。「静かに」とその一言で徐々に静まっていく。

 

「それでは星崎くん。入ってきて」

 

「(え?)」

 

先生から出た名前に思考が停止する。そのっちと銀が私の方をニヤニヤとしながら向いてくる。

 

そうしてる間にも教室の扉は開いて、一人の男の子が入ってきた。

 

「星崎祈です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

〜祈side~

 

 

「来たわね祈!」

 

放課後になり勇者部の部室の扉を開くと風先輩が立って待っていた。その奥には天照が樹ちゃんと話しているのが見える。

 

「知ってるだろうけど新しい部員を紹介するわよー!」

 

皆を集めて先輩が紹介する。

 

「今日からこの部にお世話になる星崎祈です、よろしく」

 

拍手が起こる。

 

そして須美が一言。

 

「それにしても一緒のクラスだなんてね」

 

正直苦笑いが出る。

銀と園子は知ってたんだよな~。本当に言ってなかったとは……。

 

「ま、こっちとしても連絡が早く回るから好都合ね」

 

勇者は固まってた方が動きやすい、そういう点での大赦の計らいだろう。

 

「僕は皆と一緒で嬉しいけどね」

 

「――っ! は、恥ずかしい事言うなよ!」

 

「え? 本当の事だったんだけど……」

 

空いた時間は思ったよりも人を素直にさせるようだ。

 

そこで先輩が提案をした。

 

「部員が増えたんだしかめやに行きましょう!」

 

祝うわよ〜、と張り切ってる先輩とうどんに喜ぶ部員。何でこんなに急に決まったのに対応出来るのか。

 

「(あれ、先週も行った気が……)」

 

うん。きっと気にしたら負けなんだろう。部活は――それっぽい事をしてるんだろうし。

 

皆の背中を見ながら僕はそう思った。




次回予告

「お守り、返すよ」

「て、敵ですか!?」

「隠したい主義なのかしら」

「三好夏凜。一応勇者よ」

「星崎栞那! 夏凜ちゃんの精霊です!」

第六話 新たな勇者


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第六話 新たな勇者

ログインボーナスが再び……神樹様が枯れちゃいますね。

それでは六話です。今回は微妙に長いです。


~祈side~

 

 

「なぁ星崎遊ぼうぜ!」

 

「星崎君ちょっと話そ?」

 

転入して二日目。昨日に続いて僕の周りには人だかりが出来ていた。趣味や色々と聞かれる。

 

「う、うーん……」

 

人と話す事はそこまで得意じゃないので正直困る。

 

これならバーテックスを相手する方がまだ楽だ。……物理的にだけど。

 

「遊ぶのはちょっと……ほら、昼休みでもないし。話すくらいなら」

 

因みに今は三時間目の休み時間。次は移動教室や体育ではないので早めに行動する人はいない。

 

「それなら何聞こっかな〜」

 

「でも昨日で結構聞いたよね?」

 

「だよな~。うーん」

 

悩まれても困るんだけどなぁ。

 

こんな時に上野が同じクラスだったら、と思う。学校自体違うけど。

 

「そうだ! 昨日ははぐらかしたからさ好きな人の話しようよ!」

 

机に体を乗り出して聞いてくる。それに食いついたのは大抵女子だ。

昨日ははぐらかした。というのは同じ事を聞かれて曖昧な回答をして時間を潰していたからだ。

 

中学生、つまり思春期真っ最中だから恋愛の話は神樹館の時よりも盛り上がる。

 

「(僕は盛り上がらないけど)」

 

チラッと僕よりも前の席に座る女子に視線を向ける。そこでは銀と園子が楽しそうに話をしていた。

 

「(話すよりも見ていた方がはるかに楽しいよ)」

 

目を閉じて席の周りにいる人達の質問に答えていく。

 

四時間目が始まるまで、僕はクラスメイトと話をしていたのだった。

 

 

 

 

~樹side~

 

 

昼休みになって私は図書室へと向かった。

前に来た時に気になる本があって予約をしておいたのだ。

 

図書室には委員会の人を含めても数人しかいない。

 

「本を予約していた者なんですけど」

 

カウンターに座る生徒に声を掛ける。名前を言うとリストを取り出して私の名前を探す。そして机の下から一冊の本を出して渡してくれる。

 

「えっと……この本であってる?」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

本を受け取った私は空いてる席を探して――。

 

「(あれ?)」

 

席を探すために見渡していると知ってる人を見かけたのでそこに駆け寄る。

 

「星崎先輩こんにちは」

 

声を掛けると本から目を離しこちらを向いてくれる。

 

「ん、樹ちゃん?」

 

……本当にそっくりだなぁ。

 

天照さんとは違って話し方が柔らかいと思う。

 

「やあ。樹ちゃんも本を読みに?」

 

「はいっ。前に予約していた本があって」

 

隣いいですか、という質問に優しく「いいよ」と言ってくれる。

そして再び本に目を落として読み始める。

 

「星崎先輩はどんな本がお好きなんですか?」

 

つい気になってしまったので聞いてしまう。

 

「ラノベ、ライトノベルだね」

 

ちら、と表紙を見せてくれる。

 

なんというか意外に思ってしまう。

 

「樹ちゃんは何の本を?」

 

「えっ?」

 

聞き返されたので声を上げてしまった。

 

「本ですか? 私は……」

 

おどおどとしながら本を差し出す。受け取った先輩はへぇ、と声を漏らして少し恥ずかしくなる。

 

