トラウマ-ダークネス- (宮下)
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1話

ダークネスの単行本13巻見て唐突に始まったもの。ヤミちゃんprp(ry。


金色の軌跡が一閃、少年の心臓を間違い無く何かが貫いた。

 

襲撃者がソレを少年から引き抜けば夥しい量の血液がとめどなく地面へと降り注ぎ紅く染める。

 

少年は力なく膝を折り、前のめりに地面へと伏した。

 

金色の闇と呼ばれ恐れられる少女はゆっくりと今殺した少年に近付き、直ぐ傍でしゃがむと無表情のまま言った。

 

 

「死んだフリはもういいですよ。映像に記録しましたので」

 

 

明らかに致死量の血液が流れ出した少年に金色の闇は世間話でもしているかのような口調だ。

 

 

「……本当に1回死んでるから死んだフリって訳でもないんだけれど」

 

 

むくりと少年は起き上がる。纏っていた外套には確かに彼の血が付着している。左胸の辺には穴も開いて背中側にも同様の位置に穴が開いていた。

 

 

「死なないのだから良いではありませんか。不用意に力を使うから私に依頼が来るんです」

 

「目の前で不治の病に倒れる者がいて、それを助ける手段を持っているのに使わないのは癪じゃないか」

 

「……はぁ」

 

 

半目で自分を見る金色の闇を余所に、少年は身体を伸ばして体調を確かめながら問う。

 

 

「で、今回は何を依頼された? 髪か血か、それとも身体の1部?」

 

「生け捕りですよ。殺し屋に頼む仕事ではありませんね。死体を回収しろとは言われていないので放置した事にしますが」

 

「そうかい。身体が生えるのには抵抗があるから助かるよ」

 

 

少年はある特殊な体質を持つ一族の最後の末裔だった。

 

その一族の唾液はどんな傷をも癒し、涙は万病の妙薬となり、血肉を喰らえば老いから逃れられる。たったひとつの方法を除いては死なない不老不死の生物。

 

当然、彼を利用しようとする者は後を絶たず、彼の目撃情報は高値で取引され、彼の訪れた星には何千、何万という彼を追う者で溢れかえる。

 

しかし彼も悠久の時を過ごした存在。逃げ足は磨かれ、抵抗するための体術なども修めている。

 

尤も、今彼の目の前にいる金色の闇のようなプロや何処かの赤ん坊の姿の王のように圧倒的な差を持つ者に対しては逃げの一手だ。

 

ちなみに彼の捕縛率が一番高いのはこの金色の闇であり、何度かこうして殺し殺されるフリをしているという訳だ。

 

 

「何度も言うが痛いのは勘弁だ。半年前なんか爆発四散して証拠隠滅とか意味わかんない事になったし」

 

「貴方が死ぬ方法を教えて下されば今直ぐにでも殺して差し上げますよ」

 

「絶対に言わない」

 

 

ちなみに彼の一族が唯一死ねる方法は子孫を残す事である。子が五つになる前に親は煙のように消える。

 

同種族で子を成したら双子や三つ子でもない限り数は減る。他種族と子を成せば大抵は相手の種族の特徴を受け継いだ子が生まれ、その子が五つになる前に親が消える。

 

正に消滅する事が義務付けられたような一族である。

 

その末裔である彼は善人ではあるが卑屈であり、消えてたまるかと1人そういった行為から離れ気づけば同族はいなくなっていた。

 

恐らく全宇宙で最年長で、且つ貞操を守り抜いているのである。

 

星を渡り病に苦しむ人に手を差し伸べる彼は一定の信仰すら受けているのだが、そんな自分が未だ童貞などと言うのはどうにも格好がつかない。次いで、お礼にと娘や自身を嫁入りに、という誘いを断るために、如何にも経験豊富で達観したような事を吐いて回った。後戻りができない。

 

幸いにも同族が居なくなったのは遥かに昔で、彼について語られるのは彼自身が成している事のみだ。

 

 

「……しかしこう頻繁に追い回されるとは」

 

「既にこの辺りの星には貴方を探す者でいっぱいですから。しばらく身を隠してはどうですか。その方が私も無駄な依頼を受けなくて済みます」

 

「や、でもこの辺の星は文明が未発達で病人が……」

 

「貴方の信者達が保護しようと向かっているという噂も聞いてますが。戦争でも起こさせる気ですか」

 

「……うん、しばらく隠居させて貰おう。ルシオンの所にでも行けば安全だろうし」

 

「ギド・ルシオン・デビルーク……、デビルーク王の所ですか 」

 

「昔奥さんが倒れた時に引き擦られてったから一応貸しがある……筈」

 

 

いきなり銀河大戦の覇者に追い掛けられた時はどうなるかと思ったものだが、致命傷を受ける事なく事が済んだので良好といえる出来事だった。

 

「こんにちは、死ね」か「やぁ、腕置いてけ」が基本な彼の日常の中では良好である。良好なのだ。

 

 

「やめよ。ある程度文明があるけど他の星と交流を持ってない星を探す」

 

「そうですか」

 

 

金色の闇からすれば彼は最も多く依頼を受け、最も多く殺した存在だ。付き合いは長く、こうして普通に会話をする数少ない相手。

 

そんな彼の名前を知らない事に今更気がつく。

 

 

「そういえば、貴方は何という名なのですか?」

 

「名前? ……あー、とっくに忘れたよ」

 

 

物心つく前に呼んでくれる親が消えたため知らないと言った方が正しいかもしれない。

 

 

「では何と呼べばいいのでしょう? 万能薬とか、不死鳥とかそういった通り名で呼べばいいのですか」

 

「また随分と痛々しい通り名が着いてるな。……金色の闇程じゃないか」

 

 

そんな事を彼が口走った途端に金色の闇の髪が鋭い刃物へと変わり彼の首元に添えられる。

 

 

「都合が良いから使っているだけで、私がそう命名した訳ではありませんが。何か?」

 

「落ち着こう。……とにかく呼び方、ね。別に貴方でもお前でも構わないんだけれど」

 

「では不死鳥と」

 

「おいやめろ、全身がむず痒くなる」

 

 

疲れ切ったような表情で彼がため息を吐くのを見て金色の闇は自分でも気付かない内に笑っていた。自分の何倍も生きているクセに随分と人間臭い反応をする。

 

 

「じゃあアレだ、依頼するよ。名前考えといて。次あった時に付けてくれれば良いよ」

 

「は?」

 

「うん、それが良い。じゃあ隠居するから。バイバイ」

 

 

それだけ言って、彼はさっさとその場を去り隠してあった小型で旧式な宇宙船に乗り込んで飛び立ってしまった。

 

呆気に取られていた金色の闇は彼の宇宙船が飛び立った方向をしばらく眺めていたが、ハッとして意識を現実に引き戻す。

 

 

「私が考えるのですか……」

 

 

取り敢えず次会った時は一発殴ってやろうと決め、金色の闇もこの星を後にした。

 

2人が地球で再会するのはこの数週間後の話である。



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2話

地球という星は彼にとっては実に住み易い星だった。

 

彩南町という町の住人は基本的におおらかで、外部への人間にも排他的でなく受け入れてもらえる。

 

お金を稼がなければ何も手に入れられないというのは難点であったが、それ以上の問題が無いというのが彼にとっては至福であった。

 

何処かで見かけたようなピンク髪を見かけたり、ふくよかな男性が下着1枚で駆け出すような所を見かけた気がするが概ねここまでの生活は幸せだ。

 

 

「新人君、調子はどうだい?」

 

 

彼は隣人にも恵まれた。

 

行き場がない事を伝えると、住む場所や着る物とお金の稼ぎ方を提供してくれたのだ。それも、見返りも求めずに。

 

 

「はい、今日はいつもより多いですよ!」

 

 

彼は大量の空き缶が入ったビニール袋を掲げた。

 

1kgで100円、100円あれば1食確保する事が出来る。皆で買った食材を持ちよれば鍋だって出来る。頑張ればお酒だって買える。

 

彼は詰まるところ、ホームレスの仲間入りをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

何故宇宙船を持っている彼がホームレスに身を落としたかというと、航行中に他の大型宇宙船にぶつかり爆発四散したのだ。彼自身も粉々になり、身ぐるみはがされこの星に放り出された。

 

金色の闇の変身-トランス-のような能力があれば服を用意できたのだろうが、彼にそんなスキルはない。

 

そこを偶然通りかかった富永さん(55歳男性・無職)に助けられた。どうやらYAKUZAという組織に捨てられたと勘違いしているようだが、彼は別の星から来ましたなどと余計な事を言う事はしなかった。

 

名前を尋ねられたが、もう長い間名前を名乗っていないので忘れた事を彼が告げると富永さん(55歳男性・無職)は目元に涙を貯め辛かっただろう? と彼の肩を優しく叩く。

 

確かに何度も殺されたし、追われたしで大変な日々を送っていたので少々それをぼかして富永さん(55歳男性・無職)に彼は伝える。

 

富永さん(55歳男性・無職)は号泣し、ホームレスの仲間に彼を紹介し手を貸してやってくれと頼み込んだ。大の男が土下座までして。

 

こうして彼は大変だが平穏な日々を手に入れ、至福の時を送っていた。

 

ホームレスの楽園となっているのはある公園に隣接した雑木林だ。そこに目立たない様にダンボール・ハウスが建てられている。枝や木の葉で丁寧に迷彩装飾をする徹底ぶりだ。

 

そんな雑木林からボロボロの、半ば布切れな服装を着て現れた彼を見て金色の闇は今まさに口に運ぼうとしていた、たい焼きを地面に落とした。

 

 

「あ……、久しぶり?」

 

「何を、してるんですか……」

 

 

彼がここにいるという事にも驚いたが、随分と小汚い格好で薄汚れている事にも驚く。

 

以前の彼は病人を助けて回っていた事もあり、身形は清潔に保っていた。金は稼いでいなかったが、助けられた礼にと患者の家族からまだ使える古着などを貰っている事も聞いている。決して布切れなどではなく。

 

 

「あ、それ貰っても良いかな? 砂を払えば食べられるし」

 

 

あまつさえ、地面に落ちているたい焼きを指差してそんな事を宣う。

 

金色の闇は直ぐに変身-トランス-能力を使い、彼の首元を掴んで空へと飛ぶ。

 

こいつ放置してたらやばい、今まで知らなかったけど常識が欠けている。金色の闇はらしくない程に焦った表情である家に向かった。

 

金色の闇が言える話ではないが、彼は幼い頃に親が消えたためにまともな教育というものを受けていない。

 

それでも長年を経て、人助けと悪人への対処法等の事は学んだ。が、平和な環境なんて知らない。

 

結城と書かれた表札の家の前に降りると呼び鈴を鳴らして家主が出てくるのを待つ。

 

邪魔が入って殺せなかった、などと金色の闇の名が泣くとここ数日つけ狙った相手だが、他にこの星に知り合いがいないのだから仕方が無いのだ。背に腹は変えられない。

 

 

「はーい、どちら……って、金色の闇!?」

 

 

ターゲットである結城リトが顔を出すと、金色の闇は鬼気迫る表情で言った。

 

 

「結城リト、貴方を殺す事を取りやめる代わりに彼の世話をして下さい。そうすれば今後、貴方の命を狙う事は諦めます」

 

「…………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

初めて彼以外で、標的を殺し損ねた。それが何故か無性に腹が立ち、依頼人との契約が切れてもこの星に残り続けた。

 

が、今となってはそんな事は後回しだ。

 

 

「あれ、その人何処かで見かけたような……?」

 

 

リトの後ろからデビルーク星の第一王女、ララ・サタリン・デビルークが顔を覗かせて彼を見てそう言った。

 

そういえば、先日デビルーク王に貸しがあると彼が言っていた。

 

 

「プリンセス、コレは一応ですが貴女の母君の恩人らしいです」

 

「んー。…………あっ! あの時のお医者さんだ!」

 

 

王女ララにも彼に対して覚えがあるらしい。肝心の本人はここまで引き擦ってきたせいでぐったりしているが問題ない。預けてしまおう。

 

 

「それでは彼を頼みます、私は探し物があるので」

 

 

ひとまず彼の宇宙船を探さなければ。恐らく、近くの海にでも不時着して回収不可能にしてしまったのだろう。彼は偶に抜けている所があるのでそうに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、宇宙人……ですよね?」

 

 

リトは恐る恐るといった感じで彼に問い掛ける。

 

何と言ってもあの金色の闇の知り合いだ。もしかしたらとんでもない危険人物で、彼がいれば金色の闇が手を下すまでもないといった意味合いがあるのかもしれないという想像に辿り着き、恐怖で身体をガタガタと震わせた。

 

 

「まぁこの星の生まれではないね。そういう意味なら宇宙人かな」

 

「この人はね、宇宙一のお医者さんなんだよ!」

 

 

