GATE×オリ主&オリ国家 (オシドリ)
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序章 接触編 第1話

ネタその2.
GATEの特地にオリ主&オリ国家を突っ込んでみた。


 

 「だっ、だまされた………」 

 

 黒髪の男が一人、浜辺で膝を突いていた。辺りには何もなく、海は昨今の海洋汚染など知らないとばかりに澄んでいる。

 作業服姿の、中肉中背でパッとしない顔立ち。作業員をしている一般人です、と言えばそのまま通じる日本人である。実際その通りであった。

 

 

 この一般人な男がこのような場所にいる理由は、旅行中詐欺にあったわけでも失恋したわけでもなく。

 

 異世界転生、いや、この場合は転移だろうか?

 

 まあそういう事を経験したためであった。

 

 詳しく説明すると、その日の朝に遡る。

 

 男はもうすぐ中年というお年頃で、独身。家はアパート一階の1DK。家賃は3万2000円也。男のいる田舎だと普通のアパートになる。

 物にこだわりの無い男であるが、アパートの一室には一風変わったものがある。

 それは、ホームセンターで買った小さな神棚である。買った理由もなんとなく、という感じで。

 

 買ったからにはちゃんとやった方が良いのかな、と男は思い、それ以来、朝起きたら新しい御神酒に取替え、毎日お祈りするのが日課となっていた。

 

 その日は昨晩ネット小説を見ていたので、「ちょっと異世界行ってみたいな」とお祈りしてみた。

 そして日課を済ませて作業服に着替えたら暗転。

 気がついたら一面真っ白な空間に立っていた。

 

 人型の光る靄が言った。

 最近のネット小説にあるようなチート転生をしてみないか? と。 

 

 これは、あれか。

 

 なんか知らんが、きっとお祈りが通じて神様が願いを叶えてくれるのか?

 

 ファンタジーだ! 

 俺TUEEEだ!!

 ハーレムだ!! 

 

 神の言う、なんとも浪漫溢れる話に男は食いついた。

 

 そして、神と男の協議の結果、チートは一つだけ。身体と精神はサービスで強化するとのことだったので男は希望するものを言い、行先は剣と魔法の世界となった。

 男は神様に感謝を告げ、そして異世界だと思われる土地に降り立った。

 

 自分の手を見てみれば、皺に油が染み込んで刺青のようになっていない。

 昔の、若い頃の手である。

 

 神様の話は本当だったんだ! これは期待できる!

 

 早速、貰ったチートを確かめてみた。確かにチートはあった。

 

 貰ったのは「モノづくりの知識と才能」。

 

 だが、同時に絶望することとなった。

 

 神様からの伝言には、ここは無人島であるらしい。ここから東へ行った先には「ファルマート大陸」と言う大陸があり、そこなら人がいる可能性がある、らしい。ならその大陸へ行けば、と思うのだが、その間の海が問題であった。そこは荒れ狂う海流とメルヴィルの白鯨やクラーケンのような大型の海獣がわんさかいる海域であり、誰も近づかないし、島に辿り着く者もいない場所であった。

 

 居るのは、モンハンよろしく凶悪な竜種や未知の生物などが存在する人外魔境の島。

 

 人間は、己一人だけである。

 

「――いや、まだだ、やってやるッ! やってやるぞ俺はッ!! 絶対に美人の嫁さんを貰うんだァ――!!!」 

 

 男の夢、それは美人で気立ての良い嫁さんを貰って幸せに暮らすことである。またここに連れてきた神様にも一回文句を言わないと気が済まなかった。

 

 その為にはこんな所で朽ち果てるわけにはいかなかった。

 

 そして、男は行動を始めた。

 

 ただ、島での生活は地獄そのものであった。

 

 まずは本拠点になる場所を探し歩き、浜辺からさほど離れていない場所に拾い集めた枝と石で小屋を建てた。

 

 そこから周りを開墾していき、少しずつ大きくしていく。

 

 人間は男たった一人しかいないが、自分以外の部屋や物を作り置き、地道に大きくしていく。いつか島に人が来るかもしれない。流れ着くかもしれない。

 そう信じていたからだ。

 

 ある程度、本拠点の建築も終わった頃、ようやく造船を始めた。

 浜に船台を設置して伐り出した木材を加工して船を造り、ごわごわした葉から繊維を紡いで帆にしてみた。

 

 そして出港。

 

 その結果は、あえなく失敗。

 

 沖に出ようにも船は小さく、海流に押し流されて座礁してしまった。

 

 リベンジだ! と決意を新たにした時には島の獣らによる襲撃が起こり、どうにか撃退したものの拠点は半壊する羽目になった。

 

 ならば魔法だ! ファンタジーなら転移魔法の一つや二つあるだろう!

 そして研究の結果、転移魔法自体はあるものの、どうも条件があるようで男には無理なことがわかってしまった。

 

 となると、やはり船で大陸に行くしかない。

 

 ――まず、島を脱出する為の船を造る前には、襲撃を受けてもビクともしない拠点が必要になる。

 

 男はそう考えた。ただ、どうせなら見た目にもこだわりたい。

 

 男は凝り性であり、もし将来の嫁さんが流れ着いた時にみすぼらしい家に招き入れたくはなかったのだ。

 

 かつて旅行や画像で見た風景を思い浮かべ、知識を頼りに村を作り。町になり。そして都市としていった。

 

 その間、何度も危険があった。

 

 島の生物に追いかけられ、噛みつかれ、切り裂かれたこともあった。

 

 島の風土病で倒れたこともあった。

 

 間違って毒のある植物を食べて幻覚や腹痛に悩まされたこともあった(今でも極上の美少女だと思って木の洞にしつこく話しかけていたのは黒歴史である)。

 

 何度も死にかけたが、貰ったチートでどうにか生き延びていった。

 

 

 そして、転移から数十年経って、本拠点は見違える姿となった。

 

 開拓が進み、本拠点近くに棲む危険な生物は男が地道に駆逐し、または捕獲して調教。特に剣歯虎(サーベルタイガー)の群れの調教に成功したことが大きく、突発的な襲撃にも対応できるようになっていた。

 

 

 そしてこの本拠点は港町として、好きだったクロアチアの「ドゥブロヴニク旧市街」のような要塞都市を建設していた。隣接する岸壁には飛空船があった。

 

 水上では海流はどうにかなっても、大型海獣による攻撃が防げない為、男の持つモノづくりの知識と技術、そして島で取れる素材を組み合わせて完成した代物であった。

 

 この飛空船は数度に渡って人が居るとされるファルマート大陸へと行くことになった。

 

 だが、一度もヒトに出会うことはなかった。もしかしたら、ファルマートにもヒトは居ないのかもしれない。

 そして他の大陸を回ってもヒトを見つけることはできず、男は諦めてしまった。

 

 ――せめて、楽しく生きて、自分が居たという証だけは残しておこう。

 

 それから男の生活は当初と変わっていた。

 

 ある時には本拠点からさほど離れていない鬱蒼と生い茂る原始の森の中を探索していた時、樹齢何千年にもなりそうな大木を中心にポツンと開けた場所があった。

 まるでアニメの世界だ、と思った瞬間、かつての日本の風景を思い出し、懐かしさと寂しさからここに神社を建立しようと考えた。

 

 大木の周りを切り拓いたのちに塀を立てて入り口には鳥居を造り、奉るための社を建てた。

 今まで拠点づくりで慣れていたお陰か、非常にスムーズに作業が進んだ。

 

 ある時にはある大陸で発見した野生の稲を品種改良し、美味い米が採れる長閑な田園風景を作り上げたり。

 

 ある時は島で一番高い山に登り、そこに居た天龍と呼ばれる東洋竜とお互いの勘違いから戦闘となり、お互いにボロボロになったあと和解。そして天龍は時折、都市に遊びに来るようになったり。

 念話と呼ばれる術で会話ができる天龍との会話は、男にとって一番の楽しみになっていた。

 

 ある時には、公園に桜の木を植え、春には酒造した清酒を飲みながら花見をしたり。

 

 偶に起きる竜種や獣らによる襲撃にも備え、男はサブカルチャーの中で再現できそうなものの開発を進めた。

 

 具体的には火縄銃や大砲。モンハンのような世界なので大タル爆弾、落とし穴、天龍の鱗を加工した武具などだ。 

 

 尤も、火縄銃や前装式の大砲程度では龍種の鱗に傷が少しつく程度で余り意味がなかったが、大タル爆弾や落とし穴などは良い成果を上げることになった。

 

 楽しいこともあった。悲しいこともあった。沢山のことを繰り返して、繰り返していった。

 

 ただ、それも終わりのようだ。

 

 男は、年老いてしまっていた。これまで無茶してきた所為か、もう、身体を動かすこともままらなくなっていた。

 

 だが、最後にやるべきことがあった。

 男は、己が生きていた証を残す為、一領の甲冑を造り上げていた。白を基調とし、所々に赤い飾り紐で装飾された劔冑(ツルギ)。未だ完成していない。あとは、心鉄として己の魂を吹き込むだけである。

  

 男が最後の仕上げを行う時には、飼い猫である剣歯虎(サーベルタイガー)や知己の天龍らが来ていた。

 これが存在していた世界では、名工の鍛錬を経た上物の劔冑は独自に動くことが可能。その極一部は生前の人格が残るというが、さてどうなることやら。

 

「嫁さんは居なかったが、存外、良い人生だったなァ……」

 

 そう言い残し、男は劔冑に魂を吹き込んだ。

 

 劔冑は、完成した。

 

 残された猫と天龍は男の遺言通りに、劔冑と男の遺品を神社に保管することにした。

 

 中でも最も長命な種族である天龍は「もし、自分らと似た言語を使う人間が来たら渡して欲しい」との願いを叶えるべく、受けた恩と言葉を次の世代へと伝えていき、時折男が遺した都市の様子を見ながら険しい山の上で待ち続けていた。

 

 そして、ここから始まる。

 

 男の造った劔冑には、男の精神がしかりと宿っていたのだ。

 覚醒するまで時間がかかったが、人格が残っていたのだ。

 

 後に、劔冑は神へと至る。

 そして住んでいた島は「扶桑国」と呼ばれるようになり、島の住民、そしてヒトからも崇められるようになった「守人」の始まりであった。

 




・ドゥブロヴニク旧市街

 クロアチアにある、赤い屋根と周りを囲む城壁が特徴的な港町。
 ジブリ映画の「魔女の宅急便」や「紅の豚」の街のモデルになったともいわれる。

 2016/8/11 大幅な文章の修正と変更を行いました。


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第2話

 ――ファルマード大陸の東部から東へ真っ直ぐ進んだ先に、「フソウ国」と呼ばれる国がある。

 

 このフソウ国は、

 

 首都である「ミヤコ」があり、最大の面積を持つトヨス。

 その右隣にあるトヨスの半分ほどの大きさであり、龍種の住処となるリュウシュウ。

 北方にあり、寒冷な気候と鉱山開発が盛んなチトセ。

 南方にあり、温暖な気候から農業が盛んなツクシ。

 

 以上、四つの島からなる島嶼国家である。

 

 この国は独自の文化が発展しており、同時に成立の古い国家である。

 この国の王である「ミカド」と、ファルマードで言う貴族に当たるのが「ブケ」と「クゲ」、そして平民で構成されている。

 

 この国では奴隷制度は禁止されており、この国に入国した際には例え一国の王の所有物であろうが即座に奴隷は解放されることになっている為、渡航する際には十分注意しなければならない。

 

 独自の進化を遂げた龍種や獣が多く生息しており、これらに対抗する為に発展した高品質な武具が有名である。また金銀細工や「シッキ」と呼ばれるある種の樹液で赤や黒に塗装した木工品、絹織物が特産品として有名である。

 

 

  ***

 

 

 フソウ国はファルマートにいる神とは違う存在を祀っており、「ヤオロズ」、フソウ国の言葉で「八百万」を意味し、それだけの数の正神がいるとされる。

 

 その中でも有名なのが、水と風の神である「リュウジン」様、そしてフソウ国で最も古い神とされる「モリト」様がいる。

 

 この「モリト」様は謎が非常に多く、調査した私もよく分かっていない。

 単純に権限の及ぶ範囲が広い為である。

 

 フソウ国の神話ではフソウ国をたった一人で創り上げたとされており、また「モリト」様によってここに連れて来られた住民が住むようになってからは「カタナ」と呼ばれる剣で襲いかかる竜種や獣を討伐し、また魔法を自在に操り、住民には知識を授け、また土地を開墾して田畑を作り出し、更に鉱山開発や都市を造ったりと非常に多くの逸話が多い為である。

 

 その為、他の正神のように「~の神」と呼ばれることはなく、ただ「モリト」様とだけ呼ばれている。

 

 

  ***

 

 

 さて、ここに住むヒト種は多種多様であり、これらを全てひっくるめて「フソウ人」と呼ばれている。

 

 共通して、礼儀正しく温厚である。こちらが礼節を持って接すれば何も問題は無いが、一たび怒らせると非常に恐ろしい存在となる。

 

 かつて、ファルマード大陸東部のある国では、フソウ国特産の金銀細工や絹織物を見て、制圧しようと考えていた事があった。

 

 当時はまだ交易船の数が少なかった上に、現在でもフソウ国の品物は大変貴重品であり、貴族様方にとっては一種のステータスである。

 

 その為、フソウ国を抑えれば莫大な富が約束されているはずなのだ。

 

 その国は近隣諸国にも戦力を募り、大艦隊を編成し、多くの兵を乗せてフソウ国へ出兵した。

 

 しかし、この目論見は成功しなかった。

 

 ファルマード大陸とフソウ国の間にある「皇海」は非常に難所である。

 

 年中海は荒れ狂っており、また海中には巨大な海獣が棲んでいるのだ。

 フソウ国の船は巨大で頑丈。また優れた船乗りを擁しているが、寄せ集めに過ぎない大艦隊は嵐や海獣の襲撃によってフソウ国にたどり着く前に皇海に全て沈んだという。

 

 しかし、フソウ人達には宣戦布告も無しに攻撃されそうになったことには変わりなく。

 

 すぐさま軍と艦隊を編成し、そのまま出兵を発案した国とそれに賛同した近隣諸国へ攻め込んでいった。

 

 彼らは一様に「タチ」と呼ばれる大型のカタナを振るえば騎士ごと翼竜を切り裂き、「ツルギ」と呼ばれる鎧を身に纏っていた。

 この鎧は剣や弓矢はおろか、魔法や龍種の牙や爪ですら傷付けることは叶わず、また特殊な魔法が刻まれているのか空を自在に飛び回ることが可能であった。

 

 その為、直ぐにこれらの国は降伏。

 フソウ国は東部諸国に対して賠償金の請求と、沿岸部の港湾のみを無期限に租借しただけで済ませた。

 その後、この東部諸国は国力が落ちたところを別の国に攻められて滅亡し、現在は帝国の領土となっている。

 

  

  ***

 

 

 現在、帝国は領土拡大政策を執ったことにより、ファルマード大陸の大半を領有することになった。

 その為か、帝国では未だ従わないフソウ国を制圧すべきだと唱える者は多い。

 

 昔と今。東部諸国と帝国は違うといえばその通りだが、武器や戦術といったものはほぼ同じである。

 

 フソウ国の「ツルギ」と戦えるような装備があるのか?

 また、調べた限りでは今までフソウ国に侵攻できた事も、かの国所属の船以外で渡航に成功した例は一つも無い。

 

 最低でも、これら二つの事をクリアできるようにならなければ、外征は非常に危険であると言わざるを得ない。

 

 

             ――――ある研究者の「フソウ国に関する報告書」より一部抜粋。

 

 

   ***

 

 

 

「ああ、空が青いねぇ。良い天気だぁー」

 

 扶桑国、首都である京の近くに残る原初の森。その森の中央に鎮座する「神宮」。

 

 そこに祀られている守人は、縁側で夏空を見上げながらのんびりとした口調で言った。

 

 守人の第一印象は、真っ白。

 

 ざんばらな髪は漂白したかのように真っ白であり、身体を包む白の狩衣で露出している部分が少ないが、適度に引き締まった身体をしているように見える。

 その顔は柔らかい印象を受ける目鼻立ちで、どことなく幼さを残していて中性的に見える。パッと見ただけでは男か女か、判断がつかない。

 今は琥珀色の瞳は細められ、ぽやぽやした表情になっている。

 

 そういえば、あの時もこんな空だったの、と小さく呟く。

 

 今でももう、昔のことは覚えていることの方が少ないが、その時の事だけは今でもはっきりと思い返すことが出来る。 

 

 あの時、劔冑に魂を吹き込んで死んだと思っていた。

 

 が、急に意識が戻り、辺りを見渡せば寂れた神社の中。それを偶々様子を見に来ていた天龍が見つけたのだ。その天龍はやはり生きていたと驚き、そして狂喜した。

 

 どういうこっちゃ? と混乱する守人を余所に、あれよあれよと祝い事や祭りだとどんちゃん騒ぎ。

 守人はそのまま神社に祀られて崇められるようになり、後に正神という存在となった。

 

 正神に成れば肉体を失うらしいが、守人は特殊な例で劒冑という肉体を持ったままである。

 

 この頃になると人化できるようになった。

 まあ、折角なので顔はちょっと美化して体型も己の理想通りにと、守人の趣味が思いっきり反映された形になったのはご愛敬。

 

 そしてまた暫くして、ちらほらとヒトがこの世界にも来るようになった。

 

 守人はようやく人に出会えたことに喜びつつ、「折角、造った都市があるからここに住んで貰おう」とヒトを集めることにした。

 

 四つの島の各地に折角建設した都市を放棄するのは勿体ないし、すぐに受け入れることが可能であったからだ。

 

 集められたヒトらは明らかにヒトとは違う存在に驚き、そしてこれから住むことになる美しい都市に再び驚いてしまった。

 

 守人から「自由に使って構わない」と言われた彼らは呆気にとられたものの、そこで思い思いの生活を始めることになった。

 

 そこで農夫や鉱夫として働き始めたり、狩人になって竜種や獣を仕留めたり、森で採取した薬草から薬を作ったりと様々な方面で活躍することになった。

 

 またその後も何度かヒトを受け入れ続け、守人が建設した都市はようやく賑わう様になった。

 

 それからヒト種から「守人」様と呼ばれるようになり、平和な時代、戦乱の時代を繰り返していって、現在は四つの島で一つの国とする扶桑国となった。

 

 そんな事を思い返していた守人に、「ナーオ……」と小さく鳴き声を上げながら近寄ってくるものが居た。

 

「ああ、不破。今日も元気だねえェ……」

 

 剣歯虎(サーベルタイガー)の不破である。

 

 守人がよしよし、と言いながら不破の首元をわしゃわしゃと撫でてやると、ごろごろにゃー、と嬉しそうな声で鳴く。

 

 不破は、守人がまだ人だった頃に調教し、仲間にした剣歯虎の末裔であった。代々、剣歯虎のボスは不破と名付けられ、守人に懐き、付き従うようになっていた。

 

 

 ああ、本当にのんびりとして良いなぁ。

 

 不破を撫でながらそう思う。

 

 昔なら考えられないほど静かで穏やかな日々を過ごしている。

 

 前はこの国をより良くしようとこの身体になってからも色々と手出ししていたが、皆がそれに慣れてしまって次々に問題が起きるようになってからは最小限の事しかしなくなっていた。

 

 少々、退屈ではあるが、話し相手には不破や天龍達、巫女さん達が居るし、娯楽も文化の発展に伴って良くなってきている。

 

 それに、昔のように食う寝るに毎日困りながら猛獣や翼龍の群れに何日も延々と追い掛け回されたり、刀一本でドラゴンと戦っていた日々に比べれば遥かにマシである。

 

 平和。素晴らしい。

 

『――――』

 

 “声”がかけられた。 実際には、頭に直接語り掛けている。「念話」と呼ばれる、対象のみに言葉を届ける伝達魔法の一種であった。

 

 空を見上げると、細長い影がこちらに向かって来ていた。

 

『守人、遊びに来ましたよ』

 

 やってきたのは、天龍と呼ばれる龍種であった。姿形は翼は無く、蛇のように細長い東洋竜である。

 

「太郎か、久しぶりだの。元気だったか?」

 

 太郎と呼ばれた天龍は、かつて、人間としての肉体があった頃の守人と勘違いから戦いになった龍であった。今でもその時の傷跡が、左眼の上から頬にかけて走っていた。

 

 今では天龍の中でも最古参の龍となっており、この国では、龍神様として崇められる存在であった。

 

『ええ、元気ですよ。貴方も変わりないようで』

 

 穏やかな笑みを浮かべて太郎が言った。

 

「うむ。儂はこんなんでも劔冑じゃからな。兵器なら風邪一つも引かぬわ」

『ハッハ。それは私も同じですよ。守人』

 

 それもそうだの。そう言ってお互いにまじまじと見つめあった後、小さく笑いだした。

 

 それからやってきた巫女さん達に守人は茶と菓子、それと不破の乳酪(ミルク)を頼んだ。

 

『私は酒が良いですね』太郎が言った。

 

『先ほど空から見ましたら、表に酒樽が積んでありましたよね? しかも、匂いからして筑紫の一等良い清酒。あれが良いですね』

 

「この蟒蛇(うわばみ)め。相変わらず遠慮がないの」苦笑しながら守人が言った。「すまぬが、誰かやって酒樽を4つ5つほど持ってきておくれ」

 

 巫女さん達も忍び笑いを零しながら、はい、直ちにと言って退出した。

 

 その言葉通り、すぐに頼んだものが運び込まれた。

 

 太郎は嬉しそうな表情で酒樽を開け、魔法で冷酒にし、ゆっくりと飲み始めた。

 守人や不破も、それぞれ茶と乳酪を飲み始める。

  

「それで、何かあったのか?」

 

 ひとしきり楽しんだところで守人が言った。

 

 太郎が来る時は大抵、何かしらの用事も持ち込んでくるのだ。

 

 今年の秋の祭事はまだ先だ。

 最近は何か問題が起きたとも聞かない。

 

『ええ、ファルマート大陸についてですよ』

「む? ああ、<帝国>か。またぞろ何か言ってきたのか?」

『いえ。ああいや、それもありましたけどね。今回のはちょっと違うようです』

 

 言い淀む太郎に、守人は怪訝な表情を浮かべた。

 

『どうやら、<門>を開いたようです』

「……ふうん、また<門>を開いたのか」

 

 懲りないねェ、と茶を啜りながら言った。不破も同意だ、と言わんばかりに鳴いた。

 

 <門>とは、この世界と異世界を繋げる装置である。

 

 この世界の生物はその大半が<門>が繋げた世界から渡ってきた。中には国家や大陸ごと渡ってきた事もある。

 

 現在、この世界で最も新しくこの世界に来た生物はヒト種であると言われている。

 もしかしたら、守人が最初のヒトだったのかもしれない。まあ、これはどうでもよい。

 

『<門>を開けたのは、経済が行き詰っているからでしょう。随分と念入りに調査し、結構な数の軍勢をアルヌスの丘へ派遣したのですが、どうやら失敗したようです』

 

「ううむ……」

 

 帝国は中世レベルの国家とはいえ、今代の皇帝は有能であると聞く。調査して勝てると判断した場合でしか軍を動かさないはずだ。

 それが少し気になった。

 

「まあ、ウチには余り関係が無いか」

 

 扶桑国は殆どのことが自国内で完結している。別にファルマート大陸との交易は過去の因縁から多くなく、最近では、またちょっかいを出してきて面倒臭いことになっているので交易を減らしている状況であった。

 

 今は調査として未開の大陸や島などを探検している為、交易を止めてもさほど問題も起きないのだ。

 

『私も少し気になったので、若いのを送って調べさせてみました。その結果、こちらの小銃や自動車を使う集団によって<門>周辺が制圧されたそうです。なんでも、その集団は<二ホンコク>の<ジエイタイ>と呼ばれていたとか』

 

 

 太郎の言葉に、守人はぴたりと動きを止めた。まさか、という気持ちで一杯であった。

 

『貴方の故郷は、確か二ホンという国でしたね。何か知っていませんか?』

 

「―――ああ、ああ。知っているとも。よぅく知っているとも」

 

 己がいた日本かどうかはわからないが、恐らく、さほど違いは無いだろう。

 

「他に、どこかの違う国が混ざっていたとかはないか?」

 

 震える声で守人は言った。

 

『いえ、若いのが聞いたのはそれだけです。数も少なかったようです』

 

 となると、自衛隊が出来たのは戦後。昭和中期だったはず。もしかしたら平成時代から来たのかもしれない。

 

 そう考えてしまうと、やはり望郷の念にかられてしまう。

 もう永い間、この国で生きている。家は此処だと思っている。

 

 だが、一度だけでも良いから日本に帰りたいと思ってしまう。

 

 何か察したのか、不破がすり寄ってきて顔を守人の身体へ押し付けてきた。

 守人は不破の頭を撫でてやる。

 そして、決めた。

 

「――太郎。自衛隊の人達に接触を図ることは可能か?」

 

『ええ、勿論』穏やかな笑みを浮かべて太郎が言った。

『永い事、故郷から離れていたのでしょう? 一度でも帰りたいと思うのは当然のこと。我慢せずともよろしいかと。それに、()()の事もありますから』

 

「……ふむ、彼らの事も考えないとな。それと、ありがとう」

『いえいえ。では、もう一度誰かを送りましょう。すぐに取り掛かりますよ』

 

 そう言って、太郎は残っていた酒を飲み干して飛び上がる。

 

『準備が出来ましたら、また連絡を下さい。それまでは可能な限り情報を集めておきます』

「すまない、頼んだ!」

 

 太郎は念話ではなく、一声大きく吠えて答えた。そのまま一気に空高く飛んでいく。

 

 不破も大きく吠えた。

 辺りが騒がしくなる。龍神である太郎の声に反応した猛獣や龍種によるものだった。

 

「さて、ちと忙しくなるかね……」

 

 不破の頭を撫でながら、守人はこんなにも楽しい気分になったのは久々であると、心が浮きだっていた。

 

 まるで未知のことに遭遇した時のような、ワクワクした気持ちを抑えずに自衛隊、そして日本と接触するのに必要なことを始めた。

 

 さしあたっては、まず巫女への連絡か。個人的なことだが、まあたまには我儘に付き合ってもらおう。

 




2016/8/11 大幅な修正と変更を行いました。


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第3話

 

 というわけで。

 

「ちとファルマート大陸に行ってくるから、あとはよろしく」

「いきなり何言ってるんだ、あんたは」

 

 神宮の本殿。

 

 守人から急に呼び出された筆頭巫女は開口一番、そう答えた。

 

 上下共に白の巫女服を纏い、長い黒髪をポニーテールにした、若く見える巨乳の美女である。

 

「うむ?言ってなかったか?」

「ファルマート大陸に行くとは聞きましたが、理由は聞いていません」

 

 既に旅支度を整えたらしい守人に非難を含んだ視線を浴びせても、彼は柔らかい笑みを浮かべたままだった。

 

「今、アルヌスの丘に新たに<門>が開いたそうでな。そこに異世界の軍勢がやってきているそうだ」

「<門>、ですか?」

「そう。しかも今回は固定化しているようでな。それで太郎にも動いてもらっている」

 

 そこまで聞かされた巫女も、ある程度は察した。

 

 今までも<門>は幾度となく開いていた。

 この世界と似た所ならばまだ良いが、全く違う世界、例えば巨大な昆虫が襲い掛かってきたやら未知の病気が流れてくるなど被害が出ているのだ。

 

 しかも、<門>はあのハーディが関わっている。

 今までも此方にちょっかいを出してきている、はた迷惑な冥府の神である。

  

 そこで龍神様まで動いているとなれば、一介の巫女に過ぎない自分では止めることなど無理だし、今後の事を考えると何かが起きても可笑しくはないのだ。

 

「……分かりました。すぐに御前会議へ知らせます」

「うむ、ついでに異世界観光もしてくるのでな」

 

 それを聞くや、巫女は呆れた表情を浮かべた。

 

「……本音はそれですか。調整するのは私の仕事なんだけどねぇ」

「はっは。まあ儂の今代の巫女だったことを恨んでくれ」

「はあ、もう分かりましたよ」

 

 渋々と、まるっきり納得していない表情で頷く。

 

 今までも、こうやって守人が思い付きで行動することは度々あったのだ。

 ただし最近は大人しかったから、そろそろ始まるかな、という意見があった位だ。

 

 本来ならば、亜神とはいえ国が祀る神があっちこっち出回るのは良くないのだが、お人好しな性格からか、国外に出れば人助けをしていくので信者は多くなり、また国内でも同様の事をして治安が良くなるのだ。

 

(これで、あと少しでも神としての威厳さえあれば……)

 

 まあでも、偉ぶらないから今の人気とこの国があるのかもしれない。

 そう考えて、ふと思った。

 

「でも、何で態々異世界を見に行きたいと? 今までも<門>が開いた時にはそういった事はしていないと聞きましたが」

「ああ、それか」

 

 守人は何気ない態度で言った。

 

「新しく<門>が開いた先は、儂の故郷かもしれないのでな。ちと里帰りしたいのだ」

「………………は?」

 

 その後、神宮にてある巫女の絶叫が響いた。

 

 

   ***

 

 

 そしてその後。

 

 扶桑国、みやこ空港。

 

 空港と言っても名ばかりで、ただ野原に飛空船の整備所と倉庫があるだけの閑散とした場所である。

 だが、この日は開港以来初めてになる賑わいを見せていた。

 

「いやはや、随分と大仰な使節団となったのぅ」

 

 守人のため息交じりの言葉に、仕方ないよ、というような鳴き声で不破が答えた。

 

 守人と不破が空港の隅に張った天幕で待機している時、扶桑国が誇る飛空船<伊吹>には大量の物資が積み込まれている最中だった。

 

 この飛空船はファンタジーらしく、気嚢部と船が上下にくっついたようなもの。船の両舷には複葉の翼と推進機である動力機関があった。

 水上を走る船と違って海獣に襲われることもなく、最短距離を安全に行くことが出来る優れ物である。

 

 だが、この飛空船は便利ではあるが、使用する素材とコストの高さからこの国でも三隻しかない為、民間利用はまだされておらず、緊急時や軍の演習時にしか使われない。その内の一隻を出すということから、首脳陣も本気なのだろう。

 

(それだけ期待している、ということかの?)

 

 この国の現状を知っている守人からも、その理由は察することが出来た。

 八省の長らによる緊急会議が行われ、守人のファルマート大陸行き、そして異世界行きが了承される。

 

 これは正神・守人の故郷かもしれない、という言葉もあったが、守人と天龍の話によれば、今現在<帝国>とやり合っている集団が自分達よりも高い技術を持っていると分かったからだ。

 

 ファルマート大陸の<帝国>は停滞を打破するために<門>を作り出し、開いた。

 そして停滞しているのは何も<帝国>だけに限った話ではなかった。

 

 扶桑国は21世紀の地球から見れば、恐ろしく歪な国である。

 

 これは守人による知識と技術によって発展してきた国であり、この国特有の生物に対抗してきた結果によるものだった。

 

 この世界には、地球のファンタジー小説に出てくるような生物が多く居る。

 

 ドラゴン、翼龍、飛龍といった龍種。

 グリフォン、コカトリス、ミノタウルスなどの怪異。

 剣歯虎(サーベルタイガー)豪象(マンモス)のような地球では絶滅した古代種。

 

 他には天龍、てばさき、といった扶桑国の固有種、等々。

 

 扶桑国は国土が狭いが、独自の進化を遂げた生物が多く生息していたのだ。

 最初、守人が来た時も「ここはモンハン世界なのか?」と暫くの間疑ったぐらいであった。 

 こういった生物に対抗するには唯の鉄剣や弓矢では到底敵わない為、生き残るには急速に発展せざるを得なかった。

 

 その結果、開発された代物が<劔冑(つるぎ)>と呼ばれるパワードスーツである。

 

 元ネタはとあるPCゲームからだが、仕手と呼ばれる装着者の熱量(カロリー)を消費することによって運動能力の増加による剛力と傷の治癒能力を発揮するようになる。

 また背中の合当理と呼ばれるブースターによって空を飛ぶ事も可能で、特に業物と呼ばれる劔冑は陰義(しのぎ)と呼ばれる、いわゆる必殺技が備わっている。

 

 その製法は高い技量を持った劔冑専門の鍛冶師が制作している。

 その最終工程で己自身を素材とすることで完成し、鍛冶師の魂は劔冑の意思となり、PCで言う機体を制御するOSとなる。

 それ故に生涯に一領のみしか作り出せないが、その性能は破格で扶桑国では古来より最強の兵器として用いられている。

 

 この劔冑に使われている技術と、また現在進めている劔冑の量産化の過程で生まれたのが再生医療技術。

 四肢や内臓が無くなっても、元に戻すことが可能なレベルである。

 つまり、21世紀の地球と比較すれば特定の分野ならば数世代先に行っているが、それ以外は精々が近代に入ったかどうか、というレベル。

 

 そして、急速に発展した弊害として扶桑国の技術力が突出しすぎてしまい、同等の競争相手が居なくなってしまった。

 

 また太郎や当時の帝らから、

「知識や技術を与えることに慣れてしまうと自力で発展できなくなる」

 と言われて、守人は緊急時以外は口出しせずに一定の距離を置くようになった。

 

 この結果、急速な発展は止まり、また技術競争が起きない為、長い停滞を余儀なくされた。

 対策としては<帝国>が発展していけば良いのだが、仲が良いとは言えない間柄であるし、古来より隣国を支援する国は滅びると言われる。

 わざわざ技術支援する気は無かった。

 その為、他の大陸の調査を行っているが、未開の部族が住んでいるのみで扶桑国はおろか、<帝国>並みの文化技術を持った国とは未だ出会えていない。

 

 そこで現れたのが、守人の故郷かもしれない国から来た軍勢。しかも、こちらと同等、もしくはそれより高い技術を持った国である。

 高い技術を持っていることは即ち、扶桑国と競争相手になるかもしれない。

 また積み重ねてきた経験や知識、そういった物は扶桑国にとっては刺激になるのだ。

 

 これが、どうしても欲しい。

 

 その為、予定では異世界に行くのは守人と太郎、不破の三柱だったのが、扶桑国の上層部の意向から使節団も派遣したい為、交戦中の場所に行くから軍も必要と、あれよあれよと膨れ上がり。

 結果、移動の為に飛空船が一隻。

 神職に外交官、軍から派遣された一般兵、そして<劔冑(つるぎ)>を扱う武者。

 総勢100人を超える大規模な使節団が編成されることになったのだ。

 

「しかし、こんな人数で押しかけても大丈夫なのかね?」

『だから、私は一足先に行って、彼らと接触してみることになりました』

 

 守人の呟きに対して、念話が入る。太郎だ。天幕の外に出て見上げる。

 太郎はゆっくりと旋回しながら飛んでいた。守人の姿を見つけるとそこに目掛けて一気に急降下し、激突する直前でピタリと止まると、四本の脚で地面に降り立った。

 

「お見事」

『もう少し、止まるのを遅くしても良かったですね』 

 

 それだと儂を吹き飛ばしてしまうわ、と言いながら守人は満面の笑みで太郎を出迎えた。

 

 太郎はとぐろを巻いた姿勢になり、守人も天幕から床几を引っ張り出して座る。不破は守人の足にひっつく形で座り込んだ。

 

「しかし、太郎が先行するのか。若いのにやらせるんじゃなかったのか?」

『いや、その予定だったんですがね……』

「なんだ、また問題か?」

 

 明らかな苛立ちを含んだ声で言う太郎に、嫌な予感がしながらも守人が言った。

 

『炎龍ですよ。あの火吹き蜥蜴が<門>の近くに出たそうです。あの忌々しい、人語も話さないでかいだけの蜥蜴が、観察していた若いのを襲ったんですよ』

 

 ふん、と不機嫌そうな表情で太郎が言った。

 

 その天龍によれば、離れた場所の上空からアルヌスの丘にある<門>と自衛隊の駐屯地を観察していたところ、雄叫びと共に炎竜が襲い掛かってきたらしい。

 

 天龍も若いとはいえそれなりの経験を積んだ龍であったが、いかんせん相手が悪い。

 単純な力ならば天龍よりも古代龍の方が上である。それに経験の差もあって終始押されてしまった。

 天龍も、今の自分では敵わないと判断し、全身に火傷と裂傷を負いながらも隙をついて炎竜の眼と翼に攻撃。

 炎竜はよろけて墜落した為、その隙にどうにか帰ってきたそうだ。

 

「その若いのは大丈夫なのか?」守人が言った。

『薬師によれば、火傷と裂傷で暫くの療養は必要ですが、しっかりと治るとのこと。まあ龍族は丈夫ですからね。死ななければ大抵治りますし』

「そうか。しかし、この時期に炎竜か……」

 

 守人は嫌そうな表情になる。

 

「あの女の手引きだな……」

『でしょうね。あの蜥蜴は今は休眠期だったはず。目が覚めるのが早すぎる』

 

 炎竜はハーディの眷属だ。

 恐らくは<門>から来た軍勢の様子を見る為に炎竜を起こしたのだろう。

 もし、炎竜に襲われて全滅すればそれまでだし、逆に返り討ちにすればそれはそれで面白い。自分の意に適った魂があるかもしれない。そう考えるだろう。

 

 俗人など知ったこっちゃないという、自分勝手で気ままに動く、神らしい神。

 ハーディはそういう神なのだ。

 

『とはいえ、私の一族の者が襲われた以上、あの雌は一度ぶちのめさないと私の気が済まない』

「……あんまり派手にやりすぎるなよ」

 

 太郎は龍神。水と風を司る神である。

 その気になれば嵐を巻き起こしてその一帯を湖にすることぐらい可能なのだ。

 そう言えば、ファルマート大陸に行っていた若いのは、太郎の直系の子じゃなかったか……?

 

『分かっていますよ。安心して下さい。私ももう年寄りです。冷静にやらせてもらいますよ』

 

 いや、全く安心できないです。

 

『では、そろそろ行きますかね。…………待ってろよクソ蜥蜴が』

「あー、気を付けてな。それと、仕事は先方への伝令だからな、間違えるなよ」

『ええ、ええ、分かっていますとも。ではお先に』

 

 太郎は身体をしならせ力強く飛ぶと、そのまま高みへと昇って行った。

 入れ違いに、巫女らがやってきた。出港準備が整ったそうだ。

 

「丁度良い時に来たの。飛空船の出航時間を遅らせておくれ」

 

 疑問符を浮かべる巫女らに、守人は引きつった笑みで言った。

 

「太郎がキレた。暫く天候が荒れるからゆっくりと行こうじゃないか。荒魂となった太郎の怒りに巻き込まれたくなかったらの」

 




2016/7/18 文章の修正を行いました。


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第4話

(´・ω・`)イマイチ話が進まない。


 ファルマート大陸。 

 

 特地の調査の為に編成された六個の深部情報偵察隊。

 そのうち、伊丹率いる第三偵察隊は三台の軍用車両を走らせていた。

 

 遮る物などない青空に、見渡す限りの草原。

 コンクリートジャングルと呼ばれる都内での生活に慣れた者からすれば、ちょっとは異世界なんだな、と思えるかもしれない。

 

「でも、日本でも北海道とか、田舎に行けば見られますよ。こんな風景」 

 

 北海道の名寄駐屯地から来た倉田三等陸曹が言った。

 日本で見られるアニメやゲームのような、多種多様な人種がおり幻想的な風景が広がっているようなファンタジーな世界を想像していた彼からすれば、田舎と何ら変わらない風景には不満が多いところであった。

 

「まあ、世の中そんなもんさ。それに長閑で良い所じゃないか」

 

 隊長の伊丹二尉がゆるい顔で言うと、倉田は「そりゃ、そうですけどねぇ」と返した。

 

「こう、ファンタジーらしくエルフとか、妖精とか、ケモ耳とか居ないんですかね?」

「さあ? どっかには居るんじゃないの」

 

 そんな気軽に、なんともゆるい会話をしている伊丹を見ると、とてもマスコミで連日騒がせた<二条橋の英雄>には見えない。

 <銀座事件>において英雄として取り上げられた彼であったが、その性向は一般的な英雄と呼ばれる性格の持ち主ではない。

 伊丹はいわゆるオタク趣味を持つ人間で、モットーは「食う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっとの人生」。

 なんとなくで自衛官になり、かつての上司もその怠け癖を治そうとしたができなかった、筋金入りの怠け者。

 そんな人間である。

 

 そんな彼が咄嗟の機転で多数の民間人を救い出し、それで英雄と呼ばれるようになり、その功績で一階級特進して銀座の<門>から繋がる異世界<特地>で偵察隊の隊長になっちゃったのだ。

 

 彼を知る者や、彼本人も含めて「どうしてこうなった」と思うほどであった。

 

「伊丹二尉、もうすぐ次の集落が見える頃です」

 

 桑原陸曹長が言った。叩き上げのベテランで、「おやっさん」と呼ばれている隊員である。

 

「はいよ、じゃあそこもさっきと同じようにしましょう」

 

 伊丹の言葉に桑原は軽く頷き、マイクで他の車へと知らせる。

 

(うーん……)

 

 妙な感じがする。伊丹はそう感じていた。

 今のところ偵察任務は順調。

 

 ただ、なんとなーく、いやーな予感がする。

 そして、その予感は三つ目の集落である<コダ村>に着いた時に的中した。

 

 

 第三偵察隊が<コダ村>へ着くと、そこは酷く慌ただしかった。

 村人を捕まえ、「村長に会いたい」と伝えると、目的の人物は面倒臭そうな表情を浮かべながらも直ぐにやってきた。

 

「あ~、私達、色々、調べてる。何があった?」

 

 辞書を見ながら、たどたどしい言葉で伊丹が言った。

 

「炎龍じゃよ! 炎龍が近くのエルフの村を襲ったんじゃよ!」

「炎竜?」

「なんじゃ、おぬし炎龍も知らんのか……。まあ良い。そこに炎龍から逃げてきたエルフがおる。何か聞きたいことがあるならそやつらから聞くと良い」

 

 村長は口早に言うや、隅に居た集団を指差してさっさと戻って行ってしまった。

 残った伊丹は他の面々と顔を見合わせる。

 村長が指差していた先には、金髪と、笹穂の形の耳をした美形の集団。

 

「隊長。まさか彼らって、エルフですか?」小さく、倉田が言った。

「みたいだね」

 

 伊丹はエルフと思われる十人ほどの集団に近付く。此方に気が付いたらしい彼らからは、絶望したような濁った瞳が向けられた。明らかに疲弊している。そして、焦げた酷い匂いが漂ってきた。

 

「あ~と、すみません、話、良いですか?」

 

 伊丹が訊ねても、エルフ達は反応しない。

 言葉が通じてないのか、と思って身振り手振り伝えようとしても、他の隊員が訪ねても亡羊とした表情のまま黙りこんでいた。

 

「……駄目だね、こりゃ」

「どうしますか?」

「うーん……」

 

 伊丹は頭をガリガリ掻きながら、これでは情報が集められないな、と内心ごちていると、見かねたのか一人の村人がやってきた。

 14,5ほどの、貫頭衣を纏ったプラチナブロンドの少女であった。その手には杖を持っている。

 

「フソウ国の人?」

「えっ?」

「フソウ国の人?」

 

 少女の問いに、伊丹達は返答することが出来なかった。

 何故ならば、少女の言葉は発音がやや違うものの、日本語であったからだ。 

 

「フソウ国の人、違う?」

「い、いや。あー、私達は日本国の自衛隊です。フソウ国という国は知らないな」

 

 動揺しながらも、伊丹が答えた。

 

「……違うの?」少女は首を傾げた。「その顔と言葉、フソウ国のヒトによく似ている」

「そうなのか……。まあいいや。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、良いかい?」

 

 少女は少し不思議そうな表情を浮かべていたが、やがて小さく頷いた。

 

 伊丹が日本語が喋れる少女――レレイと名乗った――と会話して情報を収集した結果。

 村長の言っていた炎龍とは、古代龍と呼ばれる存在。銀座にも現れた翼竜よりも馬鹿デカい存在で、所謂火を噴くドラゴンのようだ。

 

 数日前、エルフの村の上空で炎龍と天龍(これも古代龍の一種らしい)が争っていたらしい。

 結果、天龍は逃げ出し、炎龍は村の近くへ墜落。その後、炎龍によって村が襲われたのだ。 

 ここに居るエルフは、炎龍と天龍が争っている際に地下の貯蔵庫へと逃げて助かった面々である。

 それ以外の者は、皆死んでしまったという。

 

 村を焼く炎が落ち着いた頃を見計らって外に出て、着の身着のまま<コダ村>へと逃げてきたそうだ。

 そして、その知らせを聞いた<コダ村>ではすぐさま村を捨てる準備を始めた。

 それが、慌ただしい原因であった。

 

「……これ、ちょっと拙いよ。ドラゴンだってよ」

「人が好物で、腹を空かせると襲ってくるって……」

「翼竜とかより弱い筈ないですよね……。あいつら、12.7㎜の徹甲弾でも柔らかい腹部でどうにか、って話ですよ」

「ゲッ、マジかよ……」

 

 一同騒然とする中、伊丹は静かに言った。

 

「撤退しかないね」

 

 どのみち、この村より先の集落は炎龍に襲われてしまい、集落巡りは不可能になった。

 それに、古代龍とやらが現れれば今の隊の装備では太刀打ちは難しいだろう。

 ならばとっとと撤退するしかないのだ。

 

 伊丹はそう言って通信のアンテナを立ててアルヌス駐屯地に「ドラゴンが現れ、これ以上の情報収集は不可能です」という事だけを連絡。本部からも「さっさと帰ってこい」と言う感じの返事が来た。

 

「というわけで、桑原曹長。そんなわけで宜しくお願いします」

「はい」桑原は言った。納得した表情であった。

 

 そのまま桑原が逐次指示を飛ばし、壊れた荷車をどかしたり、怪我人の治療などを始めた。

 ここで、村人達が避難を始めている、と馬鹿正直に伝えても、本部からは先ほどと同じ言葉が返ってきた事だろう。

 つまり、村人は見捨てろということ。

 伊丹も最初はその予定だったが、レレイという少女が言う自分達と同じような顔と言語を使う「フソウ国」。

 これが気になったのだ。

 それに困っている人を放っておくのもなんだか悪いし、道すがら、この少女にフソウ国について聞きたいと思ったのだ。

 

 そんなわけで、自衛隊員らが手伝い、ようやく準備が整う。

 そして、逃避行が始まった。

 

 

   ***

 

 

 逃避行を始めて三日目。

 

 キャラバンは遅々として進まない。ぬかるみに嵌って動かなくなった荷車、照り付ける太陽の暑さと、消耗する精神。日が経つにつれて問題は多くなっていき、それに伴って落伍者や傷病者も増えていく。

 

 一応、伊丹は避難民の救助として本部に車両の増援についてお伺いを立てたのだが、戦線の拡大を招きかないとして却下されている。

 だから、助けられる者は助けて、それ以外の者は見捨てるしかなかった。

 途中、エムロイの神官だという黒ゴス少女を乗せることになった時、ひと悶着が起きたが、ゆっくりと歩を進めていく。

 

 そして、奴がやってきた。

 

「……ん? あれは何だ?」

 

 隊員が空を見ると、雲の合間に黒い影があった。

 少しづつ、大きくなっている。形もはっきりしてくる。

 いや、あれは、まさか―――。

 

「敵襲――ッ!!」

 

 黒い影は、エルフの村を襲った炎龍であった。

 腹を空かせ、餌となる人を探し求めてやってきたのだ。

 逃げ惑う人々は炎龍に踏みつぶされ、炎に巻かれ、噛み砕かれていく。

 たちまち地獄と化した。

 

「くっそう! 撃て撃てッ! キャリバー、牽制しろッ!!」 

 

 急加速し、砂塵を巻き上げて疾走する中、伊丹は部下達に命じた。

 

 隊員の六四式と、軽装甲機動車に備え付けられたキャリバーの火箭が炎龍に集中する。

 絶え間なく銃弾を浴びせているというのに、全てが炎龍の鱗に当たって火花を散らし、阻まれてしまう。

 

「全然効いてないっすよォ!?」

 

 キャリバーを操作している笹川の言葉に伊丹は怒鳴り返した。

 

「良いから撃て! 当て続けろ!!」

 

 効かなくても鬱陶しいはず。此方に引きつけておかないと……。

 

 そう考えていた瞬間、炎龍がその場で一回転する。

 どうにか丸太のような尾の一撃を避けたが、次の瞬間、火炎放射のようなブレスを伊丹の乗る高機動車に向けてまき散らす。

 

「倉田ッ!」

「くうッ!」

 

 倉田が急いでハンドルを切り替えているが、間に合わない!

 

 全てがスローモーションに見える。

 

 炎のブレスが、眼前に迫っていた。

 

 ……、

 …………、 

 ……………………、

 

「あれ?」

 

 何時まで経っても、炎がやってこない。

 

 恐る恐る、目を開けてみる。

 すると、水色の膜のようなものが伊丹らの乗る高機動車を包んでいた。

 いや、それだけではなかった。よく見れば、コダ村の民衆全員がこの膜の中に入っていた。

 

『遅かった、ですか……』

 

 頭の中に、死者を悼むような声が響く。

 

 声の主は、上空に居た。

 全長ならば、炎龍よりも遥かに長いだろう。

 蛇のように細長く、黄土色の鱗に包まれたしなやかな身体。鹿のような雄大な角を持ち、たてがみとひげは日差しを浴びて白く輝いている。

 

 アジアにおいて広く知られている、伝説の霊獣。龍。そのものの姿。

 

「天龍……?」

 

 怪訝な表情でレレイが言った。天龍にしては、あまりにも巨大で、覇気に溢れていたのだ。

 

「いえ、違うわぁ、龍神よぉ……!」

 

 ロゥリィが、小さく呟いた。その声には、明らかな喜色が混じっていた。

 

『さて、クソ蜥蜴』

 

 龍神・太郎は炎龍に顔を向ける。

 声と、兎に似るとされるその眼には、憤怒の情が混じっていた。

 

『よくも私の眷属に手を出してくれたな……!』

 

 雄叫びと共に、龍神・太郎は炎龍へと殴り掛かった。

 

 

「え、何この怪獣大決戦」

 

 西洋と東洋の龍が、互いに噛みつき、引っ掻き、そしてブレスを吐き合う姿を見て伊丹は気が遠くなりそうだった。

 そうしていられるのも、目の前にある水色の膜のお蔭であった。

 

 どういう原理なのかはわからないが、この膜がやってくる炎を消し去り、飛んでくる石や泥といったものも弾いているからだ。

 触ってみると弾力があり、ひんやりして冷たい。そのまま押し込むと水の膜から出ることは可能なようだ。

 

「隊長、今のうちに逃げましょうよ」倉田が言った。顔色はすっかり青ざめていた。

「今なら撤退出来ますって」

 

「うーん、その通りなんだけど……」伊丹はレレイに訊ねた。「あの龍、何か知ってる?」

 

 すると、レレイはロゥリィと軽く一言二言会話して、小さく頷いた。

 

「ん、龍神様」レレイが言った。「フソウ国にいる、風と水を司る神様」

「神様か……、それだったら任せても――」

『自衛隊員殿、聞こえますか?』

 

 大丈夫でしょ、と言おうとした瞬間、再び声が頭に響いた。

 

「え? あ、はい、聞こえます!」反射的に、伊丹が答えた。

『そうですか、少しよろしいですか? 少しの間、あの蜥蜴の気を引くことは可能ですか?』

「えっ!?」

 

 気を引く?

 なんの?

 炎龍の。

 

 自衛隊員全員が龍神と炎龍の戦いを見やる。 

 

 龍神は体長の長さを利用し、鞭の様に強くしならせた尾を炎龍に叩きつけていた。

 炎龍はその痛みに咆哮を上げながら、その鋭い爪で反撃し、龍神の胴体へと噛みつく。

 噛みつかれた龍神は慌てる事無く、ただ『ふんっ』と気合を込めた右のアッパーを顎にぶち込み、更に左のフックを顔面に打ち込んだ。

 流れるようなコンビネーションを顔面に受けてよろめき、たたらを踏む炎龍。そのまま龍神は前傾姿勢となり、右へ左へ上体を動かしながら炎龍にフックの乱打を始めていた。

 

「あ、あれはまさかッ! テンプシーロールッ!?」

「なんで龍がボクシング技使ってんだよ!?」 

 

 そして、思う。 

 

(……あの状況の中に混ざるの。え、嘘でしょ……。嘘だよね?)

 

 伊丹だけでなく、全員がそう思った。図らずも自衛隊員の心の中が一致した時だった。

 

『少しの間で良いのです。そうすれば、コイツをぶち殺すことが可能ですので』

 

 乱打を続けながら龍神が言った。

 

「あー、もう、分かりました! やりますよッ!」やけくそ気味に伊丹が答えた。

「勝本! パンツァーファウスト用意! 他の者は眼を狙え!!」

 

 龍神が炎龍を右ストレートで殴り飛ばして離れた瞬間、隊員達の乗る車は水の膜から飛び出し、炎龍の顔面へと攻撃を始めた。

 炎龍は眼を守ろうと顔を背け、そしてダメージもある所為なのか動きが止まった。

 

「勝本ォ!」

「了解!」

 

 後方確認。そして狙いを定め、発射。

 弾頭は炎龍に向かって加速していく。だが、LAMは無誘導で、しかも狙いの定まらない行進間射撃だという事もあり、その命中コースは僅かに外れていた。

 炎龍は向かってくる弾頭を避けようとして翼を広げ、そして脚を縺れ込ませて倒れる。 

 見れば、ロゥリィが己のハルバートを投げ、それが炎龍の脚を払ったのだ。

 バランスを崩した炎龍の左肩に吸い込まれるように、パンツァーファウストが命中する。

 

 轟音。

 

 流石の炎龍でも耐えきれず、左腕が吹き飛ばされる。

 

「■■■■■■■■■■■■――ッッ!!??」

 

 絶叫。

 

 炎龍は今まで感じたことがない痛みに咆哮を上げる。

 人は、その恐ろしい咆哮に身体が委縮し、魂が凍り付いた。

 それを打ち破ったのは、歓喜に満ちた声だった。

 

『――素晴らしい! よくぞやってくれました!!』

 

 パン、パン、パン――。

 

 空に浮かぶ龍神は三度、手を打ち鳴らし、三つの竜巻を発生させる。

 上では空に浮かぶ雲が竜巻に吸い込まれ、千切れていく。

 下では泥や石が舞い上がり、茶色く染めていく。

 

「――うわッ!」

「いてッ!?」

 

 離れているはずの伊丹達にも、突然の突風から身を守ろうと慌てて避難していた。

 

 龍神は竜巻を収束させ、巨大な槍とする。

 危機を感じ取った炎龍は翼を広げ、急いで逃げ出そうとした。

 だが、殴られたダメージと、左腕を失ったことで既にボロボロであった。その飛び方もよたよたとしていた。

 

 槍の狙いを定める。

 

天魔反(あまのまがえし)

 

 風の槍が、放たれた。

 

 その巨大な槍に炎龍は逃げ出すことも出来ず飲み込まれ、その強靭な鱗も、皮も、肉も、全てがずたずたに引き裂かれていく。

 

 槍が消え去り、炎龍は血だるまになりながら地上へと墜落。

 

 全身に裂傷を負い、満身創痍となった炎龍。翼も、腕も、尾も千切れ飛んでしまっていた。

 だが、炎龍は近付いてきた龍神に無事な右眼で睨み付け、掠れた唸り声を上げた。

 

『ふん……』

 

 太郎は一瞥すると、爪でその首を刎ねた。

 

 炎龍が、討伐された。

 その事実に、コダ村の面々は呆けた表情で眺めていた。

 討伐したのは、龍神である。

 だが、その前に炎龍へ攻撃を浴びせ、攻撃を通さないはずの炎龍の左腕を吹き飛ばしたのは<緑の人>と呼んでいた自衛隊員、彼らであった。 

 

 龍神はともかく、ただの人である彼らが、逃避行を手伝い、無償で人助けしていたお人好しな彼らが、龍殺しに一役買ったのが信じられないのだ。

 だからこそ、村人の目は龍神と自衛隊に向けられていた。

 

 その自衛隊員はというと、

 

「隊長……」

「なんだ?」

「ファンタジーって凄いっすね……」

「そうだな……」

 

 目の前で見た、龍同士の対決と、最後の大技の結果に未だ呆けていた。

 



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第5話

(´・ω・`)短いけど、キリが良いので投稿。


 伊丹達第三偵察隊の面々が再起動したのは、それから暫く経ってからであった。

 

 いち早く再起動した隊員が「救助」という言葉を口にして、皆がハッとした表情になり慌てて動き出したのだ。

 

 幸いなことに、太郎によって火は既に消し止められており、また手伝いを申し出たことで大量の水が供給され、適切な治療と喉の渇きを潤すことが出来た。

 荷車や家財の破損はともかく、死傷者は炎龍に襲われたとは思えないほどに少なかった。

 

 だが、死者が出てしまった。

 その事実に自衛隊員は肩を落とし、憔悴し、死者を悼んだ。

 

 村人からすれば、炎龍の討伐に一役買ったのだから、むしろ笑顔で誇るべきだと考えていた。

 それに、逃避行中に自衛隊員によって遺体は埋葬され、エムロイの神官であるロゥリィと、龍神・太郎が居た為、立派な葬儀が行えた。

 本来なら亡くなった者はそのまま野晒しになるところだが綺麗に埋葬され、神官だけでなく、神が臨席してお悔やみの言葉を述べるなど、普通ならばあり得ないことなのだ。

 だから、感謝しかない。

 

 ここが、日本側と特地側の命に対する認識の違いなのかもしれない。

 

 

 さて、ひと段落したところで。

 

 

 村人の救助も落ち着いたところで、伊丹が太郎へと敬礼し、自己紹介を始めた。日本語であった。

 

「えー、私は日本国自衛隊、伊丹耀司(いたみようじ)二等陸尉です」

『これはこれは、ご丁寧に。ああ、申し遅れました、私は姓は一目連(いちもくれん)、名は太郎(たろう)。かつては天龍と呼ばれた種族であり、今はこの世界の人から水と風の神、龍神と呼ばれる存在です』

 

 太郎と名乗った龍神の言葉に、伊丹は少しばかりの衝撃を受けた。

 

「……我々をご存じなのですか?」

 

 伊丹達は<コダ村>の村人から東に住む傭兵、また当初レレイが言ったような扶桑国の人だと思われている。

 傭兵ならば、ここ最近、国や貴族がこぞって戦力を集めているという情報が入っていたし、昔、扶桑国からの旅人が村にも来た事があったからだ。

 

 だが、太郎は「この世界の」と言った。つまり、伊丹達は別の世界からやって来たことを知っているということだ。

 

『ええ、勿論。<門>が開通して直ぐに私の一族の者が見ておりましたから。尤も、あなた方が来て基地を造り始めてからは近寄ることが難しくなったそうですが』

「あれま……」

 

 駐屯地近くに天龍が居た。このことに少しばかりの衝撃を受けたが、防備に関して考えるのは上の仕事で、攻撃を受けているなら既に受けている。先の炎龍にやったような攻撃をだ。

 それに天龍と話してみた感じは理知的だ。人間、もしくはそれ以上の知性を感じられる。

 

 苦労するのは上の仕事、自分は関係ないと思うと「まあ、別に良いか」となったのだ。

 

「さて、自己紹介も済んだところで」

『うむ』

 

 伊丹と太郎は、こちらを見つめる集団へと振り返る。そこには人・エルフを合わせて三十四名が居た。

 

「どうしようか?」

『どうしましょうねぇ?』

 

 彼らは、このまま連れて行ってくれと言ってきた人々であった。

 

 

 コダ村の人々の身の振り方は大きく分けて三つある。

 

 一つ目は、炎龍という災害がなくなったので、コダ村に帰る者。

 

 これが殆どである。 

 炎龍の攻撃で僅かな蓄えや家財を無くしてしまった者も居たが、知らない土地へ行くよりも住み慣れた村の方が落ち着くし、家族が無事ならまたやり直せば良い、と前向きに考えていた。 

 そして来た道を戻り、コダ村で元の生活を再開することになった。

 

 二つ目は、近隣の街へ行く者。

 

 家族や家財を失ったので村に帰っても仕事を続けられないと判断した者達だ。

 見知らぬ土地で生活を送ることに不安は多いものの、彼らは働ける年齢だから街に出れば何とかなる、と考えることにして各地に散ることになった。

 

 そして三つ目。

 

 これが問題となった。

 

 炎龍の攻撃で家族や家財を失った者。特に老人や子供、傷病者である。そして、村が壊滅してしまったエルフ。

 彼らには全くアテが無かった。

 村長からは「好きにしろ」「養ってはやれない」と言われ見捨てられ、親戚を頼ろうにも働けないし、所在が分からない。

 

 エルフは働ける者は多いが、未だ呆然としている者が多い。種族と風習の違いで、街で働くのは難しい。よくて身包みを剥がれて奴隷として売られるだろう。エルフは美形で歳を取るのが遅い為、好事家には非常に高く売れるのだ。

 

 中には自衛隊に興味を持った魔法使いの二人に、面白そうだからという理由の黒ゴス少女も居たが、概ねそういう理由であった。

 

 そして彼らが決めたのは、このまま自衛隊についていくことだった。

 どうせこのままだと死ぬだけなのだ。

 ならば、信仰する神は違えど龍神の加護と、彼らのお人好しさに賭けたのだ。

 そういう淡い希望を持って、自衛隊員と龍神へ話を持ち掛けたのだ。

 

 頼られる方としては、色々と問題やらなんやらがあるのだが。

 

「ま、どうにかなるでしょ」

 

 伊丹が無邪気な笑みを浮かべて言うと、ようやくホッとしたような空気が流れた。

 

 伊丹の任務は情報収集である。住民と交流し、親睦を深め、必要な情報や知識を集める。

 それなら、自分の意思で来る人達と交流を図り、必要なものを集めても同じなのでは? と考えたのだ。

 

 そんな訳で、アルヌスの丘駐屯地へ撤収準備を始める中、

 

『おお、忘れるところでした。伊丹殿、少しよろしいか?』

 

 討伐した炎龍の亡骸を纏め終えた太郎が話しかけた。伊丹達は一部を日本の研究所に送りたいと考えていたところ、太郎が『ここに捨て置いても問題がある』として全て持ち帰ることになったのだ。

 

「ああ、はい。なんでしょう?」

 

 声に反応したのは伊丹のみだった。

 さっきまでは全員が何かしら反応していたのだが、それが全くない。まるで声が聞こえていないようだった。

 

『ああ、私の声は、念話というのですが。現在は伊丹殿のみに聞こえるように絞っておりますゆえ』

「便利で良いですねぇ……」

 

 伊丹の言葉に、太郎は軽く笑った。

 ただ、龍の笑顔を見慣れていない伊丹には、眼の上を走る傷跡も相まって今から捕食されそうな、凶悪な笑みにしか見えなかった。

 

『ええ、そうですね。内緒話にはもってこいですからね』

 

 そう言う太郎の笑みが一層深まった。

 

 冷汗が背中に流れるのを感じて、伊丹は思った。

 

 あ、これ、嫌な予感がする、と。

 

『私の友人、守人と言うのですが。彼があなた方の国に行きたいと言っておりまして』

「えっ」

『また、私が住んでいる国、扶桑国からも外交官を乗せた船が現在こちらへ向かっております』

「ちょッ」

『ですので、受け入れなどの手続きをお願いしたい』

「いやワタクシ、ただの特別職国家公務員ですからねぇッ!?」

 

 撤収作業を進めていた隊員達は突然の大声に「何事か」と反応したが、声の主が伊丹だとわかるとさっさと元の作業を再開した。

 

 傍から見れば突然発狂したようにも見えるが、「まあ、伊丹隊長だしな……」という一言で済まされてしまった。

 

 それってどうなのよ? とも思えるが、隊員達も伊丹に毒されたのだろう。まあ、直感で巻き込まれたくないと思った人も居るとか。

 そしてそれは正しかった。

 

 まあ、つまり、世の中、巻き込まれる時はどう足掻いても巻き込まれる。

 

 巻き込まれた伊丹は運が悪かった。

 

 それだけのことである。

 




2016/8/8 誤字の修正をおこないました。


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第6話

 

 自衛隊が拠点を置くアルヌスの丘には、<門>を中心に巨大な稜堡式城郭が築かれていた。

 

 上空から見れば綺麗な六芒星になっており、函館の五稜郭や魔法陣みたいだとか、そんな風に考えるだろう。

 

 当初は鉄条網と塹壕線による防御網だったのを更に前時代の要塞を構築したのは、自衛隊が隊員の安全を重視している為であった。

 

 敵の戦術や装備は想定よりも低く、数に任せて押し寄せてくるだけであり、また防衛の態勢が整った為、自衛隊の持つ火力と射程の長さを最大限に生かす為だ。

 

 また守るべきは本土へと繋がる<門>一点であり、物理的に相手を遮断することで不測の事態を極力減らす狙いがあった。あと壁一つあるだけで敵の軍勢から身を守っている、という安心感があった。

 

 

 この要塞内の一角にある建物。

 

 この日、<特地>方面派遣部隊指揮官の狭間陸将は、幕僚の柳田二尉から帰還した偵察部隊からの一次報告を受けていた。

 

 まだめぼしい情報は余りない。

 尤も、狭間ら派遣部隊の面々は一回だけの調査で得られた情報では確度が低い為、暫くは地道にやっていくしかないと考えていた。

 だが、現場の事なんぞ知らない政府からすれば、早く情報が欲しいとせっついていた。

 

 なので、第三偵察隊がドラゴンに追われる避難民を護送していると聞き、彼らを難民として保護してそこから情報を得ようと考えていたのだが……。

 

「は、入ります……」

 

 狭間の執務室に入って来たのは、檜垣三等陸佐であった。妙に顔色が悪かった。

 

「どうした? 顔色が悪いようだが」

「はい。いえ、その、陸将、そ、外に……」

「なんだ、はっきり言わないか」

 

 歯切れの悪い言葉に狭間が眉を顰めると、数瞬したのち、檜垣は意を決した表情になった。

 

「報告します。伊丹達第三偵察隊が戻って来たのですが、その、この世界の神と名乗る龍がやってきました」

「は?」

「伊丹からの報告によれば、この世界において、風と水を司る龍神だそうです……」

 

 なんだそれは。

 

 この報告を聞いた狭間と柳田は、思わず真顔でお互いに顔を見合わせた。

 

 

    ***

 

 

 報告によれば、第三偵察隊が避難民を護送している際にドラゴンの襲撃を受け、交戦。途中、龍神が現れ、第三偵察隊と共にドラゴンを討伐。そして龍神がこの駐屯地のトップと話がしたいとのことで、ここまでやってきたそうだ。

 

「とりあえず、神がやって来て話がしたいというなら、まず会わなければならんだろ」

 

 そして狭間は、駐屯地外にいる龍神へ会いに行った。

 万が一に備え、傍には小銃を携えた隊員と、駐屯地では火砲がいつでも撃てるよう準備されていた。

 

 駐屯地外には、龍神こと太郎がとぐろを巻いた姿勢で待ち受けていた。

 

 一言、デカい。

 

 龍と言えば翼竜や飛龍しか知らない狭間達は、まさかこういう存在も居るのかと内心驚愕した。

 その脇には小山のような赤いドラゴンの遺骸があった。全身ズタボロになっていたが、それでも見るからに強そうな印象を受ける。

 

(……これが、報告にあったドラゴン、か? 直ぐに対策を立てなければ拙いな)

 

 そこまで考えたが、とりあえずは目の前のことに集中するべく前へ進む。

 

 狭間は太郎に近づき敬礼。太郎も頭を下げることで返礼した。

 

「特地方面派遣部隊指揮官の狭間浩一郎陸将です」

『狭間陸将殿、初めまして。私は扶桑国に住む正神、姓は一目連、名は太郎と申します。この世界の者からは風と水を司る神、または龍神と呼ばれる存在です』

 

 目的の人物らしい、と分かった太郎は顔を綻ばせながら言った。

 狭間達は、頭の中で響いた声に驚く。

 

「これは……」

『ああ、私ども天龍は発声器官の構造が違いますので、ヒトの言語は喋れないのです。ですので、念話、魔法の一種ですね。これで語りかけているのです』

 

 こういった反応に慣れている太郎は、嫌な顔をせずに説明した。

 

「なるほど……、有難うございます、龍神様」

『一目連で構いません、陸将殿。私はあなた方と仲良くしたいと思っております』

「……はい、私も狭間で構いません、一目連殿。私も、仲良くしたいと思っております」

 

 しばし見つめ合ったのち、互いに笑いあった。

 そして、失礼しました、とお互いに言い合う。

 

 もし太郎をよく知る守人が居れば、「珍しいこともあるもんだ」と思う事だろう。

 

 神となると寿命が無くなる為、定命の者とは付き合いが薄くなる。仲良くなっても直ぐに別れが来てしまい、辛い思いをしてしまうからだ。

 

 その経験も多い太郎が仲良くしたいと言ったのだから、この陸将の事をそれなりに気に入ったのかもしれない。

 

「ところで、その、そちらのドラゴンは?」

 

 狭間が目線を向けた先には、太郎が持ってきた炎龍の亡骸があった。

 

『ああ、これですか?』太郎は言った。『炎龍というデカいだけの蜥蜴ですよ。まあ、この大陸では災害の一つとして扱われる存在ですが、彼らの活躍によって討伐できたのです』

 

 太郎はそう告げると、伊丹たち第三偵察隊に目を向ける。

 

『彼らはまさしく英雄ですよ、狭間殿。良い部下を持たれましたな』

「は、有難く存じます」

 

 そう言いながら、狭間は伊丹に「あとで詳しい報告を寄越せ」と目線で送る。

 伊丹は分からない振りをしたかったが後が怖いので、分かりました、とこれも目線で送る。

 

『では、本題と参りましょう』

 

 狭間達は背筋を伸ばす。

 

『貴官ら、というよりも、所属する国に対して望みがあります。それは、私の故国である扶桑国と日本国での友好関係を結びたいのです』

 

 言われたのは、予想外の事であった。

 

「……失礼ながら、よろしいですか? 我々自衛隊はまだこの地に来たばかりで、様々なことがよく分かっておりません。扶桑国とは、一体どのような国なのでしょうか?」

 

 内心の動揺を隠しながら狭間が言った。

 

 神と名乗る存在がやって来て、その頼みが国と国での友好関係を結びたいという。

 誰がそんな事を思いつくのだろうか。

 

 太郎は軽く頷きながら、扶桑国について語り始めた。

 

『はい、まず扶桑国は――』

 

 そして、狭間たちは扶桑国について詳しい説明を受けることになった。

 

 