「歌手、夢なんだ」

 

「は、はい。歌、上手って周りやお姉ちゃんに言われて……」

 

「それなら頑張らないとね。応援してるよ」

 

はい、と言って返してくれる。

 

私が本を受け取ろうと手を触れた瞬間、体が違和感に襲われた。これは前にも感じた――。

 

「……人の読書時間を邪魔するなんて」

 

栞を挟んで本を閉じてから席を立つ。私もそれに続いて立つ。

周りを見ると予想していたとおり時間が止まっていて皆動いていなかった。

 

星崎先輩はどこから取り出したのか分からない刀を手に持っていて、私に声を掛けてきた。

 

「まだ戦闘は慣れてないでしょ? 無理はしないでね」

 

「は、はい。でも足は引っ張らないように頑張ります!」

 

そして私達は光の壁に包み込まれた。

 

 

 

 

〜夏凜side〜

 

 

廊下を歩いていたら急にありとあらゆる音が消えた。人も人形のように動かなくなり本当に学校かと思いたくなる。

 

私はこの状態を知っている。だから別に慌てはしない、逆に来るのを待ってもいた。

 

「(樹海化……。本当に嫌なほど綺麗な光景ね)」

 

光の壁が押し寄せてきて目を開けると先程とは別の空間に立っていた。

 

慌てる事もなく端末を操作して樹海のマップを見て自分と敵の位置を確認する。敵を示す赤い点の上には射手座、蟹座、さそり座と表示されていた。

 

「栞那」

 

私は自分の精霊の名前を呼ぶ。名前の主は音もなく横に現れた。

 

「どうしたの夏凜ちゃん」

 

肩に少しかかる金色の髪を揺らして宙に浮いている。

 

「前に言ったけど今回は私達も参加するわ」

 

「参加というよりも乱入――」

 

「どうでもいいじゃない。向こうとしても人手が多いと助かるでしょ」

 

栞那の言葉を途中で無理矢理終わらせる。

いつも素直な栞那は思った事をすぐに口に出してしまう。逆にそれが悪いところなのだが。

 

「それはそうだけど……。ほら、勇者は助け合いだよ?」

 

「助け合い、ね。じゃあちゃっちゃと一体ぐらい消滅させますか。体、頼むわよ栞那」

 

その言葉で意味を理解してくれる。

 

「うん! 任せて!」

 

元気に返事してくれる栞那が心強い。

 

私は再び端末を操作し変身のボタンを表示する。それを躊躇わずに押すとオレンジ色の小さい花が無数に私を包み込んだ。

 

「それじゃあ行くわよ」

 

制服から勇者の服に姿を変えた私はバーテックスの元へと跳躍を開始した。

 

 

 

 

~祈side〜

 

 

「あ! 風先輩、樹ちゃんと祈くんが来ました!」

 

「やっぱり一緒だったわね」

 

勇者服へと姿を変えた勇者部の皆が立っている場所へ着地する。どうやら僕らを待っていたようだ。

 

「やっと来たか」

 

天照が星樹を持って僕に近づいてくる。

 

「体は何ともないか?」

 

「うん大丈夫。神装もいけると思う」

 

そこで天照は少し悩む。

 

「そうか。でも神降ろしはあまり使うなよ。お互いに力は完全じゃないんだ」

 

「分かった」

 

天照との話が終わると僕は銀に話し掛ける。

 

「あ、銀。ちょっといい?」

 

「ん? どうしたんだ祈」

 

僕はポケットからあるものを取り出す、そして。

 

「失礼。……これでよし」

 

うん似合ってる。心の中でそう思い銀を見る。

 

「これって……」

 

銀は僕が髪につけたのを手で触る。そう、それはあの時に僕がお守りとして貰った銀の髪飾り。

 

「お守り、返すよ。とても心強かった、ありがとね」

 

「おう! えへへっ」

 

いい笑顔で笑ってくれる。だけどそこに園子と須美が割り込んで注意をしてくる。

 

「む~! イチャイチャ禁止だよ〜!」

 

「そうね。銀だけなんて卑怯だわ」

 

はいはい、と手を二回叩いて意識を戻す。

 

「マップを見て分かる通り今回は敵が三体よ。いい事にこっちは人数が多いから効率よく一体ずつ倒していくわよ」

 

「風先輩」

 

そこで真面目に戻った須美が声を掛ける。

敵を見て思った事があるのだろう。それは僕や銀、園子も同じだったようで……。

 

「どうしたの東郷。何かあった?」

 

「何か、と言いますか。前の敵もですけど今回の敵は昔私達が撃退した敵なんです」

 

その言葉を銀が受け取る。

 

「だから行動パターンは覚えてるな。向こうは面倒な連携もしてくるし、あれは事前に確認してた方がいい」

 

正直いい思い出はない。仲間を一人死に追い込んだバーテックスなのだから……。

 

精霊バリアが勇者にあるといっても精神面には響く、それならパターンくらいは頭に入れていた方がうまく対処出来る。

 

「それなら東郷、指示をお願い。先代の知恵は役に立つわ」

 

「分かりました。まず――」

 

須美が先輩に変わって指示を出す。皆そちらに集中しているが。

 

「顕現、八咫鏡!」

 

飛んできた矢を鏡で防ぐ。

 

ここは既に樹海。悠長に考えてる時間はあまりない。

 

「(くっ! やっぱり安定しない!)」

 