ララがリトの腕に抱きつきながらそんな事を言う。そういえば顔見知りみたいな話をさっきしていたとリトは思い出した。

 

 

「医者っていうと、御門先生みたいな?」

 

「……ミカド?」

 

「えっと、俺の学校の保険の先生なんだけど、宇宙人らしい」

 

「……そうかい」

 

 

この星は他の星と交流を持っていないため隠れ蓑になると思っていた彼は何とも言えない表情になる。

 

金色の闇に、今言った御門という宇宙人。更にはデビルーク王女。これは他にもいるに違いない。

 

しかし彼の宇宙船は爆発四散したために今から他の星へ行くのは現実的ではないし、自分の情報が出回らなければ良いかと気分を切り替える。

 

 

「金色の闇はああ言っていたけれど俺は特に困ってる訳じゃないから断ってくれても良いよ。住む所もあるし。その時は」

 

「へ? ……って事は、家事が絶望的だとか?」

 

 

金色の闇は世話をしてくれと言った。という事は彼の生活環境なり生活習慣なりに問題があるのだろうとリトは推測していた。

 

特に意識している訳ではないが、リトは困っている人を放っておけない性質だ。

 

そんなリトが、

 

 

「家事……? 何かな、それは」

 

「住んでいる所? ここから少し離れた公園に雑木林があるんだけど、そこにダンボールで家を作って貰ったんだ。中々に住み心地が良くてね」

 

 

彼のそんな話を聞いて放って置ける訳がなかった。

 

金色の闇の話を抜きにしても、見た目ではまだ中学生ぐらいであろう少年が野宿は駄目だ。たとえ宇宙人だとしても。

 

結局、彼の結城家への居候が決まった。




・船が船爆発四散
どこかの変わった尻尾が生えた宇宙人の船に衝突したらしい。

・ホームレスが至福とは
虫や草を食べるのが当たり前の生活を送っていたらしい。

・原作だとどの辺
地球に着いたのは1巻、現在は10巻くらい。


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3話

彼が結城家に居着いてから数日が過ぎた。

 

リトの妹である美柑は増えた居候に微妙な表情をしていたが彼の言動から放って置いたら駄目な人種である事を見抜き彼の居候を承諾した。

 

彼の様子を見に金色の闇が何度も結城家を訪れるのだが、その度にリトは恐怖で震える。命を狙われるなんて地球では早々ない事を経験したのだから仕方がないのかもしれないが。

 

 

「どうですか、この家の暮らしは」

 

「凄いね。今までに何度か食事をご馳走になった事はあったけれど、こう毎日三食なんて贅沢は初めてだ」

 

 

リトやララ、美柑の3人は学校へ行っている時間なのでこの家には彼と金色の闇の2人しかいない。

 

彼はニコニコと笑いながら金色の闇に告げる。

 

 

「俺はそろそろこの家を出るよ。リト君とミカンさんだっけ、2人には世話になったし言伝を頼みたいんだけど」

 

「は? まだあそこに戻るのですか?」

 

「いや、人がいない所へ行こうかと思って。ちょっと調べてみたけどこの星にも未開拓な場所はそこそこあるみたいだし」

 

 

彼の言葉には流石の金色の闇も目を丸くする。良かれと思って衣食住を確保させたのに、それを全て放り出すとはどういう事だと問い詰めるが当の本人は。

 

 

「だってほら、この家の住人がどれだけ良い人かは解ったけど……。俺は異物だから」

 

 

彼がこの家に住む事で食費が、洗濯物が、日用品が僅かだが増えた。勿論結城家の2人はそれを迷惑だとは思っていないし、同じく居候であるララも母の恩人だということで、感謝すれど邪険に思う事は無い。

 

 

「もう1つはこっちの都合なんだけど、彼らの世話になるってのも数年が限界だろう? だから、もうしばらくこの星に住む為の地盤固めがしたいんだよ」

 

 

彼は老いない。時間の捉え方に他者とのズレが生じるのは仕方のない。彼の言うしばらくは数年の話ではなく、数十年。もしかしたら100年以上の事だ。

 

現に、リトは高校生でありあと数年もすれば自身の将来を選択しなければいけない。尤も、ララがデビルーク王になるのだと豪語しているが。

 

妹の美柑にしろ、進学すれば家事が負担になり、人数が多ければ手につかなくなる事も十分に有り得る。

 

全く姿に変化がない存在は気味の良いものではないし、彼も親密な存在が老いて消えていくのは辛い。

 

 

「世話になったし何かお返しを……。血だとちょっとアレだし、髪で良いかな。切ってくれない?」

 

 

彼の身体は末端になる程効果が薄まる。髪の毛なら効き過ぎる栄養剤くらいのものだ。1度に大量に摂取しなければ後遺症もない。

 

金色の闇は二つ名の元になった金髪を変身させる。

 

ハンマーに。

 

それを彼の頭に思い切り振り下ろした。常人なら確実に後遺症の残る強さで。しかし、彼にはこれくらいやらなければ意味がない。

 

頭を床に埋め込ませる勢いで彼は顔から打ち付けられるが、ハンマーが退かされるとケロッとした様子で上体を起こす。

 

 

「何をするんだ」

 

「忠告ですが、私は貴方の生活保護と引き換えに結城リトの抹殺を取り下げています。それが放棄されたら、結城リトがどうなるか……、解りますよね?」

 

「なる程……」

 

 

何でお前がその条件で依頼を取り下げるんだ。とは彼は言わなかった。

 

なんだかんだで顔を合わせる機会は多かったし、雑談なんかもしてきた相手だ。金色の闇が彼に気を使う事は理解出来る。

 

 

「なら半年かな。もっと早く発つ可能性もあるけど、それ以上は駄目だ。一緒に暮らすのは良くないんだ。それは君が1番よく解ってる筈なんだけど」

 

 

例えばの話。彼が怪我をして、血が出て、それが何かの間違いで結城家の面々に付着する。

 

結果、量によっては結城リトがショタに、結城美柑が幼女になる。不可逆で。

 

目の前にいる金色の闇が良い例だ。今でこそ血が付着する様な殺し方はしないもの、以前は彼の返り血を浴びる事がしばしばあった。

 

金色の闇は本来の年齢より5、6歳幼い姿をしている。外見は結城美柑よりも年下なのだ。

 

仕事中は変身して誤魔化しているが、金色の闇は立派な幼女である。本人は自業自得と認めながらも時折彼に八つ当たりをする。

 

 

「こんな平和な町で何があったら血飛沫があがるんですか」

 

「長い間生きてるけど、君に切りつけられたのが原因でってのがベスト5に入ってる」

 

「仕事外ではしてませんが」

 

 

その仕事が10日に1度はあったのだが。彼の不満そうな視線を受けた金色の闇はシラを切る。

 

 

「それに、しばらくそっちの仕事は受けませんよ。余りにも取り逃がした回数が多いので協力関係かと疑われ始めていますし」

 

「協力関係?」

 

「私がわざと取り逃して、依頼料を貴方と2分しているのではないかと思われているんです」

 

「他の奴にも散々撃たれたり刺されたりしてるんだけどなぁ……」

 

「でも逃げ切っているでしょう?」

 

 

追いかけっこの最中に流れる血を集めたりする輩は流石にいない訳で、彼に手傷は負わせたがその身体を一部でも採取したという者は少ないのだ。

 

地面に落ちた血は砂漠に落ちた水滴の様に直ぐに吸収されてしまうし、腕を飛ばすような致命傷は、彼も長年追われ続けているだけあって回避してくる。 そもそも、見つける事自体が困難だ。

 

その点、金色の闇は発見率が高く、5%程の確率で極少量だが彼の身体を採取できる。依頼が集中するのも肯ける。

 

偶に欲張って彼を殺してもってこい、という依頼者がいるのだが金色の闇は死体の運搬は拒否して自身で回収しろという姿勢を取る。地球に来る前の依頼もこれにあたり、回収前に彼は傷を癒して逃げるのだ。

 

確かにこんな事では協力関係と疑われるのも仕方ない。

 

 

「つまり、もう少しサービス精神を見せろと」

 

「……はぁ」

 

 

彼が身体を安売りしとうと曲解した事に金色の闇はため息を吐く。コイツは誰かに保護されないと駄目みたいだ。

 

 

「ところでその袋は何? ずっと持ってるけど」

 

「あぁ、忘れていました。お土産です」

 

 

金色の闇が手に抱えている紙袋からたい焼きを取り出し、彼に差し出す。

 

 

「この前食べたがっていたので。どうぞ」

 

「あの時は胃に入れて大丈夫なものなら何でも良かったんだけど……。まぁいいや、頂きます」

 

 

彼はたい焼きを受け取るとそのまま齧る。金色の闇からすればこの星に来て初めて食べた物であり、好みにも一致する思い入れのある品である。

 

彼は無言で受け取ったたい焼きを押し込むように胃の中に詰め込む。金色の闇が彼をジッと見つめるが、彼は出来た性格をしていなかったので首を傾げるだけだ。

 

 

「えっと、どうでした……?」

 

「うん、美味しいんじゃないかな……?」

 

 

耐え切れずに金色の闇がたい焼きの感想を求めるが、彼は微妙な反応を返すだけ。

 

補足すると、彼にとって食べ物とは消化出来るか、毒性がないかというのが重要で次に量。栄養や味は二の次で要するに味覚がぶっ壊れている。

 

彼にとっての味に対する姿勢は、今後も食べていけるか二度と口にしたくないかだ。土の味までなら我慢できるらしい。

 

この日、金色の闇は帰った宇宙船の中で膝を抱えた。




・ヤミちゃんの姿
例のスカンクの被害を受けた時くらいのロリさ

・おう家の中で1話ってどういう事じゃ
こっちも聞きたいの

・結局何がトラウマなのさ
ヤミちゃん視点だと結構なこの絶滅危惧種の存在が結構なトラウマ


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4話

彼が本格的なニート生活を送り始める前に、結城家での役割が決まった。

 

買い出しと、共通スペースの掃除、それと留守番だ。

 

3度程、美柑“が”付添いで買い出しに行き、買い物の方法を覚えた所で毎日必要なモノをイラスト付きのメモで渡される。彼と美柑で共通して使える文字が無いためだ。

 

言語については触れてはいけない。日本語は宇宙的に有名な言語です。

 

買い出しの途中の事だった。宇宙でも数少ない、彼が二度以上遭遇している宇宙人を見かける。勿論、好印象ではない。

 

 

「貴様は……ッ!」

 

「……どーも。えっと、ザ何とかさん」

 

 

この町ホントに宇宙人との遭遇率たけーな。と彼は本気で人里離れた秘境に隠れ住もうか悩み出す。

 

実は宇宙でも知る人ぞ知る避暑地的な扱いの町だったのかもしれない、なんて馬鹿な想像を彼がし出した所でザスティンは剣を構えた。

 

実はデビルーク星では彼はお尋ね者なのである。犯罪者という訳ではないのでALIVE(生存状態)のみでの手配だ。彼の場合はどうしたって生きたまま連れてかれるので特に意味は無い。

 

しかし、ザスティンは彼を捕えたい訳ではない。

 

 

「何故貴様の様な者がここにいるのかは解らないが、取り敢えず手足を落として何処かの星へ放り出す」

 

「そんな邪険に扱わなくても……。アレは俺のせいじゃないし、ルシオンが短気なのが悪いだけじゃ」

 

 

彼がデビルーク星を発った時は穏便にとはいかなかった。デビルーク王が彼を気に入り、手元に残そうとしたのだ。

 

要点だけ纏めると、彼が王妃を口説くフリをデビルーク王の目の前でして戦艦が7隻程消し飛んだ。事後処理を隠れ蓑に彼は逃げた。それだけだ。

 

何が不味かったというと、王妃がその場で断らなかったのだ。相手は命の恩人で、夫と同じく種族の特性である魅了が効いてない。結果、彼の想定していた数倍の勢いでデビルーク王がブチ切れた。

 

爺相手に何を嫉妬していたのだと数ヵ月後に落ち着いたデビルーク王は彼を指名手配。ちなみにララはその辺の経緯を丸で覚えていない。

 

滞在時には彼の監視かつ護衛(彼の居場所が知れ渡っていたためその手の方が絶え間なく強襲してくる)を務め、事後処理に1番手を焼かされたザスティンが彼をデビルーク星に近付けたくないのは仕方ない。

 

 

「覚ごぉッ!?」

 

 

ザスティンが踏み込もうとした瞬間、背後から金色の刺突が後頭部を遅い呆気なく地に伏せる。

 

彼がザスティンの背後を見ると、金色の闇がたい焼きを咥えながら佇んでいた。髪の毛の一部がウネっている。

 

 

「あー、助かったけどやり過ぎじゃないかな?」

 

「死にはしませんよ。直ぐに血が上る頭なら血を抜いた方が良いかと思いますし」

 

