特殊戦略作戦 ゲート編 (APFSDS)
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第一章 銀座事件 ゲート開放

始めての方は初めまして、APFSDSと申します。

このネタは以前から考えてはいましたが、もうひとつの小説を優先したいがため、書かないようにしていました。
しかし、私の地域でももうすぐゲートのアニメが始めるということもあり、とりあえず記念として最初を投稿いたしました。



初夏

 

11:40

防衛省 

 

日本の国防を担う自衛隊の司令部である防衛省。

冷房が効いて中はとても涼しいが、みんな基本的に部屋の中で仕事ているので、普段その敷地や廊下内では警備のために巡回する自衛官以外では特に人気がなく、とても静かであるはずだった。

だが今、省内は数千人の職員たちによって大にぎわいであった。

 

決して何か事件が起こったわけでもなく、廊下を歩いている自衛隊員たちは急いでいる様子はなく、顔には笑顔が見え隠れする。

そしてたどり着いた先は、省内にいくつも設置され、数百人規模の人数を収容することができる大食堂だった。

 

現在、防衛省内は昼食休憩の時間であり、当直の者を除いて全員食事の真っ最中だ。

この食堂は24時間営業で省内にあるので外に出る必要は無く、いつ何時有事が起こるかわからない自衛隊としてはたいへんありがたい。

さらに弁当のように自分で作ることも作ってもらうこともなく、おまけに税金のおかげで金もかからず健康バランスも考えられている。

そんないいことだらけの食堂なだけに、大半の自衛隊員は昼食時間になれば必ず足を運んで利用するので、ここは連日大盛況となっていた。

 

セルフサービスなので、今日も数百人の自衛隊員たちが、自分の好みのものを好きなだけ取るために、お皿を載せたお盆を持って長蛇の列を作り、取り終わると席に座って一人で食べたり、何人かと楽しく話しながら疲れを癒す。

 

その並べられた席の中に、特殊戦略作戦室の黒木翔(くろきしょう)三等特佐は、黙々とお盆によそった昼食を食べ続けていた。

たった一人で誰とも会話せずに食べている彼の周りだけは、なぜか誰も座っておらず、座ろうともしない。

 

それもそのはず、彼はさまざまな対怪獣・宇宙人作戦で実績を上げてきており、世界中の軍人から尊敬の対象となっている存在なのである。

最も本人は、ただ自分の仕事をしただけ、としか思っていないが。

 

そんな人物に任務以外のことで軽い気持ちで喋るのはもちろん、近づくのさえ普通の隊員たちにとって緊張するものだった。

だから、癒しの時間である今、変に疲れる気分になりたくないので、少し敬遠されがちにされ、自然と彼の周りには空席ができてしまうのだ。

 

「よぉ~黒木特佐!」

「どうも、黒木特佐」

 

黒木の向かい側にある席から、彼にとってよく知っている声が聞こえてきた。

黒木はひとつ息を吐いてそっちを見ると、そこにいたのは彼と長年怪事件をともに戦ってきた戦友である、特生自衛隊・特殊調査室長の権藤吾郎(ごんどうごろう)一等特自佐と、その相棒である小早川時彦(こばやかわときひこ)三等特自佐が、笑顔を見せながら立っていた。

黒木は彼らを一瞬見ると、すぐ目の前の昼食に視線を戻し、食事を再開する

 

「ここ、空いてますかな?」

 

「どうぞ…」

 

「じやあ失礼させてもらうわ。」

 

「黒木特佐、失礼します。」

 

権藤の問に黒木は食べながら素っ気無く返し、権藤は気軽にひと声かけてから、小早川は礼を言ってから向かいの席に座った。

黒木にそんな緊張を抱かないのは、それなりに近くで長く仕事してきた者たちぐらい。

彼ら二人もそんな関係で、変な緊張など全く感じてはいなかった。

 

「う~ん、うまそうだな。俺にも一口『駄目です。』……」

 

そう言って権藤は、黒木のおかずを一口くれないかと聞くが、彼は即効で拒否した。

 

「……冷たいなぁ。いいじゃないかよ、一口ぐらい。」

 

「あなたにはそれがあるでしょう。」

 

不服そうな権藤に、黒木は彼が先ほど座った時に手からテーブルの上に置いた、布に巻かれた弁当箱らしきものを指さす。

 

「一緒に食べるからいいだろ?」

 

「せめてそれを全部食べてから頼んでください。大事な妹さんが、結婚なさったにも関わらず、偏った食事をしやすいあなたの健康を考えて、毎朝旦那の物を作るついでに作って、わざわざ送ってきてくれているものなんですから。」

 

「う~ん……」

 

黒木が指摘したそれは、今は彼の後輩であり親友にあたる自衛官と結婚したことで、『結城』と性を名乗っている実の妹が作って防衛省に送ってきてる、愛妻弁当ならぬ、愛妹弁当だったのだ。

せっかく作ってくれたものに食べてすらいないのに、ほかの物を食べるという行為は、当然ながら作ってくれた者に失礼なことだ。

そんなことを権藤にしてもらいたくないので、黒木は丁重に断ったのであり、正論を言われた権藤は何も言えなかった。

 

「でも、その歳で今でも断らずに作ってもらうなんて、羨ましい気もしますけど甘えすぎではないですか?やはり室長は、世に言うシスコ『バンッ!!』…痛っ!」

 

小早川が何か言う前に権藤が彼の頭を軽く叩き、素早く首に腕を回して首を絞め始めた。

 

「悪いのかぁ~?妹の親切受けちゃ悪いのかぁ~?」

 

「ちょっと!…すいません!…離して…」

 

周りにいる者は誰も助けようとはせず、こっそりと笑いながら面白そうに観察する。

誰も権藤が本気じゃないことぐらいわかっているからだ。

 

同様に目の前にいる黒木も助けはしないが、二人のくだらないじゃれあいに呆れつつも、いつもどおりの二人を見れて安堵し、一瞬だが思わず笑顔を見せた。

食堂は和やかで平和な雰囲気に包まれており、みんな戦いのないこんな平和な時間を過ごしていることを嬉しく思っていた。

 

今日もそんな日であってほしい、黒木や権藤、いや全ての自衛隊員たちはそう思っていただろう。

しかし、新しい戦いは彼らの願いむなしく、日常にひっそりと忍び寄り、まもなく始まろうとしていた。

 

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同時刻

東京都 中央区 銀座

 

数週間前から夏が始まり、太陽の光にアスファルトやコンクリートが熱せられることで、灼熱地獄となっているここ東京。

かつて、数々の怪獣達の襲撃を経験し、甚大な被害を蒙ってきたが、その度に目覚ましい復興を遂げてきており、まさに日本の力強さを表した都市と言えるだろう。

 

その中で、東京都中央区の西部に位置し、西を千代田区、南を港区に接するここ銀座は、日本有数の繁華街であり下町の一つでもある。

 

そんな銀座のシンボルでもある、かつて初代ゴジラに壊されたことで有名な銀座4丁目交差点に建つ、和光本館の時計台は、今ではすっかり直されて、今日も元気に鐘を鳴らしている。

時計台の下にある交差点では多くの人が行き交い、携帯をかけたり、友達と仲良く喋りながら歩くなど、実に平和な様子がうかがえる。

 

今日もいつもと同じ日になる、皆そうなんとなく心の中で思っていたが、そんな彼らの前に突如として、交差点のど真ん中、本来何もないはずの交差点のど真ん中に、それは出現した。

 

縦・横・奥行き、それぞれが10数mほどあるだろうか。

そびえ立つそれは全体がわずかに緑色に光り輝いており、四方を見れば壁の一面だけ、壁ではなく空洞になっている部分があり、その奥は真っ黒い闇に包まれていて何も見えない。

その巨大な四角い立方体の姿を見れば、大抵の人間はこう連想するだろう、『まるで門のようだ』と。

 

偶然近くにいた通行人たちは思わず、その門のようなものをよく見ようと足を止めた。

しかし、

 

「ウォオオオオオオオー!!!」

 

交差点に、思わず耳を防ぎたくなるような雄叫びが響き渡る。

どこから聞こえてくるのかと通行人らは思ったが、その発生源は自ら彼らの前に姿を現した。

 

真っ暗な闇に包まれて何も見えない門の奥から突如現れたのは、数十体の人型をした生物だった。

 

ほとんどは、一般的な大人の人間や小学生くらいの身長と同じくらいだったが、中には2~3m程と、大きく上回っている個体もいる。

それらの肉体は筋肉隆々で顔は鼻が大きく、開いた口には鋭い牙が並んでおり、明らかに我々がよく知る人間とは異なる。

そして格好も、下半身を一枚の布で覆っている以外、何も身につけていない。

 

地球に住む人間、いや怪獣の襲来を世界で一番受け続けてきた日本人なら、すぐ『怪物』に分類するような存在だった。

 

通行人たちはその姿を見た瞬間、迷うことなく蜘蛛の子を散らすよう一目散に逃げだした。

かつて怪獣・宇宙人・怪人といった存在に多大な被害を受けてきた日本人は、このようなおかしな存在を見た瞬間、すぐに逃げるよう小さい頃から教え込まれ、体に染み付いている。

だから明らかにその存在に当てはまるこいつらを見て、直感的に危険と感じた通行人たちの体は、自然に動き出したのだ。

 

しかし、怪物たちがその肉体に付けている筋肉を使って繰り出す走りは、アスリートでもなければ、そこまで運動をやっていない人間よりは早かった。

門から20mほどの範囲にいた人々は、その足に追いつかれ、不幸にも最初の標的とされてしまった。

 

奴らは、その手に持つ棍棒や刃物、強靭な肉体から繰り出す蹴りや殴打、さらにはするどい爪や牙で、車を壊し、街灯を倒し、武器も持たず大した抵抗もできない市民に、無情にも襲いかかる。

 

あちこちから、骨が砕ける鈍い音やうめき声、そして断末魔が聴こえてくる。

あるものは棍棒で頭部を殴られたことで、頭が割れ、中から血が溢れ出て脳みその一部が飛び出している。

あるものは骨が砕け、首や手足、背骨がおかしな方向に曲がってしまっている。

あるものは刃物や爪で腹を裂かれ内蔵が飛び出し、失血に苦しみながらじわりじわりと死んでいく。

 

近くにいたことで真っ先に狙われた市民より、さらに離れた位置から逃げ始めていたものは、すぐさまそんな目に遭うことはなかったが、この一帯にもはや安全な場所など、すでに無くなっていた。

 

「あっ!」

 

100mほど離れたところ、逃げている途中となりで叫び声が聞こえてきた男はそちらを向いてみたが、そこにあったのは上半身がなく、断面から血を流しながら地面の上に横たわる死体だった。

 

 

「グォオオオオン!」

 

何があったのかと思った矢先、後ろからなにかの雄叫びが聞こえ思わず振り返る。

 

彼がそこで見たのは、迫り来る口だった。

中は一面血のように赤くて喉の奥は暗くて何も見えなず、ヨダレまみれで噛まれれば痛そうなするどい牙が何本も並び、長い舌が蠢いている。

そんな口がスローモーションのようにゆっくりと近づいて来る様子、それが彼がこの世で見た最後の光景となった。

 

銀座一帯は、一瞬にして安全地帯のない阿鼻叫喚の地獄へと変貌してした。

 

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11:52

警視庁 本部指令センター

 

東京全体の地図が映し出された大型ディスプレイを前に、ヘッドセットをつけた多数のオペレーターが自分の席に座り、民間人からの通報や警察官からの連絡に対応している。

東京23区の民間人とパトロール中の警察官から来るすべての通報や連絡は、この本部指令センターに集約され、そこから警察官へ対応の指示が出されていく。

 

『至急至急! 銀座4丁目PB(交番)から警視庁!!』

 

コーヒーを飲んで少し椅子にもたれ掛かりながらくつろいでいたオペレーターの元に、銀座4丁目交番から緊急の連絡が入ってきた。

オペレーターはすぐに姿勢を正して気持ちを切り替え、慌てている警官を落ち着かせるため、そして自分の冷静さも保つために落ち着いた声で返す。

 

「警視庁です、どうぞ。」

 

『銀座4丁目交[ガーッ!]にて怪事件発生! 門のよ[きゃあー!]が出現し、中から正体[ガーッ!]が大量に出現! 市民が襲[ガーッ!]害が出ている! 至急、応援を要請!』

 

「……もう一度お願いします、どうぞ?」

 

ノイズや叫び声に叫び声らしきものが入り、一度聞いただけでは少し意味がわからなかったオペレーターは、もう一度内容を確認するため聞き返した。

 

『繰り返す! 銀座4丁目交差点に正体不明の生物多数出現! 生物多数出現! 体長は人と同じくらいか、2mから3m程の大型の個体も確認できる! 数は把握できない! 多数の民間人が襲撃を受け、甚大な被害が出ている! 至急応援を! 我々だけでは対処不能! 繰り返す、至急…[パンパン!!]』

 

「!?、どうしました!? 銀座4丁目PB! 応答してください!』

 

生物という単語を聞いた瞬間にオペレーターの緊張は高まり、冷静さを保ちつつも報告を聞き漏らさまいと意識を集中させていたが、無線の向こう側から銃声が断続的に聞こえたことに一瞬驚いた。

どんな時も落ち着いた話すのがオペレーターの鉄則だが、そんなことは言ってられなかった。

一体なのが起こっているのか確認しようと、オペレーターは応答を促した。

 

『パンパンパンパンパンパン!!』

 

『きゃあー!!』

『早く逃げて!!』

 

しかし、答えてる暇がないのか、向こうから聴こえてくるのは怒号と銃声ばかりであった。

 

『小型から中型の人型生物が多数! ドラゴンのような飛行生物も少数、あっ!…うぁあああああああー!!…………』

 

「…どうしました!? 銀座4丁目PB!、応答してください! 銀座4丁目PB、銀座4丁目PB!!」

 

ようやく向こうからの帰ってきた声は、すぐに叫び声によって途絶えてしまった。

その後十回ほどオペレーターは繰り返して呼びかけを続けたが、叫び声が収まったあと、向こうからは銃声すら聞こえてこず、沈黙が続いた。

それに事態を察したオペレーターは数秒間何も言えず、顔は悲痛な表情を浮かべていた。

 

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防衛省 省内食堂

 

「訓練は来週からでしたよね。」

 

「あぁそうだな。」

 

話し相手ができたので、黒木はふと権藤に質問し、権藤はすぐに答えた。

特殊調査室は事件が起きないと出動しないが、怪事件と認定される事件が起きることは中々ない。

当然出動機会も少なく、そのため体が鈍らないようにと、毎年夏と冬の厳しい時期に、一ヶ月丸々厳しい訓練を行っていたのだ。

 

「今年こそは、尾崎さんたちに勝ちたいですね。」

 

小早川が思い出したのは、その一ヶ月間行う訓練のメニューの一つ、特生自衛隊の特殊部隊、『ミュータント兵』を相手とした組手だ。

 

これは、陸・海自衛隊と米軍の特殊部隊がよく行っている訓練である。

普通の人間で構成された特殊部隊は、宇宙人や怪人とメインで戦うミュータント部隊と一緒に行動し支援するので、銃で遠距離から倒せればいいが、万が一に接近を許してしまう可能性もあり、これはその時に備えて行われているものだ。

 

権藤たち特殊調査室の人間も、調査中に宇宙人などの襲撃を受ける可能性があるので、この機会に参加させてもらっているが、今まで一度も勝てたことがない。

それどころか未だに陸自の『特殊作戦群(SFGp)』や海自の『特別警備隊(SBU)』、さらに米軍の『Navy SEALs(ネイビー・シールズ)』や『デルタフォース』に至っても勝利したものはいない。

怪力で運動神経は動物並み、さらには超能力を使うタイプまでいるミュータントに、武器なしで一人で普通の人間が勝つことは不可能なのだ。

 

しかし成果はある、隊員たちのミュータントの超機動に目が慣れていき、今では一対一でも防戦だけならかなりの時間に耐えられるようになってきている。

さらに、一人に十人近くでかかれば勝利することも、決して不可能ではなくなってきていた。

そのおかげで、普通の人間の動きなど集中していれば止まって見えてしまい、対人での近接戦ではほぼ無敵の強さに成長し、さらに移動目標に対する銃の命中精度も上がってきている。

厳しいが、結果を見ればいいことづくしであり、やる価値はとても大きい。

 

小早川も今までやりあってかなりの時間粘れるようになったが、勝てたことは未だになく、この時期が来るといつも今年こそ勝つぞと気合を入れるのだ。

 

「毎年そう言ってないか?」

 

「でも、やる気は大事ですよ権藤一佐。」

 

やる気に満ちている小早川を、権藤と黒木は笑い合いながら、からかいつつも、彼の姿勢を評価した。

 

ビィー! ビィー! ビィー!

 

突如、防衛省内にあるスピーカーから警報がけたたましく鳴り響き、各所に設置された警光灯が赤く光って回転する。

食事していた自衛隊員たちの手は止まり、警報音の出所であるスピーカーに目が行く。

 

『特殊有事レベル5発生! 特殊有事レベル5発生! コードレッド! コードレッド! 各員ただちに所定の位置につけ! 繰り返す…』

 

男性オペレーターの怒鳴り声が響き渡ってきたが、彼がもう一度繰り返すその前に、事態を理解した自衛隊員たちは動き出していた。

食べかけの昼食をテーブルの上に置いたまま、すぐに椅子から立ち上がり、持ち場に向けて走り出す。

 

特殊有事、それは怪獣や宇宙人が関連した事態であることを示し、レベル5は最大の段階で、特殊有事に当てはめれば日本国内に怪獣などが上陸・飛来、もしくは出現したことを表したものだ。

つまり、国内に軍隊よりやばい奴らが現れたのであり、今日本は滅亡の危機に瀕しているということなのだ。

ゆっくりしている場合ではないのだ。

 

「さっき食い始めたばっかだってのに。」

 

「仕方ありません。今は集中しましょう。」

 

「室長! 特佐! 急ぎましょう!」

 

まだ食べ終わってなくて不満を漏らす権藤を、黒木は奮い立たせる。

そして二人は小早川の呼びかけを聞き、直ぐに気持ちを切り替え、顔を引き締め、権藤はついでに弁当を包み直してから駆け出した。

 

まず行わなければいけないのは情報収集であり、それが直ぐに手に入れられる場所が、ここの地下にある。

 

真上に核爆発を受けても無事なほどの地下深くにあり、日本全国の自衛隊・警察・米軍からの情報が集約する自衛隊最高司令部の中央指揮所だ。

三人は多数の自衛隊員が行き交う廊下の中に紛れていき、その姿はもう遠くからは判別がつかなくなった。

 

先ほどまで騒がしかった食堂は、3分も経たないうちに無人と化し、静寂に包まれる。

テーブルには、まだ食いかけの昼食が無造作に残され、食堂の係りのものたちはもったいないと感じつつも、これから命懸けの戦いが待つ彼らの無事と勝利を心の中で祈りながら、黙って後片付けを始めていくのであった。

 

 




駄文をお読み下さりありがとうございました。

ほかの小説があるのに何やってるんだと自分に言いたいですが、アニメが始まるんだからなんか記念に書きたかったんです、すいません。

門が出現する描写は、アニメではちゃんと表現されているかもしれませんから、その時はそれに変えます。
権藤一佐はなんか妹を可愛がっているイメージがあったので、こんな感じだと勝手に想像して書いてます。

とりあえず記念を投稿したので、もうひとつの小説に再び集中していこうと思い、なのでこちらはそっちが終わるまでは気まぐれの不定期更新ということになります、申し訳ありません。

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。


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混乱する東京

お久しぶりです。APFSDSです。
もうひとつの小説が、とりあえず第一章終わったんで、気分転換にこっちを投稿しました。
原作でもアニメでもあまり描かれてない、というかほとんどオリジナルの戦闘シーンなどを書くのに手間取りました。
2万字近いので、お暇なときにどうぞ。


11:54

 

『ただいま、銀座4丁目で緊急事態が発生しており、東京都全域に避難命令が発令されています。住民の皆様は、警察官などの指示に従い、ただちに東京外、または緊急時は最寄りの地下鉄構内に避難してください。』

 

ウゥウウウウウウウウー!!

 

銀座を有する中央区とその周辺区では、町中にサイレンと避難を促すアナウンスが流れ、人々は素直に指示に従い、一刻も早く遠くへ逃げるため、足を動かす。

 

怪獣が出現して避難命令が発令されたが、今回は機動力と速度が高い飛行怪獣が含まれているので、出現した都道府県内全域と、周辺都道府県の県境付近に発動されていた。

移動する速度相対的に遅い陸上型怪獣は、出現した都道府県の市町村区とその周辺が避難地域になるのだが、飛行怪獣の場合は空を飛んで市町村区のひと跨ぎもふた跨ぎも一瞬でありえるからである。

 

避難する人々は、近くに地下鉄があればそこに逃げる者もいるが、その数は現場から遠ければ遠いほど少ない。

シェルター替わりにもなる地下鉄に逃げないのは、やはりはっきり言って、地下鉄は怖いのだ。

 

一応、戦闘を想定してシェルター替わりになるため、爆弾等が真上に着弾しても耐えられる深度に作ってあるが、防衛省の中央指揮所ぐらい地下深くならともかく、上で数万tの怪獣がドタドタとあまり暴れ続ければ、崩れてしまう可能性は0ではなく、いつ崩れるのかビクビクしながら過ごさなければならない。

 

それがいやなので、距離や時間があるならたいてい遠くに逃げる方が選ばれるのだ。

だが、時間や距離が短いなら逃げ切るのは難しく、その場合は贅沢を言わずに、生きる可能性にかけて民間人たちは逃げ込んでいく

 

ただ、生きるために用意されたその出入り口は、悲しいことに人の命を守るために人の命を奪うこともある。

 

銀座4丁目近くに有る地下鉄の駅には、近かったこともあり多数の人々が駆け込んでくるが、いつまで受け入れるかの判断は、駅員が握っている。

 

駅員は怪獣が接近して危険と判断すれば、安全確保のため問答無用で閉める。

待ってと願っても、中にいる人たちを危険にさらすわけにはいかないので、非情に思えるが、駅員は手を伸ばす人たちの願いを退け、スイッチを押す。

 

だが諦めきれず、生にしがみつくためなんとか入ろうとする人々は、締まるシャッターの隙間から入ろうとするが、ここで開けたり止めたりする訳にはいかず、駅員もボタンを押してからなかに避難しているので止まるはずもなく、人を守るためのシャッターは、命を守るためにギロチンのように人の命や体の一部を奪った。

 

そしてそうはならなくても、目の前で逃げ込めそうだった地下鉄のシャッターが閉じるのを見て、生きる希望を閉ざされた人々は呆然と立ち尽くす。

その後ろから、奴らは容赦なく襲い掛かったが、逃げ切れないと悟った民間人たちは諦めていたのか覚悟できていたのか、悲痛な声も上げず、その意識を永遠に手放すことを受け入れていった。

 

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東京都 港区

 

『警視庁から各局! 銀座4丁目に謎の生物出現の情報有り! 大多数は小型の人型、少数に中型のドラゴン型怪獣! 付近を巡回中の警察官は直ちに現場に急行せよ! 近辺各区も応援に向かわれたし! なお、各自必ず複数で対処し、銃器は目標の確認後に、各自の判断で使用することを許可する!』

 

『こちら丸の内10、人型怪獣を発見! すごい数だ!』

 

先ほど入った怪獣出現の通達を受け、近くをパトロールしていた警察官たちや、このお馴染みの白黒車体をしたパトカーを装備する自動車警ら隊、覆面パトカーでパトロールする機動捜査隊が、現場に向けてサイレンを鳴らし走行し、同じ場所へ向かう仲間同士が途中で合流し、数台のパトカーの群れがあちこちで作られる。

 

ここでは6台のパトカーがいっしょに走っていたが、今向かっている彼らとは別の隊員たちは、いくつかの場所で戦闘に入ったようで、それを無線で聞いた運転席に座る警察官たちは、何も言わずに前だけ見据えているが、ハンドルを握りるその手の力は強くなっており、助手席に乗る警察官は、これからたどり着くところで待ち構える事態に備え、自分が持つ自動拳銃のスライドを引いて、すぐ使えるよう弾を薬室に送り込んでおいた。

さらに、いつどこから現れるかわからないので、周りもそうだが飛行生物の情報もあるので空にも目を配らせていた。

 

現場に近づくにつれ、歩道にはこれから自分たちが向かう銀座の方向から大勢の人々が押し寄せてきており、その数はさっきからどんどん増えてきている。

 

昼の時間帯だったこともあり、朝や夜のようなすべての車線を埋め尽くすほどの車の大渋滞は発生しておらず、放置される車はまばらだったので、障害物はあまりなく、緊急車両通行の邪魔にならないよう、逃げる時は必ず歩道を走るように日頃訓練や教育をを大抵の人は受けているので、車道に人は溢れておらず、おかげでスムーズに走ることができていた。

 

そんな中、順調に進んでいたパトカー群の一つが、JR東海道線や東京メトロ、そしてゆりかもめが通っている新橋駅前に差し掛かかっていた。

 

「……いた!」

 

駅前に着いた時、警察官たちはついに目当てのモノ、翼が生えて長い首を持ち、口からは牙を見せて鷹のような鋭い目と爪を持った、通達の中にあった世に言うドラゴンによく似た飛行生物、というより怪獣を発見し、パトカーは車道いっぱいにバリケードを作るように、車両の先端を向けて停車した。

 

怪獣は地に降り立ち、歩道で逃げ回る市民に、その鋭い牙の生えた口を開けて襲いかかる。

なんの反撃する手段も持たない市民になすすべなく、その上半身は口の中にすっぽりと収まり、すぐに口が閉じて牙が体の肉に食い込み、血が噴き出して道路を赤く汚す。

怪獣は仕留めた獲物を見せつけるがごとく、獲物を咥えたまま頭を高く上げ、血がぽたぽたと落ちて地面に赤い水たまりを作っていく。

 

だが、怪獣の残虐行為はそれに留まらない。

怪獣の体は、その大きさによって全身が武器のようなものなのだ。

鋭い爪は逃げる人の背中から斬りかかるために使いわれ、まともに受けた者は胴体から上半身と下半身が分かれてしまい、上半身が血をまき散らしながら宙を舞う。

そこまで行かなくても深く肉をえぐられたものは、大量に出血したり骨が折れたり、体の一部がどこかに行ってたりして、襲い来る激しい激痛に動けず、そのままじわりじわりと失血して絶命していく。

足は振り上げて勢いよく落とし、市民をアリのように頭から踏みつぶし、潰されて粉々に砕けた頭の中にあったピンク色の脳みそが、あたりにぶちまけられる。

尾は後ろにいる者を横一線に薙ぎ払い、飛んでいく人は首や脚などがありえない方向に曲がっていた。

 

思わず目を覆ってしまいそうな、凄惨な光景であった。

 

「(くそったれ!)愛宕25より警視庁! 新橋駅前にて生物発見! 翼長約10m! 市民を襲撃中!」

 

『警視庁、了解。』

 

「おい、いくぞ!!」

 

パトカーの車内でそれを見た助手席の警官たちは、それぞれ無線で報告をすぐに済ませ、運転席のと一緒に車から降りる。

後ろのパトカーに乗っていたものたちも降りると、全員後部にあるトランクの前に向かった。

 

鍵を開けて中を開けると、防弾チョッキやヘルメット、交通整理に使うコーンや車止めなどが入っていたが、ひときわ目立つのは、思いっきりシールで『WARNING 緊急時以外使用禁止』と書かれたシールが貼られ、暗証コードの数字を打ち込む端末がついている大きな黒い箱であった。

何が入っている気にはなるが、まずは防弾チョッキを制服の上から着て、帽子を取ってヘルメットをかぶり顎紐をしめ、それから黒い箱に手を伸ばした。

 

暗証番号を迷うことなく打ち込むと、カチャ!と鍵が外れる音がしてすぐに蓋を開くと、中から現れたのは黒光りする銃身を持った、2丁の銃。

 

世界中の軍や警察で採用されているM16のカービンモデルであるM4カービン、それをドイツのヘッケラー&コッホ社が改修したアサルトライフルの『HK416』を7.62mm弾に対応するべく拡大口径化した『HK417』、それをカービンモデルにして照準器を付け、セミオート射撃のみ可能にした特別モデル。

イタリアのベネリ社が開発したセミオートマチック散弾銃、『ベネリM4 スーベル90』

 

銃社会のアメリカの警察ならともかく、なぜ日本の警察のパトカーにこんなものが積んであるのかといえば、こんな風に、いまいち小さい怪獣が出現する事態を想定しているためである。

 

自衛隊というのは、あまり出動させてはならないとされている。

なぜならその力が強大だからである。

強大な力は頼りになるが、それは使う対象だけでなく周りも巻き込んで不必要な被害を出す可能性が高く、その規模は警察の比ではない。

 

国民の命もそうだが、自衛隊も警察も、国民の財産もできるだけ守るのが仕事に入っており、そのため出してしまう国家と民間の人的・財産的被害は、結果のための止む終えないものでなくてはならないとされている。

 

なので、警察が対抗できている場合は後方支援のために出動できるが、基本的に武器は使えないことになっており、それが許されるのは警察が対抗できないとき、そして警察が対抗できていても数が足りてないときの二つ。

 

そのため警察は、絶対警察では無理だと思うような相手、つまり警察が持つ最大の武器であるパトレイバーの倍以上の大きさを持った敵でもなかったり、数が足りてもない限り、自衛隊なしでまず怪獣と戦うことになり、そのときに備えなくてはならないのだ。

 

そして、このパトカーに積まれている両銃は、拳銃だけで戦うのは心許ない怪獣などと一番初めに交戦する危険性が高いパトカー乗りの機捜隊や自ら隊員らには、警察という組織の都合上、犯罪者(テロリストなど)に対抗できるという範疇内の武器の範疇で与えた武器だった。

 

重装備の特殊部隊などは出動命令を受けてから出動するので、駐留する基地に近くならともかく、そうじゃないならどうしても現場近くをパトロールしていた警察官よりは遅くなってしまう。

グロンギの事件でも、特殊部隊などが到着する前に駆けつけた一般の警官が、効果のない拳銃のみで戦うことになったため、多くの犠牲を出した。

そのこともあって、一番早く遭遇戦をしやする彼らの車両に積んであるのだが、なぜこの銃かというと、彼らが一般の警察官だからで、特殊部隊などの専門部隊と違い、あまり射撃訓練をすることはない。

 

だから扱いやすくて命中率もよく、信頼性がありそこそこ威力のある銃が選ばれることとなった。

そこで選ばれたのが、セミオートなので素早い射撃が可能、ガス圧自動調節システムにより作動不良を少なくし、部品を少なくしたことで故障を減らした高い信頼性、反動は少し強いが散弾なので多少大雑把に撃っても当たる高い命中率、威力は50m圏内という短いようだが都市部ではよく発生しやすい交戦距離において、散弾一つ一つが火薬量によって拳銃弾並み、弾薬によってはライフル弾並みの威力を持つベネリM4と、箱型弾倉による素早い装填ができ、反動は少し強いが高い威力と命中率を誇る7.62mmライフル弾を使用し、実績による高い信頼性を持って、セミオートオンリーなのでフルオートより扱いやすいHK417の二つが選ばれたのだ。

 

 

HK417のSTANAGマガジンとベネリのチューブマガジンにはすでに弾が込められており、警官たちはそれぞれ自分が使う銃を手に取って安全装置を解除し、コッキングレバーを引いてボルトを後退させ、薬室に弾を送り込む。

 

そして箱に残っている、予備弾の入ったマガジンを収めたマガジンポーチがいくつも付いたベルトと、数十発の赤や緑の色で分けられた散弾の予備弾が着いている弾帯を肩にかけ、ようやく準備完了。

 

敵への隙をあまり作らないため、これら一連の行動は、装着訓練は毎日行っているので、トランクを明けてから20~30秒以内に収められていた。

 

「射撃用意!! 胴体を狙え!」

 

準備を終えた、私服の上から防弾チョッキを着る機動捜査隊(機捜隊)の隊員が、制服を着た自動車警ら隊(自ら隊)の隊員たちに呼びかける。

機捜隊員と自ら隊員は、階級は同じくらいの人間が勤務しているが、やはり誰かまとめる人間が必要なる。

 

今回の場合は、初動ではあるが現場での捜査などの指揮経験がある機捜隊員が取ることになり、自ら隊員だけの場合は階級の高いものがこれを行う。

その後は、やってくる特殊部隊や警備部の刑事などに指揮権が譲られていく。

 

警ら隊員たちは、準備が出来たものから体をなるべく晒さないように、開かれたパトカーのドアと車体の間に身を隠しつつ、銃口を怪獣の胴体に向ける。

そこを狙うのは、投影面積が広いので一番当てやすい場所だからというのもあるが、一番の目的は敵の防御力を把握するためだ。

 

ショットガンは、バックショット弾の場合50m圏内なら鉛玉一つ一つは拳銃弾とあまり変わらない威力と貫徹力を持ち、これが効かなかえれば拳銃弾はまず通用しないことの証明となる。

 

7.62弾も、歩兵が携行する武器の基本中の基本で数が最も多い小銃の弾薬の中で一番強力な威力を持ち、今HK417に入っているのは減装弾で火薬を10%減らして反動を少なくしたものだが、通常弾と射程距離の差はあるが、威力の差はそこまで大きく開いていないので、これが効かなければ通常弾もまず効かないと考えられる。

 

これが効かないとなれば、より大口径の重機関銃や対戦車ミサイルだったりと派手な兵器が必要になってくる。

つまり、彼らの今持っている武器が効く効かないという情報は、これからの戦術と戦略に大きく作用されるものなのであり、それを調べるのも彼らの任務に入っているのだ。

 

最も近いパトカーとの相対距離は大体30m、HK417はもちろん、ベネリの散弾の効力を発揮できる十分な距離だった。

 

「…撃てっ!!」

 

全員が構えたのを確認した機捜隊員は、相手を見据えてできる限り大きく短く命令を出した。

 

その言葉が発せられた瞬間、向けられた十近い銃口が一斉に火を噴いた。

警官たちは何度も引き金を引き、HK417は、引き金を一回引くごとに乾いた音がして7.62mm弾が連続して飛び出し、セミオートのベネリは、引き金を引くとバンッ!とM4より少し大きな音一つ出し、装填されていたバックショット弾に込められていた十粒の鉛玉が、少しずつ拡散しながら飛んでいく。

襲いかかる数十発の弾丸は、暴れまわる怪獣の胴体、その高い命中率から全弾が命中した。

 

カカカカカカンッ!!

キキュン!キキキキキキン!

