遊戯王 ARC-Vs 儀式次元追加版 (崖っぷち)
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番外
「ギユウ スイゴのカード集」


蛇足


無名の傭兵

レベル4

 

戦士族

 

【名前を失った剣士。仲間であっても、彼の過去を知る者はいない。正体不明の人物だが彼の持つ勇気だけは仲間も認めている。】

 

AT1800/DF1800

 

無名の医師

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが墓地に存在するとき、このカードをゲームから除外することで自分の墓地のこのカード以外の『無名』と名のつくモンスターカード一体を手札に加える。この効果を発動したターン、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。一ターンに一度、そのモンスターの攻撃を無効にし、攻撃したモンスターの元々の攻撃力の半分の数値分相手のライフは回復する。

AT0/DF2000

 

無名の軍師

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが、相手モンスターカードとの戦闘で破壊された時に発動し、自分のデッキから、『無名』と名のつく戦士族モンスター一体を手札に加える。このカードが墓地から手札に送られた時に発動し、自分のデッキから『無名』と名のつくレベル4以上の戦士族モンスター一体を手札に加える。

AT500/DF500

 

無銘の剣 追

 

装備魔法

 

このカードは効果モンスターには装備できない。戦士族モンスターにのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。また、このカードを装備したモンスターが相手モンスターとの戦闘で相手モンスターを破壊した場合、装備モンスターの攻撃力を半分にして同じバトルフェイズにもう一度攻撃することができる。このカードを装備したターンのエンドフェイズ時にこのカードは破壊され、装備モンスターの攻撃力は元々の数値に戻る。

 

無名の剣将

 

レベル8

 

戦士族/儀式/効果

 

このカードは一ターンに一度、自分または相手の場・墓地の『恋姫』と名のつくモンスターカードを一体を選択し発動する。選択したモンスターカードをこのカードの装備カードにできる。このモンスターは、この効果で装備したモンスターカードの元々の攻撃力の半分の数値をこのモンスターの攻撃力に加え、装備モンスターカードの効果を使うことができる。この効果を発動したターンのエンドフェイズ時に、このモンスターに装備されたカードを全て破壊する。この効果で破壊されたモンスターが装備する前に元々フィールドにいた場合、そのカードを元々のコントロールしているプレイヤーのフィールドに特殊召喚する。

AT2000/DF2000

 

知られざる生誕

 

儀式魔法

 

このカードは手札に『無名の剣将』が存在しない場合、手札を一枚捨てて発動できる。この効果を発動した時、自分はデッキから『無名の剣将』を一枚手札にくわえる。自分の手札・フィールドから、レベル8以上になるようにモンスターをリリースし、手札から『無名の剣将』を儀式召喚する。このカードを発動したターン、自分はこのカードの効果で召喚したモンスター以外で攻撃できない。





【挿絵表示】

まあ、参考程度


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「ソン シェレンのカード集」

無いと不便。更新未定


呉国の見習い兵士

レベル3

 

戦士族

 

 

 

AT1000/DF0

 

呉国の従者

 

レベル3

 

戦士族/効果

 

自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘または相手のカード効果で破壊された場合に発動できる。デッキから『呉』と名のつくレベル4以上のモンスター1体を手札に加える。

AT1500/DF1000

 

呉国の兵士

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードは一ターンに一度、カード効果によって破壊されない。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。このカードは守備表示になる。

AT1800/DF1900

 

呉国の遠弓兵

 

レベル4

 

戦士族

 

この効果は自分フィールド上に『呉』となのつくモンスターが存在する場合に発動できる。このカードの元々の攻撃力を半分にして、相手に直接攻撃できる。このカードは一ターンに一度、自分フィールド上のモンスター一体を手札に戻してもう一度攻撃できる。

AT1800/DF1000

 

呉国の防人兵

 

レベル5

 

戦士族

 

 

 

AT1500/DF2500

 

呉国の騎馬兵

 

レベル5

 

戦士族

 

このカードは自分フィールド上にモンスターカードが一枚も存在しないときに、手札からリリースなしで特殊召喚できる。このカードは相手フィールド上にモンスターカードが一枚も存在しない場合、攻撃できない。

AT2200/DF1600

 

空白の密書 呉

 

装備魔法

 

『呉』と名のつく戦士族モンスターにのみ装備可能。装備モンスターがフィールドを離れたとき、デッキからカードを一枚ドローする。また、相手の手札をランダムに一枚捨てる。

 

戦場の旗印 呉

 

装備魔法

 

このカードは『呉』と名のつく戦士族モンスターにのみ、装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。また、自分フィールド上にこのカード以外のモンスターカードが存在するときに発動する。相手はこのカード以外に攻撃宣言を行えない。

 

呉の増員要請

 

通常罠

 

このカードは、一ターンに一度発動できる。デッキから、「呉」と名のつくレベル4以下の戦士族モンスター一体を自分フィールド上に特殊召喚できる。

 

恋姫-呉王・孫策

 

レベル8

 

戦士族/儀式/効果

 

このモンスターは儀式召喚された場合、このカードのコントロールは召喚された元々の場から、別のプレイヤーにコントロールが移る効果を無効に出来る。

このモンスターは一度のバトルフェイズ中に、二回攻撃することができる。

AT2800/DF2000

 

恋姫の君臨

 

儀式魔法

 

このカードは手札から発動または手札を一枚捨て、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。自分の手札・フィールドから、レベル8以上になるようにモンスターをリリースし、 手札から『恋姫-呉王・孫策』を儀式召喚する。

 

王家の剣-南海覇王

 

装備魔法

 

このカードは、「呉王」と名のつく戦士族モンスター一体にのみ装備可能。このカードを装備したモンスターカードは、攻撃力を500ポイントアップする。このカードを装備したモンスターは、一ターンに一度、モンスターカードに対する相手のカード効果の発動を無効にし破壊できる。この効果は一ターンに一度発動でき、このカードを装備したモンスターが戦闘で相手モンスター一体を破壊した時、破壊した相手モンスター一体の元々の効果力分のダメージを相手に与える。





【挿絵表示】

プロの絵描きって本当に尊敬する


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スイゴのカード集2

無名の聖女

 

レベル2

 

戦士族/効果

 

一ターンに一度、自分はフィールド上のこのカードをリリースすることで、自分の墓地に存在する『無銘』と名のつく魔法カード一枚を手札に加える。

AT0/DF500

 

無名の傭兵

 

レベル4

 

戦士族

 

【名前を失った剣士。仲間であっても、彼の過去を知る者はいない。正体不明の人物だが彼の持つ勇気だけは仲間も認めている。】

AT1800/DF1800

 

無名の医師

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが墓地に存在するとき、このカードをゲームから除外することで自分の墓地のこのカード以外の『無名』と名のつくモンスターカード一体を手札に加える。この効果を発動したターン、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。一ターンに一度、そのモンスターの攻撃を無効にし、攻撃したモンスターの元々の攻撃力の半分の数値分相手のライフは回復する。

AT0/DF2000

 

無名の軍師

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが、相手モンスターカードとの戦闘で破壊された時に発動し、自分のデッキから、『無名』と名のつく戦士族モンスター一体を手札に加える。このカードが墓地から手札に送られた時に発動し、自分のデッキから『無名』と名のつくレベル4以上の戦士族モンスター一体を手札に加える。

AT500/DF500

 

無名の盗賊

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードがデッキから、手札に加わった時に発動できる。自分フィールド上に『無名』と名のつくモンスターがいるとき、このモンスターを特殊召喚する。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に、発動できる。自分はデッキから、カードを一枚ドローできる。

AT1500/DF500

 

無名の商人

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが戦闘もしくは相手のカード効果でフィールドを離れた時に発動できる。自分はカードを一枚ドローできる。このカードが墓地に存在するとき、墓地のこのカードをゲームから除外して発動する。自分の墓地に存在する『無名』と名のつくカードを三枚選びデッキに戻すことで、自分はデッキからカードを一枚ドローできる。

AT1000/DF1000

 

無名の隊長

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードがフィールド上にいる時発動できる。このカードは一ターンに一度、カードの効果の発動を無効にし破壊できる。

AT1000/DF1500

 

無名の使者

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

この効果は墓地に存在する時に発動できる。一ターンに一度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動し自分フィールド上のモンスターを一体をリリースする事でこのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚出来る。この効果を使った場合、このターンのバトルフェイズを強制終了させる。

AT0/DF2000

 

無名の剣客

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードは、一ターンに一度、相手フィールド上のモンスター一体を選択し裏守備表示に出来る。 このカードは、相手の魔法・罠カードの効果を受けない。

AT1300/DF1000

 

無名の傭兵長

 

レベル6

 

戦士族/効果

 

自分フィールド上にモンスターが一体も存在せず、相手の場にモンスターが二体以上存在する場合に手札から特殊召喚出来る。

AT2500/DF1800

 

無銘の剣 追

 

装備魔法

 

このカードは効果モンスターには装備できない。戦士族モンスターにのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。また、このカードを装備したモンスターが相手モンスターとの戦闘で相手モンスターを破壊した場合、装備モンスターの攻撃力を半分にして同じバトルフェイズにもう一度攻撃することができる。このカードを装備したターンのエンドフェイズ時にこのカードは破壊され、装備モンスターの攻撃力は元々の数値に戻る。

 

無銘の剣 剛

 

装備魔法

 

このカードは、自分フィールド上の『無名』と名のつく戦士族モンスターにのみ装備できる。このカードを装備したモンスターの攻撃力は、1000ポイントアップする。このカードを装備したモンスターは、発動したターン、他のカードを装備することができない。

 

無銘の剣 知

 

装備魔法

 

このカードは、『無名』と名のつく、戦士族モンスターにのみ装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。このカードを装備したモンスターに、相手モンスターが攻撃宣言または効果を発動したときに発動する。このカードを装備したモンスターは表示形式を変更できる。

 

無銘の剣 滅

 

装備魔法

 

このカードは、『無名』と名のつく戦士族モンスターにのみ装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。一ターンに一度、このカードを装備したモンスターが相手フィールド上のモンスター一体を戦闘で破壊した時に発動出来る。このカードを装備したモンスターの元々の攻撃力以下の相手モンスター一体を選択しゲームから除外する。

 

穢れなき決闘

 

速攻魔法

 

自分フィールド上の『無名』と名のつく戦士族モンスターの攻撃宣言時に発動できる。攻撃宣言を行ったモンスター一体を選択し、このターン、そのモンスターの元々の攻撃力を二倍にする。このカードは、相手のライフが3000以下の時は使用できない。このカードはゲーム中に一度しか使用出来ない。

 

知られざる変化

 

速攻魔法

 

自分フィールド上の『無名』と名のつくモンスター一体を選択し、手札の『無名』と名のつくモンスターと元々のレベルどうしが一緒ならばそのモンスターどうしを入れ換えることができる。

 

悔恨なき別離

 

速攻魔法

 

自分デッキから、『無名』と名のつくモンスターカードを二枚墓地に送る。このカードを発動したターン、自分は墓地からカード効果を発動することはできない。

 

帰路なき戦闘

 

速攻魔法

 

自分フィールド上の『無名』と名のつく戦士族モンスター一体を選択して、発動する。選択したモンスターの攻撃力を2000ポイントアップする。このカードを使ったターンエンドフェイズ時、このカードの効果で選択したモンスターの攻撃力を0にする。このカードの効果は、『穢れなき決闘』を発動するターンには使用出来ない。 このカードは、相手のライフが2000以下の時は使用できない。このカードはゲーム中に一度しか使用出来ない。

 

見返りなき緊急要請

 

カウンター罠

 

自分フィールド上にモンスターが、一体も存在せず相手モンスターが攻撃宣言を行った時に発動できる。自分はデッキから、『無名』と名のつくレベル5以下のモンスター一体を特殊召喚できる。

 

名もなき襲撃者

 

カウンター罠

 

自分のターンに自分フィールド上の『無名』と名のつくモンスターが、相手モンスターとの戦闘で相手モンスターを破壊できなかった時に、その自分のモンスター一体を選択し発動できる。このターン、選択されたモンスターの攻撃力は1000ポイントアップしてもう一度バトルフェイズを行う。

 

終わりなき戦線復帰

 

カウンター罠

 

自分フィールド上にモンスターが存在せず、相手モンスターが攻撃宣言した時に発動出来る。自分の墓地から、『無名』と名のつくモンスターカード一体を攻撃力を700ポイント上げて、自分フィールド上に特殊召喚できる。

 

無名の剣将

 

レベル8

 

戦士族/儀式/効果

 

このカードは一ターンに一度、自分または相手の場・墓地の『恋姫』と名のつくモンスターカードを一体を選択し発動する。選択したモンスターカードをこのカードの装備カードにできる。このモンスターは、この効果で装備したモンスターカードの元々の攻撃力の半分の数値をこのモンスターの攻撃力に加え、装備モンスターカードの効果を使うことができる。この効果を発動したターンのエンドフェイズ時に、このモンスターに装備されたカードを全て破壊する。この効果で破壊されたモンスターが装備する前に元々フィールドにいた場合、そのカードを元々のコントロールしているプレイヤーのフィールドに特殊召喚する。

AT2000/DF2000

 

 

知られざる---の昇華

 

--儀式魔法

 

このカードは、自分フィールド上のモンスターのレベルの合計が10以上になるように生け贄を捧げ、発動される。--------から、『無名の剣聖』一体を--儀式召喚する。このカードの生け贄素材の一体は、必ず『無名の剣将』でなければならない。----------------------------------。

 



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シェレンのカード集2

詰め込みすぎたか


呉国の密偵兵

 

レベル1

 

戦士族/効果

 

このカードが、召喚・特殊召喚に成功したときに発動する。相手フィールド上の、魔法・罠カードを一枚破壊する。このカードがリリースされた時に発動する、自分はカードを一枚ドローする。

AT100/DF100

 

呉国の特殊兵

 

レベル2

 

戦士族/効果

 

自分フィールド上に『呉』と名のつくモンスターが存在するとき、このカードは一ターンに一度、手札から特殊召喚できる。このカードは、一ターンに一度、自分フィールド上の『呉』と名のつくモンスター一体を選択し、その表示形式を変更出来る。

AT500/DF500

 

呉国の見習い兵士

レベル3

 

戦士族

 

 

 

AT1000/DF0

 

呉国の従者

 

レベル3

 

戦士族/効果

 

自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘または相手のカード効果で破壊された場合に発動できる。デッキから『呉』と名のつくレベル4以上のモンスター1体を手札に加える。

AT1500/DF1000

 

呉国の兵士

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードは一ターンに一度、カード効果によって破壊されない。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。このカードは守備表示になる。

AT1800/DF1900

 

呉国の遠弓兵

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

この効果は自分フィールド上に『呉』となのつくモンスターが存在する場合に発動できる。このカードの元々の攻撃力を半分にして、相手に直接攻撃できる。このカードは一ターンに一度、自分フィールド上のモンスター一体を手札に戻してもう一度攻撃できる。

AT1800/DF1000

 

呉国の追撃兵

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが相手モンスターを破壊したときに発動できる。このカードは一度のバトルフェイズ中に二度攻撃することができる。このカードが相手モンスターを破壊したとき、このモンスターの攻撃力が破壊したモンスターの守備力の数値を上回っていればその差分戦闘ダメージを相手に与える。

AT1800 /DF1000

 

呉国の防人兵

 

レベル5

 

戦士族

 

 

 

AT1500/DF2500

 

呉国の騎馬兵

 

レベル5

 

戦士族/効果

 

このカードは自分フィールド上にモンスターカードが一枚も存在しないときに、手札からリリースなしで特殊召喚できる。このカードは相手フィールド上にモンスターカードが一枚も存在しない場合、攻撃できない。

AT2200/DF1600

 

空白の密書 呉

 

装備魔法

 

『呉』と名のつく戦士族モンスターにのみ装備可能。装備モンスターがフィールドを離れたとき、デッキからカードを一枚ドローする。また、相手の手札をランダムに一枚捨てる。

 

戦場の旗印 呉

 

装備魔法

 

このカードは『呉』と名のつく戦士族モンスターにのみ、装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。また、自分フィールド上にこのカード以外のモンスターカードが存在するときに発動する。相手はこのカード以外に攻撃宣言を行えない。

 

破砕の黒弓 呉

 

装備魔法

 

このカードは『呉』と名のつく戦士族モンスターにのみ、装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。このカードを装備したモンスターは、相手フィールド上にモンスターカードが一体も存在しない場合攻撃できない。このカードを装備したモンスターが破壊された時、相手ライフに500ポイントのダメージを与える。

 

城下の見張引き継ぎ

 

通常魔法

 

自分フィールド上に『呉』と名のつくモンスターが存在する時に発動できる。そのモンスターをリリースして、手札からレベル5以下の『呉』と名のつくモンスター一体を特殊召喚できる。このカードを発動したターン、自分は他のモンスターを特殊召喚出来ない。

 

犠牲の置き土産

 

通常魔法

 

自分の墓地に『呉』と名のつくモンスターカードが五枚以上ある時にこのカードは発動出来る。自分墓地の『呉』と名のつくモンスターカードを五枚選択しデッキに戻しシャッフルすることで、自分はデッキからカードを二枚ドローする。

 

船上の偽装工作

 

速攻魔法

 

自分の墓地に、『呉』と名のつくカードが三枚以上あるときに発動できる。墓地からランダムに三枚カードをデッキに戻しシャッフルすることで、相手フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで破壊できる。この効果を発動したターン、自分は特殊召喚をおこなえない。

 

呉の増員要請

 

通常罠

 

このカードは、一ターンに一度発動できる。デッキから、「呉」と名のつくレベル4以下の戦士族モンスター一体を自分フィールド上に特殊召喚できる。

 

呉の警備要請

 

カウンター罠

 

このカードは、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。このターン、自分フィールド上の『呉』と名のつくモンスターカードは守備力を1500ポイントアップする。

 

呉の暗躍戦術

 

カウンター罠

 

相手フィールド上のモンスターの攻撃宣言時に、発動できる。相手フィールド上の最も守備力の低いモンスター一体を破壊できる。

 

呉の非常召集

 

カウンター罠

 

相手モンスターが攻撃宣言し、自分フィールド上に一体もモンスターがいない場合に発動できる。自分のデッキから、レベル3以下の『呉』と名のつくモンスターを二体までフィールドに特殊召喚できる。この効果で召喚したモンスターは、エクストラからのモンスター召喚素材に使えない。

 

呉の監視態勢

 

永続罠

 

相手フィールド上のモンスターが効果を発動した時に発動出来る。このカードを効果発動した相手モンスターに装備し、装備されたモンスターの効果を無効にする。この効果を発動した時、自分はデッキからカードを一枚ドローできる。

 

恋姫-呉王・孫策

 

レベル8

 

戦士族/儀式/効果

 

このモンスターは儀式召喚された場合、このカードのコントロールは召喚された元々の場から、別のプレイヤーにコントロールが移る効果を無効に出来る。

このモンスターは一度のバトルフェイズ中に、二回攻撃することができる。

AT2800/DF2000

 

恋姫の君臨

 

儀式魔法

 

このカードは手札から発動または手札を一枚捨て、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。自分の手札・フィールドから、レベル8以上になるようにモンスターをリリースし、 手札から『恋姫-呉王・孫策』を儀式召喚する。

 

王家の剣-南海覇王

 

装備魔法

 

このカードは、「呉王」と名のつく戦士族モンスター一体にのみ装備可能。このカードを装備したモンスターカードは、攻撃力を500ポイントアップする。このカードを装備したモンスターは、一ターンに一度、モンスターカードに対する相手のカード効果の発動を無効にし破壊できる。この効果は一ターンに一度発動でき、このカードを装備したモンスターが戦闘で相手モンスター一体を破壊した時、破壊した相手モンスター一体の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

 



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番外編 未だ知らぬ日々の物語

魔導が分からない


これは、聖フランチェスカ学園で起こった本編の前の物語。とある幼馴染み達のお話。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「ホンゴウ カズトォォォォォ~~~~ッッッ!!!」」」」」」

 

一人の少年が、複数の少年に必死の形相で追いかけ回されている姿を見たら、第三者からはどう見えるだろう。いじめか、はたまた復讐か、あるいは自業自得か。彼はそのどれにも当てはまっており、同時に、やや違った事情を持っていた。

 

 

「「「「「「ホンゴウくぅぅぅぅ~~~ん!!!」」」」」」

 

 

今度は少年でなく、女子の集団だ。彼女達もまた、少年のことを追いかけていた。ただ男と女のグループの間で違うことと言えば、女達はその顔の頬が桜色で染まった者ばかりだ、ということだ。

 

この違いは、露骨な変化を生む。つまり、男は『嫉妬』であり、女は『恋慕』の感情を抱いていることだけだ。そのために、彼らは毎日毎日、追いかけっこを繰り返すのだ。たった一人の少年のためにだ。本当に、くだらない。

 

 

 

 

 

 

スイゴは、その日、ほんの少しだけ気分が良かった。連敗していた『デュエルモンスターズ』の戦いで、久々の勝利を収めたためだ。校内でも、『カード』の腕が上位にあたる少年の幼馴染みは少年自身の憧れであり、越えるべき目標でもあった。そのために、気が緩んでいたことは確かだった。

 

「随分、機嫌が良さそうだな。スイゴ」

「別にそんなことはない」

 

学園の広い庭の中を歩く二人、片方は少年の『スイゴ』。そして、もう片方は幼馴染みの『メイリン』と言った。

 

この二人は、普段、他の二人の女子共に幼馴染みだが。今日は偶々、時間が噛み合い登校を共にしているのだ。あくまで、偶然である。

 

「『シェレン』は、今朝機嫌が悪かったぞ。9連勝で途切れたとかな」

「なら良かった。今度はきっちり借りを返してやる」

 

二人の話の話題にある少女『シェレン』こそ、四人の幼馴染みの一人のその人であった。

 

「にしても、今日は数学でソリティア部門の授業か。あの授業、訳がわからないし、嫌いなんだよな」

 

スイゴは、愚痴るようにぶつぶつ、と呟く。

 

「おいおい、いくら難しいとは言え、新しく考え出されたばかりの部門だ。あくまで、今のは基礎でしかないだろう」

 

メイリンはそう返事をした。緑色の髪を持ち、長いそれをリボンでまとめている少女。メガネをかけているおかげで、生来の知的な雰囲気も含め、より一層頭がよく見える。

 

「まあ、スイゴは複数のモンスターを並べるよりも一体を強化するほうが好きみたいだからな」

「ああ、そうだな。エースが何体もいて、たまるかよ」

「お前は、いつ、そのエースモンスターを見せてくれるのかな」

「ちょうどいいカード、を見つけたらだ」

 

毎回、メイリンのこのからかいにはうんざりする。おれは、学園で一般的に行われるデュエルモンスターズの召喚の基礎手段の内、通常召喚と生け贄召喚しか覚えていない。他の生徒は、大概、儀式召喚という、特殊召喚法を覚えているのにだ。

 

「向いてない訳じゃないが、合ってない気もする」

「どっちなんだ」

 

曖昧な返答にメイリンの鋭いツッコミが入った。

 

「この前の『カオス・ソルジャー』だったか。あれは、使いづらい」

「いや、それはおかしい。伝説の『ムトウ ユウギ』も愛用したカードだ。あれは、一番初めのものだろう」

「なんか、手札で事故る」

「『高等儀式術』でも、いれとけ」

「シェレンにやったよ」

「そんなんだから、お前は敗けるんだよ」

 

手厳しいご指摘です。しかし、事実だから言い返せない。

 

「……そう言えばさ、今朝、『エクストラデッキ』に変なカードがあったんだよ」

「はあっ?エクストラからか。あそこは、ほとんど、から箱だろう」

「なんか、儀式モンスターカードが入ってた」

「スイゴ……、うそなら、もっと上手くつけ」

「エイプリルフールは、数ヵ月も前だろうがっ。ウソじゃないから」

 

おれはそう言って、例のカードを取りだしメイリンに見せる。

「『無名の剣将』?よかったじゃないか、お前は確か、『無名』シリーズのモンスターを使うだろ」

「そうだけど、流石に、不思議でな」

「大方、シェレン辺りがプレゼントしたんだろ。母親の押し入れを勝手に漁ったりして」

「いや、しないだろアイツなら」

「そうだな」

 

二人は、同時に頷く。シェレンの母親は、自分の娘に厳しいことで有名だ。幼馴染みのおれ達も、またその巻き添えを食って、酷いことに会ったのは両手では数えきれない。下手したら、デッキの限界投入枚数を越える。

 

「で、儀式魔法はどれなんだ」

「ない」

「はぁ!?儀式魔法なしで、どうやって、召喚するんだッ!」

「そう言われても、ないものはないからな。高等儀式術、やるべきじゃなかったかな」

「当たり前だろう。あのカードが、どれだけ希少価値があるのか本当に分かって無かったんだな」

 

呆れたように、彼女はため息をついた。

 

「まあ、そう言うわけだから。おれはまた、見つかるカードを待つしかないな」

「笑わせるなよ、スイゴ。それは、出来ない者の常套句だ」

「…今度は、お前を倒したくなったよ」

「…勝負なら、いつでも相手してやる」

 

少年と少女の間で、火花がぶつかりあった。

 

「はあ、メイリンには口じゃ勝てないしな」

「不毛な会話だな、大人しく学校に行き勉学に励むとするか」

「…ソリティア理論のことは、学校でまた説明して欲しい」

「気が向いたらな」

 

周りの空気が密度を増したような気持ち悪い気分だ。二人は、気まずくなり、別々に別れる。彼らがいたのは、既に、教室のドア前だった。

 

 

 

 

 

 

今日、俺こと『ホンゴウ カズト』は一大決心をして、学校に望んだ。もっとも、善き相談相手に悩みを解決してもらうためだ。

 

「スイゴっ、頼む!追いかけてくる、生徒達を何とかしてくれ」

「無理だな」

「おいいぃぃぃ、他人事ォ!?」

 

カズトは、クラスメイトの薄情さに絶望した。

 

「人の幼馴染みの妹に手を出したり、母親がわりの女性を口説くお前にはうんざりだよ」

「誤解を招くこと、言うな!トウカはお弁当を作ってくれるだけだし、サイさんは玉に御飯をご馳走してくれるだけだろっ!!」

「最低だな、お前」

 

 

《何なの、コイツ。俺のこと嫌いなの?》

 

 

「ああ、嫌いだな」

「そんなとこばっか、シェレンに似るなよっ!?」

「止めろ、おれはアイツの十倍は常識的だ」

「それでも、人一倍はおかしいけどな」

「お前には、言われたくない」

 

流れるような貶し合いに、俺は陰鬱な気分になる。目の前の男は、本当におれにだけは優しくない。なんか、ツンデレからデレを除外したような。おれだけ、『死者蘇生は使わせませんよ』、とかそんな感じだ。

 

「…なあ、彼女つくれば解決するだろ」

「お前な、そう簡単に決められないから困っているんだろ」

 

すると、スイゴには微妙なとしか表現できない顔をされた。

 

「そんなんだから、『種馬』だか、『洗脳ブレインコントロール』だとか言われるんだよ」

「誰だよっ、そんなこといったヤツ!?」

「お前から、彼女をーーーされたやつ全員だろ」

「間の文字は何だよ」

 

遊戯王の新しい単語か、とスイゴには聞いたが。アイツからは、『そんなんもわからないから、問題が解決しないんだ』、とか言われた。コイツはいいよな、他人事で。シェレンさんやメイリンさんに嫌われて、仕舞えばいい。

 

スイゴは放課後になって、結局、家に帰ってしまった。幼馴染みの母親の修行という名の拷問を受けに行く、とか言ってたな。俺は解決しなかった問題をまた翌日に、持ち越しすることにした。

 

 

《まだだっ!俺は今度こそっ、明日という名のドローをして、逆転をして見せる!》

 

 

……どこからか、『先にデッキが無くなるだろ』って、言われた気がするけど、気のせいだよな。

 

 

 

 

 

 

「うーん、…身体中痛いわ」

「頑張って、シェレンちゃん!」

 

シェレンは、自身のことを放っておいて私のことを気遣う幼馴染みの『リアン』の言葉に嬉しくなった。

 

「大丈夫よー、お母様が厳しいのは何時ものことじゃない♪」

「まあそうだけど……心配だし」

「リアンだって、一緒に受けてるじゃない」

 

私達は、本日は、私のお母様こと『ソン イェンレン』に身体鍛えるための修行『気合いの!五万回ドロー素振り』を受けさせて頂いたのだけれど。……正直、これが中々ハードで身体が休まることがなかった。

 

 

「そんな疲れているのも、スイゴのせいだよ。……まったく、足を引っ張りやがってぇ」

「そんなことないわよん。普通の学生のだったら、私達についてくることすら不可能よ。第一、アイツを巻き込んだのさ私よ~」

「シェレンちゃんはいいの!可愛いから!」

 

リアンは、どこかスイゴのことを目の敵にしているのよね。まあ、アイツも確かにメンドクサイもの抱えてはいるけどね。そのせいで、今一歩、信用しきれないかのかもしれない。

 

「シェレンちゃんは、お人好しだね~。スイゴ何かほっとけばいいんだよぉ」

 

本当に幼い、幼稚園の頃から一緒のメイリンと違い、リアンとスイゴは小学生くらいに親友になった間柄。その頃は、口数が少なく、クラスの人達とは馴染めていないようだった。その時に私とメイリンが話かけたことが今の明るい性格のリアンに繋がっているのかもしれないわ。……けど、やはりか女子はともかく、男子には苦手意識があるようなのよね。

 

「…でね、シェレンちゃん!どっちが言いと思う?」

 

リアンは両手に持つカードを私に見せてくれた。

 

 

《『女神の宝札』と『馬の骨の宝札』って、何かいやに比較的ね》

 

 

「あらら、どっちも強いわよん。…でも、少しだけ『女神の宝札』のほうが好きかしら」

「えー、本当に!?……そんな、嬉しいこと言うなよぉ」

 

 

《ま、ちょっとだけよ》

 

 

私にとって、リアンもスイゴもメイリンも三人共大切な親友だ。三人共、好きな所だって違うし、比べるものじゃない。例え一人でも欠けることを選ぶことになるくらいなら、私は全員を助ける選択肢を探したいわ。

 

「だって、親友じゃない♪」

 

私は心の底から、そう笑顔で答えた。

 



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番外編 どうでも良いような話

進行には問題ない


これは、とある日のどうでも良い出来事。

 

 

 

「なあ、スイゴ」

 

今現在彼が住まわして貰っている家主の息子『榊 遊矢』がおれに尋ねる。

 

「時々、スイゴはシェレンさんのこと『王様』って言うことあるけど何か理由あるの」

「そんなこと言ってたか?」

 

記憶を探ってみるが思いだせない。どうやら無意識の内にいつの間にか言ってたみたいだ。

 

「理由か…………長い話になるんだが…。なあ遊矢。おれ達はこの町とは別の場所から来たって話したよな」

「うん、スイゴもシェレンさんもそこで学園に通ってたんだよな」

 

まあ、そもそも場所どころか次元が違う訳だが。その言葉をスイゴは飲み込む。

 

「まあな、そこで彼女は生徒会の会長をやってたんだよ」

「えっ、シェレンさんが!?」

 

驚く遊矢。その姿を見て、やはり彼女は別世界でもそういう見られ方をするのかと納得した。

 

「今は彼女の妹がその後を継いでいるんだけどな」

「あれ、そうなると高校一年生の時に生徒会長を務めたってこと」

「そうだ。本人は飽きたのか知らないが、二年の時に周りの反対を押しきって勝手に妹を生徒会長にしたんだ」

 

まあ、その理由をスイゴは知っている。

 

「……へえ、凄い人だね」

「我が儘だろ?」

 

幼馴染みながら彼の物言いには容赦がない。普段の彼がシェレンによってどれだけ苦労しているかを考えれば本人は自然だと思っているのだ。

 

「で、その生徒会の話なんだが。会長の座が四つ有るんだ」

「はい?」

 

 

《やはり部外者の感想はこんなもんだよな…》

 

 

スイゴ自身初めてこのことを知った時はひどく驚いた。当然、副会長などの座も四つある。

 

「ウチの学園人数がクソ多くて、もう一グループだけじゃ学年全体の方針を決定することが難しいんだよ」

 

思い出されるは幼馴染みの手伝いにかりだされ、目巣箱に投函された『生徒の学園に対する要望』をまとめた仕事の記憶。普通の学校で言われるような『数十・百』くらいの量ではなく、『一万』以上の数の要望をひたすらに読み込んで整理したのだ。これを悪夢と言わずになんという。

 

「…………本当に多かった」

 

シェレンやメイリン、リアンと共に数日徹夜でこれを終わらせたことは、紛れもないスイゴにとっての『心の勲章』だ。

 

「まあ、そんなわけで学生はその四つに分けた生徒会に自由に所属することになるんだ」

「へえ、面白そうだな」

 

遊矢は塾通いのため、この手の新しい話には興味があるのかもしれない。

 

「そんな良いもんじゃない。『自由』と言っても選ぶのだけで、必ずどれかには所属するんだ」

「何か問題あるのか?」

「…………学園では年間通して、色々なイベントが行われる」

「楽しそうだよな!」

「ざっと『デュエルバトル大会』、『デュエル運動会』、『デュエル文化祭』の様なものがあるんだが……これが『地獄』なんだよ」

「地獄?」

 

遊矢は頭を捻っているようだが、この話を聞けばその考えも変わるだろう。

 

「イベントには、それぞれ『賞品』と『罰ゲーム』があってな…」

 

ここで、スイゴは一呼吸置く。

 

「勝てば『カード交換商品券』や『旅行券』、『娯楽用品』を貰えるんだが。……負けた方は『日常的に10㎏の重りをつけてのデュエル』や『精神が崩壊寸前になるまでドロー練習』などのお仕置きを食らうはめになるんだ。連帯責任で」

 

その規模は何千人単位にも及ぶ。天国と地獄を賭けて争いあう姿はまさに地獄絵図だ。

 

「うわぁ……」

 

流石にこの常識はずれの内容には、遊矢もドン引きしているようだ。

 

「おれ達が一年の時は、とある一グループだけ所属人数が多くて他の三グループはそれほどは多くなかったから『同盟』も結ばれたりしたし」

「同盟って」

 

またもや出た新単語に頭を抱えている。本当に『聖フランチェスカ学園』の仕組みはややこしい。

 

「ウチの学園独自のシステムで、人数の少ないグループ同士は派閥を組むのが可能だったんだ」

「スイゴの生徒会は派閥を組んだのか」

「おれはシェレンの生徒会の所属で名前は『呉』。他に『魏』、『蜀』、『麗』の三つがある」

 

その中の呉と蜀が手を組んだと、コイツに話した。

 

「そんなわけで、地みどろの戦いが日夜行われるんだが……そのグループのリーダーが生徒会長達だ」

「さっき、聞いたね。どんな人達なの」

「…………四人とも間違いなく、『変人』だ」

「へんじん?」

「幼馴染みで自由奔放の『シェレン』、女好きの冷徹女の『カリン』、天然過ぎる性格の『トウカ』、傲慢高飛車な金持ちの『レイハ』先輩……と言えば分かるか」

「随分と濃い人達だね……」

 

シェレンの性格を知っている遊矢は、その破天荒で非常識な部分もよく知っている。そんな人達が後三人もいると考えると頭が痛いのかもしれない。

 

「まあ、トウカや……レイハ先輩も一応はマトモなんだが。カリンが厄介でな」

「……何かもう聞きたくなくなってきたよ…」

「その方がいい」

 

世の中には知らない方が良いこともある。あの人の性癖もおれ達には実害が無い以上、関係ないことだ。

 

「……さっき言ってた、シェレンさんの妹もそうなの?」

「姉に似ず、真面目で常識人そのものだ」

 

どちらかと言うと、シェレンの性格に似ているのは末妹の『シャオレン』の方。現生徒会長は次女の『レンファ』だ。

 

「話が脱線しまくったが、そんな生徒会長の別名が『王』なんだ」

「へー、カッコいいね」

 

ようやく調子を取り戻してきたのか、遊矢は明るい声で聞いてくる。

 

「実際に凄いらしい。生徒会長の中でも王を名乗って良いのは、歴代でも特別に優秀な人間ばかりなんだ」

 

カリスマ性、知識の深さ、財力、非凡の才能、デュエルの実力などの要素が幾つか噛み合う人物のみが名乗ることが出来る。これらを持つ人物はまさに傑物だ。

 

「王と呼ばれた生徒達は皆そろって、何らかの形で有力な人物になるらしい」

「本当に凄い人達なんだ……。ということは、シェレンさんも!」

「確かにそうだが……おれは、どの方向性でそうなるか不安だ」

 

おれの言葉をはっきりとは否定出来ないのか遊矢は苦笑いだ。

 

「なるほどね!だから、スイゴはシェレンさんのことを『王様』って言ってたんだ」

「ああ。…と言っても辞めたから、正確には『元』だけどな」

 

「いくら生徒会を辞めても人を面倒事に巻き込むその性格は変わらないから王様」

 

「まあ、シェレンが人に全く迷惑をかけない姿も全然想像出来ないがなッ!」

 

「生徒会を辞めてからはネトゲの為に学校休んだり、学園祭では予定にないデュエルメイド喫茶店やって怒られたり、他にも……!」

 

 

 

 

 

 

「…………へえー。随分と楽しそうね?スイゴ」

 

瞬間、背筋に凍るものを感じた。おれは背後を見ずに近くの窓から脱出を謀る。

 

…………が。

 

幼馴染みのシェレンによって羽交い締めにされて完全に逃げられなくなった。

 

「ひどいわースイゴ。幼馴染みがそんなこと思っていたなんて……悲しくなるわよ」

「……どうしてここに」

 

スイゴがいるのは遊矢の家だ。少なくともいつも遊勝塾で待ち合わせをしてる以上はここに来る必要がない。

 

「柚子ちゃんに伝言頼まれちゃって。あっそうだ、今遊矢くんには言っちゃうわよ」

 

そう言って遊矢に幾つかの話をするシェレン。遊矢の舞網チャンピオンシップ参加における内容のことで、彼も真面目に聞いている。

 

その話の間、ずっとスイゴを放さなかったのは流石と言える。

 

「それじゃあ内容は伝えたから♪」

 

「……ああそうね。遊矢くん、スイゴのこと少しだけ連れて行って良いかしら?」

 

その言葉にコイツは頷くことしか出来なかった。……仕方ない、背後の彼女を見たらきっとおれも同じことをするだろう。

 

「……良いです」

 

どこか震えるような声で話しているコイツを恨む気にはなれない。もしも恨むなら、おれの不注意と……。

 

「なんか勘でイヤな予感してたのよね~。まあ、スイゴの本音が知れただけでも良いかしらん」

 

身体にかかる圧力はますます強くなり、骨から『ミシミシ』と言う音が聞こえそうだ。

 

「………最後にだ。何時からだよ?」

「最初よ」

 

本当にタチが悪い。そんな陰湿な性格じゃ無いだろお前。

 

「さ、ちょっとだけ『デート』に行きましょ♪」

 

茫然とする遊矢を置いて、おれは遊矢邸を後にした。恐らく人がいない所で何かするつもりだろう。きっと、艶やかな事で無いことだけは確かだ。

 

 

《まあシェレンは容赦がないからな。……無事に帰る事だけ考えるか》

 

 

デッキが0枚の時にドローをしなければいけない状況のように、彼が無事なことだけは絶対にあり得る筈ない。

 

 

 

 

 

 

……翌日、シェレンがスッキリしたような良い笑顔を浮かべていた事は確かな真実だ。



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番外編 ギユウ ユウハ

また、やったよ。デュエルは関係ない


彼は一人森の中を歩いていた。季節は夏の為か辺りではセミの声が喧しく鳴り響いている。頬に次々に滲む汗を拭き取ろうともせずただ男は目的の場所を目指す。やがて……。

 

 

 

「……やっと着いたか」

 

背負っていたカバンを下ろしつつ、スイゴは一人そう愚痴た。 辺りを見渡すと周りに殆ど人陰はなく、来る人も直ぐに帰ってしまう。

 

「にしても、やっぱり少し汚いな……」

 

そう言うと、持ってきた雑巾で自分がいる周辺を拭きにかかる。ホコリがみるみる内に消えて『ソレ』がピカピカになる様を見るのは気持ちがいい。

 

「もう、一年くらい来てないもんな……」

 

今住んでいる場所からここへはかなり距離がある。学生の身分である自分は勉強に忙しく、中々ここに来る時間は取れない。

 

「お金も掛かるしなぁ……」

 

自身の不満を吐露しつつも目前にある『ソレ』を拭く手は休めない。黙々と作業を続けた。

 

 

 

「……うんまあ。これくらいかな」

 

一時間程磨き続け漸く妥協点とも言えるくらいまでキレイにすることができた。 

 

「流石にキリが無いし」

 

結局、おれが今している行為は自己満足なのだ。あまりやり過ぎてもこれ以上は劇的には変わらない。その手に持っていた雑巾をバケツの中に放り込む。

 

「ちょっと、待ってろよ……」

 

掃除をした為に手が汚れてしまった。仕方なく、近くにある木陰の水道で手を洗った。周辺が暑い中で身体にかかる水がヒンヤリとして気持ちいい。太陽に体力奪われていたこともあり、少しだけその場で休んだ。

 

「さてと、『アイツ』に用事を済ませてさっさと帰るか」

 

雑巾をいれたものとは別のバケツに水を溜める。それを手に抱えて、先程掃除した場所へ引き返す。

 

「おれだって暑いんだ……ずっと居て平気な訳ないよな」

 

バケツの水を手にもった柄尺で掬い、『ソレ』にかけてやる。人によっては失礼かは知らないがスイゴにとっては必要な所作だと思っている。中にあった水が無くなった所で、おれはカバンの中にある物を取り出した。

 

「えっと……お茶に煎餅、饅頭、刀の玩具……和風なものばっかだな」

 

口にしたそれらの物を次々にならべていく。毎年、行っていることの為か作業をする手に淀みはない。

 

「さてと」

 

数分でやることを終わらせ、やっとおれは『ソレ』に手を合わせ……。

 

 

 

「あれー、スイゴじゃない?」

「……ヴッ!!」

 

背後から声をかけられ思わず吹き出してしまう。そんなおれの姿を見てか声の主はクスクスと笑っている。こんな突発的なことをするのは……。

 

 

 

「シェレン~ッ、一体何のようだァッ!」

 

後ろを向くと腹を抑えて笑い堪えようとするも出来ていない女。幼馴染みの『ソン シェレン』がいた。

 

「ふふふっ、あ~~お腹いったーい!」

「おいッ!!ふざけんなよマジで」

 

彼女のこの行為にはいつもされる度に寿命が縮んだような思いをする。しかも、毎年決まって今の時期は必ず一回は仕掛けてくる。

 

「あらら、怒っちゃいやん♪……ぷっ」

「…………」

 

先程から、ずっと手の震えが止まらない。これは恐怖……否、ただ単に怒りを堪えているだけだ。

 

 

《殴っちゃだめだッ、殴っちゃだめだッ、殴っちゃだめだッ、殴…………》

 

 

頭の中でひたすらこの行為を繰り返して、何とか溢れ出る感情を我慢した。

 

「まあまあ、わたしもここに用があってきたのよ」

 

シェレンはそう言って、スイゴの前にある『ソレ』を指差した。

 

「お帰りください、王様」

「ノリが悪いわよ、スイゴ。わたしも混ぜなさい」

「祭り気分で来られても困るんだよ」

「彼女とは親友だったのよ?」

 

その言葉に黙りこむ。少なくとも、これを言われてしまってはもうスイゴには口を挟むことは出来ない。目の前では、彼女が自分同様に茶菓子を置く姿が見えた。

 

「…………邪魔はしないわよ。久しぶりの『兄妹』の会話なんだから」

「……メイリンは」

「えーっ、わたしはだめで彼女は良いのかしらー?」

「そうは言ってないッ!いつもは二人で来るからそう聞いたんだよ」

「メイリンも残念がってたわよ。生徒会のイベント準備に忙しそうだっから……」

 

シェレンは幼馴染みのメイリンと共に毎年今の時期になるとこの場所に現れた。別に意図してではないが彼女達とはよく鉢合わせすることが多いので、二人はセットでいるという認識がついてしまった。

 

「……そうか、それじゃあ今年は二人でか」

「違うわよ。三人でしょ?」

 

シェレンの言葉に一瞬虚を突かれたような気分になった。

 

「…………そうだな」

「わかればよろしい」

 

二人は会話を終えて『ソレ』に手を合わせる。暫しの間、静寂の時が流れた。

 

「……ふふっ、これくらいやればいいかしら?」

「バカいえ、まだまだ足りない」

「ここは暑いのよ。貴方、どうせここに来たのついさっきじゃないでしょ」

「……いや」

 

確かに、スイゴがこの場所に来たのは二時間くらい前だが……どうして彼女はわかったのだろう。バケツとかは片付けたのに。

 

「全く、熱中症になるわよ。……ずっとここにいても『ユウハ』も喜ばないわよ」

「わかってるさ。ユウハは真面目だったからな」

 

ユウハ……おれの妹は昔からシェレンとは仲が良かった。メイリンと合わせて、三人はよく一緒に遊んでいた。

 

「違うわよ、貴方『シスコン』じゃない♪」

「シスコンじゃねぇッ!!」

 

人をなんだと思っているんだこの女は。言って置くが、客観的に見てもおれはユウハにたいして普通の兄だった。シェレンの悪ふざけに頭が痛くなる思いだった。

 

「……本当に妹思いの兄よ。毎年、この時期にはキッチリ来るもの」

「当然だろ、命日なんだから」

 

そう、スイゴにとっては今日は特別な日だった。

 

九年前に妹が事故に遭い亡くなってなってしまった。ここは、その妹の為の墓碑なのだ。

 

「行方不明……だったじゃない」

「…………そう信じたいさ」

 

しかし、現場には帯たたしい量の血と幼い女子のものとみられる片腕が残っていた。それ以外のものは全て火で燃えて無くなったので詳細はわからないが……。

 

 

 

「信じなさい。兄の貴方がそう思わなくてどうするの」

「悪い……」

 

彼女の言うことは正しい、確かにこの目で実際の状況を見たわけではないから希望は十分に残っている。遺体も全身が見つかった訳ではないのだ。ただ……。

 

 

 

「……あいつは、生きたがってたのかな」

「スイゴ……」

 

シェレンはその言葉の意味をよく理解していたのか口をつぐむ。親友だったからこそ、彼女は彼の真意がよくわかったのだ。

 

「ユウハはイジメを苦にしてた……そんなあいつが」

「わたしは生きていると信じたいわ……親友だもの」

 

二人の意見は互いに違っている。片方は血のつながりと知りすぎるが故に絶望を肯定し、もう片方は他人ではあるが育まれた絆がある故に希望を否定しない。それでも、二人に共通するのはお互いにとって非常に大切な存在だったということだ。

 

「帰ろう、シェレン。あまりここに居すぎても良くない」

「スイゴは大丈夫なの?」

「これ以上居たら、おかしくなりそうだ」

 

 

《ユウハが事故に遭った時に、おれは風邪で家にいた……》

 

 

意識が朦朧とする中で、出かける妹に『いってらっしゃい』と言ったことだけは覚えている。

 

 

《どうしてッ!あの時に『行くな』って言わなかったんだ》

 

 

妹との今生の別れは曖昧なままで終わった。自分が言った言葉はまるで彼女の死を後押しするようなモノだった。そこに後悔を感じない筈がない。

 

「許す、許さないは貴方が決めることじゃないわ。ごう慢よ」

「……そうだな。」

「スイゴは良い兄だったわ。ユウハが恨むはずないわよ」

「………そうだな」

 

視界がよく見えない。目頭が熱い。シェレンの言葉にとてもホッとした。ゆるされて良いような気分になってしまった。

 

「おれは……『ユウハ』の兄で良かったのかな……?」

「当たり前よ。早く帰りましょ、そんな姿じゃ妹を心配させるだけよ」

「……ヴン」

 

顔をみっともなく泣き崩しながらもスイゴは幼馴染みと共に来た道を帰っていく。二人の道を照らすかのように、『ギユウ ユウハ』の墓石は太陽の日を浴びて力強く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

これは本編の前の話でただ挫折を繰り返した日々のこと……。

 

 

 

二人は未だ己の運命を知らない。



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番外編 輝き続ける者その後

ボツネタ


わたしは観客席へゆっくりと向かう。ムツミとのアクションデュエルでは辛くも勝利を修めることが出来た。

 

「良いデュエルだったな、シェレン」

 

ふと横から声をかけられる。振り向くとスイゴ達がいた。

 

「途中見てて焦った所もあったけどな」

 

「あらら、信用してなかったのー?」

 

「…………少しは不安だったさ」

 

彼はわたしの言葉にどこかバツが悪そうな顔を浮かべている。自身の発言のことを気にしているのかもしれない。

 

「まあいいわ。わたし自身もギリギリのデュエルだったのは確かよ」

 

「……この大会は明らかにレベルが高いな」

 

「ええ。間違っても油断しちゃだめよ」

 

わたしはスイゴにクギを刺しておく。なぜなら、彼とは約束があるもの。

 

「ああ、お前と戦うんだもんなッ!」

 

「わかってるじゃない♪」

 

「シェレンさんっ」

 

柚子ちゃんが興奮した様子で話しかけて来た。

 

「試合、凄く良かったです。まさか、あんな風に勝っちゃうなんて!」

 

「俺も!シェレンさんのデュエル、すっごい『エンタメ』ってた!」

 

柚子ちゃんと遊矢くんも絶賛してくれている。彼らの嬉しそうな姿を見て、わたしは嬉しくなった。

 

 

《自分なりに上手にエンタメデュエルが出来ていたみたいで良かったわ》

 

 

「ありがと、明日は遊矢くん達のデュエルよ?頑張りなさい」

 

「うん、俺も俺なりの『エンタメデュエル』で会場を沸かして見せるよっ!」

 

わたし達はお互いに握手をかわす。アクションデュエルでは、互いに似た信念を持つ同士でありライバルだからね。

 

「……バカ遊矢」

 

横では、柚子ちゃんが少し不満気な表情を浮かべている。遊矢くんがわたしと仲良さそうにしているのが気にくわないと見える。

 

 

《ふふっ、わかりやすいわね》

 

 

「柚子ちゃん、大丈夫よ。わたしは遊矢くんを取ったりしないわ♪」

 

「…なっ!?…………べっ、別に私はそんなつもりじゃ…」

 

「俺?柚子、何のことだよ」

 

「ゆっ、遊矢には関係ないからっ!」

 

柚子ちゃんは必死で誤魔化そうとしてるわね。……でもね、目の前で顔を赤くしながら言っても説得力ないわよん。ふふふっ、あたふたしてる姿が非常に可愛らしいわ。

 

「柚子お姉ちゃん…やっぱりそうなんだ」

 

「あっ、アユも何を言ってるのっ!私と遊矢はそんなんじゃないわ」

 

 

《…あらら、自爆しちゃったわね》

 

 

流石にこれ以上は可哀想かと思い二人を宥める。遊矢くんは終始首をひねっていて、会話の意味に気づいていないようだった。

 

 

 

そうこうしているとふと横の素良くんがこちらを見ているような気配がした。しかし、わたしが彼の方を向くと視線をそらされてしまう。

 

「ねえ、素良くんも楽しんでくれたかしら」

 

「…………べつに」

 

素良くんは素っ気ない態度をとるだけだ。シェレンは『何か嫌われるようなことをしたか』と疑問に思う。普段、遊矢達と仲が良い彼はスイゴとシェレンにだけ何故か一線を介したような態度をとる。

 

 

《………………まさかね……》

 

 

わたしは頭の中に浮かんだ考えを否定する。それは所詮根拠もなく妄想といっていい話だ。……それに、あまり『遊勝塾』の仲間を疑いたく無いのもある。

 

「わたしは素良くんの『アクションデュエル』も楽しみにしてるわ。明日は頑張ってねん♪」

 

「…………うん、分かってる」

 

一先ず、会話はこれで終わらせる。わたしが何かに悩むこの子の姿が気になるのは確か。でも、これ以上は踏み込まない方が良いと察したためだ。

 

「じゃあ、帰りましょ」

 

シェレンのその言葉を最後にその場にいた皆はそれぞれの場所へと帰って行く。明日の試合の準備や英気を養うためだ。

 

 

 

今日は大会初日、まだ『舞網チャンピオンシップ』は始まったばかりなのだから。



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プロローグ
聖フランチェスカ学園から


やってしまったよ。


『聖フランチェスカ学園』

ドミノ町の隣町『サンゴク都市』内にあり、 幼稚園から大学までの機能を備えた国内有数の有名学校。『デュエリスト育成』を目的としたこの学園は、都市の領域の半分以上を占める大規模な教育機関である。

現在、この学園では全学生合同のデュエル大会が開かれていた。

 

 

 

「ワタクシは、トリシェーラの影霊衣でトドメです」

 

白き鎧に身を包んだ剣士が、此方へ向かって来る。場にカードはなく、もう防ぐ手段がない。その氷の剣の一撃を受け、おれはアッサリと宙に吹き飛ばされた。意識を失う最後の一瞬見えたものは、『0』という数字だった。

 

 

 

「あーあ、くそっ」

 

画面を見ていたおれは思わず口から、愚痴が出た。

 

「なーに。もしかして、まださっきの敗けを気にしてるの」

 

可笑しそうな様子で話しかけられた。隣では、クスクスと笑いを堪えるようにしている幼馴染みがいた。

 

「……別に。気にしてないさ、シェレン」

 

聞かれていた恥ずかしさからか、少しふて腐れた声で女に返事をした。

 

「あらら、わかりやすいウソね。スイゴ」

 

女はピシャリと音がなるように、直ぐ答えた。

 

「スイゴとは幼馴染みだからねん。もうバレバレよ」

 

確かに、それはウソだ。先日開かれたデュエル大会の三回戦で、おれはデュエルに敗けた。今はその録画ビデオを見ている最中だったが、ひどい敗け方をしたためにずっとそのことを気にしていたのだ。

 

「そんなに影霊衣の万華鏡引かれたのが悔しいのかしら」

「当たり前だろ。あれがなければ俺の場がカラになんてならなかった」

「いやいや、運も実力の内よ。大人しく諦めなさい」

 

彼女にそう諭され、まだ納得出来ないものの何とか気を落ちつかせた。

 

「まあ、頑張ったじゃない。いくら相手が最高学年の先輩だったとは言え、後一歩のところまで追い詰めたわけだし」

「…そうだな。よし、次のデュエル大会は今度こそリベンジで優勝をしてやる」

「再来年だけどね」 

 

その言葉に思わず、ガックリしてしまう。

聖フランチェスカ学園で開かれるこの大会は、規模の大きさのために二年に一度しか行われない。つまり、現在高校二年生のおれは大学一年になるまで待たなければならない。

 

「くっ。……いいよな、お前はまだ勝ってるし」

「当たり前よ。母様の面目もあるし、そう簡単に敗けられないわ」

「シェレンのお母さんはプロデュエリストだもんな。シェレンだけじゃなく、妹達も苦労してるんじゃないか」

「母様の口癖よ。『我がイェンレンの娘たるもの一番をとって当然』ってね」

「どこの覇王だ」

 

互いにため息をつく、娘のシェレン以外におれもまたあの人には散々な目にあわされた。デュエル修行のために、虎とリアルファイトを繰り広げたりこともあったか。どこがデュエルに関係あるのかなんて疑問は、もはやツッコム気すら起きない。本人が非の打ち所のない完璧超人のためか、周りにいる者にまで高いレベルを要求してくるのだ。

 

「うん……。正直、今回勝たないとヤバイかも」

 

普段どこか余裕のある態度のシェレンも、今回はさすがに本気になっているようだ。

 

「それに、今年も大会に彼が出るしね」

「ああ、カズトか。確か二年前はアイツに敗けたんだったか」

 

当時15歳にして、彼女は優勝候補の一角だった。しかし、無名だったカズトにギリギリのところで敗けたことによりベスト8という悔しい結果に終わる。そしてカズトはなんと優勝をした。これにより、一躍学園内最強デュエリストという名声を得ることになった。今ではその実力とプレイスタイルから畏怖を込めて「天の御使い」と、呼ばれている。

 

「というわけで、私のデュエルの練習相手になってくれない。大会中だし、デッキの調整に困ってたのよ」

 

彼女の親友達は、みなまだ勝ち残ったままだ。

 

「メイリン達も残ってるしな。わかった、トコトンつきあおう」

 

仮にシェレン達全員が敗けでもしたら、100%おれもお仕置きに付き合わされそうだからな。決して、イェンレンさんのお仕置きが恐い訳じゃないからな。

 

 

 

「ねー、そういえばさ」

「なんだ」

「スイゴはまだ儀式召喚使いこなせてないんだっけ」

おれとデュエルしている最中のシェレンは、突然、そんなことを聞いてきた。

 

儀式召喚とは、手札から通称『儀式魔法』と呼ばれる魔法カードを使って手札・場から指定のレベル以上のモンスターを墓地に送ることで『儀式モンスター』を手札から場に出す召喚法のことだ。

 

「…ああ。中々、手札にカードが揃わないことが多いし使いづらい」

「確かにスイゴの場合、入ってない方がデッキも回ってるわね」

でも、と付け加える。

「やっぱり、儀式召喚がないと話にならないわよ。わざわざ生け贄を使って召喚する生贄召喚より、儀式召喚のほうが強いモンスターを早く呼べるし」

「とはいっても、おれはシェレン達みたいに強い儀式モンスター持ってないし」

「私達の家に受け継がれる家宝だからね。さすがに普通のカードとは、少し違うわ」

「かの有名なペガサスがデザインした世界に一枚しかないカードらと聞くな」

「そう、なぜか私達の一族しか扱えないらしい。でも、強いカードなら他にもあるわ。スイゴの場合は、単に使い下手なだけよ」

「むいてないだけさ」

 

そう言って、場にモンスターを召喚する。

 

「言い訳はいい。出来るようにならないと、次の大会で優勝なんか夢のまた夢よ」

 

シェレンはデュエルディスクに魔法カードを置く。

 

「発動。『恋姫の君臨』」

「手札から、レベル8のモンスターを生け贄に現れなさい『恋姫-呉王・孫策』」

 

一陣の風を吹かせ、おれの目の前に悠然と姿を表した。

 

「来たか」

 

彼女のエースモンスターにして、世界に一枚の超レアカード。桃色の髪を持ち、その手には黄金の剣が握られている。

 

恋姫-呉王・孫策

 

レベル8

 

戦士族/儀式/効果

 

このモンスターは儀式召喚された場合、このカードのコントロールは召喚された元々の場から、別のプレイヤーにコントロールが移る効果を無効に出来る。

このモンスターは一度のバトルフェイズ中に、二回攻撃することができる。

AT2800/DF2000

 

「バトルよ。『呉王・孫策』で裏守備モンスターを攻撃」

 

無慈悲な剣が降り下ろされ、おれのモンスターは真っ二つになった。

 

「続いて、二回目の攻撃」

 

ヤバい、おれのライフはあと2000しかない。この攻撃を食らったら、また敗けだ。とはいえ、他に手段があるわけでもなくその攻撃を止めることはできない。

 

キャアァァァァァァァッ

 

「!?」

「何なのっ、今の声は」

 

突如聞こえた声に、スイゴとシェレンは動揺した。

彼女の動きに合わせるように、モンスターの動きも止まる。おれ達は慌てて、デッキをしまい。悲鳴が聞こえた方へ、走る。

 

「さっきのは、確かに人の声だったわ」

「ああ。しかも、おそらく女の声だった」

 

スイゴ達は学園内の森を走り続け、声のした場所に着く。

 

「なんだ…………これはっ!?」

 

それはあまりにも異常な光景だった。

そこには、無数のカードが地面にちらばっていた。カードらは取り囲むようにあり、その中心にただ一人男が立っている。男は落ちているカードに動じた様子もなく、むしろその口には笑みすら浮かべていた。口の端がひきつるほどに歪められたその顔は、狂気すら滲んでいるように思えた。あいにく顔はつけている仮面のせいでよくわからないが、普通でないことだけはわかった。男はスイゴ達の方を見て、口を開いた。

 

「誰だ、貴様らは」

 

男はおれたちと同年代に見える。そんなやつが、この場で何をしていた。ただ、カードを散らかしていただけだったのか。いや、そんなはずない。

 

「そちらこそどなたかしら、そんな変な格好して。この学園の生徒なの」

「ああ、もしや此所にいた奴等の仲間か」

 

おれとシェレンに寒気が走った。今、目の前の男はなんて言った。

 

「ここにいた。…それはどういう意味かしら」

「お前らに答える義理は無い」

「答えるなさいっ。学園の人にあなたは何をしたの」

 

相手を威圧するように、彼女は声を荒くする。しかし、目の前の男はニヤニヤしたまま何も話さない。不敵さを感じさせるその様子に、おれも苛立たしさを隠せない。

 

「ならっ、私とデュエルしなさい。私が勝ったら、洗いざらい此所であったことを話してもらうわ」

「いいだろう。ただし、貴様が敗けたらここにいた奴等と同じ目にあってもらうがな」

 

両者は、互いにデュエルディスクを構える。一種即発とした空気だ。

 

「シェレン。……おれもやる」

 

だが、こちらとしても止める気は全くない。おれ自身ハラワタが煮えくり返っているんだよ。

 

「やれるの。スイゴ」

「当然だ」

「いいだろう。ついでだ、纏めて貴様らを片付けてやろう」

 

おれとシェレンは目前の相手に打ち勝つべく、心をひとつにする。

 

「「いくぞ」」

 

 

 

「「「デュエル」」」

 

決戦の舞台が幕を開けた。



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古代の機械究極巨人

予定外


仮面の男vsスイゴvsシェレン

LP4000/LP4000/LP4000

 

「先行は、私がもらうわ。私は『呉国の従者』を攻撃表示で召喚」

 

呉国の従者

 

レベル3

 

戦士族/効果

 

自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘または相手のカード効果で破壊された場合に発動できる。デッキから『呉』と名のつくレベル4以上のモンスター1体を手札に加える。

AT1500/DF1000

 

「さらに、私は手札より装備魔法カード『空白の密書 呉 』を発動。これを呉国の従者に装備」

 

空白の密書 呉

 

装備魔法

 

『呉』と名のつく戦士族モンスターにのみ装備可能。装備モンスターがフィールドを離れたとき、デッキからカードを一枚ドローする。また、相手の手札をランダムに一枚捨てる。

 

「私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

「俺のターン」

 

男はデッキに手をあて、勢いよくドローした。

 

「俺は古代の機械猟犬を召喚」

「古代の機械猟犬の効果を発動。このカードは一ターンに一度、相手のフィールドにモンスターがいるときに発動できる。俺は男の方に600ポイントのダメージだ」

 

機械仕掛けの猟犬が放った火炎の玉が、おれのライフを削った。

 

「くそっ」

 

スイゴ

LP3400

 

「さらに俺は二枚のカードを伏せて、ターンエンドだ」

 

いきなりライフを削られた。……いや、この程度ならまだ大丈夫だ。

 

「いくぞ、おれのターン」

「カードをドローし、おれは『無名の傭兵』を攻撃表示で召喚する。」

 

無名の傭兵

 

レベル4

 

戦士族

 

AT1800/DF1800

 

「さらに、手札より装備魔法カード『無銘の剣 追 』を発動。そして、無名の傭兵に装備する。」

 

無銘の剣 追

 

装備魔法

 

このカードは効果モンスターには装備できない。戦士族モンスターにのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。また、このカードを装備したモンスターが相手モンスターとの戦闘で相手モンスターを破壊した場合、装備モンスターの攻撃力を半分にして同じバトルフェイズにもう一度攻撃することができる。このカードを装備したターンのエンドフェイズ時にこのカードは破壊され、装備モンスターの攻撃力は元々の数値に戻る。

 

「バトルだ、無名の傭兵で古代の機械猟犬を攻撃」

 

この攻撃が通れば、相手に直接攻撃できる。傭兵の剣が敵モンスターを貫き、破壊した。

 

「ちっ」

 

仮面の男

LP2800

 

「さらに…」

「そうはいくか。罠カード発動『ダメージ・コンデンサ-』 自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動できる。そして、俺が受けたダメージ以下の攻撃力のを持つモンスター一体をデッキから、召喚する。」

しまった装備カードを付けたのが仇になったか。

 

「現れろ古代の機械猟犬」

 

男の場には、またあのモンスターが出てきた。

 

「ならば無銘の剣 追の効果発動。無名の傭兵の攻撃力を半分にし、もう一度攻撃できる。無名の傭兵で古代の機械猟犬を攻撃」

 

敵モンスターが切り裂かれる。

 

謎の男

LP2700

 

「そして、もう一度無名の剣 追の効果を発動。装備モンスターの攻撃力を半分にし、再び攻撃できる」

「ふんっ」

 

仮面の男

LP2150

 

「おれは、これでターンエンドだ」

「よくやったわ、スイゴ。次は私のターンよ、ドロー。」

 

一瞬、シェレンがニヤリと笑う。こうなるのは、大抵彼女が何かを思い付いた時だ。

 

「私は手札から、儀式魔法『恋姫の君臨』を発動。このカード効果により、私は自分の場のレベル3の呉国の従者と手札のレベル5の呉国の防人兵をリリースし、手札から呉王・孫策を召喚する」

 

シェレンはさらに空白の密書の効果で、一枚ドローする。男は、手札のカードを一枚捨てる。おれもカードを一枚墓地に送る。

 

「バトルよ。私は呉王・孫策でダイレクトアタック『覇王一閃』」

 

「通さん。俺は罠カード発動『古代の機械地雷』」

 

古代の機械地雷

 

通常罠

 

自分の場にモンスターが一体も存在しない時のみ発動できる。相手の攻撃宣言時に発動し相手の場の攻撃表示モンスターを全て破壊する。その後この効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力の数値分のダメージを破壊したモンスターの元々のコントロールしたプレイヤーに与える。

 

「なんですってっ!?…キャアァッ」

「しまった、これはっ‼…グアァァッ」

 

おれたちの場の覇王・孫策と無名の傭兵が破壊され、それによるダメージがそれぞれに襲いかかる。しかも、おれたちはただライフを削られた訳ではない。

 

「……っ何なの、このダメージ。まるでっ、本当に攻撃を食らったような痛みがある」

 

服の一部は焼け焦げ、その肌には火傷の跡があった。少し動くと、全身に痛みが走る。

 

「ふははっ、貴様達には理解できないだろうなこの痛みの理由が。先程の女達もそうだった、何もわからぬままに消えていったのだ」

 

男は狂ったように高笑いをあげた。表情が見えない仮面の奥では、赤子をもて遊ぶかのような嗜虐な色が宿っているような気がした。

 

「どういう意味だ」

「これから消える貴様らに言っても、必要が無いだろう。さあ女、お前のターンだ早くしろ」

 

「っ…。私はカードを一枚伏せて、ターンエンドよ」

 

シェレン

LP1200

スイゴ

LP1600

仮面の男

LP2150

 

「俺のターン、ドロー。くくくっ、このターンで貴様らを終わりにしてやる」

「ふざけるな、お前の場には一体もモンスターがいないだろうが」

 

いくら男の手札が二枚もあるとは、このターンだけでおれたち二人を倒せるはずがない。

 

「甘いな。流石は『サンクチュアル』だ遅れている」

「何だとっ‼」

「……サンクチュアル?いったい、名のことかしら」

「まあいい、俺は手札より速攻魔法『 古代の廃棄融合』を発動。 ライフポイントを半分払いこのターン、俺は一度だけ自分の墓地から『アンティーク・ギア』と名のつく融合素材を選んで除外することで、 融合召喚

できる」

 

古代の廃棄融合

 

速攻魔法

 

自分はライフポイントを1000払い、発動する。このターン、自分の墓地から融合モンスターカードによって決められた『アンティーク・ギア』と名のつく融合素材を選んでゲームから除外することでその融合モンスターをエクストラデッキから融合召喚する。この効果で召喚した融合モンスターは、召喚されたターンのエンドフェイズ時に墓地にいく。

 

『古の魂受け継がれし、機械仕掛けの巨人よ。圧倒的力を持って、蹂躙せよ』

 

『融合召喚』

 

「現れろ、 古代の機械究極巨人」

 

 

地が揺れる。地が裂ける。古代の機械の王者は地面から、ゆっくりと出現した。

 

「攻撃力4400だとっ!?何なんだ、このカードはっ」

 

コイツはまさに究極的であまりに巨大すぎる。なにより、その存在が放っているプレッシャーが尋常じゃない。気を緩めると、一瞬で意識が吹っ飛びそうだ。

 

あり得ない、なんだこのデタラメな迫力は。

 

「バカな、墓地のモンスターは古代の機械猟犬だけじゃなかったのか!?」

 

「……ダメージ・コンデンサ-を発動した時に、墓地に『古代の機械巨人』を送っていたわけね」

 

つまり、おれ達はまんまと奴の作戦に引っかかってしまった訳だ。

 

「そのとおり、俺はカードを一枚伏せる。バトルだ、 古代の機械究極巨人で女を攻撃」

 

盾を持つ、禍々しき鋼鉄の巨人がその拳を振り落としシェレンに襲いかかる。 奴のモンスターの攻撃力は4400、このままではライフが0になる。

 

「私は罠カードを発動」

「無駄だ。このカードが攻撃する時、ダメージステップが終わるまで、相手は魔法・罠カードを発動できない」

「発動できないですって!?」

「終わりだ。古代の機械究極巨人でダイレクトアタック」

 

敵モンスターから放たれた攻撃が、シェレンに直撃した。



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無名の剣将

クソ長い


巨人の放った一撃が、周囲を完全に吹っ飛ばしてしまった。巻き上がる爆炎はそれが人の存在を消し飛ばすほどの威力だったことを物語る。

 

故に、彼女はデュエルに敗けていた…………はずだったが。

 

 

「ナイスセーブよ、スイゴ」

 

その衣服はボロボロで、まともに立つのもつらいはず。しかし、彼女は確かに、そこに立っていた。

 

シェレン

LP3400

 

「何、なぜライフが残っている」

 

仮面の男がこちらを向いた。ようやく、気づいたか間抜けめ。

 

「おれは墓地から『無名の医師』の効果を発動した」

 

無名の医師

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが墓地に存在するとき、このカードをゲームから除外することで自分の墓地のこのカード以外の『無名』と名のつくモンスターカード一体を手札に加える。この効果を発動したターン、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。一ターンに一度、そのモンスターの攻撃を無効にし、攻撃したモンスターの元々の攻撃力の半分の数値分相手のライフは回復する。

AT0/DF2000

 

「なるほど古代の機械究極巨人の効果は、モンスター効果は無効にできない。それを利用したか」

 

仮面の男

LP3350

 

「これでお前の攻撃は終わりだ」

「…………くくく、何を勘違いしている。まだ俺のターンは終わってない」

「なにっ?」

 

男は、先程伏せたもう一枚の効果を発動した。

 

「速攻魔法発動『 次元誘爆』 このカードは俺はフィールドの古代の機械究極巨人をエクストラデッキに戻し発動する。お互いにゲームから除外されているモンスターを2体まで選択し、 それぞれのフィールド上に特殊召喚する」

 

あの男の除外されているカード、まさかっ!

 

「そう。俺は二体の古代の機械猟犬を自分フィールド上に特殊召喚する」

 

スイゴもまた自分フィールドに無名の医師を守備表示で特殊召喚する。

 

「古代の機械猟犬の効果発動。まずは男のライフを削れ」

 

「くっ」

 

スイゴ

LP400

 

「さらに、二体の古代の機械猟犬で女にダイレクトアタック」

 

「キャアッ!」

 

シェレン

LP1400

 

流石にこの効果には耐えかねたのか、彼女はついに膝をついてしまった。

 

不味い、これ以上はシェレンの身がもたない。

 

「さらに、古代の機械猟犬の効果発動ッ」

 

ウソだろっ!?まだ、やるのかっ!