「吹き出してんだけど。頭蓋骨が陥没してたりしないよな?」

 

 

金色の闇が目を逸らす。彼はため息を吐くとザスティンに近寄り、傷口に触れる。

 

 

「あまり広まってないけど、触れているだけでも傷は塞げるんだよね。血の補充とか考えたら体液使った方がいいんだけど」

 

「知ってますよ。何度かお世話になりましたので」

 

「そうだっけ?」

 

 

彼は、返り血を浴びた回数の方が多いのでは、という言葉を飲み込んでザスティンの後頭部を抑え続ける。

 

ここで問題なのは、彼は買い出しの途中。つまり、この殺傷沙汰が人通りが普通にある道での出来事出会った事。

 

金色の闇の攻撃に抜かりは無い。手は抜いたが、一般人には認識する事も出来ない速度での華麗な手際だった。

 

よって周囲の人からは変な鎧を着た男が勝手に騒いで突然血を噴き出して倒れた事になる。

 

 

「あー、私は医者なんで皆さん気にしないで下さいねー!」

 

 

彼がそう言って、ようやく遠巻きに眺めていた人が散り始める。

 

傷が塞がったのを確認して、彼はザスティンから手を離した。ザスティンの後頭部と彼の手は血濡れたままなので見た目は完全に犯行中である。

 

 

「じゃ、後は放置で」

 

「一応治安を守る組織はいますし、このままにしては連行されてしまいますよ?」

 

「それは俺の責任じゃない」

 

 

不意に彼の鼻はムズムズとしだし、思わずくしゃみをする。彼は咄嗟に口元を手で覆ったが、僅かながら漏れてしまったのだろう。

 

直ぐ傍にいたザスティンは飛沫した体液を浴び、急に目を開きバネのように起き上がる。

 

剣を持ったまま。

 

まるで砂場にシャベルを差し込む様に、サクッと簡単に彼の胴体に剣が刺さり、通行人が悲鳴を上げる。

 

金色の闇は酷いコントを見た時のように半目でその様子を眺める。

 

 

「ここは……って貴様何故そんな事に!? スマン、直ぐに抜く!」

 

 

我に返ったザスティンは慌てて剣を抜こうとするが、彼は剣を持ったザスティンの手を掴み止める。

 

 

「はいはい事故事故。気にしない気にしない。それより人気のないとこにこのままで運んでくれない? 抜いたら血塗れになるし」

 

「あ、ああ……」

 

「皆さん気にしないでー、大道芸の練習ですかゲホッ」

 

 

胴体を貫かれたら当然内臓も逝ってる訳で、彼は盛大に吐血する。ザスティンにブチ撒ける事はなかったが道路が血だらけだ。

 

 

「……し、仕込みの血糊です」

 

 

そう言いながら血を吐き続ける彼に関わるのは危険だと、通行人達は見なかった事にして早足に去って行く。彩南町の人々は適応力が高い。

 

 

「またですか」

 

「隕石直撃に比べたら可愛い方……」

 

「アレは酷かったですね。上の方だけ消し飛んで噴水になってましたし」

 

 

2人が話しているのは、隕石が建物に当たって水道管を壊して水が噴き出した話ではない。隕石が彼に当たって上半身が木端微塵になり残った下半身から血飛沫が上がった話だ。

 

 

「やー、ホントに世界を敵に回してるというか。……定期的に殺しに来るよね」

 

 

周りに人がいないならいいや、と彼はザスティンから離れてから剣を身体から抜く。出てはいけないものまで一緒に出た気がするが、急いで拾って詰め直した。

 

 

「き、貴様はさっきから何をしているんだ……?」

 

 

ザスティンはただ困惑する。先程は好戦的な態度を取ったが、実際は灸を据えるくらいで済ませてデビルーク星に連れて行こうと思っていたのだ。

 

それが、彼は勝手に大怪我をしてそれが当然の事のように振舞っている。

 

 

「この人は誰かに殺されないと勝手に事故に遭って死にかけますよ。月に1度程の頻度で」

 

「は?」

 

「狙われてる時でも平気で倒れるからね。追いかけっこの途中でもコケたら木の棒が脳天に刺さったりするし」

 

「……苦労、していたのだな」

 

 

ザスティンが彼に憐れみの視線を向ける。

 

 

「嫌でも慣れたよ。あ、悪いんだけどこの辺の片付け頼めるかな」

 

 

彼は金色の闇にそう言う。金色の闇はため息を吐きながらも地面を軽く削って血痕を消した。慣れた様子である。

 

彼が血塗れになったので買い出しは中断、金色の闇が彼を結城家に送り届けた。

 

ちなみに、このペースで流血沙汰を繰り返すと、リトのお下がりの服が全て駄目になるまで1ヶ月である。

 

夜、彼にはララのお付のロボであるペケのコスチュームを変更する機能だけ抜き出した発明品を与える形で話が付いた。




・死ぬのか死なないのかはっきりして
死ぬような思いをして気を失う→治って目が覚める
Angelb〇ats!みたいな想像。

・ヤミちゃんのトラウマ1
1ヶ月近く追いかけっこしてたら標的が目の前でan〇therした。自分で殺るより酷い事になる。

・痛覚迷子
一応お爺ちゃんだから……


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5話

「そういえば、何て呼んだらいいんだ?」

 

 

結城家の食卓で、リトがそんな事を言ったのが始まりだった。

 

もう他人とは言えなくなる日数を同じ家で過ごしているのに、誰も彼を名前で呼ばない。というか、名前を知らない。

 

 

「あー、それなんだけどね。俺、名前がなんだったのか忘れちゃって」

 

 

彼の事を他人に説明する場合、例えばララなら『お医者さん』と言うし、蜜柑なら『知り合いお兄さん』と言っている。リトや金色の闇は『あの人 』としか言っていない。

 

 

「でも本人が名前を忘れてるってなると、なんて呼べばいいのか」

 

「ヤミちゃんの知り合いなら『金色の闇』みたいなコードネームがあるんじゃないかな」

 

「…………無いよ?」

 

 

不死鳥-フェニックス-とか、そんな二つ名は知らないと彼はシラを切る。

 

 

「でも、一緒に暮らしているのに名前が解らないと不便ですよね」

 

「そうかな?」

 

 

根無し草だった彼には良く解らない感覚だ。

 

 

「ああ、そういえば金色の闇に名前を考えて貰うよう頼んだ気がする」

 

「ヤミちゃんに?」

 

 

地球に来る前にそんな事を頼んだなぁと彼は思い耽るが、再開した金色の闇から何も言ってこないので忘れたのか相手にされなかったのかのどちらかだと判断する。

 

金色の闇はあれから毎晩、寝る前にひとつ候補を上げて納得がいくまで続けると決意し、実践しているが。

 

そもそも、再会が早過ぎたのだ。金色の闇も、彼も1年以上は関わらないつもりだったのだから。

 

 

「なら早いところヤミさんに聞いた方が良いですね。ヤミさんが何処に住んでるか解りますか?」

 

「宇宙船だと思うよ。俺も壊れてなければそうするつもりだったし」

 

「そっか、宇宙人なんだから宇宙船は持ってるよな……」

 

 

リトはそう言うが、リトの周りにいる宇宙人は異様に地球に馴染んでいるので住居を構えている者が多い。御門やルンがそうだ。

 

 

「何で壊れちゃったんですか?」

 

「この星に来た時に俺が乗ってたやつの何倍もある宇宙船にぶつかって……。元々古かったし、爆発して跡形もなくなっちゃってねー」

 

 

彼は飄々としてそんな事を言う。余程の事態にならなければ、彼は地球が他の星と交流を持てる技術を持つまで地球に居座るつもりだ。

 

が、彼の事を良く知らないリト達3人はそれを不憫に思う。故郷に帰れなくなってしまったのだ、普通は落ち込んだ様子を見せるものだ。

 

そう考えると、彼の飄々とした態度は無理して強がっている様に見えなくもない。ここで、彼の少年の幼な容姿が更に同情を煽る。

 

彼の容姿を地球人に当て嵌めると12~14歳程だろう。実際に彼の成長が止まって容姿が固定されたのは生後17年なのだが、過酷な生活環境では伸びるものも伸びない。

 

 

「じゃあ、もし帰る事になったら私に言って! すっごい宇宙船を作るから!」

 

「あの、苦労してたんですね。もし食べたい物とかあったら言って下さい、それくらいしか出来ないですけど……」

 

「お、おぅ……」

 

 

急にしんみりとなった空気に彼は首を傾げた。

 

結局彼の呼び方は各人に任せるという事になる。肝心の金色の闇に彼が質問したところ。

 

 

「保留でお願いします」

 

 

と、一応考えている最中みたいなので彼は特に何も言わなかった。

 

その後、リト達の通う高校で清掃活動があったりしたようだが彼は関係ないので留守番。

 

更にその後日の事だった。

 

 

「なにこれ……」

 

 

リト達が学校に行った後に、テーブルの上に手紙が置かれていた。矢印の書かれたプラカードでこれみよがしに注目させようとしている。

 

先程見た時には無かったのだが、と彼は首を傾げる。

 

気にはなるが触らないに越した事は無い。彼は手紙を無視して最近の日課となった言語学習に戻る。

 

 

「そこは普通開けるだろ!」

 

 

彼の興味が完全に消えた所でリビングのドアが開き、ひとりの少女が入ってくる。彼にとっては初見の相手だった。

 

しかし、相手がどういった人物かは見た目から想像出来た。

 

目立つ桃色の髪に、地球では目立つ服装。ララの親族だろう。

 

 

「不用意に開けて居場所が宇宙中に発信されたり、爆発して粉々になったりしたら大変だと思って」

 

「あ、そっか。お前お尋ね者だもんな。……って、そんな仕掛けしてねーよ! 良いからさっさと開けろ!」

 

「何が起きるか教えてくれたら考える」

 

「えっと、それは……」

 

 

言いよどむ少女、ナナ・アスタ・デビルークを見て、彼は取り敢えず手紙を開けずに裂いた。

 

 

「あ! 何してんだお前!」

 

「処分」

 

「チッ、こうなったら強硬手段だ!」

 

 

ナナは何かの装置を取り出して彼に向ける。

 

装置からは光線が彼に向って放たれ、彼はそれを避ける。もう一度それを繰り返し、更にもう一度。

 

 

「当たれよ!」

 

「だって危なそうだから」

 

 

そこからは泥試合だった。ナナは数撃てば当たると光線を乱射し、彼はそれを避け続ける。

 

そんな状況を止めたのは例の現象だ。

 

彼は自分で裂いて捨てた手紙で足を滑らし、寸での所で手を付いて倒れるのを耐えたと思えば、付いた手の下にはボールペン。更に手を滑らし、その衝撃でボールペンが跳ねて、そのボールペンに彼は頭から突っ込む。

 

無駄に勢いをつけて倒れる彼の目にボールペンが深く突き刺さる。完全に脳まで届いているのが見てわかる。

 

 

「……え?」

 

 

何が起こったのか分からないナナは硬直し、血液で水溜りを作る彼を黙って見る事しか出来ない。

 

彼は痛みで悶絶し、ピクピクと痙攣している。

 

 

「あ、アタシ殺しちゃったのか……?」

 

「いつも、の、こと……だから」

 

 

彼はフラフラと起き上がり、ボールペンをひと想いに抜く。パタパタと血がフローリングを汚した。

 

 

「なっ……なっ……なっ!?」

 

「急所は外れてるから……」

 

「そんなわけねーだろ!」

 

 

彼が目を抑えながらそんな事を言うと、ナナは父親から聞いた話を思い出す。

 

彼はどんな事をされてもケロッとしていて、翌日には何事もなかったように振舞っていた、と。

 

父親の言うどんな事、が当時は悪戯くらいに考えていたが、目の当りにして漸くわかった。あの父親は恐らく物理的に色々していたのだ。

 

 

「で、何が目的? 尻尾からしてデビルーク星人だけど、ララさんの知り合い?」

 

 

見当は付いているが、憶測に過ぎないので一応尋ねる。

 

ナナは自分の名と身分を明かし、目的まで大人しく吐いた。

 

 

「つまり、仮想空間で監視して人柄を確かめるつもりだったと……」

 

「も、もちろん危険は無いんだ。ここにいるのも、モモの奴が姉上の周りにいる奴に片っ端から招待状を配れって言ったからで!」

 

「うん、理解した。じゃあ、俺については特に調べる必要は無いよ。俺は自分の意志でララさんの傍にいる訳じゃないし、悪人でないのは歴史書とかが証明してくれるだろうから」

 

「え、お前ウチの星で一番高額な賞金首だけど」

 

「……それは、アレだ。今代のデビルーク王と特別因縁があるだけで犯罪者とかじゃないし」

 

 

彼はそっと目から手を離す。潰れた筈の眼球は元通りになり、残っているのは血の跡だけになった。

 

 

「で、その招待状は誰に配ったんだ?」

 

「姉上と、この家の奴らと、ここ数日で姉上が何回か話した相手に」

 

「へー…………、ん?」

 

 

それはつまり、金色の闇まで仮想空間に入れてしまったという事か。道理で今日は姿を見ないと思ったと彼は納得するが、ある問題が発生する。

 

彼から見た金色の闇は結構なバイオレンス少女である。「ふざけないで下さい(顔面殴打)」や、「何するんですか(腹部刺突)」を平気でしてくる少女だ。

 

勿論、金色の闇は相手を選んでいるのだが彼はそんな事知らない。

 

結局、彼は仮想空間に乗り込む事になる。




・名前……
無い方が捗るじゃろう?