 

しかし、現実は非常だった。

命中した胴体からは金属同士が擦れたり、ぶつかるような高い音が連続して発生し、小さな火花がいくつも咲く。

怪獣は何かが当たったことは感じたようで、動きを止めて口に死体をくわえたまま首を回し、胴体の当たったところあたりを見るが、慌てている様子も、痛がっている様子もない。

火花が起きた場所からは血らしきものは出ておらず、凹んですらいなく、先ほどの音を含め、すべてのこれで、この怪獣に小銃弾全般と拳銃弾全般が通用しないことが判明したのであったが、銃弾が奴の皮膚にはじかれたのは、紛れもない明白な事実として、彼らの前に存在した。

 

「機捜15から警視庁! ドラゴン型怪獣の胴体に命中するも、小銃と散弾銃効果なし!」

 

命令を出した機捜隊員が、すぐに携帯無線で現状を報告する。

とりあえず、これで飛行生物相手に重火器が必要になってくることを伝えられ、後からくる仲間たちのリスクは下がった。

しかし、彼らにとってはここからが厄介だ。

なにせ一番当たりやすい場所である胴体に自分たちが持っている武器が効かない相手に、重火器を持ってる特殊部隊や自衛隊が周りにいない状態で戦わないといけないのだ。

内心逃げたい気持ちもあるが、いま周りを逃げている民間人を守るという最大の任務を簡単に放棄することはできない。

それに、まだ対抗できないわけではないので、機捜隊員はすぐ次の手を打とうと命令を出そうとしたが、

 

「うっ!?」

 

「グルルルルッ」

 

怪獣を見た瞬間、彼らの背筋が一瞬凍りついた。

奴はまだ血が垂れている獲物を咥えた顔をこちらに向けて自分たちを視線の中にいれ、唸り声を鳴らし、その眼の中に、奴にとっては何かよくわからないものを当ててきた自分たちの姿を収めていた。

警官たちは、その迫力に一瞬たじろいてしまい、奴は狙ったかわからないが、その一瞬を付いてきた。

怪獣は自身の身長の倍の翼長はある大きな羽を羽ばたかせると、こちらに向けて突っ込んできた。

 

「キュオオオオオオー!!」

 

「危ない!」

「逃げろ!」

 

怪獣は耳を塞ぎたくなるような咆哮を上げ、そのために先程から咥えていた死体が地面にボトリと落ちる。

ヨダレと血で上半身が汚され、腹にはいくつもの牙がくい込んだ穴があいており、当然生きているはずもなかった。

獲物を捨てた怪獣は、足が地面から離れ、牙をこちらに見せびらかしながら接近してくる。

隊員の誰かが叫び、それを聞いて危機を感じ取った全員の体は自然と動き、横にはパトカーが止まっているので逃げられなく、すぐ後ろに向けて走った。

 

その瞬間、怪獣の頭がパトカーに接触し、どかすように首を下から上にあげた。

突き上げられたパトカーは、装甲も施されていないのでいとも簡単に凹み、ガラスは粉々に砕け、一トン半はある車体は宙を舞い、10mほど飛んだところでコンクリートの車道に落ち、そこから数mぐるぐると転がる。

ようやく止まった時、その車体は完全にスクラップ状態となっていた。

横にあったパトカーには、手や足が接触し、宙を舞うことはなかったが、横転してしまったり、車体に大きな傷が付いたりと、決して無事ではなかった。

 

警官たちは、怪獣がパトカーにぶつかるほんの数秒の間に、攻撃を避けるべく咄嗟に地面に伏せ、怪獣は伏せていた警官たちの上を、意外とあっさり通り過ぎた。

真上を通り過ぎていった怪獣を見て、自分が生きてることに少しホッとした警官たちであったが、こちらに背を向けて飛んでいた怪獣の背中を見て目を疑った。

 

何かがいたのだ。

先程から暴れていた怪獣の顔や胴体に注目していたせいで気付かなかったのか、その背中にまるで人間のような形をしたものが、背中にまたがって乗っていたのだ。

一体今のはなんなのか、考えを巡らせてみようとしたが、

 

「うぁあああああああっ!!」

 

「おい!誰か手伝ってくれ!」

 

そんなことしてる場合ではなかった。

地面に伏せていた警官の何人かに、先ほど怪獣が通過した時に接触して横転したパトカーがのしかかってしまっていたのだ。

上に乗られた警官たちは、骨が潰される痛さに顔を歪ませ苦痛の表情を浮かべ、あまりの痛みに声を上げていた。

 

「大丈夫か!?」

 

「待ってろ!」

 

「警視庁、こちら新橋駅前! 負傷者発生!」

 

「おい、また来るぞ!」

 

警官たちは、無線で本町に連絡したり、助けるためすぐに駆け寄ろうとしたが、誰かが叫んだ。

見ると先ほど通り過ぎた怪獣は、50m程先にて、車道の幅ほどの狭い半径で旋回し、こちらに頭を向けてホバリングしている。

 

さっき怪獣が通り過ぎたのは、パトカーを退けるために顔を下から上に挙げたせいで、地面に伏せる警官たちを口に含みづらかって、それをやり直すためだ。

先ほどのスピードから考えて、あと数秒でまたやってくる。

今度は必ず決めてくると悟った警官たちは、備えるため急いで銃を構えようと、振り返って構えようとしたその時、このバトルフィールドに乱入者が現れた。

 

ショルダーバッグを背負い、半袖と短パンを着ており、明らかに警察官でも何でもない、中年ぐらいの男性民間人であり、迷うことなく地面に置かれていた潰されている警官が持っていたHK417を手に取った。

それと同時に、怪獣は高度を下げて勢いをつけ接近しはじめ、警官たちは男になにか言おうとしたが、怪獣が迫ってきてる以上、銃を構えるのを優先するしかなく、残る対抗策を講じるため、銃を構えようとする。

 

だが男はあまり訓練機会のない警官達より慣れているのか、彼らより早く引き鉄を持っている手の側、つまり右足を半歩引き、左と右足それぞれの左側面を相手に向け、体も斜めにして左側面を見せ、若干前傾姿勢を取り、世に言う立ち射ちの姿勢に自然に構え、照準器を覗き込む。

 

照準器の中に迫るやつを収めた男は、あっという間に距離を詰めてきた奴が、もう10m手前までの距離になったところ、警官たちが構え終わり狙いをつけ始めた時に、引き金を素早く連続で引く。

 

タンッ! と乾いた音が9連続聞こえ、発射された7.62mm弾はまっすぐ相手めがけて飛んで行き、6発中4発は顔に火花を二つ咲かせ、残り2発は両目に突き刺さった。

目は生物の中で視界を確保するかなり重要な部位であるが、防御力は薄く、たとえ体の防御力は叩くてもここはそうでもないことが多い。

そしてたいていの生物は、一度潰されると再生せず、二度と視界が戻ることはない。

体に当てるよりも難しいが、眼への攻撃は重火器が効かない相手に対抗できる最後の手段なのだ。

そして残り3発中1発は…

 

「ギュオオオオオオ!!」

 

「伏せろ!」

 

7.62mm弾が突き刺さった目に当然視界はなく、頭に激痛を伝えた。

光を失った怪獣は、その激痛とショックに混乱したのか、羽をデタラメ羽ばたいて先程よりも大きな咆哮、というより断末魔をあげなる。

それでも突っ込んでこようとする怪獣に対し、男は警官たちに呼びかけ、警官たちは反射的にまた地面に伏せた。

 

怪獣の根性は見事なものだったが、痛がって思わず羽を羽ばたかせたことで高度が少し上がり、怪獣の衝突コースは上にそれていた。

目が潰れているのでそれがわからない怪獣は。男と警官たちの上を通り過ぎ、5m程後方の地面に思いっきり顔から激突した。

黒い影が背中から落ち、グキッ!と鈍い音がして、怪獣は勢いのままアスファルトの道路を耕しながら、2回転ほどしてからようやく止まった。

 

男や警官たちは、落ちた怪獣を腰に銃を構え、パトカーの影から観察する。

怪獣の体はピクピクと痙攣し、かろうじて尻尾がゆっくりと地面をこするように、ゆっくりと震えながら動く。

首は硬いアスファルトにぶつかってしまい、変の方向に直角に折れ、完全に虫の息と言える状態であった。

そして瀕死の重傷を追った怪獣の前には、怪獣と比べると小さな体の生き物が、まだ生きているようで息を吸うごとに胸が膨らんでしぼんでいく。

 

「あれは……あっ!? おい!」

 

見つめる警官たちをよそに、男はHK417を構えながら、その生き物に近づいていく。

それを見た警官は、すぐに走り寄って彼の前に立ちふさがり、それ以上の進行を阻む。

 

「何やってるんだ君は!」

 

「あぁすんません。ちょっとやばそうだったんで、手を貸そうと思って。」

 

「君は民間人だろ! これは我々の仕事だ! 銃を早く返して逃げなさい!」

 

「いや、俺は…」

 

「「後ろ!!」」

 

怒鳴りつけて逃がそうとする警官など屁でもないように、男は落ち着いていた。

男は警官になにか答えようとしたが、その声を後ろにた警官たちの声が遮った。

彼の前に立ちはだかっていた警官は後ろを振り向くが、そこに立っていたものを見て、思わず動きが止まった。

 

「うぉおおおおおおー!」

 

声を張り上げて後ろから勢いよく迫ってくるのは、さっき背中から落ちてきた、怪獣の背中に乗っていた生き物だ。

その体は人型で大きさも成人男性と同じくらい、顔立ちも男のようで、まるで中世の下っ端兵士が身につけるような金属で作られたかと思う兜と防具を付けるが足や腕はむき出し、その左手は折れているのか垂れ下がり、無事らしい右手で剣を持って振り上げ、必死の形相で迫る相手の鎧の右胸には下には小さい穴が一つ空いていた。

男が撃った6発の内、目を狙ってた4発以外の2発はこの生き物に向けられており、1発が当たったのだ。

 

男はあの一瞬で、二つの生き物にほぼ同時で当てていたのだ。

なぜなら両方を狙ったのか、それは乱入前に警察との戦闘を見ていた男が、なんとなくわかっていたからだ。

背中に乗っているこの人型生物はこの怪獣を使役しており、怪獣の目だけ潰してもまだ戦闘は続行される、だから怪獣を倒すほど強力な武器なしで無力化するには、眼を潰すのと同時に、こっちも潰すことが必要だと。

 

そして男が撃った2発中1発は当たっていたが、奴はまだ生きてはいた。

痛さのあまり指示を出せていなかったので怪獣を地面にぶつけてしまったが、綺麗に貫通したことと心臓などの急所ではなかったこと、そして怪獣の体に叩きつけられてから落ちたことで、勢いが殺されたことが生存の原因だろう。

 

警官はいきなりのことで動けず、今にも振り下ろそうとする人型生物の動きがゆっくりに見えており、ほかの警官たちは、両方の距離が近く、特殊部隊でもない腕ではあたってしまいかねないので、なかなか撃ちづらく、その剣は何事もなく振り下ろされようとしていた。

だがそうはならなかった、動けなかった警官の体は動いた、いや動かされた。

男が警官の腕を掴むと思いっきり引張つて自分の前からどけたからだ。

 

警官をどかした男は、振り下ろしてくる剣を、体を右から左にひねってHK417の銃身で横から払いのけ、さらに左から右にひねりもどる際、人型生物に底を見せている銃床を相手の顔面に思い切りぶつけた。

 

「ぐうっ!」

 

鈍い音が響き、相手は目を閉じていたが声を漏らし、歯と鼻が折れてたので口と鼻から血を出しながら地面にドサッと倒れた。

その隙を逃さず、男はHK417を素早く構え直し、銃口を相手の頭部に向け引き金を2回、続いて人型生物の胸を狙ってこちらも引き金を2回引き、計4発打ち込んだ。

 

弾は容易に頭部の兜を貫通し、一瞬ビクッと痙攣したが、それだけで断末魔も上げず、血が兜に空いた穴から流れて地面に広がっていく。

 

だがそれに終わらず、もう2つ銃声が鳴った。

先ほど男にどかされた警官が、男が打ち込んだのを見て直ぐ立ち上がり、止めとばかりに持っていたベネリの散弾を二発、至近距離から打ち込んだのだ。

バックショット弾に入っていた計二十粒の鉛玉を至近距離から受けた兜も鎧は安易に貫かれ、顔を含め体中に穴を開けて肉をえぐり、蜂の巣にした。

 

後ろの警官たちもそれを見て慌てて寄ってくるが、蜂の巣になり、元の顔も判別できないほど顔に散弾の穴を空けられた生物を見て、これ以上必要ないと感じたのか撃つことはなかった。

 

だが、警官たちの視線は、突如現れた謎の男に向けられた。

正確な射撃、そして先ほどの銃を使った格闘戦と素早い対応、それを見て警官たちは確信していた、彼がただの民間人ではないことを。

 

「協力感謝しますが、よければ身分証の提示願います。」

 

「あぁはい、いいっすよ。」

 

切りつけられそうになったところを助けられた警官が、お礼を言うのと同時に、彼の正体を知りたくてそう聞いた。

男はすぐに承諾し、ポケットに手を突っ込んで財布を出すと、中からカードを取り出して警官たちに渡した。

警官たちが拝見してみると、そこに書かれていたのは、

 

『陸上自衛隊 東部方面隊第一師団 第一普通科連隊所属 伊丹耀司(いたみようじ) 三等陸尉(33歳)』

 

という文字。

伊丹という名前の男が見せたのは、自分が自衛官であることを示す証明書だったのだ。

 

「自衛官!?」

 

「まぁ、一応やってます。」

 

驚く警官たちは反射的に敬礼するが、伊丹はあっさりと、頭を掻きながら答えた。

 

「…でもその格好ってことは、今、休暇中なんじゃ?」

 

「いや、この事態に休暇なんて取り消しですよ。今の俺の立場は、一応自衛官ってわけです。」

 

「原隊に行かなくてはいけないのでは?」

 

「まぁ、そうしようとは思ったんすけど、皆さんがやばそうだったんで、ほっとけなくって。」

 

伊丹は少し照れくさそうに、顔を少し伏せて答える一方で、警官たちは大した装備も持っていないのに、自分たちのために危険を冒して助けに来てくれた彼に感激していた。

 

「ってそれより早くお仲間助けないと! あと本庁に連絡してほしいことがあるんだ!」

 

紹介がある程度終わった伊丹は、そういえば警官が下敷きになってるのを思い出したので、すぐ警官たちに呼びかけ、ついでに警察にお願いをする。

警官たちも、怪獣に集中していたので、それを聞いて思い出し、すぐに助けを待つ仲間のもとに駆け寄っていく。

ただし、伊丹にさっき助けられた警官だけは、彼の願いを聞くため残り、とりあえずもらった証明書を返した。

 

「何を言うんですか?」

 

「その前に教えて欲しいんだけど、敵の構成は分かる?」

 

「かなりの数が現れたと聞いており、大多数は小型クラスで人型の怪獣、あれのような飛行怪獣の割合は低いとのことです。」

 

「よし、じゃあなるべく皇居に民間人と戦力を集めて欲しいんだ。」

 

「皇居にですか!?」

 

警官はそれを聞いて意味がよくわからなかった。

皇居、つまり天皇の住まいは『元江戸城』ではあり戦闘も想定はされているが、それを構成する大部分は石と木であり、一応テロリスト対策として多少要塞化されてはいるが、防げるのは戦国武者かテロリスト。

強力な武器を持つ現代の正規軍はもちろん、怪獣の攻撃に耐えられるとは到底思えなかった。

 

「あそこに集めてどうするんです!? 大昔の城ですよ!?」

 

「この人型の格好から考えて、敵は知能は多少あっても技術力はだいぶ大昔だろうし特殊能力も使ってこなかった。それに皇居の元の江戸城は、これくらいの技術レベルの相手の攻撃に耐えられるように作ってあるはずだから、中にいれば安全だろ。あと、敵は攻めあぐねてこっちに兵力を回すから、ほかの所に向かう兵力も減らせるし、敵が集中すれば空爆もしやすくなる。有利に戦いを進められるんだよ。」

 

伊丹の意見に警官は納得した。

確かに相手の防具はせいぜい斬撃に耐えられるレベル、ドラゴン型怪獣に乗っていたが、こいつ自身の武器は普通に鉄で出来てそうな剣一本で、火を吐いたり特殊能力は見せなかった。

相当な技術力を持っている相手なら、こんなレベルの防具や、剣をもたせるなんて考えずらい。

そんな相手なら、要塞である江戸城の中で立て篭ってれば、安全かも知れない。

それに彼の言うとおり、自衛隊が攻撃しやすい面や、ほかの部隊を助けることにもつながって、いいことづくしのように思えたが、警官にはもうひとつの不安があった。

 

「でも、ドラゴン型怪獣に攻めてこられたら…」

 

「大丈夫だよ。あいつらなんて空自と特自の航空機がすぐ来るし、陸自や海自のミサイルも飛んできて、すぐやってくれる。」

 

「なんでわかるんです?」

 

「これ。」

 

そう言って伊丹はポケットから何かを取り出した。

太陽光で光り輝く小さいそれは二つ有り、両方とも不規則な形で厚さは数mmあり、統一はされていない。

 

「さっき拾ったあいつの鱗、砕けてる。この薄さと軽さで小銃弾防げぜるのはすごいけど、ヘリくらいの速度だして地面に落ちて砕けてるから、戦車クラスとは思えない、精々装甲車で、それなら重火器で貫けるはずだよ。」

 

言われて警官も、よく見て確認する。

普通のトカゲの鱗がどんなのかはわからないが、ドラゴンは見た目的に多分トカゲの一種で、トカゲは爬虫類なので鱗があるのは当然、、そしてそれはあいつの胴体と同じ色をしているので、奴の体のものと自然に納得できた。

同時に、これだけでそこまで判断できた伊丹を見て、やはり怪獣とよく戦う自衛官には敵わないなと、心の中で脱帽した。

 

『至急至急! 警視庁から各局! 各員に作戦変更を伝える!』

 

その時、警視庁から緊急通達が入り、無線から声が聞こえてくる。

伊丹と警官はそれに耳を傾けた。

 

『敵怪獣と生物群の数と展開力から判断し、各隊は各自ごとに急行して撃破ではなく、戦力を集中して敵を迎え撃たれたし!』

 

通常、警察は今回のように街中を常にパトロールしている自動車警ら隊や機動捜査隊などが急行して敵を撃破、または足止めし、その後特殊部隊や自衛隊が到着して倒すという戦法を取るが、これは最終的には集まるがバラバラに到着するので、一つ一つの部隊が、最低敵と同程度の戦力を持っていなければならず、敵の戦力が上なのにこの方法をとれば、各個撃破されて犠牲は増え、侵攻もとめられない。

だが小さい戦力でも一つにすれば大きな力となるので、この場合は戦力を結集して迎え撃つのが正解だ。

 

これが伝えられたというのはつまり、今回の相手は個別の部隊だけで相手にするのは厳しいということであった。

 

「ちょうどいい、皇居の近くには警視庁もあるし、そこにはかなりの警官とSUNPが居る。あと皇居にも機動隊と皇居特別警備隊があるし、対空兵器も設置されてただろ。皇居は戦力を集めるにはうってつけだ。さぁ早く!」

 

「…わっわかりました! 至急至急、警視庁どうぞ!」

 

警官は今の作戦変更命令もあったので、伊丹の意見を信じて警視庁に連絡を始めた。

それを見て、自衛官だから立場はないと拒否されるかと思っていた伊丹は、従ってくれたことに安堵して一息つく。

 

「(にして、まだ目は衰えてなかったが、あの訓練がここで役に立つとは。)」

 

伊丹は先ほどのことを思い返す。

銃でドラゴン型怪獣を撃ったところ、銃で人型を殴ったところ、その時彼の目の中の時間が遅くなったのか、彼にはすべての光景がスローモーションのように見えていた。

だがそれは彼の反射神経と動体視力がもっと早いものにも対応しているせいであり、警官たちから見れば、伊丹の動きがあまりにも素早すぎるのだ。

そんなことができるのは、彼がかつて在籍してた部隊で受けた訓練の成果である。

ただし、実戦であまり得られた能力をここまでフルに扱うようなことはなかったので、その恩惠を感じたことがなかった伊丹は、今までこれをやらせてきた上官や先輩たちに少し感謝した。

 

「さて…」

 

伊丹はとりあえず皇居に向かうため、まずはそこでやってる警官の救出作業を終わらせるべく駆け寄る。

これからどうなっていくかわからない、だが一刻も早く終わらせると伊丹は心に誓っていた。

なぜならそれが仕事であり使命というのもあるが、今彼の頭の中を占めている思いは、

 

「(即売会場には、何が何でも行かせん!)」

 

厳しい自衛隊という職業に明け暮れる年内唯一の楽しみである同人誌即売会、その会場である幕末メッセを守り、そしてなるべく早く再開させて同人誌を買うことである。

オタク趣味が命と同じぐらい大事な、中年自衛官の戦いが始まった。

 

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防衛省 中央指揮所 情報統制室

 

「百里基地からの偵察航空隊、第302、305飛行隊はまもなく発進!」

 

「三沢基地第3飛行隊は、爆装準備中!」

 

「つくば基地、第一機鷲隊もまもなく出ます!」

 

「木更津駐屯地、首都防衛航空隊・対戦車ヘリコプター隊、弾薬装填間も無く完了! 第一メーサー攻撃隊は、出撃準備完了!」

 

「厚木基地、アメリカ海軍第5空母航空団と第9飛行隊は爆装準備中!」

 

「横須賀、第一護衛隊群・第一護衛隊、アメリカ海軍第15駆逐隊、待機中の鑑は間も無く!出港準備完了」

 

「第一メーサー車団出発しました! 第一戦車隊、出撃準備完了!」

 

「第一空挺団、出撃準備ほぼ完了! アメリカ海兵隊第3海兵遠征軍、辺野古より出発!」

 

伊丹や警察が前線で奮闘していたのと同じ頃、防衛省の地下にある自衛隊の最高司令部である中央式書に情報が集まってきていた。

ここには日本全国の自衛隊の配置・展開・戦況や、敵の情報情報を統制・管理する情報管理室とそこに入ってくる情報を元に戦略を練る会議室の二つが設けられており、ここから自衛隊に様々な命令が出されている。

 

情報管理室には正面に大型ディスプレイとその周りに補助用の小さいディスプレイが設置され、大型の方には東京の全体図が撮され、敵を赤い点で示し、出現位置をを表示している。

他には東京中に青や緑の点があるが、これは友軍、つまり東京都内にある自衛隊の基地や駐屯地を青、緑は警察関連施設、黄色が米軍の施設を示している。

 

全体的に床は階段のように下から上へ坂のようになっているが、各自衛隊基地や警察・米軍と連絡を取り合うオペレーターが座るコンピュータと一体化した作業台が大部分を占め、上の方に司令官達が座る司令席、その後ろの一番高いところにある壁で囲まれて指揮所の様子がうかがえる窓が付けられた部屋が、会議室だ。

 

「状況報告!」

 

そんな広く見えて狭そうな指揮所の出入り口から、黒木と権藤、それに小早川が現れた。

高速エレベーターで彼らはここに降りてきたが、核兵器を真上に受けても無事なぐらい地下深くにここは設けられているので、一分少々時間を食っていた。

黒木は司令席に来ると、オペレーター主任に状況報告を求めた。

 

「出現場所は、警察からの情報で東京都中央区の銀座4丁目に出現した物体からと判明しました。」

 

「銀座ということは、国会や皇居、それにCCI(危機管理情報局)本部の近くでは!?」

 

「やばいな……」

 

「総理や陛下、片桐局長たちと連絡は?」

 

「警備する警察等に出現を伝え、避難させると返答されました。ただ混乱が予想されますし、携帯はすでにパンク状態、衛星電話が近くにあるとは思いますが、ある程度落ち着くまで連絡は無理かと。」

 

最高司令官たちと連絡が取れない状況に、黒木の危険に一瞬シワが寄る。

 

「敵戦力は?」

 

「大多数が小型で人型の怪獣、少数が中型クラスのドラゴン型飛行生物、もといドラゴン怪獣とのこと。」

 

怪獣はその大きさとして、身長が大体5m以下が小型で1mより下が超小型、5~20mが普通型で20~40mが中型、40~100mが大型でそれより上が超大型に分類されている。

 

「大まかな数は今のところ不明ですが、空自第44警戒隊と海自のイージス艦のレーダーが、飛行怪獣らしき物体を30体近く、中央区とその周辺上空に確認しています。ただ高度はそれほど高くないようで、輝点がついたり消えたりしてることから、付近のビルより高度を上げたり下げたりを繰り返していると考えられます。警察からは地上の応援はまだですが、飛行生物に対する応援は要請され、初動として空自・特自の航空機と陸自の特殊武器科と高射特科、空自の高射隊、それと海自・米海軍のイージスを出動させました。それと偵察機は、まもなく発進して上空に到達します。以上が全情報です。」

 

「ご苦労。新しいものが来たら伝えてくれ。」

 

警察は対空兵器に関してはかなり限定的なものしか配備していないので、飛行生物が複数いるなら要請を出すのは当然といえば当然であった。

一通り聞いた黒木は、報告してくれた主任に礼を言うと、作業に戻らせた。

 

「特佐どうする? 航空機や車両は少し到着までタイムロスがあるが、イージスのSM-6や都市防衛システムの射程内だし、とりあえず撃って試してみたらどうだ?」

 

「権藤一佐、SM-6は射程は十分ですが、周りに障害物のない海や空ならともかく、近くにはビルがあります。飛行怪獣はホバリングができるので、ビルに合間に入れますし、中・長距離ミサイルは命中するまで少し時間がありますから、命中前にビルの陰に入れて、搭載するレーダーがビルを感知して命中する恐れがあります。今の敵の高度では、航空機と、短距離地対空兵器、あとは中央区とその近辺に設置された防衛システムぐらいです。

それに攻撃できるとしても、今回は住民を敵襲までに避難させてなく、避難状況はレーダーだけではわからないので、落とした相手に巻きこまれるかもしれませんし、それは友軍も同じです。そうしたら何を言われるか。だから、偵察機の情報を待ってから検討します。」

 

敵がどんなものか試し撃ちしたらどうかとという権藤の案を、黒木は却下した。

国や国民、そして家族のために戦っている者が、自分からそれらに被害を出してしまうのを、黒木はなるべく避けたかった。

そんな事が起きれば、たとえ守り通せたとしても、その守るべきものたちから批難され、世論が自衛隊批判になりかねない。

国民や国家の信頼があって自分たちは動けるのに、それがなくなればなるべく出さないようにしようと、がんじがらめの厳しい制限がかけらてしまう。

敵と戦うには素早い対応が必要なのに、本当に必要なときに動かしてもらえるかわからず、対応できる武器を使ったり作ったりできなくなるかもしれず、そんなことされてはかなわない。

自衛隊を指揮するものとして、黒木は攻撃出来る時は容赦しないが、そういう問題に対する配慮だけは忘れないようにしているのだ。

 

「こいつは失敬、軽率でしたな。」

 

真面目に説明してくれた黒木に、権藤は軽い発言であった、軽く謝っておいた。

 

「しかし、東京の地下などは徹底的に調べたはずなのに、どうしてこんなことに…」

 

小早川が不思議に思うのも無理はない。

日本の中枢である東京には、様々な国の大使館や国会に首相官邸に皇居といった重要施設があるのでその防備は硬い。

特に警戒しているのは、強力な力を持った怪獣や宇宙人だ。

 

奴らが東京にいきなり現れては、民間人もそうだが、相手によっては総理や政府要人に天皇陛下、各国大使がなどが避難する暇もなく、一気に全滅されられかねない。

だから東京の地下はすみずみまで調べ、怪獣が眠っていないか、宇宙人が秘密基地を作っていないか徹底的に調べられ、銀座などの桜田門に近い地域はビルや家の中まで、宇宙人のスパイが潜んでいないか調べあげられる。

にも関わらず、こんな近くに奴らは出現してしまい、これらの調査を行っている特殊調査室の小早川は、自分たちの仕事にミスがあったのかと考えていた。

 

「いや小早川、防ぐ仕事の俺が言うのもなんだが、多分これは防げねぇよ。」

 

そんな小早川に対し、自分が所属する特殊調査室の上司であり、怪獣や宇宙人調査の責任者である権藤が慰めるように答えた。

 

「どうして、そう思うんですか?」

 

「多分テレポーテーション使ったんだよ。それ以外に、いきなり都会のど真ん中に現れたことに、説明がつかねぇな。」

 

「テレポートって、瞬間移動ですよね?」

 

瞬間移動、もといテレポート。

ようするに物体を今ある場所から別の場所に送ることであり、移動する間は次元の中を進んでいくので、レーダーには映らず触ることもできない。

便利に思うが、レーダーに探知もされないことから、実現すれば戦争の際の奇襲作戦にぴったりの能力なのだ。

 

日本をはじめ、世界で実用化されてはいないが、キングギドラ事件で変わる前の歴史の23世紀には完成しているそうなので、人類はできる力を持ってはいる。

本当に23世紀に出来て、それがどんな使い方をされているか今の自分たちにはわからないが、今回の事態は、その一番嫌な使われ方である、テレポートによる奇襲攻撃だと権藤は言う。

 

「私もそう思います。空を飛べばレーダーに、地下を潜れば地震計に、水中ならソナーが網の目のように見張っていますし、地上にいても権藤一佐たちがしっかり調べてくれているはずですか 。いずれにも見つからずに現れるとなると、それしかありません。」

 

黒木も権藤の説を支持するようであった。

 

「じゃあ敵の正体は…」

 

「さっき物体から出たと言ってたじゃねぇか。きっとそれはテレポート装置で開けた次元の穴か何かで、それをやれる高度な技術を持ち、ちゃんと敵の中枢がある場所の近くにピンポイントで現れてることから、どこを攻めればいいかよくわかってる中々の頭の良さもある。そして人型と言ってるから、相手はどっか遠くの星から攻めてきた宇宙人類じゃないか。」

 

「あるいは、現代にやってきた未来人かもしれません。」

 

権藤は導き出した答えを述べ、黒木はそれに付け足した。

しかし二人の答えは、いずれも相手が強敵という結論に変わりはなかった。

 

「黒木くん!」

 

突然聞こえてきた自分を名前を呼ぶ声に、黒木たちはそれが聞こえてきた方を見た。

そこにいたのは、黒や紺色の制服をビシッと着込んだ、中年から少し高齢の自衛官たち5名。

統合幕僚長の山地(やまち)、陸上幕僚長の志村武雄(しむらたけお)、海上幕僚長の平田大輔(ひらただいすけ)、航空幕僚長の三雲勝将(みくもかっしょう)、特自幕僚長の一柳(いちやなぎ)、各自衛隊の最高職がそろい踏みだった。

 

「現在の状況は!?」

「出現場所は!?」

「住民への被害は!?」

「敵の戦力は!?」

「出動命令は!?」

 

一斉に話しかけてきた幕僚長たちの声に、たまらず権藤は耳を塞いだ。

 

「えぇ、現在の状況なんですが…」

 

だが黒木は何も言わず、今わかっている情報の範囲で、淡々と彼らの質問一つ一つに答えていく。

お前は聖徳太子かよと、権藤は内心突っ込んでいた

 

「安否確認できんのか?」

 

「待つしかないです。」

 

「まだ要請はないのか?」

 

「相手が相当の技術力でしょうから、我々の力は必要になってきます。」

 

黒木は総理たちを心配する山地や、まだ一部しか出動できてない陸自や特自の志村と一柳に、冷静に声をかけ、とりあえず少し興奮していた彼らを落ち着かせた。

 

「黒木特佐! 警察から連絡です!」

 

そこへ、先ほどのオペレーター主任が報告書を持ってやってきた。

黒木は渡された報告書にに目を通し始め、彼の周りでは権藤や幕僚長たちがそれを覗く。

とりあえず黒木は声に出して読み始めた。

 

『敵人型怪獣や宇宙人らしい生物の特徴ですが、格好がただの布だけで覆っているものや中世の騎士風の鎧を装着するものが多く、いずれも容易に銃弾は貫通し、効果アリ。武装は、棍棒・剣・槍・弓など。』

 

「…権藤一佐、敵は本当に技術力が高いのかね?えらく質素な武装だが?」

 

「う~ん。」

 

平田に聞かれた権藤は、高い技術力を持っていると思っていた相手のイメージと違っていたので、何とも言えない表情で唸る。

 

「ドラゴン型怪獣に関しては、表皮の鱗が固く、小銃弾効果なしとの報告が、先ほど入ったと。あと、背中に人型の生物が乗っているそうです。」

 

「こいつはなかなか手強そうだ。」

 

「人型が乗ってる?」

 

「竜騎士ってやつじゃないか? 乗ってるやつが、竜に命令して動かすっていう。」

 

「では、乗ってる人型を倒せば、無力化できるかもしれんね。」

 

「どっちにしても、最後は両方倒すことになるんじゃないか?」

 

一柳がそれを聞いて、手ごわそうな相手の姿を想像し、気を引き締める。

人型が乗っているという意味がよくわからなかった三雲・平田・小早川・権藤がそれぞれの意見を言い合う。

 

「なお警察としては、戦力を結集して迎え撃つ作戦に変更。されど敵総数は数千から万単位であると推測され、対押しきれるか難しく、陸上部隊の応援も要請する。」

 

「「まっ、万!?」」

 

三雲と小早川が、その桁を聞いて驚愕してしまい、思わず声を漏らした。

かつて一度しか見たことがない相手の桁の数であったからだ。

 

「偵察機、銀座上空に到着しました!」

 

「よし、正面に映像を出してくれ。」

 

その時、オペレーターが黒木たちに声をかけた。

偵察機として運用されている、特殊偵察機『グリフォン』が、出現場所である銀座上空に到着したからだ。

M3を出せる機体は、飛び立ってから5分もかからず着いたのである。

黒木はすぐに、目の前の大型ディスプレイに映し出すよう指示した。

 

「「「「おぉ…」」」」

 

指揮所内にいたほとんどの隊員が声を漏らした。

ディスプレイの画面が切東京の地図から切り替わると、東京の街を高度5000からみた景色が映しだされた。

銀座周辺では火事が発生したのか、煙が上がってきているのが見える。

上空には、例の飛行生物と思われる影が、銀座上空とその周辺の空をうろうろしているのが確認できた。

 

「姿が確認できるまでズームしてくれ。」

 

黒木の願いはグリフォンにすぐ届き、搭乗員が高解像度カメラでズームさせ、地面がどんどん近くなっていく。

 

「あのうねうね動いてる黒いのが全部そうか。」

 

山地は画面に映る、銀座を中心に、道路を埋め尽くしながら徐々に広がっていく黒いアリのような無数の点々を見て、直感的にそう感じた。

 

「本当に騎士みたな格好のやつがいるな。もしかして、宇宙人じゃなくて、タイムスリップしてきた中世の騎士団だったりして。」

 

「……権藤一佐、油断は禁物です。人型はたいしたことないようですが、これだけの数は、非常に面倒です。」

 

「わかってますよ、特佐殿。」

 

冗談を言ったことを黒木に注意されたが、権藤はあまり反省してなさそうに、笑顔を見せながら返事する。

あんまり反省してなさそうな彼に、黒木は少し呆れてため息を短くひとつ吐き、すぐディスプレイに向き直る。

 

人の形がはっきり見えるぐらいまでズームしたカメラが映すのは、道路を我が物顔で進んでいる、豚や映画の中の悪魔のような顔で、3mはありそうな筋肉隆々の体を布一枚で隠しているものから、そいつの体を少し小さくしたような奴といった、人間のような体型だが明らかに人間ではない者たちである、『人型怪獣軍団』。

 

そして、こちらも人間のような体型をしているが、徒歩だけでなく、馬に乗って移動していたり、中世の騎士のような加工して作った鎧を着て体を守り、きちんと整列して盾を構え、剣や槍に弓などで武装して統制されている、人間クラスの知能がないとできないことをやってる、少なくとも今の地球上にはいない、つまり外からやってきた可能性が高い人間に知能を含めて近い生物、『宇宙人』の軍隊らしきもの。

 

その二種類で構成された、数千から数万の人型の軍勢の光景は圧巻で、いろんな怪獣や宇宙人と戦った黒木たちに、少しながらインパクトを与えることは成功したのであった。




駄文を長々とお読み下さり、ありがとうございました。
ようやく2話なんですが、原作も漫画もアニメもこの東京での戦いがどんなふうになってたのか、大雑把にしかやってないので、色々と理由や場面考えたりして、それを素人レベルの文章力で書くので大変です。。

伊丹の口調はなかなか難しい。
伊丹が原作とかよりアクティブになってる感じがしますが、アニメで私服のまま近接戦してましたし、銃が落ちてたら使うとおもったんですが…どうですかね?
この世界での特戦群は、一話で言ってたあの訓練してますので、伊丹は原作より少しパワーアップしてますが、大した影響はないです。

アニメのGATEは、原作知ってるので先の展開などはわかってるんですが、動いて喋るるキャラクターたちを見ると、なんか興奮します。

次回がいつになるかは未定ですが、超兵器は次に出ると思います。
ありがとうございました。


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戦力結集

前回のを色々と修正してから書いたので、もういっぺん前回を見たほうが、いいかもしれません。



11:56

 

突如現れた謎の軍勢による猛攻、圧倒的な数やドラゴン型怪獣という航空驚異により、各地に最初に急行した警察官たちの殆どは、犠牲となってしまった。

警察はすぐに、戦力を徐々に集結させていくのではなく、戦力を集めてそこにやってきた敵を迎え撃ち、それ以上の侵攻を阻止する作戦に変更した。

その間、民間人たちを守ることができなくなるが、無意味に犠牲を払わないためにも止む終えず、警官隊は敵がまだ到達していない地域まで後退もしくは集結し、迎撃準備を整え始めた。

そこにたどり着くまでの間、敵はほとんど反撃を受けることがないのをいいことに、好き放題抵抗できずに逃げる民間人を、背中から切りつけなぶり殺し、虐殺を続けながら支配地域を広げていった。

 

だが、全方位に進撃を続けて道路を埋め尽くしていく敵だが、皇居や桜田門それに霞ヶ関方面だけは、他よりも遅く、というより足止めを食らって進めていないのが、上空から見ればわかった。

 

なぜかといえば、その方面には国会議事堂・皇居・危機管理局(CCI)本部と言った重要施設があり、今の時間政府の要人が多数いたからでもあるが、警視庁は彼らを守るため。その戦力をそちらを中心に割いたのもあるが、最大の原因は、その警視庁に、警察戦力の中でも最強クラスの強力な部隊が駐留していたからだ。

 

その部隊は東京だけでなく、全国の各地方の重要都市に置かれ、24時間体制で重大事案が発生したさい、置かれている県だけでなく地方内、要請があれば全国にすぐ出動して対処する『機動警察(Mobile Police)』内の特殊部隊。

それは東京では警視庁と大田区城南島近くの埋立地に分散して配備されているが、特に警視庁側は場所が近いこともあり、奴らがその方面に到達される前に立ちふさがり、そこいらの警察官とは比べ物にならない戦力で、敵をなんとか食い止めていた。

 

『SUMP』、それが『Special Unit of Mobile Police』から頭文字をとった彼らの名であり、日本警察が保有する最強の戦力である。

 

----

 

東京都 千代田区 有楽町

 

ディン! ディン! ディン! ディン! 

