仮面ライダー【レイヴン】 (ODEN)
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第1話「変身」

第1話「変身-①」

 

_誰だって、忘れれない出来事がある。

それが自身にとって苦となるような物であれば、尚更だ。

 

「圭介っ....逃げろ.....!」

 

辺りは暗い。

いや、赤黒いと言った方が正しいだろうか。

俺は一心不乱に、真っ赤な火に包まれた瓦礫の中を駆け抜けていた。

 

身体中が、痛い。

 

当時まだ小さかった俺は、ただただ逃げる事しか出来なかった。

そんな中、瓦礫の...いや、死体の山の上に佇む人影が一つ。

人...いや、怪物だろうか。

人とは形容しがたいそれは、足元に転がった、首と思われる物体を蹴飛ばした。

「........っ!」

俺は、その怪物を睨みつける。

街を、友を、家族を....滅茶苦茶にした、それを。

「うああああああっ!」

無謀だと解っていた。

馬鹿げた事だと解っていた。

だけど...俺は走った。

目の前にある光景が許せなかった。

もしくは、家族の後を追いたかったのかもしれない。

怪物は、生存者である俺を煩わしく思ったのか、その鋭い爪を振り上げる。

 

「ちくしょう.....!」

 

その時だ。

俺に迫ろうとしていたその怪物は、瓦礫の山から吹っ飛ぶ。

「っ⁉︎」

燃え上がる火の中、俺が見たそれは、銀色に包まれた人影。

虫の様な触角、風になびくマフラー。

そして、暗闇の中、薄青く輝くツインアイ。

銀色の人影は俺の姿を認めると、吹っ飛んだ怪物に向かい走って行く。

流れるように、銀色の人影は怪物に対して蹴りを加える。

よろめく怪物。

好機とみた人影は、乾電池のような細い物体を取り出すと、その腰に巻くベルトのパーツに細い物体を装填する。

 

【レイヴン!ヒッサツ!マキシムストライク!】

 

銀色の人影は高く飛び上がると、風に乗り勢い良く怪物に蹴りをお見舞いした。

怪物はその蹴りに耐え切れず、爆散。

その場に降り立った人影は、俺の方に向かって歩いてくる。

 

それが、俺と【レイヴン】の出会いだ。

 

...

 

機械音_正確に言えば、歯車の音が静かに響いていた。

辺りは薄暗い。

少し広いその空間には、至る所に妙な光を帯びた機械...と、どろりとした液体が入った半透明の筒。

妖しく光るその中には、得体の知れない「何か」が不気味に脈打っていた。

「全く...久しぶりの【作戦】なのに、君のトロイドを出すのかい?」

青装束を身に纏った男_眼鏡を掛け、知的なイメージを感じさせるその男は、柱を背もたれに立っていた赤装束の男に言う。

「ああ?いいだろ別に...実質、俺のトロイドが一番扱いやすいしな」

赤装束の男---目つきが悪く、如何にも乱暴そうなその男は柱から離れると、バツが悪そうに青装束の男を睨みつけた。

「...あー、そうだねぇ...馬鹿だし」

「今なんつった!?」

赤装束の男が青装束の胸倉を掴み上げる。

それを宥めるかのように、緑装束の男が機械の影から踊り出る。

「心配する必要は無いですよ。障害さえ無ければ今回の【作戦】が成功する確率は...80%」

「だろ?アンサー」

赤装束の男は青装束の男を下ろすと、納得したかの様に一人で頷く。

「しかし問題は....やはり」

「ああ、解ってるよ...」

かつて自身達が作り出し、唯一の脅威となった存在_

「【レイヴン】」

 

ガチャリ。

機械音が響く。

 

ドクン。

「何か」が脈打つ。

 

「始まるぞ...偉大なる大脳の計画が...!」

 

...

