閣下が生きるハイスクールな世界 (佐竹 リン)
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プロローグ

夜、とある森の中で、二人の男が向かい合う形で立っていた。

 

一人はかつて、世界の破壊者こと、ディケイドとともに世界を渡り、様々な世界を救ってきた戦士『クウガ』小野寺 ユウスケである。

 

もう一人は、以前出現した古代戦闘民族『グロンギ』の王『ン・ガミオ・ゼダ』が持つ、人間をグロンギに変える能力により、グロンギである『ゴ・ガドル・バ』になってしまった青年、八神 柊である。

 

八神は、グロンギになってしまった後しばらくは、他のグロンギ同様、殺人ゲーム『ゲゲル』を進めてきていた。しかし、ユウスケと戦う中で、人間としての理性を取り戻し、その後はゲゲルを進めているグロンギを倒すために、クウガとともに戦ってきた。

そして先日、ガドルを抜かした中での最後のグロンギ『ゴ・ジャーザ・ギ』を倒したのである。

 

そして、八神はユウスケに、最後のグロンギである自分を倒すように頼んだのである。ユウスケは最初こそ反対していたが、八神が人間の理性を失い、再びゲゲルを始めてしまうかもしれない。そして、グロンギのいない、本当に平和な世界になって欲しいと説得したことで、ユウスケは承諾したのである。

 

「さぁ、始めてくれ、ユウスケ」

 

八神はそう言うと、体に力を入れた。すると八神は人間の姿からガドルの姿に変わった。

 

「……あぁ、分かった。」

 

ユウスケは腰に手をかざし、クウガになるためのベルト『アークル』を出し、右手を左前に、左手は右腰にそえた。そして右手を右に、左手は左にスライドさせ、叫んだ。

 

「変身!」

 

右手を左腰に一気に運び、右手と左手でアークルの左腰部にあるスイッチを押した。すると、ユウスケの体は勇ましい音とともに、クウガに変身した。

 

(あぁ…ようやく、終わるんだな…)

 

八神は心の中でそう呟いた。

 

「さぁ!来い!クウガ‼︎」

 

ガドルの叫びとともに、腰を低く構えたクウガ。

何度も隣で見てきた、必殺技の体制だ。

クウガの足元には、炎がまとっている。

クウガはガドルに向かって走り出した。

ガドルとは少し離れた位置で飛び上がる。

 

「はあぁぁぁぁ‼︎」

 

気迫がこもった叫びとともに、クウガの必殺キック『マイティキック』が炸裂した。

そのキックは、ガドルの胸元に命中し、ガドルを数メートル飛ばした。

ガドルの胸元に封印の紋章が現れ、そこから少しずつ亀裂が走り、腹部にあるベルトに向かっている。

 

(あぁ…痛ぇな……。体にヒビ入り始めてるから、当然か…。)

 

意識が朦朧とし始めているガドルは、クウガを見る。

クウガは、ガドルの姿をどこか悲しげな様子で見ていた。

 

(なんだよ…そんな雰囲気出すなよ……。仕方ないやつだ…)

 

ガドルは、ゆっくりと右手を上げた。

親指を立て、他の指は曲げる。

『サムズアップ』だった。

それは、一緒に戦う約束をした時に、初めて合わせた合図のようなものだった。

 

(後は任せたぞ……ユウスケ…

 

オレたちが愛した世界を……。)

 

クウガはそれを見て、サムズアップを返した。

仮面の下からでも、表情を引き締めているのが分かる。

 

その様子を見届けたガドルは、爆発とともに、絶命した……。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「はずだったんだがなぁ〜?」

 

オッス。オレはついさっきまで怪人、ゴ・ガドル・バをやっていました。八神 柊と言うもんです。

気軽にシュウとでも呼んでください。

オレの記憶が確かなら、友人であり、ライバルでもあったユウスケのキックを受けて、オレは死んだと思うんだ。

いや、そのはずなんだ。

 

けど…オレは今、明らかに変な場所にいる。

 

死後の世界。生まれて初めて見たんだが、イメージでは何つーか、ふよっとした魂なるものになり、善者なら天国、悪者なら地獄に送られるってとこだと思ってた。

ところがどっこい、オレはしっかりと体があり、真っ白な空間に一人で座ってたんだ。

 

どーなってんだ?コリャ?

 

誰か丁寧かつ分かりやすい説明を頼む。

 

とか思ってると、いきなり目の前が

パアァァァァって感じで明るくなった。

えっと、なんかリアクションしたがいいかもね。

 

「うわ!ま、まぶし〜ぞ!」

 

「変な演技はしなくてもいいですよ。八神 柊さん。」

 

…何だよ、オレが一生懸命演技してるってのに、そんなひどい返しをするなんてよ。

貴様!何者だ!

 

「そんなに振っても、私はボケませんからね。

私はあなた達の世界で言うならば、神様です。」

 

……なんかつれねぇなこいつ。

人の心を読むのは神様だからってやつか。

だったらオレが何を期待してたか分かるだろ。

“通りすがりの◯◯だ!覚えておけ!”って言ってくれたっていいじゃないか、ケチ。

 

「丁重にお断りします。」

 

はいはい、そーですか。んで?神様がオレに何の用?

 

「それに関しては今から説明しますが、とりあえず声に出してください。心読まれるからって喋らなくていいわけじゃないでしょう。」

 

「別にいいだろ、そんなこと。その方が楽だし早いし」

 

「心読むのは私が結構疲れるんですよ。体力とか魔力とかいろいろ使うから。」

 

…そーなの?知らんかったわ〜。

なんかもっと単純なもんかと思ってた。頭の上にボンヤリ見えるとか。

 

「それで、貴方をここに呼んだ理由ですが、貴方には別世界に転生してもらいます。」

 

「……はい?」

 

 

 

神様説明中、少々お待ちください…

 

 

 

「まぁ、転生についてのシステムとか、特典とは何かとか、そういうのは分かった。」

 

「そういうの、とは?」

 

「あれよ、なしてオレが転生しなきゃいけねぇんだって話。

別に間違って殺しましたとか、神様を助けたからとか、そんなんじゃねぇんだろ?」

 

「それについてはこれから説明するつもりです。」

 

あ、そーなのね。んじゃ、よろしく

 

「本来なら、あなたの世界にガミオが現れることはありませんでした。」

 

「本来なら?どういう事だよ。」

 

「小野寺さんから大体は聞いているようですので割愛しますが、いわばガミオは、世界の崩壊の中で生まれた、イレギュラーの存在なのです。」

 

そーいえば、ユウスケもそんなこと言ってた。あの世界は崩壊しかけていたとか、ディケイドがその世界を結果として救ったとか。正直驚かされたことばかりだったな。

 

「そして、ガミオによってあの世界の住人たちはグロンギになり、強制的に殺人行為を行うことになった。単純に殺人行為をしてきたのなら地獄行きですが、これは本来の運命とは異なります。

よってガミオによってグロンギにされた人たちは、地獄行きではなく転生しています。

とは言え、特典なし前世の記憶なしで転生させるだけなので、輪廻通りの流れになるだけですが。」

 

なるほどな、てことはオレも地獄行きにはならねぇんだな。

 

よかった〜。オレそれだけがずっと心配だったんだよな〜。地獄とかマジ勘弁して欲しいんです。怖いもん

 

「あなたの場合は特別です。」

 

 

 

……はい?

 

え、なに、どういうこと?

まさかやってきた事がデカすぎだから勘弁できませんってやつ?

一度気分を上げるだけ上げさせといてブチ落とすとか、最悪だよ!

ウゾダドンドコドーン!

 

「特典つきで、という意味で特別なんです。ご安心ください。」

 

……はい?

 

「あなただけは他のグロンギとは違い、人間の心を取り戻すことができた。その上、悪を排除する動きができた。ですので、三つの特典、前世の記憶つきで転生させることができます。」

 

「な、なるほどね…安心したよ…。」

 

そういう事か、理解したよ。本当にホッとしたよ。

 

「ただ、グロンギの姿はそのまま引き継がれます。他の人たちは記憶を失ってるので大丈夫ですが、あなたは記憶を引き継ぐので。」

 

「…マジで言ってんのか?」

 

「ええ、マジもマジです。貴方たち、グロンギに姿を変えてしまった人々は、その後も本質はグロンギのままになってしまうんです。なんせ体内に魔石が埋め込まれてますから。ですが姿を変えようとしなければ人間の姿のままですし、問題ないでしょう?」

 

「あぁ…いやまあ、そりゃ分かったけど…」

 

…あの姿は引き継がれるのかよ。正直嫌な思い出しかねぇし、出来れば無くなって欲しいものなんだが…まあ仕方ねぇか。

 

「ところで、どんな特典でもつけれるのか?」

 

「いえ、ある程度は制限があります。こちらとしても世界を崩壊させる恐れがある力はかなり不都合なので。」

 

げ、マジかよ。まぁ、オレが考えてる特典は大丈夫だろ。そこまでドチートなの付けたくないし。

 

「それでは、つけたい特典を教えてください。」

 

「んじゃ、一つ目。人間態でもしっかり戦えるようにしてくれ。」

 

「それは全然構いませんよ。それでは、人間態でも戦える運動能力をつけときます。」

 

「んじゃ、ついでに人間態で格闘体、俊敏体、射撃体、剛力体と分けることができるようにしてくれ。」

 

「わかりました。それでは、その四つの形態と、戦いの力を持たない通常体を加えておきますね。

それぞれの形態への変換はかなりやりやすいはずです。すぐに変われますよ。」

 

「サンキュー。じゃあ二つ目なんだが、錬金術が欲しいんだ。」

 

鋼の錬金術師、かなりハマったんだよなぁ〜!

だってかっけぇじゃん!手を合わせて地面叩くだけで槍が出てきたりすんだぜ⁉︎

 

「ガドルの力があるから、武器とかは作るのに全く不自由はないでしょうが…まぁ、いいでしょう。

手合わせ錬成、指パッチンでの発火、他にはどんなのがあります?」

 

「スカーの解体、グリードの硬化能力だ!」

 

…ぶっちゃけ、硬化能力は錬成じゃねぇが、原理としてはいけるだろ。

エドもそれっぽいこと言ってたし。

それに、オレはハガレンのなかでグリードが一番好きだったんだよ。

グリリンとか、サイコーだったなぁ〜。

 

「じゃあ、折角ですし、格闘体の時は焔系と解体の錬成、俊敏体の時は水系の錬成、射撃体の時は風系の錬成、剛力体の時は大地系の錬成と硬化能力の威力が上がる設定をつけますね。」

 

「通常体の時はどうなんだ?」

 

「普通ですね。運動能力も錬金術も、ズのグロンギを簡単に倒せるくらいです。」

 

……それって、戦う力を持ってないと言えんのか?

 

「ちなみに、人間態での格闘、俊敏、射撃、剛力体の時はメのグロンギ相手を、グロンギ態ではゴのグロンギ相手を簡単にできます。」

 

へ、へぇ〜。なかなかの力になっちまったな、こりゃ。

ある程度なら無双できんじゃね?

 

「それでは、三つ目はどうします?」

 

あ、そうだったそうだった。忘れるとこだったぜ。

実は、この三つ目な一番大事なことなんだよな…

 

「三つ目は、それなりに長い人生が送ることができる体。それが欲しい。前世は短すぎたからな」

 

「そうですか。それでは、老化することがない体を与えます。つまり、寿命が無くなりますね。殺された場合以外では死にません。」

 

そんなのもらっていいのか?ありがてぇけども。

しかし、こんだけ貰ったってことは、確実になんかあぶねぇ世界に送られるんだろうな。予想できるぜ。

 

神様は俺から離れたところに歩き、門を開いた。その門は、眩しい光を発している。多分あれが、新たな世界への門ってやつだな。

 

「では、以上の特典をあなたに与え、あなたには新たな人生を迎えてもらいます。

くれぐれも前世のように、悔いの残った人生になさらないように…」

 

「あぁ、ありがとな!神様」

 

「えぇ、失礼します。」

 

オレは勢いよく、門の中に飛び込んだ。新しい世界が待っている。新たな冒険に心を弾ませ……て………。

 

 

 

ヒュオオォォォォォ

 

 

 

wow!地面が!地面がねぇ!

 

まさか!あの野郎!

 

オレは勢いよく後ろを振り向く。すると…

 

 

 

爽やかな顔で手を振る神様がいた…

 

 

 

 

「ふっざけんなあぁぁぁ!」

 

叫びながらオレは新しい世界に入ったのだ……

 

 

 

______________

 




ども!作者です!
これが僕の処女作になるから、かなり心配ですが、色々と教えてくださると助かります!

主人公をガドルにしたのは、単純に2番目に好きな怪人だからです。
1番好きなのはダグバですが、それだと強すぎるかな?と思ったんです。

クウガはこのシーンでしか出ません!すいません!

それでは、こんな小説ですが、よろしくお願いします‼︎


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主人公設定

☆プロフィール

八神 柊(やがみ しゅう)

 

・年齢-16歳(原作開始時。つまりイッセーと一緒)

 

・趣味-オカルトの調査

 

・好きなもの-魚

 

・嫌いなもの-ジャガイモ、玉ねぎ

 

・神器-真理の扉《ゲート オブ トゥルース》

 

 

この世界に転生してきた人物。元の世界での戦闘経験が非常に高く、上級悪魔とも渡り合える力を持つ。その上、神器の力も高い。

イッセーとは幼なじみの関係であり、イッセーを含んだ3人が変態行為に走った際に、取り押さえることが日課である。

入学してから二年目、イッセーがオカルト研究部に入ったことで、悪魔ではないのにオカルト研究部に入部してしまった。

なお、女性に対する免疫が非常に低く、部室でシャワーを浴びる女性陣に対して迷惑に思っている。

 

 

 

☆能力

・真理の扉《ゲート オブ トゥルース》

物質の構造を利用することで、物の形を変えたり、鉄の塊から鉄剣を作ったり、水を水素と酸素に分けたりできる。

自身の中の炭素原子を集めることで、皮膚の硬さをダイアモンド並みの硬さに出来る。

元ネタは『鋼の錬金術師』より。

 

 

 

 

☆形態変化

*人間態

基本的にはこの姿で生活する。

この状態でも戦えるように、戦う力をつけた四つの形態を加えた。

 

・通常体

戦うのが目的ではない時の形態。この状態の時は、運動能力、錬成の力がほかの四形態より全然少ない。神曰く、ズのグロンギを倒せるくらい。

見た目はただの人間で、髪も黒い。

 

電撃体発現後、目の色が少しだけ金色になり、真っ黒だった髪の色は金のエクステンションがかかったような感じになった(髪のイメージは仮面ライダーダブルの大道 克己)。

 

 

人間態での戦闘形態

 

・格闘体

肉弾戦で戦うのが目的の形態。運動能力がバランスよく上がり、焔系の錬成(いわゆる指パッチン錬成)と解体の錬成の威力が上がる。

見た目は、人間の姿で赤い目になり、髪に赤いメッシュがかかる。

電撃体発現後は、目がただの赤色ではなく、ルビーのような少し綺麗な赤色になった。

 

・俊敏体

槍や棒で戦うのが目的の形態。素早さ、跳躍力が大きく、その他は小さく上がり、水系の錬成の威力が上がる。

見た目は目が青くなり、髪に青いメッシュがかかる。

電撃体発現後は、サファイアのような青色になった。

 

・射撃体

遠距離で戦うのが目的の形態。感覚器官が著しく発達し、その他は小さく上がる。また、風系の錬成の威力が上がる

見た目は目が緑になり、髪に緑のメッシュがかかる。

電撃体発現後は、エメラルドのような緑色になった。

 

・剛力体

剣や力で戦うのが目的の形態。攻撃力、防御力が大きく上がり、その他は小さく上がる。また、大地系の錬成や、硬化能力の威力が上がる。

見た目は目が紫になり、髪に紫のメッシュがかかる。

電撃体発現後は、アメシストのような紫色になった。

 

 

 

*グロンギ態

全力で戦う時になる姿。見た目は原作通りで、この姿になると、グロンギ語で喋る。リントの言葉も話せる。

人間態での戦闘形態四種と比べ、運動能力、錬成能力とも上回っている。

 

・格闘体

肉弾戦で戦うのが目的の形態。人間態での格闘体よりも戦闘能力は上であり、錬成能力も上回っている。

 

・俊敏体

槍や棒で戦うのが目的の形態。他の形態と同様に、人間態での俊敏体よりも戦闘能力、錬成能力は上である。

 

・射撃体

遠距離で戦うのが目的の形態。他の形態と同様に、人間態での射撃体よりも戦闘能力、錬成能力は上である。

 

・剛力体

剣や力で戦うのが目的の形態。他の形態と同様に、人間態での剛力体よりも戦闘能力、錬成能力は上である。

 

・電撃体

雷のエネルギーを吸収する事で、自身の能力を大幅に上昇させた形態。俊敏体の瞬発力、射撃体の超感覚、剛力体の怪力を持ち合わせている。

この姿で放たれる必殺キック〝ゼンゲビ・ビブブ〟は凄まじい威力を秘めている。

 

 

 

 

 

☆登場人物との関係

 

・イッセー-幼なじみであり、からかう対象。

 

・リアス-部活の先輩。目のやり場に困る人。

 

・祐斗-部活の同期でクラスメイト。よく一緒にいる。

 

・朱乃-部活の先輩。少し苦手?

 

・小猫-部活の後輩。パンチが重い!

 

・アーシア-部活の同期。なんだかほっとけない。

 

・ゼノヴィア-部活の同期。……珍生物

 




一応の設定です。
ヒロインとかはまだ決まってませんが、猫姉妹にしようかな?とか、教会から来た二人の聖剣使いにするか?とか思ってます。
あるいは、主人公のハーレムを遠目で見るだけってのもアリかも…。


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D×D用語 説明回

「さて、僭越ながら、ここでは私がこれまで出て来た『ハイスクールD×Dの世界』に関する用語を簡単に説明させていただきます。」

 

「はい先生質問です!」

 

唐突に話し出した先生…神様に、八神は思わずツッコミを入れた。

特に何事も無く一日が終わり、布団についた。夢が始まったと思えば、いきなり神様が授業形式で話し始めたのだ。混乱するなと言われる方が無理である。

 

「残念ですが、まだ質疑応答の時間ではありません。さて、早速始めていきましょう。」

 

八神のツッコミ虚しく、そのまま話を続けようとする神。

 

「ここは本編で説明不足な用語に説明を加える場です。いわば特別回なんですよ。だからリラックスして下さい。

作者がハイスクールD×Dを知らない友人の方に、分からない言葉が多いと指摘を受けたそうです。そこで、急遽説明の場を作ったわけです。とは言っても、作者の知識では限界もありますので、間違っている部分も多々あると思いますが。」

 

「あ、そう……。」

 

八神も納得してはいないが、確かに本編でよく分からないことが多いため、説明してくれるのはありがたい。という事で、授業を受ける事にした。

 

ーーーーーーーー

 

悪魔・天使・堕天使

 

悪魔は冥界に住む住人たちの事を指す。決してバ◯キ◯マンの様な見た目はしておらず、普通の人間と大差ない。普段は隠してあるが、飛行する時などは背中から一対の蝙蝠のような羽根が出る。

 

太陽の光や光属性の武器、十字架や聖水などの光や聖に関する物に耐性がなく、触れただけでも致命傷になる程である。尚、祈り、所謂「アーメン」と祈られるだけで頭痛がするほど。

 

四人いる魔王、『四大魔王』と七十二の貴族(ほぼ滅んでるけど)、その他下級悪魔がいる。

 

 

 

天使は神の使いの者という、一般的なイメージ通りである。悪魔を敵視していたが、とある理由で和平を結ぶ。

熾天使【セラフ】と呼ばれる最高位の天使を筆頭に九つの階級がある。

 

 

 

堕天使、文字通りの堕ちた天使である。冥界の覇権をめぐり争っていたが、こちらもとある理由で和平を結ぶ。

『神の子を見張る者』【グリゴリ】という堕天使中枢組織があり、総督を筆頭に副総督、幹部と続く。

 

 

堕天使と天使は背中にある羽根の数で強さが分かり、最大は十二枚である。

 

 

三種族に共通する能力で言語翻訳能力があり、話し相手がどこの国の人でも話すことができる。

 

 

 

 

 

 

「なぜ和平を結ぶ事になったのか、それは後で説明します。」

 

「それはいいんだが…悪魔と比べて天使と堕天使の説明文が少なくねぇか?」

 

「主人公達が悪魔だからね、仕方ないね。」

 

「!!?」

 

「さぁ、次に行きましょうか。何故兵藤君は悪魔になったのでしょうか?」←何も無かったような顔

 

 

ーーーーーーーー

 

『悪魔の駒』【イーヴィルピース】

 

人間を始めとする、様々な種族を悪魔に転生させ、己の眷属にする為の道具。見た目はチェスの駒であり、“兵士”“騎士”“戦車”“僧侶”“女王”“王”の六種類がある。

 

駒の一つ一つには特性があり、名前に沿った力を与えられる。騎士は素早い行動力と剣の腕前、戦車はズバ抜けた力、僧侶は魔力でのサポート、女王は全ての駒の性質を持ち、王はその眷属の長となる。兵士には、敵本陣に入った際に“王”以外の駒の性質を手に入れることが出来る『昇格』【プロモーション】がある。

眷属メンバーでいうと、木場が騎士、小猫が戦車、アーシアが僧侶、朱乃が女王、リアスが王、兵藤が兵士である。

 

 

 

「これでイッセーは悪魔になったのか。」

 

「そうなりますね。この駒を使えば、例え対象が死んでいたとしても悪魔として生き返らせる事ができます。」

 

 

 

対象の能力が高ければ高いほど、多くの駒を消費する必要がある。その為、兵藤を悪魔にする時は兵士の駒を八個消費したそうだ。

因みに、戦車の駒は兵士の駒三つ分の価値があるように、騎士と僧侶の駒は五つ分。女王の駒は八つ分の価値がある。

 

 

 

「何でそんなに必要だったんだ?当時のイッセー、そんなに強かったっけ?」

 

「それは彼が宿している神器の影響でしょう。詳しくは後で説明しますが。」

 

「イッセーが兵士八つだから…女王の駒なら一つで済むんだな。」

 

「そうですね。他にも悪魔の駒には様々な種類がありますが、まだそれには触れないでおきましょう。あくまで現段階での説明なので。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

レーティングゲーム

 

冥界で行われているゲーム。

チェスのように互いの駒(眷属)を敵陣に進め、敵の王を打ち倒せば勝ちになるゲーム。

公式なゲームでは成人した悪魔しか参加できないが、特別な事例がある時はその限りではない。人間が参加するのは滅多にない。

 

 

 

「これ説明少なすぎねぇか?」

 

「大体は小説で説明した、と作者が言っていましたので。悪魔の駒の追記情報ですよ。」

 

ーーーーーーーー

 

『神器』【セイクリッド・ギア】

 

人間に宿る、それぞれが能力を持った武器の様なもの。その中には有り触れた物から魔王をも殺すことが出来る物まである。

偉人達は皆何かしらの神器を持っていたとされている。

尚、今のところグレモリー眷属の中でコレを持っているものは兵藤、アーシア、木場の三人である。

 

 

 

「オレの能力もコレに分類されるぜ!」

 

「この小説限定ですがね。神器は生まれた時から宿っているものですから、アルジェントさんの様に抜き取られると死に至りますので、注意して下さい。」

 

 

 

 

アーシアの神器は『聖母の微笑』【トワイライト・ヒーリング】と呼ばれており、簡単に言えばどんな傷でも治してしまう治癒能力。

木場の神器は『魔剣創造』【ソードバース】で、その名の通り、魔剣を創り出すことが出来る。

 

 

 

「あれ、イッセーのは?」

 

「それは次に説明します。彼のは特別な物ですから…。」

 

ーーーーーーーー

 

『神滅具』【ロンギヌス】

 

神器の中でも、神や魔王クラスを倒す事が出来る代物。数自体は少なく、現段階で確認されているのは十三種である。

兵藤が持つ神器『赤龍帝の籠手』がコレに当たる。

 

赤龍帝の籠手の能力は、十秒毎に持ち主の力を倍加させていくという、恐ろしいものである。

 

 

 

「計算してみた時はビビったぜ。四千倍だぞ、四千倍。」

 

「これが兵藤君に八個もの駒を消費した理由です。神滅具には他にも色々あるらしいですが、どれも素晴らしい能力を持っています。神滅具を持った人間が、悪事を働くことが無ければ良いのですが…。」

 

「ところで、赤龍帝って何よ?」

 

「それでは、赤龍帝についても含めて、昔の説明をしますね。」

 

ーーーーーーーー

 

三大勢力の戦争

 

大昔に行われた、天使と悪魔と堕天使での間の戦争。

悪魔と堕天使が冥界の覇権を巡って争い、その二つの派閥を討ち滅ぼそうとした天使が争いに加わった為に発展したらしい。

かなり大きな戦いだったため、どの勢力もかなりの数の死者が出た。

 

この戦争は赤と白の二匹のドラゴンの喧嘩によって止められた。いや、止めるしかなかった。

その二匹のドラゴンは二天竜と呼ばれ、赤いドラゴンには『赤龍帝』。白いドラゴンには『白龍皇』という異名がある。

この二匹は魔王や神を超えた実力を持っており、そのためこの喧嘩を止める事は一種族だけではとても叶わず、三勢力の協力を余儀なくされた。大きな犠牲を払いながらも、二匹のドラゴンを封印する事に成功した。しかし当時の魔王が全滅した事もあり、その後も戦いが続く事は無く、今に至る。

 

この戦争、喧嘩抑制の際に、先祖代々が悪魔であった『純血悪魔』の数が急激に少なくなり、悪魔の全滅を危惧した為に作られたのが『悪魔の駒』である。

 

 

 

「その龍達が和平を結ばせるきっかけで…イッセーの神器に赤龍帝ってのが封印されてんのか?」

 

「はい。白龍皇もとある人物の神器に封印されていますが、それは彼の登場をお待ちください。」

 

「こんな大きな戦争があって、魔王が死んで…。よく天使とかに滅ぼされなかったな〜。」

 

「天使も堕天使もワケありだったんでしょう。いずれ分かることです。」(ニヤリ)

 

「……?」

 

 

ーーーーーーーー

 

「取り敢えずはこんなところでしょう。詳しい情報は作者自体が知りませんから、この小説を読む上で必要最低限の事だけを載せることにしました。

彼も勉強しながら執筆していくそうですが…正直不安ですね。」

 

「ここでの説明は、二十八話目までのD×D用語しかやってねぇ。そっから先に出てきた用語は前書きか後書きで説明するらしいぞ。」

 

「そうですか、ならば安心ですね。」

 

「んじゃ!これからも頑張っていきますか!オレ達の活躍、見ていてくれよな!」




最後に僕自身が…。皆様、これからは原作を知らない方も楽しんでこの小説をご覧できるように、説明をしっかり交えながら投稿していこうという所存です。クウガ…というか、グロンギについても近々説明回を投稿させていただきます。
どうか、これからもこの駄文小説にお付き合い頂くと幸いです。よろしくお願い致します!


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グロンギとは?

はい、D×D用語説明回の時に、やると言っておきながら忘れかけていたグロンギの説明回です。
ここでは、この小説を読む際にて困らない程度の情報量しか載せておりません。もし深くまで知りたいのであれば…
Wiki先生までお願いいたします。

…あんな情報量、とてもまとめきれんわ。


とある日の放課後…

 

ここは駒王学園の二年C組の教室。要するに、八神と木場が学校生活を送っている教室である。

 

殆どの学生は家に帰るか部活に行くかで出払っており、既に教室には誰もいない。

 

 

 

筈だった。

 

 

 

 

「さて!よいよ、前回のD×D用語説明回から放置され続け、作者の記憶から消えかけてしまっていた第二段説明回!『グロンギとは何ぞや⁉︎』が始まるぞ〜!気合いいれてけ〜!」

 

「お、おう…」「何か、いつも以上に元気ね…。」

 

 

その教室には、オカルト研究部員の全員が集まっていた。

八神は教壇に立ち、他のメンバーはそれぞれが適当な位置に座っている。

 

 

「まぁ、それはさて置き…。今回の話の意図を軽〜く説明させてもらいます。

言ってしまえば、グロンギに関する情報を説明しましょうっていう事です。」

 

「確かに、僕達はまだグロンギについて知っている事は余り無いからね。」

 

「その通りだユウト!更に言うと、グロンギを知らない読者の方がいるかも知れねぇ!

…だが、グロンギに関する情報を、必要になるたびに小説内でいちいち説明すりゃ〜もう長いしつこいのなんのって。

だから、大体の事をこの場を使って説明しちまおう!って事ッス。」

 

手に持っていた指示棒でビシィッ!と木場を指す。

 

「て事で、初めて行くとしますか。分からねぇことがあったらバンバン聞いてくださいよ?」

 

八神は黒板の方を向き、チョークで何かを書いていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

其の一!『グロンギとは?』

 

『仮面ライダークウガの世界』に存在する怪人の総称。超古代の日本?に存在したとされ、人間によく似た、人類に極めて近い戦闘民族である。ベースは人間で、動植物の能力を合わせ持っている。そのため、体内構造などは人間のソレとほぼ同じであり、ベースにした動物に沿った能力を持っている。

 

グロンギ語と呼ばれる彼ら専用の言語を話したり、九進法を使用したりする独自の文化がある。

 

ゲゲル(下記参照)を行う事で自らの地位を上げ、最終的にはグロンギの王になる為の挑戦権を得る。

 

彼らが人間と違う最大の特徴が、人間とは比べ物にならない程の身体能力、何かしらの動物や昆虫、植物の能力を模した特殊能力、そして怪人体である。怪人体の外見は、人間の裸のような姿に、各種の動植物や昆虫の特徴を付け足したようなものである。

総じて戦闘能力は高く、殴打する事で簡単に人間を殺すことが出来るほど。また、その身体も頑丈であり、拳銃では傷一つ付けられることなく、ゴムのように弾いてしまう。

さらに再生能力、自然治癒能力も凄まじく、ある程度の傷ならすぐに治してしまう。そのため、原作では警察の銃弾が効かなかったりした。それどころか、現存する(2000年の段階で)兵器ですら倒せないという。

 

この世界でグロンギを倒す為には、ある物質を中心に全身に張り巡らされている戦闘神経を断裂させるか、再生能力で治せないほどのダメージを与えるかのどちらかになる。(ガドルは後者の方法で倒している。)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ざっとした説明はこんなもんだ。」

 

「人間界の兵器でも倒せないなんて…。あの時の私達では倒せない訳だわ。」

 

リアスがハァとため息をついた。

 

「まぁ、あん時のあいつはグロンギの中でも上位の実力を持っている奴ですから。」

 

「…どうでもいいけど、この『仮面ライダークウガの世界』って何なん…」

 

「そこに関しては触れないでくれよイッセー。この文はあくまで読者様宛なんだからよ。」

 

触れてはならない文章に触れようとした兵藤の口を慌てて塞ぐ八神。

そう、これに触れてはいけないのだ。

 

「それでは、ゲゲルについて詳しくお話しして頂けますか?」

 

「了解です朱乃先輩。ゲゲルというのは、日本語で言う“ゲーム”にあたるものでして…。」

 

ーーーーーーーー

 

其の二!『ゲゲルとは?』

 

簡単に言えば、グロンギが行っている殺人ゲームの事。原作ではある一定の条件を与えられた状態で始まり、その条件をすべて果たす事でランク(下記参照)が上がる。

しかし、ルール違反を犯した者は、ゲゲルへの挑戦権を剥奪される。

 

 

・ズ集団のゲゲル

ゲームマスターであるラ集団が指定した期間で、指定された人数を殺せばクリアとなる。なお、殺害方法に条件はないため、自分が最もやりやすい方法でプレイする事が出来る。しかし、一定の期間内に成功者が出なければ、ゲゲルの権利は階級が上の集団であるメ集団に渡る。

 

・メ集団のゲゲル

基本的なルールはズ集団の物と大差ないが、殺した人数を自己申告出来るようになる。なお、ゴ集団に昇格を狙うため、難しい条件を加える者がほとんど。

 

・ゴ集団のゲゲル

“ゲリザギバス・ゲゲル”という特別なものになり、これをクリアする事で、ンの名前を持つグロンギの王と戦う“ザギバス・ゲゲル”に挑戦する権利を得る事が出来る。

人数、期間に加え、ターゲットの種類や殺害方法にまで条件が与えられ、これまでより難易度がかなり高くなっている。

殺した人数はラ集団によりカウントされている。

指定されたターゲット以外の人物を殺したとしても、ルール違反にはならないため、挑戦権が剥奪されない。

 

ザギバス・ゲゲルに勝利した者は、“究極の闇”という《自分の気の向くままにリント=人間を殺し続ける》権利が与えられる。

 

 

 

尚、パラレルワールドでのゲゲルは少し内容が違い、八神が元いた世界ではグロンギの王を復活させるための儀式の様なものである。

 

また、この小説上で敵対するグロンギのゲゲルは、指定された人間を殺した数だけ強くなるという単純なものになっている。

 

 

 

 

 

 

 

「要するに、儀式以外のゲゲルは、自分のランクを上げる為のモノと思ってくれていいっすよ。」

 

「なぁ、お前が元いた世界って何のこと…」

 

「だからそれには触れんなっての。特別編でいちいち細かい事にケチ付けんな。」

 

再び兵藤の口を塞ぐ八神。それに触れてはならないのだ。

 

 

「…ランクとは何ですか?」

 

「お、いい質問だ小猫。グロンギにも力の序列があってだな、それを明らかにするために、グロンギの名前にはとある法則があるんだ。」

 

 

ーーーーーーーー

 

其の三!『グロンギの“集団”とは?』

 

グロンギという一種族の中には、更に七つの団体に分かれており、“べ集団”、“ズ集団”、“メ集団”、“ゴ集団”、“ラ集団”、“ヌ集団”、“ン集団”というような名前がある。順に説明すれば…

 

べ集団-言ってしまえば、雑用係。戦闘能力が非常に低く、ゲゲルの参加権が得られなかった。知能も低く、話す事すらままならない。

 

ズ集団-下級戦闘民族。べ集団よりは戦闘能力が高く、知能もある。ただ、人語は少し曖昧になっている。最初にゲゲルを行う集団。この世界では、下級悪魔と同等の実力。

 

メ集団-中級戦闘民族。ズ集団のグロンギがゲゲルを成功させれば、この集団に仲間入りする事が出来る。ズ集団よりも人語が理解できるため、仲間の間でも人語で話す事もしばしば。中級悪魔と同等の実力。

 

ゴ集団-上級戦闘民族。実質上、グロンギの中の実力者が集う集団である。人語を流暢に話し、もはや現代人よりも上手く話しているように見える程。とある理由で、原作よりもメンバー数が多くなっている。基本的に上級悪魔と同等の実力だが、ゴ集団の中でも更に規格外の力を持つ者は最上級悪魔に匹敵するという…。

なお、八神が変身するガドルは、この集団のトップである。

 

ラ集団-ゲゲル管理人。ゲリザギバス・ゲゲルをクリアしながらも、ザギバスゲゲルに挑戦しなかった集団。ザギバスゲゲルの挑戦権を得ているため、ゴ集団と同格、それ以上の実力を持っているとされる。

 

ヌ集団-武器職人。名前の通り、ゲゲルに使われる武器を製作したりメンテナンスしたりする、言わば裏方の仕事を行う集団。ゲゲルの挑戦権を持っていない事から、唯の戦闘能力ではべ集団のそれと等しいと考えられている。

 

ン集団-グロンギの王。王という名にふさわしい力を持っており、その能力は他の集団とは次元が違い、どいつもこいつもチートであったりする。八神をグロンギに変えてしまった“ガミオ”もこの集団の一人である。

全貌は不明だが、その力、能力は神や魔王と同等、匹敵すると言われている…。

 

 

 

 

 

「え⁉︎お前の正体って」

 

「いい加減にしないと、お前限定で記憶改変するぞ?特・別・編だって何度も言ってるだろう?」

 

にこやかに微笑んで、優しく声をかけた八神。兵藤は背筋からゾクゾクと悪寒を感じたらしく、それ以上は何も言わなくなった。

 

「これを利用して、グロンギの名前がある程度決まるんだ。これからざっくり説明してやるよ。」

 

 

ーーーーーーーー

 

其の四!『名前の特徴とは?』

 

全てのグロンギには、◯・◯◯◯・◯のように、1・3・1の合計5文字で名前が与えられている。

 

最初の一文字目には自分が所属する集団(前記参照)の一文字が入り、次の三文字スペースにはファーストネームにあたる三文字が入る。

 

最後の一文字は、自分のベースである動物の種類が何かにより変わる。

 

バ-昆虫類

ダー哺乳類

デー植物

ギー魚類

グー鳥類

レー両生類、爬虫類

 

八神の正体である“ゴ・ガドル・バ”を例にしてみよう。

これでいくと、彼は〝ゴ集団の昆虫類、ガドル〟という事になる。

 

なお、ン集団になれば、最後の一文字の前に“ゼ”がつく。恐らく、その他のグロンギと区別をつけるためであろう。

 

例:ン・ガミオ・ゼダ(ン集団の哺乳類でグロンギの王、ガミオ)

 

 

 

 

「あの…ファーストネームにも規則というのはあるのですか?」

 

こっそりとアーシアが手を挙げ、尋ねた。

 

「ん〜、あると言えばあるな。例えば、ガミオはベースとする動物がオオカミなんだ。そんな風に、ベースとする動物の名前の一部を濁らせて使っている。ブウロはフクロウだからな。」

 

ーーーーーーーー

 

「まぁ、ざっとこんなもんっすかね。これぐらいの情報を抑えていれば、この小説読むのに苦労はないでしょ。」

 

「…もう突っ込まない。」

 

「よし、よく理解できたなイッセー。褒めてやる。」

 

八神は手に持っていた指示棒を収め、兵藤の頭を撫でた。

 

「て事で、今回の授業はこれにて終了!ご静聴ありがとうございました!読者の皆様も、ご愛読ありがとうございました!」

 

「打ち切り漫画みたいになってるぞ⁉︎終わらないんだよなこれ⁉︎」

 

「ったりめーだバカやろ〜!

それでは、作者の次回作(最新話)にご期待ください!それでは、サラダバー!」

 

「だから打ち切り漫画っぽくなってるぞ〜!」

 

ボケとツッコミのノリで騒ぐ男二人。これでも主人公二人組なのだが…大丈夫なのだろうか。

 

 

ウフフと笑う朱乃、無表情な小猫、にこやかな木場、困惑するアーシア…

 

 

 

 

「…こんな小説ですが、これからもよろしくお願いします。」

 

そんな彼らを纏めるのが、部長であるリアスの仕事なのだ。

 

苦労人?それは言ってはいけない…。




もし、この情報も載せた方がいいという意見がありましたら、メッセージの方に送っていただけると幸いです!


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旧校舎のディアボロス
一話目


 

よく晴れた日の昼間。駒王町にある大きな学校、駒王学園にて、三人の男が大軍勢の女子に追いかけ回されていた。

この三人、変態三人組として学校に名を広げている、完全な変態である。

一人はメガネをかけ、髪を前で二つに分けて下ろした変態。『スリーサイズスカウター』こと、元浜。

一人は坊主頭をしており、見た目はスポーツ少年の変態。『セクハラパパラッチ』こと、松田。

そしてもう一人は、普通にしていればイケメンの領域に入るのにも関わらず、変態であるためモテることがない。『おっぱいフェチ』こと、兵藤 一誠である。

 

この三人、ついさっきまで女子テニス部の更衣室で女子部員が着替えをしていたのを覗いていたのである。

そしてそれがバレて、今こうして追いかけ回されているのである。

 

「待て〜!変態〜‼︎」

 

「待てと言われて待つ男がいるか〜!」

 

今回は松田が女子にバレてしまったことにいち早く気づき、すぐに三人とも逃げ出したため、女子と三人の距離はかなり離れている。

このまま何事もなければ、簡単に逃げ出すことができるだろう。

 

「今日は見事にうまくいったな!」

 

「あぁ!バッチリ写真もいっぱい撮ったぜ!」

 

「後は帰ってその写真をじっくりと…あ!しまった‼︎」

 

そう、何事もなければ。の話だが…

 

突然元浜が、何かを思い出したように叫んだ。

 

「ここから先は、シュウがいる教室だった‼︎」

 

そう叫んだのとほぼ同時に、廊下の曲がり角から誰かが飛び出した。

その誰かは体をひねり、松田と元浜の顔面を蹴った。

 

「ぶふぉ!」「がふっ!」

 

「松田!元浜〜!」

 

蹴られた松田の手から、盗撮に利用したカメラが落ち、一誠はそれを拾った。

 

「任せろ!カメラだけは俺が守っt「行かせるわけね〜だろ、変態」あっ!」

 

カメラを拾って走り出そうとした一誠の肩をガッチリと掴んだ誰か。

そう、この男こそ、一誠の幼なじみとしてこの世界に転生を果たした、八神 柊であった。

 

「しっかりと反省してくるんだな‼︎」

 

「うわあぁぁぁぁ‼︎」

 

八神は掴んでいた一誠を、三人が走ってきた方に向かって投げた。

もちろん、投げられた先にいるのは先ほど着替えを覗かれた女子たちである。

その後、追加と言わんばかりに松田と元浜も転がされてきた。

 

この三人が、テニスラケットで散々に殴られたのは言うまでもないだろう…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「ありがとうね、八神くん。」

 

「別に気にすんな。オレは変態な幼なじみをボコってやりたかっただけだしな。」

 

オッス、オレだ。八神だ。

 

16年前だったか?なんとか無事に転生を終わらせることができましたよ。おかげさまで。

転生し終わったのは良かったんだが、その後がも〜かなり辛かった。

だってちょいと考えてみ?精神年齢二十過ぎのオレが母親の胸の膨らみから食事を吸わなきゃならんのだ。

羞恥心とか半端なかったね、ほんと。

でもって両親はオレがある程度育って、一人でもなんとかなる年齢になった途端、私たちのやるべき事は終わったとか言わんばかりにどっか旅行に行きやがった。

あの野郎ども、どーせならオレも連れてけっての。

 

ま、それはともかく、今は第二の青春を謳歌しています。

つっても、オレの友人たちは変な奴が多いんだけどな、ほんと。

変態とか、オカマとか、変態とか、厨二とか、変態とか。

新しい幼なじみも変態なんだよ。困っちゃうね〜ほんと。

 

たった今、変態行為を働いた幼なじみ含む三人をとっ捕まえて、女子の皆さんに送ってやったとこだ。

 

てかこいつらほんとに懲りねぇな。一回オレが全力でボコったほうがいいのか?

いや、それは後々面倒だな。生活指導とかされそうだ。

 

てか、女子生徒!頭下げて礼しなくても大丈夫だからやめてくれ!

胸元!シャツから胸元が見えてるから!

て言うか練習着のデザイン、もっとなんとかなんねぇのか!ノースリーブのシャツにミニスカートって、見てるこっちが恥ずかしいわ!

 

さて、さっきまで鉄拳制裁ならぬラケット制裁を食らってた三人はどうなってっかな?

あ、先にカメラから女子の着替えの写真消しとくか。

 

オレはカメラの画像フォルダから、さっき変態どもが撮った写真を探し、大量にある写真を一枚一枚消去していく。

てかさすがに撮りすぎだろこれ、だからオレが苦労すんだよ。ほんとに迷惑だな。

後で個人的に殴ってやる。

 

写真を全部消したオレは、カメラを持って地面に倒れている変態×3のところへ向かう。

 

「よぉ、散々にやられたな、変態ども」

 

「シュ…シュウ……。」

 

「お前…よくも……」

 

「男の…夢を……」

 

写真を消してるのが分かったのか、残念そうな怒ったような顔でこっちを見てやがる。こいつら、後できっちり話しした方がいいのか?

 

「何をそんなに怒ってんだよ。悪りぃのはお前らだろ?」

 

「それとこれとは別だ〜!」

 

「女子のあられもない姿を見る!」

 

「それこそが男の楽園というものだ!」

 

「それなのに…それなのに!」

 

「「「お前がそれを邪魔したんだ‼︎」」」

 

おぉ、声が揃った、美しい。

 

「邪魔すんのは当然だろ?てか、お前ら殴られんの分かってんのに見に行くって、ドMか?いや、変態だからか。」

 

「そこは否定しないな。」

 

そこはしろよメガネてめぇ、カチ割るぞそれ。

 

「殴られるのが分かっていても、楽園を求め続ける。」

 

何を誇らしげに言ってんだ坊主ゴラ、もうその中途半端の髪そぎ落とすぞ。

 

「それが男ってやつだ!」

 

最後にかましやがったこのヤロウ。なんでそんなに欲が深いのか、理解しかねるな。

 

「お前に!」「俺たちの!」「ロマンが!」

 

「「「分かるものか〜‼︎」」」

 

 

……言いたい放題言ってくれんじゃねぇか、こいつら。

よし、もう決めた。生活指導とか知るかってんだ。

変態どもを止めるためですとか言っとけば、ある程度は許されるからな。うん。

 

オレはでっかいため息をついて、三人に優しく声をかけた。

 

 

 

 

「あんま調子に乗んなよ?テメェら…」

 

 

 

 

その瞬間、三人の顔がフリーズした。

怒ってんのがやっと分かったらしいな。だが、もう遅い!

 

「口で言っても分かんねぇなら、体に教えてやるしかねぇよなぁ!⁉︎」

 

「「「ぎゃああぁぁぁぁ‼︎」」」

 

 

オレは三人を結構ボコった後、すっきりした顔で家に帰るために教室へ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「いってぇ〜な、あいつ…」

 

「クソ、モテるやつは羨ましいぜ…。」

 

「しかし、あいつ女嫌いだというじゃないか。本当に腹ただしい奴だ。」

 

「あぁ、モテるからって調子に乗るなかれってやつだな。」

 

松田、元浜、そして兵藤は、旧校舎前で八神に散々にやられた後、喋っていた。

モテるやつは羨ましい。そのことをずっと話している。

 

そんな時だった。誰かからの視線を感じた三人は、視線の発信源と思われる場所を見上げた。

そこには、紅い髪を長く伸ばし、スタイルバツグン百点満点の美少女がいた。

こちらの方をじっと見ているのが分かる。

 

「いいなぁ〜、リアス・グレモリー先輩。」

 

「この学園の二大お姉様の内の一人で、学園中で人気がある先輩だよなぁ〜。」

 

「もう一人の二大お姉様の姫島 朱乃先輩、一年生の学園のマスコット、塔城 小猫ちゃんもいいよなぁ〜。」

 

三人はしばらく、その美少女に見とれていた。

 

ちなみにこの学校、駒王学園は最近まで女子校であったため、男子の人数に比べ女子の人数が圧倒的に多いのである。

そして、一学年に一人二人は絶世の美少女がいる。なぜかは知らないが。

中でも三年生には二大お姉様と呼ばれる、紅い髪を伸ばした巨乳の少女、リアス・グレモリーと、黒い髪をポニーテールにまとめた巨乳の少女、姫島朱乃がいる。この二人の美しさは三年生の中で、いや学園中で群を抜いている。

他にも、一年生には学園のマスコットと呼ばれる白い髪を肩まで伸ばした少女、塔城小猫がいる。

胸のサイズは聞いてはいけない。

 

話は変わるが、実はこの三人、この学園に入った理由が『ハーレムを作るため』なのである。それだけのために彼らは中学三年の時に猛勉強したそうである。

この学園は偏差値が高いため、ちょっとだけの努力では受かることがない。

それを考えると、彼らは己が欲に向かってかなり努力することができる素晴らしい人間たちと言えるかもしれない。

しかし、欲に忠実すぎるために、さっきのような行為に走り、どうやってもモテることがないのである。

 

「もちろん、それに比例するように人気の男子もいるのも事実!爽やかイケメンNo1.木場 祐斗!彼の笑顔に惚れない女はいない!」

 

「他にも先ほど我らを殴ったワイルドイケメンNo1.八神 柊!触れたら心が火傷するぜ!」

 

「何故だ!そんなにイケメンがいいのか⁉︎この世のイケメンじゃない男に謝れえぇぇぇ!」

 

そして三人は日頃のストレスを込めて叫んだ。

イケメンに対する嫉妬、憎しみ、苛立ちを込めて。

これで何かが変わるわけでもないのに……。

 

ーーーーーーーーーー

 

「やぁ、八神くん。」

 

「オッス木場〜」

 

こいつは俺のクラスメイトで、かなりのイケメン。木場 祐斗ってんだ。

今言ったように、イケメンすぎんのに加えて、性格も爽やかいいとこだからさ、女子からの人気も高い。

嫉妬してんのかって?な訳ねぇだろ。正直、オレは他人からの印象とか割と気にしねぇタイプだからな。

 

ただ、一つだけ気になることがある。オレと木場が話すたびに、「八神×木場だ」とか「いや、木場×八神だ」とか言うのはやめてほしい。

 

変態三人組からの情報だが、木場は

爽やかイケメンでNo1らしい。

聞けば、他にもワイルドイケメンとかあるとかなんとか。

ワイルドイケメンNo1は誰か聞いた時、変態三人組からかなりの威圧のある目を向けられた。イヤな予感がしたからそれ以上問い詰めるのはやめた。

 

「さっきはどこに行ってたんだい?急に走り出したから、びっくりしたよ。」

 

「いつも通り馬鹿どもの制裁だよ、ほんとにメンドクセェ奴らだ。」

 

みたいな他愛もない話をしながら、帰りの支度を始める。

木場は部活に入っているらしい。何部かは知らんけど。

オレは入ってみたい部活はあるが、ちょっと勇気がいるんだよなぁ、パッと見、怪しい雰囲気メチャ出てるし。

 

「んじゃ、部活頑張れよ〜」

 

「うん、お疲れさま」

 

てことで、オレは木場と別れて帰路についた。

 

 

この後、天地がひっくり返っても無いであろうことが起きていたことも知らずに……

 

 

 





ども、こんにちは。
原作が始まりました。こっからが本番なので、しっかりと頑張りたいです。

八神「てか、ほんとに続くんだろうな、この小説?」

今僕が入院しているので、一ヶ月暇です。だから、一ヶ月間は続くと思いますよ。

はい、そんなとこです。
それでは、これからもよろしくお願いします!


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二話目

「俺に彼女ができました〜♪(俺解釈)」

 

「…………。」

 

よう、みんな。一つだけ言わせてくれ、兵藤がとうとう狂ったんだ。

 

だって、あれだぜ?登校中に会って、いきなり夢に見たのかゲームの中の話かどうかは知らないが、現実では絶対にない事を言ってのけやがった。

 

よし、普通に考えよう。

あんな変態君に彼女ができたとしたら、その女の子は自分の体を見ず知らずの男に見られても平気っていう物好きか、自分の体を見られることがまずいってことを理解していないバカのどちらかだと思うんだ。

しかし、普通に考えてそのどちらの女もこの世にいないはず。

みんなもそう思うだろ?

 

よし、結論が出たな。

とりあえずオレは黙って兵藤に近づいた。

 

「な、なんだよ…どうしたんダフッ⁉︎」

 

そして思いっきり引っ叩いてみた。

 

「な、何するんだよ!シュウ!」

 

「目ぇ覚めたか?現実に戻ってきたか?まだだって言うんならもう一発いくが」

 

そう、こいつを現実に戻すためにはとりあえず引っ叩くのがいい気がしたんだ。

 

「いや待て!お前あれだろ?信じてないんだろ?」

 

まだ言ってやがる。こうなったら往復ビンタやっとくか、だったらさすがに目が覚めるだろ。

オレは今から叩きますって雰囲気出しながら兵藤に近づく。

 

「わ〜っ!待て!待ってくれ!」

 

兵藤が必死に命乞いしてくる。許せ、お前の目を覚ますためだ。

 

「ほら!向こうから来る子だ!本物なんだよ!頼むから見てくれ!」

 

とうとう幻覚まで見え始めてきたのか、仕方ない。もう強行手段だな。

オレは右手を思いっきり後ろに下げて兵藤の左の頬にむかって手を突き出そうとした。

 

そこで、後ろから声がした。

 

「おはよう、イッセー君」

 

振り向くと、それはそれは可愛らしい女の子が立っていた。

イッセー君って言ったってことは、兵藤の知り合いか、でも見た事のない制服だ。

てことは、まさか…兵藤が言っていたことは……

 

 

……本当だったのか?

 

 

「な?言っただろ?本当の事なんダフォ⁉︎」

 

とりあえずムカついたからそのまま殴っといた。

 

「イッセー君⁉︎ちょっと、何てことするんですか!」

 

兵藤の彼女と思われる女性が抗議の声を上げてくる。

悪りぃな、ムカついたんだ。なんて言えねぇからとりあえず無視しとくか。

 

「兵藤、お前どんな手段使ったんだ?まさか脅迫か?そこまでするのはさすがに引くぞオレは。」

 

「待て!そんな事はしてないぞ!実は昨日」

 

 

 

変態説明中

 

 

 

「お前が告られた、ねぇ……。」

 

今の話を大体まとめると、昨日学校が終わった後一人で帰っていた兵藤に、その女の子が後ろから声をかけてきた。

最初は伝言か何かかな?とか思ってたが、話を聞いたら自分に用事があるって分かった。

改めて話を聞いてみると、その女の子から告られたって事らしい。

 

「そう、いくらシュウが信じなくてもこれは事実だからな。」

 

だってほんとに信じらんねぇもん。

普通に考えて、変態に恋する乙女とかいるか?ってやつだ。

オレは兵藤の隣にいる彼女、天野 夕麻を見る。

兵藤からオレの紹介はあったけど、なんかまだ警戒してるな。まぁいいだろ。

見た感じは普通だな。一般的に言うと美少女ってやつだ。

綺麗に伸ばした黒髪、完ペキって言っていいのか分かんねぇけど、スタイルもルックスもいい。兵藤なら間違いなく好みな女だな。

 

「まぁ、良かったんじゃねぇか?おめでとさん。」

 

「あ…あぁ、ありがとな。シュウ。」

 

 

その後、学校に向かっていく途中で、松田と元浜にも会った。

二人揃って会ったと同時に、まるで落雷でも当たったかのような顔をした。

すれ違いざまに兵藤が二人に何かを囁いて、より二人は沈んだ。

ほんとに面白いなコイツら。

 

ーーーーーーーーーー

 

「実は、さっき相談できなかったんだけどよ……。」

 

天野と別れ、それぞれの教室に入ったオレたちだが、その後すぐに兵藤がオレを呼び出した。

最初はオレも警戒してたよ。まさか、覗きのための手助けをしろとか言い出すのかと思ったからな。

まぁ、こいつもさすがにそこまで人としての道から外れてはいないみたいだ。安心したぜ。

 

「今度の日曜日、夕麻ちゃんとデートに行くんだけどさ、いいデートスポットとか、知らねえか?」

 

「知るわけねぇだろ、なんでそんなことをオレに聞くんだよ。そういう事こそ、松田とか元浜に聞けよ。」

 

自慢じゃねぇが、オレは前世も今世彼女ができた試しがない。

てか、女に抵抗感じてるんだよな、オレ…。

 

「いや、あいつらに相談したら怒られそうだろ?」

 

「……それもそうだな。」

 

頭から抜けてたが、あいつらはバリバリの非リアだっけ。

そんな奴らに、デートスポットどこがいい?とか聞きに行くのはバカのすることだな。

それでこいつはオレに頼ってきたわけか……。

 

しっかし、オレもデートにオススメの店とか知らねぇんだよな〜。

大体デートって、どこに行くもんなんだ?既にそっから分かんねぇや。

あ、そうだ。

 

「お前はどこに行きたいんだよ?」

 

「え、俺?」

 

「そう、お前」

 

大体のヒントをこいつから得るとしよう。

こいつが行きてぇところで、オレのオススメの店を紹介する。それがいいな。

 

「う〜ん、やっぱケーキ屋とか行きたいな。後は服を見に行ったり、ゲーセンとかで遊んだり。」

 

「なるほど、いいんじゃねぇか?

そのプランだったら、いい店を知ってるよ。」

 

まずはケーキ屋って言ったな。

オレが知ってるケーキ屋で、マジオスのやつを一つ紹介してやる。

 

「まずはシャルモンっていうケーキ屋だな。あそこは店員こそ変わってるやつが多いけど、ケーキの味は最高だぜ。」

 

「ほほう、『シャルモン』ね…。」

 

結構熱心に書いている兵藤。

初めての彼女だからな、幸せにしてやりたいんだろうな……。

こりゃ、アドバイスのオレも気が抜けねぇや。

 

「あとはな…………」

 

 

 

アドバイス中です、少々お待ちください…。

 

 

 

「こんなもんかな?オレが知ってる店は全部紹介したぜ?」

 

「サンキュー!十分だ‼︎」

 

オレが言ったアドバイスを全部書いた兵藤は大喜びで自分の教室に戻っていった。

失敗しなけりゃいいんだが…

 

 

ーーーーーーーーーー

 

兵藤がデートって言ってた休みの日、オレは特にすることが無くてダラダラしてた。兵藤の様子見も考えたが、彼女とのデートに水を差すほどオレは外道じゃない。

 

ヒマだーヒマだー。そうだ、テレビでも見よう。

 

そんな感じでテレビ見たり本読んだりしてたら、あっという間に夕方になった。

 

この時間だったら、多分兵藤は最後の目的地、公園にいるんだろうな。

いい雰囲気になってたらお笑いだぜ。

 

 

とか、ふざけていたが……

 

 

公園の方で、空が歪み始めたのを見つけた。

 

なんかかなり嫌な予感がする。

 

オレは家のベランダに飛び出し、射撃体人間ver.になった。

 

公園の方を見ると、胸に槍が刺さっている兵藤と、天野がいた。

 

だが、天野は朝に見た時とは違い、露出度の高い服を着て、背中からは黒い鳥のような羽が生えていた。

 

何にせよ、天野が兵藤を殺そうとしていることには変わりなしか!

 

オレは俊敏体人間ver.になって公園に飛んだ。

 

オレは急いで公園に向かった。幸か不幸か、オレの家から公園までは特に大きな建物がないから、屋根伝いに飛んでいけばまっすぐ行くこともできるし、公園の様子がなんとなく見える。

公園の中がはっきりと見えるようになった時、オレは焦りを感じずにはいられなかった。

おそらく止めを刺そうとしている。

 

このままじゃ間に合わねぇ!

これ以上友達を失いたくねぇってのに!

 

オレは全力で兵藤の元に向かうが、天野が別の槍を作り出したのが見えた。

 

こうなったら、もうやるしかねぇ!

考えてる暇もねぇ!

 

オレは覚悟を決めて、全身に力を込めた…

 

ーーーーーーーーーー

 

時はほんの少し遡る…

 

 

「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」

 

兵藤 一誠は、胸に刺さった光の槍のダメージに苦しんでいた。

腹からは大量の血が流れ、地面を赤く染めている。

そんな一誠の元に、カツカツと足音が近づく。

 

「ゴメンね、あなたは私たちにとって危険な因子だったから、早めに始末させてもらったわ。恨むなら、その身体に神器を宿らせた神を恨んでちょうだいね。」

 

さっきまで一誠と一緒にデートしていた天野 夕麻の声がする。

神器?神?一体何を言ってるんだ?一誠は朦朧とする意識の中で考えていた。しかし、答えが出るはずもなく、どんどんと視界が暗くなる。

 

(マジかよ…高校二年生で死ぬのかよ……まだ人生の半分も暮らしてねぇってのに……。訳の分かんねぇまま彼女に刺されて死ぬなんて、勘弁してくれよ…)

 

頭の中に、ふといろんな人の顔が浮かんでくる。

自分を育ててきた両親。毎日覗き行動をしてきた悪友の松田と元浜。 部屋の様々な場所に隠してあるエッチな本やビデオの女優たち。

そして、小さい頃からずっと一緒だった八神。

(皆に、まだ何も言えてねぇのに…。てか、隠した本とか、死んだ後に見つかるのは、カッコ悪いな…。)

最後まで、相変わらずの男であった。

 

「さて、何時までも苦しいままなのも嫌でしょう。もう止めを刺してあげるわ。」

 

夕麻はそう言って、手に一本の光の槍を作り出した。

一誠に刺さっている槍よりも太く鋭い槍だ。

 

(どうせ死ぬなら、あの紅い髪をした美少女の腕の中で死にたかったな…)

 

夕麻はその槍を投げた。

槍は、まっすぐに一誠が倒れている場所に向かっている。

 

 

(…さよなら……皆…)

 

 

心の中で呟き、一誠はそっと目を閉じた。

 

最期に感じる痛みに備えて……。

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!

 

 

 

 

 

 

……しかし、いつまで経っても、痛みを感じることが無かった。

自分の体が、最初にやられた傷以外では異常がないことに驚いていた。

 

そんなときだった…。

 

「あ、あなた、何者⁉︎」

 

夕麻の焦った声が聞こえた。

不思議に思った一誠は、そっと目を開けて、夕麻の方を見た。

 

すると、一誠と夕麻の間に、人ではない、何かが立っていた。

全身が硬い甲穀で覆われ、腰には鉛のような色のベルト。

そして頭に生えた一本の角が凄まじい威圧を放っている。

まさに、怪人と言える姿をしていた

 

「ビガラ…!」

 

その怪人は、奇妙な言葉を放ち、夕麻に向かっていった。

 

「!来るな、化け物‼︎」

 

夕麻は急に現れた謎の怪人に向け、大量の槍を投げた。

 

しかし、怪人の目が青くなったかと思うと、彼は恐ろしく速い動きで槍を避けていった。

ある物は下をくぐり、ある物は飛び越え、右に左に弾き、ついに全ての槍を躱してしまった。

怪人は胸部にある石を一つ外す。

すると、ただの石だったはずのそれは、怪人の手に触れたと同時に形を変え、長く鋭い槍になった。

夕麻も、急ぎ槍を生成し、怪人が振り下ろす槍を受け止めた。

しかし、力そのものは怪人のほうが強いらしく、徐々に夕麻が押し負け始めた。

 

「クッ……!何なのよ!あんたは!」

 

「…………。」

 

怪人は夕麻の問いに無言で返し、槍に力を込めた。

 

 

「…ビガラ ザベザ ババサズ ボソグ」

 

そう呟くと同時に、怪人は槍に込めていた力を抜いた。

怪人からの攻撃に耐えるために力を入れていた夕麻は、押される力が急に無くなったため、少しだけ体制が前になった。

その隙を見逃すことなく、怪人は槍を振り上げて夕麻を吹き飛ばす。

数メートル離れ、夕麻は激しく呼吸しながら相手の様子を見ようとした。

怪人は追いかけてはこなかったが、両手を合わせ、左手を夕麻に向け突き出した。

すると、突然夕麻の顔の周りが水に覆われた。

 

「ガボッ…ゴボボ…」

 

呼吸ができないでいる夕麻は、必死にもがいているが、顔をふさいでいるのが水のため、手で外そうとしても手が水に沈むだけである。

 

もがく夕麻の元に、一歩、また一歩と近づく怪人。

もちろん、手にはさっき作ったばかりの槍が握られている。

 

夕麻の目の前に着いたその怪人は、槍の先を夕麻に向けた。

 

「ギベ‼︎」

 

そう叫び、槍を思いっきり夕麻に突き出した。

槍が当たったところから、小規模の爆発が起き、砂煙が辺りの視界を濁す。

 

砂煙がおさまると、怪人が突き出した槍の先には、夕麻はいなかった。

 

怪人はすぐさま周りを見回す。

 

すると、少し離れた位置に、夕麻の仲間と思われる男が夕麻を担いでいるのが見えた。

いつの間にか、夕麻の顔をふさいでいた水も無くなっている。

 

「ビガグバ…!」

 

怪人の目が緑になり、手に持っていた槍はボウガンに変わっている。

ボウガンの先をまっすぐに夕麻に向ける。

そして、怪人は指を引き金にかけて、今にも発砲しようとしていた時に、そいつは現れた。

 

 

 

 

 

「あなた、何者?悪魔ではなさそうだけど…。」

 

 

 

怪人は引き金から指を外し、ゆっくりと後ろを振り向く。

 

そこには、学園中の憧れの的、リアス・グレモリーが立っていた。

 




突然夕麻の顔が水に覆われた理由が分からないという人のために少し説明。

彼は空気中の水素と酸素を結合させて水を生成したのです。

ハガレンの原作で、大佐が水を水素と酸素に分解しているシーンがありましたよね?

その逆です。


ついに戦闘描写を書きましたが、かなり難しいですね。
一瞬のシーンだけど、かなり考えました。


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三話目

オレは覚悟を決めて、体に力を入れる。

すると、体の様々な部分が人間とは全く違う形状に変わる。

柔らかい皮膚に包まれた肉体は、硬い甲殻に。腹には何もなかったはずなのに、いつの間にかベルトのようなものが現れた。人間の優しい目は獲物を捕らえる前の野獣のように鋭くなる。最後に、額から空に向け、小さく固い角が生えた。

これがオレの人ではない姿。グロンギ態の『ゴ・ガドル・バ』である。

この姿にさえなれば、人間態での俊敏体よか早く動ける!

オレは兵藤と天野の間に入るため、全力で今乗ってた家の屋根を蹴った。

その家に住む人、ゴメン!屋根壊しました!

けど、今はそれにかまってる場合じゃねぇんだ!

 

間に合えぇぇぇぇ!

 

 

 

 

 

ガキンッ‼︎

 

 

 

 

オレはなんとか兵藤に最後の一本の槍が刺さるのを阻止することができた。

 

天野のヤツが驚いてるな…ま、それも当然か。

急に出てきた化け物が、自分が作った槍をぶっ壊したんだ。

これで驚かずにいるってのが難しいだろうな。

 

オレはチラッと兵藤の方を見る。

 

腹に痛々しく槍が刺さっている。血がドボドボと流れ、地面を赤く染めている。

これはかなり痛ぇだろうな…。

それに、顔もかなり悪い。絶望しきった顔してる。

それもそうか、楽しい思いさせてやろうって思ってたのに、その彼女に殺されかけたんだ。

 

 

………先日、楽しそうな顔で考えてたプランを台無しにされたんだよな……。

 

 

辛いよな、兵藤……。

 

 

 

「あ、あなた、何者⁉︎」

 

天野がなんか聞いてくる。

ビビった顔だな。

んじや、こいつに教えてやるか…

 

 

「ビザラ…!」

 

 

本当の恐怖ってやつを!

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「あなた、何者?悪魔ではなさそうだけど…。」

 

もう少しであのクソ野郎を殺れるって時に、後ろから声がかけられた。

 

無視して引き金を引くことも考えたが、後ろにいるやつは多分戦えるヤツだな。天野とはオーラが違う。

無視してるとコッチが殺られるかもな。

そんなのは勘弁なんで、大人しく後ろを向いて……

 

 

って、え⁉︎

 

 

なんで学校の憧れ、グレモリー先輩がいるんだ⁉︎

こんな夜遅くに出歩くようなヤンキー少女だったのか⁉︎

いや、そーいやたった今、悪魔がどうのこうの言ってたな。まさか、ソッチ系だったのかこの人。

 

とりあえず、落ち着いて話するとしようか。テンパって話して、色々悟られると面倒だしな。

 

「ゴグギグ ビガラ ボゴ バビロボザ 」

 

「!?………私たちに理解できる言葉は喋れないのかしら?」

 

あ、うっかりグロンギ語で話しちまった。

この形態だと、ちょいと意識しねぇと日本語で話せねぇんだよな。面倒くせぇけど。

 

「……失礼した。そういう貴様こそ、何者だ?

さっきの話では、貴様私のことを悪魔だとか言っていたが…。」

 

コレで完ペキだろ。

あ、普段と口調が違うのは気にしないでくれよ?

この姿だと、それっぽい喋り方したほうがスッキリするんだ。

 

「……私はただの人間よ?

ただ、あなたの姿を見て、不思議に思っただけだから。」

 

あー、この姿ね。確かに普通の人間には全く見えないよな、そりゃ。

困ったなぁ〜、オレは何て言おうか。

グロンギって言っても通用すんのかな?この世界。いや通用する訳ないか。

仮に通用しても、人外であるのは確かだから、攻撃の標的になるのは確実だし。

 

 

 

 

あ、そうだ。

 

 

 

 

こういう時は逃げるのが一番かもな。

 

 

 

 

さて、どうやって逃げるか…。

 

兵藤も、ギリギリ息がある。これから救急車呼べば、なんとか間に合うだろ。

 

んじゃ、兵藤。ちょいと利用させてもらうぜ?

 

「…それより、そこの少年。放っておくのは危険というものだろう。すぐに手当てをしてやるのが良いと思うぞ。」

 

オレがそう言うと、一瞬グレモリー先輩が兵藤に意識を向ける。

 

その一瞬で十分だ‼︎

 

オレは全力で飛び上がり、電柱に着地する。

少し地面が割れたが、まぁ問題ないだろう。

グレモリー先輩がしまったって感じでこっちを見上げてる。

 

「さらばだ、人間の少女よ。またどこかで会う事があれば。」

 

つっても、明日学校で会うんだけどね。

 

「待ちなさい!あなたは一体何者なの⁉︎」

 

オレはグレモリー先輩を完全に無視して、自分の家に飛んだ。

 

また電柱が壊れたが、無視無視。それが一番だ。

 

グングンと家に向かうオレ。

かなり速い。これなら直ぐに家に着きそうだ。

飛びながら、ふと一つの事を考えてしまった。

 

 

 

オレ、どーやって止まるんだろ?

 

 

 

その事実に気付いた時、オレは家にぶつかる直前だった。

そのまま、不時着した。

 

家の大半が崩れ落ちた。

 

 

家だった瓦礫の前で、オレはボーゼンと立ち尽くしていた。

……何つーか、一軒家だったのが不幸中の幸いというやつだな。

 

なるべく一般の人に見つからないように、錬成で家を修理する羽目になった。

ちくせう

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「何だったの…?アレは……。」

 

公園に取り残された少女、リアス・グレモリーは、ただただ立ち尽くしていた。

 

突然現れた謎の生き物。

それはあくまでカンではあるが、かなり危険なものに感じた。

 

実は彼女は、悪魔と呼ばれる種族であり、これまでにも様々な人外と呼ばれる存在たちに出会ってきた。

悪魔に限らず、天使や堕天使。さらには妖怪やドラゴンまで。

しかし、ヤツのような種族だけは初めて見た。

悪魔、天使、堕天使、妖怪ならば、人間によく似た姿をしているはずである。

しかし、ヤツは人間のソレとは大きく違った。

さらに、理解不能な言語。

悪魔になると、世界中のあらゆる言語が話せるようになる。

と言うより、相手がたとえ英語で話してきてもイタリア語で話してきても、何語で話してきても勝手にその人物にとっての母国語に翻訳されて聞こえてくる。と言うのが正しい解釈である。

にも関わらず、ヤツの言葉は全く理解できなかった。

 

「何だか…不思議なやつだったけど……。」

 

ヤツはこちらの制止も聞かずに飛び上がり、電柱に立った。

その後、また別の場所に飛び出したのである。

結果、地面は割れ、電柱もポッキリ折れている。また、ヤツが飛んで行った方では、建物が崩れている。

おかげで街中が大騒ぎになっているのだ。

 

そんな中でただ一人、リアスだけは落ち着いた顔でいる。

 

そして呟く。

 

「もしこの街にとって危険であることが分かったら、容赦しないわ。」

 

リアスは紅い髪を振りかざし、一誠の元へ向かう。

この公園は、結界で囲まれているため、一般の人物は入ることができなくなっているのである。

 

「あなたね、私を呼んだのは。」

 

もちろん、返事は返ってこない。ただ今にも消えてしまいそうな息が聞こえるだけである。

リアスはそんな状態の一誠に話しかけ続けた。

 

「死にそうな状態ね…。傷はそこまで深くはないみたいだけど、放っておくと間違いなく死んでしまうわね…」

 

その後、リアスはチェスの駒を何個か取り出した。

 

「どうせ死んでしまうのなら、私が拾ってあげるわ。あなたの命、私のために使いなさい。」

 

そう言うと、チェスの駒が輝き、その光が一誠を包んでいく。

じわじわと、一誠の傷が癒えていく。

一誠の体が回復したことを確認したリアスは満足そうな笑みを浮かべ、一誠を抱き抱えて、魔法陣の中に消えていった…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

オレは今とても驚いている。

 

何故か?

 

答えは簡単だ。

 

オレの前方約三十メートル先を歩いているあいつを見つけたからだ。

 

なぜ…なぜ貴様が普通に登校してきているんだ!

 

 

兵藤 一誠!

 

 

あ、先に言っとくけど別に学校に行ってることが不愉快だとかそんなんじゃねぇぞ。

けどお前昨日あんだけ怪我してたじゃねぇか。

それこそ入院とか手術とか普通にされるべきほどの怪我を。

なのに次の日に普通に学校に行ってるんだ。

そういう意味でなんでだ?ってことだからな。勘違いすんなよ。

 

ただ、あいつの様子を見る限り、元気には見えねぇな。昨日のことは記憶にあるのか?

 

そんなこと考えてるオレのとこに兵藤が歩いてくる。

なんだ?なんか用か?

オレは地面に向けていた顔を上げて兵藤を見る。

こいつが最初に言ったことはこうだ。

 

「なぁ、シュウは夕麻ちゃんの事、覚えてるか?」

 

……何言ってんだこいつ?

つい昨日会ったばかりのヤツのこと忘れるかよ。あ、こいつの中ではオレが最後に天野に会ったのが四日前くらいになるのか。

 

「あぁ、覚えているよ。お前の初めての彼女だろ?」

 

オレがそう言うのと同時に、兵藤が顔を明るくさせた。何つーか、ホッとした感じだな。

 

「何でそんなこと聞くんだ?お前とうとう頭おかしくなったか?」

 

「いやなってねぇよ!」

 

「あ、もとからか。」

 

「もとからでもねぇよ!」

 

「じゃあ何だよ。今みてぇなこと聞くってことは、お前めっちゃ早めのボケ現象みたいな感じか?」

 

「いや、そんなんでもねぇんだけどよ……。」

 

兵藤がそう言って言葉を濁らせた。

そして兵藤が発した次の言葉は、オレをかなり驚かせた。

 

 

 

「俺以外…いや、俺とお前以外が夕麻ちゃんの事忘れたみたいなんだ…。」

 

 

 

……何だと?

どういう事だ?そこら辺のただの生徒ならともかく、天野の事を知っているのは他に松田や元浜がいる。

あいつらが女に関する事を簡単に忘れるとは思えねぇ。ましてや兵藤の彼女ときたもんだ。忘れる可能性はほとんどゼロに等しい。

それなのに、忘れた…か……。

 

「ケータイから写真もメアドも消えてるんだ。まるで、元からいなかったみたいな感じで…。」

 

それはかなり妙だな。昨日の天野のあの姿、恐らくあいつはただの人間じゃねぇ。

てことは、松田や元浜たちから天野に関する記憶が消えた事も、ケータイから写真やメアドが消えた事もあいつらの仕業だな。

 

……何かあるな、この世界には。

今まで特に何も感じはしなかったが、昨日の一件しかり、今回の件しかり。普通ならあり得ない出来事だ。

 

取り敢えず、こいつ昨日のことは覚えてんのか?いや、それを聞くのは酷ってやつか。

先ずは情報収集、だな…。

 

 

今日家に帰った後にするべき事をずっと考えていたため、全く授業を聞かなかった。

 

結果、日本史の先生に出席簿で思いっきり叩かれた。

この先生の出席簿アタック、かなり痛ぇんだよ。腕力はかなりあると見た。ゴリラ先生だな、まさに。

とか考えていると、また叩かれた。

何で叩いたのか抗議したところ、オレが失礼なこと考えている気がしたそうで。

何だよこいつ、エスパーか何かかよ…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

家に帰ったオレは、早速布団についた。

早速とは言っても、帰ってきたのが九時近かったし、問題ないだろ。

 

布団につきながら、オレは神様を呼び続けた…。

 

(おーい、神さん。ちょいと聞きてぇことがあるんだ。出てきてくれ〜。)

 

すると、オレはいつの間にか真っ白な空間で寝っ転がっていた。

この空間、懐かしいな。十六年ぶりか。

 

「どうかしましたか?て言うか、神さんって呼ばないでください。何でそんなにフレンドリーな呼び方なんですか。」

 

「よう、久しぶり。」

 

目の前に出てきたこいつは、オレを十六年前にこの世界に転生させた神だ。

 

寝るときに心の中で呼んでいれば、夢の時間を利用して話すことができるようになっている。

 

最後に呼んだのは生まれてすぐ、赤ん坊からのスタートになる事に文句を言うためだった。

まぁ、結局聞いてくれなかったけどな。

 

「一つ、聞きたいことがあるんだが…。」

 

「大丈夫です。大体のことは見ていましたから。」

 

お、見ててくれたのか。だったら話が早いな。昨日何があったのか、天野たちは何者なのか、説明してくれ。

 

「私の口から話すのは簡単なのですが…それよりもいい方法がありますよ。」

 

あん?いい方法って、なんだ?

 

神さんは向こうの方に歩いていく。何だよ、教えてくんねぇの?

 

「あなたは、オカルトって好きですか?」

 

……何を唐突に聞いてくるんだと思ったら、そんなことかよ。世間話しに来たわけじゃねぇんだけどな。

 

「まぁ、好きだよ。そういう話すんのはワクワクするしな。」

 

だって面白いじゃん、妖怪とか化け物とか。そういう話すんのは大好きだぜ?オレ。

 

 

 

……今子供っぽいって思ったやつ、出てこい。順番に殴ってやる。

 

 

 

 

「それなら、好都合です。あなたの学校に、オカルト研究部というのがあるでしょう?そこに入部してください。」

 

「え〜っでもあそこってさ……」

 

怪しい雰囲気バリバリするじゃん。

旧校舎に部室があって、しかも窓から一回中が見えたけど、変な作りしてたぞ。

そんなとこに一人で入部する勇気はないぞ。

 

「大丈夫ですよ。兵藤 一誠も明日入部するそうですし、木場 祐斗もそこの部員ですから。」

 

 

……そうなの?あの二人が?

変な趣味してるんだなぁ〜。

 

「ですから、あなたもそれに乗じて入部するといいですよ。

あの部活はそれこそ、今回の件のような事を専門にしていますから。」

 

え〜、そりゃそうかもしれないけどさ〜。怖いよあの扉入るの。

 

「今のが、私ができるアドバイスです。これに沿って動くかどうかはあなた次第です。ご自由にどうぞ。」

 

ま、仕方ないか。ちょっとでもアドバイスもらえただけでも感謝だな。

んじゃ、帰るとしますか。

 

オレは門を開ける。今度は落ちることが分かってるから慎重に行くぜ。

 

「じゃあな、神さん。また来るぜ」

 

「えぇ、いつでも。」

 

オレは門の向こうに飛んで落ちていった。

取り敢えず、明日…いや、明後日にでも入部してみるか。

 

決意を固めて、オレはまた自分の世界に帰っていった…。

 




一話一話で全く文字数が違う件について…。

なるべく揃えようとはしてるんですが、中々うまくいきませんね〜。


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四話目

 

翌日

晴れた朝日が眩しいです。

 

昨日の夜は神さんに色々とアドバイスを貰い、この世界に戻ってきました。

てか神さんと話に行くと、どんだけ早く寝ていても話が終わって現実に戻ると絶対朝になってるんだが、なぜだ?

 

まぁそんな事は置いといて、朝の支度を始めるとしますか!

 

まずは朝シャワーをざっと浴びる。

洗面と寝グセ直しが同時にできるからある種オススメだぞ。

その後、洗面台で歯磨きをする。

 

シャワー浴びてさっぱりしたし、朝食の準備をするとしますか!

先ずはクラシックの音楽をかけて、料理を始める。

今日の朝食は、納豆ご飯と味噌汁、焼きシャケだ。

味噌汁に使ったこの味噌、自家製でございます。自分で作った味噌はまた格別なんだよな〜。

 

いただきます。

焼きシャケを一口。うん、うまい。

 

朝食を食い終わったオレは、もう一度歯を磨いて制服に着替える。

何でまた歯を磨いてんだって?

だって、納豆の匂いって気になるじゃん。別に歯磨きなんて何回やっても毒じゃないんだし、気にしたことはない。

 

音楽を止めて、カバンを手に取る。

今日の授業の準備もできている。

 

「んじゃ、行ってきます」

 

オレは誰もいない部屋に向かって挨拶をして家を出た。

 

誰だ寂しい奴って言ったやつ、出て来なさい。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「……まだこねぇな、あいつ」

 

オレは兵藤の家の前で兵藤が降りてくるのを待っていた。

いつもこっから学校まで一緒に行くから、大体オレがここで待っている。

でも、今日はいつもより遅い。

遅いとは言っても、オレたちは普段から一般の登校時間よりもかなり早い時間で学校に向かうため、別に多少遅れてもいいんだけどさ……。

 

何でかって?それはな、一年の時は一般の登校時間で学校行ってたんだけど、その時の周りの反応がうるさかったんだ。「八神くんが腐る」とか「なんであの二人が」とか。

だからそれ以来はなるべく他の生徒に合わないように、早い時間に行ってるんだ。

 

……早くしねぇと、他の生徒も登校しだすぞ?

 

こーいう時って、迎えに行った方が良かったりするのかもな〜。

よし、行くか。

 

オレは兵藤の家のインターホンをおす。すると、兵藤の母親が中から出てきた。

 

「あら、シュウくん!ごめんね〜、まだ一誠起きてないみたいなの。

すぐ呼んでくるから、ちょっと待ってて。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

ここの母親はなかなか美人だし性格も良いということで、近所の人気はすごいらしい。

父親もガッチリとした体格していて頼り甲斐があるって聞いたことがある。

息子は、やはり変態で有名である。

おい、息子。もっとしっかりしろよ。

 

さて、兵藤のやつ、そろそろ起きて降りてくるかな?

 

 

 

 

 

「キャアアアァァァァァ!」

 

 

 

 

 

今のは!兵藤ママの声じゃねぇか⁉︎

何かあったのか、心配になったオレと兵藤パパはダッシュで上に駆け上がる。

二階に上がったオレたちが見たのは、廊下に泡吹いて倒れている兵藤ママである。

 

「母さん!一体どうしたんだ!おい!」

 

こうなったら、ママさんはパパさんに任せておこう!

オレは中にいると思われる兵藤が心配だ!

 

オレは扉を開け、中に飛び入る。

 

すると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 

 

裸になってベッドの上に座っている兵藤がいた。

それだけじゃなく、同じく裸になってベッドの上で眠っている何者かがいる。

その何者かの正体は、我が駒王学園の中での憧れの的である先輩、リアス・グレモリー先輩だった!

 

 

 

………てことは、まさかこいつら、昨日の夜は相当楽しんでいたってことか……?

 

 

 

オレはしばらく固まってしまった。

オレの後ろから、兵藤ママを保護し終えた兵藤パパが飛び出してきた。

同じく、固まってしまった。

 

 

……オレはジッと兵藤を見る。

視線を感じ取ったのか、兵藤が慌てておれになにかいってきた。

 

「ち、違うんだシュウ!俺も一体何が何だか全然分かんないんだよ!」

 

……不思議と、何を言ってんのか全然分かんねぇ。こいつの声が全く耳に入ってこない。

 

オレの中で何かがフツフツ、グツグツと煮えたぎっている。

 

例えるなら、火山か?

 

あ、これが怒りの火山ってやつか。

怒りが爆発した時の表現方法で、噴火した火山を背景に載せるやつ。

 

丁度いいや…

 

兵藤がかなりあわてていたからか、グレモリー先輩が目覚めた。

でもって、今の状況が全く分かっていないらしく、キョトンとしていた。

 

別にどうでもいい、先輩後輩関係とかくだらない。憧れの人だとか関係ない。

オレは思いっきりため息をつく。

そして、息を吸った。

 

「テメェら学校がある前日の夜に何してたのか知らねぇが、かなり人迷惑なことしてくれてんじゃねぇかアァ⁉︎

まずは着替えろ!でもって降りてこい!話はそっからだ!さっさとしやがれ!!」

 

「「は、はい!分かりました!」」

 

屋根が吹っ飛ぶくらいの勢いで怒鳴ってやった。

兵藤も先輩も思わず敬語になってやがる。ザマァ。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

散々怒鳴り散らした後、オレは最初のように家の前で兵藤たちが出てくるのを待った。

 

しっかし、何であの二人が一緒に寝てたんだ?そんなに仲よかったっけ?特に接点すらなかった気がするけどな。

やっぱ一昨日の天野の件があるからかもしれねぇな。

 

そんなこと考えていると、そ〜っと玄関の扉が開き、中からそ〜っと兵藤が出てきた。先輩も後ろにいる。

 

「よう、やっと来たか変態くん達」

 

二人ともビクッと背中を震わせた。

下からブルルっと振動が伝わっていく感じでな。

 

「さぁ、行こうかね〜。」

 

「お、おう。」「え、えぇ。」

 

二人とも元気がねぇな〜。そりゃそうか、最悪の目覚めになっただろうからな。

そうならないために、二人とももう少し早起きすることを勧めるぞ。

そうすりゃ夜中に合体したかも疑惑も起きねぇし、怒鳴られることもないからな。

 

さて、もうこんな時間かよ……。

この時間帯は、一般生徒が一番多く登校してくる時間だ。

朝練とかがないから朝早く行く必要もなく、遅刻するような時間でもない。いわゆる、平均登校時間なんだ。

だからさっきからあちこちに駒王学園の生徒がいる。

 

 

さて、唐突ですが、ここで問題です!

 

さっきオレは『周りの反応がうるさかったから、早い時間に登校するようにした』と言いました。

ちなみにコレ、オレと兵藤が一緒に登校している時の話です。

 

さて、ここに学園中の憧れ、グレモリー先輩が加わるとどうなるでしょう?

 

 

 

答え、こうなる

 

 

「そんな…リアス先輩が…あんな奴と……。」←絶望

 

「そんな!嘘よ!嘘に決まっているわ‼︎」←悲痛な叫び

 

「キエェェェェお姉様があんな奴と一緒なんてキエェェェェ」←発狂

 

「でも見て!八神くんがいる!

きっと八神くんとグレモリーさんが一緒なのよ!」←なんか期待された

 

 

「でもそれだと、二人ともあいつに汚されたことになるわ!」←コラコラ、そんな事言うと

 

 

「キエェェェェ」←ほら発狂した。

 

 

…もう完全にカオスだろコレ。

先輩が皆に手を振ったりすれば良いのかもしれねぇが、とてもそんな事出来る元気は無さそうに見える。

 

こうなりゃ面倒だ、さっさと学校に行くとしよう。

 

なるべく早足で登校する。だからイヤだったんだよこの時間は。

 

ーーーーーーーーー

 

何とか学校に辿り着いたオレたちは、それぞれの教室に向かった。

 

先輩と別れる直前、兵藤が先輩と何か話していたが、まぁスルーしとくか。

 

オレも兵藤も途中で別れて、それぞれの教室に入ろうとした。

が、できなかった。

 

オレは教室の中にいた女子生徒全員に、オレと先輩と兵藤が一緒に登校していた理由を問い詰められた。

 

兵藤はドアを開けたと同時に松田と元浜による飛び蹴りをくらっている。

兵藤は松田と元浜の耳元で何かを呟くことで、二人を回避したようだ。

何言ったのかは知らんが、どうせいたらん事に決まっているわ。

二人がめちゃ沈んでやがる。

 

さて、オレはなかなか切り抜けることが出来ずにいる。

てか、気付いたら後ろも別クラスの奴に包囲されてしまっていた。

 

クソ!離せ!放せ!

いろんな意味ではなせ!

 

 

結局、木場がこの騒動をしずめてくれた。

木場さん、マジ感謝です!

 





今回は完全にギャグ回になりました。

まぁ、たまにはいいかな?


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五話目

 

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン

 

今日の授業が終わったことを知らせる鐘がなる。

やっと終わったな、この退屈な時間。

 

オレ前世ではすでに大学行ってたから、高校の内容とかほとんど頭入ってんだよ。

まぁ、苦手なものとかあったよそりゃ。数学とか化学とか地理とか。

でも錬成能力があれば自然と化学は頭に入ったし、そうなると少しずつ数学も分かるようになる。

まぁ、地理は相変わらずチンプンカンプンだけど。

 

だから今の授業なるものはすでに分かっていることをもう一度聞くか、逆に聞いても全然ダメなことを聞くかのどちらかなんだよなぁ。

 

だからオレは日本史以外全部寝てる。

え?何で日本史は寝ないのかって?

三話目見てくれ、そしたらなんとなく分かるだろう。

あんな鬼教師の授業で寝れるかっての。

 

「あ、起きたね八神くん。」

 

木場が話しかけてきた。

いやぁ、朝はほんとにお世話になりました。おかげで助かりました。

 

「あぁ、つまんねぇよな〜。特に地理。」

 

「ははっ八神くん地理が苦手なんだっけ。でもそれ以外がほとんど学年上位だもん。凄いよね。」

 

「どうも。」

 

さっきは自慢っぽくなるかと思ってやめといたが、さっき言ったことが理由でオレは地理以外のテストは最高なんだ。総合でも上から見た方が早いんだ。

地理以外は。

大事なことなので、二回。

 

「ところで、八神くん」

 

「ん?どうした?」

 

なんか今日は積極的だな。

特に用がない時にはあまり話しかけて来ないってのに。

 

「兵藤 一誠くんって、どんな人?」

 

あ〜、あいつの関係か。それなら確かにオレに聞いた方がいいよな。

木場のようなイケメンが松田や元浜のところに行くのは危険すぎる。

 

さて、兵藤の紹介か。まぁ、嘘はつかずになるべく印象がいいように言ってやるか。それが、オレなりの優しさだ。

 

「あいつはただの変態だよ。」

 

 

…………しまった、これじゃ印象最悪じゃねぇか。

でもあいつの事を正直に言おうとするとこうなるんだよな…。

悲しいかな。いや、悲しくはないね。

 

「そ、そうなんだ…。」

 

……ま、まぁオレが言いたかったことは伝わっただろう。そうだろう。そういう事にしておこう。

 

帰りのホームルームが終わり、オレはカバンを取って兵藤のクラスに向かった。

 

あ、オレたち帰りも一緒のことが多いんだ。だからこうやってオレが迎えに行ったりあいつが迎えに来たりする。

まぁ、バラで帰ることもよくあるけどな。

 

「おーい、帰るぞ兵藤」

 

朝のあの一件以来一言も話さなかったからか、兵藤は一瞬ビビってからこっちに振り向く。

 

「あ、あぁ、シュウか…。」

 

「なんだよお前、まだ朝のこと気にしてんのか?

もういいよ、お前の変態っぷりを一々気にしてたらキリがねぇよ。」

 

「おい!それどういう意味だよ!」

 

「まんまの意味だよ。お前のせいで一体オレがどんだけ面倒背負ってると思ってんだ?」

 

「う…言い返せない……。」

 

いつも通りに戻った兵藤がオレに反論してきた。

ま、正しいこと言ってんのはオレだから負ける気しなかったけどな。

 

 

「あ、それからシュウ。今日は先に帰っててくれねぇか?」

 

「ん?どうしたんだよ?

まさか、部活動生の着替えを覗くつもりか?」

 

「あ、その手もあったな…じゃなくて!」

 

やっぱ考えてたのかこいつ。

じっくりお話しした方が良かったりするのか?

 

「先輩に呼ばれててな、ほら今日何故か一緒に寝てたあの先輩に。」

 

「……わざわざ『何故か』を強調しなくてもいいだろ。さすがにお前もそこまでゲスじゃねぇって信じてるさ。」

 

そんな話をしてると、オレのクラスから誰かが歩いてきた。

 

「あれ?八神くん。」

 

木場だった。なんで木場がこのクラスに来たんだ?

って、そう言えば…さっきオレに兵藤について聞いてきたよな。

んで、兵藤は今日から部活に入るって神さんが言ってたし、その部活には木場がすでにいるんだよな。

ってことは、木場が部活の関係で兵藤を呼びに来たってことか。

 

「兵藤 一誠くんはいるかい?部長の使いできたんだけど…。」

 

「あ、来たな。じゃあまた明日な、シュウ。」

 

「ん、じゃあな…。」

 

……なんかさっきから引っかかってんだよな〜。

 

心の中の妙なモヤモヤが晴れないまま帰宅し、そのまま布団についた。

明日は入部しに行く予定だ。緊張するな〜。

 

ため息をついて、オレはそのまま眠ってしまった……。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

次の日の朝、オレは目覚めと同時に叫び声をあげた。

 

分かってしまった……分かってしまったよ、昨日のモヤモヤの理由が。

 

冷静に考えてみりゃ簡単なことだ!

 

兵藤は元々はグレモリー先輩に呼ばれていた。けど実際に呼びに来たのは木場である。

ちなみに木場は部長からの使いで来たって言ってたな。

でもって、木場と兵藤はオレが今日入部しに行く予定の部員である。

 

つまり、兵藤を呼んだ人と木場を使った人。つまり木場が所属する部活の部長は同一人物であり、オレが入る予定の部活の部長でもあるってことだ!

でもってその人物は!『リアス・グレモリー』じゃないか!

 

マジかよ…昨日人間の姿で会って怒鳴り散らしてしまった人に、今度は挨拶しに行かなきゃいけないのかよ……。

ウワァ〜めっちゃ行き難いな。

 

まぁ、神さんが言ってることは正しいことが多いからな…(多分)

 

……兵藤から紹介してもらうように頼んでみるか…。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

よう!俺は兵藤 一誠!イッセーって呼んでくれよ!

 

何気にこの小説初の俺サイドだな。

てか、この小説って、今までシュウ

サイドと第三者視点しかなかったもんな。

 

まぁ、メタ発言はそこまでとして、だな…今俺は困ってるんだよ本当に。

 

何でかって?それはな……

 

 

シュウが俺に「オカルト研究部に入りたいから紹介してくれねぇか?」って聞いてきたからだ。

 

いや普通なら別に全く構わないんだけどさ、俺が入った部活、結構訳ありなんだよ。

部員が俺込みで合計五人いるんだけどさ、実は全員が悪魔なんだ。

 

俺も昨日聞かされたばっかりで全然分かんないことだらけなんだけど、少なくともただの人間が入っても大丈夫な部活じゃないのは確かなんだ。

昨日部長から聞いたことだけど、オカルト研究部にした理由は一般生徒が入らないようにするためらしい。

そりゃそうだろうな。『オカルト研究部』なんて怪しい部活に入ろうって人はそうそういないだろうし。

 

それなのに今、目の前に入りたいって言ってる一般生徒がいるんだ。

しかも俺の幼なじみです。

 

…どうすればいいんだ?

とりあえず、部長に電話してみるか。

 

「なぁ、シュウ」

 

「な、なんだよ兵藤。」

 

「今から部活に電話して聞いてみるけど、いいか?」

 

「あ、あぁ、頼むわ。」

 

……なんか珍しくシュウの言葉のキレが悪いな。

 

連絡帳を開いて、部長の電話番号にかける。

 

2コール目で部長は出てきた。

 

『もしもし、イッセー?どうしたの?』

 

「あ、部長。ちょっと聞いてもいいですか?」

 

『えぇ、いいわよ。なんでも聞いてちょうだい。』

 

 

「あ、ありがとうございます!えっとですね…」

 

俺はチラッとシュウの方を見る。

なんか緊張してるな…

 

「オカルト研究部に入りたいって言ってる一般生徒がいるんですが、どうすればいいですか?」

 

そう聞くと、さっきまで生き生きとしていた会話が、一瞬で凍りついた。

 

…ちょっと待っても、部長からの返事が返ってこない。

 

「あの、部長?」

 

『あ、ごめんなさい。えーっと……』

 

……やっぱり珍しいケースのようで、部長がかなり迷っているな。

シュウはシュウで、なんとなく伝わっているのか、全然落ち着きがない。

 

『もしもし、イッセー?』

 

「あ、はい!何でしょうか!」

 

考えがまとまったらしく、部長が電話に出てきた。

 

『その子に入部を許可するから、放課後に部室に来るように伝えてくれる?』

 

「……いいんですか⁉︎部長!」

 

俺の言葉に反応して、体を反応させるシュウが見える。なんか、面白かったな今の。

 

『ええ、表向きは一応普通の部活で通っているから、仕方ないわ。

なるべく悪魔稼業に触れることがないようにするしかないわね。』

 

「……ありがとうございます!」

 

俺は自分のことでもないのに、嬉しくてお礼を言ってしまった。

 

『じゃあ、また後でねイッセー。』

 

「はい!失礼します!」

 

俺は電話を切る。するとシュウがこっちに来て早速聞いてきた。

 

「…どうだった⁉︎」

 

「許可するってよ!放課後に部室に来てってさ!良かったな!」

 

俺はシュウに祝福の言葉をかけた。

シュウもどこかホッとしたような顔をしている。

 

「ありがとな、兵藤。」

 

シュウが礼を言ってきた。なんか違和感感じるな…。

俺がシュウに言うことはあっても、俺が言われたことはあんまりなかったからな。

 

それと…と言って手を前に差し出すシュウ。

なんだコレ?よく分かんないな。

俺が分かってないことが伝わったのかさらに言葉をつなげるシュウ。

 

「これからもよろしくな」

 

あ、そういうことか!

俺もシュウに向けて手を出し、握手した。

 

「あぁ、よろしく!」

 

これで、オカルト研究部に新しい部員が加わった。

 

 





八神くん入部決定です!

とは言え、まだ悪魔の関係には触れることができませんがね。
まぁ、もう少しで触れることができるようになります。

……中々物語が進まないな……。


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六話目

この物語後半で、セリフが外国語と日本語の二つに分かれるのですが、外国語は『』の中の言葉。日本語は「」の中の言葉です。


「ふぅ……緊張するな……。」

 

オレ、八神はオカルト研究部部室前にて、緊張して立っていた。

オカルトそのものには結構興味がある。けどこの部室の扉、なんか開けたらいけないみたいな雰囲気が出ているから、入学式の後に入部しに行く勇気が全く出てこなかったんだなコレが。

だって旧校舎の中で、窓からたまに見える部屋の中にチラリと見える魔法陣っぽい何かがある部室には行こうとは思えなかったんだ。

 

でも今日は兵藤の手を借りているんだよな。

だから引き下がるわけにはいかねぇな!

オレは一回深呼吸をしてから扉をノックする。

 

「二年C組、八神 柊です。この度、オカルト研究部に入部させていただき、ありがとうございます。

この部室の部長に呼ばれたと聞き、参上しました。」

 

とりあえず、クラスと名前。それから用件言っときゃ大丈夫だろ。

 

すると、中から女性の声がした。

 

「えぇ、入っていいわよ。」

 

「失礼します。」

 

オレはそっと扉を開ける。

そして、部屋の中身に驚かされることになった。

 

……何となく予想はしてたけど、コイツァスゲえな。

 

あちこちの壁に貼り付けられた魔法陣、明かりがついてるのに何故か暗い雰囲気の壁紙や天井、部屋の隅っこにある個室っぽい何か。

……ナニアレ?本当に気になるなあの個室。

 

って、そんな事より!先ずは挨拶だ。

 

オレは部屋の中央を見る。そこには、テーブルを囲むように長椅子が設置されており、部員と思われる人々が座っていた。

 

てか、今初めて全ての部員のメンバーが分かったんだが、コリャすげぇな。

 

三年の二大お姉様の二人、リアス・グレモリー先輩と姫島 朱乃先輩。

二年のイケメン王子、木場 祐斗

一年の学園のマスコット、塔城 小猫。

最後に変態三人組の一人、兵藤 一誠か。

この学園の有名人が全員集まってるし。

 

グレモリー先輩は一瞬顔を歪ませたが、すぐに元に戻り「どうぞ、座って」と、オレに座るように促してくれた。

 

「さて、まずは自己紹介でもしましょうか。私が最初にするわね。

三年B組のリアス・グレモリーよ。この部活の部長をしているわ。よろしくね。」

 

「あらあら、では次は私が。同じく三年B組の姫島 朱乃と申します。この部活の副部長を務めていますわ。よろしくお願いいたします。」

 

「じゃあ次は僕が、とは言ってももう知ってるよね?二年C組の木場 祐斗だよ。よろしく。」

 

「…一年A組、塔城 小猫……。よろしくお願いします……。」

 

「最後は俺だ!二年B組、兵藤 一誠!よろしくな、シュウ!」

 

部員の人たちが順番に自己紹介してくれた。

なら、オレも

 

「それでは、改めて僕も自己紹介します。二年C組、八神 柊といいます。よろしくお願いします。」

 

考えていた通りの文章を並べる。

よし、完ペキだ。

けど、よく見たら兵藤がなんかスッゲェ微妙な顔してる。どうした兵藤、何があった。

 

「な、なんかお前がそんな喋り方しているのを見ると、気持ちが悪いな」

 

……何だと?オメェそりゃどーいうこった。

心配しなくとも、オレの脳内では常に平常運転だ。

年上の方には丁寧に話すのは常識だろ?

 

「まぁ確かに、いつもの八神くんとは少し違う気ははするかな?」

 

木場までそう言うか。何だよオレがいつも下品な話し方をしているみたいな言い方しやがって。

 

「そうなの?普段の八神くん…シュウって呼ばせてもらうわね。シュウは、どういう喋り方なの?」

 

おい、部長。変なとこに食いつかんといてください。てかサラッと名前で呼び始めたな。一応名前で呼んでもいいか聞いてはきたけども、オレまだ答え言ってませんよ〜。

まぁ、別にいいけどね。

 

「何て言うか、もっと男っぽい話し方ですよ。こんなに丁寧な感じゃないですね。」

 

「そうなのね…、ねぇシュウ?それならあなたもいつも通りの話し方で大丈夫よ?

これからは私たちも同じ部活に所属する仲間になるんだから。」

 

部長がそう言ってきた。

先輩には常に丁寧にってのは、前世の先輩から教わった事なんだけどな?

やっぱり人それぞれで違うんだろうな〜。

ま、部長がそう言うなら!

 

「じゃあオレもいつも通りの口調で行かせてもらいます。

実際、慣れねぇ口調で話してたから結構苦しかったんすよ。」

 

的な事を話してみた。

なんか、先輩方二人と塔城さんが驚いてるんだが、なんかビックリする事あったか?

 

「…これが普段の話し方なのね。」

 

「先ほどは苦しかったでしょうね。」

 

「……全然違います…。」

 

「まぁ、意識して変えていましたから。兵藤とか木場は慣れてんだろうけど。」

 

「だから僕たちは最初の話し方にかなり違和感を感じたんですよ。」

 

「やっぱりこっちの話し方の方がシュウらしいな。」

 

嬉しいこと言ってくれんじゃねぇか兵藤。やっぱこいつ、根はいいやつだ。

変態だけどな。

 

「さて、それはともかく!」

 

部長が手を叩いて皆の視線を集める。

 

「今日からは新しい部員も増えたことだし、皆で仲良くして、オカルト研究部としての活動ももっと活性化させていきましょう!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 

こうして、オレの部活生活は始まったのである…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

オレがオカルト研究部に入部してからは、毎日の生活がホントに楽しいものになってきた。

各地の心霊スポットに関する週刊誌を見てみたり、皆でお茶を飲んでゆっくりしたり、学校生活の中でもよく話すようになった。

 

「なぁ、シュウ」

 

部活入る前は意識してなかったが、火曜日の三時間目の体育の時間は、塔城のクラスとグラウンドを分けて使っていたんだなぁ。

目があった時に、軽く会釈してくれるんだよ。

 

「おい、シュウ?」

 

いやぁ、こんな事なら最初から入っときゃよかったなぁ〜。めちゃくちゃ楽しいよ。

まぁ、あの部室にはなかなか慣れねぇけどさ…。

 

「おーい、聞こえないのかー?」

 

ただやっぱり分かんねぇのは、どうしてわざわざ神さんが部活に入るように勧めたのかって事だな。そこだけは理解できねぇままだ。

何らかの理由はあるとは思うんだが、一体何なんだろうな

 

「シュウ!返事しろ!」

 

「うわっ⁉︎いきなり耳元で叫ぶな兵藤!そこまでしなくても聞こえてるわ!」

 

「聞こえてるなら反応しろよ!なんで無視し続けるんだよ!」

 

「なんとなく!意味はない!」

 

「ムチャクチャじゃねぇか!」

 

オレ達は今日の分の部活を終えて、解散したところだ。

そこで、今はオレと兵藤、木場と塔城が一緒になって帰っている。

この面子で帰るのも、当たり前になってきたな〜。

 

「ははは…なんと言うか……。」

 

「……仲が良いですね、お二人とも……。」

 

「おっと、二人ともそれは違うぞ?こいつが勝手に付きまとってくるだけだ。」

 

「お前最近酷くね⁉︎」

 

いやぁだってこんなに友達できちまったら、テンション上がるじゃん?

だからだよ、単純な話。まぁ口に出しては言わねぇけどさ。

 

とか言っているうちに、塔城と木場との分かれ道に入った。

オレと兵藤はこの道を右に。小猫ちゃんと木場は左に行ったところだ。

 

「じゃあな、木場、塔城」

 

「お疲れさま!二人とも!」

 

「うん、またね八神くん、兵藤くん。」

 

「……失礼します、八神先輩、兵藤先輩。」

 

二人と別れて、オレ達は各自の家へ向かう。オレと兵藤も、兵藤の家の前で別れるんだけどな。

ほら、すぐそこのあの家。

 

「じゃあまた明日な、シュウ!」

 

「あぁ、お疲れ変態くん。」

 

「俺の名前は変態じゃねぇぞ⁉︎」

 

こいつはホントに終始やかましいやつだ。

 

 

 

……こんな楽しい日常が、毎日続くといいんだけどな

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ある日の夕方、

オレと兵藤は部活を終わらせて、早めに帰路についていた。

 

塔城と木場は、何か用事があるらしく、先に帰っていてくれと頼んできたんだ。

ほんとなら四人で帰りたかったんだが、まぁ仕方ねぇな。

 

「そーいやさ兵藤?」

 

「ん?なんだよ。」

 

「お前、最近朝の寝起き悪りぃそうだな。お前の母ちゃんから聞いたぞ?」

 

「ん⁉︎あー、えーっと、アレだよ。

ちょっと朝日に弱くなってしまっただけだよ。」

 

「ハハッなんだそりゃ。朝日に弱いとか、お前は吸血鬼かなんかかよ。」

 

「う⁉︎うん、まぁ、そうだな〜アハハ。」

 

……なんかさっきからリアクションがオーバーすぎねぇか?

お前それなら俳優とか狙えるよ。顔は悪くないから。

まぁ、なったとしたら一番気をつけんのはマスコミだな。変態行為をうっかり撮られてたら大変だからな。

 

話しながら歩いていたからか、兵藤は完全に顔をこっちに向けている。

コラコラ、前を見て歩いてないと

 

「キャア!」ドサッ

 

ほら人にぶつかって…なかった。

 

ただ、女の人が勝手に転んだだけだったか。

 

それはいいんだが、女の人が転んだときに、持っていたカバンの中身が全部ひっくり返ってしまったようだ。

 

あーらら、コリャ大変だ。

 

「どーするよ、兵藤?」

 

「どうするって、決まってるだろ?助けに行ってやろうぜ。」

 

いよっ!さすがだぜ兵藤。女が困っているところには手を出さずにはいられない、いいやつだ。

男の時は、手を出したり出さなかったりだけどな。

 

オレたちは黙って荷物を集め始めた。

その間、転んだ女性は同じように荷物を集めながら何かブツブツ呟いてた。

 

「ほい、こっちはコレで全部だ。」

 

オレはオレの周辺にあった荷物を全部集めて女性に渡す。

改めて近くから見てみたが、コリャシスターってやつか?十字架のネックレスかけてるし。

 

「Merci!」

 

…はい?え、なんて?

 

え?メルシーって言ったよな今。てことは、何?まさかこいつ、北欧 フランス出身とか?

マジか…、前世で少しだけフランス語は習ったけど、チンプンカンプンなんだよなぁ…。

 

皆に一つオススメしておこう。大学では、英語とは別にもう一つ外国語を何か選択して授業受ける必要があるんだが、フランス語はよほど習いたいわけじゃないならやめた方がいい。アレは難しすぎる。

 

「えっと…『大丈夫ですか?』」

 

『はい!本当にありがとうございます!助かりました!』

 

あー待って待って、全く聞き取れねぇし分かんねぇや。

やべぇ全然ダメだ。助けになる事とか出来んのか?これ

 

兵藤も集め終わった荷物を持ってこっちに来た。

まぁ、一応通訳として頑張ってみるか。役にたたねぇ気がメチャするんだけどな。

 

 

 

 

『はい、どうぞ。コレで全部か?』

 

 

 

 

何…だと……?

 

今オレの目の前では、世界で一番驚くべき光景が広がっている。

兵藤がフランス語をペラッペラに話しているのだ。

まさかこいつが天才だったとは、夢にも思わなかった。

 

『はい!お二人とも、ありがとうございます!まさかこんな所であなた達のように優しい方々に巡り合えるなんて…!』

 

『なんか、苦労しているみたいだな。何か手伝えることはあるか?何でもするぞ?』

 

『え!いいんですか?

……それでは、道を聞いてもよろしいでしょうか?地図を見ても、私が今どこにいるのか分からなくて、でも言葉が通じないから、人に聞くこともできなかったんです。』

 

『あぁ、全然構わないぜ!どこにでも連れて行ってやる!』

 

 

……やべぇ、完全に置いてかれてる気分だ。

何でこんなに悠長にフランス語話すのこいつ?フランスに住んでたことでもあるの?

 

二人が全く聞き取れない会話をしている間、オレは端っこの方で大人しく座っておくことにした。

 

話が終わったのか、兵藤がオレを呼んだ。

 

兵藤が説明する事によると、このシスターは日本の教会に派遣された。その教会付近の地図は与えられたが、日本語が読めない彼女にとって、そんな物は役に立たなかった。だから適当に歩くしかなかった。結果、道に迷ってしまった。

だからオレ達が、その教会まで案内してやるってことらしい。

 

「そりゃ別にいいんだが、お前その教会までの道とか分かるのか?」

 

「あぁ、町外れにある結構古いやつがあるだろ?アレのことだよ。」

 

「あー、あのオンボロのヤツか。だったら分かるな。」

 

「だろ?さ、行こうぜ!」

 

オレと兵藤は歩き始めた。その後ろを、シスターが付いてくるのが分かる。

 

「お前さ、意外とスゲェんだな。

あんなペラペラフランス語喋るヤツとか、そうそういねぇぞ?」

 

「ん?フランス語?何のことだ?」

 

「は?お前さっき普通に喋ってたじゃねぇか。」

 

何だこいつ、やっぱり馬鹿なのか?

ついさっき自分が話していたことをもう忘れてやがる。

未だに首かしげてるし、ホントに何なんだよコイツ。天才なのか馬鹿なのか分かんねぇな。

 

そんな事思っているうちに、いつの間にか目的の教会に着いた。

 

『ほら、ここだよ。』

 

『わぁ、本当にありがとうございます!』

 

……また置いてけぼりです。

ほら、それがフランス語だよ、分かる?

 

『宜しければ、中でお茶して行かれませんか?お礼がしたいのですが…。』

 

『いや、俺はこの後用事があるから、すぐに帰らなきゃいけねぇんだ。「シュウはどうする?」』

 

「いきなりオレにフルな。てか、どういう状況なんだよ。聞き取れねぇこっちの事も考えろよ。

 

「だから、中でお茶しないかってこと。お礼がしたいんだってさ。」

 

「じゃあ遠慮させてもらうわ。」

 

言葉通じないのについて行っても、楽しくねぇし。

 

『じゃあ残念だけど、二人とも行かないってことでいいか?』

 

『そうですか…。それでは、お二人のお名前を伺ってもよろしいですか?私はアーシア・アルジェントと申します。』

 

『俺は兵藤 一誠!そしてあいつが』

 

 

……なんか話が途切れて二人ともこっち見てる。

 

まぁ、恐らく自己紹介だろうな。

兵藤が自分の名前言ってるのが聞こえたし、アーシア…何とかってのはあいつの名前だろ。

じゃあ、オレが名乗るのを待ってるわけだな。

 

「えっと…『八神 柊です』」

 

『分かりました。それでは…兵藤 一誠と八神 柊に、神のご加護があらん事を…。』

 

何言ってるのか分かんねぇけど、胸の前で両手を組んでいるから、多分オレたちにいいことありますようにみたいな事祈ってくれているんだろう。

…祈ってもらえたのは初めてだな。

シスターに祈ってもらえるのは気分がいいな〜。

 

ところで…。何で兵藤は頭抑えてんだ?そりゃ失礼ってもんだろ。

 

とにかく、オレたちはシスター、アルジェント(兵藤から聞いた)と別れて、またそれぞれの家に向かった。

 

そして、兵藤の家の前で兵藤とも別れたのだ……。

 

 

 




やっとアーシア登場です。

次の話では、はぐれ悪魔が出てくるので、そこで本格的に悪魔と絡ませようかなと考えています


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七話目

「ただいまー」

 

アルジェントを送り、兵藤と別れてオレは今家に帰り着いた。

今は夜の七時ぐらいだ。後は晩飯食って風呂入って寝るくらいか?

んじゃ、さっさとすることやって寝るとしますか!

 

 

 

その時だった。

 

 

 

いきなり家の片隅から灰色のオーロラが現れた。

何が起こっているのか最初こそ分からなかったが、ある風景を思い出した。

オレが前世でグロンギになってしまったあの日の風景である。

一体、何が起こるんだ…?

 

すると、中からは見慣れた姿をした何者かが現れた。

 

「ブウロ…⁉︎」

 

そう、フクロウの性質を持ったグロンギ『ゴ・ブウロ・グ』がそこに立っていた。

 

オレはブウロというグロンギをよく知っている。前世では、オレと同じ『ゴ集団』にいて、空から人間を襲うゲゲルをやっていた。

最期は、クウガによって撃ち殺されたはずだが、今こうして目の前にいる。

 

ブウロは少しの間辺りを見回していたが、オレの姿を見て、こう言った。

 

「リント…。ゲゲルボ ザジレス!」

 

この言葉!グロンギが戦闘態勢に入った証拠だ!

「ゲゲルを始める」って言いやがったってことは、オレがゲゲルの標的になってんのか⁉︎

 

ブウロはオレの両手を掴み、そのままオレを壁に押し当てた。

拘束しようってんのか?バカが、空飛んでるから肉弾戦とかやった事ねぇくせに!

 

オレはまだ自由であった足でブウロを蹴り飛ばす。少し後ずさるブウロ。

 

だが、その間にオレは体に力を入れて、ガドルの姿に変わった。

ゴ・ガドル・バ、格闘体である。

 

「ガドル⁉︎」

 

驚きの表情を見せるブウロ。

今さら気づいたところで、もう遅ぇよ!相手を殺すときには殺される覚悟くらい持っとけ!

 

オレはブウロに向かって走り出し、肩を掴んで押し込んでいく。

そのまま窓の近くまで押し込み、ブウロを殴り飛ばす形で外に押し出す。

窓は割れたが、まぁ仕方ねぇ。

庭に転げていくブウロ、オレはそいつに向かって飛び、追撃のパンチを叩き込もうとした。

しかし、ブウロは横に転がる形でそれをかわし、体制を整える。

ブウロは羽を広げて、空に飛び上がる。

そして、どこからか取り出した吹き矢を口に咥え、何回か息を吹きかける。

小さい矢が数本凄い勢いでオレの元に飛んでくる。

オレはそれを全て躱すことができたが、その間にブウロは少し高めの位置にまで上昇してしまっていた。

 

さて、どうするか…。

 

あいつはかなり頭がいい。恐らく、オレが射撃体になるのを待ってやがるな。

射撃体は感覚器官が跳ね上がるから、遠くの敵を撃ち抜くのには向いている。まさにブウロみてぇなヤツを撃ち抜くためにあるような形態だが、その分痛みもかなり感じる。

あいつの射撃の腕前なら、あの距離ならオレが射撃体になったと同時に、確実に攻撃を当ててくるだろう。

 

かと言って俊敏体で飛び上がれば、それこそ格好の餌食だ。

飛んでる状態じゃ、何もできねぇもんな。

 

だからオレは何もできないでいる。それがヤツの考えだろう。

 

まぁ、残念ながらオレはお前の予想の上をいくぜ?

 

オレは右手を中指と親指をくっつけた形で突き出す。

何がしたいのか理解できていないらしく、ブウロはこちらの様子を伺っている。

オレは指に力を込めて、思いっきり弾く。いわゆる、『指パッチン』である。

そうする事で、小さい火花が散る。その小さい火花は、徐々に大きさがデカくなって、ブウロに向かって一直線に進む。

そして、ブウロにたどり着いたと同時に、火花はかなり大きな爆発を起こした。

格闘体で威力が上がる『焔の錬金術』だ。

 

「グオォォ‼︎」

 

あいつは突然の爆発に対応できず、真っ逆さまに落ちてきた。

 

今がチャンスだ!

 

オレはブウロにトドメをさすために、走り出した。

 

だが、ブウロは再び吹き矢を咥え、オレに向けて吹き矢を放った。

オレは間一髪で避けたが、その間にブウロは姿を消してしまった。

 

チッ、まさかまだ吹き矢を撃てる元気があったとはな。考えが足りなかった。

 

オレはすぐに射撃体に変わり、辺りを見回す。

すると、オレとはかなり離れた距離を飛行しているブウロが見えた。

 

こっから撃ち抜くのには距離がありすぎる。

仕方ねぇ、こうなりゃオレもあいつを見失わねぇように追跡するか。

放置していると、人間を襲う可能性があるからな。

 

オレは俊敏体に変わって飛び上がる。

 

もちろん、ブウロがいるところは分かる。一度見つけりゃ問題ねぇ。

 

 

ーーーーーーーーー

 

追跡すること数分、オレはどっかの廃工場の近くでブウロに追いついた。

ダメージが多かったらしく、どんどん距離を縮めることができた。

 

射撃体に変わったオレは、ブウロの羽根に向けてボウガンの引き金を引いた。

すると、ボウガンの矢は見事にブウロの羽根を打ち抜き、あいつを落下させる。

 

もうあいつはこれと言った移動手段を無くしたことになる。あとはノンビリ歩いていっても間に合うだろう。

 

まぁ、一応急ぎますとも。もし落とした先に人間がいたら大変ですもの。

まぁ、こんなボロい工場にいるヤツとか、そうそういねぇっしょ

 

 

 

 

 

 

「ウギャアアァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

……ウソだろ⁉︎

何でそんな都合悪く人がいるんだよ!

 

オレはダッシュで廃工場に向かっていった……。

 

ーーーーーーーーーー

【第三者視点】

これは、八神がブウロを追っていた時の話。

 

 

この廃工場には、リアスと朱乃、木場と小猫、そして兵藤が来ていた。

何故なら、魔界からはぐれ悪魔であるバイザーの討伐依頼が来ており、その依頼を達成するためである。

 

バイザーの実力は大したものではなく、悪魔になってまだ日も浅い兵藤に戦い方を教えながらでも十分戦うことができた。

 

今、バイザーはリアスの前に意気消沈して倒れている。

 

「何か言い残すことはあるかしら?」

 

「……殺せ」

 

「そう、なら…」

 

そう言って、バイザーにトドメを刺そうとした時だった。

 

 

ドガァァァン!

 

 

突然天井から、何者かが落ちてきたのである。それもかなりの勢いで。

 

いきなりの出来事に、混乱する一同。

その何者かは、体は羽毛に包まれており、背中には一対の大きな翼が生えていた。

よく見ると、その翼は何かに撃ち抜かれたように穴が開いていた。

 

「こ、こいつは…」

「…悪魔、なのでしょうか……。」

「あ、あらあら…。」

「何なんだよ、こいつ…。」

 

誰もがその何者かを不思議な目で見ている中、リアスだけが別のことを考えていた。

 

(この感じ…あの時のあいつと同じものだわ!)

 

そう、かつて公園で会ったあの怪人である。

この者とその怪人、雰囲気がかなり似ていると感じたのだ。

 

「ブゴ…!ガドル…ボゾギデジャス!」

 

あの時と同じ、理解不能の言葉である。

こいつもあの怪人の仲間と考えてもいいのかもしれない。

 

そして、彼はダメージを負ったバイザーを見て、こう言った

 

「ビザラ…、チョグド ジョバダダ」

 

バイザーに近づく何者か。何をするのか、最初は理解できなかったが、すぐに分かってしまった。

 

彼は、口の部分を大きく開けて、バイザーを食らい始めた。

 

「ウギャアアァァァァ!!!」

 

余りにも残酷な光景が広がる。

兵藤以外はそれほどでもなかったのか、精々顔を歪める程度だったが、兵藤はとても耐えられず、胃の中のものを吐き出してしまった。

 

もはや怪人と呼べる者はバイザーをすっかり平らげてしまった。

 

「ガドバ ガギヅサ ロボゾゲバ…!」

 

またもや意味不明な言葉を吐いたが、何をするつもりなのかは分かった。

 

今度は私たちを殺そうとしている!

 

危険を直感で感じたリアスは、全員に叫ぶ

 

「祐斗と小猫!そして朱乃はこいつを全力で攻撃して!!イッセー!あなたは逃げなさい!!」

 

木場と小猫と朱乃は、すでに同じ考えを持っていたらしく、リアスの指示と同時に攻撃を始める。

しかし、兵藤は自分だけ逃げたくはないのか、出入り口の辺りで困惑している。

 

「早く!このままだと全員が!!」

 

そこまで叫ぶと、何かが殴られたような音が三回分聞こえた。

そう、怪人が一瞬で三人を同時に殴ったのだ。

 

「ラズザ ボギヅサ ザ」

 

そう言って、怪人は足元の三人を見た。

今度は爪をむける怪人。焦りを感じたリアスは、自分の魔力を怪人に放つ。

しかし、怪人はまるで何も興味がないような顔をして、そのまま三人を殺そうとした。

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

大地がまるで生きているかのように激しく揺れ始め、怪人をふらつかせる。

その後すぐに突風が起こり、怪人を吹き飛ばす。

何かがかなり速い動きでリアス達の横を駆け抜けたと思えば、三人がいつの間にか先ほどの位置にいなくなる。

 

何が起こっているのか、全く分からない二人。

 

すると、後ろから声がした。

 

「オレの大切な仲間たちに、何してくれてんだ化け物!!」

 

そこには、昼間の普通のオカルト研究部員、八神 柊が、三人を抱えて立っていた。

 

ーーーーーーーーーー

 

オレはブウロが落ちたと思われる場所まで一直線の道を走っていた。

 

さて、何も起こってねぇといいんだが、すでに殺されたとか勘弁してくれよ?

ケガした体でも何人か人間を殺せば、何故か知らんが復活するんだよアイツ。

 

だんだん中がはっきり見えてきた。

 

よかった、まだ殺されてはいねぇみてぇだな…

 

……って、え⁉︎

 

何で木場と塔城と姫島先輩がアイツの足元で倒れてんだ⁉︎

てか、よく見るとあの後ろ姿はグレモリー先輩と兵藤じゃねぇか⁉︎

 

何であの人たちが狙われてんだよ!てか何であんたらここにいるんだよ!

考えてる時間もねぇ!もうブウロのヤツもほとんど死にそうになってるはずだ!

注意しなきゃなんねぇのはグロンギ態でやると、先輩たちにも被害が及ぶ可能性大だから、人間態でやるしかねぇってことだ!

不安が少しあるが、仕方ねぇ!!

 

オレはすぐに人間態に変わる。

まずは三人をアイツから引き剥がす必要がある。

そのために最初に剛力体に変わり、手を合わせて地面を叩く。すると、あの廃工場の中だけ地面がうごめいて、ブウロがふらついた。

直後、射撃体になって手を合わせ、前に突き出す。すると、風の勢いがどんどん強くなり、まっすぐブウロの方に向かい、ブウロを吹き飛ばす。

すぐに俊敏体に変わり、ダッシュで三人を一斉に拾う。

 

こうして、何とか三人を助け出すことができた。結構ギリギリではあったけど、なんとかなるもんだな。

 

さて…!あいつはやってはいけねぇ事をしたわけだ!!

 

「オレの大切な仲間たちに、何してくれてんだ化け物!!」

 

 

じっくり後悔させてやるよ!!

 

オレは剛力体に変わって走り出す。

ブウロも迎え撃つように肉弾戦を仕掛けてきた。

 

なるほど、普通の人間なら勝てると踏んだのか。あいにくだけど、オレは普通の人間じゃねぇんだ!

 

走り出す直前に、ちょいと失敬したそこら辺のパイプを剣に変える。

まさかパイプが剣に変わるとは思っていなかったらしく、ブウロに隙ができたので、そこを突かせてもらった。

ひるんだブウロの腹に、思いっきり蹴りを入れる。しばらくめり込ませ、そのまま吹き飛ばす。

 

ブウロが立ち上がって、今度は吹き矢を撃ってきた。オレは剣を縦にもち、飛んできた矢を右へ左へと受け流しながら一歩一歩ブウロに近づく。

焦りを感じているのであろうブウロは、より多くの矢を飛ばしてきたが、落ち着いて対処すれば何てことはない。

ある程度近づけたところでオレは駆け出し、吹き矢の筒を切った。

自分の武器である物がなくなったブウロは、戦う術がもうないだろう。

 

ブウロが最後のあがきでオレを蹴っ飛ばす。オレはそれをわざと食らってブウロとの距離を開けた。

飛ばされている途中、さりげなく手を合わせておいたので、オレはそのまま両手を地面に着く。

すると、地面が盛り上がってブウロを囲む、ドーム状の物が出来上がった。

オレの正面には、そのドームに少しだけ小さい窓がある。

オレは中のグロンギに向かって声をかける。

 

「その中がどーなってるか、よく分かってねぇと思うから教えてやる。その中は、お前周辺の水素と酸素を集めてある。まぁ、水素と酸素の密度がかなり高いことになっているんだが…。」

 

オレはここで少しだけ間を空ける。

次の言葉を聞いたこいつは、どんな反応するかな?

 

オレは格闘体にかわって、こう声をかけた。

 

 

 

「そんな中に火を投入しちまったら、どうなるか分かるか?」

 

 

 

言ってる意味がわかったのか、ブウロは急に慌てだした。ま、もう遅ぇよ。

オレはさっきと同じように、指を鳴らす。

小さい火花が起こり、真っ直ぐにドームの中に入る…。

 

「直火で焼いた焼き鳥の出来上がりだな♪」

 

中からかなり大きな音がして、炎が燃え上がった…。




バイザーって、ほとんど獣っぽいのかな?ってことで、ご飯になりました。

あと、何人か人間を殺せば云々は完全にオリ設定です。

敵役グロンギをブウロにした理由は、とりあえず空飛んでる敵にしたかったのですが、ゴオマもバヂスもなんか違う気がしたからです。


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八話目

報告し忘れていましたが、先日一時期ユーザーの方のみ感想を受け付けているように設定していることに気づいたので、非ユーザーの方からも感想を受け付けることができるように変更しました。
プロローグで色々教えてくださるとうれしいとか書いているくせに、教えられない環境を作ってしまいました。申し訳ありません。
今度こそ、様々なご意見、お待ちしております。


ドームの中の炎が収まったのを確認したオレは、ドームを崩す。

中には、焼死体となったブウロが倒れていた。

オレはもう一度手合わせ錬成で地面に小さな穴を開ける。そこに、ブウロを入れてやった。

穴を塞いで、そこらに落ちていた木の枝を刺す。かなり簡単ではあるが、ブウロの墓を作った。

 

「さて…と。」

 

なんかメチャクチャ疲れたな。

それもそうか、あの短時間で連続して形態変化させてりゃ、疲労もたまるよな。

 

「部長、とりあえず詳しいことは明日部室で話しましょう。聞きたいことが色々あるんでしょうが、ここで話すのも微妙ですし。」

 

「……そうね、そうしましょう。」

 

オレの提案に乗ってくれた部長は、兵藤と一緒に三人を運びだす。

そん時は手伝ったが、帰る時には別行動になった。

 

オレは「お疲れ様でした」と声をかけて外に出る。

外に出たオレは、俊敏体に変わって空に飛んだ。屋根の一つ一つを足場にして行けば、走るよりかは速い。

だからあっという間に家に着いた。

 

家に帰り着いたオレは真っ直ぐにベッドに向かい、そのまま眠ってしまった…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

翌日、いつも通りの退屈な時間が終わり、放課になった。

 

オレと木場、兵藤は一緒に部室に向かったが、その間はあまり話さなかった。

 

「そういや、木場。お前昨日の怪我は大丈夫なのか?」

 

「うん、大丈夫だよ。ありがとう。」

 

みたいな事を一言二言交わすぐらいだ。

部室について、扉を開ける。

中にはすでに部長と姫島先輩、塔城が座っていた。

オレたちも席に座り始める。オレは自然と部長に向かうような形になった。

 

「さて、まずはシュウ。あなたが戦っていたあいつの事について聞きたいんだけど」

 

「……その前に、オレも一つ聞いてもいいっすか?」

 

その質問も後で答えるつもりだ。けど、それよりもハッキリさせたい事がある。

 

「……いいわよ。何かしら?」

 

予想はできているのだろう。少し言葉に間があった。

 

「あんたら一体何者なんすか?」

 

オレの質問に、少し考えるように黙ってしまった部長。

他のみんなも、部長の方を注目している。

やがて、決心したように顔を上げた部長が「いいわ、教えてあげる。」と声を出した。

 

「私達、ここにいるあなた以外のオカルト研究部員は、人間じゃなくて悪魔と呼ばれる種族なの。」

 

……悪魔、か。

確か、ガドルの姿になっていたオレと会った時に、この人が最初に言っていたな。

 

「実は、この世界には天使、悪魔、堕天使って呼ばれる種族が存在しているの。見た目が普通の人間と変わりないから、見ただけでは分からないだけで、この人間界って呼ばれる場所にも意外と多いのよ。」

 

天使、堕天使もいる……。

 

「てことは、天野のヤツは?」

 

「あぁ、彼女は堕天使らしい。」

 

兵藤がオレの疑問に答えるように言った。

なるほどな、それで全てがつながった。

神さんがオレにこの部活に入部するように勧めたのも、このためか。

 

「実はイッセーとその堕天使がデートしたとされる日に、イッセーは一度殺されそうになったの。

治療してそのまま放置していると、また堕天使に襲われるかもしれないから、そうなっても対処できるようにするために転生悪魔として悪魔にしてしまったの。

友達のあなたに何も言わずにしてしまったのは申し訳ないわ。」

 

「いえ、結果としてまだこいつ生きてますから、問題ないです。

てか、こいつ殺されかけたんすか?」

 

「えぇ、多分イッセーが宿す神器の影響だと思うわ。」

 

神器か…。確か特別な人間に宿る、特定の能力を持つ武器のことだっけか?

オレの錬成能力も、神器である設定にされているって神さんが言ってた。

 

「てか、天使と悪魔がいるってことは、そいつら争っているって事っすよね?大丈夫なんすか?」

 

「いえ、その三つの種族は今は敵対していないわ。」

 

今は?てことは、過去か未来には敵対する時があるって事か?

部長がオレの疑問が読めたのか、さらに深く説明してくれた。

 

「大昔、悪魔と堕天使は冥界の中で争っていたの。土地を奪い合う戦争をイメージするとちょうどいいと思うわ。

そして天使はそんな悪魔と堕天使を昇天させようとした。結果三つ巴の関係になっていたの。

でも、ある理由がきっかけでその戦いを終わらせかねない事になった。

そうして戦いが終わって、今のような世界ができたって感じよ。」

 

部長が簡潔に教えてくれたから、簡単に頭の中に入った。

どんな理由かは気になるが、まぁそこは気にしなくてもいいか。

 

 

 

「じゃあ、以上で私たちの説明はおしまい。次はあなたの番よ。」

 

……そうだったな。オレも色々説明しなきゃいけねぇことがある。

 

「…さっきの質問の答えっすけど、実はオレも分かってねぇことが多いっす。だから分かる範囲のことだけを説明するってことでもイイっすか?」

 

そう聞くと、皆が了承の意思を示したから、オレはそのまま説明する。

 

「あいつは、グロンギと呼ばれる戦闘民族の一体です。

グロンギはゲゲルと呼ばれるゲームをしているんすけど、その内容は[決められた時間内に指定された人数の人間を殺せるかどうか]って言うかなり残酷なものっす。

だからオレは、グロンギを見つけては倒しています。

因みに、あいつはゴ集団と呼ばれる上位クラスの力を持っているヤツですよ。」

 

オレは確実に分かることを説明した。これ以外のことはまだあやふやな事だから、まだ触れないようにしておく。

また、あいつらは別の世界から来たのだと思う。灰色のオーラから来たから事から、そう考えられる。

けどそこは伏せとくつもりだ。言ったところでなんとかなる問題じゃねぇからな。

 

「そう…なら、他にもたくさんいるかもしれないってこと?」

 

「どちらとも言えないですね、かなりの数を倒したはずなので、もういないとも考えられますが。」

 

実際、グロンギは全員倒したはずだ。それなのに、ブウロが生きていた。

理由は分からねぇが、もしかすると他のグロンギも生き返っている可能性がある。

あるいは、他の世界に転生していったオレと同じ運命を歩んでしまったヤツが、なんらかの理由で再びグロンギの本能に飲まれたのかもしれねぇ。

つまり、他にもグロンギが出てくるのかもしれないってことだ。

 

「なるほどな…他にも、あんなに強い奴がいるのか……。」

 

「んな心配する必要はねぇよ。ゴ集団はもとより数が少ねぇからな。他の奴はお前らでも戦えるんじゃねぇのか?」

 

兵藤が心配そうに聞いてきたから、安心させてやるためにもう一言付け加えた。

メ集団は全員でかかればなんとか抑えきれると思うし、ズ集団は個人でも何とかなるだろ。

 

 

「じゃあ、今度はあなたの力について教えてもらえないかしら?」

 

「はい。結論先に言いますが、オレも神器持ってます。

名前は『真理の扉【ゲート オブ トゥルース】』って言います。

物体の原子を操って、物の構造を変換させる能力を持っています。鉄の塊を鉄剣に変えたりも出来ますよ。」

 

「それで、地面が動いたり炎が燃え上がったりしたのかい?」

 

「あぁ、他にも風の動きを変えたりもできる。それで昨日は突風を起こしたりしたんだ。」

 

木場の質問に答えつつ、昨日の種明かしもする。

 

「じゃあ、あれは?祐斗達を助ける時にかなり速く動いていたけど」

 

「……あれはオレなりのスタイルチェンジみてぇなもんすよ。

肉弾戦向きの格闘体とか、速さ向きの俊敏体とか。」

 

オレは少し暗い声で返してしまった。

 

 

 

…ガドルの姿になる事は言わないつもりだ。理由とかは…まぁ察してくれ。

 

 

 

そこで部長が声を張って告げた。

 

「よし、これでもう互いのことは分かったわね?前まではあなたがただの人間だと思ってたから隠してたけど、もう隠し事もなし。

……もしあなたが、悪魔である私たちと一緒にいるのが嫌だと言うのなら、私はその意思を尊重するつもりだけど…。」

 

「何言ってるんすか。あんたらが悪魔だったとしても、昨日まで一緒に過ごしてきた時間はウソじゃねぇんだ。それだけで十分。」

 

確かに、この部活に入る目的は果たした。この世界の事情も分かった。

だから別に長居する必要はない。

それでも

 

 

 

 

 

「だから、オレはあんたらとここにいたい。まだ部活を続けたいと考えていますよ。もちろん、悪魔になるのは勘弁ですけどね。

そのかわり、手伝いくらいなら、しっかりやらせてもらいますよ。」

 

 

 

 

 

それがオレの意思だ。

こんな楽しい日常は、もう手放したくない。

 

「そう、それが聞けてよかったわ。

折角同じ部活に入った仲だもの。その繋がりはそのままにしておいたほうがいいものね。」

 

そう言って、部長は立ち上がり、こうつなげる。

 

「八神 柊くん。あなたを改めてオカルト研究部に歓迎します。

眷属にならないとしても、その分しっかりと働いてもらうからね!」

 

「うっす、了解しましたよ!」

 

やっぱり、オレはこの部活が、皆が大好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

……オレがこの部活に残るって言った時に、木場と兵藤と部長の三人は普通に安心してた感じだったが、残りの二人は異常に嬉しそうにしてたけど……何でだ?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

その日の夜からさっそく、皆の夜の活動を手伝うことになった。

とは言っても、契約とか言うのは本物の悪魔が行かねぇと詐欺になるってもんだからな。オレが出来るのはチラシ配りとはぐれ悪魔の討伐ぐらいなもんだ。

今日は契約を取りに行く事になってるらしいから、さっそくオレの仕事がねぇ。

部長は気をきかせて、先に帰っててもいいとは言ってくれたが、さすがに今日は帰る気にならねぇよ。

これからもお手伝い頑張りますって言ったその日に帰るってのは、かなり勇気がいるだろ。

 

だからオレは今部室のイスに座っている。

兵藤が契約を取りに行くときに、何故か魔法陣に乗らず外に出ようとした。

他のヤツらは、魔法陣使ってジャンプして行ったのに、何してんだこいつ?

 

「おーい兵藤、ジャンプしねぇのか?オレお前がジャンプするの見てみてぇんだけど〜。」

 

オレがそう言うと、兵藤がピシっと固まった。

比喩的表現じゃねぇぞ?マジで石みてぇになっちまった。

 

部長がそれを見て溜息をついた。

 

「なぁ部長。オレ何か悪りぃこと言ったか?」

 

「えぇ、すごく。」

 

何でだよ、オレは単純に思った疑問をぶつけただけだってのに。

 

兵藤はしばらく固まっていたが、急に元気になって「シュウ!お前後で覚えてろよ!」とか言う言葉を残して去っていった。

 

後で聞いた話だが、兵藤にはまだジャンプに必要な魔力が無いらしい。だから今は自分の足で行かなきゃいけねぇってことだ。

……なるほど、悪りぃことだな。

でも面白いから後でからかってやろー。

 

ーーーーーーーーーー

 

結局、オレ以外の全員が契約取りに行っちまった。

オレがいるから、部室を開けてても問題ないそうで。

 

……ヒマだなこりゃ。

 

そーだ、皆が帰ってきた時にでもゆっくり出来るように、お茶と茶菓子用意しとくか。

お茶は割と自信がある。ガドルの力を手に入れた頃から、無性にお茶が飲みたくなる時があるから、よく淹れるんだ。

茶菓子もよくついでに作ったりもする。今日は団子だ。理由はない。

 

 

調理を始めて数分後。ちょうど出来上がった時に、魔法陣に反応があった。

もう誰かが契約を終わらせてきたのか。早いな〜。

紅い光が周りを照らし、誰かを足元から転送させる。

やがて光がおさまり、転送が終わったことを示す。

 

「あらあら、八神くん。ずっと待ってて下さったのですね。お疲れ様です。」

 

「お疲れ様っす、姫島先輩。お茶の用意が出来てるんで、少し待っててください。」

 

最初に戻って来たのは、姫島先輩だった。

オレはすでに出来ていたお茶と茶菓子を持って、テーブルがある広間に向かう。

テーブルにお茶と茶菓子を置いて、オレもソファに座る。

場所的には、オレの向かいに姫島先輩が座るように置いた。

 

姫島先輩は、手を洗いに行っていたのか、洗面台の所から戻ってきた。

 

「あ、どーぞ。座ってゆっくりして下さい。」

 

お茶と茶菓子、そしてオレの方を見て、一瞬顔を歪めた先輩はオレの隣の席に座り、向かいの位置に置いてあるお茶と茶菓子を取った。

 

……何でそんなメンドいことしたの?普通にそこに座ればいいじゃないか。

 

そんなオレの疑問は知らず、姫島先輩はお茶を飲み出した。

 

「美味しいですわね、このお茶。」

 

「まぁ、オレもよく淹れますから、趣味で。」

 

「あらあらまあまあ。このお団子も本当に美味しいですわ。」

 

「喜んでもらえたなら良かったっす。姫島先輩が淹れるお茶も美味しくて好きっすけどね。」

 

オレは世間話をして、時間を潰そうとしている。てか、隣に座られたおかげで何か緊張しちまうよ。

 

「……八神くん。」

 

「はい、何すか?」

 

「……折角ですし、私のことは朱乃と呼んで下さいませんか?私も、シュウくんと呼ばせていただきますので。」

 

 

……名前で呼べってことかよ…。

いやいや、それはちょっとムリだな〜。かなり緊張しちまうし、恥ずかしい。

てことで、断らせてもらおう。

 

「あの、すみませんが、ちょっと恥ずかしいかr「いけませんか…?」…。」

 

そう言う戦法はズルいだろ。そんな事されて、平気なやつはそうそういねぇと見た。

 

 

 

…断れねぇ……。

 

「……朱乃先輩…。」

 

 

 

…ヤベェ超恥ずかしい。今オレの顔を鏡でみたらトマトみてぇになってる気がする。いや絶対なってる。

 

「フフッありがとうございます。」

 

姫j…朱乃先輩はかなり嬉しそうにしている。

 

 

……てか、あまり意識したことなかったけど、この人もデカい。隣に座っているからなお分かる。

何がって?二つの大きな膨らみだよ。

ヤベェこんな顔された後にそんな事意識しはじめたら色々まずい事になる気がする。

 

誰か〜!早く戻ってきてくれ〜!!