タタタタタタタタタタタタタタッ!!

ダダダダダダダダダダダダダダッ!!!

 

銀座から千代田区へまっすぐつながっているこの道は、そのまま行けば皇居前に出られるし、そこから左に曲がれば、桜田門へとすぐたどり着くことができる。

その道の途中にある有楽町には、二代目ゴジラにかつて破壊された有楽町マリオンがあり、目の前の交差点にいろんな音の銃声が響き渡る。

 

そこに先頭が200mほどまで迫っていた人型怪獣と中世風の鎧を着た宇宙人兵士で構成された軍勢は、銃声が響くと同時に、鎧も盾にも体にも穴が空き、血が噴き出したり腕や頭がどこかに行ったりして、一瞬痙攣すると痛みの声を上げる暇なく、地面の上に倒れていく。

道路の上には、他にも目と背中の相棒をやられて地面に激突したドラゴン型を含め、死体がゴロゴロと転がっており、地面に血の海を作っている。

民間人を虐殺していた連中は、自らが同じ運命を辿っていた。

 

だがそれは、出現場所の銀座4丁目から道を埋め尽くしてこの道を進んできた敵の列の先頭付近の話で、やられた先頭の後ろから続々と軍勢は、死んだ仲間の屍を踏み越えて押し寄せてきていたのだが、彼らは先頭に近づいてきたところでその脚が止まってしまし、そして直ぐに地面に横たわった仲間と同じ運命を辿る。

それは、有楽町へ通じるこの道に無造作に置かれたいくつもの缶から出てきている、白い煙のせいだ。

 

「ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ!」

「ウェ~!」

 

煙を吸い込んでしまった奴らは、全員思いっきり咳き込んでしまう。

それどころか目からはとめどなく涙が溢れ、鼻からは鼻水がだらだらと垂れて、息がしにくいのか呼吸困難に陥るものもいて、挙句の果てに吐いて胃の中をすべて出ものもいた。

 

そんな苦しんでいる敵にも容赦はしないとばかりに、煙の向こうから聞こえる銃声は鳴り止まず、脚が止まって立ち尽くす軍勢は、音が鳴ると同時に、すぐに地面に横たわった仲間と同じ運命を辿る。

間隔がほとんど感じられないその音は、明らかにセミオートではなくフルオートの射撃音だ。

 

音が鳴り続ける中、倒れていく地上軍の上を、背中に宇宙人兵士を乗っけたドラゴン型怪獣2体が、応援のために飛来してくる。

煙を吹き飛ばそうとホバリング態勢に入ろうとしたが、

 

ダダダダダダダダダダダッ‼︎

キキュン! キュン! キュン! カン!! カカン!

 

その瞬間、ドラゴン型の翼や体中に大量の火花が咲き乱れた。

大量の銃弾が襲いかかってきたのだ。

伊丹や警官たちが交戦した個体と同じ種で、その硬い鱗のおかげで弾は貫通しなかったが、あの時との違いはその弾幕の濃さである。

聞き取れないが、その音は一秒間に30回鳴っており、つまり一秒間30発、一分間に1800発の弾丸を撃つ勢いなのだ。

 

空を飛ぶに限らず、移動目標に当てたい場所に命中させるのは、動体視力に反射神経、そして未来位置がいるのでとても難しいが、これだけ大量に発射されれば、大して狙わなくても当たるので、何発か目にも飛んでいった。

そして目に入った弾丸は眼を潰し、視界を奪われたドラゴン型は痛みに叫び声をあげて暴れる。

 

同時に背中にのる宇宙人兵士も、背中の上から煙の向こうの相手の陣地が見えていたのだが、それは相手からも見える位置にいることであるので、ばらまかれた弾幕に晒され、顔は弾丸をまともに受けて体から離れ、宙を舞った。

目を失い、指示してくれる相方までいなくなったドラゴン型は、混乱したままでたらめに飛んだが、進路を変えた先にあったのはコンクリートでできたビルであり、そのまま思いっきりガラスを破って突っ込んだ。

 

もう一体の背中に乗る宇宙人兵士は、わずか数秒の間に何が起きたかわかってなかったが、少し前を飛んでいた仲間の最後をみて、このまま飛ぶとまずいと感じ真上に急上昇、敵の攻撃を躱しつつ、一気に急降下して煙の向こうにいる敵を攻撃する作戦に変え、垂直に急上昇を行った。

 

だが少しして、前のやつらが落とされたときから鳴り止んでた音が再開し、腹に何か当たって金属音が鳴り響く。

 

ドラゴン型の顔は上を向いて宇宙人兵士も、相手の陣地が見えない、つまりドラゴン型の影にしっかり隠れられているので、さっきのようにはならなかった。

だが高度を上げ続けても、音が聞こえ続け体になにか当たるので、全く攻撃が交わせなく、このままでは危険だと感じた背中の宇宙人は、高度100ほどにいったところで、後ろに引き下がった。

 

「ドラゴン型、一体無力化、一体後退。再装填。」

 

弾幕を放ったそれは、弾倉の弾が空になったので回る銃身を一旦止められ、リロードが行われる。

銀色の六本の銃身を持ったその銃はガトリング銃という種類で、単銃身よりも大量の弾丸を発射可能だ。

全体としては、銃身以外は青と黒の配色が施されているこのガトリング銃は、正式名称『携帯式7.62mm多銃身機関銃 GX-05』で、愛称は『ケルベロス』だ。

 

その重量は、回転させるバッテリーや数百発の7.62mm弾を収めた弾倉が一体化しているので数十kgにもなり、同じ六銃身で7.62mmガトリングガンの『M134 ミニガン』と比べると発射速度は抑えられているが、しかも毎分30発で撃たれる弾丸の反動はとんでもないので、普通の人間が使う際は、地面に置くか航空機や車両に据え付けないと使えないので、携行とは言い難い。

 

だがそれは普通の人の話で、これを扱っているのは普通の人間だが、その見た目は普通には見えない。

 

弾が切れたケルベロス(GX-05)を片手で軽く持ち上げて、弾倉を取り替えているその者は、いかにも硬そうでコバルトブルーに着色された特殊合金で全身を囲んでおり、その顔を覆う特殊合金のヘルメットは三本のアンテナが立ち、目の部分が暗視装置と赤外線センサーが一体化した真っ赤な人口複眼『MDSS レッドアイザー』で、それに映った敵を補足・追尾し、距離によって最適な攻撃方法を教えてくれる人工知能(AI)を搭載したハイテクなものだ。

 

胸の装甲には旭日章が刻まれており、それらは装着した人物の力は、元の20倍近くにまで増大される。

全身を覆うその鎧の役割は、ただ防御力を上げるためだけでなく、力も高めて攻撃を強化するパワードスーツなのだ。

 

正式名称『第5世代型強化外骨格強化外筋システム(GENERATION5)』、通称『G5システム』であり、防衛省が主導となって開発している装甲強化服Gシリーズの3番目に作られた警察仕様のG3を改良した、試作機のG3-Xの性能を少し下げて量産化を行った、順番で言えば5番目に作られたパワードスーツだ。

 

その用途は、テロリスト対策や、怪獣などの特殊生物にとの近接戦、さらには災害における救助といった多岐にわたる。

 

それを着れる者は、SUNPの部隊の一つ、『特殊装甲多用途自動二輪車両部隊(SAUL)』に所属する隊員だけであり、彼を含めこの交差点には今、スコープがついた10口径の大型自動拳銃 『GM-01 スコーピオン』や、それにグレネードランチャーを装着したものを手に持ち、パトカーの陰に隠れて煙の向こうに他の一般警官たちと撃ち続ける5人の隊員が存在した。

 

「弾倉持ってきてくれ!」

 

パトカーの陰に隠れながら、後ろに向けてそう声を上げたこちらの警察官も、G5のように装甲に包まれてはいないが、その格好は警察官とは思えない。

 

黒く色が塗られて防弾バイザーが付けられた特別仕様の88式鉄帽を冠り、灰色の戦闘服の上から黒の弾倉入れポーチが付き、手榴弾や水筒がくくりつけられた防弾チョッキを着て、手には200発入り箱型マガジンを付けた7.62mm弾を使用するベルギー製の分隊支援火器、『ミニミ軽機関銃MK.3』を構えている。

 

こちらはG5とは違い、多目的ではなく犯人の制圧と射殺を専門としている、SUMP特殊制圧科所属の『特殊急襲部隊(SAT)』の隊員だ。

G5を出すまでもない立てこもり事件などに出動し、G5が出動する際は支援を行うのが仕事である。

 

一時はSATや特殊捜査班(SIT)隊員を、全員G3やG5化する案もあったが、G3の時からお金の問題と装着することによって発揮される動きに耐えられる人材の育成が大変かつとてもきついので人が集まりにくく、G5になればなおさらで、SUNPは各地方にあるのだがその内G5部隊だけはその少なさから一隊しか編成できないので、関東地方の東京だけにしか置かれておらず、そこから全国に出動することになっていた。

 

そのため、他地方のSUMPはG5到着までの穴埋めとして、装着者を育成しやすくするため、G3よりさらにコストと性能を下げた『G3マイルド』でSAULを編成している。

 

そして、SATのように少し装備の質を下がるが数が揃えやすい部隊を編成して全国に配置し、少し質が落ちるが数がある部隊と、高度な装備を持つが数が少ない部隊で、お互いを支援していくようにしているのだ。

 

彼の言葉を聞いて、後ろで補給を任されている青い制服着てヘルメットをかぶった普通の警察官が、停めてある防弾仕様が施されたSAT専用の4WD車から、7.62mm弾入の200発箱型マガジンをすぐに持ってきて、隊員はお礼を言って受け取ると、マガジンを交換すると、ボルトを後退させて薬室に弾を込めて射撃を再開した。

 

彼の他にも、周りには同じ格好をして、手にフルオート仕様のHK417、45口径短機関銃『H&K UMP』、自動散弾銃の『AA-12』、40mm6連発グレネードランチャーの『ダネルMGL140』を構えたり、小銃を持ちつつ背中に使い捨て66mm対戦車ロケットランチャーの『M72 LAW(軽対装甲火器)』を数本担ぎながら、ばら撒いた催涙ガス弾が発生させた煙の向こうにいるはずの、奴らに向けて銃弾やグレネード弾を撃ち続けている隊員十数名の姿があった。

 

近年のテロリストの重武装化や、怪獣への対応に関する自衛隊への対抗心から、警察は戦力強化に余念がない。

その性質上、ぎりぎりの犯罪者であるテロリストに対応できるまでの武器を限界装備基準だが、それを突き詰めたのがこのSAULやSATなどの特殊部隊を有するSUNPであり、彼らは警察官でありながら、軍隊の基本クラスの武装を施していた。

 

警視庁は彼らを皇居・桜田門・霞ヶ関方面を中心に展開させたが、本音としてはほかの場所でも民間人が襲われているので、各方面に出動したい気持ちはあった。

だが総理や天皇といった、国家の運営に携わる重要人物をそう簡単には死なせられないので優先的に守らなければならず、ほかの方面には少数しか送れないので、こういう配置にならざる負えなかった。

 

だがその代わり、この方面に関しては敵が前に進むことがなかなかできず、逃げる民間人との距離を離すことができたのに加え、伊丹が言ってたように、戦ってる彼らは分からなかったが、実は敵がほかの方面の連中を増援を送ってきているので、ほかの方面の戦力が下がっていた。

 

『こちらSAUL基地局、皇居周辺の各隊に命令変更を伝える!』

 

銃撃を続けるG5の装着者たちの耳に、ヘルメットに付けられた3本のアンテナが受信した、基地局からの通達が入ってきたので、撃ち続けながらも耳を傾ける。

 

『皇居が敵の攻撃に十分対応できると判断! よって敵戦力を集中と各員の安全確保のため、皇居にて篭城戦を行う! 各隊は直ちに皇居まで後退されたし!』

 

G5の装着者たちは、正直今でもなんとか食い止められているので必要があるのか疑問に一瞬思ったが、さっきから大爆発を起こしたりする攻撃が何もしてこないことを考えれば確かに皇居は大丈夫だと自然に考えられたうえ、対空火器が設置されているのでドラゴン型にへの対応も楽になり、周りが掘りに囲まれているので市街地戦より見通しが良く狙いやすいことも考えれば、悪くない考えだとすぐに思った。

 

だがそれは道路を解放することになるので、皇居までたどり着かれるし、霞ヶ関や桜田門方面にも向かわれることになる。

総理たちの安否は、もう大丈夫なのか彼らは気になった。

 

「SAUL基地局! こちら1分隊! 総理たちは避難したのか?」

 

『東京の外に出るまで車で避難するより、すぐ逃げ込める皇居の方が安全と考えられるため、総理たちは皇居内に避難させる!』

 

今、空には敵のドラゴン型がいるのでヘリでは逃げられないから車を使わざる負えないが、それには少し時間がかかる。

その間に空を飛んでいくあいつらに襲われるかもしれず、襲われるその時に車と皇居のどちらにいたほうがいいかかと聞かれれば、断然皇居の方が頑丈なので、場所が近いなら、そちらに逃げ込むのも悪くはない選択肢だと、1分隊長は理解した。

 

「了解! オメガリーダー! 今の聞きましたか?」

 

G5ユニット第1小隊第1分隊長は、この交差点で共同で対処にあたっている、SATオメガチームのリーダーに声をかけた。

彼はSATにある複数の部隊の一つ、オメガ隊の指揮官だが、この交差点にいるのはそのうちの一個小隊であり、ほかの部隊は別の交差点で応戦していた。

 

「皇居への後退だろ。わかってる。オメガリーダーより各隊! 各隊は直ちに催涙弾をばら撒いて、皇居まで後退しろ!」

 

「G5、11各員。こちら分隊長! 直ちに皇居まで後退、急げ!」

 

「急げ!」「皇居まで後退しろ!」

 

無線でこの通達を受け取った警官たちは、一斉に動き出した。

最初に一番装備の弱い一般警官たちが退避していき、パトカーに乗り込むとすぐ発進し、皇居に向かう。

 

「催涙弾構え! 斉射用意!…撃て!」

 

SATオメガ隊隊長の命令で、部下たちはMGL140やHK417に取り付けた『M320グレネードランチャー』に、40mm催涙ガス弾を装填して構え、号令とともに一斉に発射した。

 

飛翔したガス弾は200~300ほど飛んでいくと、立ち往生している敵軍勢の真上から降り注ぎ、頭に直撃したものは、衝撃で頭蓋骨が陥没してヒビが入り、内出血を起こして意識をなくす。

そして地面に落ちたガス弾は、あたり一面に催涙ガスをばら撒き、敵軍に息をさせることを許さない。

 

SATオメガ隊第一小隊は、その後素早く専用4WD車に乗り込んで退避していき、G5部隊も、分隊長以外は停めてある装甲白バイ、『ガードチェイサー』に武器を収納すると、アクセルを吹かして方向転換し、爆音を響かせて現場を離れる。

 

G5の分隊長は、みんなが退避していく中、右足に取り付けられていたGM-01(スコーピオン)を取り外すと、スコープをGM-05の上部に、本体を側面に反動を抑えるためのグリップとして連結させる。

これにより、GX-05はロケットランチャーに早変わりし、その銃口に、どこからか取り出した赤い大型ロケット榴弾を装着し、レッドアイザーでスコープをのぞきながら、ひとり残された分隊長は、煙の少し上の方にその先を向けた。

 

「受け取れっ!」

 

分隊長はそれとほとんど同じタイミングで、引き金を引いた。

バシュ!、っと音と発射炎を立てて飛んだGX弾は、炎を尻から吹きながら煙の上を飛び越えていき、まだ煙が届かず無事な場所まで来ると、そこでロケットの燃料が切れ、道路を埋め尽くす奴らの上に降り注ぎ、先端がそのうちの宇宙人兵士一体の頭に接触した直後、信管が作動して内蔵する高性能爆薬が爆発した。

 

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突然地面が噴火したのかと、兵士たちは思った。

 

さっきからあちこちで起きた爆発とは規模がまるで違う火柱が、地面からたったのだ。

高熱と爆風が襲い掛かり、数mの至近距離からそれを浴びたものは、高温で体を一瞬焼かれると同時に襲いかかる衝撃波で肉片となり、少し離れていても、爆風となにか硬いものが破片が飛んできて、勢いで腕や足がどこかに飛んで行き、硬いものが体に刺さって、その痛さにのたうち回る。

 

兵士たちは突然起こった爆発に混乱し、被害に遭わなかったものもその爆発を見て、恐怖に足が止まってしまった。

 

「#%')'*?>!<{{P*"\#$R7!」

 

だがそんな足が止め始めた軍勢を見て、馬に乗っている指揮官らしき宇宙人兵士は、声を張り上げて檄らしき言葉を飛ばし、行動で示すため、馬を走らせて煙に突っ込んでいく。

馬は煙に近づくと、その匂いを嗅いだ瞬間嫌がって止まろうとしたが、指揮官はケツを叩いてそれを許さず、煙の中に突っ込ませた。

 

「うぉおおおおおおおー!!」

 

指揮官のその行動を見て覚悟を決めたのか、兵士や人型怪獣はヤケクソ気味に声を上げ、煙に向かって突進する。

指揮官も配下の軍勢も、息を止めて敵の攻撃に身を構えて備えながら、煙に立ち往生する仲間も押し倒し、目や鼻が苦しくなるが気合で足を動かす。

 

だが煙の中を進む中、先程まで続いていた何かを飛ばしてくる敵の攻撃は全くなかった。

しかし、気合だけで煙はなんとかならず、指揮官と配下の兵士たちにも限界が現れ始め、足が止ろうとした。

 

そこへ、今度は3匹に増えたドラゴン型が現れ、さっき受けた攻撃を耐えるため、顔を上に向けて相手側に腹を見せて背中を見せないような状態でホバリングすると、羽を強く羽ばたき始めた。

 

この時もさっきまでの不思議な攻撃はなく、風を受けて煙は流され分散していき、ようやく視界が回復して、煙の中から咳き込む指揮官や兵士たちに、それに人型怪獣の姿が見え始めた。

 

指揮官と兵士たちは、ようやく煙から解放され、息を整えつつ目や鼻から体液を流していたが、その涙ぐんだ眼が捉えた光景に拍子抜けてしまう。

煙の向こう側には、自分たちに攻撃してきたと思われる敵らしき姿は、一人も見えなかったのだ。

 

GX弾を撃ち込んだ最後に残っていたG5分隊長も、撃った瞬間すぐに合流するため離脱していた。

 

突破してようやく先に進めるのは嬉しい限りだが、結局涙や鼻水が収まるまで少しの間動けず、敵との壮絶な接近戦を予想していた指揮官や兵士たちは、気合を入れすぎたのか力が抜け、何とも言えない虚しさが彼らの心を包みこんでいた。

 

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防衛省 中央指揮所 

 

「黒木特佐、つくば駐屯地からガルーダ、百里基地からF-15Jの二機がスクランブル(緊急)発進。後続で第302、305飛行隊も、順次発進中。」

 

「東京との県境周辺で空中待機させろ。」

 

皇居への集結が始まり始めたとき、中央指揮所で黒木は、報告してきた空自関連オペレーター長にそう伝える。

さっきも言ったが、今回は民間人の避難を事前にしていない段階で敵が来たので、民間人と敵との距離は近い。

空を飛んでいる相手をとりあえず撃ち落としてしまえば、誤爆や巻き添えはしかねない。

なので、どこでなら落としても味方や民間人への被害が少ないか、それをある程度定めておく必要がある。

 

航空優勢の確保は、近接航空支援や空中機動作戦を行うために必ず必要で、早急に取りたいのは山々だが、後々のことを考えて、攻撃は待たせた。

 

「グリフォン、敵の地上展開状況は?」

 

『出現地域から四方に広がっており、現在銀座4丁目から最大で約1kmの距離で、なおも拡大中。ただし、皇居・桜田門・霞ヶ関方面に関しては、他よりも進んでいません。』

 

「そっちは重要施設と警視庁があるから、迎撃する警察戦力がほかよりも多いんだろう。」

 

黒木が無線で注文すると、グリフォン搭乗員は地面近くまでズームしていた高解像度カメラを銀座4丁目を中心に、5km四方が見えるほどまで引き、出現場所から一番離れている敵の影が、東西南北にどのくらい進んでいるか伝えた。

北への侵攻が少し遅いことに志村は疑問を呈したが、一柳がそれにすぐ自分の考えを述べる。

 

「ありがとう、引き続き監視を頼む。」

 

「了解。」

 

黒木は礼を言い、グリフォンの機長が了解すると、映像は消えて元の地図表示に戻った。

 

「今の敵地上部隊の展開情報を、地図に反映。それと、第44警戒隊とやイージス艦のレーダーとデータリンクして、敵飛行怪獣の位置を地図に重ねてくれ。」

 

「「了解!」」

 

オペレーターたちはすぐに、作業台のコンピューターに付いてるキーボードを素早く打ち込んだ。

すると、敵地上部隊に制圧された地域が、地図上に色がついて表示され、さらにその上に第44警戒隊のレーダーサイトイージス艦のレーダーが捉えている飛行怪獣の機影が、赤丸で示されて重ねられ、地図の上を動いていく。

 

「飛行怪獣は、敵地上部隊の前線よりも、あまり遠くに進出してないようだな。」

 

「前線部隊の直掩・先鋒を務める支援部隊的な役割のようですね。」

 

「こうなると、撃ち落としても大した影響がないのは、銀座4丁目を中心として、敵が制圧しているあの地域の上空ですね。」

 

山地と一柳の意見を聞き、小早川が撃墜しても民間人に被害がほとんどでない場所を判断する。

 

とりあえず、障害物のない高々度ならともかく、高度が500あたりを飛んでいる今の奴らは、中・長距離対空ミサイルが着弾するまでの時間内に、少しでも高度を下げてしまえばビルなどの影に入って、ミサイルが内蔵するレーダーがビルに反応して誤爆しかねない可能性がある。

今の高度を保つ敵に対しては、それを避けるために目視できる距離、つまり射線の安全を確認でき、躱す暇を相手に与えない攻撃距離まで近づいて攻撃する必要があり、それが今のところできるのは、航空機や短距離対空兵器、そして今的に制圧された地域と、ここ防衛省を含め、そこから数kmの距離の内にあるビルに設置された、都市防衛システムだけだ。

 

「とりあえず、現場上空に航空優勢がない今は、第一普通科連隊と第一戦車隊は、急行中のメーサー隊と合流を優先してください。」

 

黒木は地上部隊の応援要請が入ったこともあったので、待機中の部隊を出撃させるよう、志村陸幕長に要請する。

 

司令部である防衛省を守るために誰も回そうとしていないが、ここには数千人の防衛省職員も含む自衛隊員たちが勤務している。

彼らは戦闘訓練を受けているので有事には戦闘員となり、数的には普通科連隊に匹敵するので数は足りている。

さらにここには籠城の際の弾薬や食料なども備蓄してあるのでしばらくは持ちこたえられ、その上都市防衛システムが敷地内に備わってもいる。

防衛省は、実質要塞のようなものであり、さっきからの報告にある敵の戦闘力では、数は多いがまずここは落とされないだろう。

 

そしてもう一つある最大の理由なのだが、最悪地上にある構造物が全て破壊されても、地下奥深くにあるこの司令部機能は使えるように作ってあるので、相手が地下攻撃能力を持ってないなら、特に問題は発生しないのだ。

連中に地下施設を攻撃する能力は、報告を見る限りないようなので、黒木は戦力は回す必要なしと判断したのだ。

 

もっとも彼は、守る隊員たちのことを考えて、ここに到達はさせるつもりはなかったが。

 

それに、普通科も戦車も対空装備は必要最低限なので、ちゃんとした対空部隊が付いてもらったほうがよく、まず対地・対空ともに優秀なメーサー隊に合流したほうが良いだろうから、そのように指示を出したのだ。

 

要請を終えた黒木は、早期解決を図る上で必要不可欠な航空優勢

を取るため、一番面倒なドラゴン型という空の驚異を少しでも早く取り除くべく、考えを巡らせる。

 

陸自のメーサーや高射特科の短距離地対空兵器は、メーサーはまっすぐしか飛ばないので、視界に写る範囲だけしか使えないが、光の速さなので躱すのは不可能、短距離地対空兵器はマッハで飛ぶミサイルをかわそうと動く暇がないくらいの距離で使うので、現状一番使いやすい。

だがメーサーは八王子近くに駐屯地があるので現場に着くまで少し時間がかかるし、短距離地対空兵器を装備する高射特科は東京の外にあり、さらに時間がかかる。

 

すぐできるのは航空機と都市防衛システム、それにイージス艦や中・長距離地対空ミサイルによる攻撃。

だがイージス艦や都市防衛システムの中でも敵制圧地域よりかなり遠くからの中・長距離ミサイル攻撃は、今の高度では使いづらいので、イージスも中・長距離地対空ミサイルはまだ距離があるので、使えるのは都市防衛システムの中でも、あの範囲内と、躱す隙のないそこから数kmの距離以内に設置されたものだけだ。

 

「(地上のやつらの武器は剣や弓、対空には使いづらい。空の驚異が現れれば、真っ先に対抗してくるのはドラゴン型だろう。それならこうすれば…次にこうすれば前線の連中を…)」

 

「黒木特佐! 警察より連絡です。」

 

作戦を頭を振るに動かして考えていた黒木に、警察関係オペレーターの主任が、報告書を持ってきた。

黒木はすぐに受け取って目を通す。

 

「警視庁は、一時放棄されるそうです。」

 

「仕方ないな。あんな近くに司令部置いとくのは危ないし…」

 

権藤は、黒木の言葉がいつか聞くことを予想していたようだった。

 

「…それと、総理や陛下たちも、無事のようです。」

 

「本当かね!? 今どこなんだ?」

 

「…皇居です。」

 

総理たちが無事と聞いて、山地は飛びついたように聞いてきたので、黒木は手短に現状を伝えた。

だが、それを聞いた山地は固まっていた。

 

「それと、警視庁は一時的に本部機能を皇居に移すようです。あと周辺戦力を皇居に集めて、篭城戦を行うようです。」

 

「…皇居? 銀座に近いじゃないか! そんな所になぜまだいるんだ!」

 

追加で本部機能移転の話や篭城の話もしたが、山地はそれどころではなかった。

そんな戦場の近くに総理がなぜいるのか、そこに混乱していた。

 

「警察がそこに避難させたようです。」

 

「なんだと!? なにをやっとるんだ警察は!」

 

簡単に死んでもらっては困る総理たちを、戦場の近いところに置いておくのはあまりよろしくないのに、それを警察がそう避難させたというのだ。

何をやってるんだか理解できない山地は、警察に対し怒鳴った。

 

「統幕長落ち着いてください。報告を見る限り、安全面に関してこの案は心配ないと思います。」

 

「…どういうことだね。」

 

黒木は激昂する統幕長を落ち着かせるべく、とにかく淡々と冷静に話を促し、黒木の落ち着いた態度を見た山地は、自分が熱くなってるのを自覚して、少し貯めてから真意を聞いた。

 

「まぁ本当なら東京の外に出してもらいたいですが、飛行怪獣がいて出現場所からこの距離、東京外に脱出するまでに襲われると踏んで、ここに避難させたんでしょう。警察の能力では、判断は難しいでしょうから。

でもさっきもありましたが、敵勢力の装備は剣や弓等で重火器はなしです。そして皇居は、作られた時代背景的にそれぐらいの装備を持った敵と戦うために作られたものなので、掘りがあったり銃眼があったり櫓があったりと、十分な対抗策を有しているから安全です。」

 

「そういや、あそこテロ対策で少し近代風に要塞化してあったはずだし、航空機テロ対策で対空兵器もつけられてるから、東京出るまで車で走ってるより、中にいるほうが安全かもな。

ていうか、飛行怪獣は地上の軍勢からあまり離れて飛ばないって今更教えても、もう避難させてるし、後退初めて敵は皇居に接近してるから、今外に出すと地上の連中に遭遇するかもしれんし、とにかくもう遅いからあきらめなよ。」

 

黒木の予想通り、警察は飛行生物という高機動力を持った存在がいたため、敵の攻撃に耐えられてすぐ避難できる皇居に避難させたのだ。

飛行怪獣が地上の軍勢からあまり離れないことは、自衛隊の能力でようやくわかったことなので、レーダーも持たない警察が知るのは無理なことである。

 

だが避難先に選んだ皇居というのは元は江戸城で、飛行機もない戦国時代に建てられ、歩兵中心の陸戦のみを想定して作られた城だ。

なので現代の戦争では使い物にならないが、相手が持っているのは戦国時代と同レベルの武器、しかも二足方向とまさに戦国時代の歩兵とほとんど同じで、そういう奴らとの戦いに備えて作られたこの城には、十分な対抗措置が用意されている。

 

しかも、天皇陛下が住んでいることもあるので、近年ではテロリスト対策として近代的な要塞化と、航空機による自爆テロ警戒のため、それほど豪勢ではないが対空兵器も設置されている。

 

防衛省と同じく、実質要塞でありしかも近代化されているので、攻め落とすのは容易でない。

 

そこに避難させ、自分たちも本部も置くのは悪くない判断だと、黒木と権藤は思っていた。

 

そして権藤の言うとおり、もう避難させて篭城するため、警察は戦線の後退を始めており、いま外に出すと距離の縮まった飛行怪獣や地上の連中とばったり出会うかも知れないので、どうしようもないのだ。

 

「それと、敵は攻めあぐねて、戦力を皇居に集めると思いますので、ここに到達してくる時間も遅らせられて、その上敵の数も減ってくれますし、おまけに密集してくれれば一度に叩きやすくなります。我々としては、非常に戦いやすくなるんですが…」

 

「いやっ、しかし…う~ん…」

 

黒木はついで自衛隊にとって戦術的なメリットがあると説明し、山地もふたりの説明を聞いていくうちに、警察の判断が、戦場の近くに総理を置くというのは不満だが、判断した背景や安全の根拠から考えて、間違いではないいことを認めざる負えなかった。

 

「だが小銃弾が効かなくて、空が飛べるドラゴン型の方は大丈夫なのか?」

 

「対抗できる装備がないのに、一箇所に固まれば一網打尽にされるぞ。」

 

だが幕僚長たちの中には、さっき小銃弾が効かなかったドラゴン型に対する不安がある。

一箇所に集まれば戦力が増えるのだが、ひとつ攻撃があれば一度にたくさんの被害が出てしまい、今回の場合、相手に対空兵器が効果あればいいが、なければ蹂躙されて、地獄絵図が展開されるだろう。

 

「それに関しては、大丈夫のようです。」

 

黒木は、立てこもることに心配する幕僚長たちに、安心するよう声をかけた。

 

「現場からの報告では、地面に大体時速300kmほどで突っ込んだドラゴン型の鱗は、砕けていたそうです。戦車が地面にぶつけられても、こうはならないでしょう。これから考えて、相手の防御力は、装甲車と同等か、戦車と装甲車の中間あたりと思われます。皇居の対空装備でも、撃破は可能だと思います。あと、目を潰すのと、背中に乗る敵兵士を倒せば、無力化できるそうです。」

 

「というか、俺たちがさっさと制空権取れば、その心配はないんじゃないか?」

 

「そのとおり、早くやりましょう。幕僚長方、説明をするので聞いてください。」

 

権藤に言われたので、黒木はすぐ報告書をおいて、制空権を確保とその後の攻撃プランを、幕僚長たちになるべく早く伝え始める。

権藤は、それに自分はあまり関係ないので、とりあえず黒木が置いた警察からの報告書を手に取る。

 

「(普通は敵を食い止めて遠くに逃がそうと自動的に考えるだろうが、敵の武器の情報があっても、よくこの考えが出たな。)」

 

権藤は、スタンダードな対応ではない柔軟な対応をした警察に感心しつつ、報告書を拝見し始める。

 

「(………うん?)」

 

権藤は警察が命懸けで集めた敵の情報を、感謝しつつ読んでいくが、その中でおかしな言葉を見つけた。

 

『戦闘中のSUNP、並びに偶然現場に遭遇した、自衛官の伊丹耀司三等陸尉の推測から判断し…』

 

「(伊丹耀司?…もしかしてあいつか?)」

 

現場に遭遇した自衛官というのは、休暇していたものだとなんとなく想像できるのでそれほと驚かなかったが、権藤が心の中で驚いたのはその名前だ。

それを見た瞬間、彼の頭の中には、何度か訓練で一緒になり、逃げることに関しては一級品だった、一人の男の顔が思い浮かんでいた。

 

 

 




駄文をお読み下さり、ありがとうございました。

いつになるかわからないと言っときながら、早く投稿してしまいました。

東宝世界なら作ってもおかしくないと思って出したGシリーズのG5ですが、外見はG3-Xと同じに思っています。
ちなみにG3もG5も『グロンギ事件』が起きて作られましたが、『アンノウン事件』は起きていません。
理由としては、その世界感までいれると、構想的に不備が発生するからですが、一部の登場人物は出たりと都合の良い使い方をしてしまいます、すいません。

前回超兵器が出るかもと言ってましたが、今回大したものが出なくてすいません。
次回は本当にいつになるか…もうひとつの方をそろそろ進めていきたいので。

それでは、ありがとうございました。



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反攻作戦開始

お久しぶりです。
アニメはもう2巻の話に入っているのに、まだ1巻の、しかも導入部分のところにまだいるAPFSDSです。

相変わらずの一万時越え。


12:00

浦賀水道

 

「目標座標、入力! 主砲、仰角83度、方位334に合わせ!」

 

「斉射30秒前! 艦橋総員、ショックに備え!」

 

戦闘指揮所(CIC)の通信士は、射撃準備が進められていく中、艦内放送と警告ブザーで艦橋員に警告する。

それを聞いた海自の艦橋員は、すぐに体を踏ん張って備える。

艦橋員らの目の前にある窓の向こうに見えるのは、遥か遠くで上がる煙、そしてその海を切り裂いているドリルを先端に据えた艦体と、それに乗る第二次大戦時の戦艦のように巨大で、先程言ってきた方位に砲口を向ける、三連装の艦砲。

 

この特徴を持つ艦こそ、大日本帝国海軍が戦時中極秘に開発し、戦後海上自衛隊に編入された空と海を制す最強の自衛艦、多目的護衛艦「ごうてん」、またの名を海底軍艦「轟天号」であった。

 

自衛隊内では旧名の方で呼ばれているこの護衛艦は、先程命令を受け、現在東京湾にて第一護衛隊群並びにアメリカ海軍第七艦隊第15駆逐隊とともに展開し、侵略者に対して反撃や発見が困難なこの距離から対地攻撃を行い、侵攻スピードの減少と、戦闘中の警官隊の支援任務を行っていた。

 

「方位よし、仰角よし! 射撃用意よし!」

 

「撃ち~方始め! 撃てぇ!」

 

「発砲!」

 

CICに響く砲雷長から十三回目の発射命令が発令された。

その瞬間、前部にある2門の艦砲の砲口から、目が開けられないほどの明るさを放つ発砲炎が出ると同時に、凄まじい衝撃波が襲いかかってきたので窓が揺れた。

 

発砲音は、もし外に出ていれば鼓膜が破れかねないほどのもので、室内で聞いてても耳がキーンとくる。

 

轟天号が搭載するこの『轟天砲』は、毎分数発しか撃てないが、海自の主力艦砲である127mm級の艦砲を大きく上回る50cmという口径であり、撃ちだされた砲弾は、発射後に安定翼を展開、事前に指定された場所に向け、内蔵するコンピュータが滑空中に全地球測位システム(GPS)からの情報を得ながら、着弾予定地点に合うよう翼の角度等を調整していく。

 

そして数秒後、砲弾はビルよりも高い高度から高角度で落ちてきて、ほとんど誤差なく東京に侵攻し道を埋め尽くす敵軍団の列の中に突っ込み、派手な爆発をして敵兵士や怪獣たちに何が起きたのか気づかせないうちに、跡形もなく吹き飛ばした。

東京にまた一つ、大きな黒煙が立ち上ることになる。

 

「着弾確認!」

「次弾装填!」

 

無事に落ちたことが知らされても誰も喜んだりするものはいない。

なにせ相手は万単位、自分たちがいまあの世に送ったのはほんの一部であり、しかも今でも出現した謎の門から増援が現れて増え続けている。

喜ぶなんて、まだ気が早すぎるにも程がある。

だから海自隊員たちは、着弾の知らせが来たあと再び気持ちをリセットして、冷静に次の行動に移っていった。

 

「SDV、臨海副都心沿岸接近!」

 

第0護衛隊司令でもあり、轟天号艦長も務めている立花泰三(たちばなたいぞう)海将補は、艦長席に座りながら次々とCICに出入する情報が集約される大型モニターを黙って見ていた。