 

「全く....状況は?」

「はい、隊員達が現在交戦中の様ですが...やはり普通の人間とトロイドでは無理があるかと...」

 

それなりに広い部屋の中、電子音と情報通達の声が響く。

円形のテーブル、彼方此方に置かれた電子機器、中央にあるモニターと、その光景はまるでSF映画に出てくる秘密基地のようだ。

「...適合者の方は?」

少し濃い紫色の髪をした、スラリとした出で立ちの女性が、オペレーターに聞く。

「えーと、その...カツ丼食べてます」

「はあ...私が行く」

そう言うと、紫髪の女性はその部屋を出て行った。

 

「いい加減教えろよ...ここはどこだってんだ!?」

面接官のような、ピシッとしたスーツの男と向かい合うように座り、テーブルを挟んでカツ丼を頬張る男が一人。

「...ご馳走様!!」

彼は納得行かなそうに立ち上がると、丼を置いて部屋を出て行こうとする。

「...ちょっと待ちなさい」

それを、丁度部屋にやって来た紫髪の女性が引き止めた。

「あ?...何処に行こうが俺の自由だろ。こっちは仕事が無くなってだな...」

「仕事?...あるのに...」

そう言うと、紫髪の女性は一つのアタッシュケースを取り出す。

ロックを外し蓋を開けると、そこには_

銀色のベルトが収められていた。

 

_遡る事、一時間程前。

 

「...やっちまった」

交差点の前で途方に暮れる。

空を見上げ項垂れている男---神居 圭介は、この度自身の勤めていた会社をクビにされ、路頭に迷うフリーターとなっていた。

「...はあ」

きっかけは些細な物だった。何が悪かったのか.....いや、思い出したくもないな。

「.........」

信号が青に変わっているにも関わらず、圭介は歩き出せないでいた。

両親も祖父母も親戚も亡くし、苦労の末やっと手に入れた職だ。ショックは相当な物だった。

「...何もない、か」

不意に、自身にとって未だに忘れられない出来事が脳裏に現れる。

 

赤黒い瓦礫の中を駆け抜け、自らの無力さを思い知った、あの時。

 

何もかもを失い、生きる価値を見出せなかった、あの時。

 

だが、その「あの時」に現れたあの銀色の影が、彼に僅かな希望を与えていた。

 

「...もう一度...会えるかな」

信号が一周回り、また青になる。

ここで止まってても仕方ない。まずは出来ることを考えなくちゃ。

 

そう、踏み出そうとした時だ。

 

突然、目の前に車が現れた。

いや、現れたのでは無く、飛んできたの方が正しいだろうか。

「っ!?」

幸い、身体を捻って飛び出していたおかげで車には当たらずに済む。

放り出された車は、無残にも地面に叩きつけられ鉄の塊と化した。

「........!?」

圭介は咄嗟に車が飛んできた方向を見据え、唖然とする。

そこには、とても人間とは形容し難い、蜘蛛のような怪物がいた。

直感でそう捉えただけで実際そうとは限らないが、所々蜘蛛のようなイメージがある。

「.......っ!」

何故か、その怪物が圭介には妙に懐かしく思えた。

「まさか...!」

目まぐるしく、脳裏の景色が変わる。

次の瞬間、圭介は駆け出していた。

怪物とは正反対の方向に。

 

「駄目だっ...駄目だっ...駄目だっ...」

 

そんな時だ。

急に現れた一台の黒い車が、圭介を呼び止めたのは。

 

---そして、現在。

 

「....こいつが、俺の物に...」

手に持ったベルトを眺め、少し小さな溜息を吐く。

しかし、今の圭介に出来る事は、もう既に決まっていた。

「...ああ、もういいさ。やってやる...!」

説明は大体された。

後は、自分の身体が着いてこれるか。

こうなったら一か八かだ。

あの時のあいつに...俺が。

「今度は俺が...【仮面ライダー】だ」

目の前の---トロイドと呼ばれた怪物を睨みつけ、ベルトを腰に巻く。

 

「...【変身】」

 

次の瞬間、圭介の身体は銀色の光に包まれていた。

 

「【レイヴン!スタート!】」

 

光を裂いて現れていく、「あの時」の銀色の影。

虫のような触角、風になびくマフラー、そして、薄青く光るツインアイ。

 

「さて、お仕事開始だ...!」

 

弾けるように、走り出した。

 

 

次回、仮面ライダーレイヴン_

 

「俺が、レイヴン...」

 

「そ。ああ、私の名前は真澄...清隆 真澄よ」

 

「やっぱり現れたか、レイヴン...」

 

「奴らは【ブレイン】...そして、その対抗組織がこの【反脳世界連合】ってわけ」

 

次回「組織」

 

レイヴン、装着〈スタート〉!