 

その時、再び魔法陣が紅く光り、次の人物を転送し始める。

その光がおさまったところに立っていたのは、塔城だった。

けど、オレはすぐには反応できず、塔城が戻ってきた時には朱乃先輩の二つの膨らみの誘惑に耐えていた。

 

塔城はその状況をしばらく眺め、その視線を自分の胸元に落とす。

その後、頬を膨らました。

 

……どうやら、ご立腹のようでゴフゥ⁉︎

 

オレは塔城にいきなり腹を殴られ、部室の壁まで飛ばされた。

 

ボソッと塔城の声が聞こえた

 

「…最低です。」

 

その言葉を聞いて、オレの意識はブラックアウトしていった…。



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九話目

お気に入りが百件を超えました!
趣味で始めたことなのに、こんなに読んでくださるとは感激です!
これからも、頑張っていこうと思います!


塔城に思いっきり殴られ、しばらく気絶していたが、三人目の木場が戻って来た時に丁度目を覚ました。

塔城は目に見えて不機嫌だったので、とりあえず謝罪しておいた。

なかなか機嫌が良くならねぇから困ったが、オレの分の団子をあげることで何とか許しを得た。

 

その後、部長が魔法陣から、兵藤が扉から戻ってきたから皆でお茶飲んで、今日のところは解散になった。

 

明日はオレはチラシ配り、兵藤が契約を取りに行くそうだ。

て事で、明日はオレと兵藤だけがお出かけです。

 

……夜の街を歩くのは初めてだな…。

楽しみだ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

翌日の夜。オレは配るチラシを大量に持っている。

……こんだけ配らなきゃいけねぇのかよ、今日中に終わんのか?これ。

 

「いい?シュウはそのチラシをこの地図に載っている場所にどんどん届けてくること。イッセーは確実に契約を取って代償をもらってくること。分かった?」

 

「へーい」「はい!」

 

返事をして、オレたちは部室を出る。オレも兵藤も自転車走行になるから、ある意味大変だ。

 

現地に向かっている途中、兵藤が話しかけてきた。

 

「なぁ、シュウの神器って、どうやって目覚めたんだ?やっぱ何か特別なことしたのか?」

 

「特に何もしてねぇぞ?

いつの間にか使えるようになってた。」

 

神さんにもらったもんだ。ある程度デカくなったら使えるようになった。

 

「お前は何かしたのか?」

 

「したよ。自分の中で最も強いと思っている人のモノマネを全力ですると、神器が目覚めやすいって部長に聞いたから、皆の前で全力でモノマネをした。」

 

「へぇ〜。ちなみに何したんだ?ブロースの白崎 十護か?」

 

「いや、ドラグ・ソ・ボールの、空孫悟だよ。ドラゴン波をやってみた。」

 

「あ〜、お前あのマンガ好きだったな。今度オレにもそのモノマネ見せてくれよ。オレだけ見れてねぇってのはひでぇだろ。」

 

「いや!絶対にしない。」

 

他愛のない話をすること数分。オレたちはそれぞれの目的地に到着する。

 

「じゃあ、また後でな」

 

「しくじんなよ兵藤君」

 

兵藤は最初の契約者の家の前に立つ。

それぞれ全ての仕事が終わり次第、勝手に部室に帰る事になっている。早く終わらせて帰りたかったオレはさっさと住宅地へと向かった…。

 

ーーーーーーーーーーー

 

ピ〜ンポ〜ン

 

……コレで三回目のインターホンなんだけどな?

 

あ、紹介が遅れました。兵藤です。

 

俺は今、チラシを使って悪魔を呼んでいる人、所謂契約者の家の前にいるんだ。

そこで、すでに三回インターホン鳴らしたのに、反応がない。

呼ばれてすぐに向かったから、まだ契約者は家にいると思ったんだけどな?て言うか、人を呼んどいて留守にするのは酷いだろ。あ、悪魔か。

 

どうしようか困っているときに、俺は鍵が開いているということに気付いた。

俺は玄関の扉を開けて、中に声をかける。

 

「こんにちは〜、依頼されて参上しましたグレモリー使いの悪魔で〜す。」

 

しかし、中からは返事が返ってこなかった。不思議に思った俺は

 

「すいませ〜ん、勝手に入りますよ〜?」

 

と声をかけて家に上がる。

廊下は電灯がついておらず、真っ暗だった。

 

驚かそうとしている…って雰囲気じゃないな……。

 

暗い廊下を歩き続け、俺はその家のリビング前の扉の前に立つ。

リビングも電灯はついていないが、ロウソクか何かの火が点いているのが分かる。

 

「あのー、グレモリー使いの悪魔ですけど…依頼者の方、いらっしゃいませんか〜?」

 

……やっぱり返事が返ってこない。

けど中の火が気になるし、入ってみるか……。

 

「失礼しま……うわ!⁉︎」

 

俺は思わず、驚愕の声をあげてしまった。

何故なら、壁に逆向きに磔にされた死体を見つけたからだ。

その死体には、あちこちに切られたような傷が付いており、さらには傷口からも臓器が出ている。かなり残酷な死体だった。

 

俺はたまらず、胃の中に溜まっているものを吐き出してしまった。

 

…一体、誰がこんな事を……

 

「これはこれは、悪魔ちゃんではあーりませんか〜?」

 

突然、背後から声がしたから振り向く。そこには、白髪の外国人と思われる人間が立っていた。

服を見る限り、こいつは神父のようだ。

 

「俺の名前はフリード・セルゼン。悪魔祓いでございますですよ。あ、あんたの名前は言わなくても良いんで、てか聞きたくねぇんだよ気持ちの悪りぃ悪魔の名前なんざ興味ねぇし。まぁ話はここまでとして、さっさとそこにいる悪魔ちゃんを殺すといたしますか。」

 

フリードはそう言って、自分が持つ刀身がない柄を取り出した。

 

「……お前がこの人を殺したのか?」

 

「そのとーりでごんす。そこのダンナは悪魔を呼び出すとかいうサイテーな事をしやがったクソ野郎なんで、ここで俺が殺したげるってのがいいでしょ?慈悲っすよ慈悲。」

 

「人間が人間を殺すって、そんな簡単にしていいことじゃないだろ!お前らは悪魔だけを殺すんだろ⁉︎」

 

「はぁ〜悪魔のクセして俺に説教っすか?ハハッまじウケるんすけど。悪魔を呼び出す人間なんざ、人間として終わってんだよ。んな奴に生きる資格があるとか思ってるわけ?」

 

クソッ!これ以上話してもキリがない。こいつは俺達よりもよほど悪魔らしいじゃねぇか!

 

フリードは拳銃を取り出し、何もない柄を構える。すると、柄から光の刀身が作りだされ、一本の刀になった。

刀と拳銃を持ったフリードは走り出して刀を振るう。

俺はその刀を悪魔の身体能力で避けることができたが、突然膝に激痛が走る。

見ると、銃で撃たれたような傷ができていた。

 

「どうでござんすか?銃声もならない光の弾丸、祓魔弾のお味は?」

 

光の弾丸、それでこんなに痛いのかよ!

悪魔は光に弱いから、光で作られた武器にはかなり弱い。だからその手の武器を持っているやつと戦うのはかなり不利だ。

フリードは一歩一歩と近づいてきて、刀を振り上げた。

 

やべぇ…もうダメかもな……。

 

そう思って覚悟を決めた時、

 

「やめてください!!」

 

と、聞き覚えのある声がした。

俺は声がした方を見る。そこには、数日前に案内したシスター、アーシアが立っていた。

 

「あーらら、助手のアーシアちゃんじゃないですか。結界張りは終わったんですか?」

 

フリードがアーシアに質問するが、アーシアは壁に張り付いてある遺体を見てしまった。

 

「い、いやあぁぁぁぁ!!」

 

アーシアは悲鳴をあげる。

 

「あれ?アーシアちゃんはこの手の死体を見るのは初めてだったっけ?なら、とくとご覧あれ、悪魔にすがろうとした愚かな人間の結末を。」

 

フリードがそう言って壁のそばにたったが、アーシアは俺の方を見た。

 

「フリード神父…その人は…?」

 

「人じゃないですよ?そこのお方はなんとクズ悪魔でございます。勘違いしないでね?」

 

「ウソ…兵藤さんが…悪魔……?」

 

「そそ、悪魔でごんす。だからそんな奴は俺が殺してやんなきゃいけねぇの。」

 

そう言ってフリードは再び刀を構えて俺の方に歩いてくる。

しかし、アーシアが走り寄ってきて、フリードと俺の間に立ち塞がった。

フリードは、顔をヒクヒクさせながらアーシアに問う。

 

「アーシアちゃ〜ん?君それ何してんのか分かってんの?」

 

「はい、フリード神父…どうか、このお方をお見逃し下さい。」

 

「生意気なこと言ってくれてんじゃねぇぞクソアマァ!!出来るわけねぇだろうが!!悪魔は全部クソだから殺しましょうってのはジョーシキだろうが!!」

 

「それでも!兵藤さんは違います!兵藤さんは決して悪い悪魔ではありません!兵藤さんは私を助けてくださいました。その事実は変わりません!」

 

そこまで言ってくれたアーシアは、横に飛ばされた。どうやら、フリードに突き飛ばされたか叩かれたかされたようだ。

 

「別にお前がどう思ってようが関係ないんでござんすよ。クソ悪魔はクソ悪魔、殺さなきゃいけねぇクズ種族にゃ変わりねぇ。なんなら、そこで見ておくといいと思いますよ?禁断のLOVEってのは、結末がどーなっちまうのか、現実見せて差し上げますんで!」

 

フリードは俺の方に歩き出す。

 

「やめてください!フリード神父!」

 

「ああうるせぇうるせぇ!!こいつぶっ殺したらテメェも再教育してやるから覚悟しとけ!!」

 

俺は力を込めて逃げようとするけど、膝が撃ち抜かれているため逃げられない。銃口をこちらに向けられ、引き金を引かれた。

 

 

 

 

 

 

しかし、弾が当たることは無かった

 

 

 

 

 

 

フリードが持つ拳銃が、窓を突き破って飛んできた何かによって弾かれたからである。

 

 

 

 

 

 

何があったのか、理解できなかった。

飛んできた何かが突き破ってきた窓の方を見る。

窓の外に、誰かがいるのが見える。

 

とても人には見えない何者かは、ジッとこちらの方を見ていた…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

オレは今、ガドル射撃体になって兵藤がいる家にボウガンの矢を撃ち込んだ。

 

最初はかなりビビったぜ。

チラシ配りを順調に終わらせていた時に、聞き覚えのある声で悲鳴が聞こえてきて、その悲鳴の発生源に着いてみりゃそこは兵藤が最初に入った家で、ついでに中で兵藤が殺されそうになってんだ。

 

焦ってガドル射撃体に変身して、兵藤を撃とうとしているヤツの拳銃を撃ち抜いてやった。

うん、ナイスな狙いだ。

 

『何すか何すか?今度は何なんすか一体?そして誰なんだよテメェは。悪魔なんすか?悪魔には見えないけど。』

 

…分からねぇ言葉は無視して、オレはあいつの姿を見る。

 

なるほど、悪魔祓いってことか。

しかも室内の様子を見る限り、こいつはかなりやりすぎな奴だが、そこまでする理由が何かあるかもしれねぇ。

ただの悪人なのか、とても証明できねぇな。

 

仕方ねぇ、とりあえずは幼なじみいじめてくれたお礼をさせてもらうか。

 

『誰なんだって聞いてんだよ!!無視してっとテメェもそこらへんのゴミ虫と同じようにぶっ殺すぞ!!』

 

「…ザラセ ビガラン ボゲザ ビビダブ バギ(黙れ、貴様の声は聞きたくない。)」

 

分かんねぇ言葉で話しかけられたから、相手も分からねぇだろう言葉で返す。

確実に会話になってねぇ気がする。

 

オレは俊敏体になり、胸の石をとって槍を作り、その家に向かって走り出す。

あの男もこっちに走り出してきた。まぁ、そっちの方が好都合だ。兵藤やアルジェントを巻き込む心配をせずにすむ。

 

男は刀を振り下ろし、オレはそれを受け止めるように槍の先を当てる

その後すぐに刀を下に流しながら槍の柄をヤツの頭に向けて振る。

ヤツは少しだけ頭を後ろに戻すことでその柄を避けて距離を取る。距離をとったヤツは拳銃をかまえ、何発か連射する。

オレは槍を右に左に振り回しながら全ての銃弾を叩き落とす。

……銃声もならねぇし、銃弾は見えねぇから大変だったけどな。

まさか全て叩き落されるとは思っていなかったのか、ヤツは舌打ちをしてこっちに突っ込んできた。

そっから、刀と槍との打ち合いが始まる。右から来たり左から来たりする刀を弾きながら、オレも攻撃する。

だが、ヤツの速さも中々のもので、オレの攻撃にもすぐに反応して避ける。

けど、武器の方には配慮できてねぇ。

オレは一度思いっきり槍を振り上げる。男にではなく、刀に。

すると、刀は簡単に男の手を離れ、回転しながら飛んでいく。

すかさず、オレは槍を回しながらオレの腰の位置に運び、一思いに突き刺す。

ヤツの懐にある拳銃を破壊して、ついでにヤツも吹き飛ばす。

ヤツはまっすぐ飛んでいき、どこぞの家の外壁にぶち当たった。

少しだけ口から吐血して、ヤツはガクッと体を傾けた。

オレはヤツに近寄り、奴の様子を見る。

気絶しているようだ。

止めをさすことも考えたが、さっきも言ったように、あの光景だけじゃこいつがただの悪人かどうか分かんねぇ。

悪魔に対する、あるいは悪魔を呼ぶ人間に対する憎しみが異常にあるってだけかもしれねぇから、とりあえずそのままにしとく事にした。

 

 

 

 

……さて、と。

 

オレは後ろを振り向き、声を出す。

 

「久しいな、人間の少女よ。」

 

オレの後ろには、オカルト研究部の皆さんが立っていた。




何故八神は皆に自分の正体がガドルであることを隠すのか、それは後々明らかにさせていくつもりです。

…第一章だけで十話以上いってしまうなこれ。


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十話目

俺、兵藤 一誠は目の前で起こっている異常な光景に目を惹かれている。

 

突然現れたあの怪人は、今フリードと戦っているんだ。

 

フリードの動きはかなり素早く、俺の目には全くと言っていいほど捉えられないし、木場と戦ってもいい勝負じゃないかと思えるほど戦いのスキルがあるって素人目でも分かる。

 

けど、あいつはその全ての攻撃を受け流している。

どこかで聞いた話だけど、槍というのは本来遠距離から攻撃するもので、相手の攻撃範囲の中で戦うものじゃないらしい。

それなのに、あいつは刀の攻撃範囲である超至近距離で槍を自在に操り、フリードと戦っている。

 

 

 

……スゲぇ………。

 

 

 

 

戦いに見惚れていた俺の元にアーシアが近づいてきて、両手を俺の膝にかざした。

 

「アーシア、どうかしたのか?」

 

「兵藤さん、少しだけじっとしててください。」

 

すると、アーシアの掌から淡い光が灯り、俺の傷を照らす。

驚くことに、どんどんと傷が治っていった。

その時、俺の左手が、俺の神器が宿っている左手が疼いた。てことは、この能力は神器みたいだな。

 

「アーシア、その能力は?」

 

「治癒の力です。神様から授かった、大事なものなんです。」

 

そこまで説明してくれた時、アーシアの顔が一瞬曇ったのが見えた。

 

……なんか、苦労しているみたいだな…。

 

「…なぁ、さっきアーシアは俺のこと兵藤さんって言ってただろ?

名前で呼んでくれよ、俺たちは友達だろ?」

 

「……はい!」

 

俺の提案に、嬉しそうに答えてくれたアーシア。

……笑顔が可愛いな〜♡

 

 

 

その時、部屋の床が紅く光り、魔法陣が現れた。この紋章は、グレモリー家のものだ。

その魔法陣が消えた時には、その場に部長たちが立っていた。

 

「兵藤くん、助けに来たよ…。と言いたいけれど、敵は?」

 

「まさか、イッセーが倒しちゃったの?」

 

「いえ、違います。なんか、よく分かんない奴が代わりに戦っているところでして…。」

 

「よく分からない方?」

 

皆不思議そうな顔をする。俺もよく分かってないから当たり前か。

俺は窓に近づく。

 

「えっと…。あ、あそこです。あそこで戦っている人間じゃない方です。」

 

とりあえず、戦っている場所を指差し、誰の事かを示す。

窓に顔を寄せて、そこを注目する皆。

 

「! あ、あいつは…!」

 

戦っているヤツの姿が見えた時、部長が声を上げた。

…何か知ってる感じの声だったな?

 

丁度その時、決着が付いたようだ。

怪人の方がフリードのやつを突き飛ばし、気絶させた。

 

スゲェ、結局倒してしまったよあいつ。

 

すると、部長が窓を開けて外に走り出ていった。

 

「部、部長⁉︎待ってください!」

 

俺たちもすぐに後を追う。

 

部長は怪人の真後ろで立ちどまっていた。俺たちもその場に集合したところで、怪人は言った。

 

「久しいな、人間の少女よ。」

 

その声は、すごい威厳に満ちている太い声だった……。

 

ーーーーーーーーーー

【第三者視点】

 

フリードとの戦いを終わらせた異形、ゴ・ガドル・バは、リアス達に声をかける。

リアス以外はこの者に出会ったことがなく、ガドルが言った言葉の意味が分からず動揺している。

すると、彼女達を代表するように前に一歩踏み出たリアスがガドルに言い返すように言葉を放つ。

 

「えぇ、ご無沙汰しているわね異形の者さん。

あの時にあなたが守ってくれた子は、今では立派な悪魔となって活躍しているわ。」

 

ガドルとリアスが顔見知りであったことを初めて知った眷属の者たちは、驚愕の表情を浮かべている。

そして、兵藤はその言葉を聞いて、ある事を思い出した。

自分が天野 夕麻に襲われたあの日も、最後にガドルが助けてくれたのだ。

 

「……悪魔?貴様、人間ではなかったのか?」

 

「えぇ、あの時は嘘をつかせてもらったわ。あの時はあなたの正体が分からないままで私の正体だけ明かすというのも、危険だと判断したからね。

でも、今回は嘘はつかないわ。だって…」

 

そこまで言葉を放ち、リアスは一度深呼吸をする。

彼女には、ある確信があった。

 

 

 

 

 

 

「あなたの正体が分かったもの。あなた、グロンギでしょ?」

 

 

 

 

 

 

その言葉が発せられたと同時に、眷属達は戦闘態勢に入る。

グロンギと言えば、先日彼らを半壊目前まで追い詰めた種族。

その時の恐怖が、再びこの場にいるほとんどの者に襲いかかったのだ。

 

ガドルはその光景を、見届けている。

 

「詳しいな。いかにも、私はグロンギである。」

 

ガドルから放たれた言葉は肯定。つまり、自分が彼らにとって敵となりうる存在であると認めたのだ。

 

「部長!こいつ、どうすればいいですか⁉︎」

 

この中で、そのグロンギにこれまでに二度助けられた形になる兵藤は、迷いの意思があるらしく、リアスの決断に委ねる。

 

リアスも少し考えているのか、まだ決断の声は上がらない。

 

緊迫した空気がこの周囲に吹く。

 

 

 

しかし、時間はいつまでも続くわけでは無かった。

 

ガドルは遠い空を見上げる。

 

「二十…いや、三十はいるな。

貴様ら、いつまでもこんな所で遊んでいる暇は無いのではないか?」

 

その言葉を聞いた木場は、すぐに大量の堕天使の気配を感じ取った。

 

「部長!こちら側に大量の堕天使が接近しています!このままここに居れば、僕たちにも危険が!」

 

「分かったわ、朱乃!すぐに転送魔法の準備をして!」

 

「分かりました。」

 

リアスから指示が飛び、魔法の準備を整え始める朱乃。

 

「イッセー!行くわよ!」

 

「部長!アーシアも一緒にお願いします!」

 

アーシアも一緒に連れて行って欲しいと頼む兵藤。

彼は、アーシアをこのままこの場に残しておくのは危険だと判断したのである。

 

「ダメよ。私の魔法陣では、私の眷属しかとばせないの。」

 

しかし、現実は残酷であった。

兵藤は長い間悪魔として生活してきたため、今回は何とかジャンプできるだろう。

しかし、眷属でもなければ悪魔でもないアーシアは、ジャンプする事は不可能である。

 

「そんな…じゃあ、アーシアを置いていけって言うんですか⁉︎」

 

「いいんです…いいんですよ、イッセーさん。さぁ、速く行かれてください。」

 

「けど…それじゃアーシアが……!」

 

フリードは先ほど、再教育してやると言った。アーシアが何をされるか分からないから、このままにしておきたくはなかった。

 

しかし、どうしようもないのもまた事実である。

 

(どうすればいいんだ…どうすれば !!)

 

 

悩みを抱える兵藤に、とある言葉がかけられる。

 

 

「ならば、私がその娘を守ってやろう。それならば、少年も心置きなくいけるだろう?」

 

 

ガドルが、アーシアを守る。そう言ったのだ。

 

その言葉は、最初こそ信じられなかった。

先日、自分達を襲ったヤツと同じ種族である真実。それは、ガドルを信用しない十分な理由である。

 

しかし、兵藤の中では、段々とガドルに対する疑惑が薄れてきたのである。

何故かは分からない。最初に自分が守られたからか。

いや、それ以上に、なぜかこの異形を信頼し始めてきたのである。

 

 

「なら、頼むぜ!アーシアを泣かせたりしたら承知しないからな!」

 

「心得た。」

 

いつの間にか、兵藤はガドルにアーシアの事を頼んでしまった。

だが、不思議と不安は残らなかった。

兵藤はすぐに魔法陣の上に乗る。

 

「……感謝するわ、シスターさん。……それから、グロンギ。」

 

リアスの最後の一言の後、魔法陣に乗ったものはすぐに転送された。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

…ふぅ、やっぱ慣れねぇもんだな。人の目につくところにこの姿で現れるってのは。

皆は前のブウロに襲撃を受けて、グロンギ相手にはあまり好印象ではないようだ。現に今のオレの姿を見て、敵だと判断した。

 

…それでいい。オレは皆に危険を脅かすつもりは毛頭ないけれど、この姿のオレを味方だなんて認識しない方がいい。グロンギってのは、そういうヤバい連中の集まりなんだからな…。

 

 

 

『あ、あのぅ、カブト虫さん?』

 

 

おっと、そうだった。考え事をしているヒマは無ぇんだったな。

 

さて、どうするか…。

 

こいつの家に送ったり、教会に送り届けるのはダメだな。敵陣に宝を置きに行く事になる。

 

となると、まずは宿泊できる施設だな。それなりに姿を隠せる場所がいいだろう。

あと、フランス語を喋ることができる人がいりゃあいいんだが…、これは願望だな。

 

その条件でいけば、一つだけ心当たりがある。この街にそこそこの大きさのホテルがあるから、そこなら大丈夫だろう。

 

じゃあ、まずはそこまでアルジェントを送るとしますか!

 

オレは俊敏体に変わり、アルジェントを抱えてから、一気に走り出した。

 

『きゃあぁぁぁぁ!速いですぅぅぅぅ!』

 

アルジェントが何か叫んでいる。申し訳ない、分かりません!

最初に悲鳴をあげたし、速いという単語が聞こえたから、多分速すぎるという主張だろうが、無視だ無視!

 

走っている最中に、前からも堕天使どもが邪魔してきた。

堕天使の攻撃を避けつつ、時々水の錬金術で攻撃する。当たったり当たらなかったりだが、まずはホテルの近くまで送ることが最優先事項だ!

 

 

走り続けること三分。オレは目的のホテルの近くに着いた。

ここを左に曲がれば、この街一番のグランドホテルがある。そこなら、フランス語を話すやつがいるのは確実だが、あれはフェイクだ。

実際の目的はここを右に行ったとこにあるホテルだ。

一応ここで後ろにいる堕天使は殲滅するつもりだが、ここまで来たのを見た堕天使が運良く逃げ切ったとしても、まずは左のグランドホテルの方を探すだろう。

 

 

オレはアルジェントを下ろす。

アルジェントは、かなり疲れたようにハーハー息をしている。

君が無茶をする羽目になったのはオレの責任だ。だがオレは謝らない。

 

「そうだな…『お前、ホテル、泊まる、左、違う、右、正解』」

 

どうか伝わりますように!その願いを込めて、わかる単語を並べて説明する。

 

アルジェントは首を傾げながらも、オレの言った単語を聞いている。

 

『あ、分かりました!つまり、右にある宿泊施設に泊まればよろしいのですね?』

 

アルジェントは納得してくれたのか、オレに何かを尋ねてくる。

……何言ってんのかは分かんないけど、多分オレが言いたいことは伝わったんだろう。

オレが頷くと、アルジェントはすぐに行動に移す。

右に曲がってまっすぐ進み、オレが考えている通りのホテルに入っていった。

 

よかった、分かってくれたみてぇだな。

 

後ろを振り向くと、大勢の堕天使が飛んで来ているのが見える。

 

んじゃ、後はオレの仕事だ。

 

一応兵藤との約束だ。キッチリと果たしてやる。

オレは堕天使の軍勢に向かって、突撃していった。

一人、また一人と倒していき、最後はそこにオレ以外の誰も立っていなかった。




今日は二話連続投稿です。
余りにもヒマだったので…。


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十一話目

追っ手の堕天使を殲滅したオレは、

アルジェントが入ったホテルの様子を見る。あ、もちろん人間態ですよ。

 

フランス語が話せない人がいる確率が高いんだよな〜。そうなると、手続きもクソもねぇからな。

 

けど、ロビーにはすでにアルジェントはいなかった。

 

不思議に思ったオレは、そこの支配人に聞いてみる。

すると、アルジェントはすでに手続きを済ませて部屋に向かったと言われた。

 

よくフランス語が分かったな〜と感心していたが、どうやらそのホテルは、国内客ではどうしても近くのグランドホテルに負けるから、せめて国外客だけでもってことで、そこで働く人は何か一つバラバラの外国語を話せるようにしているそうです。

もちろん、フランス語担当の人もいるから、その人がアルジェントを案内したらしい。

 

……それって、あのグランドホテルがフェイクになんのか?

 

妙な心配を抱えたまま、オレはチラシ配りを再開した。

 

ーーーーーーーーーー

 

翌日の放課後の話だ。

 

「…そんな事があったんすか。」

 

オレは今部長から昨日の出来事の大体の説明を受けたところだ。

 

オレは昨日、チラシ配りを終わらせた後にそのまま帰ったことになっている。

だから、昨日あったことは知らない設定なんだ。

 

まぁ、昨日は他に特に何もないから、これといった異変は起きてねぇ。

 

強いて言うならば一つだけある。

 

「それで、兵藤は今日は休みなんすね。」

 

今日、兵藤が学校を休んだのだ。

あいつ、高校に入ってからは今まで無欠席だった。だから、コレはあいつの初めての欠席なんだ。

女子の着替えなるものを見るために、ハーレム作るために学校に来ているから、休もうとしたことがないってのが正確なんだけどな。

隣のクラスは当然だけど、学園中が大喜びしてた。着替えを覗かれずに済むってんでな。

 

兵藤が休んだ理由には、恐らく部長が兵藤に気ぃ使ってやったってのがあるんだろ。

まぁ、かなり疲れた顔してたからな…。

 

「えぇ、そうなの…」

 

 

……なんか今日、この人変だな。

なんか、意識ここにあらず〜、みたいな?

常にボーッとしてなんか考えてる

 

 

「…部長?他になんか悩み事っすか?」

 

一応、声をかけてみる。すると、部長はそれこそ悩みを打ち明けるように相談してきた。

 

「ねぇ、シュウ。グロンギって、全員が人間を殺すことを簡単にする非道なヤツらなのかしら?」

 

……その事か。

多分、この人は悩んでいるのかもな。オレ…と言うか、ガドルを攻撃対象として見るかどうかを。

オレ自身は攻撃されたくない。ガドルの姿でいるとき限定であっても、皆に敵と思われたくないってのは正直な気持ちではある。

 

…でも、だからと言ってグロンギという種族が皆にとっての敵であるのは間違いないんだ。皆にとっても。そして、オレにとっても…。

 

「…オレが見た中には、かなり外道なヤツもいました。その上、人間を殺すことに悲しみの感情を抱くようなヤツは逆に見たことありません。ほんの一部には人間と接触することに興味を持っていたヤツもいます。そいつぐらいのもんじゃないっすか?警戒心を若干軽くしても大丈夫なヤツは。

ですが、九割がたのグロンギは。いや九割九分九厘がたのグロンギは敵としてみた方がいいと思います。残りの一厘も、決して味方として見てはいけないと思います」

 

「そう…。分かったわ、ゴメンね変なこと聞いちゃって。」

 

「いえ、別に構いやしませんよ。」

 

 

ある程度話がひと段落ついたところで、部室の扉が乱暴に開けられた。

そこには、今日学校を休んだはずの兵藤が、息を切らせながら立っていた…。

 

ーーーーーーーーーーー

時は少し遡る…

 

 

俺は、部長から休みを取るように言われて今日は学校を休んだ。

けど、特にすることがなくて今は近くの公園のベンチに座っている。

 

…アーシアは無事だろうか、そのことをずっと気にしている。

 

あのグロンギ?にアーシアの事を頼んだけど、やっぱり心配なんだ。今はどこで何をしているのか、気にしだすとキリがないくらい。

 

「ハァ……。」

 

思わず、溜息を吐いてしまった。

 

顔を上げると、前のベンチにはかなりの金髪美少女が座っているのが見えた。

……あの子、可愛いな。

もしあの子がアーシアだったら、すぐに話しかけるんだけどな…。

 

 

 

……ん?

 

 

 

あれ?いやちょっと待って?

 

 

 

あそこに座っている子って……!

 

 

 

「アーシア⁉︎」

 

 

思わず、声をかけてしまった。

俺の前に座っていた金髪美少女は、ビックリしたように顔を上げる。

 

 

「イッセーさん!どうしてこちらに⁉︎」

 

 

その顔は、忘れもしないアーシアの顔そのものだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「そっか、逃がしてもらえたのか。」

 

俺とアーシアは、今近くのファーストフード店にいる。

最初は食べ方が分からずに困惑していたアーシアも、今は夢中でハンバーガーを食べている。

 

……食べ方も可愛いな〜♡

 

アーシアから聞いた話では、昨日はあのグロンギがこの近くのホテルまで送ってくれたらしい。

頼りになるいいヤツだったみたいだ。

 

「はい!あのお方には、感謝してもしきれません。お陰で私も今、こうやってイッセーさんと食事ができるのですから。」

 

そう言うアーシアの顔は、どんどん暗くなっていく。

 

…何かしてやりたい、アーシアの為にも。

 

俺はいろいろ考えたけど、何もいい案が出てこない。……だったら!

 

「アーシア」

 

「え?はい、どうしたんですか?」

 

「せっかくだし、今日は思いっきり遊ぼうぜ!」

 

「……はい!」

 

アーシアは満面の笑みを浮かべて答えてくれた。

 

ーーーーーーーーーー

 

俺たちはあの後、ゲーセンに行って色々な遊びをした。

レーシングゲームをしたり、クレーンゲームしたり、プリクラを撮ったりした。

アーシアはホントに楽しそうに俺と遊んでくれた。

 

今は、さっきの公園に戻って二人で座っている。

ベンチで楽しく話している俺たちの目の前で、一人の男の子が転んだ。

膝を擦りむいたようで、泣いてしまった。

アーシアはすぐに立ち上がって、その子の膝に手を添える。

あの時に見せてくれたのと同じ、治癒の神器だ。

膝のキズがすっかり治った男の子は、また元気に走り出していった。

 

「凄いな、アーシアの神器は。俺も神器を持っているけど、能力はてんで分からないし、役に立っていないんだ。」

 

さりげなく話しかけてみる。

すると、アーシアは少し俯いてしまった。

どうしたのか声をかけようとしたところで、アーシアの目から涙が溢れたのが見えた。

 

どうして泣いてるのか色々考えているところに、アーシアの口から衝撃的な過去を告げられた。

アーシアはその治癒の力を持つことで、かつては聖女とまで呼ばれていたらしい。

けど、アーシアの近くで倒れていた悪魔を治療してしまった日から、教会の連中の態度が激変した。

聖女と呼ばれたアーシアは魔女に成り下がってしまい、教会から見放されてしまった。

そして、行き場がなかったためにフリード達の下についた。

 

…重すぎる。まさかアーシアにこんなに酷い出来事があったなんて…。

 

「イッセーさん、私には夢があるんです。普通に、お友達と買い物に行ったり、おじゃべりしたり、お友達と、いっぱい、色んな、ところに行ったり…」

 

嗚咽交じりにアーシアは語る。

 

…こんな時にはどうしたらいいんだろう。

木場なら、アーシアの心の闇を理解して、少しでもアーシアの心を軽くさせてやるだろう。

シュウなら、闇の原因となるものを駆除しに行くかもしれない。

けど、俺にはどちらも出来そうにない…。

 

……だったら、俺にできることでアーシアを元気付けてやる!

 

「だったら、俺が友達になってやるよ!今日はいっぱい遊んだ!これからも買い物でもおじゃべりでも、なんでも付き合ってやる!」

 

「イッセー…さん……?」

 

「だから…俺と!」

 

 

 

 

友達になってくれ。

 

 

 

 

 

その言葉を邪魔するかのように、冷たい言葉がかけられた。

 

 

 

 

 

「無理よ、そんなことはさせないわ。」

 

 

 

 

 

俺は声がかけられた方を見る。

そこには、かつての俺の彼女であり、俺を殺そうとした張本人の堕天使。天野 夕麻ことレイナーレがいた。

 

「こんなところで会えるなんてね。

あの変な化け物のせいで殺し損ねてしまったけど、まさか悪魔になっていたなんて…。」

 

レイナーレは、俺を馬鹿にするような口調で話しかけてくる。

 

その後、アーシアの方に向き直り、話を続けた。

 

「やっと見つけたわアーシア。さぁ、帰るわよ。」

 

「嫌です。人を簡単に殺すようなところには戻りたくありません。」

 

アーシアが珍しく暗い感情を込めてレイナーレの言葉に返す。

 

俺はアーシアの前に立つような形でアーシアを守ろうとする。

 

「どいてくれるかしら?その子は私の物なんだけど。」

 

「アーシアは物じゃない!一人の人間なんだ!お前みたいな、腐った頭した奴らに渡すものか!」

 

絶対にアーシアは渡さない。何があっても守ってやる!

 

「どうやら、本当にこの世界から消されたいようね。」

 

レイナーレが光の槍を作り出し、構える。

俺はすぐに自分の神器を発現させる。

すると、俺の左腕を覆うように籠手が形成された。

これが俺の神器、『龍の手』だ。

 

それを見たレイナーレは、突然笑い出した。

 

「何かと思えば、ただの龍の手じゃない。心配して損したわ。そんなありふれた神器、無視しとけばよかった。」

 

「例えありふれた神器でも、お前を倒す力にはなる!」

 

「ならないわよ、私とあなたではかなりの実力差がある。」

 

俺は神器の能力、所有者の力を倍加させる能力を使ってレイナーレの元に走り出し、パンチを繰り出す。

しかし、レイナーレはいとも簡単に避けてしまい、俺はレイナーレの姿を見失ってしまう

 

クソッどこに行った!

 

見失ったレイナーレを探すため、俺はあちこちを見回している

そして、俺はその愚行を恨むことになる。

 

「グハッ!!」

 

「イッセーさん!!」

 

レイナーレは、少し離れた距離から槍を投げて俺の腹を貫いたのだ。

 

……あの頃と同じ痛みだ…ヤベェ、痛え!

 

「分かった?一の力が二になったところで、私には勝てないのよ。」

 

皮肉と受け取れる言葉を放ち、レイナーレは再びアーシアに向き合う。

 

「さぁ、どうするの?あなたがもし大人しく着いてくるのなら、私は彼に手を出しはしないわ。

着いてこないのなら、残念だけど彼をこのまま殺すわよ。」

 

!…こいつ、俺を人質にしようってのか!

 

「ダメだ…アーシア……行ったら…もう……。」

 

俺はアーシアに言葉をかける。

けど、アーシアはレイナーレの方を見て、こう言った。

 

「…分かり…ました……。ですから、せめて、治療だけでも、やらせてください……。」

 

「……いいわよ。」

 

俺はこの会話を聞いて、俺の中の何かが崩れ落ちたのが分かった。

俺を治療してくれているアーシアは、泣いていた。

治療を終えて、去り際に言葉を残す。

 

「さようなら、イッセーさん…。楽しかったです……!」

 

そして、アーシアはレイナーレに連れて行かれた。

 

 

 

 

……何が、助けるだ!俺はまた、守れなかった……!

 

 

 

「チクショオォォォォォ!!」

 

 

誰もいない公園に、俺の声だけが響き渡った…。

 




今回は兵藤君がメインの話でした。
連れ去られていったアーシア…果たして、彼女の運命は⁉︎
て事で、次回!奴らの元に殴り込む話になります!


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十二話目

【第三者視点】

 

 

パン!

 

 

乾いた音が部室中に広がる。

どうやら、兵藤がリアスに叩かれたようだ。

兵藤はあの後、一度部室に戻り、リアス達に何があったのかを説明したのだ。

そして、アーシアを助けに行く許可を貰おうとしたが、リアスの口から出た答えはNoだった。

教会側、つまり神の派閥であるアーシアと、悪魔の派閥である兵藤は、これ以上関わりを持つことはどちらにとっても危険なことであるのは確かである。

ましてや兵藤はグレモリー眷属の一人。身勝手な行動で、魔界に影響を与えるようなことになってはならないのだ。

もちろんその答えに納得しない兵藤がリアスにしつこく詰め寄り、そして叩かれたのである。

 

「何度言ったら分かってくれるの?ダメなものはダメよ。あなたはグレモリー眷属なのよ?」

 

リアスは諭すように兵藤に説明する。しかし、兵藤はその程度では納得しない。

 

「だったら、俺を眷属から外してください。俺一人でもアーシアを助けに行きます。」

 

その言葉に、様々な反応をする他の眷属達。苦笑いをする者、呆れた視線を向ける者、顔をしかめる者。

そして、眷属ではない者は、兵藤がいる方とは真逆の方向を見て茶を飲んでいる。

彼らがそんな反応をするほど、今の彼の発言は愚かであった。

 

「できるわけないでしょう。」

 

リアスは眷属の者たちを何よりも大事に扱うことを信条とする。そんな簡単に見捨てることなど、できるはずがないのだ。

しかし、まだなお食い下がろうとする兵藤。

 

「俺って、チェスで言う兵士なんですよね?兵士のたった一人くらい抜けたところで」

 

 

ドンッ!!

 

 

そこまで言ったところで、彼の言葉は掻き消された。テーブルに叩きつけられた湯呑みが出す音によって。

 

その場にいる誰もが、その音の発生源を見る。

そこには、明らかな不快感をさらけ出している眷属ならざる者。八神が座っていた。

 

「……あんま図に乗んなよ?兵藤。」

 

八神は重く、そして鋭い声で兵藤に語りかける。

 

「お前さっきから黙って話聞いてりゃ、随分自分が強いみてぇなこと言ってくれてるよなぁ?

一人で助けに行ってきます?笑わせんな。テメェが一人で突っ込んで行って何になるってんだ?

悪魔になって日が浅く戦闘経験もロクにねぇお前一人と、長い間堕天使やってて戦闘経験もそれなりの軍勢が戦えば、どうなるか分かってんのか?お前百パーセント死ぬぞ。」

 

「…そんな事は分かってる。けど、それでもアーシアだけは!」

 

「さっきからアーシアアーシアって言ってるけどな、そんなにアルジェントが大切だってんなら、ちょっと考えてみろ。この国のお友達が、自分を助けにきてくれた結果死にましたってなりゃ、そいつは一体どう思うよ?

もう、アルジェントから笑いの表情が一切無くなるぞ?」

 

そこまで一気に畳み掛けたことで、兵藤は黙ってしまった。

他の部員たちは何も言わず、二人のこの後の会話を見届ける事にしたようだ。

 

「なぁ兵藤。お前さ、兵士はほとんど無駄な駒かなんかとか思ってねぇか?」

 

ふと、彼は声を元に戻して兵藤に問いかける。

兵藤は一瞬困惑したが、その後その意見を肯定するように

 

「……ちがうのか?」

 

と聞き返す。

八神は一度笑みを浮かべると、以下のように語った。

 

「ボードゲームには、無駄な駒なんかねぇんだよ。例えばトランプで大富豪する時、三は最弱のカードだ。だが革命さえ起こせば、ジョーカーの次に最強の手札になる。

兵士だって同じさ。」

 

八神はどこから取り出したのか、チェスの兵士、騎士、僧侶、戦車、女王の駒を指に挟む。

 

「兵士は前一歩しか進めねぇし、斜め前一マスの敵駒しか取れねぇようなヤツだよ。けど、他の駒と組み合わせて使えば、相手の王を追い詰める切り札にもなるんだ。」

 

そこまで説明し、指に挟んでいた駒を下ろした。

そのまま兵藤に向かって歩く。

真横に来て兵藤の肩を叩き、最後に呟いた。

 

「たった一人くらい抜けたところで云々とか、訳分かんねぇ言ってんじゃねぇよ。」

 

その言葉を聞いて、兵藤を除く部員たちは微笑む。

そして八神は、「すんません、ちょいと用事があるんで先に帰りますわ。」と言って、部室を出て行ってしまった。

その様子を見て、リアスは溜息をついて再び兵藤に向き合う。

 

「まぁ、大体はシュウが言ってくれたから省略するけど、あともう二つだけ言わせてもらうわね。

兵士には昇格っていう能力があるの。それは、敵本陣に乗り込んだときに他の駒の性質を使うことができるようになるもの。

もちろん、それは悪魔にも適応されるわ。敵本陣に行くことで、あなたは他の皆の力を使うことができるようになるわ。それこそ、教会とかにね。」

 

その言葉は、兵藤に少しだけ希望の光を見せた。

そして、リアスはその後も語り続ける。

 

「もう一つは、神器を使う時のアドバイスね。

神器は、想いの力に反応して能力を発揮するの。だから、神器で戦うときは常に想いなさい。なぜ戦うのか、その理由をね。」

 

「想いの…力に…。」

 

そう言ったところで、朱乃がリアスに何かを耳打ちする。だんだんとリアスの顔が険しくなっていった。

 

「私と朱乃は、急に用事ができたから少し席を外すわ。朱乃、魔法陣の準備を」

 

「分かりました。」

 

「部長!話はまだ終わって!」

 

「いいこと?たとえあなたが昇格したとしても、一人で戦って何とかなるほど堕天使は甘くないわ。」

 

リアスはその言葉を残し、朱乃と二人でどこかへ飛んで行ってしまった。

 

「……そんなこと、分かってますよ。」

 

兵藤は呟き、部室の扉に向かって歩き出す。

そこに、木場の声がかけられる。

 

「行くのかい?殺されてしまうよ?」

 

「そんな事は関係ない!何があっても、アーシアは逃がす!」

 

「それは、無謀というものだよ。」

 

「うるせぇ!」

 

勢いよく後ろを振り向くが、兵藤の視界に入ったのは剣を構えた木場と、右手の拳を左手で包む小猫だった。

 

「僕たちも行くよ。君だけだというのは危険すぎる。」

 

「……先輩達だけだと、不安です…。」

 

「…え……でも…。」

 

「部長はたとえ君が昇格してもっておっしゃっただろう?それはつまり、教会で昇格出来るようになったってことだ。部長が教会を敵本陣と認めたからね。

部長は、あそこに攻め入ることを許可してくださったんだよ。」

 

「…八神先輩もそうだと思います。

他の駒と組み合わせると言うのは、私たちと一緒に戦えば、という意味にも取れます……。」

 

「…二人とも…。ありがとう!」

 

 

こうして、三人は部室を出て、堕天使達の本拠地に向かっていった…。

 

 

ーーーーーーーー

 

俺、木場、小猫ちゃんは教会の前に立っている。

着いてみれば、中からかなりの殺気やら魔力やらが渦のようにうごめいているのが感じられた。

 

「…こんなトコに一人で来てたら本当に死んでたかもな。ありがとう、二人共。」

 

「いいんだよ、友達の戦いは僕の戦いなんだ。それに…」

 

その時、俺は木場から嫌な空気を感じた。

 

「個人的に、教会とかは好きじゃないんだ。憎いほどにね…。」

 

笑顔が消えた木場がそう言うのは、かなり怖かった。

 

…木場も、昔何かあったのかも知れないな……。

 

「って、小猫ちゃん?何してるの?」

 

俺たちが気付いたときには、小猫ちゃんが教会の正面玄関っぽい扉の前に立っていた。

 

「…恐らく、私達が来たことはバレているので……。」

 

そう言うと、思いっきり扉を蹴り飛ばした。

すごい音がして、扉は真っ直ぐに飛んで行った。

 

…流石にそんな堂々とやらなくてもいいんじゃ……?

 

中には、かなりの数の神父と堕天使がいた。

そして、俺は見知った顔を見つけてしまった。

 

「フリード!!」

 

あの時に会ってしまったクソ神父、フリードだ。

 

「やあやあ悪魔さんご機嫌麗しゅうございます。あん時にお前をぶっ殺して快感得ようとしたときに邪魔してくれちゃったあのカブト虫くんはいないのかい?今度こそあいつを切り刻んでやりてぇんだけど。

まぁ、いない奴ねだっても仕方ねえからそこにいる悪魔どもぶっころすことにしてやらあぁぁ!!」

 

あの時同様に、すらすらと虫唾が走る言葉を吐いて突っ込んできた。

迎え討とうとした所に、横から俺を守るように立ってくれた奴が一人。

 

「大丈夫?兵藤くん。」

 

「木場!」

 

木場だった。木場とフリードは、互いの獲物をぶつけ合いながら高速で移動する。あちこちに火花が散る。

フリードは木場に任せよう。じゃあ俺は他の堕天使達を相手してやる!

 

見ると、小猫ちゃんが教会にある椅子を投げながら堕天使達をなぎ倒していた。

 

俺もそこに参戦するため、走り出した…。

 

ーーーーーーーーーー

【第三者視点】

兵藤達が乗り込んだ教会の裏側の門に、突如紅い光とともに転移の魔法陣が現れた。光がおさまり、転移された人物が姿をあらわす。その人物はリアスと朱乃だった。

 

この二人は、用事を早く済ませてしまい、こうして兵藤達の援護にきたのである。

 

 

「悪魔さん二名ご来場でーす。」

 

見ると、堕天使と思われる女性が裏門に立っていた。

どうやら、門番のようだ。

 

「私は堕天使、ミッテルトと申す者です。短い間でしょうが、以後お見知り置きを。」

 

「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。」

 

「裏門にも門番とは、かなり警戒しているようね。」

 

挨拶を交わすミッテルトと朱乃。そして、挑発するように言葉を放つリアス。

 

「警戒というか、こそこそ裏から入ってこようとする可能性大じゃね?って思ったから裏に来たってわけ。そしたら案の定あんたらが来たのよ。」

 

「あら、それは残念ね。すでに本命は表から入ったわよ?堂々と。」

 

「別にあんたら以外の連中はどうでもいいのよ。正直言って、あんたら以外なら中の神父達でもなんとかなるっしょ?」

 

「余りうちの下僕たちをバカにしないでちょうだい。」

 

兵藤達の事を軽く見られたことに腹を立てながら、リアスはミッテルトに言葉を放つ。

 

「ま、どーでもいい事はここまでとして、こっからが本番っすよ。出でよ!カラワーナ!ドーナシーク!」

 

その言葉とともに、二人の堕天使が続いて降り立った。男と女が一人ずつである。よって、今ここに二人の女、一人の男の堕天使が参上した。

 

「朱乃」「はい。」

 

リアスは朱乃に、名前だけを呼んで指示をする。

しかし、意思は伝わったようで、朱乃は雷を纏って戦いの準備に入った。

 

駒王学園の二大お姉様と、堕天使三人衆の戦いが始まった。

 




戦いは次回に続きます!


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十三話目

【第三者視点】

 

朱乃によって裏門に張られた結界の中の戦いは、とても凄まじい攻防であった。

朱乃は自分の異名『雷の巫女』にそって自由自在に雷を操って戦い、堕天使達は各々が作り出す光の槍を投げる。

そして、リアスはその戦いの展開を外から見守っていた。

と言うのも、この結界は堕天使達を逃さないようにするための檻の役目でもあるが、リアスを守るための盾の役目でもあるため、必然的にリアスは結界の外に出てしまうのだ。

 

「クソッ!やってくれるじゃない!」

 

「たかが一人の悪魔に!」

 

「…ミッテルト、カラワーナ。我に少し考えがある。」

 

女堕天使の二人は、結界の中の一人の悪魔、朱乃に攻撃を当てることに必死になっていたが、男堕天使のドーナシークは冷静に作戦を練っていた。

 

「考えって、何⁉︎」

 

「この結界はあの悪魔が張ったものだ。そして結界を破壊すれば、術者となるものにダメージを与える事が可能である。」

 

「確かにそうだが…!なるほどな。分かった。」

 

「え〜!何々⁉︎教えてよ〜!」

 

ドーナシークの説明により、カラワーナはその作戦の意図を理解する。

まだその考えが理解できていないミッテルトは必死にその作戦の意味を聞き出そうとする。

 

 

 

「つまりだな、この結界を先に破壊してしまえば、術者である雷の巫女に隙が生まれ、さらにグレモリーを狙うことも可能になるわけだ。」

 

 

 

この言葉によって、ミッテルトもその意図を理解した。

 

 

 

「では、行くぞ!」

 

三人は一気に各々の最大の力を込めた槍を作り出し、ある一点に向かって投げた。

槍と結界がぶつかり、結界に小さくヒビが入る。

そのヒビは、徐々に大きくなっていき、ついに結界を破壊してしまった。

 

「きゃあ!」

 

「朱乃⁉︎」

 

予想通り朱乃に隙が生まれ、リアスを守るものが無くなる。

 

「今が好機!」

 

三人は再び槍を作り、それぞれの獲物に向かって突き進む。

 

ドーナシークは朱乃を、他二人はリアスを狙っている。

 

 

「もらったぁ!」

 

 

勝利を確信した三人。

 

 

 

 

 

 

しかし、そう簡単にはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

突如、大地が形を変えて棘のようになり、ドーナシークを貫く。

 

 

黒い魔力の球がカラワーナの羽根に当たり、羽根が消え失せる。

 

 

大きな雷が降り注ぎ、ミッテルトを焼き焦がす。

 

 

「グハッ…⁉︎」

「何…だと…?」

「アベベベベ!」

 

 

何が起きたのか、理解できなかった。

困惑する三人がいる場所に、声がかかる。

 

 

 

「すみません、ここに来ている途中で堕天使複数の妨害受けてて遅れちまいました。その分、キッチリと働かせてもらうんで許してください。」

 

「それは構わないわ。それより朱乃?私の方より貴方の方を心配しなさいよ。貴方攻撃されていたのよ?」

 

「シュウくんが私の方に向かって地面を叩くのが見えましたので、目の前の殿方を狙っているのが分かったんですの。ですから、部長をお守りしようと決めたんですわ。」

 

 

 

 

突然現れた八神。結界の外で傍観していたリアス。隙が生まれたはずの朱乃の順に話す。

 

この三人、案外余裕そうである。

 

 

「さて、オレはさっさと中入って兵藤の援助に回りてぇんで、この男やったらさっさと行かせてもらいますわ」

 

「ご自由にどうぞ。朱乃?二人なら行けるかしら?」

 

「えぇ、もちろんですわ。三人相手でも大丈夫でしたが。」

 

 

 

この時、朱乃の笑顔が黒くなっていたのは別のお話。

 

裏門の決戦、第二幕が始まる。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「我が名はドーナシーク。貴様何者だ?見た所、悪魔ではなさそうだが…。」

 

別に名乗ってくれって頼んでもねぇのに名乗ってきやがったぞこのオッサン。

そんな事してる時間も惜しいんだよ、雑魚どもが大人数で攻めてきやがったおかげで。

 

「八神 柊。人間で高校二年生。兵藤君のお友達。以上終わり。」

 

オレは自己紹介を簡潔にする。

だって他に言うことねぇし。

怪しいオジちゃんには必要以上に話さない。これ、常識だ。

 

「そうか、ならば人間。我と勝負するのだろう?悪い事は言わぬ、止めておけ。

それに…」

 

こいつ完全に舐めくさってやがるな。

オレが戦えねぇヤツだとでも思ってんだろ。

よし、後悔させてやるか。オレを舐めてくれt「兵藤とか言う大バカ者のために、命を投げ出すなどしたくはなかろう?」

 

 

 

 

 

……さっきの自己紹介では分かんなかったけど、今の一言で分かったわ。

 

 

 

 

コイツ、シニテェラシイ!!

 

 

 

 

 

「丁重にお断りさせていただきます。テメェをさっさと殺して皆のところに向かうのがオレの仕事なんでね。

 

……それと、あんたに一つ忠告しといてやるよ。」

 

オッサンは顔をしかめてオレの話を聞こうとする。

 

 

 

「……あんま人のお友達の悪口は、言うもんじゃねぇよ?」

 

オレは手を一回だけパキリと鳴らす。

すると、あちこちにある木が形を変えて刃物っぽくなる。大地は円柱のようになり、底面になる部分をオッサンに向ける。

 

オッサンはびっくり仰天してるな。

んじゃ、

 

「リアルで天を仰いでこい!」

 

手をオッサンに向けて突き出すと、形が変わった木や大地がオッサンに向けて飛んで行った。

百発百中だ。あそこの中は相当グロいことになってっかもな。

仕方ねぇから地面に深い穴を開けてそこにオッサンをぶち込んでやったよ。

正確には、オッサンが入った木や岩の塊だけどな。

 

ここに向かっている途中、あちこちの木や岩をいつでも扱えるように触りまくっといたのは正解だったな。

おかげであっという間にケリがついた。

 

さて、次はアルジェントの方だ!

 

オレは裏門のドアを開けて中に入る。

 

 

 

え?朱乃先輩達はどうしたって?

 

……オレは何も見てませんよ?堕天使二人を滅茶苦茶なことにしていた朱乃先輩と、なんかスッゲェ怖いオーラ出して堕天使二人を消し炭にしてしまった部長なんてみてません。

えぇ、全く。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

中に入って廊下っぽいところを走り抜け、中央広場に出た。

中はだいぶヒデェことになってるな。

 

さて、兵藤たちはどこに…

 

兵藤達が向かった場所を探しているところに、聖堂に誰かが叫びながら走ってきた。

 

『アーシア!しっかりしろ!』

 

「兵藤⁉︎」

 

兵藤が、アルジェントを抱えている。

少し離れた位置からでもわかる。アルジェントはすでに虫の息であった。

オレは兵藤の元に駆け寄る。

 

「おい!兵藤!何があった⁉︎」

 

「シュウ!それが…、アーシアの神器が、レイナーレの奴に抜き取られてしまったんだ!」

 

神器が抜き取られた…。色んなところからチョコチョコ聞こえた儀式ってのは、その事だったのか!

 

「それで、木場から聞いた話だけど…!」

 

「分かってる。神器を強制的に抜かれた場合、このままだと死んじまうってことだ。」

 

神器ってのは、人間の身体に宿るもんだ。つまり、魂のような存在だ。

それが抜かれたんだ。

 

……残酷だが、これが事実、か…!

 

クソッ!間に合わなかったってのかよ!!

 

 

『アーシア!頼む!しっかりしてくれ!ここを出れば、お前は自由になれるんだ!』

 

『私…少しの間でも、お友達が出来て幸せでした……。』

 

兵藤の言葉に、アルジェントが微笑みながら答える。

…もう、こいつの身体からは生気が感じられねぇ。

 

『何言ってんだよ!まだ連れて行きたい所がたくさんあるんだ!映画館、カラオケ、ボーリング。ラッチュー君だってもっといっぱい取ってやる!

俺の友達も紹介したいんだよ。オカ研のみんなや、悪友の二人。そこにいるシュウだって…。』

 

兵藤…顔が笑ってるのに、涙が止まってねぇ。

 

『この国で生まれて、イッセーさんと一緒に学校に行けたら、どんなに良かったか…。』

 

『行こうぜ!いや、行くんだよ!』

 

『私のために…泣いてくれる……。それだけでも、私は幸せです……。』

 

アルジェントの手が、兵藤の頬を撫でる。

 

そして、今にも消えそうな声で囁いた。

 

 

『ありがとう』

 

 

その言葉を最期に、アルジェントは息を引き取った。

 

『アー、シア…』

 

…顔を背けたくなるな、この光景は。

兵藤の顔はまさに絶望している。普段が常に元気なやつだ。そいつがこんな顔をするのは、見たくねぇもんだ。

けど…それを実行する気にはなれねぇ。

 

 

 

「なぁ!神様!いるんだろ?アーシアを連れて行かないでくれよ!頼む!頼みます!まだ、まだアーシアを生かしてあげてください!」

 

 

 

…兵藤……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪魔が教会で神に願うって、笑えない冗談ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、後ろから声がする。

そこには、あの日。兵藤を殺した堕天使、レイナーレが立っていた。

 

「レイナーレ…!」

 

兵藤は憎しみを込めた声を出す。

 

「ほら、見て。ここに来る途中、あなた達の騎士にやられちゃったの。」

 

そう言って、レイナーレは少しだけ切れた腕の傷を見せる。

その傷に逆の手を被せると、緑色の光が灯って傷を治す。

 

……なるほどな、アレがアルジェントの神器か。堕天使が欲しがるわけだ。

 

「素晴らしいでしょう?この力。この力さえあれば、堕天使の総督であられるアザゼル様やシェムハザ様にお使えすることが出来るわ。」

 

…その程度の事で、こいつらは一人の少女の命を奪いやがったのか。

 

 

 

 

「……返せよ、その神器。」

 

 

 

 

兵藤がレイナーレに敵意むき出しで言葉を放つ。

 

「返す?元の持ち主は死んだでしょう?それに、人間がこの力を持つのは勿体無いでしょう?」

 

「そんなの関係ねぇ!その神器は、優しい人間だけが持っていい力だ!お前らみたいな、汚い奴らが使っていい力じゃねぇ!」

 

 

その時、オレは兵藤から凄まじい力を感じた。

何かが目覚めてきている。そんな感覚だ。

 

 

「……返せよ」

 

 

その力は、徐々にデカくなってきている。

 

てか…これは……⁉︎

 

 

「アーシアを返せよおおおおおお!!」

 

 

【Doragon Booster!!】

 

ーーーーーーーーーー

【第三者視点】

 

謎の音声が鳴り、兵藤の力が急に上昇した。

そのまま兵藤はレイナーレに殴りかかる。

 

「一の力が二になったくらいで!」

 

【Boost!!】

 

再び音声が鳴り、またもや兵藤の力が上がる。

 

「へぇ、ちょっとはマシになったみたいね!」

 

そこでレイナーレは光の槍を作り、兵藤に投げる。

 

「グアッ‼︎」

 

槍は深く兵藤にささり、苦痛の声を漏らす兵藤。

余裕の笑みを浮かべるレイナーレ。

 

しかし、兵藤は倒れなかった。

 

自分の足で踏み込み、体を支える。

その光景に、驚愕の表情を浮かべたレイナーレ。

 

「嘘よ!なんで倒れないのよ!悪魔にとって光は弱点のはずなのに!」

 

「あぁ、かなり痛えよ。けどな、こんな苦しみなんか」

 

【Boost!!】

 

「アーシアのそれと比べれば、何てことはねぇんだよ!!」

 

三度目の音声が鳴り、再び殴りかかる兵藤。今度はかなり速さも上がり、レイナーレも避けるのに思わず必死になるほどだった。

しかし、その攻撃が避けられると、兵藤は膝から崩れ落ちてしまった。

 

「はぁ、はぁ、どうやら、限界のようね。」

 

さすがに、体力が尽きてしまったようだ。

 

「それなら、ここでトドメを刺してあげるわ。さよなら、イッセー君」

 

光の槍を作り、イッセーに最期の攻撃を加えようとした。

これで兵藤は本当に消滅し、レイナーレの勝利になるはずだった。

 

 

 

 

 

そこに、乱入者が入らなければ。

 

ガキンッという音がして、槍が折れてしまう。

兵藤とレイナーレの間には、先日同じような状況に出現したあいつが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「お前!あの時の…⁉︎」

 

「……グロンギ……?」

 

 

ガドルは後ろを振り返り、兵藤の方を見る。

 

「少年、もう終わりか?」

 

「…⁉︎」

 

ガドルは太く、そして何処か優しさが感じられる声で兵藤に問いかける。

 

「少年、貴様に三分時間をやろう。

もし貴様がこの堕天使と決着をつけたいのならば、その三分が経つまでに立ち上がれ。それが叶わなければ、私がこの者を片付ける。」

 

そう言うと、ガドルはレイナーレに向き直り、戦いを始めた……。




次回で決着、そして一章完結の予定です。


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十四話目

オレは兵藤の戦いをしばらく見届けることにしていたが、予定変更だ。

さすがにこいつも限界みてぇだしな。

まずは約束通り、三分間は兵藤を待つことにする。

それまでは、ひたすらレイナーレの攻撃を受け流すだけだ。

 

剛力体になり、オレはレイナーレと向き合う。

レイナーレは槍を作って切りかかってきたが、動きがてんで素人だな。どこを攻撃してくんのか、見え見えだ。

右から来た槍を右手で弾き、弾かれた槍を左手で掴んで握りつぶす。

レイナーレは自分の武器が破壊されて戸惑いの表情を一瞬浮かべたが、すぐに後ろに飛んでオレと距離を取る。

そしてかなりの数の槍を作って次から次へと投げてきた。

 

なるほど、近距離がダメなら遠距離か。その上、数で押そうってんだな?

 

 

いい戦法だ、感動的だな。だが無意味だ!

 

 

オレは胸の石を一つとる。すると、石は形を変えていき、一本の剣になる。

剣を手に持ち、飛んできた槍を一本一本叩き落とす。

全ての槍を叩き落とすと、レイナーレの顔は青ざめていく。

「あ…あんたは一体何なのよ!悪魔どもと一体何の関係があるの⁉︎」

 

お友達です。って言いてぇところだが、そんなこと言うのは色々マズイ。

この姿でのコイツラとの関係か…。

 

「ただ興味深いだけだ。後ろの少年も、ここに来ている者達も、な。」

 

 

 

ガタッ…。

 

 

 

後ろで何か物音がしたから、オレは後ろを振り向く。

まぁ、驚きはしたが、なんとなく分かっていたさ。

 

 

 

 

「少年よ、もう大丈夫なのか?」

 

「あぁ…代わってくれ!」

 

 

 

 

そこにはオレの幼なじみ、兵藤が立っていた。

 

さぁ、こっからは選手交代だ。

 

 

ーーーーーーーーーー

時は少しだけ遡る。

 

「ダメだよな…こんなんじゃ…。」

 

すぐそこでグロンギが戦っている時、俺はアーシアの体を抱えた形で座っていた。

 

…色々考えていたんだ。皆の事を。

 

俺にアーシアを助けに行く許可を出してくれた部長や朱乃さん。喝を入れてくれたシュウ。一緒に着いてきてくれた木場や小猫ちゃん。悪魔の俺にずっと笑いかけてくれたアーシア。立てるようになるまで時間をくれたあのグロンギ。

皆が俺を支えてくれている。

そんな状況で、支えられている本人が一番いつまでも倒れてる場合じゃねぇよな。

 

俺は眠っているアーシアの顔を覗く。

 

「悪いな、アーシア。ちょっとだけ、待っていてくれ。」

 

俺はガタガタ震える足で踏ん張り、立とうとする。

かなり痛くて、なかなか立つ事が出来ない。

 

「神様、じゃないな。悪魔だから魔王様か?いるよな、魔王様。」

 

不思議と、考えるより先に言葉が出る。

 

「俺も一応悪魔なんで、願いを叶えてください。

他には何もいらないんで…」

 

腹が痛む。足も安定しない。けど、少しずつだけど立てる。

 

「あいつを!一発だけ殴らせてください!!」

 

叫びと同時に気合が入り、俺は立つ事が出来た。

後ろを振り向くグロンギが、俺に問いかけてくる。

 

「少年よ、もう大丈夫なのか?」

 

「あぁ…代わってくれ!」

 

俺がそう答えると、あいつはそっと横にずれて俺に道を開ける。

 

「ウ…ウソよ!立ち上がれるはずがない!もう内側から焦げてしまっているはずだし、一度倒れるまで体力が尽きたはずでしょ⁉︎」

 

「あぁ、痛えしフラフラだよ。立ってるのも辛いくらいにな。

けど、それ以上に…」

 

確実に、一歩一歩レイナーレに進んでいく。

 

「それ以上に!テメェがムカつくんだよ!!」

 

【EXPLOSION!!】

 

俺の神器から新しい音声が鳴って、神器が形を変えていく。

ただ腕を覆うようにかぶさっていた神器が、肘まで覆うように大きくなり、露出していた指は竜の爪のように鋭くなる。

 

…だんだんと、力が湧き上がってくる。今までよりも、格段に力が上がっているのが感じられる。

 

これなら、あの堕天使を倒せる!!

 

「この魔力!中級、いや上級クラス⁉︎

あり得ない、そんな事は無い!ただの龍の手が、こんな!」

 

レイナーレが光の槍を作って俺に向かって投げる。

もう、こんな物くらう俺じゃねえ!

俺はその槍を横殴りで弾く。

その槍は粉々に砕けて無くなってしまう。

 

「ウ、ウソよ!」

 

あいつは羽を伸ばして逃げようとするが、そんな事はさせねえ!!

俺は走り出してレイナーレの足を掴み、俺の元に引き寄せる。

 

「私は!至高のー」

 

レイナーレはなんか言おうとしているが、そんなのどうだっていい!

 

「これで!終りだああぁぁぁ!!」

 

俺は全力でレイナーレの顔面を殴り飛ばす。

レイナーレはステンドグラスを突き破って彼方遠くまで飛ばされていった。

 

「…ざまーみろ。」

 

俺は最後にその言葉を吐く。

堕天使との戦いが終わった…。

 

ーーーーーーーーーー

 

あの場からこっそり少しだけ離れ、人間態に戻ったオレは、戦いが終わるのを見届けた。

ホントに堕天使に勝っちまうとはな。手助けする気満々だったけど、意味なかったみてぇだな。

 

オレは兵藤の元に近寄り、声をかける。

 

「やってくれんじゃねぇか、兵藤!」

 

「シュウ…ああ、俺、やったよ。」

 

やっぱ元気ねぇなこいつ。仕方ねぇんだがな。

 

…ホントはアルジェントを生き返らせてやりてぇんだけど、それは出来ねぇんだ。

 

術は無いわけじゃない。この場に水や炭があれば、それを錬成して肉体を作り、魂をその肉体に詰める。所謂人体錬成だ。

アルジェントの肉体はまだあるが、あの中に魂を詰めても無駄だろうな。肉体に負荷がかかり過ぎている。だから新しい肉体を作る方がいいだろう。

けどこれはリスクが高すぎる上に、成功確率は極めて低い。この場にいる全員の体が代償となる事だってあり得る。それは控えたい。

 

魂だけを呼び寄せることもできるが、それでも体の一部が代償で持っていかれるし、原作の鎧の弟が出来上がる。アレを女子にやらせんのは鬼畜ってもんだろ。

 

だから、どうしようもない…。

 

「お疲れ様、イッセー。」

 

「部長⁉︎」

 

すると、部長が向こうから歩み寄ってきた。

地下から出てきたってことは、あの後地下に飛んだみてぇだな。んで、地下の大掃除ってわけか。

 

「本当に良くやったわね。一人で堕天使を倒しちゃうなんて、素晴らしい事よ。」

 

「あ、それが俺だけじゃなくて…アレ?あいつは?」

 

周囲を見渡す兵藤。恐らくガドルとしてのオレを探しているんだろう。

もう人の姿に戻ったわけだし、ここにはいないんだけどな。

 

「イッセー?どうしたの?」

 

「いえ、その…なんというか…」

 

兵藤がこちらをチラチラと気にしたように視線を向けてくる。

オレの前じゃ、あいつの話はしづらいのかも。まあオレも聞きたくないんだけど。

 

「部長。連れてきました」

 

すると、小猫が玄関からあの堕天使を引きずって連れてきた。

…連れてきたっつーより、運んできたってのが正しい気がするなアレ。

 

「ひとまずはこの子を起こしましょうか。朱乃?頼める?」

 

「はい」

 

朱乃先輩が魔法で水を作る。そして作った水をレイナーレの顔に浴びせ、無理やり起こす。

 

「ゴホッゴホッ!」

 

かなりむせてるな。寝耳に水どころか、寝顔に水だもんな〜。

 

「ご機嫌よう。堕天使レイナーレ。」

 

部長が覇気のこもった顔でレイナーレに話しかけた。…怖ぇな側から見ると。

 

「その紅い髪…グレモリー家の者か。」

 

「ええ、そうよ。リアス・グレモリーと言うわ。短い間よろしくね。」

 

おぉ、怖い怖い。短い間ってシャレになってねぇよマジで。

 

「それから、あなたを支持していたミッテルト、カラワーナは既に消しとばしたわ。シュウ、ドーナシークはどうしたの?」

 

「あぁ、あいつは地下深くでただの肉の塊になってますよ。徹底的に潰しましたから。」

 

それを聞いた時、レイナーレの顔はどんどん曇っていく。自分も同じ運命をたどることが読めたんだろうな。

 

「ところで、あん時の部長の魔力って、何だったんすか?真っ黒でしたけど。」

 

「部長は『滅殺姫』という異名がありますわ。その名の通り、部長の魔力に当たった方は消し飛ばされるんですの。」

 

オレの質問に朱乃先輩が答えてくれた。てか滅殺て、ますますこの人が怖く見えてきたわ。

 

「イッセー、その神器は?」

 

「それが、途中で形が変わったんですよ。何だったんだ?」

 

今度は部長が兵藤に疑問をぶつけたが、兵藤自体よく分かっていないらしく、首を傾げている。

 

「赤い龍…なるほどね、分かったわ。」

 

何かの答えを見つけた部長は、再びレイナーレに視線を戻す。

 

「残念だったわね、この子の神器はただの龍の手じゃないわ。」

 

「何?」

 

「この子の神器は、持ち主の力を十秒ごとに倍化させる能力を持ち、一時的に神や魔王を超える力を持たせると言われている、世界に十三しかない『神滅具』【ロンギヌス】の一つ。『赤龍帝の籠手』【ブーステッドギア】よ。」

 

「…んな物騒なもん持ってたのかよ兵藤。」

 

「いや、俺も初めて知った。」

 

唖然とした顔をする一同。ま、そりゃそうだろうよ。こいつがそんなスッゲェ力持ってたとか、何ソレ⁉︎ってやつだ。

 

 

「さて、驚きの真実が分かったところで、そろそろ貴方には消えてもらいましょう。」

 

その言葉と同時に、レイナーレの顔が引きつる。

レイナーレは咄嗟に兵藤の方を向き、叫んだ。

 

 

 

「お願い!助けてイッセー君!」

 

天野 夕麻の声で。

 

 

 

「あんなこと言ってしまったけど、堕天使としての役目を果たすために仕方なかったの!私はあなたが大好きよ!」

 

「マズイ!小猫ちゃん!」

 

そこに木場と小猫が駆け寄ろうとする。

だが、オレが二人の前に立ち塞がった。

 

「八神くん⁉︎このままだと、兵藤くんが!」

 

「大丈夫だ。二人ともあいつを信用しろ。」

 

その言葉を聞いて、二人は緊張感を解いた。

さて、兵藤はどう出るか…?

 

 

「部長…頼みます。」

 

その言葉とともに、一気にレイナーレの顔が絶望に満ちる。

部長は頷いて魔力の弾を撃つ準備をした。

 

これで終わったな。

 

 

 

しかし、レイナーレは往生際が悪かった。

 

 

 

「兵藤 イッセェェェェ!」

 

 

 

最後に光の槍を作って兵藤の元に飛び出す。

不意を突かれて、兵藤は回避行動を起こせない。

他の皆も、フォローが間に合わない。

 

「せめて!あんただけでも!殺してやるわ!!」

 

槍が兵藤の元に辿り着き、兵藤の胸を貫く…

 

 

 

 

 

 

……事はなかった。

 

 

 

 

 

 

突如、水がレイナーレの顔を覆って、レイナーレの動きを鈍らせた。

その間に、兵藤は回避行動を起こすことができ、槍は空を切った。

 

「ゴホッ!一体、何が…⁉︎」

 

レイナーレは、手を自分の方に突き出したオレの姿を確認して、叫ぶ。

 

「まさか、貴様!あの時の…」

 

「私の下僕に言い寄るな!」

 

 

レイナーレの言葉は最後まで放たれることはなく、レイナーレは部長の魔力によって消し飛ばされてしまった…。

 

 

「ありがとな、助かったよ。」

 

「いいえ、お気になさらず〜。」

 

レイナーレを消しとばした後、兵藤が礼を言ってきた。

まぁ、偶々オレの立ち位置からあいつが槍を作ろうとしているのが見えたから助けられただけで、もしオレが別の場所に立っていたら間に合わたかったかもな。

 

さて、この話はここまでとして、だ。

 

レイナーレがいた所に、緑の光が宙を浮かんでいる。よく見ると、緑色の指輪がその光を発しているみたいだ。これがアルジェントの神器だろうな。

 

「さぁ、これを彼女に返してあげましょう。」

 

そう言って、部長はその指輪をとって兵藤に手渡す。

兵藤は指輪をアルジェントの指にはめた。

 

「部長、すいません。あんな事まで言った俺を、皆が守ってくれたのに、アーシアを守ることができませんでした。」

 

「いいのよ。あなたはまだ経験が足りなかっただけ。これから力をつけていけば、それでいいじゃない。」

 

「でも、俺は…」

 

泣きながらも謝罪の言葉を並べる兵藤に、部長は優しく声をかける。

でも、兵藤はアルジェントを助けてやれなかったことを悔やんでいるみたいだ。

 

「…前代未聞だけど、やってみる価値はあるわね。」

 

そう言うと、部長はチェスの僧侶の駒を取り出す。

 

……何する気なんだ?

 

「部長、それは?」

 

「悪魔の駒【イーヴィルピース】よ。これを使えば、このシスターを悪魔として転生させることができるの。」

 

なるほどな、それで兵藤が悪魔になったのか。

兵藤に使ったのは兵士、木場に使ったのは騎士、小猫に使ったのが戦車、朱乃先輩に使ったのが女王だったか?

 

「でも、死んでしまったやつにも効果あるんすか?」

 

「えぇ、あるわよ。」

 

そう言って、部長はアルジェントの下に紅い魔法陣を出した。

なにやら呪文のようなことを呟いている。

僧侶の駒はゆっくりとアルジェントの胸に沈んでいった。

 

すると、アルジェントの開かれることがない瞼が開いた。

 

「アーシア…。」

 

兵藤は嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「私は悪魔を治療するその力が欲しかっただけよ。これからはあなたが先輩悪魔として、色々リードしてあげなさい。」

 

そこまで言うと、オレたちはその教会を後にした。

あとは、兵藤がアルジェントの世話をしっかりするだろう。

 

ーーーーーーーー

 

次の日、オレは部室に来て一番に始めたこと。それは何でしょうか?

 

ヒント、今日からアルジェントが眷属に加わり、必然的にこの学校に通うことになる。

 

分かったかな?そう、答えは

 

 

フランス語の猛勉強です。

 

もう必死よ必死。今日から仲間になるやつと話すことができないってのはマズすぎるだろ。

学校に来る途中の図書館でフランス語の参考書買って、今必死こいて覚えようとしてんの。

もち、難しいよ?

 

すると、部室の扉が開いて部長と兵藤が入ってきた。

オレの猛勉強の光景を見ている部長達は、しばらく固まっている。

 

「えっと…シュウ?何してるのかしら?」

 

「何って、フランス語の勉強っすよ。今日からアルジェントが学校に来るようになるんでしょ?だったら一言も話せないとか、嫌じゃないっすか。

あ、兵藤!来たならお前フランス語教えろ!」

 

それを聞いた部長は大きなため息をつく。兵藤はポカンとしてやがる。

 

「シュウ、その必要はないわよ。」

 

「え?何で?」

 

いやいや、何でそんなこと言うのよ。オレはアルジェントと話す必要はないってか?それは酷いよ。

 

「あ!八神さん!」

 

聞き覚えのあるようなないような声で、オレの名前が呼ばれた。

兵藤の後ろからモゾモゾ出てきたのは、あのシスター、アルジェントだった。

 

「八神さんもこの学園にいらっしゃったのですね!」

 

「……そうだけど」

 

え?アルジェントってこんなに日本語ペラペラなの?

いらっしゃったて、敬語まで使えんのかい。

 

「悪魔になるとね、例え外国語で話しかけてこられてもその言葉が自分の最も理解しやすい言葉に吹き替えられて聞こえてくるの。逆にこちらが日本語で話しかけたとしても、相手には相手の母国語になって聞こえるようになるの。

つまり、あなたが日本語で話しかけてもアーシアは理解できるし、アーシアがフランス語で話しかけてもあなたは理解できるようになるの。」

 

……そんな便利なシステムがあるのかよ。

 

「じゃあ、この参考書の意味は?」

 

「ないわね。せっかくだし、そのまま勉強してみれば?」

 

ニコリと笑ってひでぇ事言いやがった

 

 

「おはようございます。部長、シュウくん、イッセーくん、アーシアさん。」

 

「…おはようございます、部長、シュウ先輩、イッセー先輩、アーシア先輩。」

 

「おはようございます。部長、シュウくん、アーシアちゃん。」

 

順に木場、小猫、朱乃先輩が入ってきた。

ちょっと凹んでたオレの頭に、少し疑問が浮かんだ。

 

「お前ら、いつから兵藤とオレのこと名前で呼ぶようになったんだ?」

 

「昨日イッセーくんから頼まれてね。今日からイッセーと呼べって。

それなら、シュウくんも名前で呼ぼうかな?って思って。嫌かな?」

 

「いや、別に構わねぇさ。」

 

んじゃ、オレも合わせて行きますか。

 

「おはようございます、皆さん。

……それから、アーシア。」

 

 

「はい!おはようございます!皆さん!」

 

こうして、オカルト研究部に新しく明るい部員が加わった…。

 




やっと一章が終わった…。
次から二章に入りますが、最初はまた日常編になるかな?
なるべく早く本格的に二章を始めたいですね。


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戦闘校舎のフェニックス
十五話目


アーシアがこの学園に来て数日。アイツは既に学園に馴染んだみてぇだ。

持ち前の明るさや人付き合いの良さで、あっという間に有名になったらしく、今では二年の中で最も付き合いたい女子No.1だとか。(松田 元浜情報)

 

…これだとうちの部活、有名人が集まるっていうイメージがつくぞ。

 

 

それはさておき、アーシアは放課後のチラシ配りにおいても真面目に取り組むんだ。

よくオレとイッセーとアーシアでチラシ配りに出るんだが、丁寧に折り畳んでポストに入れるほど熱心にやっている。うん、素晴らしいね。

けど、丁寧に折り畳んである悪魔からのメッセージって、信憑性あるのかね?

 

んで、今日も放課後になったから悪魔稼業が始まる。

 

「それじゃ、チラシ配り行ってきます。行こうぜアーシア、シュウ。」

 

「はい。」「んー」

 

いつも通りチラシ配りに出ようとしたオレ達

 

「あ、待って」

 

すると、部長が声をかけてきた。

 

「チラシ配りは今週まででいいわ。前にも言ったけど、悪魔の修行の一環としてやってもらっただけで、チラシ配りは本来なら使い魔の仕事なの。」

 

それを聞いてイッセーとアーシアは喜ぶ。

…オレは嫌な予感がするから喜べねぇ。

 

「じゃあ、チラシ配りは卒業ってことですか⁉︎」

 

「その前に、まずあなた達は自分の使い魔を持たないとね。」

 

使い魔、ねぇ…。

飼い主と絶対的な主従関係にある動物や精霊のことだったか?

イッセーはそんなん持てる様になるんだな〜。

 

「まずは私が紹介するわね。この子が私の使い魔よ。」

 

そう言って召喚されたのは、コウモリだった。

…丸っこいな随分と。

 

「ちなみに、イッセーは一度会ったことがあるのよ?」

 

「え?そうなんですか?」

 

すると、コウモリがボンッと煙を上げて姿を変える。

そこには、一人の女性が立っていた。

 

「あ!この人は!じゃあ、あの時のは…」

 

……なんで落ち込むんだこいつ。

しかし、人間の姿になれる奴までいんのか。便利だなぁ〜

 

「私のはこの子ですわ。」

 

そう言って出てきたのは、小鬼だった。

この人らしいな。ちっちゃくて可愛いんだが、れっきとした鬼だ。

 

「どうですか?シュウくん。」

 

「可愛いっすね。その上強そうだし、頼りになりそうっす。」

 

「ふふ、ありがとうございます。」

 

…感想がオレ限定だった理由は問わない。アレだ、イッセーとアーシアは見ただけで思っている事が読めたから聞く必要は無かったんだ。

 

「…シロです。」

 

小猫の腕の中に、これまた可愛らしい白猫がいた。

ペット感覚もありなのか?

 

…なんか小猫が何か言って欲しそうな目でジッとオレの顔を見てる。

よし分かった。

 

「こいつも可愛いな〜、小猫らしい。」

 

オレはその猫を撫でながら感想を言う。

 

「……♪」

 

嬉しそうだからよしとする。

 

 

「僕のは…」

 

「お前のはいい。」

 

「ふふ、つれないな。」

 

「まぁそう言うなよ。ユウト、気になるから見せてくれよ。」

 

「はい!私も気になります。」

 

そう言うと、ユウトも自分の使い魔であるリスを出した。

爽やかな奴は爽やかな使い魔を持つそうです。

 

 

あ、そうそう。オレは木場のこともユウトって呼ぶことにしました。

理由はアーシアが来たあの日以来、イッセーが自分のことはイッセーと呼べって言ったため、互いの事を名前で呼ぶことが増えたんだ。

だからオレも八神じゃなくてシュウと呼ばれるし、イッセーも兵藤じゃなくてイッセーだ。

だから木場のこともユウトと呼ぶ事にした。

まぁ、他の人はユウトが基本的に木場って呼ばれてるらしいからそのまま木場って呼んでるけどな。名前で呼ぶのは部長ぐらいだったらしい。

ちなみに、部長はそのまま部長だし、朱乃先輩と小猫は前からです。

 

 

「あなた達には、後日皆と同じ様に使い魔を選んできてもらうわ。」

 

「その使い魔って、どうやって手に入れるんでしょうか?」

 

「それはね…」

 

その時、部室の扉がノックされた。

 

「はい、どうぞ。」

 

「失礼します。」

 

外から入ってきた奴らは、眼鏡をかけた女を先頭にして立っていた。

男が一人ぼっちのようで。

 

「な…このお方は!」

 

「あのう、どちら様でしょうか?」

 

イッセーの顔が驚愕に染まり、この人物が誰か分からないアーシアは首を傾げている。

 

「この学校の生徒会長さんの支取 蒼那先輩だ。隣にいんのは副会長の森羅 椿先輩で、後の連中は……纏めて言うなら生徒会役員だな。」

 

オレがそう説明したところで、部長が生徒会長さんを迎え入れた。

 

「いらっしゃい。こんなお揃いで、どうしたの?」

 

「お互い下僕が増えたということで、挨拶をしようと」

 

下僕?ってことはまさか…

 

「あんたも悪魔なのか?」

 

「はい。私の正確な名前はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です。」

 

なるほどな、俺がこの部活に入って悪魔の事を知ってから、コイツらから妙な気配を感じたのはそのせいだったって事か。

 

「この学園に他にも悪魔がいたのか⁉︎」

 

「…イッセー、同じ悪魔なのに気付かんのか?」

 

絶句したイッセーに対して、思わず突っ込んでしまった。

だって、悪魔同士なら感覚で分かりそうなもんじゃね?はぐれ悪魔とかはその感覚で探すわけなんだし。

 

「リアス先輩、僕達のこと何も話してないんですか?まぁそいつが言ったように、気づかないこいつもどうよって話ですが。」

 

「サジ、私達は互いの事に干渉しないようにしているの。兵藤君が気づかないのも当然です。」

 

一人ぼっちの男がため息まじりに苦言を放ち、その男に生徒会長さんが説明をする。

 

「そうは言っても、あっちは気付いてたのにこっちが気付かないってのは情けねぇ話だよな。

アーシアは最近の事だからともかく、長い間悪魔になってるイッセー君は微塵とも感じなかったんだろ?」

 

「う、それは、まぁ、そうだけど…。」

 

ニヤニヤ顔で突っ込んだオレと弱腰になるイッセー。

他にも色々あるが、まぁ今は言わねぇでおいてやるか。

 

「そ、それはともかく、お前は最近生徒会の書記になった…」

 

「匙 元子郎。“兵士”です。」

 

「同じく“兵士”の兵藤 一誠と“僧侶”のアーシア・アルジェントよ。」

 

イッセーの疑問に答えるように会長が匙の紹介を行い、返すように部長がイッセーとアーシアの紹介をした。

 

「お前も兵士か!しかも同学年だろ?よろしくな!」

 

同じ境遇の悪魔を見つけて嬉しそうに握手しに行くイッセー。

しかし、匙は…

 

「俺としては、変態三人組のお前と同じ駒ってのはプライドが傷つくんだけどな。」

 

と言って、イッセーを見下す視線を向けた。

 

「なんだと!お前それはどういう意味だ!」

 

「お?やるか?こう見えても俺は駒四つの兵士だぜ?」

 

なんでそこで喧嘩が始まるんだよ。

イッセーに至っては事実だろそれ。

 

「お止めなさい、サジ。兵藤君は駒を八つ消費している兵士なのよ?」

 

その喧嘩をしずめようとして会長が鋭い視線を向けながら忠告した。

けど、それではおさまらず…

 

「八つって、全部じゃないですか!信じられない、こんな奴に…。」

 

「うるせぇ!」

 

…何時になったらおさまるんだろうな〜これ。

 

「ごめんなさいね兵藤君、アルジェントさん。新人悪魔同士、仲良くしてあげてください。ほら、サジ。」

 

「はい…よろしく……。」

 

一応この場はおさまったようで、匙は渋々ながら握手のために手を伸ばす。

イッセーはさっきの事があるからちょっと渋ってるが、アーシアは直ぐにその手に反応して握手を交わす。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「うん!アーシアさんみたいな可愛い子なら大歓迎だ!」

 

…大分態度が違ぇなオイ。

 

その様子を見ていたイッセーは、アーシアの手に掴まっていた匙の手を奪い取り、

 

「俺の方もよろしくね!匙くん!アーシアに手を出そうとしたらマジでぶっ殺すからね匙くん!」

 

と、力を込めて匙の手を握る。いや握り潰そうとするってのが正しいのか?

それに対して匙の方は

 

「うんうん!こちらこそよろしく兵藤くん!金髪美少女を独り占めとか、本当にエロの塊だね兵藤くん!」

 

と、同じように兵藤の手を握りしめる。暴言も忘れずに。

 

てか、いい加減しつこいな…。

 

 

オレは黙ってイッセーの後ろに回り

 

 

 

 

 

ゴンッ!

 

 

 

 

 

と、ゲンコツをかましました。

 

 

「今回の件でお前がキレんのは筋違いってもんだろ〜。言われてんのは全部真実なんだし、言われたくなけりゃあんな事は直ちにやめるんだな〜。」

 

と言いながら、気絶したイッセーを部室の端に引きずっていく。

匙は唖然とした顔を浮かべている。オレはそんな匙くんに優しく声をかける。

 

「悪いな、ウチのやつが迷惑をかけた。お前が言ってたのは全部正しいことだが、なるべく喧嘩は止めてくれよ?今回は初めての対面だから何もしねぇけど、次はこのバカ同様にさせてもらうからな?

あ、そうそう。オレは悪魔じゃないけど悪魔の手伝いをしております八神 柊と言うもんです。よろしく〜」

 

「は…はい……。よろしく…」

 

よしよし、聞き分けのいい奴は大好きだ。

オレと匙が握手している光景を横目にしながら

 

「大変ね」

 

「そちらも」

 

と、部長たちが愚痴をこぼしていたのは聞こえてないフリをします。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

オレ達は今、学園の敷地内にあるテニスコートのフェンスの外にいる。

ナズェそこにいるんディスカ?って人のために説明すると

 

あの後、イッセーも匙も使い魔を持つ許可が下りたことを知る。

 

 

生憎、その使い魔を手に入れられる機会は月に一度であり、生徒会とオカ研が同時に依頼するのは不可能

 

 

どちらが使い魔を手に入れる機会を手にするかスポーツで勝負だ!

 

 

テニスで勝負することになり、テニスコートに移動する

 

って感じ。

 

 

テニス部が練習しているのにも関わらず、部長達が使ってもいいか聞いたところ、即座にコートを譲ったそうです。

この人たちの権力どれだけだよ。

 

実際にテニス勝負をするのは各チームから二人代表であるため、ほかのメンバーは外から応援だ。

まあ、興味本位で見学にきた奴らも多いけどな。

例えばオレの左側には小猫がいるけど、右側には例の変態共がいる。

メガネと坊主はどうやって情報を聞き出したのか。

 

コートの中には、オカ研から部長と朱乃先輩、生徒会から会長と副会長がいる。

要するに、それぞれの王と女王だ。

 

「朱乃。勝ちにいくわよ」

 

「はい、部長」

 

「いくわよ、ソーナ」

 

「よろしくてよ、リアス。」

 

こうして、オカ研vs生徒会のテニス勝負が始まった。

 

すぐそこで変態共が叫んでいるが、聞こえませんよ私。

 

「しっかし、仮にも人外同士が人間達の見ている中でテニス勝負って、大丈夫なんだろうな?」

 

「…大丈夫だと思います。悪魔だとしても、力を抑えれば普通の人間と同じになりますから。」

 

 

と、小猫は言うけれども…

 

 

「行くわよ!シトリー流スピンサーブ!」

 

「甘いわ!グレモリー流カウンター!」

 

 

ギュルルルル!バァン!!

 

 

普通ならありえない回転でボールがラケットを弾く。

衝撃に負けた部長は後ろに倒れ込んでしまった。

 

「これって、普通の人間に見えるの?」

 

「…ちょっと熱くなりすぎです。」

 

「いやちょっとじゃねぇだろ絶対。」

 

これじゃ絶対異常だって思う奴が出てくるn「魔球だ…」……はい?

 

「魔球だ!スゲエ!!」

 

その言葉が発せられて、辺りからドオッと歓声が起きる。

 

「いやいやいや!何でそうなるんだよバカなのかこいつら。」

 

「……平和が一番です。」

 

「…それには賛成だけども。」

 

 

結局、このテニス勝負では決着がつかず、後日また別の勝負が行われるそうです。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

てことで、次の日の夜に来たのは体育館だ。

今度は一般の生徒が見学に来るのを防ぐために、夜に行われた。

 

種目はドッジボール。つまり、全員参加型だ。

 

つっても、人間であるオレは見学です。理由は知らん。

 

 

……暇だから実況でもするか。

 

「使い魔獲得の権利をかけたドッヂボールの試合が、今、駒王学園の体育館で行われようとしています!

戦うのは、リアス・グレモリー率いるオカルト研究部チーム!対するはソーナ・シトリー率いる生徒会チーム!

果たして、使い魔を獲得する権利は、どちらの手に渡るのか⁉︎」

 

「…何やってるの?」

 

「暇なんです。分かってください。」

 

そんな冷たい視線で見ないでください部長。別にいいじゃない、ホントは試合に出たかったんだし。

 

「さあ!いよいよ試合開始です!最初のジャンピングボール!制したのは我らが爽やかナイト、木場 祐斗選手!

そのボールは塔城 小猫選手に渡り、彼女の怪力で外野にパスだ!

外野にてパスを受け取ったのは、姫島 朱乃選手だ!外から当てにいく戦法のようだ!」

 

「えい♡」

 

「ホンギャアァァァ!!」

 

「えい♡で放たれたボールは雷と共に敵陣に襲いかかる訳の分からん自体に!そのボールに当たった相手の選手、焦げてしまった誰かはアウトです!

そのボールは即座に森羅 椿選手が拾う!」

 

「やぁっ!」

 

「椿選手、先ずは近くにいた兵藤 一誠選手を狙う!」

 

「甘い!こんなものすぐに避けて…って!」

 

「おぉっと⁉︎避けたと思ったボールは、まるで意識があるように一誠選手を追いかける!

一誠選手は必死に逃げるが、ボールは確実に一誠選手との距離を縮めて!」

 

 

コカァン!!

 

 

「アウン!!」

 

「一誠選手のいかん所に当たった〜!」

 

オレはずっと妙なテンションのまま、実況を続けた。

 

その勝負は時間切れということで、オカルト研究部の勝利となった…。

 

 




ソーナたち、生徒会メンバーが登場です。


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十六話目

【第三者視点】

 

ドッヂボールの試合に勝って、使い魔を獲得する権利はオカルト研究部のものとなった。

 

それで今日はいよいよ使い魔を見に行く日である。

 

新人悪魔の二人は喜びの顔を浮かべ、先輩悪魔の四人はその二人の光景を優しい笑顔で見ている中、一人が明らかに不機嫌な表情をしている。

 

「なんで皆はそんな楽しそうなイベントに向かうのに、オレはチラシ配んなきゃいけないんすか〜?」

 

「仕方ないでしょ?あなたはジャンプ出来ないんだから。」

 

そう。八神は人間界に留守番を言いつけられた上に、先日同様チラシを配るように言われたのだ。

 

「納得いかないっす。チラシ配りは使い魔の仕事なんでしょう?お手伝いさんがすることじゃないと思います。」

 

「しっかり働いてもらうって言った事に元気に返事したのはあなたじゃない。」

 

「そりゃ皆がする仕事の手伝いならしっかりやりますよ?でもこれからは使い魔の仕事になるんだし、使い魔の仕事を手伝わなくても。

オレの立ち位置、皆の使い魔のパシリですか?」

 

「そこまで言うつもりは無いけど…。」

 

「止めてくださいよ。いくら何でも動物のパシリはマジ勘弁です。」

 

と、くだらないやり取りを繰り返しているのだ。

八神が必死でリアスに主張することで、最終的にはリアスが折れた。

 

「じゃあ分かったわ。あなたはこの前のようにお茶の準備でもして待っててもらえる?

なるべく早く帰るようにするから。」

 

「了解っす。」

 

その指示に対して了承の態度を示した八神を見て、リアスは朱乃に魔法陣の準備をさせる。

出来上がった魔法陣に乗り込み、ジャンプが始まろうとした。

 

「気ぃつけてなイッセー。カッケー使い魔を見つけてこいよ?」

 

「おう!任せとけ!」

 

八神が見送りの言葉をかけ、イッセーがそれに応えたのと同じタイミングでリアス達は使い魔がいる“使い魔の森”へと飛んで行った…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

部長を説得して、何とかチラシ配りをしなくてよくなったオレは、指示された通りにお茶とお菓子を作っている。

今作ってるのは御手洗団子だ。

 

え?また団子かよって?

バカ野郎。この前のは三色団子だよ、ピンク、白、緑の。御手洗団子はタレがいい味出してる団子だ。全然違うだろ。

 

出来上がった団子を串に刺して人数分の皿に乗せる。

これでお菓子は完成だ。

あとはお茶を淹れれば、と…

 

うん?お茶っ葉が少なくなってきたな。

多分朱乃先輩が近々買いに行く予定だったんだろうな。

んじゃ、この後も時間はあるし、買いに行くとしますか〜。

 

オレは人数分のお茶を急須に準備して、いつでも湯呑みに注いで出せるようにしてから買い出しに出た。

 

考えてみりゃ、この時間に出掛けんのはチラシ配りの時くらいだったもんな〜。今すごい新鮮な気持ちだ。

 

オレは真っ暗な夜道を歩き、この街のスーパーに向かった。

しかし、改めて見るとスーパーまでの道って暗すぎねぇか?目の前が真っ暗で、すぐそこを見るのも一苦労だぞ。

仕方ねぇから射撃体になって、よく見えるようにしてから行きます……

 

 

 

 

 

!!

 

 

 

 

 

 

オレは殺気を感じ取って射撃体ではなく剛力体に変わり、硬化能力で首回りを硬くした。

 

ギィン!と甲高い音がなる。

 

オレは首に当たったものを確認するために視線を落とす。

 

 

 

 

それは、かなり鋭い鎌だった

 

 

 

 

そのことを確認したオレは、すぐにその鎌の持ち手となる方を殴る。

 

その拳は何にも当たらなかった。

けど、おかげでその殺気の正体が分かった!

 

 

 

 

 

「頭脳派のフクロウの次は、通り魔のカマキリさんかい?」

 

 

 

 

 

そこには、刀のような大きさの鎌を持ったカマキリの特性を持つグロンギ『メ・ガリマ・バ』が立っていた。

 

 

「たかがリントが私の攻撃を止めるとは…貴様、何者だ?」

 

ガリマはオレに向かってそう尋ねてきた。やれやれ、相手の実力が分かんねぇのに喧嘩売るとは、愚かなやつだ。

 

『…残念だったな、ガリマ』

 

オレはグロンギ語で話しかける。

ガリマはリント…人間が話せないはずの自分達の言葉を話した事と、名乗ってもいないはずの名前を当てられて、驚いた顔を見せる。

 

オレは少しずつ力を入れて、その姿を変える。

 

『私は、ただのリントでは無いのだよ』

 

オレの姿が完全に変わった時には既に、ヤツの顔は驚愕に満ちていた。

 

オレは剛力体に変わってから胸の石を取り、自分の剣に変える。

その剣でガリマに斬りかかるが、こいつは鎌の使い手だ。この手の武器での戦いにはそれなりに慣れてるだろう。

 

ガリマはしばらく鎌でオレの剣を受け止めていた。

その内の一発、オレがかなりの力を込めた下からの切り上げを受け流し、剣を上に飛ばした。

ガリマはそこで右回転をして勢いをつける。

 

ガラ空きになったオレの腹を狙うつもりか?甘いな!

 

オレはバックステップでガリマとの距離を開ける。

鎌がオレの腹のすぐ前を右から左へと通り過ぎていく。何とか避けきれた。

 

全力の一撃だったらしく、かなりの大振りだったからヤツに隙が生まれる。

オレは着地した足に力を込めて、一気に距離を詰める。

剣で突きを放ち、ガリマのベルトを破壊しにかかった。

 

こいつくらいの実力なら、これで終わりだろうと思っていた。

 

 

だが、ヤツは右足を振ってその剣を左に蹴り飛ばし、回し蹴りの要領で左足でオレの頭を蹴った。

 

そんな攻撃は予測できず、オレはモロにその蹴りを受けてしまった。

一瞬頭がグラついたが、なんとかグラつきがおさまった。

けど、ガリマの攻撃は終わらない。すぐに鎌を真下に振り下ろす。何とか避けたが、オレのいた場所をえぐるほどの威力があったようだ。

オレは横っ飛びでガリマの攻撃を避けたため、今のオレの位置はガリマの右側数メートル離れた場所だ。

次はどうやって仕掛けるか考えていたオレに向かって、ガリマは鎌を振った。

そんな離れた場所から攻撃しても当たるはずが…

と、思っていたが、ヤツの斬撃は驚くことに衝撃波のような形となって飛んできたのだ。所謂、飛ぶ斬撃だ。

マジかよ!『一つの平和』に出てくるゾロノアみてぇな事してきやがって!

オレは剣でその斬撃を止めたが、剣が少しだけ切れてしまった。

これじゃ使い物にならねぇな。新しいの作るか、戦い方を変えるか…。

 

『…やるな、流石はメ集団のトップだな。その位の実力はあって欲しいものだ。』

 

オレは余裕を見せつけるためにこのような発言をした。

それに返ってきたガリマの言葉は、オレを驚かせた。

 

 

『…メ集団?いつまでその話をしているつもりだ?

私はゲゲルを成功させ、新たな高みへと登りつめたのだ。』

 

 

『…何?』

 

どういう事だ?こいつのゲゲルは、確かに失敗したはずじゃあ…

 

 

『私の今の名は【ゴ・ガリマ・バ】だ。いつまでもメの名前を背負うつもりはない!

私はここで貴様を超えて、ゴの中でも頂点になる!』

 

ガリマは声高らかに宣言した。

いつの間にゴ集団の仲間入りしたんだ?とか、こいつこんなに野心家だったか?とか色々気になることは多い。

 

けどな…一つ確認するわ。

 

 

 

『…貴様、ゴの名前を取るために、何人のリントを殺した?』

 

『いきなりなんだ…覚えておらんわ、そんなもの。

過去のゲゲルの内容など覚えてはおらんし、殺したリントの数を覚えるのも、無意味というものだ。』

 

 

 

 

……やっぱりだ。コイツらは力を持っていない一般人を殺すということに対して、抵抗感も罪悪感もねぇ。

 

 

 

 

…こういうクソ野郎は大っ嫌いだ!

 

 

『そうか…ならば教えてやろう。』

 

オレは格闘体になり、力を加える。

 

『ゴ集団の頂点の力というものは、どういうものなのかを!』

 

ガリマが走り、オレの首に鎌を当てに来た。

 

オレは右から振られてきた鎌を、左手で受け止める。

その鎌をそのまま右に回転しながら後ろに引っ張ることで、ガリマは前のめりになり、オレはガリマを背にする体制になる。

右の肘でガリマの腹を肘打ちする。

正面に向き直ると、ガリマは腹を抱えながらも鎌を降り続けてきた。オレはバク転をして鎌を避けつつ、距離を開ける。

指を弾き、ガリマの顔に小規模の爆発を起こす。

目の前で起きた爆発に目がくらんだようで、ガリマは顔をしかめた。

その隙に、オレはガリマにボディーブローを叩き込む。

腹の痛みに苦しむガリマにラッシュを叩き込んでいく。

ダメージが蓄積されているガリマの顎を蹴り上げることでガリマの体を少しの間宙に浮かせ、トドメに前蹴りでガリマを蹴り飛ばす。

飛んで行ったガリマはそのまま転がっていき、しばらくせき込んでいた。

 

オレは一歩ずつガリマに近づいていく。ガリマは忌々しげにオレの方を見ている。

 

ガリマに大分近づいたところで、ガリマはもう一度鎌を振ってきた。

今度はそれを右手で掴む。

 

一瞬、赤い稲妻が走る。

 

すると、鎌は少しの形も残さずに砕け散った。

 

ガリマは切り札が粉々にされた事で、絶望感漂う表情を浮かべた。

 

『…最後に言い残すことはあるか?』

 

『……。』

 

『無いのか、それなら』

 

オレは右手をそっとガリマの頭に乗せる。

 

 

『もう楽になれ』

 

 

再び赤い稲妻が走ると、ガリマの体は糸が切れたように倒れた。

 

遺体となったガリマの体の前に立ち、オレは指を弾く。

ガリマの体が炎に包まれて少しずつ形を変えていき、最後はチリとなり風に乗って飛んでいった。

 

…何でこいつがこの世界に来たのかは気になるが、まぁブウロと同じように考えてても大丈夫だろう。

ただ、こいつがゲゲルを成功させてゴの力を手に入れたってのはどういう事だ?

死んだ筈のヤツが蘇ったってのはともかく、現実と違うことが起きてる。

これは、一度神さんに聞いてみたほうがよさそうだな…。

 

オレはそのチリを見届けた後、周りを見渡してから人間態に戻り、買い出しの続きをした…。

 

 

ーーーーーーーー

 

「グスッ…エグッ…スラ太郎ォ…。」

 

買い出しを終わらせて戻ってきたオレの目の前で、何故かイッセーがメチャクチャ泣いていた。

てか誰よスラ太郎って。とっとこ走るヤツの仲間か?

 

「なぁ、アイツ一体どうしたんだ?」

 

オレは近くにいた小猫に状況を聞いてみた。

 

「…いつもの事です。」

 

「あぁ、なるほどね。」

 

短すぎるし曖昧なのに、何故かイッセーのやらかしたことが大体読めた。

 

多分、スラ太郎ってのはこいつが見つけた使い魔候補で、能力が多分アッチ系のやつだろうな。

スラ太郎って名前から予測するに、そいつの正体はスライムか?となると、能力は服を溶かすとかだろうな。

んで、イッセーはそいつを使い魔にしようと決めていたが、女の敵であるスラ太郎は女子の皆さんと男一人から攻撃されて、お亡くなりになられた、と。

 

それで、イッセーが落ち込んで今に至るわけだな。

 

…情けなし、こんなに容易にイッセーがやらかしたであろう事を予測できるとは。

最初に「おう!任せとけ」って言って出て行ったアイツはどうしたんだ。

 

以上が、イッセー君の残念な報告です。

 

 

「アーシアの方は?お、可愛いドラゴンじゃねぇか。」

 

アーシアは使い魔を手に入れたようで、腕の中に蒼い模様をしている小さいドラゴンがいた。

オレがそのドラゴンを撫でようとした時

 

ビリバリビリッ!

 

「アイエェェ!ナンデェェェ⁉︎」

 

いきなり電気を流されました。

 

 

「ラッセーくん、おいたはいけませんよ?」

 

「♪」

 

アーシアがそのドラゴンに注意する。

お…おいたとかいうレベルじゃねぇだろ…。

しかも張本人聞いてねぇし。

 

「アーシアの使い魔は蒼雷龍【スプライトドラゴン】のラッセーよ。」

 

「部、部長…何でいきなり攻撃されたんすか……?」

 

「蒼雷龍は、他の種族のオスを警戒する傾向があるの。だからじゃない?」

 

そんな理由で…こんな経験しないといけねぇのかよ……。

 

そっからしばらく、オレはドラゴン恐怖症になりました。

 

おかげで大好きなゲームのモ◯ハンが出来ませんでした。

リオレ◯アとか、マジ怖い。

 

 

…以上が、アーシアにとってはいい報告。俺にとっては残念な報告です。

 




今回は通り魔、ガリマさんが登場しました。
なぜパワーアップしたガリマが出てきたのか、この世界にグロンギが出始めてきたのか。次回はその件で神様との会話の予定です。


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十七話目

今回は完全に説明回です。
いないはずのグロンギが、パワーアップして出現した理由とは一体なんなのか⁉︎


部活動が解散して、各自それぞれの帰路に着くと、オレは急ぎ足で自宅に向かった。

今日あった不可解な出来事について、神と相談しようと思うんだ。

 

家に帰り着いたオレは真っ直ぐに布団につき、心の中で神さんを呼びながら目を閉じる。

 

 

 

しばらくの浮遊感が感じられ、おさまった頃にはオレはすでに天界に到着していた。

 

「そろそろ来る頃だと思っていましたよ、八神さん。」

 

オレの後ろから声がかけられ、振り向く。そこには神さんが不愉快そうな顔を浮かべて立っていた。

 

「あなたの世界で起きたことはすでに確認しています。

何故グロンギがあの世界に訪れたのか、そして二体目のグロンギはあなたの記憶と違うのは何故か。それが聞きたいのでしょう?」

 

「あぁ、流石は神さんだな。

んで?何かわかってんのか?」

 

「ええ、必要な情報は全て調べ上げてきました。」

 

そう言うと、神さんは指をパチンと鳴らす。

すると周りの風景がガラリと変わり、まるで宇宙にでもいるような雰囲気になった。

 

「まず、最初のグロンギ。ゴ・ブウロ・グについてですが、大体はあなたが想像していることで間違いはありません。」

 

大体は?てことは、何かが違うのか?

 

「あなたはブウロが出てきた理由について、あなたと同じようにどこか別の世界に転生したブウロが、何かしらの理由でグロンギの本能に縛られてしまい、かつてのようにゲゲルを行う生物に逆戻りした。

そして、何かしらの方法で世界を超えてやって来てしまった。と考えたんでしょう?」

 

オレは頷き、肯定の意思を示す。

 

「実はそれ、少し違うんです。」

 

「違う?一体何が。」

 

「それについて説明する前に、先に二体目も説明しましょう。」

 

神さんはいつの間にか手に持っている資料を見ながら説明を続ける。

 

 

「二体目のメ・ガリマ・バ。改めゴ・ガリマ・バは、あなたが知っているガリマとは別人です。」

 

「……どういう事だ?」

 

「彼女は、あなたが以前いた世界とは違う世界から来ました。」

 

 

……よく言ってる意味がわかんない。

オレは今そんな顔をしていると思う。だって本当にわかんないもん。

 

その様子を見て、神さんは不自然に付いているスイッチを押す。

すると、宇宙のような空間の中に地球のような球体がいくつか出てきた。

そして、さらに説明を加えた。

 

 

「無数に存在する世界には、物語に沿った名前が与えられています。

あなたが以前いた世界、グロンギと戦士クウガが戦う世界は『クウガの世界』と呼ばれていますし、現在の世界は、悪魔が存在する高校を舞台とする物語なので『ハイスクールD×Dの世界』と呼ばれています。」

 

「オレが住んでる世界にそんな名前があったんだな。知らなかった…。」

 

「ですが、クウガの世界もハイスクールD×Dの世界も、一つだけではありません。」

 

「悪い、そこがよく分からねぇんだが」

 

オレは神さんの説明にストップをかけた。

オレが住んでいる世界が一つではないって、実感わかねぇし。

 

 

「それならば、ハイスクールD×Dの世界を例に挙げましょうか。

この物語の大筋はさっき述べた通りなのですが、その大筋には様々な分岐点が存在しており、その分岐点の数だけ同じ名前の世界が存在するんです。

あなたが今いる世界とは別に、兵藤 一誠が殺されずに平穏な日々を暮らす世界や、アーシア・アルジェントと出会わない世界。

更に言うならば、神器“赤龍帝の籠手”が別の人間に宿っている世界や、兵藤 一誠の性格が真面目である世界も一応存在しています。」

 

へぇ〜、イッセーが真面目な世界、ねぇ…。そんなのあるんだな。

…実に興味深いなそれ。是非とも真面目なイッセー君見てみたい。

 

「それはクウガの世界についても同様です。クウガが様々な敵を乗り越えて最後の敵を倒す世界や、グロンギの誰かと協力する世界など、数え切れないほどあるんですよ。」

 

二番目の世界は、大方オレが前にいた世界のことだろうな。

てか最後の敵ってことは、ンの名前を持ったグロンギだろ?そいつを一人で倒せるやつとかいるんだな〜。

 

「話を戻しましょうか。では、ガリマはどのクウガの世界から来たのか?

それについては、すでに結論は出ています。」

 

マジかよ⁉︎仕事早すぎるだろ!

さすが神って言われるだけのことはあるな〜。

 

「んで?どの世界からやって来たんだ?」

 

 

「それは、〝クウガがズ集団との戦いの最中にグロンギに負けた〟世界です。」

 

 

……………………は?

 

 

「いやいやいや⁉︎そんなはずがねぇだろ!

いくら何でもズ集団に負けるってことは」

 

「クウガにも様々な人間がいますから、あなたがよく知る人物とは全く違う愚かなクウガもいるんですよ。

例えば、真っ先にンの名前を持ったグロンギに戦いに行くような人とかね。」

 

…そんな事ってあるのか?

それってRPGで言うと、スライムしか倒せねぇ勇者が魔王に挑戦しに行くようなもんだろ?

 

「クウガが負けてしまえば、人間をゲゲルから守ることができる人物がいなくなり、結果多くのグロンギが力をつけてきた。

よって、ガリマはメ集団からゴ集団へと昇格したのです。」

 

「なるほどな…。あいつが妙に強くなっていたのはそのためか。」

 

オレは神さんの説明に納得して、相槌を打つ。

てか、そうなったらその世界もう終わりだろ。人類滅亡まであと何日?っていうカウントダウンが始まってもおかしくねぇな。

 

 

「次に、何故この世界にやって来たのかについてですね。」

 

神さんがオレの思考を遮るように咳払いをしてから話し始める。

そう、何よりそれが重要だった。

 

「実はそのクウガの世界と、あなたがいるハイスクールD×Dの世界が徐々に近づいてきてるんです。」

 

すると、オレが今いる世界を表す地球と、崩壊直前のクウガの世界を表す地球がだんだんと近づいてきた。

 

「世界観が違う別々の世界同士が近づくという現象は稀にあることでして、放っておいてもいずれ離れていくものなのです。

しかし、離れるまではそれぞれの世界からもう片方の世界に移動してしまう事もあるんですよ。

もちろん移動してしまった人を見つければ、元の世界に返すために我々も動くのですが、中にはそのまま移動先の世界で暮らそうとする者もいるんですよ。

それこそグロンギのように、もう一つの世界でゲゲルを働こうとする場合とかね。

その現象によって、ブウロもガリマもやって来てしまった。という訳です。」

 

「…つまり、その世界が離れてしまうまでは、グロンギがこっちに来ることもあるって事か?」

 

「そうなります。そこで、厄介な事を押し付けてしまうのですが…」

 

「分かってる、みなまで言うな!」

 

オレは神さんの言葉を遮って叫ぶ。

 

「それまで、こっちの世界に渡ってきたグロンギを倒せってんだろ? 任せといてくれよ」

 

オレがそう言うと、神さんは安堵の表情を見せた。

 

「助かります。あの世界は私達が責任を持って物語を再構築していくので、その為にもあなたの世界とあの世界を離さなければならない。

あなたがあなたの世界に入り込んだグロンギを倒し、世界の距離が離れさえすれば、すぐにでも実行しますので、ご安心ください。」

 

そうか、それなら安心……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、再構築って何?」

 

「それに関しては企業秘密です。

ざっくり言えば、グロンギがいない平和な世界にしてしまう事です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

クイッ ガコンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

神さんが何時の間にか横に垂れ落ちてきた紐を引く。

 

すると、嫌な音とともにオレの真下の地面が開いた。

 

「そろそろ、起床の時間です。

先程頼んだこと、どうかよろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

「ウソダアアァァァァァ!!!」

 

 

 

 

オレはなぜかまたもや超スカイダイビングをする羽目になった…。

 

 

 

ーーーーーーーー

【第三者視点】

 

「…さて、どうしたものですかね?」

 

八神を送り届けた(落とした)神は、問題のクウガの世界を表す地球に手をかざす。

 

手をその地球にかざすと、その世界で起こっている出来事を見ることができるのだ。

 

地球の上にボンヤリと映像が映し出される。

 

そこには、黄金のベルトを巻いたグロンギと、鉛のような色のベルトを巻いたグロンギがいた。

 

その光景は、雪山の中で行われた最後のゲゲル『ザギバスゲゲル』の様子であった。

 

たった今、決着が着いたようだ。

 

黄金のベルトを巻いていたグロンギが、ゆっくりと倒れていく。

 

勝者となったグロンギは、倒れたグロンギに近寄り、ベルトを受け継いだ。

 

ここに、新たなグロンギの王が誕生した。

 

その様子を見届けた神は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…正義感溢れる青年も、別世界では醜いものですね……。」

 

 

 

 

 

 

 

そのグロンギには、頭に一本の小さいツノが生えていた…。

 



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十八話目

月曜に録画していた『恋仲』見ました。

改めて福士さんの演技力すごいですよね!フォーゼの弦ちゃんの性格も恋仲の葵くんの性格もかなり表現できてましたもん。



神さんとの会話の数日後、オレはいつも通りイッセーの家の前で待っていた。

 

あれ以来、グロンギはこの世界に出て来てねぇ。

ひょこひょこ来るもんじゃねぇってのは分かってるけど、いつポッと出て来るか分からねぇからな。警戒はしてる。

 

昨日の話だと、ゴ集団のヤツらも強くなっていることは確実だ。

ブウロの時のように、簡単に倒せたりできねぇだろうよ。

 

…もっと力をつけねぇと、あいつみてぇに皆を守ることができねぇのか…。

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「お、イッセーとアーシア。今日は遅かったな〜。一体どうしたんだ?」

 

オレはイッセーの家の玄関から出てきた二人に向かって声をかける。

 

「あぁ、悪い。ちょっと、目覚めが悪くてさ…。」

 

かなり疲れましたって顔をしながらイッセーが答えた。

 

「オイオイどしたの?テンション低いね随分と。まだ朝日の光に慣れてねぇっての?」

 

「あー、そんなことじゃないんだけどさ…。 」

 

「イッセーさん。お疲れでしたら、いつでも言ってください。

何でもお手伝いしますから。」

 

「ハハッ。アーシアは優しいな〜。」

 

「シュウさんもですよ。いつでも頼りにしてください。」

 

オレ達は毎度のように談笑しながら学校に向かう。

しかし、イッセーは険しい表情を浮かべながらオレとアーシアの会話を右から左へと聞き流している。

 

「…オーイ、本当にどうしたんだお前は。らしくねぇぞ?ボーッとしちまってさ。」

 

アーシアも心配していたようで、イッセーの顔を覗き込んでいる。

イッセーは一瞬ためらった様子を見せたが、その後何かを決心したように口を開いた。

 

「……アーシア、少しだけ離れててくれねえか?シュウと話したいことがあるんだ。」

 

「え?あ、はい…。」

 

イッセーにそう言われたアーシアは、少しだけ小走りでオレ達と距離を開ける。

 

「んで?話したいことって何よ?」

 

「あぁ…その、さ……。」

 

珍しくイッセーの歯切りがかなり悪い。

こいつはいつも直感で話すようなヤツだから、言いたいことはズバズバ言って来るんだよ。

けど、今回はブツブツ言いながら考えてる。

 

 

そして、イッセーは再び口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……部長に夜這いされそうになったら、お前はどうする?」

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

ガゴンッ!

 

 

 

 

 

 

「いってえな!いきなり殴るなよ!だから嫌だったんだよお前に相談するの!」

 

「何でそんな訳の分からん妄想で悩んでんだよ馬鹿馬鹿しい。心配して損したわ。」

 

んなこと考えていたからあんな顔してたのかと思うと、いろいろ腹が立ってくる。もう一発だけ殴っても天罰はねぇだろ。

 

「違うって!もしもの話とかじゃなくて、本当にあったんだよ昨日の夜!」

 

「お前頭狂ったか?何で部長がお前んとこ行って夜這いしようとするんだよ。

変な夢でも見たんだろ?」

 

「間違い無えんだよ!昨日の夜さ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『話をしよう…あれは今から三十六m「昨日の話だよ!」

 

「どこに叫んでんのお前。」

 

 

ーーーーーーーー

 

「さて…そろそろ寝ようかな。」

 

俺、兵藤 一誠は夜の悪魔稼業を終わらせて家に帰り、これから寝る支度を始めようとしていた。

アーシアはすでに寝てしまっているよ。

 

あ、言ってなかったけどアーシアはホームステイってことで俺の家で過ごしているんだ。

この事が松田と元浜に知れ渡った時はメッチャ罵倒されたっけ。

ま、これが人生勝ち組ってやつだよなあ〜。

 

 

俺の部屋に行ってパジャマに着替え、さあ寝るぞ!って時だった。

 

 

パァッと、突然魔法陣が部屋の中に現れた。

 

 

紅い色にこの紋章…。グレモリー家の魔法陣だ。

 

こんな時間に?てかさっき会ったばかりだよな?

 

そんなこと考えているうちに、転移された誰かが部屋の中に現れて魔法陣は消えていった。

 

 

「部…部長?」

 

 

そこには、オカルト研究部の部長で俺達の主、リアス先輩が立っていたんだ。

 

「どうしたんですか?何かあったんですか?」

 

俺は部長に転移してきた理由について訊いてみたんだ。

 

「イッセー……。」

 

部長は何かを考えるように、俺の元に近づいてくる。

 

そして、俺の目の前に立ってこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を抱きなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

……え

 

 

 

ええぇえええぇええ!!?

ちょっと何言ってるんだよこの人!

え⁉︎これってあれか⁉︎夜這いってやつか⁉︎現実でやろうとする人初めて見ました!

なにそのプレイ!嫌いじゃないわ!

やべえ急な出来事に頭がこんがらがって変なことになってる!

俺がこうなってるのに部長は淡々と服を脱ぎ始めてるし!美しい身体があらわになってきた!も〜訳わかんない!

 

「まだまだ未熟なところも多いけど、素質はありそう…。」

 

なんかそれっぽい事言い始めたし!

てか本当にどーなってんだよ!俺部長に何かフラグ建てたっけ⁉︎覚えがない!

あやっべ押し倒された!ここで俺も童貞卒業してしまうのか⁉︎いやしたいけども!

 

「イッセー…。」

 

声が色っぽくなってます!もうこのままやっちゃってもいいかな⁉︎いいよね⁉︎あーでもこんなとこアーシアとか、ないと思うけどシュウに見られたら終わる!

あーもー!なんかも〜!

 

 

 

 

 

「いい加減にして下さい!!」

 

 

 

 

 

「きゃっ!」

 

俺は思わず部長を突き飛ばしてしまった。

 

「部長、一体どうしたんですか?今の部長、少しおかしかったですよ?何か悩みが言ってください!」

 

部長の肩を掴んで質問する俺に、気まずそうな顔をする部長。

 

 

辺りに沈黙が走った。

 

 

すると、またもや別の魔法陣が現れた。今度は銀色である。

 

「間に合わなかったのね…。」

 

部長が苦い顔をしてその魔法陣を睨む。

間に合わなかった?どういう事?

 

すると、その魔法陣から今まで見た事のない人が転移されてきた。

 

「このような形で既成事実を作ろうというのですか?」

 

「そうしないと、貴方達は私の意見を聞き入れようとしないじゃない。」

 

既成事実?部長の意見?どういう事だ?

 

「貴方の身体は大切なものなのです。あの様な下劣な男に貞操を捧げるなど、もってのほかです。」

 

後になって転移されてきた女性は俺の方を一瞥して、部長に言った。

 

てか、下劣な男て…。自覚してるけどさ……。

 

「私の貞操を誰に捧げるかは、私が決めることよ。それに、私の下僕を下劣呼ばわりするのは、例え貴方でも許さないわ、グレイフィア。」

 

「…何はともあれ、貴方はグレモリー家の次期当主様です。ご自重くださいませ。」

 

グレイフィアと呼ばれた女性はそう言うと、部長の服を拾って部長に手渡し、俺に向き直る。

 

「初めまして。私はグレモリー家にお仕えしておりますグレイフィアと申します。以後お見知りおきを。」

 

「あぁ、どうも。兵藤 一誠です。」

 

…正直今でも頭の中が整理できていない。

 

「グレイフィア、あなたが今日来たのは家の意思?兄の意思?それとも、貴方自身の意思?」

 

「全部です。」

 

グレイフィアさんが即答すると、部長は大きな溜息をつく。

 

「分かったわ、後は私の根城で話をしましょう。朱乃も同行させてもいいかしら?」

 

「雷の巫女ですね。構いません。」

 

どうやら話はひと段落ついたようだ。俺は全くついてこれてないけどね。

 

「突然迷惑をかけてしまったわね、イッセー。本当にゴメンなさい。今日のことはお互い忘れましょう?

また明日、部室でね。」

 

そう言って、部長とグレイフィアさんは魔法陣に乗ってどこかへ転移されていった。

 

「……何だったんだ?一体…。」

 

俺の部屋に、俺の呟きだけが広がった…。

 

 

ーーーーーーーー

 

「…ということなんだよ。」

 

今、イッセーから昨日あった出来事について長〜い説明を受けたところだ。

 

「な?おかしいと思うだろ?あの部長が、いきなり俺の部屋に来たんだ。何かあるとみたぜ。」

 

「いや今冷静になって考えてみたんだが、案外あり得るかもな。」

 

「何でだよ!」

 

「だってさ、お前が殺された日の次の日に、お前の横で裸になって寝てたじゃん。」

 

「う、まぁそうだけどさ…。」

 

「つっても、何か事情があるのは間違いねぇだろうよ。そのグレイフィア?とかが関わっているんじゃねぇか?」

 

話を聞いて思い返してみりゃ、確かに昨日の部長は変だった。

心ここに在らず〜って感じで、十回話しかけたとしたら七回は「え?何?」みてぇな返しが来たからな。

 

「そうなんだよなぁ…、スゲェ気になる。」

 

「気になるのはオレも同じさ。でも、忘れましょうって言われたんなら忘れてやったほうがいいと思うぜ?

精々ユウトとか朱乃先輩に聞くくらいにしとけ。」

 

話にひと段落つけたオレ達は、前を歩いているアーシアを呼んで最初のように三人で登校した…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ファアアァァ…や〜っと終わったぜ。」

 

今日も退屈な時間が終わる。

さぁ!やっとこれから楽しい楽しい部活の時間だz「おい、八神」…あり?

なしてここに日本史のセンセがいるんだ?今の授業は古典だったはずじゃあ…。

 

「貴様、私の授業以外では堂々と眠りこけっているらしいな?」

 

「え!いや、その、うん…はい……。」

 

何で日本史の先生がそんなこと知ってんだよ!他の教科の先生チクったな!

その先生はいつの間にか手に持っていた出席簿を振り上げ、容赦なくオレに叩き落す。

 

バグォオオオン!

 

出席簿から出てきたとは到底思えない音がなる。オレの頭にもう一つ頭が生えたように、でっかいタンコブができた。

 

「放課後、職員室に来い。」

 

「え!あのオレ!放課後はy「来い」……はい。」

 

 

オレが渋々返事をすると、先生は職員室に向かって歩いていく。

…あの先生には逆らえねぇ。

 

「えっと、シュウくん大丈夫?」

 

「ユウト…オレ、部活遅れます。」

 

 

 

放課後に職員室に入ると、ドチャっとありえない数のプリントを渡された。

先生曰く「寝ているほど余裕があるのだろう?」とのこと。

オレはそのプリントをやり終えない限り部活に行かしてもらえないそうです。

 

んで職員室の中では、オレはこの先生だけには逆らえねぇってことが有名らしい。ちくしょう。

 

 

 

……まぁ実際楽勝だけどね?地理以外。

 

ーーーーーーーーーー

 

「部長のお悩み…か…。多分グレモリー家の関係じゃないかな?」

 

俺とアーシアと木場は部室に向かって歩いていた。

シュウがいないことが気になって、木場に訊いてみたんだけど「職員室に呼び出された」って苦笑いしながら言ってた。

何したんだよアイツ…。

 

「じゃあ朱乃さんに聞けば何か分かるかな?」

 

「まぁ、あの人は部長の側近だからね…!」

 

急に木場が立ち止まってしまった。

 

「まさかこの僕が僕がここまで来て気づくなんて…!」

 

「木場?どうしたんだよ。」

 

顔を強張らせる木場を見ながら、俺とアーシアはいつも通りに部室に入った。

 

そこにはいつも通りの部長、朱乃さん、小猫ちゃんと、もう一人。

 

「グレイフィアさん⁉︎」

 

「ご無沙汰しております。兵藤 一誠様。」

 

昨日会ったグレイフィアさんがいた。

何でグレイフィアさんがここにいるんだ?

 

「全員は揃ってないわね。祐斗、シュウは?」

 

「少し遅れるそうです。」

 

「そう、分かったわ。それなら始めましょうか。」

 

「お嬢様、私がお話ししましょうか?」

 

グレイフィアさんが言った提案に対し、部長は手を振ることで否定の意思を見せる。

一体なんの話があるんだ?

 

「実はね…」

 

部長が口を開いた瞬間だった。

 

 

突如部室の中に魔法陣が現れ、魔法陣から赤い炎が巻き起こる。

 

 

肌に炎の熱気を感じながらその魔法陣の紋章を見ると、グレモリー家のソレとは全く違った。

 

その魔法陣の中から、一人の男性が姿を現した。

 

「ふぅ…人間界は久しぶりだ。」

 

赤いスーツを着たまるでホストのような男は、部長を見て口を開く。

 

 

 

「会いにきたぜ?愛しのリアス。」

 

 

 

俺はその言葉を聞き、驚きを隠せなかった……。

 




主人公居残りです笑
でもすぐに合流はさせますね。


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十九話目

【第三者視点】

 

突然部室に現れた謎の男、名をライザー・フェニックスという者は、純血の上級悪魔であり、フェニックス家の三男である。

そして何より、グレモリー家の時期当主の婿、つまりリアスの婚約者である。

 

しかしこの二人、互いに愛し合ってはいない。むしろ、リアスに至ってはライザーを拒絶しているようにも見える。

 

ならば何故結婚するか?

 

そう。『政略結婚』だ。

 

グレモリー家もライザー家も、元は“七二柱”と呼ばれる爵位持ちの一族であり、大昔の戦争でも生き残った純潔悪魔の一族であった。

しかし、戦争で生き残った純潔悪魔は非常に数が少なく、近いうちに純潔悪魔が一人としていなくなることも考えられる。

そこで、グレモリー家とフェニックス家の間で縁談が持ちかけられたのだ。

 

今、兵藤 一誠らグレモリー眷属は、部室の片隅によって事の成り行きを見届けていた。

 

「ふう、リアスの女王が淹れてくれたお茶はとても美味しいな。」

 

「痛み入りますわ。」

 

ライザーに茶を出した朱乃は、ライザーの言葉に笑いかけながら答えるが、作り笑顔である事は眷属の全員が感じ取っている。

 

そんな事は露知らず、ライザーはリアスに対し過ぎたスキンシップをとっていた。

リアスの肩に手を回し、髪を触り、太ももをさする。

リアスの表情から、かなりの怒気が伝わってくる。

やがて、耐えられなくなったのかリアスは声に出してライザーを拒絶した。

 

「いい加減にしてちょうだい、ライザー。何度も言っているでしょう。私はあなたとは結婚しないって。」

 

「だがリアス、それはお前個人の意見だろ?お前の我儘が通るほどお前の家は余裕があるとでも思っているのか?」

 

「家を潰すつもりはないわ。婿養子だって迎え入れる。でも私は私がいいと思った男と結婚するわ。」

 

「純潔悪魔の血を絶やしてしまうのは魔界全体での問題であるのは分かるだろう?君の父上様やサーゼクス様も、未来を考えてこの縁談を持ち込んだんだ。」

 

「お父様もお兄様も焦りすぎなのよ。何度も言うわ、ライザー。」

 

そこでリアスはライザーの隣で座っていたソファから立ち上がり、全ての感情を込めて言い放つ。

 

「私はあなたとは結婚しない!」

 

その言葉を聞いたライザーは、徐々に機嫌が悪くなっていくのが読み取れる。

 

「俺だってな、リアス。フェニックスの看板を背負ってここまで来てるんだ。フェニックスの名前を汚すわけにはいかねえ。」

 

ライザーも同様に立ち上がり、リアスを睨みながら

 

「俺は君の下僕を全て焼き払ってでも君を持ち帰るぞ。」

 

と言う。

 

リアスもライザーを睨み返し、辺りいっぺんに敵意の空気が広がる。

その場にシンッと沈黙が走る…。

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「すんませーん、遅れまし…アレ?何この空気。」

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

…そこにKYが入り込んだ。

 

KYこと、八神は殺伐とした雰囲気を出す部室の中央にいる二人を見て、首を傾げる。

 

「なぁイッセー、何この状況」

 

「部長の婚約者が来た」

 

「そうなのか?へぇ〜、あれがね〜。」

 

近くにいた兵藤に現状を確認すると、兵藤は不機嫌な様子をさらけ出しながら答える。

婚約者と聞いた八神は、ジロジロとライザーの方を見る。

 

 

 

 

「趣味悪いっすね部長」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

 

 

爆弾発言である。

 

それを聞いたイッセー達は笑いそうになる衝動を抑える。

ライザーは顔を震わせ激怒している。

グレイフィアはこれから起こるであろうことに対応するための準備をする。

 

「羽虫が…俺に向かって何か言ったか!!?」

 

ライザーは手に炎の球を作って八神に向かって放つ。

グレイフィアがその炎の球を打ち消すために魔力を込めた。

 

しかし、その心配は杞憂に終わる。

 

八神が手を上に振りかざすことで、八神とライザーの間に水の壁が生成され、炎の球を消してしまった。

 

「な⁉︎」

 

ライザーは思わず、驚きの声を上げる。人間が自分の炎を消してしまうとは思わなかったからだ。

水の壁が無くなり、壁があった向こうから声を掛けられる。

 

「オレは羽虫じゃねぇよ。」

 

その余裕そうな顔を見て、更に怒ったライザーはもう一度手に魔力を込める。

八神は腕を曲げて戦闘態勢に入った。

 

「おやめくださいませ、ライザー様。これ以上はこのグレイフィアが許しません。」

 

しかし、そこでグレイフィアが仲裁に入る。

グレイフィアは覇気のこもった睨みをライザーに向ける。

ライザーは一度たじろぐが、一度大きくため息をついて

 

「…分かった。最強の女王と呼ばれる貴方に睨まれると、俺も怖いよ。」

 

と言う。ライザーは手の魔力を解き、最初のような顔に戻る。

それを見たグレイフィアは、今度は八神を向き

 

「申し訳ありませんでした。どうか、気をお納め下さい。」

 

と頭を下げる。

八神は気不味そうな顔を浮かべながらも、戦闘態勢を解いて手を下ろす。

 

「こうなるであろうことは、旦那様方も予測しておられました。ですので、最終手段を仰せつかっております。」

 

八神が手を下ろすのを見届けたグレイフィアは、リアス達に向き直って言った。

 

「最終手段?グレイフィア、どういう事?」

 

「お嬢様がご自分の意思を貫きたいのであれば、“レーティングゲーム”で決着を、との事です。」

 

グレイフィアが発した言葉に、兵藤とアーシアと八神以外は驚きの顔を浮かべる。

 

「なぁ、レーティングゲームってなんだ?」

 

「…レーティングゲームと言うのは、チェスのような戦いだよ。相手の王を倒したら勝ちという、シンプルなゲームさ。」

 

「しかし、本来はレーティングゲームは成人悪魔だけが参加できますの。」

 

「という事は、成人されてない部長さんは不利ということですか?」

 

「…それだけじゃなく、ライザーの方は既に勝ち数が多いです…。」

 

「ってことは、フェアに見えてアンフェアな試合ってことか。」

 

順に兵藤、木場、朱乃、アーシア、小猫、八神が発言する。

 

「それに、不利なのはそこだけじゃないです。」

 

「あぁ、だろうな。」

 

「え?何がだよ」

 

更に小猫が漏らした言葉に同意する八神と、疑問の声を上げる兵藤。

 

そんな眷属達の様子を見たライザーは嘲笑を浮かべ、リアスに問いかける。

 

「なあリアス、君の下僕達はあそこにいる者だけか?」

 

「だとしたら?」

 

ライザーの問いに、冷たい返答を返したリアス。

ライザーが高笑いしてパチンと指を鳴らす。

すると、先程と同じように炎とともに魔法陣が現れ、その中から複数の人影が姿を見せた。

 

「こちらは十五人、全員揃っているぞ?」

 

そこには、様々な服装をした人間、いや悪魔が立っていた。

体操服を着た少女、仮面をつけた女性、猫耳が生えた女性にチャイナドレスを着た女性。

要するに、全員が女性である。

 

「美女!美少女ばかりで十五人⁉︎」

 

「ショック受けんな馬鹿」

 

その手の事にマニアニックな兵藤が落ち込み、汚物を見るような顔をしていた八神が叩く。

 

しかし、兵藤は止まらない。

目の前で自分の理想を叶えている男を見てしまったのだ。

兵藤は膝から崩れ落ちて、嗚咽をこぼしながら泣いてしまった。

 

「おいおい、リアス。この下僕くん、俺を見て号泣してるんだが…。」

 

「その子の夢がハーレムなの。」

 

ライザーは号泣する兵藤を見てドン引きしながら質問すると、リアスは呆れたように答えた。

 

それを見たライザーは、ニヤリと笑みを浮かべると、

 

「ユーベルーナ」

 

と、一人の女性の名前を呼んだ。

その女性がライザーの元に近寄ると、ライザーは彼女の唇を唇で塞いだ。所謂、キスである。

それどころか、チュパチュパ嫌な音が聞こえるため、ディープの方であることが読める。

 

絶望する兵藤、しかめっ面を浮かべるリアス、眉間にしわを寄せる小猫、殺気が漂う朱乃、笑顔が消えた木場、赤面したアーシア。

この世の全ての汚い要素を合わせた不吉な物でも見てるかのような顔を浮かべる八神。

 

様々な反応をするリアス達を見て、ライザーは唇を離す。

やっと終わったと思った矢先に、今度は彼女の胸を揉みしだき始めた。

皆の反応は先ほどよりも物凄いことになっている。

 

「こんな事は一生できないだろうよ、下僕くん?」

 

「うるせぇ!ブーステッド・ギア!」

 

兵藤は嫉妬…いや、怒りの心を爆発させて神器を作り出す。

赤い装甲を纏った左手の指をライザーに突きつけて叫ぶ。

 

「どうせ部長と結婚した後も他の女の子とイチャコラするつもりなんだろ!ゲームなんかやらなくても、ここで全員倒してやる!」

 

他の眷属達が慌てて止めようとするが、兵藤はそんな事お構いなしにライザーに向けて走り出した。

 

「…ミラ」

 

ライザーがまた別の名前を呼ぶと、一人の女性が飛び出す。

長い棍を持った、童顔の女である。

 

「こんな女の子が相手か…やり難いな…!」

 

兵藤が言い終わった頃には、既に彼女は兵藤の懐に潜り込んでいた。

そのまま棍で突かれ、天井に叩きつけられた。

 

「ガハッ…!」

 

「イッセー!」

 

ダメージに苦しみ、咳き込む兵藤の元に駆け寄るリアス。

 

「イッセー!大丈夫⁉︎」

 

「はい…何とか…」

 

「ハハッ!情けないな今回の赤龍帝は!

今のは俺の下僕の中でも、最も戦闘に不向きな奴だというのにな!」

 

兵藤の無事を確認するリアスと、それに弱々しく応える兵藤。

その二人を見下しながら笑うライザー。

ライザーの笑いを受けながら、リアスは決心したように立ち上がる。

 

「…分かったわ。レーティングゲームで決着をつけましょう。」

 

「かしこまりました。」

 

「ライザー…必ずあなたを消しとばしてあげる!」

 

「楽しみにしてるよ、リアス。とは言っても、俺達とまともに戦えるのは君と雷の巫女ぐらいだろうけどな。

…まぁ、そこにいる人間が悪魔なら良かったがな。」

 

「オレ参加出来ないの?」

 

「レーティングゲームは悪魔でないと参加出来ないのです。」

 

ライザーの呟きに疑問の声を上げる八神に、朱乃が答える。

 

「それだと面白くないからな、そこの人間。お前もこのゲームに参加しろ。その方が少しはゲームになるだろう。

それから、ゲームの開始は十日後だ、精々頑張って修行でもやるんだな。」

 

余裕な顔でライザーは様々なルールを加えていく。

確かにこれぐらいのハンデがあれば、リアス達は今より強くなる事が出来るだろう。

 

「…分かったわ、ありがたく頂戴する事にするわ。」

 

「そうか。じゃあ、十日後まで御機嫌よう。」

 

そう言って、ライザーは来た時とは逆に魔法陣を通って魔界に帰っていった。

 

ーーーーーーーー

 

オレは学校の屋上で考え事をしていた。

部活は既に解散したよ。明日から早速修行に出るからってことで、体を休めるための休日だ。

 

…オレを含めたリアスチームと、ライザーチームの戦闘能力でははっきりとした差が広がっている。今のまま戦ったとしても、あのホストが言っていたように部長と朱乃先輩がそこそこ戦えて、オレ一人が頑張ることになる。

この差を縮めようと思ったら、十日間はかなり苦しい修行になるだろうな。

 

この際だ。オレも修行したかったから丁度いい。

しっかりと鍛えてやるか!

 

 

 

「…ところでさ、いつまで隠れてるつもりなの?メイドさん。」

 

 

 

オレの背後から銀色の魔法陣が光り、一人の女性が現れた。

さっきまで部室にいたグレイフィアとか言うメイドさんだ。

 

「…一つ、聞いても宜しいですか?」

 

「ええ、どうぞ?」

 

グレイフィアさんの目から冷たい視線を感じる。

こんな怖い視線を向けられるような覚えは、一つだけある。

 

 

 

「貴方は何者なのですか?悪魔でも無ければ堕天使でも天使でも無い。人間でも無いですよね?」

 

 

 

これだ。オレがライザーの炎を消した時から、この人の視線を時々感じてたんだ。

 

「オレは人間ですよ?アイムヒューマンベリーマッチ。その他何もなし。」

 

「…貴方の中から人間ではない何かの力を感じます。それについてはなんと言い訳するのですか?