 

「自分フィールドにこのカード以外の『アンティーク・ギア』モンスターが存在する場合に発動できる。 俺はフィールドから、融合素材モンスターを墓地へ送り、融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する」

 

『 古の魂受け継がれし、機械仕掛けの猟犬どもよ 対を成し混じり合い、新たなる力と共に生まれ変わらん』

 

『融合召喚』

 

「現れろ、『古代の機械双頭猟犬』」

 

奴の場に、また新たなモンスターが出現した。四つの眼は、それぞれに怪しい光を宿している。

 

「攻撃力1400……、そうはいかないわ。私は罠カード『チェーン・ヒーリング』を発動。この効果で、ライフを500ポイント回復する」

「小賢しいっ、バトルだ‼俺は古代の機械双頭猟犬で女をダイレクトアタックッ」

 

それでも、猟犬の攻撃は届く。猟犬から放たれた一撃が、無慈悲にもシェレンを貫いた。

 

「………ゴメン」

 

意識すら保てず、彼女はついに気絶しその場に倒れる。

 

 

 

「フッ……ァハハハハハハッ!」

 

その様子を見た仮面の男は、狂ったように高笑いを上げた。まるでこの惨状を楽しむかのように、女が倒れたのが嬉しいかのようにッ。

 

 

 

「笑うな」

「あぁ?」

 

《シェレンが倒れ、満足だって》

 

《こんなことをして、本当にどうでもいいのか》

 

敵の攻撃を受け、辺り一面の景色はもう完成に様変わりしていた。落ちていたカードは爆風で消し飛び、地面は所々がクレーターだらけ。

 

おれはダメージで傷を追った。シェレンに至っては、火傷の痕から少量の血が流れている。

 

無事なのは、目の前の男くらいだ。

 

「ふざけるなっ、ふざけるなよ」

 

《こんな理不尽あっていいはずがないっ、こんな奴に負けられないっっ》

 

「貴様が何を言おうと、結果は変わらん。この前にデュエルした女共と同じィ、その女もまたカードになる運命だ」

 

「カードになるっ、……何のことだ!?」

 

「言った通りの意味だ。俺はこれで、ターンエンド」

 

そういえば、おれたちが来た時にこの場には誰もいなかった。ただ無数のカードが落ちていただけだった。

 

《もし仮に、あれが戦っていた『デュエリスト』の残したデッキのカードだったとしたら》

 

「お前は、いったい何人者デュエリストをカードにしたっ!?答えろっ、あの落ちていたカードの中にデュエリストはいたのか」

 

「質問の多い野郎だ。安心しろ、大切な人質だちゃんと持っているよ」

 

男はポケットを探るようにさわり、数枚のカードを取り出した。

 

そのカードには、まるでデスマスクのような学生達の姿が写り込んでいた。ある者は泣いて、ある者は痛みを堪えるような顔をしている。一枚一枚のカードが各々の悲劇を象徴しているようだ。

 

「そこの女もっ!お前もっ‼直ぐに、後を追わせてやるよォ」

 

その口調の節々には、隠しきれぬ興奮と悪意が滲み出ていた。

 

 

 

「させねぇよっ」

 

シェレンを同じ目には、絶対にあわせない。仲間は取り戻す。

 

《俺のデッキよ》

 

《一度で言い、力を貸してくれ》

 

《仲間のために》

 

 

 

「おれのターン、ドロォォォォォォッ」

 

次の瞬間、手札にあったのはまだ見たこともないカードだった。

 

「いくぞっ、おれは手札から無名の傭兵を攻撃表示で召喚」

 

「俺は古代の機械双頭猟犬の効果発動、 1ターンに1度、相手フィールドにモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。俺は無名の傭兵にギア・アシッドカウンターを1つ置く!」

 

黒い巨大な歯車がおれのモンスターを押し潰さんばかりに、落ちてへばりついた。

 

「これで、貴様はもう攻撃できない。すれば自滅するだけだからなァ」

 

「さらに!おれは儀式魔法『知られざる生誕』を発動ッ」 

 

知られざる生誕

 

儀式魔法

 

このカードは手札に『無名の剣将』が存在しない場合、手札を一枚捨てて発動できる。この効果を発動した時、自分はデッキから『無名の剣将』を一枚手札に加える。自分の手札・フィールドから、レベル8以上になるようにモンスターをリリースし、手札から『無名の剣将』を儀式召喚する。このカードを発動したターン、自分はこのカードの効果で召喚したモンスター以外で攻撃できない。

 

「なんだとっ」

「おれは、フィールドの『無名の医師』と手札の『無名の傭兵』を生け贄に捧げる」

 

『儀式召喚』

 

「現れろ、『無名の剣将』」

 

無名の剣将

 

レベル8

 

戦士族/儀式/効果

 

 

 

 

AT2000/DF2000

 

「なんだ、レベル8で攻撃力たった2000かよ。そんなモンスターでは、俺のライフは削りきれないっ」

 

「無名の剣将の効果発動。このカードは一ターンに一度、自分または相手の場・墓地の『恋姫』と名のつくモンスターカードを選択しこのカードの装備カードにできる」

 

「何だ、そのふざけた効果はっ!?」

 

「おれは墓地の呉王・孫策を選択。そして、装備したモンスターの元々の攻撃力の半分をこのモンスターに加えるッ」

 

モンスターの持っていた素朴な剣は、黄金の剣へと変わる。まるで、亡き戦友の意志を継ぐかのように力強く輝き続けるのだ。

 

「呉王・孫策の攻撃力は2800、よって、このモンスターの攻撃力は3400になる」

 

「攻撃力3400だとッ!?」

 

「バトルだっ、無名の剣将で古代の機械双頭猟犬を攻撃ッ」

 

知られざる英雄は、遂にその剣で敵を切り裂く。そして、破壊されたモンスターの痛みはその主人を襲う。

 

「ぐうゥゥゥゥゥゥッッ」

 

仮面の男

LP1350

 

「だがッ、これでお前の攻撃は終わった!次の俺のターンで、墓地の古代猟犬が甦るッ」

 

 

 

 

 

 

「どうかな。お前に、次のターンはない」

 

「なんだとッ!?」

 

「おれは無名の剣将の効果発動。このカードは装備したモンスターの効果を使える」

 

 

【このモンスターは儀式召喚された場合、このカードのコントロールは召喚された元々の場から、別のプレイヤーにコントロールが移る効果を無効に出来る。

このモンスターは一度のバトルフェイズ中に、二回攻撃することができる。】

 

 

「ッ!?まさかっ」

 

「おれは装備した呉王・孫策の効果を発動ッ。もう一度、攻撃を行う」

 

虎の口牙が一対で生えるように、覇王の牙もまた一つとは限らない。余りある戦闘本能は、一度敵を破壊した位では満足できないのだ。

 

 

 

「ダイレクトアタックッッ」

 

 

『双牙一閃』

 

 

「ぐっ………………、グアァァァァァッ‼‼‼」

 

想いのこもった一撃が敵を切り裂き、盛大に吹っ飛ばす。まるで、本物のモンスターの攻撃を食らったかのようにだ。

 

仮面の男

LP0

 

 

 

この瞬間、デュエルの勝者は決まった。

 

 

 

 

無名の剣将

 

レベル8

 

戦士族/儀式/効果

 

このカードは一ターンに一度、自分または相手の場・墓地の『恋姫』と名のつくモンスターカードを一体を選択し発動する。選択したモンスターカードをこのカードの装備カードにできる。このモンスターは、この効果で装備したモンスターカードの元々の攻撃力の半分の数値をこのモンスターの攻撃力に加え、装備モンスターカードの効果を使うことができる。この効果を発動したターンのエンドフェイズ時に、このモンスターに装備されたカードを全て破壊する。この効果で破壊されたモンスターが装備する前に元々フィールドにいた場合、そのカードを元々のコントロールしているプレイヤーのフィールドに特殊召喚する。

AT2000/DF2000



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第一章
不審者と異世界


中途半端。サボる


「おい、大丈夫かシェレン」

 

デュエルを終えたスイゴはシェレンにかけよった。幸いにも、彼女は全身に軽い火傷を追っている程度で血も既に止まっているようだ。何より、顔にはほぼ全く火傷がない。息もあるようだ。

 

「…………ん、スイゴ」

「大丈夫そうか」

「ええまだ体は少し痛いけどね。どうやらその様子だと、あの男は倒したようね」

 

《よかった、無事で。……というか、もし顔が傷ついてたらいったいどうなってたんだ》

 

自分の想像に思わず、冷汗が流れる。女性は程度の差こそあれ、自分の顔を一番気にすると言う。聖フランチェスカ学園は人工比率でいうと、どちらかというと男子よりも女子があきらかに多い。そのため、この学園に通う内に女が怒るポイントも既に知っている。いや、分からされたと言うべきか。

 

もし仮に彼女の顔に傷の一本でもあれば、彼女は傷つけた者を絶対に許さないだろう。

 

「…つーか、クラスメイトのが怖えよ。特にメイリンとか、リアンとか、リアンとかっ」

「ねえ?スイゴ」

「何だよ」

 

 

 

「あの変な……、仮面の男はどうしたの」

「あ」

 

スイゴは慌てて、後ろを向く。仮面の男は既にいなくなっていた。

 

 

 

二人はひたすら、森の中を探し歩いていた。

 

「もー、スイゴのバカ。ちゃんと見張っておきなさいっ」

「仕方ないだろ、お前を起こすのに忙しかったんだから」

 

仮面の男を探して30分くらい、二人はずっとこの不毛な会話をしていた。

 

「話の通りなら、その仮面の男はデュエリストをカードにするということね」

「ああ、もしかしたら他に仲間がいたのかもしれない」

 

どちらにしても、早くあの男を見つけなければ話にならない。詳しい話を聞くにしても、仲間をカードから戻すにしてもだ。

 

「に、しても。そう簡単には見つかるかしら」

「あんな目立つ奴とは言え、今はデュエル大会中だからな。下手すると一般人をおそって……」

 

 

 

『バトルだっ!!レイド・ラプターズ・ライズ・ファルコンッ』

 

突如、人の声が響く。一拍遅れて、何かを砕くような破砕音が続いた。

 

「!声が聞こえるわ」

「もしかして、そこにいるのか」

 

二人は慌てて、声のした方向を目指す。

 

そこには、先程スイゴが倒したような奇妙な仮面をつけた男達が数人倒れている姿があった。周りの木々は何かによって、なぎ倒されているようだ。その中で、一人悠然と佇む者がいた。赤いマフラーで顔を覆うその人物は、ゆっくりと仮面の男達に近づいてく。

 

「……何だ、これは」

「っ、何者だっ‼」

 

こちらに気づいたのか、マフラーの人物は警戒するようにスイゴとシェレンの方を見た。声の調子とその体型から、男であることが分かる。

 

「まって、私は争いたいわけじゃない。そこに倒れている男達に用があるのよ」

「貴様…、まさか融合次元の者か」

「融合?何のことかわからないけど、私達は…」

「ならばっ、俺とデュエルしろォォォォッ」

「人の話を聞きなさいっ」

 

シェレンと男の言い争いは収まるどころか、どんどん加熱していく。スイゴはこの会話だけで、目前の男を謎のマフラーから不審者に認定した。今日は変な奴等にばかり出会う。泣きたくなる。

 

 

 

「くくく、敵から目を離しているとは言い度胸だ」

 

挑発するかのような声が聞こえ、先程、不審者に倒されていた仮面の男達が起き上がる。流石に、シェレンも不審者も争いをやめてそちらの方を向く。

 

「フン、まだ起き上がる気力があったか」

「確かに、貴様は儀式次元の者達とは違うようだ。こちらも部が悪い、一時撤退させてもらおう」

「っ‼逃がさん、お前達には聞きたいことがある」

「生憎、俺達には無い」

 

不審者が焦ったように、仮面の男達の動きを止めにかかる。しかし、追いつくよりも早く男達は彼らのデュエルディスクに触れると同時に消えてしまった。

 

「くそっ。奴等が消えたということは、ここは『アカデミア』ではないのかっ!?」

 

消えた男に続くかのように、彼もまたデュエルディスクに手をかける。

 

「待ちなさいっ‼あなたにはまだ聞きたいことがあるのよっ」

「そうだ、アイツらが何者なのか答えろっ‼」

 

おれとシェレンは同時に、男の肩を掴む。瞬間、デュエルディスクが眩しいばかりの光を放つ。徐々に体に浮遊感が増し、なぜという疑問を持つ暇もなく三人はその場から姿を消した。

 

学園の者は、皆デュエル大会に熱狂で気付く者はいない。スイゴとシェレンは誰にも気づかれることなくこの世界からいなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

気がつくと、私達はどこかの町のなかにいた。周囲にはビルが乱立し、空に浮かぶようにある道路と派手な宣伝広告の数々が知らない場所であることを教えてくれた。なぜか追いかけていたはずの男の姿はなく、スイゴと私だけがそこにいた。スイゴとも、下手にはぐれるよりは良かった。

 

「どこだ、ここは。おれ達はたしか、あの不審者を追いかけて」

「少なくとも、聖フランチェスカ学園ではないわね。数年、学園内を見てきたけどこんな発達した町はなかったもの」

「そもそも、基本は森しかないところだからな」

 

スイゴの意見に私も同意する。つまり、私達は学園とは違う別の場所に跳ばされてしまったことになる。

 

「そういえば、あの変な仮面の連中が言ってたわね。融合次元がどうとか」

「次元って、まさか。それなら、ここは異世界か?あり得ない」

 

下らないという風に、考えを否定する。

 

「分からないじゃない、私はこの場所を全く知らないもの」

「おれも分からないがだからと言って、それは話が飛躍しすぎだろ」

 

日頃、私の非常識な行動に振り回されているせいか彼の私に対する信用は低い。

 

《……この前、授業日数足りなくて生徒会の仕事を手伝わせちゃったからねー。一週間、徹夜でやらされればそりゃ恨むか》

 

「で、根拠はそれだけか」

「…んーとね、実はもう一つあるのよ」

 

本当はこれが最大の理由なのよね。聞きなさい、私の仮説を裏付ける外れることの無い絶対にして、究極の根拠。それはッ!

 

 

 

「カ・ン」

「……」

 

 

「だからー、勘よ勘。私の勘が、ここは私達の世界と違うって言ってるのよ」

「カンカン言うな。止めろよ、お前が言うと冗談ですまないんだよ」

「ふふふっ、分かってるわよ。私の勘が働くときは決まって、スイゴも事件に巻き込まれるもの」

 

イヤな予感は当たるって言うしねん。自慢じゃないけど、マイナスな方面への勘の的中率は100%よ

 

「……信じるしかないか、それでこれからどうするよ」

「取り敢えずは情報を集めましょう。どのみち、すぐに帰れるとは限らないのよ」

 

正直、この格好で町を彷徨きたくないんだけどね。こんなボロボロじゃ痴女に間違えられないし、まず必要なのは服よね服。



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異世界のレベル

今度こそ、サボる。


私達は半日近くこの町で情報を集め、それによりいくつかのことがわかった。

 

まず、この町は『舞網シティ』というらしいこと。

 

次に、持っているお金が使えないこと。ここでは円じゃなくて、Dがお金代わりだ。Dって何よ。

 

…最後に、この世界は私達の世界じゃないこと。デュエルに関する技術や知名度が圧倒的に私の知っているものと違いすぎる。

 

「やっぱり、違うかー。『LDS』なんて私聞いたことも無いわね」

「俺達の世界では、『シンクロ召喚』や『エクシーズ召喚』なんて聞いたこともないからな」

 

お金が使えないためにスイゴから制服の上着だけ借りることになった。あのままの格好じゃ、人の注目を集めてばっかりだったし。この制服がジャージみたいなものでホント良かったわ。

 

「にしても、このちょっとキツイわ~」

 

ちら。

 

「言っとくが帰ってもその制服返さなくていいからな。絶ッ対返すなよ」

「あらん、本当はちょっと気になるじゃないの」

「…………いや」

「バレるウソは良くないわ」

 

顔を反らしているけど、私にはわかる。その顔は、きっと、真っ赤になっているに違いない!

 

「なあ、空も暗くなって来たしこのままじゃ野宿だな」

「はいはい。うーん、確かにどこか安心して眠れる場所が欲しいわね」

 

町の治安は良さそうなんだけど、それとこれとは話が別だ。お腹も空いてきたし、どこかで仕事を見つけないと。……まあ、それは置いとくとして。

 

「付けられてるわね」

「ああ、30分位前からずっとな」

 

学生の私達に気づかれるようじゃ大したことないけどね。面倒だしこのまま撒こうかしら。いや、その必要はないか……。

 

「おいおい、そこのネエチャン。随分発育いいじゃねぅか」

「胸がデケェな、そんな男のそばに置いとくのは勿体無いぜ」

 

振り向いた先には、スキンヘッドの男組がいた。二人とも凶悪な面をしていて、まともな社会人の類いとは思えない。この世界の社会常識など、私にはわからないけど。先程自分の言ったセリフを訂正したいわね。

 

《服装もダサいし、何よりあの太ったお腹。明らかに、運動不足ね。20・30代くらいみたいだけど、あれはダメね。生理的に受けつけないわ》

 

「あらん、男は間に合ってるわよ。横にいるのが見えないかしらー?」

「お呼びじゃないとさ、どっか行けよ」

 

シェレンは見せびらかすように、色目を使う。意図がわかったスイゴもまた彼女に肩を貸してやる。このあからさまな挑発する態度が堪にさわったのか、男達は目に見えて不機嫌になった。

 

「ハアァァ、舐めとんのかクソガキ」

「調子乗んなよ、あったま来たわ。少しは優しくしてやろうと思ったが、もう勘弁せん。ぶっ飛ばして、ひいひい泣かしたるわ」

 

なんてキモい。シェレンは男達の話す内容の下劣さに思わず顔をしかめた。スイゴもまたイライラしている様子だ。正直、この場でノリノリなのは男の2人組だけだ。

 

「上等だっ、ぶっ倒してやるよっ。オレらが勝ったら、その女寄こせや」

「オレらと、デュエルで決着つけろぉ」

 

もはや、短い忍耐力すらきれたのか乱暴さを隠そうともしない。男達はデュエルディスクを構え、勝負を挑んでくる。

 

「デュエルなら、逃げる訳にいかないわね」

「返り討ちにするか」

 

私達もお互いにデュエルディスクを構える。デュエルディスクはこの世界でも、無事に機能するようだ。

 

「「「「デュエル」」」」

 

異世界における、初めてのデュエルが今幕を開けた。

 

シェレン&スイゴvs不良の男「十影」&不良の男「九暮」

LP8000vsLP8000

 

 

 

「いくぜぇ、オレの先行。オレは手札から『ガガギゴ』を召喚」

 

十影のフィールドに、青い皮膚のモンスターが出現する。胴体は人に似ていながら、顔はトカゲのようなつくりをしたアンバランスな姿のモンスターだ。

 

「さらにオレは永続魔法『 絶対魔法禁止区域』を発動っ、これでオレのモンスターはお前らの魔法効果を受けないぜ。カードを一枚セットして、ターンエンドだ。」

 

次はスイゴの番ね。

 

「おれのターン、モンスターカードをセットして、カードを二枚伏せターンエンドだ」

 

流石に、警戒しているようね。相手がどんな召喚法を使うかわからない以上、ここは様子見が正しい気がするわ。

 

「へっ、ビビってモンスター出すのを怖がってら。既に格づけは決まったものじゃねーか」

 

スイゴの顔が微妙に強ばる。表情は無表情だが、時々頬がピクピクしているのを見ると腹は立っているようだ。

 

《いや、アンタが挑発に乗ってどうするのよ》

 

一見すると落ちついた性格のような彼だが、その実非常ケンカっぱやい部分もある。勝負事から逃げるのが嫌いな、所謂、負けず嫌いなのだ。その性格のせいで、彼がデュエルで損することも少なくないのにね。

 

「チッ」

 

「いい面になったじゃねーか。オレのターンだ。手札から、ダーク・グレファーを攻撃表示で召喚するぜ」

 

黒き剣を持った、厳つい風貌のモンスターが出現する。その目は真っ赤に染まり、表情もどこか狂ったような笑いを張り付けている。

 

「このモンスターの効果を発動、手札から闇属性モンスター一枚を捨てることでデッキから闇属性モンスター一体を墓地に置く。さらに、オレはカードを一枚セットして、ターンエンドォ」

 

一瞬、九暮という男がこちらをみた。男は鼻の下をのばしているように見えた。品定めでもしていたのだろうか、…………ダメだ鳥肌がたつ。

 

《なんか、色々と負けちゃダメな気がしてきたわん》

 

「私のターンっ、手札から、『呉国の兵士』を召喚よ」

 

呉国の兵士

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードは一ターンに一度、カード効果によって破壊されない。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。このカードは守備表示になる。

AT1800/DF1900

 

「さらに、手札から装備魔法『戦場の旗印 呉 』を発動。このカードを呉国の兵士に装備し、カードを一枚伏せてターンエンドよ」

 

戦場の旗印 呉

 

装備魔法

 

このカードは『呉』と名のつく戦士族モンスターにのみ、装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。また、自分フィールド上にこのカード以外のモンスターカードが存在するときに発動する。相手はこのカード以外に攻撃宣言を行えない。

 

一ターン目は、お互いに攻撃もドローもできない。つまり、ここからが本番ね。

 

「オレのターン、ドローだ。……へへっ、いいカードがきたぜ。九暮、お前らのカード使わせてもらうぜぇ」

 

「おうよ!」

 

「オレはフィールドのガガギゴとダーク・グレファーをリリースして、手札から『ゴギガ・ガガギゴ』をアドバンス召喚」

 

生け贄に捧げ出てきたモンスターはガガギゴに似ていた。しかし、身体は鎧で武装して顔もまたどこか凶暴さを増した外見になった。攻撃力も2950とかなり高い。

 

「バトルだ。オレはゴギガ・ガガギゴで呉国の兵士を攻撃」

 

凶暴な戦士の放った一撃は、シェレンの場のモンスターをあっさり破壊した。

 

シェレン&スイゴ

LP7350

 

「オレはこれでターンエンドだ」

 

「おれのターン、ドロー。おれはモンスターカードを一体セットしてターンエンド」

 

なんとなく、スイゴの意図は読めたわ。けど、もし裏守備のままカード破壊とかされちゃったら話にならないわよ。シェレンは内心、スイゴの戦術に不安を感じた。

 

「オレのターンだっ、ドロー。いくぜ、オレは墓地の闇属性モンスターが三体揃っていることからこのカードを特殊召喚できる。現れろぉ、おれの切り札『ダーク・アームド・ドラゴン』」

 

禍々しいオーラを放ちながら、黒き竜はフィールドに現れた。このモンスターもまた、どこか正気じゃないような雰囲気を出している。九暮という男が自信有り気な様子からも、このモンスターに対する自信のほどが伺える。

 

「そして、手札からダーク・グレファーを召喚。効果を使い、闇属性モンスター一体を墓地に置く。さらに、ダーク・アームド・ドラゴンの効果発動ォ」

 

なんかスッゴい、イヤな予感するんだけどっ‼

 

「このカードは、墓地の闇属性モンスターを一体除外するごとに相手フィールドのカードを一枚破壊できるぜ」

 

「なんだとっ!?」

 

《しまった、これで私達の場ががら空きになっちゃう》

 

「オレは墓地の闇属性モンスターカード五体をゲームから、除外する。これで、野郎と女のカードは全滅ッ」

 

敵のいう通り、スイゴのフィールドのモンスターと伏せカードは発動もせずにはかいされた。けど、私はそうはいかないわ!

 

「罠カード発動。『呉の増員要請』」

 

呉の増員要請

 

通常罠

 

このカードは、一ターンに一度発動できる。デッキから、「呉」と名のつくレベル4以下の戦士族モンスター一体を自分フィールド上に特殊召喚できる。

 

「私は、デッキから呉国の従者を守備表示で召喚」

 

「女の方は、一枚ムダになったか。だが、男の方は別だっ。オレはダーク・アームド・ドラゴンでダイレクトアタックゥ」

 

黒竜の炎が吐き出され、私達のライフを容赦なく削った。

 

シェレン&スイゴ

LP4550

 

「さらに、ダーク・グレファーで女のモンスターを破壊ィ」

 

凶戦士の一撃が、私のモンスターを切り裂いた。

 

「呉国の従者の効果発動。私はデッキから恋姫-呉王・孫策を手札に加えるわ」

 

「これで、オレはターンエンドォ」

 

《もしかして、コイツら意外とできるのかしら》

 

シェレンとスイゴは、異世界のデュエリストの強さを肌で実感していた。



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赤馬零児

もうダメだ、おしまいだ。


スイゴと私は驚いていた。

 

正直、こんなきちんとしたデュエルをしてくると思ってなかった。私達の世界じゃ、生け贄召喚の方法を間違える大人すらいるのだから。ここのデュエリスト達を侮っていたかもしれない。

 

《町の不良ですら、このレベルって。私達の世界より、平均デュエルレベルが高いのかしら》

 

とはいえ、さすがに負けるわけにはいかないけどね!

 

「私のターンよ、ドロー!手札より『高等儀式術』を発動、デッキのレベル5の『呉国の防人兵』とレベル3の『呉国の見習い兵士』を墓地に送るわ」

 

呉国の防人兵

 

レベル5

 

戦士族

 

 

 

AT1500/DF2500

 

呉国の見習い兵士

 

レベル3

 

戦士族

 

 

 

AT1000/DF0

 

 

 

「 これでっ、手札の『恋姫-呉王・孫策』の儀式償還を執り行うことが可能よ」

 

『民は思いを託し、兵は忠誠を捧げよ!そして国を統べし王は全ての願いを背負い、戦えっ‼敵を打ち砕けっ‼!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「天下万民こそ、我が望み。呉王・孫策」

 

黄金の剣を片手に、美しき美貌の王が出現した。

 

「攻撃力2800っ、はっ、そんなんじゃオレ達のモンスターには敵わないぜ」

「ええ、このままではね」

 

だから、このカードを装備させるわ。

 

「装備魔法『王家の剣-南海覇王』を発動。呉王・孫策に装備し、攻撃力を500上げるわっ」

 

王家の剣-南海覇王

 

装備魔法

 

このカードは、「呉王」と名のつく戦士族モンスター一体にのみ装備可能。このカードを装備したモンスターカードは、攻撃力を500ポイントアップする。このカードを装備したモンスターは、一ターンに一度、モンスターカードに対する相手のカード効果の発動を無効にし破壊できる。この効果は一ターンに一度発動でき、このカードを装備したモンスターが戦闘で相手モンスター一体を破壊した時、破壊した相手モンスター一体の元々の効果力分のダメージを相手に与える。

 

「攻撃力3300ゥ!?」

「バトルよ、私は呉王・孫策でダーク・アームド・ドラゴンに攻撃」

「そうはいくか、オレは罠カード『 炸裂装甲』を発動」

 

「南海覇王の効果ッ、このカードは一ターンに一度、相手のカードの発動を無効にする」

 

「げぇェェッ!?」

 

王の進軍を止めることはできない。唯一無二の宝剣による一撃が、邪悪な力を持つ敵を切り裂いた。

 

「ぐおぉォォ」

「やりやがったなっ」

 

十影&九暮

LP7500

 

「さらに、効果でダーク・アームド・ドラゴンの攻撃力分ダメージよ」

 

十影&九暮

LP4700

 

「覇王・孫策で九暮にダイレクトアタック」

 

『覇王一閃』

 

覇王の追撃が敵プレイヤーを襲った。

 

十影&九暮

LP1400

 

「私はこれで、ターンエンド」

 

 

《よし、このペースで行けば問題なさそうね》

 

「ったく、テメェらみたいのは何時もそうだよな……」

 

ん?

 

 

「 そうそう。そうやって、強いカード使ってよォ。オレ達から何もかも、奪いとっちまうんだ。ステータスが何だってんだよッ」

 

いきなり語りだした男二人組に、一瞬、シェレンとスイゴの思考が停止した。

 

「そうやって、オレ達みたいのにみせびらかしてよ」

「しかも、自分達はその価値を理解してませんよ、っつう態度をしてやがる」

 

説教、というよりはむしろ愚痴に近い。見れば、スイゴもどこか呆れたような顔をしている。

 

「本当は心の底では、オレ達みたいのを見下してるクセによっ!」

「さっきから、イチャつく姿見せつけやがって、そんなんだから、オレ達みたいのが息苦しい思いをすんだよォ‼」

 

そんなにイチャついてないでしょ!?

彼らの理論……、というか逆ギレに思わず額を抑えたくなった。

 

「そんなクソ共には、ぜっってぇ負けねぇ」

 

十影はデッキから、カードをドローした。

 

「オレは手札から、速攻魔法『ガガギゴ・サイクロン』を発動」

 

ガガギゴ・サイクロン

 

速攻魔法

 

自分フィールド上に、『ガガギゴ』と名のつくモンスターカードが存在するときにこのカードは発動できる。相手フィールド上の魔法・罠カード一枚を破壊する。そして、相手フィールド上の表側表示モンスターは全ての攻撃力・守備力は1000ポイントダウンする。

 

「てめぇの南海覇王を破壊する。バトルだっ、オレ達の怒りを思いしれぇェェ」

 

まるで、失恋した男がその怒りをぶつけるかのように荒れ狂うゴギガ・ガガギゴ。シェレンのモンスターも心なしか引いているように見える。蒼き野獣の爪が呉王・孫策を破壊した。

 

シェレン&スイゴ

LP3400

 

「痛ったーい」

「なんか、面倒くさくなってきたな」

 

……にしても、スイゴじゃなく、モンスターを狙う辺りちゃんとしてるわね。

 

「オレは伏せていた永続罠カード『限定戦闘』を発動、相手は『ゴギガ・ガガギゴ』以外を攻撃できない。これで、ターンエンドだっ。ぺっ、ザマァー見ろ」

 

限定戦闘

 

永続罠

 

自分フィールド上のモンスター一体を対象に、このカードを発動する。相手はこのカードの効果で選択したモンスター以外を攻撃できない。このカードの効果で選択したモンスターは一ターンに一度、罠カードの効果を受けない。

 

「やられたら、やり返す。お前らが売ったケンカなんだ、ボッコボッコにしてやる。おれのターン、ドローーーッ」

 

もはや、売り言葉に買い言葉。デュエルじゃなくて、リアルファイトが始まりそうな雰囲気だ。シェレンのことなんか、もう忘れているかもしれない。

 

「おれは、墓地の無名の医師の効果発動。墓地にあるこのカードをゲームから除外し、墓地のモンスター『無名の軍師』を手札に戻す」

 

無名の軍師

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが、相手モンスターカードとの戦闘で破壊された時に発動し、自分のデッキから、『無名』と名のつく戦士族モンスター一体を手札に加える。このカードが墓地から手札に送られた時に発動し、自分のデッキから『無名』と名のつくレベル4以上の戦士族モンスター一体を手札に加える。

AT500/DF500

 

「その効果で、おれはデッキから無名の傭兵を手札に加える。さらに、知られざる生誕を発動ッ。手札のカードを一枚捨てて、デッキから『無名の剣将』を手札にくわえる。おれは、自分の手札の無名の軍師と無名の傭兵を生け贄に捧げる」

 

「 これにより、『無名の剣将』の儀式償還を執り行える」

 

『その真実は何者にも気づかれず、その英断は何者も知ることはない!しかし、その勇気のみは男の仲間を奮い立たす‼未来を掴めっ‼!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「仲間と共に、戦場を駆けろ。無名の剣将」

 

スイゴのフィールドに、彼のエースモンスターが現れる。

 

「はっ、たった攻撃力2000で何ができるゥ」

「男と一緒で、貧弱だなっ」

 

「おれは無名の剣将の効果発動ッ‼」

 

《あっ、怒った》

 

「シェレンの墓地の呉王・孫策をこのモンスターの装備カードにするッ!これで、攻撃力3400ッ‼」

 

「なにィッ!?」

 

「バトルだッ‼!無名の剣将でゴギガ・ガガギゴを攻撃ッ‼‼」

 

「「耐性ぃ、意味ねぇェェェェッ」」

 

十影&九暮

LP950

 

「さらに、呉王・孫策の効果発動!相手にダイレクトアタックッ‼」

 

『双牙一閃』

 

「嘘ォォォォォ!?」

「反則だろォォォォォ!?」

 

十影&九暮

 

LP0

 

スイゴのモンスターの一撃によって、派手に吹き飛んだ二人組。それにしても怨念こもってるわねー。

 

 

 

 

 

 

ここは、とある部屋の中。その部屋の中央に居座る男はただ静かに目の前にある大型モニターを眺めていた。その下では、男の部下と思わしき、複数の男女が忙しそうにコンピュータを操作している。ふと、男が気がついたように後ろを向いた。男の後ろに控え、立っていた者は男の近臣の部下だ。

 

「社長、先ほどの結果が出ました」

「そうか、話せ。」

「はい。やはり、この世界では有り得ない高レベルの『儀式召喚』でした。二人ともです」

「どちらの方が高い」

「一概には言えませんが…………、瞬間的には男の方が数値が著しく高く。平均的には、女の方が数値は明らかに上でした。」

「成程、わかった。下がって良い」

 

そう言うと、男は首の赤いマフラーをたなびかせ元のあったようにモニターを見る。そこには、若い男と女が年上の男二人のデュエリストを相手に闘う姿が写っていた。

 

数時間前、この部屋で警告を知らせるサインがモニターに表れた。つい先日、『榊遊矢』というデュエリストが『ペンデュラム召喚』なる既存にはない召喚法を使用した時にも同じようなことがあった。その後、今度は高レベルの『エクシーズ召喚』が起きた。そして、今日また続くように高レベルの『儀式召喚』の反応を確認した。

 

《これは偶然なのか……?立て続けに、この『次元』では見られない高レベルな召喚法が次々と現れることが》

 

男は自らの中で浮上した疑問を否定する。

 

《有り得ない。榊 遊矢はともかく、先日のエクシーズの召喚からは然程日が経っていない。この二つを偶然と片付けるのは、余りにも楽観的だ》

 

とはいえ、男も自分の仮定を結論へとまとめるにはまだ要素が足りない。考えの裏付けを取るべく、動く必要性を理解していた。

 

「確か、男と女の居る位置は既に掴んでいたな」

「はい、市内の路地地区に居ると把握しています。移動はしてないはずです」

「わかった。今から、そこへ向かおう」

 

《もしも、融合次元の手先ならば捕まえる必要がある。違うならば、我々の来るべき日に対アカデミアに向け、組織した『ランサーズ』の力になるかもしれない》

 

様々な可能性を検討しつつ、男は深淵謀慮の瞳で目的地へと向かう。トレードマークの赤いマフラーを首に身につけ、部下を引き連れるその男の名は『赤馬零児』といった。



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持たざる者達

もう手遅れだ。そして、デュエルしろ


辺りはすっかり真っ暗になっており、電灯の光だけがそこにいる人々を照らしていた。

 

 

 

「さて、何かおれ達に言うことはあるか?」

「「「「「ずぴまぜんでした」」」」」

 

男達の顔は酷く腫れ上がり、その体はズタボロ。最早、無事な所を探すほうが難しい有り様だ。そんな男達は傷にムチ打つかのように正座させられていた。

 

そして、そんな彼らとは対称的に無傷でこの場に立っている二人組の男女。

 

片方の男は灰色の髪をして、額には細くしたバンダナらしきものを付けて髪を上げている少年。もう片方の女は、桃色の腰までかかる長い髪を持ったスタイルの良い少女。

 

二人は仁王立ちで、眼下の男共を見下ろしていた。年下の少年、少女が年上らしき男達を見下ろすその姿は、第三者が見ればはっきり言ってシュール極まりない光景だろう。

 

「ったく、ケンカ売るなら相手を見て売れ。特にデュエルに敗けた腹いせに直接的暴力に訴えるなんて、デュエリストが一番やっちゃだめだろ」

「そうよ。貴方達を殴ったコイツや私が言えた義理じゃないけど、こーゆうのは良くないわよ」

「「「「「ぼっしゃるどおりです」」」」」

 

灰色の髪の男ことスイゴは、手に付いた薄い赤いしみらしきモノをぬぐうように手をズボンに擦り付けていた。女ことシェレンの方も服に付いた埃を手で払っていた。そもそも、なぜこんな珍妙な光景が出来上がったのか。理由は2・3時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

「私達の勝ちよ。約束通り、付きまとうのは止めて欲しいわね」

 

仰向けに倒れる男二人に対して、シェレンが見下すように言い放つ。スイゴも同意するように相手を睨み付ける。

 

「んだよ……、……デュエルですらオレ達はこんな恵まれた野郎に負けるのかよ」

「なんだよ、こんなの……クダらねぇ」

 

「お前達が挑んだデュエルだろうが、それを何言ってやがる」

 

スイゴは男達のセリフに腹がたった。まるでそれでは、デュエル自体をバカにしたような発言ではないか、と感じたためだ。シェレンも同様なのか、怒りが表情に出てきている。今はデュエル中に、男達のデュエルレベルが高いと考えた自分達を恥じている。

 

「ちっ、こんなのガキのオモチャだろうが!約束、何のことだぁ?」

「何マジになってんだよ。バッカじゃねぇのォ!」

 

スイゴは拳を握りしめ、込み上げる感情を必死で抑える。自分の沸点の低さは自覚しているが、にしても、これは言い過ぎだ。

 

《ヤベェ……、コイツらのことムチャクチャ殴りてぇ》

 

我慢だ我慢という風に堪える姿が、男達にはどう見えたかわからないが煽りはドンドン酷さを増す。

 

「はっ、デュエルなんざこの際どうでもいい。女だけ、手に入れればなぁ‼」

「てめえみたいな野郎はどうせ、他にも勝手に寄ってくる女がいるんだろォ。そんな単純な女ばかりの中から、一人ぐらい貰ったって対したこと無いだろォが‼」

 

シェレンの笑顔が固まった。表情はいつも以上ににこやかだが、うっすら開けた目の奥だけは明らかに笑ってないように見える。普段の飄々とした彼女からは考えられない冷え冷えした姿。背中からは、オーラと形容するような凄まじいナニかがあると錯覚するほどだ。

 

《《ナニ言ってんのかなコイツら》》

 

スイゴとシェレンの考えは、奇しくも一致していた。

 

しかし、男達にそんな二人の心情を読みとる能力などない。薬じゃなく、火薬を持ってくるようなことを平然と言えるのだ。

 

「おーーーいィ、お前らこいやぁーーーーー‼‼」

「まとめて、このクソガキ共シメてやろうぜェ‼‼」

 

男組が叫んだ瞬間、彼らの後ろやスイゴ達の後ろからもぞろぞろと多数の人影が現れた。それはいかにも柄の悪い、表情も鋭い人達だ。さすがに今度は全員がスキンヘッドではないが不良然としている、という印象だけは一致していた。

 

「こんな大人数引き連れて、何するつもりかしら?」

 

ざっと、30人ばかりいる男達を見て、シェレンはそう聞いた。平然とした様子で、彼女は立っている。スイゴもまた同様だ。

 

「へぇー、度胸あるじゃねぇか。けど、これから起こるが分かっても同じこと言えんのかよ」

「どうするつもりだ」

 

一瞬、十影の顔がニヤつく。

 

「もちろん」

「「「「「若いクソガキへの躾だよォォォォォォ」」」」」

 

男達は、一斉に二人に襲いかかってきた。デュエルに敗けたからといって、暴力に訴える彼等は紛れもないリアリストに違いない。

 

 

 

ただ、一つだけ男達が勘違いしていることがある。この場には、腕っぷしの良いリアリスト達をも越える二人のリアリストが揃っていたことだ。つまり、スイゴとシェレンである。

 

「もう殴っていいか、シェレン?」

「ええ、隠れている奴らを含めて思ーーいきりっ、ぶっ飛ばしましょう♪」

 

それから後の出来事を一言で語るなら、『死屍累々』。たった二人の男女が何倍もの男達を相手をその素手のみで渡り合う姿。それはまるで、ゴブリン達の群れの中に二匹の青眼の白龍を放ったかのようだった。数で勝る暴力を理不尽な力で一掃し、隠れている奴らを含めて総勢50人ちかくを地に這いつくばらせ正座させた。

 

そして、スッキリしたような満足気な表情をしながら二人は男達を相手に延々と説教を繰り返した。

 

「そうねー、土下座もしてもらったし。もういいかしらね」

「こんなことしてもしょうがないしな。おい、お前ら」

 

男達の背中が瞬間揃ってビクリと揺れる。年上への敬意など微塵もない様子で、スイゴが話かける。男達ももうそれに逆らう気力すら起きないのか、黙って頷くばかりだ。

 

「お前らどうしてこんなことした。ただ、女が欲しいだけでこんな面倒くさいことしたのかよ」

 

おれは一番ちかくにいる。…………確か、十影って名前だった奴にそう尋ねる。

 

「……ええ、とですね。実は別にそんなことはなくて……」

「だから、その理由背景含め纏めて全部洗いざらい話せってんだよ」

 

もはや、どちらが恐喝していた立場かわからない。今のスイゴは紛れもなく、不良まがいのそれに違いなかった。

 

「オレ達……、昔はこんなんでもデュエルスクールに通ってたんすよ」

 

散々脅したかいがあったのか、十影はすこしづつ話始めた。

 

「他の奴らとは通っていたとこは別だったけど、みんな成績はそこそこよかったんすよ。勉強とデュエルができりゃ、周りの連中はみんな誉めてくれた。こんな面の奴ばかりだから、モテこそしなかったけど」

 

どこか、遠くを見るような目で話を語る。

 

「でも、そんなのも何時までも続かなくて……。……いよいよ、オレ達がデュエルスクールを卒業してプロデュエリストになれるかどうかの瀬戸際に立たされた時です。プロになれば、金も入るし両親も困らない。オレ達は懸命に練習しました」

 

そこで、男は一旦言葉を切った。

 

「けど、世の中そんなに上手くいかないものでここにいる奴等はみんな落ちました。当たり前ですよ、オレ達はみんな本当にプロデュエリストになりたかったわけじゃない…………ッ」

「話せ」

 

スイゴは口を塞ぐ十影に、あえて睨み付けて話を促す。

 

「周りの期待に応えたくて、親のプレッシャーが嫌でデュエルを続けたオレ達が本気でそれを好きだったヤツラに勝てるはずがなかっ…たんだぁ」

 

口調はだんだん弱々しくなる。

 

「……そのことに気づいたときには、もうオレ達は手遅れの時でした。親には見捨てられ、録でなしのレッテルを貼られ、勘当された仲間もいます」

 

後ろにいる数人が泣き出した。

 

「結局、オレ達は才能もない。努力も中途半端な負け犬に成り下がりました。ははっ、本当は生まれた時からクソ以下だったのかもな」

 

「シェレンにはどうして、手を出した」

 

「……ムカついたんですよ。オレ達はこんなに毎日腐った生活してるのに、あんた達はオレ達の学生時代よりも随分と幸せそうじゃないですか。オレ達だってっ!学生の時にもっと信頼できる友人さえいればっ!!彼女さえいれば、もっとマシになれたんじゃないのか!!!」

 

あんたみたいな容姿だけのような男に引かれる女のことも許せなくて、と十影は最後に付け加えた



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遠い夜明け

耳が痛い。


「話はわかったわ。その上で言わせてもらうけどね」

 

彼女は一拍置いた。

 

「甘ったれてんじゃっないわよ、このバカタレがっーーーー!!!!」

 

シェレンのケリが容赦なく、十影の顔をぶっ飛ばした。ついでに、2・3人くらい同じように吹き飛んでいったが。

 

「さっきから、言い訳ばっか聞かされてっ。貴方達の事情なんか、知ったことじゃないわ。そもそも、私達は貴方達とは何の関係もないでしょ」

 

その通り、オレ達はおそらくこことは別世界の人間だから完璧に無関係だ。

 

「それに見下すって、何よ。私達はあんた達がストーカーするまで全然気づかなかったし、興味もなかったわ。自意識過剰よっ!!それに本当にマシな奴なら、あんた達のことなんか見ないはずよっ!自分のことで精一杯だもの!自分を良くしようともせず、他人の顔色伺って、何も出来ないような連中と一緒にされたくないわっ‼」

 

シェレンは男の胸ぐらを掴みながら、文句をたれる。顔が二重で青くなってるように見えるのは、見間違えじゃないはずだ。

 

「……それじゃっ!オレ達はどうすればよかったんだよ」

 

心から吐き出すような、心痛なる問が男からもれた。

 

「簡単よ。逃げなきゃいいの」

 

さすがだ、シェレン。一番難しいことを言ってのける。

 

「目の前の現実からも、出来なかったという過去からも、やらなきゃいけないことが解る今からも。全部投げ出さずに、やり遂げなさい。それが、やるべきことを捨てた貴方達が一番やるべきことよ。やるべきことをやってれば、余計なこと考える暇なんてないわよ。それが一番なんだもの、周りの目なんか気になんないわ」

 

彼女に冗談の様子はない。普段のふざけた雰囲気はなく、その目はただ真剣に相手を見続ける。男達も黙って、それに聞き入る。シェレンの持つカリスマが、周囲の人に他のことを言わせる余裕をなくしてるのだ。

 

まあ、おれもシェレンにばかり言わせる気はないけどな。

 

「シェレン、変われ」

「ええ♪いいわよ」

 

おれが話しかけると、たちまちいつもの彼女に戻ってしまった。本当に掴めない性格だ。

 

「お前さ、女が入ればって言ってたよな。でもさ、それは逆だよ。話をしていて心地良いと、安心するって感じる奴だから、女は寄ってくるんだよ」

 

これは説教じゃない、ただの愚痴だ。思い出すのは、おれの同級生のホンゴウ カズトという男のこと。

 

おれが中二のときに引っ越してきたアイツは、一月も経たない内にハーレムと呼べるような数の女友達を作っていた。当時は、恋愛のことに疎かったアイツは本当にただの友人として接していたようだった。俄には信じ難いが、よく話すおれとシェレンの勘がそういうのだからまちがいないだろう。デュエルの大会で優勝して以降は、より何倍もカズトに惚れるやつが増えた。なんてことはない、優勝したからモテるのではなく、元々のアイツの魅力を理解する機会が多くなったゆえの必然的な結果だ。

 

ヤツに恋愛相談のことを話される度に、おれやツチダ、サジ、カンウンが何回コイツを殴りたくなったか数えるのもめんどくさい。つーか、三回に一回くらいは殴ったな。

 

それでも、ヤツは女を泣かせるようなことをしなかった。気持ち悪いほどの絶妙のタイミングで、女達へのフォローを欠かさなかった。

 

玉に半殺しになっていたのは……、まあ、きにしなくていいか!アレはアレなりに苦労しているのも知っているし。だから、おれはあいつがモテるのを納得はしてないが、認めている。話が逸れた。

 

「そんなことしてたって、いつまで経ってもモテねーよ。女が近づくとしたら、金かそいつ自身が下らない奴かのどっちかだ」

 

それに……、と言葉を続ける。

 

「仲間はいつも、ココにいるだろ」

 

そう言って、おれはおれのデッキを指差す。

 

「カードが……?」

「そうだ、信じれば応えてくれる。いつでも会えて、いつもおれ達を支えてくれるヤツらだ。負けるのは、カードのことを知らないからだよ」

 

おれはデッキを見る。昔はなかったカードもあるし、子供の頃から使い続けたカードもある。それら全てにおれが一喜一憂した記録が、記憶が刻みこまれている。

 

「だから、おれは一人じゃない。……言いづらいけど、おれを信じてくれるコイツらに恥じない自分になりたい」

 

「カードに恥じない自分……」

 

「そして、このおれと闘ってくれるヤツラ。シェレンやカズト達に恥じない、自分でいたい。デュエリストでいたいんだ」

 

一瞬だけ、シェレンの方を見る。彼女はいつも通りにニコニコしている。

 

「お前達の前には、デュエリストがいる。横には共に考える知り合いがいる。お前の手にはカードがある。それで、充分だろ!?ふざけるなっ!!」

 

お前達がどんな事情で、一緒にいるかなんて知らない。けど、似た傷を持って何となくでも理解できるなら、傷の舐めあいでも良い、それはもう仲間だ。

 

「前に進む方法もデュエルの勝ち方も自分で考えるから、価値がある。だから、もう一回言う」

 

好き勝手に、言ってやる。

 

「おれの仲間はいつもココにいるんだ」

 

言いきって、スッキリした。もう一度はめんどくさいけどな。シェレンは小さく、『よくやった』、と言ってくれた。後ろに『元不良』の言葉は余計だけどなっ!

 

 

 

 

 

 

「名演説、ありがとう」

 

おれ達の後ろから、手を叩く音が聞こえた。

 

「私自分も多いに参考になった。中々、興味深い話だったよ」

 

シェレンと後ろを向くと、そこには赤いマフラーを着けた少年が立っていた。銀色の髪をして、メガネをつけた理知的な容貌の男だ。そして、その男の後ろにはスーツ姿の人間が何十人もいた。そいつらは、完全に逃げ道を塞いでいる。下手したら、100人はくらいいそうだ。

 

「私の名は、『赤馬 零児』。『LEO Duel School』の社長だ」

 

レオ……、どっかで聞いたことがある気がするな。

 

「確か、ここら辺で一番有名なデュエルスクールだったわね」

「ほう、もう既に知っているとは光栄だ。君達が此処に来て、まだ対して時間も経っていないはずだが」

「どういう意味かしら」

「それは、君達が一番わかっているだろう」

 

シェレンと赤馬という男の会話に、おれは内心動揺した。確かに、そうだ。だか、まだおれたちがここに来て一日も経っていない。誰にも話していない筈なのに、なぜ、コイツはその事を知っている!?

 

「まあいい、ここで話すのはなんだ。私にとっても、君達にしても」

 

赤馬は地面に座ったままの男達を見て、そう言った。

 

「断る、といったらどうなるのかしら」

「暴行、恐喝、無断侵入、猥褻容疑などや他多数……といえば、分かるかな」

「穏やかじゃないわね」

 

完全に脅しに来てるな。おれとシェレンは腹が立つのを表に出さないよう、努力した。

 

「それに私についてくれば、もしかしたら、君達が知りたいことも解るかもしれない」

 

おれ達はその質問に、ただ頷くことしか出来なかった。

 

「来たまえ」

 

赤馬と名乗る男の後ろをスーツ姿の大人達に囲まれながら、おれ達はついていく。おれは、その男に一つ質問をする。

 

「あそこに倒れている男達はどうする」

 

「何もしない。君達が大人しくついてくるならば、態度次第で厳重注意に留めておこう」

 

「そうか、わかった」

 

ならば、もう言うことはない。あの男達のことは忘れ、おれ達が知るべきことを知りに行くだけだ。

 

何が起こるか解らない、という不安を抱えながらもスイゴとシェレンは赤馬 零児が促す『LDS』へと足を進めた。

 

今宵の夜明けは、まだ遠い。



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舞網チャンピオンシップ

眠い


「それで、まずは君達の名前から聞かせてもらおうか」

 

銀髪のメガネをかけた男-赤馬 零児は二人にそう尋ねた。

 

「わたしは、シェレン。『ソン シェレン』よ」

「おれの名前は『ギユウ スイゴ』だ。」

 

オレ達はこの赤馬に脅され、路地裏から『LDS』と名乗る組織の本拠地へと着いた。ただ黙ってつれていかれた訳ではない。この男はおれ達が知らない情報を知っている。それを知るために、ここへ来た。

 

「そう警戒しなくてもいい、私は君達が『アカデミア』の関係者だとは既に思っていない」

「アカデミア、だと?」

「ほう…、知っていたか」

「おれ達が……居た場所に現れた奴等だ。変な仮面を付け、人をカードにすると言っていた」

 

アイツらによって、シェレンが傷つけられたのは今でも思い出せる。胸くそ悪い話だ。

 

「何、それは本当か?何か他に、証拠は提示できないかね」

「……約束がある。これは他の人には見せないと」

 

赤馬はおれの言葉に頷く。おれが今いるこの部屋は、既に周りにいた部下がいなくなったため、中にいるのはおれ達三人だけだ。見張られていなければ、いいけどな。おれは例のモノをポケットから、取り出す。

 

「な…に、これは」

 

シェレンは言葉が詰まったように、おれの手にあるものを見た。ショックが強すぎるからと、シェレンには見せなかったモノだ。

 

「これは、……カードか。しかも、人が写りこんでいる。成程」

 

赤馬は、そのカードをじっくりと見ている。 

 

「このカードからは、強い『デュエルエネルギー』を感じる。つまり、これらのカードは本物のデュエリスト自身だと言うことだ」

 

《くそ、このカードは本物ってことかよ》

 

「そのカードをどうやって手に入れた」

「襲いかかってきたその仮面のデュエリストを倒した」

「そうか。すると君は『オベリスク・フォース』を倒したというわけか」

「オベリスク・フォース……、それがアイツらの名前か」

「オベリスク・フォース」

 

絶対に忘れないぞ、その名前。おれ達の……学園の人をカードにしやがった。それに倒したのはおれだけじゃない、シェレンもいたからアイツらを倒せたんだ。彼女もまたこの事実に顔をしかめている。

 

「アイツらは、……オベリスク・フォースは何者なんだっ。お前はアイツらの仲間なのかッ!?」

「違う。落ち着きたまえ」

 

《落ち着けるわけがない、こちらは犠牲者がでてるんだよ》

 

あの男達が、いつまた学園を襲うのかわからない。ひょっとしたら、もう今頃は攻めて来ているかもしれないんだ。感情的さを隠さないおれとシェレンとは対称的に、目の前の男はどこまでも冷静な態度だった。

 

「オベリスク・フォースは、『融合次元』にあるアカデミアから来ている『デュエル戦士』だ」

「融合次元……、それはどういう意味かしら」

「言葉の通りだ。彼らはこことは違う…この世界とは違う次元の者達だ」

 

そして侵略者だ、と言葉を加えた。シェレンはこの事実に、どこか確信がいったような顔をした。

 

「まるで、世界が複数有るみたいな言いぐさだな」

「そうだ。彼らオベリスク・フォースが来たのは『融合次元』、君達の世界は……そうだな『儀式次元』と呼ぼう」

 

赤馬の言葉に、おれはアイツらが言っていたことを思い出した。

 

【甘いな。流石は『サンクチュアル』だ遅れている】

 

【 確かに、貴様は儀式次元の者達とは違うようだ】

 

「そして、私達がいる世界。他にも、『エクシーズ次元』の存在はとある人物に確認をとったが……君達は知っているか?」

 

その言葉に、おれ達は首を横にふる。エクシーズ次元ということは、エクシーズ召喚が関わった次元のはずだ。しかし、おれはエクシーズ召喚がそもそもどんな代物か解らない。

 

「そうか。まあ、現状判明しているのはこの四つだ。もしかしたら、もっと他にもあるのかもしれない」

 

「そいつらは、何の目的で来てる。どうして、人を襲うっ」

「分からない。……が、少なくともそれは次元を侵略しなければ成し遂げられない何かだと言うことだ」

 

次元を侵略する。ならば、やっぱりアイツらはあの時おれ達の次元を侵略しに来たのか。

 

 

 

「待ちなさい。貴方はどうして、そんなに詳しく知っているの」

 

一緒、シェレンのした質問の意味を理解出来なかった。

 

「おかしいと思わない、スイゴ?今日見た町の様子はどうだったかしら」

 

何って、平和な普通の町その物で…………まさか。

 

「おかしいわよね、貴方がこのことを知っているってことは彼らに会ったことがあるはずよ。でも、この町は敵からの警戒をしているには余りにも無防備に見えたわ。そんなのは、異常よ」

 

シェレンは戦の事となると、頭と勘が働く。彼女は、彼の話の中にある何処とない違和感に気づいたのかもしれない。おれ達は赤馬の方を睨みつけた。

 

「確かにそうだ。しかし、単純な話だ。先程私はエクシーズ次元に関わるとある人物がいるといったはずだ。私はその協力者から、情報を聞いたために知っている」

 

その発言にシェレンは納得しなかった。

 

「ウソよ。それだけで、貴方みたいな人がこんな話をするはずがない。……なにか、もっと、明確な根拠があったはずよ」

 

「やれやれ、……これ以上はプライベートに関わる。出来れば、控えて貰いたい」

「だとすれば、貴方のことを信じられないわね。真実を隠して、自分に都合の良いことを言ってるのかもしれない」

「信頼してくれ、とは言わない。だが、少なくとも私は君達とは敵対する意思はない」

 

彼はこれ以上は何も言う気がないようだ。自らの嘘を追及されても全く揺らがないその様子は、この話題が無意味であることを暗に意味していた。 

 

「わかったわ、そのことはもういい。しかし、質問がある。貴方はカードにされた人を戻せないの」

「残念ながら、無理だ。我々の技術力ではアカデミアの技術でカードにされた人を戻すことは出来ない」

 

つまり、このカードらはそのままってことか。おれ達はこの事実に項垂れるしかない。

 

 

 

「私は君達に興味がある」

 

突如、赤馬は下向くおれ達に話しかけてきた。

 

「君達からは、強力な力がある。『儀式召喚』だったか、私はモニターで君達を監視していた。」

 

最初から、見られていたのか。

 

「我々の世界では、あれほどの強い『デュエル・エナジー』を持つデュエリストを確認出来なかった」

「『デュエル・エナジー』?」

「モンスターを召喚した時に起こるエネルギーのようなものだ。君達はその力が一般のデュエリストよりも遥かに高い。私は召喚反応のレベルも低く、滅多に使い手がいない召喚法のため放っておいたが。なるほど、それは誤りだったのかもしれない」

 

《確かに使い辛いもんな儀式召喚。おれも、ずっと敬遠してたし》

 

「しかも君達は『アカデミア』の刺客の一人を倒したようだな。ならば、私の考える『ランサーズ』の一員に相応しい」

「「ランサーズ?」」

 

また出てきた新たな単語におれもシェレンも頭をひねる。まるで、部活か何かの名前みたいだと思った。

 

「私が構想する。……対アカデミアのための組織だ」

「対アカデミア。…つまり、アイツらを追えるのかっ!?」

 

赤馬の話す話に一筋の光明が差した気分になった。もしオベリスク・フォースを追えるなら、おれ達は元の世界に帰れるかもしれない。横を見ると、シェレンもまた僅かに興奮してる様子だ

 

「追うことに関しては今は無理だ。だが、近々その問題は解決するかもしれない。現状、私はこの次元に攻めこんできた時に対する防衛組織にするつもりだ」

「ウソではなさそうね」

「なら、話は早い。おれ達をそのランサーズ加えてくれ!!」

 

今のどうする術もないおれ達にとって、この話は渡りに舟だ。

 

 

 

「だが、それには条件がある」

「「条件?」」

 

途端に、頭の中が冷静になる。無条件で済むほど、簡単な話ではないようだ。

 

「ああ、正直な話。私は君達の実力を完全に信じてはいない、オベリスク・フォースを本当に倒した所も見た訳ではないからな。そこで、君達には『舞網チャンピオンシップ』に参加して成績を残して来てもらいたい」

「なんだ、それは」

「私達の世界のデュエル大会だ。規模はこの町の区域内のみだが、出場するデュエリストは世界でも充分に通用する。このデュエル大会の優勝者はプロになる資格を得られる。」

「つまり、私達の世界でいう大規模なプロデュエルの試験。…面白そうね」

「そうだ。本来はこの大会は三つのクラスにわかれているのだが……、君達には『ユース』クラスに参加してもらいたい」

 

ユース……つまり、大人のクラスか。まさか、一番強いクラスじゃないのか。

 

「ユースクラスへの参加条件は?」

 

シェレンが回答を急かす。

 

「50戦中の勝率が6割を越えていることか、連続のデュエルで六連勝するか。そのどちらかだ」

「デュエル大会までの期限はどのくらいだ」

「あと10日くらいか」

 

もうすぐ直前じゃないか。なら、最初の方はダメだ。時間が足りない。この世界の戦術が分からない以上、おれ達は無闇矢鱈には戦えない。

 

「そうなると…」

「連続で、六連勝するしかないだろう。対戦相手は、こちらで用意するがどうするかね」

「わかったお願いする。その代わり、おれ達はあと何回戦えばいい」

「君達が戦ったデュエルは、確か『タッグ・マッチ』だったな。ならば、君達は二人とも二連勝扱いにしておこう」

「なら、後4回連続で勝てばいいわけね」

「タッグを組むのも自由だ。同じように、カウントしよう。……ただし」

 

 

 

舞網チャンピオンシップでは闘えるのはシングルのみだがな、と彼はそう言った。こうして、スイゴとシェレンは新たに異世界における『舞網チャンピオンシップ大会』の参加を目指すという目的が出来た。



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遊勝塾

割りきるか


町は賑わいを見せていた。人々は皆、もうすぐ開催されるとあるイベントに夢中のようだ。道路や学校では、至るところで戦い合うデュエリスト達がいた。そんな中、周囲の盛り上がる空気とは関係なく、町中を散歩する一組の男女がいた。

 

「それで、結局、戦い方はどうするよ。シングルか、それとも、タッグか」

「うーん、難しいわよね。シングルだと回数が多くなるし、タッグだと経験値が不足するし」

 

先程から、二時間ちかく二人はこの会話をしていた。互いに意見を出しあうも中々に良い、折衷案が見つからないのだ。

 

「あの赤馬って、男がいってたな。シンクロ召喚やエクシーズ召喚のデュエリストを紹介してくれるって」

「融合もね。後、ペンデュラム召喚も気になるのだけど使い手が少ないわね」

「たった一人だもんな。少ないって、レベルじゃないって」

「「それに、なんといってもこの『アクションデュエル』」」

 

二人ことスイゴとシェレンは同時に溜め息をついた。これこそが、彼らを悩ましていた最大の問題だった。

 

『アクションデュエル』とは、通常のただ立ったままで行うデュエルとは違う。発達した最先端の『リアル・ソリット・ビジョン・システム』が特定の場所に専用のヴァーチャルフィールド『アクションフィールド』を造りだし、そこでデュエルし合うということだ。質量すら持ったそのフィールドは、様々な景色を生み出すことができる。海や空のフィールドですらも造り出せる。文字通り、画期的な技術だ。そして、『アクションフィールド』内ではデュエル中に勝手に拾い、使用できる『アクションカード』が存在する。『アクションカード』は魔法・罠カードの二種類存在し、通常のデュエルモンスターズカードには存在しないもので構成されている。これにより、デュエルにスリルと興奮を持ちこむことができるようになったのが『アクションデュエル』だ。

 

「って、普段なら、ワクワクしてしょうがない筈なのにねー。状況が状況だから、全く笑えないのよ」

「けど、『舞網チャンピオンシップ』じゃ全てが『アクションデュエル』で行われるらしいし、練習に越したことはないよな。こっちのデュエリストのレベルがはっきりわかってない以上は、少しでも勝負を重ねるしかない」

 

思い出されるのは、オベリスク・フォースとのデュエル。あの時は二人がかりでなんとかなったが、次も、同じとは限らない。もしも自分達より多い敵を相手にする機会で勝てませんじゃ、話にもならない。おれ達自身がデュエリストとしてのレベルアップする必要性は感じている。

 

「それでー、どうするかしらん。デュエルは明後日の予定だけど」

「今日は休みたい所なんだけどな。とりあえず、唯一無二の召喚と呼ばれるペンデュラム召喚を見に行こう」

 

目的地を定めた二人は、特に焦る様子もなく軽い足どりで向かうのであった。

 

 

 

「で、目的地の『遊勝塾』を目指しているハズなんだが」

「迷ったわね」

「お前が服なんか、買いたいって言うからだろうがーーーッ」

 

おれ達は今、何処かも分からない大型ショッピングセンターの中にいた。地図の道理に進んでいたのに、シェレンがちょっと買い物行きたいからって回り道した結果がこれだよ。わかっていたのに、シェレンの言うこと聞いたらダメだって、わかっていたのにやってしまった。

 

「まあまあ、きっと何とかなるわよ。お金はあの赤馬って人から、たくさん貰ったじゃない」

「今度という今度は、お前の勘も異世界では通用しないんじゃないか。そもそも、ここの現金の価値がおれ達はわかってないだろ」

 

この世界のデュエル技術は発達しているのか、デュエルディスクに直接現金の代わりとなる電子マネーが入れてあり、それが一般的だ。むき出しのお金を持つものは、ほとんどいないらしい。

 

「この『D』の前につく、『1000000』って数字が恐ろしいんだが」

「しかも、二人共に入ってるしねん。社長さん、太っ腹ー♪」

 

そうこう話す内におれ達は目的地……ではなく、服屋らしき店の前についた。店に入ったおれ達に店員はにこやかな笑みを送ってくれたがシェレンを見ると、すぐにその顔を赤くした。ここにくる最中も、同様な視線を向けられた。

 

…なんていうか、彼女の格好は扇情的なのだ。おれがあげた上着は男物のためかチャックが途中までしか、上がらなくなっている。そのせいで微妙に胸が見えてるし、スカートは細い線が入ったような傷が無数にあり、ボロボロ。僅かに見える太ももが、セクシーさを際立たせている。正直なところ、こんな格好の彼女を見て普通に話せる赤馬の精神の強さは並みじゃない、と思った。

 

「スイゴはこの格好のままのほうが、いいかしらねん」

「お前の何時もの私服は、もっと酷いだろ。この程度、大したことねーよ」

 

この言葉に、店員は引いたのかおれ達から少し距離を置いた。いや、そんな趣味ないから本当に。

 

「ねえねえ♪スイゴ、この服はどうかしら」

 

いつの間にか、複数の服を試着室に持っていってたシェレンは着飾った自分の姿を見せ感想を求めた。

 

「ジャージで、よくないか」

「このバカは」

 

おれの適当な感想にシェレンは頭にきている様子。スイゴは素知らぬ振りで彼女を見る。お世辞にも、女性の服に関するセンスはそれほど良くない。結局、彼女自身に任せたほうがセンスもいいし、早く済むのだ。

 

《家だと、そもそもジャージ姿だしな》

 

世の男達の幻想がぶち壊されそうな事実だ。この次元の男達は、どうなのだろう。

 

「まあわかってたんだけどね。私が選んだ方が早いもんね-」

「よくわかってるな」

「こうなったら、スイゴの反応を見ながら買う服を決めようかしらっ」

「やめろォッ」

 

そんなことしたら、おれの後ろでおれ達を見てニヤニヤしている店員達の餌食だ。

 

 

 

結局、一人で服を決めて買った彼女はついでにおれの服も選んで買っていた。正直、自分としては異世界の男の服装に興味があったが。シェレンの『この服を着ないなら、ランジェリー・ショップに一緒にきてもらうわよ』という言葉を聞いて、あっさり着ることを決めた。さすが女王様、自分のしたいことには手段を選ばんらしい。

 

「いやーやっぱり、新しい服はいいわね。着心地が全然違うわ」

「そうだな。何だかんだ、制服は普段着に向かない」

 

どこぞのファストフード店で食事を終え、おれ達は今カードショップにいた。

 

「…にしても、カードの種類は全然ちがうわね」

「モンスターの絵も見たこと無いな」

 

当たり前だが、おれ達の世界にはないカードばかりだ。この世界のカードパックは、おれ達の世界よりも遥かにシリーズが多い。そして、高い。

 

「とりあえず幾つか買ってみようかしら。運が良ければ、使えるカードも手に入るかもだし」

「だな。選ぶのはシェレンに任せるけど、いいか」

「えーー、スイゴそれはないんじゃない。外れても知らないわよ」

「おれが選ぶよりは確実だろ」

 

シェレンの勘は、こういう時にも役に立つ。

 

 

 

「うん、まあ中々のカードねん」

 

良いカードを引き当て、レアカードも手に入れた彼女は上機嫌だ。いつもはしない、スキップまでしている。

 

「なんか、使いどころが難しいな。良いカードなんだろうけど」

 

スイゴの方はシェレンに選んで貰ったパックを開けたのだが、個性的なカードばかりを引き当てた印象だ。レアカードもあるが、使い方を考えるのがめんどくさい。

 

「それじゃあ、そろそろ遊勝塾に向かおうかしら~」

「もう夕方なんだ。迷惑だと思うが」

「時間がないし、仕方ないわ」

「仕方ない、行くか」

 

そうして、ようやく着いた遊勝塾。看板には大きく、『遊勝塾』と書かれているから間違いないだろう。

 

「にしても、人の気配が全然しないわね。新しい召喚法を発祥した塾だから、もう少し混んでると思ったけど」

「まだ、世の中には普及してないのかもな。門外不出のようなカードなら、別に不思議ではないな」

 

おれ達は普通に門を開け、中に入ることにした。

 

「お邪魔しまーす」

『待っていたよ、君達。遊勝塾へようこそっ!』

 

《《はい?》》

 

目前の男は、ニコニコした顔で派手なリアクションでおれ達を出迎えてくれた。スイゴとシェレンは、突然現れた謎の男の勧誘にはたまた首を傾げることになった。



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柊親子とアクションデュエル

ようやくか。


「なんだ。入塾希望者じゃないのかー」

「ごめんなさい」

「いやいや、良いって。ペンデュラム召喚の登場以来、物珍しさでくるそういう人は多いからこっちも慣れてるよ」

 

男はそう言って、気さくにスイゴとシェレンに話しかけてくれた。

 

オレンジ色の髪をした筋肉のついた男性で、着ているスポーツジャージがよく似合っている。男の名は『柊 修造』と言い、この塾の塾長をしてるらしい。少し暑苦しいけど、明るい性格の人ね。

 

「それで、そのー。噂のペンデュラム召喚を見せて欲しいんですけど」

 

私は今度はなるべく丁寧に頼むことにした。相手が塾長である以上は、こちらも誠意を持って大人に対応するべきと考えたためだ。

 

「うーん。見せるのは構わないかもしれないが、デュエルはお断りするよ」

「えっ、どうしてですか」

 

いきなりの拒否に、私とスイゴは目を丸くする。

 

「遊矢がさ、…あっウチの塾の生徒なんだけどね。今度、出場する大会のためにデュエルの相手を選んで、戦ってる最中なんだ」

「舞網チャンピオンシップですか」

「そうなんだよ。君達も出場するのかい?」

「今は、デュエルの相手を待っているんだ」

「そうかー、この時期は誰もデュエルしたがらないだろう。大変だね」

 

塾長のその発言に驚く。詳しく知るために、私は質問を重ねた。

 

「それはどうしてですか」

「君達もデュエリストなら、わかるだろう。この時期になると、大会に出場できるデュエリストとそうじゃないデュエリストが大体わかってくる。敗けが続いてたり、勝率が微妙な人は熱心になる」

 

「けど、勝ちが専攻する人はデュエルに消極的なんだよ」

 

その言葉には、どこか残念な気持ちが含まれているような気がした。

 

「そうだ、君は『柚子』とデュエルしないか」

 

修造は、シェレンにそう話しかけた。誰かは分からないが、おそらく、塾の生徒の一人に違いないと考えた。

 

「柚子さん、誰でしょうか」

「彼女は俺の娘だ。とっても、かわいいぞ」

 

親バカね、チラリとスイゴのほうを見ると彼も同じように見返してきた。

 

「彼女は強いんですか?」

「あったり前だ!俺の娘だぞ!大会にも出場するんだ」

 

そこには自信ありげな塾長の姿があった。その目には炎のような、赤いなにかが燃えているような気がした。

 

「なら、やります。こちらこそ、お願いします。強い相手と戦うのは、楽しみですから」

 

この世界における大会出場者のレベルをしれるかもしれない、貴重な機会だわっ。これで勝負を受けなかったら、ソン家の名が廃るってものよ。

 

「いいだろう、是非やろう!そこの君は私とやるので構わないかねっ!」

「えっ、いやそのだな」

「男なら、ハッキリしろ!熱血だッ。うお~熱血だ!」

 

男の背後にメラメラと炎が燃え上がる。いや、まるで燃えているかのように見えると錯覚させるほどの熱気を放っている。

 

「やりなさい、スイゴ。ここは勝負をうけるべきよ」

「シェレン、おれ達はペンデュラム召喚を見に来たんだ。目的を間違えるな」

「分からないの?ここで逃げたら、どうせ、大会でも勝てないわよ。私達は、彼らと違って経験も少ないのよ」

 

私はそう言うと、塾長の方を向いた。さっきまでの落ちいた雰囲気がウソのように、今度は騒がしい熱い性格の人になってしまった。

 

「デュエルは、アクションデュエルですか」

「もちろんだ。アクションデュエルこそ、『エンタメデュエル』の醍醐味!デュエルの最強進化計だァー!」

 

炎どころか火山が噴火したような勢いだ。

 

 

 

『おと~さん~』

 

 

ふと、急にさっきまでの暑苦しさが消えた気がした。代わりになぜだか、首もとが冷えるような感覚がした。塾長が後ろを向くと、そこにはハリセンを片手に仁王立ちする愛娘の姿があった。

 

「私に黙って、勝手になにしてんのよー」

 

彼女の鋭いツッコミが、修造の頭を叩きつけた。彼女はピンク色の髪をして、顔は童顔だ。全身から、こう、元気そうな雰囲気があふれてる。彼女こそが修造の娘『柊 柚子』だ。

 

「痛いぞ、柚子。お前に黙って、話を進めたのは悪いと思っているが」

「当たり前でしょ!私だって、色々と準備かあるんだからそんなにデュエルなんか出来ないわよ」

「どうしても駄目か」

「くどい!」

「遊矢はどうした」

「まだかかるって!」

 

次々に繰り出される漫才のような話し合いに、シェレンは感心してしまった。なるほど、このノリの良さがエンタメデュエルの根幹だと言われても、不思議じゃないと思える。

 

「第一、この人本当にジュニアユースのクラスなの!?大人じゃない」

「えっ、君は高校生くらいじゃないのかい?」

「えっ、ええ。私は高校二年生よ」

「うっそぉーーー」

 

柚子と呼ばれる少女は、ビックリしたように目を開いた。

 

《そんな呆然とした顔までされると、少し悲しいわね》

 

大人びているのは、自覚しているが、この世界の人達には老けてみえるのだろうか。ふと、さっきからずっと黙っているスイゴのほうを見ると、彼はさも面白そうに笑っていた。

 

「シェレンは身長も高いし、性格以外は大人っぽいもんな」

「ちょっとー、それはちょっと失礼じゃないの」

 

大人に間違えられたのは、今日が初めてよ。

 

“胸も大きいし”

 

「え?」

 

一瞬、小声で何か言われた気がする。聞こえた方向にいる柚子は、ただ黙って、こちらを見るだけだ。というか、睨まれてないかしら。

 

「えっとね、私とスイゴはユースに出場するつもりなの」

「ユースだって!?それは大変だ!ユースクラスの場合、相手は同じくユースかプロでないと、いけない」

「つまり、戦ってもカウントはされないのね」

「スマーーーンッ!!!」

 

塾長が、全力で頭を下げてきた。余りにも必死なその姿に、シェレンは口をつぐんだ。

 

わざとじゃないのだろうけど、勘違いで暴走しそうな人ね。

 

……ま、いいか。

 

「ねえ、貴女私とデュエルしないかしら」

「え、でもデュエルしても勝率は上がりませんよ」

 

明らかに動揺したようにこちらに尋ねる。私もまた、彼女の方を見る。

 

「構わないわ。この塾の塾長が強いっていうなら、純粋にデュエリストとして、興味があるわ」

「戦闘狂」

「スイゴは黙ってなさいっ」

 

ピシャリ、と文句を切った。

 

《今日は随分と辛口ね。》

 

「……わかりました、私もデュエリストです。その勝負を受けます」

「ええ、それじゃよろしくお願いね」

 

お互いに握手を交わしあう。

 

「塾長さんも、スイゴとデュエルして、いただけないかしら」

「へっ?俺はかまわないが、君はいいかね」

「乗り掛かった船だし、おれもデュエルします。よろしくお願いします、修造さん」

 

彼もまた、密かに戦うのを楽しみにしていたのかもしれない。そうでもなければ、大会に関係ないこんなデュエルうけるはずない。

 

「おーーーーし、それなら親子二人で熱血だーーーー!!」

「お父さん、うるさい!」

 

再び柚子によるハリセンの一撃が、こんどこそ修造をノックアウトした。



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幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ

そのままはダメかと。週間連載化


「それじゃあ、行くわよ」

 

デュエルディスクを構え、デュエルリングの上に立つ。

 

「はい」

 

お互いに用意はできた。後は、開始の合図を待つだけだ。

 

「柚子ーー、準備できたぞ!」

 

スピーカーから、塾長の声が聞こえる。そして、次の瞬間にフィールドが姿を変える。何もなかった空間には、自然が溢れだした。鬱蒼とした森が広がり、私の後ろには巨大な中華様式な城が現れた。

 

 

 

《アクションフィールドセット、『密林と城下』》

 

 

舞台は整った、シェレンは先程覚えたセリフを頭に思い浮かべる。そして、覚悟をきめた。

 

『 戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが』

『モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る』

『見よ、これぞデュエルの最強進化形、アクショォォーーン』

 

 

『『デュエル』』

 

 

シェレンvs柚子

LP4000/LP4000

 

火花はきって落とされた。

 

シェレンは、開始と同時に走り出す。まずは地形を把握するために、そしてアクションカードを手に入れるために。先行は彼女からだ。

 

「先行よ、私は手札から『呉国の騎馬兵』を特殊召喚。さらに、呉国の従者を通常召喚。」

 

呉国の騎馬兵

 

レベル5

 

このカードは自分フィールド上にモンスターカードが一枚も存在しないときに、手札からリリースなしで特殊召喚できる。このカードは相手フィールド上にモンスターカードが一枚も存在しない場合、攻撃できない。

AT2200/DF1600

 

強靭な身体を持った馬に跨がる兵士が出現した。そして、シェレンはその兵士の後ろの席に跨がる。二人もの人間を背負いながらも、馬のスピードは変わることなくフィールド内を勇壮と走った。

 

「これよ、私は、こんなデュエルがしたかったのよっ!カードを一枚伏せて、ターンエンド……のついでにカードを拾うわ」

 

木に引っかかったカードをすかさず拾う。彼女自身は体を動かすことも大好きだ。なので、フィールドを走るというデュエルスタイルはシェレンにとても合っていたのかもしれない。

 

柚子もまた、負けていられないと自分の足で走り出した。

 

「次は私よ、ドロー。私は、手札から『幻奏の音姫カノン』を召喚!」

 

青い髪を持つ、音符の精霊は軽やかに彼女のフィールドに出現した。

 

「さらに、幻奏の音姫カノンの効果発動。一ターンに一度、このモンスターの表示形式を変更できる」

 

精霊はその身を護るように、守りを固めらる。

 

「私は、手札のカードを一枚セットしてターンエンド」

 

走りながら、少女もまた地面に落ちたカードを一枚拾った。

 

《何か、狙いがありそうね》

 

シェレンは、柚子のモンスターカードを見てそう思った。しかし、そのために攻撃を躊躇することは有り得ない。

 

「柚子、私は逃げないわよ。ドロー、私は手札より『呉国の遠弓兵』を攻撃表示」

 

呉国の遠弓兵

 

レベル4

 

この効果は自分フィールド上に『呉』となのつくモンスターが存在する場合に発動できる。このカードの攻撃力を半分にして、相手に直接攻撃できる。このカードは一ターンに一度、自分フィールド上のモンスター一体を手札に戻してもう一度攻撃できる。

AT1800/DF1000

 

騎馬兵の後続に続く形で、弓兵もまた馬に乗りながらシェレン達を追いかける。

 

「モンスターが三体も」

「さあ、覚悟しなさい。私は、呉国の騎馬兵で幻奏の音姫カノンを攻撃」

 

鋭い槍を持ち、馬を操りながらシェレンのモンスターの攻撃がせまる。この攻撃が通れば形成は、一気に傾く。

 

 

 

しかし……通ればだが。

 

「私は、手札からアクションマジック。『同化』を発動」

 

同化

 

フィールド上のモンスター一体を選択する。選択されたモンスター一体の守備力は400ポイントアップする。選択されたモンスターは、一ターンに一度戦闘では破壊されない。

 

柚子が発動したカードの効果で、モンスターは一時的に木と同色に変化した。

 

「あらら、これじゃ破壊するのはムリね」

 

辺りを見境いなく攻撃を繰り返した騎馬兵の槍がほんの少し、カノンにヒットした。しかし、その程度ではモンスターは倒れない。寧ろ、手痛い反撃を食らった。

 

シェレン

LP3800

 

「なら、覚悟しなさい。 アクションマジック発動『強化』!私は呉国の遠弓兵でダイレクトアタック」

 

強化

 

フィールド上のモンスター一体を選択して、発動できる。選択したモンスターの攻撃力を500ポイントアップ。

 

弓をキリリとしならせ、矢の一撃が柚子に直撃する。

 

「アクションカードは……きゃああァァ」

 

カードを使った直撃のためか、彼女はそれをモロにくらう。

 

柚子

LP2850

 

「まだまた、私はフィールド上の呉国の騎馬兵を手札に戻すわ。これで、もう一回攻撃しなさい」

 

瞬間、モンスターの消えたシェレンは宙に投げ出されるが背中を丸めて身軽に着地する。

 

「またー!」

 

柚子

LP1700

 

「『もう一回!』……って、言いたいけどムリねん。一ターンに一度だから。これで、ターンエンドよ」

 

今度は弓兵の馬にまたがり、意気揚々と走り去った。

 

「うう、本当にアクションデュエルが初めてなのかしら」

 

ノリノリでデュエルする彼女に、柚子はシェレンのアクションデュエルへの将来性を垣間見た気がした。

 

「でも、私だって優勝塾の生徒一号よ。敗けるわけにはいかないんだから!私のターン、ドロー」

「来なさい。もっと盛り上げるわよ」

 

柚子はシェレンの言葉に、少し前からとある少年に習っている召喚法のことを思い出した。

 

 

《これは、いい機会よね》

 

 

「ええ、やってやるわ。私は手札から『幻奏の音姫ソナタ』を特殊召喚!さらに、フィールド上の私のモンスターをリリースしてアドバンス召喚よ。出でよ『幻奏の音姫 プロディジー・モーツァルト』!」

 

二体の歌姫達の歌声が、独特ハーモニーを生み出した。華やかな風にのり、奏者はフィールドという舞台に舞い降りた。

 

「攻撃力2600!それだけじゃないわね」

「当然よ。私はプロディジー・モーツァルトの効果発動。手札から、『幻奏の歌姫ソプラノ』を特殊召喚!」

 

盲目の歌姫が、フィールドにまた一人舞い降りる。

 

「バトルよ!プロディジー・モーツァルトで呉国の遠弓兵を攻撃」

「やっば」

 

モンスターは主を庇うように、慌てて馬の上から突き飛ばす。音の精霊の指揮者から、放たれた粒子がシェレンのモンスターを破壊した。

 

シェレン

LP3200

 

「さらに、私はソプラノで呉国の従者を攻撃!」

「えっ、攻撃力はこっちが上よ?」

 

すると、柚子は背中に隠していたカードを取り出す。

 

「ふふーん、これは何かしら」

「アクションカード!?しまった。」

「アクションカード発動。『敗兵の剣』!」

 

敗兵の剣

 

自分フィールド上のモンスター一体の攻撃力を500ポイントアップする。

 

ソプラノの歌声が、呉国の従者の意識を甘く包み眠りに落とした。そして、歌姫の一撃でモンスターは破壊された。

 

シェレン

LP2800

 

「私はデッキから、『恋姫-呉王・孫策』を手札に加える」

 

アクションデュエルの実力は、シェレンよりも柚子のほうが一日の長がありそうだ。

 

「ヤバ、何かまだありそうな気がするのよね~」

「ええ、盛り上げるわよ!」 

 

そう言って、柚子は自分のフィールドを見る。

 

《大丈夫よ、私!練習では上手くいってた。今なら、行けそうな気がするもん》

 

「私はフィールド上の 『幻奏の歌姫ソプラノ』と 『幻奏の音姫 プロディジー・モーツァルト』をソプラノの効果で融合召喚!」

「融合召喚!?」

 

先日の記憶が頭のなかでリフレインされる。あの召喚法の恐ろしさは、この身を持って知った。しかし、それでもここで震えて逃げる手はない!