 

そこには関東地方全域の地図と、敵の勢力圏、陸と海の味方の位置が記されており、轟天号の周りには第一護衛隊群第一護衛隊とアメリカ海軍第7艦隊第15駆逐隊、そして東京湾に侵入し、臨海副都心沿岸部に近づく、潜水兵員輸送潜水艇(SDV)が輝点で現れている。

 

特殊部隊の隠密上陸時に使用され、いま東京湾の中を静かに進むSDVの艦内には、海上自衛隊の特殊部隊、『特別警備隊(SBU)』の精鋭の一部が乗り込んでいる。

 

制空権がまだ敵にあるためヘリが使えないことと、湾内で潜水艦が潜水できるほどの深度がある場所が少ないことから、途中まで『そうりゅう型潜水艦』に潜ってられるギリギリの場所まで運んでもらい、そこまで来ると海中からSDVで出撃する、といった方法がとられている。

 

なお、こちらに制空権が移ればすぐにでもヘリボーンを行うため、第一護衛隊群の第一護衛隊旗艦『いずも型護衛艦』一番艦「いずも」艦内に、もう一隊が待機していた。

 

「しかし、黒木特佐はどうしてあの門の破壊命令を出さないのでしょう? あれがある限り、一体どれだけこっちにやってくるのか…」

 

モニターを見ていた立花にそう聞いてきたのは、彼の右腕であり轟天号副艦長を務める、広瀬裕一(ひろせゆういち)一等海佐であった。

広瀬からしてみれば、奴らがどこか別の星からこっちにやってくるのに使っている、銀座にある謎の門を破壊すれば、敵のこれ以上の増強を防ぐことができると確信していた。

 

航空機はドラゴン型がいるということで飛ばされていないが、そんなものがなくても、いま東京湾から艦砲射撃を行っている轟天号や、ともに攻撃に参加している第一護衛隊群の『あたご型護衛艦』・『ゆきなみ型護衛艦』・『あきづき型護衛艦』、それにアメリカ海軍第7艦隊の『アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦』が搭載するミサイルや艦砲は十分射程圏内、攻撃命令をくれてもいいはずだと、彼は考えていた。

 

「広瀬一佐、侵入経路というのはただ攻め込むだけではなく、脱出のための重要なルートとなるものだ。それを破壊されれば、敵はどうする?」

 

「退路がなくなれば降伏か…もしくは玉砕か自決。」

 

広瀬は防大の授業で学んだことを思い出した。

孤立無援、絶体絶命の窮地に立たされたかつての旧軍が、降伏を恥として無残にも突撃し、散っていった歴史を。

 

「生きる選択肢を残しておけば、生き物というのはついそっちに手を出してしまうことがある。だから退路を残せば、敵を全滅させるまでやる前に、退却を初めて戦闘がより速やかに終わる。まぁもちろん、敵に見せつける必要もあるから、なるべく大きな損害を与えないといかんがな。」

 

「…失礼しました。自分の考えは浅はかでした。」

 

「気にするな。というより、黒木特佐は、もしかしたらその先も考えているかもしれんな。」

 

「それはどういうことで?」

 

「まぁ、そのうちわかるだろう。それより、今は目の前の任務に集中だ」

 

立花による解説を聞いた広瀬は、自分の考えなかったことを自覚し、立花におかしな事を言ったことを謝った。

だが立花は気にするなと言ったのだが、黒木はもっと先の事を見て頭を働かしているんじゃないかと感じていた。

広瀬はそれを聞きどんな事なのか質問したかったが、立花はそのうちわかるとし、今は任務に集中しろということで、それ以上は話さなった。

よく考えれば、立花は一応出現場所から離れているが都内にいる娘の話を一体していない。

そのことに気づいた広瀬は、それ以上は触れなく、二人は再びモニターに視線を戻した。

 

「射撃用意よし!」

 

「撃ち~方始め!」

 

砲撃準備が再び整ったので、砲雷長は再び射撃命令を出し、轟天砲は、周りにいるどの護衛艦や駆逐艦にも絶対負けない砲声を、再び上げたのであった。

 

--------

 

同時刻

東京都 千代田区 皇居

 

「急いで急いで!」

「こっちです! 」

「早く中に入ってください!」

 

篭城戦を仕掛けるため、皇居に集結してきている警察官たちは、遠くから爆発音がほとんどなり止むことなく聞こえてくるなか、まだ皇居の周辺で逃げている人が居れば、皇居内に逃げ込むように指示を出し、ここに誘導してきていた。

 

民間人たちは、桜田門・桔梗門・半蔵門などから中に入ろうとするが、大量の敵の侵攻を防ぐために細く造られている門の道は狭く、すぐに全員中に入ることは難しく、始めってから数分たってもまだもたついていた。

皇居まで後退してきた、一般の警官からSATやSAUL等の特殊部隊の警察官たちが、警察庁の皇宮警察や警視庁第1機動隊と協力し、民間人を優先的に中へ入れ、周りを警戒している。

 

「キュオオオオオオー!!」

 

するとビルの谷間を抜け、皇居近くの空に2つの陰、宇宙人兵士を乗せたドラゴン型怪獣が現れた。

防いでいた警官達がここまで退避してきたこともあり、地上の連中はまだ催涙ガスの影響で動きが鈍っていたが、空を飛んで煙を交わすことのできるやつらは、すぐにここまで進出してこれたのだ。

 

空を飛ぶドラゴン型とその背中に乗る兵士には、中に入ろうと殺到し、詰まっている人間の集団が目に入っていた。

すぐに目をつけた宇宙人は、ドラゴン型に自分たちの言語で命令し、ドラゴン型は一直線に人海に向けて突っ込んでいくのだが、

 

ブォオオオオオオオオオー!!

 

どこからか轟音が、皇居の周りのどこにいても聞こえてきたのだが、空を飛んでいたドラゴン型だけは、それが耳に入った瞬間、体中に赤い炎を帯びて先端が尖った、いやそれに混じって飛んでくる炎を帯びていないものも含めれば、一秒間に数百発に及ぶ弾が、皇居から目にも止まらぬ速さで飛んできて衝突した。

 

ドラゴン型の皮膚は、警察が先程から浴びせていた7.62mm弾では貫けない代物であり、今のところ目を狙うくらいしか対抗できる手段しかなかった。

目を当てればいいのであるが、動いている目標の、しかも小さな目を当てるのはよほどの射撃の手馴れや、特殊な装備で身を包んだ隊員でもない限り難しいものであり、大半の警察官もわかっていて狙いをつけてみるが、そううまくいくことはなかった。

そのため、恐れるものがあまりないドラゴン型は、実質好き放題に暴れられていたのだ。

 

だが、そのドラゴン型が好き勝手に暴れられる原動力となっていた装甲車並みの皮膚は、飛んできた弾丸にぶつかった瞬間、あっさりと貫かれた。

腹や翼、それに腕や足は、一瞬のうちに何十箇所も穴が開いたり、その衝撃で肉がえぐられ、肉片が空に舞う。

 

腹以外の皮膚は、カッ!と金属同士がぶつかる音がしたり火花が散ったり、耐えているように見えたが、当たった所を見れば鱗にヒビが入ったり、大きく凹んでいる始末。

次に同じ場所に当たっても防げるとは到底思えず、そして予想通り、一秒間に何百と飛んできた弾は、いくつも同じ場所に命中し、弾は肉体に侵入すると肉をかき分けて内蔵を破壊し、そして反対側から体外に出ていく。

 

背中に乗っていた兵士は、弾が飛んできた方角から考えればドラゴン型の陰に隠れられていたが、そんなものは無意味だった。

ドラゴン型を体を突き抜けた弾は、そのまま背中に乗る兵士にも襲いかかったが、兵士は体に痛みを感じなかった、というよりそんな暇がなかった。

当たった瞬間、その身体は衝撃によって、一瞬のうちにバラバラどころかグシャグシャにされてしまい、空中にその肉片は細かくばらまかれた。

顔も手も足も、元の形のままなものは何もなく、それまで人型の体を持っていた兵士は、ただの肉の塊に調理されてしまったのだ。

 

相棒も消えてなくなり、頭も含めて体中が穴だらけとなり、心臓等の内臓も破壊し尽くされたドラゴン型は、当然生きているはずもなく、力なく落下していく。

そしてその体は、皇居の周りにある堀に溜まっていた水に着水すると、数mの高さはある水柱が立ち上り、その姿は見えなくなった。

 

一緒に飛んできたもう一匹のドラゴン型に乗る兵士は、目の前で蜂の巣にされた仲間を見てすぐに逃げようとして方向転換する。

 

だが、ドラゴン型を撃ち落とした相手は見逃すはずもなかった。

六本の黒光りする銃身、G5が持っていたケルベロスよりも大きいその口径は20mm。

もはや銃ではなく砲に分類される大きさの砲身は、上についている白いドラム缶のようなものに入っているレーダーと連動しており、レーダーが捉えたドラゴン型2体のうち一体を倒したので、レーダーに映るもうひとつの目標を正面に捉えるべく旋回する。

 

相手は時速数百kmで飛んでいるが、こちらも負けじと土台は固定されているが意外に素早く動き、相手の動きに合わせて砲身の先に常に捉えていく。

 

未来位置も予測し、捉え続けられると判断した内蔵するコンピュータからは直ちに射撃指示が出され、砲身が高速回転すると同時に発砲火を噴き出し、20mm機関砲弾が毎分数千発のレートで飛び出していく。

 

コンピュータで未来位置もある程度予測して行われる射撃は、正確に砲弾をドラゴン型に浴びせ、当然浴びた側は先ほどのお仲間と同じ運命をたどり、穴だらけとなって手足等の一部が欠けた無残な体を打ち付け、広がっていく血の海の中で息絶えていた。

 

「目標2体、撃墜を確認。2番ファランクスの残弾、半分を切りました。」

 

「2番ファランクスの給弾急げ!」

 

皇居のあちこちに設置された監視カメラ等からの映像が集約されているほか、皇居内の様々な防衛設備をここから操作可能な皇居警備センター内の監視室では、ドラゴン型2体が落ちていく様子が、皇居の四隅に設置されている近接防御火器(CIWS)、『高性能20mm機関砲 ファランクス』に取り付けらたガンカメラから送られてきて、モニターのひとつに映されていた。

 

監視室長は、すぐに毎分4500発でありながら装弾数1550発しかないファランクスを給弾するよう指示を出した。

それを聞いて、皇居の警備を行う皇宮警察官たちが、『20x102mm 機関砲弾』と書かれた箱を持って駆け寄っていく様子を別の監視カメラが捉えており、その様子もここに入ってくる。

 

「よし! ワイバーン落ちた!…ふぅ~」

 

そんな皇居内の警備センター内の監視室で、ドラゴン型が落ちたことを映像で見た伊丹は思わず喜んだあと、保吐息をひとつはいて安堵する。

 

自分は地面に激突して砕けていた敵の鱗から考えて、敵の防御力は皇居にテロリストの無人機対策などとして(海上自衛隊からのお下がりではあるが)設置されているファランクスなら撃ち落とせると考えていた。

だからここに避難していれば安全と考えていたが、予測通り敵は耐え切ることができなかった。

ここに避難しようと考えた自分の判断は間違ったわけではなかったことが証明され、取り敢えずポセイドン伊丹は心の中で少し安堵した。

 

「伊丹2尉、何なんだそのワイバーンと言うのは?」

 

伊丹が発した『ワイバーン』という単語に聞き覚えがなかったので、一緒に見ていた内閣危機管理情報局(CCI)の局長でもあり副官房長官も勤めている片桐光男(かたぎりみつお)は、思わず彼に聞いた。

彼が務めるCCIは、警視庁と同じく皇居のすぐ手前にあったので、今回の襲撃を受けて彼やその部下たちもここに避難してきていたのだ。

それに加え、周辺を逃げていた住民や、総理を含めた国会議員に各省庁の職員といった人物たちが今の皇居の中に退避していた。

 

「あぁ~そりゃ『オッホン!…いや失礼。』

 

片桐に説明しようとした伊丹の言葉を遮ったのは、防衛大臣を勤めている嘉納太郎(かのうたろう)が出した咳であった。

彼は邪魔してしまった片桐にひとつ謝っておくと、伊丹に一瞬視線を向けた。

何も言っては来なかったが、伊丹はすぐに意図を理解した。

 

「あぁ~はい。ワイバーンとは、今落ちた怪獣のことであります。」

 

あんまり堅苦しいことが嫌いな伊丹は、さっき自分が自然と軽い感じて話しそうになったことに気づいた。

考えてみれば相手は政府高官であり、自衛隊への発言権や内閣総理大臣等がいざということになった場合は指揮を受け継ぐ立場に居る人間である。

一介の兵士がその言葉遣いなのは、あまりよろしくはない。

 

「君が今考えた名前か?」

 

「いえ、ワイバーンというのは、今のやつみたいなドラゴンに近い生物のことです。」

 

「…? あれはドラゴンとは違うということなのか?」

 

「えっと…」

 

片桐は、翼が生えているトカゲという外見からドラゴンだと考えていたが、伊丹はそれを否定した。

だが片桐をはじめ、ここに今入っている警官や政府高官は、そもそも自衛隊の間の認識としても、その特徴があればドラゴン型の怪獣だと今までしてきている。

いきなりドラゴン出ないと言われても、知らないしすぐ理解できないのも当たり前であり、伊丹は親切に説明を始めた

 

「ドラゴンで言うのは西洋で生まれたものですが、そこで言われているのは、四つの手足があって翼があるトカゲの事を言うんです。」

 

「…あれはどこが違うというのだ?」

 

「奴らの手を思い出してみてください。」

 

そう言われて片桐は、さっきまで映っていた奴の姿を思い浮かべる。

長い首に鋭い牙、鷹のような爪に銃弾を弾く鱗、長い尾に大きな翼…翼?

 

そういえば奴の手は、よく考えれば手が生えるところから出ていたことを、片桐は思い出した。

 

「手の部分から羽が生えていたな。」

 

「そこがドラゴンとワイバーンの違いなんです。ワイバーンはドラゴンと違って、手は翼と一体化していると考えられているんです。だからあいつはワイバーンなんです。」

 

「「「「ほぉ~」」」」

 

「(まさか、俺の趣味の知識がこんなに受けるとはな。まぁ~この人たちあんまり見なさそうだし。)」

 

監視室に集まっていた政府高官等は、伊丹から初めて聞いた知識に感心して、声を漏らした。

もっとも、これは彼がなにかの趣味(彼の場合はアニメ等)に没頭する人間、つまりオタクであった時に見た、ライトノベルや漫画にアニメから得られた知識である。

 

「嘉納君、今度から自衛隊はドラゴン型とワイバーン型の区分を作ったらどうかね?」

 

「検討してみやしょう。」

 

片桐と一緒に話を聞いていた内閣総理大臣の麻生孝昭(あそうたかあき)は、嘉納に今度からさらに分けるように提案し、嘉納は勝手に決めるのもどうかと思ったので、考えておくと返しておいた。

 

「しかし、これからどうするんだ? ここにいつまでもいれないし。」

 

「なにか、打つ手はあるのか?」

 

前防衛大臣で現内閣官房長官の兵藤巌(ひょうどうげん)や、前官房長官で現幹事長の土橋竜三(どばしりゅうぞう)がこれからどうすればいいのか聞いてきた。

 

「中央指揮所の黒木特佐の話じゃあ、皇居周りにいる民間人と警官をなかに入れてから、行動を開始するそうだ。」

 

嘉納はさっき無線から入ってきた黒木からの提案を伝える。

黒木としては、皇居は前線に近い場所なので、巻き添え防止のためにも完全に避難しておいて欲しいからであった。

 

「収容まで、どのくらいかかる?」

 

「このペースなら、もう少しで今周りにいる数の民間人は入れられますし、その後に警官隊も。とにかく、あと数分で終わると思います。」

 

「急いでくれよっ。」

 

監視室の室長を勤めている皇宮警察官は片桐の質問にそう答え、嘉納はそれを聞き民間人もそうだが警官たちの退避が早く終わることを願った。

それはこんな奴ら、自衛隊が攻撃すれば一瞬で片付けられ、この不利な状況から逆転することが可能だという、確かな自信があるからにほかならない。

 

「…じゃあ、そろそろ俺行きます。」

 

モニターを見つめつつ少し黙っていた伊丹は、ひとつため息をつくと、自分も応援に向かうと言って監視室の出入り口に向かおうとする。

 

【喰う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっとの人生】

 

これをモットーにして生き続けててきたオタクで怠け者な人間、それが伊丹だ。

そう思う彼が自衛隊に入るなど、あまり考えられない事だろう。

 

伊丹はもちろん、自衛隊が危険と隣り合わせの仕事だというのはわかっていた。

だが彼は、就職で会社巡りが嫌だったり、公務員が安定した職業だったり、自衛隊の給料は公務員の仲で上位クラスであったりといった、国防とはあまり関係ない理由で選んじゃい、そして防衛大学校試験を突破しちゃい、そこそこの成績だったが問題行動も起こさず退学もなく、ついに卒業試験もビリに近い成績ながら合格しちゃった、言うなれば自衛官になったというよりなっちゃった男なのだ。

 

自衛隊は国家国民のために命を捧げる覚悟が必要な職業だ。

だがオタクにとって、趣味は命に等しいものであり、趣味は命なければありつけないものだ。

そのため彼は訓練でも実戦でも、命令以外でリスクが一番高い役を自分から志願したりすることはなく、退却や撤退命令が出されれば、彼の部隊は一番に帰ってきたりするなど、当初は一部の自衛官から、積極性がないヘタレと影でささやかれていた。

 

しかし同時に、伊丹は友達や同僚といった仲間に対する意識はとても強く、目の前で人の命が奪われようとしているのに、命欲しさに完全無視するような非常な男ではなかった。

 

なので仲間にばかり命をかけさせて、自分は何もせずノコノコ生きているようなことはせず、よほど無茶な状況でもない限り、彼は国民の命と仲間をを護り、全力で戦闘を支援して、彼らがピンチに陥れば助けようとする。

当たり前のことのようだが、その当たり前をちゃんとやっているから、伊丹は自衛官として今も居続けられているのである。

 

また、最初はただのヘタレと思っていた自衛官たちも、訓練をへばりながらも一応最後までこなして実力を身につけ、部下の安全にも気を配り、モットーの所為で後ろにいる事が多いが、逆に邪魔をすることも足を引っ張ることもなくしっかりカバーして援護してくれる伊丹という男と接していく内に、今では果敢に立ち向かうことは期待しないが、やることはやってくれるバックアップ要員として、彼に高い信頼を寄せていたのであった。

 

そして今、大半が自衛隊より装備も練度も劣る警察官たちが、命懸けで戦っている。

彼らは所属こそ違えど、同じように国家国民を守ることを仕事としている、つまり仲間だ。

自分が行かなくとも、きっともうすぐ民間人含めて収容が終わり、自衛隊がやってきて形勢は逆転するだろう。

だが、敵の攻撃に耐えられる要塞の中にいて、自分は戦える力があり手伝うこともできるにも関わらず、仲間に危険をすべて押し付けて安全なここでじっとしているなんてことは、彼の良心だったり仲間意識だったりが許すはずもなかった。

 

それに、彼には早いとここの事件が解決して、今日行く予定だった同人誌即売会の再開を一日でも早くしたいという思いもあったからである。

 

だから彼は、趣味と仲間と国民を守るために、足を動かすのだ。

 

「……伊丹二尉。」

 

嘉納は部屋を出ていこうとする伊丹を呼び、伊丹は振り返った。

 

「気をつけてな。」

 

「えぇ。」

 

嘉納は防衛大臣と、もうひとつの顔である伊丹のオタク仲間として、彼にねぎらいの言葉をかけ、伊丹はそれを聞いたあと、笑顔を一瞬見せてから短く返事をし、さっさと部屋から去っていった。

 

----

 

桜田門前

 

『警視庁より各員。通常の制服警官や機捜隊員等は市民の保護を、機動隊・SUMP各隊は皇宮警察と協力し、敵の侵入を阻止することに注力されたし。』

 

「さぁ入って入って!………分隊長! 民間人収容終わりました!」

 

「よし!『桜田門前収容終わり、これより皇居内へ退避します。』全員中には入れ! 急げ!」

 

皇居内に設けられた、警視庁臨時本部からの指示に従い、警察官たちは一刻も早く迎撃態勢を敷くためにも、民間人の避難を急いでいたが、ようやく門の向こうに全員入れることができた。

部下のからそれを聞いた、G5第一中隊第一小隊第一分隊長は、皇居内に臨時に設けられた警視庁の仮設本部に無線で連絡すると、桜田門前にいたすべての警察官に中に入るよう大声で促した。

 

直ちに機動隊や制服警察官に私服警官、それに物々しい武装で身を包む第1と第5機動隊にSUMPのSATやSAULが、車両とともに後方を警戒しつつ、急いで中へ入っていく。

 

「さぁ早く、敵が来るぞ!……よ~し入ったな、門を閉めるぞ!『監視室、桜田門は全員退避完了。閉鎖お願いします!』」

 

『了解、閉鎖します。』

 

門の外に警官が誰もいなくなったのを確認すると、G5分隊長は無線で監視室に連絡した。

すると、めいいっぱいに開かれていた、銃弾やロケット弾攻撃を想定して特殊合金で作られた分厚い門がゆっくりと閉じていく。

 

扉が閉まっていくと同時に、桜田門の中にある見張り部屋の外が見える窓には、銃眼が設けられた金属製の壁がせり上がってくる。

金属壁は窓を一面に覆ってしまい、太陽の光は空けられた銃眼からしか入ってこない。

この設備、大げさすぎるような気がするかもしれないが、想定する相手のことを考えれば、これでも必要最低限な措置に過ぎないのである。

 

なかには入れた一般の制服・私服警官それに皇宮警察官は、民間人をさらに奥、本丸の中へむけて一緒に避難していき、門の裏にはSUMPのSAUL・SAT、機動隊にSIT・自ら隊・機捜隊、それに一部の皇宮警察官が残っていた。

 

「我々G5第一分隊の内、ケルベロスを扱う自分以外の第一班は機動隊の一部と一緒に門の裏に待機して、侵入された場合の近接戦に備えさせます。第二班と残りの機動隊、あとSIT・機捜隊・自ら隊は、一緒に周辺の石垣に配置しましょう。石垣の上に壁はありませんし、万が一水堀を通って登ってきたら簡単に侵入されますから。」

 

「ドラゴン型はともかく、地上を移動してる人型は銃弾で対抗可能だから、この水堀を突破できる心配はなさそうだが…」

 

「あくまで万が一です。それよりオメガリーダー、あなた方は見張り部屋に設けられた銃眼から掃射してくれませんか?」

 

「引き受けよう。それと、狙撃班は全員櫓に移して、そこから援護させることにしておいた。あと、私の部隊も何班かを石垣の防衛にも当たらせたほうがいいだろう。我々もいたほうが、君たちの負担も少ないだろうから。」

 

「感謝します。」

 

怪獣等の特殊な事案において、最前線における統合的な指揮は、SUMPといった、備も経験も豊富な特殊部隊に任されている。

大抵SAULとSATが共同で一般警官や機動隊員たちに指示を出すことが多く、今SAULとSATは閉められた門の裏側で、各隊の指揮官たちと配置を決めていた。

 

その中でSATのオメガチームの隊長は、銃弾が通じる敵が水堀を突破して石垣を登ってこれるとは思っていないようだが、相手は未知の生物であり何が起こるかわからない。

備えあれば憂いなしだ。

 

「それじゃあみなさん、今言ったとおり配置についてください!」

 

「「おぉ!!」」「「「了解!!」」」

 

SAT等の意見も組み込み、ある程度意見がまとまると、SATや機動隊をはじめとした重武装警官たちは、配置に付くためちっていった。

 

「皇宮警察の皆さんは…」

 

「遠慮なく言ってくれ。我々より君たちの方が断然経験があるんだ。素直に従うよ。」

 

G5分隊長が話しかけた警察官は、防弾チョッキと防弾バイザー付きヘルメットを除けば機動隊と同じ格好をしているが、その手に持っているのはHK417自動小銃やH&K UMP短機関銃であり、しかも普通の警官が持つ銃にはないフルオート機能付きだ。

彼らは皇居の警備を任されている皇宮警察内の特殊部隊、『皇宮特別警備隊』の隊員なのである。

 

皇宮警察というのは警察組織の一つではあるが、これを監督しているのは警察庁であり警視庁ではない。

要するに本来指揮系統が別物なので、警視庁の警官であるSUMPの隊員等に命令できる権限はない。

 

しかし目の前にいる特別警備隊の隊長は、そんなことを気にはしなかった。

たとえ組織が違えど、一番経験があって知識のある者に従う、それが一番無難な方法なのは間違いない。

だから特警隊の隊長は、前線指揮をSUMPに任せたのだ。

 

「ありがとうございます。でしたら、何隊かは銃眼での射撃支援。もう何隊かは、機動隊や自ら隊などと一緒に、石垣の警備や門の裏での待機をお願いできますか?」

 

「了解した。」

 

皇宮特警隊の小隊長は少し黙ったが素直に従い、部下のもとに向けて走り去っていき、G5分隊長一人が集まりの中から残されてしまった。

G5分隊長は、ようやく相手がいなくなったので、やっと部下に配置の指示を無線で伝え始めた。

 

「…うん…そうだ、お前たちは屋根の上に頼む。」

 

「ここのG5隊の責任者はどこですか!?」

 

「それで頼む。敵はもうすぐ来るぞ、急げ。…私ですがっ…えっ!?」

 

G5分隊長は、無線で配置の指示を伝えていく中、後ろから聞き覚えのある声が入ってきたので、指示を終わるとその方向に振り返ってみた。

だが、予期せぬ援軍がそこにはいた。

 

装甲で覆われた青いボディに大きな赤い複眼、頭にある三つの角状のアンテナと、まさに今自分が来ているG5と同じような姿をした格好に見えるが、肩を覆うプロテクターに書かれた番号は、試作品であることを示すXが入った『G3-X』。

 

G5の前代である『第3世代型強化外骨格および強化外筋システム』、通称『G3システム』を元に大幅な改良を加えて作られたG5の試作品、それがG3-Xだ。

実はG5よりも強力なパワーを持っているのだが、体を鍛える訓練がきつくてなかなか見つからないというので、予備役に入って使われなくなっていたそのスーツが、いま人が着た状態で、しかも右手にはアタッシュモードにしたケルベロスを持って後ろに立っていたのだ。

 

しかもその声に小隊長は聞き覚えがあった。

 

「その声は、氷川警部補!?」

 

G5分隊長はすぐに姿勢を正して敬礼した。

実際、今目の前にいるG3-Xの装着者は、自分たちの先輩でG3とG3-Xの装着者であり、今は刑事部に移ったが予備役として一緒に訓練に励み、訓練時にはその経験から様々な指導してくれた、警視庁刑事部捜査一課の刑事、氷川誠(ひかわまこと)であった。

 

「えぇそうです。僕も一様予備役ですから、力になりたいと思って出してもらったんです。」

 

「いっいえ! 経験者の氷川警部補がいてくれるなら、こっちとしては大助かりであります!」

 

「でも僕にとって、これは久しぶりの実戦です。指揮に関しては、基本現役の皆さんに任せるし従いますので、よろしくお願いします。」

 

「こっこれは恐縮です!」

 

G3-XとG5、旧式と最新式であるが、なかにいるのは大先輩と後輩であるので、新型が旧型に頭を下げるという、なんだか不思議な光景が繰り広げられていた。

 

『SAUL基地局からG3-X、こちら尾室隊長。』

 

「こちらG3-X。尾室さん、良く聞こえます。」

 

ふたりの話の最中無線で氷川に話しかけてきたのは、SAUL隊長でもあり、氷川がまだSAULに居たときはバックアップを担当していた、尾室(おむろ)であった。

 

『…氷川さん、くれぐれも無茶しないでくださいね! 訓練もしてるから感覚は忘れてないと思いますが、氷川さんは実戦に出るの久しぶりなんですから!』

 

尾室は心配であったので、氷川に忠告をしっかりしておいた。

 

G3-Xは、正式量産品のG5では安全性やコストを考えて少し下げられていた能力が、フルスペックで備わっている。

当然、それを扱うにはG5以上に基礎体力や並外れた努力、それに忍耐が必要になってくる品物であり、装着者を見つけるのはより困難であった。

だから、能力を下げて装着適合者を増やしたG5が開発されたのだが、氷川は相変わらず慣れているとしてG3-Xを訓練時も使い続けてきていたのだ。

 

数が必要なため今回は仕方なく予備役の氷川も呼ぶことになったが、いくら訓練しているといっても予備役は毎日やってるわけでなく、氷川は自主練をして補ってきたが、現役の時よりは少し年を取っていることもあるので、正直周りは久しぶりに体を動かすのが、こんな大規模な戦闘だったことに不安であった。

 

「でも尾室さん、いま戦わないと大勢の人が死にます。僕はみんなを守るために警察官になったんです。だから…やらないといけないんです。…お気遣いありがとうございました。」

 

『…氷川さん、気をつけて。基地局オワリ。』

 

「どうも。…さぁ行きましょう。」

 

「では、こちらへ。」

 

尾室は最後に一言、氷川の無事を祈って声をかけ、彼が元気そうに返すと通信を終えた。

氷川も無線が切れたのを確認すると、さっそくG5分隊長とともに桜田門の見張り部屋に足を運んでいく。

 

二人は門の裏まで来ると、少し体をかがめたが、その足を伸ばした瞬間パワードスーツによって強化された体は、10mほどの高さまで地面から浮いていた。

そして重力により少し速度をつけながら、その足は桜田門の上に着地し、100kg以上の重さがのしかかったことで瓦が割れ、木材が軋む。

 

「G3-XからSAUL基地局、ケルベロスの解除を。」

 

『了解、GX-05アクティブ(使用許可)。』

 

氷川からの要請を受けて、基地局はGX-05の使用許可を出し、ロックの解除を遠隔操作で行った。

ピピッと音がしてから、氷川はケルベロスに付けられた数字のボタンで暗証番号を入力すると、カチッと音がしてすべてのロックが解除された、真ん中から折ってコンパクトにされていたケルベロスが、元の姿に戻った。

 

「「「うぉおおおおおおおおおおー!!!」」」

 

「さぁて氷川警部補、どうやら団体様のお越しです。」

 

桜田門の屋根から遠くを眺めていたG5分隊長が、実は先程から遠方より聞こえていた歓声がだいぶ近くなってきたので、氷川に声をかけた。

氷川がレッドライザーの倍率を調整して遠くを見てみると、そこに映っていたのは道路を端から端まで埋め尽くす、鎧騎士や醜い顔をした人型怪獣であった。

だが久しぶりの怪獣との対決にも関わらず、氷川はさすが歴戦の勇士というべきか、心の息も落ち着いており、特に慌てることなくケルベロスを構えた。

 

「G5、111より基地局! 敵は桜田通りを通って桜田門前に接近中!」

 

『基地局了解、絶対に中には入れるな!』

 

「G5、111了解。…G5、111分隊長から桜田門周辺各隊、射撃用意!」

 

G5分隊長から敵接近と迎撃用意の指示が出されたので、警官たちは銃の安全装置を解除していき、射撃姿勢をとる。

桜田門の見張り部屋にある銃眼からは、SATの自動小銃の銃口が飛び出し、その先を奴らが向かってくる方向に向ける。

桜田門とその周辺が見える位置に設置されていたファランクスも、オペレーターが手動モードに切り替え、ガンカメラから来る映像を見ながら、敵が来る方向に向け砲塔を旋回させ、一定の位置で固定される。

 

『桔梗門、避難終わり。』

 

『半蔵門、まもなく完了。』

 

無線から他の門の避難状況が送られてくる中、警官たちは意識を集中し、静かに狙いを定め続ける。

同胞の命を大勢奪った武器が数十数百と待ち構えていることなど考えてもいないのか、軍団は槍や盾を構えた兵と大小の人型怪獣を横一列に先頭に並べて壁のようにしながら、雄叫びをあげて威勢良く突っ込んできていた。

 

警官たちは死んでいった大勢の仲間、そして民間人の敵を撃つため、怒りを抱えつつもなんとかこらえ、引き金に指をかけつつそのときを待った。

そして…

 

 

「……撃てっ!!」

 

G5分隊長からの命令が耳に入った瞬間、警官たちは指に力を入れて、引き金を一気に軽く引く。

一つの音や力が小さくても、これだけ集まればその大きさも威力も格段に上がる。

 

桜田門前の道路は瞬く間に血で赤く染められていき、硝煙の匂いが次第に強くなっていった。

 

--------

 

12:06

中央指揮所

 

「はい…了解。黒木特佐、皇居内に民間人と警官の収容終わりました。桜田門前では、敵の襲撃により戦闘が発生しています。」

 

「黒木くん、急ごう。」

 

「わかりました。これより反攻作戦を開始します。都市防衛システム、千代田とその周りの区のみを使用。」

 

「「「了解!!」」」

 

黒木は中央指揮所の情報管理室に座るオペレーターの報告を聞くと同時に、黒木は落ち着きながら、反撃の狼煙を上げ始める。

オペレーターたちが黒木の指示を受けて暗証番号を打ち込んでいくことで、この都市にかけられていたセイフティの一部が解除されていく。

 

中央指揮所の大型モニターに映る東京の地図には、警察や自衛隊等の味方を示す青いマークが、道路などない建物を記した場所十数カ所の上に、どこからともなく現れた。

 

別にこれはテレポートしたわけでもない、もとからそこにあったのだ。

もちろん普段は見えない、なぜならいつもは雨風を防ぐため一般のビルにしか見えない、いわゆる『兵装ビル』の中に収められているからだ。

 

オペレーターたちがセイフティを解除した事で、兵装ビルの屋上の地面がパックリ割れると、『長距離地対空ミサイル パトリオット』の発射機が。

別のビルでは、なんと艦載砲として普通は運用される『OTOメララ社製 54口径127mm単装速射砲』がせり上がってきて顔を出した。

 

「防衛システム、攻撃準備完了!」

 

「ペトリオットも127mm砲も、HEAT(成形炸薬)弾頭を使用。照準は、敵勢力圏上空のうち、前線より後方を飛行中のものに合わせろ。」

 

黒木の指示で、空自のレーダーサイト、イージス艦の対空レーダーのデータがコンピュータにより照合され総合的に判断され、前線後方にいる敵にかぶらないよう狙いが振り分けられ定められていった。

 

「諸元入力完了! 発射用意よし!」

 

「撃て。」

 

報告とともに黒木は間髪入れず命令を発し、オペレーターたちはそれを聞き迷うことなく、ディスプレイのタッチパネルを操作し、発射指示を出した。

直ちに発射機からはパトリオットミサイルが飛び出して行き、一直線に進んでいく。

瞬時にマッハまで加速するミサイルに、竜騎士たちは発射炎の光には気付けたが、反応する事など不可能だった。

 

マッハで飛んでいるミサイル内蔵のコンピュータは、敵の速度と機動性から直撃可能と判断し、手前で爆発させずそのまま自身を直撃させてから、初めて信管を作動させる。

空には、いくつものオレンジの花が咲き乱れた。

 

成形炸薬(HEAT)弾は本来、装甲が薄い航空機に対して使用される対空ミサイルの弾頭には使われないものだ。

だが、怪獣という戦闘機よりも硬い皮膚を持ってることが多い相手のためには、貫通力が高くなければいけない。

そこで、弾頭をHEATに変えたパトリオットミサイルが作られたのである。

 

今回は使われたのは、射程150km以上のPAC-2弾の弾頭を成形炸薬(HEAT)弾頭に変更したものであり、発射位置から考えれば、相手は余裕で射程圏内に入っていた。

 

命中直後、炸薬はモンロー効果で前方に爆発のエネルギー集中し、ミサイル内に入っている円錐状の銅製金属ライナーが高熱のメタルジェット(流体金属)に変化し、音速を超える速さで高温を保ちながら、装甲車並みの硬さを誇る皮膚に当たる。

 

メタルジェットの圧力を受けた皮膚は、ノイマン効果によりユゴニオ弾性限界を越えられ液体のように変形し、そのままメタルジェットは皮膚をかき分け体内に侵入、そのまま高温で内蔵や肉を焼き尽くし、溶かしながら、反対側に貫通した。

乗っていた兵士も、爆発の衝撃で吹き飛ばされ、跡形もなく消えるか、生きていたとしても、空中に放り出され、数秒後には地面に頭から落ち、その体はグチャクチャに潰れる。

 

127mm砲は、これだけ大口径ながら毎分45発の発射速度を誇り、コンピュータによって未来位置まで予測されて放たれた砲弾は、ほぼ100%命中していき、爆発するとHEAT弾頭が同じように爆発して、体内を貫いていく。

 