 この大陸から東へ行った先にある四つの島からなる島峡国家であること。

 この国には神道という国教があり、太郎と同じ正神が多く居ること。

 その中でも有名なのが扶桑国最古の神で、国の原型を造り上げた「守人」という神であること。

 ヒト種である帝を頂点とし、補佐に武家と公家が在る封建制国家であり、多種多様な人種が住んでいること。

 言語は日本語によく似た「扶桑語」であり、文字はひらがな・カタカナ・漢字を使うこと。

 

 太郎が話したのは、このような内容である。 

 

 

「いや、これは……」 

 

 これには狭間も思わず唸ってしまう。

 現在の調査結果では、<特地>は中世欧州に似た文化圏だと考えていた為、日本と同じような国があるとは全く思ってもいなかったのだ。

 

『如何されましたか?』

「いえ、我々の所属する日本国と、貴国がかなり似通っておりまして……」

『ああ、それはそうでしょう。現在の扶桑国に多いヒト種は、先祖が日本からやって来た者達ですから』

「え?」

 

 何気なく言った太郎の言葉に、全員が凍り付いた。

 

『今から三千年ほど前でしたか。その時に黒髪黒目のヒト種がやってきたのですよ。それから偶に神隠しにあったという人を保護し、守人が造った都市に住まわせたのです。これが扶桑国の始まりです』

 

 

 この世界に<門>を通って人がやって来たのは、今から一~二万年前ほど前。

 最初は精霊種エルフがやって来た。それから<門>を通ってドワーフ、ダークエルフ、キュクロプス、キャットピープル、ワーウルフといった種族がやってくるようになった。

 

 ただ、彼らは島には現れなかった。

 そもそも<門>を造れるのはハーディのみで、アルヌスの丘だけにしか出ない。

 更に島の周りは荒れ狂う海と海獣の所為で渡航など出来るはずもなかった。 

 

 それでも諦めきれず、守人は何度か島で独自に<門>を開いた事があった。

 といっても、ハーディのものと比べれば稚拙極まりないもの。無理やりこじ開けた穴から何かを引っ張り込むというものだったが、守人は何が来るか楽しみに待っていた。

 

 一度目は<てばさき>という、馬ほどの大きさをした青い走鳥。現在は馬の代わりに使用されている騎獣である。

 

 二度目は多数の植物。ある病気の特効薬や怪我によく効くものもあったが、中には既存の植物を駆逐し、異常な繁殖力で広がる危険植物もあった。

 しかもこの植物は枯れる、もしくは地面から引き抜かれると種を辺りにまき散らし、僅か数時間で成長するという凶悪さ。

 その為、駆除するのにえらく手間取ってしまった。 

 

 三度目。これが一番最悪だった。

 

 やって来たのは異形の生物。

 具体的にはBから始まる「人類に敵対的な地球外起源異形の生物」によく似ていた。

 お蔭で守人ら正神達が駆除してもいくらでも出てくるわ、<門>を閉めた後もまだ小さかった巣の駆除をしたり、破壊された都市や自然の回復をしたりと忙しい日々を送る羽目になった。

 

 これ以降、守人は<門>を開くのを止め、他にもハーディが起こした騒動に巻き込まれるなど色々とあったが、気が付いたら数千年経っていたのだ。

 

 そしてやっと落ち着いた頃に守人が見かけたのが、黒髪黒目のヒト種。彫の深い顔立ちに毛皮の衣服、そして石器の槍を持っていたことからして、恐らくは縄文人だろう。

 

 それでも、数千年ぶりにようやく人と出会えたのだ。これは荒んだ心を癒す材料になった。

 守人はさっそく接触し、自身が造り上げた都市に住まわせた。

 それだけでなく、段階的に技術や知識を与え、これらを扱う為の道徳心を教えていった。

 この、守人の暴走とも言える事をし続けた結果、僅か百年程で部族社会から都市国家となり、大陸で見つけた流浪の民を受け入れ、現在の扶桑国の原型となった。

 

 その後、理由は分からないが神隠しにあった、というヒトが来るようになった。

 この神隠しにあった人は扶桑国の発展に寄与し、また、故郷である「日本」という国について良く語っていたのだ。

 

『――そういう訳でして、守人だけでなく私自身も、彼らから聞いた日本という国。それをこの眼で見てみたいのです』

「は、はあ、なんというか……」

 

 言葉がない、とはこのことだろうか。狭間はそう思った。

 この世界に日本と似た国がある、と龍神から聞かされ、しかも先祖が日本人であるという。

 そして日本を見てみたいのだという。

 

 これを政府の報告書に書いて送ったら、一体どうなることやら。

 

『守人も飛空船に乗って此方に向かっております。もし、これに同意していただけるのであれば、我々は協力を惜しみません。どうかご検討頂ければと存じます』

「……質問を、よろしいですか? 一目連殿」

『ええ、どうぞ』

「有難うございます。もし、我々が、協力しないと言った場合、貴人方はどうされるおつもりですか?」

 

 狭間の言葉に、周りの自衛官らは狼狽し、ざわめきだした。

 ただ太郎だけが、目を瞑り、熟考し始めた。

 そして、顎を何度か擦ったのち、

 

『ふむ……、断られた場合、我々は貴官らに二度と近づかないことを約束します。そして扶桑国で元の生活を送るだけです」

「では、協力した場合、我々のメリット、利点は何でしょうか?」

『―――この世界の情報、例えば、資源の所在地はどうでしょうか?』 

 

 ニヤリ、と笑う太郎にさしもの狭間も絶句した。

 

『あの蜥蜴との戦闘の際、貴君らの使っていた武器や乗り物を見ました。どうやら、かなり高精度の金属を大量に使用しているようですね。ならば、この大陸の殆ど手つかずのまま残っている資源は貴重なのでは? と思った次第』

 

 もっと言えば、太郎は念話の応用で自衛官らの心を読んだのだ。だが、霊体の状態と比べて精度が悪く、よく分からない単語ばかりだったが、その中に<情報>・<資源>という単語があったのだ。

 それで感づいたのである。

 

「なるほど、分かりました」狭間は言った。「一目連殿、申し訳ありませんが、私はこの地域の一部隊の隊長に過ぎません。ですので、我が国の重要なことになる扶桑国との友好関係に関することは一度、政府と会合させて頂けないでしょうか?」

『おお、確かに。私も性急過ぎましたな。分かりました、狭間殿。どうか貴国の方によろしくお伝え下さい。私達は何時までも待ちますゆえ』

 

 

 以上で、龍神・太郎と狭間陸将との会談が終わったのだが。

 

(……とりあえず、ありのままの事を急いで報告しよう)

 

 執務室に戻った狭間は気が遠くなるのを堪えながら本土への報告書を書き始めた。

 

 

 その後、伊丹からの報告書で炎龍は携行兵器だとパンツァーファウストでどうにか。太郎が竜巻を発生させ、炎龍を撃破したことが判明して「ファンタジー怖え」と漏らした自衛官が居たとか、なんとか。

 更に太郎の協力の下、能力である<気象操作>の凄まじさに「現行の戦力では対抗不可能」と判明して、派遣部隊の上層部はその対策に阿鼻叫喚。

 

 特地から緊急連絡を受けた政府も、扶桑国のことを知らされて半分歓喜、半分驚愕を持ってどうにか受け入れたが、特地の自衛隊戦力では対抗不可能と判断された存在が一柱に、それと同格と思われるの二柱が「日本に行きたい」と知らされ、卒倒する者が多数。

 

 命令を拡大解釈して難民を連れ帰ってきた伊丹も、認める代わりに諸手続きは全部お前が面倒見ろと言われ、その煩雑さと柳田の嫌味をこなしていって。

 終わったと思ったら太郎の話し相手をしろと命令されて、更には太郎の自主的な協力を漕ぎ着けたことから上層部にこき使われることが確定してしまい。

 

 三者ともに扶桑国について振り回されながら、どうにかならないかと頭を捻り続けていった。

 

 

 そして、その会談から数日後。

 

 アルヌスの丘駐屯地に、扶桑国の飛空船が到着した。

 



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第7話

話が進まない。



 

 扶桑国の飛空船<伊吹>が到着するまでの間。

 

 龍神こと一目連太郎はアルヌスの丘の人気者になっていた。

 

「龍神さまー、背中に乗せてもらえませんか?」

『ああ、良いとも』

 

「龍神様、記念撮影したいのですが、よろしいですか?」

『ええ、構いませんとも。どのようにすれば良いですかな?』

 

「龍神様ぁ、ハーディがしつこくて、しつこくてぇ、本当に嫌なのよぉ。どうにかならない?」

『あの女は諦めが悪いですからねぇ……。今度、もう一度締めておきましょう。それまで我慢して下さい』

 

「龍神様。最近、ユノが冷たいんです。夜に一緒に寝ようと言っても避けられますし、嫌われちゃったんでしょうか?」

『……うーむ。嫌われている訳ではなさそうですよ。恐らく、今の環境に慣れていないのでしょう。今の長屋の様な家での生活は初めてでしょう。少し、様子を見てからでも遅くは無いと思いますよ』

 

「龍神様、今日は付与魔法(エンチャント)について知りたい」

『良いですよ。ではまず、付与魔法とは――』

 

『――ふむ、意外に面白いですね、この同人誌というのは』

「でしょでしょ! いやぁ、この<めい☆コン>は傑作ですからね! あとアニメの主題歌も良いんですよ!!」

 

 

 と、まあこんな感じである。

 

 

 さて、何でこんな事になったかというと。

 事の発端は数日前。太郎がやって来た時まで遡る。

 

 その日、駐屯地は大変な騒ぎになった。

 

 神龍(シェンロン)のような龍がやってきて、そんで一本首のキングギドラのようなドラゴンの遺骸もあって。そして扶桑国の事も聞かされてーので、まあ、今までとは違いすぎる事に驚愕したわけである。

 

 とりあえず、上に出す報告書やコダ村からの難民の対応、そしてドラゴンはサンプルを本土の研究所に送ってと忙しく動き回ることとなった。

 

 太郎はひとまず、コダ村の難民キャンプ建設地に近い場所に居座ることとなった。

 

 そして、直ぐに暇になった。

 

 最初は太郎でも初めて見る重機を面白そうに見ていたが、ずっと眺めていては若干飽きがくる。かといって、話す相手が居ない。

 元々、天龍は扶桑国のみにしか生息しておらず、滅多なことではファルマート大陸にまで飛んできたりはしない。来たとしても、上空を飛んでいても人とは滅多なことで関わらないのだ。

 

 偶に太郎が守人や不破を背中に乗せて世界一周の旅に出た際にファルマート大陸へ寄ることもあるが、大体百年周期なので運が良くないと会えないのだ。

 

 要するに、伝承や昔話には天龍の話は出てくるが、実物を見た事のある人は少なく。また炎龍を倒せるだけの強さを持っているし、自衛隊員は例外なく忙しいため、みな近寄ろうとはしなかったのだ。

 

 ……一部の人間(?)を除いて。 

 

「お久しぶりですぅ、龍神様ぁ」

『おお、これはロゥリィ殿。先程はしっかりと挨拶できませんでしたな』

 

 最初にやって来たのは、エムロイの神官であり、亜神のロゥリィ・マーキュリー。かの神官の中でも一際大きいハルバードを携えた、黒いゴスロリ少女であった。

 

『二百年ほどぶりでしょうか? 元気にしていましたか?』

「ええ、変わりありませんわぁ」ロゥリィは言った。「でも、びっくりしたわぁ。面白そうだからと彼らについていったら炎龍は出てくるしぃ、龍神様もやってくるなんて思わなかったものぉ」

『久々に<門>が開いたと聞き、こちらへ一族の者を派遣していたのですよ。その時にあの蜥蜴に襲われたと聞いて居ても立っても居られなくなりまして』

「相変わらずなのねぇ。でも、少しはハーディも大人しくなるかしらぁ?」

『さて、分かりませんねぇ』太郎は言った。『ところで、後ろのお三方は?』

「あら?」

 

 今度は白のTシャツ、ジーパンを着た金髪エルフと、杖を持った魔法使いが二人やってきた。

 エルフが一歩前に出て、膝を突いて一礼する。

 

「私は、ロドの森マルソー氏族。ホドリュー・レイの娘、テュカ・ルナ・マルソーと申します。龍神様、炎龍を討伐して頂き、有難うございます。コアンの森のエルフ一同を代表して、感謝を申し上げます」

『……どうぞお立ち下さい。元々、こちらの勝手でやったこと。気にすることはありません』

 

 むしろ、巻き込んでしまったという思いが太郎にはあった。

 天龍と炎龍が戦い、その結果、炎龍は彼女の住むエルフの村近くへ落ちたのだ。

 そのことを伝えると、テュカは小さく顔を振った。

 

「いえ、炎龍が活動を再開したとなれば、どのみち村は襲われていたことでしょう。生き残りは10人とはいえ、全滅はしなかったのですから」

 

 テュカの言葉に、太郎はただ静かに亡くなったエルフへその御霊が安らがれんことを言った。

 テュカとはその後、二,三言ほど会話して終わった。

 

 次は魔導士であった。

 

「お初にお目にかかります、龍神様。賢者のカトー・エル・アルテスタンと申します。こちらは弟子の」

「レレイ・ラ・レレーナ」

『初めまして賢者殿、そして未来の魔導師殿。何か御用ですか?』

「龍神様の持つ知識を教えて欲しい」

「こッ、こりゃレレイ! いきなり何を言っとるんじゃ!?」

 

 レレイは無表情のままコテン、と首を傾げ、

 

「その為の挨拶じゃ、なかった?」

「こ、これッ!?」

 

 このやり取りを見た太郎は、小さく忍び笑いを零した。

 

『いやはや、素直ですね』

 

 レレイを見やり、その眼を確かめる。本当に素直な、好奇心旺盛な眼だった。

 

『良いでしょう。構いませんとも』太郎は言った。『私の雑談に付き合ってくれるのなら、私の知識を幾らか教えましょう。よろしいか? 勿論、賢者殿も一緒にどうぞ』

 

 レレイは小さく頷き、カトーは何とも複雑そうな顔でレレイを見ていた。

 

 

 それからこの三人娘と老賢者は毎日のように太郎のもとへやってくるようになった。

 また、2、3日もすると混乱も落ち着き、太郎が理知的だと分かると遠巻きに見に来る者が増えてきた。

 その中で、ある自衛官がこう言ったのだ。

 

「どう見ても、リアル神龍(シェンロン)だよなぁ……、凄えな、ファンタジー」と。

 

 偶々それを聞いた太郎は少しばかりの興味を持ち、

 

『神龍、とは?』

 

 と訊ね返したのだ。訊ねられた自衛官は慌てふためいたが、難民キャンプのプレハブの建設状況を見に来た伊丹が事情を聴き、臆することなく持っていたスマホで神龍の画像を出し、これを太郎に見せたのだ。

 

『ああ、確かに私と似ていますね』

 

 太郎の体色は緑色ではなく黄土色だし、眼も紅ではなく藍色。それ以外はよく似ていた。

 

「でしょう? あ、それと質問なんですけど、何でも願いをひとつだけ叶える事とか、できますか?」

『……モノにもよりますね。神になりたいとかは本人の資質にもよりますので』

「あ、でも出来るんですねぇ。まあ、それは良いや」伊丹はにへら、と笑い、スマホを掲げた。「記念写真、撮らせてくれません?」

『キネンシャシン、とは?』

「あー、写真というのはこういうのでして……」

 

 スマホに入っていた人物や風景の画像を見せ、どういうモノなのかを説明する。

 記念写真を理解した太郎は笑い出した。好意を含んだ笑いであった。

 

『ハッハ。欲がないですなあ、伊丹殿は。ええ、その程度の事なら幾らでも構いませんとも』

「お、ほんとですか。……おーい、誰か写真撮ってくれー!」

 

 こうして太郎は伊丹とも仲良くなり、それを見た自衛官や難民達とも仲良くなっていったのだ。

 

 殆どは記念撮影や会話が主だったが、中には「背中に乗って飛んでみたい」と願い出る者もいた。

 

 これも太郎は構わないと言った。ただ、鱗が硬い為そのまま乗ると足に擦り傷が出来てしまうし、滑り落ちると危険なので胴体に布で誂えた鞍を付け、そこに乗るようにして遊覧飛行することになった。

 

 これがウケた。

 

 漫画や小説、アニメに親しんでいる者ならば、きっと一度は龍の背中に乗って飛んでみたいと思うだろう。

 それが叶うとなれば、連日太郎の周りには人だかりが出来るようになった。

 

 これが、人気者になった理由である。

 

 正神としてどうなのか、と言われそうだが、太郎は今の状況をそれなりに気に入っていた。

 普段は龍神として周りから傅かれて生活している為、入れ代わり立ち代わりに人が来て雑談したり、モノを教えたりするのは新鮮だったのだ。

 

 

 そしてあっという間に時が経ち。

 

 この日、扶桑国の飛空船が到着することとなった。

 

『来ましたか』

「あれが、飛空船ですか?」

 

 丁度、同人誌を持ってやって来ていた伊丹は空を見上げた。

 その名の通り、船が空を飛んでいた。思ったよりも大きい。デザインもゲームに出てくるような、ファンタジーらしいモノ。

 飛空船は難民キャンプ近くの空き地上空で止まると、そのままゆっくりと降下を始める。

 

「あ、陸将達もやって来ましたね」

 

 知らせを受けたらしい狭間陸将と、柳田二尉、そして本土からやって来た防衛大臣の嘉納らが足早にやって来た。

 表向きは防衛大臣として特地の視察、実際には扶桑国からの使節団に対応する為であった。

 

 この使節団の代表が国書を携えていると聞き、また今後の事を考えるとそれなりの人物を用意しなくてはならなかった。ただ、首相や外務大臣がいきなり特地へ行くのは諸外国から不審に思われるため、防衛大臣と特地問題対策大臣を兼務する嘉納に役が回って来たのである。

 

 

 そんな日本国から注目を受けている飛空船から、影が一つ、飛び降りてきた。

 

「え?」

『あッ』

 

 キイイイイィィィ――。

 

「――こぉんのォ、馬ァ鹿もんがァー!!」

『ごべえェェッッ!!??』

「い、イナズマキック?」

 

 伊丹はいきなりの出来事に呆然としながらも、某スポ根アニメの必殺技の名を口にした。

 影は太郎の顔面を思い切り蹴り飛ばすと、そのまま大きく宙返りして着地。腕を組んで仁王立ちになった。

 

 影の正体は、白の狩衣を纏った、白髪の人。腰には赤い飾り紐がある刀を二本差しにしている。

 パッと見ただけでは男か女か、判断がつかない。顔はどことなく幼さを残していて中性的に見える。身体も適度に引き締まっているようだが、肌の露出が少ないため分からない。

 今わかるのは、その中性的な顔が興奮のあまり赤く染まっているということだった。

 

「てめぇ、こっちの航路上に嵐を発生させてんじゃねーよォ! しかも複数!! お陰で何度か遭難しそうになるわ、連れてきた人員の半数は船酔いでげぇげぇになるわ、散々だったんだぞ!」

『いや、その、守人。ちょっと移動中、苛立ちを抑えられなくて……』

 

 蹴られた箇所を痛そうにさすりながら、太郎は言ったのだが。

 

「もういっぺん蹴り飛ばすぞ?」

 

 守人と呼ばれた人は柔らかい音色で、そして満面の笑みを浮かべていた。

 ただ、琥珀色の眼だけは笑っていなかった。

 

『……申し訳ありませんでした』

 

 太郎はただただ平謝りした。

 

「はー、全く……」そして頭をガシガシと掻きながら、「ああ、そこの方、失礼したの」と伊丹に振り向いた。

「あ、いえ、大丈夫であります。……えと、どちら様で?」

 

「儂は扶桑国の守人じゃ。よろしく頼むぞぃ」

 

 あ、やっぱり神様だった。同時に、この人が扶桑国最古の神なのか、と思った。

 そしてとりあえず、龍神様に何かあったと気付いた面々が慌てて駆けつけている様子と、先程と違い慌ただしくなった飛空船を見て、どう説明しようか。巻き込まれた伊丹は頭が痛くなった。

 

 

    ***

 

 

 ちょっとした騒ぎは起きたが、事情を説明してどうにか収まる。

 

 そして飛空船から降り立った使節団を見て、日本側の面々は「本当に日本人っぽい」と感じていた。

 使節団は全員が和装の出で立ちであり、中には巫女服や鎧を着ている者も居た。鎧を着た者は太刀を佩いていることから、恐らくは兵なのだろう。

 ただ、中に青い騎獣や剣歯虎が混ざっており、やはり異世界の国なんだな、と改めて認識することとなった。

 

 その中から最前に立っていた、威厳と温和を掛け合わせたような雰囲気を持つ男が喜納の方へ動き出す。恐らく、周りとは違うスーツ姿と佇まいから判断したのだろう。

 そして、喜納の前に出ると扶桑語、つまりは日本語で語り出した。

 

「初めまして。私は扶桑国の特命全権大使 菊地明堯(きくちあきたか)と申します」

 

 菊池と名乗る男が手を差し出す。

 

「日本国、特地問題対策担当大臣の嘉納太郎です。あなた方の来訪を歓迎致します」

 

 喜納も名乗り、そして満面の笑みで差し出された手をしっかりと握る。菊池も喜納の顔に釣られて笑みを深めた。

 

「かつて、扶桑国の発展に寄与した日本の方とお会いできて光栄です。大臣閣下」

「私もです、菊池大使閣下。まさか、この地に日本人が関わった国があるとは思いませんでした」

 

 一体どうなるか、と固唾を飲んで見守っていた面々も、ホッとしたような雰囲気となる。 

 後ろから見守っていた守人も、フゥ、と深呼吸をひとつ置き、安心した顔を見せる。

 

『……これで、歴史が動くかもしれませんね』太郎が言った。

「そうだな」

『どうなると思いますか?』

「わからん。ただ、忙しくはなるな」

 

 それが良い事なのか、悪い事なのか、守人は予想がつかない。

 守人の里帰り。この発言から始まった今回の出来事。

 

「本当に、大仰なこととなったのぅ……」

 

 

 こうして、非公式ながらも、日本国と扶桑国の面々が対峙した。

 

 そしてこれからどう動くのか、まだ誰にも分からなかった。

 




GATE×オリ主&オリ国家が思ったよりも長く続き、メインになっているので、

こちらの題名は「GATE×オリ主&オリ国家」に。

「ハイスクールD×D・プリニー」は「短編置き場」を作り、動かすことにしました。

誠に勝手な事になりますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
                
                     2016・7・27 オシドリ
2016/8/11 加筆・修正を行いました。


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一章 交流編 第8話

「流石ファンタジー。何時でも俺達の予想を超えてくれる」

「いや、いくらファンタジーでもこれは無いっすよ……」

「凄いですね。あそこ、空を飛んでますよ」

 

 訓練を終え、難民キャンプへとやって来た伊丹達第三偵察隊の面々は目の前の光景を見てそう零した。まだ何か言えるだけマシで、殆どの隊員達が口をあんぐりと開けて見ている事しかできなかった。

 

 近くには、これまた呆然としているレレイやテュカ達が居た。難民キャンプを建てる際に見た自衛隊の凄さを目の当たりにしてある程度耐性が出来たと思ったが、それとは違う凄さに驚愕していたのだ。

 

 

 日本国と扶桑国との事前会談は無事に進み、扶桑国側の要望である日本行きと友好関係になることが認められる運びとなった。

 日本側も、特地側にいざという時に助けてくれそうな国が居れば安心であり、対価として提示された石油や鉄など各種資源の位置は喉から手が出るほど欲しいものだったのだ。

 

 正式な友好関係になる為の条約締結は、使節団が日本に行ってから行われることになる。

 ただ、条約を結ぶまで少し時間がかかることになった。まあ、日本側からすれば段取りというモノがあるし、扶桑国の存在をどう発表するか、日程の調整、諸外国への対応などに苦慮している為だった。

 

 それまでの間、使節団の面々はいつまでも飛空船で生活するのもまた窮屈なので、日本側の許可を取り、難民キャンプの隣に仮の住居を構えることになった。

 

 日本側は扶桑国の飛空船や兵の装備を見て、産業革命前か、その辺りの技術力だと考えていた。

 なので、善意とちょっとした打算(扶桑国側を驚かせて交渉を有利に進めようと考えていた)を含めて自衛隊の協力を申し出たのだが、丁寧に断られてしまった。

 

 その理由を聞いてみて、そして彼らが見せたあるものにぶったまげることとなった。

 

 <劔冑(つるぎ)>、いわゆる鎧武者姿のパワードスーツである。

 

 扶桑国で古来より造り出され使用されているこの兵器は、並みの劔冑と仕手(つまり搭乗者)であっても、

 

 生身とは比べ物にならぬ剛力。

 こちらの小銃程度では傷が付かない装甲。

 多少の傷ならば瞬く間に再生してしまう治癒能力。

 金打声と呼ばれる通信機能を持ち、互いにやり取りが可能。

 背中の合当理と呼ばれる機構で空を自由に飛び回り、その速度は亜音速を超える。

 その速度で切り合える異常なまでの動体視力と反射神経を発揮する。

 

 

 そして、業物と呼ばれる劔冑ならば更に高性能で、<陰儀(しのぎ)>という必殺技を持ち、太郎がやった気象操作のような技が使えるらしい。

 特殊な製法が必要な為、数は多くないらしいが、日本側から見れば「何この超絶チート兵器?」と思わず呟いてしまう代物だった。

 

 その、チート兵器な劔冑がだ。

 

 頭に鉢巻を巻いたり首に手拭いを下げた一般の兵に混じり、刀で木を切り倒し、ツルハシやシャベルを持って地面を掘りしたり、えっほえっほと大量の土が入ったもっこを担ぎ、空を飛びながら建材を運んでいた。

 

 更に、掘った穴に水を貯めて池にしたり、気圧を操作して切り倒した木材を乾燥を速めたり、築いた窯で火炎操作で瓦や煉瓦を焼き上げたり、植物操作で植えたばかりの苗木や種を一気に成長させたり、等々。 

 

 自衛隊の誇る施設科となんら遜色のない速度で、しかも明らかに仮設住居とは思えない立派な木造家屋が建てられ、街が出来ていく。

 

「でも、凄いよね。あんな風に自在に飛んだり、強力な魔法を使ったりできるなんて」

 

 テュカが感嘆した様に言った。それ以上の事は考えないようにしていた。

 

「……ああいうのって、この大陸にもある?」

 

 伊丹が訊ねた。あんなのがこの大陸にもあったら、炎龍以上の脅威になることは間違いないからだ。

 

「ない」レレイが答えた。「私も初めて見た。そもそも扶桑国自体が謎に包まれた国家。偶に交易品を持ってくるとか、遥か昔に東方諸国が扶桑国と戦争になった時、たった二十人の鎧を着た兵に敗れたと伝わっているぐらい」

「まあ、その鎧を着た兵がアレだとすれば、二十人程度でも勝てるわな」

「でもなんか、劔冑って言うんでしたっけ? アレ。よく知らないですけど、明らかに使い方が違うような気がするっす」

 

 倉田が素直に思ったことを口にする。伊丹が何か言う前に、別の声が答えた。

 

「あれも訓練の一環じゃよ」

 

 振り向くと、いつの間に後ろへ立っていたのか守人が居た。

 何故か砂色の作業服に着替えており、手にはシャベルを、頭には「安全第一」と書かれた黄色いヘルメットを被っていた。これが妙に似合っており、首に巻いた手拭いで汗を拭く仕草が手慣れていた。

 

 慌てて隊員達が敬礼する。

 

「普通に人と接する程度の扱いで構わんよ。その方が儂も気楽じゃ」

 

 ひらひらと手を振り、守人は言った。

 その言葉通り「あ、そうですか」と言って態度を崩したのは伊丹だけだった。

 他の隊員達が何か言いたげな視線を伊丹に向ける。

 

「だって、本人が良いって言ってるし」伊丹が言った。

「そうじゃな。で、先の続きだが。劔冑を扱うには仕手に相応の技量と熱量が必須となる。また陰儀は強力だが、仕手の負担が大きいのだ。ああやって連続で使用し、細かい操作を続けることで鍛錬を積むんじゃよ」

「へぇ……」

 

 伊丹たちは素直に感心した。

 

「まあ本当はただの口実で、さっさと家を建てて街を造る為じゃが」

 

 続けて言われた身も蓋もないことに、思わずずっこけた。

 

 守人はそう言うが、実際、訓練としては結構有用だったりする。

 劔冑は仕手の技量に大きく左右され、稼働時間も仕手の熱量が尽きるまでとなる。故に自分の限界を知ることにもなるし、必要な熱量を必要な量だけ取り出し、扱う訓練は稼働時間の向上にもなるのだ。

 

「ところで、何でそんな恰好を? お付きの方などは……」伊丹が訊ねた。

「そりゃ、さっきまであそこで作業していたからの。他の連中も忙しいし、不破もまだ寝込んでいるし、太郎は扶桑国に行って必要な資材を早急に運ぶように言っておるからおらんしな」

 

 道理でどこにも龍神様が居ないわけだ、と伊丹は納得した。あと何で神様が土木作業しているんだろ、とも思ったが、そういう神様なんだろう。そう考えることにした。

 

 飛空船は積載量が多くない為、最低限の荷物しか積んでいなかった。ここに拠点を造るとなると、やはり色々と不足するモノが多い。飛空船でチンタラ運んでいても時間がかかる為、守人の中では移動が速く荷物も多く運べる太郎をこき使うことが決定している。

 

「あと、太郎が随分と世話になったらしいからの。ああもはしゃいでいた太郎を見るのは久々じゃから、噂の人物を訪ねてきたのじゃよ」

 

 そう言って、伊丹やレレイたちの顔を見やる。

 

「はしゃいでいたのですか?」

「ああ。彼奴は普段は傅かれる存在じゃから、その所為もあるんじゃろ。まあ奴だけでなく、儂や不破にも気楽に接してくれると有り難いの」

「不破、と呼ばれる方は、やはり神様で?」

「いんや、儂の、まあ飼い猫じゃの。可愛いぞ」

「えっ!?」

 

 可愛い猫、と聞いて栗林が反応する。ちびっ娘爆乳脳筋女と呼ばれる彼女だが、可愛いものには目が無いらしい。傍にいた黒川も同様のようだ。

 守人が会いたいなら、あとで会うと良いと言われ、栗林達は喜ぶ。

 後に、可愛い猫と聞いて三毛猫のような存在を思い浮かべていた栗林達は不破と会って驚愕することになるが、それは別のお話。

 

「ああ、忘れるところじゃった」守人が言った。「炎龍の遺骸を譲ってくれぬかの?」

「炎龍、ですか? あれは龍神様のモノなのでは?」

「うん? 太郎は自衛隊に譲ったと言っていたが……。まあ良い。譲ってくれるなら刀でも鎧でも、何でも作ってやるぞ。古代龍の素材は使い勝手が良いからな」

 

 ファルマート大陸において、古代龍の鱗は美品で鱗1枚がスワニ金貨10枚で取引される。また、これを加工できる者が少ない為、古代龍の鱗を使った鎧があればその希少さから神話級の宝具として国が買えるほどの値段となる。

 

 扶桑国では定期的に天龍から鱗や爪などを貰うことがある為、比較的手に入り易いものの、高級品のひとつとして扱われている。

 こういった素材は専ら劔冑の材料や、鍛冶炉などに使用されていた。特に炎龍は耐火性に優れており、これを使用した炉で作る金属(かね)は品質が良い。業物と呼ばれる劔冑の甲鉄なんかも、大抵はこういう炉で作られる。

 

「へえ、なら炎龍の鱗も一緒に売りにいった方が良いのかな?」

「なんじゃ、どっかに行くのか?」

「イタリカの街に、翼竜の鱗を売りに行く」レレイが答えた。

 

 古代龍に比べれば、翼竜の鱗は現実的な値段で取引される。それでも鱗1枚で最低デナリ銀貨30枚はする。この銀貨1枚で1人が5日は生活できる。レレイたちはこれを200枚、用意していた。

 これだけの翼竜の鱗を買い取れるのは大店の商人でなければならず、またきちんと取引できる者が必要な為、カトー老師の旧友である商人を頼ることになったのだ。

 伊丹たち第三偵察隊はその道中の足と、情報収集の為に同行することになっていた。

 

 これを聞いた守人は面白そうだから付いて行きたかったが、勝手に居なくなると流石に拙い。特に目付け役が五月蠅いのだ。

 それにまだ作業が残っているので、放り出すわけにもいかなかった。

 

「ではな。汝らの道中の加護を祈るよ」

 

 互いに敬礼。

 商品である翼竜の鱗が入った袋を載せ、隊員達が次々と乗車していく。そして最後に、ロゥリィは守人の方へ、何とも言えない妖艶な笑みを見せてから車へ乗った。

 そして第三偵察隊は、イタリカの街へ出発していった。

 

 その車列が見えなくなると、しゃがれた老爺の声が響いた。

 

「いやはや、化け物ですなぁ」

 

 スゥ、と姿を現したのは、声と外見が全く一致しない、赤髪のスタイルの良い妙齢の女性。風魔一族の末裔であり、扶桑国の隠密である。

 

「あのエムロイの神官、ワシの隠術を看破しておった。側に居た自衛隊の隊長とやらもどこか感づいていたようじゃ。いやはや、異世界の軍隊も中々どうして……」

 

 自身の術が破られたというのに、隠密は何処か楽しそうな表情であった。

 

「お主、趣味が悪いの」

「分かっております……」

 

 そして顔を引き締めると片膝を突き、報告を始めた。

 

「どうやら、皆様方の予想通りでございまする。帝国軍、及び連合諸王国軍。合わせて十二万もの兵を失った影響大きく、各地で領主不在による家臣の汚職、難民や生き残った兵の野盗化、更に一部の貨幣不足が起きております」

「貨幣不足?」守人が言った。

「自衛隊は兵の亡骸をそのまま埋めたそうで。彼らの持っていた貨幣がそっくり失われている状況です」

「あー、単純に十二万もの兵が持っていた金が無くなったことになるからの……」

「はい。ですので、菊池様が自衛隊から許可を取り、全て集める予定です」

 

 預金という制度がない為、金は自分の身に着けているのが基本のこの世界。アルヌスの丘に埋葬された六万人分の将や兵の財布をかき集めれば莫大な資金になる。倫理の問題はあるが、経済の混乱を前面に押し出せば良いだろう。

 

「相分かった。行って良し」 

 

 隠密は一礼すると現れた時と同じく、スゥと消え去る。

 守人も「さて頑張るかの」と呟き、土木作業へと戻っていった。

 

 そして、事態は動く。

 

 第三偵察隊より、救援要請。内容は「イタリカに現れた武装勢力の排除」。

 

 これにあたり、自衛隊は健軍一等陸佐が率いる第四戦闘団を、扶桑国は守人、および武芸者を四騎派遣することとなった。

 

 自衛隊と扶桑国の初めての共同作業は、何とも血生臭いものとなった。

 



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第9話

 

 <帝国>皇帝モルトの命を受け、第三皇女ピニャ・コ・ラーダは自身が率いる薔薇騎士団でアルヌスの丘へ偵察に向かう途中であった。

 道中、イタリカの街が正体不明の武装集団に襲われていると聞きつけ、急いで参戦したのだが、居たのはピニャが考えていた自衛隊ではなく、元連合諸王国軍の敗残兵からなる盗賊集団。

 

 ピニャは幼い当主に代わり、防衛戦の指揮を執ることになったが急いできた為に手持ちの戦力である騎士団は引き連れておらず、部下はグレイ、ハミルトン、ノーマの三人のみで、僅かに残っていたイタリカの正規兵に民兵を率いてどうにか戦っている程度だった。

 

 あともう一度攻められれば落ちる、という時にやって来たのが、翼竜の鱗を売りに来た伊丹達であった。

 少しばかりの事故はあったものの、伊丹達はイタリカの住民を守ることには同意し、ピニャは「炎龍討伐に加わった<緑の人>が救援に来た」と喧伝した。これにより、どん底だった士気も回復した。

 

 ピニャは一度突破された南門に十二名しかいない自衛隊を置くことで敵の攻撃を南門に向けさせ、囮にすることで時間を稼ぎ、騎士団到着まで粘ろうと考えていた。

 だが、その思惑は外れてしまう。

 

 日の出まであと数刻という頃、東門から攻撃が始まったのだ。

 

 そもそも、敗残兵の大半は連合諸王国軍に雇われていた傭兵であった。

 雇い主を求めて各地を転々とし、戦慣れしている彼らにピニャの教科書通りの戦術などお見通しだったのだ。

 

 それに、彼らは他の市民や農民と違って帰るべき故郷もなく、支払われる筈だった俸給もない。糧秣、そして財産でもある家畜などは撤退の最中の混乱で全て失ってしまった。

 

 故に、彼らは盗賊となった。

 金、食料、そして女。集落を攻撃して略奪し、アルヌスの丘では味わえなかった殺戮と戦いを味わう。すると似たような他の集団、死に場所を求める者、難民も加わり、一大武装集団となった。そして更なる略奪と殺戮を行う。

 

 いつしか狂気は伝播する。「生きていく為に」から「自身が思い描く戦争を楽しむ為に」に変わる。

 規模が大きくなれば、そこらの村落を攻撃しても利益が少ない、つまらない。

 アルヌスの丘の、あの非常識な軍勢と戦わせた帝国に意趣返ししたい。

 

 そんな思いで彼らが狙いを付けたのが、帝都へ物品を送り出す集積基地となっており、当主が幼く家臣も兵も少ない城塞都市イタリカであった。

 

 ただただ勢いのままに、戦慣れした兵による力任せの攻撃に俄仕立ての民兵も警備兵も自然と腰が引けてしまい、崩れてしまった。

 東門を守っていた騎士ノーマは戦死。城壁は突破され、城門は開いてしまった。

 柵の内側に籠る市民には、民兵も警備兵の遺体を投げつけて挑発。耐えきれなかった彼らは柵から飛び出し、乱戦状態となってしまった。

 

 もう、ピニャの思い描いた作戦が破綻してしまったのだ。

 

「どうすれば良い……、どうすれば良いのだッ!」

 

 目の前が真っ暗になる中、ピニャは一人自問する。

 

 自衛隊? 彼らは捨て駒として南門に配置した。来るはずがない。

 他の門の守備兵? もう既に東門へ投入している。

 

 そして、ピニャはようやく気付いた。

 朝日から少しずつ近づいてくる、空気を叩く重い音、楽器と女声による歌。そして、空を引き裂くような甲高い音に。

 そこから一つ、更に速度を上げて門前に群がる野盗へ落ちて来た。

 

<DAAAIRAAHH!>

 

 轟音と共に突如現れた、何か。着地した衝撃で地面はへこみ、土煙が舞い、人馬は吹き飛ばされてぽっかりとした空間が出来上がっていた。

 

<かァ!>

 

 土煙を斬り払い、現れたのは濃紺の武者であった。

 相州正宗。

 刀を振りぬいたその姿は正に威風堂々。

 天を突く黄金の前立て。曇り無く、濃紺に輝く堅牢な装甲。その荘厳さから当時の劔冑鍛冶師のプライドを打ち砕き、天下一名物とまで謳われた名甲である。

 

 正宗と仕手は、死んだ後も嬲られ、全裸で地に伏した男女を見やり、怒りを露わにする。

 

<おのれェ、畜生共がァ! 無辜の民を嬲り殺しィ、そして辱めるかぁ! ゆるさん、許さんぞめェェ!!>

 

 金打声に乗せられた剱冑の絶叫が、周囲に響く。それが衝撃となり、呆然と立ち尽くしていた者共の身体を震わした。

 

<この正宗! 例え天が見逃そうとも、貴様らの様な蛆虫は、断じて認めぬ! 断じて許さぬ! 我が剣で悉く斬り滅ぼしてくれるわァ!!>

 

 両手で見事な冴えの斬馬刀を右肩に担ぎ上げ、合当理に火を入れる。

 

 そして空から響くオーケストラの調べと女声の歌。

 

「Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho!」

 

 そして自衛隊の戦闘ヘリ部隊の攻撃による、城門の爆発を合図に、正宗は野盗の群れに飛び掛った。

 

 自衛隊のUH-1Jの三機編隊が門外の盗賊達に銃撃を浴びせ、お土産よろしく手榴弾を落としていく。東へ西へ、絶え間なく波状攻撃を仕掛けてムラ無く塗り潰していく。

 地上では、正宗が罵詈雑言と共に盗賊を数人纏めて斬り飛ばしていた。他の劔冑は淡々と盗賊を排除していく。

 気丈な者が、劔冑に向けて弓を引いて矢を放つ。だが、矢は軽く拳で払われ粉々になり、上空からの銃撃で穴だらけになって倒れ伏した。

 

 先程まで街に猛威を振るっていた盗賊の姿はなく、まるで蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。劔冑とヘリが追撃し、後ろから一撃を浴びせる。

 中には運良く、逃げて城内へ入れた者もいた。助かったと安堵するも、彼らにとってここも地獄であった。

 

「あははははははっ!!」

「イイィアアアアッ!!」

 

 門内にある柵の前では、黒と白が舞っていた。

 それは巨大なハルバードを手に持ち、フリルの多い黒の神官服の少女と、刀を差す、異国風の白い服を纏った人。

 黒い少女、ロゥリィの双眸には狂気が満ちており、その口元には凄惨な笑みが浮かんでいた。そして鉄塊の如きハルバードが恐ろしい唸り声を上げて、敵を吹き飛ばす。

 白い人、守人はただ無表情に、振るう刀は銀色に煌き、何か爆ぜるような乾いた音の後に敵が切り捨てられる。

 

 守人が手拍子のように鳴る破裂音と神速の踏み込みで大地を鳴らし、ロゥリィは盗賊たちの血潮を頬に浴びながら白が出す音に合わせてハルバートを振るい、軽快なステップを踏む。

 まるで二人でダンスを踊っているかのよう。これに無遠慮に近づいた者による屍の山が築き上がっていく。

 

「テストゥド隊列!」

 

 首領の号令と共に盗賊たちが即座に密集し、盾を並べて守りを固める。傭兵なだけあって錬度が高い。

 だが、意味がない。

 

「ふっあははははっ!!」

 

 ロゥリィが突っ込み、盾の合間から突き出された槍を躱し、隊列を強引に薙ぎ倒す。

 ロゥリィの動きが止まる。

 好機と見たのか、数人の盗賊が駆けて槍や剣を突き出そうとする。

 

「ヘイィアアアアア!!」

 

 瞬間、盗賊達は速く鋭い煌きによって剣を斬られ、盾を斬られ、鎧を斬られ、身体を斬られる。後に残るのは、バラバラになった鉄と肉の塊が血を噴き出して大地に転がる姿。

 

「なんだ……、これは……」

 

 そこに、喚声を上げた栗林が混ざった。ロゥリィの後ろに居た敵兵の腹に銃剣を突き刺し、単連射。反動で抜き去り、違う敵に銃撃。更に刺突、打撃、銃撃を加えていく。

 パートナー交代、とばかりに守人が下がり、二人に近づく者を斬り伏せていく。

 やや遅れてやって来た伊丹、富田の両名も発砲する。単連射。三人の背後に回る敵を撃つ。

 

「なんなのだ、これは……」

 

 実に爽快な笑みを見せ、戦う二人の女性。いっちゃった表情ながらも、見事な連携と戦い振りを見せる。

 形勢が一気に傾く。

 盗賊たちはハルバードで叩きつけられ、銃剣で押し返され、刀によって両断され、銃撃によって倒れ伏せ、手榴弾で吹き飛ばされる。

 その姿を見たイタリカの警備兵と民兵達が気勢を上げ、勢い付く。

 

 そして現れる、鋼鉄の天馬。

 

「Ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha!!

 Ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha! ha!!」

 

「――こんなものは、こんなものはッ! 戦いではないッ!!」

 

 首領の叫びは空から響く嘲笑と爆音によってかき消され、その首を迫りくる刀によって斬り落とされてしまった。

 

 そして直ぐに、残っていた盗賊達も自衛隊の戦闘ヘリ部隊と扶桑国の劔冑によって掃討されることとなった。

 

 

   ***

 

 

 戦闘後。

 

 生き残ったイタリカの市民達は盗賊達が殲滅されたことに気付き、ようやく街に木霊するほどの歓声を挙げて喜んだ。

 救援にやって来た<緑の人>、いや<自衛隊>と扶桑国の武者にありったけの感謝の言葉を口にし、敵味方の生存者の救助に当たることになった。

 

「おう、随分と男前になったの」

 

 そんな中、伊丹に声が掛けられた。右目にはロゥリィに殴られたアザがあった。戦闘ヘリの掃射に巻き込まれないよう、ロゥリィを抱きかかえた際に胸を揉んだ結果であった。

 

 伊丹が顔を上げると、柔和な笑みを浮かべた守人が居た。あれだけ暴れまわっていたというのに、返り血どころか汚れひとつ無かった。

 

「守人さん、強かったんですね……」

「ロゥリィも儂も長生きしてるしのぉ。まあ、あれぐらいは出来んとな」

 

 からからと笑う守人に伊丹は乾いた笑みで答えた。

 敵勢のど真ん中で暴れまわっていたロゥリィと守人の動きはどちらも凄まじかった。

 ロゥリィはまるで餓えた狼のようで、力に任せてハルバードで敵を粉砕していった。

 対する守人のは修練を重ねていった技量によるもので、鋭く速く斬り伏せていった。

  

 見た目が人と変わらないので忘れがちだが、神と呼ばれるだけあって普通とは違うんだな、と伊丹は思った。

 

「で、翼竜の鱗はどうなった? 売れたのか?」

「いやぁ、イタリカに着いた途端、この状況でしたので……」

「ふうん? まあ、この後に帝国との交渉が始まる。お主も出席するんじゃよ」

「え゛っ」

「仕方なかろう? 元はお主の救援要請で来たんじゃから。それに、通訳できる娘っ子、お主の側に居るじゃろ」

 

 そして、こちらを見るや扶桑国の武者と倉田が駆け寄ってきた。

 もうすぐ交渉が始まるから、と守人や伊丹を呼びに来たそうだ。

 

「ほれ、行くぞ」

「うぇー、どうしてこうなったんだ……」

 

 守人は伊丹の様子にカラカラと笑いながら、フォルマル伯爵家の城館へと歩いて行った。

 

 

 今回の交渉にあたり、

 

 帝国からはピニャ、ハミルトン、グレイ、そしてミュイと側付きのメイド長と執事の六名。

 自衛隊からは健軍と伊丹、そしてロゥリィ、テュカ、レレイの五名。

 扶桑国からは守人、連れてきた武者の指揮官の二名。

 

 が出席していた。

 

 といっても、扶桑国は自衛隊に協力したからとりあえず、という形だった。

 正直な話、扶桑国が協力を申し出たのは自衛隊の戦力を測る為と、劔冑の強さを見せつける為であった。

 なので<帝国>と戦争しているわけでもないし、積極的に交流する気もない。目的を達した今、協定については自衛隊に丸投げしていた。

(連いてきた正義馬鹿こと正宗が生き残った盗賊を皆殺しにしようとしていた為、それ所じゃなかった、というのもある)

 

 そんな訳で、羊皮紙に書かれた協定を確認したのち、ささっと署名する。

 

 協約は直ちに発行され、401中隊と扶桑国の武者はイタリカの市民に見送られつつ、アルヌスの丘へと帰還した。

 また、レレイ達による翼竜の鱗と爪の商談は上手く纏まった。

 協約により、自衛隊と扶桑国が後見して発足したアルヌス協同生活組合はフォルマル伯爵領内での租税が無くなり、通行の自由も認められたのでこれから自活していけるようになった。

 

 守人はなんか面白そうだから、と言って伊丹達に強引に付いて行き、共にアルヌスの丘へ帰還することになった。

 

 




イタリカを襲った敗残兵が元は傭兵、というのは個人的な考えから書きました。

中世の傭兵は大所帯(傭兵と輜重隊(妻、子供、召使い、御者、売春婦など)で各地を転々とし、食料兼財産として大量の家畜を連れていました。

家畜を連れているのは移動中の荷物運びと、当時、塩は高価で食料の保存が効かなかったため。
自衛隊の火力で散々叩かれれば、家畜は音に驚いて逃げ出してしまうし、賃金は払われていない。残ったのは大所帯の家族だけ。

農民や市民なら、どうにか故郷へ帰れるかもしれないが、無一文となった傭兵には出来ないので、この内容となりました。


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第10話

「しかしなんだな」

 

 イタリカ、その近くの野原で。

 日が落ちていき、辺りが暗闇になる中、守人は一人ごちた。服は狩衣のままだが、その顔にはドーランで茶や緑に化粧が施されていた。

 

「なんか面白そうだから、と強引に引っ付いたら、まさかこうも早く面倒事に巻き込まれるとはのぅ……」

 

 どうやらあの隊長さんは、己でも見えない疫病神か何かに好かれているのかもしれない。でなければ、こう何度も厄介事に引っかからないはずだ。難儀な運命である。

 

 

 

 さて、なんでこんな事になっているかというと。

 少しだけ時間を巻き戻してみる。

 

 第三偵察隊に守人が加わり、イタリカからアルヌスの丘へ帰還途中、何かに気付いた倉田は緊急停車した。

 

「どうしたんじゃ?」伊丹と倉田の間に身を乗り出した守人が訊ねた。

「前方に煙です。こっちに向かっています」

 

 また煙かよ、と伊丹は愚痴を零しながら双眼鏡を構えた。倉田も同様に構える。

 守人も、目を凝らして此方へ向かってくる煙を見やった。どうも土煙のようだ。ただはっきりと良く見えない。

 

「あ、見えました」倉田が声を上げる。

「何が見える?」伊丹が訊ねた。

 

「ティアラです」

「ああ、ティアラね……、ってティアラ!?」思わず叫ぶ伊丹。

「金髪です」

「金髪?」

「縦ロールです」

「縦ロールぅ!?」

 

 伊丹は倉田の方へ近寄り、双眼鏡を構え直す。

 

「目標、金髪縦ロール一、男装の麗人が一、後方に美人多数!」

 

 ………。

 

「バラだなッ!」

「バラですッ!」

「お主ら、息ピッタリじゃの」

 

 呆れた表情で守人が言った。

 

 しかし、なんとも華美な騎馬隊である。

 日本人なら「ベルサイユのばら」や「宝塚歌劇団」がまず脳裏に浮かぶかもしれない。

 金銀に輝く胸甲に、見事な装飾が施された武装。軍装にはこれまた金銀の刺繍が施されており、三色の薔薇による旌旗を掲げた、豪華絢爛な集団であった。

 

 だが、よくよく見てみれば馬術の腕は悪くなく、姿勢も良い。強行軍だったようで、後方の人馬は疲労しているものの、隊列を組み直して油断なく構えている。

 

「ふんむ、ちゃんとした戦闘訓練を受けている集団じゃな」

「となると、姫様が言っていた騎士団かねぇ」

 

 伊丹は警戒している隊員達に手を出さないよう厳命した。協定違反になりかねないのだ。

 

「二人とも、手を出さないで下さい」

「あいよ、分かっとるよ」

「はぁい」

 

 そうしている中、白馬に跨った栗短髪の女性騎士が、富田二等陸曹の乗る七三式トラックへと近付く。

 

「何処から来た?」女性騎士が問いかける。

「我々、イタリカから、帰る」辞書を捲り、片言で富田が答えた。

「何処へ行く?」

「アルヌス・ウルゥ」

「なんだとッ!?」

 

 即座に女性騎士団は殺気立ち、天へ向けられていた騎槍が水平に構えられる。

 隊員達もそれぞれ武器を構えた。

 

「ほぉ、良いの。練度も悪くない」

「待て待て待てッ! 総員、発砲するなよッ!」

 

 馬を降りた金髪縦ロールの女性騎士が富田の胸倉を掴み上げ、「貴様ら、異世界の敵か!」と凄んでいた。

 富田を助けるべく、伊丹は武器を全て外し、再度こちらから手を出さないようにと命じて女性騎士に近付く。 

 

「えーと、あの、何か御用でしょうか?」

 

 注意を引こうとした伊丹の発言が彼女らの癪に障ったのか、伊丹は平手で殴りつけられてしまった。

 殺気立つ隊員達。

 

「待て、逃げろ! ここは一旦逃げろッ!」

 

 伊丹の叫びに一気にエンジンの轟音を上げ、三台の車両は土煙を上げて走り去っていった。

 

 一人取り残された伊丹は騎士団に縛られてしまい、イタリカまで連行されてしまったのである。

 

 

「で、どうするんじゃ? 協定違反として攻め落とすのかい?」

 

 イタリカの街を見ると、続々と騎士団の騎兵や歩兵がやってきてはいるが数はそこまで多くは無い。先の戦でイタリカの市民は疲れ果てているし、やって来たばかりの連中は威張りくさっている。

 その為、警備体制が上手く機能していないのだ。

 

 なので門から入り込んで、主要な面々を斬り伏せるなり、捕縛するなりしてしまえば制圧は簡単である。

 

「いやいや、そんな事はしませんって」

 

 倉田が苦笑しながら答えた。どうやら冗談だと思われたらしい。

 

「しないのか? 協定が破られたのじゃぞ?」

 

 例え通知を知らなかったとしても、協定は即時発行されたもの。言い訳は一切通用しないのだ。

 あちらの要求を呑んで協約が発行され、そしてこちらは言い分を守り兵を撤退させた。なのに自由な往来ができる場所で伊丹は捕らえられ、協約を破られたのである。

 

 一度約束したことは絶対に守るべき。そして、破られたのなら相応の報いを受けさせるべき。

 

 守人はそう考えていた。

 

「それでもですよ」倉田が言った。「隊長なら大丈夫そうですしね」

「ええ、伊丹隊長はフォルマル伯爵邸に居ると思われますので、潜入して救出。そのままアルヌスの丘駐屯地へと撤退します」

 

 富田の言葉に、守人はため息しか出なかった。

 

「……協定内容もそうじゃが、お主ら甘すぎるぞ」

 

 チラリ、と他の隊員を見やるが、どうも同じ考えらしい。もう一度ため息を吐く。

 

「まあ、お主らがそういうなら仕方あるまい。帝国に貸し一を作ると考えて納得しよう」

「でも隊長、本当に大丈夫なの? 死んでいるんじゃない?」栗林がぼやく。

「大丈夫だろう。ああ見えて隊長、レンジャー持ちだからな」

 

 富田の言葉に、栗林は目を剥いた。

 

「え、今、なんつった?」

「ああ見えて隊長、レンジャー持ちだからな」

「えええっ!? 嘘でしょぉ!? 有り得なぁいィ!!??」

 

 栗林は悲鳴を上げ、そのまま仰向けに寝転がってしまった。レンジャー徽章にあこがれを持つ彼女にとって、あの緩くて不真面目な伊丹が持っていることが信じられなかったのだ。

 

 レンジャーというものについて説明を受けたレレイやテュカ、ロゥリィですら伊丹とイメージが結び付かず、小さく笑ってしまった。

 

 そんな中、守人だけは「ほぉ、道理で」と一人納得していた。そのような精強な兵士であれば、隠密に感づいてもおかしくなかったのだ。

 そして、帰還したら隠密に調査させておこう、と心に決める。

 

「では、そろそろ行きますか」

 

 富田の声でみな腰を上げる。

 話している間に、辺りは暗闇に染まり、潜入する頃合いとなっていた。

 

 全員が気持ちを引き締め、フォルマル伯爵邸へと向かう。

 

 そして慎重に動き、邸内に侵入したのだが、出迎えたのはウサ耳とネコ耳眼鏡のメイドであり、案内された先では美人メイド達に甲斐甲斐しく世話をされている伊丹であった。

 

「……ん? オッス!」

 

 満面の笑みで言う伊丹に、全員がすっかり毒気を抜かれてしまった。

 そして、老メイド長やメイド達はロゥリィの姿を見るとその側へと集まり、跪いて祝福を願った。ロゥリィは柔らかな笑みを浮かべて、静かに掌を見せる。

 

 厳粛な雰囲気なのだが、伊丹からすれば死と断罪と狂気と戦いを司るというおっかない神の信者ってどうなんだろ、と思ってしまう。

 

「物騒な神に思えるかもしれんが、エムロイの教義は「嘘偽りなく、責任をもって、人生を全うする」というもの。そうじゃな、お主らで言う閻魔大王に近い存在かもしれん」

「へぇ……」

 

 そう言われると、確かにご利益がありそうに思えてくる。

 

「って、何で考えている事が分かったんです?」

「顔に出てるぞい」

 

 そんなことで、フォルマル伯爵家のメイド達と自衛官達は文化交流という名目の下、和気藹々とした雰囲気で会話や茶を楽しむことになった。

 

 そうした中、守人は此方を見つめてくる少女に戸惑っていた。

 

「で、先程からどうしたんじゃ? お嬢ちゃん」

 

 メデュサと呼ばれる種族で、長い緋色の髪が触手状になっているメイド、アウレアに顔を向ける。

 

「ゴシュジンさま、おいしそうなニオイがスル……」

 

 言うや、本能に負けたアウレアはその長い髪を守人に絡みつかせた。

 

「アウレアッ!?」気付いたモームが叫ぶ。

「ふんむ、妙な感覚じゃの。……ほれ、もう止めておけ」

 

 守人が柔らかい笑みを浮かべながら軽くアウレアの頭を撫でてやる。そして、アウレアは陶酔した表情で倒れこんでしまった。

 慌ててモームが近寄り、守人とアウレアの様子を確かめる。

 

「休ませてやると良い。どうも一気に精を吸い上げたようだから、酔ったんじゃろ」

 

 守人は平然とした様子で身体に絡みついた髪、というよりも触手を一つ一つ丁寧に引き剥がしていく。

 

「ご主人様、あの、御身体の具合は……」モームが訊ねた。

「うむ?まあ調子は変わらんぞ。メデュサの吸精は得も言われぬ快楽を受けられると聞いたのだがのぅ」

 

 あり得ない、という表情を浮かべるメイド達。

 本来ならメデュサに吸精されれば瞬く間に乾涸びてしまうというのに、何事もなかったかのようにしていられるのが信じられなかったのだ。

 

「まぁ、守人様だしねぇ」と言ったのはロゥリィだった。

「流浪する神だしぃ、あの程度じゃあ問題ないわよねぇ?」

「……お主な」

 

 ニンマリとした表情で言ったロゥリィに思わず眉の皺を寄せる。この後に起きることが予想できたからだ。

 

「まさか、貴方様が、流浪する神であられる……」

 

 震える声で老メイド長が訊ねた。

 

 やっぱりか、と思いつつ守人が小さく頷くと、メイド達も感極まったような表情となった。彼女らにとって、亜神であるロゥリィだけでなく、まさか伝承の存在である流浪する神を迎えられるとは思わなかったのだ。

 

 すぐさま守人へアウレアの非礼を詫び、そして跪いて祈りを捧げている。

 

 何故、そこまで大騒ぎするのかよく分からない自衛隊員達。

 まあ普段が人と混じって土木作業をしたり、気さくに話しかけてきたりするので、イマイチ実感が持てなかったのだ。

 

 流浪する神とは、守人に付けられた渾名のようなものである。

 守人はよく旅装姿になり、唯の旅人として世界各地を転々としながらその土地の様子を確かめ、旅先で困った人が居れば助け、また困窮する集落には必要な技術を教えることがあった。

 

 そのお蔭なのか、人や集落の生活は豊かになり、栄えるようになった。

 

 そして守人を探し回っていた太郎がその噂を聞きつけ、その正体が判明する。それで流浪する神と呼ばれるようになったのである。

 

 このファルマート大陸でも多くの逸話が残っており、「流浪する神を迎い入れた家や街は栄える」とされている。

 なので、彼女らが忠誠を誓っているフォルマル伯爵家のミュイに祝福を授けて欲しい、と願うのは当然の事だった。

 守人は内心辟易していたが、それを顔に出すわけにもいかず。

 夜が明けたらミュイの元へ訊ねさせてもらうと言い、跪くメイドら一人一人に慇懃に応対しつつ、言葉を伝えていった。

 

 と、まあ、そんな感じで騒いでいたので、誰もピニャの密命を受けてやって来たボーゼスに気付くことなく、そして、プライドが傷ついていた為に逆上して、伊丹は再び平手で殴りつけられてしまったのである。

 

 ……やっぱり、この隊長は誰にも見えない疫病神か何かに好かれているに違いない。

 

 

   ***

 

   

「――それで、なんでこんな事に?」

 

 こめかみと胃に酷い痛みを感じながら、ピニャが訊ねた。

 その前には、頬に紅葉を作った伊丹と隊員に取り押さえられたボーゼス、また部屋に居た面々が勢揃いしていた。

 ボーゼスが「わたくしが、やりました」と蚊の鳴くような声で言うと、目の前が真っ暗になった。

 

 篭絡して来いと送り出した人物が、まさか再びぶん殴ってくるとは思わなかったのだ。

 しかも、守人という流浪する神が自衛隊に協力していることが明らかになり、どうしようもないほどに事態が悪化している。

 

 だが、どうにかしなければならない。それがピニャの、上に立つ者の務めである。

 ともかく時間稼ぎとして、朝食はどうか、接待させて欲しいと言い募ったのだが、レレイの「イタミは元老院から報告を求められている」との発言に、ピニャは今度こそ卒倒しそうになった。

 

 伊丹の発言次第で、帝国の運命が決まると勘違いした為であった。

 ピニャは決意を固め、伊丹達に同行することになった。

 

 

 そして、この数日後。

 

 

 日本では冬に変わり、クリスマスに向けて賑わう頃。

 日本、いや世界にとって重大なイベントを見ることとなった。

 

 ひとつは、特地の現場指揮官および現地住民数名による参考人招致。

 

 そして、扶桑国の存在。並びに同国使節団による日本国訪問である。

 

 



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第11話

再投稿。
といっても、最後の部分だけ少し変わっただけで殆ど内容は変わっていませんが……。

楽しんでいただければ幸いです。


 日本国政府にとって、それは青天の霹靂だった。

 

 まず、炎龍。特地において災害と数えられるドラゴンである。

 だがまあ、今までも翼竜の存在があったし、一部で空飛ぶ戦車と呼ばれるような存在が居てもおかしくはないだろう。

 それに討伐された以上、あとは専門機関で調査して貰うなり、他にドラゴンが居た場合に備えて自衛隊で対策を練って貰えれば良いと考えていた。

 

 

 だが、扶桑国はどう説明したものか。余りにもファンタジー過ぎて理解の範疇を超えていたのだ。

 

 何だ、気象操作が出来る龍神って。しかも特地に派遣した戦力では対抗できない? それと似たような存在があと二柱居る? それらが日本に来るって。

 

 何だ、神が無人島に都市を造ったら縄文人がやって来たって。そんで神隠しにあった日本人が扶桑国の発展に寄与したって。色々とおかしいだろ!?