 

 

 

 

 

 

 



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第2話「組織」

 

前回までの仮面ライダーレイヴンは...

 

「圭介っ.....逃げろっ.....!」

 

「ああ?いいだろ別に...実質、俺のトロイドが一番扱いやすいしな」

 

「やっちまった...」

 

「仕事?....あるのに....」

 

「...ああ、もういいさ。やってやる...!」

 

「【レイヴン!スタート!】」

 

....

....

 

俺は高校時代、ちょっとした武術を練習していた。...武術といってもほんの少し齧ったくらいで、大会に出るような腕前では無かったんだけど。

しかし、高一から続けていたおかげでそれなりの体力と知識は付いていた。ヒトの弱い部位とか、色々。

今目の前にいる怪物_蜘蛛のような姿をしたそいつに、俺の知識と努力は通用するのかはわからなかったが_

 

ただ一つ、確信が持てた事がある。

 

__勝てると。

 

素早く懐に潜り込み、腹と思われし部分に右手を振り上げ、アッパー。

続いて怯んだ隙を見逃さず、そこから勢いよく蹴り上げる。

怪物はよろめきながら後退、体勢を整えようとするが__

白銀の超人は、既に怪物の頭上に飛び上がっていた。

 

【レイヴン!ヒッサツ!マキシムストライク!】

 

腰に巻いたベルトから、ハリの効いた電子音声が発される。

右脚に力が溜まるのを感じながら、俺は怪物目掛けて急降下。

 

「っ....せぇえぇい!!」

 

裂帛の気合いと共に、俺の右脚は確かに、怪物の装甲を貫いた。

ガシャリと怪物が崩れ落ちる音がする。そして、次の瞬間_爆散。

舞い上がる火の粉と煙の中を、俺はゆっくりと、歩くのだった。

 

...

 

「凄いわね....アレが、【レイヴン】」

赤黒い煙の中で薄青く光るツインアイをモニター越しに見つめながら、紫髪の女性ーー清隆 真澄は呟く。

「レイヴドライバーの性能も大した物だけど、それよかあの適合者...」

真澄は、底知れぬ胸の高揚を感じていた。

「...やっぱり、来てもらわなきゃ、ウチに」

真澄の背後には、同じ組織の者と見れる人間が数人。

 

「いよいよね...」

 

「今迄調整し続けた甲斐がありますよ、もう...」

 

「反撃が始まるのか...【反脳世界連合の】」

 

...

 

「お疲れ様!本部の方から見てたわ、君の戦いっぷり」

気付くと、背後から女性の声が聞こえた。

振り向くとそこには_自分を超人へと変身させた、このベルトを渡したあの紫髪の女性がいた。

「...で、結局俺に何の....」

紫髪の女性は俺の言葉を遮るかのように平手を突き出す。

「用は支部に戻ってからにしましょ?ここで話すと後々厄介だし」

そう言うと紫髪の女性は後ろに停めていた黒塗りの車を指差す。

言われてから辺りを見回すと、成る程、先程倒した怪物の死骸があちらこちらに転がっていた。

確かにこのままここに居座ってると、警察やら何やらが飛び出して来るのは確実だったので、仕方なく俺は紫髪の女性の車に乗り込むのだった。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったわね...私は真澄。清隆 真澄よ」

信号機が赤に変わった。真澄と名乗った女性は窓越しに前を見つめながら、ハンドルを握りそう言う。

助手席に座った俺は無言のまま真澄(これからは”真澄さん”と呼ぶ事にする)...真澄さんを見る事しか出来なかったが、気不味い空気を察したのか、真澄さんの方から話を切り出してきた。

「んで、貴方は?さっきは事態が事態だったから聞けなかったけど...」

と。

ナイスタイミングな話題だった。

俺は少し咳払いすると、自分の名前を名乗る事にする。

「神居...圭介です」

それを聞いた真澄さんは納得したように頷くと、

「なら、神居君ね。これからよろしく」

「これから...?」

信号が青に変わった。

「これから」という新しい話題を聞こうとした所で、二人を乗せた車は再び走り出す。

 