ミサイルと砲弾による攻撃を受け、爆発ににより鱗の破片を撒き散らし瞬時に絶命したワイバーンは、そのまま重力に従って落下する。

 

「「「「「#kgso=(++*JI:/,ls!!」」」」」

 

上で起こった爆発に気づいた、下の道路をゆく敵軍団の兵士たちは、敵も見えないのに突然起こった出来事に驚き何かを叫ぶと、すぐ上から煙をふかしながら落ちてくるワイバーンを避けようと逃げ出す。

屍骸となったワイバーンは、そのまま道路を覆い尽くす軍団の向かっていったり、ビルにぶつかってコンクリートの破片と一緒になったりして落ちていく。

 

アスファルトの道路には衝撃でヒビが入り、逃げ遅れた敵軍兵士や人型怪獣は、トン単位の重量物に上からのしかかられたことで、骨は砕け顔も体も内蔵も潰れ、落ちてピクリとも動かないワイバーンの死体の下からは、血の川が流れていった。

 

『こちらグリフォン、前線より後方の敵勢力圏内上空、ドラゴン型の存在なし。』

 

「地上に姿は確認できるか?」

 

『いえ、カメラによる目視と対地センサーでスキャンをかけましたが、同じ形態の怪獣は確認できませんでした。地上の連中は、今パニック状態です。』

 

「ありがとう。そのまま監視を続けてくれ。第二段階へ移行しろ。」

 

黒木は上空から周辺を監視していたグリフォンに、敵残存兵力の確認を行った。

敵の勢力圏内は、警察の主戦力が粘りまくっている皇居や霞ヶ関方面、そしてついさっきSUNPの特車2課が到着して交戦し始めた品川方面以外は、自衛隊がまだ到着していなかったり、警察の戦力が数に押されて後退していることもあり、最大で2~3kmまで広がっている。

 

その様子を常に見ているグリフォンは、前線より後方にいたドラゴン型が全部落ちたことと、地上に予備軍がいないことをしっかり確認し、黒木はそれを聞いて、次の段階へ作戦を移行させていく。

 

警察からの報告では、敵は遠距離の武器として弓矢ばかりを使用しているとのことで、兵士や怪獣は火炎や光線を出して反撃してくるようなことは、一切確認されていない。

弓矢の射程は100m圏内、そんなもので空の相手を落とすのは限界がある。

 

だったら弓矢が届かない相手にはどうするのか、間違いなく空を飛べるドラゴン型を使ってくるはずだ。

飛行怪獣がいれば、相手によって航空機を飛ばせないが、今回現れたドラゴン型はヘリに匹敵するがジェット機ほどの機動力はなく、装甲車クラスの防御力しか有していないことが判明しているので、どうとでもなることは分かっている。

今すぐにでも敵航空戦力を排除することは簡単だが、前線近くを飛んでいるものを撃ち落とせば、近くで戦っている友軍や避難する民間人に被害が被る可能性がある。

 

出来るだけ味方の被害を減らしつつ敵を撃破するのが作戦において目指す目標であるので、黒木は前線近くを飛び回っている相手を後ろに下がらせたかったので、前線まで出ていない後方待機の連中を攻撃したのだ。

前線に出っ張ってる連中が、下がらないといけない状況を作るために。

 

「中央指揮所より第一機鷲隊。行動を開始せよ、オーバー」

 

--------

 

12:08

東京・茨木県境付近 上空

 

『中央指揮所より第一機鷲隊。行動を開始せよ、オーバー』

 

「了解した。(やっとか…)」

 

特生自衛隊のつくば基地からスクランブルして飛んできたのに、もう十分以上空中で待たされていた第一機鷲隊の佐々木拓也(ささきたくや)は、ようやくやってきた命令を遅いと感じつつも、気持ちを切り替えた。

 

「二番機、作戦通りにいくぞ。」

 

「了解しました!」

 

隣でホバリングしている相方からいい返事をもらうと、佐々木は計器を操作して、操縦桿をしっかり握った。

機体は超耐熱合金『NT-1S』、色は空自の戦闘機お馴染みのグレー迷彩を、前に突き出す2門のハイパワーメーザービームキャノン、一気にマッハ3.5まで加速させる四つのバーナー。

 

これらの特徴を持った特生自衛隊の戦闘爆撃機、『XX式対特殊生物用大型戦闘爆撃機』、愛称『ガルーダ』。

 

Gフォースで作られたオリジナルのガルーダを元に開発されたこの機は、佐々木が乗る1番機がエンジンを吹かして噴射口から熱を放出して先行し、少ししてから相方の2番機も進み始める。

 

人類の反撃が、ついに本格的に始まろうとしていた。




駄文をお読み下さり、ありがとうございます。

伊丹さんの性格、なんか違うような。
菅原さんのべらんめぇ口調難しいですね。
ドラゴンとワイバーンの違い、調べましたがこんな感じだったと思います。

次回から本格的な反撃が始まっていくはずですが、文量によっては中編になるかもしれません。

駄文なうえ、こちらは気分で投稿してるので更新も遅いですが、今回も見てくださってありがとうございました。




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一転攻勢 (前編)

初めて二万時を超えてしまいました。
長いので、お暇なときにどうぞ。


『レイバー』

 

それは、かつて地球を侵略しようとした宇宙人たちが使用し、そして倒されていったロボット兵器を回収し技術を摂取した人類により急速に発展したロボット技術によって産業用に開発された、ロボットの総称である。

 

現在でも建設・土木の分野等に広く運用されているが、レイバーを使用した犯罪も、民間への販売が開始されてから年月が経つにつれ増加。

 

警察は、延いては怪獣等への対応力を向上させることも視野に入れ、試験的に警視庁SUMP内に『特科車両二課・パトロールレイバー中隊』を新設し、これに対抗した。

 

この新戦力は色々問題を起こしながらも多数の事件を解決し、多くの実績を上げたことでその必要性が認められ、いまでは各地方に設置されたSUMP内に、

特殊車両二課(特車二課)』は設立されている。

 

そこで運用されている警察用に開発されたレイバーこそ、通称『パトレイバー』である。

 

 

--------

 

12:09

東京都 港区 銀座4丁目から2km付近

 

弓、槍、剣、棍棒、といった人類からすれば旧式の武器を装備する敵軍だったが、武器の差はともかく物量差と装甲車並みの強度を持つ皮膚を持ったワイバーンは、初動で対処する特殊部隊でもない一般の警官たちにとって脅威だった。

 

警官たちも民間人を守るため立ち向かいはするが、そんな相手に無理して戦うようなことはせず、安全のためにも後退せざる負えなかった。

そのため質で劣る敵軍は、ある程度の犠牲を出しながらもこの時まで破竹の勢いで進撃を続けることとなり、足が止まることはなかった、この辺りに来るまでは。

 

ドォーン! ドォーン!

 

遠くから大きな爆発音が聴こえてくるが、それに負けないほど大きな音が聞こえている。

今まで敵軍と戦っていた警官達が撃つ拳銃や小銃の音も耳に入ってきてはいたが、それらが可愛らしいと感じるくらい大きな銃声、いや砲声と言ってもいい音が連続して響き渡る。

 

その音が一つ鳴るとともに、白い煙が漂うコンクリートが敷かれた道路のあちこちが爆発していき、煙を吸ったせいで咳き込み、動きが鈍っていた敵軍の兵士たちが吹き飛んでいく。

道路脇には、腹に土手っ腹が空けて息絶えたワイバーンの死体が転がっている。

 

音の発生源を見てみれば、それは銃口を敵軍に前から向けているポンプアクション式の散弾銃だったが、その口径はなんと90mm。

これは、自衛隊初の国産戦車であった『61式戦車』の主砲と同じサイズだ。

 

当然、銃がそれだけ大きければ、銃全体の大きさも普通ではなく、その武器を手に持ち撃っている存在も普通ではなく、当然人間ではなかった。

 

どでかい散弾銃以外にも、リボルバー拳銃の形をした砲や長い棒をそれぞれ片手に持ったりしている個体もあるその存在は、人の形をし人と同じように二本足で立っていた。

 

地面から頭までの高さはおよそ8m、繊維強化プラスチック(FRP)で作られた全身のカラーリングは日本のパトカーと同じ白と黒の二色、胸には金に輝く旭日章がつけられ、両肩には赤く光りながら回転するパトランプが付けられている。

そして、白く塗られた部分に大きく黒字で『警視庁』の文字が表記されていた。

 

「喰らえ!!」

 

警察に属する存在だとはっきり示しているそれの首元には、ヘルメットをかぶり首から下の部分を腹の中に隠した人の顔がひょっこりと有り、目の前から向かって来る敵軍に、負けじと罵声を浴びせかけている。

 

高度な機械が詰まった腹の中に警官が一人入って操縦しているこれこそ、警視庁SUMPの特科車両二課に配備されており、かつては主力だったパトレイバー、『AV-98 イングラム』である。

 

1998年に採用されたこのイングラムは、動力であるバッテリーの出力が現代基準で考えると少し低いので、軽いが防御力に少し難有りなFRPを装甲にしていたり、馬力が少し不足気味で力負けする可能性があったり、今のご時世では旧式化している感じが伝わって来ている。

 

だが、本格的に人間のような細かい動きが世界で初めて可能となったその設計は、近接戦闘で高い戦闘能力を発揮でき、ロボット技術のさらなる発展を世界に知らしめた。

 

まさにロボット技術発展の象徴的存在であったこのイングラムは、古くなった今でも、警視庁では後継機の『AV-5 マグナム』にとっく昔に主力の座を譲り、予備部隊も『AV-0 ピースメーカー』に埋め尽くされたが、訓練部隊用としてまだ残されていたのだ。

 

そして今、イングラムを装備する特車二課訓練部隊は、東京に数万の敵が突然現れるという非常事態により、数で押してくる敵に少しでも対応するためSATや応援の第八機動隊と銃器対策部隊(銃対)、そしてマグナムを装備する主力部隊やピースメーカー装備の予備部隊ともに出撃。

この地域まで来たところで接敵と同時に後退中の、警官たちと合流、現在交戦中なのであった。

 

この道路で敵を迎え撃つイングラム小隊の前方では、機動隊によって撒かれた催涙ガスで苦しむ敵が見え、そこへイングラムやSATらが、銃撃と砲撃を浴びせていく。

 

イングラムは、火器統制装置(FCS)のロックオン機能は使わず、ほとんどマニュアルで射撃を行っていた。

なぜかといえばロックオン出来る数が一体だけだからであり、多数の敵を相手にする時は使いにくいということと、そもそも相手は道路を埋め尽くしているので、どこに撃っても相手にダメージを与えられるからであった。

 

そういうわけで敵に向かって撃ちまくるイングラムだったが、小隊の殆どが右手に『37mm リボルバーカノン』左手に電磁警棒『スタンスティック』の組み合わせをしている中で、リボルバーカノンより巨大な散弾銃の形をした大砲、『90mmライアットガン』をさっきから撃ちまくる機があった。

 

そこの道路で死んでいるワイバーンも、この機がライオットガンを使って撃ち落としたものであり、90㎜のHEAT弾を受けたワイバーンも、こうなって当然だった。

 

「化け物ども! ここから先へは一歩も通さんぞ!!」

 

その機を操縦し、敵に上のような罵声を浴びせかけているこの熱血警官は、実はいろんな意味で有名な人物。

かつて日本で初めてイングラムを装備する部隊であった警視庁特車二課第二小隊に所属して、仲間とともに多くの事件の解決と問題行動を起こした、太田功(おおたいさお)巡査部長であった。

 

第二小隊時代はその大胆な操縦や勝手な火器使用で周りに二次被害を出したりしたことで問題児扱いされていた彼は、現在通常の警察勤務にはあまり出ないよう第一線を離れて訓練教官兼予備部隊員として勤務させられていた。

先程言ったように、本件では敵の数に対抗するため訓練部隊にまで出動命令が出されたこともあり、こうやって戦闘に参戦していた。

 

カチッ! カチッ!

 

「弾ぁ!」

 

『太田巡査部長、さっきやったばかりじゃないですか!』

 

「弱音を吐くな馬鹿もん! 文句を言うなら撃ち尽くすぐらいやってくる敵に言わんか!」

 

太田はライオットガンの残弾が切れたので補給を求めたが、補給班はさっき補給を終えたのにすぐ撃ち尽くした彼に文句を言う。

それを太田は弱音だと言って切り捨てたが、実際途方も無い数で進撃する相手に、大きさの違いはあるとはいえ、一度にたくさんの敵に纏わり付かれるとイングラムもタダでは済まないだろう。

 

手を抜いている暇なんて無いのであり、それをわかってはいる部下は文句は言うが、直ちにライオットガンの回収と、給弾が済ませてある予備のライオットガンを代わりに渡すため、補給車も兼ねたレイバー用輸送車の『99式大型特殊運搬車(レイバーキャリア)』を接近させた。

 

その間隙を作らないために、太田はイングラムの左手に装着されているシールドに収納されていたスタンスティックを、一旦右手で取り出してから左手に持ち替え、次に右足の中に収納されているリボルバーカノンを出し、それを右手に持たせた。

 

「キュオオオオオオー!」

 

『10時上空、敵飛来!』

 

突然、前方の敵に集中して射撃をしていた特車二課やSATの前に、雄叫びとともにビルの陰からワイバーンが飛び出してきた。

鳴き声を聞いてそれに気づいた他の隊員たちの声が無線から耳に入り、太田は報告にあったワイバーンが向かってきている方向にイングラムの体を向けさせ、自分も相手を視界に捉えると、すぐさまイングラムに右手のリボルバーカノンを敵に向けて構えさせ、引き金を引かせた。

 

ドン!

 

リボルバーカノンが火を噴き、今回対怪獣戦闘を想定して特別に使用が許可されている37㎜HEDP(多目的榴弾)弾が砲口から吐き出されていく。

 

こんな近距離での不意打ちだと、たとえ対空レーダー搭載の機関砲でも、ロックオンなど間に合わないのですぐに動かすため、手動操作で迎撃するしかない。

 

だが対空射撃はミサイルを除き、基本的に沢山の弾を撃って弾幕を貼り、1発でも多く当てるようにするものなのだが、対してパトレイバーが装備するリボルバーカノンやライオットガンはセミオートとポンプアクション、つまり1発ずつしか撃てなく、連射能力も低い。

 

本来対空射撃にはあまり向かない代物であるし、FCSによるロックオン機能なしならば、戦車だろうとレイバーだろうと、動く目標を1発目から当てるなんて本来は難しい芸当だ。

 

だか太田は、警察官の中でもトップクラスの射撃の腕前である。

 

彼は接近の知らせを聞き咄嗟に頭を狙おうと考え、敵が襲来する方向に体を向けその姿を確認するとすぐに未来位置を直感で予測し、次に頭が来ると思われる場所にイングラムの腕を操作して照準を修正していた。

 

動体視力は平均的だが、射撃することだけに集中しつつ素早く丁寧な射撃姿勢をイングラムにとらせ、FCSを使えない使わないマニュアル射撃時は、このように変に考えず直感で動き、どこへ向けて撃つかすぐ決断していく。

 

これを当たり前のように、しかも瞬時に出来る太田は、止まってる的ならど真ん中に、移動する的にはマニュアルでも当てられる腕前を持ち、射撃訓練において常にトップクラスの成績をたたき出している。

この力が、問題行動を起こしてきた彼を今でも警察官の立場においているのだ。

 

「グゥア!」

 

そうして放たれたHEDP弾は顔めがけて飛んでいったが、ワイバーンは牙を見せながら叫んでいたこともあり、口は大きく開けていた。

そのこともあってHEDP弾は喉の奥へ入っていき、腹の中で信管を作動させた。

 

HEDP弾は、言ってみればHEAT弾の小型版だ。

といっても、爆発にエネルギーを多く使いたいためライナーは小さいものしか入れられておらず、炸薬量も37mmなので数十グラム単位と少ないがあなどってはいけない。

この小ささでも50m近い装甲板を貫通可能な威力を持っている、強力な対装甲・対人兵器なのである。

 

発生したメタルジェットは少量とは言えその温度は千度を優に超えており、ノイマン効果で圧力をかけて鱗や筋肉を軟化させながら、皮膚とウロコを破って背中から飛び出し、爆発のエネルギーと熱は腹の中に広がり、内蔵を焼き尽くし破壊する。

 

腹に激痛が走ったワイバーンは痛みにもがき、引き起こすために翼を羽ばたかせようとするまで考えが及ばず、大きなうめき声を一瞬上げるだけであった。

 

「落ちるぞ!」

 

太田が無線で注意を促すと、SATや銃対員ら、それに他のイングラムたちが一目散にその場から離れ、太田も自機を少し後ろに下がらせた。

ワイバーンは勢いそのままに地面に激突すると、道路に敷かれたアスファルトを剥がしていった。

 

「グオッ! グゥウウウウー!」

 

地に落ちたワイバーンは、伊丹の時のように首が折れることや、37㎜という少し小さめの口径だったこともあり、背中に空いた穴も小さく爆発も小規模で、内臓を一つ二つ破壊され、破片が突き刺さって出血しているにもかかわらず、まだ息があった。

 

状態から考えてそれほど持つとは考えられないが、ワイバーンは最後の悪足掻きとばかりに、苦痛の表情を浮かべ口から大量の血を吐きながら、悲痛な叫びをあげ地面をのたうちまわっている。

 

「LAW発射よ…」

ドン!

 

暴れまわるワイバーンがもう長くないことはなんとなくわかるが、振り回す手や尻尾は危険であるので、早く沈めたほうがいいとSATデルタリーダーは考えた。

だが装甲は小銃では歯が立たないと報告が来ていたので、対戦車ロケット弾のLAWを撃ち込むよう部下に指示しようとしたが、その前に太田が黙ってリボルバーカノンを連射した。

 

砲弾は頭部に着弾し、信管が起動し発生したメタルジェットはノイマン効果で鱗に覆われた皮膚を破り、頭蓋骨と脳を熱で焼き尽くした。

 

体に指令を送るものが消えたので、ワイバーンはもう声を出すことも息をすることもなく、一瞬痙攣したあとピタッと動きは止まってしまい、手足や頭が力なく地面に崩れ落ちていった。

 

「いい加減大人しくせんか…」

 

『太田巡査部長、ライオットガンを。』

 

太田はそう呟くと、リボルバーカノンとスタンスティックをしまい、教官仲間が乗るイングラムが持ってきた、給弾を完了したライオットガンを受け取った。

 

怪我していたり、そのうち死にそうな相手に追い討ちをかけて止めを指すのは、少し心に来るものがある。

 

しかし、死にかけでも今暴れまわるワイバーンの尻尾や手に当たれば、隊員の大怪我は間違いないし、下手したら死にかねない。

つまり、まったくこの怪獣の脅威は消えていないというわけだ。

 

脅威度が残っている以上、例え怪我をしていても、味方の安全のために、敵は沈黙させなければならない。

 

だから太田は、苦しんでいるワイバーンを哀れに思いつつも、仲間を守るため容赦なく止めを刺したのだ。

 

ちなみに、頭を狙ったのは一撃で仕留めるためと、痛みをあまり感じる間も無く死なせるためという、敵に対する最低限の配慮なのである。

 

ライオットガンを受け取った太田は、再び煙が立ちつつ敵が迫る方向にイングラムを向けた。

 

「キサマらも、いい加減往生せいや!」

 

太田の叫びとともに、ライオットガンはふたたび唸りを上げ始めていった。

 

図に乗っている敵軍だったが、彼らが今ここに来るまでに戦っていた人類は、こうやって今まで起きた様々な事件から培われ育てられてきた戦力のほんの一部、氷山の一角にしかすぎなかったのである。

 

そして敵は、これからさらにそれを実感していき、そして大半がそれを知った瞬間、永遠に意識を手放すことになっていくのである。

 

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同時刻

東京都 千代田区 皇居

 

「su3'&I$**?JBI;8%$/‼︎」

 

「「「うぉおおおおおおおおー‼︎」」」

 

「撃て撃て! 近づけるな!」

 

後ろから指揮官と思しき者が出す命令とともに、狂ったように雄叫びをあげ突っ込んでくる敵軍の歩兵たち。

それを警官たちは、大量の鉛玉で出迎える。

 

「「「ぎゃ!」」」「「「ぐぇ!」」」

 

桜田門が見える位置にあるファランクスが20㎜機関砲弾を、桜田門の見張り部屋の窓に設けられた銃眼からは、SATがHK417小銃やミニミMk.3軽機関銃を、屋根の上からはG3-XとG5がケルベロスを使い、50~200mほど先から我武者羅に迫りくる敵に、7.62mm弾の弾幕を浴びせていた。

 

騎馬隊は銃撃を受けた馬があまりの痛さに倒れてしまい、またがっていた騎士たちは地面に叩きつけられたり、馬の下敷きになってしまう。

 

銃弾はもちろん歩兵の鎧も盾もものともせず腕や足を吹き飛ばし、敵の体内に侵入していく。

銃弾は回転しながら内臓と肉を引き裂き、背中から飛び出し、運動エネルギーにまだ余裕があれば、後ろに立っていた奴の体内にも入り込む。

 

敵の歩兵たちは短くうめき声や悲鳴をあげると、地面にバッタバッタと重なり合って倒れていった。

 

当然、敵は桜田通りだけから攻めてくるわけではない。

他のルートからも皇居周りの道路になだれ込んで行き、皇居の周り全てを取り囲んで埋め尽くす勢いだ。

 

一応警官たちは桜田門に集中しているわけではなく、全ての門や周りの石垣の上に展開して配置され、徹底した迎撃態勢を敷いている。

他の門や石垣のうえ櫓など、銃が撃てるあらゆる場所から放たれる銃火は、360度ほぼ死角なしに敵へ浴びせていた。

 

しかし、すべての火器は無限に撃てるものではなく、弾薬が尽きれば無用の長物と化す。

弾が尽きれば補給することが必要不可欠であるが、その間銃声は沈黙する。

 

その時弾幕が止まったり弱まったりしてしまい、そうなると敵はさらに接近し、より広範囲に展開して道路を埋め尽くしていく。

敵の死体が転がる場所と、侵入口にもなる門との距離が徐々に近づいてきているのは、誰の目から見ても明らかであった。

 

一方で、周りを囲む水堀内にはプカプカと浮いた、穴だらけで黒い物体が数十体はある。

それは、対岸の道路から水堀をはさんで数十m先にある石垣に登ろうと思い、飛び込んでいった敵の成れの果て。

 

体中の穴は、石垣の上で見下ろしながら射撃する警官たちがプレゼントした銃弾によるものだったが、黒焦げになっていたのはこの堀に張る水のせいだ。

いつもはこうではないが、実はこの水堀は緊急時には敵の侵入を防ぐために、数百万ボルトの高圧電流が流されており、もし飛び込めば一瞬にして感電し、熱で黒焦げにされる。

 

ヒュヒュヒュン! ヒヒュン!

 

だが対岸にいる敵も、黙ってやられるだけではなかった。

皇居を土台の石垣の上には、全周に矢や鉄砲を防ぐ城壁というものがなく、対岸の道路に向けて射撃する警官たちは丸見えであり、そこへ向けて敵の弓兵たちは少しでも報いたく、自分が撃たれて倒れる前に、一本や二本矢を山なりに放った。

 

矢なんてとタカをくくってはいけない。

顔や首、もしくは血管を傷つけられれば重傷化し、最悪の場合は死ぬ。

また掠っただけでももし毒が塗られていれば、それだけで死に至ることもある。

 

それだけ危険な代物であり、警官たちも飛んでくる矢には、避けるのは難しいが出来るだけ注意していた。

 

「弓矢だ!」

「対空防御!」

 

敵の弓矢の飛来を聞いて機動隊の各小隊長はすぐ指示を出し、機動隊員たちはすぐ上に盾を向けた。

透明でペラペラなライオットシールドは一見貧弱そうに見えるが、それは見た目だけだ。

 

暴徒との乱闘を想定して製造され、刃物はもちろん火炎瓶や石ころに鉄パイプ、さらには近距離からの拳銃弾に耐えられる強度を持っており、弓矢ごときが貫通できる代物ではなく、実際当たった矢はむなしく地面に落ちていった。

 

だが、ライオットシールドの傘は、機動隊員全員が持っているいるわけではないので、隙間が無いほど完璧ではなかった。

 

「うぁ!」「痛ぇ!」

 

「負傷者2名!」「担架持って来い!」

 

「早く弓兵を殺れ!」

 

警察官も自衛官もそうだが、頭をヘルメット、腹部を防弾チョッキで防護しているが、それ以外はほぼ無防備と言っていい。

なので、機動隊の盾の傘の隙間を抜けて地面に落ちていく矢は、その途中そこにあった警官の足に突き刺さった。

痛みで倒れた怪我人は、すぐ担架で後送されていき、警官たちはすぐ忌々しい弓兵に火力を集め、早急に始末する。

 

犠牲者は圧倒的に敵側の数が多いが、ナイフ一本に刺されただけで人は死にかねない。

どれだけ装備の差があっても、死への恐怖がなくなることはなく、緊張感をなくすことなどできるはずはないのだ。

 

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皇居 桜田門

 

「おーい、ちょっと!」

 

そんな皇居周りのあちらこちらで繰り広げられる激戦が繰り広げられている最中、伊丹は桜田門の見張り部屋の出入り口にひょっこり現れた。

 

前線にやってくるのはさっき説明した伊丹の性格に反しているように感じるかもしれないが、彼は門の防御力と敵の力から考えて、ここは破られる可能性が相当低い場所だという確信があった。

 

その上彼は射撃の腕はいいが、狙撃手という立場についてはいないので、あまり後ろに離れて戦うという発想がなかったことと、石垣は敵から丸見えなので危険が少し大きいこと、そして門を守って敵を侵入させ無いことがいま最も重要なこと。

 

これらの要因や考えもあり、伊丹はここを自分の戦闘場所として選んだのだ。

 

「誰だ!」

 

「陸自の伊丹だ! 手伝いに来たんだけど、ここの指揮官は!?」

 

近くにいたSAT隊員が伊丹の存在に気づき、戦闘でアドレナリンが湧き出て興奮していたので、思わず大声で聞く。

それに対し伊丹は何事もなく証明書を見せながら答え、とりあえず指揮官に自分のこと話したかったので、SAT隊員にその場所を聞いた。

 

「これは、ご苦労様です! ここはG5第一分隊長が指揮してますが、今屋根の上に!」

 

隊員は証明書を見て彼を自衛官だと確認し、しかも幹部だとわかると素早く敬礼をとり、質問に答えた。

 

「じゃあ副指揮官は!?」

 

「我々SATのオメガリーダーが! あちらにいます!」

 

「どうも!」

 

見せられた証明書を見てSAT隊員は伊丹が自衛隊員であることを確認すると、指揮官の場所を伝える。

伊丹は指揮官が上にいることを知ったが、そこに行くのはちょっと大変そうなので、副指揮官のほうに話すことにし、SAT隊員にお礼を言うと、そこに向かった。

 

「SATのオメガリーダーは!?」

 

「私だが、誰だね君は!?」

 

傍でSATや皇宮特別警備隊の隊員たちが銃眼から射撃している中、伊丹に呼ばれたオメガリーダーは伊丹に何者か尋ねる。

また同じことを聞かれた伊丹は、銃声がうるさいので目の前まで近づくと、証明書を見せ自分の所属を名乗った。

 

「自衛官? しかしその格好は…」

 

「えっ? あぁ、これは余ってたものを貸してもらったんすよ。非番で、私服だったもんで。」

 

オメガリーダーは証明書を見てとりあえず納得したが、確かに彼の格好は不自然だった。

手に持ってるのはHK417だが、半袖のシャツと短パンという私服の上から、背中のPOLICEと白字で書かれた防弾チョッキを着ており、頭には一般警官が使う白いヘルメットがかぶられている。

どう見ても自衛官の格好とは思えなかった。

 

「…そうですか。しかしあなたは自衛官ですが、それを手に入れるまで非戦闘員同然。逃げても守ってもらってもなにも言われませんだろうに、なぜわざわざ戦いに?」

 

「いや俺はただ、一応同じような立場で仲間のあんた達が戦ってるって時に、閉じこもって任せっぱなし、なんて胸糞悪いことしたくないすからね。それに、早く潰れた休暇を取り返したいんで。」

 

オメガリーダーがそう疑問を抱いた気持ちはわかる。

この事態で非番の自衛官も召集をかけられているとわいえ、基地に帰って装備を整えるまでは完全な丸腰、せいぜい一般人と比べて近接戦闘能力が強いだけで、それ以外は の能力は何も使え無い。

 

本来の力が発揮でき無い以上、もし戦闘に遭遇した場合逃げることなど致し方ない事である。

しかし目の前の自衛官は、もう一つの理由はともかく、わざわざ武器を借りて、戦っている仲間のために戦おうとしてくれていると言うのだ。

その姿勢にオメガリーダーは、声には出さなかったが少し心打たれ、彼にすぐ姿勢を正して挙手の敬礼を送る。

 

「感謝します。一人でも増えれば大助かりですので。でも、無茶はなさらないように。」

 

「えぇ言われな『各隊に通達! 支援砲撃来る! 衝撃と破片、並びに爆音に注意!』

 

ヒュゥウウウウウー

 

無線から聞こえてきた注意が促す通達が、伊丹の言葉を遮った。

それを聞き銃眼についていた隊員たちは、すぐ銃眼の蓋を一旦閉じると、少し離れて身構え耳を防ぐ

伊丹たちもそれに習い、石垣の上を守っている警官たちも地面に伏せ、鼓膜を破るため耳を防ぐ。

全員がそれを完了したのほぼ同時、空気を切り裂くような音が空から聞こえだんだん近づいてきたかと思うと、海上自衛隊の護衛艦から放たれた50cmや5インチ砲弾が、GPSからの情報に従い皇居周りの道路に飛来してくる。

 

伊丹や警官たちからおよそ数十m先で、重量30kg以上の炸薬が着弾と同時に炸裂し、爆音と衝撃波と高熱、ついでに爆発によって散った自身の破片も一緒に、半径数百m圏内へ撒き散らす。

 

爆炎を直接受けたものは、熱と衝撃で跡形もなくなり、破片は数十から百m以上の範囲に飛び散り、その中にいた敵の兵士や馬、人型怪獣の体を切り刻む。

 

爆発で煙とともに土が舞い上がり、地面を伝わる衝撃は、各門や皇居内を揺らして避難していた人たちも驚ろかせた。

 

そのような被害を直接受けなかった者も、耳を防いでいなかったことで鼓膜が激しく揺らされ、破られてしまった。

 

ドォォォォォォォー…

 

皇居周りの道路がひと通り爆発すると、揺れはようやく収まり、遅れて海上から発せられた砲声が届いてくる。

見張り部屋の壁から破片が当たる音が聞こえていたが、それも収まると伊丹はすぐ銃眼を防ぐ蓋を開け、穴にHK417の銃口を差し込むと、防弾ガラスから外の様子を見た。

爆発によってできた土煙により、先程までより視界は近距離までしか見えなくなっていた。

 

『G5、111分隊長より各隊‼︎ 敵5体接近!』

 

その時、桜田門の屋根の上にいるG5分隊長が、無線で敵の接近を知らせてきた。

土煙の中で敵の接近に気づけたのは、ヘルメットの目の部分であるレッドアイザーを赤外線に切り替えていたことで敵の動きが見えていたことと、動体探知機に反応があったからだ。

 

空気密度を遠隔測定して音の高低で示し、動く物体のみ短距離であるが探知できるこの動体探知機は、正面から突っ込んでくる5体の物体を輝点で示していた。

 

火炎放射器を携行していたSAT隊員も、自分のものについているモニターを確認してみると、確かに同じく五つの接近する輝点が表示されていた。

 

伊丹は銃をしっかり構えて銃眼の蓋を開け銃口を突っ込み、SATや皇宮特別警備隊も、すぐ銃眼に戻り位置に着く。

 

「グォオオオオオオー!」

 

「トロール3、球体2接近!」

 

「トロッ?」

 

伊丹の視線の先、徐々に晴れてきている土煙の中から雄叫びと共に、身長3mほどの人型で筋肉ムキムキ、かつ下半身を布で隠し上半身は裸な怪獣が3体が棍棒を振り上げ、それと一緒に丸い球が高速で回転しながら、桜田門に向け突撃してくる。

 

接近してくる敵の内、球場の物体はよくわからないが、伊丹は人型の怪獣と『トロール』と呼んだ。

自衛隊では人と似たような体のつくりをして知能が人類でもない生物を人型怪獣と一括りしているが、伊丹は上で述べた特徴を持つこの人型怪物が、西洋の伝記やファンタジー作品でよく登場する『トロール』という怪物と同じ特徴を持っていたので、とっさこう呼んだ。

当然、警官たちはそんなこと知らないので聞き慣れない名に少し戸惑ったが、取り敢えず急いで構えていく。

 

すぐ屋根の上からG5とG3-X、そして伊丹がほぼ同時に、当てやすいが硬そうな筋肉の鎧をつける体ではなく、小さいが当たれば即死の頭部に狙いをつける。

彼らは敵の未来位置を予測し、常に頭が次来ると思われるところに銃口の先を向け、自分のタイミングで単射を3発行った。

 

氷川などはヘルメット内蔵のコンピュータの力も借りて精度をさらに高めているが、伊丹は腕は自前だ。

 

彼は経歴上、一般の隊員よりかなり反射神経や動体視力が鍛えてられており、縦横無尽に動き回る相手にも命中弾は確実に与えられる。

 

頭部は小さく、体以上に上下左右に素早く動くので狙いにくいものなのだが、生物というのは攻撃する時は相手の咆吼をずっと見据えているので、頭はあまり動くものではない。

それに、相手は伏せたりも進路も変えたりもせず、単調にまっすぐ向かってきている。

動きを予想しやすく、狙ってくださいと言ってるようなものだった。

 

G5とG3-Xは、ケルベロスの給弾中に襲撃されたので代わりに大型拳銃のスコーピオンを手に取り、一体ずつ頭に撃ち込んで行く。

 

三人の放った弾はほとんど同じタイミングで、G3-XとG5のものは全弾伊丹は2弾頭部に着弾し、銃弾は頭蓋骨を砕き脳を破壊し、手足は脳からの命令がなくなったことで動きを止め、その巨体は地面にひれ伏すこととなった。

 

しかし、高速で回転して近づいてくる謎の球体は、伊丹やG3-Xたちがトロールを狙っている間に、その速度を生かしてかなり門の手前まで接近していた。

このままぶつかってしまうのかと思われたが、

 

「火炎砲、撃てっ!!」

 

SATオメガリーダーの命令を聞き、SAT隊員二名は銃眼から火炎放射器の噴射口を出して引き金を引き、数百度の火のついた燃料を浴びせた。

 

ブヒィイイイイー!」

 

球体二つは火だるまになった瞬間突然変形し、生き物の姿となって悲鳴を上げてのた打ち回る。

 

「あれはオークか…」

 

怪物の大きさはトロールよりも小さかったが、豚のような顔を見て伊丹は、これもファンタジー作品によく出てくる『オーク』と特徴がよく似ていたため、そう呼ぶと、狙いをオーク二体に合わせて銃弾を喰らわす。

当初は火をまといながら地面の上を転がってもがいていたオークは、銃弾が命中すると血しぶきをだし、ピクッと一瞬痙攣すると動きが止め、地面に崩れ落ちる。

 

ジワリジワリと火にあぶられ激痛に苦しみながら死んでいくのは苦しいだろうと感じた伊丹が、敵にかけたせめてもの情けであり、おとなしくなったオークは、そのままこんがりとした丸焼きになっていった。

 

「「「「うおおおおおおおー!!」」」」

 

「また来たぞ!」

 

「(くそっ、航空支援まだかっ!…)」

 

動かなくなったオークを見届けていた矢先、もうすぐ晴れそうな砂煙りの向こうから、また歓声が接近してくる。

また後ろから来た敵の増援だろう。

先頭を倒しても後ろからまた次が絶え間なくやって来る、さっきからずっとこの繰り返しである。

 

伊丹は一刻も早く、より広範囲に素早く強力な火力を投射可能な航空機による支援が早く来ることを願い、隊員たちと一緒に直ぐに弾を給弾すると、また煙の向こうで道路を埋め尽くしているだろう敵に向けて射撃し続ける。

 

 

 

 

…ゴォオオオオオオー

 

「……!? やっと来た!!」

 

 

そうしているうちに、伊丹の耳にようやく待ち望んでいた噴射音が聞こえてきたことで、思わず喜びの声を上げる。

最初は小さく、そして徐々に大きくなってきており、その音の主がだんだん近づいてきている証拠だ。

 

大きくなる音に、伊丹だけではなく東京中で今戦っている警察官や避難する市民、急行中の陸自、そして敵軍の耳にまでもその音が入ってきており、みんなそれが聞こえる方角に思わず視線を向けた。

 

その先にあったのは、太陽が燦々と輝く青空であり、その中にいたのは伊丹や警官たちにとって見慣れた存在でもあり、頼もしい仲間であった。

 

初めてその姿を見た敵軍の兵士たちは、その大きさと不可思議さに見入ってしまったのか、視線を動かさず動きが止まっていた。

しかしそれに対し、伊丹や警官たちは援軍の到着で心に少し余裕ができたのか、笑顔が思わずこぼれていた。

 

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10:11

東京都 上空

 

「中央指揮所、こちらガルーダ1。戦闘地域城上空に到着。高度10000フィート・速度500ともに維持。オーバー」

 

『ガルーダ1、こちら中央指揮所。予定通り爆撃開始、敵を誘い出せ。Good Luck(幸運を)。』

 

「了解。予定通り作戦を推移する。」

 

特殊戦闘爆撃機ガルーダは、音速で飛翔する怪獣との戦闘も想定されているので、本来はマッハ3以上で飛行が可能だ。

しかしガルーダは、今その速度を敵に見せつけることはせず、それよりも作戦通り自分の姿を見せつけるために、その速度を抑えていた。

 

コックピットに乗る佐々木は、中央指揮所と連絡を取り合い、煙の上がる東京とそうさせた眼下の敵軍に対してひとつ舌打ちすると、作戦通りに動き出した。

 

「下部噴射口作動、ホバリング開始。」

 

佐々木は敵勢力化のど真ん中近くの適当なところで、下部の噴射口から火を吹かせ、機体を重力に逆らわせて落ちないようにさせる。

下の道路にいるのは最前線に向かっていた、敵歩兵やオークにトロール。

 

真下にいるやつも、皇居を攻撃していたやつらも、道路に溢れかえり地上を進撃しているやつらも、彼らからすれば見たこともない謎の飛行物体は興味を引くものであり、なんと敵は思わず少し観察しようと、呑気に攻撃の手をやめ足を止めてしまっていた。

 

だが、ガルーダがホバリングしてわざわざ敵に自分の姿を見せているのは、こうやって自分に見とれさせ敵の攻撃の手を緩ませること、というのが最大の目的ではないのだ。

 

ウェポンペイ(爆弾槽)オープン。JDAMセレクト。座標入力。」

 

佐々木がタッチパネルを操作していくと、ガルーダの機体の底にある、ウェポンペイと繋がる扉がゆっくりと開いていき、中にアームによって掴まれたミサイルやGPS誘導爆弾(JDAM)が下からは見えていた。

だが敵兵士たちは中に入っているのがなんなのか、これから何をしてくるのか分かっていないようで、全くその場から動こうとはしない。

 

「(くたばれ!) JDAM、投下!」

 

佐々木はそう心の中で一言叫ぶと、操縦桿についている発射ボタンの一つを押した。

ウェポンペイ内に収められていた兵器のうち、2000ポンド(907kg)JDAMを掴んでいたアームが、その手を広げると、JDAMは重力に従いつつ、安定翼で方向を調整しながら、敵が待ち受ける地面に向けて落ちていく。

 

敵もそれも見て、なにか嫌な予感を察したのか一目散にその場から離れようとするが、そんな行為など気休めにもならなかった。

 

2000ポンドという、航空機に搭載する通常爆弾の中でもトップクラスの破壊力を持ったこれの炸薬量は400Kg以上。

砲弾やミサイルと違い、爆弾は航空機で運ぶので遠くへ飛ばすための火薬やジェットエンジンがいらないぶん、同じ大きさでもより多く炸薬を積める爆弾は、威力が大きくなるものだ。

 

先程から行われていた艦砲射撃をはるかに上回る爆発が、千代田区内で発生し、衝撃波で近くにあった鉄筋コンクリート製のビルの外壁が崩れたりひびが入ったり、窓ガラスに至っては数百m離れた場所のあるものまで割れてしまった。

 

もちろんそんな威力の爆撃を受けて敵の兵士たちが耐えられるはずもなく、大勢の敵兵士たちが艦砲射撃と同様だがより大規模に、一瞬にして衝撃と熱で吹き飛ばされ、大小の破片を半径数百m圏内にばらまいて切り裂き、爆音で100m以上離れているが耳を防いでなかった者の鼓膜を破壊したのであった。

 

----

 

敵勢力圏内上空

 

ボォオオオオオオオン!