 

 しかも、神隠しにあってやって来た人物というのが唯の農民や地侍らしき人物から、歴史では実在したか疑わしい者、武将として名を馳せた者までいるのだという。

 神隠しにあった人達はいつか日本へ帰ることを願っており、亡くなった後も彼らの遺品を大切に保管していた。その一部を使節団は持ってきており、日本で確認させたところ「間違いなく日本の歴史が変わる」という代物だったのだ。

 

 止めは、此方の世界ではまだ研究段階にあるパワードスーツを実用化し、実戦配備しているということ。しかも、異常な性能を誇っている。それが主戦力だという。

 

「こんなもん、どうやって公表しろと? 誰が信じるんだよ。頭がおかしくなったと言われるのがオチだ!」

 

 ある政府関係者はそう呟いたという。

 それでも全て事実なので、どうにか現実を受け入れて使節団と会談しながら必要な案件を進めていった。

 

 裏金やハニトラやらで<門>の向こう側の情報を集めていた各国も、まあ信じるはずがなかった。

 確かに日本政府が大掛かりな事をしている。だが、神が国を造り、異世界に行った日本人が関わった国という情報は早々受け入れ難く、同じ世界なのに<帝国>と<扶桑国>の戦力や技術などが隔絶しているのは信じられなかったのだ。

 大体が「程度の低い欺瞞情報」「ジャパニーズアニメでも見すぎじゃないか?」と言い、そして諜報員達に「真面目にやれ」と命令するだけであった。

 

 そんな訳で、政府は炎龍の襲撃しか公表できなかったのだ。

  

 ただ、これが諸外国の意向を受けたマスメディアに攻撃される材料になった。この時の政権は閣僚や政務次官の汚職が相次いでおり、本位首相にも批判が浴びせられていた。

 この批判が連日続き、使節団訪問の準備とマスコミや野党の追及に辟易していた政府も「それで納得するならば」と参考人招致を行うことを決定したのである。

 

 各国も、大掛かりに閣僚や政務次官らの頻繁な<門>の行き来やスケジュールの調整をしていたのはこれの為だった、と理解したのである。

 そしてあらゆる手段を使ってでも、この参考人招致で来る現地人に接触しようと考え、動き始めた。

 

 その所為なのか、政府批判は止まらなかった。マスコミや野党が「他にも隠していることは無いのかッ!」と詰めかけ、好き勝手言い始める。

 

 そしてある程度の準備が整った所で、本位総理以下閣僚達もいい加減我慢できなくなった。

 

 緊急記者会見を開き、本位総理が真剣な面持ちで扶桑国について公表したのである。

 新たな特ダネを期待していたマスコミ関係者達は、総理が何を言っているのか理解できなかった。自分達が期待していた内容ではなかったからだ。

 勿論、この会見は中継されており視聴者達も「大丈夫か?」「批判されすぎで頭おかしくなったか?」と口々に言い合う。

 それでも本位は淡々と扶桑国の種族、文化、歴史を公表していき、そして、

 

「政府は、扶桑国使節団による、日本訪問の意向を受け、これを受け入れることを、決定しました」

 

 と発表した。

 

 一瞬の沈黙。

 

 そしてようやく、マスコミやお茶の間の視聴者達も事実だと認識したのである。次に起きたのが、どこもかしこも阿鼻叫喚の嵐であった。

 

 余りにも騒々しい為、会見は一旦中断。そしてパニック状態となった記者達は色んな場所へ走り回り、この一報を伝えることになった。

 

 その様子に政府関係者は少しばかり清々した様子だったという。そして、この後も続く会見に「何人耐えられるか?」と好き勝手に予想していた……。

 

 

   ***

 

 

 特地では、扶桑国使節団による日本訪問の準備が慌ただしく進められていた。

 

 今回の予定では、まず十五時に日本の本位首相と扶桑国の菊池特命全権大使の会談、そして調印式が行われる。

 扶桑国にとっては今後に関わる大事な本番が明日なので、最終確認に余念が無かった。

 

 そんな中、守人は太郎に扶桑国から運ばせた器材を使い、自身の権能を使って<門>の解析に勤しんでいた。当然ながら、日本国政府および自衛隊からも許可を取っており、得られた情報は全て提出されることになっている。

 

「――ふん、やはりの」

 

 <門>の解析を終え、その結果にため息を零す。不破が心配そうな顔ですり寄って来る。その頭を優しく撫でてやる。

 

『やはり拙いですか?』太郎が言った。

「いや、そんなもんじゃない」不破の頭を撫でながら守人は言った。

「繋ぎ方はともかく、固定化が滅茶苦茶だ。このまま繋げていると世界が壊れる」

 

 本来なら揺れ動き、交わらないはずの両方の世界に楔を打ち込み、そこから伸びる鎖で無理やり繋ぎ止めているのだ。だが揺れ動くままなので、お互いの世界がぶつかり合い、異変が起き、そしていつか壊れてしまうのだ。

 <門>を造り出せるハーディなら、固定化の方法も知っているはずなのだが……。

 

(ハーディの奴、まともな固定化を教えなかったな)

 

 それも恐らく、ワザとだ。頼まれたのは<門>を開くだけだから後は知らない、全て人に委ねる。そんな所だろう。脳裏にハーディがドヤ顔で笑い声を上げている姿が思い浮かび、嫌になってきた。 

 

『……壊しますか?』

 

 察した太郎が言った。だが、守人は首を横に振って「それは出来ない」と答えた。

 

「下手に壊すと両方の世界で揺り戻しによる被害が出るぞ。どうにかして、手順を踏んで門を閉じるしかあるまい」

 

 しかし、こうなると帝国が<門>の先の異世界に兵を出したのもハーディが唆した可能性がある。

 

 <帝国>が<門>の先へ大軍を派遣したのも、経済が行き詰ったからである。

 前提として、<帝国>は拡大政策を取って領土を大きくしていった。有無を言わさず敵を滅ぼして占領した土地の住民は奴隷とし、搾り取れるだけ搾り取っていった。

 

 要するに、他所様の土地に行って金や物をかっぱらって手っ取り早く儲けるようになったのである。その土地の金や物が無くなれば、また他所の土地に行って同じことをする。これを繰り返していった結果、<帝国>はファルマート大陸のほぼ全土を支配するまで大きくなった。

 

 これが意味するのは、今までのように金や物を集る場所が無くなってしまったのである。

 だが、収入が減っても今までの贅沢に慣れ切った<帝国>の支出はどんどん増えていく。

 

 つまり、大幅な赤字になってしまったのだ。

 

 改善する方法としては支出を減らす。税収を上げる為に技術や商業を発達させる。平民の生活が向上すれば金回りが良くなり経済も動くのだが、今までの<帝国>のやり方を全否定することにもなる。だから一部を除き、財政を改善することが出来なかった。

 

 そんな大多数の彼らが考えたのが、今までと同じく「別の国に侵略すること」である。

 

 それならば、他の大陸に軍勢を派遣しても良いのだ。その大陸には同じく人が住む国家がある。互いの貿易船が行き来しており、交流もある。何故そこに行かなかったのか。

 

 ハーディがそこで「<門>を開きましょうか?」と唆したから、と考えれば合点がいく。

 

 <帝国>からすれば海を隔てた大陸に行くのに必要な軍船の手配や物資などが必要でなくなる。金がかからない。そして何より、正神であるハーディが協力してくれるならば何も問題が無い、と考えてしまったのだ。

 ハーディからすれば、近年の人の魂の質の低下や停滞は見ていて面白くないのだろう。<帝国>がどうなろうが知ったこっちゃない。楽しめれば良いのだ。

 

 そんな両者の思惑が一致し、<門>は日本の銀座へと開かれた。

 そして<門>を繋げたままにすることによる災害が起き始め、「何か知らないか」と訊ねられたらこう答えるのだろう。

 

 「<門>の所為である」「だが、<門>をどうするかは人の手に委ねる」と。

 

 そして<門>を閉じるか、閉じないかという結論の出ない様を嗤いながら見て楽しむ。世界が壊れる前にはハーディも動くだろうが、その時にはもう何も残っていない。

 

 守人はそんな未来を思い浮かべた。太郎や不破も、一様に嫌そうな表情を浮かべ、頭を振っていた。

 

 とにかく、あちらには長居することは出来ない。幸いなことに、アルヌスの丘でもある程度は日本の情報が手に入る。必要な時だけ日本へ出るようにすれば良いだろう。

 あとは<門>だが、日本側と扶桑国側に伝えてはおく。だが期限以内に決まらなければ、強制的に閉めなければならない。

 もしそうなったら、恐らく自衛隊と――、

 

「あれ、守人さんに龍神さま。こんにちは」

 

 雰囲気が変わりかけた三柱に声を掛けたのは、伊丹だった。普段の迷彩柄の装束ではなくかっちりとした、丈の長い緑色系のものになっていた。後ろには富田と栗林、レレイ、テュカ、ロゥリィ、そしてピニャとボーゼスが居た。

 守人は一瞬、気の抜けた顔になったが、直ぐに「ああ、こんにちは」と言って柔和な笑みを浮かべた。

 

『何かあるのですか?』太郎が訊ねた。

「ええ、龍神さま。これから日本に行って国会に出席することになりまして……」

『ああ、参考人招致という奴ですね。ご苦労様です』

 

 ああ、確かそんな話があったな、と守人は内心ごちた。

 日本の立法府から炎龍の襲撃について説明が求められた為、伊丹と現地住民が数名行くことになった。ただその中身は自衛隊を批判する為だと噂で聞いていたのだ。

 

「大変じゃの。お主も」

「あはは……、まあ休暇のついでだと考えておきますよ」頭を掻きながら伊丹が言った。「ところで、守人様達は何をしてたんで?」

「門の解析じゃよ。少々気になったんでな」

 

 それで察したのか、すぐに「へえ、そうなんですか」と言ってそれ以上のことを聞こうとはしなかった。知って良い情報じゃないと、即座に判断した為だった。

 すぐに話を変える。

 

「ところで、そちらの剣歯虎(サーベルタイガー)は……」伊丹が言った。

「ああ、そうじゃった。お主等には紹介してなかったの。こちらが飼い猫の不破じゃよ」

 

 おいで、と言って守人の足にすり寄って来たのは、他よりも一回り身体が大きく、見事な毛並みをした剣歯虎である。

 想像していたのと違っていた栗林は、そのまま石化してしまった。彼女は小さな三毛猫のような存在だと思っていたのだ。

 

「……猫?」絞り出すような声で、栗林が言った。

「どう見ても猫じゃろ」

「…………可愛い?」

「可愛いじゃないか。ほれ」

 

 守人が不破の喉元や額を揉んでやると眼を細め、くすぐったそうに身を捩りながら可愛く鳴いた。

 そして目線で訊ねる。不破は頷く。そのまま栗林の近くまで歩き、座り込む。

 

「触ってみると良い」

 

 守人の言葉にどうにか持ち直すと、恐る恐る、といった感じで栗林やテュカ、レレイが不破の毛並みに触れる。

 ロゥリィは眺めるだけに留まった。

 

「わ、凄いもふもふ……」

「ふかふか……」

 

 最初は撫でるだけだったが、大丈夫だと分かると直ぐに抱き着いたり、頬擦りまで始めた。不破も若い娘に寄られて悪い気はしないらしい。終始ご満悦な表情だった。

 

「おーい、そろそろ行くぞー」

 

 時間がねぇんだ、と伊丹が告げると、三人は名残惜しそうに不破から離れていった。

 

「ではな。休暇を楽しんでくると良い。汝らに加護があらんことを」

 

 互いに崩した形で敬礼。そして彼らは、門をくぐり抜けて日本へ向かった。

 

「……儂らも明日には日本か」

『そうですね。楽しみです』

「そうだの」

 

 そして<門>の解析で分かった情報を纏め、柳田に提出。

 ついでに、国会中継が見られるよう頼み込み、タブレットPCを借りた守人は自室で参考人招致の中継を見ていた。その内容に呆れると同時に、「ああ、確かこんな感じだったなぁ」と少しだけ懐かしさを感じながら明日の準備を進めていく。

 

 翌日。

 

 扶桑国使節団は<門>を通り、日本へ。

 

 守人にとっては、数千年ぶりとなる里帰りとなった。

 



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第12話

 

 冬晴れとなったこの日、日本の銀座では群衆でごった返していた。

 

「さて、もうすぐ扶桑国使節団がやって来ます! 見て下さい! <門>の前には、一目見ようと集まった方々や沢山の報道陣が詰めかけています!」

 

 一目見ようと集まった人々、またその様子を報道しようとカメラやマイクを構えるマスコミ、警備の為に動員された警察や自衛隊、そして各国の工作員、裏から動静を見守る公安、等々。

 

 ただの使節団なら、まあ、報道ぐらいはされるが、今回来るのは<門>の先、異世界からである。それだけでも注目度が高いというのに、日本人が関わっていた、その国の神様が来る、その上、昨日の参考人招致で出た美形エルフやゴスロリ亜神の事もあって大騒ぎなのである。

 

 そして、時間になり、ドームの扉が開かれる。

 

 自然と声が小さくなっていき、辺りが静まり返る。

 

 そして、<門>の表面が揺らいだ。

 

 まず先に<門>から出てきたのは、扶桑国の国旗を掲げる軍装姿の兵と、走鳥てばさきを駆る騎兵部隊であった。軽く辺りを見渡し、その街並みの威容さに驚きながらもゆっくりと前進を始める。

 次に剣虎兵。軍用に調教した剣歯虎(サーベルタイガー)と付き添いの兵である。そこには女性の姿もあった。腰には大小の刀を帯びていた。やはり銀座の光景に驚きながらも、隊列を乱さず前進をする。

 ある程度進んだところで停止し、両端に移動して隊の中央を開けた。

 

 ここまでは、やはりファンタジー世界らしいものだった。誰もが興奮気味に話し、カメラのシャッターが切られてフラッシュが焚かれる。報道される。歓声と光にてばさきや剣歯虎は驚くが、兵が宥めてどうにか収まっていた。

 

 だが、次に現れたのは少々、いやかなり異端の者だった。

 

 <門>から現れたのは、それぞれが違う色、違う造形をした大柄な鎧武者。

 扶桑国が誇る最強の兵器。劔冑である。これが<門>から出てきた。そのまま<門>の両脇で待機する。

 

 そして、特命全権大使である菊池と二人の補佐官。菊池の傍には鋼鉄の肌を持つ、紫紺の九尾の狐が居た。

 

 ここで、全員が<門>へと顔を向け、それぞれが敬礼を行った。

 

 そんな中、現れたのは守人と飼い猫の不破である。

 守人は身体を覆う白い狩衣に、頭には黒い烏帽子。帯にはイチイの笏を挟み、腰に赤い飾り紐を垂らした刀を差していた。白髪と、琥珀色の瞳。柔らかい笑みを浮かべた顔にはどことなく幼さを感じさせられる為、男女どちらとも受け取れる人物であった。

 不破はしっかりと梳かれた黄金色と黒色の縞模様の毛並みを見せつけながら守人の傍から離れず歩く。

 

 最後に、<門>の表面が大きく揺らいだ。

 出てきたのは、巨大な龍の顔。

 

 龍神・一目連太郎である。前を見たままゆっくりとその四肢で地を歩く。そして全身が<門>から出ると軽く身震いし、ふわり、と真上へ浮き上がる。

 

 使節団が敬礼をやめる。守人が小さく頷く。菊池は周りの武者を連れて真っすぐ歩き出した。

 

 前方で待っていた本位達は初めて見るてばさきや剣歯虎の姿に驚き、そして報告にあった劔冑の威容さに衝撃を受け。菊池や守人らの姿はまあ普通に感じられたが、止めとばかりに現れた龍神の姿には度肝を抜かれてしまった。

 

 誰もがその光景に呆然とし、言葉がなかった。ただ息遣いと、使節団の面々が出す足音と腰の刀から鳴るカチャカチャとした音だけが辺りに響いていた。

 

 菊池が立ち止まり、言った。

 

「私は、扶桑国特命全権大使、菊池明堯です」

「私は、この日本国、内閣総理大臣、本位慎三です」

 

 我に返った本位が返礼し、互いに握手をがっちりと交わす。そして本位は、ぎこちなさのある笑顔で言った。

 

「菊池大使閣下、ようこそ日本国へいらっしゃいました。我が国はあなた方の来訪を、心から歓迎いたします」

 

 菊池も笑みを零し、大きく何度も頷いた。

 

 そして、先程よりも大きい、割れるような歓声とフラッシュが上がった。

 

 ただ言葉にならない大声で叫ぶ者。「凄い凄い!!」と同じ言葉を繰り返して感動している者。顔を真っ赤にして、マイクを片手にがなり声を上げながら報道する者と様々だった。

 一般人からマスコミまで、手にカメラを持っているものは一斉にシャッターを切り、フラッシュが焚かれたのである。

 

 これにビックリしたのは使節団だった。

 突如沸き起こった歓声と光にてばさきや剣歯虎は慌てふためき、兵も宥めるのに苦労していた。尤も、その兵達もビクッ! と身体を震わせて、眩しそうに辺りをきょろきょろと見渡したりしていた。

 

 普段は冷静な菊池も、歓声と自身に向けられたフラッシュに驚き、思わず本位の手を強く握り締めてしまったぐらいだ。その所為で本位の手から骨が軋む嫌な音と短い悲鳴が起きて、慌てて菊池が謝罪するという珍事も起きてしまった。

 

 表向き変化が無かったのは守人達と、装甲中の武者ぐらいであった。

 ただよく見てみると、武者の方は自身に向けられているカメラに対して戸惑っているようだ。動きが僅かにぎこちなかった。

 あと、正宗が何か絶叫している声がした。気の所為だと思いたい。

 

『いやはや、凄い歓声ですな』

 

 太郎が言った。流石に永く存在していても、このような状況は初めてだった。

 

「結構な人数が集まっているからの。この位は考えられた」

 

 そう言いながら、守人は柔和な笑みを張り付けたまま、にこやかに手を振る。更にフラッシュが焚かれた。不破はフラッシュがうっとおしいのか、唸り声を上げて守人の足に顔を埋める様にして避けていた。

 その頭を優しく撫でてやりながら、守人はゆっくりと辺りを見渡す。

 アルヌスの丘でも、その面影はなんとなくはあった。

 だが、やはり本物は違う。

 

 壁のようにそびえ立つ硝子張りの無個性な建物。色鮮やかな看板と記号。ああ、あれはローマ字というんだった。アスファルトとコンクリートで舗装された道路。遠くから聞こえる人と車による騒がしい物音。吹き付けるビル風から漂う排ガスの臭い。汚れて霞んでいる空。遥か上空には、旅客機が飛んでいる。

 

 そう、都会はこんな感じだった。私の故郷とは違って賑やかで物に溢れていた。

 そうだ、思い出した。

 

 確か、都会は空気は汚れていて緑もなかった。

 確か、日々の匂いはこんな感じだった。

 確か、いつもこんなに騒がしかった。

 確か、いつもみんな忙しそうに動いていた。

 

 思い出した。思い出した!

 ここは日本だ。ここは故国だ!

 同時に、身体の奥底から何かがこみ上げてきた。ただ、それが何なのか、守人にはよくわからなかった。

 

『守人、大丈夫ですか?』

「何がだ?」

『――泣いていますよ』

 

 慌てて袖で顔を拭うと、確かに湿っていた。

 

「―――いや、すまんな。忘れていた昔を思い出したら、な」

 

 やや目が赤いが、柔和な笑みに戻った守人を見て、太郎は小さく頷いただけだった。

 彼には数千年ぶりに故郷へ帰れたことに対する気持ちが想像できなかったし、また何か言うのは不要だと考えていた為だった。

 数瞬して、守人が言った。

 

「儂らも、そろそろ彼らに挨拶せんとな。あともう移動せんと収拾がつかんぞ」

 

 未だ歓声は止まず、眩いままだった。流石にうんざりしてきたのだ。

 

 守人たちは順に本位首相へと挨拶し、日本が用意した車に乗って一路、赤坂迎賓館へと向かった。

 

 

 この赤坂迎賓館は、明治期に東宮御所として宮廷建築家の片山東熊によって建てられた。それから改修され、現在は国賓を迎え入れた際の宿泊などの接遇を行う場所となった。

 使節団を持て成すにはこれ以上ない場所であり、太郎を着陸させても問題が無い場所が此処しかなかったのである。

 

 迎賓館の彩鸞の間にて、本位首相と菊池大使がマスコミ関係者の前で挨拶を行い、そして<友好交流協定>という名で協定の調印と、その後の握手を行った。

 条約ではないのは、まだお互いをよく知らない為、後々に結びましょうということになった為だ。ただこれで日本国と扶桑国との間で国交が樹立したことになった。

 

 お互いに握手を交わし、笑顔で記者団に向いた際には再びフラッシュと万雷の拍手が巻き起こった。また日本各地でその様子を映像で眺めていた人々からも拍手と万歳三唱が起きた。

 各国関係者はそれを面白くなさそうに見ていたが、どうすることも出来なかった。米国はどうにか利益を引き出せないか算段し、ロシアは未だ沈黙を保ったまま。中国は、友好を表に出しつつ工作を始めていた。

 

 そして共同記者会見も終えると、今度は庭で待機していた守人達の番だった。

 

「――日本国の皆様、初めまして」

 

 いつもと違う、凛とした態度と、実に柔らかい声色だった。

 

「儂は扶桑国の守人。こちらは不破。そして、」

『私は姓は一目連、名は太郎と申します』

 

 突如、記者達は頭の中に響く声に驚く。騒めき、そして目の前の龍のものと気付くまで少し時間がかかった。「どうしたんですか?」と、怪訝な表情で見つめるスタジオの面々。マイクには声が入らない為、太郎が喋っているのが分からないのだ。

 それに気付いた守人が代わりに告げる。

 

「こちらは姓は一目連、名は太郎と言います。天龍と呼ばれる種族であり、発声器官が人とは違う為、念話と呼ばれる手段で相手の頭に語りかけます。ですので、マイク、でしたか? 音が入らないのでしょう」

 

 守人は語る。

 かつて、己が扶桑国の原型を造り上げた際、神隠しでやって来た者達から日本という国について聞かされていたこと。

 彼らは当初は混乱していたものの、扶桑国に協力してくれて文化や技術を伝えてくれたこと。

 彼らは、もし、いつか日本に行くことがあったら遺品を故郷へ届けて欲しいと願っていたこと。

 そして、自分自身も日本訪問を願っていたこと。

 そして今回、<門>が日本へ繋がったことを知り、彼らとの約束を果たす為にやって来たということ。

 アルヌスの丘に急にやって来た我々に対し、自衛隊の方々には大変世話になったということ。

 また炎龍の襲撃の際には、太郎から多大な功績を挙げたと聞いていること。

 そして今回、念願だった日本訪問ができ、また友好関係を結べて嬉しく思っていること。

 

「――やっと、彼らとの約束を果たせそうで、嬉しく思っています。今でも、日本からやって来た方々によって、何度も助けられたことを覚えています。もう、それは歴史の一幕となり当時の事を知らない世代へと変わっていますが、今後も、日本から受けた恩を忘れずに、永く語り継いでいこうと思います」

 

 こう締めくくり、守人の演説が終わる。

 そして、質疑応答へと移った。日本の新聞各社やTV局、外国プレスなどから質問が飛び交う。

 

 守人は内心辟易しながらも、笑みを張り付けて対応していく。

 政治について聞かれたら「人の国は人が治めるべき。それに、政治と宗教は分けるべきだと考えている」と答え。

 外国プレス記者からは「日本以外の国を訪問することはありませんか?」という質問に対し、「やって来たのは、あくまで約束を守る為です」と答えた。

 少し困ったのが、次の質問だった。

 

「年齢?」守人が訊ね返した。

「はい。昨日、特地からやって来たロゥリィ・マーキュリーさん、テュカ・ルナ・マルソーさんが長命だとお聞きしました。守人様達もお幾つなのか、お聞かせ頂けますか?」

 

 守人は困ったような表情を浮かべ、一旦壇上から離れて太郎に小声で訊ねながら確認する。

 再びマイクの前へ立つ。

 

「分からん」守人は素直に言った。

「はい?」

「正確な歳が幾つか、分からんのじゃよ。寿命がなく、数えたことが無いからの。扶桑国が成立したのが約三千年前じゃから、これは確実だの」

 

 この言葉に絶句する面々。最低でも三千歳。なのにその若々しい顔。

 昨日の参考人招致でもゾッとするようなことだったというのに、文字通り桁が違うことに恐ろしくなったのだ。

 

 シン……、と静まり返ったところで、時間が押していたのもあり、進行係が「これで会見を終わります」と宣言した。

 

 マスコミ関係者が全てシャットアウトされると、ようやく一息吐くことができた。

 

 武者達も装甲を一旦解き、使節団員は案内された部屋にて休憩。てばさきや剣歯虎達も、急遽設けられた厩舎にて預かられることになった。

 

 昼になると、赤坂御苑に移動し、ここで協定締結の祝宴が開かれることになった。

 これはかなり異例なことだった。

 本来なら迎賓館で国賓を持て成す為には晩餐会を行うのだが、太郎は建物の中に入れない。太郎は「気にしなくてよい」と言っていたが、一度は関係者全員でやっておきたいとなり、昼間に庭園での祝宴となったのだ。

 

 会場となった庭園には毛氈と傘で飾られており、各所に卓と椅子が置かれていた。今は冬なので彩りが少ないが、見事な庭園であることには変わりがなかった。

 

 守人達は、庭園の隅で景色を眺めながら静かに酒を飲んでいた。口調も元に戻っていた。

 先程まで、日本の本位首相ら閣僚達に特地に関わる官僚、そしてやんごとなき御方との会談を行っていたのだ。守人や不破も相当だったが、やはりというか、天龍である太郎の存在はかなり驚くらしい。見た目と、会話方法が念話であるから仕方ないとも言える。

 

 守人は酒とつまみをちびちびと飲みながらのんびりと。

 太郎は酒好きと聞きつけたらしく、日本各地の酒を四斗樽で用意されていた。それを喜びながら、太郎は蜷局を巻いた状態で次々と樽を開けていく。今は<寒中梅>と書かれた酒を飲んでいた。

 不破は用意されていた馬肉に齧り付き、今は満足して守人の足元で寝そべっていた。

 

『見事な庭園ですね。ここまで素晴らしいのは扶桑国でも見られませんよ』

「うむ、今度は春や秋ごろに見てみたいの」

 

 扶桑国にも似たような庭園はあるにはあるのだが、かつての度重なる戦火とそれに伴う出費で庭園の維持が難しくなり、殆どが農地や工廠となっていた。残っている庭園も小さく、少し荒れている部分があった。

 

「えー、守人様、色々と手配して頂き、有難うございます」

 

 守人に話しかけたのは、伊丹達だった。落ち着きがない表情だった。

 

「なに、儂が勝手にやったことじゃ。気にするな」

 

 手をひらひらと振りながら守人は言った。

 

 元々、彼らは箱根の温泉宿に泊まる予定だった。

 

 それが立ち消えになったのは、扶桑国側からの提案であった。

 現在、日本を取り巻く状況は良くない。アメリカ、EU、ロシア、中国、これらの国がちょっかいを出してきている。

 扶桑国はそれを事前会談や情報収集によって知った。同時に、今回の件で何か仕掛けてくると予想していた。

 

 使節団として調印式に行く面々は問題ないだろう。大使である菊池含め全員が戦える。早々遅れは取らない。最悪の場合、劒冑(つるぎ)を装甲して<門>へ逃げ込めば良い。

 

 だが、参考人招致と同じ日に行われる日本側と、<帝国>との仲介役であるピニャとボーゼス達との極秘会談。

 これが拙い。

 彼らにとっては初めてとなる<帝国>の関係者、しかも皇女だ。何が何でも身柄を確保しようと動くだろう。極秘なので何かあっても日本からは文句は言えない。そして二人と仲良くなり、特地への通行権を手に入れようと考える。

 

 扶桑国からして見れば、現状の目的は日本との協定を結ぶことなのでそれ以外の国に茶々を入れられたくない。ここで何かあったら全てご破算になる可能性もある。

 

 そこで、合流させてしまえという提案が出た。

 

 一日目は如何にかしてもらうことにして、二日目、三日目は使節団と同じ場所に宿泊すれば警備し易く問題ないという考えだった。

 

 これに日本側も食いついた。

 使節団に用意した場所は赤坂の迎賓館と帝国ホテル。ここなら敵も手出しが出来ない場所である。勿論、自衛隊の特殊作戦群が念の為、配置されているが、もしここに手を出せばどうなるか、各国も重々承知している為だった。

 誰だって、普段は及び腰である日本の、最大の逆鱗には触れたくはないのである。

 

 そして彼らは守人達正神にお願いし、ロゥリィ達を友人、自衛官達はその随行員とした。公式ではそういう事になっている。

 

 ただ、それが良かったのかは分からない。

 伊丹と富田、栗林の三人は周りに居るのがお偉いさんとやんごとなき方々なので、ガチガチに緊張していた。

 

 ロゥリィ、テュカは昨日の参考人招致の事もあり、長命でありながら若く見える為、女性陣に詰め寄られていた。

 これに戸惑ってはいるが、進められた料理や酒を楽しんでいるようだった。

 

 ピニャとボーゼスは施設の豪華絢爛さ、祝宴での質の高さに呆然としながらも、用意されたお菓子を摘まんだり、昨日、会談した白百合と菅原とレレイによる通訳を介しながら雑談をしている。そして時折、守人のことを妙な視線で見つめていた。

 

「えーと、その、なんで私もここに居るの……?」

 

 そう呟いたのは、黒髪の、眼鏡をかけた女性だった。梨紗と言った。顔は不摂生しているのか、やや青白くやつれていた。

 

「……このお嬢さんは? 初めて見る顔じゃが」

「おッ、おじょッ!?」

 

 梨紗は瞬時に顔を真っ赤にした。二十九にもなってお嬢さんと呼ばれるとは思わなかったのだ。

 

「えー、私の元嫁さんです。ハイ」

 

 苦笑しながら伊丹が言った。そして一日目の詳しい事情を説明すると、守人も納得することができた。

 

「なんじゃ、そうなのか。まあここに居るという事は大丈夫なんじゃろ。後で儂からも頼んでおこう」

「すみません、助かります」

 

「ああ、そうじゃ」守人は言った。「お主等も今夜の晩餐会には出席じゃからな」

「え˝ッ」

「嫌かもしれんが、良い経験だと思って我慢するんじゃな」

「いや、礼服とかマナーとか分かりませんよッ!?」

「儂の方で用意しておいた。丈もピッタリのをな。作法は、まあ、そこまで五月蠅く言われんじゃろ。そちらのお嬢さんのも、手配しておくよ」

「お嬢さん……」

 

 顔を青ざめたり、赤くしたり。その様子を見て笑ったり。

 

 そんなことで、扶桑国使節団の日本訪問、その初日が終わったのである。

 



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第13話

すみません、遅れました。
しかもうまく書けなかった……。

恐らく、批判も出る話だとは思いますが、楽しんでいただければ幸いです。


 アメリカ合衆国 ホワイトハウス

 

 この頃、ホワイトハウスでは現大統領ディレルを含めて扶桑国について議論が交わされていた。

 

「日本人が関わった異世界の国家、か……」

 

 一体どこのB級映画のシナリオだと、ディレルは思った。

 ここ最近、日本に都合の良い事ばかりが起きている。

 最初は<門>。これが日本の銀座に開通した際には多くの人命が失われた。痛ましいことだ。

 だが、資本主義の観点から見れば<門>と、その先にある世界は可能性の詰まった宝の山なのだ。その為、現在は資源の値が下がり、また日本に有利な条件で交渉を持ち掛ける所も多く、日本の経済は好転している。

 これに加え、<門>の向こうに日本と関わりの深い国が現れたのだ。しかも、友好関係を結ぶにあたり、地下資源の所在地を教えたという。これで開発が進むのは容易に想像できた。

 全くもって面白くない、とディレルは内心舌打ちをする。

 

「それになんだね? あの鎧を着たサムライは? まるでジャパニーズアニメに出てくるような存在じゃないか」

「そちらは現在調査中です。パワードスーツという情報もあります。私見ですが、あちらの世界には魔法があります。扶桑国では古くから使用されているとの報告がありますので、恐らくはパワードスーツを造り出せる独自の魔法が発達したのでしょう」

「成程、魔法か。便利な言葉だよ」

 

 全く実務的に答えるクロリアンに、ディレルは皮肉で答えた。

 

「まあ現状では実用品かどうか、全く分からないという事か。そのスペックを詳しく調べるようにしてくれ」

「はい、大統領閣下」

「しかし、大統領になって大真面目にファンタジーな話をすることになるとは思わなかったよ」

 

 ディレルの言葉に、全員が苦笑した。誰だって現実に剣と魔法の世界に繋がるとは思わないだろう。

 それに、とディレルは目の前の画面を見やる。そこには白髪の人と蛇のように長い龍、剣歯虎が映し出されていた。

 神というのはもっとこう、神々しい存在だと思っていたが、存外普通なのだなと思っていた。

 だが、この存在によって大きく揺れ動いたところがあった。

 宗教界、特にキリスト教やイスラム教、ユダヤ教に代表される一神教である。

 彼らにとって神とはたった一人であって、あのような人間やケダモノではない、というのが彼らの主張であった。故に神を騙る存在に対し、罰するべきだと本気で言っている者まで出てきており、各地のデモに参加するようになった。

 

「ふん、熱心なのは良いことだ。だが、時と場合を選んで欲しいものだ」

 

 来賓は扶桑国使節団の友人扱いとなり、手は出せなくなった。

 そして、日本は昨今の途上国の追い上げで斜陽化しつつあるとはいえ、経済大国の一つである。アメリカの極東地域における影響力と、経済の結びつきを考えれば敵対できるはずもなかった。

 それなのに、これを分かっていない連中はデモを行い、口だけは勇ましいことや対話で解決しようなどと好き勝手に言いまくっている。ましてや、幾つかの団体には中国系の資金が投入されているのが分かっていた。

 お蔭で声だけは大きく、アメリカ国内でも大きな問題となっていた。

 

 この事実に、ディレルは怒り狂いそうになっていた。いや、既になった。近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばし、怒りに任せて踏み潰したばかりだった。

 

「で、何か良い知らせはないのかね?」

 

 溜まった怒りを吐き出すように、ディレルは言った。

 

「良い知らせかどうかはわかりませんが」クロリアンが言った。「未確認の情報ですが、フソウの兵達は自衛隊の兵器に関心があるようです。特に重火器に注目しているようです」

「ほう? 彼らにはパワードスーツがあるのではないのか?」

「このパワードスーツは生産が難しいそうです。また火器がマスケットや前装填式の大砲ぐらいしか無いらしく、一般兵の火力を上げる為だと予想されます」

「成程、自衛隊が使う兵器は我が国の物も多い。ここから接触してみるか」

 

 扶桑国がどの程度の国家かは分かっていないが、それでも一国である。もし、これで兵器を売り込めれば莫大な利益が予想できた。

 ディレルとて、代金の全てを金銭で払ってもらおうとは思っていない。

 むしろ、パワードスーツの技術や希少資源で交換しようと考えていた。これがあれば、国内産業は潤う。また外交で有利に立つことができる。そして自身の成果として、支持率も上がるというものだ。

 

「ふむ、ならば日本政府に仲介を頼むとしよう。なに、彼らも友人の頼みを断らないだろうからね」

 

 僅かに機嫌を戻し、机に置かれた資料を見やる。そこには、本位内閣の閣僚達の不正や裏献金、数々の汚職行為が記されていた。

 

「モトイ政権にはまだまだやって貰うことがある。彼らを揺さぶりつつ、口や手を出せるようにするんだ」

 

 こうして、アメリカは扶桑国と友好関係を築くべく、また日本との協調関係を強くしようと硬軟おり交ぜて働きかけるのであった。

 

 

   ***

 

 

 さて、日本に戻る。

 

 夜。

 赤坂迎賓館では、総理主催の晩餐会が行われていた。

 

 出席者は、日本側は本位首相以下閣僚達と官僚達。扶桑側は守人、菊池大使以下使節団員が。

 ここに伊丹達も(強制的に)加わり、総勢四十名ほどとなった。

 本来は両国の関係者達や関わりの深い者、例えば企業や著名人などが集まって行うのだが、扶桑国と関わりのある人物など現時点では居らず、また昼に皇族の方々も参加した祝宴を行ったこともあり少ない人数となった。

 

 晩餐会そのものはフソウ国でもあるものの、国が違えば作法も違う。事前に日本側に頼み、服装や作法について講義を受けていたが、外交の場でもある。用意していた紋付き袴と振袖に着替えた後でも直前まで打ち合わせや作法についての確認に余念がなかった。

 

 太郎と不破、そしててばさきと剣歯虎の世話係となった者以外は出席となった。太郎達は厩舎にて、日本側の差し入れもあって皆で食事と酒を楽しむことになる。

 

 急遽参加する事になった伊丹達はここで服装と作法の確認を行った。時間がなかったので簡単な説明のみであった。

 ただし、自衛官三人は太郎閣下こと喜納大臣によって恥ずかしくないようにと、きっちり短時間で叩き込まれることになった。

 

「なぁんで、こんなことになっちゃったんだろうね……」と伊丹。

「なんか、休みになってませんね」と富田。

「隊長、後で今回の代休をお願いしますよ?」と栗林。

「先輩は良いじゃないですか。私なんて巻き込まれた側なのに……」と梨紗。

 

 全員、守人が用意した礼服に着替えていた。どうやってサイズを調べたのか分からないが、ピッタリだった。

 

 伊丹だけは、ピシッと服を着ているのだが着慣れていない所為なのか、あまり似合っていなかった。

 他の面々を見てみる。女性は服と化粧で変わるというが、その通りだった。

 肌の露出が少なく、化粧を受けて清楚な姿になった栗林を見て、「やっぱり素材は良いんだなあ」と思ったり。

 ロゥリィ、テュカ、レレイ達三人娘の着飾った姿にいつもと違う眩しさと背徳感があって思わず赤面してしまったり。

 ピニャとボーゼスは、お姫様と貴族令嬢なだけあって堂々としており、何か惹きつけられてしまうものがあった。

 

 最も、彼女たちは使われている生地の肌触りと仕立ての良さに驚いていたが……。

 後に日本の生地を手に入れた守人が仕立てた礼服だと聞き、卒倒しかけたのだが、それは別のお話。

 

 礼服姿で決まっている富田を見てボーゼスが顔を赤くして「はいはい、おめでとさん」と思わず笑ったりしながら、伊丹達は会場の隅にある、一つのテーブルに固まることになった。

 あくまでこの晩餐会は日本国と扶桑国とのやり取りによるもの。友人扱いである彼らを巻き込むのは良くないだろうし、また言葉の問題もあり、気心知れた者と一緒の方が良いだろう、というものだった。

 まあ昼の祝宴で散々言い寄られていたから、夜ぐらいはゆっくりとしながら料理と酒を楽しんで下さいという配慮もあった。

 ここでロゥリィ、テュカ、レレイ、そしてピニャとボーゼス達は、日本のおもてなしに目を丸くしていた。

 

「これ、綺麗ね。こんなに綺麗な硝子を見るの初めてよ」

「椅子がフカフカ。柔らかい」

「これは、石の皿? いや、それにしては随分と滑らかですね……」

「磁器と言う陶器の一種らしい。描かれている絵も素晴らしいな……」

「……凄いわねぇ。今まで色んな所に招待されたけどぉ、此処まで見事なのは初めてよぉ」

 

 ほぅ、と感嘆したようにロゥリィは呟いた。

 無色透明で歪みの無いグラス、精緻な細工を施された銀食器、磁器の皿。どれも帝国には無い代物である。

 そして会場となった花鳥の間は、天井や欄間、壁面に飾られた絵画やゴブラン織風綴織に由来している。室内は直線や平行線を使った繊細な模様のあるアンリー2世様式であり、重厚な雰囲気があった。

 

「まあ、ここは元は皇族が住まう館として設計されたしね。今は国賓をもてなす際に使うけど、恐らくこの国で一番の宿泊施設じゃないかな」

 

 伊丹の説明になるほどねぇ、とロゥリィは納得して椅子にもたれ掛かる。天井に描かれた美しい絵画を見あげ、壁に飾られた七宝焼の花鳥図を眺めたりと、食事が始まるまで楽しそうにしていた。

 正直、伊丹達には純粋に楽しめる彼女らが羨ましかった。

 

「まあ、でも……」と伊丹。

「そうですね」と富田。

「アソコよりマシですね」と栗林。

「うんうん」と梨紗。

 

 目線を、会場の中心へと向ける。

 ゆったりとしている扶桑国側に対し、日本国側は微妙に緊張していた。

 

「まさか、歴史上の人物が劔冑になっているとは思わなかったしなぁ……」

 

 事の発端は、出席者の名前を確認したときである。事前に名簿を渡されてはいたが、そこに歴史上の有名人の名前があったのである。

 楠木や平、真田、千葉を名乗る者達。彼らは神隠しにあった者の末裔だと分かった。

 だが、一人だけ本人が居た。

 

 相州五郎入道正宗

 

 名刀「正宗」の名で知られる、鎌倉期に相州伝を確立した日本刀中興の祖。

 かつて「正宗は実在しなかった」とする説が唱えられたほど実像が定かではない伝説的な存在であるが、実在したのである。

 正宗は元寇襲来時に神隠しにあい、扶桑国の劔冑鍛冶師の元で修業したのちに身体を濃紺の劔冑へと変えていたのだ。

 そこで確認した所、来たのは劔冑の待機状態である濃紺の天牛虫。

 兵器である劔冑が正宗を名乗っている。だが、周りの扶桑国の面々は本人であると言っている。

 これはどういうこっちゃ? と、大騒ぎになったのである。 

 そして、守人から説明があった。

 

 劔冑の製造とは、専門である劔冑鍛冶師がおり、この者たちが生涯最後に造り上げるものだということ。

 全身全霊をかけて鎧を造り上げ、最後に心鉄として己の魂を入れて完成する。その方法は炉で赤熱するまで焼いた鎧を身に纏い、そして焼け死ぬ前に扶桑国のみに湧き出る泉に飛び込んで焼き入れを行うというもの。

 故に生涯で一人につき一領しか造りだせない兵器。それが劔冑。

 そして己自身が、劔冑であることを明かした。

 

 日本側からすれば、この一発はキツすぎた。

 扶桑国の存在である程度耐性が出来ていたと思ったが、そうでもなかったらしい。胃の辺りを抑えたり、何人かは卒倒しかけていた。お陰で急きょAEDを近くに用意する事になった。

 

 そして出席者の出自はともかく、劔冑に関しては全員に緘口令が敷かれた。今、この情報が流出するのは拙い。唯でさえ<門>に関してはややこしい事になっているのに、人権云々が絡むと収拾がつかなくなるからだ。

 

 どうにか落ち着き――というよりも、やけくそ気味だったが――本位首相と菊池大使、そして守人が挨拶を述べて始まったのである。

 

 晩餐会では両国の関係者が交互に座り、隣の席の方と話すことになっている。扶桑国やロゥリィ達も、精細な料理と酒、給仕達の細かい配慮に感嘆しながらも、非常に楽しんでいた。

 本位首相の両隣には、守人と菊池が座っていた。

 ここが一番平和である。二人とも常識を持った話せる御仁である。本位首相もにこやかな笑みを浮かべて会話を楽しんでいるようだった。

 

「はぁ、窮屈で面倒クセェ……」

<御堂よ! この場では作法は大事である!>

「お前が常識を言っていると調子が狂うんだよ……」

 

 正宗と名乗る天牛虫と会話する、近寄り難い雰囲気を持つ蒼髪の少女はひたすら行儀よく食事をしていた。

 

「あらあら。どうして皆さんこんなに緊張なさっているのかしら? は、まさか、私の美貌にあてられて!?」

「憚りながらお嬢様。それは痛い勘違いというものです」

 

 いかにも深窓の令嬢然とした長身の女性と、彼女個人の侍従である質素な身なりをした老婆はブラックジョークを連発していた。

 

 ……と、まあ、中にはいまいち話がかみ合わない面々もいるが、概ね風土や文化について談笑しているようだった。

 ただ、やはり似通っているとはいえ異世界人という事をまざまざと認識させられるようなことも多く、喜納や夏目ら閣僚達や役人達が時折顔を引き攣らせたり、見えない様に胃のあたりを抑えたりしていた。

 

「よし、決めたぞ」

 

 伊丹が宣言する。珍しくも真剣な表情であった。

 全員が注目する。

 

「俺はもう、巻き込まれたくない。よって、ここで終わるまで息を潜めている」

 

 巻き込まれて、胃の痛い思いをしたくなかった。せっかくの美味い飯と高い酒を楽しみたかった。

 幸いなことに、日本側は扶桑国側の相手をするのに手一杯であった。

 このチャンスを逃してはならない、との伊丹の言葉に誰もが頷き、ひっそりと食事と酒だけに集中することになった。

 

 途中、伊丹は喜納からの救援要請があったり、ピニャとボーゼスは首相と少しばかり会談したり、余興にと大鳥がコントラバスを演奏したりと、どうにか晩餐会を終えたのである。

 

 食事と酒は、大変美味しかったという。

 




2016/8/26 文章の修正・追加を行いました。

2017/1/26 文章の修正・追加を行いました。


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第14話

 2016/9/1

 唐突過ぎる展開だったため、全文書き直ししました。
 ご迷惑をおかけしますが、どうかご理解のほど、宜しくお願いします。


 扶桑国使節団の日本滞在、二日目。

 

 今日から、使節団による日本の文物視察と調査が始まる。

 滞在中は主に閣僚や関係者たちとの会談や、工場や研究所などの視察が予定され、神隠しにあった者たちは故郷や関わりのあった地に赴くことになっている。

 

 あとは神隠しにあった者達の遺品を彼らの故郷へ持っていき、その子孫や出身地の長らに引き渡すことだが、これは難航していた。

 武将の、例えば織田や楠木らしき人物が遺した品は誰が管理するべきなのか、また農民や地侍のものは良品では無いが、当時の事を知る史料になるため何処が管理するべきなのか。それで揉めているのである。

 

 また日本にいる間、守人は各地を回る間に一度くらいは己の人間だった頃の故郷へ行ってみようと考えていたが、それが何処なのか全く思い出せないでいた。よくある田舎のひとつ、と記憶しているが、その名前や場所までは分からないままである。

 まあ、時間は腐るほどあるし、そのうち分かるだろうと考えているので切羽詰まった問題という訳でもなく。

 遺品の引き渡しの問題が片付くまで、迎賓館の庭で太郎や不破と一緒にのんびりと囲碁でも打ちながら過ごしていた。

 

 また色々と振り回されていた伊丹たちは今日が日本滞在の最終日であり、最後は休暇らしく過ごしたいとの事で買い物などに行き、昼過ぎに特地に戻ることになっていた。

 

 

 一方、日本政府が用意した会議室にて。

 

 日本国からは、本位首相と首相補佐官の白百合、そして嘉納大臣らが。

 扶桑国からは、大使である菊池と補佐官、それと数名の学者が出席し、会談を行っていた。

 

 昨日に日本国と扶桑国の間で結ばれた<友好交流協定>の内容は、簡単に言えば二国間の人材を相互に派遣し、交流を図るというものである。

 事前会談の時にはこの中に二国間の貿易を盛り込もうとする話も出たが、問題もあって一部のみとなった。

 

 扶桑国はファルマート大陸から遠く離れた島国である為、物資の輸送手段が飛空船か帆船によるピストン輸送しか無い。前者は数が三隻しかいないうえに、そもそもの積載量が少ない。後者は危険な海域を通らなければならない為、沈没の恐れや輸送に時間が掛かってしまう。

 太郎ら天龍による輸送という手段もあるが、幾らなんでも天龍に雑用させるのは失礼に当たるし、こんな事を言えるのは守人ぐらいである。

 

 また日本も<門>があるのが首都のど真ん中であり、現在は特地派遣部隊で消費する物資輸送で一杯なのだ。

 ここに貿易品の輸送も加われば間違いなく周囲の道路事情が麻痺するのが目に見えていた。

 

 だから人材交流程度の話しか進められなかった、という面もあった。

 

 さて。

 この人材交流に当たり、扶桑国側からは主に文化や技術の交流と歴史調査を。日本側からは、特地における資源調査や文化交流の協力を要請していた。

 

 扶桑国は自国の源流となった日本の文化に興味を持っている。かつて神隠しによってやって来た人々は今もなお尊敬されており、そんな彼らの故郷である国を詳しく知りたいと考えていた。

 また、日本がどのような歴史を辿り、どのような教訓を残したのか。それを得ようとしていた。

 

 例えば、近代工業である。

 

 日本では幕末から明治にかけて西洋に追いつこうと様々な文化や技術を吸収していった。ただ真似するだけでなく、自国の風土に合うように改良していき、自国の文化の一つとしていった。

 その一方で、急激な鉱山開発や工場建設による鉱毒病や公害が発生したのも事実である。

 

 扶桑国では重工業は発達しておらず、工業と言えば職人が一つ一つ手作業で行うものである。今後、扶桑国が日本の技術や文化を取り入れた際に、日本の歴史と同じような事が起きかねないのだ。

 それに自国と日本との技術格差を分かっている為、まずどの様な技術や文化なら自分達でも扱えるか、また受け入れられるかを確かめなければならなかった。

 

 この日の会談はこれらの微調整を行っており、議論がひと段落した所で日本側から一つの提案がなされた。

 

「アルヌスの丘の開発、ですか」菊池は訊ね返した。

「はい。我が国は現在、帝国と戦争中であります。ですが、我々にとっては全く未知の存在です。その為、アルヌスの丘を拠点にし、周辺地域の住民らと接触を図りながら情報収集を進めていました」

 

 本位は続けて説明する。

 

「ですが、貴国と国交を結ぶ事ができ、また先日に帝国の第三皇女殿下と会談し、講和という可能性も出てきました。そこで貴国との交流の為の拠点、及び帝国の講和派の支援としてアルヌスの丘に街を造ろうと考えております」

 

 菊池は思案する。悪くない、むしろ良い話だと思える。だからこそ引っかかった。

 

「一つ、よろしいですか?」菊池が訊ねた。「何故、<門>の事を知ってなお、アルヌスの丘に街を造ろうと考えたのですか?」

 

 守人が行った<門>の解析結果は、直ぐに両国の関係者らに知らされていた。

 その内容は、認めがたいものだった。

 

 <門>を繋いだままにして置くと、地震や生命の壊死といった異変が相次いで発生し、そしていつか世界が崩壊してしまうというもの。

 しかも、ただ<門>を破壊すれば即座に揺り戻しによる災害が発生。一年以内には安全な方法で<門>は閉じなければならない。

 そして<門>の再接続には冥府の神ハーディの力が必要であるが、招待状が無ければ会うことすら出来ない。

 守人曰く「時間をかければハーディの力が無くても<門>の再開通は可能」と言っていたが、それが何時なのか全く分からないのだ。

 現状では、<門>を閉じたら二度と開通する事は出来ないのである。

 

 この調査結果を信じるとなれば、日本、いやこの世界からすれば<門>、そして特地の価値が大きく下がってしまったのである。

 

 特地の資源を得るには、最低でも数年の歳月をかけて開発しなければならない。一年以内に<門>が閉まり、再開通出来るか分からないとなれば、投資しても見返りが無いのだ。

 

 だからこそ、菊池には無駄だと思われる特地の開発に日本政府が本腰を入れて行うのが分からないのである。

 

「勿論、私どもも<門>の事は聞いております」嘉納が言った。「だからこそ、どの様な事になっても良い様にアルヌスの丘に街が必要なのだと考えました」

 

 日本政府は<門>についての報告を聞かされ、直ぐに首脳陣と有識者を集めて対策を考える事になった。

 

 その結論が、アルヌスの丘に自衛隊が自活出来る拠点を造り出す事だったのだ。

 

 勿論、直ぐに自衛隊の撤退させ、門を封鎖するべきという意見もあった。

 だが、ハーディなる冥府の神をどうにかしない限り<門>は事実上何処にでも繋げられる為、帝国が再び侵攻して来る可能性がある。

 

 それに、<門>の封鎖となると国内のみならず諸外国の反発が大きいと予想できるのだ。 

 現在の日本は、<門>が現れた影響で世界各国からの投資が盛んになっており、景気も上向きに転じていたのだ。これを考えてしまうと、調査結果を馬鹿正直に信じて<門>について政府の公式見解として発表もしづらい。

 

 また公表しても「日本は特地の利益を独占しようとしている」「日本は時勢が悪くなったから門を破壊した」というような批判が出るのがオチだ。

 そうなれば、国際社会から孤立し、経済も悪化して日本の将来は真っ暗となる。それは避けなければならない。

 

 まあ、本当かどうか分からない未来の事より、目の前の問題(特地の権益や経済。そして予想される野党、諸外国からの批判などを躱したい、等々)の方が重要に思う者が多いのもあった。

 

 結局、今直ぐに結論を出すべきでは無い。つまり一旦先延ばしして現状維持に務め、情勢を見極めようという事になった。

 それでも何もしないのは拙い為、万が一自衛隊が特地に取り残された場合を考え、再開通まで自活出来る街を造ろう、という事になったのだ。

 

「それと何ですが……」

 

 嘉納は口ごもった。言いづらい内容だった。

 

「嘉納さん、それは私が」意を決した表情で、本位が言った。そして、菊池に顔を向ける。

「誠に無様な話ですが、我が国では扶桑国の方々の身は安全とは言い難いのでして……」

 

 非常に情けない話ではあるが、それが実情であった。

 

 日本に<門>が出現してからは、世界情勢が一変した。

 表向きは平穏と言えたが、裏を見れば米中露、そしてEUから露骨な圧力をかけられている。中には官僚達が工作員によるハニートラップに引っかかり、また行ってきた不正の証拠を突き付けられ、情報を横流ししている者も少なくないのだ。

 そこに扶桑国という存在が現れ、しかも日本と国交を結んだとなれば面白い筈がない。

 警備の為に公安や自衛隊を動かしていたが、各国の動きが複雑化してきており、どう動くのか、全く予想がつかなくなっていたのだ。

 

 その事を聞かされた菊池は「此方に来てからの妙な視線はこういう事だったのか」と内心納得する。

 他の武者からも似た報告が相次いでおり、特に大鳥大尉からは「団員の安全確保の為、殺して来てもいいですか?」と言い寄られていたのだ。

 

「そして<門>の事を考えますと、大使館はアルヌスの丘に建てるのが適切だと判断しました。アルヌスの丘でも日本の情報を集められるようにしますので、これが一番だと思います」

「成程……」

 

 確かに、アルヌスの丘でも情報が収集できるなら有り難い話である。

 

 元々、日本政府は銀座の<門>の先は未確認だった日本国内という解釈で進めて来た為、アルヌスの丘に大使館を建てても問題無い。

 現代の地球社会はネット社会である為、電源と回線、それとパソコンさえあれば離れた場所でも情報収集なら可能である。

 

 また近場の資源、特に石油の所在地は判明している為、今から小型でも掘削機械と精製設備を運び込めばある程度の消費は賄えるようになる。こういった設備の建築作業や稼働中の様子を見ることも出来る。

 何か日本に用事があったとしも、<門>を通れば直ぐに行ける。そして、諸外国も邪魔しづらい。

 

 それと帝国対策として、特地では珍しい品物、例えば紙や文房具、酒や食器類など。また女性向けに色鮮やかな布や下着、化粧品や装飾品などを売りつけようと考えていた。

 これらと交換して食糧を手に入れたり、帝国の貴族や議員らを講和派にさせようという狙いがあった。

 

 これは協力するべきだろう。菊池は判断した。

 

「それでしたら、我が国も微力ながら協力しましょう」

「有難うございます、菊池大使」

 

 こうして、両国の手によって、アルヌスの丘に一つの街が造られることになった。

 

 

 しかし、その後の話である。

 

 街の建設がひと段落した頃、扶桑国の面々から「日本から一方的に利益を享受しているだけだ。何かお返しをしなければならない」と言う様な論調が高まり。

 

 友好の証としててばさきや剣歯虎の番が日本政府に寄贈されたり、劔冑に使用される様々な甲鉄のサンプルや日本では失伝した技術の解説書が送られたり。

 また正宗が刀工として太刀と脇差を打ち上げて銘を切り、守人が精緻な細工を施したものが<やんごとなき御方>に献上されたりして日本側の胃を散々に痛めつける事になったのだが、この時はまだ誰にも分からなかった。

 



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第15話

 銀座事件が起きた日を境に、日本政府は変わったとする意見が多い。

 だがそれは表の事で、裏では余り変わっていないという考えが主流だった。

 

 しかし、扶桑国使節団がやって来てからは一変する。裏もガチガチに防備が強化され、諸外国は動きづらくなっていた。

 そんな中、某国の工作員が業を煮やして扶桑国の劔冑や生物を手に入れようと先走った結果、待ち受けていた公安や特戦群、そして扶桑国の隠密らによって返り討ちに遭い、文字通りの全滅。一夜の内にその国の現地拠点まで壊滅させられてしまったのである。

 表沙汰にはならなかったが、こういった情報は直ぐに出回る。そして、日本政府もやる時はやるという姿勢を見せつけられた各国は考え方を改め、慎重に為らざるを得なかった。

 

 また、今までは特地の情報開示は殆ど行われなかったが、順次公開されるようになった。

 その一環として、また友好国であるアメリカからのお願いもあり、この日、劔冑同士の戦い方を撮影する事になった。

 

 

   ***

 

 

 日本国 静岡県御殿場市 東富士演習場 上空

 

 

 日本の誇る霊峰、富士山を望むこの場所。

 澄み渡る青空を、二騎の武者が騎航して(かけて)いた。

 

 二騎の武者は互いに太刀を構えて闘牛形(ツキウシ)と呼ばれる正面激突を行い、互いの背後に抜ける。そして旋回し、再び交差する。合当理――劔冑が背負う、空を飛ぶ為の機巧――から吐き出される噴煙が(ふたわ)の字を描くように騎航る(はしる)ため、双輪懸(ふたわがかり)と呼ばれるものだった。

 この双輪懸は、両者の技量が肉迫するほどに双輪は完璧で美しいものとなる。

 

 この日、平の<桜丸>と菊池の<小狐丸>の戦いは死合ではなく、仕合。もっと言えば、初心者である観客にも分かりやすく見せる為の戦いであったが、それでも見事な双輪を描いていた。

 

 両者が纏う劔冑はどちらも今から九百年程前、日本の平安末期頃に鍛造された名甲。その為かよく仕合を行う仲であり、互いの機微を熟知している。膠着状態に陥りながら幾度なく剣戟を繰り広げていた。

 

 平は「王城一の強弓精兵」と呼ばれた歴戦の武者であり、纏う劔冑<古備前友成桜丸>もその力量に見合う名物。

 対する菊池も武者の為の武術の一つ、吉野御流合戦礼法の宗主である。その技量は互角、いや端々の剣技の冴えは平を上回っていた。

 

「――ふむ。陰義(しのぎ)無しだと菊池が優勢か」

 

 地上にて、両者の対決を眺めていた守人は呟いた。傍らには何時もの様に不破が寝そべっており、近くには蜷局を巻いた太郎が戦況を見守っていた。

 

 徐々に美しかった双輪の形が崩れ始めている。平が押されているのだ。両者の劔冑自体の性能は似通っているため、均衡が崩れたのは仕手の技量差によるものだ。

 

「こりゃあ、すげぇな……」  

 

 呆然とした表情で嘉納は呟く。手には双眼鏡を持っていた。傍にいる背広組の参事官や制服組の幹部らも唖然とした表情であった。

 

 それも仕方ない事であった。

 特地から送られてきた映像には劔冑の訓練風景も入っていたが、映像と生では迫力が違う。

 それに、人間大の物体がお互いに亜音速で正面からぶつかり合い、その一瞬で互いの駆け引きを行い、そして敵の動きを予測して一撃を加えるなど、彼らの常識では信じられない事なのだ。

 

 異常。この言葉に尽きる。劔冑も、それを可能とする仕手の技能にも。

 

「お互いが高さを競い合っているように見えるが、あれは何故ですかい?」嘉納が訊ねた。

「大臣閣下、良い所に気付かれましたの」守人が答えた。

「武者同士の一騎打ちは、高位の奪い合いじゃな。これが絶対条件であり、基本となる」

 

 双輪懸における太刀打ちの作法。それは、敵騎に先んじて高度を確保する事である。

 武者同士の空中戦では、高度の優位が占める割合が非常に大きい。

 

 高さとは、即ち力量(エネルギー)

 

 敵よりも高位を占めた側は敵に向かって駆け下る事になる。

 この時、自騎の速力に重力が加わるため更に速度を増す事が出来る。そしてここに自騎の重量が加わる。速度が転化した威力と、質量が組み合わさることにより迅速かつ強力な一撃を放つ事が可能となる。また敵を補足しやすく、攻撃を当てる事も容易となる。

 

 対して、低位の者は重力に抗いながら駆け上がらなければならない。また一撃も高位の者と比べて軽く遅くなってしまう。

 

 必然的に、高度を取った者が圧倒的に有利となるのだ。

 

「じゃから、高度を取られたならば直ぐに状況を打破しなければならない。一合打ち合った後に素早く旋回して敵が態勢を整える前に突撃する。加速して一旦離脱し、仕切り直す。中には己の剣技や陰義で打開を図る者もおる」

「なーるほど……」なんとなく分かったような表情で嘉納が呟く。

「だが、それだったらフタワガカリを行わず戦えば良いのでは?」  

 

 それこそ、銃器で一方的に射撃を加えるなり、逃げ回りながらチマチマと攻撃を行うなりすれば良いのでは? と嘉納は考えた。

 

「そういう戦い方もある。が、無理じゃな」

「何故ですか?」 

「一騎打ちにおいて、闘牛形を行うのは武者の誉れ、というのもあるがの。一番の理由は甲鉄を穿つためじゃな」

「甲鉄を穿つ?」

「そう。武者の甲鉄はお主らで言うなれば戦車の装甲と同等。生半可な攻撃では破ることは不可能。じゃからこそ闘牛形を行うんじゃよ」

 

 要するに、劔冑を倒すには劔冑の剛力と速度、そして重力による加速を乗せた一撃でもって装甲を強引にぶち破るしかないのだ。

 鉄砲火器とは比べ物にならないほどの威力を持つ武者弓もあるが、昔はともかく、現在の短時間の内に終結する武者の戦いでは余り用いられない。外した場合、突撃してくる敵騎に対応しづらい為である。

 

「戦車並みの装甲を持った存在を撃破するには、戦闘機の様に飛び回ってガチンコ勝負するしかないのかよ……」

 

 嘉納が言った。呆れたような口調であった。周りの日本側の面々も同意だ、とばかりに激しく頷く。

 

「まあ、それしか方法が無いからの。さて」

 

 守人は苦笑し、そして再び空へ視線を向けた。

 

「そろそろ、お互い勝負を仕掛けてくる頃合いじゃな」

 

 二騎の武者は、動きを変え始めていた。

 

 

   ***

 

 

 もう何度目の激突となろうか。

 

 高度優勢を取った桜丸が右上段で突撃する。それに応ずるかのように小狐丸も太刀を構えて吶喊。互いに裂帛の気合を放つ。

 そして、桜丸が下方へ急加速する。小狐丸の下へ抜けて斬り落そうとしたのだ。

 

「どっせぇええー!」

「吉野御流〝霞返し〟」

 

 瞬間、小狐丸が上下反転し、桜丸を迎え撃った。互いに打ち下ろしの形で斬り結び、火花を散らした。

 結果は、相打ちだった。

 

<告げる。右肩部甲鉄に被撃。小破>

「ぬうぅ、流石にやりおる……」

 

 桜丸の報告に平は呻いた。一撃を貰った右肩が重い。僅かに動かすだけで鈍痛が走る。

 見れば桜丸には右肩だけでなく、全身に損傷があった。だがどれも傷は浅く、まだまだ自由に動かせられる。

 

「敵機の損傷は?」

<敵機、左腕部に軽度の損傷と見受けられる>

「ぬう……」

 

 また、お互いの甲鉄に幾らか損傷を与えただけか。

 

 桜丸は旋回し、再び高度を取る。しかし、小狐丸は背を向けたまま旋回しようとしない。戦域を離脱し、態勢を整えるようとしているのか。いや、それにしては加速し過ぎていた。あれでは曲がる事など出来ない。

 

<告げる。敵騎より膨大な熱量を感知。陰義の発動を確認>

「むゥ、来るかァ!」

 

 直進していた小狐丸の動きが変わる。まるで跳弾するかのように跳び、異常なまでに直角的、鋭角的な機動で騎航を始めたのだ。

 それはまるで稲妻の如く。ジクザクに空を駆けながら更に加速し、高度優勢を取った。

 

 これこそが小狐丸の陰義、<慣性制御>である。

 

 当然、生身より頑丈な武者とはいえ、このような騎航をすれば仕手に凄まじいまでの荷重がかかる。

 だが、菊池はこれを完全に制御しきった。加速ごとに軌道修正を行い、鋭角的な機動をしつつ桜丸の背面を捉えた。

 

「小狐丸!」菊池が叫ぶ。

<御意>

 

 ほぼ垂直に近い高度優勢と、合当理の最大噴出による突進。更に武者上段から打ち下ろし。これらが複合した強力無比な一撃が迫る。

 

「吉野御流〝雪颪(ナダレ)〟」

「うおおおぉぉ!」

 

 菊池が技を放つ。

 平も叫ぶ。合当理を吹かし、母衣――空を飛ぶための翼を動かしてその場で急旋回。致命傷を避けるべく太刀を構え、身体から嫌な音を軋ませながら強引に反転させる。

 

 両騎がぶつかり合う。

 

 打ち合いに勝ったのは当然、小狐丸であった。

 申し分ない一撃を貰った桜丸が弾かれ、そのまま地表へと墜落していく。 

 

「ぬ、ぐぁ……」

 

 凄まじい衝撃。甲鉄だけでなく、骨と内臓にまでくる一撃に目の前が赤く染まる。

 桜丸は失速し、墜落に移る。平は激痛と急速に身体から熱が消えていく寒さに悶えながら姿勢を立て直そうとする。

 急速に失われつつある熱量をかき集めて合当理に回し、吹かす。母衣を広げて安定させようとする。再び態勢を立て直せたのは、地表に激突寸前の時だった。

 桜丸は土煙を上げながら地表スレスレを疾駆する。先程までとは違い、遅く安定性に欠ける騎航だった。

 

<告げる。左肩部、及び胸部甲鉄に被撃。大破。内部骨格に深刻な損傷。全機能の低下を確認>

 

 続けて桜丸が無機質な声で言った。

 

<甲鉄の復元、及び治癒を開始する>

「いらんッ!」平が吼えた。「桜丸ッ! 治療なぞは後回しだ! 此方も陰義を使うッ!」

<――承る。呪句の詠唱を始めよ>

 

 桜丸の動きに、追尾していた菊池も気付いた。

 

「む……、小狐丸」 

<報告。敵騎の熱量増大。陰義を発動させるものと推定>

 

 桜丸が腰袋から種をばら撒く。

 平が丹田より力を引き出し、肉体と甲鉄を合一。

 呪句を詠唱する。

 

彼地(かのち)から

 句句廼馳(くくのち)神座(さくら)

 契り裂き

 此地神座(このちさくら)

 句句廼馳括乱(くくのちくくらん)

 

 ――実行。力を開放する。

 

小桜縅(こざくらおどし)!」

 

 桜丸の陰義<植物操作>が発動。急成長した木や蔦が槍となり縄となり、追従してきた小狐丸へと襲い掛かる。

 

「――くうッ!」

 

 躱し、逸らし、斬り払う。が、余りにも数が多すぎる。周囲には木や蔦が踊っており、囲まれてしまった。陰義を使い、一気に上方へと逃れようとする。

 

「逃がさぬわぁ!」

 

 桜丸が吶喊する。

 

「フンっ! フンっ! フンっ! フンっ!」

 

 自身が操る植物を足場にして方向転換を行いながら跳び、縦横無尽に駆け抜ける。

 八艘跳、そう呼ばれる技である。

 通常では騎航すら危うい閉鎖空間の中であっても、桜丸はその高い旋回性能で騎航術(はやがけ)を可能にしていた。

 桜丸が一気に下から小狐丸へ迫る。

 

「せえりゃああぁぁ!!」

 

 小狐丸から放たれた苦し紛れの一撃を避け、右下段からの斬り上げを脇腹へ叩き込む。 

 

「ぐッ……!」

<報告。腰部甲鉄に中度の損傷。これ以上の被撃は騎航に深刻な影響を及ぼす>

「あと一撃で全て決まるか……」

 

 互いに旋回。桜丸、高度優勢。そして最後の一撃を加えようとし――

 

『――両者、そこまで』

 

 太郎が静かな声で告げた。両騎の間には、水の膜が張られていた。

 

『これは仕合です。水を差すようですが、二人とも戦闘を終えて下さい』

 

 しばし呆然としていた両騎であったが、本来の目的を思い出したのだろう。

 すぐさま降下し、着地。自衛隊からの要請で頭部に付けていたカメラを外し、装甲を解く。

 

「おいおい……」

 

 両者の怪我を見た嘉納が呻いた。

 日本の常識で言えば、両者共に重傷。出血も多い。直ぐに緊急搬送を行い、治療しなければ命に関わると判断される。

 控えていた救急救命士が医療器具を携えてすっ飛んできた。

 

「問題無い」守人が言った。「こ奴らは武者じゃからな。一日食って寝ておけばこの程度の傷ならば治るじゃろ」

「この程度って……」

 

 思いっきり重傷じゃないですか! 救命士はそう叫ぼうとした。

 

「うむ。治療より、我に水と何か食べ物を」

「はい。私にもお願いします」

 

 平と菊池のあっけからんとした物言いに日本側は沈黙する。

 

「と、ともかく。怪我の治療をさせてください……」

 

 茫然自失の中から再起動を果たした救急救命士が再び言い寄り、二人とも苦笑しながら血塗れの軍装を脱いだ。

 そして再び動きが止まった。身体には刻まれていた裂傷が、既に塞がり始まっていたのだ。

 

 劔冑には再生能力がある。損傷を受けても時間が経てば元通りに復元してしまう。

 これは結縁した仕手にも及ぶ。

 例え骨にまで達する金創を受けても一日安静にしていれば治るし、腕を斬り落とされたとしても切断面にくっ付けておけば治ってしまうのが武者なのだ。

 中には、文字通り頭から足まで身体を真っ二つにされたとしても再生してしまう劔冑もあるが、これは特殊な例であった。

 

 念のため、という事で傷口を消毒した後にガーゼと包帯を巻きつけ、新しい服へと着替える。

 

 その間、二人はカメラを自衛隊員に引き渡し、貰ったペットボトルの水を飲み、カロリーメイトをまじまじと眺めていた。それから一口齧ってみて、ほど良い甘味が気に入ったらしい。しっかりと平らげていた。

 

 

 この後、日本政府はこの日に行われた仕合の映像を守人の解説付きでネット上に公開。

 自衛隊が地上から撮影した映像と、劔冑の頭部から取られた映像は世界中で連日再生される事になった。

 次いでとばかりに「龍神vs炎龍」と名付けられた動画も公開。

 

 どちらもマスコミにも取り上げられ、お祭り騒ぎになった。

 

 そして一部の国では、映像にある性能の高さからどうにかして手に入れられないか画策し、そして自分達の方が技術力があるという自負の元、断片的に手に入れた情報を基に自国で劔冑の開発を進める動きを見せる事となった。

 



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第16話

ようやく投稿です。

まず先に、活動報告にも有りますが第14話をほぼ全て書き直しています。
今回の話には14話の内容も含まれますので、先に一読して頂ければと思います。

楽しんで頂ければ幸いです。


 

「やはり、拙いですね……」

「拙いよなぁ……」

「拙いですわね……」

 

 日本、赤坂。ある料亭にて。

 そこでは内閣改造を行い、本位総理が信頼出来る閣僚と官僚だけが呼ばれて集まり、秘密裏に会議をしていた。

 内容は勿論、<門>と特地についてだった。

 この料亭は昔から政治家に利用させる場所であり、此処の従業員は非常に口が堅い事で有名だ。恐らく、会議に使われる場所では最も安全に行える場所だと言える。

 

 非常に情けない話なのだが、首相官邸や国会議事堂、主な会議室には盗聴器やら口の軽い政治家や役人が居る事があるのだ。

 戦前からの伝統というか、日本の防諜体制はザルである。今では特地、そして扶桑国についての事もあって公安やら自衛隊やらの引き締めを図り、強化しているがまだまだ甘い部分が多い。それでも情報漏えいを行った者の数は増えているのだ。

 だから最もガードの堅い筈の政治の中枢で、今後の方針や報告については気を使いながら慎重に話をしなければならないという、何とも馬鹿馬鹿しい事態が起きているのだ。

 

「<門>、これがこうも問題を持ってくるとは……」

 

 日本はよく、資源が無い国と言われる。

 実際には木材や水産資源(特にそのまま利用できる真水)が豊富であり、日本の商社が世界各国に進出して積極的な先行投資で油田や鉱山の権利などを買い集めているから違うと言う人もいるだろうが、それはさておき。

 

 多くの人が日本は国土が狭くて資源が無い国だと思っている中、<門>が開通し、特地が見つかった。

 開通した先のファルマート大陸にはハーディの加護もあってか、豊富な地下資源が存在する。

 資源は地球にある物とほぼ同じであるが、石油や天然ガス、そしてレアメタル、つまりタングステンやニッケルなどを含む純度の高い鉱石やレアアースが馬鹿みたいな量で、しかも簡単に採掘出来るのだ。

 

 これらは地球でも採れる。だが石油やタングステンなどは生産国が偏重しているのもあり、輸入で賄っている日本は近年の価格高騰と供給の不安定さに頭を悩ましていた。

 

 つまり、先の北条前総理が言ったように特地を日本国内と考えた場合。

 長年の望みだった豊富な資源が日本国内に、しかも手つかずで残されていたのだ。そして扶桑国の存在もあり、国交を結べた。

 そして開示された情報がスクープやら特ダネやらの大きな見出しで新聞雑誌テレビにと掲載され、人々を熱狂させる。だから、一般の人々にとっては希少な資源と未知の存在が豊富にある特地は宝の山と言えた。

 

 この影響は様々なところで現れていた。 

 経済で見てみれば、特地開発に一枚噛みたいと考えている多国籍企業が日本に対し、積極的に人と物を動かしていた。これを見て投資家達も儲かりそうだと判断し、日本に対して投資を増やしており、日本経済は好転しつつあった。

 政府関連では今まで何かしらの外交交渉で資源輸出の規制をチラつかせたり、恫喝してくる事が多かったある資源輸出国の外交官が急に下手に出て来たり、輸出している資源の規制緩和を申し出てきたり。

 手近な事となればガソリン価格やトイレットペーパーといった商品の価格が下がり、暮らしが少しだけ楽になりつつあった。

 

 こう見れば、<門>は日本にとって有益に見える。

 

 だが、少し熱狂から覚めてみる。そしてちょっと考えてみれば、直ぐに気が付くのだ。

 この<門>、そして特地という存在は根本的かつ重大な問題を抱えている事に。そして知れば知るほど価値が低くなっている事に。

 

「特地の開発も、展開させている自衛隊の費用は仕方ない。だが、<門>そのものを如何にかしなければ意味が無い」

 

 まず、<門>の幅。

 銀座にある<門>の幅は15m程で、周辺の道路幅と同じぐらい。これでは狭過ぎるのだ。

 資源開発しても<門>が小さい為に運ぶ量が少なければ採算が取れない。それに特地で展開中の自衛隊の補給が優先される為、極僅かしか持ち出す事しか出来ないのだ。

 

 また唯一の繋がりである<門>を破壊させられれば、完全に遮断されてしまう。しかも<門>自体がローマの遺跡のようなデザインをした石造りであり、耐震強度は全く無い。ちょっとした地震が来たら崩れてしまいそうだ。

 <門>の破壊は論外。かといって、魔法などの知識が全く無い日本が<門>を弄くる事は出来ない為、そのままにして置くしかない。

 

 現状では、特地という宝の山を目の前で見る事は出来ても、手出しが難しい。そういう状況であった。

 

「<門>は水道の蛇口と同じです。特地というタンクに大量の水があっても、蛇口から出てくるのは一定の量でしかありません。しかも流しっ放しは出来ない。幾ら簡単に採れると言っても一から開発しなければなりませんし、採算が取れるかどうか……」

「輸送トラック以外で大量に物を運べると言ったら、鉄道か?」

「……難しいですね。線路の敷設工事となると周辺道路を封鎖して行いませんと出来ません。それにビルが多すぎます」

「パイプラインを引くというのは? あれなら輸送の手間も小さくなるのでは」

「それだって産地から<門>までの間を警備の為の戦力を張り付かなけなければならんし、第一、何処に敷く? 地上はまず無理だし、地下も過密状態で難しいぞ」

「……どうしようもねーじゃねーか」

 

 外務大臣兼特地問題対策担当大臣になった嘉納がうんざりした表情で呟く。

 

「いっその事、こっちで絶滅した動物とか、ドラゴンの鱗とか、未知の植物とか、そんなのを集める方に切り替えた方が良いんじゃねーか?」

 

 既に自衛隊が捕獲した動物や、採取した植物や鉱石、竜の鱗からは未知の酵素や新素材が発見されている。そういったものは地球には無く、後々の研究に役立つ為、此方を重点的に調査した方が良いのでは? と嘉納は言った。

 

「確かにその通りなんですが」これに総務大臣が答えた。「未だ特地の豊富な地下資源の存在に目が眩んだ者が多いのが現状です。特に経団連は石油やレアメタルなどの資源開発を推進しろと圧力をかけていますし、国民の間でももっと積極的に特地へ行くべきだという声が大きいままです。取り止めれば、また圧力をかけてくると思われます」

 

 あの業突張り共め、と誰かが悪態をつく。

 とはいえ、民意を無視する事は出来ないし、経団連の意見を無視すれば嫌がらせや圧力が面倒である。

 

「特地について情報公開をしたのは、間違いだったかもしれませんね……」

 

 本位は疲れを吐き出すようにため息をついた。

 もし仮に、扶桑国から齎された資源の所在地の情報を知らされなければ、此処まで熱狂しなかったかもしれない。まあ、今更言ってもしょうがない事なのだが、あの時自制しておけば、と思ってしまう。

 

「経団連にはアルヌスの丘の開発を進めてから資源開発を進めると言っておきましょう。暫くは時間が稼げる筈です」

 

 本位は続けて言った。疲れ切った表情だったが、まだ話すべき事はあるのだ。

 

「話によれば、ハーディなる神を如何にかしなければ、また<門>が開かれる事も有り得るのですね?」

 

 これに総理補佐官の白百合が答えた。

 

「はい。<門>は一度に一つしか造り出せないそうです。しかし理論上、ホワイトハウスだろうが、クレムリン宮殿だろうが、更には宇宙や深海など何処でも繋げる事は可能だそうです」

 

