ハイスクールD×D もう一人の紅髪 (多騎雄大)
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第一章
物語の始まり


どうも、なろうでsoraというユーザー名で活動していた多騎雄大です。

このたびはハイスクールD×Dの二次創作をやらせて頂きます。

ただし、更新はかなり不定期的になると思うので、永い目でお願いします。

なお、意見指摘はなるべきオブラートにお願いします。


 駒王学園。つい最近女子校から共学になった高校で、俺こと兵藤夏蓮はその学校の三年生だ。

 

「しかし、朝はやはり眠い。低血圧なせいかね」

 

 学園への通学路を歩きながら、俺は一人呟いた。

 

 俺はどうも昔から早起きと言うのがあんまり出来ず、いつも義弟よりも遅く学校に行ってる。義弟が同じ学園に入学した時は初めの方こそ一緒に行っていたが、直ぐに俺が朝起きれなくなってしまい、結局、義弟の方が早く行くようになっていた。

 

 しかし、何故俺は朝起きれないのかね? 毎日ちゃんと寝ているし、夜更かししているわけでもないしな。うーん、謎だ。

 

「ん?」

 

 其処まで考えて、俺はふと近くのコンビニに目を向けた。

 

 コンビニの窓側の雑誌の紹介コーナーに、俺の愛読の漫画雑誌の最新号が有るではないか――!

 

「やばいな、コレは読まない手はない」

 

 幸い、まだ時間はある。なるべく早く読むようにするべきではあるだろうが。

 

 そう思って、俺の足はコンビニの方に向かっていた。

 

******

 

「おはようっ!」

 

 朝、クラスに行って挨拶するとみんなから「おはよう」と返ってきた。うん、良いね、こうやって挨拶が返ってくるのは。

 

 結局、新しい漫画雑誌以外の雑誌も読んでしまい、はっと我に返って慌てて時間を確認スルト、走ってもギリギリな時間になっていた。

 

 だがまあ、普段から鍛えている俺。全力ダッシュで何とかセーフ。いやあ、やっぱり朝に読んだりするのは止めようかね。毎日こんな事していたら、駄目だな。

 

「夏蓮君、おはよう」

 

 と、自分の席に座った俺に挨拶する声。隣を見ると、紅色の髪をした美少女が。

 

「ああ、おはようリアス嬢」

 

 リアス・グレモリー。北欧からの留学生らしく、俺のクラスメイトで親友。

 

 成績優秀で、スポーツの方もかなりの上手さだ。これでいて、運動系の部活に入っていないんだから、よくわからない者だ。。

 

 さて、そんなリアス嬢だが俺の挨拶に対して苦笑いを浮かべてた。

 

「もう、“嬢“って付けるの止めてよ。普通にリアスで良いわよ。にしても、またこんなに遅く来たの? こんな風にしていたらいつか遅刻しちゃうよ?」

 

「はっはっ、安心しろリアス嬢。俺には鍛えた足があるんでな。余程の事が無い限り大丈夫だ。後、お前さんを名前でちゃんと呼んだら学園中の男子にどういう目で見られるか……」

 

 容姿端麗なリアス嬢だが、当然ファンも多い。

 

 この学園に於いてもう一人の美少女と共に『二大お姉さま』と呼ばれるほどだ。もしリアス嬢を名前でちゃんと呼んだ瞬間、俺のこの学園生活に於ける男子との友情は半分終わるだろう。

 

「……そんな事無いと思うけどな」

 

「リアス嬢は自分の人気っぷりを分かっているだろう。そういうことだよ」

 

 まあ、あんまり仲が良い男友達もいないのだか……。あれ、よくよく考えて見れば、俺、同学年の友人居なくね?

 

 

「いやいや、居るはずだ。……のはず」

 

 

 何だろう、すごく泣きそう。てか、よくよく考えて見れば俺って男友達居なくね? 遊ぶときも殆ど下級生や、女子とだし。

 

「ど、どうしたの夏蓮君?」

 

「いや、ちょっと自分の友人関係について若干思い返していて……」

 

 

「?」

 

 リアス嬢は首を傾げているが、「何でも無い」と言って、俺は最初の授業の準備を始める。

 

「ん?」

 

 そこで俺は、鞄の中に弁当箱が二つあるのに気がついた。

 

 って、これ一誠の弁当か。

 

 今日は一誠の奴が慌てて家を出てしまい(時計が止まっているのに気づかず)、弁当を忘れてしまったのだ。

 

 それで俺が義母さんに頼まれて一誠の分も届けることになったのだが、まずったな。俺もコンビニで雑誌を少し立ち読みしてから学校に行ったから、もうあんまり時間が無いな。

 

 仕方ない。昼休みになったら届けるか。

 

「あら、お弁当が二つも有るけど、そんなに食べるの?」

 

 横から覗き込んだリアス嬢がそう言った。

 

「いや、片方は俺の愚弟の方だよ。今朝、早く家を出ちまって、弁当を忘れたんだよ」

 

「愚弟って、ああ……」

 

 リアス嬢は苦笑いを浮かべる。

 

 我が義弟、兵藤一誠はある意味でこの学園に於いてもの凄く人気である。まあ、その理由は今は置いておこう。

 

 さて、今は一時間目の準備を……。

 

「…………」

 

「どうしたの、夏蓮君、鞄の中身をみて固まって……」

 

「一時間目に使う英語の教科書忘れた……」

 

 何やってんだ俺……。ああもう、どうしよう。今からじゃ他のクラスの奴から借りれないし。

 

「もう、しょうがないわね。……私が見せてあげるわ」

 

「えっ……?」

 

 今、リアス嬢は見せてあげると言ったのか?

 

「マジで?」

 

「席が隣なんだし、別に構わないわ」

 

 よしっ! ラッキー。

 

「ありがとうリアス嬢。いやー持つべき者は友だ」

 

「べっ、別にこのぐらいいつでも構わないわよ……」

 

 俺が笑顔でお礼を言うと、リアス嬢は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。って――!

 

「っ!」

 

 殺気にも近い気配を感じ、俺は周りを見渡す。すると、

 

『……ちっ』

 

 俺の事を横目で睨む男子生徒の姿が――!

 

 や、やばい。こ、コレは……!

 

「? どうしたの、夏蓮君」

 

 リアス嬢は気づいていないのか!? この殺気に!?

 

「さ、もう授業始まるわよ。机くっつけて」

 

「って、あ」

 

 俺がこの殺気をどうするか考えている内にリアス嬢が机をくっつけてしまった。

 

「……もげろ」

 

 ぞわっ!

 

 どうする、もうリアス嬢は机をくっつけて、教科書を出している! そして周りの男子どもは視線で射殺せそうな雰囲気を出している! どうする俺――――!!

 

 結局、一時間目は男子どもの視線を延々と受けながら授業を受けましたとさ

 

******

 

「うう……何で俺が……こんな目に……」

 

 昼休みに入って、俺はぐったりとしながら机に突っ伏した。

 

 あの後、二時間目になっても、何故かリアス嬢があまり机を離さなかったから、結局俺は昼休みになるまで男子ども途方も無い視線を受けるハメに。

 

「? どうかしたの、夏蓮君」

 

 当の本人はキョトンとしながら俺を見ていた。

 

「いや、何でも無いよ」

 

「そう……それよりもお昼一緒に食べない?」

 

 っ! またか……! ええい、こうなれば!

 

「(ぎろっ!)」

 

『ひっ!』

 

 俺が周りに睨みをきかせると、周りの男子どもは直ぐにそっぽを向いた。

 

 初めからこうすれば良かったんだな……。その為に俺はまた男子の友を失うハメになったが……。

 

「夏蓮君?」

 

「え、ああ、お昼ね。構わないけど、少し待ってもらえるか。愚弟に弁当を届けてくるからさ」

 

「ああ、そう言えば言っていたわね。分かったわ」

 

「じゃ、行ってくるよ」

 

「ええ」

 

 弁当を持って教室を出る俺に、リアス嬢はヒラヒラと手を振っていた。

 

******

 

 自分の教室を出た後、俺は一誠の教室に向かっていた。

 

「ふむ、一誠の奴、購買でパンとか買っていないと良いんだが……」

 

 そう言いつつ、俺は一誠の教室のドアを開けた。すると、

 

「みろ一誠っ! 最近新しく手に入れた秘蔵の一品だっ!!」

 

「おおっ! すげえ!! お前よく手に入れられたな!?」

 

「全くだぜ!!」

 

 ……俺は思わず無言で扉を閉めた。

 

 落ち着け俺。アレはそう、疲れがたまって変なものを見ただけなんだ。そうだ、きっとそうに違いない。

 

 そう自分に言い聞かせて、俺は再びドアを開けた。

 

「よーし、帰りに俺の家に寄れよ! 一緒に見ようぜ!!」

 

『おうよっ!!」

 

 …………あんの、くそバカ愚弟が……!

 

「…………」

 

 ずかずかと教室に入る俺。途中で俺に気がついて声を挙げようとする生徒がいたが、俺の気迫に押されたのか、直ぐに黙った。

 

 話に熱中しているのか、俺が後ろにいても気がついていない三人。

 

 ふっふっ、だが、嫌でもこちらに向いて貰う。

 

「――おい」

 

 

 俺が声を掛けた瞬間、三人は同時に喋るのを止め、肩を振るわせ始めた。そして、恐る恐る俺の方を向いた。

 

「あ、兄貴……」

 

「か、夏蓮先輩……」

 

「きょ、今日はどうされたので?」

 

 三人が挙動不審に成りながら質問してきた。

 

「いや何。一誠に用があってな、来た訳なんだが……」

 

「そ、そうですかっ! じゃあ、俺たちは邪魔だからあっち行ってようぜ!」

 

「そ、そうだな!!」

 

「あ、お前等!!」

 

 変態二人が一誠を置いて、逃げようとするが、

 

「おいおい、逃げるなよ……」

 

 そんな事許さん。

 

 最早逃げる事が出来ないと悟ったのか、三人とも絶望的な顔になっていた。

 

「さて――このバカもんどもがっ――――!!!!」

 

『ぎゃあーーーーーー!?」

 

 

******

 

「全く、別にこういう事に興味を持つのは分かる。だがな、こんな大勢の人、しかも女子がいるなかでこう言うの見るのはどうかと思うぞ」

 

『はい、おっしゃる通りで』

 

「前にも言ったろ、こういうのは家とかでやれと。それを何だ、こんな教室のど真ん中で。少しはマナーというものを考えろ」

 

『全くでございます』

 

 椅子に足を組んで座っている俺の目の前で正座している変態三人組を見下ろしながら、俺は説教を続けていた。

 

「全く、ああ、そうだ。忘れてた、一誠、ほれ」

 

「へ? って弁当?」

 

「朝忘れてただろ? 届けに来たんだよ」

 

 そう言って、俺は一誠に弁当を差し出す。

 

「あ、サンキュー兄貴」

 

「はあ……っと、そろそろ説教は止めにしておいてやる。俺もいい加減昼飯食べたいしな」

 

「あれ、兄貴まだ食べていないのか?」

 

「ああ。お前に弁当を届けにいったらこうなったからな」

 

「う、すみません……」

 

 一誠は肩が小さくなりながら、応えた。

 

「はあ……」

 

 何故こんな変態に育ったのだろうか、俺の愚弟は……。




この後第二話を投稿します


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義弟に彼女が出来た

 兵藤一誠。俺の義弟にして愚弟。

 

 既に分かると思うが、一誠の人気とは勿論良い意味では無い。完全に悪い方だ。

 

 変態三人組。それが、この三人の最も広く認識された異名である。

 

 まず変態一号である我が愚弟兵藤一誠。成績は中の下。毎回テスト前になると俺に泣きついてくる。とにかくエロい事に貪欲で、ほぼそれしか考えていない奴だ。

 

 まあ、性格は悪くないし顔もそこそこ良いからコレでエロが抜ければ念願の彼女の一つや二つも出来ると思うんだが……。如何せん、その事に頭が回らないようだ。

 

 次の変態二号、松田は丸刈り頭の一見すると、爽やかな感じのスポーツ少年に見えるが、残念ながら彼も変態だ。

 

 見た目通り身体能力も高く、中学時代は記録を塗り替えるほどの実力者の癖に、今は写真部に所属している。

 

 そして最期の変態三号元浜。メガネを掛けた男子生徒で、勿論変態。メガネを通じて女子のスリーサイズを測れる等というよく分からない特殊能力を持っているので、エロメガネ、スリーサイズスカウターなんて異名を持つ。

 

 しかも、こいつ等こんな事している癖に、彼女が欲しいなんて言うんだよな。頭大丈夫か?

 

「さて、俺はそろそろ自分のクラスに戻る。ヒトを待たせているしな」

 

「ヒト? 誰か一緒に食べる予定だったのか、兄貴」

 

「ああ。リアス嬢と一緒にな」

 

 俺がそう言った途端、変態三人組は一旦唖然となり次の瞬間、

 

『何いいいぃいいぃ!?』

 

 な、何だ急に!? いきなり大声出すとかビックリするだろ!!

 

 驚く俺など気にせず、三人は血の涙を流すような勢いで嘆き始めた。

 

「畜生っ!! 二大お姉様の片割れたるリアス・グレモリー先輩と昼食だと!? 何で兄貴ばっかりモテるんだよ!! 理不尽だーーー!!」

 

 いや、それは完全にお前の所為だよ一誠。後、俺はそんなにモテないぞ。

 

「クソっ!! やっぱり()()紅髪だからか!? だからなのか!?」

 

 松田が地面を叩きながら涙ながらに叫ぶ。

 

「紅髪、か……」

 

 俺は少し長めの自分の髪の毛先を弄りながら呟いた。

 

 俺の髪は松田の言う通り紅い。それこそ、リアス嬢の紅髪を殆ど同じぐらいだ。

 

 亡くなった実母から聞く限り、この髪は外人だった父親の強い遺伝らしい。

 

 らしいというのは、俺が実父に一度も会ったことが無いからだ。何せ、俺がまだ物心つく前に死んでしまったから無理は無い。というか、俺は父親の名前も知らないし、写真も無いんだよな。つまりは形見というべき物を俺は何一つ持っていない。

 

 まあ、そんな父の遺産? らしき物を持っているのと、リアス嬢とよくいるので、紅 の 二 人(スカーレット・ツイン)何て、よくわからないネーミングで呼ばれている。

 

「ま、とにかく、俺はもう戻る。……一誠、もし、またやっていたら分かっているよな?」

 

 俺の最後の一言に、一誠は背筋をピン、と伸ばして何度も頷いていた。

 

「うん、よろしい。それじゃあな」

 

 俺はリアス嬢が待っている自分の教室に急ぐために一誠の教室を足早に出た。

 

******

 

「兄貴! 俺、彼女できました!!」

 

 自室のベットで読書をしていた俺は、部屋に飛び込むと同時に一誠の口から信じられないことを聞いた。

 

「…………」

 

 ……ちょっと待て、落ち着け。兵藤夏蓮、落ち着くんだ。

 

「あー一誠、よく聞こえなかったからもう一度言ってくれるか。何が出来たんだ?」

 

「だから、彼女が出来たんだよ! 俺に!」

 

「…………」

 

 一誠の言葉に、俺は思わず天を仰いでしまった。

 

 そうか、一誠の奴、遂に……。

 

 ある考えに至り、俺は本を脇に置きベットを降りて、一誠に近づき、一誠の肩に手を置いて、出来るだけ、優しく言ってやった。

 

「一誠、どのギャルゲーの彼女だ? こないだ買ったヤツか?」

 

「違げぇよ!? ゲームじゃ無くて本物だからな!?」

 

「何て事だ……ここまでとは。一誠、大丈夫だ。全てこの兄に任せろ。……精神科か? 脳外科か? とにかく、早い方がいいな」

 

「だから違うって言ってんだろおおぉぉおおお!!」

 

 それから小一時間ぐらい俺たち兄弟はぎゃーぎゃー叫び続けていた。

 

*****

「何、本当に出来たのか、彼女が。お前に?」

 

「うん、もの凄く疑い深そうに見ているけど本当だってば」

 

 あの後、ギャーギャー騒いでいた俺たちの五月蠅さが下にも伝わったのか、義母さんが「うるさい!」怒鳴り込んできたので、そこで俺たちは一旦クールダウンして、改めて一誠の話を聞くことにした。

 

「しかしな、お前は熱血で努力家だが、それ以前エロいだろ? そんなお前を好きになるヤツなんているのやら……」

 

「なあ、それ褒めてんの? それとも貶してんの?」

 

「ん? 両方」

 

「おい!」

 

 一誠が抗議の声を上げるが無視。

 

「所で、彼女って誰なんだ? 写真とか有るのか?」

 

「ん? ああ、ほら」

 

 一誠がポケットからケータイを取り出して、画面を操作して俺に見せた。

 

「ほら、コレが俺の彼女、天野夕麻ちゃん」

 

「どれどれ」

 

 一誠が映し出した写真を見ると、成る程。コレは美少女と言っても良いだろう。

 

 黒髪を背中辺りまで伸ばし、顔は良く整っている。オマケに胸フェチの一誠の好みにどストライクの巨乳ときた。コレで「好きです。付き合ってください」なんて言われたら日頃から彼女に飢えている一誠は一瞬でOKしてしまうだろう。

 

「確かに可愛い女の子だな。しかし、この制服はウチ(駒王)じゃないな。余所か?」

 

「ああ、近くに女子校があっただろ? 其処の二年生なんだってさ」

 

 ふーん。……って、ちょっと待て。同じ学園のヤツならいざ知れず(それでもあり得ないが……)、他校の女子なんだよな? 何でそんな女子と一誠に接点があるのか?

 

「でさ、今度の休みの日に夕麻ちゃんとデートすることになってさ……って、兄貴聞いているのか?」

 

「え、ああ。夕麻ちゃんとデートするだっけ?」

 

「おう! でさ、兄貴、ちょっと相談なんだけど」

 

「ん?」

 

 一誠が急に視線を彷徨わせ始める。

 

――ああ、そう言う事ね――

 

 何となく一誠の言いたいことが分かって、俺は苦笑いを浮かべるほか無かった。

 

「その、今度のデートする場所で、良いところ何て知ってるか?」

 

 ……全く、この愚弟は……。

 

 俺は一誠を尻目に、パソコンを起動させて、素早くネットを開いた。

 

「兄貴?」

 

「ちょっと待ってろ。今、目当ての場所の時間帯調べるから」

 

 俺は素早く検索ワードを入力して、目当ての店のサイトを開く。

 

 えっと、確か次の休みの日なら……うん。

 

「一誠、此処なんてどうだ? 前に誘われて行ったんだが、中々おいしかったぞ」

 

 俺が出したサイトは、駅から少し歩いた所にあるちょっと小洒落なレストランのヤツで、主に学生をメインとした店らしく、高校生でも十分に手が出せる域だ。その上、中々どうしておいしいと来た。

 

「ああ、そう言えば、こんな店有ったな……。男三人で入るにはちょっと気が引けるから入ったこと無いけど」

 

 まあ、まず間違い無く男だけで入るような場所ではないな。俺が入ったときも殆どが女子同士か、恋人同士だったしな。

 

「ん? 兄貴、前に此処に行ったのか?」

 

「ああ、リアス嬢に誘われてな」

 

 俺がそう言った瞬間、さっきから終始笑顔だった一誠の表情が凍り付いた。

 

「あ、兄貴……」

 

「何だ一誠」

 

「それって、アレか。リアス先輩に誘われて食事に行ったと?」

 

「だからそう言っているじゃないか」

 

 何を言っているんだこいつ?

 

 俯いて表情が見えない一誠は体を震わせ、やがてかばっと顔を上げると俺の肩を掴んで急に揺らし始め――!?

 

「ちくしょー! 何で兄貴はこんなにモテるんだよ!! 理不尽だーーーー!!」

 

「ちょ、落ち、つけ一誠! お前に、だって彼女、いるだろうが、って、リアス嬢は彼女ねえぞ!?」

 

 単純に、友人として食事に誘われただけだ。普通だろ?

 

「普通男女二人だけで食事するなんてよっぽど親しくないとねえよ!!」

 

「じゃあ、俺たちはよっぽど親しい仲と言う事で!!」

 

「やっぱり彼女じゃないかーーー!!」

 

 ああもう!! ああいえばこう言う。こう言えばこう言う。

 

 いい加減に……!

 

「いい加減にしろバカ!」

 

「ぐぺ!?」

 

 堪忍袋の緒が切れた俺は、ギャーギャー喚いている一誠の顎に思いっきり打ち込んだ。ただし、手加減はしたが。

 

 その反動で一誠は奇声を上げて床に倒れ込んだ。そして、そのまま顎をさすりながら呻くのだった。

 

「あ、兄貴……本気で打ったろ……痛てえよ……」

 

「何言ってんだよ。本気で打ったらお前の顎がとんでもないことになるだろうが……」

 

「相変わらず兄貴の腕はとんでもないな……」

 

 顎をさすりながら、一誠は上半身を上げた。

 

「まあ、コレでも結構鍛えていますから」

 

 そう言って、俺はポンポンと、腕を叩いた。

 

「とにかく、空いている時間教えるから一誠、今度のデートガンバレよ」

 

「っ、おう!」

 

 うん、良い返事だ。

 

 

 

 

 

 それから少ししてからじゃないと分からないことだが、そのデートの日、一誠は悪魔に転生した。

 

 

 それからだろう。俺たちの悪魔としての生が始まったのは。



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非日常の始まり

「うーむ」

 

 休み時間、俺はあることに関して悩んでいた。

 

「どうかしたの、夏蓮君。そんな深刻そうな顔をして」

 

 横に座っているリアス嬢が心配そうに聞いてくる。どうやら、顔に出ていたようだ。

 

 そういえば、リアス嬢はオカルト研究部なんて妙な部活の部長をやっているんだよな。

 

 以前、そのオカルト研究部に誘われたこともあったが、断ったんだよな……。……その後も何度も誘われているけど。

 

 折角だし、少しリアス嬢の意見を聞いてみよう。

 

「実はだな、少し一誠、もとい愚弟に関して悩んでいてな」

 

「あら、また何か問題起こしたのかしら」

 

「いやいや、それに関しては特に問題は無いんだ。やったら後で俺が制裁すればいい話だし」

 

「制裁って……まあ、良いわ。それで、どうしたの?」

 

「それが……」

 

 アレは一誠のデートの次の日のことだった。

 

 一誠のデートの日、俺は用事があったために夜遅くまで家に帰ることが出来なかった。

 

 帰った時間は既に十時を回っており、一誠は疲れたと言って、眠ってしまったそうだ。

 

 デートの感想でも聞かせて貰いたかったのだが、寝てしまってはしょうがない。

 

 明日にでも聞こうとそう思い、俺も就寝に付いたのだが……。

 

『なあ、兄貴。俺、昨日デートしに行ったんだよな』

 

『……はい?』

 

 次の日、俺の部屋に来て真剣そうな表情を浮かべてそう言う一誠に対して、俺は咄嗟に言葉が出なかった。

 

 ……いやいや、それ以前に何言ってんのこいつ? え、マジでおかしくなったか?

 

『一誠……あんまりに楽しすぎて、記憶が吹き飛んじまったのか? それはそれでマジでやばいぞ』

 

『兄貴は本当に俺の事どう思ってんの!? 頭がアレなヒトとしか思ってなくね!? 俺そろそろ泣くよ!?』

 

『うるさい、一旦落ち着け。何がどうなっているのかちゃんと説明しろ』

 

『うぐ、実は……』

 

 *

 

『……つまり、デートは順調に進み、夕焼けが差し込む公園をラストに、ゲームなら此処でキス! と言うような状況に入ったと』

 

『うん、まあそんな感じ』

 

『そして、いざ! キスをしようとしたら、何か彼女に殺されたと』

 

『ああ、腹をブスリと刺されて』

 

『…………ふー』

 

 其処まで話を聞いて俺は溜め息を付くほか無かった。

 

『一誠、普通に考えろ。一介の女子高生が高校二年生の健全なる男子の腹をブスリと刺せる凶器を持っていると思うか?』

 

『いや、ナイフとか有れば……』

 

『お前の話を聞いている限りだと、一発で致命傷になったんだろ? 血がトバトバと出てくるほどに。さすがに、普通の女子高生は持っていないと思うぞ、そんな兵器』

 

『いや、兵器を持っているようには思えないんだ』

 

『ふーむ』

 

 どうしたものか、一誠が嘘をついているようには思えないし、そもそもこんな嘘をつくようなヤツでも無いしな。

 

『取り敢えず、その、夕麻ちゃんだっけ? 彼女に電話してみろよ』

 

『いや、それがさっき電話してみたんだ。そしたら』

 

《この電話番号は現在使われておりません》

 

『って、出て……オマケに夕麻ちゃんの写真も全部消えていて』

 

『……おいおい、ちょっと待てよ』

 

 コレはいよいよきな臭くなってきたな。一誠のケータイから全部の夕麻ちゃんの痕跡が消えて無くなっている……。

 

『……一誠、俺以外にお前に彼女が出来たの知っているどれくらいいる?』

 

『え、えっと、松田、元浜の二人だけかな。親父達には伝えていないし』

 

『そうか、ちょっと二人に連絡してみれくれ。夕麻ちゃんの事を知っているかどうか』

 

『お、おう』

 

 それから直ぐに一誠は二人に電話を掛けたのだが……。

 

『駄目だ。二人とも全く覚えていない……』

 

『つまり、お前に彼女がいたのを覚えているのは、俺たち二人だけか……もしくは二人とも全く同じ夢を見たか……』

 

 自分で言っておいてアレだけど、夢という線はほぼ無いだろう。一誠は分からんが、俺に関しては記憶がちゃんとはっきりしている。

 

 コレで全部夢でしたー何て言われたら俺は、自分の記憶を疑うよ。

 

『おい一誠、お前、夕麻ちゃんの家の住所とか知らないのか?』

 

『ああ、付き合ってくださいって言われて其処からテンションが変になっていて、聞いていないんだ』

 

 そうなってくると、彼女が通っていた学校の方もきな臭いかも知れないな……。

 

 ……たく、何なんだ一体全体。狐につつまれたような気分だ。

 

『……一誠、情報を集めよう。お前がデートをした時に行った場所を手当たり次第に当たるぞ』

 

『分かった……』

 

 

「それから色々と捜したんだけど、その一誠の彼女がいたという痕跡は結局見つからずじまいというわけ」

 

 長々と話したが、リアス嬢は黙って聞いてくれていた。

 

「……そう、大丈夫よ。その夕麻ちゃんの事ならきっと分かるわよ」

 

 ん……?

 

「それってどういう――」

 

 意味、と続けようとしたら、ちょうど次の授業のチャイムが鳴ってしまった。

 

「さ、次の授業が始まるわよ」

 

「……そうだな」

 

 ……時々だが、本当に時々だがリアス嬢は実はヒトでは無いんじゃないかと、そう思ってしまうときがある。

 

 元々、容姿が人間離れしている所為だろうか。

 

 まるで、このような俺たち兄弟が体験した不可思議なことも、彼女にとっては簡単に分かってしまう問題なのでは無いのかと。そう思えてしまう。

 

――何を考えているんだ俺は――

 

 其処まで考えて、俺は頭を振ってその考えを止めた。

 

 

 リアス嬢がヒトじゃない? 何でそんな事が言える。ここ最近、不可思議な事が多かった所為で頭が回っていないのかね?

 

「……久しぶりに練習するか」

 

 うん、そうだな。そうしよう。体を動かせば、少しは頭もスッキリするだろう。

 

 今思えば、この時の直感にも等しいこの考えは間違いでは無かったのであろう。

 

 事実、彼女はヒトでは無かったのだから。

 

******

「はっ……」

 

 短く息を吐くと同時に、俺は右手の拳を突き出す。

 

 そしてそのまま、左手、左足、右足と繰り出して行き、一通りの型の練習をする。

 

 やはり武道は良い。無心と成って、拳を、足を出すことで、心の中がすっきりとする。

 

「ふー……」

 

 ほどよく汗をかいた俺は、近くの椅子に座り、その場に置いてあるペットボトルを手に取った。

 

 蓋を開けて、中に入っているスポーツ飲料を一口飲む。

 

 現在俺は、とある公園にて武道の練習をしていた。

 

 此処は、一誠が彼女の夕麻ちゃんに殺された場所らしく、少し気になって俺はここに足を運んだ。

 

 本来ならその件について調べるつもりだったのだが、一向に進まず、殆ど進展が無かったので、もう一つの目的である、体を動かすことをやったのだ。

 

 コレは、幼い頃に俺が世話になった今は亡きお師匠様の道場で習ったやつで、道場内では結構な腕前を持っていると自負している。

 

 道場自体は、お師匠様が亡くなった時に一緒に潰れてしまったため、俺は日々お師匠様に教えて貰ったことを反復で練習しているだけなのだが……。ここ最近、マンネリ化を始めているような気がしてならない。

 

「別の道場もなあ……正直、気が乗らないし」

 

 元々、お師匠様がいたからやっていた道場で、その上、お師匠様の道場は我琉の格闘技だったから、他の道場じゃ絶対に肌に合わないだろうし。

 

「しかし、此処で一誠は殺されたとか言っていたが……冗談としか思えないな……」

 

 体を動かす前に、この公園を調べたり、周りの人たちにも聞いたが、そんな傷害? 事件は起きていないし、動物一匹だって殺されたことは無いと言われるだけだった。

 

「本当に夢だったのかね……」

 

 自分で言っておいて何だが、この記憶を夢と断ずるには、あまりにも記憶が鮮烈過ぎて、否定しにくい。何せ、一誠にデートの相談を持ちかけられた日は今でもちゃんと覚えているし、一誠の彼女の写真も覚えている。

 

「ああもう、こういう変な考えにとらわれすぎているから、体を動かしに来たってのに、何やっているんだか……」

 

 髪の毛をガシガシと掻きながら、ぼやく俺。

 

 全く、また変なジレンマに囚われた感じがするぜ。

 

 仕方ない。今日はもう帰ろう。そろそろ一誠も帰ってくることだし、また改めて話をするか。

 

 因みに、一誠の奴は元浜と松田達に誘われてエロ動画見るとか。……まあ、最近あいつも頭がこんがらっていたから、今回は許してやろう。

 

 しかし、春先とはいえ、まだ寒いな。少し汗もかいちまったし、帰ったらシャワーを浴びよう。

 

 そう考え、ペットボトルを手に俺が公園を出ようとした時だ。

 

 ――足音?――

 

 夜遅くで殆どヒトが歩かないような時間帯で、物静かな場所だ。別段、足音が聞こえてきても何なら不思議ではない。

 

 だが、俺が違和感を感じたのは其処ではない。

 

「走っているのか……? それもかなりの速さで」

 

 物静かなのも加えて、元々の耳が良い俺は、この足音の間隔が短いことから走っているのが分かる。そうだったら別に構わない。ランニングしているのだろう。

 

 だが、この間隔の短さはランニングではない。それに、もう一つ足音が聞こえてくる。つまりは、何から逃げているような……。

 

「おいおい、しかもこっちに来ているぞ……?」

 

 何なんだよおい。厄介ごとに巻き込まれそうだなおい? 何か以前にもあったなあ、不良に追われているウチの生徒を助けたこと。

 

 取り敢えず、状況を見て判断するか。取り敢えず、いつでも体を動かせるようにしておかないとな。

 

 足跡の主達が俺の目の前に来たとき、俺は一瞬さっさと帰っておけば良かったと思って閉まった。何故ならば……。

 

「あ、兄貴!? 何でこんな所に……」

 

「ふむ、紅髪か……。グレモリーの者か?」

 

 義弟が黒コートを着て、更に黒い翼を生やした男に追われているなどと言う、非日常的光景を見てしまったからだ。




感想など待っております。


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俺、死んだ!?

 唐突な話だが、俺は読書が趣味な高校三年生だ。

 

 読んでいる本はミステリーに、後は神話関係の物などが多い。

 

 神話に関してはそこそこの知識を持っており、色んな伝説を知っている。

 

 そんな中で、堕天使というのは結構有名な存在だ。

 

 堕ちた天使。神に反逆した存在。名のある悪魔も堕天使という観点を持つ。

 

 つまりは、俺が何が言いたいかというと――

 

「堕天使は堕天使で厄介な強さを持っているんだよ……」

 

 俺の目の前で漆黒の翼を広げている黒コートの男を見ながら俺はそう呟いた。

 

***

 

 何か堕天使っぽい何かと追われている一誠と遭遇した俺こと、兵藤夏蓮。何故堕天使かと分かったのは、羽が堕天使っぽいからだ。

 

 まあ、今はそんな事は置いておこう。それよりもこの状況をどうするかだ。

 

「おい、一誠どういう事だ。何で堕天使っぽい何かに追われてんだ?」

 

「俺だって分からねえよ!! いきなり追っかけてきて。てか堕天使?」

 

「ん? 何か似ているしさ」

 

 それまで黙って話を聞いていたのであろう黒コートの男が、俺の方を興味深そうに見た。

 

「ほう……私が堕天使だと見抜いたか。一般人とは見えんな? となると、貴様もこちら側の者か? その紅髪、まさかグレモリーか?」

 

 おいおい……マジで堕天使だと言うのかよ。つうかグレモリー? 何でそこでリアス嬢の名字が出てくるんだよ?

 

「ふむ、その様子だとそちらの”はぐれ”同様何も知らんようだな……ならば、殺しても問題無い」

 

 ――ぞくっ……。

 

「……っ」

 

 やばい、やばいぞコレは。お師匠様の時とも、美咲達との時とも違う。

 

 こいつは、本気で俺たちを殺す気だ。

 

 道場で修行していた頃、お師匠様や美咲達からも殺気を受けたことはあった。だが、それは真剣勝負でヒートアップした所為で、本気で殺そうとしたことは一度も無かった。

 

 だが、この黒コートの男は間違い無く、俺たちを殺そうとしている。何の躊躇いもなく、躊躇する事もなく、一切の慈悲も無く。

 

 ……どうする、考えろ。思考を止めるな。

 

 戦うことは不可能。となると逃げる一択となる。だが、あれだけ早く走っていた一誠が追いつかれたのだ。どこかで巻く必要がある。

 

 其処まで考えて、俺はある自分の異常性に気がついた。

 

 ――俺、何でこんなに冷静なんだ?――

 

 普通、こんな状況と遭遇すれば、間違い無く取り乱したり、直ぐに逃げだそうとするだろう。

 

 だと言うのに、何だ俺は? ()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()

 

 ……考えるのは後にした方が良いな。どうせ、答えなんて直ぐに出るはずが無いんだから。

 

 さて、どうするか。

 

「なあ、堕天使さん」

 

「ん? 何かね?」

 

「とりあえずさ、何でこの愚弟を殺そうとしているのか、教えてくんない? 訳が分からないまま死ぬのは流石に目覚めが悪いし」

 

「ふむ。それもそうだな。いや何、彼が”はぐれ”だからだよ。このまま放置していると私達の計画の邪魔になりそうだからね。前もって殺しておこうと思ってね」

 

 ”はぐれ”? はぐれって事は群れていないって事だよな。一誠がそれだと?

 

「もう良いかね? 流石にネズミ狩りはそろそろ終わらせたいのでね」

 

 黒コートの男は手を上げると、掌に光の槍を出現させた。

 

 ……仕方ない。こうするしか無いか。

 

(一誠、俺が隙を作る。その隙を突いて逃げろ。ついでに誰かに助けを求めろ。変質者に兄が襲われているとでも言っておけ)

 

(あ、兄貴!)

 

(良いか? 迷わず走れ)

 

(っ、分かった)

 

 会話を終えて、黒コートの男に視線を戻すと、男はそのままの体制でいた。

 

「別れの挨拶は済んだかね? まあ安心するが良い。仲良く消滅させてあげよう」

 

「言ってくれるね。俺たちが逃げられると思っていないのか?」

 

「ふっ、”はぐれ”一匹に人間。逃がさない方がおかしいよ」

 

「けっ……そうかい!」

 

 叫ぶと同時に、俺は堕天使に向かって走り出した。

 

 対して黒コートの男は特に動じることも無く、こちらを見て笑っていた。

 

 ……完全に舐めているな。俺ってこういうヤツ見ると、ぶっ飛ばしたくなるんだよな!

 

 だが、熱くなるな。心は冷静に。体は熱く。お師匠様の教え通りにだ。

 

 黒コートの男は、手に生み出した光の槍を投擲するように俺に投げつけたっ!

 

 ――速い!――

 

 俺の事舐めている割に速いなおい!! もう少し見えるようにしろっての!

 

 そう毒づくも、光の槍が速度を遅くするわけでも無く、真っ直ぐ俺に向かってきている。

 

 ……落ち着け。ギリギリまで引きつけろ。そして、

 

「――此処だ!」

 

 見事、俺の心臓を一突きしようとしていた光の槍を、俺はすんでの所で躱そうとするが、完全に避けきれず、脇腹を大きくえぐってしまう。

 

「ぐうっ……!!」

 

 痛いなんてもんじゃねえ……! お師匠様の蹴り以上じゃねえか!!

 

 けど、此処で止まる訳にはいかん! 俺一人なら良いが、後ろには一誠がいる。あいつはまず逃がす!

 

 槍を躱すとは思っていなかったのであろう。驚いている男との間合いを詰めた。

 

「っ!」

 

 俺との距離が殆ど無くなっていることに気がついた男は、再び光の槍を出そうとしているのか、手を再び掲げるが、

 

「甘いっ!」

 

 その前に動く! 

 

 俺は前もって緩くしておいたペットボトルの蓋を開けて、中身を男の顔面目掛けてぶちまけたっ!

 

「うおっ!?」

 

 さすがに堕天使でも顔面にいきなり水をぶっかけられたら驚くか。

 

 そして、此処に――!!

 

 俺は左足を踏み込み、そのまま右手の拳を男に思いっきりぶち込む!!

 

「ぐふっ!?」

 

 男は信じられないと言った表情で若干悶絶していた。

 

 ……今ので大抵の人間なら内蔵にダメージが来るくらいの力で殴ったんだが、堅すぎる。こいつマジでヒトじゃ無いんじゃねえの?

 

 って、そんな事考えている場合じゃない。急いで一誠を――!!

 

「今だ一誠! 逃げろ!!」

 

「っ!」

 

 一瞬迷いを見せたが、直ぐに俺の言う事に従い、踵を返して走り出す一誠。だが、

 

 ――ヒュン!――

 

「ぐあっ……!」

 

「っ! 一誠!?」

 

 少し走った一誠の両足に、光の槍が突き刺さった!! おいおい!

 

 ――ザシュッ!――

 

「な……」

 

 俺の腹辺りだろうか……? 何かが突き刺さったのか……?

 

 俺はゆっくりと、腹の辺りを見ると、

 

「……やべぇ」

 

 巨大な光の槍が突き刺さっていた。

 

「ぐうっう!!」

 

 マズイ! さっきの光の槍がかすったレベルじゃ無い!! 痛いなんてレベルじゃ無い。

 

 あまりの痛さに、俺はその場で倒れ込んでしまった。

 

「……いやはや、確かこの国の諺に”窮鼠猫を噛む”というのがあったかな? まさしくその通りだと思ってしまったよ。今度からこういう場面になるときは、油断せずにちゃんと仕留めることにしよう」

 

 その言葉と共に、落ちていた帽子を取りながら男は立ち上がった。

 

「おいおい……結構……本気で……殴ったつもり……なんだが」

 

「人間にしてはなかなかの威力だったよ。思わず一瞬悶絶してしまったよ」

 

 一瞬かよ。思わず口で毒づきそうになってしまった。

 

 くそ……こうなるなら、”アレ”を使った方が良かったか? ヒトに向けるには思わず気が引けたから使わなかったが……。

 

「さて、コレから死んで貰うわけだが、中々奮闘した褒美だ。我が名を教えよう。

 我が名はドーナシーク。至高なる堕天使の一人だ」

 

 マジで堕天使かよ……。ああ、くそっ。せめて一誠は逃がしたかったな……。つうか、その前に俺、このままじゃ死ぬな。

 

 どうするかな……。一誠の幻の彼女を追っていたらこうなるとは……。ああ、まだ読み終えていない本とか有ったな……。あと、帰ったら食べるつもりだったアイスも有るし……。

 

 考えると、俺って未練タラタラだな……。

 

 くそ……満足して死ねる事なんて滅多にないが、それでもこんな若い時に死ぬとは。

 

「痛いかね? 悪魔程では無いが、人間にも光はかなりのダメージだしな。このままにしておくのも気の毒だな。先ずは君から楽にしてあげよう」

 

 そう言うと男、ドーナシークは再びその手に光の槍を作り出した。

 

「あ、兄貴っ!!」

 

 後ろから一誠の悲痛そうな叫びが聞こえる。

 

 済まんな一誠。恰好いい言葉言っておいてこのザマとは……。情けなくて涙が出るよ。

 

「では、さらばだ」

 

 そう言って、ドーナシークは光の槍を俺に突き刺そうとしたが、

 

「――彼に触れないでちょうだい」

 

 突然響いた声に、ドーナシークは手を止めた。

 

 正直なところ、俺はこの声の主に完全に覚えがあった。だが、心のどこかで彼女では無いのではと、思っている部分もある。何せ、普段の彼女からは想像も付かないほど冷たい声だからだ。

 

「紅い髪……グレモリーか」

 

「ええ、リアス・グレモリーよ。こんばんは堕ちた天使さん」

 

 俺はノロノロと顔を上げる。すると、直ぐ側に俺のクラスメイトにして友人、リアス・グレモリーが立っていた。

 

「成る程、あちらの彼は君の所の者か。こちらはやはり君の縁者かね?」

 

「まあ、そんな所よ。彼らにこれ以上手を出すならば容赦はしないわよ?」

 

 ……殺気しか感じられねえよ。やばいよコレ。リアス嬢怖いなおい。

 

「そちらの者か……今回のことは詫びよう。だが、下僕は放し飼いにしないことだ。私のよ

うなものが散歩がてら狩ってしまうこともあるやもしれんぞ…?」

 

「ご忠告痛み入るわ。この町は私の管轄なの…私の邪魔をしたらその時は容赦なくやらせてもらうわ」

 

「今日の所は引かせて貰おう。我が名はドーナシーク。二度と会わないことを期待するよ」

 

 そう言うと、ドーナシークは黒い翼を広げて、どこかに飛び去って行った。

 

 突然の事に、俺は思わず呆然とするが、

 

「ぐはっ!!」

 

 思いっきり血反吐を吐いちまった……。やばい、腹刺された事忘れてた――!

 

「夏蓮君、大丈夫!?」

 

 リアス嬢が俺の方に駆け寄ってくる。

 

「一誠の……方は……」

 

「彼も怪我を負っているけど、それよりも貴方が一番危ないわ!」

 

 あーやっぱり死ぬかな俺。

 

 あれ、意識がだんだん薄れて……きた。やばい……。

 

 此処で俺の意識は途切れた。

 

 だが、俺はこの時もう少し意識を保っているべきだった。そうすれば、リアス嬢の悪魔のような笑みを見ることが出来たのだから……。




いかがでしょう? 戦闘描写については未だに上手く書けません。今度からはもう少しクオリティの高い物書いていきたいと思います。

いくら武道の心得が有っても、人間と堕天使の間では大きな差が有ると思います。


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俺、どうなった!?

いや、すんません。実は昨日投稿したのですが、誤って消してしまいました。

幸い、バックアップが少し削れている状態で残っていたので、今日改めて投稿します。


「あれ?」

 

 気がつけば俺は、変な所にいた。いや、変な所とはちょっと変な言い方か。

 

 正確に言うならば幻想的、と言うべきか。

 

 上を見上げれば雲一つ無い真っ青な空。そして、地上には辺り一面に黄金色の小さな光が漂っていた。

 

 何だコレは? 確か俺は……あれ、何してたんだっけ俺?

 

 おいおい、この歳になって物忘れが酷いとかやだぞ。思い出せ、思い出せ!!

 

「えーと」

 

「――お前は堕天使に腹ぶっ刺されたんだよ」

 

「おーって、そうだよ!!」

 

 思い出した! 確か、ドーナシークとかいうヤツに一誠が襲われて俺はそれに巻き込まれて。で、一誠を逃がそうとしたは良いけど、結局逃がすことが出来なくて……。

 

 一誠のヤツはどうなった!? 足を刺されただけだけど、それでもその後に襲われたら!

 

 と言うか、俺は俺で腹を刺されたんだよな!? 覚えている限りでは致死量の血が出て足しさあ!! うわーどうしよう。やばいよ……。

 

「おーい?」

 

 あれ? そう言えば、リアス嬢が居たよな? 確か。うん、間違い無く。

 

「おーい、ってばさ」

 

 トドメをさされそうになった俺を助けてくれて……確か、堕天使の方もリアス嬢を知っていたよな……と言うより、「グレモリーの者」って言っていたからな……。

 

「はあ、ヒトの話を聞かないとは……誰に似たんだか」

 

 うーむ、謎が多すぎる。たかだか一誠の消えた彼女を追っていたはずなのに、更に増えやがった。

 

「すうう――おいこらっ!!!!」

 

「うおおぉお!?」

 

 後ろから突然大声を上げられて、思考の海に沈み込んでいた俺は、思わず飛び跳ねてしまった。

 

 な、何だ!? 誰だ!?

 

 俺は慌てて後ろを振り向くと、

 

「全く、普通この空間についてもう少し疑問に持つべきだろ? オマケにテンションも何か変すぎるし」

 

 黒いスーツを若干着崩して着ており、身長もなかなかの長身だ。

 

 サングラスを掛けた顔は目元は伺えないが、顔つきはワイルド風と言えるだろうか。

 

 だが、一際目を引くのは背中辺り迄伸ばした紅髪だ。

 

 俺やリアス嬢と同じ鮮やかな紅髪。

 

 ……驚いた。紅髪自体、俺は自分以外にリアス嬢しか見たこと無かったからか、何となく新鮮さを感じる。

 

「誰だよアンタ……」

 

 だが、それよりもこいつとさっきまで自分の身に起きたことに頭が行っていて、置いておいたが、この空間についても聞いておかないと。

 

「ほう、一瞬にして雰囲気が変わったな。成る程成る程。感情のコントロールは結構上手みたいだな」

 

 顎に手を当てて、紅髪の男が興味深そうに俺を見ている。

 

 ……あまり、不快な感じはしないな。本当に俺に興味が有るみたいだな。瞳から俺の事を楽しそうに見ているし。

 

「もう一回質問するけど、アンタ誰だ? それに此処は何処だ?」

 

「まあ、待てって。ちゃんと説明すっからさ。……最初の質問はノーコメント。まだ答えるには早すぎる」

 

 な……。いきなり回答拒否かよ!

 

 俺の怒りが伝わったのか、男はまあまあ、と両手を出す。

 

「落ち着けって。まだ時期は早いと言っただけで、答えないと言ってないだろ? その内に名乗ってやるさ」

 

「……それって、また此処に俺が来るって事か?」

 

「おっ、頭の回転も速いな。ま、コレから先、また此処に来ることは有るだろうぜ?」

 

 何だこいつ……間違い無く俺より年上だろうが、どうも大人っぽくない。何だこの人。

 

「二つ目の質問だな。此処は……まあ、お前の夢みたいなモンだ」

 

「夢?」

 

 おいおい、俺も夢は見るけど、こんなはっきりとしている夢は見たこと無いぞ。

 

 俺の様子を見て、男は嘆息してから手を振った。

 

「ああ、無理に考えなくて良い。それよりも今は目先のことだ」

 

 目先の事って……。て、結局俺の質問に一つも答えていないし。

 

「堕天使の事か」

 

「そう。何だけどねえ」

 

 男が深いため息をつく。

 

「あんなくそ弱い堕天使負けるなんて……情けなさ過ぎて涙が出るよ」

 

 ワザとらしく泣き真似をする男。……うぜえな。

 

「俺にしては随分頑張った方だと思うぞ?」

 

「はあ? 何いってんだお前。本気も出さずによ」

 

「本気って……俺は本気でやっていたぞ!」

 

 事実、あの堕天使に当てた一撃も間違い無く決まっていた。だが、堕天使の強度が予想外に強かったからああなっちまったわけだし……。

 

「本気って……じゃあ、何で”アレ”を使わなかった?」

 

「っ!」

 

 ”アレ”ってアレか……。

 

「”アレ”を使うには、どれぐらいの力があるかは分からないし、それに一誠が居る中で見せられるか……」

 

「おいおい、生死が決まるような極限の状況だぞ? そんな事言っているからお前はやられるんだ。第一、”アレ”を使えば、間違い無くあんな雑魚の堕天使は殺せたね」

 

 雑魚……ん?

 

 男の言葉を聞き、俺はあることを思った。

 

「おい、もしかして……」

 

「うん? 何だ」

 

「堕天使って他にも居るの?」

 

 俺の質問に、男は一瞬ポカンとすると、直ぐに大笑いし始めた。

 

「あっははははは!! 何言ってんのお前? 当たり前じゃんか! アレか、あんな雑魚のだけだと思ってたの? ぶっははははっはは!!」

 

 は、腹立つ……! この野郎。

 

「まあ、今は幹部クラスは絶対に出てこんし。次にあの堕天使と会ったらお前がぶっ殺せ。良いな?」

 

「いや、良く無い」

 

 何いってんだこいつ。間違い無く俺が捕まるわ。

 

「はー。堕天使に人間の法律が通用するわけ無いだろうが」

 

 あ、確かに。

 

 男の発言に思わず納得してしまう俺。

 

「戦うは良いけど、どうやって戦うんだよ。”アレ”を使ったところで身体的差が埋まるとは思えんが」

 

「ん? ああ、あいつか。成る程、成る程」

 

 一人だけ、勝手に納得したらしく、何度も頷く男。

 

「安心しろ。次に目覚めたときは、大丈夫だから……さ、もう行け。そろそろ起きる時間だしな」

 

 ……結局何にも分かっていないんだが……。いくら言ってもこの男は何にも答えないだろうしな……。

 

「あ、そうそう。此処でのことはお前殆ど忘れるから」

 

「はい!?」

 

******

 

 ピピッ!! ピピッ!!

 

「うっ……」

 

 目覚まし時計の音を聞きながら、俺こと兵藤夏蓮は目を開けた。

 

 ――此処は……俺の部屋か――

 

 ボンヤリとしながら、自分の部屋を見渡す俺。

 

 えと、確か堕天使に襲われて……そんでもって誰かと話して……あれ? 誰と話してたんだ? 思い出せん。

 

 えーと。

 

 上半身を起こそうと、ベットに手を付けようとしたとき、

 

 ふにゅっ

 

「ん?」

 

 何かに触れた。

 

 あれ? なんだコレ。

 

 そう思い、何度も手を動かしてみる。

 

 ふにゅっ、ふにゅっ。

 

 何やら生々しい触感!?

 

 え、何コレ!? 俺のベットに何入っているの!?

 

 俺のベット、物とか置かないようにしているから、俺以外は掛け布団ぐらいしかないはずなのだが……!

 

「――ひゃん」

 

「っ!!」

 

 更に声が!

 

 おい、コレってまさか……。

 

 さながら、さび付いたブリキの人形の首のようにギリギリと、首を動かすと、

 

「う……ん」

 

 

 

 

 ナンダコレハ

 

 

 

 

 完全に思考が停止してしまった。お師匠様から普段から考えることを止めるなと言われているのに、その言葉を忘れてしまうほどに、この光景は俺に取ってまさしく宇宙の始まりビックバンともいうべき物だ。

 

 この光景を見たら、あの性欲の権化とも言われる俺の愚弟こと兵藤一誠もすごい反応を示すだろう。それほどの物だ。

 

 考えても見て欲しい。何せ、駒王学園に誇る二大お姉様の一人であり、俺の親友とも言うべきリアス嬢が俺のベットの中で、一緒に寝ていたのだ。

 

 其処までなら、俺も此処まで驚かないだろう。だが、それだけでは無いのだ。

 

 

 

 

 着て居ないのだ。何も。

 

 

 

 

 

 一糸纏わず。全裸。生まれたままの姿。そんな言葉が似合う状況。

 

 それを理解するのに、俺はたっぷり一分間固まってしまった。

 

 そして、一分が過ぎると同時に、俺は息を思いっきり吸うと、

 

「――――――!!!!!」

 

 言葉にならない悲鳴を上げた。

 

「きゃっ!?」

 

 俺の叫び声で目が覚めたらしいリアス嬢が短い悲鳴を上げて、飛び起きた。

 

『ちょ、何の騒ぎ!?』

 

『兄貴!?』

 

 いかん! 俺の悲鳴を聞きつけた義母さんと一誠が来る。どうする? ここはーー!!

 

「ん?」

 

 そこで俺はふと、自分の体を見下ろした。

 

「……うわ」

 

 全裸だった。俺も一糸纏わずの姿。序でに昨日堕天使から受けた傷は無くなっていた。

 

 それはさておき、こんな状態になっていたら? 当然、

 

(大人の階段上ったか……?)

 

 そう考えてしまうだろう。性欲の権化である一誠でも無くても。俺だって健全な男子なんだし。

 

 て、そんなこと考えている場合じゃない!! 今はこの状況を……。

 

「もう、どうしたの夏蓮。朝からそんな大声……」

 

 出して、と続けたかったのか、義母さんが文句を言いながらドアを開けて、中を確認した瞬間、固まった。

 

「あ、どうも。おはようございます」

 

 唯一、リアス嬢だけが朗らかに義母さんに挨拶している。

 

 だが、義理とはいえ仮にも息子(全裸)が年頃の女の子(全裸)、しかも外国人と一緒に部屋の中にいるのだ。そうなれば、

 

「お、おおお父さーん!!!! 夏蓮が! 夏蓮がーーーー!!」

 

「ちょ、義母さん!?」

 

 俺の制止も聞かず、義母さんは義父さんのことを叫びながら、階段を下りていった。

 

「……ん?」

 

 そこで、ふと視線を感じた俺は、再びドアの方を見ると、

 

「畜生……俺よりも先に大人になるとは思っていたがこんなに速く、しかもリアス先輩なんて……羨ましすぎる……!」

 

 一誠が血の涙を流さんばかりにこっちを見ていた。

 

「貴方の家族、中々個性的ね」

 

「……普段はこんなんじゃ無いよ。リアス嬢」

 

 クスクスと微笑を浮かべるリアス嬢に、俺は半眼を向けるのだった。




D×D最新刊読んだらやばいくらい物語に引き込まれました。

速く次の巻が出るのが楽しみで仕方有りません


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学園のアイドルがいる場所じゃ無いよな……

遅れて済みません。親から受験勉強に入れとうるさく言われ、あんまりパソコンを使えない多騎雄大です。

恐らくコレから土日ぐらいしか使える日が無いので、必然的に更新は日曜日ぐらいになると思われます。どうかご理解の方をよろしくお願いします。


 どうしてこうなった。

 

 そう、思わず口に出してしまいそうな程、俺は現在の状況に困惑していた。

 

 リアス嬢と俺が全裸でベットの中で一緒に寝たこと? それもある。

 

 その光景を義母さんや一誠に見られたこと? 勿論それもある。

 

 朝ご飯を一緒に食べたこと? それも、だ。

 

 その際に、リアス嬢が怪しげな術をした事? それも気になる。

 

 ……いい加減、現実から目を背けるのは止めようか。お師匠様も「現実をちゃんと受け止めて、逃げないこと」とか言っていたしな。うん。

 

「ふふっ」

 

「くうぅ……何で兄貴ばっかりこんな良い目に」

 

 何で一緒に学校に登校中のリアス嬢からは腕を組まれて、その光景を後ろから付いてくる一誠が涙ながらに睨み付けているんだ……!

 

 と言うより、既に周りに駒王学園の生徒達が遠巻きに俺等のことみているんだが! 携帯で写真や動画を撮ったりしてアップしているみたいだし! やばいよ、何か俺とリアス嬢がやっぱり付き合っていたんだ。朝から見せつけているし! 何て言っている奴らもいる。

 

 ああ……リアス嬢はリアス嬢で何か妙に嬉しそうだし。

 

 ……もう、どうなるんだ俺。これでもう駒王学園では男友達出来なさそうなんだが……。

 

「なあ、リアス嬢」

 

「何、夏蓮君」

 

「そろそろ手、離してくれない? もう手遅れだと思うけど……それでもさ」

 

「あら、駄目よ」

 

「何で!?」

 

 拒否るとは……!

 

「だって、女性をエスコートするのが、紳士の務めでしょ?」

 

 全く持ってその通りなんだが、俺は別に紳士では無いし、そもそも、そう言う状況では無い筈だ! 断じて!

 

 て、リアス嬢に言っても聞いてくれないだろう。と言うか、リアス嬢に口で勝てる自身が全然無いし……。ああ。もう、どうとでもなれ。諦めも肝心だとお師匠様も言ってたしな。

 

 ……それは今は置いておこう。最も重要な、問題は別のところにある。

 

 昨夜の事だ。俺は間違いなく刺された。あの光の槍で。コレは間違いない。しかも、出た血は完全に致死量を超えていたはずだ。

 

 にも関わらず、俺は生きており、傷も全く無い。血色も中々良い。

 

 リアス嬢が何かしたとしか思えない。しかし、肝心のリアス嬢は、

 

「放課後にちゃんと話すからもう少し待っていて。ね?」

 

 と言われたので、仕方なく待つ身である。

 

 さて、今は一誠をどうにかするか。残りの変態二人と何かしそうな気がするし……。

 

******

 

 放課後。いよいよである。

 

「さて、行くわよ」

 

 そう言って、リアス嬢は手招きする。それに俺はならうように歩く。

 

「な、リアスさんと兵藤夏蓮が……!?」

 

「朝の一件もそうだけど……やっぱりあの二人付き合っているのか?」

 

「くそう、同じ紅髪めが……」

 

 ……もう、修正無理だな。リアス嬢はリアス嬢で全然否定しないし。

 

「――あらあら。凄い噂になっていますね」

 

「む……」

 

 突如、後ろから聞こえてくる声。振り向くと其処には、黒髪ポニーテールという今では滅多にお目にかかれない髪型を持っている美少女がそこに居た。

 

「朱乃嬢」

 

 姫島朱乃。俺やリアス嬢と同じ駒王学園三年生で、二大お姉様の片割れ。

 

 リアス嬢は”洋”のイメージを持っているとするならば、朱乃嬢は”和”のイメージと言うのがふさわしいだろう。正に、大和撫子という言葉が合う者の一人だろう。

 

 

 俺は直に見たことは無いが、この町にある神社でアルバイトをしているとのことだ。

 

 そんな朱乃嬢だが、俺にとっては友人関係にあたる。

 

 元々、リアス嬢を仲介して仲良くなったのだが、これまた良い友人関係を結ぶことが出来た。その御陰で、また男子との距離が離れてしまったのは悲しきことなのか。それとも友人が出来たことで喜ばしい事なのか、解釈に困るが……。

 

 まあ、今は置いておこう。それよりも、何で朱乃嬢が此処にいるかだ。

 

「どうした朱乃嬢。何か用か?」

 

「いえ、用というか」

 

「朱乃も関係者よ」

 

 横からのリアス嬢の言葉に、俺は思わず瞠目する。

 

 ……おいおい、二大お姉様のどちらもが、あんなトンでもファンタジーに関わりを持っているのか。もう、何が出ても驚かない気がするよ。というか、まさかとは思うけど……。

 

「さて、行きましょうか。夏蓮君、私の根城に案内するわ」

 

「きわめて了解、と」

 

 

******

 

 駒王学園の校舎裏側に、少し前まで使われていた旧校舎がる。

 

 現在は使われておらず、その割には取り壊しも一向に行われる気配が無いなど、学園の生徒達には学園七不思議で通っている不思議な場所だ。

 

 現在は俺は、その旧校舎の廊下を歩いていた。

 

 建物内は、窓は一枚も割れて折らず、ホコリもあまり見られない。よく清掃されている。

 

 確かオカルト研究部だったな。成る程、此処なら雰囲気もあって良いかもな。でも、ヒトが居るとは知らなかったぜ。

 

「ここよ」

 

 そうリアス嬢が指さすドアには「オカルト研究部」というプレートが付いていた。

 

 ……よくよく考えれば、こんな所に部室があるとは知らなかったな。まるで秘密のサークルみたいだ。

 

 リアス嬢が部室のドアを開けて中に入って行き、朱乃嬢もそれに続く。

 

 かくいう俺も、遅れないように二人の後ろから付いていく。

 

 中に入ると、俺は驚きを隠せなかった。

 

 まず室内の天井、壁、床に至るまであらゆる、魔方陣というヤツか? それが入り乱れるように書かれていた。

 

 ……コレじゃオカルト研究部というよりは黒魔術研究部といった方が良いじゃ無いのか?