一撃防いだだけで鏡が割れてしまう。右腕で顕現させていたからその腕が痺れる。

 

少しの心の乱れ。それにより神装の維持、顕現の形は変わっていく。今回はただの体力だろう。学校に行くくらいの体力はあるから大丈夫だと思っていたのが軽い考えだったようだ。

 

そうこう考えてるうちに矢が雨のように降り注いできた。

 

「っ――天照!」

 

名前を呼ぶとシュッ、と僕の横を通り抜けて行く。

 

「俺もあまり力は戻ってないんだがな!」

 

同じように顕現させ防ぐ。後ろから見て腕が震えてるのが分かる。

 

「祈! ちょっと体を寄越せ!」

 

顔を少しだけこちらに向けて声を上げる。

二年間外で戦っていた時に使った方法だ。一体化、と天照は言っていた気がする。

 

「あれ一方的に僕に負担がかかる気が……」

 

「俺が百パーセントの力を出す方法がそれしかないんだ。あと俺にだって負担はある」

 

攻撃を防ぎきった天照に近づいて愚痴を言う。

 

「まぁいいや。後はよろしく」

 

「――体の痛みは文句言うなよ」

 

は? という声が発せられる前に僕は気を失った。

 

 

 

 

~銀side〜

 

 

須美指示によりそれぞれ行動を開始したアタシ達。アタシと風、須美と友奈、園子と樹という組み合わせで行動をしている。

 

「それにしても――多いわねッ!」

 

風が大剣を振るい敵を一掃する。小型のバーテックスがうじゃうじゃとやって来るから何度もこれを繰り返している。

 

「おまけに大きい敵は三体ときたもんだ。めんどくさいっちゃありゃしないな!」

 

アタシも斧モードで力任せに薙ぎ払う。

 

そしてアタシ達より前の方では須美サポート、友奈の攻撃で蠍座のバーテックスを攻撃している。友奈が本体を攻撃して蠍座が尻尾を振るう時に須美がそこを狙い撃つ、という感じだ。

 

周囲の敵は園子と樹が撃破している。

 

「本当よ! って、ん? あれは……祈?」

 

「え?」

 

視線が上を向いていたのでそちらを見る。すると祈が宙から降りてきていた。

 

「三ノ輪、風。そこを動くなよ」

 

いつもとは違う呼び方。それであれは天照だと分かった。分かったが、少し違う。

あれは祈だ。でも何だろう、体は祈だけど雰囲気が……。

 

言われた通り動かずにいると祈が刀を持ってない方の腕を横に振った。するとアタシ達の周りにいた小型のバーテックスが一瞬にして消滅した。

 

それを見て風は唖然としている。

 

「うわお、流石神様。次元が違うわ……」

 

「そんな事は後だ! まずは蠍座を!」

 

道を開いてくれた祈に感謝しつつ友奈の元へ向かう。そして前と同じ手順で御霊を出す。そして風が攻撃をする――が。

 

「おりゃ! ってあれ?」

 

ヒョイと御霊は避ける。ブンブンと剣を振るうが一向に当たらない。

 

「ムカつくわねぇ!!」

 

気合を込めて再び振るが避けられる。だが。

 

「…………ッ」

 

避けた先に目に見えない速度で祈が後ろに回り込み横一線。御霊が消滅した。

 

「蟹座は俺に任せろ。お前らは射手座を頼む」

 

倒すや否やそう言ってすぐに蟹座へと向かった。

 

「祈くんって戦う時いつもあんななの?」

 

「いやー違うよ〜。あんなの初めてだよ、ねーミノさん~?」

 

「ああ。まるで天照だよな」

 

アタシ達が私語をしていると須美から連絡が入った。

 

「私語は慎んで。敵は遠距離型、いつ攻撃が来てもおかしくないから注意をして」

 

「りょーかい!」

 

須美からの連絡が終わり射手座へとバラバラに向かう。

 

だけど不思議な事が次の瞬間に起きた。

 

 

 

 

天照()side~

 

 

先程射手座との連携をしていた蟹座。こいつ自体の攻撃はそうでもないが、なんと言っても防御面でよく分からない強さがある。

 

『神降ろしで倒そうよ、一回ならそうでもないと思うし』

 

祈が頭に語りかける。

 

「いいのか? 結構くるぞ」

 

『いいよ。時間をかけるよりもはるかに楽だ』

 

「ま、お前がいいなら遠慮なく使うけど……」

 

そして俺は意識を研ぎ澄まし、神樹の記憶にアクセスする。呼び出す神は俺ら()がよく使う神。

 

「纏え――火之迦具土」

 

現勇者のように一々御霊を攻撃するなんて時間がかかる。それよりもこいつ自体を消し去った方が早い。

 

「(……少し体が重いな)」

 

俺が少し止まっていると器用に六枚の反射板を使用し俺に攻撃をしてくる。

 

それを火之迦具土の力を宿した星樹で一つずつ破壊していく。一枚、二枚、三枚……そして攻撃手段を失わせるために尻尾、最後に本体を十字に斬り消し去った。

 

「ふう……しんどい」

 

思わず声が零れる。

 

こんなにこいつの体は疲れてるのか、と思ってしまう。よくもまぁこんな状態で神具顕現を使ったなこいつ。

 

『じゃあ皆を手伝いに行こうか』

 

自分に負担がかかるだけだけどな……。

 

「了解。それじゃ行くぞ」

 

俺は射手座の近くに転移をする。

 

そこには勇者達が立っていた。立っていたが……。

 