・今どこ
12巻辺り

・バイオレンスヤミちゃん
きっと本人はちょっとじゃれてるつもりなのです


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6話

彼は仮想空間内にひとりで放り出されていた。

 

この仮想空間は地球のロールプレイングゲームを参考に作られているのだが、彼は地球に来て間もなくゲームなどやった事が無い。

 

 

「おお、死んでしまうとは情けない」

 

 

彼が街を出ると数分でモンスターが彼を取り囲みリンチを始める。もう4度も教会からのリスタートをしていた。

 

取り敢えずNPCに言われるまま転職屋に入ったが、その結果彼は僧侶に。一人旅には向かない職業である。

 

他のプレイヤーと合流出来なければ詰みだ。それは一向に構わないが、取り敢えず金色の闇にだけ接触して起きたかった。暴挙に出る前に止めなければならない。

 

が、彼の今の状態は。

 

 

「詰んだ」

 

 

5度目のゲームオーバーを迎える。ドラゴンに焼き殺された。

 

再び教会に戻され、そこを出た所で運良く知り合いに出会う。

 

 

「貴方もここに飛ばされたのですか……」

 

「何その格好……」

 

 

救世主となる遊び人(金色の闇)の登場だ。というか、コレで彼の目的はほぼ達した。

 

金色の闇が身に付けているのがバニースーツでなければ彼も大手を振って再会を喜んだ。見た目の年齢が美柑より低いため、つめるべきものがない胸部が悲惨である。

 

バニースーツの存在を知らない彼からしたら金色の闇は血迷ったのか狂ったのか、完全に痴女な格好であるため彼は呆れを含んだ視線を向ける。

 

ちなみに彼は神官服モドキを着せられている。

 

 

「視線が不愉快です、潰しておきますね」

 

 

取り敢えず金色の闇は彼に目潰しをしてから今後の事を考える。

 

高確率でララの発明品が関わっている事が予想できるが、肝心のララの姿は見えない。あのララが発明品を使った相手に接触しないのは不自然なため事故か何かを想定したが、それでは招待状の説明がつかない。

 

色々と状況を想定する金色の闇だが、目が回復した彼の一言によりその悩みが全て解決する。

 

 

「この空間さ、ララさんの姉妹が用意したみたいで危険はないみたいだから暴力で解決するのは無しの方向で」

 

「……はい?」

 

 

彼はここに来た経緯を説明し、理解はしたがどうも釈然としない金色の闇はとりあえず髪で彼を縛り上げる。

 

 

「このまま持っていきましょうか。戦闘の役に立たないですし」

 

「せめて頭を上にして欲しい。こんな体質でも血は上るんだ」

 

 

最終的に、その辺で拾った紐で簀巻きにされた。

 

 

 

 

 

 

 

色々と飛ばして魔王城でリトや美柑。リトの友人である西園寺春菜と古手川唯と合流。

 

初見の2人と自己紹介を済ませる彼だが、生憎彼は名乗る名前が無いのでどうしたものかと頭を悩ませる。

 

そんな時、ラスボスが現れたりと色々起きた。結局は、ララに対するリトの気持ちを確かめるためにララの妹達が仕込んだ事だった。

 

多少のアクシデントはあったが無事に現実へと戻った。彼は何故かデビルーク星に向かう宇宙船に拉致されていたが。

 

 

「ごめんなさいね、私達が地球に行く条件として貴方を連れ帰るようにお父様に言われまして……」

 

「そういうことだ。運がなかったって諦めてくれ」

 

 

ナナとその双子の姉妹、モモ・ベリア・デビルークはそんな事を言う。

 

 

「でもどうして居場所が……」

 

「ザスティンの奴が父上に知らせたんだよ。でも、自分は借りが出来たから捕まえられないとか言ってさ」

 

 

なら報告するなよ、と彼は叫びたくなったが当の本人はここに居ないので堪らえる。

 

 

「ところで、本当に長年生きているんですか? 疑っている訳ではないんですが、私達とそう変わらないように見えるので……」

 

「俺だって出来る事なら後数年分は成長したかったよ、何なら爺の姿でも良かった。年齢は数えてないけど、歴史書に記録されてる事は大体体験してる」

 

「なるほど、凄いですね……」

 

「死なないってのはアタシも見たぞ。目の前でペンが……」

 

 

ナナはそう言いかけて口元を押さえる。中々にスプラッターな光景であった為、出来れば思い出したくない事だ。

 

 

「あ、リビング掃除してないや。血が落ちなくなったりしてたらどうしよう」

 

「アタシがしといてやったよ。そのせいで飼ってたヒルがヤケに元気になっちまったけど」

 

「何してんのさ……」

 

 

ヒルを飼っている、というのは決してナナが変な趣味を持っている訳ではない。

 

ナナは動物、モモは植物と会話できる力を持っていて、宇宙中から様々な種類を拾って集めている。ヒルはその内の一種だったに過ぎない。

 

 

「もうひとつお聞きしたいんですが、お父様とはお母様を巡って争う仲、というのは本当ですか?」

 

「断じて違う、アレはその場限りの狂言です」

 

「えーっ!? でも母上だぞ? 普通は本気で、その、ケダモノみたいな感じに……」

 

「俺の実年齢からしたら孫の孫よりも年下なんだけど」

 

「でも、お母様にはチャームがあるんですよ? 直接見たりしたら貴方でも……」

 

「見たさ、治療の時に。そもそも、あの種族がそれなりにいた頃から生きてるんだし、チャームが効いたら……」

 

 

そこまで言って、彼は口を噤む。もしチャームが効いたら、今頃生きてない、なんて口にした日には色々と面倒だ。

 

 

「で、何でまたルシオンは娘に俺を拉致させたわけ?」

 

「詳しい事は聞いてませんが、渡したい物があるそうですよ?」

 

「え? サンドバックにしたくなったとかじゃなくて?」

 

「いやいや、いくら父上でもそんな事で拉致ったりしないだろ」

 

「するよ。昔デビルーク星に軟禁されてた時は殆ど毎日だ」

 

 

双子が引き攣った表情になる。

 

彼はゆっくりと立ち上がり、服に付いた埃を払って。

 

 

「じゃ、逃げるわ」

 

 

船室から逃げ出す。その速度は凄まじく、デビルーク星人である2人が咄嗟に反応できない程だ。油断していたとはいえ、其処らの宇宙人に出来ることではない。

 

2人は呆気に取られていたが、クスクスと笑い出す。

 

 

「ホントに父上の言った通り、逃げるのは得意なんだな」

 

「丁寧に拘束具が外されているわね。最新式だったのに」

 

 

彼が座っていた位置には大量の拘束具が落ちていた。しかし、2人は慌てた様子もなく談笑を始める。

 

本来、大型の宇宙船には星に降りる為に使う小型船を乗せているのだが、今回に限り全て宇宙船から降ろすようにデビルーク王が命令したのだ。

 

彼も生身で宇宙空間には出ないだろう。少なくとも、周りに安全な星がない限り。

 

実際、彼は必死に脱出手段を探しているが一向に見つからないので焦り始めている。その内、黒服達が取り押さえるだろう。

 

ナナもモモも、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

問題が起きたのはデビルーク星に着いてからだった。彼が逃亡したのだ。

 

彼はデビルーク星に着くまでの数日を宇宙船内で逃げ続け、宇宙船が着くなり直ぐ様逃げ出した。

 

デビルーク星には宇宙船出航禁止の警報が鳴り渡り、捕獲隊が編成された。デビルーク王が自ら指揮を取る一大事である。

 

逃げ出した本人は王妃、セフィ・ミカエラ・デビルークの執務室で寛いでいる訳だが。

 

 

「貴方が来ると賑やかになるわね」

 

「いい迷惑だよ。ルシオンもあの時の事は冗談だって理解してる筈なのに」

 

「あら、冗談だったの? 随時と情熱的な求婚をされた気がするのだけど」

 

「それくらいしないと、あのままずっと保護(かんきん)されてた」

 

 

しばらく、セフィがペンを走らせる音だけが続く。

 

 

「ハァ……、船まで止められるなんてね。どれだけ本気なのやら」

 

「夫も貴方に会えるのを楽しみにしていたのよ。思い切って会ってみたらどう?」

 

「会ったらミンチにされるし……」

 

 

彼がそう言うと、セフィは軽く吹き出して笑う。

 

 

「フフッ、そんな事を心配して逃げていたのね。大丈夫ですよ。貴方が出て行ってからたくさん話し合ったから」

 

「話し合い?」

 

「はい。話し合いです」

 

 

セフィはペンを置くと、普段は人前では外さない顔のヴェールを外す。

 

 

「少しだけでいいのよ。ほら、私の美しい顔を立てると思って会ってもらえない?」

 

「断るよ」

 

「じゃあ、衛兵を呼ぶわね。デビルーク王の妻を襲った罪状で更に懸賞金を上げて宇宙中に手配します」

 

「逃げ切って見せるよ」

 

「ちなみに、私も追跡に出ます。国の事は全部後回しにして、貴方を捕えるまでここには帰りません」

 

 

デビルーク星の政務は大半がセフィによって行われている。セフィが星を長期間空ければ国が成り立たないだろう。

 

彼が本気で逃げたら、デビルーク星の体制が崩壊する事になる。それは彼も望む所ではない。

 

 

「……少し会わない内に随分と口が回るようになったね」

 

「あの頃よりも2人子供が増えてますからね。貴方は変わらないけど」

 

「良いよ。その代わり、君も同席してくれ。それならルシオンも無茶はしないだろうから」

 

「あら、最初からそのつもりよ?」

 

 

その後、彼はデビルーク王と対談した訳だが。

 

まさか下の娘を嫁にと言い出すとはセフィも予想してなかったらしい。




・バニーヤミちゃん
原作→少しある、本作→平坦。何がとは言わないですが。

・キョーコちゃんのDEBANは……
主人公さんは後ろで控えてて特に何もしなかったのでカット。

・拉致
彼の本来の日常

・双子の押し売り
実はララの婚約者にする話もあったかもしれない。ヤミちゃんが嫉妬して可愛くなる


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7話

【悲報】ヤミちゃん不在


「冗談じゃない……」

 

 

彼は呆れた様子でそう言う。デビルーク王はそう簡単に自分の意思を曲げるような事をしない。それも解っているからこそ、尚更呆れの色は強かった。

 

彼の唯一の弱点を知らないにしろ、彼を親族として迎え入れれば戦争が起きる。それだけの利用価値が彼にはあるのだ。

 

だから彼はどの星にも過度に関わらないようにしてきたし、決して深い関係を持たないように心掛けた。

 

 

「これは決定事項だ。他の星にも伝える準備をさせてある」

 

「また銀河大戦でも起こしたいのか?」

 

「俺はデビルーク王だ、文句のあるヤツは力ずくで黙らせる」

 

「……その縮んだ身体は戻さないけど、それでもか?」

 

 

デビルーク王は黙って頷く。彼はセフィの方に視線をやるが、セフィは首を横に振った。どうやら、今回はセフィでも説得が出来ないらしい。

 

 

「ナナやモモにはこれから伝えるが文句は言わない筈だ。元々、政略結婚の覚悟はさせていたからな。むしろ、悪い噂のないお前なら喜んで受けるだろ。アイツ等じゃ不満か?」

 

「そういう話じゃないだろ。俺の年齢も考えてみろ」

 

「中身がジジイでも身体は若いままだろ。ララより年下じゃねぇか」

 

「その姿でそれを言うか……」

 

 

デビルーク星人の特徴として、内包するエネルギーを大量に消費すると身体が縮むというものがある。デビルーク王も先の大戦の影響で赤子の様な背丈まで身体が縮んでいた。

 

 

「そもそもルシオン。お前、俺をサンドバッグ代わりにするために探していたんじゃないのかよ」

 

「それについては否定しねぇが……、お前にはデカい借りもある。いい加減、腰を落ち着けてゆっくりできる場所が欲しいだろ?」

 

 

彼はそれを聞いて硬直する。

 

だがそれも一瞬の事で、直ぐに肩を竦めて笑いながら言った。

 

 

「第2次銀河大戦の事は知ってるか?」

 