 

 魔方陣の他にはソファがいくつか。後はデスクもいくつか置いてある。

 

「ん?」

 

 入ったときには気がつかなかったが、ソファの一つに先客が一人いた。

 

 小柄な少女が無表情なまま、黙々と羊羹を食べていた。

 

 こちらに気がついたらしく、視線を向けてきた。

 

「あら、小猫。来ていたのね。こちらが兵藤夏蓮君」

 

「……どうも」

 

 そう言って、少女――小猫ちゃんがぺこりと会釈していた。

 

「こんにちは」

 

 そう言って、俺も手を軽く振って挨拶を返す。

 

 てか、この子、一年生の塔城小猫ちゃんか。

 

 駒王学園一年生で、容姿は下手をしたら小学生と間違われても仕方ないぐらいだ。

 

 一部の特殊性癖を持つ者達からは、かなりの人気を誇っていたはずだ。

 

 ……(みどり)より下手したら幼い容姿だからな。ちょっと驚きだな。

 

「あれ、そういうや一誠は」

 

 ここに来るまで失念していたが、一誠も関係者だったはずだ。あいつは良いのか?

 

「彼の方なら別の使いを送ったわ。もうすぐ来るはずよ」

 

「成る程」

 

 俺が納得していると、リアス嬢が部屋の奥に行く。そしててええええ!?

 

「ちょ、リアス嬢? 何やっての?」

 

 何やらリアス嬢が部屋の奥にあるシャワーカーテンの中に入って服を脱ぎ始めた!? 何コレ!? え、どういう状況!?

 

 俺が混乱している内に、シャワーカーテンの中から水が流れる音が聞こえ始めた。

 

「何って、シャワーを浴びているのよ」

 

「いや、それは分かるけど。何で今浴びてんの!? 男である俺が居るんだよ!?」

 

 もしかして俺って男として認識されてない!? それはそれでやだな……。

 

「あんまり私はそういうの気にしないわ。それに、昨日貴方の治療で浴びれなかったの。これぐらい許してくれない?」

 

 ぐう……! そう言われると俺からすれば何も言い返せない……!

 

「はあ、分かったよ。分かったよ」

 

 お手上げといった感じに両手を挙げて、俺はソファに座り込む。

 

 そんな俺を「あらあら」とわらいながら、朱乃嬢は見てくる。

 

 俺はそれを無視し、なるべくシャワーの音を聞かないように意志を集中させようとする。

 

「…………」

 

 前言撤回、出来なかった。

 

「……えと、何かな、塔城ちゃん」

 

 意志を集中させようとした俺の方を、塔城ちゃんが羊羹を食べる手を止めてジッと見てくるのだ。

 

 無表情のまま見てくるので尚居心地が悪い。

 

「……貴方が、兵藤夏蓮先輩ですよね?」

 

「え、ああ、そうだけど」

 

 さっきリアス嬢が俺の事紹介した筈なんだが……。

 

「……リアス部長が、先輩のこと話していましたので」

 

「リアス嬢が?」

 

 それは驚きだ。リアス嬢が俺の事後輩に話していたとは……。

 

「……一日五回は先輩の事――」

 

「ちょっと、小猫! 其処から先は言わなくて良いわ!」

 

 塔城ちゃんの言葉を遮るように奥からリアス嬢が叫んでくる。

 

 な、何だ? リアス嬢俺の事なんて言ってんだ? すんごく気になる。

 

「塔城ちゃん。リアス嬢、俺の事なんて言っているの?」

 

「それは……」

 

「小猫~?」

 

「……部長が怒るのでこれ以上は言えません」

 

 ちっ、残念だぜ。聞いてみたい気がしたんだが……まあ、今度リアス嬢が居ないときにでも聞いてみるか……。

 

「しっかし、この部屋凄いな。少なくとも学園生活を送る少女達が青春を送る場所では無いと思うぞ」

 

「うっふふふ。私達にとってコレが良いんですよ」

 

 そう言いながら、いつの間にか淹れたのか朱乃嬢が紅茶を持ってきてくれて、俺の前の机に置いてくれた。

 

「おう、ありがとうな」

 

「いえいえ。砂糖は要りますか?」

 

「ああ。お願い」

 

 此処だけの話、俺はどうも紅茶を直で飲むことが出来ない。砂糖をそこそこ入れる事で、ようやく飲める。

 

 ……その事をリアス嬢に知られたときは子供みたいね、何て言われて笑われたな……。

 

 朱乃嬢から貰った砂糖を入れて、俺は紅茶を口にする。

 

「いかがですか?」

 

「うん、おいしいよ」

 

 世辞抜きで、本当においしい。

 

「あらあら、それは嬉しいですわ」

 

 本当に嬉しそうに、笑う朱乃嬢。

 

「……私だって紅茶はおいしく淹れられるわよ」

 

「ん? 何か言ったか、リアス嬢?」

 

「何でも無いわよ!」

 

 うお、何だ急に。朱乃嬢の紅茶を褒めただけだぞ?

 

 その後、一誠達が来るまで、俺は若干の居心地が悪さを感じながら、紅茶を飲んでいるのだった。




いかがでしょうか? 今回は朱乃と子猫の登場で、ちょうど区切りが良いので、此処までです。

次回は説明回です。


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俺、人間止めたのか……

今回は殆ど原作と変わらずになりました。それでも良い方はどうぞ。


「失礼します」

 

 朱乃嬢から貰った紅茶がちょうど半分くらいまで飲み終わった直後、部室のドアが開いて、新しいヤツが入ってきた。その姿を見たとき、俺はもうこの部がマジでおかしいんじゃないのかと思ってしまった。

 

「あ、どうも。兵藤夏蓮先輩ですね? 初めまして、木場祐斗です」

 

「……よう」

 

 そう言って、入ってきたヤツ……木場祐斗はニッコリと笑った。

 

 木場祐斗。駒王学園二年生なので、つまりは一誠の同級生。

 

 この場にいるリアス嬢、朱乃嬢、そして塔城ちゃんと並ぶ、この駒王学園のアイドルとも言うべき者だ。

 

 顔は間違いなくイケメンの部類に入り、性格も爽やか。俗に言うと爽やかイケメンという奴だな。

 

 ……こいつもどっかの部活に入っているとは聞いていたけど、まさかオカルト研究部だったとは。ヒトは見かけに寄らないとはこの事だな。

 

「あ、兄貴」

 

 そんな学園の貴公子の後から、我が愚弟、一誠が入ってきた。

 

 そんな一誠だが、この部屋に入って内装に驚き、物珍しそうにキョロキョロしていた。

 

 まあ、普通はそういう反応を示すだろうな。

 

「よ、リアス嬢の準備が終わるまでもう少し待ってろ。話はそれからだそうだ」

 

「準備?」

 

 一誠が不思議そうに首を傾げ、奥を見て……って、おい。

 

 部屋の奥のシャワールームでリアス嬢がシャワーを浴びているのに気がついたのだろう。案の定、一誠の顔がみるみるだらしなくなり、鼻の下を伸ばし始めた。

 

 ……一誠、今お前が抱いている感情は別に理解できないわけではないけど、もう少し抑えろ。義兄としてすごく恥ずかしい。

 

「……いやらしい顔」

 

 おう……塔城ちゃん、ナイスツッコミ。

 

「ごめんなさいね。昨日、治療に時間が掛かってシャワーを浴びれなかったの」

 

 ……それ言われるともう完全に俺のせいなので、俺は何にも言えんな。

 

 リアス嬢は、朱乃嬢から受け取ったタオルで髪を拭きながら出てきた。

 

 ここにきて、一誠は此処にいる豪華なメンバーに驚きを出していた。

 

 まあ、俺たち兄弟を除けば、此処にいるメンバーは全員この学園において相当な有名さを誇る。驚かない方が驚きだ。

 

「さて、全員揃ったわね」

 

 部屋の中を見渡しながらリアス嬢が言う。

 

 どうやらここにいるメンツで全員らしいな。ソレでも凄いとしか言えないな。

 

「夏蓮君。兵藤一誠君」

 

「おう」

 

「は、はいっ!!」

 

 あーあー。ガチガチに緊張してんじゃん。ちょっとは落ち着いておけ。

 

 ……まあ、二大お姉様の片割れに初めて(?)話しかけられたんだ。緊張は当然か。

 

「オカルト研究部はあなた達を歓迎するわ」

 

「は、はい!」

 

「悪魔としてね」

 

 ……何ですと?

 

******

 悪魔

 

 堕天使と違い、コレは広く世の中に知れ渡っているだろう。

 

 勿論、堕天使だって聞けば知っているだろうが、流石に悪魔には勝てないと思う。

 

 悪魔の世間様が持っているイメージはは怪しげな儀式を行い、悪魔を召喚する。さらに、召喚した悪魔に対して対価を払う代わりに願いを叶えてもらう。そういう仕組みのはずなのだが……。

 

「私たち悪魔は現代においてもちゃんと存在しているわ。そして、あなた達が昨日会ったのが堕天使。邪な感情を抱いてしまったから天から追放された堕ちた天使。私たち悪魔とは長年の敵対関係にあるわ」

 

 あり、悪魔と堕天使って敵対関係にあるんだ。ちょっと意外だなねえ。

 

「更にここに神の使いである天使が加わると三すくみの状態になるわけ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。悪魔やら堕天使何て言われたって、普通な高校生の俺には何が何だかサッパリ……」

 

 一誠が当惑したように言う。

 

 まあ、いきなり悪魔やら何やら言われてもしょうがないだろう。

 

「ーー天野夕麻」

 

『っ!』

 

 その、名は……!

 

 「あの日、あなたは彼女と間違いなくデートしていたわ」

 

「……冗談ならそれまでにしておいてください。その話はこういう雰囲気で話したくない」

 

 おう、一誠が普段とは比べ物にならないほどに声が低い。正直驚きだぜ。

 

「落ち着けって一誠。……で、彼女は実在しているのか、リアス嬢?」

 

「ええ。この子よね? 天野夕麻ちゃんって」

 

 そう言ってリアス嬢は一枚の写真を取り出して俺たちに差し出した。

 

 俺と一誠は写真を覗き込み、驚く他なかった。

 

 俺は写真で見ただけだが……間違いない。彼女だ。天野夕麻だ。

 

「この子、いえ、コレは堕天使。昨日あなた達と遭遇したのと同種の存在よ」

 

 そういや、あの男も自分のことを堕天使って言っていたな。

 

 

「この堕天使はある目的があってあなたと接触した。そして、その目的を果たしたから周囲から自分の記憶と記録を消させたの」

 

「目的?」

 

 何だそりゃ。一誠に近づく目的って……。

 

「そう、あなたを殺すため」

 

『っ!?』

 

 おいおい……どういう事だ。さすがにそれは聞き捨てならんな……。

 

「なんで俺がそんな!?」

 

「落ち着いて一誠。仕方なかった……いいえ、運がなかったのでしょうね、殺されない所持者もいるわけだし……」

 

 所有者? 何の話だ?

 

「運がなかったって」

 

 信じられないと言った顔の一誠。けれども、リアス嬢の言葉は少し理解出来る。何せ、ヒトが死ぬのは大抵運が無いとしか言いようがないときだ。

 

 病気になった。通り魔に襲われた。事故に遭った。そんな物、極論から言ってしまえば、運が無かったとしか言えない。

 

 ……あいつが死んだようにな。

 

「なんで俺が殺されなきゃ……! でも俺生きてるっすよ!」

 

 そうだな。ついでに言えば、俺もだ。さすがにあの怪我で生き残れる方が不思議だ。

 

「彼女があなたに近づいたのはあなたの身にとある物騒なモノが付いているかいないか調査するため。反応が曖昧だったんでしょうね、それでじっくり調べた。そして確定した。あなたが神  器(セイクリッド・ギア)を身に宿すものだと」

 

 

 

 神  器(セイクリッド・ギア)……?

 

 俺は初めて聞く単語に首を傾げる。

 

神  器(セイクリッド・ギア)とは、特定の人物に宿る規格外の力。例えば歴史上に残る人物の多くはその神  器(セイクリッド・ギア)を宿すって言われている」

 

「現在でも体に神  器(セイクリッド・ギア)を宿す人は存在するのよ。世界的に活躍する方々がいらっしゃるでしょう?あの方々の多くも体に神  器(セイグリッド・ギア)を有しているのです」

 

 木場、朱乃嬢と続き、神  器(セイクリッド・ギア)の説明をする。

 

 ……もしかして、”アレ”のことか? だとしたら色々と納得出来る部分がある。

 

「なあ、ちょっと良いか?」

 

 俺はそれを確かめるために手を挙げる。

 

「ええ。何かしら?」

 

「もしかして、神  器(セイクリッド・ギア)って……コレのことか?」

 

「え?」

 

 俺はソファから立ち上がり、右手を前に突き立てる。

 

「ふう……」

 

 落ち着け。別に失敗する事は無い。最初の一回以降、全部普通に出せているじゃないか。

 

「ふっ……!」

 

 ――出ろっ!――

 

 俺が念じると、俺の右手に銀色の光が集まる。

 

「うおっ!?」

 

 隣に居る一誠が突然の光に驚くが今は無視だ。

 

 やがて、光が収まり、俺の手にあるのは――

 

「銀色の……刀?」

 

 正確に言うならば、片刃の剣だろう。

 

 刀身は滑らかな銀色をしており、柄には装飾が施されているが、実戦でも耐えられるような代物だと見る者が見れば分かるだろう。

 

「コレが神  器(セイクリッド・ギア)か?」

 

「……ええ。驚いたわね。持っていたのは分かっていたけれど貴方、既に発動出来たの?」

 

「ああ。昔、道場で修行をしていたいきなりな」

 

 アレはマジで驚いた。竹刀握っていたら、いきなり目の前にコレ()が出てくるんだもんな。周りに人がいなくてホント良かった。

 

「で、これは何て神  器(セイクリッド・ギア)なんだ?」

 

「……恐らく、『灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』ね。形状が伝承と随分と似ているもの」

 

 ……何やら大仰な名前だな。

 

「レアなのか?」

 

「ええ。何せ、滅多にお目にかかれない優れものよ? ……だから戦車(ルーク)でも足りなかったのね」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「ん? いいえ。さて、次は一誠の番よ」

 

******

 

「ぷっ……くっくっ……」

 

「あの、兄貴?」

 

「何だ?……ぷっ」

 

「笑うなよ!! と言うより、笑過ぎ!!」

 

 いや、そう言うが一誠よ。今のを笑うなと言う方が可笑しいんだよ。

 

 思い出すだけで……ぷっ!!

 

「だー、駄目だ!! 笑っちまう!! ぶっはっはっはっは!!」

 

「あ〜に〜きっ!!」

 

 一誠が詰め寄ってくるが、この際無視! いやあ、可笑しい。

 

「もしビデオカメラがあれば真っ先に撮っていたのに……くっくっくっ」

 

「うぐっ」

 

 一誠が顔を真っ赤にしているが、あれは多分恥ずかしさから来るものだろう。

 

******

 

 俺が神  器(セイクリッド・ギア)を発動した後に、次は一誠の神  器(セイクリッド・ギア)を発動させることになったのだが、その際に――

 

「次に、一誠、手を上にかざしてちょうだい」

 

「え?」

 

「いいから、早く」

 

 リアス嬢に急かされて、一誠は手をかざす。

 

「目を閉じて、あなたが一番強いと感じるものを想像してみて」

 

「い、一番強い存在。……ドラグ・ソボールの空孫悟かな……」

 

 漫画キャラかよ。まあ、今時の高校生にとって、一番強い存在なんて漫画のたぐいのキャラだよな。

 

「ではそれを想像して、その人物が一番強く見える姿を思い浮かべてその姿を真似るの」

 

 え、ちょ、おま……。

 

 戸惑いながらも、一誠は両手を合わせて前に突き出すような格好になり、叫ぶ!

 

「ドラゴン波!」

 

 マジでやりやがった……! 何て野郎だ我が義弟よっ!

 

「さあ目を開けて。これで貴方も神  器(セイクリッド・ギア)を発現するはずよ」

 

 一誠が目を開けると、一誠の左手に徐々に光が集まり始め形を為してくる。

 

 おお、こうやってみると、俺が神  器(セイクリッド・ギア)を発動したときと似ているな。

 

 やがて、光が収まると一誠の左手に、赤い籠手が装着されていた。

 

「な、なんじゃこりゃああああ!?」

 

 ほっほー一誠のは籠手か。神  器(セイクリッド・ギア)には色んな種類があるのか。他にはどんなのがあるのかねえ……。

 

「あなたはその神   器(セイクリッド・ギア)を危険視されて堕天使、天野夕麻に殺されたの。そして瀕死の中、あなたは私を呼んだのよ。この紙から召喚してね」

 

 リアス嬢がそう言って一枚のチラシを渡してくる。

 

 そこには『あなたの願いを叶えます!』と、何とも詐欺の匂いがぷんぷんするチラシ。

 

 つうかコレ……。

 

「前に貰ったな」

 

「あら、貴方も貰っていたの?」

 

「ん? ああ。けど、あんまりに胡散臭くて、机の引き出しに眠っていると思うよ」

 

 リアス嬢には悪いけど、コレはちょっとね……。

 

「むう……」

 

 あれ、何かリアス嬢がご不満そう……。

 

 一瞬、かわいらしいな、と思ったが直ぐに隅に置いておく。何か色々とやばそうだし。

 

「まあこの際、夏蓮君の行為は何も言わないでおくわ。これ、私達が配っているチラシなのよ。裏にある魔方陣は私達を召喚するためのもの。こうしてチラシとして悪魔を召喚しそうな人達に配っているの。たまたま私達が使役していた使い魔が人間に化けて繁華街でチラシを配っていたの。それを一誠が手にした。そして、堕天使に攻撃された一誠は死の間際に私を呼んだのよ、願いが強かったのね。普段なら眷属の朱乃たちが呼ばれているはずなんだけれど」

 

 はあ、まあ死ぬ間際だったらしいしな。人間、死に際にはとんでもない力を出すって言うし。そんなもんだろう。

 

 そうやって考えていると、リアス嬢達の背中に、黒い翼が広がる。

 

 気がつけば、俺と一誠の背中にも翼が……。

 

 ……俺、マジで人間止めたんだな。分かってはいたけど。

 

「改めて紹介するわね。祐斗」

 

 リアス嬢がそう言うと、木場がいつもの爽やかイケメンフェイスで言う。

 

「兵藤君とは同じ学年だね。えーと、僕も悪魔です。よろしく」

 

「………一年生、塔城小猫です。よろしくお願いします。…悪魔です」

 

 次に塔城ちゃんがぺこりと頭を下げる。

 

「三年生、姫島朱乃ですわ。オカルト研究部の副部長も兼任しております。今後ともよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ、うふふ」

 

 朱乃嬢がいつも通りの笑みで言う。

 

 最後にリアス嬢が誇らしげに言う。

 

「そして私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、夏蓮君、一誠」

 

 ……拝啓、天国で俺の事を見守ってくれているはずの母上様。

 

 母上様から頂いたこの大事な体ですが、どうやら悪魔になってしまったようです。

 

 母上様には大変申し訳ない気があるのですが、同時に俺はワクワクしています。

 

 俺が憧れた伝説や神話への道が今、目の前に示されたような気がするのです。

 

 




主人公の神器ですが、今回は名前と形状だけです。名前に関しては殆ど当て字ですので、特に意味は考えずにお願いします。


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誰か……助けてください

思ったより筆が進んだんで、今日投稿します


「あらよっと」

 

 ポストの一つにチラシを投函し、俺は次の目的の家に走る。

 

 時刻は深夜。普段ならさすがに寝ている時間だろう。にも関わらず俺はこうやって深夜の町を走り回っている。

 

 しかし、中々良い運動になるなコレ。新聞配達のバイトもこんな感じなのかね。やった事無いから分からないけど。

 

 今頃一誠もせっせとチラシ配りやっているんだろうねえ~。

 

 ……悪魔も随分イメージと違うモンだ。もっとファンタジーみたいなモンだと思っていたんだけどな……。

 

 やっぱ悪魔も時代と共に移り変わっているのかな。それはそれで面白いと思うけど。

 

 リアスはコレが上級悪魔ヘの第一歩と言っていたが、俺には未だに半信半疑だな。

 

******

 

 リアス嬢達、オカルト研究部が悪魔の集まりと分かった日、俺と一誠は彼女たちの部活に入れと、言われた。

 

 部活か……正直なあ……。

 

「私のところにくれば、この先華やかな人生が待っているかもしれないわよ?」

 

 リアス嬢はウインクしながら言ってくる。

 

 いや、ソレでも悪魔だよなあ……一誠も隣で頭を抱えているし。

 

 オマケに、もう一つそう簡単に頭を縦に触れないことがある。

 

 悪魔に転生した場合、その転生させてくれたヒトの下僕として生きていかないといけないというのだ。

 

 下僕だ。リアス嬢がそんなことする訳がないだろうが、あんまり良いイメージが湧いてこない。

 

「でもね、悪魔には階級があるの。爵位っていうのがね。私も持っているわ。生まれや家柄にも関係してくるけど、実力で成り上がっていった者もいるのよ?」

 

 成る程、爵位か。そういや、さっきの紹介で家が侯爵って言ってたもんな。

 

 うーん、けどな、俺たちは悪魔業界を全然知らないし、そう簡単に頷くわけには……。

 

 が、次のリアス嬢の一言により、俺の味方はいなくなった。

 

「やり方次第では、モテモテな人生も送れるかもしれないわよ?」

 

 なっ、リアス嬢、それは……!

 

「どうやって、ですか!?」

 

 やばい! 一誠が食いついてきた!!

 

「おい一誠落ち着けって。そんな簡単に上手い話が……」

 

「兄貴ちょっと黙っててくれ!!」

 

 おま、どんだけ女に飢えてんだよ!?

 

 はっ! まさかリアス嬢、一誠のこういうところを予見して……何て恐ろしい。流石は悪魔。

 

「落ち着きなさい一誠。実はね」

 

 その後のリアス嬢の話では、大昔に起きた大戦が影響で、多くの悪魔が亡くなってしまったそうだ。

 

 リアス嬢達から見てい分かるように、悪魔にも人間と同じ様に性別が有るので子供を作ることが出来る。

 

 しかしながら、悪魔は一万年という長い寿命を持っている所為なのか、出生率が極端に少ないそうだ。そのため悪魔は今、種の存続にあるのだと言う。

 

 流石に今日明日でどうこうされる訳では無いらしいが、ソレでも危機感は持っていないといけないらしい。

 

 そこで軍団を失った爵位持ちの悪魔たちは、素質を持つ人間から悪魔に転生させてそれを自分の部下、即ち下僕を増やす手段に出たらしい。

 

 だが、それだけでは下僕を増やすだけで、力ある悪魔は増えたことにならない。

 

 そこで純血の悪魔達は新しい制度を造った。

 

 それは、人間から悪魔になった者達にもチャンスを与えること。つまりは、力さえあればその者達にも爵位を与えると。

 

 そして、爵位持ちになったら下僕を持つことを許されるのだ。それが意味することは……

 

「貴方が好きな美少女を下僕にする事が出来るのよ?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 一誠が間違い無く乗る――!!

 

「おい一誠落ち着け!! こんな上手い話がこの世にあるわけ無いだろう。そもそも、お前が美少女ハーレムでうはうはしている所なんて俺には全然想像出来ない!!」

 

「兄貴何いってんだよ!! こんなチャンス絶対に他には無いんだぜ!? 俺は乗る!」

 

 やばい! 完全に目が駄目だ。洗脳されたヤツの目をしてやがる。

 

 どうする……! 一誠はもう駄目。完全な孤立無援だ。くそ……リアス嬢め。さすがは悪魔。誘惑はお手の物か……!!

 

「ハーレム王に、俺はなるっ!」

 

 そんな海賊王になるみたいなノリで言ったって駄目だぞ一誠。全然格好良く無いからな。

 

「それで? 貴方はどうする、夏蓮君?」

 

 リアス嬢がこちらをニッコリと笑いながら言ってくる。

 

 ふっ、けどな、俺は一誠のように甘くは無いぜ……! 女子に興味を持つ年頃だが、そんなに飢えているわけではない。さあ、どうくるリアス嬢。

 

「もし、爵位持ちになれば、貴方の好きな神話とか伝説の存在に簡単に会えるようになるわよ?」

 

「え、マジ?」

 

 あっさり乗ってしまった。

 

 今思えば、俺の趣味もリアス嬢は大半のことは知っていたのだ。ならば、一誠よりも簡単に俺の事は簡単に落とせるはずだったのだ。

 

******

 

 結局、俺と一誠はオカルト研究部に入ることになった。

 

 幸いなことに俺も一誠も部活に入っていない帰宅部だったから、入部には特に問題は無かった。

 

 まあ、仮に他の部活に入っていたとしても、リアスが何とかしていただろう。

 

 あの後、部活に入ったので、リアスのことを部長と呼ぼうとしたのだが……。

 

「俺も部長と呼べば良いのか?」

 

「リアス」

 

 はい?

 

「リアスって呼んで。折角同じ部活なんだから」

 

「いや、同じ部活なんだからこそ部長と……」

 

「ダメ……?」

 

 うお……そんな涙目で見る何て……‼

 

 普段から大人な女な雰囲気を出しているからこういうのは……!

 

 だ、だが! 同級生、しかもリアス嬢を呼べば、俺の学園生活は……!!

 

 もう終わっている感があるけど、ソレでも俺はーー!!

 

「ね?……呼びなさい」

 

「イエスマム!!」

 

 怖っ!え、何今の!? むっちゃ怖かったよ!!

 

「よろしい。じゃ、私も夏蓮って呼んでもいい?」

 

「もう、何でも好きに呼んでください……」

 

 何が何だか……疲れたな。こう、精神的に。

 

「じゃ、コレからよろしくね。夏蓮」

 

 満足そうにそういうリアス嬢、基、リアス。

 

「あらあら、じゃあ私も”朱乃”で良いですわよ?」

 

 むにゅっと、何やら背中にやたら滅多に柔らかい感触が――!?

 

「あ、朱乃嬢?」

 

 後ろを見ると、いつの間にかリアスの近くに居た朱乃嬢がこちらに回り込んで、いつものニコニコフェイスで俺の背中に寄りかかっている。

 

「折角、部長を”リアス”と呼んだのです。此処は私も……」

 

「あ~け~の?」

 

「ひいっ!?」

 

 やばい! リアスから発せられる怒気が更に増した!!

 

「あらあら、部長。何を怒っていらっしゃるのですか?」

 

「別に、怒ってなんていないわよ? 唯、そんなくっつかなくても良いわよね?」

 

 ニッコリと笑うリアス嬢だが、目は笑ってない。殆ど朱乃嬢に対する怒気とほんの少し俺に対する怒気。

 

 ……どうしよう。コレって修羅場ってヤツだよね? 何で俺の間で起きてんの? 唯の親友の筈なのに何でこうなっているわけ?

 

 コレはアレか? 俺はどちらかに刺されて終わるルートか? 俗に言うバッドエンドってヤツか? やだよ俺? そんなバッドエンド。出来るなら人生(今は悪魔だから悪魔生ってヤツかな? まあ、どっちでも良いけど)ハッピーエンドで終わりたいよな。老後は孫達に囲まれて幸せに死んでいきたいなあ……。

 

 ……何て今後の未来のことを考えていたが、それでこの状況が変わるわけではない。

 

「ふっふふふ……」

 

「うっふふふ……」

 

 お互い笑い合う二人。が、其処に和やかな雰囲気は一つも無い。

 

 ふと、横を見れば、此処は嫉妬を見せそう一誠は若干怯えたようにこちらを見ている。

 

 さすがの一誠にもコレは怖いか。

 

 されに横を見れば、木場は苦笑いでこちらを見て、塔城ちゃんは溜め息を付いていた。

 

 ……誰か助けてください。切に願います。

 

******

 

 結局、朱乃嬢も朱乃と呼ぶことで一応の片はついた。

 

 ……何でリアスはあんなに怒ってんだ? まるで美咲達みたいだ。もう、女ってホント訳分からん。

 

「さて」

 

 チラシを小脇に抱えて俺はポケットから携帯端末を取り出した。

 

 端末の画面には、幾つもの赤い点が点滅しており、コレに表示された家にチラシを入れるという制度だ。

 

 悪魔も科学的だねぇ。ま、こういうの有ると便利だけど。

 

 こうやってチラシを配って行き、やがて人間との契約取る様になるそうだ。

 

 コレは、朱乃嬢達も通った道らしく、俺たち兄弟もそれに続く形だ。

 

「では、行きますか」

 

 そう言って、俺は次の家に走り出した。

 

 ……と言っても三軒隣の御宅だったのだが。

 

******

 

 そんな生活を続けて数日。放課後、俺は何時ものように部室へと入る。

 

「夏蓮、イッセー来たわね」

 

 部室にはいると、先に行ったリアスと朱乃が何やら魔方陣の近くで作業をしていた。

 

「数日間のチラシ配りご苦労様。二人もそろそろ悪魔としての仕事を始めてもらうわ」

 

「おおっ!! 俺たちも遂に契約ですかっ!!」

 

 俺も声にこそ出さないが、内心少しだけワクワクしていた。

 

 イメージとは違ってくるし、楽しみだ。

 

「勿論最初だから比較的に簡単なのから行くわ。小猫の依頼が二つ入ってしまったから、一つをあなた達のどちらかに任せようと思うの」

 

「……よろしくお願いします」

 

 そう言ってぺこりと頭を下げる塔城ちゃん。

 

「ふむ、なら、塔城ちゃんの方は一誠が行けば? 俺は別ので良いよ」

 

「え、良いのか?」

 

「ああ。他のでも大差変わりないだろう。むしろ、悪魔の存在を知っているならば、そっちの方がやりやすいだろ?」

 

「お、ありがとう……」

 

 全くこういう時は結構素直だよな、一誠のヤツ。ま、コレがこいつの美点ってヤツだな。絶対に言わないけど。

 

「なら、小猫の方は一誠が行くのね? じゃあ一誠、この魔方陣の上に乗っかって」

 

「は、はいっ!」

 

 少し緊張気味にリアスが示した魔方陣の上に立つ。

 

 ……コレはこないだリアス達から聞いた話だが、この部室にある魔方陣は、リアスの家であるグレモリー家の家紋みたいなものらしい。

 

 コレを体のあちこちに刻むことで、グレモリー家の者だと証明されるらしい。

 

 更に魔力を流すことでこの魔方陣は起動するらしい。

 

 さて、魔方陣に立った朱乃が、一誠の近くによる。

 

「あの……」

 

 不安そうな一誠に、リアスが言う。

 

「黙っていて一誠。朱乃は今あなたの刻印を魔方陣に読み込ませているところなの」

 

 ほうほう、アレが……俺もやるのか?

 

「一誠、手の平をこちらに出してちょうだい」

 

 そう言われて一誠は手を差し出す。

 

 すると、リアスは一誠の手のひらをなぞるように何かを書く。アレが魔方陣を書いているのか?

 

 リアスの手が一誠の手から離れると、一誠の手の平から魔方陣が浮き出て同時に光りだした。

 

 ほお、アレが魔方陣か。

 

「これは転移用の魔方陣を通って依頼者のもとへ瞬間移動するためのものよ。そして、契約が終わるとこの部屋に戻してくれるわ」

 

 へえ~中々準備が良いな。

 

 瞬間移動か……。俺も速くやってみたいな。

 

「魔方陣が依頼者に反応しているわ。これからその場所へ飛ぶの、到着後のマニュアルも大丈夫よね?」

 

「はい!」

 

「良い返事ね。じゃあ行ってきなさい!」

 

 魔方陣が光り出し、一誠の体が消え始め……始め……始めない?

 

 あれ、光が収まったけど、一誠そのままだぜ? どういう事コレ?

 

 当の本人の一誠もすっかり困惑している。

 

 おいおい、故障か何かか?

 

「イッセー」

 

 リアスが一誠を呼ぶ。

 

「はい」

 

「残念だけどあなた、魔方陣を介して依頼者のもとへジャンプできないみたい」

 

 え、どういう事?

 

 俺たちが困惑している間、リアスが話を続ける。

 

「この転移魔方陣はそんなに高い魔力は有さないのだけれど。子供の悪魔でも転移出来る。初歩的なもの。つまり、イッセー……貴方の魔力は子供以下。転移出来ないわ」

 

 ……あ~そうなのね。

 

「な、なんじゃあそりゃああああああああ!?」

 

「……無様」

 

 驚く一誠に静かに罵倒をする塔城ちゃん。

 

「一誠、ドンマイ」

 

「止めて! そんな哀れんだ目で見ないで!」

 

 いや、だって、ねえ?

 

「仕方ないわ、イッセー」

 

「は、はい……」

 

「前代未聞だけどその足で直接現場に言ってちょうだい」

 

「ええ!?」

 

「しょうがないんじゃないのか? だって、転移出来ないし」

 

「夏蓮の言う通りよ。依頼者を待たせるわけにはいかないわ。イッセー、急ぎなさい」

 

「うわあああんん!! 行ってきまああああす!!」

 

 泣きながら部室から出て行く一誠。

 

 ……すまんな一誠、俺では力になれない。

 

「イッセーは残念だったけど、夏蓮、次は貴方よ」

 

「了解」

 

 先程の一誠と同じように、俺も魔方陣の上に乗る。

 

 さっき一斉にしたように、朱乃が俺の体を調べ始める。

 

「――あらまあ」

 

 そうやっている内に、朱乃が感嘆の声を上げる。何だ?

 

「どうしたの、朱乃? まさか、夏蓮にも問題が?」

 

「いえ、その逆です」

 

 逆?

 

「魔力量が凄いんです。普段は感じられませんでしたけど、この魔力、部長にも匹敵しますわ」

 

 何と、俺にそんなに魔力が……。

 

 話に聞けば、この部ではリアスが一番高く、次に朱乃のと続くらしい。

 

 俺は一番高いリアスと同等と……。

 

 しかし、俺よりも一誠の方に魔力があれば良かったのだが……。現実はつらいね。

 

「凄いわ夏蓮……無理して悪魔にして正解だったわね」

 

「ん? 何か言ったかリアス」

 

「いえ何でも無いわ。さて、夏蓮は予定通り、転移魔方陣から契約者の場所に向かってちょうだい」

 

「おう」

 

 その後、先程の一誠と同じやり取りをして、準備は完了する。

 

「さあ、イッセーは残念だったけど、夏蓮は大丈夫よ、行ってらっしゃい」

 

「では、行って参ります」

 

 魔方陣が白く輝く始め、やがて、俺の視界は白く染まった。




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次回は夏蓮、初契約


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契約、挑戦だ!

こないだ魔力量をランク分けしてみたら? という意見を貰ったのですが、中々難しいです。

 原作だとやたら滅多にインフレな存在が多すぎますし……。オカルト研究部のみでやろうかな?


 光が止み、目を開けた場所は……

 

「……女の子の部屋?」

 

 内装はかわいらしく、ぬいぐるみもかなりある。

 

 以前見た翠の部屋よりも可愛らしくなっているな……。

 

 まあ、翠がシンプルすぎるんだよな。あれは間違いなく。

 

「あ、あの〜」

 

「ん?」

 

 声? 何処からだ? この声の主が依頼者か。

 

「あ、あの〜」

 

 もう一度俺を呼ぶ声。

 

 いや、声は聞こえんだけど、どこだよ。

 

 辺りを見渡してみるが、依頼主らしき人物の姿が見えない。

 

「貴方が悪魔様ですか〜」

 

「はい、グレモリーの者ですが……失礼ですが何処ですか?」

 

「え、え〜と……」

 

 何やら煮え切らないご様子だが、どういう事だよ? 声は聞こえんだが……。

 

 つうか、何で姿を見せん? 悪魔である俺を呼んだんだよな。

 

 うーん、何処だ? 声は下の方から聞こえるから下か……えー。

 

 下の方を見たら、思わず引いた。そりゃあもう引いた。

 

 どうしよう。こんな経験始めてだな。つうか、人間だった頃にも無かったけどな。うん。

 

 まさか、悪魔を呼んだ本人らしき人間の声が中々豪華そうなベットの下から聞こえてくるなんてな!!

 

 何これ!? 意味わからないよ!! 初めての依頼でこんな依頼主なの!? しかも声から察するに女の子だよね!? どうしようリアス。マニュアルが初っ端から役に立ちそうにないのですが!

 

「……あのーいい加減そこから出てきてもらえるますかね?」

 

 ベッドの近くにしゃがみ込んでそう言う。

 

「へうっ!? な、何で私の居場所が分かったんですか!?」

 

「いや分かるよ!!」

 

 この子何!? 頭がオツムな子じゃねえの!? もうメンドくさいな!!

 

「ええい!! いいから出て来い!」

 

 ベッドの下に手を突っ込む。どうやら直ぐ近くに居たらしく、手らしき物を簡単に掴めた。

 

 細いな。少女なのは間違いないみたいだな。

 

「な、何するんですかー!?……ま、まさか私の魂を食べる気……!?」

 

「食べるかっ! 良いから出て来い! これじゃ契約の前に話が出来ん!」

 

 余り力を強めずに引っ張る。大した抵抗も受けず、声の主を引っ張り出せた。

 

「なっ……」

 

 引っ張り出した相手の姿を見て俺は思わず呆気に取られた。

 

 服装はネグリジェ。髪は茶色が掛かった黒髪をセミロングにしている。

 

 顔立ちも結構整っている。大人になれば、美人と呼ばれるんじゃないかと思う。

 

 が、俺が一番驚いたのはそこじゃ無い。

 

「――小さっ!」

 

 ――背が低い事だ。

 

「なっ、小さい言うなっ! 私はもう中学三年だ!」

 

「え、嘘!?」

 

 マジか! ぶっちゃけ小学五年生かと思った。最近の子は身長も伸びないのか……。

 

「ああっ! 今、身長伸びない可哀想な奴とか思ったでしょ!?」

 

「そこまで思ってねえよ!」

 

 どんだけ身長にコンプレックス持ってんだよ! このままいくとめんどくさい事になりそうだな。さっさと契約に進むか。

 

「取り敢えず君の小さい背は置いておいて」

 

「だから小さい言うな!!」

 

 あ、失言。

 

「ご、ごめんごめん。大丈夫だよ。君、まだ中三なんだろ? まだコレから伸びるよ」

 

「……ホントですか?」

 

 良かった、収まってきたようだ。

 

「ホントホント。さっきはひどいこと言って悪かったな」

 

「……いえ、初対面のヒトに対して私も悪かったです」

 

 この子がどうやら聞き分けが良い様だ。

 

 さてさて。初契約の相手がこんなんで俺は大丈夫かねえ?……とても不安だ。やばい。

 

******

 

「で、何であんなところに隠れてたの?」

 

 クッションを座布団代わりにして床に座って目の前の少女に聞いた。

 

「そ、その〜チラシを読んで冗談半分で悪魔様を呼んだら……」

 

「実際に俺が来てビビったと」

 

「はい」

 

 少し恥ずかしそうに俯く少女。

 

 成る程。それにしたって、ベットの下に隠れるのは如何かと思うが……。まあ、パニクればそういう行動をとってしまうのかな。

 

「じゃあ、誤って呼んだって事? それなら俺は帰るけど……」

 

 初の契約で残念だが、本人に契約の意思が無いんじゃしょうがないか……。

 

 けれど、俺の言葉を聞いた少女が慌て始める。

 

「い、いえ! 折角来て頂いたのですから、是非とも契約してくださいっ!」

 

「え、良いの?」

 

「はい!」

 

 勢いよく頷く少女。

 

 おおっ! 初めてでいきなり失敗するかと思ったが、良かった。

 

「では、改めまして。グレモリー家の悪魔、兵藤夏蓮です」

 

「コレはご丁寧に。篠崎真理子と言います。よろしくお願いします」

 

 お互い向かい合っての挨拶。

 

 この部屋見て思ったけどこの子、上流階級か? 挨拶も丁寧だし。

 

 因みに俺は今は亡き母様に教わった。色んな場面で役に立っている。

 

「さて、悪魔を呼んだということで、願いがあるんだろ?」

 

「はい、そうですね……」

 

 数秒思案して少女、真理子は何かを決意したような顔をする。

 

 そして、願い事を言った。

 

「では――背を伸ばしてください」

 

 ……うーん。ひどく真剣な声で言っているのは分かるんだが。

 

「一応調べてみるけど……」

 

 俺はリアスから貰った端末を使って調べてみるが――

 

「うわっコレは……」

 

「え、何て出たんですか?」

 

「えーと、身長が伸びた次の日に学校に登校する際に事故に遭って死にます。勿論君が」

 

「死んじゃうんですか! 私!?」

 

「登校してクラスメイトに会う瞬間だな。因みに会う瞬間だから、クラスメイトは君の身長が伸びたことに気づいていない」

 

「そ、そんな……」

 

 ガーン、と背景文字に現れそうなぐらいショックを受ける真理子。……ドンマイ。

 

「ううっ、クラスのみんなに背が伸びたと自慢する間もなく死んじゃうなんて……」

 

「まあ、この願いはダメでも他の願いをすれば良いだろ?」

 

 リアス曰く、人の魂は同価値では無いというのが悪魔の格言らしいが、彼女に言うのは酷な話だろうな。

 

「そうですね……特に無いんですよね」

 

 無いのかよ。欲無いなこの娘。

 

 うーんどうしたものか。このままだと契約破談になりそうだ。

 

 もし、そうなったら、リアスに何て言われるか……。

 

 俺の脳裏に迫力ある笑みを浮かべるリアスの顔が浮かび上がる。

 

 ……不味いな。どうにかしないと、何を命令されるか分からん!

 

「ほ、本当に他にはないのか? 何か欲しいのがあるとか」

 

「欲しいものは大抵手に入りますし……」

 

 リッチだなこの娘! 羨ましいよ!

 

「あ、強いて言うなら……」

 

「何?」

 

 頼むよ。契約は取りたい。

 

「何か超常現象を起こしてください。悪魔ならそういう事出来ますよね?」

 

「…………」

 

 真理子の何か期待するような目に、俺は思わず目を逸らしてしまった。

 

 どうしよう。悪魔に成り立てで何も出来ないなんて、言えない。

 

 この子の! 翠みたいな純情そうなこの子の瞳! 裏切れないいいいいい!!

 

 ええい! 落ち着け兵藤夏蓮! 考えろ。考えるんだ! 

 

 手品? 残念ながら一発芸も出来ない。

 

 超人的肉体? 超常現象では無いだろう。

 

 悪魔の羽を出す? 最終手段。

 

 くそ! どうする? 俺に出来ることと言えば……あ。

 

 アレだ! アレがあるじゃないか。

 

 そこまで考えて俺はあることを思い出した。

 

 そうだよ。悪魔の超常現象とは言い難いが、アレも十分、人間からしてみれば超常現象だろうよ。

 

「よし」

 

 そうと決まれば善は急げだ。

 

 ばっ、と俺は右手を突き出し、素早く神  器(セイクリッド・ギア)灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』を展開する。

 

「どう? コレぐらいなら出せるよ?」

 

 これで満足してくれるかな。否、してくれないと俺が困る。

 

 内心ドキドキな俺は真理子の様子を伺う。

 

「――うわあ、凄いです! 何ですか今の? コレ、本物ですか? コスプレアイテムみたいですけど」

 

 ……良かった。めっちゃ食いついてくれた。なお、コスプレアイテムというのは若干同意しておこう。

 

「ああ。危ないから刀身には触らないでくれよ? 結構危ないから」

 

 一度、部室のある旧校舎の周りに生えている木の一本で試し斬りをしたのだが……。

 

 一発でぶった斬れた。それはもう見事に。

 

 思わず斬った本人である俺が唖然としてしまった。

 

 それ以来、俺は滅多に神  器(セイクリッド・ギア)を出さないようにしている。

 

 切れ味が半端ないからだ。鞘が付いているならまだしも、抜き身の状態だ。危なくて出そうにも出せん。

 

「とても綺麗ですね。装飾も無駄がありません。それでいて、武器としての役割を見失っていませんし」

 

「分かるの?」

 

 珍しいな。というか、普通の人間が刀剣類を詳しく知っているわけ無いしな。

 

 俺が聞くと真理子は少し照れ臭そうに頭をかいた。

 

「父が貿易会社のそこそこ高い地位におりまして、趣味で刀剣類を収集しているんです。それで私も少し好きに」

 

 へえー。父親が貿易商なのか。それで刀剣類を。……海外の物を集めているんだよな?

 

「成る程。俺も結構刀剣類には興味があるんだよな。いつか自分の物が欲しいし」

 

 お師匠様が色々と教えてくれたからな。御陰で結構詳しくなった。大人になったら刀の一本でも欲しいモンだ。

 

 俺がそう言うと、真理子はパアッと顔を輝かせた。

 

「本当ですか!? うわあ、こんな趣味が合う人なんで他にはいないと思っていましたから嬉しいです」

 

 とてもはしゃいでいるな。まあ、この世代に刀剣類で話が盛り上がる何て全く持って想像できんしな。というか、俺の世代にもいるとは思えん。

 

 俺もこの出会いには感謝だ。同じ趣味にあうヒトなんて滅多に会えないしな。

 

「俺もだ。今日は色々と語り合おうぜ」

 

「はい!」

 

 それから俺と真理子は夜が更けるのも気にせずに色々と話し込んだ。

 

 いやあ、熱中した。あれほど話し込んだのは、美咲と話した以来かな?

 

 なお、ちゃんと契約して対価は貰った。

 

 彼女が個人的に持っている小刀を貰った。ちゃんと届けを出した物らしい。

 

 流石にこんな事だけしかしてないで貰うのは気が引けたのだが、

 

「こんなに楽しい時間をくれたお礼です」

 

 と言うのでそれならば、と頂いた。

 

 真剣を手に持つのは随分久しぶりだった。というか、家におけん。うっかり義母さん等に見つかったら偉い騒ぎだ。

 

 なので、小刀は部室に置くことにした。

 

 あんなに”洋”のイメージが強い部室に”和”の小刀が合うとは思わんかった

 

 今度はちゃんとした事をやってやらないとな。

 

 

******

 

「――とまあ、こんな感じで俺の初契約は終了しましたとさ」

 

「そう、ご苦労様ね、夏蓮」

 

 次の日、部室にて俺は初契約についてリアスに報告していた。

 

 聞いているリアスも満足そうに頷いてた。

 

「さて、問題はこっちね」

 

 そう言って難しそうにチラシを見るリアス。

 

「しっかし、一誠も中々面白い才を持ってるな。悪魔内では結構珍しいんだっけ?」

 

「ええ、だからこそ困っているのよ。前代未聞だからね」

 

 リアスが悩んでいる理由は、一誠の初契約にある。

 

 魔方陣による転移が叶わず、チャリで依頼者宅まで向かったところ、何とか到着。契約に挑戦。

 

 が、一晩中、一誠が愛読しているドラグ・ソボールを語り合っていて、契約取りは失敗に終わってしまった。

 

 普通、そこまでなら契約失敗でリアスからお咎めが来ても良いが――彼女は注意するだけで終わるだろうが――別の問題があった。

 

 依頼が終わってから契約者に魔方陣が書かれているチラシににアンケートを書いて貰うのだ。

 

 ちなみに、真理子にも書いて貰い、なかなかの高評価を貰った。

 

 で、一誠はと言うと……

 

「……『楽しかった。こんなに楽しかったのは初めてです。イッセーくんとはまた会いたいです。次は良い契約をしたいです』……べた褒めだな」

 

「ええ。だからこそ困っているのよ」

 

 契約破談してこんなにアンケートで言われるのは始めらしい。

 

「まあ、此処は敢えて褒めるのが良いじゃ無いか? 意外性ナンバーワンの悪魔って事で人気になるかも知れないし」

 

「それもそうね。……ふふっ、おもしろい子ね」

 

「まあな。……アレで変態が抜ければ良い奴なんだが」

 

 ソファに座って、天井を見上げながら深々と溜め息を付く。

 

「イッセーはずっとあんな感じなの?」

 

「まあ、熱血漢と努力家はずっと変わらんが、あの変態具合は昔はあんな感じじゃ無かった気がするんだが」

 

 何時だったかな? あいつがあんな感じになったのは。

 

 俺が初めてであったときはああいう風じゃ無かったと思うが……。

 

 うーん。何分小さすぎるからな、覚えていない。

 

「ま、その部分は追々何とかしよう。……そういや一誠はまだ来てないのか?」

 

「ええ。コレから来ると思うわ」

 

「あんまり怒ってやらないでくれよ? ああ見えて結構打たれ弱いし」

 

「あら、心配?」

 

「そりゃあな。あんな変態だが、義弟だしな」

 

 ……あいつには昔、心が折れそうだったときに助けられた。その借りも返せていない。

 

「夏蓮……変態、変態言い過ぎじゃない?」

 

「変態なのは間違い無いから良いんだよ」

 

 そこは多分コレからも変わらんだろうよ。




感想待っています。

今回は急いで書き上げたから結構変な部分もあるかもしれません


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下僕にも色々とあるんだな……

今回は殆ど原作通りに進みます。


「二度と教会に近づいては駄目よ」

 

 ある放課後、部室で一誠が直立不動なままリアスからの説教を受けていた。

 

「…………」

 

 それを俺はソファに寝そべりながら見ていた。

 

 やれやれ。あいつにもこういう神話とはそういった事を教えておいた方が良いかね? そうしないと気がついた時には死んでいそうだし。あーあ、やだやだ。

 

 さて、何故我が愚弟こと兵藤一誠が我が義兄弟の主でもあるリアスに説教をされているのか? それは少し前の事に起因する。

 

******

 

「おーい一誠? 我が愚弟よー? 何やってんだー」

 

 一誠に声を掛けるが、当の本人は「おう……」や「ああ……」などと要領の得ない返事ばかり。

 

 珍しいなこいつがこんな感じになるなんて。

 

 まだ部活が始まる前、少し校内を散策していると、窓から外にある椅子に一誠が座っているのが見えた。

 

 いつもの変態二人組と一緒では無かったので、変だなと思って外に出て行ったのだが。

 

 うーん、何だコレは? 一誠がこうなるとは。まるで……

 

「まるで、町を散策していたら自分にもろタイプの金髪美少女のシスターに会って一目惚れしたみだいな」

 

 俺がそう言うと、今まで殆ど反応が無かった一誠が慌て始めた。

 

「え、ちょ、ま、え? 兄貴!? 何で居るのっ? てか、何で分かったんだ!?」

 

「えー……」

 

 おいおい、一誠が秘蔵しているコレクションを偶々見て、一番上に置いてあったのが金髪シスターだったからそう言っただけなのに。当たるとはな……。

 

「まあ、悪魔であるお前が聖なる使徒であるシスター様に一目惚れとは……まあ、話せ」

 

「え、でも……」

 

「次は言わん。話せ」

 

「……あい」

 

 迫力有る笑みを浮かべると一誠は直ぐに折れた。ふっ、ちょろいな。

 

 少し躊躇いつつも、一誠は語り出した。

 

 まず、自分の契約相手がどうも変な相手ばかりで萎えていたときに町を散策していたそうだ。

 

 ……うん。契約者が変な相手が多いのはドンマイとしか言いようが無い。

 

 で、意気消沈しながら歩いていると、後ろからぶつかってくる人物。

 

 ご丁寧に「はうわっ!」何て漫画でしか聞きそうにない言葉を添えて。

 

 そして、後ろを振り向くと、ヴェールを付けたシスターらしき少女が一人。

 

 で、風に吹かれてヴェールが取れるとあーら不思議。そこにはとんでもない美少女がいるとさ。

 

「……何と言うか、お前、ある意味エンカウント率すごいと思うぞ」

 

「まあな。で、問題はそっからなんだ」

 

 その後、この町の外れにある教会に赴任したと言うから其処まで連れて行くことになったのだが……

 

「ちょっと待て。教会? あの町外れにある教会か?」

 

「え? ああ。どうかしたか?」

 

「いや……」

 

 妙だな。たしかその教会は数年前に老神父が無くなってから誰もいない無人の廃教会になった筈なんだが……新しいヒトが赴任したのか?

 

 って、今はそれを聞いているんだな。

 

「何でも無い。続けてくれ」

 

「分かった。それでな」

 

 連れて行こうとした矢先、目の前で男の子が転んで怪我をしたらしい。そして、その金髪シスターちゃんが駆け寄って怪我した部分に手をかざすと、淡い緑色の光が現れ、瞬く間に男の子の怪我が治ってしまったそうなのだ。

 

「……それってもしかしなくても十中八九神   器(セイクリット・ギア)だろうな。驚いたな。治癒系の神   器(セイクリット・ギア)もあるんだな」

 

「兄貴もそう思うか。でさ、結局その後彼女を教会まで送り届けたんだよ」

 

「成る程ね……」

 

 取り敢えず色々と言いたいことがあるが、一先ずはこう言っておこう。

 

「一誠……お前、バカだな。分かっていたけど」

 

「ひでえ!? 話せって言うから話したのに何で罵倒されなきゃいけねえんだよ!?」

 

「いやだって教会だろ? 天使の手先だろ? お前、悪魔じゃん。種族的な敵対関係だろうが。それともアレか? 種族を越えた禁断の愛ってか? というか、悪魔が教会に近づくなよ」

 

「うぐぅ……まあ、俺も教会に近づいただけでやたら滅多に寒気がしたしな」

 

 ぐうの音もで無さそうな一誠だが、正直良かったと安堵している部分が俺の中にあるのも分かる。

 

 悪魔となってから色々と聞いた事だが、天使サイド。つまり、教会側にはエクソシストが存在する。

 

 中には悪魔を見つけたら問答無用で殺しに掛かってくる危険なヤツも居るそうだ。

 

 教会の目の前まで来て何も無かったのは不幸中の幸いってもんだ。

 

 が、こんなことが二度とあってはいかん。

 

「取り敢えず一誠。この事はリアスに報告するぞ」

 

「うえ……マジ?」

 

「マジだ。取り敢えず説教はされてこい」

 

 俺が説教しても良いけど、こういうのは家族ではなく他人がやった方が案外効くもんだ。その点ではリアスは適任だろう。

 

「ほら、行くぞ。善は急げだ」

 

「この場合はそうは言わないと思うけど……」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ! 何でもありません!」

 

******

 

「――分かった? 今回は偶々良かったけど。次は無いものだと思いなさい」

 

「はい……以後気をつけます」

 

 案の定、リアスに説教された。

 

 けれど、リアスも一誠を心配してこそのお説教だ。一誠もそれが分かっているから甘んじて説教を受けてんだろうけど。

 

 ……しかし、今は廃教会となった場所に神   器(セイクリット・ギア)らしき物を保有したシスターが赴任した、か。何かありそうだな……。

 

 

 ……後でリアスにそれとなく言っておくか。

 

「あらあら。お説教は終わりましたか?」

 

「朱乃、どうかしたの?」

 

 リアスがそう言うと、朱乃は少しだけ顔を曇らせて言った。

 

「大公から討伐の依頼が来ました」

 

******

 

 はぐれ悪魔。主である上級悪魔を殺害、もしくは主の元から逃走した悪魔の通称を指す。まあ、簡単に言ってしまえば野良犬ようなモノだ。

 

 悪魔たち及び、他勢力からも疎まれる存在で、見つけ次第討伐ーーつまりは殺害しろとの事だ。

 

 それで今回、リアスの人間界での領土とも言うべきこの街にはぐれ悪魔の一体が迷い込んだそうなのだ。それで、俺たちに討伐の依頼が来たそうだ。

 

 真夜中。殆どの人が寝静まっているだろう時間。俺たちは廃屋の中を歩いていた。

 

 この薄気味悪いとしか言いようがない場所にはぐれ悪魔がいるそうだ。

 

 廃屋を歩いていると、生臭い鉄の匂いがしてくる。これはーー

 

「血の匂いか……かなり濃いな」

 

「……はい」

 

 隣の塔城ちゃんも顔を顰めながら言った。

 

 件のはぐれ悪魔って奴、相当やってんな。早く終わらせたい。正直、こんな所さっさと抜け出たい。

 

「夏蓮、イッセー。いい機会だから悪魔としての戦い方を経験しなさい」

 

「た、戦い方? あの、俺、兄貴みたいに戦えませんよ?」

 

「まあ、夏蓮もまだ戦えないでしょう」

 

 即答か。まあ、今の俺じゃまだ分からんしな。

 

 俺の神   器(セイクリット・ギア)は間違いなく戦闘用だが、使い方がイマイチ分からん。こういう戦いを経験していくなら色々と知っていかないといけないだろう。

 

「けれど、悪魔の戦い方を見ることは出来るわ。今回は下僕の特性をしっかり学びなさい」

 

「特性……下僕にも色々種類があるのか?」

 

 俺が質問すると、リアスが頷いた。

 

「そうね。夏蓮には触り程度で教えておいたけど、いい機会だから二人には悪魔の歴史も交えて教えましょうか」

 

 そこからリアスのレクチャーが始まった。

 

 大昔ーーと言っても数百年前らしいが--に悪魔、神が率いる天使、そして堕天使の三すくみによる大きな戦争があったらしい。

 

 大軍勢を率いて、どの勢力も気が遠くなるほどの時間を争っていたそうだ。

 

 だが、その戦争はどの勢力もかなり疲弊しただけで勝者が出ない、つまりは痛み分けのまま、数百年前に終わったそうだ。

 

 悪魔側も相当な打撃を受け、二、三十の軍団を率いていた爵位持ちの上級悪魔や、純血の悪魔も大量に亡くなったそうだ。

 

 生き残った悪魔たちも、最早軍団を保てないほどに激減してしまった。

 

「そこで、悪魔は他の勢力に対抗するために少数精鋭制度を取ることにしたのその過程で出来たのが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)……」

 

 聞かない単語だ。悪魔専門用語かな。

 

「爵位を持った悪魔が人間界のボードゲームの一種であるチェスを下僕の特性として取り込んだのよ。悪魔への転生者の多くが人間であることの皮肉も込めてね」

 

 へえー。って転生者の多くが人間? つまり他にも種族がいるって事か? まさか妖怪とかか?

 

「チェスになぞえて主となる悪魔が『(キング)』。この中では私に値するわね。その下に続くのが『女王(クイーン)』、『戦車(ルーク)』、『騎士(ナイト)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士(ポーン)』とあるわ」

 

「はー、悪魔も色々と考えているんだな」

 

 俺は感心するように言った。

 

「この制度は悪魔たちにはとても好評だったの」

 

「好評ねえ。確かに中々面白いアイディアだけど」

 

「競うようになったのよ。最初は自分の眷属自慢から実戦方式になってきて、今では『レーティングゲーム』と呼ばれるゲームが大流行しているの。このゲームの結果次第で、悪魔の地位や爵位にまで影響されるようになってきている程にね」

 

 何と……悪魔界において国技みたいになっているのか。悪魔界も色々とやっているな。

 

「私はまだ成熟していないから公式のゲームには参加出来ないわ。だから当分ゲームをする事は無いけど、必ずやるわ」

 

 おうおう、リアスの目が燃えてんね。よっぽどゲームに参加したいみたいだ。

 

 成熟か、人間でいう成人の事かな?