「は?」

 

『あれは?』

 

俺らは揃えて、はて? と思う。そこには知らない勇者が居たから。

 

取り敢えず状況を聞くために風の横に降り立つ。

 

「おい風。あれは誰だよ」

 

「そんなの私が聞きたいわよ」

 

言い草からして知らないようだ。

 

「私達が着いた時には戦ってて〜、手伝おうとしたら一人で消滅させたんだよ~」

 

「消滅?」

 

少々言い方に引っかかる。

今の勇者は封印というシステムがある、だから俺や祈みたいなバーテックス自体を消し去るという言い方には違和感を感じる。

 

それにあの勇者の服装……とても栞那に似ている。

 

「(いや、関係ないな)」

 

ぶんぶんと頭を横に振り考えを消す。だってそれは有り得ないから。

 

その正体不明の勇者はこっちを見ると、ゆっくりと近づいてくる。

 

「て、敵ですか!?」

 

怯えながらも武器を構える樹。

 

「武器を下ろせ樹。何かあったら俺がやる」

 

俺はそれをやめさせる。

一人で動いた方がやりやすいというのもある。

 

そいつは俺の前に来ると足を止めた。

 

「……星崎祈ね」

 

「ああ」

 

目の前に立たれて思う。

 

服装が栞那と似ているのではなくて同じなんだ。

金木犀をモチーフにオレンジがメインの服。違う点は歩く前に消した武器が刀だったという点だろう。

 

「もうすぐ樹海化も解除されるわ。話すのは放課後ね」

 

周りを見ると少しずつ解除されていくのが分かる。

 

そいつは変身をなぜか解除して話し掛ける。ギリギリまで話したい事でもあるのだろうか?

 

「ああ、それと私の精霊があなたに言いたい事があるらしいから」

 

降りていた髪を結びながら話す。

 

「精霊?」

 

精霊って三ノ輪の義輝みたいなのは困るぞ。と思っていた。

 

だけど現実は……とても、とても意外なものだった。

 

「えへへっ、久しぶりだねお兄ちゃん」

 

くるり、と一回転してそいつは登場した。

金色の髪を揺らし、まだどこか幼さも残る少女。

 

俺はそいつをよく知っている。知っているなんてものじゃない。だってそいつは……。

 

「かん――」

 

手を伸ばしながら名前を呼ぼうとしたがそれは樹海化の解除によって叶わなかった。

 

無数の花びらによって隔てられた俺らはあの時の光景の再現にも思えた。

 

「栞那……」

 

ボソリと誰にも聞こえない声で言う。その声は虚しく消えていったのだった。

 

 

 

 

~友奈side~

 

 

戦闘が終わり前と同じように屋上の社の前に転送された私達。そこでは先程の女の子について話をしていた。

 

「さっきの人誰でしょうね?」

 

「讃州の制服着てたからここの生徒ということは間違いないけど……」

 

「ま、探すのはやめにしましょう。どうせ向こうから私の女子力に惹かれて来るわ!」

 

自信満々に風先輩が言う。

 

私は最後に話をしていた祈くんに話し掛けて情報を貰う。

 

「祈くんは何を話してたの?」

 

「…………」

 

「祈くん?」

 

「……ん、ああ。どうした友奈――じゃなくて結城」

 

「(ふあっ!?)」

 

急に名前で呼ばれてビクッとする。クラスの男子にも言われるけどそれとは少し違った感じがした。

 

「え、ええと……あの女の子と何話してたのかなぁ、って」

 

「そうだった、それを言わないとな。放課後に話に来るらしい」

 

「話にって……部室に?」

 

「そうだろうな。ま、俺は一旦こいつから離れる。そうだな、三ノ輪ーこいつの体、支えろよ」

 

銀ちゃんを呼んで何かをしようとしている。

 

「え? お、おう! ドンと来い!」

 

そう言うと祈くんは力が抜けたようにふらっと倒れる。まるで糸が切れたようにも思える。

 

「え? おい! 祈!?」

 

慌ててそれを受け止める銀ちゃん。そこに東郷さんとそのちゃんが駆け寄る。

 

「祈くんどうしたの!?」

 

「大丈夫〜?」

 

くそ、と声を漏らして銀ちゃんの肩を借りてゆっくりと立つ。そしてこの場に居ない人物に向けて文句を放った。

 

「自分が巻いた種だけど、ここまでキツイとは……あいつ……」

 

「あれ? 祈くん?」

 

「どうしたの友奈」

 

あれ? さっきと雰囲気が……。

 

「あれ? あれー? さっきの祈くんは違う祈くん?」

 

一人で悩む。なんというか少し男っぽかったような気が。

 

と私が何に悩んでるのか気付いた祈くんが答えてくれた。

 

「多分さっきの僕の事だろうけど、あれは天照だよ。僕の体を使ってたんだ。だから皆の呼び方が違ってたでしょ?」

 

「そうだな、苗字で呼ばれたのはビックリしたな」

 

「ま、あの状態の事は気にしないで。それよりも教室に戻ろうか、昼休みが終わる前に」

 

「そうね。授業に遅れたら言い訳が出来ないわ」

 

お先ー、と風先輩は樹ちゃんを連れて先に教室へ戻る。私達もそれに続いて戻る事にした。

 

 

 

 

~祈side~

 

 

「三好夏凜。一応勇者よ」

 

放課後になり勇者部室に集まった僕らは昼の時に出会った少女に話を聞いていた。

 