 

『 天使の呟きよ!最良の天才よ!指揮者の導きにより合唱を奏でよ』

 

 

『融合召喚』

 

 

「 今こそ舞台に、勝利のメロディーを! 『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』」

 

至高の歌声を持つ精霊が、フィールドに舞い降りる。

 

「やった!初の実践召喚成功よ!」

 

柚子は自身の手で融合召喚を成功させたことに、大喜びだ。 浮かれながらも柚子はふと、木の影にあるカードに気がついた。

 

「さらに、私はアクションマジック『敗者の剣』を発動!」

 

「 これで、攻撃力は1500!私は幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァでダイレクトアタック!」

「キャアァァァッ」

 

シェレン

LP1300

 

「まだよ、私は手札から速攻魔法『ノーアドリブの合唱』を発動!」

 

ノーアドリブの合唱

 

速攻魔法

 

自身フィールド上の『幻奏』と名のつくモンスターカードが一体の時に発動できる。フィールドの『幻奏』と名のつくモンスターカードを一枚を選択し、選択したカードはこのターン一度のバトルフェイズ中に二回攻撃できる。

 

「ブルーム・ディーヴァでダイレクトアタック!!」

「いやいや、流石に通さないわよ」

 

シェレンは慌てて、伏せていたカードを発動する。

 

「私は伏せていた罠カード、呉の増員要請を発動」

 

 

 

「それは、どうかしら」

「え」

「 私も伏せていた罠カード『幻奏のイリュージョン』を発動!このカードの効果であなたのカードの効果は無効よ。」

 

呉の増員要請のカードが、石化するように色を変え砕け散る。

 

「これで、私の攻撃が通る!」

 

シェレンは慌てて、後ろをむいて逃げるが歌姫の音はその走りを上回る速さで彼女に向かう。そして、精霊の息吹が直撃した。



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王のプライド

ジャック強い。出したくなった。次は19


「あっぶなーい、わね」

 

……かに、思えたが。

 

 

シェレン

LP100

 

 

「間一髪って、とこかしらね。本当にアクションカードって、スリル一杯よ」

「掴んでいたの!?」

 

 

 

そう、彼女はギリギリの逃亡の最中にあるカードを掴んでいた。

 

【私はアクションマジック『毒の矢じり』を発動】

 

毒の矢じり

 

相手モンスター一体の攻撃力を300ポイントダウンさせる。

 

モンスターに突き刺さった矢の毒が、相手の攻撃を弱めたのだ。

 

《……何故かわからないけど、このカードに助けられたのはひどく屈辱だわ》

 

「はあー、倒しきれなかったかー」

 

融合召喚による初勝利を核心していたためか、柚子はひどくガッカリした様子だ。

 

「仕方ない!私は、手札から永続魔法『スローテンポ』を発動。これで、ターンエンドよ」

 

 

 

 

「さてと、こっちもお返ししないとねん」

 

一瞬、確かにだがシェレンは好戦的な笑みを浮かべる。彼女はやられっぱなしは、嫌いなのだ。王の器量をもつ者だからこそ、勝負には人一倍貪欲でなければならなかった。

 

「私のターン、ドローーーッ」

 

このままでは、終われない。相手を何も驚かせられないままでは、そもそもデュエルした意味すらシェレンにとっては無くなる。何より彼女は最高の充実感こそ、デュエルに求めるのだ。

 

《来た》

 

「私は、手札から『恋姫の君臨』を発動」

 

 恋姫の君臨

 

儀式魔法

 

このカードは手札から発動または手札を一枚捨て、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。自分の手札・フィールドから、レベル8以上になるようにモンスターをリリースし、 手札から『恋姫-呉王・孫策』を儀式召喚する。

 

「私は、手札の『呉国の騎馬兵』と『呉国の見習い兵士』を生け贄にするわ。 これにより、手札の『恋姫-呉王・孫策』の儀式償還を執り行うことが可能になる」

「儀式召喚ですって!?」

 

柚子は儀式召喚の相手とは、まだ一度も戦ったことはない。元々、使い手が少なく、カード自体も貴重なためだ。

 

『民は思いを託し、兵は忠誠を捧げよ!そして国を統べし王は全ての願いを背負い、戦えっ‼敵を打ち砕けっ‼!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「天下万民こそ、我望み。呉王・孫策」

 

複雑な術式を編み、その中央にかのモンスターは出現した。

 

「これが、儀式召喚……」

 

初めて見る召喚法に柚子も興奮を隠せない様子。その証拠に、頬は紅潮している。

 

「かわいいわ、すっごく!その顔!」

「え」

 

《あれぇ、この人もしかして少し危ない人なのかな》

 

「けど悪いわね、勝負では別の話よ。私は、手札から装備魔法を発動。王家の剣-南海覇王を呉王・孫策に装備。これにより、攻撃力は3300ッ。」

 

呉王・孫策は特殊召喚モンスターなので、『スローテンポ』の効果を受けない。

 

「……けど、 ブルーム・ディーヴァは戦闘では破壊されないわ」

 

しかし、柚子にも焦りはない。自分のエースモンスターに対する自信はその程度では揺らがない。

 

…ゆえに、勝負を決めるのは気持ち以上の何かだ。

 

「ちちち、甘いわよ。南海覇王は一ターンに一度、モンスターカードに対する効果で無効にし破壊できるわ。呉王・孫策で、ブルーム・ディーヴァを攻撃ッ!」

 

光輝く剣が、敵の威光を弾き反した。シェレンのモンスターが敵を切り裂く。

 

「……ッ、ぅうう」

 

モンスターを倒した余波に煽られ、柚子のライフが削られる。

 

柚子

LP0

 

これで、このデュエルの勝者が決した。観戦していたスイゴがこちらに歩いて来るのを見た。嬉しそうに笑ってくれている姿を見ると、彼女は自然に笑顔になれる。シェレンは彼に、おおげさな仕草でピースして応えた。

 

 

 

 

 

 

一方で、ここは二階の控え室に話は移る。シェレン達のデュエルは一階で行われており、控え室からはそのデュエルの様子が観戦できるように設計されている。スイゴはそこで、塾長の柊 修造と数人の少年少女と話をしていた。

 

「へえー、じゃあ君はソンさんの幼なじみなんだ!俺と一緒だね」

「シェレンって、呼んでいいと思うぞ。アイツは礼儀さえ忘れないなら、気安く接して欲しいみたいだからな」

 

二人は、さっきから30分程この会話を続けていた。一人は灰色の髪にバンダナもどきを身につける少年『スイゴ』、もう一人は頭にゴーグルをつけた赤と緑に分かれた鮮やかな髪を持つ少年『榊 遊矢』。二人とも似たような共通点が多いためか、中々話が噛み合っていた。

 

《ああ、これが普通の会話だよな。普段、シェレンと話してるせいか、感覚がマヒしてるな》

 

言うよりも行動、常識外れで規格外な少女シェレン。彼女に日常的に振り回される彼は、シェレンの親友同様に既に道を半分程踏み外しているかもしれない。

 

試合を観戦しながらも会話が弾む中、二人の後ろにいた男性が話に割り込んできた。

 

「ちょっといいかな。スイゴくんとシェレンちゃんは話を聴くに、どうやら住む家が無いようにきこえるんだが」

「ええ、まあ。……おれは両親がいなくて、シェレンも実家から逃げてきたから今日は住む所が無くて」

 

ちなみに、この話の半分以上がスイゴの捏造で出来ている。シェレンが母親の元から、逃げ出すことは絶対に有り得ない。

 

《 イェンレンさん相手じゃ、逃げたくても、無理だよな…》

 

もはや、これはスイゴとシェレンが共有する絶対的な真実である。

 

しかし、嘘とは知らない男性こと修造はこの話を聞いた時に、感傷的になってしまった。元々、人一倍情に厚い性格の彼は子供達のことをとても大切に思っている。話す内に彼らの人間像が好ましいと分かったなら、なおさらだ

 

「スイゴっくんっ!」

「はっはい。何ですか」

 

ただでさえ暑苦しい彼が、感情を剥き出しにスイゴに近づく。その熱気やら迫力だかに気圧され、ついつい彼は受け身にまわってしまった。

 

「君たちっ、ウチの家に来ないかねっ」

「はい?どうしてですか」

「君達に帰る場所がないなら、オレがお前達の面倒を見てやるっ!熱血だっーーー」

 

《熱血は関係ないだろ……》

 

これまで話していて、修造さんが嘘のつけなそうな、悪い人ではないとは思えた。

 

確かにおれはともかくシェレンはあれでも一応女性だ。どこかもわからない場所より、少しでも見知った場所で生活するほうが彼女のためかもしれない。

 

それにスイゴが泊まるのはまずい気がする、世間的に。

 

「おれは別に泊まらなくていいです。代わりに、シェレンのことはお願いできませんか」

「いやいや、君だけほっといてどうするんだい。スイゴくんも、泊まりなさい」

 

修造はそんなことは呑めないと、首をふらない。正に、下心のないお人好しの手本みたいな人間だ。しかし、スイゴにとってはこれはよろしくない。スイゴと修造による、激しい討論が繰り返される。

 

その二人の話を聞く内に、遊矢と呼ばれる少年は何かを思ったかのような表情になった。そして、自分の心中で決心を固めたのか二人の方を向く。

 

「塾長。なら、スイゴは俺の家に泊めてください」

 

その提案に、驚いたように二人は遊矢を見た。

 

「遊矢、お前はいいかもしれないが親御さんはどうする。『洋子』さんは納得してくれるのか」

「それならっ、俺が説得する。聞けば、スイゴは両親がいないらしいじゃないか。……そんなの放っておけないよ!」

 

遊矢…………あんまり言われると罪悪感で胃がキリキリするんだが。

 

「う~ん、まあ、確かにそのほうが良さそうな気もするが。……だめだ、だめだっ!」

「どうしてだよ、塾長っ」

「そういう事は、大人の事情も絡んでくるんだ。遊矢、お前はスイゴくんに同情してるのかもしれないが、それだけで簡単に人の世話を焼いてはいけないんだ。……それに、金とかだな」

「お金なら、一応有りますよ。まあ、足りるかは分からないですけど」

 

スイゴは、そう言ってデュエルディスクに入ったDの数字を見せる。このデュエルディスクは赤羽が特別に用意したもので、おれたちの世界のモノは彼に預けてしまった。これを見せ、シェレンもまた同じくらいだと教えた。

 

「0が五つ……、スイゴくんっ!君たちはお金持ちだったのかね!?凄い金額じゃないかっ、どうして君たちがこんな額のDを持っているんだいっ」

「いや、そうじゃなくて。…実は、ある人物に貰ったというか…」

「誰だい、それは」

「確か、赤馬零児って名乗ってたような」

「赤馬がっ!?」

 

塾長だけでなく、遊矢までも食いつくとなるとやはり其れほどの人物らしい。

 

「どうして、スイゴが赤馬と知り合いなんだよっ」

「色々あってな…………。まあそのことは置いとこうか。おっ、あれが融合召喚か」

 

遊矢の追及を強引にかわし、再びデュエルを観戦する。今は、確か柚子と呼ばれていた少女が融合召喚を決めたところだ。

 

「遊矢、おれはお前の家に泊めてもらうことにするよ。その代わりに後でなら、少しだけ事情を話せる。」

「……分かった。俺もアイツのことが知りたいんだ」

 

まさか、個人的な知り合いだったのか。スイゴは遊矢と赤馬の因縁について思いを巡らせたが、途中で考えるのを止める。

 

 

《まあ、おれはバカだからな。あんまり深く、考えても分からないだろ》

 

 

スイゴは、あっさり割り切ることを決めた。

 

「そうだぞ、遊矢。赤馬のことは、あまり思い詰めるな」

「…そして、スイゴくん。君たちの事情はもう聞かないことにする。今はデュエルに熱中しよう。うおー、柚子ー、熱血だっーーー」

 

塾長は何かを察したように話題を切り上げ、娘達の試合に集中した。



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大切な記憶

ミスでストックをアップ。これは、謝罪。次こそ19


シェレン達のアクションデュエルは更なる佳境へと移る。シェレンが、手札を生け贄に儀式召喚を決めたのだ。

 

「あれは、『ミエル』と同じっ。スイゴ達も使えたのかよ!?」

「ああ。おれと違ってアイツのは年季が入ってるからな、見て損はないぞ」

 

あまり手の内を晒したくはないが、遊矢達はジュニアユースだし問題ないだろ。

 

「凄いな……。俺も大会の事がなかったら、デュエルしたいんだけど」

「まあ、大会が終われば何時でもできるさ」

 

スイゴは彼にそう言う。『その時まで、おれ達がいるとは限らないけどな』という言葉は隠したが。

 

「しかし、なるほど儀式召喚か。君たちがもしもウチの塾に入ってくれるなら、新たに『儀式部門』を立ち上げたいと思ったんだが」

 

修造は自分の中で、新たな塾の経営方針についてのアイディアを考えているようだった。

 

「少しなら、教えられるよ。泊めて貰う以上は、何か恩を返したいしな」

「スイゴ、それは本当かっ!?」

 

今度は塾長ではなく、遊矢が食いついた。彼もまたこの不思議な召喚法に興味があるのかもしれない。

 

「ああ、分かった。……じゃあそろそろ、おれは下に行くよ」

「え?まだ、柚子とのデュエルは終わってないだろ」

「一つ言っておくぞ。シェレンがあのモンスターを召喚するときはいつも勝つんだ」

 

おれと戦ったオベリスク・フォースとの死闘を含めてもな。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様だ、シェレン」

「もー、声が聞こえないから本当に見てるのか疑っちゃったじゃない」

「二階は観戦するためだけに有るみたいだからな。応援なんかできないさ」

「……ホントに最後までキッチリ見てたのかしら」

 

うっ、鋭い。彼女の勘は、どうしてこう見透かしたかのような考えを出せるのか。

 

「それでシェレン。話は変わるが、今日はお前は塾長さんの家に泊まってもらうぞ」

「えっ?どうして、そんなことになっているのかしら。スイゴも一緒よね」

「あー、いや。おれは遊矢ん家に泊まるよ」

「え、スイゴは一緒じゃないの!?どうして、私と違う所にしたの」

 

ひどく驚いたように、シェレンはおれに尋ねた。

 

「シェレンも女どうしのほうが話易いだろ。あ、柚子って女の子には手を出すなよ。あの子は遊矢に興味が有りそうだったし」

「出さないわよ。貴方はどんな目で私をみているのかしら。私はただ、あの柚子って子が可愛らしいと思っただけよ」

 

少なくとも、お前にだけは常識という言葉は似合わないことは確かだ。用心しとくに越したことはない。

 

「スイゴ、私は普通に男が好きよ」

「そうか。日頃のメイリン達へのスキンシップが過剰だから、てっきりな」

「そこに座りなさい」

 

言い方は悪かったとは思うが、全部事実だ。おれは謝らないぞ。

 

「まあいいわよ。それで、次はスイゴの番ね」

「ああ。…けど、今日はもう遅いから試合は明日だってさ」

「明後日も試合はあるのよ。連戦して大丈夫かしら?」

「何とかなるだろ」

 

シェレンは呆れたようにため息をついた。スイゴがきっと根拠もなく言っているだろうことが分かったからだ。ブーメラン発言とは、このことを言うのだろう。

 

 

 

 

 

 

翌日、無事に遊矢の家に泊まれたスイゴは久々によく眠れたような気分になった。この世界についてから、それほど時間は経ってないがそれでも度重なる濃い出来事が彼自身を疲労困憊させていたのだ。

 

《分かってる。遊矢達とは、いずれ分かれることになる》

 

それでも、遊矢との記憶は消えるわけじゃない。この一瞬一瞬を大切にしたい、と、彼は思った。少し経ち、遊矢の母親に呼ばれた彼はさっぱりした気持ちで食卓に出向いた。

 

 

 

「いやー、助かるわよ。今月、ちょっと食費が厳しかったから」

 

そう言って、自分のデュエルディスクに振り込まれたDを見て喜ぶ女性。彼女の名は『榊 洋子』遊矢の母親だ。

 

「母さん……、恥ずかしいからそんなこと言うのは止めてくれよ」

 

そんな母親の姿を見て、遊矢は頭が痛くなる思いだった。

 

「なにいってるの遊矢。『ソラ』くんのこともあるし、遊矢が夕食の余りを食べなくて済むのはスイゴくんのおかげよ」

「別に気にしなくていいです」

「あ、スイゴくんはドンドン食べて良いからね。ママも作るの張り切っちゃうから」

「いや、本当に気にしなくていいんで」

 

息子の遊矢とスイゴとの間で性格が豹変する彼女を見て、少しゲンナリしたのだ。スイゴは、正直、昨日の塾長や彼女のことが苦手だった。とても優しくて、世話好きなのだが彼にはその好意が重いと感じるのだ。

 

「それで、スイゴ。今日は塾長とデュエルするんだよな」

「ああ、もう行かないと時間に間に合わないな」

 

そう言って、スイゴは席を立つ。

 

「なら、紹介したい子達がいるんだ。俺達の塾の後輩なんだけど、とてもいい子達なんだ」

「わかった。その子達にあったら、挨拶するさ」

 

 

 

遊矢に連れられ、スイゴは遊勝塾に着く。門の前では、シェレンや柚子達と知らない子供達がいた。

 

「へえー、逃げなかったんだ、スイゴ」

「シェレン、お前怒ってないか」

「そんなことないわよー。私を放り投げたスイゴと違って、泊めてくれた恩人だからね。柊親子には贔屓したくなるじゃない」

 

いや、それでも逆だろ。絶対、彼女はおれが全て勝手に約束を取り付けたことに腹をたててる。その証拠に、シェレンの顔は笑顔だが額には青筋がたっている。

 

《まったく、せっかくスイゴと一緒に寝れるチャンスだったのに》

 

彼女は内心そう、思っていた。

 

“シェレン、お前何か変なことされたのか”

“いや、別にそんなことはないわよ。柚子って子と一緒に寝たわ”

“お前……”

“だから、変なことしてないから”

 

「お兄さん達、だれ」

 

おれ達が小声で話あってる中、横にいた太った子供が話しかけてきた。他に二人知らない男の子と女の子もこちらをじっと見ている。

 

「あっ、私の名前はシェレンよ。よろしくね」

「おれはスイゴだ。今日はこの塾の塾長とデュエルするために来たんだ」

 

シェレンもおれと同じように子供達を知らない様子だ。おれたちはなるべく、怖がらせないように話しかける。

 

「えーー、塾長なの?てっきり、遊矢お兄ちゃんとだと思った」

「俺もだよ~。てっきり、遊矢兄ちゃんの対戦相手だとばかり」

 

黄色の髪の太った少年は、赤い髪の女の子とそう話していた。ただ一人黙っていた、青い髪の男の子だけがこちらに声をかけた。

 

「僕は『山城 タツヤ』と言います。遊勝塾の生徒の一人です」

 

とても礼儀正しい少年だ。身なりからもその育ちのよさがうかがえる。

 

「俺は『原田 フトシ』」

「私は『鮎川 アユ』。こちらこそよろしくね、お兄さんとお姉さん」

 

子供二人は、交互に自己紹介をしてくれた。二人共遊矢の言った通り、元気そうないかにもな少年と少女だ。

 

「スイゴお兄さんとシェレンお姉さんは舞網チャンピオンシップに出るの」

「ええ、私達はユースクラスで出るつもりよ」

「ユースクラス、てことは遊矢お兄ちゃんや柚子お姉ちゃんよりも強いの!?」

 

子供達にそう聞かれたが、おれはどう答えていいか分からなかった。赤馬が勝手に決めたことだから、実際に実力がどうとかは知らないんだ。

 

「遊矢くんの実力のことは、知らないけど。柚子ちゃんなら、昨日勝ったわよん♪」

「えーーっ!柚子お姉ちゃんに!?お姉ちゃんは遊矢お兄ちゃんと同じくらい強いんだよ!」

「柚子お姉ちゃんはもう大会出場を決めてるし、ひょっとしたら、遊矢お兄ちゃんよりも強いかも知れないのに」

 

そう言われて、おれはちらりと遊矢を見る。彼はただ苦笑いしているだけだ。強ち、嘘でもないのかもしれない。

 

「柚子ちゃんは私に敗けても、出場には問題ないって昨夜話してくれたわよ♪」

「ええ、私もシェレンさんのような強いデュエリストと練習出来て良かったです!」

 

二人は、一晩で随分と仲が良くなったようだ。シェレンも柚子も互いに打ち解けて、話しているようだ。

 

「じゃあ、きっとお兄さんも強いんだ」

「おれはシェレン程じゃない。彼女には、ほとんど勝ったことないしな」

 

この言葉を聞いて、子供達はシェレンに尊敬の眼差しを送った。シェレンもまた悪くない気分の様子だ。

 

「おおーい、スイゴくんじゃないか。デュエルの準備は出来たかい」

 

適当に子供や遊矢達と雑談をしていると建物の中から、修造塾長が現れた。

 

「大丈夫です。いつでも、デュエル出来ます」

 

スイゴはそう言って、デュエルディスクを構える。

 

「よし、それなら俺と勝負だ!熱い戦いにしよう。熱血だーーー!」

 

塾長とおれは、決戦の舞台へ足を進めた。



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最高のエンターテインメント

ビリビリまでは終わってる。クソ長い


「よし、いくぞデュエル開始だっ!柚子~、アクションフィールドのことは頼んだぞ!」

 

彼はそう娘に話すと、おれに向かい合った。

 

 

《《アクションフィールドセット、『焔の荒野』》

 

 

無機質な床は、砂埃の舞う荒れ地へと姿を変えた。周囲には、所々に炎が点在しており触れたら本当に火傷しそうだ。この場所、おれと塾長は戦いあうのだ。

 

そう言えば、あのセリフを言えるだろうか。ぶっつけ本場だが、やるしかないと思う。

 

『いくぞ、戦いの殿堂に集いしデュエリスト達がっ!』

 

『もっモンスターとともに地をけり、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る』

 

『見よ!これぞデュエルの最強進化形、アクショォォーーーーン!!』

 

 

『『デュエル』』

 

 

修造vsスイゴ

LP4000/LP4000

 

「先行は、もらった!俺は手札から『ガッツマスター・ファイヤー』を召喚!」

 

導火線が人形を取ったようなモンスターが現れる。火で引火しないのが不思議だ。

 

「さらに、ガッツマスター・ファイヤーの効果で俺は手札から『ガッツマスター・ヒート』を特殊召喚ッ!」

 

ラグビー選手を思わせるモンスターが現れた。さっきから、どこかスポーツチックなモンスターが多い。

 

「俺はカードを一枚伏せっ、ターンエンドだ!さあ来い、スイゴくん!」

 

 

 

《二体とも、攻撃表示で召喚されている。攻撃力はそれ程、高くないな》

 

「おれのターン、ドロー。おれは手札から、無名の傭兵を攻撃表示で召喚」

 

名無しの剣士がフィールドに出現する。

 

「バトルだ、おれは無名の傭兵でガッツマスター・ファイヤーを攻撃」

 

 

《これで、塾長のモンスターは破壊っ》

 

 

「永続罠カード『ガッツ・プロテクト』発動!」

 

ガッツ・プロテクト

 

永続罠

 

一ターンに一度、自分フィールド上の『ガッツマスター』と名のつくモンスターに、相手モンスターが攻撃宣言を行った時に発動できる。攻撃された自分のモンスター一体は破壊されない。

 

「罠カードだとっ!?」

「ふんッ!!」

 

修造

LP3900

 

「ガッツマスター・ヒートのモンスター効果発動!一ターンに一度、攻撃表示のガッツマスターがバトルしたとき相手モンスターを破壊できるっ」

「はあっ!?」

 

暑苦しいモンスターのタックルを受け、おれのモンスターが消滅した。警戒しなかったのは、おれのミスだ。

 

「くっ、……おれはカードを一枚セットしてターンエンドだ」

 

バトルの主導権は、間違いなく塾長に傾いた。塾長は、おれがターンを終了すると同時にいきなり走り出した。

 

 

 

「まだまだ、そんなんじゃっ、熱さが足りないぞっ!俺が熱血指導してやる!!」

「遠慮します」

「遠慮は、いらないっ!ドローーッ!」

 

あの男は炎のフィールドの中を走り回って、暑くはないのだろうか。そう思えるほど、修造は元気にフィールド内を駆け巡る。すると、炎の中にカードを見つけたようだ。

 

「よっし!俺は手札から、アクショントラップ『弾ける火花』発動!」

 

弾ける火花

 

このカードを発動したプレイヤーは、500ポイントのダメージを受ける。

 

「ん」

「ん?」

 

おれ達は、同時に頭の中に疑問符が出る。

カードから、放たれた小さな火花が、塾長を襲った。

 

「うおお~~ッ!」

 

修造

LP3400

 

“塾長……”

“カッコ悪~い”

“全然、痺れられないぜ~”

 

応援が聞こえないフィールドで、なぜかそんな声が聞こえた気がした。

 

「まだまだっ、俺は手札から速攻魔法『完全燃焼』発動!」

 

完全燃焼

 

速攻魔法

 

自分フィールド上の炎属性モンスターの攻撃力は、このターンの間1000ポイントづつアップする。このターンのエンドフェイズ時に、自分フィールド上のモンスターは全て守備表示になり、その守備力は0になる。

 

「ウソだろっ!?」

 

修造のフィールドに2500のモンスターが二体並ぶ。この直接攻撃を通せば、おれの敗けだ。

 

「バトルだっ!俺はガッツマスター・ファイヤーでダイレクトアタックっ!!」

「そう簡単にやらせてたまるかよっ、おれは伏せカード『見返りなき緊急要請』を発動ッ」

 

見返りなき緊急要請

 

カウンター罠

 

自分フィールド上にモンスターが、一体も存在せず相手モンスターが攻撃宣言を行った時に発動できる。自分はデッキから、『無名』と名のつくレベル5以下のモンスター一体を特殊召喚できる。

 

「おれは、デッキから無名の医師を守備で特殊召喚する」

 

名もなき医者は、モンスターの一撃を受けなす術なく破壊された。

 

「だが、まだガッツマスター・ヒートの攻撃が残っている!」

「墓地の無名の医師の効果発動。このカードをゲームから除外し、俺は無名の傭兵を手札に戻す。さらにっ、相手の攻撃を止めることが出来る!」

 

修造

LP4650

 

「中々、熱い見せ方してくれるじゃないか!俺はこれでターンエンドだっ!」

 

修造はまたもフィールドを走り出す。恐らく、アクションカードを再び探しに行ったのかもしれない。おれは慌てて、彼を追いかける。

 

 

 

とはいえ、あのコンボも守備表示ならなんとかなる。おれはデッキから、カードを引いた。

 

「よしっ。おれは手札から無名の傭兵を攻撃表示で召喚ッ」

 

再び彼のフィールドにモンスターが出現する。

 

「さらに魔法カード『増援』を発動。よって、この効果でおれはデッキから『無名の盗賊』を手札に加える」

 

無名の盗賊

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードがデッキから、手札に加わった時に発動できる。自分フィールド上に『無名』と名のつくモンスターがいるとき、このモンスターを特殊召喚する。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に、発動できる。自分はデッキから、カードを一枚ドローできる。

AT1500/DF500

 

「あんま使いたくないカードなんだが……おれは手札から無名の盗賊を特殊召喚!」

 

白髪の少年の姿をしたモンスターが、また一体。その手にはナイフが握られている。

 

「バトルだ。おれは無名の傭兵でガッツマスター・ファイヤーを攻撃」

「ガッツ・プロテクトの効果。一ターンに一度、ガッツモンスターは破壊されない」

「なら、無名の傭兵でもう一度攻撃だ」

 

塾長は足元にある。アクションカードを見つけ、二回目の発動をした。

 

「おれはアクショントラップ『燃える足場』を発動っ!」

 

燃える足場

 

このカードを発動したプレイヤーは、400ポイントのダメージを受ける

 

 

《またかよっ!》

 

 

「うおおぉぉ~」

 

修造

LP4250

 

一回目は敵の厚い筋肉の盾に防がれた攻撃も、二回直撃することで通った。修造のガッツマスター・ファイヤーが破壊される。

 

「あーデッキから、カードを一枚ドローする。大丈夫っすか」

「まだまだ、こんなもんじゃ俺の足を、エンタメデュエルを止めることはできないっ!」

 

エンタメとは、いったい…………。おれは心の底から、わけがわからくなった。

 

「カードを一枚セット。とりあえず、これでターンエンドです」

 

修造は宣言通り、再三アクションカードをさがしに走った。まだ懲りないのか、あのオッサンは。

 

 

 

「ドローーーッ!!!」

 

修造は手札を一瞬見て、スイゴのほうを向いた。

 

 

「スイゴくん、君は確かアクションデュエルをやるのは初めてだと聞いたよ」

「ええ、おれがいた場所ではアクションカードを使うデュエルは見る機会がなかったですし」

「それはもったいない、アクションデュエルはとても楽しいぞ!自分と、相手と、観客の全てが一体となって繰り出される最高のエンターテインメントだッ!!」

 

彼はおれにそう熱く語る。そう言われると、おれもアクションデュエルに興味がわいてくる。

 

「そうなると、君はまだアクションデュエルの奥深さを知らないっ!俺がそれを披露してみせよう!」

 

なら、見せてくれっ!おれもアクションデュエルがもっと知りたい。

 

 

スイゴと修造のデュエルは、さらに激しさを増していく。



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熱血の豪炎 マスター・フットボーラー

すいません、余りにも使いづらくて書き換えました。次は26


「俺のターン、『ガッツマスター・フレア』を召喚ッ!」

 

ガッツマスター・フレア

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

一ターンに一度、自分が効果ダメージを受けた時に発動できる。その効果で受けたダメージの分だけ、フィールド上の『ガッツマスター』モンスターの攻撃力の数値はアップする。

AT1500/DF1400

 

「さらに、俺はアクショントラップ『火炎の玉』を発動!これで、おれはダメージを受けるっ!」

 

火炎の玉

 

このカードを発動したプレイヤーは、600ポイントのダメージを受ける。

 

修造

LP3650

 

「そして、ガッツマスター・フレアの効果発動!おれのモンスターの攻撃力は、600ポイントずつアップする!」

「まさかっ、……アクショントラップにこんな使い方があるなんて」

 

ただの自滅カードだと、思っていたが修造は上手に効果を利用した。

 

燃える火炎を浴びたモンスターは、より一層力強そうに見える。というか、もはやモンスター自体が燃えている。

 

「カードを一枚伏せて、バトルだッ!!俺はガッツマスター・ヒートで無名の傭兵を攻撃!」

「くそッ」

 

スイゴ

LP3700

 

 

「ガッツマスター・フレアで無名の盗賊を攻撃!」

 

モンスター同士の間で、持っているボールによる華麗なパス交換が行われた。そのボールがおれのモンスターに命中し、破壊される。

 

スイゴ

LP3100

 

「……だけど、もう攻撃はないっ。ショーは終わりだっ!」

「まだだっ、俺と君のエンタメデュエルはこれからが本番だッ!!!俺はこのターン伏せた速攻魔法『青春の限界突破』を発動!」

 

青春の限界突破

 

速攻魔法

 

自分フィールドに、炎属性モンスターが存在するときに発動できる。自分フィールド上のモンスターを使用して、エクストラデッキから指定された素材のモンスターで召喚出来るモンスターを自分フィールド上に特殊召喚出来る。

 

「俺は、自分フィールド上のレベル4『ガッツマスター・ヒート』とレベル4『ガッツマスター・フレア』の二体を使って、『オーバーレイッ』!」

「オーバーレイっ!?何だそれは!?」

 

聞いたこともない単語に、俺は度肝を抜かされた。まさか、これがこの世界の未知の召喚法なのか。

 

「燃え上がる血潮よ!流れる汗よ!炎をまとい、青春の雄叫びを上げよッ!!」

 

 

『エクシーズ召喚』

 

 

「ランク4 『熱血の豪炎 マスター・フットボーラー』!!!」

 

 

熱血の豪炎 マスター・フットボーラー

 

ランク4

 

戦士族/効果

 

このモンスターは、一ターンに一度、自分が受ける効果ダメージを無効にしその数値分のダメージを相手に与える。

AT2500/DF1900

 

「このモンスターは一ターンに一度、俺の受けるダメージを相手にはね返す!」

「まさか、またアクショントラップをっ」

「その通り、ほらほら、邪魔しなくていいのかい?」

 

スイゴが荒れたフィールドの大地を見ると、ちょうと塾長の間に同じくらいの距離でアクションカードがあった。あのカードを取られるのはマズい!

 

「取っても、使わなきゃいいんだ!絶対に、取るッ!!」

 

全力で、そのカードを捕りに走る。修造も、またこちらと考えは同じようだ。

 

「うおおぉォォォォォッ!!」

「敗けるかァーーーーッ!!」

 

 

 

一瞬、二人の手が交差した。

 

 

 

そして、カードを掴んだのは…………おれだった。

 

 

「アクショントラップ『火炎の玉』。よしっ、取ってなきゃやばかった!」

「やるなっ、スイゴくん!この一体感あるスリルこそ、アクションデュエルの楽しみだっ!!」

 

 

「だが、安心するのは早いぞ」

 

修造の手にはもう一枚のアクションカードが握られていた。

 

「なっ、もう一枚あったのかっ!?」

「俺はアクショントラップ『弾ける火花』を発動っ!マスター・フットボーラーの効果で、俺が食らうダメージをスイゴくんに与えるっ!」

 

塾長に向かうはずのダメージが、おれに直撃する。

 

スイゴ

LP2600

 

「バトルだッ!マスター・フットボーラーでスイゴくんにダイレクトアタック!!」

 

モンスターは、辺り一面の炎を吸い上げてその力を増していく。それに比例するかのように、手に持つ火の玉が拡大。

 

ついには、人を越えるほどの大きさになり攻撃が放たれた。

 

「くっ、…………ぐあァァァァッ」

 

スイゴ

LP100

 

 

「見たか、これが俺の新しい境地!常に新しいモノを取り込み続け、観客を魅了する!そして、デュエリストは創意工夫を持って、どんな時でも自分のデュエルを貫く、これこそ俺のエンタメデュエルだ!!」

 

彼はカードを伏せ、『これでターンエンド』と言った。

 

 

 

「こんな所でエクシーズ召喚を見れるなんて…………おまけに、すごい攻撃だった」

 

こちらのモンスターは全てが破壊され、ライフは極僅か。

 

《けど、なんだコレ》

 

悔しい筈なのに、おれの心臓は興奮で高ぶっている。

 

《これが、アクションデュエルか!すごく、面白いッ》

 

いつもより一層敗けたくないと感じる。こんな感情は初めてだ。

 

「……ああっ、すげぇ楽しい!おれもワクワクしてる」

「なら、その気持ちを俺にぶつけてこいっ!」

「やってやるさ、おれのターン」

 

 

期待されているのなら、おれはこのドローで奇跡だって起こしてみせる。

 

 

「ドロォォーーーッ」

 

 

《絶対に勝つ!》

 

 

おれは手札にあるアクショントラップを見る。

 

「いくぞっ、手札から儀式魔法『知られざる生誕』を発動ッ。カードを一枚墓地に送り、自分の手札の『無名の軍師』と『無名の商人』を生け贄にする」

 

 

二体のモンスターが、その魂を捧げる。デュエルに勝利を呼ぶために。

 

 

「 これにより、『無名の剣将』の儀式償還を執り行える」

 

『その真実は何者にも気づかれず、その英断は何者も知ることはない!しかし、その勇気のみは男の仲間を奮い立たす‼未来を掴めっ‼!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「仲間と共に、戦場を駆けろ。無名の剣将」

 

 

歴史に名を残さぬ英雄は、質素な剣を片手にフィールドに参上する。

 

 

「それが、君の切り札かい!」

「そうだ!おれが、おれだけにしかできない召喚。最強のエースモンスターだっ!装備魔法発動『無銘の剣 剛』」

 

無銘の剣 剛

 

装備魔法

 

このカードは、自分フィールド上の『無名』と名のつく戦士族モンスターにのみ装備できる。このカードを装備したモンスターの攻撃力は、1000ポイントアップする。このカードを装備したモンスターは、発動したターン、他のカードを装備することができない。

 

「これにより、無名の剣将の攻撃力は3000!バトルだッ、無名の剣将でマスター・フットボーラーに攻撃ッ!」

「俺は伏せカード、『青春共有』発動!」

 

青春共有

 

通常罠

 

このターン、自分フィールド上のモンスターは『ガッツマスター』モンスターとして扱われる。このカードを発動したエンドフェイズ時、自分フィールド上の『ガッツマスター』と名のつくモンスター一体につき、相手に300ポイントのダメージを与える。

 

「これで、おれのマスター・フットボーラーはガッツマスター扱いだ。そして、ガッツ・プロテクトの効果で、破壊もされないッ」

 

修造

LP3150

 

 

 

「……それを待っていた!」

「何だと!」

「おれは『名もなき襲撃者』を発動ッ」

 

名もなき襲撃者

 

カウンター罠

 

自分のターンに自分フィールド上の『無名』と名のつくモンスターが、相手モンスターとの戦闘で相手モンスターを破壊できなかった時に、その自分のモンスター一体を選択し発動できる。このターン、選択されたモンスターの攻撃力は1000ポイントアップしてもう一度バトルフェイズを行う。

 

「さらに、おれは『穢れなき戦い』も発動」

 

穢れなき決闘

 

速攻魔法

 

自分フィールド上の『無名』と名のつく戦士族モンスターの攻撃宣言時に発動できる。攻撃宣言を行ったモンスター一体を選択し、このターン、そのモンスターの元々の攻撃力を二倍にする。このカードは、相手のライフが3000以下の時は使用できない。このカードはゲーム中に一度しか使用出来ない。

 

「よって、無名の剣将の攻撃力は6000!行け、マスター・フットボーラーを光の速さで切り裂けッ!!」

 

相手にカードを拾わせる暇も与えず、剣将による神速の一撃が敵を切り裂いた。

 

「うっおォォォォォォォォォッ!!!!」

 

修造

LP0

 

 

燃え盛る二人の男達の戦いの行方は、こうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

赤馬は、その時、モニターを見ていた。前日、行われた『榊 遊矢』と今戦っている『ギユウ スイゴ』のデュエルをだ。

 

「社長。昨日行われた『ソン シェレン』と『柊 柚子』とのデュエルの件ですが、本当によろしいのですか」

「構わない。柊 柚子もまた榊 遊矢と同じ、新たなデュエルの可能性を秘めたデュエリストだ。実力は、ユースクラスと相違ない」

「分かりました。では、ギユウ スイゴとソン シェレンには勝利記録と入力して置きます」

 

そう言い、赤馬の部下は自分の仕事場に戻っていった。

 

 

 

「『ギユウ スイゴ』と『ソン シェレン』。君達は儀式のその先に、どんな可能性を見せてくれる?」

 

意味深な言葉を口にしつつ、赤馬は再び自分の研究を再開した。自分達の世界のために。



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彼女の不安

六武衆?ナニソレ。黒咲さんにあの人で腹パンさせたい


「いやー、見事だった!良いデュエルだったよ」

 

さっぱりしたような表情でそう語る修造。

 

「うん!俺もスイゴのデュエルを見て、スッゴいワクワクした」

 

それに同意する遊矢。

 

「ああ、おれもあんな楽しいデュエルは初めてだ。正直、今でもまだ興奮してるんだ」

「あらん、スイゴ。もしかして、アクションデュエルにハマっちゃったりしてるー?」

 

維持の悪そうな笑みを浮かべるのは、幼馴染みのシェレンだ。

 

「別にいいだろ。お前だって、昨日夢中になってたじゃないか」

「ええ、そうね。私も前々から普通のデュエルは体を全然つかわないから、少し力をもて余してたのよ」

「アクションデュエルは本当に身体をつかうみたいだからな」

「君達は、アクションデュエルが初めてなのに随分体力があったね。……なにか、やってのかい?」

 

塾長は不思議そうに尋ねる。

 

 

「まあ……、少しは……」

「体力に……、自信はありますから……」

 

段々と二人の声が小さくなる。どこか遠くを見て、彼らはそう話す。スイゴとシェレンは、自分達の置かれていた環境によるものが、今日この時に役立っていることに心中複雑だった。

 

 

《まさか、『カード回収!50キロマラソン』が役に立つとは……》

《まさか、『激闘!滝を泳ぎながらの水中デュエル』が役に立つなんて!》

 

 

彼らは日常的に行われていたこのことを思いだし、憂鬱になった。シェレンの母親の教育方針は意外な所で彼らを救ったが、同時に、彼らから大切な青春の日々と大事な何かを奪ってしまったのかもしれない。

 

 

 

 

「にしても、お父さん!いつの間に、エクシーズ召喚なんか覚えていたの!?」

「偶々、身近なカードショップにカードが入荷されててな!つい、気になったから買ってしまった!」

「いったい、どこにそんなお金があったのよ」

「まあ、気にするな柚子!シェレンちゃんから臨時収入もあったことだし、食うのには困らないさ」

「そのお金をもっと、塾の経営のために使いなさいって言ってるのよっーーー!」

 

ハリセンを手にバシバシと父親の頭に、怒りをぶつける柚子。それを宥める遊矢や子供達の構図は、どこか世の世知辛さを感じさせる。

 

そんな、子供達を遠巻きにスイゴとシェレンはこっそりと話をしていた。

 

 

“なぜか、デュエルの記録が有効なものとされているんだが”

“私もよ。柚子ちゃんはジュニアユースなのに、なぜか三連勝扱いになってるわ”

“きっと、赤馬って奴の仕業だな”

“間違いなくそうね”

 

 

二人にとっては、赤馬という人物のもつ謎の多さがより増えただけに終わった。

 

 

 

「ねえ、スイゴさんとシェレンさん」

 

ふと、一人の少年が話しかけてきた。水色の髪を持つその少年は、『紫雲院 素良』と言った。

 

「確か、儀式召喚だったけ。二人はどこで、そんな召喚法を覚えたの?」

 

修造とスイゴがアクションデュエルをしている中、二階の観客席にデュエルの途中から彼らのデュエルを見た。何か気になることがあるのか、二人のことに興味津々だ。

 

「おれらは前にいた学園で……」

「そう!LDSで教わったのよねん。ねえ、スイゴ?」

 

 

《グホッ》

 

 

話を言い終えるよりも前に、シェレンは無理やり彼らの話に割り込む。ご丁寧に少年に見えない位置で、スイゴに肘内を当ててまでだ。

 

「……へえ、LDSって儀式召喚も扱ってたんだ」

「そうなのか?君達は前はそんなこと言って無かったじゃないか」

「私達は、海外から来た生徒なのよ。両親とのやむを得ぬ事情で、この町にきたんだけどねん。成績が良かったから、特別に赤馬社長から厚遇してもらってるわけなの」

 

素良は考えるような表情を浮かべつつ、二人の話に頷く。

修造はまだ得心がいってないように首をひねるが、シェレンはそう押し通す。

 

「そうか、じゃあ、やっぱり君達は遊勝塾に入ってもらうわけにはいかないかぁ~」

「ええ、一応所属はLDSですから」 

 

スイゴはよくもまあ、こんなスラスラ嘘を話せると感心した。彼女の迫真の演技には、自分も真っ青だ。

 

「まあいいか!約束通り、君達は俺と遊矢の家に泊まってくれて構わない」

「ありがとうございます、塾長さん。私もスイゴもそのことには、感謝しています」

 

シェレンは丁寧に社交辞令を返した。彼女は破天荒な性格の持ち主だが同時に生まれ育った家庭のおかげで、人一倍上品な作法や心構えも身に付けている。

 

「俺もスイゴ達と話せて、うれしいよ。よし、今度はおれのペンデュラム召喚をスイゴ達に見せるよ」

 

遊矢は嬉しそうに話し、自分の腕を彼らに見てもらいたそうにいった。

 

「ああ、もし遊矢が試合する日になったら教えてくれ」

 

スイゴも楽しみを待つように返事し返した。

 

「それじゃあ、私と遊矢は塾で子供達に授業をするんだけど二人はどうする?」

 

柚子は彼らに、行動を尋ねる。儀式召喚について、彼女も彼女なりに気になっているようだ。

 

「私とスイゴは、これからLDSに行く用事があるから失礼するわん。それにスイゴとデートもしたいし、夜までには帰るわよ」

「あっ、お二人ってやっぱりそんな関係なんですか!へえー!」

 

柚子は何かを期待するような目でこちらを見てくる。実に年頃の少女らしい反応だ。

 

「いや、シェレンのいうデートは一般的なものとは少し違うから。まあ、用事はあるからおれ達は行くよ。また夜な、遊矢」

「うん!迷うなよ、スイゴ」

 

そう言葉を交わして、二人は彼らから別れた。

 

 

 

「で、どうして話をさえぎったんだよ、シェレン」

「この世界に来て、知らない人しかいないとは言え出来る限り情報は抑えるべきだとおもったのよねー」

「それだけか」

「…………素良って子いたじゃない?あの子から、何かイヤな予感がしたのよ」

「また、勘か?」

 

不吉な物言いに、眉をひそめる。

 

「うん。なんか……よくわかんないんだけど、他の人とは違うっていうか」

「まあ、確かにませてる感じの少年だったけど。せいぜい、不思議な子くらいじゃないか」

「そうだったら良いんだけど。……一応よ、一応」

「あんまり気にし過ぎも良くないさ。大会の前に体調を崩すぞ?」

 

どこか心ここに有らずな顔をするシェレンだが、おれには彼女の心中を読むことはできない。ただ、おれに出来ることは彼女を不安にさせないように話かけるだけだ。




次のテーマは『満足』


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ノウン ハーチェ

炎星とかまともに考えるとメンドイ


おれは再び気持ちの良い目覚めをした。昨日、シェレンとのデート(仮)を終えたおれは遊矢の家でペンデュラム召喚についての話を聞きつつ、眠りについた。

 

今日もまた、デュエルをやることになっているのでおれは早めに起きた。そして、遊矢の母親の洋子さんの食事の手伝いを遊矢として、並べられた豪快か料理を三人で食べた。

 

「なー、スイゴ。俺もスイゴの試合を見ちゃだめかな?」

「分からないな。赤馬に許可をとれば、いいんじゃないか?」

 

遊矢は、どうやら、自分のエンタメデュエルの方向性について悩んでいるようだった。解決のきっかけになる可能性があるなら、藁にもすがりたいのかもしれない。 

 

「でも、遊矢はその答えをもう見つけたらしいじゃないか」

「うーん、まあ、そうなんだけど。出来ることならいくつも見つけたいんだよ」

 

わがままだな遊矢。まあエンターテイメントを心がける者なら、それも必要かもな。

 

おれは、遊矢とそんな話をしながらLDSへと向かった。LDSの前では、シェレンが柚子と一緒に待つのを見かけた。

 

「遅いわよ、スイゴ。今日は大切な日なのを忘れてないかしら」

「一時間前に来て、それはないだろ」

「私より遅いから、ダ・メ」

 

シェレンの言ってることはひどく理不尽だ。

 

おれたち四人はLDSの中に入った。受付の人に事情を説明すると、「少し、お待ちください」とエントランスで待たされた。

 

「にしても、広いよなLDS。俺達の塾とは、大違いだよ」

「確かに、一規模のデュエルスクールとしてはかなりのものね」

「でも、お前とおれが通っていたとこはもっと広かったけどな」

「学園と比べるのは、間違っているわよ」

 

おれとシェレンの在籍する『聖フランチェスカ学園』はデュエルのための複合施設だからな、まあ大きさも人数も前提からして違うな。

 

《そう言えば、アイツら。今頃、何しているんだろうな》

 

おれ達がこの世界に来てまだ二日しか経ってないが、精神的にはもっと長い時間のような気分になる。元の世界とは、時間の進みが同じかは知らないがおれとシェレンがいないことに気づいたらどうするのだろう。

 

《メイリン、リアン、カンウン、シュセン……》

 

幼馴染みや親友は探してくれているのか、おれ達を。友人は多くないかも知れないが、一人一人絶対に、大切な奴らだとは思っている。

 

「な~に、センチメンタルになってるのよ!スイゴ」

 

シェレンは笑って、励ます。

 

「私達の親友が、そんなすぐに私達のことを忘れるわけないわよ。心配いらないわよ、強い人達だって知ってるでしょ」

「ああ、そうだな。アイツらなら、大丈夫だ!」

 

きっと、その内におれたちの前に現れるさ。

 

 

 

「なんだ、おまえ達。LDSになんか用か」

 

スイゴとシェレンが声の方を振り替えると、遊矢達が誰かと話しているようだった。

 

「あっああ、今日はスイゴ達の試合を見に来たんだ」

「は?誰だよ、スイゴって」

 

不思議そうな表情をする少年。その彼は背中に竹刀の様なものを背負っていた。

 

「あれ、『刃』達はスイゴのこと知らないのか」

「だから、知らないって。LDSには何人通ってると思うんだよ。ほとんど、顔だけのやつも多いぜ」

「そうか、そういうもんなんだな」

 

遊矢は納得したように、頷く。刃と呼ばれた少年は、今度はこちらへ向いた。

 

「で?アンタら、どこの所属よ」

 

黒い髪の気が強そうな少女が尋ねる。

 

「私達、仮の留学生みたいなものだから授業には出てないのよ」

「ふーん、なるほどな。それで名前は」

 

二人は、LDSの生徒達にスイゴとシェレンだと名乗る。

 

「そうか、俺の名は『刀堂 刃』だ」

「私は、『光津 真澄』よ」

「僕は『志島 北斗』」

 

遊矢達に話しかけてきた三人は、おれたちにそう名乗った。第一印象からは中々に、クセの強そうな奴らだと感じた。

 

「スイゴ達は、どんな召喚法を使うんだい?」

 

紫色の髪の、北斗はそう聞いた。しくさが、いちいちキザったらしいのが目に痛い。

 

「儀式召喚だ」

「儀式ぃ、ってことは『総合コース』か。」

 

話した途端に、三人の視線の印象が悪くなった気がする。なんか、見下されてるような。

 

「あの『沢渡』と同じクラスなのね」

「それじゃあなぁ」

 

沢渡が誰か知らないが、あんまりバカにしてるようなら腹が立つ。

 

「北斗!二人も!スイゴ達はおれ達と違ってユースクラスなんだぞ、しかも、儀式召喚もすごい腕だし」

 

遊矢も見かねたのか、フォローしてくれる。

 

「ユースって、ことは俺たちより上か」

「でも、どうかしら。スイゴとシェレンなんて、聞いたこともないし」

「それに、『黒咲』さんの方がおそらく強いんじゃあないかな」

 

三人の見方は多少は変わったが、それでも納得はしてないようだ。

 

「なら、あなた達もデュエルを見て行きなさいよ」

「悪りィが、今日はこれから授業なんだ。俺たちはもう行かせてもらうぜ」

 

刃のその言葉を最後に、三人はLDSの教室へ行ってしまった。受付の人が、遊矢と柚子の同行を許可したのはそれからすぐ後のことだった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、私と遊矢は観客席で見てますから」

 

柚子達はそう言い、一足早く行った。私とスイゴは、と言うと。今だに、デュエルの方法に悩んでいた。

 

「私は、一対一で良いと思うわよ」

 

幸い一昨日は試合が出来た。そのおかげで、アクションデュエルに関しては多少は慣れたつもりだ。

 

「大丈夫なんだな、シェレン」

「大丈夫よ♪」

 

それに、一人で戦いを勝ち抜けないようじゃやっぱり話にならないわよ。

 

「わかった、おれは観客席で観てくる」

 

がんばれよ……との言葉を残して、スイゴは去った。私はデュエルステージへと足を運ぶ。

 

「貴女が、ワタクシの相手かしら?」

 

私は、目の前の女性にそう尋ねる。

 

「はい、そうです。ワタクシは赤馬社長から『直々に』デュエルの相手と認められた『ノウン ハーチェ』と申します」

 

金髪に、童顔ながらもつり上がった瞳を持つ女性。髪は長く、胸こそ控えめだが身体のスタイルは良い。その仕草は優雅だが、同時にプライドの高さも象徴しているようだった。

 

 

《んー、なんか『レイハ』みたいな人ね》

 

 

私のクラスメイトのことだ。たてロールの髪がないのと、胸以外はだいたい似たような容姿。シェレン自身は、ぶっちゃけ、苦手な人種だ。

 

「では、早速ですがデュエルに参りましょう。ワタクシの美しく、華麗なデュエルを御見せしますわッ!!」

「……ええ」

 

もうなんとでもなれと、思う。

 

二人はデュエルデュエルを構え、始まりの時を待つ。

 

 

《《アクションフィールドセット、『暗闇の水源』》》

 

 

天井は黒く染まり、床には浅い水面が見えた。部屋全体が巨大な洞窟の内部空間のようになっている。これでは、アクションカードを探すのも一苦労だ。

 

向き合う彼女らは、お決まりの口上を口にする。

 

 

『 戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが』

 

『モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡りますわ』

 

『見なさい!』

 

『『これぞデュエルの最強進化形、アクショ-ン!』』

 

 

『『デュエル』』

 

 

ノウンvsシェレン

LP4000/LP4000

 

 

「先攻は、ワタクシですわ」

 

水に濡れないように少し小高い石の丘に移動しつつ、ノウンは戦略を建てる。

 

「ワタクシは手札より、『インフェルニティガン』を発動します。この効果で手札から『インフェルニティ・リベンジャー』を墓地に送りますわ。」

「次々にカードを墓地に、どういう意図かしら?」

 

私はノウンの戦術を見ながらも、アクションカードを探す。…まさか、水の中に落ちてるのだろうか。

 

「さらに、ワタクシはカードを二枚伏せて、手札の『インフェルニティ・ビートル』を召喚します。『インフェルニティ・ビートル』の効果で、このカードをリリースしてデッキから『インフェルニティ・ビートル』を守備表示で特殊召喚!」

 

 

《あ、あったわ。やっぱり、水の中にあるのね》

 

 

「そして、ターンエンド。あなたのターンよ」

 

 

 

ノウンのターンが終わり、次はシェレンの番だ。

 

「…なんか、事故ってるわね。まあいいわ、ドロー!私は手札から『呉国の兵士』を攻撃表示で召喚」

 

忠実なる彼女の僕が、フィールドに召喚される。

 

「バトルよ、呉国の兵士でインフェルニティ・ビートルを攻撃」

「しょうがないですわね、通しますわ」

 

奇形な昆虫が破壊される。しかし、ノウンに焦りは見えない。次の瞬間、彼女の墓地からモンスターが現れた。

 

「インフェルニティ・リベンジャーは、効果でフィールド上に特殊召喚されますわ。さらに、レベルは2になります。あなたのせっかくの攻撃も無意味でした、残念…」

「効果で呉国の兵士を守備表示に変更、カードを三枚伏せてターンエンドよ」

 

ノウンの話を遮り、私はさっさと自分のターンを終わらせる。手札のアクションカードはまだ使用しない。

 

 

《とりあえず、他のアクションカードを見つけましょ》

 

 

シェレンは、水がかかるのも気にせずにフィールドを縦横無尽に走る。



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ソリティア 

良いデュエリストとはカードと相手をコントロールする者


「…まあいいですわ、ワタクシのターン、ドゥロー!」

 

不動の構えをしつつ、ノウンはカードを見る。

 

「来ました!ワタクシは『インフェルニティ・デーモン』を引いたことにより、このカードをフィールド上に特殊召喚。さらに、その効果でデッキから手札に加え『インフェルニティ・デーモン』を特殊召喚します。さらにさらに、効果で『インフェルニティ・ネクロマンサー』を手札に加えて召喚しますわ。インフェルニティ・ネクロマンサーの効果でこのモンスターは守備表示になります」

 

あっという間に、ノウンのフィールドはモンスターで一杯になった。

 

「行きますわよ、フィールド上のレベル4『インフェルニティデーモン』二体に、『チューナーモンスター』のレベル2『インフェルニティリベンジャー』を『チューニング』します」

「チューナーモンスターですって!?まさか、それって!!」

 

 

『神秘の森のそのまた奥より、眠れる聖獣は目を覚ました』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「出現せよ、私の勇敢なる僕。『神樹の守護獣ー牙王』」

 

その身体は草木で出来ながらも、その力は森に仇なす敵を払い除ける。力強き咆哮を上げ、モンスターは出現した。

 

「すごい、これがシンクロ召喚なのね!」

 

シェレンは、初めて体験した未知の召喚法に感動でうち震えた。レベルの合計での召喚など、前の世界では見たこともないのだ。

 

 

 

「まだまだ行きますわよ。フィールド上のインフェルニティ・ネクロマンサーの効果で、墓地のインフェルニティ・デーモンを復活させますわ。そして、インフェルニティ・デーモンの効果で、デッキからインフェルニティデーモンを手札に加え特殊召喚します。そしてそして、インフェルニティ・デーモンの効果でデッキからインフェルニティ・ネクロマンサーを手札に加えます。そして、インフェルニティガンの効果で墓地に送ります」

 

「回すわね……」

 

驚異的な展開力に、シェレンは呆然としている。

 

 

「ワタクシはフィールド上のレベル4『インフェルニティ・デーモン』とレベル3『インフェルニティ・ネクロマンサー』を…レベル2『インフェルニティ・ビートル』に『チューニング』します」

 

 

『…破壊神より放…れし聖なる槍よ、今こ……そ魔の都を貫きなさいっ』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「出でよ、高貴なる僕。『氷結界の龍 トリシューラ』」

 

 

氷を纏いし、禁断の龍が主人の手によりフィールドに解き放たれた。

 

 

「トリシェーラの効果発動!…あなたのフィールド、手札からカードを一枚ずつゲームから除外しまぁす。ワタクシは……、手札のカードと伏せカードを一枚除外ィ!」

「伏せカードは『呉の警備要請』ね。……発動出来ないわ」

 

呉の警備要請

 

カウンター罠

 

このカードは、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。このターン、自分フィールド上の『呉』と名のつくモンスターカードは守備力を1500ポイントアップする。

 

私の手札とフィールドのカードが、一枚ずつ、使えなくなった。

 

 

 

「まだ終わりじゃなくってよ、伏せカード『インフェルニティ・ブレイク』をは……発動し、墓地のインフェルニティデーモンを除外してあなたのフィールド上の伏せカード……を破壊します」

「今度選んだのは、呉の増員要請よ。このカードを発動し、デッキから、呉国の従者を守備表示で特殊召喚するわ」

 

目まぐるしい展開に必死に食らいつつ、シェレンは冷静に判断を下す。

 

 

《てか、長い》

 

 

「もう一枚、インフェルニティ・ブレイクを発動します…。このカードの効果で墓地のインフェルニティ・ブレイクを除外して、あなたの伏せカードを破壊しますわ…はあはあ」

「最後の一枚は、『呉の暗躍戦術』よ」

 

呉の暗躍戦術

 

カウンター罠

 

相手フィールド上のモンスターの攻撃宣言時に、発動できる。相手フィールド上の最も守備力の低いモンスター一体を破壊できる。

 

彼女のカードが、何も出来ぬまま破壊された。

 

 

「……フィールド上のインフェルニティガンを墓地に送り、効果発動っ。墓地のインフェルニティ・ネクロマンサーとインフェルニティ・デーモンをふふっかつします!インフェルニティ・デーモンの効果でワタクシはデッキから、インフェルニティブレイクを手札に加えセットしまぁすわ。……それで、インフェルニティ・ネクロマンサーの効果で墓地のインフェルニティ・リベンジャーを復活ぅ…はぁーはぁー…」

 

「…フィールド上のレベル4『インフェルニティ・デーモン』とぉレベル3『インフェルニティ・ネクロマンサー』をレベル1『インフェルニティ・リベンジャー』に『チューニング』しますわ……」

 

 

『死と生ェッ、虚無にて交わりし時、無限の戒めえからっ、邪眼は開かれるゥゥ』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「具現せよ、えーと究極の僕。『インフェルニティ・デス・ドラゴン』」

 

漆黒の身体を持つ無限の竜は、時を越えてフィールドという戦場に降り立つ。

 

 

これにより、四体のモンスターがフィールドに出揃った。

 

「どっどうかしら、…ゲホッ、私のモンスター達によるかっかれーなるシンクロ召喚はッ!…………ゼェーゼェー」

 

「凄かったけど。………貴女疲れてないかしら?」

 

目の前で荒々しく息切れをする女性に呆れるような視線を送る。もはや、ライフが0になる前に呼吸困難で倒れそうだ。

 

“デモデモネクロデモデモチュリベガオウデモデモ……………………ブツブツ”

 

 

《何かの呪文かしら》

 

 

シェレンは不思議に思ったが、あえて、考えを無視した。なぜだか、その先は知ってはいけない気がしたのだ。

 

 

 

「ふ、ふん問題ないですわ!……わっわゃくしはインフェルニティ・デス・ドラゴンの効果発動し……ますわっ。呉国のじゅっしゃを破壊して、その攻撃力の半分のダメージをあなたに与えますわ……ふぅーふぅー」

「あーはいはい、わかったわよ」

 

 

シェレン

LP3250

 

「呉国の従者の効果でデッキから、 『呉国の追撃兵』を手札に加えるわ」

 

 

「そしてェ、バトルですわよ。私はトリシェーラで呉国の兵士をこうげきぃ」

 

白銀のブレスが、シェレンのモンスターを凍てつかせ破壊する。モンスターは死に気づかぬままに砕け散った。

 

「牙王でダイレクトアタックゥ」

「いたぁーーい!」

 

 

シェレン

LP150

 

神秘の獅子が放つ、牙による一撃がシェレンを襲った。さすがに、これ以上の攻撃は致命傷になりかねない。

 

 

「そして、ワタクシはインフェルニティ・デーモンでダイレクトアタックッ!倒れなさい!!」

 

しかし、無情にも虚無の魔道を操る悪魔の術者は迫り来る。ノウンは自身の勝利を核心した。

 

 

 

 

 

 

「でも、通さないけどねん」

「馬鹿なっっ!」

 

ノウンは、完全に相手の動きを封じるために戦術により、場をからにしたのだ。もはや、他の手段が入る余地などない。

 

 

「あなたの場にはもうカードはないのよ!?」

「カードなら拾ったわ」

 

私はそう言ってカードを見せる。この時のために、温存したカードを。

 

「アクションマジック『目眩ましの影』発動!」

 

目眩ましの影

 

このターン、相手フィールド上のモンスター一体は守備表示になる。

 

魔道士の攻撃を透かし、シェレンは悠々とフィールドに立っていた。

 

シェレン

LP150

 

「はあーーーっ!?あり得ない!なら、なんで、あなたはさっきそのカードを発動しなかったのよ!!」

「ちょーーーと、手札が事故っちゃてて。墓地のカードを増やす必要があったのよ」

「くっ、ワタクシは利用されたということですわね。いいですわ、ターンエンドですぅっ」

 

 

ふて腐れたように、ノウンが石の丘の上であぐらをかいて座った。その姿にもはや、優雅さは感じられない。

 

 

《彼女、最初に自分で言ったこと覚えてるのかしら》

 

 

シェレンはその子供じみた姿にますます頭が痛くなった。これでは、彼女が嫌いな『レイハ』そのものではないか。もうやだ。

 

 

 

混沌と化していくデュエルの様相の行方は、お互いのカードのみが知っていた。




GO再開までの時間が有りすぎて、ストック増えたわ


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桜樹 ユウ

ストックは年明けまであるよ


「私のターンよ、ドロー」

 

…私は私のリズムでデュエルを進めましょうか。

 

この手札なら……まあ勝てるわね、多分。

 

「さてさて、それじゃあ盛り上げていこうかしらー。私、『ソン シェレン』なりの『エンタメデュエル』をッ」

 

 

スイゴの方を向く、彼は私のことをじっと見ている。いやん、そんなんじゃ照れるわ。柚子や遊矢もまた心配そうに見ている。

 

シェレンは口の端をつり上げて、笑う。

 

 

《こんなんじゃ、つまらないわよね》

 

 

私が柚子とやったデュエルはもっと楽しかった、ただ一方的に押し付けるわけじゃない最高のステージだった。借りにもう一度出来るかと問われれば、それは怪しい。

 

一瞬一瞬を大切にしたデュエルだからこそ、その結晶たるストーリーは美しく人を魅了するのだ。

 

 

《悪いけど、ノウンって子のデュエルは好きじゃないわ》

 

 

相手の可能性を奪うノウンのデュエルは、勝つには正しいかもしれないがエンタメとしてはいただけない。

 

そして、だからこそ、シェレンは勝たなければいけない。自身の正しさを証明するために。

 

「ノウン、貴女に見せてあげるわ。本当のエンタメデュエルを!」

「何を仰るかしら、デュエルにエンタメは関係ないでしょう」

「さっきから貴女ずっとそこにいるわね。……もしかして、カナヅチかしら」

「余計なお世話よッ!」

「さあーて、行くわよー」

 

彼女は、既に見つけてあったアクションカードを取りに走りだす。

 

「あったわね、行くわよ。私はアクションマジック『目眩ましの影』を発動。トリシェーラを選択よ」

 

黒い残像がモンスターの周囲を包み、動けなくした。トリシェーラはまるで、あらぬ方向を見ており、フラフラとしている。

 

「まずは無粋なカードから、破壊させてもらうわ。手札から速攻魔法『船上の偽装工作』を発動」

 

船上の偽装工作

 

速攻魔法

 

自分の墓地に、『呉』と名のつくカードが三枚以上あるときに発動できる。墓地からランダムに三枚カードをデッキに戻しシャッフルすることで、相手フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで破壊できる。この効果を発動したターン、自分は特殊召喚をおこなえない。

 

「はあっ!?」

「貴女の伏せたカードは破壊よ」

 

使用されることもなく、ノウンのインフェルニティ・ブレイクが破壊される。

 

「腹正しい真似をっ」

 

 

《まだまだ、ここからが本番よ》

 

 

「私は手札から、『呉国の追撃兵』を召喚よ」

 

呉国の追撃兵

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが相手モンスターを破壊したときに発動できる。このカードは一度のバトルフェイズ中に二度攻撃することができる。このカードが相手モンスターを破壊したとき、このモンスターの攻撃力が破壊したモンスターの守備力の数値を上回っていればその差分戦闘ダメージを相手に与える。

AT1800 /DF1000

 

馬に跨がる身軽な兵士は、シェレンを後ろに乗せて走り出した。一歩走り出す度に、彼女の感情が、フィールが高まる。

 

「さあ、あなたも動きなさーい」

「ワタクシは絶ッ対に動きませんわ」

 

その姿はまさに不動のごとし。

 

 

《てこでも動かないようね。なら、動くようにさせてあげるわ》

 

 

挑発するように、シェレンは周囲をグルグルと回る。

 

 

「そして私はアクションマジック『黒い間欠泉』発動」

 

黒い間欠泉

 

相手フィールド上のモンスターのモンスター二体の守備力は500ポイントダウンする。

 

「私は、トリシェーラとインフェルニティ・デーモンを選択よ」

 

二体は派手に足場に躓き、膝をつく。その仕草は中々にコミカルだが。

 

「ほっておくと、ドンドンやるわよー♪」

「ワタクシの有利に、揺らぎはありませんわっ!」

 

足場に再び、カードを見つける。今度こそは、ノウンも動くに違いないだろうカードをだ。

 

「私は手札からアクションマジック『暗がりの落岩』発動よ!その効果で、貴女のトリシェーラは守備力が1000ポイントダウンッ」

 

巨大な石の固まりがモンスターに降り注ぎ、着実にモンスターを弱めた。

 

「ねえ、ノウンちゃん。もしも、もう一度同じカードを引いたらこの状況をひっくり返せるって言ったら、貴女は動いてくれるかしら?」

「そんなわけ…………あるかも」

 

何かに気づいたように辺りを見渡し出すノウン。しかし、周囲にアクションカードは落ちていない。

 

フィールドは暗く、足場を見るのもやっとだ。ずっと探していたシェレンと違い、自分のカード運びだけを考えていたノウンにそんな余裕があったはずない。

 

 

シェレンはそんな彼女の後ろから、落ちていたアクションカードを拾いとる。

 

「私はアクションマジック『暗幕の礫』を発動して、貴女のモンスター全ての守備力を500ポイントダウンよ」

 

暗幕の礫

 

このターン、相手フィールド上のモンスターの守備力は500ダウンする。

 

「残念、時間切れよ。私は手札から戦場の旗印 呉 を発動し、呉国の追撃兵の攻撃力をアップ!」

 

その数値は2300。

 

「バトルよ、私は呉国の追撃兵でインフェルニティ・デーモンを攻撃っ」

 

手負いの魔道士は、兵士の一撃を受けて撃沈する。そして、その差分2300のダメージが主人を襲った。

 

「くぅぅぅぅっ」

 

 

ノウン

LP1700

 

 

しかし、彼女は倒れない。それは、自分の可能性を信じようとするためだ。

 

 

「私は呉国の追撃兵の効果で、もう一度、トリシェーラを攻撃!」

 

 

シェレンがモンスターに近づいてゆくが、だがノウンは諦めずに走り回る。モンスターもまた懸命に逃げる。

 

「ありました、アクションカード!」

 

シェレンとの距離が後一歩に詰まり、ノウンは体ごと身を投げてそのアクションカードに飛び付く。

 

そして、カードを発動した!