 

「成る程ね……ん? そう言えば俺たちの駒は一体何なんだ?」

 

「二人の駒は--」

 

 そこまで言って、リアスは言葉を切って一気に真剣な表情になった。

 

 っ!……近いな。どこだ、上か? 横か?

 

 俺たちに近づいているであろう気配を探りながら、俺は辺りを見渡した。

 

「不味そうな臭いがするぞ? でも美味そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

 ……臭いに不味いとか美味いとかって無いと思うけど。単純に臭いの良し悪しだと思うんだが……俺だけか?

 

「はぐれ悪魔バイザー。あなたを消し飛ばしに来たわ」

 

 おおっ! 堂々としているねリアスは。それなりの場数は踏んでいるようで。

 

 ――ケタケタケタケタケタケタケタケタケタ――

 

 不気味な笑い声が辺りに響き渡る!

 

 ……マジで怖い状況だなおい! 普段なら間違いなくいたくない場所だよホント。

 

 待てよ……コレからも悪魔やっていくならこんな事ずっと続けるのか? うわあ、めんどくせえ。

 

「……どうかしましたか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 塔城ちゃんが不思議そうにこっちを見るが、余計な心配はさせない方が良いよな。主に俺の尊厳の為。

 

 そんな事を考えているうちに大きな足音が奥から聞こえてきた。

 

 やがて、闇から上半身裸の女性が現れた。

 

 普通にそこだけなら思わず反応してしまうかもしれない。だが、そんな反応を示すことは、絶対にあり得ないだろう。

 

 何せ、その上半身裸の女性の下半身は巨大な獣の体をしているからだ。

 

 下半身は四足で尻尾も蛇みたいなのが動いている。

 

 さらに両手には槍らしき得物。

 

 まさしく化物。そう言うのが相応しい風貌だ。

 

 これがはぐれ悪魔……力に溺れた者の末路か……怖いな。

 

「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

「こざかしいわ小娘が! その紅髪と同じように体を鮮血に染め上げてやるわああああぁぁ!!」

 

 ……すんげえ雑魚臭がするセリフだな。そこのはぐれ悪魔さーん。あなた、今自分で自分の死亡フラグを立てましたよー。

 

「雑魚ほど吠えるわね。祐斗!」

 

「はい!」

 

 リアスの命を受け、木場が動き出す。

 

 速いな。目で追いつくのがやっとなぐらいだ。

 

「夏蓮、イッセー。さっきのレクチャーの続きをするわ」

 

 む、ちゃんと聞いておくべきだな。今後に関わるだろうし。

 

「祐斗の役割は『騎士(ナイト)』、特性はスピード。どんどん速くなっていくわ」

 

 言葉通り、木場のスピードはどんどん速くなっていく。

 

 凄いな。今の俺じゃ躱すのがやっとだろう。

 

 はぐれ悪魔に至っては見ることも出来てないんだろう。槍を振り回しているが、全然当たる気配が無い。

 

「そして祐斗の武器は剣」

 

 見れば、木場の手には西洋剣があった。

 

 鞘から抜き去ると刀身が煌めく。

 

 ……良い剣だ。安物とは違うな。

 

 木場が剣を構えると、一気に目も止まらない速さで動き出した。

 

「ぎあああああああああああ!?」

 

 次の瞬間、はぐれ悪魔から痛みの声が上がる! 見れば、はぐれ悪魔の両腕が槍らしき得物と一緒に切断されて血飛沫を出していた。

 

 ……良い腕だ。翠と同等。いや、それ以上の技術を持っているな。

 

 うーん、一度手合わせしたいものだ。

 

 けどまあ、成る程。『騎士(ナイト)』のスピードと剣の才能を組み合わせているのか。

 

 ん、見ればもがき苦しんでいるはぐれ悪魔の足元に塔城ちゃんの姿が!

 

「次に小猫。あの子の特性は『戦車(ルーク)』。その特徴は」

 

 リアスが言い終わるうちに、はぐれ悪魔が塔城ちゃんに気がついて巨大な足を上げる!

 

 ってまさか!

 

「小虫めええぇえっ!」

 

 激昂したはぐれ悪魔が巨大な足を塔城ちゃんに向けて振り下ろす。

 

 い、いかん! 塔城ちゃんの華奢な体じゃ……。

 

 だが、俺の心配は杞憂に終わる。

 

 はぐれ悪魔の足が地面にくっついていない。少しずつ持ち上がって行く。

 

 見れば、塔城ちゃんがググググとはぐれ悪魔の足を持ち上げつつある。

 

「『戦車(ルーク)の特性は単純。ばかげた攻撃力と防御力。あの程度の力では小猫は潰せないわ」

 

 ……いやいや、最早筋力とか完全に無視しているよなあれ。何、悪魔は能力で筋力をカバーしてんの。やだなもう。

 

「……ぶっとべ」

 

 言うやいなや、塔城ちゃんははぐれ悪魔を吹っ飛ばした。

 

 ……無表情のロリっ娘で怪力属性か。よく分からんな、うん。

 

「最後に朱乃ね」

 

「はい、部長。あらあら、どうしようかしら」

 

 リアスの言葉を受けて朱乃がはぐれ悪魔に近づいていく。

 

「朱乃は『女王(クイーン)』。私の次に最強の者『兵士(ポーン)』『騎士(ナイト)』『僧侶(ビショップ)』『戦車(ルーク)』、全ての力を兼ね備えた無敵の副部長よ」

 

「ぐうううぅう……」

 

 はぐれ悪魔が朱乃のことを睨み付ける。

 

 が、睨まれた当の本人は相変わらずのニコニコスマイルを浮かべるだけだ。……けど、その笑みが何やら普段とは違うような気が……。

 

「あらあら、まだ元気みたいですね? それなら、これはどうでしょう?」

 

 朱乃が天に手をかざす。

 

 刹那、空が光り輝き、雷がはぐれ悪魔にたたき込まれる!

 

 

「あががあああ!!」

 

 激しく感電するはぐれ悪魔。その体は見ただけで重度の火傷を負っているのが分かる。

 

「あらあら。まだ元気そうですわね? なら、これはどうですか」

 

 次の瞬間、はぐれ悪魔に再び雷が襲う!

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

 最早断末魔をあげるしか無いはぐれ悪魔。

 

「うふふふ。まだまだ行きますわよ」

 

 そう言って三たび雷をはぐれ悪魔に叩き落す朱乃。

 

 ドSだ。俺の目の前に間違いなくドSがいる。怖いよ。さっきとはまた別の恐怖が俺の中を横切るよ。

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なのよ。火や水、氷に雷といった自然現象を起こすことなどね。そして朱乃はS。究極のSなのよ」

 

 いや、もうやめてあげなよ。はぐれ悪魔敵なのに可哀想に見えてきたよ! 恐いだけだよ!

 

「怯える必要はないわ、二人とも。朱乃は味方にはとても優しいから」

 

 その言葉を信じたいが……。

 

「うふふふふふ。どこまで私の雷に耐えられるのかしらね? まだ死んではダメですよ? トドメは私の主なのですから。おほほほほほほほっ!」

 

 ……高笑いしているよ朱乃。味方には優しいからとか全然信じにくいわ、うん。

 

「朱乃、その辺にしておきなさい」

 

 リアスの言葉で、ようやく朱乃が雷を放つのを止める。……少し不満そうだったけど。

 

 トドメは朱乃の言う通り、リアスがさすらしく、はぐれ悪魔に近づいていった。

 

 この時、俺ははぐれ悪魔が醜悪な笑みを影で浮かべていることに気がついていなかった。

 

******

 

「何か言い残す事はあるかしら?」

 

 この時、私に油断が無かったと言えば、嘘となってしまうだろう。

 

 私、リアス・グレモリーは私の領土に侵入したはぐれ悪魔を討伐するために、眷属を引き連れて討伐に向かった。

 

 元々、特に強さをもったはぐれ悪魔では無かったようなので、今回悪魔の戦闘を始めて経験する夏蓮とイッセーに体験させるのが目的だった。

 

 私の予想通り、はぐれ悪魔バイザーは大した強さを持っておらず、普段通りのやり方で事足りた。

 

 あとは私が消し飛ばすだけ。そう思った矢先だった。

 

 顔を上げたはぐれ悪魔がニヤリと笑った。その笑みはどこか醜悪で、まるで嫌がらせを思いついた者の笑みだった。

 

 私はその笑みに何か嫌な予感が横切った。

 

 その予感は最悪な方面で当たった。

 

「一人は道連れにしてくれるわああああぁああああっ!」

 

 そう叫ぶや否や、はぐれ悪魔は首だけ離れて、飛び出す!

 

「っ!」

 

 私に最後の特攻をするのかと思い、腕で体を守るように前に出す。

 

 だが、はぐれ悪魔は私の横を通り過ぎ、後ろに向かっていく。

 

 まさか! 私は慌てて後ろを振り返る。私の後ろには今回、悪魔の戦闘を始めて経験する二人が――夏蓮とイッセーが!

 

 案の定、はぐれ悪魔は夏蓮とイッセーに向かって行った。突然の出来事に私も、朱乃達も反応が出来なかった。

 

 まずい! 彼らが、夏蓮が!

 

「死ねえええぇえええ小僧っ!」

 

 はぐれ悪魔が最後の力を振り絞って夏蓮に迫る。

 

 しかし、

 

「――…………あ?」

 

 一瞬の、はぐれ悪魔の呆けたような声。私達も一瞬、何が起こったのかよく分からなかった。

 

 夏蓮に迫ろうとしていたはぐれ悪魔の頭を途中で止まっており、やがて左右にずれた。

 

 そして大量の血飛沫を上げて、地面に落ちていった。

 

 その二つに分かれた顔には、何が起きたのか理解出来ていない顔だった。

 

 私は呆然としながらも、夏蓮の方を見る。

 

 突然のことに呆気にとられているイッセーの隣で、夏蓮が自分の神   器(セイクリッド・ギア)、『灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』を逆刃にして右手で振り上げたまま止まっていた。

 

 それを見て、私は何が起こったのかようやく理解した。

 

 単純なことだ。自分に迫ってきたはぐれ悪魔を、夏蓮は神   器(セイクリッド・ギア)を展開して、下から斬り上げたのだ。

 

 だが、それが今の彼にとってどれだけ驚くことに値するか。

 

 彼が武術を嗜んでいることは彼の口から知っていた。一度型の練習をしている所を見せて貰ったこともあり、なかなかの腕前を持っており、祐斗や小猫にも引けを取っていなかったと思う。その事から余計に眷属に欲しくなったのは此処だけの話だ。

 

 だが、彼はまだ悪魔に転生したばかりで、こんな経験は無いはず。そんな状況で落ち着いて神   器(セイクリッド・ギア)を展開して、襲いかかってくるはぐれ悪魔の頭を真っ二つにするなど、あり得るのだろうか。

 

 はぐれ悪魔の返り血を全身に浴びた夏蓮はどこかボンヤリとした表情で辺りを見渡した。

 

 ゾクリ……。

 

 私は彼の姿を見て、恐れより……畏怖を覚えた。まるで、血まみれの状態が彼の本来の姿なのかと思ってしまうほどに。

 

 だが、そんな雰囲気は直ぐに霧散してしまった。

 

「――あーリアス」

 

「え、あ、あの……」

 

 突然夏蓮に声を掛けられて私は思わず動揺してしまう。

 

 い、いけない! 私は夏蓮の主なのよ? その主が眷属に声を掛けられたからって動揺してはいけないわ。

 

「って、大丈夫なの夏蓮? 何処も怪我は無い!?」

 

「ああ。それについては問題無いんだが……」

 

「無いんだが……?」

 

 指で頬をかくと、困ったように彼は言った。

 

「魔力とかで水とか作れない? 血が体中に付いて滅茶苦茶気持ち悪いんだ」

 

 ……取り敢えず、彼の体に付いている血を洗い落とすことから先決のようだ。




今回、初めて主人公以外の視点でやってみましたがいかがでしょう? 正直、あんまし自身がありません。

ちょうどこんぐらいが良いかと思い、此処で区切らせて貰います。次回で主人公の駒を明かします。


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イカレてんなこいつ……

お久しぶりです。ようやく期末テストが終わり、書き終わりました。

今回は予想よりかなり長く書いてしまいました。オマケに、ちょびちょび書いていたので変な部分もあるかも知れませんが、ご了承ください。


「あーびっくりした」

 

 俺、兵藤夏蓮は体にべったりとくっ付いた返り血の臭いに顔を顰めつつ、呟いた。

 

 あの後、朱乃から魔力で作った水で顔に付いた返り血を洗ったが、体についた血は流石に量が多くて洗えなかった。

 

 しっかし、ホント驚いたぜ。まさかあそこで最後の特攻を仕掛けてくるとはな。

 

 向かってくる先が俺で良かった。もし一誠の方に向かっていったら、行動できたか分からなかったしな。

 

 けど、俺だって殆ど無意識に近かったかな。奴さんがこっちに向かってきたから、神   器(セイクリット・ギア)を瞬間的に展開して、そのまま斬りつけたんだし。

 

 しっかし、初めて生きている何かを斬ったけど、あんまり感じないな。

 

 いや、斬った感触はあるんだ。けど、特に感想が浮かんでこない。唯、斬ったという事実が残ったような感じ。

 

 ……前にお師匠様が言っていたな。「誰かを傷つけることに慣れるな。それはもう武を嗜む者では無い。武で遊ぶものだ」、と。

 

 少しだけわかった気がする。だからこそ、ちゃんと考えないとな。

 

「兄貴、大丈夫なのか?」

 

 隣でいきなりの事に呆気に取られていた一誠が心配そうに聞いてくる。

 

「ああ、問題ないよ一誠。ちょっよびっくりしたけど」

 

「なら良いけど……」

 

 ったく、一誠め。ホント他者を心配する所は昔っからだな。こういうのを前に出して行けば持てるとは思うんだけど。

 

「怪我が無くて良かったわ……。ごめんなさい、私が油断してた所為で」

 

 リアスが少しションボリしながら謝ってきた。

 

「気にするなって。特に怪我なんて無かったんだから」

 

「でも……」

 

 それでも尚、言おうとするリアス。

 

 全く。俺は思わずため息を付きたくなるが、寸前で抑える。

 

 代りに別のことを言う。

 

「終わっちまったもんはしょうがないだろ? 次からはちゃんとするようにすれば良いんだよ。な、リアス」

 

 俺がそう言うと、ようやくリアスは笑みを浮かべた。

 

「そうね……終わってしまったものは変えられない。次からは油断せずに行くわ」

 

 うん、過去ばかりを悔むんじゃなくて、未来を考えないとな。

 

「さて、みんな。今日はお疲れ様」

 

 リアスがそう言うと、他のメンバーも何時もの雰囲気に戻った。

 

 そして、今日はこのまま解散の流れに入った。

 

 帰り際、木場からは「今度手合わせをしましょう」と言われ、塔城ちゃんからは「……先輩、やりますね」と褒められ? 朱乃からは「あらあら流石ですわね」と何時ものニコニコスマイルを浮かべながら言われた。

 

「あ、そう言えば」

 

 帰ろうとして俺はふと、思い出した事があった。

 

 ちょうど良いと思い、リアスに聞いてみる事にした。

 

「なあ、リアス。俺たちの駒って何だ?」

 

 すると、リアスはとてもいい笑みでこう言った。

 

「『兵士(ポーン)』よ。夏蓮とイッセーは」

 

 ……兄弟揃って一番弱い駒でした。

 

******

 

「『兵士(ポーン)か……特性ってあんましなさそうだな」

 

 深夜、誰も歩いていなさそうな時間帯に俺は一人で散歩していた。

 

 春とはいえ、まだ少し肌寒い時期だ。とは言え、これくらいがちょうど過ごしやすい気がするんだがね。

 

 今日は特に指名も入らなかったので、リアスに許可をもらい、その辺をぶらぶらしていた。

 

 『兵士(ポーン)』。チェスのゲームの中で駒の数は八と、最も多いが、数が多いということで最も弱い駒とも言うべき物だろう。

 

 最初以外は一回の行動につき一マスしか進めず、相手の駒を取るときは斜めでしか取れない。要は最弱だ。

 

 唯一、他の駒と違って敵陣の一番奥まで行けば、『(キング)』以外の全ての駒に成れるという特性を持つが、そう簡単に成れるわけが無い。

 

 そう考えれば、『兵士(ポーン)』は序盤のゲームでつぶし合う存在、つまりは捨て駒みたいな感じだ。

 

 事実、俺もリアスとチェスをやった際には殆ど『兵士(ポーン)』を犠牲(サクリファイス)していた。それでも一度も勝った試しは無いが……。

 

「朱乃達みたいな特性は無いっぽいしな」

 

 悪魔となって、確かに身体能力は格段に上がったが、先日のはぐれ悪魔との戦いで朱乃達が見せたような特性は無いように感じられる。

 

 つまりはあまり使えない駒。そう言ったところだろう。

 

「幸先が悪い感じだな」

 

 一誠同様に俺も上級悪魔を目指しているのだが、未来が不安でしょうがない。

 

「修行かね」

 

 それしかないような気がする。と言うより、そうしないと翠とかにどやされそうだ。

 

「……ん?」

 

 俺は歩いているとふと、ある一つの家の前に止まった。

 

 外見はごく普通の一軒家だ。大きすぎ、小さすぎずと言ったところだ。

 

 普段なら絶対に足を止めて見ることもないごく普通の一軒家。

 

 だが、今はこの家は“普通”では無い。

 

「これは……血の匂いか」

 

 俺は悪魔になる前からもともと嗅覚が良く、悪魔になってから更に敏感になった。その為に、色んな匂いに敏感に反応しすぎて困るときもあるが。

 

 その他の四感もかなり強化されており、中々便利な物になっている。視力が上がったのは良いことだ。まあ、今は置いておこう。

 

 さて、血の匂いぐらい、何なら不思議では無いだろう。偶々怪我しているだけだとかもあり得る。

 

 だが、この家から漂ってくる血の匂いは尋常ではない。下手したら致死量クラス。と言うより、外にいる俺にまで嗅げる程の濃厚な物。コレはもう駄目なんじゃないか?

 

「……取り敢えず中に入ってみるか」

 

 普通に考えれば住居不法侵入罪。が、俺は悪魔。人間の方に適用されるかどうかは、後でリアスにでも聞いてみよう。

 

 そんなよく分からない事を考えながら、俺は家に近づく。

 

 ……物音が全然聞こえない。誰もいないのか?

 

 そう思いながら俺はドアに手を掛けた。

 

 ――キイィ――

 

「…………」

 

 開いた。簡単に。鍵すら掛かっていない。

 

 こりゃあ、マジできな臭いぞ? 油断すると痛い目あいそうだ。

 

 ドアをゆっくりと開けながら中に入る俺。

 

 電気は一つも付いておらず、中は家の中なのに寒い。いや、コレは俺が寒いと感じているのだろう。

 

「血は……あっちの方か」

 

 靴は脱がずに家の中に上がる俺。緊急時に逃げるために勘弁して欲しい所だ。

 

 なるべく足音を立てずに歩く俺。……何か、最早、泥棒だな俺。

 

 ……誰か居たら困るしな。うん。見つかったらまずいからな。

 

 ……泥棒の思考な気がしてきてしょうがないよ。

 

 何だか自虐ネタに走りながら、俺はゆっくりと歩く。

 

 やがて、リビングらしき部屋のドアをこっそりと開ける。

 

 中は仄かな灯りが付いており、それがロウソクによる物だと中を見て直ぐに分かった。

 

 部屋の中はソファーにテーブルにテレビと、特に代わり映えしない何処にでもある普通のリビング。ある一箇所を除いて。

 

「おいおい……これはヤバイだろう」

 

 壁に逆さまになって、一人の男性が貼り付けにされていた。

 

 ピクリとも動かないことから死んでいるのは明白だ。

 

 だが、貼り付けにされている方法が厄介としか言いようが無い。

 

 身体中が切り刻まれていて、中身が飛び出ている。

 

 更に、太く、大きい釘が男性の両手のひら、足、胴体の中心に刺さっていた。

 

 これヤった奴、どういう神経してやがる。大抵の人間は見た瞬間に吐くぞ。俺でも気持ち悪いとしか思えん。

 

「……何だよこれ!」

 

「っ!」

 

 新しい声。死体に気を取られていて気づかなかった。

 

 この声、まさか。

 

 まさかと思いつつ、俺は後ろを振り向く。

 

「一誠……」

 

 後ろに居たのは、我が義弟兵藤一誠だった。顔を青くして俺の後ろにある死体を見ていた。

 

「一誠、お前……」

 

 何で此処に? と言おうとしたが、それを無理となった。

 

「う、おええええぇえ」

 

「……」

 

 吐いた。それはもう盛大に。

 

 まあ、これは無理か。こんなスプラッター的な物を見ることは無いだろうし。

 

「おいおい、大丈夫か一誠」

 

 蹲って吐いてる一誠に近づいて背中をさすってやる。

 

 少ししてようやく落ち着いたらしく、顔を上げる一誠。その顔はまだ青いままだった。

 

「少しは落ち着いたか?」

 

「ああ……兄貴は何でこんなところに?」

 

「散歩してたらこの家から変な雰囲気を感じてな。様子を見にきたわけ。お前は?」

 

「俺は依頼があったから来て……」

 

「成る程」

 

 俺たちは偶然鉢合わせたわけだ。

 

 俺は死体に近づいてその下の床にしゃがみ込んで、飛び散っている血に触れてみる。

 

「……まだ乾いていないな。殺されてさほど経ってない」

 

 まだ犯人は近くにいるのか? だとすると、厄介だな。

 

「なあ、兄貴は平気なのか?」

 

「ん?」

 

 やっと回復したらしく、一誠がこちらに近づきながら聞いてくる。

 

「まあな。自分でも不思議だよ」

 

 あんまりホラー系は好きではないが、この光景に嫌悪感は抱くがそこまでのものでは無い。

 

 俺は立ち上がって壁に書かれている文字を見る。

 

「……何て書いてあるんだこれ?」

 

「『悪いことする人はおしおきよー』って、聖なるお方の言葉をかいたのさ」

 

「っ!」

 

 第三者の声! 俺は後ろを振り向いた。

 

 一誠の後ろの方に、若い白髪の青年が立っていた。

 

 年は俺たちと然程変わらないだろう。神父服らしき物を身に纏っている。

 

 顔も中々整っている。イケメンと言っても良いだろう。

 

 だが、それら全てを台無しにするかの様な……狂気な眼をしている。

 

 神父はこちらを見ると、ニッコリと笑った。

 

「おーおー。これはこれは悪魔さんたちではありませんかー。集団でお仕事ですかー?」

 

 実に嬉しそうだ。と言うか、俺たちが悪魔だってわかっている時点で危ねえな。

 

 『悪魔祓い(エクソシスト)』かもな。だとすると状況的には面倒だぞ。

 

「なあ少年よ」

 

「んー? 何ですかい悪魔くん」

 

「これやったのお前か?」

 

 俺は後ろの惨状を指差しながら言う。

 

「おうおうイエスイエス! その通りですぜぇ。どうよ、いかしているでしょ。俺様の人生の中で最高傑作の一つ」

 

「なっ……」

 

 一誠が隣で驚きの声をあげていた。

 

「まあ、それは置いておきまして。俺のお名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属しております末端にございます。あ、君たちは名のんなくて良いよ? クソ悪魔の名前なんて覚えるだけ無駄無駄。大丈夫! 今すぐ君たち斬り刻んで新しい道見せてあげるから!」

 

 何が大丈夫なのかも分からないし、そもそも何言っているのかが全く分からん!

 

 と言うかマジでどうする? というより、何で俺はこんな悪魔の敵対関係にある奴らと会うんだ! むかつくなあもう、

 

「さてさて、それじゃあ行ってみようか!?」

 

 そう言うや否や少年神父は懐から柄からしきものと拳銃を取り出した。

 

 柄のスイッチらしき物を押すと、光らしき物で出来ている刀身が現れた。

 

「リアルビーム○ーベル!?」

 

 つうか光!? 悪魔って光が大の天敵だったよなあ!?

 

「ちいっ!」

 

 俺は素早く『神 器(セイクリッド・ギア)』を展開して構えた。

 

「あらららら? 悪魔さん『神 器(セイクリッド・ギア)』持ち? 良いねえ良いねえ。じゃあ行きましょうか!」

 

 少年神父は咆吼すると、こちらに斬り掛かってきた!

 

「一誠退いていろ!」

 

「うわっ!」

 

 混乱している一誠を後ろに追いやり斬り掛かってくる少年神父の剣を『神 器(セイクリッド・ギア)』で受け止める。

 

 鈍い音と共に鍔迫り合いの状態となる。

 

 ……悪魔の俺と拮抗しやがっている。いや、俺の方が若干押しているな。膂力なら俺の方が上か。

 

 だが、この剣を喰らうのはまずいな。人間だった頃で堕天使の光の槍であんなにダメージを負ったんだ。今の俺が喰らったらゾッとしないな。

 

 こうなれば経験者を呼ぶか!

 

「一誠っ! リアスでも誰でも良い。部活メンバー呼べ!」

 

「っ! ああ、分かった」

 

 直ぐに俺の言いたいことが分かったらしく、ケータイを取り出す一誠。だが

 

「ぐあっ!」

 

 次の瞬間、一誠は痛みの声をあげて蹲る一誠。

 

「一誠! おい、どうした!?」

 

 何だ、何をされた? 音も何も感じなかったぞ?

 

「う、うーん? 何やらお仲間を呼ぶようですが、そんな事させにZE!」

 

 よく見ると、ヤツが片手に持っていた拳銃の銃口が一誠に向けられていた。

 

 俺がヤツの銃を見ているのに気がつくと、ヤツは自慢そうに話し始めた。

 

「どーよ、『悪魔祓い《エクソシスト》』御用達の光を動力とした拳銃は。光が動力だから音も銃音も一切しない優れもの♪」

 

 音無の光の銃かよ! 何て厄介なモンを。

 

「このっ!」

 

「おっと!」

 

 剣を競り返すと、少年神父は勢いを消すように後ろに飛んだ。

 

「厄介だなその銃。先にそっちから潰すか」

 

「何々、この銃欲しい? あげないよ。くそ悪魔ごときによおおおお!!」

 

 いきなり豹変した少年神父が銃口をこっちに向けてくる!

 

 落ち着け。よく見ろ。撃つのはあいつ。反応速度は俺たち悪魔の方が上の筈だ。

 

 少年神父が引き金を引こうとする。……今だ。

 

 俺は地面を蹴って少年神父目掛けて突っ込んだ。

 

「っ!?」

 

 流石に俺の行動は予想外だったらしく、動揺するがそこは経験の差と言うべきか、直ぐに動揺を引っ込めて俺の拳銃を放ってきた。

 

 ここ! 俺は右にずれる。

 

 ――ズシュウゥウ!――

 

 肉が焼けるような音がするがこの際無視。痛みも!

 

 俺は少年神父の懐に入り込み、剣を奴目掛けて振ろうとする。

 

「うおっ!」

 

 少年神父はそれを後ろに行くことで回避しようとする。

 

 だが!

 

「甘いぜ!」

 

 俺は更に踏み込み剣を左手に持ち替え、柄の先端で少年神父の手首を力強く突く!

 

 ――グキッ!――

 

「ぐおっ!?」

 

 骨が折れる音がしたと同時に少年神父は短い苦痛の声をあげて持っていた武器、光の剣を落とした。

 

 床に落ちると光の剣の刀身は消え、柄だけになった。

 

 俺は素早く光の剣を手にとった。

 

「危ない危ない。こちらの言葉に引っかかってくれて有難う。

 

「てめえ……初めから剣狙いかよ」

 

「ああ。一番面倒臭い銃に意識を向けていると誤解させてその実、剣の方を狙う。使い古されたヤツだけど、結構効果あったな」

 

 俺は光の剣の柄をくるくる回しながら言う。

 

 最も、あの銃が厄介なのに変わりない。だが、敢えて銃を狙っていると見せかけ剣を狙った。そうすれば絶対に銃に意識が向いていうはずだから、容易に落とせる筈だ。

 

 結果、俺は賭けに成功した訳だ。

 

「この、この糞悪魔がっぁぁぁあぁあ!! よくも俺様も騙してくれたな! ぐちゃぐちゃに切り刻んでやるよぉおおお!」

 

 少年神父は狂乱しながら懐からまた光の剣を取り出した。

 

 げ、あれストックあるのかよ。俺がやったことあんまり意味無かったか?

 

「はっ、ほざけ。逆にお前をバラバラに切り刻んでやるよ」

 

 獰猛な笑みを浮かべながら、俺は再度剣を構えた。

 

 そして、再び激突しようとした時、

 

「――もうやめてください!」

 

 声が響いた。

 

「っ!」

 

「あぁ?」

 

 突然の声に俺と少年神父はどちらも止まり、声がした玄関に続く方のドアを見た。

 

 ドアの辺りには金髪をした美少女シスターがいた。

 

 金髪シスターってまさか……。

 

「アーシア……」

 

 後ろで一誠が呆然と呟く。

 

 やっぱり彼女が一誠の言っていたアーシア嬢か。成る程確かに美少女だ。

 

「っ! いやあああああぁああっ!」

 

 アーシア嬢は壁の磔死体を見ると悲鳴を上げた。

 

「あらららら。アーシアちゃんはこういうのを見るのは始めてでしたっけ? 大丈夫大丈夫。直ぐに慣れて嬉々としてこの芸術を見ることできるYO!」

 

 外道少年神父の言葉にアーシア嬢は叫ぶ。

 

「フリード神父! 今回は人間を惑わしていた悪魔の討伐のはず! その方は人間ではありませんか!」

 

「はあ? 何言っちゃってんの? 糞悪魔と仲良くするやつなんざ糞悪魔と同じぐらいに価値が無い存在だぜ? それを殺して何が悪いよ?」

 

「なっ……」

 

 神父のあまりの言葉にアーシア嬢は絶句した。

 

 そして、アーシア嬢は次に俺たちの方を見ると、目を見開いて驚いた。

 

「フリード神父……その人たちは……」

 

「ん? いやいや、こいつらは人じゃありません。こいつらは下劣でクソな悪魔君たちだぜぇ? なーに勘違いしてんの?」

 

 少年神父の言葉にアーシア嬢は今までで一番驚きを表していた。

 

「イッセーさんが……悪魔……?」

 

 自分に向けられた視線に、イッセーは目を逸らすしか無かった。

 

 ……何か嫌になるな。俺自身の事ではないが、それでも、知られたく無い事を知られたくない人に知られるのは、辛いだろう。今の一誠の気持ちは如何程か……。

 

「ま、兎に角兎に角そこの紅髪野郎。てめえはぶっ飛ばしてやるよ? じゃなきゃ俺のこの気持ちが全然落ち着かねえんだよおぉおおぉぉぉぉ!! 巫山戯んなよおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!」

 

 しつこいなあ、おい!

 

 俺は確かに戦うのは好きな方だけど、こんなイカレ野郎と斬り合っても全然面白くねえ!

 

 俺が剣を構えようとしたその時、アーシア嬢が俺たちの間に入り込んできた。

 

 ちょ、何やって……。

 

 入り込んできたアーシア嬢を見て、少年神父は理解不能なモノを見るかなような目で見ていた。

 

「なーにやってんのかなアーシアちゃんは?」

 

「……もういやなんです。悪魔に魅入られたからと言って人間を殺して、悪魔だからって殺して……そんなのもう沢山です!」

 

 アーシア嬢……。今までどれだけ見てきたか。

 

 しかし、そんなアーシア嬢の叫びに少年神父は全く心動かされた気配はなく、逆に激昂した。

 

「はあ!? 何を言っているんだが全く分からないんだけどおおぉぉぉぉぉぉ!? 何寝言言ってんだこのアマ! 教会で習ったんだろ!? 俺たちは悪魔を滅ぼしてナンボ。悪魔はクソミソカスだって習っただろうが!」

 

「悪魔にだって良いヒトはいます! そこのイッセーさんは、本当に良いヒトです! 悪魔だからってそれは変わりません!」

 

 芯の強い子だ。今夜だけで色々とショッキングな場面に出くわしたはずなのに。

 

 っ! 俺はアーシア嬢のシスター服の襟を掴んで後ろに引いた。

 

「きゃっ!」

 

 アーシア嬢は突然の事に短い悲鳴を上げるが、アーシア嬢のすぐ目の前を拳銃を持った神父の手が横切る。

 

「おいおい、こんないたいけな少女に何手を出そうとしてんだお前は?」

 

「……ああもうイライライライライラするねえええ!! 何なんだめえらあぁあぁあ!」

 

 俺たちに少年神父が斬りかかろうとしたとき、床が青白く輝いた。

 

「何事さ」

 

 少年神父が呟く。

 

 やがて、青白い光は形をなしていき、魔法陣、グレモリー眷属の転移魔法陣になった。

 

「これって!」

 

 ばっ、と一誠の方を見ると、

 

「へへっ……」

 

 通話状態の携帯電話を手にした一誠が得意げに笑っていた。

 

 ナイスだ一誠! 相手に気づかれず良くやった。後でめちゃくちゃ褒めてやろう。

 

 やがて転移魔法陣が輝き、中から数人の悪魔が出てきた。

 

「やあ、助けにきたよ」

 

 いつものスマイル顔で挨拶してくる木場。

 

「……神父」

 

 いつも通りの無表情、塔城ちゃん。

 

「あらあら、大変」

 

 いつも通りの笑顔の朱乃。

 

「随分勝手な真似しているみたいね」

 

 そして最後にリアス!

 

 グレモリー眷属集合か! いいところに来てくれたぜ! ホント。

 

 ……と言うか、みんなホント普段通りだな。それだけ自分に自信があるわけか。まあ、あいつ等こういう状況何度も経験しているんだろうしな。

 

「あーらら、悪魔さんの団体さん登場か!」

 

 リアス達を見ても、奴さんは嬉々としている。

 

「ま、と言うわけだ。形勢逆転ってヤツだな」

 

「おーおー! 悪魔のくせに仲間意識バリバリバリューですか? 悪魔戦隊デビルレンジャー結集ですか? いいねぇ。熱いねぇ。萌えちゃうねぇ! 何かぁい? キミが攻めで彼が受けとか? そういう感じなのなの?」

 

 ……生理的に嫌悪し始めたよ。こいつ……。

 

「………下品な口だ。とても神父とは思えない………。いや、だからこそ、『はぐれ悪魔祓い』をやっているわけか」

 

 木場が一歩前に出て言う。

 

 『はぐれ悪魔祓い』? はぐれ悪魔みたいなもんか。

 

「あいあい! 下品でござーますよ! サーセンね! だって、はぐれちゃったもん! 追い出されちゃったもん! ていうか、ヴァチカンなんてクソくらえって気分だぜぃ! 俺的に快楽悪魔狩りさえ気が向いたときにできれば満足満足大満足なんだよ、これがな!」

 

「一番やっかいなタイプだね、キミは。悪魔を狩ることだけが生き甲斐………僕たちにとって一番の有害だ」

 

「はぁぁぁ!? 悪魔さまにはいわれたかないのよぉぉ? 俺だって精一杯一生懸命今日をいきてるの! てめぇら糞虫みてぇな連中にどうこう言われる筋合いはねぇざんす!」

 

「悪魔だって、ルールはあります」

 

 朱乃も前に出て言う。表情は普段通りだが、その視線は鋭い。

 

「いいよ、その熱視線! お姉さん最ッ高ッ!! 俺を殺そうって思いが伝わってくるよぉ! これは恋? 違うねぇ……、俺は思うよ。これは殺意! 最高! これ最高! 殺意は向けるのも向けられるのもたまらんねぇッ!!」

 

 何度も言うようだけど、こいつマジでおかしいんじゃないの? 見ているだけで嫌になるし、聞いているだけで吐き気がするわ!

 

「なら、消し飛びなさい」

 

 リアスがゾッとするような冷たい声で言う。

 

「イッセー、ゴメンなさいね。まさか、この依頼主のもとに『はぐれ悪魔祓い』の者が訪れるなんて計算外だったの……で」

 

 一誠から次に俺に視線が向く。

 

「何で貴方が此処にいるの、夏蓮?」

 

「いやあ、散歩してたら偶然ね」

 

「凄い偶然ね」

 

 リアスが嘆息しながら言う。

 

 そこで、ふと、俺の左肩を見た。

 

「夏蓮、怪我したの……? イッセーも……」

 

「え?」

 

 ああ、そういや、銃で撃たれたんだな。さっきまでテンション上がっていて忘れていたんだな。

 

「ああ、さっき光の銃で撃たれてな。まあ、大丈夫だ」

 

 俺が笑いながらそう言うと、リアスはすうっと目を細めて『はぐれ悪魔祓い』の方を見た。

 

「よくも私の夏蓮に下僕であるイッセーを傷つけてくれてわね……? 私、自分の所有物を傷つけるヒトは許さないことにしているのよ」

 

 ……怖ぁ。こないだの堕天使と対峙した時みたいな迫力を感じるな。

 

 後、「私の」のニュアンスが何か変な感じが……。

 

 リアスが手にやばいくらいの魔力を集め始め、再び開戦かと思われたが。

 

「! 部長。この家に複数の堕天使の気配が迫ってきています!」

 

 木場が顔色を変えて言ってきた。

 

「っ、ここで堕天使とやるのは得策ではないわね。朱乃! 転移魔方陣を」

 

「はいっ!」

 

 リアスの言葉に朱乃が素早く反応して、転移魔方陣を展開する。

 

「部長! アーシアも!」

 

「眷属では無い子は転移魔方陣は通れないわ。諦めなさい」

 

 アーシア嬢は置いてけぼりか……。

 

「アーシアァァァァァ!!」

 

 一誠の悲痛な叫びと共に、俺たちは転移魔方陣に包まれていった。




いかがでしょうか? ご意見待っております。


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殴り込みだ

遅れて済みません


 ――パンッ!――

 

 部室内に響く乾いた音。

 

「どう、少しは目が覚めたかしら?」

 

 音の発信源は一誠とリアスの間から。リアスが一誠の頬を叩いたからだ。

 

「部長、俺やっぱりアーシアを助けに行きます!」

 

「……どうして分かってくれないのかしらね」

 

 最早、この問答は平行線の一途だな。

 

 俺は部室のソファー座りながらこの口論を見ていた。

 

 事の発端は一誠からだ。こいつ、今日の夕方あろう事か再びあの金髪美少女シスターのアーシア嬢と出会ったのだ。

 

 ホント、この町だって別に狭く無いのにすごい巡り合わせの良さだな。

 

 まあ、今はそれは置いておこう。問題はその後だ。

 

 一誠の奴、アーシア嬢を遊び――世間ではコレをデートという気がするが――に誘ったのだ。

 

 そしてその後、堕天使にアーシア嬢を連れ去られたのだ。

 

 もうここまで来てしまえば、コレは堕天使側の問題だ。俺たち悪魔が手を出していい話ではない。

 

 嫌なもんだが、これは仕方か無い。

 

 が、この愚弟。あろうことかアーシア嬢を救い出したいと言い始めやがった。

 

 当然、そんな事リアスが許すはずがない。

 

 もし、堕天使側にいるあの子を勝手に奪えば、堕天使に悪魔が喧嘩を売ったことになってしまう。こちら側にその意志が無くてもあちら側が難癖つけてくるれば、そんな物いくらでも変えられる。

 

 仮に一誠がはぐれ悪魔だったらまだ話は一誠の単独行動で、悪魔側は知らないと言えば何とか言い逃れが出来るだろう。だが、一誠はリアスの眷属。加えて言うならば、リアスの実家は侯爵と言う。当然、悪魔界でもそこそこの地位にあるんだろう。

 

 その眷属である一誠が堕天使側に喧嘩を売れば相当マズイ事になるだろう。それを彼女は懸念しているんだと思う。

 

 ……まあ、単純に自分の眷属である一誠を危険な目に遭わせたくないのもあるんだろうけど。

 

「じゃあ、俺を眷属から外してください。俺一人でも救いに行きます!」

 

「あのねえ……!」

 

 おいおい、一誠のヤツもう意固地になってないか? あいつって昔からあんな感じで頑固だし。そろそろ止めた方が良いかな。

 

「部長」

 

 俺が止めるかどうか迷っていると、朱乃がリアスに近づいて、耳元で何か囁いた。それを聞いたリアスは顔を一段と険しくした。

 

 何だ? 俺が訝しげにしているとリアスが机から離れた。

 

「イッセー。私は急用が出来たから朱乃と夏蓮を連れて出るわ」

 

「ちょ、部長!?」

 

 おいおい、急用とはいえ話が終わっていない状態で行くのかよ? いくら何でもリアスがそんな事するはずが……。

 

 てか、俺も!? 何でさ?

 

「ほら、夏蓮。行くわよ」

 

「いや、まあそれは良いんだけど」

 

 戸惑いながらもソファーから立ち上がって部室のドアに近づくリアス。

 

「部長! まだ話は終わって――」

 

「イッセー、『プロモーション』って知っている?」

 

 イッセーの言葉を遮って、リアスが唐突に話し始める。

 

 プロモーションってあれだよな? チェスの『兵士(ポーン)』のヤツの……。

 

「プロモーション?」

 

 一誠は知らないようで首を傾げていた。

 

「イッセー。貴方は『兵士(ポーン)』が最弱の駒だと思っているわね? 夏蓮も」

 

「うぐっ」

 

 な、何故ばれた? 顔に出てたか?

 

「確かに普段ならば『兵士(ポーン)』は最弱の駒よ。でもね、ある条件を満たせば『兵士(ポーン)』は特殊な能力を発動することが出来るの。それが『プロモーション』よ」

 

 えーと確か……。

 

「通常のチェスと同様、敵陣地の最奥、最も重要な場所まで入り込めば、昇格できるのよ。つまり、私が『敵地』と認めれば貴方は『(キング)』以外の駒全てになる事が出来るの」

 

 あー、アレか。成る程。『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』にもその能力があるという訳か。

 

 つまりは、俺と一誠は朱乃や木場、塔城ちゃんの『女王(クィーン)』や『騎士(ナイト)』。『戦車(ルーク)』になる事が出来るという訳か。

 

「それともう一つ。神 器(セイクリッド・ギア)について。イッセー、神 器(セイクリッド・ギア)を使う際、これだけは覚えておいて」

 

 リアスは一誠に微笑みながら言う。

 

神 器(セイクリッド・ギア)は思いの強さで力を高めていく。強く思いなさい。強く思えば思うほど例え悪魔の貴方でも神 器(セイクリッド・ギア)は答えてくれるわ」

 

 ……強く思う。何か感情論だな。神様が造った物らしいから、そういう摩訶不思議な現象を起こすのかもしれないな。

 

「さ、行くわよ二人とも」

 

「はい」

 

「リョーカイっと」

 

 先に出た二人の後に続くように出ようとして、扉付近で立っていた木場の前で少し立ち止まる。

 

「あー木場」

 

「はい、何ですか先輩?」

 

 うーん、何か改まって言おうとすると何だか恥ずかしいな。普段から愚弟、愚弟と言っているからだろうな。けどまあ、言わないとな……。

 

「その、一誠のことよろしく頼むよ? ああ見えて結構無茶するからな」

 

 一誠には聞こえないように小さく言うと、一瞬、木場は驚いたような顔をしたが直ぐにいつもの笑みを浮かべた。

 

「何だかんだ言って弟が心配なんですね」

 

「うっせ。……弟を心配しない兄はそうそういねえよ」

 

「そうですか……分かりました。任せてください」

 

 お、やっぱり木場はさっきのリアスの言葉の意味を理解していたか。さすが、イケメンは頭の出来も違うな。

 

「じゃ、よろしく頼むわ」

 

「はい、それでは」

 

「おう」

 

 それだけ言い、俺は部室から出た。

 

 廊下に出ると、二人はニヤニヤして待っていた。……何だよ、気味悪いな。

 

「ふーん、貴方、本当はイッセーの事がとても心配なのね?」

 

「あらあら、全くその通りですわね」

 

 うぐ! 聞こえていたか。てか、何だその顔。まるで弄るモノを見つけたような顔は!

 

「普段はあんなに愚弟、愚弟って言っているのに」

 

「ホントですわ。よく説教しているって噂が随分流れていますし」

 

「「ニヤニヤ」」

 

「うるせーよ! 何だそれもう恥ずかしいな! 弟を心配する兄貴がいて何が悪い!?」

 

「いえ、別にそれは良いのよ? 唯ね……」

 

「貴方みたいに普段から弟を怒っている人が心配するなんて言うなんて……」

 

「「ツンデレみたい……」」

 

「あんた等何!? それが言いたかったの!?」

 

 もうやだ! シリアスな展開じゃ無かったの!? 何だか俺を弄るために外出たみたいじゃん。

 

『えーと、先輩? 何だか騒がしいんですが……』

 

「何でも無い! 直ぐに行く!」

 

 あーもう、すっげー恥ずかしい。

 

「ほら、急用なんだろ? 速く行こうぜ!」

 

「はいはい」

 

「うっふふふふ」

 

 早足で行く俺の後を、リアスと朱乃が笑いながら付いてきた。

 

 もう絶対あんな事言わん!

 

 ******

 

「で、急用って何だよ」

 

 夜の町を歩きながら俺はリアスに聞いた。

 

 あの後、転移魔方陣で町の外れにある森に来た俺たち。

 

 俺は森の中を歩きながらリアスの後を付いていった。

 

 リアスが俺の質問に答える。

 

「さっき朱乃から報告があってね。何でも堕天使数体がこそこそ動きを見せたそうよ」

 

 っ! 堕天使が?

 

「おいおい、ここはお前の領土なんだろ?」

 

 悪魔界の公爵家のリアスは悪魔のお偉いさんからここら一帯を領土として頂いているそうだ。

 

 と言っても、別に税を取り立てるみたいなことはしない。ただ、此処での悪魔営業をお偉いさんに正式に許可されたというわけだ。

 

「あれ? 今回の堕天使の行動に介入しないんじゃなかったのか?」

 

 そう、リアスは今回の件は一切介入しないと言ったのだ。

 

「ええ。けどね、ちょっと気になることがあるの。それを少し確かめにね?」

 

「なーるほど」

 

 ……何が「少し確かめにね?」だ。瞳から戦意が漂っているぜ。

 

 つーか、だからさっきあんな事言ったのか。

 

 『私が『敵地』と認めれば貴方は『(キング)』以外の駒全てになる事が出来るの』

 

 コレはつまり、リアスがGOサインを出したと言う事だ。

 

 全く、優しいよな。リアスは。分かっていたけど。

 

 一誠? 必ずアーシア嬢を助け出せよ? でないとリアスに申し訳が立たなくなるだろうよ。

 

「夏蓮、場合によっては戦闘になるわ。十分気をつけてね」

 

「はいはい。あ、そうだ。なあリアス」

 

「何?」

 

「俺もさ『プロモーション』やってみたいんだけど、出来る?」

 

 『プロモーション』の話を聞いていたら、何だか俺もやってみたくなった。俺もまだ『女王(クィーン)』は無理だろうから『騎士(ナイト)』になってみたいんだよな。

 

「ええ。私が許可すれば出来るわ」

 

「よしっ!」

 

 やったね。楽しみになってきた。

 

「あらあら。何だか楽しそうですね」

 

「ん? ああ、まあね。……この力を試してみたい」

 

 俺が笑みを浮かべると、リアスと朱乃は若干表情を赤くしていた。

 

「え、と……何?」

 

「え、いいえ! 別に……」

 

「ええ。唯、貴方の笑みが……その……」

 

 ? 何だ、はぐらかすな。普段ならあんまりこういう事しないのに。

 

「……思わず見惚れた、何て言えないわね」

 

「……ですね」

 

「何か言ったか?」

 

「「何でも無いっ!」」

 

 何だよ。何か寂しいな。

 

 ******

 

 それから少しまた歩いて、森の開けた場所に来た俺たち。

 

「さて、居るのは分かっているわ。出てきなさい、堕天使達!」

 

 リアスが高らかに叫ぶと、空から三人の堕天使が羽を羽ばたかせながら現れた。

 

「あ」

 

「ふむ、君はやはりグレモリーの関係者か。成る程」

 

 三人の堕天使の内の一人、アレは俺の腹をぶっ刺した野郎! 確か、ドーナシークって言ったか。

 

「ごきげんよう、堕ちた天使さん達。ちょっとお話がしたいんだけど」

 

「ほう、私どもでよければ答えよう」

 

 仰々しく返すドーナシークだが、その瞳には見下しの感情が込められていた。

 

 見れば、残りの二人にもその見下し感が多分に含まれていた。

 

 そんな視線の感情をちゃんと理解しているであろうリアスはそんな事をまるで出さず、話を続けた。

 

「最近、あなた達が私の領土で活動して居るみたいだけどそれは堕天使全体での計画なのかしら? 一応そういう事ならちゃんと聞いておきたくてね」

 

「あら、そんな事を聞きに来たの?」

 

 ゴスロリを来た堕天使が笑いながら言う。

 

「ふっ、今回はあくまで我々単独のモノだ。しかし、今回の件により同志レイナーレは至高の治癒の能力を手に入れ、アザゼル様に気に入られるだろう」

 

 

 ドーナシークが両手を大きく広げながら大袈裟に言う。

 

 と言うか、普通にバラしたよ、こいつら。自分たちが上層部無視して勝手に動いているって。

 

「へえ……」

 

 ドーナシークの言葉を聞いたリアスが目を細める。

 

「それにしても貴様たち、たった三人で我々に相対してどうする気だ? 大人しく帰るなら見逃してやっても良いぞ?」

 

 最後の堕天使が上から目線でものを言ってくる。

 

 それに同調するように、他の堕天使たちも笑っている。

 

 完全にこちら側を下と思っているな。女二人に男一人。弱者と思われているのかね?

 

 しかし、そんな安い挑発、我らが主様には全然効果は無いようだ。

 

「……自分たちの実力も弁えず、愚かなこと。良いわ、堕天使総意の計画では無いのね。なら、何の事前通告も無く私の活動領土に入った罪で消し飛ばしてあげるわ!」

 

 リアスが高らかに宣言すると、堕天使が殺気立ち始めた。

 

「言ったな小娘が! 悪魔風情が我ら至高の堕天使を倒すだと? おごがましいわ!」

 

 そう吠えると、三人の堕天使が翼を広げて光の槍を出現させた。

 

 俺たちも臨戦態勢に入る。

 

 そこで俺はリアスに話しかける。

 

「なあ、リアス」

 

「何?」

 

「あの俺を殺った堕天使。あれ、俺にくんない?」

 

「……リベンジ?」

 

 リアスの言葉に頷く。

 

「ああ。やられっぱなしは気にいらねえ。だから――」

 

 俺は『神 器(セイクリッド・ギア)』を展開して、切っ先をドーナシークに向けた。

 

「あれは俺が狩る。誰にも邪魔はさせない」

 

「そう……なら、あの堕天使は貴方に任せるわ。けど、自分で言ったんだから、ちゃんと勝ちなさいよ」

 

「ははっ! 安心しろ。――負ける気がしない」

 

 俺の言葉にドーナシークは怒りが頂点に達したようだ。

 

「良いだろう……貴様は私自らが消滅させてくれるわ!」

 

「はっ、吠えてろ。……その首、体とおさらばさせてやるよ」

 

 俺は剣を構えると、叫んだ。

 

 既にリアスから許可は貰っている。やってみるぜ!

 

「プロモーション『騎士(ナイト)』!」

 

 俺がそう宣言すると、体の内から力が沸くのが分かる。

 

 コレが『プロモーション』。すげえな。本当に力が沸く。

 

「プロモーション!? 貴様、『兵士(ポーン)』か!」

 

「ああ。さて、やるか」

 

 そう言うと、俺は地面を蹴った。

 

 っ! 俺は自分で出した速度に思わず驚いた。

 

 速い! 木場を見てて分かっていたが、『騎士(ナイト)』がここまで速いとは……。

 

 何とか気を取り直して、俺はそのままドーナシークに斬り掛かった。

 

「はああっ!」

 

「むっ!」

 

 ドーナシークが光の槍で俺の剣を受け止める。

 

「成る程! 悪魔となったことで身体能力が上がっているな! プロモーションの影響もあるだろうが、それでも中級堕天使の私と互角とはな!」

 

「はっ! アンタ中級か。良いねえ。アンタを倒せば更に強くなれる! そんな気がするぜぇ!」

 

 俺は力を更に入れてドーナシークを押し返す!

 

 押し負けたドーナシークは翼で体勢を整えながら高笑いする。

 

「はっはははは!! 成る程、君は戦闘好きか! 欲望に忠実な悪魔だな」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ! 一応ね!」

 

 確かに戦うのは好きだけど、何か他人に言われるのは心外だな!

 

「はっ!」

 

「むっ!」

 

 何度も切り刻む俺たち。

 

 膂力は殆ど同じ。力で押し返すのは至難のわざだ。

 

 だが、『プロモーション』して『騎士(ナイト)』になっているせいか、スピードはこっちの方が上だ。徐々に、ヤツに傷を負わせ始めている。

 

 このまま行きたいところだが、残念ながらこのままではヤツを倒すとまではいかないだろう。

 

 要は、決定打が無いんだ。必殺技ってやつ? もしくはそれに準ずるモノ。

 

 というか、この神 器(セイクリッド・ギア)、どんな力なんだ? 唯の切れ味が良いって訳じゃ無いだろうし。リアスも詳しくは知らないって言ってたしなぁ。

 

 さてさて、どうするか?

 



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決着つけようか

遅れて済みません。何とか一章を終わらせたい……。


 暗い森の中。俺とドーナシークは槍と剣で斬り合っていた。

 

 実力はほぼ拮抗。お互い、じわじわと体力が減っていくのが分かってくる。

 

 ――このままだと、俺の方がさきにバテるかな?――

 

 剣を右に振るいながら俺はそんな事をボンヤリと考えていた。

 

 どーしたもんかね、これ。木場なら何か有効な手立てでこんな堕天使ぶった斬るんだろうけど。今の俺じゃなあ……。

 

 ああ、一度で良いから一撃必殺ってやつをやってみたい……。以前、一誠からゲーム借りたときのあの快感。たまんなかった。

 

 ゲームの時にあんな感じだし、実際にやったらどんだけ気持ちいいのか……。

 

 とはいえ、ゲームと現実は違う。現実は、そう甘くないんだよねえ。

 

 さてさて、どうするか……。

 

 まあ、技出せば何とかいけるかも知れないが、しょーじき堕天使効くかどうか……。

 

 それは追々確かめていくことにしようか。

 

 さて、先ずは――

 

「おい、俺の神 器(セイクリッド・ギア)

 

「ん?」

 

 突然止まった俺を訝しげに見るドーナシーク。

 

 俺は構わず神 器(セイクリッド・ギア)に話しかける。

 

神 器(セイクリッド・ギア)は思いに応えるらしいが、てめえ、いつまで寝てやがる。さっさと起きろ」

 

 リアスが驚いたんだ。神器(これ)は相当レアな物なんだろう。否、じゃなきゃ俺が許さん。

 

 大抵はこういうのすごい能力を持っているのが相場なんだよ。だから持って無いとか言うんじゃねえぞ。

 

「いい加減黙り込むは無しだぜ?――力寄越せやっ!」

 

 俺の思いに応えろ! そう思い、叫んだ瞬間だった。

 

『Silver Dragon Set up』

 

 神 器(セイクリッド・ギア)から機械的な音声が流れる。そして次の瞬間、俺の神 器(セイクリッド・ギア)が銀色に輝き始めた。

 

「何だ!?」

 

 ドーナシークが突然の現象に驚き、後ろに距離を取った。

 

 かくいう俺も驚いているわけでして……。

 

 つうか、マジで? マジで真の力発揮って感じ? 何か漫画的な展開になり始めているな。まあ俺が望んだ事だから、それはそれで良いけど。

 

 光が収まると、神 器(セイクリッド・ギア)はその形状を多少変化していた。

 

 最大の変化は柄と刀身の間に澄んだ宝玉が埋め込まれいた。

 

 っ! 俺の頭の中に、この神 器(セイクリッド・ギア)の使い方が流れ込んでくる。 

 成る程ね。そういう能力(チカラ)を持っているのか。あんまり見ないヤツだな。

 

 が、おもしろい。コレ使ったら色々と便利だな。

 

 よーし、試してみるか。

 

 善は急げ。その言葉通り、俺は剣の先をドーナシークに向けた。

 

「おい、ドーナシーク」

 

「何かね?」

 

「悪い。この勝負、俺の勝ちだ。テメエに万に一つも勝ち目は無いよ」

 

 俺がそう言うと、ドーナシークは殺気を一際高く発した。

 

「言ったな……高々ほんの数日程度の悪魔風情が、舐めるなっ!!」

 

 激昂したドーナシークが今までの中でも一番でかい光の槍を放ってきた。

 

 もし、喰らったら相当マズイだろう。()()()()の話だが。

 

 俺はこちらに飛んでくる光の槍に合わせるように剣を盾にするようにして、胸の前に構えた。

 

 そして、槍が剣に触るであろう寸前で、俺は言った。

 

「――喰らえ」

 

『Absorb!!』

 

 剣がそう音声を発すると、光の槍がふっと消えた。

 

「なっ!?」

 

 突然の出来事に、怒りに燃えていたドーナシークが驚きを露わにした。

 

「どうした? ご自慢の光の槍が突然消えて驚いた顔になっているな?……何されたか分からないか?」

 

「っ!」

 

 一瞬、図星にされた顔になったが、直ぐに気を取り直して、再度光の槍を生み出した。

 

「舐めるなよ……何をされたかは確かに分からなかったが、次は当てる!」

 

 刹那、再びドーナシークは光の槍を放ってきた。

 

「はっ!」

 

 俺は剣の範囲に近づくと同時に右横に剣を振った。

 

『Absorb!!』

 

 再び光の槍が消える。

 

「な、何だと……?」

 

 さすがの光景に、ドーナシークは一瞬呆然となった。

 

 だが、はっ我に返り何かに気がついたようだ。

 

「先程も剣で……? っ! そうか、貴様の神 器(セイクリッド・ギア)か……!」

 

 ようやく気がついたか。俺は笑みを浮かべる。

 

「そうそれが俺の神 器(セイクリッド・ギア)、『灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』の能力の一つ。相手の力の吸収だ」

 

 神 器(セイクリッド・ギア)から流れ込んできた力の説明。それは、相手の力の吸収だった。

 

 剣に触れた超常の力全て吸収してしまうのだ。

 

 一応、何でもかんでも吸えるらしい。悪魔にとって有害な光を吸収してしまうのだから恐ろしいモノだ。

 

 一方、ドーナシークは苦々しげに俺の事、正確に言うならば神 器(セイクリッド・ギア)の方を見ていた。

 

「『灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』……十三種ある神滅具(ロンギヌス)にこそ名を上げてはいないが……使い方次第ではそれらに匹敵するという」

 

 神滅具(ロンギヌス)? 確か、キリストを貫いたっていうあの槍のことだよな? しかも十三種あるってどういう事だよ?