 この情報に誰もが呻いた。

 はっきり言えば、別にホワイトハウスやクレムリン宮殿や中南海に<門>は開こうが、どうでも良い事だ。

 だが、繋がった<門>の先が深海や宇宙だった場合、どうすればいい? また特地は未だ致死率の高い病原菌などは発見されていないが、再び繋がった先にペストが流行していたりいたら間違いなくパニックになる。

 

 <門>は危険過ぎるのだ。

 現状、分かっているのは<門>を開けっ放しには出来ないこと。このままでは災害が発生し、世界が壊れてしまうという信じがたい報告がある。

 だが閉めれば諸外国の批判は凄まじく、「日本は特地の情報を独占しようとしている」といちゃもんをつけられる。また今度は何処に来るか分からない以上、今は<門>を開けたままにするしかないのだ。

 

「だが、<門>は扶桑国が如何にか出来ると言っていたらしいが、そこんところどーなんだ?」嘉納が訊ねた。

「一年以内には<門>を造り出せるよう如何にかする、だそうです。ただ、あれ以上大きくするには難しいと言っております」

「あれ以上の大きさは無理なのか……」と、嘉納は残念そうな表情となった。

「仕方ありませんよ、嘉納さん」本位が言った。「しかし、こうやって話していますと本当に特地の価値が低くなりましたね」

 

 これに白百合は苦笑いで答えた。

 

「仕方ありませんわ、総理。あの時は銀座事件の事もありましたし、まさか<門>が神が造った物とは考えもしなかったですもの。それに、今では何時もと同じく、マスコミや胡散臭いコメンテーターやら野党が元気に騒いでいますよ」

 

 銀座事件の際、多くの一般人と警察官や自衛隊員が亡くなり、また皇居を攻撃されている。

 

 態々、完全武装の自衛隊を派遣する為に必要な法案を通し、派遣したのもその時の恨みと、諸外国では「日本の逆鱗に触れてしまった」とされる凄まじい怒り。そして異世界というものに経済界が強く関心を持っているのもあるが、理由の一つにマスコミが一部を除いて盛んに「特地へ自衛隊を派遣するべき」と政府を積極的に支援していた。

 彼らも銀座事件の際に社員や本社が襲撃されて甚大な被害を受けた為、再び侵攻してきて自分が襲われたら、と恐怖したからだった。

 

 最も、喉元過ぎれば何とやらで。今では敵が中世レベルの存在で自衛隊が圧勝していると聞きつけ、自分は襲われないと分かった途端、再び政府批判を元気良く始めていた。

 

「なんか、あの時はマスコミを気持ち悪く感じましたけど、ようやく何時もの感じになった気がしますね。全く嬉しくありませんが」

「本当だよな」嘉納が言った。もう少し大人しくしていれば良かったのに、と心底思う。

「しかしだ総理。帝国の存在はどうする? 下手に追い込むと周辺の治安が一気に悪化するぞ」

「ピニャ殿下の講和派を支援するしかないでしょう。既に交渉の下準備に外務省から数名が帝都入りしていましたよね?」

 

 訊ねられた白百合は小さく頷き、答えた。

 

「はい。ピニャ殿下の帰国と合わせて、外務省から特地問題対策委員会に出向している菅原が帝都に入っております」

「では、彼に出来るだけ早く人脈を広げるよう言ってください。時間は掛かりますが、これが一番安全で平和的に進められます」

 

 防衛省が行った図上演習では、侵攻すれば八十時間で帝都制圧が可能だとしている。

 

 だが、これには幾つもの問題があった。

 まずは補給の問題。

 補給するには<門>を通らなければならない為、何らかの原因で物資が不足してしまえばどうする事も出来ない。

 次に政治的な問題。帝都に侵攻すれば市街戦を行わなければならない為、どうしても民間人に被害が出てしまうこと。これは避けなければならない。

 扶桑国との国交樹立と特地についての情報開示で幾らか支持率が上がってはいるが、元気になったマスコミが政権批判を始めるだろう。

 

 そしてこれが一番の問題。帝国を降伏させた後の問題である。

 ファルマート大陸は<帝国>が君臨し、その大半を領有している。表面上は平穏が保たれているが、領土拡大の過程で侵略戦争を行い隷属させ、また諸外国を抑えつけている為、相当な恨みを買っていた。

 

 もし仮に自衛隊が帝都に攻撃を行い降伏させれば、鬱憤の溜まった各国が一斉に動き出してファルマート大陸は戦国乱世の時代へと移る。

 

 こうなれば各地の調査どころの騒ぎではない。

 

 各国からの物資供給が絶えた帝都。自衛隊は講和条約を結び、賠償をせしめるまでは動かす事は出来ない。

 そして<門>の関係上、日本からの緊急支援による物資の供給も間に合わず、各地で僅かな物資を取り合う某世紀末な世界の様な光景が出来上がる。

 そうなれば、恨まれるのは自衛隊、そして日本だ。曲がりなりにも平穏だった世の中をぶち壊したから、と人々は考えるだろう。

 経済の悪化、飢餓、兵の野盗化などによる治安悪化。これを防ぐために各地の治安維持出動に自衛隊を派遣する羽目になり、疲弊してしまう。そしてまた人々から恨まれる。

 

 正に泥沼。

 

 下手に手を出せば、その先は泥沼の地獄であり、これに巻き込まれるのは御免だ。それが本位達の考えであった。

 

「話は変わりますが、伊勢神宮や林野庁から扶桑国への協力要請があります」ある官僚が言った。

「うん? 防衛省とかなら分かるけどよ、伊勢神宮と林野庁が何故?」

「平殿の桜丸ですよ。あの映像を見て、植物の急成長が可能なら作物や木の生育に役立つと考えたのでしょう。特に遷宮を行う神宮や神社は毎回莫大な資金と材木を必要としますから」

 

 ああ成程。確かにそういう使い方も出来るか、と嘉納は納得した。

 確かにそれが出来れば有益だろうが、果たして協力してくれるだろうか。

 とりあえず、駄目元で聞いてはみよう、と嘉納は告げた。

 

 その後も扶桑国から何かしら協力が得られないか、というような内容の議題を進めていく。

 

「そう言えば嘉納さん。EUから申し出がありましたね。」

 

 ひと段落した所で、本位が訊ねた。

 

「ああ、総理。確かに国連軍の派遣と扶桑国と会談出来ないかというような話は有ったが」嘉納は怪訝そうな表情となり、本位の顔を見やる。「まさか、受け入れる気か?」

「それこそまさかですよ。絶対に断って下さい」本位は言った。「それに、あちらも国内向けに特地について動いているとアピールする為でしょうからね」

 

 各国は特地に関心は有れど、アメリカやEU、ロシアなどは積極的に軍を派遣したいとは考えていないのだ。

 

 何故、と言えば、先の事に繋がる。特地に行くには<門>という不安定な物に頼らなければならないのだ。

 

 日本は政治的に一国の中枢に各国の軍を受け入れられない。もし仮に派遣出来ても、物理的に補給は難しい。そして資源は有っても大量に持ち出す事は難しい。<門>が破壊されてしまえば人員も兵器も全て無くなってしまう。

 

 つまり、軍を派遣させろと言っているが、逆に許可を出されるとちょっと困るのである。

 なら現状の様に、大変な所は日本にやって貰い、文句を言いつつ美味しい所だけを貰うのが一番儲かるのである。

 首脳部はそれが分かっていた。

 アメリカやEUは友好国であり一応の支援はするけども、自分達は負担したくないと考えている。ただし分け前は強請ってくる。

 ロシアは今のところ自国の資源外交に影響が出ないと分かる為、積極的に動きはしない。当然、分け前はきっちりと貰う。

 中国は、まあ、ずっと騒ぎ立てているのは中国は特地に人民を送り出して自国の負担を軽減したいからだろう。そうすれば、かの国の問題が幾らか無くなるからだ。

 仮に国連軍が編成されれば、それは国連軍という名の中国軍、下手すれば少数民族など中国にとって邪魔な連中を送り込もうとするだろう。そして送り出したら後は知らん、自分で如何にかしろ、という感じである。

 

「ともかく、今は現状維持に努めるしかありませんね。情報管理だけはしっかりして下さい。それと、扶桑国の方々に失礼が無いようくれぐれもよろしくお願いします。<門>をどうにか出来るのはあの国だけなのですから」

 

 本位の言葉に全員が分かっています、と頷く。

 

 そして全員が座敷から退出し、座敷の中は本位一人となる。

 

「あー、畜生が」

 

 本位は悪態をつきながら瓶に残っていた清酒を呷った。

 

「うわー、くそっ、辞めてぇ、辞めてぇぞ畜生が……」

 

 何でこんな時に首相になっちゃったんだろうか。

 本位は酒臭い、深いため息をつく。

 

 此方の苦労を知らないで無理無茶を言ってくる諸外国。

 有事に対して即断即決の出来ない官僚共に、口の軽い役人達。

 金と利権に目の眩んだ経済界と、その意向を受けて発言する与野党。

 滅茶苦茶な理論で騒ぎ立てるマスコミ。

 

 これを全部相手にしなければならないのだ。

 正直、全て投げ出して辞めてしまいたい。何もかも忘れて、帰ってゆっくり寝たい。ストレス製造機である国会に出たくない。あんなクソ野郎どもを一々相手にしたくない。

 だが、首相という責任のある立場と、自分にもプライドというものが有る以上、それは出来ない。

 

 だけどこれ以上苦労なんぞしたくない。こん畜生め。

 

「……………はぁ。ああ、特地には魔法が有ったんだよな。扶桑国にお願いして、何か良い魔法が無いか聞いてみるか」

 

 馬鹿に付ける薬は無い、と言うが、魔法なら馬鹿に効くものが有るかもしれない。いや魔法じゃなくても良いから、あいつ等を如何にかしてくれ。そしたら楽なんだ。

 

 本位は酒でぼんやりとする頭でそんな事を考えてつつ、部屋の外で待機していた秘書に抱えられながら首相官邸へと戻っていった。

 

 こうして本位らは悪態をつきつつも仕事に取り掛かり、国内外で奮闘する事になった。

 



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第17話

ようやく投稿です。楽しんで頂ければ幸いです。



 

 世間一般的に、この世の中で生活するには必要なものが有る。

 それは通貨、お金の事である。

 

 通貨の始まりは取引の際に公平さを保ち、持ち運びに便利、そして誰もが一定の価値のある代用品を作り出した事からなる。

 

 通貨が出来る以前は、自分の持っている物と相手の持っている物を交換する事によって取引を行っていた。いわゆる、物々交換である。

 例えば、自分が魚を持っていて相手が毛皮を持っていたとする。自分は服に使う毛皮が欲しい。相手は今日食べるものが欲しいとした時、お互いの持ち物を差し出す事によって成立する。

 だが、物々交換だと何時も魚や毛皮を持ち歩かなければならないし、不便だ。また人の考え一つで価値が大きく左右されてしまう。

 

 そこで考えられたのが貨幣である。 

 この時に使われたのが素材そのものに一定の価値のある物、例えば古代ローマ時代には塩。オセアニアなどでは現代でも使われる貝殻。日本の江戸時代には米。最も多かったのが、金や銀といった希少な金属を使う事であった。

 

 特地で使用される通貨はこれに該当し、金銀銅などの貴金属を使った秤量貨幣である。これは使用される金属素材の価値と重さが、貨幣の金額と等しい。後は商取引などで額が大きい場合、額面上の金額を保証した為替手形を利用する事になっている。

 

 対して、現代の地球で使用される通貨はこれより更に発展し、信用通貨と呼ばれるものとなった。

 この信用通貨とは、国の信用で流通するお金の事である。通貨は銅を主体とした貨幣と紙製の銀行券、つまりお札である。信用が有れば素材以上の価値を持ち、通貨として使用できるが、無ければ唯の紙屑となる。更に架空通貨も登場しているが、これは置いておく。

 

 紙幣の始まりは持ち運びに不便な貨幣や貴金属の預り証として発行された手形であり、後のこの手形自体で取引出来るように発達していった。

 近代になると金本位制、もしくは銀本位制が始まり、兌換紙幣(だかんしへい)が登場する。これは政府が同額の金貨、銀貨と交換することを保証した紙幣であった。

 

 だが、現代では通信機能の発達、取引が世界規模になった事により、経済が急速に発達すると金の生産量が追いつかなくなった。そして経済活動を抑制する金本位制が廃止となり、不換紙幣、つまり信用貨幣を扱う管理通貨制度に移行したのである。

 

 未だ経済活動が小さく、未熟な特地で地球世界と同じような通貨が発行されるようになるのは、まだまだ当分先の話になるだろう。

 

 さて、なんでこんな話をしているかというと。

 この通貨の違いで、問題が発生したからである。

 

 

「やはり、美味いですな」

「うむ、贅沢な気分じゃな」

 

 アルヌスの丘にある、扶桑国大使館。

 

 突貫工事でつい先日完成したばかりのこの建物の一室で、守人と菊池は銀座でお持ち帰りで買った特盛の牛丼を食べていた。二人とも笑顔だった。ちなみに、「うまい、やすい、はやい」を掲げて日本全国に展開する牛丼チェーン店のである。

 

 扶桑国では酪農があまり発達しておらず、牛肉は高級品扱いである。これは良い物を食べられる使節団員であっても年に数回しか食べられなかった。その為、こういう牛肉を安く食べられる店は上から下まで人気があるのだ。

 

 暫く、他愛のない雑談をしながら牛丼を食べ、ペットボトルの茶を飲む。

 

「で、相談はなんじゃ?」食べ終えたところで、守人が訊ねた。

「通貨についてです。このままですと、非常に拙いです」と、菊池が告げた。先程とは違い、沈痛な表情であった。

「拙いか」

「はい。思っていた以上に、日本と我々では金銭の価値観が違いすぎます。そして視察をするたびに購入するべき資料が増えているのも一因かと」

「ふうむ」

 

 ペットボトルの茶を飲みながら、守人は思案する。

 

 先に言ったように、現在の地球では信用貨幣が、特地では秤量貨幣が使われている。

 

 日本国と扶桑国では貨幣制度が全く違う為、扶桑国の貨幣を素材そのものの値段で売って日本の銀行券を手に入れていた。

 扶桑国において一般的に使われる金貨に十圓金貨幣というものがある。直径は二十四ミリほどで、日本の十円硬貨とほぼ同じ大きさである。しかし大きさの割に重みがあり、金含有量は十グラムよりやや少ない。これはファルマート大陸で広く流通しているシンク金貨とほぼ同じ価値を持つ。

 

 この金貨を日本の今の金相場に当てはめると、大体四万~五万円近くになる。たが、この金貨は扶桑国での価値観に合わせれば、この数倍の価値はある貨幣である。

 この差は、物価と金銭価値の差が大きく異なっている為に起きていた。

 

 このままだと扶桑国から大量の金銀が流出し、扶桑国は貨幣不足から国内の経済が悪化してしまう事になる。

 また、日本側にも問題が起きる。流入が続けば金銀の価値の暴落が起きかねない。地球世界は各国の経済の結びつきが強いだけに、日本で起きた金銀相場の暴落が世界経済に影響を与えかねないのだ。

 

 つまり、お互い現状のままだと非常に拙いのだ。

 

 かといって、資金の消費を抑える事は出来ない。

 扶桑人にとって、日本にあるものはどれもが新しく、目移りしてしまうものが多すぎたのだ。 

 

 例えば、誰しもが持っているだろう携帯電話。

 とても軽く衣嚢(ポケット)に入る大きさでありながら世界中の人々と会話や文章のやり取りが出来る。そして写真の撮影や必要な情報の検索なども自由に行える。

 扶桑国にも通信機器はある。地球世界では最初期の無線機や、劔冑の通信機能がある。だが、非常に高価であり通信範囲は狭く、携帯電話とは比べ物にならない。

 なまじ自分達にも知識があるだけに、これだけ取ってみても自国と日本国の間に隔絶した差があるのを感じ取っていたのだ。

 

 故に知りたい、調べてみたいという欲求に従って様々なものを買い漁っていた。

 

 世界最大の「本の街」と呼ばれる神保町に行って技術書やら歴史本、哲学や経済学などのお堅いものからライトノベルや漫画、十八禁の同人誌といったものまでも大人買い。

 視察に行った先の工場では構造解析をする為に日本では骨董品と呼ばれるような古い工作機械や設計図の買い取り。

 合成繊維で出来た布と服、カップラーメンにレトルトカレー、カロリーメイトといった食料品、更にはウイスキー、ウォッカ、テキーラなどの蒸留酒に煙草などの嗜好品も大量買いしていた。

 

 一部、本当に必要なのかどうか分からないものもあるが、購入者曰く「絶対に必要なもの」らしい。まあ、こういうのを削った所で根本的な解決にはならないので、設けた範囲内で購入するならば好きにして良い事になった。

 

「まあ、お主の事だから、対策は考えておるんじゃろ?」

「はい、物々交換などを考えたのですが……」

 

 菊池がまず考えたのは所謂、バーター貿易である。これなら通貨を使用しなくても済む、のだが。

 

「問題は、その対価です。<門>の関係上、鉱物や石油などの資源の輸送は難しく、かといって我々が出せるのは他に技術ぐらいですが……」

 

 資源の輸送は遠いし、<門>の関係上で無理。

 特地では優れた技術も、地球世界では既に通って来た道で枯れた技術でしかないのだ。現状では、持ち運びに便利で価値のある物が貴金属しかないのだという。

 売れるとしたら劔冑の製造技術だが、これを渡す訳にはいかない。それに、劔冑は素材が重要となるので技術だけあっても造ることは不可能だ。

 

 他の面々とも何度か協議したのだが、何も良い案が思いつかず、こうして守人に相談した訳である。

 

「なんじゃ、そんな事か」守人が言った。「価値のあるものを売れば良いんじゃろ? そんなもの、一杯あるではないか」

「はあ」

 

 カラカラと笑う守人に菊池は生返事で答えた。そんな都合の良いものがあるのか? と言いたげな表情であった。

 

「まあ、任せておけ。丁度良い名目があるからの。まだ時間はある。ああ、今から言う材料を直ぐに用意してくれ。扶桑国から少しばかり取り寄せないといかんな。まあ、それぐらいの金は残っておるだろう? 道具は儂の手持ちで十分じゃな。うふ、ぬふふ……」

 

 守人の表情は何処か楽しげな、満面の笑みを浮かべていた。 

 

 

   ***

 

 

 数週間後。

 

 東京、有明。

 

 この日、伊丹達第三偵察隊の面々は任された役割をこなすべく、忙しく動き回っていた。それはまるで戦場のようで、誰もが真剣な表情に汗を浮かべている。

 

「マ・ヌガ肉をドンドン焼いてくれッ! まだお客さんが大量にいるぞ!」

「二尉、あともう少しでここの奴が焼き上がります」

「たいちょー! もう肉の在庫が無いっすよぉ!?」

「今、富田とクリボーが取りに行っている! もう少し待ってくれ!」

「隊長、追加の肉を持って来ましたッ!」

「クリボー! それはこっちに持ってきてくれ!」

「二尉、お客様がまた増えましたわ。早く焼けた肉をください」

「だぁー!」

 

 野戦服にエプロン姿の伊丹は絶叫しながらも、ひたすら肉を回し、焼いていた。

 何をしているかと言えば、屋台である。

 

 今日は祭日。

 

 『日扶国交樹立記念祭』と名付けられた、一日限りのお祭りであった。

 

 東京臨海広域防災公園と、東京ビックサイトを使用した会場には埋め尽くす様な人だかり。来ているのは各国の来賓と、日本国と扶桑国の関係者。あとマスコミ。そして一般枠に日本全国に住む国民から無作為に抽選で当選した者とその家族に招待状を送り、入場できるようになっていた。

 

 始まりは、官僚の一人が日扶の交流祭でもやろうじゃないか、という提言がされたのである。ただ、それは一周年記念に、と言う様な内容であったが、守人や太郎が「早めにやりたい」との一言があり、国内向けのパフォーマンスもあってこの日になってしまったのだ。

 

 その所為で急遽決まった祭りに関係者全員が官庁で缶詰してデスマーチを繰り広げる羽目になり、どうにか開催にこぎつけたのだ。

 

 しかし、役人達の尊い犠牲もあって祭りの内容はとても良い。

 

 扶桑国側は剣歯虎(サーベルタイガー)の餌やり体験やふれあい、てばさきの騎乗体験。

 そして、龍神・太郎との記念撮影である。

 

 また有志の者が郷土料理を屋台で出したり、守人や太郎の神官らも居るので簡素な朱塗りの鳥居を建て、ステージの上で巫女による神楽舞を見せたり、借りたテントに制作した御朱印やお守り、御札などを所狭しと並べて売っていた。

 

 これらはアルヌスの丘で自衛官達からかなりの人気になっていたからやってみた、と言う様なものだったが、此処でも人気が出ていた。

 彼らからすればファンタジーな存在と触れ合える機会であるし、異世界の珍しい料理や記念品を買えるのだから人気がでない筈がなかった。

 

 また日本側も負けていない。

 ただ期限が短かく公募で出店団体の調査をする時間も無かった為、参加出来たのは陸海空の自衛隊に警察と消防のみであった。

 彼らは特地の問題で深刻な人手不足に陥っており、優秀な人材が今直ぐに欲しいのだ。その為なのか、準備期間が短かったのにも関わらずかなり力の入った展示訓練などを行っていた。

 此方は扶桑国の使節団員や各国の来賓から好評であった。

 

 他にも、自衛隊の音楽隊による演奏、参加した陸海空の中からナンバーワンのカレーを決めるやら、祭りらしく賑やかな雰囲気になっていた。

 

 その中の一つ。特別地域派遣部隊のブース。

 

 此処では伊丹達がやっていたマ・ヌガ肉の肉巻きのような、特地の料理を出していた。

 また自衛官が撮影した特地の風景写真や動画なども差し当たって問題が無いと判断されたものを紹介していた。

 これらを食い入るように見る各国の来賓達。幾ら日本をせっついて儲けるのが一番楽だとはいえ、彼らもファンタジー世界には興味があるのだ。

 

 女性からは遥かに年上でありながら十代の若さを保っているエルフを見て、嫉妬しつつもどんな方法で肌のケアをしているんだろうか、と心の中で思ったり。

 経歴が学者だった者はエルフやドワーフ、ワーウルフやキャットピープルなどの多種多様な人種の画像を見てかつての熱意を取り戻し、細かい違いを書き留めたり。

 幼少期にはよくファンタジー小説を読んでいた者はただただ感心し、是非とも生で見たいと漏らしたり。

 

 次に思うのは、特地に軍、もしくは調査団を派遣させてくれないか、というものであった。

 日本側もこう言われるのは分かっていた為、常と同じく軍の派遣は国家の主権に関わるから認めない。また特地の治安や情報が揃っていない為、調査団を受け入れることは出来ないと告げる。

 

 何時もなら、「いやいやそこをどうにか」と食い下がり、同じやり取りを繰り返すのだが、この日は何処の国も大人しかった。

 というのも、デスマーチの影響で案内役の官僚の顔は青白く、目の下には濃い隈をべったりとつけており、その異様な雰囲気と「お前、これ以上俺に働けって言ってんの?」といった無言の圧力に少しばかりビビっていた為なのだが……。

 

 まあ、こんな感じでお偉方は腹の探り合いやらなんやらをやりつつ視察を続け、さほど問題が起きないまま祭りは進む。

 

 昼過ぎになると、伊丹らは後片付けを始めていた。材料を切らした為、続けられなくなったのだ。

 来客が多いことを見越して大量に用意した筈なのだが、他の店とは違い、元板前の古田が日本風にアレンジして他の店よりも数段味が良かったし、また先の国会で人気を博したロゥリィやテュカ、レレイの三人娘が売り子をしているのだから、人が来ない筈が無かった。

 

「伊丹二尉」桑田が声を掛ける。「そろそろ休憩に入られたらどうでしょうか?」

「え、おやっさん何で? 俺は後で良いよ」

「既に他の連中も交代で休憩を取っていますし、二尉はずっと働きづめでしょう。休んだ方がよろしいかと」そこまで言って、桑田は小さく笑みを浮かべた。「それに、彼女達も折角の祭りなのに此処にずっと居るのは退屈でしょう。一緒に回ってきては如何ですか?」

「……悪いね、おやっさん。ちょっと回って来るよ」

「いえ、お気になさらず」

 

 お互い、砕けた形で敬礼。

 伊丹はエプロンを脱ぎ、材料を置いていた奥のテントへと向かう。

 

「あら、ヨウジィどうしたのぉ?」

 

 テントの奥に引っ込んでいたロゥリィが伊丹を見るや、声を掛けた。テュカやレレイも顔を向ける。表に出ていると声を掛けられたリ、写真撮られたりとずっと続くので逃げ込んでいたのだ。

 

「折角のお祭りなんだから、休憩がてら少し見回ってこいって言われてね」

「え、本当!」退屈していたテュカが喜びの声を上げる。

「でも、外に出ても問題ない?」

 

 レレイが訊ねる。以前、扶桑国の使節団を襲撃した工作員もいたので「何かあるかもしれない」と事前に説明を受けていたのだ。

 

「まあ、大丈夫っしょ。駒門さん達が頑張っているみたいだし、なんか守人様が手を回したらしいし……」

 

 三人とも特地で活動する自衛隊の手伝いをして貰っている為、重要人物扱いとなっていた。特にロゥリィは守人や太郎らと同じ存在である。しかも、イタリカ防衛戦の時の姿を見た自衛官や守人から「一度暴れられると手が付けられん」と言われていたので、万が一が無い様にと公安と、守人の命を受けた隠密がそれとなく警備に当たっていたのだ。

 その為、三人にしつこく言い寄った者は会場を巡回しているおっかない警官や公安までも飛んで来て「お話」を受ける羽目になったので、それを見ていた群衆も間違いは起こさないだろう、と伊丹は言った。 

 

「なら、安心して見て回れるわねぇ」

「ユノ達にもお土産を買ってあげないと……」

「楽しみ」

 

 そんな訳で、伊丹達(そして周囲を警戒する公安と隠密)はお祭りを見て回ることになった。

 

 

 




次もお祭りの話となります。


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第18話

 

 この日の天候は晴天。穏やかで暖かい。最近は天候の調子が悪かったのだが、龍神・太郎が晴れる様にと前日に気象操作で干渉しておいたそうだ。

 

 たが、人がごった返す会場はその熱気もあって冬だというのに結構蒸し暑い。

 伊丹達も当初は面白そうに会場を見て回っていたのだが、三人娘がその熱気と人混みに酔って気分が悪くなった為、会場から少し離れた場所のベンチに座って休憩していた。

 

「いやぁ、あっちぃーな……」

 

 ややぐったりとしながらも、伊丹は買っておいた海軍カレーを食べていく。

 やはり優勝候補なだけあって海自の海軍カレーは美味い。海自は特地問題には関われずにいた為、ここ最近は影が薄い。ここで一つ目立って存在感を出しておきたい、と言う様な噂が流れていた。

 何故それでカレーなんだ、とも思わなくもないが、実際、海自だけは異常なまでにカレー作りに気合が入っており、売り上げも凄まじい事になっているという。

 

 暑いときはビールでもあれば良いのだが、残念な事に酒は売っていない。仕方なくよく冷えたお茶を飲む。

 

「そうねぇ、あの会場には戻りたくは無いわぁ」

 

 ロゥリィがクレープを齧りながら言った。他の二人も、大判焼きやリンゴ飴といった甘味系を食べながら頷く。

 彼女らにとって日本の甘味の品揃えは衝撃的だったそうだ。

 あちらでは甘味といえば果物で、砂糖をふんだんに使った菓子は高級品だそうだ。それでも日持ちする干菓子や焼き菓子が基本で、このような焼きたてや生の果物やクリームを使ったものは上位貴族でも食べられないのだという。

 

「じゃあ、どうすっかねー」

 

 特に扶桑国の出し物は全て混んでいる。まあ、伊丹達は特地に行けばどれも出来るから今回は近付かない方が良いだろう。

 

「ん、なら展示会に行きたい」レレイが告げる。「あそこに扶桑国の工芸品が出ている。少し見てみたい」

「じゃ、食べ終わったらそうしよっか。あそこなら静かだろうしな」

 

 そう言って、伊丹はカレーを掻き込んでいった。 

 

 

   ***

 

 

 東京ビックサイト内にある展示会場は外とはまた違う雰囲気であった。展示品は全て扶桑国から持ち込まれた工芸品であり、誰もが静かに見て回っていた。

 

 日本の名工の物にも劣らない、滑らかな光沢のある絹布に陶磁器。蒔絵のお盆に鼈甲の手箱。珊瑚と象牙の簪に螺鈿細工。象嵌細工の施された煙管と煙草盆。色鮮やかな浮世絵や写生図。地球世界では失伝してしまったゴールドサンドイッチガラスやダマスカス鋼の小刀。

 そして、扶桑国独特の動植物を使用した工芸品。

 妖精が織り上げた月光の様に淡い光を放つ振袖。古木や竜種の牙、白鯨の歯などを彫り込んだ根付。飛竜の皮を鞣して加工した鞄。古代龍から極稀に採れる宝玉の首飾り。炎龍の鱗と劔冑の甲鉄技術を合わせた朱色の当世具足。

 

 通常の美術館や博物館などと同じく、ガラス張りの展示台の中に置いてあるのだが、その中でも、一際目を集めているものがあった。展示品も、それを囲む異様な集団である。

 

「素晴らしい……」

「なんという美しさだ……」

 

 彼らは一様に、うっとりとした表情でそれらを眺めていた。展示するに当たり、政府からの依頼で集められた日本側の鑑定士や美術商達だった。

 見ているのは会場の中央に鎮座する、相州正宗作の太刀と脇差である。

 この祭りを行うにあたり、正宗が必要とする素材を揃えて作刀し、守人が太刀拵を制作したものだった。

 

 その出来映えは「見事」としか言えない。

 拵は華美ではなく、かといって質素でもない。細部までにも嫌味にならない程度で技巧を凝らし、刀本来の美しさを最大限引き立たせるような造りであった。

 

 刀は日本の鎌倉末期に見られる身幅が広く、切先の伸びた豪壮な姿。

 そして、相州伝特有の技巧的で華美な美しさを持つ。正宗の最大の特徴である「雪の斑消え」と称えられた(にえ)の出来。沸とは刃と地肌の境目に現れる細かな粒のことで、正宗の作には網状の金筋と、銀の砂をかけたように輝いて見える。

 誰もが光を反射する刃紋の輝きを見て、ほぅ、と陶酔したような表情を浮かべてため息を漏らす。

 現代において、日本刀は作刀者、見栄え、逸話がある事が評価の対象となる。つい最近打たれたため逸話が無いが、正宗作の刀で、これだけ見事な出来映え。これを見た者達の中には「幾らでも出すから売ってくれ!」と人目も憚らず案内役の使節団員に懇願していた。

 

 だが、断られてしまう。この正宗の刀を含め、展示してあるものの幾つかはやんごとなき御方へ献上される事になっていた。

 というのも、これらは扶桑国からの日本国への感謝と友好の証として贈られた物であったし、何より値段が付けられなかったからだ。

 

 まず、正宗は全力で刀を打った。つまり観賞用ではなく、武器であった。劔冑にも使われる素材と技術が使用されており、腕の良い者なら甲鉄を斬る事が可能。超ド級の危険物であった。

 

 また炎龍の鱗を使った鎧も異常であった。制作者の守人曰く、「どうせなら最高品質の鎧を造りたかった」などと言っており、またその言葉通りの結果になった。

 重厚な造りでありながらも輝彩甲鉄(オリハルコン)と呼ばれる、天女の羽衣のように軽い甲鉄を使用しており、見た目に反してとても軽い。それでいて炎龍の鱗と甲鉄の強度によって重機関銃程度なら弾いてしまうのだ。

 そして希少価値が高くファルマート大陸の常識で考えれば神話級の宝具であり、国が買える値段となってしまう。

 

「こんなやべぇ危険物、どうしろっつーんだよ……。下手に博物館に置く訳にもいかんし……」

 

 友好の証として渡されたもののリストを見た某閣僚はこう呟いたという。

 そして畏れ多くもやんごとなき御方へ献上し、厳重に保管する事にすれば一番角が立たないと考えたのだ。

 

 また、これ以外に展示してあるものは全て日本政府が買い取るか、国立博物館で収蔵する事になっている。

 何せ、使用している素材が特地の動植物なのだ。民間に買い取られ、何らかの形で国外に流出してしまうのは避けたかった。

 

 守人は会場の出口付近で、数名の神官らと共に店を出していた。美術館や博物館に行くとあるお土産物屋さん、といった感じだ。

 守人はここで作業をしていた。やって来た観衆は息を殺し、その姿を一つたりとも見逃さない、という目付きでそれを見守っている。

 

 作っているのは、様々な動物や植物を模した小さく丸い細工物。

 根付である。

 根付とは江戸時代、和服にポケットが無かった為、巾着などを帯から提げて携帯する時に紐の先に結わえて使用する滑り止めの留め具である。現代の携帯ストラップの起源とも言われている。

 

 素材は日本でも採れる黄楊(ツゲ)胡桃(クルミ)、山桜といった木材に鹿角を使用していた。

 大きさは小さいもので一センチほど。パッと見は派手さが無い。が、手に持ってみれば血が通っているようなどこか温かみのある感触があり、見事な意匠が施されているのが分かる。

 

 東西問わず、好きな人にはたまらない逸品であった。

 

 本来なら、根付一つを作成するのに数週間から一月を要するのだが、守人は自身の機能と権能をフルに使い、素材の切れ端を一気に彫り上げ、瞬く間に作り上げてしまう。

 今も無造作に切れ端を一つ掴み取り、手の中で感触を確かめながら頭の中で完成像を作る。決まったら片手に持った刃を躍らせ、切れ端に滑らせていくと見る見るうちに小さくなり、外観がほぼ出来上がる。

 今、作っていたのは饅頭根付と呼ばれるものだった。表には蕾と八分咲の梅の花と葉が彫り込まれていた。軽く目を細めて見た目を確かめる。微調整しながら磨き、彩色、最後に銘を入れて完成となる。

 

 ここまで、ほんの数分間。

 

 あほみたいな速さで根付が出来上がる事に観衆は感嘆するか、ただ唖然とした表情を浮かべるかどちらかであった。

 

 ちなみに、これは誰もが購入する事が出来た。制作速度がおかしいだけで材料は至って普通の物なのだ。

 値段は素材と細工にもよるが、大体数千円から高いので数万といったところ。かなりの安売りであったが、お祭りだし、来た人が買っていけるようにとこの価格になった。客も折角だから、と記念品として買っていき、携帯ストラップや鞄の飾りとして使う人が多いようだ。

 他にも店には今回の展示品について纏めた分厚い写真付き解説本や浮世絵、刺繍入りの手巾、ガラス細工といった小物を売っており、此方も人気があった。

 

 次の根付の制作に取り掛かろうとし、少し騒めく。守人は手を止め、顔を上げると丁度伊丹達がやって来た。

 

「ん、お主等か」守人が言った。「随分とお疲れのようじゃの」

「はは、まあ屋台と人込みに疲れまして……」伊丹が答えた。

「成程な。うむ、そうじゃな。少し時間はあるか?」

 

 何か思い出したかのように守人が言った。

 

「ええ、まあ」

「ちょいとついてきてくれ。ああ、暫く控室にいる。何かあったら言ってくれ」と、守人は売り子の神官らに伝え、奥に引っ込む。

 

 怪訝な表情を浮かべながらも、とりあえずその後ろをついていく伊丹達。

 

 控室の中は、雑多そのものであった。中央にテーブルとパイプ椅子が幾つかあるだけで、他は段ボールが山積みになっていた。

 

「済まんが、適当に座ってくれ」守人がそう言いながら、何かを探していた。「どれじゃったかな……。ああ、あったあった」

 

 守人は段ボールの山の中から二つの葛籠(つづら)を抱えてきた。それを机の上に置く。

 

「えーと、これは?」伊丹が訊ねた。

「ほれ、以前に言ったじゃろう? 炎龍の遺骸を譲ってくれるなら何でも作ってやると」

「……ああ、そういえば」

 

 確かイタリカ防衛戦の前にそんな会話もしたな、と伊丹は思い出した。もう随分と前の話だと思う。

 

「一先ず、こういうのを作ってみたんじゃよ」守人は葛籠の一つを開け、中身を見せる。「こういうのは初めてだったがの。結構楽しかったよ」

「おおッ!?」

 

 中から出てきたのは、人形。

 伊丹が好きな本<めい☆コン>に出てくるキャラ全員分のフィギュアであった。大きさは二十センチほど。素材は炎龍の牙。彩色されており、顔の表情や髪の毛の動き、衣服の皺までも精緻に作られており、今にも動き出しそうな気配があった。

 

 フィギュアを手に取って眺めながら喜ぶ伊丹。今までフィギュアに興味を持たなかったが、集める人の気持ちが分かるような気がする。これは良い物だ。

 

「なんだか、もったいない使い方ねぇ」

 

 ロゥリィがぼやく。

 まあ、炎龍の鱗と違って炎龍の牙なんぞ市場に出回った事が無い代物だ。美品をそのまま売ってもスワニ金貨で数十枚にはなる。それを人形にしてしまうのは贅沢な使い方であった。

 

「いいなぁ」と羨ましそうな声でテュカが呟く。

「ああ、お主等の分もあるよ」そう言いながら、守人は違う葛籠を取り出す。「好きな物を持っていくが良い」

 

 中身は、炎龍の鱗に金銀を使用した首飾りや髪飾りといったアクセサリーであった。紅い鱗は綺麗に磨き上げられており、幾何学的な紋章が刻み込まれている。

 

「それらは護符でもある。防御の魔法を刻み込んでおるから、ちょっとした攻撃なら防げるぞい」

「へえ、凄いわねぇ……」

 

 興味津々といった表情でアクセサリーを手に取って確かめる三人。そして自分の好みに合うものを一つ選び出し、早速身に着けていた。

 ロゥリィは胸飾り、テュカは腕輪、レレイは首飾りを選んだ。三人とも美人であるし、白い肌に紅い装飾品が良く映える。

 

「ふむ、悪くないの。隊長さんもそう思わんか?」

「へ? はあ、似合っていると思いますが……」

「だ、そうだ。良かったの」

 

 からかい混じりにロゥリィに言ってやる。

 「もぅ」とロゥリィは頬を膨らませて非難する。ただ、若干照れているようだ。顔に朱が差していた。隊長さんの事を気に入っているようだから冗談で言ってみたのだが、当たりだったらしい。

 これは面白いな、と守人は内心笑う。そして、もう一つの用事を思い出す。

 

「で、隊長さんよ」守人が言った。「その人形、幾らで売れると思う?」

「そうですね……、うーん……」伊丹は思案し、答えた。「分かりませんね」

 

 瞬間、周りの三人娘からジト目で圧力をかけられる。

 

「いやだって、俺に炎龍の牙の値段とか分からないしッ! 」

「ああ、ならば一般的なものの値段でよい。参考程度に教えてくれ」

「そうですね……、一般的なフィギュアでこの大きさの物でしたら4,5万位ですかね」

「ふむ、十円金貨一枚か。成程な」

 

 なら悪くないか、と守人は呟いた。

 

「えーと、もしかして」

「うん? いやなに。金になるならこのふぃぎゅあとやらを制作して販売しようかと思ったんじゃが」

 

 守人が考えたのは至って単純。価値のある物を売って稼ぐというもの。ただし、この価値ある物とは地球世界において、と付く。

 以前、タブレットPCでインターネットを使っていたのだが、その時に地球世界では大量生産技術が発達したが、手工業、所謂、伝統的な物は大量生産品に押されて衰退しているのだという。

 しかし、供給が少ないだけで需要はまだまだ多く残っている。

 ならば、これらを販売すれば外貨獲得になるのでは? と守人は考えたのだ。

 

 扶桑国は手工業を主体としており、腕の良い職人が豊富に存在した。今回の展示品の多くは、そんな彼らの作品である。

 そして、その作品を作るに必要な素材の供給も十分にあった。

 百年単位で囲炉裏の煙で燻した竹。浮世絵や水墨画を描くに必要な毛筆や和紙、墨や顔料。陶磁器の原料となる陶土。樹齢千年を超える古木。絵画や衣服に使う絹糸。象牙、鼈甲、珊瑚など。

 これらの多くは扶桑国ではありふれた素材であるが、現代の日本では数が少なく希少価値が高いものばかりであった。

 

 故に商売になる。

 <門>を通して売らなければならない以上、流通量が制限される。逆に考えれば、流通量が少ないから価格の下落もある程度防げるのだ。高値で売れるとなれば乱獲の危険もあるが、そこいらは上手くやっていくしかないだろう。

 あとはファルマート大陸で炎龍素材を加工して販売すれば資金は十分賄えるだろう。まあ、程々にしておかなければファルマート大陸の経済が混乱してしまうので、気を付ける必要がある。

 

「そう言えば、祭りの最後に何かやるので?」伊丹が訊ねる。

 

 パンフレットには祭りの最後に「???」と書かれているだけで、何も知らされていなかったのだ。

 

「ああ。夜のお楽しみという奴じゃな、まあ期待しておれ」

 

 

   ***

 

 

 十八時。日が沈み、辺りは真っ暗となっている。この日の最後のプログラムが始まろうとしていた。

 ステージに上がった守人と不破、その近くに座る太郎。守人が軽く挨拶する。

 

「今日の祭りもこれで最後となる。さて、今からちょっとした魔法を実演しようと思う」

 

 この言葉に歓声を上げる観客達。当然ながら、誰も魔法を見た事が無い。なので一気に期待感が高まったのだ。

 

「今から見せる魔法は大昔、ある術師が恋焦がれた女性を喜ばせる為に作ったもの。結果、二人は結ばれて幸せに暮らした事から扶桑国では大変縁起が良く、祭りの最後に見せられるものじゃ。楽しんでもらえればと思う」

 

 会場に響き渡る様に守人が長めの詩を朗々と謳い上げ、合わせて不破と太郎が咆哮を上げる。

 そして、魔法が発動する。

 夜の空からリィン、と鈴の音と共に色鮮やかな光る雪が舞い降りてきた。丸い光は形を変える。それは小鳥であったり、蝶であったり、花びらであったり。光が自由気ままに夜の空を舞っていく。

 

「わぁ……」

「綺麗……」

「凄いなぁ……」

 

 と、呟きながらその幻想的な光景を見上げる観衆達。中には手をかざし、光を手に取ろうとする者もいた。すると鈴の音と共に光の波紋を放ち、そして儚く消える。

 

「こりゃ、凄いな……」と、伊丹も感嘆したように呟く。

「そうねぇ、私も久々に見たわぁ」と、何処か懐かしそうな表情をするロゥリィ。

「……凄いわね後でユノ達にも教えてあげなきゃ……」と、微笑みを浮かべるテュカ。

「魔法自体は単純。だけど、大規模に発動させる為に術式を三人で分けて発動させている。これは凄い」と、何処か違う事で感心するレレイ。

 

 魔法が発動していたのは時間にしてほんの数分間。だが、記憶に残る数分間であった。

 そしてスぅ、と消える様に魔法が終わり、守人らは一礼。観客から歓声と拍手が巻き起こる。

 祭りは、大成功で終わった。

 

 

 ちなみに今回の祭り。

 

 来場者の制限はあったが、全国各地から来た為に各種交通機関や宿泊施設などは随分と儲かったらしく、「毎年やってくれ!」と言う様な嘆願も多かったそうだ。

 ……まあ、今回の祭りの開催に奔走した役人達はもう二度とやりたくねぇ、なんて思ったそうだが、前向きに検討する事になった。

 

 後に自治体からの嘆願から政府が買い取った扶桑国の工芸品を全国各地の博物館で順繰りに公開したところ、海外からも多くの来場者が来る事になり、その収益や経済効果が凄まじい事になった。

 

 また、アルヌスの丘に大使館を開設した扶桑国にも、各方面から問い合わせが多くなった。殆どが博物館や美術館での展示依頼、これを切っ掛けに仲良くして特地に関わりたいというものだった。

 中には個人から工芸品の製作依頼があった。展示してあった物に惚れ込み、また失伝した技術を再現しようとしていた者達から資料として使いたいなど、どうしても欲しくなった者からだった。

 

 展示依頼は丁重に断るとしても、個人からの依頼はどうするかと悩む事になった。

 扶桑国からすれば貴重な外貨獲得の手段として工芸品の販売を考えていたので、依頼は受けたかったのだ。そして日本政府とも会合し、地球世界にもある素材で出来た物なら販売しても良い事になった。

 

 従来の工芸品と素材の販売が殆どであったが、中には守人からフィギュアやコスプレ衣装の写真集を見せられ、これを制作する職人まで現れた。

 当初は誰もが「こんなよーわからんものを作ってどうするんだ?」という疑問の声もあったが、これが日本でオークションにかけられて十円金貨で十数枚もの高額で売買されたと聞き、特に仕事が少ない中堅どころの職人によって本格的な制作が始められるようになった。

 

 後に他にはない品質の高さと精巧さから評判となり、フィギュアとコスプレ衣装の販売が貴重な外貨獲得の主力商品の一つとなっていった。

 



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閑話1

今回はネタ回
お祭り直後の掲示板風となります。
おかしいと思うかもしれませんが、楽しんで頂ければ幸いです。


 ある日の、某ネット掲示板での一幕。

 

 

 [冬だ!] 扶桑国について語るスレ 其の*** [祭りじゃー!]

 

1 名前:日本の名無しさん 201**/**/** **:**:** ID:****

 

このスレは扶桑国についてまったりと語るスレです。

次スレは>>800にお願いする。無理ならば誰か代役をお願いすること。また荒らしや煽りはスルーで。

 

■前スレ

扶桑国について語るスレ 其の***

http://***~

 

■関連スレ

神隠しにあった人物スレ

http://***~

 

劔冑について考察するスレ

http://***~

 

特地の種族について考察するスレ

http://***~

 

 ・

 ・

 ・

 

2 名前:日本の名無しさん

>>1乙

 

3 名前:日本の名無しさん

乙!

 

4 名前:日本の名無しさん

おつ。お祭り行きたかったです……

 

5 名前:日本の名無しさん

禿同

 

6 名前:日本の名無しさん

同じく。生で神龍様見たかった。

てばさきに乗りたかったです

 

7 名前:日本の名無しさん

生中継見たけど、すげー楽しそうだったもんな

特にてばさきに乗った栗林アナの爆乳がボインボイン揺れてて……

 

8 名前:日本の名無しさん

次こそは祭りに行く。行かせてください

 

9 名前:日本の名無しさん

>>7

あれは良いものだ……

 

10 名前:日本の名無しさん

ただいまー

お祭りに行ってきたよー

 

11 名前:日本の名無しさん

遅かったじゃないか……

 

12 名前:日本の名無しさん

キタ――(゚∀゚)――!!

 

13 名前:日本の名無しさん

お祭り行ってきた

海軍カレー美味かった

てばさき騎乗体験くっそ楽しかった

 

14 名前:日本の名無しさん

扶桑国の工芸品が凄い

買ったストラップですらくっそ細かい細工がしてあるんだけど

あと最後の魔法が綺麗だった

 

15 名前:日本の名無しさん

特地派遣部隊のブース行ったらマンガ肉があった

 

16 名前:日本の名無しさん

>>14

それ工芸品の展示会場で売ってた奴だろ

守人様のお手製だぞ

 

17 名前:日本の名無しさん

マジか!?

 

18 名前:日本の名無しさん

>>15

色々と気になるが、まずマンガ肉ってなんだってばよ?

 

19 名前:日本の名無しさん

中継でも出てたろ

 

20 名前:日本の名無しさん

テレビもう何年も見ていない

 

21 名前:日本の名無しさん

テレビ置いてません

 

22 名前:日本の名無しさん

これ

つ[マ・ヌガ肉の肉巻き画像]

 

23 名前:日本の名無しさん

マジでマンガ肉だった

 

24 名前:日本の名無しさん

え、これどういう生物から取ってんの?

 

25 名前:日本の名無しさん

伝説のマンガ肉、実在したのか……

 

26 名前:日本の名無しさん

>>24

聞いたんだけど、マ・ヌガという牛に似た動物の肉だって

これを薄切りにして骨に巻き付けて焼いたものだって

 

27 名前:日本の名無しさん

肉巻きやんけ!

 

28 名前:日本の名無しさん

なんだよ、唯の肉巻きかよ……

 

29 名前:日本の名無しさん

マンガ肉じゃなくて、マ・ヌガ肉なのね……

 

30 名前:日本の名無しさん

どう考えてもマンガ肉を狙ったような名前と形

 

31 名前:日本の名無しさん

きっと転生者がマンガ肉として広めたに違いない

 

32 名前:日本の名無しさん

>>20

二条橋の英雄がいるブースで売ってた奴やん

ゴスロゥリィ閣下達が売り子でいたろ

 

33 名前:日本の名無しさん

は?

 

34 名前:日本の名無しさん

は?

 

35 名前:日本の名無しさん

マジで?

 

36 名前:日本の名無しさん

>>32

俺も買いに行ったけど、居なかったぞ

ちっさい爆乳の自衛官と黒髪ロングのデカい女性自衛官が売り子やってたけど

 

37 名前:日本の名無しさん

ロゥリィ様ー!網タイツ履いたままの足で踏んでくれー!!

 

38 名前:日本の名無しさん

最初の方だけやってたぞ

公安も来る騒ぎになったから奥に引っ込んじゃった

 

39 名前:日本の名無しさん

釣銭貰う時にレレイちゃんと手をプニプニしたかった……

 

40 名前:日本の名無しさん

テュカちゃんの笑顔が見たい……

 

41 名前:日本の名無しさん

>>38

なんかあったのか?

 

42 名前:日本の名無しさん

なんか、三人にしつこく言い寄った奴がいたらしい。

で、制止聞かずに無理やり近付こうとしたから自衛官とか公安に取り押さえられたのよ

 

43 名前:日本の名無しさん

馬鹿だろそいつ

周りに自衛官がいるのに……

 

44 名前:日本の名無しさん

まあ馬鹿はほっといて

写真とかないの?

 

45 名前:日本の名無しさん

そうだ!会場の画像プリーズ!

はよ見たいんじゃああ!

 

46 名前:日本の名無しさん

今あげるから待って

 

47 名前:日本の名無しさん

ちょっと待って、今画像うpするから

 

48 名前:日本の名無しさん

上げようとすると、鯖がくっそ重いんだけど

 

49 名前:日本の名無しさん

 

  バン   はよ

バン (∩`・ω・) バン はよ

  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/

  ̄ ̄\/___/

 

50 名前:日本の名無しさん

 

  バン   はよ

バン (∩`・ω・) バン はよ

  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/

  ̄ ̄\/___/

 

51 名前:日本の名無しさん

鯖が重い…

またおちるんじゃね?

 

52 名前:日本の名無しさん

いけるか?

とりあえずこれ

 

つ[扶桑国の巫女さん]

つ[扶桑国の兵に引かれるてばさき]

つ[両手でピースサインして笑顔を浮かべる龍神様]

 

53 名前:日本の名無しさん

おお、美人さんだ!

 

54 名前:日本の名無しさん

三枚目www

 

55 名前:日本の名無しさん

おいwww

 

56 名前:日本の名無しさん

ちょw

 

57 名前:日本の名無しさん

龍神様何やってんだw

 

58 名前:日本の名無しさん

むしろ神様に何やらせてんだよw

 

59 名前:日本の名無しさん

いや、写真撮っていいかって尋ねたらこういうポーズしてくれたんだよww

 

60 名前:日本の名無しさん

ノリが良すぎるw

 

61 名前:日本の名無しさん

流石やで龍神様

 

62 名前:日本の名無しさん

龍神様と少しだけ会話したんだけど、すっげー気さくだった

あと念話で直接頭に響くのはちょっとビビる

 

63 名前:日本の名無しさん

へー

いいなー

 

64 名前:日本の名無しさん

あの行列並んだのか……

俺見に行った時、ちょっと会話するのに4時間待ちだったぞ……

 

65 名前:日本の名無しさん

>>62

どんなの聞いたんだ?

 

66 名前:日本の名無しさん

>>62

何を話したのか少し気になる

 

67 名前:日本の名無しさん

>>64

俺も並んで3時間かかったし……

 

>>65-66

龍神様の眼の上から下に傷があるでしょ?

その理由を聞いてみた

 

68 名前:日本の名無しさん

おお、あれを聞いてきたのか!

 

69 名前:日本の名無しさん

あ、確かにあるね

 

70 名前:日本の名無しさん

どっかのスレだと守人様が斬りつけた跡じゃねーとか書いてあったな

 

71 名前:日本の名無しさん

で、実際のところはどうなのよ?

 

72 名前:日本の名無しさん

>>70が正解

 

龍神様の顔の傷が出来た理由

 

  俺「龍神様、顔にある傷はどうしたんですか?」

龍神様「これですか? 昔、人間だった頃の守人と戦って刀で斬られた時の傷ですよ」

 俺ら「」

 

なお戦った時、守人様一人で生身だった模様

 

73 名前:日本の名無しさん

( ゚д゚ ) は?

 

74 名前:日本の名無しさん

( ゚д゚ ) は?

 

75 名前:日本の名無しさん

( ゚д゚ ) は?

 

76 名前:日本の名無しさん

( д) ゚ ゚

 

77 名前:日本の名無しさん

劔冑あれば一撃余裕だろw

……え、人間?しかも生身?

 

78 名前:日本の名無しさん

本当か、それ?

 

79 名前:日本の名無しさん

守人様は人間だった頃から最強だった……?

 

80 名前:日本の名無しさん

>>77

龍神様vs炎龍の動画見た後だと劒冑あっても無理ゲーだと思うの

 

81 名前:日本の名無しさん

あんなん一人で、しかも生身でどうやって戦えと

 

82 名前:日本の名無しさん

まあ守人様は国を創った神様だし。神話として数々の伝説残しているし

お祭り中も凄かったし

 

83 名前:日本の名無しさ

チート伝説(実話)がまた追加されるのか……

 

84 名前:日本の名無しさん

>>82

kwsk

 

85 名前:日本の名無しさん

ああ、中継で見たけどあれか……

あれは凄い

 

86 名前:日本の名無しさん

こいつを見てくれ、どう思う?

つ[守人の根付制作動画]

 

87 名前:日本の名無しさ

>>84

守人様のスレッドにまとめあるから見に池

 

88 名前:日本の名無しさん

凄く……早いです……

 

89 名前:日本の名無しさん

指先が霞んで見えないんですけど

 

90 名前:日本の名無しさん

何度見ても早送りで再生しているようにしか見えない動画

 

91 名前:日本の名無しさん

へー、ストラップってこんな感じでデキルンダ―(棒)

 

91 名前:日本の名無しさん

>>14が言ってた細工ってこれか?

 

92 名前:日本の名無しさん

みたいね

 

93 名前:日本の名無しさん

手彫りってこんなに早くできたっけ……

 

94 名前:日本の名無しさん

流石やで守人様

 

95 名前:日本の名無しさん

流れぶた切るけど

つ[守人作の根付画像]

↑これ、一万で買ったんだけど、もしかして凄く良い物?

 

96 名前:日本の名無しさん

>>52だけど

巫女さんからも色々と話聞けた

お願いしたら笑顔で写真撮らせてくれたし、握手もしてくれた

すごい柔らかかった……

もうこの手は洗いません

 

97 名前:日本の名無しさん

餅つきする兎?めっちゃ可愛い

 

98 名前:日本の名無しさん

>>95

絶対に良い物。間違っても売るなよ

最近できた手彫りの根付って十万単位で売れるし、神様が作ったものだぞ?

大事に持っていた方がいいって

 

99 名前:日本の名無しさん

俺、根付なんて全く分からないんだけど、毛並みとか表情が凄いリアルで良いだな

大事にした方が良いな

 

100 名前:日本の名無しさん

>>96

どんな話よ?

あと手はちゃんと洗え

 

101 名前:日本の名無しさん

>>95

オークションにかけたら物凄く高値が付きそうだな

 

102 名前:日本の名無しさん

>>97—99

分かった! 大事に飾っておくよ!

言われてよく見たら凄い可愛いいし、全く飽きないし

 

>>101

もったいないから絶対に売らない

 

103 名前:日本の名無しさん

>>100

巫女さんにエルフとかドワーフは扶桑国にいないのか聞いたけど、普通にいるってよ

みんな纏めて蝦夷人と呼んでいるらしい

というか、聞いた巫女さんがハーフエルフだった

耳も見せてくれた

 

104 名前:日本の名無しさん

道理で美人さんが多いと思ったら……

 

105 名前:日本の名無しさん

こっちに来た時から美人やイケメンが多いって話題になってたしな

みんなハーフとかなんかね?

 

106 名前:日本の名無しさん

そこまでは分からない

ただ、何人かは先祖にエルフとかがいるんだって

 

107 名前:日本の名無しさん

まあ、守人様からして美人さんだし

 

108 名前:日本の名無しさん

守人様は別格。美人過ぎて……

あと話によると猫神様や龍神様は同族から見れば超絶イケメンらしい

 

109 名前:日本の名無しさん

サーベルタイガーとドラゴン見ても分かりません

 

110 名前:日本の名無しさん

つ[ハーレム画像]

 

111 名前:日本の名無しさん

おいwww

 

112 名前:日本の名無しさん

わーすげー

って写ってんのサーベルタイガーだけじゃねえかwww

 

113 名前:日本の名無しさん

流石に草生える

 

114 名前:日本の名無しさん

>>110

中央にいるのは?

 

115 名前:日本の名無しさん

守人さまの飼い猫の不破ちゃん

周りにいるのは全部不破ちゃんの奥さんだって

 

116 名前:日本の名無しさん

マジでハーレム画像だった

 

117 名前:日本の名無しさん

ちょっとうらやましいとおもってしまった

 

118 名前:日本の名無しさん

祭りで最後に魔法見たんだけど、どうやったら魔法使いになれますか?

 

119 名前:日本の名無しさん

迎賓館に逝って守人様に聞いてこい

 

120 名前:日本の名無しさん

皇居警察か自衛隊に捕まってしまいます

勘弁してください

 

121 名前:日本の名無しさん

でもこっちで魔法使えるってことは、俺達でも使う事が出来る可能性が……?

 

122 名前:日本の名無しさん

あるんだろうけど、やり方が分からんからなあ

 

123 名前:日本の名無しさん

>>118

ネットにある呪文を片っ端から暗記して唱えてみよう

 

124 名前:日本の名無しさん

とりあえず、本位首相に太郎閣下達

俺達を特地に行けるようにしてください

何もできないけど

 

 




書いてみて思ったこと。

なにこれ、難しい……

一度ぐらい掲示板系をやってみたいと思ったんですが。
私自身、2ちゃんは全くやらないので……(やり方が分からん)

次も閑話(ネタ)になります。


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閑話2

 日本は扶桑国との間に国交が結ばれた事により、僅かだが人や物が行き来するようになった。

 扶桑国は外貨獲得の為に日本で何が売れるか、何が珍しいのかが分からない為、現在、扶桑国にあるものを片っ端から日本へ輸出し、その反応を見ている最中であった。

 

 これに、狂喜している者達がいた。

 

「うひっ、うひひっ……」

「嗚呼、なんて美しい遺伝子なんだ……」

「うへへ、この様なサンプルに出会えるなんて……」

 

 半ば逝っちゃった表情で素材を解析する研究者達。それぞれの大学や研究所ではドン引きされるような彼らであったが、此処に居るのは似た者同士なので誰もが気にしない。

 

 ここは政府が新設した、特地の素材を解析、研究するための総合研究所。そこには日本が誇る、各分野のマッドでHENTAIな研究者らが集められていた。

 誰が言い始めたのか、通称「マッドの巣」である。

 

 彼らはこの人生で、素晴らしい物に出会えた事に狂喜していた。

 

 例えば、金属工学の専門家は、地球には無い組成の鉱石や、劔冑の甲鉄のサンプルを見て。

 歴史学では、扶桑国に渡った者達が遺した文章の解読に文字の読み方、そして新たな歴史の発見に。

 動植物学では、図鑑のイラストや剥製でしか見た事が無かった絶滅種の動物や全く未知の働きを持つ植物を。 

 医学では、特地由来の動植物から採れた未知の酵素や遺伝子に。

 薬学では、アニメやゲームの様に怪我を瞬く間に癒す回復薬に、難病治療に有用な効果を持つ調合薬に。

 

 彼らの今までの常識では全く説明できないものが多い。

 だからこそ、燃える。素晴らしい。絶対に解析して己のモノにしてやる。そう意気込んで寝食を忘れて研究に没頭する者が相次いでいた。

 

 当然ながら、この動きは諸外国にも分かった。

 直ぐさま政府にサンプル寄越せやら研究者に接触して共同研究を持ち掛けたり、それとなく研究内容を尋ねたりした。

 サンプルに関しては如何にか手に入れた国もあるが、それ以外は悉く失敗。

 

 研究者達が口を割らなかった為である。

 彼らは別に愛国精神を発揮したとか、そういう訳ではない。

 彼らはマッドである。故に、今の環境を気に入っていた。資金は政府持ち。自分で好き勝手やらせてくれる。素晴らしいサンプルをどんどん提供されてくる。

 もう、夢の様な環境なのだ。

 

 もし、口を割って研究から外されてしまう。それは死んでも嫌なのだ。こんな魅力的なもの、絶対に己が研究するのだ! と考えていたので誰も口外しなかっただけだ。

 

 となると、正攻法では無理である。

 だが周りには自衛隊ががっちり警備を固めている所為で研究資料の強奪や誘拐といった強硬手段は取れない。先に馬鹿やった某国の工作員やら現地拠点を文字通り全滅させている為、リスクが高過ぎたのだ。

 そんな訳で、研究者達は邪魔される事無く、今日も元気に好き勝手研究を進めていた。

 

 そんな中、休憩所ではひと段落したらしい各分野の研究者がコーヒーを片手に談笑していた。

 

「お疲れ様です。どうですか、そちらは?」

「ああ、お疲れ様です。いやぁ、楽しいですよ! 最初は強引に集められて文句の一つや二つ言いたくなりましたが、あんな植物を研究させてくれるなら如何でも良くなりましたよ!」

「先生は確か、樹の専門でしたか?」

「ええ、湧水樹という樹の研究に携わる事になったんですが、もう凄いですよ、ホントに」と、興奮気味で話す研究者。

 

 彼が研究している湧水樹は簡単に言えば、天然の浄化装置がついた樹である。

 この樹は汚水を根で汲み上げ、体内で飼っているバクテリアで分解、ろ過し、幹の洞から清水を流す事からこの名がついている。生育は非常に遅いが、製材は非常に硬くしなやか。そして腐りにくい。劔冑を纏った武者が全力で殴りつけても損傷しない為、扶桑国では専ら船材や建材などに使用されている。

 

「これ数十本植えれば、小さな都市の上下水場一つ分の働きを持ちます。流石ファンタジーだと思いましたよ」

「それは凄いですね」

「先生は、動物でしたな。どうですか?」

「いやぁ、まさか図鑑でしか見た事のない存在をこの手で研究出来るとは思いませんでしたよ。もう楽しくてしょうがいない」

「本当に、扶桑国様様ですね」

「全くですよ」

 

 そこに、他の研究者達もやって来て其々の近況やら研究について話し合う。一人の研究者が言った。

 

「これだけ素晴らしいサンプルがあるのだ。是非とも、扶桑国に行ってみたい」

「確かに。こっちでは絶滅した筈の動物や未知の存在が居るのだ。私も行きたいぞ」

「ですが、政府が認めますかね? 未だ特地は戦争状態ですし、<門>は不安定だと聞きます。あっちに取り残されたとしたら研究を続けられますか?」

 

 確かに、といった表情で頷く面々。

 彼らにはとって<門>が閉鎖した事によって日本に帰れないよりも、研究が続けられるかどうかの方が重要であった。

 

「なら、あっちに研究所を造ればいい」

「研究所を特地に? それは確かに良い考えですが、現状では難しいのでは?」

「今の政府は<門>の近くに街を造っている。万が一に備えて自活出来るようにするらしいから機材も大量に運び込んでいる。そこに研究所の一つや二つ増えた所でも変わらんだろ」

「出来れば扶桑国にも造ってほしいですね。彼の国の方が色々とサンプルが手に入りそうだ」

「それに、彼の国は特地で最も進んだ国だと聞く。不便さはあってもある程度は似た物を作ってくれるだろう。あと予備を大量に持っていけば研究は続けられそうだ」

「まあ、それなら……」

 

 と、彼らは納得し、連名で政府に直ぐに研究所を建設するよう進言しておこう、という事になった。最も、既に彼らの心の中では特地に行く事と研究所が建てられるのは決定事項となっていた。

 

「しかし、特地か。どんな場所なんだろうか?」

「映像で映っていた森は見た感じ此方と微妙に違うみたいだ。うむ、是非フィールドワークしてみたい」

「私はそうは思いませんけどね。私は植物の遺伝子は好きですけど、植物自体は余り好きでは無いんですよね」

「なに? 貴様、確かに植物の遺伝子は至上だが、植物全部愛でてこそ真の研究者だろうが!?」

「いや、動物の持つ遺伝子配列が至上だろうが!」

「……何言ってるんですか。この人達は。金属の組成こそ最高でしょう!」

「「「やかましいわ、無機質好きの変態野郎が!」」」

「てめぇら表出ろや!」

 

 突如始まった乱闘は警備員が駆け付けるまで続いた。警備員も「何時ものじゃれ合いか」と内心ため息をつきながら手慣れた様子で仲裁し、解散させる。

 

 今日も日本は平和です。

 

 

   ***

 

 

 地球世界の諸外国は、今のところ目立った動きを見せていなかった。

 精々、今までの焼き直しの様に「<門>の向こう側が広く国際社会に開かれる事を期待する」と言っているだけである。

 まあ、現状では不満はあるものの、日本から提供された翼竜やゴブリンやオークといったサンプルの研究や解析で利益は出ている。此処で無理に日本にもっと利益寄越せと言い募っても意味が無い。そしたらその国は他の国々から袋叩きに遭い、自分の分け前は他の国々に回されて無くなってしまう。

 それが分かっている為、無理に動こうとはしなかった。

 

 しかし、二つの国は違った。アメリカと中国である。

 

 アメリカではこの日もホワイトハウスにて、ディレルらは議論が交わされていた。

 内容は、先日入手した特地由来の物の解析結果についてだった。

 

「ふむ、それでツルギと呼ばれるパワードスーツの解析結果はどうだったのかね?」ディレルは訊ねた。

「はい、大統領。現在分かっている情報を纏めたものが此方です。それと、入手した劔冑の破片を解析にかけましたが……」

 

 素材の出所は当然、日本からである。

 現内閣は扶桑国との交流で支持率を持ち直しているが、度重なる不正や汚職疑惑によって死に体には変わりないのだ。本位首相や嘉納大臣などはガードを固め、また汚職を行っていた閣僚や官僚達を少しずつ中枢から追い出して健全化を図っていたが、未だアメリカに握られた秘密の方が多い。

 この素材も、秘密を握られた閣僚や官僚を脅し、極秘に横流しさせたものだった。

 

「現状では、殆ど分からなかった、と。全く未知の金属に、未知の物質が幾つも発見されました。解析を行った研究者曰く、ファンタジーどころかSFだそうで。欠片からはナノマシンの様なものが確認されたそうです」

「……あの世界はファンタジーでは無かったのかね?」

「その筈なのですがね。やはり、世界は変わっても日本人は日本人。我が道を往く、という事なのでしょう」

 

 クロリアンは肩を竦めて言った。

 

「……ふぅ。つまり、当面はツルギの複製は無理、という事か。やはり既存のパワードスーツ開発を進めるしかないか」

「はい。それにツルギは此方では製法に問題が有り過ぎます」

 

 劔冑の製法は「焼いた鎧を鍛冶師が装着し、水で焼き入れする」こと。故に一領造るのに一人の命が必要。

 この事実はアメリカ上層部を驚愕させた。

 流石のアメリカでも、現状では好き勝手出来る訳では無かった。昨今は国際ハッカー集団によって国家機密が流出したり、CIA職員がロシアに亡命するなど情報管理体制が甘くなっていた。

 

 友好国であるから日本政府だけでなく、扶桑国の用意したサンプルも手に入れており、ディレルはそれを外交の成果として発表していたが、僅かに支持率を持ち直した程度。ここで人を材料にした実験など行い、バレれば確実にアメリカ上層部全員の首が飛びかねないのだ。

 

「フソウ国への武器輸出の話はどうなったのかね?」

「はい、非公式ながらもキクチ大使と面会は出来ました。自衛隊が運用してる銃器を実際に見ている為、性能に関しては文句が無いようです。ですが、銃器の整備や補給などの問題から導入には慎重な姿勢のようです」

「此処でも<門>が関わるのか……」

 

 ディレルはため息をついた。

 <門>は日本にある。そして小さい。アメリカお得意の軍事オプションは取れない。

 そして、銃器の生産には高精度の作業機械と資金が必要となるが、技術格差の大きい扶桑国では難しい。となると輸入するしか無いのだが、<門>を通して一度に運べる量には限界がある。

 

 何か一つ、大きく目に見える成果が欲しい。ディレルはそう考えていた。

 

(だが、急いて失敗したら笑い者だ。此処は一つ、じっくり待とうじゃないか)

 

「だが、これで接点が出来た。後は、日本とフソウ国と友好を深めて特地の権益を手に入れる事だ」

「はい、大統領。既に外務省やマスメディアを通じて親米派を増やすキャンペーンを始めております」

「実にクールな方法だ。だが、同じ手段を取っているチャイナが五月蠅いのではないかね?」

「お任せください大統領。面の厚いチャイナ共にアメリカ流のやり方を見せてやりますよ」

「よろしい。期待しているよ」

 

 

 一方、中国では。

 

「ふむ、成程。道理でツルギの生産が出来なかった訳だ」

 

 中南海の主である董徳愁国家主席はそう口にした。彼が手にしているのは、アメリカが行った劔冑の破片の解析結果が纏められた報告書であった。

 アメリカに限った話ではないが、チャイナマネーの息がかかった政治家や官僚、軍人など何処にでもいる。中国はそれを利用し、サンプルの解析結果を横取りしていたのだ。彼らにとっては合理的な手段である。

 

「となると、一旦は止めるべきだろうな。金と時間の無駄遣いとなる」

 

 中国では劔冑を知った情報通りに生産しようとしていた。幸い、材料は豊富に存在した。だが、鉄屑と焼死体を作っただけであった。

 

「扶桑国、か……」

 

 董は報告書を机の上に置くと椅子の背にもたれ掛かる。

 

「特地を日本の独占にする訳にはいかない。だが、扶桑国の存在が厄介だな」

 

 中国では古代より、扶桑国の伝説がある。そこは扶桑樹と呼ばれる毎朝太陽を生み出す樹があり、不老不死の仙人が棲むというユートピアであるというもの。

 