 

 

 

 

《アクションマジック『黒い間欠泉』》

 

「へ」

 

 

《まあ、そう簡単にはいかないわよね》

 

 

 

「ウッソおーーーー」

 

 

ノウン

LP0

 

 

奇跡とは、一朝一夕では起こらないものだ。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、大丈夫」

 

シェレンは目の前でうちひしがれる女性にそう尋ねる。

 

「…ひどいですわ、あんなに人のことを煽ったクセに」

「私も敗けられなかったからね。ギリギリの演出だったと思わないかしら」

「納得出来ませんわッ!」

 

噛みつく口調のノウンを飄々と宥めつつ、私達は観客席へと向かった。席では、どこか苦笑いをした遊矢や柚子、呆れたような顔をしたスイゴがいた。

 

「シェレン、いくら作戦とは言え、あれは酷くないか」

「はあ?……作戦っ!?」

「あらら、気づいてたのスイゴ」

 

私も本気でデュエルを盛り上げようとしていたわよ。……でもま、彼女は頑固そうだしこっちが押して行けば上手く動くかも、くらいには思ってたけどねん。

 

「シェレン~、あなたって人は~…」

 

ついに涙目で、こちらを睨みつけてきた。可哀想なんだけど、少しだけ可愛らしいと思ってしまったわ。

 

「シェレン、おれはもう行くぞ」

 

彼は、私の横をすり抜けてデュエルリングへと向かう。

 

「スイゴ」

 

でも、これだけは言っとかないとね。

 

 

『勝ちなさい!』

 

 

その言葉に僅かに微笑み、彼は姿を消した。敗けの可能性の言葉はいらない、私は彼を信じているから。

 

 

 

 

 

 

「まったく、気楽に言うよな」

 

おれはシェレンの言葉に含まれる意図を知っている。だから、敗けるかもなんて言えない。

 

思考を中断し、目の前の相手を見る。紫色の髪をした青年。年の頃は、ちょうどおれと変わらないくらいか。

 

「君が、俺の対戦相手だね」

 

その顔立ちは整っており、優男な雰囲気をもったイケメンだ。しかし、その目は真剣そのものでこちらを見ている。

 

「おれは『スイゴ』、お前に勝つために来た」

「そうかい、俺の名前は『桜樹 ユウ』。全力で相手をさせてもらうよ」

 

前年度、舞網チャンピオンシップジュニアユースクラスの優勝者がそこにいた。




まさか、固定ガチャ?


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魔導の申し子

ようやく書く作業に入れそうだ


「さっきの女性は、君の彼女かい?」

 

ユウはおれにそう尋ねた。

 

「いや、違う。けど、大切なヤツには違いない」

「そうか、……羨ましいな。俺自身は、ずっとデュエルの英才教育でそんな暇はなかったよ」

「お前なら、その気になればいつでも大丈夫だろ」

 

 

《イケメンだし》

 

 

少なくとも、スイゴよりは顔立ちがいいのは確かな気がする。

 

「……だとしても、今は無理だね。俺はデュエルが一番だから」

「ああ、その気持ちはわかる。楽しくて、これ以外のことじゃ満足出来ないんだろ」

「嬉しいね、……この気持ちを分かってくれるなんて!でも、だからこそ、俺は全力で君を倒すっ」

 

 

 

《《アクションフィールドセット、『遥かなる天空』》》

 

 

 

天井は底無しの青空へと変わり、おれ達は空中へと放り出される。床は存在しないかのように透き通っていて、このフィールドの神秘性を高めていた。無数の階段が存在するこの場所が、決戦の舞台。

 

『戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が』

 

『モンスターと共に天を駆け、宙を走り、フィールド内を駆け巡る』

 

『見よ!』

 

『『これぞデュエルの最強進化形、アクション!!』』

 

 

『『デュエル』』

 

 

スイゴvsユウ

LP4000/LP4000

 

 

スイゴは、スタート同時にフィールドを走り出す。このデュエルではミスは許されないだろうからだ。アクションカードをとり、先手をとることが目的。

 

「おれの先攻だ。おれは手札から、『無名の商人』を召喚」

 

無名の商人

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードが戦闘もしくは相手のカード効果でフィールドを離れた時に発動できる。自分はカードを一枚ドローできる。このカードが墓地に存在するとき、墓地のこのカードをゲームから除外して発動する。自分の墓地に存在する『無名』と名のつくカードを三枚選びデッキに戻すことで、自分はデッキからカードを一枚ドローできる。

AT1000/DF1000

 

「さらに、装備魔法『無銘の剣 知 』を発動。無名の商人に装備する」

 

無銘の剣 知

 

装備魔法

 

このカードは、『無名』と名のつく、戦士族モンスターにのみ装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。このカードを装備したモンスターに、相手モンスターが攻撃宣言または効果を発動したときに発動する。このカードを装備したモンスターは表示形式を変更できる。

 

「おれはカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

足場の一つで動きを止めたスイゴは、宙に浮くアクションカードを掴む。

 

 

「次は俺だ。ドロー!」

 

見かけとは裏腹な気持ちの入りように、スイゴは内心熱い男だと評価した。

 

ユウはスイゴとは違い、慎重に足を進めている。とても用心深い性格でもあるのかもしれない。

 

「俺は手札から、『魔導教士 システィ』を攻撃表示で召喚」

 

法衣を纏いし、優秀な魔導士がフィールドに出現した。

 

「さらに、 『グリモの魔導書』を発動。その効果でデッキから、『セフェルの魔導書』を手札に加える」」

 

不可思議な魔力の籠った魔の書物から漏れし呪文が、新たな魔導書を呼び出した。

 

「さらに、俺は手札の『トーラの魔導書』を見せ、『セフェルの魔導書』を発動、デッキから、『魔導書院ラメイソン』を手札に加えるよ。そして、手札から、『トーラの魔道書』を発動だ」

 

ユウのモンスターの周囲を光が包んだ。

 

「バトルはしない。さらに、俺はフィールド魔法魔導書院ラメイソンを発動」

 

白き天を貫かんばかりの建物が、地面より音をたてて出現する。

 

「そして、カードを一枚伏せてターンエンド」

 

その瞬間、魔導士の持つ書物が光を放った。

 

「システィの効果発動、このカードを除外することで『魔導法士 ジュノン』と『アルマの魔道書』を手札に加えるよ」

 

彼の手札は四枚に増えた。

 

 

《…なんか、さっきの生徒といい、長いよな》

 

 

秘かに、LDSがデッキ回しの専門塾なんじゃないかと疑う。

 

そう余計なことを考えている内に、ユウはおれよりも数段高い場所に着いていた。これが実力の差を表しているなら、既に、勝てる気がしない。

 

 

「仕方ない、やれるだけはやるさ。……おれのターン、ドローッ!!」

 

スイゴは、不安をワクワクに変えるべく、自分を鼓舞した。

 

「おれは手札から、無名の軍師を召喚」

 

といっても、ダメージには期待してないけどな。、とスイゴは思う。攻撃表示でフィールドに呼びだされたこのカードは、どこか、戸惑っているように見える。

 

「バトルだ、無名の軍師でダイレクトアタックッ」

「ならば、アクションマジックを発動させてもらう。『ミニチュア・シープ』」

 

ミニチュア・シープ

 

このカードを発動したプレイヤーは、フィールド上に『ミニチュア・シープ・トークン』を特殊召喚できる。

 

ミニチュア・シープ・トークン

 

「ミニチュア」と名のつくトークンはフィールド上に一体しか、存在出来ない。

AT300/DF500

 

「よって、破壊もダメージも受けない」

「あまいッ!おれは手札から速攻魔法『知られざる変化』を発動」

 

知られざる変化

 

速攻魔法

 

自分フィールド上の『無名』と名のつくモンスター一体を選択し、手札の『無名』と名のつくモンスターと元々のレベルどうしが一緒ならばそのモンスターどうしを入れ換えることができる。

 

「よって、おれは手札の無名の盗賊をフィールドの無名の軍師と入れ換える」

「何だってっ」

 

フィールド上に、突如出現したおれモンスターがトークンを切り裂いた。

 

「この瞬間、おれは無名の盗賊の効果でカードを一枚ドローする」

「やるね」

 

相手は嬉しそうにわらった。再び走り出す背中を見て、慌てて、後を追いかける。

 

「逃がさない。おれは無名の商人でダイレクトアタックッ」

「しかたないね」

 

 

ユウ

LP2500

 

 

「よし、さらにおれはアクションマジック『ミニチュア・ドラゴン』を発動」

 

ミニチュア・ドラゴン

 

このカードを発動したプレイヤーは、フィールド上に『ミニチュア・ドラゴン・トークン』を特殊召喚できる。

 

ミニチュア・ドラゴン・トークン

 

「ミニチュア」と名のつくトークンはフィールド上に一体しか、存在出来ない。

AT600/DF200

 

「このカードで、攻撃だ」

「うん」

 

ファンシーなトークンが、身体ごと彼にぶつかっていく。しかし、その身体がモコモコしているためか差ほど痛そうには見えない。

 

 

ユウ

LP1900

 

 

「よし、これでおれはターンエンドだ」

 

まず、先手はこちらが打てた。このまま、主導権を奪うべく、フィールドを走る。スイゴは心中で、自分の必勝パターンを思い浮かべた。

 

 

《絶対に、『儀式召喚』を決めてやる》

 

 

ユウは再び、意味深な笑みをこちらに向ける。

 

 

 

お互いに力を隠したまま舞台は進む。デュエルはまだ、始まったばっかりだ




深刻なQP不足。


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虚空の視線

「じゃあ、俺のターンだね。ドロー!」

「俺は『魔導書士 バテル』を召喚。さらに、このモンスターの召喚に成功したことにより、デッキから、『グリモの魔導書』を手札に加える」

 

ユウは足場に気をつけつつ、その足で着実に、フィールドを移動し続ける。彼のモンスターもまた、それに従うように追従する。しかし、その手を休めることはない。

 

「そして、手札から『ゲーテの魔導書』を発動。その効果で、俺は墓地の『グリモの魔導書』、『セフィルの魔導書』、『トーラの魔導書』の三枚をゲームから除外して、君のフィールド上の伏せカードを除外だ」

「おれは、チェーンで速攻魔法『悔恨なき別離』発動」

 

悔恨なき別離

 

速攻魔法

 

自分デッキから、『無名』と名のつくモンスターカードを二枚墓地に送る。このカードを発動したターン、自分は墓地からカード効果を発動することはできない。

 

「うっ……ならば、俺は手札から速攻魔法『月の書』を発動、この効果でバテルを裏守備表示にする」

「何で、自分のモンスターを……」

「今わかるよ、俺はバテルを反転召喚。そして、リバースしたことでデッキから『ゲーテの魔導書』を手札に加えるよ。」

「また、そのカードか!」

 

色々と長長しい作業は見慣れないため、おれには何が何だかさっぱり分からない。とは言え、今度はまた除外されたら困る。

 

「心配しなくても、このカードが発動出来るのは、一ターンに一度さ」

「それは良かった……」

 

 

 

「でも、安心するのは早いよね?俺は手札

の『魔導書』魔法カード三枚を見せることで、手札から『魔導法士 ジュノン』を特殊召喚する。俺が見せるのは『グリモの魔導書』、『アルマの魔導書』、『ゲーテの魔導書』の三枚っ!」

「手札から特殊召喚ッ!?」

 

その魔導士は高位の存在であり、特別な力を持っていた。故に、人々からは敬れ、恐れられた。気だる気な目をする女の姿のモンスターが、フィールド上に現れた。

 

「攻撃力2500…………それが、お前のエースモンスターかッ!」

「残念だけど、違うよ」

 

ユウは首を振って、ハッキリと否定した。

 

「手札の『アルマの魔導書』の効果で、除外されている『セフィルの魔導書』を手札に加えるよ。そして、『セフィルの魔導書』発動。手札から『ゲーテの魔導書』を見せて墓地の『アルマの魔導書』の効果を使い、除外されていた『グリモの魔導書』を手札に!」

 

流れるようなユウのカード運びに、いよいよ、頭の処理が限界を越えた。おれはついに、足を止めてしまった。

 

 

《おれは、『ソリティア』のようなカード運びが嫌いなんだッ》

 

 

 

スイゴの頭は、既に爆発寸前である。

 

「『グリモの魔導書』を発動、デッキから『ヒュグロの魔道書』を手札に加えるよ。これで、準備は整った!」

 

 

《……やっとか》

 

 

このユウという人物の性格は嫌いじゃないが、『この戦術に置いてはその通りではない』、と核心して思うことができる。

 

「俺は、ジュノンの効果で墓地の『セフィルの魔導書』を除外し、君のフィールド上の無名の商人を除外」

「またかよっ!?」

 

スイゴは、効果でデッキからカードを一枚ドローした。

 

「そして、俺は手札の『ヒュグロの魔導書』の効果を発動、バテルを選択。これで、バテルの攻撃力は1500」

「行くよ、バトルだ。バテルでミニチュア・ドラゴン・トークンを攻撃っ!」

 

魔導士による一撃もらい、トークンはフーセンが割れるように破壊された。

 

 

スイゴ

LP3100

 

 

「バテルでモンスターを破壊したことで、『ヒュグロの魔導書』の効果は発動される。俺はデッキから、『アルマの魔導書』を手札に加えるよ」

 

 

《終わって、無かった……》

 

 

「ジュノンで無名の盗賊を攻撃ッ!」

「うあぁぁぁぁッ」

 

 

スイゴ

LP2100

 

 

ユウは、まだ終わらせるつもりはないのか空の階段を駆けあがっていく。そして、……。

 

「あった!俺はアクションマジック『ミニチュア・フェニックス』」

 

ミニチュア・バード

 

このカードを発動したプレイヤーは、フィールド上に『ミニチュア・フェニックス・トークン』を特殊召喚できる。

 

ミニチュア・フェニックス・トークン

 

「ミニチュア」と名のつくトークンはフィールド上に一体しか、存在出来ない。

AT800/DF0

 

「ミニチュア・フェニックス・トークンでスイゴに攻撃っ!」

 

「……」

 

 

スイゴ

LP1300

 

 

「さあ、行くよ!俺はカードをもう一枚伏せて、ターンエンドだ。君の番だよ、もっと、盛り上げようっ!」

「……」

「スイゴ?」

 

何故か、攻撃を受けたのにも関わらず微動だにしなくなってしまった。ユウは、不思議そうな表情で、彼を見る。

 

 

 

「あっ!ああ、悪いおれのターンだったか」

「うっ、うん。次は君のターンだよ…………なんか、ごめんね」

 

ユウの余りのカードのぶん回し具合に、思考が何処かへ吹っ飛んでいたスイゴも漸く正気に戻った。

 

「行くぞ、おれのターンッ!」

 

手札を引く。スイゴはそのカードを見て、会心の笑みを浮かべる。

 

 

《来たッ!これなら、絶対に呼び出せる》

 

 

再び動き出したスイゴはまず場の状態を確認した。

 

 

《ユウの手札は二枚。そして、伏せカードも二枚。場には、ジュノンとバテル、トークン一体がいる。墓地には、四枚の魔導書》

 

 

いったん、そこで思考を断ち切る。

 

 

《そして、おれの場にカードはない。手札は四枚か……ならば、おれが今一番するべきことは!》

 

 

スイゴは辺りを見渡し、目当ての物を探す。

 

「よし、アクションマジック『ミニチュア・パンサー』を発動ッ!」

 

ミニチュア・パンサー

 

このカードを発動したプレイヤーは、フィールド上に『ミニチュア・パンサー・トークン』を特殊召喚できる。

 

ミニチュア・パンサー・トークン

 

「ミニチュア」と名のつくトークンはフィールド上に一体しか、存在出来ない。

AT400/DF400

 

さらに、もう一枚アクションカードを掴んでおく。

 

「さあ、ここからが本番だ。おれは墓地の無名の医師の効果発動ッ!これにより、墓地の無名の軍師を手札に戻す」

 

名もなき救い手は、その身を消滅させ仲間を自陣へ送り返した。

 

「そして、無名の軍師は墓地から手札に戻った時に効果を発動できる。おれはデッキから、『無名の隊長』を手札に加える」

 

無名の隊長

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードがフィールド上にいる時発動できる。このカードは一ターンに一度、カードの効果の発動を無効にし破壊できる。

AT1000/DF1500

 

 

【「おれは、チェーンで速攻魔法『悔恨なき別離』発動」】

 

 

「あの時に送ったんだね」

「ああ、そうだ」

 

ユウの追求に、おれは理解を表明して返す。

 

「そして、おれは手札から、『無名の隊長』を攻撃表示で召喚」

「厄介そうなカードだ。俺は速攻魔法『ゲーテの魔導書』、墓地の『ゲーテの魔導書』、『アルマの魔導書』、『トーラの魔導書』を除外して、無名の隊長を除外だ」

 

これにより、おれのモンスターは召喚されずに砕け散った。

 

「だが、狙い通り」

「何だって?」

 

おれは、昨日、修造塾長とのアクションデュエルでアクションカードの可能性を知った。ただ、そのままカードを扱うのではなく自分の戦術として、あるいはエンターテイメントとしても使えると。

 

 

《ただ、おれは器用じゃないからな》

 

 

よって、やれることは一つだけだ。ユウのいる方向に向かって腕を伸ばす。

 

「ユウッ!おれは、これから、お前の度肝を抜いてやるよッ」

「ふーん。それは楽しみだ」

 

余裕たっぷりって、感じだな見てろよ。

 

「おれは、 カードを一枚墓地に送ることで手札から儀式魔法『知られざる生誕』を発動ッ!手札の『無名の使者』と『無名の軍師』を生け贄に捧げる」

 

「 これにより、『無名の剣将』の儀式償還を執り行える」

 

『その真実は何者にも気づかれず、その英断は何者も知ることはない!しかし、その勇気のみは男の仲間を奮い立たす‼未来を掴めっ‼!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「仲間と共に、戦場を駆けろ。無名の剣将」

 

 

《よしッ、これなら……!》

 

 

「かかった!俺は伏せカード『黒魔族復活の棺』を発動っ!』

「何ッ!?」

 

突如出現した棺が、おれの召喚した無名の剣将と相手の場のバテルをとりこんだ。そして、二体を入れ、蓋は完全に閉まる

 

「現れよ!『ブラック・マジシャン』」

 

時を越えた、最高位の魔術師がユウのフィールドに出現した。

 

 

 

 

 

 

しかし、おれの視線はモンスターがいた筈のただ虚空のみを見ていた。



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魔導法王 ハイロン

スイゴは一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。

 

 

 

……しかし、相手の場にモンスターがいるのを見て漸くその事実を理解した。

 

「おれのモンスターを使ったのかッ!」

 

スイゴの声が震える。視線はどこか虚ろで遠くをみているようだった。頼るべきものをなくしたかのような彼の姿は…………酷く弱々しく見えた。

 

 

 

スイゴの脳裏にふと一つの記憶がよみがえった。それは彼がまだ幼い頃のもの。状況は全然違っていた。……しかし、『無名の剣将』を破壊されたその姿が当時の自分に一瞬だけ重なった気がした。たった、それっぽっちのこと。

 

 

 

だが、それは…………。

 

 

 

《…………な、………けるな、ふざけるな、ふざけるなァッ、ふざけるなァァァァァァァーーーーーッ!!》

 

 

『ギユウ スイゴ』にとっての紛れもない『逆鱗』だった。

 

「…………ぐそっ……ガァッ……」

 

頭ん中が血でいっぱいになったような気分になる。吐き気やむかつきで思考がグラつく。額についているものが邪魔でしょうがない。

 

「……ッだよ、いらねぇよ……」

 

不快な『それ』を取り去り、何処かへ投げ棄てた。心の底から、二度と視界に入らなければ良いと思える。

 

「……忌々しいなぁ……」

 

おれの儀式召喚を踏み台にされるなんてよ。まるで、『あの時』のようだな……。

 

「……潰す……」

 

屈辱感と憎しみの感情しか、もう感じない。

 

 

《もう、デュエルなんか『どうでもいい』。『アイツら』は…………いつも『奪う』だけだ》

 

 

ただ、その存在を消し去りたい。こんなふざけたことが許されるのかと呪詛と怨念の言葉を吐き出してやりたい。なんで、なんでッ、なんでッ、『産んだ』!

 

 

 

「……『スイゴ』……………」

 

 

 

……………………ふと、声が聞こえた気がした。

 

 

…………………それが、誰のだったか分からない。

 

 

………………誰だよ、邪魔すんじゃねぇよ

 

 

……………アイツ、てあんな目細かったっけ

 

 

…………馬鹿みたいに、簡単に泣き崩れるようなヤツだったっけ

 

 

………あいつら二人も、阿呆みたいなツラして

 

 

……あの女が、あんな顔してるから

 

 

…シェレン、が?

 

 

 

「………ッ」

 

 

《……何を考えていたんだよ、『おれ』はッ》

 

 

視界は観客席へ向く。男が茫然としたような顔で彼を見ていたが『スイゴ』はきづかない。

 

……スイゴの視線の先では『シェレン』は泣いていた。いつも飄々として、いつもニヤニヤしてるような陽気な幼馴染みが涙を流している。『八年前』と同じ様に……。

 

「ごめん……シェレン」

 

彼女は泣き止まない。ただ、黙って下を向くだけだ。

 

「悪かった。約束したのにな」

 

昔のことだ。彼女が思い出す事なんてないと思ってた。ましてや、自分の為に無くなんてこと。

 

「『都合の悪いこと』から逃げるなって」

 

あの時と同じように泣く姿はひどく小さく見えた。

 

「お前、本当は何も変わってなかったんだな」

 

そんな風にさせてしまった自分が酷く情けない。

 

「……………………ばか」

「ああ」

「…………本当にバカよ、貴方」

「そうだな」

「……メイリンと一緒に約束したじゃないっ」

「覚えてる」

「なら、守りなさいよぉっ!」

 

シェレンがおれを睨みつけた。

 

「貴方がそんなんじゃっ!全然、安心出来ないわ!!」

 

怒声がおれの意識に突き刺さる。もはや、アクションデュエルなどそっちのけだ。

 

「何が『約束した』よ、人のこと馬鹿にしてるじゃないっ」

 

遊矢も柚子もただ黙って彼女を見ている。

 

「そんなんじゃ、幼馴染みの意味無いじゃない!私に話しなさい!!頼りなさいよ!!!」

 

彼女の顔にはすでに涙など無い。『ソン シェレン』という存在は強い。しかし、それは全く倒れない為じゃない。彼女は立ち上がるのが早い。辛いことを飲み干し背負う強い覚悟ある。だからこそ、その言葉を口に出来た。

 

「次に破ったら絶好。わかったら、さっさとデュエルに戻りなさいっ!」

「ああ、絶対だッ!」

 

おれはデュエルの対戦相手に向かいあう。今度こそ、約束を守るために。

 

「『桜樹 ユウ』、おれは再び戦いを申し込む。おれとデュエルを……アクションデュエルを続けて欲しいッ!」

「…………君は、大丈夫なのかい?」

 

彼は静かな目で、おれを見ている。

 

「ああ、大丈夫だッ!」

「ならば、戦おう。俺自身もこのままじゃ気分が悪い。決着をつけようっ!」

「デュエル再開だッ!」

 

大丈夫だ。今度こそ、おれは敗けない!

 

「おれは手札から、『無名の傭兵長』を召喚ッ」

 

無名の傭兵長

 

レベル6

 

戦士族/効果

 

自分フィールド上にモンスターが一体も存在せず、相手の場にモンスターが二体以上存在する場合に手札から特殊召喚出来る。

AT2500/DF1800

 

 

《もう一度だ。相手の場には攻撃力2500のモンスターが二体と攻撃力800のトークンが一体》

 

 

「バトルッ!おれは無名の傭兵長でミニチュア・フェニックス・トークンを攻撃ッ!」

 

名もなき上級剣士の一撃を受け、トークンは消滅する。ユウもまた、その衝撃で後ろに下がる。

 

 

ユウ

LP200

 

 

「さらに、おれはカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

……そうだ。確かにエースモンスターはいなくなった。それでも、戦えなくなる訳じゃない。ずっと、このデッキで戦ってきたんだ!

 

 

「いい表情だ。なら俺も全力で行かせてもらうよ!俺のターン、ドローーーっ!」

 

『桜木 ユウ』の渾身のドローが炸裂した。

 

「この瞬間、『魔導書院ラメイソン』の効果を発動!俺は墓地の『ゲーテの魔導書』をデッキの一番下に戻すことで、デッキからカードを一枚ドローできる」

 

ユウは再びカードをドローする。

 

「俺は手札から『グリモの魔導書』を発動、デッキから『セフェルの魔導書』を手札に加える。さらに、手札の『アルマの魔導書』を見せて、『セフェルの魔導書』発動。デッキから『ゲーテの魔導書』を手札に加える。まだ行くよ、俺は手札の『アルマの魔導書』の効果で除外されている『ゲーテの魔導書』を手札に加える」

 

先程とは違い、余り時間をかけないつもりみたいだ。

 

「さらに、フィールドのジュノンの効果発動!墓地の『セフェルの魔導書』を除外して、君のフィールドの無名の傭兵長を除外する」

「くっ」

 

おれのモンスターが魔導の本の魔力により、異次元へと引きずり込まれた。

 

「さらに、手札の『トーラの魔導書』を発動してブラック・マジシャンを選択する。そして、『ゲーテの魔導書』を発動。墓地の『トーラの魔導書』、『グリモの魔導書』、『アルマの魔導書』を除外して、伏せカードを除外!」

「おれの伏せカードは見返りなき緊急要請。よって、除外される」

「そして、俺はジュノンに『ヒュグロの魔導書』を発動。…………俺は、君には出し惜しみしたくないと思っているよ。バトルだ、ジュノンでスイゴくんのミニチュア・パンサー・トークンに攻撃」

 

これが直撃すれば、攻撃力の数値の差し引き3100でスイゴの終わりだ……。

 

 

 

「だが、攻撃は通さないッ。おれは墓地の『無名の使者』の効果発動ッ。フィールド上のミニチュア・パンサー・トークン一体を生け贄にして、このモンスターを守備表示で召喚しバトルフェイズを強制終了させるっ!」

 

無名の使者

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

この効果は墓地に存在する時に発動できる。一ターンに一度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動し自分フィールド上のモンスターを一体をリリースする事でこのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚出来る。この効果を使った場合、このターンのバトルフェイズを強制終了させる。

AT0/DF2000

 

 

 

「……言った筈だよ、出し惜しみはしないって!今度は、俺が君に見せる番だッ!『エクシーズ召喚』を!!」

「エクシーズ召喚だとッ!?」

「俺は、レベル7の『魔導法士 ジュノン』とレベル7の『ブラック・マジシャン』で『オーバーレイ』っ!!」

 

二体の魔術師の中心に、巨大な渦が出現する。それは二体の魂を重ね、より大きな力を生み出すのだ。

 

 

『数多の魔導を統べし者、善良なる心を持ちし賢者よ!深淵なる力を他が為に振るわん!』

 

 

『エクシーズ召喚』

 

 

「召されよ、ランク7『魔導法王 ハイロン 』!!」

 

 

高貴な仁徳を持つ魔導士の最高位がフィールドに出現した。

 

「俺は、カードを一枚伏せて、ターンエンドだっ!」

 

 

ユウはもうアクションカードを取らないだろう。故に、下級が並ぶことはもう無い。しかし、彼はわざわざ使わなくてもよいエクシーズ召喚を行ってくれた。なぜか?

 

 

《……わかってる、応えてくれてるんだよなッ!》

 

 

それはきっと彼が真のデュエリストで有り、スイゴの期待に応えた為だ。スイゴの全力を真っ向から受けとめ、倒す強い覚悟をしたに違いない。

 

 

《凄い……。これが一度ジュニアユースの頂きに至った強さってことかッ!》

 

 

戦術だけではなく、彼は心もまた強い。モンスターの力と合わせその三つの要素こそが彼を優勝に至らせた理由だった。スイゴの実力では、比べること自体がそもそも烏滸がましい。

 

 

《それでも…………出してくれたってことは、おれを認めてくれたってことだ》 

 

 

ならば。おれも今度こそ、その期待に応えたい。『シェレン』のために、『ユウ』のために、『遊矢』や『柚子』、『モンスター』、そして何よりも『自分自身』のために!

 

「デッキッ!こんなクソッタレでも良いなら……力を貸せッ」

 

その瞬間、スイゴの手には真の『勇気』が宿る。

 

『おれのターンッ、ドロォォォォォォォォォーーーッッ!!!』

 

その手に握られるモノとは。

 

「これは……『死者蘇生』」

 

つまり、おれに選べということか。何を呼び出すのかッ!

 

「選ぶのは『コイツ』だけだッ!魔法カード発動 死者蘇生ッ!!」

 

彼のフィールドに、今度こそ名もなき英雄が出現した。スイゴの心が弱いままであろうとも、仮に強くなれたとしても絶対に選ぶであろうエースモンスター。…たとえ、その結果がどうなろうと後悔はない。おれは『コイツ』が良くて選んだのだから……。

 

 

 

「『無名の剣将』」

 

スイゴは、目を閉じる。運命を変えることは出来なかったがこれで自分は満足した。得るものがあった。無くさなくてすんだ。その結末がこれなら、おれは受け入れられる

 

 

《何やってるのっ!?スイゴ!!》

 

 

シェレンの声が聞こえた。ならば、もうこのデュエルを終わらせる時だ……。

 

 

 

おれはそう思い眸を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知られざる---の昇華

 

--儀式魔法

 

このカードは、自分フィールド上のモンスターのレベルの合計が10以上になるように生け贄を捧げ、発動される。--------から、『無名の剣聖』一体を--儀式召喚する。このカードの生け贄素材の一体は、必ず『無名の剣将』でなければならない。----------------------------------。

 

 

 

運命は、これよりその動きを加速させる。



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無名の剣聖

「何……だ……、このカードはッ!?」

 

おれのフィールド上で、いつの間にか謎のカードが発動していた。文字は所々擦りきれ、書いてある内容も全くおれの知らない未知のものだ。

 

 

《あり得ないッ!おれの手札はもう無いのにっ、カードが発動出来る訳がないだろッ!!》

 

 

しかし、目の前の現実はそんなおれの想像を置いていくかのように狂いながらも正常に機能していく。

 

「スイゴ、そのカードを使えっ!」

 

ユウが、おれに叫びかける。

 

「君がカードに選ばれたなら、それを使うべきだっ!!」

 

彼はひどく興奮したような声をしている。彼自身もこの摩訶不思議な事態に魅了されているのかもしれない。

 

「…………ああ、そうだ!おれは自分フィールド上の『無名の剣将』と『無名の使者』を生け贄に捧げる」

 

スイゴの手札に『このカード』は無い。しかし、何故だか彼にはそのモンスターを呼び出せる気がした。

 

「これにより、『無名の剣聖』の儀式償還を執り行えるッ!」

 

『その真実は己にすらも気づけず、その才気は誰にも知られざる筈だった!しかし、その勇気のみが男と仲間を英雄へと至らしめる!!友の叫びに応えよ!!!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「仲間を救い、運命を乗り越えよ。『無名の剣聖』」

 

 

無名の剣聖

 

レベル10

 

戦士族/--儀式/効果

 

------------------

------------------

------------------

------------------

AT3000/DF2500

 

 

語られる筈の無かった英雄が、フィールドという表舞台に姿を現した。

 

「おれは、『無名の剣聖』の効果発動ッ!墓地の『無名の傭兵長』を装備する。これにより、攻撃は1250ポイントアップする」

「攻撃力4250だって!?」

 

スイゴは、フィールドを駆けた。

 

「バトルだッ!!無名の剣聖でハイロンを攻撃ッ!!」

「そうは、いかない。俺は、伏せカード『ゲーテの魔導書』を発動。墓地の『トーラの魔導書』、『ヒュグロの魔導書』、『ヒュグロの魔導書』をゲームから除外して、君のモンスターを除外するっ!」

「おれは、無名の剣聖の効果発動ッ!その効果で、『魔法カード』を選択する。これにより、このターン、魔法カードの効果を受けないッ!!」

「そんなっ!ばかなっ!!」

 

知られざる英雄と高名なる魔導士の戦いは、その一撃を持って、英雄に軍配が上がった。

 

 

ユウ

LP450

 

 

「さらに、アクションマジック『ミニチュア・ワイバーン』を発動ッ!!」

 

ミニチュア・ワイバーン

 

このカードを発動したプレイヤーは、フィールド上に『ミニチュア・ワイバーン・トークン』を特殊召喚できる。

 

ミニチュア・ワイバーン・トークン

 

「ミニチュア」と名のつくトークンはフィールド上に一体しか、存在出来ない。

AT700/DF100

 

「………フィールドにもうカードはない。わかった、来いっ!!」

「バトルッ、ミニチュア・ワイバーン・トークンでユウにダイレクトアタックッ!!」

 

スイゴの持てる全力以上を彼へとぶつけた。

 

「うっ……わあぁぁぁーーっ!!」

 

 

ユウ

LP0

 

 

スイゴは自分のデュエルディスクを見る。そこではカードが消えていく光景を見た。僅かな間を残し、『無名の剣聖』はその姿を完全に消し去った……。

 

 

 

 

 

 

「シェレン、………悪かった」

 

おれは、遊矢や柚子それに、ユウやノウン

のいる前で首を下げた。

 

「スイゴ、一度じゃなく、二度も同じ間違いを犯すのはバカのすることよ」

「はい……」

 

仰る通りです。黙って、頭を下げたままにする。

 

「三度目は無いわよ」

「はい………」

 

有難い。彼女からは一応見放されてはいないみたいだ。

 

「…今日は一緒に寝なさい」

「は……………いや待て」

 

思わず頷きそうになった自分に激しく後悔した。

 

 

《……本当に何でこの状況でそんなこと言っちゃうかな、コイツはッ!?》

 

 

……ふと視界が暗くなる。何事かと思ったが、頭に何か布切れを当てられているような触感があった。少しの間、その状態で成すがままにされた。

 

「………まあ、よろしい。首を上げなさい♪」

 

首を上げると、そこではシェレンが可笑しそうにクスクスと笑っていた。周りにいる皆は顔が少し赤いように見えるが、それでもこの状態を容認しているように思えた。おれが頭に手をやると、額に何か巻かれているようだった。

 

「無くしちゃだめよ。それも貴方には必用なんだから」

 

成程、さっきの謎の行動の正体はこれか。彼女は試合中におれが投げ棄てた『コイツ』を拾ってきていたのか。スイゴが額に触れていると、シェレンはまたクスクスと笑いだした。

 

「………何だよッ!」

「何かしらねーー♪」

 

変なところがないか何回も手で確認する。そうしている間もシェレンはただただ笑い続けている。そんな彼女を見て、おれはどこか望郷に帰ったような安心感を感じた。

 

「……それで、スイゴ。さっきの召喚は何かしらん」

 

彼女は、ぐいっ、と音が聞こえそうな位におれの前に近づいてくる。

 

「おれも分からない。何か、夢中でやってたら出来たんだよ」

「まあ、俺も焚き付けちゃったからね。そのせいで敗けちゃうし……」

 

どこか、心臓がうるさく感じる。スイゴはシェレンから少し距離を置いてそう言った。ユウもまたそんな彼をフォローしてくれた。

 

「………恐らくだが、あれは儀式召喚だと思う」

「ふーん、なるほどねん。それで、カードは?」

「無くした」

「スイゴォ………」

 

シェレンはじとっとした目でこちらを睨んできた。正直、少し怖い。

 

「無くしたっていうか。無くなったんだよ、勝手にッ!」

「………無くなった?それはカードがひとりでに何処かにいったということよっ」

「だって、デッキ探してもないんだよッ!おれはカードが消えるのを見たんだよ。何なら、何処探してもいいぞッ!?」

「………良いの?」

「やっぱり、だめだ」

 

証拠の裏付けなら他の人にやってもらわないと。

 

「………に、しても不思議ですわね。カードが勝手に消えるなど…」

 

ノウンは納得出来なそうな顔をしている。

 

「確かに変だけど、デュエル中は正常に機能してたからね。………何か、新しい召喚法かな」

 

ユウは考えるように手を首にあてる。他の人達もだいたい同じような態度だ………『榊 遊矢』を除いては。

 

「俺は信じるよ。俺もデュエルの最中にペンデュラム召喚を見つけたから」

「そうなのか?」

 

それは、初耳の事実だ。

 

「確かに、遊矢もそうだったし。『デュエルモンスターズ』にはそんな不思議な力が有るのかも」

 

柚子もまた彼の意見に頷く。

 

「まあ、深く考えても無いものは無いわよ。遊勝塾に返って、じっくり、と考えましょう」

「ああ、そうだな」

 

深く考えてもしょうがないよな。スイゴは心の中でそう思い、これ以上考えることを止めた。。

 

「スイゴ!今度は『舞網チャンピオンシップ本選』で戦おう!」

「わかった。今度は本選でなッ!」

 

おれは、ユウとそう握手を交わした。

 

「ワタクシもシェレン、あなたには本選でリベンジしますわっ!」

「ええ、いいわよ。その時は噛まないようにねん♪」

「絶ッ対に、噛みませんからっ!!」

 

ノウンは一方的に宣言し、シェレンもそれにのっかる。彼女達もまたもう良いライバルなのかもしれない。

 

「「「「またな」」」」

 

この言葉を最後に、おれ達四人はユウやノウンと別れた。この件について彼らには『赤馬』以外には口止めしてもらうことも頼んだ。シェレン曰く、『どうせ、どこかで見てるでしょう』だと。

 

 

 

 

 

 

「『無名の剣聖』か」

 

赤馬はそう言い、一人熟考に耽る。

 

 

《『ギユウ スイゴ』………彼があのような召喚法を生み出すとはな》

 

 

通常の儀式召喚と似通っており、全く、異質なその召喚法。赤馬自身、まだ判断するには未知過ぎたものと言えるだろう。

 

『本当に彼らが儀式次元の人間』なのか、赤馬自身はそれを見るまでは完全には信じていなかった。しかし、彼らは我々の知らぬ私さえも知らない召喚法を出したと有れば、信じざるを得ない。それほどの存在なのだ『多次元』の人間という存在は。

 

「『黒咲』、君は彼についてはどう思う」

 

赤馬は後ろにいる一人の男にそう尋ねる。眉間にしわをよせ、険しい顔はそのまま彼自身の人生を表している様だった。

 

「知らん」

 

男は一言だけ、そう言って部屋を出た。

 

 

 

しかし、赤馬はそのことを気にも留めない。ただ静かにモニターを眺めるばかり。ふと、彼は一つの可能性を口に出してみる。

 

「………『榊 遊矢』との会合が変化をもたらしたか?」

 

しかし、それもまた明確な根拠のない憶測に過ぎない。ペンデュラム召喚に続き調査することが増えたのにも関わらず、彼の口は細い三日月を描いていた。

 

 

 

 

 

 

先日、二人はギリギリの勝負を勝ち終えた。そんなおれ達は今はなぜかとあるデパートに来ていた。

 

「うん、これなんか良いじゃない。貴方はどう思う、スイゴ」

「………なあ」

「何かしら」

「おれ達、明後日はまたデュエルあるだろ」

「そうねー。あっ、これもいいわっ!」

「なら、少しは練習する気にならないのか」

 

二人は今、人形に囲まれたファンシーな見た目の店の中にいた。正直、彼は今すぐにでも『遊勝塾』に行きたい。スイゴ自身はこんな所で人形なんか見てるよりもずっとその方が良かった。しかし、彼が本当に居づらい理由は何よりも周りにカップルしかいないことだ。

 

 

《すっごい、見てて胸焼けしそうな気分になるんだが。……なんか、『アイツ』のこと思い出してムカムカしてきたッ》

 

 

スイゴは決心する。今度、同期生のその人物に会ったら出会い頭に殴ることを。

 

「ダメよ。これも昨日の罰の一つ」

「頼むから、もっと肉体的に辛い感じにしてくれ」

 

精神的にガリガリ削られるような感じがして、こっちは辛いんだよ。

 

「『肉体的』て…………やだー。スイゴ、意味深ね!」

「お前の頭の中こそ随分と深刻な状況だな」

 

いったい、どうしてコイツがこうなったのか。本当に分からない。昔からこんな性格だった気がするし、母親の厳しい教育の反動だろうか?

 

「スイゴは昨日の新しい召喚法を忘れられないみたいね」

「……………別に」

「隠さなくたって、分かるわよ。私も気になったのは事実よ?」

 

でも、とシェレンは言葉を切った。

 

「『私』とどっちが大事かしら?」

 

真剣な目で尋ねる。スイゴは、彼女のその質問に含まれる真意に気づいた。

 

「………シェレン。お前はそんな質問するなよ」

「でも…スイゴは私と居て嫌にならないの」

 

きっと、昨日のことを僅かに引きずっているのだろう。そんな不安な所を見せる彼女にスイゴはらしくないと思った。シェレンらしくない。彼は、そんな姿を見ていたくない。

 

「大丈夫だ。普段のお前に比べたら、今日なんて平和その物だろ」

「えー、スイゴ冷たくない?」

「いつも通りだろ。ほら、今日は一日中買いものに付き合ってやるから」

「あらら、急にどうしたのよん。…うん、わかった。じゃあ、頼もうかしら」

「後でカードショップも見に行くけどな」

「ええ、分かってるわよ。それじゃあ張り切って買いものするわよ--ー♪」

 

シェレンはおれを連れ立って次々と店を回る。元の世界に帰った時のお土産も買うとか言ってたから、最後には両手で抱えきれない量になっていた。しかたないから、気合いで何とか持ち帰った……。

 

 

 

結局、その日は夜遅くまで二人で店を回り歩いた。遊勝塾についた頃にはおれ達は正座させられて、修造塾長と洋子さんに一時間もの間ありがたい説教を頂くことになった。




なんか、スマゲに飽きてきた。執筆に集中しよう


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敗けられない理由

遊矢にとって、その日はとても重要な意味を持っていた。彼が出場を目指す舞網市全域が対象の『舞網チャンピオンシップ』の出場をかけた最後のバトルがあるためだ。

 

対戦相手は分からないが、勝つことではれて勝率が六割となり大会に参加できる。少しでも、応援の声が欲しかった。

………なのに。

 

「みんな、どこ行ったんだよ」

 

遊矢はただ一人無人となった自分の家で、ポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

話は数時間前に戻り、遊矢の家にとある一本の電話がかかったのがことの始まりだった。その電話に出たのは『榊 洋子』。

 

「はい、榊です。………………えっ、権現坂さん!?」

 

電話の内容は、息子の遊矢の親友であり彼の通う遊勝塾のライバル塾のあと継ぎ『権現坂 昇』に関することであった。一通りの話を聞き終えた洋子は、現在、同居させているスイゴの寝室へと行き彼が起きるのを待たずに無理矢理に権現坂 昇の通う『権現坂道場』へ連れて行った。スイゴの横で眠っていた筈の遊矢を起こさずに行ったその手際のよさは、流石に母親だったと言える。

 

「すっげえ首が痛い…」

「…あらら、首に痕が残ってるわね」

 

わたしは、そう感想を口にした。

 

「ごめんなさい、スイゴくん。何でも『ニコ』さんが出来るだけ速く来て欲しいって言うから」

「まさか、ここまで引き摺られるとは思いませんでした」

 

洋子さんと『ニコ スマイリー』が口々にスイゴにそう話した。ニコさんとは、黄色と黒色のストライプのスーツを着るちょい歳をとった男性だ。なんでも、デュエリスト専属の敏腕マネージャーらしいわ。

 

 

《そして洋子さんはあの細い腕のどこにそんな力があったのかしら、不思議ね》

 

 

シェレンは心の中でそう思った。そしてスイゴの方を見ると、彼は私に何かを訴えるような視線を向けている。

 

「シェレン。………おれは人の母親に苦しめられる呪いでもかかってるのか」

「だとしても、もう手遅れよ」

 

貴方がそんな目に合ってるのはしょっちゅうよ。最たる例が私のお母様ね。気にするだけ、無駄だわ。

 

「それで、私達をここに呼んだ目的は何かしら?」

 

私はニコさんに尋ねた。今、シェレンを含めて権現坂道場のとある一室には十人近くの人間が集まっている。

 

「ハイハイ、実は今日ここに呼んだのは遊矢くんの為なのです」

「どうして、遊矢なんですか?」

 

柚子は彼にそう聞く。部屋にいる人達の中では、彼女が一番浮かない顔をしている。

 

「皆さんも、ここに来たならもう分かるかも知れませんが。今日の遊矢くんの相手はあの『権現坂』くんです。権現坂くんは彼の親友との試合に気合充分です」

 

ただ、と前おく。

 

「遊矢くんはまだ一人で戦う心の準備が出来ているとは言えません。まだ、周りの人達からの声援を頼りにしている部分があります」

 

男は語る。舞網チャンピオンシップで戦うのは常に一人、優勝者も一人のみ。ならば、いつか親友相手にも決死に戦いを挑まなければならないのが事実。

 

 

《確かに、その通りよ》

 

 

私もそう思った。

 

遊矢くんが人を楽しませるエンタメデュエルを大切にしたい気持ちは分かる。……しかし、彼が上を目指す以上はその下には必ず敗者は生まれる。どれだけ楽しいデュエルであろうとその事実は変わらない。

 

 

……でも。

 

 

「けど、遊矢は戦えると思います!」

 

柚子ちゃんはニコさんにそう告げる。彼のことを信頼しているのか、その目に曇りはない。

 

「俺たちも遊矢兄ちゃんを信じてるよっ」

「僕もっ!」

「私もっ!」

 

フトシくん、タツヤくん、アユちゃんが次々に信頼の言葉を口にする。

 

「遊矢は戦えるよ」

 

母親の洋子も同意する。

 

「うーん、権現坂くんにも勝って欲しいが………。遊矢は遊勝塾の生徒だからな…」

「僕もゴンちゃんと遊矢なら、遊矢が勝つと思うよ」

 

塾長と素良くんの答えは、若干ずれてはいるが二人が戦うことを確信しているようだ。

 

「遊矢と知り合ってまだ数日だが……アイツなら戦える!」

 

スイゴもまた信じている。

 

「二人は親友らしいじゃない、なら出来るわよ♪」

 

親友だからこそ時には全力で向かいあう必要がある。私もスイゴとはそうだった。私が彼にそうしたように、遊矢くんが自身の信じるエンタメを貫きたいなら相手が『誰』であってもそうするべきなのだ。

 

 

《……それに、遊矢くんは一人じゃないわ》

 

 

柚子ちゃん達はこの部屋から彼らのデュエルを見ることが出来る。彼らからは見えないが、心から信頼で繋がっているようなら遊矢くんは大丈夫に違いない。心中でそう結論付け、わたしは柚子やスイゴ達と共に二人を見守る。目前のデュエルフィールドでは、『榊 遊矢』と『権現坂 昇』のデュエルが今始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

おれの目の前では、遊矢が襷を頭に巻いた男『権現坂 昇』と壮絶なデュエルしている光景があった。アクションカードを積極的に扱う遊矢に対し、それを全く使わない『不動のデュエル』で戦う昇。二人のデュエルは一進一退で進んだが、途中で事態は急展開を迎える。

 

 

『《俺は、レベル2のチューナーモンスター、『超重武者ホラガ-E』を召喚!》』

 

 

「チューナーって、まさか…!」 

「ノラウが使ったのと同じね!」

 

シェレンの時にもやった、シンクロ召喚を昇が決めて来たのだ。これには控え室にいた全員が度肝を抜かれた。

 

 

『《『超重荒神 スサノ-O』》』

 

 

守備力3800を誇る最硬のモンスターが、フィールドという戦場に出現した。

 

これから一体どんな展開になるのかと皆が期待をしていた時。突然、権現坂の親父さんがデュエルにストップをかけた。『息子の昇を敗けにする』、と告げたからだ。

 

「はあっ!?何言ってんだよ!」

「全くよ……何を考えているのかしら」

 

控え室の皆に衝撃が走り、おれとシェレンも当然に驚く。

 

 

《つーか、この世界にはデュエルに流派なんて物まであるのかよ。そっちの方にも、ビックリだ……》

 

 

しかし、昇の真剣な演説もあり何とかデュエルが再開された。彼は新たな不動のデュエルを目指す過程で、シンクロ召喚を物にしたらしい。曰く『必用ならば、敵であれその教えをこう』と。

 

おれは、その潔さには感心する。どこか胸の中でストンと落ちるものを感じたからだ。

 

「デュエルは進化していく…か」

 

確かに同じ様な戦い方をするだけじゃ、その内に対策されて通用しなくなる。馬鹿正直に儀式召喚ばかりを使っていた自分がいい例だ。おれは、昇の言った内容に耳が痛い心地だった。

 

 

 

二人の試合はさらに加熱さを増していき、圧倒的力で遊矢を攻める昇はついに相手墓地の魔法カードすらも使いやがった。

 

「遊矢もペンデュラム召喚で対抗しているが…」

 

シンクロ召喚の使いを相手に、戦況は厳しいように見える。また彼自身この目で直接ペンデュラム召喚を見たのは初めてだ。しかし、デュエルの展開を追うのに忙しくてそれに感傷を感じる暇がない。そして………。

 

 

『《出でよ、秘術振るいし魔天の龍『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』》』

 

 

戦況は一変する。遊矢がペンデュラム召喚からの融合召喚を決めたのだ。

 

「あれが、遊矢の言ったペンデュラムのその先か!」

「しびれすぎる~!」

 

 

《は?》

 

 

フトシの謎の動きにスイゴの思考が固まる。少しだけ感動を台無しにされた気分だ。

 

 

 

……そうこうする間にも試合は動く。ルーンアイズによる怒濤の攻撃の連打、それを昇は鉄壁の守りで防ぎきる。そして勝負を決めたのは、遊矢の限界を越える跳躍で得たアクションカードを用いた罠カード効果による、必殺のドローだった。

 

 

『《出でよ、野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』》』

 

 

スイゴは、遊矢が一ターンに二回も融合を決めたことに感心する。強力な召喚を一ターンに二度以上決めるのは中々見られる光景ではないからだ。

 

 

《まあ、おれ達の世界じゃそもそも『エクストラデッキ』なんか対して…………》

 

 

「ん?」

 

彼がそこまで考えた所で試合は終わりを告げる。遊矢がついにビーストアイズによる一撃を与えこの二人の勝負が決着を迎えたために……。

 

この瞬間、遊矢の舞網チャンピオンシップの出場が決定した。

 

 

 

皆が遊矢に駆け寄り賛辞の言葉を話す中、昇は遊矢に再戦を誓う言葉を残す。おれもアイツに拍手を送る。こうして、遊矢達のデュエルは感動的な決着を向かえた。

 

「遊矢、おれも必ず後ニ連勝して本選に出場する」

「ああ、スイゴのこれからの試合は俺も応援するよ!」

 

試合が終わった後に、彼は遊矢とそう約束する。スイゴはまた一つ、敗けられない理由が増えるのを感じた。

 



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白銀 リンドウ

来週から、週一


遊矢の試合の翌日、おれとシェレンは五戦目の相手と戦うためにLDSに来た。今回は、遊矢と柚子だけでなく子供三人と素良のセットまで来たためか随分と賑やかなことになっている。

 

 

 

「シェレン、今日はおれに先に行かせてくれ」

「あらん。私はどっちでも良いけど、随分と張り切ってるわね?」

「昨日、遊矢の試合を見たせいか興奮しっぱなしなんだよ」

「ふふ、燃えてるわね」

 

デュエルディスクを握る手にも、力が入る。

 

 

《アイツがあれだけ、凄いことをしてのけたんだ。おれだって、敗けられるかよ》

 

 

「スイゴ、思い詰め過ぎよ」

「ん?そうか」

「そうよ。力が入るのは良いけど、入りすぎるとまたこの前のデュエルみたいになるわ」

 

彼女は軽い口調で、そう話した。まあ、その通りなんだけどさ。

 

「………ああ、そうだな」

「分かれば、よろしい」

 

そして、シェレンは言った『この前の謎のカード』には期待しない方がいいと。確かにあれをどう起こしたかはおれにも解らない。

 

「スイゴ、今日は貴方らしいデュエルを私に見せなさい」

 

おれはそのことに頷く。彼女がそう言った以上はおれもその期待に応えるべきだ。そして、対戦相手の待つデュエルフィールドへと足を進めた。

 

 

 

そこには銀色の髪を持った長髪の女性がいた。顔の造りは整っており、無表情だが間違いなくの美人だった。

 

 

《赤馬のやつ……………まさか、顔で選考にかけて無いよな》

 

 

彼女はおれを見ると興味深そうにこちらに近づいて来た。

 

「…君、………カッコいいね」

「は?」

 

女性がおれの直ぐ目の前で、そんなことを言った。

 

「褒めても手加減はしないからな」

「当たり前。…けど、やっぱり良い…………」

 

淡々とした話し方だがそこには真剣さが感じられる。正直、そんなことを言われると勘違いしたくなるな。

 

 

しかし、おれは冷や汗が止まらない。なぜだか観客席の方から背中越しにひどく鋭い視線を感じるのだ。

 

 

《絶対に後ろは見ない、絶対にッ!》

 

 

「わたしの名前は『白銀 リンドウ』。………よろしく」

 

頬を少しだけ赤く染めて彼女はそう名乗った。

 

「ああ、おれは『ギユウ スイゴ』。時間もないし早く始めようかッ!」

 

アイツのことが怖かったからじゃ無い。ただ、これ以上はデュエルに差し支えそうだ。本当に。

 

お互いにデュエルディスクを構え、戦いの時を待つ。そして……。

 

 

 

《《アクションフィールドセット、『古代の城跡』》

 

 

 

床は白い石畳が敷き詰められたものに代わり、所々にヒビが入っている。ここではかつて争いが起きたのか至るところに剣の傷痕がある。建物の屋内のようだが、天井が何階にもぶち抜けているので空が普通に見えた。

 

 

『行くぞッ、戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が』

 

『…モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る』

 

『見よ!』

 

『『これぞデュエルの最強進化形、アクションッ!』』

 

 

『『デュエル』』

 

 

スイゴvsリンドウ

LP4000/LP4000

 

 

スイゴは早速とフィールドを走る。定番だがアクションカードを見つけるためだ。しかし、彼は同時に頭も働かせる。

 

 

《思えば、おれはこの前のデュエルで儀式召喚に頼りすぎていた》

 

 

そもそもスイゴが儀式召喚を使えるようになったのはここ最近のこと。それまでは知識こそあったが実際のデュエルでは全く成功していなかった。力を過信して無闇やたらに『儀式召喚』を使い続けていれば、それで足元を掬われるのも当然の結果だった。

 

 

《確かにエースは『無名の剣将』だ。……けど、ソイツ以外のカードでも勝つことを考えなきゃいけなかった》

 

 

エースのために他のカードを蔑ろにした。それは彼のことをずっと支えてくれていたもの達への裏切りだった。故に、この前のデュエルではその報いを受けたに違いない。

 

「……たく、自分で言っていたことも守れないなんて!おれの先行ッ、手札から無名の傭兵を攻撃表示で召喚」

 

 

《今日は儀式召喚には頼らないッ》

 

 

スイゴはそう決心した。取り合えずは原点回帰。まずはこのカードで、相手の反応を伺う。

 

「さらに、カードを二枚セットして、ターンエンドだ」

 

螺旋状に上に伸びる二つの階段、おれはその片方を登り、上を目指す。その途中でアクションカードを探すが、中々、見つからない。

 

 

《このフィールドはアクションカード自体が少ないのか、……それとも他のどこかにあるのか?》

 

 

「…私のターン、ドロー。手札から、『青き眼の乙女』を召喚」

 

白き髪を持った守り神の巫女がフィールドに出現する。

 

辺りを見渡しているリンドウを見ると、彼女もまたアクションカードを探しているようだ。

 

「……無い。なら、わたしはこれでターンエンド」

 

カードを見つけられず落ち込んでいるのか、少し顔が泣きそうになっている。なんだか関係ないおれまで罪悪感を感じるような落ちこみ方だ。

 

「あんまり落ちこむなよ?」

「…やっぱり、あなたは優しい」

 

あ、また背後から視線が強くなった。

 

 

 

「取り合えずおれのターンだ。ドローッ」 

 

……にしても、彼女のフィールドには攻撃力0のモンスターか。絶対に罠だろ。

 

「まあいい、手札から無名の盗賊を攻撃表示で召喚」

 

やぶ蛇だろうが、つついてみなければ正体は分からない。ここは攻撃だ。

 

「バトルだ。無名の傭兵で青き眼の乙女を攻撃ッ!」

「…青き眼の乙女の効果で攻撃を無効にして、このカードを守備表示にする」

 

何だ、単なる耐性持ちかよ。

 

「なら、無名の盗賊で攻撃…」

「の前に、青き眼の乙女の効果発動」

 

リンドウのフィールドに強い風が吹き荒れ、巨大な影が落ちる。

 

「『青眼の白龍』特殊召喚」

「あれ……………………ブルーアイズ?」

 

次の瞬間、馬鹿高い音共に巨大な白きドラゴンがフィールドに出現した。おれ達の世界でも聞き覚えのあるその名は、確か伝説のデュエリスト『カイバ セト』の愛用カードだ。

 

「えっ!?ちょっ………ブルーアイズって…!」

「…うん、召喚した」

「嘘だろ……」

 

間近でこの伝説のレアカードを見られたのは感動だが、ただ攻撃されただけでフィールドに出てくるのは反則に近い。

 

「うんまあ…仕方ない。無名の盗賊で青き眼の乙女に攻撃で」

「……うっ」

 

おれのモンスターのニ度目の攻撃で、アッサリとそのモンスターは破壊される。

 

「おれは無名の盗賊の効果でドローする。そして、ターンエンドだ」

 

いよいよ、本格的にアクションカードが必要になりそうなおれはただひたすらに走り回る。

 

 

 

「…わたしのターン、ドロー。手札から、『アレキサンドライドラゴン』を召喚」

 

皇帝の宝石の名を冠する、神秘のドラゴンがフィールドに出現した。

 

「…バトル。青眼の白龍で無名の傭兵を攻撃」

 

光り輝く最強のドラゴンが放つ爆風を受け、無名の傭兵は簡単に消し飛ばされた。

 

 

スイゴ

LP2800

 

 

「…そして、アレキサンドライドラゴンで無名の盗賊を攻撃」

「グッ…!!」

 

 

スイゴ

LP2300

 

 

「…わたしはカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 

一瞬にして、おれのフィールドが空になってしまった。やはり、あのカードを何とかしないことには話にならない

 

おれは、走りながらも階段を上へ上へと上がる。

 

「おれのターン、ドローだ」

 

……よし、このカードが有ればっ!

 

「おれは、相手フィールド上にモンスターが二体いることにより手札から無名の傭兵長を特殊召喚する。そして、モンスターカードをセット」

 

おれのフィールドに二体のモンスターが出現する。

 

「バトルだッ、無名の傭兵長で青眼の白龍を攻撃ッ!」

「……攻撃力は、こっちが上。」

 

 

 

「それは、どうかな」

「…!」

「おれは手札から速攻魔法穢れなき決闘を発動。この効果で、無名の傭兵長の攻撃力を二倍にする」

「……攻撃力5000…!」

 

力が倍増した無名の傭兵長により、その剣は伝説のドラゴンを切り裂いた。

 

「……くっ…」

 

 

リンドウ

LP2000

 

 

「おれは、これでターンエンドだ」

 

 

 

「…私のターン、ドロー」

 

今にも泣きそうな顔をしていたリンドウだが、引いたカードを見て表情を変える。

 

「…わたしは手札から、『青き眼の乙女』を召喚。さらに、リバース『竜魂の城』を発動。墓地の伝説の白石を除外して、青き眼の乙女の攻撃力を700ポイントアップ」

「たった700……なわけないか」

「そう、わたしは墓地から青眼の白龍を召喚」

 

再びフィールドに最強のドラゴンが出現する。いや、ちょっといい加減にしろよ。

 

「…バトル。青眼の白龍で無名の傭兵長を攻撃」

「ぐあァーーッ」

 

 

スイゴ

LP1800

 

 

「…アレキサンドライドラゴンで伏せカードを攻撃」

 

伏せカードは面になり無名の軍師が顕になる。しかし、ドラゴンの一撃により粉砕された。

 

「おれは効果でデッキから、『無名の剣客』を手札に加える」

「…わたしはダイレクトアタックしない」

 

確かに、見返りなき緊急要請を伏せていたが…………これで終わりか?

 

「………フィールド上のレベル8『青眼の白龍』に、レベル1の『青き眼の乙女』を『チューニング』」

「まさかッ!?」

 

 

 

『…何者も圧倒する強靭な肉体を持ち、その力はまさに無敵、最強の龍はここに進化した!』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「出現せよ、美しき白銀の龍!『蒼眼の銀龍』」

 

白きドラゴンは長い時を経て、その姿を新たな形へと変えた。守備力3000を誇る神聖なるモンスターがここに現れる。

 

「初めて見るぜ、これが生のシンクロ召喚ッ!!」

「…初めて、なの?」

「ん?ああ」

「…そう、初めて……」

 

 

《いや、何でそこで顔を赤くする》

 

 

モジモジした仕草をするリンドウを見て、おれはそう思う。照れている姿は美しいというよりも本当に可愛らしい。

 

 

《……………痛ッ…………!!》

 

 

何かに、背中から貫かれたような感覚が走った。

 

おれは身体をみるがそこには傷一つ無い。つまり、あれは単なる錯覚だったと言うことだ。 …深く考えないようにしよう。

 

「…わたしは、これでターンエンド」

 

銀龍は先程のモンスターに比べれば、攻撃力は2500と落ちる。しかし、わざわざこのタイミングで召喚したからには何か狙いがあるのか。

 

 

 

 

 

 

……にしても、デュエルに関係ない所で疲れている気がするな。



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青眼の究極龍

「よし、おれのターンだ。ドローッ!!」

 

……にしても、ヤバイな。そろそろあっても云い筈なのにアクションカードが見つからない。いよいよ、このフィールドに無いのが確定してきた気がする。

 

「おれは、手札から『無名の剣客』を召喚」

 

無名の剣客

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードは、一ターンに一度、相手フィールド上のモンスター一体を選択し裏守備表示に出来る。このカードは、相手の魔法・罠カードの効果を受けない。

AT1300/DF1000

 

「このカード効果で、おれはアレキサンドライドラゴンを裏守備表示に変える」

「…蒼眼の銀龍の効果。わたしのフィールド上のドラゴン族モンスターは全てカード効果の対象にならず、カード効果で破壊されない」

「はあっ!?」

 

何だその脅威の効果耐性は!あのモンスターを召喚したのはこの為か!

 

「けど、まだ手はある。おれは手札から無銘の剣 剛を発動し、無名の剣客に装備する」

 

これで攻撃力は2300。アレキサンドライドラゴンを上回った。

 

「バトルだ、無名の剣客で、アレキサンドライドラゴンを攻撃ッ!」

「竜魂の城は発動出来ない。……ううっ…」

 

 

リンドウ

LP1700

 

 

「よしっ、おれはこれでターンエンド」

 

城の屋上部分に来たがアクションカードは落ちていない。そう言えばこのフィールドの名前は何だったか……………確か、『古代の城跡』?

 

 

 

「…わたしは、ドロー」

 

瞬間、彼女の周囲が圧倒的な光を放つ。そして、強烈な風圧がフィールドに吹き荒れる中、青眼の白龍が現れる。

 

「おいおいッ、…何が起きたッ!?」

「…蒼眼の銀龍の効果で、わたしは一ターンに一度、墓地の青眼の白龍を特殊召喚出来る」

 

 

《ふざけるのも大概にしろ!》

 

 

それでは、アイツがいる限り毎ターンの間ブルーアイズが出てくるってことじゃないか。

 

「…さらに、わたしは手札から『竜の霊廟』を発動。その効果で、デッキから青眼の白龍と『伝説の白石』を墓地に送る。そして伝説の白石の効果発動、デッキから青眼の白龍を手札に加える」

 

 

《三積…………か》

 

 

「…まだ、わたしは手札から『銀龍の号砲』を発動。墓地の青眼の白龍を特殊召喚」

「いい加減にしろよッ」

 

さっきから、その名前しか聞いてねえよ。もういいよ、ブルーアイズは!