 

「危険だな……その神 器(セイクリッド・ギア)。いや、貴様もか。此処で倒すさねば、後々我々堕天使の大きな脅威になるだろう」

 

 

「脅威、か。嬉しいね。そう言われるという事は、実力が認められているという事だな」

 

 俺の言葉にドーナシークは鼻を鳴らす。

 

「ふん、粋がるな小僧が。……だが、次で確実に殺してやる。体全てを消滅させてな!」

 

 そう言うと、ドーナシークは今までで一番大きい光の槍を生み出した。

 

「確かにその能力は危険だ。問答無用で吸われてしまうのだからな。だが、触れないように刺せれば良い。それだけのことだ」

 

 あーらら。まあ、その通りなんだけど。

 

 けどさ、さっきも言ったはずだぜ? ドーナシーク。

 

「勝つのは俺だ。それはもう覆らねえよ」

 

「言ったはずだ……粋がるな! 小僧っ!」

 

 ドーナシークは今度は槍を持ったまま突進してきた。

 

 どうやら投げつけては意味が無いと判断したようだな。

 

 その判断は正しいと言える。あれくらいのスピードなら、どの方角でも何とか対応出来るしな。

 

「はあああああっ!!」

 

 ドーナシークはジグザグに動き回りながら俺に迫ってくる。

 

「…………」

 

 俺は冷静に、剣を構え、ドーナシークの動きを見た。

 

 完璧とは言えないが、目で追いかけられる。なら、問題無い――!

 

「ドーナシーク。テメエは一つ忘れている」

 

「……?」

 

「確かに俺の神 器(セイクリッド・ギア)の能力は相手の力の吸収。だけど、その吸収した力は何処に行くと思う?」

 

 吸収したら、それはどこか別の場所にあるもの。ならば、何処にあるのか?

 

 答えは単純。

 

「ずっと神 器(セイクリッド・ギア)の中にため込んでいるんだよ!」

 

『Liberate!!』

 

 神 器(セイクリッド・ギア)がそう音声を発すると、剣の刀身が光り輝き始めた。

 

「っ、そうか! 『灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』のもう一つの能力は――!」

 

 ようやく気がつき、急停止しようとするがもう遅い。

 

 一瞬ヤツは止まったが、その分、俺が前に行けばいい。

 

 俺は一歩足を踏み込み、ヤツの懐に入るようにして剣を横に構えた。

 

「はあっ……!」

 

 短い気合いと共に俺は剣を振るう。

 

 一瞬の内。ほんの僅か、完全な静けさが俺の周りを覆う。

 

「……バカな」

 

 静寂を破ったのはドーナシークだった。

 

 彼は上半身と下半身をずらしながら呆然と呟いた。

 

 何故彼の体が二つにずれようとしているのか? 実に単純明快、俺が斬った。

 

 元々の斬れ味と更にもう一つの能力が合わさった結果だ。

 

 『灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』のもう一つの力。それは”解放”だ。

 

 神 器(セイクリッド・ギア)内にため込んだ力を一気に解放し、刀身に纏わせる。そうすることでその力を一定の間、使うことが出来る。

 

 つまり、俺でも堕天使の光を扱うことが出来るのだ。

 

 だが、この世に完璧な物が無いように、この神 器(セイクリッド・ギア)にも弱点がある。

 

 吸収出来る力には限度がある。許容量を超えてしまうと俺にその分のダメージが伝わってしまう。

 

 何でもかんでも吸えるのは良いけど、色々と試行錯誤していく必要があるな……。

 

「ん?」

 

 物思いに耽っていると、ふとドーナシークがどうなったか気になって、下を見てみた。

 

「うーん、もう死んでいたか」

 

 残念なことにもう死んでいた。うん、しゃーない。

 

「アンタの御陰でまた一つ、強くなれたよ。ありがとう」

 

 もう聞く事出来ないだろうけど。そうノリツッコミをしながら、俺はリアス達の方に歩き始めた。

 

 ******

 

「あら、やっと終わったみたいね」

 

「……取り敢えず、遅れてごめんなさい」

 

 どうやら大分離れていたみたいで、少し歩いて元の場所に戻ってみると、既に戦いは終わっているらしく、朱乃が巫女姿で箒を持って辺りに散らばっている黒い羽――恐らくは堕天使の羽だろうが言わないでおこう――を掃除していた。

 

 

「良いわよ、別に。どうやらちゃんと勝ったみたいですしね」

 

「ああ。神 器(セイクリッド・ギア)の能力、ようやく使えるようになってな。いやあ、中々使いやすい」

 

 俺は『灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』を展開しながら能力の説明をした。

 

「……伝説のドラゴンである 銀  星  輝  龍(シルヴァリオ・シュテル・ドラゴン)リンドヴルムの力を宿した存在。噂に違わずの力のようね」

 

 リンドヴルム。聞いた事がある名前だ。

 

 流星のように飛ぶ銀色の龍だとか。

 

「しかし、他の堕天使は? 勝ったんだろうけど、逃がしたのか?」

 

 俺の言葉にリアスが首を振る。

 

「まさか。この私が消し飛ばしたわ」

 

 ……え、まさか文字通り消したの? 羽だけ残して?

 

「部長は滅びの力を受け継いだ公爵家の跡継ぎで、紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)の異名を持つお方なんですよ?」

 

 怖ぇなおい。普段から気をつけているけど、これからはリアスに逆らわないようにしよう。うん。

 

「さて、と。これからどうするんだ?」

 

 堕天使は片付けたから教会の方が気になるな。

 

 木場に頼んだとはいえ、正直な所、心配な部分がある。あいつ、熱くなりやすいからな。

 

「心配しなくても、これから教会にジャンプするつもりよ。多分まだあっちが終わっていないと思うから」

 

「成る程……って、何だよ、心配してるって?」

 

「あら、可愛い可愛い弟のイッセーの事が心配なんでしょ?」

 

「待て待て。弟は認めよう。義弟だしな。が、その前の可愛い可愛いって何だよ!?」

 

「あらあら、素直では無いですわね。正直に心配だって言えば言いのに」

 

 こ、こいつら……。

 

「あのなぁ……あいつは確かに弟だが、別に心配するほどじゃ無いんだよ」

 

「なるほど。心配する以上に信用していると」

 

「……おい」

 

「そして、それでもやっぱり不安だから祐斗君にイッセー君の事を任せたと」

 

「おーい、ちょっと待てやコラ」

 

「「……ニヤニヤ」」

 

「何コレ!? さっきと同じパターンになっているぞ!? あれか。俺はこのネタをずっと弄られるのか!?」

 

 しかも何だニヤニヤって! 言葉に出すとか余計腹立つ!

 

「さ、夏蓮が心配でしょうがないらしいし行きましょうか。朱乃、後始末お願いできる?」

 

「はい部長」

 

「なあ、そろそろ文句言って良い? 良いよな?」

 

 俺の抗議は空しく無視されて、結局、後からくる朱乃を置いて俺とリアスは転移で教会に向かった。

 

******

 

 再び転移魔方陣をくぐって教会に行ったわけだが……。

 

「絶賛大ピンチ?」

 

「別にピンチでも無いわ、これぐらい」

 

「いやいや、こんな無双系のゲームに出そうな感じの状況だぜ? ピンチじゃね?」

 

 俺とリアスは教会の地下らしき場所にジャンプした訳だが、状況は凄い物だ。

 

 黒いフードを目深く被った薄気味悪い連中が光の剣を手に大量にいた。

 

 それと相対するように木場と塔城ちゃんが俺たちの前に立っていた。

 

「部長、夏蓮先輩!」

 

「……どうも」

 

 二人とも大した怪我も無く、まだまだいけそうな感じがあった。そう考えればあまりピンチでも無かったか。

 

「一誠はどうした? 一緒じゃ無いのか? てか、あのシスター嬢は?」

 

「兵藤君は上に。あのシスターも一緒です」

 

 どうやら先に逃がしたようだな。ま、あいつにはまだきついかもな。

 

「さて、俺はさっさと上に行きたいんだが……こいつ等通してくれるかな?」

 

「無理でしょ。だから……消し飛ばして通るわよ」

 

 リアスが紅いオーラを発しながら言う。

 

 ……何てオーラだ。コレがリアスの力か。

 

「っ! 紅髪、グレモリー一族の者達か!」

 

 黒フードの奴らが一斉に殺気立ち、こちらに向かってきた。

 

「実力も弁えず愚かなこと……消し飛びなさい!」

 

 リアスが手にやばそうな魔力を集めると、それを黒フードの奴ら目掛けて放った。

 

 そのまま黒フードの奴らにぶつかり……

 

「すげえな……」

 

 俺は驚きの声しか出なかった。何せ、放たれた魔力が黒フードの奴ら数人に当たると、奴らは声も出さずに消えたのだ。文字通り。

 

「コレが滅びの力か」

 

 相手に何もさせないで、触れた部分を完全に消した。消すというよりは、抉るだろうか。体全てが消えたやつもいるし。

 

 どうやら俺はとんでもなく強い悪魔の下僕になってしまったみたいだな。

 

「さあ、私の可愛い下僕悪魔達。目の前の敵をグレモリー眷属の名において、消し飛ばしてあげましょう!」

 

 その言葉が戦闘再開の合図だった。

 

 

 



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決着×後日談

色々と受験勉強が忙しく中々書けませんでしたが、取り敢えずこの章を終わらせると、またしばらく出来ません。

尚、書いていて支離滅裂になっていると思われますが、お優しい心で見てください。


「案外、楽勝だったな」

 

 俺はそう言いながら、神 器(セイクリッド・ギア)に付いた血を払った。

 

「いえ、部長と先輩が力を貸してくれた御陰ですよ」

 

 木場が剣を鞘に収めながら笑いながら言う。

 

 よく言うよ。俺たちが居なくても片付けただろうに。

 

「けど、こんな事して良いのか? 教会に、堕天使に喧嘩を売っているようなものだろ?」

 

 部室でもオーケー出していたけど、よくよく考えればマズイ事じゃないのか?

 

「それなら大丈夫よ」

 

「いやまあ、大丈夫だからこういう事してんだろうけど……」

 

 俺の疑問に答えるようにリアスが言う。

 

「ここは元々神に見捨てられた教会。神父やシスターが居なかったのが良い証拠。教会側はこんな場所で戦闘が起こっても大してアクションは起こさないわ。……それに、こういった小競り合いは年がら年中起きているの。いちいち問題にしてたらきりが無いわ」

 

 成る程。神に見捨てられた教会か。何か、少しこの教会が可哀想に思えるな。

 

 神を敬い、崇め、信じた為に作った場所の末路がコレか。この教会を建てた人たちも、建てた当初はこんな事になるとは夢にも思っていなかったんだろうし。聞いたら多分ショックだろうな。

 

 って、悪魔である俺がそんな事を言っても仕方ないか。

 

「さて、上に行ってイッセーの様子を見に行きましょう。もう終わっていると思うから」

 

 大丈夫かあいつは。さっさと見に行くか。さすがにもう一回に死なれたら目覚めが悪い。

 

「木場、上の階段はどっちだ?」

 

「ああ、あっちです」

 

 そう言った木場が指さした場所に、俺は足早に向かった。途中、残って居る黒フードの奴らの死体を踏まないように。

 

「――ほらね、なんやかんや言って、夏蓮、イッセーの事が心配なのよ」

 

「みたいですね。正直、意外でした」

 

「……いつも、お説教しているイメージがありました」

 

「まあね。普段はツンツンしているけど、いざとなればデレる――いわゆるツンデレってヤツよ」

 

「いや、部長、それなんか違う気が……」

 

「はいはいー! 君たちー。何しているかな-?」

 

 まだやるのかそのネタ。もう頼むから勘弁してくれ。

 

「あのさ……もうそのネタで弄るの止めてくれないか? いい加減突っ込むのも飽きた」

 

 割と真剣に俺がそう言うと、リアスが苦笑いを浮かべた。

 

「そうね。少しやり過ぎたわね。ゴメンなさい夏蓮。祐斗、小猫も良いわね?」

 

「はい」

 

「……分かりました」

 

 リアスに続き、木場と塔城ちゃんも頷いた。

 

「さて、今度こそイッセーの所に行こうか」

 

******

 

「……凄い有様だな」

 

 俺は、教会内部を見て唖然とした。

 

 内部はまるで嵐が通り去ったかのように滅茶苦茶で、長椅子などはまるで何か鋭利なもので切られたかのようの切断されているものが多かった。

 

 さらには十字架に貼り付けにされている聖人の頭が完全に無くなっていた。コレは一誠じゃなくて堕天使達だろうな。あいつ、こんな悪趣味は無いだろうし。

 

 壁には大きな穴が開いており、外が丸見えだ。

 

 凄いな。こんな戦闘が小競り合いか。実際の戦闘はもっと凄い事になっているんだろうな。

 

 ん? あれは一誠か。

 

 壁近くで一誠が肩で息をしながら立っていた。

 

 ……どうやらやり遂げたみたいだな。

 

「お疲れさん。勝ったみたいだな」

 

 俺は一誠に近づきながら言った。

 

「兄貴……おう、やってやったぜ」

 

 一誠は震える足で立ちながらサムズアップを俺に向けた。

 

 ……立っているのもやっと、といった感じだな。

 

 そう俺が考えた瞬間、遂に一誠が倒れ込もうとする。

 

「おっと」

 

 俺は一誠の肩を抱くようにして支える。そして、そのまま肩を持つ。

 

「お疲れさん。褒美に俺の肩を貸してやろう」

 

「……へっ。所で、用事の方は終わったのか?」

 

「ああ。終わったからここに来ているんだよ」

 

「それもそうか」

 

「お疲れ様、イッセー」

 

 後ろから声が。振り向くと、リアスが笑顔を浮かべながらこちらに歩み寄ってくる。

 

「部長」

 

「どうやら無事に勝ったみたいね」

 

「はい。何とか……」

 

「さすがは私の下僕ね」

 

 リアスが一誠の頭をよしよしと撫でる。

 

 一誠は一誠で気持ち良さそうに目を細めている。猫か犬かお前は。

 

「さて、またずいぶん派手にやらかしたわね」

 

「あらあら、どうします部長?」

 

 どうやら後片付けを終えたらしく、朱乃がこちらに歩いてきた。表情は困り顔だ。なお、服装は巫女服からいつの間にか制服に変わっていた。

 

「な、何かやばいんですか?」

 

 一誠が恐る恐る聞く。

 

「教会は神、つまりは天使サイドに所属するものだから、そんな場所で暴れたらあるのは報復よ」

 

 うーん、やはり悪魔と天使にも色々とあるのな……。

 

「けど、それは今回は無いでしょう」

 

「どうしてですか?」

 

「さっき夏蓮にも言ったけど、ここは元々神に見捨てられた教会。神父やシスターが居なかったのが良い証拠。教会側はこんな場所で戦闘が起こっても対してアクションは起こさないわ。……それに、こういった小競り合いは年がら年中起きているの。いちいち問題にしてたらきりが無いわ」

 

「な、なるほど」

 

「部長、持ってきました」

 

 ズルズルと何か引きずるような音と一緒に一誠が開けた壁の穴から来たのは、塔城ちゃんだった。

 

 そして、俺たちの前まで来ると、引きずっていた物を放り投げた。

 

 見れば、それは奇抜な格好した堕天使の女だった。

 

 気絶しているな。顔面に殴られたような後が残っている。

 

 

「ありがとう、小猫。さて、起きてもらいましょうか。朱乃」

 

「はい」

 

 朱乃が上に手をかざすと、宙に水の塊が出現した。

 

 おお、悪魔の魔力ってやつか。俺も出してみたいな。

 

 朱乃が手を下におろすと、宙に浮かんでいた水が落ちて堕天使に被る。

 

 水を被った堕天使は、意識が目覚めたらしく、咳き込みながらゆっくりと目を開けた。

 

 ……よくよく見たらこいつ、一誠の元カノの夕麻ちゃんじゃないか。

 

 そうか、こいつが……。

 

 俺はフツフツと怒りが自分の中で湧き上がるのを感じた。

 

 っ! 落ち着け。コレは俺が出していい怒りじゃない。堪えろ。

 

「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」

 

「……グレモリー一族の娘か……」

 

「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い間でしょうけど、お見知り置きを」

 

 笑顔を浮かべながら言うリアスだが、堕天使レイナーレは睨みつけるだけだ。ま、当然の反応だがな。

 

 が、途端にレイナーレは嘲笑うように笑う。

 

「してやったり、とか思っているのでしょうけど残念ね。今回の件は上の者達には黙ってやっているけど、私に賛同してくれる堕天使達がいる。今に彼らが……」

 

「残念だけど、堕天使ドーナシーク、カラワーナ、ミッテルト。彼らは来ないわ。私達が滅してしまったもの」

 

「そんな! 嘘よ!」

 

「この羽が証拠よ。貴女なら分かるでしょ?」

 

 そう言ってリアスが三枚の黒い羽をレイナーレの前で散らす。

 

 それを見て、本物と悟ったレイナーレは再び絶望の表情になった。

 

 上層部に黙って勝手な行動しているんだから、当然そっちからの援軍は無い。

 

 更に、自分の計画に賛同してくれる堕天使達も俺やリアスに寄って始末された。

 

 完全な詰みだな。これはもう、こいつに打つ手は無い。後に残るのは死ぬだけだろう。

 

 そして、ふとリアスが一誠の左手――正確に言うならば左手の赤い籠手だ――を見て、驚いた顔を見せた。

 

「赤い龍の紋様……今まで見えなかったのに……そう、そういうこと」

 

 何かに納得したようにしきりに頷いていたリアスは改めてレイナーレの方を向いた。

 

「堕天使レイナーレ。貴女の敗因は一誠の神 器(セイクリッド・ギア)について大きな勘違いをしていたからよ」

 

 レイナーレが胡乱げな表情を作る。

 

「――『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)神 器(セイクリッド・ギア)の中でもレア中のレア。貴女も聞いた事ぐらいはあるでしょ?」

 

 レイナーレがここに来て一番の驚愕の顔を見せた。

 

「ブ、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』……神滅具(ロンギヌス)の一つ……極めれば神をも滅ぼせるという……そんな代物がこんな子供に宿っていたというの!?」

 

「人間界の時間にいて十秒ごとに自身の力を倍にしていく力。初めはそれほどでも無いけど、倍加の能力に際限は無いからやがてはどんな所有者でも神をも越える力を手に入れられる」

 

 おいおい……なんだその力。

 

 俺は一誠の神 器(セイクリッド・ギア)のとんでもない力に思わず唖然とした。

 

 つまり、最初は弱くても、二倍、四倍、八倍、十六倍、三十二倍、六十四倍、百二十八倍と、延々と増え続けるということだ。

 

「けど、倍加には時間が掛かるからその前に倒そうと思えば、直ぐにやられてしまうわ。イッセーはまだ地力が弱いからね」

 

 リアスの厳しいお言葉に一誠はがっくりとうなだれた。

 

 まあ、そりゃそうだな。俺でもそうする。

 

「さて、そろそろお別れと行きましょうか」

 

 リアスが手元に魔力を集めて、レイナーレにトドメを刺そうとした矢先だ。

 

「一誠君! 私を助けて!」

 

 突如、堕天使レイナーレの姿が変わった。

 

 アレは……以前、ケータイで見た時の一誠の元カノ、天野夕麻だった。

 

「この悪魔が私を殺そうとしているの! 私、あなたのことが大好きよ! 愛している! だから、一緒にこの悪魔を倒しましょう!」

 

 ……何を言ってんだこいつ? 

 

 大好き? 愛している? 今更そんな事、どの口がほざく……!

 

 俺の脳裏に横切るのはデート前日の一誠の顔だ。

 

 いつもの卑猥そうな笑顔ではなく、純粋に、次の日のデートを心待ちにしている楽しそうな笑顔だった。

 

 だが、こいつは踏みにじったんだ。そんなこいつが一誠に助けを求めるなど――!

 

 ああ、くそ。もう駄目だ。本来なら一誠の役目なんだろうが、我慢ならん。

 

 そう考えた瞬間、俺は神 器(セイクリッド・ギア)を展開し、そのままレイナーレの胸に突き刺した。

 

「ごふっ……!?」

 

 突然の事に目を見開きながら、レイナーレは口から血のかたまりを大量に吐きだした。

 

「もう良い。貴様はこれ以上喋るな。お前の声なんざ耳障りだ」

 

 自分でも驚くほどに冷たい声だったと思う。それほどまでに俺はキレていたと言う事だろうか。

 

「じゃあな、堕天使。地獄でもう一回やり直して来いよ」

 

 俺が剣を引き抜くと、堕天使レイナーレは倒れ込み、そのまま永遠と動かなくなった。

 

「…………はあ」

 

 動かなくなった堕天使を見ながら俺は自分を落ち着かせるために息を吐いた。

 

 そして一度、髪をかき揚げて、横で唖然としている一誠に言った。

 

「悪いな一誠。本来ならお前がやっていい筈なのに俺がやっちまった。すまん」

 

「……気にすんなよ兄貴。むしろスッキリしたよ、サンキュー」

 

「そう言ってくれると少し気が晴れる」

 

 やっぱ俺って、一誠に甘いのか? こんなんだからリアス達がブラコン呼ばわりするんだよな。……今後は注意しよう。うん。

******

 

「一誠、彼女は……」

 

神 器(セイクリッド・ギア)を抜かれた人間は死んじまうって、アーシア、レイナーレに神 器(セイクリッド・ギア)を抜かれちまって……」

 

 一誠は長いすに横たわっているアーシア嬢を悲しげに見つめながら言った。

 

 成る程、神 器(セイクリッド・ギア)にそんなシステムがあったとは……。

 

「……安らかな顔だな。眠っているようだ。死んでいるとは到底思えん」

 

「俺……自分が情けねえ。アーシアを救うってみんなに大見得切った癖に……間に合わなかった。……ちくしょう……」

 

 一誠が嗚咽を零しながら言う。

 

「一誠……悔しいなら、情けないなら、その気持ち忘れるな。絶対にな」

 

 まだ出会ったばかりだろうが、一誠にとってアーシア嬢は大切な友人だったんだろう。だからこそ、失ったら悲しい。

 

 大切な誰かを失うという事は、自分の中に大きな無力感を生む。

 

 それを乗り越えられるかどうか失った者の意志次第。

 

 ……けど、けどまだ何かあるんじゃないのか? ()()()とは全然状況が違う。あの時は無力な人間だったが、今は俺たちは悪魔だ。まだ、何か……。

 

 っ! そこで俺はあることに気がついた。そうだよ、アレが有るじゃないか。

 

 そう思い、俺はリアスに話しかける。

 

「なあリアス。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)、まだ残って無いか?」

 

 俺の言葉に一誠が驚きの表情を表す。

 

「それって……」

 

「ああ、死んだ人間も転生出来るんだろ? だったら彼女にも可能だ」

 

 俺の言葉にリアスは目を閉じたまま聞いていたが、やがて目を開けると、ポケットからある物を取り出した。

 

 それは、血のように紅い、リアスの髪の色と同じ紅いチェスの駒だった。

 

「イッセー。これは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)、『僧侶(ビショップ)』の駒よ」

 

「『僧侶(ビショップ)』の?」

 

 リアスの話によれば、上級悪魔に渡される悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は人間界のチェスと同じで全部で十五個。

 

 既にリアスは『僧侶(ビショップ)』の駒を一つ使っているが、もう一つの『僧侶(ビショップ)』の駒を使うと言う。

 

「『僧侶(ビショップ)』の力は眷属の悪魔をフォローすること。この子の回復力は『僧侶(ビショップ)』として使えるわ。前代未聞だけれど、このシスターを悪魔へ転生させてみる」

 

 リアスは『僧侶(ビショップ)』の駒をアーシア嬢の胸元に置いた。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、アーシア・アルジェントよ。いま再び我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ、悪魔となれ。汝我が『僧侶(ビショップ)』として、新たな生を歓喜せよ!」

 

 リアスが体から紅い魔力を発せられると同時にアーシア嬢の体内に『僧侶(ビショップ)』の駒と彼女の神 器(セクリッド・ギア)が入り込んでいった。

 

 それを確認すると同時に、リアスの体の周りの魔力が消えた。

 

「……あれ?」

 

 目を開けて、思わず、といった感じで声を出すアーシア嬢。

 

 こうして、元シスターのアーシア・アルジェントは悪魔としての人生を歩み始めるのだった。

 

 

******

 

 後日談というか、その後の話。

 

 あれから、アーシア嬢はリアスの計らいにより駒王学園に転入することになった。一誠と同じ高校二年生だ。

 

 ……正直、小猫ちゃんと同じ一年生だと思っていたのは此処だけの話だ。

 

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は人間界のチェスと同じ十五個。つまり、『兵士(ポーン)』は八つ。その分だけ他の『兵士(ポーン)』がいるかと思われたが、リアスの『兵士(ポーン)』は俺と一誠だけだそうだ。

 

 転生する人間の潜在能力が強ければ強いほど消費する駒も多いそうだ。

 

 消費した駒は七対一で一誠の方が多いらしい。

 

 ……まあ、神様を殺せるほどの神 器(セクリッド・ギア)を持っているんだ。当然と言えば当然か。

 

 これからも悪魔稼業は続くって事か。

 

 ……アーシア嬢の歓迎会で作られたリアスのケーキは殊の外おいしかった。



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第二章
何が起きてるやら……


どうも、皆さんお久しぶり! いやあ、やっと受験が終わりました。もうね、死にそうでした。

第一志望が中々受からず、最終日までもつれ込みました。

受験中もちまちま書いていて、一応後二つストックがあるんですが、また少し空くかもしれません。そこはご了承を。


今回から原作二巻です!


 明晰夢と言うものを知っているだろうか? 寝ている最中に見る夢を、コレは夢だと認識してしまう事を言う。

 

 俺はこの明晰夢を良く見る 。基本的に見る内容は同じで、大体月に十数回見る。

 

 内容は正直、見ていて良いものじゃ無い。出切ることならば、見たくないが本音だ。

 

 だが、今見ている夢は違った。何時ものーー紅蓮の炎が燃えている夢では無かった。

 

 それは、二人の幼い子供が遊ぶ夢だった。

 

 二人の子供は何処までも広がる黄金色の光が舞う、不思議な場所を楽しそうに駆け回っていた。

 

 片方は顔に影が掛かっており、よく見えないが、女の子なのは何とか分かる。もう片方は紅髪を肩より少し浮くくらいで切り揃えた男の子だった。

 

 二人の楽しそうな姿を見ていると、こっちまで何だか楽しくなってくる。

 

 そして、楽しいと同時に――悲しい。この光景を見ていると、堪らなく、悲しい。

 

 何だこれは? どうしてこんなにも悲しい。別に、この夢は何か悲しいモノでは無い。分野で言えば微笑ましいモノだ。

 

 なのに何で、何でこんなに悲しいんだよ。訳が分からない。

 

 俺が自分の正体不明の感情に戸惑っていると、夢の方にも変化が起きていた。

 

『どう   ? すごいでしょ。ここは父様と母様と僕しか知らない秘密の場所なんだ』

 

『うん! 私もこんな綺麗な場所があるなんて知らなかったわ。   はとっても素敵な場所を知っているのね』

 

 名前が聞こえない。他の言葉は聞き取れるのに、名前だけ切り取られたみたいに聞こえない。

 

 まるで――まるで、意図的に切り取られたみたいな。

 

 そこまで考えて俺は頭を振る。

 

 何考えているんだ俺は。コレは俺の夢だぞ。そんな事、ある訳が無いのに。

 

『そう言えばここ、何て言うの? 何か、名前があるの?』

 

『うーん、僕も父様に聞いて見たんだけど、名前無いんだって。ただ、〈金色の園〉とか適当な感じに母様が名前をつけていたなぁ』

 

 うん、確かにそれは少し適当だな少年。でも何だかカッコいいぜ。

 

『そうかな? 〈金色の園〉……良いんじゃ無いかしら? 私は好きよ』

 

 どうやら女の子の方も俺と同じ意見のようだ。

 

 しっかし、〈金色の園〉、か。どっかで聞いたことあるような無いような……。

 

『でも、良かったの?』

 

『? 何がさ』

 

『此処って貴方の家族だけの秘密の場所なんでしょ? それを私が知ったりして怒られないかしら……?』

 

 少女が心配そうに言うが、少年の方は笑うだけだ。

 

『なーんだ、そんな事? 大丈夫だよ。いざって時は、僕が父様達を説得するからさ』

 

『ホント?』

 

 それでも少女はまだ心配そうだったが、少年の方が少女に小指を差し出した。

 

『じゃあ、指切りしよ! そうすれば、大丈夫でしょ?』

 

『……うん!』

 

 少年の言葉にやっと安心したのか少女は笑みを浮かべた。

 

 そして、()は少女が差し出した指に自分の指を近づけるのだった。

 

******

 

「……頭が痛い」

 

 朝、俺こと兵藤夏蓮は何とも言えない頭の痛みを抱えながら起きた。

 

「ゔー何だこれ……こんな目覚めが悪い日なんて初めてだぞ」

 

 俺は机に置いてあるミネラルウォーターが入ったペットボトルを取り、キャップを開けて一口飲んだ。

 

「……何の夢見てたんだっけ俺?」

 

 首を傾げながら俺は呟いた。

 

 結構重要な内容だった気がしてしょうがないんだが……。

 

 そう、俺の昔の夢。

 

 俺こと、兵藤夏蓮には数年前より以前の記憶が無い。俺にとっての最初の記憶は土砂降りの雨の中で、母様に抱きしめられて倒れている記憶だ。

 

 俺と母様はどうやら何らかの事故に巻き込まれたらしく、その時の事故が原因で記憶が無くなってしまったというのだ。

 

 まあ、記憶が無いと言っても完全に無いとは言いづらいが。事実、俺は母様の事を母親とは認識していたんだし。

 

 そもそも、その時自体が大分幼かったから記憶が無いのも頷けるけど、それでも俺は自分が誰なのかを知りたい。それは、俺がずっと抱いている望みだ。

 

 俺は何処で生まれたのか? 親父は誰なのか?

 

 ……俺は誰なのか?

 

 ……何か、朝っぱらから辛気くさいこと考えているな俺。

 

 くそ! 何かモヤモヤしてくるぜ。

 

「はあ……少し走ってくるか」

 

 時間を見れば、現在午前四時。後二時間ぐらいは余裕がある。

 

 気分転換に走って、筋トレでもしますか。

 

「……ん? 筋トレ?」

 

 はて、何か忘れているような気が……何だっけ?

 

 えーと、えーと。確か……ああっ!

 

「そうだよ、今日はリアスとの約束の日だ」

 

 思い出しならば善は急げだ。

 

 俺は急いで着替えて隣で未だに眠りこけて居るであろう一誠の部屋に向かったのだった。

 

******

 

「九百七十八、九百七十九、九百八十……」

 

 朝日が眩しい公園。

 

 俺は、公園の中にある木の太い枝に片腕で掴まり懸垂をしていた。

 

 更に直ぐ側では岩を背負いながら一誠が腕立てをやっていた。

 

「ほら、頑張りなさい。後たったの百回」

 

「うっス! ぐおお……」

 

「おうおう、一誠頑張るなあ。ま、体壊すなよ」

 

「おうよ……ぐへえ!」

 

 あ、倒れた。まあ、死んでは居ないだろう。

 

 現在俺たち兄弟はリアス監修の元、トレーニングに励んでいた。

 

 リアス曰く「私の下僕が弱いなんて許されないわ。悪魔だって日々の鍛錬がモノを言うのよ」らしい。

 

 ちなみに内容は20キロマラソンの後に100本以上のダッシュ。筋肉が温まっている内に各部位の筋トレが主なものだ。

 

 俺はまだしも、最初は一誠のヤツは死んでいた。文字通り死に体だ。

 

 が、慣れと言う者は怖い者だ。今ではちゃんと一誠もちゃんと出されたメニューをこなしている。

 

 ちなみに俺は最初の一日で慣れた。時間が余ったら自主トレだ。

 

「ほらイッセー、頑張りなさい。夏蓮はもう、自主トレ終わりそうよ」

 

「くう、同じ時間に初めて何で一時間以上も先に終わるんだよ……」

 

「日々の鍛錬と言うものだよ一誠。お前もその内早く終わるようになってくる、さ!」

 

 よーし、千回終わり! 俺は木の枝から手を離し、地面に着地する。

 

「うひゃあ! 終わった~」

 

 どうやら一誠も終わったようだな。結構結構、大分早くなってきたな。

 

「お疲れさん、こなせるようになってきたな」

 

「まあな……はあ、疲れたー」

 

 と、一誠が地べたに座り込んで天を仰いでいると、

 

「イッセーさーん、部長さーん! カレンさーん! おはようござい………はぅっ!?」

 

「……朝から大丈夫かおい」

 

 公園の入り口で何ともベタな転び方をしたアーシア嬢がいた。

 

******

 

 どうやらアーシア嬢は俺たちのトレーニングを見に来たようだ。

 

 彼女も悪魔になったから俺たちと同じようにトレーニングをするらしい。

 

 ……どう見ても運動なんてした事が無いような体してるけど大丈夫か?

 

 で、現在俺たちは……。

 

「――というわけで、お願いできないでしょうか?」

 

 何故か俺と一誠の家で、アーシア嬢のホームステイについて話し合っていた。

 

 いやいや待て待て。何がどうなってどういう風になってこうなる?

 

 確か現在アーシア嬢は旧校舎にある一室を借りて生活しているらしい。だが、何時までもそこに居るわけにもいかない。

 

 そこで、リアスはアーシア嬢を俺たちの家に住まわせようとしているのだ。

 

 ……いや、だから何で?

 

 リアスとか朱乃とか小猫ちゃん――名前を呼ぶ権利をもらった――の家にでも住まわせて貰えば良いじゃん。何で俺等の家?

 

「あ、あのリアスさん? 我が家には大変とんでもない性欲丸出しの息子が居りまして……女の子のホームステイは……」

 

 見ろ、義父さんも同じ意見のようだ。

 

 そう、我が家の最大の懸念は我が愚弟こと兵藤一誠の事だ。

 

 アーシア嬢は世辞抜きで美少女だ。そんな彼女と一誠が一つ屋根の下で暮らす。

 

 ……とんでもないことになるな、うん。

 

 しかし、リアスは微笑むだけだ。

 

「ご安心ください、お父様……」

 

 それからあること無いこと我が家の親にリアスが吹き込んだところ……

 

「アーシアさん! どうか息子を見捨てないで上げてください!! こいつにとってこれが最初で最後のチャンスかもしれないんだ!!!」

 

「そんなお父様、イッセーさんは私の大切な存在で、見捨てるなんてありえません!」

 

「うぅ……。孫の顔は夏蓮はまだしも、一誠の方はもうとっくに諦めてたはずなのに……。まさかこんなバカでエロい息子に奇跡が起こるなんて…」

 

 見事に懐柔されたなオイ。そういや、以前に一誠の将来について真面目に相談されたな……。

 

 一誠の方は一誠の方で、何にも言えないのかげんなりとしているだけだった。

 

 と言うか、もうアーシア嬢がここに住むこと決定しちゃっているな。まあ、良いけど。

 

 何か両親も両親でアーシア嬢を一誠の花嫁みたいにしているけど……本人も満更では無いみたいだな。

 

「花嫁、か」

 

 そんな大はしゃぎする両親を尻目に、リアスが少し寂しそうに笑っていたのが気になった。

 

******

 

「戻ったぜ~」

 

「あらあら、お疲れ様です」

 

 仕事を終わらせて部室に帰ってみると、朱乃が笑顔で迎えてくれた。

 

 現在時間は深夜。俺たちオカルト研究部は悪魔としての仕事をこなしていた。

 

 俺が肩を回しながらソファーに座ると、朱乃が紅茶を淹れたカップをくれた。

 

「おっ、サンキュー」

 

「いえいえ、ちょうど、お茶を淹れたところですから。砂糖は一つあればよろしいですよね?」

 

「ああ。ありがとう」

 

 俺は砂糖を入れてから紅茶を飲んだ……うん、おいしい。

 

「朱乃が淹れる紅茶はやっぱおいしいな」

 

「あらあら、ありがとうございます」

 

 朱乃は嬉しそうに笑った。相変わらず、良い笑顔しているぜ。

 

「お疲れ様です。どうでした、今回の依頼は?」

 

 そして、いつものイケメンスマイルで話しかけて来たのは祐斗だった。

 

「どうもこうもねえよ。社会人になったばかりのお兄さんに延々と仕事の愚痴聞かされたぞ。上司がウザイだの、仕事が多すぎるだの……聞くのも飽きてくるわ」

 

「それはまた……」

 

「あらあら……」

 

 話を聞いた祐斗と朱乃が苦笑いを浮かべている。

 

「……でも、それも悪魔としての仕事」

 

「おう……」

 

 黙々と和菓子を食べる小猫ちゃんの的確な指摘。確かにその通りだ。

 

 なお、愚痴を聞いて今回俺が貰った対価は図書カード八千円分。まあ、今度新しい本でも買いに行くか。

 

「先輩、部長に報告は?」

 

「あっ、やべ」

 

 祐斗の言葉に俺は慌てた。

 

 いけないいけない。先にリアスに報告してからのんびりしないとな。こういう事に関してはリアスは厳しい。

 

 善は急げと、俺はリアスが座っている奥のソファーに向かった。

 

「リアス、今日は仕事終わった……リアス?」

 

 何だ? 遠い所を見ている感じだな? つか、こっち見てないぞ?

 

「おいリアス、リアス!」

 

 少し強めに呼んでみると、ハッと我に返ったようにリアスがこっちを見た。

 

「え、あ、夏蓮……?」

 

「どうしたよ、珍しい。契約終わったから報告しようと思ったんだが……」

 

「ああ、ごめんなさい。少しボンヤリしていたわ」

 

「疲れているのか?」

 

「そうじゃないわ。本当にごめんなさいね」

 

「なら良いが……」

 

 疲れている訳では無さそうだな。どちらかと言えば、悩みを抱えているんだろう。ここ最近、物憂げに溜め息を付いているし。

 

 まあ、貴族には貴族の悩みがあるんだろう。()()俺では悩みを聞いても何か出来るとも思えん。

 

 ん? 俺は其処まで考えて一旦思考止めた。

 

 今俺、今の俺って考えた? 何で今なんだ?

 

 じゃあ何か。何時の俺なら良いんだっていうんだ。

 

 ……やめよう。何か最近、泥沼に嵌まっているな。考えたって意味ないんだろうし。別の事考えよう別の事。

 

「そういや一誠とアーシア嬢は? まだチラシ配り中か?」

 

「ええ、もう少しで帰ってくると思いますよ」

 

 俺の質問に祐斗が答える。

 

 先日の一件で悪魔となったアーシア嬢。

 

 彼女もリアスの下僕悪魔となったからには、人間との契約を取らなければならない。

 

 その為、俺や一誠もやったチラシ配りをやる事になったのだが、一誠がアーシア嬢の事が心配らしく、

 

「俺がしばらくアーシアに付きます!」

 

 とか言って、アーシア嬢のチラシ配りを手伝っている。

 

「ま、アーシア嬢はまだこの町の土地勘に慣れていないし、ちょうど良かったかもな」

 

「そうですね。アーシアさんもイッセー君のことを信頼しきっていますし」

 

「さしずめ、囚われのお姫様を助け出しに来た勇者様みたいなもんだからな」

 

「……でも悪魔」

 

 俺の冗談に小猫ちゃんが鋭い指摘をする。

 

「ま、そうだがな……けど、心の中では勇者で良いんじゃね?」

 

「そうですわね」

 

 俺の言葉に朱乃が頷く。

 

「勇者、ね……」

 

「リアス?」

 

 まーたボンヤリしている。何なんだ?

 

「いいえ、何でも無いわ」

 

 そう言って笑うリアスの顔は、やはり、どこか寂しそうだった。

 

******

 

「あー良い湯だった」

 

 俺は生乾きの髪を振るいながらベットに飛び込んだ。

 

 悪魔稼業が終わり、家に戻った俺たち。

 

 年長順でどうぞと言う事で、二人より先に風呂を頂いた。今は一誠が入っているはずだ。

 

「最近、何か変だな……」

 

 天井を見上げならぽつりと呟く。

 

 悪魔に転生してからだろうか、最近奇妙な物ばかり見る。

 

 それが何か意味することなのか、もしくは唯の夢なのか。

 

「……ん?」

 

 俺が物思いに耽っていると、突如として床が光り出す。

 

「な、何だ……?」

 

 ベットから身を起こし、油断無く見ていると、光は魔方陣になった。

 

 てかコレ、グレモリーの紋章じゃん。てことは、グレモリー眷属の誰か?

 

 誰かと思っていると、魔方陣の上に人が現れた。そいつは、

 

「……リアス?」

 

 其処に居たのはリアスだった。何やら酷く思い詰めた顔をしている。

 

「どうした、リアス? 何かあったのか?」

 

 俺がベットから降りて、リアスに問いかけるも、リアスは黙ったままだ。

 

「リアス?」

 

「――夏蓮」

 

 俺が訝しんでいると、リアスがようやく口を開いた。

 

「おう、何だ?」

 

「夏蓮……私を抱いて」

 

「……は?」

 

 えーと何を言っているんだこいつ?

 

「だから、私の処女貰ってと言っているのよ」

 

 …………ナンデスト?




いかがでしょうか? 感想待ってます。

久しぶりなんで、上手く書けているかどうか不安です。


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なにが起きてる……?

リアルで少し忙しく遅れました


 突然のリアスの言葉に俺は思考が思わず停止してしまった。

 

 十秒ほどたっぷり固まって、ようやく頭が再び回り始め、俺は眼前のリアスに質問する。

 

「えーと、リアス? 俺の耳が正常なら、今処女を貰って欲しいって言った?」

 

「ええ、言ったわ。早急にお願い」

 

 ……ふう、俺の聞き間違いじゃなかったか。良かった良かった。

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………うん。

 

 ちょっと待てやコラああああああああぁああ!! 良かった良かったじゃねえよ!!

 

 え、何これ!? 何がどうなってこうなっているの? 何でリアスがいきなりこんなこと言い出しているんだ! 意味分からん!

 

「ほら、時間が無いから急ぐわよ」

 

 そう言いながら服を脱ぎ始めるリアス!

 

 あれ、既に俺がOKを出したことになっている!? 良いのか、ムードもへったくれも全く無いぞ!

 

 俺が絶賛混乱中の間にリアスはあっという間服を脱ぎ、下着姿になった。

 

 っ!

 

 俺はリアスの下着姿を見て思わず息を飲んだ。

 

 悪魔になった直後にリアスの裸を見たことがあるが、あの時は完全に混乱していて、まともに見ていなかった。

 

 だが、今改めて見ると、本当にリアスの体は整っているとしか言いようが無い。

 

 陶磁器のような白い肌に滑らかな体。

 

 下着で抑えられている豊かな胸。

 

 それら一つ一つがリアスという存在を作り上げており、その内一つでも欠けていたら、今のリアスは無いだろう。

 

 ……ちょっと待て。何冷静になりながら変な事を考えているんだ俺は。やべーよ。これじゃ唯の変態じゃねえか。

 

「電気は消してくれる? 流石に明かりが有るのはちょっと……」

 

 あ、ココで恥じらいを持つか。

 

 言われるがままに電気を消してしまう俺。

 

 部屋は真っ暗になるが、悪魔の俺たちには特に問題ない。

 

 寧ろ、暗くなってよりリアスの体が扇情的に見えるようになった。

 

 や、やばい……。何か本気でリアスと情事しそうな雰囲気になり始めた。いや、別にそれは良いのかって違う違う! そうじゃない。

 

 あれ、確かリアスの家って貴族だよな。娘の初めての相手なんて事になったらどうなる俺!?

 

「もう、何しているの夏蓮。早くなさい」

 

「あっ」

 

 悩んでいたら、リアスに腕を引っ張られて、そのままベットに倒れこんでしまった。

 

 仰向けにベットに倒れこむと、リアスがそのまま馬乗りで俺に乗っかってきた。

 

「って、リアスおい待て。何かその場の空気に流されてしまっているが、マジでやるの?」

 

「今更何を言っているの、貴方も男なら覚悟を決めなさい」

 

「いきなりこんなことになって覚悟を決めろとか無茶振りだろ!」

 

「もう! 情けないわね!」

 

「もがっ!」

 

 再び口を開こうとしたら、リアスに口を塞がれてしまった。

 

 うっ、リアスの手のひら、すげえ柔らかい。それにコレは……石鹸か? ちゃんと風呂に入ってきたという事は、マジでやる気だったのか。

 

 パチッ。片手で器用にブラジャーを外すと、リアスの豊かな胸が露わになった。

 

 や、やばい……。何がやばいってもう……!

 

「む、もがーー!」

 

「ここまで来たなら覚悟を決めなさいって言っているでしょ?……それに私、あなたになら……」

 

 最後の方は小さくて聞き取れなかったが、まあ、今は置いておこう。

 

「それに貴方も初めてでしょ? 私の初めてのあげるんだから、おあいこよ」

 

 ……………………。

 

 思わず俺は視線を逸らしてしまう。

 

 が、それがいけなかったのだろう。リアスが半眼になるのが見えた。

 

 やばい。何がやばいってリアスさんがキレテいらっしゃる。それはもう見事に。

 

「…………あるのね?」

 

「…………」

 

 どうしよう、冷や汗が全く止まらない。まだまだ熱くならないのになー。

 

 リアスは俺の口から手を離して、人差し指を顎に付けて平坦な口調なまま続けて言う。

 

「ふーん、そう……で、何処の女? 朱乃、では無さそうね。そういうのをやるほどまだ関係が深いと思えないし……他の女生徒もそこまで貴方に接近できる子はいない筈だし……。そうなると、外部のヒトよね」 

 

 そこまで言うと、リアスはニッコリと笑みを浮かべた。それはもう、見る者全てを魅了する様な輝かしい笑みだ。

 

「で、相手は誰かしら?」

 

 だが、俺にとっては文字通り悪魔の笑みだ。

 

 俺は冷や汗をかきながら、顔をリアスから背けることしか出来なかった。

 

 あれーおかしいな。別にリアスは関係ないはずなのに、何でこんなに後ろめたいんだろうか。

 

 てか、何でそこで朱乃の名前が出る。あいつは唯の友達だぞ。

 

「夏蓮、こっち向きなさい」

 

「うぐっ!」

 

 リアスによって顔を前に戻されて、ぐいっと顔を近づけられる俺。

 

 って、やばいやばい。息かかってる! キスする位の距離! うおい!

 

「すっ、ストップストップ! 待てリアス!」

 

「待たないわ」

 

 えーーーー。横暴だよ。

 

 真剣な表情で俺を見つめてくるリアス。

 

「夏蓮……」

 

 俺の名前を呼び、そして何か言おうと口を開いた時。

 

 突如、床が輝き出した。

 

 それを見て、リアスはため息をついた。

 

「遅かったか……」

 

 それだけ言うと、リアスは輝く床を睨みつける。

 

 俺もそれにつられて床を見ると、輝きは魔方陣に姿を変えた。

 

 って、また誰か転移してくるのかよ。今度は誰だ? 朱乃か? 祐斗か? 小猫か? って、誰が来ても絶対にヤバイ!

 

 どうやってごまかそうか慌てふためく俺だが、俺の予想に反して魔方陣から現れたのは……メイドさんだった。

 

 いや、秋葉原によくいるメイドコスプレじゃ無くて、どうも本物のメイドさんみたいだ。何と言うか、雰囲気的にそんな感じがする。

 

 銀髪を後ろで三つ編みにしている美人さんだ。魔方陣から来たという事は、この人も悪魔なんだろう。

 

 俺の上に跨っている――俺の方は見ていない――リアスを見て、銀髪のメイドさんはため息をついた。

 

「……こんな事をして、破談に持ち込もうとしたのですか?」

 

 銀髪のメイドさんが声音に呆れを含みながら言う。それを聞いたリアスが、不機嫌そうに言う。

 

「こうでもしないと、お父さまもお兄さまも話を聞いてくれないでしょ?」

 

「それでこの様な下賤な輩に? そのような事をしたら、旦那様もサーゼクス様も悲しまれますよ」

 

 何かもう訳が分からなくなってきた。

 

 話から察するに、何やらリアスは自分の家関係で、意に沿わない事をさせられそうになっている訳で、俺との性交でそれを無かった事にしようとしている訳だ。

 

 で、そんなリアスの行動を察知して、この銀髪メイドさんが駆けつけてきたという訳だ。

 

 てか、破談? 破談って言うと……。

 

「全く、貴女は……」

 

 ため息をつきながら、ここで漸く銀髪メイドさんが俺の顔を見た。

 

「――――っ!?」

 

 そして、見た瞬間、目を見開いて固まった。

 

 まるで信じられないモノを見たかのような目だ。そう、幽霊を見ているかのように……。

 

 何だよおい。俺の顔に何か付いているか?

 

 耳を澄ませれば「いや、まさか……そんな事が……」と呟いていた。

 

 何なんだよおい……。

 

「グレイフィア?」

 

 訝しげにリアスが銀髪メイドさんの名前を呼ぶと、メイドさんがはっ、と我に返った。

 

「どうしたのグレイフィア?」

 

「いえ……何でもありません」

 

 いや、何でも無い筈がないと思うんだが……。

 

 困惑するなか、銀髪メイドさん……グレイフィアさんが俺に向かって丁寧にお辞儀しながら挨拶をくれた。先程の狼狽は一欠片も見せずにポーカーフェイスを整えていた。

 

「申し遅れました。私はグレモリー家に仕えるメイド、グレイフィアでございます」

 

「あっ、これはどうもご丁寧に。リアス様の兵士(ポーン)をやらせてもらっている兵藤夏蓮です」

 

「カレン? ではこの方が……」

 

「ええ、私の兵士(ポーン)の一人。灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)の所有者よ」

 

 グレイフィアさんはどこか異質な者を見るかのように俺を見る。

 

 否、性格に言うならば、疑惑の目だ。何かを探るような、そんな目。

 

「銀星輝龍の力をその身に宿した存在……」

 

 そうグレイフィアさんは呟くと、床に散らばっているリアスを服を拾い始めた。

 

「何はともあれ、むやみやたらと、殿方の前に肌を晒すものではありません。あなたはグレモリー家次期当主で、事が事ですから」

 

 そう言うグレイフィアさんに、リアスはふん、とそっぽを向くだけだ。

 

 ……何か子どもっぽいなあ。普段が二大お姉さまだからか? こっちが素なんだろうな。可愛いと少しおもった。

 

 俺と同じことを思っていたのか、グレイフィアさんは嘆息しながら、リアスに上着を掛けた。

 

「グレイフィア、あなたがここへ来たのはあなたの意志? 家の総意?……それとも、お兄さまの御意志かしら?」

 

 おいおい、何か面倒な事になってきているな。リアスも相当不機嫌だし。

 

「全部です」

 

 グレイフィアさんはそう即答した。……全部っておい。

 

 リアスはため息をついた。

 

「そう……お兄さまの『女王(クイーン)』であるあなたが人間界に来たのだから、そうでしょうね……。良いわ、私の根城で話しましょう。朱乃を連れてきていいわね?」

 

「雷の巫女ですか? 構いません。上級悪魔たる者、『女王(クイーン)』は常に側に侍らせておかなくては」

 

「よろしい。夏蓮」

 

「ん、おう」

 

 蚊帳の外だったが、ようやく会話に入れた。

 

「今日はごめんなさいね。急に押しかけて色々として……」

 

「いや、別に……」

 

 そう、別に俺に実害は無い。無いのなら、別段気にすることも無い。

 

 いやあ、これであれも有耶無耶に……

 

「それはそうと、後で相手はしっかり聞くから……良いわね?」

 

「……イエス、マム」

 

 前言撤回。しっかりと覚えていました。チクショー!

 

 チュ。

 

 っ! 何やら頬に柔らかい感じが。え、ちょ、まさか……。

 

 その感触が、リアスが俺の頬にキスをしたのだと気づいたのは、リアスがグレイフィアさんと一緒に魔法陣の上に乗ってからだ。

 

「今日はこのお詫びで許して。それじゃ、また明日学校で」

 

「あ、ああ……」

 

 俺が唖然としながら手を降ると、リアスは笑みを浮かべて、彼女も手を降った。

 

 そして、魔方陣が輝き、二人は光に包まれていった。

 

「…………はあ」

 

 自分以外、誰も居なくなった部屋で、俺は人知れずため息をついていた。

 

 ふと、時計を見ると、あまり時間が経っていないのが分かった。

 

「その割には色々と濃かったな……」

 

 突然のリアスの処女を貰え発言。更にそこから銀髪メイドさんの登場……何このギャルゲー。

 

「…………」

 

 が、俺にとって最も重要な所はそこでは無い。いや、一応そこも重要なんだが、本当に重要なのは、

 

「……最悪だな。嫌なこと思い出しちまった」

 

 ぼやき、ベットに寝転ぶ俺。

 

 ここ最近は意識の片隅に置いといてはいたが、決して表には出してこなかった事。

 

 もう過去の存在へと成り果ててしまった存在。

 

「……琥珀」

 

 何気なく、呟く。

 

 

 

 二度と呼ぶ気が無かった彼女の名を。

 

 

 

 守る事が出来なかった、彼女の名を。

 

 

 

 もう会うことが出来ない彼女の名を。

 

 

 

 ――自分を救ってくれた大切なヒトの名前を。




如何でしょう?

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誰だこいつ

どうも、初バイトの事前準備で手間取っています。


なんかもう、訳が分からん。


「やべえな。完全に遅刻だ」

 

 現在、俺は部室に向かって足早に歩いていた。

 

 結局、あれから全然の眠れず、ずっとベットをゴロゴロしてしまった。昔のことグダグダ思い出してしまってからにもう、情けないとしか言いようがない。

 

 何とか少し寝てみたら、僅かだが、スッキリした。『人間、寝て次の日になれば大抵の事は乗り切れる』なんてお師匠様が言ってたけど、その通りだなぁ、と思わず思ってしまった。俺、今は人間じゃ無いけど。

 

「あいつらもう来てるかな」

 

 脳裏に一誠達を思い浮かべる。

 

 普段ならリアスや朱乃と一緒に行くのだが、今日は日直だった事もあって、先に行ってもらった。

 

 普通なら日誌を出すだけで直ぐに終わった筈なのだが、間が悪いと言うべきなのか、

 

『おーい、兵藤』

 

『何です?』

 

『ちょうど良かった、これ、生徒会に持っていってくれないか?』

 

『……いや、先生が持って行けばいいじゃ無いですか。俺、この後部活なんですけど』

 

『そう硬いこと言うなよ。これから緊急の会議が入っちゃったから、そっちに直ぐに行かないといけないんだよ。じゃ、そういう訳でよろしくな』

 

『え、ちょ……』

 

 ……とまあ、こんな感じで、顔見知りの教師に雑用を見事に押し付けられた訳で、予定より大幅に遅れてしまったのだ。

 

「まあ、蒼那嬢とは顔見知りだから良いけど……」

 

 脳裏に先程会った、眼鏡を掛けた真面目を体現したかのような生徒会長の顔が浮かんだ。

 

 が、顔見知りとは言え、会いに行くのは少々気まずかった。

 

 理由はまあ、俺がオカルト研究部に入ったことだ。

 

 彼女が副会長、即ち二年生の頃からずっと生徒会に誘われていたのだ。

 

 廊下で会う度に、教室で会う度に、食堂で会う度にとまあ、会う度に誘われていたな。

 

 当時の俺は、あまり部活や生徒会にも興味は無かった――駒王学園の大学部に進学予定なので特に内申点は気にしていなかった――ので、断っていたのだが、思いの外粘ってきた。

 

 なぜ俺なのかと聞いてみたところ、

 

『ゆ、優秀だからです』

 

 と、少し頬を赤く染めながら言っていた。別に成績そこまで良くは無いのに。今だに謎なままだ。

 

 そういや、三年に進級する時に別のクラスになったけど、妙に残念がってたなあ。

 

 確か、そん時リアスが怪しげな笑みを……いや、気にしないでおこう。気にしたら負けというやつだな、多分。うん、絶対。

 

「リアス、か……」

 

 思い出すはやはり昨日の事。

 

 朝、教室で顔を合わした時は普段と何ら変わりなかった。

 

 いつも通りの笑みを浮かべて、接してきたのだが、逆にそれが何と無く違和感を感じた。

 

 つか、あの場を誰にも見られなかったのは良かった。もし一誠になんかに見られたらどうなっていたか……想像するだけで嫌になってくるぜ。

 

 しっかし、一体全体、あの後何があったのやら。恐らく知ってんのは、リアス本人に銀髪メイドさんのグレイフィアさん。後はあれから呼ばれたんだろう朱乃だと思うんだが……。 

 

 後で朱乃にこっそり聞いてみようかねぇ。何とか頼み込めば、教えてくれるだろう多分。

 

 あーでもどうだろう、教えてくれるかな? そういう部分だと口堅そうだしなあ。

 

 悩みながら部室のある旧校舎に足を踏み入れると、

 

「……っ!」

 

 入ったと同時に強い気配を感じた。

 

 コレは、この気配は……!

 

 きな臭い雰囲気を感じた俺は、歩調を早め、部室に急いだ。

 

 部室の前に着き、扉を開けた。

 

 中にはいつも通り俺以外の部員。だが、違うのはリアスは不機嫌そうに、朱乃はいつも通りニコニコと笑みを浮かべているが、冷たいオーラが滲み出ている。

 

 小猫ちゃんはあまり関わりたく無いと言った感じで少し離れた席に座っている。

 

 一誠とアーシア嬢は訳が分からないと言った風に戸惑っており、祐斗は固い表情を浮かべている。

 

 おいおい、何だぁ? 何時もの和やかな雰囲気はどこいった? まるで戦争前みたいじゃねえか。戦争やった事無いけど。

 

「全員揃ったわね。では、部活を始める前に少し話があるの」

 

 リアスが全体を見回しながら言う。

 

「お嬢様、私が話しましょうか?」

 

 グレイフィアさんの申し出にリアスは手で制した。

 

「実は――」

 

 リアスが口を開こうとした瞬間だ。

 

 突如、魔方陣が輝き出した。

 

 転移? グレモリー眷属はこの場に全員いるよな。じゃあ、グレイフィアさんみたいにグレモリー家に仕えるヒトか、もしくはリアスの家族か?

 

 そう考えていた俺の前で、魔方陣の紋様は変わった。

 

 ……グレモリーじゃない? じゃあ、別の上級悪魔? 何で此処に?

 

「……フェニックス」

 

 祐斗がボソリと呟く。

 

 フェニックス? 確か、序列三十七位の悪魔で不死鳥の……。

 

 そう考えた矢先、魔方陣から突如として炎が湧き上がる。

 

 え、ちょ、火事なんないこれ!?