…ついでに、その英語はおかしいです。」

 

「英語がおかしいのは自覚済み、今のはジョークで言ったんだよ。

あんたがなんて言おうが、オレは人間だ。

…もういいか?下でユウト達が待ってる。」

 

オレはそう言ってグレイフィアの横を通り過ぎ、屋上の扉を開ける。

 

 

「…あの者と似た何かの気配を、最近よく感じる…。」

 

 

とか呟いていたが、オレは気にしてない風で下に降りていった。

 

 

明日から修行、頑張りますか!




やってみたかったこと
if.既に皆がシュウの正体を知っていれば

「羽虫が…俺に向かって何か言ったか!!?」

ライザーは手に炎の球を作って八神に向かって放つ。
グレイフィアがその炎の球を打ち消すために魔力を込めた。

しかし、その心配は杞憂に終わる。

八神が手を上に振りかざすことで、八神とライザーの間に水の壁が生成され、炎の球を消してしまった。

「な⁉︎」

ライザーは思わず、驚きの声を上げる。人間が自分の炎を消してしまうとは思わなかったからだ。
水の壁が無くなり、壁があった向こうから声を掛けられる。

「…羽虫だな、確かに」

「…は?」

八神が呟く言葉に、ライザーはつい情けない声を出してしまった。

「羽虫ね」「羽虫ですわ」「羽虫だね」「…羽虫」「羽虫だ」「羽虫なのでしょうか?」

「…お前らこの人間に対して酷くねぇか?」


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二十話目

オレ達、オカルト研究部員は、今現在山を登っております。

何故か?修行をするためだ。この山の頂上にあるグレモリー家の別荘なるものに宿泊するらしい。

学校は?公欠を取っている。なんか駒王学園の園長が悪魔と繋がりがあるとか無いとか。シトリー先輩が生徒会長であるのも関係していると見ていいだろうな。

 

「いや〜、まさかこんな季節に山登りする事になるとは思わなかったな!なぁ、イッセー!」

 

「…ハァ、ハァッ。う、うるせぇ…ハァ、ハァ…。」

 

オレの隣を歩くイッセー君は息切れしながらキツそうに登っている。

まぁ背中に背負っている荷物の所為なんだろうが。

 

「そんな程度でヒーコラ言ってたらダメだろ〜?オレだって同じくらいは持ってるわけだし。」

 

「お先に。」

 

「あ、ほらユウトに先を越されたぞ?あいつだって同じ量の荷物持ってんのに、爽やか〜な顔のまま淡々と登って行ってるし。」

 

「…うるせえ…ハァ…ハァ…」

 

「…失礼」

 

「おいおい、お前の倍くらいの荷物抱えた小猫にも追い抜かれたぞ?お前の限界はそんなもんか?」

 

「ウ、グググ!」

 

「そろそろオレもお前に合わせるのに疲れてきたな〜、先行っちまうぞ?」

 

「…ま、負けてられっかぁ!!」

 

「よし!いいぞ!行け!」

 

とまぁ、いつも通りのスタイルで頂上に向かっている。

部長と朱乃先輩はジャンプして先に行っちまったし、アーシアはノー荷物だ。本来は女性陣に荷物を持たせるのは紳士としてあってはならねぇことだが、小猫は性質的に例外だ。オレ達の中で一番の力持ちだから一番荷物が多い。

それじゃあ流石に悪いってことで、オレが申し訳程度に小猫の荷物を少しだけもらった。それでもあいつが一番多いんだけど。

 

 

 

「よし!頑張れイッセー!もう少しで頂上だ!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

多分山登り組みで一番うるさいだろうなオレ達。

 

 

ーーーーーーーー

 

別荘につきました。

初めて見たけど、確かに修行には向いてるなここ。模擬戦を行うのに丁度良さそうな広場が別荘の目の前にあるし、他にも様々な場所にある。

ここら一帯にある山は全部自由に使えるらしいし、苦労することはねぇだろうな。

 

着替えを終わらせた部員が次々に別荘から出て来る。

因みに、オレ以外は学校指定のジャージだ。オレは自分専用の戦闘服、真っ黒なスーツを着ている。(ハガレン本編で、グリリンが来ていた服)この服が部屋にあった時は神さんにかなり感謝したね。

 

「シュウ?貴方、その服で修行するの?」

 

「大丈夫っすよ。案外これ動き易いんで。」

 

「そう、ならいいわ。先ずは実戦形式でいきましょう。祐斗とイッセー、準備して。」

 

「「はい!」」

 

部長の指示が出ると、二人はそれぞれ戦いの準備を始める。

イッセーも武器を使って戦うことを覚えて欲しいようで、イッセーもユウトも木刀で戦うらしい。

 

二人が向かい合ったところで模擬戦が始まったが、流れは一方的だった。

ただ刀を振り回すイッセーに対し、ユウトは的確に相手の隙を突いている。

 

「そうじゃない!剣だけを見るんじゃなくて、視界を広げて周囲全体を見るんだ!」

 

ユウトはイッセーの背後に回り込み、イッセーの刀を叩き落とす。

 

「…!さすが木場だ」

 

あ、あいつ油断しやがった。ユウトがそこを突かないわけがないよな。

 

「気を抜かない!」

 

再び刀を振り下ろすユウト。イッセーは慌てて真剣白刃取りっぽく木刀を止めようとしたが、時すでに遅し。

パコォンという音がなり、イッセーは気絶してしまった。

頭に当たったな、間違いなく。

 

部長は一度ため息をつくと、

 

「仕方ないから、イッセーは休憩ね。次はシュウとユウトでいきましょう。」

 

「ういっす。ユウト〜?スピード重視の槍とパワー重視の刀、どっちとやりたい?」

 

オレの質問に、ユウトは少し考える素振りを見せて

 

「槍とやってみたいかな?その手の武器の使い手を見たことがないから。」

 

と答える。

 

答えを聞いたオレは、俊敏体になってそこいらにある木の枝を触る。

木の枝は形を変えて、一本の槍になった。あ、槍といっても木で出来ているから死ぬことはねぇぞ。

 

そして、オレとユウトの模擬戦が始まった。

ユウトの駒は“騎士”。かなり素早い動きで相手を翻弄しつつ、剣で相手を切り刻む事を得意とするんだっけか?

近づき過ぎると得意のスピードが生かせないし、離れ過ぎると相手を切るタイミングを失う。そこで、適度な距離を保とうとする。

つまり、中距離型だな。

現に、ユウトはオレの槍が届かない辺りで高速移動を繰り返している。

隙を見つけたら、そのままの速度で斬りかかってくるだろう。

だがまだ足りないな。その手の戦法を使うのなら、まだ工夫が必要だ。

 

オレは目を瞑り、わずかな空気の流れを感じ取ろうとする。

右、左、前、左、後、前、右、左、前…

読めた!

 

オレは槍を左に振る。すると、その槍を避けるために移動方向の急転換をしたユウトが姿を現した。

オレはすかさず左手を軸にして槍を回し、ユウトに振り下ろす。

ユウトは刀で受け止めたが、それによってさっきまであった速さが完全に消える。

オレは瞬時にユウトの背後に回り、槍を突き出す。

ユウトは何とか刀で防いだみたいだが、突き出した勢いは殺せず、そのまま吹き飛んでいった。

 

そして、オレは高速移動でユウトの周りを走る。

さっきまでユウトがオレに対してやってきた戦法だ。スピードはオレの方が遅いんだが、ユウトの弱点を改善した走り方だ。

ユウトはオレがどこにいるのか分からないらしく、周りを見渡している。よって、隙が生まれた。

オレはすかさずその隙をつくことで、ユウトの刀を叩き落とした。

 

カランッて音がなり、木刀が地面を滑っていく。

 

「…参ったね、負けてしまったよ。」

 

「いんや、なかなか面白い戦い方だったぜ?

ただ、走り回っている時のルートが一定になってる。だからどんなに速く走っていても、ルートがバレてしまえば次にお前がどこにでてくるのか読めるってことだ。」

 

オレは槍を元のように枝に戻してから部長の元に戻る。

 

「…やっぱり凄いわね貴方、戦い慣れしすぎよ。」

 

「まぁ、ほとんど毎日命懸けでしたから。

…て、アレ?イッセーは?」

 

「別の修行に移ったわ。貴方はそのまま小猫とお願い。」

 

「…よろしくお願いします。」

 

小猫か…手にグローブはめてるし、大方接近戦か。

確か小猫の駒は“戦車”で、馬鹿力がつくんだよな?めっちゃシンプルと思った覚えがある。

んじゃ、剛力体で格闘か?それとも素直に格闘体でやるか…

 

「…紫でお願いします。」

 

お?珍しく小猫が要求してきたな〜。パワー勝負でやりたいって事か。

 

「よし分かった。容赦しねぇぞ?」

 

オレは剛力体で構えを取る。

…何気に剛力体で殴りあうのは初めてである。

 

 

「えい」

 

ドムンッ!

 

 

うぉ!毎度毎度思うことだけど、ここの人達言葉と威力が一致してねぇ!

 

心配だから硬化能力も追加!

オレの体が腕から順に黒く染まり、皮膚がダイアモンド並みに硬くなる。なのに、小猫のパンチは痛い。

 

「クソ!見かけによらねぇ力だよな!」

 

「…見かけによらない?」ムスッ

 

「アレ?どしたの小猫?急に顔をしかめちゃって」

 

何かボソッと呟いたと同時に顔をしかめる。不機嫌?なんで?

 

「…えい!」ズドン!

 

「ゴフォオオォォ⁉︎」

 

 

小猫のパンチはダイアモンド以上に強いそうです。

 

 

 

「グ…ハハッ。いいじゃねえか、その威力。嫌いじゃねえ。」

 

「…嫌いじゃない?」パアッ

 

…今度は顔が明るくなった。

でも無表情なのは変わりねぇから、何つーか…目?目が輝いたってやつだ。

 

「…おーい、小猫さん?」

 

「…なんでもないです。続けましょう。」

 

 

 

よく分からないまま、オレと小猫の修行は進んでいった。

 

特にこれといった特徴もねえ戦い方だけど、小猫の特性ではそれがあってるからよしとするか。

 

ーーーーーーーー

 

クタクタになって帰ってきたオレ達の前に出された食事に泣きそうになったのはオレだけじゃないはず。

と言うより、多分画面の向こうの皆様もそうなるであろう。

 

だって…だって……

 

「何でジャガイモと玉ねぎオンリーの食事になってんだよ!!」

 

「すまん!謝る!許してください!!」

 

食事の内容が全部ジャガイモと玉ねぎがメインだったからだ。

ジャガイモと玉ねぎのスープとか、ジャガイモと玉ねぎのサラダとか。

 

何でご丁寧に全部ジャガイモと玉ねぎなのか訊いてみたところ、イッセーが修行の一環として魔力で料理した結果らしい。

 

だったらせめて一品くらいは手で作れよ!何が悲しくてこんなにジャガイモと玉ねぎ食わなきゃいけねぇんだよ!人参と肉加えてカレー作るとかやってくれよ!

 

と、文句言いたかったが作ってくれたことには変わりなしだ。

黙々と消化活動を繰り返しましたよ、えぇ。

味は良かったけれども、今後しばらくはジャガイモと玉ねぎ見たくないです。

 

…ご馳走様でした。

 

 

 

「さて、イッセー?今日一日を通してどうだった?」

 

「俺が一番弱かったです。」

 

食事がひと段落したところで部長がイッセーに声をかけ、それに即答するイッセー。

…そんな自信満々に即答するなよ。

 

「そう、それは間違いないわ。貴方とアーシア以外は皆戦闘経験が一応あるから、感じをつかめさえすれば戦える。シュウに至ってはそのまま戦いの場に出ても問題なさそうなくらいよ。

けど、アーシアの回復もイッセーのブーステッド・ギアもかなり戦力になるわ。

だから、せめて逃げるくらいの力はつけて欲しいの。」

 

「「はい!」」

 

 

確かにそうだろうな。

今日の感じだと、木場も小猫も十日後までには戦えるようになってくるだろうし、朱乃先輩と部長は既に相手からも警戒されるほどの実力を持っているみたいだ。だから特に心配することはねぇだろう。

 

ただ、この二人に関しては…

 

 

「それじゃダメっすよ、部長。」

 

 

オレは部長と二人のやりとりに口を挟み、その場にいる誰もがオレの方を見る。

 

「相手からすればブーステッド・ギアも回復の力も厄介な力な訳ですから、確実に潰しに来るでしょう。

逃げるだけじゃダメなんすよ。戦場では、自分に降りかかる危険は自分で払う必要がある。

特にイッセーは、敵と戦って追い払うことができるくらいにはなってもらわないと、はっきり言って使いもんになりません。」

 

これは全部正しい事を言ってるつもりだ。

人数比が圧倒的に不利な状況の中で、わたわた逃げるだけの兵士ほど邪魔なものは無い。

ましてや、その兵士がかなり強い武器を持っていれば、軍の決め手が決め手として働かないから迷惑にもなる。

アーシアは回復で貢献できるからまだいいとして、戦わないブーステッド・ギアの使い手とか何で要るの?て話だ。

 

オレの話を聞いたイッセーとアーシアの顔は少しだけ暗い。

使えない宣言されれば仕方ねぇことではあるけど、そんなことでへこたれるようじゃ先が思いやられる。

…ま、こいつの事だ。

 

 

「…あぁ、やってやるよ。」

 

「聞こえねぇな?もっとおっきな声で言えよ。」

 

「やってやるよ!オレの敵、いや皆の敵を倒せるように、強くなってみせる!」

 

「よし!いいぞ!元気の良いやつは大好きだ!」

 

 

イッセーはそんなことでへこたれるような男じゃねぇよ。それが分かってたからボコボコに言わせてもらったんだ。

イッセーの様子を見た皆は微笑んでるし、アーシアも頑張ります!って顔をしてる。

そうそう、これこそオカルト研究部だ。

 

「さて、やる気も入ったところでお風呂にしましょうか。」

 

「お、お風呂ォ⁉︎」

 

 

イッセーの顔はさっきまでの勇ましさはどこかへ行ってしまい、一瞬にしていやらしさへと早変わりしてしまった。

 

「僕は覗かないよ?イッセーくん」

 

「な、木場!お前なぁ!」

 

木場がシレッとイッセーがやろうと考えている事を公表した。おのれ木場、やりよる。

 

「あら?イッセー私達のお風呂を覗きたいの?なんなら一緒に入る?」

 

「え⁉︎いいんですか⁉︎」

 

…ものっそい食いついた。何なんだよ、部長の変態発言に対し、まるでしばらく餌を与えられていなかった魚に餌と言う名の針を入れた時みたいな異常な食いつきの速さは。

 

イッセーの顔がどんどん赤くなっていく。

 

「ええ、構わないわよ?朱乃はどうする?」

 

「うふふ、殿方の背中を流して差し上げたいですわ。」

 

…この人も変態だったか。

二大お姉様なるものが、二大変態様だったとは。松田と元浜が聞いたら、泣くだろうな。

あ、泣いて喜ぶって意味ね。

 

イッセーの顔は真っ赤である。

 

 

 

「シュウくんも一緒にどうですk「丁重にお断りさせていただきます。」…残念ですわ…。」

 

 

勘弁してくれ。オレは風呂にはゆっくりつかりたい派なんだ。

そんな地獄の場所に連れて行かれて、ゆっくりできるか。

 

「アーシアは、愛しいイッセーなら大丈夫よね?」

 

アーシアは顔を真っ赤にさせてからゆっくり頷く。

まぁ、こいつはイッセーのこと好きみたいだしな。当然と言えば当然だ。

 

イッセーの顔は真っ赤っ赤である。

 

「小猫は「嫌です」あら、残念。」

 

…イッセーの顔が一気に青くなる。

残念、イッセーの野望は一人の正常な少女によって崩れていくのであった。

 

 

「なら、シュウは?」

 

「………嫌です」

 

今の間は気にしない。気にしないよオレは。

小猫まで変態とか思いたくないからね。

 

 

結局、女性陣だけが風呂場に入っていった。

イッセーはそこで未だに落ち込んでます。

 

 

「…こうなったら……。」

 

「?どうした、イッセー?」

 

「意地でも覗いてや」ゴン!

 

 

…イッセーは未だにうつ伏せで落ち込んでます。

 

 

 



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二十一話目

修行二日目

今日の朝は勉強の時間です。

確かにドラグ・ソ・ボールのマスター老師は言ってたよ。よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休むのが修行のやり方って。でも実践する必要はないと思います。

…あ〜、眠くなってきた。

 

「その大昔の戦争の影響で純粋悪魔の数は一気に減少していったの。そこで、この悪魔の駒を使って人間達を悪魔に転生させて、悪魔の数を増やしていったってわけ。

ねぇシュウ。聞いてる?」

 

「いいえ聞いてないです。難しすぎるんで。」

 

「悪魔とは関係がない貴方にとっては難しいと思うけど、これもちゃんと大切な事なんだからしっかり聞いて。分かった?」

 

「うぃーす」

 

「ほんとに分かったのかしら…。」

 

部長は溜息をつき、説明を続けた。

今はイッセーに問題を出している。天使側の最高位の名とか、魔王達の名前とか。イッセーはしっかり答えているが、堕天使のトップの名前はところどころ分からねぇみたいだ。

 

「それじゃ、少し休憩しましょうか。」

 

一時の休憩を挟み、次に行われた授業はシスターアーシアによる『聖』に関する授業だ。

唯一人間で、聖に対する拒絶反応がかからないオレが扱う事になってる。

 

「これが聖水です。製造法は後でお教えしますが、悪魔の皆さんは絶対に触らないでください。大変なことになります。」

 

「他人事じゃないのよ?貴女も悪魔なんだから。」

 

「うぅ、そうでした…。」

 

部長の突っ込みによって、アーシアは少し落ち込んでしまった。

オレは聖水が入ったビンの蓋を開け、鼻を近づける。

 

「…匂いとかは分からねぇな。透明度も高いし、スプレーとかで霧吹きされたら気付かねぇかもな。」

 

「悪魔の僕達は、聖水には敏感になるからね。例え水蒸気になってても何となく分かるんだ。」

 

ユウトの説明を受け、オレは聖水が入ったビンの蓋を閉める。

次にアーシアが取り出したのは一冊の本だ。

 

「これは聖書です。小さい頃からよく読んでいました。今は一行読むだけですごく頭痛がします。」

 

「「「「「悪魔」」」」」

 

「うう…。」

 

イッセー以外から同時に突っ込まれて、赤面するアーシア。

オレはその横で聖書を眺めている。

 

 

「なんかよく分かんねぇ文章だよな。特にこれ、〜〜〜だってよ。どういう意味だ?って、あ。」

 

 

うっかり読んでしまった。

顔を上げると、全員が頭を抑えて頭痛に耐えている。

 

「シュウ…貴方ワザと?」

 

「いえ、うっかりです。ゴメンなさい。」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

修行七日目の昼

飛びすぎだ!とか言う発言はナンセンスだぜ?

 

オレは今、部長にとある頼みごとをしている。

その内容は

 

「部長、今日からオレは別の山で特訓させてください。」

 

というものだ。オレもグロンギ態とか錬成の力の特訓をしたいんだが、皆の前でやりたくない。

グロンギの姿は見せたくないし、錬成は皆を巻き込む可能性があるからな。

 

「構わないけど、ここに戻っては来るの?」

 

「ええ、夜になったら帰ってきますよ。折角皆で宿泊してんのに、オレだけ別の家で寝るのは嫌ですし。」

 

「そう、ならいいわ。好きなようにしてちょうだい。

あそこにある山は自由に使っていいから。」

 

「ありがとうございます。」

 

オレは部長からお許しをもらい、指定された山に向かっていった。

 

山に着いたオレは、早速姿をガドルの物に変えて特訓を始めた。

 

特訓内容は割愛します。

 

ーーーーーーーーーー

 

同日の夜

オレは不思議と眠れなかったから夜の散歩をしていた。風に揺られた木の葉がガサガサとなり、オレの心を落ち着かせる。

夜の山道ってのも、感慨深いものがあるよな〜。なんか出てきそうだけど。

 

 

 

 

「……すか、部長。」

 

?今の声、イッセーか?

しかも部長って言ったよな。部長とイッセーが一緒にいるのか?こんな時間に。

気になったオレは声がした方に向かって歩いていった。

別荘の窓が見えて、その窓に部長が腰かけているのが見えた。部長の前に立つように、イッセーもいる。

 

「…私は、グレモリーなのよ。」

 

部長が口を開く。自己紹介…な訳ないよな。何でそんな言葉が出てきたんだ?

 

「まぁ、はい。そうですね。」

 

イッセーも同じことを思ったのか、微妙な反応を返す。

 

「改めて名乗ったわけじゃないの。私は、あくまでグレモリー一族の一人で、どこまで行ってもその名前が付いてくるの。」

 

「…嫌なんですか?」

 

「いえ、誇りに思っているわ。でも、私自身を殺している事でもある。誰もが私のことを『グレモリーのリアス』としか見ていないの。

私は、リアス個人を見て欲しい。

だから、人間界に来た私は満たされていたと思うの。皆が私を個人として見てくれる。それが冥界では感じ取られないから…。」

 

それを聞いて、部長に関する記憶が浮かび上がる。堕天使の時も、あいつらは部長のことを『グレモリーの娘』と言っていた。

恐らく、ライザーもその類の一つなんだろう。『グレモリーのリアス』は愛することが出来るが、『リアス』個人を愛そうとはしていない。それが部長はたまらないんだろうな…。

 

 

 

……………

 

 

 

『何が人類の味方だ!あいつらと同じ種族のくせに!』

 

『いずれは俺達に襲いかかるに決まってる!』

 

『そんな奴をこの町、いや世界に置いとくな!』

 

 

………………

 

 

 

…ある意味、オレは部長の気持ちも何となくわかる。

種族や家柄を先に見られ、個人としての自分はなかなか見てもらえないというのは結構辛いものがある。

 

仕方ないと割り切れれば楽になるんだが、そこまで行くと今度は自分が自分を、個人の自分として認められなくなってくるんだ。

 

…それは部長には辛いことだろう。オレ自身も人としてのオレを見失いたくないと足掻き続けて、もう何年も経つ。アレは精神的にもなかなかキツいものがあるからな…。

 

 

「俺は部長の事、リアス部長として好きですよ。」

 

……イッセーか?今の。

オレがイッセー達がいる方を見ると、いつの間にかイッセーは部長の隣に立っていた。

 

「悪魔になったばかりの俺は、魔界の事情とかよく分かんねえし、グレモリー家の事は尚更です。ただ…」

 

言葉をためたイッセーは、部長の方に向き直り

 

「部長をそんな目で見ているような奴に、部長と結婚させはしない。絶対この勝負に勝って、これからも部長と一緒に学校に行けるようにしてやりますよ!」

 

ときたもんだ。

部長はドンドン顔が赤くなっていく。

あいつも言うようになったな〜。最初の変態三人組ん時とは大違いだ。

 

よし!イッセーにはもっと強くなってもらうために、オレも一肌脱ぐとしますか!

 

ーーーーーーーーーー

【第三者視点】

 

リアスとの話を終わらせた兵藤は、いつものように自主練をするために外に出た。

兵藤はこの合宿が始まって以来、こうして夜に自主練をしていたのである。

しかし、今日は一つ問題があった。

 

「もうアーシアも寝てしまったんだろうな〜」

 

そう、アーシアがいないのである。

これまでは、夜になって他の部員が寝付いた時、兵藤がまだ浅い眠りの状態のアーシアだけを起こし、アーシアに協力を得ながら自主練をしていたのだ。

しかし、今日はリアスと話したことにより、恐らくアーシアも深い眠りについているであろう。

つまり、協力者がいないのだ。

協力者がいない中での自主練は、限られたものになる。

とはいえ、アーシアがいたとしてもある事の修行しかしないのだが…。

 

「仕方ねえ。筋トレでもするか。」

 

そう言って、筋トレ用の道具を取りに行こうとした時であった。

 

 

「私でよければ、相手をするぞ?」

 

 

誰かから声をかけられる。

声をかけられた方を見ると、見慣れた者がそこにいた。

 

「久しいな、少年。あのシスターは息災か?」

 

「お前…グロンギ…。」

 

幾度となく助けられたグロンギ、ガドルが立っていた。

 

「大体の話しはすでに聞いている。負けられない戦いがあるのだろう?」

 

「…あぁ。てか、お前それをどこで?」

 

「少年達が窓際で話しているのを聞いてしまった。申し訳ない。

…それより、共に修行する者がいないのであろう?ならば、私が相手をしよう。得られる物も大きいぞ?」

 

ガドルの提案に、少し考えるように黙る兵藤。

やがて、意を決したように言う。

 

「ああ、頼む。」

 

「ならば、来い!貴様の全力を私に見せてみろ!」

 

ガドルの叫びと共に、兵藤は神器を発動させて走り出す。

ガドルは格闘体で兵藤を迎え撃つようだ。

 

【Boost!!】

 

最初の倍加が始まる。前回とは違って、元のスペックが高くなっているから倍加した時のスペックは以前より高くなっている。

 

「うおおぉぉ!」

 

兵藤は右手でパンチを繰り出すが、ガドルは易々と左手で受け止め、右手で兵藤の顎にアッパーを打とうとする。

それを読み取った兵藤は、ガドルの手を左手で受け止める。

 

【Boost!!】

 

二度目の倍加を利用して、両手を一気に引き抜く。

急な力の上昇に反応が遅れたガドルは前のめりの姿勢になる。

すかさず足払いをしてガドルを倒し、横になっている状態にかかと落としをした。

ガドルは手の力だけで後ろに飛び、かかと落としを避けた。その後すぐに足の力で兵藤の元に飛び、その勢いのまま蹴りを繰り出した。

その蹴りをモロに受けてしまった兵藤は、後ろに転がっていく。

 

「どうした!これまでの自主練の成果を見せてみよ!」

 

「お前にはやりたくない!」

 

何故かはっきりと否定した兵藤。

それもそのはず。もしこの技を彼にすれば…想像もしたくないことになる。

 

再びガドルの元に走り出し、ラッシュが始まる。

 

この模擬戦が終わったのは、それからかなりの時間が経ってからだった…。

 

ーーーーーーーーーー

【第三者視点】

 

「強くなったな、少年。」

 

この言葉は、ガドルの言葉でありその正体のシュウの言葉でもある。

全力では無かったとはいえ。この形態のシュウにかなりいい形の戦いが出来たのだ。

 

「お前に言われても嬉しくねえよ。」

 

「そう言うな。感心しているのは事実だ。」

 

今、ガドルと兵藤は広場で話している。流石に兵藤も限界だったようで、広場に座り込んでいる。

 

「そのまま力を伸ばしていけば、その大切な戦いには勝てるだろう。

貴様が王になる日も、ますます近くなるであろうな。」

 

ガドルは励ましの意味でこの言葉を発したようだ。しかし、兵藤はその意味を捉え違えたようだ。

 

「そうかなぁ?俺もハーレム王になる日が近づくのか〜。」

 

ゲスの顔を浮かべて喜ぶ兵藤。

ガドルは思わず、困惑の表情を浮かべてしまった。

 

「ハーレム王…か?」

 

「ああ!沢山の美女に囲まれて、ウハウハな毎日を過ごすのが俺の夢なんだ〜。」

 

そう、これが兵藤の夢である。なんとも格好悪い夢ではあるが、この夢を兵藤は小さい頃から抱き続けているのだ。

 

 

「…そうか、貴様も王になりたいのであれば一つ教えてやろう。」

 

何かを考え込んで、ガドルは庭の方を見ながら呟いた。

その言葉に反応して、兵藤はガドルの方を見る。

 

 

「《王は民無くしては有り得ない》とある国の王が、別の国の王に言った言葉だ。」

 

 

兵藤は意味が分からなかったらしく、口を開けてポカンとした表情をする。

その様子を見て、ガドルは説明を加える。

 

「王に必要なもの。それは絶対的な権力や軍力だけではない。その国の国民の支持があってこそ成り立つものだ。

この言葉を発した者は、たった一人の民でさえ全力で守ろうとした。

その心は、嘗て敵であった者までも感心させたほどだ。」

 

ガドルは兵藤の方を見やり、さらに言葉を繋げる。

 

「貴様も王になりたいのであれば、下に就く者一人一人を大切に思え。

貴様の王には、その心がある。」

 

ガドルは前に歩いて兵藤の元から離れていく。

広場の中央に立ったところで、兵藤に振り向き

 

「その王を、必ず守って見せよ。」

 

と言った。

その言葉を聞いた兵藤は

 

「ああ!やってやるよ!」

 

と叫んで返す。

 

その叫びを聞いたガドルは前を向いて飛び上がる。

辺り一面に土煙が舞い上がり、その煙が晴れた時にはすでにガドルの姿は見えなくなっていた。

 

兵藤は一度笑みを浮かべ、宿の部屋に戻っていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

【第三者視点】

 

同刻、冥界のとある結界の中で…

 

一人の男が岩に座り込んで、通信機のようなもので指を弾きながら誰かと話していた。

 

「だがら言ってるだろ?彼らがハンデとして出場を認めたあの男は、ここにいる奴らじゃ倒せない。

だから僕がこのチームに助っ人として入ってあの男を殺す。そしてゲームに勝った暁には、王様はそこにいる男と結婚させてその部下達は僕の好きなように扱うことが出来るようにしてってさ〜。」

 

その男の通信機越しに、誰かが焦ったように話す声が聞こえる。

 

「だから僕一人に手も足も出ないような奴らが、あの男に勝てるわけないじゃん。

あまりゴチャゴチャ言ってると、そこにいる奴ら全員殺しちゃうよ?」

 

そう言う男の前には、先日グレモリー眷属と戦う事になったライザー眷属が全員倒れていた。

もちろん、ライザーも例外ではない。

 

「ク、クソ…化け物が…!」

 

ライザーは憎悪のこもった声で毒づくが、男はその言葉をどこ吹く風と聞き流している。

実はこの男が、たった一人でライザー眷属達を倒してしまったのである。

 

「フェニックスかどうかは関係ない。僕の針を使えば、どんな奴でも難なく殺すことができる。

そこにいるやつで実証してあげようか?」

 

少々怒気がこもった声を放つ。

すると、通信機の向こうの人物は観念したように言葉が暗くなる。

男は満足したような顔を浮かべ、通信機を切る。

そして、ライザー達の方を向いた。

 

「決定したよ。あの男は僕がやる。他の奴らは君達が好きなようにやっていいからさ。

それじゃ、これからはチームとして宜しくね。」

 

そして男は結界の外に出て行った。

 

「…ガドル、君はこの僕が倒す。」

 

男は目の前に現れた灰色のオーロラを通り、どこかへ去っていった…。

 

 

 




また一人のグロンギが出現!
果たしてこいつは誰なのだ⁉︎


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二十二話目

お気に入り二百件突破!
こんな下らない小説を見てくださる皆さん!本当にありがとうございます!
これからも頑張って執筆していくんで、どうかよろしくお願いします!


 

今日は修行最終日。オレも最後の日くらいはって事で皆と一緒に特訓している。

要するにオレ個人の練習は三日間だけ。

ホントはこの日も個人練したかったけど、毎日夜に自主練もしたからカバー出来ただろう。

 

今はイッセーとユウトが最後の模擬戦をしている。この模擬戦が終わったら各自家に帰って体を休め、決戦に備えることになっている。

 

イッセーも思った以上に強くなっていた。この前オレとやった戦いが役に立ったようでなによりだ。

 

【Boost!!】

 

今の音声で十二回。合宿前は二、三回だった事を思うと、かなり成長した事が分かる。

えっと、二の十二乗だから…四千九十六倍か。

 

…ファ⁉︎何それ⁉︎有り得ない倍数じゃねぇか!

一つ大切な事を言うと、この合宿期間でイッセーの元の戦闘力も最初と比べりゃかなり上がっている筈だ。

あの堕天使風に言うなら、合宿前のイッセーが1とすれば、今のイッセーは5は軽いだろう。

いや、10はあるかもな。

その四千九十六倍…

 

…今のイッセーのスペック測ってみてぇんだが…。

 

 

【EXPLOSION!!】

 

最後にチャージ終了を知らせる音声が鳴り、イッセーの身体から半端じゃない力を感じる。

 

「イッセー!魔力の弾を作りなさい!」

 

「はい!」

 

部長の指示に答えて、イッセーは手に力を入れる。

すると、米粒くらいの弾が出来上がった。

 

「撃ちなさい!」

 

部長の合図とともに、イッセーは手を後ろに下げ

 

「食らえぇぇぇ!」

 

と、手を突き出す。

米粒くらいの大きさだったその弾は急に大きさを変え、巨大な弾となってオレの元に飛んでくる。

 

 

 

 

え?オレの元?

 

 

 

 

「やべ!シュウ!避けろ!」

 

イッセーの慌てた声ではっきりした。

やっぱりオレんとこに飛んできてんじゃねぇか!

 

射撃体に緊急変化して両手を叩き、その弾に向けて突風を起こす。風で弾を相殺してやろうと思ったんだ。

ところが、弾は勢いが弱くなるだけで、確実にオレに近づいてきてる。

 

オイオイ!相殺できねぇとか嘘だろ⁉︎

仕方ねえ!

 

「緊急脱出!後ろの山ゴメン!」

 

風を上に吹かせることで、弾の軌道を変えてオレの後ろにある山に向ける。

 

弾は真っ直ぐに山へ向かっていき

 

 

 

 

 

デデーン☆

 

 

 

 

 

山は消し飛びました。

 

「あらあら…」「山が…」「吹き飛んでしまいました…」「凄い威力です…」

 

全員が感嘆の声を漏らす。

 

「シュウ!悪い、大丈夫か⁉︎」

 

「あぁ、なんとかな。オレの技でも押し返せねぇとは…かなりやべぇなその力。」

 

「えぇ、そうでしょうね。祐斗?戦ってみてどうだった?」

 

「はい。正直驚きました。あの威力は上級悪魔の力と大差ありません。」

 

イッセーの力を証明するように、ユウトが持っていた木刀がボキッと折れた。途中でイッセーが木刀を殴った時だろうな。

 

「イッセー。貴方の力はこの戦いで重要な切り札になるわ。私たちを、そして自分を信じなさい!」

 

「皆を…自分を…信じる…。」

 

「そうよ、貴方をバカにした連中に思い知らせてあげましょう。フェニックスなんて関係ないわ。

私達がどれだけ強くなったか、奴らに思い知らせてやりましょう!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

こうして修行は終わりを迎える。

残すは夜の決戦のみ!

 

新たな決意を胸に、オレ達はそれぞれの家へ帰っていった…。

 

 

 

 

「イッセー、この一件終わったら覚えとけよ?」

 

「さっきの事根に持ってんじゃねえか!」

 

ーーーーーーーーーー

 

夜、オレ達は部室に集まってそれぞれが戦いに向けて用意をしている。

ユウトは剣を磨き、小猫はグローブを締め直す。アーシアとイッセーは落ち着きがない様子でいるのに対し、部長と朱乃先輩は優雅にお茶を飲んでいる。

…対照的すぎるだろ。

 

すると、足元にグレモリー家の魔法陣が輝き、そこからグレイフィアさんが姿を現せた。

 

「皆様、準備はよろしいでしょうか?」

 

「えぇ、いつでもいいわ。」

 

簡単なやり取りを済ませる部長とグレイフィアさん。

しかし、グレイフィアさんの顔が何となく暗く見えるんだが?

 

「…ゲーム開始前に、皆様に重要なお話がございます。」

 

グレイフィアさんが暗い声で話し始める。オレ達は全員グレイフィアさんの方を見た。

 

「…ライザー様は、ハンデという形で八神様の出場を認めました。」

 

「えぇ、覚えてますよ?オレがいたら勝負になるだろうとか余裕ぶっこいてましたし。

まぁ、オレがいたら「勝てるだろう、ですよね?」…はい、そういう事です。」

 

グレイフィアさんが急にオレの言葉を遮る。思っていたことを代弁されただけだからいいんだけどね?

 

「…先日、同様の事を考えられた方が、ライザー様の助っ人という形でライザー様側につきました。」

 

「それじゃハンデにならねぇじゃん。」

 

「誰が入ったの?貴族悪魔の誰か?」

 

オレが批判の声を出し、部長はさらなる説明を求めようとした。

 

「いえ、悪魔ではありません。」

 

そこでグレイフィアさんが間をあける。

 

 

 

更に言葉を繋げた。

 

 

 

「謎の人物です。彼はたった一人でライザー様達を倒すほどの実力の持ち主です。」

 

 

 

 

「何だって⁉︎」

 

「そんな奴が、何でライザー側につくのよ⁉︎」

 

「申し訳ありませんが、彼の意図は存じておりません。

唯、八神様を目の敵にしているのは間違いないようです。」

 

「シュウ、何か思い当たる節はあるのか?」

 

ライザー達を倒すほどの実力派で、オレを目の敵にする奴か…。

 

「ある。一つだけ、いや一種族だけってのが正しいな。」

 

オレが言いたい奴らが誰のことなのか分かったらしく、皆がそれぞれの反応を示す。

 

「グロンギ…!」

 

「恐らくな。オレが思い当たる節はそれしかねぇ。」

 

皆の雰囲気が一気に暗くなる。修行を通して、ライザーと辛うじて戦えるようになったと思った矢先に、ライザーより強い者と戦わなければならない。そのような状況で明るく振る舞うってのは無理難題だろうな。

 

「心配すんな!そいつはオレがなんとかする。互いのハンデ同士が戦うってことは、最初のようにライザーチームとの戦いになっただけじゃねぇか。」

 

「シュウ…」

 

「それに、皆ならきっとライザー達にも勝てる。オレはそう信じてるさ。

オレはそのグロンギを倒す。皆はライザー達を倒す。そして全てを終わらせる!それでいいじゃねぇか。」

 

元気付け、気合付けのためにオレらしくねぇことやってみました。

皆の顔が最初のように、引き締まったものになってくる。

 

「そうね、悩んでいても仕方ないし、やれる事を精一杯やるだけよね。」

 

「そういう事!って事で、もう時間だろ?お先に行かせてもらうぜ!」

 

「あ!おい、シュウ!」

 

オレは勢いよく魔法陣に飛び込み、バトルフィールドに入っていった。

 

ーーーーーーーーーー

【第三者視点】

 

八神が先に魔法陣に入り、グレイフィアは冥界に戻っていったため、部室の中にはグレモリー眷属のメンバーだけが残っていた。

八神はあの様に言ってはいたが、ふと一つの疑問が浮かび上がった。

 

「あの一本角のグロンギ…だったりするのかしら…」

 

一本角のグロンギ、ガドルがその敵ならば、八神が負けてしまうかもしれない。彼はそれほどの手練れであることは全員が分かっていた。

部室の空気が重くなる。誰一人として話し声が出なかった。

 

「大丈夫だと思います。」

 

その沈黙を破るように、誰かが呟く。

その声を出した人物は朱乃だった。

 

「もしそのお方がシュウ君の敵であったとしても、シュウ君なら負けることはないと思います。それに…」

 

「何となくですが、彼からは優しい匂いがします。はっきりとは分からないですが…。

ですから、私達の敵に回るとは考えにくいです…。」

 

朱乃の言葉を小猫が繋ぐ。

この二人の中には、八神ならどんな敵でも乗り越えるだろう。更に、ガドルはきっと敵ではないだろうという思いがあった。

その思いは二人だけでなく、この部室の中にいるメンバーの全員が同様に思っていたようで、深くうなづいた。

 

「そうよね、きっと大丈夫。」

 

リアスは席を立ち、魔法陣を見据える。

 

「行きましょう、シュウもあっちで待っているし。」

 

先ずリアスが入り、次に朱乃、木場、小猫、兵藤、アーシアと続いた。

 

 

 

「あ、やっと来た。遅かったっすね〜、何してたんすか?」

 

「貴方が入るのが早すぎるのよ。」

 

バトルフィールドに入ったメンバーに、八神の文句が浴びせられ、リアスはそれを綺麗に受け流した。

 

リアスは部員の一人一人の顔を見る。

全員、迷いがない顔だ。

 

「行きましょう!奴らに勝って、また皆で学校に通いましょう!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

リアスの言葉に返す皆。

今ここに、リアスの運命をかけたレーティングゲームが始まった。

 

 

 




よいよ、次回からレーティングゲームです!
果たしてどんな戦いが待ち受けているのか⁉︎


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二十三話目

今回は全部三人称視点でお送りします。
読みにくいかもしれませんが、どうかお付き合いください!


レーティングゲームが始まり、作戦に沿った行動を始めるリアスチーム。

はっきりとした動きをしているのは、体育館に向かう兵藤、小猫、八神の三人であった。

 

なお、八神は相手のグロンギと思われる男が動き始めれば、そのグロンギの元に向かう事になっている。

 

体育館に着いた三人の前に、ライザー眷属のメンバーが立ち塞がった。

 

「やはりこのポイントを押さえに来たわね。」

 

「解体していい?」「腕と足と体をバラバラにしたい!」

 

「少しは戦えるようになったのかしら?」

 

冷静な言葉を放つ“戦車”の雪蘭。物騒な事を言っている“兵士”のネル、イル。もう一人はイッセーを一度倒した同じく“兵士”のミラであった。

 

「ヒュウ♪先ずは四人がかりってことか。」

 

「…相手の戦車は私がやります。兵士の三人は、お任せします。」

 

「ああ、任せろ!」

 

小猫が雪蘭に向かって走り出し、戦車同士の戦いが始まった。

 

「んじゃ、お前はあん時の仕返しがしてぇだろうから、あの棍を持ったやつ頼むわ。」

 

「じゃあシュウはあの少女二人だな。任せた!」

 

兵藤はミラと、八神はネルとイルと戦い始めた。

 

八神はネルとイルが持つチェーンソーを華麗に受け流している。

…少女がチェーンソーを振り回すなど、色々な意味で疑問なものではあるが、この場では何も言わないでおこう。

 

「「解体してやる〜!」」

 

「女の子がそんな事言うもんじゃありませんよ!」

 

その内一つのチェーンソーが八神の腕に当たり、凄まじい金属音を響かせた。

切れた!と少女二人は思ったであろう。

しかし、実際にはチェーンソーの歯がこぼれ落ちただけで、八神の腕はくっついたままであった。

 

「ウ、ウソ!」「何で切れないの〜⁉︎」

 

「さぁ何ででしょうね?それをしっかり調べてこい!連休の宿題だ!」

 

同時に二人の体に突っ張りして体育館の端に突き飛ばす。二人は壁に衝突して気絶した。

 

 

小猫と雪蘭の戦いも、小猫が流れを掴んでいた。

 

「くっ!当たれ!」

 

雪蘭は得意とする武術の蹴りで小猫を攻撃する。

小猫はそれを避けるためバックステップしたが、少し遅かったようで服の前部分が破けてしまった。

 

「…えい」

 

少し動揺してしまったが、すぐに落ち着きを取り戻した小猫は、雪蘭の腹をめがけて拳を放つ。

雪蘭は苦しそうにうずくまり、膝から崩れ落ちた。

 

小猫は止めをささず、すぐに他二人の状況を確認した。

八神が戦いを終わらせている事を確認して、兵藤の戦いを見る。

 

 

兵藤も他二人と同様に、優勢であった。

 

「まさか、ここまでとは…!」

 

「こんなもんじゃない!修行の成果を見せてやる!」

 

兵藤の手に魔力がかかり、ミラの肩の部分を軽く突く。

少し体制を崩したミラの肩に、ポワッと魔法陣がかかった。

 

「これが俺の新必殺技!」

 

兵藤の手にも同様の魔法陣がかかり、二つの魔法陣は激しく輝いた。

小猫と八神は、この男の新必殺技がどういう物な期待の視線を向けていた。

 

 

 

 

 

「“洋服崩壊”【ドレス ブレイク】!」

 

 

 

 

バァァァン……!

 

 

 

 

 

 

何と、ミラの服が弾け飛んだ。

つまり、ミラは一糸纏わぬ姿になってしまったのである。

 

 

 

「キャアァァァァ!」

 

「どうだ!相手の裸体を想像して、相手の服を弾き飛ばす。これが俺の新必殺技!“洋服崩壊”d「カッコつけんなバカ!」痛って!何で殴るんd「最低です。」小猫ちゃん⁉︎」

 

初めての技の披露は、誰一人として褒めてくれなかった兵藤である。

というか、この技は女性の全てを敵に回すと思われる。

 

「とりあえずさっさとここを出ようぜ?朱乃先輩も準備終わったみてぇだし。」

 

「そうですね。」

 

「二人共⁉︎何でさっきから冷たいんだよ!」

 

八神が呟き、それに賛同する小猫。その後ろを騒ぎながらついていく兵藤。

 

「待て!この場所を取りに来たのではないのか⁉︎」

 

「ああ違う違う。オレらの目的は」

 

唯一動けて正常な思考を保っていた雪蘭が疑問をぶつけ、八神はそれに笑いながら答えた。

 

「ここの、破壊だ。」

 

その言葉が放たれると同時に、突如大きな雷が体育館を破壊してしまった。

勿論、中にいる四人は…

 

〔ライザー様の“兵士”三名、“戦車”一名リタイア〕

 

脱落したようだ。

このゲームでは〝殺す〟事は禁止されており、脱落した者は自動的に冥界に送還され、医療スペースにて治療を受けるようになっている。

今の四人もそこに送られた筈だ。

 

 

「それにしても小猫ちゃん、服が…いいねぇ〜♡」

 

戦場でも相変わらずな男、兵藤 一誠は小猫の服が破けているのを見て鼻の下を伸ばしている。

今小猫の服は前半分が破れたために所々から可愛らしい下着が見えている。

小猫は頬を膨らます。これからの戦いもこの服でやるのは恥ずかしい限りであろう。

八神はため息をついて

 

「小猫、ちょっとこっち来い。」

 

と小猫を呼ぶ。

小猫が八神の元に来ると、八神は手を合わせて小猫の肩に手を置く。

青い稲妻が走ったと思えば、破れた服は徐々に元のように戻っていき、完全に敗れた箇所を直してしまった。

 

「…ありがとうございます。」

 

「いいえ〜、どういたしまして。」

 

すぐそこで兵藤が残念そうな顔を浮かべているが、そこは二人共スルーしている。

 

「さて、こっからは自由行動だな。お前らどうするよ?」

 

「とりあえず先に進もうかなと。」

 

「あっちの方で祐斗先輩が戦っているそうなので、そっちに行ってみます。」

 

「そうかい。んなら、気をつけて…!」

 

突如、八神は兵藤を突き飛ばし、小猫を抱えて飛び出した。

 

「うわっ!一体何を⁉︎」

 

「せ、先輩⁉︎いきなりどうしたんですか⁉︎」

 

「わり、こうした方が確実だと思ってな。」

 

そう言って、先程まで立っていた方を振り向く。

そこには、細くはあるが長さがかなりある針が数本突き刺さっていた。

 

 

「…このゲームの中でも、殺しは続けようってのか?ジャラジ!」

 

 

八神は近くにある茂みに向かって叫んだ。

そこから、少年のようなあどけなさが残った顔をしている青年が姿を現した。

 

「当然だろ?僕たちグロンギは、ゲゲルを遂行しないと“整理”されてしまうから。」

 

兵藤と小猫は、突然現れた青年に対し、疑問の視線を向けている。

 

「…おい、お前ら。早く行け。

コイツが例の、助っ人とか言うやつだ。」

 

「何だって⁉︎だってコイツ、明らかに俺たちを殺しにきたじゃねえか!」

 

「それがコイツのやり口だよ。ゲゲル以外のルールは守らねぇさ。まして、こんな《殺すのはダメ》なんてルールは尚更だ。」

 

「そんな…」

 

流石に驚きの声が出た。

グロンギという者は、ほとんどが非道であることは幾度となく聞いていた。

しかし、仮にもゲームに助っ人として参加しておきながら、堂々とルール無視をする程とは思っていなかったのである。

 

「心配すんな。言っただろ?お前らはライザー達を倒す。オレはこいつを倒す。それで終わらせようってな。

ずっと一緒にいたんだ。信用してくれ。」

 

二人はかなり心配していたが、いずれ決心したように深く頷く。

 

「頼むぜ、シュウ。」

 

「絶対、帰ってきてください。」

 

二人の言葉を受け、八神は微笑み

 

「分かってら。オレだってこんなとこで死ぬのは勘弁だからな。」

 

と、立ち上がった。

そして、二人の方に振り返る。

 

「気を付けてな。特に、空で相手の女王が魔力をためてやがる。

何してくるか分からねぇぞ。」

 

その言葉を聞き、二人はそれぞれの目的地に向かって走り出す。

 

 

その様子を青年は黙って見届けていた。

 

「悪りぃな。随分待たせちまった。」

 

「いや、気にしてないよ。君がそのリント達を気にかけているのを見るのは、そこら辺のお芝居より面白いから。」

 

「お芝居…ねぇ。言ってくれるじゃねぇか。」

 

「だって事実だろ?グロンギであるはずの君が、この世界でリントと仲良くやってるなんてねぇ。」

 

淡々と返した青年の言葉に軽く眉間にしわを寄せる八神。

そして、青年は再び口を開く。

 

「じゃあ始めようか。なんだかよく分からないけど、君はあのリント達の前であの姿になるのは嫌みたいだから、特殊な結界でも張ってあげるよ。」

 

そう言って青年はパチンと指を鳴らす。

すると、周りの空間が四角い何かで覆われ、気付いた時には外が全く見えなくなっていた。

 

「この結界の中なら、外からこちらを見ることもできないし聞くこともできない。勿論、逆もだけどね。

外の様子が気になる君にとっては嫌かな?」

 

「全然構わねぇさ。むしろ感謝してぇくらいだよ、こん中なら全力で戦える。」

 

八神は着ていた服を脱いで力を入れる。少しずつ人間の身体から、グロンギのそれへと変わり始める。

青年もそれに合わせて、姿を変えていく。

 

『色々と聞きたいこともあるのだ。早急に終わらさせてもらう。』

 

『早急…ねぇ…。そんな簡単にいくといいね。』

 

八神と青年は完全に姿を変え、それぞれのグロンギ態であるガドルとジャラジの姿になった。

この結界の中で、大きな戦いが始まった。

 

ーーーーーーーー

 

八神と別れた兵藤と小猫は、それぞれが向かう場所に走っていた。

 

「じゃあ俺はこっちに行くから。」

 

「はい、先輩気をつけて。」

 

ああ!と返事を返した兵藤は、別れ道を小猫とは違う方向へと走っていった。

小猫も木場の元に向かっている。

 

その時、小猫の足元に大きな魔法陣が現れた。

その魔法陣が強く輝いたと思えば、突然魔法陣から大きな爆発が起きた。

 

通常なら、この突然の事態には反応できず、この爆発をモロに喰らっていたであろう。

しかし、八神の忠告が頭にあった小猫は間一髪でその爆発を避けることに成功した。

 

「ちっ!逃してしまったか!」

 

空にはその爆発を起こした張本人と思われる“女王”ユーベルーナが羽を伸ばして飛んでいた。

その姿を確認した小猫は自分も羽を伸ばして応戦しようとした。

 

しかし、その必要は無かったようである。

 

大きな雷が凄まじい雷鳴と共に、ユーベルーナ目掛けて落ちてきたのだ。

 

ユーベルーナはそれを喰らうが、脱落するほどのダメージは無かったようで、すぐに体制を整える。

 

「あらあら、そちらの女王が私の最初のお相手でしょうか?」

 

ユーベルーナにかけられる声。

その声を発した人物は、冷徹な笑みを浮かべている我らがS姫、姫島 朱乃であった。

 

朱乃とユーベルーナが対峙するのを見た小猫は、そのまま目的の場所に向かって走る。

 

そして、木場が戦っている場所に到着した。

 

「祐斗先輩、助太刀します。」

 

「ありがたいな。三対一でやっていたから、少し疲れていたんだ。」

 

爽やかな顔で〝疲れた〟と言い放つ木場。実際はそれなりに押していたようだ。

相手は“兵士”のシュリヤー、マリオン、ビュレントの三人である。

子猫はビュレントに殴りかかり、木場はそのままシュリヤーとマリオンを相手にしていた。

 

 

体育館周辺で八神が、上空で朱乃が、旧校舎周辺で木場と小猫が戦いを始める。

 

後の二人は、相手の本陣がある本校舎に向かっていた。

 

ーーーーーーーー

 

ジャラジとガドル[剛力体]の戦いは、これまでのものより激しいものとなっていた。

 

ジャラジが投げた針をガドルは剣で弾き、時々横っ飛びで針を避けて距離を詰める。

ある程度近くなったところで体重を込めた一撃を放つが、ジャラジは重心を横にずらすことで剣を避ける。そして、ガドルの顔面に向かって上段蹴りを繰り出す。

頭を後ろにずらすことでその蹴りを躱したが、ジャラジは次に回し蹴りをガドルの脇腹に向かって繰り出した。

 

すかさず硬化能力で脇腹を固め、回し蹴りを敢えて喰らう。

そうする事でガドルにはダメージが入らなかったが、ジャラジの足に痛みを与えることが出来る。

 

『もらった!』

 

足の痛みに顔をしかめたジャラジに、再び剣を振り下ろした。

ジャラジはその剣に気づくのが遅かったため、避けることは出来そうにない。

しかし、その剣が当たる直前

 

『甘いって』

 

指に挟んでいた針四本でガドルの剣を受ける。

ギンッ!と小さく金属音が鳴り、針は全て折れてしまったが、少しだけガドルの剣が止まった。

 

その少しの間でジャラジは剣の軌道から移動した。

 

『フゥ、一体なんなんだい?急に体が硬くなるなんて聞いてないよ。』

 

ジャラジは一息つき、ガドルに対する疑問をぶつけた。

 

『貴様に教える事など無い。一つだけ言える事は、私は貴様が思っているような私ではないという事だ。』

 

『相変わらずお堅いことで…』

 

言葉を交わす二人の間に、緊迫した空気が走る。

ガドルは己の得物を構え、ジャラジは指に針を作り出す。

 

『…なるほどな、何もないところから針を作り出す事が出来るようになったのか。』

 

『ご名答。それが僕のゲゲルの成果による新しい力だ。君達のように原料がいらないから無限に作り出せる。

つまり、無限の死の可能性を生み出せるのさ。』

 

得意な顔で自分の能力を紹介するジャラジ。

その説明を聞きながらも、ガドルは怪訝な顔を浮かべている。

 

『一つ聞きたいことがある。貴様は何故このゲームに参加した?』

 

ジャラジがわざわざこのゲームに参加した理由。何故別世界のゲームに、ルールを守るわけでもないのに参加するのか。それが分からなかった。

ただ自分を殺すだけであれば直接戦いに来ればいい。ゲゲルを遂行するのなら元の世界でやったほうがいくらか楽であろう。

 

『その理由は二つあるよ。どっちから聞きたい?』

 

変わらない飄々とした態度でジャラジは返す。

どちらでもいい、とガドルが言うと、少し考える素振りを見せて口を開く。

 

『一つ目は自分の力を試すため。

この前ガリマに何となくついて行った時に、この世界と君の存在を知ってね。ガリマを簡単に倒す君なら、僕の力を試すのには最適かな?って。』

 

どうやらあの日、ジャラジはこの世界に来ていたようだ。

ガリマとガドルが戦うところを目撃して、それ以来ガドルの様子を時々伺っていたようだ。

そしてこのゲームの中であれば、多少暴れても問題ないであろう、そう考えた。

それが一つ目のようだ。

 

『二つ目はね〜。報酬を得るためかな?』

 

『報酬…とは?』

 

グロンギにとって人間界のものは無用の長物であるはず。

一体この者は何を得ようとしたのか?その答えは、すぐにその口から出た。

 

 

 

『君とリアス…だっけ?それ以外の君のチームメンバーだよ。

ゲゲルの最中で、高校生達が苦しむところを見るのは堪らないって思ったから。このゲームに勝たせることで僕は君達を好きに扱うことができるんだ。

針を刺して、死ぬか死なないかのギリギリの状態で放置し続ける…どんな顔をすると思う?』

 

 

 

簡単に並べられた言葉。

ジャラジは非道とされるグロンギの中でも更に非道と言われているため、何となく想像はついていた。

 

『なるほどな…ならば、』

 

ガドルは手を合わせて地面に向ける。すると、もう一本の剣が生成された。

 

『ここで貴様を殺しておくほうが良いということだな。』

 

『やれるものならやってみなよ…。

これからは、僕も全力でやらせてもらうからさ!』

 

二人はそれぞれの得物を構え、走り出した…。

 



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二十四話目

レーティングゲーム編は基本的に三人称視点になります。
と言うことで、今回も全部三人称です。



 

小猫とビュレント、木場とシュリヤー、マリオンの戦いはすでに終わりを迎えようとしていた。

 

木場は先日八神との修行の中で生み出した戦い方でシュリヤーとマリオンを翻弄していた。

一定のコースを走るのではなく、様々なコースを走り回ることで自分の位置を相手に特定させない。その上、相手の隙を突いていく。一撃の重さが軽い木場は、数で攻めていくしかないであろう。

 

「くっ!一体どこにいるの⁉︎」

 

「でてきなさいよ!」

 

シュリヤーとマリオンは木場の思惑通り、木場の位置を特定できずに見渡すだけになっており、まさに隙だらけであった。

すでにかなりのダメージが与えられているため、二人の限界は近かった。

 

そこで、最後の隙が生まれる。

 

「そこだ!」

 

木場は己が出せる最大限の威力を秘めた一撃を二人に放った。

 

「カッ…!」「そんな…!」

 

その一撃を開けた二人は、地に倒れ伏せてしまった。

 

 

 

「…えいっ」

 

「グァッ…!!」

 

その頃、小猫も最後の一撃をビュレントに叩き込んだところであった。

相手にねじり込むように放った彼女の一撃は、ビュレントを脱落させるには十分な威力があった。

 

動かなくなった三人の体が淡い光に包まれていく。

 

〔ライザー様の“兵士”三名リタイア〕

 

三人の体が冥界に送られたのを確認して、木場と小猫は互いに近寄る。

 

「お疲れ様でした、祐斗先輩。」

 

「お疲れ。次はどうするの?」

 

「イッセー先輩が相手本陣に向かったので、そこに行こうかと思います。」

 

「そうだね、じゃあ僕に乗って。

その方が早く着くと思うから。」

 

小猫を背中に乗せて、木場は“騎士”のスピードで兵藤の元に向かう。

これなら、兵藤が本陣に着く前には追いつくであろう。

 

ーーーーーーーーーー

 

「残念だったわね、これで形成逆転よ?」

 

朱乃とユーベルーナの戦いは、他の戦いとは違って劣勢となっていた。

 

つい先程までは、朱乃が勝っていた。

負け惜しみでも何でもなく、事実であった。

 

朱乃が一度、ユーベルーナを戦闘不能の状態まで追い詰めた。

しかし、ユーベルーナは《不死鳥の涙》を用いて回復してしまったのだ。

 

《不死鳥の涙》とは、簡単に言えば万能薬である。

この液体を浴びた者はたちまち傷が治り、体力までは戻せないが、それまでに負ってしまったダメージが完全回復するのだ。

 

その不死鳥の涙を浴びた事で、彼女の体から傷跡が無くなっていき、戦いを始める前同様の姿に戻ってしまったのだ。

 

こうなると、朱乃にはもう勝ち目はないだろう。

これからも全力の戦いが出来るようになったユーベルーナに対し、朱乃はもうほとんど戦えない状態である。

 

「…それでも、私は貴女と戦い続けますわ。決して、諦めるわけにはいきませんから。」

 

それでも逃げない。

戦いが始まる前に、あの男の思いを授かったのだ。

 

朱乃は残った魔力を一点に集中させる。

 

「…?一体何をするつもりなの?」

 

「最後の切り札ですわ。私は必ず貴女を倒す。今の状態であれば、こうするしかありませんもの。」

 

「!まさか、貴様!!」

 

彼女が何をせんとしているか読み取れたユーベルーナは、自分の羽を伸ばして飛び立とうとする。

しかし、既に遅すぎた。

 

暗雲がかかり、所々に稲妻が走る。

 

「…後は任せましたわ、皆さん。」

 

 

 

 

大きな雷が凄まじい雷鳴を轟かせ、二人がいる場所に落ちた。

 

 

 

 

《リアス様、ライザー様の“女王”リタイア》

 

 

ーーーーーーーーーー

 

《リアス様、ライザー様の“女王”リタイア》

 

この放送は、戦場にいたグレモリー眷属を全員驚かせた。

 

「そんな…朱乃さんが…。」

 

「イッセーくん!(先輩!)」

 

「木場!子猫ちゃん!」

 

愕然とした顔を浮かべていた兵藤の元に、木場と小猫が合流した。

 

「聞いた?今の放送…。」

 

「あぁ、聞いた。まさか朱乃さんが…」

 

悲しそうな顔で会話をする兵藤と木場。会話に入ってはいないが、小猫も同じような顔をしている。

チームの要の一つが落とされたのだ。これからの戦いに、少し不安がかかるのも仕方のないことであろう。

 

「でも、それだったら俺達がやるしかないだろ!勝って、朱乃さんとシュウに報告してやるんだ!」

 

しかし、その表情を浮かべるのも束の間。木場と小猫は兵藤の一言に頷き、敵本陣である校舎前にいる者達に視線を向ける。

“兵士”のニィとリィ、“戦車”のイザベラ、“騎士”のカーラマインとシーリス、“僧侶”の美南風とレイヴェル。合計七人の敵がそこにいた。

その中で最も身分の高そうなレイヴェルが一歩前に出た。

 

「貴方達のご健闘、本当に素晴らしいものです。先日は戦いのたの字も知らなかったような貴方達が、ここまで戦えるようになるとは思いませんでした。」

 

「それはどうも!俺達だって伊達に修行したんじゃない!」

 

「ですが、もう戦いは終わります。」

 

レイヴェルの一言の意味を捉えることができなかった三人は疑問の顔を浮かべる。

その様子を見たレイヴェルは、余裕の笑みをこぼす。

 

「上をご覧なさいな。」

 

その言葉の通り、三人は新校舎の屋上を見上げる。

そして、驚愕の表情に変わる。

 

「部長⁉︎」

 

そこには、悪魔の羽を広げたリアスと、不死鳥の羽を広げたライザーが向かい合う形で飛んでいた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

『ハァッ!』

 

『まだまだ!』

 

結界の中のガドルとジャラジの戦いは激しさを増していく一方であった。

ガドルが右手で持っている剣を振り下ろし、ジャラジはサイドステップでそれを躱す。その後、左手で横に振られた剣を針で受け流し、ガドルの背後に回り込む。

ガラ空きである背中に針を突き刺そうとしたが、ガドルは前転で背後にいるジャラジとの距離を開ける。

そして、剣と針のラッシュが始まった。針は一撃受けるだけで折れてしまうが、折れた針の後埋めのようにすぐさま新しい針が生成される。

 

やがて、ガドルはジャラジの足を踏みつけることでジャラジが下がる事が出来なくなるようにし、体重を乗せた一撃を振り下ろした。

針で防ごうとするも、その一撃が針で止められることはなく、そのままジャラジを切り裂いた。

 

『ウグッ…!ハハハ、流石にやるなぁ。』

 

『そういう貴様もな。その力ならば、ジャーザやバベル、貴様の世界の私と同格になっているのでは?』

 

『残念だけど、彼らはもっとパワーアップしてるからね…。

…特に君なんかは。』

 

最後の一言はガドルに届いていなかったようで、再びジャラジに向かっていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

新校舎前の戦いもかなり激しいものになっていた。

木場は己の神器、魔剣を作り出す“魔剣創造”【ソードバース】を活用してカーラマインとシーリスを追い詰める。

小猫はニィ、リィに格闘勝負を仕掛け、持ち前の馬鹿力で全く引けを取らなかった。

兵藤は“洋服崩壊”で女性であるイザベラに対し強制的に隙を作って、そこに魔力弾を打ち込んで撃破し、美南風に向かっていく。

レイヴェルは戦闘要員ではないらしく、外から指示をするだけではあるが、その顔は苦々しいものになっている。

 

その様子をライザーは屋上から見下ろしていた。

 

「中々やるようになったじゃないか、君の下僕達も。」

 

その言葉の先には、服が所々焦げていて肩で息をするリアスがいた。

アーシアも隠れるようにではあるが、屋上にいる。

 

「ハァ、そうでしょう?自慢の下僕達ですもの。」

 

「あぁ、素晴らしいものだ。」

 

リアスは余裕を見せようとするも、体力は既に限界を超えていた。

ライザーの許しで時々アーシアが回復してくれるが、それでも体力はもたない。

そもそも、実力的に大きな差があるライザーと戦い、まだ倒されていないこと自体が既に奇跡であるが…。

 

「…それに対して俺の下僕共は…。」

 

ライザーが誰にも聞こえないように呟くと、手に炎の魔力弾を作り出した。

何をしようとしているのかリアスは理解できず、ただライザーの手の上の弾を見つめるだけであった。

しかし、その疑問はすぐに晴れた。

 

 

 

「やめなさい!ライザー!」

 

 

 

慌ててリアスが叫ぶが、時既に遅し。

ライザーが作り出した弾は真っ直ぐに兵藤達のいる校庭に向かっていき、大きな爆発を巻き起こした。

 

ごく普通の校庭が、一瞬にして火の海に変わり果てた。

 

「なんて事を!あそこには貴方の下僕達もいるのでしょう⁉︎」

 

「七人もいるくせに、たった三人に押されるようでは駄目だ。あいつらは今後鍛え直させるとして、この場では敵を巻き込む爆弾をさせるしか使い道がないだろ?」

 

リアスの抗議に、淡々とした口調で返すライザー。

その瞬間、放送が流れた。

 

《ライザー様の眷属、全員リタイア。及び、リアス様の“騎士”“戦車”リタイア》

 

「赤龍帝は逃れたようだな。」

 

兵藤はどうやら逃げ切ったようで、放送では乗らなかった。

しかし、それでもかなりの戦力を落とされた。木場と小猫、先程は朱乃も倒された。

その上、八神は敵のグロンギを倒すことに精一杯であり、アーシアは回復要員である。よって、リアスと兵藤だけで目の前の男を倒さなければならない。

しかし、倒せる可能性は極めて低い物である。なぜなら…

 

「俺は不死鳥だ。例え君達が何度攻撃してきたとしても、その数だけ蘇る。

既に君達に勝機はないという事だ。」

 

この男の体質にあった。

もし木場達が倒されていなければ、人数差で押し切ることが出来たかもしれない。しかし、リアスと兵藤だけでそれができる可能性はゼロに等しい。

 

現実を突きつけられ、思わず俯いてしまったリアス。

もう勝てない。この男と結婚しなければならないのか…。

そんな思いがリアスの頭に浮かんだ。

 

 

 

 

その時、屋上に繋がる扉がバンッ!と乱暴に開けられた。

 

 

 

 

その場にいた誰もがその来訪者の顔を見る。

 

 

そこには、兵藤が息を切らせながらも立っていた。

 

 

「お前…何してんだよ…」

 

 

途切れ途切れになっている言葉だが、兵藤は激怒しているのがハッキリと分かる。

 

 

「お前の仲間を犠牲にしてまで!部長を手に入れたいってのか!!」

 

「それもあるが、違うな!俺はフェニックス家の誇りのために、必ずこのゲームに勝たなければならんのだ!」

 

「こんな事して手に入れた勝利に!一体何の意味がある!」

 

「確かに君達を全員圧倒的な力でねじ伏せてこそ意味がある!しかし、あれ以上恥を晒すわけにはいかない!」

 

「ふざけんな!王ってのは、下にいる奴らをいいように使って良い訳じゃねえだろ!」

 

 

兵藤の脳裏に、下で見た光景が浮かび上がる。

 

『後は任せたよ』『よろしくお願いします。』と、言葉を残して兵藤を庇ってくれた二人。

 

 

そして何より、ライザーの名を呼びながら消えていったライザー眷属。

 

 

「俺はお前を絶対に許さねえ!ここでぶっ潰してやる!」

 

【Burst】

 

聞いたことのない音声がなったと同時に、兵藤は膝から崩れ落ちてしまった。

元々、赤龍帝の籠手は体力を他の神器より大きく消費させるため、持ち主の肉体的負荷もかなりある。

これまでの戦いを通し、今になって限界が訪れたのだ。

 

「イッセー!」「イッセーさん!」

 

リアスとアーシアの叫びが聞こえたが、兵藤の意識は少しずつ消えていくのであった…。

 

 




無理やり感半端ない事になってしまいました。
だが後悔はしていない。


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二十五話目

ここでの“不死鳥”は、死んでもある程度の回数なら蘇ることが出来る設定になってます。もちろん原作の様に傷が治ったりもします。

今回、レーティングゲーム決着!


(…ここは…?)

 

兵藤はどこか不思議な空間で横になって寝転んでいた。否、浮かんでいた。

その場は無重力状態であるため。まるで宇宙にでもいるかのような気さえする。

 

周りを見渡す限り、この場には兵藤ただ一人だけがいるようだ。

 

壁と言っていいのか分からないが、真っ赤に染まった空間が広がっている。

 

「ここは一体何処なんだ?部長?アーシア?」

 

先程まで一緒にいたリアスとアーシアの姿を探す。

しかし、二人の姿どころか声すらしない。

 

兵藤はこの状況に頭が付いて行かず、困惑の表情を浮かべていた。

 

 

『やっと話ができるな、クソガキ。』

 

 

そんな兵藤に、太く重い声がかけられた。

それと同時に灼熱の炎が舞い上がり、辺りを照らす。

 

声をかけてきたのは誰なのか、その人物を探そうと振り向いた兵藤の前に、驚くべき光景が広がっていた。

 

全長がビルよりも大きく、全身を覆う真っ赤な鱗、紅蓮の翼を広げているそいつは、正に伝説の生物、ドラゴンであった。

 

なぜこんな所にドラゴンがいるのかは分からないが、このドラゴンが一体何なのか、それは薄っすらとだが想像ついた。

そのドラゴンは口の端をつりあげながら兵藤に話しかける。

 

『自分でもわかっているだろう?今のままではお前はあいつには勝てないどころか、強くなる事も絶対にないことが。』

 

その言い方に腹を立てるも、言われている事が正論であるため、兵藤は顔を顰めながらも俯く事しか出来なかった。

 

『お前はドラゴンを身に纏う、いわば異常な存在なんだ。あまり無様な姿を見せてくれるな。白い奴に笑われてしまうからな。』

 

「白い奴…?」

 

『その話はまた今度でいいだろう。

とにかく、負けるのは構わないんだが、その後に強くなれるかどうか、だ。

負けた数だけ強くなり、勝ち進んでいくが良い。

そうすれば、いずれ奴はお前の前に現れる。』

 

淡々と話すドラゴンに対し、兵藤の頭には様々な疑問が浮かんでいる。

 

『兵藤 一誠。お前に問う、何を求める?』

 

ドラゴンがぶつけた疑問。

兵藤の頭に、仲間の顔が次から次へと浮かび上がる。

自分を守ってくれる、自分と共に戦ってくれる仲間の顔が。

 

「…力……。」

 

ボソッと呟く兵藤。ドラゴンはその言葉に反応して、兵藤に少しだけ近寄った。

 

「皆を守れる力が欲しい!俺の仲間が、どうしようもない俺の事信じてくれているんだ!

俺は、そんな皆を守りたい。

不死鳥だろうがなんだろうが関係ねえ!立ちはだかる奴らをぶっ倒すだけだ!」

 

そこまで一息に叫び、兵藤は左手をドラゴンに向かって突き出した。

 

「…だから、俺に力を貸しやがれ!赤龍帝!」

 

兵藤の思いをドラゴン…赤龍帝にそのままぶつける。

互いに沈黙が続いたが、赤龍帝は兵藤の真剣な顔から、兵藤の思い全てを受け取った。

 

『フッ…いい覚悟だ。合格だ兵藤 一誠。お前に俺の力の、本当の使い方を教えてやる。』

 

すると、兵藤の手に〝赤龍帝の籠手〟が現れた。

赤龍帝が翼を羽ばたかせると、周囲の炎の勢いが強さを増し、それに反応した籠手の宝玉が、より一層強く輝いた。

 

「これは…?」

 

『お前が望めば、俺はいつでも力を貸そう。ただ、これだけは覚えておけ。力を求めれば、それ相応の対価を払ってもらう。対価の大きさの分の力を与えてやる。

さぁ、お前を嘲笑った連中に見せてやれ。“ドラゴン”という存在を。』

 

赤龍帝は翼を羽ばたかせ、どこかへ飛び立とうとしている。

 

『我が名は赤い龍の帝王、ウェルシュ・ドラゴン“ドライグ”。来るべき日のために、強くなるが良い。相棒。』

 

その言葉の後、兵藤の意識は再び現実世界へと戻っていったのだった…。

 

 

ーーーーーーーーー

 

兵藤が倒れた後、リアスがアーシアに兵藤を診るようにさせたため、リアスとライザーは本当に一対一で向き合っていた。

 

「もう降参したほうがいいんじゃないのか?

もう結果は見えてるだろ。」

 

相変わらず余裕の笑みを浮かべているライザー。

リアスは両手の拳を強く握りしめて答えた。

 

「例え勝ち目がなかったとしても、私は諦めるわけにはいかない。必死に戦ってきた下僕達の王として。

ここで諦めるなんて、皆を裏切るようなことは絶対にしない!」

 

「…そうかい。熱い思いをする事がご希望なら、仕方ないな。」

 

ライザーは手に炎を灯し、リアスに向ける。

リアスはアーシアと兵藤の前に立ちふさがるように身構え、自分の魔力を高める。これで、いつライザーが攻撃してきても対応できる。

 

 

しかし、いつまで経ってもライザーは攻撃してくることは無かった。

 

それどころか、リアスの後ろを見て、驚いた顔をしている。

一体何に驚いているのか?

 

「イッセーさん!無茶しないでください!」

 

アーシアの叫びが聞こえる。疑問に思ったリアスは後ろを振り向いた。

 

 

そこには、足をふらつかせながらも立ち上がった兵藤がいた。

 

 

「イッセー…?」

 

「部長、もう、大丈夫です。」

 

兵藤は一歩、また一歩と歩き、リアスの前に立つ。

しかし、もう軽く押しただけで倒れてしまいそうな程であった。

 

「イッセー!無理しないで!」

 

兵藤の身を案じたリアスは、兵藤に向かって叫ぶ。しかし、兵藤は後ろを振り向くことなく返した。

 

「俺は、木場みたいに剣の才能はないし、小猫ちゃんみたいに力が強いわけじゃないし、朱乃さんみたいな魔力の天才でもないし、アーシアみたいな素晴らしい治癒の力もないし、シュウみたいに戦えるわけでもありません。

……でも、それでも俺は!最強の“兵士”になってみせます!輝やきやがれ!オーバーブーストォォ!!」

 

【Welsh Dragon Over Booster!!】

 

新しい音声が鳴ると同時に、フィールド全体に赤い光が走り、兵藤の身体は赤い装甲に包まれていく。

光が収まると、兵藤の姿は最初のそれと大きく変わっていた。

右手には左手と同じような籠手が装着され、頭も赤いカブトに覆われている。

両手の甲、両腕、両肩、両膝、身体の中心に宝石が輝く。

その姿は、龍の姿を象った全身鎧であった。

 

『どうやら、上手くいったようだな。先に言っておくが、この姿は十秒が限界だ。それ以上はお前の身体がもたない。』

 

「十分だ。それだけあれば、俺は…俺達はあいつをぶん殴れる!」

 

兵藤の脳裏に、ドライグの声が響く。

ドライグと頭の中で会話した兵藤は、鋭い眼光でライザーを睨みつけた。

 

「まさか…赤龍帝の力を鎧に具現化させたのか⁉︎」

 

「これが俺の“禁手”、“赤龍帝の鎧”【ブーステッド・ギア・スケイルメイル】!

俺を止めたきゃ、魔王様でも連れてくるんだな!禁じられた忌々しい外方らしいからな!」

 

 

【テン】

 

 

カウントダウンが始まり、兵藤はライザーに向かって動き出した。

まずは両手で魔力の弾を作り、ライザーに向かって撃つ。

ライザーは最初は受け止めようと手を構えたが、弾が徐々に大きさを増していったため、急転換してその弾を避ける。

 

 

【ナイン】

 

 

兵藤はライザーが避けた方向に向かう為に、背中についていた排出口から魔力を吹き出し、一気に距離を詰める。

しかし余りにもそのスピードが速すぎたために、気付いた時にはとっくにライザーを通り越してしまった。

 

 

【エイト】

 

 

「なんだそのスピードは…!

赤龍帝のクソガキ!悪いが、もう容赦はしねえ!認めたくないが、今のお前は化物だ!」

ライザーの心にも火が灯り、炎の羽をより一層強く羽ばたかせて兵藤に向かって飛び上がる。

 

 

【セブン】

 

 

兵藤とライザーの激しいぶつかり合いが続き、やがてライザーが魔力を込めた一撃を兵藤に放ったことで、兵藤が地面に向かって勢いよく落ちていく。

 

「カハッ…!」

 

地面に背中を強打して、肺の中の空気を吐き出した。

 

 

【シックス】

 

 

「不死鳥フェニックスと名付けられた我が一族の業火!その身で受けて燃え付きろぉぉぉ!」

 

「そんなチンケな炎で、俺が燃え尽きるわけねえだろうが!」

 

炎を纏い、正に“火の鳥”となったライザーと、背中から炎を吹き出し、“龍”のオーラを纏った兵藤が互いの全力がこもった一撃をぶつける。

 

 

【ファイブ】

 

 

「グッ…!」

 

その一撃の勝負を制したのはどうやら兵藤の方だったらしく、ライザーが苦痛の顔を浮かべた。

すかさず、兵藤がかかと落としをライザーの肩に命中させ、ライザーを地面に叩きつける。

 

 

【フォー】

 

 

「グ…!馬鹿な、この俺が、こんな…!」

 

余りの痛みに苦しむライザー。

そんな彼の元に、空から降り立った龍の鎧を纏った兵藤が、一歩一歩と近づいてくる。

彼から滲み出てくる覇気は、ライザーに恐怖を感じさせるのには十分だった。

 

 

【スリー】

 

 

「ま、待て!分かっているのか⁉︎この婚約は、魔界の未来がかかっている大事なものなんだぞ!お前みたいな小僧が一人でなんとかなる問題じゃ!」

 

「そんなの関係ねえよ。最近悪魔になった俺は、魔界の事情なんかよく分からねえさ。けど!お前は一つやってはいけない事をしたし!一つだけはっきりしていることがある!」

 

 

【ツー】

 

 

「お前に一つ教えてやるよ!アイツの受け売りだけどな!」

 

兵藤は大きく息を吸って叫ぶ。

 

「《王は民無くしては有り得ない》!

眷属の人達を道具としてしか見ないお前と、大事に見てくれる部長とじゃ!器も力も!部長の方が段違いに上だ!!」

 

 

【ワン】

 

 

「そんなお前みたいなヤツが!部長を幸せにできるわけねぇだろうがぁぁ!!」

 

兵藤が最後に残された全ての力を込めたパンチをライザーに打ち込み、真っ直ぐに殴り飛ばす。

ライザーは背後にあった壁に背中から打ちつけられ、ズルズルと崩れ落ちていった。

 

 

【カウントオーバー】

 

 

「…ざまぁみろ…。」

 

鎧が解除された兵藤は、今度こそ疲労によって倒れ伏せてしまった。

 

《ライザー様の脱落を確認。よってこの勝負、リアス様の勝利となります。》

 

勝利を知らせる放送が流れ、横になった状態で安堵の息を漏らす兵藤。

そんな彼の元に、リアスとアーシアが駆け寄ってきた。

 

「イッセーさん!」「イッセー!大丈夫⁉︎」

 

「部長…勝ちましたよ、俺達…。」

 

「!…えぇ、良くやってくれたわ。ありがとう…!」

 

倒れ伏せた兵藤を強く抱きしめるリアス。

あの時のような、平穏が戻ってきた…。

 

 

 

 

…一瞬だけの話だが…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

『ハァッハァッ…流石に、そろそろマズイかな?』

 

『…よくやれた方ではないか?ここまで粘った事、十分賞賛に値する。』

 

『ハハッ、そう言ってもらえるとは、光栄だね…!』

 

不意を突くように投げた針も、虚しくガドルが持つ剣に弾かれてしまった。

すぐそこまで、自分の死が訪れてきている。その事はジャラジも十二分に分かっていた。

 

しかし、彼はまだ不敵な笑みを浮かべている。

ガドルは、彼が何を企んでいるのか読めなかった。

 

そんな二人の元に、一つの放送が流れる。

 

 

《ライザー様の脱落を確認。よってこの勝負、リアス様の勝利となります。》

 

 

『…フッ、やってくれたようだ。』

 

ガドルは嬉しさのあまり、この姿では珍しく笑みをこぼした。

 

対するジャラジはというと…

 

 

『そうか…負けちゃったのかぁ…。』

 

と、言っていることは残念そうにしているが、口調からは全くそのような感情は読み取れなかった。

 

『あちらも終わらせたという事だ。こちらも終わらさせて貰おうか?』

 

そう言ってジャラジに剣先を向けるガドル。

間違いなく、ジャラジの命運尽きたと言える場面である。

 

 

しかし、彼は未だに笑っていた。

 

 

『ねぇガドル…知ってるかな?』

 

ゆっくりと立ち上がり、ジャラジは開いた手をガドルに突き出す。

 

『勝ったと思った瞬間が、最も逆転されやすいタイミングだって事をさ。』

 

そう言って手を握る。

何をしたかったのか、ガドルはその時理解できなかった。

 

しかし、周りから異変の空気を感じたのはそのすぐ後のことであった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「う!がぁあああぁぁぁ!!」

 

「レイヴェル様⁉︎」

 

冥界の治療スペースにて、ライザーの妹であるレイヴェルが突然頭を抑えて叫んだ。

他のライザー眷属がレイヴェルに駆け寄り、治療魔法を使っている悪魔はより強く治療魔法をレイヴェルにかける。

 

しかし、そんな意味はありませんよと言わんばかりに、レイヴェルは少女から出てるとは思えない程の大声をあげていた。

 

「一体、何が…⁉︎」

 

その場にいる木場と小猫と朱乃も、不審そうな顔で目の前の現象を見ていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「うぐ!グォオおオォォォ!!」

 

バトルフィールド内では、ライザーがレイヴェルと同じように頭を抑えてうずくまりながら叫んでいた。

 

「なに⁉︎一体どうしたのライザー⁉︎」

 

たった今まで敵として戦ったリアスまでもが心配するほど、今の彼の状況は異常であった。

 

「「アアァァァアァァァ!!!」」

 

冥界とバトルフィールドで、二人の兄妹が凄まじい悲鳴をあげていた…。

 

ーーーーーーーーーー

 

『なんだ⁉︎貴様、一体何をした!』

 

結界の外で起こっている異変に気付き、ジャラジに問いただしているガドル。

更に、ジャラジの力が徐々に上がっているような気さえしている。

 

『…この前さ、僕がこのゲームに参加する許可を得るために、フェニックス達の元に殴り込みに行ったんだよ。』

 

その問いに答えるためなのか、ジャラジは静かに語り出した。

 

『奴らは簡単に倒したんだけど、君との戦いはどうなるか分からなかったから、彼らに保険かけといたんだ。』

 

『保険…だと…?』

 

『そう。』

 

言ってる意味が分からない。

彼ら、とはライザー達のことであろうが、ライザー達に保険をかけるとはどういう事なのか。

 

その疑問を読み取ったのか、ジャラジは笑みを浮かべながら続けた。

 

 

 

 

『不死って便利だよね〜。何度殺しても、限度越さない限りは蘇り続けるわけでしょ?』

 

 

 

その言葉で、ジャラシが言った保険の意味が分かった。

更に言うと、先ほどジャラジがやった不可解な行動の意味も分かってしまった。

 

 

 

『まさか、貴様!!』

 

 

 

『そう、フェニックスと呼ばれる二人に、針を仕掛けたんだ。僕が意図した時に伸び縮みする特注品の針をね。

僕はゲゲルの対象を人外に設定してるから、彼らを殺せば力が上がる。

つまり、この世界のゲームで言うマサオの無限一アップってやつ?』

 

 

 

ジャラジの世界では、ゲゲルは指定された条件に当てはまる人物を殺せば殺すほど己の力が上がっていく仕組みである。ついでに、その殺した人物のスペックが高ければ高いほどその力はより強く上昇するのだ。

ジャラジはゲゲルの対象を人外としているため、ライザーとレイヴェルを殺せば力が上がる。その上、この二人の種族は“不死鳥”であるため、死んだと同時に蘇る。

それを利用して、ライザーとレイヴェルを殺し、生き返ったと同時に殺し、また生き返ったと同時にまた殺す。それを繰り返している。今二人は、無限の苦しみを味わっているのであろう。

 

 

『ゲスが…!』

 

『なんとでも言うといいさ。僕は力が手に入るのなら、ゲスの道でも喜んで進むつもりだよ?』

 

ガドルの中に、ジャラジに対する憎悪の感情が湧き上がってくる。

 

『そんな綺麗事なんか求めていないよ…。

さあ、再開しようか。僕と君との決着つけるために。』

 




今日、私佐竹は退院しました〜!

「てことで、更新ペースが遅くなりま〜す。」

ちょっと!言うの早すぎだよ!

「だって事実じゃん?」

…確かに、これからは一日一回の更新はできなくなると思います。ただ、一週間に一回は更新できるようにしていこうと思いますので、これからもどうかよろしくお願いします!

「次回もお楽しみにな〜」


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二十六話目

ファイズの木場 勇治役、泉 政行さんが亡くなりました…。
たっくんと木場さんの会話は、劇場版も本編も大好きだったし、激突シーンも大好きだったし…
というか、泉さん自身が好きだったので、本当に残念です…。

彼の御冥福をお祈りいたします。


ライザーとレイヴェルを複数回ずつ殺したジャラジの力は、始めの時と比べ大きく跳ね上がっていた。

ガドルの剣を受けるだけで一気に四本折れていた針は、一本だけで防ぐことが出来るようになっていた。

勿論ジャラジ自体の戦闘力も上がっているため、肉弾戦でも引けを取らない程になっていた。

 

それどころか、戦いを続けている今でさえライザー達を殺し続けているため、常に力は上がり続けているのだ。

 

『ほらほら!こんなにのんびりしていてもいいのかい⁉︎僕は少しずつ強くなっていくんだよ!』

 

針一本が剣と同等の威力を秘めており、一撃を喰らうことがそのまま致命傷になる。そのため、ガドルはジャラジの攻撃を防ぎ続けている。

つまり、結果として攻撃することが出来ずにいる。

 

 

これまで全ての攻撃を受け流していたガドルの横腹に、ジャラジの蹴りが入った。

スピードもより速くなっている。

 

『グッ!』

 

そのまま地面を転がっていき、結界の壁に衝突したガドル。

立ち上がろうとしたガドルに向かって、これまでより鋭い針が飛んで行く。

持っていた剣でその針を弾くことが出来たが、その頃にはジャラジはガドルの元に動いていた。

 

ジャラジは新たな針を作って指に挟み、メリケンサックの要領で拳をガドルに突き出した。

 

ガドルは剣を横に構えることでその拳を受け止めようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、剣はパリィンという音とともに粉砕され、その拳はそのままガドルの胸に突き立てられる。

 

 

 

 

その拳を引き抜くと、針が刺さっていた傷跡から鮮血が噴き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…グッ……ァ……。』

 

苦痛の声を漏らす。

針は心臓に届いてはいなかったが、それでも一本の威力が剣のそれと等しい針が身体に刺さったとなれば、かなりの痛みが走るのは当然の事だ。

 

『フハハ…さぁ、今度は君の方が大ピンチだね。

この中なら、君のお仲間が助けに来ることもないし、今現在もパワーアップしてる僕に勝てるわけないしね。』

 

ジャラジは余裕の笑みを浮かべつつ、ガドルに話しかける。

だが、当の本人は既に話す気力もないのか、その言葉に反応する気配はまるで感じ取られなかった。

 

『君に何個か選択肢をあげるよ。

小さな針を数本刺して出血多量で死ぬか。一思いに大きな針で即死になるか。毒を込めた針で苦しんで死ぬか。

あ、そうだ。もう少しすると更に選択肢が増えるから待っててくれてもいいよ?』

 

それでも帰ってくる答えはない。

ガドルは結界の壁に寄りかかるように座り込み、下を向いている。

 

しばらくして、待ちくたびれたようにジャラジが口を開いた。

 

『もう答える元気もなさそうだね。

だったら、もうここで終わりにしようか。僕のこの最も大きな針で貫いてあげる。』

 

そう言って、掌に新たな一本の針を作り出す。

もはや針と言っていいのかと、首を傾げたくなるようなソレの先をガドルに向ける。

 

 

 

 

『それじゃ、さよならだ。

安心していいよ?君の仲間達は僕の大切な玩具として使わせてもらうから。』

 

 

 

 

そう言って、針を持つ手に力を込めた一撃を放った。

針はガドルに突き刺さり、ガドルの身体から赤い血が吹き出す。

 

 

 

 

『フフッこれで終わりだね…。』

 

勝利を手にしたジャラジは、結界の外へ出ようと結界の壁に歩き出そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、それを阻むように地面が蠢き始めた。

不意を突かれたジャラジは、自分の体勢を保つ事に意識を向けた。

 

『一体、何が…⁉︎』

 

ジャラジが本能的に危険を感じて前転する。

振り返ったジャラジの視界に入った物は、たった今まで自分が立っていた場所を粉砕した剣であった。

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

何かが凄まじい速さでジャラジの頭が掴み、ジャラジはそのままの勢いで結界の壁に叩きつけられる。

 

『な…何だ……⁉︎』

 

ジャラジは頭を掴む何者かの姿を見ようと頭を動かす。しかし、頭を掴む腕の力がかなり強く、全く動かすことが出来なかった。

 

必死にもがくジャラジの耳に、カシャっと金属の音が聞こえた。

 

その音の正体はすぐに分かった。

 

 

 

 

 

ジャラジは右肩から左腰にかけて一筋に切られてしまった。

 

 

 

 

 

『グァア!!』

 

あまりの苦痛に顔をしかめるジャラジ。

 

ジャラジの頭を掴んでいた何者かは、ジャラジを横に投げる。

そのまま地に倒れ伏せるジャラジ。

 

一体誰が自分をこんな目に合わせたのか、確認する間も与えないように、再び振り下ろされた一撃を受け止めるが、すぐさま別のもう一本の剣がジャラジを突く。

 

『ウグァ!』

 

吹き飛ばされたジャラジは、必死に顔を上げて何者かの姿を見ようとした。しかし、動きが速すぎて何処にいるのか見当さえつかない。

相手にしている何者かはそんな事御構い無しに少しずつ近寄ってくる。

何とか距離を開けようと、バックステップを切ろうとするが、真後ろに突然出てきた大地の壁に防がれてしまう。

焦りの色を見せたジャラジに、また剣が振り下ろされる。

その一撃を防ぎ、先ほどと同じように突き出されたもう一本を避けることに成功した。

 

攻撃が止んだ一瞬の間に、ジャラジは急ぎ距離を開ける。

 

『ハァ、一体、何なんだよ。』

 

今この結界の中には、ジャラジとガドルしか存在していない。

だが、ガドルは既に動く事が出来なくなっているはずであった。

そのため、最初に頭を掴まれた時は誰が掴んでいるのか分からなかった。

 

しかし、戦っている最中にその姿を確認する事が出来た。

 

『何で、まだ動けるんだよ…ガドル!』

 

針が刺さっていた部位からは血を流し、胸には小さな穴が痛々しく残っている。

勿論傷はそれだけではない。実際、身体のあちこちに針が刺さった痕がある。

 

にも関わらず、その立ち姿は高貴さを感じられた。

 

 

ガドルはチラリとジャラジを見据えると…。

 

 

『!!?』

 

 

爆発的なスピードで一瞬のうちにジャラジの懐に入った。

 

右手に持つ剣を振り上げる。

危険を感じたジャラジは一歩後ろに下がったが、少し腹を斬られたようだ。

応戦しようと、指に細めの針を数本作り出す。先程よりも強化されている針だ。

数本の針を一気にガドルに向けて投げる。

 

『この針、さっきより数段威力が上がっているよ!これまでの針でさえ受けきれなかった君では、この量を防ぐことなんて出来はしないだろ⁉︎』

 

少し焦りが見えるが、それでも笑みを崩さない。

先程ガドルを追い詰めた針よりも威力が高い針。これなら、確実にガドルを仕留めることができる。

そう思っていた。

 

 

だが、ガドルは持っている剣を思いっきり横に降ると、強烈な衝撃波が起こった。

その衝撃波は、すべての針を止めてしまった。

 

ジャラジはその光景を信じられない顔で見ていた。

急に自分が圧倒され、切り札があっさりと止められた。

悔しげに俯き、ギリギリと歯ぎしりをしている。

 

『まだだ!数でダメなら、一撃で沈めてやれば!!』

 

そう叫ぶと、両手を広げた。

ジャラジの両手の前に、また新たな一本が生成されていく。

しかし、その一本は長く太いものであり、最早針というより槍と呼べるようなものであった。

 

たった今、ジャラジは己の戦い方を捨てたのだ。

 

『これで決めてやる!流石にこれを止める事なんて、出来るはずがない!!』

 

ジャラジはその槍のような針を全力で投げた。

 

針は真っ直ぐにガドルの心臓に向かって飛んでいく。

 

ガドルは一度剣を手放し、右手を前に突き出した。

 

手先から少しずつ黒く染まっていく。

 

ガドルの手と、ジャラジの針がぶつかった…。

 

 

 

バギィンッ!!と激しい音がなり、ジャラジの槍はガドルによって粉々になってしまった。

 

『そ…そんな…。』

 

自分の最強の一撃が止められた。

そのショックは、ジャラジを戦意喪失には十分であった。

 

 

『…こんなものか?貴様の本気は。』

 

これまで全く口を開かなかったガドルが話し出した。

 

『この程度の攻撃、いくらでも破壊してやるぞ。

俺を倒すのだろう?今の貴様ははっきり言って話にならん。』

 

その言葉は冷たく、鋭かった。

さっきまで死に損ないであったとは思えない覇気をまとっている。

まるで別人のようだった。

 

『何なんだよ…。』

 

ジャラジは身体を震わせている。

それが恐怖から来ているのか、闘争心からなのか、悔しさからなのか…

 

『一体何なんだよ!お前はあぁぁぁ!!』

 

そこら一体に針を作り、一気にガドルに向かって撃ち出した。

ジャラジの力は既に最初とは比べ物にならないくらいに跳ね上がっていた。今となっては、針を空気中に作って撃ち出すことができるほどに。

 

 

『…俺は。』

 

多くの針が迫ってきているというのに、ガドルはその針を見向きもしていなかった。

そした、さっきのジャラジの問いに答えるように、静かに口を開いた。

 

 

 

『俺は破壊のカリスマ。ゴ・ガドル・バだ。』

 

 

 

二本の剣を融合させることで一本の剣を作り、構える。

そのまま上に振り上げ…

 

『はぁっ!!』

 

一気に振り下ろした。

 

斬撃は大地を荒らす衝撃となり、針と共に突撃してくるジャラジへと向かっていく。

 

宙に浮かぶすべての針を砕き、斬撃は消えていった。

 

 

『くっそぉおおお!!』

 

ヤケクソになったのか、ジャラジはかなり大きな針で攻撃を仕掛けた。

 

ガドルは剣を両手で持ち、走りだした。

すれ違いざまに、横一閃の斬撃を与える。

 

辺り一遍に沈黙が走る…。

 

 

 

 

やがて、ガドルは持っていた剣を投げた。剣は元のように石の塊となって、地面に落ちる。

 

ジャラジの横腹から血が吹き出し、ジャラジは膝から崩れ落ちるように倒れた。

 

『…ヤケになった時点で貴様の戦いは終わりだ。

戦い方を捨てた貴様に、勝ち目などない。』

 

『勝ち目ない、か…、言ってくれるじゃないか…。』

 

仰向けに寝ながら、ジャラジは笑ってガドルの言葉に返す。

その後、フラフラと膝に手を置きながら立ち上がった。

 

『けど…僕としても、こんなとこで終わるわけにはいかないんだよ!』

 

ジャラジが叫ぶと同時に、これまでより多くの、そして大きな針が出現した。

 

『君が僕の針を壊した時も!僕の横腹を切ってくれた時も!余裕ぶっている時も!あいつら殺し続けて力が上がってるんだよ!!』

 

高笑いしながら叫ぶジャラジを、ガドルは憎悪の顔で見ていた。

 

 

『このままずっと強くなる!今勝てなくても後で勝てる!そこで勝てなくてもいずれは勝てる!

お前程度のやつが、僕に勝てるわけが!』

 

 

 

 

ドゴォオォォォォン!!!

 

 

 

 

 

そこまで叫んだジャラジの顔で、大規模な爆発が起きた。

また、その爆発はジャラジが作り出した武器を全て打ち砕いた。

 

ジャラジはいきなりの爆発に驚き、苦しい声を上げる。

 

 

『…そうか、ならば仕方ないな。』

 

ガドルはジャラジを、蔑みの目で見ていた。

 

指を前にゆっくりと伸ばし、ジャラジに中心を合わせる。

 

『貴様に教えてやろう…。死ぬ一歩手前の身体で、味わい続ける痛みの苦しみを!』

 

そう言うと、力強く指を弾いた。

ジャラジの身体は爆炎に包まれ、ジャラジから悲痛の叫びが聞こえる。

炎が収まった頃にもう一度指を弾き、再び爆炎がジャラジを襲う。収まればもう一度…。それを繰り返していた。

 

『どうだ!これが貴様があの兄妹に味合わせた痛みだ!!

こんな物ではない…もっと、貴様が自ら死を選ぶようになるまで痛めつけてやろう!』

 

幾度となく繰り返される爆撃。ジャラジは既に黒コゲになって、満身創痍もいいとこである。

 

『それから、あの者達を玩具にするだと…?

調子に乗るな!貴様の様な外道に、あいつらを好きな様にはさせん!』

 

更に力を込めて大きな爆発を起こす。

続け様にもう一発、更にもう一発。連続で放たれる爆撃は、ジャラジを肉体的にも精神的にも追い詰めていった。

 

『あいつらも!あの兄妹も!貴様の思い通りにはさせん!

貴様の様な奴は!この俺がここで殺して!』

 

叫びながらも爆撃を起こし続けたが、最後の叫びをあげる。

 

 

 

 

 

 

すると、ガドルの指が止まった。

 

 

 

 

 

 

ガドルの腕は、力を込めてガクガクと震えている。

どうやら、指を弾くことを止めるために力を加えているようだ。

 

既にジャラジ自身は生き絶えており、身体がだんだん灰になって消えていってしまった。

 

それを見たガドルは、そのまま力が抜けたように倒れ伏せる。

すると、ガドルの身体は少しずつ人間の身体・八神に戻っていった…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

バトルフィールド、旧校舎を出たすぐの辺りで、グレモリー眷属達は全員がとある一点に向かって走っていた。

最後までリタイアにならなかった兵藤、リアス、アーシアの三人は、ライザーを一度救護室に運び、リタイアになって治療を受け終わった朱乃、木場、小猫と合流した。

そして、まだもう一人の仲間が戦っている場所に向かって動いているのだ。

 

実は、このバトルフィールドがある空間は、大規模なエネルギーのぶつかり合いによって崩壊しかけている状況下にあったのだ。

 

勝利を収めた後とは思えない空気で足を急がせる眷属達。

 

「小猫!イッセー!この先なのね⁉︎」

 

「はい!」「間違いないです!」

 

体育館の角を曲がり、出入り口の前に着いた。

そこには、結界は既に無くなっており、誰かが横になっているのが見えた。

 

肩から、腕から、胸から…様々な部位から血を流しているもう一人の仲間・八神であった。

 

「「「シュウ(先輩)(くん)!!」」」

 

真っ先に兵藤、小猫、朱乃が駆け寄っていく。

目の前で大怪我をしている仲間を見て、動揺が隠せない部員達。

そんな中で、何とか平静を保っていたリアスは次々に指示を出す。

 

「アーシアはすぐに治療に入って!朱乃は魔法陣を展開!イッセーと小猫、祐斗はシュウを魔法陣まで運びなさい!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

八神を回収し終わった部員達は、すぐに魔法陣で冥界へと帰っていった…。

 




詰め込み感ハンパない事になってしまいました…。
ですが、後悔はしていません。



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二十七話目

一度出来上がった文章を消してしまい、また一から同じ内容を書き直しました。テンションダダ下がりでしたよホント。
と言うわけで、二回書く羽目になった今話、お楽しみください!


 

 

 

{俺は破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バだ。}

 

 

 

 

 

 

 

……やめろ……

 

 

 

 

 

 

 

{貴様に教えてやろう…死ぬ一歩手前の身体で味わい続ける痛みの苦しみを!}

 

 

 

 

 

 

 

……やめてくれ……!

 

 

 

 

 

 

 

{貴様が自ら死を選ぶようになるまで痛めつけてやろう!}

 

 

 

 

 

 

 

……オレは、オレは……!

 

 

 

 

 

 

 

{貴様のような奴は!この俺がここで殺して!}

 

 

 

 

 

 

 

アイツらと同じにはなりたくねぇんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「うあぁぁ!! はあっ!はぁ!」

 

オレは叫びながら飛び起きた。

夢を見ていたらしい。あん時の出来事を見直すことになるなんてな……。

オレはジャラジに対する明らかな憎悪の感情の元で戦っていた。

暴力的に何度も斬りつけ、爆破して…オレが嫌う戦い方、そのまんまで…!

 

もし、最後にトドメを刺していれば…オレは……。

 

 

 

 

「……どこだ?ここ……。」

 

改めて周囲を見回したオレの視界に入ったのは、これまで一度たりとも見た事のねぇ部屋だった。

しばらく眠っていたのか、頭がいてぇしボーッとする。

下にはフワフワする布団が敷かれているし、頭があった所には四角く柔らかい枕が置かれている。てことは、ベッドに寝かされているのか。

 

 

…何だってこんな所で寝てたんだ?オレはバトルフィールドにいた筈だよな?

フィールドは見た目も内装もまんまウチの学校だった。そのおかげで有利にゲームを進めていった覚えがある。

けど、こんな部屋は学校には無かったよな?

ベッドがあるのは保健室くれぇなもんだが、この部屋は保健室じゃねぇし、他の部屋でもない…。

 

もし仮に冥界の治療室だってんなら、ここにイッセー達がいねぇのはおかしい。ゲームが終わったんだから、治療を受ける必要はあるだろ。

 

一体何がどうなって…

 

 

困惑するオレの耳に、ガチャっとこの部屋の扉が開く音が聞こえた。

その扉の向こうには一人の男が立っていた。

部長と同じような紅い髪を持ち、かなり整った顔をしている。

 

「目が覚めたようだね、安心したよ。」

 

その男がオレにそう声をかけてきた。

 

多分この人は赤の他人じゃねぇ。

何故なら、紅い髪と顔を見る限り、この人は大方部長と何らかの血縁関係にあると思うんだ。

更に、安心したって言っていたから、さっきのゲームは見ていた可能性が高い。あのゲームを見た悪魔は、グレモリー家か、フェニックス家か。或いは、興味本位の悪魔。

そん中からあのゲームを見て、部長チームのメンバー、ましてや人間を心配するような人はグレモリー家の誰かくらいのもんだろ。

 

「…なぁ、あんたに一つ聞いてもいいか?」

 

「リアス達のことは心配いらない。既に人間界に帰っているよ。本来ならゲームの勝敗が決まったと同時に、治療室にいるメンバーも一緒に人間界に送るつもりだったんだけど、君は例外的に負傷が激しかったからね。」

 

そっか…なら安心した。

ゲームに勝ったことも、ジャラジを倒した事も夢じゃなかったんだな…。

 

「君の目が覚め次第、同じ様に人間界に送る事になってるんだ。丁度これから私も人間界に行って妹にお祝いしようと思っていたんだ。」

 

やっぱり兄妹だったな。予想通りだ。

 

「失礼いたします。魔法陣の用意が終わりました。」

 

するとそこに、グレイフィアさんが入ってきた。

これから魔法陣ジャンプで人間界に入る、ということらしい。

 

「ん?でもオレは魔力が無いからジャンプできないんじゃ…」

 

「多量の魔力を持っている者がいれば、君のように普通の人間に魔力と同じような魔法力を分け与えることでジャンプさせることができるんだ。君がバトルフィールドに入った時も、グレイフィアがいたから可能だったんだ。」

 

「ヘェ〜、それは知らなんだ。」

 

「ただ、バトルフィールドに向かうのはすぐに出来るんだ。あの空間は、言わば無の空間に作り出した仮のモノだったからね。けど、冥界から人間界に行くとなるとそうもいかない。君には、『世界の狭間』で少し待ってもらうことになる。」

 

「あぁ、そんな事は全く構わねぇさ。帰してくれるってのに、文句を言う筋合いはないからな。」

 

部長の兄とオレが話している横で、ずっと待機してくれていたグレイフィアさんが口を開いた。

 

「サーゼクス様、そろそろ参りましょう。」

 

「うん、そうだな。」

 

サーゼクス…それがこの人の名前か。

サーゼクス・グレモリー、いい名前だな。

 

 

…あれ?でもどっかで聞いたことあるような無いような…。

 

 

 

って、あ!

 

オレはあの合宿の勉強会の光景を思い出した。

 

 

…………………………

 

『じゃあ次に、私達の王である四大魔王の名前を答えてごらんなさい?』

 

『それならバッチリです!ルシファー様 ベルゼブブ様 アスモデウス様!そして憧れの女性魔王であらせられるセラフォルー・レヴィアタン様!』

 

『何で女性魔王だけフルネームなんだよ。他の人はどうなんだ?』

 

『勿論、バッチリだぜ!例えばルシファー様はサーゼクス・ルシファー様だし……』

 

 

…………………………

 

「…嘘だろ…部長の兄さんが…魔王……?」

 

「フフッ、そうだよ。面白い反応だね。」

 

微笑みながらオレの言葉に返すサーゼクスさん、いやサーゼクス様か?

仕方ねぇだろ!部長の兄さんがあろうことか一世界を統べる王の一人だったなんて!驚きだわ!

これに驚かず何を驚けというんですか!

 

「それでは、こちらの魔法陣にお乗りください。」

 

ギャーギャー騒いでいる男二人(正確にはオレだけ)を放置して、淡々と事を進めるグレイフィアさん。

オレ達が指示どおりに魔法陣に乗ると、グレイフィアさんは手に同じ様な魔法陣を展開する。

ジャンプが始まるようだ。

 

「気づいた頃には、真っ白な空間の中にいると思う。そこで暫くの間だけ待っていてくれ。少しすると、人間界に向けて同じ様にジャンプが始まると思うから。」

 

「あ、あぁ。それは分かったんだが…」

 

オレはチラリと足元を見る。

オレの目には、足元から順に光に包まれて消えていくのが見えた。

 

「これ本当に大丈夫なのか?心配なんだけども。

ゲーム前はあんまり気にして無かったけど、絶対無事に帰って来ることが出来るんだよな?」

 

心配な声でサーゼクス様に疑問をぶつける。

帰ってきた答えは、

 

「失敗するかもね♪」

 

と、無慈悲なものであった。

 

「おい!ちょっと待て!なお不安になるだろ!オレは降りるz……!」

 

抗議の声を上げたが、既に光が完全にオレを包んでしまった。

かなり怖いけど、最後にグレイフィアさんがサーゼクス様の頬をつねっているのが目の端に映ったから、アレは多分ジョークだったんだろう。

そうだ、きっとそうなんだよ。うん。

 

ーーーーーーーーーー

【第三者視点】

 

人間界、駒王学園のオカルト研究部室では、部員達が各々休憩を取っていた。

 

紅茶を飲む者、好きな菓子を食べる者、読書をする者…

好きな様に過ごしてはいるが、誰一人として帰る素振りは見せなかった。

あと一人が帰ってくるまで、このまま待つつもりのようだ。

 

そんな部員達の前に、紅い魔法陣が光りだした。

 

その魔法陣から現れたのは、グレイフィアと紅い髪の男であった。

 

その男の姿を確認した木場・小猫・朱乃の三人は跪き、リアスは一気に立ち上がる。この男に見覚えがない兵藤とアーシアは首を傾げている。

 

「お兄様⁉︎何故この様な場所に!」

 

その声を聞いた二人の顔は驚きに満ちたものとなる。

二人は真面目に授業を受けていたため、リアスの兄が魔王の一人であることは知っていたのだ。

 

 

八神よ、真面目に授業を受けているか否かは、こういう形で結果が返ってくるのだ。

 

 

話を戻すが、当のサーゼクスは柔らかい笑みを浮かべたままリアス達に向けて話す。

 

「妹の初勝利を直接祝いたくてね、急に来てしまったよ。改めて、リアス。おめでとう。」

 

「い…いえ、ありがとうございます…。」

 

珍しく、リアスの動きがしどろもどろとなっていた。

因みに、リアスはサーゼクスのことを、決して苦手でもなく、嫌いなわけでもない。そこの所は間違わないでいただきたい。

 

「今回の縁談の破棄は、私達もフェニックス家も異議なしだったようだ。父上も、フェニックス卿も、更にはライザーも反省していたよ。これもみんな、君たちのお陰だよ。本当にありがとう。」

 

そう言うと、サーゼクスは頭を下げた。

その様子を見たリアス達は動揺の声を漏らす。

 

「お止めくださいお兄様!魔王の立場であらせられる貴方が、こんな所で頭を下げるなど!」

 

「リアス、私はここに、兄として来ているんだ。兄が妹の仲間達に礼をする事が何かおかしいかな?」

 

そう言われたリアスは、諦めたように溜息をこぼす。部員達も、その光景を微笑ましく見守っていた。

 

すると、魔法陣が再び光を放ち始めた。

 

「おや、来たようだね。思ったよりも早かったみたいだ。」

 

サーゼクスの言葉を聞いたリアス達の顔が、晴れやかなものとなっていく。

 

光が収まり、魔法陣があった場所には八神が凛々しく立っていた…

 

 

ーーーーーーーーーー

 

とでも思っていたのか?

 

八神は全くと言っていいほど凛々しく立ってはおらず、逆に痛々しく倒れていた。

 

その様子を見る部員達の顔は、正に「あれ?」という感じであり、サーゼクス達も苦笑している。

 

「…どうやら、狭間にいる魔獣達が近寄らないようにする結界を張る役目の新人悪魔が間違えたようだ。」

 

サーゼクスがボソッと漏らした言葉に、ピクリと八神の耳が反応する。

 

「間違えたようだ…じゃねぇよ!」

 

そう叫んだ八神は、グァッと勢いよく飛び起きた。

 

「何で送られた狭間で『モンスターが現れた』って事が起きるんだよ!しかも超巨大なドラゴンだったし!見た目強くなさそうだけど、オレはドラゴンなんか見るのも嫌になったんだよ!そんなトコに送るとか、お前はあれか!鬼か!」

 

「いやぁ、申し訳ない。しっかり指導しておくよ。」

 

「そんな軽い問題かよ!コッチは死にかけたんだぞ!」

 

ギャーギャーと騒ぐ二人(八神だけ)を横目に、他の者達は対応に困っているようだ。それも当然である。

グレイフィアはフゥっと息を吐くと、コツコツとサーゼクスと八神に近寄っていく。

 

二人の真横についたグレイフィアは

 

 

 

ドスッ!

 

 

 

っと、サーゼクスにチョップをかます。

 

「痛い‼︎何をするのさ、グレイフィア〜。」

 

「当然の報いです。申し訳ありません。後ほど、担当の者とサーゼクス様にはきつく言い聞かせておきますので。」

 

「え!わたしも⁉︎」

 

「あ〜、それならありがてぇわ。」

 

三人の流れる様な会話に入る事が出来ないでいる部員達。

それもそうだ。こんな会話には付いていけないであろう。

 

「それでは、私達はこれで失礼致します。それでは皆様、御機嫌よう。」

 

グレイフィアがスカートの端を摘み、綺麗なお辞儀をする。そのままサーゼクスを引っ張りながら、魔法陣の中に消えていった。

 

 

嵐が過ぎ去ったような空気が走る。

 

先にこの沈黙を破るように口を開いたのは、八神であった。

クルリと部員達に振り返る。

 

 

 

「We are winner!!っだな。」

 

 

 

部員達の顔が一気に明るくなる。

 

「シュウ〜!!」

 

兵藤が皆の心を代表するように八神に飛びかかり、八神は華麗に兵藤を殴り飛ばす。

 

ここに、ようやく平穏が戻ってきた…。




雑談ショー☆with兵藤

兵「何だよこの変なコーナー。」

八「何でも、後書きのスペースを有効活用したいがために急遽作られた新コーナーらしい。今回の話の纏めか次回予告、或いは関係ない雑談でも構わねぇらしいけどな。作者があるアニメを見た影響らしい。」

兵「そうか〜。んじゃ、次回からは第三章がスタートです!これからも俺たちの活躍、見てくれよ!…こんな感じか?」

八「良いんじゃないかな?因みに、キャストは基本オレともう一人の誰かって感じだろうから、そこんとこよろしくな。」








兵「それじゃ、今日はコレで終わr「待てよイッセー」…何だよ?」

八「忘れたとは言わせねぇぞ?合宿での不意打ち…」

兵「あ…覚えていらっしゃいましたか……」


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月光校庭のエクスカリバー
二十八話目


三章開始、そして改めて見直してみた僕の文章…
うん、酷いもんだ。
それではどうぞ〜。


 

やぁ皆さんこんにちは、兵藤 一誠です。

ライザーとの一件が終わり、部長の縁談は破棄されたため、この前までの平和な日々が戻ってきたのでございますが…。

 

今、俺は素晴らs…いや、大変な事になっております。

俺自身はついさっき目が覚めたところで御座いまして、普段ならまだ眠気が残っている目を擦りながら登校の準備を整え、玄関前で待っているシュウと合流するので御座いますが、本日はその様には参りません。何があっても、布団から出たくないのです。

何故なら…

 

 

目の前に、部長の素晴らしく大きな二つの山があるからです!

 

 

何それ?どういう事?という人のために説明を加えるとすれば、今俺の隣に、我らが憧れの部長が寝ているのだ。ハ・ダ・カ・で♡

先日と同じような状況だよ。俺が部活に入る前のあの日。

 

実はライザーとの一件以降、部長が俺の家にホームステイという形で住み始めたんだ。何でかは知らないけど。

それで、部長はたまに…いや、しょっちゅうこうやって俺の布団に潜り込んでくる。その上、部長は裸でないと眠れないようで、服を脱いだまま俺の横に入るんだ。

その為、俺が起きると横に部長の艶かしい身体が丸見えなのだ。

 

大きく膨らんだ胸!キュッとくびれのある腹部!すらっと伸びた脚!いや〜もう堪らんですわ!

 

 

「う〜ん…あら?起きていたのね、イッセー。」

 

「あ…おはようございます、部長…」

 

すると、部長が目を覚ました。

こうなるともうマジマジと眺める事は出来ないため、サッと視線をそらし…

 

って、出来るわけないでしょ!目の前の美しい光景から目を離せないわ!!

 

「ゴメンなさい。貴方を抱いていないと眠れなくて、また貴方の布団に入ってしまったわ。」

 

いえいえ、そんなの全くもって構わない…いやいや!そうじゃなくて!

 

「あ…あの…部長、俺も男なんで、そんなに無防備な所を見せつけられると…「襲いたくなっちゃう?」!?」

 

部長が俺の言葉に便乗する様に言う。

いやちょっと待って!そう言うってことは…

 

「私は構わないわ…イッセーが喜ぶ事なら、何でもしてあげる…。」

 

色っぽい声で言われました。

 

あぁ…やべぇ…俺の中の理性が保たれねぇ…このまま、部長を押し倒して…

 

「イッセーさん、そろそろ早朝トレーニングの時間ですよ〜。」

 

はっ!アーシア⁉︎

ナイスタイミング!危なく部長と繋がってしまうところだったぜ!

 

「ちょ、ちょっと待っていてくれ!すぐに行くから!」

 

俺は部屋の前で待っていると思われるアーシアに向けて叫んだ。分かりましたと、アーシアが部屋から遠さがっていく音が…

 

 

 

「アーシア?もう少し待っててね?私達、これから準備するから。」

 

部長ぉぉぉぉぉ!!

何でカミングアウトしちゃうんだよ!ニヤニヤと何か企んでいたような顔をしてるし!

 

 

 

ダッダッダと、アーシアが戻ってくる音が聞こえ、バンッ!と扉が開かれた。

 

「や、やぁ、アーシア。」

 

なるべくにこやかな顔で挨拶してみました。

けど、アーシアは愕然とした顔で俺たちを見ている。だろうね、シスターだったアーシアが、目の前でこんな光景見せつけられたら「不埒です!」って怒るよな…。

 

 

「……ズ……です。」

 

?今何か言ったような。

 

「ズルイです!私も裸になります!」

 

えぇぇぇぇ⁉︎

いやなんでそうなるんだよ!嫌じゃないけど!発達中のアーシアの身体も好きだけど!

 

「仲間ハズレはいやですぅぅ!」

 

服を脱ぎながらコッチに歩いてくるアーシア。

 

 

 

 

…だ……

 

 

誰か助けてぇぇぇぇぇ!!

 

 

ーーーーーーーー

 

「…よぉ、随分お楽しみだった顔してんじゃねぇか。」

 

「あぁ…まあな……。」

 

いつも通りの時間にイッセーの家の前で待っていると、艶があるがどこかやつれている顔をしたイッセーが出てきた。

後ろには不機嫌なアーシアと、満足そうな部長がいる。

 

オレは知らなかったんだが、イッセーがライザーとの戦いの中で、部長にそれはそれは盛大な告白をしてくれたらしい。んで、それ以来部長はイッセーにゾッコンだ。

本人はそんなつもり無かったらしいが、ユウトに聞いた事によると「お前じゃ部長を幸せにできねぇ!俺が幸せにしてやる!」っていう内容だったとか。なるほど、告白以外の何者でもねぇな。

合宿のあの夜とかでちょくちょくフラグを建てていた上に、そんな大告白だ。惚れないわけがない。本人気づいてないけどね。

 

そんな訳で、部長はイッセーの家付近の土地を丸ごと買い占め、自分の家を建てた。元に、オレが以前までイッセーを待つ間寄っかかっていた家はなくなり、部長の家の一部になっている。因みに、そこに住んでいた人は引っ越していった。ココよりいい土地が見つかったらしい。正確にはグレモリー家が提供したんだけどな。

部長の行動力の素晴らしさに脱帽です。

 

「シュウ、祐斗にも伝えておいて欲しいんだけど、今日の部活はイッセーの家で行うわ。」

 

「え?何でですか?」

 

「今日は使い魔達が旧校舎の掃除を行う日なの。邪魔になるといけないから、部活を別の場所で行わなわないといけないから。」

 

「あーね、イッセーの家なら部長を含めた三人が住んでいるから、楽ですもんね。」

 

そういう事。と、部長が返す。

 

今はオレとイッセーとアーシアに加え、部長と一緒に学校に行ってる。以前の時も大概なもんだったが、今は部長とイッセーがかなり親密になっているため、以前より圧倒的に騒ぎ方が凄い。もうあちこちからギャーギャー聞こえる始末だ。

勿論、アーシアも負ける訳にはいかない。一生懸命アプローチしてる。結果、もっと騒がれる。耳を塞ぎたくなるぜこの野郎。

 

 

 

 

え、オレ?完全に蚊帳の外。

 

ーーーーーーーー

 

時は流れて昼休み。

 

「ユウト、オレもう疲れたよ、眠ってもいいか?」

 

「ダメだよ!しっかりするんだ!」

 

昼休みを迎えた時には、既にオレは体力的に限界を迎えていた。朝の時点でだいぶ疲れてんのに、授業もしっかり受けねぇといけない。

オレに死ねと言うのか?

 

最近はもうユウトといることが多い。イッセーの方は休み時間まで騒がしいからな。

ほら、耳を澄ませば……

 

 

 

「どういう事だイッセー!!」

 

「うるせぇ!この裏切り者!!」

 

「こうでもしないと、嫉妬の心で潰れてしまうわ!!」

 

 

 

変態三人組の声が聞こえる。

最近リア充になった一人を、残りの二人が攻撃する形だ。もうこの学校には部室以外落ち着く事が出来る空間がない。でもその部室まで今日は使えない。

もー嫌だ、狂っちまいそうだぜ。

 

 

そんなオレに、一人の女子生徒が近づいてくる。

 

「ねぇ!あの変態の噂って本当⁉︎」

 

「ちげぇよ、あいつにゃそんな事する勇気も情報力もねぇ。」

 

だよね〜、安心したと言いながら去っていく女子生徒。この質問も何度目だろうな。

 

ここんとこ、イッセーについて変な噂が飛び交っている。二大お姉様の部長や朱乃先輩を脅してピー!な事してるとか、学園のマスコットである小猫を力任せでポー!してるとか、天使であるアーシアをパー!して堕天させるとか…。散々な言われようである。

挙げ句の果てにはユウトと男同士でペー!しているとのホモ疑惑もあがっている。

 

こんな噂を流し始める奴はすでに予想ついてるんだが、今あいつらと関わるのはマジでダルいんで、スルーする事にしよう。

 

「ねぇ八神くん!」

 

……なんだよ、またかい。今度はどれだ?姉様かマスコットか天使かホモか、どれでも知りたい情報聞いてこいや。

 

 

 

 

 

 

「八神が兵藤君を攻める関係にあるって本当⁉︎」

 

 

 

 

 

 

……what?

 

 

 

 

 

 

 

 

……なるほど、あのバカどもは越えてはならない一線を越えたようだ。

 

「違うよ?オレとイッセーはそんな関係には断じてないさ」

 

オレは笑いながら女子生徒の質問に答える。彼女はオレの顔を見て怯えた顔に変わったが、大丈夫、君には怒ってないよ。

 

 

その噂流してくれたやつ……

 

 

 

 

 

悪★即★殺だ。後悔させてやろう。

 

 

オレはふふふと笑ってとある生徒の元に向かう。

 

 

その頃、坊主と眼鏡は凄まじい悪寒を感じたそうだ。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

放課後、オレ達はイッセーの家に集まって会議を行っている。

題材は、「取れた契約の数」だ。

正直オレには関係のない話ではあるが、何と無く興味があったから聞いてみることにした。

 

「先ずは、朱乃が八件」

 

「はい部長。」

 

朱乃先輩が最初に発表された。八件というのは多いのか少ないのかよく分からないが、悪魔のレベルが高い朱乃先輩なんだ。きっと凄い記録なんだろう。

 

「祐斗が六件、小猫が五件」

 

「はい」「…はい」

 

先輩悪魔の二人もそこそこの記録なんだろうな、部長が嬉しそうだし。

 

「アーシアが三件」

 

アーシアの記録が発表された時、皆がおぉっと感嘆の声を上げる。て事は、さっきの三人の記録も凄いものなんだな。

 

「凄いじゃないか、アーシアさん。」

 

「…新人としては上出来」

 

「ありがとうございます!」

 

ここまではどうやら順調のようだ。

残るは我らが変態、イッセー君だ。

 

「さて、イッセーは…」

 

部長が息を溜める。

相当凄い記録なのか?って思って、チラリとイッセーの方を見る。

 

あれ?汗だくだ。嫌な予感。

 

 

「ゼロ件」

 

「面目無い」

 

 

白けた空気が流れました。ここまで来て一件も取れていないのは情けないだろオイ。

 

「イッセー、契約を結ぶ事は悪魔にとって基本なの。結べないとしたら、悪魔として成り立たないわ。」

 

「…はい、精進します。」

 

ショボンとした顔で受け答えをするイッセー。色々大変なんだろうな、笑いたいけど笑えない。

 

 

 

「はーい皆さん。イッセーのアルバム、持ってきたわよ!」

 

そんな空気をぶっ壊したのは兵藤ママだった。皆が一斉にイッセーのアルバムを覗きだす。

 

「これが小さい時のイッセーね、この時から女の人のお尻ばっかり追い掛けていたのよ。」

 

「あらあら、全裸で海に」

 

「ちょ、ちょっと朱乃さん!」

 

「イッセー先輩の赤裸々な過去…」

 

「小猫ちゃんも見ないでぇぇぇぇぇ!!」

 

見られるのが恥ずかしいのか、必死で抵抗を試みるイッセー。しかし、無駄だ!

 

 

「こんな物もありますよ。ビデオショップの中のアダルトコーナーに入ろうとしている時の写真。」

 

「シュウてめぇぇぇぇぇぇ!!」

 

こんな事になるだろうと思って、オレのイッセー専用アルバムを持ってきておいた。イッセーの恥ずかしい瞬間ばかりを激写したアルバムだ。

全力で飛びかかってきたイッセーをかわし、皆にそのアルバムも見せる。

 

皆は笑いながらその写真を眺め、イッセーはそこで撃沈してる。

 

「小さい頃のイッセー、小さい頃のイッセー。」

 

「私も部長さんの気持ち、わかります!」

 

部長とアーシアはイッセーの過去を見れて嬉しそうだ。よかったよかった(ゲス顔)

 

「あら?こちらはシュウ君では?」

 

「あー、そうっすね。こんな事もあったな〜。」

 

朱乃先輩がオレも写っている写真を見つけた。オレとイッセーが木登りしている。懐かしいなぁ〜。

 

…アレ、朱乃先輩と小猫がオレの写真を凝視してる。気のせいだよね、きっと。

 

 

「おい木場!お前は見るな!」

 

「ハハハ、いいじゃないか。僕にもイッセー君の小さい頃を見させてよ。」

 

イッセーとユウトがすぐ横で激戦を繰り広げている。多分イッセーはユウトにも写真を見られるのが嫌なんだろう。必死でアルバムを取り返そうとするが、ユウトはひらりと華麗にかわしている。

 

イッセーの抵抗虚しく、ユウトは次々へとアルバムのページをめくっていく。

 

すると、ユウトの手がとあるページで止まった。

 

さっきまでの雰囲気とは打って変わって、何やら暗い顔である写真を眺めている。

 

「木場?どうしたんだ?」

 

「イッセー君、これ、見覚えある?」

 

同じく様子が気になったのか、横から顔を覗かせたイッセーに、ユウトは一枚の写真を見せた。

 

「あーこの写真。懐かしいなぁ〜、よく一緒に遊んだんだ。引っ越していっちゃったけど、どうしてるんだろうな〜。」

 

イッセーが見ている写真をオレも見てみた。そこには、小さい頃のオレとイッセーと一緒に、栗のような色をした髪の子が写っていた。

オレも覚えがある。言うなら、二人目の幼なじみだ。

 

「これがどうかしたのか?」

 

「その写真の、この剣だよ。」

 

確かにこの写真の背景に、一本の剣があった。あまり気にしてはいなかったが、今思うとこの剣からは嫌な力を感じた。

 

「まさかこんな事があるなんてね…」

 

より怪しい雰囲気を放つユウト。

ユウトがこんなに嫌な顔をしているって事は…

 

 

「コレは聖剣だよ。」

 

この言葉を放ったユウトの顔は、負の感情を表していた…。

 

 




雑談ショー☆withリアス

八「契約ってそんなに難しいんすか?」

リ「願いの内容によるわ。ただの話し相手だったり、引っ越しの手伝いだったりすれば楽なんだけど、大変な事を頼まれる事もあるから。」

八「へぇ〜、イッセーはどんな事頼まれたんすかね?」

リ「私自身驚いた事としては…」

ミ『ミルたんを魔法少女にして下さいにょ(マッチョなおじさん)』

兵『異世界に行って下さい!』

ミ『それはもう試したにょ』

リ「という事があったらしいわ。」

八「……魔法少女…。」


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二十九話目

夏休み終わってしもた……。
まだ海行ってない〜山行ってない〜遊び足りない〜!(駄々っ子)

ま、仕方ないね。心機一転、二学期も頑張りますか!

それではどうぞ、


 

イッセー宅で部活をしたあの日以来、目に見えてユウトの様子がおかしい。嘗ての部長以上にボーっとしてる。十回話しかけた内、四回は「うん?どうしたの?」ってなるし、六回は反応すらしない。オレの言葉に全く耳を傾けてくれねぇんだ。

今だって窓越しにグラウンドを見てるが、その目は何か気になるものを見ているというより、ただ目に映っているものを眺めている感じだ。

 

そんなユウトのもとに、女子生徒の木村さんが歩み寄ってきた。

 

「木場くん、バスケチームのメンバーに入ってくれないかな?」

 

「………」ボーッ

 

近い内にあるクラスマッチ、バスケに関する相談をユウトに持ち込む。けど、ユウトは相変わらず外を見ているだけだ。

ほらほら、木村さんが無視されて悲しそうにしてるぞイケメン。

 

仕方ねぇな、何とかしてやろう。

オレはスゥッと息を吸って…

 

 

「おーい!!ユウト〜!!」

 

 

と、耳元で叫んでやった。

 

「うわっ!ど、どうしたの?」

 

「どーしたもこーしたもあるか、木村さんがお前のせいで泣きそうだぞ?」

 

「えっ⁉︎あの、そこまでじゃないんだけど…」

 

ユウトの耳元で叫んだ事でやっと気付いたらしく、その後はユウトと木村さんの話になる。ユウトは二つ返事で引き受けたようだ。

 

「八神くんも入ってくれない?」

 

「オッケ、任しとけ!オレとユウトで絶対勝ちをもぎ取ってやっからよ!」

 

「……うん、そうだね。」

 

 

 

 

 

 

一方、部活の方でも部活対抗戦に向けての練習が進められていく。部活対抗戦がクラスマッチと同時期に行われるのは珍しいよなぁ。

部活対抗戦はクラスマッチとは違って、競技は何になるのか前日…と言うか今日の放課後、午後六時になるまで分からねぇ。だから手当たり次第にいろんな競技を練習していくしかねぇんだけどな。

 

今日の練習は野球。攻撃と守備に別れて練習をする事になった。攻撃は小猫とアーシア、朱乃先輩が、守備はオレとユウト、イッセーと部長が行っている。

 

 

「…えい。」

 

グワァキィィィィィン……!!!

 

…相も変わらず、声と威力が一致してない。なんだよ今の、野球選手もビックリな『大・大・大・大・大・ホームラン!』がぶっ放されたぞ。遥か彼方、マンションの窓を突き破ってるし。(←射撃体)あ、住んでるオバさんがオロオロしてる。

コレなら攻撃は問題なし、四番は小猫で決定だな。

 

 

オレとユウトとイッセーは、部長がバッティング練習の相手をやってくれている。

 

「イッセー!」カァァァン

 

「オ、オーライ!オーライ!」パシッ

 

「シュウ!」カァァァン

 

「ほいほいっと」パシッ

 

「ナイスキャッチ!二人ともいい感じよ!」

 

危なっかしくもしっかりキャッチできたイッセーと、楽々キャッチできたオレ。

 

 

 

「祐斗!行くわよ!」カァァァン

 

「………(ボーッ)」ボスッ

 

しかし、ユウトは飛んできたボールに反応出来なかった、いや、反応しなかった。

ボールはユウトの真横に落ちてコロコロと転がっていく。動きが速いから守備の要になると考えてるのに、アレじゃなぁ〜。

 

「祐斗!ちょっとこっちに来なさい!」

 

部長が大きな声でユウトを呼んだ。多分説教されるんだろうが、

 

「なぁシュウ、木場のやつ、一体どうしたんだろうな。」

 

「…知らねぇよ。お前も知っての通り、お前ん家で部活したあの日以来ずっとあんな調子だ。理由なんてオレも知りてぇくらいだ。」

 

心配してるのか、イッセーが少し暗い顔で話しかけて来た。とは言え、オレ自身も分からねぇことだらけだから何も答えられなかったがな。

 

 

……確か、ユウトがあの写真を見てからおかしくなったんだよな…。オレとイッセー、そしてアイツが写ってる写真。その背景にあった一本の剣を凝視してた。聖剣って言ってたが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妙な音が鳴り、脚元がフラフラし始める。

ナンダ?地震か?とても立てたもんじゃなく、オレは思わず倒れ込んでしまった。

頭から倒れたのか、かなり頭が痛ぇ。

オレの視界に、イッセーが驚愕の顔を浮かべながら走って来ているのが映る。いや、別の方から部長や朱乃先輩達も来てるな。

…アンタら…よく…普通に立って…いられるな…。

 

 

…って…あ…あれ…?目の前…が…真っ暗に…なって…いく…。

 

 

 

 

 

八神の意識、Black Out

 

 

ーーーーーーーー

 

アホー アホー

 

 

 

…あれおかしいな。アホウドリって今現在は絶滅危惧種じゃなかったか?この世界では違うのか?

ってか、実際にアホーとは鳴かねぇぞ。聞いた感じはギーだったハズだ。何で空気を呼んだようにその鳴き声を出すんだよ。

 

とまぁ、オレはアホウドリの鳴き声で目を覚ました。頭には柔らかい何かが敷かれてる。枕でも置いてくれたのか?

既に赤くなった日光が眩しく、中々目を開けられねぇけど、何とかうっすらと目を開けた。オレの目に映ったのは、女子用制服の上部分の生地だった。

…アリ?何でそんなもんが映るんだ?

 

「あらあら、うふふ。目が覚めたのですわね。安心いたしました。」

 

…生地の向こうから朱乃先輩がニュッと顔を覗かせてきた。

 

「シュウくん、部長との練習の中で頭を打たれたんですの。それからずっと気絶しておられたんですわ。」

 

成る程、それで頭痛が起きたりフラフラしたりしたのか。脳震盪にならなかったのは不幸中の幸いだな。

 

「すんません、世話してくれたんすよね?」

 

「いいえ、対した事ではありませんわ。シュウくんの可愛い寝顔も見れたことですし。」

 

…クソ、そんな事言わねぇで欲しい。恥ずかしすぎる。練習中に頭打って気絶して、人に寝顔を見られるとか…今日は最悪の日だな…。

 

 

 

……ん?ちょっと待てよ?

 

 

 

寝顔を見られて、オレの視界に朱乃先輩の顔が映るって事は……

 

 

 

……イヤナヨカンガスル。

 

 

 

オレはそ〜っと頭に敷いている柔らかい物の正体を確認した。

それは、綺麗な艶のある肌色だった。

それは、丸みがありながらも綺麗な形をしていた。

それは、そのまま目の前に映る女性の元に繋がっていた。

 

 

 

 

……まさか、コレって……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膝枕ぁぁ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オンギャァァァァァ!!!」

 

オレは変な叫び声をあげながら跳ね起きた。直ぐそこにあった木に身体を預け、ゼーゼーと息をする。

なんてこったい!女性に…在ろう事か、部活の先輩にあんな事されるなんて!イッセーなら泣いて喜ぶだろうが、オレはとてもじゃねぇけど喜べねぇよ!緊張するわ!!

 

その様子をポカンとした顔で見ていた朱乃先輩は、段々と顔を暗くする。

 

「……嫌……でしたか?」

 

「いや、決して嫌だったわけじゃないんすけど…!えっと、なんと言うか、ビックリしただけでして…!」

 

目をウルウルとさせて聞いて来た朱乃先輩。そんな顔しないでくれ!今のは拒絶反応じゃなくて、反射的な動きだったんだ!

やべぇ!朱乃先輩の顔がどんどん暗くなっていく!

 

あ〜!こうなったら!

 

「すんませんしたぁぁぁ!!」

 

THE☆土下座だ!

 

「その、意識なかったとは言っても、かなり迷惑かけちまって…!」

 

朱乃先輩は黙ってオレの土下座を見ている。こうなりゃ仕方ねぇ!雷でもなんでも受けてやらぁ!どんと来い!

 

 

「……フフッ」

 

朱乃先輩から優しい笑い声が聞こえた。顔を上げたオレが見たのは、さっきまでの暗い顔をしておらず、いつも通りの笑い顔を浮かべている朱乃先輩だった。

 

「冗談ですわ。最初に飛び起きられた事には驚きましたけれど、シュウくんの性格の事を考えると当然の事ですし。

ただ単に、シュウくんが面白くてからかっていただけですわ。」

 

 

…なんだよそりゃ〜。

オレはヘナヘナヘナと脱力していく。

 

「さぁ、そろそろ部室に戻りましょうか。恐らく、部活対抗戦の競技が決まった頃だと思いますし。」

 

「え、えぇ。そうっすね。」

 

オレと朱乃先輩は一緒に部室へと戻っていく。

 

 

「…でも、少しだけ残念ですわ。」

 

「ん?何か言いました?」

 

「いいえ、なんでもありませんわ。」

 

 

 

部室に着いて少し待つと、部長が嬉しそうな顔を浮かべながら一枚の紙を持って入ってきた。

 

「部活対抗戦は、ドッヂボールに決定よ!」

 

ドッヂボールか…生徒会メンバーと皆が戦って以来だな。

 

「明日は全員で勝ちに行くわよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

皆でモチベーションを上げる。しかし、ユウトは見事に無反応だった…。

 

ーーーーーーーー

 

クラスマッチ及び部活対抗戦当日。

 

二年のクラスマッチ決勝はオレ達のクラスとイッセー達のクラスだった。

相手チームにはイッセーを始めとする、そこそこ運動神経がいい奴が集まっていた。

 

「どぅらっしゃい!!」

 

「どんな掛け声だよ!」

 

ブロックで飛んできたイッセーを跳ね飛ばし、ダンクを叩き込む。一点差でオレらのリーチだ。

ところが、攻守交替になったら奴らが凄い勢いで攻めてくるため、オレが戻ることもできねぇ。

 

「これでもらった!」

 

松田が意外と綺麗なレイアップを決めた。そーいやあいつ、運動神経悪くねぇんだよな。忘れてたけど。

残り時間は少なく、一点差で負けている。

 

「さぁ、守りだ!」

 

「ユウト!パス!」

 

ゴールの近くに立っていたユウトにパスを要求する。

しかし、ユウトは相変わらずボーッとしており、ボールを取りに行く素振りすら見せなかった。

 

「ユウト!!」

 

「!…あ、ゴメン」

 

やっと気がついてくれたユウトは、安定したパスを送ってくれた。

 

「よし!次は絶対止めてやる!」

 

オレの前にイッセーが立ち塞がった。成る程、オレと少し距離を空けた位置に陣取っていることから、時間稼ぎをしようという事か。

 

フッ、甘いなイッセー。

 

 

「…オレのシュートは…。」

 

オレはそのままシュートモーションに入る。ハーフラインで撃ってくるとは想定外だった様で、イッセー達が驚いてる。

 

 

「落ちん!」

 

 

放たれたオレのシュートは高い起動を通り、ゴールネットに触れる事もなくストンとゴールに入っていった。

 

 

 

…ごめんなさい盛りました。あんな天才的な事は出来ません。

ポストで数回バウンドをしながらも、何とかゴールに入れることが出来た。

 

三点追加され、オレ達が二点リードしたところで試合終了のブザーが鳴る。オレ達の勝ちだ。

勝ったのは良いものの、結局ユウトは終始ボーッとしていた。こんなんじゃ部活対抗戦も大変な事になるぞ?

 

 

 

ーーーーーーーー

 

午後から始まった部活対抗戦。我らがオカルト研究部は一応文化部ではあるが、一人一人のスペックが異常のため、運動部相手でもかなり善戦であった。

 

…まぁ……

 

 

 

「クソッ!当たれ変態野郎!!」

 

「お前の存在が腹立つわ!!」

 

「何で俺ばっかり狙われんだよぉぉぉ!!」

 

 

 

イッセー君しか狙われてないけどね。

 

恐らく、奴らにとってはイッセー以外の人物を狙いたく無いんだろうな。理由は下の通り

 

部長←憧れの美女に当てる事など出来ぬぅ!!

 

朱乃先輩←お姉様に当てる事など出来ぬぅ!!

 

小猫←可哀想だから当てる事など出来ぬぅ!!

 

アーシア←天使様に当てる事など出来ぬぅ!!

 

ユウト←女子の怨みが飛んできそう。当てる事など出来ぬぅ!!

 

オレ←外野にいる。当てる事など出来ぬぅ!!

 

ってとこだな。それだけでもイッセーが狙われんのには十分な理由なのに加え、周りが美人ばかりという嫉妬の心も籠っているのであろう。愚かな話よ。

……外野に逃げたのは正解だったな。

 

けど、イッセー自身も身体能力は高いからスルスル避けることが出来ている。

やがて、痺れを切らした一人の男子…金山君だっけ?がユウトを狙い始めた。

 

「女子に怨まれたって知った事か!俺の憎しみは、オカルト研究部の男全員に向いているんだ!」

 

放たれたボールは真っ直ぐにユウトの顔面目掛けて飛んでいく。あのスピード、普段のユウトなら軽く避けられるんだろうが…。

 

 

 

バンッ!