 

「…さらに、わたしは手札から『正義の味方 カイバーマン』を召喚」

「嫌な予感しかしねえ」

「…このカードを生け贄に、手札から、青眼の白龍を特殊召喚する」

「分かってたよッ!」

 

どうせ、そう来ると思ってた。彼女のフィールドに四体のドラゴンが並んだ。

 

「…わたしは青眼の白龍で、無名の剣客を攻撃」

 

無慈悲な白龍による一撃を食らい、剣客はアッサリと命を落とす。

 

 

スイゴ

LP1100

 

 

「…わたしは青眼の白龍で君に攻撃!」

「おれは伏せカード、見返りなき緊急要請を発動。おれはデッキから、無名の医師を守備表示で特殊召喚」

 

またもや白龍のブレスがおれのモンスターを破壊した。

 

しかし、無名の医師には効果がある。

 

「…わたしは青眼の白龍で、もう一度君にダイレクトアタック」

「おれは無名の医師の効果発動。墓地のこのカードをゲームから除外して、バトルを無効にする」

 

 

リンドウ

LP3200

 

 

おれは手札に無名の軍師を加えた。さらに、デッキから『無名の聖女』も加える。

 

「…まだ、わたしは蒼眼の銀龍でダイレクトアタック」

「さらに、おれは伏せていた『終わりなき戦線復帰』発動ッ!」

 

終わりなき戦線復帰

 

カウンター罠

 

自分フィールド上にモンスターが存在せず、相手モンスターが攻撃宣言した時に発動出来る。自分の墓地から、『無名』と名のつくモンスターカード一体を攻撃力を700ポイント上げて、自分フィールド上に特殊召喚できる。

 

「おれは、墓地の無名の傭兵長をフィールド上に特殊召喚ッ!そして、効果でその攻撃力は3200ポイントにアップ」

「…えっ!?」

 

蒼眼の銀龍をおれのモンスターが勢い良く切り裂き、その余波はリンドウにダメージを与えた。

 

 

リンドウ

LP2500

 

 

相手モンスターを破壊したことに、おれは思わず拳を握りしめる。

 

 

《よし、これで次のターンからは青眼の白龍が出てこない》

 

 

しかも、相手の場の青眼の白龍は攻撃力3000。こちらの方が上だ。

 

「………残念。こっち使えば良かった」

 

リンドウは手札から、魔法カードを発動させた。

 

「…わたしは、魔法カード『融合』を発動。フィールド上の『青眼の白龍』三体を融合する」

 

 

 

『…その咆哮は何者も粉砕し!その巨体は如何なる物も玉砕させる!ここに勝利の大合唱を上げよ!』

 

 

『融合召喚』

 

 

「出現せよ、史上最強の龍!!『青眼の究極龍』」

 

三体の青眼の白龍がここに混じり合い、三つの首を持つ伝説のドラゴンが姿を現した。

 

「青眼の究極龍まで、………すげえッ!!」

 

あの「カイバ」も使用していた、この最強のモンスターまで見られるなんてな。本当に感動だ。

 

 

《……てかこれ召喚されてたら敗けてたよ、危ねえッ!》

 

 

「…わたしは、カードを二枚伏せてターンエンド」

 

スイゴが褒め称えた為かリンドウは少し誇らし気だ。胸を張って、満足気な表情をしている。

 

 

 

いや、にしてもこれは本気でマズい。いくらおれのモンスターが強化されたとは言え攻撃力4500のモンスターなんか倒せる筈がない。しかも、竜魂の城の効果で最悪攻撃力は5200まで跳ね上がる。

 

「行くぞッ、ドローーーッ!」

 

カードを引いたがとてもこのカードだけではな。……せめて、アクションカードさえあれば……。

 

 

《にしても、アクションカードが無いフィールドなんて有るのか》

 

 

ひたすらその事が気になってしょうがない。『城跡』か………………まさか。

 

「おれは手札から、『無名の聖女』を召喚」

 

無名の聖女

 

レベル2

 

戦士族/効果

 

一ターンに一度、自分はフィールド上のこのカードをリリースすることで、自分の墓地に存在する『無銘』と名のつく魔法カード一枚を手札に加える。

AT0/DF500

 

スイゴはカードを発動しつつ、今度は下を目指し走る。彼のその行動に驚きながらもリンドウも後を追いかける。

 

「そして、手札から悔恨なき別離を発動。デッキから、無名の商人と無名の使者を墓地に送る」

 

彼は一階、また一階と降りて行く。

 

「さらに、無名の聖女をリリースして墓地の無名の剣 剛を手札に加える」

 

体格差のためかスイゴとリンドウの階段を降りる速さは違う。よって、最初にいた階にはおれが一足速く着いた。

 

「 カードを一枚セット、これでターンエンドだッ!」

 

多少時間を置き、リンドウもまたスイゴに追いつく。

 

 

 

「……………疲れた」

 

肩で息をしつつ、リンドウはしっかりとした口調でスイゴに文句を言う。この辺はこの前のノウンとは大違いだ。

 

「…いいけど。わたしのターン、ドロー」

 

さして気にしていない様子の彼女にホッとする。怒らせた女性がいかに恐いかは、幼馴染み達のせいでよく知っている。

 

「…私は手札から、『暴風竜の防人』を青眼の究極龍に装備」

 

暴風竜の防人とは、自身を犠牲にすることで装備されたモンスターを守る効果を持つ。

 

「さらに、罠カード『トラップ・スタン』発動」

 

これにより、スイゴはいよいよ身動きが取れなくなってしまった。

 

「…青眼の究極龍で、無名の傭兵長を攻撃!」

 

究極龍の攻撃は目前に迫っていた。

 

「……………なあ。どうして、アクションカードは見つから無いんだろうな?」

 

スイゴは意味深な質問をリンドウにした。

しかし、彼女はそれをあえて無視する。

 

「………これで終わりっ!」

 

並ぶもの無き最強の龍の一撃が、彼のモンスターを襲った。



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強い目と何気ない方法

「……ああ。終わりだったよッ!」

 

スイゴは急に走り出し、辺りに落ちている壁の残骸の元に向かう。

 

「…いったい何を!?」

 

またもや突飛な行動をするスイゴにリンドウは動揺する。

 

「……何で無いのか、その答えはこれだ。アクションマジック『奇跡』発動ッ!」

 

強烈な究極龍の咆哮から、不可思議な力がスイゴのモンスターを護った。

 

「ぐうぅぅぅッ!!」

 

しかし、攻撃によるダメージはスイゴを襲った。

 

 

スイゴ

LP450

 

 

「危機一髪だったなッ!」

「…どうして!?アクションカードは無かった筈なのにっ!」

「……ここは大昔の戦いの跡地だ。目に見えるお宝は全部敵が持って行っちまう。……だがもし残ってるとすれば、当然目に見えない場所に決まってるッ」

 

おれは瓦礫の下を指差した。

 

「…わたしはカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

そう言いつつ、彼女は悔しそうな表情を浮かべる。

 

 

 

「なら、おれのターンだッ。ドローッ!」

 

「さらに、おれは墓地の無名の商人の効果を発動。墓地の『無名の剣客』、『無名の聖女』、『無名の盗賊』をデッキに戻しカードを一枚ドローする」

 

カードを引いたスイゴは、会心の笑みを浮かべた。

 

「おれは手札から無名の隊長を召喚ッ。さらに、無名の剣 剛を発動して無名の傭兵長の攻撃力を4200にアップだッ!」

「…どうしてさっきのターンで……?」

「……どの道、あのままじゃ敗けていたからな」

 

それはスイゴ自身の紛れもない事実だった。

 

それにもし仮に彼女がフィールドの魔法カードを破壊するカードを引き当ててたら罠カードではなく、そちらを狙われる可能性もあっただろう。

 

「…でも、青眼の究極龍の攻撃力は4500。届いてないっ!」

「だから届かせるさ。おれは手札から、速攻魔法『帰路なき戦闘』を発動ッ!」

 

帰路なき戦闘

 

速攻魔法

 

自分フィールド上の『無名』と名のつく戦士族モンスター一体を選択して、発動する。選択したモンスターの攻撃力を2000ポイントアップする。このカードを使ったターンエンドフェイズ時、このカードの効果で選択したモンスターの攻撃力を0にする。このカードの効果は、『穢れなき決闘』を発動するターンには使用出来ない。 このカードは、相手のライフが2000以下の時は使用できない。このカードはゲーム中に一度しか使用出来ない。

 

「…攻撃力6200!?」

「バトルだッ!!無名の傭兵長で青眼の究極龍を攻撃ッ!!!」

「…わたしは、伏せカード『聖なるバリア-ミラーフォース-』発動っ!これで、無名の傭兵長を破壊!」

 

 

《危なッ》

 

 

「おれは無名の隊長の効果で、ミラーフォースの発動を無効にするッ!」

「…っ!!竜魂の城の効果を発動!墓地の青眼の白龍をゲームから除外して、青眼の究極龍の攻撃力を700ポイントアップする」

 

互いにその力を上昇させ、最強と謳われる龍と名も無き剣士がぶつかり合う。幾ばくかの均衡を見せて激闘を制したのは……無名の傭兵長だった。

 

「キャアァァァ」

 

 

リンドウ

LP1500

 

 

強力な一撃によるダメージを受け、リンドウは思わず膝をつく。…………しかし、彼女の眼はまだ死んでいなかった。

 

「…暴風竜の防人の効果。このカードを墓地に送って、青眼の究極龍の破壊を無効にする」

 

 

《…このターンが終われば彼の無名の傭兵長の攻撃力は0になる。そうすれば、今度こそわたしの勝ち……!》

 

 

彼女は自分自身の勝利を確信した。

 

 

 

「ああ、そうだな」

「…!?」

「言った筈だ、 『あのままじゃ敗けていた』と。おれはカウンター罠『名もなき襲撃者』発動ッ!無名の傭兵長の攻撃力を1000ポイント上げてこのターン、戦闘によって破壊出来なかったモンスターにもう一度攻撃出来るッ」

「…ウソ……!」

 

つまり、リンドウはスイゴの挙動に惑わされ自ら勝利を逃してしまったのだ。実力では間違いなく劣っていた。しかし、彼の行動によって、諦めない気持ちにより、この結果が生まれた。故に……。

 

「バトルッ!無名の傭兵長で青眼の究極龍を攻撃ッ!!!」

「…アクションカードは!?」

「無駄だ、さっき周りのアクションカードはおれが全て使った!」

 

攻撃力7200を誇るその一撃が再度究極龍に迫り、今度こそその首を掻き切った。

 

「…わたしの敗け…………ね」

 

 

リンドウ

LP0

 

 

その勝利は必然でもあった。

 

 

 

おれは床に膝をついている彼女に話しかける。

 

「大丈夫か」

「…うん」

 

しかし、デュエルに敗けた筈のリンドウは、なぜかとても清々しい顔をしている。一息置き、彼女は自力で立ち上がった。

 

「…最初に、見た時に分かった。君は他のデュエリストとは目が違ったから」

「目って……」

 

その言葉に、思わず首を傾げた。

 

「…何かを護ろうとしてる。大切な人の為に強くなれるような……そんな目」

「!」

「…そんな君は格好いい。……本当に、好きになったよ!」

 

花が咲くような笑顔をおれに向け、リンドウは観客席へと行った。おれはそんな彼女を見て不覚にも『ドキリ』としてしまった。

 

 

 

 

 

 

観客席に帰った来たスイゴを私は黙って睨み付ける。

 

「随分と仲が良さそうだったじゃない?」

 

彼は私のその質問に、きまり悪そうな表情をしている。

 

 

《まるで、浮気をしてる男みたいね》

 

 

自分とスイゴはそんな関係では無い。……かと言って、彼が他の女性にばかり気を向けるのも腹は立つ。リンドウはもうどこかに行ってしまったと云うのに。

 

「……別にそんなことはない」

「彼女なら『また、舞網チャンピオンシップで一緒に闘いましょう』って、言ってたわよ」

 

そのことを話すと、彼は驚いたような顔をした。そして、ただ『分かった』と言った。そんな反応も私にはどこか苛立たしく思える。

 

「まあ、いいわ。……私はもう行くから」

 

こんな色事でいちいち落ち込むのはらしくないわ。早くデュエルフィールドに行って、何時もの私に戻らないとね。

 

「シェレンッ」

 

彼から声が聞こえた気がするので、私は振り向いた。

 

「……『一緒』に舞網チャンピオンシップに出ようなッ!」

 

彼はそう言って笑って見せた。上手く笑顔を作れておらず、どこかぎこちないのだが私はそんな仕草に思わず苦笑する。

 

 

《え~?そんなに、怖い顔してたかしら》

 

 

きっと緊張してこうなったとでも思ってるのだろうがその言葉に気が緩んだのも確かだ。さっきまで感じていた胸のイライラが吹き飛んでしまった気がする。

 

 

《まったく、こんな簡単に許せちゃうなんて…………ズルいわよ♪》

 

 

スイゴらしい励まし方だ。そして、そんな何気ない方法が一番私には効くのだ。

 

「あったり前よ~♪…ありがとね、スイゴ」

 

 

《さーて気分も軽くなったことだし、ちゃっちゃとデュエルを終わらせて来ましょうか》

 

 

足取りも軽く、私はデュエルフィールドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

しかし、この時私は知らなかった。これから起こるデュエルには思わぬ『落とし穴』が待ち構えていたことを。



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真紅眼の鋼炎竜

今回は字数の関係で、連続。


私の対戦相手は、黒い髪をした短髪の青年だった。身長は高く、顔は一応整っている、と言っていい。しかし、何と言えばいいのかしら。

 

「キミが、この僕の相手かい?光栄に思いなよ」

 

髪を手で一々払う動作やどこかスカしている姿は、物凄くキザらしい。

 

「まあ、僕はLDSの中でもトップクラスで有名なんだけどね。聞いたことない?エクシーズ召喚クラスの『赤瞳 シュウジ』って」

「無いわねん」

「ふふん、まあ良いけどね。僕は寛大だから、許して上げるよ」

 

本当に上から目線で人のことを見てるわね。相当プライド高そうよ、コレ。

 

私が好き勝手思っている間も、コイツは頼んでもいないことをペラペラ喋る。

 

「やっぱりね、デュエルはただ勝てば言い訳じゃないんだ。もっとこう……、エレガントでないと!」

 

この前のノウンが可愛く見えるレベルの痛々しさだ。正直、目に入れるのも鬱陶しいわ。

 

 

《私の相手は、どうしてこう偉そうな人が多いのかしら……》

 

 

もし仮に、性格のみを基準に対戦相手を選んでいるとすれば…………恨むわよ、赤馬。

 

「さて、もっと話したいこともあるが。残りは、デュエルでお見せしよう」

「ええ、たのしみにしてるわ」

 

まあ、『棒読み』だけどねん。

 

 

 

《《アクションフィールドセット、『薔薇の花園』》

 

 

 

見渡す限りの薔薇が床一面を覆った。辺りに建物らしいモノはなく、この平面的な地面のみで戦うことを意味していた。

 

 

『行くよ?戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が』

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る」

 

『見よ!これぞデュエルの最強進化形、アクション!』

 

 

『『デュエル』』

 

 

シュウジvsシェレン

LP4000/LP4000

 

 

「さあ、行こうか。僕のターン、手札から『伝説の黒石』を召喚。さらに、このカードをリリースしてデッキから『真紅眼の黒炎竜』を特殊召喚する」

 

漆黒のその身体に、地獄の炎を纏わせたドラゴンがフィールドに飛来した。

 

「……『レッドアイズ』ですって?」

「そう、この僕に相応しい!まさに、華麗なカードだ」

 

あら、耳ざといわね。……見た目は正反対じゃないかしら?

 

「さらに、僕は手札から魔法カード『黒炎弾』を発動。キミに2400のダメージだ」

「うっ」

 

 

シェレン

LP1600

 

 

……油断したわ。まさか、いきなりこんな攻撃を決めてくるなんて。腐っても、LDSね。

 

「そして、僕はカードを一枚セットだ。さあ、存分に来るがいいよ」

 

 

 

顔に手を当て決めポーズまでしているコイツを見てると、もはや怒る気力も沸かない。ただ、めんどくさいモノを見るような視線を向けるだけだ。

 

「私のターンよ、ドロー」

 

しかし、攻撃力2400のモンスターとは中々に倒しずらい。ここは、一端、守りを固めましょうか?

 

 

《でもねーー、何かイヤな予感するのよ》

 

 

私、特有の勘だが。あのモンスターは、ただ攻撃力が高いだけじゃない気がするわ。

 

「仕方ない、……私は効果で呉国の騎馬兵を特殊召喚するわ」

 

馬を駆る王に忠実な兵士がフィールドに出現し、シェレンを馬の後部へと乗せる。

 

 

「さらに、手札から『破砕の黒弓 呉』を発動。そして、呉国の騎馬兵に装備よ」

 

破砕の黒弓 呉

 

装備魔法

 

このカードは『呉』と名のつく戦士族モンスターにのみ、装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。このカードを装備したモンスターは、相手フィールド上にモンスターカードが一体も存在しない場合攻撃できない。 このカードを装備したモンスターが破壊された時、相手ライフに500ポイントのダメージを与える。

 

「攻撃力3200だって!?」

「バトルよ、呉国の騎馬兵で黒炎竜を全力で破壊しなさいっ!」

 

巨大な黒塗りの弓を引き絞り、兵はその矢で敵を射抜いた。

 

 

「うわ~~」

 

 

シュウジ

LP3200

 

ひどく情けない声をあげつつ、吹き飛ばされる姿は滑稽でしかない。

 

「こういう、『攻撃一辺倒』ってダメよねー」

 

彼女自身、デュエルでは意外と暴走しやすい。戦いに愉しみを求める余り、味方のことを省みずに攻撃を仕掛けるのもしばしばだ。所謂『戦闘狂』だ。故に、ただ手持ちのカードを使うだけでなく、フィールド上のカードも使う『アクションデュエル』は頭を冷やすのに良いブレーキになってくれる。

 

 

《まあ、お祭り好きなのもあるんだけどね》

 

 

「私は、カードを二枚伏せてターンエンドよ……と!」

 

シェレンは悠々とフィールドを動き回りながらも、ちゃっかり、アクションカードはゲットした。

 

 

 

「……くくく、よくもやったね。こうなったら、僕も本気のデュエルを見せよう」

「鼻血ついてるわよ」

 

シュウジは慌てて自分の顔を腕で拭き取る。そして、シェレンの方に爽やかな笑顔を見せながら、こう言った。

 

「やだな。僕は、鼻血何かしないよ?」

 

どの面がこんなことを言うのか。シェレンは、ただひたすらに彼に侮蔑の視線をを送り続ける。

 

「さてと、僕のターンだ!ドロー」

 

彼は手札を見て、『フフフ』と笑みをこぼす。というか、私から見るとニヤケてるようにしか見えないわ。

 

「僕は手札から、伝説の黒石を召喚。そして、このカードをリリースして『真紅眼の黒竜』を召喚だ」

 

紅き瞳を持つ、漆黒の翼がフィールドに出現する。伝説のデュエリストも愛用したレアカードが、シュウジの僕として彼に項垂れる。

 

「そして、僕はフィールドから、罠カード『真紅眼の凱旋』を発動。僕のフィールドに『レッドアイズ』が存在することにより、墓地の真紅眼の黒炎竜を再び召喚するよ」

「それでも、攻撃力はこっちが上よ」

 

真紅眼の黒竜も真紅眼の黒炎竜も、共に攻撃力2400のモンスターだ。シェレンのフィールドの呉国の騎馬兵には、遠く及ばない。

 

「ふふーん、これだから素人は。仕方ない、僕が手本を見せて上げるよ」

「何一つ、言葉が通じないわね」

 

一人で勝手に納得し、相手に自らの考えが解らないと見下すその姿勢。このデュエリストを相手に、シェレンはかつて無いほどにストレスを感じていた。

 

「さあ、見たまえ!僕は、フィールド上の、レベル7『真紅眼の黒竜』とレベル7『真紅眼の黒炎竜』で『オーバーレイ』!」

 

 

『黒き体躯はメタリックで美しく、紅き瞳はまるでルビーのよう!さあ、僕の元に来たまえよ!』

 

 

『エクシーズ召喚』

 

 

「これぞ、僕に相応しきカード。ランク7 『真紅眼の鋼炎竜』!!」

 

シュウジのフィールドに、出現したモンスターカード。その身体はメタリックな鎧で包まれており、全身から溢れんばかりの熱気を放っている。その存在感はまさに、真紅眼の進化形だと言える。

 

「そして、僕は手札から『黒鋼竜』をこのモンスターに装備。これで、真紅眼の鋼炎竜の攻撃力は3400!」

「うっわ、マズい」

「僕は『真紅眼の鋼炎竜』で、キミのモンスターに攻撃だ」

 

漆黒の鋼炎竜から放たれた灼熱のブレスが、シェレンの呉国の騎馬兵を焼き尽くす。シェレン自身は、モンスターによって避難させられていたので無事だった。

 

 

シェレン

LP1400

 

「ハッハッハッ、どうだい?これが僕の力だっ!!」

 

再度、彼による決めポーズを見せつけられる。

 

「破砕の黒弓の効果で、500ポイントのダメージよ」

「ハッハッハッハッ…………グヘェッ!?」

 

破壊される寸前の騎馬兵が、その弓の効力により、最期の力を発揮させた。モンスターからの一撃を受けて、シュウジはまたも盛大に吹き飛ばされる。

 

 

シュウジ

LP2700

 

 

しかし、彼のモンスターはただでは転ばない。鋼炎竜の口が開き、シェレンに炎のブレスを吐きかける。

 

「キャアアァッ!」

 

 

シェレン

LP900

 

 

「成程、私が効果を発動する度にダメージを食らうわけね。なら、私は永続罠『呉の監視態勢』を発動よ」

 

呉の監視態勢

 

永続罠

 

相手フィールド上のモンスターが効果を発動した時に発動出来る。このカードを効果発動した相手モンスターに装備し、装備されたモンスターの効果を無効にする。このカードを発動した時、自分はデッキからカードを一枚ドローできる。

 

 

「……私はドローするわ」

 

 

シェレン

LP400

 

 

 

「……さて、私のターンね」

 

フィールドにうなだれ、何も反応をし返さないシュウジを放って置きつつシェレンはカードを引く。

 

自身のモンスターを破壊された上、態度がデカい彼に非常にイライラしていたのもあった為だ。

 

「私は手札から、呉国の遠弓兵を召喚。更に、手札から『呉国の特殊兵』を守備表示で特殊召喚」

 

呉国の特殊兵

 

レベル2

 

戦士族/効果

 

自分フィールド上に『呉』と名のつくモンスターが存在するとき、このカードは一ターンに一度、手札から特殊召喚できる。このカードは、一ターンに一度、自分フィールド上の『呉』と名のつくモンスター一体を選択し、その表示形式を変更出来る。

AT500/DF500

 

そしてバトルよ、呉国の遠弓兵でダイレクトアタック」

「バカかい!僕のフィールドには、真紅眼の鋼炎竜がある。キミの攻撃など届かないっ!」

 

いつの間にか起き上がっていたシュウジが、彼女に指摘する。

 

「はいはい、効果よ。効果」

 

しかし、彼女とモンスターは華麗にスルーしシュウジにダメージを与えた。

 

「グヘェェッ!!」

 

 

シュウジ

LP1800

 

 

「そして、呉国の特殊兵の効果で呉国の遠弓兵を守備表示にする。カードを一枚伏せターンエンドよ」

 

シェレンは、アクションカードを使うのをもて余していた。



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彼女の怒り

少しやり過ぎたか?ごめんなさい。


「……フハハハ、僕はまだ素人相手に手加減していただけだよ!」

 

シュウジは高笑いをあげながらもそう言った。

次々と自分の思惑を無視してダメージを与えてくる彼女にでさえ、彼はあくまで上から見る姿勢を崩さない。

 

「なら、早く全力を見せてくれないかしら?」

「いやいや、主役の登場は遅れてくるからカッコいいだろ?」

「モブの間違いじゃない」

 

 

《……どこまでも、勘に触る男ね。いい加減にして欲しいのだけれど》

 

 

シェレンの苛つきは、もうすぐ頂点に達しようとしていた。無視したくとも、デュエルの相手だから無視出来ない。これほどの苦しみが他にあるだろうか?

 

「ドロー。手札から『死者蘇生』を発動させるよ。蘇れ、伝説の黒石。さらにこのカードをリリースして、僕はデッキから『真紅眼の凶雷王-エビル・デーモン』を特殊召喚」

 

紅き瞳を持った、雷の悪魔はその力を見せ占めるように爆音を響かせて現れた。

 

「さらに、僕はこのカードを再度召喚することで『デュエル召喚』をする」

「……デュアル召喚。なら、何か効果を持っているわね」

「その通り!このカードは、一ターンに一度、このモンスターよりも攻撃力の低い表側表示のモンスターを破壊出来るのさっ!やりたまえ」

 

悪魔から、放たれた雷がシェレンのモンスターに降り注ぐ。これにより、シェレンの場は空になってしまった。

 

「バトルだ!エビル・デーモンで彼女にダイレクトアタック」

 

エビル・デーモンの攻撃力は2500。もしも、この攻撃が通れば彼女のライフは簡単に0になるだろう。

 

「まあ、通さないワケだけど。罠カード 呉の暗躍戦術 を発動よ」

 

エビル・デーモンの背後に黒い人影が出現し、その手に持つ小太刀がかのモンスターを切り裂いた。そして、その身体を爆散させた。

 

「何ぃ~~!?じゃあ、キミはさっきなんで真紅眼の鋼炎竜で発動しなかったんだ!?」

「なんか、破壊できない気がしたのよね」

「ふざけるな~~、そんなの当てずっぽうの勘じゃないか!」

 

そう、その勘です。

 

「……まあいい、まぐれは二度は続かないからね!僕は、真紅眼の鋼炎竜でキミにダイレクトアタックだ!」

 

効果が向こうにされようと、攻撃が無効にされるワケではない。今度は、攻撃力3400による攻撃が迫ってきた。

 

 

 

「通すわけ無いでしょ。伏せカード展開 呉の増員要請。この効果で、私はデッキから呉国の従者を守備表示で召喚よ」

 

 

デッキから出兵した兵士が、主の盾となり、攻撃を防いだ。

 

「そして、破壊されたこのカードの効果で、私はデッキから恋姫-呉王・孫策を手札に加えるわ」

「ぬが~~!?またしても、姑息なカードを使いやがって!」

「いや、普通に戦術よ」

 

自分の攻撃を散々防がれたことにご立腹なのか、彼はもはや暴言を隠そうともしない。

 

「いいさ、どうせキミはもう負けるんだよ?一ターン、延びたくらいさっ!僕はこれでターンエンドっ」

 

醜態を曝す彼をシェレンは、ただ黙って見ていた。彼女自身はその姿に、スカッとする部分もあるのだがこのままやられっぱなしでは癪に障ったままだ。

 

自らのデュエルを馬鹿にされて許せるほど、彼女の王のプライドは安くないのだ。

 

 

 

「いいわよ、そんなに決着を着けたいのなら……終わらせましょう?」

 

彼女はカードを一枚引き、そして獰猛な笑みを浮かべる。その顔はまるで肉食獣が獲物を狙う顔に似ていた。

 

「私は手札から、『高等儀式術』を発動っ!デッキの『呉国の防人兵』と『呉国の見習い兵士』を生け贄にするわ。 これにより、手札の『恋姫-呉王・孫策』の儀式償還を執り行うことが可能になる!」

 

 

『民は思いを託し、兵は忠誠を捧げよ!そして国を統べし王は全ての願いを背負い、戦え!!敵を打ち砕けっ!!!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「天下万民こそ、我望み。『呉王・孫策』」

 

 

「はっ、たった攻撃力2800じゃ話にもならないよね」

「……言ったわね?」

 

積もりに積もった彼女の鬱憤が、ついに解き放たれようとしていた。

 

「私は手札から、『呉の密偵兵』を召喚よ」

 

呉国の密偵兵

 

レベル1

 

このカードが、召喚・特殊召喚に成功したときに発動する。相手フィールド上の、魔法・罠カードを一枚破壊する。このカードがリリースされた時に発動する、自分はカードを一枚ドローする。

AT100/DF100

 

「その効果で、私は貴方の黒鋼竜を破壊するわ」

「ちっ!僕は、デッキから『レッドアイズ・スピリッツ』を手札に加えるよ」

「バトルよっ!私は呉王・孫策で真紅眼の鋼炎竜を攻撃」

「はっ、攻撃力は同じだよ。敗けるのはキミさ」

 

 

 

「さて、それはどうかしらね♪」

 

「私はアクションマジック『バラのトゲ』を発動」

 

バラのトゲ

 

相手フィールド上のモンスター一体の攻撃力は100ポイントダウンする。

 

「はーーーーーーっ!?」

「たった100だけど、されど100よ。馬鹿にしたものじゃないわ」

 

シェレンのモンスターの一撃が、敵モンスターを切り裂いた。心なしか、彼女のモンスターもどこか生き生きしてるように見える。

 

 

シュウジ

LP1700

 

 

「そして、呉国の密偵兵でダイレクトアタック♪」

「グフォォォッ」

 

 

シュウジ

LP1600

 

 

「けっ、けどこれでキミの攻撃は……」

「終わってないわよ?呉王・孫策は一ターンに二回攻撃出来るから」

「はあっ!?ふざけんなよっ!」

 

勝手に文句を垂れている彼を無視して、私は一人周囲を探す。

 

「あ、あったわ。アクションマジック『バラの香り』。これで、攻撃力200ポイントアップよ♪」

 

バラの香り

 

自分フィールド上のモンスター一体の攻撃力は200ポイントアップする。

 

「今度は何やってんだよ!さっさとトドメ刺したきゃ、させよッ!!」

 

 

 

 

 

 

「『自惚れないで』」

 

 

 

「貴方はそれで満足かも知れないけど、散々煽られたコッチはいい迷惑なのよ」

 

「アクションカードを何で使わなかったと思うの?貴方がどんなアクションデュエルするのか、見たかったのよ?私はね」

 

「それなのに、貴方がしているのは走ることじゃなくて、ただの棒立ち。それじゃ、単なるデュエルでしょ?」

 

「貴方は、『アクションデュエル』を嘗めてんじゃない?」

 

『だから』、と彼女は言った。

 

「私がこれからするのは、『アクションデュエル』じゃなくて、単なる『デュエル』よ。 デュエルなら、相手のライフをより多く削ることが一番じゃない」

 

シェレンの顔は紛れもない笑顔だったが。それは『人を笑顔にしない笑顔』だった。

 

 

 

「アクションマジック『バラの香り』発動!」

 

攻撃力は200ポイントアップする。

 

「アクションマジック『バラの静水』発動!」

 

攻撃力は300ポイントアップする。

 

「アクションマジック『バラの静水』発動!」

 

攻撃力は300ポイントアップする。

 

シェレンは、場のアクションカードが無くなるまでこの作業を続けた。ただひたすらに、貪欲に。やがて攻撃力が10000近くになった時に漸くシュウジが土下座をしつつ『サレンダー』したことによって、このデュエルは決着を迎えた。

 

 

 

 

 

 

このデュエルを見ていた遊矢と柚子、子供達は恐れながら後にこう語った。『あんなのデュエルじゃない』と。

 

……『シュウジ』は、このデュエルを機に自身のデュエルスタイルを見直すことになるのだが、それはまた別の話になる。



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六人目の相手

どうしてこうなった


五戦目のデュエルの翌日、スイゴはシェレンを起こしに修造塾長の家まで来ていた。部屋に引きこもり出てこない彼女を引っ張り出す為だ。

 

「……シェレン、いい加減きりかえろ」

「あんな風に怒るのなんか、昔からよくあっただろ」

「『レイハ』さんとかは、お前とよくケンカしてたもんな」

「つーか、レイハさんも今回の相手も向こうが一方的に仕掛けて来てただけだ」

「気にすることは……」

 

「…………そうじゃないわよぉ」

 

弱々しくだが、ようやく彼女の声が扉越しに聞こえた。ここで、半日ちかく話しかけ続けたかいがあったものだ。正直、本当はいないんじゃないかと思ってたので内心ホッとした。

 

「違うのか?なら、子供達のことか。確かにアレには引いてたな」

「やっぱり~~~…」

「まあ、人に『暴走するな』と言っといて、自分はしたのにはおれも呆れたが」

「うん、まあ分かってるわよ」

「シェレン………………もう、機嫌直ってるだろ?」

「あ、分かる♪」

 

その言葉で話を切って、扉から彼女はいつも通り陽気に現れた。

 

「……はあ、何時から戻ってたんだ」

「ん~、…最初の三時間くらいね」

「おい本気でふざけんな」

 

つまり、残りの九時間は全くの無駄じゃないか。

 

「いや~、スイゴがずっと扉越しに話しかけてくれるのが面白くてね。つい」

「取りあえずおれに謝れ」

 

明るい様子でおれの文句を受け流しているのを見ると、本当に大丈夫そうだ。

 

おれが精神的にダメージを負ったが。

 

「で、シェレン。子供達のことはどうする?遊矢と柚子は、もう其程気にして無いみたいだが」

「あら意外ね。最初、わたしのあの姿を視た人は大概距離を置くんだけど」

「アイツらも、ああいうのには馴れてんだと」

 

あのシェレンを見て、トラウマにならないんだから大したもんだ。そう、感心する。

 

「……実は子供達とはもう和解してるのよねん」

「やっぱり、脱走してたのかッ!!」

 

恐らく窓から出たに違いないが、それにしても中の様子の変化に全く気がつかないとは。

 

「まだまだよね」

「もう本当に黙ってくれ」

 

シェレンに悪態を吐きつつ、内心はよかったとは思っている。中学生の時も、『レイハ』さんに同じ様なことをしてクラスメイトに引かれていたことがあった。彼女は普段気まぐれな性格でストレスなど微塵も無いようだが。その実、精神的に繊細な部分もあり人のことも思いやることができる。

 

その結果が、引きこもりだ。……まあ、立ち直るのも速いから不安過ぎることは無いけどな。

 

「それじゃ、話はここまで。気分転換に活きましょうか」

「何時もガス抜きしてるくせにな」

 

ネトゲの大会のために、わざわざ学校を休んで行ったこともあったな。もっとその行動力は他で使え。

 

「いやん、さっさと行くわよ」

「行くって何処にだ?」

「決まってるわ。デートよ、デート♪」

 

そう言って彼女はおれを引っ張り、ひろばにある公園に連れてきた。確かに、デートスポットには適しているが………絶対そのままの意味で来たわけではない。

 

「それで、昨日のことの他に話したいことでも有るのか。ここなら、遊矢達はいないしな」

「ねえ、スイゴ。最後のデュエルの相手はわたしとしないかしら」

「ッ!」

「昨日の試合を見て強くそう思ったわ。たった数日で、学園の頃とは実力が大違いだもの」

「焦ってるのか、お前らしくない」

 

おれは声をきちんと出せているだろうか、平静を装えているだろうか。

 

「スイゴもそう思ってたでしょ」

 

確かにそうだ。シェレンとは学園でデュエルした時には殆ど勝ててなかった。儀式召喚も使えなかった。今のおれがどこまで彼女に通用するのか知りたい思いはあった。

 

「ああ…………確かにな」

「なら、いいでしょ。戦いましょうよ」

 

獰猛な笑みを向けてきた。いつもの彼女とは違う、本気で倒したいと思った時にだけする表情。

 

それを見て、心の底から戦いたいと思う。互いに大会出場をかけてのデュエルだ。六戦目の相手としてはこれ以上無いくらいに真剣に戦うことになる。

 

「戦いたい…………けど、駄目だ」

「どうしてよ」

「シェレン。おれらは権現坂達とは違う、目的がそもそも別だ」

「分かってるわよ」

「この世界の住人だったら、それでも良い。でもおれ達にはやることがある」

「……ええ、そうね」

 

他にも言いたいことがあっただろうが、それ以上は口を開かなかった。

 

シェレンはおれよりも頭が良い、興味本意から来る感情と元の世界に戻る可能性のどちらを選ぶべきかなんて本当は解っている筈だ。

 

「…………やっぱり、ダメかしら?」

「駄目だろ」

「そっかー、じゃあ仕方無いわね。LDSから連絡来るまで待つしかないわね」

 

スッキリとした顔で彼女はそう言い切る。結局、おれに諦めさせて欲しかっただけなんだろ。

 

「シェレンとは『舞網チャンピオンシップ本選』で戦う」

「……あら?良いのそんな簡単に言っても」

「戦いたいのは一緒だ。元の世界までお預けする必要も無いだろ」

「そうね、わたしとしたことが不覚だったわ」

 

お互いに顔を見合い、一瞬だけニヤリと笑う。二人共戦うことが好きな事には違いない。ならば、決着は然る舞台でだ。

 

 

 

「それでこれからどうする、シェレン」

「んー、わたしとしてはもうすることもないし。帰ろうか?」

「良いのか。普段なら、もっと……」

「多分だけど、もうその必要は無い気がするの」

 

それはどういう意味だ、と尋ねそうになった時だ。デュエルディスクから、とある電子音が聴こえた。ユウやリンドウの時にもあった音だ。

 

おれたちは慌て、自分のそれを見ると…。

 

「…どうやら、本当に必要無さそうだな」

「そうみたいね」

 

 

 

[六戦目のデュエルの相手が決まりました。至急、LDS本社まで来てください。今回に限り同行者の同伴を禁止します]

 

 

 

大会への出場を賭けた最後のデュエルは、今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

おれたちは二人同時にデュエルフィールドの舞台に来た。今回の相手だけは、二人一辺にデュエルをしろという条件付きだったために。そのことに疑問はあったが、スイゴとシェレンは大人しくこの場に来る事にした。

 

そして、その場にいたのは男がただ一人。

 

「どういうつもりかしら。早く対戦相手に会わせて欲しいのだけど?」

「おれも同じだ」

 

二人は目の前の男に疑問を投げかける。しかし、追及をしても男は微動だにしない。ただ静かに黙しているだけだ。

 

 

「その必要はない」

 

 

目の前の男はそう口にする。

 

「なるほどね、それで相手はどこかしら?」

 

シェレンにはもう解っているのだろう。いやおれにだって、もう解る

 

 

「君達の相手は、目の前にいる」

 

 

赤きマフラーをたなびかせ、超然とした態度で立ち此方を見る瞳は深く。

 

 

「私がデュエルの相手をしよう」

 

 

『LDS』のトップにして、恐らくおれ達が知る中で一番強いであろう存在。

 

『赤馬 零児』が其処にいた。

 

「……それは、お前がおれ達二人と戦うということか」

 

「その通りだ。この世界で培った君達の力を私に見せてみろ」

 

そう言い残し、デュエルディスクを構える赤馬。つまり、この男の話に嘘は無いことになる。

 

「……スイゴ、全力で相手しなさい」

「当たり前だッ、コイツ相手に手加減はしない」 

 

遊矢から聞かされた話だ。赤馬は四つの召喚法を繰り出すデュエリストだと。

『融合召喚』、『シンクロ召喚』、『エクシーズ召喚』、『ペンデュラム召喚』…………つまり、おれたちの『儀式召喚』を除く全てを持つことになる。それだけの召喚法を自在に使えるだけで、その者の力は容易にわかる。

 

 

「君達が自らの世界に帰りたければ、この私を乗り越えるしかない」

 

 

おれとシェレンも同時に、デュエルディスクを構える。

 

「「上等だ」」

「「上等よ」」

 

お互いに声を響かせあう。この男に勝ち、おれたちは元の世界に戻る手がかりを得る。そのために。

 

 

 

《《アクションフィールドセット、『魔王の墓場』》》

 

 

 

フィールドの天井は深い曇天の空へと変わり、地面には無数の骨が風化したようなモノがある。所々に、建物の壁の一部らしき物体が落ちている。ここでは、数多の人々やモンスターが本当に命を落としたのではないかと錯覚させる光景だ。

 

 

『戦いの殿堂に集いしデュエリスト達がッ!』

 

『モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!』

 

『フィールド内を駆け巡るッ!』

 

『見なさい!』

 

『『これぞデュエルの最強進化形、アクション!!』』

 

 

  『デュエル』

 

 

 

スイゴ&シェレンvs赤馬

   LP8000/LP8000

 

 

 

 

戦いの幕は、今、切って落とされた。

 

 

 

【『試合のルール』】

【三人共に開始手札は5枚づつ】

【スイゴとシェレンのフィールドは共有】

【スイゴとシェレンのライフも共有】

【一ターン目は誰もドロー出来ない】

【順番はスイゴ、赤馬、シェレン、赤馬、スイゴ、……の順に回していく】



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拭えぬ違和感

出来なかった訳ではない、しなかったのだ


「先ずは、おれの先行だッ!おれは手札から『無名の傭兵』を攻撃表示で召喚」

 

素朴な剣を持つ名も無き剣士が、スイゴのフィールドに現れる。

 

「さらに、おれは手札から『無銘の剣 知』を発動。そして、『無名の傭兵』に装備する」

 

剣の効力により、スイゴのモンスターの攻撃力が2300に上がる。

 

「おれは、これでターンエンドだッ!」

 

 

 

「私のターン」

 

おれは、目の前の男の戦術見極めるべく確りと動きを見ておく。

 

「私は手札から、永続魔法『地獄門の契約書』を発動。このカードで自分自身はスタンバイフェイズ毎に1000ポイントのダメージを受ける」

 

「この効果でデッキから、『DD ケルベロス』一枚を手札に加える」

 

「さらに、私は手札から『魔神王の契約書』を発動。このカードは先程同様スタンバイフェイズ毎に1000ポイントのダメージを受ける」

 

「そして、このカードの効果で一ターンに一度融合魔法無しで『融合召喚』できる」

「融合魔法無しで、融合召喚だと!?」

「私が融合するのは『DD ケルベロス』と『DD ナイト・ハウリング』」

 

『牙剥く地獄の番犬よ、 闇を切り裂く咆哮と共に今ひとつとなりて新たな王を産み出さん!』

 

 

『融合召喚』

 

 

「生誕せよ、『DDD 烈火王テムジン』」

 

異形の盾と剣を持った異次元の王が、赤馬のフィールドに出現した。 その身体から迸る熱気が、何よりもこの存在の異常性を悟らせる。

 

 

《何だ!?この迫力はッ!》

 

 

一目見た瞬間解った。このモンスターは他のデュエリストのものとは違い、桁た外れの力を秘めている。

 

「私はカードを二枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 

「落ち着きなさい、スイゴ」

「……ああ、そうだな」

 

シェレンに諭され、おれは冷静さを取り戻す。この状況下での彼女の冷静さは、非常に頼りになる。

 

「次はわたしよ。わたしは手札から『呉国の密偵兵』を召喚。さらに、この効果で貴方のフィールドの伏せカードを一枚破壊するわ」

 

そう言いつつ、シェレンは赤馬のフィールドの伏せてあるカードを一枚指す。

 

「ほう、勘が良いとは強ち冗談でも無さそうだな」

「やっぱり、どっかで見てたのね?随分と悪趣味よ」

 

赤馬のフィールドのカードが一枚破壊された。

 

「まだよ、手札から『城下の見張引き継ぎ』発動」

 

城下の見張引き継ぎ

 

通常魔法

 

自分フィールド上に『呉』と名のつくモンスターが存在する時に発動できる。そのモンスターをリリースして、手札からレベル5以下の『呉』と名のつくモンスター一体を特殊召喚できる。このカードを発動したターン、自分は他のモンスターを特殊召喚出来ない。

 

「フィールドの『呉国の密偵兵』をリリースして、『呉国の防人兵』を守備表示で特殊召喚。さらに、『呉国の密偵兵』の効果で一枚ドローするわ」

 

守備力2500誇る、堅牢なる主の兵士が彼女のフィールドに出現する。

 

「そして、カードを一枚伏せてターンエンドよ。さあ、2000ポイントのダメージを喰らいなさい?」

 

 

 

「何のことだ?契約は破棄された」

 

赤馬のフィールドにあった筈の契約書カードが、一斉にくだけ散る。

 

「何があった!?」

「っ……、見なさいアイツの伏せてあったカードのせいよ」

 

見ると、確かに彼のフィールドにはもう一枚あった筈のカードが無い。

 

「私は、罠カード『契約洗浄』を発動した。この効果で、『契約書』と名のつくカードは効果が無効になりエンドフェイズに破壊される」

「いつの間に……」

 

アイツの手札が二枚に増えていることからも確かにカードが使われていたに違いない。

 

「私のターン、ドロー!」

 

「手札から『DD リリス』を召喚」

 

「さらに、フィールド上の『烈火王 テムジン』の効果発動。この効果で、私は墓地の『DD ケルベロス』を特殊召喚する」

 

「『DD リリス』は特殊召喚に成功した時、墓地の『DD』モンスター一体を手札に加える。私は、墓地の『DD ナイト・ハウリング』を選択」

「『レベル4』のモンスターが二体……まさかッ!」

 

「私はレベル4『DD ケルベロス』とレベル4『DD リリス』で『オーバーレイ』!」

 

『この世の覇権を掴むため、今、世界の頂に降臨せよ!』

 

 

『エクシーズ召喚』

 

 

「生誕せよ、ランク4『DDD 怒濤王シーザー』」

 

その手には身を越すほどの大きさの大剣を持っている。太古の英雄を思わせる姿の王がフィールドに出現した。

 

「バトルだ。私は、怒濤王シーザーで無名の傭兵を攻撃」

 

お互いに剣を持つモンスター同士のぶつかり合いは、次元の王に軍配が上がった。

 

「だが、『無銘の剣 知』の効果で無名の傭兵は守備表示に出来るッ!」

 

 

スイゴ&シェレン

LP8000

 

 

「彼女のフィールドには、まだモンスターがいる。よって、攻撃はしない。これで、ターンエンドだ」

 

攻撃こそ、自分のモンスターのみしか行え無いが、赤馬がおれたちを倒すにはスイゴとシェレンの二人のフィールドを空にする必要がある。

 

 

 

「おれは、手札から『無名の剣客』を攻撃表示で召喚」

 

「さらに、効果でお前のフィールドの怒濤王シーザーを裏守備表示に変える。バトルだ、おれは無名の剣客で怒濤王シーザーを攻撃ッ」

 

怒濤王シーザーの守備力は1200、僅差によって赤馬のモンスターが切り裂かれた。

 

 

赤馬

LP8000

 

 

「『DDD 怒濤王シーザー』の効果、このカードがフィールドから墓地に行った時、デッキから『契約書』と名のつくカードを一枚手札に加える」

 

「私は『再契約の契約書』を手札に加える」

 

「どうせ、次のターンにまた出てくるだろうが…………効果は使わせないッ」

 

あのモンスターもまた、恐らく烈火王テムジンと同じように強力な効果を持つ。少なく共、おれはそう思ったから破壊した。

 

「後は、シェレンに任せる。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

しかし、目の前の男は微塵も動揺した様子はない。

 

 

 

「私のターン、ドロー」

 

「手札から『DD ナイト・ハウリング』を召喚。そして、その効果で墓地から『DD リリス』を特殊召喚する」

 

「『DD リリス』の効果。特殊召喚に成功したことにより、墓地の『DD ケルベロス』を手札に加える」

 

やっぱり、コイツはLDSの親玉だ。こんな展開力はそうでもなければ考えつかない。

 

「私はレベル4の『DD リリス』に、レベル3の『DD ナイト・ハウリング』を『チューニング』」

「来るわねっ!!」

 

『冥府の門に潜みし牙よ、疾風の速さを得て新たな王の産声となれ!』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「生誕せよ、レベル7『DDD 疾風王アレクサンダー』」

 

その身はまるで風そのものごとく、周囲の空気を荒々しくかき乱しなから神速の王が出現した。

 

「さらに、『DDD 烈火王テムジン』の効果発動。墓地の『DDD 怒濤王シーザー』を攻撃表示で特殊召喚する」

「…モンスターが三体も!?」

 

これで赤馬のフィールドには、三体の王か並んだことになる。それぞれのモンスターが放つプレッシャーは凄まじいモノがあり、異才の存在感がある。

 

「何か、手札が五枚に戻ってないか」

「深くは考えない方が良さそうね」

 

二人の前で、赤馬が突如走り出した。

 

「さて、では私から行かせて貰おう。アクションマジック『ドラゴンの牙』発動」

 

ドラゴンの牙

 

このターン自分のモンスター一体の攻撃力は、600ポイントアップする。

 

「私は『DDD 烈火王テムジン』を選択。バトルだ、烈火王テムジンで呉国の防人兵を攻撃」

「しまった!」

 

防人兵は異形の剣の一撃により、破壊された。

 

「疾風王アレキサンダーで無名の剣客に攻撃」

 

さっきは、赤馬の動きに気をとられてアクションカードを探すのを忘れていたが。おれはすぐ近くに落ちているアクションカードを拾う。

 

「くっ、これは使えな………」

「うっ……」

 

 

スイゴ&シェレン

LP6800

 

 

「私は、怒濤王シーザーでダイレクトアタック」

「させない、おれは伏せカード『見返りなき緊急要請』発動」

 

デッキから『無名の商人』を選択し、フィールド上に召喚された。しかし、怒濤王の一撃を受けおれのモンスターは破壊される。

 

「おれはカードを一枚ドロー」

「私はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

この瞬間、烈火王テムジンの攻撃力が元の数値に戻った。

 

 

 

 

 

 

 序盤から圧倒的な試合をする『赤馬零児』。しかし、おれたちはどこかこのデュエルに対する違和感を拭えなかった。




わたし→シェレン、私→赤馬


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ペンデュラム召喚と一筋の希望

意外なミスが、アイディアに結び付く。


「全く、こっちから仕掛けてやろうと思ったのに」

 

口調は悔しそうだが、彼女の顔は笑っている。久々の真剣なデュエルにシェレンもデュエリスト特有の闘争本能が高まっているのかもしれない。

 

「わたしのターンよ、ドロー!わたしは手札から、『呉国の騎馬兵』を特殊召喚」

 

彼女は、馬に跨がりフィールド上を走り回る。そして、建物の瓦礫上のアクションカードを掴んだ。

 

「さらに、手札から『呉国の追撃兵』を通常召喚。そして、手札から『破砕の黒弓 呉』をこのモンスターに装備」

 

彼女のモンスターの攻撃力が、2800ポイントにアップする。

 

「やられっぱなしは性じゃ無いわ。アクションマジック『妖獣の鉤爪』発動」

 

妖獣の鉤爪

 

自分のモンスター一体の攻撃力は、400ポイントアップする。

 

「わたしは、『呉国の騎馬兵』を選択。バトルよ、呉国の騎馬兵でアレキサンダーを攻撃」

「私はアクションマジック『敗者の剣』を…」

「やらせるかっ!!おれはアクションマジック『戦死者の執念』発動」

 

戦死者の執念

 

相手がアクションマジックを発動する時、そのカードの発動を無効にし破壊する。

 

亡き戦士たちの霊が、赤馬のアクションカードを地面に引きずりこんだ。

 

「………」

 

 

赤馬

LP7900

 

 

「ナイスよ、わたしは『呉国の追撃兵』でシーザーを攻撃っ!」

 

兵士の放った矢が強力無比な威力で相手モンスターを貫く。

 

 

赤馬

LP7500

 

 

「…『DDD 怒濤王シーザー』のモンスター効果により、私はデッキから『誤封の契約書』を手札に加える」

「まだよ、呉国の追撃兵は戦闘で相手モンスターを破壊した時にもう一度攻撃出来る」

 

「呉国の追撃兵でテムジンを攻撃っ!」

 

赤馬も今度はしっかりとアクションカードを手に持っていた。

 

「アクションマジック『敗者の剣』を発動。場の『DDD 烈火王テムジン』の攻撃力を上げる」

「でも、まだ足りないわよね?バトルよ」

 

再び追撃兵の放った攻撃が、烈火王テムジンを貫いた。派手な爆散を見せつつ、余波が赤馬のライフを削る。

 

 

赤馬

LP7200

 

 

「私は『DDD 烈火王テムジン』の効果で、墓地の『地獄門の契約書』を手札に加える」

 

「おかげで手札がスッカラカンよ。わたしはこれで、ターンエンド」

 

 

 

「成程、まさかあのモンスターを一ターンで攻略してくるとは」

 

どこか感心したようにおれ達の方を見てくる。しかし、自分場のモンスターが全滅したのにも関わらず、赤馬は全く動じていかい。

 

「ここまでは予想通りかよ」

「そういう訳ではない………が、面白い」

 

 

《何だ……この目。相手を見てるようで見てないような》

 

 

おれは彼の視線に奇妙なものを感じ取った。……まるで、デュエルの試合運びではなく他の何かを観察するような視線を。

 

「ドロー、私は手札から『地獄門の契約書』を発動。この効果でデッキから、『DD 魔導賢者ケプラー』を手札に加える」

 

『そして』、……と赤馬は一息置く。

 

「私はスケール1の『DD 魔導賢者ガリレイ』とスケール10の『DD 魔導賢者ケプラー』で……『ペンデュラムスケール』をセッティング!!」

 

「これで、レベル2からレベル9のモンスターが同時に召喚可能!」

 

『我が魂を震わす大いなる力よこの身に宿りて魔を貫く新たな礎となれ!』

 

 

『ペンデュラム召喚』

 

 

「出現せよ、私のモンスター達よ!!」

 

 

「現れ出でよ『DD ケルベロス』、『DDD 死偉王ヘル・アーマゲドン』、そして『DDD 壊薙王アビス・ラグナロク』!」

 

再び赤馬のフィールドに三体のモンスターが出現する。しかも……。

 

「不味いわね、攻撃力3000のモンスターと攻撃力2200のモンスターが二体……」

「確かペンデュラムモンスターは破壊されてもエクストラデッキに行く……戦闘で破壊しても何度でも蘇る」

 

つまり、おれ達はあのモンスターを撃破しつつ赤馬のライフを削りきらなければならない。

 

「『DD ケルベロス』のモンスター効果発動。この効果で、私は墓地の『魔神王の契約書』を手札に加える」

 

「まだだ、『DDD 壊薙王アビス・ラグナロク』の効果。このカードの特殊召喚に成功した時、墓地の『DD』モンスター一体を特殊召喚出来る」

 

「蘇れ……『DDD 怒濤王シーザー』」

 

更に、攻撃力2400のモンスターまでまた召喚された。

 

 

《もう、何でもありか…………》

 

 

赤馬の脅威の召喚術と手札補充によって、おれたちは驚かされてばっかりだ。

 

「バトル、私は死偉王ヘル・アーマゲドンで呉国の追撃兵を攻撃」

「シェレン、アクションカードは!?」

「ダメよ、これじゃ防げない」

 

敵のモンスターが放つ光線をくらい、シェレンのモンスターが消滅した。

 

 

スイゴ&シェレン

LP6600

 

 

「けど、 『破砕の黒弓 呉』の効果で貴方も500ポイントのダメージよっ!!」

 

 

赤馬

LP6700

 

 

「続いて、怒濤王シーザーで呉国の騎馬兵を攻撃!」

 

シーザーは、シェレンの乗るモンスターを彼女ごと斬りにかかる。

 

「させてたまるかッ!アクションマジック『回避』発動」

「ならば、壊薙王アビス・ラグナロクで攻撃」

 

一度防いだこともあり、彼女は無事に脱出出来た。しかし、モンスターの方は無事ではおらず。互いに相殺された。

 

「まだだ、私は『DD ケルベロス』でダイレクトアタック」

「まだよ!私は伏せカード『呉の非常召集』発動」

 

呉の非常召集

 

カウンター罠

 

相手モンスターが攻撃宣言し、自分フィールド上に一体もモンスターがいない場合に発動できる。自分のデッキから、レベル3以下の『呉』と名のつくモンスターを二体までフィールドに特殊召喚できる。この効果で召喚したモンスターは、エクストラからのモンスター召喚素材に使えない。

 

「私は、『呉国の従者』二体を守備表示で特殊召喚する!」

 

盾になるように、モンスターが身をていして彼女を守った。

 

「さらに、『呉国の従者』の効果で『恋姫-呉王・孫策』を手札に加える」

 

「防ぎきったか。私は、カードを一枚伏せターンエンド」

 

 

 

「とんでもないな……本当に」

「こんな強いデュエリストは私の世界でも見たこと無いわ……母様以上じゃないかしら」

 

その言葉におれは思わず顔をしかめる。シェレンの母は元の世界では『生ける伝説のデュエリスト』と呼ばれる存在だ。それ以上となると、もはや勝つことが不可能な気がしてくる。

 

「シェレン、その冗談は笑えない」

「其だといいんだけどね~」

 

彼女も冷や汗をかいている所を見ると、本気で言っているみたいだ。

 

「なら、今だけ限界を超えるッ!おれのターン、ドロォォォォォッ!!」

 

おれは引いたカードを見る。

 

 

《……来たッ!》

 

 

そして、一瞬だけシェレンに視線を向けた。

 

「相手の場にモンスターが二体以上いる時にこのモンスターは特殊召喚出来る。現れろ『無名の傭兵長』」

 

名もなき戦士たちの長が、愛用の剣を片手にフィールドに参上した。

 

「さらに、『無銘の剣 滅』を発動。このカードを『無名の傭兵長』に装備する」

 

無銘の剣 滅

 

装備魔法

 

このカードは、『無名』と名のつく戦士族モンスターにのみ装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。一ターンに一度、このカードを装備したモンスターが相手フィールド上のモンスター一体を戦闘で破壊した時に発動出来る。このカードを装備したモンスターの元々の攻撃力以下の相手モンスター一体を選択しゲームから除外する。

 

「バトルだッ、無名の傭兵長で死偉王ヘル・アーマゲドンに攻撃ッ!」

 

おれのモンスターが赤馬のモンスターへと向かって行く。このままなら、確かに相殺されて終わりだ。

 

「わたしはアクションマジック『ドラゴンの牙』発動っ!その効果で『無名の傭兵長』の攻撃力をアップよ」

「おっしっ、行けえェェェッ!」

 

 

攻撃力3600となった無名の傭兵長が、禍々しき威光を放つモンスターを一太刀で斬り伏せた。

 

 

赤馬

LP6100

 

 

「まだだッ!このカードに装備された『無銘の剣 滅』の効果で、お前のフィールドの怒濤王シーザーはゲームから除外される」

 

存在の抹消を願った剣が、その効力により相手モンスターを異世界に消し去った。

 

「私はセットしていたカード『契約洗浄』を発動、フィールドの『地獄門の契約書』、『再契約の契約書』の二枚を墓地に送る」

「またそのカードか……。だがッ、これでお前の場のモンスターはDDケルベロスのみッ!」

 

おれは『カードを一枚伏せターンエンド』と告げる。この瞬間、赤馬はカードを二枚引いた。

 

 

 

未だ底すら見えぬ彼の実力を前にもおれ達は決して挫ける事はない。その姿はまるで愚者が一筋の希望を求め、足掻く姿にも似ていた。



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予期せぬ形

ようやくか


赤馬のターンからデュエルは再会される。自身の強力なモンスター達を倒されようとも彼の表情は冷徹なままだ。

 

 

 

「私のターン、ドロー。セッティング済みのDD魔導賢者ガリレイとDD魔導賢者ケプラーのペンデュラム効果により、それぞれのスケールは1から3へ、10から8へと替わる」

「はあっ!?」

 

赤馬のペンデュラムモンスターのスケールが変動した。これにより、アイツはもうペンデュラム召喚で『DDD 壊薙王アビス・ラグナロク』を召喚できない。おれはこの思わぬ事態に、内心ガッツポーズする。

 

「油断しちゃダメよ、スイゴ。コイツがただ素直に契約を守ると思えないわ」

 

シェレンは油断しないようにとクギを刺す。

 

その真剣な顔からはデュエル展開がまだおれ達に有利なものでないことを示した。

 

「私は再び、スケール3の『DD 魔導賢者ガリレイ』とスケール8の『DD 魔導賢者ケプラー』で……『ペンデュラム召喚』!」

 

『我が魂を震わす大いなる力よこの身に宿りて魔を貫く新たな礎となれ!』

 

 

『ペンデュラム召喚』

 

 

「出現せよ、私のモンスター達よ!!」

 

 

「現れ出でよ『DD プラウド・シュバリエ』、『DDD 制覇王カイゼル』!」

 

白き体躯を持つ異世界の騎士と赤きマントを纏ったに奇妙に湾曲した剣を持つ王が、赤馬のフィールドに出現した。

 

「『DD プラウド・シュバリエ』のモンスター効果を発動。 このカードの召喚に成功した時、エクストラデッキのペンデュラムモンスター『DDD 壊薙王アビス・ラグナロク』を手札に加えることが出来る」

 

「さらに、『DDD 制覇王カイゼル』がペンデュラム召喚に成功した時、 相手フィールド上の表側表示のカード効果はターン終了時まで無効になる」

「何ッ!?」

 

スイゴのフィールドの『無銘の剣 滅』が石化したように一時的にその効力を止める。これにより、無名の傭兵長は攻撃力が2500に戻った。

 

「バトルだ、私はDDD制覇王カイゼルで無名の傭兵長を攻撃!」

 

銀色の鎧を身に付け赤いマントをたなびかせながら、赤馬のモンスターはおれのモンスターへと迫った。

 

「そう簡単には破壊させない、アクションマジック『奇跡』…」

「私はアクションマジック『戦死者の執念』を発動し、無効にする!」

 

手から奪いとられたアクションカードが地面へと沈みこむ。これにより、戦闘を遮るものは無くなった。

 

「ぐうぅぅぅッ」

 

 

スイゴ&シェレン

LP6300

 

 

「さらに、DDケルベロスで呉国の従者を攻撃」

 

地獄の番犬がシェレンのモンスターを襲い、噛み砕いた。カイゼルの効果はモンスターにも働いたので効果を発動することは出来ない。

 

「そして、DDプラウド・シュバリエでダイレクトアタック」

 

騎士による剣の一撃が、おれ達を切り裂いた。

 

「「ぐあぁぁぁッ」」

「「キャアァァァ」」

 

 

スイゴ&シェレン

LP4300

 

 

「カードを二枚セット、私はこれでターンエンドだ」

 

 

 

「……くっ、やってくれるわね」

 

シェレンも少しだけこの状況に苛立ってきたようだ。無理もない、おれ自身いくら攻撃を仕掛けようともそれ以上の力で反してくるコイツには腹が立つ。とは言え、何をしようにも場にモンスターは無く彼女のドローに全てがかかっている。

 

「何より、その目が気に入らないわ!……わたしのターン、ドローーー!!」

 

渾身の力をその手に込めて、彼女はデッキからカードを引いた。

 

「行くわよ、わたしは手札から『犠牲の置き土産』を発動」

 

犠牲の置き土産

 

通常魔法

 

自分の墓地に『呉』と名のつくモンスターカードが五枚以上ある時にこのカードは発動出来る。自分墓地の『呉』と名のつくモンスターカードを五枚選択しデッキに戻しシャッフルすることで、自分はデッキからカードを二枚ドローする。

 

「わたしは墓地の『呉国の密偵兵』、『呉国の防人兵』、『呉国の追撃兵』、『呉国の騎馬兵』、『呉国の従者』を選択!デッキに戻し、シャッフルする」

 

「そしてっ、わたしはカードを二枚ドロぉーーーっ!!」

 

彼女は引いたカードを見て、その表情を獰猛な笑みに変える。恐らくはこの状況を打開する切り札を引いたのだろう。

 

「わたしは手札から『高等儀式術』を発動っ!デッキの『呉国の防人兵』と『呉国の見習い兵士』を生け贄に、手札の『恋姫-呉王・孫策』の儀式償還を執り行う」

「来るか……」

 

 

『民は思いを託し、兵は忠誠を捧げよ!そして国を統べし王は全ての願いを背負い、戦えっ‼敵を打ち砕けっ‼!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「天下万民こそ、我望み。『恋姫-呉王・孫策』」

 

 

底知れぬ強大な数多の敵を切り裂き、英雄へと昇り詰めた美しき美貌の英雄がシェレンのフィールドに降臨する。

 

「まだよ、わたしは手札から『王家の剣-南海覇王』を呉王・孫策に装備。これにより、攻撃力を3300にアップ」

 

「さらに、アクションマジック『妖獣の鉤爪』発動!この効果で、攻撃力を400ポイントアップ」

 

「バトルよ、呉王・孫策でプラウド・シュバリエを攻撃!」

 

赤馬はアクションマジックを使おうとはせず、モンスターは一撃で切り裂かれる。

 

 

赤馬

LP5200

 

 

「さらに、南海覇王の効果で貴方にカイゼルの攻撃力分のダメージを与える!」

 

 

赤馬

LP2400

 

 

「呉王・孫策の効果発動、このモンスターは二回攻撃することが出来る。わたしは、プラウド・シュバリエに攻撃っ」

「私は伏せカードを発動…」

「ムダよ、南海覇王は装備モンスターに対する効果を無効に出来るっ」

「モンスターにではない、『DD アサイン』発動!」

 

DD アサイン

 

通常罠

 

自分フィールドに『DD』カードが二枚以上ある時に発動出来る。フィールド上の『DD』カードを二枚づつデッキに戻しシャッフルする毎に、自分はデッキからレベル5以下の『DD』モンスター一体を特殊召喚することが出来る。この効果を使ったターン、自分はこのカードの効果以外でモンスターを召喚することは出来ない。

 

「私は、自分フィールド上の『DD 魔導賢者ガリレイ』と『DD 魔導賢者ケプラー』をデッキに戻し、シャッフルし『DD パンドラ』を守備表示で特殊召喚」

 

「さらに、『DD プラウド・シュバリエ』と『DD ケルベロス』を戻し、デッキから『DD ネクロ・スライム』も守備表示で特殊召喚する」

 

「なら、わたしはDDネクロ・スライムに攻撃よっ」

 

緑色の軟体を持つ異形の生物を、シェレンのモンスターが切り裂き破壊した。

 

「やはり勘がいい」

 

余裕ある態度で、赤馬は悠然と此方を見る。自身のフィールドとライフを大幅に削られたというに未だにこの男は揺らがない。

 

「……わたしはこれでターンエンドよ」

 

最後の一撃でもっとライフを減らしたかったシェレンは、悔しそうに歯ぎしりした。

 

 

 

「見事な攻撃だった。……しかし、トドメを差しきれないのは甘い証拠だ」

「何を!?」

 

挑発するような視線をし、赤馬はおれ達に向かって突如話始めた。

 

「君達はかつて二人で『オベリスク・フォース』を倒したかも知れない」

 

「だが、今度また彼らを退けられるとは限らない。……何故なら『アカデミア』は数多の数の『デュエル戦士』を投入し、君らを引き剥がしにかかるだろう」

 

「その時、君達は孤独な戦いを強いられる。お互いの協力が得られない状況で、もしやどちらかは敵の手により倒れるかも知れない」

 

脳裏に思い浮かぶのは、シェレンがあのデュエルによって傷つき倒れた光景。自身の無力を呪い、敵に殺意を覚えた時の記憶。

 

「そうなったら、君はどうやって仲間を救う?今のままで一人で救えるのか……この『私一人』に苦戦している状態でっ!」

 

その言葉に言い返すことは出来ない。それはおれの思っている紛れもない『真実』だから。

 

スイゴの握りしめた拳から血が出る。その手には、ただただ力を込める。何かに抗うように、強く。

 

「だからこそっ、君達はより『強大な力』を手に入れなければならない。出来る物なら、この私に示して見るがいいっ!」

 

「私のターン、ドロー-ッ!」

 

「墓地の『DD ネクロ・スライム』のモンスター効果を発動し、フィールドの『DD パンドラ』と手札の『DD プラウド・オーガ』で『融合召喚』する」

 

『災い封じ込めし坩堝よ、 暗黒の災禍をもたらせし鬼神と共に今ひとつとなりて新たな王を産み出さん!』

 

 

『融合召喚』

 

 

「生誕せよ、『DDD 栄光王カルヴァン』」

 

 

DDD 栄光王カルヴァン

 

レベル8

 

悪魔族/効果

 

レベル5以上『DD』モンスター×2

 

このモンスターは一ターンに一度、相手モンスター一一体の装備カードを破壊することが出来る。このターン、この効果で破壊した装備カード一枚につきこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。

AT2800/DF1500

 

異形の聖書を片手に持ち、黒き衣をその身に纏った天使に似たモンスターが赤馬のフィールドに出現した。

 

「バトルだ、私は栄光王カルヴァンで呉王・孫策を攻撃」

「っ!?……アクションマジック『ドラゴンの牙』を…」

「私はアクションマジック『戦死者の執念』を発動っ」

 

不可解な行動に疑問を持ったシェレンがアクションマジックを発動させようとするも無効化される。

 

「なら、おれが伏せカード『未練なき反撃』を……」

「私は罠カード 誤封の契約書 を発動。この効果でカードの発動を無効にする」

 

スイゴの場のカードもまた無力化され、発動が失敗する。

 

「『DDD 栄光王カルヴァン』のモンスター効果、相手フィールドのモンスター一体を選択しそのモンスターの装備カードを全て破壊し、一枚につきこのカードの攻撃力を1000アップする!」

「何ですって!!」

 

武器を持つことを許さないかのようにシェレンのモンスターは無力化され、破壊された。

 

 

スイゴ&シェレン

LP3300

 

 

「私はこれで、ターンエンドだ」

 

 

 

「強い……」

 

スイゴは目の前の男の持つ存在感、発言、デュエル戦術のその全てに圧倒されていた。こちらは惜しみ無く全力を尽くしても、全ての手を読み尽くされ封じられる。まさに、最強の相手と言っていい。

 

「…………だけどな…」

 

シェレンを見る。彼女もまたこの強敵を相手に苦しんで顔を苦渋にゆがめている。

 

だが、下は向いていない。それがどういうことを意味するか彼女はわかっているから。心までは折られないとただ勝つことを考えている。

 

「おれだけ諦める訳にはいかない。……いや、俺自身が許せないッ」

 

『勝てる』、と言えるわけじゃない。……ただ、彼女のためには『敗けられない』。

 

「おれのターンッ、ドロォォーーーッ」

 

スイゴはそのドローに己の全てをかけた。ここで『赤馬 零児』を乗り越えなければ、全てが終わる気がしたからだ。

 

「まだだッ、墓地の『無名の商人』の効果発動!このカードをゲームから除外し、墓地の『無名の傭兵長』、『無名の剣客』、『無名の傭兵』をデッキに戻し、カードを一枚ドローするッ」

 

再び、そのドローに己の存在をかける。

 

「……っ、来たか!」

 

故に、スイゴにとって最後はこのカードで終わらせなければならない。

 

「スイゴっ、使いなさい!」

 

シェレンが拾ったアクションカードを投げて寄越す。

 

「ああっ、……おれは手札を一枚墓地に送り『知られざる生誕』を発動。手札の『無名の隊長』と『無名の使者』を生け贄に捧げ、これにより『無名の剣将』の儀式償還を執り行うッ!」

 

『その真実は何者にも気づかれず、その英断は何者も知ることはない!しかし、その勇気のみは男の仲間を奮い立たす!!未来を掴めっ!!!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「仲間と共に、戦場を駆けろ。『無名の剣将』」

 

使い古された剣を片手に持ち、偉大なる名もなき剣士はここに参上する。そのモンスターは、スイゴの感情に共鳴するかのように強い存在感を放っている。

 

「『無名の剣将』の効果発動ッ、シェレンの墓地の『恋姫-呉王・孫策』をこのモンスターに装備ッ!」

 

「これにより、攻撃力3400にアップ。バトルだッ、無名の剣将で栄光王カルヴァンを攻撃ッ」

「私はアクションマジック『回避』を発動する」

 

簡単には敵も倒れない、互いが互いに力を想いをぶつけ合うが故に。その両者の力は拮抗している。

 

 

赤馬

LP2400

 

 

「だが、装備された『恋姫-呉王・孫策』の効果でもう一度バトルフェイズを行えるッ!バトル、無名の剣将でもう一度攻撃ッ!」

 

長きの均衡を経て、亡き戦友の形見の黄金の剣が別の主の手によりついに敵に引導を渡した。

 

 

赤馬

LP1800

 

 

「……おれは、これでターンエンドだ」

 

モンスターの装備しているカードが砕け散った。

 

この男は次のターンまで、おれ達を待つほど易しい相手ではない。おそらく、これが最後のチャンスだったのだ。トドメを差しきれなかった悔しさで、スイゴは顔を思わず歪める。後一歩の所で赤馬には届かなかったのだ……。

 

 

 

 

 

 

目の前のスイゴに対して、男はただ冷静な眼差しを向けている。

 

「………成程」

 

赤馬はこの青年が以前見せた謎の召喚法に興味を持っていた。故に、今日のデュエルでその力を引き出して見極めるつもりだった。しかし、未熟な彼には最後までそれをフィールドに出すことは出来ない。

 

「………」

 

…………が、赤馬は目の前の彼のモンスターが強い輝きを放っているのを見る。

 

『デュエルエネルギー』に溢れ、力強いその姿はまさしくそれを操る彼が通常とは違うデュエリストだということを示す。故に……。

 

「……わかった。私はサレンダーしよう」

 

目の前の男と女が驚愕の表情を浮かべるのを見た。だが、そんなことは赤馬には関係無い。このデュエルでとったデータを基に自分はより研究を進めるのみだ。

 

 

《そのために、彼らには勝ち残って貰わねばな》

 

 

願わくば、二人が大会の間にその力を覚醒させることを。この世界の敵………『アカデミア』に対する戦力は多いほうが良い。

 

赤馬は手札をデッキに戻す。その手には『魔神王の契約書』、『DDD 壊薙王アビス・ラグナロク』、『DDD 死偉王ヘル・アーマゲドン』の三枚のカードが握られていた……。

 

 

 

かくして、スイゴとシェレンは『舞網チャンピオンシップ』への参加が決まる。……本人達の預かり知らぬ所で二人の運命の歯車は確かに回り始めていた。

 




マジェスペクターに新カード?おのれKONMAI!


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第二章
開催と再会


不審者と言いたい


その町は熱狂で溢れていた。町の名は『舞網市』と言い、今の時期に限りその人口は普段の倍以上に膨れ上がっていた。『子供』、『老人』、『家族連れ』等様々な人間が道路を行き交い、かつ人々は皆一斉に同じ方向へと向かう。

 

全国的にも有名なデュエルの祭典『舞網チャンピオンシップ』が行われる会場へ足を運ぶためだ。

 

 

 

 

「ついに、この日が来たっ!」

 

目の前の男『修造』は少年少女達を見て、強くそう宣言した。

 

「我が遊勝塾の塾生………そして、スイゴくんやシェレンちゃんも含めた全員が『舞網チャンピオンシップ』に出場できるとは…」

 

男の目には薄く涙が滲んでおり、彼にとってその事実が何れだけ重要で喜ばしいことなのかを表しているようだった。

 

「俺は……、俺は…………、お前たちを…」

 

感ここに極まれりと言わんばかりに身体中を奮わせている。爆発寸前の感情を抑え込もうにも抑え込めない状態。故に……。

 

「『誇りに思うぞ~~~ッ』」

 

身体ごと彼らに飛び込み、その喜びを……『熱血』を皆で共有すべく全身全霊でぶつかっていった。

 

 

 

…………が。

 

 

 

子供達、遊矢や柚子、素良、おれとシェレンはその塾長のハグを全員紙一重でかわす。

 

「って、…………うわぁっ!?」

 

受け止める者はいない。それ故、当然と男はおれ達ではなく地面と抱き合うハメになった。

 

 

《あっ、自転車に引かれた……》

 

 

目の前の塾長の行動に対して、おれ達の反応はただただ冷たかったと言える。

 

「………なぜ…、避ける……?」

「お父さん……テンション高過ぎ……」

 

全くその通りで。おれは心の中で彼に謝りつつ、娘の『柚子』のその意見にも深く同意した。

 

「まだ会場にも行ってないのに…」

 

赤い髪の女の子も同様の反応だ。

 

「ごめんなさい…………でも、どうせハグするならわたしは好きな人とやりたいのよん♪」

 

女性達による容赦の無い感想が次々と彼を襲った。正直、あれはダメージがあると思う、メンタル的に。

 

「……では、改めて説明しておくぞ!」

 

自身の行動により生まれてしまったこの気まずい空気を何とか払拭したいのか、修造は咳き込みつつ説明を開始する。

 

内容はおれ達がこれから参加する『舞網チャンピオンシップ』に関することで、参加者による対戦枠の違いのことだった。おれとシェレンは『ユースクラス』、遊矢と柚子と素良は『ジュニアユースクラス』、タツヤとフトシとアユは『ジュニアクラス』の部門で戦う。

 

またこの大会は舞網市だけではなく、全国の資格を満たしたデュエリスト達が一斉に集うらしい。そのため世間的注目度も高く、彼ら『遊勝塾』にとってはこれ以上無い宣伝なるということだ。だが、同時にこの場にいる全員がそれぞれの『クラス』でのライバルとなりうる。

 

おれ達はその説明を理解しつつ、再び燃え上がる塾長を他所に大会行きのバスへと乗り込むことにした。そして、バスは出発する。

 

各々が自身の大会における意気込みを語る中……。

 

 

 

「あっ!」

 

「ど、どうした?柚子!」

 

「お父さんっ、遊矢が…………」

 

 

 

「「「「「「「「いなーーいっ」」」」」」」」

 

 

 

「なにーーーっ!?」

 

 

 

バスの後部座席には、確かに『榊 遊矢』のみがいなかった。この塾はいつもトラブルと全く無縁とはいかないらしい。

 

 

 

「「…………なるほど」」

 

スイゴとシェレンは目の前のモニターで中継された内容を見て、同時に感想をもらした。彼らは今『舞網チャンピオンシップ』の開かれる会場内にいた。

 

「凄いわねー、この大会ってやっぱり全国規模らしいわよ」

「改めてこういう風に説明されると、本当にそう実感するな」

 

二人は口々にそう言い合い、アナウンサーの言った内容に興奮を示す。映像には『赤馬 零児』も写っていた気がするがおれ達は無視した。

 

「ちょっと!?二人ともモニターなんか見てないで遊矢を捜してよっ」

 

柚子が怒ったような声で話しかけてくる。彼女も幼馴染みが大会直前にいなくなったから、心配しているのだろう。

 

「でもまあ……、遊矢なら大丈夫だろ」

「わたしもそんな気がするわ」

 

彼女の不安も分かるがこの会場には何万人、何十万人、何百万人と人間がいる。この中から遊矢のみを見つけ出すのは不可能に近い。おれ達が下手に捜すよりも集合場所の決まっているこの場所で待つほうが、出合える確率は遥かに高い。

 

「まあまあ、多分遊矢くんは大丈夫だと思うわよ」

「どうしてっ、そんなこと言えるんですかっ!」

「カ・ン」

「…………」

 

目の前の柚子が無言でハリセンを取り出した。シェレンの物言いには耐性が出来ていた筈だが、緊迫した状態に置いてはそうでは無いらしい。

 

 

《やめろッ、シェレン!その言葉は今は逆効果だ》

 

 

仕方なく彼女らの仲裁に入り、おれ達は集合場所の位置取りを素良に頼んで捜すことにした。……しかし、1時間ちかく費やしても遊矢が見つかることはない。シェレンが柚子を宥めつつ、元の場所に戻るしか方法はなかった。

 

「私のダーリンが来てないって本当なの?」

 

帰ってきたおれ達が聞いたのは、体形的に未熟な子供の域を出ないと思う少女の声だった。彼女の名前は『方中 ミエル』と言い、求愛対象の遊矢の姿を見に来たようだった。

 

「あ~!もしかしたら私のダーリンったらこっそりミエルのパパとママに挨拶に行ってたりして!いや~ん、サプライズ!」

 

ミエルによる脳内妄想だだ漏れの空想話を聴かされる中、怒った柚子が謎のオーラを放出していたり、シェレンは面白そうに二人を煽っていたりと大変な事態になっていた。

 

「ダーリン、ダーリン、どこにいるの?ダーリンったら、ダーリン!」

 

ミエルが持ち前の特技の占いを披露する中、子供達は柚子をおれはシェレンを止めることにひたすら忙しかった。

 

「見えた!」

 

少女が何かに気づいたように視線をとある方向に向ける。彼女の行動に理解が出来ないおれ達に痺れをきらしたのか、今度は指を使って意図を示した。

 

「だから~」

 

「「あっちのほう」」

 

少女の行動に重ねるようにシェレンも同じ方向を指差す。ミエルも含め全員が戸惑うなか、おれは底知れないその思考の深さに恐れを感じた。

 

 

 

結局、遊矢は一人で勝手に帰ってきた。一人用事を済ませて来たアイツは意気揚々としている。それから後は、遊矢が知らない奴に絡まれたりしていたが親友の『権現坂 昇』がその男を止めることで事態は一時的に終息した。権現坂もまたギリギリで勝率6割に到達したようで、遊矢もそれを喜んでいるようだった。

 

 

 

そして、おれ達は大会開催を告げるスタジアムへと入って行った。

 

中には数えきれないほどの数の『デュエルスクール』とそれに所属するデュエリスト達がいる。スイゴとシェレンは赤馬とのデュエル以降、『遊勝塾』の所属で登録されていた。あの男の真意は分からないが、修造塾長は自身の塾の名前が売れる機会が増えたので大喜びだ。いいのかそれで。

 

「へ~、本当にたくさん人がいるわね」

 

シェレンは感心したように周りを見て呟く。お祭り好きの彼女にとって、この状況はまさに打ってつけと言える。

 

「確かに………あッ、『ユウ』や『リンドウ』もいるぞ!」

「『ノウン』もね。……………げっ、あの時の黒男もいるじゃない」

 

ああ、名前は確か……『涙瞳 シュウジ』だっけ?