 中国国内では、この伝説と、<門>の向こうから現れた扶桑国は同じではないか? という説が広まっていた。

 

 扶桑国について書かれた「山海経」は紀元前四~三世紀頃と、今から二二〇〇年程前に成立したと考えられている。

 そこに書かれている国名は同じ。しかも未だ若さを保つ歴史上の人物。魔法。劔冑による超常の力。古代の人は、魔法を操ったり、劔冑を纏った武者を仙人と見ても可笑しくはないだろうという説は一定の支持を集めていた。

 

 董自身はどちらでも良いと考えていた。だが、魔法や劔冑を手に入れれば中国の地位は高まり、己の発言力の強化にもなる。

 

 そうするにはまず、日本や扶桑国と友好関係を結ぶ必要があるが、中国にはこれが難しい。

 彼の国は日本人が祖先であり、文化的にも多くが日本と類似している。しかも、戦前の事を知る人曰く、「戦前の日本と似たような雰囲気がある」らしい。

 中国では反日運動が日常的に起こっている。これは国内の不満を逸らす為にガス抜きでやらせているが、董が日本と扶桑国に友好なぞ言ったらその時点で何が起こるか分からない。

 下の者の暴走だけでなく、派閥争いで董の敵は多いのだ。ここぞとばかりに董を叩こうとするだろう。

 

「なら、今までと同じくマスメディアを動かし、友好的な面を押し出すしかない」

「ですが、強硬派が暴走するのでは?」秘書官が言った。

「なに、下の者共なぞどうにでもなる。後は伝説はあるかもしれないとでも言っておけば暫くは大人しいだろう」

 

 昔から地位と名誉、そして財を成した権力者が次に欲しがるのは不老不死。

 既に実例があるのだ。その情報を手に入れる為と言えば強欲な老害達は直ぐに大人しくなるだろう。

 

「今まで以上に日本のマスメディアに働きかけてくれ。それと、強硬派にも監視を置くように」

 

 嘘を何度も言えばいつか真実になる。そして記者交換協定によって、中国は今まで自国に不利益な報道を控えさせるようにしていた。

 例え今まで反日発言を繰り返していたとしても、自分達の失態を誤魔化して、友好関係をでっち上げる。そして日本や扶桑国の世論がそういう雰囲気になってしまえば此方の勝ちである。

 

こうしてアメリカと中国は、特地の利益を得るために着々と日本と、そして扶桑国との友好関係を強化する方針を定める。そして特地の利権を他国よりも多く取るために、両国は水面下で激突しながらも準備を進めていく事になった。



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二章 襲撃編 第19話

 アルヌスの丘は様変わりしていた。

 ほんの数か月前までは何も無いなだらかな丘だけだったというのに、今では街と呼べるほどになっていた。現在も街は拡大しつつあり、自衛隊や扶桑国、そして現地のドワーフやの大工達によって次々に家屋は建てられ、行商人や護衛の傭兵など多くの人が出入りし、賑やかになっている。

 

 当初、アルヌスの丘に街を造ると決定した時は自衛隊と使節団の面々でどうにかなると考えられていた。

 

 自衛隊は重機でもって土地を開拓し、外務省の役人達や帝国の講和派であるピニャの薔薇騎士団の為に家屋を建てていく。電灯や電話回線、浄化槽を動かす為に屋根にはソーラーパネルを設置した。

 

 扶桑国は守人らの分社と大使館、武家屋敷や長屋などの和風建築物を建てる。そして老賢者カトーの協力(ちなみに、対価は日本から持ち込まれたグラビア雑誌とDVD(十八禁。巨乳もの)である)によって貯水池が作成され、その周囲に持ち込んだ湧水樹を植え、上下水道を整備。劔冑による力業で水田や畑を作り、果ては池や水田に魚を放流し養殖まで始めるようになった。

 

 工事は順調。これなら予定通りに残りも進められるだろうと思われた。

 

 しかしである。

 自衛隊と使節団が共同で支援するアルヌス共同生活組合がPX、つまり商店を始めてから状況が変わってくる。

 

 PXは当初、難民、特に老人や幼い子供らが店番をするこじんまりとした店であったが、店の商品として置いた日本の消耗品や扶桑国の工芸品を求めて自衛隊や使節団の面々が次々と買いに来るので、開店して一日でモノやら人が足りないという事態になった。

 

 そこで急きょ人手を増やし、店も拡張したのだが。そこに語学研修の為にピニャが派遣した薔薇騎士団の令嬢や侍従、日本の外務省の役人なども現れ、買いに来るようになった。やっぱり足りない。

 

 そんで、いっそのこと現地の住民を雇おう。店は突貫工事でコンビニ並みにしよう。という事になり、イタリカに人材派遣をお願いした所、ネコ耳やらイヌ耳、狐の亜人メイド達がやってきて大騒ぎ。人がやっぱり増える。

 まあ、この時は如何にかなったのだ。まだ。

 

 だがある程度街の形が出来上がった頃、商人の間でイタリカの街で竜の鱗を売買した事が広まっていた。その出所が判明すると、取引しようとアルヌスの丘までやって来るようになっていた。

 

 商人らは竜の鱗の買付に来たのだが、ついでに何か珍しい物をとアルヌス共同生活組合が運営するPXを見て驚愕する。

 この時既に、PXは日本からの生活雑貨や消耗品、そして数は少ないが扶桑国の工芸品を販売する商店となっていたのだ。

 

 竜の鱗は高く売れる。だが、商人の彼らにとって日本国の紙や鉛筆、合成繊維と色鮮やかな衣服は信じられない存在であった。また扶桑国の工芸品はファルマート大陸では貴重品であり、富裕層には一種のステータスである。

 

 竜の鱗そっちのけで日本や扶桑国の品物を有り金を全部はたいて買い漁り、これを貴族や豪商などに売りつける。すると、Tシャツや工匠の細工物など、日本や扶桑国では銀貨一枚程度の品物でも貴族に売れば金貨に化けるのだ。もう濡れ手で粟、ぼろ儲けである。そしてアルヌスで売れそうな品物を買ってまたやって来る。誰もがこれを繰り返していく。

 

「アルヌスに行けば、どんな奴でも大儲け出来る」

「アルヌスに街が出来る。多くの職人を募集している」

「アルヌスには死神ロゥリィにフソウ国という異国の神々がいる」

 

 何時しかこの様な噂が広まり、アルヌスに行って妙に羽振りが良くなった商人らを見て、酒の席で酔わせてから問い質してみれば事実だと判明するのだ。

 すると、様々な業種の者共がアルヌスを目指すようになった。

 一攫千金を夢見る商人、それを護衛する傭兵。仕事を求めてきた職人達。それをつけ狙う盗賊共。

  

 そして最も多かったのが、扶桑国の神がいるという噂を聞きつけた信心深い人々であった。

 

 自衛隊や扶桑国からすればもう慣れてしまっているが、傍から見ればエムロイの神官であるロゥリィ、扶桑国の守人と龍神。三柱もの神が一か所に集まっている事自体が異常なのである。

 

 しかも、ファルマート大陸では珍しい扶桑国の神である。守人らはファルマート大陸ではさほど知名度の高い神ではないが、かつて放浪していた時の逸話などが残っており、信者も結構な数が存在していたのだ。

 

 彼らは巡礼の為に扶桑国に行こうとしても海を隔てて遠く離れた島国に行くのは難しく、僅かに出回っている護符や自作した神棚に祈りを捧げるぐらいしか出来なかったのだ。

 それが、アルヌスの丘に行けば会えるのだという。

 これを一生に一度しかない機会と捉え、多くの信者が巡礼の為にアルヌスの丘へやって来たのだ。

 

「地面が三分に人が七分だ。これ全部、巡礼者なのか……」

「まるで連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)が攻めてきた時のようだな」

 

 その光景を見た自衛官達はこう呟いたという。

 

 このように一気に大量の人が雪崩れ込んだ為、幾ら作業の早い自衛隊や使節団の面々でも作業が追いつかないし、人手も足りない。更に周辺地域の治安や警備の問題も出てきた。

 

 これに上の面々は頭を悩ましつつ、自衛隊はアルヌスの丘の警備を強化し、職人達に仕事を割り振り、イタリカのフォルマル伯爵家に要請して人員を派遣して貰う事になったのだ。

 また扶桑国は日本への研修生以外にも周辺地域の治安維持の為に剣歯虎と歩兵。てばさきを駆る騎兵。翼竜を操る竜士などを呼び寄せ、警備に当たらせるようにした。

 

 そして日本国と扶桑国は今までの売買で貯まりに貯まった貨幣を放出しなければならない(でないと、貨幣不足で経済に悪影響が出る)為、例えヒト種だろうが亜人だろうが何だろうが気前良く賃金を払って評判が高くなり、そんで金の巡りが良くなって経済活動が大きくなっていく。

 するとまた人がやって来る。また人手不足となる。また貨幣が貯まり、景気良くばら撒く。で、金回りが良いのでまたまた人が……。

 

 と、まあ、こんな事を繰り返していった結果、今ではアルヌスはファルマート大陸で最も活気があり、様々な人種と文化が入り乱れる街になってしまったのである。

 

 

   ***

 

 

 アルヌスの街からやや東へ行った先。

 そこは日本の仮設住宅やファルマートの建築様式とは違い、純和風の街並みになっていた。その近くには田園風景が広がっており、エルフやキュクロプスらが共に農作業をしていた。

 

 大通りの左右には土蔵造りの店や旅籠屋、銭湯、工房などが建ち並んでおり、裏に行くと長屋がある。大通りには剣歯虎がのっそりとした歩きで付き添いの歩兵と共に巡回しており、てばさきがPXと書かれた荷車を曳いている。非番らしい自衛官や扶桑国の者が一緒に何か話し合いながら、やって来た商隊の護衛らしい傭兵達は物珍しそうに見て回っていた。

 

 店内を覗くと、商談中らしい商人と店主の白熱したやり取りや、旅籠についての説明を受ける傭兵。工房で木材の加工や、釘や金具、武具の修繕を行う扶桑国の職人達。中にはアルヌスで弟子入りしたらしいドワーフやヒト種がいた。

 

 大通りを進んだ先には正面に朱塗りの鳥居と髙札場が建てられた鎮守の森が、その左右には大使館である武家屋敷と飛空船の発着場がある。

 

 鳥居を潜り、鬱蒼とした木々が生い茂る森の中を進む。道は真っ直ぐ敷かれた石畳となっている為歩きやすい。少し歩くと、ぽっかりと空いた広場に出る。正面にはこじんまりとした社殿が建ち、その近くには社殿よりも遥かに大きい工房と、小さな池があった。池の周りには湧水樹が植えられており、幹にある洞からは清らかな水が流れ出ている。

 

 ここは守人、不破、太郎のアルヌスでの住処となる分社である。

 

 目的であった遺品を送り届ける事が取り敢えず解決した(何処が管理するかで大きく揉めていたのだが、余りにも決着がつかないため取り敢えず国が管理し、今後、話し合いなり何なりして所有者を考える、という事になった。要するに問題を棚上げしたのである)為、現在はこの分社にいる事が多い。

 

 まあ、本当の理由は祭りの後、メディアや来場者が撮影した動画やら写真やらが公開され、文字通り世界中から問い合わせが殺到。その対処をしていた政府役人や使節団員もその凄まじさから悲鳴を上げてしまい、特に問い合わせが集中した守人と不破、太郎(外交官らだけでなく、学者達から検査やら調査させてくれという様な内容だった)はほとぼりが冷めるまで特地にいる様になったのだ。

 

 だが戻ってきたら戻ってきたでアルヌスに態々やって来た信者達がおり、何も知らずに歩いていたら一斉に跪かれて崇められたリ、感極まったらしい信者らに対応したリ、その合間を縫って泥縄式に拡大するアルヌスの街に必要な資材や建物、人を手配したりと、誰もが疲れ果てるような日々が続いていた。

 

 

 この日、守人は工房にて自衛隊の柳田と<門>についての打ち合わせを行っていた。お互い、追加の人員が来た事で現場の混乱や資材の発注などが落ち着き、ようやく時間に余裕が出来る様になっていたのだが。

 

「取り敢えず、これが設計案じゃな。見ての通り、現状の<門>より一回りは大きくなる」守人が言う。そして、柳田の顔を見やる。「――しかし、お主本当に大丈夫か? 少し休んでからの方が良くないかの?」

「はい。正直に申せば、今直ぐにでもベットに入って2,3日ほど眠って過ごしたいですがね。まだ仕事が残っていますので」

 

 平坦な声で柳田は答えた。

 柳田と言えば、ビシッとした髪型と制服に、少し鼻につく態度をするエリートメガネ。 

 

 だが、いま現在、守人の目の前にいる男は乱れた髪型に何処かよれた制服。土気色の落ち窪んだ顔。べったりと張り付いた眼の下の隈。そして眼鏡の向こうにある、ぎらぎらと脂ぎった光をたたえる眼。

 どう見ても、死相が浮かんでいる。

 

 特地派遣部隊の裏方である柳田の仕事は多い。

 日本から送られてくる自衛隊の補給の確認に、扶桑国との折半。連日行われる会議。そこで使用する報告書の作成。国に提出する書類。最近では<帝国>講和派を支援する為の調整も、柳田が請け負っているという。そして何より、エリート意識が高いだけに手を抜こうとはせず、全て完璧にこなそうとする。だから人手が明らかに足りなくても手伝ってもらおうともしない。

 

(もう少し、あの隊長さん(伊丹)を見習った方が良いんじゃが……。今言っても仕方ないか)

 

 守人は内心ごちた。

 柳田は、伊丹に対抗心を燃やしている。まあ、伊丹はちゃらんぽらんしていながら自分と同階級。自身の隊に所属する者達と関係は良く、それでいてロゥリィ、テュカ、レレイの美少女三人と仲が良い。またイタリカでの一件でピニャ以下の騎士団の令嬢達や亜人メイド達とも交流が深い。

 どこのラノベの主人公だ、という様な状況にいるのが伊丹なのである。柳田の立場にいたら、誰だって伊丹を妬む事だろう。だから「伊丹を見習え」なんて言葉は言える筈が無い。

 

 守人は軽くため息をつくと、椅子から立ち上がり壁際の棚に向かう。そこから日本で買ったマイセンの茶器と、茶請けの菓子、茶筒を取り出す。机でポットに茶葉と飲みやすいように少し冷ました湯を入れ、待つ。そして暗い緑褐色となった液体をカップに注ぎ、柳田に差し出した。

 

「特製の薬草茶だ。それと焼菓子。気分を落ち着かせ、溜まった疲れを抜く効果がある」

「頂きます」と、柳田は言うと茶を一口。喉が渇いていたのか、そのまま一気に飲み干した。

「もう一杯飲んでおけ」またカップに茶を注ぐ。

「はい……」

 

 今度は菓子を一つ口に入れ、流し込むようにまた一気飲み。カップを置いた柳田はふぅ、と息を吐き出した。菓子の甘みと茶で少しはマシになったのか、先程よりかは顔色が良くなっていた。

 柳田が言った。 

 

「有難うございます」

「別に構わんよ、この程度」守人が答えた。そして茶を一口。「じゃ、そろそろ話を進めるとしようかの」

 

 その言葉に、柳田は居住まいを正す。

 

「まず、<門>についてじゃな」

 

 日本と扶桑国との懸案事項であった<門>。これを開閉出来るように作り直す事だか、これは如何にかなりそうであった。

 権能を使って長期間<門>の解析が出来た為、大体の原理は掴めていた。また必要な材料もアテがあった。

 

「この、<門>の問題点は?」単刀直入に、柳田が訊ねた。

「実際にやってみないと分からん、という事じゃな」守人が言った。「そうすると、日本で<門>の実験を行わんといかん」

特地(こちら)では出来ないのですか?」

「<門>を開けられるのは世界で一か所のみ。特地から日本へ門を開けている以上、無理じゃな」

 

 まあ、ハーディの協力を得れば分からないが、扶桑国の、というよりも存在する正神でハーディと仲の良い者は全くと言って良いほどにいない。ハーディの引っ掻き回して面白くしたいという、亭楽的な性格が原因だった。

 それに素直に協力するとは思えないので、このまま進めていくのが一番である。

 

「……では、何処かの駐屯地や演習場で実験できないか、調べてみましょう」

「お願いするよ」守人が言った。

「あとは、<門>の設置場所と固定化装置の設計ですね。設置場所は追々決めるとして、装置は耐震基準もクリアして頂かないと」

 

 今の<門>を固定化している装置は、大理石を積み上げて出来ている。ファルマート大陸では地震は無いが、日本ではよく起きる。日本でのちょっとした地震が起きた場合、破損、倒壊する恐れがあった。

 

「ふんむ。それはそちらに任せるしかないの。必ずしも大理石に宝石とガラスを埋め込まなければならないという訳ではない。白い構造物で、表面に回路と宝石、ガラスを付ければ良いからの」

「なら、コンクリートでも大丈夫そうですかね? その方が安上がりだ」

「多分な。駄目だったら漆喰でも塗れば良いじゃろ」

 

 この後も、一つ二つと気になった点を確認し、擦り合わせていく。そして出し終わったところで柳田は書類を纏め、足早に工房を後にした。その手には書類と設計図の他に、守人が持たせた茶葉があった。

 これ以降、柳田は疲れてくるとこの茶を愛飲するようになる。

 

 残った守人は一人思案していた。

 アルヌスの街建設も、帝国の講和派支援も、<門>の開発も順調に進んでいるのだが、妙な感じがする。

 

 なんとなく、そう考えてしまうのだ。

 不破や太郎が居ない所為かもしれない。彼らは現在、飛空船に外務省の役人を乗せて扶桑国へ向かっていた。

 ただ、今までも一人で居た事はよくあった。一体なんだろうか?

 

「……考えてもしょうがないの」

 

 そう口に出して、守人は待機している巫女らを呼び、次の仕事へ取り掛かった。



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第20話

遅くなりました。
楽しんで頂ければ幸いです。


 仄暗い地の底に、一人の絶世の美女がいた。

 

 腰まで伸びた銀髪は艶やかで、ガラス細工の様に精細で整った顔立ち。今は緑瞳をわずかに細め、微笑を浮かべていた。細くたおやかな肢体は滑らかな曲線を描いており、その人外の美しさは見る人を魅了する。

 

 冥府の神・ハーディ。

 

 今回の騒動の発端は、元を辿れば彼女が起こしたものであった。

 

 <門>を開ける前まで、ファルマート大陸の世情はガチガチに凝り固まっていた。ヒト種の、ヒト種による国家である<帝国>によってファルマート大陸全域をほぼ支配下に置き、歴代の皇帝と元老院によって安定した世情を造り出していた。

 

 それは変化が無く、起伏も無い単調な物語でしかない。故に見ていてもつまらない。

 だから<門>を開いた。物語が少しでも面白くなるようにと願いを込めて。

 

 そして、世界はハーディの期待以上に揺れ動いた。

 

 <門>が繋がった先は、<帝国>なぞを遥かに超える国家、日本。

 そして日本のある世界は、人間達が示した可能性があった。

 

 天を衝かんばかりの摩天楼群に、ハーディすら全く知りえない未知の機巧。

 世界の仕組みを飽くなき探求心で追求していくその姿勢。先人達が積み重ねていった知識と機巧で持って更に突き進む。

 その過程で膨れ上がった欲望で戦争も起きた。だが、一つの王国の継承権を巡って百年もの間争い続けたり、たった数年間、世界規模で起きた戦争で数千万人もの人間が死んでいったという壮絶さにはさしものハーディも絶句した。

 

 だが、戦争によって更に知識が蓄えられ、遂には人間が神にも頼らず、幻想にも頼らずに一部の原理を解明したのだ。闇夜を照らすようにと、地上に人工の星を創り出した。人工の翼で持って空を飛び、人工の身体を纏って海の底にも辿り着いた。

 更には、空のその先。宇宙と呼ばれる極限の世界までに人間は辿り着いた。そして、夜に輝く月や星にまでその足跡を記した。

 果ては、世界を滅ぼす事が出来る、人工の太陽まで人間は作り出してしまった。

 

 何という強欲さか。何という傲慢さか。

 神が人の営みに殆ど関わらず、人に任せた結果この様な世界が生まれるのかとハーディは感心した。その歴史は起伏に富んでいて、かつ予想もつかない様な物語になっている。非常に面白い。

 

 だが、この世界には日本、そして彼の世界は劇薬だ。流石に世界を滅ぼせる機巧は危険過ぎる。人にとっても、そして正神であっても。また<門>による弊害も出始めていた。

 

 暫くぶりに楽しめたし、<門>の弊害も出ているようだから閉めましょうか。

 ハーディはそう判断し、手持ちの中でも適当なもの――炎龍を叩き起こし、<門>を破壊させようとしたのだが、ここで予想外の事が起きた。

 

 扶桑国の連中が動いたのである。結果、龍神によって炎龍は倒されてしまった。

 彼らが動くのはいつも唐突であり、そう珍しくもない。そして自国内だけでなく、定期的に世界を回っては各地で様々な出来事を起こす。

 

 人々に手を貸す彼ら。時には寒村からの一大都市化。時には人に手を貸して共に邪悪なる古代龍と戦う。時には神とヒロインによる恋愛模様。

 これらは新しい神話であり、また神の加護を受けた英雄の物語でもある。悠久の時を過ごすハーディには一番の娯楽であった。

 かつて、試しに自分もと良さそうな人間を選び出し加護を与え、試練をこなす様に仕向けたが、今一面白く無かった。選ばれた英雄が試練をこなしていく物語も中々悪くないのだが、彼らと彼らが選んだ名役者による笑いあり涙あり、そして複雑に変化する物語には到底及ばない。

 

 ハーディから見て破天荒な物語を紡いできた世界と、この世界の名役者達。

 この二つが合わさるとどうなるのか、見てみたくなってしまった。既に<門>の弊害や、やられた炎龍の事なんてどうでも良くなったのだ。

 

「でも、このままだと少し物語の変化の幅が小さいわねぇ」

 

 日常回も嫌いではない。だが、それが続くとだらけてしまうし、何よりハーディが好きなのは英雄が活躍する物語だ。

 幾多の困難を乗り越え、最後に悪を倒し、そして世に平和が訪れるハッピーエンド。そんな話が好きなのである。

 

 このまま二ホンとフソウの関係が進めば<帝国>は簡単に倒れてしまうだろう。鎧袖一触、赤子の手をひねるように。それに、今では講和を結ぼうとしている。これは物語として面白く無い。

 

「うふふ、それなら――」

 

 これは名案だ、とばかりにハーディは忍び笑いを漏らす。

 そして子供の様に無邪気な笑みを浮かべながら、自身の可愛い使徒に呼びかけるのであった。

 

 

   ***

 

 

 <帝国>、帝都。

 その南東門一帯に広がる貧民街。通称「悪所」。

 

 この悪所は裏の人間、ようするに悪党共の巣窟となっている。出所先の怪しい代物や禁制物、奴隷、果ては無頼者の貸し出しなど何でもござれなヤバい場所であった。

 だがそれ故に人の出入りが激しく、風体の怪しい者がいても誰も気には留めない。それが日常であり、下手な詮索をすれば死ぬだけだからだ。

 

 この悪所に、日本・扶桑の両国が少数かつ精鋭を送り込んでいた。

 日本国は既に帝都に菅原を始めとする文民達を送り込んでおり、その活動の支援をする為の活動拠点を確保しようとしていた。そのうちの一つとして、隠蔽率が高く金さえあれば大概の事が出来る悪所に拠点を置こうとしたのだ。

 

 扶桑国も同様である。日本へ協力しておけば協調関係も強まる。それに、日本でも最高戦力と謳われる特殊作戦群の能力を見ておきたかった。後は<帝国>は隣国(と言っても、日本国―アメリカのように遠く海を隔てているのだが)である。情報を集めておいて損は無いと考えていた。

 

 それ自体は別に問題無かった。だが日本側の予想を超え、扶桑国は過激だった。

 

 この時、悪所には四人の顔役、ゴンゾーリ、メデュサ、パラマウンテ、ベッサーラといった連中が鎬を削っていた。

 これらは今後の活動には邪魔である。悪は断つべし。故に、扶桑国は悪所で自由に動き回れるようにこの四人の顔役の排除を始めた。

 

 その一つ、ゴンゾーリの屋敷。

 悪所において権勢を誇り、毎日のように金、酒、女と人が思いつく限りの享楽を行い、贅を凝らした屋敷の中は一変していた。

 何時もの、楽師たちによる音楽や笑い声、矯声は無く。代わりに何かが割れるような音、にちゃりと粘りつく様な足音、そして呻き声に満ちていた。

 屋敷の中はどす黒い血に塗れ、辺りに両断された人の塊が散乱していた。

 

「こッ、降参する! だから、命だけは――」

 

 鉄臭い部屋の。人の身体と武器が散乱する血だまりの中で一人の男が青褪めた顔で命乞いをしていた。悪所の顔役の一人、ゴンゾーリであった。禿頭から脂汗をだらだらと流し、長年の享楽で肥した贅肉をプルプルと震わせている。豪奢な服は血を吸ってぐちゃぐちゃになっているが、気にも留めずただひたすら頭を下げ続ける。

 

 ゴンゾーリの前には、この屋敷を襲撃した濃紺の武者が佇んでいた。

 相州正宗であった。

 その仕手である綾弥は、蔑んだ目で目の前の男を見ていた。

 醜い。この街でも一等の悪党と聞いたが、これは違う。ただの畜生でしかない。だが、悪ならば断つべし。

 武者は、そのまま片手に持った太刀を横に払う。そして、土下座したままの顔役だった男の頭がぽとりと落ちた。残った胴体から壊れた水道管のように血を撒き散らし、濃紺の装甲にも飛び掛った。

 

<ふん、醜いものよ。それに、畜生の血で汚れてしまったではないか>

「……ああ」

 

 綾弥は太刀を血払いし、納刀。装甲を解除した。荘厳な武者は蒼髪の少女と天牛虫にと変わる。

 

「ほっほ、随分とまあ、暴れたものよぉ」

 

 そこに、しゃがれた老爺の声がかかった。現れたのは、忍び装束を纏い、笑みを浮かべた妙齢の女性。風魔であった。

 

「何しに来やがったんだ、てめぇは」

「ほっ、大鳥殿も排除を終え、自衛隊も成功させたのでな。各所の様子を見て回っているのだよ」

 

 ころころと笑いながら説明する風魔。

 

「しかしまあ、凄まじいものよ」

 

 風魔は部屋の中を見渡しながら、変わらない口調で言った。

 散乱した家具に武器。部屋中に転がるゴンゾーリらの死体。むせかえるような血と排泄物の臭い。 

 中々に地獄であると、風魔は笑う。

 

「だが、惜しいなァ」風魔は言った。「儂は悪所(ここ)を纏める頭領になる事が決まっておるのでのぅ。この屋敷は特に豪勢であったからここを拠点としようと思ったのだが。いやはや、これでは無理か?」

「……別に掃除すりゃいいだろ。それに他の屋敷かそこらのボロ屋でも良いじゃねぇか」

「ほっ。他の屋敷も此処と負けず劣らずな惨状なのでなァ。ベッサーラの所に関しては自衛隊に爆破されて瓦礫しか残っておらんわ。あと、ボロ屋では詰所代わりにもならん。となると、まず情報収集の前に屋敷の掃除からしなくてはならないとは。いやいや、雇われの悲しいところじゃのぅ」

 

 よく言う、と綾弥は悪態をついた。

 風魔が悪所の頭領になるのも、こういった裏に慣れているからである。それに定期的に報告さえすれば、悪所での売上は好きにして良いとなっている。

 貧民街とはいえ、此処はファルマート大陸を支配する<帝国>の帝都にある。当然、金の流れも大きい。その街を支配出来るとなれば、莫大な資金を手に入れられる事になる。

 それを考えれば、屋敷の掃除なんぞ大した手間では無いだろう。  

 

「だが、分かっているんだろうな。もし『悪』を為せば――」

「おお、怖い怖い。儂も不必要に締め上げる事はせんよ」

 

 再び剣呑な雰囲気となった綾弥と正宗に対し、おどけた口調で返す風魔。

 その姿に「チッ、相変わらずふざけた野郎だぜ」と綾弥は舌打ちする。そして踵を返し、正宗と共に屋敷を後にした。

 残った風魔は再び部屋を見渡す。

 

「さて、取り敢えずは掃除じゃの……」

 

 だが、と風魔は窓から外を見やった。

 

「相変わらずの方向音痴じゃな。今回は何日で戻ってこれるかのぉ……」

 

 既に仮拠点と真逆の方向へ向かっている綾弥と正宗。

「この道は違うぞ御堂!」と必死に叫ぶ正宗。

「うるせー! こっちであってんだよー!」と言い返してどんどん見当違いの方向へ進む綾弥。

 

 その様子を見て、風魔は呆れたようにため息をついた。

 

 

   ***

 

 

 街の外れにある、守人の工房。

 

「なぁんだかぁ、少し退屈ねぇ」

 

 守人が用意した焼菓子や茶を飲みながらロゥリィは呟いた。何時もならテュカやレレイの姿もあるのだが、テュカはユノら同郷のエルフ達と共に森の巡回。レレイは老賢者カトーと魔術の鍛錬に出ているためいなかった。

 そういう時は伊丹にちょっかい出す事もあるのだが、いま現在、伊丹ら第三偵察隊が第一偵察隊との交代で外務省の役人と共に帝都へ向かっていた。

 

「そう思うなら、儂の工房でだべっていないで巡回でもしてきたらどうだ?」

 

 作業台に乗せたハルバードの調整を行っていた守人が言う。時折、琥珀色の瞳をすぅっと細め、爪先で刃の具合を確かめていた。

 ロゥリィのハルバードは、「匠精」モーター・マブチスという特地では高名なドワーフが鍛えた逸品である。素材も神鉄と呼ばれる、これで鍛えたものは絶対に壊れないと言われている。

 そんなハルバードの調子がここ最近悪いと聞き、守人も今では鍛冶神ダンカンの使徒になった者の作を兼ねてより見たいと思っていたので、調整を引き受けたのだ。

 

「休憩中よぉ。それにぃ、ジエイタイやフソウ国の警備もいるしぃ、ミューティやウォルフ達も働いているからわたしぃが巡回しなくても大丈夫だものぉ」

 

 小物ばっかでつまらないしぃ、とロゥリィは呟く。

 

「仕方なかろう。金儲けの噂を聞いてやってきたら兵だけでなく、剣歯虎(サーベルタイガー)や翼竜までいる。そこにお主の事を聞いたら普通の奴ならばまず逃げるわ。残るのは馬鹿しかおらんよ」

 

 アルヌスの街は自衛隊に扶桑国の兵、それに雇われた傭兵が巡回しており、過剰なほどの戦力がある。

 最も、扶桑国行きの飛空船の護衛、帝都での活動、日本での外交と分散している為、当初より戦力は減っているが、盗賊共には何の慰めにもならなかった。

 

「おい、なんだこりゃ、何に使った? 最後に調整したのは何時だ?」

「炎龍にぶん投げた所為かしらぁ。調整はぁ、そうねぇ、モタに作ってもらってからわたしぃが手入れしているだけよぉ」

「馬鹿者、定期的にモタに頼んで調整はしろ。疲労が蓄積して刃と重心が僅かに歪んでおるわ。ほんに、馬鹿力で使いおって……」

 

 もちっと大事に使え、と守人はぶつくさと文句を呟きながら炉を開け、ふいごを踏み、骸炭(コークス)を大量に投入して鍛冶炉の火を強くする。炎龍素材を使用した炉は直ぐに高温となり、部屋の中の温度が急激に上がる。

 炉から離れている筈のロゥリィも、炉から漏れ出す熱気を受けて額に薄っすらと汗を浮かばせた。

 

「他人の作に手は入れたくないのじゃが、仕方ない。一度軽く火を入れて叩き直す」

 

 ハルバードに付けられた装飾を全て外し終えると、平然とした表情で守人は鍛冶炉を前に座りこみ、ハルバードを炉の中に突っ込む。

 赤熱し、ハルバードの刃が白く輝くようになると引っ張り出し、歪んだ箇所を鎚で叩き、修正していく。そして特殊な湧き水を貯めた水槽へと投入すると、中で刃身が暴れ、白い水蒸気が沸き上がる。そして直ぐにまた叩き、直していく。

 そして水砥でハルバードの刃先を研ぎ直すと装飾を付け直し、終了である。

 

「ほれ、これでいいじゃろ」

 

 ロゥリィはほのかに温かいハルバードを持ち、軽く素振りをしてみる。歪みが無くなった為か、前よりも軽く感じられる。弧を描く軌跡は思い通りに動かせられる。

 動作を行い終えると、満足げな表情で頷いた。 

 

「いいわぁ、すっごく良いわぁ。まるで新品みたいよぉ」

「そりゃ、元の造りが良かったからの。流石「匠精」の作というべきか、調整も楽だったよ」

 

 言いながら炉を閉めて火を小さくし、換気を始める。使った道具を丁寧に磨き、片付けに入っていた。

 

「そういえばぁ、ちょっと聞きたいんだけどぉ」ロゥリィが訊ねる。

「どうしてぇ、ハーディは<門>を開いたのかしらぁ?」

「退屈になったからじゃろ」

 

 ロゥリィの疑問に対し、あっさりと答える守人。それ以外何があるんだ、という様な口調だった。

 最後に<門>が開いたのは千年近く前の事。ロゥリィが生まれる前の事である。

 

「あの時の一件でハーディも懲りたらしいがの。まあ飽きっぽいハーディにしてはもった方じゃな」

「へぇ。その時は何処に繋いだのぉ?」

 

 何となく気になったロゥリィが訊ねると、守人は作業の手を止め、その顔をじっと見つめる。

 

「…………どうしても、聞きたいか?」

 

 片付け作業をピタリと止め、何時になく真剣な表情で守人が言った。その雰囲気に何か嫌な予感がしたが、ロゥリィは小さく頷いた。

 守人は目を瞑った。眉を揉む。暫くして軽く息を吐くと、口を開いた。

 

「昔、ハーディが<門>を開いた先が、何というか、昆虫の世界でな……」

「えっ?」

「人並みの大きさをした様々な虫が、<門>からウジャウジャと……」

 

 蜘蛛やら蜈蚣やら御器噛など。それが人並みの大きさで次々に出てくるのだ。その光景に流石のハーディも顔を青くし、速攻で<門>を閉めたのだがかなりの数が此方の世界へ入ってきてしまった。

 守人が<門>を開いて異形の生物を引き込んだ時の記憶がある為、人間だけでなく、あの時の様な被害を出さない様にと正神や亜神らが集まって駆除に当たったのだ。

 虫はさほど強くは無かったが、見た目が気持ち悪いうえに繁殖力は強いわ、潰した際の感触に背筋が寒くなるわ、体液が飛び散るわで精神的にやられる者が多かった。その為、当時を知る者達の間では二度と思い出さないよう禁句扱いになっている。

 

 そこまで聞いて、ロゥリィの顔はすっかり青褪めていた。カサカサと動き回る巨大なGを想像して気持ち悪くなったらしい。

 

「まあ、そのお陰でハーディが<門>をやたらめったら繋ぐ事もしなくなったし、今回は良い所に繋いでくれたよ」

「でもぉ、わたしたちぃの仕事はこの世界の調和を守るぅことよぉ? わたしたちぃは世界という樹の庭師。好ましからざるぅ枝や木の芽は刈り取らなければならないわぁ」

 

 ロゥリィの言う枝や木の芽とは知識や技術の事だ。この世界では調和が崩れないようにと(一部を除き)正神や亜神らが動き回っている。ロゥリィからすれば、今までの常識を覆す日本の知識や技術は好ましくはないのだ。

 

「ふむ」と、守人は顎を擦りながら、

「アイスクリーム」

「うっ」

「クレープ」

「ううっ」

「果物と生クリームがたっぷり乗った生ケーキ」

「うううッ!」

 

 日本から持ち込まれた甘味を思い浮かべ、葛藤する庭師。

 守人は棒読みで言い続ける。

 

「ああ、世界の調和を取るならこの甘味も食べられなくなるなー。あー、でもしょうがないよなー。世界の調和の為だもんなー」

「うううッ」と、ロゥリィは恨みがましそうな表情で守人を睨む。

「カカッ、悪い悪い」笑いながら守人は言う。 

「まあ、そこまで調和、調和と考えなくてもよいぞ、ロゥリィ。どの道、技術や知識がこの世界に馴染むには時間がかかるからの」

 

 自衛隊が使用している装備は、この世界の技術では生産は不可能である。

 例えば、ネジの大きさ、重さ、品質、精度。どれも同一の規格で作らなければならず、大量生産する為の機材が必要になる。そして工員の教育や知識も必要になる。

 それ程まで技術と知識が隔絶しており、真似も出来ない。作れても銃器としては初期となる燧石銃(フリントロック・ライフル)が良い所だ。これでも揃えるのに相当な金と時間がかかってしまう。

 ファルマート大陸から見れば扶桑国の知識や技術も好ましくはないが、これはある目的のために例外的に見られている。

 

「ま、調和だけでは意味が無いんじゃよ。調和が過ぎればそれは停滞となり、腐敗へと繋がる。世界という樹も腐ってしまう。<門>が繋がったのを枝を伸ばす時と考えるべきなんじゃよ」

 

 それに、と守人は少しばかり品の無い笑みを浮かべる。

 

「<門>が開かなければお主の良い人にも会えなかったじゃろ」

 

 それはまた違う話よぉ、とロゥリィは顔に朱を差して言い返す。

 反応が良いからなんかちょっと楽しい。

 

「もぅ、そろそろ仕事に戻るわぁ」とロゥリィは拗ねた口調で告げる。「ハルバード、有難うねぇ。お代はこれでいいかしらぁ?」

「ふむ、確かに」

 

 ロゥリィから代金を受け取り、退出した後、守人は一人思案する。

 

「しかしまあ、あの死神ロゥリィが此処まで変わるとはのぅ……」

 

 これが若さなのか、と守人はちょっとズレた感想を持った。 

 守人が出会ったのはまだロゥリィが亜神になったばかりの頃だ。しかも、盗賊共からエムロイへの〝喜捨〟を頂いている最中だった。まあ、そこからなんやかんやで暫く旅を一緒にしていたのだが、その時から物騒な噂や逸話が多くあった。

 その所為なのか、今まで誰かに執着せず、眷属も持とうとはしなかった。それが、此処にきて一人の人間に執着するようになった。

 良い事だ。これで眷属も持ったら安心できる。これから永い時を過ごすには、後にそういった思い出が必要となって来るのだ。

 

 まあ、それはさておき。

 

「日本、帝国、扶桑、そしてハーディ。色々とあるが、どうなることやら……」

 

 この発言でフラグが立ったのか、これより守人の予想を超えた出来事が起きることとなる。

 



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第21話

ようやく投稿です。色々と悩みましたが、このような話になりました。
楽しんで頂ければ幸いです。

※注意
今話は低俗で下品な話を含みます。人によっては気分が悪くなります。苦手な方はご遠慮ください。


 深夜、特地にて発生した地震。

 震度三か四程度。日本に住んでいる者なら「少し揺れたか?」やら「大した事ないね」で済む話である。

 

 だが、この世界では違う。

 この世界では地震というものは殆ど発生しないものだ。ファルマート大陸で最後に地震が起きたのは千年近く前だし、扶桑国でも滅多な事で地震は起きない。

 故に、地揺れというのは火山での噴火の際に起きる位で、「地震が起きるかもしれない」と連絡を受けても自衛隊と一部の者以外は「はあ? 何言ってんの?」というような感じであった。

 それでもアルヌスにいる者達は運が良かった。守人と説明を受けたロゥリィ(といっても、半信半疑だったが)の一声で深夜にも関わらず事前に避難する事が出来た。こういう時は神様という肩書は物凄く役立つのだ。

 

 だが、他の地域はどうしようもなかった。 

 現地の自衛隊が避難誘導出来る人数にも限界があるし、説得も難しい。そして耐震基準なぞあるわけもなく、家屋の倒壊も起き、混乱と被害が出てしまう。

 

 そして、帝都では。

 

「揺れる? また揺れるのか!?」

「ええ、揺り戻しと言うんですが、まあさっきと同じぐらいの揺れが起きますね」

 

 大した事ないでしょ? と朗らかに言う伊丹。対して、伊丹から地震についての説明を受け、顔を真っ青にするピニャ皇女とハミルトン。あと護衛兵にメイド達。彼女も伊丹らから地震が起きると聞き、そんなはずは無いと思いつつも避難していたのだ。

 ピニャは初めて経験する地揺れに未だ身体の震えが止まらなかった。不安なのだ。今まで大地は不動である、その考えが絶対であった為、己が立っている場所がまるで崖上に立っているような、不安定な場所に思えてしまったのだ。

 

「あら、伊丹二尉。また揺れるのですか?」

 

 そう訊ねたのは扶桑国の軍人、大鳥大尉であった。

 日本で買ったという白のブラウスに黒のロングスカートという服装で、いかにも深窓の令嬢然とした長身の女性である。桃色の長髪が艶やかで、常に笑みの形に細まっている眦が特徴的だった。身体は日本人離れした曲線美を描いており、大振りのコントラバスケースを背負っていた。傍には、彼女個人の侍従である質素な身なりをした老婆、さよが控えている。

 近くには綾弥と正宗の姿もあった。不貞腐れた顔で腕を組んで立っている。二人は迷子(綾弥本人は「迷子じゃねー!」やら「三次元世界を二次元に矮小化する地図というものに科学的義憤を感じる、云々」などと言って思いっきり否定していたが)だったのを避難中だった伊丹らが保護したのだ。

 

「はい。大尉。あまり驚いていらっしゃらないようですけど……」

「いえいえ、これでも驚いていますわよ。地震なんて、初めての経験ですもの。ねえ、さよ」

「はい、お嬢様。私も初めての経験でございます。火山地帯では、噴火の際に地揺れが起きるとは聞いておりましたが、これ程とは思いませんでしたねぇ」

 

 全く普段通りの主人と侍従に「本当に驚いているのかね」と内心疑問に思う伊丹。

 

「こ、こうしてはおられん! 直ぐに皇帝陛下の元に行かねば!」

「あ、そうですか。ではいってらっしゃい」

 

 ピニャに向かってひらひらと手を振る伊丹と大鳥。「え?」というような表情で固まるピニャ。

 

「つ、ついてきてはくれぬのか……?」

「それは不味いでしょう。我々が、皇帝陛下の元に行くのは」

 

 外務官の菅原が言う。

 てっきり一緒に来てくれるものだと考えていたピニャだが、まあ普通に考えれば現在講和交渉中とはいえ、伊丹らは敵国の兵である。皇帝陛下の元へ行くのは流石に不味い。

 だが、また地震が来た時に伊丹らが居ないと怖い。

 

 結局、地震の恐怖から傍にいて欲しいと願ったピニャと護衛兵とメイド達によって、伊丹らと大鳥らは<帝国>皇帝モルトの元へ行く筝になった。

 

 

   ***

 

 

 皇帝モルトにピニャは地震がまた起こると報告し、日本国の自衛官や扶桑国の軍人らを紹介するまでは悪くない雰囲気だった。だが、廊下からの大音声が響き、部屋に男が入って来た事で一変する。

 

「父上、父上ッ、ご無事です――」

 

 瞬間、男の身体が吹き飛んだ。顔を殴られたのだ。殴ったのは、蒼髪の小柄な少女。綾弥である。 

 

「このクソ野郎が、何て事してやがる」

 

 綾弥が男を殴り飛ばしたのは、男の後ろに黒髪や金髪、赤毛、白いヴォ―ニアバニーの、裸の女性たちが引き摺られていたからだった。女性たちには首輪がついており、鎖が男の手にあった。女性たちは息も絶え絶えで、生きているのかどうか、心配なほどだった。

 

「クッ、この無礼者め! 皇子殿下に手を上げるとは、一族郎党皆殺しの大罪である!」

「ああ? うるせぇよ、クソ野郎ども」

 

 殴り飛ばされた男、ゾルザルの取り巻きが一斉に剣を抜き、綾弥に向けて切っ先を向ける。

 一触即発の雰囲気になり、菅原や伊丹ら自衛官も身構える。

 

「あッ、綾弥殿、何を――」

<御堂よ、女子らの首輪は噛み切ったぞ!>

 

 ピニャの呼びかけを遮る様に、正宗の声が響いた。何時の間にか女性たちを全員避難させていた。自由になった女性たちの一人の傍には訝し気な表情になった大鳥とさよがおり、容体を見ていた。

 

 これは、どうするべきなのか。何とか事態の収拾を図ろうとした日本側も次の瞬間、顔色を変える事になった。

 

「日本語、自衛隊? 助けに、来てくれたんですか……?」

 

 その女性に慌てて栗林が駆け寄り「陸上自衛隊よ。もう大丈夫よ」と優しく声を掛けていた。その言葉に滝の様に涙を零す黒髪の女性。

 確定、である。

 

「どういう事ですか、ピニャ殿下。何故、我が国の女性が奴隷としてここにいるのですかな?」

「私からも少し、お尋ねしたいのですが」

 

 菅原は辛辣な笑顔を浮かべて。

 長い黒髪の少女の様子を見ていた大鳥は普段と変わらない、柔らかい笑みを浮かべた顔だった。

 

「何故、我が扶桑国の武家、岡部家の娘である桜子様が、そこの皇子殿下とやらの奴隷となっているのでしょうか?」

 

 瞬間、ピニャは血の気が引いて真っ青になってしまった。

 最悪だ。日本国だけでなく、扶桑国まで敵に回ってしまったと理解したのだ。

 

(不味い……、ジエイタイのジュウですら厄介なうえにフソウ国のツルギまで持ち出されたら<帝国>は終わりだ! いや、下手すれば三神の怒りを買う事になるぞ!)

 

 ピニャは扶桑国について、出来る限り調べていた。武家とは、この国の貴族に当たる存在。また彼の国には奴隷制度は無い。そして、劔冑の恐ろしさは分かっているつもりだった。

 とにかく、せめて皇帝だけは守ろうと玉座の前に立ち、場の収拾を図る。

 

「双方、武器を収めよ! これは何かの手違いじゃ。妾の顔に免じて――」

「もう遅いわ、ピニャ。こ奴らの国の運命は決まった! ここでお前らを殺し、国王から民に至るまで全て殺し、壊しつくしてくれるわッ!」

 

 倒れた姿勢のまま、ゾルザルは吠えた。

 ゾルザル側の取り巻きは15人。対して、自衛隊と扶桑国は7人。数の差もあり、半数以上が女である。ゾルザルからすれば負ける筈が無いのだ。

 じりじりと寄ってくる取り巻きら。目を座らせた伊丹は懐から拳銃を取り出す。

 

「栗林、富田。構わない。自分の判断で撃って良し」

 

 二人は小銃の安全装置をレ(連発)に切り替えた。更に栗林のみ着剣し、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「あらあら、これはいけませんねぇ」

 

 いつも通りの調子で、大鳥が言った。細く白い指を顎に当てる。

 

「<帝国>と戦闘になったと言ったら上の人達、きっと怒るんじゃないでしょうか」

「お嬢様、もう手遅れでございます」

「ふん、女。今更悔やんでも遅いぞ」

 

 ゾルザルは大鳥の身体を上から下まで舐め回す様に見やる。

 

「見た目も身体も悪くないようだな。そうだな、今直ぐ命乞いすれば助けてやるぞ?」

「………」

 

 これに大鳥は呆けた表情になる。そして直ぐに傍らのさよに訊ねた。

 

「ねえ、さよ。今、なんて言われたか分かる?」

「ええ、お嬢様。訳すれば、今直ぐ裸になって『貴方の性奴隷になります。許してください』と土下座すれば命は奪わない。そう仰られました」

「あら、そうなの?」

 

 さよの説明を聞いた大鳥はゾルザルに顔を向ける。

 

「ごめんなさいね。私、異種姦とか獣姦とか知っていますけど、普通に人間が好きですもの」

「憚りながらお嬢様。あの皇子殿下は分類上はヒト種でございます」

「あら、さよ。そうだったの? 私ったら目が悪くなったのかしら?」

 

 わざわざこのやり取りをファルマート大陸の言葉にして大きく言うあたり、性格が悪い。

 ゾルザルは憤怒の余り、声が出なくなっていた。蟀谷に青筋を浮かべ、身体をわなわなと震わせていた。

 

「ったく、いつまで漫才やってんだ」

 

 綾弥が呆れた口調で言った。拳を鳴らし、肩を動かす。

 

<御堂よ、装甲はするか?>

「いい、雑魚しかいねーし。素手で十分だろ」

 

 この言葉を合図に、戦闘、いや死の舞が始まった。

 

 まずは、栗林と綾弥から始まった。

 

 栗林は突進してくる兵たちを俊敏で軽快な動きで避けると、まず一人目。盾を構え、剣で突き刺そうとしてくる兵の攻撃を躱すと銃剣でその首筋を斬りつけた。そのまま新たな目標へと躍動する。まるで鈍器の様に銃床を振りかぶって叩き付け、態勢が崩れた所を首に刺突する。

 

 もう一方、綾弥は突進してきた半裸の大男に合わせる様に踏み込み、伸びてきた右腕を掴んで背負い落とし。頭を床に叩き付ける。そして次の目標に移る。敵の目前で沈み込み、肝臓へのフック。そして崩れた男の耳に左手を叩き付ける。

 

「グフッ……!」

 

 そして脚を払い、仰向けに転倒させると胸板を踵で踏みつけた。ゴキリ、と骨が砕ける音。男はか細い声をあげて動かなくなった。

 

「くッ、全員でかかるんだ!」

 

 瞬時に4人がやられると取り巻き達は密集し、それぞれの獲物を構える。

 

「あらあら。では精一杯おもてなしをしませんといけませんね」

 

 言うや、大鳥はスカートの裾を摘まみ上げる。露わになる白く美しい太もも。

 そして、大量の銃器。日本に行った際、襲撃してきた工作員から頂いたものだった。

 

「え?」

 

 背中のコントラバスケースから多数の糸が伸びて銃器に絡みつく。気付いた綾弥は巻き込まれない様に大きく下がる。

 

「バロウズ、〝調弦(チュー二ング)開始(スタート)……」

 

 大鳥の笑みが深まる。銃器が宙に浮き、それぞれに照準が合わさる。

 距離を取った栗林、そして伊丹と富田もそれぞれ拳銃と小銃を構えた。

 

「では、皆さま。さようなら」

 

 そして、引き金が引かれた。

 連続して起こる轟音。銃口から火花が散る。

 火箭をまともに受けた取り巻き達は全員、穴だらけになり、血を吹き出して倒れ伏した。

 

「な、あ……!?」

 

 呆けた表情で、取り巻き達が全滅したのを見るゾルザル。

 モルトも口には出していなかったが、表情に驚愕を露わにしていた。ピニャは止められなかった事を悔やみ、惨状から顔を背けていた。

 

「――では、静かになったところで話の続きをしましょうか」

 

 銃撃を終え、硝煙と血の臭いが充満する中。何事も無かったかのように、大鳥はにこやかな笑みでゾルザルへ言った。

 

「何故、我が国の者が貴方の奴隷となっているか、お答えくださいませんか?」

「ふ、フンっ。無礼者め。答えて欲しいなら、誠意をもってお願いするんだ、が、あッ!?」

 

 この状況でもなお、ゾルザルは虚勢を張った。惨状には確かに驚いたが、自分は<帝国>皇子。殺されないという考えがあった。だが、そんなもんに付き合う気のない大鳥は拳銃を抜くや一発、ゾルザルの耳にぶちかました。

 

「貴方が言って良いのは、私が訊ねた質問に対しての答えのみです。ああ、周りの方も動かないでくださいね。手元が狂ってしまいそうですから。あと、別に貴方が死んでも私は一向に構いません」

 

 ――試してみますか?

 

「ひっ、ひいぃぃ……」

 

 ゾルザルは溢れ出る血と激痛のあまり耳を抑え、うめき声を上げて蹲った。 

 その様子に顔を青くしながらも、綾弥と正宗の後ろから「ひ、裕樹は、ねえ裕樹はどうなったの?」と紀子が口を挟んだ。恋人だという。銀座で捕まって兵に馬車に押し込まれる際、他にも一人日本人が居たという。

 

「あの、早く答えてくれませんか?」

 

 容赦無く二発目。今度は右太ももを撃った。絶叫が響く。

 誰も止めに入らなかった。

 日本側は他の日本人の情報を聞き出そうとしていたし、何よりまだ怒りが薄れていなかった。

 先程の惨状で、メイド達は隅でガタガタと震えるしかなかった。護衛兵も顔を青くして動けなかった。皇帝とピニャも先程の大鳥が言った内容から、自分たちにも銃を向けられると分かったからだ。

 事実、大鳥は糸で釣り上げた小銃を何時でも撃てるように辺りに向けていた。大鳥の背後で白兎のような女性が動こうとした際にも、まるでその動きが見えているかのように小銃が追尾した事から、誰も動こうとはしなかった。

 

「か、買った! 買ったんだ! フソウ国とかいう国の商人だとかいう男から、サクラコを買ったんだ!!」

「で、他には?」

 

 ガチャリ、と拳銃を操作する大鳥。銃口を向けられるとビクつき、怯え始めた。

 

「ひっ、ほ、他にはいない! あ、に、日本人なら、男だけだから奴隷市場に流した! 後は知らん!」

「そうですか」

 

 大鳥は軽く頷くと吊るしていた小銃を仕舞い、そして拳銃を下ろし始め――、ゾルザルの股間を撃ち抜いた。

 数瞬後、それを認識したゾルザルは奇妙な絶叫を上げ、そしてぷっつりと糸が切れたように倒れ伏した。

 

「お、皇子殿下ッ!?」

 

 そこにようやくやって来たマルクス伯を始めとする大臣や将軍たち。そして近衛兵。彼らはゾルザルが奇声を発して倒れるのを見て、そして広間の惨状に絶句した。

 陰惨な光景。血の池になった広間。そこに浮かんでいるのは多数の穴だらけになった死体。血と臓物の臭い。

 誰もが見れば顔を背けたくなる地獄なのに、それを成したと思われる集団は顔色を変えずに「では、帰りましょうか?」と暢気な声を上げていた。

 

「ま、待て、貴様ら!」

 

 慌てて将軍が号令をかけ、近衛兵が抜剣して盾を構える。

 

「やめよ!」

 

 皇帝の声がそれを止めた。此処で更に死体の山が築かれてしまうのは避けたかった。

 

「二ホンのスガワラ殿、そして、フソウ国のオオトリ殿。確かにそなた等の国は強い。だが、弱点がある。民を愛しすぎる事よ。それでは高度な文明を誇っていてもいつか疲弊し、蛮族の手によって敗れるであろう」

 

 モルトの言葉に菅原と大鳥は応じた。

 

「ええ、そうでしょう。ですが我が国はそれを国是としております。お試しになられますか?」

「我が国は外との戦争を望まない平和な国ですの。ですので、戦争は嫌いですわ。平和な事が一番です。ですが、仮に何か有れば、かつてのこの大陸の東方諸国が負けた時のような事が起きるでしょう」

 

 あれは事実だったのか、とモルトは眉唾物だと思っていた扶桑国の逸話を思い出した。同時に、あのような()が有れば瞬く間に負けても当然であると納得したのだ。

 事実はもっと凶悪な兵器なのだが、モルトにはそれが分かる筈も無かった。

 

「なんの、そなた等に抗せるはずもない。和平交渉を進めるが良かろう」

「皇帝陛下、貴国と我が国は現在講和交渉中ですが、未だ戦争中でございます。交渉中に、帝都を失う事を恐れていただきたい」

 

 交渉の引き延ばしも出来ない、と分かりモルトは舌打ちする。

 

「成程、だが後で――」

 

 モルトが再び口にしようとした瞬間、伊丹らが言った通りに再び地震が発生する。

 天井からは漆喰が粉となって落ちる。

 再び襲った恐怖にモルトは顔を真っ青にして玉座に座り込み、やって来たばかりの大臣や将軍、近衛兵も蹲ってしまう。

 

 そんな中を、日本国と扶桑国の面々はゾルザルの奴隷全員を引き連れて皇居を後にしたのだった。

 

 

 そして暫くして。

 

 

「やっべえぇ! どーしよ!」

「やっちまった、どう報告すれば……」

「あら、ヤった後は責任とるしかないのでは?」

「ああ、お嬢様が事後の興奮の余り頭がまともに」

「……なんだこれ」

 

 

 面々は本当にどうしようか、と頭を悩ませることになった。

 

 



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第22話

「で、どういう事だ?」

 

 アルヌスの、自衛隊本部にある会議室。

 そこは重苦しい空気に包まれていた。

 帝都で問題を起こした伊丹、そして大鳥とさよ、綾弥、正宗。

 

 着席した面々を前に、上座に座る守人は明らかな怒気を滲ませて訊ねた。

 傍から見れば、守人はいつも通りに微笑を浮かべている。だが目はハイライトが消えていて、笑っていない。それが恐ろしかった。

 

「えーと、その、陸将は……」

 

 恐る恐る、といった声で伊丹が訊ねる。背中から脂汗が止まらなかった。

 

「くっくっく。狭間陸将と菊池大使は今後の対策で手一杯でな。拉致被害者の事、帝都元老院への爆撃、そして皇子への暴行という大暴れで忙しくてなァ」

 

 答えるのは柳田二尉。ただ、非常に平坦な声で、顔には虚ろな笑みが浮かんでいた。このクソ忙しい中で、超ド級の問題が発生したら誰だってこうなる。

 

「えー、何処から何処まで話せばよろしいでしょうか?」

 

 大鳥が訊ねた。流石に少し顔色が悪かった。近くには憮然とした表情の綾弥がいた。

 事の発端の原因であり、また奴隷全員を連れて帰って来た張本人であった為に既に周りから小言を散々言われていたのだ。

 

「一から十まで全部だ。馬鹿者」

 

 さて、大鳥から詳しい内容を聞いたのだが。

 聞き終えた守人は苦虫を噛みつぶしたような顔に変わった。柳田は頭痛がするのか、蟀谷を抑えていた。

 

 明らかに暴れ過ぎである。

 皇帝の面前で皇子を殴り飛ばし、取り巻きを虐殺。そして皇子を不能にして皇子の財産である奴隷を全員連れて帰って来た。

 ここまで進めて来た講和交渉が、全部お釈迦になるかもしれない。しかもその原因が扶桑国の武者である。

 

「まあ、やっちまったもんは仕方ないの」

「そうですね」

 

 二人はあっさりと切り替える。重苦しい雰囲気が一気に消え去った。

 思わず拍子抜けする面々。自分達がやらかした事なのだが、「それでいいのか?」と思ってしまう。

 

「良いも悪いも何も、時間は巻き戻せん。今回の騒動は自国民の救助のため戦闘になった。それだけじゃな」

 

 そう言うしかないのだ。こちらが謝罪して相手に外交的有利を与えても駄目である。

 <帝国>の出方次第になるが、両国ともにうやむやの内に話を終わらせる気であった。

 

「いやァ、<帝国>が消えれば今の面倒な仕事も無くなるんですがねぇ」

 

 あっはっは、と嗤う柳田。イイ感じに壊れていた。

 これはいかんな、と守人が全員分の薬草茶を淹れてやり、差し出した。

 

「ああ、どうも。最近、この茶を飲んでいると妙に気分が良くなるんですよ。あっはっは」

「お主はとりあえず落ち着け」

 

 

 暫しの休憩。

 

 

「さて、冗談は置いといて」回復した柳田が言う。

「確かに、<帝国>の皇子と戦闘になったのは拙い。だが拉致被害者の救助の為となればある程度仕方なしという部分も出てくる。こちらの体面もあるしな。ま、上の方々からのお叱りの言葉ぐらいは甘んじて受けるんだな」

 

 陰気な面であったが、どこか楽しげな声音であった。

 そもそも、講和交渉は内閣、および外務省の主導だ。責任を被るとしてもあちらか、自衛隊の上層部である。

 体面を気にする上の人達が馬鹿正直に今回の一件を公表する筈も無く、「拉致被害者を救助する際に<帝国>の兵と戦闘となった」とだけ公表されるだろう。

 それに、先に動いたのは扶桑国であり、日本と<帝国>は未だ休戦をしていない。自国の民が不当に囚われている以上、敵国の兵と戦闘になっても仕方がない。そう言い張れる。

 

 要するに、自分に全く責任が無いのが分かったから「別にいいや」になった訳である。ついでに上の連中の席が空けば自分の出世もそれだけ早くなる。柳田的には万々歳な訳だ。

 

 そういった事情も露骨に出されて伊丹は嫌な顔になるが、まあ自分もお叱り程度で済むのだ。なら別に良いか、と早速だらけていた。

 

「扶桑国も同様じゃな。お主らは菊池から正式な沙汰が出るまで謹慎な」

 

 仕方ありませんわね、と頷く大鳥とさよ。綾弥はしぶしぶといった表情で頷く。

 

「で、連れ帰って来た彼女らの事だが」

 

 瞬間、部屋の雰囲気が引き締まり、誰もが真剣な表情へと変わる。

 

「かなり手荒に扱われていたようじゃの。衰弱している者もおるが、まあ安静にしておれば身体は治るとの事だ」

「そうか。じゃあ、退院したら彼女らの故郷に帰してやらないとな」

 

 輸送ヘリの中で彼女らの境遇などは聞いており、多くは無理やり拉致されたらしく、故郷に帰りたいと願っていた。

 

「それは無理じゃな」守人が言った。「あの者らの故郷が既に無い」

「……どういう事ですか?」

「言葉通りじゃよ。彼女らの故郷は帝国に攻められて滅んでおる。親族の生死は不明。またヴォ―リアバニーの女子はどうも事情が込み入っているようでな」

「あん? どういう事だ?」

 

 綾弥が訊ねる。テュ―レと名乗った白いヴォ―リアバニーの女性は「殿下の元に帰らないと」や「部族の未来が」と叫び、ヘリの中でも暴れたのだ。そのため、さよが侍従の嗜みとして持っていた鎮静剤を打たれて眠らされたので伊丹らは詳しい事は知らないのだ。

 

「街にいた同族の者に確認させたんじゃが、いきなり飛びかかって殺そうとするからちと大変でな。曰く、あの女子はヴォ―リアバニーの族長で、同胞を帝国に売り、国を滅ぼした裏切者。じゃが、本人に確認すれば自らを捧げる代わりに国と一族に手を出さないという契約を皇子と交わしたそうじゃ。で、その族長らしい女子は嘘をついていない。

 つまり、皇子が契約を破ってヴォ―リアバニーの一族を滅ぼした挙句、族長に全ての罪をおっ被せた、という事じゃな」

 

 そこまで聞いて、綾弥は舌打ちした。見れば大鳥もやや眉を顰め、伊丹も絶句した表情になっていた。

 

「……そういう事かよ。やっぱりあの糞野郎、殺しておけばよかったぜ」吐き捨てる様に綾弥が言った。

「もう既に死んでいるようなもんじゃがの。あとは岡部家の遺児と日本人の女子じゃが、彼女らも、な」

 

 その言葉に伊丹は引っ掛かりを覚えた。守人に代わり、さよが詳しい説明を行う。

 

「伊丹様、僭越ながらこの老婆が説明しましょう。まず、岡部家でございますが、彼の家は武家の中でも名門の血筋でした。ですが先年、当主の岡部頼綱様を含め、暗殺されているのです」

「暗殺?」

「はい。岡部家の屋敷は火災によって焼失しており、焼け跡から頼綱様が首無しの遺体となって発見されました。そして頼綱様には子が三人おりました。そのうち、嫡男は当主と共に遺体で見つかっております。ですが残る二人、桜子様と妾の子の行方が分からずにいたのです」

 

 だが、今回の一件でその内の一人が、ここ、ファルマート大陸で見つかった。それが問題だった。

 守人が話を引き継ぐ。

 

「岡部家は名門であった為、複数の劔冑を所持していたのじゃが、その内の一領、黒瀬童子が紛失している。焼け跡には残っていなかったから、恐らくは二人のどちらかが持ち去ったと考えられておる。劔冑は稀少で、強力な兵器だ。じゃから、国内では二人の捜索が続いていたんじゃが……」

 

 桜子がファルマート大陸に居たとなれば、妾の子もこの大陸にいる可能性がある。これについて桜子に問い合わせたが、一人船に監禁されて運ばれた為に所在は事は知らないという。

 

 未だその妾の子が生きており、劔冑を所持していれば良い。だが、既に死亡しており、劔冑が誰かの手に渡っているとなれば最悪である。

 劔冑は強力な兵器である。例え一領でも軍勢を滅ぼせるだけの戦力がある。しかも操作自体はそこまで難しくは無いのだ。

 唯でさえ<帝国>の権威の源だった軍勢は壊滅しており、連合諸王国軍も損害を出している状況だ。ここで国家なり、盗賊なりの手に渡り、調子に乗って戦乱でも起こされたら堪らない。

 今までの<帝国>の所業もあって戦争に歯止めが効かなくなるのだ。

 

「……暗殺を行った犯人は、判明しているので?」

 

 顔色が悪くなった伊丹が訊ねると、守人は小さく頷いた。

 

「なら、その犯人に詳しい事は聞けたりは出来ないのですか?」

「それは無理じゃな」守人が言った。「暗殺を行った奴は既に粛清されておる」

 

 沈黙が下りる。つまり、恐らくは黒瀬童子を所持しているだろう者が何処にいるのか、誰にも分からないのだ。

 

「ともかく、探索を増やし、詳しい事は扶桑国で調べんと分からん、という事じゃな」

 

 そこで守人は柳田の方を見やった。柳田は小さく頷き、喋り始めた。

 

「望月紀子については調べがついた。銀座で彼氏と共に行方不明になって捜索願が出されていた。そして彼女の家族だが、あの事件の際、銀座で情報提供を呼び掛けるビラを配っていたそうだ」

 

 その言葉に伊丹はまた呻く。

 

「医官とカウンセラーが時期を見計らって詳細を告げようとしている。だから、今は何も言うなよ?」

 

 一通り話が終わったところで、気落ちした表情のまま伊丹と綾弥、大鳥らは退席していった。 

 

「……問題が次から次と起きますねぇ。ま、今回の一件である程度は譲歩させられても、このまま講和できるのが救いでしょうか」

 

 最も皇太子に近いとされたゾルザルの評判は壊滅的な程に低い。風魔から寄越されたゾルザルについての報告書にも「無能」とこき下ろされており、皇帝の長子で軽い神輿としての価値があるから何とかなっている状況だった。

 

 そして今回の一件で、ゾルザルは完全に価値が無くなり、見捨てられることになった。

 

 何せ、<帝国>の権威の象徴だった元老院議事堂は航空自衛隊によって爆撃され、瓦礫の山に変わった。

 ゾルザルは取り巻き全員が死亡し、不能になる所を皇帝だけでなく、大臣や将軍らにも見られてしまった。

 

 何より、ピニャが報告した日本国、そして扶桑国の存在が不味かった。

 にわかに信じられないが、日本は<帝国>よりも遥かに強大な国家であり、自衛隊と呼ばれる軍の兵一人一人が銃と呼ばれる遥か遠くから打ち倒せる威力を持つ兵器を所持している。

 事実、<帝国>は総兵力の六割が消え、連合諸王国軍も壊滅している。そして銃を扱った講和派の議員の証言もあって、真実であると裏付けられた。

 

 そして、扶桑国。彼の国の輸出品は品質が良く、<帝国>富裕層に垂涎の的であった。最近では出回る品数が多くなったが、それは日本国と扶桑国が協力するようになったため。更に、アルヌスの丘には扶桑国の正神が逗留していると聞かされ、議員達は地震の事もあって「神の怒りを買ったんだ!」と戦々恐々としてしまった。

 

 その発端となったと思われるのが、ゾルザルの奴隷として両国の女性がいたから。しかも、一人は貴族であったという。そうと分かれば、誰だって近付きたくもないのだ。

 

 結果オーライではあるが、これで強硬派は担ぎ上げる御旗が無くなった。

 残っている有力な皇位継承者は元老院派のディアボと、講和派のピニャ。元老院の面々は講和に前向きであるため、このまま講和派に同調していくと考えられた。

 

(ああ、でも皇子が何かしでかす可能性があるが……)

 

 いや、考え過ぎか。幾ら騒ぎ立てても皇子にはもう求心力が無い。 

 既に廃嫡の方向で進んでいるとの噂もあった。皇子自身は居館にて治療を受けているため面会謝絶となっているが、周辺に皇帝の意向を受けた近衛兵が配置されるなど事実上の謹慎であった。

 また<帝国>は総兵力の六割が消え、連合諸王国軍も壊滅している。戦力が無い。大陸の覇者である<帝国>が日本国に大敗したまま講和すれば面子が大いに傷付くが、現状ではどうしようもないのだ。

 

 急に黙り込んだ守人に対し、柳田は怪訝な表情を浮かべた。だが、「いや、何でもない」という守人の言葉を聞き、そのまま話を続ける。

 

「一応、監視だけは続けておきましょう。あとは、最近アルヌスの丘にやって来たダークエルフの女性の事ですが」

「ああ、彼女か」

 

 最近、アルヌスの街へヤオ・ハー・デュッシと名乗るダークエルフがやって来たのだが、現在、アルヌス内でも有名人になっていた。 

 確かに、エルフが森を離れて、しかも遠くの街に来ることは滅多に無いので珍しい事なのだが、アルヌスにはそれ以上に濃い面子が揃っている為、これだけでは有名人にはなれない。

 ヤオの名が知れ渡っているのは、彼女の望みにあった。

 曰く、故郷、エルベ藩王国のシュワルツの森に現れた二頭の新生龍を討伐して欲しい。既に何人ものの同胞が龍に食われてしまっており、このアルヌスの丘に異国の正神と炎龍を討伐した者がいる噂を聞きつけてやって来たのだという。

 勿論タダでは無く、望みを叶えてくれるのなら一族の宝物である頭大はある金剛石(ダイヤモンド)の原石と己の身を捧げる、と宣言したからだ。

 

「一応聞くが、自衛隊は出せるかの?」

「難しいですね。確か、ヤオと言いましたか? 彼女の出した金剛石(ダイヤモンド)の塊は惜しいですが、<帝国>の外で軍事行動となれば色々と批判は免れませんので」

 

 エルベ藩王国は地下資源が豊富な国である。扶桑国が提出した資源分布図でもエルベ藩王国には集中して資源が存在しており、国と交渉して採掘権を入手しようとしていた。

 だがエルベ藩王国は連合諸王国軍に参加していた為、日本とは敵対関係にある。そして軍の再編やら国王の交代やらで混乱しており、とても交渉できるような状況では無かった。

 かといって、無断で軍が越境する事は即ち宣戦布告である。

 また、日本政府内でもアメリカ、中国の工作で犬猿の仲である親米派と親中派の対立が深刻化しており、ここで資源を得る為に自衛隊を動かせば両派からの攻撃材料となってしまう。