「……お前の同族がある星に嫁いで、それが気に入らなかった周りの星々が始めた戦争だろ」

 

「アレで十数個の星が消えた。また同じ事が起きるよ」

 

「俺がさせねぇ」

 

 

デビルーク王の力は強大だ。全盛期であれば並ぶ者はいない。

 

 

「……ガキんちょが見栄を張るな。自分の立場を考えろ」

 

 

だが、それは個人での話だ。戦争になればデビルーク王の周りの者達が狙われる。

 

セフィを、ララを、ナナやモモを。国民を危険に晒してまで彼を迎え入れるのは我儘が過ぎる。

 

 

「……どうしても受け入れねぇんだな?」

 

「今更生き方を変えるつもりはないよ」

 

 

暫しの沈黙。それを破ったのは爆発音だった。

 

何かが爆発した訳ではない。デビルーク王が床を蹴っただけ(・・・・・・・)だ。

 

彼の首をデビルーク王の小さな手が掴み上げ、呼吸を無理矢理に止める。

 

 

「なら、力尽くだ。お前が納得するまでボコボコにしてやるよ」

 

 

苦悶の表情を浮かべていた彼だったが、ふと、その顔から感情の色が消える。

 

グチャリと、デビルーク王の手の中から果実が潰れるような音がした。

 

 

「っ!?」

 

 

セフィは悲鳴を上げそうになるが、手を口に押し当てそれを堪える。

 

ゴトリと、鈍い音を立てて何かが落ちる。支えを失った彼の身体は崩れ落ちた。

 

 

「テメェ、自分の身体に何て物を仕込んでやがる……」

 

「昔拘束されたときに使ってた小道具だよ。そんな大したものじゃない、ただ首を圧迫して千切るだけだよ」

 

 

彼は床に落ちたチョーカーを拾う。

 

 

「ルシオン、これ以上は止めにしよう。俺がしないといけないのは人助けとかそういうもので、争い事じゃないんだ」

 

 

彼自身が争うのも、彼が原因で争いが起きるのも彼は望まない。

 

 

「良く言うぜ。武者修行の幼気な少年をボロ雑巾みてぇにしたクセによ」

 

「俺にだって荒れてる時期はあるよ」

 

「諦めねぇからな」

 

「勝手にするといい。どうせ一生叶わないだろうけどね」

 

 

方法は強引だが、デビルーク王なりに彼の事を考えた事は彼も理解している。

 

少し調べたら彼がどういった生活を送って来たかは解る。誰もが喉から手が出る程に求める存在であるがために安住の約束された居場所はなく、本当の意味で理解者が現れる事もない。

 

過去に彼と親しくなる者もいたが、その者達は彼の生活のほんの一幕しか生きられなかった。その者達の手記には決まって彼より先に逝く事への懺悔が書かれている。

 

彼はこのまま地球へ戻るかどうかを改めて考える。

 

事故によって地球にしばらくいる事を考えていたが、ここはデビルーク星だ。宇宙船なら手に入る。想像していたより宇宙人が多かったあの星へ態々戻る事もない。

 

まぁ、彼がどう考えた所で寝ている間に地球に送り返された訳だが。双子付きで。

 

 

 

 

 

 

 

彼とデビルーク王との出会いは、デビルーク王が10代前半の事だった。まだ王座に就く前の話だ。

 

幸か不幸か、武者修行中にある星で彼に遭遇する。当時彼は精神的な疲労が重なり、端的に言って機嫌が悪かった。

 

長年を過ごし冷静沈着を体現していると自負していた彼でもイライラする事はあったのだ。

 

 

「お前、随分な有名人みたいだな」

 

「……デビルーク星人?」

 

 

デビルーク王は大戦中に生を受けたため、歴史に疎く彼がどういう存在かよく分かっていなかった。

 

しかも、大戦中に名を上げるのは決まって猛者であり彼もそうであると思い込んでいた。

 

 

「早速だが、修行に付き合って貰うぜ!」

 

 

そう言ってデビルーク王は彼に手刀を放ち、彼はあっさり胸を貫かれる。

 

呆気にとられているデビルーク王に、彼は冷たい視線を向けた。

 

 

「いきなり人を殺しにかかるとか、随分な世間は知らずみたいだね。少し痛いめに遭わせてやんよ」

 

 

彼は何をしたかというと、デビルーク王の尻尾をもいだ。

 

もいでは繋げ、もいでは繋げで差はあるモノのデビルーク星人の弱点である尻尾を徹底的に痛めつけた。

 

尻尾からビームを撃つ暇など与えない。的確に関節を決めて動きを封じたまま尻尾をもいだ。

 

その後、何度かデビルーク王は彼にリベンジをしようと挑むのだが彼はあれ以来攻撃を仕掛ける事はなかった。

 

初めてされた勝ち逃げだ。プライドの高いデビルーク王がそれを許す筈がない。彼の見た目が当時は同い年くらいに見えたのもデビルーク王の闘争心を煽った。一方的なライバル認定だ。

 

が、元々神出鬼没な彼だ。そもそも出会う事が稀である。

 

彼についての情報を集めると、綺麗に2つに分かれていた。

 

一方は彼の利用価値がについて。彼の利用価値や、その能力について語られる事だ。

 

もう一方は、救世主扱いされている彼の事だった。

 

奇病に侵された国を救い、不治の病を治療し、伝染病を見事に消し去った。その事に求めた対価は些細な食事や衣服、宇宙船の燃料だったとか。

 

出会いが出会いであったために、デビルーク王は後者については半信半疑だったが。

 

彼がどうしようもない善人だとデビルーク王が理解するのは、その約10年後の事。




・謎シリアス
現代風に表すと「いい加減自分の幸せも考えようぜ」。
尚、デビルーク王は世紀末な生まれなので拳で語り合うタイプ。

・尻尾もぎもぎ
ジャ〇プ作品は基本年功序列だから……。
つまり本気のお爺ちゃんはそこそこ戦える。

・輸送、双子付き
原作だと双子が家出してくるタイミング

・ヤミちゃんはよ
頑張る


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8話

着々と結城家に居候が増えていく中、彼はヒモのような生活を送っている。

 

デビルーク王曰く、娘の婚約者だから生活費を出してやる。という事で、結城家に彼の生活費が送りこまれていのだ。彼は結城家に管理を全て丸投げしたが。

 

蜜柑はそれを受け取るかどうか迷ったが急に増えた居候にエンゲル係数が大変な事になっていたため苦笑いしながら受け取った。

 

彼はその内の1割をおこずかいとして与えられているが、今後も自分のために使う事はないだろうと自覚している。

 

デビルーク王との再会という一大事を乗り越え、一見穏やかに見える彼の生活での問題は。

 

 

「旦那様は何をしているんですか?」

 

 

デビルーク星の第三王女がヤケに婚約に乗り気な事だった。

 

 

「読書。やっとこの星、というかこの国の文字が読めるようになってきたから」

 

 

彼が手にしているのは図書館から借りて来た児童書だった。絵本である。

 

既に日常に支障が無い範囲でこの星の言語をマスターしているモモは不思議そうに首を傾げた。

 

 

「面白いんですか?」

 

「面白いよ。それに、話のネタになるから」

 

 

荒廃した土地で子供に聞かせる時に、と彼は続ける。

 

モモにとって文献の中の人物だった彼だが、話してみると意外にも気安い人物だった。

 

会うまでは少なくとも千年は生きてると聞き、好々爺のような性格かと想像していたのだ。しかしこうして話していると同年代ではないかと錯覚してしまう。時折、会話の内容に影が差しているが。

 

ふと、彼が時計を確認すると丁度お昼時だった。

 

蜜柑が律儀に用意してくれた昼食がテーブルの上にあるのだが、彼はそれを見て蜜柑が見たままの年齢ではないのではと思う。

 

 

「おはよ……」

 

 

ナナは今起き出してきたようで、髪を結ってない状態でリビングに入ってくる。

 

堅苦しい王宮暮らしから解放された反動らしい。その内に直るとモモは彼に言い聞かせたが。

 

 

「ちょっとナナ、旦那様の前なんだからシャキッとしたらどう?」

 

「旦那様って……。そいつボーナムよりずっと年上だろ?」

 

「年の差なんて些細なものよ」

 

「いやいや、流石にそれだけ爺さんだと……」

 

「なら、ナナは他の婚約者をお父様に決めて貰うのね。今はリトさんがいるけれど、その前の候補者達を見てから考えた方がいいと思うけれど」

 

 

酷い言い様だが、デビルーク王はララの婚約者候補に名の通った有力者、あるいはその息子に片っ端から話を出していた。どうせ篩に掛けるからと、種族や人格はお構いなしにだ。

 

それを知るモモからしたら降って湧いたチャンス。これを逃すなど以ての外。

 

ナナも嫌な未来を想像したのか、げんなりした表情になるが顔を振ってその考えを振り切る。

 

 

「大体、そいつは断るって言ったんだろ」

 

「お父様は勝手にしろって旦那様に言われたそうよ」

 

 

彼は二人の会話を聞き流しながら児童書を閉じて、テーブルの上のラップ掛けされた昼食を手に取る。レンジで温める様に言われていたが爆発でもしたら困るのでそのままで。

 

 

「あれ、温めないのか?」

 

「機械は基本的に触らないようにしてるんだ。爆発するから」

 

「は? ……あー、ならアタシがやってやるよ」

 

 

例のボールペンの事を思い出したナナは有り得ると判断し、彼の手から料理の皿を取ってレンジに入れた。

 

 

「ありがとう、助かるよ」

 

「べ、別にこれくらいでお礼なんて必要ないって……」

 

 

ナナの後ろでモモが出遅れたと歯軋りしているが彼は見なかった事に。

 

しばらく悔しがっていたモモだが、ハッとして、それからニヤニヤと笑いながらナナに寄りかかりながら、

 

 

「口では嫌々してるように言ってるけど随分と甲斐甲斐しいわね」

 

「そういうのじゃねーよ! モモはアレが起きるとこを見てないからそんな事が言えるんだ」

 

 

頬を真っ赤に染めて反論するナナに、モモは余裕の表情を崩さない。現象について、話には聞いているが実際には見ていない。

 

だからこそ、油断していた。

 

急にナナの顔が真っ青になったかと思うと、後ろからゴトリと何かが落ちる音がした。花瓶でも倒れたのかとモモは後ろへ振り向き、あるはずのモノがない彼の身体を見た。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、中に血が入ってちょっと壊れてるみたい」

 

 

彼のチョーカーを分解してララはそう判断した。ナナとモモはその後ろでガタガタ震えている。

 

 

「直せないかな」

 

「うーん、直せるけど……。こんな危ないの使わない方が良いよ? あ!代わりにぴょんぴょんワープくんあげる!」

 

「遠慮するよ、使ったら服が脱げるだけじゃ済まなそうだから」

 

 

誤動作して身体の一部が取り残されそうだ、なんて冗談のように彼は言うが妙な説得力があった。

 

 

「お兄さんも大変だねぇ……」

 

「つーか、そのチョーカーが自殺アイテムだったとか。もし知らずに見たら倒れる自信あるぞ、俺」

 

 

リトや美柑が呆れた様な、同情するような視線を向けてくる。

 

 

「気にしない方が良いですよ、美柑。この人が倒れるのは日常茶飯事ですので気にしていては疲れるだけです。……最近は多い気がしますが」

 

「確かに、週一くらいで起きてる気がする……。何だろ、他殺がないからかな?」

 

「手伝いましょうか?」

 

「ヤミさん!?」

 

「遠慮するよ。何度も言うけど好きでこうなってる訳じゃない」

 

 

金色の闇は美柑が帰り道で家に招待したらしい。

 

彼がデビルーク星に行った後は会っていなかったが、家に邪魔するなり血痕を拭き取る姿を見た時は相変わらずだと呆れていた。

 

 

「ですが、アレが起き続ければこの家が赤く装飾されていく事になりますよ」

 

「確かに……。そうじゃなくても、家ごとって可能性もあるからなぁ」

 

 

そんな会話をする2人を周りは奇異の目で見ていた。

 

 

「そ、そう言えばヤミさんとお兄さんはどこで知り合ったんですか?」

 

 

どうやって、とは聞かないのが美柑の察しの良い所だった。そう聞いてしまえば妙に血生臭い話になるに決まっている。

 

 

「……それは」

 

 

金色の闇は視線を逸らした。美柑は慌てて無理に話さなくても良いと訂正するが、彼の方が口を開く。

 

 

「何も無い星だったよ、そこで偶然会ったんだ。金色の闇もその時は俺が標的の仕事なんて請け負ってなかったし、本当に偶然だった」

 

 

詳しい事はほとんど解らない説明だが、間違ってはいないらしく金色の闇もそれに頷く。

 

 

「気を悪くしてすみません、美柑。お詫びと言うのも違いますが、アレに巻き込まれないようにする方法を教えます」

 