 

 

 

あっさり当てられた。

 

 

 

ユウトが外野に来ることで、元から外野にいたオレが交代という形で内野に入り、まだ自陣を転がっていたボールを拾う。

 

さて、最初の的はあいつだな。

 

 

「ズドリャッシャイ!!」

 

「グボァ!……何で…いきなり…俺…?」

 

「オレに宣戦布告してきやがったから」

 

金山君に全力投球をお見舞いしてやった。

オレのバーニングショット(仮)を腹に喰らった金山君は地に倒れ伏せる。オレに歯向かって来たものの定めなり。

 

 

 

そっから先も順調に相手を倒していき、その試合では勝利を収めた。

 

 

 

…途中でイッセーが股間にボールをブチ当てられて悶絶してたけどな。アーシアが治療の為に抜けたから、チームの内二人もいねぇ状態だったけど、何とかなった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

パンッ!

 

 

乾いた音が部室に鳴り響く。ユウトが部長に叩かれた音だ。

 

何故叩かれたのかって?簡単な話だ。以前からボーッとしていたのに加え、クラスマッチや部活対抗戦でも集中していなかったユウトに、部長が怒ったんだ。

 

「どう?少しは目が覚めた?」

 

部長が棘がありながらも心配するように言う。けど、一方のユウトは相変わらずみてぇだ。目にいつもの穏やかさが感じ取られない。感じるのはマイナスな感情だけだ。

ユウトは一度息を吸うと、部長に向き直る。

 

「もういいですか?競技大会も終わりましたし、今日はこれで帰ってもいいですよね。

…今日の事はすみませんでした。失礼します。」

 

謝りはしたものの、アイツの顔は変わっていなかった。そのまま何処かへ歩いて行こうとする。

そんなユウトの肩をイッセーが掴み、引き戻した。

 

「どうしたんだよ、木場。お前最近変だぞ?何かあるなら、俺達に相談しろよ。仲間だろ?」

 

イッセーの問いかけに暫く黙ったままだったユウトは、フッと笑みをこぼして口を開く。

 

「仲間…か……。イッセー君、僕は思い出したんだよ。僕が戦う理由を。」

 

「戦う理由って…部長のためじゃないのか?」

 

そうであって欲しい。そういうイッセーの心境が読み取れた。コレはイッセーだけの願いじゃねぇと思う。オレだってそう思いたい。

 

「違うね。僕は復讐のために戦っているんだ。」

 

 

しかし、ユウトははっきりと否定した。

 

 

「聖剣、エクスカリバー。僕はそれを破壊するために戦っている。」

 

ユウトはそう言うと、イッセーの手を振りほどいてから歩いて行ってしまった。

 

「祐斗…どうして……?」

 

胸の前に手を添えて、部長は悲しそうに呟く。

 

 

 

聖剣…木場 祐斗…。一体、アイツの過去に何があったんだよ…。

 




雑談ショー☆with小猫

小「先輩、頭は大丈夫だったんですか?」

八「気にかけてくれんのはありがてぇんだが…その言い方は止めてくれ。オレが狂ったみてぇじゃん。」

小「祐斗先輩の事も、心配です…。」

八「確かにな…アイツに一体、何があったんだ?」

小「その事はまた次回になるそうです。」

八「そっか、なら来週まで大人しく待つとするか〜。」

小「…ところで、先輩。」

八「ん?どした?」

小「朱乃先輩に膝枕してもらったんですね…」

八「え!あー、それは、その、えっと…」

小「…えいっ!」

八「ゲブボァ!!」

小「……」プイッ


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三十話目

新学期始まって早々に台風で休校…。どうせならあと1日早くきて欲しかったです。
そしたらレポートを最終日に徹夜ですることも無かったのに…泣


「聖剣計画?」

 

「そう。祐斗はその計画に参加させられていたの。」

 

オレとイッセーとアーシアは、部長からユウトの過去について話をしてもらっている。

 

 

 

今日の部活終了後、ユウトの過去にあった出来事を知りたかったオレは、部長に尋ねてみた。すると、部長は

 

『この後、イッセーとアーシアにもその話をするつもりなの。だから、イッセーの家に来てちょうだい。』

 

と答えてくれた。

だからオレはイッセー宅に入り、こうして三人で授業を受けているんだ。

 

 

 

話を戻そう。

 

 

部長の口から、聞いたことのない言葉が出て来た。聖剣は分かるが、聖剣計画ってなんぞ?

オレの疑問を感じ取ってくれたのか、部長はより詳しく話し始めた。

 

「そもそも、聖剣を使う事が出来る人間は限られているの。どれくらいの割合で生まれるのかは分からないけど、かなり少ないって聞いたことがあるわ。聖なる力を与えられ、超自然的な力を持つと言われているから当然ね。

でも、悪魔を敵視する教会側にとっては、聖剣使いは多く居てくれた方が良かったりするの。」

 

「聖剣が悪魔にとっての最大の弱点になるから、ですよね?」

 

イッセーの確認の言葉に、頷いて肯定の意思を見せる。

悪魔にとっての弱点は〝聖なる力〟を持つものと〝光力〟を持つものだって聞いた事がある。それでいくと、両方の属性を持っている聖剣はかなり効果があるんだろう。

 

「悪魔が触れれば身を焦がし、斬られればそのまま消滅する…。だから教会は、聖剣使いを人工的に生み出そうとした。それが聖剣計画というのよ。」

 

「そんな計画があったなんて…知りませんでした…。」

 

教会が心の支えでもあったアーシアが知らないとなると、多分裏方で極秘に行われてきた事だな。

 

「多くの人間達が聖剣を使えるように養成されたらしいんだけど、祐斗はその中の一人なの。」

 

「それで、木場は聖剣に適応したんですか?」

 

「いいえ。祐斗だけでなく、養成された人間達も、誰一人として適応出来なかった。

そこで教会側は、聖剣に適応出来なかったその人達を不良品として…」

 

「処分した、と…」

 

部長は小さく頷いた。

成る程な…コレで全てに合点がついた。ユウトは何とか処分されずに済んだものの、聖剣計画に関係した全ての教会関係者、引いては聖剣その物に対して恨みを感じるようになったって事か。

復讐…アイツが言っていた意味がようやく分かった気がする。

 

「そんな…主に使える者が、その様な事をして良いはずがありません…。」

 

アーシアは目を潤ませている。

前日の事然り、今回の事然り…信頼していた教会に何度も裏切られたんだ。当然の反応だな。

 

「教会関係者は悪魔の事を邪悪な存在としてしか見ていないけど、私には人間の悪意の方がより恐ろしく感じる事があるわ…。」

 

哀しみを帯びた表情を浮かべる部長。

 

すると、イッセーが一枚の写真を取り出した。

あの日、ユウトが見ていた写真だ。

 

「この写真を見てからなんです。木場の奴がおかしくなったのは。」

 

部長は差し出された写真を手に取り、写真に写っている聖剣をマジマジと見詰める。

暫くして、部長は顔を上げた。

 

「間違い無いわ。これは聖剣よ。まさかこの町に一本あったなんて…。前担当の悪魔が消滅させられたというのも、この剣があったからなのね…。

イッセー、シュウ。貴方達の周りに教会関係者の方はいるの?」

 

「俺の身内にはいません。」

 

「オレもっす。」

 

…まぁ、一人神さん知ってるけど。あの人は別だろ、多分。

 

「そう…なら、この写真に写ってるこの子の関係かしら…。それとも…」

 

 

それっきり暫く、部長は一人の世界に入り浸ってしまった。何やらブツブツと呟きながら考えている。

 

「あ、あの〜。部長…?」

 

イッセーが横からコソッと声を出す。

部長は顔をハッとさせ、意識をオレ達の方に向ける。

 

「ゴメンなさい。少し考え込んでしまったわ。

 

 

…そろそろ寝ましょうか。遅くなってしまったし。」

 

すると、部長は慣れた手つきでスルッと服を脱ぎ出した。

 

「ぶ!ぶぶぶぶ部長ぉ⁉︎な、何でいきなり服を脱ぎ始めてるんですか⁉︎」

 

「何でって…私が全裸じゃないと眠れないのは知っているでしょう?」

 

「それは知ってますけど!何でこの部屋で脱ぐんですか⁉︎」

 

「この部屋でイッセーと寝るからに決まってるじゃない。」

 

イッセーが必死に部長を食い止めようとするも、部長は理にかなっていない事を言いながら次々に服を脱ぐ。

 

 

「なら私も脱ぎます!私も一緒に寝ますぅぅ!」

 

アーシアも負けじと服を脱ぎ始めた。

 

「うぉぉぉい!やめろアーシア!

部長!お願いですからやめて下さい!アーシアの教育上悪いんで!」

 

必死な形相で部長の【Cast off】を止めようとする。確かにこの状況を丸く収めるには、部長を【Put on】させるしかねぇだろうが…。オレが思うに、そんな簡単には止まらねぇんじゃ…。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫よ。私達、既に毎日一緒に寝てるじゃない。」

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

へ〜、一緒に寝てたんだ〜。

 

 

 

 

 

 

……チラッ(アーシアの方を見る)

 

 

 

 

 

 

oh,絶望しきった顔してるぜ。

紫のヒビがビシビシ身体中に入るんじゃねぇの?

 

 

「そ…そんな…イッセーさん……!」

 

アーシアに「この裏切り者!」って感じの顔(まんまそうなんだけど)で見られてたじろぐイッセー。

 

オレの方を、助けを求める顔で見てくる。

 

 

「…イッセー。」

 

「な、何だよ!シュウ!」

 

期待、歓喜、感激…。そんな顔でこっちを見るのは勝手だが。

 

 

 

 

「お前がアーシアの、最後の希望になってやれ」

 

 

 

 

オレはお前を助ける気はねぇぞ。

 

 

 

 

その瞬間、イッセーの顔はさっきまでとは打って変わって絶望に満ちた物になる。

 

 

オレはサッサと荷物をまとめて

 

「それじゃ、オレはこれで帰ります。部長、アーシア、おやすみなさい。」

 

「えぇ、おやすみ。」

 

「あ、おやすみなさい、シュウさん。」

 

と、別れの挨拶も済ませてやった。

 

 

 

「裏切り者ぉぉぉぉ!!」

 

 

 

イッセーが何か叫んでるけど、聞こえないね。うん。

 

ーーーーーーーー

【第三者視点】

 

これは少しだけ前の話だ。

 

部員達と揉めるような形で別れてしまった木場は、一人で夜道を歩いていた。

正直、少しだけ後悔はしている。仲間に迷惑を掛けてしまった挙句、心配して寄って来た兵藤を突き離すような態度で接してしまったのだ。

だが、それでもやり遂げなければならない。犠牲になった仲間達の為にも、自分は戦い続ける必要があるのだ。

 

そんな事を考えている木場の目に、一つの人影が映った。

夜道のため姿がはっきりとは見えないが、着用している服から大体の予測はついた。

 

(神父…!)

 

神父だって立派な教会関係者なのだ。木場が復讐心を向ける相手でもある。

だが、だからと言って攻撃を仕掛ける訳にはいかなかった。そうすると、自分ははぐれと同様に、討伐される対象になる。それは主であるリアスに余計な迷惑を掛ける事になる。流石にそれは避けたかった。

 

だが、神父はフラフラとした足取りで歩いており、直ぐにでも倒れてしまいそうなほどであった。

 

「た…たすけ……」

 

神父が何かを呟くと同時に、神父の腹部から尖った何かが突き出される。

赤い血が舞い、神父の身体はゆっくりと倒れてしまった。

 

この神父をやったのは一体誰なのか……。考える間もなく、木場に向かって声がかけられる。

 

「やっほ。お久だねぇ、イケメン悪魔ちゃん。」

 

「フリード・セルゼン…。」

 

見たくもない奴に会ってしまった。木場は心の中で毒づく。

アーシアの一件の際、自分と小猫の二人で気絶させて以来見かけなかったため、何処かへ行ってしまったものと思っていたのである。

 

「まだこの町に滞在していたんだ。生憎、今僕は至極機嫌が悪いんだよ。」

 

「やっはー、それは奇遇ってもんですな〜。それは僕チンも一緒なんすよ。ほら、僕チョー強いんで〜、一度戦った悪魔ちゃんは即チョンパなんすよ。だから一度取り残したクズ悪魔を見ると無性に苛立つんだよぉ!!」

 

変わらない声で叫び、フリードは一本の剣を取り出した。

その剣から、何処と無く嫌なエネルギーを感じられる。

 

「あんたの魔剣と俺様の聖剣、どっちが強いか勝負といこうじゃないか。お礼なら一杯あげるよ。粉になるまで斬り刻んでやっからよぉ!」

 

飛び掛かってきたフリードに迎え討つように、木場も己の神器で二本の魔剣を創り出す。

光を喰らう魔剣と、炎も斬り裂く魔剣。どちらもライザー戦で使った魔剣であった。

互いの初撃がぶつかる。が、木場の魔剣が光を喰らう前に刀身が砕け散った。

すぐさま距離を取り、新たな魔剣を創り出す。

 

しかし、気付いた時にはフリードは木場の目前まで迫っていた。

 

振り下ろされる一撃を防ごうとするも、魔剣は再びあっさりと破壊される。

横薙ぎにされた剣を、頭を下げて間一髪で避ける。

 

もう一度距離を開けた木場は、激しい脱力感と共に、頬に燃えるような痛みを感じた。摩ってみると、指に血が滲んでいた。

どうやら避けるのが遅く、頬を少しだけ掠めてしまった様だ。

 

掠めただけでこの威力…。木場は改めて気を引き締めた。

 

「ひゃっほう!流石は聖剣、エクスカリバーちゃんだ!クソ悪魔の魔剣なんざ、全く寄せ付けもしない。流石は伝説の武器ってやつですなぁ!」

 

聖剣、エクスカリバー…。目の前に自分が最も恨んでいる代物がある。

何があっても、アレだけは破壊したい。

木場は別の魔剣を創って構える。

 

「さてっと。サッサとこの悪魔ちゃんもぶっ殺しちゃうとしますか!」

 

そう言って飛び出そうとしたフリード。しかし、突然変な音声が鳴り響き、フリードの動きが止まる。

 

「ッチェ。時間切れってわけですかい。よかったねぇーまだ生きてられるってよークソ野郎。」

 

すると、フリードは懐から何やら球体の物体を取り出した。

 

「また会った時は絶対殺してあげるんで、待っててっちょ?」

 

フリードはその球体を地面に叩きつけるように投げた。

眩しい光が周囲を覆い、木場の視界を奪い取る。

視界がハッキリとした時には、既にフリードの姿はなかった。

 

「…次は絶対に倒してやる。」

 

木場は剣を収め、また歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その上空にて、今の戦いを見届けていた異形の存在には気付かずに。

 

 

『聖剣…か。成る程、確かにこちらの世界の方が面白そうだ。』

 

顔全体を覆うように被せられているマスクの下から不敵な笑みがこぼれる。

 

奴は背中に生えている羽根を広げ、何処か遠くへと飛び去っていった…。

 

 




雑談ショー☆は今回お休みします。
今回も出てきたグロンギ…。実はこれ、とある方からのアドバイスを頂きました。ありがとうございます!

さぁ、彼は一体何者なのか⁉︎一体何を企んでいるのか⁉︎

次回は教会からの、あの二人が登場する予定です。お楽しみに!


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三十一話目

新しい仮面ライダー、ゴーストの正式発表の動画を先日見たんですが…。(映画見たい!)
今回もまたベルトが面白いですね。目玉て笑。
変身音もかなりうるさい…。これで必殺技も何か喋るとしたらウィザードライバー再臨ですね笑。

アレ何て言ってるんだろう…。『〜〜バッチリミナ〜!』って聞こえるけど…。


【第三者視点】

 

八神らが聖剣計画についての説明を受け、木場がフリードとの戦いを終わらせた時の話だ。

数日前、レイナーレ達堕天使が拠点として使用していた廃れた教会に、二人の人間がいた。

 

一人は白のマントを羽織っており、腕に銀色に輝く紐のような物を結んでいた。

もう一人は同じくマントを羽織り、包帯のような物で包まれた何やら巨大な物を背負っていた。

 

『堕天使達がここを根城にしていたとは聞いていたけど…まさかここまで廃れているとはね。』

 

『それだけじゃないみたいよ?ここら辺を縄張りとしている悪魔と争いがあったって聞いたわ。』

 

二人は共通で話す事が出来る言語…ギリシャ語を用いて会話をする。

 

『それにしても、この町も変わっていないわね〜。あの子達、元気にしているかしら?』

 

『確か、君の幼なじみが住んでいるんだったか?』

 

『そうよ、二人いるわ。変態とヤンキー。』

 

世間話をしながら二人はフードを下ろす。

腕に紐を結んでいるのは、栗色の髪をツインテールにしている少女。巨大な物を背負っているのは、青色の髪に緑のメッシュがかかった少女だ。

 

『会いに行きたいな〜。近くを通った時に行ってもいいでしょ?ゼノヴィア。』

 

『別に構わないが…イリナ、使命を忘れないでくれよ?』

 

青色の髪の少女ーゼノヴィアは、栗色の髪の少女ーイリナに注意を促す。

 

『先ずは、この町を管理しているという悪魔に会いに行かないとね…。』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

オレは部長から聖剣計画なる非常に腹ただしい計画についての説明を受けた後、自宅へ向かって足を進めていた。

アーシアの事なら大丈夫だろう。イッセーなら、きっとアーシアも部長も満足する様な方法を思いつくはずだ。

 

…ユウトは復讐心に囚われている。確かにアイツの過去を考慮すりゃあ仕方のねぇ話のような気はするが、オレは〝復讐〟というのは良い結果を残さない事を知っている。もし復讐を成功させたとしても、過去の出来事が無くなるわけじゃねぇ上に持ってきて、その心は人を変えちまう。

 

何とかユウトの目を覚まさせてコッチに戻さねぇと、近いうちに大変な事が起こる気がする。

 

 

 

「フゥ〜……」

 

オレは大きな溜息をついた。最近色々ありすぎて、精神的に疲れてきたんだろうな。

出来ることならこれ以上のトラブルにぶち当たりたくねぇんだが…。

 

 

 

 

 

ん?

 

 

 

 

あれは何だ?オレの位置から少し離れた道路のど真ん中に、なんか真っ黒な物体が落ちてる。ったく、ゴミの不法投棄か?と思ったが、よくよく見てみると全く違うのがわかった。

 

何つーか、しっかりとした形があるんだよ。夜中だからハッキリとは見えねぇけど、ゴミって言うと、グチャッと潰れてたりしてる様なイメージがあるだろ?けど、それにはそういった特徴が見受けられねぇ。

 

 

どっちかと言うと、生き物のような……。

 

 

 

 

だいぶ近づいたから、さっきとは違ってそれの全体の姿がハッキリと見えた。

 

 

全体的に真っ黒な所は変わってねぇが…誰でも確実に見た事があるものだった。画面の向こうの皆様も、人生に一度は見た事があるだろうと思われる。

 

とある宅急便の看板にデッカく載っているあの生物だ。

 

 

 

 

 

 

結論、黒猫。

 

 

 

 

 

 

怪我をしてるとこを見る限り、カラスか何かに襲われたんだろうな。

「弱い奴が消え、強い奴だけが生き残る…当然のルールだ」とか言ってこのまま無視する事だって出来るんだが…生憎、オレは怪我した生き物を見てスルー出来るほどの心は持ち合わせていねぇ。世話してやろう。

 

…決して猫が好きって事じゃ無いんだからな!勘違いすんなよ!

 

 

オレの気配を感じたのか、猫はゆっくりと身体を起こしてオレの方を見る。オレの姿を見たその猫は、全身の毛を逆立てて警戒心を剥き出しにした。

 

「大丈夫だって。オレはお前を獲って食おうとするつもりはねぇさ。」

 

オレは両手を上に向けることで敵意がない事を表す。

その事を見届けた猫は、フッと力が抜けたように倒れ伏せてしまった。

 

 

オレはそっとその猫を抱き抱え、自分の家へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

…どうしようかな、コイツの名前。黒猫だから…クロか?いや、ありがちだな…。

いっその事英語にして…ブラックキャットってのはどうだ?いや、色々な所から苦情が来そうだ。

 

 

ん?飼う気?満々ですが何か?

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ったオレは猫の治療を終え、取り敢えず食事を作る事にした。オレ自身腹減ってるのもあるが、この猫にも何か食わしてやったほうがいいだろうって思ったのが主な理由だ。

 

自分用の食事はさっさと出来るから問題は無ぇんだが…猫って普段何食ってんだ?

 

見た目は可愛らしくて好きなんだが、飼ったことが無いから世話の仕方が全く分からん。

えーっと、確か…

 

 

お魚くわえたドラ猫〜 追〜っかけ〜て〜♪

 

 

ってあるから、魚食うのか?

 

いや、自称ネコの狸はドラ焼きが好きだよな。ドラ焼き食うのか?いや、アイツ結果的に何でも食ってるしな。

 

 

 

 

てなると…どれが良いんだ?

 

 

 

 

…いくら考えたところで、猫が一体何を好んで食ってるのか分かったもんじゃねぇな。

 

オレは冷蔵庫の中から色々な食材を取り出して、猫の前に並べた。

 

・マグロ(刺身)

・ツナの缶詰め(皿盛り済み)

・握り飯(米Only)

・ドラ焼き

 

「どれでも好きなもん食うといいさ。足りなきゃ追加してやっから。」

 

猫は暫く迷っているようにウロウロしていたが、ツナの缶詰めを食べ始めた。

近くに水を入れた皿を置き、オレも自分の食事を作って食べた。

 

 

 

次に、家にあったいらない布団を掻き集めた。猫用の布団にするためだ。ガキの頃使っていた布団や客用布団。両親の布団もいらないね、どーせ帰ってこないし。帰って来たら作ればいいし。

 

押入れの奥底に封印されていた布団を引き出して一箇所に集める。両手を叩き、布団に添えると…

 

 

バチン!

 

 

と音がなり、青い雷が走る。

数枚あった布団は形を変えて、一つの猫用の布団になった。これでよし。

チラリと猫の方を見る。どうやら全部食べちまったようだ。よほど腹減ってたんだろうな。

 

猫は身体をクルリと丸めて眠っている。

オレは猫を布団まで運んで寝かし、毛布をかけてやった。

スヤスヤと気持ちよさそうに眠ってるから、今日の所はそのままにさせてやるか。

 

オレも自分の布団に入り、明日に備えて早めの睡眠をとった。

 

ーーーーーーーー

 

「…さて、どうするか。」

 

「ニャ?」

 

翌朝、いつも以上に早く起きちまったオレは、同じく目が覚めた猫と向かい合っている。

世話してもらった事が分かってるのか、猫は昨日の様に警戒心を見せていなかった。

 

オレは真剣に悩んでいた。昨日はノリに身を任せてコイツを飼うことにしたが、今になって考えてみりゃ、オレは学校がある間はコイツの世話をしてやれねぇんだった。

ここに残すって事も考えたが、流石に飼って一日目の猫を家の中に放置しとくってのは酷だろう。コイツ、確実に不安を抱えるぞ。

 

イッセーの親御さんに預けるか?いや、それはダメだ。イッセーに猫を飼った事がバレるわけにゃいかねぇ。

部長やアーシアも同様だし、朱乃先輩は家が分からん。ユウトは頼みにくいし…

 

小猫は…小猫に猫を預けんのか?シュール過ぎるからダメだ。

 

 

「あ〜、どうすっかなぁ〜。」

 

ネットで猫を預かってくれる所を探したが、オレが帰ってくるまで、そして猫がオレの家で住む事に慣れるまで預かってくれそうな所は余りねぇな〜。

 

 

すると、とある記事が目に入った。

 

「…放し飼い?」

 

 

 

 

 

放し飼いとは、家畜などを綱でつないだり柵で囲ったりしないで、広い範囲に放って飼うことです。

 

 

 

 

へぇ〜、そんなんもあるんだな。

だが、それ大丈夫なのか?犬は禁止されてるみてぇだが…

あ、猫は法律上でも認められてんだな。じゃあ大丈夫か。

後はカラスやら車やら、外の危険性だな〜。

 

オレは猫の方を見やり、声をかけた。

 

「なぁ、オレが居ない間だけでも外で歩き回ってみるか?」

 

普通なら人語を理解する事はねぇんだろうが、その猫は確かにコクンと頷いた。

 

「よし、そうするか!」

 

オレは(何故か)家にあった首輪を取り出し、猫の首周りにつけた。

 

「じゃ、オレが帰ってくるまで大人しくしてろよ?カラスやら車やら気をつける事、糞は決して人様の敷地にしねぇ事、迷惑かかる事は絶対にしねぇ事。守ってくれよ?」

 

猫がもう一度頷いたのを見たオレは、玄関を開けて猫を外に出す。

猫はシパーッと外へ駆け出していった。

 

 

…帰ってくるんだろうな?アレ。

 

オレは少し不安になりながらも、登校の準備を整えて出かけて行った。

 

ーーーーーーーー

 

【第三者視点】

 

一日はあっという間に過ぎていき、既に日は沈んでいた。

 

木場はしっかりと部活には顔を出してはいるが、その顔から笑みは消えていた。

気まずい空気を感じながらも、部員達は各々の仕事をこなしていく。

 

そうして、今日の所は解散する事となった。

 

八神は兵藤、アーシアと共に帰路についている。リアスは急遽ソーナに呼び出されているため、兵藤達に先に帰ってもらうように頼んだのだ。

 

下らない会話に花を咲かせながら歩いているうちに、兵藤の家の前に辿り着く。

 

「お、じゃあここまでだな。二人とも、また明日な。」

 

八神が曲がり角を曲がる直前で二人に声を掛ける。

 

「あぁ、じゃあな。」「お休みなさい。」

 

二人がそう返事をしようとした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!!」」

 

その時、二人は兵藤宅から妙な気配を感じた。それも、かなり拒絶したくなるような気配を。

 

兵藤はこの気配に覚えがあった。隣にいるアーシアを、教会まで送り届けたあの時に感じた物と、同じであった。

 

(まさか……教会⁉︎)

 

頭の中に、二人の人物の姿が思い浮かぶ。

悪魔と関わった者を、見境なく斬り殺したフリードの姿。

そして、惨殺されてしまったものの姿。

 

その惨殺死体の姿に、兵藤の母親の姿が重なった。

もしかすると、悪魔になった自分の母親に手を掛けようとしているのかも知れない。いや、既に掛けられたとも考えられる。

 

(母さん!!!)

 

兵藤が自宅に飛び入り、アーシアも続いて飛び込んでいく。

 

 

 

 

 

「……何だってんだよ、一体…。」

 

 

 

 

 

……完全に無視された八神は、ヒクヒクと青筋を立てていた。

 

 

 

 

 

不安や恐怖心の所為なのか、リビングまでの距離が遠く感じる。兵藤らの焦りは、徐々に膨れ上がっていった。不思議と、廊下全体が真っ暗な様にも思え始めた。

 

リビングに続く光が見え始める。

 

 

バンッ!と乱暴にリビングへの扉を開けた。

 

そして、目の前には驚くべき光景が広がっていた。

 

 

 

 

あの時同様、見るに堪えない程に斬り刻まれた兵藤母の遺体が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無かった。

 

 

 

「ほら見て!これは貴女がいなくなってしまった後すぐの写真なの〜。」

 

ただただ、楽しそうに談笑している母の姿を確認した。

母の話し相手になっているのは、腕に何やら紐のような物を巻き、栗色の髪をツインテールにした美少女(兵藤目線)と、包帯に包まれた巨大な物を脇に置いている、青い髪に緑のメッシュがかかった美少女(兵藤目線)であった。

 

「あ、イッセー君!久しぶり!」

 

すると、栗毛の少女が兵藤の姿を見るなり嬉しそうな声を上げる。

しかし、兵藤の記憶にはこの少女は残っていない。見覚えが無いのだ。

 

「あれ?覚えてないかな。私だよ私。」

 

「え、えっと〜…」

 

必死に頭の中から彼女に関する事を思い出そうとするも、やはりこの少女の事は知らないという事が裏付けられるだけであった。

 

するとそこに…

 

 

 

 

後ろから拳骨が飛んできた。

 

 

「痛え!!何すんだよ!」

 

「何すんだってのはコッチの台詞だ!あんな綺麗な無視の仕方しやがって!あと五、六発は殴らせろ!」

 

「あ、あの、やめてくださ〜い!」

 

突然の乱入者、八神によってその場は更に面倒な事になった。

 

ギャーギャーと喚き、喧嘩を始める男二人と、それを抑えようとするアーシア。

 

 

青髪の少女はポカンとしてるが、兵藤母は慣れているように無視をしており、栗毛の少女はまたもや嬉しそうな顔をする。

 

「ねぇ、貴方シュウでしょ?」

 

栗毛の少女が上げた声に反応し、喧嘩を止めた男二人。

 

「ん?」

 

自身の名前を呼ばれ、八神は声の主である栗毛の少女の方を見た。

 

 

「お前…イリナじゃねぇか!」

 

 

どうやら八神は覚えていたようだ。

 

 

仕方なく、兵藤は即座に自分の知り合いの中で、イリナという名前がついた人物を詮索した。

 

思い浮かんだのは一人。木場がおかしくなった原因の写真に写っていたあの子である。かなり活発で、八神の滅茶苦茶な遊びにも付いて行ってた。

稀に見る、かなり元気な男の子だなと思っていた。

 

 

 

…………

 

 

 

「ウソォォォォォ!?イリナ、女の子だったのぉぉぉぉ!?」

 

最悪の事態である。女の子を男の子だと勘違いしていたというのは、男として…いや、人間として恥ずかしい事であった。

 

「お前…いくら何でもそりゃねぇだろ、要所要所で女らしいとこあったろうが。」

 

「まあ仕方ないよ。あの時の私は男の子みたいに元気だったから。」

 

八神から呆れられた視線を向けられ、イリナからフォローを入れられた。

 

「あの…お二人とそのお方はお知り合いなのですか?」

 

この場で唯一イリナの事を知らないアーシアが尋ねた。

 

「昔よく一緒に遊んでいた二人目の幼なじみだ。親の仕事の関係で外国に行ったって聞いてたんだが、帰ってきてたとはな。」

 

「ついさっきこの街に着いたの。私もこの街に仕事で来たんだけど、折角だからイッセー君達に会いたかったから。」

 

 

 

 

 

そのまま八神とイリナは談笑し続ける。しかし兵藤は、イリナともう一人の少女から感じる〝聖〟の気配に警戒心を剥き出しにしていた。

アーシアは、兵藤が無理矢理の用事を言いつけて自室に避難させたため、今はこの場にいない。

 

三十分ほど話し続け、二人は帰って行き、少し時間が経ったタイミングでリアスが血相を変えて飛び込んできた。

 

リアスは兵藤、アーシア、八神の姿を確認するなり、三人を抱き抱えた。

 

「よかった…無事で…!もし貴方達が彼女達に攻撃されたらと思って、心配だった…!」

 

あの二人の正体に、何となく感づいていた兵藤とアーシアは、リアスのぬくもりを感じ取っていた。

 

 

 

「ちょ!ちょっと待て!近い!近すぎ!てか攻撃されたらってどういうことっすか!取り敢えず離れて!」

 

…約一名、何が何やら分からないでいる様子ではあったが。

 

 




雑談ショー☆with朱乃

八「イリナと一緒にいたアイツ…何者っすかね?」

朱「じつはお二人共、とある共通点があるんですの。イッセー君とアーシアちゃんは気付いておられたみたいですが。」

八「あの二人が気付いてオレが気付かないとなると…、一体何っすか?」

朱「うふふ、それは次回までの秘密ですわ。楽しみに待っていてください。」

八「ん〜…。あ!分かった!あの二人h「楽しみに待っていてください♪(黒笑)」……はい。分かりました。」



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三十二話目

ゴーストの基本四形態。
〝オレ〟〝ムサシ〟〝ニュートン〟〝エジソン〟

…宮本武蔵が来るとは。てっきり織田信長とか戦国大名が来ると思っていました笑。
意外ではありましたが、最強の剣士だから納得です。

強化フォームとか最強フォームとかはどうなるんだろう…。


 

あの後、何とか部長を引き剥がして話を聞いてみたんだが…その内容には中々驚かされたぜ。

 

部長曰く、あの二人は教会から派遣されてきた聖剣使いであり、とある任務の都合でこの町に来たって事らしい。んで、この町の管理悪魔である部長と、任務上で必要な交渉を交わすために話をしようと思って学園を訪れて来たそうだが、丁度部長がいなかった為に代わりで生徒会長さんが応対したとか。

会長さんからその事を伝えられた部長が念の為と思って二人の位置を捜したところ、二人揃ってイッセーの家にいる事が分かり、もしかするとイッセーとアーシアが襲われているかもしれないって考えたらしい。だからあんなに慌ててたんだな…。

 

「詳しい話は明日の放課後、部室でする事になってるわ。部員の皆を集める必要がありそうね…。」

 

そう言う部長の顔は少し暗かった。

当然の事だろうな、部員全員って事は必然的にユウトも含まれる。聖剣使いに対しても恨みを持っているであろうユウトがその場に着くというのは、かなり心配だもんな。

多分…いや、絶対面倒事が起きると見た。

 

 

 

 

 

今日はそこでイッセー達と別れ、オレは自分の家へ帰ったってとこだ。玄関の前に立ち、家の鍵を開け、扉を開けて中に入ろうとした時、

 

「ニャン♪」

 

と、後ろから鳴き声が聞こえた。後ろを振り向くと、オレが飼い始めたあの猫がチョコンと座っていた。

 

「よぉ、おかえり。」

 

オレは少ししゃがんで猫の頭を撫でる。気持ち良さそうにしながら撫でられている猫の顔をモロに見てしまった。

 

…何なんだ、この非常に愛くるしい動物は。

 

 

 

「ま、取り敢えず入ろうぜ。」

 

「ニャア」

 

…毎度毎度、何故にコイツはオレの言葉が分かるようにしっかり反応するんだ?問いかけているオレ自身が言えた事じゃねぇが、正直反応が返ってくるとは思わなかったぞ。

 

 

家に入っていつもの様に料理を作り、猫の前にはキャットフード(今日の朝買ってきた)を置く。

 

テーブルについてチャッチャと飯を食っていると、オレは猫の様子がおかしい事に気付いた。

全くキャットフードに口をつけようとしねぇんだ。昨日はスゲェ食欲で、出した食材を全部食っちまったってのに、今日は一体どうしたんだ?

 

 

…あ、まさか

 

 

「コレ、嫌いか?」

 

猫は申し訳無さそうにゆっくり頷く。申し訳無さそうにとか、そんな事猫が出来るわけ〜っていうツッコミは聞かねぇぞ。コイツなら余裕で出来そうだ。

 

まぁ、問題は全く無い。キャットフードを余り好まない奴もいるって事は既に調べていたからな。念の為と思って、他の食材も買って来ている。

て事で、オレは買って来た食材を猫の前に置いた。昨日の感じだと、基本的に何でも食べるようだから、今日の分も良さげな物を選んでおいた。

 

今度は猫もしっかり食べ始めた。コレでよし。

 

 

 

食事を終えたオレは、無我夢中で飯を食べている猫を眺める事にした。

 

真っ黒な毛に包まれた身体、スラッと伸びた手足、綺麗な形の尻尾…見れば見るほど可愛らしい。

 

…コイツがいればそれでいいとまで思えるようになっちまった。は〜…和むわ〜。

 

 

飯を食べ終わった猫は、トテトテと布団に向かっていき、中に潜り込むように入って眠ってしまった。

 

…何とも自由気儘な方ですこと。

 

しかし、猫を飼うからには金を稼ぐ必要があるな。オレ一人の生活費はあるが、猫の分はねぇ。

…近くにバイト募集しているレストランがあったな。行ってみるか。

 

 

さて、オレもそろそろ寝るか〜。明日はもっと面倒な事になるだろうしな〜。

 

オレも自分の布団を敷いて、さっさと眠りについた。

 

 

ーーーーーーーー

 

て事で迎えました。次の日の放課後でござんす。

え?飛び過ぎ?いやいや、仕方ないんですわ。授業を受けているだけのつまらん光景とか、興味ないっしょ?

 

まぁ前置きはさておき…オレは今か〜な〜り〜困っております。

目の前の客用のソファに座っていらっしゃるのは、昨日イッセーの家に乗り込んで来られたイリナと…あと一人。要するに、聖剣使いだ。

こちら側のサイドにはグレモリー眷属の皆様が横一列に並んで立っております。あ、部長は聖剣使いに向かい合う形で座っているけどな。

 

 

それだけなら全く問題無ぇんだが…

 

 

ユウトがおっそろしいオーラを漏らしながら聖剣使いの二人を睨んでいるんだ。

 

確かに教会関係者の奴らがいるんだから仕方ねぇんだろうが…。流石にコイツらは関係ねぇだろうし、恨みを向けても仕方ねぇだろ。お陰で部室全体の空気が重いぜ。

 

 

…それから、実はもう一個、個人的に困った事が…

 

『先日、カトリック教会、プロテスタント教会、正教会側に保管されていた聖剣、エクスカリバーが奪われました。』

 

 

 

言語でござる。

 

 

 

ったく…今度は何語だよ!

日本に派遣されんだったら、日本語ぐらい話せるようになってから来いよ!

何で外国から日本に来た連中は、どいつもこいつもロクに日本語も勉強しねぇで来るんだよ!日本人は外国語をある程度勉強してから行くんだぞ!多分!

 

と、青髪の女に言ってやりたい。

ココにいる殆どは日本語がベースなんだ。ところがコイツ一人が日本語話せねぇ上に持って来て、皆は外国語でも対応する事が出来るようになっている。

その為、青髪の女が話す事が出来る言語で会話する事になったんだが…。

 

やめて欲しい。隣にいる小猫が簡単に訳してくれてはいるが、何とも情けない。恥ずかしい。皆酷いぜ、自分達だけ翻訳コンニャクみてぇな能力持ってるからと言って、凡人のオレをそっちのけにするなんてよ。

 

 

 

 

…仕方ねぇ、あの手を使うか。

 

 

 

 

「小猫。今の言葉も翻訳頼むわ。出来れば一言一句間違いなく。」

 

「はい。今のは…」

 

小猫はさっきイリナが言っていたことを全部丁寧に教えてくれた。流石だぜ。

 

 

…成る程な。さっきの文でその様な意味になるってことは…コレが主語でココにアレを持って来て…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エクスカリバーって、二本もあるんですか?』

 

『聖剣エクスカリバーそのものは存在していないの。

ゴメンなさい、私の下僕に悪魔に成り立ての子がいるし、人間もいるの。エクスカリバーの説明込みで話を進めてもいいかしら?』

 

『それは構わないが…その人間は聞き取れているのか?先程からずっと口を開いていないが…。』

 

『大丈夫よ。下僕の一人に翻訳をするように指示しているから。』

 

以上の会話も全部小猫に翻訳してもらった。

 

 

ほほう、成る程。この会話でそうなるのであればココはこうしてああして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

よし、理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとな小猫、もう大丈夫だ。この言語も覚えた。』

 

皆がギョッとした顔でこっちを見ている。まぁ、ついさっきまで後輩に訳を頼んでいた人間が、あの短時間で母国語でない言葉をペラペラ話し始めたんだから当然の反応だろ。

 

『覚えた…だと?そんな簡単に覚える事が出来るとは思えないが…。』

 

『適当な一文とその訳を聞いたら、文法とかを解析して覚えるだけで終わる。お前らの言葉は簡単すぎるぜ。』

 

コレはオレの、グロンギ達の特殊能力の一つ、非常に高い学習能力だ。

 

オレが元いた世界でも、グロンギには自分たちの言語がある。グロンギ語とでも名付けようか。オレが変身している状態で、意識せずに話せるあの言葉だ。だから仲間達との会話では基本的にグギグギ言っている。

だが、人間に対して話をする時にまで、その言葉で話すわけにはいかなくなる。グギグギ言っても伝わらねぇだろ?

そこでグロンギ達は、この学習能力をフル活用して、活動範囲内の現代人達の言葉を話す事が出来るようになった。

オレは元々人間だから人語は最初から理解できるんだが、その能力はしっかりついてきた。

 

オレは今、その能力をちょいと使って学習したんだ。ある程度の文法、単語を抑えることが出来りゃあ問題ねぇからな。

 

 

 

…その能力があっても、苦手なもんは苦手なんだけどよ。

 

 

『頭がいいとは聞いていたけど…。流石に無茶苦茶よ。』

 

『天才と呼んで下さい。それで?エクスカリバーってのは何で複数本あるんだ?』

 

『あ、えーっとね。エクスカリバーは大昔の戦争で破壊されたの。』

 

話題が完全に脱線しちまったため、オレは部長の突っ込みを華麗にスルーして強引に話を戻した。

 

『破壊されたエクスカリバーはバラバラになってしまったんだけど、一つ一つの欠片を集めてエクスカリバーの複製品として錬金術を使って創り出したの。』

 

『今はこの様な姿さ。』

 

青髪の少女が傍に置いてあったデカい何かの布をとる。

すると、布に巻きつかれていたと思われる一本の大きな剣が姿を現した。

…すげぇな、しっかりと精錬されていやがる。ただの剣として使っても十分な破壊力を持っていそうだ。

悪魔である皆さんが顰めっ面をしているのを見るに、恐らく聖の力も凄まじいんだろう。

 

『〝破壊の聖剣〟【エクスカリバー・デストラクション】と言う。七つに別れた剣の一つ一つには、それぞれ名前が与えられているんだ。これはカトリックが管理している。』

 

破壊…か。その名の通り、凄え破壊力を持っていそうだ。

 

今度はイリナが腕に巻いてあった布を解き始めた。

すると不思議な事に、布はまるで生きている様に動き出し、日本刀の様な形になった。

 

『私のは〝擬態の聖剣〟【エクスカリバー・ミミック】と言うの。形を自由に変えられるから、どんな相手にも対応できるわ。他のエクスカリバーもそれぞれ固有の能力があるの。これはプロテスタント側が保持してるわ。』

 

もはや何でもありじゃねぇか。聞いたことねぇぞ形を変える剣だなんて。

 

『イリナ。わざわざ悪魔にエクスカリバーの能力を話す必要はないだろう?』

 

『ゼノヴィア。交渉を上手く成立させるためには信頼関係を築く事は必須よ?それなりに手の内を明かさないと、互いの事を信頼できるとは思えないわ。それに、私の聖剣の能力を教えたところで、ここにいる人たちに遅れはとらないわ。』

 

イリナが胸を張って言い放つ。対した自信ですこと。やっぱり昔から変わってねぇや。

 

 

…さて、そこで殺気を発しちゃってるイケメン君は何をするつもりなんだか。今にも飛びかかって行きそうな顔をしている。

 

いざとなったら、力尽くで抑えてやるしかねぇが…出来れば穏便に済ませたい。

 

 

そんな様子でいるユウトと違い、我らが部長は変わらない構えでいらっしゃった。

 

『…それで?奪われたエクスカリバーと私達のこの町に、一体何の関係があるのかしら?』

 

おそらくこの場にいた部員全員が思っているであろう疑問を、部長が代表する様な形で尋ねた。

 

『簡単に言えば、奪っていった連中がこの地に潜伏しているようなんだ。』

 

それを聞いた部長はハァと溜息を吐く。

…考えてみりゃ、この町には色々と事件が豊富だな。堕天使の件やグロンギの件。そして今回のエクスカリバーの件だ。事件を裏で操る何者かがいたとしても、納得してしまうほど多い。

 

『ついでに、奪った連中の指導者も発覚している。〝神の子を見張る者〟の一人。コカビエルだ。』

 

部室の中に、ピリッと緊張した空気が流れた。

〝神の子を見張る者〟…確か、堕天使組織の幹部だったか?堕天使総督の下に就く、多くの実力者達…。

その上、コカビエルってのは大昔の戦争から生き延びてきた超実力者らしい。

 

『私達が今回この地に派遣されたのは、その奪われたエクスカリバーを取り戻す…。出来なくとも、破壊するためだ。』

 

成る程、またもやこの町で大規模な戦いが起きるって事なのね。

 

堕天使の幹部…。そんな奴を相手にするとなれば、それ相応の準備を要する事になる。実力差がある相手と戦うなら、戦力は多い方がいい。

協力求めるって事かも知れねぇな。

 

 

 

 

 

『私達がこの場に来たのは、一つ注文するためだ。私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに、この町を縄張りとする悪魔が一切介入しない事。

…つまり、今回の事件に関わらない様に、と言うためだ。』

 

 

…何だって?

 

 

『…ちょっと確認していいか?』

 

つい口を挟んでしまった。その場にいる全員分の視線が向けられる。

 

『教会側の奴らは見たところお前らぐらいみてぇだが…、まさか二人だけで戦うつもりか?』

 

『あぁ、そういう事だ。』

 

随分アッサリ答えてくれました。

 

冷静に考えてみたが、無謀すぎる。目の前の二人は確かに聖剣使いであったりすることから考えてかなりの手練れだと思う。だが、到底堕天使幹部には勝てねぇだろう。

この世界に来て大分過ごしたんだ。これでも大体のパワーバランスは把握しているつもりだ。

 

『…死にに行く様なもんじゃねぇか?』

 

『そうでしょうね。とっくに覚悟は出来てるわ。それが主の…神の意思だから。』

 

『私もイリナと同意見だが、出来れば死にたくは無いな…。』

 

コイツら自身も、相手との実力差がかなりある事は承知済みらしい。一瞬たりとも動揺を見せなかったから、覚悟も決まってるんだろう。

 

……だが…。

 

 

『…アホらし。そんな見た事もねぇ奴の為に命を投げ出すとか、馬鹿のすることとしか思えねぇがな。』

 

『まぁ、主を信仰していない人間ならば、そう思うのも仕方ないか。』

 

『シュウも信仰を始めると分かるわよ。主の言葉に間違いは無いって。』

 

『生憎だが、そんな嘘くせぇ宗教に入るつもりはサラサラ無い。』

 

正直、コイツらの頭が理解できねぇ。そんな事に覚悟を決めるとか、無駄だとしか思えねぇからな。

 

まして、実物の神を知ってるからな。この世界にとっての神はアイツじゃねぇみたいだが。

 

 

『…私は魔王の妹、グレモリーの名を持つ者として宣言するわ。何があっても、堕天使と手を組むような事は絶対にしない。』

 

部長があの言葉の裏に隠された意味を読んだのか、ハッキリとした声で宣言した。

 

今回、わざわざ聖剣使いの奴らがここに来たのは牽制のためであろうってのは、この場にいる殆どが察しているだろうよ。

エクスカリバーは悪魔にとって邪魔でしかないものだ。大方、オレ達が堕天使と手を組んで、エクスカリバーを天使側に渡らせない様にする事が十分あり得ると読んだってとこか。

 

『その言葉を聞いて安心したよ。それじゃ、そろそろお暇させてもらおうか。』

 

『そうね、行きましょう。』

 

安堵の表情を見せた二人はソファから立ち上がり、部室から外に出る扉へと向かって行った。

 

 

 

このまま何事もなく、帰って欲しいんだが…。

 

 

 

ゼノヴィアがアーシアを一目見て言った。

 

『兵藤 一誠の家に行った時に、もしやとは思ったが…。まさか、〝聖女〟と呼ばれていた〝魔女〟アーシアが悪魔に成り下がっていたとはね。』

 

その瞬間、アーシアは目を大きく見開く。アーシアにとって、自分の事を聖女、魔女と呼ばれるのは最も嫌なことだろう。イッセーからアーシアの過去を聞いたから大体分かる。

 

『あれ?本当だ。魔女と呼ばれる事になってしまった子よね。元気にしてる?』

 

イリナがいつもの調子で同調した。

アーシアは視線を下に向け、明らかな動揺を見せていた。

 

『どうやら…まだ信仰は続けているみたいだね。私はそう言ったことの匂いに敏感でね、何と無くだが分かるんだよ。』

 

『…捨てられないだけです。ずっと、信じていたものですから…。』

 

ゼノヴィアから哀れみのような視線を向けられたアーシアはスカートをギュッと摘み、震えながらも必死に応えた。

 

すると、ゼノヴィアがおもむろに聖剣を取り出し、アーシアを見ながら言い放つ。

 

『なら、今ここで私達に神の名の下に斬られるといい。悪魔に成り下がったとしても、主はきっと君にも慈悲を与えて下さるだろう。』

 

一歩一歩とアーシアに近づいて行くゼノヴィア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ふざけんな。』

 

イッセーがアーシアを守るように二人の間に立つ。顔からして、かなり怒っているなコイツ。

 

『お前らが勝手に聖女とか仕立て上げておいて!今度は勝手に魔女呼ばわりかよ!そんなのおかしいだろ!!』

 

心の中の怒りを全部さらけ出し、かなりデカイ怒声をあげている。

 

『アーシアの苦しみを!優しさを!ちっとも理解しようとしなかったくせに何が神様だ!!アーシアが助けを求めた時に何もしなかったじゃねえか!!』

 

『それは彼女の信仰が足りなかったのだろう。主は全てを愛する。それでも何も起こらないということは、そういう事だ。

…一体君はアーシア・アルジェントの何なんだ?』

 

『家族で!仲間で!友達だ!!だからアーシアは俺が守る!お前らがアーシアに手を出そうってんなら、俺はお前ら全員を敵に回してやる!!』

 

イッセーは神器を発動させて、臨戦態勢をとる。

オイオイ、面倒な事を起こしてくれるなよ…。

 

『…一端の悪魔に過ぎない存在で、そんな大口を立てることが出来るとはな。教育不足もいいところだ。』

 

敵意を向けられたゼノヴィアも、イッセーのそれと同じぐらいの敵意を露わにした。

 

 

慌てて部長が立ち上がり、イッセーを止めようとした。

 

『イッセー、おやめなさ…』

 

 

が、その制止を途切らす様に別の声が掛けられる。

 

 

『丁度いい。僕も相手をしよう。』

 

ユウトだ。さっきと変わらない負の感情を曝け出しながらゼノヴィアを睨みつけている。

 

『…君は?』

 

『君達の先輩だよ。失敗作らしいけどね。』

 

ユウトも自身の神器を発動させ、部室中に魔剣を創り出した。

あちらこちらから、身震いする程の殺意が感じとられる…。

 

 

 

 

 

ったく…どいつもこいつも……




雑談ショーwithイリナ

八「全く、イッセーもユウトもゼノヴィアって奴も熱くなりすぎなんだよ。面倒な事にしてくれやがって。」

イ「次は私達とイッセー君達の模擬戦になるわ。神の名の下に、絶対負けないんだから!」

八「ハハッ。かと言って消滅までしねぇでくれよ?」

イ「わかってるわよ。峰打ちにしておくわ。」

八「…それでも大ダメージだろ。寸止めにしてやってくれ。」


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三十三話目

仮面ライダーチェイサー:チェイスが…。
あのシーンは思わず泣きそうになりました。個人的に特撮で泣きそうになったのはW以来だなぁ〜。

新しい感動をありがとう!Movie大戦などで復活してくれると信じているぞ!

…出来れば、本編中に復活して欲しくもあるけど…。


【第三者視点】

 

旧校舎前にある広場、球技大会の練習を行ってきた場所で、兵藤と木場がゼノヴィアとイリナに向かい合う形で立っていた。

 

兵藤の怒りが爆発し、木場が参戦する事を告げた後、ゼノヴィアが『グレモリー眷属の騎士の実力を見てみたい』と言った事で、この四人による模擬戦が行われる事となった。

実際、兵藤はこの模擬戦に関しては無関係であり、巻き込まれた側ではある。しかし元々の元凶は彼であるため、こうして戦いに参戦しているのだ。

 

周囲への影響を考慮し、広場を覆う様に張られた結界の中で、それぞれがより強く闘争心を向上させる。

 

 

『では、始めようか。』

 

ゼノヴィアが己の聖剣、〝破壊の聖剣〟を包んでいた布を解く。再び、素晴らしい輝きを放つ刀身が現れた。

 

『いつでもどうぞ。』

 

対する木場は、神器〝魔剣創造〟を発動させ、周囲に様々な魔剣を創り出した。

 

二人はそれぞれの獲物を握り、相手の元へと駆け出していった。

 

 

一方、兵藤とイリナは…

 

 

「なぁ、どうしても戦わないとダメか?俺的には、もう言いたかった事は全部言わせて貰ったし、アーシアを襲う気が無いんだったら戦う気も無いんだけど…。」

 

まだ戦いの準備さえ整えていない状態であった。

兵藤は“アーシアを襲うつもりなら”戦うという事で、そのつもりがないのならば戦う気は無い。

その為、何とか戦わずに済ませようと説得しているが…。

 

「まさか、昔憧れていた男の子と再会してみれば、彼は悪魔になっていたなんて…。これも、主がお与えになった試練なのね!」

 

全く聞く耳を傾けていなかった。

胸の前で祈るように手を組み、ブツブツと何かを呟いている。その光景は悪魔である兵藤にとって、軽い鳥肌モノであった。

 

「可哀想な兵藤 一誠くん。昔の馴染みで、イッセーくんって呼ばせてもらうわね。神の名の下に、断罪してあげる!」

 

イリナもまた、己の聖剣〝擬態の聖剣〟を取り出し、兵藤の元へ飛び出していった。

 

「クソ!やっぱりやるしかないか!」

 

【Boost!!】

 

兵藤も神器〝赤龍帝の籠手〟を発動させて、迎え撃つ。

 

 

 

 

 

こうして始まった模擬戦ではあるが、流れがどちらに向いているのかは歴然であった。

 

兵藤とイリナの方は、イリナが全力で戦っていない状況であるにも関わらず、兵藤は避けるのが精一杯であった。

木場とゼノヴィアの方も、木場は防戦一方であった。ゼノヴィアの一撃には唯でさえ凄まじい威力を持つ上に、聖剣の能力“破壊”の力が加わっている為、魔剣と聖剣が触れるたびに魔剣が折られていく。

 

(クソッ!せめてあの技さえ成功すれば!)

 

しかし、兵藤にはこの状況を一気に逆転させるための技がある。魔力がたまり、イリナに一瞬でも隙が生まれれば、一気に大逆転できるであろう。

 

その技を放つ、最高のタイミングを狙う…。

 

 

 

 

「気をつけてください。イッセー先輩には女性の服を弾き飛ばす技があります。」

 

しかし、味方であるはずの小猫により、考えていた戦法がカミングアウトされてしまった。

 

「小猫ちゃん⁉︎なんでバラしちゃうの⁉︎」

 

兵藤は小猫に尋ねた。小猫はキッと兵藤を睨みつけ

 

「…女性の敵」

 

と、ボソッと呟いた。

 

 

「…まさかそんな技を持っているとはね。昔から変わっていないのね〜。これは、尚更断罪してあげないと!」

 

イリナはこれまでよりも素早い動きをした。既に常人の目には止まらないスピードであろう。

 

(確かに速い…!けど、追いつける!)

 

しかし、兵藤はその動きをしっかりと目で追っていた。

以前から何度も木場と模擬戦を行ってきた兵藤にとって、イリナの動きはまだゆっくりに見える。

イリナには少し慢心の心があるのか、余裕の表情で兵藤に斬りかかっていた。

 

(チャンスは今しかない!)

 

「行くぞ!〝赤龍帝の籠手〟!」

 

【Explosion!!】

 

ここで倍加を終わらせた兵藤に、倍加した分の力が加わった。

 

横薙ぎに斬りかかってきたイリナの剣を避けて腕を掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばす。

 

「くっ!中々やるじゃ…!」

 

体制を立て直したイリナに、兵藤が全力で走り寄ってきているのが見えた。

イリナは本能的に身の危険を察知した。

 

 

何故なら、兵藤が若干アレな顔を浮かべているからである。

 

 

「これで決まりだぁぁぁ!!」

 

 

兵藤は飛び上がり、全力で両手をイリナに向かって突き出す。

 

手がイリナの肩に触れ、そのまま服を弾き飛ばす…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナはその場に身を屈めることで、何とか兵藤の突進を躱したのだ。

 

兵藤の勢いは止まらず、そのままイリナの後方に行ってしまう。

 

そこに待っていたのは…

 

 

 

小猫とアーシアの二人…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…では無く、“男”の八神であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その上、彼は丁度何かを考え込んでいるようで、兵藤がこちらに飛んで来ていることに気づいていなかった。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!避けてくれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

止まることが出来ないでいる兵藤は、泣き叫びながら懇願する。

 

「あ?」

 

しかし、まさか自分の元に飛んで来ているとは思ってもいなかった八神は反応する事が出来ず…

 

無慈悲にも、兵藤の手が八神の肩に触れてしまった。

 

 

 

 

バァァァァン……

 

 

 

 

八神は一糸纏わぬ姿に早変わりした!

 

 

「………」 ガクガク

 

「………」パンッ バシューン!

 

 

無言で震える兵藤。無言で周囲に壁を創り、密室のようにした八神。

兵藤の顔は、絶望感溢れるものとなっていた。

 

「イッセー…貴方にそんな趣味が…?」

 

「…流石に引きます。」

 

「違いますよ!俺は健全な男の子です!」

 

リアス、小猫とそんなやり取りをした後、その場にいた誰もがこれ以上口を開く事は無かった。

 

聞こえるのは、そこで木場とゼノヴィアの剣が打ち合う金属音だけであった。

 

 

 

 

ボゴゴ…

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

やがて、先程とは違った服を身に纏った八神が壁を壊して出てきた。

 

「…なぁ、イッセー」

 

「はい!何でしょうか⁉︎」

 

兵藤はその場に正座して背筋をビシッと伸ばす。

恐らく、この状況を見ている者の殆どは恐怖に近い何かを感じたであろう。

 

「テメェ…やってくれんじゃねぇか?」

 

「あ!いや、そんな!滅相もございません!別にシュウの裸を見ようなんて思ってないし!ホモでもゲイでも何でもないし!」

 

顔に青筋を浮かべ、明らかに怒っている八神と、必死に弁解をする兵藤。

この光景は、関係の無い者からすると、哀れにしか映らなかったであろう…。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

一方、木場とゼノヴィアの戦いも終わりを迎えようとしていた。

まだどちらも傷を負っているわけではないが、着実に攻撃を決めているゼノヴィアに対し、木場の方は全て無力化されている。

このまま勝負を続けたとしても、木場の負けになるのは火を見るよりも明らかであった。

 

その上、木場は既に冷静さを失ってしまっていた。

 

『さぁ!この僕の魔剣の破壊力と君の聖剣の破壊力!どちらが上か、決めようじゃないか!!』

 

身丈と同じぐらいの大きさの魔剣を構え、ゼノヴィアに向かっていく木場。

 

『…残念だ。剣の才能はありながら、そのような暴挙に走ろうとは…。』

 

ゼノヴィアは己の剣を振り上げ、木場の魔剣を砕こうとした…。

 

 

 

「ほんぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

そこへ、兵藤が奇声をあげながら吹き飛ばされてきた。

 

兵藤はそのまま木場の魔剣の側面に当たり、木場の手から魔剣を叩き落とす。

 

一体、なぜ彼が飛んで来たのか…?

 

 

 

「おいユウト、試合終了だ。お前らの負けだ。」

 

 

 

兵藤が飛ばされてきた方向から、八神が歩み寄ってきていた。

 

「ま…負けだって⁉︎まだ勝負は終わっていない!」

 

「自分の戦い方を捨てた奴に勝機なんて無ぇよ。これ以上やっても無駄なだけだ。」

 

正論をぶつけられた木場は、何も言わずに俯くだけであった。

 

確かに八神の言う通り、木場は自分の最も得意とするスピードでの勝負を捨てた。木場のスピードが、全くと言えるほど通用しなかったからだ。

焦った木場は、普段は使うことが無い“力”での勝負に持ち込んだのだ。その上、相手にしているゼノヴィアは明らかにパワー重視の剣士。勝てる可能性は、誰が見てもゼロである。

 

「…でも、それでも!」

 

「止めたくないってか?聖剣を壊すために、命を投げ出すとでも言うつもりかよ。」

 

八神は木場の心境を読み、彼の考えを否定する様に言葉を遮った。

木場は唇を噛み締め、手を握り締めている。

 

「そんなに戦いがしてぇんなら、オレが相手してやるよ。今、丁度イライラしてるんだ。」

 

その言葉を引き金に、木場は新たな魔剣を創り出し、八神に向かって飛びかかった。

 

 

「うあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

木場は叫びながら魔剣を振り下ろす。

 

八神はその剣を左手で捉え、右手で剣を“分解”する。

己の獲物がアッサリと破壊され、放心状態となった木場の頭を掴み、地面に叩きつけた。とは言え、寸止めであるから木場の頭にダメージはないが。

 

「これが今のお前だ。戦う力が殆どない通常体のオレにすら勝てねぇ。少しは冷静になりやがれ。」

 

八神はそう言うと、木場の頭から手を離し、ゼノヴィアの元へ歩いて行く。

 

『悪りぃな、水を差しちまった。』

 

『構わないさ、彼は冷静さを失っているところがあった。ああなると、私のような部外者よりも、身内の者が諭した方が効果がある。』

 

ゼノヴィアも聖剣を元のように収めていた。先程のような敵意は既に無くなっているようだ。

 

『また今度、ユウトの頭がマトモになった時ぐらいにでも、模擬戦してやってくれ。今度は木刀か何かでな。』

 

『フフッ、了解した。』

 

 

次に、イリナの元へと歩いて行った。

 

イリナは倒れ伏せた兵藤の頭をツンツン突いている。

 

「あのね、これは天罰だと思うの。これに懲りたら、もうあんな変態な技は封印する事ね。」

 

「うぅ…確かに、まさかあんな事になろうとは…。いや、でも技を封印なんてしたく…」

 

「まだ何かブツブツ言ってんのか変態君。」

 

心の中で葛藤が起きていた兵藤に、八神は軽くコツンと小突いた。

 

「まさか幼馴染の片方は悪魔になってて、もう片方はその協力者だったなんてね〜。」

 

「まぁ、元はと言えば、入った部活が偶々悪魔の巣窟だっただけなんだがな。」

 

 

一言二言、軽く言葉を交わした後、イリナはゼノヴィアと共に帰っていった…。

 

 

 

 

 

……何処に帰って行ったのかは甚だ疑問ではあるが…。

 

 

ーーーーーーーー

 

「ダメよ祐斗!戻って来なさい!」

 

リアスの悲痛な叫びが響き渡る。

 

聖剣使いの二人が帰って行った後、木場が再び何処かへ行こうとしていた所を、リアスが必死に止めようとしているのである。

 

木場はリアスの叫びを聞きながら、スッと八神の方を向く。

 

「…やっぱり、僕はどうしてもやらないといけないんだ。」

 

その言葉を残し、ゆっくりと足を進めていく木場。

後ろ姿しか見せていないが、ハッキリと現れている“拒絶”のオーラ。それは「誰もついてくるな!」と言う木場の心を表しているように思えた。

 

「祐斗…」

 

リアスには、彼の背後を見送る事しか出来なかった…。




雑談ショーwith木場

八「言っとくが、この場では本編での雰囲気を引きずる事はNGだからな。いつもの優男なお前でいてくれ。」

木「うん、分かったよ。よろしくね。」

八「ハハッ、やっぱお前はそうじゃねぇとな。さて、あの後ユウトは一体どこに向かうのでしょうか⁉︎」

木「そうだね…。取り敢えず、あの二人にはリベンジを果たしたいな。いや、まずはフリードの方かな?出来る事なら、盗まれたという他の聖剣も壊したいところだし。それに…」

八「…なぁ、いつもの優男なお前でいて欲しいんだが…。」

木「ん?いつも通りだよ?」

八「…ダメだこりゃ。」


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三十四話目

仮面ライダーバトライド・ウォーの最新作『仮面ライダーバトライド・ウォー創生』のPVがYou◯ubeに投稿されていましたので、見てみました。

デンライナーが物語に絡んでくるみたいですね。て事は、ライダーの過去に飛ぶって感じかな?
ライダーの歴史が改変されたため、それを修正するために戦いが始まる…みたいな?

あと、今作では昭和ライダーが参戦するっぽいですよ!PVに1号とBlack出てました!

僕個人としては、サブライダーがもっと参戦してくれれば…と思いますね。ナイトとかは出しても全く問題ないと思うんですよね〜。

敵キャラ枠として、閣下出るといいな(←幾ら何でも無いでしょうが…)


よう!久しぶりだ!兵藤 一誠だ!

 

俺は今、街中の大きなデパートに向かっているところだ。ついさっき小猫ちゃんからLI◯Eが来たんだけど、『話があるので、デパートの前に来て下さい』って内容だったんだ。

 

最初は愛の告白かな〜なんて思ったけど、多分違うと思う。昨日の木場の件だろうな。小猫ちゃんと木場って、結構仲が良さげだったし。

 

よし、デパートに到着だ。小猫ちゃんは、と…。

あ、いた。すでに待っていたみたいだな。

 

「ごめん、待たせた?」

 

「いえ、大丈夫です。急に呼び出したのはこちらですので…。」

 

小猫ちゃんはいつもの制服に身を包んでいた。休日だったから、私服姿が見れるかと思ったけど、ちょっと残念。

 

「それで、話って?」

 

「…聖剣の破壊に、協力してください。」

 

…うん、やっぱり木場の件だったね。別に悲しくなんかないぞ、予想はしていたんだ。ちょっと淡い期待を抱いていただけなんだからな。

 

「祐斗先輩は、聖剣に対して憎しみを持っています。祐斗先輩が聖剣を破壊する事が出来れば、きっと戻ってきてくれると思うんです…。」

 

…小猫ちゃんがこんなに感情を込めているのを見るのは初めてかもな。

普段が無口で無表情だから、こういう風に少しでも感情が入れば、見ただけで分かる。

 

 

「分かった!俺に出来る事なら何でもするぜ!」

 

「ありがとうございます。」

 

小猫ちゃんはぺこりと頭を下げる。

 

 

「部長達にも協力して貰った方がいいかな?」

 

相手は聖剣。おそらく、二人だけじゃ厳しいと思うんだ。

すると、小猫ちゃんは顎に手を添えて、考える素振りを見せた。

 

「…いえ、やめた方が良いかも知れません。」

 

「え?何でだ?」

 

「…部長や朱乃先輩には、この件が知られない方がいいと思うんです。魔王の家系である部長が動けば、冥界で色々と厄介事が起きる気がします。それに、朱乃先輩に知られると、そのまま部長に伝わるでしょうから…。」

 

「そっか…そうだよな。アーシアは多分顔に出ちゃうだろうし…。」

 

「…後は、シュウ先輩なのですが…。」

 

そう言って、小猫ちゃんは俺の顔を見る。あいつが動くかどうか、意見を聞きたいんだろう。

…確かに、あいつには来てもらいたい。何と言っても安心感が段違いだからな。

 

 

 

…でも……

 

 

 

「…あいつ、昨日木場と喧嘩したばっかりだもんな…。」

 

小猫ちゃんは小さく頷いた。明日なら分からないけど、今日のところは動きにくいんじゃないかって思う。

…50%、いや80%俺があいつを不機嫌にさせたのが原因だろうけど。

 

 

やっぱり俺たちだけでやるしかないか…

 

 

「…ん?待てよ…あいつなら…」

 

俺は一人、きっと協力してくれる悪魔を思い出した。確か、既に連絡先も交換しているはず。

 

俺はケータイを取り出して、その人物に電話をかけた。

 

三コール目で、その相手は電話に出た。

 

《兵藤か?何の用だ?》

 

「悪い、頼みたい事があるんだ。」

 

 

 

 

その人物……匙 元士郎。

 

 

ーーーーーーーー

 

「嫌だぁぁぁぁぁ!!俺は帰るんだぁぁぁぁぁ!!」

 

匙がそこの柱にしがみつき、必死に抵抗している!俺は匙の足を引っ張って、柱から引き剥がそうとしているんだ!

 

匙を呼んだ理由は!シトリー眷属での情報を教えてもらうためのスパイ要員であり!協力してもらうための悪魔でもある!

 

コイツは俺と似た雰囲気を感じるから!きっと協力してくれる筈だ!

 

 

「兵藤!それはお前らの眷属の間の話だろ⁉︎シトリー眷属の俺を巻き込むな!」

 

「そう言うなって!俺にはお前くらいしか、協力してくれそうな悪魔はいないんだ!」

 

「ふざけんな!そんな事したら会長に殺されるだろうが!お前らのリアス先輩は厳しくても優しいだろうよ!でも俺んとこの会長は厳しくて厳しいんだよぉ!!」

 

「……」

 

小猫ちゃんはその様子を暫く見ているだけだったけど、トコトコと柱に向かって歩き出した。

そのまま匙がぶら下がっている所とは逆の向きに立ち、柱の上部分と下の部分を軽く殴った。

 

するとあら不思議、ボゴォッと柱が取れたではありませんか。何アレ、桃◯白?

 

ずっと後ろに力を加えていた俺と、引っ張られていた匙は、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。

 

小猫ちゃんはヒョイと匙を拾い上げ、そのまま連行していった。

 

「嫌だぁぁぁぁぁ!!下ろしてくれぇぇぇぇぇ!!」

 

匙が悲痛な叫びをあげているが、俺には何も聞こえない。

 

「まずはイリナとゼノヴィアに会って、聖剣破壊の許可を取らないとな。」

 

「はい。」

 

「下ぉぉろぉぉせぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

ー捜索する事、数分ー

 

 

「…その二人って、何処にいるのか見当ついてるのか?」

 

今回のところはもう諦めたのか、匙は積極的に動き始めてくれた。

 

でも、正直言うと…

 

 

「実は全く分からないんだ。」

 

「極秘任務中と言っていました。」

 

「ダメじゃねえか。」

 

 

この始末だ。

 

こんな事になるんだったら、この前会った時にでも、拠点の場所とか聞いておけば良かったなぁ…。

 

 

はぁ…なるべく早く見つかるといいんだけどな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え〜、迷える子羊にお恵みを〜。』

 

『どうか天に代わって、哀れな私達にご慈悲をぉぉぉぉ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…いた。

 

==============

 

「え〜、ミックスグリルとチーズハンバーグ一点ずつで〜す。」

 

「了解で〜す。」

 

オレこと、八神はとあるレストランでバイトをしております。

理由?ほらアレだよ。猫を育てるからには、生活費も必要だろ?その分を稼ぐためだ。

 

高校生を雇ってくれるか心配だったが、聞きに行ったところ二つ返事で許可してくれた。

 

 

…ただ……

 

 

 

 

『採用したから来なさいよう?はははっ。』

 

『……え?』

 

 

 

 

アレの反応にはかなり困ったのはいい思い出だ。

 

 

本当は料理の方が得意だったんだが…、ここの店主さんの料理が美味すぎて、オレの出る幕はない。何でも、野菜類は全て自分で育てた自家製だとか。成る程、勝てる訳ねぇな。

 

「八神くん、そろそろ休憩に入っていいよ〜。」

 

「ういっす。んじゃ、少しの間失礼します。」

 

 

 

休憩を貰ったオレは店員用の控え室に入った。

 

 

扉を閉めて、壁に背中から寄りかかる…。

 

 

 

 

《カラーン カラーン》

 

 

 

 

お?次のお客さん来たな。この店って、料理は美味いし店長カッコいいしで大人気なんだよな〜。男は料理に大満足。女は店長に大満足だ。オレも一度、客という立場で行ってみたくなるほどだ。

 

「いらっしゃいませ〜。五名様でよろしいですか?」

 

店長がにこやかな顔を浮かべて応対する。あのスマイルにキュンと来ない人はいない。

 

 

 

 

「はい。えっと…なるべく周りに人がいない席でお願いします。」

 

「分かりました!こちらへどうぞ〜。」

 

 

 

…あ?今、聞いたことある声がしたぞ?

 

 

オレはそ〜っと店内を覗き込んだ。

店長に案内されて、席に座った五人組。そいつらの姿が見えた時、オレはかなり驚いた。

 

何故だ…何故あいつらがここに来るんだ⁉︎あ、レストランだったら普通か。飯を食いに来たとか言ってさ。

 

 

 

 

今回のお客様、イッセーと小猫。イリナとゼノヴィア。そして…

 

 

 

 

 

…誰だっけ?

 

ーーーーーーーー

 

あれから少し時間が経った頃だ。

 

今、イッセー達のテーブルには、最初の五人に木場が加わった六人が座っていた。

 

どう言った経路でこうなったのかと言うと…。

 

 

イリナとゼノヴィアはかなり腹が減っていたのか、店のメニューの半分ずつ、要するに全てを注文するという凄まじい記録をたたき出しやがった。店長がびっくりした顔は中々笑わせてもらったぜ〜。

…それでもしっかりと作り上げる店長は、人間国宝に認定されてもいいんじゃねぇかな?

 

 

まぁそれはともかく…。イッセー達は食事をとった後、本来の用件と思われる事を話し始めた。

 

ユウトに戻ってきて欲しいイッセー達は、ユウトが聖剣を破壊すれば戻って来てくれると考える。

そこで考えたのが、ユウトの手伝いをする事だった。

しかし、聖剣を破壊するとなれば、先に聖剣使いの二人に話をしておいた方がいいと考え、交渉するために呼び出したらしい。

 

オレはそんな事認められるわけがないって思っていたが、帰ってきた答えは意外なものだった。

 

『そうだな、一本くらいは破壊してくれてもいいだろう』

 

いいのかよ!と突っ込みたくなった。仮にも聖剣は大事なものじゃねぇの?錬金術で直せるとは言え、壊される事に少しは躊躇いそうなもんだけどな〜。その後にイリナとゼノヴィアがなにやら口論していたが、内容は聞いてない。興味なかったし。

 

んで、その後に『そうと決まったら、木場に連絡しよう!』って事になったんだ。多分イッセーが電話でもしたんだろうな、ユウトは五分と経たないうちに店に来た。

 

イッセー達から大体の話を聞いたユウトは、納得したような顔を浮かべた。そこで、話は終わりだ。

 

 

…しかしアイツら、妙な事を考えてやがるな。周りの人に聞こえねぇようにコソコソ話していたが、生憎オレは耳が超絶良くてな(←射撃体)。丸聞こえだよバーロー。

 

 

 

『それでは、何か分かったらこれに連絡してくれ。』

 

そう言ってゼノヴィアは一枚の紙を渡した。アレに連絡先が書かれているんだろうな。

それを受け取るイッセーの顔はやる気に満ち溢れていた。

 

『じゃあねイッセー君達。頑張ろうね。』

 

そして二人は席を立つ。こっから先は別行動になるって事か…。

 

 

 

《ピロロロロロロ ピロロロロロロ》

 

 

 

そう思った矢先に、誰かのケータイの着信音が鳴り響いた。

 

ゼノヴィアはマントに付いていたポケットからケータイを取り出し、電話に出た。

 

『もしもし、私だ…。ああ、こちらは順調に進んでいる……ああ…先ずは落ち着いてくれ、何を言っているのか分からない。』

 

電話の相手が慌てん坊さんなのか、あまり話が進んでいないようだった。

 

さて…オレはどうしようかね〜?

イッセー達に協力した方が良いんだろうが、部長にバレた時のリスクが高すぎる。

かと言って、放っておくことも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何だって!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うおぅ!何故に急に叫び始めちゃったの⁉︎

 

叫び声をあげた張本人のゼノヴィアは、周りからの視線を全く気にせずに話を続けている。

 

なんの話をしてんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

気になり始めたオレが、ゼノヴィアの会話の内容を聞こうとして、射撃体に変わって集中し始めたその時だった…。

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

遥か遠くの方から、バサッ!と太く力強い羽音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

更に、オレの腹部のあたりが熱くなり始めた。まるで、何かの力に反応したように…

 

 

 

 

 

 

 

 

コレは…まさか…!

 

 

 

 

 

 

 

 

「店長!急用ができちまったんで、コレで失礼します!」

 

「ん?え!ちょっと待…!」

 

オレは店長の答えを最後まで聞かないで、レストランの裏口から外へ飛び出した。

 

見晴らしの良さそうな道路に立ち、注意して周りを見渡す。

 

すると、北西の方角の空に、小さくはあるが、確実にこっちの方へ近づいてきている何かが見えた。

 

 

その事に気がついた時には、より近くに。

 

 

そう思った時には、更に近くに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや…違う!!もう来やがった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

超高速で飛んできたソレは、オレのすぐ目の前に着地した。ズドンと激しく地鳴りが起こり、土煙が舞う。

 

少しずつ煙が晴れていき、ソレの姿が露わになり始めた…。

 

 

特徴的な嘴を覆うようにマスクをしており、背中からは一対の翼が生えていた。全体的に装甲は少なめなところから、ヤツが速さを重視する戦い方であることを推測できる。

 

 

 

「今度はお前が来たか…ガベリ」

 

 

 

ペリカン種のグロンギ。“メ・ガベリ・グ”が、オレの目の前に立っていた。

ガベリはオレを一瞥する。

 

「…ジャラジから聞いていたけど、まさかこれ程早く出会えるとはね…。」

 

どうやら、奴さんはオレの事を知っているようだ。ジャラジがこの世界とアイツらの世界を行ったり来たりしていたらしいからな。その中でオレの存在を喋ったのかもな。

 

『そうか…私の事を知っているのか…。ならば、私がやろうとする事が何か、分かるだろう?』

 

オレは全身に力を込める。身体が硬い甲殻で覆われ始めていく…。

 

『最初から全力で行かせてもらおう!』

 

ガドルの姿に変わったオレは、ガベリとの戦いを始めた…。

 




今回も雑談お休みします。

はい!と言う事で、今回の敵グロンギは『メ・ガベリ・グ』でした〜!!
誰だよこいつ、という方もいらっしゃるかと思いますので、軽く説明をば…。

ガベリはクウガが放送されていた当時、テレコロコミックという雑誌にて掲載されたクウガの漫画で限定出演したグロンギなのです。本編に載せた通り、ペリカン種です。

戦闘スタイルも素晴らしいもので、素早い動きで相手を翻弄しつつ、刃のように鋭い翼で攻撃するというものです。

正に、エクスカリバー編に向きすぎなグロンギなのです!

僕自身、クウガの放送当時はハイハイしていた位の年齢で、ガベリという存在を全く知らなかったんです。

ガベリについての情報を提供してくださった絶滅覇王 スコーディ様、本当にありがとうございます!



それと、タグには一応載せましたが…この小説では、基本的に読者の皆様からのアイデア等を受け付ける様にしております。◯◯を登場させたらどうか?◯◯という場面を作ってみてはどうか?といった事を言って下されば、出来る範囲であれば実行させて頂きます。

もし、アイデアが浮かびましたら、メッセージの方で送っていただけると幸いです!

皆様からのお声をお待ちしております!


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三十五話目

活動報告には記載致しましたが、こちらでも謝罪させて頂きます。

先程投稿いたしました三十五話は、僕の知識不足により削除させて頂きました。内容としては、行方不明である筈の聖剣を何故か教会が管理しており、奪われてしまうというものです。
すぐに原作を読み返してみれば、明らかに行方不明であるという表記がされておりました。


今回の変更点は、
・ガベリが奪ったのは一本の聖剣
・正教会も襲撃されている
の二点でございます。

皆様には大変ご迷惑をおかけ致しました。本当に申し訳ありません。


【三人称視点】

 

八神が飛び出していったレストラン店内では、兵藤を始めとする聖剣破壊同盟の六人が強張った表情で座っていた。

 

先程、突然ゼノヴィアに掛かってきた一本の電話。その電話に出て、少し話したかと思えば急に叫び声をあげるゼノヴィア。

一体何に驚いたのだろうか…。兵藤達は不安を感じずにはいられなかった。

 

『…あぁ……うん、分かった。こちらに任せてくれ。』

 

そう言ってゼノヴィアは電話を切った。

 

『ちょっとゼノヴィア?突然叫び出すなんて、何があったの?』

 

イリナが席を立ち、ゼノヴィアに尋ねる。

ゼノヴィアは暫くの間黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。

 

 

『…教会に残されていた最後の聖剣が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……奪われた。』

 

 

兵藤達が囲んでいたその一席に、ザワッと緊張した空気が流れた。

 

『…カトリック教会が昨日の夜、プロテスタント教会が今日の朝、そして正教会が今日の昼に襲撃を受けたそうだ。仕掛けてきた者はたった一人だったそうだが、恐ろしく強く、誰一人として相手にならなかったらしい。』

 

『誰一人って…嘘でしょ⁉︎だって、教会には、訓練を受けた大勢の神父達や悪魔祓いが…!

それに、カトリック教会からプロテスタント教会、正教会ではかなりの距離があるわ!そんな短時間で移動できるわけが…!』

 

『私だって信じられないさ。何度も確認したし、何度も私の耳を疑った。

…けど、どうやら本当の話みたいなんだ。』

 

重苦しい顔を浮かべるイリナとゼノヴィア。兵藤達には彼女達の様子を伺う事しか出来なかった。

 

『なぁ、それって、また堕天使の仕業なのか?』

 

兵藤がゼノヴィアに尋ねる。ゼノヴィアは顔を一層硬くし、答えた。

 

『いや、違うみたいだ。堕天使と共通している点は、背中から生えた一対の翼だけ。後は全く違う。

どちらかと言えば天使の翼の方に似ているらしいけど、彼らはまず聖剣を奪う理由がない。』

 

『じゃあ、一体誰が……。』

 

聖剣を持ち去った謎の人物…。兵藤達は彼、あるいは彼女の正体について考えていた。

しかし、思い当たる節は何も無い。

 

『このまま此処で考え続けていても仕方ない。取り敢えず、身元が判明している堕天使の方から取り掛かるとしよう。

そうすれば、いずれその者についての情報も入ってくるさ。』

 

ゼノヴィアはそう言って席を立ち、

 

『今日はご馳走様。何か分かったら、また連絡して欲しい。』

 

と言葉を残し、そそくさとレストランから出て行ってしまった。

 

『じゃあねイッセー君。頑張ろうね。』

 

イリナもゼノヴィアと同じ様に、さっさとレストランから出て行ってしまった。

 

 

 

その場に残ったのは、兵藤らグレモリー眷属と匙の四人。

すると、木場もまた席を立った。

 

「じゃあ、僕もこれで失礼するよ。僕は僕で、聖剣の捜索を続けるから…。」

 

そう言って立ち去ってしまおうとする木場。兵藤は、また木場が遠くに行ってしまいそうな予感がして、声を掛けようと腰をあげる。

しかし、木場の前に小猫が立ちふさがった。

 

「…小猫ちゃん?」

 

小猫は俯いたまま木場の前に立っていたが、スッと顔を上げて木場の顔を見る。

その瞳は少し潤んでいた。

 

「…お願いです、祐斗先輩…。…いなくならないで……。」

 

小猫の必死な願い。その悩殺力は半端ではなく、兵藤がこれを受ければ、例えどんな頼み事でも引き受けてしまうだろう。それ程の威力があった。

 

木場は暫く黙っていたが、フゥと息を吐き、一言。

 

「…小猫ちゃんに頼まれたら、嫌とは言えないね。分かった、一緒に頑張ろう?」

 

どうやら、木場も小猫の《頼み攻撃》には耐えられなかったようである。

 

木場が戻って来てくれる。兵藤と小猫はそう思って、それぞれが歓喜の顔を浮かべた……。

 

 

 

「…なぁ、結局何だったんだよ。俺未だに何が何だか分かんないんだが…。」

 

 

 

そこへ、匙がボソリと呟く。

すっかり忘れられていたが、彼もまたこの作戦の重要な人物の一人であった。

 

 

ここからは完全に余談だが、ひょんな事で兵藤と匙が意気投合を果たし、匙が積極的に聖剣破壊作戦に参加するようになった。

 

なぜ意気投合したかって?それは聞いてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ただ一言だけ言うならば、やはり男は変態であった、という事だ。

 

あとは察して欲しい……。

 

 

尚、今回の六人分の食費を兵藤一人が全て賄うことになり、兵藤の財布がすっからかんになったのは、また別のお話……。

 

 

==============

 

一方、こちらはオレサイド!

 

こちらは完全にガベリの野郎に苦戦を強いられております!

 

ガベリの戦闘スタイルは、凄まじいスピードで空を飛び、相手の死角から斬撃を繰り出すというものなんだ。

 

そのスピードはまさに電光石火。感覚神経が強化されている射撃体となっていても余り捉えることが出来ないほどなんだが…

 

おかげでオレの攻撃は一向に当たらねぇのに、あちらの攻撃は当てられ放題な始末だ。

 

ちくしょう!ちょこまかと飛び回りやがって!

 

 

 

 

たかがペリカンのくせに…とお思いの方。オレの名誉の為に言っとくが、実はペリカンはかなり獰猛な性格なんだ。

体格は鳥類最大級の大きさで、鳩や小さな鳥を襲い、丸呑みにしてしまう程だ。知らなかったろ?オレも最近知った。

 

 

 

 

 

だが、そんなアイツにも弱点はある。

 

 

翼だ。あの野郎の翼を無力化してやる事が出来れば、絶対オレの方が優位に戦う事が出来る。

フラグでも振りでも何でもねぇぞ⁉︎本気で絶対勝てるんだ。

 

何でかと言うと、ガベリにとっての戦闘方法は、いずれも翼がある事で最大の効果を発揮しているんだ。

逆に言えば、その翼の動きを封じるか、翼を剥ぎ取ってしまうかすれば、ガベリの戦闘力は軽く半減はする筈なんだ。

 

本来ならアイツが羽休めのために降りてきたタイミングを狙えばいいんだろうが、アイツ耐久力でも上がったのか、未だに疲れた素振りを全く見せてねぇ。

 

 

だからオレは翼を集中的に狙ってんだが……。

 

 

ガベリがそんな事簡単に許すはずがねぇよな〜。オレがどんな戦法使っても、あの手この手でヒョイヒョイと躱してしまう。

 

いつまで経っても不利な流れが続く。クソ、イライラしてきた。

 

 

俊敏体になれば、辛うじてガベリの動きについていくことが出来るんだが、少し気を抜けばあっという間に見失ってしまう。

 

射撃体になれば、ガベリの動きをある程度は見抜く事が出来る。しかし、放った矢ではガベリを倒すどころか、翼を撃ち抜くのも難しい。

 

剛力体になれば、確実にガベリを一撃で葬る事ができる。しかし、動きについていけなければお話にならねぇ。

 

格闘体は未だ試してねぇが、この調子だと上手くいかないのは目に見えている。

 

 

 

これでどうやって戦えばいいんだ!

 

 

 

せめて、この三つの形態の能力を併せ持つ事が出来れば…!

 

あ〜!無い物ねだりをしても仕方ねぇ!こうなったら、今持ち合わせている力のみを使って、ガベリを相手してやらぁ!

 

 

『取り敢えず止まれ!』

 

 

射撃体になったオレは、ガベリに向かって突風を起こした。

 

翼を持っている奴には風が結構有力なんだ。多分翼が風をもろに受けるんだろう。

 

『クッ!』

 

ほら、アイツの動きが大分鈍った。

今が好機だ!ここを逃したら暫く攻撃出来ねぇぞ!

 

即座に俊敏体にチェンジし、ガベリまでの距離を一気に詰めた。胸の石を一個とって槍に錬成し、ガベリを地面に叩きつける。

そこで剛力体にチェンジ!さっき作った槍を剣に変えた。その間、わずか数秒。

まだアイツは下にいる!

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 

ザシュ!という音と共に、オレの剣がガベリの翼を斬り裂いた!

 

いよっしゃぁぁぁぁ!!これで勝つる!!

 

『フッ、どうだ?これで貴様の命と言える物が無くなったな?』

 

オレは余裕があるようにそう言った。

内心で思ってる事と少し違うけど、まぁ仕方ねぇよ。この姿で大はしゃぎしている姿とかしたくねぇもん。

 

『ジャラジから聞いていたけど…確かに妙な力を持っているみたいだね。』

 

ガベリが悔しそうにこちらを見上げている。残念だったな、今回はオレの勝ちだ。

 

『コレじゃ、今は武が悪い。』

 

ガベリはそう言うと、斬り裂かれた自分の翼を掴み

 

 

 

 

 

ブチブチッ!

 

 

 

 

 

と、引きちぎってしまった。

 

 

ウェェ気持ち悪りぃ。何で翼を持っている奴は、翼に怪我を負うと捨ててしまうんだよ。見届けているコッチの身にもなれよ。

 

『自分から窮地に足を踏み入れるとは…。翼が無ければ、貴様は何も出来ないのではないか?』

 

オレがそう尋ねると、ガベリは嘲笑するようにククッと笑った。

 

 

『そんなもの、すぐに治るさ。』

 

 

そう言うと同時に、ガベリの背中から新しい翼がバサっと生えた。

 

 

……え!ちょ待てよ!あんだけ苦労して、やっと与えた一撃だぞ⁉︎そんなアッサリ治るとか聞いてねぇぞ!

 

 

『幾度も繰り返したゲゲルの成果さ。異常な程の再生能力と回復能力。お陰で、例え翼がもぎ取られようが斬り裂かれようが、あっという間に元通り。つまり、唯一のぼくの弱点が無くなったんだ。』

 

 

 

……嘘だろ?コイツはオレが元いた世界でも十分ゴ集団に昇格出来そうな実力だったよな?

あの時はガベリの翼に疲労がたまって奴の動きが鈍くなり、そこをクウガ…ユウスケに突かれて撃破されたんだ。

 

コイツのさっきの説明では、回復能力にも優れているらしいから…疲労が溜まらないって事か。

 

つまり、アイツは常にベストスピードで飛び回れるって事だよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…じゃあ、オレはアイツのスピードについて行けない限り、アイツを倒す事が出来ないってことか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっと事の重大性につい気がついたみたいだね。君のどの形態でも、僕を倒す事は出来ないんだよ。』

 

ガベリは得意げに翼を広げ、挑発するような口調で話しかけてきやがった。

 

『ここからが本番…と言いたいけれど、今の僕の力じゃ君を倒す事も出来ない。このまま戦っても決着がつかないから……、今日はこの辺で失礼するよ。』

 

そう言ってガベリは空を見上げた。

まさか!逃げる気か⁉︎

 

『待て!ガベリ!!』

 

慌ててガベリを捕まえようとしたが、少し遅かったようだ。オレの指がガベリの足元にチョンと触れるだけで、ガベリを止める事は出来なかった。

 

アイツはここに来た時と同じようなスピードで空を飛び、あっという間に見えなくなってしまった。

 

 

 

…取り逃がしたのは少し腹ただしいが、もう過ぎたことは仕方ねぇか。

 

オレは人間態に戻って、今後の事を考える事にした。

 

アイツは何より、自分が強くなる事に執着しているところがある。その上、より効率的な方法を求める筈だ。

となると、ゲゲルの対象にするのは“力を持った人間”だろう。いや、ライザーも標的だった事を考えると、悪魔が狙われる可能性も十分ある。

 

今この町にいる“力を持った人間”はイリナとゼノヴィアだけだ。後は全員一般市民だからな。

悪魔で考えると、オカ研の部員の皆と生徒会役員がいるな。部長は常に朱乃先輩が隣についている。前回の修行もあるんだ、二人でかかれば何とか追い払えるだろ。アーシアはあの面子に入っていなかったから、部長が守ってくれるだろ。

生徒会は全員一緒にいるし、心配することは何もない。

 

となると、別行動する気満々なイッセーや小猫、木場と匙(思い出したぜ〜)が心配だな。

たしか、ゼノヴィアやイリナもこいつらと一緒に行動するっぽかったな。

 

 

 

…よし、決めた。

 

 

 

暫くの間、アイツらの後をついていくことにする。

いつでも変身して戦えるようにするために、アイツらにバレない様についていくことになるが、何とかするしかねぇ。

 

 

そうと決まれば、明日から早速始めるとするか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…誰だ、壮大なフラグ回収っていったの。

 

 

==============

【三人称視点】

 

その頃、駒王町の上空では、ついさっきまでガドルと激戦を繰り広げていたガベリが、目に留まらないスピードで飛び抜けていた。

 

ガベリは腰のベルトに隠れるように提げていた一本の剣を取り出す。

 

先程の戦いでこの剣を使わなかった理由、それはこの剣の性質にあった。

 

この剣は使用者を選ぶ。つまり、選ばれた剣士でない限り、この剣の力を引き出す事が出来ないのだ。

 

光り輝く剣を見据え、ガベリはニヤリと怪しい笑みを浮かべた。

 

『ぼくが一本、教会どもも二本、そして堕天使どもが三本…。この町に六本が揃ったわけだ。

後は聖剣使いの二人から聖剣を奪い取り、三本を堕天使どもに渡せばいい。そうすれば、奴らが勝手に一本に纏めてくれるだろう。

…本来なら七本全てが揃った状態でやりたかったけど、どこにあるのか分からないんじゃ仕方ないか…。

取り敢えず、奴らが聖剣を一本に纏めた後、ぼくがその使い手となる奴を殺す。それだけでいいんだ。』

 

まるでこの町で起こらんとしている出来事を熟知しているように、ガベリは呟いた。

ガベリは手に持つ一本の剣…教会に残されていた聖剣を収める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そして…、ぼくは更に強くなる…。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガベリは更にスピードを上げ、深い闇の中に飛び去ってしまった…。

 




雑談ショーwithゼノヴィア

八『前回触れる事が出来なかったんだが…、お前ら何であんなに飯にがっついていたんだ?』

ゼ『フフッ。恥ずかしい事だけど、お金が無くなってしまってね。食事にありつく事が出来なかったんだ。』

八『日本に仕事しに来て、そんなに日にち経ってねぇよな?何ですぐに無くなったんだ?』

ゼ『……実は、イリナが妙な絵を買ったんだ。その絵の値段がかなり高くてね、あっという間に金欠さ。』

八『なるほどな、イリナならやりそうだ。』



?《ちょっと〜!!何をそこで陰口ついてるのよ〜!!》



八『…外が騒がしいので、今回はここまで。また次回にご期待ください。』


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三十六話目

ドライブ本編最終回…ハート様…カッコよすぎ…。

序盤にちょっとだけ出たゴースト、チェイスの元となった人物、タイプトライドロンが出た時から絶対やると思ってた全てのタイヤカキマゼール…。最後まで盛りだくさんだった内容でした。
一年間ありがと〜!!

さて、あとは特別編。アレはパラレルワールドなのかな?封印したドライブに変身するし、チェイサー出て来てるし。
何にせよ、楽しみです!


 

聖剣破壊組の追跡を始めて数日。

 

アイツらは悪魔稼業を終わらせてから捜索を始めるから、今は時間的にかなり遅い。今A.M何時?

まぁ、お陰でオレもバイト終わらせてからでも十分間に合うんだけどな。

 

見たところ、アイツらも未だ何の収穫もないみてぇだ。謎の神父服やシスター服を着て、偽の十字架(本物だと、悪魔の皆は頭が痛くなるらしい)を手に持ち、この街中の教会という教会を回っている。

 

神父服を着ていれば、ただの人間と戦う必要もない。そういう理由があるんだろうな。

 

オレはそんな光景を真後ろから見守っていた。もちろんバレないように対策も立てているぞ。

 

 

 

教会の中を歩き回り、時には祭壇を持ち上げたりしながら情報を集めようとしているが、結局は何も見つからなかったようだ。

 

「今日も収穫なしか…。」

 

溜息をついてイッセーがそうぼやいた。

確かに、情報が少なすぎるもんな。コレじゃあどこを探せばいいのか見当もつかねぇだろう。せめて堕天使の本拠地が分かればいいんだろうが…。

 

今日のところは解散する事にした様で、全員が荷物をまとめ始めた。

 

 

 

 

 

その時、匙が何かを感じたように叫んだ。

 

 

 

 

 

「上だ!」

 

イッセー達はその叫びを聞いたと同時に空を見上げた。空から襲撃して来たのは、白髪の神父だった。

 

『神父の一団にご加護あれってね!』

 

神父は手に持った剣でイッセー達に斬りかかり、ユウトが魔剣を創ってその一撃を受け止めた。

 

暫くギリギリと均衡した状態が続いていたが、神父が剣を薙ぎはらうように振り、ユウトを弾く。

 

ユウトが少しだけ宙に浮いたが、そのままイッセー達がいるところに着地、神父もそれに向かい合う位置に立った。

 

 

あの特徴的な長い白髪、同業者相手でも容赦なく斬りかかろうとする奴。

 

アイツは……フ…フリー…何だ…?

 

『フリード・セルゼン…!』

 

あ、そうそう、それそれ。

 

『その声はイッセー君かい?お久しぶりでござんすね。どうだい?Doragon Powerは上がったのかNA?』

 

 

フリードが一本の剣を構える。確かこの前の話で、ユウトがフリードと戦ったって話をしていたな。フリードもエクスカリバーを一本持っているとも言ってた。

じゃあアレがその一本か…。イリナとゼノヴィアが持っていた二本と合わせて、三本見てきたことになる。

 

アイツが持っているエクスカリバーは、見た目だけじゃ能力が何か見極められねぇな。

 

『さぁて、今度こそ君達をkillさせて貰いますよ。何度も何度も取り逃がして、こっちも腹が立ってんだよ!』

 

そう言ってフリードがイッセー達に飛びかかっていった。

コレはヤバいかもな。オレも変身して参戦したほうが…

 

 

 

 

…いや、やっぱりやめだ。

 

 

 

 

相手は聖剣持ち。悪魔である皆には相性が悪りぃが、相手にならないわけじゃねぇと思う。

 

それに今回はユウトが冷静になっているし、イッセーと小猫、匙がいる。いくらフリードが聖剣持ってるとは言え、四人で一緒に戦えば苦戦する事はねぇだろう。

 

 

推測ではあるが、ガベリは多分何処からかこの戦いを見物しているだろう。イッセー達に加えて、聖剣使いのフリードがいるんだ。ガベリからすれば、唯のカモだからな。

 

イッセー達を狙って下りてきたガベリを倒す為にも、下手にあの戦いに乱入して、オレの存在がガベリにバレるって事になるのは避けたい。

 

マジでピンチになった時はすぐに乱入する。それでいいだろ。

 

 

 

オレは…一応辺りを見張っておくか。

 

どこからあの野郎が見ているのか、分からねぇしな…。

 

 

==============

【第三者視点】

 

『ブーステッド・ギア!』

 

【Boost!!】

 

フリードとの戦いが始まり、兵藤は早速自分の神器、〝赤龍帝の籠手〟で倍加を始めた。

今回は木場が聖剣を破壊する事が主な目的であるため、全面的にサポートに回るらしい。

 

兵藤が考えている作戦。それは木場に力を“譲渡”する事だった。

 

赤龍帝の籠手には二つの能力があり、一つは前から判明していた“倍加”の能力であり、倍加した数だけの力が付加されるもの。

そしてもう一つが、倍加した力を味方の誰かに与える事で、自分では無くその味方の力を倍加させるというものであった。

 

つまり、兵藤が一度倍加させた力を兵藤自身が使うこともできるし、木場に与える事もできるのだ。

 

その能力を使えば、木場の神器である〝魔剣創造〟で創られる魔剣の数を二倍にする事も可能だ。

 

今、兵藤はいつでも木場に“譲渡”出来るように倍加を続けているのだ。

 

 

今は木場と小猫、そして匙が主になって戦っている。

 

『ラインよ、伸びろ!』

 

匙がそう叫ぶと、匙の腕にカメレオンの頭の様なものが現れ、その口からシュルルっとベロのような触手が伸びていく。

 

その触手はそのままフリードの足に絡みついた。

 

『ウゼェっす!』

 

フリードはその触手を切り離そうとエクスカリバーを振った。

 

しかしエクスカリバーはその触手を斬る事はなく、そのまますり抜けてしまった。

 

『へっ!そいつはちょっとやそっとじゃ斬れないぜ!木場!今のうちに存分にやっちまえ!』

 

『ありがたい!』

 

木場が二本の魔剣を手に取り、一気にフリードに迫る。

 

一方のフリードは、どこが愉快なのか声を上げて笑っていた。

 

『ははっ!そんな魔剣程度で俺さまのエクスカリバーちゃんに勝とうっての⁉︎甘いんだよ!』

 

フリードが振ったエクスカリバーが、木場の持つ魔剣を粉砕した。

木場はすかさず距離を開け、再び魔剣を創り出したが、創っては砕かれ創っては砕かれ…以前の戦いと同じ流れになるのは明確であった。

 

「木場!譲渡するか?」

 

「まだやれるよ!」

 

兵藤のサポートを拒絶した木場。彼は自分の力でフリードを、エクスカリバーを破壊したいという想いがあった。

 

『ハハハ!なんだか知らないけど、エクスカリバーちゃんを見る目が怖いねぇ!憎しみでもあるの?けど、こいつで斬られれば悪魔くんは消滅確定だぜ?死んじゃうよ?死んじゃうぜ?死んじゃえよ!』

 

フリードがそう言って木場に飛びかかっていく。木場は新たな魔剣を創ってフリードの剣を受け止めようとするも、またもや一撃で破壊された。

間髪入れず、二撃目を与えようとするフリード。

 

 

「……イッセー先輩、祐斗先輩を頼みます。」

 

「うぉぉぉい!小猫ちゃぁぁぁん!」

 

 

それと同時に、小猫が兵藤を持ち上げて、RPGの便利アイテムよろしく木場とフリードの元へぶん投げた。

 

物凄いスピードで二人の元へ近づく兵藤。

 

「こうなったらやけだ!木場ぁぁ!!譲渡すっからなぁぁぁ!」

 

「うわっ!イッセーくん⁉︎」

 

《Transfer!!》

 

譲渡の音声がなり、兵藤が溜めてきた倍加の力が木場に渡された。

 

「…貰ったからには使わないとね。〝魔剣創造〟!」

 

木場が神器を発動させ、辺りに様々な魔剣を創り出した。あちこちから魔剣が生える…。お花畑ならぬ魔剣畑のようだった。

 

『チィッ!』

 

フリードは足元から生えてきた魔剣を避ける為に攻撃を中断、後ろに飛んだ。

 

しかし、着地したはずのフリードはガクッと膝から崩れ落ちる。何事かと思っていると、フリードの足に巻きついている触手が光を放っているのが目に映った。

その光はフリードから匙の方へと流れていくようだった。

 

『…これは!俺っちの力を吸収してるのか…⁉︎』

 

『どうだ!これが俺の神器、〝黒い龍脈〟【アブソリューション・ライン】だ!こいつに繋がられれば、お前の力は俺の神器に吸収され続ける!お前がぶっ倒れるまでな!

木場!さっさと決めちまえ!』

 

『…不本意だけど、確かに君はここで倒した方が良さそうだ。次の使い手に期待するとしよう。

…フリード・セルゼン、ここで斬らせてもらう!』

 

木場は魔剣を手に持ち、素早い動きで一気にフリードの元へ走り出す。

 

木場の魔剣が、フリードの首元へと迫る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、かなり強い風がそこら一体に吹いた。

 

少しして、木場とフリードの間に小規模の竜巻が起こり、二人の距離を引き離す。

 

その場にいる全員が怪訝の表情を浮かべている時、どこからか落ち着いたような声が耳に入る。

 

「悪いけど、まだそいつを死なせる訳にはいかないんだ。」

 

何者かが、木場とフリードの間に降り立った。

 

 

 

「こいつは、ぼくの計画に必要な人材の一人だからね。」

 

突然の乱入者、ガベリは薄っすらと笑みを浮かべながら言葉を発した。

 

 

『…何処のどなたでございますか?ひょっとして、悪魔くん達のお友達かな?』

 

フリードは殺意を向けた状態で尋ねる。ガベリはゆっくりと振り向き、フリードの国の言語で答えた。

 

『まさか、一応助けに来たことになるよ。今この場だけだけどね。』

 

 

 

その様子を兵藤、小猫、木場は緊張した顔で伺っていた。

 

「な、なぁ、兵藤。あいつは一体何なんだ?」

 

悪魔の中で唯一グロンギの事を知らない匙が小声で尋ねた。

 

「…敵だよ、それもかなり強い。」

 

兵藤はかなり簡単な説明を返したが、匙は兵藤の尋常じゃ無さそうな顔を浮かべているのを見て、身構える。

 

 

丁度その頃話が終わったのか、ガベリが兵藤達の方に向き直る。

 

「君達に一つ質問がある。君達の協力者に、あと二人の聖剣使いがいるだろう?その子達の居場所を教えてくれないか?」

 

覇気のこもった声でそう問われ、兵藤達は大きな悪寒を感じた。

少しだけ身震いをしていたが、兵藤はグッと拳を握り、答えた。

 

「…知らねえよ。仮に知ってたとしても、教えるわけがねえだろ。」

 

その答えに同調するように、木場達もそれぞれが身構える。

 

「…そっか、なら…」

 

ガベリは落胆するような様子を見せると、翼を広げていく。

 

「ここで殺しておくか。」

 

そう呟き、ガベリは飛び上がった。

再び倍加を始める兵藤、魔剣を構える木場、ボクシングポーズをとる小猫、触手をフリードに繋げたまま構える匙。

ガベリはそんな彼らに向けて急降下し、翼を叩きつける。

 

 

 

 

 

ガキンッ!と、翼が何かに阻まれた音がなる。

 

 

 

 

今のは兵藤が受け止めたのではなければ、木場でも小猫でも匙でも、フリードでも無かった。

 

 

「お、お前!また!」

 

 

第二の乱入者、ガドル。

 

「…やはりこの者たちを狙っていたのか、後をつけておいて正解だった。」

 

ガドルは手に持っていた槍の先をガベリに向ける。ガベリは忌々しげにそれを睨んだ。

 

「まだ君と戦う用意は出来てないんだよ、少しくらい待っててくれてもいいだろ。」

 

「悪いが、そういう訳にもいかん。貴様の狙いがこの少年達だろうがなんだろうが、人が殺されるのを見過ごす事は出来んのでな。」

 

両者に緊迫した空気が走った。

 

 

 

その時、ガチャっとこの教会の扉が開かれた。

 

 

『イリナ!ゼノヴィア!』

 

外から入ってきたのは、イリナとゼノヴィアの二人だった。

 

ゼノヴィアは教会の様子をジト目で見て、一言。

 

『…何だ、あの珍生物は。』

 

珍生物呼ばわりされた二人の後ろに雷が落ちた。未確認生命体とは言われたものの、珍生物とは言われた試しがない。

 

『…ふ、ふん!珍生物だって!お笑いだねガドル!』

 

『何を言うか!どうせ貴様のことだ!貴様の方が明らかに変であろう!第一そのマスク、怪しい感満載ではないか!』

 

『このマスクの良さが分からないのか⁉︎それを言うなら君だってなんだよその中途半端な角は!発展途上ですって感じでカッコ悪い!』

 

二人が醜い押し付け合いを始めたところに、更に一言。

 

『どちらもだ。』

 

再び雷が落ちた。

先に言っておくが、ゼノヴィアには天然要素はあっても毒舌など人を馬鹿にするような要素はあまり持ち合わせていない。その為、彼女は思った事をそのまま口にしてしまうのだ。前回のアーシアの件もそうだった。

 

つまり、今回も…

 

 

「…貴様らの所業を見逃すわけにはいかん。」

 

「今更カッコつけても意味ないと思うぞ?」

 

どこか悲しそうな目をしているガドルに小さくツッコミを入れる兵藤。

 

 

 

その時、ガドルは背後から忍び寄る殺気を感じ、持っていた槍を後ろに振る。

 

槍はガドルの首を刈り取ろうとしていた剣とぶつかり、ギィン!と甲高い音がなる。

 

その剣の持ち主は空中でクルクルと回転し、地面に着地した。

 

『ひゃはははは!やっと出会えましたね〜カブトムシ君!』

 

忍び寄ってきていた者はフリードだった。彼は昔、兵藤とアーシアを襲撃した際に、ガドルに気絶させられた事があった。その為、彼はガドルに強い恨みを抱いていたのだ。

 

『…今は貴様の相手をする暇は無い。さっさと失せろ。』

 

『かぁ〜手厳しいお言葉。強者の余裕ってやつですかい?あぁムカつく。そう言う奴を斬り刻むのが、俺っちの楽しみなんですよぉ!』

 

そう言って、フリードはエクスカリバーを持って走り出し、ガドルに斬りかかっていく。

 

兵藤達の目では彼の剣さばきが目に入らないほどの速さであり、消えていくようにも見えた。

 

『どうかな?どうかな?コレが俺さまの〝天閃の聖剣〟【エクスカリバー・ラピッドリイ】!速度だけなら、負けないんだよっ!』

 

『…なるほど、確かに速い。』

 

ガドルは全ての剣を捌く事は出来ないようで、偶に一撃をもらっていた。

 

そこで、ガドルはスッと手を伸ばし…

 

 

高速移動していたフリードをガシッと掴んだ。

 

 

『何⁉︎』

 

『だが、本体を捕らえられれば…』

 

 

右手をギリギリと後ろに伸ばし…

 

そのままフリードの左頬に叩き込んだ。

 

 

『ブベロォォォォ⁉︎』

 

 

奇声を発しながらフリードは吹き飛ばされていく。

 

『それで終わりだ。少しの間眠っていろ。』

 

ガドルは手のホコリをパンパンと弾いた。

 

 

ガベリはフリードが殴り飛ばされる所を、何も手出しをしないで見ていた。

 

『意外だな、邪魔をしに来るかと思ったが』

 

『いや、割と好都合だよ。ぼくと君達の戦いに、中途半端に首を突っ込まれると厄介だからね。君がやらなかったらぼくがやってた。勿論、君が殺そうとしたら止めるつもりだったけどね。』

 

ガベリはそう言って翼を広げ、少し飛び上がる。

 

『せっかくだし、君達がやる気になれる物を見せてあげるよ。』

 

ベルトから何かをゴソゴソと取り出し、兵藤達に見せつけた。

いや、正確には、木場とゼノヴィアとイリナの三人に。

 

『『『!!?』』』

 

ガベリが持っていたものを見て、驚愕の表情を見せた三人。そして兵藤と小猫と匙も、それから感じられる力に顔を顰めた。

 

『…そうか…貴様が!!』

 

ゼノヴィアがエクスカリバーの柄を握り締め、駆け出していった。

イリナと木場も同じ様に飛び出していく。

 

『はぁぁぁぁ!!』

 

『やぁぁぁぁ!!』

 

『うぉぉぉぉ!!』

 

それぞれの獲物を振るい、ガベリとの戦いを始めた。

 

 

兵藤達とガドルはその戦いを外から見ていた。ガドルは一回溜息をつき、兵藤達の方に向き直る。

 

『…少年、こうなっては致し方ない。貴様らだけでも先に逃げると良い。』

 

『無理だ!木場を置いて行けるわけ!』

 

『心配するな。木場というものも、あの少女らも殺させはしない。

…だが、子守する人数が増えるのは厄介だ。』

 

子守と言われ、兵藤達は少し嫌な顔を浮かべたが、すっと後ろに引いていく。

 

それを見たガドルもまた、ガベリとの戦いに参戦していった…。




雑談ショーwithリアス

リ「最近、イッセー達が何かこっそり動いてるみたいなのよね〜。」

八「まぁこの年齢ですからね。人に言えない事をしてしまうってのも、あると思いますよ?」

リ「それはそうなんだけど…。やっぱり心配なのよ?」

八「大丈夫っすよ。本当にヤバイことになって来たら相談来ると思うんで。」

リ「……貴方、時々オジンくさいこと言うわね。」

八「お、オジンくさい⁉︎オレはまだピッチピチの十代ですよ⁉︎」(実年齢でも三十代!)


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三十七話目

この前複数の友人と一緒に始めたケータイアプリ、ストームヒーローズ。皆が続々と星4や星3を当てていく中、ずっと星2が出続けていた僕の元に、やっと手に入った星4ユニット…。

仮面ライダー電王 ロッドフォーム

…いや嬉しいんですよ⁉︎電王は大好きだし、ウラちゃんも好きだし!
…ただ、ファイズアクセルとかオーズ プトティラコンボとか欲しかったなぁ…。


イッセー達が下がってくれた事を確認したオレは、槍を構えてガベリの方を見た。

 

スピード面ではユウトが反応できているし、パワー面ではゼノヴィアが苦もなく対応でき、イリナが時々剣の形を変えてガベリの動きをある程度封じている。

 

 

…オレより上手く戦えてるじゃん。

 

 

とは言え、そこはガベリだって戦闘民族。持ち前の負けず嫌いな所を引き出して、翼を用いた戦いを繰り広げていた。

 

今んところは何も問題無かったとしても、ガベリはれっきとした戦闘のプロだ。一瞬の隙が命取りになる事だってある。

 

 

さぁて、オレも行くとしますか。どこから割り込むか…。

 

 

丁度その時、ガベリが瞬時加速した事で戦闘中の皆の視界から消え、イリナの背後に回っていた。

 

ははん、こっから入れっていう事ですか。分かりました、ではその様にっと!

 

オレはイリナの背後を守るように飛び上がり、ガベリの翼を弾き返した。

 

「チッ!」

 

軽く舌打ちをして距離を開けるガベリ。やたらと慎重だな、そんなにオレらの事が怖いか?

 

『イリナ!大丈夫か⁉︎』

 

ゼノヴィアがこちらの元へ走り寄って来た。なんだかんだ言っても仲はいいんだな、安心したぜ。

 

『えぇ、大丈夫だけど…』

 

イリナがそう言ってこちらの方に視線を向けた。

 

『貴方、一体何者なの?』

 

『私も気になったんだ。見たところ、あいつの同族のように感じたが…』

 

ゼノヴィアが同調する様に言葉を重ねる。

なんて答えりゃいいかね〜?そうです!とは言えないし、かといって違います!と言うのは嘘になる……。嘘はつきたくねぇな…。

 

『…確かにそうだ。私はあの者と同じ種族だ』

 

オレがそう答えると、イリナとゼノヴィアは武器を持つ力を一層強めた。バリバリ警戒されてんだけど、こりゃどうすればいいんだ?

 

 

そこへ、後ろへ下がっていたイッセーが前に出て、こう言った。

 

『そいつは大丈夫だ、二人が考えている様な事は絶対にしない。少なくとも、あいつとは違うんだ。俺は何度も助けられたんだ。』

 

よしっ!ナイスフォローだイッセー!

まずはイリナが『イッセーくんがそう言うなら…』と警戒心を解き、ゼノヴィアもイリナと同じようにしてくれた。

 

さて、第一関門“敵対心解消”は成功だな。後は…

 

 

その時、たった今までガベリと戦い続けていたユウトが弾き飛ばされてきた。

 

ユウトは空中でクルリと一回転して体制を整え、綺麗に着地した。

 

一方のガベリは、教会の一番高い場所で翼を広げている。あんな高さまで上昇しやがって、それじゃオレが届きにくいだろうが。

 

 

さぁ、こっからどうするか…。まずはアイツの所まで一気に行けたらいいんだが…。

 

 

 

 

 

 

 

『これは…一体どういう状況だ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

教会中に響き渡る、新たな人物の声。今まで聞いた事のない声だった。

 

その場にいる全員がその声がした方向を見る。

 

そこに立っていたのは…

 

 

 

オッサンだった。

 

 

 

いかにも研究者ですって雰囲気を出しているそのオッサンは、教会の中を見て驚いたような顔を浮かべている。

 

『バルパー・ガリレイ…!』

 

ゼノヴィアが忌々しそうにそのオッサンのと思しき名前を言った。

確か…聖剣計画の主要人物の一人だったか?レストランでの話に出ていた。

 

て事は、アイツがユウトを暗い過去に叩き落とした張本人…。

 

『フリード、どういう事だ?まさかお前が教会の小娘共に倒されたのか?…いや、どうやらそうでは無さそうだ。』

 

オッサン…バルパーは最初にオレの方をチラリと、次にガベリの方をチラリと一瞥した。

 

『こやつらのどちらかに負けた、という事か…。』

 

溜息をつきながらそう言った。すると、フリードの身体がピクリと動き、のっそりとその身体が起き上がっていった。コイツ中々頑丈だな。結構強めに殴ったんだぜ?

 

『クソッ!絶対殺す!あいつだけは俺が殺してやる!』

 

フリードは持ち合わせているであろう全ての殺気をオレに向けた。

…面倒だな、まだコイツの相手をしなきゃなんねぇのか?

 

すると、バルパーがフリードの前に立ち塞がり、フリードに諭すように言った。

 

『落ち着けフリード。お前の目的はそれではなかったはずだ。奴のことが憎いならば、計画が成功してから復讐するといい。』

 

フリードは暫く興奮した様子でいたが、数回深呼吸して落ち着いたように口を開いた。

 

『フゥ…オーケーオーケー、お見苦しいとこをお見せしちゃいました。おれ様完全復帰ですよ。んじゃ、バルパーのおっちゃんが言うように、ここは引くとしますか。カブト虫くん?後で絶対殺しに行ってあげるから、待っといてっちょ?』

 

…よくもまぁあんなにスラスラと腹がたつ言葉を並べられるもんだ。軽く尊敬するね。

 

『…逃げるのか?』

 

軽〜く挑発してやろうと、ごく一般的な言葉を使ってみた。とは言え、こんな言葉は一般的すぎて、怒るような奴はそうそういないんだがな。

 

『あぁ!んだテメェ!俺が全力出したらテメェなんざ速攻ミンチだぞゴラァ!』

 

…異常なくらい乗ってきた。コイツ案外単純なのか?いや見た目通りか。

 

バルパーがもう一度なだめる事になっている。ハハッおもしれー、無意味にコイツを弄るのもいいかもな。

 

 

 

 

カランッ

 

 

 

 

? 変な金属音だな。

 

音がした方を向くと、バルパーとフリードの足元に一本の剣が落ちているのが目に入った。

確かあの剣…ガベリが持っていたよな。何であんなもんがあそこに落ちてんだ?

 

『逃げるんだったらそれ持っていくといいよ。ぼくには使えないし。』

 

ガベリからのプレゼント?人間に?そんな事したってリスクなんか何もねぇと思うんだが…。

 

 

『これは…エクスカリバーか⁉︎』

 

 

…は⁉︎エクスカリバー⁉︎

待て待て待て待て!確かにこの前の話で三本のエクスカリバーが奪われたって話は聞いていたぜ⁉︎

 

けどなんでガベリが一本持ってたんだよ!そもそも奪われた三本は堕天使共が管理してんだろ⁉︎そのうちの一本をフリードが使ってんだろ⁉︎

 

じゃああの一本は何なんだよ!

 

 

 

…ん?待てよ?確かあの日、ゼノヴィアが何かの電話で驚いたような声を出していた気が…

 

 

『…なぜ貴様がエクスカリバーを持っている?』

 

『正教会とかいう場所にあった最後の一本を奪ったんだ。』

 

 

……奪った?ガベリがエクスカリバーを?

 

まぁ、確かに可能な範疇ではあると思うが…。こいつにとってエクスカリバーはただの剣に過ぎねぇ筈だ。いや確かに普通の剣よか威力はあるが、それでも無用の長物になる。

 

見た所、ガベリと堕天使共が共同戦線を張っているようには思えねぇ。

 

つまり、ガベリにとってエクスカリバーを奪うって事に、なんの利点もねぇ筈だ。

 

 

 

それなのに……

 

 

 

何故こいつはエクスカリバーを奪った?

 

 

 

『君達の考えている計画は聞かせてもらったからね。さっさとその一本持って帰って、その計画を成功させるといいよ。』

 

『……承知した。』

 

ガベリの言葉にバルパーは渋々と頷き、フリードに肩を貸しながら教会を出ようとした。

 

『行かせるか!』

 

ゼノヴィアとイリナが慌てて後を追おうとしたが、ガベリが二人の前を塞ぐように立つ。

 

『そこを退け!』

 

『嫌だね。』

 

絶対にその場を動こうとしないガベリの後ろで、バルパー達は何やら変な玉を取り出した。

 

アイツらが何をする気かは知らねぇが…大方逃げる為の目眩ましだろうな。

 

オレ自身まだ状況を読み取れてねぇが、アイツらをここで逃すってのがマズイ事くらいは分かる。

 

難しい話は後だ、先ずはバルパー達を止めねぇとな。

 

 

何とかガベリを退かす事が出来ればいいんだが…。

 

 

「…そこの少年。そう、金髪のお前だ。」

 

オレはユウトに声をかける。

この姿のオレに呼ばれるとは思っていなかったのか、ユウトは少し驚いた顔をしていた。

 

「えっと…何でしょうか?」

 

「貴様に一つ協力してもらいたい事がある。」

 

今から協力してもらう事、それはガベリを退かし、バルパー達を追跡する為のものだ。

 

ユウトの耳元で作戦を伝える。

 

ユウトは小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、バルパー達はというと、今にも目眩まし道具を使おうとしている瞬間だった。

 

ゼノヴィア達はガベリに足止めされている状態であったが、ガベリに空を飛ばさせる程追い詰める事は出来ていた。

 

因みにガベリは今、教会の窓の近くを飛んでいた。

 

 

ジャストタイミング!今なら行ける!

 

 

「頼むぞ少年!」

 

 

オレが叫ぶと同時にユウトはオレの肩に手を回し、悪魔の翼を広げて一気にガベリの真後ろへ飛んだ。

 

「! ど、どこへ消えた⁉︎」

 

ユウトが突然スピードを上げたことにより、ガベリは完全にオレ達の事を見失ったようだ。

 

ユウトのスピードなら、オレを担いでいる状態でも十分ガベリの注意から逃れる事が出来ると踏んだのだ。

 

 

ガベリの後ろへ回り込む事に成功したオレは…

 

 

ガベリの背中に飛び、そのまま肩と腕に手を回す形でしがみつき、ガベリの動きを少しだけ封じた。

 

「クソ!オイ離せ!」

 

うぉぉぉぉ!!バサバサと動き回りやがる!まるで何か遊園地のアトラクションで遊んでる気分だ!

けど!これでバルパー達を追えるだろ⁉︎

 

『行くぞイリナ!』

 

『オッケー!』

 

『僕も行かせてもらおう!』

 

ゼノヴィアとイリナ、そしてユウトはバルパー達を追ってどこかへ行ってしまった。

本当ならユウトには行って欲しくなかったんだが…もう仕方ねぇか。

 

コイツの事はオレに任せろ!バルパー達は頼んだぞ〜!

 

 

「ク!クソ!離せって言ってるだろ⁉︎」

 

ガベリは苛立ってきたのか、窓から外へと飛び出してしまった。

オレがしがみついている状態で、な。

 

そしてそのまま……縦横無尽に空を飛び回り始めた!

 

 

ギャァァァ!!ノンビリ解説してる余裕ねぇよ!ジェットコースターより気分悪くなるだろうが!唯でさえ馬鹿みてぇな速さだってのに、そんなにあちこち飛ばれましても〜!!

 

 

「ウ…グググ……!」

 

 

ヤベェ!どんどん振り落とされそうになる!このままじゃガベリの足止めに失敗しちまう!

 

 

 

こ、こうなったら……

 

 

 

多少は危険な道を進んでみるか!

 

 

オレはゆっくりと左腕をガベリの腕から外し…

 

 

 

ガベリの翼をロックした!

 

 

「な!おい馬鹿!やめろ!」

 

翼の自由が利かなくなったガベリ…というより、飛行手段を無くしたオレ達はユラユラと落ち始めていく。

 

翼を引きちぎってもいいんだが、それじゃあ再生される。だったら動きを封じるだけでいい。そうするだけで、翼を動かす事が出来なくなるからな。

 

 

「ク…やめろって…言ってる…だろ…」

 

 

ん?ガベリの顔が青ざめていくぞ。なんかヤベェもんでも見えたのか?

 

 

「お!おい!今すぐ翼だけでも離せ!何ならお前をどこかに運んでもいいから!このままだと大変な事に!」

 

異様な焦り方だな。一体何があったんだ……?

 

 

気になったオレは、オレ達が落ちている方向を向いてみた。

 

そこに見えたのは……

 

 

 

 

 

発電所

 

 

 

 

 

「おい!見えたんだろ⁉︎分かったんだろ⁉︎だったら早く離せよ!」

 

 

人間態ならかなり冷や汗をかいているであろうガベリ、中々の焦りようであった。

 

けどな、オレはそこまで焦ってねぇんだわ。

 

 

「残念だったな、ガベリ。」

 

 

何故かって?それはな…。

 

 

「貴様を発電所に叩き落すために翼を締めたのだ。いわば、これは全て計算の上だ。」

 

 

愕然とした顔を浮かべるガベリ。

 

 

「さぁ!地獄に付き合ってもらうぞ!」

 

 

そのまま二人は真っ逆さまに落ちていき……

 

 

 

 

 

 

 

バチィィン!という音が鳴るのが聞こえた……。

 

 

=============

【第三者視点】

 

木場、ゼノヴィア、イリナの三人が真っ直ぐにバルパー達を追い始め、ガドルとガベリの二人が外へ飛び出して行った後の教会では、完全に取り残された兵藤ら三人の悪魔が呆然とした様子で立っていた。

 

嵐が過ぎ去って行った……そんな空気が教会の中に流れる。

 

三人はホッと息を吐き、緊張感を解き始めた三人。

 

 

そんな彼らの耳に、やや怒気のこもった声が入る。

 

 

「力の流れが不規則になっていると思ったら…」

 

「これは困ったものね。」

 

 

ビクッと体を震わせ、ガタガタと油が切れたような動きをしながらゆっくりと後ろを振り返る兵藤。

 

そこには、険しい表情を浮かべるリアス・グレモリーとソーナ・シトリーの二人が、今の兵藤らにとって一番会いたくなかったであろう二人が立っていた。

 

 

「これはどういうことかしら?イッセー。説明してもらうわよ?」

 

 

ニコリと笑うが、どこか笑っていないような雰囲気が滲み出ているリアスの姿に、兵藤達は恐れを感じずにはいられなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

そして今、兵藤ら三人はリアスとソーナの目の前で正座させられ、二人に事の流れの説明(という名の弁解)をさせられていた。

 

「エクスカリバー破壊って、貴方達ね……。」

 

大きく溜息をつき、明らかな不機嫌を表すリアス。

 

「サジ、貴方はこんなにも勝手な事をしていたのですね?本当に困った子です。」

 

「あぅ…す、すいません会長……。」

 

冷たい表情を浮かべるソーナに、涙声で謝罪をする匙。恐らく一番怖い思いをしているのは彼であろう。

 

 

「過ぎた事をあれこれ言うつもりはないわ。ただ、貴方達がやった事は冥界に大きな影響を与える事になるかもしれなかったのよ?それは分かるわね?」

 

「はい」「…はい」

 

二人は小さく頷き、そして謝罪する。

その隣では匙がソーナに尻叩きを喰らっていた。

 

「うわぁぁぁぁん!許してください会長ぉぉぉぉ!」

 

「駄目です。罰としてお尻叩き千回です。」

 

その様子を唖然とした顔で見ていた兵藤。

 

「ほらイッセー、余所見しない。」

 

「は!はい!」

 

リアスの一言でグリンっ!と音がする程の勢いで向き直った。

 

 

リアスはそっと二人の元へ近寄り…

 

 

そして抱き抱えた。

 

「馬鹿な子たちね。本当に心配かけて……。」

 

二人の頭を撫でながら、優しく声をかけるリアス。

下僕に対しても家族同然の扱いをする程の優しさ、そこがグレモリー家の誇れるものの一つであった…。

 

 

 

因みに、その隣では…

 

 

 

「うわぁぁぁぁん!あっちはいい感じで終わってますよぉぉぉ⁉︎」

 

「よそはよそ、うちはうちです。」

 

泣きじゃくる匙と容赦なく尻を叩くソーナの姿が。

それはさしずめ、小さな子どもを躾ける親の姿のようであった。

 

 

 

 

と、思っていたら…

 

 

「さてイッセー。お尻を出しなさい。」

 

ニコリと微笑むリアスが右手に魔力を纏わせ、兵藤に優しく声をかける。

 

「下僕の躾は主の仕事。貴方もお尻叩き千回ね♪」

 

 

 

 

この日、約二名の尻が死んだのは言うまでも無いであろう……。

 

 

ーーーーーーーー

 

一方、こちらは先程発電所内に不時着した二人のグロンギの話…

 

翼を持ったガベリは、震える身体を引き摺りながらどこかへ移動しようとしていた。

 

「ハァ!ハァ!…ガドル!この恨みは、必ず……!」

 

忌々しそうにガドルの名を叫ぶガベリ。

 

 

 

「私が…何だ?」

 

 

 

そこへ、ガベリの恨みが向けられている張本人が現れた。

驚愕の顔を浮かべるガベリに、一歩一歩と近づくガドル。

 

「電撃を浴びて、動きが鈍った貴様なら、格闘体でも十分反応できる…。そう思ったが、どうやら正解だったようだな。」

 

「…クソッ!」

 

ガベリは舌打ちして立ち上がり、ガドルに殴りかかったが、全ての攻撃が軽く受け流されていった。

それどころか、時々カウンターとして逆に攻撃を受けてしまっていた。

 

これでは圧倒的に不利…そう考えたガベリは、何とかして飛んで逃げようとしていたが、いざというタイミングでガドルの妨害が入り、思うようにいかない。そんな状態が淡々と繰り返されていた。

 

「ハッ!」

 

「グアッ!」

 

ガベリに一瞬の隙が生まれ、的確にその一点を蹴るガドル。ガベリはその一撃を喰らって、数メートル飛ばされる。

 

ガベリが体制を整えた時には、既に目の前までガドルが迫っていた。

 

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

 

手を大きく振りかぶり、トドメとなる一撃をガベリに叩き込もうとした……。

 

 

 

その時、ベルトから腕へかけてビリリッ!と電撃が走る。

 

「!?」

 

急な事態に反応できず、ガドルの動きそのものが若干遅くなった。

 

お陰でガベリはその拳を躱し、再び飛び上がることに成功。そのまま遠くまで飛び去っていった。

 

 

遠くへ飛んでいくガベリの姿を見送り、自分の拳に視線を向けるガドル。

 

 

(今のは…一体……)

 

 

その思考を途切らせるように、激しい睡魔がガドルを襲った。

 

 

(あぁ…眠ぃ……流石に、発電所送りは……まずかった、かも…な……。)

 

 

周りに誰もいない事を確認したガドルは、その姿を人間のものに変えた後ゆっくりと地面に倒れ伏せ、死んだ様に眠ってしまった…。

 




雑談ショーwithアーシア

八「お?アーシア、エプロンなんか持って何してんだ?」

ア「あ、シュウさん。その…イッセーさんにお料理作ってさしあげたくて…、だからこれを着てお料理しようと思いまして…」

八「お、良いんじゃねぇか?イッセーなら大喜びすると思うぜ?それこそ、嬉し涙で虹でも作りそうなくらい。」

ア「そ、そうですか?…でしたら、頑張ってみます。……下着を着けずに、というのが緊張しますが…。」

八「ブフォ‼︎な!何でだよ!し、下着くらい着けて!」

ア「ありがとうございますシュウさん!自信が湧いてきました!」

八「…どうしてこうなった。」


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三十八話目

いやはや、前回の投稿から早い事三週間……。
本当、申し訳ありませんでした。

中間考査、修学旅行と行事が続き、こちらの方に全く手がつけられませんでした。


中間考査後に修学旅行って酷いと思うんですよ。テストの結果悪かったら、折角の旅行なのにテンション上がらないじゃないですか。僕みたいに!


……それでは、お楽しみください。


あ〜…ヤベェ……眠ぃ……。

 

馬鹿みてぇに重かった瞼を何とかこじ開け、フラフラする足を引きずりながら家に帰ってるけども…これじゃ一瞬でも気を抜けばバタッと倒れてしまう。

 

道端のど真ん中で眠りこけるなんてマジ勘弁なんで、どうせ寝るならあのあったかい布団の中でスヤスヤしたい。冷たい夜の風に吹かれながらお休みなんてしたくない。

 

とは言え、オレはもう既にイッセー宅のすぐ近くまでは来ていた。ここまで来れば自分の家にはすぐに辿り着く。我ながらよくここまで我慢したと思う。

 

 

取り敢えず早く家に帰って寝よう…。後の話は全部それからだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思っていたのに……どうやら現実というのは残酷なようです。

 

ここを曲がればイッセー宅に着くという道に差し掛かった時、オレはイッセー宅の方から嫌な気配を感じた。オレに向けられたものではないが、これは明らかに殺気だ。

そこでオレは曲がり角に身を寄せて、そ〜っとイッセー宅の前を覗いてみたんだ。

 

なんとそこには、制服を身につけた部長とイッセーとアーシア。そしてあの野郎の姿が見えた。

 

銀髪を長めに伸ばし、所々に赤いシミのついた黒い神父服を身につけ、もう見ているだけで腹が立ってくる顔をした男_フリードだ。

 

部長が若干怒気のこもった目をしているとこを見る限り、なにやらトラブル発生中のようで……。

 

 

何故ここにフリードがいるんだろうか。ユウト達は無事なのだろうか。そう言った疑問が頭に浮かんできたが、それは取り敢えず後にしておこうか。

 

 

 

あんなチンケな野郎より……。

 

 

 

オレは視線を上に向ける。

 

すると、月をバックにして空に浮かぶ堕天使の姿が目に入った。

 

堕天使は背中に生えている翼が何枚あるかによって強さが分かるようになっていると聞いた事があるが、あの堕天使は十枚も生えていた。

 

堕天使のトップである堕天使総督が十二枚らしいから、十枚持っているあいつの実力も相当なものだと伺える。そもそも放っているオーラが違うしね。

 

以上の事から予測するに……あいつが問題のコカビエルっていう奴だろう。

 

流石は堕天使幹部ってとこか……。

 

これは厄介事が発生するパターンだな。平穏な眠りは妨げられる運命にあるようで……。

 

 

コカビエルはイッセーに向かってポイッと大きな何かを投げた。優しくキャッチしたイッセーは驚きの顔を浮かべる。

 

…オレも驚いたよ。まさかイリナが投げられるなんてな。

この距離から見てもはっきり分かるくらい大怪我をしている。

 

さっき、ユウトとゼノヴィアとイリナが三人でフリード達を追って行ったが…まさか……。

 

「俺たちの根城に入り込んで来たからな。少しもてなしてやった。後の二匹は取り逃したけどな。」

 

今の言葉から察するに、ユウトとゼノヴィアは逃げ切ったようだな。

 

イッセーがアーシアを呼んでイリナの治療をさせた。少しずつ回復してはいるようだが……。

あいつが持ってたエクスカリバーが無くなっていた。

大方、奪われたんだろう。

 

 

「……それで、私との接触は何が目的かしら?」

 

部長が憎悪の感情をさらけ出した状態でコカビエルを睨み、尋ねる。

一方のコカビエルは嬉々とした顔を浮かべながら答えた。

 

「お前の根城である駒王学園を中心にして、この町で暴れさせてもらおう。そうすればサーゼクスも出てくるだろう?」

 

学園を中心に暴れ回るだと⁉︎

こいつ、一体何を企んでやがる!

 

「そんなことをすれば、堕天使と神、悪魔との戦争が再び勃発するわよ?」

 

「それは願ったり叶ったりだ。エクスカリバーでも奪えばミカエルが戦争を仕掛けてくれると思ったのだが……寄越したのが雑魚のエクソシスト共と聖剣使いが二名だ。つまらん…実につまらん!だからサーゼクスの妹の根城で暴れるんだよ。楽しそうだろ?」

 

最早コイツが何を考えてんのか理解しがたい状態だ。

コイツは戦争を好んでいたーとかそんな事は聞いてはいたが、かといって〝つまらないから〟とか言う、それこそつまらない理由でそんな計画起こすかフツー。

 

「俺は三つ巴の戦争が終わってから退屈で退屈で仕方がなかった!アザゼルもシェムハザも次の戦争には消極的でな。神器などつまらんものを集めだして訳の分からん研究に没頭し始めた!そんなクソの役にも立たんものが俺たちの決定的な武器になるとは限らん!

……まぁ、そこのガキが持つ赤龍帝の籠手クラスのものならば話は別だが……」

 

随分長い間喋ってるが……こいつ、さっきと今の言葉で天使と堕天使のトップクラスを馬鹿にするような発言しやがったよな。魔王に対してはモロに敵対心を露わにしているし…。

 

あ、一応解説すればミカエルってのは皆さんご存知と思われる超有名な天使の事です。この世界でも〝熾天使〟って言う有力な天使の中の一人らしいけどな。

んで、アザゼルとシェムハザってのは、順に堕天使総督と副総督だ。

 

堕天使幹部って、各勢力のトップクラスを軽んじる事が出来るほどの実力があるのか?

 

「何にせよ、俺はお前の根城で聖剣を巡る戦いをさせてもらうぞ!リアス・グレモリー!戦争をするためにな!サーゼクスとレヴィアタンの妹のどちらもが通う学び舎だ。さぞかし魔力の波動が立ち込めていて、素晴らしい混沌が楽しめるだろう!エクスカリバー本来の力を解放するのにも最適だ!戦場としては丁度いい!」

 

……頭がどうにかしてんじゃねぇかって思っちまうなコイツ。

自分の娯楽のために、戦いを求めるためにこんな迷惑な事をしようってのかよ……!

 

「ひゃはははは!最高でしょ?俺のボスって。イカれ具合が素敵に最高でさ。俺もついつい張り切っちゃうのよぉ。こんなご褒美までくれるしね。」

 

フリードが笑いながら前に出て、体の色々なところに隠し持っていたであろう物を五本取り出した。

 

あれ……全部エクスカリバーか。元から奪われていた三本とガベリが渡した一本、そしてイリナが持ってた一本だ。

 

「右手のが〝天閃の聖剣〟、左手のが〝夢幻の聖剣〟、右腰のは〝透明の聖剣〟、左腰のは〝祝福の聖剣〟でござい。ついでにその娘さんから〝擬態の聖剣〟もゲットしちゃいました!

ひゃはっ!俺って世界初のエクスカリバー大量所持者じゃね?聖剣を扱える都合よすぎな因子を爺さんから貰ってるから、全部使えるハイパー状態!完全無敵!最高だぜ!ひゃはははは!」

 

後も馬鹿みてぇにベラベラと喋りまくっているフリードはこの際無視だ。聞いてても何の意味もねぇ。

 

 

なんにせよ……大迷惑だ!

 

 

「では、戦争をしよう!魔王サーゼクス・ルシファーの妹よ!」

 

コカビエルの高笑いと共に、フリードが使った目くらまし用の道具から目潰し用の光が発せられた。

視力が治った頃には既にコカビエルもフリードもいなくなっていた。

 

 

もうそろそろ出て行っても良いだろ…。

 

壁から身体を離し、イッセー達の前に歩み寄る。

 

「シュウ…。」

 

「貴方、いつからそこにいたの?」

 

「俺たちの根城に〜のとこからっすよ。大体の話は頭に入ってます。また厄介事が起きるみたいっすね?」

 

「…えぇ、私達の学校を、この街を奴らの好きにはさせないわ。」

 

部長はスッと顔を上げ、学園のある方角を見上げた。

 

「イッセー!アーシア!シュウ!学園に向かうわよ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

オレ達は一斉に学園へ駆け出していった。

 

 

ーーーーーーーー

 

学園の正門前には今、会長を始めとしたシトリー眷属のメンバーと我らがグレモリー眷属のメンバーが集まっていた。

朱乃先輩や小猫も異変を感じ取っていたらしく、正門前に来るように部長が指示したとほぼ同時くらいに飛んで来た。

 

今回シトリー眷属も来たのは、学園の危機に生徒会が動かないわけにはいかないという会長の考えもあるらしい。

 

「私たちはここで結界を張り続けます。少しでも学園に負担がかからないように……。」

 

「えぇ、ありがとう。ソーナ。」

 

部長と会長が二人並んで話している。

会長の顔はどこか悲しげで、どうやら部長の事を心配しているようだ。

 

これからの戦いは、今までの物とは違って命をかけた戦いになる。オレとしては前世で何度も経験してきたし、苦しい戦いになった事もある。

だが、他の皆は多分違う……。圧倒的な実力差のある敵と初めての殺し合い。会長が心配するのも当然の話、か。

 

「魔王様からの援軍が来るまでの一時間。それまでは俺たちだけで戦うのか……。」

 

「ハッ。なんだよイッセー、ビビってんのか?」

 

「違う!…って言っても、見栄っ張りにしか聞こえないか。」

 

肩を落とし、小さく溜息をつくイッセー。

今さっきイッセーが言ったように、あと一時間もすれば冥界から魔王が加勢に来てくれる事になった。

その間、オレ達は言わば時間稼ぎ。死なないように、上手に戦う事が必須となる。

 

「そんな顔すんなよ。お前ならそうそう死ぬことはねぇさ。しぶとさなら、こん中でお前が間違いなくNo.1だ。」

 

「…バカにしてるだろ。」

 

「いいや、褒めてるさ。」

 

こんな馬鹿みてぇな会話をするだけで、イッセーの顔にまた元気が戻ってきたようだ。

 

「ま、頑張ろうぜ。オレもまだ死ぬつもりはねぇし、誰も殺させやしねぇさ。」

 

「……あぁ!俺だって同じだ!」

 

互いに拳をぶつけたところで、部長から集合の声がかけられ、オレ達は正門前に円陣を組んだ。

 

「さぁ!私の下僕悪魔たち!私達はオフェンスよ。結界内の学園に飛び込んで、コカビエルの注意を引くわ。これはフェニックスの時とは違い、死戦よ!それでも死ぬことは許さない!生きて帰ってあの学園に通うわよ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

正門に向き直り、門を開ける。

 

 

さぁ……行くとしますか!