 

地上から3Km上空にで停止しているガルーダは、かなり離れた場所からでも確認することができた。

当然、ワイバーンに乗っている竜騎士たちも同じだ。

 

彼らは今、後ろで待機していた味方の竜騎士たちが、一瞬にして謎の爆発で壊滅したこともあり、敵の攻撃かもしれないと考え、味方の真上の地面すれすれまでのところで、一旦空中待機していた。

 

竜騎士たちは地上の敵歩兵とともに突然現れた見たこともない物体を警戒し注視していたが、その下から何かが落ちていったのを彼らは見た。

ガルーダを生き物か乗り物が知らない糞か?と考えた瞬間、落ちたと思われる場所から巨大な火の手が上がり、その音と衝撃に少したじろく。

 

現在ガルーダが飛んでいるのは味方が制圧した地域。

火の手が上がったあの場所には、おそらく味方が多数いただろうが、あの爆発でいったいどれほどの被害が出たのか想像もつかない。

 

しかも、それは一回だけでとどまらず、飛行物体は下から何かを落としながら、ゆっくりと移動を開始していく。

火柱が連続して上がって行き、黒煙の壁が作られていった。

 

竜騎士たちは、は生き物なのかもよくわからないガルーダを、とりあえずあれが味方でなく、相手の仲間であることは理解できた。

だが肝心の味方は反撃している様子は見えない、というよりできない。

後方で空中待機していた竜騎士は、先程突如爆発し、前線にいた者を除き全滅、そして地上の味方が弓矢を放とうとも、それが届くような高さに奴はいなかった。

 

唯一対抗できるのは、空を飛べる竜騎士のみなのは明白であり、後方の予備部隊が全滅した今、前線で戦っている自分たちしか対抗できるものはいない。

加えて、あれだけ大きな獲物を落とせば自分は英雄になれるだろうし、褒美もたらふくもらえるに違いないだろう。

 

残った全ての竜騎士たちは、ガルーダの行為を見てそんなことを思っていたが、彼らには簡単には行動に移せない迷いがあった。

先程、ここの現地人を追い回していた際突然聞こえてきていた音に振り向けば、空に漂う煙と、落ちていく火にまとわれたワイバーン達の姿が、竜騎士達の頭の中にはあった。

 

何が起きたかはよく理解できていないが、後ろで待機していた仲間を一瞬で消し飛ばしたので、奴は敵なのだと、何となく想像できた。

 

味方の弓など届くわけもない高さにいるので、あれを落とそうとすれば、かなりの高度を取らなければならないし、そうしたら目立ってしまうのでまたさっきのような攻撃を受けるかもしれないだろうし、それを回避できるのかもわからない。

 

だからやめておこうかと思うが、このまま好き放題させれば味方がガルーダからの一方的な攻撃に全滅する可能性もある。

だったら排除しなければいけないが攻撃を受けるかもしれないし……

 

と、二つの気持ちの葛藤に苦しんでいた竜騎士達であったがのだが、そんな彼らに願ってもみないチャンスが訪れた。

 

突如ガルーダが、爆弾の投下をピタッとやめ、いきなり高度を下げ始めたのだ。

ホバリングのために作動させていた下部噴射口が出力を弱め、銀色の機体が降下していく。

 

2Km、1Km、800m、500mと、ガルーダは結構な速度で高度を下げていき、このままでは地面に激突するのではないか、見ていた竜騎士達の頭にそんな考えがよぎった。

 

だがガルーダはその前に動いた。

ブースターの出力を上げると、数千トンはある機体を重力に逆らわせ、再び空中で静止した。

その高度は僅か100m少し、ビルの30階に相当するものだが、かなりの低空だった。

 

「jkg'(&EDQd54ta!」

 

はたから見れば、ガルーダは自分から敵の攻撃を受けやすくしているという理解不能な行動をとっていたが、さっきからその一連の行動を見ていた竜騎士たちは、ガルーダが静止し続けているのを見て、しめたとばかりに一斉に動き出す。

 

さっきまでの高さにいられれば、何もない空の中に自分の姿を長いあいださらけだしてしまい、いい的にされかねない。

だが今の高度なら、彼らの故郷では見たことのない高さの建造物の陰に隠れつつ接近でき、空に姿をさらす時間もほとんどない。

奴にまとわりつければ、敵も味方を巻き込んでしまうかもしれないので攻撃を躊躇してくるだろうから、攻撃を続けることができる。

ただ、高度を上げ始めて上空に逃げ出したら、仮に倒したあとやられた仲間と同じように、上空に姿をさらけ出しかねないので、その前に下へ急降下して逃げる。

 

残っている竜騎士たち全員は、勝利と手柄を手に入れるべく、頭の中で戦術を考えつつ相手がみすみすくれた千載一隅チャンスに乗っかっていき始めた。

 

二頭で一つの隊を組んでいる残りの竜騎士達は、片方がもう一頭に乗る仲間に声をかけると、ガルーダの方向にワイバーンの頭を向けるとすぐさま出発した。

彼らはワイバーンを巧みに操り、いったん高度を下げなるべく地面に近いところを飛行しながら、ビルの陰に隠れてガルーダの近くまで接近していく。

 

褒美に釣られてハイエナのように、あちこちから忍び寄ってくる敵の存在に気づいていないのか、ガルーダは一向に高度を維持したまま動こうとしない。

そうしているうちに近づけた竜騎士たちは、ワイバーンの頭と体を上に向け、少しでも早くやつに近づけるように、スピードを一気に上げて上昇を開始していく。

 

翼を強く羽ばたかせ向かっていくワイバーンは、上昇速度時速100km程を出しながら、100m少しの空間を一気に詰めていく。

 

「ja)(!$(&!lgao!」

「agu%$9galp+!」

 

ゴミに集まるコバエのように寄ってきた竜騎士たちは、ボケっと居座っているガルーダにワイバーンを襲わせる。

肉を簡単にずたずたに引き裂くことができそうな鋭い牙や爪が、ガルーダの皮膚にくい込むかと思われたが…

 

ガキッ!

 

「!? ギュァアアアー!」

 

ワイバーンは突然襲ってきた激痛に悲鳴を上げた。

見ると、ガルーダに突き刺さっているはずの牙や爪がポッキリと折れていた。

 

対してガルーダのグレーに光る表面は全くの無傷であった。

といっても、数十万から百万に迫る温度の熱戦光線を発射してくる敵に対抗すれべく作られた、この超耐熱合金『NT-1S』がこのくらいで貫かれることも、目で見てわかるほど削られることも、あるはずもないのだが。

 

他の竜騎士たちのワイバーンも同様、牙や爪は全く歯が立たなく、空にはワイバーンたちの悲痛な叫びがこだましていく。

竜騎士たちは、今までワイバーンが破壊できなかったものなど見たことがなく、経験したことのない事態の発生に衝撃受けていた。

ワイバーン最強の武器が潰され、いったいどうこいつと戦えばいいのか?

 

竜騎士たちは必死に攻略法を考え、とりあえずワイバーンに体当りさせたり、尾の一撃を食らわせたり、上に乗っかって踏んづけたり、考えつくだけの残された攻撃法を試したいくが、屁でもないようにガルーダは微動だにせず硬度も変わらない。

 

無駄なあがきを繰り返す竜騎士たちは、そうしている間に残りの全てのワイバーンが集まっていた。

最初は30近くいた竜騎士たちも、後方待機中の者が全滅、前線で戦っているものもパトレイバーやG5ユニットのような警察の重火器が使用されてくるようになると各個撃破され、すでに半数近くに減っていた。

 

でもこの時、これだけで束になってかかっても墜とせなないなら、手柄は欲しいが倒せない相手といつまでも戦っていてもしょうがないので前線に戻ろう、そう竜騎士たちは考え始めた。

 

しかし彼らは気づいていなかった、全員集まった時点で、いや前線から一人も竜騎士がいなくなった時点で、自分たちが自衛隊の仕掛けた罠に、まんまとはまってしまったいたことを、

竜騎士たちの背後に、死神はもう迫っていた。

 

----

 

『中央指揮所、こちらグリフォン。ドラゴン型、全てガルーダに食いつきました。』

 

『中央指揮所、こちらガルーダ1。早くこの鬱陶しいハエを追い払ってほしいんだが。』

 

残っていた全ての竜騎士たちが、わざわざ攻撃しやすいよう高度を下げてホバリングするガルーダを絶好の獲物とし、まんまと前線を離れて集結したことを、監視していた偵察機グリフォンは確認しており、中央指揮所に連絡を入れていた。

 

一方、痛くも痒くもない攻撃を受け続けているガルーダ1に乗る佐々木も、耳に入ってくる金属をたたくような音と、群がるワイバーンが鬱陶しいので、そろそろ消して欲しいと思って連絡を入れてきていた。

 

『こちら中央指揮所、了解した。これより次の段階に移行させる』

 

中央指揮所も両者の連絡を聞き、作戦を次の段階に移すことを決めたようである。

 

『ガルーダ2並びにエルボー(第305飛行隊)マーチ(第302飛行隊)、こちら中央指揮所。作戦を次段階へ移行する。全火器の使用を許可。ただちに、敵航空勢力を壊滅されたし。オーバー。』

 

『『了解。』』

 

その言葉を、狭い操縦席に座りながら待っていたガルーダ2番機や第305飛行隊(エルボー)第302飛行隊(マーチ)のパイロットたちは、すぐさま操縦桿を倒して敵の方に針路を向けた。

 

ガルーダ2番機は、前線近くで目立たないようなるべく高度を低くして待機していたが、すぐにエンジンを吹かせて速度と高度を一気に上げ、パイロットはその大柄な機体を巧みに操り、ビルもしっかり避けていく。

 

ホバリングできない第7航空団・第305飛行隊の戦闘機、『F-15J イーグル』と第302飛行隊の多用途戦闘機『F-35J ライトニング』は、それとは対照的に実は爆弾を落としていた時のガルーダ一号機よりもさらに上空、高度10km以上で待機していた。

そこを飛んでいる両機種は、地上の敵軍や竜騎士たちからはとても小さくしか見えず、音もよく聞こえないところだった。

 

晴れているので見えないことはないのだが、敵軍はどれも初めて見るガルーダばかりに視線が集中していたことで、その上のF-15Jたちにはほとんど気づかず、音もガルーダの噴射音にかき消されていたので、存在を知られず近い場所にに潜むことができていた。

 

『エルボー(マーチ)各機、こちらエルボー(マーチ)リーダー。攻撃開始! 安全装置解除! AAM-4スタンバイ! 敵飛行生物群を正面に!」

 

『『了解!』』

 

そして攻撃命令を受けたことで、第305飛行隊と第302飛行隊は、全機の機首をただちに地上にいる敵に向けさせた。

F-15JとF-35Jはなるべく速度を抑えつつ、鷲と雷のごとく空気を切り裂きながら敵との距離を詰めていく。

 

怪獣にはあまり意味がないステルス性能を持っているF-35Jも攻撃に混じっているが、これは数の関係上、致し方のないことだった。

 

空自の一飛行隊は、2チーム合計24機程で構成され、1チームは大体12機ぐらい。

しかし当初ワイバーンは30体近くいたので、F-15Jの一飛行隊総数24機を上回られていたのであり、そのため第302飛行隊のF-35Jも、今回F-15Jの支援として出撃してきていたのだ。

 

だが、最近航空自衛隊に押し寄せるステルス化の波で導入されたF-35Jは、最高速度や兵装搭載料ではF-15に劣るものの、高いステルス性能、高度なセンサー・データリンクシステム、それを利用した強力な対地攻撃能力を持っていたり、機体が小さい分小回りも利くので格闘戦も優れる、優秀な多用途戦闘機(マルチロール機)だった。

 

当然、怪獣相手にステルス機能はあまり意味がないことが多く、仮りに損失した際の損害額もF-35Jの方大きいので、対怪獣戦闘等においてF-35Jが投入されるのは基本的に対地攻撃時のみであり、怪獣との空中戦などは大抵F-15Jに任せられていたが、足でまといになるような存在ではない。

 

3代目の制空戦闘機として長年主力を担ってきた『F-4EJ改 スーパーファントム』の後釜を心配することなく任せられる力を持っているのであり、これでようやくF-4EJ改は肩の荷が織り、古いものは退役し、製造日が最近のものでまだ飛べそうなものは予備役となり、第一線から退くことになったのである。

 

余談だが、現在の主力であるF-15Jについても、三次元推力偏向ノズルを装備して機動性を高め、主翼やエアテークを『F-22 ラプター』と同様の形状にしたり、半没式兵装ステーションや傾斜尾翼の採用により出来るだけステルス機能を高めた『F-15J改 イーグルプラス』の配備が、中国やロシアに近い飛行隊に優先して始められており、今後空自の防空力はさらに向上していくことになるだろう。

 

「「「「「ターゲットロックオン(目標補足)!」」」」」

 

パイロットたちは素早い手つきで中射程空対空ミサイル(AAM)の発射準備を整えていき、コンピュータはレーダー画面に映る目標を、相手がかぶらないように自動的に振り分けていく。

このレーダー画面は、データリンクによって、各機のレーダーや空自のレーダーサイト、イージス艦のレーダーの情報が集約され総合的に処理され、仮に自分のレーダーが探知できていない目標も画面には映すことも可能である。

 

だがこの時、映されている画面に映る敵影は、グリフォンが確認していた数より、少し少なかった。

 

「エルボー(マーチ)各機、こちらエルボー(マーチ)リーダー。AAM-4ファイア(撃て)!」

 

「「「「「FOX1!」」」」」

 

部下の達が敵をロックした事を確認すると、両飛行隊長は直ちに発射を命じ、各機の翼下とウェポンベイに搭載されている『99式空対空誘導弾(AAM-4)』が放たれていく。

 

AAM-4は、戦闘機だけでなく巡航ミサイルにも対応可能な、射程50km~100kmにもなる中射程AAMだ。

GPSやジャイロを使った慣性誘導と発射母機からの指令誘導、そして自身が搭載するレーダーを使って敵を探して突入する、アクティブ・レーダー・ホーミング方式が取られており、発射した戦闘機は撃ちっぱなしにしてすぐ退避することが可能だった。

炸薬は約20Kg、戦闘機が相手なら破片炸薬が使われるが、これも強靭な皮膚を持った怪獣との戦いを想定し、HEAT弾頭にされたものであった。

 

通常F-15Jは機体の胴体下面4か所にあるランチャーに合計4発が搭載しているが、F-35Jに関してはそのままでは胴体内ウェポンベイに収納しにくかったことから、少し小型化したC型が2発搭載されている。

F-15J搭載のものは通常の大きさのB型であり、C型は小型化した分最大射程が少し短くなってしまったが、それ以外はAAM-4Bと性能は大差ないので、それほど不便なことはない。

 

敵との距離は20kmよりも短く、一般的には短射程AAMの『04式空対空誘導弾(AAM-5)』を使うような場面だが、発射されてからはほとんど母機に頼らず自立して動くAAM-5は複数で距離の近い相手に撃てば、目標がかぶってしまう可能性があり、そう考えると母機のレーダー情報からしっかり判別できるAAM-4の方が、割り当てられた目標にしっかり当てやすいのだ。

 

それと、ガルーダにロックしないようにする目的もある。

ミサイル自体には敵味方識別装置(IFF)はなく、それは発射する母機にしかわからない。

それにガルーダはワイバーンと比べてもかなり大きいので、下手すれば探知しやすいので自然と集まっていく可能性があった。

なので、指令誘導しで味方を避けて敵だけに命中させられるAAM-4が、この場面では最適な選択というわけなのだ。

 

そしてAAM-4は、発射母機が狙う敵との距離が近くなってくると終末誘導に切り替え、自身に内蔵するレーダーを作動させ相手を自分で捉えて始めていく。

F-15Jはただちに切り替わると同時にミサイルに情報を送るのをやめ、機種を上げエンジンをふかしてまた高度を上げて退避していく。

 

ここまでのロックしてから発射そして退避という一連の流れは、ミサイルの速度や距離の関係により、以外にも10秒以内に終わっていた。

 

竜騎士たちは、ガルーダのすぐ近くに張り付いていたり乗っかっていたりしていたので、ガルーダが放つ噴射音にミサイルの音も近づいてくるF-15Jの音にも気付かなかった。

唯一ワイバーンだけは、動物特有の人間より優れた第六感により接近を感じたのか、上に視線を向けてみたが、その時にはすでにAAM-4は放たれていた。

 

離れていく母機に対して目標に向かい続けていたAAM-4は、自身のレーダーが正面に捉えている相手に向けて思いっきりぶつかった。

装甲車並みの防御力を持つワイバーンも、重さ200kg以上の金属の塊がマッハ5でぶつかってきてくれば、その硬い鱗も耐えられなかった。

 

炸薬の威力など関係なく、ミサイル先端は潰れたが鱗は衝撃で砕かれ、衝撃は体内をかけめぐって骨を折り、内臓を破裂させる。

この時点でワイバーンは絶命していたが、追い討ちをかけるように弾頭に仕組まれたHEAT弾頭が起爆、当然メタルジェットは体を貫き、爆発のエネルギーで竜騎士とワイバーンの一部を吹き飛ばした。

 

発射されたミサイルは、ものの見事に全弾ガルーダ1号機の周りを飛んでいたワイバーンを一掃し、市街は煙をまといながら落下していった。

これで終わりかと思われてたが、

 

「ガルーダ2、こちらグリフォン! 残りの5頭、ガルーダ機上!」

 

グリフォンから、敵の生存報告が入ってきた。

 

先ほどレーダー上に映る敵の数とグリフォンが確認した数があっていないと言っていたが、それは故障のせいではない。

ガルーダの上に乗っかっていたワイバーンが、ガルーダとレーダー上で一体化していたためである。

 

だが、グリフォンの高解像度カメラはしっかりその姿を捉えていた。

 

一方、各機のレーダーに映る味方の輝点の中に入っていた事で攻撃を免れた竜騎士たちは、周りを飛んでいた竜騎士たちが堕ち瞬間を見て、恐怖も感じたが味方に当てないその正確な攻撃に少し驚いていた。

 

だが今の攻撃を見る限り、味方に当てるつもりがないので、へばりついている間は安心だと、少し安堵もしたのであるが、そんな考えはいとも簡単に打ち砕かれた。

 

『こちらガルーダ2! 了解しました、直ちに攻撃します!』

 

グリフォンの連絡を受け取ったガルーダ2号機は、ガルーダ1号機よりも少し高度をとり、機体上面にいる敵が見える斜め上から接近した。

 

「ターゲット正面! メーサーキャノン、ファイア!」

 

ガルーダ2号機のパイロットは、ワイバーンを機体の正面に据えると、操縦桿の発射スイッチを押した。

その瞬間、機体から突き出す特徴的な二本の棒、ハイパワーメーサービームキャノンから1000万ボルトの青白いメーサービームが発射された。

 

20万度以上にもなる光線がワイバーンに襲いかかるが、どんなに反射神経が良かろうと、この宇宙で一番速い光を避けられるはずはなかった。

 

メーサービームは数秒ずつ連続して照射され、まともにビームを浴びたワイバーンの鱗も肉も一瞬にしてドロドロに溶かして焼き尽くす。

おまけに体内の水分が蒸発して水素となって空気中の酸素と交じり合い。加えてメーサービームの高熱が加えられることで水素爆発が発生、ガルーダ一号機の機上は白い爆煙に包まれた。

 

『こちらグリフォン! 機上のドラゴン型全滅! 敵飛行怪獣壊滅しました!』

 

グリフォンは残っていた5頭のワイバーンが白煙をまとい体の一部を欠損しながら、力なく落下していくのを確認していた。

そのうち機上の白煙も晴れてきて姿が見えてきたガルーダ1号機だったが、よく見るとグレー迷彩のボディの一部に焦げ目がついていた。

 

ガルーダの機上にいる敵を全滅させるため全体に連射したメーサービームは、やはりワイバーンだけでなくガルーダの装甲にもあたっていたのだ。

しかし、ガルーダ1号機は焦げ目が付いただけで平然と飛び続ける。

コックピットに乗る佐々木に、計器からは何一つ異常は報告されていなかった。

 

超耐熱合金NT-1Sは、もともと100万度にも達する熱戦を吐く地球最強怪獣の攻撃に耐えられるよう設計されたもの。

ガルーダの20万度クラスの熱を浴びたぐらい、表面が少し焦げるだけでなんともないのは当然のこと。

 

HEAT弾が放つ熱は熱は数千度とこれより低いが、あっちは熱より圧力をかけて金属のユゴニオ弾性限界を突破させて防御力を下げたところにメタルジェットで攻撃するものである。

NT-1Sのユゴニオ弾性限界は特殊合金のおかげで戦車の装甲よりも防御力ははるかに高いが、メタルジェットがぶつかってくれば、ビームがミクロ単位の深さでしか表面を焦がさず形の大きな変化もないのに対し、こっちは直径数十cmで深さ数mmから数cmと凹んだりしかねない。

 

航空機の凹みは、機体表面を流れる気流の流れを乱れさせ、本来のスペックより遅くしか飛べなくなったりしてしまうので、後の修理費用もそうだが、今回はその後も戦闘を続行することを考えて、少し距離をとる周りの敵は空自のミサイル、当たりかねない機上にいる敵はガルーダに任せられたのだ。

 

「エルボー、こちらガルーダ1。ハエの駆除感謝する。ガルーダ2もよくやった。」

 

『こちらガルーダ2、ありがとうございます!』

 

「だが気を抜くな、仕事はまだ残ってるんだからな。」

 

『了解!』

 

佐々木は相棒の褒められて喜んでいる声を聞くと、下部噴射口の出力を上げ、ワイバーンが消えた空に向かって高度を上げていく。

 

「中央指揮所、こちらガルーダ1。制空権は確保した。たっぷり礼を返そう。」

 

--------

 

12:16

中央指揮所 情報統制室

 

「…航空優勢、確保しました!」

 

「「「「「よしっ!」」」」「「やった!」」

 

ガルーダ1号機の佐々木から届いた待ちに待った知らせを聞いて、中央指揮所のオペレーターたちは歓喜の声を上げた。

これで安心して航空攻撃が可能になり、今のところ数で勝る敵軍に、広範囲に強力な火力投射が素早く可能になるのだ。

 

「黒木くん…」「特佐…」

 

山地を始め、幕僚長たちは黒木に一気に視線を集めてきた。

黒木はひとりひとりに目を合わせ終わると、ひとつ頷き口を開いた。

 

「これより作戦を第三段階に移行します。各隊への指示お願いします。」

 

「よ~しわかった! 空中待機中の厚木戦闘爆撃隊は、ただちに地上部隊への近接航空支援を開始! 三分間で灰にしてやれ!」

 

「第一空挺団はエアボーンに出発させろ。SFGp(特殊作戦群)CRR(中央即応連隊)もヘリボーン開始だ。東部方面航空隊・特殊無人航空隊も続け。」

 

「第一護衛隊に連絡。SBUもヘリボーンを開始だ。轟天号も上陸し、地上戦を支援せよ。」

 

「八王子駐屯地の第一メーサー攻撃機隊と第一機龍隊は直ちに出撃せよ! 習志野のM中隊残りも、ヘリで急行させろ!」

 

「あぁヒックス中将、こちら統幕長の山地です。空中待機させてた空母航空団に出番だと…」

 

黒木に指示を待ってましたとばかりに、幕僚長たちはオペレーターに命令を伝え初めていき、それはあっという間に各自衛隊へ広まっていった。

その様子を、権藤は後ろから見ていたが、もたれかかっていた壁から背を離すと、小早川に声をかけその場を去ろうとし始める。

 

「権藤一佐、どちらへ?」

 

「…あっちじゃ何があるかわからないんだから、人手は少しでも多いほうがいいだろ。」

 

密かに去りかけた権藤に気づいた黒木が声をかけたが、彼は振り返ると少し笑顔を作りそう答えた。

 

爆撃が始まれば、数万の敵はあっという間に数を減らして、こっち側ではこちらが有利に立つので、ある程度の勝利は見えている。

だが黒木が考えている今回の戦闘における一つの決着点はその先に有り、必要な措置とはいえ彼にとって、いや自衛隊にとって未知の領域になってくるのは間違いない。

それがわかっているからこそ、権藤は黒木の作戦が成功して自衛隊が勝利を得られる確率を少しでも上げるため、戦闘に参加して戦力を少しでもあげようと考えていたのだ。

 

「あなたは調査員ですよ。」

 

「現場に行って生きている連中を生でみてくることは調査にも役立つと思うが、違うかな?」

 

黒木はあくまで怪獣などが関連する事件の調査と、敵の特徴や生態の情報を集める特殊調査員の権藤にはそんなことする必要はない思ったが、彼はやりたいと決めたことには、こうやって何かと理由をつけて行ってしまう。

止めることはできそうになかった。

 

「ハァ~……くれぐれも、無茶はなされないように。小早川三佐、しっかり見張っておいてくれ。」

 

「わかってるよ。」「了解しました!」

 

黒木はため息を一つ吐き、そう一言だけ言うと姿勢を正し、二人に敬礼を送った。

真面目にされたからには、権藤と小早川もちゃんと答えて姿勢を正し、答礼を行った。

 

「…じゃあ、ヘリで行くからよろしく。」

 

「黒木特佐、行ってまいります!」

 

お互い数秒間敬礼し合い、最初に権藤が答礼を辞めると、ヘリを使うことを伝えつつ出入り口に走り去っていった。

小早川も黒木に出発を伝えると、彼のあとに続いていった。

 

黒木はふたりが出ていくのを確認すると、ふたたび情報統制室の大型モニターに目を向ける。

そこに映る対空レーダーの画面には、東京都周辺に味方を示す青い輝点が百以上は確認でき、未だ敵に支配された地域に向け集まってきているのが見える。

 

現場にいた伊丹や警官たちが待ち望んでいた展開が、ついに現実のものとなった。

制空権を確保したことにより、自衛隊と敵軍の攻守は入れ替わったのであり、こちらにとっては大反撃が、相手にとっては本当の地獄が始まったのである。




駄文を長々とお読み下さりまして、ありがとうございました。

切りのいいところで終わらせようと思うと、これだけ長くなりました。すいません。

ガルーダのところは、都市防衛システムでも周りの奴らは倒せるかもしれませんが、ただ空自の出番を書きたかったので止まってもらってました(ちょっと無理がありそうな展開ですが…)。

次回でようやく押し返せると思いますが、そろそろもう一方の続きも書かないと…

今回も、お読み下さりありがとうございました。


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一転攻勢 (中編)

遅くて大変申し訳ありません。
今回は、三万あります、お暇なときにどうぞ。


後方から射程の長い弓兵の援護を受けつつ、一番足の速い馬に乗る騎兵が先頭を行き敵の陣形を崩し、すぐさま盾を持ち鎧を着た重装備の歩兵、そしてトロールやオークといった力持ちの人型怪獣たちが突撃し、蹂躙する。

 

まさしくの中世の時代と同じような戦法を使う侵略軍は、艦砲射撃にさらされながらも、予兆なく行われた完全な奇襲と数、それに勢いに物を言わせ、強力だが限りがあるパトレイバー・SAUL・SATの手が回せなく、機動隊や陸自がまだ到着出来てない地域では、警察に対して優勢を保ち、一般警官たちを蹴散らしていた。

 

その結果、太陽の光を浴びて熱せられたアスファルトの道路の上には、鍵もかけずに放置され、ガラスが割れたりひっくり返ったりしている一般車やパトカーと共に、自分たちが殺したおびただしい数の人間によるカーペットを作られることになった。

 

不幸にも侵略者たちに命を奪われ、見るも無残な姿で血のカーペットに敷き詰められたのは、営業で駆け回る会社員や日本の文化に触れあうため来日した外国人、老後を楽しみ町を歩いていた高齢者、警察官、さらには夏休みに入ったころだったこともあり、他県から旅行に来た子供連れの家族、デートをする高校大学生たちだった。

 

逃げる途中離れないようにと掴んでいた手がつながったまま、背中から切り付けられ息絶えた子連れの親子に若い学生のカップル。

背中から抱えていた赤ん坊ごと槍で貫かれ、子を胸の中に包み込みながら亡くなった母親。

体力も衰えて逃げ切れな意にも関わらず、容赦なく惨殺されたご老人。

圧倒的な物量にもひるまず、民間人のために立ち向かい、そして体中を弓矢や槍で貫かれ散って行った警官。

 

剣山のように背中へ突き刺さった大量の矢、槍で風穴をあけられた腹部、剣で切り裂かれた背中、切り刻まれた腹から飛び出す内臓、折れた首、強力な力でかち割られた頭から飛び出す脳みそ、そして胴体から離れた転がる頭部と、殺され方は人によって様々。

だが戦えようが戦えまいと、男だろうと女だろうと、子供だろうと大人だろうと、赤ん坊だろうと老人だろうと、殺す基準に違いはない。

 

「誰だろうと逆らう者は殺す。」、そんなメッセージを示す見せしめにするためだろう。

 

こうして夏休みで人の賑わいも盛んな今に行われた侵略軍の完全な無差別奇襲攻撃により発生した死者は、すでに千を優に超えており、勢力圏は最大で出現地の銀座4丁目より2㎞を超えており、パトレイバーなどに遭遇していない奴らは、大した抵抗もない快進撃に、大勝利を確信していた。

 

 

 

この時までは。

 

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12:17

 

侵略軍勢力圏内

 

ドォオオオオオオオン!!