「へ? 何、そんな方法あるの?」

 

 

金色の闇の言葉に彼も驚いた様子でその方法とやらを心待ちにする。

 

 

「この人の髪の、上の辺で毛が逆立っている時は速やかに離れて下さい。数分以内にアレが起きます」

 

 

金色の闇以外が全員、彼の頭に注目する。逆立った毛は見当たらない。

 

 

「えっと、ヤミさん……。ホントにそんな方法で大丈夫なの?」

 

「間違いありません。屋内なら建物の外に。屋外でも20メートル以上で安全圏です」

 

「俺もそれは初耳なんだけど、いつ検証したのさ」

 

「貴方にアレが頻繁に起きると聞いた後に半年程観察を続けました。予兆のようなモノがあれば巻き込まれないですみますので」

 

「あ、そう……」

 

「半年ってすごいな……」

 

「標的の事はしっかりと調べないといけませんから。未だに弱点は分かっていませんが……」

 

 

金色の闇の発言に少々気後れする男性陣。しかし、モモはその話に興味を持ったようで金色の闇へと近付く。

 

 

「私、ヤミさんと旦那様の話に興味があります」

 

「……旦那様?」

 

 

旦那様が誰を指すのか解らない金色の闇は首を傾げると、モモはこれ見よがしに彼の腕に抱き着き、宣言した。

 

 

「はい、私は旦那様と婚約関係にあるんです!」

 

ついでにナナも、と小声でモモが呟くが金色の闇には聞こえていないようだった。

 

凍り付いた様にしばらく動けないでいると、事情を聞いていなかったララや結城家の面々がモモへ質問攻めを開始する。

 

彼は遠い目で窓の方を眺めていた。




・乗り気な第三王女
姉の婚約者候補があんなに気〇悪いわけがない。

・首斬りチョーカー
首輪に繋がれて監禁された過去がなんたらで 。

・ワープ君
石の中にいる。

・アホ毛
ナマズのヒゲのようなもの。説明するヤミちゃんは得意気だったとか。


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9話

ある星で、力を使い果たした少女がいた。

 

周囲の建物は軒並み崩壊し、少女の他には誰一人として息をする者はいない。

 

少女は育ての親である女性の顔を思い浮かべ涙ぐんだ。

 

 

「これは君がやったのかな」

 

 

する筈のない声が聞こえた。この星のモノは少女が全て壊した筈だ、元の形をしているものなどある筈がない。

 

しかし、霞んだ視界の中には確かに人影が写っていた。

 

 

「まずは体力を回復させようか。話せない事には始まらない」

 

 

少女に話しかける誰かはそっと少女の背に触れる。

 

下がっていた体温は次第に戻り、渇き切っていた喉に水分が戻り、身体中にあった傷が塞がり始めた。

 

少女は身体に力が戻ると、直ぐに目の前の誰かの胸を突いた。

 

硬化した髪は誰かの胸を貫き鮮血が舞う。

 

どうせこの誰かも自分に恩を売って利用しようとしていたのだ。さっさと殺ってしまった方が良いに決まっている。少女はそう思い、直ぐに行動に移したのだ。

 

 

「ダメじゃないか、いきなり人を殺しちゃ」

 

 

少女の肩がビクッと跳ねる、どう見ても致命傷なのにその誰かはヘラヘラと笑っていた。

 

 

「何があったのかは知らないけれど、安心しなよ。俺は君をどうこうしようなんて思っていない。傷を治して、生きていけるようになったらさようならだ」

 

 

誰かは少女の頭に手を乗せ、少し雑に撫で回す。

 

 

「君はただラッキーと思っておけばいい。この広い宇宙で、困ってる時に頼れる人が出来たんだって」

 

 

 

 

 

 

 

金色の闇はハッと目を覚まし、辺りを確認する。

 

近くには美柑が横になって寝ているのを見て、結城家に泊まっていた事を思い出した。

 

夢を見ていたような気もするが既に内容は忘れてしまい、どうでもいい事なのだろうと切り捨てる。

 

ふと、リビングの方に気配を感じる。他とは違う特殊な気配。

 

美柑を起こさない様にそっと部屋を出てリビングへ入ると、予想通り彼がいた。

 

 

「やぁ、こんな時間に起きてくるなんて……。小腹でも空いた?」

 

「失礼ですね。貴方こそ、こんな時間に何をしているんですか」

 

 

彼は明かりも付けずに本を手に取り、ページを捲っている。

 

ジッと動かない金色の闇に観念したのか、起きている理由を話し始めた。

 

 

「落ち着かなくてね。色々と考え込まないように何か読もうかと思って」

 

「プリンセス・モモとプリンセス・ナナの事ですか」

 

「……まあ、今はそれが1番大きな問題かな。ルシオンも余計な事をするよ。そういう性格は嫌いじゃないが、向けるのは俺以外にして欲しいね」

 

「いっそ2人とも娶ってしまったらどうです?」

 

「無理だ」

 

 

強い否定の言葉に、自分の事ではないのに金色の闇の表情が強張る。

 

 

「お互い後悔しかしないよ。20年も経てば解るさ。相手は変わらないのに自分だけ老いていく辛さは女性からしたら耐えられないだろうさ」

 

「貴方の能力なら、若返りが可能ではないですか」

 

「老いを避ける為に伴侶の血肉を摂取するのか。そんな関係、俺はお断りだね」

 

「……すみません、軽率でした」

 

 

金色の闇の姿が数年前と変わらないのは、彼を傷つけその血を大量に浴びて来たからだ。

 

夫婦でそのような関係になってしまえば、そこから綻びが生じ狂ってしまうだろう。彼と金色の闇は標的と殺し屋という関係だから特に態度が変化することが無いだけだ。

 

 

「今後10年くらいは旅を止めてゆっくりするつもりだから地球には残る。けど、やっぱりこの家は出るよ。元々、俺はリト君や蜜甘さんに貸し借りや思い入れがある訳じゃないからね」

 

「迷惑だったのでしょうか……」

 

 

金色の闇が言うのは、彼を結城家に連れてきた事だろう。思えばあの時は冷静でなく、無茶な要求をしたと金色の闇は反省する。

 

 

「いや、嬉しかったよ。本当に久しぶりに家庭って感じの場所にいられた」

 

「……貴方は」

 

 

金色の闇は何かを言いかけるが、口を噤む。

 

しかし、意を決したようにその口を開いた。

 

 

「貴方は、本当にそんな生き方で満足なんですか」

 

「満足だよ。俺は。出来る範囲で人を助けて、感謝されて。それに、それを言うなら君も殺し屋なんてしていて良いのかい? この星に来てから、随分と他人にも優しくなった」

 

「私は、例えどこまで行っても兵器ですから」

 

「俺もそうだよ。どこまでいっても、俺の能力は付いて回ってくるから。……そうだな、この星でも小さな紛争は日々起きているみたいだし、後半年もしたらそこへ行くよ」

 

「プリンセス達はどうするのです?」

 

「あの2人には星に帰ってもらうしかないね。俺が本気で姿を眩ませたらルシオンも追ってこられないさ」

 

「私なら追えますが」

 

「……そう、なんだよねー。前から気になってたけど、何で簡単に居場所が解るのさ?」

 

 

実際のところ、彼は金色の闇に発見された後に本気で逃走して姿を眩ませている。毎回手法を変え、痕跡を残さないで移動しているのだ。

 

そんな彼を見つける事が出来る金色の闇に、ナナやモモが依頼をしたら。

 

 

「教えませんよ」

 

「そうかい。まあ、それも数十年の話か」

 

 

悠久を生きる彼と金色の闇では、やはり時間の捉え方が違うのだろう。彼は困った様な表情をしてみせるが、やはり些事でしかないと思っている。

 

 

「それはどうでしょうか。現に、私の身体は殆ど歳を取っていませんが。永遠の追いかけっこになるかもしれませんね」

 

「……そうか、そうだったね」

 

 

彼は開いていた本を閉じ、借りている客間に戻ると言ってリビングを出ていく。

 

金色の闇は冗談のつもりで、しかしそうであれば心地よいだろうと思い話したのだがそれを聞いた彼の表情は曇った。

 

嫌な予感がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

金色の闇が感じた嫌な予感は翌朝、結城家の面子全員が直ぐに気付く事になる。

 

彼が失踪したのだ。書き慣れていない歪んだ字で『ちがちないでくだちい』という書き置きがある。『さ』と『ち』を書き間違えていた。

 

リトや蜜柑は純粋に彼の心配をし、ララは何故彼が家を出たのかを不思議に思う。

 

一方、ナナとモモは彼がその辺りでまた死んでいるのではという最悪の想定をして今すぐにでも探しに出ようと言い出していた。

 

そして、金色の闇は昨夜の会話で、彼がどこに反応をしたのかを今一度思い出す。

 

安易に婚約をしてはどうかと勧めた事が気に障ったのだろうか、それとも居場所が解るということに対する挑戦か。

 

何が原因であれ、彼が姿を消したのは自分との会話のせいだと金色の闇は判断する。

 

 

「彼は私が探します。慣れていますので。皆さんは普段通り過ごしていて貰って構いません」

 

 

しかし、そんな金色の闇にモモが反論する。

 

 

「いえ、私も旦那様を探します。失礼ですけど、ヤミさんは旦那様を何度も傷つけている殺し屋、ですから。万が一はない方がいいですからね」

 

「おいモモ! ヤミだってそんな事は……」

 

「解ってるわよ。ですが、私は旦那様の婚約者ですから。探したいんです」

 

「……アタシも探すよ。姉上と違って学校はないし、アタシだけ家にいるのも落ち着かないしな。それにまたどっかで血塗れになってたら周りのヤツが大変だろうし」

 

 

ナナはデダイヤルを取り出し、少し考え込んだ後で数匹の動物を呼び出す。

 

 

「アイツの持ち物ってないかな。動物達に匂いを追わせたいんだけど」

 

「あ、それなら布団とかはどうですか? まだ干してないですし」

 

 

ナナに美柑が答え、彼を追う手筈が整っていくが。

 

 

「それは止めておいた方が良いです、プリンセス・ナナ」

 

「なっ、どういうことだよ!」

 

「その動物達では、本能的に彼を襲ってしまう可能性が高いです。動物達にはこれ以上ないご馳走に見えると思いますよ」

 

 

ナナの呼び出した動物は犬に近い姿のもの、どう見ても肉食だ。

 

確かにそれは危ないかもしれないと、結局はララの発明品に頼る事に。

 

二手に別れるということで、一方は金色の闇とモモ。もう一方にララとナナという組み合わせに。リトや美柑は地球人であるので、学校を優先する事に。ララは妹の婚約者なんだから、という理由で手伝う事になった。

 

金色の闇がとモモが2人きりになった所でモモが切り出した。

 

 

「探す前にヤミさん、ヤミさんと旦那様の関係性をはっきりと教えて下さい」




・ヤミちゃんのトラウマ2
カッコ良さ気だけど、力を使い果たした自分を助けた誰かは余波で全裸。

・失踪
よくある

・全力で取りに行く第三王女
原作と違って1:1で結婚できる可能性があるから……。好きな言葉は「棚からぼたもち」※公式


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10話

「探す前にヤミさん、ヤミさんと旦那様の関係性をはっきりと教えて下さい」

 

 

金色の闇とモモが2人きりになった所で、モモがそう切り出した。

 

 

「標的と殺し屋ですが、それが何か?」

 

 

悩む事なくそう切り返す金色の闇に、モモは一瞬だけ迷う素振りを見せる。そして、意を決したように話し出した。

 

 

「私、旦那様とは会って間もないですけど自分でも驚く程にあの人に好感を持ってるんです」

 

 

人格者で欲がなく、望まない婚約者であるモモが執拗にアプローチを掛けても無碍に扱わない誠実さがある。一定以上は踏み込めていないが、まだそれでも良いとモモは考えていた。

 

彼はこの銀河の歴史を学んだ者なら誰でも知っている存在。それを“独り占めしてみたい”という少々歪んだ気持もあるが、やはり本人が好感の持てる人物というのが大きかった。

 

 

「金色の闇にお願いします。今後、旦那様に危害を加える事を止めて下さい。ヤミさんにそういった仕事が多く入る事は知っていますので、その分のお金は支払います」

 

 

金色の闇はその言葉に思わず目を丸くした。

 

その頼みを受け入れる事は自分と彼との関係の終わりを意味する。金色の闇と彼は標的と殺し屋でしかない、それは自分で言ったことだ。

 

 

「こちらからの支払いは提示された依頼金の2割増、それならヤミさんも文句はありませんよね」

 

「それ、は……」

 

 

普通に考えたら申し分無い待遇だ。下手をすればデビルーク星を転覆させるだけの金額が動きかねない。

 

彼を探し出せるだけで金色の闇へ依頼する価値は計り知れない。だからこそ、何度取り逃がしても金色の闇への彼の捕縛、殺害の依頼は絶えなかった。

 