 

 

ーーーーーーーー

 

正門から校庭に入ったオレ達が最初に見た物は、校庭の中心付近で浮かぶ五本のエクスカリバーとそれを囲むように描かれた魔法陣、そして何かの呪文のようなものを唱えているバルパーの姿だ。

 

「これは一体……」

 

イッセーがオレ達全員の疑問を代表して呟く。

 

「五本のエクスカリバーを一本に統合しているのだよ、赤龍帝。」

 

すると、その疑問に答えるようにバルパーがゆっくりと振り向いた。

 

 

 

「バルパー。後どれぐらいでエクスカリバーは完成する?」

 

空から聞こえた声に視線を向ける。そこには空に浮かぶ椅子に座っているコカビエルがいた。偉そうに足まで組んでやがる。

 

「五分もいらんよ、コカビエル。」

 

「そうか……」

 

バルパーの答えに、小さく笑みをこぼしたコカビエル。

その後、部長の方に向き直り……

 

「さて、サーゼクスは来るのか?それともセラフォルーか?」

 

と尋ねた。

 

「ルシファー様とレヴィアタン様の代わりに私達が……」

 

 

部長がそう答えたところで、オレ達の真上を何か巨大な物が通り過ぎて行った。

それとほぼ同時に、真後ろでかなりデカイ爆音が響き渡る。

 

ゆっくりと後ろを振り返る……。

 

 

 

 

 

そこには何も無かった。ただ地面に突き刺さる、柱のような光の槍があっただけ……。

 

 

 

……いや、何も無くなっていたと言うのが正解だな。

 

 

 

オレの記憶が確かなら……

 

 

 

 

 

その槍が突き刺さっている場所には、元々学園の体育館があった筈だ。

 

あの一瞬で吹き飛んでしまったって事かよ……軽く身震いしてきたわ。

 

「つまらん。ならば、地獄から連れてきたペット達と遊んでもらおうか?」

 

コカビエルが伸ばした腕の先に、これまでに見たことがないほど大きな魔法陣が現れた。

 

そっからグルルルルって何かの唸り声が聞こえ、その声の持ち主と思しき姿が見え始めた。

 

 

十メートルは余裕であるだろう大きさの身体から生える足は、一本一本が大木のように太い。

牙や爪はギラリと光り、これで斬り裂かれたらたまらなさそうだ。

 

そして極め付けに……

 

 

身体からは、三つの頭がついていた。

 

 

 

 

 

 

 

…………完全にケルベロスじゃないですか〜ヤダ〜。

 

 

「グギャアァァァァァァ!!!!」

 

 

ケルベロスは大きな叫び声をあげ、真っ直ぐにこちらへ向かって走り寄ってきた!

 

すぐさま全員が散らばり、ケルベロスの突進を避ける。

 

【Boost!!】

 

イッセーが着地と同時に倍加を始めた。

今回の作戦は、回復要員のアーシアと倍加に専念して欲しいイッセーを後ろに下げた状態で、オレと小猫、部長と朱乃先輩の四人で敵の相手をするというものだ。

イッセーの倍加が終わり次第、譲渡の力で一気に決めに行く事になっている。

 

まさかケルベロスと戦う事になるとは思わなかったが、やるべき事は変わらない。

 

だから今は部長と朱乃先輩と小猫がケルベロスの相手をしている。

 

 

ケルベロスの頭Aが部長に炎を吐いた!

しかし、朱乃先輩によって炎が凍らされてしまった!

 

部長がケルベロスの体に滅びの魔力を放った!

しかし、ケルベロスの頭Bが吐いた炎によって止められてしまった!

 

魔力と炎はぶつかり続けている……。

 

ケルベロスの頭Cが追加で炎を吐いた!

魔力をジリジリと追い詰めていく……。

 

ケルベロスの頭Aがまた追加で炎を吐こうとした!

しかし、小猫によって殴り飛ばされてしまった!

 

 

そんな状態が続いている。

 

 

じゃ、オレも参加するか!格闘体に変化!

 

手に力を込め、一気に指を弾く。

小さな火花が生じてケルベロスへ向かっていき、大きな爆発を起こした。

 

 

……コカビエルの槍攻撃の後だからか、結構ショボく見える。

 

 

攻撃先をオレに変えたのか、今度はオレに向かって炎を吐き出した。

 

「甘いんだよ犬っころが!」

 

俊敏体に変化、水の壁を生成して炎をかき消す。

 

近くに落ちていた鉄パイプ(なんで落ちてんの!?)を拾い、槍に変えて猛ダッシュ!ケルベロスの身体の上に辿り着いた。

 

「これで、どうだ!」

 

持っていた槍をケルベロスの背中に深くぶっ刺した!

 

「グギャァァァァァ!!」

 

ケルベロスが暴れだし、ロデオが始まる。

 

「うぉぉぉぉ!部長!朱乃先輩!イイっすか!?」

 

「えぇ!いいわよ!」

 

「いつでも大丈夫ですわ!」

 

二人がそう答えたのを聞き、オレは槍を手放して地上に降りた。

それと同時に、オレがロデオしてる間貯め続けられた二人の魔力がケルベロスを襲う!

 

ケルベロスは電撃に包まれ、魔力の一撃をモロに受けた。

 

 

…なのに、ケルベロスは倒れない。

チッ!まだ威力が足りねぇか!

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁ!!」

 

「イッセー!?」

 

イッセーの悲鳴が聞こえ、慌ててそちらの方を見ると、イッセーがもう一体のケルベロスに追いかけ回されているのが見えた。

オイオイ!もう一体いんのかよ!

 

倍加が終わってねぇイッセーでは、ケルベロスには太刀打ち出来ねぇだろうし……。

 

 

 

「シュウ!」

 

「クギャァァァァァァ!!」

 

 

な!ヤベッ!

 

ちょっと目を離した隙に、オレ達が相手をしていたケルベロスがオレを踏みつぶそうと足を上げていた。

 

これから避けようたって間に合いそうにねぇ……!

 

オレは剛力体に変わって両手を伸ばし、奴の足を支えようとした。

ズンッ!とかなりの重圧がかかる。

 

お、重い……!けど、ここは取り敢えずイッセーの方を……!

 

 

「部長!コイツはオレが引き受けるんで、イッセーの方を助けに行ってやって下さい!」

 

「! えぇ、分かったわ!」

 

オレの叫びに答えた部長達はイッセーの方に飛んで行った。

これでイッセーの方は何とかなるだろう。あとはこっちの方なんだが……!

 

かぁ〜!重いなんてもんじゃねぇ!足がどんどん地面にめり込んでいっちまってるし!

あぁ〜!もう膝まで埋まってるよ〜!

 

 

 

 

 

 

その時、急に一本の剣がシュッ!と勢いよく飛び出してきた。

 

オレの真横から……。

 

 

 

「うおっ!!」

 

ザシュ!

 

 

 

突如生えてきた剣に刺さって驚いたのか、ケルベロスは呻き声を上げながらスッと足を退けた。

 

……何が起こったのか全く分からん。けどとにかく助かった〜。危うく生き埋めになっちまうとこだったぜ。もう腹までいってたもんな〜。

 

さて、さっさと穴から出ちまおうかね…と思ったところで、スッと誰かの手が差し伸ばされた。

 

 

この手は……。

 

 

「大丈夫?引き上げてあげるよ。」

 

「ユウト…」

 

 

オレはユウトの手を掴み、穴から引き上げてもらった。

学園で戦いが起こったことを察して駆けつけてくれたんだろう。お兄さん感激だね!

さっき突然剣が生えたのも、ユウトの能力によるものだったんだな。

 

「助かった、サンキューな。」

 

「うん……」

 

ユウトはどこか暗い顔を浮かべていた。

……まぁ、人間態のオレが最後に会って話をした時がアレだもんな。気まずい空気になるのも頷ける。

だってオレも気まずいもん。

 

「シュウくん。この前は」

 

「その話は後でしようぜ。取り敢えず、今はあのワン公を沈めるのが先だ。」

 

「……そうだね。」

 

謝ろうとしたユウトの言葉を遮り、オレは再び視線をケルベロスに向ける。

奴は既に体制を整え、もう一度こっちに飛びかかって来ようとしていた。

 

「ユウト、ゼノヴィアはどうしたんだ?」

 

「あ、彼女なら……」

 

スッとユウトがある一点を指差す。さっきまでイッセーがケルベロスと追いかけっこを繰り広げていた場所だ。

 

そこではなんと、ゼノヴィアの持つ聖剣に斬り殺されたケルベロスの死骸がチリとなって消え失せていく場面が……。

 

うん、流石はエクスカリバーだ。魔獣なんて一瞬なんだ。

 

 

あっちの方はもう心配いらねぇみたいだから……。

 

「こっちも決めてやろうぜ、ユウト。」

 

「…うん、任せて。」

 

互いに頷きあい、一斉に動き出した。

まずはユウトが素早い動きでケルベロスを翻弄する。いつも通りのユウトの動きだ。オレも要所要所で援護の攻撃を加える。

 

「はぁっ!」

 

ユウトが剣を横薙ぎに振るった!その剣はケルベロスの肉を裂き……

 

そしてついに、奴の身体がガクッと崩れ落ちた!

 

「今だ!!」

 

格闘体に変わって高く飛び上がり、ケルベロスの頭部目掛けて拳を繰り出す!

 

今度こそ決めてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチチッ!バチンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「! クソッ!」

 

また変な電気が走りやがった!

これじゃガベリん時の繰り返しになっちまう…!

 

「……がぁぁぁぁぁ!!」

 

腕が滅茶苦茶痺れてきてるが、そのまま拳を振り下げる!

 

 

その拳はケルベロスの頭に命中し……

 

 

 

 

ドゴォォォォォォン!!

 

 

 

 

と、物凄い音を立て、ケルベロスを地面に叩きつけた。

奴は苦しそうな声をあげていたが、そのまま息をしなくなった。

 

「……はい?」

 

情けねぇ声をあげてしまったが、心底驚いた。

 

え、だって威力おかしくね?たかが一発のパンチがケルベロス沈めるって、ドユコト?

槍を刺した時は全く効いてなさそうだったのに?

 

「…シュウくん、すごいね……」

 

「いや、オレも何が何だか……」

 

一体何があったんだ?さっきと今ので何か違ったのか?

 

 

がぁぁぁぁぁ!!って叫んだから?気合の問題?

 

いやでも、さっきもしっかり叫ばせてもらったぞ。これでどうだ!って。

 

じゃあ一体何が……?

 

 

 

 

 

 

 

……そう言えば今、電流が流れてきたな。さっきは何もなかった気がするが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……一体、何が起こったんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュウくん!危ない!」

 

「なっ!」

 

ユウトの叫びで現実に戻ってきた時には、高速で近寄ってくる何かがオレのすぐ目の前まで接近していた。

 

そのままモロに何者かの突進を受け、校舎の壁に叩きつけられた。

 

「シュウくん!」

 

「ハッハッハ!油断大敵だね!」

 

オレに突進してきた奴_ガベリは大きな笑い声をあげていた。翼が大きく広がっているから、突進と言うより翼で打ってきた感じか。

既に電撃の傷も回復したようで、顔も随分余裕そうだ。

 

やっぱりあいつら、共同戦線張ってやがったのか……。

 

 

「シュウ!大丈夫か!?」

 

イッセーがアーシアを連れて走り寄って来た。

 

「……あぁ、大丈夫だ……。」

 

「大丈夫ってお前!」

 

「頭から血が出て!すぐに治療します!」

 

「だから大丈夫だって……」

 

心配しているのがモロに顔に出ている二人を宥め、スッと立ち上がる。

頭から血が出てるってのは本当らしいな。アーシアが嘘つくとはこれっぽっちも思ってねぇけど、足がフラフラしているから何となく実感出来る。

 

 

 

……けど、段々頭が冷えてきた……。

 

 

 

考えてみりゃ、前世でユウスケがキックをする時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時々、炎だけじゃなくて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電気も帯びていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけボヤける視界の中で、ガベリの姿を捉えた。

 

「よぉ、後悔するんだなガベリ。お前のお陰で、頭に登っていた血が流れて頭が冴えた。」

 

「…何を言ってるんだ?」

 

怪訝な表情を浮かべるガベリ……はほっといて、イッセーに頼み事をした。

 

「…朱乃先輩に話がある。悪りぃけど、呼んできてくれねぇか?」

 

イッセーは一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに朱乃先輩の方へ走って行った。

イッセーが朱乃先輩を呼びに行ってくれている間、オレはアーシアの治療を受けている。

 

そんなに長く待たないくらいで朱乃先輩が降りてきた。

 

「どうしたのですか?」

 

さっきの突進された瞬間を見ていたのか、少し不安な顔を浮かべながら尋ねてくる。

 

「…朱乃先輩……」

 

 

……少し言葉を選ばねぇといけない。

 

何故なら、今回の頼みは……

 

 

 

オレは先輩に向かって、周りに聞こえないような小さな声でオレの頼み事を告げた。

 

 

「!? な、何で……?」

 

朱乃先輩はかなり驚いたようで、目を見開いた。

まぁ、普通ならこの頼みは明らかに変だからな。戦いの最中に絶対頼まない内容だ。

 

けど、今回ばかりは必要なことなんだ。

 

「お願いします。これは先輩にしか頼めない。

……大丈夫ですよ。オレに少し、考えがあるだけですから。」

 

もう一押し、今度ははっきりとした言葉で頼む。

朱乃先輩はオレが真剣に頼んでいることを察しているのか、少し迷っているようだった。

 

「何を企んでるのか知らないけどさぁ!そんなことやらせるとでも思ってるのか!?」

 

チッ!ガベリが痺れ切らしたか!

再び突っ込んでくるガベリを射撃体で捉え、近寄らせないように弾を撃ち続ける。

 

「朱乃先輩!お願いします!」

 

「……分かりました。」

 

少し叫ぶように頼んだら、先輩も流石に折れてくれたようだ。

両手を前に突き出し、魔力をため……

 

 

 

 

 

大きなサイズの雷を、オレに目掛けて落とした。

 

 

 

 

 

「な!朱乃!?」

 

「朱乃さん!?」

 

「……血迷ったか?」

 

 

アァ〜!!クッソ痛ぇ〜!クッソ熱ぃ〜!

 

 

 

なのに……何故だか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……最高の気分だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? か、雷が……」

 

最初に部長が異変に気がついたようだ。

オレも何となく分かる。雷が持つエネルギーみたいなもんが、段々オレに吸収されていくような感じだ……!

 

「朱乃先輩!もっとデカイの!」

 

「……!!」

 

そう叫ぶと同時に、さっきよりも数サイズ大きな雷がオレ目掛けて落ちてきた!

 

大きな地響きがなり、視界が土煙に覆われる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて土煙が晴れ、視界がはっきりしてきた。

 

 

 

近くにある窓ガラスに映っている自分の姿は……

 

 

 

 

 

 

目が金色に染まり、髪にも少し金色のエクステンションがかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして最後に…身体にバチッ!と小さな稲妻が走った……。

 




雑談は今回置いときまして……。

本文がちょうどぴったりで9000文字になっちゃいました。あの姿になる決定的な瞬間までやりたかったのですが、まさかここまでとは……。

読みにくいと感じられた方、申し訳ありません。


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三十九話目

来週のゴーストで、2号ライダーである〝仮面ライダースペクター〟が登場しますね。

ベルトも同じで、変身音声も似てる…。すごく珍しいですが、今からすごく楽しみです!

では、三十九話をお楽しみください!

今回はあの形態が登場!?


結んで開いて手を打って……と…。よし、異常無し。

 

フゥ…良かった〜。先輩の雷を受けたはいいものの、感電しまくって痺れて動けなくなりました〜なんて展開になるんじゃねぇかって、それだけがずっと頭の中を回ってたんだ。

 

あんだけ「奥の手みせます!」みたいなことやっておいて……そんな展開になったらかっこ悪すぎる……。

 

 

「…シュウくん?」

 

 

そこで先輩がオレの名を呼んだ。

あの優しい先輩のことだ。オレが頼んだこととはいえ、自分の雷で攻撃したんだから心配な気持ちになったんだろう。現に今、先輩の顔がちょっと暗い。

 

 

「大丈夫っすよ。ほら、見事にピンピンしてますし。」

 

 

肩をクルリと二、三回まわし、オレなりに最高の笑顔を先輩に向ける。

 

「…フフッ」

 

その様子を見て安心したのか、いつも通りの優しい笑顔を見せてくれた朱乃先輩……。

……うんどうしよ。すっげぇ緊張してきた。こんな真っ正面から笑顔を向けられたことってそうそう無かったから、どうすればいいのかさっぱり分かんねぇ。

 

思わず、スーッと視線が横にそれていく……。け、決してそんな顔されるのが嫌だから!ってわけじゃない!

 

 

「…あら?シュウくんの髪の色が若干変わっていますわね…。よく見ると、目の色も……。」

 

「え?あ〜、これは……」

 

そ〜いや、これ一体なんだろうな?

 

そもそも雷を浴びた理由はまた別にあるわけなんだが、その結果として外見的な変化まで起こるなんて思ってもみなかった。

 

因みに今は通常体。髪も目も真っ黒だったのに、今では髪に金のエクステンションがかかり、瞳の色も金色だ。

 

「よく分かりません。オレの予想が的中したのは間違いないと思うんですけど…。」

 

ペタペタと自分の髪を触ってみる。

うわっ!パチッときた!

 

 

 

 

 

 

「……さっきのは何だったんだ?」

 

 

 

おっといけね、ガベリのことすっかり忘れてた。

 

今起きた事が何だったのか、多分誰も分からねぇだろう。フッフッフ、それは後ほどまでのお楽しみ〜って事でヨロシク。

 

 

「さぁな。ただ一個だけ言うとすれば、こっからはオレの独壇場になるって事だ。」

 

「…へぇ。」

 

 

再びバサっと翼を広げるガベリ。

これは戦闘態勢に入ったって解釈でおk?

 

 

OKOK……んなら、オレもいっちょやりますか!

 

 

「先輩、オレはちょっと離れた場所であのペリカン野郎をぶっ飛ばしてきます。

あいつを倒し次第すぐに戻りますんで、部長に伝えてくれませんか?」

 

 

先輩は特に驚いた様子を見せず、小さく頷いてから部長達のいる元へ飛んで行った。

これで部長達に余計な心配をかける事もないだろう。

 

さて、お次は……

 

 

クルッと身体の向きを変える。

 

 

そのままスウッと息を吸い……

 

 

 

 

 

一気に吐き出すように叫んだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウトォォォォォォ!!!」

 

 

 

 

オレの叫び声は学園中に響き渡り、バッチリとユウトの耳に入ったようだ。驚いたのか、ユウトがビクッと震える。

近所迷惑?そんなもん考えませんよ。学園に張られた結界がなんとかしてくれるでしょうし。

もし結界が音を遮断してくれてなかったら、さっきの爆音とかやべぇじゃんと。そう思うんです。

 

 

 

 

「負けんなよ、金髪イケメン王子。」

 

 

驚いた顔をしてこちらに振り向くユウトに向けて皮肉たっぷりなエールをかけた。

 

 

ユウトは一瞬だけ苦笑いを浮かべたが、大きく頷いた。どうやら伝わったみてぇだな。

 

よし…出発前にしたかったこと全部終わった。

 

後はこいつの相手をするだけだ。

 

 

 

「取り敢えず、場所移さねぇか?お前だって全力のオレとやりてぇだろ?」

 

「いいね…といいたいけど、今は断らせてもらう。ぼくの目的を達成させるために、ここから離れたくないんだ。」

 

……やっぱりな。こいつ、何か狙ってやがる。

おかしいと思ったんだ。元々グロンギってのは、個人で動く集団だ。グロンギ同士ならともかく、何のメリットも無しに異種族と協定を結ぶとは思えねぇ。

 

前回のジャラジは交換条件みたいなもんがあった。

 

こいつにもそれなりの条件があるって考えてもよさそうだな…。

 

「…なぁ、一体何を企んでんだ?」

 

オレがそう尋ねると、ガベリは素直に答えるかどうか悩んでいるのか、考えている素振りを見せた。

その後すぐに「ま、いいか」と言って顔を上げた。

 

「エクスカリバーってさ、一本だけでも凄い能力を持ってるだろ?」

 

…まぁそうだな。オレが知っているものだけでも、剣の形を変えたり、いろんな物を破壊したり……。

ユウトの過去を知っていながらこんな事を思うのは不謹慎だってのは分かっているが、それでももしエクスカリバーが使えたら〜なんて考えてしまうほどだ。

 

「それを五本も統一してごらんよ。凄い力になるのは一目瞭然だよ。勿論、その使い手となる人物だってかなりの強者になる。」

 

「確かにそうだな。」

 

「彼らの計画を成功させて、この一件が終わったら、ぼくはエクスカリバーの使い手と戦わせてもらうようになっているんだ。そういう契約を、君が目覚めるちょっと前に結んだんだ。

……そこで、使い手を殺せば、ぼくはもっともっと強くなる……!」

 

……成る程な、これで全ての合点がいった。

自分じゃ使えもしねぇエクスカリバーをわざわざ奪ったのも、フリードを守るような立ち位置になったのも、その契約を結ぶためのものだったのか……。

 

「その契約ってのがあるから、ここから離れたくねぇんだな?」

 

「正確に言えば、ここで彼らの計画が成功するのを見届けたいって事だけどね。」

 

 

「そうか……。それなら……」

 

 

 

トーン トーン トーン……

 

 

俊敏体に変わり、ウォーミングアップを兼ねてその場でジャンプする。

 

 

ガベリが警戒したような顔持ちになるが、それは御構い無しだ。

まずは一発、あいつの度肝抜いてやる!

 

 

「無理やり引き剥がすまでだ!!」

 

 

 

 

五、六回続けた辺りで一気に足に力を込め、

 

 

一気に地面を蹴り出した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュオンッ!!

 

 

「!?」

 

 

凄まじい風切り音がなり、人間態で飛び出したとは思えない程の速さでガベリとの距離を詰める。

 

人間態であったから油断したのか、ガベリはオレに懐に侵入することを許す。

 

そのままガベリの首に手を回し、学園の外に向かって飛びだした!

 

 

グングンと進んでいき、学園との距離が開いていく。

 

「くっ……離れろ!」

 

そこでガベリがオレを押しのけるように突き飛ばし、オレの手から逃れた。

 

そのままオレとガベリは近くの廃工場に着地する。

 

 

「な…なんだよ今のスピードは…!」

 

「ビックリしたか? そりゃそうだろうな。だって今のは人間態のジャンプじゃねぇし。」

 

 

今、オレの足は怪人態のものになっている。トントン跳ねていた時のタイミングで、こっそり足だけを変化させておいたんだ。

人間態でやってみようかとも思ったんだが、それじゃガベリのスピードを上回る事が出来るかどうか自信なかったんだよ。

 

怪人・俊敏体でのスピードなら、奴を強引に連れて行くのに十分だろうと思ったんだが、的中だったようだな。

 

まぁ…予想以上に速くなっていた事にはかなり驚いた。ちょっと前までよりずっと速かったって確信が持てる。

 

これも雷の影響ってやつか?基本スペックの上昇…人間態のスペックも、多少なりとも上がってるのかな?

 

 

まぁ、それはまた後で考えるとしよう。

 

 

今度は完全に怪人態に姿を変え、格闘体にシフトチェンジ。

 

 

……窓を見たところ、怪人態は特に見た目変わってねぇのな。つまんねー。

 

 

「さぁ、始めようか。貴様の好きなタイミングで初めて構わんぞ?」

 

ガベリが小さく舌打ちをして空に飛び上がった。

そこそこの高度で滞空飛行に入り、こちらを見下ろしている。

 

互いに緊迫した空気が走る……。

 

 

 

 

 

バサッ!

 

 

先に動き出したのはガベリだった。

自慢の翼を大きく広げ、オレに向かって一直線に急降下。あまりの速さで、視界から消えたようになる。

 

今のオレは怪人態の格闘体だ。ちょっと前なら射撃体でない限り見抜けなかった筈なんだが……

 

 

 

 

 

 

 

「……そこだ!」

 

「なっ!?」

 

いつの間にやらオレの右側に回り込んでいたガベリに向け、裏拳を繰り出す。

それは見事ガベリの胴体に命中した。

 

ふらっとなったガベリに相当数のラッシュを叩き込む。一撃一撃がズドンッ!てエゲツない音を鳴らしている。

 

最後に時計回りにクルッと回転。ガベリの腹部に肘を入れる。メリッと肘が差し込み、ガベリを吹き飛ばした!

 

 

すげーな。射撃体じゃないってのに、ガベリが大体どこにいるのか分かっちまったよ。

格闘体だから流石にハッキリとは見えなかったが、それでも十分だ。

 

「そんな…!ぼくの動きが、見切られるなんて……!」

 

「あぁ、私も今驚いていたところだ。」

 

 

うーん、さっきから驚いてばっかりな気がする。

 

格闘体では一撃の重さに加え、射撃体より若干劣るくらいの感覚器官。俊敏体では単純にスピードがより速くなったって感じか。

 

 

「…チッ!」

 

お、ガベリがまた飛び始めたな。

今度は中々高度下げねぇから…安全地帯で作戦を練るつもりか?

 

そんなことさせるか!射撃体にシフトチェンジだ!

 

 

 

胸の石を一個引きちぎり、ボウガンに形を変えた。

 

ボウガンの先端をガベリに向け、引き金を引く。

 

 

バギュン!

 

 

「うっ!」

 

 

おぉ、矢がスゲェ速さで飛んで行った。射撃体では矢の速度、威力が上がると思っても良いのかな?

 

ガベリは飛んできた矢を避けようとしたが、素早く飛んでいく矢は見事にガベリの右の羽を撃ち抜いた!

飛ぶ手段を失ったガベリはどんどん落ちてくる。

 

辛うじて左の羽で頑張ってるんだろうが……容赦はしない。

 

 

バギュン!

 

 

「ぐぁっ!」

 

 

左右の羽を撃ち抜かれ、ガベリは真っ逆さまに落ちていった。

 

落下中にも関わらず、オレは次々に矢を撃ち込んでいく。

あいつはズバ抜けた再生能力を持っている。ちょっとでも攻撃の手を緩めたら、直ぐに回復してしまうだろう。

 

「グッ! うあっ! あぐっ!……ガハァッ!」

 

落ちる際に背中を強打したようで、暫く蹲るガベリ。身体中に矢が刺さり、既に満身創痍の状態だった。

 

「ハァ…ハァ…!ま、まだだ…!計画を達成させるまでは……!」

 

ガベリは翼を毟り取り、新しい翼に交換するものの、心に感じた恐怖のせいか、完全には回復しきれていなかった。

 

後はトドメ……か。

 

 

 

そこでオレは……ボウガンを捨てる。

 

 

 

「? な、何をしているんだ?」

 

「…貴様が疑問に思っていたことの答えを示してやろうと思ってな。」

 

さて…ここからが本番だ。

 

雷を受けたことで基本スペックが上がったってのは、あくまで予想外の出来事。本来オレが思っていたこととは違う。

 

 

ここで少し前世の話をするぜ。

ユウスケが変身するクウガと、オレが変身するグロンギは、要所要所で共通点が見受けられた。

 

簡単に言えば、グロンギが出来る事の大体の事はクウガも出来るっていうケースが多い。逆もまた同じだ。

 

 

 

そこで、オレが雷を受けた切っ掛けの一つ…ユウスケがキックをする際に、雷を纏っていた事を思い出す。

 

 

クウガが…ユウスケが出来るって事は、オレにも出来ると思っても良いだろ!

 

 

「ハァァァ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……バチッ!

 

 

 

バチチッ!ビリッ!ビリンッ!

 

 

 

バリジャリビチバチッ!

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

身体中に電流がしばらく流れた。

 

それが収まった事を感じ、ゆっくりと目を開ける。

 

身体の装甲部分に目を向けると、これまでは普通だった甲殻が金色に輝いていた。

 

更には所々に電撃を模したような金色の装飾が入っている。

 

近くのガラスに目を向け、自分の顔を眺めてみた。

 

元々頭頂部に一本だけだった角の両サイドに、小さく、そして棘がある角が新たに生えていた。

 

目の色も、金色に染まっている。

 

 

……スッゲェ力だ……!

 

 

「何だよ……その姿は……」

 

ガベリがそう尋ねてきた。

この力を感じているのか、緊張した顔つきになっている。

 

「リントの協力によって得られた、私の新たな力だ。」

 

さて、名前をどうしようか……。

雷を受けた事によって得られた力だから……

 

よし、決めた。

 

 

「〝電撃体〟……そう呼ぶとしよう。」

 

 

 

 

「…ふっざけるなぁぁ!!」

 

ガベリがこれまで以上に大きく翼を広げ、縦横無尽に飛び回り始めた!

 

「殺す!絶対に殺してやる!塵も残さず切り刻んでやる!!」

 

最後の悪あがきか、今までの中で一番速い速度で飛び回ってやがる。

 

 

 

……けど

 

 

 

……見える。

 

 

 

射撃体でしかハッキリ見えなかった筈の動きが、普通に見える。

 

 

 

……あそこだな。

 

 

 

オレはある一点に飛び出した。そこはたった今、ガベリがいた場所だった。

 

今から追っかけたところで、俊敏体でない限り追いつく事は出来ねぇだろう。

 

 

けど、追いついた。

 

 

あっという間に奴の背後に回り込んでいた。

 

 

「なっ!?」

 

 

「…これで終わりだ!ガベリ!!」

 

 

ガベリ目掛け、全力で拳を振り下ろす!

 

 

ズッドオォォォォン!!

 

 

オレの拳はきっちりとガベリの顔面に当たり、近くの壁に殴り飛ばした。

 

 

今の馬鹿力は剛力体のものだった。

 

 

殴られた勢いのまま壁に衝突したガベリは、重力に身を任せて地面に倒れる。

 

 

一応の確認のためガベリに近寄った頃には、奴は既に息絶えていた……。

 

 

ーーーーーーーー

人間・格闘体に戻ったオレは、死体を焼却しつつ、改めて雷を受けた結果を見直していた。

 

まずは電撃体。単純に言えば、“俊敏体の速さ”、“射撃体の感覚神経”、“剛力体のパワー”の三つを合わせ持った力ってところだろうか。

 

ついでに、形態そのものの戦闘能力もかなり高い。お陰で特に苦労することもなく、ガベリを打ち倒すことが出来た。

 

 

更には他の形態もパワーアップされてるって……

 

 

……予想以上過ぎる結果だ。

 

 

これって、他にも色々強化されててもおかしくねぇよなぁ?

 

 

 

……ついでだし、色々試してみよっかな〜と…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……左手…気のせいか?変な力を感じるんだが……。

 

 

何気な〜く左手を握り力を込め、パッと開いてみた。

 

左手の掌に、ポンッと不思議な球が現れた……

 

 

 

「……なっ!!…こ、こりゃあ…どういう事だ!?」

 

 

球から発せられるこの嫌な力は前々から感じてきた…違う!ついさっきも感じた力だ!

 

 

これは……間違いねぇ!

 

 

 

「一体……何で………!」

 

 

 

オレの手に現れたその球は、天使や堕天使しか扱えないとされる、〝光〟の力を帯びていた……!

 

 

 

 




雑談ショーwith作者

八「オイゴラ作者ぁぁぁ!!」

作「はい!?何でそんなに怒ってんの!?」

八「怒りもするだろ!何で電撃体がお披露目されたのに、あの技が出てこねぇんだよ!」

作「あ〜、その事なんだけど、あの技はもうちょっと後に出すつもりなんだ。」

八「あ?もうちょい後?」

作「うん。今回で出しても良かったんだけど、それより次回かその次以降の戦いで出した方がいいかな〜って思ったんだ。」

八「あぁ…そういう事か。けど期待してくれた読者の皆様には申し訳ねぇなぁ……。」

作「そこに関してはもうお詫びしかありません。ですが後の戦いで絶対に出しますので、それまでお待ちください!」


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四十話目

今回は、シュウがガベリと戦っていた間のイッセー陣営の話です。


ではでは、どうぞ〜。


「ユウトォォォォォォ!!!」

 

 

うわっ!ビックリした!

 

僕…木場 祐斗は突然大きな声で名前を呼ばれ、思わず驚いてしまった。

 

戦場で名前を叫ばれるなんて…こんな経験初めてだよ。

 

 

今のはシュウくんの声だったよね?それに、僕の事をユウトって呼ぶのは部長とシュウくんくらいだから、間違いないと思うんだけど……。

 

 

一応、夜中だよ?

 

 

シュウくんは見た目がさっきまでとは違い、髪や目が金色に染まっていた。

さっきの雷の影響かな。

 

 

「…………」

 

 

少し距離があるからかな…彼が最初何を言ったのか聞き取れなかった。

 

でも、唇の動きを読んで、君が言いたかった事は何となく伝わったよ。

 

 

 

「負けるな」…そう言いたいんだね。

 

 

うん、分かったよ。絶対に彼らには負けない。皆の思いを叶えるために!

 

 

 

 

 

 

シュウくんは一度満足そうな顔を浮かべ、彼の前にいるグロンギに向き直った。

 

 

「部長!ケルベロスを葬る事が出来るくらいには倍加できました!」

 

そこでイッセーくんが声を張り上げる。

ケルベロスを倒せるくらいとイッセーくんは言ったけど…、もうここにはケルベロスがいない。

 

 

出来ることといえば…コカビエル、バルパー・ガリレイ、フリード・セルゼンのうちの誰かを狙うか、もう少し倍加を続けるか…だね。

 

「イッセー、まだ倍加を続けなさい。」

 

部長は後者を選んだみたいだ。

 

「ケルベロスを倒せるくらいの力では、到底コカビエル達には通用すると思えないわ。だからお願いね。」

 

「分かりました!」

 

イッセーくんは再び倍加の体制に入った。

 

コカビエル達を倒せる程に倍加が溜まるまで、僕たちは本来の力だけで戦う事になるんだ……。

 

 

 

 

ダンッ!!

 

 

 

 

……地面を蹴ったような音…。

 

恐らく、シュウくんがどこかに飛び去っていった音だと思う。

 

さっきまでシュウくんが立っていた位置には、彼自身はもちろん、グロンギの姿も見当たらなかった。

 

 

「…鳥はあの人間に連れて行かれたか……。」

 

「コカビエル、一体何のつもり?貴方があんな得体の知れない奴と手を組むなんて…」

 

「俺は駒を一つ増やしただけだ。単純な戦闘能力という面では、フリードより使えそうであったからな。

奴はつまらん条件などをよこしてきたが……何も問題はない。」

 

コカビエルは興味なさそうな様子で部長の問いに答える。

 

彼らが一体どんな交渉を結んだのか、少し気になる所だけど……。

 

 

 

 

 

 

「……完成だ。」

 

 

その時、校庭にバルパー・ガリレイの声が響き渡り、五本のエクスカリバーが激しい光を放ち始めた!

 

い、一体何が起ころうとしているんだ……!

 

 

 

 

パチパチパチパチ……

 

 

 

 

コカビエルが空で拍手をしながら口を開く。

 

 

「五本のエクスカリバーが一本になる。」

 

 

バッ!と神々しい光が視界を覆い、僕たちは目を開くことが出来なかった。

辛うじて目を薄めに開いて見ると、確かに五本の聖剣がゆっくりと重なっていくのが分かる。

 

 

光が収まり、やっとの事で目を開くことが出来るようになった…。

 

 

先程まで五本のエクスカリバーがあった場所では、一本の剣が綺麗なオーラを漂わせながら浮かんでいた。

 

 

完全に元に戻ってはいない状態でも、放たれるオーラからはとてつも無い聖の力を感じる……。

 

 

「エクスカリバーが完成した事で、下の術式が完成した。後二十分もすればこの街もろとも崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかない。」

 

っ!? そんな……!後二十分だなんて……!

 

二十分経つ前にコカビエルを倒さないと、この街が……!

 

 

「フリード!」

 

「はいな、ボス。」

 

「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ、五本の力を持ったエクスカリバーの力を見せてみろ。」

 

「へいへい。まったく〜、俺のボスは人使い荒いんだから〜。

でも!チョー素敵なエクスカリバーちゃんを使えるってのは光栄の極みだ〜、みたいな?

そんじゃ、ちょっくら悪魔共をチョッパーしますかね!」

 

これまで夜の闇の奥で待機していたフリードがエクスカリバーを手に取った。

まずは彼が相手になる…。そういう事だろうね。

 

僕が剣を構えると、ゼノヴィアが僕に話しかけてきた。

 

「リアス・グレモリーの“騎士”、共同戦線が生きているのならば、あのエクスカリバーを共に破壊しようじゃないか。」

 

「いいのかい?」

 

彼女からそのような提案がされるとは、意外だった。

僕からすれば願っても無い事だけど、ちょっと驚いたかな。

 

「最悪、私はあのエクスカリバーの核になっている欠片を回収できれば問題ない。

フリードが使っている以上、あれは聖剣であって聖剣ではない。普通の武器と同じさ。使う者によって場合も変わる。……今のあれは、異形の剣だ。」

 

そうか…。彼女がそう考えるなら、僕も何も遠慮することは無い。

一刻も早くあの剣を破壊して、コカビエル戦に備えないと……!

 

 

「くくく……」

 

 

今の笑い声は……バルパー・ガリレイか。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残りだ。正確にはあなたに殺された身だ。悪魔に転生したことで、こうして生き永らえている。」

 

冷静にならないと……。 分かっているのに、彼に対する怒りが収まりそうにもない。

 

「ほう、あの計画の生き残りか。これは数奇なものだ。こんな極東の地で出会うことになろうとは、妙な運命を感じるよ。」

 

彼は嫌な笑みを浮かべながら口を開く。

 

「私はな。聖剣が好きなのだよ。それこそ、夢にまで見るほどまでに憧れていた。幼少の頃はエクスカリバーの伝記に心を躍らせたものだ。だからこそ、自分に聖剣使いの適性がないと知った時は心の底から絶望したよ。

だが、それでも聖剣への未練は捨てきれなかった。次第にその想いは高まり、聖剣を使える者を人工的に作り出す研究に没頭し始めたのだよ。そして、ついに完成した。

くくく…。君たちのおかげだよ」

 

 

僕は今の彼の言葉に強い違和感を感じた。

 

「完成?お前は僕たちを失敗作と断じて処分したんじゃないのか?」

 

僕が実験台にされた時は、聖剣計画は失敗だとされていたはず……。

 

しかし、バルパーは首を横に振り、僕の疑問に答えた。

 

「研究の過程で聖剣を使うのに必要な因子があることに気づいた私は、その因子の数値で適性を調べた。被験者の少年少女全員にその因子はあるものの、どれもこれもエクスカリバーを扱える数値を満たしていなかったのだ。そこで私はひとつの結論に至った。ならば、因子だけを抽出し、集めることはできないか?とな」

 

「なるほど。つまり聖剣使いが祝福を受ける時、体に入れられるのは…」

 

ゼノヴィアが顔を強張らせて口を開く。

 

祝福を受ける……? っ!? まさか!

 

 

「そうだ、聖剣使いの少女よ。持っている者から聖なる因子を抜き取り、結晶を作ったのだ。こんな風にな」

 

そう言って、バルパーは懐から光を発している球体を取り出した。

その球体からは聖の力を感じる…。

 

「これにより、聖剣使いの研究は飛躍的に向上したよ。

それなのに教会の者どもは私から研究資料を奪い、挙句の果てに私だけを異端として排除したのだ。貴殿を見るに、私の研究は誰かに引き継がれているようだ。ミカエルめ。あれだけ私を断罪しておいて、その結果がこれか。まあ、あの天使のことだ。被験者から因子を抜き出すにしても殺すまではしていないか。その分だけは私より人道的と言えるか」

 

バルパーは愉快そうに笑っていた。

 

「…要するに、お前は聖剣適性の因子を抜くために、同志たちを殺したのか?」

 

抑えきれない怒りを込めてバルパーに尋ねる。

しかしバルパーはあっさりと、悪びれる様子もなく答えた。

 

「そうだ。これはその時のものだ。3つほどフリード達に使ったがね。これは最後のひとつだ」

 

「ヒャハハハハ!俺以外の奴らは途中で因子に体がついていけなくて死んじまったけどな!うーん、そう考えると俺様はスペシャルだねぇ」

 

こんな奴らの考えた事のせいで…僕たちは犠牲になったというのか……!

 

「バルパー・ガリレイ…!自分の欲望のために一体どれだけの命をもてあそんできたというんだ…」

 

無意識のうちに、剣を握る手に力が入る。

 

「ふん。そこまで言うのならば、この因子の結晶は貴様にくれてやる。なに、すでに環境さえ整えれば量産できる段階にきているからな」

 

バルパーは興味を無くしたかのように鼻を鳴らし、因子の結晶を宙に放り投げた。

 

結晶が僕の足元まで転がってくる……。

 

僕は屈んでその結晶を拾い、抱きかかえた。

 

あの時の、みんなの顔が思い浮かぶ……。

 

 

 

「みんな…」

 

 

 

 

一筋の涙が僕の頬を伝い、結晶に落ちる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、結晶が淡い光を放ち始めた。

光はだんだん広がっていき、ついには校庭全体を覆う程になった。

 

 

これは……一体………。

 

 

光は少しずつ形を変え、人の形になっていった。

 

 

…まさか……彼らは……!

 

 

 

 

 

 

 

僕と一緒に、聖剣計画の犠牲になってしまった…あの時の……。

 

 

 

 

 

 

 

「皆!僕は…僕は!」

 

僕は目の前にいる、かつての同志たちに向かって叫んでいた。

 

「ずっと…ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていていいのかって…。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが平和な暮らしを過ごしていてよかったのかって…」

 

 

部長に出会ったその時から僕はずっと悩んでいた…。

 

僕と一緒に生きていた皆が死んでいった中で、僕だけが……。

 

 

宙に浮かぶ皆の魂の中の一人が、僕に優しい声で話しかけてくれた。

 

『自分達のことはもういい。キミだけでも生きていてくれ』

 

彼がそう言うと同時に、他の皆が一斉に口を動かし始めた。

 

 

…これは……聖歌……。

 

 

口をパクパクと動かしているだけで声は聞こえないけれど、間違いない。間違えるはずがない。

 

…いつの間にか、僕も彼らと一緒に聖歌を口ずさんでいた。

 

 

僕たちが辛い人体実験の中で、唯一夢と希望を繋ぎ止める手段。

過酷な生活の中で、たった一つだけの生きる糧…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕らは、一人では駄目だった―』

 

『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど―』

 

『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ―』

 

『聖剣を受け入れるんだ―』

 

『怖くなんてない―』

 

『たとえ、神がいなくても―』

 

『神が見ていなくても―』

 

『僕たちの心がいつだって―』

 

 

 

「______ひとつだ」

 

 

 

刹那、エクスカリバーの時とは違い、優しくて神々しい光が僕を包み込んだ……!

 

 

ーーーーーーーー

 

生きたかった。

 

施設から逃げ出し、重い足を引きずりながら必死に走っていた。

 

しかし、喰らってきたダメージが大きく、僕は途中で力尽きてしまったんだ。

 

今にも消え入りそうな意識の中で、それだけの事を考えていた。

 

 

そんな時、彼女が現れた……。

 

 

「あなたは何を望むの?」

 

 

倒れ伏せた僕を抱きかかえ、紅髪の彼女が尋ねる。

僕は、たった一言だけ呟いた……。

 

「______助けて」

 

僕の命を、仲間を、人生を、願いを、力を、才能を……

 

僕の全てを______。

 

 

 

それが僕の、人間としての最後の言葉だった。

悪魔として生きる。それが彼女の願いであり、僕の願いでもあった。

 

それでいいと思っていた。

 

なぜなら僕には、最高の仲間たちがいるのだから。

 

部長、朱乃さん、アーシアさんは、僕が帰ってくるのを待っていてくれた。

 

イッセーくんと小猫ちゃんは、復讐心で一杯だった僕に力を貸してくれた。

 

シュウくんは……叱ってくれた。

 

 

 

けれど、もしも同志たちの魂が復讐を願っているとしたら、僕は復讐心を捨てるわけにはいかなかった。

 

でも、その想いは先ほど解き放たれた。

 

同志たちは決して僕に復讐を願ってはいなかったんだ…

 

 

ーーーーーーーー

 

「…でも、全てが終わったわけじゃない。」

 

僕はそこで顔を上げた。

目の前にいる邪悪を打ち倒さない限り、悪夢は終わらない。

 

僕たちの悲劇は、永遠に繰り返されてしまう!

 

「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕たちが生きる権利を無視されるんだ。」

 

「ふん、研究に犠牲はつきものだと昔から言うではないか。ただそれだけの事だぞ?」

 

バルパーは表情を崩すことなく、淡々と口を開いた。

……やはり、彼だけはここで打ち倒す!

 

 

 

 

「木場ぁぁぁぁぁ!!フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けぇぇぇぇぇ!!

お前はグレモリー眷属の“騎士”で、俺たちの仲間だ!戦え木場ぁぁぁぁぁ!!」

 

 

…イッセーくん……!

 

 

「祐斗!やりなさい!自分で決着をつけるの!エクスカリバーを超えなさい!

私の“騎士”はエクスカリバーごときに負けはしないわ!」

 

 

部長……

 

 

「祐斗くん!信じてますわよ!」

 

 

朱乃さん……

 

 

「…祐斗先輩!」

 

 

小猫ちゃん……

 

 

「ファイトです!」

 

 

アーシアさん……

 

 

 

『負けんなよ、金髪イケメン王子』

 

 

…シュウくん……。

 

 

 

 

 

 

「______僕は剣になる。」

 

……皆、一緒に超えよう……。

 

あの時に達せなかった想いを、願いを!

 

 

「部長、仲間たちの剣となる! 今こそ僕の想いに応えてくれ! 〝魔剣創造〟!!」

 

 

魔の力と聖の力、二つの力が融合し始めた。

 

……僕の神器が、同志たちが教えてくれる。これは昇華だと…。

 

神々しい輝きと禍々しいオーラを放ちながら、僕の手元に一本の剣が現れた…。

 

「______禁手、〝双覇の聖魔剣〟【ソード・オブ・ビトレイヤー】。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるといい!」

 

 

 

 

「…何なんっすかね〜。あんな馬鹿みたいな展開で出てきた駄剣で、このエクスカリバーちゃんに勝つ気でいるのかな〜?

……ウザッテェンだよ!テメェを切り刻んで気分を落ち着かせてもらいますよ!」

 

彼の叫びとともに、僕は剣を手に持って駆け出した。

 

“騎士”の特性であり、僕の得意分野でもあるスピードを用いた戦い方でいこうか!

 

フェイントを何度も入れて彼の視界から逃れ、彼目掛けて一気に剣を振るう!

 

 

ギィィン!

 

 

フリードはエクスカリバーで僕の一撃を受け止めたが、彼のエクスカリバーを覆っていたオーラが僕の剣によってかき消されていく。

 

「っ! 本家本元の聖剣を凌駕すんのか!?」

 

「それが真のエクスカリバーならば勝てなかっただろうね。でも、そのエクスカリバーでは、僕と同志たちの想いは絶てない!」

 

「…チッ!そんなら……伸びろぉぉぉぉ!!」

 

彼が剣先を僕に向けると、エクスカリバーが急に蠢き始め、蛇のように動きながらこちらに迫ってきた。

 

これは…〝擬態の聖剣〟の能力!

 

更には剣先が枝分かれし始め、素早い速度で降り注いでくる。

 

〝天閃の聖剣〟…速度が主な能力のエクスカリバーだったね。

 

四方八方から剣先が僕に突きを放ってくるが、僕はその全てを防いでいった。

 

「なんでさ!なんで当たらねぇ!無敵の聖剣さまなんだろ!?昔っから最強伝説を語り継がれてきたじゃないなかよぉ!!」

 

フリードは焦りの色を見せながら声を荒げる。

 

「なら、こいつでどうだ!!」

 

彼がそう叫ぶと、剣の先端が急に見えなくなった。

なるほど、これは〝透明の聖剣〟の能力だね。見えない攻撃なら当てられると踏んでの選択かな。

 

でも、例え見えなかったとしても、剣から発せられる殺意を感じ取れれば避けることは出来る!

 

「んなっ!?」

 

驚愕の表情を浮かべている彼の横を、フッと何かの影が通りかかった。

 

「そうだ、そのままにしておけよ?」

 

彼の横を通りかかったゼノヴィアは、横殴りでフリードを殴り飛ばす。

その後、彼女は聖剣を左手に持ち、右手を上に向けた。

 

何をする気なんだろう…。

 

 

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ。」

 

そのまま呪文のようなものを唱え出すと、彼女の手の上に小さな歪みが現れた。

彼女はその歪みの中から剣の柄のような物を掴む。

 

 

 

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は開放する。_____“デュランダル”!」

 

デュランダル!?

エクスカリバーと並んで有名な伝説の聖剣で、斬れ味だけなら最強とされる剣を、なぜ彼女が持っているんだ?

 

「デュランダルだと!?」

 

「貴様、エクスカリバーの使い手ではなかったのか!?」

 

バルパーとコカビエルが驚愕の声を上げる。

今回は流石にコカビエルも驚きを隠せなかったみたいだね。

 

「残念だったな。私は元々、デュランダルの使い手なのだ。ただエクスカリバーの使い手も兼任していたにすぎない。」

 

ゼノヴィアはエクスカリバーとデュランダルの二本を構えた。

聖剣の二刀流……。そんな光景を見ることが出来るなんて思わなかった。

 

「バカな!私の研究ではデュランダルを扱える領域までは達してはいない筈だぞ!?」

 

「それはそうだろう。ヴァチカンでも人工的なデュランダル使いは創れていない。」

 

「ならば、なぜ!?」

 

「単純な話さ。私はイリナたちのような人工の聖剣使いではなく、数少ない天然の存在だからだ。」

 

それを聞いて、バルパーは絶句していた。

最初から聖剣に祝福を受けている者に会うことが出来るなんて…。

 

「だが、このデュランダルは使い手の私ですら手に余る暴君でね。触れるものすべてを斬り刻んでしまう。だから常時異空間へ閉じ込めておく事が義務付けられている。それほど危険な物なんだ。

…さて、フリード・セルゼン。お前のおかげでエクスカリバーとデュランダルの頂上決戦ができる。私は今歓喜に打ち震えているぞ。一太刀目で死んでくれるなよ?せいぜいエクスカリバーの力を存分に揮うことだ!」

 

ゼノヴィアの感情の高ぶりに呼応するかのように、デュランダルの刀身が聖なるオーラを放ち始めた。

フリードの持つエクスカリバー以上…。いや、僕の聖魔剣以上の力だ!

 

「そんなのアリですかぁぁぁ!?なにこのあり得ないチョー展開!クソッタレのクソビッチが!そんな設定いらねぇんだよぉぉぉ!」

 

フリードは殺気を向ける先を僕からゼノヴィアに変え、先程と同じ様なやり方で彼女を襲おうとする。

 

ガギィィン!

 

しかし、たった一回の横薙ぎで、エクスカリバーはあっさりと砕かれてしまった。砕かれたエクスカリバーは徐々に姿を現していく。

さらにデュランダルの剣圧は校庭の地面を大きく抉っていた。

 

 

「所詮はこの程度、折れた聖剣ではこのデュランダルの相手にもならないということか…」

 

つまらなそうに嘆息するゼノヴィア。

この一撃…〝破壊の聖剣〟なんて比べ物にならないほど凄まじい物だった。

 

「マジかマジでマジですか!?伝説のエクスカリバーちゃんが木端微塵の四散霧散かよ!酷い!これは酷すぎる!かぁーっ!折れたものを再利用しようなんて思うのがいけなかったのでしょうか?時代はリユース リデュース リサイクルの時代なのに!?それでも僕は人間の浅はかさ、教会の愚かさ、その他諸々いろんなものを垣間見て成長していきたいと思います!」

 

エクスカリバーが砕かれて放心しているのか、フリードの殺気が無くなった!

 

決めるなら今しかない!

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

フリードは咄嗟にエクスカリバーで受け止めようと剣を構える。

 

しかし、バギィィィン!と儚い金属音が鳴り響き、聖剣エクスカリバーは完全に砕け散ってしまった……。

 

 

「見ていてくれたかい?僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」

 

 

聖剣を砕いたその勢いのまま、フリードの身体に剣を振り下ろした…。

 




雑談ショーwith神さん(説明)

八「…禁手ってなんだ?」

神「【バランス・ブレイク】と読み、簡単に言えば神器が進化した力です。使用者の想いによってその力を発現させる……。貴方の世界でいう、ドラ◯ンボールの〝スーパーサ◯ヤ人〟とか、ブ◯ーチの〝卍◯〟の様な物です。」

八「へぇ〜、そんなスッゲェ力を手に入れたんだな、ユウトのやつ。」

神「因みに、兵藤 一誠さんもこの力を不完全ながら発現させました。ライザー戦で使っていた〝赤龍帝の鎧〟です。」

八「あ、あれな。確かにあれも凄かったなぁ〜。」

神「神器というのは、所有者の成長と共に進化する力です。兵藤さんも木場さんも、より優れた力を手に入れる日が来るかも知れませんね。」





八「……ところで…まさかのオレ出番なしかよ。」

神「今回は木場さんの覚醒回ですから、仕方ありませんよ。次回で頑張って下さい。」

八「…そだな。」


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四十一話目

今回のMovie大戦の敵役、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』の声が、まさかのケンドーコバヤシさんとは…。しかもちゃんとラスボスやってるし…。なんか色々驚かされた今日この頃です。

ではでは、どぞ〜


【第三者視点】

 

エクスカリバーを破壊し、フリードを斬り伏せる事に成功した木場は天を仰ぎ、聖魔剣を掴む腕により強く力を込める。

目標の一つを達成した彼の心は、感無量という感情よりも、目標を失った事に対する喪失感に満ちていた。

 

 

「せ、聖魔剣…だと?あり得ない。反発し合うはずの二つの力が混ざり合うなど、ある筈がないのだ…。」

 

一方、木場が発動させた〝双覇の聖魔剣〟に驚きを隠せないでいたバルパーは、一人難しい顔をして聖魔剣の可能性について考え込んでいた。

 

「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらおう。」

 

木場は聖魔剣をバルパーに向け、今にも斬りかかろうとする体制に入っていた。

 

「……そうか!分かったぞ!聖と魔、それらを司る存在の均衡が大きく崩れているとするならば説明がつく!つまり、魔王だけではなく神も_____」

 

 

そこまで口を開いたバルパーの胸を、鋭い光の槍が貫いた。

バルパーは口から血を吐き、そのまま地面に突っ伏した。

 

最早確認するまでもない。バルパーはたった今、殺された_____。

 

「バルパー。お前は優秀だったよ。そこまで思考が至るとはな…。だが、俺はお前がいなくても別にいい。最初から一人でやれる。」

 

嘲笑を浮かべながら空に浮かぶコカビエル。

今の彼の台詞から、ここにいる全員は同じ結論に達した。

 

バルパーを殺したのはコカビエルだ、と……。

 

 

「……ククク…ハハハハ! カァーハッハッハッハッハッ!」

 

 

コカビエルは笑いながら高度を下ろし、グラウンドに足をつける。

 

 

「赤龍帝、もう限界まで力を溜めたのではないか?」

 

コカビエルが言うとほぼ同時に、兵藤の左手にある〝赤龍帝の籠手〟が激しく輝き始めた。

最大まで倍加し終えた…。この輝きは、その事を意味している。

 

不敵な笑みを浮かべ、彼は口を開く。

 

「ならば、それを誰かに譲渡しろ。」

 

「私達にチャンスを与えようというの!?ふざけないで!!」

 

「ふざけないで?ふざけているのは貴様らの方だ。貴様ら程度の力で、俺を倒せると思っているのか?」

 

激昂したリアスを睨みつけるコカビエル。

その眼光は彼女らの身体を一気に射抜き、恐怖を感じさせた。

 

古くから聖書に記されている堕天使の重圧は、はっきり言って先日のフェニックスのそれとは比べ物にならなかった。

 

「…イッセー」

 

リアスが呟くと、今まで後ろに下がっていた兵藤が前に出る。

 

そして左手の〝赤龍帝の籠手〟を構え、叫んだ。

 

 

「ブーステッド・ギア! ギフト!」

 

【transfer!!】

 

 

赤龍帝の籠手から音声が鳴り、倍加していた分の力がリアスに譲渡され、彼女を覆う紅い魔力のオーラが一気に膨れ上がった。

 

ただでさえ“滅殺姫”と呼ばれている彼女に譲渡の力が加わり、眷属達は一目見ただけで塵一つ残ることなく消し飛ばされてしまうのでは…とまで思ってしまうほどであった。

 

 

しかし、コカビエルは……笑っていた。

 

 

「フハハハハハ!!いいぞ!その魔力の波!もう少しで魔王クラスの魔力だぞ、リアス・グレモリー!

お前も兄に負けず劣らずの才を持っているようだな!」

 

心から嬉しそうな笑みを浮かべているその表情は、コカビエルの戦に対する喜びを素直に表していた。

 

「けし飛べぇぇぇぇぇ!!」

 

リアスが渾身の力を込め、最大級の滅びの魔力を撃ち放った。

グラウンドを削りながら、彼女の魔力は真っ直ぐコカビエルに向かっていく。

 

「面白い!実に面白いぞ!」

 

コカビエルは両手を前に突き出し、リアスの魔力に迎え撃った。

真っ正面から彼女の魔力を受け止めるコカビエル……。

 

「ぬゥゥゥゥゥゥゥゥん!!」

 

そして、彼女の魔力は徐々に勢いを失い、とうとう上空に軌道を変えられてしまった。

その光景に全員が旋律する。

 

しかし、コカビエルも流石に無傷では済まなかったようであった。

身に纏うローブが所々破れ、手からは血を流している。

 

一方のリアスも、今の攻撃で疲労が溜まったのか、肩で息をしていた。

 

もう一度兵藤が全開まで倍加したところで、彼女に譲渡する事は出来ないだろう。

 

残された手は、朱乃、木場、ゼノヴィア、小猫の内の誰かに譲渡する。或いは自分自身を強化するかのどちらかである。

 

しかし、どれも決定打に欠ける事は一目瞭然。彼らは暫くの間膠着していた。

 

 

そして、一気に朱乃が仕掛ける。

 

 

「雷よ!」

 

彼女はコカビエルに向けて、魔力がこもった雷を落とす。

先程の雷とは違い、攻撃的な雷であった。

 

しかし、彼女の雷はコカビエルの黒き翼の羽ばたきで打ち消されてしまった。

 

「俺の邪魔をするか、バラキエルの力を宿すものよ!」

 

「私をあの者と一緒にするなッ!」

 

コカビエルの挑発のような口調に対し、珍しく声を荒げる朱乃。

 

“バラキエル”…コカビエルと同じ、堕天使の幹部の一人で、“雷光”の異名を持つ雷の使い手だ。

単純な戦闘力では、堕天使の総督であるアザゼルに匹敵するとまで言われている。

 

 

「まさか悪魔に堕ちていたとはな!本当に愉快な眷属を持っているな、リアス・グレモリーよ!

赤龍帝、聖剣計画の生き残り、バラキエルの娘!

ハハハ!お前も兄に負けず劣らずのゲテモノ好きのようだ!」

 

「兄の、我らが魔王への暴言は許さない!そして何よりも、私の下僕への侮辱は万死に値するわッ!」

 

「ならば滅ぼしてみろ!魔王の妹!紅髪の滅殺姫よ!お前が対峙しているのは、貴様らにとって長年の宿敵!これを好機として見なければ、お前の程度が知れるというものだ!」

 

コカビエルはリアスの怒りを鼻で笑い、挑戦的な発言をする。

 

それと同時に、眷属達は一気に仕掛けた。

 

最初に仕掛けたのはゼノヴィア。彼女は手に持っていたデュランダルでコカビエルに斬りかかる。

 

迎え撃つように、コカビエルは片手に光の剣を創り出した。

 

 

ギィン!という金属音が鳴り響く。

 

 

「フン!デュランダルか!一度壊れたエクスカリバーとは違い、こちらの輝きは本物だ!しかぁし!」

 

「なっ…!」

 

コカビエルがもう片方の手から波動を放ち、ゼノヴィアを宙に浮かせる。

 

そして無防備となった彼女の腹部に蹴りを入れた。

 

「ぐっ!」

 

「所詮は使い手次第だ!娘!お前ではまだデュランダルは使いこなせんよ!

先代の使い手は、それはそれは常軌を逸するほどの強さだったぞ!」

 

ゼノヴィアは空中で体勢を立て直し、地面にうまく着地すると、再びコカビエルに斬りかかっていった。

 

今度は木場も合わせ、同時に斬りかかる。

 

「コカビエル!僕の聖魔剣であなたを滅ぼす!もう誰も失うわけにはいかないんだ!」

 

「ほう!聖剣と聖魔剣の同時攻撃か!おもしろい、来い!それくらいでなければ俺は倒せんぞッ!」

 

コカビエルは剣を持っていなかった手に二本目の光剣を創り、二人の剣戟を捌いていく。

魔力だけでなく、剣の技量でもコカビエルのほうが上のようだ。

 

「そこ!」

 

コカビエルの後方から小猫が殴りかかるが…

 

「甘いわ!」

 

黒い翼が刃物と化し、小猫を容赦なく斬り刻んだ。

小猫は地面に叩きつけられ、体から鮮血を噴き出す。

 

「小猫ちゃん!」

 

「よそ見をするとは余裕だな!」

 

小猫の方に注意を向けたことで、木場に出来た一瞬の隙を突くコカビエル。

 

木場はギリギリのところでコカビエルの光の剣を受け止めたが…

 

「なっ!?」

 

ビキッ!と音を立て、聖魔剣にひびが入った。

剣の堅強さは持ち主の意志次第。

つまり、持ち主の集中力が一瞬でも途切れれば、その間だけ硬度が減少してしまうのだ。

 

「はぁ!」

 

コカビエルは全身から衝撃波を放ち、祐斗とゼノヴィアをあっさり吹き飛ばしてしまう。

 

肩で息をしながら体制を整える中で、一同は改めて実力の差を思い知っていた。

 

しかし、弱気になっている場合ではない。

この戦いに勝てなかった彼らに待っているのは“死”

 

それが死の戦い。すなわち“死戦”なのだ。

 

 

地面に倒れる小猫のもとに一誠とアーシアが駆け寄り、アーシアが神器を発動させる。

 

少しずつ、小猫の傷が癒えていった。

 

これで一命は取り止められるだろう。

 

「まだだ!聖魔剣よ!」

 

再び立ち上がった木場は、コカビエルの周囲に多数の聖魔剣を創り出した。

これで相手の動きを制限できる。

 

あとは一気に攻めたてるのみ……。そう思いたかった。

 

「これで囲ったつもりか?甘いな!聖魔剣使い!」

 

不敵な笑みを浮かべたコカビエルは、十枚の黒翼を刃へと変え、周囲の剣の刀身を全て砕いた。

 

刃の破片が飛び散る中を潜り抜け、木場が斬りかかるが、コカビエルは聖魔剣を右手の人差し指と中指だけで受け止めてしまった。

 

「やはりこんなものか」

 

コカビエルは溜息をついた。

 

受け止められた聖魔剣はぴくりとも動かせないでいる。

 

木場は二本目の聖魔剣を創り出して振るうが、それも右手の時と同じように左手の二本の指で挟まれる。

 

そして最後に、木場は口に三本目の聖魔剣を創造して噛み締め、勢いよく首を振った。

 

その攻撃は流石に想定外だったのか、コカビエルは後方に飛び退いた。

 

若干木場の斬撃の方が早かったのか、コカビエルの頬に一本の薄い切り口がついていた。

 

「……なるほど、油断大敵という奴か。ならば……!」

 

コカビエルは腕をバッ!と天に掲げた。

 

すると、上空に戦いが始まった時のと同じくらいの大きさの槍が現れた。

 

「これで決めるとしよう!」

 

勢いよく腕を振り下ろすと、その槍が真っ直ぐに眷属達の元へと飛んでいき……

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォ!!!

 

 

 

 

 

 

凄まじく大きな爆発を巻き起こした。

 

 

 

 

 

静かな闇夜の空気に爆音と悲鳴が響き渡る。

 

 

 

爆発によって発生した土煙が晴れた時には、後ろに下がっていたアーシアを除く全員が倒れ伏せていた。

 

「こんなものか…」

 

その姿を見て、コカビエルは退屈そうに嘆息を漏らした。

 

 

「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、おまえたち神の信者と悪魔はよく戦う」

 

突然のコカビエルの発言に、全員が眉を顰めた。

 

「…どういう…こと?」

 

怪訝そうな口調でリアスが訊くと、コカビエルは盛大な高笑いをあげた。

 

まるで、無知な者をあざ笑うかのように。

 

「フハハ!フハハハハハハハハハッ!そうだった、そうだったな!お前たち下々まであれの真相は語られてなかったな!

事のついでだ、教えてやろう!先の三つ巴の戦争で四大悪魔だけでなく…

 

 

 

 

神も死んだのさ!」

 

 

『_____ッ!?』

 

その言葉に全員が耳を疑った。

 

「知らなくて当然だ。神が死んだなど、誰に言える?人間は神がいなくては、心の均衡と定めた法も機能しない不完全な者の集まりだぞ?

我ら堕天使、悪魔さえも下々に真実を伝えるわけにはいかなかった。神が死んだという情報が、どこから漏れるか分かったものじゃないからな。

三大勢力の中でもこの真相を知るのはトップと一部の者たちだけだ。先程、バルパーが気づいたようだがな…。」

 

全員が信じられない様子で固まっていた。

この事実は、それ程までに衝撃的だったのだ……。

 

「…ウソだ。…ウソだ…」

 

「…主は、いないのですか?…では、私たちに与えられる愛は…」

 

ゼノヴィアとアーシアが、二人して絶望した顔に変わる。

今まで信じてきた、大切だった存在が否定されたのだ。そうなってしまうのも致し方ないだろう。

 

「そうだ。神の守護、慈愛などなくて当然なんだよ。神はすでにいないのだからな。

ミカエルはよくやっているよ。神の代わりに天使と人間をまとめているのだからな。ただ、そこの聖魔剣の小僧が聖魔剣を創り出せるのも、聖と魔のバランスを司る神と魔王がいないからこその現象なのだがな。」

 

コカビエルの言葉を聞き、ついにアーシアがその場で崩れ落ちてしまった。

 

「アーシア!アーシア、しっかりしろ!」

 

兵藤が必死に彼女の名を呼び続けるが、当の本人は小刻みに震えているだけであった。

 

「正直、もう大きな戦争など故意にでも起こさない限り、再び起こることはない。それだけ他のどの勢力も先の戦争で泣きを見たという事だろう。

戦争の元凶でもあった神と魔王が死んだ以上、継続は無意味だと判断しやがった。おまけにアザゼルの野郎も、戦争で部下のほとんどを亡くしたせいか『二度目の戦争はない』などと腑抜けた宣言をしやがった。

一度振り上げた拳を下ろすだと?ふざけるなッ!あのまま続けていれば、俺たちが勝っていたかもしれないのだ!それを奴は、奴はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_______下らん」

 

突如、コカビエルの演説を断ち切るように、第三者の声が発せられた。

 

 

「ここは私が住んでいる町だ。貴様の勝手な都合で崩壊などされては困る。」

 

声の持ち主を探し、コカビエルは校庭を見回した。

そして、校門とは別の方角の暗闇から一つの人影が歩いて来ているのを見つけた。

 

よく目を凝らすと、その人影は人間のそれとは大きく異なっているのが分かる。

 

校庭を照らす光によって徐々にその姿がはっきりと映り始める…。

 

そこに立っていたのは、先程ガベリとの戦いを終わらせたばかりの男、ゴ・ガドル・バであった。

 

 

「…何者だお前は」

 

「この町に住む…珍生物だ……」

 

彼は虚しそうに一言だけ答えた。

その様子を見て、一部の眷属達の頭に「あ、気にしてたんだ」という文章が浮かんだのは言うまでもないだろう。

 

ガドルは倒れている眷属達に視線を送ると、少しだけ顔を顰めた。

 

 

「…よくもここまでやってくれたものだ」

 

 

誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟く。

 

ガドルは真っ直ぐに木場の元へ近づき、彼の目の前で立ち止まった。

その場でしゃがみ込み、木場の顔を眺める。

 

そして、一瞬だけ嬉しそうな様子を見せた。

 

「…いい目をするようになったな、少年」

 

「…あ、貴方は……」

 

「今は口を開くな、取り敢えず回復に専念した方が良い。

傷の治療を頼みたいのだが、あの金髪の少女は…今は無理そうだな。

致し方ない。このまま自然に回復するのを待て。

後は私に任せるといい。この町は住み心地がいいのだ。あの輩の思い通りにさせるつもりはない」

 

そう言って彼は足を伸ばし、立ち上がった。

顔をコカビエルに向け、応戦体制をとる。

 

「…一応断っておくが、私は個人的な理由で奴と戦うのだ。貴様らの事情がどういったものかは知らんが、それならば何も悪影響を与えることはないだろう。」

 

目はコカビエルに向けたまま、恐らくリアスに向かってコソッと呟く。

ガドルの中身である八神は、悪魔と堕天使の間にある難しい関係を一応は理解しているため、念のために伝えておいたのだろう。

 

彼は返事を聞くこともなく、コカビエルの元へ歩み寄っていく。

 

「俺と戦うだと?お前が俺に勝って止めるとでもいうのか?

お前がどこの誰なのかは知らんが、人間界でヌクヌクと静かに過ごしているような奴が、この俺に勝てるとは思えんぞ?」

 

「……貴様にいい諺を教えてやろう」

 

余裕そうな顔で笑みを浮かべるコカビエルに、ガドルは鋭い視線を向けた。

 

その目の色が青から紫に変わる。

 

 

「『井の中の蛙 大海を知らず』…貴様のような者にピッタリな諺だ。

世界は広い。貴様より強い奴など、そこら中にいる。油断していると痛い目を見るぞ?」

 

「……ほぅ、言うじゃないか」

 

彼の挑発的な物言いに、コカビエルは怒りを見せた。

 

コカビエルは手に光の剣を創って握り、ガドルは胸の石を一つちぎって己が剣に変える。

 

それぞれが自分の獲物を手に取ると、ガドルが一気に走り出した。

コカビエルの元に辿り着くと同時に、互いの獲物を振り下ろす。

 

それぞれの獲物がぶつかり合い、キリキリと音を立てながら均衡した状態に入る。

所謂、鍔迫り合いであった。

 

「あそこまで自信満々に言ってくれたんだ。あいつらよりも楽しませてくれるんだろうな?」

 

「…さぁ、どうだろうな」

 

そう言ってガドルは鍔迫り合いの状態から一転。剣を持つ手に力を込め、コカビエルの剣を弾いた。

その勢いのまま横薙ぎに剣を振る。

 

コカビエルはその一撃を受け止めようと、光の剣を縦に構えたが……

 

 

 

ガドルの剣はバギィン!と光の剣を粉砕してしまった。

 

 

その剣先は止まることなくコカビエルの胸元へ伸びていったが、ギリギリのところで後ろに飛んだため、斬られることはなかった。

 

 

「……この!!」

 

次に彼は両手に剣を創り出した。

剣を手に持ち、ガドルに向かって飛びかかる。

 

ガドルの一本の剣、コカビエルの二本の剣が幾度もぶつかり合い、校庭中に金属音が鳴り響く。

 

「…フンッ!」

 

そしてガドルは一本の剣をうまく操り、二本の剣を同時に絡ませることに成功。力一杯に振り下ろし、コカビエルの手から剣を離させた。

 

カランカランッと音を立て、コカビエルが掴んでいた二本の剣が地面を滑る。

 

ガドルは剣を地面に突き刺し、軸にするように回転。驚いた顔をするコカビエルに向けて蹴りを放ち、吹き飛ばした。

 

ドザザッと地面を転がるコカビエルを一瞥し、ガドルは溜息混じりに口を開く。

 

「二本使ってもこの程度か。私が知ってる者の中には、もっと上手い二刀流の使い手がいたぞ?」

 

「っ…調子に乗るな!!」

 

憤慨したコカビエルは声を荒げ、片手を空に掲げた。

すると、一本一本は細いが、無数の光の槍が空に現れる。その切っ先の全てがガドルに向けられていた。

 

「…これは…」

 

「さぁ、防いでみるがいい。お前がその一本の剣でどこまで耐えられるか、見せてもらおうじゃないか!」

 

 

コカビエルの手が降ろされると、空に浮かぶ光の槍が一気に放たれた。

 

ガドルは一本の剣で飛んできた槍を打ち落としていく。

幸い彼の後ろには校庭が広がるだけであったので、彼に向かって飛んできた槍を弾くだけの作業だった。

 

だが、やはりその全てを防ぐ事は難しいようで、時々は身を屈めたりする事で当たりそうな槍を躱している。

 

「…ならば!」

 

流石に一本では捌ききれないと判断したのか、片方の手で槍の大群を弾きつつ、もう一方の手を胸の石に伸ばす……

 

 

 

「そこだ!!」

 

だが、その事をコカビエルは見逃さなかった。

 

他のどの槍よりも速く、太い槍が投擲される。

 

「なっ!…クッ!」

 

すんでのところで躱すことが出来たが、その際に腕を石から離してしまった。

 

「フハハ! やはりな! お前はその石を取らなければ剣を作ることが出来ないのだろう? ならばするべき事は簡単だ! その石を取らさせなければいい!」

 

コカビエルは高笑いをあげた。

 

彼の言っていることは間違いではない。確かに石を取らなければ、ガドルは剣を創り出す事が出来ない。

もし地面が硬い物質で作られていれば、神器の能力で武器にすることもできるが、生憎今は土の地面。武器にしたところで、その威力は知れている。

 

「後はお前が、この槍の大群にやられていくのを見届けるだけだ」

 

コカビエルの後ろから更に多くの槍が出現。再びガドルの元へ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

「……ならば、やり方を変えるとしよう」

 

 

ガドルがそう呟くと、目の色が更なる変化を遂げた。

 

「あれ?」

 

そこで兵藤が疑問の声を漏らす。

 

「どうしたの?イッセー」

 

「いや…あいつの目が……あんな色になるなんて事あったかな?って思って……」

 

そう。今の彼の目は赤でもなければ青でも緑でも紫でもない。

金色であった。

 

 

「ハァァァ……」

 

 

そして、彼の身体を包み込むように電流が迸り、姿が変わり始めていった。

 

すると、彼が持っていた剣にも変化が現れる。

 

大元の形は変わっていないが、金色の装飾がかかったようになり、刀身が輝きを放っていた。

 

“電撃体”…彼はその形態に姿を変えたのだ。

 

 

「…姿が変わったくらいで、この状況が何か変わるわけでもあるまい」

 

余裕の笑みを崩さないコカビエル。

 

 

だが、その次の瞬間には、彼の顔が驚きに染まることになった。

 

 

フッ

 

 

まずは一瞬、彼の姿が視界から消える。

 

「な! ど、どこに……!?」

 

 

 

ズガガガガガガガッ!!

 

 

 

そう思った頃には、全ての槍が一本残らず叩き壊されたのだ。

 

 

唖然とした顔を浮かべるコカビエルと眷属達。

 

 

そして、コカビエルが気づいた時にはガドルが目前まで迫ってきていた。

 

慌てて光の剣を創り出すも、ガドルの手によってあっさりと砕かれてしまう。

 

無防備となったコカビエルの胴体に、ガドルは思いっきり剣を振り下ろした。

 

ズバンッ!と嫌な音とともにコカビエルの肉が裂かれ、彼の鮮血が吹き出た。

 

「グァァ!!」

 

悲痛の叫びをあげた彼の腹部をガドルはすかさず殴り飛ばす。

 

コカビエルは腹を抑え、苦しそうに蹲っている。

 

「…ク、クソッ!!」

 

そして翼を広げ、空に飛び上がった。

空からの攻撃には対応できないのでは…そう思っての行動かもしれない。

 

だが、すでにガドルは校庭から姿を消しており……

 

 

 

 

コカビエルの背後を取っていた。

 

「なっ!?」

 

「まずはその羽、貰うぞ」

 

ガドルは無表情に、持っていた剣を振り下ろす……

 

 

 

 

 

 

ザシュッ!

 

 

 

 

 

「_________!!」

 

 

翼をもがれたコカビエルは、声にならない悲鳴をあげながらそのまま不時着、ドスンッ!と地面に倒れ伏せた。

 

一方のガドルはスタっと着地している。

 

「お、俺は…戦争を始めるのだ……。戦争に勝って、俺が世界を支配するのだ……!」

 

フラフラとした足付きで、必死に立ち上がろうとするコカビエル。

 

「…哀れだな」

 

そのコカビエルの様子に、ガドルは哀れみの視線を向けていた。

 

「そんな事をしたところで、得られるのは単なる自己満足だけだ。貴様が望んだ通りの結末など決して起こりはしない……。

それにも気が付かない時点で、貴様には世界を統べる器などない」

 

彼はそこで剣を捨てた。

カランッと音と共に、剣が地面に倒れる。

 

「せめて…私が終わらせてやる」

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 

 

自暴自棄になったコカビエルは、両手に何本目かの剣を掴んで叫ぶ。

 

 

 

ガドルは両腕の脇を締め、走り出した。

 

一歩一歩踏み出すごとに、バチッと電気が流れているのが分かる。

 

そしてコカビエルの数メートル先の辺りで勢いよく飛び上がる。

 

両足を前に突き出し、回転を加えながら、彼は電撃を伴った蹴りを繰り出した!

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

その蹴りはコカビエルの胸に命中、彼を学園の壁まで蹴り飛ばした。

 

ズドォン!と音を立て、コカビエルが学園の壁に激突。そのまま壁を突き破ってしまった。

 

ガラガラガラッと大きな音を立て、学園の一部が崩れ落ちていく。

 

 

 

しかし、蹴り飛ばされたコカビエルの身体は、もう再び起き上がることはなかった。

 

 

堕天使の幹部が打ち倒され、街の平和が守られた瞬間だった……。

 

 




雑談ショーwith兵藤

八「これで戦いも終わり、か……」

兵「あぁ、色々あったけど、何とか皆無事で終わってよかったよ。」

八「色々といえば、まだ次回もすったもんだあるらしいな。お前のライバルキャラとか出てきたりするってさ。」

兵「ラ、ライバルキャラ!? そんな奴いるのかよ……」

八「強い、冷血、エロくない、その他諸々__成る程、主人公とは正反対。正にライバルキャラと言える人材だな。」

兵「あれ?色々と馬鹿にされた気分……」


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四十二話目

お気に入り数が三百件達成…本当に皆さんありがとうございます!

まだまだ先は長いですが、頑張っていこうと思います!


 

オレの(さっき考えついた)必殺技を喰らったコカビエルは勢いよく学園の壁に衝突。そのまま壁を突き破り、学園の一部だった瓦礫に埋もれていった。

 

流石にもう立ち上がることもないだろう。

 

 

……ふぅ、案外うまくいったな。

 

前世の時からずっと憧れていた〝必殺キック〟なるものをやってみたくて、見よう見まねでやってみたんだが…。ハハッ、スゲェ威力だ。

 

一応ユウスケのキックに無かった要素って事で回転を加えてみたんだが……どうだろ、強そうかね?

 

 

 

「少しいいかしら?」

 

後ろから声をかけられたので、後ろを振り向く。

 

そこにはやはりと言うかなんと言うか、部長が立っていた。

 

この姿のオレにも普通に話しかけるのって、この人とイッセーくらいのもんじゃね?

 

 

「また貴方に助けられたわね。ありがとう。」

 

「勘違いするな。私はこの町が壊されるのを防ぐ為に来ただけだ。」

 

「そう?それでも助けられたのは事実なのだから。」

 

「……フン」

 

オレは部長の声に素っ気なく返す。

 

いやぁハッハッハ……慣れませんなぁ、女性からお礼を言われるのは。どんな顔をすればいいのか全く分からん。

 

 

 

 

 

…パチチッ…パチンッ…パツン……

 

 

 

 

……何だ今の音。みっともねえ音だったが…。

 

 

「す、姿が戻った……?」

 

あ?なんだよイッセー。

戻ったって、一体何のこと………

 

 

……なるほどね

 

 

 

 

 

視線を下に向けたオレの目に、さっきまで金色に輝いていたオレの胸板が元の色に戻っているのが映った。

 

 

これは…電撃体が切れたって事か?

 

おっかしいなぁ。別に解除したつもりないんだが……。

もしや、制限時間付きか?

 

…要研究だな。帰ったら修行スペースでも作ろうかね〜。

 

 

 

「…なぁ、お前って金色の目になる事あったっけ?」

 

おぉっと鋭いなイッセー。

けど、ちゃんと理由も考えてるぜ?

 

「…先日、教会の中で少年と会った時の話だ。奴の翼を掴んでいた私は、そのまま奴と共にこの町の発電所なる場所に落下した。

そこで電撃のエネルギーを受け取り、この力を手に入れたのだ。」

 

以上、〝怪人態のオレが電撃の力を手に入れた理由〟です。

 

事実は違うけども、どうよ。しっかり筋が通ってるだろ?

 

ほら、イッセーも納得したような顔をしてる。

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、学園はどうしようかしら……」

 

 

……部長が虚ろな目で崩れ落ちた学園を眺めている……。

 

…そんな目で見ないでくれ!やり過ぎたって事はオレも重々承知しているんだ!

 

「す、すまん……」

 

「気にしなくていいわ。

私の友人の中に、修理とかの仕事にうってつけな能力を持った子がいるから、その子に頼むわね」

 

「……そうか」

 

 

あぁ〜、部長の優しさに感激〜。

 

 

と言うわけで、この八神 柊!後でバチッ!と修理してみせますよ!

 

貴女が言ってるその子って、どうせオレの事だろ?ちくしょうめ。

 

 

 

……ま、丁度いい罰ゲームか。

 

 

 

 

 

んじゃ、さっさと姿眩ませて戻るとしますかね〜……

 

 

オレは学園の敷地の外に身体を向け、さっきの廃工場へと足を進めていった……

 

 

 

が、突如空から聞こえた声に足を止めることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々面白い事になっているようだな」

 

 

 

 

 

 

誰の声なんだ?と思った矢先に、空から何かが急降下で落ちてきた!

 

おいおいおい!どこの誰だか知らねぇけど、そんな勢いで落ちてきたら真っ逆さまに…!

 

しかし、オレの考えとは裏腹に、落下してきたそれはフワッと着地。ズシンともドシンとも、それどころかスタっとも音がしなかった。

 

 

 

 

…龍?

 

 

それは何か鎧のようなもんを纏ってるんだが、何て言えばいいんだろうか……。

 

そう、龍を模したような鎧なんだ。

 

 

一点も汚れが見当たらない、まさに純白の色をした全身鎧。所々に宝玉が埋め込まれており、八枚の光の翼が綺麗に輝いていた。

 

 

これは……まさかっ!

 

 

 

 

 

「〝白龍皇〟〝白い龍【バニシング・ドラゴン】アルビオン〟」

 

 

部長がその名を口にした。

 

やはりか! 龍を模した鎧って時点で何となくそんな気がしてたんだ!

 

イッセーが持つ〝赤龍帝の籠手〟に眠るドラゴン〝赤い龍 ドライグ〟とは全く対になる存在だって聞いた。

 

〝白龍皇の光翼〟【ディバイン・ディバイディング】という神器に眠っており、倍加と譲渡の力を持つ〝赤龍帝の籠手〟とは真逆の力を持っているってさ。

 

確か……相手の力を半減させて、その分の力を自分の糧にする能力だっけ?

 

 

目の前のそいつ…白龍皇は鎧を纏っている事から予測するに、禁手を使っているんだろう。

 

 

 

……こいつ…強いな。それこそ、コカビエルなんざ問題ねぇくらいに……。

 

 

 

「まさかコカビエルが倒されるとは……。フフフ、アザゼルが知ったら驚きそうだ」

 

白龍皇は面白そうな笑みを浮かべ、コカビエルの体があると思われる校舎の中へ入っていった。

その後、コカビエルの体を肩に担いだ形で外に出てきて、フリードの体も拾い上げる。

 

こっちには余り興味を示さないところを見る限り、奴らを回収しに来ただけって事なのか?

 

そしてオレの前を通り過ぎろうとした時……奴はオレの顔を見て笑みを浮かべた。

 

「そうか、お前が……。いずれお前とも戦ってみたいものだ」

 

あ、そう? 残念、オレは勘弁ですわ。

 

 

 

二人の体を持ち上げた白龍皇はその翼を広げ、どこかへ飛び去っていこうとした。

 

何事もなく終わりそうだな……。安心安し

 

 

《おう、無視か?白いの》

 

 

んおおぅっ!! イッセーの左腕が勝手に喋った!?

 

ま、まさかコレが……〝赤龍帝の籠手〟に宿る〝赤い龍 ドライグ〟なのか……?

 

《起きていたか、赤いの》

 

て事は、こっちは〝白龍皇の光翼〟に宿る〝白い龍 アルビオン〟って事か。

 

《生憎だな。せっかく出会ったのにこの状況では》

 

《いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある》

 

《しかし、白いの。以前のような敵意が丸っきり伝わってこないが?》

 

《赤いの、そう言うそちらも敵意が段違いに低いではないか》

 

《フッ。お互い戦い以外の興味対象があるということだな》

 

《そういうことだ。しばらくの間は独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろう?また会おう、ドライグ》

 

《それもまた一興か。じゃあな、アルビオン》

 

ドラゴンのお二方は互いに話し合い、別れの挨拶を済ませた…。

 

「ちょ!ちょっと待てよ!一体どういう事なんだ!お前は一体誰なんだよ!」

 

しかし、状況が全く分からない赤龍帝ことイッセーが声を張り上げる。

 

そんなイッセーにむけて、白龍皇は一言だけ残していった。

 

「全てを知るには力が必要だ。強くなれよ、いずれ戦う宿敵くん」

 

その後は最初に来た時と同じようにシュバッ!とどこかへ飛び去っていく。

 

 

…何だったんだよ、今の……

 

 

…まぁとにかく!これでやっと全て終わったんだな……。

 

 

 

 

「やったな!色男!」

 

バルパーの死体を憂いの表情で眺めるユウトの頭をイッセーが叩き、笑顔で声をかける。

 

「へぇ、これが聖魔剣か〜。黒と白が混ざってて綺麗なんだな〜」

 

「イッセーくん、僕は……」

 

「まぁ、今は細かいことは言いっこなしだ。取り敢えず一旦終了でいいだろ?聖剣も、お前の仲間のこともさ。」

 

あぁ、イッセーの言う通り。

 

これからもまだバルパーの研究を引き継いだ奴とかいるだろうから、まだ聖剣計画そのものは終わっていない。

漫画風に言うなら、俺たちの戦いはこれからだ〜ってとこだろうさ。

 

けど、この場はここで終わらせてもいいだろう。

 

 

「…木場さん。また一緒に部活できますよね?」

 

アーシアが小声で尋ねる。

 

まだ内心では神が死んだって事にショックを抱えてるだろうに、もうユウトの心配が出来るなんてさ……。

 

優しいヤツだよ、ホント。

 

 

「祐斗」

 

お、最後はやっぱり部長だな…。

 

「よく帰ってきてくれたわ。それに、禁手だなんて、本当に誇らしいことよ。」

 

「…部長。僕は皆を、僕を救ってくれた貴女を裏切ってしまいました…。お詫びする言葉も見つかりません……。」

 

ユウトは心底反省しているのか、声が若干震えていた。

 

そんなユウトの頭を優しく撫でる我らが部長……

 

「でも、貴女はこうして帰ってきてくれた。それだけで十分。

…彼らの想いを無駄にしたらダメよ?」

 

「部長…!」

 

ユウトの頬から一滴の涙が溢れ落ちる。

 

「はい…!僕は改めてここに誓います。木場 祐斗はリアス・グレモリーの眷属〝騎士〟として、貴女と仲間達をお守りします……!」

 

「えぇ、ありがとう。これからもよろしく頼むわ」

 

 

……いい雰囲気だな…。

 

 

ほんじゃま、オレもこの空気に入りてぇし、さっさと帰るとしますかね〜…

 

 

「…それから……」

 

 

? ユウト?

 

オレが帰ろうとしたのに気がついたのか、ユウトがオレの方を向いた。

 

 

「貴方にもお礼を言わせてください。

貴方のおかげで、僕は大切な仲間達を失う事がありませんでした。

それに、皆を守る剣になる為のヒントを、貴方から得られたような気がします。」

 

 

…そうきたか、このイケメン王子。

 

 

くそ〜。なんでそんな小っ恥ずかしい事を平然と言えんだよ〜。

聞かされてるこっちの身にもなって欲しいってもんだぜ全く……。

 

オレは頬をポリポリ、小さな声で答えた。

 

「私は少年に特に何もしていないと思うのだが……まぁ、そのヒントを活かすか殺すかはお前次第さ。」

 

……こんなもんでいいかな?

 

「はい。ありがとうございます。」

 

 

だからやめろっての恥ずかしい。

 

 

 

 

……気まずいし、とっとと戻るとすっか……!

 

 

 

 

俊敏体に姿を変え、今のオレの最高速度でガベリと戦った廃工場へ向かった。

 

周りの景色がすごい勢いで変わり、オレはいつの間にやら工場のど真ん中に立っていた。

 

ここなら誰も見てねぇし…よっ!

 

 

人間態に姿を戻すと……一気に身体に溜まった疲労がオレを襲う。

 

 

ハァ〜…身体中がギシギシいっているぜ。電撃体って、他の形態より体力使うのかもな…。

 

 

 

少し腕を回したりして体を慣らした後、もう一度学園に戻る。

 

 

そこそこ怪我もしてっから、長期戦になったって言っても通じそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長〜! こっちも終わりましっ!?」

 

学園に着いて、皆の元へ駆け寄るオレを待っていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペシーン ペシーン

 

 

 

 

 

「お疲れ様。さっそくで悪いのだけど、仕事を頼んでもいい?」

 

 

 

 

 

ペシーン ペシーン

 

 

 

 

 

「え、えぇ……何なりと……」

 

 

 

 

 

ペシーン ペシーン

 

 

 

 

 

「学園の一部が壊れちゃったの。直してくれないかしら?」

 

 

 

 

 

ペシーン ペシーン

 

 

 

 

 

「りょ、了解しました……お姉様……」

 

 

 

 

 

ペシーン ペシーン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……部長にケツを叩かれているユウトの図だった。

 

心なしか、部長の手が紅いオーラに包まれてるような……

 

 

 

 

 

……うん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまでの雰囲気カムバァァック!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==============

 

コカビエル襲撃事件から数日後。この日は俺たちオカルト研究部が久しぶりに登校する日だ。

 

俺、兵藤 一誠はアーシアと並んで部室に向かっている。隣のクラスには木場もシュウもいなかったから、多分二人とも先に行ってるんだと思う。

 

「失礼しま〜…す……。」

 

扉を開けた俺は、驚くべき人物の姿を発見した。

 

「や、赤龍帝」

 

……ゼノヴィア!?

なんで!? なんでゼノヴィアがここに居るんだ!?

 

ゼノヴィアは俺の様子を見て面白そうな顔を浮かべると……

 

 

バサッ!

 

 

と、背中から見慣れた翼を生やした……。

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

なんで!? なんでゼノヴィアから悪魔の羽が生えるんだ!?

 

「既に神がいないって知ったからね。破れかぶれでリアス・グレモリーから余った〝騎士〟の駒を頂いて悪魔に転生したんだ。で、ついでにこの学園への編入もさせてもらった。

今日からこの学園の二年生で、オカルト研究部の一員だ。よろしくね、イッセーくん♪」

 

「いや、真顔で可愛い声を出すな」

 

「ふむ、イリナの真似をしてみたのだが、上手くいかないな……。」

 

 

おい俺!動揺しているのか?なんだよ今の中途半端なツッコミは!

 

というか、いいのか?貴重な駒を使っちゃって。

 

「デュランダル使いが眷属にいるのは心強いわ。これで祐斗と一緒に剣士の二翼の誕生ね」

 

 

……いいんだ。

 

でも、確かに安心感は違うよな。伝説の聖剣使いが味方についてくれるなら、これからの戦いにも優位に働くと思うし。

 

「…けど、思い切ったことをやったよな」

 

「そう、そこなんだ。私はもう悪魔だ。後戻りはできない。

いや、でもこれで本当に良かったのか?いやいや、神がいない以上、私の人生は破綻したわけだ。いやいやいや、だからといって魔王の妹という理由で悪魔に降るというのはいかがなのだろうか」

 

……ゼノヴィアが自分の世界に入っちゃったぞ。

 

何かブツブツと独り言を呟き、終いには祈りのダメージで頭を抑えている。

 

……これはまた個性的なメンバーが増えたなぁ。

 

 

「……あれ?そう言えばイリナは?」

 

俺はふと、イリナがどうなったのか気になったので尋ねてみた。

 

ゼノヴィアは頭を抑えながら答える。

……まだ痛むんだね。でもよく分かるよその痛み。

 

「イリナなら、私のを含めた六本のエクスカリバーとバルパーの死体を持ってヴァチカンに帰ったよ。

エクスカリバーは破壊したから欠片の状態になったけれど、錬金術で直せるから問題ない。

色々あったけど、最終的には任務成功というわけさ。」

 

「え? エクスカリバー返しちゃってよかったのか?

てか、教会裏切ってもいいのか?」

 

俺が更に疑問をぶつけると、ゼノヴィアは自嘲気味に笑って答えた。

 

「一応、アレは返しておかないとマズイからね。幸い、私はデュランダルさえあれば事足りる。

教会を出たことも問題ない。あちらに神の不在について問うたら何も言わなくなったよ。つまり、神の不在を知った私はめでたく異端者になったわけだ。

教会は異端を酷く嫌うからね。例えデュランダル使いでも切り捨てる。

……アーシア・アルジェントと同じようにね。」

 

なっ…!? またかよ!

一体どれだけの人を悲しませれば気がすむんだよ教会は!

 

「そう考えればイリナは運がいい。あの時戦線を離脱していたおかげで真実を知らずに済んだのだからね。

私以上に信仰が深かった彼女のことだ。神がいないと知れば心の均衡はどうなっていたかわからない」

 

……そうか、イリナはあん時怪我してたから知らないんだ。

 

でも…ゼノヴィアやアーシアだって信仰が深かったはずだ。相当ショック受けただろうな…。

 

「私が悪魔になったことを残念がっていたね。理由が理由だったから、何とも言えない別れだった。次に会うときは敵かな」

 

遠い目をするゼノヴィアに、俺たちは言葉を発することが出来なかった。

 

部室に暫くの沈黙が続く……。

 

 

 

すると、タイミングを見計らったように部長が「ちょっといいかしら?」と声を出した。

 

「教会は今回のことで魔王に打診してきたそうよ。『堕天使の動きが不透明で不誠実だったため、真に遺憾ではあるが連絡を取り合いたい』って。

それにバルパーの件についても、過去に逃がしたことに関して自分たちにも非があると謝罪してきたわ。」

 

教会が魔王様に?

天使と悪魔が話すのか……。昔の感覚なら違和感を感じる話だな。

 

「堕天使総督アザゼルからも、今回の真相が天使側と悪魔側に伝えられたわ。エクスカリバー強奪はコカビエルの独断行為で他の幹部は知らないことだった。三すくみの均衡を崩そうと画策し、再び戦争を起こそうとした罪により、〝地獄の最下層〟で永久凍結の刑の執行を考えていたそうよ。

…結果的に無駄に終わったみたいだけどね。」

 

部長が難しそうな顔をしてそう言った。

 

…結局、アイツは何なんだろうな?何かと俺たちのピンチに駆けつけてくれるし、めちゃくちゃ強いし……。

 

 

 

 

シュウはあいつの事を悪く言うけど……

 

 

 

 

……って、あれ? そう言えば……

 

 

 

 

「木場、シュウはまだ来てないのか?」

 

「え? てっきりイッセー君と一緒に来るのかと思ってたんだけど……」

 

 

二、三回部室を見回し、シュウの姿を探すけど……やっぱりいない。

 

 

 

あいつ、どこ行ったんだ?折角仲間が一人増えたってのに……。

 

 

「…まぁ、後で来るでしょう。

それより、近いうちに天使側の代表と四大魔王様、そしてアザゼルが会談を開くらしいわ。なんでもアザゼルから話したいことがあるみたいなの。

その時にコカビエルのことを謝罪するかもしれないなんて言われているけど、本当に謝るかどうか甚だ疑問だわ。あのアザゼルだから」

 

部長は肩をすくめ、忌々しげに言った。

さ、三大勢力の代表者が集まって会談を開くなんて……。滅多にない事だよな?

 

そこで何を話すかは想像もつかないけど、今後の生活にも影響を与えるって事は間違いなさそう……。

 

「私たちもその場に招待されているわ。事件にかかわってしまったから、そこで今回のことを報告をしなくてはいけないの」

 

「マジっすか!?」

 

部長の言葉に、全員が驚愕の表情を浮かべていた。

 

それはそうだろ!偉い方々が集まってる中に呼ばれるなんて、そんな経験した事ない!

 

……驚き通り過ぎて逆に冷静になってしまうぜ……

 

 

 

あ、そういえば……。俺、ゼノヴィアに尋ねたい事があったんだった。

 

「なあ、ゼノヴィア。〝白い龍〟は堕天使側なのか?」

 

「そうだ。〝白い龍〟はアザゼル率いる〝神の子を見張る者〟の幹部を含めた強者の中でも四、五番目に強いと聞く。

すでに完全な禁手状態を得ているところを見るに、現時点でライバルのキミよりも断然強い」

 

 

そうか、やっぱりな……

 

不思議と、あまり驚かなかった。

 

だって、初めて見ただけでも圧倒的な実力の差があるって感じ取れたんだ。今さらあいつが強いって言われても、驚きはしないさ。

 

それならここはいっその事、素直に開き直った方がよさそうだ。そっちの方が現実を認められるし……。

 

俺が一人でウンウン頷いていると、ゼノヴィアがアーシアに視線を移した。

 

「クリスチャンで神の不在を知っているのは私と君だけだ。もう、君を断罪するなんて言えやしないな」

 

ゼノヴィアは瞳に皮肉と哀しみの影を映し、そっと顔を伏せる。

 

「異端視、か…。異端の徒に堕ちた私を見る彼らの態度は忘れられない。今ならキミの気持ちが痛いほどよくわかるよ」

 

声を震わせながらそう言ったゼノヴィアは、もう一度アーシアに視線を向けて深々と頭を下げた。

 

「アーシア・アルジェント。私は君に謝らなければならない。主がいないのならば、救いも愛もなかったわけだからね。すまなかった。君の気が済むのなら殴ってくれてもかまわない」

 

再び部室に沈黙の空気が走る…。

 

頭を下げているからゼノヴィアの表情は見えないけど、彼女の謝罪は本心からくるものだと思う。

 

皆が行く末を見守る中で、アーシアは静かに口を開いた。

 

「頭を上げてください、ゼノヴィアさん。私はそのようなことをするつもりはありません。

…確かにあの時は辛く、悲しい思いをしました。でも、こうして大切な人に、大切な方々に出会うことができました。私は皆さんといられる今この瞬間が本当に幸せなんです」

 

優しい笑顔を浮かべ、アーシアはゼノヴィアを許した。

 

……流石アーシア!凄く優しい!

 

側から見ているだけなのに、俺が泣きそうになるよ!

 

「…ありがとう」

 

ゼノヴィアはただ一言呟き、心底嬉しそうな笑顔を見せた。

 

「では、私はそろそろ失礼するよ。この学園に転向するにいたって、まだまだ知らねばならないことが多すぎるからね」

 

「あ、あの!」

 

そう言って部室を立ち去ろうとしたゼノヴィアをアーシアは呼び止める。

 

「今度の休日に、みんなで遊びに行くんです。ゼノヴィアさんもご一緒にいかがですか?」

 

あ!そうだった!俺たち今度遊びに行く約束してたんだった!

 

そうそう、早く木場とシュウも誘ってやろうと思ってたんだった。

 

 

満面の笑顔のアーシアにゼノヴィアは大きく目を見開いて驚いた顔をした。

その後、すぐに苦笑を浮かべる。

 

「いや、今回は遠慮させてもらおう。まだ気持ちの整理がついていないんだ。

…ただ……」

 

「ただ?」

 

不安げに首をかしげるアーシアに、ゼノヴィアは笑顔で尋ねる。

 

「よかったら今度、私に学園を案内してくれないかい?」

 

それを聞いたアーシアは、見る見る明るい顔になっていき、大きな声で答える。

 

「はい!」

 

 

そして、ゼノヴィアは次に木場に不敵な視線を向けた。

 

「我が聖剣デュランダルの名にかけて、そちらの聖魔剣使いとも再び手合わせしたいものだね」

 

「いいよ。今度は負けない」

 

うんうん。ライバル〜って感じがする!

 

木場は前回負けたもんな。リベンジマッチ、応援してるぜ!

 

「さ、ようやく全員揃ったのだから、部活も再開するわよ!」

 

『はい!』

 

全員で声高らかに返事をして、いつかのように楽しく談笑を始める…。

 

 

オカルト研究部はこうじゃないとな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……結局、その日の部活が終わるまでシュウ来なかったけど、一体どうしたんだろ?

    

 

 

 

 

 

==============

 

 

 

 

オレは今……多くの人々が涙を流したであろう戦場にて、鬼と向かい合っている。

 

 

……絶対に負けられない戦いが繰り広げられているんだ。

 

 

ここは…ここだけは絶対に譲れない。

 

 

ここを譲ったら、オレの未来は終わるも同然……。だから、絶対に目の前の鬼を打ち破らなければならないんだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだそんなふざけた事を抜かすか、八神」

 

「一つ訂正。オレは天に誓ってふざけてなどいません。大真面目です。」

 

 

オレはゆっくりと右手をあげる。

 

 

 

 

「オレのこの髪の色は……

 

 

 

 

……突然変異です。」

 

 

 

 

オレは、多くの人々が涙を流したであろう戦場(生徒指導室)にて、鬼(日本史の先生。名前は織田先生という)と向かい合っていた!

 

 

 

 

……どうしてこうなったか説明しよう。

 

 

皆様は、オレがコカビエル戦にて電撃の力を手に入れた事を覚えていらっしゃるだろうか。

 

その際、人間態の方にも変化が生じただろう?

 

そう。髪に金色のエクステンションがかかったんだ。

 

 

あん時は気にしてなかったんだが、後になって衝撃的な事実が発覚した。

 

 

なんと……通常体でもエクステンションがかかったままだったんだ。

 

 

よくよく研究してみれば、電撃の力は人間態と怪人態で影響される形が違ったらしい。

 

簡単に言えば、人間態は常時発動型。怪人態は非常時型って事さ。

 

 

つまり、今のオレの髪の色は黒に金色のエクステンションがかかった様な色をしているんだ。

 

 

 

さて、ここで皆さんに聞きたいんですが……

 

この前まで真っ黒だった男の髪に、ある日金色が混じっていたのを見たらどう思う?

 

染めた、と思うだろ?

 

 

つまり、今オレが置かれてんのもそんな状況なんだわ。

 

学生が髪を染めるなど、ましてや金髪なんて言語道断。即刻罰せられる。

下手すりゃ地獄を見るだろう。織田先生ならやりかねん。

 

 

けど実際、オレは染めてはいない。突然変異なんだ。オレ自身想定外の変化なんだ。

 

 

「いい加減吐いたらどうだ?スッキリするぞ?カツ丼食うか?」

 

「いくら刑事ドラマ風な事やっても意見を変えるつもりはありませんよ。オレは本当の事を言ってるんですから。

というか、金髪なら他にもいるでしょ? ついでに紅髪とか、白髪とか。」

 

「あれは全員地毛だからな。地毛の色は人それぞれだから何も言わん。」

 

「なら、地毛の色が突然変わっちまったパターンなら認めてくれますか?。」

 

「急に髪の色が変わるなど、あるわけがないだろう」

 

「そうでしょうね。オレもそう思います。でも事実、変えられない。」

 

 

そう。絶対に譲られない。

 

何度でも言おう。

 

 

「これは…突然変異なんだっ!!」

 

 

声高らかに宣言すると、織田先生は黙り込んでしまった。

 

…ど、どうだ? 納得してくれたか?

 

 

「…お前がそこまで言うのなら、チャンスをやろう」

 

チャ…チャンス……?

 

「お前には二択の選択権を与える。それ以外の返答は認めん」

 

 

二者択一ってわけね……いいだろう。

 

よっしゃ!かかって来いや!

 

 

「ここで白状してしまうか、出席簿百叩きを喰らうか、だ。

前者を選ぶなら、明日までに黒に染めて来い。後者を選ぶなら、次からお前がその髪の色で過ごす事を許そう」

 

 

 

………フフフ、なるほどなるほど…

 

前者の方がお得のように見せかける事で、オレに前者を選ばせる作戦だな。

 

甘い甘い。こんなもんじゃオレはぶれんぞ!

 

 

 

 

 

だって…白状する道を選択したところでアンタ、絶対百叩きするよな?

 

 

 

 

「……後者で宜しくお願いします…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

オレはあの後、本当に出席簿百叩きを喰らい、暫く生徒指導室でぶっ倒れてた。

 

…次の日からはこの髪で登校できるよ。やったね……。

 

 

あ〜あ、もう外が大分暗くなってんじゃねぇか。もう部活終わってんだろうな〜。

 

……仕方ねぇ。今日はもう帰るか。

 

帰ってから猫の世話してさっさと寝る。そうしよう。

 

 

 

オレは一人で校門まで歩いて行き……

 

って、あれ?

 

 

「ユウト? 何してんだ?」

 

そこにはユウトが校門に寄りかかるようにして立っていた。

 

オレの事に気がついたユウトは、「やぁ」って感じで手を上げた。

 

「ついさっき、織田先生に会ってね。先生から事情は聞いたから、折角だし待っておこうかなと思って。」

 

わ、わざわざ待っててくれたのか…。なんか悪いな……。

 

て事で、オレはユウトと二人並んで家に帰っていった。

 

何気に久しぶりだなぁ、ユウトと帰るの。最初は偶に一緒になったんだが、フェニックス戦以降はオレとイッセーとアーシアと部長の四人で帰るのが圧倒的に多くなったもんな。

 

 

 

「……シュウくん」

 

「ん? どうした?」

 

すると、唐突にユウトが話しかけてきた。

 

「君にはちゃんとお礼を言っておきたかった……ありがとう。」

 

「別にいいってことよ。オレも部長も、皆お前を許した。それでいいじゃねぇか。」

 

「…うん。そうだね」

 

ユウトはそこで笑みを浮かべた。

 

今まであまり見たことのない、ユウトの本当の笑顔。

 

 

「そうだ。今度の日曜日空いてる?イッセー君から遊びに行く誘いを受けてるんだけど、シュウくんも一緒にどうかなと思って」

 

「お、いいな。行く行く〜。」

 

 

その後もオレとユウトは談笑を交わしながら家に帰っていった……。

 

 

 

 

 

 

==============

【第三者視点】

 

場所は変わり、ここは八神が三回訪れた事になる〝神のいる世界〟

 

そこでは、神さんと呼ばれていた男が特大のモニターの前に立っていた。

 

何かを考え込んでいるような顔つきをしながら、そのモニターに映し出されている映像に目を向けている。

 

するとそこに、エプロンを身に纏った赤髪の女性がティーポット片手に現れた。

 

「失礼します。紅茶をお持ちしました。」

 

「あぁ、ありがとう。琴音」

 

琴音と呼ばれた女性は近くのテーブルに置かれていたティーカップに紅茶を注ぐ。

 

その間も神はモニターから全く目を離さなかった。

 

 

映像の内容が気になったのか、彼女は神の横から画面を覗き込む。

 

 

「またあの男ですか?」

 

そこに映し出されていたのは、神の手によって転生を果たした男、八神の姿であった。

 

「…えぇ。私が彼にあの世界のことを任せたのですから、私には彼が辿る物語を見届ける義務がある。」

 

「またまた〜。難しいこと理由にして、ただ彼自身に興味があるだけでしょう?」

 

「…そうかも知れませんね。」

 

琴音のからかうような口調に、神は小さな笑みを浮かべた。

 

そして再び視線を画面に戻す。

 

 

『〝電撃体〟……そう呼ぶとしよう。』

 

 

そこには、八神が電撃の力を手に入れた瞬間が映し出されていた。

 

 

「〝電撃体〟ですか…。」

 

 

神はより一層難しい顔を浮かべ、その映像に目を向けていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、モニターから緊急事態を知らせる警報が鳴り響いた。

 

神は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに慣れた手つきでコンピューターを操作。緊急事態の内容を確認した。

 

 

「……まさか、奴がここにくるとは……。」

 

そして驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「これは…少々厄介な事になってしまいましたね…。」

 

 

忌々しげな顔でモニターを眺める神。

 

その視線の先には、怪しい雰囲気を醸し出している黒のタンクトップを着た白髪の男の姿があった……。

 




雑談ショーwith木場

八「第三章もこれで完結だな〜。」

木「うん。色々あったけど、無事に終わってよかった。」

八「ユウトも新たな決意を固めてくれたし、新しい仲間も増えたし…いい感じだな。」

木「…僕は皆を守る剣になる。」

八「頼みにしてるぜ。 さて、次回からはいよいよ第四章が始まります! お楽しみに!」


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停止教室のヴァンパイア
四十三話目


期末テストという名の地獄が迫っておりますので、しばらく忙しい日々が続きます…。

更新遅れる可能性大ですが、気長に待っていただけると幸いです。

ではでは、どぞ〜


コカビエル襲撃事件から更に月日が流れ、新学期に心弾ませる春の季節からムシムシと暑い日が続く夏の季節に移り変わった。

つい最近進級したような気がするんだが、時の流れってやっぱ早いもんだな〜。

 

この季節になると、自分でも妙に思えるくらいテンション上がっちまうから困ったもんだ。

 

虫としての本能ってやつかもな。ほら、虫って夏になると活発化するだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

…え?どうでもいい? あ、そう。

 

じゃあ女子の方の情報でもお伝えしますね。

 

 

部長の眷属に〝騎士〟として加わったゼノヴィアがイッセーのクラスに編入し、はたまた学園の人気者の一人になったそうだ。

今ではアーシアと仲がいいのもあってか、二人合わせて〝静のアーシア 動のゼノヴィア〟と呼ばれているらしい。(松田 元浜情報)

 

 

結果、今のオカ研は……

 

・二大お姉様

・イケメン王子

・学園のマスコット

・静のアーシア 動のゼノヴィア

・おっぱいフェチ

 

 

ってな感じになっちまった。

 

オカ研=有名人になっちまうぞホント。

 

 

事件も無事に解決した事で、オレ達はまたいつも通りの部活を進めることが出来ていた。

夕方は談笑したりオカルト研究部っぽいことをしてみたり、夜になったら悪魔稼業が始まったりと、かつての様に充実した日々を過ごしていたんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そんな時、事件は起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==============

 

「うぉおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

俺、兵藤 一誠は只今全力で自転車を漕いでおります。俺を呼び出したお得意様の元へいくためだ。悪魔稼業、絶賛勤務中なり。

 

 

おいそこ! 「未だに?」とか言うな!

 

ホントならカッコよく転移していきたいよ!足元からパァァって感じで現れて「俺を呼んだか?」みたいなことやってみたいよ!インターホン押して「こんにちは」なんてやりたくねぇんだよぉぉ!!

 

 

 

……フゥ、疲れた…。

 

 

 

 

「よし、到着だ。」

 

目的地に着いて、自転車を駐輪場っぽいところに止める。悪魔でも人間のルールは守らなきゃね。

 

〔ピンポーン〕

 

「すいませ〜ん。グレモリー配下の悪魔で〜す」

 

インターホンを押し、中に向けて声をかける。

部屋の扉が開き、中から一人の男が姿を現した。

 

「よう、来たな悪魔くん。」

 

この方が今日俺を呼び出したお得意様だ。髪の色は黒髪で、多分外国の人だと思う。

木場とは違ったタイプの相当なイケメンで、どちらかというとシュウと同系統な感じだな。ワルそうな感じ。

けど着ている服なんかは完全に日本だったりする。日本が好きなのかも。

 

この人はちょっと変わったお得意様なんだ。いや俺のお得意様は大体変わっているんだけど、その中でも群を抜いていると思う。

 

何がって言うと、依頼の内容だ。

 

俺たち悪魔は俺たちを呼び出した人間、依頼人って言うんだけど、その人から頼まれた仕事を達成させることで、その分の代償となるものをゲットするんだ。そんな形で契約が結ばれる。

 

ゲームとかでも見たことあるだろ?「貴様の願いを叶えてやろう。ただし寿命の◯年分を頂くぞ」みたいな。俺たちは寿命だなんて物騒なものは取らないけどね。

 

 

 

で、話を戻すけど…。その依頼内容ってのは殆どが引越しの手伝いだとか家事の手伝いだとか、そんな感じなんだ。中にはただ単に話し相手になるだけってのもあるけどね。

 

この人の場合、大した用事でもないのに毎日毎日呼び出して来るんだよ。

例えを挙げるなら、昨日はパンを買いに行かされた。一昨日は一緒に釣りをさせられた。更にその前は……もう思い出したくもない。

 

 

そのくせ、代価としてくれるものは結構豪華だったりする。高そうな絵画だったり、宝石や金塊だったり…。部長たちもかなり驚いていた。

 

 

 

な?なんとなく変だろ?

 

 

「今日の依頼内容は何ですか?」

 

そう尋ねると、お得意様は部屋の向こうへと歩いて行った。付いて来いって事なんだろうな。

 

部屋に入ると、大きなテレビが目に入った。そのテレビの前には、テレビゲーム機が置かれている。

 

 

……これって、まさか……

 

 

「このゲームの相手してくれや」

 

 

ハッハッハ。やっぱり?

 

ゲーム機のそばに置かれているソフトのパッケージを見たところ、これは車に乗り、様々なアイテムを駆使して他プレイヤーを妨害しつつ、いろんなコースを爆走する系統のゲームみたいだ。

 

「いいっすけど…俺、こういうゲームは強いですよ?」

 

「ハハッ、なら丁度いいや。俺は逆にこういうのは初めてなんだ。手加減してくれよ?悪魔くん。」

 

こうして、俺とお得意様のゲーム対決が始まった。

 

 

一コース目は俺の圧勝。この人は慣れないコントローラーの操作に苦戦しているようだった。まぁ仕方ないよな。初めてって言ってたし。

 

二コース目は俺の快勝。少し慣れてきたのか、さっきほど差が開いていなかった。

 

三コース目はギリギリで俺の勝利。正直言って負けるかと思った。

 

 

 

 

「段々慣れてきたな…。」

 

 

 

 

四コース目は俺の完敗だった。まさかの一周差で負けた。

 

 

 

 

……嘘だろ…?俺のゲーセンで培ってきたドライビングスキルが、初めてまだ四コース目の男に負けるなんて……。

 

クソッ!このまま負けてられるか! 五コース目は絶対に勝ってやる!

 

 

「……しかし、日本というのはこういうヒマ潰しの道具に困らないからいいよな。」

 

この人が唐突に口を開いた。ちょっと静かにしていて!俺今集中しているんだから!

 

「そうは思わないか?なぁ、悪魔くん

 

 

 

 

 

 

 

……いや、赤龍帝」

 

 

 

「……え?」

 

 

思わず、ポロっとコントローラーを手放してしまった。

 

…な、なんでこの人、俺が赤龍帝だって事を知っているんだ? そんな事知ってる人間なんて、シュウ以外にいるはずが無いのに……。

 

 

「あ、あんた、何者だ……?」

 

俺の問いに、お得意様は口の端を上げ、答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は堕天使総督、アザゼルってんだ。よろしくな?」

 

 

 

 

刹那、この男の背中から十二枚の真っ黒な翼が開かれた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうでもいいが、もう二周差だぞ?」

 

「え? あ!」

 

「よし、また俺の勝ちだな。」

 

 

 

 

==============

 

「冗談じゃないわ」

 

…よっす、オレだ。八神だ。

 

とある日の夜の部室にて、我らがオカルト研究部の部長は怒っていた。

普段は時に厳しく、時に優しい人である部長があんなに怒っているのはかなり珍しい。

 

もちろんこんなに怒っているのにも、ちゃんとした理由がある。

 

 

夜になった後、皆はいつものように悪魔稼業に出かけて行ったんだ。オレと新人のゼノヴィアは最初のイッセーのようにチラシ配りを。他の皆はそれぞれ呼び出された依頼者のところへ出掛けていき、そこで頼まれた仕事をするって感じだ。

 

メンバーのほとんどが淡々と仕事を終えて帰ってくる中、同じように帰ってきたイッセーの口から重大な事実が発表された。

 

 

イッセーの依頼者であった男の正体が堕天使総督であるアザゼルだったのだ!

ついでに言えば、お得意様として何度もイッセーを呼び出していたらしい。

 

 

「いくら悪魔、天使、堕天使の三すくみのトップ会談がこの街で執り行われるとはいえ、突然堕天使の総督が私の縄張りに侵入して、ましてや営業妨害までしていたなんて……!」

 

 

あとは今部長が言った通りだ。

 

人間の感覚からすれば分かりにくい事ではあるが、営業妨害だってことくらいは分かる。契約って人間と結んでこそ意味があるってもんだろ?

 

それに悪魔にも縄張り意識のようなものだってある。オレ達はその縄張りの中だけで稼業に勤めているわけだしな。

 

そこに土足で踏み込んだんだ。ただですむわけねぇよなぁ〜…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何より私のかわいいイッセーにまで手を出そうなんて万死に値するわ!」

 

 

まぁ一番の理由としてはこっちだ。

縄張り云々とか営業云々とか、そんな事より重要な問題のように扱っている。

 

最早部長も隠す気ゼロだよな。堂々と声高らかに「かわいい」宣言しちゃったぞ。イッセー隣で顔真っ赤にしてるし。

ここまであからさまだってのに、部長の気持ちに気付かねぇんだよなぁ、イッセーの奴……。

 

「きっと私のイッセーが〝赤龍帝の籠手〟を持っているから接触してきたのね…。

大丈夫よイッセー。私がイッセーを絶対に守ってあげるわ。」

 

おい、今度は〝私のイッセー〟って言ったぞ。

隠す気ゼロとかいうレベルじゃなくて、見せびらかす気満々ってやつか?

 

 

「……やっぱ、アザゼルは俺の神器を狙っているのかな。堕天使の総督なんだろう?」

 

部長に頭を撫でられながら、イッセーが不安そうに口にした。

そんなイッセーを安心させようとしているのか、ユウトがなだめるような口調で話す。

 

「確かにアザゼルは神器に造詣が深いと聞くね。有能な神器使いを集めているとも言われているし。」

 

……そういやコカビエルとの戦いの前、学園の外で怪人態に変身したオレの耳にそんな会話が聞こえてきたな。

確か、アザゼルは神器の研究に没頭している…だったか?

 

イッセーも大変だなぁ。そんな奴に目ぇつけられるとは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも大丈夫。僕がイッセーくんを守るからね。」

 

 

「……キ、キモいぞお前……。ち、近寄るな!触れるな!」

 

「そ、そんな、イッセーくん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ホモぉ……

 

 

 

 

「しかし、どうしようかしら……。相手は堕天使の総督。下手に動くことも出来ないわね……」

 

ホモシーンが隣で放送されているにも関わらず、部長はただ一人難しい顔をして考え込んでいた。

 

…現状として、オレ達と堕天使って相性最悪だ。レイナーレとかコカビエルとか。

これ以上堕天使との関係を崩すわけにはいかねぇんだろうが…

 

 

 

「アザゼルは昔からああいう男だよ。」

 

 

 

……? なんだこの声……

 

 

声のした方へ視線を向けるオレ達。

 

そこには、部長と同じ紅い色の髪をしたあの男の姿があった。

 

その姿を確認するなり、眷属悪魔の全員が跪いた。

ゼノヴィアは疑問符を浮かべて首傾げているけど、新人だから仕方ねぇだろう。

 

「やぁ、我が妹よ。 ここに来るたびに思うのだが、この部屋は殺風景だな。年頃の娘たちが集まるというのに、魔法陣だらけというのはどうだろうか」

 

「お、お兄さま!?」

 

そう。そこにいたのは部長のお兄様で魔王でもあるサーゼクスさんだった。

 

「くつろいでくれたまえ。今日はプライベートで来ている。」

 

相変わらずの優しい笑みを浮かべながら、皆にかしこまらないでいいと促した。全員がそれに従い、立ち上がる。

 

「君も、久しぶりだね。」

 

「あんたも元気そうじゃねぇか。 グレイフィアさんにはきっちりしごかれたのか?」

 

「はい。二度とあの様な失敗を起こさないよう、サーゼクス様とあの担当悪魔にはきつく指導いたしました。」

 

「お、思い出させないでくれ…。あれはキツかった…。」

 

少しだけ身体をブルルッと震えさせるサーゼクスさん。

 

ハハッ、予想以上に酷い目に合わされたみてぇだな。なら良かった。

 

 

サーゼクスさんは一回だけ咳をすると、本題を切り出した。

 

「アザゼルは先日のコカビエルのようなことはしないよ。今回みたいな悪戯はするだろうけどね。

しかし、総督殿は予定より早い来日だな。」

 

「それって魔王様にも言えることじゃねぇか? 会談ってまだ先の話なんだろ?」

 

オレがそう尋ねると、一枚のプリントを取り出し、その紙面をオレに向けた。

 

 

え〜っと何々……〈授業参観のご案内〉?

 

 

「授業参観があると聞いて、私も参加しようと思ったんだ。我が妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだ。」

 

あ、そういやそんなのあったな。

どうせ来る親がいねぇし、特に意識してなかったわ。

 

 

「グ、グレイフィアね? お兄さまに伝えたのは…」

 

ギクギクと、まるで油の切れたロボットのような動きをしながらグレイフィアさんに尋ねる我らが部長。

 

「はい。学園からの報告は私の元へ届きます。無論、サーゼクス様の〝女王〟でもありますので、主への報告も致しました。」

 

それに対し、全く悪びれた様子も見せずに淡々と言葉を放つグレイフィアさん。

パーフェクトメイドってのはこんな人のことを言うんだろうな。

 

「私は魔王職が激務であろうと、休暇を入れてでも妹の授業参観に参加したかったのだよ。 心配することはない。父上もお越しになられる。」

 

「お、お父様まで……?」

 

ヘナヘナヘナ〜っとその場に座り込む部長。

 

…もしかして、嫌なのか?

 

 

そんな事を考えていると、突然部長がハッと顔を上げた。

 

「そ、そうではありません! お兄さまは魔王なのですよ? いち悪魔を特別視されてはいけませんわ!」

 

部長は顔を若干赤くさせながらも、なんとかして思いついた言い訳を述べる。

どんだけ来てほしくねぇんだよ。

 

でも、もう無理だと思いますよ。サーゼクスさん、最初にプライベートで来てるって言ったし……。

 

 

 

 

「それに、これは仕事でもあるんだよ。実は三すくみの会談をこの学園でとり行おうと思っていてね。 会場の下見に来たんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

…………へ?

 

 

 

 

 

 

 

「ここで!? 本当に!?」

 

部長が驚きの声を上げる。

 

オレだってビックリだ!こんな人間が通っている普通の学園で、そんな大掛かりな会談が開かれるなんて想像していなかったぞ!?

 

他の部員たちも、例外なく驚いている様子だった。

 

 

「ああ。この学園とは何かしらの縁があるようだ。魔王である私とセラフォルーのそれぞれの妹と、伝説の赤龍帝、聖魔剣使い、デュランダル使いが所属し、コカビエルと白龍皇が襲来してきた。これは偶然では片付けられない事象だ。

この事象の中心には、やはりと言うかなんと言うか、赤龍帝がいる。」

 

サーゼクスさんがそう言ってイッセーに視線を向けた。見つめられた本人は緊張した顔つきになっている。

 

「さて、これ以上ここで難しい話をしても仕方がない。 うーむ、人間界に来たとはいえ、夜中だ。こんな時間に宿泊施設は空いているのだろうか?」

 

手をポンと叩き、小難しい話から話題を変える。

 

宿泊施設か…。確かにこの街にはいっぱいあるが、もう時間も時間だしな〜。もう受付終わっちまってる気がする。

 

 

さて、どうしたものか……。

 

 

 

 

「あ、だったら…」

 

ーーーーーーーー

 

結局、サーゼクスさんはイッセーの家で寝泊まりする事になった。

 

あそこの家は突然アーシアと部長が住み着くことになっても、あっさり受け入れることが出来るくらい広かったりする。

 

今更一人くらい泊まることになったくらいで困ったりすることはねぇだろうさ…。

 

 

「ただいま〜っと…」

 

 

……玄関からリビングに向けて声をかけるが、返事が帰ってくる訳でもなけりゃ、誰かが出迎えに来るわけでもなかった。

 

「まだ帰ってきてねぇのか? クロのやつ……。」

 

誰もいない部屋で一人呟く。

 

クロってのは、オレがこの前飼い始めた猫の名前だ。流石に名前無しだと色々不便だろうと思ってな。この前急遽つけてみた。

 

由来?定番中の定番「黒いからクロ」だ。ネーミングセンスなんざオレに求めんな。

 

 

さて、どうすっかね。クロが帰ってくるまで待っとくか、もう寝てしまうか。この前クロ用に小さな扉を作っておいたから、わざわざ玄関の扉を開けなくても入ってこれるんだが…。

 

 

 

 

 

ピーンポーン

 

 

 

 

 

「お?噂をすれば何とやらってか?」

 

 

玄関からインターホンが鳴り、てっきりクロが帰ってきたものと思ったオレは普通に扉を開ける。

 

が、扉の向こうに立っていたのはクロではなかった。

 

「やぁ」

 

「…サーゼクスさん?」

 

そこにいたのは、にこやかな顔を浮かべるサーゼクスさんだった。

ついさっきイッセーの先導のもと、イッセー宅に向かったはずなんだが…。

 

「なんであんたがここに?」

 

「どうしても君と話したいことがあってね。彼に君の住所を教えてもらったんだ」

 

「あ〜…、なら入れよ。外で話すのもアレってもんだろ?」

 

「そうだね。お邪魔させてもらおう」

 

サーゼクスさんを家に招き入れ、ソファに座らせた。

 

家に魔王なう……呟きたい……!

…けど、そんな事したら部長からは怒られるし、一般人からは変な目で見られるから我慢…。

 

 

 

 

……取り敢えず何か出そうかね。

 

 

「何か飲むか? お茶やコーヒー、ココアもあるぞ?」

 

「そうだね、お茶を頂こうかな」

 

お茶か…。この人のことだ。多分毎日あのパーフェクトメイドさんが淹れた茶を飲んでいることだろう。

ここは、オレの腕の見せ所だな!

 

いつものように、丁寧にお茶を淹れてサーゼクスさんの前に置く。オレは気分的にコーヒーだ。因みにブラックコーヒーだ。

 

サーゼクスさんがお茶に口をつけ、一言

 

「…美味い。これは君が淹れたのかい?」

 

「そうだよ。こういうの好きでな」

 

好評なら何よりだ。

 

 

 

「んで? 話ってなんだ?」

 

優雅にコーヒーを飲みながら、サーゼクスさんに話の先を促した。

 

「あぁ、後日に執り行われる会談だが、君にも参加して欲しいんだ」

 

「オレも?」

 

サーゼクスさんの言葉に素っ頓狂な声を上げる。

ちょっと意外だった。三すくみとはこれっぽっちも関係ないオレはてっきりお払い箱だろうとばかり思っていたぜ。

 

「そう。君は数少ない人間の理解者の立場にある。一応、各陣営のトップと顔を合わせておいたほうがいいと思うからね」

 

そうか…。言われてみればオレ、トップの人たちとはサーゼクスさん以外に会ったことねぇし、互いに顔を知らないってのは色々都合悪いだろうな。

 

けど、絶対退屈すると思うんだが……。

 

「それと、もう一つ頼みたいことがあるんだ」

 

「ん? もう一つ?」

 

答えを渋っていることを察したのか、サーゼクスさんは更に言葉を繋げる。

 

コーヒーを口に含み、その言葉の先を待つ…。

 

 

 

 

 

「話をしてもらいたいんだ。私たちの前に立って」

 

 

 

「ブウゥゥゥゥッ!!」

 

 

 

 

 

…含んでいたコーヒーを盛大に吹き出してしまったオレは悪くないと思う。

 

 

え? 今この人なんて言った?

私たちの前ってことは、魔王とか堕天使総督とか天使のリーダーとか、そんかお偉い人達の前に立って話をしろと?

 

 

 

い、一旦落ち着け…。まずは現状把握……。

 

 

 

話をして欲しいって言われたが、一体何について話せばいいんだ? 人間から見た三すくみの関係についてどう思いますか、って?

 

いやいや、そんな難しいこと言われても答えられねぇよ。「分かりません!」の一択だ。

 

 

じゃあ何だ、人間と悪魔、天使、堕天使の共存方法について何かいい案はありますか、ってやつか?

 

いやいや、既に共存出来てるじゃん。姿が普通の人間と大差ねぇ時点で、共存することには特に問題はないだろうさ。

 

もし今よりもっといい方法は? とか聞かれたら、「分かりません!」と答えるしかねぇし……。

 

 

 

そもそもオレは人間界の中で決して偉い立場にいるわけじゃねぇし、普通に見れば入った部活が偶々悪魔の集まりで、偶々珍しい能力を持った人間って立場に過ぎねぇはずだ。

 

 

だからオレが話せる事なんて………

 

 

 

……まさか…

 

 

 

「…君に話してもらいたいのは、あの日。リアスとライザーのレーティングゲームに現れた、あの生物についてだ。私たちもこの世界で長く生活しているが、あのような生物は見たことがない。

だが、彼は君を目の敵にしていた。君と彼らは、なんらかの形で関わりがあるのだろう?」

 

 

…やっぱその件か……。

 

しまったな。ジャラジの存在って、悪魔の皆さんには知れ渡っているんだった……。

 

 

それに関しては説明出来る。出来るんだが……

 

 

問題はこの人を始めとしたトップの人たちが、どのくらい昔から生活しているかによって話の信憑性が変わっちまうことなんだよなぁ……。

 

 

「……頼む。あの場に立って、私たちに彼らの事について教えて欲しいんだ」

 

黙っているところを見て肯定と受け止めたのか、頭を下げてまで頼んできた。それほど奴らについての情報が知りたいのか……。

 

やめてくれよ…。魔王のアンタに頭下げられちゃ、例え断りたくても断れねぇよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…分かったよ。けど、オレに分かる範囲でしか話せねぇぞ?」

 

「…それでも構わないよ。ありがとう」

 

半分ヤケクソになり、サーゼクスさんの誘いに乗った。

こりゃ、どうやって説明するかも考えておいたほうがいいかもな……。

 

 

「では、私はこれで失礼するよ。兵藤 一誠くんとも話がしたいからね。お茶、ご馳走様」

 

「…あぁ、またな」

 

サーゼクスさんは小さく笑みを浮かべ、イッセー宅に向かっていった。

 

 

 

 

……会談、か…。

 

こりゃ、面倒なことになりそうだ……。




雑談ショーwith小猫

八「新章開幕早々、面倒なことになってきたな〜」

小「先輩も前に出て話すのですね…。」

八「あぁ。あんま気がのらねぇけど、受けちまったもんは仕方ねぇさ。しっかりやらせて頂きますよっと」



小「…部長から連絡がありました。後日、部活動をプールで行うそうです…」

八「……え? プールで?」

小「……はい」


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四十四話目

一日遅れましたが、皆さん。明けましておめでとうございます。今年もこの作品を、よろしくお願いします。

色々と忙しく、この一ヶ月間中々更新できませんでした。前半は期末試験、後半は年末の大掃除。
そして中間はモン◯ンとFate/G○にどハマりしてました。…だってアレら、面白すぎるもん。

それでは、最新話をどうぞお楽しみください!


ども、兵藤 一誠です。

サーゼクス様の来訪から数日経ったとある日曜日の朝。俺は今、部長とアーシアと一緒に朝食をとっています。今日は学校でとある重要イベントがあるんだ。

 

サーゼクス様は、俺の家で一泊を過ごされた次の日には家を出立されていて、それから授業参観が開かれるまでは人間界の下見をするんだってさ。

 

俺も何回か案内も兼ねてついていったぞ! ゲーセンで一緒にゲームしたり、モスドナルドで全メニュー制覇したり、神社に行ったりしたんだ!

 

サーゼクス様はなんでも一生懸命にやっておられてさ、きっと俺たちでは想像もつかないような視点から物事を捉えられているんだろうな〜。

 

 

 

……シュウは「遊んでるんじゃねえの?」って言ってたけど…。人間から見たらそう映るんだろう。

 

 

 

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

朝食が終わり、俺たちは席を立って玄関に向かう。

家の扉を開けて外に出ると、俺たちを待っていたシュウの姿が目に入った。

 

 

シュウが俺の顔を一瞥して、一言。

 

「……朝っぱらからニヤニヤしてんじゃねえよ」

 

あれ? そんなにニヤけてます?

いやぁ、困っちゃうな〜。俺の感情がモロに顔に出てるってことだろ?

 

「だってもう今日が楽しみすぎてさ〜! 昨日なんかもう眠れないほどだったんだぜ!?」

 

「遠足前の小学生かっての。というか今時、ガキでもそんな奴いねぇだろ」

 

呆れ顔でため息を吐くシュウ。

 

仕方ないだろ? なんて言っても、今日は待ちに待った最高の日なんだからさぁ、グフフ……!

おっと、ヨダレが……。

 

 

「やぁ、こちらは大人数だね」

 

「お、ゼノヴィア」

 

すぐそこの曲がり角から、ゼノヴィアが姿を見せた。

 

ゼノヴィアは神の不在を知ってしまって、再び故郷の土を踏むことが許されなくなってから、この町に住むことになったんだ。

住居はこの近くにあるマンションだ。流石に、旧校舎で住むのは嫌なんだって。

 

場所的には、俺の家のすぐ近くにある。何故なら、仲良しのアーシアが俺の家に住んでるからだ。

俺の家には部長もいるし、生活面で何かあっても気軽に訪ねてこれるだろ?

 

 

「アーシア、例の課題は終わらせたか?」

 

「はい。ゼノヴィアさんは?」

 

「私はまだなんだ。日本語で分からないところがあってね。出来れば、教えてくれないかな?」

 

「はい! お任せください!」

 

 

俺の隣では、アーシアとゼノヴィアが楽しそうに談笑を交わしていた。

 

最初の出会いこそ最悪だったけど、今では二人とも凄く仲が良くなったんだ。休み時間だってほとんど一緒にいる。

 

やっぱり、元々キリスト教徒だったっていう共通した境遇も、仲良くなった要因の中の一つなんだろうな。

 

色々あったけど、今ではこの二人があって良かったって思う。

 

 

 

「「アーメン……うっ!」」

 

 

 

……二人一緒にいるときに必ずこうやってお祈りして、その度にダメージ喰らってるけどね。

 

元が元だから仕方ないんだけど…悪魔なんだから、神に祈ったらダメでしょうに。

 

「何やってんの君たち……」

 

俺の突っ込みに、部長はクスクスと小さな笑みを浮かべていた。

 

「さあ、貴方たち。今日は私たち限定のプール開きよ」

 

おっと! そうだそうだ! 早く行かないと!

 

俺たちオカルト研究部員は生徒会からの依頼で、プール清掃をすることになっているんだ。後で綺麗になったプールで、最初に泳げることを条件としてね。

 

今年は生まれて初めて夏を堪能できる年なんだ! 夏って、色々と期待していい季節なんだよね!

 

 

はぁ〜、楽しみだなぁ〜♡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、イッセー」

 

シュウが小声で俺を呼び、クイっと服を引っ張ってきた。

 

「ん? どうしたんだよ」

 

シュウの方に向き直ると、俺はそのまま後ろの方へと引っ張られた。

こいつがこうする時って、あまり周りに聞かれたくない話をする時だよな? 何かあるのかな?

 

部長たちも一瞬「?」と疑問符を浮かべたけど、そのままゆっくりと歩き始めた。

 

一方、シュウは俺の服を掴んだまま歩くスピードを落としていき、部長たちからどんどん距離を開けていく……

 

「な、なぁ、どうしたんだよ」

 

俺がそう尋ねると、シュウはチラッと部長たちのいる位置を確認し始めた。

既に遠くへ行ってしまった部長たちの後ろ姿を見ると、その顔を俺に向ける。

 

「一つ、聞いてもいいか?」

 

シュウは強張った顔でそう言った。

お、俺に質問? その為に部長たちと離れたってことか?

 

……いや、それだけじゃないっぽいな…。だって、それだけだったらこんな顔しないだろうし。

 

 

…ひょっとすると、今度の会談についての相談か?

 

サーゼクス様来訪の次の日の部活で話してくれたんだよ。「オレが会談で話すことになった」ってな。

あの時は本当に驚いたよ。まさか人間の幼なじみが、魔王様たちの前で講義することになったなんて。

 

 

「いいけど…どうしたんだ?」

 

 

そして、シュウは気恥ずかしそうに口を開く……

 

 

 

 

「……皆はどんな水着着てくると思う? 主に部長とか、朱乃先輩とか……」

 

 

 

「…………え?」

 

 

一瞬、俺の周りの空気が固まったのを感じた。

 

い、今の聞き違いか……? シュウが絶対言わないようなことを言ったような気がしたんだが……。

 

だ、だって、女性の体が苦手でエロとかにもあまり興味がないこいつが…部長や朱乃さんの水着に興味を示すなんてことが……

 

 

 

「だ、だから…部長たちが持ってる水着が、どんなもんなのかな〜ってさ……」

 

 

 

 

……聞き違いじゃなかった。

 

 

 

 

「え、えっと……昨日見せてもらった感じだと、男の夢の結晶体というべき素晴らしいものだったぞ」

 

「お、おう。そうか……分かった。サンキューな」

 

シュウはそう言って歩くスピードを速め、部長たちのいるところに追いついた。

 

 

 

……まさか、あいつが『男』になるなんて、思いもしなかったな……

 

 

==============

 

どーも。視点変わりました八神です。

 

オレたちが学園についた頃には、既に朱乃先輩とユウトと小猫が部室で待機していた。

 

その後すぐに学園のプールに移動し、清掃活動開始。ブラシを使ってガシガシと、プールにこびり付いたコケを落とす。去年から一年間放置されていたプールは、それはもう恐ろしく汚かったね。

 

そうして数分間清掃し続け、やっとプールを綺麗にすることが出来た。

 

ったく、オレが水を操れるからって皆揃って「こっちに水頼む」「あっちに水頼む」って利用しやがって。お陰でスッゲェ疲れたわ。

 

清掃を終えた後は、お待ちかねのプールの時間。女子の皆さんはそれぞれの水着を手に、更衣室へ入っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ……楽しみだなぁ……♡」

 

そう声を漏らすのは、現赤龍帝ことイッセーだ。鼻の下を伸ばし、だらしない笑みを浮かべている。

 

ホントなら「シャキッとしろ!」って喝を入れているところだが、今日はまぁ…イベントだからな。大目に見ておこう。

 

「なっ! シュウ!」

 

おい。何故そこでオレに振る。

オレの答えなんざ分かってるだろうが変態。

 

「……あのな、オレは…」

 

「いや! 分かってるぜシュウ! お前もやっとこっち側に来始めたんだろ?」

 

「…はぁ?」

 

…こいつ何言ってんだ? こっち側? 一体何のことだ?