「あのねぇ、何で聞いてもない勇者がこんなにも出てくるのよ」

 

ため息混じりに先輩が言う。とても混乱している様子だ。

 

「私にそれを言われても知らないわよ。それと“一応”勇者。正確には違うわよ」

 

「勇者じゃないならどうしてあの場に?」

 

「星崎祈を見たかったからよ」

 

「え、僕?」

 

不意に名前を出されて驚く。

 

「ええ。私の精霊が会いたいって言ってたからね」

 

この子の精霊、それは樹海化の解除前に少しだけ見えたあの少女の事だろうか? それなら。

 

「会わせてもらおうか、栞那と」

 

天照が急に出てくる。

丁度呼ぼうとしてたから手間が省けて助かる。でもどうして天照があの子を知ってるんだろうか。

 

「……二人居るのね。栞那、来て」

 

夏凜という少女は天照を見て目を丸くした。でもすぐに栞那という精霊を呼ぶ。

 

「はいはーい! 星崎栞那! 夏凜ちゃんの精霊です!」

 

登場と共に元気な声が部室に響く。

周囲の反応はそれぞれで、でも大抵が「可愛い」というものだった。

 

かくいう僕もそうなのだが……。

 

「……おい」

 

「うひゃっ!」

 

ペちん、と両手で栞那という少女の頬を挟む。

 

「あ、天照? 流石に初対面にそれは……」

 

僕の声なんか無視してその少女と話をする。僕を含め勇者部の面々は不思議な様子で二人のやり取りを見ている。

 

「お前、何で居るんだ。何でそんな平気な顔をして俺の前に顔を出した」

 

「それはお兄ちゃんを手伝いたいからだよ? 前とは違うよ、今は力もあるし!」

 

「力? お前もしかして……」

 

「うん。神装? って力だよ」

 

「……はぁ。お前、知ってるのかその力を手にしたら一生――」

 

「一生戦わないといけないなんて承知の上だよ。それならお兄ちゃんとずっと一緒に居られるし!」

 

頭を抑える天照。

 

そこに風先輩が口を挟み皆に変わって状況を確認してくれる。流石部長、頼りになります。

 

「えーと、お二人さん? 二人はどのようなご関係で?」

 

そう聞くと二人は顔を見合う。そして一度は躊躇った天照が口を開いた。

 

「一応兄妹だ……」

 

「えへへ♪」

 

照れくさそうに言う天照とそれとは反対に嬉しがる栞那。

 

「大赦は隠したい主義なのかしら。東郷達の時にも言ったけど」

 

「失礼ね。私達は大赦なんかと関係は無いわよ」

 

先輩の呟きに否定を入れる。

 

「大赦と無関係で樹海に入れるのか?」

 

銀が僕に聞いてくる。

 

大赦と関係が無いと入れないなんて事は聞いたことはない。でも勇者システムがあるなら大赦からの支給のはずだし……無関係というのはおかしい。

 

「うーん……どうだろう」

 

「大赦と無関係って……じゃあ、どうやってあの場に」

 

「神装だよ」

 

栞那がさらりと言う。

 

「神装? それって祈くんが使う?」

 

何で神装がここで……。

 

「(あっ)」

 

成程。そういう事か。

 

「神の力、っていう事だね。それなら大赦を通さなくても樹海化でも動ける。だって神樹は神々の集合体、そのオリジナルの力を持つなら普通に入れてもおかしくはない」

 

「そういう事。私も詳しくは知らないけど栞那がそう言ってたわ」

 

「うんうん、私の力は月詠様の力。お兄ちゃんとは正反対だよ」

 

指をブイにして向けてくる。その姿は天真爛漫な少女そのものだ。

 

「大赦と関係はして無くても勇者の服装もあるわ。これは栞那のやつだけどね、端末も」

 

へぇ。端末が同じなら勇者装束もその同じものになるのか。

 

これは意外な発見だった。あまり端末なんて受け継がれるものではないだろうに。

 

「それよりも私はここの活動について詳しく知りたいわ。ボランティアだけじゃないのでしょ」

 

「あら入部してくれるの?」

 

期待の眼差して風先輩が夏凜を見ている。それを少々変な目で見てから返答をする。

 

「……ええ、栞那が入りたいって言ってたからね」

 

「歓迎よ! 樹、友奈、東郷! おもてなしの準備よ!」

 

先輩が呼び掛けるとすぐさまに行動を開始する三人。思った事は須美が案外ノリが良くなってるという事だ。

 

「銀と園子、祈は軽く掃除!」

 

「(って、やっぱり僕もだよね)」

 

箒を持って床を掃除する。その途中に天照を見ると栞那とじゃれあっている。

 

「おにーちゃん♪ えへへ〜♪」

 

「あぁもう……。なんだよ栞那」

 

あんな顔、するんだな。

 

その時の天照の顔は表では面倒なようにしているが、抱きついてくる栞那を受け止めているところを見ると嫌がってない事が分かる。

 

そんな事を思いつつ僕は歓迎の準備を続けた。




次回予告

「か、栞那ちゃん」

「なーんてややこしい」

「天照がそんな趣味だったなんて」

「人助け?」

「恥ずかしいよ……お兄ちゃん……」

第七話 兄妹


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特別編 花結いのきらめき
第一話 時代を越えて


ほかの方に影響されて僕も書いてみましたw

ゆゆゆ編が完結した後の話ですので祈、天照は自分達の役目を実行してる最中なので離脱中です。

ただの楽しみたいだけの作品ですので暇ならば読んでみてください。

軽いネタバレも含むので、嫌な方は注意です!