 

「オォ……」

 

破竹の勢いで進撃していた侵略軍の足は、ここ数分間止まっていた。

 

おかげで警官たちや民間人は、その間に少し距離を開けることが出来たのだが、わざわざ獲物を逃すのと同意義なこの不可解な行動のその原因は空にあった。

 

先程東京の侵略軍勢力圏内の高度100m少しの上空で、連続して10以上の爆発があり、東京を侵攻する侵略軍兵士の中で、そんな目立つものを見逃した者はおらず、目撃した誰もがそれを見てポツリと呟いた。

 

同時に、東西南北と各方面、最前線で突撃を繰り返す歩兵から少し後ろで馬にまたがりながら指示を出していた指揮官たちは、目の前で起きた事態に焦りを隠せずにはいられなく、額からダラダラと汗が流れ始めていた。

 

無理もない、見たこともなければ生き物かどうかも分からないが、味方を吹き飛ばしたので敵である巨大な銀の飛行物体(ガルーダ)を倒しに向かった竜騎士たちが、上空で一瞬のうちに火だるまにされたからだ。

 

といっても、実はというと皆なんとなくそんな予感はしていた。

 

一応自衛隊からしてみれば、ワイバーンは結局防御力と攻撃力から考えて、今までの出現した怪獣のなかでも雑魚の部類だった。

しかし侵略者の彼らにとっては、矢も剣も通さない鱗をもち、力が強く空も飛べるので、歩兵も騎兵もオークもトロールも勝てない言わば切り札的存在。

彼らの故郷において、ワイバーンを倒すには最低でもワイバーンをぶつけるしかないと言われており、そんなことから竜騎士は地上部隊にとって最も頼られ、彼らが付いている限り恐るものはないとまで信じられてきていたのだったが、その自信はこっちに来てからいとも簡単に打ち崩されていた。

 

タタタタッ! だったり、バァアアアアアー! といった音が聞こえた瞬間、ワイバーンの目が潰されたり強靭な鱗には穴が空いたり、現地勢力とともに現れたオークよりはるかに大きい白い巨人が、手に持った大きな筒から火を放ち、ワイバーンの体に大穴を開けたり、さっきも最前線線の空で援護していたワイバーンたちが、一瞬で粉砕された。

 

現地勢力が次々と繰り出してくる、彼らの基準で見たこともない常識を超えた攻撃によって、最強と信じて疑わなかったワイバーンが敗北していく姿をまじまじと見せつけられていたので、果敢に向かっていく竜騎士たちを見ていても安心感は待ったくなかった。

 

そして結果は、飛行物体にまとわりつくことが出来ていた竜騎兵の攻撃に、相手はピクリとも動かず空に浮かび続け、ついに先ほどやられたようにワイバーンの体が爆発し、おまけにものすごい速さで現れた同じ形をするもう一つの飛行物体から放たれた青い光により、竜騎士たちは一瞬にして全滅。

嫌な予感は見事に的中したのである。

 

そして飛行物体はワイバーンがいなくなると、なぜだか攻撃を再開せず、そのままもうひとつの飛行物体とともに、高度を上げて離れていった。

ほっとするのかと思いきや彼らにとってはもっと深刻な問題は、これで今回の攻撃に投入していた竜騎士たちが、全て殲滅されてしまったことだ。

 

「95jgs、ru*+LGT%w!」

「kgai+POT(YTCBN;opb!」

 

地上に残された兵士たちはざわつき始める。

それは竜騎士たちがいないこの状況で、もし先程現れた飛行物体が戻ってきて攻撃をしてきても、自分たちは反撃することができない、つまり一方的な展開になってしまうことは、たとえ指揮官だろうとやりもって最前線に立たされてる歩兵だろうと容易に想像できた。

 

「「「Lp;sd*{AO!!」」」

 

指揮官たちは動揺する部下を鎮めるため怒鳴り散らし、兵士たちも一応命令に従って口を閉じる。

だが、このまま事態が好転しなければまた騒ぎ出すだろうし、指揮官たちは打開策を練るため、頭をフル回転させ始めた。

 

だが残念なことに、彼らがそれを考えていられる時間など、現地勢力は取らせてくれることはなく、地獄からの送迎は、もうすぐそばまで来ていたのであった。

 

 

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12:18

 

東京都 上空

 

グリズリー(第7飛行隊)各機、こちらグリズリーリーダー。チーム1はエリアA、チーム2はエリアBを爆撃せよ。オーバー。」

 

『『『『了解!』』』』

 

ロイヤルメイス(第27戦闘攻撃飛行隊)リーダー、こちらグリズリーリーダー。そっちはエリアCとエリアDを頼む。オーバー。」

 

『ラジャー。任せてくれ。』

 

ワイバーンがいなくなりすっきりとした東京の空に向け、数十本の飛行機雲が伸びてきている。

 

巡航速度マッハ0.8で飛行し、飛行機雲を青空に描いているのは、厚木基地から飛来した航空自衛隊・第7航空団・第7飛行隊(グリズリー)所属の戦闘爆撃機『F-15EJ ストライクイーグル』と、アメリカ海軍・第五空母航空団・第27戦闘飛行隊(ロイヤルメイス)所属の多用途戦闘機『F-18E スーパーホーネット』だった。

 

F-18Eは、一般的に空母に載っているイメージが強いが、艦載機というのは通常、陸上の航空基地に待機しているものである。

今回の現場は外国ならともかく国内、しかも厚木から充分届く東京都内だったので、いちいち横須賀の空母に向かう必要などなく、第27戦闘飛行隊は、直接第7飛行隊とともに近接航空支援のために飛来したのであり、そのうち残りの戦闘飛行隊も増援に来るだろう。

 

どの機体のハードポイントも、全て500ポンド(226kg)のJDAMを搭載しており、自衛用のAAMなどは搭載されていない。

本当に爆撃のみしか考慮されていないのが兵装から伺え、それはつまり、それだけたくさんの爆弾が必要なほど、多くの敵が存在するということを表しているのである。

 

早く平和を乱す不届きものをたたきつぶしたい、そう思いつつ、第7飛行隊は第27戦闘飛行隊を引き連れてて出撃したのだが、侵略軍が飛行怪獣を引き連れているということで、爆弾を抱えていては機動力が落ちるため、この状態では空中戦が不得意になっている両飛行隊は、安全確保のため東京近郊の空中で30分近く待ち続けさせられていた。

 

そして邪魔者が片付き、ガルーダにも安全のため一時退避してもらった所でようやく中央指揮所よりお呼びがかかった彼らは、今までの鬱憤を晴らすべく、高度一万を取り、亜音速で東京上空に進入したのだ。

 

「「まもなくインレンジ(射程内)、全機チームごとに分かれ、位置に付きしだい爆撃だ!」」

 

侵略軍の勢力圏がまもなく射程内に入ろうかというとき、第7飛行隊と第27戦闘飛行隊は、それぞれの隊長の指示で二つのチームに分かれ、それぞれに配分された勢力圏内のエリアに向け進路を取り、各機はそれぞれ自分の機の真下に道路をつけ、それに沿って飛行していった。

 

「グリズリー2、位置についた」「グリズリー3、位置についた。」「グリズリー14、位置についた。」…

 

「「グリズリーチーム1(チーム2)、こちらリーダー。全機爆撃開始! ウェポンセレクト、JDAM。」」

 

部下たちが機体を予定通りのコースに載せたのを確認し、チームリーダーはついに攻撃開始命令を出した。

ここから爆撃は射程圏に入り次第、各自の判断に任されることになり、待ってましたとばかりに、パイロットたちは機体の速度を上げ、タッチパネルを操作して使用兵器にJDAMを選択し、安全装置を解除して操縦桿のボタンに手をかける。

 

『『『投下用意!…3…2…1…誘導弾投下!』』』

 

20km以上あるJDAMの射程内に入り、命中率を高めるためもう少し距離を詰めていき、その間にパイロット達は最後に、諸元の情報にミスがないことを確かめた。

それが終わって何もなければ、ようやくパイロットたちはそれぞれの判断でボタンを押すことになり、F-15EJとF/A-18Eは、この時のため大事に運んできた爆弾が切り離していく。

 

F-15EJは、長年空自で対艦・対地攻撃を担っていた『三菱 F-1』戦闘機の後継機として、アメリカ空軍の『F-15E』にを日本でライセンス生産し、空対艦ミサイル《ASM》運用能力などを追加した、戦闘爆撃機だ。

 

元であるF-15Eは、原型である制空戦闘機のF-15Cをただ爆撃仕様に変更しただけにも思えるが舐めてはいけない、外見は似ていても中身は別物だ。

強力なエンジンを持ってるF-15は、元々制空任務で対空ミサイルのみを搭載している時点でも搭載能力にとても余裕が有るものだったのだが、そこへ強力なエンジンへの換装と多数のハードポイントを持っているコンフォーマル・フューエル・タンク(CFT)、つまり戦闘機などに取り付けられる固定式の燃料タンクを取り付けたことで、この機体が誇る兵器搭載量は11トンにまで達している。

F-1が2.72トン、ロシアが売り込みをかけてきた『Su-33 フランカーD』のライセンス仕様である『F-7J フランカーJ』が8トンだったことを考えれば、火力の違いは一目瞭然、空自の対地攻撃力は、この機の導入で飛躍的に向上したのである。

 

おまけにこの数字は、爆撃機やガルーダ等の特殊な軍用機を除けば、航空自衛隊どころか世界の軍用機の中でも最大であり、そのため実質このF-15E系列だけが、戦闘機の能力を持ちながら爆撃機並みの搭載量を持つ軍用機、戦闘爆撃機と呼ぶにふさわしい機体と言えるのだった。

 

ただし、少しお値段が高いので、現在は後に開発された『F-16 ファイティングファルコン』をベースにして大型化させた『F-2 ヴァイパーゼロ』戦闘機とハイローミックス運用がなされており、ともに日本の大地を空から守っていた。

 

同様にF/A-18Eも、前任の『F-18A~C ホーネット』と似た姿をしているが、胴体や主翼といった機体各所を一回り大型化、燃料タンクも大型化して航続距離を増大、エアインテークを平行四辺形にしたことによるステルス性の向上、より強力なエンジン換装による兵装搭載量の増強を図っているのでF-15E同様、原型機とは似て非なるものとなっていた。

 

F-15Eには及ばないが兵装搭載量が8トンある上、価格も安く、近代化改修により最新鋭機と遜色ない電子装備を持ち、対空・対艦・対地全てに対応可能なF-18Eは、ステルス機のF-35Cが配備された今も、アメリカ海軍の中で便利屋として強い存在感を持っており、今後長らく現役を続けていく多用途戦闘機(マルチロール機)なのである。

 

ちなみに、昔F-18Eは分類上『F/A』と戦闘(F)攻撃(A)機、つまり攻撃機並みの対地性能を持つ戦闘機として名乗っていたが、近年7〜8トンまで対地・対艦兵装を搭載でき、対空戦闘もそれなりに優秀な戦闘機は、先進国ではいま珍しくもなくなっていた。

F-2やF-35、それに『EF-2000 ユーロファイター・タイフーン』など、これぐらいの能力を持つ戦闘機は先進国では珍しくもなくなり、分類もなんでも出来るということで多用途戦闘機と呼ばれるようになっていったことで、戦闘攻撃機という分類が事実上消滅してしまった。

そのためスーパーホーネットは、F/Aから現在の『F』に改名されてしまっているという訳なのだ。

 

そうして説明したように、高い対地攻撃力を持持っている両機は、大きな搭載量という持ち味を存分に生かして積み込んできた十発以上のJDAMを、雨のように敵の真上へ降り注がせた。

 

破片の危害半径に外を走って避難している民間人を入れないため、敵の先頭ではなく少し後方にロックしているJDAMは、GPS信号と慣性誘導装置で自分の位置を認識し、入力された落下地点に向け安定翼を調整しながら落下していく。

そしてそのままコンクリートの地面に勢いよく叩きつけられると、着発信管を作動させ、周辺に高熱を爆風の嵐を巻き起こしていく。

 

今まで艦砲射撃で飛んできた5インチの炸薬量が大体4kg、世界最大の戦艦『大和型』の零式通常弾が61.7kg、轟天号の50cm砲が70kgに対し、500ポンド爆弾には高性能火薬が87kgも詰まっており、一発の爆発の破壊力は戦艦をも上回っている。

しかも轟天号を含め、戦艦は砲弾の再装填に時間がかかるため、発射速度は一分間に5発もいかないのだが、航空機は一度に10発以上相手へ投射可能であるため、道路には短時間で次々と火柱が立ち上り、爆炎と黒煙の壁を作っていく。

 

ぎっしりと埋め尽している敵の中で起きた爆発は、周囲のコンクリート製ビルの壁にヒビを入れたり崩したり、ガラス割ったりしながら、破片を直径600mの範囲まで飛ばし、爆心地より少し離れたところにはマッハ19に達する衝撃波が襲い掛かり、体をバラバラに、良くて一部を肉片に変えて吹き飛ばしていく。

爆発の直撃を受けたものは、それに加えて数百度の熱を全身に浴び、体を消し炭にされてから爆風で粉々に粉砕される。

 

厚木基地から飛んできたので、最初は今のように西から東へ、それが済めば旋回し、次は北から南もしくは南から北側へ向かって行くので、縦横と支配下にある主要道路に爆撃は行われていくことになっている。

 

亜音速で進む航空機の爆撃に、徒歩と馬で移動する侵略軍が今から退避する事などできるはずもなく、唯一の航空戦力だったワイバーンがいなくなっていたことで…いや、例え居たとしても、ワイバーンは結局黒木たちが今まで相手していたような攻撃力や防御力、ましてや超能力をも持っていない弱小部類の怪獣だったので、高度一万m付近から爆撃してくるF-15EJたちに追いつけず逆に反撃され、撃墜することなど不可能だっただろう。

 

なんにしても為すすべのない侵略軍は、空から落ちてくる人類の鉄槌を、一方的に受け続けることになった。

侵略者たちは、前方から迫り来る爆発に、ただ逃げ惑い悲鳴を上げることしか出来ないが、そんなことはお構いなし。

 

民間人の命を無差別に奪う、そんな大きな罪を犯した代償を、彼らの大半はこれから身を持って払わされていくのであり、業火に飲み込まれる現実を、受けるしかないのであった。

 

 

 

 

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同時刻

 

皇居

 

『警視庁より全隊へ通達! まもなく近接航空支援が開始される! 第一波の爆撃は北と南側で西から東、第二波爆撃は東と西側、北から南と南から北、それぞれ一直線に行われる! 第一波支援の対象方面で戦闘中の者は、耐爆姿勢を取り備えよ! 負傷者搬送のヘリは、爆撃が終わり次第到着予定。以上!』

 

「爆撃が来るぞ!」「「全員、耐爆姿勢を維持!」

 

ワイバーンたちがすべて駆逐され、航空優勢が取れたことために近接航空支援がもたらされることは、当然警察にも情報が行っていたので、航空戦力全滅の事実に呆然とする侵略軍に対し、警官たちは艦砲射撃時同様に、地面に顔を伏せ、鼓膜が破れないよう耳も塞いでいた。

 

ドォォォォォ…

 

「(どこから来…)うわっ!」

「ばか! 死にたいのか! 頭飛ばされるんだぞ!!」

 

一人の若い警官が、戦闘機がどこから来るのか気になって空を見上げようとしたが、隣にいた先輩警官に怒られ、かぶっていたヘルメットを上から押さえつけられたので、地面に顔を付けてしまう。

しかし先輩の言うほうが正しく、そのまま上げ続けていると、顔は下手すれば衝撃波で体から離れてしまっただろう。

 

艦砲射撃時もそうだが、警官たちは度々行われる自衛隊との合同作戦訓練において、巨大な砲弾や爆弾が落ちればどんな事態が起こるのか知識を得ているから、迷うことなく地面に伏せることができるのだ。

 

「もうすぐ来るぞ! さっきまでのより強いから、少し力入れておけ!」

 

「(この音…大きさからしてさっきのガルーダのより小さい。やっぱり相手も多いから、500ポンドをばらまくみたいだな。)」

 

当然、桜田門でもSAULにSATたちは爆撃の揺れに備え、銃眼は閉じて全員踏ん張っており、伊丹はその中で、聞こえてくる爆発音の大きさから、投下しているのが500ポンド爆弾だと冷静に推測していた。

 

『航空隊、第一次近接航空支援開始! 誘導爆弾を投下した! 衝撃に備え!』

 

無線からの連絡を聞いて、警官たちには緊張が走り、みんな息を呑み体を必死に縮める。

 

訓練を何度もやっているとはいえ、本当にそんな場面に出くわすことなど、中々ない。

滅多に味わえない経験だけに、若い者はもちろんだが、そこそこ長いあいだ勤めている一般警官たちでさえ緊張しており、頭の中はとにかく相手が倒されることより、体が無事な事を祈ることでいっぱいいっぱいだった。

ただ、普段から爆撃が起きてる中で戦う想定で訓練されてる自衛官の伊丹には、周りのビビリ具合は少しおかしく見えたので、彼は思わずしかし密かに笑みを浮かべてしまっていた。

 

『着弾5秒前…3…2…1…今!!』

 

カウントが終わると同時に、最初に閃光、次に爆音、そして最後に地面の振動がやってくきた。

ほかの場所は民間人が道路をまだ走っていることを配慮して、侵略軍の先頭に落とすことはないが、ここは安全な中に民間人は避難できているので、遠慮なく真ん前の投下してくる。

皇居周りの道路に土煙が上がり、侵略軍たちの姿はその中に消えていったが、みんな安全を考え、顔面も地面にピッタリ付けていたせいで、その瞬間を直視した者はいなかった。

 

ゴォォォォォォ…

ドォン! ドドン! ドォォォォン……

 

「……よし。」

 

ジェットエンジンの音が遠ざかり、爆音が消えて外が静まり返ったので、伊丹はいったん外の様子を確認しようと、閉じていた銃眼に近寄り開けてみた。

 

とりあえず、艦砲射撃の時同様に周りは土煙と黒煙で視界が悪くなっており、100mほど先までは見えなかった。

 

「どうですか?」

 

「何とも言えないすけど、さっきまでより歓声が少し小さい気がしますね。今まで食らった中じゃ一番きつい奴ですから、結構吹っ飛んだと思いますよ。」

 

「そうですか。オメガ5!、動体探知機に反応は?」

 

『探知圏内に、接近中の生物は確認できていません。』

 

後ろから一緒に覗き込んだSATオメガリーダーは伊丹に聞いてみたが、見えないので何とも答えようがなかったが、とりあえずさっきまで艦砲射撃を受けてもそんなに変わってなかった歓声が少し弱まったことだけは確かだっつあので、その旨を伝えた。

念のため、オメガリーダーはさっきのように煙に紛れて近づかれることを警戒し、動体探知機を装備する部下に聞いてみたが、反応はないとの報告にひと安心した。

 

『第二波近接航空支援は約3分後に予定されている。対象方面の隊員は注意せよ! 爆撃が終了した方面の各員は、奪還準備を開始せよ。以上。』

 

無線からはもうすでに、次の爆撃に備えて西と東方面の警官たちに注意が促されていた。

もう少ししたら進路を変えた爆撃隊が戻ってきて、残りも吹き飛ばしていくだろう。

それと同時に、この町の平穏を奪還の仕上げである、守りから攻撃に移る準備の指示も出された

 

「みんな聞こえたな! 直ちに桜田門裏に集合!」「車両を裏手に待機させろ!」

 

SATや機動隊の隊長たちは、指示を聞いてすぐ部下たちに門の裏で待機するよう命令を出しいき、爆撃に備えて縮こまっていた警官たちは、すぐさま一斉に動き始めた。

 

「(次が終わったら始まるか、奪還作戦。)」

 

爆撃で敵は大量に駆逐され、量の面でこちらは同等に、いや武器の性能差のおかげでこっちが大いに有利になってくきて、遂に奪還作戦の開始される。

そう、伊丹は動き回る警官たちを見つつ、今後の動向を推測していた。

 

 

 

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12:22

 

東京湾

 

F-15EJとF-18Eは、予定通り反転して今度は違う方向から、投下し終えていない道路へ丁寧に爆撃を行い、再び立ち上る黒煙で東京の空は黒く染まっていく。

 

一方大混乱に陥り、火薬の匂いが全域に広まってそうな東京都内に比べ、普段な大勢の貨物船が行き交う東京湾は、非常事態宣言が発令されている今出航する船も入ってくる船もいなく、波も大して立たないとても静かなものだったが、長く続くことはなかった。

 

灰色の塗装され、旭日旗と星条旗を掲げた多数の艦艇たちが、海をかき分け進入してきたからだ。

 

あまり軍事に詳しくない人間なら、単純に航空母艦(空母)を思い浮かべてしまうであろう広大で平らな全通甲板と右舷に寄った艦橋をを持つ『ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)』一隻と『ミサイル護衛艦(DDG)』二隻、そして『汎用護衛艦(DD)』三隻で構成された、第一護衛隊群のDDHグループである第一護衛隊は、緊急出港が命じられてからすぐに離岸、ガスタービンエンジンを全開で回し、海をかき分け最大戦速で急行していた。

 

同じ護衛隊群に所属する第五護衛隊は、ローテーションで哨戒任務で出ているのですぐには来れないが、途中、同じく横須賀基地所属のアメリカ海軍第7艦隊水上戦部隊・第15駆逐隊の一部と、『轟天号』一隻で構成される第零護衛隊と合流していた第一護衛隊は、先ほどからともに東京湾内進入しており、その雄姿を見せているのであった。

 

このうち『あたご型護衛艦』一番艦「あたご」と『あきづき型護衛艦』一番艦「あきづき」は、地上で戦闘を続けている警察やこれから到着するであろう陸自や特自に楽をさせるための支援砲撃が命じられ、両艦は『アーレイ・バーク級駆逐艦』や轟天号とともに、62口径5インチ砲による、100㎞ほどの射程を持つ、主砲のGPS誘導砲弾を用いた、陸上部隊への艦砲支援射撃を行っていた。

 

それに対して、全通甲板のでCIWSやRAM(近接防空ミサイル)くらいしか武装のないDDHや、連射速度が速く対空戦闘能力が高い『54口径127㎜単装速射砲』や『62口径76㎜単装速射砲』を搭載していた残りのDDGとDDは、この主砲は対空・対艦用途と役割が分けられていたことから対地用の誘導砲弾が搭載されていなかったので、主砲を使った攻撃に参加することが出来ていなかった。

 

だが、陸地に近づくまで彼らに仕事がないかといえばそうではない。

 

DDGとDDの艦尾にある格納庫からは、RAST(着艦拘束装置)にがっちり掴まれた哨戒機が、レールに沿ってゆっくりと出され、飛行甲板の中央まで運ばれていき、哨戒機が中央に来たところで停止すると、航空科の作業員たちが駆け寄り、固定が緩んでいないかチェックされていき、DDHの広大で平らな全通飛行甲板の中にある、黄色の線で四角く囲まれた5つのヘリスポットでは、内一つに海自の掃海・輸送ヘリ『MCH-101』が、残りの四つには対潜・哨戒ヘリ『SH-60K シーホーク』が駐機し、エンジンの試運転など最終点検が行われていた。

 

しかもSH-60Kを見てみれば、対地・対艦レーザー誘導ミサイル『ヘルファイア』がスタブウィングに装着され、おまけに『74式7.62mm機関銃』が、ドアガンとして右扉に据え付けられており、88式鉄帽を被って防弾チョッキを着こんだガンナー(銃手)が居座っていた。

 

これから武装工作員などが乗り込んだ不審船の制圧にでも向かっていきそうな装備だが、今回の相手はそんなものではない。

宇宙のどこか遠いところからいきなり押しかけ、民間人を殺し東京を蹂躙する侵略者たちなのである。

 

陸自も出動しているが、相手の数が数だけに陸上で戦える戦力が少しでも欲しい今、海自にも銃器を使った戦闘任務に最も対応しているSBUを、ヘリや哨戒機とともに出動させる準備がなされていたが、空をドラゴン型怪獣が飛翔していたこともあり、ヘリを飛ばすのはあまりに危険だと判断し、仕方なく見つかり辛いが速度が遅い潜水艇による上陸作戦のみが行われており、ヘリボーンはおあずけを食らっていた。

 

しかし先程、敵の飛行生物はすべて駆逐され、航空優勢は遂に確保され、ヘリコプターは使えるようになったことで、中央指揮所から各自衛隊には、航空支援を開始するよう命令が出されていった。

 

ヘリボーンとエアボーン、そして近接航空支援が開始されることとなったので、陸自・空自・特自は早速動き出しており、そして海自も、彼らに続き飛び立とうとしていたのであった。

 

 

 

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DDHはその歴史の中で、『しらね型護衛艦』までは護衛艦に通常より巨大なヘリ格納庫を設けていたにすぎず、搭載数にも限界があり、同時発着艦が不可能であった。

しかし、次級の『ひゅうが型護衛艦』空母と似通った全通甲板になったことで、複数機の同時発着艦が可能になり、より大型の格納庫のおかげで最大10機以上のヘリを運用することが出来るようになり、海自の対潜戦闘力は飛躍的に向上したのである。

 

そして、この『いずも型護衛艦』の一番艦「いずも」は、前級の『ひゅうが型護衛艦』と同様だがより巨大になった、長さ245m×幅38mの全通甲板を持ち、ヘリコプター14機と陸自隊員500人以上、車輌数十両に護衛隊への給油機能まで備えた、海自最大の護衛艦であり自衛艦であった。

 

「艦長! 哨戒・輸送ヘリ、発艦準備まもなく完了! SBUも、全員搭乗完了しました。ほか各艦も、同様です!」

 

「よし。」

 

『いずも型』の特徴として、艦内にはDDHの『ひゅうが型』や、DDGの『あいづ型』・『あたご型』などと同様、護衛隊群旗艦としての役割を果たすため、CICの他にもう一つFIC(司令部作戦室)が設けられているのだが、今回出撃したのは護衛隊と一つ規模が小さいこともあり、第一護衛隊司令長田雄司(ながたゆうじ)一等海佐の姿は、CICに見られた。

 

長田は艦長席で、眉間にシワを寄せ腕を組み怖い顔をしながら座っており、彼の補佐官でもあり副艦長である船務長から、ヘリボーンの用意がまもなく完了するという報告を受け取り、了解したとひとつ頷いた。

 

「それと艦長、『あたご』・『てるづき』の報告ですが、対地誘導砲弾の残弾が、もうありません。アーレイ・バーク級とタイコンデロガ級も、ほぼ同じ状況です。」

 

「チッ…」

 

だがもう一つ副長が伝えてきた報告に対して、彼は不機嫌そうに舌打ちを打った。

 

さっきから全力射撃を行っていた、轟天号以外の『Mk45 5インチ砲』を搭載している各艦の誘導砲弾がそこを着いたと言うのである。

 

防空能力の高いイージス艦の存在があるので、対空目標に主砲を使う距離まで接近される機会が少ないこと、海自の場合はそれに加え、連射能力が高く対空戦闘に有効な76mmや127mm砲を搭載している艦にそれは任せるとして、対地・対艦攻撃に専念させるべく、5インチ砲の弾薬庫の中は通常の榴弾・対地誘導弾とその射程延伸タイプが大部分を占めており、対空砲弾は最小限に止められていた。

 

今回は味方や逃げる民間人を巻き込まないよう、風に流され着弾点がずれやすい通常の榴弾ではなく、各艦は誘導砲弾を選択して毎分20発の最大発射速度で撃ち続けていたのだが、さすがに30分近くも休みなく砲撃していたので、品切れ状態となってしまったのだ。

 

その点轟天号は、第二次世界大戦時から建造に着手していただけに、主砲が主戦力であることや発射速度が遅いこと、それと艦の幅が広いことで多数の砲弾を積み込めるため、まだ余裕を残していた。

 

「よし、『あたご』は巡航ミサイル攻撃に切り替えさせろ。対空警戒中の『みらい』も、攻撃参加を打診。まだ攻撃を緩めるわけには行かん。発射弾数は、毎分二発だ。」

 

「了解しました!」

 

だが、これから地上戦を展開していく陸上部隊を援護するために少しでも敵を減らすためにも、発射速度の遅い轟天号だけに任せて攻撃を緩めるわけにいかないと考えた長田は、「あたご」と今まで支援砲撃に参加してなかった「みらい」に、巡航ミサイルの使用を命じた。

 

今確認されている敵は、数が多い上に砲弾で十分撃破可能だったこともあり、大きくて搭載数が少ない対地ミサイルはすぐ撃ち尽くしてしまうと予想される。

もしもトマホークが空になった後、砲弾が効かない強力な敵の出現といった戦況の変化があった時、対抗する手段がないという事態に陥るわけにはいかなく、それに備えて使用を控えさせていたのだが、砲弾がもうほとんどない以上、解禁する以外道はなかった。

もちろん、一気に撃ち尽くすことはしなかった。

 

「(…もう30分近く。そろそろ出るころと思って全力射撃を命じてたんだがなぁ…早く来てくれよ。)」

 

数分後には陸上部隊への支援が止まってしまうことに焦りを感じる一方で、長田は命令を出す傍、時計を見つつ何かが来るのを待ち続けているようであった。

 

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「艦長、護衛隊司令より命令です。」

 

「うむ…」

 

陸上部隊を支援の為、現在航空機の発艦準備を行っている護衛艦の一つ、『ゆきなみ型護衛艦』3番艦「みらい」艦長の梅津三郎(うめづさぶろう)一等海佐は、薄暗いCICの艦長席に座り戦況を見守っていた最中、副長であり船務長の角松洋介(かどまつようすけ)より、長田司令から出された命令が書かれた紙を受け取った。

 

「…砲雷長、対地戦闘、トマホーク攻撃準備。発射段数毎分2発。」

 

「了解! 対地戦闘用意! トマホーク攻撃準備! 発射段数毎分2発!」

 

『対地戦闘用意!』

 

それに目を通した梅津は、直ちに砲雷長の菊池雅行(きくちまさゆき)三等海佐に、対地戦闘態勢へ入よう指示を出し、菊池は復唱してCICの各員に呼びかけ、それを聞いた通信士が、全艦放送で対地戦闘態勢に入ったことを艦内全域に伝えた。

 

「艦長、我々に対地攻撃が命じられたということは…」

 

角松は、自分たちに攻撃命令が出された背景を、一応艦長に聞いてみる。

 

彼らが乗船している、この『ゆきなみ型護衛艦』は、艦橋周りに取り付けてある特徴的な4つの『SPY-1』対空レーダーから見てわかるとおり、「あたご」同様そのレーダーで360度の空を常に監視し、一度に200以上を同時追尾、そして10以上の目標に同時対処可能という鉄壁の防空システム、『イージスシステム』を搭載したDDGだ。

 

日本の護衛艦で初めて搭載したのは『こんごう型護衛艦』だが、この『ゆきなみ型』はその『こんごう型』の発展型として建造された第二世代のイージス護衛艦にあたり、『こんごう型』にはないヘリコプター格納庫が設けられたことで、DDGとして初めてヘリ搭載能力を獲得した艦となった。

 

ここからDDGはヘリ運用能力を建造時から持つようになり、後に建造された、『ゆきなみ型』より高性能のイージスシステムを搭載しながらも少しコストダウンしつつ、対地攻撃力を増強させた第三世代イージス護衛艦の『あたご型』、より大規模で高性能なイージスシステムを搭載した、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦を上回る、大型イージス護衛艦『あいづ型』と引き継がれていっている。

 

だが「みらい」は、『こんごう型』と同じ、速射性能がよく対空戦闘に有効な54口径127mm速射砲を搭載していたことで、主砲弾は基本的に対空戦闘専念のため、対空砲弾を多めに、通常の榴弾は少なめに搭載されている。

風に流されやすい榴弾は、今回の敵と民間人や味方が近い状況では使えないことから、同じイージス艦の「あたご」がさっきから艦砲射撃を行っていた最中、「みらい」はそれに参加しないで、今までヘリボーンのために航空機を飛ばし、万が一のワイバーン襲来に備えての対空警戒のみ行い、待機していたのだ。

 

「誘導砲弾が切れかけてるか、もう無いかのどちらかだな。」

 

「やはりそうですよね。」

 

その「みらい」に出番が与えられたのは、充分有効だとして使われていた誘導砲弾がほとんど無くなり、対地ミサイルしか安全な攻撃手段が無くなったから。

長田から言われなくとも皆なんとなく想像はついていたのであり、角松も梅津と同じ考えであったことから、そう確信した。

 

護衛艦の装備の中で、対地射撃できる主砲以外のもう一つの兵器、それが巡航ミサイル『トマホーク』だ。

 

敵基地無力化と海自の怪獣に対する攻撃力向上のために導入されたこのミサイルは、全長は6m以上、弾頭には450kgの炸薬を詰め込まれ、最大射程は3000kmを誇る大型ミサイルで、発射にはミサイル垂直発射装置(VLS)か専用のボックスランチャーを必要とするが、『むらさめ型』や『たかなみ型』のような一世代前のDDクラスが載せてる中型VLSには、大きすぎて積み込むことはできない。

『Strike-Length』という最も大型タイプのタイプのみ、これを中に入れることができるのである。

 

さっきから艦砲射撃を行っていた『あきづき型』のVLSは、このタイプを採用しているので載せることは可能なのだが、セルの数が少ないためそっちに割く余裕がないとされたので見送られ、VLSを搭載艦艇のうち、これを扱えるのは、実質的にセル数が多くて余裕のあるイージス艦と潜水艦に限られたている。

 

当然、イージス艦である「みらい」も例外ではなく、全部VLS内にトマホークはしっかりと収められており、だからこそ今まで対地攻撃にはぶられていた「みらい」は、トマホークを使わないといけないこの現状になったため、参加が命じられたのである。

 

「しかし艦長。トマホークは計12発。毎分2発でも、撃ち続けていけば10分で底を尽いてしまうことに。その後は…」

 

「だが、今後突撃する陸上部隊のためにも、敵を弱体化させねばなるまい。やるしかないよ、副長。」

 

だが、防空を主任務とするイージス艦にとってトマホーク搭載の優先順位は低く、VLS内の大半を占めているのは防空に必要な対空ミサイルだ。

次いで多いのが、対潜水艦用のSUM(水上発射対潜ミサイル)の『07式垂直発射魚雷ロケット(アスロック)』、そして最後にトマホークとなっているため、弾数は搭載するミサイルの中で一番少なく、毎分2発のペースで行っても数分で底をついてしまうのは明白だった。

それでも、さっき飛び立ったSBUを含め、警官隊やこれから地上戦を展開していく陸自・特自のためにも、出し惜しみなど出来るはずもなく、道は一つしかないのだった。

 

「艦長、トマホーク、攻撃準備完了。」

 

「うむ、よかろう。対地戦闘、CIC指示の目標。攻撃始め!」

 

ちょうど二人の会話が終わったところで、菊池が発射準備完了を報告してくる。

いつでも参加を申し込まれても、すぐ対応できるよう事前に座標などを入力しておいたおかげで、手短に作業を終えることができたのだ。

梅津は聞いて即座に攻撃命令を出した。

 

「了解! トマホーク、攻撃始め! 発射用意!」

 

「トマホーク1・2番、発射用意よし!」

 

「トマホーク発射始め!」

 

「1・2番発射よ〜い、撃てぇええええ!」

 

梅津の許可を得た菊池は発射を命令、砲雷長の命を受けたミサイル士は、タッチパネル式の発射ボタンに人差し指を置いた。

その瞬間、前甲板に埋め込まれた『Mk.41 VLS』の上に数十も並んでいる金属製の蓋の内二つが開くと、近くにあるブラスト排気口から炎と煙が舞い上がり、前甲板があっという間に煙に覆われて見えにくくなった中、煙を突き破って、二発のトマホークが飛翔していった。

「みらい」が発射してからそう間もなく、「あたご」・アーレイ・バーク級駆逐艦・タイコンデロガ級巡洋艦からも同様に、前甲板から二発のトマホークが飛び出してく。

 

トマホークは、マスト斜め上十数m上空まで来たところで、トマホークは設定された座標に向かうため、先端の向きを真上から水平に変え、VLSに入れる際邪魔になるため収納していた安定欲を広げると、発射に使った固体ロケットブースターを切り離し、燃費の良いターボファンエンジンに切り替え、時速880kmに加速しながら目標に向かう。

 

その後は慣性誘導装置とGPSからの情報を頼りに飛んでいくが、本来は、敵にレーダー等で探知され迎撃されないよう、なるべく地面すれすれを飛んでいくのだが、今回はその心配はまずないので、接敵までにビルなどにぶつからないよう高度を高くとっている。

そして目標座標が接近したことを確認したコンピュータは、安定翼を調節し、水平に向いていたトマホークの先端を真下の地面に向ける。

 

「着弾5秒前…4…3…2…1…弾着、今!」

 

モニター上を移動するトマホークの輝点が、着弾予定地点にたどり着くと同時に、見続けていた梅津や菊池の耳に、オペレーターの青梅鷹志(おうめたかし)から待ち望んでいた報告が上がった。

 

入力された座標とほとんど同じ位置、道路を埋め尽くす侵略軍に降り注いだトマホークは、先端で着弾点にいた敵軍兵士を押しつぶすとアスファルトの道路にぶつかり、すぐ信管が作動して450kgの炸薬が一気に弾ける。

またしてもそれまでを上回る大爆発が起こり、黒煙は高々と立ち上り、数十数百の侵略軍の兵士やオークなどが消し飛ばされていく。

 

「トマホーク、全弾目標に着弾!」

 

「よし。」

 

青梅からの報告で全弾正常に着弾したことを知った砲雷長は、とりあえず安堵した。

 

湾岸戦争でデビューし、ハイテク機器によって発揮する驚異的な命中率で、多くの基地や空港などの重要施設を破壊して無力化、どんなに離れていてもほぼ外れることのない『サジタリウス(神の矢)』とも呼ばれるトマホークは、今回も性能通りの力を発揮してくれたようだった。

 

「砲雷長、まだ気は抜けんぞ。次弾の発射準備を整えておくんだ。」

 

「了解。第二波攻撃準備!」

 

だが、すぐに次の攻撃時間はやってくるし、一分間に20発撃っていた主砲と比べれば、分単位の撃破数は少なく、これくらいで安堵などしていられない。

梅津はそう釘を刺し、砲雷長は再び気を引き締めると、第3・第4のトマホークの発射体制を整えさせていった。

 

 

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「いずも」CIC

 

「トマホーク、全弾目標に着弾!」

 

モニターに映っていた十数個の輝点が、東京都内の敵勢力圏内に入ると、しばらくして消えていく。

輝点が消えたその場所では、本当は敵とは言えかなりの命が散っているに違いない。

だが仕方がない、いきなりの不意打ち、民間人の大量殺戮、これだけやった連中に、同情する気にはならない。

これは友好関係を求めず、事前の話し合いも宣戦布告もなく、真っ先に剣を振りかざしてきたお前たちの自業自得だ。

そう、腕を組みながら見ていた長田は、いやどの国の軍人や警察官も考えているのだった。

 

 

「艦長! モニターを!」

 

その時、通信士が長田にモニターを見るよう促してきた。

言われたとおり視線を向けた長田は、そこに新たに追加された情報を見てみたが、その瞬間に彼は思わず笑みを作ってしまった。

 

「まったくあのアホが…やっと来やがったか。」

 

モニターには、友軍艦を示す青い輝点がひとつ追加されていたが、それがある場所は後方、横須賀基地の近くだった。

戦闘が始まってから未だにそんなところにいる友軍に、長田は悪態をついたのだが、内心は頼もしい仲間の到着を心から喜んでいたのであった。

 

敵味方識別装置から特定された友軍の後続艦の艦種、それはモニター上では轟天号と同く、『戦艦』と表示されていた。

 

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横須賀基地近海

 

横須賀基地に残っていた海自・米海軍の戦闘艦艇は、艦載機は直接向かったで来ることがない『ニミッツ級航空母艦』9番艦「ロナルド・レーガン」を除き、全艦緊急出港が命じられていたのだが、今になってようやく出れたノロマな、しかし「いずも」をも上回る大きさを持つ巨艦が一隻いた。

 

艦体前方には、轟天号の50cm砲や大和型の46cm砲には及ばないが、最大射程38km、口径は40.6cmもある二基の三連装主砲が搭載されており、轟天号と同じく、大口径の主砲で相手の射程外から攻撃して倒すために作られ、航空機とミサイルの発達で消えてしまった筈の艦種、戦艦であることが伺えた。