 

「……でも、やっぱり一番気になるのは」

「……ええ」

 

おれ達は一人のコートの男の方を見る。赤馬よりも短いマフラーを首に巻き、周囲に鋭い視線を向ける少年。学園で『オベリスク・フォース』と敵対していた時にもいたその人物が何故この大会に出場しているのか。

 

「…………彼、『ジュニアユース』だったのね」

「…………おれもその事は驚きだ」

 

見た目的におれ達と同年代だと思っていた。『LDS所属』から出て来たのを見ると、やはりあの男もまた赤馬の手駒の一人なのかもしれない。

 

「わたし達をLDS所属にしなかったのもこのためかもね」

「かもな……」 

 

そうこう無駄話をしている内に開催宣言が始まり、おれ達『遊勝塾』は皆一斉に気を引き締める。実況役の『ニコ・スマイリー』により遊矢が選手宣言をする係に指命されたのを横目にただ黙って見守る。遊矢は始めは動揺していたが……。

 

『《レディース、エンド、ジェントルメン!先ほどは大変失礼いたしました》』

 

彼による演説が行われ、遊矢の身の上も語られた。おれ達はアイツのことを何も知らされてなかったから、その内容にはとても驚いた。会場で因縁を吹っ掛けた男はこのことに難癖をつけたのだと気づいた。

 

 

《そうか…………『遊矢』も父親の汚名で苦しんだんだな…》

 

 

でも、彼の話は自分の父親を誇りに思っているようだった。その事は、本当に良いことだと思う。そう考えていると、ふと横のシェレンがこちらを見ていた様な気がした。

 

かくして彼の演説は終了し、会場にいるほとんど全員が拍手を贈ることで大会は始まった。大会には事前に受付でもらった『登録カード』を用いて対戦相手をランダムで決めるらしい。

 

「俺の相手は…………『沢渡』!?」

「私の相手は…………『真澄』!?」

 

対戦相手に皆が驚く中でおれとシェレンもまた自分の対戦相手を見ていた。

 

「おれは無所属の『斬桐 ソウジ 』が相手か」

「わたしはLDS所属の『竹貴 ムツミ』ね」

 

そして、素良の対戦相手は…………おれ達が気にしていた例の少年。男の名前の部分には『黒咲 隼』と表示されていた。

 

 

 

「しびれさせてやるぜ~!」

 

塾の皆が見守る中で、遊勝塾による今大会の初勝利はフトシが決めた。実力を見るに意外とこの塾は周りの塾よりも優秀なのかも知れない。そして、次の遊勝塾が対戦するのはアユだった。

 

対戦相手は少年で、『赤馬 零羅』。その名前からあの男を連想させる。おそらくは弟だろうとおれ達は考えた。

 

『《僕は手札より『CC隻眼のパスト・アイ』を召喚》』

 

一時はアユが優勢に進めていたようだったが、『赤馬 零児』が見学しに訪れたことで零羅が力を発揮し始めた。零羅の自身の魔法カードとモンスターを素材に使っての融合には度肝をぬかされた。そして……。

 

『《僕は『CCC 武融化身ウォーター・ソード』で『アクア・アクトレス アロワナ』を攻撃!》』

 

アユのモンスターが打ち砕かれて勝負は決着した。少女が弱かった訳ではない。だが、おれはあの『零羅』という少年が周りよりも跳び抜けている様に見えた。

 

「……とんでもないわね、あの子」

 

横にいるシェレンは少年を警戒するような目で見ている。恐らく、彼女にはそれだけ強力な相手に見えたのだろう。

 

アユは遊矢達が慰めているみたいだから、大丈夫そうだ。おれとシェレンも後で一言くらい励ましおこう。そう思い、次の対戦カードのことに頭を向ける。……確かこの後は遊矢の幼馴染みの試合だったな。




赤羽と黒咲はどっちの方が強いのか。
ハッキリしてなくて扱うのが難しい。


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真六武衆-シエン

すいません。文体変えました。


柚子と真澄による試合を見終えたシェレンは、自身の対戦相手と戦うためにデュエルフィールドに来ていた。柚子の試合時のことを思いだすと、胸がドキドキしたのを覚えている。

 

「……まさか、決着が『融合召喚』とはね」

 

あの素良という少年が教えたらしいが、わたしとの実戦で初めて成功させたカードを使って彼女が勝利した姿は見ていて非常に気分が良かった。試合内容も融合召喚の使い手どうしとあって満足出来るものだ。

 

「だから………次はわたしが魅せる番かしら?」

 

今、観客席ではスイゴや柚子達が見ている。先日の赤馬との試合では観客は誰もいなかったし力も入る。 あまり無様な姿はさらしたくない。

 

「……でも、デュエルはキッチリ楽しみましょ!『アクションデュエル』なんだから」

 

そう言って、シェレンは対戦相手を見る。

 

「拙者は『竹貴 ムツミ』と申す。LDSシンクロ部門の生徒でござる」

 

「わたしは遊勝塾の『ソン シェレン』。よろしくね」

 

名乗った人物は無表情の長身女性。髪は青く、頭の後ろでまとめてポニーテールにし『侍』みたいな服装をしている。

 

 

《 古風な話し方をするわね。……レンファのお友達の『ミンメイ』や『シシュン』が近いかしら》

 

 

シェレンは心の中でここにいない妹達のことを考えていた。生真面目な彼女達のことだ。今はわたし達のことを学園中探し回っているだろう。……それとも、しょっちゅう居なくなる自分に呆れ果てているだろうか。

 

「……けど、今はデュエルに集中よっ!」

 

「挑むところ!」

 

互いにデュエルディスクを構える。デュエルが始まる前から二人の間では火花が散っている。

 

 

 

《《アクションフィールドオン、『祈岩島』》》

 

 

 

フィールド全体が一つの島へと姿を変える。島の大半は白い砂浜と人並みの大きさの岩で埋めつくされている。アクションフィールドとしては非常にシンプルな場所だ。

 

 

『行くでござるっ、戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!』

 

『モンスターと共に地を蹴り!』

 

『宙を舞い!』

 

『『フィールド内を駆け巡るっ!』』

 

『見なさい!』

 

『『これぞデュエルの最強進化形、アクション!!』』

 

 

  『『デュエル』』

 

 

シェレンvsムツミ

LP4000/LP4000

 

 

「先行はもらうわよっ!」

 

シェレンは早速とフィールドを走り始める。

 

「わたしは手札から、呉国の追撃兵を攻撃表示で召喚!」

 

国を守護する兵隊が出現した。

 

「さらに、わたしはカードを二枚伏せてターンエンドよ」

 

すると、岩の下にアクションカードが落ちているのを見つける。なになに、『奇跡』ですって?

 

 

 

「拙者のターン、ドロー」

 

腰に手を当て、まるで居合いをするかのごとく彼女はカードを引く。

 

「拙者は手札より永続魔法『六武の門』発動、このカードは『六武衆』と名のつくモンスターが召喚される度にカウンターを二つ乗せる」

 

「『真六武衆-カゲキ』を召喚でござる!これにより、カウンターが二つ乗る。さらに、カゲキの効果で手札から『六武衆の影武者』を特殊召喚!カウンターは四つでござる」

 

四つの腕を持つ若き日の真六武衆の一人がフィールドに出現。そして、名だたる六人の武士達の影武者もまたその姿を現す。

 

「さらにさらに、効果で『真六武衆-キザン』も特殊召喚!これでカウンターが六つに埋まった」

 

「『六武の門』の効果発動でこざる。カウンターを四つ取り除きデッキから『六武衆の師範』を手札に加え、効果により特殊召喚!」

 

キザンは甲冑にその身を包み、腰の刀でシェレンをいかくしてきた。眼帯を身につけた年老いた剣士は強者の風格をその身に宿してその場に毅然と立つ。

 

「準備完了。拙者はレベル3の『真六武衆-カゲキ』に、レベル2の『六武衆の影武者』を『チュウニング』でござるっ」

 

「来るわね!」

 

 

 

『未来にその名を連ねる武士よ、赤き甲冑にその身を包み。いざっ、出陣ざ!』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「出でよ、レベル5『真六武衆-シエン』」

 

 

シェレンは走りながらもそのデュエルスタイルを見ている。今はまだそれを見極める時だ。

 

「バトルでござる、キザンで呉国の追撃兵を攻撃っ」

「アクションマジック『奇跡』発動。この効果で破壊されないわ」

 

不可思議な力が周囲に広がり、モンスターを護ろうとする。

 

「甘いでござるよ?シエンのモンスター効果。一ターンに一度、魔法・罠カードの効果を無効にし破壊出来るっ」

 

「何ですって!?」

 

「先頭続行っ、敵兵を切り裂けぇい」

 

効果により攻撃力を2100に上げたキザンがシェレンのモンスターを真っ二つにする。

 

 

 

シェレン

LP3700

 

 

「やるわね」

 

「まだまだ、……六武衆の師範でダイレクトアタック」

 

「今度は通さないわ、罠カード 呉の非常招集を発動。その効果により、デッキから呉国の従者二体を守備表示で特殊召喚よ」

 

二体のモンスター中の片方が破壊された。シェレンは再び、アクションカードを探そうと動く。

 

 

《気になるわね……彼女全然動こうとしないもの》

 

 

ムツミもまたアクションデュエルではなく、普通のデュエルをするつもりだろうか。わたしは心中でそんなことを思っていた。

 

「さらに、わたしは呉国の従者が破壊されたことでデッキから呉国の特殊兵を手札に加えるわ」

 

「然らば、シエンで呉国の従者に攻撃ぞ!」

 

「アクションカードは……無いわね」

 

赤き武士の刀による一撃を受けて、シェレンの兵はまた一体破壊された。

 

「効果で、『呉国の抑止兵』も手札に追加よ」

 

「むむ……倒しきれないか。ならば六武の門の効果でカウンターを四つ取り除き、デッキから『真六武衆-エニシ』を手札に加える」

 

「拙者はカードを一枚伏せ、タァンエンド」

 

 

 

わたしはカードを引こうとするが、それを一旦止める。

 

 

《これからわたしのターンなんだけどちょーっと聞きたいことがあるのよね》

 

 

「ねえ、ムツミ。貴女、さっきからそこにいっぱなしなんだけど少しは動かないのかしら」

 

「『武士』はそう簡単には動けんっ!不用意なスキが敗けに繋がるかもしれんからな」

 

なるほどね、彼女なりに戦術はあるということか。観客席を見ると権現坂くんもこの話に頷いていた。

 

「……でも、やっぱり面白くないわ。わたしのターン、ドロー!」

 

カードを見た瞬間、意地悪な考えが頭に浮かぶ。

 

「というか、その魔法カードはジャマね。手札から呉国の密偵兵を召喚。その効果で六武の門を破壊するわっ」

 

「なんとっ!?」

 

これでもう、彼女はドロー以外にモンスターを手札に加えることが出来なくなった。

 

……あら、岩と岩の間にアクションカードがあるわ。

 

「わたしは伏せカード 呉の増員要請を発動」

 

「甘いわっ、シエンの効果で発動を無効にし破壊ぞ!」

 

罠カードはその効力を発揮しない内にフィールドから姿を消す。…しかし、それを見てもシェレンに焦りはない。

 

「さらに、わたしは手札を一枚捨てて『水面下の人質取引』を発動」

 

水面下の人質取引

 

通常魔法

 

自分は手札を一枚墓地に送りこのカードを発動出来る。自分フィールド上の『呉』と名のつくモンスター一体と相手フィールド上のモンスター一体をリリースして、デッキから『呉』と名のつくレベル7以下のモンスター一体を自分フィールド上に特殊召喚出来る。

 

「この効果でフィールドの『呉国の密偵兵』と『真六武衆-シエン』を生け贄にして、デッキの『呉国の戦女将軍』を特殊召喚よ」

 

呉国の戦女将軍

 

レベル7

 

戦士族/効果

 

このカードは、自分フィールド上の『呉』と名のつく戦士族モンスター二体をリリースすることで手札から特殊召喚出来る。

AT2700/DF1700

 

「シエンどのーーーーっ!!」

 

ムツミが自身のモンスターを素材にされたことによる悲しみの声をあげた。聞いていたわたしもちょっとだけ罪悪感がわいたわ。

 

「さらに、カードを一枚ドロー♪」

 

 

《でも、まあイチイチ気にしてられないわよね!》

 

 

「くっ……、自兵をも犠牲にするとは。キサマ、何事かっ!!」

 

「…うんまあ、この場合仕方ないわよ。わたしは呉国の戦女将軍で六武衆の師範に攻撃よ」

 

重層な鎧を身につけた女性型のモンスターが馬に跨がり、シェレンを乗せて相手に突撃して行く。

 

「くぅぅぅ」

 

 

ムツミ

LP3400

 

 

「ふふ、だが六武衆の師範は破壊される時に墓地から味方を帰還させるわっ!」

 

「拙者は墓地の『真六武衆-カゲキ』を手札に戻す。ハーーーーハッハッハ!!」

 

「静かにしなさいっ!!」

 

見た目からしてクールな性格してると思っていたけど、中身は意外と感情表現豊かね。

 

「まだよー?わたしはアクションマジック『波紋』発動」

 

波紋

 

自分のモンスター一体を選択し、そのモンスターはもう一度攻撃できる。

 

一度通りすぎたはずの馬が道を引き返し、今度はキザンのほうへと向かっていく。

 

「ええいっ来るでない!」

 

「さー、もう一回くらいなさーいっ」

 

女の持つ剣が、瞬間、弧を描いた。それにより残ったものはキザンの胸から肩への傷。

 

 

ムツミ

LP2500

 

 

モンスターが破壊された余波により再び、ライフが削られる。これにより、彼女の場は空になってしまった。

 

「じゃっ、わたしはカードを一枚伏せてターンエンドよん」

 

周囲にある岩をものともせず、馬は颯爽とフィールドを走った。

 

 

 



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輝き続ける者

短くしようとしたのに


「拙者は…、拙者は……っ、亡きもの達の為にも敗けるわけには行かないのだっ!」

 

「ふふふっ、いいわよ。……来なさいっ!」

 

そのほうが『ワクワク』するもの………………!

 

………………所で、少し芝居がかりすぎじゃ無いかしら。もしかして痛い子?

 

「無念はここに、必ずや果たそう!拙者の……ドローーー!」

 

ムツミは渾身の思いを込め、その手でカードを引きあてる。

 

「…!応えてくれたかっ、手札から『真六武衆-カゲキ』を召喚!その効果により、手札から『真六武衆-エニシ』を特殊召喚」

 

「さらにっ、エニシのモンスター効果。墓地の『六武衆の師範』と『真六武衆-シエン』を除害することでキサマのモンスター一体を手札に戻す!」

 

「ウソっ!?」

 

緑色の甲冑で身を守る武士が不思議な剣技を操り、シェレンのモンスターを瞬く間に手札に送り返す。これでシェレンの場は空になった。

 

「さらに、伏せていた『諸刃の活人剣術』を発動。この効果で墓地より『六武衆の影武者』と『真六武衆-キザン』を特殊召喚」

 

「っ……一気に二体も!」

 

「まだまだ、拙者は場にモンスターが二体以上いることで『大将軍 紫炎』を手札から特殊召喚」

 

シエンよりも赤い甲冑で全身をおおった大将軍こと攻撃力2500のモンスターがフィールドに登場した。

 

「まだぞっ!拙者はレベル3の『真六武衆-カゲキ』に、レベル2の『六武衆の影武者』を『チュウニング』でござるぅっ!」

 

 

『未来にその名を連ねる武士よ、赤き甲冑にその身を包み。いざっ、出陣ざ!』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「出でよ、レベル5『真六武衆-シエン』」

 

 

「また、そのモンスターね」

 

「ふふん、今度のシエンはひと味違うわっ!」

 

そう言うと、今まで動かなかったムツミが急に動き出した。砂浜を走りながら、やがて地面に落ちているカードに気がつく。

 

「あったぞっ、拙者はアクションマジック『千力』発動。これでシエンの攻撃力を1000ポイントアップ!」

 

千力

 

このターン、自分のモンスター一体の攻撃力を1000ポイントアップする。

 

「あらら、どういう吹き回しー?」

 

「アクションカードを使うキサマを見ていたら、何だか拙者も使いたくなったわ!これぞ『シエン・カイ』ぞ」

 

「良いじゃない!」

 

うんよくわからないわ。でも、アクションカードを使うのは良い傾向ね。

 

「バトルっ、シエン・カイでお主にダイレクトアタックッ!」

 

ムツミのモンスターの一撃が降り下ろされ、わたしは身体に浮遊感を感じた。

 

「っ!…………キャアァァァァッ!」

 

 

シェレン

LP200

 

 

「トドメぞっ、拙者はキザンでダイレクトアタックゥッ!」

 

黒き甲冑に身を包む男-『キザン』は目の前の相手を見据え腰にある鞘へと手をかける。

 

一瞬で刀を抜きさり女へと近づく。

 

彼の『一閃』がその身に襲いかかった……。

 

 

 

 

 

 

シェレン

LP200

 

 

「……なぜじゃっ、なぜにキサマのライフは0になっておらん!?」

 

ムツミは驚愕した声で、わたしに叫びかけてくる。

 

 

《あー危なかったわ…》

 

 

腕に力を入れ、ふらつく足で無理矢理立つ。そうして砂浜にみっともなく倒れている自身の身体を起こした。

 

「…わたしは墓地の『呉国の抑止兵』の効果を発動したのよ」

 

呉国の抑止兵

 

レベル4

 

戦士族/ 効果

 

このカードが自分の墓地に存在し戦闘ダメージが発生した時に発動できる。このカードを自分フィールド上に特殊召喚して、このターンのバトルフェイズを終了する。特殊召喚されたこのカードがフィールドを離れた時、ゲームから除外される。

AT1000/DF2000

 

彼女の前には盾を持った一体のモンスターが控えていた。

 

「……………だが。いつの間に…」

 

 

【 「さらに、わたしは手札を一枚捨てて『水面下の人質取引』を発動」】

 

 

「あの時に墓地に送っていたのはアクションカードじゃなかったのかっ!」

 

「確かにそれも出来たけど、……いつもそうする必要はないわよ?」

 

ムツミの疑問に対して、わたしは不敵に答える。

 

「してやられたわっ!……だがっ、まだ状況はこっちに有利」

 

「あらん、諸刃の活人剣術の効果を忘れてるわ。それによりキザンは破壊されて2100のダメージよ」

 

 

 

「……ハッハッハ、甘いわっ!拙者は手札より『六武衆の理』を発動、フィールドの『真六武衆-キザン』をリリースして墓地の『六武衆-カゲキ』を攻撃表示で特殊召喚」

 

これにより、キザンは場に存在せず。自壊によるダメージも食らわない。

 

「ハーハッハッハ、拙者はこれでターンエンド!」

 

 

 

「なーるほど、上手くかわされたわね」

 

「言っておくが勝ち目はないぞ!『シエン・カイ』の効果は相手の魔法・罠カードを一ターンに一度無効に出来る」

 

「そして『紫炎』はお主が魔法・罠カードが発動するのを一ターンに一度に制限する。まさにっ、これぞ拙者の完璧なコンボ!」

 

おまけにムツミのフィールドにはモンスターが四体。

 

 

《……いよいよ絶望的ね》

 

 

思わず顔をしかめてしまう。彼女のフィールドには『エニシ』もある。相手ターンにも使えるとしたら、墓地のモンスターを除外してわたしの召喚した強力なモンスターも手札に戻されてしまう。

 

 

《あれ、想像以上にヤバくない?》

 

 

観客席を見ると、スイゴが真剣な様子でこちらを見ている。他の皆もそうだ。『柚子ちゃん』や『遊矢くん』、『子供たち』、『権現坂くん』や『素良くん』も苦々しい表情でこちらを見ている。

 

この状況を前に勝つ手段などないのかもしれない。

 

「……けど、悔しいじゃない」

 

何もせずに諦めることが。ここで敗けることが。スイゴと戦えないことが。……なによりもまだ彼らを楽しませられてない事実が。

 

「無理かどうかなんて、わたしらしく無いわね」

 

思ったことを口に出してみる。よく考えていなかったからこそ、シンプルな答えが出た。

 

「スイゴのマネしてみようかしら♪どうせ、色々考えてもキリがないもの」

 

自身のデッキに手をかける。デュエルの答えはこれで決めるしかない。

 

「『さあ、ムツミも観客の皆もその目に焼きつけなさい!これが『ソン シェレン』の一斉一代をかけたドローよっ!!』」

 

会場中に聞こえんばかりの声をあげる。それは自身ではなく周囲を鼓舞し奮え上がらせる為に。それこそがわたしだけの『アクションデュエル』。

 

「いくわよっ!ドロォォォォーーーァ!!」

 

誰しもが目を離すことは出来ない。それほどまでに彼女は強く光輝いていたから。自らを揺るがすような存在を無視することは何者にも許されない。

 

 

 

…………それゆえその姿はまるで『王』のようだった。

 

 

 

「ふふふっ、それじゃ行こうかしら」

 

シェレンは自身の引いたカードを見て、そう呟く。その手に握られるは……。

 

「わたしは、手札から『呉国の暗躍兵』を召喚」

 

呉国の暗躍兵

 

レベル1

 

戦士族/効果

 

このカードが召喚に成功した時に発動出来る。相手フィールド上のモンスター一体を裏側守備表示に出来る。

AT100/DF100

 

「この効果で、わたしは『大将軍-紫炎』を選択するわ!」

 

「うぬぅ……だがそんなモンスターでは…」

 

しかし、彼女の笑みは崩れない。

 

「まだまだ終わりじゃないわ。伏せカード 『月の書』を発動…」

 

「させぬわぁっ!!シエンの効果発動っ、その発動は無効でござる!」

 

 

 

「それを待っていたわよ♪」

 

「………何と!?」

 

「手札から、速効魔法『連環の火計工作』発動」

 

連環の火計工作

 

速効魔法

 

自分の魔法・罠カードの効果発動を無効にされた時に発動できる。このターン、このカードは相手の効果で無効にされたその自分のカードと同じ効果を得る。また、自分フィールド上に『呉』と名のつくモンスターが一体以上いる時、その内の一体を選択し相手フィールド上に特殊召喚出来る。

 

「これによってこのターン、 連環の火計工作は月の書の効果を得るわ。……そして、わたしは効果によりエニシを選択よ!」

 

「しまったっ、これではエニシの効果を使えん」 

 

「さらに、効果でわたしのフィールドの呉国の暗躍兵を貴女のフィールドに攻撃表示で特殊召喚」

 

「何を!?」

 

自分のフィールドに召喚されたモンスターを見て、ムツミは戸惑うような表情を浮かべる。

 

「自分フィールド上に『呉』と名のつくモンスターが存在することにより、手札から呉国の特殊兵を特殊召喚するわ。これでわたしの場のモンスターが二体!」

 

「…………まさか」

 

「そのまさかよ。わたしは自分フィールド上の『呉国の特殊兵』と『呉国の抑止兵』を生け贄に捧げ、手札から『呉国の戦女将軍』を特殊召喚っ!」

 

軽装に身を包んだ美しき兵達の長が馬に跨がり、再びフィールドという戦場に参上した。シェレンもまた馬に乗りモンスターと共に大地を駆ける。

 

「呉国の戦女将軍の攻撃力は2700。よって、この攻撃によって呉国の暗躍兵を攻撃すれば……」

 

「拙者のライフは0に……」

 

ムツミは周囲を見渡し、とある一点の方向へと走る。しかし、そうする間もシェレンと彼女の距離はどんどんと縮んでゆく。

 

 

《まだよ、まだ驚かせるわ》

 

 

「バトルよ、呉国の戦女将軍で呉国の暗躍兵を攻撃っ!」

 

女将軍がその手に握る剣を振り上げる。そして、目前のモンスターへと向けて振り下ろす…………ことは出来なかった。

 

 

 

「まだだ、拙者は敗けんっ!アクションマジック『奇跡』発動」

 

 

ムツミ

LP1150

 

 

不可思議な力がモンスターを護り、その威力を半減させる。中途半端なうち下ろしに終わった剣が遥か空中へと弾き飛ばされた。

 

……シェレンはただ、ムツミの横を通りすぎる。

 

 

 

「ええ、貴女ならきっとそうすると分かってたわ♪」

 

「!?」

 

彼女の目は死んでいない。

 

「だからこそっ、わたしは全力で倒すわ!アクションマジック『波紋』発動」

 

宙を舞っていた剣は……再びモンスターの手に握られる。己の得物を手にした女将軍は再度、敵へと攻撃を仕掛けた。

 

「いつの間にっ!」

 

「これはアクションデュエルなんだから、最後はこう決まらないと!バトルよ、呉国の戦女将軍で再び攻撃っ」

 

神速の斬り下ろしが今度こそ、デュエリストへと引導を渡した。

 

「………………無念っ!」

 

 

ムツミ

LP0

 

 

 

 

 

 

会場の大観衆が驚く中、シェレンはただ一人フィールドでその存在をより一層強く輝かせていた。



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新しい可能性

『舞網チャンピオンシップ』は初日から盛り上がりをみせる。そこでは様々なデュエリスト達が入り乱れ、その実力を互いにぶつけ合うことで観客達を大いに魅了した。

 

そして、今日はその大会の二日目。

 

 

 

 

 

 

「昨日は凄いデュエルだったな、シェレン」

 

「ふふふっ、ありがとう。もっと誉めてもいいわよん」

 

「すごいすごい」

 

「えー、棒読みじゃない」

 

今、おれとシェレンは観客席で昨日の彼女のデュエルについて話し合っていた。

 

「まあ、何だ。……勝ったな、シェレン」

 

「ええ、次はスイゴの番よ」

 

その言葉はおれにプレッシャーがかかる。昨日の試合を観て改めて思ったのだが、この大会は本当にレベルが高い。

 

「不安なの?」

 

「……別に」

 

戦う相手は大会を勝つごとにもっと強くなる。それに敗けないためには、おれがおれ自身のデュエルスタイルを貫くしかないだろう。

 

「ところで遊矢達はどうしたんだ」

 

「さあ、柚子ちゃん達準備が遅れているみたいだったからわたし一人で出てきたのよ」

 

「今なら誰か来てるかもしれないな。よし、遊矢達の様子を見てくる」

 

「一緒に行こうかしら」

 

その言葉を『どうせ時間もかからないから一人で行く』と断る。シェレンには観客席の場所取りをしていて貰うためだ。席を離れるおれになぜか彼女が忠告してくれた。『何かイヤな予感がする』と。おれには、試合のことよりもその言葉の方が不安に感じる。

 

「アイツが言うと冗談じゃなくなるって……」

 

独り言を呟きながらも、遊矢達が待ち合わせの約束をしている場所へ足は止めない。目印である大型のモニターが見えてきて、その下には遊矢のみ仁王立ちで立っていた。どうやら、塾長達はまだ来てないみたいだ。

 

「あれ?スイゴは先に行って、席取りをしてなかったけ」

 

「シェレンに場所を確保して貰うように頼んだから大丈夫だ」

 

「そっか、柚子達はまだ来ないんだ」

 

それで一人ここに立っていたわけか。時間が時間だけにそろそろ試合も始まる。

 

「まあ、いいか。それじゃあ、おれは先に席に戻ってるよ」

 

「俺は皆が来るまで待ってるよ」

 

その言葉を最後に二人は別れる。おれは席に戻ろうと歩き始めるが、ふと一つ用事を思い出した。

 

「……しまった。遊矢に場所を言うの忘れてた」

 

面倒だが仕方ないと思い直し、おれは再び遊矢の立つ場所へ向かう。今度は先程と違い、塾長達は揃っていたが遊矢だけが居なかった。彼らに聞いた話によると、なんでも人を追っかけて会場の外に走っていったらしい。

 

「仕方ない、おれが遊矢を探してくる」

 

「良いのかい。君も今日は試合があるんだろ」

 

「おれの試合は素良と時間が被ってるから、まだ余裕があるし問題ないです」

 

神出鬼没の幼馴染みを持つスイゴにとっては人探しは日常茶飯事だ。

 

「すいません。私からも遊矢の事をお願いします」

 

柚子からも頼まれた。彼女も遊矢の事を心配しているようだった。

 

「分かった。さっさと引っ張って帰ってくる」

 

そう言って、スイゴは会場を出る。外に出て町の様子を見ると数日前とは違い、ほとんど人がいなかった。これなら人も探し易いと思い足早に町の中をまわっていく。

 

 

《にしても、何か変だな》  

 

 

遊矢は大会に参加することを楽しみにしているようだった。そんなアイツが関係ないことに首を突っ込んで、試合に間に合わなくなるリスクを犯すだろうか。それに、シェレンが言っていた言葉も気になる。

 

「……まさか、アイツ。面倒事に巻き込まれてないよな」

 

自身の考えに不吉なものを感じたこともあり、急いで彼のことを探すことにした。もしかしたら、人目につかない所にいる可能性も考えて森や路地裏、公園など様々な場所に行ったがどこにもいない。もう既に会場に戻ってるんじゃないかと思い始めた時だ。

 

「……何やってんだ、あの人」

 

偶々通りかかった橋の上で、一人ただ立っている女性。普段なら別に気にせずに通りすぎてしまうのだろうが、今はひどく気になった。ずっと見ていると、向こうも流石に気づいたのかこちらの方を向いた。

 

「何ですか」

 

「悪い、何か他意がある訳じゃない。なんかぼーっとしてるようだったから」

 

「見ていたと」

 

「……ああ」

 

緑色の髪を持つ女性は、何か勘に障ったのか警戒するような目でこちらを見てきた。おれ自身初対面の相手に失礼なことをしていたこともあり、その話に黙って頷く。

 

「本当に悪かったよ、おれもこれから大会に行かなきゃ行けないしもう行く」

 

「…………大会…」

 

おれの言っていたことに目の前の女性は首をかしげた。

 

「あれ、知らないのか。今はこの町で『舞網チャンピオンシップ』っていう大規模なデュエルの大会が開かれているんだが」

 

「デュエルの大会……そうか、だから町には人がいなかったのか」

 

「そうだ」

 

「そうですか」

 

もしかしてこの町に来たばかりなのではと疑問に思う。それにしても、町全体を巻き込む程の大会を知らないのは変な話だが。

 

「……もしかして『あいつ』もそこに……」

 

「?」

 

彼女の言うことが少しだけ気になったが、あえて無視した。人のことに首を突っ込みたがるような奴はあの幼馴染み一人で十分だ。

 

「…………」

 

おれが余計なことを思っている間も、目の前の女性は口に手を当てて何かを考え込んでしまっている。

 

「……だが、『不用意な感情』だ……」

 

一人で七面相しながらブツブツ言っている姿はひどく不気味だ。おれは彼女のことなんか放って置いて、もう会場に戻ろうかと思ってしまう。すると、何か考えをまとめたのかこちらへ向いて口を開いた。

 

「そのデュエル大会には、今から参加は出来ないのですか」

 

「大会は既に始まってるから無理だな」

 

「…………そう」

 

おれの言葉に目に見えて落ち込んでしまう。もしかして……。

 

「デュエルバカか」

 

「いきなり、失礼じゃないですか?」

 

しまった。話しやすくてつい、思ったことが口に出てしまった。所轄うっかりと言うやつだ。彼女も口の端をヒクつかせている。

 

「……まあいいですが。それよりあなたは大会に参加するのですか」

 

「ああ、これから会場に戻る所なんだ。知り合いを探していたが見つからなくてな」

 

「なら、丁度いい。わたしもそこへ案内してくれないか」

 

「別にいいが……ちょっと待ってくれ」

 

そう彼女に言うと、おれはデュエルディスクに内蔵されている時計で時間を確認した。

 

 

《…………あれ?》

 

 

一瞬見たものが信じられなくて、目を疑ってしまった。どうやら彼女とは思ったより長く話をしていたみたいでもう権現坂の試合が終わる予定時刻だ。そして、遊矢の試合までの時間も殆ど余裕はない。

 

「どうした」

 

横の女性が不審な様子を尋ねてきたが、それに説明している暇はない。

 

「どうやらもう時間がヤバそうなんだ。申し訳ないが、走るからそれを追って来てくれ」

 

「はあ!?」

 

何か文句を言っていた気がするがそれを無視して走り出す。このままだと、遊矢の試合を観戦する所か自分の試合に間に合わなくなる為だ。

 

 

 

結局、おれ達が会場についたのは遊矢の試合が始まって少し経ってからになった。

 

「はあっ、良かった。遊矢はもう来てたのか……」

 

「あら、遅かったわね。どこに行ってたのかしら」

 

息絶え絶えなおれにシェレンが話かけてきた。そういえば、彼女のことを放ったままだったのを忘れていた。

 

「悪かったよ。まあ、色々あってな」

 

「へぇー、それは後ろの人に関係あるの」

 

「ん?」

 

後ろを向くと、おれ以上に苦しそうに呼吸する女性の姿。

 

「ああ、町であったんだけどさ。大会を観たそうだったから案内したんだよ」

 

「…………ふざけるなよお前……」

 

苛立つような声が聞こえた。

 

「………勝手に走り出しておいて、何を勝手なことを言っている…」

 

「スイゴ、それは案内って言わないわよ」

 

二人の女性から猛批判されてしまった。まあ、事実だが。

 

「悪かったよ……それで、試合はどうなってるんだ」

 

二人には軽蔑するような視線を向けられたが気がつかないフリをする。おれが遊矢のデュエルの様子を見ると、丁度対戦相手の『沢渡 シンゴ』がフィールドにモンスターを召喚した所だった。

 

 

『《ペンデュラム召喚!……出でよ、『魔妖仙獣 大刃禍是』》』

 

 

鳥居似のモンスター二体に囲まれる中に、荒々しい風を吹かせる一体の大型モンスターが出現した。

 

「あれは、遊矢の……。赤馬以外にも使える奴がいたのか」

 

「そうみたいよ。どうやら、あの召喚法はもう彼だけの特別なものじゃ無いみたいね」

 

シェレンのその言葉に横にいる柚子や塾長も顔を暗くする。遊矢本人はどう思ってるのだろうか……。

 

「何…だ………あの召喚法は!?」

 

横で試合を見ていた女性はこの光景にひどく動揺したようだ。おそらく、彼女は初見だったに違いない。

 

試合は進み遊矢は益々追い詰められていく。沢渡の行ったカードコンボによってアイツのフィールドはがら空きになり、手札も殆ど無くなってしまった。

 

「どうなっちゃうの、遊矢お兄ちゃん……」

 

子供たちは不安気な顔を浮かべている。

 

「遊矢、あきらめるなっ!」

 

塾長は必死に声援を送る。

 

「男を見せんかっ!」

 

親友たちもまた彼を励ます。

 

 

 …………だが。

 

 

「待って!…………遊矢、笑ってる……」

 

アイツの表情から笑みは消えない。まるでこの状況を楽しむかのように沢渡のことを見据えている。

 

「すごいな…………アイツ」

 

おれはそんな遊矢の姿に衝撃を受けた。

 

昨日の柚子やシェレンもそうだったが、不利な状況でも試合を諦めずに、自分を見失わずに戦っている。

 

「敗けられないな」

 

思わずこの言葉が口に出てしまった。遊矢があんな風に自分らしいデュエルする様を見て、燃えない筈がない。

 

 

『《お前のアクションカードの効果を逆手に取らせてもらったよ》』

 

 

再び試合を観ると今度は遊矢が沢渡のカードの効果を逆手にとって、反撃したようだった。

 

片方がデュエルで魅せれば、もう片方はそれ以上の手を使い人々を魅了する。

 

おれは理解する。彼らのこの姿こそが『遊矢』や彼の父親『遊勝』の目指す『アクションデュエル』のあるべき姿だと。

 

 

『《俺は新しい可能性を見つけた。だから、楽しくて仕方ない!》』

 

 

アイツが言う可能性とは、ペンデュラムの『その先』のことだろう。遊矢が自分を信じ続けたからこそ見えた境地。

 

「…………おれにだって………あるッ!」

 

魔導使いのユウとの試合で使った召喚法。その正体は、未だよく分かっていない。

 

……が、アレを使いこなせるようになれば自分はデュエルでより上のレベルを目指すことが出来る。

 

「そうだ、まだまだ強くなってやる」

 

赤馬のデュエルでは、確かにおれは届かなかった。それは奴の言う通り、己の実力が足りなかったからだ。遊矢のデュエルがそれに気づかせてくれた。

 

「遊矢……なんかこのデュエルでまた進化してる感じがする」

 

柚子たちは二人のデュエルを讃えている。

スイゴもそれに頷く。

 

彼には悩んでいる暇なんかないのだ。そんなことしてる間に皆に置いてかれるに違いない。力が無いなら、この大会でつければ良いと思える。

 

「儀式の『その先』を……おれは完成させてみせるッ!」

 

「……スイゴ」

 

シェレンはそんな彼の姿を見て微笑んでいる。おれもそんな彼女に笑って返事する。

 

「シェレン、おれは絶対にやるよ」

 

「ええ、楽しみにしてるわよ」

 

おれ達が話す間に会場の観客は遊矢のペンデュラム召喚を期待して、応援し始める。柚子や子供たちも同じように声を出す。二人もそれに乗っかる。そして……。

 

 

『《見事引きこめましたら、ご喝采!》』

 

 

それからの試合はまさに圧巻だった。手札がない状態からの遊矢の奇跡的なドロー。その後のペンデュラム召喚から融合召喚を決めた。

 

 

『《出でよ、野獣の眼光りし獰猛なる竜!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』》』

 

 

相手とのアクションカードの取り合いも制す。それによって、ついに彼は勝利を収めた。

 

「これが、アクションデュエル……か」

 

隣の女性もその光景にどこか茫然としている気がした。

 

「ああ、そうだッ!」

 

「そうね♪」

 

スイゴとシェレンはそれに答える。二人は、この光景を生涯絶対に忘れないことを胸に誓った。

 

 

 

 

 

 

観客達全員が遊矢達に拍手をおくる中でスイゴは会場を一人後にする。そして、彼は強い覚悟と共に自身の『決戦の場』へその足を進めた。



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超戦士カオス・ソルジャー

今、おれはデュエルフィールドの第一会場にいる。観客席の大観衆が見守る中で彼は一人静かに相手見据えた。

 

 

 

「アンタが俺の相手?」

 

目の前の男はそう尋ねてきた。

 

「ああ」

 

スイゴもそれに答える。声からは気迫が感じられ、彼がどれだけその試合に意気込んでいるかを表しているようだった。しかし、それに引き換え……。

 

「ふーん、俺は『斬桐 ソウジ』」

 

「おれは『遊勝塾』の『ギユウ スイゴ』だ」

 

目の前の男『ソウジ』は気だるげな声でそう名乗った。白い髪を持ち、眠たげな目をしている少年。フィールドに立つその姿はクールというよりも斜に構えている印象を与えた。

 

「…………」

 

しかし、スイゴはそんな男よりも後ろにいるモノの方が気になった。ソウジの後ろに見える観客席に座る女子達の姿。彼らの手には『LOVE』と書かれた大型のプラカードが握れている。

 

「どうした?」

 

ソウジは何も知らないかのように聞いてくる。あるいは、本当に彼自身は気づいていないのかもしれない。

 

「……別に、それよりもデュエルだ」

 

スイゴはその光景を敢えて視界に入れないようにする。これ以上そのことに意識をとられていると、デュエル所ではない気がしたからだ。

 

 

《…………いるんだなぁ、どの世界にもこういう奴》

 

 

どこか嫉妬のような呆れのような思いを感じつつ、彼はデュエルディスクをセットする。ソウジもまたデュエルディスクを構える。

 

 

 

《《アクションフィールドオン、『浮遊する大草原』》》

 

 

 

足元の大地がみな細長い草へと変わっていく。奇妙なことに、草が集まったかのようなそのフィールドは空中へ浮かんでいた。二人のデュエリストも当然そこに立っている。それはどこか非現実的さを感じさせる光景だった。

 

 

『行くよ、戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が』

 

『モンスターと共に地を蹴りッ!』

 

『宙を舞い』

 

『『フィールド内を駆け巡る』』

 

『見よッ!』

 

『『これぞデュエルの最強進化形、アクション!!』』

 

 

  『『デュエル』』

 

 

ソウジvsスイゴ

LP4000/LP4000

 

 

先行はソウジがとった。彼とスイゴは同時にフィールド内を走り始める。

 

「俺の先行、レベル7の『疾走の暗黒騎士ガイア』はリリースなしで召喚することが出来る」

 

青い鎧で全身を覆ったモンスターが馬に跨がりフィールドに出現する。

 

「この効果で召喚したこのカードの攻撃力は1900になる」

 

ソウジは淀みない仕草でカードを操りながらも足元に落ちていたアクションカードを拾う。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

しかし、デュエルする彼はどこか遠くに視線を向けてしまっている。

 

 

 

「次はおれのターンだ、ドローッ!」

 

おれは目の前の対戦相手がどこか気に入らなかった。デュエルに集中していないのかスイゴのことなど眼中に無さそうな視線が勘に障る。

 

 

《……もしかして、嘗められてないか》

 

 

表情にこそ出さないが、おれは内心すごくイライラしていた。

 

「なら、気づかせるまでだ」

 

足を動かし、目を自分の周囲に向ける。すると、草の上に落ちているアクションカードを見つけた。

 

「よっしッ、おれは手札からアクションカードを一枚墓地に送り『知られざる生誕』を発動」

 

「手札の『無名の医師』と『無名の賢者』を生け贄に捧げ、『無名の剣将』の儀式償還を執り行うッ」

 

 

『その真実は何者にも気づかれず、その英断は何者も知ることはない!しかし、その勇気のみは男の仲間を奮い立たす!!未来を掴めっ!!!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「仲間と共に、戦場を駆けろ『無名の剣将』」

 

 

 

『《おおーっと、スイゴ選手。いきなり儀式召喚を決めてきたぁー!!》』

 

 

デュエルを進行するナレーターの声が聞こえ、スイゴの召喚に観客達がわいた。

 

「まだまだ、おれは手札から『無銘の剣 剛』を発動ッ!このカードを無名の剣将に装備する」

 

強力な剣の力を得て、彼のモンスターはその攻撃力を3000に上げる。

 

「バトルだ、無名の剣将でガイアを攻撃ッ!」

 

スイゴのモンスターの一撃を受け、草原をかけていた青き戦士は破壊された。

 

「……くっ!」

 

 

ソウジ

LP2900

 

 

おれは相手の伏せカードを見る。そこにはまだ使われずに残ったままだ。ソウジの手にはアクションカードも握られている。

 

「……おれは、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

フィールドを足で駆け回りつつ再びアクションカードを探す。相手の出方がわからない以上、打てる手は全て打つようにしたい……。

 

 

 

「…じゃあ俺のターンか、ドロー」

 

「俺は手札から、『超戦士の儀式』を発動」

 

「儀式魔法、使えたのかッ!?」

 

ソウジの言った内容にスイゴは驚愕を隠せない。彼がこの世界で戦うことのは初めての為だ。

 

「手札のレベル4『宵闇の騎士』とレベル4『開闢の騎士』をリリース、これで『超戦士カオス・ソルジャー』の儀式償還を執り行える」

 

 

『白き従者と黒き従者、光と闇は惹かれあう!やがて二つの魂は混じり合い、一人の超戦士を生み出さん!!時を越え覚醒せよ!!!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「混沌の力、今ここに示せ『超戦士カオス・ソルジャー』」

 

 

その戦士の肌は蒼く、その身にはガイアと同じく全身を包むほどの鎧を纏っている。しかし、その鎧には白と黒の模様が全体に浮き出ている。一対の剣と盾を持つ超戦士はここに誕生した。

 

「『カオス・ソルジャー』……」

 

スイゴはその言葉に聞き覚えがある。かつて伝説のデュエリストもその名前を持つモンスターを使っていた。彼自身、儀式召喚の練習の時に使っていたカードなので思い入れもある。

 

「まさか、こんな遠い場所でまた見られるなんてなッ!」

 

「?……俺は『開闢の騎士』の効果発動」

 

ソウジがモンスターの効果を使ったその瞬間、無名の剣将はフィールドからその姿を消した。

 

「ッ!?……何が起きたッ!」

 

「開闢の騎士をリリースして召喚されたこのモンスターは、一ターンに一度相手モンスターをゲームから除外できる」

 

「……しまったッ」

 

これでスイゴのフィールドにはモンスターが居なくなってしまった。カオス・ソルジャーの攻撃力は3000。当たれば一撃でライフの大半を削られる

 

「まだ、『宵闇の騎士』をリリースしたことによる効果発動。この効果で、相手の手札のカードをランダムに一枚次の相手のエンドフェイズまでゲームから除外する」

 

「おい待てッ」

 

これにより、スイゴの手札にあった『無名の傭兵長』がゲームから除外される。

 

「バトルだ、超戦士カオス・ソルジャーでダイレクトアタック!」

 

「させるかッ、伏せカード『見返りなき緊急要請』発動。この効果で、デッキから『無名の商人』を守備表示で特殊召喚」

 

混沌の騎士の放った一撃が、スイゴのモンスターを切り裂いた。

 

「おれは無名の商人の効果で一枚ドローする」

 

「だが、超戦士カオス・ソルジャーは戦闘で相手モンスター破壊した時にその攻撃力分のダメージを与える!」

 

「げッ!?」

 

破壊されたモンスターのダメージの余波が彼に襲いかかった。

 

 

スイゴ

LP3000

 

 

「まだだ、『宵闇の騎士』の効果で戦闘でモンスターを破壊した超戦士カオス・ソルジャーはもう一度攻撃できる」

 

「……ウソだろ。流石にもう通さないアクションマジック『草結』発動」

 

草結

 

相手フィールド上のモンスター一体を選択して守備表示にする。この効果で守備表示になったモンスターは、ターンエンド時に攻撃表示に戻る。

 

「あっ、…………アクションマジック『草解』発動」

 

草解

 

『草結』の発動を無効にする。

 

「何ーッ!?」

 

ソウジのモンスターの足に絡み付こうとしていた草が、力を失ったようにスルスルとほどけていく。つまり、攻撃は静止せず騎士の剣が容赦なくスイゴに一閃を加え……。

 

 

 

「させるかーーッ!墓地の『無名の賢者』の効果発動」

 

無名の賢者

 

レベル4

 

戦士族/効果

 

このカードがリリースして召喚されたモンスターは攻撃力が1000ポイントアップする。一ターンに一度、墓地のこのカードをゲームから除外することで自分のライフを

500ポイント回復する。

AT500/DF2000

 

 

スイゴ

LP500

 

 

「ちぇっ、残ったか。おれはこれで、ターンエンド」

 

そう言って、ソウジは再び走り出した。

 

 

 

敵モンスターによる攻撃をなんとか持ちこたえたスイゴだが、状況は依然として良くない。彼はアクションカードを探しつつ、作成を考える。

 

「まさか、無名の剣将を除外されるとはな……」

 

スイゴの目的である『儀式召喚の先』は、以前は無名の剣将によって成功した。そのモンスターが除外されたとなると、彼がやりたかった事は出来ない。

 

「チッ、仕方ないか。ドローー!」

 

 

《取りあえず、あのモンスターを破壊しないと……》

 

 

「おれは手札から『無名の剣客』を召喚。さらに、この効果でお前のフィールドのカオス・ソルジャーを裏守備表示にする」

 

 

《これで、あのカードと組み合わせればカオス・ソルジャーを破壊できる……!》

 

 

剣客が効果を使おうと相手モンスターに迫る。それを見た、ソウジとモンスターは逃走し出す。

 

「それは困る……あっ」

 

彼は足元に偶々落ちているアクションカードを見つけた。

 

「アクションマジック『幸運』発動」

 

幸運

 

自分フィールド上のモンスター一体は、このターン相手のカード効果を受けない。

 

剣客は見えないなにかに操られるように転ばされてしまう。よって、カオス・ソルジャーには何ともない。

 

「くそ、なら俺は手札から『帰路なき戦闘』発動。これにより、無名の剣客の攻撃力を2000アップさせる」

 

「攻撃力3300だって!?……不味い」

 

「今度は逃がさないッ!バトル、無名の剣客でカオス・ソルジャーを攻撃ッ」

 

慌ててソウジはまたモンスターを連れて逃げる。しかし、一度獲物を逃した剣客の足運びは速くその距離を瞬く間に縮めた。そして、武士による剣の一撃が彼のモンスターを捉え……。

 

 

 

「あっ、有った。アクションマジック『回避』」

 

またもや落ちているアクションカードを見つけた彼は、ギリギリで発動させる。

 

「またかよッ、…………よしッ!アクションカードだッ!!」

 

おれは草の上にある『それ』を手に取り躊躇わずに発動させる。

 

「アクションマジック『奇跡』!」

 

不可思議な力がモンスターを包み、敵の攻撃からその身を守る…………。

 

 

 

「…………って、ふざけんなッ」

 

思わずそう口に出してしまう。スイゴが余計なことをしている間に、モンスターは攻撃に失敗したのかまたもその場で転倒してしまった。

 

「くそ、なんか納得いかねえ。……おれはカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

この瞬間、無名の剣客の攻撃力は効果で0に下がり除外されていたカードは手札に戻った。

 

 

 

 

 

 

スイゴは自身の限界を越えるべく舞網チャンピオンシップ一回戦に挑むが…………こんな調子でいったい大丈夫だろうか。




またメンテ。イライラするな。
ムシャクシャしたからあげました。


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余分なモノ

スイゴによる起死回生の策も失敗に終わり、とうとう相手ターンになってしまった……。

 

 

 

「危なかった。俺のターン、ドロー」

 

ソウジは自分の引いたカードを見て、何かを核心したような笑みを浮かべた。

 

「墓地から『宵闇の騎士』と『開闢の騎士』を除外して、手札から『カオス・ソルジャー-開闢の使者-』を特殊召喚」

 

彼のフィールドにまたも攻撃力3000を誇る超戦士が出現する。青と黄金に縁取られた鎧を着て、その手にはまたも一対の剣と盾を所持している。

 

「さらに、俺は除外された『宵闇の騎士』と『開闢の騎士』の効果でデッキから、『超戦士カオス・ソルジャー』と『超戦士の儀式』を手札に加える!」

 

 

《まさか…………》

 

 

「そして俺は『超戦士の儀式』を発動。手札の『カオス・ソルジャー-宵闇の使者-』をリリースして、『超戦士カオス・ソルジャー』の儀式償還を執り行う」

 

『白き従者と黒き従者、光と闇は惹かれあう!やがて二つの魂は混じり合い、一人の超戦士を生み出さん!!時を越え覚醒せよ!!!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「混沌の力、今ここに示せ『超戦士カオス・ソルジャー』」

 

 

二体目の超戦士の登場にスイゴは頭が痛い思いだった。一体でさえ、強力な効果を持つ攻撃力3000のモンスターが三体も並ぶという事態が起きたのだ。

 

「…………なんか、前にも同じモノを見た気がするな。もう、どうすればいいんだ」

 

彼は泣きたいような気持ちでそう口にした。

 

 

《普通、こんな簡単に儀式カードが『手札』に揃うわけ………………ん?》

 

 

スイゴは一瞬何かが意識に引っ掛かった気がした。それを上手く口には出せなかったが。……そうこうしてる間もソウジはアクションカードを探している。

 

「あっ、見つけた。アクションマジック『草刈り』」

 

草刈り

 

相手フィールド上の魔法・罠カード一枚を手札に戻す。

 

「さらに、俺はリリースされた『宵闇の騎士』の効果を発動。フィールドの『超戦士カオス・ソルジャー』は二体!よって、戻したカードと含めて除外してもらう!」

 

「おい、いい加減にしろよッ!」

 

先程と良い今といい、このソウジという青年は中々に運が良いらしい。引くカードにより悉く自らに有利な状況を作り出している。

 

「さらに、俺は『開闢の騎士』の効果で無名の剣客をゲームから除外!」

 

スイゴの場のモンスターが異空間へと吸い込まれ、その存在を消失させた。

 

 

《ヤバイ…………何も出来ねぇ》

 

 

これによりスイゴのフィールドについにカードが一枚も無くなってしまった。彼は仕方なく、フィールド上に落ちているアクションカードを探すが……。

 

「……見つからない、さっきから使っていたせいかッ!?」

 

辺りに其らしいものは全く見当たらなかった。

 

「バトル、俺は超戦士カオス・ソルジャーでダイレクトアタック!」

 

「させるかッ!おれは墓地の『無名の医師』の効果でこのカードを除外する。そして、『無名の商人』を手札に戻してカオス・ソルジャーの攻撃を無効にする」

 

 

ソウジ

LP4400

 

 

「しぶといな……おれは二体目の『超戦士カオス・ソルジャー』でダイレクトアタック!!」

 

混沌の力を持ったモンスターが再びスイゴへと向かう。圧倒的な存在が放ちながら、戦士は敵へと剣を構えた。

 

「これで、終わりだ…………!!!」

 

このデュエルで二度目となるその凶刃が今彼のライフを一太刀で刈りきる!

 

 

 

「…………まだ、わからないさ」

 

「何を言っている。お前のフィールドにも墓地にももうカードは無いだろ!」

 

「お前のせいでなッ!おれは除外された『意図なき終戦宣言』の効果を発動」

 

意図なき終戦宣言

 

カウンター罠

 

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する。墓地の『無名』と名のつくモンスター一体をゲームから除外して、このターンのバトルフェイズを終了する。またフィールド上のこのカードが相手のカード効果によって、フィールド上をはなれた場合に以下の効果を発動出来る。相手モンスターの攻撃宣言時に発動でき、そのモンスターの攻撃を無効にしその攻撃力分のライフを回復する。

 

「この効果で攻撃して来たカオス・ソルジャーの分のライフを回復」

 

 

スイゴ

LP3500

 

 

「ふざけた効果を…………!ならば、『カオス・ソルジャー-開闢の使者-』でダイレクトアタック」

 

「アクションカードは……無い」

 

 

スイゴ

LP500

 

 

「これ以上出来ることはない。ターンエンドだ」

 

そう言うなりソウジはまたフィールドを走り出す。恐らくは次のアクションカードを手に入れる為に……。

 

 

 

「もうアイツにアクションカードを使わせちゃ駄目だな」

 

先程からこちらの手をそれで潰されている。運も実力の内とはいうが、これ以上は流石に我慢ならない。

 

 

《……と言っても。残っているカードもこれ一枚しかな》

 

 

スイゴは手札を見る。レベル4のモンスターだが少なくともこれだけでこの状況を打開するのは無理だ。

 

 

《……『あのカード』なら》

 

 

彼は一つ考えを思い付いたのかデッキに手を当てる。

 

 

【「なんか、使いどころが難しいな。良いカードなんだろうけど」】

 

 

思い出されるのはシェレンとの記憶。

 

 

《運に苦しめられているおれが『コレ』に頼るのは皮肉だが…………引くしかないッ!》

 

 

幼馴染みとの約束を守るため彼は指にかかるものに自身の運命を託す。それは、まさに『デスティニードロー』。

 

「来いッ、おれのタァァァァーーン」

 

その手で引き当てたものとは…………。

 

 

 

断念なき宝札

 

通常魔法

 

この効果を発動した時、自分の手札・除外されているカードを全て墓地に送る。この効果で墓地に送られた自分のカードが5枚以上ある時、デッキからカードを二枚ドロー出来る。

 

「オーシッ!おれは『断念なき宝札』を発動。この効果で手札と除外されたカードを全て墓地に送る」

 

スイゴの墓地に『無名の医師』、『無名の賢者』、『無名の剣将』、『無名の傭兵長』、『意図なき終戦宣言』、『無名の商人』のカードが送られた。

 

「そしてッ!カードを二枚ドロォーーッ」

 

再び、彼の『指』が『デッキ』が彼自身の未来を作る。

 

「おれは今引いた魔法カード『死者蘇生』を発動ッ!この効果で墓地の『無名の剣将』を復活させる」

 

このカードはスイゴのエースモンスター。故に、ここで召喚されるのは紛れもない必然。

 

「さらに、墓地の『無名の医師』を除外することで、『無名の賢者』を手札に加える」

 

 

《ここから先は『賭け』だ》

 

 

彼自身にもこの先の展開は全く未知の世界。想像を越えた先に、新しいモノを『創造』しなければならない。

 

「おれは手札から無名の賢者を攻撃表示で召喚する」

 

「……?そんなカードで何をする気だよ」

 

デュエルの相手は首をひねっている。これは至極当然の疑問。何故なら……。

 

「『おれにも解らない』」

 

そう言って目を閉じる。あの時の再現をする為に。

 

 

《確か……あの時はシェレンが泣いていて……》

 

 

彼女の涙に心が揺さ振られた。

 

 

《ユウの期待に……応えたかった……》

 

 

彼の闘志が心を燃え上がらせた。

 

 

《何よりおれ自身に……敗けたくなかった……》

 

 

自分の勇気で心も奮い立たせられた。

 

……他にも色々なデュエリストとの記憶がおれの中に残っている。

 

『塾長』、『ユウ』、『リンドウ』、『赤馬』…………誰一人として弱いデュエリストでは無かった。自分よりも強い相手に常にギリギリで戦ってきた。

 

 

《楽しい気持ちもあり…………苦々しい思いもあった》

 

 

それらの感情全てに意味があった気がするしそうでもない気もする。

 

 

 

……でも、全てが有ったからこそ今おれはここに立っている。『余分』なモノは一つとしてなかった。

 

 

          “スイゴ”

 

 

『あの時』のように観客席にいる彼女の声が聞こえた気がする。

 

「聞こえてるよ……シェレン!」

 

答えを得てその目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

知られざる---の昇華

 

--儀式魔法

 

このカードは、自分フィールド上のモンスターのレベルの合計が10以上になるように生け贄を捧げ、発動される。--------から、『無名の剣聖』一体を--儀式召喚する。このカードの生け贄素材の一体は、必ず『無名の剣将』でなければならない。このカードは、『無名の剣将』が儀式召喚されたターンには、発動できない。

 

スイゴのフィールドに再びあのカードが出現する。おれは躊躇わすにそのカードを手にした。

 

「……おれはフィールド上の『無名の剣将』と『無名の賢者』を生け贄に捧げて、『無名の剣聖』の儀式償還を執り行う」

 

 

『その真実は己すらも気づけず、その才気は誰にも知られざる筈だった!しかし、その勇気のみが男と仲間を英雄へと至らしめる!!友の叫びに応えよ!!!』

 

 

『--儀式召喚』

 

 

「仲間を救い、運命を乗り越えよ『無名の剣聖』」

 

 

あの日、彼を救った英雄が再び目の前に現れた。その手には刃の先が折れた巨大な大剣が握られている。瞳には見た者を圧倒するような猛々しい強い意志が感じられた。

 

 

『《なっ……、なっ、なんと!スイゴ選手のフィールドに突然カードが出現したーーー!?》』

 

 

デュエルのアナウンサーは茫然としつつそう告げる。 だが、この光景に驚愕しているのは一人だけではない。観客席にいる人々も……対戦相手ですら理解不能な事態を前に思考が停止してしまっていた。

 

 

『《……しかも、しかも!そのカードを使って、儀式召喚……のようなモノまで決めたぁぁぁーーーっ!!》』

 

 

アナウンサーの震える声が周囲に響き渡る。そうここにいる皆は『コレ』を知らない、『彼』と『彼女』を除いては……。

 

 

『《……しかし、このカードはいったい何処から出てきたんでしょうか……?》』

 

 

その声にスイゴは密かに口を緩ませる。

 

「そんなの決まってる」

 

おれには既にその答が分かっている。色々なデュエリストとの戦いがヒントをくれたから気づけた。『余分』なモノでは無かった……!

 

「おれは『エクストラデッキ』から……この二枚のカードを呼び出したッ!」

 

「エクストラから儀式召喚だと!?」

 

スイゴの言った内容にソウジは困惑の表情を浮かべた。

 

「ふざけるな、そんなの反則だろっ!!」

 

「……デュエルを続ければ分かるさ」

 

もしもこれが『ニセモノ』ならば、このデュエルには恐らく勝てない。

 

「『無名の賢者』はリリースに使用された時に召喚したモンスターの攻撃力を1000ポイントアップする」

 

「さらに、『無名の剣聖』の効果発動。効果によりおれは墓地の『無名の傭兵長』をこのカードに装備する。これにより『無名の剣聖』は攻撃力5250!」

 

「さらに、手札から『穢れなき決闘』を発動。その効果で『無名の剣聖』の元々の攻撃力は二倍だッ!!」

 

「攻撃力8250だとっ!?」

 

様々な力を借りることで英雄はその存在をより高位へと高めた。比類なき努力に裏打ちされた剣技は何者をも退ける。

 

「バトルだッ!おれは『無名の剣聖』で超戦士カオス・ソルジャーを攻撃ッ!!」

 

それは天すらも切り裂かんばかりの力。名も無き英雄は覚醒した混沌の名を持つ戦士へと迫っていく。

 

「……そうはさせないっ!」

 

ソウジは足元のアクションカードへと手を伸ばす。それは、このデュエルで彼を救ってきた力。

 

「アクションマジック『草結』発動っ!これで、アンタの攻撃はもう終わりだっ!!」

 

「……終わり…………何を勘違いしてるんだ」

 

無名の剣聖の歩みは止まらない。

 

「『無名の剣聖』は、このターン、選択したカードの効果を受けない。お前の場に伏せカードが無い、ならば選択するのは当然『魔法カード』だッ!」

 

ソウジの発動したカードは効力を発揮せぬままに砕け散る。そして、彼のモンスターはついに超戦士の目前へと辿り着き……。

 

 

 

ソウジ

LP0

 

 

一閃の元、その生命を完全に絶ち切った。

 

 

 

 

 

 

相手のライフが0になるのを見た。足元の大地が次第に下降していく。リアルソリットビジョンが崩れるのを認識したことで、おれは漸く勝利を実感した。

 

「敗けたよ」

 

戦った相手……『ソウジ』はそうスイゴに言った。デュエル中とは違い眠たげな目はキッチリと開いていた。

 

「ああ、良いデュエルだったッ!」

 

この言葉はスイゴにとっての本心。この強敵と戦ったからこそ、儀式召喚のその先を掴むことが出来た。

 

「……正直さ、少し天狗になってたかもしれない。最近は敗けなしだったからさ」

 

ソウジは『去年、こことは別の大会で優勝してユースに上がった』と話す。戦績もその時から無敗だったらしい。

 

「何か敗けてスッキリした!一からまた優勝を目指すよ!!」

 

気だるげな印象はなくその目には輝きが戻っていた。

 

「じゃあっ、また!」

 

ソウジは『今度はスイゴにもリベンジする』と言い残して去っていく。後ろの観客席の女子も一斉に彼に近づいていった。

 

「…………あれ?」

 

驚くことにそんなソウジに一番速く近づいていったのは、シェレンの対戦相手だった『竹貴 ムツミ』。二人を見ると、まるで恋人同士のような甘い空気を出している。もしかしたら本当にそうなのかもしれないが。

 

「…………帰るか」

 

おれは二人の周りを囲む女子の集団に背中を向け、ただ黙ってフィールドを後にし……。

 

 

 

一人寂しげに去っていくその姿には勝利の余韻など微塵も感じられず……。

 

 

 

スイゴは思った『今日は試合には勝ったが、何かに負けた気分だ』、と。




自分にブーメラン。


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揺るがぬ意思

デュエルしろよ


本選の一回戦を終えて、スイゴは観客席へと向かった。そこでは、彼の試合を観ていた彼女が待っているため。

 

「良い試合だったわ」

 

シェレンは開口一番にそう言った。

 

「ありがとう。まあ、ギリギリだったけどな」

 

「スイゴのデュエルはいつもそうだから気にしちゃだめよ」

 

「おい、どういう意味だ」

 

互いに軽口を言い合う。これで、二人とも一回戦を通過出来たのだから多少は浮かれているのだ。

 

「……で、さっきのモンスターをもう一度見せてくれないかしら♪」

 

「それはいいが…………後にしないか?」

 

おれはデュエルディスクで時間を確かめる。今、スタジアムの第二会場では素良の試合が行われている。一応『遊勝塾』の一員として観戦する義務はある気がした。

 

 

 

しかし、この提案に彼女はあまり乗り気ではない。

 

「えー、行くの」

 

「どうしたんだ、お前らしくない」

 

スイゴはそんな様子に頭を傾げる。いつもなら真っ先に食いついてる筈のシェレンがデュエルを観たがらないのが不思議な為だ。

 

「ん~……ちょーとイヤな予感がするのよ」

 

「まさか…………」

 

何時もの陽気な姿とは違い、今の彼女はどこか思い詰めたような顔をしている。

 

「…………」

 

「シェレン?」

 

何か考え事をしているのかスイゴの言葉も耳には入ってない。

 

 

 

……数分経ち、漸く彼女の表情は何かを決心したようなものに変わった。

 

「…………取り合えず歩きながら説明するから」

 

おれは会場へ移動しつつ、シェレンの話を聞く事にした。

 

「わたしね。二人のことが気になっていたのよ」

 

「二人…………素良と『黒咲』のことかッ!」

 

黒いコートを着こなす謎の少年。おれ達の世界にいた時は『オベリスク・フォース』と対立していた。

 

「そうよ。そして、その対戦相手は素良くん」

 

「…ねえ、スイゴ。これは偶然なのかしら?」

 

「……どういう意味だよ」

 

彼女の言う意味が解らない。少なくとも、あの二人に因縁関係がある噂など遊矢達からは聞かなかった。

 

「もしも仮にこの大会が赤馬の言っていた『ランサーズ』の選別の為の……」

 

「おいッ、待てよ!それは飛躍しすぎだ。一般の大会でそんな大切な事を決めて良い筈がないだろッ!?」

 

声が震える。シェレンの言う内容はただの一般人を『対アカデミア』の兵士にするというものだ。はっきり言って、マトモな考えじゃないし暴論だ。

 

「……そうよね。きっと、素良くんも…」

 

「素良?…アイツがどうしたのか」

 

「!見えたわよ。まだ試合は続いているようね」

 

おれ達はいつの間にか観客席へと着いていた。シェレンに促され、素良と黒咲の戦うデュエルフィールドを見る…………が。

 

「何だよ……これは」

 

元は綺麗にビルが建ち並んでいたとおぼしき町の外見は酷い惨状だった。建物は倒れ、地面は所々砕けており、燃え盛る炎と舞い上がる粉塵がフィールド全体を覆っている。その光景はまるで……。

 

「『戦場』みたいじゃないか……」

 

「観客達も大人しいわね……」

 

「いったい、ここで何が…」

 

スイゴがそこまで言いかけた所で、二人の視線はとあるモノへと向いた。

 

 

『《どうした?少しは…………者の気持ちがわかったか》』

 

 

フィールド上にいる鳥の様な姿をしたモンスター。その全身は紅く金属的な身体を持っていた。そして、それを従えている一人の男の姿。

 

「……『狩られる』?」

 

 

『《キサマたちはいつも…………ら俺の仲間たち……い続けたっ!》』

 

 

「『襲う』……何の事かしら」

 

その男『黒咲』は、素良と向かい合うように相対しながら何かを語っている。

 

 

『《だがっ………打ち…れ…………ではないっ!》』

 

 

話がよく聞こえないおれ達は観客を掻き分けて前の席へと移動する。だが、そうしている間にも会話は進んだ。

 

 

『《遊びさぁ。本気で……………いじゃん》』

 

 

『《だってぇ!キミたちは僕らにとっての『ハンティングゲーム』の獲物なんだからァッ!!》』

 

 

「「っ!」」

 

素良が言ったコトに一瞬思考が停止する。いや、言葉だけではなくその振る舞いも表情でさえおれ達は目を離せない。その姿はまるで『彼ら』の様で……。

 

「まさかっ………………だがッ!!」

 

「そう言う……ことなのっ!!」

 

スイゴとシェレンは彼の様にナニカを感じとった。しかし、未だに確信とはいかない。二人が考えに耽る間も試合はさらに進んだ。

 

 

『《『融合召喚ッ!!』現れ出でよ…………『デス・トーイ・マッド・キマイラ』ァッ!!》』

 

 

素良がグロテスクな人形の集合体のような於曾ましいモンスターを召喚した。ソイツは、まるで楽しむかのように黒咲のモンスターを破壊する。

 

「ふざけるなッ」

 

思わず口から出た。これでは本当に『アイツ』らソックリではないか。それに対する苛立ちが、怒りで腕を震えさせる。

 

 

『《俺たちレジスタンスは……》』

 

 

突如、顔を狂喜に歪める素良に男が言葉を発する。

 

 

『《……ともに戦ってきた仲間を敵に連れさられることも考えながら》』

 

 

黒咲は語った。自らの仲間を必ず奪い返すことを……!その瞳には、邪魔する者は何人であろうと排除するという『鉄の意思』が宿っていた。

 

 

『《『ランクアップエクシーズ・チェンジ』》』

 

 

『《現れろぉぉォ、ランク6『RR レヴォリューション・ファルコン』!!!》』

 

 

黒咲は未知なる召喚法『ランク・アップ・マジック』を駆使して、彼の僕をより強力なモンスターへと変化させる。黒い鎧で身を覆ったその姿はどこか黒咲に似ている気もした。

 

 

『《革命の火に焼かれて、散れっ!!》』

 

 

反旗の意思を宿した『ソレ』は、爆発で町諸とも全てを凪ぎ払っていく。ソレが発する声は、おれ達には酷く悲しく聴こえた。素良は最後に何かをしようとしていたが、結局、デュエルに敗北した。

 

「……終わったわね」

 

「…………ああ」

 

二人は同時に頷く。それは、彼らが覚悟を決めた証。目前では素良が黒咲に向かって何かを言ってるようだがおれ達にはどうでもいい事だ。

 

「素良ァァァーーっ!!」

 

遊矢の悲鳴が聞こえた。きっと、傷ついたアイツのことを心配をしているのだろう。遊勝塾の皆も同じ様な反応だ。

 

 

…………だが

 

 

「アイツはおれ達の『敵』だ」

 

「ええ、そうね」

 

スイゴとシェレンの意思は揺らがない。彼ら二人にとって『紫雲院 素良』という存在に最早それ以外の感情を持ち合わせることはない。

 

「確か、LDS直轄の医務室に運ばれるらしいわ」

 

「なら見張ってるとするか。逃げないように」

 

そう言い残して、彼らはその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

覚悟を決めた二人の背中は、奇しくもデュエルで素良を倒した『黒咲 隼』のそれによく似ていた。




ゲス顔の頃が懐かしい……
というか、いきなり良いヤツになって大丈夫なんですか。


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交わる運命

やっちゃったよ


ベッドの上では一人の少年が眠っていた。その顔は普段の装いからは想像できないほどに幼く見える。いや、年相応と言える。病室の外では、そんな彼を心配する遊矢達の姿があった。

 

 

 

「『黒咲 隼』!」

 

遊矢の目が鋭くなる。先日の試合で遊勝塾の仲間である『紫雲院 素良』を黒咲によって傷つけられた。そのことにひどく腹を立てていたのだ。

 

「どうするのお父さん?病室にはもう入れないみたいだけど……」

 

柚子が不安気な口調で父親の修造に尋ねる。子供たちや権現坂、洋子たちも皆同じように落ち込んでいる様子だ。

 

「そうだな……。どの道これ以上はここにいても出来ることはない。塾に帰ろう」

 

普段の暑苦しい元気さはなりを潜め、修造は静かにそう皆に告げる。塾長という立場にある以上、彼はいち早く生徒たちを立ち直らせる義務があった。

 

「おれとシェレンはもう少しここにいる」

 

突如、スイゴが口を挟む。遊勝塾の人たちからは一歩距離を置いて彼はそう言った。

 

「君たちは二日後試合があるんだ。休んだ方がいい」

 

「おれ達は大丈夫です。それに……心配ですから」

 

そう話すスイゴの姿は冷静そのもの。横にいるシェレンもまた同様に落ち着いているように見えた。 

 

「……しかしだな」

 

「おれは寧ろ塾長たちのほうが心配ですよ。素良だって頭と足に多少傷があるくらいだって……」

 