 

「ちょっと待て、それどういう…」

 

丁度その時、更衣室の扉が開いて、中から水着姿の女性陣が姿を現した。

 

 

「ほらイッセー。私の水着、どうかしら?」

 

「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

部長の水着姿を見て、イッセーが感嘆の声を漏らす。正直、五月蝿い。

 

部長の水着は見事に真っ赤なビキニタイプで、布面積が狭いものだった。

…というか、布が全く仕事してないんだが…。下乳とか見えるとかいうレベルじゃねえし。

 

なるほど、イッセーが『男の夢の結晶体』って言うわけだ。

 

 

「あらあら、部長ったら張り切ってますわ。よほどイッセーくんに見せたかったんですわね。ところでシュウくん、私の方はどうかしら?」

 

と、部長の横から朱乃先輩も登場。

こちらは部長のものとは対照的に、真っ白なビキニタイプだった。尚、やっぱり布面積は狭い。

 

「えっと…よく似合ってます」

 

「うふふ、ありがとうございます」

 

 

…イッセーに事前に聞いといて良かったなコリャ。ある程度対策立てられたお陰で、余計な反応することもねえし、ある程度なら見てても耐えられる。

もし何も心構えしてねえ状態で今の皆の姿を見てしまったら……ヤバかったろうな。

 

「イッセーさん、わ、私も着替えてきました」

 

次に、アーシアが恥ずかしそうに顔を覗かせた。

アーシアは学園指定のスクール水着を身につけていた。胸部辺りに『あーしあ』と名前が書かれている。

 

うんまぁ、アーシアに関してはスク水着てくるだろうって思ったし、特に警戒していなかったな。

だってあいつ、プライベート用の水着は持ってないって聞いたもんね。

 

「いい! いいよアーシア! お兄さん感動だ!」

 

「えへへ、イッセーさんにそう言われると嬉しいです」

 

ダーッ!っと涙を流すイッセーと、はにかんだ笑顔を見せるアーシア。あの一角は幸せそうでなによりだ。

 

 

 

「ところで、シュウ。お願いがあるのだけど」

 

「はい?」

 

部長に唐突に声をかけられ、視線を向ける。

そこには、アーシアと同じようにスクール水着を身につけた小猫が立っていた。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「いち、に、いち、に……」

 

部長からの頼みを引き受け(させられ)たオレは、小猫の手を引っ張るような形で泳ぎの練習に付き合っていた。

 

泳げないという小猫のために、我らが部長さんから「練習の相手をしてあげてちょうだい」と命令されたっつーことよ。

 

全く、なんでオレがこんなこと……。

 

別に小猫の練習に付き合うことが嫌ってわけじゃねえんだが…ぶっちゃけオレも泳ぎはそんなに得意じゃねぇんだよ。今世で錬成の力がついてからちょっと泳げるようになっただけで、前世ではカナズチだったしな。

 

部長たちがレクチャーした方が絶対いいと思うんだが。あの人メチャ泳ぎ上手いし。現に隣のコースでスイスイ泳いでるし。

 

 

 

 

 

……それに、何より…………

 

 

 

 

「プハッ…先輩、付き合わせてしまってゴメンなさい……」

 

息継ぎのタイミングで顔を上げ、申し訳なさそうにそう言った。

 

「気にすんなよ。別にこのくらい、どうってことねえし」

 

 

…嘘です。正直言うと、どうってことありまくりです。

 

前世で生まれて約三十年、初めて母親以外の異性の手を握っているオレの心臓はもうバクバクいってます。恐らくオレの顔も真っ赤に染まっていることでしょう。

 

うぅ……今日は皆の水着を見るだけだと思ってたってのに、まさかこんな事態が発生するなんて思いもしなかったぜ……。

 

 

…と、とにかく、今日はこれが最後なんだ。この練習が終わったら、陸に上がって本でも読もう。何だったら先に着替えて外に出よう。

一刻も早く、このイベントから離れてしまおう……。

 

 

 

 

 

_______ドンッ

 

 

 

 

 

「お、終わったみてぇだな…っと」

 

考え事をしていたせいか、二十五メートル泳ぎ切ったことに気がつかず、オレは背中をプールの壁にぶつかってしまった。

 

だが、顔を下に向けている小猫はそのことに気がつかず、そのままパチャパチャと泳いできて……

 

 

………オレに衝突。まるで抱きついたかのような形になる。

 

 

 

「あ…すみません。大丈夫でしたか?」

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______ボンッ!!

 

 

 

 

「? ……今の、何の音でしょうか」

 

「さ、さぁな、何なんだろうな、ハハハ……」

 

 

……言えない。今のはオレの恥ずかしさからくる爆発の音だなんて言えない。

 

クソォ!こんなラッキースケベなんて求めてねぇってのに…。

 

そういうのはイッセーの方にやってやれよ! オレの方に持ってくんな!

 

 

 

 

 

 

「どうしたイッセー。早く子どもを作ろう」

 

「ゼノヴィアァァァァァ!!」

 

「イッセー? これは一体どういうことかしら?」

 

「イッセーさん…!」

 

……陸ではイッセーとゼノヴィア、アーシアと部長がなんか揉めていた。

 

子作りとか、一体何の話をしていたのか知らねぇけど……あっちもあっちで面倒なことになってやがったか……。

 

 

……やっぱプールってのは、何が起こるか分からんもんだな……。

 

 

互いに苦労するな、イッセー……。

 

 

 

==============

【第三者視点】

 

プールの時間から数時間後。兵藤 一誠は一足先に帰路についていた。

 

彼にとっては今日一日は大変刺激的なものであり、充実したものであったことだろう。現に、未だ顔が嬉しそうだ。

 

校門から校外に出ようとした彼の視界に、銀色の何かが映り込む。

 

それは、銀色の髪をした一人の美少年の姿であった。

 

「…………」

 

銀髪の少年は、静かに校舎を見上げている。

 

ただそれだけの光景だというのに、兵藤の目には幻想的に見えてしまった。思わず息を呑むほどに……。

 

その少年は兵藤がいることに気がつき、綺麗な微笑みを浮かべて語りかける。

 

「やぁ、いい学校だね」

 

「えっと……まあね」

 

言葉に詰まりながらも、少年の言葉に返す兵藤。

 

この学園にくる留学生だろうか? それとも、たまたま近所を通りすがっただけなのだろうか? 様々な疑問が兵藤の頭に浮かび上がる。

 

そんな彼の耳に、驚きの真実が語りかけられる……。

 

「俺はヴァーリ。白龍皇___〝白い龍〟だ」

 

「_______っ!」

 

「ここで会うのは二度目か、〝赤い龍〟___赤龍帝。兵藤一誠」

 

突然語られた真実に、兵藤の頭はついていけなかった。

 

赤龍帝と白龍皇。この二体は大昔からライバル同士の関係にあり、互いが遭遇した時はライバル対決という形の決戦が始まるとされていた。

 

目の前にいるヴァーリと名乗った少年が、もし本当に白龍皇であったならば…

 

 

 

この学園、そして仲間たちを巻き込んでしまう恐れがあるのでは____?

 

 

 

嘘であって欲しいものではあるが、兵藤の左手に眠る『赤龍帝の籠手』が、それに宿るドライグが異常なくらいに反応していることから、彼の言うことは真実であると十分考えられるだろう。

 

身構える兵藤に、ヴァーリは不敵な笑みを浮かべてそっと語りかける。

 

「そうだな。例えば、俺がここで君に魔術的なものを仕掛けたり…」

 

そう言って、彼は兵藤の鼻先に手を伸ばす_____。

 

 

 

刹那、二本の剣がヴァーリの首元に突きつけられた。

 

その二本の剣は、木場の持つ聖魔剣。そしてゼノヴィアの持つ聖剣デュランダルであった。

恐らく兵藤の危機を感じ取り、〝騎士〟特有のスピードで駆けつけてきたのだろう。

 

普段とは全く違う恐ろしい眼光でヴァーリを睨みつけ、口を開く。

 

「何をするつもりか分からないけど、冗談が過ぎるんじゃないかな?」

 

「ここで赤龍帝との決戦を始めさせるわけにはいかないな、白龍皇」

 

二人の殺意を向けられているヴァーリは少しも動揺することもなく返す。

 

「やめておいたほうがいい。手が震えているじゃないか」

 

見ると、確かに二人とも剣を持つ手が震えていた。表情もどこか強張っている。

 

「誇っていい。相手との実力差が分かるのは、強い証拠だ。俺と君たちの間には決定的なほどの差がある。

コカビエルごときに苦戦を強いられていた君たちでは、俺には勝てないよ」

 

彼らの頭に、先日学園に現れた堕天使幹部の姿が浮かび上がる。

 

眷属たち全員でかかっても倒すには至らず、ガドルが現れたことで退けることができた者____。

 

それを、ヴァーリは「ごとき」と呼んだのだ。

 

「君もわかるだろう? 君が一番俺とそれなりに戦えるんだろうけど、それでも勝てないということが」

 

そう言う彼の視線の先には、校舎の方からボウガンを構えて歩いてくる八神の姿があった。

震えてこそいないものの、その顔はどこか汗ばんでいるように見える。

 

「どうだかな。案外奥の手とかあって、お前より強いかも知れねえぞ?」

 

「その時はその時だ。戦って、楽しめるならそれでいい」

 

そこでヴァーリは視線を兵藤に戻し、問いかける。

 

「兵藤 一誠。君はこの世界で自分が何番目に強いと思う?」

 

兵藤は頭の中でその答えを考えてみた。

赤龍帝の力は異常と呼ばれ、度々恐れられるものの、実際の強さは不明。そもそも自分自身、その力を全部出し切れているわけではない。

 

「未完成のバランスブレイカー状態とした君は上から数えた場合、千から千五百の間ぐらいだ。宿主のスペック的にはもっと下かな?

コカビエルを倒したあの生物も、精々三桁辺りだろう。彼の力をすべて見たわけではないから、はっきりとは言えないが」

 

その言葉に兵藤の顔は驚愕に染まる。姿を見せるたびに、相当な実力を見せてきたあの者が三桁辺りの強さだったとは____。

 

八神も、信じられないような顔を浮かべていた。

 

「この世界には強い者が多い。〝紅髪の魔王〟と呼ばれるサーゼクス・ルシファーでさえ、トップ十内に入らない」

 

魔王、サーゼクスより強い者が十人以上はいる…。とても兵藤には想像もつかない事実であった。

 

「だが、一位は決まっている。不動の存在が」

 

「? 誰のことだ。自分が一番とでも言うのかよ」

 

「いずれ分かる。ただ、俺じゃない_____」

 

そう言ってヴァーリは踵を返し、兵藤達に背中を見せた。

 

「今日は戦いに来たわけじゃない。ちょっと先日訪れた学舎を見てみたかっただけだ。俺もやることが多いからさ」

 

それだけ言い残し、ヴァーリは学園を去っていった……。

 




雑談ショーwithイッセー

八「今回の出来事。プール、ラッキースケベ、白龍皇来訪……なんか波乱万丈な回だったな」

イ「プールは楽しめたし、ラッキースケベもほんとラッキーだったけど…最後のイベントはいらなかったな」

八「オレ的には全部勘弁して欲しかったけどな」

イ「おいおい、隠さなくてもいいんだぜ? おまえだって楽しめただろ?」

八「それはお前だけだっつーの…。さて、今年からも頑張っていきますかね」

イ「おう! これからも俺たちの活躍、見てくれよな!」





イ「……ところでさ、今度松田ん家で鑑賞会やるんだけど、お前も来るか?」

八「なんでオレを誘う。答えは当然パスだ」


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四十五話目

先日、Y◯uTubeに投稿されていた『仮面ライダーゴースト 伝説のライダー魂』ドライブ編を見てみました。

…やはりお祭り企画あるあるですね。ハート様が…。

鎧武編ではロードバロンっぽいですし、子ども達の記憶に新しい『かっこいい怪人』や『強い怪人』が、フォームチェンジしただけで倒されるのはちょっと…って感じるのは僕だけでしょうか?
うーん、せめてデェムシュ辺りならいいのか…な?

ではでは、遅くなりましたが、本編。どぞ〜


「…まだ、帰ってこねぇんだな……」

 

白龍皇___ヴァーリ来訪後、解散となった日の夜遅く。

もう良い子は寝る時間を過ぎており、もはやレムレムしていてもおかしくない時間になっていた。

____にも関わらず、良い子である筈のオレは未だ家の椅子に座って、寝ようともしていなかった。

 

これは決してオレが良い子じゃなくなったからではない。ちゃんとした理由がある。

 

それは、さっきの呟きにもあったように、この家の住人のクロが未だに帰って来ないからだ。

 

実を言うと、あいつはここ最近ずっと遅い日が続いている。厳密に言えば、サーゼクスさんがオレの家に来た日からだ。

どこかお気に入りの場所でも出来たのか、あるいは友猫でも出来たのか。理由は知らねぇけどな。

 

それでも昨日までは、良い子が寝始める時間帯___大体十一時くらいまでには帰ってきていたんだが……。

 

 

チラと時計を見やる。

既に短い針は一を過ぎており、長い針は六のあたりを指していた。

つまり、今の時刻は…

 

 

……一時半。

 

 

 

「…こりゃ、流石に変だな……」

 

お気に入りの場所で遊ぶのに夢中になって、時間が経つのを忘れていたなんて可愛いオチじゃなさそうだ。

 

道に迷っている…わけじゃないか。

アイツのことだ。そうなったら町の掲示板の地図でも見て帰ってこれるだろうし、何よりあんな頭いい奴が道に迷うなんて考えらんねぇし。

 

 

となると……何か厄介ごとに巻き込まれたパターンか?

 

けど、ある程度のハプニングくらいなら解決しちまいそうなもんだけどな……。

 

 

 

 

 

「…そういやあいつ、初めて会った時はヒッデェ怪我してたよな……」

 

ふと、初めて会った時の出来事を思い出す。

そうそう。確かボロ雑巾みてぇに転がってたっけ。

カラスか何かに襲われた感じだろって思ったような覚えが……

 

 

 

……カラス?

 

 

確かカラスって、頭がいい動物として結構有名な代表者だったような……。

 

 

 

 

 

 

 

…まさか……

 

 

 

 

 

 

『おお! 美味そうな獲物がいるでカラス! 早速頂くでカラス!』

 

『ニャー! 食べられちゃうニャー!』

 

 

 

 

 

ってな感じで、カラスに襲われてるんじゃ……

 

 

 

 

 

 

 

「……探しに行くか」

 

 

椅子から立ち上がり、玄関から外に出る。

既に辺りは真っ暗で、時々どこぞの酔っ払いどものやかましい騒ぎ声が聞こえてくる。

 

正直、こんな真夜中の世界には突入したくねぇんだが…。それでもクロのためだ。ここは一発、主人が我慢しなきゃな。

 

 

「まずは、近くにある公園にでも行ってみるか」

 

最初の目的地を定め、そこに足を向ける。

 

カラスに襲われてる(と思しき)クロを助けるため、オレは夜中の町へ繰り出していった…。

 

 

ーーーーーーーー

 

そうして探し続けること三十分。

時刻としては二時を回っており、流石にオレの体も疲労感を訴えているのか、瞼がだんだん重くなってきた。

 

 

にも関わらず……見つからない。

 

 

 

俊敏体になって考えられるポイント全てを回り、射撃体になって目を皿のようにしてクロを探し、剛力体になって物をあちこち動かしながら探しているものの、全く見つからない。

 

あてが一つ外れるにつれて、オレの頭には嫌な光景が浮かび上がる。

追いかけられて、捕まって、突っつかれて、啄ばまれて……そして最終的には……

 

 

「がぁぁぁぁ!! 考えたくねぇよそんなのぉぉ!!」

 

そして浮かび上がる度に叫ぶ。

 

 

誰かにクロを見ていないか聞こうにも、周りを歩いている人間はどいつもこいつも酔っ払いばかり。

一回近くにいた奴に聞いてみたところ、「そんな事より俺の歌を聴いていけ〜」って超音程が外れまくったクッソ音痴な歌を聴かされる羽目になった。

 

せめて一人くらいはまともな奴がいてくれれば……って思うんだが、こんな時間帯にうろついているオレの方がおかしいわけで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は……なのか?」

 

 

そんな心境でいたオレの耳に、突如誰かの声が届いてきた。

 

 

「……で……なの…」

 

 

しかも二人組っぽい。声の調子からして、最初の方は男。後の方は女だろう。

 

声がした方には、木が生い茂った自然公園が広がっていた。

そこは、クロがいると考えられるポイントの一つでもある。こういった公園には野良猫などもよく集まっているし、可能性としては十分高い方だろう。

 

そこに人がいた。それも声からして、話が通じるまともそうな人が……。

 

 

「よし、行ってみっか」

 

早速自然公園の中に足を運ぶ。

最も考えられる有力ポイントにいた人…。これは期待できると、オレは足を急がせた。

 

少し進んで行ったところで、さっきの声の持ち主と思われる男の姿が眼に映る。

 

 

美しく輝く銀色の髪。スラッと伸びた綺麗な体。間違いなくイケメンの部類に入る整った顔……。

 

 

 

 

 

 

男は顔を上げ、こちらに向けて微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「…やぁ、また会ったね」

 

「……ヴァーリ!」

 

 

思わず、男___ヴァーリの名を叫ぶ。

 

 

「こんな時間に何をしているんだ?

俺と戦いたくて追いかけてきたというのなら、相手になるが…」

 

さっきのような笑みを浮かべて口を開くヴァーリ。

「相手になる」と言った瞬間だけ、若干だが戦おうとする気配を感じ取った。

 

 

…けど、敵意そのものはないらしい。オレが背中を見せたと同時に飛びかかってくるってことはなさそうだ。

 

んなら、現状でこいつと戦う必要はない。いいことなんて何もねぇし、勝っても負けても疲れるだけ。

そんな勝負は丁重にお断りさせてもらう。

 

 

「…冗談。オレは敵意がねぇ奴に喧嘩売るほどヒマじゃねぇよ」

 

オレがそう答えると、ヴァーリは「そうか、残念だな」と言いながら、全く残念そうでない顔を浮かべていた。

 

…癪な話だが、今の状態…人間態じゃ、こいつにはどう足掻いても勝てねぇだろう。こいつ自身もそう思っているが故に、この余裕なんだろうさ。

 

こいつと戦うのは、こいつがオレ達にとって『敵』だとハッキリ分かった時。怪人態で、だ。

それまではこいつを刺激するようなことは控えておこう。下手に暴れられると手が付けらんねぇ。

 

 

 

「…それじゃ、何しに来たんだ?」

 

「あぁ、それについてなんだが……」

 

取り敢えずクロについて聞いてみようとした時、オレは少し妙なことに気がついた。

見渡す限り、周りには多くの木が生えているものの、こいつ以外の人の姿は見受けられなかったんだ。

 

「…なぁ、もう一人ここにいなかったか? こっからお前の声と、女の声が聞こえたような気がすんだが…」

 

オレがそう尋ねると、ヴァーリもすぐに答える。

 

「あぁ。ここにいた彼女なら、君がここに来るほんの少し前に帰ってしまったよ」

 

「そうか…ならいいや」

 

いてくれたら良かったんだが、いなくなっちまったんなら仕方ねぇ。取り敢えずのところはヴァーリにだけでも聞いてみるとしよう。

 

「なぁ、ここら辺でネコ見なかったか? 結構小型で、真っ黒な毛並みなんだが…」

 

すると、ヴァーリは一瞬驚いたような顔を浮かべ、すぐに何か考えるような素振りを見せた。

ここに猫がいたかどうかを思い出そうとしている。というより、どのように答えるか考えるかのような……。

 

やがて、頭の中が整理し終わったように顔を上げて口を開く。

 

「…それなら、確かにここにいた。先ほど君が来た方向に向かっていったから、君の家にでも戻ってるんじゃないか?」

 

「…マジか!? 」

 

意外な返答に訊き返すと、ヴァーリは「ああ」と頷いた。

 

「わ、分かった。サンキューな!」

 

まさかの入れ違いのパターンかよ! そうなった時の対策考えておくんだったわマジで!

 

慌てて身体の向きを変え、家に足を向ける。

早いとこ安心したかったのか、オレの足は自然と走り出していた。

 

 

 

 

 

「…そうか、あいつが言っていたのは彼のことだったのか……。フフ、これは面白くなりそうだ」

 

離れて行く途中、後ろからヴァーリの独り言が聞こえたが、慌てていたオレの耳にその内容までは入ってこなかった…。

 

 

 

 

 

 

家に飛び入り、慌ててクロの布団を覗き込むと、確かにあいつはいた。

スヤスヤと、悪気は全く無さそうな顔で眠っていた。

 

「ったく、心配させやがって……」

 

眠っているクロの頭を撫で、オレも自分の布団へ向かう。

布団へ入るや否や、一気に疲れが身体に襲いかかり、オレは深い眠りについた……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そんなこんなで迎えた授業参観当日。

 

保護者、駒王学園中等部の生徒達、そして地域の方々等、直接的に学園とは関わりのない人々も来られるこの参観は、参観というより学園解放のようなものに近いと思う。

 

イッセーのご家族さんも、アーシアとそのついでにイッセーを見に来るようだ。

実の息子であるイッセーがまさかのついで扱いという衝撃の事実については突っ込んではならないそうで…。

 

隣のクラス、つまりイッセーのクラスは大変賑わっているようで、何やら「六千円!」だの「七千出すぞ!」だの、授業中とは思えない叫び声がしている。一体何やってんだあのクラス。

 

オレのクラスはというと、全くと言っていいほど面白みがない。普通に授業を進め、普通に受ける。ただそれだけだ。

俗に言う「お前の母ちゃんどれだ?」といったこともやろうとは思わん。興味ねぇし、そもそも知ったところでどうすんだ?って話だ。

 

オレんとこの親はこねぇし、ユウトんとこは親がいねぇし。もうほんと退屈な時間だ……。

 

 

《キーンコーンカーンコーン》

 

 

「よし、今日の授業はこれで終わりだ。次の授業はこの続き、南北朝時代から行う。各自、予習復習を忘れずにしておくように」

 

 

ふぅ、やぁっと終わった……。

 

ったく、こういう日に限って寝れねぇ授業だったりするんだよなぁ。ほんと勘弁して欲しいぜ……。

 

後は昼休み挟んでテキトーに過ごしときゃ終わる。今日は魔王さんも来るし一般人も多いってことで夜の部活は休みだ。久しぶりにゆっくり過ごさせてもらおうかね。

 

 

「おーい。八神、木場。メシ食おうぜ〜」

 

「ん、オッケー」

 

「うん、いいよ」

 

いつものように、ユウトを含めたクラスメート数人と一緒に食事を取り始める。

今日のオレの飯はふわふわ卵焼きの入った弁当だ。何気に自信作だったりする。

 

「うわっ! 相変わらず美味そうな弁当!」

 

「ハッ、おだてたって分けてやんねぇよ。たまには自分で作ってみるんだな」

 

このように雑談しながら飯を食っていると、突然教室の扉が大きな音を立てて乱暴に開かれた。

その扉を開けたのは、このクラスの新聞部で情報屋の山下くんだ。

 

山下くんは興奮したように口を開く。

 

「おい! 魔女っ子の撮影会やってるらしいぞ!」

 

「魔女っ子!?」

 

山下くんの言葉にクラスの全員がざわつき始める。

山下くんはそのまま続けて口を開いた。

 

「あぁ、自販機の近くでやってるんだってさ!

余りに似合いすぎで可愛すぎなもんだから、多分撮影会か何かじゃないのかって話だ!」

 

流石情報屋を名乗っているだけのことはある。一体その情報をいつどこでどうやって仕入れてきたのか、甚だ疑問だ。

 

「似合いすぎで可愛すぎだって!?」

 

「ああ! まるでアニメにでも出てきそうなほどの美少女だってよ!」

 

「と、とにかく、行ってみようぜ!」

 

「私たちも見てみた〜い!」

 

好奇心からくるものなのか、それともゲス心からなのか。クラスの殆どが、その魔女っ子なるものを見物しに行ってしまった。

さっきまでオレ達と飯食ってた連中も残さず行っちまい、ポツンとオレとユウトだけが残されてしまっていた…。

 

「…一気に静かになっちゃったね」

 

「そうだな」

 

互いに苦笑しあうオレとユウト。

周りでも魔女っ子の話で盛り上がっていた。

オレも魔女っ子とかコスプレそのものには興味ねぇが…。学園にコスプレで来た人は、一体どんな人なのか。そっちの方面で気になってきた。

 

「見に行ってみるか?」

 

「うん、いいね」

 

同じようなことを考えていたのか。オレの提案にユウトは二つ返事で賛同した。

早いとこ食事を済ませ、撮影会が行われているらしい場所に向かっていく。

 

 

そして向かっている途中、自販機の前で見知った顔を見つけた。

 

「お? イッセーとアーシア…それに部長と朱乃先輩?」

 

そこで談笑していたらしいイッセー達が、オレたちの登場に気づいたようで顔を上げる。

イッセーの手の上には、何やら何かの像のようなものが置かれていた。

 

…なんでだろうな。あの像、遠くから見た感じそんなに変な形はしてねぇのに、スッゲェ嫌な予感がする……。

 

 

「イッセー。お前、その手に持ってるもん、なんだ?」

 

滲み出るイヤ〜なオーラに警戒しつつ、イッセーにその物体の説明を求める。

 

「あ、これはさっきの授業で作ったんだ。一応英語の授業だったんだけどな…」

 

苦笑いを浮かべながら、手に持っていた像を見せてくるイッセー。

まぁ英語の授業ならそんなに警戒することもねぇか。美術とかなら危ねぇもんだけど。

さて、一体何を作ったんだ…?

 

 

「部長の裸体の像」

 

 

「ドブファァッ!?」

 

 

……吹き出してしまった。

この艶かしい形の像は、全く警戒していなかった状態のオレに最大級のダメージを与えるのは十分すぎる威力を秘めている。

 

しかも妙にリアルだったりする。まるで、そこにホントに部長が立っているかのようだ。

 

「な、何でこんなもん作ってんだ!? ってか上手いな無駄に!?」

 

「い、いやぁ。何を作ろうか試行錯誤を繰り返している内に勝手に手が動き始めちゃってたというか、何というか……」

 

イッセーの口から職人的な発言が飛び出した。

そういう言葉は、テレビで出てくるようなお爺ちゃんが言っていたのしか聞いたことねぇんだけども…。

 

 

 

……隣のクラスで突然オークションが始まったのはそういうことか……。

 

 

 

 

「ところで、貴方達もお茶?」

 

「いえ、何やら魔女っ子が撮影会を聞いたので、見に行こうかなと」

 

部長の疑問にユウトが答える。

お、そうだったそうだった。ここに来た目的を忘れかけてたぜ。

 

「撮影会? 一体なんのことだ?」

 

「オレらも詳しくは知らねぇよ。これから見に行くところだ」

 

 

 

合流したイッセー達と一緒に校舎に入ると、カシャカシャとカメラのシャッター音が喧しく鳴り響いていた。

魔女っ子目当ての男どもがあちこちで撮影しているんだろう。あのメガネと坊主も探せば見つかりそうだ。

 

人混みをかき分けかき分け、無理矢理中に潜り込む。イテッ! 誰だ足踏んだやつ! あたっ! 誰か頭殴ったな!

 

身体中をボコボコ殴られつつ、なんとか中に入り込むのに成功すると、人混みのど真ん中には確かに魔女っ子らしき人がいた。

 

「あれ? あの格好……」

 

同じく人混みをかき分けてきたのか、ボロボロになったイッセーがキョトンとした顔を浮かべ、中にいる魔女っ子に視線を向けた。

 

「お前、見覚えあんのか?」

 

「あぁ。確か俺のお得意さまが夢中になってるアニメキャラの格好だよ。『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』だったはず」

 

「『魔法少女ミルキースパイラル…』何だって?」

 

「『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』だよ。確かによく見ると、ミルキーによく似てるな」

 

……まぁ、題名はどうでもいい。

ミルキーってのがどんなキャラなのか知らねぇけど、イッセーがそう言うなら結構リアルな出来なんだろうな。あちこちで男どもがゲス顏浮かべてやがる。

 

「ちょっと失礼するわね、ありがとう」

 

後ろから部長が、人混みを作っている男たちに場所を譲ってもらいながら優雅にこちらへ歩いてくる。

朱乃先輩とアーシアもいるせいか、男どもは素早く場所を譲っていた。

その後ろを、ユウトが爽やかな顔をしてついてきている。

……オレらがあんな酷い目にあった意味は一体……。

 

そして前方の…魔法少女ミルキーナンタラを目にした途端。部長が驚きの声をあげた。

 

「なっ!」

 

ミルキーナンタラを見て慌てふためく部長。

一体何に驚いてんだろうな〜と、部長の姿にオレ達が驚いていると、また別の人物が人混みの中に突入して来る声が聞こえてきた。

 

「こらこら! 公開授業の日に撮影会なんかするな! 解散解散!」

 

生徒会の匙だ。他のメンバーも匙に続いている。

生徒会の連中は撮影会に参加していた生徒たちを引き剥がしていき、遂にはあれだけの人混みを綺麗に消し去ってしまった。

ここに残っているのは、生徒会、オレ達。そして問題のミルキーナンタラのみとなった。

 

「あんたもそんな格好しないでくれ。もしかして、生徒の保護者様ですか? そうだとしてもその場に合う衣装ってのがあるでしょう? 困りますよ」

 

「えー。だって、これが私の正装だもん☆」

 

匙の注意にキラッとポーズを決めるミルキーナンタラ。

こういう奴って、いくら注意しても聞く耳持たずだもんな〜。匙も大変だろうが、これは根気勝負になること間違いなしだ。頑張れ匙、応援してやるよ。

 

「これはリアス先輩。ちょうど良かった。今先輩のお父さんと魔王様をご案内していたところなんですよ」

 

っておぉっと! まさかのスルーか! その戦法は予想外だったぞ匙くん。

匙の後方には、生徒会長が先導して紅髪の男性二人を引き連れていた。

 

一人はパッと見でわかる。サーゼクスさんだ。予告通り来たみてぇだな。

あと一人は…部長のお父さんか。なるほど、サーゼクスさんと部長の産みの親なだけはあるな。こちらもかなり整った顔をしている。

 

「何事ですか? サジ、問題は簡潔に解決なさいといつも言って___」

 

生徒会長が小言を言おうと匙に近づいていく。

まぁやめてあげて下さいよ。匙くんは立派に注意していましたよ。

ただミルキーナンタラさんが聞かなかっただけで…。

 

 

しかし、会長さんはミルキーナンタラさんの姿を見るなり、その足を止めた。

 

そして、ミルキーナンタラさんはパァッと嬉しそうな顔を浮かべる。

 

「ソーナちゃん! 見つけた☆」

 

……ソーナちゃん?

 

 

ミルキーナンタラさんは会長さんに嬉しそうに抱きついた。

 

んん? ひょっとするとこの人、会長さんのお知り合いなのか? それにしちゃ堅物な会長さんに対し、やたら柔らかそうな人柄だなぁ。

 

すると、会長さんの後ろを歩いていたサーゼクスさんがミルキーナンタラさんに声をかける。

 

「ああ、セラフォルーか。キミもここへ来ていたんだな」

 

…セラフォルー? へぇ、それがこの人の名前なんだな。

なんか見た目によく似合う名前だな。

 

 

 

「…セ、セラフォルー…様?」

 

隣のイッセーが、ガタガタと震えながら口を開く。

 

「どうした? 知り合いか?」

 

よく見ると、周りの皆も同じように驚いていたり頭を抑えたりしている。

んん? 理解してないのオレだけ?

 

「あの、部長? あの人、何なんですか?」

 

部長は頭を抑えながら、オレの問いに答えてくれた。

 

「…セラフォルー・レヴィアタン様。ソーナのお姉さまで、現四大魔王のお一人よ」

 

 

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

 

 

「ええぇえええぇええ!!?」

 

 

いやいやいや! 嘘だろ!? この人が、えっ!?

まず、この人が堅物会長さんのお姉さん!? 一体どんな遺伝子の組み合わせでこんな正反対な姉妹が産まれるんだよ!

 

次に、この人が現四大魔王だと!? どんなだよ! 軽すぎるわ魔王様!!

仮にも冥界を治める王となる人物が! 妹(らしい)の学園にコスプレでやって来るって! それいいの!?

 

「セラフォルーさま、お久しぶりです」

 

「あら、リアスちゃん☆ おひさ〜☆」

 

だから軽いっつーの! なんじゃ「おひさ〜☆」って!

そんなの前世でクッソ濃ゆいメイクした女が言ったのしか聞いたことねぇよ!

 

こんなんでいいのか魔王様! サーゼクスさん含め!!

 

 

「今日はソーナの授業参観に?」

 

「うん☆ ソーナちゃんったら酷いのよ? 今日のこと、黙ってたんだから。

もう! お姉ちゃん、ショックで天界に攻め込もうとしちゃったんだからね!?」

 

 

だから軽いって……いや、もういいわ。なんかこれ以上突っ込んだら負けな気がする。

 

 

部長とイッセーがセラフォルーさんとサーゼクスさんと話している間、オレはこそっと朱乃先輩に尋ねてみた。

 

「魔王って、皆揃ってこんな感じなんすか?」

 

「えぇ。現四大魔王の皆様方は、どなたもプライベートの時はすごく面白い方々ばかりなのです。そしてそのご兄弟は例外なく真面目な方ばかり。

うふふ、きっとフリーダムなご兄弟が魔王様になったせいで、真面目にならざるを得なかったのでしょうね」

 

へ、へぇ。個性的なんだな、魔王の連中は…。

 

 

「あら? 貴方がリアスちゃんのお友だちの人間さん?」

 

げっ、こっちに話が来やがった。

 

「え、えぇ。八神 柊と申します」

 

「私はセラフォルー・レヴィアタンよ☆ よろしくね、シュウちゃん☆」

 

グググ…ただでさえ普通の女性とも接し辛いってのに、もっとやり難いタイプだこの人……。

というか、シュウ『ちゃん』って……。

 

「お、お姉さま。ここは私の学び舎であり、私はここの生徒会長を任されているのです……。

いくら身内だとしても、お姉さまの行動は、あまりに……容認できません」

 

暫く意識が飛んでいた生徒会長さんが必死にセラフォルーさんに説得しようと口を開いた。

 

「そんな! ソーナちゃん! ソーナちゃんにそんなことを言われたら、お姉ちゃん悲しい!」

 

が、効果は今ひとつのようだ。

全生徒の中で一、二を争う発言権を持つ会長さんの言葉が、てんで効いてない。

 

「お姉ちゃんが魔法少女に憧れているって、ソーナちゃんは知っているじゃない! きらめくスティックで天使、堕天使をまとめて抹殺なんだから☆」

 

「お姉さま、ご自重ください。お姉さまがきらめかれたら、小国が数分で滅びます」

 

魔王様が魔法少女に憧れるってのは変じゃないか?って突っ込むのは間違いなのだろうか。無性に突っ込みたいのに、なぜか声に出ない。

周りの皆もノーリアクションだし…いいのかな?

 

 

 

「うう、もう耐えられません!」

 

あ、逃げた。

目を若干潤ませ、会長さんは元来た道を走って戻ってしまった。

 

まぁでも逃げるよな。オレだって会長さんの立場でこんな場面に出くわしたら、迷わず『逃げる』を選択するし。

 

 

「待って! ソーナちゃん! お姉ちゃんを置いてどこに行くの!?」

 

「ついてこないで下さい!」

 

「いやぁぁぁん! お姉ちゃんを見捨てないで! ソーたぁぁぁん!」

 

「『たん』付けはお止めになってくださいとあれほど……!!」

 

 

 

…嵐のようなお二方は過ぎ去ってしまい、周りは一気に静かになった。

 

 

……なんか、大変なんだな。魔王の一家ってのも。

 

 

 

 

 

この後、サーゼクスさんも悪ノリして部長を泣かせ、グレイフィアさんに叩かれるという、なんか予想通りの展開を迎え、今日という一日は終わった……。

 

 




雑談ショーwith小猫

八「オレんとこもイッセーんとこも、部長んとこも大変だったらしいが…そっちの授業参観はどうだった?」

小「特に何もありませんでした。私のクラスも、普通に授業をこなしました」

八「そう言えば…ウチの部活の一年って、今のとこ小猫だけだよな?」

小「いえ、あと一人います」

八「え、マジで!? 知らなかった!」

小「次回、登場予定です。それまでお待ちください」


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四十六話目

バトライドウォー創世発売まであと少し。
フィリップと弦ちゃんが本人ボイスでなくなったことに、若干ショックを覚えながらも買うつもりの私です。
菅田さんも福士さんも、今大人気ですからね。出てこれないかな?と予想はしていましたが、ちょっと残念…。

さて、遅くなりましたが、本編どうぞ〜。


参観日の次の日の放課後。

オレたちオカルト研究部員は、旧校舎の中のとある教室の前に集まっていた。

 

『KEEP OUT!』と刑事ドラマとかでよく見かけるような黄色いテープが何重にも貼られ、怪しい魔法陣も合わさってかなり厳重に閉めきられているその教室は、怪しい感満載のオーラを醸し出している。

中の様子を知らないオレ、イッセー、アーシア、ゼノヴィアの間で『開かずの教室』と勝手に呼ばせてもらっている教室だ。

 

これまでも部室に行く途中とかで何回かこの教室の前を通ったことあるが、とても中に入ろうという気は全く起こらなかったし、スルーしてた。ダッテコワインダモン。

 

 

それがなぜ、今になってその教室の前に集まっているのかっつーとだな……。

 

 

 

 

…いやね、なんでもこの教室には、未だ知らされざるもう一人の眷属の〝僧侶〟がいるらしいのよ。イッセーが悪魔になる前、オレがこの部に関わり出す前からいたんだとさ。

てっきり今いるメンバーだけで全員かと思っていたオレからすると、その事実はちょっとびっくり。

 

これまで一回も顔を見せることはなかったし、更にはライザーとのレーティングゲームやコカビエルの襲撃といった眷属全体に関係する事件にも顔を出さなかったから、もう一人いるなんて予想だにつかなかったぜ。

 

…ただ、それにはちゃんとした理由があるという。

なんでも、その眷属は何やら恐ろしい能力を秘めた神器を身に宿しており、その上それを自分の力では制御できないという話だ。

 

でもって、ちょっと前までの部長は、その眷属を抑えきれる程の力は持ち合わせていなかったらしく、冥界のお偉いさん方からその眷属を封印しておくよう命じられたんだとさ。

 

 

その後、ライザー戦やコカビエル戦といった戦いで、着々と勝利を収めた部長の評価は冥界の中で急上昇。

更には今の部長なら、その眷属の力も抑えることが可能だろうと判断され、封印を解いていいって許可が下りたらしい。

それが昨日、サーゼクスさんから直々に伝えられたっつー話だ。

 

 

ということで、その眷属くんを迎えに、部員全員で参上したってワケなんだが……。

 

 

 

「ここに一日中住んでるの。一応夜中になると術が解けて旧校舎内だけなら自由に出歩けるのだけど、中にいる子がそれを拒否しているの」

 

「…それって、俗に言う引きこもりってやつじゃ?」

 

 

 

いきなり浮上、引きこもり説。

部長はこめかみに手を添えつつ、ハァとため息をついて頷いた。

そんな部長の傍から朱乃先輩が補足の説明を加える。

 

「でも、この子が眷属の中で一番の稼ぎ頭だったりするのですよ」

 

引きこもりで一番の稼ぎ頭って…なんかおかしくね?

だって、外に出ねぇと契約なんて結べねぇんじゃないのかな、と。願いを叶えたくても叶えようがねぇし、代償も貰えねぇし。

 

「パソコンを介して、特殊な契約を結んでいるのです。依頼人の中には、私たちと直接的に会いたくないという方もいらっしゃいますから」

 

…なるほど。確かに普通に考えりゃ、悪魔って怖い姿をしているイメージしかねぇもんな。

そもそも悪魔を呼び出そうっていう行為そのものが結構勇気いるもんだろうし、遠いところからコンタクト出来るってのならそれを選んだほうが安全なんだろ。

…或いはまぁ、それこそ引きこもりの依頼人だとか。

 

そういう人が相手のときは、引きこもりくんのやり方の方が有利だということか…。

う〜む、まさかこんなとこで情報社会の片鱗を見ることになろうとは…。

 

 

 

「さぁ、扉を開けるわよ」

 

部長がそう言うと、朱乃先輩が前に出て扉に手をかざした。

すると、扉を封印していた魔法陣が力を失っていくように徐々に光を失っていき、遂には綺麗さっぱり無くなってしまった。

後は手作業でテープをビリビリと剥がし、鍵を開け、中に入る…。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

その途端、耳をつんざくようなデカい叫び声が旧校舎中に響き渡った。

突然の事態に驚いた顔を浮かべる新人三人と、ノーリアクションで足を進める先輩四人。

オレはもちろん前者と同じ反応です。ギャアと叫びたいのはこっちの方だっつーの。

 

教室の中はカーテンで閉め切られているためか、薄暗く、部屋の雰囲気には似合わない可愛らしいぬいぐるみが至る所に置かれていた。

そして部屋の一角には、葬儀でも使えそうなほどの大きな棺桶がドドンと一つ。

 

「ご機嫌よう。元気そうで何よりだわ」

 

「な、何事なんですかァァァァァッ!?」

 

部長が棺桶にそっと声をかけると、その中から中性的な声の悲鳴がした。

さっきの叫び声もこの部屋の中からしたっぽいが…。ってことは、例の引きこもりくんはこの棺桶の中か?

 

「封印が解けたのですよ? もうお外に出られるのです。さぁ、私たちと一緒に__」

 

「嫌ですぅぅぅぅ!! ここがいいんですぅぅぅぅ!! 外怖いですぅぅぅぅ!!」

 

…見事に引きこもりらしい言葉だ。

ところが、朱乃先輩はそんなことお構いなしに棺桶の扉を開いていく。

ゴゴゴ…とでも音がしそうな気配とともに、棺桶の中身が露わになる…。

 

 

 

 

 

 

「……げっ」

 

「おおっ! 外国の女の子!」

 

そんな空気とは裏腹に、棺桶の中にいたのは、血のように真っ赤な眼と、アーシアのより少し暗めの金髪から伸びている僅かに尖った耳が特徴的で、女子の制服を着用したこれまた十分に美少女と呼べる少女だった。

棺桶の中で座り込み、部長たちに怯えた視線を向けている。

 

 

…また女子、かぁ……それもまた男どもが騒ぎ出しそうなやつがいたとはな…。

別にいやというわけじゃねぇんだが…せめてあと一人くらい男子枠が欲しいところだなぁ。今んとこ、こいつ含めて男三人の女六人だしさ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この子は確かに見た目は女の子だけど、紛れも無い男の子よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジで?」

 

「……え?」

 

 

突然の部長のカミングアウトに、オレとイッセーは素っ頓狂な声を漏らす。

ゼノヴィアとアーシアも同じ心境なのか、信じられないような顔を浮かべていた。

 

 

 

もう一度引きこもり君の顔に目を向ける。

 

 

若干目を潤ませて、怯えるような視線を向けるその顔は、並の女優やアイドルならば裸足で逃げ出してしまいそうなほどの……。

 

 

 

 

 

………なのに、男?

 

 

 

 

 

 

 

「い、いや。冗談でしょ? だって、どこからどう見ても可愛い女の子じゃ……」

 

信じられないからなのか、それとも信じたくないからか。イッセーが明らかな動揺を見せながらも口を開く。

フラフラと、まるで生まれたての子鹿のように、慈悲を求める哀しい顔で部長の元へ歩み寄る…。

 

 

 

 

 

「女装の趣味があるのですわ」

 

 

 

 

……そしてサラッと放たれた朱乃先輩の言葉に、イッセーの希望は打ち砕かれるのであったとさ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇええぇぇえええぇぇえぇえええっ!!?」

 

 

「ひぃぃぃぃぃっ! ゴメンなさぁぁぁぁいっ!!」

 

 

イッセーの絶叫にびっくりしたのか、“美少女”改め“美少年”は、イッセーの絶叫に負けないくらいの大きな声で悲鳴をあげた。

 

「完全に美少女なのに男だったなんて……。こんな残酷な話があってたまるか! 似合っている分余計真実を知ったときのショックがデカい! ってか、引き籠りなのに女装趣味ってどういうことだよ! 誰に見せるための女装だよ!?」

 

「だ、だって女の子の服の方がかわいいもん」

 

「もん、じゃねえよ! 野郎の癖に俺の夢を一瞬で散らせやがってぇぇぇぇぇぇっ! 俺はな! 俺はアーシアとおまえでダブル金髪美少女“僧侶”を夢見てたんだぞぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

涙を流しつつ、激しい怒りを見せるイッセー。

…気のせいかな。何故かこれまでの中で一番怒ってる気がする。

 

けどまぁ、こいつのショックも分かる…いや分かんねぇけど、一応納得はできるな。

オレでも美少女って思っちまったくらいだ。こいつにとっちゃ、もっと素晴らしい存在だったんだろう…。

 

 

「……“人”の“夢”と書いて、儚い」

 

「…なるほど納得」

 

「いやそれシャレにならんから! 」

 

小猫の鋭い呟きに賛同していると、すかさずイッセーがツッコミを入れてきた。

けど実質、うまいと思う。百点満点を与えたいくらいだ。この状況を見事に捉えたいい言葉だ。

 

 

 

 

「と、ところで、この方たちは誰なんですか?」

 

金髪少年がフルフルと震える指でこちらを指差し、怯えた声音で尋ねる。

その問いに部長が一人ずつ紹介する形で答えた。

 

「あなたがここにいる間に増えた新しい眷属よ。“兵士”の兵藤 一誠に、“騎士”のゼノヴィア。あなたと同じ“僧侶”のアーシア。人間の協力者の八神 柊よ」

 

「えっと…まぁよろしくな」

 

取り敢えず紹介されたので、軽く挨拶をしようかと手を伸ばす…。

 

 

「ヒィィィ、ふえてるぅぅぅぅ」

 

 

……ところが、当の本人は棺桶の中でビクビクと怯えているだけだった。

対人恐怖症なのかなんなのか…。事情はよくわからんが、これまた別の意味でやりにくいタイプだな…。

 

 

「お願いだから、外に出ましょう? もうあなたは封印されなくてもいいのよ?」

 

「嫌ですぅぅぅ! 僕に外の世界なんて無理なんだぁぁぁ! どうせ僕が出て行っても迷惑かけるだけだよぉぉぉ!」

 

部長が何とかして金髪少年を外に連れ出そうと優しく接するが、金髪少年は頑として外に出ようとしなかった。

 

そんな様子に腹を立てたのか、イッセーが若干お怒りな様子で金髪少年のもとに向かう。

 

「ほら、部長が外に出ろって__」

 

そう言ってイッセーが少年の腕を掴んだその瞬間____。

 

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァァァァァッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

____少年が叫び声をあげ、それと同時に視界が白に染まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

気付いた時には、視界も元のような景色に戻っていた。

薄暗い部屋、開けられた棺桶、可愛いぬいぐるみ、そしてオカ研のメンバー全員…。特に何も変化した様子は見受けられなかった。

 

…しかし、唯一変わっているところが一つ。

さっきまで、というかたった今までイッセーが手を伸ばせば届くくらいの位置にいたはずの金髪少年が、何故か部屋の隅っこの方に移動して震え上がっていた…。

 

 

「おかしいです。いま一瞬…」

 

「…あぁ、何か起きたのは確かだね」

 

不可解な顔を浮かべる新人悪魔たち。

先輩悪魔たちはこの現象について何か知っているのか、ため息をついたり苦笑を浮かべるばかりであった。

 

 

「ひぃぃぃぃぃ、ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい……!」

 

一方、金髪少年は部屋の隅っこでひたすら謝り続けている。

…まさか、こいつがさっきの変な現象を巻き起こした原因ということなのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ーーーーーーー》

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

ふと、頭に何かがボヤァッと浮かび上がった。

これまでに見たことも聞いたこともないような単語が……いや、文章? それともイラストか?

…なんか、ボヤッとし過ぎて余り明確には出てこないな…。

 

 

 

「その子は興奮すると、視界に映るすべての物体の時間を一定の間停止させる神器を持っているのです。

しかし、その神器を彼自身制御できないため、大公や魔王さまの命でここに封じられていたのですわ」

 

 

…うーん、今のは何だったのか気になるところだが…。まぁ今はいいや。忘れるってことは、そんな大したもんじゃねぇだろ。

取り敢えず、目の前の金髪少年のことを先に済ませてしまおうか。

 

今の朱乃先輩の説明からすると…さっきの現象はその時間停止能力が発動したことによるもので、あいつはオレたちの動きを停めたあと、スーッと逃げていったってことか?

 

なんとまぁ末恐ろしい能力…。しかも制御出来ないときた。

なるほど。これじゃ確かに封印されんのも当たり前、か……。

 

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷属の〝僧侶〟で、駒王学園の一年生。そして元は、人間と吸血鬼のハーフ」

 

 

部長が怯える金髪少年の後ろ姿を優しく抱きとめ、口を開く。

 

 

「そして神器、〝停止世界の邪眼〟【フォービトゥン・バロール・ビュー】の持ち主よ」

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

「……あれ、大丈夫なんだろうな」

 

「さ、さぁ? 俺はなんとも……」

 

引きこもり少年____ギャスパーを半ば無理矢理外に引きずり出し、その神器についての説明を受け終わった頃には、空が見事に真っ赤に染まっていた。つまり、夕方だ。

 

あの後、部長と朱乃先輩は三すくみ会談の会場打ち合わせに、そしてユウトはサーゼクスさんからのお呼び出しってことで、この場を離れていった。

 

 

部長たちが戻ってくるまでのその間、ギャスパーをできる限り外に慣れさせるようにって指示がおりたワケなんだが……。

 

 

 

「ほら、走れ。デイウォーカーなら日中でも走れるはずだ」

 

「ヒィィィィィィッ! デュランダルを構えて追いかけて来ないでぇぇぇぇぇっ!」

 

 

 

……聖剣デュランダルを手にした聖剣使い(ゼノヴィア)が、聖剣をブンブン振り回しながら吸血鬼の悪魔(ギャスパー)を追い回していた。

……しつこいようだが、聖剣で。

 

 

「…確か、聖剣で斬られた悪魔の末路って……」

 

「…消えるぞ、綺麗さっぱり」

 

 

……だよな。つい最近、そんなバタバタがあったからよく覚えてる。

 

ゼノヴィア曰く、「健全な精神は健全な肉体から」らしい。

その考えそのものには大賛成だが…うっかり当たっちまったらどうするんだよ…。側から見たら完全に吸血鬼狩りだぞアレ。

 

 

「…ギャーくん、ニンニクを食べれば健康になれる」

 

「いやぁぁぁん! 小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅ!」

 

 

……なんか小猫も楽しそうだ。

 

ギャスパーは吸血鬼でありながら、日光の下でも活動できるデイウォーカーであり、ハーフだから十日に一度輸血用の血液を補給すれば問題ない体質なんだとさ。ゼノヴィアは今、前者の一点をついて虐めてる。

なお、ニンニクや十字架が苦手なのは変わらないらしい。小猫は今、その一点をついて虐めてる。

……ギャスパーはいじられキャラで固定だな。

 

 

「おーおー、やってるやってる」

 

ふと、後ろの方から声がした。

振り向くと、そこには生徒会の匙がジョウロ片手に立っていた。花壇の手入れでもしてたんだろう。

 

「おっ、匙か」

 

「よー、兵藤。解禁された引きこもり眷属がいるって聞いて、見に来たぜ」

 

「ああ、あそこだ。ゼノヴィアに追いかけ回されてるやつ」

 

「おおっ! 金髪の女の子!」

 

ギャスパーの姿を目に捉え、歓喜の色を見せる匙。

 

「残念、あれは女装野郎だそうです」

 

そしてイッセーの言葉を聞き、一瞬で落胆した様子に移り変わり、その後、二人で肩を並べて悲しそうに愚痴りあい始めるのだった。

頼むからそこでやるのはやめてくれ。オレも同じくくりで見られんのは御免だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、魔王眷属の悪魔さん方はここで集まってお遊戯してるわけか」

 

突然、誰のものか分からない声がした。

声のした方に目を向けると、そこには外国人のような男が浴衣を着て立っていた。

 

ニヤニヤといけ好かない顔を浮かべているそいつは……

 

 

「アザゼルっ!?」

 

イッセーの言葉とともに、その場の雰囲気がガラッと一転。ゼノヴィアは振り回していたデュランダルを構え、小猫もファイティングポーズをとる。

アーシアがイッセーの後ろに隠れ、イッセーはそれを守るように〝赤龍帝の籠手〟を出現させた。匙は慌てながらも自分の神器を発動させる。

 

「ひょ、兵藤、アザゼルって!」

 

「マジだよ。俺はこいつと何度か接触してるんだ」

 

緊迫した顔でそれぞれの獲物を構える悪魔たち。

 

「…やめとけ、こいつに敵意はねぇよ。やるだけ無駄ってもんだ」

 

そんな皆をなだめるように、オレは口を開いた。

 

「シュウ…けど、堕天使なんだぞ!?」

 

「お前の言いたいことは分かってる。堕天使は信用できねぇってのも同感だ。

けど、こいつとやりあっても勝ち目はねぇだろ?」

 

ポンとイッセーの肩を叩き、アザゼルの前に立つ。

…さて、強がって立ち塞がってみたはいいものの…。正直、怖いな。ブルッと鳥肌が立ちそうだ。

敵意がないのは確かなんだが、それが逆に異様なオーラを感じさせている。こいつは間違いなく、これまでに出会ってきた中で最も強いグループに入っているな…。

 

これか堕天使総督…。初めて会ってみたが、その名は伊達じゃねぇってことか……。

 

 

「その通り。俺だって、下級悪魔たちをいじめるつもりはない。ちょっと散歩がてら悪魔さんのところに見学だ。

聖魔剣使いはいるか? ちょっと見に来たんだが」

 

「生憎、ユウトならここにはいねぇよ。さっきお呼び出しがあったとこだ」

 

オレがそう答えると、アザゼルは「ちっ、つまんねぇな…」と頭を掻いた。

そのままキョロキョロと周りを見渡し、とある一本の木を指差す。

 

「そこに隠れてるヴァンパイア」

 

すると、その木にいつの間にか隠れていたギャスパーがビクッと震えた。

そのギャスパーに向かいながら、アザゼルは言う。

 

「〝停止世界の邪眼〟は使いこなせないと害悪になる代物だ。神器の補助具で不足してる要素を補えばいいと思うが…。五感から発動する神器は、持ち主のキャパシティが足りないと自然に動き出して危険極まりない」

 

ギャスパーの両目を覗き込むアザゼル。

側から見れば、ギャスパーが堕天使に襲われているように見える光景だが、アザゼルからは悪意より興味のほうが感じ取られ、どう出るべきか悩むところだ。

ギャスパーはもう泡吹いてるが……。

 

次に、アザゼルは匙の方に視線を向けた。

 

「それ、〝黒い龍脈〟か? 練習するなら、それを使ってみろ。このヴァンパイアに繋いで神器の余分な力を吸い取りつつ発動させれば、暴走も少なく済むだろうさ」

 

慌てて身構える匙に、淡々と説明していく。

最初こそ緊張した顔つきをしていた匙だったが、段々と複雑なものになっていく。

 

「…お、俺の神器、相手の神器の力も吸えるのか? 単に敵のパワーを吸い取って弱らせるだけかと……」

 

「ったく、最近の神器所有者は自分の力をろくに知ろうともしない。

〝黒い龍脈〟は伝説の五大龍王の一匹、〝黒邪の龍王〟ヴリトラの力を宿している。

そいつはどんな物体にも接続することができ、その力を散らせるんだよ。短時間なら持ち主側のラインを引き離して、他の者や物に繋げることも可能だ。更に、成長すればラインの本数も増える」

 

呆れた様子で言うアザゼルに、とうとう匙は黙り込んでしまった。落ち込んで、というより、感心してのほうが近い。

 

いつか言ってたな…。アザゼルには異常な神器コレクター趣味があるって。

それもあって、ここまで神器について詳しいんだろうか……。

 

「神器上達で一番手っ取り早いのは、赤龍帝を宿した者の血を飲むことだ。ヴァンパイアには血でも飲ませとけば力がつくさ。

……ま、あとは自分たちでやってみろ」

 

そこまで言うと満足したのか、アザゼルはクルッと足先を変え、こちらに向けて歩を進めてくる。

そうして、オレの目の前で止まった。

 

「…で、お前が例の?」

 

顔を覗き込むようにするアザゼルの顔を睨み返してみる。

例のってのは、会談に参加する人間のことをサーゼクスさんあたりから聞いているんだろう。

 

「確かにそれなりに戦闘能力はあるみたいだが…。それだけでこの世界に入り込むってのは無理な話だ。

何かまだ、裏の力でも秘めてるんだろ?」

 

「…見てみるか?」

 

流石にグロンギの姿を見せる気はなく、手を叩いて近くにあった手摺に触れた。

すると、その手摺は青い光とともに形を変えていき、少し長めの棍へと姿を変える。

 

「…………」

 

それを、何やら不思議そうな顔で眺めているアザゼル。

ノーリアクションというわけでもなければ、過剰な反応を見せるわけでもなく、そのままの状態でいること数秒間…。

 

「……なるほど。あの嬢ちゃんの元には、色んな面白い力を持つ奴が集まってきたってことか」

 

途端、アザゼルは納得したように顔を上げた。

そしてそのまま、その場を離れようと足を進める…。

 

その途中、不意にその足を止め、こちらに振り返った。

 

「ヴァーリ___うちの白龍皇が勝手に接触して悪かったな。さぞ驚いただろう?

なーに、あいつは変わったやつだが、今すぐ決着つけようなんて思っちゃいないだろうさ」

 

「正体語らずに俺にたびたび接触してきたことには謝らないのか?」

 

「それは俺の趣味だ。謝らねぇよ」

 

 

それだけ言い残し、堕天使総督のアザゼルはこの学園から姿を消した……。




雑談ショーwithギャスパー

八「はい。ということで、今回から新しいメンバーが参加しました。〝僧侶〟のギャスパーくんです。ほら、挨拶」

ギ「ヒィィィィィィ……!」←段ボールの中

八「…えっと、こいつ、本編にもあったような性格なので、基本的にはこうやって段ボールの中に収まっているようでして……」

ギ「……………………(ガクブル)」

八「……なぁ、取り敢えずその中から出てきてくれねぇか? このままじゃオレの一人トークなんだが…」

ギ「……………………(ガクブル)」

八「おーい、ギャスパーさーん?」

ギ「……………………(ガクブル)」

八「……ダメだこりゃ」


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四十七話目

二ヶ月ぶりです。お久しぶりです。
いやぁ…長い間スランプに陥ってました。リアルもかなり忙しい時期に入りましたし、これからもペースガタ落ちする可能性大です…。下手すると次は二ヶ月以上かかるかも…。


どうか、気長に待っていただけるとありがたいです。これからもよろしくお願いします。


「ギャスパー、出てきてちょうだい。無理してイッセーに連れて行かせた私が悪かったわ。イッセーと仕事をすれば、もしかしたらあなたのためになると思って…」

 

『ふぇえええぇぇぇぇぇんっっ!!』

 

夕方の旧校舎に響き渡る、ギャスパーの悲しみの叫び。

閉め切られたギャスパーの部屋の前では、我らが部長がその扉をノックしつつ、部屋の中にいるギャスパーに向けて謝罪の言葉を述べている。

…見ての通り。ギャスパーが引きこもりに戻っちまったんだ。

 

今日、ギャスパーは皆のうち誰かの契約について行くことになっていた。出来る限り早く人と話すことに慣れて欲しいっていう部長の思いからそうなったらしい。

誰の契約について行かせるか話し合ったところ、ギャスパーの励みになってくれればってことで、イッセーが選ばれた。

 

今回の契約者さんは割と温厚な性格の人だというし、ギャスパーを怖がらせるようなことは何もしないだろう、と。

それに、もし万が一何か問題が起こったとしても、一緒にいるイッセーがある程度は解決する手筈になっていた。

だからあまり警戒しないでギャスパーを送り出した。それが、今日の夕方の話だ。

 

…ところがその結果、こうやって再び引きこもりに戻ることになってしまったんだ…。

 

 

「…ま、ある意味仕方ねぇ話か。今回の場合、あいつが引きこもったってのも当然っちゃ当然だもんな」

 

運が悪いことに、今回の契約者さんは特殊性癖を持ち合わせていた人だったらしく、所謂“男の娘好き”なんだったそうだ。

ギャスパーみたいなタイプはストライクゾーンど真ん中だったらしい。

 

その契約者さんはギャスパー相手にすっかり興奮しちまったわけなんだが…。

 

 

ただでさえ対人恐怖症なあいつが、そんな人に擦り寄られたんだ。そうなったらどうなるのかってのは想像に難くないだろう。

 

完全に怯えちまったギャスパーは無意識のうちに神器を発動させて、その場にいたイッセーと契約者さんの時間を停めてしまったらしい。

契約の方は何とかうまくいったみたいなんだが、責任感じたあいつはすっかり落ち込んじまって、ああして再び部屋の中にこもってしまったんだ…。

 

 

…ということで、ある意味仕方ない。その契約者さんがギャスパーにとって異様に怖かっただけなんだ。

 

 

「それはそうなんだけど…。俺が一緒にいたわけなんだから、ちゃんとフォローしてやらなきゃいけなかったんだ」

 

悔しそうな顔を浮かべ、イッセーが呟く。

 

 

…ギャスパーがここまで臆病な性格になってしまった経緯については、今日の朝の登校時間に軽く教えてもらった。

 

まず、吸血鬼という種族は純血ではない者を差別する傾向がかなり高いという。悪魔にもそんなところがあるらしいが、それとは比べ物にならないくらい激しいんだとさ。

名門の吸血鬼の父と人間の母の間に生まれてきたギャスパーはハーフという扱いになり、生まれた時からいじめられ続けていたらしい。

 

更には元から持ち合わせていた吸血鬼としての才能と例の神器の能力が合わさって、望んでもない力が年を経るごとに強くなっていき、ついに自分では制御できなくなってしまった。

 

自分の意思とは違うように働いてしまう。誰かと仲良くしようとしても、その相手を停めてしまう。停められた相手は、不審に思ってギャスパーを恐れるようになる。

ギャスパー自身、無意識に相手を停めてしまうことに怯えてしまい、人と触れ合うことを避けるようになった…。力を持つ者の悲しい運命ってやつだ。

 

結局ギャスパーは家から追い出され、人間としても吸血鬼としても生きにくくなった。

路頭をさ迷っていた時に、ヴァンパイアハンターに狙われて一度命を落とし、そこを部長に拾われたらしい。

 

 

……実際のギャスパーの心の傷はもっと複雑なもので、簡単には言葉にできない。けど、ざっくり言うとそんなとこだ。

 

 

 

『ぼ、僕は……こんな神器いらないっ! 皆、皆停まっちゃうんだ! 怖がるし、嫌がる! 僕だって嫌だ!

友達を、仲間を停めたくないよぉ……。大切な人の停まった顔を見るのは…もう嫌だ……』

 

部屋の中ですすり泣くギャスパー。

 

「…私、〝王〟失格ね。またこの子を引き篭もらせてしまうなんて……」

 

そんなギャスパーの泣き声を聞きながら、扉に手を添え、落ち込む部長。

けど…この人もいつまでもここにいるわけにはいかない。この後、部長は後日行われる会談に向けての打ち合わせに向かうことになっているんだ。

 

今回の会談は、例の三すくみの間で和平が結ばれるかどうかが決まるほど大切なものだという。グロンギの話云々はあくまでオマケであり、メインとしてはそっちの方だ。

もしその会談で何か失態を犯したとなれば、目も当てられないことになるそうだ。その重要性はオレでも理解できる。

 

だからこそ、事前の打ち合わせを慎重に、そして念入りに行わなければならない…。

 

 

 

…しかし、部長は部屋の前に立ったまま、まるで動こうとしなかった。

 

…分かってる。部長はギャスパーのことが心配なんだ。

普段なら、今すぐにでも打ち合わせの方に向かっていったことだろう。それがなかなかそう出来ずにいるのは、怖い思いをしたギャスパーを放っておけないっていう想いがあるからに違いない。仲間想いなこの人ならありそうなことだよな…。

 

 

「…部長。ここはオレたちに任せて、あなたは打ち合わせの方に向かってください」

 

「シュウ?」

 

ギャスパーの部屋の前に立つ部長に声をかける。

 

「心配なんでしょ? ギャスパーのこと」

 

部長は異を唱えることもなく、静かに話を聞いていた。

 

さっき言ったように、部長はギャスパーのことが心配で打ち合わせに向かえずにいる。なら、オレたちがこっちのことを引き受ければ、部長は心置きなく打ち合わせに向かえるはずだ。

ギャスパーとは個人的に話もしてみたいし、一石二鳥。

 

「こいつの面倒はオレらがきっちり見ますから。…大丈夫っすよ。せっかく出来た男子の後輩なんですから。なぁ? イッセー」

 

「おう! 当たり前だ!」

 

力強く返事するイッセーの声に、部長は暫くの間黙り込む。

やがて、決心したようにその顔を上げた。

 

「……分かったわ。イッセー、シュウ。お願いできる?」

 

「はい!」

 

「りょーかいっす」

 

オレたちの答えに満足そうな笑みを浮かべる部長。

一度ギャスパーの部屋を名残惜しそうに一瞥し、そのままこの場を去っていった…。

 

 

 

「…よし。早速おっ始めるとしますかね〜」

 

振り返り、ギャスパーの部屋に目を向ける。

どうやらあいつはまだ泣いているようだ。中から『ふぇえぇええ〜ん…』って感じの泣き声が扉を通して聞こえてくる。

きっちり鍵がかかっている堅固な扉が情けなく泣いているみたいで気味悪い。サッサと片付けるとしますかね。

 

「シュウ。何かいい考えでもあるのか?」

 

「モチのロン。任せときな」

 

自信満々に足を進め、部屋の扉の真横あたりに立つ。

ふむ。扉が扉なら壁も壁、こっちもこっちで頑丈だな。これを叩いて壊そうとしたところで、オレの手の方が先にイかれちまいそうだ。

…ま、そんなことしないけどさ。

 

 

「…一応確認なんだが、今は部屋に最初みたいな結界とかは張られてねぇんだろ?」

 

「え? あ、ああ、多分。普通に鍵を閉められてるだけだと思うぞ」

 

「オッケーオッケー。んなら大丈夫だ」

 

手を合わせ、頭の中で大体のイメージを思い浮かべる。

…簡易的なもんだし、そんな大きいもんは必要ないか。人一人が入れるくらいでいいかな。必要以上にデカくすれば、部屋そのものが崩れちまうし。

デザインは…この際カッコよく作ってみるか。どーせすぐ壊すもんだし、好きに作っても問題ないだろ。

 

 

 

「…っ!? お前まさか!」

 

「ハハッ、気付いたか。だがもう遅い!」

 

バンッ! と両手を壁に叩きつけると同時に、青い稲妻が手と壁を包むようにバチッ!っと走った。

ギャスパーの部屋の壁がピキピキと音を立て、少しずつ変化していき……

 

 

 

 

 

……やがて、小さな扉へと、その姿を変えてしまった。

 

 

 

 

 

「よし。んじゃ、お邪魔しま〜す」

 

カチャリとその扉を開けて、ギャスパーの部屋に入る。

えーっと、あいつはどこにいるのかな、っと……。

 

 

「………………」

 

 

お、いたいた。部屋の隅でポカンとしてやがる。

 

「よっ、ギャスパー」

 

シュッと手を動かし、ギャスパーに向けて挨拶。

こちらを指差すギャスパーは、ガクガクと震えながらその口を開き…

 

 

 

「えぇええぇぇえぇええぇぇっっ!!?」

 

 

と叫んだ。

 

あ〜もううるさいな〜。ちょっと勝手に扉作って入っただけじゃないか。何をそんなに騒ぐ必要があるんだかまったく。

 

 

「な、何やってんだよお前!!」

 

「ウルセェなぁ。こうやってでも顔を合わせねぇ限り何も始まんねぇだろ?

時には強行突破も上策だ」

 

イッセーからの苦言を適当に受け流し、再びギャスパーの方に視線を送る。

 

「アワ…ワワワ…アワワワワ……」

 

おやおや、完全に怯えきっちゃってまぁ…。…確実にオレのせいなんだろうけど。

 

「…だいじょーぶだ。別にお前を獲って食おうってわけじゃねぇ」

 

両手を上にあげ、戦う意思も狩る意思もないことを示す。

一応顔を合わせたことがあるからか、怯えてはいるものの顔はこちらに向いていた。ギャスパーもオレが部員の一人ってことは分かってくれてるだろ。

 

「ほ、本当…ですか…?」

 

「おう。ただ、男同士腹を割って話しでもしようかって思っただけさ。

…勝手に入り込んだのは悪かったよ」

 

「あ…いえ……」

 

ギャスパーの近くに腰を下ろす。

…ほら。なんだかんだ言ってうまくいっただろ? こういうのは多少強引にいったほうがいいんだよ。分かったかねイッセーくん。

入り口付近に立っているイッセーに自慢げな顔を向ける。やれやれとでも言いたそうな顔を見せながら、イッセーも近いところに座った。

 

 

「あ、あの…あれは一体、どうやって…?」

 

ギャスパーがそっと急造の扉を指差した。

そういや、まだオレの能力とか知らないんだっけ。

 

「オレの神器の能力さ。物質の構造を組み替えて、物の形を変えたり性質を変えたり…。まぁ簡単に言えば、“壁”の構造を変えて“扉”を作り出したってことさ。

…いい出来だろ?」

 

「え、えぇ…はい。そうですね…」

 

うむ、素直な奴だ。結構結構。

いや〜、あれ個人的にも自信作なんだよなぁ。この後元に戻すのが勿体無いと思えるくらい。

いっそのこと、元々あった方の扉を壁にしちまおうか。いや、二つの扉を合体させるのもいいかもな…。

 

「ギャスパー、無理しなくていいぞ。ダサいって思ったら正直にダサいと言ってやれ」

 

「おいコライッセー。素直なギャスパーくんを洗脳しようとすんな」

 

横目で睨みつけるも、イッセーは「だって当然じゃん」とでも言っているかのような顔を返した。

まったく、芸術の分からん奴め。別にお前に理解してもらわなくたって構わねぇし。オレとギャスパーだけで楽しんでおくし。

 

 

 

 

 

 

…さて、と。なんとか顔をあわせるのも成功したし…。

 

 

 

 

「…取り敢えず本題に入るが…。やっぱ、怖いのか? 神器と、オレたちが」

 

楽しい雰囲気から一転。真剣な顔つきで尋ねると、ギャスパーは再び悲しそうな顔を見せた。

 

この話を始めたら、ギャスパーを悲しませることになる…。それは分かっていたんだが、だからと言って何もその話題に触れなかったら何も進展しない。

それじゃダメだ。慰めるだけじゃなく、自分に自信を持てるようにしないといけない…。だから今、思い切ってこの話題を振ることにしたんだ。

 

 

顔を下に向け、視線を合わせようとしない。そんな様子のギャスパーに向けて、出来るだけの優しい声で語りかけた。

 

「それについて責めるつもりは毛頭ない。…むしろ良いことだと思うぜ? 自分の力に恐れを抱くってのは大事なことさ。時間を停める、なんて末恐ろしい能力を持ってるなら尚更だ。

他の皆だって、自分の力が怖いもんさ。な?」

 

そこでイッセーの方に視線を向ける。

イッセーは軽く頷き、自分の左手を自分の顔の前に持ってきた。

 

「…あぁ。俺も怖い。赤龍帝だなんて呼ばれてるけど、その力を使うたびに体のどこかが別の何かになっていく感じがするんだ。

けど……悪魔のこととか、ドラゴンのこととかよく分からないけど、それでも前に進んでいこうと思う」

 

「…ど、どうしてですか? もしかしたら、大切な何かを失うのかもしれないのに…先輩方はどうしてそこまで真っ直ぐ生きていられるんですか?」

 

イッセーの決意の声を聞いたギャスパーは、意外そうな顔でオレたちを見つめて尋ねてくる。

 

「…そうだな。大切なものを失うのが嫌だって気持ちはよく分かる。オレも嫌だからな。…が、だからこそ前に進んで行けるとも言えるんだ。

…オレも一度、大切にしていたものを失ったことがある」

 

「えっ……?」

 

それに答えた途端、ギャスパーだけでなく、イッセーも驚いたような顔を見せた。昔からの付き合いなのに、そんなこと知らなかったって驚いてるのかもしれない。

 

…そりゃ知らねぇだろ。これ、イッセーに会うよりずっと昔のことなんだからさ…。

 

 

「…けど、色々あって、何とかもう一度手にすることが出来たんだ。だから、折角手に入れたその大切なものを再び失いたくはない。そのために、がむしゃらにやらせてもらってんだ。

…オレは聖人でもなけりゃ賢人でもない。だからカッコいいことを言ってはやれねぇけど、お前と一緒に頑張ってやることはできる」

 

あまり関係ない話には触れず、そのまま言葉を繋げる。

しかし、ギャスパーは顔を下に向けたまま、更に悲しそうな顔を浮かべた。

 

「…ぼ、僕じゃご迷惑をかけるだけです…。引きこもりだし、人見知り激しいし…神器はまともに使えないし…」

 

 

 

「ギャスパー。オレたちはそれくらいのことでお前を迷惑な奴だなんて思わないぞ?」

 

それを聞いたギャスパーは驚いたように目を見開き、ゆっくりと顔を上げてオレと目を合わせてくれた。

 

「引きこもりで人見知りなら、少しずつ慣れていけばいい。神器がうまく扱えないなら、少しずつ練習していけばいいじゃねぇか。

何度失敗してもいい。それでオレたちはお前のことを嫌いになったりはしない。オレでよければ、いくらでも相談に乗ってやる。イッセーやユウトだって、お前の練習なら喜んで力貸してくれるさ。部長や朱乃先輩やアーシアは何度でも励ましてくれるだろうし、ゼノヴィアや小猫だって多少スパルタでも鍛えてくれる。

…だから大丈夫だ。お前が心配するようなことにはならないし、させねぇよ」

 

最後に、できるだけの笑顔を向ける。隣では同じようにイッセーが頷いているのが見えた。

 

…そう。皆は頑張ろうとするギャスパーのことを見捨てたりなんかしない。きっと、全員で応援する。

それを、こいつにもわかって欲しいんだ。

 

 

「……ありがとうございます。少し勇気が湧いてきました」

 

顔を上げて、笑みを見せるギャスパー。

よろしい。やはり男は元気でなくてはな。

 

 

 

 

「…扉が二つあるから不思議に思ったけど…二人とも中に居たんだね」

 

その時、ユウトが部屋に姿を見せた。元からあった扉の方から顔を覗かせている。

 

「お、ユウト。どうしたんだ? 一応活動時間は終わりだろ?」

 

「うん。二人がギャスパーくんについていてくれてると聞いたから、どうしてるのかちょっと気になってね」

 

そう言いつつ、ユウトは部屋に入ってきた。

 

…お。何気にオカルト研究部の男子部員が全員集合したな。オレとイッセーとユウトとギャスパーか…。

…こうして見ると、結構面白い組み合わせだよな。

 

「よしっ! 男子メンバーが全員揃ったところで、俺から一つ話がある!」

 

胸を張って言い放つイッセーに視線を向ける。

フッフッフと得意そうに笑い、奴はさらに言葉を続けた。

 

「俺たち男四人で、合体技を考えてみたんだ」

 

「合体技……?」

 

頭に疑問符を浮かべる一同。

合体技か…。オレもガキの頃に色々見たっけなぁ。五人組くらいのヒーローが、それぞれ持つ武器を合体させて、強力な一撃を放ったりとか…。あるいは、それぞれの必殺技を同時にぶつけてみたりとか…。

 

そんな感じのやつを、この面子でやんのか?

 

 

「まず、ギャスパーが神器の能力で相手の動きを止める」

 

おお、なんかスッゲェそれっぽい。

悪魔になって何度も戦場を経験してきたからか、話す時の顔もいつもと比べて真剣そのものだ。

 

…そうか。考えてみると、こいつはギャスパーに悪魔歴では劣るっつっても、学園生活や戦場では先輩になるのか。

それなら、戦う時の心構え的なのも話す時が来るかもしれねぇな。

 

先輩として、後輩のいい手本になれるといいよなぁ……

 

 

 

 

 

「そして、俺がその女の人の服を“洋服崩壊”で吹き飛ばす!」

 

 

…………あ、やっぱいつも通りだったわ。

 

 

「そしたら、俺はその相手の女の子を見放題で触り放題……♡」

 

 

だらしなく鼻の下を伸ばし、イッセーは自分の妄想ワールドへ突入していく。

…どこまでもマイペースなんだな、コイツ…。

 

 

「え、えっと…それなら、僕とシュウくんはいらないんじゃないかな?」

 

「いや! そんなことはないぞ!

木場は俺がお触りしている間にやられないように、俺を守る係。そしてシュウは、いざとなった時の為に逃げ道を用意する係だ!

そう! これこそ、この世の全ての男の夢と希望が詰まった、ドリームフォーメーションなのだ!!」

 

なんとか優しいツッコミを入れるユウトに、猛烈な勢いで答える変態。言い切った! って感じでドヤる。

 

…なるほど。確かにそれは完璧なフォーメーションだろう。

相手の動きは封じ、周りからの加勢にも備え、かつ自身の退路はしっかりある。それはどんな凄腕が相手でも十分通用しうる戦法と言えるだろうさ。

 

 

「アホらし、オレはパスだ」

 

 

しかし、それはメンバーの全員が乗り気であるときに限る。

 

 

「なっ! シュウ!?」

 

「んな下らねぇ事に付き合ってられっか。そんなのにオレたちを巻き込むんじゃねぇ」

 

「分かってるのか!? お前も触りたい放題なんだぞ!? 折角の大チャンスなんだぞ!?」

 

「なーにがチャンスだ。それでオレの答えが変わるわけねぇだろうが、アホ」

 

適当にあしらうように言い放つと流石に効いたのか、「クウッ…折角考えた最強のフォーメーションが……」って泣きながらぼやき始めた。

 

本来なら天誅下してるとこだったが、今回は何もしない。だってギャスパーの目の前だからな。乱暴は控えますぜ。

 

 

「イッセーくん。僕はイッセーくんのためなら何でもするけど…一度今後のことをちゃんと話そうよ。

そんなことばっかりやってると、ドライグ、泣くよ?」

 

《木場はいい奴だなぁ》

 

突然イッセーの左手が喋り出した。例の赤龍帝なるものの声だ。

伝説のドラゴンさえも泣かせるとは…。こいつの変態っぷりは、ドラゴンも悩みの種らしい。

 

「…お前らはいいよなぁ……イケメンだから特に何も苦労しないんだからさ……。どうせ俺なんか……」

 

そんなやりとりを流しつつ、どこぞのバッタ兄弟よろしく心が病んだ様子のイッセー。

 

「す、すごいです…。僕にはとてもそんな作戦思いつきそうにもないです…」

 

「思いつかなくていいし、感心しなくていいぞ。あれはダメな先輩の例だからな。

……それより、何でお前はまたそこに入ってんだよ」

 

チラと視線を送ると、そこにはそれなりの大きさの段ボールが置かれてあった。

…この中に、またギャスパーが入ってる。そんなに好きか段ボール。というかいつ入ったし。全く気づかんかったわ。

 

「ぼ、僕、人と話すときはこっちの方が落ち着くんです。蓋はちゃんと開けときますから」

 

…そこまでの効果があるのか。お前にとっての段ボールって、オアシスか何かか?

 

「…なら、これでも被ってろ」

 

カポッと、そこらへんに落ちてあった紙袋をギャスパーの頭に被せる。

ちょうど目の当たりに少し大きめの穴を開けると、紙袋でできた簡単な覆面が出来上がった。

こっちも大概変な奴だが、喋る段ボールよりかマシってもんだろ。

 

「こ、これ…なんだか落ち着きます。なんかいいかも……」

 

ペタペタと覆面を触るギャスパー。

 

「ど、どうですか〜? 似合いますか〜?」

 

段ボールから出て、フラフラとゾンビのように歩き回る。

紙袋を被っている時点で怪しさが溢れ出ているのに、覗き穴からはギャスパーの赤い目がギラリと光り、妙な迫力が…。

 

……あり? これはさっきの段ボールの方がまだ良かったかな?

 

 

 

==============

【第三者視点】

 

ギャスパーを慰めて自信をつけさせ、暫く男四人で雑談しあった後、既に夜遅くなっていたことに気がついた八神たちは、ギャスパーと別れてそれぞれの帰路についていた。

最初は木場も合わせて三人で帰っていたのだが、途中の分かれ道で別れ、今は八神と兵藤の二人だけで歩いている。

 

普段ならあの後の下らない話の続きで盛り上がっていたとこだろう。好みの女性のタイプや、女性のどんなところが好みなのか、といった話で。

 

…ところが、今はどちらも一言も言葉を発しない。ただただ黙って、それぞれの家へと向かっていた。

 

 

 

「…なぁ、シュウ。お前の言ってた、大切なものを失ったって話は…」

 

木場と別れてからずっと黙っていた兵藤が、遠慮しがちに口を開く。

先程、ギャスパーとの話の中で突然出た話…。二人きりになってから、彼はそれがずっと気になっていたみたいだ。

 

八神は不意にその足を止めて、尋ねられた問いに答えようと口を開く…。

 

「……ま、お前のことだ」

 

「…え?」

 

意外な答えを聞いた兵藤は、驚いたような顔を浮かべて、八神と同じように立ち止まる。

そんな様子を見た後も、八神はそのまま言葉を続けた…。

 

「オレが不甲斐なかったから、お前を人間じゃなくしてしまった。お前を戦いの世界に引き込んじまった…。

あの日、もっと早くに気づいてやれれば、こんなことにはならなかったって思うとな…」

 

暗い夜空を見上げる八神。その顔からは、どこか後悔のような、そんな悲しい感情が込められているような気がした…。

 

「…そんなこと気にするなよ! お前らしくもないぞ!」

 

兵藤が彼の背中を叩く。急に背中を叩かれた八神は驚いたような顔を浮かべ、兵藤の方に顔を向けた。

 

「あれは俺が〝赤龍帝の籠手〟を宿していたから起こったようなものなんだから、シュウのせいなんかじゃない。どっちかと言えば、浮かれていた俺の自業自得さ。

それに、今の生活の方が前より楽しいんだから、シュウが気にするようなことじゃないし…」

 

そこまで言い切った後、兵藤は「あ〜! こういう時、なんて言えばいいのか分からね〜!」と言いながら、再び歩き始めた。

 

 

「…そうかい。それはありがとさん」

 

 

苦笑を浮かべ、八神も彼の後を追う。

それからは普段通り、馬鹿な話をしながら自宅の方へと向かっていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「…悪いな、イッセー…」

 

 

 

 

 

 

 

「ギャスパーには、ああ言ったオレだけどさ…」

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ、本当の事を言う気にはなれねぇんだ」

 

 

 

 

 

 




雑談ショーwith朱乃

朱「八神くん。今度のお休みの日、町中の神社に来てくださりませんか?」

八「別に構いませんけど…なんかありましたっけ?」

朱「その日、イッセーくんに関係することで儀式が執り行われるのです。そのお手伝いに来て欲しいのと…個人的にお話ししたいことがあるんですの」

八「…? まぁ、分かりました。今度の休日っすね」

朱「…えぇ。よろしくお願いします」




八「…なんか先輩暗いな…。何かあったのか?」


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四十八話目

はい、予測通り三ヶ月ぶりでございます。

前回に引き続き、長いスランプに陥ってまして、中々ペンが動きませんでした。
リアルもたいへん忙しくて…。受験勉強や英検取得、鬼退治や西遊記や円卓の騎士(分かる人は分かるはず!)など、中々…ね。

さて、三ヶ月ぶりの更新。どうか楽しんでいただけると幸いです!


次の休日の昼。

先輩から指定された場所にあった町外れのとある神社にて、オレはここで行われるという儀式の準備を手伝っていた。

不思議なお札が貼られた壺やら箱やらを儀式会場に運んだり、逆にいらないものを外に運び出したりといった力仕事を任せられ、黙々とその作業を頑張ってます。

 

 

…今の挨拶の中で、あれ? と違和感を感じたという人も多くいることだろう。だがちょっと待ってくれ。順々に説明していくから。

 

何がおかしいことなのか…。それは割と簡単なことだ。

 

普通、神社や教会といった神を祀るとされる施設には、魔除けの結界みたいなもんが貼られてんだ。悪魔の連中が入ろうとしたら、地味なダメージを与えて近づかせまいとするらしい。

これまでにオレらが押しかけてきた教会は、どれもとっくに廃れていたからか何かで結界の効果が薄れていただけで、普通はどこもそんな感じなんだそうだ。

 

 

…お分かりいただけただろうか。

 

要するに、儀式を受ける当人であるはずのイッセーが、会場に入ることができないんじゃないか? という疑問が浮かぶのだ。

 

神性バリバリな神社で悪魔の儀式なんてやるわけねぇじゃんっていうのも勿論ある。けど、実際はそれ以前の問題だ。当人が会場に入れない儀式とか、何それチョーウケるってレベル。

 

オレも最初ここに着いた時は、道間違えたんじゃないかとメチャクチャ焦った。だってここで儀式するだなんてマジで思えなかったし。

 

…じゃあそれについての答えなんだが……っと、その説明をするのは後にしよう。ちょうど今、最後の荷物を運び終えたところなんだ。

 

 

 

 

 

「先輩、こっちの方は終わりましたよ」

 

「ありがとうございます。お陰で随分早く終わりましたわ」

 

庭の方に声をかけると、そこで掃除をしていた朱乃先輩が姿を見せる。

先輩はいつもの制服姿とは違い、戦闘時に着るような巫女服を身にまとっていた。

 

 

…つまり、こういうことだ。

 

実は先輩はこの神社に住んでいて、その管理も請け負っているそうなんだ。そこいらの神社にもいる巫女さんをやってるっつーことになるのか?

 

悪魔を拒絶するような結界的な何とかは裏の取引で取り除いているらしく、悪魔でも簡単に入ることが出来るという。〝悪魔でも簡単に利用できる神の領域〟ってイメージだな。多分天界の連中といい関係を築くのに重要な場所となるんだろう。

 

だからここで悪魔の儀式をしても大丈夫だし、イッセーも入ってこれるということなんだそうだ。

 

なんで先輩が自分の家をここにしているのか〜とか、なんでここの巫女さんやってんのか〜とか、そんな深い事情までは分からない。けど、とにかくそういうことらしい。

 

ここを会場として選んだ理由はまだ分からないけど、これで一つの疑問は消えるだろう。

 

 

…余談だが、そのことを知った時はかなりホッとしたオレである。実際年齢三十過ぎのいいおっさんが迷子とか、恥ずかしすぎて…。

 

 

 

「それでは、私はこれから本格的な準備の方に入りますわ。シュウくんはこれからどうなされますか?」

 

「ん〜、取り敢えず適当にその辺ブラっと回っとこうかな〜っと。それより先輩。今日のあいつの儀式って、いったいどんなことやるんすか?」

 

先輩にこれからの予定を伝え、同時にちょっと気になっていたことを尋ねてみた。

イッセーに関係する儀式とは聞いていたが、詳しいことはまだ知らされてない。わざわざ神社を会場にするぐらいだし、結構重要なことをするんじゃないかと予想。

 

先輩は掃除用具を片付けつつ、その質問に答えてくれた。

 

 

「〝アスカロン〟をイッセーくんにお渡しするためのものなのです」

 

「アスカロン?」

 

…聞いたことない言葉だ。お渡しするって言ったから、多分何かの道具のことなんだろうが…。

 

首を傾げるオレの様子を見て、先輩はさらに補足の説明を加えてくれた。

 

「アスカロンというのは、聖ジョージ、ゲオルギウスが持っていたとされる『龍殺し』の聖剣の一つのことですわ」

 

「へぇ…」

 

そんなものを渡されんのか…。そういやあいつ、これといった武器がなかったっけ。

あいつの戦闘スタイルは殴って蹴っての格闘スタイルだから、そこまで重点的に使うことはないかもだけど、使えるに越したことはないか。

 

それがあれば、これからの戦いも一層やりやすくなるかもな。聖剣だからはぐれ悪魔の討伐も楽になるし、『龍殺し』っていうくらいだから多分龍特攻みたいなものがついてんだろう。仮に白龍皇との決戦になったとしても、それで優位に立てるだろうし…いいこと尽くしだな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなもんをあいつが持ってて大丈夫なんすか?」

 

サラッと言われたから気づかなかったけど、それ悪魔でドラゴンのあいつにとっちゃ害悪以外のなんでもないですよね? 効果はバツグン四倍ダメージどころか一撃必殺即刻お陀仏ですよね?

 

先輩はクスクス笑っている。…おのれ、これは狙われた感じがするぞ。そんなリアクションを期待していました感満載だぞ。

 

「ええ。ですから、こちらで最終調整を行い、イッセーくんでも扱えることができるようにするのです。

今、ある方がそのアスカロンを持ってこちらに向かわれています。…ちょうど今、到着されたようですわ」

 

「ん?」

 

先輩に言われて、周りに意識を向ける。…確かに、誰かが石段を上がってきているな。

石段がある鳥居の方に視線を向けると、ちょうど登り終えたところなのか、その人物は鳥居をくぐったところだった。

 

鳥居をくぐってきた人は、オレたちに…多分先輩の方に顔を向けた。

 

「ご無沙汰しています、姫島さん。本日はよろしくお願いします」

 

その人の挨拶に合わせ、先輩も軽く会釈する。その間にオレはその人のことをよく観察することにした。

 

…結論から言うと、なんか神々しい。うまく言葉にはできないが、優しそうな顔と柔らかい言葉、滲み出るオーラなどといった様々な観点で見ても、サーゼクスさんたちとはまた違った威厳がある。

神様ってのがホントにいるとしたら、こんな感じなのかもと思わせるような人物像だ。

 

…オレが知ってる神さんより神様っぽいってのはどういうことだろうか。

 

 

「…そちらの方は?」

 

見知らぬ男のことが気になったのか、その人はオレの方に視線を向けながら尋ねた。

オレの隣に立つ先輩が、その問いに答えるように紹介してくれる。

 

「彼は八神 柊。私たちグレモリー眷属の、人間の協力者です。今日は会場設営のお手伝いをお願いしたのですわ」

 

「どうも、八神です」

 

紹介されたのなら、こっちもちゃんとした挨拶を交わさねばならぬ。笑みを浮かべて軽く頭を下げると、あの人は納得したような顔を見せた。

 

「あぁ、あなたが八神さんですか。サーゼクスから話は聞いています。初めまして。〝熾天使〟…天使の長をしております、ミカエルという者です」

 

この人がミカエルさんか…。名前は知っていたけど、こうして会うのは初めてだな…。

 

天使のトップだというし、例の会談にも来るんだろうな。ちゃんと覚えとこ。メモメモ。

 

 

「それでは、早速始めましょうか。赤龍帝の彼は後ほどこちらに?」

 

「はい。今日の夕方に来るよう伝えましたわ」

 

「分かりました。では、それまでに済ませてしまいましょう」

 

そう言って、ミカエルさんと朱乃先輩は神社の方へ足を向ける。

 

去り際に先輩が、一瞬だけこっちに目を向け、「それでは、また後で」と視線だけで述べた。

 

 

もちろん忘れてはいない。今日は儀式の後、先輩が話したいことがあると言っていたんだ。

 

オレとしても一つ訊きたいこともあったし、ちょうどいい。儀式が終わったあたりにでも、ここにまた帰ってこよう。

 

 

…それまで、ノンビリと夕飯の買い物でもしとくかね。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

買い物ついでの観光気分であまり訪れたことのない地域をブラブラし、そろそろいい頃合かな〜と思った丁度その頃。神社の方から、ブワッと何かの力の波動が発生した。

 

邪気とか殺意とかそんな血生臭いものはなにもなく、ただ純粋に何かの力が、蒸し器の蓋を開けた時に出てくる煙のようにボワッと出てきた感じで……。イメージしにくい? ゴメンなさいね。表現しにくいんだよ。

 

どうやら儀式は成功したらしい。急いで神社に戻らねば…! ってことで、神社の方に足を向けた途端。

 

 

「あら、シュウじゃない」

 

 

野生 の ブチョー が 現れた!

 

 

「…ちょっと。なによその草むらから私が飛び出してきたみたいなリアクションは。というより私野生じゃないんだけど」

 

「だってなんの前触れもなく出てくるんですもん。なんで部長がこんなところにいるんすか?」

 

「イッセーを迎えに行っているところよ。そういうあなたは…一体どこに行ってたの?」

 

「儀式会場の準備の手伝いとかで呼ばれてました。これからもう一回神社に戻るところっす」

 

「それは知ってるわよ、朱乃から聞いたから。そうじゃなくて……それは?」

 

部長はそう言って、オレが両脇に抱える袋を指差す。…それは、ただ買い物に行った男が持っているとは思えないほどの量があった。自分でもそう思えちゃうくらいの量が。

 

「いやぁ、この辺りオレん家の周りじゃなかなか見かけないブランドの紅茶やコーヒーがいっぱいありまして…それに激安スーパーもありましたし…つい、衝動買いを」

 

実際、この辺りはまるで紅茶専門店の激戦区なのだろうかと思うくらい店が多かった。朱乃先輩がそういうブランドに色々詳しいのも納得できるほどに。

観光気分でブラブラしていたのが運の尽きとも言えよう。最初の店でやめときゃよかったとちょっと後悔しているところだ。

 

何故だろうか。グロンギになったあの日から、珍しい紅茶やコーヒーを見るとつい買ってしまう。無意識のうちにカゴに入れていて、気づいた時にはお支払いしていた〜なんてのが結構ザラにあるのだ。…いけないクセだってのは、重々承知しているんだけどな。

 

 

「呆れた…。あなた、部費の管理を任せちゃいけないタイプね」

 

「ええ。それは是非やめといたほうがよろしいかと」

 

「威張らないの。…少し持ってあげるわ。行き先は同じでしょ?」

 

「大丈夫っすよ。このくらい、普通に持てますし」

 

 

その場の流れで一緒に神社に向かう。…何気にこの組み合わせは珍しいな。いつもは大体イッセーと一緒にいるからか。

 

そういや、部長は例の会談の打ち合わせに出向いてたんだっけ。だから今日はイッセーと別行動なんだな。

…ってことは、打ち合わせも終わったのか。

 

「打ち合わせのほうはどうでした?」

 

なんとなく気になって尋ねてみると、部長は少し苦笑を浮かべて答えた。

 

「だいたい片付いたわ。後はもう本番を待つだけね」

 

本番…。そうか、もうそろそろ本番か…。

サーゼクスさんにはああ言ったものの、まだどんなこと話すか決めてねぇんだよなぁ…。

 

 

 

 

「…ねぇ、シュウ。一つ聞きたいのだけど」

 

「はい?」

 

「あなたのそれ…いったいどうなっているの?」

 

部長はそう言って、オレの髪を指差した。

 

それって……あぁ、電撃体のことか。そう言えば、まだ皆には何も説明していなかったな。

皆からすれば、オレがいきなり自爆行為に走っていきなり髪の色が変わって……それはマズイ。ちゃんと話さねば。

 

さて、なんと話したものか…。この力を手に入れたのは、多分グロンギの特殊能力みたいなもんじゃないかとは思うんだが…。

 

 

「…おそらく、オレの神器の能力かと。先輩の雷の中にある魔力の構造を…というより、性質か? それを分析して、理解して、取り込んだ、みたいな。そうして先輩の魔力にある雷の力を手に入れることができたんだと思います」

 

取り敢えず神器の所為にしてみた。一応、まだその可能性も捨てきれたわけじゃないし。

もしこの力が原作通りなら、魔力だの光力だのといった化学式じゃ表せないものは組み替えできない可能性は高いが、一応は神器という形でこの世界に溶け込んでいる。ひょっとすると、魔力や光力にも効果があるのかもしれない。

可能性はなきにしもあらず、なのだ。だからこれの所為にする。

 

「そんな能力、聞いたことないわね…。じゃあ貴方、それが分かっていたから朱乃に雷を浴びせるように言ったわけね?」

 

「分かっていたというより、予想です。成功する確率は五分五分でした。あの戦いでは少しでもパワーアップする必要があったんで、その五割に掛けてみたんです。…実際、今でもよく分かってないんすけど」

 

ハハハッて笑いながらそう答える。

 

 

すると……部長が、急に神社に向かう足を止めた。

 

「…部長?」

 

何かあったのだろうか…。そう思って、そっと部長の顔を覗き込む。

 

「…成功する確証がなかったのに、あんな行動に走ったわけ?」

 

その顔は、ついさっきまでのものとは違い、まるで何かを心配しているかのような…そんな顔だった。

 

「……まぁ、はい。そうですけど…」

 

今までとは違い、冗談半分で聞いちゃいけない話だ…。部長の口調からそう読み取れたオレは、顔を引き締めて部長に向き合う。

それに対し、部長も同じように真剣な顔になって口を開いた。

 

 

「…シュウ。確かに貴方のその瞬時の行動のおかげで、私たちはあの戦いを乗り越えることができたとも言えるわ。貴方がその力を得て、あの翼を持つ怪人を引き受けてくれたから、私たちは今も全員ここにいることが出来ている。そのことには感謝しているの。そこは間違えないで。

…でもね。貴方が雷を受けていた時、私たちは全員不安な気持ちにさせられたのも分かるわよね?」

 

「あ……」

 

部長から指摘されて、改めてあの時の自分の行為を思い返す。

 

…あの時、オレは電撃の力を得てパワーアップするために、先輩に雷を浴びせてもらうように頼んだ。

その行為自体は間違いだとは思わない。あれは確かに必要な行為だった。もしあれをやってなけりゃ、オレはガベリに負けはせずとも勝てもせずだったろうからな。

 

でも、その行動は、皆に余計な心配をかけるものだった。味方に攻撃を当てる、その行為そのものが不安なもの。なのに、電撃の力を得ることしか頭になかったオレは、皆にろくな説明をすることもなく、その行為に走った。

 

その結果、オレはガベリを打ち倒す力を得た代わりに、皆に精神的な側面でのマイナスの影響を与えた…ということか…。

 

 

…頭がひえた、なんてカッコつけたことを言っていたあの日のオレが馬鹿らしくなる。まだ血の抜け方が足りてなかったじゃねぇか…。

 

 

「貴方は間違いなく、私たちの中で一番強くて、戦場では一番頼りになる存在よ。でも、あまり無茶なことばかりしないの。貴方は眷属ではないけれど、オカルト研究部の一員なんだから」

 

…返す言葉もない。ぐうの音も出ないとはまさにこのことだ。

 

前世じゃ一人で戦ってるか、仲間と戦うっつっても、ユウスケと一緒くらいのもんだった。その上、ユウスケにはそんなに気ぃ使うこともなかったからな…。仲間に心配をかけないように戦うなんて経験は全くなかった。

 

…その感覚で動いちまった。今思うと、ホント浅はかだったよなコリャ…。

 

 

「……すんません」

 

小さく、それでもはっきりと謝罪の言葉を述べると、部長は笑みを浮かべ、また歩き出した。

 

横に並ぶようにオレも足を進めると、部長は小さく溜息をつき、空を見上げた。

その顔は、どこか悔しそうにも見て取れた…。

 

そんな顔を浮かべたまま、部長は愚痴をこぼすように小さく口を開く。

 

「…でも、今の私たちが力不足だから、貴方に無理を強いることが多くなるのも確かね。そこは謝るわ。ゴメンなさい」

 

「な!? いや、そんなことは」

 

「あるの。私たちがグロンギ相手でもちゃんと戦うことができれば、貴方一人で戦わせることはなかった。ライザーとの戦いも、コカビエルの時も…。貴方には無理をさせっぱなしね」

 

自嘲するように笑う部長。

…でも、部長たちは悪くない。確かに皆が奴らともやりあえるくらいになってくれれば、ありがたいことこの上ないのだけれど…。

 

 

…オレが一人で戦おうとするのは…皆が力不足だからとか、そんなんじゃないから…。

 

 

 

 

「今度、また強化合宿を開くつもりよ。貴方だけに戦わせることがないように、私たちも強くなるわ。だから、もっと私たちを頼ってちょうだいね?」

 

部長がそう言って話を終わらせた頃には、いつの間にか神社下の石段のところについていた。

オレたちがそこで足を止めたのとほぼ同時くらいに、上から、つまり神社の方から、聞きなれた声が聞こえた。

 

「部長〜! 只今終わりました〜!」

 

そう言って勢いよく降りてきたのは、儀式を受けに来ていたらしいイッセーだった。あいつもちょうど帰ってきていたところだったらしい。

 

「あ、シュウもいたのか…ってなんだその荷物!?」

 

「ウルセェなぁ、買い過ぎたんだよ。……お前ってホント、空気読めねぇよなぁ」

 

皮肉交じりに言うと、イッセーは不思議そうに首をかしげた。

その様子を見ながらクスクスと笑っていた部長がイッセーの方に向き直る。

 

「儀式は成功したみたいね。アスカロンは?」

 

「バッチリもらえました!」

 

「そう、よかった。じゃあ帰りましょうか」

 

グッ! と元気よく返事するイッセーに微笑むと、部長は踵を返して神社に背を向けた。

 

「あれ? シュウはまだ帰らないのか?」

 

「あぁ。オレはちょっと先輩に訊きたいことがあるんだ」

 

「そっか。じゃあまた明日な!」

 

「ん、お疲れさん」

 

部長を追って走り出すイッセーの背中を見送り、ある程度離れたところで再び神社の敷地に足を踏み入れた。

 

先輩に質問したいことに加えて、もう一つやるべきことが増えた。さっさと用事を終わらせてしまおう。

 

石段を上がり、鳥居をくぐる。神社はすでにさっきの力の発生源とは思えないくらい静まり返っていた。

ミカエルさんももう帰っちまったみたいだな。気配がない。

 

さて、オレはどこに行けばいいのかな、と……。

 

 

「シュウくん、こちらですわ」

 

 

自分の名前を呼ばれ、そっちの方に目を向ける。

 

そこには、さっきと変わらない巫女服を身につけた先輩が立っていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

先輩が生活しているという境内の家に招かれたオレは、わざわざ先輩が入れてくれたお茶を飲んでいた。

一般的なお茶ではなく、器を三回まわして飲むという茶道的なものでとても苦いのだが、これがまたうまい。この人、和風の茶まで完璧か。…今度、それとなく習ってみよう。

 

「今日は本当にありがとうございました。すごく助かりましたわ」

 

「いえ、別にあれぐらいでよかったらいつでも手伝いますよ」

 

クルクルと器を回し、お茶を飲む…。それを何回か繰り返しながら、こっそりと先輩の様子を伺ってみた。

 

普通に見えるように振舞ってはいるみたいだが…どこか妙な違和感がある。いつもならもっと温かい人なのに、今日は曇った日のような感じがしてんだ。

 

やっぱり、先輩の話ってのが関係してるのかもな…。あの時もなんか暗かったような気がするし…。

 

 

 

 

 

 

…………よし。

 

 

 

「先輩。ちょっとオレからいいですか?」

 

「? …ええ、構いませんわ」

 

許可が下りた。

 

ということで、オレは体制を変える。足は正座の形に組み、両手を広げて添え、頭をゆっくりと地べたにつけて……。

 

 

 

 

 

 

「…先輩。この間はホントにすいませんでした」

 

 

謝罪した。

日本古来のトラディショナル・アポロジー。通称『土下座』を繰り出した。

 

 

 

 

「……え?」

 

大変珍しいことに、先輩が素っ頓狂な声を漏らした。頭下げてるから顔までは確認できないが、おそらく相当びっくりしてるのだろう。

 

さっきの部長との話にもあったあの行動…。部長や皆に心配かけたのも確かなんだが、何より不安な思いをしたのは間違いなく先輩だ。雷を浴びせた張本人なんだから。それをさっきの部長の言葉で実感させられた。

 

だから、先輩にはちゃんと謝ろうと思ったんだ。今更だけど。

 

 

「あの日…コカビエルとの戦いの時に、オレは先輩になんの説明をすることもなく、あんな頼みごとをしてしまって…しかも結構強引に迫った感じになっちまって…挙句その後に説明をするわけでもなく、ここまでズルズルと引きずってきて…なんつーかもう……」

 

…言えば言うほど罪が増えていく。これ以上言い続けていったところで終わらない気がしてきた。

オレの罪? 今更数えきれるかってんだチクショウめ。

 

「…本当にすいませんでした」

 

最後にもう一度、ちゃんと謝罪。許してもらえるかどうかは分からないが、せめて反省の意図だけでも伝わってくれたら…。

 

暫く口を開かなかった先輩は、やがてゆっくりと語りだす。

 

「…いいえ。確かにあの日は本当に驚かされて、不安な思いではありましたが、あなたの力になれたのならそれで満足ですわ。…だから、もうお顔をあげてください」

 

先輩からそう促されたので、顔を上げた。

 

…よかった。なんとかお許しをいただけたらしい。

 

もう二度とあんなことはしないようにしよう。皆に心配かけるのは、こっちとしてもあまりいいもんじゃないしね。

 

 

 

「…では、次は私の番ですわね」

 

「?」

 

先輩は静かに立ち上がり、障子のまえに…夕日を背にするようにして立った。

 

先輩の番…。先輩がしたいと言っていた話のことだな。

ホントはもう一個訊きたいことがあるんだけど…ま、それは先輩の話の後でいいか。

 

「シュウくんはあの日…校舎にはいなかったから、まだ聞いてないことと思いますので」

 

あの日校舎にいなかった? それいつの話? オレは頭に疑問符を浮かべる。

 

 

 

 

そんなオレの目の前で…先輩が静かに翼を広げた…。

 

 

 

 

 

《バサッ!》

 

「………なっ!?」

 

 

 

それを見たオレは…驚きの声をあげずにはいられなかった。

 

そのこと自体は別に珍しいことでもない。先輩のようなウィザードタイプは、戦闘の場では羽を広げていることが多く、俄然見慣れているからだ。

 

 

 

 

 

ただ、先輩の翼が、カラスのような真っ黒な翼でなければ、の話だが……。

 

 

目の前で真っ黒な翼を広げる先輩は、悲しそうな顔を浮かべていた。

 

 

「私はもともと、堕天使の子なのです」

 

 

==============

【第三者視点】

 

 

朱乃が口にした事実は、彼にとってかなり衝撃的なものだった。

 

 

実は既にコカビエルが先日の戦いの中でその事実を口にしており、兵藤を始めとした若手悪魔たちはなんとなくそれを知っているのだが、ちょうどその時別の戦場で戦っていた八神はそうではない。

彼が慌てて校舎に駆けつけたのは、その少し後、眷属たちが光の槍の雨に晒された際の轟音を聞いてから。その話が終わりを迎えた後であった。

 

よって、彼は今初めてその事実を耳にすることになったのだ。

 

朱乃による告白を耳にした八神は、顔を完全にポカンとさせて驚きを隠せずにいた。

 

「汚れた翼…この堕天使の羽が嫌で、私はリアスと出会い、悪魔になったの。…でも、生まれたのは堕天使と悪魔の両方の翼を持ったおぞましい生き物…。ふふふ、汚れた血を身に宿す私にはお似合いかもしれません」

 

自嘲気味に笑う朱乃。しかしその顔は全く笑っておらず、明らかな悲しみに包まれていた。

 

「それを知って、シュウくんはどう感じます? 堕天使は嫌いよね。イッセーくんを襲い、一度アーシアちゃんの命を奪い、この街を破壊しようとした堕天使にいい思いを持つはずがないわよね…」

 

その顔を浮かべながら、小さく尋ねる。

そんな彼女に、八神もまた静かに答えた。

 

「……オレは確かに、堕天使は嫌いです」

 

「_______ッ」

 

返ってきた予想通りの答えに、彼女はより一層悲痛の顔を浮かべる。

…彼女もこうなることは分かってはいた。これまで八神が知っている堕天使の姿は、どれも自分勝手な連中のものばかり。そんな堕天使のことをよく思ってないことなど分かりきっていたことであったのだが、その事実を彼だけが知らない状況にするわけにはいかないと思った彼女は、こうしてこの場で告白することにしたのだ。

 

…しかし、分かっていたことでも、なかなか堪えるものはある。彼女は瞳に薄い涙を浮かべた…。

 

 

「でも、だからと言って先輩のことまで嫌いになったりはしませんよ」

 

 

しかし、そんな彼女の心境とは裏腹に、彼はあっさりとした口調で告げた。

 

朱乃はその言葉に驚き、再び八神の顔に目を向ける。

 

「イッセーやアーシアを酷い目にあわせたレイナーレも、皆を傷つけやがったコカビエルも、絶対に許すつもりはありません。仮にあいつらが生きていて、謝ってきたとしても、絶対に。

…でも、それとこれとは別ですよ。悪魔にも皆のような人がいるんだし、堕天使だって全員が全員悪い奴じゃないってのは分かっているつもりですし…」

 

「そうではなくて、私は堕天使の血を引いているのよ? 許せるの? 悪魔に転生しているとはいえ、堕天使の血を引いているのは変わらないわ。私は嫌われたくなくて、あなたにあんな風に近づいたのかもしれないのよ? …いいえ、きっとそう。私は最低な女だわ…」

 

「ええ、それも分かってます。でも、オレの堕天使嫌いも全員に向いてるわけじゃないですし…それに、先輩は先輩でして…」

 

それから、彼は「えーっと、なんつーか…」と頭をガシガシと掻きながら呟き…

 

 

 

「オレもイッセーたちも、普段の優しい先輩が大好きなんですから」

 

 

 

 

にこやかに、そう言った。

 

 

 

その言葉を耳にした朱乃は、一度目を見開いたかと思うと、顔を伏せて八神から目を背ける。

 

一方の八神は……

 

 

 

 

 

「………今、スッゲェ変なことを言いませんでした?」

 

今更に自分が口にしたことの意味を認識したのか、間抜けな顔を浮かべてそう尋ねた。

 

「…いいえ。そんなことありませんわよ」

 

朱乃は目に涙を浮かべつつ、八神の方に向き直る。顔を背けている間に流れたようだが、その涙は先ほどのものとは違い、悲しみに溢れたものではないようであった…。

 

 

「…ねぇ、シュウくん。『朱乃』って呼んでくださる?」

 

「え………?」

 

朱乃の提案に、八神は戸惑いの顔を浮かべた。今の彼女の発言に、頭がついていけてないらしい。

八神が頭の中を整理していくこと数秒。

 

「え、ええぇっ!? そ、それって、呼び捨て、しろと…!?」

 

やっとその意味を理解したのか、より一層驚いた様子を見せる。

 

一応八神にも、女性を呼び捨てにした経験はこれまでにも何度かある。

だが、その相手はアーシアやゼノヴィアのような外国出身であったり、イリナのような昔馴染みの相手だったり、せいぜい小猫のような自分より年下相手にだけだ。外国人ならファーストネームで呼びやすく、昔馴染みならただの友人的な感覚でつきあえ、年下ならまだ抵抗感なく呼べるからだろう。

 

ところが、彼女のような、日本人で、昔馴染みではなく、歳上の女性を呼び捨てにしたことは全くない。前世の時からそんな経験は皆無だ。

 

無様に狼狽する八神のまえで、朱乃が一言。

 

「………ダメ?」

 

「___________!!」

 

 

効果はバツグンだ。

 

潤んだ瞳で上目遣いをする朱乃。彼女ほどの美人がそれを繰り出せば、たいていの男は悩殺されること間違いなしだ。

それは八神にとっても例外ではない。彼の顔は、まるで茹でダコのように一気に紅潮していく。

 

「あ、あああ…あけ……! あけ…の……」

 

震える口を懸命に動かし、彼女の名前を口にする。

 

 

「フフッ…嬉しい」

 

そして彼女は…静かに、柔らかく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ドゴズボォオオォォォォンッッ!!》

 

 

 

…途端、彼の中で何かが爆発した。彼の中で、何かが限界値に達した。

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁ!! すんませんっしたぁぁぁぁぁっっ!!」

 

目にも留まらぬ速さで和室を飛び出していく八神。よほど恥ずかしかったのか、顔は見事に真っ赤に染まっていた。

…それでも、あの大量の荷物を忘れずに持っていくあたりは流石である。

 

 

和室に残った朱乃は、そんな彼の様子を笑みを浮かべながら見つめていた。

その顔は、何かが吹っ切れたように見て取れた…。

 

頬のあたりを微かに赤く染め、静かに呟く。

 

 

 

「殺し文句…言われちゃいましたね。あんなこと言われたら、本気になっちゃうじゃないの…」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

一方、神社を飛び出していった八神は、その無様な様子とは打って変わり、落ち着いているかのような様子で帰路についていた。

 

神社を飛び出した後、わずかの距離を全速力で走り抜けたかと思うと、急にその速度を落としていき、こうしてゆっくりと歩き始めたのだ。

 

落ち着きを取り戻したわけではない。普段であれば、先の出来事の影響で昂ぶる心臓を抑えるために、全速力で走り回ったり電柱で頭を打ち付けたりしていたことだろう。

 

 

だが…今の彼は、落ち着かずにはいられない状況下にあった。

 

 

 

 

「…先輩が堕天使の力も持っていた…。だからこの力まで一緒についてきたんだな」

 

そう言って、手のひらの上に小さな光る玉を作り出す。

 

この玉は、あの戦いの中で彼の中に備わってしまった“光の力”を集めたものだ。本来は堕天使や天使が扱う力で、悪魔が苦手とする力でもある。

 

彼は今日、この光の力について質問するつもりだった。どうせ戦闘に使えるほどの量が備わってるわけでもなし、たいして気にする必要もなかったのだが、その力が備わることになった原因は気になっていた。

というのも、彼には天使や堕天使には知り合いがおらず、敵対していたレイナーレやコカビエルの光を受けた覚えもない。その上、直前に受けたのは朱乃の雷。これはいったいどういうことなんだろうと、軽い気持ちで尋ねる気でいたのだ。

 

…だが、それは思わぬ形で答えにたどり着くことになった。

 

彼女は、自分には堕天使の血が流れていると言っていた。ならば、堕天使が使う光の力も大なり小なり宿しているということになる。

おそらくだがあの日、八神が取り込んだ雷の中に、その光の力が僅かに含まれていたのだろう。そして、彼の中にごく微量の光の力が備わってしまうという結果につながった…ということであろう。

 

…結果としては良かったのかもしれない。もし彼女が自身の秘密を告白する前にこの話題をふりかけていれば、彼女を傷つけることにつながったかもしれなかったからだ。

 

 

しかし、彼女のあの告白は…彼にとっては別の意味でも衝撃的であった。

 

 

「先輩にも、あんな秘密があったんだな…」

 

朱乃は、八神の悩みとよく似たものを抱えていた。自身のもう一つの姿を明かせずにいた…。その事実を知った彼は、色々と思うところがあるようだ。

 

 

「皆は…きっとオレの事を、受け入れてくれるんだろうな…」

 

 

夕暮れの下で、一人。八神は人知らず彼の抱える悩みについて、呟いた。

 

 

 

______________________

 

 

雑談ショー with 神

 

 

神「おやおや。あんな暗〜い感じで終わったというのに、こんなコーナーをする元気だけはあるのですか?」

 

八「ここでは本編の流れを引き摺らねぇようにしてっからな…。それより、なんであんな危なっかしいもんをイッセーに渡したんだろうな」

 

神「アスカロンのことですね。あれは、兵頭さんが初めての悪魔の赤龍帝だということが関係しています。歴代の赤龍帝は全員人間だったそうですし」

 

八「らしいな。イッセーは元が人間でも、悪魔に生まれ変わったもんな。けど、それがアスカロンと一体何の関係があるんだ?」

 

神「アスカロンと兵藤さんが直接関係するわけじゃありませんけどね。大昔の話をしますが、絶賛戦争中だった三大勢力が一度だけ手を取り合ったことがありましたよね?」

 

八「ああ、あの赤龍帝と白龍皇が大暴れしたっつーアレか」

 

神「その通り。そしてその時のように、三大勢力が再び手を取り合うことができるよう、現赤龍帝の彼に願をかけた…。そのために渡されたのがアスカロンです。

要するに、兵藤さんに三大勢力の架け橋となってほしいという期待みたいなものですね。それが半分」

 

八「半分? 残りの半分は?」

 

神「ぶっちゃけて言えば、歴代最弱の赤龍帝に、ちょっとでも長生きしてもらうためです」

 

八「…おおイッセー。そんなあだ名がつくとは情けない」

 

 

 

 

 

 

八「しっかし、あんなことがあったとは言え、急に逃げ出しちまったもんな…。朱乃先輩、怒ってんだろうなぁ…」

 

神「そんなことはないですよ? 寧ろ、逆を警戒したほうがよろしいかと」

 

八「…逆? なんのことだ、それ?」

 

神「さてね。……フフフ」

 




さて、今回は雑談ショーと後書きを分けました。
なぜか。それは…


この作品の一周年の報告をさせていただきたかったからです!


厳密に言うと、本当の一周年は7月7日あたりだったのですが…ちょうどスランプ期間でしたすみません。

一年間頑張ってこれたのも、スランプ中でも諦めずにやってこれたのも、皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました!
また皆様をお待たせすることになるかもですが、今後もどうかこの作品を温かく見守っていただけるとありがたいです。

では、今回はこの辺で失礼します。次回もどうかお楽しみに!


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四十九話目

受験が終わりましたので、再び投稿の方を始めていきたいと思います。
お待ちくださっていた方々につきましては、本当に長らくおまたせしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。更新中断の知らせを出しておくべきだったなと、後悔しています。
ですが、お陰様でなんとか無事進路が決まりました。中には応援の声をかけてくださった方もいて、本当に励みになりました。ありがとうございました。

さて、本人も軽く一年ぶりの投稿で、もはや内容を忘れつつある状態での更新です。「あ、こんな話だったなぁ」と思い返しながら読んでいただけると幸いです。


「…さあ、行きましょうか」

 

やや緊張したような顔つきの部長に頷き、俺たちオカルト研究部員は席を立った。とうとう当日を迎えた会談の日。本番を目の前にして、俺の心臓もバクバクと音を鳴らしている。

 

最初はあまり実感なかったけれど、各陣営の偉い方々が来られるとなれば、その護衛の人たちだって集まってくる。そして会場に入ることができない護衛の人は、学園に張られた結界の外で待機をすることになるのだ。

今も窓から学園の外を覗くと、天使、堕天使、悪魔の軍勢が互いに睨み合っているのが見える。今はまだどの陣営も大人しく待機してくれているけれど、ちょっとしたきっかけで大騒動になりかねない。この会談の流れ次第では、ここで戦争が始まってしまうかもしれないそうだ。

 

まさに一触即発。この街、この世界の命運はこの会談にかかっていると言っても過言じゃないだろう…。

 

「部、部長! 皆さぁぁぁん!」

 

そんな時、部室の隅にポツンと置かれた段ボールから悲痛の叫びが響く。もちろんこれは例の引きこもりヴァンパイア、ギャスパーのものだ。

 

まだ時間停止の神器を扱いきれていないギャスパーは、今回はお留守番するようにと指令がかかったんだ。会談の中で神器を発動させてしまったりなんてしたら目も当てられない。仕方なく、部長もその指令に従うことにしたそうだ。

 

「ゴメンなさいギャスパー。すぐに戻るから、いい子にしててね?」

 

部長は優しくギャスパーに語りかけるけど、やっぱり少し怖いみたいだ。こんなところに一人でお留守番というのも嫌なんだろう。分かるぜその気持ち。俺もこんな状況下で一人は嫌だもん。

 

「ほら、俺の携帯ゲーム機置いていくから、これで遊んでていいぞ? すぐにあのマスクも作ってもらうからな」

 

『は、はいぃぃぃ!』

 

俺の携帯ゲーム機を段ボールの近くに置くと、段ボールはカタカタ揺れた。最近判明したこいつの喜び表現だ。

 

「じゃ、シュウ。悪いけどあのマスク頼む」

 

「…そりゃ構わねぇけど、なんかお前ギャスパーとの付き合い方慣れてきたよな」

 

シュウは部室の棚から一枚の紙袋を取り出すと、神器の能力を発動。一瞬でギャスパー専用『覗き穴つきマスク型紙袋』に作り変えてくれた。毎回思うけど、本当に便利だよなあれ。

 

「やっぱり面倒見がいいんだね。ギャスパーくんの神器の特訓にもずっと付き合ってくれているし」

 

「確かに、昔っから歳下相手にはよく慕われてたもんな」

 

「任せろ。男の後輩一人くらい、なんとかしてやらぁ!」

 

出来上がったマスクを投げ渡され、段ボールの近くに置く。

自信満々に答えてはみたけど、正直不安もある。なんとかしてやりたいって気持ちは本当なんだけどな…。

 

ギャスパーを除く俺たちは校舎の方へ足を向ける。向かうは会談の会場。会議室だ。

 

 

「そう言えば、シュウ。お前さっきまで何書いてたんだ?」

 

その途中、少し気になったことを尋ねる。部室を出るまでの少しの時間の間、シュウはガリガリと一心不乱に何かを書いているようだった。

結構集中してたっぽくて、さっきは聞きづらかったんだよな。

 

「これか? ただの説明用の資料さ。一応しっかりと準備は固めたつもりだが、無いよかマシかと思ってよ」

 

そう言いながら、手に持っていた手帳をめくっていき、途中のあるページでその手を止める。そのページを横から覗くように見てみると、そこには何か妙な図形のようなものがたくさん並んでいた。

いや、図形って言えるのかこれ? 形も全部バラバラで一貫性がないし、どっちかって言えば『絵』といった方が近い気がする。人の形っぽいのとか、顔っぽいのとか…。何なんだこれ?

 

「くさび形文字みたいだね。何だか不思議な形してるけど」

 

そんな中、シュウの隣を歩いていた木場が同じく手帳を覗きながら口にした。

くさび形文字っつーと…大昔の人が使っていた文字だったよな? あぁ、言われてみると確かにそれとよく似てるな。形は全然違うけど、雰囲気は少し近いと思う。

 

「ま、そんなもんだわ。お偉いさん方っつーと頭がいい人ばっかりだろうし、資料も多いに越したことはねぇだろ?」

 

「ふふ、随分と手慣れていますのね」

 

そう言ったのは、部長の隣を歩いていた朱乃さんだ。俺たちの会話を聞いていたらしい。

 

「ま、まあ、昔からよくこういう感じのこと頼まれることありましたし。慣れてるって言われれば慣れてるんですが…」

 

と、シュウは落ち着きなく答える。

 

俺が朱乃さんの家で儀式を行った日。あの時シュウが言っていた用事ってのは、朱乃さんとの話のことだと、後で部長から聞いた。朱乃さんの事情についてと一緒にな。

その時も俺は色々と思うところがあったんだが、それは全部シュウが言ってくれたみたいだった。それ以来、朱乃さんは前より一層シュウに対して積極的になった気がする。

 

俺にはわかる。これはあいつに向けられた『春の訪れ』と言うやつだ。今夏だけど。

 

こうなったことは幼馴染として俺も羨ま……じゃなく、妬まし……でもなく、鼻が高い。精一杯応援してやろうと思う。

 

…でも、あいつの様子を見てると不安になるんだよなぁ。こういうことに慣れてないからだろうけど、いっつもどこか腰が引けてるし。

こういうところはホントに子供っぽいんだよな、あいつ。

 

 

 

「…って、あれ? そんなにスピーチなんてしたことあったっけ?」

 

ふと、ある疑問が浮かんで口にした。俺の記憶が正しければ、シュウはいつもそういう行事には消極的で、発表なんて機会はむしろ少なかった気が…。

 

「…あ〜いや。まぁ、そう思うことで不安をかき消そうとしたんだ。所謂自己暗示ってやつ?」

 

つまり、強がりだったということか。なんだかんだ言ってビビってるらしい。

 

 

 

「よしイッセー、あとで説教」

 

「なんで!?」

 

 

 

 

 

 

「残念だけど、談笑はもうおしまいよ」

 

その時、部長が真面目な声音で口を開いた。いつの間にやら会議室の前に着いていたらしい。俺たちも全員顔を引き締めて、扉の前に立つ。

 

「失礼します」

 

静かなノックとともに、部長が先頭で会議室に入る。そこには……

 

 

 

「来たね。入りなさい」

 

 

悪魔の代表、サーゼクスさまとセラフォルーさま。それから、初めて見た二人の男性。おそらく残りの魔王さまだろう。壁側の席にはソーナ会長たちもいる。

 

 

天使の代表、ミカエルさん。

 

 

堕天使代表のアザゼル。そして……

 

 

 

 

 

………白龍皇、ヴァーリ。

 

 

 

 

「妹と、その眷属たちだ」

 

サーゼクスさまの言葉に合わせ、部長が軽くお辞儀する。それに合わせて俺も頭を下げておいた。

…この部屋の空気が緊迫しているのが分かる。これが、トップの会談…。

 

 

「先日のコカビエル襲撃で彼女たちは大いに活躍してくれた」

 

「報告は受けています。改めてお礼申し上げます」

 

「悪かったな、俺んとこの奴が迷惑かけて」

 

ミカエルさんが綺麗な礼をしてくれるのに対し、アザゼルは少しも悪く思ってなさそうな態度で言ってのけた。

なんつー態度だよ。ホントにお前のところが原因だって分かってるのか?

 

「まずは座りなさい。席は用意してある」

 

サーゼクスさまが勧めた通り、俺たちも生徒会の隣に用意されていた席に座る。部長、俺、朱乃さん、小猫ちゃん、アーシア、木場、シュウ、ゼノヴィアという順番だ。

 

俺たちが席に着いたのを確認すると、サーゼクスさまは改めて声を上げられた。

 

「まずは、この会談に参加してくれたことに感謝しよう。これより三大勢力による会談を執り行う。この会談に参加する条件として、ここにいる全員が神の不在を承知しているものとする」

 

ん? 全員?

俺たちはあの戦場でコカビエルが叫んでいたのを聞いていたけど、外で結界を張っていた会長たちや別の戦場にいたシュウも知ってるのだろうか。

こっそりと横目で確認してみたけど、別に誰も驚いたような様子は見せなかった。

 

「私が伝えておいたの。この会談に参加することになるのは分かっていたから」

 

部長が俺の疑問を勘付いてくれたのか、小声で教えてくれた。なるほどね。

 

 

「それから…“グロンギ”という種族についても、ある程度認知しているものとして、会談を進めさせてもらおう」

 

 

そしていよいよ、三大勢力による会談が始まった……!