今も金色の闇の宇宙船の通信端末には彼を標的とした依頼が矢継ぎ早に送られてきている。約束を守れば殺し屋としての仕事をする必要がなくなるだけの財産が得られる。

 

 

「私は……」

 

 

しかし、それを了承するという意志が金色の闇には全く無かった。

 

何故、どうして。金色の闇は自分の事が分からなくなった。

 

 

「ヤミさんは、旦那様とどう在りたいんですか?」

 

 

金色の闇はそんな事は考えた事もない。今の関係がずっと続くのだと、ぼんやり思っていただけだ。

 

自分は、どうして……。

 

 

「……なるほど、大体解りました」

 

 

金色の闇は何も答えていないのに、モモは納得した様子でニコニコと微笑んだ。

 

 

「質問を変えますね。ヤミさんはあの人と話すのは楽しいですか?」

 

「……有意義には感じていると思います」

 

「じゃあ、あの人を傷付けるのは楽しいですか」

 

 

その質問は金色の闇の心に、ナイフを突き立てるかのように鋭く刺さった。そんな筈はないのだ。

 

金色の闇と彼とのコミュニケーションはおかしい。憎んでいる訳でも、嫌っている訳でもない。けれど、平気で金色の闇は彼を傷付ける。

 

それしか、彼との繋がりはないと勘違いをしていた。

 

彼を追う中で幾度と会話を重ねた。時には一緒に食事を取ったりもした。他の接し方は既に見つけている。

 

自分の行動は間違っている。

 

 

「彼に、言わなければならない事が出来ました」

 

「そうですか。なら、早く見つけないといけませんね」

 

 

許されたい訳ではない。けれど、言葉にしておきたい。そう、金色の闇は思った。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうやって探すんですか?」

 

「これを使います」

 

 

金色の闇が取り出したのは小さな小瓶。中にはルビーの様に赤い液体が入っていた。

 

 

「綺麗ですね、香水か何かに見えますけど」

 

「これは彼の血ですよ」

 

 

途端に、モモは先日の惨劇を思い出し顔を真っ青にする。

 

 

「この血は彼から遠ざかる程に色が濁り、近づけば元の色に戻るんです。これだけ赤ければこの町にはいますよ」

 

「そ、そんな方法をどうやって思いついたんですか……」

 

「仕事で採取した血を運搬していた際に気付きました。以後、こうして持ち歩いています」

 

 

金色の闇は彼に自覚があるかどうかは解らないが好意を寄せているとモモは確信しているのだが、流石に血を持ち歩いているのにはドン引きである。

 

しかし、飲めばどんな傷や病も癒える薬だと思えば成程、お守り代わりに持ち歩くのも肯けると無理矢理納得した。

 

実際には、彼の血は小瓶1本でも喉から手が出るほどに欲しがる者が多勢いるので奪われない様に持ち歩いている訳だが。

 

 

「どの程度正確にわかるんです?」

 

「500メートルが限界ですね。ですが、そこまで近づければ空から簡単に探せます」

 

「ちなみに、今はどれくらい離れているんですか」

 

「1.5キロメートル程ですね。近いです」

 

「書き置きの内容の割には近いですね……」

 

 

探さないで下さいとあれば、もっと遠くまで行ってしまった事を考えていたモモからしたら拍子抜けだ。

 

 

 

 

 

 

 

彼はあっさり見つかった。場所は例の集合住宅(ぞうきばやし)である。

 

 

「あれ、どうかしたの? そんな疲れ切ったような顔をして」

 

 

話を聞けば、黙って出てきたのでその報告に戻っていたとの事。それと、世話になった礼として体調の悪い者達を回復させていたそうだ。

 

探さないで下さい、というのも大した用ではないから気にしなくていい。明け方に出たのは、集合住宅(ぞうきばやし)に全員が揃っている時間帯だったから、らしい。

 

 

「まぁ、実はこのまま別の国に行ってみようかなー、なんて事も考えてたけど」

 

「…………」

 

 

金色の闇は今にも斬りかかりたい衝動に駆られるが、それでは今までと同じなのでグッと堪らえる。

 

 

「でもさ、この国は島らしいし、流石に海を渡るには計画を練らないとなーって思い出して断念したよ。そうでなかったらもう少し遠出したかな」

 

 

悪びれた様子もなく、冗談の様にそう言う彼だが実際の所はどうか、金色の闇とモモには解らない。

 

 

「……えっと、私はナナやお姉様に連絡してきますね」

 

 

モモがデダイヤルを片手に遠ざかる。金色の闇が話しやすい様に2人だけにしたのだろう。

 

しかし、いざとなると話を切り出すのが難しい。

 

 

「あの……」

 

「なに? そんな思い詰めた顔をして」

 

 

彼の調子は軽い。いつも金色の闇が見てきた彼だ。

 

最初に会った時も、依頼を受けて見つけ出した時も、暇な時に会いに行った時も。彼はずっと、この調子だった。

 

 

「貴方が家を出たのは、私が鬱陶しいからでしょうか」

 

「はい?」

 

「思い返すと、つい最近まで貴方には危害しか加えていません。私は貴方に恩があったというのに、それを仇で返す様に何回も……殺しました」

 

 

極度の緊張のせいで、金色の闇の中で変なスイッチが入った。

 

罪を懺悔する罪人の様に死人の様な顔で今までの事を告白し始める金色の闇に彼はただ困惑する。

 

懇切丁寧に今までの殺害内容を連ねる金色の闇にストップをかけ、彼は困った様に話し始める。

 

 

「ソッチじゃないんだよね。うん、何れは君から離れないといけないんだけどさ、恨みとか嫌悪で離れる訳じゃない」

 

「では何故……?」

 

「副作用があるんだよ、俺の能力に」

 

 

初耳だった。万能の薬とまで言われた彼の能力に欠点があるなんて思いもしなかった。

 

 

「怪我や病気を治すのは問題ない。けど、若返りの方には限界がある」

 

「……それは、どういった?」

 

「精神の方が持たない。元々の寿命の倍も生きたら綻びが生じ、最後には生きた人形になるよ」

 

 

まるで見てきたかのように彼はそういう。いや、実際にそういった人物がいたのだろう。

 

金色の闇も本来の年齢より幼い姿をしているが、それは3,4年の話。誤差の範囲で済むズレである。

 

しかし、仮に100年も彼を追い続け、その過程で若返り続けたら。彼は金色の闇を廃人にしてしまう。

 

 

「貴方は、それを誰かで……」

 

 

そう言いかけて、金色の闇は口を噤む。

 

これ以上はまだ踏み込んではいけない。

 

 

「そういう事だ。今後も依頼を受けていくつもりなら、その事だけは覚えて置いて欲しい」

 

「もしかしたら精神が持つかもしれませんよ?」

 

「…………どうだろうね」

 

 

彼は笑ったが、それはないと断言するような、そんな悲しそうな顔をしていた。




・焚きつける
自覚してない相手から奪うのは気が引けるらしい

・血瓶
指針代わりにもなる薬

・その辺にいた
島国で良かった。
2日あれば逃走経路が確保出来た模様。

・病みちゃん
自己嫌悪スイッチが入る。

・まだ続いてたシリアル
そのうち終わるよ(適当)。


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11話

彼の家で事件から早数日。結城家の留守番は以前より多くなっていた。

 

 

「お邪魔します、たい焼きを買ってきました」

 

 

リト達が学校へ登校した後に、決まって金色の闇が訪ねてくるようになった。

 

それとは別に、結城家の庭に生えていた巨大植物が変化して幼女になった。美柑がセリーヌと名付けそれはリトに懐いているのだが、花に誘われた蝶のように彼に近寄っていく傾向がある。

 

モモの通訳によると、彼からは美味しそうないい匂いがするらしい。よく噛み付いている。

 

そんな訳で彼は長袖長ズボンと、無闇に肌を晒さない格好になったのは些細な事だ。

 

彼は最近になってようやく事態を理解した。思ってたよりこの家の住人に懐かれ始めている。

 

リトは家内にいる唯一の同性という事と、見た目はともかく自分よりずっと年上という事で彼に色々と相談する。

 

美柑は元々世話焼きな所があり、時間や身長的な問題で自分の手の届かない家事をしてくれる彼はそれなりに好感が持てた。更に兄と違ってラッキースケベが全くない彼には一定の信頼を置いている。代わりに出血が多いが。

 

ララは幼い頃に面識があったし、天真爛漫で基本的には誰とでも打ち解けられる性格だ。

 

モモは自身が婚約者であることを全面的に押し出してきている。決定当初は消去法のような考えだったが、噂通りの人格に普通に好意を持ち始めていた。

 

ナナもモモ同様に婚約者という立場だが、モモ程恋愛的な行為は抱いていない。が、多少出血が多い以外は出来た人物である彼とは純粋に友人のような感覚で接している。見た目の年齢もあるだろう。

 

セリーヌは……、本能的に彼を求めているようだ。餌として。

 

実は彼、現状の様に貸し借りの問題で居候をするという事は初めてであり、距離感が掴めていないのだ。お世話になりました、の一言で去っていける関係性を築きたかったのだが、それにしては彼の事情が知られ過ぎている。

 

この家には、帰るところもない、多勢から狙われている見た目だけでも子供な彼を黙って出て行かせるような性格の持ち主がいない。

 

彼もそれが嫌な訳ではないのだ。親切にされるのは嬉しいし、それには何かで答えたいとも思う。だからズルズルと滞在期間が伸びていくのだが。

 

彼が焦り出したのはやはりデビルーク王に会ってからだ。昔、彼が助けた者の中には彼に全てを捧げたいなどと言い出す盲目的な女性もいた訳で、その女性は例の宗教団体に入信して一生を終えた。

 

その事は彼も噂で耳にした程度であったが、心地よい話ではない。ただ礼を言って貰えるだけで十分であったのに。

 

そういう経験もあり、ナナはともかくこのままではモモが人生を棒に振りかねない。

 

モモだけなら強行突破は可能だが、ここで金色の闇が問題になってくる。金色の闇が頻繁にこの家に訪れるため、無理に逃げるのはほぼ不可能になった。

 

彼が予行演習に夜の散歩に出歩くと、敷地を出て3秒で顔を合わせる。凄まじい早さだ。これでは国外へ行く船や飛行機の下見が出来ない。

 

 

「…………どうかしましたか?」

 

 

彼が難しい顔をしていると、金色の闇が顔を覗き込みながら首を傾げた。彼を挟んで反対側ではモモが彼にもたれかかりながら寛いでいる。両手に花だった。

 

 

「別にどうもしてないよ」

 

 

彼はそう言って、食べ掛けていたたい焼きを齧る。地球に来てから頻繁に甘い物を摂取し出したのだが、まだ慣れない。受け付けないという訳ではないが1度に大量に食べるのは無理そうだった。

 

横に座る金色の闇にふと視線をやれば、既に6つ目のたい焼きと格闘する姿が。

 

 

「……なーんか、つまんないよなぁ」

 

 

1人だけ対面のソファでダラダラしていたナナが呟いた。アクティブな性格であるナナからしてみたらずっと家に籠っているのは耐え難いらしい。

 

かといって、ナナは地球での知り合いが限られている。ララの友人とは大体顔を合わせたが、それは姉の友人であってナナの友人ではなく、気軽に遊びに誘える仲ではない。

 

必然的にモモと行動を共にする事が多く、そのモモが彼の傍をキープしているためにひきこもっている時間が長い。

 

 

「なぁなぁ、久しぶりに街の散策に行こうぜ! 」

 

「駄目よナナ。外なんかに出たら旦那様が危険じゃない」

 

「いや、俺は留守番してるから3人で行けば良いんじゃないかな……」

 

「私は興味がありませんので、プリンセスお2人だけでどうぞ」

 

「旦那様とヤミさんを2人だけにするのは心配なので私も残りますね」

 

「あーっ、なんだよもう! おいオマエ! オマエだってたまには外に行って遊びたいだろ!」

 

 

モモや金色の闇では話にならないと悟り、ナナは彼を標的に変える。

 

確かに彼も買い出し以外でずっと家にいるのは息が詰まっていた。

 

 

「……そうだね。この町は俺を知っている奴もほとんど居ないし、こういう所じゃないと普通に道を歩けないからなぁ」

 

「だろ!」

 

 

ナナは手応えを感じて瞳を輝かせる。

 

 

「そんな! 危険ですよ旦那様!」

 

「どうせ今日は買い物も頼まれているし……」

 

「それはほら、私が代わりに行きますから」

 

 

実際にデビルーク星人であるモモの方が力が強いため、合理的ではある。が、それでは彼の立つ瀬がない。

 

 

「では私が買い物についていきましょう。プリンセス達は子守をしなければならないでしょうから」

 

 

金色の闇はそう言って彼を齧るセリーヌに視線をやる。

 