それでは、どうぞ!



~風side〜

 

 

「若葉ちゃん達……西暦の勇者は既に敵と交戦状態にあるみたいです。端末を見てもらえば分かるかと思いますが、戦力は二分されていて片方は未開放地区付近で戦っているのでそちらに戦力を回してください」

 

樹海化のアラームが鳴り響き神託を受けたひなたが私達に指示をする。

 

「おおう、これは距離があるわね」

 

端末のマップを見て思わず呟く。4:3で分けられていて3人の方が未開放地区付近で結構危ない状況だった。

 

「3人の方に私、友奈、夏凜、園子。中央で交戦中の4人には樹、銀、東郷。これで行きましょうか」

 

「りょーかいだよ~部長~」

 

「西暦の勇者、いったいどんな人達なのかしら……」

 

「こ、怖い人だったらどうしましょう」

 

それぞれ言葉を漏らす。

 

そんな中ひなたが付け加えるように一言言った。

 

「あ、待ってください。それとどこの勇者かハッキリとしませんが別に4人迷い込んでるようです。若葉ちゃん達とは別に居るようなので見つけたら協力してあげてください」

 

「一気に11人の勇者と知り合う事になるのね、こりゃ大変だわ」

 

「戦力が増える。と捉えればいいじゃない」

 

時期部長にさらりと言われる。

 

確かにそう捉えると気は楽になる、気はね。

向こうはいきなりこんな空間に飛ばされたと考えると警戒を強めているだろう。それに今は交戦中……いくら自分達と似たような姿の人物が現れても“仲間”と捉える事は不可能だ。

 

自分なりに考えて思わずため息が出てしまう。

 

「こういう時に星崎ファミリーが居ればね~」

 

この場に居ない勇者部員を呼んでみる。祈、天照、栞那はバーテックスとの最終決戦が終わった後に壁の外に行ったのだ。それは今代の勇者の使命が終え、次の代の勇者に託す為の時間稼ぎをする為に……祈達の使命を果たす為に。

 

「この時代の祈くんですか……。でも彼は外に居るんですよね?」

 

「でもこの状況、案外この世界に居たりしてな」

 

ひなたの言葉に銀がさらっと自分自身の希望を言う。

 

「あんた達、敵は来てるんだから行くわよ。西暦の勇者を助けるんでしょ」

 

夏凜が少しそわそわしながら言った。理由は恐らく……。

 

「そうね。栞那を助けに行かないとね」

 

笑いを含みながら夏凜の肩に手を置いて戦場へ向かう。後ろで夏凜が何かを言ってるが、それを無視して勇者部に部長として指示を出した。

 

「今回の目的は西暦及び所属不明の勇者4人の手助けよ! 間違っても同じ勇者なんだから揉め事は起こさず連携を取りなさいよ? それじゃあ、勇者部ーー──」

 

「「「「「「ファイトーーーー!!!!」」」」」

 

「ちょっ!? 私はそんなんじゃないわよ!! 違うからね!?」

 

 

 

 

〜若葉side~

 

 

「若葉、大丈夫か?」

 

「あ、あぁ。すまない無駄な心配を掛けたな」

 

額についた汗を拭い、刀を杖のようにして立ち上がる。

 

「無理しないでくださいね若葉さん! 私だって頑張りますから!」

 

ははっ、力強いな。

 

突然ワープした先は、視界に入る限りのバーテックスに埋め尽くされていた。この場にいるのは私、祈、杏だ。友奈達は別の場所に飛ばされたのだろう。

 

「……! バーテックス来ます!」

 

杏が声を上げて知らせてくれる。奥を見るとうじゃうじゃとバーテックスが埋め尽くしていて一面が真っ白に見える。

 

「一体何匹いるんだ?」

 

「考えても仕方ないだろ。行くぞ、俺が切り込むから続いてくれ。杏、支援を頼むぞ」

 

「は、はいっ! 分かりました!」

 

そう言って祈が先行する。

 

神炎を宿した祈の刀で星のように無数のバーテックスを横薙にする。だが、減ったという気は全くせずにむしろ増えたようにも思える。

 

後ろでは杏が矢を連射して支援をしているが、気休めにもならないだろう。

 

「乃木若葉、続くぞ!」

 

居合切りをして私も祈の援護に入る。だがやはり手数が足りない。

 

「(くっ──! 厳しいな、祈もあまり力は使えないだろう。せめて、せめてあと1人くらい居れば……)」

 

徐々に押されているのが自分達でも分かる。突破出来るかもしれない方法はある、あるんだがこの後ろにも控えていると思うと今使うのは勿体無い。

 

と、その時だった。

 

「「「「うぉぉぉおおおりゃぁああああッ!!!!」」」」

 

声が聞こえたかと思うと空から何かが落ちてきた。それはバーテックスどもの中心に落ちて一気に吹き飛ばす。

 

「な、何だ?」

 

「増援、ですか?」

 

その謎の落下物のおかげで敵の進行が一時的に止まった。その間に落下物に私と杏は近付こうとする。

 

「待てお前ら。警戒しろ、敵かもしれないんだぞ」

 

「す、すいません……」

 

そうだ、ここは私達が知らない場所、つまり何が起きてもおかしくない。

 

「すまない、気を抜きすぎたようだ」

 