 

全長は270m、史上最大とされる大和型戦艦を上回る世界最長だが、幅は32mとパナマ運河を通るため、大和型より細く設計されている。

最高厚500mmの装甲を持つ艦体のデザインは、ゴツゴツと角張った部分が多く、ステルス性の意識などこれっぽっちも見られない前時代的な雰囲気を漂わせ、搭載するボイラーエンジンは、1億9800万ワットの出力で満載排水量6万トンの艦体を動かす。

 

第二次世界大戦時に就役し、二度の退役を迎えながらも、結局復帰して今尚世界各地で平和に貢献し続けている歴戦の勇士。

『アイオワ級戦艦』3番艦「ミズーリ」の姿がそこにはあった。

 

「ミズーリ」は現在、出遅れた分を取り戻すべくエンジン出力を全開にし、純粋な戦艦としては世界最速となる、30ノットを超える最大戦速で、東京湾を目指し急行中であった。

乗組員たちはもちろん、対地戦闘準備を整えて、それぞれ配置につき、命令を待っていた。

 

「まだ、終わってないみたいだな。」

 

その「ミズーリ」の艦内奥深くにあるCICで、戦場の様子が映るモニターを見たアレックス・ホッパー大佐は、まだ戦いが終わっていないこと、不謹慎ながらホッとしてしまった。

 

もちろん、彼にとって戦いとは出来るだけ早く終わって欲しいのは間違いないものだ。

しかし、自分たち軍隊はこういう時に戦うために存在するのであり、毎日その時に備えて必死に訓練している。

そして今がその力を発揮する時なのに、仲間たちに任せてばかりで自分たちは何もしない出来なかったなんて、彼もそうだがこれに乗る乗員たちのプライドも許せなかった。

 

だから、なんとか戦いが終結する前に出港でき、戦いに参加できることに安堵していたのでった。

 

「キャプテン、『いずも』キャプテンのナガタ一佐が交信を求めています。」

 

「…繋いでくれ。」

 

その時、通信士がホッパーへ、「いずも」艦長つまり長田一佐から連絡が入ってきたことを報告した。

長田という名前を聞いて、ホッパーは少し苦い顔をしたが、出ないわけにはいかないので、手前にある受話器に繋がせると、それを手に取った。

 

「ナガタ一佐、こちらはホッパー大佐。少し遅れてしまったが、これから攻撃に参加する。」

 

『歓迎するがホッパー大佐、だいぶ遅刻したな。』

 

「いや、ナガタ! 遅れたのは悪いと思っている! だが、その…これは…」

 

「わかってる。エンジンの特性上遅いのは知ってるし、数分くらいはまだ誤差の範囲で仕方ないことだ。みんな知ってるよ。」

 

ホッパーは交信してきた長田に挨拶したが、長田はホッパーが遅れてきたことに触れた。

長田という男は、ルールを重んじており遅刻が嫌いな正確だということを、今までの交流から知っていたホッパーは、怒られると思って慌てて謝り、理由を話そうとするが、長田は知っているとしてそれをやめさせた。

 

「ミズーリ」が遅刻した原因、それは搭載するボイラーエンジンのせいだった。

ボイラーエンジンは動けば出力はとても高いのだが、その分ガスタービンやディーゼルエンジンよりも瞬発力が低く、火を入れてから温まって始動するまで数十分を有してしまうかなり癖のある代物であり、スロースターターだったのだ。

 

当然、そんなことは長田たち海自を始め、世界中の軍隊が知っていることで、このくらいはまだ誤差の範囲内だったので、長田は別に怒るつもりなどなかった。

 

『…だけどな、その遅刻のせいでこっちは今まで火力不足、補うために全力射撃しないといけなかったんだ。来たからには、遅れた分みっちり働いてくれよ。』

 

「…あぁもちろんだナガタ! 任せてくれ!」

 

だが彼らが遅れてきたことで、水上部隊の火力は大幅に減っており、そのために他の艦がいつもより多めの砲撃をせざる負えなかった。

一応全力射撃を行っても、「ミズーリ」が来るまでは持つと考えていたから長田は命令を出していたが、結果的にぎりぎり間に合わずトマホークまで使うことになり、こっちに負担が掛かっていたのは確かで、その分働いてもらうことへの期待を込めて、長田は彼に労いの言葉をかけた。

ホッパーも、とりあえず怒られなくて安心すると、迷惑をかけることになったのは事実と受け止め、自分たちのカバーをしてくれた長田たちへの借りを返す気持ちを込めて、大きく元気よく返事した。

 

『いいか、こっちはお前らが少し前に来ると予想して全力射撃してから、もう誘導砲弾がない。だから巡行ミサイルに切り替えたが、こっち数が少ないから長時間継続はできない。だがやめる命令は出てないし、陸上部隊のためにも、まだ砲撃支援を緩めるわけには行かないんだ。』

 

「状況はわかったナガタ。だが心配することないさ。数も火力も俺たちがしっかり穴埋め…いや数倍で連中に届けてやるよ。」

 

『おお、さすがは戦艦だな。熱血バカのお前にお似合いだ。』

 

「おいナガタ、最後は余計だぞ。」

 

長田は兵装の現状報告を報告したが、それを聞いたホッパーは、心配など一切していなかった。

むしろ、今が自分たちが乗る戦艦最大の本領、大量かつ圧倒的な攻撃を長時間持続して行える戦闘力を存分に発揮できる絶好の場面だということで、余計に気合が入っていた。

 

長田はそんなホッパーをちょっとからかえば、案の定、ホッパーはまるで子供のように強く否定してきた。

リムパックでの一件含め、相変わらず変わっていない戦友の雰囲気を、お互い会話の中で感じており、双方いつの間にか緊張はほぐれてきていた。

 

『とにかく、海上からの支援砲撃は、轟天号は空に行ったから、これからはお前らがメインでやってくれ。俺たちは弾数が少ないから、長く撃つために毎分から数分で一発に変更させてもらうぞ。あぁそれと、やっていいのは…』

 

「門とその周辺以外だけだろ。大丈夫だ、司令部から指示は受けてるよ、ナガタ。そっちはそれでやってくれていいぜ。のんびりやっといてくれ。」

 

結局長田は自分の発言を訂正することなく海自の行動を淡々と伝え終え、一応注意点も教えようとしたが、それはホッパーも知っていたようで、彼はさっきの長田の発言を気にしてはいたが、あいつがそんなこと言うのはいつものことだとすぐ割り切り、長田の提案を受け入れた。

 

『そうか。じゃあ、よろしく頼むぞ。』

 

「あぁわかった! そっちも気をつけてな! また後で会おう。」

 

交信はそこで終わり、無線が切れるとホッパーは再び視線をモニターに向けると、東京都内の侵略軍勢力圏内に、多数のロックを示すマーカーが表示されていた。

 

「レイクス! 準備は出来てるか!?」

 

「はい、キャプテン。誘導砲弾とミサイルの座標、エネミーゾーン(敵勢力圏)にセット完了。いつでも、エイリアンどもの頭にぶち込んでやれます。」

 

「よし。」

 

ホッパーはそれを見て、この艦の砲雷長を務める黒人の女性軍人コーラ・レイクスに確認すると、彼女はホッパーが長田と交信する前に始めさせていた攻撃準備が、すべて終わっていたことを伝えた。

 

レイクスはホッパーがこの「ミズーリ」に着任する前、今は亡きアーレイ・バーク級駆逐艦3番艦「ジョン(J)ポール(P)ジョーンズ(J)』に乗っていた時から、ホッパーの部下として任務に就いており、長田と同様ホッパーにとっては死線をくぐり抜けてきた戦友であり、彼女の他にも何人か同じような境遇の人間が、この「ミズーリ」には集まっていた。

 

「攻撃開始だ! トマホークは分刻みで射撃、それ以外は全力攻撃で行くぞ! 東京方面に左側面を向けろ! 回頭が終わったら、射撃を開始する! エイリアンに遠慮はするな!!」

 

「「「「「アイサー!!」」」」」

 

これ以上誰も死なせもしないし、仲間にも迷惑をかけない、そう決意を固めたホッパー、直ちに攻撃開始を命じ、乗組員たちも、気合を入れて艦長に答えた。

 

「面舵いっぱい! 方位090! 回頭終了後、スクリューピッチ全速反転。方位そのままで停船!」

 

ブリッジ(艦橋)で航行指揮を執る、航海長のジミー・オードの命令で、操舵士は舵を回して面舵を取ると、「ミズーリ」は東京に向けていた針路を、真右横90度に船首を向け、波を荒立てながら回頭していく。

ホッパーは当初、東京へ向かいながら支援砲撃をしていこうと考えていたが、長田たちの火力が残り少ないと聞いた以上、陸上部隊の援護のために、東京湾入りは後回しにして、すぐ全力射撃に移ることにしたのだ。

だからホッパーはミズーリを回頭させ、戦艦がすべての火器を使用でき最大の攻撃力を出せる側面に、東京をおいたのだ。

 

『第一・第二主砲塔、方位260に振り、仰角50度に合わせ。第一砲塔は発砲命令あり次第、一番砲を発射。その後左へ5度振り、二番砲を発砲。次に…』

 

『主砲弾装填!』

『薬嚢装填! 装薬よし!』

『砲扉を閉め!』

 

艦が回頭していくのと一緒に、前部に二基ある50口径(口径長)40.6cm三連装主砲が、ゆっくりと左回りに回転していく。

砲塔内では、重さ1トンある誘導砲弾が弾薬庫から上がってきて、砲身内奥まで押し込められ、次に丸い極太チーズのような、白い布で火薬を包んだ薬嚢がその後ろから入れられると、分厚い砲扉が閉められ、約30秒もかけた装填作業が終了、終わった砲身から角度が合わされていく。

 

「第三砲塔への電力供給配線、開放。チャージ開始!」

 

『レールガン、方位270に振れ。』

 

機関室長のウォルター・リンチが、使用時以外は使わない電力配線のロックをとくと、第3砲塔に向け、1億9800万ワットの電力の一部が流れていく。

 

後部の第3砲塔は、見た目は前部の主砲と全然変わらないものだったが、砲身の数はニ門と減らされており、物足りなく感じてしまうかもしれないが、実はこの砲、中身は前部にある主砲が石器時代と思えるほど強力なハイテク兵器、『レールガン』だったのである。

 

『出力20%…40…60…80…チャージ完了。』

 

【電位差のある二本の電気伝導体製のレールの間に、電流を通す電気伝導体を弾体として挟み込んで、この弾体に流れる電流とレールに流れる電流に発生する磁場の相互作用を使って、弾体を加速させて発射する】、という難しい科学知識を使って攻撃するこのレールガンは、砲身内に二つのレールが入っていることからそう呼ばれている。

 

電気と磁場で砲弾を撃つので、40cm主砲のように火薬がいらず安全で、その最大射程は通常弾でなんと数百km単位、これは対艦ミサイル並かそれ以上であり、射程延伸弾を使えばさらに伸びていく。

 

一発あたりのコストもミサイルより安いといいこと盛り沢山だが、その代わり発射には大量の電力を使う必要があり、発電力のある大馬力のエンジンを搭載していなければ使用は不可能だ。

しかし「ミズーリ」のボイラーエンジンは、それが使えるだけ余裕のある電力を出すことが可能であった。

 

『即応弾、弾薬庫よりリフトアップ。』

 

40cm主砲のように薬嚢を込める必要がなく、電子機器と炸薬だけが詰め込まれた誘導砲弾が、自動装填装置で艦体下の即応弾倉からホイストで上げられ、それが砲身に入れて装填終わり、あっちが30秒近く時間がかかるのに対し、こっちはわずか数秒で完了した。

 

当然、レールガンなんて二次世界大戦時に竣工したこの「ミズーリ」に元々搭載されていたはずもなく、かつてここには、前部と同じ40cm主砲があった。

 

ところが少し昔、アメリカのハワイにおいて、ホッパーや長田たちが関わりお互いの親交を深め合うことになった『エイリアン襲来事件』が発生した。

電子機器満載の現代兵器をECM(電子対抗手段)で無力化してくるエイリアンに対抗するため、強大な艦砲による火力と堅牢な防御力を持ち、目視圏内での撃ち合いを想定して作られた「ミズーリ」は、記念艦でありながら動かされ実戦に参加、その際の敵の攻撃で後部の主砲を破壊されてしまったのである。

 

この事件後にアメリカ製レールガンは開発されるが、原子力を動力とする空母や潜水艦でも電力は十分なので使えるが、その二つは役割的にこんなものは必要なく、そのためレールガンは現在、アメリカ海軍の中で他に唯一条件を満たしているアイオワ級戦艦のみ搭載されていた。

 

これで戦艦は本来の目的である砲で敵を粉砕することを、現代戦でも遂行できる力を手にし、それをアイオワ級の中で最初に手に入れたのが、戦いでスペースが出来ていた、「ミズーリ」だったのである。

 

『トマホークミサイル発射準備。右舷ボックスランチャー、1から6番ロック解除。発射態勢に入る。』

 

そして忘れてはいけないのが、この戦艦が昔のような砲だけでなく、ミサイルも搭載していることだ。

まだレールガンもなかった時代で行われた一度目の復帰の際、アイオワ級は近代化改修を受けている。

 

その時に、アイオワ級はレーダー等を最新の電子機器に改装、CIWSとミサイルの運用能力を手に入れており、使えるようになったのが、巡航ミサイル『トマホーク』で、レールガンを上回る射程を誇るこのミサイルを、イージス艦のようにミサイル垂直発射装置《VLS》を持たないアイオワ級は、四連装ボックスランチャーに入れて搭載しており、艦体両舷に6基ずつ計12基、合計48発も積んでいる。

 

以前はSSM(艦対艦ミサイル)の『RGM-84 ハープーン』を16発積んでいたので、その分載せられず32発だったが、最新型トマホークが対地・対艦両用に使えるようになったことと、SSMに匹敵する射程を持ったレールガンの搭載により、SSMは取り外されたので今の数まで増量されており、これはイージス艦数隻分の火力に相当するものであった。

 

そうして右舷に取り付けられ、箱のように甲板に置かれているボックスランチャー二つが、駆動する支柱に下から支えられ次々とせり上がって行き、左源の彼方、斜め上の空にその先を向けていった。

 

『CIC、ブリッジ! 回頭完了! 停船に入る!』

 

「キャプテン! 全兵装、射撃用意よし! いつでもぶちかませます!」

 

ブリッジのジミーからは回頭完了の報告が入り、方位を固定した「ミズーリ」はスクリューを逆回転させ後退する力を働かせ、それまでの前進する力に逆らわせることで、艦の動きは徐々に止まっていく。

それと一緒にレイクスが射撃準備完了を伝えてきて、射撃員はそれぞれ発射ボタンや引き金に手を付け、艦長の命令を待っていた。

ついにその時が来た、そう感じたホッパーは、彼らの報告が来るまで閉じていた口をついに開き、少し息を吸ってから、力と気合を込めて命令した。

 

「痛いのをぶっ喰らわせてやれ! 射撃開始! オールファイア(一斉撃ち方)!」

 

「「「「アイサー! こちらCIC、ファイア(撃て)!」」」」

 

待ってましたと命令を聞いたレイクスたち砲雷長や砲術長たちはすぐに復唱すると、砲塔に連絡を行ったり、発射ボタンに手をかけていき、対地兵装が一斉に稼働させていく

 

その中でまず口火を切ったのはボックスランチャーで、ランチャー後方から大量のバックブラストが放出されると、右舷甲板が煙に包まれ、先端の蓋を勢いで突き破って6発のトマホークが斜め上に発射されていった。

 

プゥー! プゥー! プゥー!

 

一方前甲板では、戦闘配置についているので誰も甲板上にいないにもかかわらず、警告ブザーが流されていた。

 

「全員、衝撃に備えろ!」

 

ジミーはそれを聞いて、すぐさまブリッジクルー達に指示を飛ばすと床に伏せて耳を塞ぎ、他のクルー達もすぐそれに続いた。

 

ボボォオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

ブリッジクルーが準備できたのとほとんど同じタイミングで、二基ある三連装主砲がそれぞれ一門ずつ火を吹き、誘導砲弾が射出されていく。

第一弾の発射が終わると砲塔は僅かに向きを変え、次に別の座標を入力してある誘導砲弾が装填された、次の一門を発砲していき、衝撃波と爆音が連続で甲板にぶつかってくる。

 

甲板にいたら、発砲の衝撃波で内蔵が潰され、海に放り出されてしまう威力なのだが、それでも轟天号の50cm砲に比べれば軽いものだ。

しかしその主砲の一撃は、かつて核ミサイルを盗んで逃亡しようとしたテロリストの潜水艦や、侵略エイリアンの母船を吹き飛ばすなど、二度に渡って世界を救っており、それを知る者からしてみれば、見た目以上にとても重く感じられるものだった。

 

「ファイア!」

 

バァアアン!

 

後甲板のヘリ発着艦スペースの手前にあるレールガンも、40cm主砲とほぼ同時に発砲していたが、こちらは対照的に音も衝撃波も前甲板と比べれば静かなものだ。

これも火薬を使わないレールガンの利点であり、発砲煙が出ることもなく、音も衝撃波も、砲弾が砲身内の空気を外に押し出した際に出るものが一瞬あるだけなので、この大きさながらよほど近くにいない限り、甲板に出ていても安全なのである。

 

射出された両砲の誘導砲弾は音速を突破し、40cm砲弾でマッハ2.5程、レールガンに至ってはマッハ5以上にもなり、亜音速で飛んでいくトマホークは先に飛んでいたのに追いていかれる。

 

速度順に、最初にレールガン、次に40cm砲の砲弾が超音速で着弾していき、500ポンド爆弾と比べれば少し威力は落ちるが、いままでの5インチ砲の十数倍の炸薬が炸裂し、そこから少し遅れて最後にトマホークが到着、こちらは亜音速なので、空から降ってくるその姿を、敵は死ぬ前に収めることがなんとか出来ていた。

 

この戦艦の一隻の一回の攻撃は、さっきまでのイージス艦数隻での主砲・トマホーク攻撃数回分に相当するものであった。

 

「次弾装填急げ!」

 

装填してあった砲弾が飛んでいき、主砲とレールガンはすぐ次弾の装填作業を開始した。

 

「砲弾装填!」

 

「電力チャージ開始!………チャージ完了!」

 

「ファイア!」

 

レールガンはもちろん、自動装填装置で砲弾を装填し、レールに流す電流をチャージし終わるとすぐ発砲できる。

だから人力なので一回30秒もかかる40cm主砲の再装填が完了するまでの間に、レールガンは一門につき五発ほど砲弾を発射出来ていた。

 

こうして比べれば、レールガンは40cm砲とは天と地ほどの差が有り、どうせなら後部だけでなく、前部の40cm砲もこれにしておけばいいのにと思うかもしれないが、それはできない。

なぜなら、この「ミズーリ」を含めたアイオワ級が復帰した最大の理由が、『強力な電子攻撃下での十分な対抗手段を持つため』だからだ。

 

レールガンは確かに強力だが、唯一の弱点と言っていいのが、高度な電子機器満載の現代兵器の宿命といえる、電磁パルス等の電子攻撃に対する脆弱性だ。

 

もちろん、現代兵器は想定して対策をしていないわけではないのだが、怪獣や宇宙人が繰り出してくる攻撃の威力は、常にそれまでの想定範囲内とは限らなく、特にアメリカ軍は苦い経験があった。

 

前述のハワイを襲撃してきたエイリアンと、その事件の数年後にアメリカに出現した『MUTO(ムートー)』という怪獣。

どちらも、自分たちが想定する範囲を大きく超えた、強力なジャミングや電磁パルスを使ってきた敵であり、アメリカ軍はミサイルなどの現代兵器を軒並み無力化・弱体化させられたので、大苦戦を強いられてしまったのである。

 

その二つの事件で活躍したのが、有視界圏内での撃ち合いも想定して頑丈な装甲を持ち、ミサイルのように電子攻撃の影響を受けなくしかも強力な巨砲を搭載する戦艦、「ミズーリ」をはじめとする記念艦になっていたアイオワ級戦艦たちだった。

 

「ミズーリ」は主砲で宇宙人を倒し、本土にで記念艦をしていたアイオワ級は、現代兵器が無力化される中復活、実質的に唯一戦える戦力として機能し、MUTOと激戦を繰り広げながら、スペースゴジラ襲来の経験から、このくらいの怪獣レベルの電子攻撃に対応する技術を開発し獲得していた、日本の特生自衛隊が到着するまで粘ってみせた。

 

この二つの事件で、電子機器が使えない状況下での戦艦の有用性が再び証明され、同時に怪獣などが出す強力なジャミングなどを無力化する技術が今のアメリカにはなかったことを受け、アイオワ級はそれが開発されるまでの間、対電子攻撃兵器として三度目の現役復帰が決まり、今に至るのだ。

 

レールガンの搭載は、怪獣対策だけでなく現代戦に対応させるためのものでしかなく、上記の理由があることから、旧式で完全人力の40cm砲は、電子攻撃下でも戦えるようにするため撤去されないのである。

 

「装薬よし! 装填完了!」

 

「「ファイア!」」

 

ボォオオオオオオオオン!

バァアアアン!

 

そんな時代が違えばそれぞれ長所も短所も違うが、一つの艦上に集まり、お互いの弱点をカバーし合って戦う両砲の対照的な砲声は、少し離れた長田たちがいる東京湾にも届いていた。

 

思えばこの「ミズーリ」は、かつては敵として砲口を日本に向けて砲撃を行い、その艦上で降伏文章が調印されたことで、日本人の記憶には敗戦の象徴として刻まれていた。

 

しかし、同盟国となって両国が世界の平和を司るかけがえのないパートナーとなった今では、その名前と砲声を聞くだけで、心に安心感をもたらし奮い立たせて士気を上げてくれる、心強い仲間との認識が一般的だ。

 

みんなが待ち望んでいたその砲声を、「ミズーリ」は巨艦の艦内に溜め込む豊富な予備弾のおかげで、遠慮な撃ちまくって東京へ届け、長時間におよぶ大火力の投射が期待されている、戦艦の役割を果たしていくのだった。

 

 

----

 

「いいぞホッパー。さすがだな。」

 

長田はモニターを見ながら、次々と東京の敵勢力圏内に放り込まれるミサイルと砲弾の輝点の多さを見て、足りなかった火力が一気に補われたことに満足ており、同時に自分も昔乗って実感した戦艦の攻撃力に改めて感心しつつ、それを操るホッパーたちを称賛していた。

 

「艦長、各艦ヘリ発艦準備完了!」

 

「わかった。直ちに発艦させろ。ヘリボーン開始だ。」

 

「了解! 各艦に通達、哨戒機発艦始め! 管制室にも連絡、ヘリ発艦始め!」

 

そこへ副長が現れ、ついにヘリボーンの準備が完璧に整えられたことを報告してきた。

 

長田は聞いてすぐにヘリボーンの開始を命令し、副長はそれを聞いて各艦と「いずも」艦橋の航空管制室へ、待機中のヘリを発進させるよう連絡させた。

長田はその様子を見たいため、いくつかある大型モニターの一つを屋外カメラの映像に切り替えさせると、モニターにはローターを回したヘリたちの姿が入ってきた。

 

『航空管制室よりキマイラ2、ジャック3~6へ。これより発艦を開始する。甲板作業員は退避せよ。』

 

飛行管制室のオペレーターの指示に、装備の取り付け具合やエンジン等の異常がないか、最後までヘリのクルー(搭乗員)たちと確認していた作業員たちは、航空管制室からの命令を受け、ただちに全通甲板の脇に退避した。

 

コールサイン『キマイラ2』ことMCH-101内のキャビンの椅子すべてには、全身を黒一色に統一した戦闘装着セットを身に着け、自動小銃等を携行したSBU小隊が座っていた。

機長はこれから発艦を始めるために開閉スイッチを押し、外と繋がっている後部ランプがゆっくりと閉じていく。

SBU隊員たちはその様子を、閉まるまで黙って見続けていた。

 

『風速・艦の振動、ともに許容範囲内。』『周辺空域に飛行物体ありません。』

 

風もそれほど強くなく、ファンスタビライザーは船の揺れを最小限にしており、対空レーダーも邪魔になるような飛行物体はキャッチしていない。

条件を満たしていることを判断した飛行管制室長は、ヘリと無線通信を行うオペレーターに、「発艦を許可する」と一言告げた。

 

『航空管制室よりキマイラ並びにジャック3~6。発艦は許可された。エンジン始動、出撃せよ。』

 

『『『『了解。エンジン出力上昇。』』』』

 

許可をもらったオペレーターはパイロットたちに発艦を命じていき、ローターが接触しないほどの余裕ある距離を開けて作られ、それぞれの前にマーシャラー(誘導員)が立っている四つのヘリスポットに待機していた、第211飛行隊(ブラック・ジャックス)所属のSH-60KとMCH-101は、同時に発艦を開始した。

 

マーシャラーたちはエンジン出力の上昇を手で合図し、各機は発艦命令が出る今まで、試運転して安全を確認したエンジンの出力を、機長はどんどん上げていった。

 

メインローターの回転数が徐々に上がっていくと、肉眼ではもう丸い円盤が回転しているようにしか捉えられなくなっていく。

 

バタバタバタバタバタバタバタバタ!!

 

『ローター回転数、規定到達。テイクオフ。』

 

そして、回転するメインローターにより下へ送られていく空気から十分な浮力を得た瞬間、グレー色の機体は下へ押される空気の力でフワリと浮かび上がり、ランディングギア(降着装置)は甲板から離れていった。

 

----

 

『LSO、CIC。これよりヘリボーンを開始する。哨戒機、発艦開始。』

 

『CIC、LSO。了解。』

 

一方DDH以外、『むらさめ型護衛艦』八番艦「あけぼの」と『たかなみ型護衛艦』四番艦「さざなみ」、そして「みらい」からも、ヘリ格納庫から出された航空機たちが発艦を始めていた。

 

『LSOより哨戒機。エンジンを始動し、発艦を開始せよ。甲板作業員は退避。』

 

ヘリ甲板に埋め込まれ半分だけ頭を出しているLSO(発着艦指揮所)から、甲板中央に待機している哨戒機の機長に発艦を命じ、さらに哨戒機に寄り添って機体を最後まで点検していた航空科の作業員たちを待機させていく。

 

だが、ヘリ甲板の上に姿を見せている機体を見れば、それはSH-60Kとは大きく異なった姿をしていた。

 

白とグレー色の機体全体は、前から見ればやけに細く、丸まって黄色く塗られた機首には機体の番号が書かれており、その下には黒光りした三つの砲身を持った『M197 20mm機関砲』が搭載され、コックピットはまるで戦闘ヘリのように、前後に二席と直列に配置されたダンデ厶式と呼ばれる配置になっている。

 

そして一番の違いは、尾翼がH字翼でありテイルローターが無いこと、そしてメインローターが機体の真上になく、機体の中央部から伸びる頑丈そうな金属の駆動系で繋がれて横付けされた、日の丸が書かれている二枚の縦数mの鉄板の上に二つあったことであった。

 

「主翼展開後、エンジンスタート。」

 

キィイイイイイイイーン

 

各機のコックピット後席、つまり操縦席に座る機長がそう言って計器盤を操作した途端、機体の姿はそれまでと大きく変わった。

鉄板と機体をつないでいた駆動系が動き出し、後ろに向けられていた鉄板の先端が、そのまま左右真横の90度に向けられていきそこで停止、機体の左右にメインローターを一つずつ付けた主翼が出現した。

 

そして、まるで飛び立つ前に折りたたんでいた翼を広げる鳥に似た優雅な姿を見せているこの航空機、海自の可変翼哨戒機、『MV/SA-32J シーフォール(海鳥)』は、こちらも試運転を終えたエンジンを再スタートさせ、出力を上げていく。

 

「シーフォールよりLSO、RASTオープン。」

 

ローターの回転数の表示を見て、これ以上上げれば機体が浮かび上がる数字まできたところで、機長はLSOにRASTの解除を要請(リクエスト)を受けとったLSOは、海鳥の機体下にあるフックをはさんでいた、RASTの留め具を外した。

 

「出力上昇! テイクオフ!」

 

バララララララララ!!

 

拘束するものがなくなり、自由になった海鳥がエンジンの出力を上げていくと、ついに機体はヘリコプターのようにフワリと浮かびあがった。

 

マーシャラーの指示のもと、海鳥は高度を上げつつ真左に並行移動していき、ある程度母艦と離れたところで、二枚の主翼を可変させていく。

90度上を向いていたメインローターが傾いてゆき、角度を0度に来たところで止まると、プロペラの固定翼機のように前進を開始した。

 

「発艦に異常なし。視界内クリア。」

 

機長が周りの安全を確認すると、あの有名な垂直離着陸機、『V-22 オスプレイ』のようにヘリと固定翼機の二つの側面を持っている海鳥は、ヘリとは比べ物にならない加速力で、一気に時速200㎞以上まで加速、同じく発艦した同型機たちと合流して群れを作っていくと、そのまま火の手が上がる東京へ向け、艦隊を追い越して飛び去って行くのであった。

 

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轟天号 CIC

 

「広瀬一佐、我々も行こう。」

 

「はい。艦橋、CIC。こちら艦長。飛行始め。」

 

「艦橋、航海長了解! 飛行、始めます!」

 

海の上から飛び立てるのは、空母の艦載機やヘリコプターだけではない、世の中には潜水艦にも水上艦にも、そして航空機にもなれる軍艦が存在している。

それこそが、この轟天号であった。

 

『下部ジェットエンジン始動! 主機出力回せ!』

 

『出力全開!』

 

次々と艦上からヘリなどが飛び立っていくのと同時に、轟天号は砲撃を中止し、艦内では艦橋の航海長の指示の元、機関室が水上航行のため後部のジェットエンジンに回していた電気を、普段は真下に付けられ、噴射口を海中に向けているジェットエンジンに回していた。

 

「艦長より全乗員に達する、これより本艦は航空攻撃を開始する。総員、急加速・急停止に注意せよ。」

 

カーン! カーン! カーン!

 

艦内放送で立花の声が乗員たちに届けられ、終わると同時に艦内にサイレンが鳴り響き、乗員たちはそれを聴くと、体に力を込めて踏ん張ったり、近くにあるものを掴んだりした。

 

「艦橋、CIC。こちら艦長。轟天号、飛行開始。垂直上昇はじめ。」

 

『CIC、艦橋。こちら航海長。了解。垂直上昇開始します!』

 

立花が艦橋へ送った指示を受けた艦橋の航海長が計器を操作すると、船底の防扉が開かれ、中から出てきた噴射口が勢いよく吹き始め、海中はかき混ぜられ泡だらけとなっていく。

轟天号の周りの界面が波打ち、浮いてきた泡で白く染まってくると同時に、一万トンの黒い船体は徐々に浮きはじめ、遂には普段海中に浸かっているはずの、赤い船底部分が海上に姿を見せた。

 

それでもまだ上がり続けていく船体は、魚のヒレのような形をした、安定装置のファンスタビライザーまで海上に見せ、とうとうその全貌を空中にさらけ出したので、覆っていた海水が、海に向けて滝のように流れて行く。

 

爆音を轟かせる強力なジェット噴射が船体の下から行われているため、船体真下の海面は、1万トンの巨艦を浮かび上がらせるジェット気流のせいで大きく揺れていた。

 

「高度200…300…400…500」

 

「上昇停止。高度そのままで前進し、東京上空へ向かう。」

 

「了解しました! 艦橋、CIC。こちら艦長、上昇停止、高度そのまま! 方位340に向け前進!」

 

上昇していく轟天号は、下部ジェットエンジンの出力を弱め、高度500mでホバリング状態の姿勢をとると、後ろのエンジン出力の出力が上げて行き、徐々に加速していく。

 

「さぁ、取られたものを取り返そう。」

 

「えぇ。奴らに人類の力を見せてやりますよ。」

 

立花に言葉に、広瀬は力強く肯定する。

海上からの攻撃は、自分らがいなくても「ミズーリ」が中心になって頑張ってくれるはずなので、離れることに心残りなく、出発することができた。

かつて幾度となく怪獣たちと激戦を繰り広げた超兵器たちが、今東京の空の上に集結しようとしていた。

 

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「いずも」CIC

 

「全機、発艦完了。現在までに異常報告なし。」

 

「轟天号、飛行成功。航空隊に続きます。」

 

外部カメラは、母艦から遠ざかっていく海鳥と海鷲、それを後ろから追いかけていく轟天号の姿を捉え、CICに届けてくる。

 

「トマホーク、第二次攻撃準備完了!」

 

「撃てっ!」

 

黙ってそれを見ていた長田は、彼らが無事に帰ってきてくれることを心の中で祈りつつ、次のトマホーク攻撃の時間が来たことを知らせた副長へ、間髪入れずに指示を出した。

今度は「ミズーリ」の分も加えパワーアップしたサジタリウスの矢が、洋上から放たれていったのだった。

 

--------

 

12:30

 

防衛省 中央指揮所

 

「黒木くん、敵が溜まってた道路に大体撃ち込めたが…どうする? 爆撃と支援砲撃はまだやるかね?」

 

「いえ、一旦止めてください。そろそろ陸自たち陸上部隊も到着しますから。あとは、陸上部隊からの要請があったときに、再開してください。これだけ倒せば、後はヘリや攻撃機等でも充分やっていけると思います。」

 

「わかった。平田くん、支援砲撃は撃ち方待て。三雲くん、第二次近接航空支援は、陸上部隊からの要請あるまで延期だ。」

 

「「はい。」」

 

第一次近接航空支援にやってきた飛行隊がすべての爆弾を投下し終え、到着した「ミズーリ」が加わっての支援砲撃も数分続けられた頃、黒木は支援砲撃の中止と、一応必要ならば行おうと思っていた、第二次近接航空支援の延期を決定し、山地の指示に三雲や平田は従う。

 

いよいよ始まる占領地の奪還の際、占領地に突撃した部隊が、今の範囲のままの砲撃では巻き込んでしまうためだ。

これからの砲撃は陸上部隊が必要とするとき、必要な場所にだけ撃っていくのであり、それが安全で最も効率のいい方法なのである。

 

「(今わかってる奴らの戦力から考えると、押し返すことは可能なはずだ。だが問題は最終段階。これを成功させなければ、奴らはまた…)」

 

しかし、黒木がは正直に言えば占領地の奪還は心配しておらず、必ず取り戻せる自信があった。

彼が心配しているのはその先にある、自衛隊や人類にとって未知の領域、相手のホームグラウンドのことなのであった。

 

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防衛省 屋上

 

「これで終わりだ!」

 

「じゃあ行きましょう!」

 

防衛省屋上にあるヘリポートで、迷彩柄の戦闘装着セットを身にまとった権藤と小早川は、試運転を終えてメインローターを回転させ続けている、多用途へり『UH-1J イロコイ』に武器や弾薬を詰め込み終えると、キャビンに乗り込んで扉を閉めた。

 

UH-1Jはゆっくりと上昇し、機体下のスリット(着陸脚)がヘリポートから離れていき、高度上がっていくに連れ、防衛省が小さく見えていき、同時に燃え盛る街の様子もよく見えるようになった。

 

「室長、黒木特佐が奪還命令が出たようです。」

 

「じゃあ、皇居に向かおうか。」

 

ヘッドフォンで無線を聞いていた小早川は、各隊に通達されていく黒木の命令を聞き、権藤に知らせると、権藤は皇居に向かうよう提案した。

 

「なんでです?」

 

「俺の知り合いの自衛官がいるんだよ。そいつ非番なのに巻き込まれたくせに、周り警官ばっかの中一人で頑張ってるらしいからな。だからすぐ応援に行ってやろうと思ってよ。」

 

「そうですか。わかりました。」

 

権藤の理由を聞いた小早川は、機長に皇居へ向かうよう要望すると、機長は操縦桿を傾け、針路を皇居に向けてくれた。

 

「(あいつどうしてっかな? なんだかんだで、少し後ろにいるだろうから、無事だろうけど。)」

 

いくつものビルを乗り越え、皇居に向かっていくUH-1Jの中で、権藤は眼下の東京を眺めつつ、知り合いの安否を一応気遣っていた。




駄文を長々とお読み下さり、ありがとうございます。

相変わらず遅くて本当にすいません。
ゲートにおいてとにかく出番が少ない、海自のみなさんの出番をどうしても書きたかったんですが、その結果こんなに長くなりました、申し訳ありません。
「ミズーリ」は、現実にはもっと始動に時間がかかるんですが、これは映画仕様です。

公式で、異世界での海自の活躍が見たい方は「ルーントルーパーズ」をおすすめします。

次回は空と海がやったので、陸ですね。
不定期更新のこんな作品をお気に入りしてくれて読んでくださる読者の皆様、今回もありがとうございました。



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