あくまでも平行線な会話が続く二人に、周囲は不審な様子を示す。

 

「スイゴはっ!どうして、そんなに平然としていられるんだよ」

 

遊矢が責めるような口調で言った。

 

「落ち着けよ。それにおれだって平気なわけじゃないさ」

 

「嘘だろッ!?さっきから、ずっと同じまんまじゃないかっ!」

 

「遊矢くん、自分が見ていることしか出来ないからって彼にあたるのは違うわよ」

 

「……っ!!」

 

シェレンの言葉に黙りこむ。遊矢自身、塾の仲間の為に何も出来ないことを気にしていたからだ。

 

「塾長…………どの道おれらが病院に居られる時間もそう有りません。終わったら、すぐに二人で遊勝塾に帰ります」

 

「……分かった。ただし、あまり遅くなるなよ!」

 

修造はそう告げて塾の皆を連れ帰った。皆こちらに何か思うような視線を向けてくるが二人は黙ってそこに立つ。

 

 

 

……やがて、スイゴとシェレン以外がいなくなると漸く気が抜けたように肩の力をゆるめた。

 

「イヤになるな……あんな気分にさせちまうと」

 

「あれは貴方が悪いわよ。もう少し言い方ってものがあるわ」

 

「ウソはつきたくない、遊矢達にはな」

 

「気持ちはわかるけどね」

 

おれ達はそう言って病室の扉を見る。その先にいる奴のことを考えていたからだ。

 

「素良は『融合次元』だ」

 

「まだハッキリとはしてないわ。あくまで仮にという話なだけ」

 

「だがッ、…………シェレンも見ただろうッ!アイツが喜んでフィールドを壊す姿をッ!!」

 

「スイゴ、落ち着きなさい。さっきの遊矢くんみたいになってる」

 

「…………悪い」

 

確かにさっきまでとは違い、今の自分は冷静とは程遠い。目前の少年が『オベリスクフォース』の仲間なら、遊勝塾の皆が危険に会う可能性があるからだ。

 

「彼はわたし達が来る前から遊勝塾に居たのよ。今すぐに危害を加えることは無いわ」

 

「どうだかな」

 

味方のフリをしてずっとこの世界のことを探っていたとも考えられる。何しろ、遊勝塾には『ペンデュラム召喚』の使い手の榊 遊矢もいるのだ。

 

「……赤馬なら、何か知ってるのかな」

 

「わたしもそう思っていた所よ。これから一緒にLDS本社に向かいましょう」

 

「もう出なくちゃいけない時間だしな。分かった、行こうッ!」

 

それを最後におれ達は病室の前を離れる。建物を出る斉、入口の前には遊矢たちがいたがおれ達はあえて話しかけることはしなかった。

 

 

 

「会えないッ!?それはどうしてですかッ!!」

 

LDSの本社に着いたおれ達は真っ直ぐに受付に行き、赤馬に取り次いで貰うように頼んだ。

 

「赤馬社長は緊急の要件があると仰っています。そのため、面会に来る者はお断りしています」

 

「おれ達だって、緊急の話で……ッ!」

 

「例外はありません」

 

「くっ……要件の内容って何ですか」

 

「それは私には知らされていません」

 

しかし、赤馬には何か用事があるとかで面会謝絶をくらってしまった。この会話をするのも数回目になる。思い通りにいかないイライラで拳にも力が入る。

 

「止めなさい。……すいません、わたし達はもう帰ります」

 

シェレンは受付にそう話して、納得していないスイゴを無理矢理外に連れ出す。建物の外に出ると既に日は落ち辺りは暗くなっていた。

 

「くっそッ、赤馬の奴肝心な時に…」

 

アイツならばもしや素良について何か知っているかもしれない。その考えで来たのにこんな形であしらわれるとは思ってもいなかった。

 

「受付の人が言ってた『緊急の要件』て何かしら」

 

「知らないさ、そんなもん。適当な口実だろッ!」

 

「それにしては……」

 

ふと、シェレンのデュエルディスクから電子音が聴こえた。ディスクを見るとそこには『柊塾長』と表示されていた。彼女はすぐに通話機能を起動させる。

 

「はい、シェレンです」

 

電話に出た彼女は黙々と会話を続ける。

 

「………………ウソっ!?」

 

「どうした」

 

目を見開き驚く様子におれはただならぬモノを感じとった。

 

「…………素良が医務室から居なくなったらしいわ」

 

「何だとッ、アイツがッ!?」

 

スイゴはその事実に焦りを感じる。相手が怪我をしていた為に二人は油断していた。まさか、こんなに早く紫雲院 素良が逃亡を謀るなんて思いもよらなかった。

 

「どうするのスイゴ?」

 

「捜すに決まってるッ!もし、逃がしたらこの世界が大変なことになるぞ」

 

もし仮にそうなったら事は二人だけの問題で済まない。

 

「なら、決まりね!わたしについて来なさい」

 

「アイツの居場所が分かるのかッ!」

 

「おそらくね」

 

 

《勘かよ》

 

 

この非常時においてもどうやら彼女はブレないらしい。そのことを頼もしくとも不安にも感じる。

 

「他にアテもないしな……間違えるなよッ!」

 

「任せなさいっ!」

 

会話をそれで締めて二人はとある方向を目指して走り出す。彼らの向かう先『中央公園』には偶然か紫雲院 素良と榊 遊矢、そして『もう一人』の人影がいた……。

 

 

 

その頃、中央公園では元々争っていた二人の間に新たな乱入者が現れた事でより緊迫した雰囲気になっていた。

 

「フン、答えられるわけないじゃん」

 

この場にいる三人の内の一人、素良は二人にそう喋る。

 

「言えば、自分たちがいかに弱いかを語ることになるんだからさ」

 

愛用の棒つきキャンディーをポケットから取りだし舐めずに一気に噛み砕く。

 

「ソイツは負け犬の残党っ!!僕の仲間たちが制圧したエクシーズ次元から逃げてきたヤツらなんだよ」

 

自身の鬱憤をやつ当たるその行為を終えて満足したのか、彼はまだ半分以上残るソレを足元に投げすてた。

 

「黙れ!」

 

素良の物言いが勘に障ったのか、男は怒りを露にする。

 

「…エクシーズ次元とか融合次元とか…………いったい何なんだよっ!?」

 

先程言った乱入者こと『遊矢』は二人の話す内容に混乱を隠そうとせずに尋ねる。彼は塾仲間である素良が医療室から居なくなったことを知り、ここまで追いかけてきた。

 

しかし、着いた先では素良は見知らぬ男とデュエルの真っ最中で会話も意味不明なことばかりを言っている。彼自身デュエルを止めようにも彼らの言うことが理解仕切れていない。

 

「何より僕自身が許せない!」

 

遊矢が二の足を踏んでいる間も状況は動く。素良は二人に堂々告げるように自分の身の上を聞かせる。

 

「エクシーズの負け犬なんかにやられるなんて、……絶対にありえないっ!!」

 

 

 

 

 

 

「そうかよッ!」

 

「「「!?」」」

 

ふと、遊矢の後ろから声が聴こえた。突然の事態に三人とも声の方向へ向く。

 

「やっぱり…………お前は『アカデミア』だったのかッ!!」

 

遊矢の見た先には、現同居人であり同じ遊勝塾の出場選手である『ギユウ スイゴ』がいた。

 

「何でスイゴがここにっ!?」

 

「素良、答えろッ!お前らの目的は何だ」

 

「…………なるほどね。君たちも別の世界の人間だったのか」

 

「『オベリスクフォース』とはどんな関係なんだッ!!」

 

「……そんなことまで知ってるんだ」

 

遊矢の疑問を無視して、スイゴと素良の会話は続く。

 

「お前らは何で他の次元の人達を襲うんだッ!もしも、言わないなら…………」

 

スイゴはそう言ってデュエルディスクを構えた。

 

 

《バトルロイヤルモード》

 

 

《ジョイニング》

 

 

「その理由、無理矢理にでも吐いてもらうぞッ!!」

 

 

ユートvs素良vs遊矢vsスイゴ

LP3000/LP1300/LP4000/ LP4000

 

 

「おれのターンッ、ドローーーッ!」

 

その指に気迫を篭めて彼はデュエルに望む。

 

「効果により、おれは手札から『無名の傭兵長』を攻撃表示で特殊召喚ッ!さらに、手札から『無名の傭兵』を召喚」

 

場に二体の名もなき剣士たちが出現した。

 

「バトルだッ、無名の傭兵長で素良にダイレクトアタックッ!」

 

「くっ、僕はフィールドに伏せていた『デストーイ・カスタム』を発動!」

 

「この効果で墓地の『エッジインプ・トマホーク』を守備表示で特殊召喚する」

 

無数のカミソリに斧がついたようなモンスターが素良のフィールドに出現した。

 

「だがッ、攻撃力はこっちが上だ」

 

しかし、スイゴのモンスターは魔の宿りし道具形のモンスターを躊躇なく切り裂く。

 

「そしてッ、無名の傭兵で素良にダイレクトアタックッ!」

 

「やめろォッ!スイゴーーーッ!!」

 

遊矢の静止も聞かず、名もなき戦士は己の敵へと迫っていく。

 

「くそっ、この僕がこんな……!」

 

そして、素朴なる剣がついに振り下ろされた…………。

 

 

 




筆が重い


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五つの次元

どこまでがセーフなのか


無名の傭兵が素良を襲いその手に持つ剣で彼を切り裂く

 

 

 

……筈だった。

 

「ワタシは手札から、『電霊 メキラ』の効果を発動!この効果で無名の傭兵の攻撃を無効にする」

 

電霊 メキラ

 

レベル3

 

雷族/効果

 

手札のこのカードを墓地に送ることで、相手モンスター一体の攻撃を無効にする。このモンスターが相手モンスターに攻撃する時そのモンスターを守備表示にする。

AT1000/DF0

 

剣士の攻撃は見えない力に阻まれ、素良のライフを削ることは出来なかった。

 

「やれやれ…………世話の焼ける」

 

「ッ……誰だッ!」

 

突如現れた乱入者によりアイツのトドメを差しきれなかった。おれは声のした方向を向く。そこには、緑色の髪を持つ女性がその手にデュエルディスクをつけている。

 

「……お前はあの時の……!」

 

「ふぅ、ばれてしまったか。仕方ない」

 

おれが橋の上で出会った女。その後、試合を観たいと言っていたその人物だった。

 

「何だ!?また知らない人が……」

 

「まさか、キミもアカデミアかっ!」

 

遊矢と黒いマントの男が口々に彼女に尋ねる。

 

「……ワタシの名は『慈春』。それ以上答える気はない」

 

ヤスハはそう言って口をつぐんだ。目の鋭さや発する空気はおれ達の追求を拒むような雰囲気を出している。

 

「恩知らずめッ!」

 

「………あれを恩というのか?」

 

スイゴが文句を垂れると向こうからは呆れたような声で返された。それから、彼女は視線を素良へと向ける。

 

「素良、独断行動が過ぎるぞ!」

 

「ジャマするなよっ!!オマエには関係ない!」

 

「ワタシが防がなければ今頃ソイツにやられていた。身勝手もいい加減にしろ!!」

 

「うるさいっ!!」

 

おれ達の前で勝手に言い争う二人。これを見て、融合次元の連中は必ずしも一枚岩では無いんじゃないかという気がした。

 

「チッ、カードを二枚伏せてターンエンドだ」

 

スイゴはそのままヤスハを睨み付けた。一挙一足ともに見逃さないようする為。この女もアカデミアの一員ならば、警戒するに越したことはないと考えたからだ。

 

 

 

ユートvs素良vs遊矢vsスイゴvsヤスハ

LP3000/LP1300/LP4000/ LP4000/LP4000

 

 

「ふぅ、気は進まないが。ワタシのターン、ドロー」

 

「ワタシは手札から『冥霊 インダラ』を召喚」

 

冥霊 インダラ

 

レベル3

 

アンデット族/効果

 

手札のこのカードを墓地に送ることで、墓地のレベル3以下のモンスター一体を手札に加える。このモンスターと戦闘したモンスターは破壊される。

AT1000/DF0

 

「さらに、手札から『聖霊 クビラ』を特殊召喚」

 

聖霊 クビラ

 

レベル3

 

天使族/効果

 

手札のこのカードは、自分のターンに自分フィールド上にレベル3のモンスターが召喚された時に自分フィールド上に特殊召喚する。このモンスターが戦闘または相手のカード効果で破壊された時にデッキから『霊』と名のつくレベル3モンスター一体を手札に加える。

AT1000/DF0

 

「バトル、インダラで無名の傭兵長に攻撃!」

 

「おい、攻撃力はこっちが上だ」

 

「解ってるさ!」

 

傭兵長の剣に突き刺されウマに似た姿のモンスターは消滅した。

 

 

ヤスハ

LP2500

 

 

「インダラの効果発動!これにより、無名の傭兵長は破壊される」

 

「何ッ!?」

 

砕け散った筈のモンスターの粒子が剣士の回りを囲う。そして、一気に押し潰し破壊した。

 

「これで終わらないぞ、速攻魔法『融合死霊』発動」

 

融合死霊

 

速攻魔法

 

自分の墓地にある『霊』と名のつくレベル3以下のモンスターで融合召喚する。

 

「ワタシは墓地の『電霊 メキラ』と『冥霊 インダラ』で融合召喚っ!!」

 

 

『恐災はね除けし雷の従者よ、冥府の僕は安楽へと導け!二つは混じり合い、新たな世界へと誘う!姿を変え現れよ!』

 

 

『融合召喚』

 

 

「暗雲を轟かせ、敵に刹那の死を『獣尓真将  メヒラ』」

 

獣尓真将 メヒラ

 

レベル6

 

雷族/融合/効果

 

『電霊 メキラ』+『冥霊 インダラ』

 

このカードが相手モンスターに攻撃宣言した時に発動し、このモンスターの攻撃力を600ポイントアップする。

AT2400/DF2000

 

虎に似た体躯を持ちその肌は黒と黄が混じりあったような色をしている。その身は粒子出来ており、同時に触れたモノ全てを破壊させる程の魔力を秘めていた。

 

「バトル、メヒラで無名の傭兵を攻撃!この瞬間、このモンスターの攻撃力は600ポイントアップだ」

 

雷を纏った猛獣の一撃を受ける。牙を傭兵の身体に突き刺し、高熱が一気にその身を焼いて消滅させた。

 

 

スイゴ

LP2800

 

 

「さらに、クビラでダイレクトアタックだ」

 

「クソッ」

 

小規模の雷弾が放たれスイゴに直撃する。

 

 

スイゴ

LP1800

 

 

「ワタシはカードを二枚伏せて、ターンエンドだ」 

 

 

 

「…………いつも」

 

「どいつもこいつも…どいつもこいつもっ!僕のことをバカにして!!」

 

周囲に怒りをぶちまけるように、素良は文句を露にする。

 

「エクシーズの負け犬も!遊矢も!儀式次元も!アカデミアの奴でさえっ!」

 

「絶対に許さないっ!!」

 

「……素良」

 

遊矢には彼のそんな姿がひどく痛々しく見えた。傷を負いながらもアカデミアの為と己に言い聞かせ、その身を痛めつけようとする行為。それをまだ幼い少年が実行できる事実が。

 

「僕は手札から『簡易融合』を発動。この効果でエクストラデッキから『デストーイ・チェーン・シープ』を特殊召喚する」

 

羊に鎖が突き刺さったような不気味な姿のモンスター。悪魔の魂を宿す非情の玩具が姿を現した。

 

「さらに、『魔玩具融合』を発動!」

 

「フィールドの『デストーイ・チェーン・シープ』と墓地の『エッジインプ・DTモドキ』、『デストーイ・シザー・ベアー』を素材にして融合召喚するっ!」

 

「っ!?止めろ素良!!それは……!」

 

ヤスハが静止させようと声を荒げるが、激昂する素良はまともに話を聞ける状態ではない。

 

「うるさいっ!…僕の力をお前らに思い知らせて上げるよ。アカデミアで培った本当、本物の融合召喚で!!」

 

「最強のモンスターを呼び出してね」

 

三体の凶悪な玩具が混じり合う。彼のフィールドに遊矢達を驚愕させるモンスターが出現した……。

 

 

《ピーーーーーー》

 

 

……否、することはなかった。

 

デュエルディスクがエラーを示す警告音を出す。表面では機械での処理が追いつかなくなったのか、画面に表示されているポリゴンが崩れてしまっている。そして、……。

 

 

《DUEL CLOSE》

 

 

終了を報せるメッセージが、彼のデュエルディスクに現れた。

 

「あっ……止めろっ…」

 

ふいに素良が動揺したような声を上げた。

 

「あのバカ者が!命令違反だ!!」

 

「素良っ!」

 

ヤスハと遊矢が交互に彼のことを呼ぶ。

 

「何だ……?」

 

スイゴは動揺したように疑問を口にした。紫の髪を持った少年はただ素良のことを睨みつけている。

 

「…………まではっ!僕はアカデミアに戻るわけには…行かないんだァァァァ!!!」

 

それは彼の心からの叫び。他の何にも勝るアカデミアの戦士としての願い。しかし、……。

 

 

 

『紫雲院 素良』という存在は、皆の見ている前でその姿を一瞬で消し去った。

 

「…素良!?素良っ!!」

 

遊矢が困惑したような声を上げる。

 

「…………ふぅ、ワタシも戻るしかあるまい」

 

「…ッ!待てよッ!」

 

自身のデュエルディスクに手をかけるヤスハ。そして、スイゴはそれを止めようと彼女に向かって走る。

 

「お前とは、いつかまた決着をつける時が来るだろうな……」

 

「ふざけるなッ、今ここで全て話せッ!おれとデュエルしろォッ!!」

 

「残念だが…………」

 

スイゴの返事を待たずに彼女の姿も素良同様一瞬でかき消えた。

 

「くっそッ、何がどうなってんのかワケ分かんねぇッ!!」

 

ついさっきまでデュエルしていた相手が突然いなくなってしまった。二人がいなくなったことで、アカデミアへの手がかりも消滅してしまった。

 

「シェレンは止められなかったのかよッ!」

 

おれは後ろの森に潜んでいた筈の彼女に叫びかける。すると、後ろからガサゴソと木をかき分けて姿を現した。

 

「無理言わないで!わたしだってそう簡単に出られる状況じゃなかったもの」

 

それに、と言葉を続けた。

 

「恐らく、あのヤスハって人。わたしに気づいていたわよ!」

 

「……!ウソだろッ!?」

 

先程まで戦っていたその女性と彼女の距離は100メートル以上はあった。物陰にも隠れていた。なのに、ヤスハはシェレンのことを知覚できたということになる。

 

「……あれが、本物の『デュエル戦士』か…」

 

「少なくとも、わたし達とは生きてきた『世界』が全然違いそうね」

 

自分たちは元の世界では一般人…………より遥かに上なくらいは身体を鍛えていた。しかし、そんな二人を嘲笑うように彼らは目前から姿を消した。

 

「素良くんの場合は…………勝手に送り返されたという感じね」

 

「……まさか、デュエルディスクにそういう設定が組み込まれていたのか」

 

彼女はその言葉にわずかに頷く。未だ、自分の考えにハッキリとした自信を持てていないのかもしれない。

 

「ふざけるなっ!」

 

スイゴの後ろから苛立ったような声が聞こえた。そちらを向くと、遊矢が黒いマントをつけた男と話している姿があった。

 

「……ん?というか、アイツの顔……」

 

「……遊矢くんソックリね」

 

茫然としたように口に出す。目の前の少年たちはそれだけ似た顔をしていた。そんなおれ達を放って二人の会話は進んでいく。

 

「さっさと、素良を返せっ!」

 

遊矢は焦ったようにマントの男に問い詰めている。先程の会話を聴いて、未だ彼はあの少年のことを仲間と信じているらしい。……いや。

 

「遊矢くんは一般人みたいね」

 

「ああ、アイツだけ何も事情を知らないようだ」

 

デュエルはまだ進行しているのかマントの男は魔法カードを発動させていた。しかし、話していた遊矢は何を思ったのかデュエルを強制終了させる。

 

「……おれも止めるか」

 

どの道、目下の敵である融合次元の人間はいなくなった様子だ。これ以上ムキになってデュエルする必要もない。腕に装着しているそれに手をかけデッキを抜きとる

 

「とりあえず、あの男に話を聞きましょ」

 

「だな」

 

二人はそう決め遊矢たちの近くへ歩いていく。彼らの会話は進行しているようで、少しずつ耳に聞こえてくる。

 

「ヤツラは……アカデミアの連中は侵略者だ」

 

遊矢ソックリの男は語る。融合次元の者達が彼の世界『エクシーズ次元』を襲ったこと。そして、親友の妹を敵により連れ去られたことも……。

 

「『妹』……」

 

その言葉に思わず顔をしかめる。男の話に同情したこともある。……が、それ以上に自分の古傷を抉られた気分になったためだ。

 

「スイゴ。『ユウハ』のことは今考えるべきことじゃないわ」

 

「…………分かってる」

 

腕を押さえて怒りに震える自分を無理矢理止める。彼の話を聴き、さらに融合の奴らのことを許せなくなった。

 

「…………俺たちのデュエルはみんなが笑顔で楽しむもの」

 

「 そうあの日、アカデミアが襲いかかってきたその日までは……」

 

男は彼自身の体験したエクシーズ世界の人々がカードにされていく様子を語る。その内容は痛ましい悲惨なモノで、遊矢やおれとシェレンも胸を痛めるような話だった。

 

「……そんなこと、やっぱり信じられないっ!デュエルを使って世界を侵略だなんて!」

 

遊矢は動揺したように問い詰める。この世界の一般人である彼にとって異世界の男が語る内容はにわかには信じ難い。

 

 

《おれもオベリスクフォースのことが無かったら……》

 

 

恐らくは今頃学園で普通に生活していたかもしれない。しかし、自分ではない他の人々が犠牲になっていた可能性もあった。

 

 

《……だが、おれは……!》

 

 

あのヤスハという女は再び戦うことになると言った。カードにされた学園の人も戻さなければいけない。もう、知らないでは済まされないのだ。

 

「おれ達の知らない世界……本当にあるのか」

 

遊矢は自らの疑問を口にした。既に、おれは彼らのすぐそばまで来ている。

 

「『融合次元』や『エクシーズ次元』が……」

 

「それだけではない…」

 

マントの男はスイゴとシェレンの方へと向く。素良の言った事は聴き逃していなかったみたいだ。

 

「キミたちは、『儀式次元』だな」

 

「……ああ」

 

目の前の男にそう答える。今さら、誤魔化す必要性は感じなかったからだ。

 

「スイゴたちも……『ユート』と同じ。別次元の…」

 

おれ達を見て茫然と呟く遊矢。

 

「ええ、そうよ。わたしとスイゴは別の世界から来たの」

 

シェレンは視線を男の方向に向けた。

 

「ユートくんと同じようにね」

 

「キミたちはどうやって、この世界に来た?融合次元とはどんな関係だ」

 

敵意とはいかないまでも、男は警戒するような目でこちらを見ている。

 

「わたし達も良く分からないわ。『黒咲』て男のことを追いかけてたら、ここに着いちゃったワケだし」

 

「そうか……『隼』が」

 

「あら、やっぱり知り合い?」

 

どうやら、おれ達は思わぬ形で彼らの争いに巻き込まれてしまったらしい。そのことに文句を言う気はないが。

 

「おれの世界にやって来た『オベリスクフォース』てヤツが学園の人たちをカードにしたんだッ!!」

 

「!……そうか、キミたちの世界も…」

 

「いや、まだ侵略はされていない筈だッ!おれ達とお前の仲間が追い返したからな」

 

「それは良かった……」

 

ユートは複雑に顔をしかめているが声音では安心したように聞こえる。

 

「つまり、『融合』、『エクシーズ』、『儀式』……」

 

遊矢が何かを呟いている。見ると、ユートやシェレンも同様に何かを考えているみたいだ。

 

 

「それじゃ、もしかしたら!?」

 

「ああ、確実に存在する……」

 

「「「『シンクロ次元』も……!」」」

 

遊矢とユートは互いに頷きあい、おれを除く三人が一斉に呟いた。

 

「なぜ、世界がデュエルの召喚法によって分かれているのかは謎だ……」

 

「それじゃ、ここは?俺たちがいる世界は何て呼ばれているんだっ!?」

 

ユートの語りに遊矢が言及を重ねる。スイゴも同じ考えのため黙秘をつらぬく。

 

「……『スタンダード』。アカデミアのヤツらはそう呼んでいた」

 

 

《スタンダード……》

 

 

「全ての基礎となる中心の世界ということだろう」

 

ユートの言葉におれは何か違和感を覚える。彼に対してではなく、その内容についてだ。

 

 

《何だ?……何か大切なことを見落としている気が……》

 

 

しかし、おれの頭はそれほどよく無いようだ。いくら考えても全く答えが出てこない。シェレンを見ても首を横に振るばかりだ。

 

「次元がどうのなんて俺にはさっぱりわからない。……でも、これだけはわかる」

 

「デュエルは争いの道具なんかじゃないっ!!」

 

突然、遊矢はそのようなことを言い出した。

 

「…………俺の信じるデュエルは人を笑顔にするための…』

 

「人を幸せにするためのエンタメだっ!」

 

その言葉には頷く。アイツの言うことが解ったから。おれは『沢渡』との試合で見せたアクションデュエルが観客たちを笑顔にしたことを知っている。

 

「お前……」

 

見ると、ユートも遊矢の話に共感するような顔をしていた。

 

「そうだッ、遊矢!お前はそれで……」

 

そんな信念を持ったアイツがカッコいいと感じた。おれは、そのことを遊矢に伝えようと……。

 

 

 

 

「何だ?」

 

……することは出来ず。突然、ある一方向から強烈な光が差し込む。そして、次にはけたたましい何かが衝突したような音が聞こえた。

 

「何なんだよッ!」

 

思わず口にしてしまう。次から次に訪れる予想外の展開にフラストレーションが溜まっていた。それがたった今爆発したのだ。

 

「イッチッチ…………それはコッチが知りたいぜ」

 

衝突の余波で辺りには煙が飛んでいる。その向こうから声が聞こえた。それも……。

 

 

 

「誰だよ……お前」

 

煙が晴れると、目の前に男がいるのが見えた。だが、そんなことよりも疑問なのはソイツが……バイクに乗っていること。

 

 

《おれよりも年下か……何でそんなヤツが》

 

 

バイクならば音がもう少し早く聞こえていた筈だ。しかし、コイツが現れたのは音に気づく直前。

 

 

《ワケ分かんねぇ……》

 

 

ひょっとしたら、また別世界の人間かもしれない。おれはそう考えるが内心の疑問を口には出さない。

 

「……ったくよ!」

 

バイクの男は自分のつけていたヘルメットを脱ぐ。だが、その下の顔は……。

 

 

 

危機は去ってなおも状況は混沌としていく。運命が動く速さを加速させるのはまだまだこれから……。




タイトルをARC-VSに変えようか…


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滅ぼすモノ

アウトだったら、即削除する


「……じゃねぇよッ!お前は誰だッ!!」

 

青い髪の中に特徴的な金色の前髪がはねている。このバナナヘアーだけでも十分に気になるがそれ以上に気になるのはソイツが『遊矢』と同じ顔をしていることだ。

 

「あん?オメェこそ誰だよ…」

 

「おれはスイゴだッ!さっさと、答えろッ」

 

「うるせぇなっ!…………俺は『ユーゴ』だ」

 

「融合?………………いや、ユーゴか」 

 

一瞬、聞きなれた単語が耳に聞こえた気がしたが聞き間違えだと気づく。

 

「融合じゃねぇっ!!ユーゴだ…………んっ?」

 

「ん?」

 

二人は同時に首を傾げる。

 

「俺の名前を間違えないヤツがいるなんて……」

 

目の前の男『ユーゴ』はどこか感動したように目尻に涙を浮かべている。おれに見られているのに気づくとソイツは慌てて腕でそれを拭いた。

 

「俺にソックリな奴が二人!?」

 

遊矢の驚いている声が聞こえた。

 

「お前は……!」

 

ユートの方も同様の反応。彼はユーゴについて何かを確信している様子だ。

 

「ん?…………テメエはっ!」

 

どうやらお互いに面識があったようだ。ただし、会話を聞いていると穏やかなコトではなかったらしい。二人の間では既にデュエルをする空気が出来上がってしまっている。

 

「今度こそ、ぜってぇテメエをぶっ倒してやるぜっ」

 

「いいだろう。相手になってやる…………この融合の手先めっ!」

 

「融合次元の!?」

 

ユートの口から聴き逃せないセリフが出た。つまり、彼が言うにはコイツはアカデミアの奴らの仲間……ということになる。

 

 

《……ん?でも、なんか違和感が……》

 

 

このアホみたいな奴がそんなクソッタレな連中の一員だろうか。悪いのは頭の中だけな気がした。

 

「んー、あの二人何か勘違いしてないかしら」

 

「シェレンもそう思うか」

 

目前で着々とデュエルが進められる中、おれ達は会話を続ける。

 

「例えば、ユートくんがユーゴくんの名前を聞いて勘違いしちゃった……とか」

 

「いや…………それは流石に」

 

あのマントの少年は割と冷静な性格に見える。アイツが『そんな短絡的な間違いをするだろうか』、とは疑問が残る。

 

「つーか、何だあのユートって奴。バイクに乗りながらデュエルしてるぞッ!?」

 

「『メイリン』や『マオウ』たちも似たような構想していたけど……実物は初めて見たわ」

 

「初耳なんだがッ!?」

 

唐突なタイミングで同級生の衝撃の事実をカミングアウトされた。そして、それを実現させるのだけは絶対に諦めさせようと決心する。

 

 

《いや…………危ねぇだろ、アレ》

 

 

スイゴには走りながらデュエルする必要性を見つけられなかった。ユーゴのは自動操縦みたいだが、それでも危険な事実は変わらない。

 

「ムリよ、実物が目の前にあるじゃない。それに……」

 

『ウズウズ』という音が聞こえそうな仕草をする彼女。その姿を見て、おれは一つの不安の種を覚える。

 

「まさか…………シェレン」

 

「そろそろデュエルを止めた方が良いわね!危ないわ、うん」

 

「誤魔化すなッ」

 

スイゴが問い詰める間もデュエルはさらに進行する。ユーゴが『シンクロ召喚』を決め、けん玉に似たモンスターを召喚したのだ。

 

「シンクロ召喚ッ!まさか、アイツは」

 

「シンクロ次元の人間……?」

 

「という事は……シンクロ次元は融合次元の仲間かッ!」

 

「…とは限らないわ。さっき、ユートくんが言ってたじゃない」

 

それを聞いて、アイツが融合次元の手先と言われていたことを思い出す。確かにもし次元自体が敵ならばシンクロ次元のデュエリストと言った筈だ。

 

 

「……まあいいや、取り合えずデュエルを止めに行くぞッ!」

 

「恐らくは勘違い……ね!」

 

ユートがユーゴのモンスターによるダメージを受けたのを見て、これ以上は危険だと察する。二人は彼らの所へ向かって走り出した。

 

「ユート!」

 

遊矢がデュエル中の二人を止めようと割って入ろうとした。…しかし、ユートがそれを手で静止させる。

 

「ユーゴ、お前何やってるんだッ!わざわざお前らが戦う理由がないだろうがッ」

 

「スイゴには関係ねぇよっ!コイツは……俺から大事なモノを奪いやがった!」

 

「大事なモノって何だよ!カードか何かかッ!?」

 

「ぜんっぜん、違げえよバカ!いいから引っ込んでろっ!」

 

「……このッ…」

 

良く分からない説明をされたあげく、この仕打ちだ。いい加減にしろと言いたい。おれは内心の怒りをひたすら抑えるべく努力する。

 

「しかも、コイツ俺の名前を何度も間違えやがってっ!!」

 

「お前がいい加減にしろよッ!!」

 

ユーゴの一方的な語りにツッコミをいれた。もし仮に、コイツがキレている理由がそんなしょうもない事なら本当に許せない。

 

「……奪い取ったのはお前らだ」

 

「うるせぇ!話はテメエをぶっ倒してからだ」

 

ユートとユーゴの間に一種即発の空気が流れる。おれ達がブレーキをかけさせようとしてもコイツらは平気でアクセルを踏みやがる。

 

「俺のターン!」

 

ユーゴがデュエルを再開させ、フィールドに二体のモンスターを並べた。

 

 

《…………ッ……何だッ!!》

 

 

一瞬、身体を貫くような衝撃がはしる。それは感覚的なモノだったが確かにおれの中の『ナニカ』と反応していた気がした。

 

「……何……かしら、今の?」

 

「シェレンもかッ!」

 

見れば、遊矢やユートも顔が険しい。この場にいる全員が『ソイツ』を感じ取っていた。

 

「俺はレベル4の『SR ダブルヨーヨー』にレベル3の『SR 三ツ目のダイス』を『チューニング』ッ!!」

 

 

『その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討てっ!!』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「現れろ、レベル7『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』ッ!」

 

 

その竜の翼は大空の色のように透明で透き通っている。頭部や身体は青と白の色で塗り分けられているかのようだ。瞳に宿る強い意志は翼が発する輝きとどこか似ている。

 

「バトルだっ!!…………旋風のヘルダイブスラッシャァーーーッ!!!」

 

荒々しく大気を巻き込んで身体の周囲に風を纏ったその竜は、剣士の形をとったユートのモンスターを容赦なき打ち砕いた。

 

「…………さあ、来いよ」

 

ユーゴがユートを睨み付ける。

 

「待ってんだよ、俺のクリアウィング・シンクロ・ドラゴンが!」

 

彼は何かを期待するかのようにその名を口に出す。

 

「さぁ、呼ぶがいい!お前の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を!!」

 

ユートもその声に応えるように召喚の構えをとった。遊矢やスイゴ、シェレンが話に置いていかれる中で舞台は最高潮を迎えようとしていた。

 

「俺は、レベル4の『幻影騎士団 ラギッドグローブ』とレベル4の『幻影騎士団 サイレントブーツ』で『オーバーレイ』っ!!」

 

 

『漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!!』

 

 

『エクシーズ召喚』

 

 

『現れよ、ランク4『ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!』

 

 

その全身は文字通り漆黒。剣を思わせる腕と翼は鋭く尖っており、それぞれに発光する宝珠が身体の表面に見えている。何よりも長すぎるアギトが特徴的で、その姿全体からは天に抗おうとせん不屈の意志を感じた。

 

 

《…………ッ……またかッ!?》

 

 

先程のように、また竜が自分の中のナニカと反応している気がした。横を見ると、遊矢はおれ以上に苦しんでいるようだ。

 

「……コイツか?」

 

おれはそう言って『無名の剣将』と『無名の剣聖』のモンスターカードを取り出す。見れば、二枚のカードは薄く発光しているようだ。

 

「何かしら…………」

 

シェレンのモンスター『恋姫-呉王・孫策』もまた反応している。スイゴは、これらのカードがおれ達に何か警告をしているような気がした。

 

「うぅ…………」

 

苦しそうな様子をするユート。遊矢が何か様子が変だと駆け寄ろうとするが……。

 

 

 

「…………よかろう!決着をつけてやる」

 

突如ユートの様子が豹変した。まるで、

ナニカに乗っ取られたかのように攻撃性を顕にしている。

 

「キサマを……全てを…破壊するっ!!」

 

そして、ユーゴもまた同様にナニカが乗り移ったように禍々しい気配を出している。白き竜と黒き竜は互いにその効果を使って相手を蹴落とさんとする。まるで、似て非なる存在を否定するように……その力を奪わんとするかのように対立した。

 

 

「滅ぼす……キサマを……すべてを!」

 

 

「すべてを破壊し、すべてを焼き尽くし……!」

 

 

「「すべてを消滅させる!!」」

 

 

 

……そして、二人の声が重なった。

 

 

《…………ッ……!?》

 

 

その次の瞬間、スイゴの目には目前の彼らではない『別の竜』が写った。

 

 

 

……深い森林を思わせる緑色の身体。翼は所々抜け落ちたかのようにボロボロになってしまっている。頭部には無数の細い傷跡があった。その竜の口には歯と呼べるモノは存在しないかのようだった。

 

 

 

……しかし、その瞳は確かにこちらを視ている。

 

 

《怒り……いや、もっと他の感情か……?》

 

 

何かを伝えようとしている気がした。だが、彼にはその意味が解らない。唯一解ることは…………。

 

 

 

「『ネームレス・リチュアル・ドラゴン』……」

 

「…………スイゴっ!!」

 

肩を叩かれる感触があった。視界が安定するとそこには動揺した様子のシェレンがいた。

 

「ッ!シェレン、ユーゴたちは……」

 

周囲を見渡し彼らを目で探す。あの二人が争っているのにも関わらず、一瞬、意識を失った自分を恥じた。

 

「バトルだ、クリアウィング・シンクロ・ドラゴン!ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴンを攻撃っ!!」

 

彼のドラゴンは既にユートに向かい狙いを定めていた。横にいる遊矢もろともだ。

 

 

《ふざけるなッ……やめろッ……》

 

 

「旋風の……」

 

 

《やめろ……》

 

 

「ヘルダイブスラッシャァァァァッ!!」

 

「やめろォ、ユーゴォォォォッ!!」

 

スイゴの心からの絶叫が辺りに木霊す。彼を止めようと足を全力で働かせた。息つぐ暇もなくただ走り抜けた。

 

「遊矢っ!」

 

ユートが横に少年を突き飛ばす。巻き込みたくないという彼の優しさ故に。だが……。

 

 

 

残酷な輝きを放つ翼竜はそんな彼を容赦なく…………打ち砕いた。

 

 

ユート

LP0

 

 

スイゴは彼らの対決を止めることが出来なかったのだ。

 

「ユートっ!おいっ、大丈夫かっ!?」

 

背後から遊矢の声が聞こえた。しかし、おれはそれをあえて無視する。足を動かし続ける。

 

「ざけんなッ…………このバカヤロウがァァァッ!!!」

 

目前のバイクに乗る男。ユートと争い、彼を傷つけ、今も正気を失っている人物に一発くれてやる為に。

 

「あれ、俺は…………ぐうっ!?」

 

ユーゴの顔面に拳が炸裂する。そのままアイツはバランスを崩し地面に倒れた。もう一発おれがくれてやろうかとした時だ。

 

「痛ってえっ、何だよいったい!」

 

「チッ……眩しいッ!」

 

次の瞬間、辺り一面を真昼の如き眩い光が包んだ。遊矢のいた方向から射してきた気がしたがおれは目の前の男が消える光景を見ている。ユーゴが完全にその姿を消したのを確認すると自分の意識が遠くなることを感じた。

 

 

 

……そして今度こそ、スイゴは完全なる暗い眠りについた。

 




二人の口上は変えられなかった


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次戦への決意

そろそろ、話もダラダラ加速させていかないと。


身体に柔らかいものが触れている感覚がある。ぼんやりと視界にかかる光が眩しい。

 

 

《……ん》

 

 

あまりそこから動きたくない欲求にかられる。確か、寝起きは良かった筈だが今は例外みたいだ。

 

 

《すげぇ……気持ちいい》

 

 

ふと……腕に妙な感触がした。自分が寝ている場所と違う軟らかい感じだ。

 

 

《……何だ……?》

 

 

なぜだか、それが物凄く気になった。眼をゆっくりと開きそれを視認しようとする。

 

 

「あら、目が覚めたみたいね♪」

 

「……ん?」

 

息のかかりそうな距離に『女』の顔があった。そして、『おれ』の腕に触れているものは…………。

 

 

『《………………ッーーーーーー!?!?》』

 

 

次の瞬間、とある家の中に声無き絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「はあっ……はあっ…はっ……」

 

「も~、そんなに気にすることはないじゃない♪」

 

手が、指が、身体全体が震えている。頭を必死にベッドに打ちつけて、先程までの記憶を消そうと試みた。

 

「くッ……」

 

しかし、無理だった。

 

「スイゴとは小学生の時はよくやったわよね♪」

 

「その度にメイリンやリアンに殺されそうになった記憶も残ってるけどなッ!!」

 

毎回彼女がそのイタズラを仕掛けるときはスイゴが寝た後だった。そして、それが二人に見つかると何時も数十発のボディーブローを食らった思い出がある。

 

「……大丈夫よ、ここには彼女たちはいないもの」

 

「ん……ああ、そうだな」

 

シェレンのセリフにようやく自分の現状に気がついた。今おれ達がいる場所は異世界。そして、この部屋は……。

 

 

 

「うおォォォォっ!起きたかい!スイゴくん!!」

 

勢いよく扉を開け、騒がしく部屋に入ってきたその人物。

 

「塾長ッ!?…………つーことは、ここは……」

 

「おおっ!俺の家だっ!!」

 

どうやら、『あの時』に意識を失ったおれはここに運ばれて眠っていたようだ。

 

「……シェレン!遊矢はッ!ユーゴはどこにいった!?ユートは…………!!」

 

「一辺に話すのは止めなさいっ!」

 

「……悪い」

 

彼女の眉が不機嫌そうに形づくる。それを見てスイゴは慌てて従順な姿勢をとった。普段は怒らない人間が怒ると誰であれそれなりに怖いものだ。

 

「……遊矢くんは無事よ。今は自宅で寝ていて、柚子ちゃんとお母さまに看護してもらっているみたいね」

 

「……よかった」

 

「…………ユーゴくんとユートくんはどこかに居なくなったわ」

 

「…………そうか。ユーゴの方は多分元の……」

 

最後まで言い切る前におれは口をつぐむ。目の前には彼女の他に塾長もいる。安易なことは話せない気がしたからだ。

 

「ねえ、スイゴはあの時どうしてボーっとしてたの?」

 

「あの時……」

 

シェレンの疑問におれは昨晩のことをより鮮明に思い出す。暴走する二人に共鳴しあう二体の竜、そして一瞬だけ見た緑色の竜。

 

「『ネームレス・リチュアル・ドラゴン……』」

 

「何のこと?モンスターの名前かしら」

 

「分からない……けど。あの時に視てたことでハッキリ覚えているのはそれだけなんだ」

 

「つまり、それが昨日の謎の行動の理由なわけね」

 

おれはそれに頷く。

 

「にしても、『リチュアル』……」

 

何か気になることでもあるのか。彼女は黙って昨日のことについて考えている。

 

 

…………昨日?

 

 

「げッ!」

 

「シェレン、今日は何日だッ!?大会は……」

 

「落ち着きなさい、大丈夫よ。スイゴが寝ていたのは一日だけだから」

 

「……そうか。つまり、試合は明日か」

 

おれはそのことを聞いて安心した。再び、ベッドの上寝転がる。

 

「すまない、スイゴくん」

 

「ん?」

 

スイゴが休んでいると、先程まで無言だった塾長が話しかけてきた。

 

「病み上がりの君にこんなことを尋ねるのもなんだが……一昨日はいったい何があったんだい?」

 

「!」

 

真剣な口調で彼は自分に質問を重ねる。

 

「シェレンちゃんはどうやら話してくれないようでね。もし知っているなら、スイゴくんには話して欲しい」

 

「…………言えません」

 

塾長の言いたいことは解る。おそらく、生徒である遊矢のことを心配しているのだろう。

 

「どうしてもかい?」

 

「…………おれの口からは……無理です」

 

彼が塾生をどれだけ大切に想っているのかはこの十数日で十分に知っている。

 

……しかし、話すことはまた別の話。一昨日のことを打ち明ければ彼らを巻き込んでしまう。

 

「…………そうか。仕方ないか」

 

「……すみません」

 

「いや、気にしなくてもいいよ。スイゴくんにも何か事情があるんだろう」

 

塾長は本当はもっと問い詰めたいはずだ。けど、おれ達に気を使ってこういってくれているに違いない。事情があるとはいえ何も話せないことがひどく歯痒い。

 

「ところで、君は素良のことを知っているかい?同じく一昨日から行方不明なんだが……」

 

「…………」

 

その質問は不意討ちだと思った。確かにあの日アイツはいなくなった。しかし、その事実を伝えるべきか。

 

「素良は…………元居た場所に帰りました」

 

「どういう意味かな?帰ったとは……」

 

「アイツは遊勝塾に来る前、別の塾に通っていたらしいです」 

 

これ以上は言えないと口を閉じる。多少ウソは混じるがこれが伝えられることの内最大限の譲歩だ。

 

「わかった。素良は自分の意思で帰ったのかい」

 

「…いつかは自分から元の塾に戻るつもりみたいでした」

 

「なるほど!なら、これ以上は聞かんっ!スイゴくんはゆっくりと休みなさい!」

 

「いや……でも遊矢が」

 

「遊矢のことなら心配要らない!洋子さんと柚子も看ているんだっ!」

 

塾長は『それに遊矢はこれくらいで目を覚まさなくなるようなヤツじゃない』、ともつけ加えた。そこには言葉では表せない彼なりの強固な信頼がみえた。

 

「君も病み上がりなんだ。明日、試合もある。その為にも今日はしっかりと寝ておけっ!」

 

「……はいッ!ありがとうございますッ!!」

 

「いい返事だっ!俺はこれから生徒たちのことを見てくる!!それじゃ、スイゴくんっ!!!」

 

「うおぉぉぉーーーー!熱血だーーーっ!!」

 

入ってきた来たとき同様に彼は暑苦しく部屋を去っていった。

 

「いい人よね」

 

「本当にそう思うよ」

 

残された二人はお互いの意見に頷きあう。

 

「で、スイゴはこれからどうするのかしら?」

 

「それなんだが。大会の対戦相手のことを知りたい」

 

「それなら、確かもう決まっていた筈よ」

 

二人はそう言うと、デュエルディスクに登録カードを差し込む。

 

「えーと、梁山泊塾の『炎勝 シズル』か」

 

「わたしはLDS所属の『森山 ジュウ』」

 

写真を見るにスイゴの相手は水色の髪の女性でシェレンの相手は赤い髪の男だ。

 

「アカデミアやユートたちのことは考えなくちゃいけないが、今は試合に集中するかッ!」

 

「そうよ!ここで敗けたら元の世界へ戻る手がかりを失うことになるわ」

 

それこそが彼らがこの大会に出た本当の目的。故に、ここで躓くことだけは絶対に出来ない。

 

「何か、やることがわかったら…気抜けてきた……」

 

「そうね……わたしも寝てなかったし…」

 

片方は未だ疲労が残っており、もう片方は眠気がピークに達していた。ならば、意識を保てなくなるのも当然の話。

 

「シェレン……明日は勝つぞ………」

 

「ふふ…………もちろん………よ」

 

その言葉を最後に二人は同時にベッドに倒れこむ。一緒になって眠る姿は恋人のようであり仲の良い姉弟のようでもあった。

 

 

 

……翌日、柚子が起こすまで彼らはずっとそのままだった。



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ナチュル・ランドオルス

舞網チャンピオンシップユース部門の第二回戦初日。シェレンは既に第三会場内にあるデュエルフィールドにいた。

 

 

 

「う~ん、昨日はよく寝たわ」

 

身体を伸ばしながらそう口にする。朝風呂で身体の汚れは落とした。寝不足による疲労も取れシェレンの今の状態は絶好調といえた。

 

「やっぱりスイゴが横にいると安心するもの。安眠枕、みたいな♪」

 

「おい、なにやってんだよ。早くデュエルしろよ」

 

彼女の前にいた男がそう文句を言う。さっきから、男は五分近く待たされていることにイライラしていたのだ。

 

「ふふふっ、慌てるのは損気よ?ちょっとくらい待ってもいいじゃない」

 

「ふん、それも作戦だろ!こっちが乗ってやる義理はない」

 

シェレンの対戦相手の男は既にデュエルディスクを構え準備完了している。観客席の人たちも始めないことへの文句の声が聴こえる。

 

「しょうがないわね~。…じゃ、やりましょ」

 

「僕はLDS所属の『森山 ジュウ』」

 

「わたしは遊勝塾の『ソン シェレン』。よろしくね」

 

そう言って対戦相手の容姿を見るとまずは赤っぽい髪が目についた。次に、前髪が目を覆うくらいまでかかっているのが特徴的。体系は推測するに中肉中背だろうか。

 

「まっ、余計なことを考えるのは後ね」

 

わたしは腕にデュエルディスクを装着させる。

 

 

 

《《アクションフィールドオン、『ネオサバンナ・ジャングル』》》

 

 

 

瞬間、辺り一面が森林へと変わる。ついさっきまで目前にいた対戦相手の姿も木々や草が邪魔をして殆ど見えないくらいだ。この視界が悪い場所で二人はデュエルをする。

 

 

『さっさと始めよう。戦いの殿堂に……』

 

「『その前にっ!』ちょーと、待ってくれないかしらん」

 

「なんだよいったいっ!」

 

シェレンはジュウのセリフを中断させて観客席の方へ振り向いた。

 

「『私一人じゃ足りないわっ!皆で盛り上げましょう!!』」

 

沢山の人々を眺めつつ、わたしはハッキリと聴こえるように大声で急き立てる。

その言葉に戸惑ったのか観客たちも隣の人と会話する姿が見えた。

 

《……なあどうする…》

 

    《…うーん、けどなー》

 

 《……私、知ってるよ!あの人!…》

 

    《…一回戦のデュエルは中々良かった気がするな……》

 

《……俺は応援するぞっ!可愛くて強いなら言うことなしだ!…》

 

     《…よし、やろうぜっ!!……》

 

「決まったみたいね?それじゃあっ!『行くわよぉーーー!』」

 

 

『《戦いの殿堂に集いしデュエリスト達がっ!》』

 

『《モンスターと共にっ!!》』

 

『《地を蹴りッ!》』

 

『《宙を舞いっ!》』

 

『『《フィールド内を駆け巡るッ!!!》』』

 

『《見よォーッ!!これぞデュエルの最強進化形ッ!!》』

 

『『《アクショォォォォーーンッ!!!》』』

 

 

  『『デュエルッ!!』』

 

 

ジュウvsシェレン

LP4000/LP4000

 

 

 

「ちっ、やりにくいな!僕のターン、モンスターカードを一枚セット」

 

正体不明を表す球状のソリットビジョンが出現する。

 

「僕はこれで、ターンエンドだ」

 

ジュウはフィールドを歩きつつ、小さな声でそう告げた。

 

 

 

わたしはそんな相手の様子を観察している。あの伏せてあるカードには絶対に何かある気がした。

 

「……でも、乗っかってみるのも悪くないじゃない。わたしのターン、ドローー」

 

引いたカードを手札に加える。

 

「よしっ!まずはこっちの番。わたしは手札から『無名の橋越馬』を召喚」

 

無名の橋越馬

 

レベル2

 

獣族/効果

 

このカードはゲーム上『呉』と名のつくカードとしても扱う。一ターンに一度、自分フィールド上に『呉王』と名のつくモンスターが存在する時に発動出来る。デッキから、このモンスターを攻撃力を0にして特殊召喚できる。この効果で召喚したこのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

AT1000/DF500

 

それは歴史に名を残す王が用いた名馬。無名なれど、その活躍は後世にも伝えられている。斑の紋様を持つモンスターが彼女のフィールドに出現した。

 

「もっちろん、行くわよ」

 

シェレンはそう言ってそれに跨がる。アクションデュエルにおいては、このデュエルスタイルが完全に定着してしまった。

 

「バトル、無名の橋越馬で伏せカードを攻撃よ」

 

「ふん、伏せカードは『ナチュル・クリフ』だ」

 

同等の1000の能力を持つモンスター同士ゆえこのままでは相殺するだけで終わるが……。

 

 

 

「さあ、それはどうかしら」

 

揺れ動く視界の端に目的のモノを見つける。彼女は枝に引っ掛かっているソレに手を伸ばした。

 

 

《よしっ!》

 

 

「アクションマジック『ワイルドパワー』発動!」 

 

ワイルドパワー

 

このターン、モンスター一体の攻撃力を500ポイントアップする。

 

シェレンのモンスターは躊躇わずに敵に突撃する。力を上昇させたことで均衡を保てず石壁に似たモンスターが砕け散った。

 

「ちっ、僕は『ナチュル・クリフ』の効果でデッキから『ナチュル・クリフ』を守備表示で特殊召喚する」

 

「わたしはカードを二枚伏せて、ターンエンドよ」

 

周囲を見渡す。アクションカードらしき影は見当たらないから今のうちに探しておこうと思った。

 

 

 

「いくよ、僕のターン。ドロー」

 

足場が草だらけの為か彼は非常に歩きづらそうだ。

 

「ちっ、僕はフィールドのナチュル・クリフをリリース。手札から『ナチュル・バンブーシュート』をアドバンス召喚」

 

それは攻撃力、守備力共に2000を誇るモンスター。ジュウのフィールドにタケノコの形をした植物の精霊が出現する。

 

「このカードのモンスター効果で、オマエは魔法・罠カードを発動できないっ」

 

「あらら、それは困るわん」

 

「はっ、くらいな!バトル、ナチュル・バンブーシュートで無名の橋越馬を攻撃」

 

全力で走り続けるシェレンのモンスターに森の精霊が迫っていく。そうしている間に彼女は頭を働かせていた。

 

 

《あー、あまり長くは逃げられないのよね》

 

 

アクションデュエルにおいて、カードのプレイングを一分以上放棄すれば即座に失格になる。進行を乱す行為も同様だ。故に、その時間ギリギリまでにアクションカードを見つけるなり対処する必要がある。

 

 

《……あった!なら、もういいわ♪》

 

 

手に掴んだアクションカード。もちろん、この場面で使うことはできない。

 

 

《お楽しみは取っとかないと……ね》

 

 

そう思った瞬間、彼女のモンスターがスピードを緩める。それによりタケノコの攻撃がヒットし、それはアッサリと破壊された。

 

 

シェレン

LP3000

 

 

「逃げるなよ、面倒くさい。僕はこれでターンエンドだ」

 

無事にモンスターの直撃を避けたシェレン。それに追いついたジュウは自分の番を終了させる。

 

 

 

「さーてと、じゃあ次はわたしのターンよ。ドロォーーー!」

 

「まだ、出てくるには時期が早いわよ?手札から『呉国の暗躍兵』を召喚。そして、効果を発動」

 

シェレンの兵士がタケノコを地面に埋めにかかる。完全にその姿が見えなくなるとモンスターはセットされた状態に変わった。

 

 

「僕のモンスターが!」

 

バンブーシュートの効果は表側表示でしか発動しない。よって、この展開は彼女の予想通りになった。

 

「さあ、これで発動できるわよ。わたしは伏せカード『呉の増員要請』を発動」

 

「この効果でデッキから、『呉国の追撃兵』を特殊召喚」

 

弓を背負い、その手には剣が握られている。シェレンの場に新たなモンスターが登場した。

 

「さらに、わたしは『戦場の旗印 呉』発動。このカードを呉国の追撃兵に装備よ」

 

人の身体よりも一回り大きな布を揺らして兵は己の主を仰ぐ。ついでに、その攻撃力も2300に上げた。

 

「バトル、呉国の追撃兵で伏せカードを攻撃!」

 

目前に迫り来る攻撃を見て、男はとっさに足下のカードを使う。

 

「させるわけないだろっ!アクションマジック『奇跡』発動」

 

不可思議な力がモンスターを破壊から守りその姿を露にさせた。

 

「あらら、表になっちゃた。やるわね!」

 

「当たり前だっ!」

 

しかし、攻撃が不発に終わっても彼女の余裕は崩れない。

 

「…………でも、ダメージは受けてもらうわ」

 

「何っ!?」

 

 

ジュウ

LP3700

 

 

「わたしはこれでターンエンドよ」

 

飄々とした様子で兵の馬に乗った。今日の自分はいつも以上に気分がハイになっている。鼻唄を歌いつつ、その移動の足を急がせた。

 

 

 

「ふん……僕のターンだ。ドロー」

 

「僕は手札から『ナチュル・パンプキン』を召喚。効果で手札の『ナチュル・バタフライ』を特殊召喚」

 

「さらに、レベル4『ナチュル・パンプキン』にレベル3『ナチュル・バタフライ』を『チューニング』」

 

「…来るわね!」

 

 

『森を支えし大地の長、数多の野生を司りしパワー!今こそ震わせよ』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「大自然の力、レベル7『ナチュル・ランドオルス』」

 

その背中には大地を背負っている。調和を望む森の賢しき大亀がジュウのフィールドに出現した。

 

「ナチュル・バンブーシュートを攻撃表示に変更っ!」

 

「バトルだっ、ナチュル・ランドオルスで呉国の追撃兵を攻撃!!」

 

 

シェレン

LP2950

 

 

攻撃がモンスターに直撃しシェレンは空中に投げ出される。

 

「まだだ!ナチュル・バンブーシュートでダイレクトアタック」

 

「いったーい」

 

 

シェレン

LP1050

 

 

暗躍する兵士もまた消滅しその衝撃が相手を襲った。

 

「はっ、僕はこれでターンエンドだ」

 

痛そうに尻餅をついているシェレンを見て、ジュウは気分よさげにそう告げる。

 

 

 

「いったた……」

 

今度は飛び降りるのが間に合わなくて、身体をおもいっきり地面に叩きつけてしまった。

 

「少しラフじゃないかしら?まあいいけどね、ドロー」

 

わたしは手札に目を向ける。そして、チラリとアクションカードも見た。

 

「わたしは自身の効果により『呉国の騎馬兵』を特殊召喚するわ」

 

「残念だが発動させないぜっ!」

 

「ナチュル・ランドオルスの効果発動。手札の魔法カードを一枚捨てて、効果の発動を無効にする」

 

ジュウは『ナチュルの森』を墓地に送る。

 

 

 

……その姿を見て思わず口に出してしまった。

 

「………ふふ」

 

「っ!?……なにが可笑しいっ!!」

 

「そう簡単にはいかないってコトよ。わたしは手札から『呉国の憲兵』を墓地に送る」

 

呉国の憲兵

 

レベル3

 

戦士族/効果

 

一ターンに一度、手札からこのモンスターを墓地に送り発動する。相手のモンスターカード一体の効果の発動を無効にする。

AT1500 /DF1000

 

「なに!?そんなカードはっ!」

 

「ムツミとの試合では苦戦したからね。対策は当然よ?」

 

これにより大亀による抑止の効果も無力化される。

 

「バトルよ!呉国の騎馬兵でナチュル・バンブーシュートに攻撃」

 

「ちっ!」

 

剣の一撃を受け、タケノコの姿をしたモンスターは漸く破壊された。

 

 

ジュウ

LP3500

 

 

「さあ、お次はこれよ!アクションマジック『マッドエリア』発動」

 

マッドエリア

 

相手フィールドのモンスターカード一体を裏守備表示にする。

 

「だがっ!オマエの攻撃はもう終わってる」

 

「次の俺のターンで」

 

 

 

「……甘いわね♪」

 

そう言って、デュエルディスクに手を当てた。

 

「わたしは、罠カード『好機連戦』を発動!」

 

好機連戦

 

通常罠

 

このターン、相手のモンスターカードの表示形式が変更にされた場合に発動できる。自分フィールド上の攻撃宣言を行った戦士族モンスター一体を選択してそのモンスターはこのターン一度のバトルフェイズ中に二回攻撃できるようにする。

 

「よって、呉国の騎馬兵でもう一度バトルできる」

 

ジュウは周囲のアクションカードを探すが無数の草に邪魔され見つけることができない。

 

「ナチュル・ランドオルスに攻撃!」

 

想定外の事態のため避ける暇は間に合わない。二度目の騎馬兵による一撃がセットされたカードを容赦なく貫いた。

 

「これで、ターンエンドよ!」

 

モンスターと共にフィールドを走り続ける。何度阻まれようともこの信念は変わらないからだ。

 

 

 

「ちっ、おれの……」

 

「貴方……そんな風にデュエルしていて楽しい?」

 

「……っ!」

 

対戦相手から突然そのようなことを言われジュウは戸惑ってしまう。

 

「オマエには関係ないだろっ!」

 

「ないわよ」

 

シェレンはキッパリと言い切った。

 

「……でも、観客たちはどうかしら?」

 

「…………」

 

「デュエルで勝つために効率よくプレイングするのは当たり前」

 

「でも、毎回同じようなことを見せられて飽きないとは考えない?」

 

「うるさいっ!」

 

説教くさいセリフを聴かされイライラしたのか声を荒げる。

 

「わたしはアクションデュエルが好きよ」

 

「だから、貴方たちとはもっともっと『スリリング』な試合がしたいのよ♪」

 

「ふんっ!僕のターン、ドローーーっ!」

 

彼は話を無理矢理中断させる。しかし、その態度は明らかに先程よりもイラついていた。

 

「手札から『ナチュル・ドラゴンフライ』を召喚!」

 

「このモンスターは墓地の『ナチュル』モンスター一体につき、攻撃力を200ポイントアップする」

 

墓地に存在するのは『ナチュル・クリフ』二枚、『ナチュル・ランドオルス』、『ナチュル・バンブーシュート』、『ナチュル・バタフライ』、『ナチュル・パンプキン』の六体。

 

「よって、攻撃力は2400!バトルだ、ナチュル・ドラゴンフライで呉国の騎馬兵を攻撃っ」

 

そう言うと、二人は同時に動き出す。

 

「ふふっ、ならコレはどうかしらー?アクションマジック『回避』」

 

草の上に落ちているカードを拾い上げ、シェレンは発動させた。

 

「しつこいんだよっ!」

 

ジュウもまた木に挟まっているソレを見つけた。

 

「うぉぉぉーーー!」

 

助走をつける。そして、全身のバネを使ってその身体を一気に跳び上がらせた。

 

「……よっし!アクションマジック『薮蛇』!!」

 

薮蛇

 

相手のアクションカードの発動を無効にする。

 

「これで、戦闘は続行っ」

 

トンボを模したモンスターの体当たりを食らって、騎馬兵は吹っ飛ばされる。

 

 

シェレン

LP850

 

 

「やるじゃない!」

 

「…………ちっ!僕はこれでターンエンドだ」

 

シェレンの言葉を聞くと彼はどこかに走っていった。視線をウロウロさせているのを見ると……。

 

 

 



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真恋姫-覇王・孫策

これぞH・R殺し


先の見えない展開に彼女はワクワクしていた。

 

 

 

「やっぱりこれよね!これがアクションデュエルよっ!!」

 

自分だけでなく相手もまたカードを取り利用する。この実体のある架空の大地を踏みしめて歩きまわれることが最大の魅力。

 

「ただ突っ立てるのなんて、勿体無いもの」

 

血が熱くなる。この状況が自分自身を燃え上がらせているのがわかった。

 

「わたしのターン、ドロォーーッ!」

 

足を動かした。相手よりもさらに先を行けるように。

 

「手札から『犠牲の置き土産』発動!この効果で墓地の『呉』と名のつくモンスターをデッキに戻し……」

 

彼女の墓地にあるモンスターカードは『呉国の騎馬兵』、『呉国の暗躍兵』、『呉国の憲兵』、『呉国の追撃兵』、『無名の橋越馬』。

 

「カードを二枚ドロォーーーッ!!」

 

 

《来た!》

 

 

引いたカードを見て確信を得る。この状況を打破する手を。

 

「わたしは手札から『高等儀式術』を発動。この効果でデッキの『呉国の見習い兵士』と『呉国の防人兵』を生け贄に捧げる」

 

「これにより、 手札の『恋姫-呉王・孫策』の儀式償還を執り行う!」

 

 

『民は思いを託し、兵は忠誠を捧げよ!そして国を統べし王は全ての願いを背負い、戦え!!敵を打ち砕けっ!!!』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「天下万民こそ、我望み『恋姫-呉王・孫策』」

 

 

過去、桃色の髪を持ちその美貌は人々を魅了したと言われる。しかし、それ以上に剣を扱うその力こそが皆を震え上がらせた。ここにシェレンの切り札が出現する。

 

「攻撃力2800……!だが、それでも僕のモンスターは…」

 

「さらに、手札から『丘陵の疲弊陽動』発動」

 

丘陵の疲弊陽動

 

速攻魔法

 

自分フィールド上の『呉』と名のつく戦士族モンスター一体を選択する。このターン、選択されたモンスターは戦闘した相手モンスターをその効果に関わらず破壊する。

 

「何だとっ!?」

 

「まだよ!」

 

手を動かそうとも走るのは止めない。目的のモノへの距離はもうすぐそこだ。

 

「…掴んだ!アクションマジック『ウッドソード』」

 

ウッドソード

 

このターン、自分フィールド上のモンスター一体の攻撃力は300ポイントアップする。

 

森の加護を受けた剣が彼女のモンスターにより強力な力を与える。

 

「バトル!呉王・孫策でナチュル・ドラゴンフライを攻撃!」

 

トンボ型のモンスターとの攻撃力の差は700。よって、二回攻撃を食らえば彼のライフはゼロになるが…………。

 

 

 

「させるかぁぁァァっ!」

 

ジュウもまたずっと走り続けていた。デュエルに敗けたくない想いがそうさせる。彼女に感化された心が彼のデュエリストとしての実力をさらに高めていた。

 

「アクションマジックッ!『ワイルドパワー』発動」

 

「よって!攻撃力は2900にアップだっ!!」

 

王の一閃により彼のモンスターは切りさかれる。

 

 

ジュウ

LP3300

 

 

「さらにっ、ダイレクトアタックっ!!」

 

「ぐうぁぁぁっ!」

 

今度は、叫び声を上げて吹き飛ばされる。

 

 

ジュウ

LP200

 

 

「…………まだだっ」

 

その闘志はまだ消えてはいない。希望は残されている。

 

「ターンエンドしろっ!」

 

「いいわっ!わたしはこれでターンエンドよ」

 

この瞬間、シェレンのモンスターの攻撃力は元に戻った。

 

 

 

ジュウの場にカードはない。なけなしの二枚の手札があるだけだ。

 

「絶対に勝ってやるっ!」

 

しかし、その欲求だけは今までの中で一番強くなっていると感じた。彼はこのデュエルにだけは敗けたくないと。

 

「僕のターンっ!ドロォォーーッ!!」

 

ジュウは手札を見て、相手に目を向ける。

 

「アンタの言うとおりだ。確かに今までのデュエルは自分勝手だったかもしれない……」

 

「…けどっ、アンタは全力で戦ってくれる。なら、僕もそれに全力で応えてやるよっ!」

 

「来なさい!わたしはアクションマジック『ワイルドパワー』を発動」

 

この効果でシェレンのモンスターの攻撃力が3300に上がった。

 

「僕は手札から『ナチュル・マロン』を召喚!そして、効果でデッキから『ナチュル・レディバグ』を墓地に送る」

 

栗に似た姿を持つ精霊がフィールドに出現した。

 

「さらに、墓地の『ナチュル・クリフ』と『ナチュル・ドラゴンフライ』をデッキに戻すことでカードを一枚ドロー」

 

「フィールドの『ナチュル・マロン』の効果が発動したことにより手札から『ナチュル・ハイドランジー』を特殊召喚する」

 

色鮮やかな花をその身に咲かす可憐なるモンスターも生誕した。

 

「それで終わりかしら?」

 

「まだあるさっ!僕は魔法カード『ワン・フォー・ワン』を発動。手札から『ナチュル・パイナポー』を墓地に送り……」

 

「デッキから、『ナチュル・チェリー』を特殊召喚する」

 

これによりフィールドには三体のモンスターが揃う。そして、それが意味するのは……。

 

 

 

「僕はレベル5の『ナチュル・ハイドランジー』とレベル3の『ナチュル・マロン』にレベル1の『ナチュル・チェリー』を『チューニング』ッ!!」

 

 

『森の血を継ぐ獣よ大地を響かせ、今覚醒しろ勇猛なるパワー!咆哮せよ!』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「大自然の力、レベル9『ナチュル・ガオドレイク』」

 

タテガミは植物で出来ており、身体は獅子のそのもの。森の頂点に立つ両者の長が今、フィールドに君臨した。

 

「まだだ、僕は墓地の『ナチュル・レディバグ』を特殊召喚する」

 

「そしてっ!このカードをリリースして『ナチュル・ガオドレイク』の攻撃力は4000にアップする」

 

「ウソッ!」

 

仲間の力を借りることで体躯がより大きさを増したようだ。

 

「バトルだっ!ナチュル・ガオドレイクで呉王・孫策を攻撃ッ!!」

 

大自然の王者がシェレンへと迫る。しかし、彼女も準備して無かった訳ではない。

 

「アクションマジック『マッドエリア』。これで攻撃力は出来ないわっ!」

 

 

 

「…………それはどうかなっ!!」

 

ジュウは足を動かす。そして、木と木の間に挟まっているアクションカードを掴んだ。

 

「そう来ると思っていた!アクションマジック『薮蛇』を発動」

 

そう、先程も用いたカードが再び彼を救う。

 

「これによって効果を無効にする。切り裂けえっ!!」

 

野獣の爪が敵を襲いモンスターを打ち砕いた。ここで二体の王による戦いは森の王者が人の王者を下して決着する。

 

 

シェレン

LP150

 

 

「僕はこれでっ、ターンエンドだッ!!」

 

この瞬間、ナチュル・ガオドレイクの攻撃力は元の数値に戻った。

 

 

 

「さあ、オマエも持てる全てをぶつけてこいっ!それを真っ向から受けて立ってやる!!」

 

ジュウがシェレンに向かってそう宣言する。

 

「…………ふふ」

 

自分の場にはモンスターも伏せカードもない。手札もゼロだ。

 

「……困っちゃうわね~」

 

相手の場には攻撃力3000のモンスターがいる。

 

「このドローが全て……ね」

 

デッキにはこの状況を打破するカード見つからない。次は耐えられたとしてもそれは所詮一時しのぎだろう。

 

「……けど、ワクワクしてしょうがない!わたしのターン……」

 

例え不利だとしても諦めることはない。何故なら、彼女にとってその選択肢はあり得ない。それがどれだけ詰まらないコトかを知っているから……!