車は何故か_地下道を走っていた。

いや、ここを走るのは最初の時含め実質二度目になるのだが、混乱していたせいか周りを良く見る事が出来なかった。

走る車以外何もない薄暗い地下道の中で、思い出したように真澄さんは言う。

「あ、ここから先の施設の事は組織の人以外他言無用だから...よろしくね?」

頷くしか無かった。

というか、俺にはそんな事を話せるような仲間はいない。

「...で、この車は何処に...?」

思いついた疑問を投げかけてみる。

「さっきの怪物を仕向けた...【ブレイン】っていう組織のメタ的な存在、【反脳世界連合】通称【レジスタンス】の中心街支部...【アース】。そこに向かってるわ。言っちゃえば秘密基地みたいな物ね」

長ったらしい説明だな...と感じつつ、俺は再び前を向く。

目の先には駐車場らしき場所が見えてきた。

 

エレベーターを上がると、如何にもメカメカしい通路が俺を出迎えた。

「【仮面ライダー】って、聞いた事あるかしら」

突然何なんだ...と思いながら、俺は「名前くらいは」と答える。

「その世界では悪の組織【ショッカー】が出てくるんだけど、さっき言った【ブレイン】っていうのがそれに値するの。それで、貴方が変身した存在【レイヴン】が_」

「【仮面ライダー】、って事ですか」

言葉を引き取るように、俺は真澄さんに言いかける。

「そ。そして、【ブレイン】に対抗する正義の組織がここ、【反脳世界連合】通称【レジスタンス】って訳」

 

...

 

「やっぱり現れたか、レイヴン...」

「どうやら、君のトロイドがやられたみたいだよ...B〈バスター〉」

青装束の男が、Bと呼ばれた赤装束の男に皮肉めいた声で言う。

「っせぇな....倒された所でまた作り直しゃいい話だろ....」

そう言うと、Bは手元にあった乾電池状の物体を握る。

すると、物体はうねうねと不気味な動きを繰り返し...

牛のイメージを持つ、怪物となった。

「さあ、第二ラウンドだ...」

 

...

 

「_要するに、そのブレインとかいう脳みそ軍団から、地球を守れって話ですね?」

少し言い出すのを躊躇っていたのだろうか、真澄さんは俺の声を聞くと虚を突かれたような顔をした。

「...察しが良くて助かるわ。簡単に言えばそうなるかな」

頬を掻き、真澄さんはたははと笑う。

「...まあ、受けませんけど」

「それじゃあこれからよろ....って、あれ?」

わざわざ知識も力も無い俺が、得体の知れない怪物共と戦うなんて馬鹿げた話だ。

最もそんな物騒な案件を押し付けるなら、軍関係の人物とかもっと適任な人がいるだろうに...

「...もしかして、『自分には向いてない』とか思ってない?」

_それを見越していたのか、真澄さんが口を開いた。

「...まあ、そうですけど」

観察眼でも鋭いのか?この人は...

「その件なら大丈夫よ。...というか、貴方にしか頼めないかも」

「俺にしか?」

浮かべた疑問符に満足しながら、真澄さんは続ける。

「そ、貴方しか頼めないの。【レイヴン】は装着者を選ぶ『適合者システム』という物があってね、その名の通り選ばれた者しか変身出来ないって面倒くさいギミックがあるのよ...で、現時点で変身を確認できたのは貴方とあと一人。要するに二人しかいないわ」

...これ、新手の詐欺じゃないよな?