 

 慌てる俺だが、炎は直ぐに収まり、中から現れたのは、一人の男性だった。

 

「ふう、人間界は久しぶりだ」

 

 そう言いながら出てきた男性は金髪にワインレッドのスーツを着崩して着ていた。

 

 顔はイケメンだが、どこかワルっぽい感じがする。ちょいワルイケメンという奴だろう。

 

 男は辺りを見回すし――俺を見ると一度眉を訝しげに潜めた――リアスの方を向くと、嬉しそうに破顔した。

 

「会いに来たぜ、愛しのリアス」

 

 ……何かいきなりな発言が出てきたな。

 

 言われた本人であるリアスは不機嫌そうにするだけだ。

 

 そんなリアスの様子に気づかないようで、男がリアスに近づいて肩に手を置いて言った。

 

「早速だがリアス、式場を見に行こう。既に予約はいれているんだ。早め早めにいこう」

 

「……離してライザー」

 

 不機嫌極まりない様に男の手を振り払うリアス。だいぶキレていらっしゃるねぇ。

 

 だが、そんなリアスの態度に男はヘラヘラと笑うだけだ。

 

 ……すんげえ軽薄だな。チャラ男の気配がプンプンするぜ。

 

 ま、このままにしておいても埒があかん。何とかしないとな。

 

「失礼ですが、どちら様でしょうか? それに女性に対してそんな態度はどうかと思いますよ」

 

 さり気なく、リアスと男の間に入って笑顔を浮かべながら質問する。

 

「あ? 誰だよお前?」

 

 途端に機嫌を悪くして不機嫌そうになる男。どうやら沸点が低いようだな。

 

「ああ、これは失礼。名を尋ねているのにこちらが名乗らないのは失礼ですね」

 

 相変わらず笑みを浮かべながら胸に手を当てて自己紹介する。

 

「初めまして。私、リアス・グレモリー様にお仕えする兵士(ポーン)兵藤夏蓮と申します。まだ悪魔になったばかりの若輩者ですが、何卒ご容赦下さい」

 

 俺の挨拶に、不機嫌そうに歪めていた顔を不思議そうにする。

 

「あ? 新人? つーかカレン? おいリアス、俺の事は説明してないのか?」

 

「言う必要が無いもの」

 

 男の言葉にリアスは冷たく言うだけだ。

 

「はは、手厳しいな……」

 

 男は流石に顔を引きつっていた。

 

 と言うか、俺未だにこの男の名前知らないんだが……誰か教えてくんないかな?

 

 そんな俺の心情を察知してくれたのか、グレイフィアさんが一歩、前に出て話し始めた。

 

「夏蓮様、此方の方は上級悪魔の御家の一つフェニックス家の三男、ライザー・フェニックス様でございます」

 

 ほうほう、やっぱり悪魔の方の不死鳥か。てか、三男か。何か中途半端だな。

 

「そしてグレモリー家次期当主の婿殿でございます」

 

 ……うん? 聞き間違い? 何か変な事が聞こえてきたんだが……。

 

「つまりリアスお嬢様の婚約者でございます」

 

 な……。

 

「こ、婚約うううぅぅぅぅ!?」

 

 後ろで一誠が驚きの声をあげているが、一誠が言わなきゃ俺が声あげていたんだろう。ぶっちゃけ、俺もかなり驚いている。

 

 

 

 ――いけ好かないイケメン野郎はリアスの婚約者だった。

 

 

 

「いやぁ、リアスの女王(クイーン)が入れてくれたお茶はおいしいものだな」

 

 朱乃の淹れたお茶の香りを嗅ぎながら、ちょい悪イケメン……ライザーがそう褒める。

 

「痛み入りますわ」

 

 そう言って頭を下げる朱乃だが、何時ものような優しげな笑みを浮かべていない所と淡々としている口調から、彼女もライザーの訪問は歓迎していなんだろう。

 

 現在、ソファにはリアスとライザーが座っており、眷属の俺たちは壁際で立って待機している。

 

 ライザーはリアスの隣に座り、無遠慮に髪を弄ったり、太ももを触ったりしている。その度にリアスがその手を払いのけるが、懲りないのか、直ぐさまに触ってくる。

 

 ……何て野郎だ。女性に対してまるで出来ていない。お師匠様がいつも言ってたぜ。女性にはいつも優しくせよ、と。

 

 ……まあ、俺の周りには優しくしたらしたで、とんでもないことをするヤツもいたが。

 

「いい加減にして!」

 

 過去を思い出していたら、リアスがライザーのセクハラに遂に耐えられなくなったのか、立ち上がってライザーを怒鳴りつけていた。対するライザーはにやけ面のままへらへらしているだけだった。

 

「おいおい、何を怒鳴っているんだリアス。落ち着けよ」

 

「何が落ち着けよ! ライザー、前にも言ったけど私は貴方と結婚しないと言った筈よ」

 

「ああ、聞いた。だが、君の家はそうも言ってられないだろ? サーゼクス様と君のお父上もお家断絶を危惧されているんだ。いくら君がまだ若くとも、君はグレモリー家の次期当主なんだぞ?」

 

「父も兄も急ぎ過ぎなのよ! 当初は私が人間界の大学を出るまでは自由にさせてくれるという約束の筈よ!」

 

「別に、大学も自由にしていい。だが、さっきも言ったが、君のお父上達はお家断絶が怖いんだよ。唯でさえ、『七十二柱』と称された俺たち純血の上級悪魔達の半数以上が断絶してしまった。残ったお家の中にもくだらない次期当主争いで断絶、と言う事もあったんだ。俺の所は上に兄貴達が居るから問題は無い。けれど、君の所はサーゼクス様が家を出られた以上、君がグレモリー家を継しかない。故に、俺と直ぐにでも結婚させて、お二方は安心したいんだよ」

 

 長々と言うライザーの言葉にリアスも思うところがあるのか、反論せずに、睨み付けるだけだった。

 

 ……七十二柱については以前リアスから聞いた。

 

 純血の上級悪魔の爵位を持った家々の総称でその名の通り、七十二の家があったそうだ。

 

 だが、以前に起きた悪魔、天使、堕天使の三勢力の戦争の際に半数以上が潰えてしまったのだ。ライザーが言っていた断絶とはこの事だろう。

 

 その為、今では純血種の悪魔達は貴重な存在になっているという。

 

 ……そう考えると、貴族の家系ってのも中々複雑な部分もあるんだろう。

 

 と言うか、昨日リアスが来たのはコレが原因か。ライザーとの結婚が嫌で、俺と関係を持つことで破談に追い込もうとした。

 

 ……うん、気持ちは何となくは分かるよ? 望まない結婚はしたくないんだろうけど、だからって俺を巻き込むなよ。

 

 確かに俺はリアスの眷属で俺の命を救ってくれた恩人だ。だが、もしリアスと関係を持ったなんてリアスの親御さんにばれたら何をされるか……想像するだけでも恐ろしい。

 

 リアスは両親に愛されているからなあ。間違い無くあの二人なら俺の人生を終わらせる事なんて容易いだろう……って。

 

 其処まで考えて俺はふと、思った。

 

 ――何で俺、リアスの両親の事知っているみたいな事思ったんだ? 会った事なんて無いのに。

 

「私は当主も継ぐし、婿だって迎入れるわ」

 

「じゃあ……」

 

 リアスの言葉に喜色の表情を浮かべるライザー。しかし、

 

「けど、それは貴方じゃ無いわ。私は、私が良いと思ったヒトと結婚するわ」

 

 リアスの言葉に途端に不機嫌そうな表情を浮かべるライザー。

 

「俺もなリアス、フェニックス家の看板背負っているんだ。此処で『はいそうですか』と、おめおめと引き下がるわけにはいかないんだよ……! 君がその気なら俺は君の下僕を燃やし尽くしても君を冥界に連れて行くぞ!」

 

 そう言うやいなや、ライザーは背中に炎の翼を広げ、巨大な魔力をその身に纏わせていく。

 

 対するリアスも紅い魔力の強力なオーラをその身に纏わせていく。

 

 ……って、ちょっと待て。ライザーのこの魔力、リアスと殆ど同じじゃねえか。おいおいこりゃあ、やばいんじゃねえよ? 此処で戦ったら部室、というか旧校舎吹き飛ぶぞ!?

 

 周りを確認すれば、既に朱乃も魔力のオーラを纏わせ始め、祐斗も直立不動の体勢のまま臨戦態勢に入っていた。小猫ちゃんも、身構えていた。

 

 一誠は戸惑いの表情を浮かべているが、怯えるアーシア嬢を守るようにして前に出る。

 

 オーケー。一誠、お前はそれで良い。アーシア嬢をちゃんと守れよ?

 

 そして俺もいつでも灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)を展開出来るようにする。

 

 次の瞬間にでも、激突するかと思われたが、それは起こらなかった。

 

「――其処までです。リアスお嬢様、ライザー様」

 

 ――グレイフィアさんだ。

 

 二人の巨大な魔力よりも更に膨大なプレッシャーをぶつけてきたのだ。

 

 ……マジか。昨日会ったときは全然分からなかったが、やばい。マジでやばい。このヒト、今この場にいる全員が束になってかかっても相手にならないだろうな。何せ底が全然見えない。

 

「私はサーゼクス様の名代として全権を預かって此処に居ます。もし、この場で暴れるのなら、私はサーゼクス様の名誉のため、容赦しません」

 

 その様子にさすがにやばいと感じたのか、リアスとライザーは直ぐにオーラを消した。

 

 ライザーは深い溜め息を吐くと言った。

 

「さすがに最強の『女王(クイーン)』と言われている貴方とやりたく無いな。悪魔最強と名高いサーゼクス様の眷属とは逆立ちしても勝てる気がしないしな」

 

 ……まじか、そこまで強いのかグレイフィアさん。

 

 というか、何でそんな強いヒトがメイドなんてやっているんだ?

 

 場の雰囲気が収まったのを確認して、グレイフィアさんが溜め息を付いた。

 

「全く……サーゼクス様も当主様もこうなることは大体予想されていらっしゃいました。ですので、お二方からはある条件を提示しています」

 

「条件? 何よグレイフィア」

 

 グレイフィアさんの言葉に訝しげな表情を浮かべて質問するリアス。

 

「本来なら、この話し合いが最期の機会だったんです。ですので、この話し合いが月列した場合――レーティングゲームで決着を付けられてはいかがでしょうか?」




いかがでしょうか?

暫く、ゴタゴタが続くので更新がまた少し遅れます。待ってる方、申し訳ありません


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始めよう

最近、全然執筆が進まない……。


ネタは凄く浮かんでいるんですが、それを文章にするのがどうしても出来なくて。



取り敢えず、これからも頑張っていきたいと思います。


 ――レーティングゲーム

 

 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を持った、上級悪魔達が自分を王として、自分達の駒同士を競わせて戦わせるチェスを模したゲームのことである。

 

 大戦が終了し、大きな戦争が無くなった上級悪魔達が戦闘経験を積むために考案した実戦形式の物で、悪魔業界ではかなり人気らしい。

 

 今ではゲームの戦績そのものが爵位や地位に繋がるようだ。

 

*******

 

「ゲームは一週間後、か……」

 

 俺は机に座りながら、呟いた。

 

 あれから色々とあった。

 

 まず、グレイフィアさんがレーティングゲームを提案したのだ。

 

 通常、レーティングゲームに参加できるのは、成熟した悪魔だけで、リアスのようにまだ未成年の悪魔では参加する事は出来ない。

 

 だが、何事にも例外がある。

 

 今回のようにお家同士のいがみ合いや、身内の争いならば非公式のゲームを開催することが出来るのだ。

 

 それを聞いたときはリアスは相当憤っていたが……。

 

 まあ、普段から好戦的な部分があるリアスだったので、この話を受けることにした。

 

 ただ、問題なのが、ライザーは既にゲームの経験もあり、勝ち星の方が多いことだ。

 

 経験ありと経験なしとでは雲泥の差がある。何せ、やり方を熟知をしているヤツとしていないヤツではしているヤツの方が圧倒的に有利だからだ。

 

 しかも、それだけでなく、戦力差も大きい。

 

 ライザーのヤツは駒はフルメンバーで全員揃っているのだ。

 

 それに対し、こちらは七人。一人当たり約二人を倒さなきゃならない計算だ。

 

 というか、俺やリアスはともかくとして、イッセーや特にアーシア嬢なんてまともに戦えるわけが無い。

 

 

「……一週間で何とか出来るかどうか……」

 

 本来なら、ゲームは直ぐにでも開催されるはずだったのだが、ライザーが一週間に期限を延ばしたのだ。

 

 まず、最初に一誠のヤツがライザーに突っかかったのだ。

 

 理由としてはまあ、何と言うか……うん。

 

 ライザーの下僕全員可愛い女子だったのを見て、一誠が嫉妬したとしか言いようが無いな、うん。

 

 で、その後ライザーが一誠を挑発して、それに乗った一誠が挑発し返したりして、結局の所、神 器(セイクリッド・ギア)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を発動し、ライザーに殴りかかろうとしたのだ。

 

 当然、タダで殴られるわけ無く、ライザーの下僕の一人のミラという棍棒を持った少女が対処しようとしたが、間一髪俺が介入して事なきを得たが……。

 

 それを見たライザーが何を面白がったのか、俺たちに一週間の猶予期間を与えたのだ。

 

 ……まあ、完全に舐めているな。初めから勝負に勝てると思っている。

 

 確かに、戦力差はありすぎる。ぶっちゃけ、勝てる見込みはほぼ無い。

 

 だが、絶対に負けるとはあり得ない。

 

 お師匠様が言ったように『勝負はやってみないと分からない』。ならば、一週間で出来ること全てをやらないと……。

 

 

 一先ず、一誠を鍛えよう。他のメンバーは前々から実戦経験は豊富だろうし、アーシア嬢は回復役に徹すればいい。

 

 よし、早速明日から鍛えよう!

 

 そう意気込んで、俺は風呂に入るべく部屋を出た。

 

「あら、夏蓮ちょうど良かったわ」

 

 階段を降りると同時に義母さんが声を掛ける。

 

「どうしたのさ?」

 

「今、アーシアちゃんがお風呂に入っているんだけど、タオルを持っていくのを忘れちゃっていて。悪いんだけど、持っていってくれない?」

 

 何と、今はアーシア嬢が風呂に入っているのか。危ないところだったぜ、危うく変なハプニングに巻き込まれる……って。

 

「何で俺なんだよ。一誠ならともかく、アーシア嬢が入っている状況じゃマズイだろう」

 

「大丈夫よ、あの子まだ入ったばっかりだから偶然ばったり遭遇なんて無いから」

 

「いや、だから義母さんが行けば良いじゃ無いか」

 

「私、急いでやらなきゃいけない事があって……って、こんな所で油を売っている暇はなかったわ。じゃあ、お願いね」

 

 そう言って俺にバスタオルを押しつけて二階にあがる義母さん。

 

「あ、ちょ……」

 

 止めようとするがそれよりも先に階段を上って行き、姿が見えなくなった。

 

「……何かデジャブ感があるな」

 

 確か学校でもこんな事が……。まあ、良いか。

 

 そう思い、俺は風呂場への扉を開く。

 

「アーシア嬢、タオル此処に置いて、おく、から……」

 

 扉を開けたその先には、浴室のドアは開けられていて、更にその付近には一誠とアーシア嬢が向かい合っていた。

 

 ――全裸で。

 

 

 

 一瞬、その光景に目を奪われるが、はっ、と我に返りそして……。

 

 ――察した。

 

 そうか、一誠、お前もう。

 

「えっと兄貴……?」

 

「あー、一誠? その、すまん。まさか、此処でやるとは……」

 

「いや、だから」

 

 何か言おうとしている一誠を手で制する。

 

「分かっている。俺も高校生男子だ。それに、お前が人並み外れた性欲なのもよく知っている」

 

「ちょ……!」

 

「だが、一つだけ年長者として、兄貴として言わせて貰う」

 

 気分を落ち着かせるために一旦深呼吸をすると、言った。

 

「――避妊だけはちゃんとしろよ? 学生の内に子供はきついだろうし」

 

「言い訳をさせてください!!」

 

******

 

「で、風呂に入ろうとしたら、アーシア嬢がいて、そのまま硬直していたところを俺が入ってきた……そんな感じ?」

 

「そう、そんな感じ」

 

 あれから、一誠の必死の叫びに耳を貸した俺は、自分の部屋で一誠の説明を聞いていた。

 

「ほんとかねぇ……普段のお前を知る俺からすれば、全然信用できないんだけど」

 

「いやいや、ホントだって! 信じてくれよ」

 

 必死に自分の無実を主張する一誠だが、こういう事に関しては犯罪者並みに信用が無い野郎だ。どう信じろと?

 

「はあ……一誠はこう言っているけど、どうなのアーシア嬢?」

 

 俺は一誠の隣に座っているアーシア嬢に聞いてみる。

 

「は、はい。イッセーさんのおっしゃる通りです。……その、私がイッセーさんにお背中をお流ししようと思いまして……日本では、裸の付き合いというのがあると聞いて……」

 

 ……ナンデスト?

 

「一誠、やっぱお前……」

 

「違う! 何か、クラスのヤツがアーシアに変な事吹き込んだんだ!」

 

 必死に言い繕う一誠だが、俺は疑念の視線を隠さない。

 

 何せこいつには前科が色々ありすぎる。御陰で俺がどれだけ各方面に頭を下げたか……。

 

 自分の事を慕ってくれている女の子を自分好みに教育して、あんな事やこんな事を……。正に光源氏!

 

 さて、ちょっと制裁を加えてやるか……。前に女性関係で色々あったから多目に見てやっていたが……。

 

「よーし、一誠その場を動くか。ちょっとじご……あの世を見て貰うから」

 

「いやいや、言い直せていないぜ兄貴!?」

 

「なーに、俺たち悪魔なんだから行くところは冥界だ。問題無い」

 

「問題大ありだよ! 俺の話聞いてくれよ!」

 

「残念だな一誠……お前の話を信じるなんて基本的に不可能!」

 

「俺ってそんなに信用無い!?」

 

 何を今更。普段の言動を見なさい。

 

 一誠のあたふためく姿を見ながら、一歩に一誠に近づくと、

 

「ま、待ってください!」

 

 アーシア嬢が一誠を庇うように前に出る。

 

「何をしているアーシア嬢」

 

「イ、イッセーさんの言っていることは本当です! わ、私がイッセーさんに裸の付き合いというのをお願いしたんです!」

 

 ……ふっ。

 

「まあ、分かっていたけど」

 

「分かっていたのかよ!?」

 

「ははは、当たり前じゃないか。お前にそんな度胸があるとは思えないし。まあ、あれだ、嫉妬というやつだ」

 

「何が嫉妬だ! 部長といい仲だって二年にまで広がっているぞ! 最近は朱乃さんとも仲良いし! そこんところどうなんだよ!」

 

 あ? 何いってんだこいつ?

 

「お前こそ何言ってんだ。リアスと朱乃はまあ、確かに親友だが、別にお前が思っているような事は無いぞ」

 

「嘘つけ! こないだなんて一緒に裸で寝ていた癖に!」

 

 なっ……ここであのことを言うか!

 

「ちょ、おま、あれは俺の治療の為だ! 決してやましいことは無い!」

 

 無いよな? 本当に何にも無かったよな……?

 

 今更のように心配になってくる俺。

 

 何か、リアスなら何かやりかけないような雰囲気がある。こないだだって処女を貰って欲しいなんて夜這いしに来たほどだ。あり得ない話では、ない。

 

 

 ……やばい、何か怖くなってきた。

 

 俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、一誠が更にまくし立てる。

 

「やっぱり何かあったんだな! 同じ紅髪だからか!? 顔なのか!? 何で兄貴ばっかりに良い目があるだ! 俺にも少しくらい分けてくれよ!」

 

 何を分けろっていうだこいつは!

 

「ええい、お前はいい加減にしろ! 大体、お前がモテないのはいつものことだろうが!」

 

「な……!? 言ってはならないことを!」

 

 何が言ってならないことだ。普段から盗撮、覗き。その他数ある変態行為をやっているヤツがそもそも女子に良い感情を持たれるわけは無いだろうに。

 

 というか、その変態行為が無くなれば、モテる……いや、エロが無くなれば、一誠は一誠が無くなるか。うん、エロが無い一誠なんてむしろ気持ち悪くなるかもな。

 

「これ以上は兄貴といえど許さん!」

 

 一誠の性格について考えていたら、何やら一誠が指を俺に向けて指しながら言ってきた。

 

「ほお、許さんと? ならどうする。殴るか? 喧嘩するか? 今まで一度だって俺に勝てたことない癖に」

 

 小さい頃から身体能力が高かった俺は地元では負けたことが一度も無かった。当然、一誠にも負けたことは無い。

 

「何なら、神 器(セイクリッド・ギア)を使っても良いぜ?」

 

「な、舐めんな! 今の俺は悪魔! 兄貴にだってそうそう負けないぜ!」

 

「はっはっ、何いってんだか……俺だって悪魔だろうが!」

 

 結局、アーシア嬢の必死の止めが入るまで殴り合いをしていた俺たち兄弟だったのだが、喧嘩というより、一方的に俺が一誠をボコボコにしてしまったわけだが、途中からなんで殴っているのか、お互いに分からなくなっていたが……。まあ、そこは俺たち兄弟なわけだがな。

 

******

 

「山の空気は何でこんなにおいしいのかねえ」

 

 澄んだ空気の中、周りの緑を見渡しながら俺は呟いた。

 

「それは勿論、緑が溢れているからでしょ?」

 

 隣を歩いていたリアスがそう返した。

 

「まあ、確かにそうなんだが……」

 

「何よ、煮え切らないわね」

 

 リアスが訝しげに俺を見てくる。

 

「いやあ、まあ色々あるわけだよ」

 

「ふーん」

 

 リアスはよく分からないという感じだが、実を言うと俺もよく分かっていない。

 

「ぜえ、ぜえ……」

 

 後ろから荒い息が聞こえた。

 

 後ろを振り向くと、大きなバックを背負った一誠がフルマラソンを走りきった後のように疲れ切った顔をして、歩いていた。

 

「だらしねえぞ一誠。もう少し気張れや。祐斗や小猫ちゃんも全然疲れていないんだから。つうか、小猫ちゃんに至ってはお前の倍以上持ってるぞ」

 

「そりゃあ、分かってるけど、てか、何で、兄貴はそんな、余裕そうなん、だよ?」

 

 息を切らせながら聞いてくる一誠。

 

「そりゃ、まあ普段から鍛えていたからな。それくらい知ってるだろう?」

 

 まあ、実際は少し裏技も使っているんだが……。

 

「くそおおおお! 負けてたまるかあ!」

 

 ちょっと目を離したら、何かを感じたのか、一誠は叫び声を上げながら、坂道を駆け上がっていった。

 

 てか、そんな風に走ったら、更にバテるぞ。……言わないけど。

 

 さて、何故俺たちが現在、大きな荷物を持って、山の中を歩いているのか? それは今朝にまで時間が遡る。

 

 一誠とアホみたいな喧嘩をした次の日。リアスが家に尋ねてきたのだ。

 

「今から修行に行くから支度しなさい」

 

 と、言ってきたのだ。

 

 まあ、反対する理由も無く、俺や一誠、アーシア嬢は一週間分の荷造りをして、リアスと共に出発した。

 

 義父さんや義母さんにはまあ、いつもの如く、リアスが色々していたが……。

 

 途中で朱乃達に合流した俺たちは、転移魔方陣で今登っている山の麓までジャンプした。

 

 で、そこでリアスから大量の荷物を渡されたのだ。

 

「コレを持って、山の頂上にある別荘まで行くわよ」

 

 との事だ。

 

 前衛組――つまり、俺、一誠、祐斗、小猫ちゃんの四人で荷物を分担し、運ぶことになった。

 

 唯、『戦車』である小猫ちゃんは俺や一誠より四、五倍はありそうな荷物を表情一つ変えずに黙々と背負って歩いていた。

 

「というか、これ何入ってんだよ」

 

「調理器具とか、メインになってるかしら。別荘はしばらく使っていなかったから、色々と補充しておかないとね」

 

 成る程。それと同時に俺たちの修行か。

 

 まあ、悪くない。こういうのは筋力アップに一番良い。一週間でどこまでいけるか分からないが、そこはリアスに任せよう。悪魔としては、リアスに任せた方が良いだろうし。

 

 それから少しして、俺たちは豪華な別荘の前にたどり着いた。

 

「さて、着替えたら早速修行を始めるわよ」

 

 性急だな。ま、時間も殆ど無いし、当然か。

 

「じゃあ、祐斗。夏蓮と一誠を連れて着替えに行って。私達も直ぐに行くから」

 

「分かりました。じゃあ、先輩、イッセー君こっちです」

 

 玄関で別れた俺たちは一階の一室でジャージに着替えた。

 

 

 

 さあ、修行を始めよう




いかがでしょうか? 感想待ってます。


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修行スタート

みなさんお久しぶりです。


大学が始まって、新しい生活に馴染むのに時間がかかってしまいました。


ノートパソコンを手に入れたり、ガラケーをスマホに変えたりと、いろいろやっていました。


さて、以前、感想欄でいただいたご意見を参考にして、今まで返せていなかった感想のご返事をいまここでさせていただきます。


受験勉強で返せなかった感想を含め、続きを楽しみに感想本当にありがとうございました

今後ともよりよい作品を作っていく努力をしていきたいと思います。


今回は修行編です。散々待たせておいて、また原作寄りです。すみません、頑張りたいと思います!


レッスン1。祐斗との剣術訓練

 

 俺と祐斗は互いに木刀を持って向き合っていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 お互い、ジッと相手を見つめ、隙を伺う。

 

 ――よく鍛えられているな――

 

 そう思えるほど、祐斗の構えは自然で、隙が見当たらない。良く鍛えられている。

 

 だが、

 

「はっ!」

 

「っ!」

 

 小さいかけ声と共に、一歩踏み込む俺。当然、祐斗は反応して防御の構えを取る。

 

 けれど、そこで普通に踏み込むはずがない。

 

 俺は踏み込むと見せかけて、一歩前に出る前に止まった。

 

「っ!」

 

 踏み込まないことに驚いたのか、一瞬、動きを止めてしまう祐斗。

 

 その一瞬があればいい。

 

 俺は、今度は本当に踏み込み、祐斗に向けて突きを繰り出す。

 

 コレにはさすがに反応出来ないらしい。俺は祐斗の首の目の前でピタッと止める。

 

「……一本かな?」

 

「……参りました」

 

 木刀を下げる。

 

 祐斗は笑みを浮かべて言う。

 

「いやあ、驚きました。さっきのフェイント、完全に打ち込んでくると思ったんですが」

 

「はは、いやあ、前にお師匠様とやって際に何度もやられてな。それで自然と身について」

 

 アレはやばかった。大分剣術というのを知ってきて、少し浮かれていた頃に完全にボコボコにやられてからな。天狗になっていた鼻をへし折られるとはあのことだな。

 

「お師匠様ですか……先輩は何処で習ったんですか? 結構実践的な剣術ですよね?」

 

「ん? 何、隣町にある唯の町道場だよ」

 

「唯の町道場でそんな技術は身につけられるとは……」

 

 困ったような笑みを浮かべる祐斗。

 

 いや、本当に町道場なんだよ。殆ど寂れていて、俺以外に門下生いるのか? ってくらい人気が無かったし。精々、いつもいたのは、あいつらだけで――

 

「……先輩?」

 

「いや、何でも無い。さて、今のを見てどう思った一誠?」

 

 俺は近くで俺たちの試合を観戦していた一誠に声を掛ける。

 

「……いや、正直、何が何だかさっぱり分からん。じっと睨み合っていたら兄貴が動いたと思って、それに反応した木場が防御しようとしたら、兄貴が動かないで。で、次の瞬間、今度は兄貴が動いて……」

 

「何だ、ちゃんと見ているじゃないか。それくらい見ているなら問題無い。ほら、次はお前だ。こっち来い」

 

「お、おう」

 

 促されて、こっちに来る一誠。祐斗は端に寄り、今度は俺と一誠が向き合う。

 

「……えっと兄貴? 俺の木刀は?」

 

 自分の手のひらを握りながら俺に聞く一誠。

 

「何言ってんだ、有るわけ無いだろう。お前は無しだ」

 

「え、ええええ!? 何でだよ!」

 

 何で、そりゃあ、な。

 

「なら聞くけど、お前、剣振るえんのか?」

 

「いや、全然」

 

「だろ? そもそも、一週間かそこらで剣が振るえるわけがねえだろ。だから、剣を振るうということは捨てて、剣を避けることだけを考えて貰う」

 

「成る程……」

 

 一誠は納得したように頷くが、祐斗が口を挟む。

 

「けれど先輩、やっぱり自分で振るうことで基本を分かっているのと分かっていないとでは結構差が出ると思いますよ? それだったらちゃんとやった方が……」

 

「う~ん……一誠、お前、剣振るうのと避けるのを習うの同時に出来ると思うか?」

 

「……無理だな」

 

「だな。というわけだ祐斗。暇さえあれば一誠に斬り掛かってくれ。最低でもお前が同じ騎士(ナイト)と戦っているときにもう一人の騎士(ナイト)が一誠と戦うかもしれんしな」

 

「……分かりました。そいうことでしたら」

 

「すまんな。お前にも修行があるのに」

 

「いえ、気にしないでください。……また手合わせをお願いします。結構勉強になる事も多いんで」

 

「はいよ……さて、一誠、やるぞ。とにかく避けて避けて避けまくれ」

 

「お、おう!」

 

 若干緊張しているのか、どもりながらも、構える一誠。

 

 だが、その構えは取り敢えず、といった感じで、ほぼ隙だらけだ。

 

 ……後で最低限の構えは教えておくか。

 

 一誠の神 器(セイクリッド・ギア)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』は十秒ごとに自分の力を際限無く倍加していくという神をも滅ぼす『神滅具(ロンギヌス)』という十三種の一つだ。

 

 その特性上、身体能力の底上げの能力なら、武器を持たせるより、拳や足で戦った方が神 器(セイクリッド・ギア)をより扱えるようになるだろう。

 

 ……だが、そう簡単にもいかんだろう。

 

 普通、敵が力を増すと分かっていて、放置するヤツが居るだろうか? 答えはノーだ。俺だったら、強くなる前にぶっ飛ばす。

 

 ライザーの野郎もこっちを舐めきっていたから、一誠は切り札としていけたかもしれんが、残念なことに、一誠はライザーの挑発に乗ってしまい、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』をだしてしまったのだ。全く持って情けない。まあ、御陰でライザーから一週間の期間を提示された訳なんだが……。

 

 ライザーがいくらこっちを舐めきっているからって、最低限の注意ぐらいはするだろう。ヤツがよっぽどのバカではなかったなら、だが。

 

 とにかく、最初は攻撃を避けて避けて、ある程度倍加したら攻撃だな。ヒットアンドアウェイ。今の一誠の戦い方。

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

「来い!」

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

「おいおい、もうへばったのか?」

 

 約三十分後、地面に大の字で倒れ込んでいる一誠を見て、俺は溜め息を吐く。

 

 一誠の体には所々、痣があり、見ているだけで痛々しい。

 

 まあ、やったのは俺なんだが。

 

「だいだい、兄貴、本気で、やってるだろ?」

 

「そりゃあな。本気でやんないとお前にも失礼だろ?」

 

 俺は基本的に手を抜くことは嫌う。というか、手を抜けない。といった感じか。まあ、あまりにも差がある場合はそうでも無いけど。

 

「ほら、さっさと立て。次は祐斗とだ。とにかく避けて避けて避けまくれ」

 

「ひいいいい!」

 

 

******

 

レッスン2。朱乃との魔力修行

 

 俺と一誠、そしてアーシア嬢。悪魔新人の俺たちは現在、朱乃から魔力の扱い方について教わっている。

 

「良いですか、魔力とは体全体を通して感じる物。自分の中にある魔力を全体に流すようなイメージです」

 

 そう言うと、朱乃はテーブルに置いてある水の入ったペットボトルに手をかざした。

 

 すると、水が泡立ち始め、次の瞬間、氷となってペットボトルを内側から突き破った。

 

「おお……こんな事も出来るのか」

 

「ええ。炎や雷、今見せた氷など、色んな自然現象を起こすことが出来ます」

 

 俗に言う魔法というヤツか。ちょっと憧れるぜ。

 

「では、今から簡単な魔力でボールを作ってみましょう」

 

 そう言って朱乃は、手のひらにソフトボールぐらいの大きさの魔力の固まりを出した。

 

 えーと、まず、体全体で感じて……

 

「ふん、ぬううう……」

 

 意識を集中して……

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

 手のひらに出すような……

 

「ぐおおおお……」

 

 ………………。

 

「うるせえ」

 

「ぐへ!」

 

 隣でうーんうーん唸っているバカ(一誠)を殴りつける。

 

「ってえな! 何すんだよ兄貴!」

 

「お前が唸っている所為でこっちが集中できねえんだよ! もっと静かにやれ」

 

「横暴だなおい!」

 

 何が横暴か。当然だ。

 

 ぎゃーぎゃー俺たちが言い合っていると、

 

「出来ました!」

 

 …………。

 

「「何いいいっ!?」」

 

 アーシア嬢の発言に驚き、同時にアーシア嬢の方を向く俺たち。

 

 見れば、アーシア嬢の両手の間に先程の朱乃のと同じぐらいの大きさの緑色の魔力のボールが出来ていた。

 

 ま、マジか……。てか、アーシア嬢の魔力の色って緑色なのか……。

 

「あらあら、アーシアちゃんはどうやら魔力の才能があるようですね。……それに比べて、あなた達は……」

 

 呆れを含んだ目でこっちを見る朱乃。

 

「全く、くだらない事で喧嘩して……少しはアーシアちゃんを見習いなさい」

 

 うぐ、言い訳出来んから、余計胸に突き刺さる。

 

 ええい、俺もやってやる!

 

 気分を落ち着かせるために一旦、深呼吸する。

 

 魔力は体全体で、流れるように感じる。

 

 …………。

 

 ギュオオオ!

 

「うおっ!」

 

 出したと思った次の瞬間、俺の上半身ぐらいの大きさのある紅黒い魔力の固まりが出て、て、ちょっと!

 

「うわ!」

 

「きゃ!」

 

 慌てて霧散させるも、突然のことに驚いた一誠とアーシア嬢は、それぞれ尻餅をついてしまっていた。

 

 つうか、今の一体……。

 

「三人とも、大丈夫ですか?」

 

 俺が困惑していると、いつものニコニコと笑みを絶やさない朱乃が、珍しく真剣な表情でこちらに寄ってくる。

 

「俺は大丈夫っす。アーシアは?」

 

「わ、私も平気です……夏蓮さんは?」

 

 アーシア嬢が俺に聞いてくる。

 

「ああ、大丈夫だ。二人ともすまないな。驚かせてしまって」

 

 下手したら、二人にけがを負わせるところだったな……。

 

「夏蓮、ちょっといいですか?」

 

「ああ……」

 

 朱乃は、手元に魔方陣を出すと、俺に近づけた。

 

 そして目を閉じ、魔方陣を光らせると、直ぐに目を開けた。

 

「やっぱり……少し変ですわ」

 

「変って……何がさ」

 

「夏蓮の魔力の出方が、です。何と言ったら良いか……ある一定までは普通なんですが、その一定を超えると、極端に振れ幅が大きくなると言いますか?」

 

「え、どういう事だよ」

 

「つまり、一定以上の魔力を出すと、本人の意思関係無く上がったり下がったりしてしまうんです。夏蓮の魔力はリアスに匹敵か、それ以上ですから、結構影響力は大きいですわね」

 

 なんだと……。

 

「おいおい……なんでまた、そんな事に」

 

「私にも詳しくは……ただ、なんかこう枷みたいなものがあると言ったら良いのかしら? 詳しくはちゃんと調べたほうが良いんでしょうが、生憎今は時間がありませんし……兎に角、魔力修行は慎重にやった良いですわね」

 

 俺は自分の右手の手のひらを見ながら思う。

 

 確かに何か魔力を出すときに違和感を感じることはあった。

 

 と言っても、普段の魔力操作の修行の時は全然使っていなかったから特に感じなかったのだが、少しづづ魔力を上げて行くと、急に魔力が出なくなったり、またいきなり魔力が跳ね上がったりすることがあったのだ。

 

 ……こんなのを戦闘でやっていたら、とんでもないな。戦闘中に急に魔力が使えなくなったら、相当痛手なのは間違いないし、敵にそこを突かれたら非常に不味い。

 

 ……魔力運用を主体として修行したほうが良さそうだな。

 

レッスン3小猫ちゃんとの格闘戦

 

「せいっ!」

 

「…………」

 

 俺のパンチを両腕をクロスして受け止める小猫ちゃん。

 

 俺は後ろにステップして下がる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに構えてにらみ合う。

 

 つーか、強いなあ小猫ちゃん。|戦車〈ルーク〉としての特性もあるけど、ぶっちゃけ、俺より格闘は強いんじゃね?

 

 俺の場合、あくまで格闘は剣術をサポートするためのやつだから、基礎的な部分しかやっていないし……。

 

「……えい」

 

「うおっ!」

 

 考え事をしていると、小猫ちゃんが距離を詰めてきて、右から蹴りを繰り出してきた。

 

 一瞬、反応に遅れるが、何とかガードする俺。

 

「っ! 痛いなおい……」

 

「……油断している先輩が悪いんです」

 

 ご尤もですね。

 

 思わず納得する俺だが、ここで終わらせるのもしゃくなので、小猫ちゃんの足を掴み、そのまま投げ飛ばそうとする。

 

「…………」

 

 しかし、小猫ちゃんは体を捻って、俺の手から離れて距離を取った。

 

「……夏蓮先輩、体術も出来るんですね」

 

「齧った程度だよ。小猫ちゃんほどじゃないよ」

 

「……それでも、基本がしっかりしていて、かなり練習しているのがわかります」

 

 謙遜するも、小猫ちゃんは褒めてくる。

 

 なんかむずかゆいな。格闘ではお師匠様たちに一度も勝ったことが無いから、一回も褒められたことないし、自分でも才能があるとは思っていないし。

 

「……もう1セットお願いします」

 

「オーケー。いつでも来い!」

 

 これを期に俺も格闘の部分を少しでも伸ばすか!

 

 因みに一誠は小猫ちゃんに吹き飛ばされて現在ダウン中だ。

 

レッスン4身体能力アップ

 

「ほらほら、頑張りなさい」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 現在俺は馬鹿でかい岩を背負いながら、坂道ダッシュをしていた。

 

 さらに上にはリアスが乗っており、余計、重みが……

 

「何か失礼なこと考えていない夏蓮?」

 

「いえ、何も」

 

 やばい、一瞬背筋がひんやりした。くわばらくわばら。

 

「ぐおおおおおおお!」

 

 隣で同じく岩を背負った一誠が必死に坂道を上っている。

 

 つうか、マジでよく頑張っているなあ一誠のヤツ。ほんと根性はめちゃくちゃあるしな。

 

「ほらほら、イッセーがあんなに頑張っているのに兄としてどうなの?」

 

「へいへい、行きますよ」

 

 態勢を整えて、再び坂道を上ろうとすると、リアスが上から声を掛けてきた。

 

「あ、そうそう。今までは見逃してきたけど、今後の修行中は魔力による身体能力強化は禁止ね?」

 

「な……」

 

 リアスの言葉に思わず上を見上げる俺。

 

 岩に乗っているリアスは変わらず微笑んでいる。

 

「あら、気づいていないと思っていたの? 貴方が魔力で身体強化しているのは知っているわよ」

 

「そうかい……」

 

 そう、一誠に言っていたちょっとした裏技とは、魔力による身体強化だ

 

 悪魔になって色々な訓練し始めて、ふと思ったことがあったのだ。

 

 ――あれ、これって漫画みたいに魔力で身体強化できるんじゃね? と。

 

 実際に試してみたら、あら不思議。見事に成功したのだ。

 

 ただ、始めた当初は加減は分からず、必要以上に魔力を放出してばてそうになったりと、色々苦労した。

 

 魔力をちゃんと出せる上限は決まってるから、必要以上の強化は出来ないが、それでも日々の特訓の成果は順調に行けた。

 

「しかし、よくこの方法が思いついたわね。通常、悪魔となった者は魔力は火とか氷とか超常のモノを先に覚えるものなのよ? それよりも先に身体強化を思いつくなんて……」

 

 リアスが呆れたような、感心したような風に言ってくるが、別になんてことは無い。

 

「別に……漫画とかゲームとかでよくあることを真似して実践しただけだよ。大したことじゃない」

 

「ふーん……」

 

 リアスが納得してなさそうだったが、俺は取り敢えず、一誠を追うために坂を上り始めたのだった。

 

 

 

 身体強化を禁じられたおかげで、相当負担になったのはここだけの話だ。




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様々な修行

遅れてすみません。先週、宿泊研修がありまして……。まあ、それなりに楽しめましたけど。

サークルやら、バイトやらボランティアやら。やることが沢山あって、なんかパンクしそうです。一次も二次も色々とやりたいからなあ。


「あー良い気持ちだねぇ…………」

 

 湯に浸かりながら俺は呟いた。

 

「先輩はお風呂が好きなんですか?」

 

 同じく風呂に浸かっている祐斗が聞いてくる。

 

「そうだな……親父くさいとか良く言われるけど、結構風呂は好きだな」

 

 夏とか、暑い日以外は基本的に入るようにしている。風呂に入ると気分が本当にスッキリするからな。

 

「別に親父くさく無いと思いますよ? ヒトの好みはそれぞれですし」

 

「まあ、そうなんだが……。しっかし、この大浴場、広いなあ」

 

 辺りを見渡しながら俺は言う。

 

 俺の家の風呂の数倍はある広さだ。十数人は余裕で足が延ばせるんじゃないか?

 

 現在俺たちは一日目の修行を終えて風呂に入っている。

 

 最後の坂道ダッシュはマジでやばかった。身体強化無しでやるとここまで差が出るとは思ってもいなかった……。筋肉痛にならないようにしないとな。

 

「残りの日にちで何とか戦えるようにならないとな……」

 

「そうですね。これからの修行も頑張らないと」

 

 祐斗が真剣な表情で頷く。

 

 そう、これからもっと頑張らないといけない。いけないのに……。

 

「……一誠、お前何やってんだ?」

 

 半眼で一誠の方を向く。

 

 一誠は壁に張り付いて熱心に何かをやっている。

 

 いや、まあ、何をやっているかは大体予想が付くんだが……。

 

「何って決まってんだろ兄貴! 覗けるかどうか試してんだろうが!」

 

「…………」

 

 俺は無言で一誠の後頭部目掛けて風呂桶を投げ飛ばす。

 

「ぐお!」

 

 見事にクリーンヒットして、悶絶する一誠。

 

 全くこいつは……。

 

 俺が呆れていると、一誠が涙目でこっちに来る。

 

「痛いぜ兄貴! 何すんだよ!」

 

「何って馬鹿を止めた」

 

「馬鹿!? いや、なんで馬鹿なんだよ!」

 

「はあ? 女湯覗こうとするやつを馬鹿と言わずに何と言う。あれか? 犯罪者とでも言えば良いのか?」

 

「いや、そういう事じゃなく、てか、普通に覗くだろ! 女湯を覗くのは男のロマンもとい、当たり前の行動だろ!?」

 

「いや、そんなに力説されても……男のロマンってお前漫画の読みすぎだぞ? 現実にやったら間違いなく逮捕だろう」

 

 『高校生男子、女湯覗きの容疑で逮捕』なんて明日の新聞ででたらめっちゃ笑えるけどな。

 

「なんだよ、兄貴それでも男かよ!」

 

「お前に男が何たるかを言われる筋合いはねえよ」

 

 ほんと、こいつだけには言われたくないな。

 

 しかし、俺の発言が気に食わないのか、一誠は今度は祐斗に聞く。

 

「木場! お前は男だよな!」

 

「イッセー君……確かに僕は男だけど、覗きはだめだよ」

 

 祐斗も窘めるように言う。

 

 というか、祐斗に同意を求めるのも間違ってるぞ。

 

 俺と祐斗に否定された一誠は信じられないものを見るかのように後ろによろめく。

 

「し、信じられねえ……覗きは男のロマンだろ!? 二人ともどうしちまったんだよ!」

 

「いや、だからお前がどうしちまったんだよ」

 

 思わず突っ込むように言う俺。

 

 しかし、一誠は力説を続ける。

 

「男が女を求めるのは男の性! 故に! 男が女湯を覗くのは自然的なことであって、決して不自然な事ではない!」

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………。

 

 ……ふむ。

 

「一誠、今から山降りて病院に行こう。夜勤の病院なら直ぐに見てくれるはずだ」

 

「……はい?」

 

「祐斗、悪いんだが、今から麓で一番近い病院を探してくれないか? 俺はこいつの支度をする」

 

「え、ちょっと……」

 

「分かりました。今上がってすぐに調べます」

 

「いや、だから……」

 

「すまんな、迷惑かけて」

 

「気にしないでください。僕たちは同じグレモリー眷属じゃないですか」

 

「おい……」

 

「ああそうだな。祐斗、これからも頼らせてもらうぜ」

 

「はい」

 

「ヒトの話聞けよ!」

 

 一誠が俺と祐斗の会話を遮るように大声を上げる。

 

 若干面倒を感じながらも、一誠の方を向く俺。

 

「なんだよ一誠。お前も早く上がって病院行く準備しておけ」

 

「何でだよ! つか、なんだよこの展開! 既視感(デジャブ)を感じるよ!?」

 

 うるさいやつだ。そんなにうるさいと……。

 

『イッセー、何を騒いでいるの?』

 

 隣の女風呂からリアスの声が響いてくる。どうやら、男湯の煩さが女湯に伝わったようだな。

 

「部長……」

 

『さっきからどうしたの? 言い争っているようだったけど……』

 

 訝しげなリアスの声。どうやら内容は聞こえていなかったようだが……。

 

「一誠が女湯覗きたいって願望を高らかに叫んでいたんだよ」

 

「兄貴!?」

 

 驚いたようにこっちを見る一誠。なんだよ、事実を言っただけだぜ俺は。

 

 まあ、そう言ったとしてもリアスは別に大丈夫だろう。

 

『あら、こっちに来たいのイッセー? 私はまあ……別に構わないわよ。夏蓮も一緒に来ていいわよ?』

 

 ほらな? リアスはどうもそういう所に寛容というか、無頓着というか、全く女性はもっと慎みを持って……って、

 

「何言ってんのリアス!?」

 

 思わず叫ぶ俺。いや、本当に何言ってんのあいつ!?

 

 俺の動揺を他所にクスクス笑っているリアス。

 

『あなたなら私構わないわ……むしろ喜んで』

 

 後半はよく聞こえなかったが、ええー。

 

「いやいや、そっちには他の女子だっているだろ?」

 

『そうね……朱乃はどう?』

 

『私は構いませんよ。子供と一緒にお風呂に入ることに抵抗は無いですよ』

 

「まじっすか!?」

 

 一誠が喜ぶように言う。

 

 だがな、一誠気づいているか? 朱乃は俺たちの事子ども扱いしてんだぞ?

 

『アーシアは?』

 

『わ、私は……イッセーさんが望むのなら』

 

 アーシア嬢が気恥ずかしそうに、しかし、はっきりと肯定した。

 

 まずい、アーシア嬢は一誠の事なら基本的にOKだから。

 

 たか、四人中三人がOKってどういう事よ、お前らは男に裸見られた恥ずかしくねえのかよ!?

 

『最後に小猫は?』

 

『……いやです』

 

 よっし、最後の一人でようやく出た! てか、四人中三人が混浴OKというのもほんとどうかと思うぜ。

 

『あら残念、じゃあダメね』

 

 流石に嫌がるヤツがいればリアスもダメと言うだろう。そこらへんはちゃんとしているからなあいつは。

 

 ……というか、今あいつ残念って言わなかったか? え、なに俺たちとそんなに入りたかったの? それはそれでどうかと思うが……。

 

 結局、この後微妙なモノを感じながら、深夜の修行をする俺だった。

 

******

 

 二日目。今日は修行は一旦休止して悪魔や天使、堕天使について学ぶ事となった。

 

 本音を言えば修行を行いたいところだが、こういうの後々必要となるかな。やむを得ないな。

 

「じゃあ夏蓮、私たち悪魔の頂点、魔王の名前は?」

 

「そんぐらい最初から覚えているよ。ルシファー、ベルゼブブ、レヴィアタン、アスモデスだろ?」

 

「正解。それはちゃんと覚えているわね。じゃあ、天使最高位、『熾天使(セラフ)』のメンバーは?」

 

「確かリーダーがミカエルで、ガブリエル、ラファエル、後はウリエルだよな」

 

「正解。すごいわね。ここまでしっかりと覚えているんて」

 

「まあ、前から神話関連の本はよく読んでいたからな」

 

 昔から読書は趣味でよく物語を読んでいたのだ。で、その時に読んだ本からいろいろな神話関連の本を読むようになったのだ。

 

「へえ、なるほど……じゃあ、堕天使の組織とその幹部は?」

 

「うぐ……!」

 

 い、一番つらいところを……!

 

「えっと組織名は『神の子を見張る者(グリゴリ)』で、総督がアザゼル、副総督がシェムハザ。で、幹部が……あー、バラキエル。アル、アルマロス。コカビエル……えっと」

 

 ふと横で勉強している一誠を見たら、どうやらあいつも堕天使のことで苦戦しているようだ。

 

 俺たち兄弟を殺した堕天使なわけだが、連中、相当面倒な奴らだったな。

 

 『神の子を見張るもの者(グリゴリ)』は主に神 器(セイクリッド・ギア)所有者たちを監視する事を主眼に入れているそうだ。

 

 研究をしたり、自分たちの配下にいれたりと、神 器(セイクリッド・ギア)を中心に活動している。

 

 で、あまりにも強力な神 器(セイクリッド・ギア)を有している奴は有害判定を受けて殺されてしまうというわけだ。これには一誠が含まれる。

 

 まあ、一誠がもしあのまま何も知らずに生活していて、ふと、した拍子に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が暴走なんてしたらとんでもないことになっていただろう。その事を考えると、すこし怖いな。

 

 だが、そういう事の関係者ならともかく、一誠は何にも知らない一般人だぞ? せめて平和的に接触を図って、力の使い方を教えるなり何かをすればよかったんだ。

 

 それを警告も無しに唐突に殺害するんだから、最悪なもんだ。

 

 ……今度堕天使に会ったら、その辺を文句言ってやろうかね?

 

「で、残りは……タミエル、ベネ、ベネエル……そしてサリエルだ!」

 

 どうだ、これで正解だろう!

 

「残念、タミエルまではよかったけど、残りはベネムネとサハリエルよ。ちゃんと覚えなさい」

 

 ちっ、最後の二人は駄目だったか。よく覚えておかないとな。

 

 その後、悪魔や天使、堕天使のことをいろいろと学んだ。

 

 これからの悪魔人生に結構重要な部分も多かったからな。ちゃんとやらないと。

 

「では、ここから元シスターである私、アーシア・アルジェントが悪魔祓いの基本を教えます」

 

「よっ! 待ってました」

 

 アーシア嬢の言葉に、一誠が合いの手を入れる。アーシア嬢は恥ずかしそうにするが、話を始める。

 

「え、えっとですね。以前、私が属していた所では2種類の悪魔祓い(エクソシスト)がいました」

 

「2種類?」

 

「はい。映画や本で出て来る聖書を読んだり、聖水を使って憑いた悪魔を払う悪魔祓い(エクソシスト)が『表』側。そして悪魔を滅ぼそうとする『裏』側です」

 

「これは天使、堕天使どちらかの光の力を借りて、常人離れした身体能力を駆使して来るわ。正真正銘、私達の天敵よ」

 

 アーシア嬢のセリフに続いてリアスが真剣な表情で言う。

 

 へえ、何というか、ちょっと意外だな。普段はそういう神父をやっていて、夜になると悪魔祓い(エクソシスト)として活動するんじゃないかと思ったぜ。ちゃんとそういうのも分かれているんだな。

 

「次に聖水と聖書です。まず、聖水は悪魔がふれるととても大変な事になります」

 

 きれいな水が入った瓶を持って言うアーシア嬢。

 

 ……いや、大変な事って何? 溶けるの? 薬品みたいに肌がドロドロになっちまうの?

 

「そのの通り。悪魔がふれると肌が焼けて光の力ほどでは無いけど、大きなダメージを負うわ。アーシアも触れちゃダメよ」

 

「あうぅ……そうでした。私、もう聖水に触ることができないんでしたね」

 

 アーシア嬢が残念そうにつぶやく。

 

「もしかしたら何かの役に立つことがあるかもしれませんから、後で製造法を教えますね」

 

 てか、やっぱりそうなるんだ。もしまた悪魔祓い(エクソシスト)に出会ったらそういうのも注意しないとな。

 

 ……ライザーとの戦いに役に立つかな? あ、いやでも光よりも弱いんだよな。なら、あんまり効果ないかな。できるのは精々意表を突くくらいだろうし。

 

「次に聖書です。小さいころから毎日読んでいたんですが、今では一節でも読むとすごい頭痛がするので困っています」

 

「悪魔だもの」

 

 

「悪魔ですもんね」

 

「……悪魔」

 

「うふふ、悪魔は大ダメージ」

 

「そりゃあ、敵対勢力の悪魔が読んじゃなあ……」

 

 考えるまでもなく当たり前のことである。

 

 しかし、諦めきれないのか、アーシア嬢は聖書を開く。

 

「で、でもここの一節はとても良くて……あ痛!」

 

 頭痛がすると分かっていて聖書を読もうとするアーシア嬢はどこか笑いを呼ぶ部分があった。

 

******

 

「……ん」

 

 夜、ふと目が覚めた俺。

 

「……なんで起きたんだ俺?」

 

 思わず疑問を口にしてしまう。

 

 両隣を見れば、祐斗と一誠が寝ていた。

 

 ただ、祐斗は穏やかな顔で寝ているのに対し、一誠はだらしない顔で寝ているのが面白い対比な感じがするが。

 

 と言うか、ホント、なんで起きたんだろう俺。普段なら朝まで起きることは無いんだが……。

 

 起きていても仕方ない。さっさともう一度寝直すか。明日も早いしな。

 

 そう思い、布団を掛け直す俺。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………。

 

 くそ。

 

「眠れん」

 

 天井を見つめたまま呟く俺。

 

 なんか妙に目が覚めていると言うか、もうちゃんと寝たから眠らなくても良いよって身体が言ってる感じだ。こうなると、また寝るのに結構時間がかかりそうだな……。

 

「はあ、起きるか」

 

 結局俺は起きることにした。どうせ、寝るにしても大した時間は無い。なら、さっさと起きてしまった方が良い。

 

 いまだに眠っている二人を起こさないようにゆっくりと部屋から出る。

 

 つーか、マジでやること無いな。仕方ない。散歩でもするかな?

 

 ここ一週間はずっと修行三昧だったから、周りの景色を見るとかは殆どしていなかったしなあ。こういう時間が空いているときとかにしか出来ないことだしな。うん、丁度良い。というわけで行くとするか。

 

 心は探検家気分で屋敷を歩き始める俺だった。

 

 




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守ってやる

ゴールデンウイークが終わり、大学生の祝日は終わりました。悲しいですねえ。


こないだ友人とカラオケに行って、初めてちゃんと歌ったんですが、友人のアドバイスを受けて歌ってみたところ、段々とおもろしくなってきました。また行きたいです


「リアス?」

 

「あら、夏蓮もう起きたの?」

 

 屋敷内を探索していたら、リビングでリアスを発見した。

 

 リアスはネグリジェ姿で、眼鏡を掛けていた。前に一緒に勉強していた時に集中できるからと、かけていたから、多分これも伊達眼鏡だろう。

 

「まあな。つか、お前は何やってんだ?」

 

 机の方に目を向けると、様々な紙や本が散らばって置いてあった。俺はその内の一枚を手に取ってみた。

 

 こいつは……

 

「フォーメション? レーティングゲーム用か?」

 

「ええ。と言っても焼け石に水でしょうけどね」

 

「あ……?」

 

 焼け石に水って、こんなに必死にゲームについて学ぼうとしてんのに……。そりゃあ、こんな短期間ではつけ刃になるだろうけど、何もやらないよりはマシな気もするけど。

 

 俺の沈黙をどう受け取ったのか、リアスは苦笑する。

 

「別にこの資料が全く役に立たないわけでは無いのよ? 通常の上級悪魔ならこれでそれなりの対策が出来るわ」

 

「通常……つまり、ライザー相手ならそれが役に立たないと?」

 

「……ええ。ライザー、つまりフェニックス」

 

 フェニックス。不死鳥。文字通り、不死身の炎の鳥の事だ。

 

 流す涙はいかなる傷も癒し、その血を飲めば不老不死になるとも言われている。

 

 通常、聖獣の方が広く知られているが、悪魔として七十二柱の序列三十七として侯爵としての地位を持つフェニックスもまた、存在する。

 

 その力は聖獣のフェニックスとほぼ変わらず、不死身の炎の鳥。

 

「実際、ライザーの実力はあんなヤツだけど本物よ? ゲームの戦績は八勝二敗。この二敗は懇意にしている相手側のお家への配慮ですもの。つまり、実質全勝」

 

「まさに無敵か」

 

 うめく様に呟く俺。

 

 実際、漫画とかではよくあることだが、実際に聞くとなるとそうとう厄介なことだ。

 

 何せ不死身だ。どんなに攻撃しても倒れない。聞くだけで恐ろしくなってくるな。

 

 黙り込む俺を見てリアスが言う。

 

「別に、倒せないわけだはないのよ?」

 

「え? いや、だって不死身だって……」

 

「不死身といえど、完璧ではない。方法は二つあるわ。まずは神クラスの攻撃を当てる事。これなら、フェニックスの肉体と精神を一気に消し去ることができるわ。次に兎に角攻撃を当て続けて相手の精神を圧し折る。このどちらかが出来ればライザーを倒せるわ」

 

 二つの攻略法か……。

 

 前者の神クラスの攻撃はぶっちゃけどの程度か分からないが。一悪魔の俺たちではまだまだダメだろう。俺たち悪魔風に言えば、魔王クラスって事だろう。つか、無理だな。

 

 となると、出来るのは後者か……。ライザーのやつ、なんか苦労を経験したことが無いようなお坊ちゃんタイプだからな。案外そっちで行けるかな。

 

 ……いや、案外、神クラスの攻撃行けるか……? 何せ、こっちにはあいつがいるしな。

 

 そこまで考えて、俺はふと前に感じていた疑問を思い出した。

 

「なあ、リアス。お前、なんでこの結婚をそこまで拒絶するんだ?」

 

 これがずっと俺が疑問に感じていたことだ。

 

 普通、貴族社会ってのはその特権と引き換えに個人の自由というのが極端に無くなってしまう。

 

 結婚もその一つだ。貴族社会の中で生きてきたリアスがその事を知らないとは思えない。それに、リアスはそういう事はちゃんと責任を持って臨むヤツだと俺は思っている。

 

「お前がそんな無責任なヤツとは俺は思わない。――お前は、そんなヤツとは思わない」

 

「……私ってそんな風に見える?」

 

 苦笑しながら言うリアス。

 

「別に。()()は別として、だ。お前はそういう事はちゃんとするヤツだよ」

 

 ――本人の個人的な意思なんかは除いて、だけどな――

 

 そう心の中で付け足しながら肩を竦める俺。

 

 じっと俺を見つめるリアスだが、やがて諦めたようにため息をつき、話し始めた。

 

「そうね、普通なら、私はここでちゃんと結婚の話を受け入れて大人しくライザーとの結婚を素直に受け入れるべきなのでしょうね。……でも」

 

「でも?」

 

 一旦、言葉を切り、窓の方を向くリアス。その眼差しはどこか遠くを見るようだった。

 

「どうしても結婚……恋だけは私にとって譲れないものなの」

 

 ……譲れないもの。

 

「確かに、私はグレモリーの娘として、次期当主として生きてきたわ。それを苦に思った事は無いし、これからも思うことは多分無いわね……でもね、それでは、みんなグレモリーという家を通して私を見るわ。私個人の事を見てくれるヒトなんて同じグレモリーの家の家族ぐらいだわ。他の悪魔たちのほとんどは、私をグレモリー家を通じて見てくるわ」

 

 ……個人として見られない辛さ、か。

 

 ――うわー赤鬼だー――

 

 ――逃げろー赤鬼が来たぞ――

 

「……分からなくもないな、それ」

 

「え?」

 

「いや、なんでも無い。……それで? そんなお前個人を見おうともしないヤツとか結婚したくない。お前事を、お前自身をちゃんと見てくれるヒトと結婚したい。そういうわけなんだな?」

 

「まあ、それもあるけど……」

 

 どこか歯切れが悪く言うリアス。なんだ、まだあるのか?