 

「ドロォォォーーーー!……諦めることなんて、何時でも出来るわ!!」 

 

その手だけが運命を切り開く。渾身のドローにより引いたカードは……。

 

 

 

「手札から『死者蘇生』を発動っ!」

 

「わたしは、墓地の『恋姫-呉王・孫策』を攻撃表示で特殊召喚よ!」

 

「なに!守備表示じゃないのかっ!?」

 

動揺したような声が耳に入った。確かに自分でも理解不能な行動だ。けど、意味はある。

 

「最後の一瞬まで『ソン シェレン』は戦い続ける!何人が相手であろうと敗走の上倒されるのは許されないっ!!」

 

これこそが私自身のプライド。いかに下らないと思われようとも。

 

「バカかオマエはっ!?」

 

呆れたように怒鳴り声を上げるジュウ。

 

「無謀は承知…………でも」

 

 

《もし仮に、死に場所があるならソレは戦場。わたしはデュエルの中で死にたい!》

 

 

それこそが戦いを一番の楽しみにする彼女の存在意義。だからこそ…………。

 

 

 

 

 

 

ーーーを掴みし王の降臨

 

--儀式魔法

 

このカードは、自分フィールド上のモンスターのレベルの合計が10以上になるように生け贄を捧げ、発動される。--------から、『真恋姫-覇王・孫策』一体を--儀式召喚する。このカードの生け贄素材の一体は、必ず『恋姫-呉王・孫策』でなければならない。このカードは、『恋姫-呉王・孫策』が儀式召喚されたターンには、発動できない。

 

奇跡は必然となりその姿を現すのだ。

 

 

 

「え」

 

「……ちょ…………何なの!?このカードはっ!」

 

見知らぬカードがフィールドに出現してわたしは思わず二度見してしまう。

 

 

《……確か…スイゴもこんなカードを使っていたわね……》

 

 

「…………ま、いっか!自分フィールド上に『恋姫-呉王・孫策』が存在する時、デッキから『無名の橋越馬』を攻撃力を0にして特殊召喚するわ」

 

道なきデュエルのロードを乗り越える為。再び王の僕がフィールドに出現した。

 

「そして、わたしはフィールド上の『恋姫-呉王・孫策』と『無名の橋越馬』を生け贄に捧げる!」

 

「これにより『真恋姫-覇王・孫策』の儀式償還を執り行う!!」

 

 

『民の命を背負い、兵の誇りに報いよ!さらば亡き戦士の無念も抱え、王は道を切り開かん!!天をも掴めっ!!!』

 

 

『--儀式召喚』

 

 

「天下万民の願い、今こそその手に『真恋姫-覇王・孫策』」

 

 

桜を思わせる髪の色は変わらない。その美貌はさらに美しさを増した。とある大陸の礎を築きし小国の姫君は今ここに真に女王として覚醒を果たした。

 

真恋姫-覇王・孫策

 

レベル10

 

戦士族/--儀式/ 効果

 

このモンスターは儀式召喚された場合、このカードのコントロールは召喚された元々の場から別のプレイヤーにコントロールが移る効果を無効に出来る。

このカードはゲーム上、『呉王』と名のつくモンスターカードとしても扱う。

一ターンに一度、フィールドにいるこのカードはカード効果を無効にできる。その効果を無効にした時このターンの間このモンスターの元々の攻撃力は二倍になる。AT3200/DF2600

 

「バトルよ、覇王・孫策でナチュル・ガオドレイクに攻撃」

 

黄金の剣を片手にシェレンのモンスターが敵へと迫る。

 

「ちっ!僕はアクションマジック『回避』を発動」

 

 

《かかった!》

 

 

「それを待っていたわっ!」

 

「何だとっ!?」

 

その足を休みはしない。敵を見逃すことなど有り得ず。己が覇道を阻む者は何人も赦さないと言うかのように地を駆けた。

 

「このカードは一ターンに一度、自分のターンに発動したカード効果を無効にできる」

 

「さらにっ、その攻撃力を二倍にするわっ!!」

 

覇王の威光が全てを怯ませる。彼女のモンスターは自らが認めた敵に容赦しない。

 

「……攻撃力6400だとっ!?」

 

「天上天下、唯我独尊なる覇王の一閃!その記憶に永久に留めて置きなさい!!」

 

雌雄を決する刃は今降り下ろされ……。

 

 

 

ジュウ

LP0

 

 

同時にこのデュエルの勝者が決まった。

 

 

 

観客たちは皆彼女に声援と拍手を送っている。限界越えたデュエリストのぶつかりあいによる勝負の決着は誰しもを興奮させた。

 

 

『《…怒濤の攻撃により、デュエルを制したのは『ソン シェレン選手』!》』

 

 

『《よって、三回戦進出だぁーーーっ!!》』

 

 

アナウンサーにより賛辞が綴られる中で目の前の男はわたしを見ている。

 

「……ちっ、これじゃおれがピエロじゃないか」

 

ふて腐れたようにそう喋るとジュウは視線をそらした。そのまま入り口へと帰っていく。

 

「………………ろよ」

 

『ボソッ』とした声で最後にシェレンへの言葉を残しながら。

 

「……ふふっ、素直じゃないわね♪」

 

できるならばもっと直接言って欲しいものだ。けど、あれが彼なりの最大限のエールなのだろう。

 

「それじゃ、帰りましょうかっ!」

 

見守ってくれた観客たちに手を振った。そして、スイゴのいる場所へ向かうべくデュエルフィールドを後にする。

 

 

《『優勝しろよ』て……そう簡単な話じゃ無いけどね》

 

 

敗者の想いも背負いこれからも進んでいく。シェレンはこのことを心に深く刻み込んだ。

 



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共感する者

一方でシェレンがデュエルをしている最中、彼は『とある人物』との再会を果たしていた。

 

「……おれに何か用か?」

 

目の前にいる男へそう尋ねる。おれの発言が気に入らなかったのか男は鋭い目でこちらを睨み付けてきた。

 

「キサマはあの夜に『ユート』と一緒にいたっ……!」

 

その言葉にあの時のことを見られていたのかと動揺した。

 

 

《しかし、ならどうして……》

 

 

もし仮に知っていたなら何故この男はその場に居合わせなかったのか。仲間を助けようとはしなかったのか。

 

「……答えろォッ!!」

 

彼は怒気をより強くしスイゴを問い詰る。その様子にますます疑念が強くなった。

 

「おれこそ聞く、『黒咲 隼』!……お前はあの日どこにいた」

 

「ユートがいなくなる時まで……テメエは何をしていたッ!!」

 

「キサマがユートのことを語るかっ!!」

 

二人の間に険悪な空気が流れる。しかし、おれもこの状況で引くことはできない。

 

「見捨てたのか!?仲間をッ!」

 

「違うッ!俺はあの日駆けつけようとした!」

 

「『あの男』が止めなければっ!おれはユートを助けられたッ!!キサマらがアイツを…!」

 

黒咲の言葉に新たな疑問が生まれた。

 

 

《コイツを止められるような人間?》

 

 

素良とのデュエルで、彼を終止追い詰め続けたデュエリスト黒咲。それに対抗できる力を持つとすれば……。

 

 

 

「あの男…………まさか!『赤馬』のことか」

 

「そうだッ!あの日、ヤツと共におれはユートのことをモニターでみていた。……しかし」

 

「突然明かりは消えた。モニターが再開した時には既にユートの姿は写っていなかったッ!!」

 

一旦そこで言葉をきる。

 

「そこには『榊 遊矢』、『ソン シェレン』。…そして、『ギユウ スイゴ』オマエらだけがいたっ!!」

 

「答えろォッ!ユートをどうした!あの時に何をしたァッ!!」

 

深い事情は知らない。……ただひとつだけこの男のことが解った。故に、おれは彼に正直に答える必要がある。

 

「…………あの日、おれ逹はアカデミアのデュエリストと戦っていた」

 

「それは知っているっ!」

 

「アイツらは逃げた。……その後、もう一人デュエリストが現れた」

 

「…なんだと?何者だソイツはッ!」

 

「『ユーゴ』」

 

「ユートはソイツのことを融合の手先と呼んでいた」

 

おれの言葉に何か思い当たるフシがあるのか彼は黙って聞いてくれている。

 

「ソイツはバイクに乗っていて、シンクロ召喚を操っていた」

 

「……まさか、アイツがっ!!」

 

やはり、黒咲はユーゴのことも知っていたようだ。この男もアイツのことを融合の手先だと思っているに違いない。

 

「その後、二人の召喚したドラゴン同士が共鳴し出して…」

 

「……何を言っている」

 

苛立つような呆れたような視線を向けられた。そんなこと言われても当事者なのに理解できていないおれは困ってしまう。

 

「…さらに、ユートとユーゴもナニカに取りつかれるかのようにデュエルをし出した」

 

「キサマッ、適当なコトをッ!」

 

「ウソじゃないッ!」

 

確かに、あの瞬間のアイツらはおかしかった。その場面を体感したスイゴだからこそそう口に出来る。

 

「ユートは正気を取り戻していたようだった。……けど、ユーゴはそのままで……」

 

「そして、ユーゴのドラゴンがユートたちを襲った」

 

「…………」

 

あの日のことは記憶に焼き付いてしまっている。

 

「ユートは遊矢を庇ってその攻撃をまともに喰らった」

 

「おれはユーゴを止めようとしたッ!…………けど」

 

腕が震える。あの時、自分は二人を止められた筈なのだ。妙な光景さえ見せられなければその可能性はあった。

 

「……悪い…………アイツを止められなかった。あの日、おれはッ!!」

 

「キサマのコトなどどうでもいい。……それで、ユートはどうしたッ!」

 

「…………分からない。何か強い光を視た時におれは意識を失って…」

 

スイゴはそれっきり丸一日ずっと寝込んでいた。

 

「……そうか」

 

「ユートくんは遊矢くんの目の前で消えたわ」

 

ふと、黒咲の後方から声が聞こえる。いつの間に試合を終えたのかシェレンがそこにいた。

 

「何が起こったのかはわたしにも解らない。……でも、彼は遊矢くんに託していたように見えたわ」

 

「託す……だと?」

 

「彼は言ってた。『デュエルで笑顔を……』って」

 

「笑顔……」

 

その言葉に黒咲は茫然とするような顔をした。多分、おれも似たような状態なのだろう。

 

「『キミの力で世界に……。みんなの未来に……笑顔を』」

 

「……そう言って彼はカードを託していたわ」

 

複雑そうな表情をしている。あの日、消えていくユートを直接見たシェレンは何を思っているのか。

 

 

《平気…………な訳ないよな……》

 

 

少なくとも彼女はそんなことを許せる人間ではない。おれにはそう確信できる。

 

「……分かった。後は榊 遊矢に直接聞きに行く」

 

黒咲はそう言って、おれ逹から去ろうとする。落ち着いている様子を見るとまるっきり話を信じていないわけでは無さそうだ。

 

「黒咲、一つだけ聞く。お前のデュエルディスクでおれたちは元の世界に戻れるのか」

 

「……無理だな」

 

そう言って、彼は自身のデュエルディスクを見つめる。

 

「………………そうか」

 

薄々、予想はしていたが。やはり、黒咲もまた自ら自由には次元を移動できないらしい。

 

「用は済んだか。ならば、俺はもう行かせてもらう」

 

「……黒咲!」

 

自然に声が出た。止めるつもりなどない。ただ、言いたいことがあった。

 

「ユートは言っていたよ。親友の妹の瑠璃が連れ去られたって」

 

「………………」

 

アイツはその背中にどれくらいのモノを背負っているのか。世界、身内、親友…………それらを失っても一人で融合次元に戦いを挑む。それがどれだけ過酷な事か想像もできない。だが……。

 

 

 

「…………妹を失う気持ちは解る」

 

「必ずアカデミアから、『一緒』に瑠璃を取り戻そうッ!」

 

何を思ったのか、黒咲は一瞬だけコチラを見る。

 

「……………………そうか」 

 

そのまま足を止めずにアイツは去っていった。

 

 

 

残されたのはシェレンとスイゴの二人。あの日お互いに失ったものは大きい。

 

 

 

……でも、今のおれは不思議と気分が軽くなった気がした。

 



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炎勝 シズル

スイゴは現在第一会場のデュエルスタジアムで対戦相手が来るのを待っていた。彼の試合は本日最後のデュエルであり、プレッシャーも大いにかかる。多少早く来すぎた性もあるのか観客席にはまだ人が少ない。

 

 

《てか、おれが人気無いだけかもな》

 

 

最後までは観られなかったがシェレンたちのデュエルは大変盛り上がっていた。

 

 

《アイツと同じように……は無理》

 

 

彼女は自分が思っていた以上にアクションデュエルに適正があった。スイゴには観客たちを焚き付けてデュエルに望むなど出来っこない。

 

 

《……それに今日の相手はそんなことが出来そうにない》

 

 

そこまで考えて、スイゴは試合前のユウとの会話を思い出した。

 

 

 

 

 

 

シェレンのデュエルが終わりおれ逹はノウンの試合を観戦しにいった。二人が観客席に着いた時、彼女は苦戦しているように見えた。

 

 

『《しっかりしなさいっ、ノウン!わたしと戦うんじゃなかったの!!》』

 

 

けど、横でシェレンがデュエルの最中アイツに応援を送った。それが効いたのかは知らないが……。

 

 

 

『《『シンクロ召喚』出でよ、高貴なる僕『氷結界の竜 トリシェーラッ!!』》』

 

 

『《うわあァァ~~っ!!》』

 

 

レン

LP0

 

 

最終的には敵を圧倒して勝利を治めていた。応援を力に変えたというのか。どうやら、存外彼女はメンタルが弱いらしい。

 

 

『《どうです?見ましたか!ワタクシの華麗なデュエルをっ!!》』

 

 

デュエルフィールドでドヤ顔を披露しつつひたすら高笑いもしていたノウン。それにはおれ逹も思わず苦笑いしてしまう。

 

「……やっぱり、スイゴも観ていたんだね」

 

ふと、隣から声をかけられたので振り向くとそこには『桜樹 ユウ』がいた。

 

「ユウか!久しぶりだな」

 

とは言っても、二人がデュエルして一ヶ月も経っていない。

 

「うん!一回戦の様子は観ていたよ」

 

「おれもお前が勝ったのは聴いている」

 

互いに初戦を突破したことを喜び会う。試合ではもちろんライバルだがこうして話す分には友人の感覚に近い。

 

「ユウの次のデュエルは確か明後日じゃないか?」

 

「やっぱり、ノウンの試合を観戦しに来たのか」

 

「それも有るんだけどね。……ちょうどよかった」

 

そう言うと、おれ逹は人目のつかない廊下に移動する。その行動が少し変だとは感じていた。

 

「スイゴの次の相手……それは梁山泊塾じゃないか?」

 

「ああ、そうだが。それがどうした」

 

彼は眉間にシワを寄せている。おれの発言が原因に違いない。

 

「……去年の俺の決勝の対戦相手。ソイツも梁山泊塾だった」

 

「確かジュニアユースの時の話だったか」

 

「そう。彼らは特に乱暴なデュエルを仕掛けてくると有名」

 

「キミも戦うなら気をつけたほうが良い」

 

コイツがわざわざ忠告してくれるとはそれほど面倒くさい相手なのだろう。

 

「彼らは直接的には攻撃しない。ルールにも引っ掛かるからね」

 

舞網チャンピオンシップの規約の一つにこうある。『デュエリストのデュエル中に対戦相手に対する過剰な妨害行為を禁止する』というモノが。

 

「だが、アクションカードを取る際はそうじゃない。多少の無茶も許される」

 

「そう言うことか」

 

つまり、その塾の生徒たちはアクションデュエルなのを利用してリアルファイトを繰り出してくるということだ。

 

「つーか、もうそれ半分デュエルじゃないだろ」

 

「……そうなんだよ。その行動の性でライフが0になる前にリタイアした選手も数多い」

 

「……ひどいな」

 

アクションデュエルとは本来身体も動かすことでよりデュエル中のかけ引きを増やす事が目的。勝利を理由に暴力に走る行為は非常識極まりない。

 

「なら、去年ユウはどう勝ったんだよ」

 

「…………梁山泊塾相手には一枚もアクションカードを使わなかった」

 

「それどころか、近くにカードが無いかどうか常に警戒していたよ」

 

「よく勝てたな……」

 

「もちろん苦戦はしたよ。だが、俺自身そんなヤツラ相手には敗けたくなかった」

 

それでも紙一重だったけどね、と彼は言う。

 

「だから、スイゴもデュエル中はそこら辺に気をつけた方がいい」

 

「ありがとう。わざわざこのことを言いに?」

 

「キミとは決勝で戦いたいからね。そう簡単に敗けて欲しくないんだ!」

 

「ああ、リベンジなら受けてたつ!」

 

二人はあの時のように握手をする。お互いにまた再戦する約束を交わして。

 

「じゃあ、俺はこれで。デッキの準備もあるしね」

 

「また会おうぜ」

 

「「デュエルフィールドで!!」」

 

そう言って二人は別れた。

 

 

 

 

 

 

「余計なことも思い出した気がするが…」

 

今回の相手『炎勝 シズル』は女だが、悪名高い梁山泊塾出身。

 

「おれも気を引き締めないとな」

 

観客席にはシェレンや塾長たちもいる。不甲斐ないデュエルは出来ない。そう呟くと目の前の彼女を見た。

 

「お前が私の相手だな」

 

問いかけるのは、胴着に似た着物を着る女。自らの腰にかかるほどの長い髪を紐で後ろに縛っている。

 

「ああ、おれは遊勝塾のギユウ スイゴ」

 

「……梁山泊塾の炎勝 シズル」

 

普通に挨拶をし返してくれた。もしかしたら、塾生の中にも穏健な奴はいるのかもしれない。

 

「よろし……」

 

「さっさとデュエルをしよう」

 

スイゴの会話を遮り彼女はデュエルディスクを構える。その態度に先程の自身の感想を即否定した。

 

 

《……ユウの言ったことはウソじゃなさそうだな》

 

 

どのみちもう始めるつもりだ。おれは腕にデュエルディスクを装着させる。

 

 

 

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まず気づくのは目前のたくさんの竹で覆われた場所。次に足場だがまるで岩が浮いているかのように数十個点在しており、それを繋ぐ橋のようにかかった細長い道が特徴的。ここはまさにどこぞの秘境を思わせる。

 

 

 

『戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が』

 

『モンスターと共にッ!』

 

『地を蹴り』

 

『宙を舞いッ!!』

 

『『フィールド内を駆け巡る』』

 

『《見よォッ!これぞデュエルの最強進化形っ!!》』

 

『『《アクショォォォォーーンッ!!!》』』

 

 

  『『デュエル!』』

 

 

スイゴvsシズル

LP4000/LP4000

 

 

「先行はおれがもらうッ!」

 

手札を見て作戦を練る。

 

 

《まずは、アクションカードを取らずに様子を見るか》

 

 

「おれは手札からモンスターカードを一枚セット」

 

「さらに、カードを二枚伏せてターンエンドだッ!」

 

 

 

「私のターン、ドロー」

 

シズルは特に動くわけでもなく自然体で今いる場所に立っていた。

 

「手札から『炎舞-「天璣」』を発動。この効果で、デッキからレベル四以下の『炎星』モンスター一枚手札に加えることができる」

 

「私は『暗炎星-ユウシ』を手札に加える」

 

「さらに、自分フィールドに『炎舞』が存在しモンスターがいない場合このカードを特殊召喚できる。現れろ!『機炎星-ゴヨウテ』」

 

彼の者はその手にある鎖分銅を用いて戦う名策士。草原の狼の魂を宿した軍師がシズルの場に姿を見せた。

 

「先程手札に加えた『暗炎星-ユウシ』も召喚する」

 

人々に「青面獣」と呼ばれた放浪の剣士。大和では山の神と称えられし獣の強さを持つ男も出現する。

 

「『炎舞』と名のつく永続魔法の共通効果。私の場の獣戦士族モンスターの攻撃力は100ずつアップする」

 

「そして、『炎舞-「揺光」』を発動。手札の『英炎星-ホークエイ』を墓地に送りお前の場の魔法・罠カード一枚を破壊する」

 

「何ッ!?」

 

スイゴの場の二枚の伏せカード内、片方が爆砕した。

 

「くそッ……!」

 

「ユウシはフィールドの『炎舞』一枚を墓地に送ることでモンスターを破壊できる」

 

「これでお前の場にモンスターはいない。バトル、ゴヨウテでダイレクトアタックだ」

 

 

スイゴ

LP1900

 

 

「ユウシでダイレクトアタックっ!」

 

その手に持つ剣を抜き去り、モンスターは彼へと向かう。

 

「今度は通さないッ!おれは伏せカード『見返りなき緊急要請』発動」

 

「デッキから『無名の医師』を守備表示で特殊召喚する」

 

「ちっ」

 

防御力2000の強固な守りが敵の攻撃をはね返す。

 

 

シズル

L3700

 

 

「…………そちらのカードを破壊するべきだったか。私はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

表情を変えること無く彼女は悠然とそう注げた。

 



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怒煌星-ビシャモンテン

崖っぷちどころじゃないんだよなぁ……


「おれのターン、ドロォォォッ!」

 

スイゴはゆっくりと歩き始める。勿論目的のアクションカードを探すため。

 

 

《今は必要ない……が。必要な時が来るかもしれない》

 

 

相手が例えどのような手で来るとしても自分のデュエルスタイルをそう簡単に変える気はない。

 

「おれは『無名の傭兵』を攻撃表示で召喚ッ!」

 

久々に名もなき戦士がフィールドに登場した。

 

「さらに、『無名の剣 追』をこのカードに装備。攻撃力を2200にアップする」

 

「バトルだ、無名の傭兵でゴヨウテを攻撃ッ!」

 

「……私はセットしていた永続トラップ『炎舞-「天璇」』を発動」

 

「天璇」の効果によりシズル場のモンスターの攻撃力は700ポイント上昇。

 

「さらに、このカードがフィールドに存在する時私の獣戦士族モンスター全ての攻撃力は300ポイントアップする」

 

カードの効果でゴヨウテが無名の傭兵の力を上回る。このまま戦闘を続行すれば、彼のモンスターは間違いなく破壊される…………が。

 

 

 

「甘いなッ!おれは速攻魔法『帰路なき戦闘』を発動。この効果で、無名の傭兵の攻撃力を2000ポイントアップする」

 

再度、互いの力関係が逆転した。戦士の一撃が敵モンスターを切り裂く。

 

 

シズル

LP2600

 

 

「まだだ、無名の剣 追の効果でモンスターの攻撃力を半分にする。それにより二度目の戦闘が可能ッ!」

 

「無名の傭兵でゴヨウテに攻撃!!」

 

「ちっ…」

 

 

シズル

LP2200

 

 

先程と形勢は逆転し今度は相手のフィールドがカラになった。

 

「おれはこれでターンエンドだ。この瞬間、帰路なき戦闘の効果で無名の傭兵の攻撃力は0になるが……」

 

「無名の剣 追はエンドフェイズに破壊され、装備モンスターの攻撃力を元に戻す」

 

数値が0から1800へと変わりスイゴのターンが終了した。

 

 

 

「私のターン、ドロー」

 

「炎舞-「天璣」の効果でデッキから『微炎星-リュウシシン』を手札に加える。そして、このカードを召喚」

 

背には九つの刺青がありその心には竜の魂を秘めている。様々な戦いにより得た秘術を揮う炎の槍使いがフィールドに出現した。

 

「手札から『炎舞-「天枢」』発動。この効果で『勇炎星-エンショウ』も召喚する」

 

青龍偃月刀を肩に背負い炎を操る勇猛果敢なる武人。豪腕を誇る野生の力をその身に宿して男もまた戦場へと現れる。

 

「さらに、リュウシシンの効果発動。『炎舞』が発動されたことにより、デッキから『炎舞』と名のつく罠カード一枚をセットする」

 

「……てッ!おまえもソリティア使いかッ!」

 

おれは思わず叫んでしまった。デッキを回してくるヤツなんかLDSくらいかと思ってたのにイヤな伏兵もいたものだ。

 

「リュウシシンの効果発動。私のフィールドの『炎舞-「天枢」』と『炎舞-「天璣」』二枚を破壊して墓地から『機炎星-ゴヨウテ』を特殊召喚する」

 

これでシズルの場のモンスターは三体。

 

「バトル、ゴヨウテで無名の傭兵に攻撃」

 

その手に持つ武器に絞め殺されてスイゴのモンスターが破壊される。

 

 

スイゴ

LP1400

 

 

「そして、リュウシシンで無名の傭兵を攻撃」

 

「させるかッ!」

 

そう言って、フィールドを走り出す。目指すのは竹にささっている一枚のアクションカード。

 

「よしこれでッ!!」

 

 

 

「残念だが……」

 

ふいに背中に衝撃がはしった。

 

「お前にアクションカードは取らせない」

 

みっともなく地面を転がり、竹藪につっこんでしまう。

 

 

《……ッテ》

 

 

身体に感じる痛みがおれに何が起こったかを理解させる。目を開けると敵モンスターの攻撃がすぐそばまで迫っていた。

 

「バトルは継続する」

 

当然防げるはずもなく無名の医師も破壊された。

 

「わたしはエンショウでダイレクトアタック」

 

「させるかッ!無名の医師の効果発動。墓地のこのカードを除外し、『無名』モンスター一体を手札に加え攻撃を無効にする!」

 

 

シズル

LP3150

 

 

「おれは墓地の『無名の軍師』を選択した」

 

スイゴはカード効果でデッキから『無名の協力者』も手札に加える。

 

「ならば、私はこれでターンエンドだ」

 

 

 

「……チッ、あの野郎」

 

さっき、何が起こったのかは解っている。カードを取りに行ったスイゴの背をシズルが蹴り飛ばしたのだ。その証拠に彼女の手にはおれが掴もうとしたアクションカードが握られている。

 

「ムカつくな、ドロー」

 

手札を引きつつそう愚痴る。

 

「おれは効果により『無名の傭兵長』を特殊召喚する」

 

名もなき戦士たちを束ねる熟練の剣士が彼のフィールドに出現した。

 

「さらに、手札から『無名の協力者』を召喚ッ!」

 

「バトルだ、無名の傭兵長でリュウシシンを攻撃」

 

「私はアクションマジック『回避』を発動」

 

剣士による一撃が空振り、シズルのモンスターは無傷のままだ。

 

「……分かってたよ」

 

「この瞬間、おれは無名の協力者の効果を発動ッ!!」

 

無名の協力者

 

レベル4

 

戦士族/ 効果

 

一ターンに一度、自分フィールド上の『無名』と名のつくモンスターが攻撃宣言を行い相手にダメージを与えられなかった時に発動出来る。このターン、このモンスターの攻撃力はその『無名』モンスター一体の元々の攻撃力と同じ数値になる。このカードをリリースすることで相手フィールド上の魔法・罠カードを一枚デッキに戻すことが出来る。

AT1000/DF1800

 

「攻撃が無効にされたことで無名の協力者の攻撃力は無名の傭兵長と同じになる」

 

「……何だと」

 

「バトルだ、無名の協力者で再びリュウシシンを攻撃ッ!!」

 

スイゴのモンスターによる一撃が敵を破壊した。

 

 

シズル

LP2550

 

 

「さらに、無名の協力者を生け贄に伏せカードも破壊する」

 

「……ちっ」

 

「おれはこれでターンエンドだッ!」

 

そう宣言する。これで、おれの命運は相手のドローに委ねられた。

 

 

 

「私のターン………」

 

シズルがカードを引き、そのカードを確認した。

 

「……私は手札から、『融合』を発動」

 

 

《くそッ……ここでか!》

 

 

 

この土壇場で彼女はとんでもないモノを引き当てた。

 

「フィールドの『勇炎星-エンショウ』と『機炎星-ゴヨウテ』を使い、融合召喚を行う」

 

『勇敢なる星よ、知己に溢れし星よ、今新たなセイへと生まれ変われ !』

 

 

『融合召喚』

 

 

「出でよ、『怒煌星-ビシャモンテン』」

 

 

怒煌星 ビシャモンテン

 

レベル10

 

戦士族/融合/効果

 

『炎星』炎属性モンスター×2

このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合相手に300ポイントのダメージを与え、自分のライフを300ポイント回復する。

AT3000/DF2400

 

 

片手には巨大な金剛棒を構えてもう片手には宝塔を握る。味方には絶大なる恩恵を与え敵には容赦のなく破壊を加える戦神がシズルのフィールドに降臨した。

 

 

「バトル、ビシャモンテンで無名の傭兵長を攻撃」

 

「…………ッ!」

 

おれは迫り来る一撃を予期し周囲を見渡した。そして、地面に落ちているアクションカードを発見する。

 

 

《よしッ、この位置なら……》

 

 

目的のモノはあの女とは正反対の場所にある。これなら妨害がある余地もないだろうと考え、スイゴは足を動かした。

 

「だから、取らせないと…」

 

瞬間、背後から空気を斬るような音を耳にした。危険を察知し咄嗟に横へ身体をそらす。

 

 

《…………おい、嘘だろッ》

 

 

おれは視線を先程までいた足場に向ける。すると、そこには短くなった竹が刺さっているではないか。

 

「ふざけるなッ!こんなことして……怪我したらどうするんだッ!!」

 

思わず声を荒げ怒鳴り付けた。さすがにこのような度を越した行いは許せるわけがない。

 

 

 

……しかし、そんなスイゴの目の前で彼女は平然とアクションカードを拾う。

 

「戦闘は続行している」

 

「っ…………テメエッ!!」

 

圧倒的な力が名もなき剣士を為す統べなく押し潰した。

 

 

スイゴ

LP900

 

 

「さらに、ビシャモンテンがモンスターを破壊した時相手に300ポイントのダメージを与える!」

 

「くそッ!!」

 

 

スイゴ

LP600

 

 

「そして、私はライフを回復」

 

 

シズル

LP2850

 

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

 

 

「……イライラでどうにか成りそうだ。全くよおォッ!!」

 

このような仕打ちをうければ誰でも屈辱的な気分になる。正直、今すぐ対戦相手を殴り倒したい。

 

「……ドロー」

 

チラリと、観客席の方に視線を向けた。そこでは子供たちや塾長が心配するような目でこちらを見ている。

 

「………………ふー」

 

この行動で僅かだが頭が冷えた。

 

 

《…また同じことする所だったか》

 

 

ユウとの試合でさらした無様な姿はもう見せたくないと思う。シェレンと約束したのだから。

 

「おれはモンスターカードを伏せる」

 

だが、このままではどちらにしても負けだ。

 

「これで、ターンエンドだ」

 

 

 

「私のターン」

 

ここで彼女がモンスターカードを引けば一貫の終わり。

 

 

《……引くなッ!》

 

 

「ドロー」

 

命運をわける一札の行方は…………。

 



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それぞれの理由

「…ふん、運が良かったな」

 

「よっしッ!」

 

相手がモンスターを引けなかった為に、なんとか首の皮一枚つながった。

 

「私はビシャモンテンでモンスターに攻撃だ」

 

「やらせるかよッ!!」

 

フィールドにはまだ使われていないアクショカードも多い。それを見つければ、勝機は十分にある。

 

「……あった!アクションカード!」

 

森の奥深い場所の竹にソレが張りついていた。

 

「取らせんっ!」

 

音が聞こえると同時に、おれは上へジャンプした。足下には数本竹が突き刺さっているが無視して走る。

 

「同じ手には……」

 

もう目と鼻の距離にソレがある。後一歩で手が届く。

 

「甘いっ!!」

 

指先が触れる寸前、おれの腕を竹が掠めた。

 

「痛ッ…………しまったッ!」

 

巻き起こった風によりアクションカードが吹き飛ぶ。しかも、目指す先は足場のない空中。

 

「バトルは継続している」

 

「チッ、わかってるッ!」

 

今、文句を言う暇はない。ただ全力でその足を動かした。

 

「よし、アクショ……」

 

「……ハアッ!」

 

突如、投げられた竹によってアクションカードが弾き跳ぶ。しかも、今度はあの女の手に納まった。

 

「私は手札から『魔星剣』をビシャモンテンに装備する」

 

「そして、このカードは手札に加えた魔法カードを墓地に送ることで装備モンスターの攻撃力を100ポイント上げる」

 

「なッ!?」

 

ビシャモンテンの攻撃力が3100に上昇。

 

「これで、もうすぐ一分」

 

おれは逃走を止める。スピードが緩んだことで敵の攻撃は追いつき、モンスターが破壊された。

 

「無名の軍師が破壊されたことにより、デッキから『無名の神子』を手札に加える」

 

「ビシャモンテンの効果発動」

 

 

スイゴ

LP300

 

 

シズル

LP3150

 

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

 

 

「まだだッ、おれのターンッ!」

 

掛け声と共にデッキからドローする。こうして自分自身を強く鼓舞した。

 

「モンスターカードを一枚を伏せる」

 

目は休めずに周囲を組まなく探す。ふと、笹の葉の上にのっているアクションカードを見つ…………。

 

 

 

「とらせんっ!!」

 

考えようとした瞬間、上体を押し飛ばされる。横から何かがぶつかった為にだ。

 

 

《このッ…………ヤロウ》

 

 

今度は身体ごとタックルをくらった。どうやら、こちらを邪魔する為には手段を選ばないらしい。

 

「アクションカードを墓地に送り、攻撃力をアップさせる」

 

ビシャモンテンの攻撃力が3200に上昇。

 

「また一分」

 

「チッ……カードを一枚伏せてターンエンドだッ!!」

 

再び立ち上がる。例え、相手がどう来てもこの足を休ませる気はない。止まるのはおれ自身が諦めたときだ。

 

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 

《どうだ…………!?》

 

 

「…永続魔法『炎舞-「玉衝」』を発動」

 

「この効果でお前のセットした魔法・罠カード一枚は発動できなくなる」

 

「くそッ!」

 

これにより、おれの場の『意図なき終戦宣言』は使用出来ない。

 

「どうした、アクションカードは拾わないのか?」

 

「…探すに決まってんだろッ!!」

 

聞かせるようにそう怒鳴りつける。最初に比べ、彼女も随分と饒舌になったものだ。

 

「バトル、ビシャモンテンでお前のモンスターに攻撃」

 

細い道の先、アクションカードを発見した。

 

「…うおぉぉーーッ!」

 

今度こそは取られまい。スイゴは身体ごとソレに跳びかかる。

 

「ビシャモンテン!道ごと攻撃しろ」

 

「な…………!?」

 

並みのことならびくともしないであろう道。それがモンスターの重い一撃により一部崩れ落ちた。足を滑らせ、スイゴの身体は空中へ投げ出される。後はそのまま落ちるのみ……。

 

 

 

 

 

 

「ナメるなァッ!!」

 

道が崩されたのは一部。おれは片腕を伸ばして残っていた場所をつかむことでなんとかぶら下がった。落ちてゆくアクションカードを見過ごしながら。

 

 

シズル

LP3450

 

 

スイゴ

LP300

 

 

「……どうして、ライフが0になっていない」

 

僅かに呆然とした様子を見せる。彼女がこの試合で初めて見せた人間らしい反応だ。

 

「『無名の神子』は効果ダメージを受けたときに手札から特殊召喚でき」

 

「そして、その効果を無効にする!」

 

無名の神子

 

レベル2

 

魔法使い族/効果

 

自分が相手のカード効果でダメージを受けた時に発動できる。手札のこのモンスターを自分フィールドに特殊召喚しそのダメージを無効にする。このカードが自分フィールド上表側表示で存在する場合このカードと『無名の巫女』のレベルは2上がる。

AT500/DF500

 

「私はこれで」

 

「……まてよ」

 

途中が崩れ墜ちてしまった道に下から両腕でしがみつく。身体は持ち上げつつ、相手の話を遮って質問する。

 

「もしも、今おれが下へ落ちていたら……お前はどうするつもりだ」

 

「どうもしない」

 

シズルは躊躇無く答えた。 

 

「ケガしたら……とかは?」

 

「フィールドにもそれくらいの対策あるだろう」

 

確かにそうかもしれない。開会式の斉に『アクションデュエル中危険な事故が起きないよう対策は施されている』、と説明はされた。

 

「……でも、絶対じゃない」

 

アカデミアのアイツが負傷したように万が一の可能性は十分に起こりうる。

 

「最後に、お前が『アクションデュエル』に求めるものは……何だ」

 

「勝つこと。私はこれで、ターンエンド」

 

見下ろしていたおれから視線を外す。そして、シズルは来た道を引き返して行った。

 

 

《そうかよ…………》

 

 

腕を使って自分の身体をいっきに道の上に登らせる。その心中には暗雲とした気持ちが立ち込めていた。

 

 

 

「おれのターンッ…… ドロォォォーーッ!!」

 

持てる全ての気持ちを込めた気迫のドロー。おれは引いたカードを見る。

 

「……手札から『無名の巫女』を召喚」

 

無名の巫女

 

レベル2

 

魔法使い族/ 効果

 

自分が相手のモンスターにより戦闘ダメージを受けた時に発動できる。手札のこのモンスターを自分フィールドに特殊召喚しそのダメージを半分にする。このカードは一ターンに一度、自分のメインフェイズにこのカードと自分フィールドのモンスターをリリースしてその合計のレベル以下の『無名』と名のつく儀式モンスター一体を手札から儀式召喚出来る。

AT500/ DF500

 

「……おれはフィールドの無名の巫女の効果発動。無名の神子の効果でレベル4になった『無名の巫女』と『無名の神子』を生け贄に捧げ、『無名の剣将』の儀式償還を執り行う」

 

 

『その真実は何者にも気づかれず、その英断は何者も知ることはない。しかし、その勇気のみは男の仲間を奮い立たす。未来を掴め』

 

 

『儀式召喚』

 

 

「仲間と共に、戦場を駆けろ『無名の剣将』」

 

 

スイゴは守備表示でそのモンスターを召喚した。

 

「これでターンエンドだ」

 

 

 

「私のターン、ドロー」

 

「……一つだけ言う」

 

被せるように話しかけた

 

「……トドメならこのターンにさせ」

 

これは彼女への宣戦布告。

 

「世迷い言を」

 

「ビシャモンテンで無名の剣将に攻撃」

 

一言で切り捨てて、女の僕が敵へ襲いかかる。

 

「二度と這い出得ぬ『闇』の底へと落ちるがいい…………っ!!」

 

 

 

 

 

 

「…………ああ、そうかよ」

 

デュエルディスクに手をかける。

 

「無名の使者の効果発動」

 

 

《闇の底……か》

 

 

あの日、妹を失ったこと。

 

あの時、シェレンを泣かせたこと。

 

あの瞬間、目の前でユートとユーゴを止められなかったこと。

 

その全てに後悔をした。

 

「…無名の剣将を生け贄にバトルフェイズを終了させる」

 

「そしてこのカードを特殊召喚」

 

「ちっ、しつこい」

 

しかし、相手の自身は揺らがない。彼女は自らの戦況が絶対的優位だと思っていた。

 

「次のターンで終わらせてやる」

 

対するスイゴの場には下級モンスターが一体、手札もない。おれが不利に見えるのは至極当然の話。

 

「………………知っているさ」

 

「何のことだ」

 

「一人だけツラいってのは……思い上がりだろ」

 

あの女の瞳に暗い影を見た。それは泥のように粘着質な何か…。

 

 

 

「……オマエなんかにっ!」

 

「分からないな。何も」

 

相手が言うことを待つ気はない。きっと、コイツには何十回言葉を重ねても無駄だと思っていた。

 

「…私はこれでターンエンド」

 



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無名の剣帝

「おれのターン、ドロー」

 

三回戦の出場がかかっていることなど既に頭にはない。コイツにだけは絶対に勝つ。

 

「おれは手札から『死者蘇生』を発動」

 

「なにっ!?」

 

今まさに引き当てた切り札。このカードを引いた今こそ、おれが反逆の狼煙をあげる幕開けだ。

 

「墓地の『無名の剣将』をフィールドに特殊召喚する。そして、……」

 

エクストラデッキより『そのカード』を取り出そうとし…………。

 

 

 

 

 

 

知られたる---の変革

 

--儀式魔法

 

このカードは、自分フィールド上のモンスターのレベルの合計が11以上になるように生け贄を捧げ、発動される。--------から、『無名の剣帝』一体を--儀式召喚する。このカードの生け贄素材の一体は、必ず『無名の剣将』でなければならない。このカードは、『無名の剣将』が儀式召喚されたターンには発動できない。

 

前試合の興奮も冷まさぬままにフィールドでは未知なるカードがその鼓動を刻み始めていた。

 

 

《『無名の剣帝』……おれの知らないカード》

 

『無名の剣聖』とは全く別モノ。

 

「だが……ッ!」

 

言葉では決して言い表せない。でも、今この瞬間『これこそ』が必要なモノだと心の奥底で理解している。

 

「わかった……行くぞッ!!」

 

「おれは、レベル8『無名の剣将』とレベル4『無名の使者』を生け贄に捧げて……『無名の剣帝』の儀式償還を執り行う!」

 

横に並び立つ友ではなく、前へそびえ立つ敵を打ち砕く力が。

 

 

『その過去は在り方を歪ませ、その傷痕が彼を怒りへと導いた!しかし、その勇気のみは人々が永久に称え続ける!!戦友を従えよ、数多の虚空に輝きを取り戻せ!!!』

 

 

『--儀式召喚』

 

 

「暗雲を切り裂き、一筋の光明を目射せ『無名の剣帝』」

 

 

無名の剣帝

 

レベル10

 

戦士族/--儀式/効果

 

このカードの攻撃力はお互いの墓地に存在する『無名』と名のつく、又は戦士族と名のつく種族のモンスターカード一枚につき300ポイントアップする。このカードを儀式召喚する時に発動できる。そのターン、フィールド上に存在する全ての魔法・罠カードはその効果と発動を無効にする。一ターンに一度、墓地の『無名』と名のつくモンスターを三枚ゲームから除外して、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊出来る。このカードは相手モンスターの装備カードにはならない。

AT3000/DF2500

 

この英雄がもたらすモノは救いに在らず破壊。身の丈を越す長さの長刀は持ち手の信念を表している。喪うことを嫌った男は敵を討ち滅ぼすために誰よりも強く在らんとした。

 

攻撃的な遺志をその心に宿して、今、名もなき覇者がフィールドに降臨する。

 

 

 

「何だ…………このカードは…っ」

 

その声は震えている。

 

「『恐怖』、したか」

 

「……!」

 

しかし、震えているのはおれではなく目の前の対戦相手だ。

 

「……なら、その感情をよく覚えておけッ!!」

 

「『無名の剣帝』の効果発動ッ!このモンスターの攻撃力は墓地に存在する『無名』または『戦士族』と名のつくモンスター一体につき300ポイントアップする」

 

「何だ…と。オマエの墓地には」

 

彼の墓地には『無名』と『戦士族』を含め

8枚ある。

 

「まだ、在るだろ」

 

「…………まさか」

 

驚愕したようにその顔を歪める。その怒りが自らのモンスターに刃を向けさせた。彼女自身は思いもしなかったことだろう。

 

「……ふぅん、なるほどな」

 

そんな様子を眺めておれはひとつの考えを思いつく。

 

「どうした?仲間がいなければ何も出来ないのか」

 

「っ…………ち!」

 

「フィールドで梁山泊の奴らは助けてくれない」

 

この場所では誰もが孤独。自らのモンスター以外に頼れるものはない。

 

「半端なデュエルじゃ通用する筈がない」

 

「ふざけるなぁっ!!」

 

荒々しい声が辺りに響いた。その姿はまるで威嚇する『獣』そのもの。

 

「誇りを失ったケダモノに、『デュエリスト』は倒せないッ!!」

 

「お前の墓地には『獣戦士族』モンスターが五体ッ!よって、無名の剣帝の攻撃力に3900ポイントを加える」

 

「攻撃力…6900だと」

 

「バトルだッ、無名の剣帝でダイレクトアタックッ!」

 

帝王は武器を構える。それは目に写る敵をより多く切り裂くために。

 

「……ちっ!」

 

モンスターの攻撃から身を守るべく彼女は逃亡を選択する。逃げた先で、見つけたのは竹に刺さるアクションカード。

 

「…オマエなどには敗けんっ!!」

 

女はソレを確認する間も無く抜きさった。

 

「私は、アクションマジック『回避』を…」

 

「無名の剣帝の効果ッ!!」

 

女のデュエルディスクがエラーを弾き出す。カードが認識されなかった為だ。

 

「このターン、フィールドの魔法・罠カードは全てが使用不可能!それはアクションカードも例外じゃないッ!!」

 

「何だとっ!?」

 

ビシャモンテンは装備カードの効果が無効となりその攻撃力は3000に落ちている。

 

「3900のダメージ……私が…………っ」

 

負ける。

 

「無名の剣帝の効果発動!」

 

「墓地の『無名』モンスター三体をゲームから除外し、フィールドの魔法・罠カードを全て破壊するッ!!」

 

「!?」

 

お互いの場の魔法・罠カードが全て砕け散り、残すはモンスターのみ。そして、その攻撃力は6000へとダウンした。

 

「名も知らぬ者たちの痛み!己が刃の切れ味と共に思い知れェェッ!!」

 

空を貫く一閃。神を殺す一撃がビシャモンテンを虚無の彼方へと消し去る。

 

「う…………ぐっ!!」

 

 

シズル

LP450

 

 

「……これでターンエンドだ」

 

相手に背に向けて、おれはそう告げた。

 



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闇の底

「オマエ……っ!」

 

険悪さを含んだ声がした。スイゴには見なくてもわかる。その女がどんな表情を浮かべているかを。

 

「どうした、お前のターンだ。早く引けよ」

 

「ふざけるなぁぁぁっ!!」

 

振り向くことはしない。黙って彼女の叫びを聴くのみ。ついでに、足下に落ちていたソレも拾う。

 

「何故っ!さっき効果を使った!答えろおぉーーッ!」

 

「……はははっ」

 

「何が可笑しいっ!」

 

これを笑わずにはいられない。対戦相手に危険なデュエルを仕掛けた女。『勝利』だけを望んだアイツが誇りを傷つけられて怒っている事実。

 

「…………『テメエ』こそ、ふざけるなッ!!」

 

女に視線を向け、強く睨み付ける。コイツの自分勝手なルールをどこまでも通させる気はない。自分の行いを省みずに誇りを口にしたこの女を絶対に許さない。

 

「確か『勝利が全て』って言ったよな」

 

「なら、おれがソレを奪い取る」

 

「その思い上がったプライドをへし折ってやるッ!!」

 

「なめるなっ!!」

 

二人の感情が衝突しあう。お互いに譲れないモノを持つゆえに。

 

「私のターン、ドロォォォーーっ!!」

 

これより先はデュエルではなく、ただの意地の張り合い。

 

「モンスターを一枚セットっ!ターンエンド」

 

 

 

「おれのターン、ドロー。無名の剣帝でモンスターを攻撃ッ!!」

 

戦場の英雄がシズルへと襲いかかる。しかし、彼女は乱れる様子を見せない。

 

「私はアクションマジック『回避』を発動」

 

「アクションマジック『薮蛇』、この効果で発動は無効!」

 

「何っ!?…………くっ」

 

二人は一斉にフィールドを走り出した。目的は言わずともわかる。

 

「させないっ!!」

 

「それはおれのセリフだッ!!」

 

目前にある無数の竹。そこに落ちているアクションカードだ。

 

「何が闇の底だッ、笑わせるな!」

 

足は男のほうが速く、アクションカードまでは既に目と鼻の距離。

 

「だから、取らせないと言っているっ!」

 

全身の体重を乗せて女はそのまま男に蹴りかかった。

 

「カードはおれがもらうッ!!」

 

「ほざけっ!!」

 

その手がソレにかかり…………。

 

 

 

スイゴは再度地面を転がり竹へとぶつかった。

 

「ぐッ…………取った」

 

しかし、先程とは違いその手にはアクションカードが握られている。

 

「これで攻撃は継続ッ!切り裂け、無名の剣帝」

 

阻むものが無くなり、裏表示のモンスターは容赦なくその身を貫かれた。

 

「…………『捷炎星-セイヴン』は墓地にいく時デッキから『炎舞』魔法カード一枚をセット出来る」

 

「おれは、これでターンエンドだッ!」

 

その手にあるアクションカードを見ながら、スイゴは自分の番を終わらせる。

 

 

 

「私のターン!ドロォーー!」

 

「伏せていた『炎舞-「天璣」』を発動。この効果で『傷炎星-ウルブショウ』を手札に加える」

 

おれは『何度も見た光景だがこの展開力は改めて凄い』、と感じる。あのカードを残している限り彼女のフィールドにモンスターが尽きることはない。

 

「私はモンスターをセット。これで、ターンエンド」

 

感心するスイゴを置き去りに、シズルは竹林の奥深くへ走り出していった。

 

 

 

「おれのターン、ドロォォォーーッ!」

 

引いたカード手札に加える。女の方を見ると、アクションカードをまだ見つけられていない様子だ。

 

「バトルだッ、無名の剣帝で伏せカードを攻撃っ!!」

 

「ちぃっ!」

 

「……だが、『傷炎星-ウルブショウ』はリバースしたときにデッキから罠カード一枚をセットすることが出来る!」

 

これで、彼女のフィールドにはカードが二枚。

 

「無駄だな……無名の剣帝の効果発動」

 

スイゴの墓地から、三枚の『無名』モンスターカードが除外される。そして、再度全ての魔法・罠カードが砕け散った。

 

「これで、おれはターンエンドだ」

 

同時に、彼のモンスターの攻撃力も6000にダウンした。

 

 

 

「私のタァァーーンっ!」

 

圧倒的に不利な状況においても、彼女の闘志が消えることはない。

 

「手札からっ!『炎舞-「揺光」』を発動!!」

 

「この効果で手札の『空炎星-サイチョウ』を墓地へ送り、オマエのモンスターを破壊する!」

 

女の持つ執念が、スイゴを闇へと引きずり込むべく追い詰めにかかる。しかし、……。

 

 

 

「おれはアクションマジック『ミラー・バリア』を発動」

 

「…何っ!?」

 

透明なバリアーが彼のモンスターを覆った。鏡が光を吸い込み跳ね返すように、敵のカードもまたその効力を失う。

 

「これで、お前に手札はない」

 

「………………ギリッ!」

 

敵は悔しげに歯軋りをしていた。

 

「結局、お前の抱える『闇』なんてこの程度だ」

 

おれが言葉口にするたび、女の怒気が強くなる。

 

「『梁山泊塾』のデュエルこそ、本当はお遊びなんじゃないのか」

 

「っ……黙れっ!」

 

スイゴに侮辱されたことで、シズルの顔が憤怒に歪む。

 

「まあ、どうでもいい。さっさと、ターンエンドしろ」

 

「………………私は……ターン…エンドっ」

 

 

 

「ドロー」

 

デッキからカードを引く。もう、彼女になす術はない。後は、ただダイレクトアタックを宣言すればいいだけだ。

 

「……おれはこれで、ターンエンド」

 

 

 

「…………どこまでも」

 

「どこまでもバカにする気かっ!!」

 

屈辱で腕を震わせている。スイゴはその姿をみて、嘲笑するような笑みを浮かべた。

 

「……チャンスをやるよ」

 

「ふざけるなっ!」

 

ここに来て、二人の立場が完全に入れ替わった。

 

「おれはこれからアクションカードを取りに行く。お前がそれを一回でも奪えたら……」

 

「おれはサレンダーする」

 

「私のタァァァァァァァンッ!!」

 

彼女はその言葉で完全にキレてしまった。

 

「私はっ!モンスターを一枚セットッ!!」

 

「……じゃあ、行くか」

 

喋ると同時に足を動かす。細い道を黙々と走り続ける。

 

「まずはッ!!アレだ!」

 

行く先の竹林。高い位置にあるアクションカードを見つけた。

 

「このおぉぉぉっ!!」

 

怒声と共に、シズルが竹を投げつけて来た。しかし、……。

 

 

 

「だから、無駄だって言っている」

 

速度は緩めずに、上体だけでかわす。そんな男は当然のようにソレの前にたどり着く。

 

「一枚目だ」

 

そう言って、アクションカードを空中へ投げ捨てる。

 

「次はあちらのだ」

 

宙に浮く岩の上にのっかるソレ。指差したそれへと手を伸ばす。

 

「あぁぁぁぁっ!!」

 

迫り来る脚が見えた。勢いよく放たれた蹴りも……。

 

 

 

「はいはい、そうだな」

 

「!」

 

片腕で女による一撃を防ぎ、もう片手でアクションカードを取った。

 

「二枚目」

 

再度、アクションカードを投げ捨てる。

 

「三枚目だ……」

 

地面に落ちていたソレを奪い取り。

 

「四枚目ッ!」

 

女の体当たりも逆に押し返した。

 

「そらッ!五枚目!」

 

最早、乱暴な手段など彼には全く意味をなさなかった。そのやりとりが何度も繰り返され……。

 

 

 

「これで、十一枚目だ」

 

足元にへばりついている敵を見下ろす。

 

「どうした。もう、立たないのか」

 

「いや、違うな。……立てないんだろ?」

 

対戦相手は腹を抑えたまま動けない。

 

「流石に少しは効いたみたいだな」

 

彼女がこちらへ攻撃をしかける度、スイゴは僅かに反撃をしていた。客からは見えない位置で肘鉄をいれ、蹴りを加えた。

 

「不思議か?なぜ、最初から反撃しなかったって」

 

別に自分自身はやろうと思えばいくらでも出来る。ただ、したくなかっただけだ。

 

「…………オマエ…はァっ」

 

「おれはただ、お前らのやり方にのっかただけだが」

 

シズルはその言葉に口を閉じることしか出来ない。否定するのは自らの非を認めるということ。

 

「自分たちが特別だとでも思ったか」

 

彼は相手が持つ自信を打ち砕いた。

 

「お前が『梁山泊塾』で今まで習ってきたことは、『全て無意味』だったけどなァッ!」

 

「…………っ!?」

 

その心を完全にへし折った。

 

「さて、一分は経ったが……」

 

「ほら、立てよ。さっさと続けろ」

 

しかし、彼女は起き上がれない。

 

「わた……しは、これで……ターンエンド」

 

悔しげに涙を流す姿。それを見下ろすスイゴ。格付けはすみ、最早戦うまでもなくこの試合は終わっていた……。

 



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巧炎星-エンセイ

「ドロー、無名の剣帝でモンスターを攻撃」

 

モンスターによる一撃が迫っても、彼女はもう微動だに動かない。

 

セットされていた『雄炎星-スネイリン』は破壊された。同時に、無名の剣帝の攻撃力も6300に上昇する。

 

「……デュエルする気がないなら、さっさと降参しろ。ただし、……」

 

「塾の名に泥を塗ったままでいいならな」

 

「…………!」

 

女はその言葉にピクリと肩が動いた。

 

「『梁山泊塾』のデュエルはこの程度のレベルだった」

 

「少なくとも、観ている皆はそう感じるだろうな」

 

スイゴの発する一言一言が、相手の意識を逆撫でてゆく。

 

「ユースクラスで残っているのはお前一人か?」

 

挑発することを休めはしない。

 

「はっ、お前らのデュエルなんか全く通用していないくせに」

 

「他の弟子たちの実力もどうせ……」

 

「黙れえぇぇぇぇっ!!」

 

顔を上げ、こちらを睨み付ける。そこに、先ほどまでの怯えた姿はなかった。

 

「仲間への侮辱は許さないっ!」

 

「私は!いや、他の弟子たちも!皆過酷な修業を乗り越えてきたっ!!」

 

「他の人たちがデュエルで楽しむ時間も全てを犠牲にしたっ!」

 

瞳には闘志が宿り、これ以上ない程気迫が充実している。

 

「両親や友人と離れ、辛くて逃げ出す者もいる中でずっと己を磨き続けたっ!」

 

「それを否定することは誰にもさせないっ!」

 

彼女にとって塾で過ごした日々、その全ては紛れもない誇りなのだから。

 

 

 

「…………なら、証明して見せろッ!!」

 

スイゴも引く気はない。この程度で、相手のことを認めはしない。

 

「人を傷つけるだけの姑息なデュエルじゃない、とッ!」

 

「その実力で、己の『アクションデュエル』が正しいことを示してみろッ!!」

 

それこそが彼女にとって、唯一の勝機。

 

「おれは手札からカードを一枚セット。これで、ターンエンドだッ!」

 

彼にこれ以上ターンを待つつもりはなかった。故に、次こそが彼女の逆転する最後の機会。

 

 

 

「私の、タァァァーーンッ!」

 

シズルは自らの手に想いを込め、渾身のドローをする。彼女も既に敗けることなど、全く考えていない。

 

「……!」

 

デッキから引き当て、その手にある希望。それはシズルが本来持たないカード。起きる筈のない奇跡の結晶。

 

「……だが、それでも私は…っ!」

 

「手札から『チューナーモンスター』、『炎星師-チョウテン』を召喚!」

 

「チューナーだとッ!?」

 

その言葉には、流石のスイゴも度肝を抜かれた。

 

「このモンスターの効果で、墓地の『立炎星-トウケイ』をフィールドに特殊召喚する!」

 

「そして、トウケイが特殊召喚されたことでデッキから『炎星』と名のつく永続魔法一枚をフィールドにセット出来る!」

 

シズルの場に再び二体のモンスターが出現する。そして、これは……。

 

 

 

「私は………………えと」

 

梁山泊塾ではシンクロ召喚を扱わない。

 

「……はー」

 

スイゴは思わず溜め息をついた。当の対戦相手は何を言っていいか困惑している様子。

 

「…レベル3……に……を…グ」

 

小さな声で口上を呟く。もちろん彼女には聞こえるように。

 

「…!」

 

「私は、レベル3の『立炎星-トウケイ』にレベル3の『炎星師-チョウテン』を『チューニング』」

 

 

『暗闇より深遠なるその奥、百八の希望は見出だされた!その男より全ては始まりを告げる!!』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「輝け気鋭なる武人、レベル6『炎星侯-ホウシン』」

 

燃え盛る黒炎をかき分け、男はフィールドに出現する。俊足の獣の力を持つ開拓者は、今ここに『絆』を象徴する新たな力を得た。

 

 

「だが、そんなモンスターでは」

 

少なくとも、それだけではこの形勢がひっくり返る訳がない。

 

「ホウシンがシンクロ召喚に成功した時、デッキからレベル3以下の炎属性モンスター一体を特殊召喚する」

 

「私はデッキから『炎星師-カンテン』を特殊召喚っ!」

 

炎星師-カンテン

 

レベル3

 

獣戦士族/チューナー/効果

 

このカードをシンクロ素材とする場合、 獣戦士族モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。このカードを素材としてシンクロ召喚されたモンスターは、召喚されたターンから数えて二回目のエンドフェイズまで相手の魔法・罠効果を受けない。このターン『炎星師-カンテン』の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

AT1000/DF400

 

「チューナー……そうか!」

 

「私は、レベル6の『炎星侯-ホウシン』にレベル3の『炎星師-カンテン』を『チューニング』」

 

 

『叡知は風に舞うツバメのごとし斬れ!なれども余生を埋没に徹す!!今こそ、彼の才気を我がために生かせ!!!』

 

 

『シンクロ召喚』

 

 

「吟え忠義なる武人、レベル9『巧炎星-エンセイ』」

 

巧炎星-エンセイ

 

レベル9

 

獣戦士族/シンクロ/効果

 

一ターンに一度、このモンスターは戦闘では破壊されない。戦闘でこのモンスターが相手モンスターよりも元々の攻撃力が低いときに発動出来る。自分がその戦闘で受けるダメージを0にして、その数値差分相手にダメージを与える。

一ターンに一度、自分フィールド上表側表示の『炎舞』と名のつくカード一枚を墓地に送ることで、相手フィールド上のモンスター効果の発動を無効にし破壊出来る。

AT2800/DF2000

 

力と軍略に秀でた生まれながらの麒麟児。しかし、その才覚を仲間のために惜しみ無くふるう姿は、まさに、情に厚きツバメのごとし。炎を使役し、魔笛を手に、男はフィールドに出現した。

 

 

「まだだ!私はさきほど伏せた永続魔法『 炎舞-「玉衝」』を発動!!」

 

「……しまった!」

 

スイゴ場に伏せてあるカードは一枚。よって、この効果により発動は封じられた。

 

「バトル!私はエンセイで無名の剣帝に攻撃っ!!」

 

「なっ…………自滅する気かッ!?」

 

スイゴは敵の無謀と思える行動に混乱する。モンスター同士の攻撃力の数値差は4100。戦っても、こちらが勝てる。

 

 

 

「そんな無いだろう!」

 

 

 

「エンセイは、一ターンに一度、戦闘で破壊されない」

 

「そして、その数値差分のダメージを相手に与える!」

 

「させてたまるかッ!おれはアクションマジック『回避』発動」

 

スイゴもまた即座にそれに対応する。

 

「まだだっ!!」

 

叫ぶと同時に、彼女の身体が宙に浮く。竹を踏み、しならせた反動でさらに上を目指し続ける。

 

「アクションカードかッ!!」

 

頂上にあるとおぼしき、小さな四角いシルエット。既に、バトルは始まっているのだ。この状況を覆すためにはソレをとるしかない。

 

「だが、取れるのか。お前にッ!」

「……絶対にやってやる!!」

 

彼女は強い決意を込め、宣言した。貪欲に勝利を求め、ギリギリの状況でもデュエルをあきらめない姿勢。

 

「……ったく」

 

見ると、その手は今にもアクションカードへと届きつつあった。

 

「本当に!めんどくせぇッ!!」

 

言葉とは裏腹に口角がつりあがる。内から湧いてくる感情が、興奮が隠しきれない。

 

「………とった!」

 

「くらえっ、アクションマジック『破竹』!!」

 

破竹

 

自分フィールド上のモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊できなかった時、その相手モンスター一体を破壊する。

 

 

「この効果で、オマエのモンスターは消滅!消えされェーッ!!」

 

覇者の剣が地に落ちる。かわしたはずだった攻撃の残り火が戦士を焼き尽くした。

 

「これで、私はターンエンドだ!」

 

空となった相手フィールドを見下ろしつつ、彼女は強くそう宣言した。



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負けず嫌い

「…チッ、なれないことはするもんじゃないな」

 

思わず愚痴がこぼれる。シズルの戦い方が嫌で発破をかけはしたが、そもそも、こんなのは自分のしょうに合わない。

 

「『アイツ』のクセが移ったか?」

 

人をよく面倒ごとに巻きこむ幼馴染み。いつの間にか、自分も影響をうけていたということか。

 

「早く、ドローしろ!」

 

「わかってるよッ、おれのターン!」

 

シズルに急かされ、意識を試合へと戻した。渾身の力を込めてデッキよりカードを引く。

 

「…………」

 

カードを手札に加え一瞬だけ目を通す。

 

「…よしッ!」

 

「!?」

 

それを見て、スイゴは勝利を確信した。自分の不敵な様子に相手も警戒心を増す。

 

「このまま敗けたらダッせえしなッ!おれは手札から『無名の剣客』を召喚」

 

「さらに!その効果で、お前のエンセイを裏守備表示にする」

 

「……させない!私はエンセイの効果発動!『 炎舞-「玉衝」』を墓地に送る」

 

「それにより、無名の剣客の効果を無効にし破壊!」

 

その能力を使わせる間もなく、彼のモンスターは砕け散る。

 

 

 

…………が

 

 

 

「それを待っていたッ!」

 

しかし、スイゴの表情には微塵の動揺もない。

 

「おれはこの瞬間、伏せてあった『途切れなき戦闘維持』発動!」

 

途切れなき戦闘維持

 

カウンター罠

 

自分フィールド上の『無名』と名のつくモンスターが相手のカード効果により破壊された場合に発動出来る。自分の墓地にある『無名』と名のつくレベル8以下のモンスター一体を特殊召喚できる。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効にされる。

 

「この効果により、おれは墓地からレベル8以下の『無名』モンスター一体を特殊召喚出来るッ!」

 

「何……まさか!」

 

「そう、おれが呼び出すのは『無名の剣将』だ」

 

その名が示す通り彼の戦士に名はない。

己と同じ無銘の剣を片手に、エースモンスターがフィールドへと姿を現す。

 

「っ……!だが、そのモンスターでは私のモンスターは倒せん!!」

 

しかし、シズルは怯まない。彼女もまた己のエースモンスターを信じるからこそ。

 

「…ああ、そうだッ!」

 

「!?」

 

「だから、手札からコイツを発動する!」

 

その言葉と共に逆転への一札をかざした。

 

「『断念なき宝札』!!」

 

「この効果により、自分の手札、除外されたカード全てを墓地に送りデッキから……」

 

「カードを二枚ドローだッ!」

 

二枚のカードと引きかえに再度の手札増強を行った。

 

「墓地の『無名の医師』の効果!『無名の軍師』を手札に戻し、デッキから『無名の盗賊』を手札に加える」

 

「そして、『無名の盗賊』自身の効果により、このカードを特殊召喚!」

 

貧しき者のために略奪を行う偽善者。

己が信念に命すらかけた名もなき戦士が仲間を救うため参上する。

 

「おれは、レベル8『無名の剣将』とレベル4『無名の盗賊』を生け贄に捧げる」

 

「これにより、『無名の剣聖』の儀式償還を執り行う!」

 

 

『その真実は己すら気づけず、彼の才気は誰にも知られざる筈だった!』

 

『しかし、その勇気のみで男は英雄へと上り詰める!!』

 

『友の叫びに応えよ!!!』

 

 

『--儀式召喚』

 

 

「仲間を救い、運命を乗り越えよ『無名の剣聖』」

 

 

 

今ここに、スイゴの切り札が姿を現した。

 

「おれは『無名の剣聖』の効果を発動し、墓地にある『無名の隊長』をこのカードに装備!」

 

攻撃力は3500に上昇する。

 

「バトルだッ、『無名の剣聖』で『巧炎星-エンセイ』を攻撃ッ!」

 

「…だが『巧炎星-エンセイ』は自身の効果により破壊されない!敗けるのはオマエの方だっ!!」

 

「おれは敗けないッ!そうシェレンと約束したんだ!!」

 

彼のモンスターが作り出す真っ直ぐな太刀筋のようにスイゴの瞳に揺らぎはない。

 

「『無名の隊長』を装備したこのカードは一ターンに一度、相手効果の発動を無効に出来る」

 

「なに!?くっ……!」

 

モンスターの直撃を避けるべく、彼女は反射的に振り返り逃亡をはかる。

 

「お互いの攻撃力の差は700。この一撃を食らえば、シズルのライフは0だッ!」

 

 

 

だが……

 

 

 

「……敗けられない!」

 

周囲に数多に生える竹林をかきわけ、走り続る。

 

「私は、梁山泊塾の代表としてここに立っている!」

 

「私の敗北は同門皆の敗北!だからこそ……」

 

「このデュエル……絶対に勝つ!」

 

希望をその手に掴み、奇跡を手繰り寄せた。

 

「アクションマジック、『回避』発動!」

 

「これで、エンセイへの攻撃は無効!…次のターンでオマエを倒す!」

 

 

 

紙一重で剣聖の攻撃を避けたかに見えた…………

 

 

 

「アクションマジック……」

 

「なっ!?」

 

「『薮蛇』発動!!」

 

……が。それは幻覚。

刹那の攻防が見せた幻。

 

「いつの間に……!」

 

「忘れたのか?お前がさっきアクションカードを探すため目をそらしたことを!」

 

 

 

剣聖はその柄を翻し、追撃の一振りを以て…

 

 

 

「……くそ、私の負けか」

 

 

 

この闘いに終止符を打った。

 

 

 

 

 

シズル

LP0

 

 

 

ソリッドビジョンによる架空のフィールドが消え去ったのを見届けると、おれは足を進めた。

 

「ほら、立てるか…」

 

目の前につくと、尻餅をついたままのシズルに手を貸す。

 

「……」

 

しかし、おれが声をかけるも彼女はただそっぱを向くばかりだ。

僅かな時間、二人の間を沈黙が支配する。

 

「……悪かったな」

 

先に口をスイゴ。その言葉の意味はもちろん、試合中のことについてだ。

 

「 正直、強かった。梁山泊塾……お前のデュエル」

 

「すまなかった!おれはお前たちを馬鹿に……」

 

「…もういい」

 

そう言うとシズルは自力で起きあがる。背後の観客席にいる梁山泊塾の皆に礼をすると、おれの方へとを視線を向けた。

 

「私は……梁山泊塾のデュエルが間違っていたとは思わない」

 

「……ッ!なん…」

 

「だが!」

 

一息置くと、彼女はこう告げた。

 

「勝ったのはお前だ。ならば、私はお前の強さもまた認めなければいけないだろう」

 

「良いデュエルだった。……勝つことだけがデュエルではないのだな」

 

どこか憑き物が落ちたような顔をした。さっぱりとした表情をしている。

 

「…そうだ」

 

「…ただ勝っただけのデュエルに本当の価値がある、とおれは思いたくない。だから……」

 

おれは手を出してシズルに握手を求める。

 

「勘違いするな。私はこれからもこのデュエルを貫く」

 

「……それに、私にその権利はないさ。」

 

彼女が伸ばされたソレに触れることはない。フィールド上から徐々に離れて行くその背中を、スイゴはただ黙って見ていることしかできない。

 

すると、一瞬だけ彼女はこちらの方を見て

 

 

 

「今度は負けないからな」

 

 

 

「!」

 

既にその姿は見えなくなり、ここには今、無数の観客に囲まれる自分しかいない。

 

「…………負けず嫌いめ」

 

苦笑いするように顔をしかめつつ、スイゴもまたこの場を去る。アカデミアのこと……、遊矢の状態のこと……考えることは山ほどあり、立ち止まる暇はないから。

 

 

 

 

 

 

観客席から盛大な拍手が送られる中、彼はただ一人最後に見たその笑顔が目に焼きついて離れなかった。



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真夜中の二人

二回戦を終えたスイゴは、既に試合を終え観客席にいたシェレンと話をしていた。

 

「遊矢が起きた…それは本当か!? シェレン!」

 

「ええ。柚子ちゃんが教えてくれたわ」

 

彼女が言うには、遊矢の体調も問題ないらしく今は他の塾生と次の対戦相手の試合を観戦しに行ってるようだ。

 

「そうか……」

 

その事実に安堵すると同時に口をつぐむ。あの日、遊矢は自分たちのことを知ってしまった。アイツが素羅のことを友達だと思っていたことも知っている。正直、顔を会わせるのが非常に気まずい。

 

「行かないって言うのはだな」

 

「ダメよ」

 

「だよな」

 

はあとため息混じりに首肯する。真実を知る遊矢が優勝塾の面々にこのことを話さない保証はない。口止めのためにも出来るだけ早く会って話したほうがいい。

 

「柚子や塾長はこのことを?」

 

「まだ知らないみたいよ。『今はね』」

 

「…よし、行くか」

 

憂鬱ぎみな自分に渇を入れ、二人は優勝塾の面々がいる場所に向かうことにした。

 

 

 

彼らの目にまず初めに飛び込んできたのは宙を舞うその身体。続いて荒々しくフィールド内を動き回るデュエリストの姿。

 

「勝鬨……か」

 

「酷いわね…」

 

前者はLDSの刀堂刃。そして、後者は梁山泊塾の勝鬨勇。それはデュエルではなく一方的な暴力、蹂躙。

 

シズルの戦い方を既に見知っている二人もこれには不快感を強めた。

 

「優勝塾は…」

 

視線を向けると、スイゴたちがいる観客席の前方の列に彼らは座っていた。

 

「声をかけないのかしら?」

 

「いや……今はいい」

 

皆が固唾を飲んで見守る中、遊矢もまたこのデュエルを真剣な表情で観戦している。そこから察してしまったのだ。彼の信念や怒りがどれほど強いものかを。

 

「シェレンも分かっているんじゃないか?」

 

「ふふ、邪魔はしないわよ」

 

今、スイゴたちが話しかければ少なからず明日の試合に支障が出てしまう。それでは遊矢の覚悟を見ることはできない。

 

「見せてもらう、遊矢。 お前のエンタメデュエルを」

 

塾に帰った二人は、何かを訴えるかのような視線を向ける遊矢をあえてスルーした。結局、スイゴたちへの疑問をはぐらかしたまま彼らは翌日を迎えた。

 

だが、これが間違いであったことを直ぐに知ることになる。 

 

彼らは全く解っていなかった、とそのことを理解した。二人のデュエルがどのような結末を迎えるか。予想することは出来た筈だった。

 

「これが…」

 

試合は序盤、対戦相手有利に運ぶ。スイゴの時と同じく暴力行為ギリギリのデュエルを仕掛けた勝鬨。迎え撃つ遊矢は得意のアクションデュエルをさせてもらえない。

 

「これが……ッ」

 

中盤に入って試合はさらに白熱した。勝鬨は自身の切り札を召喚し、さらに追い詰めにかかる。そこには勝利への唯ならぬ執念、いや、それ以上のモノがあった。

 

「お前のやりたかったことか…ッ」

 

遊矢のエースであるオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンは封じられ、誰もが彼の敗北を疑わない状況。 

 

 

 

しかし、そこから異変が起きる。突如豹変した遊矢は未知なるペンデュラムカード二枚を用いて、あのユートのカードである『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を呼び出したのだ。

 

「遊矢ァァァッ!」

 

まるで逆鱗に触れたがごとく荒れ狂う彼のモンスターは、敵を瞬く間に殲滅する。デュエルの明暗と観客の笑顔も何もかもを犠牲にして。

 

「…ごめんなさい、スイゴ」

 

シェレンは薄々この事態になることを勘づいていた。だが、信じてみたかったのだ遊矢ならそのエンタメデュエルを貫き通せることを。

 

「いや、いい。おれのほうこそ謝るべきだ」

 

止めるべきだった、と思う。今となっては遅いがそれでもそう後悔せずにはいられない。握りこむ拳に食い込んだ爪の先から流れる血にも気づかず、ただ苛立ちを積み上げた。砕かんばかりに歯を噛み締める。

 

「シェレン、一つだけ頼みがある」

 

今の自身には出来ないこと。おそらく、今顔を会わせれば所在ないその拳は遊矢へと向くだろう。

 

「アイツを……今日の夜、遊矢とデュエルがしたい」

 

「…わかったわよ。 普段付き合ってもらってるからね~」

 

「…うん、ありがとな」

 

「貸し一つよ?」

 

嫌な役回りをさせられたことを気にした様子もなく、彼女は役割を引き受けた。お互いに小さく頷き合うとそのまま詳細に話を煮詰める。やがて、結論が出るとそれぞれ目的の場所へと別れていった。

 

 

 

PM:23:00

 

遊矢は一人最寄りの公園へと向かっていた。まだ中学生の彼は、本来ならこの時間に出歩くことはない。保護者である母さんも普段そんなことをしようものなら激怒するに違いない。が、今日に限っては事情が別。

 

「シェレンさんに呼び出されたのはいいけど……」

 

アカデミアについて話したいことがあると塾でこっそり聞かされ、夜中に家を抜け出してきた。公園に着くも、真夜中で園内は真っ暗。とても人を見つけ出せそうにない。僅かに灯る照明が手がかりだ。

 

「どこだ……どこにいるんだ」

 

暗闇の中を歩く遊矢が徐々に焦る。探し人が見つからないこととこの辺りの闇が不安にさせるためだ。園内の中心部に来た辺りでようやく人陰らしきものを見つけた。

 

「! 遊矢……か」

 

「スイゴ! どうしてこんな時間に俺をこんな場所に!?」

 

見つかったことに安堵したのとそれまでの疑念が噴出し、矢継ぎ早に質問をスイゴへと投げつける。

 

「アカデミアについて話したいことって? スイゴたちは本当に別次元から来たのか!? 黒咲とどんな関係なんだっ!」

 

「うるさいッ!!」

 

一喝で遊矢を黙らせ青年は、デュエルディスクを構える。

 

「……デュエルだ、遊矢。 お前の知りたいことはその後に答えてやる」

 

「ふざけるなっ! ずっと俺と柚子、塾長たちを騙してたのか! スイゴは……」

 

「素羅と同じように……か?」

 

「!?」

 

図星を指されたのか思わず遊矢も口をつぐんでしまう。

 

「おまえがアイツのことをまだ友達だと信じたいってことは分かる。 だが、生憎おれが知ってるのはヤスハと同じおれたちの敵の融合次元の一人だと言うことだけだ」

 

「……違う。素羅は…」

 

突きつけられる真実に心が揺らいでいる。あの日、彼が経験したことが夢でないと思い知らされた。スイゴもまた苛立った様子であり、それがまた遊矢の動揺を助長していた。

 

「何が違うってんだ……チッ。 けどな、今はそんなことどうでも良い」

 

停滞した場の流れを動かすべく、スイゴは胸のうちにまざまざと浮かんでくる感情を飲み込んだ。このままでは本来の主旨を見失いかねない。

 

「おれは……今はお前自身に用がある」

 

「俺に……?」 

 

「ああ、今日のデュエルは何だッ! 遊矢!」

 

一瞬苦虫を噛み潰したかのような表情をした彼をスイゴは見逃さなかった。

 

「…あんな無様なデュエルしといて何がエンタメだ! さっさとデュエルディスクを構えろ!」

 

「……スイゴに……何が分かるって言うんだよ!!」

 

叫びつつ遊矢もまた同様にディスクを展開する。

 

「分からないならかかってこい! デュエリストなら言葉じゃなくてコイツで話し合える筈だろッ!」

 

双方共にストレスや鬱憤が溜まりにたまりきった状態だ。そのやり場のない感情をどこにぶつけていいか矛先を探している。

 

「ああ! 俺が勝ったら全部答えてもらう、スイゴ!」

 

故にこの二人の対決を妨げるものは何もない。

 

 

「「いくぞ、デュエル!!」」

 

 

皆が寝静まった真夜中の公園で熱い戦いの火蓋は今、切って落とされた。




申し訳ありません。
ストックがないのでここでうちどめです。
ここからは不定期投稿とさせて頂きます。


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