 まあ、エルベ藩王国から直々の要請があれば話は別だが、そんな都合の良い話はないものだ。

 

「……まあ、どうにかしてやるかの」

 

 どうせ綾弥や大鳥あたりが聞けば、人助けなり暇潰しなりの理由で嬉々として新生龍の討伐に行くだろう。

 

「おや、優しいのですね」どこか皮肉交じりに柳田が言った。「その優しさを我々にも恵んでくれませんかね?」

「あん?」

 

 守人が怪訝な表情を浮かべると、柳田は厭らしい笑みを浮かべて言った。

 

「飛空船、くれません?」

「無理に決まっておるじゃろうが。それに、あれはお主らの世界じゃ不要じゃろ」

「いえいえ。素材の方は幾らか購入させていただきましたが、飛空船に使われている技術は我が国には無いのですよ」

「成程な。じゃが、無理なものは無理じゃな」

 

 あれは国の持ち物だし、儂に言われても困ると守人は告げる。

 流石に無理か、と柳田は内心ごちる。だが、本命はちょっと違うものである。

 

「では、扶桑国の持つ熱量変換型の推進器や再生医療技術。これらを技術交流の一環で見る事は出来ませんか?」

 

 これに守人は一瞬、片眉を痙攣させた。

 推進器は劔冑や飛空船の動力を見れば分かるだろうが、再生医療をどこで聞いたのか。あれは扶桑国内でも一般にはあまり知られていない技術である。

 聞いてみれば、どうやら扶桑国の武者から酒の席などで地道に聞き出したらしい。

 バラしたの伊達(アイツ)か、と守人の脳裏に口の軽い眼帯を付けた坊主頭の青年が浮かんだ。後で〆る。

 

「そちらも無理じゃな。推進器の構造は迂闊には見せられんし、再生医療技術はお主らの言う人道的見地に引っ掛かるからの。お主らの防諜体制が完璧で、かつ信頼できる者しかいないというなら話は別だが」

 

 そう言われると、柳田も反論しづらい。だが、国益と自身の栄達にも関わるのだ。ここで引き下がる訳にもいかなかった。

 

 ですが、と柳田が言葉にしようとした瞬間。

 突如、警報が喧しく鳴り響く。敵襲だ、という声があった。即座に廊下からは軍靴と声が聞こえてきた。

 柳田も失礼します、と一言置いて足早に退室していった。

 

 守人も、窓際まで歩いて外を見やった。

 そこから見えたのは、未だ遠くの空にある、こちらにやって来る黒点のような群れ。

 

「……わざわざ討伐しに行く手間が省けたの」

 

 先頭を飛ぶのは、赤と黒の二頭の新生龍。そして、空を覆いつくさんばかりの、大量の竜種による襲撃であった。




2017/1/25 文章の加筆・修正を行いました。


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第23話

 この日の昼間。

 ロゥリィは何時もの様に捕まえた小悪党の処理をミューティに押し付けると、気分転換にPXに立ち寄った。

 

「あ、聖下。こんにちは」

「こんにちわぁ」

 

 入店したロゥリィは受付の猫耳メイド、メイアの挨拶に軽く答えると、店の奥にある本棚にレレイが本を立ち読みしているのに気付いた。

 

「あらぁ、レレイ。お買い物かしらぁ?」

「ん、注文していた本を取りに来た」

「ふぅん」

 

 レレイは小さく頷くと、手に持っていた本を掲げて見せた。表題を見ると「符術の基本」と素っ気なく書かれた和とじ本だった。どうやら扶桑国の魔術について書かれた本であるらしい。

 

「この本に書かれているフジュツはファルマートの魔法と違い詠唱では無く、予め小さな紙に記入された魔術を一節で発生させる事ができる。大変興味深い」

 

 説明するレレイは相変わらずの無表情である。だが、説明する声だけはほんの僅かであるが、弾んでいた。相当楽しみにしていたようだ。

 

「あれ、二人とも買い物?」

「こんにちは、皆さん」

 

 声を掛けてきたのは、テュカとユノの二人だった。生活用品を買い足しに来たようだ。お互いに軽く挨拶する。

 テュカとユノの二人はそのまま店内の商品を物色していき、手に取ってあれこれと楽しそうに会話をしていた。

 その様子を見て、ロゥリィは安堵した。 

 エルフ達がアルヌスの丘に来た当初は酷いものだった。襲撃してきた炎龍から避難させられた女子供だけの僅か十名しか生き残れず、全てを失い、絶望していた。

 その中でも最も立ち直りが早かったとされるのが、テュカであった。彼女自身、アルヌスに来た際は炎龍の眼に突き刺さっていた父ホドリューの矢を眺めていただけだった。

 だがある日、彼女は全く動こうとしない仲間を叱り飛ばし、仕事を割り振り、率先して動く事で周りを引っ張り始めた。これに亡羊としていたエルフ達も、難民キャンプでの慣れない生活と日々の忙しさで悲しみが少しづつ薄れ、立ち直っていった。今ではもう大分持ち直しており、自然な笑顔も出る様になっていた。

 買い物が終わると皆でアイスを買い、店先で暫くおしゃべりを楽しむ。

 

「あ、そうだ」

 

 アイスを食べながらテュカが思い出した。

 

「ねぇ、さっき大通りが騒がしかったけど、何かあったの?」

「ああ、あれねぇ。ほら、またあのダークエルフの女が絡まれてたのよぉ」 

「あー……」

 

 その一言で察した。

 ダークエルフの女、ヤオは到着した初日の事(酒場でロゥリィに喧嘩売る&ダークエルフ謹製の護符付き特大の金剛石を見せびらかす)と、自身が肉感的な美女である事もあり街中の小悪党から狙われていた。

 本物の悪党ならまず剣歯虎(サーベルタイガー)に翼竜、そして死神ロゥリィが警務に当たっているアルヌスには近寄らないので、粗野で腕も大した事無い小物しか居ないのだ。そんな奴らがヤオの事を聞きつけ、金剛石だけでも手に入れれば領地付きで爵位が買えると夢想してあの手この手でつけ回しているのだ。

 まあ、小物なので腕も手順も稚拙で、直ぐに捕まるような連中なのだがいかんせん数が多い。お陰で小物ばっかり相手にさせられるロゥリィは、非常にストレスが溜まっていた。

 

「もっと歯応えのある奴、居ないかしらぁ」と、ロゥリィが呟いた瞬間、街中に警報が鳴り響いた。

 

 即座に非番だった自衛官や扶桑国兵が車に飛び乗り、駐屯地に走り去っていく。それ以外の大通りに居た者達は驚いて立ち止まり、空を見上げた。避難訓練や地震の時にも鳴ったが、今日は特に何も無い筈だ。

 

「何だろう?」

「警報?」

「……みんな、避難した方が良いわぁ」

 

 ロゥリィが言った。何とも言えない妖艶な笑みを浮かべている。赤い瞳を爛々と輝かせ、犬歯を覗かせる唇の色が薄紅から暗い深紅に変化していた。

 

「えっ、何が起きるの?」

 

 テュカの問いに対し、ロゥリィは何とも言えない妖艶な笑みを浮かべて答えた。

 

「戦いよぉ……!」

 

 ロゥリィは残ったアイスを一気に食べると、ハルバードを担いで脱兎の如く駆け出した。

 そして、防災無線のスピーカーからは「緊急事態発生。誘導に従い、直ちに避難してください」との知らせが入った……

 

 

  ***

 

 

 ファルマート大陸において新生龍という存在は、災害と同義語である。先の炎龍には劣るものの、人の手で討伐できるような存在では無く、一頭で小国一つが滅ぶとされる。それが、二頭。

 これに加え、空を埋め尽くさんばかりの翼竜や飛竜などの竜種。

 

 有り得ない光景である。

 本来、竜は群れを成さない。縄張り意識が強いため、出来ても番とその子らによる数頭程度が限界である。

 しかし現実に、数百、数千になりそうな竜が群れを成し、お行儀良くアルヌスの丘に真っ直ぐ襲来してくるのだ。群れでいる分、新生龍より厄介な存在であった。

 二頭の新生龍を合わせれば、都市どころか<帝国>を滅ぼしかねない戦力であるが、相手が悪かった。

 まず新生龍と竜の群れを最初に出迎えたのは、蛇に似た軌跡を描く四条の筋であった。

 

「神子田、無茶はするなよ! 俺達はあくまで攪乱だからなッ!」後席の久里浜が叫ぶ。

「分かってらー!」

 

 二頭の新生龍にサイドワインダーが直撃。爆炎に包まれる。だがやはり龍種の鱗は第三世代MBTの装甲に匹敵すると言われるだけあって効果は薄い。

 

「吶喊!」

 

 緊急出撃した空自のF4ファントムはそのまま周囲の竜に目掛けて機首の20ミリ機関砲を発射。毎分六千発もの鉛玉の嵐が竜の群れを削り取っていく。

 追従してくる竜種を引き付けて駆け上り、インメルマンターン。すれ違いに機関砲で撃墜する。

 そしてあらゆる機動を駆使して敵の注意を引き付け、一頭ずつ撃墜していく。

 

「久里浜、デカいドラゴンはどうだ!?」神子田が叫んだ。

「待て。ああ、それはあちらさんが相手するようだ」

 

 二頭の新生龍に向かって吶喊する二つの武者。

 その内の一騎、正宗が二基の合当理を吹かして突進する。

 

<DAAIEDARAAAAAAHH!!>

 

 何の変哲もない、武者上段からの打ち下ろし。硬い金属音と火花を撒き散らし、黒龍の首筋を強引に斬り裂いた。

 

「■■■■■■――ッッ!!??」

 

 痛みを認識した黒龍が咆哮を上げる。そして矮小な存在を睨みつけるや、怒りのままに前腕を振るう。

 しかし、正宗は勢いのまま下に横転(ロール)して避ける。抜けたところで兜首(ピッチ)を上げ、高度を取るべく上昇を始める。

 

<御堂、前から来るぞッ!>

 

 そこにはもう一頭、赤龍が待ち構えていた。空中で巨体を大きく構え、僅かに開いた口から赤い炎が零れる。ブレスだ。

 

「綾弥ちゃん、そのまま突っ込んでください」

 

 大鳥からの金打声《メタルエコー》に従い、正宗は愚直に突進する。

 大鳥が纏うウィリアム・バロウズは西洋騎士の様な外観をしていた。全身を覆う輝彩甲鉄(オリハルコン)の装甲が陽の光を受けて輝いている。

 左腕に装着する盾と一体化した大型の石弓(クロスボウ)を突き出す。

 

分散射撃(ディスパーション・ショット)……」

 

 石弓(クロスボウ)を展開し、矢を複数同時に撃ち出す。

 大鳥が狙った通り、赤龍の顔面と胴体に命中。甲鉄をも穿つ矢は深々と刺さり、赤龍は態勢を崩す。更に正宗の一撃が胸部へ入り、赤龍は血を撒き散らしながら苦悶の咆哮を上げた。

 

「流石、綾弥ちゃん。良い一撃でしたわ」

「そうかよッ! あと苗字をちゃん付けで呼ぶんじゃねぇッ!」

 

 二騎の劔冑を強者と見た黒龍と赤龍が再び咆哮をあげる。これを受けて、後方で控えていた竜種達は一斉に動き出した。武者を新生龍が、F4を数十頭の飛竜が抑えに入る。

 残った竜の群れはそのままアルヌスの丘へと突撃を始めた。

 

「ようこそ、ドラゴン共。歓迎しよう、盛大にな」

 

 それを、35㎜連装高射機関砲L90や一部でガンタンクとも呼ばれる87式自走高射機関砲(スカイシューター)など、自衛隊の対空火器が濃密な弾幕を張って出迎えた。

 竜種たちは自衛隊が形成する火箭の壁に正面から無造作にぶつかったのだ。結果、多くの竜が穴だらけにされ、血煙を残して墜落していく。

 前衛の竜種が溶けたのを見て、群れが散開する。一斉に降下し、地表に近い低空飛行で一気に差を詰めようとする。

 

「撃てぇ!」

 

 加茂一佐率いる74式戦車が待ち構えていた。ここから僅かな数が弾幕から逃れたとしても、更に扶桑国の劔冑と自衛隊の重機関銃やLAMが出迎えた。

 

 弾幕によって翼をもがれ、また衝撃で墜落した竜種は地上にて臨時で編成された者達によって次々に討ち取られていく。

 

「無理に接近するではない! 弓と魔法を射掛け、槍で弱らせるのだ!」

「我らも負けるな! 騎士団の強さを竜共にも見せつけてやれ!」

 

 義腕義足、眼帯を付けた妙に威厳のある老人が病人服のまま借りたてばさきに騎乗し、剣を振るいながら指示を出す。そこには傭兵のウォルフやミューティ、普段は給仕として働くデリラも混じっていた。

 ボーゼスやパナシュなど、アルヌスに研修に来ていた薔薇騎士団も抜刀し、武装を煌めかせる。

 連携し、ヒト種や導士が弓と魔法で動きを止め、長槍を持ったワーウルフがわき腹を突いて弱らせ、ドワーフがその怪力でもって首の斧を振り落として確実に仕留めていく。

 女性と老人が多い騎士団ではあるが、負けじと槍で突き、剣で手傷を負わせて着実に竜を討伐していく。

 

「銃撃は絶やすな! LAMで止めを刺せ!」

「脚の腱を狙え! そうすれば奴らは立つこともできん!」

 

 自衛隊は間断なく銃撃を加えて動きを止めさせるとLAMで仕留めていく。また扶桑国兵も負けじと剣歯虎(サーベルタイガー)と共に突撃。兵が急所である脚の腱を狙って一太刀をいれるか、剣歯虎が竜種の首や脚に噛みついて討伐数を稼いでいた。

 ただ、中には変わった部隊もあった。

 

「ちぇすとぉー!!」

「ちぇちぇちぇーい!!」

「キィエエェェ!!」

 

 怪鳥のような奇声を上げ、蜻蛉の構えで突進する侍の集団。全員が歴戦の兵の証として、古ぼけて塗りの剥げた具足を身に纏っている。

 正面にいる飛竜に突撃して脚を一刀で斬り飛ばし、止めに首を落としてしまう。反撃を受けて怪我しようが返り血で汚れようが全く気にせず、再び蜻蛉の構えで次の標的へと突進を始める。

 

「なんだ、ありゃ」

 

 近くにいた自衛隊員が思わず零す。鮮やかな手際なのだが、あまりの光景に皆ドン引きしていた。これに近くの扶桑国兵が渇いた笑みを浮かべて説明した。

 

「あー、あの人達は扶桑国の中でも精鋭の部隊です。鬼の血を引く者で、筑紫、えと、日本でいう薩摩みたいなとこ出身です」

「…………へー」

 

 隊員の脳裏に殺魔人の言葉が浮かんだ。

 あと、怖いからあんまり近寄らないでおこう。そう思いつつ、隊員は付近の負傷者を後方へ運び、応急処置を施していった。

 

 

 ロゥリィ、テュカ、レレイの三人娘、そして伊丹らの第三偵察隊は臨時でパーティを組んでいた。

 

「とにかく撃ち続けろッ! 勝本は次のLAMを用意!」

 

 伊丹が矢継ぎ早に号令を出し、コンパウンド・ボウや六四式小銃で牽制し続ける。

 

「abru-main」

 

 そんな中、レレイは喉歌とも呼ばれる独特の一人和声で『起動式』を立てる。そして空気中の水分を凝固させて生成した氷柱の後ろに連環円錐を纏わせる。

 

「duge-main!」

 

 発射された氷柱は翼竜にぶつかる瞬間、爆発によって加速。強固な竜の鱗を貫通する。着弾の衝撃で翼竜は仰向けに倒れて絶命した。

 

「レレイちゃん、すっげぇ……」

「こりゃ負けてられんな」

 

 隊員達は自分達よりも年下の少女が奮戦しているのを見て気合を入れ直し、小銃を握り締める。

 

「はあッ!」

 

 呼気を一つ。ロゥリィはフリルの多い黒のスカートを翻しながらハルバードを振るい、翼をもがれて地に堕ちた翼竜の首を斬り落とす。

 

「もぅ、数多すぎッ!」

 

 こんなの絶対ハーディの仕業だわ、とロゥリィは続けて言った。

 

「あー、もう何でこんなんばっかなんだ……」

 

 小銃の弾倉を交換しながら伊丹はぼやく。

 こっちに来てからは炎龍と交戦するわ、帝都では馬鹿皇子と戦闘するわ、戻ってきたら馬鹿みたいな数のドラゴンと戦闘になるわ、散々である。

 

 しかも、状況は少しずつアルヌス側が悪くなり始めていた。

 誰もが奮戦しているが、いかんせん竜の数が多すぎる。そして、自衛隊の弾薬が無くなりつつあったのだ。また誰もが作業の様に竜種を狩り続けており、流石に兵の疲労が溜まってきており、撃ち漏らしが多くなっていた。

 

「腕がッ!?」

 

 もう何匹目になるか分からない飛竜を相手にしている時、突如近くで起きた叫びに思わず伊丹は振り返った。悲鳴を上げた兵は近くにいた同僚に当身をされ、そのまま後方へ引き摺られていった。

 

「クソッ!」 

 

 伊丹はすぐさま飛竜の眼に向かって銃撃し、竜の動きを止める。その隙に後ろから飛び掛った剣歯虎が脚に噛みつき、強靭な鱗ごと引きちぎっていった。

 飛竜は咆哮を上げ、辺り構わず暴れ回る。口からは太刀を握ったままの腕がぼとり、と放り出された。

 

「LAM! 早く!」

 

 その怒声の直後、飛竜が上から両断された。正宗だった。そして素早く納刀すると腕を前へ伸ばし、鋭く尖った指先を拡げる。

 

「やれッ、正宗!」

 

 正宗・七機巧(ななつのからくり)(ひとつ)

 

<無弦・十征矢!>

 

 十の鏃が放たれ、正面にいた複数の竜の鱗を貫通し、肉を穿つ。そのまま全身を震わせ、地に倒れ伏した。

 自衛官らが感謝の言葉を言う前に正宗は合当理から爆音を起こし、そのまま正面に突撃していく。

 入れ替わる様に、伊丹達の元にやってくる集団があった。太刀や薙刀、槍で武装した神官と巫女達だった。息を切らしており、酷く焦った表情を浮かべていた。

 

「守人さんがいない? どゆこと?」

 

 曰く、単身突撃して竜種を狩っていたはずの守人が何処にもいないという。だから戦場を駆けまわりながら探しているという。

 見かけていない、と伊丹が答えると神官は短く礼を言う。そして足早に、進行方向に立ち塞がる竜種は鏖殺していきながら次の場所へと走っていった。

 伊丹は「扶桑国の人はみな戦闘民族なんだな」と達観した表情でそれを見送ると、それに気付いた。

 伊丹は叫んだ。

 

「ロゥリィ、後ろだ!」

「えっ?」

 

 ロゥリィは、突如現れた黒い穴から避ける事ができなかった。

 

「ロゥリィ!?」

 

 伊丹が救援に向かう。互いに手を伸ばす。届かない。

 

「あっ」

 

 荒れ地に足を取られ、伊丹は黒い穴へと飛び込んでしまった。そして黒い穴は閉じてしまった。

 

「た、隊長が」

 

 残された面々は、ただ黒い穴があった場所を呆然と見る事しかできなかった。

 

 

 戦場で変化が起きた。

 突如、空に複数の黒い穴が出現する。すると先程まで果敢に突撃していた竜達が一斉に黒い穴へと群がり、消えていく。

 

「うん? 逃げていくぞ」久里浜が呟く。

「追撃は、無理か」

 

 既に弾薬が心許ない。神子田らF4は警戒しながら、敵が去っていくのを見ていた。

 

『■■■■■■――ッ!!』

 

 少しでも多くの竜を逃がす為なのか、二頭の新生龍は最後まで戦い続けた。満身創痍であった。全身に矢を穿たれ、裂傷だらけであり、腕を失い、翼が半ばから斬り落とされても戦い続けた。

 そして生き残った竜種の撤退が終わり、黒い穴が塞がると最後の一撃を貰い、そのまま力尽きて墜落していった。

 

 新生龍と無数の竜種の死骸を残し、戦闘が終わった。

 ほっと一安心して倒れ込む者が多く、そのまま勝利の歓声をあげた。

 戦場となったのは街の外であったため、街自体に被害は少なかった。また重軽症者は多いものの、奇跡的に自衛隊、扶桑国兵、そしてアルヌスの街に死者はいなかった。

 

 だが、黒い穴に吸い込まれていったロゥリィと伊丹、そして守人は、戦闘後も行方が分からないままだった。

 




2017/1/25 文章の加筆・修正を行いました。


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第24話

ようやく投稿です。楽しんで頂ければ幸いです。



 

 守人が気づいた時には、辺りは暗闇の中だった。

 一切の光も無く、何かが動く音すら聞こえてこない。それどころか自分が立っているのか、浮いているのかも分からない。正真正銘、何もない空間であった。

 守人は小さく呟いて指先に火種を生み出し、暗闇の中へ投げつける。放物線を描いた火は暫く燃えていたが、暗闇の中へかき消えていった。

 

「ふむ……」

 

 異空間、と呼ばれる場所だろうか。

 しかもあまり長居は出来ないようだ。身体から徐々に熱量を吸い取られていくような感覚があった。そう遠くない内に熱量が枯渇して全く動けなくなるだろう。

 さっさとここから脱出、といきたいのだが。

 

「で、なんの真似だ、ハーディ」

『あら、理由を知ってどうするの?』

 

 守人が虚空に向かって話しかけると、銀髪の絶世の美女が現れた。今回の騒動の張本人、ハーディであった。悪戯が成功したような、口元を手で隠して小悪魔じみた笑いを浮かべていた。

 ハーディは見た目も非常に良く、何気ない所作も典雅。故に今の立ち居振る舞いも非常に絵になる姿なのだが、今まで散々な目に遭っている守人には胡散臭く見えてしまう。

 

「暇潰しに龍をけしかけるには、ちと損害が多くないかの?」

『あら、心配してくれるのかしら。でも、そうねぇ、もう少し損害が少なくて済むと思ったのだけど、やっぱり聞くのと実際に見るとでは全く違うわね』

 

 そう話すハーディは手持ちの新生龍や竜種が壊滅したというのにどうでも良さげだ。

 こんなんでも、ハーディは一度気に入って手元に置いたものにはある程度目をかけている。ただ、飽きたり、それ以上の存在が現れるとそちらへ乗り変えてしまう癖があった。

 という事は。

 

「成程、ロゥリィか」

 

 返答は正解、と言わんばかりの満面の笑みであった。

 

「相変わらずじゃの、お主は。粘着気質は嫌われるぞ?」

『嫌よ嫌よも好きのうち、とも言うじゃない? それに、ロゥリィの嫌がる反応も可愛くていいわぁ。ああ、早く私の元に来ないかしらぁ……。そしたらぐちゃぐちゃに愛でて、あの顔がどんな風に蕩けるのか見たいわ……』

「うわぁ……」

 

 恍惚した表情で語るハーディに思わずドン引きする守人。よくもまあ、己より遥かに永く存在するというのに性欲が枯れないものだと思う。

 ハーディは気に入った子を見かけたらどんな手を使ってでも手に入れようとする。例えそれが他神の神官であってもだ。ある正神が目にかけていた神官がハーディに寝取られた、なんて話は結構ある話であった。

 

『うふふ、だから、貴方に居られるとちょっと困るのよ。あ、そうそう。この空間はアレ(・・)を封印する為に特別に作った物なの。じゃ、頑張ってね』

 

 突如、悪寒が走ってその場から大きく飛びのく。直後に鉄砲水の様な極太のブレスが元いた場所を通過していった。

 行ったのは、炎龍によく似たドラゴン。ただ炎龍とは違い、蒼。紅玉(ルビー)の様な鱗では無く、蒼玉(サファイヤ)の様に輝く鱗を持っている。

 古代龍・水龍であった。

 しかし、その龍の額には有り得ない事に金色の水晶の様な、一本の角が生えていた。それは守人も良く知っている、とある神の欠片だった。

 

「おいおい……」

 

 守人は呻いた。まさか、こんなものまで用意しているとは思わなかったのだ。

 

「こりゃ、ちと厄介じゃの……」

 

 守人は気持ちを切り替え、腰の刀に手をかける。

 そして、咆哮を上げる水龍に向かって吶喊した。

 

 

     ***

 

 

 何か声が聞こえる。

 そう思ったとき、伊丹は意識を取り戻した。未だ視界はぼんやりと霞がかっている。目を開けようとすると光が眩しく感じられて思わず身動ぎする。身体が痛い。小さく呻き声を上げる。だが後頭部だけは何か柔らかい感触があった。

 すると、上から優しい声が返ってきた。

 

「あ、起きた?」

 

 鈴の音の様な、ロゥリィの声だ。少しづつ目を開けていくと、彼女の端正な顔立ちが視界一杯に広がっていた。

 どうやらロゥリィに膝枕されているようだ。

 

「ちょ、ロゥリィ、大丈夫だから、離れてくれ」

「ダメよぉ。頭を打って気絶してたんだからぁ。それに、ちょっと不味い状況だしぃ」

 

 え、と伊丹が疑問を覚えると、近くからがなり声が響いた。

 

「だーッ! テメェ、お姉さまからさっさと離れやがれ! 主上さんの大事な人なんだぞッ!!」

 

 ロゥリィと伊丹の周りには、薄い光の膜が覆っていた。その外では大鎌を担いだ龍人娘が地団駄を踏んでいた。

 そしてその横には、幾つものの巨大な影があった。アルヌスを襲撃してきた竜種だった。それが伊丹とロゥリィの周りを囲むように佇んでいた。

 

「えっ、なにこれ」思わず真顔でつぶやく伊丹。

「覚えてない? 黒い穴に吸い込まれたのは覚えているぅ? その穴の出口よぉ」

 

 そう言われて、伊丹はぼんやりと思い出し始めた。確か、黒い穴に飲み込まれそうになっていたロゥリィを助けようとして、自分もそのまま吸い込まれてしまったんだ。

 

「じゃあ、ここは」

「分からないわぁ。多分だけど、ハーディのいるベルナーゴ神殿の近くの山だと思うわ」

「そうか、うん、有難う」

「別にいいわぁ。ヨウジィの寝顔も結構かわいかったしぃ」

 

 伊丹は気恥ずかしそうに頬を掻きながら、少しばかり苦労しながら身体を起こす。着こんでいる装備やら頭を打ったダメージやらで、身体が重かったのだ。

 伊丹は乱れた装備を手早くなおすと、先程からずっと騒いでいた龍人娘に顔を向ける。

 

 見た目二十代前半の、深縹(こきはなだ)の体色をした白ゴス娘だった。灰色の髪を持ち、美人と言って良い顔立ちである。フリル満載の白ゴスはボロボロで、紐できつく身体に縛り付けているというデザインだった。お陰で豊かな双丘の谷間や臍のピアス、股下何センチと言わず下着まで丸見えだった。

 露出している肌にはトライバルのタトゥーが入っており、背中からは蝙蝠のように皮膜の翼が、脚の脛の半ばからは龍のように鱗に覆われている。

 伊丹の視線に気づいたのか、龍人娘は縦に割れた金色の瞳で睨みつけてきた。眼光は剣呑で、やさぐれた雰囲気を持っていた。

 

「あー、私は日本国は陸上自衛隊特地派遣隊・第三偵察隊長・伊丹耀司二等陸尉であります。貴方はどちら様でしょうか」 

 

 龍人娘は暫く胡乱気な表情で伊丹を舐め回す様に見ていた。そして軽く姿勢を正す。

 

「オレはジゼル。主上ハーディに仕えている使徒さ」と、ペコリと頭を下げた。

 

 ハーディ、確かこの世界の冥府の神だったな。<門>を造り出した存在、そして、重度の百合であると伊丹は聞き及んでいた。

 

「で、お前はお姉さまのなんなんだ? お姉さまは主上さんに見初められて妻女になろうってお人だ。まさか、寝取ろうとしてんじゃねぇだろうな?」

 

 ケツに新しい割れ目をこさえてやんぞ? とジゼルは凄んだ。

 これに伊丹は慌てて首を大きく横に振った。寝取る? 誰を? なんで俺? という気持ちで一杯だった。

 

「誰があの女の嫁になるものですか! 絶対に嫌よ!」

 

 ロゥリィは今にも泣きそうな表情で伊丹に子供の様に縋った。

 それを見てジゼルはやれやれ、と首を横に振る。

 

「主上さんの想いが理解されるのはまだまだ先かねぇ……」

 

 でもどうすっかねぇ、とジゼルはため息混じりに言った。

 ジゼルとしてはさっさとロゥリィを連れて行きたいのだが、伊丹とロゥリィを覆う障壁が邪魔でそれが出来なかった。ロゥリィの胸元から下げた紅い護符によるものだった。鱗に刻まれた刻印がうっすらと紅く輝いている。

 伊丹やロゥリィが無事だったのも、これのお陰であった。流石は亜神自らが作った護符であり、ジゼルが大鎌で何度も殴りつけても障壁を突破する事が出来なかったのだ。

 そのため、護符の効力が切れるまで待つしかないのだ。

 

「えーと、質問、よろしいでしょうか?」伊丹が訊ねた。

「ああ、なんだよ?」

 

 ジゼルは舌打ち交じりに言い返した。ただ次に「ほら、早く言え」と促すあたり律儀な性格をしているようだ。

 

「えー、ロゥリィもこう言っている事ですし。ここでの風習は良く分かりませんが、女性が女性を嫁にするのは人間的に珍しい事だと思いますし、何より無理やりは良くないのでは?」

 

 それを言われるとなぁ、とジゼルは後ろ髪を掻きむしって肩を竦めた。

 

「そりゃあな。オレも女性同士ってのはよく分かんねぇけどよ、差別は良くないだろ? それに、使徒としちゃ主上さんには逆らえないし。御意には従うしかないんだよ」

 

 これを聞いて、伊丹は説得は無理だと判断した。命令に疑問には思っても、この龍人娘は絶対に違えないと思ったからだ。

 

 それは正しかった。

 そもそも、ジゼルは幼い頃からベルナーゴ神殿にて教育を受け、神官として働いていた。その頃からジゼルは容姿も良く魂の質も良かったために他の少女達と共にハーディの寵愛を受ける事になった。

 

 ハーディの寵愛とは、要するに子供の玩具の様な扱いをされる事だ。無茶ぶりや可愛がりは当たり前。何人もの少女が脱落していく中、ジゼルだけは残った。龍人族という、人よりも頑強な種族特性が無ければとうの昔に死んでいたかもしれない。

 

 だが、ハーディの神官としてその思想や教育にどっぷり漬かっていたジゼルにとってそれを恨む事は無い。それが普通だと思っていたからだ。

 至らないのは、己の信仰心が足りないからだ。己が未熟だからと純粋に己を磨いていった。

 そしてこれがハーディの目に留まり、ジゼルは使徒に選ばれたのである。

 

 伊丹は次の話を振る。

 

「では、なぜ竜種をアルヌスへ派遣したので? こう言ってはなんですが、ロゥリィだけを拉致するだけで良かったのでは?」

「ああ、確かにそうなんだけどよぉ。主上さんが暇だから大昔の物語の再現をしたいって言ったからだよ」

「…………はい?」

 

 そんな伊丹の反応を見て、ジゼルは詳しい説明を始めた。

 

 ファルマート大陸には、ある古い物語がある。

 

 とある、平和な王国。

 突如、「龍王」を名乗る存在が現れ、王国へ竜の軍勢を送る。

 そして龍王に攫われた王国の姫君。

 姫君を救い出すべく、勇者が旅立つ。

 そして各地を回りながら幾多の困難を乗り越えていく。

 道中、正神から龍王を討伐するための神器を授かり、遂に悪しき龍王の住処に辿り着く。

 激しい戦闘の末、勇者は龍王を討伐する。

 そして勇者は姫君を救い出し、また龍王の財宝を持って王国へと戻る。

 二人は結ばれ、王国は更なる繁栄を遂げた。

 めでたし、めでたし。

 

 こんな話である。

 これはある事実を基にした物語であるが、ハーディはこれを再現しようとしたのだ。

 

「で、オレはその龍王役として、お姫様役にはお姉さまが選ばれたのです」

「嫌よ、そんなのぉ! その話通りなら、わたしぃはハーディの所に行くってことじゃない!!」

「まあ、そうなりますね」

 

 ちなみに、勇者が現れなければそれでも良かった。かねてよりハーディはロゥリィに執着していた。勇者が現れなければ物語は成り立たないが己の手元で愛でられる為、どっちにしろ暇は潰せるのだ。

 

「だけど、その予定も狂っちまったんだよなぁ。主上さんは神を相手するのに手間取ったらしくて、今は疲れてて動きたくないって言っているし。オレが手塩にかけて育てた新生龍はやられちまうし、今回の為に各地から集めた竜種も極僅かしか生き残っていない。散々だぜ」

「……どういう事? ハーディが神を相手にって」

「主上さんが物語を進めるのに妨害されたくないから、異空間に封印したそうですよ、お姉さま」

「……そんな事が可能なのですか?」伊丹が訊ねた。

「主上さんならそれぐらい出来るさ。さて、と」

 

 ジゼルは話は終わりだ、とばかりに大鎌を担ぎ直す。

 

「んじゃ、お姉さま。護符の効力も切れるみたいですし、そろそろ勝負と行きませんか?」

 

 大鎌を構えると同時に、周りの竜種達が距離を取ってそれぞれが身構えた。同時に、伊丹とロゥリィを覆っていた障壁が消え去った。

 

「どうしようかしらねぇ」

 

 自分だけなら、どうにでもなる。だが、隣にいる伊丹は唯のヒト種の男に過ぎない。懐から拳銃を取り出して構えているが、恐らく殆ど効かないだろう。

 ならば、と「ヨウジィ、ちょっといい?」とロゥリィは語りかけるや、伊丹の腕に思いっきり噛みついた。

 

「っで!?」

「ちょ、お姉さま!?」

 

 二人が叫んでいたが、ロゥリィは気にせず更に歯を伊丹の腕へと食い込ませる。そして、二人の間に繋がりが確立した。

 

「……契約完了ぉ」

 

 滲んだ血を一舐めし、ロゥリィは妖艶にほほ笑んだ。これで伊丹はロゥリィの眷属となった。伊丹が怪我を負ってもロゥリィが肩代わりする事ができるが、死後の魂はロゥリィの元へ行く筝になる。

 例え、この場で伊丹が死んだとしても、魂だけは誰に渡したくなかったのだ。

 そのまま顔を近づけ、伊丹の耳元に囁く。

 

「いい、ヨウジ。これで怪我しても私が肩代わりできるわぁ。だから、合図したらすぐに走るのよ?」

「……ロゥリィは、どうなるんだ?」

「私だけなら、どうにでもなるわぁ」

 

 ロゥリィは伊丹に微笑を浮かべ、そして守る様に立ち上がる。

 

「じゃ、ジゼルぅ、勝負と行きましょう」

 

 呆然としていたジゼルは、その言葉を受けて嬉々とした表情になる。

 そして互いに獲物を構え、動き出そうとした瞬間、ロゥリィの前にス、と人影が立った。

 

「……へえ、オッサン。俺に挑もうってのかい? いいねェ、そういうのは好きだよ」

 

 伊丹だった。腿から抜いた9㎜拳銃を油断なく構えている。

 

「ちょっと、ヨウジィ!? いいから早く逃げなさい!」

 

 慌てたロゥリィが叫ぶも、伊丹は何か困ったような、ややひきつったような笑みを浮かべるだけだった。

 

「いやぁ、そうゆう訳にはいかんでしょ。ましてや、女の子を一人おいて逃げるなんてさ」

 

 これでも男の子だしね、と伊丹は告げると、ロゥリィは思わず顔を真っ赤にしてしまった。

 純粋に嬉しい、と思うけど、だからこそ死なせるわけにはいかない。強引にでも逃がそう、とロゥリィは伊丹の手を取ろうとした瞬間、空から声が響いた。

 

 

 ――天晴なり

 

 

「えっ?」

 

 

 その言葉と共に空から両者の間へと現れたのは、鋼鉄の肌を持つ、純白の巨大な鳥であった。

 

「劒、冑」

<いかにも>

 

 無機質な琥珀色の眼がチカリ、チカリと怪しく光り、金丁声と呼ばれる、金属(かね)を叩いたような声で白智鳥は告げた。

 

<我が銘は、扶桑国豊洲守人なり。――お二人さん、まだ無事のようじゃの>

 

 と、白智鳥、守人は器用にウインクしながらいつもの様に暢気な口調で語りかけた。

 

「……え、ちょ、ま、まさか、守人さん?」

<是>

「何故にそのお姿で?」

<色々とあってな。お陰で人化の術が解けてしまってのだ。ああ、これが本来の姿だから気にせんように>

 

 いや、無理でしょ、と真顔で突っ込むと目の前の鳥はカラカラと笑いだした。

 

「……嘘だろ。主上さんが、本気で異空間に封印したって」

 

 ジゼルにとってハーディは絶対の存在である。だから、ハーディが言った「本気」から逃げ出せたなんて信じられなかったのだ。

 声に気付いたのか、守人は軽く周りを見渡し、ジゼルの方へ顔を向ける。

 

<ああ、ハーディの所の。ふん、確かに面倒だったの。お陰であのトカゲを一旦黙らせてから脱出するのに手間取ったわ。じゃが、ちょいと甘かったの>

 

 以前なら、守人はあのまま異空間から出られなかっただろう。

 だが、アルヌスの<門>の解析、そして新たな<門>の構築の為に術式を既に作っていたこと、何よりロゥリィが使用していた護符のお陰で転移に必要な座標は特定できたのだ。

 

『ごっめーん。逃げられちゃった』

 

 守人やロゥリィ、ジゼルの頭に若い女性の声が響いた。全く悪びれない口調だった。

 

「ちょっとぉー! 主上さんー! いくらなんでもこれは無理ですってぇ!?」

 

 半狂乱になったジゼルが叫んだ。ロゥリィ相手でも周りの竜種を連れて如何にか互角だというのに、ここで追加でロゥリィ並みの存在を相手にするなど出来る筈も無かった。

 

『確かにちょっと予想外ねぇ。こんなに早く脱出できるとは思わなかったわ』

 

 ハーディは守人に語りかける。

 

『流石に無事とはいかなかった様ね。強引に突破した所為でかなり消耗しているし、今なら力も残っていないわね』

 

 守人は永く存在する神であるが、他の劒冑同様に熱量が必要となってしまう。

 ハーディの言う通り、守人は水龍との戦いと空間跳躍で熱量を使い果たし、人化する余裕も無く、もう限界が近かったのだ。

 

<確かにの、もう動くのもままならんな。ああ、成程、そういう事か。ハーディ、お主儂にまで配役を振るつもりだったな>

『うふふ。さて、どうかしらねぇ』

<悪趣味め。じゃが、仕方ないか>

 

 そして伊丹へ振り向くと、「隊長さん、どうしたい?」と守人が訊ねた。

 

<そこの小娘を倒して全員帰るか、このまま嬲られて死ぬか。どっちが良い?>

「そりゃ、全員無事に帰る方です」伊丹は答えた。

<よろしい。じゃ、隊長さんは勇者役じゃな>

「へっ?」

<良かったのロゥリィ、勇者様が来たぞ>

「あら、本当ぉ? ヨウジィが勇者様なら嬉しいわぁ」

 

 どんどん話を進める二人に、当事者である伊丹は置いて行かれたままだった。

 

<ああ、そうじゃ、隊長さん>

 

 守人は翼で器用に何か小さな粒を弾き、伊丹の口に放り込んだ。伊丹はそれを反射的に思わず飲み込んでしまった。

 

<これで良し、と。さて、儂も物語通りに役目を果たすとするかの> 

「えと、守人さん?」

 

 困惑した表情で伊丹が言う。対して、目の前の白智鳥は穏やかな口調で告げた。

 

 

<なに、勇者には神器が必要じゃろ?>続けて言う。

 

伊丹耀司(・・・・)。己が信に従い、我が劒を取り、冑を纏うならば我が羽を撫でよ>

 

 伊丹は吸い込まれるように、白い鋼鉄の羽を撫でた。

 水晶の鐘を打つような音が一つ。これが最も簡単で、最も古い、人と劔冑を結ぶ帯刀の儀。

 瞬間、振れた手のひらから全身にへと力が駆け巡った。

 

「これは……」

 

 先ほどまでの恐怖も疲労感も感じない。身体に溢れんばかりの活力が漲っていた。

 

<……ここに誓約はなった。我、刃金の翼となり、汝の信ずる道を貫くツルギと成らん>

 

 その言葉を受けて、伊丹はゆるゆると右手を左胸の前に上げる。

 武者の作法第一。装甲ノ構。

 

<宣誓せよ!>

 

 脳裏に思い浮かんだ言葉をそのまま口に出す。

 宣誓の口上。

 

自ら顧みてなおくんば、千万人ともいえども我行かん されば、守り人のツルギと成らん

 

 白智鳥は数十の鉄片となり伊丹を囲むように中空を舞う。

 そして金属が擦れる様な音を立てた後、白い武者が現れた。

 

 その姿に、誰もが眼を奪われた。

 夕焼けを反射するくすみの無い白く輝く装甲。その下に見える紺色の地と、全身の細部に施された紅い威糸。

 頭部にはまるで天を衝く様に伸びる刀の様な一本角の立物があり、四肢は洗練とされていて優美。

 反して、背部の二基の合当理と母衣は無骨極まりない。ただ大きく分厚く、頑丈そうな塊だとしか言いようが無く、腰部からは尾羽の様な翼甲が広がっている。

 腰に差しているのは反りの浅い二本の刀。拵として鞘は黒漆、鍔には精緻な細工が施されており、紅い下緒と柄尻から垂れる飾り紐が映えていた。素人目でも、随所に匠の技を垣間見られる。

 

 立ち姿は威風堂々。

 まさに、物語の勇者が決戦の地へ現れたような佇まいであった。

 

「………」

 

 劔冑を纏った伊丹は無言のまま腰を落とし、腰の刀へ手を添える。それを見てロゥリィはハッとした表情となり、ハルバートを持つ手に力を入れた。

 ジゼルも、暫くは呆然とした表情のままだった。だが、明確に敵意を向けられてからは少しづつ身体が小刻みに震え始めていた。

 武者震いであった。

 

「く、くひっ、ふっ、ふっはははははハハははハっ!!」

 

 ジゼルは高く高く、ただひたすらに空高く笑い声を響かせる。

 一頻り笑い上げると、獰猛な笑みを浮かべて白い武者を睨みつけた。

 

「いいね、いいねえッ! 最ッ高だよ、おっさん! いやいや、面白くなってきた!!」

 

 悪役らしく、笑いながら大鎌を大きく構える。先程とは違い、ジゼルには分が悪い状況に変わっていた。だが、そんなものは関係ない。

 

「お姉さまだけでなく、その眷属、しかも勇者サマと戦える! こんな機会、一生に一度あるかないかだ! いやぁ、使徒になった甲斐があるってもんだ!」

 

 緊迫する雰囲気の中、ジゼルはこちらから仕掛けるべく、大鎌をゆっくりと大きく引き絞る。

 伊丹はそれに応えるかのように ざりっ、と摺足で半歩前に出る。

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 踵を返し、ロゥリィを抱きかかえるや全力でもって空へ遁走した。

 

「……………………は?」

『ええ…………?』

 

 たっぷり間を取って、ジゼルとハーディは呆けた声を出す。

 遠くの空には既に姿は無く、合当理から吐き出された轟音と噴煙だけが残っていた。

 残されたジゼルと竜達に肌寒い風が吹き、カラスに似た鳥の鳴き声が響いた。

 

「お、お、お、追えッー!! 逃がすなァー!!」

 

 慌てて竜達が飛び立つ。ジゼルもまた、背中の翼を広げ、追跡に移った。

 

 

「うぎゃ―――――――ッ!!」

 

 赤く染まる空の中、伊丹の悲鳴が響く。

 合当理を臨界起動させ、最大出力であの場を飛び出したのは良いが、この男、極度の高所恐怖症――と言っても、高い所が駄目では無く、幼少期の経験によるものなのだが――だったのだ。

 伊丹の視界にはまるでロボットのコックピット画面の様に照準、機体状況、高度、騎航速度などの情報パネルが映し出されており、視界の隅には赤字で「危険!」と表示されている。騎航に必要な母衣は閉じたままで、熱量が供給されなくなった合当理が沈黙してしまったのだ。腕の中にはいわゆるお姫様抱っこの姿勢で抱きかかえられたロゥリィがいるのだが、今にも投げだしそうな狂乱ぶりであった。

 

<落ち着かんか、馬鹿者!>守人が叫ぶ。

<良いか! 騎行はお主の意思一つで行われるのじゃ。このままだと墜落するぞ!>

 

 自分の意思一つ。墜落。そう言われた伊丹は僅かに持ち直し、腹に力を入れる。

 

<そう、良いぞ。そのまま意識を背中に向けよ。母衣を広げ、合当理が正常な限りは騎行できる>

 

 ゆっくりと分厚い母衣が広がり、合当理に再び火が入る。未だ騎行はヨタヨタしていて覚束無いものの、先程よりマシにはなっていた。

 騎航が安定してきたところで守人は言った。

 

<御堂よ、装甲中は仕手の操作によって動く。その際、劔冑の人格はあくまで仕手の補佐。PCのOSのようなもんじゃ。故に意識は常に冷静に保て>

「はは、どうも、何となくわかってきました……」

 

 未だ声が震えているものの、伊丹はようやくいつもの調子に戻ってきたようだ。

 

「所で、御堂というのは?」

<武者の古い敬称じゃよ。気に入らんか?>

「ああいえ、気になっただけですので」

「ちょっとぉ、あそこは戦って勝つ場面じゃないのぉ!?」ロゥリィが叫ぶ。

「いやぁ、だって面倒じゃない? それに俺、劔冑での戦い方分かんないし」

 

 ジゼルと名乗った龍人娘はロゥリィが戦うとしても、伊丹はあの場の竜種と戦う気なぞ全くなかった。それに、この事態に巻き込んだハーディの思惑に乗るのも癪だし、それに戦闘中にロゥリィは連れ去られたかもしれない。

 その事を伝えると、ロゥリィも納得したようだ。今回、実際にハーディが動いた以上、有り得ない話では無かった。

 

<警告。敵影多数、四十五度下方(うしとらのしも)

 

 平坦な声で守人が告げた。劔冑で強化された視界で見れば、ジゼルを先頭に多数の竜達が猛烈な勢いでこちらへ迫って来ていた。

 思った以上に速い。このままだと追いつかれそうだ。

 

<敵は多勢。このまま加速して敵を振り切る事を進言する>

「可能なんですか?」

<当然である。儂の合当理は熱量変換型多連装火箭推進。速力(あし)で儂に追いつく者などおらん>

「では、逃げましょか」

<了。母衣、及び合当理を臨界起動させる。御堂、意識を失うなよ。ロゥリィ、しっかり捕まっておれ>

 

 伊丹から供給させた大量の熱量を圧縮し、増幅。合当理に蓄積する。一時的に速度が落ちる。母衣の後ろが変形し、中から無数の小型の合当理が展開する。

 

<防御機構、展開>

 

 機体を包むようにうっすらと光の膜が展開される。

 大鎌を振り上げたジゼルが雄たけびを上げ、後方から迫って来た。

 

<加速、開始>

 

 雷鳴の如き大爆音を起こす。音の壁を超えた白い劔冑は背部の母衣と合当理からはまるで翼の様に光を伸ばし、空の彼方へ飛び去って行った。

 ジゼル達は、突如起きた爆音と光をただ放心した表情で眺めるしかなかった。

 

 

 アルヌスでは居なくなった伊丹とロゥリィを探そうとしていた。だが、何処に行ったのかが分からないうえ、先の襲撃で弾薬燃料共に消費した為に備蓄が心許ない状況だった。また負傷者の搬送に、再び来るかもしれないという認識から人員を割きたくないという考えもあった。

 だが見捨てるのか、と会議が紛糾する中、超高速でこちらへ接近する機影アリとの報告があった。

 たった一つ、それも大きさからして劔冑のようだと報告が入った。その時、狭間陸将らには嫌な予感がしたという。

 その機体から通信が入る。

 

『あー、あー、テステス。こちら第三偵察隊の伊丹。帰ってきました』

 

 あの馬鹿がまた何かやった、と自衛隊の面々は早速頭を抱える事になるが、それはともかく、伊丹達はどうにか、アルヌスへ無事に帰還できたのである。

 




今回の話は悩みましたが、こんな話になりました。

あと体調管理は大切ですね。風邪が長引きました。年取ったな、と思います。


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第25話

 ガツガツ、バクバク、ムシャムシャ。

 

 アルヌス駐屯地の一角にある、病院の一室。

 その部屋の主である伊丹は、猛烈な勢いで出された飯をかっ食らっていた。

 

 伊丹が食べているのは扶桑国の筑紫名物、竜肉料理である。 

 本来、竜種は鱗や皮は重宝されるものの、肉を食べることは殆ど無い。全身が強靭な筋肉で出来ており、そのまま食べるには非常に臭みが強いうえに筋張っていて硬く、人が食べられるようなものでは無いのだ。その為、剣歯虎の餌(彼らにとっても竜の肉は不味いようで、餌として与えると嫌な顔をされる)や海獣や海竜を釣る際の餌にしかならなかった。

 

 だが、ある筑紫の侍が竜の肉を食べられる方法を考案した事により評価は一変する。筑紫のみに自生する十数種類の香草に数時間漬け込む事で柔らかくて臭みの無い、素晴らしい肉へと変化する。

 口に入れれば心地よく歯を押し返す様な弾力があり、暫くその感触を楽しむ。そして噛み切ればそこから全く臭みの無い肉汁が口の中に溢れ出し、ほんのりと脂の甘みの混じった力強い肉の旨味が口の中一杯に広がる。

 その状態で、白く艶々の炊き立てご飯を掻っ込むと、もう最高である。

 

「美味いなぁ」

 

 伊丹の顔は実に幸せそうであった。

 

 あの後、アルヌス駐屯地に帰還したのだが、着地して直ぐに伊丹は倒れてしまったのだ。

 理由は過労。帝都でドンパチやって今度は竜種の襲撃。連戦が続き、更に装甲して守人に熱量を吸い上げられた結果であった。

 直ぐに病院に搬送されたが、休んでいれば問題無いと分かった。ただ、ずっと戦っていた所為なのか、守人と契約した所為なのか、とにかく腹が減ってしょうがないのだ。

 

「御堂。追加の料理じゃよ」

 

 ノックと共に、袖を捲り、前掛け(エプロン)を着用した守人がサービスワゴンを押して入室してきた。乗っているのは大鍋。シチューのようだ。守人が鍋の蓋を開けると湯気と共に肉と香辛料の濃いなんとも美味そうな匂いが鼻をくすぐる。

 

「んぐ、有難うございます」

「ん? 口元が汚れておるぞ。ほれ、拭いてやるからじっとしておれ」

「ちょ、自分でできますって……」

 

 微妙に顔を赤らめ、恥ずかしそうにしている伊丹を守人は甲斐甲斐しく世話をしていた。

 

「ウギギ……」

「………(ジト目)」

「ふ、二人とも。ここは病院だしね? ほら、このシチューも美味しいよ?」

 

 その様子に嫉妬の表情で睨みつける二人がいるが、テュカかどうにか取り成していた。ちなみに三人にも量は少なめだが伊丹と同じものが出されており、出されたものはしっかり完食していた。

 

「……そうよねぇ。いくら何でも、ヨウジは男色じゃないしぃ」

 

 そう言い聞かせ、出されたシチューを食べようとしたのだが。

 

「うん? 違うのか?」

 

 守人の言葉に、部屋の中の空気が凍る。

 

「や、日本には衆道は無いのか? 御堂の奥方――元だったか――が衆道の絵草子を描いておるから、てっきり御堂も衆道趣味かと」

 

 ちなみに、扶桑国では神隠しにあった者達から衆道文化が伝わっており、今でも色街に行けば陰間茶屋(いわゆる美少年専門店)などが存在している。

 だから別に伊丹がアルヌスに滞在している薔薇騎士団に大量のBL本を運んでいても、ネット上で掛け算の対象になったりイラストが描かれていても特に何も思わなかったのだ。

 

「……色々と言いたいことはありますが、まず今の日本では男色は一般的ではありません」

 

 絞り出す様に、伊丹が言った。

 

「ほーん、そうか。まあ確かに、奥方がそこのエルフの嬢ちゃんのような、適度に女性らしい人が好みと言っていたしの」

 

 以前、守人が梨紗と会った際に対価(扶桑国の美少年らの写真)を払って色々と聞き出していたのである。

 

「へぇ、ソウナノー」と、眼を輝かせて何故かハルバートを構えるロゥリィ。

「……まさかの裏切り?」と、口を三角にして、ジト目で杖を構えるレレイ。

「え、ちょ、私ぃ!?」と、予想外の事に慌てふためくテュカ。

「ちょ、梨紗ー! なんでバラしてんのさぁ!?」

 

 

 閑話休題。

 

 

「さて、何の話をしていたんだっけな」

 

 痛そうに頭を擦りながら守人は言った。

 あの後、ちょっとした騒ぎになったのだが、やって来た美人な看護士から「五月蠅い」と全員物理的に黙らされ、ようやく落ち着いた頃である。

 

「少し、聞きたいことがある」レレイが訊ねる。

「なんじゃ?」

「本来、ツルギの持つ陰義は一つだけと聞いた。だけど、話に聞く限りモリトは二つ以上の発動させていた。なぜ?」

「ああ、あれは陰義じゃないく、ただの機巧じゃからな」守人が答える。

「儂は特殊での。そうじゃな。御堂に分かりやすく簡単に言うと、儂は「ぼくのかんがえたさいきょうのつるぎ」という奴じゃな」

 

 当時の扶桑国は人外魔境というしかない世界であり、何も持たない生身の人間が生きていける様な環境では無かった。

 外を歩けば地上には剣歯虎(サーベルタイガー)や肉食の走竜種が群れで動いており、海には白鯨や海竜(シーサーペント)などの大海獣。空には翼竜飛竜は可愛いもので、炎龍クラスのドラゴンが飛び交っているような状況だった。

 

 もし仮に、この島へ人がやってきたら、そういった存在に対抗するには普通の劔冑では無理だ。

 

 ではどうするか。

 悩んだ末に、一つの結論に達した。

 

 それは全局面に対応でき、全てが最高で最強の劒冑を鍛造すればよい、と。

 

 だが問題があった。

 劒冑というのは一方を最大まで上げれば、何かを削らなければならないのだ。

 

 例えば騎航性能。

 装甲を厚く重くすれば、騎航速度が落ちる。

 母衣、つまり背中の翼を厚く強固にして速力を上げれば、上昇性能が落ちる。

 翼を大きくして旋回性能を上げれば、加速性は失われる。

 

 ただ普通に、どれも良くしようとして出来るのは全てが平均値で突出した性能の無い、凡庸な劒冑しかできない。

 ならば、どうすれば良いか。 

 考えうる限りの最高の素材を使うのは当然として、陰儀と同等の能力を発揮する機巧を装備すればよい、そう考えたのだ。

 

 まず守人は翼甲を大きく頑丈に造り上げ、速力と旋回性能を保持。そこに各所に小型高出力の合当理を内蔵することで上昇性能と加速性を強引に持たせたのだ。

 装甲もまた神鉄に天龍の鱗など希少な材料を使用。

 これらを加工するためだけに質の良い骸炭(コークス)を世界中探しまわったり、炎龍や水龍など古代龍から極稀に獲れる素材を求めて、物欲センサーと戦いながら狩り続けた。これにより、必要な設備も最高のものが用意できた。

 

 これらを湯水の如く使い、持てる技術を全てをつぎ込んだ結果。

 武装には斬鉄剣と命名された古代龍をも斬る居合刀を。装甲は例え天龍の攻撃を受けても損傷せず、それでいて各所の合当理によって瞬時に間合いに踏み込められる瞬間加速性を保持。

 

 「ぼくのかんがえたさいきょうのつるぎ」こと、劔冑「守人」が鍛造されたのである。

 

「儂の性能は今でも最も高いと自負しておるが、致命的な欠点があってな」

「欠点?」伊丹が言った。

「うむ」守人は小さく頷く。

「物凄ぉく、燃費が悪いんじゃよ。そうじゃな、例えると一般の劒冑をスクーター並みの燃費とするなら、儂は自衛隊が使っている戦車並みじゃの」

 

 ちなみに、ホンダ・スーパーカブ50の燃費のカタログ値は110㎞/Lで、74式戦車は400m/Lである。

 

「じゃから、常人が纏うだけで熱量欠乏を起こし、そのまま枯死してしまうんじゃよ」

 

 それこそ、亜神の様な強靭な生命力を持っているか、人外の存在でなければ装甲する事もできない。本末転倒だが、そういう劔冑になってしまったのである。

 

「いや、それ燃費が悪いってもんじゃないでしょ」と、伊丹は青ざめた表情で突っ込む。同時に、疑問が出てくる。「なら、なんで俺は無事なんですか?」

「御堂の場合、あの時、飲ませたものがあるじゃろ。あれは秘薬の一種でな。だからこの程度で済んだのじゃよ」

「へえ……」

「これで質問は良いかの? 他にはあるかの?」

 

「はぁい」と、ロゥリィが手を上げる。

「リサから聞いた、ヨウジィの好みについて詳しく教えてくれるぅ?」

「ちょ、なんでさ!?」

「良いではないか、御堂。減るもんではないじゃろ」

「俺の精神が減るんですけどねぇ!?」

 

 そんな事で、暫く他愛の無い雑談が続いた。

 ロゥリィとレレイが入院中の伊丹の世話を誰がするかで駆け引きが始まったり、富田や栗林、倉田など、第三偵察隊の面々がお見舞いに来たところで、守人は使った調理器具や食器を片すべく一旦部屋から退出する。すると、ロゥリィまで付いてきた。

 

「なんじゃロゥリィ、御堂の世話をしなくて良いのか?」

「別に、ヨウジィの魂は私が貰うものぉ。焦らなくていいわぁ。それに、今はこっちが重要だもの」

 

 言うや、ひゅんと風切り音を立ててロゥリィはハルバードの穂先を守人に突きつけた。

 

「ヨウジィに飲ませたの、いったい何?」 

「いきなり剣呑じゃの」

 

 それには答えず、「死神」となったロゥリィはただ睨みつけるだけだった。眼は爛々と輝き、唇は赤から紫色へと変化していた。

 「ここでは拙いの」と守人は人気の無い廊下の角に行き、懐から数枚の紙切れを取り出すと小さく何か呟き、壁に貼り付ける。簡単な人除けと遮音の魔法が込められた御札であった。

 

「さて、これでいいじゃろ」守人が言った。

「御堂に飲ませたのは、儂らの呼び方は金神片。他には哲学者の石、賢者の石、エリクサー。ま、様々な呼び名があるが、こちらでは神の血肉(ラピス・ザキー)と呼ばれる代物じゃな」

 

 やっぱり、とロゥリィが呟く。

 

「あれは、危険よぉ。ヒトをヒトでなくしてしまう最悪のものよぉ」

「ああ、それはよぅく知っとるよ」

「じゃあ、どうして」

「言ったじゃろ。儂は燃費が悪いと。そもそも人が儂を装甲するには金神片の服用が絶対。それに御堂に飲ませた欠片は余り大きくは無いし、あと二回ほど装甲すれば影響は抜けるの」

 

 あの時、守人が伊丹に飲ませた金神片は水龍の額に生えていたものだ。黙らせて脱出する際、一部を切り取り、脱出するのに必要な熱量を満たすために使用した残りである。

 

 恐らく、ハーディは水龍の強化の為に金神片を使用したのだろうが、上手く制御できなかったのだろう。ただでさえ災害と同等の存在だとされる古代龍が、金神片によって亜神の様にほぼ不老不死となったのだ。流石に危険と判断して、あのような空間に封印しているのだろう。

 

「それなら、貴方がそれを使って空間跳躍をやって脱出すれば良かったじゃないのぉ?」

「分かってないのぉ、ロゥリィ。それではつまらないじゃないか」

 

 そう告げた守人の表情は、何時もと変わない柔和な笑みだった。

 その顔を見て、ロゥリィははたと気が付く。そうだ。守人もまた、ハーディと同じ永い時を過ごした存在なのだ。

 

「別に、儂はハーディの様な事はせんよ。だが御堂という存在は面白いからの」守人は続けて言った。「確かに、儂から見ても普段の御堂は怠け者。だが、咄嗟の行動を見れば義理と人情に厚く、自らを犠牲にすることを厭わない。随分と矛盾しているものよ」

 

 だから、ちょいと試してみたのよ。そう守人は告げた。

 

 今まで伊丹は、帝国が日本へ侵攻した際、独断で警官と共に二条橋にて防衛線を張り、多くの民間人を救い。

 災害とされる炎龍相手に僅かな兵で避難民から注意を逸らすべく奮戦し。

 アルヌスへやって来た避難民の自立支援に必要な事を全てやり遂げ。

 帝都では拉致被害者を救出するべく、銃を取り。

 竜種の襲撃の際にはロゥリィを助けようとし、自らも巻き込まれたが無事に脱出した。

 

 どれも、嫌なら逃げても良かった。だが、そうしなかった。

 

 ある酒の席で、守人は柳田から愚痴交じりに聞いていた。

 伊丹は命令違反を何度も起しており、それと相殺するだけの功績も上げている。非常に扱いづらい人材。本来なら降格減給して左遷されてもおかしくは無い、と。

 伊丹には、人を惹きつける何かがあるのかもしれない。でなければ、ここまでやって来れないだろう。

 

「それに、今のうちにああいうのは慣れておいた方が良いの」

「……どういう事ぉ?」

 

 怪訝な表情を浮かべるにロゥリィに、「お主、本当に分からんのか?」と守人は訊ね返す。

 ロゥリィが小さく頷くと、守人は呆れたような表情でため息をついた。どうして自分の事なのにこうも鈍感なんだろうか。まるで子供に言い聞かせる様にはっきりとした口調で守人は言う。

 

「良いか? あの死神ロゥリィが、陞神間近になって、初めて眷属を持ったのじゃぞ? しかも異世界から来た男。異性として見ているときた。暇している連中(正神)が興味を覚えん筈が無いじゃろ」

「嘘でしょぉ……」

 

 ロゥリィは疎まし気に嘆息する。自分がそこまで正神らに注目されているのかと思わなかったのだ。 

 

「あと、お主もそこまで余裕ぶっている暇はないぞ?」

「へっ?」

 

 守人がニヤリと笑う。

 

「御堂を狙っているのはお主に、魔術師の娘、元奥方、あとは扶桑国(うち)の巫女らに<帝国>の騎士団か? いやはいや、御堂はモテモテじゃなぁ」

「……ちょっと、私やレレイ、リサ以外にもどうして出てくるのよぉ」

「なんじゃ、これも気付いていないのか?」

「(……そう言えば、ヨウジィは騎士団や巫女たちと妙に親しげに会話をしていたような……)」

 

「いやしかし」「だけど」と、ロゥリィは悶々とした表情で頭を抱え始めた。

 嘘は言っていない。

 何人かは本当に伊丹を狙っているかもしれないが、実際には梨紗が選び、伊丹が運んでいるBL同人誌が目的な者が殆どではあるが。

 まあ、扶桑国でも腐敗する女性方が増えたお陰で、一部男性から衆道についてとやかく言われることも少なくなったとか、なんとか。

 

「ロゥリィ」止めを刺すべく、守人は言った。

「それでもなお、お主は御堂を捕まえられる余裕があると思っているのか?」

 

 ――なんなら、儂が貰っていくぞ?

 

 瞬間、ロゥリィは脱兎の如く走り出した。

 その様子を見て小さく笑いながら、守人は御札を剥がしていく。 

  

「くかか、こんだけ煽っておけば、ロゥリィも本気になるかの?」

 

 亜神となり直ぐに「死神」と呼ばれるようになったロゥリィは、意外にも乙女なのだ。雰囲気を大事にし、相手が積極的に動いてくれる事を望む。だから最初までは自分から積極的に誘うが、後は受け身になってしまう。

 それ以上自分から積極的に言って、もし嫌われたらどうしよう、とかそんな風に考えているのだろう。エムロイ信者であっても近付けば恐れられ、敬遠されてしまいがちであるから、その所為なのかもしれない。

 

「お節介ではあるが、愛の神になりたいのなら、一度は本気で恋をしてみるのが良いぞ」

 

 守人は酷く楽し気な表情で「ゴンドラの唄」を口ずさみながらワゴンを押していき、洗い物を始めた。

 

 遠くの病室から、情けない男の悲鳴が聞こえた、ような気がする。

 



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第26話

新年あけましておめでとうございます。今年も本作をよろしくお願いいたします。

書き直しで投稿になります。楽しんで頂ければ幸いです。


 アルヌス駐屯地の一角にある、診療施設。

 

「あっ」

「ん?」

 

 診察を終えた伊丹が病室に戻ろうとした時、ばったりと柳田に出会った。

 柳田は殊勝にも見舞いに来た、という訳では無く。

 

 彼自身も、過労で入院しているのだ。

 

 柳田は周りに振り回され続けても頑張り続けて、だけど行きつけの酒場の給仕長(デリラ)が頭を見て「ヤナギダの旦那も生え変わりかい?」と言われて絶望し、更に今回の一件で速やかな燃料や弾薬補給が必要となり、掛る費用に嫌味を言われ、そして上への報告書をせっつかれて如何にかやり遂げて自室に戻った瞬間、気が抜けたのかそのまま崩れ落ちたのだ。

 たまたま通りかかった者が異変に気付いて迅速な救急医療を行ったからいいものの、結構危なかったらしい。

 

「伊丹ィ、丁度良かったなぁ。ちょっと付き合えよぉ」

 

 その黒く濁りきった眼を見て、嫌な予感がした伊丹は直ぐに逃げ出そうとしたのだが、柳田が逃がすまいと伊丹の両肩をがっちりと掴む。

 

「まあ、つきあえよ? なっ?」

 

 と、柳田の黒い笑みをどアップで見せられては、流石の伊丹も引き攣った顔で頷くしかなかった。

 

 

 伊丹は引き摺られるように病院の屋上へと行くと、そのままベンチに腰掛ける。柳田は何も言わず、懐から絹袋とライターを取り出した。

 

「あれ、柳田二尉、煙草変えたんですか?」

「ああ、扶桑国の細巻だ。貰い物だが、疲れを抜くには良いんだ。どっかの誰かの所為で体調悪くなったからな」

 

 何時もの陰気な笑みを浮かべて「一本いるか?」と、伊丹に勧める。

 伊丹は気味が悪そうな顔を浮かべながら受け取った。はっきり言って珍しい。しかも、この男が何の意味も無く貰い物とはいえ、高そうな細巻を進める筈が無いと思っていた。

 

「……へぇ」

 

 早速火を付けてみたが、悪くない。煙草を吸わない伊丹でも旨いと感じる。本当に良い物なんだろう。紫煙をくゆらせると徐々に気分が安らいでいく。

 暫く、二人して煙草を吸っていると、ようやく柳田が話し始めた。大きく紫煙を吐き出す。

 

「ちょっとお前、扶桑国行ってこい。そんで劔冑の製造技術と再生医療技術を手に入れてこい」

 

 やっぱり面倒事だった。

 伊丹は思いっきり嫌そうな声で言い返す。

 

「はあ? どうして俺がです?」

「適任だからだ。お前が一番扶桑国の権力者と仲が良いし、しかも契約までした。まあ、上の連中は、お前の扱いに困っているというのもあるがな」

「厄介払いっすか……」伊丹は嘆息する。「アルヌス(ここ)には本職の外交官だっていますし、その人達に任せた方が良くないですか?」

「既にやってみたよ。どんな条件を出しても取り付く島も無しだ」

「じゃ、無理じゃないですかね?」

「それで諦めればこっちだって苦労しねぇよ。こっちにも込み入った事情があんだよ」

「……分からないね。なんでまた、そんなことを?」

 

 伊丹は「国産の劔冑でも生産する気なのか」と、一瞬考えたが、それは無理だろう。製造技術はあっても人権の問題がある。再生医療技術についてはてんで聞いた事が無いが、恐らくはアニメやゲームなんかに出てくるような奴で間違いないだろう。

 何より、柳田が何故そこまでこだわるのか、よく分からないのだ。伊丹は陰険な性格である柳田は好きでは無いが、その性格はよく知っている。無駄な事はしない筈なのだ。

 

「実際に劔冑を使用してみたお前ならわかるんじゃねーか?」

 

 柳田はすっかり短くなった細巻を捨てて潰し、新しい細巻を取り出す。

 伊丹から返答はない。理由がいまいち思いつかないようだ。

 柳田は口に銜え、ライターで火を点けようとする。カチン、カチン、と音が鳴るだけで中々うまくいかない。

 

「チッ、なんでお前はこういう時には頭が働かねぇんだよ……」

 

 ようやく火がつく。紫煙を吐き出し、頭をガリガリと掻きながら柳田は言った。

 

「良いか? 劔冑ってのは戦車と戦闘機を足した様な存在だ。だが、おかしいと思わないか? 戦車並みの装甲を持つ存在が、人の持つエネルギーだけで、亜音速で自由に飛び回れるんだぞ?