 

「その、私ね、えっと……」

 

 頬を赤らめて、何やら恥ずかしそうにもじもじしているリアス。

 

 なんだよ……なんか、普段と違って可愛いな。普段は綺麗とか、凛々しいとかの方が似合う感じだったんだが。

 

 てか、リアスも女の子なんだからこっちの方が素か。

 

 恥ずかしがっているが、意を決したようにこちらを見るリアス。

 

「じ、実はね夏蓮」

 

「おう……」

 

「私……小さいころにある約束をしたの……」

 

「約束?」

 

「ええ……将来、好きあったヒトと絶対に結婚する。そういう約束よ」

 

 …………はい?

 

 思わず、絶句する俺。

 

 その様子を見たリアスが何か勘違いしたのか、あたふたし始めた。

 

「あ、やっぱり、変よね? こんな年になってもそんな約束を守ろうとしているなんて」

 

「いや、別に、内容自体はそんな悪い事じゃないさ。俺が驚いたのは、小さいころの約束をずっと守ろうとしているお前の義理さだよ」

 

  正直、驚く。何せ、小さいころの約束なんて半分冗談みたいなのが多いだろう。それを律儀に守っているんだから、リアスの性格の良さがわかる。

 

「義理さ、ねえ」

 

 どこか寂しそうにつぶやくリアス。

 

「私ね、夏蓮。小さいころの記憶が全く無いの」

 

「え……」

 

 突然のカミングアウトに俺は言葉を失う。

 

 記憶が無いって……俺と同じ……。

 

 動揺する俺を他所に、リアスは話を続ける。

 

「人間界で言うと……そうね、小学校の頃からはあるんだけど、それ以前の記憶が全くと言っていいほど無いの」

 

「それは……普通なんじゃないのか? 俺だって、そんぐらい前の記憶は全然……」

 

「ううん。私、記憶力は良い方なの。実際、昔のことは結構覚えているのよ? でも、幼いころの記憶だけが無い」

 

 俺と同じ……? いや、俺の場合は何か事故に巻き込まれてその影響だし、全然違うか。

 

「何だか、家族も何か隠しているような感じなの」

 

 膝を抱きかかえながら言うリアス。その表情は不安そうだ。

 

「毎年のように撮っている写真の中でも、私が小さいころの写真は殆ど残ってないの。最近のと比べても本当に。お父様もお兄様も、意図的にその話を避けている節があるわ」

 

 それは……きな臭いな。完全に何かあるとしか言いようがない。

 

 あれ、でも……。

 

「なら、約束は? 幼いころの記憶はないって」

 

「その事だけは覚えているの。尤も、約束した相手の顔は思い出せないんだけどね」

 

 寂しそうに言うリアス。

 

「私はその子と本当に仲が良かった。どこに行くのも一緒。一緒に居ない時間の方が少ないくらい。それぐらい仲が良かった」

 

 本当にうれしそうに語るリアス。

 

 ほんの少し、本当に少しだけ、そのリアスの幼馴染に嫉妬の念を覚えてしまう気がした。

 

「それでね、約束したの。『好きあったヒトと絶対に結婚する』って。だから、私は私が好きになったヒトと結婚する。絶対に」

 

「……すごいな、リアスは」

 

 リアスの決意を聞いた俺は、気づいたらそんな風に言っていた。

 

「え……?」

 

「そうやって小さいころからのうろ覚えな約束をずっと覚えているなんて……ほんと、すごいよ」

 

「夏蓮……」

 

 ほんと、すげえよ。それに比べて俺は……。

 

 だから、だからこそ……。

 

「リアス」

 

 とある決意をした俺はリアスに近づく。

 

「か、夏蓮……?」

 

 訝しげに俺を見るリアス。

 

 リアスの目の前まで行くと、しゃがみ込みリアスを見つめる。

 

 そして、リアスの手を取る。

 

「ちょ、夏蓮!?」

 

 突然のことに驚いたのか、リアスは頬をあからめる。

 

 ちょっとリアスには悪いが、俺だってこれから恥ずかしいセリフいうんだから、勘弁してほしい。

 

「リアス、俺はお前の事は全然知らないと思う。実際、二年とちょっとの付き合いだしな」

 

「う、うん」

 

「けど、お前が全部の物事にいつだって真剣で、手を抜かない。そんな奴だ。ほんと、尊敬している」

 

「そ、そう? ありがとう」

 

「他にも、色んないいところを俺は知ってる。だからこそ、俺はそんなお前が好きだ」

 

「え……」

 

 一瞬キョトンとしたリアスだが、

 

「え、ええええええ!?」

 

 驚くが、俺はそれに構わず話を進める。

 

「だから、世界中の誰もがお前の夢を否定しても、俺は否定しない。誰かがお前の夢を奪おうとするなら、俺が全力でそれを阻止してやる」

 

「夏蓮……」

 

「約束だ。俺がお前の夢、全力で叶えるのを手伝ってやる」

 

 リアスの目を見て俺はしっかりと言った。

 

「…………」

 

 顔を俯かせて黙るリアス。髪に隠れてその表情は見えない。

 

 ……あれ、もしかしなくても失敗した? 失敗したか?

 

 慌てる俺だが、ふと、腕に水滴が落ちてくるのに気が付いた。

 

「え……」

 

 俺が上を向くと、

 

「…………」

 

 呆然とした表情でリアスが泣いていた。

 

 って、なんで!? え、いや、なんで!?

 

 突然の事に混乱してしまう俺。いや、だってなんで泣くの!? あれ、俺やっぱ変な事言っちまったか!?

 

「ど、どうしたリアス? なんか俺変な事言ったか……?」

 

 焦りながら聞く俺。

 

 しかし、リアスは首を振る。

 

「違うの……私嬉しくて……。笑われるんじゃないかと思って」

 

「リアス……」

 

「家族には言えるわけなかったし。朱乃にもずっと言えなかった……」

 

「え……」

 

 そうなの!? 女王(クイーン)の朱乃にも言ってないということは、俺が初めてか!?

 

「だから……ありがとう夏蓮。私の夢を否定しなくて」

 

 

 そういってほほ笑むリアス。

 

 

 

 ――俺はこの時、柄にもなく、リアスの笑顔が美しいと思った。

 

 あの日自らに誓った制約を思わず忘れそうになってしまうほどに。

 

 ……だけど、それはいけない。

 

 

 

 ――それは、決して赦されないのだから…………。

 

******

 

「そういやあさ、ちょっとお前さんに相談があるんだ」

 

「何かしら?」

 

 あの後、妙にすっきりしたリアスが紅茶を淹れてくれて、現在で二人でお茶会なんてのをやっている。正直自分でもなんでこうなったかよく分からないが。

 

「一誠についてだ」

 

「イッセー? イッセーがどうかしたの?」

 

「ああ……ちょっとな」

 

 俺が口ごもっていると、リアス何か納得したのか「ああ……」と声を出した。

 

「イッセーの自信についてね?」

 

「……ああ」

 

 ここ数日くらいからだろうか。ふと一誠の方を見ると、普段のあいつにしては珍しい顔をして落ち込んでいるのだ。

 

 眷属のみんなと一緒に居るときは、普段通りなのだが、一人になっているところを見るとため息をついている姿をよく見かけた。

 

 初めは原因は分からなかったが、直ぐに気が付いた。

 

「ぶっちゃけた話、あいつには戦闘的なスキルの殆どが壊滅的だ。剣術然り、魔力然りだ」

 

「本当にぶっちゃけたわね……」

 

 リアスが苦笑しながら言う。

 

「事実だ。こと戦闘に関してはそういう妥協は命取りなっちまう。だったら、どんなに残酷でも事実を受け止めねえとな」

 

「そうね……」

 

「けどまあ、格闘のセンスはちったあ、あるし、何よりもあいつにはあれがある」

 

「……赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

 神をも殺すことができる十三の神滅具(ロンギヌス)の一つ。

 

 その能力は十秒毎に所有者の力を倍増していくまさしく破格の能力だ。

 

「だが、どんな能力(チカラ)を有していても、弱点てのができちまう」

 

「……ええ」

 

 リアスも分かっているんだろう。一誠の大きな欠点に。

 

 だが、

 

「一誠の欠点埋めるために今回の修行でああいう鍛え方だったんだろ?」

 

「あら、気づいていたの」

 

「初めはまだな。けど、格闘と体力向上を中心にやっていたら何となくな」

 

 一誠の現段階での強さはそれなりに行けると思う。しかし、

 

「一誠自身はそれに気づいていない。あいつ、自分には才能が無いんだって、落ち込んでいるんだろうしな」

 

「……自信をつけさせてあげたいの?」

 

「ああ。確かにあいつには才能が無いかもしれんが、それを補ってやまないもんがあいつにはある。それを気づかせるために、ってなんだよ」

 

 俺が自分の意見を言っていると、リアスが微笑ましそうにこちらを見つめていた。

 

「いえ、何だか、普段は一誠の事ぼろくそに言っているけど、こういうところを見ていると、やっぱり弟思いの良いお兄ちゃんね」

 

「な……!」

 

 自分でも、顔が赤くなってくるのが分かる。

 

「だ、誰が……あいつの事を! あんな馬鹿でアホで変態で、どうしようもないくらいスケベで、変態で……」

 

「変態を二回言ってるわよ」

 

 い、いかん……何を言ってもダメな気がしてくるぜ。

 

 こうして、しばらくリアスにいじられる俺だった。




いかがでしょうか?

今回は、ちょっと書いててこれで良いかな? と思いました。

リアスの過去話をオリジナル的に書いてみたんですが、やっぱりオリジナルを考えるのは難しいですね。大本は頭にあるのに、それを肉付けするのがもう……。

これからのオリジナルな部分を文章にするのが大変に思えてきました。

最後に感想まっています。


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いよいよだ

大学で部活に入ったのは良いんですが、何かこう、違和感を覚えるというか、肌が合わないというか……。


 リアスと語らった次の日。俺たちは庭に集まっていた。

 

「さて、一誠。()ろうか」

 

「……ちょっと待ってくれ」

 

「あ? なんだよ。あんまり時間がねえんだ。有効的に使わないと」

 

「……なんで兄貴が木刀構えて俺と対峙してんだ!? どういう状況だよ!」

 

「状況って、お前なあ……」

 

 一度構えた木刀を降ろして俺はため息を付く。全く、こいつは何にも分かっていないのか?

 

「一誠、さっき言っただろ? お前の今の状態を確認するから、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発動して模擬戦をやるって」

 

 そう、現在俺は一誠と模擬戦をやろうとしている。

 

 あの後、リアスと話し合った結果、一誠に自信を付けさせる為には、やっぱり目に見える成果が一番だろうと、そういう結論に至った。

 

 ……まあ、少し前までは普通の高校生だった一誠にはそういうのが丁度良いだろう。調子に乗らせない程度でな。

 

「ほら、取り敢えず、二分――十二回分の倍加ぐらいはやっていいから、やるぞ」

 

「う……分かったよ。……寄りにもよって兄貴か」

 

 おいこら。自分は小声で言っているつもりかもしれんがばっちり聞こえてんぞ。この野郎しばくぞ。

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!」

 

 一誠の声と共に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が出現する。

 

『Boost!!』

 

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が音声を発し、倍加を告げる。

 

 その後、連続して十一回の倍加の音声が流れる。

 

「よーし、十二回いったな? じゃあ、始めるぞ」

 

「おう!」

 

『Explosion!!』

 

 音声と共に一誠の力が上昇したのが何となくだが分かる。相変わらず、ふざけた能力だ。

 

 さて、と。

 

 俺は木刀を構えて一誠を見据える。

 

 一誠も油断なく構えてこちらを見てくる。

 

 ……へえ、格闘の基礎はちゃんと出来てんな。俺と小猫ちゃんが教えた甲斐があったもんだな。

 

 じゃあ……

 

「行くぜ!」

 

 掛け声と共に俺は踏み込む。

 

 そしてそのまま一誠の脳天目掛けて打ち込む。

 

「っ!」

 

 それを一誠は腕をクロスして受け止める。

 

 おお、今の止めるか。なら!

 

 俺は一度距離を取り、今度は右側から攻め込む。

 

 修行を始める前の一誠ならギリギリ反応出来ないくらいの速度で、木刀を横薙ぎに一誠に叩き込む!

 

「なろっ!」

 

 それを一誠は左手の籠手で受け止める。

 

 って、マジかよ。これを止めるか。

 

 一瞬、動きが止まる俺だが、お構いなしに一誠は右手で殴り掛かってくる。

 

 俺はそれを躱し、後方に跳んで再び距離を取る。

 

「…………」

 

 再び木刀を構える俺だが、正直なところかなり驚いている。

 

 いやはや、まさかここまでいくとは……。

 

 一誠の能力の強化に驚く俺だが、流石にやられっぱなしは性に合わんな。少しギアを上げるか!

 

 俺は魔力で身体能力を強化し、一気に一誠の後ろに回り込む。

 

「なっ!」

 

 突然俺が後ろに来たのを驚いたのか。一誠は反応出来ずに固まってしまう。

 

 ――戦っている最中に固まると死ぬぞ!

 

 そう心の中で叫び、俺は一誠の項あたりに思いっきり体と同じく魔力で強化した木刀を叩き込む!

 

 ガンッ!

 

 クリーンヒット! 手ごたえあった。

 

「いっつう!」

 

「!」

 

 ……いやいや、ちょっと待てや、おい。

 

 こっちが木刀で本気でボコそうとしていないとは言え、力は結構、本気(ガチ)だぞ? あいつ、それを受けて、痛いですむのか。

 

 カウンターのように俺に今度は蹴りを入れてくる一誠。

 

 これを躱しまた距離を取る。

 

 ……正直、俺の予想を超えている。これが神滅具(ロンギヌス)。これが、神をも殺せる力を持つ神 器(セイクリッド・ギア)……。

 

 ……ははっ。

 

「良いねえ。面白れえぇ……」

 

「……なんだよ兄貴。急に笑い出して。(こえ)ぞ?」

 

「ん? ああ、済まない。ちょっと面白くてな」

 

「はあ?」

 

「いや、こっちの話だ。……さて、一誠は次は魔力の一撃を打ち込んでみろ。素のお前じゃあ米粒位の大きさというあまりにも貧弱なものだったが、今の強化されている状態でどんぐらい撃てるか試しみろ」

 

「……所々俺を貶してんのは分かるけど……まあ、了解」

 

 なぜかげんなりとする一誠だが、素直に俺のいう事を聞いて、魔力を打ち出す構えを取る。

 

「ドラゴン波ならぬドラゴンショットォオオオオオ!!!!」

 

「まんまだな!」

 

 思わず突っ込む。

 

 一誠の赤い魔力の球が一誠の手を離れると同時に巨大な魔力の塊となった。

 

 うは、すげえ!

 

 いきなりのサイズの変化に驚く俺だが、直ぐにあることを気が付いた。

 

 ――やべ、これ食らったら不味くね?

 

 そう考えた瞬間、俺はすでに躱すことに頭がいった。

 

 幸い、スピードはそこまでのモノじゃない。普通に躱せる。

 

 俺は一誠の魔力弾を躱す。

 

 そして、魔力弾の行方を見て、躱したのが正解だと把握する。

 

 一誠の放った魔力弾はそのまま地面を抉りながら進んでいく。

 

 そして、そのまま隣の山にぶつかると同時に、巨大な爆発を起こす。

 

 ドッゴオオオオオオオオオオオンッッ!!

 

 煙が晴れて、山を見ると、山が無くなっていた。

 

「マジか……」

 

 比喩でも何でもない。文字通り山が下の部分を残して完全に抉れているのだ。最早、山とは言えないだろう。というか、あの山に生息していた動物たちごめんなさい。

 

 いやあ、マジで危なかったな。神 器(セイクリッド・ギア)無しだと、あれを受け止めんの無理だわ。

 

 一誠の方を見ると、自分で放った魔力弾の威力に驚いているのか、地面に座り込んでいる。神 器(セイクリッド・ギア)の宝玉が輝きを無くしているのを見ると、どうやら力がリセットしたみたいだな。

 

「お疲れ様、2人共。さて、感想を聞こうかしら。夏蓮、イッセーはどうだった?」

 

「どうもこうもねえよ。力だけなら結構ガチでやってたんだぜ? それを一誠のヤツは全部受け切りやがった。見ろよ、木刀なんてボロボロだ」

 

 そう言って俺は木刀を前に出す。

 

 すると、木刀はミシリ、と嫌な音を立てて、柄の部分を残して綺麗に折れた。

 

神 器(セイクリッド・ギア)を使わなかったとはいえ、最後の魔力弾を食らったら流石に不味かっただろうしな」

 

「そう。という事よイッセー、あなたはこう思っていたんじゃないの? 『自分には何にも才能が無い』って」

 

「部長、気づいていて……」

 

「確かに、それは半分正解。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発動させていないあなたは弱いわ。けれど、籠手の使うあなたは次元が変わる。あの一撃は上級悪魔クラス。アレが当たれば大抵の者は消し飛ぶわ」

 

 うわあ……あれで上級悪魔か。それじゃあ、魔王様はどんくらいなのかねえ。

 

「莫大な力を受け止める基礎が出来た体を作る事で、あなたはあんなにも強くなる事が出来る。始めの数字が高ければ高いほど、より脅威になっていくの。これはあなたにしかない力、つまりはあなただけの『才能』よ」

 

 リアスが褒める様に言う。

 

「その通りだぜ、一誠」

 

「兄貴……」

 

 俺も便乗して、一誠に言う。

 

「確かにお前には剣術の才も、魔力の才も無いかもしれんが、それを補うもんがある――要は使い方次第だ。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)はお前の立派な『才能』だ」

 

 そう。一誠は別に弱くは無い。ただ、強さの部分が他の奴等とは少し違うだけだ。

 

「お前の力は、フェニックスを倒すのに十分使える。――お前を馬鹿にしたあの女たらしにお前がほえ面かかせてやればいい」

 

「兄貴……」

 

 何やら感慨極まった顔で俺を見てくる一誠。あら? なんか変な事言っちまったかな? まあ、良いけど。

 

「さあ、ゲームまで残り数日。皆、絶対にライザーに勝つわよ!」

 

『はい!』

 

 新たな気持ちを胸に、俺たちはゲームに向けて修行を再開するのだった。

 

******

 

「ふむ……」

 

 午後9時。俺は自室にて悩んでいた。

 

 一誠の実力を確認してから数日。いよいよゲーム当日となった。

 

 学校が終わり、家に帰宅して、部屋に籠っていても、緊張感は拭えない。

 

 いや、緊張感というよりは、昂揚感かな? 戦いに向けての、喜びが溢れてきてしょうがない。

 

 おいおい、俺ってそんな戦闘狂だったか? 案外、自分の事は一番良く分からないのかもな。

 

 そこまで考えて、俺はふと、右手を前にかざす。

 

 手のひらに光が集まりだし、やがて、光は剣の形を取る。

 

 光がはじけ、俺の手には、一本の銀色の剣が握られていた。

 

 剣、と言っても、どちらかと言えば、片刃。つまり刀に形状は近い。柄には装飾が施されているが、実用性なのは、以前から使って分かる。

 

 ――灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)

 

  銀  星  輝  龍(シルヴァリオ・シュテル・ドラゴン)リンドヴルムの宿す俺の神 器(セイクリッド・ギア)だ。

 

 能力は相手のエネルギー攻撃の吸収。そして、吸収した力を一気に解放して、一時的に爆発的な力を所有者に与えるこの二つだ。

 

 しかし、一見、強そうに聞こえるこの能力(ちから)だが、一誠のと同様に弱点はある。

 

 まず、所有者の容量(キャパシティ)を超える攻撃を吸収することが出来ない。これはもう、当然と言えば当然だ。バケツだって、容量を超える水を流し込まれたら溢れてしまうだろう。それと同じだ。

 

 ただ、この弱点は一誠のと同様に体を鍛えていけば、何とかなるだろう。

 

 次に、効果範囲だ。

 

 これはもう、そういう仕様だと思って諦めるしか無い。

 

 つまり、剣が触れた部分のみしか、攻撃を吸収出来ないのだ。

 

 例えば、俺が後ろから攻撃を受けても、その攻撃が当たる部分に剣を持っていかなければ当然、吸収は出来ない。

 

 一誠のもそうだが、神様が作ったって割には案外神 器(セイクリッド・ギア)も弱点が多いよな。いや、そういう風に作ったのか? どちらにしろ、考えて分からないか。何せ分かるのは作った神様だけなんだし。

 

 ――全くですね。あの能無しの頑固クソ神め――

 

「……え?」

 

 なんだ、今、声がした……?

 

 辺りを見渡しても、もちろん誰もいない。一誠とアーシア嬢も俺と同じように自室で準備しているはずだし、義両親も、下に居るはずだ。

 

「気の、せいか……?」

 

 自分で言っておいて何だが、聞き間違いでは無いと思うが……。

 

 釈然としないものの俺は、着替えに取り掛かる。

 

 着るのは学校の制服だ。最初は昔道場で使っていたヤツを使おうと思ったのだが、生憎と三年前から身長が伸びており、着るに着られなくなっていた。

 

 まあ、仕方ない、と。他のメンバーは制服を着ていくみたいなので、俺も制服だ。

 

 駒王学園の制服は中学のヤツと比べると、結構動きやすく出来ている。ぶっちゃけ、運動もそれなりに出来る作りだと思う。

 

 あーでもな、戦闘で絶対破けたりするだろうしなー。そうなったらリアスに頼もうかな? ちょっと汚い気もするが、悪魔として勘弁してほしい。

 

「さて、時間か」

 

 時計を確認すると、そろそろ家を出ないとまずい時間だ。一誠とアーシア嬢を呼びに行くか。

 

 俺は部屋を出ると、まずは一誠の部屋の前に行き、ドアを叩く。

 

「一誠? そろそろ時間だ。行こうぜ」

 

 声を掛けると、直ぐに反応が返ってくる。

 

『兄貴? 分かった、直ぐ行くよ」

 

 少しして、足音が二人分、こちらに近づいてくる。

 

 ……あれ? 二人分?

 

 俺が訝しげに思うのと同時にドアが開く。

 

 中から出てきたのは、一誠とアーシア嬢だった。

 

「アーシア嬢、なんでまた……てか、シスター服?」

 

 一誠は俺と同じ駒王学園の制服だったが、アーシア嬢のは以前、彼女が教会に居た頃に来ていたシスター服だった。

 

「は、はい。部長さんが『一番動きやすい服で来るように』と言ってたので、これに……今は私、悪魔になってしまいましたが、主への信仰心を無くしたことはありません」

 

 いや、まあ、アーシア嬢が良いならそれで良いけど……。案外、リアスもあっさりOKしそうな気がするな。

 

「まあ、アーシア嬢が良いなら……。一誠、準備出来てるか?」

 

「おう! ばっちりだぜ」

 

 パン、とこぶしを手のひらに当てる一誠。その表情は気合十分だ。

 

「は、良い顔だ。気負いすぎて滑んなよ?」

 

「あたりめーだ。兄貴こそ、油断して足元掬われるなよ?」

 

 はっ!

 

「誰に言ってるお前。……よし、じゃあ、勝ちに行くぞ」

 

『おう(はい)!』

 

 一誠と、アーシア嬢も気合の籠った返事をしてくれる。

 

 さあ、やることはもうやった。後は全部ぶつけるだけだ。




いかがでしょうか? 感想まっています

取り敢えず、当面の目標はお気に入り登録千を超える事!


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はじまりだ

目標の千台まであと少し! 頑張っていきたいです!

最近、いろんな小説のネタが浮かびすぎて、どれが書きたいのか分からなくなってくるんですよね……。

ストライクザブラッドも書きたいし、聖闘士星矢も書きたいし、ddの別のも書いてみたいし、一次創作も書きたい!!


 部室に着くと、既に俺たち以外全員集合していた。

 

 みな制服を着て、各々がゲーム開始を静かに待っていた。

 

 祐斗は手甲を装備し、脛当ても付けていた。剣を鞘から抜き、状態を確認している。

 

 小猫ちゃんは格闘家が付けるオープンフィンガーグローブ付けており、静かに待っていた。小柄な彼女が付けると、インパクトがあるな。

 

 リアスと朱乃は、椅子に座って優雅に紅茶を飲んでいた。ゲームは今回が初めてだってのに、随分と余裕がある感じだ。いや、そういう風に意識してんのかな?

 

 何となく話かけづらいので、俺もソファーに座って、目を閉じて時間を待つ。

 

 最早、やることは全てやった。後は、奴らを倒すだけだ。

 

 不死鳥の心を圧し折るのは俺では無理かもしれんが、一誠がいる。リアスがいる。朱乃や他の眷属がいる。

 

 なら、負ける道理は無い――!

 

 そして、開始十分前になり、魔方陣からメイド服を着たグレイフィアさんが姿を現した。

 

「皆さん、準備はお済みになられましたか? 開始10分前です」

 

 その言葉に全員、そちらに意識を向ける。

 

「開始時間になりましたら、ココの魔法陣から戦闘フィールドへ転送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界。そこではどんなに派手な事をしても構いません。使い捨ての空間なので思う存分にどうぞ」

 

 リアスに聞いていた通りか。最初はてっきり冥界でやると思ってたんだけどな。スタジアムみたいなところで。やっぱり、悪魔たちに人間の常識は通じないか。ゲーム用に使い捨ての異空間を作るなんてな。

 

「また……」

 

 一旦、口を閉じてこちら――俺の方を見てくるグレイフィアさん。その眼差しはこちらを探るような目だ。

 

 何なんだ……俺、何かあの人の機嫌損ねるような事したかな? 会ったのはこれでまだ三回目だぜ? いくら仕事の時は厳しいからって、これは無いぜ、って。

 

 そこまで考えて、俺はふと思う。

 

 ――仕事の時?

 

 なんか、最近、自分でも変な事を考えている気がするな。どうなってんだ?

 

 俺が自分の頭に首をひねってると、グレイフィアさんが話を再開していた。

 

「また、今回の『レーティングゲーム』は両家の皆さまも他の場所から中継でフィールドでの戦闘をご覧になります」

 

 ま、当然か。これはグレモリー家とフェニックス家の婚約を賭けた一戦なんだからな。

 

「さらに魔王ルシファー様も今回の一戦を拝見されておられます。それをお忘れなきように」

 

 ……え? ちょっと待ってくれ。なんで非公式のレーティングゲームに魔王様が見物しに来るんだよ? そんなにこのゲームって注目されてんの?

 

 だが、そんな俺の疑問は次のリアスの言葉が解消してくれた。

 

「お兄様が?……そう、お兄様が直接見られるのね」

 

 新たな驚きを残して。

 

 って、ちょっと待てや。

 

「なあ、リアス、俺の聞き間違いか? 今、ルシファー様の事をお兄様と呼んだか?」

 

「ええ、呼んだわ」

 

 ふむ、どうやら俺の聞き間違いじゃないようだ。いやあ、良かった。

 

 ……えー。

 

「ぶ、部長のお兄さんって魔王なんですか!?」

 

 一誠も驚いたのか、大きな声を上げる。俺も同感だ。マジかよ。

 

「あ、あれ? でも『ルシファー』だよな? でも、部長の所は『グレモリー』だし……」

 

 一誠が新たな疑問を言う。

 

 そう、そこが俺にも分からん。家名が違うのに兄? 養子か何かか?

 

「部長の苗字とルシファー様の苗字が違うのには理由があるんだ」

 

 混乱している俺たちを見かね、祐斗が話をしてくれた。

 

 祐斗の話によると、先代の四大魔王が死んだ際、悪魔の中でも最も強い四人にその名が受け継がれたそうだ。つまり、昔は家名だったのが、今ではどちらかと言うと、役職名の役割が強いようだ。

 

 選ばれた四人の新たな魔王様も先代と比べても遜色無いほどの強さを持っているので、現在、三大勢力の均衡は守られているそうだ。

 

 サーゼクス・ルシファー。『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』の異名を持ち、四大魔王の中でも最強と名高いヒトらしい。

 

 なるほどな。本来家を継ぐはずだったお兄さんが魔王となって家を出てしまったので、妹であるリアスがその役割を担うことになったのか……。やっぱり、複雑な関係にあるんだな……。

 

「そろそろお時間です。皆さま、魔法陣の方へ。なお、1度あちらへ移動しますと終了するまで魔法陣での転移は不可能となります」

 

 グレイフィアさんが時計を見て、こちらに言う。

 

 いよいよか……。何だか興奮してくるぜ。

 

 俺たちは魔方陣の上に立ち、転送が始まるのを待つ。

 

 やがて、転移用の魔方陣が光だし、俺たちは光に包まれる。

 

 眩しさに目を閉じ、次に目を開けた時、俺たちがいた場所は……

 

「――部室?」

 

 駒王学園旧校舎オカルト研究部部室だった。

 

 うん、俺たちが普段使っているオカルト研究部部室そのものだ。

 

 一瞬転送失敗かと思うが、直ぐにそれが違うと思い出す。

 

『皆さま。この度グレモリー家、フェニックス家のレーティングゲームの審判役を担う事になりました、グレモリー家の使用人、グレイフィアでございます』

 

 それを裏付けるように校内放送でグレイフィアさんの声が響く。

 

『我が主、サーゼクス・ルシファーの名の下、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致します。さて、今回のバトルフィールドはリアス様とライザー様のご意見を参考にし、リアス様が通う学び舎駒王学園のレプリカを異空間にご用意いたしました』

 

 やっぱりか。リアスとお茶会をしたあの時、レーティングゲームについて少しだが、色々と分かったことがある。

 

 まず、ゲームのフィールドはそういう専門家の悪魔が用意した異空間で行う。

 

 先ほどのグレイフィアさんの言葉通り、あの山を消し飛ばした一誠の攻撃並みの実力を持つ上級悪魔たちが闊歩するのだ。とても頑丈なのだろう。

 

 さらに、その異空間を専門家である悪魔が用意するわけだが、これは、ゲームによって毎回違うのが作られるそうだ。今回は駒王学園のレプリカをそっくりそのまま作り上げたんだろう。さっき見たが、部室にある傷が本物と全く同じところを見ると、内装まで完全再現だろう。どんだけ無駄に悪魔の技術力は高いんだろうな。

 

『転移された場所が本陣となります。リアス様の本陣は旧校舎のオカルト研究部部室。ライザー様の本陣は新校舎生徒会室。両陣営の兵士(ポーン)は相手本陣に侵入することでプロモーションが可能となります』

 

 相手本陣への潜入か。本陣に入ってしまえば、俺と一誠は(キング)以外の駒に昇格出来るが、同時に相手側の兵士(ポーン)も気を付けなければならない。

 

『では、ゲームスタートです』

 

 さあ、ついに始まったレーティングゲーム。俺は当初漫画よろしくすぐさま総力戦となるかと思ったが、実際はそうでもないらしい。

 

「さて、と。じゃあ、まずは陣地の防御を固めましょうか。祐斗、小猫。二人は森にトラップを仕掛けてきて頂戴。朱乃は二人が戻ったら、ここら辺一体に幻術を掛けて頂戴」

 

 リアスの言葉に三人は返事を返す。

 

「な、なんか、イメージしてたのと違うな」

 

 俺の隣で一誠がそんなことを言う。

 

「ま、気持ちは分からんでもない。このレーティングゲーム、通常はかなりの長期的な部分が多いようだな。そのまま数日を戦い続けるなんてのもあるらしい。まあ、短期決戦のもあるらしいが」

 

 これもリアスの受け売りだ。事前に聞いておいて良かったかもな。

 

 さて、リアスの指示を受け、三人が部室を出ていった後、リアスが俺たちの方を向く。

 

「さて、夏蓮、イッセー。こっちに来て」

 

「ん、俺たちは何をやれば良いんだ?」

 

「やると言うよりは、私が貴方たちにやるといった方が良いかしらね」

 

 ? どういう事だ?

 

 疑問に思いながらもリアスの前に行く俺と一誠。

 

 リアスは俺たちの前に立つと手のひらを俺たちの胸に当てる。

 

 何を、と思った次の瞬間、体の奥から何か大きな力が噴き出るのを感じた。

 

 横を見れば、一誠も何かを感じたのか、目を見開いている。

 

「どう? 二人とも何か感じた?」

 

 俺たちから手のひらを話したリアスがそう聞いてくる。

 

「ああ。これは一体……」

 

「貴方たちの駒に施されていた封印を少し解いたの」

 

「封印?」

 

「ええ。一誠は兵士(ポーン)の駒七つ。夏蓮の兵士(ポーン)の駒は少し特別なものを使っていたから、転生した直後では体に簡単には馴染まなかったのよ。だから封印を施して少し時間を置いたの」

 

「成程ねえ。力が湧いてくる感じだ」

 

「夏蓮、これで貴方の魔力の不安定さも少しは収まるはずよ。でも、根本的な解決にはなっていないから、これのゲームが終わったら一度、専門家に見てもらいましょう」

 

「専門家って……そんなに重要なことなのか?」

 

 意外なほど重要な話になってきたので、少し驚く。

 

「当然よ。今日明日どうこうなるわけじゃないと思うけど、長期的に見ればやっぱり今のあなたの状態は変だわ。本当は、ゲームが始まる前に見てもらいたかったんだけど……」

 

 申し訳なさそうに言うリアス。たく、お前の所為じゃないのに。

 

「仕方ないさ。修行に専念しないといけなかったんだからな。複数の事を同時にやろうなんてのは結構難しいことだからな――今はこのゲームを勝つことを考えようぜ」

 

「夏蓮……」

 

 じっと見つめ合う俺たち。

 

「……なんか、合宿が終わってからあの二人すっげー仲良くなったよな」

 

「はい。なんかこう、距離感が短くなったと言いますか……」

 

「ああ、分かる分かる。なんか家族以上の関係って言うか……なんか羨ましい!」

 

 後ろで何やら騒いでいるが放っておこう。

 

「そうね……勝ちに行くわよ、このゲーム」

 

「ああ」

 

 そうさ、このゲームには勝つ。そして、リアスの夢も叶えてやる!

 

******

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

「一誠、気を付けろよ。小猫ちゃん、もしもの時は一誠のサポート頼むぜ」

 

 コクリ、とうなずく小猫ちゃん。

 

 現在、俺とリアスは体育館に行こうとしている一誠と小猫ちゃんを見送りをしていた。

 

 まず最初の作戦は、一誠と小猫ちゃんが一足先にフィールドの中間地点にある体育館に向かい、そこにいるであろうライザーの眷属と戦闘。その後朱乃の準備が終わり次第、眷属を撃破。

 

 祐斗はこちらの本陣に来るであろう敵の迎撃。アーシア嬢はリアスと一緒に部室で待機。で、俺はと言うと、

 

「俺も待機で良かったのか?」

 

 ソファーに座りながら俺は聞く。

 

 一応、二人の警護という事だが、正直俺も一誠たちと一緒に討って出たほうが良かった気がするが……。

 

「良いのよ。イッセーや小猫の所は二人いれば十分。祐斗も兵士(ポーン)相手なら遅れを取ることはまずないわ。……ただ、絶対とは言えないから最終防衛線としてあなたを残したのよ」

 

「防衛線って……俺は一番弱い兵士(ポーン)だぜ?」

 

「あら、あなたは私たちが守れないほど弱いのかしら?」

 

「まさか。すくなとも二人はちゃんと守れるよ」

 

「なら良いじゃない」

 

 お互いに笑いあう俺たち。

 

 そんな俺たちを見て、アーシア嬢が目を丸くする。

 

「やっぱりお二人とも、本当に仲良くなりましたね」

 

『そんな事無いさ(わ)』

 

 ハモル俺たち。

 

「……やっぱり仲良くなってますね」

 

 苦笑いを浮かべるアーシア嬢。

 

 うーむ。そんなに仲良くなっているかな? 自分ではよく分からんな。

 

 リアスの方を見るが、こちらは微笑んでいるだけだ。

 

 仕方ない、やることも無いし、戦況を確認するかな?

 

 俺は事前に渡され、耳に付けた通信機から音を拾う。

 

 今はおそらく一誠と小猫ちゃんが敵の眷属と戦っているだろう。さて、ちゃんと勝っているかな?

 

 俺は通信機から聞こえてくる一誠たちの声を聴く。

 

『くらえ! 俺の必殺技! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)ッ!』

 

 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)? 何だそりゃ?

 

 俺が一誠の必殺技の名前に訝しんでいると、また新しい声が聞こえていた。

 

『キャアアアアアアアア!?』

 

 女性の悲鳴が。

 

 え、なに? 一誠のヤツ何をしたんだ?

 

 俺が混乱していると、一誠の高笑いが聞こえてきた。

 

『アハハハハハ! どうだ、見たか! これが俺の技だ! その名も『洋服崩壊』! 俺は脳内で女の子の服を消し飛ばすイメージだけを延々と、延々と妄想し続けたんだよ! 魔力の才能を、全て女の子を裸にする為だけに使ったんだ!』

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……えー。

 

「どうしたの夏蓮? 急に顔を覆って俯いてしまって」

 

「いや、ちょっと世の理不尽さを嘆いていてな」

 

「はい?」

 

 いや、本当にあいつは何を考えているんだ!? そんなしょーもない事に少ない才能を費やすなんて! せめて近距離の目くらましにとかに魔力を撃つとかそんなにすれば良かったのに! 初めて聞いたよそんな技!

 

 俺が一誠のふざけた技に嘆いていると、リアスの方に連絡が来たようだ。

 

「朱乃? そう、準備が出来たのね。分かったわ」

 

 お、どうやら朱乃からのようだな。

 

「イッセー、小猫? もう良いわ。朱乃の準備が整ったから体育館から出なさい」

 

 その言葉を受けた二人が体育館から出たであろう次の瞬間、体育館の方から轟音が響き渡った。

 

 体育館の方を見れば、巨大な雷の柱がそびえ立っていた。

 

 うは、あんなデカいの撃てるのか。怖いねえ。

 

 あまりの威力に若干思わず身震いするが、雷の柱はすぐに消える。

 

『ライザー様の兵士三名、戦車一名、リタイアです』

 

 柱が消えた直後、グレイフィアさんのアナウンスが響き渡る。

 

 てか、四人もいたのか。二人ともよく凌ぎきったな。ま、それだけ強くなったって事か。

 

 今回のリアスの作戦は体育館を囮にしてライザーの眷属を倒すというものだ。

 

 体育館はこのフィールドの中間地点に位置するため、先に占拠できたものが有利になるのは間違い。ただ、占拠を維持するのもかなり面倒な部分がある。メンバーがフルに揃っていない俺たちでは到底無理だ。

 

 だったら、その体育館を利用して相手ごと吹き飛ばしてやろうというのが、リアスの作戦だ。

 

 そして、その作戦は見事に成功したと言っていい。こちらは誰も脱落せずに戦車と兵士を合わせて四人倒したんだからな。

 

 幸先の良いスタートに 内心喜んだ次の瞬間の事だった。

 

 突如、体育館の方で再び爆発音が聞こえたのだ。

 

「何!?」

 

「分からん! ただ、こちらのアクションでは無い事は確かだ!」

 

 目をこらし、体育館の方を見る。すると、空に誰かが浮かんでいる。

 

 一瞬、朱乃かと思ったが、身に纏うオーラの色が違う。

 

 あいつは……。

 

 俺が空に浮かぶ者の正体に気づいた次の瞬間、アナウンスが再び流れた。

 

『リアス様の戦車一名、リタイアです』

 

 




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動くか……

今回の話は何か、あんまり話は進みません。気づけば、目標としている五千字を超えているので、ここらで区切ります。



話は変わって、遂に、遂に






お気にいり登録1000を超えましたーーーーーー!!!!!


見たときは本当に嬉しかったですね。これからも頑張っていきたいです!


 おい待て、小猫ちゃんがやられた? さっきの爆発か?

 

 だったら、おそらくやったのは……。

 

「リアス、やったのはライザーの女王(クイーン)だ」

 

「女王ですって!?」

 

 リアスが驚きの声をあげる。

 

 まあ、そうだよな。普通、女王ってのはこんな序盤戦で出すような駒じゃない。中盤戦以降で使う事になる下僕の中では最強の駒なんだから。

 

 ウチみたいに駒が完全に揃っていないところとは違い、ライザーの所は駒はフルに揃っている。こんな初めから女王を使う理由は無いはずだ。

 

 使うとすれば……。

 

「完全にウチを舐めてるな。女王をここで使っても何にも問題は無いってか?」

 

 いくらこちらが経験なしのアマチュアだからって、舐めすぎだろうが……。

 

 俺がふつふつとライザーに対しての怒りを募らせていると、リアスの焦った声が聞こえてきた。

 

「イッセー、落ち着きなさい! あなたが相手はその女王では無いのよ!?」

 

 リアスの言葉から察するに、一誠のヤツ、敵の女王にぶつかろうしてんな?

 

 まあ、こちらの戦力が充実していて、失うものが無ければいいかもしれんが……。

 

「あー一誠? 聞こえるか?」

 

『なんだよ兄貴!』

 

 通信機から聞こえるのは一誠の怒号。

 

 ったく、うるせえな。耳元で叫ぶんじゃねえよ。

 

 そう突っ込みたいが、取り敢えず、そんな事してたら話が進まないから、置いておこう。

 

「一誠、お前、あの女王を倒したいのか?」

 

『当たり前だろうが! あいつは小猫ちゃんをやったんだぞ!』

 

 ま、ここまでは予想通り。じゃ、次は……。

 

「分かった。俺の質問に二、三答えてくれたら、その女王と戦って良いぜ」

 

「ちょ、夏蓮!?」

 

 リアスが驚きの声をあげるが、手で制する。

 

『なんだよ!』

 

「落ち着け落ち着け。じゃ、まずは一つ目……俺たちの目的は?」

 

『ライザーの野郎をブッ飛ばすことだ!』

 

「オーケー。じゃ、二つ目……お前の目の前の奴はお前が倒さないといけないのか?』

 

『それは!……違う』

 

 だいぶ落ち着いてきたな。後もうひと押しかな?

 

「じゃあ、最後の一つ……お前が今やるべきことはなんだ? 小猫ちゃんの敵を今、取ることか?」

 

『……木場と合流して、他のライザーの下僕たちを倒すこと』

 

「分かってんならさっさと行け。そこは朱乃がやってくれる。お前は、お前が今やるべきことをやってこい」

 

 ここで一誠が一対一で女王に戦いを挑んでも勝てないわけでは無いが、かなりの苦戦を強いられるだろう。

 

 要は役割分担だ。一誠は他の眷属を。朱乃は女王を叩きのめせばいい。

 

「出来るよな、朱乃?」

 

『はい。私が全身全霊をもって小猫ちゃんの敵を取りますわ』

 

 いつも通りの口調だが、怒気が見え隠れするのが感じ取れる。こわ。

 

「と、いうわけだ。一誠、さっさと行け」

 

『分かった……兄貴、サンキュー』

 

 聞きづらい声で礼を言う。一誠。

 

 それに思わず、苦笑するが、とにかく今は送るらないとな。

 

「気にすんな……あのいけ好かない焼き鳥野郎の顔面に思いっきりパンチ食らわしてやろうぜ」

 

『おう!』

 

 これで一誠は大丈夫だな。後は……あ。

 

 ここにきて漸く俺があることに気が付いた。

 

 ……やべえ。なんか主であるリアスを差し置いて俺が指示出しちまった。これは不味いかな……。

 

 俺は恐る恐る、リアスの方を向く。怒ってないと良いんだが……。

 

 しかし、俺の予想に反して、リアスは怒ってはいなかった。その表情はどこか弱さを隠しているような感じがしたが……。

 

「あーリアス、すまん。主であるお前を差し置いて、勝手にみんなに指示を出してしまって。本当にすまなかった」

 

 頭をさげて謝る俺。

 

「良いのよ、別に……ダメね私。本当なら、私がイッセーを止めないといけなかったのに、夏蓮に甘えてしまって」

 

「リアス……」

 

 そこで俺は、リアスが震えているのを見た。

 

 そうか、そうだよな。リアスだってまだ女の子だもんな。

 

「リアス」

 

「え……ええっ!?」

 

 俺に呼ばれたリアスが驚きの声を上げる。

 

 まあ、俺がリアスの頭の上に手を置いたんだから当然だけどな……。

 

「ちょ、夏蓮……?」

 

「リアス、あんまり気負うな」

 

 しもどろしているリアスに俺は言う。

 

「確かに小猫ちゃんがやられちまったのは悔しい。仲間がやられたのは本当に悲しい。けどな、それを引きずっちまって負けたら、元の子もない。それはみんな嫌だし、リタイアした小猫ちゃんだって望まないぜ」

 

「夏蓮……」

 

「勝とうぜ。みんな、命かけるくらいの覚悟は持っている。お前も、そんぐらいの覚悟ぐらいあるだろう?」

 

 そうさ。全員、リアスが好きだから必死になってここまで頑張ってこれたんだ。じゃなきゃ、あんな地獄のしごきは耐えられんだろう。

 

「夏蓮さんの言う通りです。私もイッセーさんもみんなが部長さんの事が大切だからここまで頑張ってこれたんです。だから勝ちましょう!」

 

「アーシア……」

 

 アーシア嬢の強い言葉に、リアスが目を見開く。

 

 まあ、あのアーシア嬢がこんな強くもの言うとは流石に俺も予想外だったかな。

 

「……そうね、そうよね。ごめんなさい。みんなが頑張っているのに、私がへこたれていては駄目よね」

 

 そこにはもう先ほどの弱弱しさはなく、いつもの凛、としたリアスがいた。

 

 全く、ようやく戻ったか。これで次の作戦も展開できるかな?

 

 ……ただ、気を付けないといけないのもある。

 

 リアスはおそらく悪魔の中でも一際情が深い方だろう。他の悪魔を知らない俺でもそれは何となくだが分かる。

 

 問題はその部分だ。多分、このレーティングゲームで、他のメンバーもやられるだろう。もしかしたら、最後にはリアス一人になってしまうかもしれない。

 

 ゲームでリタイアした奴らはすぐに転送され、然るべき治療を受けるという。悪魔の高度な技術なら、即死の怪我以外なら問題なく完治出来るという。

 

 だが、頭では分かっていても、心が割り切れるかどうかは別の話だ。先ほど、一誠が激昂して敵方の女王(クイーン)に特攻を仕掛けようとしたのが良い例だ。まあ、流石に他のメンバーはあそこまでいきなり感情的になるとは思わないが……。

 

 リアスは普段は学園のマドンナとしてふさわしい態度を取っているが、実際はどこにでもいる普通の少女だ。お師匠様も『普段から凛々しい女性ほど実際は打たれ弱い』と言ってたしな。少し注意しとくか。

 

 どこか不安な部分を残しながらも戦いは中盤戦に突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

「敵本陣を攻める!? お前とアーシア嬢だけで?」

 

「ええ」

 

 驚く俺にリアスは静かに頷く。

 

 中盤戦に突入し、これからの展開をどうするか、リアスと話し合っていた矢先に、リアスから提示されたとんでも発言に俺は度肝を抜かれる。

 

 ――夏蓮はイッセーや祐斗と一緒に他の眷属たちを撃破。その隙に私はアーシアと一緒に本陣を攻めるわ――

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。(キング)であるお前が中盤戦で本陣出るとか、何考えているんだ!? いや、そもそも、王は普通本陣を自分から出て攻めないもだろうが! お前はまだ本陣で構えていろ!」

 

 早口で何を言っているのか自分でも段々と分からなくなってきているが、それだけ俺は混乱しているのだ。

 

 普通に考えてみてほしい。チェスでまだ相手が陣地に攻め込んできていないのに、いきなりキングが攻めるか? 答えはノーだ。普通はキングが自分から攻め込むなど無いのだ。いや、ヒトによってはキングを動かす奴もいるかもしれないがって、今はそんなことを考えている場合ではない。

 

「リアス、俺たち眷属は最悪、何人倒されても負けは無い。だが、お前が負けたらそこでゲームは終了。俺たちの負けなんだぜ?」

 

「ええ。分かっているわ」

 

「なら……」

 

「だからこそよ」

 

 更に言い募おうとする俺をリアスは目で制する。その眼差しは確固たる意思が見え隠れしている。

 

「敵だってこの状況で私が本陣を出るとは思わないでしょう。そこが狙い目よ」

 

「なら、俺も同行する」

 

 俺も一緒に行った方が微力だが力になれるだろう。

 

 しかし、リアスは首を横に振るだけだった。

 

「夏蓮、あなたはイッセーと祐斗の援護。二人が囮になっているところに出来るだけ敵を引き付けて欲しいの。あなたはライザーとの顔合わせの時に少なからずライザーに警戒心を持たせているはずよ。そのあなたが戦場にでれば……」

 

「……ライザーは多くの眷属を投入してくる」

 

「そうよ」

 

 確かに、リアスの案は嵌れば効果抜群だろう。だが、失敗したときのことを考えると……。

 

 俺が悩んでいると、リアスが言ってきた。

 

「夏蓮、あなた言ったでしょ『勝とう』って。勝つためにはリスクは必要よ」

 

 リアスの確固とした意思を感じ取った俺は、その時点でリアスの説得を諦めた。こうなってはもう聞かないだろう。それに、リアスの策が現状一番良いだろう。

 

 朱乃は現在、敵の女王と交戦中だし、一誠と祐斗はこれから他の眷属達の相手で忙しい。俺は一誠たちの援護に向かい、リアスたちがその隙にライザーを打ち倒す。これが、ベストな形なのだろうな。

 

「……分かった。お前の指示通りに動こう。ただし、無理と判断したら、直ぐに撤退しろ」

 

「心配性ね。大丈夫よ、この私がライザーの心を圧し折ってやるわ」

 

 ……全く、やる気満々だな。ま、意気消沈しているよりはずっとマシか。

 

「そうかい。じゃ、俺もそろそろ向かおう。リアス、二人にはお前から伝えておいてくれ」

 

「分かったわ……夏蓮、気をつけて」

 

「おいおい、俺に言うセリフじゃねえよ。アーシア嬢、リアスが無茶しない様に見ててくれ」

 

「分かりました。夏蓮さんもお気を付けて」

 

 リアスとアーシア嬢の見送りを受け、俺は戦場に向かって走り出す。

 

 

「……さて、まずは」

 

 一誠に説教(鉄拳)だな。

 

 あのバカめ。

 

 

 

 

 

 

 

******

 

「どうりゃああああ!」

 

「ふん!」

 

 俺が繰り出した拳を目の前の戦車(ルーク)、イザベラは腕をクロスすることで受け止めた。

 

 俺、イッセーこと兵藤一誠がライザーの野郎の下僕のイザベラと戦闘を開始して数分が経過した。

 

 まだ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の倍加が戦車(ルーク)を相手に出来るほど出来ていないから、本来ならさっきみたいに自分から攻めずに逃げの一手正解なのだが、前の戦いでの光景が脳裏を横切ってしまう。

 

 爆発に巻き込まれて重傷を負う小猫ちゃん。悔しそうに、顔を歪ませてこのゲームからリタイアしてしまった。

 

 無事だと頭では分かっていても、心が納得したわけじゃない。

 

 俺は頭に血が上ってライザーの女王(クイーン)を攻撃しようとしたが、兄貴に止められて、木場との合流を優先した。

 

 ……本当は、俺が小猫ちゃんの敵を取りたかった。俺の大切な仲間を倒したヤツをこの手で倒したかった。

 

 でも、それは俺の役目じゃない。それに、小猫ちゃんの敵は朱乃さんがきっと取ってくれる。俺は仲間を信じて自分をするべきことをやるんだ!

 

「ほお……良く鍛えこまれている。ライザー様はお前の兄のみを少しだけ警戒していたが、お前も存外、侮りがたい」

 

 相手のイザベラが感嘆するように言う。

 

 そりゃあ、俺だってあの地獄のしごきを耐えてここにいるしな。つーか、ライザーの野郎、兄貴のことを警戒してた?

 

 ライザーのヤツと初めて対面したとき、俺がライザーの挑発に乗って神 器(セイクリッド・ギア)を発動させてヤツに殴り掛かろうとしたのだ。

 

 その時――先ほどの戦闘で倒した――ライザーの兵士(ポーン)の一人、ミラがライザーを守るために棍棒を俺に突き出そうとしたのだ。

 

 しかし、その棍棒が俺に届くことはなかった。

 

 ミラが俺に棍棒を叩き込むより先に、兄貴が神器(セイクリッド・ギア)を発動させて、棍棒を叩き斬ったのだ。

 

 正直、俺には全く見えなかったが、後から木場に聞いてみると、

 

『かなり高い技術だよ。あんなに断面が綺麗だったからね。相当修行を積んでいたんだろうね』

 

 との事だった。

 

 確かに、兄貴は小学六年のころからずっと道場に通ってたんだよなあ。そりゃあ、強いわけだ。

 

 ……そういや、兄貴、中学三年の夏からは行かなくなったけ? 理由聞いても『ちょっとな』って言うだけで結局理由は教えてくれなかったけ。

 

 ……なんかあったんだろうな。高校に入るまでの兄貴、なんか抜け殻っていうか、ホント何も適当にやってる感じがあったからな。

 

 実際、中学まで成績良かったのに、高校の最初のころはいきなり下がったからな。あん時は俺も、兄貴でもあんな点数取るんだなって驚いた記憶があるな。

 

 で、確か、中間を終えたあたりから兄貴のヤツ、少しずつだけど、元気になっていったんだよな。

 

「はああ!」

 

「うお!」

 

 考え事をしていると、イザベラが殴り掛かってきて、俺は慌ててそれを避けた。

 

 あぶねえ。考え事をしている場合じゃ無かったな。今は戦闘に集中しないと!

 

 俺は、決意を新たにし、戦いを再開するのだった。




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やりますかねえ

すんません。まだ戦闘シーンではありません。それは次回って事で。


今回は次の話へのつなぎって事で、どうぞよろしく。


「急がないとな」

 

 俺は走りながら一人呟いた。

 

 既に一誠と祐斗は敵の戦車(ルーク)騎士(ナイト)と戦闘を始めているという。

 

 朱乃は未だに敵の女王(クイーン)と戦っている。遠くから雷鳴が響いている。朱乃も存外に苦戦しているようだな。負けは無いと思うが時間はまだ掛かるだろうな。それまでにどれだけの相手を倒せるかどうか……。

 

 先ほど一誠と小猫ちゃんと朱乃が倒した兵士(ポーン)三人と戦車(ルーク)一人。祐斗が倒した兵士(ポーン)三人。

 

 残りはライザーを入れて全部で九人。まだ半数以上だ。

 

 こちらは小猫ちゃんが脱落して俺を含め六人。まだ数上ではライザーたちに負けている。一人で多くの敵を打ち倒す必要があるな。

 

 ただ、アーシア嬢は完全に回復要員で、戦闘能力は皆無と言ってもい。戦えるのは実質五人だけだ。

 

 はは。マジでこちらが不利だな。でも、それがまた面白い。ここから逆転すれば、勝った時の喜びもまた格別ってね。

 

「そろそろ、リアス達も移動を開始したかな」

 

 リアスの滅びの魔力があれば、ライザーを良いところまで追い詰めることが出来るかもしれない。その後、一誠の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)があれば、文句なしだ。

 

 ……この戦いのキーマンは一誠だ。最悪、リアス以外の他のメンバーを犠牲にしても、あいつをライザーのもとに届けないとな。

 

 そこまで考えて、俺は少し自嘲気味に笑った。

 

 本来なら、犠牲(サクリファイス)はおそらくこのゲームでは常識だろう。だが、俺たちはまだレーティングゲームは始めたばかり。そういうのも慣れていないだろうに。

 

 俺が薄情者なのか? こうやって平然と自分を含めてリアスと一誠以外を最悪、見捨てる事を平然と考えているしなあ……。

 

 思わず、自分の人間性、もとい、悪魔性を考えてしまう俺だが、直ぐに気を取り直す。

 

 今はまだ中盤戦が始まって俺は戦ってすらいない。そんな状態で先の事を考えるなんて、いくらなんでも早すぎだな。状況は刻々一刻と変わっていくだから、しょうがない。目の前に集中しないと。

 

 俺は戦闘音が響く戦場に向かって足を速めた。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「行くぜ! ドラゴン波ならぬ、ドラゴンショット!」

 

 

 俺、兵頭一誠は倍加を完了した『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』で魔力を撃ちだした。

 

 最初は米粒程度の大きさだが、俺の手元を離れた瞬間、極大な大きさとなって相手の戦車(ルーク)イザベラに襲い掛かる。

 

 

「イザベラ! それは受けるな! 避けろ!」

 

 それを見た木場と戦っている騎士(ナイト)カーラマインが怒鳴るようにイザベラに言う。

 

 その言葉に従ったイザベラは横に避ける事でドラゴンショットを避ける。

 

 ドラゴンショットはそのまま地面を抉りながら近くにあったテニスコートに激突する。

 

 ゴオオオオオオンン!!!!

 

 

 刹那、巨大な爆発音と共に赤い閃光が俺の視界を覆う。

 

 思わず目を閉じ、腕を顔に当てた。

 

 少しして、光が収まったのを確認して、俺は目を開け、仰天した。

 

 ――テニスコートが完全に無くなっている!

 

 前回の兄貴との試合の時は山を消し飛ばし、今回はあの時ほどの倍加はしていないが、それでもテニスコートが吹き飛ぶほどの威力を出した。

 

 ほんと、俺の神 器(セイクリッド・ギア)はとんでもないな! 使い方を誤れば、とんでもないことになりそうだ。注意しねえと。

 

「イザベラ! その兵士(ポーン)は確実に倒せ! そいつの神 器(セイクリッド・ギア)は危険すぎる! ここで確実に倒すんだ!」

 

 カーラマインが再び怒声をあげる。

 

「承知! ここで始末せねば、後々の我らの禍根となろうぞ!」

 

 先ほどの攻撃で俺への警戒度がマックスになったみたいで、先ほどとは段違いなほどにスピードが上がった。

 

 だけど、今の俺をあんたじゃ倒せないぜイザベラ!

 

 俺はイザベラの拳を腕で防いで、そのままこちらも拳を繰り出す!

 

 イザベラは躱しきれずに俺の拳を受ける。

 

 さあ、触れてしまえばこちらのもんだ! 喰らえ俺の必殺技!

 

洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!」

 

 俺は必殺技の名を叫ぶ。

 

 すると、イザベラの俺が触れた場所に魔方陣が浮かび上がり、次の瞬間、イザベラの服がすべて弾け飛んだ。

 

「な、なんだこれは!」

 

 流石にこの事態には驚いたのか、イザベラは顔を赤面させて体を隠そうとする。

 

 まあ、普通はそんな反応だよな! そしてそこが俺の狙い目だ!

 

 ――ここだ!

 

 俺は再び手のひらに小さな魔力の塊を出す。

 

 そして、魔力の塊をイザベラに目掛けて放つ!

 

 魔力は俺の手のひらを離れると同時に再び巨大化し、イザベラを襲う。

 

「しまっ」

 

 慌てるイザベラだが、もう遅い!