確かにそれはナナやモモが請け負った事であるのでモモは悔しそうに口元を歪めた。

 

 

「じゃ、アタシとヤミとコイツで買い物って事で」

 

「ア・ナ・タ・は! 本当に耳が付いてるのかしらねぇ。セリーヌちゃんの世話をするから私達は留守番をしているという話でしょう?」

 

「ちょっ、首は……っ」

 

 

仲の良い双子を彼は微笑ましい表情で見ながら、金色の闇の提案を吟味する。

 

心境の変化でもあったのか、家出未遂の後からヤケに好意的なものを感じる。元々、数少ない知り合いという立場で嫌われている事はないと思っていたが。

 

その好意がどういう形のモノにしろ、彼にとっては良くない話だ。

 

 

 

 

 

 

 

結局、買い物には金色の闇だけついてくる事になった。

 

彼も同じ体格の地球人よりは力があるため、そう苦労はしないのだが荷物を半分持たれていた。

 

金色の闇は何故か彼の頭の上にチラチラと視線をやっている。ここ数日は血塗ろになっていないので巻き込まれるのを心配しているのだろう、そう彼は推測した。アホ毛での探知を鵜呑みにした訳ではないが。

 

そんな時、少し強めの風が吹き彼の髪が揺れる。

 

不自然に頂点にある髪が浮き上がったかと思うと、そのまま停止した。勿論、彼はそれに気づいていない。

 

金色の闇は人知れず警戒態勢に入り、すぐ近くの看板の立て付けが歪んでいるのが見えた。

 

彼がその下を通りかかろうとした時、更に強い風が吹き看板が外れる。その角が彼の頭へ直撃コースだった。

 

金色の闇は咄嗟に前に出て看板を切り裂く。

 

 

「怪我はありませんか……?」

 

「あ、ああ。無いよ」

 

 

彼は目を丸くして金色の闇を見る。いつもならそのまま見ているか、離れるかのどちらかだった金色の闇が自分を助けた。

 

ふと、手に持った食材に意識が向き、それを守るためだったのだろうと彼は自己完結したのだが。

 

 

「……まだ立ったままですね。転んでしまうかもしれません、手を貸して下さい」

 

 

金色の闇は彼の片方の手にあった袋を髪で奪い取り、小さく柔らかな白い手で彼の手を取る。

 

いつもは飄々としている彼も、金色の闇のこの行動には背筋を凍らせた。普段の会話や多少のスキンシップは問題ないが、これは駄目だ。彼からしてみたら天敵に触れられているに等しいのだ。

 

嫌な汗をかきながら固まる彼に、金色の闇は不安そうに尋ねる。

 

 

「もしかして迷惑でしたでしょうか……」

 

「はは、まさか……」

 

 

悟られる訳にはいかないので、彼も表面上は平気なフリをする。

 

それを受け入れられたと解釈した金色の闇は少し嬉しそうに歩を進め始めた。帰った後に2人はモモに問い詰められるのだが、それはまた別の話。




・デレ期……?
デレ期

・さらっと人型になるセリーヌ
本能的に求める(意味深

・リトさんハーレムの状況
ヤミちゃんと双子以外は好感度振り切ってる状態。美柑は兄妹だから微妙な所

・看板
犠牲になったのだ

・てをつなぐ
ロリショタの仲睦まじい光景


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12話

新章(ダークネス)


「やっと、見つけた……」

 

 

ふと、声が聞こえた気がして彼は後ろを振り向く。

 

 

「どうかしたのですか?」

 

 

隣を歩く金色の闇が不思議そうな顔をして彼に尋ねるが、彼は気のせいだろうという事にして何でもないと返す。

 

 

「ところで、学生の生活を始めてどうですか?」

 

「なんで今更こんな事をって所かね」

 

 

現在、彼はリトと同じ高校の1年生として過ごしている。

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は美柑の一言だった。

 

 

「お兄さんて基本的には物知りですけど、普通の事があまり解ってないですよね」

 

「まぁ、長い間生きてるけど教育なんかは受けてないからね」

 

 

それを聞いたララが一緒に学校へ通うのはどうかと言い出し、モモもそれに同意する。

 

編入には問題が多いのでは、という彼の反論は例の校長のせいで見事に論破された。

 

彼も嫌という訳でなく、学校には興味があった。次いでに、モモや金色の闇と少なからず離れて過ごす事が可能なのではないかという淡い期待に負けて申し出を了承した。

 

結果、金色の闇やデビルーク姉妹まで編入。

 

期待外れかと思ったがそんな事はなく、ナナは友人を作って楽しくやっているし、モモは外面は優等生でいたいのか授業は真面目に受けている。

 

一方で、彼は最初の数日だけ授業を受けると後は図書室で過ごすようになっていた。金色の闇は彼についてきている。

 

昼休みに入った所だった。1人の少女が彼と金色の闇の前に現れる。

 

 

「初めまして。不死鳥さん? にヤミお姉ちゃん」

 

 

「……誰ですか、貴女は」

 

 

先に反応を示したのは金色の闇だった。金色の闇には妹など存在しない、それに少女の纏う雰囲気が平和なこの町に似つかわしくないものである事が目に見えていたからだ。

 

 

「これを見たら解るんじゃないかな」

 

 

そう言って少女は髪の先を鋭い刃に変えてみせる。

 

 

「変身能力……っ!?」

 

 

自信と同じ能力を目の当たりにして、金色の闇は咄嗟に彼と少女の間に入る。

 

 

「私は黒咲芽亜、メアって呼んでね。ヤミお姉ちゃん」

 

 

ニコニコと能面のような笑みを張り付けながらメアは楽しそうに笑う。

 

 

「貴女は何者ですか……。いえ、それよりも目的は」

 

「わたしの目的? んーっと、ひとつは」

 

 

金属同士がぶつかる様な激音が響き渡る。幸いにも今は3人の他に図書室を利用している生徒はいなく、その音に声を上げるものはいない。

 

 

「何を……っ!?」

 

 

メアの攻撃を受け止めた金色の闇だったが、咄嗟に防御したためにメアの次の行動に反応出来なかった。

 

メアは金色の闇の隣をスルリと通り、彼の腕に抱き着きながら宣言する。

 

 

「この不死鳥さんをマスターの所へ連れて行くのがひとつ目の目的。そうしたら、ヤミお姉ちゃんはマスターの下へ来るでしょう?」

 

 

メアはそう言って、彼から離れ後に飛び退く。先程メアがいた場所には金色の闇の髪が突き刺さっていた。

 

 

「面白くない冗談ですね」

 

「あの、ちょっと話が見えないんだけどさ。とりあえず不死鳥は止めてくれ。悪寒が走る」

 

「えー、素敵な二つ名だと思うんだけど。じゃあ何てよべばいいの?」

 

「……それを言われると困るんだよなぁ」

 

「貴方は……」

 

 

彼の言動で張り詰めていた空気が消え、金色の闇は呆れた様にため息を吐く。

 

 

「大丈夫だよ、ヤミお姉ちゃん。今日は挨拶だけだから。えーっと……、お爺ちゃんもまたね!」

 

 

空気が凍った。

 

確かに彼は高齢であるが容姿から『お爺ちゃん』なんて呼ばれた事は1度も無かった。少なくとも対面している相手には。

 

金色の闇も、あまり考えないようにしていたが隣にいる彼が『お爺ちゃん』と呼ばれてもおかしくない存在だと再認識し固まってしまった。

 

固まっている2人を他所に、メアはさっさと退散してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇマスター、ヤミお姉ちゃんはともかくとして、あの人まで誘うの?」

 

 

学校の屋上にはメア以外に人影は無い。しかし、親しい誰かに話し掛けるようにメアは話す。

 

 

『必要だからだ。奴の能力もそうだが、奴がいれば金色の闇も自然とこちらに来るからな』

 

「ふーん。でも、そんなにすごい人には見えなかったけどなぁ……」

 

『ふむ。……1度会ってみた印象はどうだ?』

 

「すぐに壊れちゃいそう。隙だらけだし、敵意の欠片も見せないんだもん。一瞬でやれちゃうよ。なんであのお爺ちゃんとヤミお姉ちゃんが一緒にいるのか全然わからない」

 

『そうか』

 

 

マスターと呼ばれている人物、ネメシスはメアの報告を聞いて少し考える。

 

相手はデビルーク王とも渡り合う等という噂もあったが、ただの噂だったのか。それとも、メアでも分からない様に巧妙に隠しているのか。

 

どちらにせよ、素体としては申し分なく前々から興味はあった。試したい事は山ほどある。

 

 

『拉致るか』

 

「え、もう?」

 

『ダークネス計画は何が鍵になるのかも現状はっきりしていない。分かりやすい方から取り掛かる方がいいだろう?』

 

「うーん、でもヤミお姉ちゃんがいつも一緒にいるしなぁ……」

 

『いいじゃないか。ひとりの男を取り合って姉妹喧嘩というのも』

 

「姉妹喧嘩……、ナナちゃんが言ってたよ。仲の良い姉妹が何度もする事だったよね。姉妹喧嘩……、素敵!」

 

 

少し状況がおかしい気もしたが、メアが乗り気なのでネメシスは適当に同意した。

 

翌日、彼がトイレに入った隙にメアは彼を拉致する事に成功する。

 

 

「昨日ぶりだね、お爺ちゃん」

 

「行動が早くてお爺さんびっくりだよ」

 

 

幸いにも用を足し終えた後に拉致されたため、惨事にはなっていない。

 

 

「んー、でもこの後どうしたらいいのかマスターに聞いてないや」

 

「じゃあ俺は帰るわ」

 

 

彼の事をよく知らないメアはごく一般的な捕縛方法として簀巻きを選んだのだが、彼は当然のように縄抜けをして立ち上がる。

 

 

「……あれ?」

 

 

あまりにも手際が見事だったので、メアは簀巻きにした記憶が確かなものなのか疑った。

 

しかし彼を逃がす程に油断はしていない。髪で彼を縛り上げて動きを封じる。

 

 

「あまり動かれるのも困るから、ちょっと精神の方に……」

 

 

金色の闇の変身能力を元に改良された第2世代であるメアは相手の精神に働きかける能力を有していた。

 

それを使って、彼の精神に介入を試みる。

 

そして、彼を投げ捨て一瞬で距離を取った。

 

瞳は瞳孔が開き、呼吸は荒い。動悸も激しく、とても冷静ではいられない。

 

 

「何っ、貴方……」

 

 

精神に介入する事は成功した。しかし、想像を絶する苦痛が、悲劇が、後悔が。彼の中に蓄積された数え切れない記憶にメアは耐えられずに精神を切り離した。

 

同時に、彼の思考パターンというか、要するに普段何を思い行動しているかまで。彼の想いがメアの中に入る。

 

 

「おかしいよ。あれだけの事をされてもお爺ちゃんは誰も殺さないんだね……」

 

「……参ったな。そういう能力まであるとは思わなかった。金色の闇と同じって訳じゃないのか」

 

一瞬だったが、何をされたのかを悟った彼は頭を抱える。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

「お爺ちゃんが敵意を向けないのはどうして? 何をされたら相手を殺すの? 何をしたらお爺ちゃんは相手を憎むの?」

 

 

元々、精神的にメアは不安定だった。それが彼の記憶にあてられて更に不安定になり、喚き散らすように彼に問いかけるが、糸が切れたように1度沈黙し、静かに問い掛けた。

 

 

「貴方が死なせてしまったあの女の人が相手ならなにか変わるのかな?」

 

 

そう言って、変身能力で彼の記憶で見たひとりの女性へメアは姿を変える。

 

彼は目を丸くして一瞬だけ表情を強ばらせる。ふらふらとメアへと近寄り、震える手を女性の頬の辺へと近付け、

 

少し強めにその頬をつねってやった。

 

 

「痛、い……?」

 

「あまり人の過去を詮索するのは止めとけ。それとちょっと落ち着け」

 

 

彼は深くため息を吐いて、メアの頭をかるく何度か叩く。

 

 

「アレだよ、俺の記憶はお子様には刺激が強過ぎる映像だ。そんなもの見てないで友人と仲良く遊びなさい」

 

 

随分と適当に話を切り上げた彼はメアから逃走し、彼を追ってきていた金色の闇に捕縛される。

 

一方で、メアはしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

 

「……素敵」




・無理矢理の編入
常識知らずお爺ちゃんには若い知り合いが必要(出来るとはいっていない)。

・不死鳥!
消えてくれない二つ名。

・お爺ちゃん
見た目は子供、年齢はお爺ちゃん。ショタジジイ。

・放置されるダークネス計画
どうしたら暴走するかはっきりわかってないから仕方ない。

・姉妹喧嘩
それって三角関係じゃないk(ry。

・お爺ちゃんにちらつく女性の影
お子様には刺激が強過ぎる映像(意味深)。


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