私と祈は落下物の方向へ武器を構える。先程の衝撃で起きた砂煙が徐々に晴れていき、影が見え始める。どうやらこちらに歩いてきてるようだ。

 

「油断するなよ。敵かもしれないからな」

 

こう祈は言っているが、その影は人の形をしている。すこしは気を緩めても──。

 

「(いや、こんなだから千景に怒られるんだろうな私は)」

 

迷いを払い、意識をその謎の影に向ける。そして霧は少しずつ晴れていき──。

 

「あら? 祈じゃない! 帰ってきてたなら連絡してよ〜!」

 

向こうは私達……いや、祈が見えると顔を緩ませて近付いた。黄色い大剣の人物は祈の背中をバンバンと強く叩いている。

 

「はぁ? お前誰だよ、馴れ馴れしいぞ」

 

パシッとその人物を払う。

 

「え~! 祈くん~忘れちゃったの〜?」

 

とてとてと紫の槍使いが祈に抱きつく、が。

 

「だから馴れ馴れしいって言ってるだろ。──挑発なら乗るぞ」

 

「わぁぁああっ!!!! 祈さんストップ! ストップです!!」

 

逆効果で祈が星樹を抜こうとする。だけど杏がそれを阻止してくれた。私がホッと胸をなで下ろしていると栞那に似た服装の人物と友奈のような人物がゆっくりと歩いてきた。

 

「すまないわね、乃木若葉。うちのチームのやつらが迷惑を掛けて」

 

「ごめんね〜若葉ちゃん」

 

何故名乗ってもいないのに私の名が知られているんだ?。

 

私は戸惑いながらも返事をする。

 

「あ、あぁ。こちらも短気なやつがいてすまない。……それよりもどうしてこの場に? それに私の名も知っているようだが」

 

「警戒させたわね。私達はあなたと同じ勇者よ、この世界のだけどね。事前に話はひなたから聞いてるわ」

 

「ひなたを知っているのか!?」

 

勇者という言葉にますます戸惑うが、それ以上に親友の名前を聞けて安堵する。

 

それにしても勇者だと? この人達は諏訪の白鳥さんじゃないだろうし……、そう考えると九州などの勇者なのか? いやだが……。

 

「この“世界”だと? どういう事だ?」

 

「それはね──」

 

友奈に似た人物が教えてくれようとした──のだろうが、その場に他の人物が2人歩いてきた。

その人物というのは片方は二丁斧を、そしてもう片方は弓を抱えていた。

 

「お~! マップ通りだ! ほら須美、罠じゃないぞ!」

 

「もう……それでも警戒はしなさいよ。今は4人じゃないんだから……」

 

こ、子供? いや私達も子供だが、これは……。

 

現れた人物達は私達よりも小さく小学6年生くらいだろうか? 私が再び困惑する中、2人の小さき少女は楽しそう(?)に会話を続ける。

 

「そもそも、この地図も急に追加されてて敵の罠かもしれなかったのよ? それを銀は──」

 

「あー! あー! でもほら結果的に勇者と出会えたじゃないか! こんにちはー! ほら、須美も挨拶挨拶!」

 

「え、えぇ……? こ、こんにちは……」

 

「あ、ああ」

 

ペコリ、頭を下げられて釣られてしまう。私がそうしていると祈と杏達が近付いてきた。

 

「疲れた……」

 

「あはは、祈さん……」

 

とても疲れきった様子で祈は地面に座り込んだ。その2人の後ろから先程の2人の勇者もこちらに来る。

 

「あら、今度は銀が居るわね?」

 

大剣の勇者が二丁斧の勇者を見て驚いた。紫の槍使いは2人を見るや否や抱きつくという謎な行動をとる。

 

「わぁ〜! 昔のわっしーとミノさんだ~!」

 

「わわっ!? だ、誰ですか!?」

 

「この匂い……そのっち?」

 

私はその光景を見て心から思った。

 

「(一体何なんだ、この場所は)」

 

他の勇者は大丈夫なのか? こんな馴れ合いをするよりも、向こうに増援に行った方が……。

 

と思っていてる時だった。

 

「園子、敵が来たわ」

 

その言葉て前を見ると再びバーテックスの群れが近付いてきていた。

栞那の勇者装束に似た勇者が抱きついていた勇者に注意をする、その勇者は「ごめんね~」と言い立ち上がった。上から落ちてきた勇者は私達3人を手助けするように前に立ち並んだ。

 

「ま、警戒されてるようだけど私達は味方よ。言葉だと説得力は無いけど、信じてくれれば助かるわ」

 

大剣の勇者が語り掛ける。それに答えたのは祈だった。

 

「数は多い方がいいから今はその安い言葉を信じてやる。若葉、杏。今はこの勇者と連携をとる、だが何かあったらこいつらを迷わずに攻撃しろよ」

 

「了解した」

 

「は、はい!」

 

そんなぎくしゃくしてる私達の間に割り込む人物──小学生の少女達が居た。

 

「アタシ達も手伝いますよ!」

 

「力は無いけど、私達でも支援程度にはなると思います」

 

戦力は少しでも多かった方が助かる。徐々にバーテックスの群れが近付いて来る中、連携をとるためにそれぞれの名前を確認する事にした。

 

「すまないが名前だけ教えあおう。連携をとるなら尚更だ。私は四国勇者、乃木若葉だ」

 

それに続いて祈と杏が言った。

 

「勇者、星崎祈だ」

 