「それじゃあ、そのもう一人に頼めば...」

「残念ながら、その人はもうこの世にはいないわ。...助けられた事はない?【レイヴン】に」

真澄さんが、含みを持たせた笑みを浮かべた。

「.......!」

そうだ。俺は確かに【レイヴン】に助けられた。

家族も友達も誰一人失ったあの日に、希望を見出してくれた存在。

それが、レイヴンに変身出来た「もう一人」だったようだ。

「彼は果敢に【ブレイン】に挑み、そして散った。彼の意思を継いでみたいとは思わないかしら?」

あの日、俺に見せてくれた唯一の希望_。

今度は俺が、希望(それ)に_。

「...わかりました」

まだ不安要素は山程あるが、やってみない事に他はないだろう。

第一俺にしか出来ないらしいのだ。ならば尚更理由が出来る。

「やりますよ、【レイヴン】。それが今の俺に出来るというのなら」

それを聞いた真澄さんは、納得したように頷いて笑みを見せた。

「...良かった」

 

「...因みに、給料は...」

仮にも【仕事】だ。それ相応の対価が無ければ...

「あー、給料?...えっとね、このくらいかしら...」

メモ帳に手早く記し、俺に手渡す。

「どれどれ、一、十、百、千、ま...ってまだまだ0がある...」

「世界を守ってもらうんだから、これくらいなきゃ、ね?」

十分危険は伴うが、暫く生活に支障は出なさそうだ。

 

 

次回、仮面ライダーレイヴンは...

 

「牛の....何だっけ」

 

「トロイド。それが奴らが送る改造兵」

 

「...まあいいや、倒せればどうって事ないしな...」

 

「あの姿は...」

 

「【レイヴン!セイバー!】」

 

次回「蒼剣」

 

レイヴン、装着(スタート)!

 



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第3話「蒼剣」

前回までの仮面ライダーレイヴンは...

 

「【レイヴン!ヒッサツ!マキシムストライク!】」

 

「っ...せぇえぇい!!」

 

「察しが良くて助かるわ。簡単に言えばそうなるかな」

 

「やりますよ、【レイヴン】。それが今の俺に出来るというのなら」

 

「さあ、第二ラウンドだ...」

 

...

...

 

一通り基地の中を案内された後、俺は広間に通された。

広間は二段構造となっており、上段には司令官が座るかのような椅子とミニパソコンにオペレーターが2人ほど、下段には円形のテーブルを中心に人員が配置されており、天井から吊られたモニターや至る所に存在する通信機器も相まって、如何にも秘密基地らしい雰囲気を醸し出していた。

その中で一際目を引くのが円形のテーブルから天井に伸びる一本の丸く太い柱で、内部には半透明の液体らしき物が入っている。

「今からここが、神居君の拠点になるわ。そして彼らが_」

真澄さんが後ろを振り向く事で気付いたのか、数人の隊員達が俺の前に躍り出る。

「よろしくね〜」

「ほう、君があのトロイドを...」

「変身した感覚、どうでした!?」

...みな、それぞれ個性的な面子のようだ。

「紹介するわ。まずはうちの技術担当である製作チーム」

目の前に現れた三人組は白衣を纏っていた。...いや、特徴はそれだけじゃない。

「...なんか、ちっこくないっすか」

三人組の一人は年端もいかない子どものようで、薄茶の髪が特徴的。

着ている白衣もサイズが合わずダボダボだ。

「失礼な!僕は泉 三平。レイヴンの力の源である【マキシムスロット】を担当しているんだ」

マキシムスロット?

現れた疑問を引き継ぐように、真澄さんが口を開く。

「あー、マキシムスロットについてはあとで話すわ。...兎に角、三平君はうちのれっきとした技術者よ」

「は、はぁ...」

俺が溜息に似た返事をする中で、一人満足するように鼻を鳴らす三平。

「次は私ね。...泉 ニ華。主にレイヴドライバーの調整をしているの。よろしくね、新人くん」

口を開いた女性は桜色の髪を持っていた。

背は俺と比べ少し低いくらいだが、活発そうなその言動は見る者に明るいイメージを与えさせる。

「そして最後に....新型武装などの開発を行うのが私、泉 一郎。」

俺より頭一つ背が高い青髪の青年が俺の前に出て、掛けたメガネをクイっと上げる。

そこまで自己紹介が済んだところで、真澄さんが再び口を開いた。

「次ね。主に情報通達を仕事とするオペレーター」

紺色の渋いスーツをピシッと着こなした若者が俺の前に立つ。

「...おっ、俺っ、鷹宮 正義って言います!...よっ、よろしくお願いしますっ!!」

そう言って、垂直に綺麗なお辞儀をした。

「正義君は若いのに誰よりも仕事の効率が良くてね。うちの隊員にピッタリと思った訳」

「...それで、真澄さんの立ち位置は?」

こんな個性が強いメンバーが集まっているのだ、真澄さんもそれなりな役職の筈_

「ああ、言ってなかったっけ。それじゃあ改めて...私は清隆 真澄。一介のレジスタンス隊員であると共に、ここ中心街支部【アース】の作戦司令官を担当しているわ」

...案の定、相当な位置にいた。

 

...