 お偉方は、それを可能にしているエンジンが欲しいんだよ。しかも、扶桑国の飛空船のエンジンだって劔冑の合当理の仕組みを流用しているそうだ。これの製造に人命は必要無く、そして有り得ないほどにエネルギー交換効率が高いって話だ」

 

 現在、先進国で研究されているパワードスーツは、動作を補助するパワーアシスト機器として開発が進められている。人が持てない様な重い荷物を軽々と運び、車両が入れない様な悪路でも重装備で動けるようにしよう。そういった機械だ。

 これの問題点は、載せる動力をどうするか、である。

 今のパワードスーツには圧縮空気、油圧駆動など様々な形態があるが、内臓バッテリーでは稼働時間が短すぎるのだ。かといって、バッテリーを大きく重くすればそれだけ負担は掛かってしまうし、汎用人型決戦兵器の様に紐付きでは行動範囲が狭い。実用化までまだまだ時間が掛かる、そう思われていた。

 

 だが、扶桑国の劔冑はどうか? 戦車並みの装甲を持つ存在が、人の持つエネルギーだけで、亜音速以上で自由に飛び回れるのだ。

 これを可能にするのが、熱量変換型推進器である。仕手から供給された熱量を変換し、増幅、そして圧縮し放出する機構である。

 これが有ればバッテリーの問題で悩まずに済み、今の実験レベルでしかないパワードスーツを実用レベルにまで高める事ができる、そう考えたのだ。

 

 もし日本でパワードスーツが生産されれば兵の損耗を防げるし、重機が入れない様な場所での災害救助だってこなせるようになるだろう。

 もし、この技術が応用できれば現在開発中の戦闘機のエンジンの改良に繋がるかもしれないし、ロスの多い電力発電の効率も大幅に上げられる。自動車の燃費がホンダのカブ以上の燃費になるかもしれない。

 派生した技術で大儲けも出来る。世界に技術国家という姿を見せつけられる。

 

 今後の状況を変えるかもしれない、正に夢の様な技術なのだ。

 

「はぁー、成程ねぇ」伊丹は言った。「だけど柳田二尉、そうすると各国が黙っていないんじゃないの?」

 

 それこそ、中国はいつもの報道官のオバハンが会見して「特地で手に入れたものは全て各国にあまねく提供するべきだ」と嫌味たっぷりに言ったり、ロシアは通常弾頭のICBMを撃ちこむ準備でもしているんじゃないかと伊丹は答えた。

 

「なんだ、遂にニュースを見る様になったのか? その通りになったよ。ICBMはまだ準備されてないようだがな」

 

 中東でドンパチやっていて忙しい世界の警察を名乗るアメリカ。ロシアからの圧力を減らしたいがいまいち纏まりの無いEU。強硬な資源外交を行い、影響力の低下を恐れるロシア。そして、遅れてきた覇権主義を掲げる中国。他にはインド、南米各国など経済発展の著しい諸外国。

 

 これらの国は今の政権が頑張っている所為か、表から特地問題には中々首が突っ込めない。

 となると、裏しかない。

 使節団が日本に滞在していた時は大人しかった各国は再び動き始めたのだ。

 

 米国や中国は相変わらず傲慢でド派手に動いていた。まるで競い合うように自分の影響下にある者達を動かしたり、汚職政治家や官僚を恫喝して好き勝手にやっているのだ。脅された面々は要求をこなせなければ身の破滅なので、主義主張関係無く徒党を組んで他国の為に仕事している訳である。

 

 EUの活動はまだ情報集めが中心で、美味しい所だけに現れて貰う気なんだろう。ただ加盟国が独自に動いていていまいち纏まりが欠けており、足の引っ張り合い(主にイギリス・フランス・ドイツ)も起きていた。

 

 ロシアは逆にその技術を手に入れさせまいと米国と中国、特にEUの妨害を行っている。資源外交の影響力を失いたくないのだ。ただ大国とはいえ、一国では手が回らないのだろう。表面上は日本に強硬姿勢を見せているものの、裏では手に入れた情報を日本側に横流ししたりするなど一時的な協力関係にあるという。

 

 要するに、日本の裏側はみんな好き勝手やっているお陰でしっちゃかめっちゃか、カオスな状況になっているのだ。

 

「うへぇ……」

 

 聞かされた伊丹はドン引きしていた。休日、日本に戻った際に嘉納から中は掃除しても綺麗にならない埃まみれで、外は五月蠅すぎると現状を愚痴交じりに言っていたが、そこまで酷いとは思わなかったのだ。

 

「まあ、これが政治ってもんなんだろうよ。それに政治するには金がかかるからな。綺麗な政治家や官僚なんて居ねーよ」

 

 柳田は続けて言った。

 

「ただ、扶桑国もこれを問題視しているようでな。こっちに協力を申し入れて来たよ。そんで、厩衆とかいう忍者部隊がおいた(・・・)が過ぎる連中を相手にしている。お陰で公安が随分と喜んでいるよ。

 ……後でどれくらい請求されるのかが怖ぇーけどな」

 

 ため息交じりに柳田は言った。

 表向き居ない事になっている為、機密を守るべく後で協力の対価を協議するのはアルヌスにいる裏方だ。つまり、柳田にも仕事が回って来る。

 

 しかし、赴任した外交官の中には楽観的な意見が多い。「北風と太陽」に例えて「今まで日本の周りには北風しかいなかったが、ようやく太陽(扶桑国)が現れた」なんて事を言う者もいる。

 が、いくら扶桑国がお人好しな者が多いからって今回の協力の対価が安いとは柳田は全く考えていない。それに、今までだって裏方の支援や研究素材の提供など、随分と善意の協力を受けている。 

 確かに、今まで日本は東西南北と北風どころかブリザードしかしない連中に囲まれていたから太陽が嬉しいとはいえ、腑抜けすぎだと思っていた。

 

 タダより怖いものはない。国が何の理由も無く善意を示すとこは信用できない。柳田はそう信じていた。

 外交官が自分でその代償を払うだけなら良いが、自分も巻き込まれて評価を下げかねないのだ。上昇志向の柳田にとって、それは避けたい事だった。

 

「……ともかくだ、事情は分かっただろう? 大人しく行って来い」

「それだけ拒否してるって事は無理でしょ。俺にスパイなんて出来ませんよ」

 

 それでもなお、嫌そうな顔を浮かべる伊丹。

 だが、柳田には秘策があった。

 

「最悪、合当理の詳しい製法だけで良い。暇になったら高級温泉旅館でごろ寝してても同人誌を読み漁ってても構わん。これでも嫌なら、特地の資源状況調査隊の隊長になってドサ回りだ」

「命令なら仕方ないですね、二尉」

 

 伊丹は直ぐに態度を改め、「是非、扶桑国に行かせてください」とまで言い始めた。

 ぐーたら出来る温泉か、ドサ回りのどっちが良いかなんて決まっている。

 

 資源状況調査隊とは、特地にどの様な地下資源があるか調べる部隊である。扶桑国から提供された分布図があるとはいえ細かい所は実際に現地で調査しなければならないし、レアメタルやレアアースなどは書かれていなかったのだ。

 そこで幹部自衛官を1人、扶桑国兵と現地の傭兵などを雇って4,5人からなる調査隊を創り、各地へ派遣しているのだ。

 ただ、<帝国>内のみが限界だった。諸外国は未だごたついており、特に地下資源が豊富にあるとされるエルベ藩王国での調査は難しかったのだ。

 しかし、状況が変わる。

 竜種の襲撃の際に傭兵らを纏め、指揮を執った老人がなんとエルベ藩王国王デュランだったのだ。エルベ藩王国に雇われていた傭兵からの聞き取りや、アルヌスに研修に来ている薔薇騎士団のメンバーの中に実際に会った事がある者が居たのだ。間違いなく本人だという。

 そして自衛隊はデュランと交渉し、王太子に奪われた国の実権を取り戻すのに協力する代わりに、貨幣に使う貴金属以外の地下資源の採掘権と免税特権をもぎ取ったのだ。

 そこで追加で調査隊が必要になっている、という訳だ。

 

「ああ、頼むよ」

 

 にやぁ、と実に良い笑顔で柳田は告げた。

 

「あと行くときは政府の外交団も一緒だから、頑張ってくれ」

「…………へっ?」

 

 もしかして、嵌められた?

 

「これはオフレコだ。実はな、先日扶桑国の帝から直筆の親書が政府に届いていてな、ぜひ訪問してほしいと書かれていたそうだ。ここまでされちゃあ、政府としても使節団を出さなきゃいかん。その時に武官として自衛官を派遣したいんだが、いや、龍神様と仲が良くて守人さんと契約したお前が行ってくれるなら安心だな」

 

 扶桑国訪問は、扶桑国使節団が日本に滞在していた頃から話し合われていたのだ。今まで外交官や自衛官が飛空船に乗って扶桑国へ行っていたのは、この為である。

 先日、扶桑国もようやく受け入れ態勢が整ったため、親書が届けられたのである。

 

「……えーと、拒否権は」

 

 いくら温泉旅館があっても、そんなもんに付き合っていたら暇な時間なぞ無い。朝から晩まで腹黒いおっさん共と視察やら接待やらで連れ回されるに決まっているのだ。

 

「な・い」

 

 答えは柳田のとびっきりの笑顔だった。

 伊丹は気分が悪くなった。

 

 柳田は短くなった細巻を投げ捨ててちらり、と時間を確認する。もう診察の時間になっていた。

 

「じゃあ、準備だけはしておけよ。あと数日で出発になるからな。それと、彼女らにも声を掛けておけよ」

 

 まあ、俺が言わんでも勝手について行くんだろうけどな、と柳田は小さく呟いて屋上を後にした。

 



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第27話

楽しんで頂ければ幸いです。

(´・ω・`)おっさん書くの楽しい。



 この日の昼下がり。

 

「――この時間は、昨日、政府からの発表がありました、特地関連の緊急発表のため、番組を大幅に変更して総理大臣緊急記者発表を中継でお送りいたします」

 

 テレビ画面のアナウンサーが言う。大きく[速報]と[緊急記者会見]とテロップが流れ、画面が中継先に切り替わる。

 画面にはスーツ姿の職員が歩き回っており、報道陣の会話やタイピングの音などが騒めいて聞こえてくる。その中には日本語だけでなく、外国プレスの関係者の英語やロシア語、中国語などがあった。

 

 この日、多くの人達がテレビやネットの画面に注視していた。日本の家庭や仕事場、街角のテレビ、またアルヌスの自衛隊駐屯地でも。それだけでなく、この報道は今ではアメリカ、ロシア、EU、中国など、世界各国で流されるようになっていた。

 

 特地関連の緊急記者会見となれば、この世界は何かしらの反応を見せる。

 北条前総理による自衛隊の特地派遣。

 特地での<門>防衛のための大規模戦闘。

 扶桑国との接触。

 そして、先日のアルヌスへの大規模な竜種の襲撃もそうだった。

 

 その際にはアルヌスに竜種の襲撃があり、現地の自衛隊、及び扶桑国軍と共同でこれを撃退したとだけ公表された。その時の映像は無いが、撃退後に撮影された写真が公開され、その一枚には地を埋め尽くす様に散乱する竜の死骸と赤く染まった大地が写っていた。激戦だったことが窺える写真だった。

 ただ、流石に「神が暇潰しに物語を再現したいから竜種を集めて襲撃させた」とは言わなかった。というか、言える筈が無かった。

 言ったら言ったでマスコミや胡散臭いコメンテーター、果ては野党議員に「日本が自衛隊を特地に派遣させたから現地の神が怒ったのだ」「よって日本が悪い」などと意味不明なコメントをされかれないのだ。

 ……それでも国会で「自衛隊という暴力装置がいるから竜が危険を察知して襲撃してきた」などと言う議員も出たのだが。これでもし重軽傷者だけでなく、民間人に死者が出ていれば鬼の首を取ったかのように現政府を責めてきていたと思われる。

 まあ、難癖つけてくるのは何時もの事だし、馬鹿すぎる発言だったので答弁でもテレビでもさらっと流されて終わりだった。

 

 ただ竜種の襲撃を公表した瞬間、様々な憶測が働いて株価が変動することになった。理由が分かる、分からないを含めて色々とだ。

 そして、この会見後にアメリカは「日本への支援協力を惜しまない」と公表した。会見前には備蓄していた弾薬や燃料、また医薬品などが慌ててトラックへ積み込まれ、銀座の<門>に運び込まれている事は知られていたから、事前に準備していたようだ。

 EUもアメリカと同様の内容を発表。ロシアは沈黙したまま。中国は、まあ、いつも通りに報道官のオバハンが出ていつも通りに嫌味言っていった。

 

 ともかく、世界はそれだけ特地に注目しており、また期待しているという事だ。

 

 開始予告から10分程過ぎた頃に、ようやく本位が登場した。一斉にフラッシュが炊かれる。

 本位は気にせず国旗に一礼して壇上へ上がる。懐から取り出した原稿を置くと、ゆっくりと読み始めた。

 

「国民の皆様におきましては、現在銀座に<門>が出現し、繋がった先にある特別地域、通称特地の名で周知しているかと思います。そしてあの日、<門>の先から我が国と大いに関りがある扶桑国の使節団が訪問され、国交が樹立されました。また現在、<帝国>との和平交渉が行われており、平和に向かいつつ、あります」

 

 どうやら、先日の続報ではない。

 となると<帝国>か、扶桑国かどちらかだ。

 記者たちは一言一句逃さぬように耳を澄ませ、キーを叩き、手帳にペンを走らせる。

 本位の話は続く。

 

「……現在、アルヌスに扶桑国の駐日大使館が置かれ、菊池明堯大使閣下が信任され、駐在しております。そして、お互いの国に外交官を派遣をしていましたが、先日、扶桑国の帝より、私、日本国内閣総理大臣宛に、親書が届けられました」

『おお~』

 

 この言葉に会見場は大きくどよめき、カメラのフラッシュがバシバシと炊かれる。

 本位は落ち着いてから、次の内容を話し始めた。

 

「親書には、「我が国を一度ご覧になってほしい」との事が書かれており、使節団の訪問を希望されました」

 

 本位はここで一旦止め、乾いた唇を唾で湿らし、呼吸を整える。

 

「政府は協議の結果、我が国から扶桑国に、使節団の派遣を、決定致しました」

 

 更に大きいどよめきと一斉にフラッシュが炊かれ、TV画面には「政府、扶桑国に使節団の派遣決定」とテロップが流れた。

 本位は続けて使節団のメンバーを発表していった。

 使節団長には嘉納外務大臣兼特別地域問題対策大臣がなり、その下に名を連ねるのは特地問題対策委員会から抜擢されたメンバーであった。今の政権内ではまともな者ばかりを揃えていた。中には慣例を無視して大抜擢された者もおり、記者たちも驚きを隠せなかった。これに武官として自衛官と現地協力者が付く事になる。

 本位総理自らが行く、という話もあったが、昨今の世界情勢を考えると余り国外に出るのは望ましくなかった。

 

「それでは質疑応答の時間へ移ります。私の方から指名をしますので、質問の前に……」

 

 進行係の説明が終わらない内にズラッと記者達の手が上がる。それを無視して注意事項を言い終えた進行係は公平になる様に国内記者と外国プレスを交互に指名していく。

 

「扶桑国行きの使節団にメディア関係者も同行できないか?」

「外国人スタッフも同行できないか?」

「扶桑国は遠く離れた島国と聞いたが、使節団はどの様な方法で向かうのか? また期間はどれ位かかるのか?」

「企業関係者はメンバーに入っていないが、同行しないのか?」

「日本以外の国と国交を結ぶことはあるのか?」

 

 等々。これに対し本位は、

 

「使節団に同行するのは現地協力者、及び自衛官、自衛隊広報班のみであり、先の竜種の襲撃もあって民間人の安全を確保できているとは言えない事からメディア関係者を特地に入れる事は考えていない」

「外国人スタッフを同行させる、という話は出ていない」

「扶桑国が所有する飛行船で向かうと聞いている。訪問の期間は2週間程度と考えている」

「先に言ったように、民間人の安全を確保できていると言えない事から企業関係者の同行は考えていない」

「そのような話は聞いていない」

 

 と、すっぱり述べた。

 事実、先の竜種の襲撃がまた起きないとは言えないのだ。それにマスコミに問題が有る。

 <門>の先は異世界なのだ。この世界とは違う文化と慣例がある。それを尊重しつつ、互いに擦り合わせていくのが外交なのだ。

 それを分かっていない、「真実」の為には何をしても良いと考えているジャーナリスト達を特地、それも封建主義である扶桑国に連れて行けばどうなるか。言葉は通じても礼儀を弁えず、無遠慮でズカズカと踏み込んで扶桑国側を怒らせかねない。問題を起こされたら、折角の外交が全てお釈迦になりかねない。

 既にマスコミから洗礼を受けている菊池大使以下の扶桑国の面々もそれを危惧し、「マスコミの同行はご遠慮願いたい」とわざわざ連絡を寄越すぐらいだった。

 

 そのまま質疑応答を続けていき、挙手の数も少なくなったところで進行係が割って入り、本位に振る。

 本位は一礼して原稿を畳むと、壇上から去った。

 残された記者達は今の会見についてガヤガヤと会話しながら席から立ち上がり、号外を発行する手はずを整えたり、夕方のニュースまでに纏めようと動き始めた。

 

「総理、お疲れさん」

 

 奥で待機していた嘉納が軽く手を上げて労う。

 

「どうも、嘉納さん。やはり会見は疲れますね」

 

 ふぅ、と一息つき、本位はやや疲れた表情を見せた。流石にマスコミ、特に国内外のアレなマスコミからの厭らしい質問や気が抜けるようなアホな質問が続いたので面倒だった。

 

「総理、これからが本番だぞ、大丈夫なのか?」

「ええ、勿論」

 

 本位は額に浮かぶ汗を拭い、笑顔を浮かべる。

 

「これからアメリカに言ってやりますよ。『日本はやる時にはやる』ってね」

 

 

 

 日本で総理緊急会見が行われていた時、アメリカは時差の関係で深夜である。

 にも関わらず、ホワイトハウスには大統領補佐官やCIA長官など多くの人が詰めかけていた。

 

「ふむ、二ホンはようやくフソウへ訪問するのか」

 

 デスクに備え付けられたテレビで中継を見ていたディレルは、リラックスした表情で言った。そしてテレビの電源を落とし、時間を確認する。

 

「そろそろ、だったかね?」

「はい、大統領。ツルギのエンジン部の設計図を持った職員が本日<門>から出てくる事になっています」

 

 劔冑の戦闘動画を見て以来、合当理に着目したアメリカは大量の資金と日本の官僚らやCIA職員を動かし、合当理の機構を手に入れる様に動き続けていた。

 そして今回、遂に根負けしたのか、扶桑国が劔冑の合当理の設計図を提供したと情報を掴んだのだ。

 扶桑国から受け取った設計図は暗号化して、幾つものの偽物と共に自衛官がそのまま防衛省に持っていく事になっている。

 流石に防衛省の機密になってしまえば、アメリカでも手出しできない。そこでCIA日本支部を動かし、省に入る前にこれを盗みだす事になっていた。

 

「大統領、二ホンのモトイ首相からお電話です」

「ほう? さっきまで会見していたというのに、何かあったかな」

 

 ディレルは机の上にある固定電話のボタンを押し、受話器を手に取る。

 

『Good evening、大統領。本位です。突然のお電話、申し訳ありません』

「こんばんは、モトイ。ああいや、そっちでは「コンニチハ」だったね」

 

 同時翻訳で互いの言語に切り替わる。

 

「それで、どうしたんだい? こんな夜更けに。友人とはいえ、ちょっと失礼じゃないかね?」

『では、単刀直入に言います。我が国に対する、CIAの活動を止めて、こちらに協力して頂きたい』

「ほう? いきなりだが、何のことか分からないな」

 

 ディレルは驚いたのか、僅かに片眉を上げる。

 最近は特に警備が厚くなっているというが、まさかこちらの動きを察知したとは。二ホンのコーアンも中々やるな、と心の中で称賛を送る。

 

「仮に、それを止めたとして、我々に何のメリットがある? それで、話は終わりかね? これでも私は色々と――」

『この後に日本にいるCIA職員から報告を聞く事がある、と? それは、日本に滞在している日系人の山田万里夫(マリオ)さんですか? それとも田中光宙(ピカチュウ)さん? いや、鈴木原子(アトム)さんも居ましたな』

 

 ディレルから表情が抜け落ちた。

 CIA長官が慌てて日本支部に問い合わせ、確認させる。そして、潜り込ませていた部下全員との連絡が途絶えている事に青褪めるのだった。

 

「――まさか、モトイッ!?」

『申し訳ありませんが、<門>の近くをうろついていたCIA職員は、銃刀法違反で拘束させていただきました。今は公安の方で身柄を確保しております』

 

 やられた! 嵌められたッ!!

 ディレルは受話器を握り締め、青褪めたままのCIA長官を睨みつける。そして発作的に沸き上がった怒りを堪えた。

 

(いや、まだ話がある。怒り散らすのは後だ……!)

 

「モトイ、君は長年の友人相手になんて事をする? 酷いじゃないか。これじゃあ、君の秘密だってバラしたくなるなぁ」

 

 ディレルが「お前の所の汚職リストをマスコミに公開するぞ?」と脅す。

 きっと今頃、モトイは脂汗を滝のように流しているに違いない。そうほくそ笑む。

 だが、

 

『――ええ、それが?』

 

 覚悟を決めた、冷徹な声に流石のディレルもぞっとするような感覚に襲われた。

 

『公表したいなら、どうぞご自由に。公表した所でたかが汚職。私自らを生贄にすれば、次の政権に無事に移せますので』

「な、あ……ッ!」

 

 ディレルは絶句した。この男が、そんな簡単に自分の人生を捨てるなぞ出来っこないと考えていたからだ。

 

『そうそう、大統領にはぜひ、知ってもらいたい事があるのですよ。

 このままですと、<門>は閉まります』

「な、に……?」

 

 そしてはたと気付く。

 

「も、モトイ、お前は、<門>を破壊する気かッ!?」

『まだ、ですよ。今の所は、ですが』

「そうなれば、二ホンは無事じゃあ済まないんだぞ!?」

『我々が壊さなくても、扶桑国が壊しますよ。彼らがこちらの世界が不都合だと判断すれば<門>は破壊されます』

 

 どの道、このままでは<門>は破壊されますよ? と本位は告げた。

 事実、今ある<門>は弊害が出てしまう為、破壊される事になる。そして新しい<門>を創り出すべく計画を進めていた。

 しかし、それを知らないディレルには、別の事が頭に浮かんでいた。

 現在、扶桑国と国交を結んでいるのは兄弟国と言える日本のみ。そんな彼らから見て、今のアメリカはどの様に映るか? 今の心情は最悪だろう。そして、仮にアメリカが<門>を手に入れても、扶桑国は<門>を破壊して関係を断ち切る事は簡単なのだ。

 そして、この世界の技術ではまだ<門>は創れない。言い訳の出来ない失策である。

 

『もし、ご協力して頂けるのであれば、我々は今回の扶桑国訪問で手に入れたものを幾らかは譲りましょう。これは、扶桑国からも許可を取っています。

 では大統領、良い夜を。色好いお返事を待っています』

 

 ガチャリ、と通話が切れる。ディレルは暫く固まったままでいたが、ゆるゆると受話器を下し、深く深く息を吐く。

 そしてハンカチを取り出して脂汗を拭い、崩れ落ちる様に椅子の背もたれに寄りかかった。

 

「……電話が、こんなにも疲れるものだとは思わなかったよ」

 

 と、ディレルは疲れた表情を隠さずに言った。誰も答えない。ここに居る全員が、日本がここまで強硬に動くとは思わなかったのだ。

 

「諸君、どう思う?」

「……全くの出鱈目、と言いたいところですが、嘘では無いかと」

「モトイは本気だと?」

「はい、大統領。今までのモトイでは有り得ません。まるで、話に聞く我々の先祖が応対したサムライのようです。

 歴史を見れば、二ホンは前大戦の時だって我々相手に立ち向かったのです。そして当然、我々が勝ちましたが、相応の被害を出しています。覚悟を決めた者ほど怖いものはありません」

「つまり、今までの強硬姿勢が、二ホンを元の姿へと戻してしまった、という事か……」

 

 全て裏目に出てしまった、とディレルは内心ごちた。

 

 考えてみれば、その土壌は出来ていたのだ。

 <帝国>の侵攻によって多くの人が犠牲になり、そして皇居が攻撃された事で日本は烈火の如く怒り狂った。

 そして改正条件の難しさからこのまま変わる筈が無いと思われた憲法は改正され、特別地域自衛隊派遣法が成立した。これにより、普通の国家になったと言われるようになった。

 そこに扶桑国が現れ、更に各国からの圧力を受けて、最も難しい、政治家の意識をも変えてしまったのだ。

 しかも、日本は先進国の一つ。斜陽国家やら何やらと言われがちだが未だ経済も技術力もトップクラス。自衛隊は米軍から見ても異常なまでの練度の高さを誇り、頭がおかしいと言われるレベル。そして今回の一件で諜報対策を十分に取っている事が判明。

 仲間なら、この上なく頼もしい。だが、敵となれば最悪である。 

 

「……暗殺は、どうだ」

「大統領ッ!?」

 

 ディレルの言葉に周りの雰囲気が一変する。流石に同盟国の、しかも総理を物理的に消すなど有り得ない話なのだ。

 

「意味がありませんな。彼を消したところで今の二ホンは止まるとは思えません」

 

 CIA長官が実務的に答えた。

 次の総理の有力候補は森田、嘉納、荒巻の三名。順当にいけば森田だったが、彼は今の政権に汚職がバレ、遠ざけられてしまった。荒巻はまだまだ知名度も実績も足りない。すると、嘉納が候補となる。

 

「カノウはモトイ以上に厄介です。今の政権だと最も国民に人気がある上に実績も高い。それに見合う実力もあります。彼も消すとなれば、こちらの仕業だと分かってしまいます。フソウへの心情も最悪になるでしょう。

 しかし……」

「どうした?」

「憶測ですが、二ホンは<門>を創り出す技術を手に入れたのかもしれません」

「理由は?」

「フソウの存在です。冥府の神とやらが<門>を作り出せるのなら、同じ神であるフソウの神だって作れるかもしれない、という事です」

「可能性はあるな。だが、今はそれが事実かどうか確認する方法がない、か」

 

 それっきり無言になる。

 コチ、コチ、と秒針が動く音だけが室内に響く。ディレルは言った。

 

「済まない、コーヒーを一杯頼む」

「はい、大統領」

 

 クロリアンは食堂のスタッフへ連絡し、直ぐに素晴らしい香りのコーヒーが届けられた。

 ディレルは出された挽き立てのコーヒーの香りを一通り楽しみ、一口飲む。やはり、美味い。

 

「……モトイの願いは、五月蠅いチャイナを黙らせることだったな」

「では?」

「ああ、いいだろう。ここはひとつ、二ホンに協力しよう」

 

 やや意外そうな表情になる面々を見渡し、ディレルは鼻を鳴らして背もたれに寄りかかった。

 

「おいおい、私はアメリカ合衆国大統領だよ? 国益になり、自分の支持を増やす事が出来るならそっちを優先するさ。

 まあ、モトイの筋書き通りになるのは非常に癪だがね」

 

 日本や扶桑国の味方した方が簡単に利益になる、というならばその通りにする。

 それがアメリカという国である。

 駄目と分かったら、さっさと見切りをつけて諦める。そして直ぐに別の方法を考えるのだ。今回もこれに当たる。ここから自分の利益を最大にする為に誘導していくのがアメリカのやり口なのだ。

 

 悩んでいたのは、長年下の存在だと思っていた者に自分のプライドが偉く傷つけられたままなのだ。だが、それで国益を逃すのは大馬鹿者がする事である。

 当然、あとでモトイには倍返しどころか100倍返しでやり返さなければ気が済まないが。

 

「今回は我々の負けだ。だが、次はこうはいかない。補佐官」

「はい、大統領。では今行っているキャンペーンの一部を変更して我が国のイメージアップをしましょう」

「そうだ。親米派を増やし、今後の為に繋がりを太くしよう。長官」

「はい。拘束された職員の身柄を引き取り、以後は公安に適度に協力してチャイナ共を叩き潰してやります」

「その通り。出来るか?」

「当然でしょう。この世界にある陰謀はCIAが行っているんですから。ああ、ただポストが青いことの原因だけは私どもの所為ではありませんよ」

 

 陰謀はともかく、ポストが青い理由はCIAの所為じゃない。そう聞いて、この場にいる者達が全員疑いの眼差しで長官を見る。

 これにCIA長官は憮然とした表情になり、それがおかしかったのか、長官以外から笑い声が零れだした。

 

「まあ、それは後でじっくりと調べる事にしよう」ディレルは笑いを噛み殺すと、机の上で手を組む。

「友人の頼みだ、その願いを叶えるのは我が国(アメリカ)。謝礼も弾むそうだ。諸君、アメリカの力を東洋のサムライ達に見せつけてやろうじゃないか」

『イエス・サー!』

 

 皆の返事を聞き、ディレルは満足そうに頷く。

 戦後、勝者となったアメリカの陰に隠れ、腑抜けた日本を侮っていたのだろう。だが、彼らは再び世界相手に打って出た。しかも、前回より遥かに強大になって。だが、今度は同盟国である。それが頼もしい。

 

「ようこそ二ホン、地獄のパワーゲームの世界へ」

 

 以降、アメリカは活動方針を一変。

 中東での戦争に注力しつつ同盟国である日本に積極的な支援を行い、片手間に中国相手に猛威を振るうようになった。

 




次は特地組についてですかね。
テューレとかゾルザルとか、その辺りを。

勢いで書いているから、矛盾点や重複する内容が多くなってきた……

全部書き直すか? (ただし、それやって一度も完結した事が無い)

本当にどーしよ?


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第28話

短いですが、楽しんで頂ければ幸いです。


 <帝国>帝都。

 

 空自の爆撃によって瓦礫の山になった元老院議事堂跡地にて、元老院議員達は日本に対する今後の対応で揉めていた。

 

「貴様らは腰抜けかッ! それでも栄えある帝国の貴族かッ!」

「戦争馬鹿は黙っておれッ! 見栄で国を滅ぼす事になったらどうするのだッ!」

 

 いや、もはや論戦ですら無かった。全く議論は進んでおらず、ただお互いに自分の感情とぶつけ合う意味の無い怒鳴り合いでしかない。

 強硬派は、日本と和平を結ぶにしても、このままでは<帝国>の威信を損ねるとして何かしらの勝利を得なければならないと主張。

 講和派は、日本との差は歴然。賠償内容も今後の協議の結果次第では軽くなる。今直ぐに講和交渉を行い、日本を刺激してはならないと主張していた。

 共通しているのは、どちらも日本とは最終的に講和をするべきと考えていた。だが、その過程が食い違っている為にいたずらに時間ばかりを費やしていた。

 

「貴様らそれでも男か! 股間にある逸物は飾りかッ!」

「もはや使い物にならんものをぶら下げている禿ジジイに言われたくないわッ!」

「(下らない……)」

 

 今、やり合っている議員らは長い事元老院に勤めているだけあり、実に豊かな知性と教養の高さを感じられるな、とピニャは内心皮肉る。

 

 そもそも、なぜこの場に居なくてはいけないのだろうか?

 二ホンとフソウ国について詳しい説明を求められ、実際に見聞きした事を話し、二ホンから貰った捕虜の名簿だって見せたのだ。それで阿鼻叫喚し、また一喜一憂する議員らが続出したが、求められた事を果たしただけである。

 もう帰って良いだろう。帰らしてくれ。私だって色々と忙しいんだから。

 そう言いたいのだが、更にヒートアップした罵り合いにピニャは割り込める筈も無く、ただため息をついて無意味に時間を過ごすしかなかった。

 

 ピニャと同じ、凄まじく下品で無意味な罵り合いを見せられている議員らは、思わず視線を上座にいる皇帝モルトと、その両端に座るディアボとピニャの二人に見やった。

 モルトは玉座に深く座り、目を伏したまま微動だにしない。ディアボは何かまた深く考えこんでいるようだ。

 そして、ピニャ。

 以前までは、ピニャは<帝国>第三皇女という地位の所為か気位が高く、辛辣な台詞を吐く事から男性からは恐ろしく嫌われていた。

 だが、イタリカ防衛戦での初陣と、そこで見た日本の自衛隊と扶桑国の劔冑の精強さ、そして日本の発展ぶりを見てからはそれを改め、普段の振る舞いにも女性らしい柔らかさが出ていた。

 まあ、丸くなったピニャを侮って話しかけ、返り討ちに遭う者もいるが、その地位と比類なき芸術品と称えられた美貌から、やはり人気は出てくる。

 

 ピニャは常日頃から騎士団の者と訓練に励んでいるが、肢体は柳腰で女性らしい丸みが全く損なわれていない。燃える様な朱色の髪。日焼けしていない白磁の肌に、優美な顔立ち。今は憂鬱げに顔を傾け、伏し目がちの赤い瞳の上では長い睫毛が震えていた。

 その姿はまるで一個の芸術品のようだ。<帝国>の将来を憂いているようで、年甲斐も無く顔を赤らめ、魅入ってしまう者も出ていた。

 

 ……まあ、<帝国>云々の下りはおっさん共の妄想に過ぎないのだが。

 

「(ああ、早く帰りたい……。そしたら、リサ殿厳選の至高の芸術(BL同人誌)を見れるというのに……!)」

 

 ピニャは<帝国>を憂いているのではなく、単にお預け食らって不貞腐れているだけだった。

 今回の梨紗の作品は守人も協力したという力作であり、是非楽しんでほしい、とこちらの言葉で書かれた手紙まで送られていたのだ。ピニャはこれを非常に楽しみにしていたのだ。

 

 その筈だったのに。

 ピニャは上を見た。そこには精緻な模様が刻まれていた天井があったが、今ではぽっかりと青い空が写り込んでいた。

 この苦行から解放されるまで、まだまだ時間は掛かるようである。 

 

「早く終わらないかなぁ……」

 

 そうぼやく本人が知らぬ間に、ピニャは<帝国>内での人気が高まりつつあった。

 

 

   ***

  

 

 ここの個室に入院している患者の一人、ヴォ―リアバニーのテューレはベットの上でただぼぅ、と窓から見える外の景色を眺めていた。碌に食事も取らず、点滴を受けている為にしなやかな肢体はやせ細っており、その顔に生気は無かった。まるで人形の様だった。診察の時になっても、先の戦いで負傷者が多数発生し、施設内が俄かに騒がしくなっても彼女は変わらず、ずっと外の景色を眺めて続けている。

 

 彼女がずっと頭の中で考えているのは、正神である守人から知らされた内容と、同族の戦士だったデリラに会った時の事ばかりである。

 その時に言われた言葉が、グルグルとテューレの頭の中を駆け巡っていた。

 

『裏切者め! 殺してやる!!』

 

 ――なぜ、私を殺そうとする? デリラ、なぜそんなに私を憎んでいるの?

 

『先に言っておく。お主の一族と国は、もう無い。<帝国>によって奴隷として捕らえられるか、抵抗する者は討ち取られたそうじゃ。先の者は、その生き残りじゃ』

 

 ――あなたは、何を言っているの? そんな筈は無いわ。だって、あの時、皇子と契約した筈だもの。

 

 ヴォ―リアバニーは、ファルマート大陸の東北域にある平原に原始的で小さな部族国家を築いていた。

 彼女らは人の眼から見れば特殊な種族で、多産であるが男は滅多に生まれず女ばかり。男が稀少なため、他の種族で気に入った者と交わり子を成し、そして常に同族間で闘争に明け暮れていた。

 テューレは、その族長だった。絶対的な権力を持つ女王であり、同族の男女から生まれた純潔種である。

 彼女らはテューレの下、変わらない日常を送っていたのだ。

 

 しかし3年前、突如として<帝国>が奴隷狩りとしてヴォ―ニアバニーの王国へ攻めてきた。ゾルザルがヴォ―ニアバニーは淫乱で美女が多いと聞いたから、という理由だった。

 普段から同族同士で闘争に明け暮れている彼女らは精強で、最初は<帝国>の大軍を翻弄していた。だが、それが限界だった。<帝国>は物量差で押し始め、幾ら精強なヴォ―ニアバニーの戦士といえども疲労が溜まり、討ち取られ始めていった。

 日に日に討ち取られ、奴隷として捕らえられていく戦士達を見てテューレは悩み、そして決断した。

 我が身をゾルザルへ差し出す代わりに、王国と一族に手を出さない様にて申し出たのだ。

 ゾルザルは鷹揚にそれを受け入れた。以来、テューレはゾルザルの奴隷として屈辱に塗れながらも、一族の為にと耐えていたのだ。

 

 ――だから、故郷が、一族が滅んだ筈が無いの。

 

『嘘だ! アンタは、自分だけ助かる為に、アタイらを捨てて逃げ出したんだ!』

 

 違う! 私は、一族の為と思って――、

 

『アタイらは<帝国>のクソ野郎共相手に誇り高く戦った! あの時、アンタが死ぬまで戦えと言えばそうした! アンタが一族を守りたいと言えば、アンタと護衛や子供達を逃がすだけの時間は稼いだ! だけどアンタは何も言わずに勝手に居なくなった!

 アンタは、アタイらの誇りを踏みにじったのさッ!』

 

 違うッ!! 私は、そんな事は――、 

 

『<帝国>は約束を守る気は無かったんじゃろうな。お主は奴らの思惑通りに動いてしまった。結果、お主は同族から裏切者として追われる身になった』

 

 そんな、では、私は、何のために――、

 

『――たかったなら、一族を救いたかったなら、なんで、なんでアタイらをもっと信用してくれなかったのさぁ!?

 答えろ、テューレ!』

 

 泣き叫ぶデリラに、テューレは茫然とした表情で何も言えなかった。

 そして、違う場面に切り変わる。

 

『お主は、これからどうしたい?』

 

 ――どうしたい、とは?

 

『お主と一緒に救助された彼女らは、ここの分社で神官見習いとなる。そこで一からやり直すそうじゃ』

 

 ――やり直す?

 

『そう。ここに建てた分社も人手が足らんのでな。神殿に入っていれば<帝国>も手出しはせん。きっと穏やかな人生を送れるじゃろう。働いて、好いた男と一緒になり、子を設け、共に老いていく。そんな人生じゃな』

 

 これは、甘い誘惑だ。だけど、それはまだ選べない。

 気が付けば、首を横に振ってやりたい事がある、と言っていた。

 

『……成程の。では、もう一度聞こう。お主は、何がしたい?』

 

 ――そう言われた時、何て答えたんだっけ?

 

「復讐、そう、復讐……」

 

 呟いたと同時に、心の奥底から何かが込み上がってきた。

 そうだ、復讐だ。

 私の父母、弟を殺し、我が一族を滅ぼし、王国を滅ぼした<帝国>に、ゾルザルに復讐を!

 それが、ヴォ―ニアバニーの最後の女王、テューレのけじめだ。

 そして、全てが終わったら――、

 

 テューレは気が付けば、入院してから久しぶりに表情が動いた。

 その顔には、仄暗い笑みが浮かんでいた。

 

 

 ゾルザルは一人、居館の一室に籠っていた。豪華な造りの室内の窓は全て閉められ、黒いカーテンで日の光が入らず、暗闇となっていた。その中で唯一人、布団を被り、ベットの上で蹲っていた。鍛えられた身体はあの時より一回りは萎んでいて、ただ身体を震わせている。

 周りには誰もいない。

 何時もなら閨を共にする女奴隷共は居ない。あの日に全員連れ去られてしまった。

 共にバカ騒ぎして酒を飲み、共に訓練に励み、共に戦場を駆け回った取り巻き(戦友)はいない。皆、あの日に死んだ。

 居館内にいるのは老いた執事と侍女、それも館内を維持できる最低限の人数のみ。あとは皇帝の意向を受けて警備する近衛兵が巡回していた。

 明かりをつければ、己の惨めな姿を見てしまう。だから付けない。

 外に出れば、己の知らない兵や侍女から「種無し」「本当の無能」「価値無し」と嘲りを受ける。

 

 何故、こんな目に合わなければならんのだ。俺が何をしたというのだ。俺は何もしていないというのに。

 ただひたすら俺は悪くないと、ゾルザルは呟いていた。

 

 そんな時である。

 部屋の天井から、轟音が起きた。

 

<呵! 呵! 呵呵呵呵呵ッ!>

  

 瓦礫が落ち、粉塵が舞い上がる中、奇妙に粘っこい大笑いが暗闇の中に響いた。

 

「なッ、なんだ! いったい何なのだッ!?」

 

 ゾルザルは突如起きた出来事に怯えながらも誰何する。

 声の主は告げた。

 

<復讐、したくないか?>

「…………なに?」

<呵呵ッ、復讐よ。己を見下した者共に、復讐したくないか?>

 

 再び大笑いが響き、そしてニッカリ、と笑う顔がゾルザルの目の前に映った。

 

 暗転。そして、景色が変わる。

 

 皇城ウラ・ビアンカを背にして立つのは栄えある<帝国>皇帝ゾルザル・エル・カエサル。その屈強な身体に匠精が丹念に造り上げた豪奢な鎧を身に纏い、古代龍をも打ち倒せる長剣を佩く全世界の覇者である。

 開かれた門の先から見える広場には幾万もの黒い人だかり。周りには<帝国>旗を持つ近衛兵が整然と並んでいる。それは誰かの登場を待っているようだった。

 ゾルザルは、茫然とした表情のまま前に出る。雲一つない青空。陽光が降り注ぎ、ゾルザルを祝福するかのように照らす。姿を見せれば、屈強な兵士たちが、元老院議員たちが、属国の王たちが、絶世の美女らが、この世に存在する神々が、誰もが一斉に己を前にして首を垂れる。

 

「皇帝陛下。どうか我らにお言葉をお願い致します」

 

 ゾルザルの足元に傅いた白兎の様な美女が言った。テューレだ。あの時と違い、その滑らかな肢体に極薄の衣装を身に纏い、着飾った美しい姿。

 

「テューレ……?_いや、俺が、皇帝……?」

「はい。貴方様は偉大なる皇帝です。凡人には成し遂げられなかった世界を統一し、更には神々からの祝福を受けた偉大なる御方。<帝国>の繁栄を約束した貴方様は力強く凛々しく、その颯爽とした振る舞い、誰もが見惚れております……」

 

 見上げるテューレの陶酔した表情に、ゾルザルは一瞬、何も言えなかった。だが、直ぐに思い出した(・・・・・)

 ああ、そうだった。そうだ、俺は英雄。歴代の皇帝も、父上ですら成しえなかった<帝国>による世界統一をした偉大なる存在。神々からも認められた唯一無二の存在なのだ。

 

「ですが、貴方様を理解せず、未だ刃向かう存在がおります。これより、その征伐に向かうのです」

 

 そうだ、これより我らに歯向かう者共を処罰しなければならない。己に恥辱をかかせた奴らに、正義の鉄槌を下さなければならない。

 ゾルザルは長剣を抜き去り、空高く掲げる。陽光を反射し、眩い光を放つ。

 

「いざ、出陣なりッ!」

 

 剣が空を切り裂くと同時に、天を轟かせんとする歓声が沸き起こる。

 

「皇帝陛下、万歳!」

「偉大なる我らが王、万歳!」

「刃向かう愚か者に鉄槌を!」

 

 その姿に、ゾルザルは満足げに頷いていた……

 

 

<――こうも我が陰義に引っ掛かるとは。いやはや、確かに無能と言われるだけはある。

 だが、これで帯刀の儀は成った。よろしく頼むぞ、御堂よ。

 呵! 呵! 呵呵呵呵呵ッ!>

 

 声の主が再び奇妙な大笑いが響いた。

 だが、虚空に向かって壊れた笑みを浮かべ、既に自分の世界に入ってしまったゾルザルの耳にはもう聞こえなかった。

 

 そして、<帝国>皇帝モルトがディアボの立太子を決めたと公表したこの日、ゾルザルは館内の侍従と包囲していた近衛兵を全員惨殺し、行方を晦ました。

 




活動報告に今後について書きましたので、興味ある方は是非ご覧になってください。


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閑話3

遅くなりました。
今回は「実際に作ってみた」の話になります。
楽しんで頂ければ幸いです。


 ある日の昼下がり。

 日本国と扶桑国による「アルヌスの街」建設ラッシュもある程度落ち着き、余裕が出てきた時である。

 守人は分社にて、ネットに接続して某大手動画投稿サイトにアクセスして、有名な動画を片っ端から見ていた。

 

「ほうほう……、ふんふん……、ああ、これは……」

 

 現在、扶桑国は日本のみと国交を結んでおり、活動資金は地球側では稀少な素材とコスプレ衣装やフィギュアと言った工芸品の輸出によって賄っていた。

 また扶桑国の大使館はアルヌスにある為、日本がちょっとした善意と打算から受け口になっていた。

 だが問い合わせが多すぎて手が回らなくなっていたのだ。

 

 そこで日本側からの勧めもあり、扶桑国のホームページや通販サイトを公開したり、日本側と協議してマスコミからの取材もある程度は受けていた。

 

 しかしである。写真も映像も無い為、扶桑国の簡単な歴史や有志の者が描いた風景画、その日の活動記録しかないホームページと通販サイトはアクセスが集中しすぎて何度も増強しても毎回サーバがダウン。今も不安定な状況が続いていた。

 また取材してくる者の礼儀の無さとしつこさには誰もが参っていた。それを我慢して取材を受けても、根掘り葉掘り聞いた上でこちらの言った言葉を拡大解釈して面白可笑しく報道するものだから、報道される内容が偏ってしまう。

 

 ホームページと通販サイトはともかく、マスコミに好き勝手言われるのは癪に障る。

 そこで扶桑国は考えた。

 人は言葉では中々上手く伝わらない。絵が必要となる。なんやかんや言われながらも、テレビが視聴されるのは誰でも分かる絵があるからである。

 ならば、自分達でテレビと同じ事をすればいい。つまり、ネットでの動画の配信である。

 ホームページは不安定なため、動画投稿サイトを使う事になった。これなら上手く使うことで生の声を配信し、多くの人に知って貰える。多くの人に見て貰えればそれだけ広告費が入るそうで、こちらに有益な情報を配信しつつ資金を稼ごうという試みであった。

 その代わり、動画投稿サイトはとんでもない事になりそうだが、今の状況が改善されるなら割と知ったこっちゃなかった。

 

 そこで様々な動画を作ったが、コレというモノが無い。

 昨年の動画投稿サイトで年間再生数10位以内に輝いたのは、劔冑の一騎打ちや龍神の戦闘、また銀座事件のドキュメンタリー映像や扶桑国使節団の訪問、ビルの合間を縫うように飛ぶ太郎の動画などである。

 

 なので、最初に投稿するものはこのくらいインパクトがあり、娯楽に満ちたものが欲しいと扶桑国側は考えていた。

 というのも、のっけからバリバリに主義主張の詰まった動画を出すより、娯楽の多い動画の方がとっつきやすい。それに大体の先進国は民主主義だ。「扶桑国と仲良くした方がいいよ?」と言う様な思惑を含ませた動画を見た有権者が賛同し、数が多くなれば各国も対応を考えなければならない。

 

 だが、今の所用意できたものは、竜士、つまり翼竜に乗った兵の目線から撮影したもの。アルヌスの街を上空から撮影したり、雲海の中を飛び回り、編隊を組んで急降下や急上昇などの戦闘機動を収めた動画となる。また剣歯虎(サーベルタイガー)の日常と題して兵と共に街中を巡回したり、愛らしい剣歯虎の毛並みを整えたり、街の子供達とじゃれ合う心温まる動画。あとは奇声を発し、木剣でひたすら立木に打ち込みを続ける筑紫兵の鍛錬動画、竜の鱗を使用した当世具足の製造動画、日本に輸出するコスプレ衣装の制作動画、等々。

 これらは地球側でもあるパラモーターで撮影した動画やペットの猫の様子を撮影したもの、武具や服の制作動画は幾つもある。扶桑国からすれば、それがちょっと変わった位の認識しかなかった。

 

 そこで、話を聞いた守人も何かいい案が無いか、考えているのだ。

 まあ、簡単に言えばちょっと暇だし、面白そうなので何かモノづくりに良いネタが思いつかないかなー、と動画見ている訳である。

 

「しかし、どうしたものか」

 

 動画を見終わった守人は疲れた目を解し、固まった肩を軽く揉み解しながら思案する。

 実際に動画を視聴した守人も、今のではインパクトが足りない様に思えた。扶桑国という事で視聴数は稼げるが、出すならばやはり面白いものでなければ。またこちらは初心者なのだから、最初から全力全開で行かなければ世界中の視聴数を稼ぐ猛者共に負けてしまう。

 となると、地球世界には無いような、もっと珍しいものが必要なのだ。

 でも何が良いだろうか。

 扶桑国と言えば技術。そして己はモノづくりを得意とする。なら、やっぱりこれに沿ったものが良いだろう。

 

 某狩猟ゲームの様な武具を造る。

 既に当世具足の動画があり、被るから却下。コスプレ衣装の制作も同様。

 

 同人誌。

 ちょっと違う様な。あといまいち、こう、パッとしない。

 

 リアル・マインクラフト。

 時間と場所が無いから無理。というか、周りから怒られる。

 

 劔冑の鍛造。

 失敗したときの焼死体などグロ注意。

 

 魔法。

 

「ああ、魔法。これが良いの。祭りの時も受けが良かったし。そういえば、この間隊長さんらから貰ったゲームに良いのがあったの。

 よし、実際に作ってみるか」

 

 止める者は、居なかった。

 

 

   ***

 

 

 数日後。

 普段、自衛隊が訓練に使う荒野には守人から呼び集められた者達が集まっていた。

 扶桑国からは太郎や不破。そして菊池に動画撮影班。

 日本側から暇していた伊丹や倉田などオタクな自衛官が。また勘が働いたのか、ロゥリィに連れられてテュカ、レレイの三人娘も見学に来ていた。

 

「なんで休暇をエンジョイしていた俺まで……」

「隊長はいいじゃないすか。俺なんて折角ペルシアさんと仲良くデートしていたって言うのに……」

 

 伊丹と倉田がぼやく。

 まあ、伊丹はともかく、倉田はデート中からの呼び出しである。

 イタリカの一件でネコミミで美人メイドのペルシアと知り合い、それから順調に交流を重ねてリア充となりつつあった。今回の呼び出しも、それを妬んだ連中が画策したとか、何とか。

 

「おや、儂が最後かの?」と、ゆったりとした歩みで守人が現れた。手には竹箒と小さな風呂敷を提げていた。

 

「いえ、先程集まったばかりです」菊池が言った。

「今回、動画に相応しい、画期的な道具を作り出した、とお聞きしましたが……」

「まあそう慌てるな。さて、今回のびっくりどっきり道具は……」

 

 まずはこれ、と手にしている竹箒を持ち上げる。

 

「これ、見た目は唯の箒。実際に日本に行って買ってきたものじゃな。しかし、これは儂がちょいと弄ってあっての……」

 

 竹箒を地面に置き、喉歌とも呼ばれる独特の一人和声を呟く。そして起動。

 

「『上がれ』」

 

 すると、ふわり、と竹箒が宙に浮いたのだ。

 

「つまるところ、これは空飛ぶ箒って奴じゃな」

 

 おお、と日本側からどよめきの声が上がった。

 誰か試しに乗ってみないか、と守人が言うと、ピシッ、といち早く手が上がった。レレイであった。

 守人は手招きし、レレイに箒を手渡す。心なしか、レレイはちょっと嬉しそうである。

 

「じゃあ、乗り方を教えよう。まず、こいつはちょいとコツがあっての。乗る時は太ももか膝で挟むと良い。動かし方は――」

 

 守人が詳しい説明を始め、レレイは小さく頷きながら細かい部分を訊ねていく。

 操作自体はそこまで難しいものでは無く、『上がれ』『進め』『止まれ』と言葉を口にすることで動くようになっている。あとは身体の重心移動、また言葉を重ねる、例えば『速く』『進め』と言う事で細かな操作も可能としている。

 

「では、やってみると良い」

「ん、『上がれ』」

 

 レレイは一発で箒を浮かべる事に成功した。

 おおー、と周りから拍手が起きる。

 レレイはそれに答える事も無く、そのまま箒に跨るとそのままスイー、と空を飛び始めた。

 最初はゆったりとした速さで人の頭ぐらいの高さで飛んでいたが、だんだん慣れて来たのか速度を上げ、螺旋状に上昇したかと思えばそこで急降下、更にバレルロールや宙返りと空中機動を行う。

 一度地表スレスレまでゆっくりと高度を下げるとそこから一気に加速、急上昇し、イルメルンターン。一八〇度ロールして背面飛行しつつ急降下。そこからスプリットSと、見ている方はハラハラするが、当の本人は無表情のまま自由気ままに飛んでいた。

 そして一通り楽しんだのか、レレイがゆっくりと降りてくる。速度を緩め、伊丹の前にピタリと止まった。竹箒から降りる。

 

「ただいま」レレイが言った。

「あ、ああ、お帰り」

 

 何でおれの前に? と思いつつも伊丹が答えた。

 

「楽しかった?」

「すっごく。自分が思った通りに飛ぶ事ができる。でも乗り心地が悪い」

「そこら辺はまあ、仕方ないじゃろ。竹箒にしたのはお約束という奴じゃしな」

 

 二人の元に守人が近づく。そして竹箒を受け取ると、一言二言レレイに体調に問題無いか訊ねる。

 飛行中は魔法を展開し続ける事になるので負担が大きいのだが、レレイは少し疲れた程度で特に何もない様だ。

 

「まあ、原理は出来たから、今度はもっと楽に、もっと乗り心地の良いバイク型で造ってみようかの」

「楽しみ」と、レレイは無表情のまま小さく頷いた。

 

 さて、これだけで終わりではなく。まだもう一つ残っている。

 

「さて、今回の本命は、これじゃな」

 

 守人はカメラに向かって満面の笑みを浮かべると、箒を脇に置き、手に持っていた風呂敷の包みを解く。

 現れたのは、小さな木箱だ。蓋を開け、中から取り出したのは、数枚の御札であった。

 

スペルカード(・・・・・・)である!」

 

 ばばーん。

 

「さて、この御札。これに熱量を流す。そして、自身が思い描く弾幕を投影する。するとこの御札に登録され、籠めた熱量が尽きるまで弾幕を打ち出す事が出来る」

 

 以前、伊丹に暇潰しにと勧められてプレイした、腋出し巫女や魔女、妖精やら妖怪やら神様やらが出てくる某弾幕ゲームのそれと同じである。

 

「おおッ」と、オタク自衛官と一部の扶桑人らは騒めいた。実際にゲームの様な事ができると思うと、やっぱり心が躍るものなのだ。

 

「一応聞きますけど、安全対策とか大丈夫なんですか?」伊丹が訊ねた。

「見た目は派手だがの。中身は唯の光と音だけの存在で威力は全く無い」

 

 曰く、交流祭で見せた魔法の応用であるらしい。あの魔法は光と音を生み出すだけだが、守人が無駄に技術と素材を惜しみなく投入し、作り上げたという特殊な紙に刻み込んでいる。

 これを使う事で、本気であってもルールの範囲内で安全に戦う事ができるという。

 

「まあ、実際にやって見せるのが一番じゃの。とりあえず、太郎」

『はい?』

 

 離れた場所でとぐろを巻いていた太郎が声を上げる。

 

「ちょいと弾幕ごっこをやってみんか?」

『ふうむ、面白そうですねぇ』

 

 太郎は風を操作して御札を受け取ると、兎に似た瞳を細め、爪先で器用に挟んだ御札をしげしげと眺める。そして何か思いついたのか、ニヤリと笑った。

 

『ふむ、守人。どうせなら賭けをしませんか?』

「あん、賭け?」

『ええ、勝った方が何かを奢るというもの。私は酒が良いですね』

「なんじゃ、大五郎とかビックマンが欲しいのか?」

『あれはあれで悪くないのですが、今回欲しいのは山崎50年というウイスキーです』

 

 ちなみに「山崎50年」は2005年と2007年、2011年にサントリーで限定販売された、1本100万円する超高級ウイスキーである。

 太郎は地球世界の様々な酒を買い集めている最中にこの酒を知り、是非呑んでみたかったのだが、いま現在、手持ちは全て他の酒購入に使い込んで無かった。

 

「お前は馬鹿か」守人が呆れた表情で言った。「それに、儂は賭けをやるとは言っておらんが」

『おや、逃げるのですか?』

 

 ニタリと太郎は笑った。安い挑発だ。

 

「ほう? 儂が逃げるとでも? 良いだろう。儂が勝ったら逆にそのウイスキーを奢って貰おうか」

 

 だが守人はあえて乗った。天龍の約束は絶対であるから、どうやってでも購入資金を用意するだろう。

 周りの面々は止めてもらおうと、不破に視線を送る。だが、呆れたような表情で不破は静かに首を横に振った。こうなると止められない為、好きにやらせるしかないのが分かっていたからだ。

 

 

 という訳で。

 

 

 準備も終わり、対峙する両者。

 その周囲には騒ぎを聞きつけたのか、多くの野次馬が集合していた。これを商機と見た商魂逞しい者共が急いで弁当やマ・ヌガ肉や焼鳥、ドライフルーツや飴などの甘味、ビールやジュースなどを持ってきて売りつけていた。不破も一番見晴らしの良い場所に寝そべりながら、商人らから奉納された馬肉に齧りついていた。

 丁度昼時だったので、それぞれ思い思いに食事をしながら戦いは今か今かと待っていた。

 片や、扶桑国最古の神である守人。

 片や、気象を操る龍神・一目連太郎。

 その中間地点でロゥリィはダン、とハルバードの石突を大地に叩き付ける。

 

「今回はわたしぃ、ロゥリィ・マーキュリーが立会人を務めるぅ」

 

 遊びとはいえ、滅多に見られない正神同士の対決だから非常にノリノリである。

 

「制限時間は十分。使用するのは両者二枚のスペルカードのみ。それだけを守っていれば好きに戦いなさぁい。

 それ以外の攻撃、また負けを認める、被弾回数の多かった者を負けとするぅ。それでいいかしらぁ?」

「問題無い」 

『こちらも』

 

 守人は箒に乗り、太郎はそのままゆっくりと浮かび上がり、距離を取って対峙する。その周囲に配置された神官らが詠唱し、流れ弾を防ぐ結界を張った。

 

「では、始めぇ!」

 

 ロゥリィのハルバードが振り落とされたと同時に、太郎がスペルカードを掲げる。

 

『我は姓は一目連、名は太郎。扶桑国は龍洲霊仙の龍神なり。畢竟の正神守人にいざ一槍馳走せんッ!』

 

 カメラがある事を忘れずに、ラスボス風にノリノリで口上を述べる太郎。同時に、疾風が駆けた。

 

「うわッ!?」

「きゃあ!」

 

 突如巻き起こった突風に地上にいた伊丹やロゥリィ達は身構え、重心を低くして堪えた。

 そして目を開けると、辺りの光景は一変していた。

 

 ゴウッ、と太郎を中心に吹き荒れる風に空に浮かんでいた白い雲が千切れ、消え去る。代わりにおどろおどろしい黒雲が何処からともなく現れ、空を覆い隠し、陽の光を遮る。黒雲に稲光が走り、ゴロゴロと雷鳴を響かせる。

 空に薄っすらと見える太郎が、ゆるゆると前腕を持ち上げた。

 すると黒雲からざぁと雨が降り始めたかと思えば、雨粒が空中で停止する。

 いや、雨粒じゃなかった。水色に輝く、無数の弾幕。

 龍神の持つ圧倒的な熱量に物を言わせた、息を呑むほどに美しい弾幕であった。

 

 ――水符「春の嵐」

 

 宣誓と共に、太郎の前腕が振るわれた。

 そして、猛烈な勢いを持って中空に浮かぶ守人へ弾幕が襲い掛かった。

 しかし、その光の奔流の中へ守人は突撃し、弾幕はすり抜ける様に抜けていった。

 

『むうッ!』

 

 太郎が呻き声を上げる。

 無理もない。守人の動きに無駄が全く無いのだ。弾幕に比べれば緩慢な動きなのに掠りもせず、僅かな隙間を縫うように舞い続けている。

 太郎が弾幕を高速直線から低速誘導へ切り替える。細かい回避機動を続けながら守人は急上昇。そのまま加速し、黒雲を貫き、空を裂いて天頂を目指す。宙返りし、ぽっかりと空いた穴から急降下。

 それは正に流星の如く。正面から迫る弾幕は余りの速さに二分に断ち割れ、追尾してくる弾幕を振り抜いていく。守人はまるでサーフィンをするかのように竹箒の柄の上に立っていた。

 

「ハァッハ!!」

 

 スペルカード、発動。

 

 ――符ノ弐「天流乱星」

 

 高速・低速・直線・曲線、……。ありとあらゆる弾種が周囲に生成され、白色に輝く弾が光の尾を引き、順次発射されていく。

 太郎は迫りくる弾を身を躍らせて避け、無理だと判断したものには弾幕を張り、ぶつけて相殺させることで防いでいた。すると光が飛び散り、鮮やかな花火が空に咲き誇った。

 

 その光景に弥次馬達のボルテージも上がり、やんややんやと歓声を張り上げる。

 その声援に応えて魅せる決闘にする為なのか、お互いに意地を張り合っている所為なのか、両者は足を止めての弾幕の撃ち合いになった。

 しかし、それも直ぐに終わる事になった。御札に込められた熱量が尽きたのだ。

 

 即座に最後の一枚を掲げる。

 両者、同時に宣誓。

 

 ――符ノ壱「轟剣」

 

 抜刀術(いあい)からの振り抜き。たったそれだけ。ただ己の持つ膨大な熱量を練り上げ、放出するだけの技。巨大な光の柱となった一撃を太郎のいる上空へと斬り上げる。

 

 ――風符「天魔返(あまのまがえし)

 

 三拍手。回転を効かせて捻り込みの威力を上げた、一本の槍。ただしそれは、余りにも大きすぎる、全てを切り刻まんとする嵐で出来ていた。

 

 両者ともに小細工無しの真っ向勝負。

 轟音。ぶつかり合った衝撃で結界が吹き飛んだ。お互いに気にせず、負けられぬと渾身の力を込める。

 

 さて、抜刀術とは本来、一撃目で相手の攻撃をいなし、二撃目の斬り落としで決める技である。

 つまり、どういう事かと言うと。

 

「あっ」

『あっ』

 

 いなされた嵐の槍の矛先が逸れて、それが真っ直ぐと不破に向かっていき。

 

「ニャ?」

 

 ぴちゅーん

 

 無駄に再現度が高い、残酷で無機質な音が辺りに響いた。

 

 

 べしっ、べしべしべしべしべしっ!!

 

「いや、悪かったって、不破……」

『申し訳ありません……』

 

 微妙に毛並みがぼさぼさで不揃いとなった不破の猫パンチを喰らいながら土下座し、頭を地につけながら謝っている両者。

 徐々に頭が地面にめり込んでいこうが、二人が何か言っていようが不破は猫パンチを辞めなかった。

 

「く、首が……」

『顔が痛い……』

 

 ようやく猫パンチも終わると、二人とも肉奢れ、一番良い肉な、と不破が言う。

 熱量も尽きかけており、更に猫パンチによって疲れ果てていた両者は反論出来る筈も無く。ただただ頷くしかなかった。

 

 さてこの動画は公開される事になり、凄まじい視聴数を叩き出す事になり、連日お祭り状態となった。

 これを受けて守人は「空飛ぶ箒」の販売と「手軽に遊べる、美しい決闘」というキャッチフレーズでスペルカードの販売を目論んだのだが、馬鹿みたいなコストの高さと日本側から「色々と危険過ぎる」と駄目出しをくらい、お蔵入りに。

 空飛ぶ箒は動画の謝礼もあってレレイに譲られる事になり、スペルカードは不破によって封印されてしまった。

 

 暫くの間、不破からの反省しなさいとの言葉もあり、アルヌスでは土木工事や物資輸送などの細々としたバイトしながら資金を稼ぎ、美味い肉を買い集めていた正神二柱が居たという。

 



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閑話4

遅くなりました。
しかも、今更ながらにバレンタインデーのネタ。
申し訳ありません。


 ロゥリィ・マーキュリーは、死と断罪と狂気と戦いを司る神エムロイに仕える使徒である。

 特地において、仕える正神の特性とロゥリィ自身の亜神としての能力の高さと逸話から『死神』と恐れられている。

 

 とはいえ、ここアルヌスの街でのロゥリィは一般人からすれば至って普通の少女だ。

 ロゥリィ自身、辺り構わず命を狩る存在でもなく、普通に話は通じる。

 日本側からすれば知らないという事もあるのだが、守人から「閻魔様みたいな存在」と言われて大抵の者は「ああ、成程」と納得してしまった。それに可愛いのは正義である。

 扶桑国ではそもそも武者は戦場での死を誉とする風潮があるので、エムロイ信者も少なくはない。

 

 そんな訳で、ロゥリィは自衛隊に特地宗教アドバイザーとして雇われており、自衛官や扶桑兵からはよく柏手で拝まれ、偶に模擬戦を行ったり、街中を見回りして罪を犯す者(小物)をとっ捕まえ、信心深い者には教義を行って生活していた。

 

 この日も扶桑国の侍との模擬戦を終え、家に帰る途中であった。

 目に見えて上機嫌である。怪鳥の様な奇声を発し、血走った眼で突撃してくる侍に最初は軽く引いていたものの、エムロイの教義に似た価値観と武人としての誇りを持った彼らを好ましく思っていた。

 

 自室に戻ると何時もの様に、ふぅ、と小さくため息をつく。すると、自分が少し汗臭い事に気付く。

 まあ、あれだけ動き回り、筑紫兵を叩きのめしたのだから当然なのかもしれない。

 

 となれば、あそこに行こう。着替えと入浴道具一式を持って街の銭湯へ向かう。

 この銭湯はついこの間、守人が唐突に「そうだ、銭湯を造ろう」と言い始め、そしていつもの如く太郎と不破を巻き込んで源泉を掘り当て、僅か数日で完成したものだ。扶桑式と呼ばれる、和風にファルマート大陸で見られる建築様式が入り混じった独特の造りをしている。

 

 ロゥリィが中に入ると、まだ早い所為か人影は疎らだった。靴箱にブーツを入れ、藁を編んだ柔らかい床を踏みしめながら番台にいる神官に軽く挨拶をする。

 適当な空いた籠に髪飾りを入れ、背中から腰の紐を解き、黒ゴス神官服を脱ぎ、黒の大人な下着をサッと取っていく。すると、決して熟れる事のない、魅力的な肢体が現れた。肌は白く滑らかで、小さくも膨らみのある胸に細いたおやかな腰。小振りながらも張りのある臀部が露わになる。

 周りからどこか羨ましそうな目で見られるが、ロゥリィは気にせずタオルと石鹸を持って大浴場に繋がる引き戸を開ける。

 むわぁ、とした白い蒸気と共に仄かな草の香りがあった。

 長い黒髪と身体を洗い、湯船につかる。

 薄い緑色をした湯からは溶けている薬草と木の爽やかな匂いが仄かに香り、全身を心地よい湯の温かさが包み込む。ほぅ、と思わずため息を漏らせば全身の疲れが湯に溶けていくかのようだ。

 

「はぁ~」

 

 ゆっくりと鍛錬で凝り固まった身体を解し、温まった所で湯船から上がる。

 そして身体を拭き、浴衣に着替えてからぐい、とよく冷えたフルーツ牛乳を一杯。これが美味い。

 ぼへーとしながら藤細工の椅子にもたれ掛かり、机の上にあった雑誌を手に取る。多くの人が読んだせいなのか、雑誌はしわが出来ていてよれている。そこに気になるものがあった。

 

「バレンタイン……?」

 

 曰く、気になる異性にチョコレートを送る事で自分の気持ちを示す特別な日、らしい。まあ、市販のチョコを友人に配ったり、自分で食べる様に買ったりと色々あるようだが、基本的には告白の日であるらしい。

 

「いいわねぇ、これ」

 

 ロゥリィが目指しているのは愛の神。この風習は正しくピッタリではないか。

 それに、真心を込めて作ったチョコレートを伊丹に渡し、そして……。

 

「ふふふ……」

 

 思い立ったら直ぐ行動。早速、道具と材料を買いに行こう。

 あれこれと夢想しながらPX前まで行くと、そこで見てしまった。

 

「もう、レレイ。何でこんなに一杯買うの?」

「もうすぐバレンタインだから」

 

 丁度、PXから出てきたのは、テュカとレレイの二人だった。テュカは小さな紙袋一つだったが、レレイは見るからに重そうな袋を抱えていた。

 バレンタイン。それを聞くやロゥリィは慌てて近くの建物の陰に隠れ、様子を窺う。

 

「バレンタイン?」

「女性から男性にチョコレートを贈る日。チョコレートを作るにはこれらが必要」

「へぇ……。あ、そういう事ね」

 

 納得した表情でテュカが頷く。

 

「私もユノに作ろうかしら?」

「同性には買ったチョコレートをあげると書かれていた」

「あ、そうなの? じゃあ今度買ってこようかな。レレイも頑張ってね」

「ん、当日までに一番良い物を作る」

 

 そこから先、どんな会話をしていたかロゥリィには分からない。

 だが、言えるのは唯一つ。

 

「負けられないわぁ……!」

 

 そして、ロゥリィはPXに突撃した。

 

 

 

「で、なんで儂の所に来るのだ」

「だってぇ、他に言える相手が居なかったしぃ……」

 

 分社。そこで細工物を作っていた守人は、いきなり半泣きの状態で突撃してきたロゥリィの相手をしていた。ロゥリィからは非常に甘ったるい匂いを放っていた。

 バレンタイン。そういえばそんなのもあったなぁ、と守人は思い出した。まあ、日本にいた頃はテレビや街中でもよく喧伝されていたが、この街にいるのは自衛隊と扶桑国と現地人のみ。バレンタインについて詳しいのは自衛隊側だが、ここには任務として来ているのだから宣伝する筈も無く、聞く機会が無かったのだ。

 それに、人間だった頃に義理すら一度も貰った事が無いので自分には関係ない事だと思っていたのもある。

 

 さて、ロゥリィが訊ねて来た理由はごく単純。バレンタインのチョコレートの作り方を教えて欲しいとの事だった。

 

「んなもん、雑誌に作り方とか書いてあると思うのじゃが。その通りに作れば良かろう」

「それが、できなかったのよぉ……」

「……お主がいた、フェブロン神殿は確か炊事も習うはずじゃ?」

「……習ったけどぉ、久々すぎて、ねぇ?」

 

 あー、と言われてみても納得した。亜神だから行く先々で持て成されるし、神殿からは路銀を支給されている。それに旅の途中、何も食べなくても死ぬことは無いので我慢すればいいとなってしまう。

 

「なら、単純に市販のチョコを買って渡すか、溶かして好きな型に流して固めるのが一番楽じゃろ」

「それじゃあ、真心が籠っていないしぃ、負けちゃうじゃない……」

 

 なんだろう、凄くめんどくせぇ。

 

「そういうのは基礎が出来てから言うもんじゃな」守人は呆れたように言った。「そも、そんな回りくどい事せずに、手段を選ばなければ良かろう。問答無用で襲えば良い」

「えー、だって、ねぇ? 雰囲気も大事じゃなぁい。ヨウジィと二人っきりで食事してぇ、チョコレート渡してぇ、それで一緒の部屋に泊まって……」

 

 そこまで言って、ロゥリィは顔を真っ赤にしてしまった。

 どうも、ロゥリィは「死神」として畏怖と畏敬を集めているが、こと恋愛に関しては乙女のようだ。雰囲気を大事にし、相手が積極的に動いてくれる事を望む。だから最初までは自分から積極的に誘うが、後は受け身になってしまう。

 それ以上自分から積極的に言って、もし嫌われたらどうしよう、とかそんな風に考えているのだろう。エムロイ信者であっても近付けば恐れられ、敬遠されてしまいがちであるから、その所為なのかもしれない。

 

「(そんな歳でもないのにのぉ……)」

 

 ロゥリィは剣呑な表情でハルバートの穂先を突き付ける。

 

「……何か言った?」

「別に何も?」

 

 それはさておき。

 

「まあ、良いじゃろ。お主でも作れそうなチョコレートを考えておくよ」

「ありがとぉ」

 

 ロゥリィは笑みを浮かべて感謝する。そして軽く雑談すると、そのまま自宅へと帰っていった。

 再び一人になった守人はため息をつく。

 

「さて、どうするかねぇ」

 

 まあ、バレンタインのチョコレートは実際にやって見せ、後は口出ししながらやれば問題は無いだろう。

 ただ、折角のバレンタインだ。何かもう一つ欲しい。

 

「そうさな、日本と同じく祭りにしちまおう」

 

 これは名案だ、と守人は笑みを零す。

 ロゥリィは愛の神になりたいという願いがある。偶には後輩の指導をするのも先輩の務めだろう。それに、この間の件で不破に肉を貢いだ所為で金欠なのだ。少しばかり稼いでおきたい。

 

「ふっふっふ、これでロゥリィ好みの雰囲気もばっちり。旅館に部屋を予約しておいてやろう。そうだ、チョコレートは薬じゃから、一服盛っておけば……。いやぁ、楽しみじゃのぉ」

 

 人、それを要らぬお節介と言う。

 

 

   ***

 

 

 そして、2月14日。日本ではバレンタインデーである。 

 とはいえ、ここアルヌスではいつもと変わらない朝。

 

 ……そのはず、だったのだが。

 

「……なんだこりゃ」

 

 とある住民が街中を見て一言。

 

アルヌスの街は、バレンタイン一色になっていた。どこか甘い匂いが漂っている。

 

 至る所にポスターやリボン状の布飾りが貼られ、大通りに建てられたばかりの街灯には黒の地に銀糸で「St Valentine's Day」と刺繍がなされた旗が吊り下げられている。

 ポスターには綺麗にラッピングされた、ハート形のチョコレートを大事そうに抱えた女性のイラストが描かれており、

 

『好きな人にあげたくて、みんなに配った』

『甘い気持ちと一緒にあの人へプレゼント』

『勇気は一瞬。甘い記憶は永遠』

 

 などとでかでか書かれた文字がある。

 

「バレンタインの広告が何でここにも……」

 

 住民から通報を受けた伊丹ら自衛隊員が巡回していると、妙な人だかりがあった。

 

「いらっしゃいませー」

 

 街角に屋台を出し、笑顔で揉み手しながら綺麗にラッピングされたチョコレートを販売している者がいた。狩衣姿にエプロンを付けた守人であった。

 

「……何してるんですか」

「今日はバレンタインじゃ。だから、小金稼ぎにバレンタインのチョコレートの販売をしている」

「正直すぎませんかね?」

 

 どうやら、前回の一件で手持ちがないらしく、バレンタインで一稼ぎしたいようだ。

 

「それに、本当は欲しいじゃろ? 可愛い子から、好きな女性からチョコレートが」

「はい、めっちゃ欲しいっス。特にペルシアさんから」

 

 倉田が真顔で言い切ると、他の隊員達(独身)も大きく頷いた。

 

「正直で良い。さて、ここでバレンタインをやったとしよう。お主らの中にはチョコレートを貰い、彼女が出来る可能性はあるぞ?」

「マジっすか!」

「マジじゃ。その為の飾りじゃし」

 

 街中にある飾りは全て守人が作り上げたものであり、恋愛成就の呪いが掛かっている。といっても、無いよりマシな極々小さな呪い、女性が好意を持っている人に頑張ってチョコレートを渡そうとする気持ちになる程度である。それ以上のものだと、流石に精神操作の類になってしまう為、危険すぎるからだった。

 

「なんでそこまで無駄に凝るんですか……」

 

 伊丹には何というか、努力の方向が間違っているとしか思えなかった。自ら教義を行ったり寄付を募れば簡単に資金を集められるのに、こうも微妙にせこい方法で小銭を稼ぐのだろうか。

 

「そりゃ、儂の好みの問題じゃから仕方ない」と守人は嘯く。

「それに、今日はあれじゃろ、女子が好みの男性に色々と薬効のあるチョコレート渡して一夜頑張る日じゃろ」

「ブフォオ!?」

「それはちょっと……、いや、間違っていないのか……?」

 

 まあ、これは恣意的な解釈だが、日本ではバレンタインの日はホテルの利用率が上がるそうなのであながち間違ってはいない。

 それに、チョコレートの原料であるカカオは地球世界でも古くは薬として扱われていた。心臓病の予防や疲労回復、また集中力を高める効果がある。またカルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラル類を豊富に含む栄養バランスに優れ、健康に良い食品であった。

 

 また誰にも言っていないが、販売しているチョコレートには守人特製の薬も混ぜており、体力増強や疲労回復にも効果があったりする。

 

 

 そんな訳で、急きょ、特地には全く馴染みのないバレンタインデーが始まった。

 

 一番安いのでもデナリ銀貨十枚と、竜の鱗並みという強気な値段設定だったものの、これが飛ぶように売れていった。

 正神が作った代物であり、貴重なカカオや砂糖を使ったチョコレート菓子である。またアルヌスの街の好景気から一般人であっても所得は結構高い。そして何より、恋愛成就が出来ると聞きつけ、女性らがそれに乗っかったからだ。世界は違えど、女性がこういう催しが好きなのは変わらないようだ。

 

 そして、買ったチョコレートを持ち、勇気を出すシーンが多くみられた。

 

「クラタ、いつもプレゼントありがとニャ。これはお返しニャ」

「ペルシアさーん!」

 

 少し気恥ずかしそうにしているペルシアから渡されたチョコレートに感激する倉田。

 まあ、その後に倉田は先輩や同僚の自衛官ら(独身)に連行されてしまったのだが。

 

「その、トミタ殿、こ、これを……」

「う、ああ、その、ありがとう……」

 

 共に顔を真っ赤にし、何とも初々しい反応をする富田とボーゼス。

 そこにチョコレートを渡そうとしていた栗林が獣の様な唸り声を上げて乱入し、ちょっとした喧嘩に発展する。

 

「ユノ、 はい、これチョコレート!