「同じく勇者、伊予島杏です。よろしくお願いします」

 

私達3人の紹介が終わると大剣の勇者がいるチームの面々が口を開いた。

 

「勇者は助け合いよね! 私の名前は犬吠埼風よ!」

 

「讃州中学2年、結城友奈です!」

 

「三好夏凜よ。よろしく」

 

「乃木園子です~、よろしくね~」

 

そして最後に二丁斧と弓の少女が紹介をする。

 

「三ノ輪銀です! 力にだけは自身があります!」

 

「神樹館6年、鷲尾須美です。微力ながらお手伝いします」

 

祈はピリピリしてる部分はあるが、戦力がこんなにも増えたのは助かる。これならこの場面を乗り切れると思う。

 

気合を入れて武器に手を掛ける。

 

「(来るなら来いバーテックス! 私達は、負けない!)」

 

新たな戦力を加えて、再び戦闘が始まった。

 

 

 

 

〜須美(ゆゆゆ)side〜

 

 

「西暦勇者は交戦中。銀、樹ちゃん西暦勇者の支援をして、私は後ろから狙撃をするわ」

 

「は、はい!」

 

「任せなってね!」

 

支持を出すと2人が跳躍して交戦中の場所に飛び降りるのが見えた。それを確認した私は銃を構える。

 

「(友奈ちゃんに似ている人が居るわね……。西暦組の武器は……手甲、大鎌、旋刃盤、薙刀ね。昔の天照さんはそのっちの方に居るのかしら、逆にこっちには栞那ちゃんが居るけど……)」

 

状況を判断、個人的な思考をすこしして標準を定めて発砲する。恐らく銀達が私の狙撃を説明してくれたのだろう、自然に消えゆく敵にあまり疑問を持ってないように思える。

 

1度スコープから目を離し端末で周囲の情報を確認する。

 

「これは……?」

 

そこには正体不明の2人が移動している事が分かった、それも移動先は銀達が応援に言った場所だ。もしかしてこれが、ひなたさんが言っていた迷い込んだ人物なのだろうか?

 

「(敵、じゃないわよね? 少し確認してみようかしら……!?)」

 

スコープで移動中の2人を見てみる。その正体を見て、私は驚いた。

 

「祈くんと、そのっち……? でも……」

 

考えている間にも2人は交戦中の場所に飛び降りる。私は意識を切り替えて再び、狙撃を開始する事にした。

 

「考えても仕方ないわね、気になる事は後に回して今は支援を──」

 

 

 

 

~祈(わすゆ)side~

 

 

「園子もうすぐ着く?」

 

僕が園子に聞くと端末を見て教えてくれる。

 

「うん〜、もうすぐだよ~」

 

僕らはいきなり謎の空間に飛ばされた、そのうえ他の2人と離れてしまうという事態が発生していた。

 

「それにしても地図なんて機能があったんだね〜」

 

「いや無かったでしょ、恐らくだけどこの空間に来て追加されたんじゃないかな」

 

お姫さま抱っこで抱えている園子が、腕の中で呑気に柔らかな表情で言う。園子曰く「祈くんの腕の中にいると落ち着く」との事らしい。

 

「それにしても空を飛ぶなんて貴重な経験、滅多に出来ないから嬉しいなぁ〜」

 

僕はとある場所に移動するために、神装で宙に浮いている状態だ。

 

因みにその“とある場所”というのは地図の点が集合している部分だ。

 

「現実の空を飛んでみたいけどね。それよりも他の勇者と合流しないと……」

 

「この点って本当に勇者なの~?」

 

「勇者、じゃないかな。僕らと同じく青い点だし、ほら今動いてるのが僕ら」

 

説明をしながら徐々に近付いていく。すると奥に続く、白い集合体が見え始める。

 

「あれ、全部バーテックス……?」

 

園子が目を見開いている。それは僕も一緒だ、だが少し違う意味で驚いている。

 

「(この光景、あの時の光景か? でも──)」

 

1度僕は未来に飛ばされて、成長した園子と剣を交えている。その時の光景に所々似ているのだ。

小型のバーテックス、周囲に張り巡らされた神樹の根。そしてこの空間……。一致する点が多すぎる、もしかしてまた未来に飛ばされた? と考えてしまう。

 

「! 祈くん! あれ見て~!」

 

指を下に指す。それに釣られて下を見ると、数人の人間がバーテックスと戦っていた。

 

「当たりだよ〜祈くん! 手伝いに行こう!」

 

両手をグッとして「勇者は根性〜!」と気合を入れている。

 

「よし。それじゃあ──行こうか園子!」

 

「うん!」

 

神力でスピードを底上げしてその場所に僕と園子は降り立つ。

 

「援軍か!?」

 

「……あなた達は?」

 

突然の登場に驚いている勇者に僕らは名を名乗った。

 

「神樹館6年、乃木園子です〜! 状況はよく分からないけど、お手伝いに来ました~!」

 

槍を取り出して敵を攻撃してから言う、その園子に続いて僕は星樹に力を降ろして紹介をする。

 

「同じく神樹館6年、星崎祈です! 安い言葉ですけどあなた達と敵対する気はありません! 戦いに参加します!」

 




取り敢えずゆゆゆ組、わすゆ組、のわゆ組の合流です。無理矢理感が目立ちますね……自分でも反省はしております。

こっちは地道に投稿していくので、もしも続きが楽しみという方がいたら気長にお待ちください。

それでは読んでもらいありがとうございました!


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