 

 そのまま巨大な魔力弾を喰らい光に包まれるイザベラ。

 

『ライザー様の戦車(ルーク)一名、リタイア』

 

 魔力弾が消えると同時にグレイフィアさんのアナウンスが聞こえてくる。

 

「よおしっ!」

 

 思わずガッツポーズを取る俺。

 

 二人目の戦車(ルーク)を撃破! この調子でどんどん行くぜ!。

 

 俺が勝利に喜んでいると、

 

「一誠、勝って嬉しいのは分かるが、もう少し周りに気を使え。でないと、直ぐにやられちまうぞ」

 

 俺を咎めるように、しかしどこか楽しそうな声。

 

 ……たく、このヒトは。

 

 このヒトが来るとなぜだろうか、本当にいるだけで心強い気がする。

 

「分かってるよ――兄貴!」

 

 後ろを振り向くと、そこにはリアス部長と同じ紅髪を揺らし、口元に微笑を浮かべながらこちらに歩いてくる俺の義兄、兵頭夏蓮がいた。

 

 手には兄貴の神 器(セイクリッド・ギア)、『灼 銀 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』が既に出現してた。

 

 どうやら部長の言う通り、兄貴はこちらの応援に駆けつけてくれたようだ。

 

「さっき、相手の戦車(ルーク)がリタイアしたのを聞いた。お前がやったのか?」

 

 俺に近づきながら聞いてくる兄貴。

 

「ああ。ちょっと俺の必殺技を使ってな」

 

「そうか」

 

 近づいて俺の横まで来る兄貴。

 

 そして次の瞬間、

 

「ふん!」

 

 兄貴の声と共に、強い衝撃が俺の頭を襲いって。

 

「い、痛ってええええええ!?」

 

 凄まじい激痛が俺を襲う。

 

 マジで痛い! さっきので強化はリセットされて素の状態だから、余計に痛い!

 

 俺は涙目になりながら元凶を睨みつける。

 

「何すんだよ、兄貴!」

 

 

 

 

 

 

 

******

 

「何すんだよ、兄貴!」

 

 俺、兵頭夏蓮はこちらを睨み付けるわが義弟にして愚弟、兵頭一誠を冷めた目で見つめる。

 

 

「ほお。一誠、お前はなぜ俺に殴られたのか分からんか?」

 

「え、え、ああ、うん」

 

 目をそらしながら言う一誠。

 

「一誠、こっちを見て話せ。あと、正座しろ」

 

「あ、はい」

 

 素直に正座する一誠。良いね、素直は良いよ。

 

「さて。一誠、実は最初の戦闘で俺、通信機から奇妙なモノを聞いたんだ」

 

「き、奇妙なモノ? なんだよ」

 

「ああ。お前の声らしきもので『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』、なんて必殺技名が聞こえてきたんだが」

 

「…………」

 

「しかも、その効果が触れた女性の服を完全に消し飛ばしてしまうものだとか」

 

「…………」

 

「まさか、そんな卑猥で下劣な技をお前が開発した訳じゃあ、無いよな?」

 

「…………」

 

「……さっさと吐けやコラ」

 

「い、痛い! 兄貴! アイアンクローやめてお願いだから!」

 

 ギリギリと、一誠の後頭部を締め上げる俺。魔力による強化はすでにしている。

 

「あ、あの夏蓮先輩? 今は戦闘中なんで、イッセー君を怒るのは後にした方が……」

 

「祐斗。こういう馬鹿には直ぐに躾をしないと後々もずっと同じことを繰り返すんだよ。もしそうなったら今後、どれだけの女性に被害が出るか……」

 

 

 祐斗が止めようとするが、無視だ無視。

 

「良いか一誠。確かに俺たちは敵同士。相手はぶちのめさないといけない。だけどなある程度の節度、というのは必要だ。俺たちは別に戦争をしているわけじゃあない。戦いに、女性の服を弾け飛ばして裸にひん剝く理由がどこにある!」

 

「ありません! すんません!」

 

「じゃあなんでやるバカモン!」

 

「だって男のロマンだろ!? 女性の服を消し飛ばしたいと思うのは!」

 

 ロマンだあ?

 

「馬鹿か! そういうのは漫画とかアニメで見るから面白いんだろうが! 実際にやる馬鹿がどこにいる!」

 

 ここにいるな! 自分で言っておいて自分で突っ込むなんてなんか変な感じだな。

 

 

「……ぶっ。あははははは! な、なんですのこの二人? 戦いの最中にまるで漫才みたいなものを!」

 

 一誠に説教を食らわしていると、突然笑い声が響き渡った。

 

 そちらの方を見てみると、金髪の縦ロールに西洋のドレスを身にまとった少女が笑っていた。

 

「あ、貴方たち、お笑い芸人というものを目指しているんですか? もう、可笑しい。あ、あははははは!」

 

「れ、レイヴェル様……」

 

 今にも笑い焦げそうな彼女に他の眷属が声を掛けている。

 

 というか、レイヴェル様? 様って、どういう事だ?

 

「おい、一誠。あの子誰だ?」

 

 アイアンクローを解除しながら俺は一誠に聞く。

 

 すると、一誠が答える前に、彼女自身が息を整えながら、答える。

 

「こ、これは申し遅れました。私、レイヴェル・フェニックスと申します。どうぞよろしくお願いいたしますわ」

 

 そう、ドレスの両端をつまみながら言う彼女、レイヴェル・フェニックス。って、

 

「フェニックス? ライザーの血縁者か何かか?」

 

 一誠が顔をさすりながら言う。

 

「ライザーの野郎の妹だってさ」

 

 

 …………。

 

 ……妹?

 

「はあ!? 妹!?」

 

 思わず彼女を見る。

 

 彼女、レイヴェルはにこやかにこちらに手を振ってくるが、いやいや。

 

「何で妹が兄の眷属をやってんだよ! 訳わからん!」

 

 俺の混乱が分かるのか、一誠が説明を始める。 

 

「さっき、相手の戦車(ルーク)に聞いたんだけど、ライザーの野郎が『妹をハーレムに入れるのに憧れたり、羨ましがるやるいるじゃん? 俺は別に妹萌えじゃあ無いけど、形だけ眷属悪魔って事で』なんだってさ」

 

 ……えー。

 

 ライザーのとんでも理論にもう何も言えない俺。

 

 正直、自分が今どんな顔をしているのか自分でも分からなくなっているくらいだ。

 

「一誠、俺は今どんな顔をしている?」

 

「まるでこの世で信じられないものを見ているかのような顔」

 

「ありがとう」

 

 なぜ、世の中に妹萌、女性を素っ裸にする、などといった漫画や小説、ゲームが多いか? それは実に単純。世の中にそんな事は基本的にあり得ないからだ。

 

 だからこそ、ヒトはそういった空想で欲望を満たすのだ。

 

 しかし、悪魔にはそんな常識は通用しないようだ。何とも悲しい。そういうのはやらないからこそ、面白いものだというのに。それをこの変態共(一誠とライザー)は分からないのかねえ?

 

「……なあ、なんか俺の事馬鹿にした、兄貴?」

 

「ん? お前って何故かそういう所だけは本当に鋭いよな」

 

「本当に馬鹿にしたのかよ!? 兄貴最近、本当に俺に対して失礼だよな!」

 

 こちらに詰め寄ってくる一誠。

 

「はっはっ。一誠、お前に別に敬意を表する必要って――ある?」

 

「何そのむかつく顔。本当に一発殴ってやる!」

 

「ほお? お前が俺を殴るなんて一万年早えよ」

 

 ぎゃーぎゃー言っている一誠を尻目に、俺は辺りを確認する。

 

 ――どうやら、残りの眷属はここにもう集結しているようだな。

 

 先ほどのライザーの妹。獣耳の獣人が二人。祐斗が相手をしている騎士(ナイト)。さらに大剣を背中に背負っているもう一人の騎士(ナイト)らしき女性。そして十二単を着ている東洋風の女性。

 

 女王(クイーン)は今は朱乃が相手にしている。となると、新校舎にはライザー一人だけってことになるな。

 

 ……いくらなんでも、全員出払うってどうよ?

 

 ライザーのこちらの舐めっぷりに怒りを通り越して、最早感嘆を覚えているな。

 

 さて、取り敢えず、どうするか……。

 

 俺が次の一手を考えていると、ふと、空に何かいるのが見えた。

 

 何だ? 敵? 朱乃はもっと遠くで戦っているから違う。他の眷属はここに全員集合しているはずだ。なら……。

 

 空を凝視していると、特徴的な紅い髪が風に煽られて揺れていた。

 

 まさか……。

 

 ここにきて俺は漸く気づいた。

 

「おい、リアス! 何があった!」

 

 俺は通信機に向かって怒鳴る。

 

「部長!?」

 

 隣で一誠が驚いた声を上げるが、今は無視だ。

 

『……夏蓮? 聞こえる?』

 

 やや経って、リアスの声が聞こえてきた。

 

「お前、何やってんだ! そんな空に行ったら……」

 

『分かっているわ! でも、新校舎に入ったと同時にライザーに見つかって……』

 

 悔しそうに言うリアス。

 

 はは、こちらの作戦なんてお見通しって事か。流石経験者。

 

『それで、ライザーがこちらに一騎打ちを申し込んできたの』

 

「一騎打ち? それをお前が受けたのか?」

 

『ええ。ライザーを打ち倒すまたとない機会ですもの』

 

 確かに。ここで舐め腐っているライザーをぶち倒せたら、まさに万々歳だな。

 

『私がライザーを消し飛ばすわ。――夏蓮、貴方は残りの眷属全てを倒しなさい』

 

 ……はっ。

 

 

 

「仰せのままに! 完全に叩きのめしてやるよ!」

 

 

 俺は切っ先を敵に向けながら、そう宣言した。

 

 




いかがでしょうか? 感想待っています。



中々バイトが決まらず悲しい。お金が無いと、生活のやりくりが……。


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押し切る!

今回もほぼ原作通りなので、あまり進展はありませんね……。オリジナルを書くのは本当に大変です。そういうのを書ける作者さん達は尊敬できます。





「叩きのめす? 貴方たち三人が?」

 

 俺の宣言を聞いたレイヴェルが面白そうに言う。

 

「何が可笑しい?」

 

「だって、貴方たち、本当にお分かりですの? こちらとそちらがどれだけの戦力差かを」

 

 

 クスクスと笑いながら言うレイヴェル。

 

「まあ、な。そりゃあ、最初から戦力差があるが、こちらは一人に対し、そっちはもう八人脱落だぜ? このまま行けば、余裕だ」

 

「確かに、眷属の方は倒せるかもしれませんが、お兄様は倒せませんよ。それほどまでに、フェニックスの力――不死は絶大ですわよ」

 

「おいおい、こっちの戦力を舐めてないか?」

 

「『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』、『雷の巫女』、『魔剣創造(ソード・バース)』に『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。更にはあなたの『灼 銀 の 龍 刃(グロリオ・ドラコ・エッジ)』。成程、聞くだけならば、とんでもなく物騒な名前ばかりですわ。ですが、こちらは不死。何にも関係はありませんわ」

 

「けど、フェニックスにだって弱点はあるだろ!」

 

 一誠が叫ぶ。

 

 そう、相手が再生できなくなるまで攻撃を当て続けて精神を折るか、神クラスの一撃を食らわせて、完全にぶちのめすか、だ。

 

 しかし、俺たちの希望を嘲笑うかのように、レイヴェルは鼻で笑う。

 

「再生できなくなるまで攻撃を当て続ける? 神クラスの一撃を当てる? 貴方たち、それがどれ程の絶望的な事か本当にお分かりになって……」

 

「確かにな。ぶっちゃけた話、俺たちはフェニックスと戦ったことは無いから、どれほど攻撃を当てればいいか分からん」

 

 レイヴェルの得意げな話を遮るように俺は言う。

 

「けどな、俺は案外楽なんじゃないかと思ってんだよ」

 

「……何ですって?」

 

 俺の言葉に眉をひそめるレイヴェル。

 

「あいつ、ライザーの野郎、今まで苦労したことなさそうなタイプだしさあ。案外うたれ弱いと思うんだよ。――少なくとも、一誠よりは根性はねえよ、あいつは」

 

 そう、何となくあの世の中舐めきっているような態度を取っているあいつは、恐らく負けたことが無いんだろう。

 

 ――そういう奴ほど、一度崩れると、とんでもない状態になる。

 

「……そうですか。貴方は他の眷属に比べて、物分りのよさそうなヒトだと思ってたんですが……」

 

「悪いね。こと、戦いにおいては俺は基本的に諦めないタイプなんだ」

 

 話は終わりだ。俺は、剣を構える。

 

 まず、この場で倒すべき相手。中核に位置するレイヴェル? 駄目だ。ライザーと同じフェニックスなら、そう簡単に倒せないだろう。ならば――。

 

 俺は、狙う相手を定めて、魔力で脚力強化し、一気に距離をつめる。

 

「なっ!」

 

 突然目の前に現れた俺に相手は驚くが、生憎と待ってやる暇はこちらには無い。

 

 剣を両手で構えて、上段から斬り付ける。

 

「かはっ……」

 

 斬られたもう一人の僧侶(ビショップ)、和服の女性が苦悶の声を上げながら光に包まれる。

 

『ライザー様の僧侶(ビショップ)一名、リタイア』

 

 グレイフィアさんのアナウンスと共に、一人目が消える。つうか、結局名前を知らないまま倒しちまったな。

 

「シーリス!」

 

 レイヴェルが鋭い声を上げる。

 

 その声に応えた大剣を背負った女性、シーリスが剣を振りかぶってこちらに迫ってくる。

 

「シーリス! その方の神 器(セイクリッド・ギア)は、エネルギー系の攻撃しか吸収できないタイプですわ! 物理の攻撃であなたが仕留めなさい!」

 

 レイヴェルがシーリスに指示を与える。

 

 よく分かってんじゃねえか。一度も能力は見せていないんだが、この神 器(セイクリッド・ギア)って案外有名なのかねえ?

 

 と、そんな事を考えていると、シーリスがこちらに向かって大剣を振りかぶってくる。

 

 それを俺は確認しながらかわす。

 

 ……大剣から想像出来るように、もう一人の騎士(ナイト)と違ってパワー重視タイプ。外見からは予想出来ないような威力を出すな。

 

 と言っても受け止めることは出来る。問題なのは、この後のライザー戦を考えると、あまり体力の浪費は避けたい。となると、俺が取るべき選択肢は……。

 

「受け流すしか無いよな」

 

「はああああ!」

 

 再び迫ってくる大剣を尻目に、俺は呟く。

 

 横なぎに迫ってくる大剣の刃の部分に神 器(セイクリッド・ギア)の腹の部分を当てる。そのまま、削るように剣を当てたまま前に踏み込む。

 

「なっ!」

 

 それに驚くシーリス。甘いぜ。

 

 俺はそのまま押し込むようにシーリスを斬ろうとする。

 

「くっ!」

 

 しかし、流石は騎士(ナイト)か、紙一重の所で躱してくる。

 

「はっ! 中々やるじゃねえか」

 

「ほざくな!」

 

 激昂し剣を振りかぶるシーリス。

 

 だが、動きはさっきよりは単調になっている。俺は、そのまま躱しまくる。

 

 ははっ。動きが単調になったおかげでさっきより全然躱しやすくなったぜ。こりゃあ、このままいけるな。

 

 俺はそのままシーリスを挑発するように、余裕の表情を作って躱す。

 

 俺の思惑通り、シーリスは更に顔を歪めて剣を振り回す。

 

 ま、気持ちは分からんでも無いがな。俺だって、格下と思っていた相手に自分の剣が全く当たらなかったら、流石に少しイラつくな。

 

 あ、いや。イラつくより前に驚くかな? そんでもって、相手への認識を改めて、警戒を強める必要があるな。

 

 だというのに、彼女はそれが分かっていないのかねえ。ま、俺には好都合だから良いけどさ。

 

「落ち着きなさいシーリス! 挑発に乗っては相手の思う壺よ! 冷静に確実に仕留めなさい!」

 

 レイヴェルがシーリスを落ち着かせるように声を上げる。

 

 流石に、落ち着かせるような。

 

 なら、落ち着く前にさっさと倒すまでだ!

 

 横から回り込んで、シーリスの後ろにつく。

 

「っ!」

 

 それに気づいたシーリスが慌ててこちらを向こうとするが、遅い。

 

 取った! 俺は、勝利を確信し、剣を振りかぶろうとしたその時だった。

 

「ぐはっ!」

 

 俺の耳に入ってきたのは一誠の声だった。そして、その声は苦悶に満ちていた。

 

「一誠!?」

 

 思わず、見れば、残りの兵士(ポーン)の獣人娘たちに滅多打ちにされ、倒れ伏している一誠の姿が目に映った。

 

「一誠、何やってんだ! しっかり、うお!」

 

 一誠を思わず叱咤しそうになるが、それよりも先にシーリスの大剣が俺の方に迫ってきていた。

 

 流石に、意識を一誠の方に向けていたからギリギリだったが、何とか躱せた。

 

 ……最も、髪が数本犠牲になってしまったが。

 

 一度距離を取り、改めて一誠の方を見る。

 

 既に全身が傷だらけでボロボロ。体もプルプル震えている。血反吐もいくつも吐いていて、誰もが見ても、重傷だと一目で分かる。

 

 ……限界か。

 

 そう、思わずにはいられなかった。

 

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は使用者の体力をかなり使うというデメリットがあると聞く。

 

 今回の修行で、大幅に体力はアップしたが、やはり一朝一夕。そう上手くはいかないか。

 

 こんな事になるなら、一誠はライザーのヤツをぶち倒すこちらの切り札だから一誠を温存して、俺が前に出るべきだったか……。まあ、今更考えても仕様がない事だが。

 

 さて、どうしたものか。ここいらの眷属ならあとは俺と祐斗と二人でなら難なく倒せるだろう。朱乃も、結構時間を食ってるが、もう少しで敵の女王(クイーン)を倒せるだろうな。

 

 問題はその後だ。どうやってライザーを倒すかだ。

 

 RPG風に言ってしまえば、俺たちは魔王の一歩前でHPもMPもほぼゼロの状態になってしまうような状態になるだろう。

 

 いや、アーシア嬢がいるから、HPは大丈夫かな?

 

 問題はMP、体力だ。

 

 傷は治せても、アーシア嬢の神 器(セイクリッド・ギア)では、体力までは元に戻せない。それを考えれば、あまり体力は無駄に使えない。

 

 俺が今の状況を打開するのに四苦八苦していると、突如、爆発音が響いた。

 

 今度は何だ!

 

 次々と変わっていく戦場の状況に、思わず声を上げたくなるが、それを飲み込んで爆発音がした方向を見る。

 

 爆発音がしたのは、屋上だ。

 

 つまり――リアスの戦っている場所。

 

 屋上を見てみるも、爆煙が屋上一帯覆っており、見えない。それだけ激し戦いという事か。

 

 少しして爆煙が晴れると、そこには軽傷を負い、片膝をついているリアスと、ニヤニヤとムカつく笑みを浮かべているライザーが傷一つ無い状態で立っていた。

 

 リアスの傍らにはアーシア嬢がおり、リアスの傷を治していた。

 

 おいおい、相手はリアスと同じ上級悪魔なんだろ? いくらリアスとの経験の差があるからと言っても、差がありすぎる。

 

 これが、フェニックスなのか? 流石に、これは……。

 

 

 俺の脳裏に敗北の二文字がちらついてきた時だ。

 

 

「俺に力を貸しやがれ! 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!」

 

 

『Dragon booster!!』

 

 さっきまで血反吐を吐いて、もう動けないと思われていた一誠が突如、大きな声を上げる。

 

 それと同時に、一誠の神 器(セイクリッド・ギア)が赤い光を放つ。

 

「もっとだ! もっと俺に力を! アーシアや兄貴! 部長やみんなを守れるだけの力をよこせ! 俺の思いに応えろおおおおおおおおおぉおおおお!!」

 

『Dragon booster second Liberation!!』

 

 一誠の声に応えるように、一誠の神 器(セイクリッド・ギア)が赤い光を放つ。

 

 光が止み、俺はあいつの神 器(セイクリッド・ギア)を見てみる。

 

「……形状が変わっている?」

 

 神 器(セイクリッド・ギア)に付いている緑色の宝玉が一つから二つに増え、全体的な形も鋭さを持った感じになっている。

 

 そこで以前、聞いた話を俺は思い出した。

 

 ――神 器(セイクリッド・ギア)は所有者の思いに応える。

 

 神様が作り出した不思議アイテムなんだから、そういうのもあるんだろうなあ、と思っていたが、まさか目の前で実際に起きるとは。

 

 つーか、一誠のやつ俺を守るだって? やれやれ。守るって言葉は、守る対象より強くないと意味を成さない言葉だぜ? ほんと、俺よりも強くなってから言えって話だ。

 

 ……だが、まあ。一誠のやつ、全然動けないってのは、俺の完全な見当違いだったな。正直、あいつの根性を過小評価していたぜ。

 

 まあ、さっきライザーのヤツよりは根性があるって自分で言ったしな。当然と言えば当然かな?

 

 ほんと、この土壇場で新しい力を手に入れるなんて、あいつ漫画の主人公か何かか?

 

 一誠はじっ、と自分の神 器(セイクリッド・ギア)を見ていると、何かに気づいたように叫ぶ。

 

「木場! お前の神 器(セイクリッド・ギア)を開放しろおおおおおおお!」

 

「開放……?」

 

 突然の一誠の言葉に俺と祐斗は困惑するが、ここはもう一誠を信じるしかないだろう。

 

魔剣創造(ソード・バース)!」

 

 祐斗が剣を地面に付きたて、その力を解放する。

 

 魔剣創造(ソード・バース)。祐斗が持つ神器の一つでその能力はその名の通り、魔剣を作り出すことだ。

 

 あらゆる能力、形状の魔剣を作ることを可能とし、その数に限りは無い。

 

 ぶっちゃけた話、俺のや一誠のとは使い勝手がまるで違う。どんな状況下でも対応できる万能型というやつだな。俺たちのは特化型と言うべきか? まあ、一誠の奴は能力自体はどんな相手も出来るが。

 

 ……そう考えると、眷属の中で俺の神 器(セイクリッド・ギア)が一番使い勝手が悪いのかな? まあ、多分そうだろうな。

 

 そんな事を考えていると、地面が光りだした。

 

 おそらく、祐斗の力だろう。

 

「いくぜ! 俺の新しい力!」

 

 一誠は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を光る大地に叩きるける。

 

「『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』!」

 

 

『Transfer』

 

 宝玉から音声が流れると同時に、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)から何かが地面に流れ込んでいく。

 

「一誠、何をする気で……」

 

 ――ゾクリ

 

 

 何かを感じた。それが何なのか。答えは直ぐに分かった。

 

 おい、まさか……。

 

 恐る恐る俺は地面を見る。地面は鳴動し、次の瞬間。

 

 

 俺の目の前に無数の剣が地面から突き出た。

 

 

 比喩でも何でもなく、文字通り、剣が地面から突き出たのだ。

 

 しかも一本だけでなく、続々と、地面から剣が出現し、気が付けば、辺り一帯がまるで剣の海になっていた。

 

 俺や一誠、祐斗の場所だけは避けているが、他の場所はほぼ隙が無く、剣が出現していた。つまりだ。

 

「馬鹿な……」

 

「これがドラゴンの力……」

 

 苦悶の表情を浮かべながら、フェニックス眷属が続々とリタイアの光に包まれていく。

 

『ライザー様の騎士(ナイト)二名、兵士(ポーン)二名、リタイア』

 

 グレイフィアさんのアナウンスが戦場に響く。

 

 

 だが、俺にはそのアナウンスはあまり耳に入っていなかった。

 

 それよりも、一誠の新しい能力に目がいっているからだ。

 

 ……恐らく、倍加した力をそのまま他の――今回は祐斗の神 器(セイクリッド・ギア)に移したんだろう。

 

 『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』。

 

 倍加の力単体でも厄介な能力なのに、それを別の対象に移せるなんて……。

 

 流石は神滅具(ロンギヌス)といった所か。正直、敵じゃなくて良かったぜ。

 

 というか、少し希望が見えてきたな。

 

 リアスの魔力を一誠の力で強化すれば、あるいは……。

 

 俺がこの戦いに勝つ方法に希望を見出したその時だ。

 

『リアス様の女王(クイーン)一名、リタイア』

 

 グレイフィアさんのアナウンスを聞いた瞬間、俺は思わず呆然としてしまった。

 

 ちょっと待て。リアスの女王(クイーン)? 朱乃が負けた? 俺達の中でもリアスの次に強いであろう朱乃が?

 

 確かに、相手も女王(クイーン)だが、俺の目が正しければ、朱乃の力量は間違いなく相手の女王(クイーン)を超えていたはずだ。一体何が……。

 

 俺があり得ないアナウンスに困惑した次の瞬間、近くで爆発音が鳴った。

 

「っ!」

 

 素早く爆発音がした方を向く。

 

 そこには、爆発に巻き込まれ、無残な姿を晒す祐斗が地面に倒れ伏そうとしていた。

 

「祐……」

 

 俺が声を掛ける前に、祐斗は光に包まれ、姿を消した。

 

『リアス様の騎士(ナイト)一名、リタイア』

 

 無慈悲とも思えるグレイフィアさんのアナウンスが再び辺りに響いた。




いかがでしょうか? 感想待ってます。


いよいよゲームも大詰め。後一話か、二話で終わると思います。


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負けない……

昨日、聖闘士星矢の映画見に行きましたけどあれはあれで有りなんだと思う作品でした。


「おいおい……流石にこの状況はやばいんじゃないか……?」

 

 冷や汗をかきながら、俺は一人呟いた。

 

 現在この場に居るのは、俺の一誠の二人だけだ。

 

 小猫ちゃんも、朱乃も、祐斗もやられた。残りは四人。数でいえばこちらが有利かもしれないが、実際は全く逆だ。

 

 こっちはボロボロも良いところ。マジで最悪だ。

 

「兄貴、一体何が……」

 

 一誠がこちらに駆け寄って来て言う。

 

「どうもこうも、敵の攻撃だろ。その所為で朱乃と祐斗はやられた」

 

「でも一体誰が……」

 

 おいおい、誰ってそりゃあ、お前。今残っている奴なんてあいつだけだろ?

 

「一誠、後残っている敵はあれだ」

 

 そう言って俺は空に指をさす。

 

 その指の先に、ローブを纏った女性が一人、浮かんでいた。

 

撃破(テイク)

 

 笑みを浮かべながらそう言うのは、ライザーの女王(クイーン)。確か、ユーベルーナとか呼ばれていたか。

 

「ん……?」

 

 そこで、俺はふと違和感を覚える。

 

 ――あいつ、なんで無傷なんだ?

 

 そう、朱乃と戦っていたであろうあの女王、傷を一つも負っていないのだ。

 

 いくらなんでもそりゃあ、可笑しい。俺の贔屓目を抜きにしても、朱乃とヤツの実力じゃあ、間違いなく朱乃が上の筈だ。

 

 いや、別に朱乃が絶対に勝つなんてそれこそあり得ん。勝負に絶対は無い。だからこそ、朱乃が負けてもそこまで驚くことではない。

 

 だが、それでも、無傷で勝てる筈が無いんだ。一体どうやってるんだ。

 

 ……いや、考えても仕方ないか。

 

 今必要なのは、あいつをどうやって倒すかだ。

 

 朱乃を倒す程の相手だ。しかも駒の中では最強の女王。

 

 対してこちらは(キング)以外全ての駒に昇格できるとはいえ、それは相手の陣地に侵入したらだ。今は最弱の駒に過ぎない。

 

 ならば、俺が取るべき選択肢は……。

 

「一誠、お前先に行け」

 

「兄貴……?」

 

 驚いたようにこちらを見る一誠。

 

「お前はさっさとリアスとアーシア嬢の元に行って手助けしてこい。お前の力がきっと必要になるだろう」

 

「でも、相手はあの朱乃さんや小猫ちゃん、それに木場もやったヤツだぞ!? いくら兄貴でも無茶だ!」

 

 おいおい、一誠……。

 

「阿呆かお前。誰にもの言ってやがる? お前に心配されるほど、弱いつもりは無いぞ?」

 

「でも……!」

 

 なおも言い募ろうとする一誠。

 

 全く。こいつはだから馬鹿なんて言われるんだ。

 

「良いか一誠? 今この状況で別にあの女王(クイーン)は別に倒す必要は無い。ぶっちゃけた話、足止め出来れば良いんだ」

 

「足止め?」

 

「そう。俺たちの最終目的はさっきも言ったが、ライザーの野郎をぶちのめす事だ。なら、さっさとライザーの野郎をぶちのめせばいい。いくら女王が残っていても、(キング)が倒されてしまってはその時点で試合終了。ここまではオーケー?」

 

「ああ、まあ」

 

「というか、ここまで言えば分かるだろ? 俺が引き受けるから、お前はさっさとライザー倒しに行け」

 

 しっしっ、と追い払うように手を振る。

 

「兄貴……」

 

「安心しろ。弟より弱い兄はこの世に居ない」

 

 俺の言葉に一誠は苦笑する。

 

「……俺たち、血は繋がってねえぞ?」

 

「だとしてもだ。ここはこの義兄に任せて早く行け」

 

 生憎とこちらはまだリアスからの命令が残っている。先にそちらを済ませておかないといけないからな。

 

「分かった。兄貴、気をつけてな!」

 

「だから心配無用だ。ほら、さっさと行ってこい」

 

 一誠は新校舎に向けて走り出した。

 

 途中、敵が一誠を襲うのかと思い、警戒するも、何故かあいつを素通りさせてしまった。

 

 結局、一誠が新校舎の方に消えるまで、女王は何もしてこなかった。

 

「意外だな。てっきり後ろから狙ってくるものかと思ったぜ」

 

 剣を構えながら俺は言う。

 

「別にその必要は無いわ。いくらあの坊やが向かったとしても、もう貴方たちに勝ち目は無いもの」

 

 冷笑を浮かべながらそんな事を言うババアもとい、ユーベルーナ。

 

「……今何かとても失礼なことを考えなかったかしら?」

 

「ん? 気の所為だろ」

 

 意外と勘が鋭い。

 

「随分舐めたことをいってくれるじゃねえか。……まあ、それは置いて。俺が聞きたいのはもっと別の事だ」

 

「? 別のこと?」

 

「あんたのその姿だよ。朱乃と戦って無傷なんてまず有り得ない。どんな手品だ?」

 

 朱乃がこの女王に一方的にやられるとはどうしても考えられない。となると、何かしたに決まっている。

 

 グレイフィアさんが何も言ってこないから、ルール違反では無いだろうが、少なくとも俺が知らないことをやったんだろう。

 

「――『フェニックスの涙』。悪魔になりたてのあなたでも名前ぐらいは聞いたことがあるんではないですか?」

 

 新たな声。見上げれば、背中から炎の翼を展開し、宙に浮かんでいるレイヴェルがいた。

 

 どうやら、さっきの魔剣の攻撃から逃れたみたいだな。アナウンスもなかったし。

 

 で、『フェニックスの涙』だっけ?

 

「確か、不死鳥の涙はいかなる傷治すっていうあれか」

 

「ええ。いかなる傷もすぐに治す我が一族の秘薬ですわ」

 

 いかなる傷も瞬時に……。

 

 もしそうなら、とんでもないな。アーシア嬢の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は確かに制限無く傷を治せるが、重傷なのはやっぱ時間が掛かるからなー。

 

「まあ、あまりに強すぎるので制限が掛かり、一回のゲームに二個までしか持ち込めなくなったんですけどね。今回は女王のユーベルーナと私が持っていたのですわ」

 

「成る程。どうやってそいつが朱乃に勝ったのか、やっと分かったよ」

 

 自分もダメージを負いながらやっと勝ったと思いきや、いきなり相手が全回復とか……嫌になってくるぜ。

 

 つーか、リアスのやつ教えてくれても良いじゃないか! あれか? フェニックスの方に目が行き過ぎていたのか!

 

「この秘薬のおかげで我が家もう大儲け。レーティングゲームが悪魔の世界で大流行した御蔭ですわ。フェニックス家の看板も上がり、それに……」

 

「自慢したい気持ちも分からないでもないけど、一先ず待ってくれ」

 

 話が長くなりそうだったので、ストップさせる。

 

 こういう手合いは相手がだるそうにしていても延々と話し続けるしなぁ。炎天下での校長先生の延々と続くよく分からない薀蓄(うんちく)とかな。

 

 話を遮られたレイヴェルは不満そうにする。

 

「何ですの? どうせあなたたちに勝ち目は無いんですからここで私とおしゃべりしていたほうがよろしいですわよ?」

 

 レイヴェルの言葉に思わずため息をつきたくなる。

 

 まったくこいつらは。何でおんなじ事を言うだか……。

 

「あのさあ。まだゲームは終わってないぜ? なのにもう勝敗が決まっているなんて言うのは早計すぎるんじゃないか?」

 

「あら、貴方まだ勝てる気でいますの? あなたは頭の回転は速い方だと思いましたけど。本当は分かっているんじゃありませんの? もう勝ち目は絶対に無い事を」

 

「…………」

 

 確かに、レイヴェルの言葉を肯定している部分があるのは本当だな。

 

 実際、このままで勝てる確率なんてほぼゼロに近いだろう。経験も実力もみんなあっちの方が上。こちらは個々の能力では上かもしれんが、相手は不死身。その不死身を打倒するだけの力はまだない。

 

 けどさ、

 

「絶対に負けるなんて無いんだよ。勝負は最後までやらないと分からないものなんだよ」

 

 そう、この世に絶対なんてあり得ない。一見、攻略法が無いように見えるゲームでも、案外意外なところに攻略法があるものなのだよ。

 

「……そうですか。あなたは頭が良い方かと思いましたけど、違ったようですわね」

 

「随分と失礼極まりないな。まあ、自分が頭良いと思った事は無いな」

 

「レイヴェル様、ここは私のお任せを。この者はライザー様から一応の注意はしておけとの事ですので」

 

 

 そう言ってユーベルーナが前に出る。

 

 ライザーのヤツ、何を俺にそんな警戒してんだ? 俺が実力出したのだって、一誠があいつに突っかかろうとした時だけだし、俺の実力があれだけで分かるとは思えんけどな。

 

「そう。じゃ、その方は貴方に任せますわユーベルーナ」

 

「はい」

 

 ま、ライザーがなんで俺を警戒してんのかは置いといて。今はこの女王を倒す方が先だ。

 

 どうやら、レイヴェルは参加しないみたいだな。こいつは好都合。二人相手で、しかも片方が不死身とか泣きたくなる。

 

 俺は神 器(セイクリッド・ギア)を構えながら相手を見る。

 

 この女王の二つ名確か爆弾女王(ボムクイーン)だっけ? 爆発の魔力を使っているからだろうな。

 

 疲労していたとはいえ、小猫ちゃんと祐斗を一撃で倒す程だ。俺も注意していないと、やられる危険性があるな。

 

 油断なく相手を見据えていると、ユーベルーナは無造作に杖を振る。

 

 ――来る!

 

 何の根拠もなく、俺はその場を飛ぶ。

 

 次の瞬間、俺が立っていた場所が爆発を起こした!

 

 間近で見るとかなりものだな。堕天使の光の槍とどっちが痛いかな? まあ、どちらにしても喰らいたくないな!

 

 連続して爆発する中、俺はとにかく走り続けていた。

 

 止まった瞬間に終わりだな。相手は女王だから魔力もまだまだ問題ないんだろうな。

 

「ほらほら、どうしたのかしら? さっきの威勢はどこに行ったのかしら?」

 

 ユーベルーナがこちらを見下すように笑いながらどんどん辺りを爆発させていく。

 

 ふざけんな! と言い返したところだが、生憎とこちらはそんな余裕は無い。

 

 やりづらい。この攻撃、発動場所が俺の立つ地面の真下だから、反応が少し遅れちまう。

 

 真下と分かって行動したら、今度は走っている目の前に魔方陣が展開されるんだからたまったもんじゃない。

 

 ええい、普通の炎や氷みたいに撃ってくるなら吸収は簡単なのに、これじゃ出来んぞ!

 

 ……いや、出来ないわけでは無いが、それでもリスクが少し大きすぎる。

 

 そもそも、倒すなら多分一撃でやらないと。レイヴェルが持っているっていう『フェニックスの涙』を使われたら面倒だ。流石に二回も同じやつを倒すことになるなんていやだぞ、俺は。

 

 だけど、他に方法があるわけでも無いしなあ。

 

 ……ええい、時間を掛けている場合じゃ無いんだ! さっさとこいつら倒してリアス達の元に行かないといかないんだよ!

 

 なら、あの方法をやるしか無いのか……。くそ、やりたくは無かったんだがな。

 

 仕方ない。男は度胸! よくそう言われるしな。うん、やるか。

 

 決意を固めて、俺は一旦立ち止まる。

 

「あら、もう追いかけっこは終わりかしら?」

 

 余裕の表情でこちらに近づいてくるユーベルーナ。

 

「なら、さっさと倒れてくれるかしら? 私は速くライザー様の元に行かないといけないのよ」

 

「悪いね。こっちもそう簡単に倒れるわけにはいかないんだ」

 

 剣を構える。

 

 この方法はあまりやりたくは無い。お師匠様に言われたら『馬鹿かお前は? 脳みそに栄養が全く入っていないんじゃないのか?』ぐらいは言われそうだな。まあ、反論できないのが辛い所だが。

 

 まあ、今の俺の実力だとこれが限界か。

 

「結局、ライザー様の取り越し苦労だったというわけね。――じゃあ、消えなさい!」

 

 ユーベルーナが杖を掲げると、足元に魔方陣が展開される。

 

 ここだ! 俺は剣を逆手に持ち替えて、地面に突き立てる。

 

 そして次の瞬間、巨大な爆発が連鎖して俺を襲う!

 

 タイミングはシビア。だが、俺なら出来る!

 

『Absorb!!』

 

 神 器(セイクリッド・ギア)から音声が流れると同時に、爆発の勢いが一気に刀身に流れ込む。

 

「なっ!」

 

 その光景を見て、ユーベルーナは驚く。

 

 はっはー。完全に油断していたな。こういう驚く顔を見るのホント良いね!

 

 俺はそのまま走り出して相手との距離を詰める!

 

「っ!」

 

 それに気づいたユーベルーナが慌てて杖を振る。

 

 再び爆発が俺を襲うが上手く回避する。

 

 そして、魔力で脚力を強化。一気に距離を詰める。

 

 取った。そう確信して、剣を振り上げたその瞬間だ。

 

 ガキン、と。神 器(セイクリッド・ギア)が何か固いモノにぶつかる音がする。

 

「な……」

 

 見れば、神 器(セイクリッド・ギア)の刀身が、魔方陣によって阻まれていた。

 

 思わぬ光景に、流石に瞠目する。

 

 ユーベルーナは冷笑を浮かべてこちらを見ている。

 

 やられた。そう思った次の瞬間、俺は爆発に巻き込まれた。

 

 

******

 

「危なかったわね……」

 

 そう言って、思わずため息を彼女――ユーベルーナは付いた。

 

 実際、本当にあれには冷や汗をかいたものだ。

 

 まさか、自分の爆発の魔力をも吸収してしまうとは。彼の義弟の神 器(セイクリッド・ギア)とはまた違った厄介さを持っている。

 

 悪魔は通常、魔力による攻撃を主としている。

 

 騎士(ナイト)戦車(ルーク)兵士(ポーン)などは物理攻撃などをするが、上級悪魔たる(キング)や、女王(クイーン)は魔力を中心として攻撃を行う。

 

 それ故、彼の神 器(セイクリッド・ギア)は悪魔の天敵となりうるのだ。

 

「……最も、ライザー様が警戒していたのは、そこだけじゃ無いみたいだったけど。まあ、結局はライザー様の取り越し苦労だったみたいね」

 

 ユーベルーナは近くで戦いを見ていたであろうレイヴェルにライザーの元に向かう旨を伝えようとしたその瞬間、

 

 ――ゾクリ

 

 言い知れぬ悪寒が体中を駆け巡った。

 

 慌てて後ろを振り向く。そこには、

 

「…………」

 

 剣を上段に構えた夏蓮が立っていた。

 

(馬鹿な! あの爆発を逃げたの!? どうやって)

 

 見れば、左半身はボロボロだ。おそらく完全に爆発を避けることは出来なかったのだろう。

 

 手負いだ。後一回爆発の魔力を打ち込めば、間違いなく終わる。頭では分かっている。分かっているのだ。

 

 あの冷徹な眼を見ると、体が竦んでしまう。

 

(なによ、あの眼……。あんな眼をしている子がさっきの子と同じだというの!?)

 

 先ほど見せた義弟への優しい瞳。こちらに向けた必ず勝つという意思が宿った瞳。

 

 だが、今自分に見せている瞳は何だ? 

 

 温かみというものをまるで一切感じさせない、氷の瞳。見る者全てが震えあがってしまうのでは無いのかと思う眼だ。

 

 先ほどとは別人なのではないかと思うほどだ。

 

「……勝つのは、俺だ」

 

 そう言うと同時に、夏蓮は剣を振り下ろす。

 

「っ!」

 

 ユーベルーナは慌てて防御用の魔方陣を展開しようとするも、遅かった。

 

「自分の攻撃を自分で喰らえ」

 

 剣の切っ先がユーベルーナに触れると同時に夏蓮は神 器(セイクリッド・ギア)を開放する。

 

『Liberate!!』

 

 音声が流れると同時に、刀身に爆発の魔力が纏う。

 

 そしてそのまま剣を抉るように振り下ろす。

 

「が、は……」

 

 自分の魔力の攻撃を受けながら、ユーベルーナの意識は闇に落ちていった。

 




いかがでしょうか? 感想待っています。

次でゲームも終了! 頑張ろう


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負けたく……ない

今回でゲームは終わりって言っていたのに、五千文字では終わらなかったので、何かイラッときてそのまま書き続けていたら九千文字近くなりましたー。過去最高の文字数!




「いってぇ……」

 

 右手で左腕を抑えながら俺は呻く。

 

 残念ながらユーベルーナの攻撃を完全に避けることが出来ず、半身が犠牲になってしまった。女王(クイーン)相手にこの怪我では、割に合うと言うべきか……。

 

 左腕は……もう動かんか。左足は引きずれば歩ける。魔力で強引に動かせば何とか走れるかな。最も、あんまりやりたくないけど。

 

「……本当に驚きましたわ。ユーベルーナの倒すとは」

 

 先ほどの余裕に満ちた声とは打って変わって、こちらをどこか警戒するような声音で言うレイヴェル。

 

「正直、貴方がユーベルーナに勝てる可能性なんて本当にゼロに近い確率だと思っていましたの。それが蓋を開けてみれば……」

 

「言っただろ? 勝負はやらないと分からないものだと」

 

 レイヴェルの方を見て笑う俺。

 

「確かに、そうかもしれませんわね。……ですが、そんな貴方はもうボロボロ。それでお兄様に勝つつもりですか?」

 

 俺の左半身を見てそう言うレイヴェルに、俺は残念ながら言い返せない。

 

 事実、俺の今の状態は絶好調の時に比べて二割か……若しくは最早戦えないような状態と言えるだろう。

 

 ホント、さっきよりも更に絶望的。十人中十人が見ても俺は戦えないと判断されるだろうな。

 

 だけどな、

 

「行かないといけないよな」

 

 左足を引きずりながら俺は歩き出す。

 

「ちょ、貴方どこに行きますの!? ここで私とお話ししていればゲームが終わるまで安全ですわよ!」

 

 何故か慌てたように言うレイヴェル。

 

 たく、何言ってんだか。

 

「悪いけど、お前に構っている暇は無いんだ。……リアスと一誠達が待っているんでな」

 

 俺の言葉を聞いて信じられないように首を振るレイヴェル。

 

「あなた、まさかお兄様と戦う気ですの……? そんな体で? 頭が可笑しいじゃありませんの?」

 

 失礼な。初対面の相手になんて言いぐさだ。

 

「俺たちはな、勝つためにここに居るんだ。俺はまだこの戦場に居る。なら、戦わないといけないじゃねえか」

 

 そう、勝つのは俺たちだ。絶対に勝つんだよ。

 

「それに、あっちにはアーシア嬢がいる。そん時に傷を治してもらえば良いんだよ」

 

 おれ自身、言って気づいたが、リアスや一誠と一緒にアーシア嬢がいるじゃねえか。あの子に傷治してもらえば万事解決ってやつだ。魔力もまだまだ残っているし、俺は戦える。

 

 ……但し、アーシア嬢が無事に俺のことを治療できる状態ならの話だ。

 

 先ほどからだが、屋上からは爆発音が響かなくなっていた。あっちで何か変化があったのは間違いない。それがどちらに傾いたか、だ。

 

 俺の頭の中では、ほぼ状況はこうだろうという考えが出ている。正直、あまり思いたくは無いが。

 

 まあ、それでも俺が行かない理由にはならないが。

 

「貴方いったいなんでそこまで勝利に拘りますの……? そんなにリアス様をお兄様に取られたくないのですの?」

 

 レイヴェルがそんなことを聞いてくる。

 

 それに対して、俺は一言だけ言う。

 

「――負けるのが俺は大嫌いなだけさ」

 

 

 

******

 

「階段を上るのがこんなにしんどくなるとは……。老人の気持ちが少しだけ分かった気がする」

 

 俺は普段よりもとても遅く、しかし現在の俺としては最大速度で階段を上っていた。

 

「いまさらだが、翼で飛んでいけば良かったじゃねえか。何で俺わざわざ階段を上ってきているんだよ」

 

 自分の阿呆な選択に思わず自分で突っ込みを入れてしまうが、正直、結構きつい状態だ。

 

 左半身に至ってはさっきよりも酷くなっている。左腕に関してはもう感覚が途切れ途切れだ。

 

 自分で自分の行いに突っ込みを入れないともう体に力が入らなくなってきている。

 

 現在、俺は新校舎に侵入。屋上に向かって階段を上っている途中だ。

 

 入ったと同時に女王(クイーン)に昇格。進んでいるわけだが、こんな状態で昇格してしまったから少し、力の出し具合に不備が出てしまった。

 

 ライザーと戦う少し前に昇格すれば良かったか? いや、どんなことが起きるか分からないし、昇格する前にやられたら元の子も無い。先にやっておいたほうが良かったな。

 

 と、そんなことを考えているうちに、漸く屋上に通じるドアに辿り着く。

 

 一旦、深呼吸して心を落ち着かせる。

 

 そして、ドアを開ける。

 

 そこには――

 

 

******

 

 私、リアス・グレモリーは目の前の光景に為すすべも無く見る事しか出来なかった。

 

 私の兵士(ポーン)の一人であるイッセーが血塗れで倒れ伏していた。

 

 決してライザーを舐めていたわけでは無い。むしろ最大限に警戒していたと言えるだろう。それだけ不死身と言うのは強力なのだ。

 

 だけど、イッセーの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が私たちにはあった。修行で体力をつけた結果、イッセーは上級悪魔なら余裕で消し飛ばすほどの倍加まで耐えることが出来るようになった。

 

 行ける。そう思った。

 

 だけど、蓋を開けてみればどうだ。

 

 既に小猫に祐斗。そして朱乃迄もがやられてしまった。

 

 私自身、ライザーと戦うも、ライザーの不死身に歯がまるで立たなかった。

 

 何がライザーの心を圧し折るだ。その前に自分の心が折れそうになっているではないか。

 

 私の魔力もほぼ尽きてしまった。応援に駆け付けてくれたイッセーも既に限界。切り札であるイッセーがこんな事になってしまうとは、もっとやりようがあったのでは無いかと考えてしまう。

 

 しかし、今となっては最早変えることは出来ない。

 

「まだ、だ……」

 

 ふと、イッセーの方を見れば、体を震わせながら立ち上がろうとしていた。

 

「イッセー……」

 

 もう体は限界の筈。いつゲームからリタイアしても可笑しくは無い状態なのだ。

 

 なのに、なのに彼は立とうとしている。

 

「任され、たんだ……必ず、ライザーの野郎を……ブッ飛ばすんだって。兄貴に、任され、たんだ……! だから!」

 

 そして、立ち上がった。

 

「だから、俺がてめえを倒す!」

 

 ……何という気迫。体は震えて、指で少し押せば倒れてしまいそうなのに、眼光は依然として鋭い。

 

 対峙するライザーも息を呑んでいた。

 

 ……兄貴に任された、か。

 

 兄貴、夏蓮の事だろう。

 

 夏蓮とイッセー。この二人、いつもは喧嘩ばかり――と言っても大抵が夏蓮がイッセーの事を小馬鹿にして、それにイッセーが突っかかっているものばかりだが――しているが、本当に仲が良いと思う。

 

 夏蓮はあまり認めたがらないが、イッセーの事を可愛がっているし、イッセーもそんな夏蓮を慕っている。

 

 血が繋がっていないのに、ここまで兄弟として仲が良いのは素直に凄いと思う。

 

 そして夏蓮に任されたなら、イッセーは何が何でもその任を果たそうとするだろう。そういう子なのだ、イッセーは。

 

「……お前の事、少し舐めていたな。良いだろう。これ以上長引かせるのも可哀想というものだ――ここいら仕留めてやる」

 

 そう言ってライザーはイッセーの首元を掴む。

 

「ぐっ!?」

 

「これだけ痛めつけてまだ起き上がるなら、もう意識を刈り取るか……殺すしか無いな」

 

「っ! ライザー!?」

 

 ぼそり、と呟いたライザーの一言に私は思わず声を上げてしまう。

 

「レーティングゲームでは基本的に相手を殺す攻撃は禁じられている。だが、事故で亡くなるヤツをよくあることだ」

 

 そして、ライザーはイッセーの首元を持っている手を一旦放すと、次の瞬間、イッセーの首を思いっきり絞めた。

 

「があ……!?」

 

 イッセーが苦しそうに呻く。

 

「じゃあな。まあ、お前は中々強かったよ」

 

 更に首を強く絞めるライザー。

 

「あ、があ……」

 

 イッセーがもがきながら、何とかライザーの手を放そうとするも、既に力が全く入らないイッセーには何も出来ない。 

 

「イッセー!」

 

 何とか立ち上がろうとするも、足に力が入らない。

 

 どうしよう。このままでは、イッセーが、イッセーが……!

 

 止めをさす為に一気に力を入れようとしたその瞬間、

 

「――あー悪いんだけど、その手放してくんない? 一応、そいつ俺の義弟なので」

 

 後ろから声が聞こえた。

 

 ……何故だろう。この声を聴くと、いつも安心してしまう。彼が来ればもう大丈夫、そう思えるのは。

 

 性格の部分もあるが、元々そういう素質があるのだろう。

 

 イッセーを始め他の私の下僕たちも新参者の彼をどこか頼りにしている部分があるとおぼろげながら分かる。

 

 かくいう私も、気づけば彼を良く頼っている。

 

 だから、彼ならこの場も何とかしてくれるのではないか? そう思ってしまう。

 

 私も一緒に戦うべきなのに。もう体に力が入らない。

 

 だから、だから、

 

「夏蓮……!」

 

 私はいろんな感情がごった返した状態で彼の名前を呼ぶ。

 

******

 

 

 

 目の前の光景に、俺は思わず息を呑む。

 

 まず、最初に目に入ったのが、その瞳に涙をためたリアスだった。

 

 既に体はぼろぼろ。一目で戦う事が出来ないのが分かる。

 

 横を見れば、アーシア嬢が何か魔方陣みたいな物の上に乗っている。そこから一歩も動かないのを見れば、おそらくライザーが何かしたのだろう。

 

 そして、前を見据えると、ライザーに首を絞められている一誠が目に映った。

 

 リアス以上にボロボロで、もう動けないのは明白だろう。

 

 こんなになるまであいつは……。

 

「レイヴェルめ……ユーベルーナを倒した程の相手とはいえ、こんな状態のやつを見逃したのか?」

 

 舌打ちをしながら言うライザー。

 

 どうかな、あっちはこちらにビビッていたし、しょうがないと思うが。まあ、別にどうでもいいけど。

 

「まあ、家族の揉め事はそちらでやってくれ。……で、一誠を放してくれないか? 流石にそれ以上やられたらそいつ死んじゃうんだけど」

 

 俺のお願いに、ライザーは一瞬考えるそぶりを見せるも、

 

「……ふん、まあ良いか」

 

 そう言うなり、こちらに一誠を投げつけてきた。

 

「うお!?」

 

 思わず驚くも、体を使って何とか受け止める。

 

「あ、兄貴……?」

 

 目を開けてこちらを見る一誠。と言っても、今目が見えているかどうかは分からないが。

 

「おう、一誠。どうした? ボロボロだな」

 

「……兄貴に言われたく、ねえよ」

 

 俺の言葉に苦笑しながら答える一誠。

 

 まあ、確かに俺の体は左半身がもうほぼ動かない状態だからなあ。頼みの綱のアーシア嬢もあんな感じだし。

 

「ちくしょう……本当は、兄貴が、来る前に、ライザーの野郎をブッ飛ばすつもりだったんだけど……」

 

 悔しそうに言う一誠。

 

「なんだ、お前そんな事考えていたのか? だとしたら、甘いぜ。シュークリームのように甘いぜ」

 

「……いや、何でそこでシュークリームなんだよ。訳わからん」

 

 よくわからん突っ込みを受けたが、そこは放っておく。

 

「ま、確かに俺はお前にライザーをブッ飛ばす様に言ったけど、良いさ――後はこの義兄(あに)に任せな。だから、お前は安心して休め」

 

 そう言って、俺は一誠の髪をくしゃくしゃ、と撫でまわす。

 

「……兄貴に頭撫でられるなんて、小学生以来だな。ぶっちゃけ気持ち悪い」

 

「ひどいな」

 

 そう言うも、一誠はどこかまんざらではない表情だ。

 

 そうか、こいつの頭撫でてやったのは小学生の時か。時間が過ぎるのは速いって本当だねぇ。

 

「……じゃ、後、任せるわ」

 

「おう、任された」

 

 そう言うと、どこか安心したように一誠は目を閉じた。

 

 そして、リタイアの光に包まれ、次の瞬間、一誠の体はこのフィールドから消えた。

 

『リアス様の兵士(ポーン)一名、リタイア』

 

 グレイフィアさんのアナウンスが響く。

 

 これで残るのは俺たちだけ。あんなにいたのに、気づけばこれだけか。何だか寂しい気もしてくるな。

 

 ま、今は別に良いか。さて、次はリアスかな?

 

 俺は立ち上がり、左足を引きずりながらリアスの元に行く。

 

「夏蓮……」

 

「どうしたリアス? そんな泣きそうな顔して。だらしないぞ」

 

 俺がそう言うと、とうとうリアスは泣き出してしまった。

 

 あれ? うそ、本当に泣いちゃった。やばい、どうしよう。女性が泣いたらどうすれば良い? どうすれば……!

 

 俺が対応にあたふたしていると、リアスがか細い声で言う。

 

「ごめん、なさい。私が不甲斐ないばかりにこんな事に……!」

 

「リアス……」

 

 こいつは、全く……。

 

「えい」

 

「痛っ!」

 

 何か腹が立ったのでデコピンしてやった。

 

 突然デコピンされたリアスは何が何だか分からないといった顔をしている。

 

「ばーか。何を言ってんだお前」

 

「ば……!? いきなり何を言ってるのよ!」

 

「馬鹿なことを言ってるからばかと言ったんだよ。何も可笑しな事は無いぜ?」

 

「な、貴方の方が馬鹿でしょ!? テストの成績私に勝った事無い癖に!」

 

 こ、こいつ……! 言ってはならんことを!

 

「だまらっしゃい! 日本史は勝ってるぞ! 大体なんだあの回答!『侍は現代にもちゃんと生きている』って! 日本史の先生、何とコメントしたらいいか迷ってたぞ!」

 

「何言ってるの! まだ会った事無いけど侍はまだ現代に生き残っていると聞いたわ!」

 

「誰にだよ!」

 

 絶対に教えたヤツ間違って教えている! しかも意図的に!

 

「貴方だって、英語が一番酷いじゃない!中学で習う単語をあんなにスペルミスして! 一体私がどれだけ教えてあげたと思ってるの!」

 

「うぐ……!」

 

 それを言われると痛いな……。って、今はそんな事は置いといて。

 

「ようやく調子が出てきたみたいだな。元気少しは出てきたか?」

 

「え……?」

 

 一瞬、呆けたような顔をするも、直ぐにハッとする。

 

「夏蓮、貴方……」

 

「お前に泣かれるのは流石に少しきつい。笑え、とまでは言えないが、それでも……泣くなリアス。お前が泣くと、俺もつらい」

 

 俺は右手でリアスの頬を触る。

 

「あ……」

 

「確かに今残ってるので戦えるのは俺だけ。他の皆は全員やられてしまった。――やっぱ、辛いよな。仲間が目の前でやられて消えていくのは」

 

 それに。俺は思う。

 

 リアスは悪魔の中でも一際下僕たちを大切にする方だ。それ故、皆がやられていくのは辛いだろう。

 

 まして、リアスはまだ少女と言える年頃だ。心だってそう強くない。だからこそ、言わなくちゃいけない。

 

「けどな、皆、お前のために戦った。小猫ちゃんも祐斗も、朱乃も、一誠だって。それにアーシア嬢もそうだ。皆お前の事が大切だから死ぬ気で頑張ったんだ。――だから、お前が先に折れるな。俺たちはまだ負けていない」

 

「でも……貴方、もう戦えないじゃない」

 

 俺の左半身を見ながら言うリアス。

 

「確かに、普通はもう戦えないな。でも、まだ動ける。なら、戦える。それだけだ」

 

 俺は力強くそう言う。

 

「だから、最後の最後。もう本当に打つ手が無い、チェックメイトになるまで諦めるな。そうじゃないと、俺がやってらんねえよ」

 

 俺は立ち上がり、リアスを背にするようにライザーを見据える。

 

 さて、改めて今の状態を確認しようか。

 

 体力、問題ない。魔力はまだまだ残っているから、ここで一気に出し尽くす。

 

 体は、左半分の機能がほぼ無い。痛みはもう何か超越したね。

 

 そして、ライザーまだまだ余裕の状態。羨ましい限りだな。

 

 ……うわー、割と最悪だなこれ。さっきも考えたけどムリゲーというやつだね。

 

 まあ、そんな理由で諦めたら俺じゃないな。

 

 レイヴェルには頭が可笑しいとか言われたけど、案外可笑しいかもな。

 

「? 何を笑っている?」

 

 訝しむように俺に言うライザー。

 

 そうか、俺は笑っているのか。

 

「いや、この状況でどうやって戦おうか考えていたら何だか可笑しくなってな」

 

「はあ?」

 

「だってさ……これで勝ったら、マジで面白いじゃん!」

 

 そう言って、俺は足を魔力で強化して駆ける!