 

「それじゃ、まだ慣れてないと思うから基地内をレッツ探検、って事で」

結局マキシムスロットとかいう物についての説明は後回しにされ、自由行動という形で俺はほっぽり出された。

...なんというか、真澄さんはマイペースな奴だ。

とりあえず先ほどの作戦行動室を後にして、基地内を巡ってみる。

食堂に仮眠室、研究室や医務室など、様々な施設が揃っているようだった。

「...っと、ここは...」

どうやらかなり奥まで来てしまったようだ。

あまり普段使われていないのか、通路は薄暗く気味が悪い。

「ん、あんな所に明かりが...」

視線の先に、青白い明かりが見えた。

 

「...おお...」

光の元に辿り着くなり、目の前の景色に圧倒された。

開けた場所に、その場を囲うように大水槽が設置されていた。

様々な海洋生物。今や絶滅種となった動物まで、優雅に活き活きと泳いでいる。

「...凄いな」

図鑑という書物からでしか見る事の出来なかった生物達を見て、俺は感嘆の息を漏らす。

「...誰?」

そんな時、側から声が聞こえた。

「っと....?」

声のした方を向くと、自分より少し背が低い少女が、不思議な表情で俺を見上げていた。

ゆったりとした服に、長い黒髪ストレート。どこかぼうっとした瞳は、俺じゃなく別の場所を見てるようにも思える。

それよりも驚いたのはその存在感の薄さだ。声を掛けられるまで、彼女に気付く事が出来なかった。

「え....ああ。俺は神居 圭介...今日からここに配属する者だ」

「...そう」

少女は俺の名前を認めると、さながら何もなかったかのように水槽に目を戻す。

_しばらく、沈黙が流れた。

流石にこのまま黙ったままも気まずかったので、水槽内をながめていた少女の隣に移動する。

「...魚、好きなのか?」

「...ええ」

水槽から目は離さなかったが、俺の問いには答えてくれた。

「...ここは、落ち着く」

「...それは同感だな」

そしてまた、二人して黙ってしまう。

もともと無口な性格なのだろうか。

「...えっと、その、君は...」

「...名前?...朝比奈 明。...明で、いい」

聞く前に名乗られてしまった。

「そうか、明か...ここで明はどんな仕事をしているんだ?」

会話が途切れないように、どんな役割を持っているか聞いてみる。

「...探知」

「...というと?」

その瞬間、彼女の声のトーンが低く聞こえた気がした。

 

「...トロイドの発生時間...例えば、今とか」

 

...

 

「説明出来なくてゴメンね...はいこれ、さっき言ってた【マキシムスロット】よ」

真澄さんから細長い物体を手渡される。

さながら乾電池のような形状をしていて、手のひらに収まる程だ。

「活用法は実践中に通信機を使って説明するわ....あと」

一歩後ろに下がると、真澄さんは側にあった布を取り払う。

そこには、銀と水色が主体となった、流線形のバイクが佇んでいた。

「これは?」

「レイヴン専用バイク...【マシンレイヴンラリアン】よ。これを呼び出せるスロットもベルトのホルダーにしまってあるわ」

それを聞き、俺は手元のベルト_レイヴドライバーに目を向ける。

電飾に照らされ輝きを放つそれは、俺が【レイヴン】_【仮面ライダー】なのだと何よりも実感させた。

 

...