「ありがとう、テュカ。私からもチョコレートあげるわ」

「ふふ、ありがと。じゃ、今夜、ね?」

「……うん、今夜、ね」

 

 同性ながら互いにチョコレートを渡し合うエルフの二人。非常に仲が良い。

 

 その他にも薔薇騎士団の侍従や扶桑国の巫女ら、イタリカのメイドから貰って嬉々洋々とする者。

 

「なんであいつがあんな美人と……」

「義理でも良いから欲しいと思う事に虚しさを感じるぜ……」

「ああ、妬ましい、妬ましい、妬ましい……」

「ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる……」

 

 と、まあ、未だ貰えなくて悲しみと嫉妬の余りおっかない顔をしている者らも多く発生する事になったが、概ね成功のようである。

 

 

 さて、ロゥリィはと言えば。

 

 貴族や豪商向けに建てられた、扶桑国の高級旅館。

 その中でも一等良い部屋の中にいるのは確保された伊丹。彼の目の前には、ロゥリィが顔を赤らめ、バレンタインのチョコレートを伊丹へ差し出していた。

 

「なにこの状況」

 

 伊丹は思わずそう口にした。あの後、レレイからバレンタインだというチョコレートを貰い、一緒に食べた後は街中を歩いていたのだが急に意識を失い、気が付けばここに居て、ロゥリィからバレンタインのチョコレートを差し出されている。嬉しいという気持ちもあるが、まず困惑してしまう。

 

「ねぇ、ヨウジィ。これ、私からのバレンタインのチョコレート。受け取って、くれるわよねぇ?」

 

 ロゥリィが差し出したのは表面に細工のある小さな木箱だった。

 

「あ、ありがとう……」

 

 伊丹は感謝を述べながら受け取り、中身を確認する。小さな円型で焼き上げたチョコレートケーキ。オーストリアの代表的な菓子、ザッハトルテであった。

 

「じゃあ、食べてみてぇ?」

 

 既にカットされており、フォークと皿も用意されていた。

 パクリと一口。ザラッ、とした独特の歯触りに濃厚なチョコレートの香りと味が広がる。微かに果物の酸味も感じられ、思ったよりも重く感じない。一切れが小さいからか、幾らでも食べられそうだ。

 

「あ、美味い……」

「ほんとぉ!?」

 

 ロゥリィは、ぱあ、と花が咲くような満面の笑みを見せた。伊丹はその笑顔に思わずドキッとしてしまい、慌てて「二人で食べよう」と取り繕った。

 

 そして食べ終わり、幸せそうにするロゥリィを見やった。

 改めてみても、物凄い美少女なんだよなぁ、と伊丹は思った。

 腰まで伸びる絹糸の様に細く長い黒髪。陶磁器の様に滑らかで真っ白な肌、嬉しそうに眦の下がった黒曜石の様に輝く瞳。何時もと変わらない黒ゴス神官服だというのに、今日は妙に艶やかに見える。

 

(いやまて、何かおかしい)

 

 身体が熱い。異常に火照ってる。これは、いったい――。

 

「ねぇ、ヨウジィ……」

 

 艶めかしい声と共に、ロゥリィがゆっくりとした動きで近づいてくる。桜色の唇からは小さな舌先がチラリと見えた。

 これは、拙い。

 

「い、いや、ほら、チョコレートも食べたし、そろそろ……」

「ここね、今日は貸し切りなのぉ」

 

 クスクスと笑う声が脳を溶かしていき、淫靡に輝く瞳に視線が吸い込まれていく。ロゥリィは顔を上気させていた。

 これはヤバい!

 伊丹は慌てて立ち上がろうとするが、上手く力が入らず仰向けに崩れてしまう。すかさずロゥリィが衣擦れの音を立てながらずいッ、と迫り、そして馬乗りの姿勢になる。

 

「ねぇ、ヨウジィ……」

「あ、ロゥリィ……」

 

 そして、段々と二人の顔が近づき――、

 

 

(そこだ、いけ、押せ押せ押せッ!)

(若いっていいですねぇ……)

(ナーウ……)

 

 物陰に隠れ、その様子をワクテカしながら見る正神ら。

 ロゥリィはピタリと動きを止め、能面のような表情でスクッと立ち上がると近くに置いていたハルバードを手に取る。その身体からは、黒いオーラが立ち上がっていた。

 

「やべ、バレた! 逃げろ!」

 

 同時に、上空から魔法が降り注いだ。

 

「ぬおおおおぉぉ!!??」

 

 慌てて避けたため無傷だったが、誰がやったのかを見て固まる。レレイだ。神官らに足止めさせていたが、どうやら駄目だったようだ。冷ややかな目線でこちらを見ていた。空飛ぶ箒に二本足で立ち、杖を構えている。更に氷柱を作り出し、円環を纏わせている。

 既に太郎は空高く飛び上がっており、不破は砂煙を残して走り去っていた。取り残された守人も慌てて逃げ出す。

 

「――まぁちなさぁい! この覗き魔共が―ッ!!」

「ギルティ」

 

 烈火の如く大激怒したロゥリィとレレイの両名は、そのまま追いかけていった。

 

「た、助かった……」と、一人残された伊丹は安堵のため息をついた。

 

 

 さて。

 あの後、守人は足止めされていたレレイやロゥリィによって一日中追い掛け回され、爆轟魔法とハルバートの乱舞でアルヌスの街に被害が出た。結局、守人が稼いだ資金の殆どが修繕費に消える事になったが、まあ、これは割とどうでも良い事である。

 



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閑話5

ようやく投稿です
楽しんで頂ければ幸いです


[機密以外なら] 扶桑人だけど、何か質問ある? [答えます]

 

1 名前:扶桑人A

(´・ω・`) 休憩が終わるまで、可能な範囲で答えていきます

 

2 名前:日本の名無しさん

扶桑国のどこ出身?

 

3 名前:扶桑人A

>>2

豊洲の京出身です

 

4 名前:日本の名無しさん

イッチのスペックおせーてー

 

5 名前:日本の名無しさん

つか、ここに書き込んでも大丈夫なのか?

 

6 名前:日本の名無しさん

豊洲というと、扶桑国の真ん中にある一番デカい島か

 

7 名前:日本の名無しさん

日本について一言

 

8 名前:扶桑人A

>>4

中流武家の出身、ヒト種、オッサン、バツイチ

こんなところでしょうか

 

>>5

上から許可取っています

 

>>7

まだ詳しく知っている訳ではありませんが、平和で活気があり、とても良い国だと思います

 

9 名前:日本の名無しさん

扶桑国使節団の人はみな美形な理由をどうぞ

 

10 名前:扶桑人A

>>9

美形ですか? みな普通の顔立ちだと思いますが

 

11 名前:日本の名無しさん

扶桑国は封建国家なのか、また身分制度について

 

12 名前:日本の名無しさん

扶桑国に住む種族教えてくだしぃ

 

13 名前:日本の名無しさん

あっちでは美人巫女さんやイケメン侍は普通なのか……

 

14 名前:日本の名無しさん

エルフなどの美形種族の血も引いてるからじゃないの?

 

15 名前:日本の名無しさん

眼に力があるからイケメンに見えるってばっちゃが言ってた

 

16 名前:扶桑人A

ちょっとまだ文字打つのに慣れていないので、回答が遅れます

もう少しお待ちください

 

17 名前:日本の名無しさん

ゆっくり待ってるから大丈夫よー

 

18 名前:日本の名無しさん

全裸で待ってるから大丈夫

 

19 名前:日本の名無しさん

一応、服着ろよwwと言っておく 

 

20 名前:日本の名無しさん

紳士はいかなる時でもネクタイと靴下は履いておくんだぞ

 

21 名前:日本の名無しさん

そういや、あっちて下着あるのかな

昔の日本は女性用の下着無かったっていうけど

 

22 名前:日本の名無しさん

>>21

 

23 名前:日本の名無しさん

……まさかのノーパンノーブラ?

 

24 名前:日本の名無しさん

これは絶対に聞きださなければならない

 

25 名前:日本の名無しさん

いや、褌とさらしの可能性もあるぞい

 

26 名前:日本の名無しさん

>>21

守人様がいるし、ゴスロリ服とか存在するんだからご都合主義で女性用下着普通にありそう

 

27 名前:日本の名無しさん

画面に映っているイケメンたちは皆ふんどしなのか……(ゴクリ

 

28 名前:日本の名無しさん

>>25

それはそれでいい文化だ……

 

29 名前:扶桑人A

お待たせしました

まず>>11の封建国家と身分について

 

簡単に説明しますと皇族・公家・武家・臣民に大別されます

皇族は帝を輩出する一族です。帝は我が国の元首であり、同時に神祇官長でもあります

公家と武家はこの国で言う華族や貴族にあたります

かつては公家は朝廷に仕えて文政、武家は軍事と分かれていましたが、現在では差は殆どありません

公家でありながら武者として活躍する者も居ますし、その逆もあります

臣民は一般の方々ですね。様々な業種につき、国を支えています。

功績を収めた方は新しく武家や公家に選出されたり、官位を上げる事もありますが、その逆もあります

 

30 名前:日本の名無しさん

お、きた

 

31 名前:日本の名無しさん

どっちかってーと、半封建社会か?ガチガチではないみたいね

 

32 名前:扶桑人A

次の質問に答えていきます

>>12

沢山ですね

エルフやドワーフなどから扶桑国に極少数しか残っていない種族もいます

扶桑国に多いのはヒト種ですが、先祖に異種族の血を引く者が殆どです。中には鬼や天狗といった妖や精霊、巨人や魚人といった存在の血を引く者もいます

 

あと下着ですが男は褌、女性用の下着もちゃんとあります

まだ春先で寒いので、風邪ひかない様にしかりと服を着てください

 

33 名前:日本の名無しさん

このイッチは優しいな

 

34 名前:日本の名無しさん

>>29

大体は何となく分かるが、官位が下がるってのが良く分からない

普通、一度上がったら固定じゃないの?

 

35 名前:日本の名無しさん

鬼や天狗もいるのか……

ところで扶桑国に酒飲みでデカ角で見た目可愛い幼女な鬼は居ますか?

 

36 名前:扶桑人A

昔は上がったらそのままだったそうですが、数百年前に位階持ちが増えすぎた所為で問題が起き、それからは総数が決められたのです

官位持ちは権威の証なのですが、中には願い出て官位を返納する家もあります

 

37 名前:日本の名無しさん

なんで?

 

38 名前:扶桑人A

官位が上であればあるほど特権や権力も握れますが、その代わり義務と負担が増えていきます

官位ごとに家臣の数や軍役、また税金などが細かく決まっており、優雅な暮らしが出来ているのはほんの一握りです

官位を返納する者は大体がこの負担に耐えきれなかった事になります

 

38 名前:日本の名無しさん

あー、上に行くほど権力は手に入るけど、その分だけ責任と金が掛かるって訳ね

 

39 名前:日本の名無しさん

あれだ、江戸幕府と似た仕組みか?偉い人ほど働かなければならないとか

 

40 名前:扶桑人A

ですが、武家や公家の者はよほどの事が無い限り食うに困る事は無いですね

武家なら国が運営する狩人組合に入り、そこで竜狩りや海獣退治に参加すれば報奨金が貰えますし、公家は何かしらの芸術や学問の大家でもあるので、教師として生活できます

 

>>35

確認したら、いるにはいるそうです

 

41 名前:日本の名無しさん

>>武家なら国が運営する狩人組合に入り、そこで依頼を受けて竜種や海獣を討伐すれば報奨金が貰えます

思いっきりモン〇ンじゃねーか!

 

42 名前:日本の名無しさん

ロリ鬼、マジでいるのか……

 

43 名前:日本の名無しさん

なんか今の時点で扶桑国がモ〇ハンなのか幻〇郷なのか良く分からなくなってきた

 

44 名前:日本の名無しさん

今度、ロリ鬼とか幼女とか写真撮ってきてくれ

そしてここにうpしてくれ

マジでお願いします。何でもしますから

 

45 名前:日本の名無しさん

ん?

 

46 名前:日本の名無しさん

憲兵さんコイツです

 

47 名前:日本の名無しさん

ん?

 

48 名前:日本の名無しさん

いま

 

49 名前:日本の名無しさん

何でもするって

 

50 名前:日本の名無しさん

いったよね?

 

51 名前:日本の名無しさん

>>45-50

仲いいな、お前ら

 

53 名前:日本の名無しさん

そしては>>46ホモの犠牲になった……

 

54 名前:日本の名無しさん

おいばかやめろ

 

55 名前:扶桑人A

>>41

モンハンについて調べてみました

似たような感じではあります

ただ基本的に竜種を相手にするときは劔冑を使用します。生身で太刀や槍で戦う事もありますが、この狩人の様に単身で戦うなど無茶な事はしません

 

ホモとは衆道の事ですよね?

本も多いようですが、こちらでは馴染みが無いのですか?

 

56 名前:日本の名無しさん

この間の襲撃の様なときは生身でも戦うってことか

まあ、あんな訓練していればな…

 

57 名前:日本の名無しさん

昔はあった

今は一般的ではない。あくまで二次元で見る程度

つか、何の本で知ったんだ…

 

58 名前:日本の名無しさん

薄い本だろ

前に和服の集団がエロ本を大人買いしていったって話あるし

 

59 名前:日本の名無しさん

>>56

どんな訓練よ?

 

60 名前:日本の名無しさん

動画サイトに上がっている奴だべ

鎧姿で奇声を発しながら延々と立木にひたすら木刀で打ち続ける奴とか、重ねた竜の鱗を刀で真っ二つにするとか

 

61 名前:日本の名無しさん

竜の鱗って重機関銃でも貫通しないって前にテレビで聞いたんだけど…

扶桑人Aさんも竜の鱗斬れるの?

 

62 名前:日本の名無しさん

>>58

あ、それ知ってる

なんか付き添い?の自衛官にお勧めの同人誌を聞きながら買っていったって

 

63 名前:日本の名無しさん

自衛隊なにやってんだ……

 

GJだ

 

64 名前:扶桑人A

>>58

はい、実はアルヌスに到着した際、自衛官の方々と私物を交換し合う事があり、その際に同人誌という絵草子や本を頂きました

扶桑国では本は貴重品で、書かれていた物も面白かったので今度皆で買いに行く、という話になったのです

その時に休暇中だった自衛官殿が協力を申し出て下さり、良い本が置いてある場所を案内して下さりました

 

65 名前:日本の名無しさん

さすが俺達の自衛隊

初体面の時にそこで同人誌を渡すなんて、普通じゃない事をやってのけるぜ……

 

66 名前:日本の名無しさん

目の前にある箱で「扶桑国公式動画」ってググれ

動画サイトに「筑紫兵の鍛錬」ってあるから

 

67 名前:扶桑人A

>>61

竜の鱗なら斬れます

ただ、筑紫兵の様に剛力の持ち主ではないので、生身で飛竜の脚を斬り飛ばしたり、首を斬り落とすことはできません

 

筑紫兵と名乗れるのは鬼の血を引く者、かつ武芸に長けた者しかなれません

これは薩摩と呼ばれる地域から来た侍から伝わったもので、

「例えどんな敵であろうと、一撃で斬り捨てれば良い」という考えからあのような鍛錬を積んでおります

 

64 名前:日本の名無しさん

へー

 

65 名前:日本の名無しさん

よくわかんないけど、誰か三行で説明して

 

66 名前:日本の名無しさん

おめでとう

ふそうこく に わたった さつまじん は

おに の ちをひく つくしへい に しんかした!

 

67 名前:日本の名無しさん

こわっ

 

68 名前:日本の名無しさん

通信交換による進化かよww

 

69 名前:扶桑人A

他に何か質問は有りますか?

 

70 名前:日本の名無しさん

中流武家だと言っていたけど、一日どれ位働いているの?

あと、日本に来て驚いたことは?

 

71 名前:日本の名無しさん

実際のところ、扶桑国に神様何柱いるの?

 

72 名前:日本の名無しさん

古代龍や飛竜の強さについて教えてください

 

73 名前:扶桑人A

>>70

中流武家ですと一日六時間程度です。それ以外は鍛錬や娯楽に費やします。

高層ビルや行きかう車などにも驚きましたが、特に思ったのは誰もが毎日忙しそうに働いている事です

扶桑国では職種や時期によって仕事量は異なりますが、平時に一日十数時間も働く事はまずないので……

 

74 名前:日本の名無しさん

日本人は働きすぎだっていうからねぇ

 

75 名前:日本の名無しさん

まあ俺の様なニートには仕事なんて関係ないんだけどな!

 

76 名前:日本の名無しさん

一日六時間しか仕事がないのは羨ましい……

 

77 名前:日本の名無しさん

>>75

いや働けよ

 

78 名前:扶桑人A

>>71

神様の数ですが、沢山おります

扶桑国では正神や高位精霊、大妖怪などもまとめて神と呼んでいますので、道端に目を向ければ一柱か二柱は見る事ができます

ただ守人様や龍神様のような、ファルマート大陸で言う正神並みに力を持った存在となれば多くはありません

 

>>72

古代龍(天龍・炎龍など)>新生龍(古代龍の子供)=歳を重ねた亜竜>飛竜

今のところ、生身で倒せるのは飛竜までと言われております

 

79 名前:日本の名無しさん

本当にどこにでも神様がいるのか

ちょっと行って見てみたいなぁ

 

81 名前:日本の名無しさん

早くあっちに行ける様にならないかね

リアル中世の世界を見て回ってみたい

 

82 名前:日本の名無しさん

まだ無理でしょ

門の先はファルマート大陸だっけ? 

そこはいま政情が安定していないっぽいし、盗賊とかドラゴンとかが多いみたいだから危険すぎて政府が許可しない

それに、現代の生活に慣れた人にはあっちの生活は不便過ぎてキツいべ

 

83 名前:日本の名無しさん

それはあるなぁ

今更電気やネットの無い生活とか無理だし

 

84 名前:扶桑人A

すみません。質問してもよろしいでしょうか?

 

85 名前:日本の名無しさん

どうぞ

 

86 名前:日本の名無しさん

どうぞ

 

87 名前:扶桑人A

どうして、ファルマート大陸の政情が安定していないと思ったのでしょうか?

 

88 名前:日本の名無しさん

えーとどっかのスレのまとめだけど

 

自衛隊の発表だと、銀座の事件と門の確保で十二万人の兵力を叩き潰したことになっている

今までの調査で中世ヨーロッパ風の世界と分かっているから、動員できる数も数万から十万ちょっとが限界

つまり帝国も周辺諸国も主力が消えた事で責任追及からの内ゲバ

そこから内戦なり強硬派の台頭で戦争勃発するって予想があるのよ

 

89 名前:日本の名無しさん

帝国はこっちで言うとアメリカが弱った状況だっけ

そりゃやべぇわ

 

90 名前:日本の名無しさん

そ。だから「自衛隊がやり過ぎてしまうと泥沼になる」ってあったな

だから今のうちに帝国と講和を進めてるって話みたいだし

 

91 名前:日本の名無しさん

一度帝国倒して、日本に都合の良い政権立てるとかは無理なの?

 

92 名前:日本の名無しさん

>>88

ああ、成程

どこの世界でも変わらんという事ね

 

93 名前:日本の名無しさん

>>91

無理

自衛隊の補給が追い付かん

あと一気に周辺諸国が不安定化して戦国時代になり、帝国から自衛隊にヘイトが移りかねない

やるならアメリカとか巻き込んでやるしかないけど、それだと今度はこっち側が揉める事になる

特にお隣の国がまだうるさいし

 

94 名前:扶桑人A

成程、有難うござます

皆さま詳しいですね

 

95 名前:日本の名無しさん

目の前の箱に色んな情報があるし、毎日暇だからな!

 

96 名前:日本の名無しさん

そういや最近、アメリカは大人しいよな

代わりに中国は変わらんけど

 

97 名前:日本の名無しさん

ほっとけ、いつもの事だし

あと話ズレて来たから元の話に戻ろうぜ

あと>>95は胸張って言う事じゃない

 

>>32で大抵は異種族の血を引いているってあったけど、イチも何か違う種族の血を引いているのか?

あと扶桑国の人が異種族の血を引く理由は?

 

98 名前:扶桑人A

そうですね

私の場合は先祖にエルフが入っているのは確かですが、詳しくは分かりません

理由は、扶桑国にやって来た者はみな同じ街に住んでおり、また種族の差を気にしなかったことから混血が進んでいったと言われております

 

99 名前:日本の名無しさん

それだとちょっと分からないのが

なぜ同じ街に住む事になったのか

また種族によって習慣やら考え方、特性そのもの違うと思うんだけどそこは大丈夫なの?

 

100 名前:日本の名無しさん

小説なんかだとエルフとドワーフは仲が悪いとかデフォだしなぁ

 

101 名前:日本の名無しさん

確かに差別は起きそうだよな

同じ街に住んでいるのは守人様が「ここに住め」と言ったからじゃね?

 

102 名前:扶桑人A

本来ならばそうですね

ファルマート大陸では種族ごとに分かれて生活します。

扶桑国は歴史的な経緯から種族ごとに分かれて生活、という事はしませんでした

というよりも、出来なかったそうです

 

103 名前:日本の名無しさん

>>101

知らない人から「みなで仲良くここに住め」って言ったってそう簡単にはいかないべ

それに普通の人間サイズの街だったら巨人は住みづらいだろうし、魚人だったら大量の水が必要となるだろうし

 

104 名前:日本の名無しさん

出来なかったというのは?

 

105 名前:日本の名無しさん

考えるに土地が狭いとか、危ないとかだと思われる

 

106 名前:扶桑人A

その通りです

人が住み始めた当時、扶桑国には猛獣や竜種が多く存在しており、守人様が造りあげた街以外では生活できなかった

それこそ先の竜種の襲撃などや古代龍の襲撃は日常茶飯事で、見かけや話が合わない程度で仲違いしている余裕なぞ無かった、と当時から生きている方々はそう口にしております

 

107 名前:日本の名無しさん

………

 

108 名前:日本の名無しさん

………

 

109 名前:日本の名無しさん

うわぁ……

 

110 名前:日本の名無しさん

敵の敵は味方というけど、言葉通りになったのね…

 

111 名前:日本の名無しさん

どんだけヤバい世界なんだよ……

劔冑が開発されたのも分かるわ

 

112 名前:扶桑人A

日本に限らず、世界中でも昔はこのような時期があったと聞いていますが……

 

113 名前:日本の名無しさん

いやそれ神話とか軍記物の話です

 

114 名前:日本の名無しさん

日本でもYAMAに籠っていたBUSHIがINOSHISHIやらONIを狩ったり、NOUMINがTUBAMEを斬るために頑張ったら三方同時斬撃とかできたとか(棒

 

115 名前:日本の名無しさん

でも、扶桑国ではもうそういうのは無いんでしょ?

無いと言ってください

いつか旅行に行ってみたいんです

 

116 名前:日本の名無しさん

い、インタビューで扶桑国の糸目の美女が「扶桑国は穏やかで平和な国です」って言っているから(震え声

 

117 名前:日本の名無しさん

(昔に比べたら)穏やかで平和な国

 

118 名前:扶桑人A

>>115

大丈夫ですよ

扶桑国の主要四島のうち、千歳、豊洲、筑紫はもう人の手が入っていて、一部の地域を除き危険な生物は殆どいません

龍洲は龍神様の領域であり、ここだけは当時のまま残っていますが、一般の方は立ち入る事は出来ないので大丈夫でしょう

 

いつ渡航許可が出るのかは分かりませんが、ぜひいらしてください

 

119 名前:日本の名無しさん

残ってるんだ……

 

120 名前:日本の名無しさん

何で残しているんだ…

 

121 名前:扶桑人A

討伐していった結果、環境が大きく変化してしまい、飢饉が発生するようになりました

それが原因で今度は人同士で争うようになったので、そういう事がまた起きないようにと残しております

 

122 名前:日本の名無しさん

確かに日本でも問題になっているよなぁ

オオカミ絶滅させたら今度は猪や鹿が大繁殖して農業被害が出てるし

 

123 名前:日本の名無しさん

話変わるけど、劔冑に乗ってみたい

扶桑国に行けば乗れる?

 

124 名前:日本の名無しさん

ツルギの話が出た所でオレも質問

ツルギはどうやって作っているのか?

あとみな見た目とか違うけど、量産できないの?

 

125 名前:扶桑人A

難しいですね

劔冑を纏うには、まずどこかの流派に入門し、鍛錬を積む必要があります

基礎として泳法、体術、甲冑刀法の三系を学び、これら全てを習得してから劍冑繰法を学ぶことが許され、劔冑の使用も許可される事になります

 

泳法は劔冑の騎航、つまり飛ぶときの姿勢や感覚を覚えるため

体術は身のこなし、甲冑刀法は鎧を纏った存在にいかにして戦うかを覚えるためです

 

早ければ十年ぐらいで劔冑を纏う事ができます

 

126 名前:扶桑人A

劔冑は劔冑鍛冶師と呼ばれる人が居まして、彼らが鍛造します

製法は機密です

あまり詳しくは言えないのですが、劔冑はこちらの世界で言えば自分好みの戦車か戦闘機を造る、という感覚に近いと思います

 

127 名前:日本の名無しさん

正真正銘、手作りのワンオフ機じゃ量産も難しいわな

 

128 名前:扶桑人A

あ、すみません

そろそろ休憩が終わるのであと一つだけ答えます

 

129 名前:日本の名無しさん

じゃ、今度日本から行く使節団について一言

 

131 名前:扶桑人A

日本と扶桑国は元は同じではありますが、色々と違う点も多いと思います

是非、率直な気持ちで我が国を見て貰い、どういう国なのか知っていただければと思います

そして両国の関係が更に良くなることを願っております

 

では、私は落ちます(´・ω・`)ノシ 

 

 

 




ちょっと更新に間が空き過ぎたので、次からまた本編に戻ります
予定していた閑話は合間を見て投稿しようと思います


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第29話

久々だからか、文章がおかしい気がするけど投稿。
楽しんで頂ければ幸いです。


1、ハーディの誤算

 

 

「つまんなーい」

 

 ハーディは不貞腐れた顔で虚空に呟く。気怠げに髪を弄りながら、先の事の後始末をしていた。言った所で気が紛れるとか、そんな事は無いのだがあの結末にはどうしても納得がいかない。

 物語の再現、途中までは上手くいっていたのだ。竜種の襲撃に立ち向かう戦士。野郎はどうでもいいが、ロゥリィ以外にも中々に可愛い女の子や霊格の高い神官までいた。冥界に来る時が楽しみである。

 それはともかく、物語は途中からおかしくなった。

 

「やっぱり、あの男が原因かしらねぇ……」

 

 ロゥリィの眷属となった、異世界の男である。あの男がロゥリィと共に転移した所為で着地点にズレが出てしまい、おかしな場所になってしまった。仕方なくジゼルに連れてくるように命じたのだが、守人の護符の所為で近づけない。

 

 しかもだ。許せないのは最後の戦いである。

 物語の最終決戦は、それは血沸き肉躍る素晴らしいものでなければいけないのだ。これは昔から決まっている事なのだ。

 なのに、最高の武具である守人と契約した瞬間、あろうことかあの男は逃げた。

 あそこはお姫様(ロゥリィ)を守ろうとジゼルや竜と戦うシーンじゃないのか?

 

 新しい物語の展開? そんなもの流行らないわよ。

 使い古されたやらなんとか言われても似たような展開になるのは、それだけその作りが面白いからなのだ。

 最後の方で独自色出そうとして失敗したらすべてが台無しだというのに。

 

 あと守人。あれも気に入らない。異空間から出る際、己の技を模倣してこちらの領域に干渉したのだ。お陰で神殿の領域や異空間はガタガタで、他の正神らから「ねぇどんな気持ち(NDK)? ねぇどんな気持ち(NDK)?」と小躍りしながら茶々入れてくるのだ。

 

 真面目に取り組めば直ぐに復旧出来る様なものであったが、権能を使った後で気怠いし、第一に面倒臭かった。

 

「あー、本当に面倒でつまんなぁい……」

  

 ブツブツと文句を垂れながらハーディは、今後どうしようか悩んでいた。

 物語通りに、勇者は姫様を救って王国へと戻った。不満は多々あるが、一度終わった話を気に入らないからってやり直させるのは趣味じゃない。

 かといって、次の物語を見たくてもまだ準備に時間が掛かってしまう。

 

「……寝ましょ」

 

 暫く横になりながらお気に入りの子の魂を見て癒されよう。そうしよう。

 ハーディはささっと異空間の修復を終えると神官長に「暫く瞑想する」と言い残し、再び自身の領域に引き籠る事になった。

 

 だからか、ハーディは今起きている異変に気付かなかった。

 

「値上がり? またですか?」

「はあ、ここ最近、不作ですし、妙に仕入れが難しくなりまして……」

 

 それを聞いた白いゴスロリ衣装を纏った女性神官が困ったような表情になる。

 

 ここ、ベルナ―ゴ神殿は年間参拝者が100万人を超す、ファルマート大陸の中でも有数の神殿である。

 日本からしてみれば明治神宮や成田山など初詣だけで100万人を超す所が多いので、いまいち凄さが分からないかもしれない。

 だが、中世的な世界で人口も少なく、しかも治安も道路事情も良いとは言えない世界である。その中を旅してくるのだから、この人数は凄まじい事なのだ。

 

 共通しているのは参拝者が多いとなれば、それを相手にする人も多くなるのだ。

 ベルナーゴ神殿も川崎大師前や浅草寺雷門の前にある参道と同じく、商店や屋台が建ち並んでいた。また神殿側も参拝者の相手にするために人員を多くしなければならない。

 

 すると、一日に消費する物資の量も莫大な数となる。神官だけでは自活出来るほどではない為、何処からか買わなければならない。

 その資金は何処からと言えば、寄付で賄っていた。

 ハーディの管轄に関わっているのは地下世界。よってファルマート大陸では、地下から採掘される鉱石なんかもハーディがもたらす富と考えられており、各地の鉱山から貢物として送られてくるのだ。それが財源だった。

 

 しかし最近、それがおかしくなり始めていた。

 

「それでも、昨年は豊作だったでしょう? こう立て続けに値上がりするのはおかしいですよ」

「や、私どもも又聞きで詳しく知りませんが、どうも最近、穀物を扱っていた大店が潰れたようでして。それに<帝国>が大々的に徴兵を行っている所為か、それを見越した買占めが起きているんですよ。

 それに高いって言いますが、これでも赤字覚悟の価格なんですよ……」

 

 嘘と思うなら他の商人に確かめてください、他はもっと高いですよと出入りの商人は告げた。神官はため息をつく。

 

「……仕方ありませんね。その値で買いましょう。裏に持って行ってください」

「へぇ、毎度ありです」

 

 へこへこと頭を下げていく商人を見送り、仕事の手が空いた神官は思案する。

 どうにもおかしい。ここ最近、どこもかしこも商売が上手くいっていない印象があるのだ。

 参拝客を相手にした宿や食堂では何時ものようにやっているのに参拝客が減っており、お土産を作っても以前よりも売れない。先の商人の話が本当なら、今年は不作。そして混乱が起きているようだ。

 

「でも、気に過ぎかしら……」

 

 とはいえ、元々の参拝客は多いし、多少値が上がっても買えるだけの財源があった。

 まあ、こんな年もあるだろうと、神官は頭を振って次の仕事へ向かった。

 

 

 

 場面変わって、アルヌスの丘。

 扶桑国が建立したアルヌス神社と呼ばれる場所。

 

『ふうむ、拙いですねぇ』

「ん、どうかしたのか?」

 

 龍神こと太郎は、しきりに顎を擦りながら一枚の報告書を睨みつけていた。

 守人が尋ねると、太郎はその報告書を守人へと渡した。そこにはここ数か月分の、扶桑国の各地域で観測された天候が書かれていた。

 

「あー、何々……、随分と雨と曇りが多いの」

『ええ、現時点で例年より変動があります。それも、扶桑国だけではなく、世界規模でです』

「天候不順か。ちょいと拙いかの?」

『扶桑国は災害対策用の備蓄があるので、大丈夫でしょう。問題はここです』

 

 ここファルマート大陸は一年通して温暖な気候である。なので季節の変動は少なく、人が過ごしやすい環境にある。

 そして、自然災害が少ないところでもあった。

 確かに嵐は起きる。豪雨による河川氾濫や落雷による火災だって起きる。周期的に起きる炎龍の襲撃もあった。

 だが、それだけなのだ。

 

 地震は千年に一度あるかないか。火山の噴火は小規模程度。

 地域によって土質の違いはあれど、土を耕し、種を蒔けばそれなりに作物が育つ。獣除けの柵を造っておけば牧畜はさほど難しくない。

 

 ファルマート大陸には大規模災害に対する対処法が全くと言っていいほど発達していないのだ。

 

『調べたところ、ファルマートでも例年より降水量が多く、気温が下がっております』

「<門>の影響かもしれんな。あれは接続先の影響を受けるからの」

 

 ハーディは冥府の神である。あの世とこの世を結ぶ存在である。

 <門>を開ける際にはの特性を生かして世界と世界を繋げている。すると接続先の特性がこちらの世界に流れ込むことがあるのだ。

 

 さて、ファルマート大陸は災害に対する備えが殆どないと言った。

 そこに、定期的に台風、地震、噴火、津波がやってくる災害列島・日本のこれが起きたらどうなるか?

 

「……ヤバいの」

『ヤバいですねぇ』

「ナー……」

 

 大規模地震、大寒波、これによる食料の暴騰と不足、……、三人に嫌な想像が出来た。

 

「太郎、操作できるか?」

『無理でしょう。接続が続く状況で弄っても効果は一時的にしか出ません。それに、その後の揺り戻しが怖い』

 

 太郎の持つ気象操作は確かにすさまじい効力を発揮するが、制約もあった。

 例えば、豪雨を散らした結果、反動で旱魃が発生する。嵐を無くしたら別の地域で大津波が発生するなど使うのが難しい。

 小規模な範囲ならさほど揺り戻しもきつくないが、今回のような世界規模の災害に対処するには無理があった。

 

「……早急に新しい<門>を造るしかあるまい。今ならまだ最小限に抑えられる」

『他の正神や亜神らにも協力してもらいましょう。ハーディは、ほっときますか』

「今頃ふてくされて寝ているだろうからの。まあ、あ奴なら自分の周りぐらいは守るじゃろ」

 

 そんな事で、守人たちは想定される災害へ備えるべく活動していく。

 

 

 さて、ちょっと未来の話である。

 結局、災害は発生したのだが、対策をとった面々は被害を最小限に抑えることに成功。

 

 しかし、放っておかれたハーディとベルナーゴ神殿は災害の影響をモロに受ける事となり、神殿は損壊。門前町も被害を受けた。

 

 ハーディの権威はガタ落ちになり、信者が激減することになった。

 また復興しようにもどんぶり勘定で杜撰な管理だったこともあり、その後の資金繰りにも悩まされ、神官が減っていく状況にさしものハーディも他の面々に泣きついたが、誰もが「ざまぁw」「自業自得」「偶には仕事しろやニート」と言って取り合わなかったという。

 

 

 

2、ヤオの決断

 

 

 アルヌスの丘から南方にある、シュワルツの森からやって来たダークエルフのヤオ・ハー・デュッシは悩んでいた。

 

 ヤオは、ここにいる神々と緑の人に故郷を荒らす二頭の新生龍を討伐してもらうべく交渉に来た。その為なら部族から預かった人の頭並みはある金剛石と己の身体を捧げても構わなかった。

 

 そしてどうにか両国のトップに会えないかと暫くアルヌスの街に逗留する事になったのだが、これが目移りするほど新鮮だった。

 珍しいもので溢れかえり、多種多様な種族が大通りを歩いている。兵と猛獣である剣歯虎が巡回しており、治安は恐ろしく良い。

 食べ物も変わった味付けだが旨い。酒もキンキンに冷えていて種類も豊富。案内された宿は居心地が良い。

 長命種らしく三百年生きているヤオだが、このような経験は初めてであった。

 

 まあ、酒場でのやらかしと、自衛隊・扶桑国共にファルマート大陸の言語を話せるものが殆ど居なかったために金剛石や身体を狙う小悪党に襲われたのだが、結果的には自衛隊と扶桑国のトップに会えたのだから良かったのだろう。

 

 で、自衛隊と扶桑国から「前向きに対処します」と言われた直後、あの二頭と新生龍と空を埋め尽くさんばかりの大量の竜種が襲撃してきたのだ。

 

 ヤオは絶望した。二頭の新生龍は憎むべき対象。だが、付き添うように飛ぶ竜の数が多すぎたのだ。

 周りの住民らもヤオと同じ表情であった。慌てて逃げるべく貴重品と家財道具を持ち、混乱しきっていた。

 

 しかし、自衛隊と扶桑国にとっては何の障害でもなかったらしい。

 二機の空飛ぶ剣と鎧を纏った二人が新生龍を抑え、残りの竜種は殆どを叩き落してしまった。そして地上で待ち構えていた兵たちが一頭ずつ討伐していく姿に、ヤオも奮起し、戦った。

 

 そして勝った。勝ったのだ。

 

 二頭の新生龍は、討伐されたのだ!

 

 ヤオは歓喜して、そしてすぐに証拠品と証人として自衛隊と扶桑国の人を連れて一族の下へ知らせた。

 一族は驚き、そして自衛隊と扶桑国の申し出にまた喜んだ。

 

 両国は資源調査と<帝国>の情報収集から信頼できる現地の調査員を多く募集していた。

 ダークエルフ側としても、今回の件で蓄えを食い潰してしまったし、村の復興には時間と資金が掛かるのが分かっていたので、この申し出は渡りに船だったのだ。

 

 で、ここでちょっと問題が起きた。

 

「そういえば、報奨はどうすれば良いのだろうか?」

 

 二頭の新生龍が討伐されたからには、報奨を渡さなければならない。少なくとも、ヤオらダークエルフは今回の義理と今後の繋がりを考えると渡さないという選択肢はなかった。

 

 それで討伐を果たした自衛隊と扶桑国のトップに金剛石を渡そうとしたのだが、受け取れないと断られてしまう。

 

 では、二機の戦闘機パイロットと二騎の武者に面会し、報奨を渡そうとしたのだが、

 

「いや、いらねーから」

「あらあら、でも私、これでもお金持ちですし、女性同士には興味ありませんの」

 

 と、新生龍の討伐をはたした扶桑国の二人には素っ気無く断られてしまう。

 

「なにィ!? じゃあ、俺のよ――めぇん!!??」

「悪りィな、嬢ちゃん。俺たちも任務で動いただけだから受け取れないわ」

「ごめんねぇ」

 

 と、空飛ぶ剣に乗っていた自衛隊員にも申し訳なさそうに断られてしまったのだ。

 

「どうすればいいのだ……」

 

 重たい金剛石を抱えてヤオは困ってしまった。

 扶桑国の二人は女性。金剛石も身体も要らないと言っていた。まあ、ヤオとしても女性同士はちょっと……、と思っているので、取り敢えず置いておく。

 

 対して自衛隊はどうか。特に一人はえらくこちらの身体を凝視していた。こちらから押せば受け取ってもらえそうだった。

 

「だが、どうやって接触すれば良いのだ……?」

 

 相手は街ではなく、丘の上にある要塞の中に住んでいる。街に居ればいつか会えるだろうか、ずっと街に居続ける訳にもいかない。長老らも「ヤオの判断に任せる」とぶん投げてさっさと出稼ぎなり村の復興なりに当たってしまったので、本来の世界線と違いボッチのままななヤオは困り果ててしまった。

 

「ん? おんし、何してるんじゃ?」

 

 ここに救世主が現れた。守人だった。ヤオがぼそぼそと事情を説明すると、得心いった表情で頷いた。

 

「あー、おんしか。南方からやって来たというダークエルフの者は」守人は続けていった。「つまり、今回の件で恩返ししたいと。だが、自分ではどうすれば良いのかわからない、と言う事じゃな?」

「……はい」

「なら丁度良い。儂に任しておけ。これでも顔は効くからの」

 

 この言葉にぱぁ、とヤオの顔が花咲くように明るくなった。

 だからなのか、ヤオが喜んでいる中、守人が「労働力ゲット」と、小さく嫌な笑みを浮かべていることには気づきはしなかった。

 

 

 アルヌスの丘、自衛隊庁舎。

 

「すまないの、お二方。忙しい中集まってもらって」

「いえ、丁度仕事がひと段落したところでしたので、お構いなく」

 

 狭間陸将が言った。同席した菊池も小さく頷いた。

 

「要件は、そちらのヤオさんの事でしょうか?」

 

 二人の目線がヤオへと向くと、ヤオはびくっ、と身体を震わせた。

 

「まあそうじゃの。この嬢ちゃんの事情は知っておるか?」

「一通りは」菊池が言った。

「金剛石は受け取れんのか?」

「正直、無理ですね」

 

 守人が率直に聞くと、菊池はさすがにこれだけ大きいのは、と答えた。

 

 仮にこの金剛石を貰ったとしよう。

 今回の襲撃では扶桑国・自衛隊の合同で当たった。なので、金剛石の所有権は半々とする。だが余りの大きさから売れないのである。人の頭大の金剛石の値段など天文学的を通り越して電波天文学的となる価値になり、支払い能力があるのはそれこそアラブの王族か世界的財閥の主ぐらいだと聞かされたのだ。

 かといって、半分に割るのは宝石に対する冒涜であった。

 

 また自衛隊からすればこんな宝石を売りに出せばすぐに見つかる。唯でさえ今回の一件でぐちぐちと言われてるのに、これでまた色々と言われるのは避けたいのだ。

 菊池もまた、自衛隊が受け取らないならこちらだけ受け取る訳にはいかないという。

 

「つまり、こいつを現金に換えれば良いのじゃな」守人は言った。

「金剛石は嬢ちゃんから扶桑国と自衛隊に譲渡。それを儂が買い取ろう。それで自衛隊・扶桑国で半々で分けるのはどうじゃ?」

「かなりの金額になると聞きましたが……」狭間が言った。

「流石に現金だけだと貨幣が足らんがの。足りん分は物納になるじゃろう。まあ、扶桑国に戻ってからになるから、暫くは倉庫の肥やしになるじゃろうがな」

「しかしそれなら、私としては異論はありません」

「私もありがたいですな」

「よろしい。ではそのようにしよう」

 

 あっさりと決まった金剛石の扱いに、今まで悩んでいたのは何だったんだろうと、ヤオは内心ごちた。

 だが、肩の荷は下りた。ヤオはほっとした表情で息を吐いた。

 

「では、嬢ちゃんはどうする?」守人が尋ねた。

「うん? これから……?」

「ここに滞在するにしても、金が無ければ何もできんぞ? 働くあてはあるのか?」

「いや、これから探そうかと……」

「なら丁度良い。儂の所で働かんか?」守人は続けていった。

「ここの分社は出来たばっかだからの。人手は幾らあっても良い。仕事内容は分社の管理維持と受付。衣食住付きで賃金もこれだけ払うが……」

 

 パチパチパチ、と守人は懐から取り出した算盤を弾き、出た数字の金額分の銀貨をヤオに見せた。

 結構な、いやかなり高額であった。

 ヤオは即座に頷いた。これで街で滞在できる。あの空飛ぶ剣の自衛隊員に会える。

 

「よろしい! ではおんしは今日からアルヌス神社の筆頭巫女(仮)じゃな」

「……へ?」

「まあ、つまりじゃ。ここの分社の責任者という訳じゃな。大丈夫、ちゃんと仕事は教えるからの。頑張って励め」

 

 では仕事も溜まっておるし、早速行こうかの、と守人は呆けたままのヤオを引きずって分社へと向かった。

 

 残った二人の責任者は、静かに黙祷を捧げた。

 

 

 その後、ヤオは名をヤオ・リュ・デュッシと改め、龍神の巫女として、またアルヌス神社の総責任者として働くこととなる。

 仕事の合間を見ながら戦闘機パイロットの御子神と交流を深め、また巫女服姿であたふたと仕事をこなす姿からアルヌスの名物巫女として人気が出ていく事となる。

 

 




誤字・脱字がありましたら連絡をお願いします。


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第三章 扶桑編 第30話

まさかの更新。
いやあ、感想の多さにびっくり。また誤字報告をしてくれる方、いつも有難うございます。
おかげさまでかなり助かっています。

では三十話です。楽しんで頂ければ幸いです。


 

 あの本位総理の会見から二週間後。

 ようやく日本国使節団が扶桑国へと行く日がやって来た。

 

 その出発式は盛大なものだった。日本の銀座の<門>前で行われたが、そこには報道関係者が流した情報を元に多くの民衆が詰めかけたのだ。この式に特に人気の高い守人や太郎、はたまたロゥリィら三人娘も出るんじゃないかと予想が出ていたが、どちらも収拾がつかなくなるからと出席はしなかった。

 

 それでも扶桑国使節団が来た時のような多くの人で溢れかえり、多くの出席者達は慣れない状況に辟易しつつも式を執り行った。

 そして、本位首相ら閣僚に民衆からの歓声に見送られ、日本国使節団は特地入りしたのだった。

 

 

 アルヌスの街東部 飛空船発着場

 

 嘉納外務大臣を団長とする日本国使節団は既に特地入りし、発着場の待合室で待機していた。待合室にスーツを着た役人や使節団員や野戦服姿の自衛隊員が忙しく待合室を出入りし、第三偵察隊の面々が鋭い視線を周りに放っている。

 

 扶桑国に行くのは嘉納ら政府関係者二十名ほどに伊丹ら幹部自衛官数名が護衛としてついていく事になる。

 

 伊丹は第三偵察隊の任務があったが、日本・扶桑国側の希望もあって一旦隊長職を解かれ、今回の扶桑国行きに同行する事になった。

 またこの人数になったのは既に外務省の官僚や自衛官などが現地入りしているのと、飛空船で移動しなければならないため、これ以上の人を乗せる余裕が無かったのだ。

 

「しかし、こうやって見ると思ったよりでけぇな」

 

 ゆったりと椅子に座る嘉納の目の前には、扶桑国が誇る高速飛空船<伊吹>が係留されていた。

 全長は海上自衛隊の護衛艦より二回りも小さいものの、木造船体に気嚢部とプロペラがくっ付いた姿は嘉納からすれば奇妙で、これが本当に飛ぶのかと思う。

 

 護衛兼話し相手にと傍にいた伊丹は苦笑しながら答えた。

 

「まあ、特地はファンタジーですし。造ったのはあの(・・)扶桑国ですし」

 

 大抵これで説明がつく。ついてしまうのだ。

 

「……それで納得しちまうのがなぁ」

 

 夢の空飛ぶパワードスーツである劒冑。高馬力高効率低燃費の三つが揃った熱量変換型推進器。貼るだけで防音防諜が可能な魔法の御札。怪我の治癒を促進する回復薬。………、エトセトラ。

 今までに見てきたこれらを思い出せば、船が空を飛ぶことなんておかしい事ではないだろう。

 

「私からすればどっちもどっちよぉ」

 

 出されたジュースを飲みながらロゥリィは言った。レレイとテュカも菓子を食べながらうんうんと頷く。

 特地の面々から見れば「いや、日本も色々とおかしいから」と言われているのだ。そして日本と扶桑国は源流は同じと聞いて「ああ、だからか」「同類なんだ」と納得するのが今のアルヌス住民の一般的な考えであった。

 

ここ(・・)と全く常識が違うものぉ。驚きすぎて疲れちゃったわぁ」

「やっぱり、ついてくるの?」伊丹が言った。

「勿論、ついていくわぁ。だってわたしぃ、一度も扶桑国に行ったことないものぉ」

「あれ、行ったことなかったの?」

 

 意外そうな表情で伊丹は言った。

 

「船は危険だから出てないしぃ、行きたいと思っても行ける国じゃないものぉ」

「ああ、そっか。レレイは? 確か導師だっけ、試験を受けるって言ってなかった?」

「確かに導師号は欲しいが、別に来年でも構わない」

 

 レレイには導師号を一度で受かる自信があった。レレイが開発した爆轟魔法を見た師匠のカトーや太郎からも太鼓判を押されており、先の竜種の襲撃騒ぎでその凄まじい威力を発揮している。

 来年も受けられる導師号よりも恐らく今回限りの、伝説とまで言われる扶桑国へ行く方の好奇心が強かったのだ。

 

「私は、二人が行くなら行ってみたいし、それに、その……」

 

 顔を赤らめ、チラチラと伊丹の顔を見やる。病院での好みはテュカと聞かされ、なんやかんやで伊丹の事が少し気になるようになったらしい。

 

「(これが、ハーレム野郎という奴か……)」

 

 察した嘉納は内心呟いた。そして周りの男どもが少しばかり嫉妬と羨望の入り混じった目で伊丹を見ていることに気づく。

 

「(こいつそのうち刺されんじゃねぇか?)まあ、ウチとしちゃぁ今まで散々世話になってるしよ。あちらも女性用に一室空けるってぇ言ったから大丈夫だろ」

 

 そうすると、一人の政府関係者がやって来た。準備が整ったようだ。

 

「じゃ、行くとするかね」

 

 嘉納は椅子から立ち上がると、秘書が持ってきたお気に入りの帽子とロングコートを羽織り、他の使節団員と護衛を引き連れて歩き出した。

 伊丹も動き出す。

 

「隊長、お気をつけて」と富田。

「いいなータイチョーは。扶桑国にバカンスなんて」と栗林。

「俺もついていきたかったっス」と倉田。

「隊長、お土産楽しみにしてるっす」と勝本。

「あ、俺には扶桑国の風景写真を」と笹川。

「何か珍しい調味料や食材があればお願いします」と古田。

 

「いや、仕事だからね。それともう隊長じゃないからね」

 

 伊丹は苦笑交じりに言った。そして最後はそれっぽくしようと、ピンと背筋を伸ばす。

 隊員たちも居住まいを正す。

 

「前にも言ったが、これから<帝国>との交渉も本格化し、任務の重要度も増していく。偵察隊本来の仕事じゃないが、最善を尽くしてくれ。あ、ヤバくなったら逃げろよ。――以上」

 

 お互いに敬礼。

  

「すみません、おやっさん。あいつらを頼みます」

「任せておいてください」

 

 伊丹と桑原はがっちりと握手した。そして伊丹は、待っているロゥリィ・レレイ・テュカの三人と共に飛空船へと歩き出した。

 

 

「よう伊丹、お疲れさん」

 

 最後尾を歩く伊丹たちの下へ、柳田がやって来た。先程まで扶桑国に持っていく荷物の確認をしていたのだが、それが丁度終わったらしい。

 

「ほら、やるよ」

 

 言うや、柳田はジャラジャラと重そうな絹袋を投げ渡した。中身は扶桑国の大量の金貨に銀貨だった。

 

「扶桑国から購入した貨幣の一部だ。活動資金として好きに使え」

「良いんですか?」 

「活動資金と言ったろ? それで何か有用なものがあればお前の裁量で好きに買え。どんどん買って来い。あとは前に言ったことは忘れてないよな?」

「忘れてませんよ。ただ、あんまり期待しないでくださいよ。国と交渉するのは俺じゃなくて大臣なんですから」

 

 そこで柳田は嫌な笑みを浮かべた。

 

「だからって私的流用はするなよ? 具体的には誰かに贈り物を買ったりとか、しけこむのに使ったりな」 

「いや、するわけ無いでしょうが」

 

 伊丹は呆れた表情で答えると、柳田はどうだか、と鼻を鳴らした。

 

「ま、そこら辺は帰ってきたら内容を精査するさ。ああ、領収書はちゃんと貰って来いよ?」

 

 扶桑国に領収書あるのか、と伊丹は思いつつ、重たい絹袋を懐に入れた。

 

 

 日本国使節団は自衛隊員や扶桑国の兵、またアルヌスの住民ら大勢の人々に見送られ、飛空船のタラップを登っていく。

 甲板には扶桑国の黒い軍礼装と白手袋に身を包んだ乗組員がずらりと二列に並んでいた。

 

「日本国使節団に、敬礼!」

 

 号笛と共に整列した兵が一糸乱れぬ動きで敬礼する。ただ義務でやっているのではなく、その表情には明らかな敬意がありありと浮かんでいた。

 自衛隊広報班が撮影している中、伊丹は敬礼を返しつつ、ちらりと周りを見やった。

 

 甲板は段差の無い全通平甲板で、艶やかな飴色の板が張られていた。中央には鉄管やらガラスを張った箱のようなものが備え付けられており、天窓後部には掘っ立て小屋のような露天艦橋があった。

 

 舷縁には対物ライフルに似た、鈍色の長大な鉄砲が備え付けられてあり、上の気嚢部に伸びる大綱には扶桑国の国旗が掲げられていた。片隅で、信号係が信号掲揚索を威勢よく手繰っていた。黒い球が滑車にたどり着くと、ぐっ、と手を捻る。

 黒い球がパカッと割れ、中から白地に赤い日の丸、日本国旗が現れた。

 

 同時に、船首の方からダーンと砲声と白煙が上がった。歓迎の礼砲だ。それが19回。国賓待遇だった。

 礼砲が終わり、列の奥から現れた船長は豊かな白い髭を持つ、老年の軍人であった。背筋をピンと伸ばし、堂々とした足取りで嘉納に近づき、敬礼を行った。

 

「ようこそ、飛空船[伊吹]へ。本船の船長を務める沖田と申します」

「初めまして、沖田船長」

 

 嘉納は得意の満面の笑みを見せ、軽く首を縦に振り、会釈で応じる。

 沖田も嘉納の笑みにつられたのか、ニコリと笑い、そしてお互いに固く握手を結ぶ。

 

 ピーピーと号笛が吹きながされ、式が終わった事を知らせた。整列していた乗組員が整然と動き始め、それぞれの持ち場に戻っていく。

 

「嘉納大臣閣下、差し支えなければ、ただちに出港したいと思います」

 

 秘書に積み込みが完了した事を確認し、嘉納は頷く。そして乗組員の一人が船内へ案内しようとするが、嘉納は小さく手を振って制した。

 

「よろしければ、このまま甲板で離陸する瞬間を見ても構いませんかな?」

「構いませんとも。ただ離陸時は揺れますゆえ、舷縁からあまり身を乗り出さないようお願いします」

 

 柔らかい笑みを浮かべた沖田はそのまま露天艦橋の上に立ち、矢継ぎ早に指揮を飛ばす。

 

「気嚢部、気体注入完了」

「機関部、準備完了!」

「もやい外せ!」

「船長、出港準備が整いました」

「よろしい」

 

 沖田は大音声で命じた。

 

「機関始動ッ! 錨上げ!」

 

 両舷の機関が唸り声を上げ、プロペラが勢いよく回転を始める。同時にギャリギャリと鎖が巻かれ、錨が船内に収納される。

 同時に、アルヌスの自衛隊有志による音楽隊が楽器を構えた。「宇宙戦艦ヤマト」の演奏が始まった。

 船首が上向き、ゆっくりと空に飛び始める。

  

「進路98、速力40!」

 

 グン、と一気に速力と高度が増す。地上の人々も、アルヌスの街もどんどん小さくなっていく。

 伊丹たちは地上がはっきりと見えなくなるまで見続けた。

 そして地上に残った人々もまた、飛空船が見えなくなるまで空を見上げていた。

 

 

「こりゃ凄い。飛行機で見るのとはまた違うな」

 

 使節団員は舷縁にひっつくように、下に流れる光景を眺めていた。すると、アルヌスから猛烈な勢いで三つの飛行物体がやって来た。

 一つは白く輝く鬣を揺らす巨大な天龍、太郎だった。飛空船に近づくと一旦速度を緩め、使節団員にニコリと笑って『良き船旅を』と手を振る。そして一気に速度を上げ、先行するために針路先へと飛んでいった。

 

 残りの二つは、轟音をまき散らす航空自衛隊の戦闘機。F4EJ改だった。飛空船にすれ違う際に敬礼。沖田船長らも答礼する。二機のF4EJ改はそのまま直進し、見せるように編隊を維持したまま様々な戦闘機動を行う。

 

「これは、見事なものですなぁ」思わず魅入っていた沖田が呟く。「信号係。あの戦闘機に[見送リ感謝スル]と打て」

「了解」

 

 自衛隊から教わった発光信号を送る。それが届いたのかどうかは分からないが、二機の戦闘機は大きく旋回し、ひと際大きな爆音を立てて基地へと戻っていった。

 

 

「そろそろ冷えますゆえ、中に入るようお願いします」

 

 流石に肌寒くなってくると、案内係が告げた。どうも小人種らしく、見た目は少年のようで若々しかった。前部甲板の取っ手のある蓋を動かすと、階段が現れた。

 一人ずつゆっくりと階段を降りていく。

 

 飛空船の中は、意外にも広かった。階段を降りてすぐは広間になっており、中央には太い支柱が等間隔に立ち並んでいた。床には花柄の深紅の絨毯が敷かれており、椅子と白いテーブルクロスのかかる机が並んでいる。甲板にあったガラスの箱は天窓のようだ。そこから陽光が差し込んでおり、壁掛けの照明もあって室内は十分に明るかった。

 

「……ホテルだな、こりゃ」嘉納が感嘆した様子で呟く。

「この<伊吹>は要人用の高速船じゃからな。武装は最低限しかないが、代わりに長期滞在も可能なようになっておる」

 

 ひょっこりと、奥から守人が現れた。傍には剣歯虎の不破が寄り添っていた。

 式典中に顔を出していると両方から気を遣われ、主役である日本使節団の印象も薄くなってしまうので中に篭っていたのだ。

 

 嘉納が笑みを浮かべて守人と握手し、軽く会話を楽しむ。

 そして守人がちらりと案内係を見ると小さく頷き、「では、今から本船について説明します」と言った。

 

「本船は上甲板・中甲板・船倉の三層に分かれています。

 

 上甲板は先程式典を行った場所です。船長の許可さえ出れば、昼間は自由に往来しても構いません。ただ、飛行中は寒いですので貸し出される防寒着を着用し、また落ちないよう気を付けてください。

 

 中甲板が主要な居住空間となっており、広間に食堂、調理室、浴室とトイレ、客室と乗組員の部屋になっています。

 食堂と浴室は日に三回、決まった時間にあるので遅れないようお願いします。

 また広間にある書物は好きに読んでもらって構いません。また茶や果汁飲料に菓子、酒やつまみなども用意できます。

 

 船倉は水や食料、武器弾薬、燃料の貯蔵庫となっていますので、勝手に立ち入らないようお願いします」

 

「風呂もあるんですか、ここ」伊丹が尋ねる。

「はい。ですが日本国のものと違い、防水布を張った大桶に沸かした湯を入れただけになります」

 

 申し訳なさそうな顔で案内係は答えた。それでも何人かは毎日風呂に入れることにほっとした表情を浮かべていた。

 

 流石に豪華客船や現代の軍艦と同レベルとまでいかないが、この世界では劣悪な環境の代名詞とも言える帆船やガレー船が主流の中、船の中でもホテルと殆ど変わらない待遇を受けられるのだ。

 これがどんなに凄い事なのか、分かっているのは極僅かであった。

 

 一通りの説明が終わると、それぞれの部屋に案内された。

 

 本来、船で個室を与えられるのは船長ただ一人であり、<伊吹>は客室を増やしているとはいえ、使節団員全員に個室を与えるのは無理だった。

 しかし、慣れない者が狭い船の中でプライバシーの欠片も無い所には居られない。また飛行中に体調を崩す可能性を減らすために兵や乗組員が雑魚寝する大部屋に間仕切りを入れ、扉を付けて小さいながらも個室を造ったのだ。

 

 伊丹が入った部屋もその一つだった。

 船尾側にある個室は狭く、絨毯の上に収納棚付きベッドに小さな机と椅子があるだけだった。外板側には小さな丸い窓と日本で買ったらしい電池式照明が。間仕切りには精緻な模様が描かれており、扶桑国様式の装飾がかけられている。

 程々にこじんまりとしており、伊丹にしてみれば居心地が良さそうな部屋だった。

 

 伊丹はベッドに荷物を下ろし、腰をおろすとずっと張り詰めていた気が溜息と一緒に出ていく感じがした。

 思っていたよりも疲れているらしい。それも仕方ないか、と思った。

 あのドラゴン襲撃事件以来、扶桑国側の様子が変わったのだ。自衛官らは妙に敬意を払われるようになったのだ。

 

 扶桑国の武人は共通して高潔で自尊心が高い。一方で「勝てば正義」という現実主義者の考えを持っている。

 つまり、腰は低いがモラルが高く、また新生龍と尋常では無い数の竜種を討伐できるだけの力を持った自衛隊は敬意を払うのに十分な存在だったのだ。

 今までも文章や絵で自衛隊の凄さを知ってはいたが、実際に生でその姿を目で見るのとは違うのだろう。

 

 戦車や自走砲、対空機関砲やらLAMがあったから、と答える者もいるが、扶桑国からすればこれを開発し運用できるのも「力」であり、謙遜にしか思えなかったのだ。これがまた「力をむやみに誇示しない」と、敬意を払う理由にもなっていた。

 

 特に伊丹は亜神ロゥリィの眷属になり、守人と契約し、武者になった。有名人二人に気に入られる自衛官、という注目を集める存在になってしまったのだ。

 ただ伊丹自身は万事が怠け者というか、普通に生活する人である。そのため一般の自衛官として接してください、と言えば大体は頷き、止めてくれるが、それでも畏まられる時もあるので少し気疲れしてしまったのだ。

 

 どうすっかねー、と思案する。

 これから扶桑国に着くまで殆どする事は無い。このまま暫く漫画でも見てようかな、と早速ベッドに寝そべって読み始めると、ノック音が響く。

 

「どちらさん?」

「儂だ。ちょいと構わんか?」

 

 身体を起こし扉を開ける。部屋に入ってきた守人は一人だった。心なしか、いつもより硬い表情であった。

 

「すまんの、休憩中だったか」

「ああいえ、どうぞお構いなく」

 

 伊丹は椅子を勧め、自分はベッドに腰かけた。

 

「なにかあったんですか?」伊丹が言った。

「まあ、ちょいと話をと思ってな」

「場所を移した方が?」

「いや、間仕切りには防音対策をしてある。会話する程度なら外には響かんよ」

 

 どうりで周りから音が殆ど聞こえないと思った、と伊丹は関心した。

 

「恨まんのか? おんしは」守人が言った。

「何をです?」

「武者になったことだ。はっきり言えば、おんしはこれから面倒事に巻き込まれるぞ」

 

 言われて、「あー、そういえば武者になったんでしたっけ」と告げた。確かに注目を集めるようになったが、今までと余り生活が変わなかったのですっかり忘れてたのだ。

 

「……おんしらしいの。で、どうなんだ?」

 

 呆れた表情で守人が言うと、伊丹はポリポリと頭を掻きながら答えた。

 

「んー、どうなんでしょうねぇ。あの時はロゥリィと逃げられて助かりましたし。ただ、あんなおっかない経験はしたくありませんね」

 

 それこそ大量の竜種と戦うのも、空を飛ぶのも御免である。

 だらだらとしながら給料を貰って、漫画や小説、同人誌を読んで遊んで楽しく生きていければ良いのだ。

 

「つまり、だ」守人が言った。「武者になったことはどうでも良いと?」

「思うところは無い、って言えば嘘ですけどね。まあ、なっちゃったもんはしょうがないですし、いま先の事を考えても疲れるだけです。それよりも、この船にいる間ぐらいのんびりとしていたいですし」

「……儂はこれでも武者が羨む名甲だというのにのぉ」

 

 自信無くすわ、と守人は言った。ただ顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

「御堂はもう少し真面目にした方が良いな」

 

 まあ、今のままの方が良いのだと答える者もいるのだが。ギャップ萌えという奴だろう。暫くの間、ロゥリィが伊丹に庇われた時の事を思い出し、いきなりニヤけるので気味悪がられていた。

 

「んー、真面目にねぇ」それなら、という感じで伊丹は言った。「でしたら、何か技術くれません? 劒冑とか推進器の作り方とか」

「無理」にべもない口調で守人は言った。

「……まあ、御堂なら答えても良いか。劒冑も再生医療も扶桑国の重要機密であるが、アレは技術があっても日本でも間違いなく造れんぞ」

「アルヌスでも無理ですかね?」

「無理じゃの。例え日本が全力で再現しようとしても百年単位は掛かる」

 

 と言う事は、扶桑国でしか取れない、何か特殊なものが必要なんだろうか。

 

「それなら輸入は? ブラックボックス化すれば出来ませんか?」

「ああ、外から見えない様にするわけか。そこら辺は分からんな。帝と閣僚次第じゃの」

 

 ならそっちで交渉進むのかな、と伊丹は漠然と思った。

 いや、本職の役人ならこのぐらい考えているか。それでも「技術が欲しい」と言うのは色々と応用が効き、莫大な特許料が見込めるからだろう。また日本という技術でのし上がった国だからこそ、という自負もあるのかも。事実、扶桑国から送られたもののうち、一部は再現できたという話も聞くし。

 

「ま、なんにせよ。交渉するのは国同士じゃからな」

「そうですねぇ」

 

 邪魔したの、と守人は椅子から立ち上がる。

 

「そうそう、暫くしたら浴室が解放される。それまでゆっくりすると良いよ」

「ええ、ではまた後で」

「またの」

 

 互いに笑みを浮かべて、崩した形で敬礼。

 




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