 

 

 

 

==============

【第三者視点】

 

 

「と言うように、我々天使は…」

 

「そうだな。このままでは三勢力ともに滅びの道を進むことになる…」

 

「ま、俺らは別にこだわる必要もないけどな」

 

会談は、順調に進んでいった。

各勢力の代表者らのみの会話が繰り広げられる中、時々アザゼルの無遠慮な一言で場の空気が凍りつくことはあれど、話の内容そのものは良い方に進みつつあった。

その様子を、ソーナ率いる生徒会も、リアス率いるオカルト研究部も、こわばった面持ちで見守っていた。

 

「さて、リアス。そろそろ先日の事件について話してもらおうかな」

 

「はい、ルシファーさま」

 

サーゼクスの促しに応え、リアスが立ち上がる。先日、学園で起こったコカビエルの事件に関することを、淡々と述べていった。

彼女の言葉に耳を傾ける三大勢力の面々。その反応は、ため息をついたり、顔をしかめたり、笑ったりと多種多様であった。

 

「…以上が私、リアス・グレモリーとその眷属悪魔が関与した事件の報告です」

 

「ご苦労、座ってくれたまえ」

 

「リアスちゃん、ありがとう☆」

 

報告を終え、リアスはサーゼクスの言葉に従い席に座り、労いの言葉をかけたセラフォルーに礼を返した。

そこで、サーゼクスはアザゼルの方に視線を向ける。

 

「さて、アザゼル。この報告を受けて、堕天使側の意見を聞きたい」

 

その言葉に、アザゼルは一度不敵な笑みを浮かべて語る。

 

「意見っつってもな…。あれは我が堕天使中枢組織、〝神の子を見張る者〟の幹部の一人であるコカビエルが、独断で起こした事件だ。こっちとしてもその対応として『白龍皇』ヴァーリを送った。奴は地獄の最下層に落とし、永久冷凍の刑に処すつもりだったのさ。

だが……何しろ既に事は終わっていたそうじゃねぇか」

 

「報告にもあった、カブトムシのような怪人のことですね。コカビエルすらも寄せ付けないほどの実力を持っていたという話ですが…」

 

アザゼルの言葉から会談の流れが一変し、コカビエルを打ち倒した怪人の話に一瞬移り変わる。

彼の処遇はどうするのか。敵なのか味方なのか。そもそも本当にそんな奴が存在しているのか…。会談の流れが止まりかけた時、サーゼクスが再び声をあげた。

 

「その件に関しては、こちらの方で既に頼んである。先に、こちらの要件を済ませてからにしよう」

 

「チッ、話は逸らさせねぇってことかい……。あーわかったよ、もう面倒な話はいい。さっさと和平でもなんでも結んじまおうぜ? お前らもそういうつもりだったんだろ?」

 

あっさりと挙げられた提案に、会談の席は驚きに包まれる。

確かに、ここにいる者は和平を結ぶことを目的として会談に参加したものがほとんどだ。だが、こうもあっさりと告げられると、流石に気が動転するのだろう。

 

やがて、その動転からいち早く抜け出したミカエルとサーゼクスが口を開く。

 

「…ええ、私も悪魔側とグリゴリに和平を持ちかける予定でした。これ以上三すくみの関係を続けたとしても、世界の害としかなり得ない」

 

「我らも同じだ。魔王がいなくとも種を存続させるため、悪魔も先に進む必要がある。戦争など、誰も望むべきものではないからな」

 

「そうだな。次に戦争が起こったとすりゃ、その時は全員共倒れだ。そしてやがて人間界にも影響を与え、世界は終わる。…俺らはもう、戦争は起こせない」

 

アザゼルの言葉を最後に、会談は静寂の空気に包まれた。誰もが戦争を望んでいないことが分かったからか、緊張感も弱まっていく。

その後、今後の戦力について、現在の兵力と各陣営の対応、これからの勢力図などが議題となり、会談は先ほどよりいくらか円滑に進んでいった。

 

そして、会談は終わりの時を迎える。

 

 

「…と、こんなところだろうか?」

 

サーゼクスの一言で、出席者らがそれぞれ息をつく。時間にして約一時間ほどであった。

グレイフィアがお茶の給仕をしている中、ミカエルが兵藤に目を向ける。

 

「さて、話し合いもいい方向に片付いてきましたし。そろそろあなたのお話を聞いてもよろしいかな?」

 

「お、覚えててくれたんですか!?」

 

「もちろん」

 

優しく微笑むミカエルに、兵藤は一度大きく深呼吸してから言葉を発する。

 

「…アーシアを、どうして追放したんですか?」

 

その問いに、ミカエルは一度目をつぶってから真摯に答える。

 

「それに関しては申し訳ないとしか言えません。神が消滅した後、加護と慈悲と奇跡を司る『システム』だけが残りました。神が奇跡などを起こすためのもの、という認識で構いません。

正直、『システム』を神以外が扱うのは困難を極めます。熾天使全員で何とか起動させていますが、神がご健在だった頃に比べると、救済できるものに限りができてしまうのです。ですので、『システム』に影響を及ぼす可能性のあるものを遠ざける必要がありました。その中に、悪魔や堕天使も回復できてしまう『聖母の微笑』も含まれるのです。

他にも、影響を及ぼす例として…」

 

「神の不在を知るもの、ですね?」

 

ミカエルの言葉を繋げるように、同じく教会を追い出されたゼノヴィアが告げた。

その言葉にミカエルは頷き、続ける。

 

「その通りです、ゼノヴィア。熾天使と一部の上位天使以外で神の不在を知るものが本部に近づくと、『システム』に大きな影響が現れてしまう。だから、貴方とアーシア・アルジェントを異端とするしかなかった…。本当に、申し訳有りません」

 

そこで、彼は頭を下げた。

一つの勢力のトップが自分らに頭を下げてきたことで、彼女らは少し困ったような様子を見せる。しかし、ゼノヴィアはすぐに首を横に振り、微笑んだ。

 

「ミカエルさま、どうか謝らないでください。これでもこの歳まで教会に育てられた身。いささか理不尽を感じてはいましたが、理由を知ればどうということもありません。

…多少は後悔も致しましたが、教会に仕えていた頃にはできなかったこと、封じていたことが私の日常を華やかに彩ってくれています。私は、今のこの生活に満足しているのです」

 

「私も今、幸せだと感じております。大切な人がたくさんできましたから。それに、憧れのミカエルさまにお会いしてお話もできたのですから、光栄です!」

 

「…あなたたちの寛大な心に感謝します。デュランダルはゼノヴィアにお任せしましょう。サーゼクスの妹君の眷属ならば、下手な輩に使われるよりも安全です」

 

ゼノヴィアとアーシアの言葉に安堵の表情を見せたミカエルは、ゆっくりと頭を上げた。

そんな中、堕天使のトップであるアザゼルが、アーシアを見ながら言葉を発した。

 

「そういや、俺んとこの部下がそこの娘を騙して殺したらしいな。その報告も受けてる」

 

その言葉に、アーシアは身体をビクリと震わせる。そんな彼女を守るように、兵藤がアザゼルとアーシアの間に割って入った。

 

「そうだ、アーシアは一度死んだんだ! あんたの知らないところで起きたことかもしれないが、あんたに憧れていた堕天使が、あんたのためにアーシアを殺したんだ!」

 

リアスが「落ち着きなさい、イッセー」となだめるが、彼は収まらない。怒りを隠せずにいる兵藤を、アザゼルは一度睨んだ。

流石にトップの一つに君臨する男に睨まれては、彼も怖気付かざるを得ない。口をつぐんだ兵藤を、アザゼルは今度は笑みを浮かべて見上げた。

 

「いまさら俺が謝ったところで、それは後の祭りってもんだ。だから、俺は俺にしかできない形で、お前らを満足させてやろう」

 

そう言って、アザゼルは席を立ち、興味なさそうに壁に寄り添うヴァーリに告げる。

 

「ヴァーリ。お前は、世界をどうしたい?」

 

その問いかけに、白龍皇ヴァーリは笑みを浮かべる。

 

「俺は強い奴と戦えれば、それでいいさ」

 

「そうかい。じゃあ赤龍帝、お前はどうだ?」

 

次に、同じ質問が兵藤にも問われた。

兵藤はいきなりの問いに戸惑い、頬をかきながら答える。

 

「正直、よく分からないです。小難しいことばかりで頭が混乱して、ただでさえ今の状況の中だけでも手一杯なのに、世界がどうこう言われても、実感わきません…」

 

「だが、お前は世界を動かし得る力を秘めた者の一人だ。選択を決めないと、俺を始めた各勢力の奴らが動きづらくなるんだよ。

…そうだな。恐ろしいほどに噛み砕いて説明してやろうか」

 

そう言って、アザゼルは何か企んでそうな顔を浮かべながら兵藤に歩み寄った。

 

何をしようと言うのか…。少し身構える兵藤に、衝撃の一言が告げられる……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺らが戦争すれば、リアス・グレモリーは抱けないぞ?」

 

 

 

「っ!!?」

 

 

 

その一言に、明らかな動揺と驚きを見せる。

 

 

更にアザゼルは、わざと兵藤に肩を組んで、馴れ馴れしそうに言葉を続けた。

 

 

 

「和平を結べば、戦争する必要はなくなる。そうすりゃ後は種の存続と繁栄が大切になってくる。子作りに専念すればよくなるんだ。

分かるか? 戦争なら(自主規制)なし。和平なら(自主規制)し放題だ」

 

「和平でお願いします! ええ、平和が一番です!」

 

悪魔の囁きならぬ堕天使の囁きを耳にした兵藤は、これ以上なく元気に応えた。流石は最強の赤龍帝、こんな場面でもブレなかった。

 

ハッと正気に戻る兵藤。周りを見渡すと、隣に立つリアスは真っ赤に赤面しており、陣営のトップたちは面白そうに笑みを浮かべ、眷属たちは苦笑し、幼馴染が恐ろしく怒っていた。

少し慌てるように、今度は真面目な顔で言葉を繋げる。

 

「えっと、俺はバカだから、この会談の内容もほとんど理解できてません。でも、そんな俺でも言えることが一つあります。

俺に宿る力が強力なら、それを仲間のために使いたい。仲間の誰かが危険に晒されたら、俺が守りたい…とは言っても、俺はまだ弱いから守られてしかいないんですが。

けど、俺にできることはそれぐらいです。だから、体張って仲間と一緒に生きていこうかなって……」

 

 

 

兵藤がそこまで精一杯言葉を発した、その瞬間……

 

 

 

 

身体の機能が、一瞬停止したような感覚を覚えた………!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「あれ?」

 

ふと、兵藤は声を漏らした。

なんとも言えない緊迫感を、さっきまでとは違う何かの違和感を感じる。

と言うより、そもそも室内の様子が少し違う。先ほどまで席についていたはずの面々が、窓際で外を見ていたり、真剣な面持ちで話し込んだりしていた。

 

何が起きたのだろうか…。兵藤は、少し困惑したような顔を浮かべた。

 

「おっと、赤龍帝の復活だな」

 

そんな時、アザゼルが兵藤の存在に気づいたように声をあげた。

 

「な、何かあったんすか?」

 

周囲を見渡すと、明らかな異常が見て取れた。

サーゼクスをはじめとした各陣営のトップたちは普通に動いていたが、中には動きが停まっているものたちがいた。

 

イヤな予感を感じる兵藤に、アザゼルが笑みを浮かべながら告げる。

 

「…テロだよ」

 

その言葉に、驚嘆した顔を浮かべる兵藤。

外を見ようと窓ガラスをのぞいた途端、眩い光が視界を遮る。また、微妙に校舎が揺れているのも感じ取った。

 

「攻撃を受けてるのさ。いつの時代も、勢力と勢力が和平を結ぼうとすれば、それを嫌がる連中が邪魔しようとするもんだ」

 

そう言って指をさすその先には、校庭から空に至るまで、バラバラに人影らしきものがあった。

その正体は、黒いローブを着込んだ人間だった。彼らは校舎に向けて、魔力の弾に似た何かを放っているようだった。

 

「いわゆる魔法使いって連中だな。悪魔の魔力体系を伝説の魔術師『マーリン・アンブロジウス』が独自に解釈し、再構築した魔術、魔法の類を扱う奴らだ。

要するに、人間が悪魔みたいな力をふるえるってことさ。悪魔にもできないことも可能らしいが、神器所有者が魔術を覚えたりしていると非常に厄介だ。俺らが強力な防壁結界を張ってるから、奴らの攻撃じゃこの校舎に少しの被害もないだろうが、おかげでここから出られなくなってんだ」

 

いつの間にやら兵藤の隣に立っていたアザゼルが、不敵な笑みを浮かべながら言う。

いきなりの事態に気が動転した兵藤が、最初に感じたイヤな予感について問う。

 

「さ、さっき、時間が停止したっぽいのは?」

 

「おそらく力を譲渡できる神器か魔術で、お前らんとこのハーフヴァンパイアの小僧の神器を強制的に禁手状態にしたんだろうな。一時的な禁手状態でも、視界に映るものの内部にまで効果を及ぼすとはな…。あいつの潜在能力が高いってことか」

 

その予感は、当たりだった。

動きが停まるという現象を、以前身を以て経験したことがある彼は、この出来事にギャスパーが関係しているのではないかと不安を覚えたのだ。

 

「じゃあ、皆は!?」

 

「私たちはこっちよ、イッセー」

 

焦る彼の元に、優しくかけられる声。それは、彼の王であるリアスのものだった。

 

「部長! 無事だったのですね!」

 

「ええ。貴方が近くにいてくれたから、貴方の力の恩恵を得られたみたいね」

 

安堵した表情を浮かべる兵藤に、笑みを浮かべて語りかけるリアス。

彼女の背後には、木場とゼノヴィアの姿があった。

 

「イッセーは赤龍帝を宿す者。祐斗はイレギュラーな聖魔剣によるもの。ゼノヴィアは直前でデュランダルを発動させたから無事だったのかしら」

 

見ると、木場はその手に聖魔剣を持ち、ゼノヴィアはちょうどデュランダルを空間の歪みに収めているところだった。

仲間たちの無事な姿を目にしてホッとした顔を浮かべるも、彼はそこにいない部員がいることに気づき、再び不安そうな顔を浮かべた。

 

「…じゃあ、他の皆は」

 

「…皆動かなくなっていたわ。朱乃も、アーシアも、小猫も。シュウはまだかろうじて動けるみたいだけど…」

 

そういうリアスの視線の先には、苦しそうに肩で息をする八神の姿があった。

駆け寄る兵藤の姿を見た八神は、大量の汗を流しながら無理やり笑みを浮かべて兵藤に応える。

 

「ユウトの聖魔剣と、ゼノヴィアのデュランダルに挟まれたからだろうな…偶然助かったみたいだが、どうも、体の調子が良くないみたいでよ…」

 

見ると、確かに一目で様子がおかしいと読めるほど八神の顔は青白くなっていた。椅子に座って頭を抱える八神の様子を一瞥したアザゼルは、校舎の外に目を向けたまま口を開く。

 

「まぁそうだろうな。本来、ただの人間がこうして神器の影響を受けずに済んでいるってだけでも軽く奇跡なんだ。多分そいつは俺たちより早く動けなくなるだろうし、戦力として考えないほうがいいかも知れん」

 

アザゼルの推測に、それぞれが納得したような様子を見せた。

彼は聖剣と聖魔剣に挟まれ、偶々助かっただけだと言っていた。もし彼の両側が木場とゼノヴィアでなければ、他の部員同様に固まっていたのだろう。

 

そして彼の身体が、周囲の環境の変化に耐えられなくなり始めている。そう考えるのはごく自然なことだ。

 

「取り敢えず、今はまだ動けるんだ。邪魔にならねぇよう別室の方で固まっておいてくれや」

 

「そう、だな…。そうしたほうが、よさそうだ…」

 

アザゼルに促されるように、八神は会議室の扉から外に出た。

その様子を見届けるリアスは、少し不安げな様子で呟く。

 

「…そう考えると、イッセーのおかげで助かった私も警戒しとく必要がありそうね」

 

「いや、お前はそこまで心配する必要はない」

 

「どういうことだ?」

 

リアスの不安を断つように放たれたアザゼルの言葉に、兵藤は怪訝な顔を浮かべた。

その様子を見たアザゼルが、さらに言葉を繋げる。

 

「お前は赤龍帝の恩恵を得たことで神器の影響を受けていない。あいつとは状況が違う。例えるなら、仮に超巨大なビームを放たれたとして、あいつは誰かが張った結界や盾に阻まれて助かっただけ。お前は無敵状態を付与されたようなもんだ。

お前は神器の効果を弾く力を与えられてるのに対して、あいつにはそれがない。あいつにはあのままの状態を維持することはできないが、お前はそれができるってことだ」

 

「そう…。それなら、まだ大丈夫なのね?」

 

「そうだな。だが、完璧に安心できるわけじゃない。神器の効果をこれ以上高められると、俺たちもいずれ停止させられる恐れがある。この猛攻撃で俺たちをここに留まらせて、時間を停めた瞬間に校舎ごと屠るつもりだろう。あちらは相当な兵力を割いているようだな」

 

そう言うが早いか、校庭の各所で怪しく輝く魔法陣が現れ、更には先ほどアザゼルによって葬られた魔術師集団と同じ格好をした者たちが姿を見せた。

 

「さっきからこの繰り返しだ。倒しても倒しても次が現れる。このタイミングといい、テロの方法といい、こちらの内情に詳しい奴がいるのかもしれないな。案外、ここに裏切り者がいたりしてな」

 

呆れるように息を吐くアザゼル。

そして今の言葉に不安を感じられたのか、兵藤が少し焦ったように問う。

 

「ここから逃げられないんですか?」

 

「逃げないさ。学園全体を囲う結界を解かないと、俺たちは外に出られない。だが、結界を解いたら人間界に被害を出すかもしれんからな。

俺は相手の親玉が出てくるのを待ってんだよ。しばらくこうやって籠城してりゃ、痺れ切らして顔出すかもな。それに、下手に外に出て大暴れすると敵の思うツボかもしれないってわけだ」

 

余裕そうに答えるアザゼル。

 

「…というように、我々首脳陣は下調べ中で動けない。だが、まずはテロリストの活動拠点となっている旧校舎から、ギャスパーくんを奪い返すのが目的となるね」

 

「お兄さま、私が行きます。ギャスパーは私の下僕、私が責任を持って奪い返してきます」

 

サーゼクスの言葉に、強い意志を瞳に乗せたリアスが進言する。サーゼクスは微笑んでその言葉に応えた。

 

「そういうと思っていたよ。妹の性格ぐらい把握している。しかし、問題は旧校舎までの移動方法だ。この新校舎の外は魔術師だらけ、通常の転移も魔法に阻まれる」

 

「問題ありません。旧校舎の部室に、未使用で残りの駒である戦車を保管してあります」

 

「なるほど、キャスリングか。普通に奪い返しにくるのは彼らも予想しているだろうが、それなら相手の虚をつける」

 

キャスリング。それはチェスのルールの一つで、ルークの駒とキングの駒を一手で同時に動かすという特殊な動かし方のことだ。

その戦法を悪魔はレーティングゲームでも採用しており、効果は王と戦車の位置を瞬時に入れ替えるものになっている。

 

つまり、グレモリー眷属の王であるリアスは、キャスリングを使うことで部室にある戦車の駒と位置を入れ替えることができる。敵陣のど真ん中に転移し、相手の隙を突こうということだ。

 

「だが、一人で行くのは無謀だな。グレイフィア、キャスリングを私の魔力で複数人転送可能にできるかな?」

 

「残念ですが、ここでは簡易術式でしか展開できそうもありません。お嬢さまと、あと一人なら転移可能かと」

 

「ふむ、リアスと誰かか…」

 

グレイフィアと言葉を交わしたサーゼクスは、少し考え込むように息を吐く。

そこに、ひとりの男が勢いよく進言してみせた。

 

「サーゼクスさま、俺が行きます! 大切な後輩なんです、行かせてください!」

 

グレモリー眷属の兵士、兵藤だ。

護ると決めた後輩を救いに行きたいと望む彼は、リアスと同じ眼をしてサーゼクスに告げる。

 

サーゼクスは一度兵藤に視線を送るが、すぐにそれをアザゼルに向けた。

 

「アザゼル。噂では神器の力を一定時間自由に扱える研究をしていたそうだな?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「赤龍帝の制御はできるだろうか」

 

サーゼクスの問いに、アザゼルはしばらく黙り込む。しかし、すぐに懐に手を入れて中を探り出すと、兵藤に声をかけた。

 

「おい、赤龍帝」

 

「お、俺は兵藤一誠だ!」

 

「なら、兵藤一誠。こいつを持っていけ」

 

兵藤に何かを投げつけるアザゼル。それをキャッチした兵藤は、手にした何かに視線を落とす。

それは、見知らぬ文字が幾重にも刻まれた、手にはめるリングのようなものだった。

 

「それは神器をある程度押さえる力を持つ腕輪だ。例のハーフヴァンパイアの小僧に一つ付けてやれ。多少は力の制御に役立つだろう。

もう一つは、お前のだ。それがあれば、代価を払わずとも禁手状態になれる。それが代価の代わりになってくれるさ」

 

アザゼルの説明に息を飲む兵藤。かつて、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームの際に、たった一度だけ至った禁手状態。

あの時はその代価として、左腕を支払った。故に今の彼の左腕はドラゴンのそれであり、普段は魔力でただの腕に見せているだけの状態なのだ。

それが、代価を払うこともなく禁手に至れる。それは彼にとって衝撃であり、頼もしくも思えるものだった。

 

リングに目を向ける兵藤に、アザゼルはさらなる補足を口にした。

 

「そのリング、使うのは最後の手段にしておけ。体力の消費までは制御できんから、いきなり禁手に至っても無駄に消費するだけだ。あの鎧は、体力や魔力を激しく消耗させるからな。

よく覚えておけ。今のお前は人間に毛が生えた程度の悪魔だ。強大な神器を宿していても、宿主が役立たずでは意味がない。今のお前でも、相手によればドライグの力を振りまくるだけでなんとかなるが、その力に対抗する術を持つ者にとっては御しやすい代物だ。何せお前自身が弱点だからな。

使いこなせないというのは、それだけ弱味の塊なんだ。…力を飼い慣らせなければ、いずれ死ぬぞ」

 

「…ああ、分かっている」

 

兵藤の返答を最後に、リアスと兵藤は、ギャスパーを救出するがために旧校舎へと転送していった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

一方、別室の方に一人移った八神は、壁にもたれかかって息を吐いた。

 

ギャスパーの神器が発動して暫く経ってからというもの、彼は妙な不快感を感じ始めていた。

別段身体の調子が悪いと言うわけではなく、どこかが痛むわけでもない。ただ、形容しがたい『ナニカ』が自分に襲いかかっているような、そんな感覚を覚えていた。

 

(一体何なんだろうな…コレ…)

 

アザゼルはこれが神器の影響によるものだと言ってはいたが、彼自身はそのように思えなかった。

 

誰か他人の影響というより、もっと近くにある『ナニカ』の影響ではないのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!! 」

 

 

 

突如、異常な腹痛が彼に襲いかかる。

 

 

まるで腹部の中のあらゆるものが、身体を突き破って外に出ようとしているかのような激痛。その痛みに耐えるように、その場に屈む形で自身の腹部を抱え込む。

 

 

だが、その痛みは収まらない。むしろ痛みは徐々に激しさを増していく。

 

 

 

 

「〜ッ! ググッ ウッ! アガッ ハッ!」

 

 

 

 

痛みに必死に耐えている彼は気づいてないが、彼の腹部が不気味な光を発していた。

禍々しくも恐ろしい光は、最初は小さく灯っていたが、徐々にはっきりと現れるようになる。

 

 

 

 

「ッグウッ!! ガハッ アァッ!!」

 

 

 

 

そしてまた、彼自身の身体が少しずつ、彼の意図に反してその姿を変えていった。

手先が鋭く、体は硬い甲殻に覆われ、光を発する腹部からはベルトが現れ…。

 

 

 

 

 

 

「ガァアァアァァアアァアァアァッッ!!!!」

 

 

 

 

…ついに全貌が完全に変わり果て、彼は窓から外に飛び降りていった。

 

 

 




雑談ショー with ゼノヴィア


八「久しぶりの投稿で、いきなり大変なことになりました!」

ゼ「動ける部員が僅かな状態で、テロリストと戦わなければいけないのか…」

八「しかも、スパイがいる可能性もあると言う話じゃないですか!?」

ゼ「そうだな。部員の方は大丈夫かもしれないが、他はどうだか分からない状態だ」

八「つーかギャスパー利用してるやつマジ許さん絶対許さん!」

ゼ「…お前は一体どうしたんだ?」

八「そりゃもう久しぶりだし!? 終わり方も意味深だし!? 何がどうなってんのか分かんねーし!!? アゲてかねぇと追っつかねえんだよぉ!!」

ゼ「なるほど、これがカオスというやつだね」

八「なんか違う気がするけど、まあいいわ! 次回、果たしてギャスパーの運命は!? オレは一体どうなっちまうのか!? お楽しみにっ!」


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五十話目

言い訳はしません。遅くなりました(ペコ

最近色々なところでオリキャスライダーが見れて嬉しい私です。まあ一番印象的だったのは浅倉ですが(笑)。あの人全然変わってねぇ…。

それでは、どぞ〜


※流れを軽く変更しました


「さて、ヴァーリ」

 

「なんだ、アザゼル」

 

リアスと兵藤が旧校舎に向かった後の会議室で声をあげたアザゼルに、壁に寄りかかる形で立っていた白龍皇、ヴァーリが答える。

 

「お前は外で敵の目を引け。白龍皇が前に出たとなれば、奴らの作戦も多少は崩れるだろうさ。それに、何かしらの動きを見せるかもしれん」

 

「俺がここにいることは、あっちも承知済みなんじゃないか?」

 

「だとしても、キャスリングで赤龍帝が中央に転移してくるとは予想してないだろう。その上でお前まで出てきたとなれば、確実に奴らの動揺を誘える」

 

「問題のハーフヴァンパイアごと、テロリストどもを吹き飛ばしたほうが早いんじゃないかな?」

 

サラリと告げられたヴァーリの言葉に、会議室全体の、特にその場に残ったグレモリー眷属の木場とゼノヴィアの表情が凍る。

一方のアザゼルは、彼の発言に焦るわけでも怒るわけでもなく、淡々とした態度で向き合った。

 

「和平を結ぼうって時にそれはやめろ。最悪の場合はそうするが、魔王の身内を助けられるのなら、助けるに越したことはねぇ」

 

「了解」

 

アザゼルの意見にヴァーリはため息をつきながら答え、会議室の窓の前に立つ。

ヴァーリの背中から白い光が飛び出し、光の翼が展開された。『白龍皇の光翼』だ。

 

「……禁手化」

 

【Vanishing Dragon Balance Breaker!!】

 

翼から響く音声の後、ヴァーリの体を真っ白なオーラが覆う。光がやんだ時には、ヴァーリの体は白い輝きを放つ全身鎧に包まれていた。

『白龍皇の光翼』の禁手。『白龍皇の鎧』である。

 

禁手を発動させたヴァーリは会議室の窓を開き、勢いよく空へ飛び出していった。

 

そしてそのまま、白龍皇による魔術師たちの蹂躙が始まる。

 

外の魔術師たちはヴァーリの技になすすべも無く消滅させられていく。その度に新しく魔法陣が展開して次の集団が現れるが、それも間も無くして倒される。

 

現れ、倒され、現れ、倒され…。白龍皇の無双ぶりは凄まじいもので、もしこの場に兵藤 一誠がいれば、自分のライバルとなる男との力量の差に驚くことであろう。

 

一方、会議室に残った面々のうち、サーゼクスがキャスリングを果たしたリアスの戦車の駒を拾い上げ、真剣な面持ちで声を上げる。

 

「…アザゼル。ひとつ訊いてもいいだろうか?」

 

「…んあ〜、なんだ?」

 

「君はここ数年、神器の所有者を多数集めていると聞いている。神器をそんなに集めて、一体何をしようと言うのだ?」

 

サーゼクスの問いに、アザゼルは頭をかいてやれやれとでも言いたげの様子で答える。

 

「神器の研究のため。お前らも知っているように、それが主な理由さ。…だが、もう一つある。俺は備えていたんだよ」

 

「備えていた? 一体何に?」

 

「…『禍の団』」

 

「カオス・ブリゲード?」

 

聞き覚えのない言葉に、サーゼクスは眉根を寄せる。その場の誰も心当たりがないのか、一人として違った反応はない。

 

「うちの副総督、シェムハザが前から目をつけていた不審な動きをしている集団だよ。そいつらは三大勢力の危険分子を集めているそうだ。禁手に至った神器持ちの人間も含まれている上に、『神滅具』持ちも数人確認しているぜ」

 

「その者たちの目的は?」

 

「破壊と混乱。この世界の平和が気に入らないのさ。しかも最大級にタチが悪い。組織の頭は、〝赤い龍〟と〝白い龍〟の他に強大で、凶悪なドラゴンだ」

 

「ッ!?」

 

告げられたアザゼルの言葉に、全員が絶句する。

一度世界を滅ぼしかけた、二匹の龍。その他に強大なドラゴンと言われれば、全員に思い当たる節があったからだ。

 

「…そうか。彼が動き出したのか…。〝無限の龍神〟オーフィス。神さえも恐れたドラゴン…。この世界が出来上がったその時から、最強の座に君臨し続けている者」

 

『そう。オーフィスが「禍の団」のトップです』

 

表情を険しくさせつサーゼクスの言葉に応えるように、聞きなれない声と共に会議室の床から魔法陣が浮かび上がる。

その魔法陣を眺めながら、サーゼクスは忌々しげに呟く。

 

「…レヴィアタンの魔法陣」

 

その呟きに、残ったグレモリー眷属の木場は驚きを見せた。彼の記憶にあるレヴィアタンの魔法陣。つまりはセラフォルー・レヴィアタンの魔法陣と床に現れたそれとでは、紋様が全く違ったからだ。

一方、同じく残った眷属のゼノヴィアはその魔法陣を指差して冷静に告げた。

 

「ヴァチカンの書物で見たことがある。…あれは、旧魔王レヴィアタンの魔法陣だ」

 

やがて、魔法陣から放たれる光がやむ。そこから現れたのは、一人の女性だ。大きく開かれた胸元に、深くスリットの入ったドレスを身につけている。

 

「御機嫌よう、現魔王のサーゼクス殿」

 

不敵な物言いで、その女性はサーゼクスに挨拶をする。

サーゼクスは顔を険しくさせたまま、現れた女性に問いかけた。

 

「先代レヴィアタンの血を引くもの、カテレア・レヴィアタン。これは一体どういうことだ?」

 

目の前の女性…カテレア・レヴィアタンは旧魔王の末裔の一人だった。

大昔の戦争で旧四大魔王が滅んだ後、新しい魔王を立てようとした冥界で、最後まで異を唱え続けたもの。それが、旧魔王の血を引く者たちだった。

 

彼らは冥界の隅に追いやられ、種の存続を旨に新政権が樹立してからというもの、消息が断たれていた。故に、こうしていきなり目の前に現れたのは、何かしらの目的があってのことだろうと予測できる。

 

カテレアは挑戦的な笑みを浮かべて、口を開いた。

 

「旧魔王派の者たちは、そのほとんどが『禍の団』に協力することに決めました」

 

その言葉に、魔王一派はより一層様子を険しくさせる。約一名が可笑しそうに笑っているが、誰も彼について触れようとはしない。

 

「カテレア、それは言葉通りだと受け取っても良いのだな?」

 

「その通りです。今回のこの攻撃も、我々が受け持っております」

 

「…なぜだ、カテレア」

 

「今日のこの会談の、まさに逆の考えに至っただけのこと。神と先代魔王がいないのならば、この世界を変革すべきだと、そう結論づけました」

 

神の不在、三大勢力の和平。それらを全て知った上でのクーデターだった。

彼女の考えていることは、ここにいる面々とはまったく逆のもの。改革派のものだ。

 

「オーフィスの野郎はそこまで未来を見ているのか? そうとは思えないんだがな」

 

「彼は力の象徴として、力が集結するための役を担うだけです。彼の力を借り、一度世界を滅ぼし、もう一度構成します。

…新世界を、私たちが取り仕切るのです」

 

「天使、堕天使、悪魔の反逆者どもが集まって、自分たちが支配する自分たちだけの世界を欲したわけか。そのまとめ役が、『ウロボロス』オーフィス」

 

アザゼル、カテレア、サーゼクスが互いを威圧させながら言葉を交わす。

『ウロボロス』ことオーフィスは、噂では赤い龍や白い龍よりも強いとある。無限の力を有した、神の力に等しいドラゴン。そんな大物が率いる軍勢に、流石にサーゼクスらも慎重なのだろう。

 

「カテレアちゃん! どうしてこんな!」

 

悲痛な叫びを上げるセラフォルーに、カテレアは憎悪のこもった睨みを浴びせる。

 

「セラフォルー、私からレヴィアタンの座を奪っておいて、よくもまあぬけぬけと! 私は正当なるレヴィアタンの血を引いていたのです! 私こそが魔王にふさわしかった!」

 

「カテレアちゃん…。わ、私は!」

 

「安心なさい。私は今日あなたをここで殺し、魔王レヴィアタンを名乗ります。そして、オーフィスには新世界の神となってもらいます。彼は象徴であればいい。あとのシステムや法、理念は私たちが構築する。ミカエル、アザゼル、そしてルシファー…サーゼクス。あなたたちの時代はここで終わりです」

 

カテレアの言葉に、サーゼクスもセラフォルーもその他の魔王も、そしてミカエルも表情を陰らせた…。

 

 

 

そんな中、一人だけ愉快そうに笑う男がいた。

 

 

 

「…ふっ、 くっくくく…っ」

 

 

 

一人で心底可笑しそうに笑うアザゼル。悪童らしく、邪悪な笑みを見せていた彼に、カテレアは明らかな怒りを含めて問いかける。

 

「アザゼル。何がおかしいのです」

 

「…いや、おまえら。揃いも揃って世界の変革かよって思ってよ」

 

「そうです。それが一番正しいのですよ、アザゼル。この世界は」

 

「腐敗している? 人間は愚か? 地球が滅ぶ? おいおい、今時そんな言葉、下手な悪組織でも使わないぜ?」

 

「アザゼル、あなたもあなたなのですよ。それだけの力を有しておきながら、今の世界に満足などと…」

 

「言ってろ。おまえらの目的はあまりに陳腐で酷すぎる。なのにそういう奴らに限ってやたらと強いんだよな。まったく、傍迷惑なこった。

気づいてるかレヴィアタンの末裔。おまえ今、盛大に死亡フラグをブッ立ててるんだぜ?」

 

「アザゼル! あなたはどこまで私たちを愚弄するか!」

 

これまで抑えていた怒りを抑えきれなくなったのか、カテレアは全身から魔力のオーラを迸らせて叫ぶ。

 

「サーゼクス、ミカエル。あいつは俺がやろう。手ェ出すなよ?」

 

一触即発の空気になったところで、アザゼルはゆっくりと立ち上がった。堕天使の総督が、薄黒いオーラを放ち始める。まるで戦闘高揚でもしているかのように……。

 

 

「…カテレア、降るつもりはないのだな?」

 

サーゼクスからの、最後の通告だった。しかし、カテレアはその首を横に振る。

 

「ええ、サーゼクス。あなたはいい魔王でした。でも、最高の魔王ではない。だから、私たちは新しい魔王を目指します」

 

「そうか。残念だ」

 

その確認を見届けたアザゼルは、校舎の窓際一帯を吹き飛ばして外に飛び出す。

十二枚の黒い翼を展開して、同じく空に舞い上がったカテレアに向けて言を放つ。

 

「旧魔王のレヴィアタンの末裔。『終末の怪物』の一匹。相手として悪くない。カテレア・レヴィアタン。俺といっちょハルマゲドンでも洒落込もうか?」

 

「望むところよ、堕ちた天使の総督!」

 

校庭のはるか上空で、堕天使の総督と旧魔王の末裔の戦闘が行われる。光と魔の力がぶつかり合い、激しい攻防戦が繰り広げられた。

次元の違う力に押され、何の反応も出来ずにいた木場の元に、サーゼクスが歩み寄る。

 

「木場祐斗くん。私とミカエルはここでこの学園を覆う結界を強化し続ける。アザゼルとカテレアが暴れる以上、被害は大きくなるかもしれない。できるだけ外に被害を出したくないからね。

悪いのだが、グレイフィアが魔術師転送用の魔方陣の解析が済むまで、外の魔術師たちの相手をしてくれないか?」

 

「はい!」

 

「ありがとう。妹の騎士が君でよかった。その禁手を、妹と仲間のためにふるってくれ」

 

「はっ! ゼノヴィア、一緒に来てくれ!」

 

「ああ、私もリアス・グレモリーの騎士だ。木場祐斗、私たちは二振り揃ってこそだと思う。いざ、参ろうか」

 

グレモリー眷属の騎士二人は、それぞれの獲物を構えて外に飛び出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

木場とゼノヴィアが向かった先の、校舎を挟んで逆側。いわゆる校舎裏の方では、突然の腹痛に襲われ、ガドルの姿に変貌を遂げた八神が、ようやく痛みの収まった腹部を不安げに見下ろしていた。

 

(一体何だったんだろうな、ホント…)

 

今までに感じたことのない異常に、八神は恐れを感じずにはいられなかった。

 

しかし、いつまでもそのままでいるわけにはいかない。というのも、学園全体が結界で覆われている今、特殊な転移術で外から移動してくるテロリストを除いて誰も学園を出入りすることは叶わないのだ。

そんな中に、明らかに部外者だと分かる見た目をしたガドルがいれば、余計な騒ぎが起こる事に繋がる。下手をすればテロリストの一員だと思われることもあるだろう。化け物として疎まれるならともかく、奴らと同じ目で見られるのは勘弁だと考えた八神は、その姿を人間のそれに戻そうとする。

 

 

「っぐ! あがががが…!」

 

 

しかし、そこで再び痛みが走る。痛みの程度は先ほどのものよりかは低いが、何度も腹部を殴打されているかのような痛みに、八神は咄嗟に人間の姿に変わろうとするのをやめる。すると、その痛みもほとんどタイミングを同じくして収まった。

 

今の痛みに疑問を感じながら、今度は慎重に形態変化をし始める。しかしゆっくりと変化をしようとした八神に同調するかのように、若干の痛みが腹部を走った。せいぜい腹をつねられているかのような小さな痛みだが、八神はその痛みに警告のような、拒絶反応のようなものを感じ取った。

まるで、八神が人間の姿に戻るのを拒むかのように…。

 

 

 

(…まさか、人間の姿に戻れなくなったってのか?)

 

彼にとって一番考えたくない予感が浮かび上がる。さっきの激痛も、人間の姿の時に激しく起こり、グロンギ態になってしばらくした後に収まったのだ。

だが、いくらなんでも突発的すぎるだろうと思い直す。テロが起こり、ギャスパーの停止能力が発動するまで何ともなかったこの身体が、何の前兆もなしにそんな事態になるとは考えにくい。何かしらの原因があるのだろう。その原因が払拭された時に、元の体に戻れるはずだ。その点は安心しても良いだろう。

 

しかし、彼にとっての問題は、別のところにあった。人間の姿に戻れないと言うことは、このままグロンギの姿でい続けなければならないということだ。

先ほど述べた理由の通り、このままグロンギの姿でいることは彼にとってリスクが大きすぎる。誰かに見つかることのないように隠れていればその存在が感知されず、敵として見られることはないだろう。ところがそれは、ギャスパーが心配な彼にとってはそれは苦渋な選択であった。

仮に人の姿に戻ったところで、自分が時間停止能力の影響を受けていないことに対する説明は必要だ。全員が納得する理由を考えるのは非常に難しい話だが、それでも部外者のガドルが結界内にいることに対する説明よりかは多少なんとかなりやすい。ところが今の彼はガドルの姿から戻れない。非常に納得されにくい理由付けが、多大なるリスクが必要となってしまうのだ。

 

 

 

 

ーーーードオォォォォォォォンッッ!!

 

 

 

 

凄まじい破裂音が校舎の方から響く。少し考えにふけっていたガドルは、半ば反射的に校舎裏の物陰に身を潜めた。

そっと顔を出して音のした方に視線を向ける。すると、校舎の会議室があるあたりの窓一帯が何かしらの力で吹き飛ばされているのが見え、更には二人の人物が翼を生やして校舎内から飛び出してきたところだった。

 

(アレは…アザゼル?)

 

校舎から現れた二人のうちの一人は、堕天使総督のアザゼルだ。改めてよく観察すると、二人は互いに魔力の弾をぶつけ合ったりしているようだった。

恐らくもう一人はテロリストの一員なのだろう。テロリストのリーダー格が会議室に直接ジャンプすることに成功し、アザゼルと交戦することになったというところだろうか。

 

 

何にしろ、マズイことになったと顔を歪める。空で戦うアザゼルには、校庭全体を一望することが十分可能だろう。交戦中のためにあまり地上を警戒することがなくても、視界の端にでも見覚えのない怪人がいれば多少なりとも気に留めるだろうし、場合によってはあの戦いを終わらせてからでもこちらに向かってくるかもしれない。

そうなってはもう終わりだ。アザゼルに敵意を向けられれば、アザゼルと戦うこととなってしまう。ガドルの力は強大な方であるとはいえ、流石に限界はある。彼と戦うと言うのであれば、電撃体の力を持って全力で挑まなければならないだろう。

しかし、彼は今倒すべき敵ではない。コカビエル戦の後の研究で分かったことだが、電撃体にはある弱点がある。時間制限だ。電撃体は一日一回の変身で、その時間は決まっている。彼を鎮めるためだけに上限のある力を使うのは上策とはいえない。

 

では、通常体で相手をしてはどうか。電撃体にさえならなければ、その力を温存することはできるだろう。しかし、それではアザゼルを抑えることが難しくなる。下手にアザゼルを相手してしまえば、よくてその場で敗北。最悪の場合、その場の全員を相手することになる可能性もある。それもそれで良い作戦とは思えない。

 

(…クソッ! どうすればいい!? このままだとギャスパーが…!!)

 

自身に降りかかるリスクを考慮してこのまま身を隠し続けるか、自身を危険に晒してギャスパーを助けに行くか。一瞬の葛藤が彼に襲いかかる…。

 

 

 

しかし、そんな葛藤に襲われていた彼の目に、校庭へと飛び出して行く二人の人物が映った。グレモリー眷属の騎士、木場とゼノヴィアだ。

二人は校庭に陣取る敵の魔術師たちを次々と斬り捨てていく。接近戦に対する心得はないのか、テロリストの魔術師たちは一方的に倒されていくだけだった。

 

(ユウトと、ゼノヴィア? じゃあ、部長とイッセーは…)

 

二人と同じく、時間停止能力の影響を受けていないリアスと兵藤の姿を探す。ところが校庭中のどこを探しても、二人の姿は見受けられなかった。

 

とすれば、木場とゼノヴィアとはまた違う行動に出ているのだろう。最も考えられることとしては、今彼が行おうとしていたギャスパーの救出行動だ。

考えてみれば、ある意味当然のことと言えるだろう。何より仲間想いなリアスと兵藤が、捕らえられたギャスパーを助けに向かわないはずがない。校舎全体が結界と敵の魔術師たちに囲まれてはいるが、中には各勢力のトップ陣営が出揃っている。リアスだって立派な悪魔の次期当主なのだ。ひとつくらい対抗策があってもおなしくない。

 

 

(…そっか。皆が、いるんだよな)

 

数日前に、リアスから悟られたことを思い出す。少しは皆を信じ、頼って欲しい…。それが、彼女の願いでもある。

今回の件は、すでに部員たちがそれぞれで動き始めている。相手するのは一人一人がズのグロンギ以下の実力しかない魔術師だ。おそらくこのまま部員たちに任せても、相手を鎮圧することは十分可能だろう。

 

大きく息を吸い、そして吐く。今までは早いとこギャスパーを助けにいきたいとしか考えていなかったために考え付かなかったのだが、今ここで自分が動けば、思わぬ敵が現れたと校舎内にいる仲間たちに余計な動揺を誘いかねない。そしてそのせいで変な影響でも起きようものなら、目も当てられないことになる。

 

 

(…ここは皆に任せよう。オレは万が一の事態にあわせて、いつでも戦場に行けるようにだけしておいたほうがいい)

 

このまま自分が出て行くことなく、他の面々に任せていてもこの騒動はいずれ収まる。ならば余計な動きはしないで、確実な手段を取ったほうが良い。そう考えたガドルは校舎裏のより奥の方に身を移し、影に身を潜めた。

 

 

いずれ起こる、より強大な敵との戦いに備えて…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「お待たせにゃん♪ 美猴」

 

 

「ん? おう! 随分と久しぶりだぜぃ、黒歌」

 

 

「それなりに上手くいってるみたいね」

 

 

「おう。今のところは、だけどねぃ。あいつも上手く紛れ込んでるみたいだぜぃ」

 

 

「ふーん。まぁ、私にはどうでもいいんだけどね。あの子も元気そうで、よかったにゃん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで、いいのかい?」

 

 

 

「…何が?」

 

 

 

「例のやつに、礼でも言っとかなくてよ」

 

 

 

「……いいのよ。暫くの間、夢を見ていただけなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『……匂う』

 

 

 

 

 

『うまそうな匂いが……集まっている』

 

 

 

 

 

『覚えのある……血の、匂いも…』

 




雑談ショー withアーシア (ガドルver.)

ガ「さて、いよいよ決戦だな」

ア「うぅ…イッセーさんも木場さんもゼノヴィアさんも部長さんも、大丈夫でしょうか…」

ガ「なに、心配することはない。今の彼らなら大丈夫だろう」

ア「私たちも動かなくなってしまうなんて…早く皆さんを応援したいです」

ガ「焦ることもないさ。兵藤 一誠が吸血鬼の少年を救うまでの辛抱さ」

ア「そ、そうですね…! イッセーさんたちを信じて待ちます!」

ガ「うむ、私も彼らを信じ、その時が来るのを待つとしよう」




ア「ところで、その…カブト虫さんはなにをなさっているのですか?」

ガ「分からぬか? 木になりきっているのだ」

ア「ああ! 体が茶色いからですね!」

ガ「そういうことだ。木になりきればなんとやら、という話を聞いたことがある」

ア「凄いです! これならきっと見つかりにくいですよ!」

ガ「そうだろうそうだろう? ハーハッハッハッハ!!」


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五十一話目

エグゼイド終わっちゃうなぁ…(しみじみ)
ビルドが始まるなぁ…(わくわく)
プリヤの映画がくるなぁ…(ドキドキ)
…単位取れてるかなぁ(ドックンドックン)

そんな様々な思いが入り乱れる中で作りました。この季節、いろんなイベントがあるから大変ですね。
それでは、どぞ〜。



旧校舎に位置するオカルト研究部の部室に、紅い魔法陣が光を伴って現れる。リアスと兵藤の二名の転移に成功したようだ。

 

「っ! まさか、ここに転移してくるとは!」

 

「悪魔め!」

 

突然現れた二人の姿に、部室を占拠していた魔法陣たちが身構える。

 

「ぶ、部長! イッセー先輩!」

 

その中に、ギャスパーがいた。変わらない女装の姿と、頭部に紙袋の切れ端を乗せた状態で椅子に縛り付けられている。

 

「ギャスパー! よかった、無事だったのね!」

 

どうあれギャスパーが怪我もなく済んでいることに、リアスは安堵の息を漏らす。

 

「部長…。もう、嫌です…」

 

ところがギャスパーのほうは、二人の姿を確認するなり泣き出してしまった。

 

「僕は…僕なんか、死んだほうがいいんです。僕は、誰とも仲良くなんてなれない…。迷惑かけてばかりで…臆病者で…。お願いです、部長、先輩。僕を、殺してください…」

 

涙を流し、二人に懇願するギャスパー。敵にとらわれ、利用された彼は、何となくでもそれによる影響を察しているのだろう。

 

「馬鹿なことを言わないで。私はあなたを見捨てないわよ? あなたを眷属に転移させた時、言ったわよね? 生まれ変わった以上、私のために生き、自分が満足できる生き方を見つけなさいって」

 

「…見つけられなかっただけです。皆に迷惑かけてまで、僕に…生きる価値なんて…」

 

「あなたは私の下僕で眷属なの。私はそう簡単に見捨てない。やっとあなたを解放させることができたのに!」

 

「そうだぞギャスパー! 俺と部長は、お前を見捨てないからな!」

 

リアス、兵藤の言葉も届かず、ギャスパーは首を横に振るだけだった。

そんな中、ギャスパーのすぐ近くに立っていた魔術師がギャスパーの髪を掴み上げ、冷ややかな笑みを浮かべた。

 

「愚かね、あなたたち。こんな危なっかしいハーフヴァンパイアを普通に使うなんてバカげているわ。旧魔王派の言う通りね。グレモリー家は情愛が深くて力にあふれている割には頭が悪いって」

 

魔術師の侮蔑的な言葉に、怒りを見せることもなく面と向き合うリアス。

 

「さっさとこんなヴァンパイア、洗脳して道具として使えばきっともっと評価されていたでしょうに。敵対する堕天使の領域にこの子を放り込んで神器を暴走させれば、幹部の一人くらい退けたかもしれないわ。それをしないのはなぜ? 仲良しこよしで下僕を扱う気なの?」

 

「こ、この…!」

 

先に怒りを抑えきれなくなったのか、前に出ようとする兵藤をリアスは手で制止した。

 

「私は…自分の下僕を大切にするわ」

 

冷静に返すリアスに向けて、魔術師が魔力の弾を放つ。それほど威力を込めていないのか、リアスの服が一部弾け飛ぶだけで、彼女自身にダメージはなかった。

 

「生意気な口をきくのね。それに、悪魔のクセに美しいのも気に入らないのよ、グレモリーの娘」

 

嫉妬にまみれた声でそう言うと、魔術師はギャスパーの首元に刃を突きつけた。

 

「さあ、動くとこの子が死ぬわよ? ちょっと遊びましょうよ」

 

魔力弾を引き続き放つ魔術師。避ける気配を見せないリアスの前に、兵藤が盾になるように立ちはだかる。弾は、兵藤の首筋で破裂した。

爆発に耐えて怒り心頭の兵藤の前に、リアスは再び前に出てギャスパーに優しく語りかける。

 

「ギャスパー。私にいっぱい迷惑をかけてちょうだい。私は、何度でもあなたを叱ってあげる。慰めてあげる。決して…決してあなたを放さないわ!」

 

「ぶ、部長…」

 

涙を溢れさせるギャスパー。しかし、今度の涙はこれまでの恐れや悲しみからくるものではなく、嬉しさからくるものだというのが誰からでも見て取れた。

 

「ギャスパー! 逃げるなっ! 恐れるなっ! 泣き出すなっ! 俺も部長も、朱乃さんもアーシアも、木場も小猫ちゃんもゼノヴィアもシュウも! 皆仲間だ! 絶対にお前を見捨てないっ! 仲間はずれなんかしないからなぁぁぁぁっ!!」

 

兵藤が部屋中に響く声で叫び、左腕を高く上げて自身の神器を発動させる。

 

「ブーステッド・ギア!」

 

【Boost!!】

 

「部長! 女王に昇格します!」

 

左手に装着された籠手を構え、更にリアスに昇格の許可を促す。リアスが頷きでそれに応えると、兵藤の力が女王のそれに底上げされた。

 

「アスカロン!」

 

【Blade!!】

 

籠手から、一本の鋭い剣が飛び出す。以前ミカエルから授かった竜殺しの聖剣、アスカロンだ。

兵藤はその切っ先を慎重に己の右の指先に向け、極僅かな切り傷を入れる。

 

ほんの僅かな切り口を、人間の感覚で捉えるなら紙で指先を切ってしまった時くらいの切り口を作っただけだというのに、その痛みは激しかった。それもそうだろう。アスカロンは竜殺しの聖剣。儀式で多少効力を抑えているとは言っても、ドラゴンで悪魔の彼にとっては相性が悪い一撃でしかないのだ。

 

「イッセー…?」

 

激痛に顔を歪める兵藤を、リアスは怪訝そうな顔で覗き込む。兵藤は小さく「大丈夫です」と応えると、改めてギャスパーのもとに向き直った。

 

「だけどな、ギャスパー! 自分から立たなくちゃ、何も始まらないんだぜ? 女の子に喝を入れてもらったんなら、あとは自分で立て! お前も立派な男だろうがぁぁぁぁっっ!!」

 

叫び、左手を一気に突き出す。するとアスカロンの切っ先は如意棒を彷彿とさせるような勢いで伸びていき、魔術師たちの誰もが反応できないうちにギャスパーの側で停止した。アスカロンの切っ先に付着していた兵藤の血が、ギャスパーの口元に飛びつく。

 

「飲めよ。最強のドラゴンの力を宿してるらしい俺の血だ。それで、男を見せてみろっ!」

 

兵藤の言葉に強い眼差しで頷き、ギャスパーは舌で口元の血を舐めとる。ギャスパーが兵藤の血を口にした、その瞬間ーー。

 

 

 

 

室内の空気が、一変した。

 

 

 

 

不気味で言い知れない悪寒が、室内にいる全員に駆け巡る。

 

 

魔術師たちが、椅子に繋がれているはずのギャスパーに目を向けた時、彼女たちはある異変に気がつく。

 

 

そこには、誰もいない。椅子に残っているのは、ギャスパーを繋いでいた縄だけだった。

 

 

兵藤も突然の事態に驚きを隠せずにいると…。

 

 

 

 

ーーチチチチチッ

 

 

 

 

不気味な鳴き声が、耳に入る。

 

 

 

視線を上げると、部室の天井付近を縦横無尽に飛び回るコウモリの軍勢が目に入った。

 

 

紅い瞳のコウモリの群れは、一斉に女魔術師たちに襲い掛かる。

 

 

「クッ! 変化したのか、吸血鬼風情が!」

 

 

「おのれ!」

 

 

魔術師たちはコウモリの軍勢に手を向けて、魔力弾を撃ちだそうと力を込める。

 

 

しかし、それは彼女たちの影から無数に伸びてきた黒い手によって阻害される。

 

 

影から現れた手は、彼女たちを影の中へと引きずり込もうとしていた。

 

 

「吸血鬼の能力か!? こんなもの!」

 

 

影に向けて弾を撃ち出すが、手は何事もなく霧散するだけでこれといった影響はない。むしろコウモリたちは影の手に意識を向けてしまっていた魔術師たちの体を包み込み、各部位を噛み始める。

 

 

「血を吸うつもりか!?」

 

「…いや、違う! これは!」

 

 

コウモリは、魔術師たちから血と共に魔力も吸い出していた。

 

 

 

コウモリと影から伸びる手によって、されるがままにされている魔術師たち。そんな彼女らの姿を見て、兵藤は唖然とした様子を見せる。そんな彼の元に、リアスはやさしく解説を述べた。

 

「あれが本来のギャスパーが秘めていた力の一部よ。あなたの血を飲んだことで解放されたのね」

 

 

 

「くっ! ならば!」

 

魔術師たちが手の先をリアスと兵藤に向ける。ギャスパーが無理であれば、せめてあちらでも…という算段なのだろう。

 

二人に向けて放たれる魔力弾。しかし、それは空中の一定の距離を飛んだところで停止してしまった。

 

『無駄です。あなたたちの動き、攻撃は、全て僕が見ています」

 

室内に響くギャスパーの声。魔術師たちは突然発現したギャスパー本来の力によって翻弄されていたので忘れていたのかもしれないが、ギャスパーには、時間を停止させる神器の能力もあるのだ。赤龍帝の血は、神器を上手く制御させる効果もある。先の血を飲む行為によって得られたのは、吸血鬼本来の力だけではなく、神器をコントロールする術もだったのだ。

 

『僕は、あなたたちを停めます!」

 

無数のコウモリたちが紅い瞳を光らせる。途端、この部屋にいる全ての魔術師たちが停止させられた。

 

『イッセー先輩!』

 

「任せろ!」

 

ギャスパーの声に応え、兵藤が駆け出す。

魔力を込め、動けなくなった魔術師たちに繰り出されるその必殺の名は……!

 

 

 

 

「洋服崩壊ッッ!」

 

 

バァァァァァン…。

 

 

魔術師たちのローブが弾け飛ぶ。

割と感動的で、良い雰囲気が流れていたこの場面で、彼は女性特効一撃必殺の技を繰り出した。

その魂胆にあるものは、いつもと変わらない。

 

時間を停止させられた挙句、服を弾き飛ばされた魔術師たちは、一糸まとわぬ姿でマネキンのように固まっていた。女性陣から見れば地獄絵図のようなものを背後に、兵藤はそれはそれは満足そうな様子で静かにギャスパーに微笑みかけた。

 

「ギャスパー。俺たちが組めば、無敵だ」

 

『はい!』

 

「そうじゃないでしょ?」

 

コツン、とリアスが兵藤の頭を小突く。

思っていた道筋とはかけ離れた流れに、リアスはただただため息をつくだけであった。

 

 

その後、時間停止によって動けなくなった魔術師たちは、魔法陣を通して冥界にある役所に送られることになった。そこで彼女らは捕縛され、牢屋に入れられるのだという。

 

リアスは、いきなり裸のマネキンたちを大量に送りつけられる役所の職員たちに、そして気がついたら裸で牢屋に入れられることになる魔術師たちに、なんとも言えない同情の念を抱いてしまったとか。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

駒王学園上空にて繰り広げられる、堕天使総督アザゼルと旧魔王の末裔の一人、カテレアの激しい一騎打ち。

本来、アザゼルによる一方的な蹂躙が繰り広げられるだろうと思われていたその戦闘は、しかし、思いの外カテレアが喰らい付いていく展開になっていた。

 

アザゼルの力はカテレアを凌駕しているはずなのだが、カテレアは予想以上の力でアザゼルと対峙している。

 

身の丈を遥かに超える極太の光の槍を放つアザゼルに対し、カテレアは空中に何重もの防御用の魔法陣を張り巡らせてそれを防ぐ。そのような攻防が何度も繰り返される度に、その力の余波が校庭を襲う。魔王たちが結界を張り続けているために、校舎や校外には影響が及ばずに済んでいる状態だった。

 

その戦闘に、一瞬だけの区切りが訪れる。互いに少し離れ、それぞれの羽を広げて浮遊する。

これまで何とかアザゼルに喰らい付いていたとはいえ、劣勢であったのは間違いない。にも関わらず、カテレアは不気味な笑みを浮かべていた。

 

「そろそろ覚悟を決めてもらいましょうか、アザゼル」

 

カテレアはそう言うなり、懐から小瓶を取り出す。その中には、何やら黒い蛇のようなものが蠢いていた。

小瓶の蓋を開け、口につける。小瓶の中で蠢く蛇は、そのまま瓶からカテレアの口の中へと移されていった。

 

 

ーー途端、空間が激しく揺れ動き、学園全体に力の波動を波立たせる。

 

 

その瞬間から、カテレアから発せられる力は全くの別物となった。もはや今の彼女には新魔王の面々に迫る勢いがある。

アザゼルが無数の光の槍を放つも、カテレアは腕を横になぐだけでそれらを難なく消失させてしまった。

 

「…チッ。お前のその力、たかが旧魔王の末裔のものにしては膨大だな。いきなり膨れ上がったオーラの量といい、お前オーフィスの野郎に何をもらった?」

 

「ええ、彼は無限の力を有するドラゴン。世界変革のため、少々力を借りました。おかげであなたと戦える。サーゼクスやミカエルも倒すチャンスでもあります。貴方も含めて、彼らは愚かな総督ですからね」

 

アザゼルの問いに、自信に満ち溢れた様子で応えるカテレア。

一方、アザゼルはそんな彼女に臆することもなく、相変わらず愉快そうにするだけであった。

 

「確かに俺は愚かかもな。シェムハザがいなけりゃ何もできねぇ奴で、ただの神器マニアだ。…だがな、サーゼクスとミカエルはそこまでバカじゃねぇと思うぜ? 少なくともテメェよか遥かに優秀だ」

 

「世迷言を! いいでしょう。貴方は今ここでトドメをさします。新世界創造の第一歩として、堕天使総督である貴方を滅ぼす!」

 

そんなアザゼルの様子にも、今の言葉にも腹を立てたのか、強めの口調で言い放つカテレア。

アザゼルは、懐から一本の短剣らしきものを取り出し、その切っ先をカテレアに向ける。

 

「それは……」

 

「…神器マニアすぎてな。自分で製作したりすることもある。レプリカ作ってみたりな。だが、そのほとんどが所詮ガラクタに過ぎねぇんだがな。その点、神器を開発した神はすげぇよ。俺が唯一奴を尊敬するところだ。

…だが、甘い。『神滅具』と『禁手』なんていう世界の均衡を崩し得るバグを残したまま死んじまったからな。だからこそ神器は面白いんだけどよ」

 

「安心なさい。新世界では神器なんてものは絶対に作らない。そんなものがなくても世界は機能します。いずれは北欧のオーディンにも動いてもらい、世界を変動させなくてはなりません」

 

「それを聞いてますますお前らの目的にヘドが出るよ。ヴァルハラ!? アース神族!? 横合いからオーディンに全部かっさらわれるつもりかよ」

 

ニンマリと口の端をつり上げ、吐き捨てるアザゼル。戦闘中、一度も態度を変えることのなかったその男は、その次の瞬間。明らかに様子を変貌させた。

 

 

 

「というよりもな。俺の楽しみを奪う奴は……まとめて消し飛ばしてやるよ」

 

 

 

アザゼルの持つ短剣が形を変えていく。

 

 

 

パーツが分かれ、光が吹き出す。

 

 

 

それは、何となく見覚えのある、感じた覚えのある強いオーラを放っていた…。

 

 

 

「ッ!? ま、まさか! アザゼル、貴方は!」

 

「禁手化…!」

 

一瞬の閃光が辺りを包み込む。光がやむと、そこには黄金の全身鎧を身につけた者が立っていた。背中から広がる十二枚の漆黒の翼。どうやらアザゼルが装備したものらしい。

ドラゴンを彷彿とさせる、金色に輝く生物的なフォルム。巨大な光の槍を構え、ドラゴンの鎧を身につけたアザゼルは、力強いオーラを放ちながらカテレアを睨む。

 

「白い竜と他のドラゴン系神器を研究して作り上げた、俺の傑作人工神器だ。『堕天龍の閃光槍』。それの擬似的な禁手状態…。『堕天龍の鎧』だ」

 

擬似的な禁手。それは、神器をバースト状態にし、強制的に覚醒させるもので、一種の暴走に近い。戦闘後に神器が壊れ、使い物にならなくなるという諸刃の剣だ。

本来の神器であれば所有者が死なない限り何度でも再生するが、人工神器はそうはいかない。人工神器を使い捨てにすることで可能になる、一時的なパワーアップであった。

 

「…力を有したドラゴンをベースにしましたね?」

 

「ああ。ちょっくら『黄金龍君』ファーブニルをこの人工神器に封じてな。赤い龍と白い龍の神器を模したのさ。いまのところは成功ってとこか」

 

苦々しい様子のカテレアの問いに、あっさりとした口調で返すアザゼル。それは、カテレアを激昂させるには十分であった。

 

「アザゼル! それだけの力を持ちながら、貴方は!」

 

「カテレアよぉ。『無限の龍神』をバックにしておいてよく言うぜ」

 

「神器の研究は、そこまで進んでなかったはず!」

 

「その様子じゃ、俺の組織を裏切った輩が研究をいくらか持ち出したみたいだな。…だが、残念だったな。真理に近い部分は俺とシェムハザしか知らねぇんだよ」

 

アザゼルの言葉に小さく舌打ちし、カテレアはこれまで以上のオーラを放つ。

 

「私は偉大なる真のレヴィアタンの血を引くもの! カテレア・レヴィアタン! 貴方ごとき忌々しい堕天使などに、負けはしない!」

 

挑戦的な物言いに、アザゼルは小さく指を動かした。

 

「来いよ」

 

「なめるなっ!」

 

特大のオーラを纏い、アザゼルに突撃して行くカテレア。

二人がぶつかり、互いのエネルギーが波打ったその瞬間。勝負が決した。

 

カテレアの身体から鮮血が噴き出す。アザゼルは、自分が持つ光の槍で、カテレアごとその背後の景色一帯を切り裂いてしまっていた。コンマ一秒の間で、決着がついた。

 

力なく、その場に膝をつくカテレア。あとはそのまま倒れ伏せるだけであろう彼女は…。

 

「ただでは、やられません!」

 

最期の抵抗を見せた。

自身の腕を触手のように変化させ、アザゼルの左腕に巻きつける。するとすぐさまカテレアの身体に、怪しげな文様が浮かび上がった。

 

自爆用の術式だ。カテレアは最期に死ぬ覚悟で、アザゼルを道連れにしようと判断したのだった。

 

「アザゼル! この状態になった私を殺そうとしたところで無駄です! 私と繋がった以上、私が死ねば貴方も死ぬ、強力な呪術を発動させています! さらにその触手は私の命を吸った特別性! 切れませんよ!」

 

「犠牲覚悟で俺に大ダメージってか? 安っぽい発想だが、効果は絶大だな」

 

カテレア最期の抵抗に、アザゼルは流石にしてやられたとでも言いたそうな様子を見せる。最期の抵抗が効果ありと察したのか、不敵な笑みを浮かべて勝ち誇った様子を見せたカテレア。

 

 

 

 

「じゃ、こうしよう」

 

 

 

 

しかし、アザゼルは一瞬にして解決策を導き出した。

 

 

 

 

自分の腕を切り落とし、カテレアとの術式の繋がりを断つことによって……。

 

 

 

 

「片腕ぐらいお前にくれてやる。ま、精々あの世で自慢すりゃいいさ」

 

絶望の淵に叩き落とされたカテレアに、光の槍を投擲するアザゼル。槍はカテレアの腹部を貫き、カテレアの身体は爆破することもなく、光の力によってそのまま塵と化していった。

 

「チッ、人工神器の限界か。まだ改良の余地ありだな。核の宝玉が無事なら、また作り直せる。もう少し俺に付き合ってもらうぜ、ファーブニル」

 

鎧が解除され、手の中に残った人工神器の核の宝玉を見つめながら、アザゼルはニヒルな笑みを浮かべた。

ちょうどその時、アザゼルの背後から紅い光を伴った魔法陣が現れる。グレモリー家の転移の魔法陣だ。その魔法陣から、ギャスパーの救出に向かっていった兵藤とリアス、救出されたギャスパーが姿を現した。

 

「おう、そっちもなんとか終わったらしいな」

 

魔法陣から現れた三人の姿を見つけ、アザゼルが笑いかける。

 

「アザゼル!? なんでお前がここに、つーか腕が!」

 

「お前さんらがあっちに向かった後もいろいろあったんだよ。そろそろ魔術師の掃討戦も終わる。何とかなったってとこだろうな…」

 

今回の襲撃に見切りがつき始めたことで、若干警戒心が緩む。目の前の事態に驚いたのかやや興奮して騒ぐ兵藤を受け流すように、アザゼルは戦場を見下ろしながら答えた。

 

その瞬間、思わぬところからの攻撃が入った。

 

完全に不意を突かれたアザゼルはその攻撃をモロに受ける。爆撃に飲まれ、身を焦がしながらもその攻撃を放った敵が誰なのかと睨みつける。その攻撃の主が眼に映る。

 

 

アザゼルは自嘲的に笑った。

 

 

 

「…ッチ。この状況で反旗か? ヴァーリ」

 

 

 

白い鎧を纏い、空中からアザゼルらを見下ろすヴァーリがいた。

 

 

 

「いつからだ? いつからそういうことになった?」

 

「コカビエルを連れ戻しに行って帰る途中にオファーを受けた。悪いな、アザゼル。こっちの方がいくらか面白そうなんだ」

 

「白い龍がオーフィスに降るのか?」

 

「あくまで協力するだけだ。『アースガルズと戦ってみないか』と、魅力的なオファーがでたんだ。自分の力を試してみたい俺ではそれは断れない。アザゼルはアース神族と戦うことを嫌がるだろう? 戦争嫌いだものな」

 

「俺はお前に強くなれとは言ったが、『世界を滅ぼす要因だけは作るな』とも言ったんだがな」

 

「関係ない。俺は永遠に戦えればいい」

 

アザゼルと短く会話を交わし、放置されていた兵藤たちに視線を動かす。困惑した表情を浮かべる兵藤を冷ややかな目で見下ろしながら、ヴァーリは改まるように名乗りを上げた。

 

「俺の名はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーだ」

 

その名乗りに、リアスは目を見開いて驚く。

 

「死んだ先代魔王ルシファーの血を引く者だ。だが、俺は旧魔王の孫である父と人間の間に生まれた混血児。だからこそ白い龍の神器を手にすることができた。半分人間だからな。偶然に偶然が重なり、ルシファーの真の血縁者であり白い龍でもある俺が誕生した。運命、奇跡というものがあるのなら、それは俺のことかもしれない。…なんてな」

 

「嘘よ…そんなこと…」

 

「事実だ。もし冗談のような存在がいるとしたら、こいつのことさ。俺が知ってる中でも過去現在、おそらく未来永劫にかけて最強の白龍皇になる」

 

愕然とした様子を見せるリアスに、苦虫を噛み潰したような顔をするアザゼル。先代魔王の血筋を持つものは、悪魔としての質も高い。先のカテレア・レヴィアタンも然り、その力は通常の悪魔の中で上位に位置する存在だ。

彼はその事実に加え、世界を揺るがし得る白龍皇の力を持っている。先代魔王の時代から長年生きてきたアザゼルを以ってしても、最強と言わしめる存在。それがヴァーリだ。

 

「じゃあ、どうするよヴァーリ。俺とやるか? 言っとくが俺は鎧がなくとも、片腕だけでお前と十分に戦える」

 

挑発するように発言するアザゼルを無視するように、ヴァーリは兵藤から視線を動かさなかった。

暫く見下ろし続けると思うと、ヴァーリは心底残念そうな息を漏らした。

 

「しかし、運命というのは残酷だと思わないか?」

 

ヴァーリの言葉に疑問符を浮かべる兵藤。そんな彼をあざ笑うかのようにヴァーリは言葉を繋げる。

 

「俺のように、魔王プラス伝説のドラゴンみたいな思いつく限りで最強の存在がいる反面、そちらのようにただの人間にドラゴンが宿る場合もある。いくらなんでもこの偶然は残酷だと思うな。ライバル同士の神器とはいえ、所有者二名の間の溝は深すぎる。

君のことは少し調べた。父は普通のサラリーマンで母はたまにパートに出る普通の専業主婦。両親の血縁も全くもって普通。先祖に力を持った能力者や術者がいたわけでもない。当然、悪魔や天使に関わったこともない。本当になんの変哲も無い。君自身も悪魔に転生するまで、ごく普通の男子高校生だった。ブーステッド・ギア以外、何もない」

 

その言葉に、兵藤は表情を曇らせる。事実、彼と自分の実力には天と地ほどの差がある。相対しただけで身震いするほどの力の差が。仮にそれが経験からくるものであれば、これから次第でその差を埋めるのは容易であったかもしれない。しかし、血筋からくるものとなれば話は別だ。何かしら劇的な変化が起きない限り、ヴァーリとの力の差は永遠に縮むことはないだろう。

 

「つまらないな。あまりにつまらなさすぎて、君のことを知った時は落胆より笑いが出た。『これが俺のライバルなんだ。まいったな』って。せめて親が魔術師ならば話は少しでも違ったかもしれないのに。…そうだ。こういうのはどうだろうか。君は復讐者という設定だ」

 

「何?」

 

突然提示された、「復讐者」という設定。面白おかしそうに設定について語り出すヴァーリに対し、何かしら嫌な予感を察知したのか、顔をしかめさせる兵藤。

 

「俺が君の両親を殺す。そうすれば、君の身の上が少しはおもしろいものになる。親を俺のような貴重な存在に殺されれば、晴れて重厚な運命に身を委ねられると思わないか?」

 

 

 

 

「……殺すぞ、この野郎」

 

 

 

 

 

兵藤らしからぬ、怒気のこもった言葉。戦いの中で生き、戦いを最大限に楽しもうとするヴァーリの言葉は、元が普通の人間であった兵藤を激昂させるには十分であった。

 

 

「お前の言う通り、俺の父さんは朝から晩まで働く普通のサラリーマンだ。母さんは朝昼晩と、俺たちのために美味い飯を作ってくれる普通の主婦だ。…でも、俺をここまで育ててくれた、俺にとって最高の親なんだ。

…殺す? 俺の父さんと母さんを? なんでテメェなんかの都合に合わせて殺されなくちゃいけないんだよ! 貴重だとか、運命だとか、そんなの知るかよっ! ……やらせねえ」

 

そこまで一気にまくし立てると、左腕に赤龍帝の籠手が現れる。強い光を放つ籠手を掲げ、叫びを上げた。

 

「テメェみてえなやつに、俺の親を殺されてたまるかよぉぉぉぉっ!!!」

 

【Welsh Dragon Over Booster!!】

 

叫びとともに、赤龍帝の籠手から音声が流れる。赤く、強大なオーラを放ちながら、籠手はその形を変貌させた。赤龍帝の籠手の禁手、『赤龍帝の鎧』だ。アザゼルから受け取ったリングの効果もあり、最初と違って代償を払うこともなく鎧を装着することができていた。

籠手の宝玉に、カウントダウンらしきものが現れる。禁手を発動させていられる制限時間だろう。時間的には十五分にも満たないが、それでも十分だと構え直す兵藤に、見直したような息を漏らすヴァーリ。

 

「…見ろ、アルビオン。兵藤一誠の力が桁違いに上がったぞ。怒りという単純な引き金だが、これは…心地いい龍の波動だな」

 

《神器は単純で強い想いを力の糧とする。奴の怒りは純粋にお前に向けられているのさ。真っ直ぐなもの、それこそドラゴンの力を引き出せる真理のひとつ》

 

「そうか。そういう意味では俺よりも彼の方がドラゴンと相性がいいわけだな。だが! 頭が悪いのはどうだろうか! 兵藤一誠! 君はドライグを使いこなすには知恵が足りなすぎる。それは罪だ!」

 

「さっきからベラベラと、訳の分からんことを言ってんじゃねぇ!」

 

「そう! それこそバカという奴なんだ!」

 

二人はそれぞれの鎧を纏い、赤と白の光を放ちながらぶつかる。激しい衝撃が校庭に広がる。

 

赤い龍と白い龍。世界を揺るがすライバルの対決が、三大勢力の集まる会談の会場で勃発した。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

場面は変わり、学園の角側。

 

駒王学園の校庭には、森とも林とも言えないくらいの小さな規模ではあるが、隅の方に軽く森林浴ができるくらい木々が生い茂っている場所がある。学生たちは主に木陰で休む休憩所として使っているが、ちょっとした隠れ場所としてもその場所を活用することが可能だ。いつしか外でスポーツをしていた女生徒が、そこの茂みから怪しい視線を三人分感じたとか言う話があるくらいだ。

そして現に、いま現在もその木陰に身を隠す二人の人物がいた。

 

一人は昔の中国時代を彷彿とさせるような鎧を身につけたいかにも身軽そうな男性。そしてもう一人は綺麗な和服を羽織り、頭から猫のような耳を生やした女性だ。二人は兵藤とヴァーリの戦いが繰り広げられている校庭の方に視線を向けながら言葉を交わしていた。

 

「ヴァーリのやつ、久しぶりに上がってるみたいだぜぃ。ここまで力が響いてくる」

 

「そうね。今回の赤龍帝ってどんな子なのかしら。一度見てみたいにゃん♪」

 

「ヴァーリからはつまらない奴だとしか聞いてないんだが、どうやら想定外だったみたいだねぃ。けどそろそろ戻らねえとな。本部の奴らも騒ぎだす頃だろうしよぅ。そこで帰り道作って待っててくれや」

 

「はいはーい。美猴、行ってらっしゃい♪」

 

茂みから身を出して校庭に向かっていく美猴という男を、ヒラヒラと手を振って見送る女。彼女は黒歌という名のテロリスト側の人物だ。とはいえ彼女も美猴も、そしてヴァーリも今回のテロを計画した者ではない。このテロの結末を見届けに、あるいは少しだけ助力しにきた人物だ。

 

ここから眺めるだけでも、今回のテロは失敗に終わるのは確実だろう。ギャスパーは奪い返され、計画の首謀者であるカテレアは敗れた。他の魔術師らも、木場とゼノヴィア二名にただやられていくだけ。こうなってはあとは全滅になるのを待つだけだ。

黒歌は校庭で起きている惨状には目もくれず、さっさと帰り道となる陣を貼り始める。今回の作戦は成功すればラッキーくらいの感覚でしか捉えておらず、大して期待を寄せていなかった。失敗したところで別の作戦もある。だからこそ、失敗すると分かったならばその次の作戦に取りかかるのだった。

 

陣を貼るために魔力を込め、地面に独特な魔法陣が現れたところで、黒歌は何かを思い出したかのようにチラと結界の外の駒王町に視線を送る。どこか懐かしそうな様子で暫く町を眺めると、帰りの移動手段の作成を続けるために結界の外から視線をそらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーービシィッ!!

 

 

 

 

その瞬間。結界から、何やらひび割れたような音が鳴る。

 

 

 

 

何が起きたのか。今のは何の音なのか。本来ならばそちらの方に気を引かれるであろう。しかし黒歌は、今の音が鳴ったその時に、外から流れ込んできた邪悪な気配に気をとられた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーービキィッ! ビシビシッ! バリっ!!

 

 

 

 

 

 

 

再び、今度は先ほどより多く、不気味な音が鳴る。

 

 

 

 

音とともに背後から感じる、あの気配。黒歌は目を見開き、ゆっくりと背後を振り返る。

 

 

 

 

目に映った。学園の外に貼られた結界に、異常に大きな亀裂が入っていた。

 

 

 

 

 

「…ま、さか…そんな、はず…」

 

 

 

 

 

黒歌の中に、ある予感が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

結界が、破られた。

 

 

 

 

 

 

割れた結界をまたぎ、学園の外から、一つの人影が学園に足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

「…ここに、いる。あの時、逃した…最高の獲物…」

 

 

 

 

学園に進入したタンクトップの男は、今にも飛び出しそうな目を大きく見開き、その眼光で学園を睨みつける。

 

 

 

 

 

「ウウゥ…グゥギィャアアァァアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

叫び声を上げる。その声に同調するかのように、彼の身体は少しずつ変化を遂げ始めた。

 

 

 

 

 

真っ白の髪は更に伸び、皮膚は黒に染まる。口は裂けるほど広がり二本の鋭い牙が生え、腕からは一対の巨大な翼が出現した。

 

 

 

 

 

ズ・ゴオマ・グ『究極体』。数多いるグロンギの中でも更に例外的なグロンギが、駒王学園に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 




独り言ショー

「ふむ、アザゼルの戦いは熾烈を極めてるようだな。激しい力を感じる」
「時間の違和感も収まったな…どうやらうまくいったようだ」
「なに!? まさかあいつが裏切り者だったのか!?」
「この気配…まさか、奴らがまた…?」

こんなこと考えながら木陰に隠れるガドル閣下のお姿は、さぞシュールなことだろうなぁ…(他人事)

「おのれぇ!」


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五十二話目

一話〜三十六話 ドライブ放映期間
三十六話〜四十八話 ゴースト放映期間
四十九話〜五十話 エグゼイド放映期間

多分こんな感じだった気がしますが…やばいな、どんどん期間が開いていくぜ。
よかった、ビルド放映期間に一話間に合ったぞ(コラ)

では、ひさびさにどぞ〜



ヴァーリと兵藤の戦いは、徐々に激しさを増していく。

赤い龍の鎧と白い龍の鎧を装備した二人が互いにぶつかり合うたびに、強烈な衝撃が校庭中に響き渡る。

 

純粋な戦闘能力でヴァーリに圧倒的に劣っている兵藤は、以前ミカエルから譲り受けたアスカロンを振るってヴァーリに斬りかかる。ヴァーリも悪魔の血を引き継いでいると分かった今、アスカロンはヴァーリにとって非常に有効な武器であることが判明しているため、一撃でも与えることができれば御の字だ。ところが、当然ながら単に振り回すだけの斬撃ではヴァーリを捉えることができない。兵藤の攻撃は、その悉くが全て躱されていく一方であった。

 

それだけではない。兵藤は禁手の効果の一つとして、倍加の力を待機時間を要することなく使用できる能力を得た。好きなタイミングに好きな配分だけ、一時的に自身の能力を上げることができるようになったのだが、当然ながらその能力には代償があり、倍増させる能力値が高ければ高いほど兵藤のスタミナを奪っていく。

ヴァーリも同じく、白龍皇の能力を使うたびに体力が削られているのは変わらない。ところが、兵藤と違ってヴァーリは凄まじい体力を備えている。このまま同じ攻防を繰り返し続けていると、いずれは兵藤のスタミナ切れという形で勝敗が決まってしまうだろう。

 

なにかとライバルとの力量差を見せつけられ、苛立ちを見せる兵藤と落胆するヴァーリ。基本スペックの圧倒的な違いがここまでの差を産むのかと、兵藤の中に若干の焦りが生じた。

 

その焦りを見逃すヴァーリではない。ヴァーリは焦りを見せた兵藤に生じた隙を的確につき、兵藤の目には止まらない速度で赤い鎧を殴りつける。兵藤の鎧にヒビが入り、鋭い痛みが胸に走った。

 

「グッハ…!」

 

「フフッ…アッハハハハハハハッッ!! これが俺のライバルか! 困ったな、弱い! 弱すぎるじゃないか!」

 

【Divide!!】

 

無様に飛ばされた兵藤を嘲笑いながら、白龍皇の能力を発動する。音声とともに、兵藤は自身の力が衰退したのを感じ取った。半減の能力だ。能力を発現させるには対象に一度触れることが条件となるのだが、今の一撃でその条件をクリアしたのだった。

 

【Boost!!】

 

すかさず赤龍帝の籠手の能力で自身の力を倍加させることで、先ほど失われた力を取り戻す。こうすることで白龍皇の半減の能力を相殺することは可能なのだが、これには一つ問題があった。

 

《ふむ…マズイな》

 

(なにがだ、ドライグ?)

 

《奴の能力は前に話しただろう? 半減した力を自分にそのまま付与させる能力だ。今も相棒から奪い取った力を己のものにしている。

半減された力はすぐに俺の倍加の力で元に戻してやれるが、そう何度も繰り返してはいられない。お前はマイナスから元に戻るだけなのに対し、奴はどんどんプラスになっていっていくんだからな。その上、相棒には体力の問題もある》

 

白龍皇の能力は、半減だけではない。赤龍帝の兵藤が溜めた倍加の力を他の誰かに譲渡することが可能なように、白龍皇であるヴァーリは半減によって奪った力を自身に蓄えることが可能なのだ。

この攻防を続ければ続けるほど、ヴァーリは自分では追いつけない力を手にすることになる。ただでさえ両者の力量差は決定的であるのに、これ以上差を開けるわけにはいかない。

 

(…なにか、弱点はないのか?)

 

《あるにはある。容量をオーバーさせることだ。どれだけ宿主が優れていようと吸収できる力に限界があるのだが、キャパシティを超える力は、あの背中の翼から吐き出しているんだ。そうすることで身を滅ぼすことなく、力の上限を維持し続けているのさ。つまり…》

 

兵藤の心の問いに答え、ドライグがある作戦を提示する。ヴァーリやアルビオンに気づかれないように慎重に相談する兵藤にむけ、ヴァーリは無限にも等しい魔力の弾を撃ち出す。突然の攻撃をかわすことができなかった兵藤は、ひたすら魔力弾を耐える道を選んだ。

軽く撃ち出されているヴァーリの弾の一発は、兵藤に重いダメージを残していく。全身傷だらけであることを感じながら、兵藤は魔力弾の雨に耐え続けた。

 

「…攻撃も単調だな。ただ突っ込むだけでは意味がない。宝の持ち腐れだ。力の使い方もまるでなってない」

 

魔力弾の爆発によって舞い上がった土煙を見下すような視線で眺めるヴァーリ。そんな彼目掛けて、土煙から兵藤が飛び出してきた。

魔力の雨は未だ降り続けているのだが、その中を突っ切るように鎧の背中の噴射口から魔力を噴射させて一直線に向かっていく。

 

体の各所に魔力弾が当たり、爆発していく。着実にダメージを与え続けているのだが、兵藤は構わず向かってくる。ヴァーリに一撃をかましてやるという目的のために、ダメージを受ける覚悟でいるのだった。

 

「突貫か。馬鹿の一つ覚えだな。そんなもので…」

 

鎧の各所が破壊され、マスク部位までもが壊されているにも関わらず自分に向かってくる兵藤に対し、ヴァーリは光の盾を展開して防御の構えを取る。

 

「まだだっ! “赤龍帝の籠手”!!」

 

【Boost!!】

 

すると、兵藤は赤龍帝の籠手の能力で、籠手に収納してあるアスカロンに力を譲渡した。そして、籠手を装着した拳をヴァーリの盾に叩きつける。

ヴァーリが展開した光の盾は、一撃で粉砕された。アスカロンの龍殺しの力は、竜の力をもつ術者が使用した術に対しても効果がある。盾が破壊され、阻むものがなくなったヴァーリに向けてすかさず繰り出された兵藤の拳が、ヴァーリの頭部を捉える。

 

鈍い音を立てて、白龍皇の鎧の兜にヒビが入った。

 

「捉えたぜ! ヴァーリ!!」

 

ヴァーリに息をつく間を与えず、兵藤は鎧の背後に展開する光の翼の付け根に手を伸ばした。

 

【Transfer!!】

 

同時に、赤龍帝の鎧の籠手から譲渡の音声が鳴る。

 

「…まさか、お前!」

 

「ああ、そうだよ! 吸い取る力と吐き出す力を一気に高めてやる! 処理しきれなくなるほどな!」

 

兵藤の狙いは、白龍皇の鎧が処理しきれなくなるほどの力を無理矢理に吸収させ、同時に必要以上に力を放出させることによって、白龍皇の鎧の機能をオーバードライブさせることだった。奪う力と吹き出す力の両方を譲渡の力で加速させる。これまでは安定して力を調節させていたものを、その速度を急増させることで機能を混乱させる。それを狙ったのだ。

結果、白龍皇の鎧はその機能を停止させた。

 

《なんてことだ…! ヴァーリ! 一度体制を立て直せ!》

 

アルビオンの言葉に応え、ヴァーリは急ぎ防御の姿勢をとる。

ところが、兵藤の手には竜殺しの聖剣、アスカロンがある。アスカロンを埋め込んだ左腕の籠手でヴァーリを殴りつけると、ヴァーリの防御は両腕の籠手ごと難なく解かれ、その拳を懐に入れることを許すこととなった。

白龍皇の鎧はあっけなく破壊され、腹部に一撃喰らったヴァーリはよろよろと後ずさる。

 

これまで手も足も出なかった白龍皇に、ようやくの決定打を加えることができた。アスカロンの竜殺しの特性に驚きつつも、兵藤はヴァーリとの距離を詰めることを忘れなかった。

 

「ハハハ…、すごいな! 俺の神器を吹っ飛ばした! やればできるじゃないか! それでこそ、俺のライバル…」

 

口の端から血を流しながらも余裕の表情を崩さなかったヴァーリの顔面を、再び兵藤の拳がとらえた。鈍い音を鳴らし、ヴァーリがよろよろと後退する。

 

「…殴らせてもらったぜ。お前だけは一発殴らないと気が済まなかった」

 

やっとの思いでヴァーリに攻撃を当てられるレベルまで持っていくことができた兵藤だが、妙な違和感を感じ、浮かない表情を見せた。

白龍皇の鎧が、その形を元の状態に戻していた。その状態から察するに、鎧は破壊された部位だけでなく、既にその機能をも復元させているだろう。

 

神器は、所有者が死ぬまで何度でも修復されるものだ。戦いを終わらせるには、ヴァーリを戦闘不能になるまで追い詰めなければならない。その為にもヴァーリの神器を破壊しなければならないのだが、それも間も無く復元してしまう。

神器を破壊してようやく安定した戦いになる現状において、その条件はあまりにも厳しいものだった。

 

《このままでは埒が明かん。制御装置の限界時間内に奴を倒すのは至難の技だ。逃げるのが一番得策だが、そういうわけにもいかないのだろう?》

 

(当たり前だ! 部長や皆を置いて逃げられるわけない!)

 

《では、どうする? なんといっても、実力の差は間違いない。制御装置のおかげで禁手を扱え、ようやく勝負できる状態にあるのが現状だ。制御装置なしでは、間違いなくこちらの敗北だぞ》

 

口惜しそうに、手元に視線を落とす兵藤。そんな彼の目に、とあるものが映り込んだ。

その瞬間、兵藤の頭にある考えが浮かび上がる。

 

「…なあ、ドライグ。神器は想いに応えて進化する、んだったよな?」

 

《ああ、そうだ。それがどうした?》

 

「俺のイメージをお前に伝える。…やってみてくれ」

 

兵藤の脳裏に浮かぶイメージを、神器を通してドライグに送り込む。イメージを受け取ったドライグが、一瞬息を呑む音が聞こえた。

 

《…随分と危険なことを考えるものだな。だが、面白い! 死ぬ覚悟はあるか、相棒!!》

 

「死ぬ覚悟なんてねぇよ! まだ部長を抱いてねえからな! けど、痛みならいくらでも我慢してやる! それで目の前のクソ野郎を超えられるならなぁ!!」

 

《フハハハハハハッッ!! いい覚悟だ、ならば俺も覚悟を決めよう! 我は力の塊と称された赤き龍の帝王! お互い生きて超えて見せるぞ、相棒! 兵藤一誠ッッ!!》

 

何やら意気投合したようだ。意を決した様子で振り返り、ヴァーリに向けて指を突き出した。

 

「アルビオン、そしてヴァーリ! もらうぜ、お前らの力!」

 

そう言うや否や、兵藤は自身の籠手にはめ込まれた赤龍帝の宝石を叩き割り、その手に持っていたものを新しく入れ込む。

途端……

 

「ウガァアアアァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」

 

兵藤がとてつもない悲鳴を上げ始めた。

何をやっているのかと疑問に感じたヴァーリが、兵藤の籠手を覗き込む。

そこには、赤龍帝の宝石の代わりにはめ込まれた、白龍皇の宝石が輝いていた。

 

「ッ! 俺の力を取り込む気か!?」

 

全てを察したように声をあげるヴァーリ。兵藤は先の一撃で白龍皇の鎧を破壊した際に、この宝石を手にしていた。ヴァーリにとってみればそれは自動修復で勝手に直るものであり、対して気にも留めなかったのだが、その小さな宝石にも多少なりとも白龍皇の力は埋め込まれている。それを吸収することで、兵藤は白龍皇の力を得ようとしているのだった。

 

《無謀なことを。ドライグよ、我らは相反する存在だ。それは自滅行為に他ならない。こんなことでお前は消滅するつもりなのか?》

 

《…アルビオンよ! おまえは、相変わらず頭が固いものだな! 我らは長きに渡り、人に宿り、争い続けて来た! 毎回毎回、同じことの繰り返しだ!》

 

白龍皇、アルビオンの問いに赤龍帝、ドライグが答える。こちらも力の融合に苦痛しているのか、苦悶を漏らしつつ返答する。

 

《だが! 俺はこの宿主…兵藤一誠に出会って一つ学んだ! バカも貫き通せば可能になることがある、とな!》

 

白龍皇の宝石が輝く。鎧の一部が、変化していくのが目に見えて分かった。

 

「俺の想いに、応えろぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 

【Vanishing Dragon Power is taken!!】

 

聞きなれない音声と共に、兵藤の鎧の右腕部が白い光に包まれる。その光が収まったところには……白色の籠手が出現していた。

 

「…へへっ。“白龍皇の籠手”ってとこか?」

 

得意げな声をあげる兵藤。赤い鎧の右腕部だけが白色である見た目が不格好な見た目だが、それは白龍皇の力を取り込むことに成功したことを証明する何よりの証拠となった。

 

《馬鹿な! こんなこと有り得るはずがない!》

 

「いや、可能性は少しだけあった。俺の仲間が、聖の力と魔の力を融合させて聖魔剣なんてものを創り出した。神がいないことによるバランスの崩れ。それが聖魔剣を実現可能にしたんだとか、お偉いさん方は言っていた。システムエラーとか、プログラムバグだとか。それをちょっと利用したんだ」

 

《…なるほど。神器プログラムの不備をついて実現させたということか。しかし、思いついたとしても実際に行うのはおろか以外の何者でもあるまい。相反する力の融合は何が起こるかわからない。それがドラゴンに関わるものだとしたら、死ぬかもしれなかったのだぞ? 否、死ぬ方が自然だ》

 

「ああ、無謀だった。…でも、俺は生きている。確実に寿命が縮んだだろうけど、一万年も生きるつもりはない。まあ、やりたいことが山ほどあるから、最低でも千年は生きたいけどな」

 

呆れたように嘆息する赤い龍と、信じられなさそうな声をあげる白い龍。元が一般人であった彼が、二天龍が想像だにしなかった結末を迎え入れることに成功した瞬間だった…。

 

そんな彼に、パチパチと力のない拍手が送られる。それを送る人物は、ヴァーリ一人しかいない。兵藤はヴァーリを睨むように視線を合わせる。

 

「面白い。なら、俺も少し本気を出そう。…アルビオン、今の彼になら“覇龍”を見せるだけの価値があるんじゃないか?」

 

聞き覚えのない言葉に対し、明らかに機嫌を悪くしたような様子を見せるアルビオン。

 

《それは良い選択とは言えん。無闇に“覇龍”の力を使うことで、ドライグの呪縛が解けるかもしれないのだ》

 

「願ったり叶ったりじゃないか、アルビオン」

 

アルビオンの忠告を耳に入れず、ヴァーリはその腕を天に掲げる。何が起こるのか理解できずにいる兵藤を尻目に、ヴァーリは呪文を唱え始めた。

 

「……『我、目覚めるは覇の理に…』」

 

《自重しろヴァーリッ! 我が力に翻弄されるのがおまえの本懐なのか!!》

 

 

 

 

 

 

ーーーーーービシィッ!!

 

 

 

 

 

途端、何かがひび割れるような音が響く。

 

その場にいる誰もがその音に目を見開き、一斉に学園の外に視線を向ける。

 

……学園を囲むように貼られた結界に、巨大なヒビが入っているのを発見した。

 

「あの結界に、ヒビが入っただと!?」

 

アザゼルが驚きの声をあげる。

 

その驚きも当然だ。その結界は、人間界と学園を完全に遮断し、万が一にも人間界に影響を及ぼすことがないように貼られた超強力なものであり、そこいらの襲撃者ではビクともしないようになっている。故に、テロリストたちもその結界には手を出さず、わざわざ内部に侵入する手段を用いたのだ。

 

それに、ヒビが入った。となればその襲撃者は、彼らが意図していないような何者かである、ということなのだろう。

 

 

 

何度も結界に強い衝撃が加えられ、その度にヒビが大きくなる。やがて…

 

 

 

 

 

結界が、破壊された。

 

 

 

 

「グゥギィャアアァァアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

「一体…何が来やがったってんだ…!?」

 

 

学園中に轟く叫びに、アザゼルたちは身構えた。

三大勢力が、グロンギという種族の恐ろしさを目の当たりにするまで、あと数刻…。

 

 

 

 

 

一方、結界が破壊されたことは、校庭の隅で身を潜めていたガドルにも伝わった。

結界が破壊されたとともに外界から流れ込んで来た邪悪な気配を察知したガドルは、一瞬の迷いもなくその破壊された部位へと急ぐ。

 

自身の存在が感知されるために、部員たちやアザゼルといった者たちと戦うことになる、などという不用意な事態を避けるためにこれまで身を潜めていたのだが、もはやそれまでのことは忘れてしまったかのようにガドルは飛び出していた。

 

何故なら。外から流れ込んで来たこの気配は、これまでのものと比べまた一段と不気味なもので、彼にとっても無視できないものを秘めていたからであった。

 

(この気配は、ただのグロンギのそれじゃない。どっちかっつーと…あの時に感じた、アレに近い!)

 

彼の頭に浮かぶは、彼が人としての姿を失ってしまった日に感じた、あの気配。トラウマに突っ込んでいく感覚を覚え、怯えたように震える腕を抱えて走る。

 

幸い、アザゼルや眷属たちはヴァーリとの戦闘を繰り広げていた最中であったせいか、こちらの方に注意を向けている様子はない。ガドルは全速力で、結界を破壊したと思しきグロンギの元へと駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

結界を破壊した張本人…ゴオマは破壊された結界をまたぎ越し、学園に足を踏み入れる。

暫く学園全体を何かを探すように見渡した後に、中心部を見据えて不敵な笑みを浮かべた。

 

「あそこ…か? 美味そうな匂いが、ひとつ、ふたつ、みっつ…」

 

視線を合わせた先に向かって足を進める。ところが数歩歩いたあたりで、おもむろにその足を止めた。

 

「いや…違う。あいつは、あそこじゃない。どこに、いる…?」

 

再び、何かを探すようにあたり一帯を見渡すゴオマ。

その視線の先に、煌びやかな和装を羽織った艶かしい女性が映った。ゴオマはその存在を確認するや否や、ニヤァッと口角を上げて見せた。

 

「見つけた、ぞ…?」

 

ゴオマと出会ってしまった女性…黒歌はその言葉に、背中が凍りつくような恐怖を感じた。

半歩下がってゴオマと距離を離そうとするも、ゴオマは笑みを浮かべたまま離された距離を詰めてくる。

 

「今度は。今度こそは、逃しはしない、ぞ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァアアァァァァッッ!!」

 

 

ゴオマの背後の茂みから、また別の影が飛び出してきた。茂みから飛び出した影はその勢いのままゴオマに殴りかかるが、ゴオマはその攻撃の気配を感じ取り、素早い動きでそれを躱した。

 

かわした勢いで、その影の腕を掴み、投げる。投げられた影は空中で回転するように体制を整え、着地した。

 

その影は、ガドルだった。一直線に駆けてきたガドルは、一足先にゴオマのいる場所へとたどり着いたのだ。

 

「貴様は…まさか、ズ・ゴオマ・グ、か?」

 

確認するように尋ねたガドルの言葉に、ゴオマは答えない。言葉が通じないのか、そもそも問いを理解した様子もなさそうだった。

 

(…ありえねぇ。あっちの世界でもゴオマはいたが、あいつがあんな気を発するなんてこと、あるはずが…)

 

ガドルの記憶にあるゴオマは、他のグロンギたちにいいように使われるだけの不憫なグロンギだった。階級はズで、その実力も階級相応。同階級の間でも乱雑に扱われていた覚えもあり、ガドルにとっての彼の印象は『最弱のグロンギの一角』と言っても差し支えないほどだった。

そんな彼が、自分にとってトラウマと言える力に似たものを感じさせた。それは、ガドルにとって困惑すべきものであった。

 

ゴオマの気に気後れしながらも、視線を移して襲われかけていた黒歌の様子を伺う。このような場所に潜んでいた時点でテロリストの一味か、そうでなくとも不審者の一人であるのは間違いない。グロンギに襲われかけていたように見えたのだが、彼女もまた敵に回る可能性はある。十分に警戒した方が良い、と思ってのことだった。

黒歌もまた、ガドルとゴオマの両名に注意を向けていた。彼女にとっては自分に襲いかかってきた怪物とそれに似ても似つかない怪物が互いに向き合っている構図だ。両者とも警戒対象に入るのも当然だ。しかし強いて言うならば、明確に自分に敵意があると分かっているゴオマの方をやや重視しているようにも見える。

 

ひとまず、黒歌からいきなり攻撃されることはなさそうだ。黒歌に対して僅かな警戒心を残したまま、ゴオマに向き直る。

 

その頃、ゴオマはと言うと……。

 

 

 

 

 

「……ガド、ル?」

 

 

 

 

 

どこかおかしな様子で、ガドルに視線を合わせていた。

 

先ほどまで黒歌に襲いかかっていたことはまるで忘れたかのように、突如現れたガドルの方にのみ視点を合わせる。何かあるのかと、ガドルは思わず身構えた。

 

 

 

 

 

 

「ガドル…ガドル、ガドル…!」

 

 

 

 

 

 

不気味な声で名を呼ばれ、ガドルはやや表情を硬ばらせる。

 

 

 

 

 

 

「ガドル…ガドル、ガドルガドルガドル! ガドルガドルガドルガドルガドルガドル……!!!」

 

 

 

 

 

錯乱したように名を叫び出すゴオマ。

このままでは埒があかないと、自分から仕掛けるつもりで身構えたガドルに…

 

 

 

 

 

 

「ガァアァァアアァァドォォオオォォオオォルウゥゥゥウゥゥウゥゥゥウッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

ゴオマが、飛びかかった。

 

咄嗟に繰り出されたゴオマの拳に防御の構えを取るも、その勢いは止まらず、ガドルはその勢いのまま飛ばされる。

飛ばされるガドルに、追撃するゴオマ。暴力的で乱暴に繰り出される攻撃のその一撃一撃をいなしながらも、ガドルはその重さに驚かずにはいられなかった。

 

ズの中にも、力自慢なグロンギはそれなりにいた。その筆頭とも言えるのは、ズ集団の中でトップクラスの実力者であるズ・ザイン・ダが頭に浮かぶ。その一撃もなかなかに重いものであったが、ゴの名を持つグロンギと戦ってきた経験があれば捌けない攻撃では決してない。

ところが、ゴオマの一撃は、ゴ集団との戦いを乗り越えてきたガドルですら捌ききれないほど、響く攻撃であった。

 

腹部に重い衝撃がかかる。どうやら少しの隙を突かれ、腹部にブローをかまされたのだろう。こみ上げる痛みをこらえ、前傾姿勢になったところをゴオマは畳みかけようと拳を振るう。

 

「この程度で…舐めるなっ!」

 

その拳を、すんでのところで受け止めた。

パワー自慢にはパワーで返す。ガドルは剛力体に変化し、ゴオマの一撃を止めてみせた。

 

空きができたゴオマの頬をめがけ、力を込めて殴りかかる。もろにその一撃を受けたゴオマはよろけるように後退し、ガドルは距離が離れたことを利用して胸の石から剣を錬成する。

 

すかさず斬りかかるが、その一撃は空を切った。ゴオマは空に飛び上がることでその一撃をかわし、空からの襲撃へと移り変わった。

 

ガドルを取り囲むように空を飛び回るゴオマを見据え、ガドルは剣を下ろして両手を合わせる。それを隙だと判断したのか、ゴオマは凄まじい勢いでゴオマに襲いかかった。

同時に、ゴオマは合わせた両手を地面に叩きつける。青い稲妻と共に地面が蠢くように動き出し、ゴオマとガドルの間に土でできた壁を作り出した。

 

突如目の前に現れた壁に弾き飛ばされ、ゴオマは空に打ち上げられる。なんとか体勢を立て直そうとするゴオマの身体を、鋭い痛みが連続して襲いかかった。

 

みると、剣ではなくボウガンを手にしたガドルがこちらに照準を合わせ、引き金を引いているのが見えた。今の一瞬で射撃体に変化し、ゴオマを的確に狙い撃ったのだ。

 

連続して襲いかかる痛みに耐え、空に飛び上がるゴオマ。苛立ちを込めてガドルのいた場所を見下ろすが、そこにはすでにガドルの姿はなかった。

 

どこに姿を消したと視線を往復させるゴオマの頭上に、影がかかる。何かと思って空を見上げたところに、俊敏体に姿を変えてボウガンを槍に持ち替えたガドルが、渾身の力を込めて槍を叩きこんだ。

 

上空から地上めがけて叩き落とされたゴオマは、そのまま地面に不時着する。叩き落とされた衝撃に悶えるゴオマの前に、俊敏体となったガドルがそっと着地した。

 

流石にダメージも大きかったのか、なかなか立ち上がれずにいるゴオマをガドルは不可解な様子で眺めていた。

 

今もガドルの目の前では、記憶にあるのと同様、他のグロンギと比べ情けないような印象を与えるゴオマの姿がある。最弱のグロンギといって良さそうなゴオマの姿がある。これまで戦ってきたグロンギたちが、何も劣っていないと確信できるゴオマの姿がある。

それが、なぜあんな力を有していたのか。なぜ自身を恐怖させる気を発したのか。なぜ魔王が貼った結界を破壊できるのか。

 

ゲゲルを乗り越えたからではない。人と同様、厳しい練習を乗り越えて強くなったスポーツ選手たちの顔が自然とたくましくなるように、ゲゲルを乗り越えたグロンギたちはそれに伴って風格も出てくるというものだ。現にゴのグロンギは、形こそ違えど、人に恐怖を与える風格を備えているものばかりだ。

それで言うなら、目の前のゴオマはどうだ。確かにガドルが苦戦するくらいの力を有していた。確かにかつてのトラウマを煽るほどの気を発していた。確かに魔王の貼った強固な結界を破壊した。ところが、ゴオマからは強者の風格が微塵とも感じられないのだ。

 

強者の風格はまるでないのに、実力だけは優れている。それはまるで、先ほどの例でいうなら……

 

 

 

 

 

 

ドーピングか何かで、無理やり自身を強化したスポーツ選手のような……。

 

 

 

 

 

 

 

「キキ…ッ、キハハハハハハ…ッ」

 

 

奇妙な笑い声をあげるゴオマ。ユックリと不気味な動きで身体を起こし、ガドルと向き合う。

 

 

「アァ……やはり、強い。流石だ。俺に、戦士としての自覚が無いとか、言うだけのことは、あるな」

 

 

身に覚えのないことを言われ、困惑した様子をみせたガドルをよそに、ゴオマはベルトにそっと手を添える。

 

 

「だから……俺は、お前を。ガドルを。貴様を、殺す。絶対に、殺す。

お前が否定した、やり方で……お前を………

 

 

 

 

 

 

 

 

コロス」

 

 

 

 

 

途端、ゴオマの発する気が、より禍々しくなったのを感じた。

ガドルは、感じた。今度はより深く。より一層と。よりはっきりと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

究極の闇が訪れた、あの力を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キキキ…ッ ハーッハッハハハッハッハッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオマの叫びと共に、ゴオマの身体は、深い闇に包まれた………。




雑談ショー withリアス

リ「赤龍帝と白龍皇の戦い、三大勢力の会合、イッセーの禁手…。今回は色々と詰まっていて大変よね〜」

八「そっすね。皆のグロンギに対する認知とか、ヤベェ奴出てきたりとか、オレの身体の異常とか…」

リ「でもだからって、投稿期間がこんなに開くのは良くないわよね〜」

八「確かに。早くしてくれねぇと、オレ中途半端な状態のまま半年以上放置ですし、よくないです。今後の展開的にも」

リ「あとは…朱乃とシュウの関係、とか?」

八「(OwO;)< ヴェ⁉︎ オマエナニイッテンダ⁉︎」

リ(…ほんと分かりやすいわね)


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五十三話目

今後の展開とか考えて、これまでのお話の中でいくつか訂正を加えた箇所がございます(2018年4月16日訂正となってるものがそれです)
大した変化ってほどでもありませんが、もし気になるという方がおられましたら、よろしければどうぞ。

不気味感出したくて頑張ってみました今回のお話。お楽しみいただければ幸いです


ゴオマを包んだ闇が晴れる。

闇の中から現れたゴオマは、別段見た目が変わったわけではない。特徴的な牙も、翼も、髪も同じだ。側から見れば、今ゴオマを包んだ闇は何だったのかと問い詰めたくなるような、そんな変化のないものであった。

 

だが、そんなゴオマと面と向かうガドルは、ゴオマに発生したわずかな違いを本能的に察知していた。

 

「なんだ…それは…」

 

震える声でゴオマに問う。最初にゴオマが学園に侵入した時にも気配を感じたのだが、今度感じたものは先のものと比べて違うものだった。

前世にて感じた、グロンギの王の力。実際に近づいてよく観察してみると、完全にその力と等しいのかと尋ねられれば、それは違うと言える。力の強大さではグロンギの王の力が上回っているし、何より先のゴオマの力と大差ない。では、何が異なっているのか。

 

それは、邪悪な気だ。ただのグロンギが放つものとは違い、真っ黒で、先が見えない恐怖。通常ならば誰にでも感じうる僅かな心が、微塵とも感じられない。ただ言えることは、目の前の敵は、おぞましく危険な存在だということだった。

 

ゴオマはゆらゆらと不気味に揺れながら、ガドルに正面を合わせる。ゴオマが何の前触れも見せず攻撃を仕掛けて来るのは、最初の攻撃の間で読み取ることができた。ゆえに、ガドルは油断も隙もなくゴオマと相対する。

思わぬタイミングで飛び出して来ることがある。それを念頭に置き、ゴオマが仕掛けてきたらどう対処するのが良いか、ガドルはある程度の対策を練ることができた。

 

「…イく、ゾ」

 

ゴオマが仕掛ける。足の跳躍を利用して素早くガドルの元へ距離を詰め、その鋭い爪を突き立てた。

その腕を弾き、ゴオマの身体にめがけてカウンターを繰り出す。その一撃は見事に、ゴオマの胸部に炸裂した。

 

それなりに力を込め、多少ダメージを期待できそうな一撃をくわえたのだが…

 

「ハッハァッ!!」

 

ゴオマは物ともせず、蹴りを繰り出した。

驚きながらもその蹴りを受け止め、更なる追撃を与えていくガドル。拳を大きく振りかぶり、ゴオマの顔面を捉えた。

 

ところがその一撃は、ゴオマの顔で止まった。ゴオマは自身の顔で、ガドルの拳を止めてみせたのだった。

 

「なんだとっ!?」

 

流石に動揺が隠せなかったガドルの肩をつかみ、そのまま遥か上空まで飛び上がった。

 

上空で、ガドルを地面へ向けて投げつける。先ほど自身がやられた攻撃の仕返しのつもりなのだろうが、ガドルにはその類の攻撃を得意とするグロンギと戦った経験もあり、難なく空中で身体を立て直して着地する。

 

地上から、未だ空中で羽を広げるゴオマを見上げる。奴が闇に包まれてから、実に妙だ。その前までは全然攻撃も通じたし、こちらに分があるようにも感じ取れていた。だがどういうことだろうか。今では攻撃が通じてるようには見えない。容赦なく叩き込む攻撃は、今のゴオマに通用していないのか。

 

(…いや、多分そうじゃねぇ)

 

もし、ゴオマの見た目に変化が生じていれば、ガドル自身が剛力体に変身して防御力を上げるように、ゴオマの防御力が上がったと考えることができる。だが実際には、ゴオマは見た目もさることながら、能力に変化が現れたようには感じられない。いわば実力は先のゴオマと同等であるはずなのだ。

では、一体何が変わったのだろうか。

 

(…試してみるか)

 

ガドルは右手をスッとあげ、その先を空中のゴオマに向ける。あいも変わらず不気味な笑みを浮かべるゴオマに向けて、強く指を弾いた。

 

ドゴォッ! という爆発音とともに、ゴオマが爆炎に包まれる。通常ならそれで倒すまではいかなくとも、確実なダメージを期待できるものであった。

 

「…? ナン、だ? 今のは…」

 

爆煙の中から、ゴオマの声がする。

身体には火傷の跡がいくらか見受けられた。だというのに、ゴオマはただ首を傾げるだけで、ダメージを受けたようなそぶりが全くない。

 

今ので、確信した。

 

「…貴様、痛覚をなくしたな?」

 

ガドルの問いに、ゴオマからの返答はない。

 

しかし、もしそうならば、納得できる。これまで通用していた攻撃が通用しなくなったのは、攻撃が通用しなくなったのではなく、自分の身体に攻撃を通用させなくしたのだった。

どういう原理で痛覚がなくなるのか。はっきりとした答えは見えないが、何となくの予測はできる。

 

少なくとも、先ほどの闇が関係してるのは間違いない。闇に包まれてからというもの、ゴオマの様子は目に見えて変だ。

これまでと比べて一層気が狂ったようになったゴオマは、ドーピングどころか危ない薬でも服薬したのかと思えてくる。本人の見た目の不気味さも相まって、悍ましいことこの上ない。

 

「キキ…キハハ…」

 

地上に降り立ち、狂ったような笑みをあげながら、一歩一歩ガドルに接近する。反射的に離れようとする足を抑え、ガドルは迎え撃とうと構えを取る。

 

「ギャハハハハハハハハッッ!!!!!」

 

再び飛びかかるゴオマ。ガドルはゴオマの攻撃を一つ一ついなし、反撃のチャンスがあるたびに重い一撃をぶつけるが、痛みがなければそんなこと御構い無しだ。

いくら反撃しても途切れることのないゴオマの追撃。さらにタチが悪いのが、ゴオマの一撃はその全てが鋭い爪やら牙やらを突き立ててこちらを殺しにかかっていることだ。

一発でも食らえば致命傷。故にガドルは一瞬も気を抜けず、流れは完全にゴオマのものとなりつつあった。

 

(…ホントは疲れるからやりたくなかったんだが、やるしかねぇ!)

 

ガドルがある事を心に決めた途端、身体が宙に浮かぶ感覚を覚えた。

ゴオマの膝蹴りが思った以上に重く、僅かながら身体が宙に浮かぶ。

 

「ヒャアァッハァァァァァッッ!!」

 

宙に浮かんだガドルの身体めがけ、ゴオマが渾身の蹴りを叩き込む。ギリギリのところでその一撃を受け止めるも、その体は森の外まで弾き飛ばされた。

弾き飛ばされはしたが、防御が間に合ったおかげでダメージはない。ムクリと体を起こし、一呼吸した。

 

「…体力の衰えすら見せない、か。流石に厄介だな」

 

ガドルは、今のゴオマが持つもうひとつの強みに感づいていた。ゴオマは、一撃一撃の全てが鋭く、こちらの命を奪いにかかって来ている。故に攻撃が大振りで、本来それだけ大振りならば著しくスタミナを消費し、疲労が溜まるものだ。このような攻撃を繰り返していれば、勝手にあちらがスタミナ切れで隙を見せてくれる。そうなればあとはこちらの番となり、一方的な展開を期待できるようになる。

ゴオマの攻撃をいなすことは容易であるため、俄然こちらが有利であると考えるのが普通だ。ところが、そうとも言い切れない状況だった。

 

なぜなら、ゴオマは一切の疲労を見せないからだ。

膨大な体力を備えているわけではない。攻撃が効かなくなったのと同様に、ゴオマは疲れを感じない身体にしているようだ。

 

疲労を感じなくなったゴオマは、大きくスタミナを消費する攻撃を連続で放っても、スタミナ切れによる動きが鈍ることがなくなってしまったのだ。

当然ながら蓄積されたダメージとともに、身体には確実な疲労も溜まっているため、危険が伴う諸刃の剣と言えるだろう。

 

「最早ゾンビだな。一体何が貴様をそのような姿に変質させたのだ?」

 

吹き飛ばされた森から歩いてくるゴオマを睨み、ガドルは立ち上がる。

 

「出た! やっぱお前か!」

 

そこに、聞き覚えのある声が届いた。驚きに目を見開き、声の届いた方に目を向ける。

そこには、兵藤一誠を始めとしたオカルト研究部の面々が揃っていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

学園を囲む結界が破壊された。その事実に驚愕し、その場にいた者は唖然とした様子で学園の外を眺める。

テロリストの内の何者かの仕業なのかと考えられたが、そのテロリストのメンバーであるヴァーリまでもが結界から視線を離さない様子からして、その可能性はやや薄くなる。

 

戦場に流れる一時の沈黙。そこに人影がひとつ、月をバックにして舞い降りた。

 

「ヴァーリ、迎えに来たぜぃ」

 

三国志に現れる武将たちが身に付けるような鎧を身に纏った、爽やかな顔つきの青年が気軽そうにヴァーリに話しかける。

 

「美猴か。何をしに来た?」

 

「何をしに来た、じゃねぇだろぅ? 北の田舎神族と一戦交えるから、任務に失敗したならさっさと帰って来いっていう本部からの指示だぜぃ。帰りの陣も用意してある。今後の顛末も気になるところだが、俺たちはさっさとお暇しようぜぃ」

 

「…そうか、もう時間か」

 

いくつかの言葉を交わし、戦場から踵を返したヴァーリ。そんな彼の背中を、赤い鎧を身につけた兵藤が追う。

 

「待ちやがれ!」

 

しかし、その鎧はあと少しでヴァーリを捕らえられるというところで解除されてしまう。指輪も崩れ、指輪の力によって成り立っていた禁手状態が解除されてしまったのだ。

 

「兵藤 一誠。君とまた合間見える日を、楽しみにしている」

 

その言葉を最後に、ヴァーリと美猴の二名は姿を消した。本部というところに戻って行ったのだろう。

すんでのところで取り逃がしたことに、苦い表情を浮かべる兵藤。そんな彼をなだめるように、アザゼルが呟いた。

 

「ヴァーリを取り逃がしたのは残念だが、ひとまずはあっちの問題に取り掛からねぇとな。ヴァーリが何の関心も示さずに帰っていったってことは、あれはテロリストどもとは無関係だとみて間違いねぇだろう。ってことは、前から聞いていたグロンギとかいう連中の可能性があるんじゃねぇのか?」

 

その言葉を聞き、押し黙る。その可能性は大いにある。寧ろそうでなければ納得がつかない。魔王クラスの面々が貼った結界が、そこらの敵に破壊できるとは思えない。破壊したと言われて納得できるのは、未だ力量が未知数なグロンギを除くと、そう多くないからだ。

 

「部長!」

 

「朱乃! 小猫とアーシアも! 動けるようになったのね!」

 

「はい。魔王様から大体のことはお伺いさせて頂きました。…先ほど結界を破壊し、侵入して来たのは…」

 

「…ええ。グロンギである可能性が高いわ。あの時流れ込んで来た気配から考えても間違いないでしょうね」

 

校庭に姿を現した姫島と言葉を交わす。ギャスパーの救出に成功したことで時間停止の能力も収まり、停止させられていた彼女らもこうして姿を見せることが可能となっていた。

となれば、彼もまた同様に姿を見せるだろう。そう考えていた兵藤は、彼がこの場にいないことに疑問を感じ、近くに駆け寄って来てくれたアーシアに尋ねる。

 

「なあ、アーシア。シュウはどこにいるんだ? あいつも一緒に動けなくなっていなかったか?」

 

「え? いえ、私たちが動けるようになった時、シュウさんは既に居られませんでした。てっきり皆さんと一緒にこちらにいらっしゃってるかと思ってたんですが…」

 

アーシアからの答えを聞き、更に疑問符が浮かぶ。あの時彼は確かに、ギャスパーの神器の影響を受けていた。恐らくあの後、彼女らと同じく停止させられていたはずだ。別室に移動していたとはいえ、神器の影響から回復したアーシアが彼の姿を見なかったということは考えにくい。

 

(…先に動けるようになったとか? いや、それは流石に…)

 

兵藤の頭に、一つの予測が浮かぶ。可能性は非常に薄いものだ。だが、もしそうだとしたら後に動き出したアーシアたちが見ていないというのも納得できる。彼の性格上、自由になったならば真っ先に戦場へ飛び出しそうなものだ。

そしてその予測は、次のアザゼルの言葉によって確信に近いものとなった。

 

「いない奴の話をしたって仕方ねぇ。んなことより、さっきからこの結界を破壊した張本人が姿を見せねぇのは何故だ? この内部には興味がねぇのか、それとも何かしらの妨害を受けているのか…」

 

もし彼が先に動けるようになったならば、グロンギの気配を感じて動き出さないはずがない。恐らく真っ先にその場所へ向かうだろう。

つまり、今現れたグロンギの足止めをしているのは…?

 

「まさか…部長!」

 

「ええ、行ってみましょう!」

 

リアスもまた同様の答えに辿り着いたのか、兵藤の発言に頷き、現場に飛び出した。そんな二人に他の部員たちもついていく。

 

その場に取り残されたアザゼルは、そんな彼らの背中を深刻な表情で見送る。

 

 

 

「さあ…真実はどうなんだろうかね…?」

 

 

 

アザゼルの独り言は、誰の耳にも届かない…。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「お前、なんでまたこんなとこにいんだよ!?」

 

驚いた様相で、兵藤がガドルに詰め寄る。

マズイことになった。ゴオマとの戦いに集中して気がつかないうちに、皆の前に転がり出てしまっていたようだ。

 

「すまんが、それを話してやる余裕はない。それより貴様らは離れていろ」

 

「離れていろって…っ!? まさかあいつが!」

 

「…あの結界を破壊したのは奴だ。奴はこれまでのグロンギどもとは格が違う。

すぐに学園外に連れ出す。奴と私が外に出た瞬間に、再び結界を貼り直してくれ」

 

簡潔にまとめ、再びゴオマに視線を合わせる。部員たちは今の言葉で、ガドルは結界を破壊して学園に侵入したゴオマを止めに来たのかと考え、納得する。

 

「少しだけ聞かせて。ここに、男の子が来なかったかしら? 少し目つきが悪い子で、私たちの仲間なんだけど」

 

リアスがやや警戒した様子を込めて尋ねる。ここには居ると思われていた彼の姿がなく、代わりにいたのはこの怪人だ。考えたくない予測が浮かび、慎重な面持ちになる。

だが、返ってきた答えは案外親切なものだった。

 

「…知らんな。先ほど妙な力が働いたのを感じたが、それは時間停止の能力なのだろう? 奴は動けていたのか?」

 

「いや、最初はちょっとだけ動けていたんだけど、ずっと気分悪そうだった。多分その後、動けなくなったんじゃないかと思う」

 

「なら、まだ停止しているのではないか? 効力が現れるのが遅かったならば、切れるのも遅くなったとしても不思議ではない」

 

あ、という声が漏れる。むしろそっちの方が可能性は高い。

少し冷静さが欠けていたようだ。思わず咳払いをする。

 

「そ、それもそうね。良かった。てっきり貴方に倒されてしまったのかと思った」

 

「ふん。グロンギに立ち向かおうとする男が、そんな軟弱なはずがあるまい」

 

そんな彼らの元に、ゴオマが歩み寄る。ゴオマは相変わらずガドルのみを睨んでいるが、その視線から外れているにもかかわらず、兵藤は形容しがたい恐怖を覚えた。

 

「…なんなんだよ、あいつ。これまでも色んなグロンギってのを見てきたけど、あいつはなんか違うだろ…」

 

「そうだ。やつは実力面ではともかく、厄介さでは他を軽く凌駕している。とにかく早くしろ。ここにいては危険だ」

 

「…お前、あいつに勝てるのか? あれ、コカビエルと同格くらいあるんじゃ…」

 

「その程度ならいくらか楽だったかもな。正直、私でも苦戦するかも知れん」

 

短いやり取りの中で、兵藤にわずかな不安が訪れる。常に強気で、大抵の事態に難なく対応していた男が、今初めて弱音を吐くのを聞いた。

その弱音が気持ちの問題から来ているわけではなく、事実から来ていることを何となく理解でき、目の前の脅威がこの男にそこまで言わしめるものなのかと感じたからである。

 

「…なら、俺もやる! お前には借りを作ってばかりなんだ、手伝わせてくれ!」

 

「馬鹿を言うな! 奴の危険度合いは、貴様らが想定するものより遥かに上だ。命を落とすことも考えられるんだぞ!」

 

「一人でやるよりかはマシだ! 命をかけた戦いなら、もうすでに経験してる!!」

 

兵藤の提案に驚き、拒否の声をあげるもその後に返ってきた言葉に再び驚く。感情的で、声を張りあげることこそ少なくなかったものの、その声を自分に向けられたことはない。珍しく、兵藤が己の意思を曲げることなく、自分に叩きつけたのだった。

 

「…あ、いや、まあ最後にはあんたに助けられたんだけどな…。けど大丈夫だ。あんたがメインで、それを俺たちがサポートする。

俺たちだって強くならなきゃいけない。今回の戦いで分かったんだ。俺はまだ弱い。もっと強くならなきゃいけないんだって。…けど俺は今のところ、命がけの大切な戦いは、あんたやもう一人の仲間に任せっきりになってる気がするんだ。それじゃ、成長できない。だから今後はせめて、あんたの後ろで戦いたいんだ」

 

兵藤の言葉に閉口するガドル。

彼の言葉が理解できないのではない。十二分に理解しているし、できることならば彼が強くなろうとすることは応援したくもある。また事実、一人で戦うにはゴオマはやりにくい相手であり、部員たちの力を借りれば少しでも流れをこちらのものにするのも可能だろう。だが、彼らを戦場に出すこと、それ自体に躊躇いがあった。

 

「…そうね。私もそれは感じていたの。もっと力をつけなきゃいけない。いつまでもあの子に無理はさせられないわ。…ねぇ、グロンギさん。私たちにもこの戦い、手伝わせてもらえないかしら?」

 

リアスが兵藤に同意の意を示す。見れば、彼女だけでなく、他のメンバーも同じように感じ取ったようだ。

 

可能ならば、彼らを危険に晒したくない。本音を言えばコカビエル戦も、自分一人で解決してしまいたくなったほどに。この戦いに至っては、緊急時に皆を守れる自信がなく、ゴオマの前に皆の姿を見せることすら不安だったのだ…。

 

「…分かった。だが、危険を感じたらすぐに離脱しろ。呼べばいつでもフォローに回る。奴の気を引きつけるだけでも十分だ。それでいいな?」

 

「ああ!」

 

腕に神器を発動させて、兵藤が構える。彼の後ろでも、部員たちがそれぞれの獲物を手にしていた。

ガドルは、ここにいる全員を守り、戦わなければならない。そう思うと、無意識のうちに力が入る。

 

 

 

身体にパチパチと電気が迸る。瞳が金色に輝き、その姿が少しずつ変化を遂げた。

 

 

 

ゴ・ガドル・バ〝電撃体〟。今のガドルの、最強の力だ。

 

 

 

「奴は痛みを捨てている。攻撃を当てたからといって気を抜かないことだ。その瞬間奴はこちらを仕留めにくるぞ」

 

「おおっ! …って、痛みを捨ててるってどういうことだ?」

 

「言葉の通りだ。…行くぞ」

 

その一言とともに、ゴオマとオカルト研究部の戦いが始まった。

ガドルが主となってゴオマに相対し、付け入れそうな場面があればそこを木場やゼノヴィアがつき、更に明らかな隙があれば小猫による強力な一撃がお見舞いされる。

戦場からやや離れた位置ではアーシアが戦いを見守り、それを兵藤が側について彼女を守る。更にそんな彼らの傍には、魔力による遠距離攻撃を得手とするリアスや姫島が彼らを援助する。

今こそガドルがその場にいるが、これは研究部が最も得意とする布陣だった。

 

ガドルが飛び出す。爆発的な跳躍で一瞬にしてゴオマの元にたどり着き、その腹部に重い一撃をかます。

腹部から身体全体に衝撃が走るも、痛みを感じないゴオマは構わず、己の腹部を殴りつけたばかりのガドルに向けて鋭い爪を突き立てる。

 

その腕を掴む。そのままゴオマの身体を背負い込み、地面に叩きつけた。

顔面を押さえつけ、思い切り拳を叩き込む。すんでのところで躱され、ゴオマの拳が大地を叩く。激しい爆発音とともに、校庭にクレーターができた。

 

その二撃でガドルの力量の変化に本能的に感づいたのか、ゴオマが距離を開けて様子見に移る。

そこに、騎士特有のスピードで木場が斬りかかる。騎士の瞬間速度はガドル俊敏体のそれに引けをとっておらず、またゴオマのスピードは決して速いとは言えない。木場の剣先がゴオマを捉え、わずかな切り傷を残す。

 

彼の攻撃を煩わしく思ったのか、木場を追い払おうとゴオマが翼をバタつかせる。風を纏いながら接近するゴオマに、木場は慌てることなく次の策に移る。

“魔剣創造”の能力を用いてゴオマの足元に魔剣を生成し、針山のごとく貫く。突然身体を貫いた無数の剣に驚きつつ、それでも木場から視線を外さない。

 

「痛みを捨ててるとはそういうことか。これでは動きが止まらない!」

 

「ならば、これならどうだ!」

 

そこに、デュランダルを構えたゼノヴィアが飛びかかる。絶対破壊の一撃を秘めた聖剣を、ゴオマに向けて力一杯に振り下ろす。

危機を察したのか、その一撃をすんでのところで躱す。デュランダルはゴオマに当たることなく、校庭を叩き割った。

 

その破壊力は流石にゴオマも看過できず、ゼノヴィアに対し僅かな警戒を向ける。

そこを見逃すガドルではない。すかさずゴオマのもとにたどり着き、頭部めがけて回し蹴りを放つ。

 

それを受け止めたゴオマだが、受け止めた腕から何かがヒビ入るような音がする。すかさず身を屈めて回し蹴りの軌道から外れ、ガラ空きとなったガドルの身体に爪を伸ばす。

 

難なくかわされる。間も無く新たな追撃を加えるも、ガドルはそれを淡々といなしていき、ゴオマに僅かながらも苛立ちを感じさせた。

 

そんな彼の背中に、ズドンと強烈な振動が伝わる。前方によろめき、ガラ空きとなったゴオマの顔面をガドルの膝が捉えた。激しい衝撃が頭部を襲い、ヨロヨロと後ずさる。背後には誰がいたのかと確かめたゴオマの視界に、小猫の姿が映った。あの時の振動は、彼女が持ち前のパワーで殴りつけた際のものらしい。

 

目の前にいるガドルから目を逸らすまいと、前方に向き直るゴオマ。しかし当のガドルはと言うと、ゴオマの間合いから外れ、一定の距離を離していた。

ガドルの性格上、この場面でわざわざ距離を置くことはない。それを何となく理解していたために、彼の行動に対して疑問符を浮かべていたゴオマを、強烈な爆撃が覆った。

 

空から援護するリアスと姫島だ。魔力を溜め、全力の一撃を発射できるように準備しつつ、それを放つタイミングを待っていた彼女らにとって、今の間は絶好の好機と言えただろう。

ゴオマの身体を雷と黒い魔力が襲う。それらを放つ彼女らは、微かな違和感を抱いていた。

 

「あのグロンギ…まるで私たちの砲撃準備が整うタイミングが分かっていたみたいね…」

 

「ええ。私と部長、両方にとって完璧な合わせ方でしたわ。これも彼のなせる技なのかしら…」

 

「…気になるけど、それは後にしましょう。今はあいつに集中するわよ!」

 

翼を広げ、空の二名にむけて飛び上がろうとするゴオマを、ガドルがその進路の先に立つことで妨害する。焦点を空に合わせていたゴオマを殴りつけ、吹き飛ばす。

 

起き上がり、ムキになったゴオマが連続して追撃を仕掛けていく。先ほどまでゴオマの止まない猛攻を躱し続けることに苦戦していたガドルだが、電撃体になり反応速度もあがったことで、難なくその全てを防ぐ。むしろ若干の余裕があるのか、大ぶりの攻撃によって生じる隙という隙に的確なカウンターを当てていく。

 

幾度となくその状況を繰り返していくうちに、ラチがあかないと感じたのかゴオマが一瞬距離を開け、ガドルの心臓めがけて腕を突き出した。

 

それを捉え、引っ張る。前傾姿勢となり、突き出されたゴオマの腕にめがけ、肘を振り下ろした。

 

 

 

嫌な音が響く。ゴオマの腕の骨に異常が現れた音だった。

 

 

 

ゴオマがガドルを振り払い、距離を取る。ゴオマが完全に離れたタイミングで、自然と部員たちも集まる。

 

「…案外容赦ないんだな、お前」

 

「これまではここまでする必要がなかったからな。油断ができない相手に情けをかける余裕はない。奴はその分類に入る。見ろ、現に今もああして笑っているだろう?」

 

「本当に不気味ね。グロンギって皆ああなのかしら?」

 

「…ノーコメントだ」

 

腕の骨が折れたにも関わらず、不敵に笑うゴオマは気が狂っているとしか言いようがない。

 

しかし、いくら痛みを感じず、疲れが訪れないとはいえ、折れた腕を動かすことはままならないようだ。力なくダラリと下がった腕は、今後しばらくの脅威にはなり得ないだろう。

 

 

 

…そう、思っていた。

 

 

 

《ゴキゴキッ メキメキッ》

 

 

 

奇妙な音が響き、ゴオマの腕が有り得ない蠢きを見せる。

 

 

 

「うげっ!? 何してんだあれ!!」

 

兵藤が声を上げるが、兵藤だけでなく、他の部員たちも流石にそれぞれの反応を示していた。

その中でガドルは、冷静にゴオマの行動を観察する。

 

(再生するつもりか? …いや、にしては何か妙だな)

 

グロンギには、確かに再生能力が備わっている。通常のグロンギは受けた銃弾を弾き返し、かつ受けて傷ついた肉体を治す程度のもの。つい最近戦ったガベリなどはその再生能力が優れていたと言っており、その言葉の通りこちらの攻撃がすぐに再生されて、なかなか厄介だった。

だが、ゴオマはその能力は通常のグロンギのそれと同様で、折れた腕を瞬時に治すだけの効果はないはずだ。

 

(…まさか、あの野郎)

 

ゴオマの腕の蠢きが止まる。するとどうだろうか。折れたはずのゴオマの腕が、ゴオマの意思に沿って再び動き始めたのだった。

 

「何故…動くの?」

 

「恐らくだが、折れた骨を無理やりくっつけたのか、問答無用で動かしているのかのどちらかだろうな」

 

「無茶苦茶とかいうレベルを超えているな…」

 

痛みを感じないがゆえの力任せな解決策だ。

当然後遺症的なものが残るだろうが、それを判断するだけの知能がなくなっているのかもしれない。

 

だが、この場においてこの予想外の展開は、ガドルを困惑させるのに十分な効果を発揮した。痛みや疲れで止まることがないならば、強引に四肢の動きを封じてやろうという彼の作戦が、まるで通用しないことが判明したのだから。

 

(こうなったら無理にでも動けなくなるくらいダメージを蓄積させてやるしかねぇか…。気が遠くなる戦法かもしれねぇけど)

 

次の方針を決め、未だ腕の動きを確認しているゴオマを睨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、同時にゴオマもまた、今の間に次の策をある程度練っていたのだった。

 

 

ゴオマは、ガドルとの戦いの最中で気が狂ったようになったとは言え、その思考そのものも完全に狂ったわけではない。そうなったように見せかけて戦いつつ、持ち前のズル賢さで、どうやったら確実にガドルを殺せるか。そればかりを考えていた。

 

 

 

 

 

 

…普通に戦っていては、あの金色のガドルは倒すのに一苦労だ。むしろこのままだとこちらがやられることも考えられる。

更にあの途中参加の連中のおかげで、思うように戦うことができない。ガドルがリントと手を組んでいるのは何故か気になるところだが、そんなことはどうでも良い。奴らはガドルを殺す上で、邪魔でしかない。

 

 

ひとまず奴らを排除しようか。いや、わざわざそうしなくとも、ガドルは先程から奴らを守るように動いている。奴らを排除しようとすれば、ガドルはまず間違いなく、奴らを守りに来る。

 

 

ならば、そこを突くだけで、倒すまでは行かずともガドルに致命傷を与えることはできる。何かを守ることに必死になった奴は、決まって自分の守りが疎かになる。そこを確実についてやれば、ガドルといえど殺せるチャンスは訪れる。

 

 

では、どうやって奴らを排除しようか。奴らは妙に連携を取り合って、うまくこちらの注意を分散させて来る。ガドルの相手をしつつ、全員を相手取るのは中々に骨が折れる。

 

 

ならば、まずは一人狙うことにしよう。ガドル相手とて、いつか隙が現れる時が来る。ガドルに隙が現れれば、まず一人、誰かを殺しにいけばいい。奴らのうち一人を仕留めに行くのは容易なことだ。

 

 

そこでそいつを殺せれば、それはそれでいい。そうやって一人ずつ殺し、最終的に全員が排除できれば、また先程のように一対一に持ち込める。そうなればまた後の話だ。

 

 

そこでガドルが守りにきたならば…。先ほどのように確実に仕留めてやろう。そのためにも、まずは誰を狙えばいいかを定める必要がある。

 

 

では誰を狙おうか。

 

 

一番近くをチョロチョロしてる金髪の男、青髪の女はどうだろう。金髪の男は動きが素早く、振り逃げられる可能性がある。また奴の能力なのか、地面から剣が生えるあの技も厄介だ。確実に仕留められる相手が好ましいから、奴はない。

青髪の女は、持っている剣が厄介すぎる。あの破壊力は侮れない。またスピードも、金髪の男とそう大差がなく、こちらもまた仕留めきれないことが考えられる。こいつも除外だ。

 

 

先程まで空にいた、あの二人組はどうだ。あの二人は単純に、こちらの知らない技を使う。雷を放ったり黒い何かを放ったり、正直よく分からない。先程の剣士二人組ほどではないが、こちらも不適当だ。

 

 

離れた位置にいる金髪の女や、変な鎧をつけたあの男はどうだ。その二人は空にいた二人組の女が周囲に立っており、奴らを狙う場合はその二人を掻い潜って行く必要がある。更に金髪の女は非戦闘員なのか、守りが固い。

また、あの鎧からは常にみょうな音声が聞こえてくる。油断できない。あれも不適当だ。

 

 

 

では、どうしようか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奴は、他の連中と比べて特別厄介なものは持ち合わせていない。

 

 

精々ガドルの半分にも満たない力を備えているだけだ。

 

 

狙うなら、奴だろう。

 

 

後は、どのタイミングで狙うか、だ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに策が出来上がり、攻防を続けること数十分。

 

相変わらずゴオマはガドルと部員たちの連携の前に苦戦を強いられ、喰らった攻撃は軽く百を超えた。

 

身体が耐え切れるダメージ量もそろそろオーバーしそうになっているというのに、未だ好機は訪れない。

 

拳を腹部に受ける。斬撃が体に傷をつける。激しい魔力が襲いかかる。

 

痛みを感じない身体もそろそろ限界だ。

 

 

 

 

まだか………

 

 

 

 

デュランダルが身体を切り裂いた。とうとう右腕が動かなくなった。

 

 

 

 

まだか……………!

 

 

 

魔力の雨が降り注ぐ。激しい疲労がのしかかってきたのが分かる。

 

 

 

 

まだか…………………っ!!

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁっっ!!」

 

ガドルが飛び上がる。足元に電撃を纏わせ、飛び蹴りを放つ。

それは、ゴオマの身体に深くめり込んだ。

 

コカビエルを葬った、ガドルが放つ最強の技だ。

 

吹き飛ばされ、校庭に無様に転がる。何とか立ち上がるが、最早立っているのがギリギリだ。

あと一回だけ全力での跳躍が可能だが、それを逃せば後はない。それどころか、これ以上の攻撃を受けることさえ許されない。

 

「まだ、倒れんか…! いい加減しつこいぞ…!」

 

ガドルが苛立ち、もう一度同じ技を仕掛けようと構えた。

 

 

 

 

 

まだか………………………っっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガクン…ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、ガドルが膝から崩れ落ちた。

 

 

何が起きたと驚愕する面々。

 

 

見れば、ガドルの姿は金色のそれから、元の通常の姿に戻っていた。

 

 

電撃体が、切れた……。

 

 

 

 

 

 

絶好の、好機だった。

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハハハハハハハハハッッッッ!!!!」

 

 

ゴオマが飛び出す。最後の力を振り絞った全力の跳躍。

 

 

その先にいるのは、ガドルではない。今の隙は相当に大きなものだが、それでも最後の力を使い、確実に仕留められる補償がない。

確実に、仕留める。それが最優先だ。

 

 

剣士二人組を無視し、魔力を使う二人組の術を避け、戦場から離れた奴らには目もくれず、ある一点を目指して駆け出す。

 

 

その先にいたのは……小猫だった。

 

 

 

 

「殺す…コロスコロスコロスゥゥゥッッ!!」

 

 

「しまったっ!!」

 

 

「小猫っ!!」

 

 

「小猫ちゃんっ!!」

 

 

それぞれが彼女のフォローに向かおうとするも、間に合わない。ゴオマの速度は今の小猫の反応速度を超えており、ゴオマの爪先が小猫を貫く未来を変え得るのは、ここには誰もいない…。

 




雑談ショー with木場

ガ「ズ・ゴオマ・グ…。あれは本当にあのゴオマなのか? 私の知っているあいつとはかなり別物だ…」

木「あなたの知っている、ゴオマ? とはどんな人物だったのですか?」

ガ「グロンギの中でもさらに残虐さや非道さに秀でた奴ではあった。ゲゲルを行いたいが為に順番を無視し、我一番にと殺人を行った。結果ゲゲルの参加権を剥奪されるに至ったのだが」

木「至ったけれど?」

ガ「その後もコソコソと力を蓄え、ゲゲルに参加してやろうと目論んでいた。その為ならば同胞殺しすら平気で行おうとするくらい歪んだ性格の持ち主だった」

木「…聞いてる限りでは、あのグロンギとは別物とは思えないのですが」

ガ「同時に小物臭も凄まじい奴だったぞ。一番最初にゲゲルを行おうとした結果、それを引き止めんとする戦士に敗れた。力を蓄える最中も他グロンギに奴隷のように振り回され、最後はグロンギの王に貴様調子に乗るな的な感じでアッサリ殺されたからな」

木「…なるほど。別人としか思えない」


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五十四話目

先日、ちょっと早めの蚊に刺され、夏の始まりを感じたわけなんですが、その時ふと考えてしまったことがあります。

グロンギの血はジャラジやダグバのシーンから考えて赤。アンデッドは言わずとも知れた緑。オルフェノクは人の進化系ということで恐らく赤。ドーパントやゾディアーツは人が変身した姿だからこちらも恐らく赤。

他の怪人たちの血は何色なんでしょうかね。
僕的には人間の姿がベースとなった改造人間系の怪人は基本的に赤なんじゃないかなと考えてます。グロンギも古代人が魔石の力で変貌した姿で、一種の改造人間ですし。

ただそれでいくと、一番不思議なのはロイミュードなんですよね。チェイスやハート様など、劇中何回か怪我されていた時に赤い血を流していましたが、機械生命体なのに血が流れているとはこれいかに。
まあ血を流す時は決まって人の姿を模している時ですし、アンデッドを例外として怪人たちが人の姿でいる時の血は赤いのかな。

あれが実はオイルでした! ってなったら面白いですが(笑)

最近では流血シーンなんて放送しにくいでしょうし、そこまで細かくは設定されてないのかな。ちっちゃいことは気にすんな。ワカチコ。


 

決してそこに油断はなかった。

 

自分には、何もない。パワーはある方だと自負しているが、木場やゼノヴィア、リアスや朱乃、少しずつだが確実に成長してきている兵藤と比べると、自分の力は大したものではないことを自覚していた。

更にはギャスパーやアーシアのような特殊な能力を備えていない彼女は、自分が一番平凡で、一番弱いことを承知していたのだった。

 

ただひとつ、彼女には特別な力が眠っているのだが、彼女はそれをとある理由から使いたがらない。そのために、その力を使わずとも戦えるように努力をしてきたつもりだった。

 

…だが、此度の戦いは、それで戦い抜けるほど甘いものではなかったのだ。

 

敵のグロンギが、一番弱く、一番平凡な自分に目がけて突進してくる。当然だ。戦場でより早く敵の戦力をそぎ落とすには、一番仕留めやすい標的を狙うのが手っ取り早い。ならばあのグロンギが、自分を狙うのも必然というわけだ。

 

だからこそ、最大まで警戒していた。例のグロンギが味方しているおかげで、その矛先が全て自分に向くことはなく、油断さえしていなければこのまま倒されることはないと断言できた。

 

…例のグロンギが、突然力なく倒れなければ。

 

敵は既に目前まで迫ってきていた。仲間たちが必死に敵を止めようとしてくれているが、とても間に合わないだろう。

 

自分一人で応戦できる相手ではなく、あの爪がこの身体を貫く未来が容易に想像できた。

 

 

 

 

 

 

「小猫ぉぉおおおっ!!」

 

 

 

 

 

あまり聞き覚えのない声で、誰かが自分の名を叫んだのが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオマの腕が小猫の身体を貫く直前。上空から無数の魔力弾の雨が、ゴオマ目掛けて放たれた。

激しい音とともに、小猫の前方を爆炎が覆う。ゴオマがすんでのところで身を躱したことで、再び小猫との距離が離れることになった。

 

「お兄さま!」

 

「遅くなってすまない、皆」

 

空から、サーゼクスが校庭に降り立つ。見れば他の首脳陣も集まっていた。

 

突然の妨害によって獲物を仕留め損ねたことに苛立ち、魔力弾を放ったのであろうサーゼクスを睨むゴオマ。

 

「いいところで、邪魔を…! 殺す! 貴様らも絶対に殺してやる!」

 

「やってみるといい。だが私も、全力で相手をさせてもらおう。皆を傷つけたお前を、決して許しはしない」

 

ゴオマの恫喝にも応じず、ただただ標的を見据える。流石にこの世界における実力者たちをまとめて相手にするのは分が悪いと感じるのか、ゴオマもいきなりは仕掛けてこない。

 

攻めず、仕掛けず。校庭にひと時の静寂が訪れる…。

 

 

 

そこに、ゴオマと悪魔たちの間を阻むように灰色のオーロラが出現した。

 

 

 

オーロラの中から、やや筋肉質でバンダナを頭に巻きつけた男が現れる。その男の姿を見て、ゴオマが明らかに不愉快そうな表情を見せた。

 

「バベル…!」

 

バベルと呼ばれたその男は、呆れた様子でゴオマに声をかける。

 

「好き放題暴れすぎだ。十分満足しただろ? 帰るぞ」

 

「いや、まだだ…。俺は、まだ、ガドルを殺していない…」

 

「そいつを殺して何になるってんだ。そいつは俺たちの知っているアイツとは違う。まさかお前、ザギバスゲゲルにでも挑んでるつもりだったのか? ゲゲルの参加権すら剥奪されたくせに」

 

「うるさい…! 俺は、奴らを殺す! 邪魔をするな…!」

 

ばつが悪そうに言葉を紡ぎ、なお引き下がろうとしないゴオマに悪態をつき、鋭い眼光でゴオマを睨みつける。その視線に怯んだゴオマを、なんの躊躇いもなく殴りつけた。

戦闘形態ではない、人の姿での拳。ガドルがこれまで幾度となく攻撃をし続けて、なお倒れなかったはずのゴオマが、その一撃だけで無様な声を上げて飛ばされた。

 

殴りつけられたことに憤りを感じ、仕返しを仕掛けようと顔を上げたゴオマを再び睨みつける。その眼に宿る怒気は、その視線の先のゴオマは当然ながら、その先にいないはずの部員たちや、ガドルですら身震いさせた。

 

「先に言っておくが、俺はバルバに『何としてもゴオマを連れ戻せ。何なら殺しても構わん』と言われている。お前の力程度で、この俺とまともに殺しあえるなんて思ってんのか?」

 

バベルの言葉に、最初こそ悔しそうな様子を見せていたが、観念したように立ち上がり、バベルの隣に立つゴオマ。

 

「…行くぞ」

 

灰色のオーロラが現れる。バベルが先にゴオマを叩き込んだ後、背後のガドルに振り返る。

 

「じゃ、またな。俺の番になった時、また殺し合おうぜ」

 

そう言って満足そうな笑みを浮かべると、バベルもまたゆっくりとオーロラの中に姿を消した。

二人が姿を消した時、二人を包んだオーロラも徐々に薄くなり、消えていった。

 

突然現れた異常な出来事は、はたまた突然現れた異常によって、急に終結を迎えることとなった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

脅威が過ぎ去り、平穏が訪れる校庭。だがそこにいた面々は、安心したというより、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。ゴオマとバベルが放っていた威圧は、それほどまでに重かったのだ。

 

「小猫…無事でよかった…!」

 

命の危険が払拭され、地面に座り込む小猫を優しく抱き締めるリアス。安心して涙を浮かべる彼女の姿を、ガドルは居た堪れない様子で眺めていた。

 

(…ひとまず、ここを離れるか…)

 

人の姿に戻るためにも、一旦校庭を離れる必要がある。ところが結界はすでに補修されており、外に出るのはままならなくなっていた。

サーゼクスたちが駆けつけて来る前に貼り直したものだろう。どうしたものかと考える。

 

「すまない、少し待ってもらっても良いだろうか」

 

そんな彼を、サーゼクスが呼び止めた。声に応じて振り返ると、サーゼクスのみならず、他の首脳陣もガドルに対し視線を合わせていた。

 

「君が報告に上がっている、カブト虫の怪人だね。コカビエルを倒したこと。及び今回と合わせて二度も妹たちを守ってくれたことに、まずは感謝をしたい」

 

静かに述べるその目は優しく、敵意はない。心の底から感謝の意を示しているのだろう。

だが、彼にも棟梁としての立場がある。表情を変え、ガドルを見据える。

 

「だが、同時に君の素性について尋ねたい。君は一体、何者なんだ?」

 

サーゼクスの問いに、口を閉ざすガドル。

答えによっては、ここで戦うことになる。そのことが読めていたが故に、返答に慎重になっているのだろう。

 

両者の間にいっときの沈黙が流れる。やがて、ガドルは重い口をそっと開く。

 

「…私は、グロンギだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

ただ単に、そう答えた。

サーゼクスはその後も変わらず険しい顔を浮かべ、ガドルの様子を伺っていたが、ふっと軽い笑みを浮かべた。

 

「分かった。わざわざ呼び止めてしまってすまなかったね」

 

サーゼクスが結界に手を向ける。結界の一部が薄れ、一人分が通れるくらいの大きさの枠が出来上がった。

結界の外では、学園に侵入せんとしたゴオマと交戦した天使、堕天使、悪魔の軍勢が一人残らず倒れ伏せていた。その様子に顔をしかめながらも、倒れた者の間を通り抜け、学園から離れていくガドル。

 

その背中を見届けた後、サーゼクスは戦闘後の処理を行うため、そして傷ついた部下たちを治療するための追加の軍を要請する。そんな彼の元に、リアスがそっと近づいた。

 

「お兄様。彼は、あの…」

 

「ああ、分かっているよ。これまで何度も助けてくれたのだろう? 無下にはしないさ」

 

不安げな様子で語りかけるリアスに微笑みかける。

だがその本心は、リアスに向けた穏やかな表情とは異なり、張り詰めたものだった。

 

彼の頭にあるのは、この一日で出会ったグロンギという種族の実態。外で待機していた軍勢を相手した上に、首脳陣が貼った結界を一人で破壊してみせたゴオマ。それと互角以上の攻防を繰り広げてみせたガドル。ゴオマを上回る実力があるのが確かとなったバベル。

今の間だけでも、それだけの危険因子と遭遇したのだった。

 

(…油断できないな。あれが、グロンギという種族か…

 

 

 

決して、味方とは思わないようにしなくては…)

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

校庭で激戦が繰り広げられていた時、堕天使総督であるアザゼルはノンビリと校舎の中を歩いていた。

あまり校舎の中身を覚えていないのか、あちこち歩き回っては何度も扉をあけて回る。それも、ある一室を探し求めるためであった。

 

そして、目当ての部屋にたどり着く。扉を開けて部屋の中に入り、中にいた一人の男に話しかけた。

 

「よう。動けるようになっていたんだな、八神」

 

「…アザゼルか。何しに来た?」

 

八神は不審者にでも話しかけられたかのように、露骨に嫌な表情を浮かべる。

 

「いきなりそんな顔を向けられるとは。嫌われてるんだな、俺」

 

「当たり前だ。うちのバカに変なこと吹き込みやがって。後であいつにも天誅だが、正直あんたにも同じことしてやりたい気分だからな」

 

「……あ、そっちか? てっきり堕天使だから云々だとか、そんなところかと思ってたんだが」

 

「堕天使だからって嫌う理由なんてねぇよ。堕天使も悪いやつばかりじゃないって分かったからな。で、何かようか?」

 

表情を崩さず、アザゼルの言葉に返す。

 

「いやなに。ちょっとばかり個人的に聞きたいことがあってな。サーゼクスたちが離れた今が訊きだす好機だと思ってな。

俺が訊きたいのは三つだ。まず一つ目は…『グロンギは一体いつ頃活動していた種族なのか?』だ。

俺は他の連中とは違って大昔から堕天使総督という地位に立っている。人間じゃ想像もつかない大昔からな。だが、グロンギなんて名前は聞いたことも見たこともない。だからこそちょっと気になってよ」

 

アザゼルの質問に対する返答を考える八神。

実際彼自身、グロンギが以前活動していた年代というのは分からないからだ。

 

「悪いけど、いつ頃かとか具体的な年代はオレも知らねえんだ。完全な推測でよければ答えるが、それでもいいか?」

 

「それでもいい。答えてくれ」

 

「恐らくだが、その時代は日本で言うところの縄文時代と同じか、それより前だ。グロンギにせよその時代の人間にせよ、今じゃ完全に廃れた文明の元であいつらは生きていた。言語は形も影も残ってねえし、当時の生活が推測される石器のようなものも、住処すら見つかってない。気が遠くなるほどの年月が経っていると言える。

当時の時代を印象付けるものが何一つ残っていない時代だ。となればその辺が一番納得しやすいだろ?」

 

八神からの答えに唸りを上げるアザゼル。理解半分、疑惑半分といったところだ。

縄文前後といえば、一万年近くは前の話ということになる。実感が湧きにくいのだった。

 

そして、疑惑が半分あるのはまた別の理由もあった。

 

「まあ、それはわかった。そこまで前の話になれば俺も知らない話も出てくるだろ。それに、ずっと人間界に注意していたわけでもねえしな。それはいい。

…なら、二つ目だ。『なぜ、お前がそのことを知っている?』」

 

それは、彼がなぜそんな昔の話を知っているのか、といったことからだった。

 

「分かるだろ? 数千年生きてる俺ですら知らねえことを、まだ10年近くしか生きていないお前がなぜ知っているんだ?」

 

アザゼルは八神を疑わしく感じていた。

そもそも、あくまでただの人間でしかない彼が、魔王の妹であるリアスが頼りにするほどの実力を有しているというのも理解しづらい話だ。それは偶に存在する例もあり、ひとまず置いておくにしても、魔王や天使、堕天使総督である自分が知らない話を彼が知っているというのは不思議な話でしかない。

 

実は裏で繋がっているのではないか。何か隠し事があるのではないかと疑いの目を向けていたのだった。

 

「…ま、その質問も出てくるかなと思ってたからさ。しっかりと準備してるぜ」

 

一方の八神は、割と突き詰められた質問であるにもかかわらず、対した動揺を見せることもなく懐から一枚の紙を取り出した。会談に向かう前に準備していた書類だった。

 

「それは?」

 

「さっきは当時の時代を印象付けるものが何一つ残っていないといった。けど、強いて言うならひとつだけ残っていたものがある。それがこれだ。とある遺跡に残されていた当時の人間が残したと思われる文字。今じゃその遺跡も瓦礫の下だが、そこに書かれていた文はここに書き出している。

グロンギという種族。そいつらが行うゲゲルという名の殺戮。そしてそれに対抗した一人の戦士の存在。そこに書かれた文には大体そんな内容が記載されている。オレはそれを解読して、グロンギの存在を知ったんだ」

 

「解読ねぇ…。随分アッサリと言うが、そんな簡単な作業じゃなさそうだけどな」

 

「一文字あたりの意味はひとつしかない単調なものだからな。例えばその文字列の最初の文字は戦士を意味してる。それさえ分かれば解読は難しくねえよ。ご希望なら全訳も渡してやろうか?」

 

「いや、いい。そこまで連中に深い興味があるわけじゃないし、お前がそうやって知識を得たって言うならそれでいい」

 

話を切り上げ、部屋を出ようと立ち上がるアザゼル。

完全に納得したわけではないし、説明も綺麗に筋が通っているとも言えない。だが、疑うだけの根拠もなくなったのは確かだ。彼が友好的である限り、わざわざ敵対する必要もないだろう。

 

「さ、外行こうぜ。全員集まってるからよ」

 

「そりゃ構わねえけど…三つ目は?」

 

「お前の神器、なかなかに珍しいものだったからな。今度じっくり見せてくれ」

 

そう告げて、アザゼルは先に部屋を出ていった。

 

部屋に残された八神は、一度息をつく。

ポケットに腕を差し込み、中に入っているものを取り出した。

 

それは、小さな種のようなものだ。五粒ほどの種を見下ろし、八神は一人呟く。

 

 

「……やってやるよ。オレは、強くなる。オレ自身のために。皆のために…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

数分前の出来事だ。

 

戦いも終わり、なんとか緊迫した状況から解放されたばかりのガドルは、校庭を出てしばらく離れたところで呆然と立ち尽くしていた。

 

自然な流れで校舎を追い出されたのは良いものの、戻ることがやや困難になってしまった。

あれだけのトラブルが発生し、本題も終わった状態で彼の発表の機会が訪れるかどうかは怪しいところだが、さっきまでいた人物がいなくなったというのはおかしな話だ。

何とかして中に戻りたいのだが、すでに結界はまた補修されている。入る事すらままならない状態だ。

 

(…どうやって中に戻ろうか)

 

地下、あるいは空に穴でも開いてないだろうか。さまざまなことを考え、結界を眺めるガドル。

 

「何をされてるんですか、ガドルさん?」

 

そこに声をかける男が現れた。

 

背後から声をかけられた形になり、それが誰なのかを確認していない。だが、ガドルはそこに立つ者が何者なのか、分かっていた。

 

「…何故貴様がここにいる。神よ」

 

背後に立つのは、彼をこの世界に転生させた神だった。

 

「その喋り方違和感すごいんで、ひとまず元の姿に戻ってください。今ならもう戻れるはずですよ?」

 

「む、そうなのか? さっきは全く戻れなかったのだが…」

 

人間態に変わろうと、力を抜く。するとどうだろうか。先ほどまでは人の姿に戻ろうとするたびに激痛が走っていたのが、全く痛みを感じなくなっており、案外簡単に人の姿に戻ることができたのだった。

 

「…戻れた」

 

「恐らくですが、先ほどまでのあの現象はあなたの腹部に眠る魔石ゲブロンの意思によるものだと思います。あの時はギャスパー・ヴラディの神器が発動しており、魔石ゲブロンがその効果を拒絶しようと前に出張ってきた。ゲブロンが前に出張ってきたため、あなたの腹部に痛みが走り、グロンギの姿から戻れなくなった。そんなところかと。

ですから、ギャスパー・ヴラディの神器が発動しなくなってからはいつでも戻れたのではないでしょうか」

 

「なるほど…って、そんな事あるか? 前までこの魔石はグロンギの力を秘めた石で、戦いだと壊されちゃいけないだけのあってないようなもんだったぞ? そんな効果あったらとっくに気がついてると思うんだが…」

 

「実感ないのかもしれませんが、グロンギの力は全てその石が起因しているものなんです。モーフィングパワーも再生能力も。変身だってその石なくてはできない事なんですよ。

…恐らく今回のあれは、石が進化したことによる新しい能力ではないでしょうか。さしずめ“神器の力の影響を受けなくする”といったものでしょうか…」

 

「ちょっと待ってくれ。石が進化? どういうことだよ。放っといたら勝手に進化するものなのか、コレ?」

 

「…その話はまた今度にしましょう。取り敢えず中に入りたいのですよね?」

 

何もない空間に手を伸ばす。するとその一帯が光に包まれる。覗いてみると、その内部は通路のようになっており、向こう側には見慣れた教室の風景が広がっていた。

 

「これを通れば、貴方が固まっていると思われている部屋に繋がります。…それから、これを」

 

差し出されたものを受け取る。小さな種のようなものが五粒ほどだ。

 

「何だこれ。種?」

 

「それはどこかしらの地面にまくことで、その地点と私のいる神界を繋ぐ門を生成するものなんです。

…貴方がこちらに来る用事が出来た時にでも使ってください。無くなった時はまた補充しますから」

 

「いやちょっと、何でそんなものをくれるんだよ。あんたに話がある時はいつも通り夢で会えるわけだし、いらねえだろ」

 

「それだとあくまでこちらに来るのは精神のみ。肉体がこちらに来る必要がある時は、夢の中での話ではどうしようもないんです」

 

「…何が言いたいんだ?」

 

ここにきて、八神は僅かながらも違和感を覚えた。先程からどうも、神の歯切りが悪い。何か口にしづらいことでもあるのだろうか。

真剣な面持ちで神に問う。

 

「…そうですね。不安にさせるようなことを言うのも気が引けたのですが、あまり隠していても意味ないでしょう」

 

息を吐き、八神と視線を合わせる。その顔はどこか神妙で、八神もまたただ事ではないことを察する。

その表情のまま、神は口を開いた。

 

 

 

 

「ハッキリ言わせていただきますと、貴方の中の魔石、ゲブロンは進化しています。それも急激に。

…そしていずれ、進化しきったゲブロンは貴方の体を支配しようと動きだすでしょう」

 

 

 

 

「な……嘘だろ? ど、どういうことなんだよ……」

 

突然の申告に狼狽する八神。これまでずっと、なんの異常もなかった魔石に現れた変化。そして、その変化が起因となり、彼の身体を支配せんとする。それは、今の彼にとって受け入れがたい事態であった。

 

「そしてこれも酷な情報になりますが、その進化の原因は姫島さんの雷です。より正確に言えば、電撃体の力を手にするために取り込んだ雷の力というべきでしょうか。

貴方は雷の力を吸収し、電撃体という新たな力を得た。それはかなり強力で、貴方も驚いたことでしょう。ですが同時に、疑問に思いませんでしたか? たかが雷を吸収しただけで、あそこまでの急激な変化が訪れたことに」

 

「それは…そう言われてみれば、確かに……」

 

言われ、思い出す。何より強烈的だったのは、ケルベロスを一度殴りつけただけで沈めてしまったこと。

あの時は人の姿だった。それまで人間態でいるときは、神器の力で敵を追い詰めることはあっても、自分の拳で敵を殴り倒すなどということはあまりなかった。しかもその時の相手は、家より大きなケルベロス。冷静になって考えてみれば、そのようなことが人力で可能になるだろうか。

 

グロンギの姿の時でも、急激な力の成長には驚かされていた。神が言うように、雷を吸収した程度でそれだけの変化が訪れるとは考えづらい。

 

…では、あの変化の正体は何なのだろうか。

 

 

「単純な話です。あれは単に雷のエネルギーを取り込んだだけの力ではない。あの力は、雷の力で魔石が進化したことで発現した、究極の力の一部なんです」

 

 

続いて打ち明けられた真実に、再び閉口する。

究極の力と言えば、思い出すのは前世での出来事。一瞬にして数えきれない人間を葬ってみせた、あの力。

その力を、一部とは言え目覚めさせてしまった。彼が何も知らず使っていたあの力は、彼にとっての恐怖そのものとも言えるものだった。

 

「ゲブロンは雷の力を取り込み、進化を遂げた。それによって強力な究極の力の一部を電撃体として扱えるようになった。そこまでは良かった。

…ですが貴方の状況においては、ゲブロンが進化してしまったことは問題でしかないのです。貴方が、人であろうとする限り」

 

「そんな……。じゃあ、オレがやったことは……」

 

強くなりたい。仲間を守るために行った行為は、想定外の現象を引き起こし、望まぬ結果へと進み始めていた。そんな事実を知ってしまった八神は、悲しげな様子を見せた。

そんな彼に、神は表情を穏やかなものに変えて優しく語りかける。

 

「とは言え、安心してください。今すぐどうなるという事はありませんから。その辺の詳しいお話はまた後日させていただきますが、魔石の力が増大したのなら、その分だけ貴方自身も進化し、その力に支配されないようにすればいい。

貴方がご自分を進化させることができた時こそ、本当に強くなったと言うことができるのです」

 

目を見開く。軽く絶望していた彼の表情に、再び光が宿る。

 

「オレが…オレ自身が強くなればいいのか?」

 

「はい。先ほどの種は、そのためにお渡ししたものです。

ご自分でも特訓されることとは思いますが、一人でやることにも限界はあるでしょう。こちらに来ていただければ、お手伝いすることはできますから」

 

手のひらの種を見下ろす。

魔石の進化に追いつくために、己を鍛える。そうすれば八神自身も魔石に囚われる心配も軽減される。

 

そして、自分自身が強くなれば。今回みたいに仲間が狙われた時、間に合わないということになる確率を下げることができる。仲間の危険を、少しでも排除できるようになる。

 

ならばこそ、答えは一つだった。

 

 

「…ああ、わかった。やってやるよ。修行でも何でも。オレは…オレ自身を強くしてみせる!」

 

答えを聞き届け、神は安堵した表情をみせる。

 

「その言葉を聞いて安心しました。近いうちに修行できる期間が訪れます。その時、こちらに来てください。貴方自身を進化させられるように、我々も全力でバックアップしますから」

 

「ああ。ありがとな、何から何まで」

 

「お気になさらず。ほら、早く行かなければ皆さまを不安にさせてしまいますよ?」

 

神との話を済ませ、八神は光の通路に侵入した。

通路奥の教室に向かう八神の背中を見届け、神もまた自分の世界に変えるための門を生成する。

 

「…彼を魔石の支配下に置かせるわけには行かない。なんとしても…」

 

決意を固め、呟く。

 

神の力で観測した“最悪の未来”が、実現してしまうのを防ぐために……。

 

 

 




少し時間軸がわかりにくくなった気がしますので、少し解説をば。


ガドル、サーゼクスによって学園から追い出される



学園外で神と会い、校舎に送り届けてもらう



校舎でアザゼルに遭遇し、問い質される



こんな順番でことが起きています。
丁寧に表現できていればよかったのですが、表現力が乏しい僕には無理でした。ゴメンね。


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冥界合宿のヘルキャット
五十五話目


最近ちょっと調べてみたのですが、猫を放し飼いで飼うことに関しては世間的に結構反対されているみたいですね。
飼い主のより知らぬところで「他人に迷惑をかけている」ことが一番問題視されているんだとか。

猫の特性上、飼い主の躾次第でどうこうなる問題というわけでもないようですね。親戚が飼っている犬としかペットと関わったことがない私には、あまりイメージがしづらい話ではあります。

…まあ何が言いたいかと言うと、「今作品における猫の放し飼いその他諸々について、細かい突っ込みは無しの方向でお願いします」ってことです、はい。勉強不足は恐ろしいものですね。



一学期も終わり、高校生活二度目の夏休みを迎えた。

夏休みといえば、おそらく誰もが心待ちにする長期休暇。海やプールにお祭りと、イベント盛りだくさんな季節の休み。誰もが心を踊らせるのは、当たり前のこととも言えるだろう。

 

このオレも、前世と今世の両方で夏休みほど楽しみだったものはない。いくつになっても長期休暇というのはいいものだ。自分の趣味を誰にも邪魔されることなく、のんびりと楽しむ事ができる。

 

そんな楽しい夏休みだが…今年ばかりは、オレもそれを悠長に過ごしてはいられないんだ。

 

オレは、オレ自身を強くしないといけない。心も身体も。そうでないと、魔石の支配力に負けてしまう。…そうなった時の結末なんて、想像したくもないからな。

 

だからこそ、今年の夏休みはずっと身体を鍛えまくる毎日だ。神さんは修行できる期間になったら、あの人がいる例の世界に来るようにと言ってくれた。けど、それをただボーッと待っているだけのつもりはない。どうせなら出来ることを精一杯やって、足掻けるだけ足掻いてやるさ。

 

で、だ。今日は朝からイッセーの家で部活をすることになっている。

実は昨日から、部長の眷属メンバー、つまりオレ以外の研究部員たちはあいつの家に居を構えることになったんだ。まだ朱乃先輩とゼノヴィアしか引越し終えてはいないみたいだが、いずれ全員あそこに住むことになるんだと。

親睦を深めることを目標に、サーゼクスさんが提案したらしい。だから今後、休日の活動はあいつの家で行われるんだろうな。皆住んでるなら、そこに集まったほうが早いし。

 

…あいつの家、そんな広くないから人口密度的に大問題だと思うんだけどな。兵藤家の三人に部長とアーシアの五人の時点で割といっぱいいっぱいだったのに、朱乃先輩とゼノヴィアで七人。そしてユウトと小猫とギャスパー全員が集まったら十人だろ? そんな住めるかねあそこ。

 

まあそう言うことで、もうそろそろ家を出ないといけない。早朝トレーニングを終え、リビングに戻る。

 

リビングはシンと静まりかえっていた。…やはり今日になっても、あいつは帰っていないらしい。

 

あいつと言うのは、前からずっと飼っていた猫、クロのこと。会談のあったあの日以来、クロは行方をくらませてしまったんだ。

いずれ帰ってくるかと、待てど暮らせど帰ってこない。探しに行っても、あいつが行きそうな場所、前にヴァーリが見たという公園のどこに行っても見つからなかった。あいつの頭の良さからして、事故にあったなんてこともないだろう。

 

…だから、もうあいつは逃げてしまったんだと思うようにした。元は外から拾ってきたんだし、元気になったから、もう外に出たかったんだろうってな。

 

「はぁ…」

 

それでも、クロがいなくなったことを再確認するたびにため息がでる。あいつがいなくなったってだけで、オレのテンションもだだ下がりだ。

 

餌箱も、布団も、なかなか片付けられない。もしかしたらヒョイと帰ってきてくれるんじゃないかと考えてしまい、比較的喜んで食べてくれた餌で冷蔵庫がいっぱいだ。自分でも未練がましいと思う。

 

「…………はぁ」

 

…もう出かけないとな。いつまでもこうしてたところで、あいつが帰ってくるわけでもなし。今日はオレにも関係のある話をするみたいだし、遅れちゃ皆に悪いもんな…。

 

〔ピンポーン〕

 

「…誰だ?」

 

不意に鳴りだしたインターホン。突然の来客だ。宅急便とか頼んだっけ?