 

圭介がマシンレイヴラリアンに跨り現場に向かった後、レジスタンスの作戦行動室に隊員達が集まった。

その中には司令官である真澄は勿論、研究チームである泉三兄弟、そして明の姿もあった。

「...今回のトロイド...普通のレイヴンじゃ....倒せない」

モニターを見て、明が呟く。

「その為に今回のがあるんだよ。急造だったから調整はしてないけどさ」

隣にいた三平が、背伸びをしてモニターを見据える。

「...それじゃあ始めようかしら。作戦、開始《オペレーション・スタート》!!」

真澄の号令と共に、隊員達は一瞬にして仕事モードに突入した。

 

...

 

現場まではさほど、時間は掛からなかった。

それ程このマシンが高性能なのだろう。納得しつつ、ヘルメットをハンドルに引っ掛けた。

幸いバイクの免許を持っていた事に安堵しながら、俺は目の前で構える怪物を睨み付ける。

「あいつが今回の...」

目の前の怪物_真澄さん等が【トロイド】と呼んでいたそれは、「牛」...簡単に言えば、そんなイメージを持っていた。

生物的なツノや耳の他に、機械的な銀色の部分やネジも見える。

どうやら、トロイドは個体によって姿が異なるようだ。

「...まあ、ずっと同じ蜘蛛男...というのも、味気ないよな...」

すっくと立ち、即興で考えたポーズを取る。

右腕が左腕の上に来るように両腕を交差させ、ゆっくりと解くように離れさせる。

左腕は握り拳を作り空に突き出しながら、右腕はレイヴドライバー側部のレバーへと添えた。

そして左腕もレバーの元へ持って来ると、勢いのままにレバーを下ろす。

「...変身!」

...決まった、とかどうとかはこの際気にしない。

こういうのはその場のノリが大事なのだ。

「【レイヴン!スタート!】」

レイヴドライバーから光と電子音声が溢れ、超高性能3Dインジェクターが強化装甲を生成。

俺の周りを舞う白銀の鎧は、即座に身体のあちこちに重ねられていく。

光が収まると、そこには白銀の超人、【レイヴン】が立っていた。

 

「ふぉぉ、かっこいいい!!」

作戦行動室では、オペレーターの正義が手を大きく振り上げて興奮していた。

「ノリノリじゃない、神居君...」

苦笑しながらも、真澄は圭介にレイヴドライバーを託して良かった、と思うのだった。

 