どうせ出掛けようとしてたところだし、応対だけしたらそのまま出発しよう。カバンを持ち、靴はいて、扉を開ける。

 

「はいはい、どちらさ…ま……?」

 

扉をあけたオレは、予想外の客人に絶句することになった。

 

「おはようございます、シュウくん」

 

…なんで貴女がここにいるんだ、朱乃先輩。

 

休日で、しかも学校外に集合するからか、先輩はいつもの制服姿ではなく普通の私服姿だ。いつかの神社の時のような巫女服姿でもなく。

黒いキャミソールと少し透きとおる黒シャツを組み合わせて……あ、やめとく。これ以上まじまじと観察できんわマジで。

 

「…えっと、なんで先輩がここに?」

 

一応訊いてみた。一応ってのは、その……何となく、理由が読めていたからだ。

 

「シュウくんのお家が近くなったんですもの。折角だから、お迎えに行きたくて」

 

「ははは、デスヨネ…」

 

予想通りだった。もはや予想通りすぎた。

何となく昨日のうちから嫌な予感はしていたんだ。引越しが決まったって話が上がった時、ちらっとオレの方を見て微笑んでたし。

 

決して嫌という訳ではないんだが、先輩と朝から二人きりって状況は控えめに言って緊張するんだ。顔を合わせづらいし、うまく場を繋ぐことすら難しい。黙りこくったままでいるのも、それはそれで心臓に悪い。よくイッセーは部長とアーシア三人並んで歩けるものだと感心するぜ。

 

まあ、頑張って耐えよう。なに、ちょっとあいつの家まで行くだけの短い距離だ。それまでの辛抱なら何とかなるさ、うん。

 

「つっても、今日はあいつの家集合でしたよね? 先輩あっちに住んでるんだし、二度手間じゃないですか」

 

「二度手間でも構いませんわ。だって…一刻でも早く、シュウくんにお会いしたかったもの」

 

「っ…!?」

 

これだよ。毎度毎度この人はオレを殺しに来てるのか。頑張ろうと決めたばかりのオレの心に早速ヒビが入った。もうやだ。とても耐えられそうにない。

 

最近の先輩は時々すごいことをやってきてくれる。一学期の後半なんか毎日が大変だった。

何回かお弁当を作って持って来てくれたこともあった。気恥ずかしさから断ろうものなら、目を潤ませ、悲しそうな顔をする。仕方なく頂こうものなら、そこでパッと明るくなってアーンが始まったり。心臓に悪い。

学園で一瞬でも疲れを見せようものなら、そこで膝枕をしてこようとしたり。これもこれで断ったら、また悲しそうな顔をする。正直あれ、やってもらっても緊張して休めないんだよ。心臓に悪い。

 

…どこぞの滅殺姫よろしく、朝起きたら寝床に紛れ込んでるなんてことにならなければいいけど。

 

先輩は何やらクスクスと笑っている。…今となっては、その微笑む顔すら心臓に悪い。さっきから心臓に悪いしか言ってない気がする。

 

「ごめんなさい。今のは半分ほど冗談ですわ。きっとシュウくん、お一人で来られては混乱されるかと思いまして」

 

「半分……。てか、混乱って何のことです?」

 

「イッセーくんのお家が分からなくなる、という意味ですわ。きっと着いた時にご理解いただけるかと」

 

…どういう事だ?

そう言えば、前もイッセーのうちに部長が住み着き始めた頃、ご近所さんのうちを何軒か買い取って巨大な家を建てていたっけ。あの家、結局使われているのだろうか。

 

「それでは行きましょうか。遅れてしまっては、部長に怒られてしまいますし」

 

「え、まあ、はい。そうですね」

 

何はともあれ、先輩と二人で兵藤宅に向かうことになった。

うう…空気が重い。何も話題が思いつかない。つーか女の子と二人っきりっていう状況すら緊張するってのに、その相手が先輩ともなると、最早どうしていいのか全く分からん。

 

今日はいい天気ですねで始まる会話もあるというが、こういう日に限って曇り空。いっそ雨でも降ってくれた方が話題も増えるというのに、一番微妙な天気だ。神はオレを見放したようだ。オーマイゴッド、おのれ神さん。

 

そんなオレの腕を、ふわっと暖かい何かが包んだ。…ん? 包んだ?

 

…え、いやちょっと。まさかそんなわけないよね。そんないきなり攻めてくるものかねコレ。気のせいだよね。きっとオレの気にしすぎだよね。包まれた腕は左腕。さっきまで先輩が左側を歩いてた気がするけど、そんなはずないよね。

 

そっと。そーっと、左側に視線を動かす。腕を包んだものはなんなのかを確認する。

 

 

 

腕組みしてた。

 

 

 

先輩が、よく見かけるカップルみたいに、腕を組んでいた。

 

 

 

…オレの腕と。

 

 

 

(〜〜〜〜〜っっ!!??!?!?)

 

 

 

え! ちょ、本気かよこの人! そう言うのって正式にお付き合いしたペアがやるもんなんじゃないの!?

 

いや、そんな悠長なことを考えてる暇はない! この状態のままだと色々死ぬ! 心臓がこれまでにないくらい蠢いてる!

 

頑張れ! 頑張るんだオレ! オレと先輩はまだ付き合ってるわけじゃない。そんな軽々しく腕組みなんかしてはいけないんだと、先輩の腕を振りほどくのだ!!

 

 

 

「えっと、あの〜。せ、先輩? な、何を、されてるんすか?」

 

 

 

「せっかく二人きりなんですもの。少し甘えさせてください」

 

 

 

先輩は、爆弾発言を投下した。

 

 

…はい死んだ。死にましたオレ。

何なのだろうかこの人。男性特攻にも程がある。言葉そのものが既に最強武器に近い重みを有しているというのに、あんたがそれを言ったら……。

 

 

 

 

 

控えめに言って…その……。か、かわ……

 

 

 

 

 

「あ…」

 

「っ!?」

 

交差点に差し掛かったあたりで、同じく集合場所に向かっていたのか、小猫と出会った。

 

危ないところだった。もう少しでオレの脳内がオーバーヒートでエクスプロージョンするところだった。

 

「お、おう小猫」

 

「おはよう、小猫ちゃん」

 

「……おはようございます」

 

小猫は小さくお辞儀して、先の道を一人歩いて行く。その後ろ姿は、どこか寂しげだ。

 

…やはりまだダメみたいだ。小猫は先日の戦いでゴオマに狙われてから、すっかり元気が無くなってしまったんだ。

命を狙われたとなればそのショックも当然なものだとは思うが、同時に、小猫の元気が無くなっているのはそれだけじゃない気がする。

 

最近やっと、少しずつ元気を取り戻して来た気がしていたんだが、まだ完全復帰には程遠いらしい。

 

 

 

「…先輩、ちょっといいですか?」

 

先輩は小さく微笑むと、何も答えずそっと腕を離してくれた。

ありがたい。オレは小走りで、前を歩く小猫に追いつく。

 

「小猫」

 

その後ろ姿に声をかけると、小猫はゆっくりと振り返った。

こうして近づいても、やはり元気がないことがわかる。

 

「一緒に行こうぜ?」

 

驚いたように目を見開くと、本当に小さくだが、頷いてくれた。

 

落ち込んでいる理由が分からない今、小猫のためにしてやれることはオレにはないのかもしれない。ただ、少しでも元気づけるために、寄り添ってやることくらいは出来る。

 

…ある意味小猫から元気がなくなったのはオレが原因でもあるんだ。だからせめて、それくらいのことはしてやりたい。

 

そして、オレは朱乃先輩と小猫の三人で、皆の待つ兵藤家の元に向かうことになったのだ…。

 

 

「…でも、シュウ先輩。もうイッセー先輩のお家に着いています」

 

「ほ?」

 

 

…いきなり出鼻をくじかれた。さっきからこんなんばっかだなオレ。

 

え、でもここ、あいつの家近くの風景じゃないぞ? 距離的にはだいぶ近いところにはいるとは思うが、この辺は全く見覚えがない。

 

つーか、本当にここはどこなんだ? なんか小規模くらいのビルが建っているが、こんなの街にあったっけ?

あいつの家の周辺一帯は住宅地で、アパートもマンションもない一般住宅ばっかりだったはず。少なくともオレはここ十年近く、こんな建物は見たことがない。

 

先輩と歩くことに意識しすぎて道間違えた? いやどんな間違え方だよ恥ずかしい。もうずっとあいつの家に来てるわけだし、間違いようはないと思うんだが…。

 

んなことを考えてると、そのビルの扉が乱暴に開け放たれる。中から一人の人物が飛び出して来た。

パジャマ姿で、いかにもまだ起きたばかりの様子のその男は、そのビルを見て愕然としている。

 

…つーか、あの後ろ姿。もしかせんでもイッセーだよなぁ。なんであいつがあんなところから出てくるんだ? 何してんだよ全く。

 

 

「あちらがイッセーくんの新しいお家ですわ」

 

 

 

………………………え?

 

 

 

「「ええぇええぇぇぇぇぇぇっ!!?」」

 

 

オレとイッセーの、二人分の叫び声が木霊した。

 

 

なんと、イッセーの家は……倍の敷地を有した、六階建ての大豪邸と化していたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「リフォームしたんだよ。私も朝起きてビックリだ。寝ている間にリフォームなんてできるものなんだな」

 

と、朝食のトーストを片手にのんびり口調で語るのは、兵藤家の大黒柱。イッセーの父親だ。この家はこれから朝食を摂るらしく、食卓に新しい住民たちを含めて全員が並んでいる。先に着いたオレと小猫も、一足先に部屋に上がるのも変な話だからと、お茶をいただいてその席にご同伴させてもらってる。だから実質、この席には九人いるわけだ。

 

当然のように広くなったダイニングは、既に十人分は余裕で利用できる程。下手すりゃ二十人近くは利用できるだろう。キッチンも馬鹿みたいにデカくなって、兵藤母が一人で利用するには勿体無いくらいだ。多分部長たちも使うんだろうけど、それにしたってデカイ。

 

「リアスさんのお父さまがね、建築関連のお仕事もされてるんだって。モデルハウスの一環でここを無料でリフォームしてくれるっておっしゃったの」

 

そんな話ある訳ないだろう。部長の家が何か裏で動いたのは間違いないが、その言い訳は苦しすぎる。

それを信じるのは、兵藤家の器の異常なまでの大きさからなのか。それとも人を疑うことを知らないからか。どちらにせよ、お願いだから詐欺とか押し売りとかに騙されないでくれよ。これからは部長が一緒だからその心配も半減するだろうけど。

 

「お隣の鈴木さんと田村さんは?」

 

「…引っ越して行ったらしい。なんでも急に好条件の土地が確保できたとかで、そっちに移り住んだんだって」

 

ため息混じりにイッセーが答える。明らかに部長んとこの仕業だ。前の部長の家の時も、似たような手腕を使っていた。恐ろしい交渉術だ。

 

「大丈夫よ。平和的な解決だったわ。皆、幸せになれたのよ」

 

にっこり。これがホントの悪魔の微笑みというやつか。

この人が言うからには、間違いなく誰も不幸な目に合うことはないと断言できるのだが…。鈴木さんも田村さんも、親切な人だっただけに突然の別れは悲しいものだ。

 

「一階は客間とリビング、キッチンに和室。二階はイッセーとリアスさんとアーシアちゃんのお部屋。イッセーのお部屋を挟む形ね。それから……」

 

その後は、この豪邸の間取りの説明が行われた。ここに住まないオレは直接的に関係することはないが、ここまで来ると間取りに興味が湧いて来る。

 

しかし、二階は部長のわがまま全開だな。聞けば、それぞれの部屋には各部屋を行き来するための扉まで備え付けられているらしい。

 

「四階は、朱乃さんとゼノヴィアちゃんのお部屋。あと、今度来る小猫ちゃんのお部屋と、空き部屋が一つあるわ。小猫ちゃんと朱乃さんのお部屋の間に位置する感じね」

 

なんかまた変な位置に空き部屋なんてあるもんだな。ここまで広いと逆に十人じゃ使いきれねぇだろうし、当然といえば当然か。

 

せっかくの五階と六階も、空き部屋ばかりらしい。実家があるために引っ越しできなかったオレだが、今後次第ではそのうちの一部屋を借りてみたいものだ。

 

あとはまあ、屋上の空中庭園だとか、地下の大浴場やら室内プールやら映画館やらトレーニングルームやら様々な施設の紹介だ。エレベーターまであるらしい。

 

「もう言葉もないです」

 

「いいじゃねぇか、豪邸生活。羨ましいぜ」

 

愕然とした顔で告げるイッセーには、そんな言葉しかかけてやれなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「冥界に帰る!?」

 

朝食後、イッセーの部屋に集まった部員たちの前で告げられた部長の言葉。それはこの夏の間に、冥界に帰ると言うものだった。ちなみに既にユウトとギャスパーも到着し、全員集合している。

 

悪魔の皆様の会話だ。んなら、オレはこの部屋の観察でもしよう。すっげ、ベッドが四人分くらいのサイズあるぞ。

 

「夏休みだし、故郷に帰るの。少しくらい里帰りしておかなきゃね。……って、どうしたのイッセー。涙目よ?」

 

「うぅ、部長が冥界に帰るなんて突然言い出したから、俺を置いて帰っちゃうのかと思いましたよぉ…」

 

「そんなことある訳ないでしょう? まったく。あなたと私はこれから百年、千年単位で付き合うのだから安心なさい。あなたを置いてなんか行かれないわ」

 

「部長ぉぉおおおぉぉ〜」

 

ヤベェ〜。小さなブラウン管のテレビが最新型薄型テレビになってやがる。オレだってまだこの機種には手をつけてないってのに。

うわ、最新ゲーム機まで完全網羅かよ。前世以来めっきりゲームからは離れていたけど、最近のゲームってオープンワールドとか言って凄いの多いからなぁ。今度遊びに行っても面白そうだ。

 

「そう言う訳で、もうすぐ皆で冥界に行くわ。長期旅行の準備、しておいてちょうだいね?」

 

「え!? 俺たちも冥界ですか!?」

イッセーの驚きの声で、ピクッと意識が皆の話題に戻る。皆、暫くいなくなるのか?

 

「そうよ。あなたたちは私の眷属で下僕悪魔だから、主人に同伴するのは当然になるの。そういえば、アーシアとゼノヴィアは初めてだったかしら?」

 

「は、はい! 生きているのに冥府に行くなんて緊張します! し、死んだつもりで行きたいと思います!」

 

「うん。冥界、地獄には前々から興味があったんだ。私は天国に行くため、主に仕えていたわけなのだけれど…。悪魔になった以上は天国に行けるはずもなく…。天罰として地獄に送ったものたちと同じ世界に足を踏み入れるとは、皮肉を感じるよ。地獄か。悪魔になった元信者には、お似合いだね」

 

アーシアとゼノヴィアが、初めての冥界にそれぞれの興味を示す。

冥界か…オレは確か、ライザー戦で治療を受けるときに一瞬冥界にいたんだっけ。本当に一瞬で、気を失ってたからあんま覚えてねぇんだけど。

 

「お前は行ったことあんのか?」

 

「あぁ、俺も少しだけ冥界で治療を受けたことがあるんだ。シュウと一緒の時にさ」

 

それもそうか。イッセーはイッセーで、ライザーとの戦いで大怪我したんだろうし、そこで治療を受けたとしてもおかしくないな。

 

「八月の二十日過ぎまで残りの夏休みをあちらで過ごします。こちらに帰って来るのは、八月の終わりになりそうね。修行やそれら諸々の行事を冥界で行うから、そのつもりで」

 

部長の言葉に、部員たちは多種多様の返答を返した。

イッセーは最初に考えていた夏のプランが気がかりなようで、若干渋っているが、多分部長と一緒に過ごすことに軍パイが上がるだろう。部長が冥界には温泉もプールもあると言った瞬間、顔がスケベ顔に変わったのがいい証拠だ。

 

「んなら、部長。オレは皆が帰って来るまでオフってことで?」

 

「それでもいいのだけれど、私としては貴方にもついてきて欲しいのよね。うちの家族には貴方のことも紹介したいし」

 

「了解っす」

 

本当は人間界に残って、神さんのところに行くのも悪くないと思っていた。けど、さっきの言い分だとあっちで修行できるらしいからその時でいいだろう。

 

皆が冥界での話に花を咲かせている間に…オレは視線を、チラリと上にあげた。

 

誰も気がついていないが、部長が冥界に帰ると言う話をし始めた頃から、この部屋に侵入して来た不敬者がいる。気配を抑えてまで入ってくるとは、一体なんのつもりなんだか。

 

不敬者は、誰も自分の侵入に気がついていないのをいいことに、優雅に席に座ろうとしているようだ。オレがその存在に気づいてることなんて知らずに、な。

 

 

そして不敬者は席に座り、足を組んで、満を持したように口を開いた。

 

「俺も冥界にいくぜ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

今の驚きは部員皆のものだ。皆からしてみれば、この男がどこからともなく現れて、気づかないうちに椅子に座ってんだ。ホラーに近いものがある。

 

紹介が遅れた。皆に気づかれないように部屋に侵入してきたこの不敬者は…そう、堕天使総督のアザゼルだ。

 

なんとこの男、アザゼルはうちの学校にオカルト研究部の顧問として就任してしまったんだ。本人曰く、制御できていないレアな神器を見るのはムカつくからまとめて面倒を見ておいてやる、だそうだ。

グレモリー眷属の持つ未成熟な神器を正しく成長させることを条件に、生徒会長さんが承認したとかなんとか。事実、神器の知識が豊富なだけあってその教えは効果覿面だ。本人も教えるのが上手いから、神器所有者の皆は何かしら掴み始めている。オレもいくつか教わって、神器をより上手く応用する術を手に入れた。

 

『禍の団』とかいう反勢力を相手にするための将来的な抑止力として、我らオカルト研究部の名が挙がったらしい。その為にもオレたちのパワーアップは必要不可欠なものになるとのことだ。その為にアザゼルがオレたちを鍛えてくれるんだろう。

 

だから今こうして、人間界で活動しているんだ。前のようにどこかの家に居を構えているのかもしれない。

 

敵じゃなくなったし、イッセーとも意気投合してしまった今、顧問として素直にアザゼルを受け入れようとはしてるんだが…時々こんな風に妙に掴み所がないことをしてくるのは何でだろうか。オレたちをからかって遊んでるとしか思えない。

 

「ど、どこから入ってきたの?」

 

「ん? 普通に入ってきたぞ。玄関から入って、そこの扉から」

 

「…気配すら感じませんでした」

 

「そりゃ修行不足だ。俺は普通に来ただけだからな」

 

困惑したように問う部長に、アザゼルは平然と答える。人の気配に敏感な方であるユウトは、自分がアザゼルの存在に気がつかなかったことに驚いていた。

 

「それより、冥界に帰るんだろう? なら俺もいくぜ。俺はお前らの先生だからな。

冥界でのスケジュールは、リアスの里帰りと現当主に眷属悪魔の紹介。あと、新鋭若手悪魔たちの会合。それからお前らの修行だな。俺は主に修行に付き合うだけだが、お前らがグレモリー家にいる間はサーゼクスたちとの会合か。ったく、面倒なもんだ」

 

アザゼルは、本当にめんどくさそうな息を吐いた。これでもこの男、部下からの信頼が厚い組織の総督なんだから驚きだよ。

 

「では、アザゼル先生もあちらまでは同行するのね? 行きの予約をこちらでしておいていいのかしら?」

 

「ああ、よろしく頼む。悪魔のルートで冥界入りするのは初めてだからな。楽しみだ、いつもは堕天使側のルートだからな」

 

悪魔のルート? そういや、今回はどうやって冥界に行くんだろうか。

 

 

確か前回、冥界からこっちに帰って来るときは、サーゼクスさんに見送られて…

 

 

…変な空間に取り残されんだっけ。

 

 

 

 

 

『冥界から人間界に移動するとなると、そうもいかないんだ。君には、『世界の狭間』で少し待ってもらうことになる』

 

 

『何で送られた狭間で『モンスターが現れた』って事が起きるんだよ!』

 

 

 

 

 

………………。

 

 

 

 

 

 

「部長、やっぱオレ行きません」

 

「え! どうしたのいきなり!?」

 

 

だってトラウマ思い出したもん。




やってみたかったことpart.2
If.もし八神の悪戯心が発動していたら?


皆が冥界での話に花を咲かせている間に…オレは視線を、チラリと上にあげた。

誰も気がついていないが、部長が冥界に帰ると言う話をし始めた頃から、この部屋に侵入して来た不敬者がいる。気配を抑えてまで入ってくるとは、一体なんのつもりなんだか。

不敬者は、誰も自分の侵入に気がついていないのをいいことに、優雅に席に座ろうとしているようだ。オレがその存在に気づいてることなんて知らずに、な。


……………(ピーン)


不敬者が椅子に座ろうと、腰を下ろす。

その瞬間、オレはパッと、その椅子を後ろに下げた。


[ズダーン!]


「「「「っ!?」」」」


今の驚きは部員皆のものだ。皆からしてみれば、この男がどこからともなく現れて、気づかないうちに部屋の中でこけたんだ。コメディに近いものがある。

「この野郎…」


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五十六話目

すんごく今更な話題ですが、D×Dの新しいアニメをご視聴の方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?
僕はテレビが家族共有であるということもあり、見れたり見れなかったりを繰り返しています。

さて、四期から大分画風が変わった今期のアニメですが、皆様はどちらがお好きでしょうか。古きを慈しんでばかりの僕は、これまでの画風の方が好みだったりします。思い出補正というやつでしょう。

それに限らずなにかと古いものを好みがちな僕は、漫画やアニメ、ひいては音楽まで、今ブームのものより以前ブームだったものの方が好きだったりします。ヒロアカや進撃よりハガレンが好きだったり。

そのせいで今を生きる若者とはなかなか話題が合わないんですが、先日とうとう友人からおじんくさいとまで言われてしまいました。まだピチピチの二十代なのに。辛いね。


冥界に出発する日が来た。

かつてのトラウマを思い出したために行くことを一度は渋ったオレだが、あの時とは移動方法が違うから大丈夫だという部長の言葉を信じ、こうして皆と冥界に向かうことを決心したのだ。

 

学生にとって一番の正装となる制服を身につけたオレたちが最初にたどり着いたのは、学園から最寄りの駅だった。電車を利用するときはいつもこの駅から乗っている。

この街に住んでいるなら誰もが使うであろう駅にどうして行く必要が? まさか冥界の出入り口は街の外にしかなくて、そこまでの道のりを電車で移動するとかだろうか。しまった、電車を使うって分かってればなかなか使えずにいるsumocaでも持ってきたんだがな。

 

ベテラン悪魔の部長と朱乃先輩が、真っ先に駅のエレベーターへと向かう。二人は先にエレベーターに乗り込むと、待機する部員たちに向けて声をあげた。

 

「じゃあ、まずはイッセーとアーシアとゼノヴィアが来て。シュウは、あとで祐斗たちと一緒に来てちょうだい」

 

「はい」

 

部長に呼ばれた新人悪魔の三人が、同じくエレベーターに乗り込む。扉が閉まり、エレベーターが動き出した。

 

この駅のエレベーターは正直言って狭く、五人乗ったらほとんど満員になる。その上階層は一階と二階しかないから殆ど無意味に近く、多くの利用者はそんなエレベーターをわざわざ使おうとは思わない。かく言うオレも、普段ここを使うときは階段で移動してる。

なんでエレベーターを使おうと思ったんだろう。でかい荷物もあることだし、こっちの方が楽だというのは間違いないんだが。

 

部長たちが乗って行ったエレベーターが戻ってくるまで、その出入り口で待機する。二分近く経って、エレベーターはやっと戻ってきた。

 

いや遅すぎじゃね? 一階から二階に移動するのに二分とか、どんだけ時間かけてるんだこのエレベーター。そこまでポンコツだっただろうか。

「…行きますよ、先輩」

 

「お、おう」

 

慣れているという小猫とユウトはあっさりとエレベーターに乗り込む。けど、オレは正直乗りたくない。

はっきり言って怪しいんだがこれ。乗った瞬間ロープがブチッと切れてヒューッと落下とか、そんな展開ないだろうな。

 

「おーい、さっさと来いよ。お前が乗らねえと出発できねえだろうが」

 

…気がついたらアザゼルも乗り込んでた。

 

ひとまずオレもそっと乗り込む。エレベーターは特に揺れるわけでもなく、一般のそれと同じだという安心感がある。さっきの移動に時間がめっちゃかかったのはなんだったんだろうか。

その疑問の答えを、オレは直後に知ることになる。

 

ユウトがポケットからカードのようなものを取り出し、エレベーターの電子パネルに向ける。

 

ピッという電子音が鳴り、エレベーターは動き出した。

……なんと、下に向かって。

 

 

「っ!?!?」

 

 

マジで落ちるのかと一瞬狼狽えてしまったわけだが、どうやらこれは落ちているわけではないらしい。本当に地下に向けて移動しているようだ。

どういうことだろう。ここ、地下なんてあったっけ?

 

「この駅の地下には秘密の階層があるんだ。悪魔専用のルートで、普通の人間にはたどり着けない階層なんだよ」

 

「この町には、こんな風に悪魔専用の領域がいくつか隠れているんです」

 

なるほど、そういうものなのか。オレの気がつかないところにも、こういう悪魔専用施設があるもんなんだな。

…クソッ! ユウトがニコニコしてやがる! そんなにさっきの狼狽えようが面白かったか!

 

エレベーターは一分ほどで停止した。ということは往復で二分くらいってことだし、さっきやたら時間かかっているように感じたのはそういう原理なんだろう。

 

扉が開き、外に出る。そこは人工的な空間で、びっくりするほど広い場所だった。

 

「…駅の、ホーム?」

 

何となくだが、地上のそれに近いものがあるった。それも大規模のやつな。

線路が引かれているあたり、まさにそれっぽい印象を受ける。

 

「全員揃ったわね」

 

部長率いる先頭メンバーと合流した。部長の背後ではイッセーがこのバカ広い空間に興奮していた。

その気持ち分かる。この大声出したら響き渡りそうな感じ、何となくワクワクするものだ。

 

「さ、三番ホームまで歩くわよ」

 

三番ホームとか完全に駅のそれじゃねぇか。てことは、やっぱここは駅と言っていい場所なんだろう。

となると、冥界に行く正式手段というのは電車ってことになるのだろうか。

 

人間界発、冥界行きの電車は三番ホームまで。冥界に行くってところまでは幻想的だったのに、なんだか一気に現実臭くなってしまったなぁ。

 

そこそこ長い距離を移動している間…朱乃先輩がさりげなくオレの隣に来た。

なるほど、並んで歩こうということか。いいだろう。長らく先輩のお迎えを受けているうちに、並んで歩くことには慣れて来たんだ。いつまでも以前のオレではないってことを見せてやろう。

 

 

《ギュッ》

 

 

って手を繋がれることには慣れてなァァァァァっっ!!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「着いたわ」

 

部長の声で現実に引き戻される。良かった到着したようだ。危うく心臓が止まるところだった。

結局最後の最後まで手を繋いで歩くことになった。そろそろヤバい。いつかオレの心臓がマジで止まる。早く先輩のスキンシップに耐え得るメンタルを身につけなければ…。

 

再び開けた部屋に入ったオレたちの目に映ったのは、鋭角で悪魔を表す紋様がたくさん刻まれた、一般的によく知られている列車のようなものだった。

部長の家の紋様も見受けられる。ってことは、まさかとは思うが…。

 

「グレモリー家所有の列車よ」

 

本気かよ。専用列車まで持ってんのか。凄すぎんだろこの人の家。所有できるのは精々専用ジェット機くらいまでと思ってたところに列車は想定外だった。

 

開いた列車の扉から乗り込むと、間も無く発車の汽笛とともに列車が動き出した。

列車には色々と細かいしきたりが定められているようで、主人である部長は一番前の車両に、その他の眷属や客人たちは中央から後ろの車両に座ることになるんだとか。郷に入っては何とやら。ちゃんとそのしきたりには従おう。

 

走り出して数分。ひたすら暗がりの道を進む。さっきイッセーがどのくらいで着くのか聞いてみたところ、一時間ほどで到着するとの答えが返ってきた。

この列車は次元の壁を正式な方法で通過して冥界にたどり着くようになっているらしい。

 

魔法陣か何かでジャンプしてからの冥界入りというコースもあるようだが、イッセーをはじめとした新眷属悪魔は一度この正式のルートで入国しなければ、違法入国ということで罰せられるらしい。正式な入国手続きを兼ねた正式ルートでの移動といったところだろうか。

 

ということで、どうあれ一時間ほどの時間を要するらしい。アザゼルも端の方で爆睡してる。まる一時間もやることがなかったら暇だろう。

こう言う時は

 

「皆、ちょっといいかしら?」

 

前方の扉が開き、先頭車両にいたはずの部長が現れた。その隣には車掌姿の老人の姿が。

ダンディな白いあごひげが目立つ老人は、帽子を取って頭を下げた。

 

「初めまして、姫の新たな眷属悪魔の皆さん。私はこのグレモリー専用列車の車掌をしております、レイナルドと申します。以後、お見知り置きを」

 

「こ、こちらこそ初めまして! 部長…リアス・グレモリーさまの“兵士”、兵藤一誠ですよろしくお願いします!」

 

「アーシア・アルジェントです! “僧侶”です! よろしくお願いします!」

 

「ゼノヴィアです。“騎士”、今後もどうぞお願いします」

 

老人ことレイナルドさんの丁寧な挨拶に、新人眷属である三人が答える。他のメンバーは既に顔を合わせたことがあるのか、皆それぞれの席についていた。

レイナルドさんは新人眷属との挨拶をすませると、隅の方に座っていたオレに気づく。ここはオレも挨拶しておこう。

 

部長の家の関係者とのファーストコンタクト。ここで与えた印象がそのまま報告されることもあるし、ここはちょっと頑張った方が良さそうだ。

 

「八神 柊と申します。人間の身ではありますが、常々リアス・グレモリーさまの御高配を賜っております。此度はグレモリーさまのご家庭にご招待いただき、眷属の皆様方ともにご挨拶に伺いました。どうぞよろしくお願い致します」

 

姿勢を正し、可能な限り丁寧な言葉を並べてみた。

そういや初めて研究部に接触した時、こんな感じの挨拶したんだっけな。あん時はもうちょい砕けてたと思うが、ちょっとばかし懐かしい気持ちになる。

 

「リアス姫から伺っております。こちらの方こそ、よろしくお願い致します」

 

レイナルドさんからの返事を受け取り、これで全員分の挨拶が終わった。

その後、レイナルドさんは何やら特殊な機器を取り出してオレたちの姿を一人ずつモニターして行く。なんだか人間界の入国審査のような感覚を思い出すけど、多分それに似たものなんだろう。

 

「なんか久しぶりに聞いたな、シュウのかしこまった挨拶」

 

「部長んとこ、礼儀とか結構厳しいんじゃないかって気がしてさ。相応の態度で接するべきかと思ってよ。

…イッセーも気をつけといた方がいいぞ?」

 

「え、俺が? なんで?」

 

「オレもこっち来て思い出したんだが、あの人れっきとしたお嬢様だからな。最低限の礼儀は弁えてるってところをアピールしとかねぇと、貴方みたいな人はグレモリー家に仕えるものとして相応しくありませんとかなったら嫌だろ」

 

特にこいつの場合、グレモリー家の一員になることまで想定されている可能性がある。あっちに着くなり、礼儀作法が何たるかを叩き込まれるかもしれないからな。

納得したように頷くイッセーが、その意味に気がついているかどうなのか知らんけどね。

 

『ピンポーン』

 

なにやら軽快な音がなる。誰かクイズ番組でも見てるのだろうかと、音が鳴った方に視線を向ければ、レイナルドさんが先ほどの機械をしまっているところだった。照合完了、データ一致。といったところだろうか。

 

「姫、これで照合と同時にニューフェイスの皆さまの入国手続きも済みました。あとは到着予定の駅までごゆるりとお休みできますぞ。寝台車両やお食事を取るところもございますので、どうぞご利用ください」

 

「ありがとうレイナルド。あとは、アザゼルかしら」

 

クルッとアザゼルのいる席に振り返る。

アザゼルはガーガーといびきをあげ、それはそれは気持ちよさそうに眠りにふけっていた。

 

「…よくもまあ、ついこの間まで敵対していた種族の列車で眠れるものね」

 

「ホッホッホ、堕天使総督さまは平和ですな」

 

平和というか剛胆というか、怖いもの知らずというか…ある意味で頼もしいよ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

アザゼルが寝ている間に照合を済ませ、全員入国の手続きを終える。それぞれがそれぞれで暇を潰し、発車から一時間弱ほど経った頃だろうか。

車内アナウンスのようなものから、レイナルドさんの声が発せられる。

 

『もうすぐ次元の壁を突破します。もうすぐ次元の壁を突破します』

 

「外を見ていてごらんなさい」

 

結局寂しいのなんのと言って後部車両に移動してきた部長の言葉に従い、新人悪魔の三人は列車の窓から外に目を向ける。冥界の景色にはさしたる興味もなく、暇つぶしとして広げた夏休みの課題にそのまま取り掛かろうとしたオレの耳に、三人分の感嘆の声が響く。

 

「スゲェッ! スゲェよこれ!」

 

「はい! 本当にすごいです!」

 

凄い凄いと、特に感性豊かなイッセーとアーシアが連呼するが、一体なにがそんなに凄いのだろう。流石に少し気になって、イッセーの脇から同じく窓の外を覗き込む。

 

「…へぇ」

 

その景色は、思っていた以上に独特の雰囲気を醸し出していた。

 

山があり、森があり、川がある。それはまるで、オレたちが普段生活している街とそう大差ないものだ。

けれど、空気から感じる微かな感触は、明らかに人間界のそれとは大きく違うことを実感させる。

 

冥界というくらいだから針山地獄だの灼熱地獄だのといった光景を想像していたのだが、そんなものはなかった。町の家々の形が独特であるくらいで、あとはオレたちのよく知る街の風景とよく似ている。

 

「ここはすでにグレモリーの領地よ」

 

…今、何か信じられない言葉が聞こえたような気がした。

 

「えっ!? じゃあ、今走っているこの線路も含めて、全部部長のお家の土地ってことですか!?」

 

イッセーの驚きに、部長は自慢気に頷いた。

 

この街の全部が領土と言われると、ファンタジー物とかでよく見かけるような城下町を思い出す。王政を敷いている国で、お城があって、そこに住む王様が国全体を支配しているようなやつな。

魔王の一族だからなのか、そもそもグレモリー家自体が強力な力を秘めているからなのか。どちらにせよ、これだけの領土を持つと言うのは末恐ろしい話だ。

 

ここまでくると、これ以上驚かされることは到底ない。もう一生分驚き尽くしたような気さえするぜ……。

 

「グレモリーの領土って、どれぐらいあるんですか?」

 

「確か、日本で言うところの本州丸々ぐらいだったかな」

 

「ほ、本州丸々ぅぅぅぅっ!?」

 

本州丸々ときたか。本気で言ってるのだろうか。

日本は世界全体で比べれば小さい方だが、それでも広い。あれだけの広さを支配していると言うのは、正直イメージが掴みづらい。ファンタジー物でもそんな国は見たことがない。

この街は領土のほんの一部分に過ぎないと言うことだろう。末恐ろしいどころの話ではなくなってきた。

 

「本州ぐらいといっても、ほとんど手付かずなのよ? ほぼ森林と山ばっかりなんだから」

 

部長が何かほざいていらっしゃるが、だからなんだと言う話だ。

 

「シュ、シュウ。俺、どうすればいいんだ? もう想像をはるかに超えていて、どう反応すればいいのか分からねえよ…」

 

「難しいことは考えるな、感じるんだ」

 

「そうだわ、イッセーとアーシアとゼノヴィア。あとで貴方たちに領土の一部をあげるから、欲しいところがあったら言ってちょうだいね」

 

「領土、もらえるんですかぁぁぁぁっっ!?」

 

「貴方たちは次期当主の眷属悪魔ですもの。グレモリー眷属として、領土に住むことが許されるわ。朱乃も祐斗も、小猫やギャスパーだって自分の敷地を持っているんだから」

 

…幼馴染が、敷地をもらうそうだ。

 

『まもなく、グレモリー本邸前。グレモリー本邸前。ご乗車、ありがとうございました』

 

再度聞こえる、車内アナウンス。

窓から列車前方に視線を送ると…何やら兵服を身につけた兵士の軍勢が、列車の到着を待ち受けていた。

 

とうとうオレたちは、裕福と言う言葉では収まらないほどの領域に足を踏み入れることになった。

 

 

…まだ到着していないのにアレなんですが、早速帰りたくなってきたんですが…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

部長先導のもと、開いたドアから降車していく。

アザゼルは魔王領の方に用事があるとかで、そのまま列車に乗って行くそうだ。いち組織のトップとなれば、スケジュールも忙しいらしい。

 

「じゃあ、先生あとで」

 

「お兄さまによろしくね、アザゼル」

 

部長とイッセーの言葉に、手を振って応えるアザゼル。

アザゼル一人を抜かし、九人でホームに降りる。その瞬間……

 

『リアスお嬢さま、おかえりなさいませっ!』

 

怒号のような声と、空に打ち上げられた花火。楽隊らしき人々が奏でる音楽などなど、壮大な出迎えが披露された。

ボーゼンと、そこに立ち尽くすことしかできないオレ。イッセーやアーシアも、身を寄せ合ってポカンとしている。ゼノヴィアは目をパチクリとさせている。

 

「ヒィィ…人がいっぱい…」

 

そして少し違う内容でビビったギャスパーが、イッセーの背後に隠れた。

 

なんだこれは。お出迎えって、こんな派手なものなのか。前今世ともに「おかえり〜」くらいのものしか味わったことがないオレにとって、これはもうとんだ場違い感。

 

「ありがとう、皆。ただいま。帰って来たわ」

 

嬉しそうに、満面の笑みを浮かべる部長。やっぱこの人にとってはこれが通常運転なのだろうか。よく見れば慣れているというユウトや小猫、朱乃先輩は普通だった。

 

「お嬢さま、おかえりなさいませ。お早いご到着でしたね」

 

そんな中、人混みの中から見知った顔が姿を現した。

銀髪のメイド、グレイフィアさんだ。

 

「道中ご無事で何よりです。さあ、皆様も馬車へお乗りください。本邸までこれで移動しますので」

 

グレイフィアさんが、傍で待機してある馬車を指差した。

豪華絢爛を体現したような馬車。それを引く馬も、普通の馬ではないことが見てわかる。

 

なんだか、馬車との間にドデカい壁があるような、そんな錯覚を感じさせられる。

 

「さあ、行きましょうシュウくん」

 

「は、はい…」

 

なかなか乗れずにいるオレを、朱乃先輩が引き入れてくれた。全員が馬車に乗り込むと、馬車は少しずつ蹄の音を鳴らしながら進み出した。

馬車が進む先に見えるのは、何やら巨大な建造物。どうやらあそこに向かっているらしいが、まさかとは思うがあれは…。

 

「部長のお家のひとつで、本邸です」

 

デスヨネー。もう何となく察してたわ。

ひとつって言葉がどうにも気がかりだが、どうせまだ多くの家を持っているとかそんなところだろう。領土のあちこちに、何番住居とか言ってさ。

 

「何というか、改めて部長がお嬢さんなんだってことを思い知らされましたよ…」

 

思わず溢れたつぶやきに、朱乃先輩がクスクスと笑う。

 

美しい花々の花壇、見事な造形の噴水。色彩様々な旅が飛び回る庭のようなところを馬車が進む。やがて馬車は止まり、ドアが開かれた。

 

「着いたようね」

 

部長が一足先に降り、オレたちが後から続く。両脇にメイドと執事が整列し、道を作っている。レッドカーペットまで敷かれ、気分は完全に王族のそれである。

 

「お嬢さま、眷属のみなさま。どうぞお進みください」

 

巨大な城門が開かれ、内部へと誘われる。内部も変わらずメイドの列が続き、その先の建物まで途切れていない。一体何人の使用人が控えているのだろうか。

 

「リアスお姉さま! おかえりなさい!」

 

そんな中、可愛らしくも元気な声とともに部長の元へ駆け寄る小さな人影。部長はその姿を認識するとともに、その人影を優しく抱きとめた。

 

「ミリキャス! ただいま。大きくなったわね」

 

ミリキャスと呼ばれたその少年は、部長と同じような紅い髪を肩まで伸ばした、まさに美少年と呼ぶにふさわしい顔の持ち主だった。

 

「部長、その子は?」

 

「この子はミリキャス・グレモリー。お兄さまの子どもなの。私の甥ということになるわ。

ほらミリキャス。挨拶をして。この子は私の新しい眷属なのよ」

 

「はい。ミリキャス・グレモリーです。初めまして」

 

「こ、これは丁寧なご挨拶をいただきまして! お、俺…いや、僕は兵藤 一誠です!」

 

へー、サーゼクスさんの息子さんかぁ。息子がいるなんて、そんな様子見かけたことなかった。

てことは、魔王の息子ということになるのか。イッセーが歳下相手に無様に緊張するのも無理はない。

 

「サーゼクスさまのご子息なのに、姓はルシファーじゃなくてグレモリーなんですね」

 

「魔王の名は継承した本人しか名乗れないから、この子はお兄さまの子でもグレモリー家なの。私の次の当主候補でもあるのよ。

さて、屋敷に入りましょうか」

 

ミリキャスくんと手を繋ぎ、門の方へと進み出す部長についていく。巨大な一つめの門を潜り、更に途中までのいくつかの門を通っていくうちに、ついに玄関らしきところへ着いた。

一体幾つの門をくぐってきただろうか。流石に日本列島分の土地を支配するだけあって、その家も信じられないくらい広い。分かりやすく言えば、玄関ホールの時点で既に余裕で運動会ができるくらいのスペースがあるくらいだ。

 

「お嬢さま、早速皆様をお部屋へお通ししたいと思うのですが」

 

「そうね、私もお父さまとお母さまに帰国の挨拶をしないといけないし」

 

「旦那様は現在外出中です。夕刻までにおかえりになる予定です。夕餉の席で皆様と会食をしながら、お顔合わせをされたいとおっしられておりました」

 

「そう、分かったわ。それじゃ、一度皆はそれぞれの部屋で休んでもらおうかしら。荷物はすでに運んでいるわね?」

 

「はい、お部屋の方はすぐにお使いになられても問題ございません」

 

部長とグレイフィアさんの会話を耳にする。ここで休めるのは正直に言ってありがたい。冥界に来てからというもの、驚愕の嵐だったからな。なんだかどっと疲れた。イッセーやアーシアなんかもフラフラしてるし…。

 

「あら、リアス。帰ってきたのね」

 

その時、階段の上の方から、聞き覚えのない女性の声が届いた。

降りて来たのは、オレたちとそんなに歳が変わらなさそうな女性だった。雰囲気がどこか部長に似ている気がするが、髪色が紅くない。

 

ひょっとすると、部長のお姉さんとかだろうか。妹って感じはしないし、双子って線もあるけれど…。

 

「お母さま、ただいま帰りました」

 

…え、お母さま?

 

「お、お母さま!? だって、どう見ても部長とあまり歳の変わらない女の子じゃないですか!」

 

「あら、女の子だなんて嬉しいことをおっしゃいますのね」

 

イッセーの驚きに、ふんわりとした笑みを浮かべる部長のお母さま。隣にリアクション芸人がいて助かった。でなければ、オレはもう朝からのリアクションの連続でくたびれきっていたに違いない。

 

イッセーの言葉通り、部長のお母さまにしては見た目が若い。どう頑張ってもお姉さんくらいにしか見えず、到底お母さまとは思えないんだが…。

 

「悪夢は歳を経れば魔力で見た目を自由にできるのよ。お母さまはいつも今の私ぐらいの年格好なお姿で過ごされているの」

 

そんなことまでできるとは、便利すぎんか魔力。

ということは、この方は本当に部長のお母さまなんだな。

 

「初めまして。私はリアスの母、ヴェネラナ・グレモリーです。よろしくね、新しい眷属の皆さま方」

 

部長のお母さま。ヴェネラナさんは、丁寧なお辞儀をしてみせた。




雑談ショー with アーシア

八「さて、一応冥界までの旅は終わったわけなんだが…どうだった?」

ア「初めて冥府に来たんですが、こんなに凄いところだったなんて! 感動してしまいました!」

八「だな。オレも色んな国を回ったことがあるが、それらとはまた違う感じで貴重だった」

ア「はい! 祖国とも日本とも違う、新しい文化と触れ合うことができそうで楽しみです!」

八「あ、そういやアーシアも一応異文化交流の経験があるんだったな」

ア「そうですね。他にも、色んな国を訪れたことがあるんですよ?」

八「そっか。色んな国を…訪れた…」




八「そういや、イッセーは外国に行ったことなかったな」

ア「そうなんですか?」

八「初めての異文化交流が冥界…。なんか、不思議な話だよなぁ」


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五十七話目

平成最後の仮面ライダーということで、先日、仮面ライダージオウが発表されていましたね。次の日曜でビルドも終わり、その次からはいよいよジオウがスタートします。

どうやら過去のライダー世界をディケイドとはまた違う形で巡っていくような物語らしいですが、今度は一体どんなジオウワールドを展開してくれるのでしょうか。

個人的に気になるのは、出演が決定している人物を除き、何人のオリキャスが出てくれるのか、ですかね。二期のメンバーは皆さん何かしらの形で再びライダー作品に触れられていますし、ワンチャンあると嬉しいです。
あとは同じく時空を渡っているディケイドや電王あたりでしょうか。ここまで全部揃ってくれれば僕としては大満足です。

とはいえ、最大の敵は、予算かなと。


それからあのスーツのデザイン、恐らくモチーフは腕時計なんでしょうが、腕時計が大好きな僕大歓喜でした。


冥界に到着して一日が過ぎた。

オレは今、グレモリー家の使用人の人たちに用意してもらった客間にいる。本邸の大きさから想像される通り、中の部屋は一室一室がバカ広い。ここでずっと過ごしていると、いずれ部屋という概念が分からなくなりそうだ。

 

部長たちはさっき、魔王領の都市に用事があるとかで出かけていった。聞くところによると、部長と同じく将来を期待された若手悪魔たちが集まって顔を合わせる恒例の行事があるんだってさ。

部長と同じ若手悪魔がどんな人物なのか気になったのだが、今回は特に用事のないオレが物見遊山気分で行っていい場所でもなさそうだったんで、自重して留守番することにしたんだ。

 

部屋の壁側にそびえ立つ本棚から、一冊の本を取り出す。文字は悪魔語で書いてあって、何を書いてあるのかてんで分からない。オレの目にはミミズがのたくったようなものにしか見えないのだが、これらもすべて意味のある文字らしい。

 

そういやさっき、イッセーが悪魔語の勉強をすることになったとか言ってたな。元々、上級悪魔や上流階級としての振る舞い方や、貴族とは何たるかについて学ぶくらいのものだったらしいが、色々あって語学も学ぶことになったんだとか。

何でそんなものを学びに行ったのかって? ああ、オレの予測通りだったよ。

 

しかし、あいつも大変だよ。まさかの第二外国語が悪魔語とは、全くもって想像つかなかっただろう。

英語や中国語なんかと違って、悪魔語は地上では絶対に見かけない文字。何の知識もなく言語を学ぼうってのは難しい話だよなぁ…。

 

「…ん? いや待てよ、これは…」

 

改めて本の表紙を。もっと言えば、表紙に描かれた絵をよく見ると、その絵が何か見覚えのあるもののように感じた。桃の鉢巻を頭に巻いた、可愛らしいお侍の絵だ。

いや、見覚えあるどころか…。

 

「これ、まさか『桃太郎』じゃねぇか?」

 

桃太郎。人間界では誰しもがよく知る、桃から生まれてお婆さんから団子もらって犬猿雉連れて鬼を退治する、あの昔話だ。

桃太郎が悪魔語に翻訳されて、冥界で大変位の高い家に置いてある。なんとも不思議なお話だ。

 

桃太郎の表紙をめくり、一ページ目を開く。見覚えのある挿絵と、見覚えのない文字が並んでいた。桃太郎の内容はオレだって知っているし、その見覚えのない文字列がどんな意味を表しているのかは理解できた。

 

「……………」

 

思わず、読み込んでしまう。

桃太郎が懐かしくて読み耽っているわけではない。悪魔の文字で表された言葉の読解に、無意識のうちにのめり込んでしまう。以前から古文や漢文が好きだったオレにとって、解読というものは心が躍るものだった。

それが今、容易くできてしまう。グロンギの力は、言語解読に対しても強い影響がある。

 

…心なしか、その解読はかつてのモノよりスムーズに進んで行っているような。そんな気がしてしまった。

 

「あークソッ、やめだやめ…」

 

一ページ目をあっさりと解読してしまったところで、桃太郎の本を元の場所に戻す。神さんの言う魔石の力の進化具合を、こんな形でまで実感するようになっちまうとは…。

 

《コンコン コンコン》

 

「?」

 

ノックがされる。律儀にこうやってノックしてくる辺り、使用人の誰かだったりするんだろうか。オレに何か直接的に用がありそうな人物って、あまり想像できないんだが…。

 

扉を開け、外にいる人物を招き入れる。

 

「…あ」

 

「ごめんなさい。突然お邪魔してしまいまして」

 

…部長のお母様、ヴェネラナ・グレモリーさんだった。

お母様は流石の丁寧な振る舞いで挨拶してくれた。

 

「いえ、特に何をしていたというわけでもありませんでしたし…何か御用でしょうか?」

 

「用事があるわけではございませんの。少しばかり、お話がしてみたかったのです」

 

お、お話って、オレと? オレ何かやらかした?

 

実はお母様、すごく温厚な見た目をしているわけだが結構怖いのだ。昨日の夕餉の席でも部長のお父様と比べて発言力があるっぽかったし、わがままが爆発しかけた部長をきつく窘めたりもしていた。あれ、外部から見ているだけでも結構怖い。怒るときは怒気を表情に込めて静かに諭すタイプって想像すれば何となくわかるかと。

ただ、決して厳しいだけってわけではない。

 

「私としては嬉しいのです。わがままばかりの困った娘だけれど、人間界でお友達ができたということが」

 

…今の言葉にもある通り、部長のことは何かと気にかけてるのは確かだ。

 

「人間界でのリアスの様子がどんなものなのか、教えてくださらない?」

 

それから、お母様と人間界でのお話をさせてもらっていた。部長は人間たちにとっても憧れを抱かれていたり、イッセーの両親やご近所さんとも仲が良さそうにしていたりだとか。部長に関係がないことながら、人間界の歴史については割と細かい分野まで話すこともできた気がした。

それから…イッセーの部長に対する呼び方が、『部長』のまま全く変化がないと言うのも、あまりよろしく思っていないようだった。

 

「ここは学び舎ではないのですから、主人の名前はちゃんと呼ばないといけません。ましてやリアスは…」

 

「まあ、あの唐変木が全く気が付きませんからね。外部が手を出して良いものかどうかって気にもなりますし」

 

「その通りです。それぐらい自分で答えを出していただかなければ…」

 

そこで、メイドの一人が姿を見せた。お母様に何かを告げた後、静かなお辞儀でその場を去っていく。

 

「先程、リアスたちが戻ってきたようです。色々と会って話をしたいのではありませんこと?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

本邸のリビングに向かってみると、行事から戻ってきたらしい眷属の皆と、昨日はまっすぐ魔王領に向かっていったアザゼルが何やら話をしているところだった。

アザゼルが愉快そうな顔を見せている。一体何の話をしていたんだろう。

 

「何の話をしてるんすか?」

 

「ソーナたちと非公式のレーティングゲームを執り行うことになったの。元からアザゼルが若手悪魔同士で試合を組ませる予定だったらしいのだけど、まさかソーナと当たることになるなんてね…」

 

「レーティングゲーム? 生徒会長さんと?」

 

部長が頷き、オレの言葉に間違いがないことを示した。

 

生徒会長も若手悪魔の一人ということで、オレたちが来た道とは違うルートを使って冥界に来ていたそうだ。他にも若手悪魔は四人くらいいるとか聞いたが、その中でも馴染みの深い会長たちと試合をすることになるとは。

 

しかしレーティングゲーム、ねぇ…。オレとしてはジャラジとやりあった時の嫌な思い出しかないし、なんとも微妙な気持ちを感じてしまう。けれど皆にとっては一度経験したものだから、心にも多少ゆとりがあるだろうさ。

 

「今回は若手悪魔同士の親善試合だ。前回は助っ人だのなんだのと面倒な事態が絡んでいたらしいが、今度の試合はそれはない。グレモリー眷属だけで戦うことになる」

 

となると、オレは不参加しか道はないってことか。前回はホストフェニックスが余裕のハンデで参加させてくれたんだが、今回はそういうわけにもいかないらしい。

 

「人間界の時間で現在七月二十八日。対戦日まであと約二十日間だな」

 

試合まで残された期間は、僅か二十日間。直感的には長いような気がするものだが、実際過ごしてみると案外あっさり過ぎ去ってしまうような期間だ。

となれば、その間にできることってのは限られてくる。

 

「修行、か……」

 

「そうだ。明日から開始予定で、すでに各自のトレーニングメニューは考えてある」

 

アザゼルは頷き、手のひらにメモのようなものを広げた。個々の課題でも載っているのだろうか、色々と事細やかに書いてある。

 

「明日の夜、庭に集合だ。そこで各自の修行方法を伝える。覚悟しておけよ」

 

『はい!』

 

アザゼルの言葉に全員が返答をした。皆、かなりのやる気に満ち溢れているのが分かる。

 

…そうだ。オレも、この期間で強くならないといけない。

今後の戦いのために。そして、俺自身に負けないために…。

 

 

 

「…八神、ちょっといいか?」

 

「アザゼル?」

 

その時、オレはアザゼルから呼び止められた。他の皆は温泉の準備ができたとかで、次々に温泉へと向かっていく。

そしてその場に、オレとアザゼル以外の人影がなくなったタイミングで…アザゼルは小声で告げた。

 

 

 

「…お前に、言っておきたいことがある」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

次の日の朝。俺こと兵藤 一誠は、他の部員の仲間たちと一緒に広い庭の一角で準備運動などに取り組んでいる。早速今日から特訓が始まるというわけで、皆どこか緊張した面持ちだ。

 

かく言う俺も結構緊張していたり。修行をする機会はこれまでにも何回かあったけれど、アザゼル先生から受けるものとなればめっちゃ大変なものなんだろうなって、なんとなく想像できるからね。

 

「全員、揃っているな」

 

グレモリー宅の扉から、資料やデータらしきものを持ったアザゼル先生が現れた。全員分の視線を集め、部員の人数を確認している。

 

その視線に合わせ、なんとなく俺も皆の姿を確認してみようとしたところ…あれ? 一人足りない。一番見慣れたあいつの姿がどこにも無いような…。

 

「よし、八神以外は全員揃っているな」

 

「シュウのことはいいんですか?」

 

「ああ。あいつは昨日、ちょっと早めに修行に取り掛かりたいって言ってきたからな。既に許可してあるから問題ない」

 

うーん、なるほど。そういうことか。

あいつのことだし、そんな感じのことを言うだろうなってとこは想像できる。けど、それはそれとして最初の集合までは一緒に来てもいいだろうにさ。

昨日も折角の温泉に入ってこなかったし、なんか悩み事でもあるのかな…。

 

「先に言っておく。今から俺が言うものは将来的なものを見据えてのトレーニングメニューだ。すぐに効果が出るものもいるだろうが、長期的に見なければならないものもいる。ただ、お前らは成長中の若手だ。方向性を見誤らなければいい成長をするだろう」

 

先生はそこまで告げると、手元の資料に視線を落とした。恐らくこれから、全員分のメニューを伝えていくんだろう。

 

「まずはリアス。お前は最初から才能、身体能力、魔力の全てが高スペックの悪魔だ。このまま普通に暮らしていてもそれらは高まり、大人になる頃には最上級悪魔の候補となっているだろう。だが、将来よりも今強くなりたい。それがお前の望みだな?」

 

部長は力強く頷く。昨日出会ったライバルの面々を見て、部長も燃えているのかも。

 

「なら、この紙に記してあるトレーニングを決算日直前までこなせ」

 

「…これって、特別すごいトレーニングとは思えないのだけれど」

 

「そりゃそうだ。基本的なトレーニング方法だからな。お前はそれでいい。全てが総合的にまとまっているからこそ、基本的な練習だけで力が高められる。問題は“王”としての資質だ。王は時によって力よりも頭を求められる。魔力が得意じゃなくても、頭のよさや機転の利きで上まで上り詰めた悪魔だっているのは知ってるだろ?

お前は期限までレーティングゲームを知れ。ゲームの記録映像、記録データ、それら全てを頭に叩き込め。王に必要なのは、どんな状況でも打破できる思考と機転、そして判断力だ。眷属悪魔が最大限に力を発揮できるようにするのがお前の仕事だ。ただ、これも覚えておけ。実際のゲームでは何が起こるか分からない。戦場と同じだ」

 

…お、おお。結構細かく分析してあるんだな。普段が普段だからちょっと不安だったけど、なんだかんだ言ってちゃんと考えてあったらしい。

説得力も段違いだ。俺も、多分部長も実践するしかないと感じさせられる。

 

「次に朱乃」

 

「…はい」

 

先生に呼ばれた朱乃さんは、どこか不機嫌だった。やっぱり堕天使というのが苦手らしい朱乃さんは、同じくアザゼルのことも苦手、それどころか少し嫌いなんだって言っていた。この前聞いたお父さんの話が関係しているんだろう。

 

「お前は自分の中に流れる血を受け入れろ」

 

「っ!」

 

え、そんなストレートに言っちゃう!?

 

「フェニックス家との一戦、記録映像で見せてもらったが、なんだありゃ。本来のお前のスペックなら、敵の女王を苦もなく打倒できたはずだ。

なぜ堕天使の力を振るわなかった? 雷だけでは限界がある。光を雷に乗せ、“雷光”にしなければお前の本当の力は発揮できない」

 

「…私は、あのような力に頼らなくても」

 

「否定するな。自分を認めないでどうする? 最後に頼れるのは己の体だけ。否定がお前を弱くしているんだ。辛くとも苦しくとも、自分を全て受け入れろ。お前の弱さは今のお前自身だ。決戦時までにそれを乗り越えてみせなければ、お前は今後の戦闘でも邪魔になる。“雷の巫女”から“雷光の巫女”になってみせろ」

 

先生の言葉に、朱乃さんは顔を曇らせたまま何も答えなかった。複雑極まりないってところなのかもしれない。やらなきゃいけないってことだけは理解してくれているんだろうから、俺は朱乃さんのことを信じるだけだけどね。

こういう時にあいつから言葉をもらえればいいんだろうけど、肝心な時に限っていないんだよなぁ、全く。

 

「次は木場だ」

 

「はい」

 

「まずは禁手を解放している状態で一日保たせること。それに慣れたら、実戦形式の中でまた一日。それを続けていき、状態維持を一日でも長くできるようにしていくのがお前の目的だ。あとはリアスのように基本トレーニングをしていけば十分な力を手にできるだろうさ。

剣系神器の扱い方はあとでマンツーマンで教えてやるとして…剣術の方は師匠にもう一度教わりに行くんだったよな?」

 

「ええ、一から指導してもらう予定です」

 

木場は淡々と話が進んで行く。するべきことは明確な分、簡単だ。けれど木場は真面目だから、きっと一から全てを学んでくるつもりなんだろう。滅茶苦茶強くなって帰って来そうだ。

 

「次、ゼノヴィア。お前はデュランダルを今以上に使いこなせるようになることと、もう一本の聖剣に慣れてもらうことになる」

 

「もう一本の聖剣?」

 

ゼノヴィアは先生の言葉に首を傾げた。もう一本の聖剣って何のことだろう。俺としてもちょっと気になる話だ。

 

「ああ、ちょいと特別な剣だ」

 

しかし先生は、ニヤッと笑うだけですぐに視線を動かす。その先にいるのはギャスパーだ。

 

「次にギャスパー」

 

「は、はいぃぃぃぃ!」

 

「そうビビるな。お前の最大の壁はその恐怖心だ。何に対しても恐怖するその心身を鍛えてやらなきゃいかん。もともと血筋と神器ともにスペックは相当なものなんだ。僧侶の特性、魔力に関する技術向上もお前を大きく支えてくれる。専用の『引きこもり脱出計画!』を組んだからそこで真っ当な心構えをできるだけ身につけてこい。全部が無理でも、人前に出て動きが鈍らないくらいにはなれ」

 

「はいぃぃぃぃっ! 当たって砕けろの精神でやってみますぅぅぅぅっ!」

 

…不安になることを言わないでくれよ。お前がいうと冗談に聞こえないからさ。

 

例の神器を安定させるリングは、どうやら長時間装着していると体に良くないらしいので、必要な時以外は外すようにしているんだ。だからこそ、そのリングが無くとも安定させるために心身を鍛える必要がある。

そのためのプログラムなんだろうけど…先は長いかもしれないな。ほら、すぐに段ボールに逃げ込もうとするし…。

 

「さて、同じく僧侶のアーシア」

 

「は、はい!」

 

アーシアは元気よく答えた。気合も十分入っている。いつだったか、アーシアは現状の自分が皆の役に立っていないと感じていると告白されたことがあった。俺は全くそう思ってないけど。あの回復能力には何度も助けられたし。

とはいえ、アーシアがやる気満々なら、俺も応援してやりたい。

 

「お前も基本的なトレーニングで、身体と魔力の向上。そしてメインは、神器の強化にある」

 

先生がアーシアの課題を告げた。でも、俺の頭に疑問が浮かぶ。

神器の強化? 今よりもっと強化するって、どういうことだ?

 

「アーシアの回復神器は最高ですよ? 触れるだけで病気やスタミナ以外ならなんでも治してくれますし」

 

「それは理解している。回復能力の速度は大したもんだが、問題はその触れなきゃならんって点だ。味方が怪我をしているのに、わざわざ至近距離にまで移動しないと回復作業ができないんじゃあなってことだ」

 

先生は俺の疑問に答えてくれた。

至近距離まで移動しないと、回復ができないのが問題…ってことは、アーシアの神器の強化案ってのはもしかして!

 

「アーシアの神器は、範囲を広げられるということ?」

 

「ご名答だリアス。こいつは裏技みたいなもんだが、“聖母の微笑”の真骨頂は効果範囲の拡大にある。俺たちの組織が出したデータの理論上では、神器のオーラを全身から発することで周囲の味方をまとめて回復するなんてことも可能なはずなんだ。

ただ、問題はアーシアの優しすぎる性格だな。性格上、アーシアは戦場で怪我をした敵を視認した時、そいつのことまで治療してやりたいと心中で思ってしまうだろう。それは敵味方を判別する神器の能力に妨げとなる。おそらくアーシアは判別する力を得られない。となれば今言ったとおりの範囲拡大はこのチームにとっての諸刃の剣となりかねない。だから別の方法で能力範囲を拡大させる必要がある。それは、回復のオーラを飛ばす力だ」

 

「そ、それはちょっと離れたところにいる人に、私が回復の力を送って治療をするということですか?」

 

「そういうことだ。さっきのが一定フィールド限定のものだとしたら、これは飛び道具バージョンってとこだろうな。直接触れずとも回復ができるようになる。直接触れて治すより多少効力は落ちるだろうが、それでも遠距離の味方を回復できる力は戦略を広くすることができる。前線に一人二人飛び込ませて、後方で回復役のアーシアと護衛役の誰かを配置すれば、理想的なフォーメーションが組めるだろうさ」

 

す、すげぇ! それが本当なら、アーシアはすごい役目を担うことになるぞ! まだ戦いにおいて未熟な俺でも分かる!

 

「王道だけど、シンプルに強い戦術だわ。通常味方を回復する術なんて、フェニックスの涙か、調合された回復薬ぐらいのもの。アーシアの神器は汎用性と信頼性に関して、それらよりも遥かに上だわ」

 

「そうだ。アーシアの悪魔をも治す神器の力はこのチームの特徴的な持ち味、武器と言える。あとはアーシアの体力勝負だ。基本トレーニング、ちゃんとこなしておけよ?」

 

「は、はい! 頑張ります!」

 

アーシアは再び、先生の言葉に元気に頷いた。

頑張れ、アーシア! いざとなったら、俺はいつでもアーシアの盾になるからな!

 

「次は小猫」

 

「……はい」

 

そして、最後に呼ばれた小猫ちゃんは…相当気合の入った様子だった。ここ最近ずっと調子が悪そうだったのに、今日は妙に張り切っている。

一体どうしたんだろう。皆、ちょっと心配してるんだよね。

 

「お前は申し分のないほどオフェンス、ディフェンスともに戦車としての素養を持っている。身体能力も問題ない。だが、リアスの眷属には戦車のお前よりもオフェンスが上の奴が多い」

 

「…分かっています」

 

ハッキリと言った先生の言葉に、小猫ちゃんは悔しそうな表情を浮かべた。

…ひょっとして、小猫ちゃんはずっとそのことを気にしていたんだろうか。そんなことはない。小猫ちゃんのパワーは有数で、単純な腕力なら眷属内でもトップランカーじゃないか…。

 

「リアスの眷属でトップのオフェンスは現在木場とゼノヴィアだ。禁手の聖魔剣、聖剣デュランダルと凶悪な兵器を有しているからな。ここに予定のイッセーの禁手が加わると…分かるな?」

 

そ、そうか。確かに木場とゼノヴィアのパワーは、この中じゃ抜きん出ているからな。

でも、俺だって禁手に至っても勝てるかどうかわからないのに…。

 

「小猫、お前も他の連中と同様に基礎の向上をしておけ。その上でお前が封じているものを晒け出せ。朱乃と同じだ。自分を受け入れなければ、大きな成長なんてできやしねぇのさ」

 

「………」

 

先生の言葉に、小猫ちゃんは何も答えなかった。

…封じているものって、何のことだろう。小猫ちゃんは一体何を抱えているんだ? 全く分からない。

 

「大丈夫、小猫ちゃんならソッコーで強くなれるさ」

 

「…そんな、軽く言わないでください…っ」

 

険しい表情。こんなに厳しい感じの小猫ちゃんは初めてだ。

励まそうとしたけど、逆効果だったみたいだ。むしろ地雷踏んでしまったんじゃ…。

 

はぁ…ホントに何でこういう時に限っていないんだよ、あいつは…。

 

「さて、最後はイッセーだが、お前は…そうだな。そろそろ来ると思うんだが…」

 

空を見上げる先生。一体何を待てばいいのかと、同じく空を見上げた俺たちを……どデカイ影が覆う。

何やら巨大なものが、こちらに猛スピードで向かっていた。怪物か、魔物か、妖怪か。謎の襲来者は、地響きとともに目の前に飛来した。大地が揺れ、俺は尻餅をつく。土煙が収まると、眼前にでっかい怪物が現れた。

 

十メートルを優に超えるであろうそれは、まさに怪獣と呼んで良さそうなものだった。大きく裂けた口に生え揃う鋭い牙。ぶっとい腕に、ぶっとい脚。左右に広がる大きな両翼。

 

…俺は、これを知っていた。幾度となく目にしたこともあるし、それどころか、俺にもこれが宿っている。

 

「…ドラゴン!」

 

「そうだ、イッセー。こいつはドラゴンだ」

 

先生は愉快そうに頷いた。やっぱりドラゴンか! すげぇデケェ!

 

「アザゼル、よくもまあ悪魔の領土に堂々と入れたものだな」

 

「ハッ、ちゃんと魔王様直々の許可をもらって堂々と入国したんだぜ? 文句でもあるのか、タンニーン」

 

ドラゴンは、先生と言葉を交わす。喋れるんだね、あのドラゴン。やっぱりこの世界のドラゴンというのは、案外喋るものらしい。

 

「…てなわけで、イッセー。こいつがお前の先生だ」

 

先生は、巨大なドラゴンを指差した。

なるほど、そういうことで待っていたのか。あのドラゴンが、俺の先生かぁ…。

 

 

…って、え?

 

 

「ええええええええええええぇぇぇぇっっっ!!??」

 

マジで!? え、あの怪獣が俺の先生!? あなたじゃないんですかアザゼル先生!!

 

「ドラゴンの修行相手はドラゴンが最適ってなぁ」

 

そんなもんなんですか、これ!? そんな単純な理由で選ばれたんですか俺の先生は!!

 

「久しいな、ドライグ。聞こえているのだろう?」

 

怪獣ドラゴンは、俺のほうを、改め俺のうちに存在するものに向けて語りだす。俺の左腕が勝手に輝き、赤龍帝の籠手が出現した。

籠手の宝玉が輝き、周囲にも聞こえるように音声を出して応えた。

 

『ああ、懐かしいなタンニーン』

 

「え、知り合いなのか?」

 

『こいつは元龍王の一角だ。五大龍王のことを以前話したと思うが、タンニーンは“六大龍王”だった頃の龍王の一匹だ。聖書に記された龍をタンニーンと呼ぶのだが、こいつのことを指している』

 

「タンニーンが悪魔になって今や六大龍王から五大龍王になったんだったな。転生悪魔の中でも最強クラスの、最上級悪魔だ」

 

はあ、龍王。確か俺を狙っている龍王もいるって話を前聞いたことがあるな。それの一匹だったのが、目の前のドラゴンってことか…。

いやいやいやいや、だとしたら怖すぎだろ! あれぐらいのサイズの化け物が俺を狙ってるだって!? そんなの絶対会いたくない! ドラゴン相手はヴァーリだけで十分だっての!

 

「魔龍聖タンニーン。その火の息は隕石の衝撃にさえ匹敵するとまで言われていて、未だ現役で活動している数少ない伝説のドラゴンなんだが…さてタンニーン。悪いが、この赤龍帝を宿すガキの修行に付き合ってくれ。ドラゴンの力の使い方ってやつを一から叩き込んで欲しいんだよ」

 

なんだって! 隕石級の破壊力を持つドラゴンだって!? 俺そんなドラゴンさんに修行をつけてもらえるんですか!? 俺死んじゃうやつだそれ!!

 

「俺がしなくてもドライグが直接教えれば良いのではないか?」

 

「それでも限界がある。やはりドラゴンの修行といえば…」

 

「元来から実践方式。なるほど、俺にこの少年を苛め抜けと言うのだな?」

 

おいおいおい! 俺いじめられちゃうのかよ! こんなのにいじめられたら即死亡だっての!

 

ドラゴンさんは大きな手を俺にむけて差し出す。握りつぶされる! と思ったら案外優しく包まれた。

なんだ、意外と優しかったりするのかも…と、ドラゴンさんを見上げた俺の目に、すごく嫌なものが写ってしまった。

 

「ドライグを宿すものを鍛えるのは初めてだ」

 

いやぁぁぁぁっっ!! なんか怖い笑みを浮かべてるぞこのドラゴン!! ホントに殺されるぅぅぅぅっっ!!

 

『手加減してくれよタンニーン。俺の宿主は想像以上に弱いんだ』

 

「死ななければいいのだろう? 任せろ」

 

ドラゴンさんは翼を広げ、今にも飛び立とうとしている! やだ、連れて行かれる! 助けて部長! 慌てて部長に助けを求め、涙ながらに部長の方を見た。

 

「イッセー、気張りなさい!」

 

部長は親指を立ててエールを送ってくれていた。

そうでした! 部長はトレーニングに関しては妥協を許さないお方だったんでしたぁぁぁぁっっ!!

 

「たぁぁぁすぅぅぅけぇぇぇてぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!」

 

俺の絶叫は、静かな冥界に虚しく木霊するだけだった…。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

部長の家が持つという領土の中で、最も離れた位置に存在する山。オレはそこを借りた上で、更にその山の最奥まで訪れていた。

俊敏体での全力疾走でさえ、移動するのにほぼ一日かかってしまった。前日に出発するのは成功だったよ。たぶん皆も、そろそろ修行に取り掛かる頃だろう。

 

ポケットの奥に突っ込んだ、神さんからもらった例の種を取り出す。これを蒔けば神さんのいる世界に行けるという話だったが、人目がつくところで使って良いものかと悩んだ結果、最も遠くの場所まで移動してきたんだ。あまり人に見られたくないし、丁度いいといえば丁度いい。

 

種を地面に植える。何が起きるのかと用心し、半歩下がったところでニョキニョキと何かが生え出した。それはオレの身長より少し高いところで止まると、二股に分かれ、扉のような形状になる。

 

これをくぐれば、あの世界に行けるというところだろう。意を決して扉をくぐると、オレの眼に映る世界は一気に変化した。

 

山奥にいたはずのオレは、真っ白な空間に立っていた。前後左右のどこを見ても、その空間は果てしなく続いている。

 

間違いなく。神さんのいる空間だった。

 

辺りを見回すオレの眼に、一人の人物の姿が映る。あの後ろ姿は神さんだ。神さんは振り返り、オレにむけて微笑みを浮かべた。

 

「来ましたね、八神さん。早速始めましょうか」

 

「……ああ!」

 




雑談ショー withリアス

八「皆修行に取り掛かったのはいいが…レーティングゲーム当日が心配だぜ…」

リ「大丈夫よ。貴方がいなくとも勝ってみせるから」

八「ええ…」

リ「そのために修行に出るんだから。きっと皆強くなって帰ってくるわよ」

八「そうですね…」

リ「…どうしたのよ、魂抜けた抜け殻みたいよ?」

八「いえ、試合は全く心配してないんすけど…当日暇になるなぁ…やっぱアレするしかないか…」

リ「…先に言っておくけど、またあの変な実況(十五話参照)はいらないからね?」

八「チェー、やっぱり」


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五十八話目

一年ぶりですな(唐突)
なんでこんなかかったのかと言われると、正直今回の話でめちゃくちゃ悩まされたってのが一つと、少し小説を進めることに意欲を向けられない事情があったってのが一つです。

なんとか完結までは持っていきたいので、頑張りたいものです……。

さて。先日、声優の梶裕貴さんと竹達彩奈さんがご結婚されたというお話を耳にしました。梶さんと竹達さんといえば、この小説の原作でもあるハイスクールD×Dが真っ先に思い浮かびます。

イッセーくんと小猫ちゃんが結ばれる世界。そんなifストーリーもあるのかなぁなんて想像してみたのですが、今後の物語のことを考えると……ハッハッハッ。ないな、これはない。強く生きてくださいレディ。

いえまあ小猫ちゃんにまったく非はないんですが、後のイッセーくんの異名がおっ◯いドラゴンからちっ◯いドラゴンになるのは、ちょっと犯罪臭が凄い。そんなものに子どもたちを熱中させるわけにはいきません。

あれ、おっ◯いも十分アウトだよね?

以上、ちっ◯いも悪くないよね! などと供述する変態野郎の戯言でした。





「さて。貴方自身を進化させて魔石の支配力にとらわれないようにするとは言いましたが、そもそもあの事件に巻き込まれたほぼ全ての人間が等しくグロンギの姿に変えられ、自我を失い、あのような地獄絵図を生み出してしまった中。なぜ貴方だけが、人としての自分を保っていられたのか。まずはそれについて軽く説明した方が良いでしょう」

 

あくまで憶測に過ぎませんが、と付け加えた上で空間にモニターを表示させる。見ると、画面にはかつての脅威であったグロンギ。ガミオの姿が映っていた。少なからず身震いしてしまう。

 

「あの日、貴方が元いた世界に現れたグロンギ。ン・ガミオ・ゼダは、自身が放つ黒煙に包まれた人間たちをグロンギ化させる能力を持っていました。

今となってはその仕組みの解析は不可能となり、どうやって人間をグロンギ化させてきたのかは不明です。ですが、その黒煙は人の身体に魔石を埋め込み、強制的に人をグロンギ化させてしまうのではないかと私は推測しています。

古代、グロンギという種族がどのようにしてあれほどの力を手にしたのか、ご存知です?」

 

「ああ、知ってる。元々ただの人間の狩猟民族でしかなかったグロンギ族は、宇宙から飛来した隕石から魔石ゲブロンを入手し、怪人としての力を手にしたとかいう話だろ?」

 

「そう。魔石から得られた怪人の力を存分に振るうことを選択したグロンギ族は、周辺諸国に対する侵略行為を開始させました。力を受け入れた彼らは、その力を己が意思のままに扱うことができた。

本題に戻りましょう。先ほど申し上げたように、私はガミオの黒煙の能力は、人間を強制的にグロンギ化させるものだと考えています。魔石ゲブロンは本来、その力を欲し、その存在を受け入れたもの。かつてのグロンギ族などに対しては、超人的な力を与える源のような存在でした。では、宿主がその存在を否定しようとした時、その身に何が起きてしまうのか…。私はそれの答えとなり、貴方の身に起きている事情を説明できるとある仮説を立てました」

 

ガミオの腹部に位置するベルトの中心部。グロンギの力の核とも呼べる魔石ゲブロンが拡大される。不気味な顔を模したグロンギのベルトは、魔石と呼ぶにふさわしい、ただならぬ邪気を帯びていた。

 

「恐らく魔石は、その宿主の魂を抹消し、抜け殻となった身体を支配してしまうのではないかと。

相手の意思とは無関係に対象をグロンギ化させる能力の恐ろしさの真髄は、宿主たる人間の魂を死滅させた上で抜け殻となった身体を操り人形のように動かし、かつてのような惨劇を生み出してしまうところにある…私はそう考えています」

 

モニター上に、八神が経験した地獄の光景が映し出された。

魂が死滅し、空っぽとなった身体を操られ、ゾンビのように不気味に動く元人間のグロンギたち。同じ境遇に立ちながら、より悲惨な運命をたどった彼らの姿に、八神は険しい表情を浮かべた。

 

「それで、オレがこうならなかったのは?」

 

「貴方が特殊だったから、としか言いようがありませんね。類稀なる精神力によって魔石の支配力に屈することがなく、魂が死滅することもなかった八神さんは、人間としての心を保ちながらも強力なグロンギの力を手にすることができた唯一の存在となったんです」

 

「…なるほどね」

 

口では理解を示すが、複雑だった。

聞いた話によると、かつて八神と同じようにガミオの黒煙を吸いながら、最期まで人として生き続けられた刑事がいたらしい。たくましく、頼りになる存在だったとかつての友は語っていた。なるほど、確かにその人物は精神的に“強い”人間だったと言えるだろう。

 

…自分は、それほどの強さを備えているのだろうか。今もこうして不安を感じずにはいられない自分のことを、強い人間だとは到底思えなかった。

 

「ところがそれは、グロンギ族と違って心から受け入れたものではありません。常に貴方の体内では魔石が身体を支配しようと活動を続けている。ここ最近で貴方の身に起きている異常はすべて、新しい世界で起きた様々な要因から進化を遂げた魔石による影響ですからね。

だからこそ、貴方は人間としてパワーアップし、魔石の支配力に劣らないようすることが今後の課題となるわけです」

 

何もない空間にホログラムのようなものが現れた。それは徐々に形を作っていき、巨大な影を生成する。

巨大な身体に三つの頭。八神も以前戦ったことがあるケルベロスそのものであった。

 

「貴方がご存知である個体を多少スペックを高めさせた強化体です。ひとまずはこれを倒すことを目標とし、それが達成された後、本格的な修行に入るとしましょうか」

 

神の言葉が合図であったかのようにケルベロスが咆哮を轟かせ、八神に突進する。すんでのところで飛んでかわし、グロンギ態に転身しようと力を込める。

 

「一応言っておきますが、今修行においてグロンギの力の使用は厳禁です。人間としての貴方を強化するというのが目的ですので、人間の力だけで戦ってください」

 

直後、神の言葉によって転身は中断されることとなった。追撃を仕掛けようとするケルベロスを前に、急ぎ対処をしようと構えるが、ケルベロスの前足による高速パンチが八神の反応速度より僅かに早く届いた。

 

強化体と言うだけあり、ケルベロスの速度はかつてと比べて大幅に上がっていた。人間の姿の八神には、とても捉えられる速度ではない。

 

(上等……やってやる!)

 

武器を錬成し、ケルベロスに突っ込んでいく。

グロンギの力一切の使用を許されないということは、人間態での各戦闘形態になることも禁じ手だ。あの力は元々、グロンギの力に多少の手ほどきを加えたもの。今修行で八神が使うことが許される力は、精々神から与えられた神器の力と己の手足のみ。

 

神としても、本当にケルベロスを倒すことを想定しているわけではない。これはあくまで前座だった。

修行を始める前に、彼が今、修行を始められる状態にあるのかどうかを見定めるための…。

 

 

 

その結果は、散々だった。

既に数日分の時が経過し、ほぼ休む暇なく八神とケルベロス両者はぶつかりあっている。

それだけ立ち向かってもなお、八神はケルベロスを倒すどころか、一発の決定打すら与えられずにいた。

 

(本日三十二回目のダウン。いくら強化した個体であるからとはいえ、一度戦って倒した相手である以上、戦い方などは頭にあるはずだ。それがここまで手も足も出ないとなると…それは彼の内面の問題、というところでしょうか)

 

今後の課題を詮索する。事実、八神の能力そのものは件の獣を倒すまではいかなくとも、適度に攻撃をいなしたり、数発程度の攻撃を加えたりするには十分のものを備えているはずだ。

故に、模擬戦の結果がこのようになった原因は、焦りや怒りといった内部的なところにあると考えた。

 

そして、その推測は的中していた。

 

(なんで…なんで思うように動かねぇんだよ…チクショウ…ッ!)

 

歯噛みし、この結果の不甲斐なさを招く自分の力に苛立ちを見せる。

より上手く戦うだけの実力を備えていながらもそうならないのは、徐々に強力になり、扱いきれなくなってきたグロンギの力に対する恐怖や焦り。それを乗り越えられない自分に対する怒りが、彼の動きを鈍らせているのだった。

 

悲嘆な表情を浮かべる八神の様子を横目に、神は下界の、オカルト研究部員たちの様子に目を落とす。心にゆとりがない現状、何か気分転換にでもなるようなものがないかと考えてのことだったのだが…。

 

「八神さん、一旦中断させましょうか」

 

「いや、大丈夫だ。十分休憩はとった。続けてくれ」

 

「誰も貴方の身体の心配はしていません。下界の方でどうやらちょっとしたトラブルがあったらしく、貴方も向かってあげたほうがよろしいんじゃないかと」

 

「…なにか、あったのか?」

 

トラブルという言葉を耳にし、八神の関心が一気に移る。部員たちのこととなると、そちらを優先させる心のゆとりがあることに安堵しつつ、下界で起きたトラブルについて告げた。

 

「塔城さんが倒れました。オーバーワークによる過労か何かでしょう。一息つきがてら、様子を見に行かれては?」

 

それは、以前から様子がおかしいと感じさせていた仲間が倒れたというものだった。

 

==========

 

 

神さんから下界に送り届けられ、オレは真っ直ぐ小猫がいるであろう屋敷の一室に向かう。

例の空間から下界に降り立つ際、その瞬間を誰かに見られるわけにはいかないだろうと、便所に転送されたことはこの際気にならなかった。気にしないことにした。

 

そんなくだらない事より、小猫のことが心配だった。ここに来る以前からずっと落ち込み気味だった小猫が、過労で倒れた。その出来事は、決して楽観視していい事ではないとオレの直感が告げていたんだ。

 

「小猫!!」

 

部屋の扉を、つい勢いよく開いてしまった。大きな音を立てて開いた扉に反応し、椅子に腰掛けていた朱乃先輩が顔を上げた。手当てをしてくれていたんだろう。先輩の傍には、タオルを浸らせた水桶の台があった。

 

「…先輩、小猫は……?」

 

「過労だと診断されましたが、もう大丈夫です。暫く身体を休めていれば、すぐに回復するだろうとのことでした」

 

「そう、ですか…それは良かった…」

 

ホッと息を吐き、ベッドに腰掛ける小猫を見る。倒れたことは事実だとしても、特に顔色が悪いだとか怪我をしているとか言った様子は見受けられなかった。

…が、どこか悲しげな様子なのは変わらない。消沈し、顔を伏せる小猫の様子は、ここに来た時と同じ。またはそれ以上の憂いを見せていた。

 

「なあ、小猫。どうして、過労でぶっ倒れるまで踏ん張り続けたんだ?」

 

デリケートな部分かもしれず、小猫にとっては触れて欲しくない話題である可能性も踏まえた上で、思い切って聞いてみた。触れて欲しくない話題で、デリケートな部分だからこそ、このまま何もしなければ。小猫はまた、倒れるまで無茶をしてしまうかも知れない。そう思ったからだ。

小猫は何も答えない。その様子は、この出来事が小猫の身上に何かしら起因となっているという一種の答えでもあった。

 

「そういえば、シュウくんもまだ小猫ちゃんの昔のお話についてご存知なかったのですね」

 

「小猫の話…ですか?」

 

朱乃さんが告げた言葉に耳を傾ける。

言われてみると、確かにオレは小猫のことについて知っていることは、他のメンバーと比べて圧倒的に少ない。どういった経緯で部長の眷属になったのかも不明で、そもそも小猫は悪魔になる前の種族にあたる情報すら知らない。

元から悪魔で、部長の眷属になったタイプなのか。イッセーやアーシアと同じく、人間から悪魔になったタイプなのか。ギャスパーのように、さらに異なる種族だったなんてことも考えられる。更には朱乃先輩や祐斗のように、何かしら深い事情から悪魔になったパターンのことまで考えると……非常に複雑だ。

 

「小猫ちゃん……いいかしら?」

 

小猫は俯いたまま、しばらく何も答えなかった。朱乃先輩に対する返答に悩んでいるようで、時間にすれば実に短い間だったはずのだが、その空気のせいか、異様に長く感じてしまった。

 

やがて意を決したらしい小猫は、俯いたままながら、ゆっくりと頷いた。

 

それから、朱乃先輩は語り出した。二匹の姉妹猫の話だった。

 

姉妹はいつも一緒だった。衣食住を常に共にし、ひと時たりとも離れることはなかったという。

親と死別した姉妹は、帰る家も頼る者もなく、一日を生きるだけでも懸命にならなければならない日々を送っていたという。それでも二匹の猫は、互いを頼りに、支えあい、必死に生きて来た。

 

二匹はある日、とある悪魔に拾われた。姉のほうが眷属になることで、妹も一緒に住むことができるようになり、ありふれた生活を手に入れることができた。二匹はそこで、幸せな時を過ごせると信じていた。

 

…だが、そこで異変が起きてしまった。

 

姉猫は、力を得てから急速に成長を遂げた。もともと妖術の類に秀でた種族だった姉猫は、転生悪魔となったことで隠れていた才能が一気にあふれ、魔力の力も開花し、仙人のみが扱えるという仙術までも発動させた。

 

短期間で主人を超えてしまった姉猫は、力に呑み込まれ、血と戦闘だけを求める邪悪な存在へと変貌。主人の悪魔を殺害し、『はぐれ』へと成り果てた姉猫は、追撃部隊をことごとく壊滅させるほど最大級に危険なものへと化していった。

 

姉猫の追撃を取りやめた悪魔たちは、その責任の追及する先を妹の猫に向けたという。『この猫もいずれは暴走するかもしれない。今のうちに始末したほうがいい』と。

 

そんな処分を待つのみとなってしまった妹猫を助け出したのが、サーゼクスさんだった。サーゼクスさんはその事件と関係のない妹猫には罪がないと説得し、自分が監視することを条件として事態を収束させた。

 

連れて帰られた妹猫は、信頼していた姉に裏切られ、更には他の悪魔たちに責め立てられたことの二重の辛さから、精神的に崩壊する寸前だった。

 

笑顔と生きる意志を失った妹猫を、サーゼクスさんは部長に預けた。部長と出会った妹猫は、少しずつ感情を取り戻していき、そして部長はその猫に、一つの名前を授けた。

 

 

 

ーー小猫、と。

 

 

 

「そんな過去があったんですか…」

 

正直、驚いた。小猫はあまり自分のことについて話さないし、つい最近まで何か迷いがあるような様子を見せることもなかったからだ。

小猫は元々、一匹の猫だった。そんな事実すら知らず、オレは本当に小猫のことを知らなかったんだってことを実感させられる。

 

「………なりたい」

 

「ん?」

 

小猫が震える声をあげた。ふとんを強く握りしめる様子から、必死に声を出している。

 

「強く、なりたいんです。祐斗先輩やゼノヴィア先輩、朱乃さん…イッセー先輩やシュウ先輩のように、心と体を強くして生きたいんです。ギャーくんも、強くなってきてます。アーシア先輩のように回復の力もありません。…このままでは、私は役立たずになってしまいます…。『戦車』なのに、私が一番…弱いから…。足手まといには、なりたくない……。でも、内側に眠る力…猫又の力は、使いたくない……使えば、私は…姉様のように……! もう、イヤです…もうあんなのは、イヤ……!」

 

…小猫がこんなに感情を露わにさせたところは見たことがない。普段からあまり感情を表に出さない小猫は、微かに笑ったり怒ったりするくらいで、ここまで表情を変化させることはなかった。だからこそ、オレには少し衝撃的だった。

 

そして、同時にやっと理解した。

小猫が過労で倒れてしまうまで自分を追い込もうとしていたのは、今後の戦いに備えて力をつけたくて。けど、その先にあるのが姉のような結末を迎える可能性だ。恐らく小猫にとって、それは迎えたくない未来。そんな矛盾に挟まれて、一人でガムシャラになっていたんだ。

 

その矛盾は、とても一人で支えきれるものじゃない。その重圧がとんでもないものだってのは、オレも…いや、オレが考えている以上のものなのかも知れない。

 

自分の奥底に眠る、危険な力。その力の存在は恐ろしく、しかし同時に、今後のことを考えた上でその力を欲してしまう。力をつけようとすればするほど、自分が自分でなくなる未来を想像してしまうんだ。

 

…ああ、全く腹ただしくなってくる。そんなもの、一人で支えさせておいていいはずがない。そんなことは、オレもよく分かってるはずなのに……。

 

「小猫は……強いな」

 

自然と、そんな言葉を口にしていた。僅かに顔をあげた小猫が、怪訝そうな様子を見せる。

 

「…こんな時に、お世辞なんて……」

 

「そんなものじゃない。内側に眠る力の危険性を知りながら、部長や皆の為にその力と向き合おうとしてる。間違い無く、小猫の心は強いよ。その重圧はとんでもないものなんだろうに、それに押しつぶされることなく、正面から向き合ってんだからな」

 

そう。まったくもって、お世辞なんてものじゃない。オレなんか、一体何度押しつぶされそうになったことか。なんなら、既にドン底の絶望だって経験した。

…オレが、人間でなくなった今のオレを受け入れられたのは、あいつがいたからだ。誰かを守ることにひたむきであり続けたあいつが励ましになっていた。

 

だから、重圧に押し潰されそうになっている小猫を救うには…一人で戦う必要はない、ということを理解してもらうのが一番だ。

 

「大丈夫だ。お前がその力に対し、どんな道を選んだとしても、お前ならその先の壁をきっと乗り越えられると信じてる。まずは一歩一歩、目の前の目標からこなしていこうぜ、オレたちと一緒に。だから、無茶だけはしないでくれ。約束だ」

 

小猫だけじゃない。朱乃先輩も、今回の修行で堕天使の力と向き合おうとしている。望まないものと向き合う時に、焦りは禁物。最も大切なのは、一歩一歩、確実に進んでいくことだ。小猫にとっても、朱乃先輩にとっても。

 

 

……オレにとっても、な。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

神さんのいる世界に戻ってみると、神さんはノンビリとティータイムを過ごしているところだった。さっきまでの戦いの跡は綺麗さっぱり無くなっている。

 

「おや、もうよろしいのですか?」

 

「小猫のとこには朱乃先輩がついてくれている。安静にしていればすぐに回復するだろうってことだし、もう大丈夫だろ」

 

神さんが、わざわざ下界の様子を見てオレを送り届けてくれた理由がなんとなく理解できた。自分の悩みに一生懸命向き合う小猫を励ますと同時に、オレにも精神的にゆとりを持たせること。それがこの人の本当の狙いだったんだ。

 

「…では、心の整理はもうできたってことでよろしいですね?」

 

「あぁ、面倒をかけた」

 

小猫にあんな偉そうなことを言っていたが、オレもどこかで焦っている部分があった。グロンギの力を抑えようと、少しでも早くパワーアップしようとするあまり、自分の動きに乱れか生まれていた。

この人はきっとそれを見抜いていたんだろう。だから、わざわざ時間をとって小猫のとこに向かわせてくれた。相変わらずなんでもお見通しなところ、ちょっといらただしい。

 

けど、今回ばかりは素直に感謝しておこう。おかげでパッチリと目が覚めた。この恩義はこれからの修行で返させてもらう。

 

「やろうぜ。今度こそ、あのスーパーワン公に“伏せ”を叩き込んでやる」

 

取り敢えず、さっきまでの不名誉を挽回するところからだ。無様を晒させてくれたお礼をキッチリと返して、次のステップまで進んでやろうじゃねぇか!

 

「いえ、もうあれはいいんです。あれはただの前座ですから」

 

「………オーマイゴッド」

 

「アイムノットユアゴッド、です」

 

神さんは、そんな機会を与えてすらくれなかった。どうやらオレは、あのワン公に弄ばれ続けたと言う屈辱を背負ったまま修行に取り組まにゃならんらしい。

しかもただの前座とまで言われ、オレはそのただの前座とやらに転がされていたことになった。あれ普通にキツかったんだが!?

 

この人は一体、どれほどの実力を備えているんだろうか。世界の神って言うくらいだし、もちろんそれなりの実力者なのは間違いないんだろうが、さっきのアレをそんな軽く言ってのけるほど強いのか、この人……?

 

「その状態なら、もう本格的なものに取り組んでもいいでしょう。時間もありませんし、サクッと取り掛かりましょうか」

 

「お、おお…いいけど、一体何をするんだ?」

 

ホワイトボード的なやつにカッカとペンを走らせる神さん。何を書いているのかといえば、多分メニューだとか課題だとかそんな感じのやつなんだろう。

 

くるりと回転し、ホワイトボードに書いてある面をこちらに向けられる。えーと何々…?

 

 

『基礎能力向上』

 

 

……え、これだけ?

 

 

「はい、これだけです」

 

「久し振りに心を読むなよ。…結構拍子抜けだな。もっと特別なことでもやるのかと思ってた」

 

「もちろん、他にも戦闘指南や武器術指南なども可能な限り行うつもりです。ですが何度も言うように、今回の修行の主な目的は人間としてのスペックを向上させることにある。

どちらかといえば肉体派の貴方のことだ。ごちゃごちゃしたことに取り組んでいくよりも、簡単簡潔なやり方で仕上げていく方が効率的でしょう?」

 

う、うーん。その通りなんだが、なんか脳筋バカって言われたような気がする…。でもそれくらいで強くなれるってんなら苦労しねぇんだけど……?

 

 

 

「因みに、これから行う修行内容をさっきまでの生ぬるいものと同様に構えていると…後悔することになりますので。気をつけてくださいね?」

 

 

 

ニコッ。神さんは微笑みかけた。

 

 

 

…オレには、断言できる。

 

 

 

この時のあの人の微笑みは、天使の微笑みなんかとは最もかけ離れたものだったと。

 




完結まで持っていきたいと言った直後でなんですが、この作品。リメイクしてみようかなぁなんて考えております。

というのも、やっぱ行き当たりばったりで始めたことなので続きを考えるのも大変でして。でも一方で愛着もありますし、このまま続けようかなぁってのも気持ち半分です。完結までやりたいって気持ちはマジですし。

まあまた随時お知らせします。それでもお付き合いくださる方がいらっしゃれば、どうぞまたよろしくお願いいたします。


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五十九話目


ジオウが終わり、ゼロワンが始まる。
時代の流れをまたもや実感し、令和の始まりを感じました。

さて、ジオウの最終話。ご覧になりましたか? 僕も最終話をしっかりと見たのですが、それについての感想を少々…。


エボルト倒した! ビルド、 完 結 !!!


…はい(笑)

いつか申したと思いますが、ラスボスの扱いって非常に難しいものと思います。あまりホイホイ出して、その度にアッサリ倒されてはラスボスの格が落ちると言うもの。アークオルフェノクが陰で泣いてるよ? なんてことにしてはいけないと思ってます。

まあそれでいくと、オーマジオウってライダーの中で最強論争を終わらせるほどのチート性能。スペックを知れば知るほど、どうやって倒すのこいつってなるレベルの強さです。
敵側も、ダグバエボルトゲムデウスと錚々たる面子でしたが、オーマジオウ相手ならやられても仕方ないかなぁ、当然かなぁなんて思います。なので格落ちはしてないかな? と。

…まあそれでも、一応まだ完全に倒しきれてないエボルトは出したらダメじゃん、と突っ込みたくなりましたけど(笑)。今後もしあいつが地球に現れて、どんな暗躍を見せたとしても霞んでしまいそうで…。

ま、フェーズワンだったから全然本気じゃなかったってことで。完全体ならこうはいかんぞってことでしょう!



グレモリー邸のバカでかい城門を通り、はたまたバカでかい庭に入った。今日ここで、修行を終えた皆と再集合を果たすのだ。

 

…ああ、あれから何日が経過したことだろう。

 

いや多分、部長たちの授業が終わる頃に合わせて下界に降りてきたわけだし? せいぜい十数日くらいの月日しか経っていないはずなんだけども。正直、オレの中では数ヶ月くらい長い時間を過ごしたような気分になる。ああ、久しぶりに“平和”というものを噛みしめている。空気ってこんなに美味しかったんだな。清々しい気分だぜ。

 

どうやらオレが一番乗りらしく、まだ誰も集まってはいない。まあここで修行してる人も何人かいるらしいし、外に出てる連中も間も無く一人、追って次々に到着するだろう。久しぶりの全員集合だ。

 

「おおーーい! シューーウーー!!」

 

このでっかい叫び声は、間違いなくイッセーの声だ。ふふ、残念だったなイッセー。お前は二着目だ、と自信満々に振り返ったオレの目に届いたのは…。

 

空を覆う、グレモリー本邸よりも大きい超絶巨大な影だった。

 

「…………………!!??!?!!?!?」

 

「じゃあな、タンニーンのおっさん! パーティでまた!」

 

『世話になったな。また会おう』

 

「ああ、オレも楽しかった。あのドライグに協力したのだからな。長生きはするものだ。そうだ、オレの背に乗ってパーティ入りするか?」

 

「マジ!? いいのか!?」

 

「ああ、問題ない。俺の眷属を連れて開催日にここへ来よう。詳しくは後でグレモリーに連絡を入れる。では、さらばだ!」

 

でっかい影、改め巨大ドラゴンははたまた巨大な翼をブワサァッ! と広げて空へ飛び上がっていった…。

 

『フッ、甘い龍王だ』

 

「いいヒトだと思うぜ。あった時は怖かったけどさ。やっぱドラゴンってかっこいいよなぁ…」

 

「…いや待て待て待て待て待てぇぇぇ!!」

 

狼狽しまくりのオレを完全無視して世間話に入るドラゴン組! 色々と説明しろよ! 無視しないで!?

 

「いや、え!? お前、あれなんなんだよ!!」

 

「何って、見たまんまだぜ? ドラゴン」

 

「分かってるわ! そうじゃなくてお前、何であれに乗ってたんだ!?」

 

「いやぁ、色々あって仲良くなっちゃってさ! 気持ちよかったぜ、あの背中!」

 

だ、ダメだ。今のこいつについていける気がしない…。あのクソ馬鹿デカイドラゴンと仲良くなって、その背中に乗せてもらってただと…? ダメだ。オレの理解の幅を超えている。

 

「なんか…頼もしくなったなぁ、お前…」

 

「へへっ、そうか? お前に言われるとなんか嬉しいな」

 

頼もしくなったのはメンタルだけかと思ったら、そういうことはない。要所要所の筋肉ががっちりとついていて、フィジカル面でもしっかりと鍛えてあるらしい。

本当に暫く見ないうちに逞しくなっちまってまあ…。

 

「やあ、イッセーくん。シュウくん」

 

「相変わらずだな、二人とも」

 

さらに聞き覚えのある男女の声。この声は、我らがグレモリー眷属の頼れる騎士。ユウトとゼノヴィアの声だ。二人揃って帰ってきたらしい。

 

「おう、久しぶりだな。ユウト、ゼノヴィ…ア……?」

 

「うん、私だ」

 

ユウトは変わらず、爽やかな笑顔で立っていた。ユウトもなかなか厳しい生活を送っていたようで、身体もやや引き締まり、これまた強くなっていることが目に見えてわかる。ボロボロのジャージ姿だが、そんなことは問題ではない。

 

…問題はゼノヴィア。お前だ。

 

「なんだよその格好。ミイラ女か」

 

ゼノヴィアは身体中をグルグルと包帯で巻いていた。格好はボロボロだが、ただそれだけ。まさにミイラ。これこそミイラ。

 

「失敬な。私は永久保存されるつもりはない」

 

「まっすぐ受け止めんな。皮肉じゃ皮肉」

 

相変わらず頓珍漢なやつだが、身にまとう雰囲気からわかる。以前よりも静かで、厚みに溢れている。これはまた強力になって帰ってきてんなぁ。前から凄いやつだったが、一段と頼りになりそうだ。

 

「イッセーさん! 木場さん、ゼノヴィアさん、シュウさんも!」

 

「あら、外出組は皆帰ってきたみたいね」

 

城門から、邸内組が迎え入れてくれた。僧侶服に袖を通したアーシアが真っ先にイッセーのもとに駆け寄る。

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

奥から朱乃先輩。それから、小猫が姿を見せた。よかった、どうやらすっかり回復しているらしい。

 

「小猫、元気にしてたか?」

 

「……はい」

 

小猫は静かに頷いた。まだ完全復帰ってわけにゃいかないらしいが、それでもいい。修行と同じように、あんまり焦っても仕方ないからさ。

 

「皆、積もる話はまた後で。シャワーを浴びて着替えたら、報告会に入りましょう」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

さて、時間にして実に何週間ぶりの再会になったのか。皆の成長を肌で感じる報告会が始まった。

外出組で部長の近くにいなかったイッセー、祐斗、ゼノヴィアの三人はそれぞれ大変な生活を送っていたそうだが…。

 

いやなんとも、イッセーの内容が頭一つ抜けて酷かった。

 

「こちとらあのお山でドラゴンに丸一日追っかけ回されて過ごしてたんだぞぉぉ!! 何度死にかけたことか!! うわぁぁぁぁっっ!!」

 

あーあ、泣いちゃった。

外出組でない連中はグレモリー邸で。外出組もそれぞれ山小屋かなんかで過ごしていて、衣食住に不便はない生活を送っていた。

 

一方、イッセーは山にこもり、家もなけりゃ食事もない。動植物を狩ってさばいて食べ、水は掬った濁水を殺菌して飲み、布団は葉っぱ一枚という過酷な自給自足。しかもその中でドラゴンと地獄のランデブー。

アザゼル曰く途中で逃げ出すと思ってたら最後までやり遂げられ、想定外だったんだとか。オレもそんな生活送れないだろうし、送りたくもない。

 

「うう…部長に会いたくて、毎晩部長の温もりだけを思い出しながら葉っぱにくるまって寝てたんだ…辛かったんだぞ、あの生活…。ドラゴンのおっさん容赦しねえし、寝てる時も襲ってくるし、岩が吹き飛び山が燃え…あんな生活こりごりだぁ、逃げなきゃ死ぬぅ……」

 

「可哀想なイッセー…よく耐えたわね。ああ、こんなにもたくましくなって…。あの山には名前がなかったけれど、イッセー山と名付けることにするわ」

 

「それでも、かなり体力は向上したようだ。これでいざ禁手に至っても、鎧を着ていられる時間がそこそこあるだろうさ」

 

メソメソと泣き声をあげるイッセーを、部長とアザゼルが慰めて……っていや、ちょい待ち。今、これでいざ禁手に至っても〜と仰いました? それってつまり…。

 

「なあイッセー、結局禁手には至れなかったのか?」

 

「うわぁぁぁぁっっ!! ちくしょおぉぉぉぉぉっ!!」

 

更に号泣。禁手に至るというイッセーの修行の目的、達成できなかったらしい。

 

「ま、至れない可能性は予想していた範囲でもある。ショックを受けることもないさ、イッセー。禁手ってのはそれほど劇的変化がないと無理ってことだからな。サバイバル生活とドラゴンの接触で何かしら変化があればと思ったんだが、時間が足りなかったか。せめて、あと一ヶ月…」

 

あと一ヶ月なんて無理! と喚き、イッセーは部長のもとにすがりついたまま離れない。かすかに首を横に振って行う明確な意思表示。本当に辛い日々だったようだ。

 

「お前は! お前はどうなんだよ、シュウ!」

 

不意に顔を上げたイッセーが、ビシッ! とこちらを指差して叫ぶ。イッセーの言葉に同調するように、部長はそう言えばと続けた。

 

「確か、シュウは私たちより一足先に始めてしまったものね。アザゼルからの課題も聞かされてないし」

 

「あ〜そういやそうだった。オレは…」

 

「まあ、お前らにはいずれ言うことか」

 

オレの言葉を遮ったアザゼルはゆっくりと立ち上がり、なにやら真剣な面持ちを見せた。つられ、皆の表情も自然と曇っていく。

…え、ちょっと。オレの身の上話をそんな怖い顔でするんです?

 

「そもそも俺は、こいつには特に課題を与えてねえ。こいつは既に独自の方法で上級悪魔に匹敵するほどの実力を備えてきている。それで俺がわざわざ言ってやらなきゃならんことがなかったってのが一つだ」

 

「ひとつ…?」

 

ユウトがかすかに疑問を抱き、アザゼルが頷く。

修行を始める一日前。温泉に入る前に個人的な呼び出しを食らったオレは、アザゼルからこう告げられた。

 

『俺がお前に提示できる課題はなにもない』

 

その言葉の理由は主に二つ。ひとつ目はアザゼルが言っていたようなことだ。

本来この修行は、後日控えたレーティングゲームに向けての強化訓練だ。ところがゲームに参加しないオレはあくまでついでという扱い。なにかしら課題みたいなものがあればとは思っていたんだが、不参加のオレはゲームの対策を練る必要はない上に、皆と違って具体的な目標もなく、能力向上という至極単純な課題しか提示できなかった。それがひとつ目の理由だ。

 

そして、もうひとつは…。

 

「もうひとつ。俺が唯一、八神の力に関することでアドバイスできそうな要素っつったら神器の力くらいなもんだったんだが…はっきり言おう。俺はこいつの神器を知らねえ」

 

そう、こういうこと。……ってか、アザゼルさん、なんでそんな怖い顔してんの? 皆もなんか空気重たいし、なにごと?

 

「先生が、知らない神器……?」

 

「いや、正確にはこいつの神器“真理の扉”については知っている。だが俺の知る限りでは、その神器は精々化学反応式に表されるようなごく一般的な変化に影響を及ぼすものであって、物質の形状を根本から変えちまうような力はなかったはずなんだ。

これでも神器についての知識は誰より詳しい自信があったんだが、初めて顔を合わせた時にゃ驚かされたもんだ。いきなり目の前で俺の知らない力が現れたんだからな」

 

アザゼルは、変わらない表情のままここまで告げて、タバコに火をつけた。

冥界にタバコなんてものもあるんだ、なんて言える空気ではない。皆、何か聞いてはいけないことを聞いたのでは? とも言いたげな表情だ。

 

その後、何人かは不安そうにオレの顔を眺めて……オレが普通の、いや強いていうなら若干呆れただけの様子でいることに困惑してた。

 

いや全く。いたずら心も大概にしていただきたいものだ。

 

「おい、なにをそんなシリアスっぽく締めようとしてんだ。前に話した時はもっと単純なもんだっただろうが」

 

呆気にとられた皆の様子を、ククッと肩を揺らして笑うアザゼル。うん、そんな大ごとにする話題じゃないんだなこれが。

 

「これまでの“真理の扉”の所有者は揃いも揃って科学にしか興味ない、戦いとは微塵とも縁がないような学者ばかりだったからな。偶々こいつが、これまでの所有者が思いもしなかった使用法を編み出しちまったってだけだろう。それに、思わぬ進化を遂げるのも神器の性質の一つだ。何回か調査してみたが、何も心配することはない。

まあそういうわけで、俺は神器についても何も伝えられず、八神には自由に修行するよう言ってあったんだ」

 

「も、もう。不安にさせるようなことをしないで頂戴…」

 

皆安心したのか、フッと息をついた。まあ正直オレもこのケースについては若干不安になったんで、持ち帰って神さんにも聞いてみたんだが…。

 

『転生において特典を与える際は、矛盾が生じないよう元の世界にも存在する範囲で力を与える、というしきたりがあってですね。私もそれに従い、その世界に元から存在する“神器の扉”という力を貴方に持たせました。なので、貴方の力が他の誰かにとって認知されないものである、なんてことがあるはずはないんです。そのアザゼルというものが言うように、偶然の産物だと思いますよ』

 

とかなんとか。なんで、誰も知らないというこの力は何も問題ないものらしい。

 

「で、どんな修行をしたんだ?」

 

ポロっと口にされたイッセーの言葉。

 

 

 

…修行? オレの修行か……オレの修行は……

 

 

 

「まあ……今こうして生きてる、ということがどれだけ幸せなことかを実感できたぜ……?」

 

「…何言ってんだ?」

 

理解されなくとも良い。今、こうして皆と話し、笑い、美味しい空気を吸っていられることの幸せは何より儚いものだ。うん。もう思い出したくないのでこれでいい。

 

「ま、そういうわけで報告会は終了、明日はパーティだ。今日はもう解散するぞ」

 

アザゼルの言葉を最後に、報告会は終わった。

明日はパーティがある、とのことだが…。

 

…まあ、これは一波乱あるな。修行の成果、早速披露することになりそうだ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

次の日の夕暮れ時。皆、それぞれがパーティに向けての準備を進めている。

 

曰く、このパーティとは各御家の連中が行う交流会のようなものらしく、定期的に行われるものらしい。お偉いさん方が集まって、楽しくお酒を飲みながら楽しむ場として利用し、そのまま四次会五次会と入っていくそうな。

その中のおまけとして、若手悪魔の交流なんかも含まれていたり、くらいのものなんだとか。人間も悪魔も、交流と銘打って飲みに回りたいなんて感覚は同じくあるものらしい。

 

眷属の皆様方にとっては他の家に対してのご挨拶こそあれど、あとは単純に楽しめばいいもの。オレなんかは本当にフリーなんで、難しい準備をすることはない。まあ最低限のマナーは守んなきゃだが。

 

というわけで、格好としては基本的に学生服と、グレモリー家の紋様付きの腕章さえつけてれば良し、なんだとか。オレもその格好で客間に出た。

 

「俺たちの夢を叶えるためにも、俺たちは今度のゲーム、絶対にお前たちに勝つ」

 

「いや、ダメだ。俺たちが勝つさ!」

 

客間に出たら、オレたちと一緒に会場入りする会長に付いてきた匙が、イッセー相手に火花を散らしあっている。知らないうちにいいライバル関係になったらしく、二人して今度のゲームに対する熱い想いを語っていた。

 

行ってないからよく分からんが、前の若手悪魔の集まりでちょっとした出来事があったとかで、それ以来会長たちは部長たちに絶対勝つと闘志を燃やしている。匙の言葉にあった、夢を叶えるってのがキーワードになっていそうだ。

 

今の部長たちと会長たちとでは、圧倒的なまでの力量差がある。赤龍帝に禁手の使い手、聖剣、時間を止めるチート能力。見下すわけではないが、はっきり言って会長たちに勝てる算段は見えてこない。

…だが、だからこそ怖いんだ。圧倒的な力量差は、弱者である側の勢い次第でアッサリと覆ってしまう。部長たちが油断するとは思えんが、この布陣で大どんでん返しなんか喰らおうもんなら…なんて考えるとな…。

 

 

 

「ところで、匙」

 

「なんだ?」

 

「女性の乳をつつくとブザーになるらしいぜ」

 

「…な、なんだよそれ!」

 

一瞬でいかがわしい話題が始まったのはスルーしておこう。

 

 

 

「イッセー、シュウ、お待たせ。あら、匙くん来ていたのね」

 

客間に、着替えに出ていた女性陣が帰ってきた。女性陣は皆、ドレスに着替えてきたらしい。

 

「すっげぇぇぇぇっっ!! 皆、お化粧してドレス着て髪も結ってる! お姫様みたいだぁぁぁぁっっ!!」

 

うん、らしいね。

 

全部言われたから割愛しますけども、皆綺麗に着飾ってきていた。なんだか皆、バッチリと決まってる。なんでかギャスパーもドレス姿でいるのは、着てみたかったとかそんなところに決まってる。

 

…そんな中、チョコチョコと小猫が歩み寄ってきた。何かを期待してるかの様子だ。

 

まあ、うん…前まで元気なかった小猫がしっかりと着飾ってきたんだ。…こ、ここは、オレが一発頑張らなきゃなるまい。

 

「ああ。よく似合ってるよ、小猫」

 

頭を撫でながら言ってみると、小猫ははにかんだような小さく柔らかい笑顔を見せた。よ、よし。頑張った甲斐あったか。よかった。

 

いやぁぁ後ろで朱乃先輩が怖いオーラ放ってるぅぅ。ここは堪忍してください先輩、貴女も十分よく似合っておりますので…。

 

「皆さま、タンニーンさまとその後眷属の方々がいらっしゃいました」

 

執事さんの言葉につられ、庭に出る。その先に広がる光景は、なんとも圧巻だった。

 

以前の巨大なドラゴンが十体ぐらい? 庭を埋め尽くしていた。この庭もスンゲェデカイってのに、それを埋め尽くすほどの数のドラゴンたち。ほんとここに来てから、大きさの基準が分からなくなりそうだ…いやもうわかんねぇわ。

 

「約束通りきたぞ、兵藤一誠」

 

「うん! ありがとうおっさん!」

 

前見たドラゴン…多分タンニーン? それとイッセーが親しげに会話する。これをおっさんと言ってのけるイッセーは、将来大物確定だわ。もうホントに頼もしい。

 

「お前たちが背に乗ってる間、特殊な結界を背中に発生させる。それで空中でも髪や衣装やらが乱れることはないだろう。女は、その辺大事だからな」

 

「ありがとうタンニーン。会場まで頼むわ。シトリーの者と、人間が一人いるのだけど、大丈夫かしら」

 

「おお、リアス嬢。嬉しい限りだ。そちらの件は任せてくれ」

 

非常に紳士的な対応を見せるタンニーンさんのお陰で、皆それぞれドラゴンの背に乗る。改めて乗ると…マジでけえ。それしか出てこねぇ。

 

「それでは、ゆくぞ!」

 

タンニーンさんの言葉とともに、ドラゴンたちが次々に飛び上がる。オレが乗っていたドラゴンも翼を広げ、大空に羽ばたいた。

 

…ああ、ユウスケ。かつての友よ。オレは今、ドラゴンに乗ってます……。

 

 

パーティ会場となるのは、超高層高級ホテルという人間界にもありそうな施設だった。いやスケールが段違いだが。駒王町が丸々入っちまいそうなくらい大規模で、そろそろ頭がおかしくなりそうだ。

そこから少し離れた競技場っぽいところに、ドラゴンたちは降り立った。上空に差し当たったあたりで下からナイター用のライトがドラゴンを照らすから、さながら怪獣映画のような雰囲気だった。

 

地上に降りて、ドラゴンと別れ、さあ会場へ向かおう!…というオレたちを、また大きなリムジンが迎えに来たんだなこれが。もう頭がおかしくなった。

 

リムジンの中で各々が言葉を交わすうちに到着したホテルは、近くまで来て改めてその大きさに驚かされる。……頭が痛くなってきた。

 

「はぁ……」

 

「どうかされましたか? シュウくん」

 

思わずこぼしたため息に、朱乃先輩がいち早く反応してくれた。

 

「いえ、流石に冥界の規模のデカさに疲れてきただけなんで…」

 

実は部屋の大きさにも落ち着かなくて、毎晩あまり寝れてなかったり。だってあのベッドの大きさは明らかに異常でしょうと。

 

思えばイッセーが平気そうなのが一番の驚きだ。こいつの器のデカさが故なのかなんなのか。アーシアやゼノヴィアも疲れた様子がねえし、緊張しきってんのって、もしかしてオレだけ?

 

「そうね…どこかで休憩させてあげられればいいんだけど…」

 

「大丈夫っすよ。皆、挨拶なんかもあるんでしょ? どっかで休んでますんで、行ってください」

 

「それでは、ソファがある場所までご案内しましょう。こちらに」

 

素早い対応をしてくれた従業員さんの後を追うべく、エレベーターに乗って会場入りする皆を見送った後、移動する。案内された先には、またまたおっきなソファが……?

 

「あれ、ちっちゃい」

 

「人間の方がお見えになるとのことで、馴染みあるであろうものをご用意させていただきました」

 

すげえ、なんともスムーズで的確なご対応! 実はオレみたいなパターンも少なくないってことなんだろうか。礼を告げたが、従業員さんは硬い表情を変えず、綺麗な一礼をした。

 

「それでは、ごゆるりと」

 

去っていく従業員さん。…いやあ、流石に疲れた。ここにきて驚きの連続だったもんな。今すぐにでもソファに腰掛けたいところなんだが…。

 

後にしとくか。先に片付けておきたいことができた。一回座ったら、もう立ち上がれねぇ気がするし。

 

一旦外に出よう。出ないと何も始まらねえ。クルリと振り返ったオレの視界には、相変わらずデカイ会場にざわめく人々で埋め尽くされていた。

 

中には知り合いの一人や二人…もいないかね。ここは冥界で、学校関係はほとんどが若手悪魔のメンバーだからここにはいない。他の知り合いもだいたい魔王の関係者だから、なおのことだ。

 

好都合だ。あまり大ごとにしたくないんで、誰にも気づかれないようにそっと外にでて…って、あれ?

 

「……どこだここ」

 

…ヤバい。デカ過ぎてどこがどこなのかさっぱりだ。周りにいる人は誰もが知らない人物だし、何というか初めて入ったショッピングモールで迷子になった頃を思い出す。この規模だと、新宿で迷子になったって言った方が近いか。

 

しまったな…従業員さんに言っても不審がられたら面倒だし…せめて会場の地図だけでも貰ってくるか…?

 

「お、お久しぶりですわね、人間」

 

突如、声をかけられた。

妙だ。オレには悪魔の知り合いなんて、若手かお偉いさんかのどちらかで、他にはいないと思ってたんだが…しかも久しぶり? 会ったことあんの?

 

振り返った先に見えたのは、はたまた綺麗なドレスと、特徴的な縦ロールの金髪。明らかに良い家庭のお嬢さまって感じの女の子だった。

 

…いや誰だよこの子。オレにこんな知り合いいねぇよ。しつこく言うが、オレが悪魔の中で知ってるっつったら……って、そう言えば。

 

「お前…あの焼き鳥ホストんとこの」

 

「レイヴェル・フェニックスです! 焼き鳥はやめてくださいませ!」

 

あ、思い出した。そうだそうだ、フェニックスがいたっけな。上流階級なのは間違いないながら、若手でもない、魔王関係者でもないと言えばこの家があった。

 

レイヴェル・フェニックスと言えば、かつてレーティングゲームで戦ったライザーんとこの眷属の一人だ。フェニックスの名を持つところから分かるように、ライザーの妹だったりする。

 

「悪かったよ。ライザー、だったか? あいつは元気にしてんのか?」

 

「ええ。少々塞ぎ込んでしまった時期もありましたが、かつて軽んじていた貴方に助けられたという事実を受け止め、今では力をつけるべく日々励んでおりますわ。あの日のお礼を、改めてさせてくださいませ」

 

助けられた…。多分ジャラジの魔の手から救った、なんて思っての言葉なんだろうが、それは違う。

 

「礼を言われることでもねぇよ。あの時、オレがもっとスムーズに奴を倒していられれば、あんな目に合わせることもなかった。…むしろこっちが謝んなきゃって思ってた」

 

あの日…オレがジャラジを倒しきれず、隙を与えてしまったばっかりに、不必要な苦しみを与えることになってしまったんだ。

針を脳に植え付けられ、死ねない身体で何度も針で突き刺される痛みと苦しみ。それを味あわせるきっかけを作ったのは、間違いなくオレなんだ。

 

「いえ。それでも、私たちが手も足も出なかったかの敵に、貴方がお一人で立ち向かい、打倒したのは事実ですわ。…本当に、命を救われたと感じております。感謝いたしますわ」

 

オメー、さては引かないタイプだな?

 

…まあ、それでもこう言ってくれるのはありがたいものだ。あの戦いで一番心残りだったことだから、少し気分が楽になる。

 

「…そうか。んなら、素直に受け取っておこう。ありがとな」

 

「ご迷惑でなければ、何かお返しを差し上げたいところなのですが…何かお困りでしたご様子。私でよければ、お力になりますわ」

 

「お、そりゃ助かる。わけあって一旦外に出たいんだが、あまりにバカ広くて迷ってたんだ。案内してくれるか?」

 

「は、はい! お任せください!」

 

ずいっと寄せられた顔に、キラキラと輝く瞳。さっきは良い家庭生まれのお嬢さまと言ったが、それに加えて歳相応の少女らしさもある。小猫とは違う意味で可愛らしい人物像で、今まで出会ったことのないタイプだ。

…そしてやっぱり、オレの苦手なタイプである。

 

こちらに付いてきてくださいと、レイヴェルは進み出す。何だかとても嫌な予感がするんだが、気にしないことにし、彼女の後を追う。

 

「と、ところで…えっと……」

 

途中、レイヴェルがゴモゴモと何かを口にし始めた。そう言えばちゃんとした形の自己紹介もしていなかった。多分オレの名前は既に知ってはいるんだろうが、いい機会だし簡単に名乗っておくとしよう。

 

「八神 柊ってんだ。まあ、好きなように呼んでくれ。皆もシュウって気軽に呼んでくれてるからさ」

 

「お名前で呼んでもよろしいのですか!?」

 

「お、おう…いいけど…?」

 

ものすごく食いついてきた。釣り針を垂らした直後に食いつく魚のごとし。

 

「コ、コホン。それでは、遠慮なく、シュウさまと呼んで差し上げてよ」

 

堅苦しい呼び方とともに、どこか満足げなレイヴェルはスキップ混じりに歩を進める。

…ああ、うん。楽しそうだ。楽しそうなのは何よりだ。

 

楽しそうにしてる理由は……取り敢えず、気にしないことにしよう。

 

「こちらですわ。ここの扉から外に出られます」

 

…気がつくと、目の前にどデカイ扉が佇む大広間に着いていた。結局ボーッとしすぎてて道を覚えてねぇし、帰りにまた迷うことになるんだろうな。何やってんだよオレほんと…。

 

「ああ。サンキューな、レイヴェル」

 

「ーーーーっっ!!」

 

ともあれ、礼を言わなきゃと。素直に礼を言ってみたところ、みるみるレイヴェルの顔が紅く染まっていった。

 

「え、ええ! まったく、ぜんっぜん構いませんことよ! また、お気軽にお呼びくださいね!」

 

ピューッと、駆け足でどこかへ去っていく。その足はとても素早く、あっという間にレイヴェルの姿はオレの視界から消えてしまった。

 

「…よし、要件を済まそう」

 

頭を一旦切り替え、扉を開けて外に出る。そう、ちゃんと切り替えた。取り敢えずレイヴェルのことは考えないことにした。

 

さっきドラゴンに乗ってこっちに来た時から、なんとなく外の様子は眺めてた。少し離れた位置に森があることを確認している。

 

これから向かう目的地は、そこだ。誰かが付けてきてないかを確認し、森に向かって穂を進める。

 

…何をしに向かうのか。それは、非常に簡単なことだ。

 

神さんとの修行の中で、オレは最低限、魔力というものを探知する力を身につけた。オレ自身が魔力を使うことができなくても、誰かの持つ力を探知できることは役に立つと思ったからだ。

 

その力は、敵の力量をなんとなく推察するという、オレが以前から直感で行なってきたことを応用する形で習得できた。なんか神さんが魔力使いに慣れていたことも功を成したと思う。あの人がニッコニコで大地を抉る魔力弾プッパしてきた時は冷や汗をかいたという思い出。

 

そのお陰で、なんとなくしか測れなかった皆の悪魔としての力を、より深く理解することができた。

 

まあ、それはこの際置いておくとして、だ。

 

この会場に到着した時…微かながら、懐かしい力を感じたんだ。

優しい力では決してない。慣れ親しんだ力ってわけでもないんだが…誰かに久しぶりに出会ったような、そんな感覚に近かった。

 

だがその力は、本当に微量だった。魔力に長けた部長たちどころか、他の悪魔たちがほとんど気がつかないくらい僅かなもの。正直オレは気がつけたと言っても、その力そのものを感じたわけではない。美味そうな匂いにつられ、匂いのもとを辿った先に見た宝物。つまりオレが最初に気がついたのは別のもので、近くにあったこの力を探知したってこと。つまり、本当に偶然によるものだった。

 

力を辿り、森に入る。話を続けるが、そんな誰も気づかないような微量な力に、なぜ懐かしさなんかを感じたのか。

 

そもそも魔力を探知する力は修行の成果によるもので、それ以前に会ってきた人たちの力がどんなものなんかは知らない。例えば、いつか出会ったセラフォルーさんとかその他の魔王がめっちゃ強いのは直感で推察してる。更には冥界内部に、いくつか超強力な魔力を感じるんでそのうちのどれかが魔王の一人一人なんだろうってのも予測できる。ただ完全には一致しないんだ。

力を察しても、それが誰のものなのかは一回会ってみなきゃ分からない。『なんだ! この強大な気は!?』ってなるやつと『この強大な気は、フ◯ーザ!!』ってなるやつの違いみたいなもんだ。

 

今回のこれは明らかに前者の反応になるべき筈だった。オレが知っている人の誰にも当てはまらない力は、すなわちオレの知らない力ってことになるはずだから。…だというのに、オレはなんとなくこの力を知っているんだ。

この力が、オレの知っている人物の一人とよく似ていることも理由のひとつなんだろう。その人物も少し特殊な力のようで、素人目でも結構分かりやすい。それに酷似してるってだけでも、この力に親しみを感じることはあるだろうが、なにより…。

 

これまで、何となくでしか感じられなかった違和感に似てるんだ。

 

「一緒に住んでたんだから嫌でも分かる。…いるんだろ? 出てこいよ、クロ」

 

森全体に聞こえるよう、はっきりと告げた。

 

森は静まり返っていた。あわよくばやり過ごそうって魂胆からなのかどうなのかは知らんが、生憎オレは確信を持って来てるわけだし、あっちが無視したとしても別の要件もある。その時はこっちから押しかけるだけだ。

 

やがて、森の奥から人影が現れた。

 

「…それがお前の本当の姿…か……?」

 

現れたのは…はだけた着物を身に纏い、女性特有の…きょ、胸部を、さらけ出し、あまつさえ、脚部を、見せつけるような…そんな服装の…女性だった。

 

「貴方に会いに来たわけじゃないんだけどにゃ〜。まあでも、久しぶりね、ご主人様♡」

 

クロ(仮称)は、ウインクとともに、気を抜けさせる挨拶なんかして来やがった。

 

…だがな。ひとつだけ言わせろ。元飼い主としても、健全男子としても!!

 

 

 

「不埒だ!!」

 

 

 




雑談ショー withゼノヴィア

ゼ「しかし、まさか八神が疲労でダウンとはね」

八「うっせ。あんなスケール違いの中で平然としてられるお前らの方が意外だわ」

ゼ「平然とはしてないよ。私も驚きの連続だ」

八「そうか? 昨晩もなんか落ち着けなくて、一睡もできなかったんだが。ゼノヴィアはどうだったんだ?」

ゼ「ああ、私も昨夜は落ち着かなくて眠れなかった」

八「やっぱそうか。あのデカさのベッドじゃ落ち着かなくてさ」

ゼ「アーシアも緊張して眠れなかったそうだから、二人でイッセーの部屋に移ったんだ」

八「……え」

ゼ「三人で使えば眠れるかと思っていたんだが、男と寝るのは緊張してな。中々寝付けなかったよ。イッセーやアーシアはすぐに眠ってたが、流石だな」

八「…あ、はい、そうすか。そっちでしたか」


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