走り出した先にトロイドを見据え、飛び上がりつつ右ストレート。

案の定躱されたが、想定内。

即座に身体を捻って裏拳をお見舞いした。

「っち...」

しかし、トロイドには届かない。

その硬い装甲が、俺の拳を阻んでいたからだ。

トロイドは俺の拳を掴み、勢いのまま投げ上げる。

宙空に放り投げられたが、体勢を立て直し着地する事が出来た。

「...っ、まだまだ!」

再び走り寄り、今度は蹴り上げ。

トロイドの腹を思い切り捕らえたが、やはり攻撃は通らなかった。

「...だぁっ、なんでこんなに硬いんだよっ...」

一人愚痴る隙を突いたか否か、今度はトロイドから迫ってきた。

視界が銀に染まり、次の瞬間弾き飛ばされる。

地面に叩きつけられ、二、三回バウンドした。

「っぐ....ぅ...!?」

強化装甲の恩恵でさほどのダメージはない。

しかし、叩きつけられた際の衝撃は相当な物だった。

「やっぱり苦戦してるかしら、神居君」

起き上がろうとした時、ベルト内部の通信機から真澄さんの声が聞こえた。

「そりゃあ苦戦しますよ、あんなに硬いのが相手じゃあ...」

尚もトロイドは迫る。

俺はバックステップで後退し、なんとかトロイドと距離を空けた。

「...出撃前に渡さなかった?マキシムスロット」

「...ああ、アレを使うんですね」

ベルト背部のホルダーから一本の乾電池...じゃなかった、マキシムスロットを取り出す。

透明の幕の下に、青が見える。

「ベルト左側のスロットローダーを開いて、既に入ってるスタートスロットの代わりに今持ってるセイバースロットを装填しなさい。あとはシステムに任せれば大丈夫よ」

左腰を見ると、成る程、確かにホルダー内に銀のマキシムスロットが入っている。

そういえば、以前蜘蛛のトロイドと戦った時は無意識にホルダーを開いていた...いやそうなるのも不思議なんだけど。

「さて、どんな姿に変わるか...」

ホルダーから銀のマキシムスロット_スタートスロットを引き出し、代わりに青のセイバースロットをトロイドに向かい投げつける。

それと同時に走り出し、真っ直ぐに跳び上がった。

「........ここッ!」

そして、トロイドとすれ違う瞬間_スロットをキャッチ。

振り向きざまに、ホルダーを開き青いセイバースロットを装填した。

「【レイヴン!セイバー!】」

ベルトから蒼い閃光が迸り、俺とトロイドを包み込む。

銀の装甲の上に、セイバースロットをトリガーとして生成された蒼い装甲が重ねられていく。

「....よし」

光を裂いて現れたのは、先程まで立っていた銀のレイヴンではなかった。

「高強度の敵に対し、実体剣に熱を帯びせ溶断する_。レイヴン、セイバーフォルム!」

銀色のスタートフォルムと違い、鋭利になった肩装甲に、黒が強い主張を放つスーツ。

「顔」に当たる部分には蒼く半透明の二枚の強化マスクが取り付けられ、内部からはスタートフォルムのツインアイが光を放つ。

そして、何よりも目を引くのは_右手に握る長剣。

頭部強化マスクと同じクリア素材で作られた薄緑の刃が、この形態が剣に重きを置いた接近戦仕様なのだと実感させた。

「成る程....これなら!」

トロイドに跳び寄り、思うがままに縦に一閃。

その瞬間、「捉えた」という確信と共に、トロイドの装甲が裂かれる音がした。

「やった!」

通信機を介して、誰かの声が聞こえる。

それは俺も同じで、勢いを付けたまま第二撃。今度はサイドからの横薙ぎだ。

先程よりは掠めた程度に近かったが、ダメージが通ったのを確かに感じる。

本能的な危険を察したのか、トロイドが後退する。

それが瞬間に出来た最大の隙であり好機だと、レイヴンの戦いを見る作戦行動室の隊員達、はたまた剣を振るう俺もそう確信した。

後部ホルダーから一本のマキシムスロットを引き出し、セイバーフォルム特有の長剣_【ブルーセイバー】に装填する。

「【レイヴン!ヒッサツ!マキシムスラッシュ!】」

レイヴドライバー、ブルーセイバー両方から電子音声が響き、ブルーセイバーの刀身から蒼き光が迸る。

「ッ....せぇのぉッッ!!」

トロイドに身体もろとも突っ込み、腹部を捉え斬り込む。

刀身を真っ直ぐにトロイドから抜いたその瞬間、背後に立つ牛の怪物は爆散した。

 

...

 

「.....お疲れ様」

明から冷えた麦茶を手渡された。

キンキンに冷えた麦茶は戦闘で火照った身体を冷ましてくれる。

「...ってか、何でトロイドが来るとかわかったんだ?索敵センサー?...とかを持ってるようには見えなかったが」

それを聞くと、明はそっぽを向き淡々と言葉を紡ぐ。

「.....そういう、体質」

「体質....か」

特異な奴もいるんだなあ...と一人納得し、先程の戦いを記録した映像のスイッチを入れる。

「........あ」

そこには、トロイドに対しキレッキレの変身ポーズを決める俺の姿が映っていた。

「............」

思えばこの戦闘、記録されていたんだった。

俺は一人頭を抱え、すぐにそのシーンをスキップ。

近くで同じモニターを見ていた明は、一瞬目を丸くすると

「.......ふふっ」

と、小さく笑ったように見えた。

「ちょ、笑うな!」

一息に、麦茶を飲み干した。

 

...

 

次回、仮面ライダーレイヴンは...

 

「...家、追い出された...」

 

「.........フリーターだから?」

 

「うるせえ」

 

「.........そんな事より、何か、今までとは違うのが.....」

 

「はぁ?.....ってあいつは....!?」

 

「「お手並み拝見と行こうか、レイヴンッ!!」」

 

次回「暴怪」

レイヴン、装着(スタート)!

 

 

 

 



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