 

「っ!」

 

 突然の俺の行動に虚を突かれたライザーは一瞬固まる。

 

 その隙を見逃す俺ではなく、姿勢を低くして、ライザーの懐に入る。

 

 そして、剣を逆手に持ち替えて下から上げる様にして斜めにライザーを斬りつける。

 

 そのまま再び剣を持ち直して、返す刀でXの文字を描く様に反対から斜めに斬る。

 

 どうだ! と思った俺は、やっぱり不死鳥の恐ろしさを本当の意味で知らなかったのだろうな。

 

「――いい攻撃だ。プロモーションをしていない状態でユーベルーナを倒したことはある」

 

 ライザーの何事も無いかのような声に、俺は後ろに跳ぶ。

 

「だが、結局意味は無いな」

 

「……マジか」

 

 俺が斬った場所は、炎が傷口を這う様にして、何事も無かったように再生していった。

 

 これが不死身か……ゲームと違っていつ、くたばるか分からないから面倒くさいなー。

 

「お前、あのガキの兄貴なんだって?」

 

「……だったら何だよ?」

 

「いや? お前はもう少し、物わかりが良い方だと思ってたのだが。結局、兄弟揃って馬鹿なんだなと思ってな」

 

「……ちょっと待てや」

 

 今、聞き捨てならない事が聞こえたぞ。

 

「おい、こら……もう一度言ってみろや」

 

「あ? 兄弟揃って馬鹿だと言ったんだよ」

 

 ……こいつ。

 

「何ふざけたこと言ってんだ。良いか――一誠は本当の馬鹿だから良いとして俺を馬鹿呼ばわりとは何事だ!」

 

『ってそっち!?』

 

 俺の言葉にライザー、そしてリアスまでもが何故か突っ込みを入れる。

 

「いえ、普通そこは『俺を馬鹿呼ばわりするのは良い。だが、一誠を馬鹿と呼ぶとは何事か!』でしょ!?」

 

「え? 何言ってんの? そんな事言うわけ無いじゃん。リアス、漫画の読み過ぎだぜ?」

 

「えー」

 

 リアスが何とも言えない顔をしているが、まあ、いいや。

 

「お前、微妙に酷いな」

 

 何やらライザーまでも言うが、これも無視だ。

 

「って、こいつらが馬鹿なのかどうかなんてどうでも良いんだった。いい加減、飽きてきたからお前、とっと降参(リザイン)してくれないか?」

 

 本当にめんどくさそうにため息を付くライザー。

 

「……随分失礼だな」

 

 流石にカチン、と来るぜこれは。

 

「あ? お前だってもう戦えない、だろ!」

 

 ライザーが手を前に突き出して炎を俺に向けて撃ってきた。

 

「っ!」

 

『Absorb!!』

 

 剣を前に出して、攻撃を吸収する。

 

「遅い」

 

「な!」

 

 気づけば、ライザーが既に俺の目の前まで来ていた。

 

「ふん!」

 

「が……!」

 

 直後、腹に大きな衝撃が来る。腹を殴られたのは直ぐに気づいた。

 

 こいつ……意外と力あんな。

 

 あまりの痛さに俺は思わず、腹を押さえてしまう。

 

 や、やばい。結構効くな……ちょっと、不味いかな?

 

 痛みに悶絶している俺に対して、さらにライザーは足で俺の右足を横から蹴り付ける。

 

「うぐ!」

 

 腹の痛みに堪えていた時にいきなりの攻撃に、俺は態勢を崩して倒れこんでしまう。

 

 そんな俺に対して、追い打ちをかけるように倒れた俺の腹をライザーは思いっきり踏みつける。

 

「がは……」

 

 口から空気が出る。次に感じたのは衝撃だ。

 

 こ、こいつ……殴ったところを!

 

 何とも意地汚いライザーの攻撃に俺はヤツを睨み付ける。

 

「は、こんな状況でもそんな顔が出来るとはな」

 

「ほざけ。この野郎、汚い足を乗っけんじゃねえよ!」

 

 俺は右手でライザーの足を掴み何とかどかそうとする。

 

 しかし、そんな俺の努力を嘲笑うかのように、ライザーはグリグリ、と足をめり込ませてくる。

 

「あ、ぐ……」

 

「いい加減分かれ、小僧。お前じゃ俺には勝てない。万全の状態だったらいい勝負できたかもしれないが、今のお前はじゃあ、俺を傷つけるのがやっとだ。と言うより、あれだけの攻撃しかできないんじゃ、最初から俺は倒せないぜ」

 

「…………」

 

 悔しいが、言い返せない。

 

 確かに、俺の攻撃には、何といえば言いのだろうか、一誠のドラゴンショットみたいな必殺技が無い。

 

 だけどなあ……!

 

「そこで諦める俺じゃねえ!」

 

 俺は一気に魔力を開放する。もう出し惜しみは無しだ! この汚い足をまずどかせる!

 

 だが、俺は失念していたことがあった。さっきまでは念入りに気を付けてた事だ。だが、ライザーの足をどかせるのに躍起になって一瞬だが、忘れてしまっていた。

 

 その結果、

 

「あ……」

 

 魔力が消えた。

 

 やばい! 魔力を上げ過ぎた! くそ! ここに来て……!

 

 俺の魔力はリアスにも負け劣らない量があると言われて、俺自身、その魔力を感じ取ることは出来ている。

 

 だが、そんな上級悪魔クラスの魔力を俺は十全に使いこなせていない。

 

 魔力を一定以上出すと、急激に魔力が使えなくなるのだ。

 

 原因はリアスや朱乃でも分からずじまい。だから、この戦いでも、注意していたのに……ここに来て!

 

「なんだ? 急に魔力が上がったと思ったら、いきなり下がって、訳の分からないやつだなお前は。ま、さっさと消えろ!」

 

「あ、ぐあああああああ!?」

 

 ライザーが再び足に力を入れると同時に、その足に炎を纏わせてきた。

 

 熱い! 熱い! 

 

 やばいぞこれは! 魔力は使えない。体はヤツの炎の熱さに参ってる。もう剣を握る事も出来ないか……。

 

 終わる? ここで?

 

 勝ってないじゃないか俺たちは。皆やられた。勝利を信じて。残ったやつらに託したんだ勝利を。

 

 ならば、勝たなければならない。俺は、俺は……!

 

 

『当然だ。お前はこんな所で負けてはならない』

 

 

 その時、声がした。

 

 

 

******

 

 

 夏蓮の何かが変わった。

 

 

 私、リアス・グレモリーがそれを認識したのは、後から思えば、殆ど偶然だったのかもしれない。

 

 ライザーによって嬲りつくされている夏蓮を助けようと何とか立ち上がろとするが、その力すら無く、見る事しかできなかった。

 

 その時だ。

 

 ――ゾクリ――

 

 何か得体のしれないものが夏蓮の内から溢れ出ようとしていた。

 

 それが何なのかは私にも分からない。でも、一つだけ分かることがある。

 

 ――あれを今の夏蓮に使わせてはいけない!

 

「待って!!」

 

 気づけば、自分でも驚くほど大きな声を上げていた。

 

 それに、ライザーがこちらを向く。

 

「待ってライザー、その足をどけて。……降参(リザイン)するわ。私の負けよ。だから夏蓮から足をどけて」

 

「……………」

 

 私の降参(リザイン)宣言を聞いて満足したのか、ライザーは無言で夏蓮から足を退けた。

 

「夏蓮!」

 

 彼の名を呼ながら、もたつきながらも彼の元に駆け寄る。

 

 駆け寄った彼の状態は酷いの一言に尽きる。

 

 左半身はおそらく敵の女王(クイーン)の爆撃にやられてボロボロだ。もう感覚だって残ってはいないのではないだろうか。

 

 一番酷いのは先ほどまでライザーに踏みつけられていた腹だ。

 

 炎を直に喰らい、思わず目を背けたくなるほどの火傷を覆っている。無事なのが驚きなくらいだ。

 

 既に、先ほど感じた何かは消えている。虚ろな双眸は何も写していなかった。

 

「……ごめんなさい夏蓮、貴方は諦めるなと言ったわ。その言葉は私を支えてくれたわ……でも」

 

 私は夏蓮を抱きしめる様にして抱える。

 

「貴方を失ってまで私は勝ちたくはない。――貴方を、失いたくない」

 

 それは、私の今もそしてこの先も変わることも無い祈り。決して、何人にも侵させない。不可侵の願い。

 

 

 そして、この日私は初めて行ったレーティングゲームで負けた。




いかがでしょうか? 感想、意見待っています。

次回から夏蓮の秘密、ちょっとだけ出るかも……?


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ここは……

うーん。最近、思う様に書けていない気がするんですよね……。言葉足らずというのでしょうか? もう少し、語彙力を増やした方が良いかも。


『情けない。実に情けない。高々不死鳥風情に敗れようとは』

 

 ――誰だ? お前は

 

『しかも、いくら封印が中途半端な状態だったとはいえ、あの程度の悪魔に左半分をやられるとは……あまりの情けなさに、最早笑いすらこみ上げてくる』

 

 ――随分と失礼なことを言うな

 

『覆しようも無い事実だ。お前は負けるはずのない戦いに負けた。これを情けないと言わずに何と言えば良い?』

 

 ――いい加減に腹が立ってくるな

 

『ん? 何だ、図星にされて逆ギレしているのか? 益々情けない。自分の失敗を認められずに駄々をこねるだけ。子供だ。情けない以前に子供だなハハハハ!!』

 

 ――うるせえよ! というか、いい加減俺の質問に答えろよ。お前は誰なんだ!

 

『ああ、お前こっちの事は忘れてんだよな。良いぜ、教えてやる。それはな……』

 

 

 

******

 

 

「はっ!」

 

 気づけば、俺は仰向けになって倒れていた。

 

 視界にまず写ったのは、雲一つ無い真っ青な空。

 

 そして、その空に吸い込まれるように黄金色の光の粒が辺り一帯を舞っている。

 

「ここは……」

 

 上半身を起こし、辺りを見渡す。

 

 ここは、どこだろうか? 以前来たことがあるような気もするのだが……。

 

 俺が自分が今いる場所に困惑していると、後ろから声が聞こえてきた。

 

「――ここはお前と俺、そしてヤツが作り出した内面の世界。決して俺たち以外が立ち入ることが出来ない場所」

 

 後ろを振り向けば、黒いスーツを着崩した男が立っていた。

 

 長身で細いながらも鍛えられているのはスーツ越しでもわかる。

 

 サングラスをかけてその表情は伺えないが、顔つきからワイルドさが伝わってくる。

 

 更に、俺やリアスの同じ鮮やかな紅髪を背中辺りまで伸ばしているのが一番印象深い。

 

「お前、誰だ……?」

 

 残念ながら、俺にはこの男の記憶は無い。つまり初対面なのだ。

 

「俺か? 俺はお前だ」

 

 ……えー。

 

「……哲学を論じるつもりは無いぞ」

 

「いやいや、マジだって。俺はお前なんだよ。お前がいるから俺がいる。俺がいるから今のお前がいるんだよ」

 

 何だこいつ。()()ここに連れてきて、また俺を煙に巻くような事を言って……ん?

 

 そこで俺はふと、思う。

 

 ちょっと待て。何で俺は”また”なんて思った。こいつには会った事が無かった筈だ。ならば”また”なんて思わない筈だ。

 

 いや、違う。俺はこいつに会った事がある。そうだ、それも最近だ。

 

 思い出せ。思い出すんだ。俺はどこでこいつに会った? いつこいつを知った? どこでどこで……。

 

 そして、俺は思い出した。

 

 そうだ、こいつと俺は一度会っている。堕天使に殺されたとき、俺はここに来たんだ。

 

 あの時、最後にこいつはここでの事は忘れてしまう、そう言っていた。だから、俺は忘れていたのか。

 

 ほう、男が感心したように呟く。

 

「どうやら思い出したようだな。結構結構、よろしい」

 

「うるせえ。で、結局ここは何なんだ? 内面の世界って言っていたけど……」

 

 内面という事は、俺の心の中とでも言えるのだろうか? だとしたら、中々ファンシーな世界を持っているな俺は。

 

「そのままの意味さ。ここはお前の内面世界。俺とヤツ以外は干渉は基本的に出来ないお前だけの世界」

 

「俺だけの、世界……」

 

 まるで夢みたいな話だ。いや、実際に夢か? けど、悪魔とか超常の存在とかがあるんだし、あっても不思議じゃないかな。

 

「さて、今回お前を呼んだのは他でもない。……お前の無様な負けっぷりを笑ってやろうと思ったんだ」

 

「最悪だなお前」

 

 思わず突っ込む。

 

 この野郎、人の傷口に塩を塗り込むような真似をしようとするとは。

 

「まあ、それは後でやるとして」

 

「結局やるのかよ!」

 

「今、お前にする事は、何故負けたかだ。本来のお前のスペックなら絶対に負けるはずの無い相手の筈だった。にも拘らず、お前は負けた。それは何故だ?」

 

 いきなり真面目な雰囲気になって話し出す男。

 

「……色々あるだろうさ。ヤツと戦う前に女王(クイーン)の攻撃で左半身をやられた事に、もう一つは俺の魔力だ」

 

「…………」

 

「俺の魔力、絶対に何かが可笑しい。出力を上げ続けて、ある一定量にいったら魔力が全く使えなくなるなんて可笑しいだろ」

 

 周りの悪魔を見ても、そんなヤツ誰もおらず、俺だけが魔力を上手く使えていない。

 

そう、言うなれば、

 

「まるで、俺の魔力に変な枷があるみたいだ」

 

 俺がそう呟くと、男はニヤリ、と笑った。

 

「正解だ。お前、ちゃんと答えに辿り着いたな」

 

「辿り着いたって、え、まさかそうなのか!?」

 

 思わぬ正解に、正解を言ったはずの俺が驚いた。

 

 いや、だってまさかこれが正解とは思わなくて……正直、当てずっぽうな部分も多かったし。

 

「なんだ、当てずっぽうか。じゃあ、教えなくて良いか」

 

「いや、教えろよ」

 

「何で」

 

「何でって、正解言ったろ!」

 

「だって当てずっぽうじゃん? そんなヤツになんで教えなくちゃいけないんだよー。ちゃんと理解していないとダメじゃん?」

 

「うわームカつくこいつ」

 

 何だこいつは。こっちを馬鹿にして来たり、変な所で意地悪をしてきたり訳わからん。

 

「教えたくはないが、このままでは全く話が進まないので誠に遺憾ながら話を進めよう。特別だぞ」

 

「…………」

 

 こいつはどうしてこうも上から目線なのだろうか。

 

「さて、お前の魔力についてだが、実はお前の魔力にはある封印が施されている。どびっきり厳重なのがな」

 

「封印?」

 

「ああ。普通なら絶対に開くことが無い封印だ。しかし、お前が悪魔として完全に転生してしまったせいで、封印が変な状態になってしまった」

 

 封印か……。何故そんなものが俺に施されているかなんて全く覚えが無い。というか、俺はリアスに会うまで悪魔や堕天使といった超常の存在には会ったことが無い。

 

「悪魔なったおかげで悪魔になる前の封印の術式が狂っちまったんだな。パソコンで言うところのエラーが出てしまうような状態だ」

 

 パソコンの例はいまいち分からないが、まあ、俺の不調の理由は分かった。

 

「成程な。で、その封印はどうすれば解けるんだ? このままじゃ俺、まともに戦えないぞ?」

 

「確かにそうだな。だが、この封印は極めて緻密でかつ精巧。ちょっとやそっとの力では解けやしない。解くんだったら、神クラスの力が無いと」

 

「神クラスぅ!?」

 

 流石に驚いた。というか俺みたいな元は普通な人間が何故に神クラスの力が無いと解けないような封印が施されているんだよ! 訳わからん!

 

「ま、そんな神クラスの封印も、お前が悪魔になったことでだいぶ緩んだ。今のお前の状態に最適な形にすることは俺でも可能だ」

 

 そう言うと、男は手に魔方陣らしきもの展開すると、俺に近づける。

 

「……おや、先ほどの戦闘で、また壊れたな。一番肝心な部分は強固だが、他はもう駄目かな? ま、取り敢えず……」

 

 男は魔方陣を回転させて、何やら色々とやっている。

 

 どうやら俺の封印を弄っているみたいだが、残念ながら俺には何をしているのかさっぱりだ。もう少し、勉強したほうが良いな。

 

 そんなことを考えている家に、やがて男が一息つき、魔方陣を消した。

 

「終わったぜぇ。根本部分は手を付けてないが、これでお前は今までよりも相当な魔力を引き出せるようになった」

 

 男はそう言うが、生憎と俺には実感はいまいち湧かん。現実世界に戻れば何か気づくかもしれないが……。

 

「てか、根本的な部分には手を付けてない? 封印を解いたんじゃないのか?」

 

 封印が解ければ、リアスと同じくらいの上級悪魔クラスの魔力を完全に使えると思ったんだが……。

 

 俺の疑問に男はあっさりと答えた。

 

「ああ、そりゃ無理だ。解くことは出来るが今のお前でやったら色々とあるからな」

 

「何だよ色々って」

 

 折角その封印が解けると思ったんだがな……。

 

「色々ってのは色々だよ。あーもう、面倒だから説明はまた今度な。後がつかえてんだ」

 

 面倒くさそうに手を振る男。

 

「とりあえず、俺がするのは今はここまで。ここから先はヤツの領分だ」

 

「なあ、さっきから言っているヤツって誰なんだ? ほかにもここにこれるヤツがいるのか?」

 

 俺たち以外の「ヤツ」というものをこの男はさっきから連呼しているが、辺りを見渡してもそんなヤツの影すら見当たらない。

 

「直ぐ来るさ。……ということで、俺はここいらで失礼する」

 

「は?」

 

 男はそう言うや否や、足から消え始めた。

 

 って、本当に消えるのか! 待て待て。

 

「待ってくれ! 俺はあんたにまだ聞きたいことがたくさんあるんだ!」

 

「やだ。聞いてやんない」

 

 本当に性格悪いなこいつ!

 

「ま、それは半分冗談だ。いつかまたお前がここに来たらその時に教えてやるよ。だからって簡単に死にかけるなよー」

 

 男の体はもうすでに下半身が消えて、上半身も消え始めていた。

 

 先ほどまで馬鹿にしたり、真面目な表情をしていた男だが、ここにきて急に変な表情をしてきた。

 

 真面目、というのも変だが、かといって、こちらを馬鹿にするような表情でも無い。何とも不思議な表情だ。

 

「良いか、お前はこの先もっと強くなる。それこそ魔王になれるほどにな」

 

「魔王?」

 

 いきなり飛躍しすぎでは無いだろうか? 生憎とこちらはまだ下級悪魔。上級悪魔でさえないのだから。

 

「問題ない。お前にはその素質がある。――だから勝て。何者にも負けない最強の存在になれ」

 

 ……最強か。

 

「もとよりそのつもりだ。要らぬ心配ってやつだよ」

 

 俺がそう言うと、男はふっ、笑う。

 

「ならいい。じゃあ、またな」

 

 そう言って男は完全に姿を消した。

 

 後にされたのは、この金色の舞う不思議な空間に残された俺だけだ。

 

「……え、どうすればいいのこの後」

 

 思わず、呟く。

 

 いやだって『ヤツ』とかいうのが来るとか言うけどさあ、よくよく考えてみればここから俺はどうやって出れば良いの? 前回は普通に目が覚めたけど、たぶんあれはあいつが色々としてくれたからだろうし、そのあいつもさっき消えてしまったし、どうすれば……。

 

 これからの事に頭を悩ませていたその時だ。

 

『――何に頭を抱えているのです?』

 

 突如として声が響き渡った。

 

 さっきの男の声じゃない。別の誰かだ。

 

 再び俺が辺りを見渡そうとしたその時、俺の目の前に、いきなり竜巻が出現した。

 

「うお……!」

 

 あまりの風の勢いに、思わず腕で顔を覆う。

 

 竜巻に黄金色の粒が混じり、なんとも綺麗な風景に見えなくとも無いが、生憎と風が強すぎるために優雅さは減少しているが。

 

 そして、唐突に竜巻が停止したと思った次の瞬間、竜巻が内側から破るようにして散った。

 

「な……」

 

 竜巻の中にいたものに、俺は思わず息を飲む。

 

 大地を噛み締めるように立つ強靭な四肢。

 

 巨大な結晶のような輝きを持つ一対の翼。

 

 神秘さを感じさせる銀色の鱗。

 

 そして、裂けた巨大な顎。

 

 ――ドラゴン。

 

 俺や一誠に宿る神 器(セイクリッド・ギア)に封じられている力の塊。

 

 その一体が、俺の前に姿を現した。

 

「お前は……」

 

『我が名は『 銀  星  輝  龍(シルヴァリオ・シュテル・ドラゴン)リンドヴルム』。貴方に宿るドラゴンです』

 

 リンドヴルム。俺に宿るドラゴン。こいつが……!

 

 あまりの巨大さ。そして力に俺は圧倒されていた。

 

『こうして顔を合わせるのは初めてですね。今代の私の使い手よ』

 

「そう、なるな……」

 

 話しかけられ、俺は圧倒されながらも言葉を口にする。

 

 何か、想像してたのと全然違うな。もっとドラゴンって厳格なイメージというか、何と言えばいいだろうか、悪役みたいなのがあると思っていたからな……。

 

『しかし、不思議なものです。神 器(セイクリッド・ギア)に封印されて数百年。色んな人間達に宿っていきましたが、宿主が悪魔になったのは今回が初めてです。しかも、近くにドライグを宿すものがいるとは……』

 

「だろうな……俺だって悪魔になるなんて、夢にも思わなかったし。てか、ドライグ? 誰だ?」

 

『貴方の義弟に宿る赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)の事ですよ。以前の所有者とは何度か戦ったこともありましたっけ』

 

 ああ、一誠に宿るドラゴンの事か。ドライグって言うのか。

 

 つうか、戦った? じゃあ、あっちのドライグってドラゴンは俺たちの事を敵と認識しているとか? そいつは色々と面倒そうだな。

 

『全く、直ぐ近くにあのクズ野郎がいるのに八つ裂きに出来ないなんて……これもあの駄神の所為ね』

 

 ……何かすっごく物騒な事聞いたような……気の所為と信じたい。

 

『今は仕方ありませんね。……さて、貴方は今回フェニックスに負けました。ドラゴンを宿すものとしては実に情けないですね。涙が出てきそうです』

 

「……なに、お前も俺の事馬鹿にしにきたの?」

 

『まさか。私は……貶しにきたんです』

 

「一緒だよ!」

 

 俺の心の中に居る奴は皆俺の事を馬鹿にしたいのか!? もう本当に嫌になってくるな! 何だか最近俺ってイジラれキャラになってきてないか?

 

『まあ、貴方の反省点はあの者が言い当てたでしょう。だからそこは良いです。ですが、このまま負けたままなのは、私の宿主としては不合格ですね』

 

「……どういう事だ」

 

『言葉通りの意味ですよ。あなたは負けたままで良いんですか? と聞いているんです』

 

「……嫌に決まってんだろ」

 

 俺がそう言うと、リンドヴルムは笑みを浮かべる。

 

『なら、良いです。貴方は今回二つ新しい力を手に入れました』

 

「二つ?」

 

『ええ。一つはもうあの男から貰っているでしょう。そしてもう一つは、既に掴んでいるでしょ?』

 

「……」

 

 黙る俺に、何を思ったのかリンドヴルムは頷くだけだ。

 

『貴方は一度負けた。なら、次は勝たねばならない。それは分かりますね?』

 

「ああ。あの男にも言われたことだが……俺は負けるのが一番嫌いだ。だから、勝つよ」

 

 俺がそう言うと、リンドヴルムは満足そうに頷いた。

 

『ならば行きなさい。そして勝ってきなさい』

 

「おう」

 

 俺が返事をするのと同時に、辺りが暗くなっていき、リンドヴルムの姿が見えなくなっていきはじめた。

 

 

 

 

『そして、願わくば、貴方が真実を知らんことを』

 

 

 最後に、リンドヴルムが言った言葉は俺の心に強く残った。




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俺は……!

新しい二次創作を考えています。具体的にはストライク・ザ・ブラッドで陰陽師のオリ主が主人公のヤツか、聖闘士星矢の設定だけ使った完全オリジナル聖闘士星矢の物語を。まだ構想の段階なので何とも言えませんが……。


「ん……」

 

 目を開けた俺が最初に目にしたのは、毎日見ている自分の部屋の天井だった。

 

「俺は……」

 

 寝起きの所為か、頭が回っていない。

 

 えっと、確か俺は……どうしたんだっけ。

 

 えーと、レーティングゲームして、ライザーと戦って、そんであの世界に行って……ん? あの世界って何だ?

 

「お目覚めになりましたか」

 

 俺が自分自信の記憶に頭を捻っていると、ベットの横から声が聞こえた。

 

「グレイフィアさん……」

 

 俺は上半身だけ起こしてその人物の名前を呼ぶ。

 

 銀髪のメイド、グレイフィアさんがポケットに何かを入れてから、軽くこちらにおじきしてくる。

 

「どうも。何であなたが俺の部屋にいるとか、何で俺は眠っているのかとか、ゲームの結果はどうなったとか、色々と聞きたいんですが、どこから聞けば良いですかね」

 

「そうですね。では、まずはゲームの結果から。結論から言えば、今回のレーティングゲームはライザー様の勝ちとなりました」

 

「っ……!」

 

 そうか……。

 

「負けたのか……俺は」

 

 あんなに負けるのが嫌だったのに、自分でも驚くほどあっさりと受け止められた。自分でも意外だ。

 

「驚かないのですね」

 

 グレイフィアさんも不思議に思ったのか、そう聞いてきた。

 

「自分でも驚いています。あんなに勝ちに拘っていたのに。熱が冷めたんですかね」

 

 まあ、負けたんなら、それは仕方ない。過去を変える事なんて出来ないんだからな。そこからどう行くか、だ。

 

「……他の皆は?」

 

 今は状況の確認が先だ。取り敢えず、他のグレモリー眷属がどうなっているかを聞かないと。

 

「リアス様は冥界にて婚約パーティーに出席なされています。一誠様とアーシア様と貴方を除いて、皆リアス様に付き添っていかれました」

 

 ……ゲームが終わって直ぐに婚約パーティーって。早すぎませんかね? まあ、悪魔の貴族社会の事なんて俺には分からないけど。

 

「一誠のやつどうかしたんですか?」

 

「貴方と同様に傷が深く、まだ眠っておられます。今はアーシア様が付き添っています。それで私が貴方の看病を」

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

 ベットに座りなおして俺はグレイフィアさんに礼を言う。

 

 恐らく、リアスに頼まれてのことなんだけどそれでも、ちゃんと看病してくれたんだ。礼を言わないとな。

 

「さてと。一誠の顔を見たら、俺も冥界に行こうかな」

 

「……リアス様の婚約パーティーに参加されるのですか?」

 

「ええ。朱乃達は行っているんでしょ? なら、俺も行くのが筋でしょ」

 

 よっこらせ、とベットから降りる。

 

 えーと、着替えはどうしよう。パーティーに着ていくようなスーツなんて持っていないしなー。

 

「……それで宜しいんですか?」

 

「よろしいも何も、元々そういう約束だったじゃん。なら、守らないと。そんな約束破っていたら、約束の意味なくなるでしょ」

 

 そう、約束は守るためにあるんだ。それに、こういう事になるのも織り込み済みであのゲームをしたんだ。なら、覚悟はしていたはずだ。

 

 

「そうですか……貴方はそれで納得されたのですか?」

 

「納得も何も、もう決まったことでしょ? もう一介の悪魔である俺には何も出来ませんよ。それぐらいは悪魔に成り立ての俺にだって分かりますよ」

 

 生憎と、自分が少しは大人だと思っている。

 

 だから、世の中には本当にどうしようも無い事だって山ほどあるのは知っている。――ほんと、身をもって知っている。

 

 今回だってそういうどうしようもない出来事なんだ。

 

 だったら……諦めるしか無いじゃないか。

 

「そうですか……なら、最後に一つだけ宜しいですか?」

 

 まだ何かあるのか全く、もう、俺はさあ……。

 

「――本当にこれで良いのですか?」

 

 ……はは。

 

「良いわけねえだろ!!」

 

 自分でも驚くほどの怒声と共に俺は、拳を壁に叩きつけた。

 

 拳を叩きつけられた壁は衝撃に耐えられず、拳大の大きさの穴を開けた。

 

「ふざけんな! なんであいつがあんな奴と結婚しなきゃなんないんだよ! 意味わからねえよ、理不尽だろうが!」

 

 ああ、自分が抑えられない。塞き止めていた感情が次から次へと流れてしまう。

 

 だけど、もう止められない。止める気も起きない。

 

「あいつは、悪魔で、強くて、凛々しいけど! だけど! どこにでもいる普通の女の子なんだよ! なのに、好きでもない相手と結婚するだぁ! ふざけんな!」

 

 俺はもう一度壁を叩く。

 

「あんな奴、あんな奴に、リアスを渡したくなんかない……!」

 

 自分で分かる。これは嫉妬だ。どういう種類の嫉妬かは分からないが、これだけは分かる。

 

「あんな奴に、リアスを渡したくない……」

 

 最後まで言うつもりは無かったんだがな……。俺もまだまだか。

 

「……ふふ」

 

 俺が自分のだらしない心の内を吐き出し終えた直後、後ろから笑い声が聞こえた。

 

 後ろを見れば、グレイフィアさんが手を口に当てて上品そうに笑っていた。

 

 グレイフィアさんが笑っている? あの鉄面皮とも言えるこのヒトが? 会ったのはこれで三回目だが、最初に会った時の狼狽以外は無表情だったから、笑うところなんて初めて見た。

 

「全く、やっと本音を話しましたね。一時はどうなるかと思いましたよ」

 

「はい?」

 

 何だ、俺が本音で話すのを待っていたのか?

 

「貴方はもう少し、義弟様の様に素直になられた方が宜しいですよ。貴方はまだまだ子供なんですか」

 

 えーあんな変態丸出しの一誠みたいに? 冗談じゃない。死んでも嫌だね。

 

「貴方の決意は聞きました。――貴方がその気ならこれを渡すのも問題ないでしょう」

 

 そう言ってグレイフィアさんは紙切れを一枚、俺に渡してきた。

 

 受け取って見ると、紙には魔方陣が書かれていた。裏にも魔方陣が書かれているが、それは表のとはまた別物だった。

 

「……これは?」

 

「表のは転移用の魔方陣です。それを使えば、リアス様の婚約パーティー会場に直接行けます」

 

 俺の質問にグレイフィアさんは簡潔に答えた。

 

「……なぜこれを俺に?」

 

 少し警戒しながら聞く。

 

 たった今感情を爆発させた所だ。そんな俺にこんなものを渡すなんて何かあるに決まっている。

 

 俺の質問に答えるようにグレイフィアさんは言う。

 

「我が主、サーゼクス・ルシファー様からの伝言です『妹を取り返したかったら、乗り込んできなさい』だそうです」

 

 っ! 魔王ルシファーが!?

 

 思わぬ名前に危うく魔方陣が書かれた紙を落としそうになった。

 

 どういうことだ? だってルシファー様は、この婚約に賛成側だったんじゃ……。

 

「あの方も魔王であると共に、妹の幸せを祈る兄でもあるんですよ」

 

 俺の疑問を察したのか、そう答えるグレイフィアさん。

 

 妹の幸せを祈る兄、か。何となく事情が分かってきた気がする。

 

「貴方も、貴方の義弟も面白いものです。今まで色んな悪魔を見てきましたが、貴方たちのような悪魔は初めてです。サーゼクス様も同じように貴方たちを面白いと評しておりました」

 

 褒められているのだろか? まあ、褒められていると思おう。一誠と同列に扱われている気がしてならないが……。

 

「では、私はこれで失礼させてもらいます。――ああ、言い忘れていましたが、裏の魔方陣はリアス様をお救いになられたら、お使いください。では」

 

 それだけ言って、グレイフィアさんは転移魔方陣でどこかに消えてしまった。恐らくは冥界なのだろう。

 

 そういや、一誠大丈夫か? あいつも俺に負け劣らずの重傷だったはずだが……。まあ、アーシア嬢がいるから問題ないか。

 

 さて、これからどうするか。いや、乗り込むのは良いんだが、まずは準備をしなくちゃいけないからな。

 

 まずは服だな。今は半袖に半ズボンというラフな格好だが、流石にこれで行くのは不味いな。

 

 そこまで考えた俺の目にあるものが映り込んでくる。

 

「なんだこれ?」 

 

 俺は置いてあった布らしきものを手に取る。

 

「背広……?」

 

 広げてみると、それは背広だった。紅色に黒を帯びた臙脂色というやつだな。ライザーの着ていたワインレッドみたいな品のないスーツでは無く、こちらは品が良い。多分、グレイフィアさんが置いていった物なんだろう。背広の下にはこれまた臙脂色のズボンが置いてあった。

 

 というか、何かすっげー高級感あふれているんだけど。手触りだけでかなり値打ちがあるものなのが分かるほどだ。

 

 これを着てこいって事なんだろうけど、これいくらすんだよ。もし破いたり、汚したりして弁償とか言われたら俺、とてもじゃないが払えないぞ、多分。

 

 けど、他に着ていくものも無いし、これを着ていくかしかないか……。

 

 で、後は一誠の様子を見に行って、それから冥界に向かうか。

 

 でも、その前に……。

 

「壁どうしよう……ポスターとか貼って誤魔化すか?」

 

 自分がバカやって開けた壁の穴の処遇を何とかしないと。

 

******

 

 冥界、魔王サーゼクス・ルシファーが所有する城の一つに転移したグレイフィアは、一息を付く。

 

「――やあ、グレイフィア。ご苦労様だったね」

 

 後ろから聞こえてきた声に、思わずため息を付きたくなるが、ぐっと堪える。

 

「このような所で何をなさっているんですか?」

 

 後ろを向いてグレイフィアは言う。

 

 グレイフィアの目の前にいたのは、紅い髪をした男性だった。

 

 装飾の多い貴族服を着た貴公子ようなヒトで、表情は穏やかなものだ。

 

「魔王である貴方がパーティーを抜け出て良いんですか? サーゼクス様」

 

 男性、魔王サーゼクス・ルシファーはグレイフィアの言葉に笑顔を変えずに言う。

 

「いやいや、今回のパーティーの主役は私では無いからね。少し、休憩を貰ってきたんだよ。丁度君が帰ってきたところだしね」

 

 朗らかなサーゼクスの言いように頭が痛くなるグレイフィアであった。

 

「それで、彼に渡せたかな?」

 

「はい、ご指示通り。本当に良かったのですか? 事が大きくなれば、後々の始末が……」

 

「そこは問題ないよ。私も力を尽くすさ。……何より、リアスのあんな顔を見たら、ね。少しでも可能性のある方に賭けたいじゃないか」

 

「で、どうだったかな?」

 

 サーゼクスの真剣な表情に変わったのを見て、グレイフィアも意識を切り替える。

 

「ご命令された通り、いくつかの検査と、あれを持ってきました」

 

 グレイフィアはポケットに入れていたモノを取り出してサーゼクスに渡す。

 

 グレイフィアが出したのは、試験管の様なもので、中には紅い髪が数本入っていた。

 

 そう、グレイフィアが夏蓮を看病していたのは、リアスの願いも含まれているが、実際のところサーゼクスからの命令の方が大きく割占めている。

 

 グレイフィアが出した試験管をサーゼクスは受け取る。

 

「ご苦労。直ぐにアジュカの元に送ろう」

 

「アジュカ様に解析を?」

 

 四大魔王、アジュカ・ベルベブブの名前が出たことで、グレイフィアも流石に驚く。

 

「事が事だからね。出来るだけ信頼できる者に内密に調べたいんだ」

 

「その件ですが……本当に彼がそうなのでしょうか? 確かに、顔は本当に瓜二つです。ですが、魔力の質は少し違いますし。――何より、リアス様が何も反応を示さないとは……」

 

 遠慮がちにそう言うグレイフィア。

 

 グレイフィアのいう事も尤もだとサーゼクスは思う。

 

 しかし、他人の空似と言うには彼はあまりにも似すぎている。そう判断するのに、あまり時間は掛からなかった。

 

「確かに、リアスが反応を示さないのは気になる。だが、私たちがかけた術が上手く作用しているという事かもしれない。……しかし、何という運命か。本当にあの子だったら、リアスの元にいるとは……冥界中、それこそ堕天使領にまで足を踏み入れたのに見つからなかったのに……」

 

「そうですね……」

 

 暗い顔をする二人。

 

 それだけ、あの出来事は二人の中で引きずられているのだ。いや、グレモリー一族やその関係者ならだれでも忘れられないことだろう。

 

 ――ただ一人、リアスを除いて。

 

「この事、ユースティアや茨木等には伝えますか?」

 

「いや、まだ伏せておこう。あの件で一番責任を感じているのは彼らだろうからね。ならば、真偽がはっきりするまではあまり変な気を起こさせない様にした方が良いだろう」

 

「分かりました」

 

 そして、サーゼクスは空気を変えるように笑顔で言う。

 

「さて、私はアジュカにこれを送ったら会場に戻るよ。グレイフィアは先に行っておいてくれ」

 

「分かりました。……彼が来るまでには来てください。多分、予想より早く来ると思いますから、貴方がいないと……」

 

「分かっているよ。直ぐに行く」

 

 まだ何か言いたげだが、グレイフィアはそれ以上何も言わずに一礼して部屋から去る。

 

 それを確認してから、サーゼクスは連絡用の魔方陣を手元に展開する。

 

 繋いだ相手は直ぐに出た。

 

『――サーゼクス、急にどうした? 確か、今はお前の妹の婚約パーティ中だろ? 兄でもあり、魔王でもあるお前が放り出して良いのか?』

 

 妖艶な顔つきの青年が口元に笑みを浮かべながらそう聞いてくる。

 

「アジュカ、君に調べてほしい事がある」

 

 サーゼクスは青年、アジュカ・ベルゼブブにそう頼む。

 

 アジュカ・ベルベブブ。現四大魔王の一角で、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の製作者で、技術開発の最高顧問などをしている。

 

 そして、サーゼクスとはライバル関係に当たり、今でも良き友人でもある。

 

『調べてほしい事? 妹の婚約パーティを放り出してまで急ぐ必要のある案件なのか?』

 

 珍しいものを見るような顔をするアジュカ。

 

 それだけ、サーゼクスは妹のことを大事にしているのだ。そのサーゼクスが妹よりも重要な事なのだ。よほどの事なのだろう。

 

『良いだろう。内容によるが』

 

「助かる。今から送るものを調べてほしいんだ」

 

 そう言い、サーゼクスは髪が入った試験管をアジュカのもとに転送する。

 

 程なくして、アジュカから返事が来る。

 

『今、届いたぞ。これは……毛髪か? これで何を調べろと?』

 

「今から言う人物のDNAデータと検索を掛けて欲しい」

 

『サーゼクス、そういうのは医療関係の者に……いや、待て。紅髪という事は、この髪はお前の一族の者だな? そして、お前が妹の婚約パーティの抜けてまで急ぎたい……まさか、この毛髪の持ち主は……』

 

 信じられい、といった表情でアジュカはサーゼクスを見る。

 

 

 

 

「そうだ、その髪は私たちの兄弟のもう一人の従弟のモノかもしれないんだ」

 

 

 

 そう、サーゼクスは告げた。




いかがでしょうか? 感想、意見待っています。

7月下旬からはいよいよテストが始まります。それに伴い、更新を少し遅れるかもしれませんが、ご了承ください。


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乗り込むぜ

最近、書いていて少し自分で違和感を感じています。


 スーツに着替えて俺は一誠の部屋に向かった。

 

 このスーツ着心地が良いな。動きも全然阻害されないし、便利なもんだ。

 

 けど、この後の事を考えると、面倒な事になりそうだ。ま、仕方ないか。

 

 一誠の部屋の前に着くと、俺はドアをノックする。

 

「一誠、起きてるかー?」

 

 ノックして聞く。

 

 すると、少し部屋の中が慌ただしい雰囲気に包まれる。

 

 何だ?

 

 俺が訝しむ中、ドアが開いた。

 

「か、夏蓮さん……すみません、ってどうされたんですかその姿?」

 

 中から出てきたのはアーシア嬢だった。まあ、一誠の看病しているって聞いていたし、当たり前か。顔が赤いのは何故だろうか?

 

 今は置いとくか。先にアーシア嬢の質問に答えないと。

 

「ああ、リアスの婚約パーティーに乗り込もうと思ってな。丁度いい。二人に話があったんだ。入れてもらえるかな?」

 

「わ、分かりました」

 

 アーシア嬢に通されて俺は部屋に入る。

 

「よお、兄貴。どうしたんだその服?」

 

「よお、一誠。気にすんな。今からカチコミに行くだけだから」

 

「カチコミ!?」

 

 一誠が驚いた声を上げる。

 

「あの、カチコミって何ですか?」

 

 アーシア嬢は言葉の意味が分からないらしく、首を傾げている。

 

「カチコミって、え、どこ行くの?」

 

「決まってんだろ――リアスの婚約パーティーに乗り込む。で、リアスを取り戻してくる」

 

「っ!」

 

 俺がそう告げると、一誠は下を向いてしまった。

 

「一誠……?」

 

「……兄貴、俺悔しい」

 

 俺が訝しんでいると、一誠がいきなり話し始めた。

 

「あんなに意気込んで、それに見合う様に修行して、あいつにも啖呵きったのに、こんな、こんな様だ……」

 

 ぽた、ぽた、と一誠のベットに滴が落ちていく。

 

「ちくしょう……なんで俺はこんなに弱いんだ。いつもいつも、肝心な所で……! 俺は!」

 

 聞いているこっちが悲しくなりそうな、悲痛な叫びだった。

 

「イッセーさん……」

 

 アーシア嬢も涙目になっている。この子は感受性が強そうだしな。一緒に泣いてくれてんだろう。

 

 全く、こいつは……。

 

 俺はベットに座り、一誠の頭を撫でる。

 

「一誠、そりゃあ悔しいよな。大見得きってこれじゃあ、プライドなんてズタズタだ」

 

「…………」

 

「俺に対してライザーの野郎絶対にブッ飛ばすとか言っていたくせに、俺を先にリタイアしちまったんだもんな。もう情けないッたらありゃあしないな。ミジンコクラスの情けなさだな」

 

 ははははは、と笑い飛ばす。

 

「……それ、どうゆう意味」

 

「ん? ミジンコ並に惨めで哀れな存在」

 

「最悪だなおい!」

 

 一誠がツッコむ。

 

 ははは、こいつ相変わらずからかうとホント、面白いなあ。どうやったらこんな風に育ってくれるんだろ。

 

「けどまあ、それは俺も同じだ」

 

「兄貴……」

 

「俺も負けた。リアスに約束したのにさあ。お前と同じように大見得きって偉そうにしてさあ、情けないったらありゃしない」

 

 俺は自嘲気味に言う。

 

 そう、俺は負けた。正直なところ、一誠の事を馬鹿に出来るような立場じゃ無いんだけどな。まあ、そこは義兄の特権という事で許してな。

 

「一誠、俺もお前と同じ気持ちだ。悔しい。めちゃくちゃにな。だから、行くんだよ。借りを返しにな。一誠、ついでだ。お前の分も返してきてやるよ」

 

「……ついでかよ」

 

 さっきよりは大分マシな顔になったな。よしよし。

 

「あ、そうだ。俺、アーシア嬢に用があったんだ」

 

 そう、俺はアーシア嬢にある事を頼もうと思っていたんだ。で、その前に一誠の様子を見ようとしたら、アーシア嬢も一緒の所にいたというわけだ。

 

「わ、私にですか……?」

 

「ああ。一誠も起きているなら丁度いいや。二人に手伝ってほしい事があるんだ」

 

 俺の言葉に、一誠とアーシア嬢はお互いの顔を見て首を傾げていた。

 

******

 

 世界が灰色に見える。なんて言葉をどこかの小説で読んだ気がするが、今の自分がそうだと、私リアス・グレモリーは思う。

 

 広いホール。談笑する紳士淑女。そして、自分が身に纏う女性ならば誰もが一度は夢見るウェディングドレスに近い衣装。

 

 普通なら心躍るのかもしれない。自分の婚約パーティーだ。そうなるのが当たり前なのだろう。周りの誰もがそう思っているに違いない。

 

 だが、私の心は少しも弾まない。と言うより、底なし沼に沈んでいるような気分だ。

 

 好きでもない相手と結婚するのが理由なのかもしれないが、それはあくまで表の理由の気がする。本当はもっと別の所にあるのだろう。

 

 ずっとずうっと前に交わした約束。誰と交わした約束なのかも忘れているのに、どうしてもその約束だけは忘れることが出来ない。

 

 小さいころの話だ。恋も愛も何も分かっていないような年のころの約束。交わした相手だってひょっとしたら忘れているかもしれない。いや、忘れているだろう。

 

 なのに、なのに何故私はこの約束を覚えているんだろう。絶対に忘れたくない。約束を破りたくない。

 

 ―――好きな相手と一生を添い遂げたい。

 

「好きな、相手か……」

 

 思ったことをポツリ、と呟く。幸い、周りには聞かれていないようだ。

 

 真っ先に頭に思い浮かぶのは私と同じ紅い髪をしたあの少年だ。

 

 勉強の方はあまり出来ないが、不思議と、周りを引き付けるような性格をしている。正確に言うならば、私みたいな少し普通とは言えないような者を引き付ける、と言った方が良いだろうか?

 

 今思えば、私は彼に精神的な部分で随分頼っていた気がする。先のレーティングゲームでも眷属たちが次々と倒されていく中で心が折れそうになった時、いつでも彼が私を助けてくれた。自分でもなぜそんなに彼に頼っていたのか、今思い返すと少し恥ずかしい。

 

 最初は、私と同じ紅髪で隣の席だったのだ。そこから興味を持って徐々に親しくなっていたのだろう。

 

 そして――。

 

 意識を深いところに鎮めようとしていた私は強引に連れ戻された。

 

 何かを叩くような音が聞こえてきたのだ。それも、かなりの強くだ。周りの悪魔たちも顔を見合わせたりしながら訝しんでいる。

 

 何かしら? 辺りを見ても、誰も何かを叩いてなどいない。と言うより、これはもっと別の所から……。

 

 そこで私はふと、ホールの大扉を見る。頑丈な作りで、万が一の侵入者の為の迎撃用の術式が組み込まれているものだ。

 

 それが……揺れている。そう、音の原因はこれだ。誰かがドアを揺らしているんだ。

 

 あの扉、質量自体も可なりのモノだったはずだ。サイラオーグのようなパワーの持ち主ならいざ知れず、普通の悪魔なら揺らすことなど出来ない筈なのだが……。

 

 ホールにいる者全員が扉から発せられている音に気付く。

 

 全員が呆気にとられている中、扉を叩く音が止む。

 

 終わったのか? 一瞬そう思ったが、次の瞬間、声が聞こえた。

 

『――さっさと開けやコラァ!!』

 

 それ同時にこちらまで伝わってくるような衝撃と共にに扉が吹き飛ぶ。

 

 開く、では無い。文字通り吹き飛んだんだ。

 

 扉近くにいた者達が慌てて落ちてくる扉から逃げる。

 

 そうこうしている内にドアを崩落する音と共に床に倒れた。

 

 だが、私にはそんな事はどうでも良い。さっき聞こえた声はまさか……。

 

「……やべ、勢い付けすぎたか。けが人いないよな? 大丈夫だよな?」

 

 自分でやっておいて心配する言葉を彼は言う。

 

 そうだ。勢いで物凄い事をやるくせに、後になってから自分のやったことで狼狽えてしまう。周りを気にしないのだか、小心者なのかよく分からないものだ。

 

 最初は呆れてしまったが、結局、それが彼なのだと受け入れてしまった。

 

 だが、今はそんな事はどうでも良い。

 

「どうして……」

 

 来てしまった。

 

「どうして……」

 

 もう傷ついてほしくなかった。

 

「どうして……」

 

 ボロボロの姿を見たくなかった。

 

「どうして……」

 

 ただ、笑っていて欲しかった。

 

「どうして……」

 

 私が我慢すればそれで良かったのに。

 

「どうして……」

 

 私の疑問に、彼は笑って拳をこちらに向けてただ一言、言った。

 

「約束を守りに来た」

 

 そう言って彼、夏蓮は不敵に笑うのだった。

 

 

 

******

 

 

 いきなり侵入してきた夏蓮に、会場の悪魔たちは驚愕していた。

 

 その瞳に映るのは信じられないものを見るかのような目だ。

 

「まさか、彼は……」

 

「馬鹿な! 彼は死んだそれは間違いぞ」

 

「しかし、あの顔どう見ても……」

 

 私の顔をチラチラ見ながらヒソヒソと話す上級悪魔たち。

 

 何かしら? 夏蓮が一体何だと言うの? 

 

 そういえば、グレイフィアも信じられないようなモノを見るような目で初めて夏蓮に会ったときに見ていたわね。普段から表情を崩すことなんて滅多にないのに、あれは驚いたわ。

 

 確かに、夏蓮は私たちグレモリー一族と同じような鮮やかな紅髪をしているけど、それだけの筈よ。悪魔に転生する前だって、神 器(セイクリッド・ギア)を宿しているだけの普通の高校生だったはず。

 

 ……いや、少しおかしな事がある。

 

 彼の不自然な魔力だ。

 

 通常、悪魔は魔力量は本人の素質によって左右される。

 

 イッセーの様な子供以下の魔力は流石にそうそうに居ないけど。しかし、夏蓮は異常なのだ。

 

 一定以上の魔力を放出すると急激に魔力が使え無くなるなんて聞いたことが無い。私自身で少し調べてみたがそのような事例は無かった。

 

 では、何故か? そんな疑問が浮かび上がるが、今の私には残念ながら必要ないだろう。

 

 ――彼が濃密なまでの魔力のオーラをその身から発しているからだ。

 

 どういう事……あれは間違いなく上級悪魔クラス。少なくとも私以上の魔力よ。確かに、夏蓮の魔力は私に匹敵するほどだけど、夏蓮は上手く魔力を出すことが出来なかったはず。それがこんな……。

 

「貴様! 何者だ!」

 

 突然の事に呆気にとられる会場の悪魔たちだが、その中でいち早く、警備兵たちが怒声を上げながら侵入者(夏蓮)に近づいてくる。

 

「……うるせえな」

 

 それを見た夏蓮は煩わしそうにため息を吐く。

 

「貴様ら程度の者が俺の行く手を阻もうとするとは……いい度胸だな」

 

 底冷えするような目で警備兵たちを睨み付ける夏蓮。

 

「っ!」

 

 その眼光に、警備兵たちは為すすべなく、立ち止まるしか出来なかった。

 

 かくいう私も、自分が見つめられているわけでも無いのに、体が竦んでしまう。それほどの迫力が今の夏蓮にはあった。

 

「よろしい」

 

 立ち止まった警備兵たちを満足そうに見て夏蓮は歩みを進める。

 

「こんばんは皆様。私は兵藤夏蓮と申します。誠勝手ながら、我が主リアス様を奪いに来ました」

 

 などと、言う夏蓮。

 

 いきなり何を言い出すの夏蓮! あなた一体……。

 

「こ、これは……」

 

「リアス様、どういう事ですか……」

 

 一族の関係者たちが私に詰め寄ってくる。私だって何が何だか分からないのだ。夏蓮は怪我を負ってイッセーと一緒に人間界で療養していたはずだ。それがどうして……。

 

「――私が用意した余興ですよ」

 

 そう言いながらこちらに歩み寄ってくる人影があった。

 

「お兄様」

 

 私は呟く。

 

 私の兄にして魔王サーゼクス・ルシファーは普段と何ら変わらないにこやかな笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。

 

「サーゼクス様これは一体……」

 

 タキシードを着たライザーがお兄様に詰め寄る。

 

「まあまあ落ち着き給えライザー君。改めて伝説のドラゴンの力を見てみたいと思ってね。グレイフィアに少し段取りを整えてもらったんだ。それに、ゲーム初心者で駒も完全に揃っていないリアスがプロのライザー君相手だと些か以上に分が悪すぎると思いまして」

 

「あのゲームにご不満が……?」

 

「いやいや。魔王である私がそのような事を言っていたら切りが無くなってしまう。此度の件で関わっている上級悪魔の方々の顔も立たないしね」

 

 そう言って笑うお兄様だが、恐らく誰もこの事態を止めることは出来ない。魔王であるお兄様が首謀者なのだ。いかに上級悪魔と言えどそうそうに意見をいう事は出来ない。

 

 ライザーも押し黙り、夏蓮がこちらに近づく。

 

 そして、お兄様の前に立つと、片膝をついて臣下の礼を取る。

 

「御身が魔王ルシファー様ですね? お初にお目にかかります。私、妹君のリアス様の兵士(ポーン)として仕えさせていただいております兵藤夏蓮と申します。此度はこのような場を設けていただきありがとうございます」

 

 一瞬、思考が固まる。

 

 …………誰、これ?

 

 普段の夏蓮は目上のヒトにはちゃんと礼儀を持っているけど、ここまで礼儀正しいところは見たことが無いわね……。

 

 確かにこれから私の眷属悪魔として上級階級のパーティー何かにも出席してもらうつもりだったから礼儀作法はイッセーと一緒に覚えてもらうつもりだったけど、何時こんな作法を身に付けたのかしら?

 

「ああ。レーティングゲームでの活躍見させてもらったよ。これからもリアスを頼むよ」

 

「非才な身なれど、持てる力全てを使い、妹君を支えさせていただきます」

 

 夏蓮の答えに、お兄様は懐かしむような悲しむような、色んな感情を混ぜたような表情を見せる。

 

 しかし、直ぐにいつもの笑みに戻る。

 

「会場の皆さま、いかがでしょうか? ここにいる伝説のドラゴンを宿すものと、フェニックス家才児と謳われるライザー・フェニックス君の一騎打ち。――ドラゴン対フェニックスというゲームでもそうそうに見ない好カード。見てみたいと思いませんか?」

 

 そう言うお兄様。

 

 会場の悪魔たちは突然の事に頭が付いていっていないようだ。こんな、下級悪魔がその主の婚約パーティーに乗り込んでくるなんて事早々に無いからだろう。というより私は聞いたことが無い。

 

 会場が押し黙る中、パチパチ、と拍手が響く。

 

「宜しいではありませんか。つまらないパーティー。見世物としては最高のモノだと私は思いますよ」

 

 人ごみを分けてこちらに歩み寄ってくるのは、軽いウェーブがかかった黒い髪に、黒い貴族服。そして黒い瞳と、全身黒ずくめの少年だった。

 

「オズワルド・ダンタリオン……」

 

 会場の誰かがぼそりと、呟く。

 

 オズワルド・ダンタリオン。私と同じ七十二柱に連なる上級悪魔ダンタリオン家の次期当主で、私やソーナとは同世代。その実力は若手最強の一角に数えられているほどの実力者だ。

 

 オズワルドは不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「このまま談笑して終わりだなんてあまりにも詰まらない。ならば、魔王様のが用意した余興を楽しみましょうよ。いや、余興というレベルではありませんかもね。下手をすればこれがメインになるかもしれない」

 

 つらつらとしゃべるオズワルド。

 

 少し彼を知るものがいれば彼の意図は容易に掴める。

 

 彼は自分が楽しめればそれで良いのだ。楽しめれば周りがどうなろうと関係ない。そんな快楽主義を掲げる悪魔なのだ。

 

 ……こんなのが若手最強の一角なのだ。今どきの悪魔業界もどうかしていると言えるだろう。

 

「オズワルド君の、まあ、少し行きすぎだが、どうだろうライザー君? 君のその炎今一度私に見せてはくれないか?」

 

「……魔王様からの申し出に断われる訳ありませんでしょ。良いでしょう。このライザー見を固める前の最後の炎をお見せしましょう!」

 

 不敵な表情を浮かべるライザー。

 

「さて、カレン君? 君はどうかね?」

 

 少しイントネーションが違う気がするが、お兄様が夏蓮にも聞いてくる。

 

「問題ありません。ドラゴンの力。思う存分御覧に入れましょう」

 

 

 

 

 こうして、夏蓮とライザー。私を賭けた戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 …………当事者の私が全くの蚊帳の外なのはどうなんだろうか?




いかがでしょうか? 感想、ご意見待ってます。


もうじきテストが始まります。その為二、三週間更新が止まると思いますがどうかご了承ください。


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本当に本当の最後の勝負!

お待たせしました。テストは終わったんですが、その後に集中講義という……。


大学生の癖に夏休みが冬休みぐらいしかない。なにこれ。


昨日トランスフォーマ見に行きました。いやーすごい。観に行って良かったと思います。





 『灼 銀 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』を片手に、俺は静かに待っていた。

 

 現在、俺とライザーはパーティー会場の真ん中に即席で作られたバトルフィールドに居る。魔王サーゼクス様が作られたもので、レーティングゲームのフィールドとまではいかないまでも、かなり頑丈に作られているようだ。

 

 いやあ、良かった。俺がやろうとしている事を考えると、こういうフィールドが無きゃ結構危ないんだよな。これで他の上級悪魔を巻き込んじゃったらもっと面倒な事になっていたかだしよぉ。

 

 仕込みは十分。これでダメだったらもう本当に諦めるしかないかな。ま、諦める気なんて毛頭ないけど。

 

 俺の対面には、ライザーが立っている。奴さんの服装はさっきのタキシードの上着を脱いだだけだ。

 

 こちらもグレイフィアさんにもらった紅色のスーツを着たままだ。

 

 まさかスーツを着て戦う事が来ようとは……。悪魔になったり、ホント訳が分からない人生を歩んでいるよな俺は。

 

「それでは、始め!」

 

 審判役の悪魔が開始を宣言する。

 

 既にこちらは女王(クイーン)にプロモーション済み。流石に兵士(ポーン)状態じゃ心許ないからな。出来ることは全部やっておかないと。

 

「けっ、またお前と戦う事になるとはな」

 

「悪いね。こう見えて往生際が悪いもので」

 

「全くだ。まあ良い。さっさと片付けてやる」

 

「生憎、俺はゲーム時の様にぼろ負けする気はないぜ?」

 

「減らず口、をっ!」

 

 そう言うと同時にライザーは炎の塊を俺に目掛けて放ってくる。

 

 迫りくる炎に対し俺は神 器(セイクリッド・ギア)を無造作に振るう。

 

『Absorb!!』

 

 振るった剣先に炎が触れると同時に神 器(セイクリッド・ギア)から音声が響き、炎が吸収される。

 

 ちっ、とライザーが舌打ちする。

 

「本当に厄介な神器(セイクリッド・ギア)だな。俺たち上級悪魔は通常魔力による攻撃をするから、そいつに全部吸われちまう。面倒だな」

 

「お褒めいただき光栄ですよ」

 

「褒めてねえよ。……ま、結構でかい弱点もあるけどな」

 

 こちらを小馬鹿にするように見るライザー。

 

「その神 器(セイクリッド・ギア)には大きな弱点が二つある。一つはその範囲の狭さだ。攻撃の吸収もその剣の部分だけでしか吸収できない。そしてもう一つは所有者の容量(キャパシティ)を超える攻撃は吸収出来ない。――要は強大な攻撃を打ち込めば別段怖くないんだよ。お前の神 器(セイクリッド・ギア)は」

 

 まあ、大体はその通りなんだよなー。実際、ゲームでも一つ目の弱点突かれてダメージを負ってしまった訳だし。

 

「というわけだ。さっさと終わりにするぞ」

 

 そういうや否や、ライザーは俺の身長を超える程の大きさを持つ炎の塊をいきなり作り出した。

 

 デカさだけじゃない。熱さがこちらまでひしひしと感じてくる。喰らったら流石に不味いかな。

 

「じゃあ、な!」

 

 ライザーが炎をこちらに向けて放つ!

 

「……はっ」

 

 思わず、笑ってしまう。

 

 何故だろうな。ゲームの時は脅威に感じたのに、今だと全く怖くない。当たれば大怪我じゃ済まないだろうに。

 

 だけど、今なら――負ける気が全然してこない!

 

 さあ、行くぜ、リンドヴルム!

 

『ええ。あのフェニックスに見せつけなさい。ドラゴンの力を!』

 

禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

 俺が力強く言うと同時に、俺の体が光に包まれる。

 

「何!?」

 

 ライザーが驚きの声をあげる。

 

 次の瞬間、俺の体は光に包まれた。そして、ライザーの炎は光に当たると同時に、

 

『Absorb!!』

 

 音声と共に吸収された。

 

 そして、光が晴れると同時に、俺の体は鎧によって覆われていた。

 

「な、何だそれは……」

 

「『灼 銀 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』の禁  手(バランス・ブレイカー)、『灼 銀 の 龍 衣(バニング・ドラゴン・クロス)』。悪いな。もう俺に弱点なんて存在しないよ」

 

 俺を覆う鎧はドラゴンをモチーフにしており、色はメタリックシルバー。そして背中にリンドヴルムの翼と同じく結晶のような輝きを持つ翼が一対生えている。

 

 さらに左腕部にはあるギミックが備わっている。こいつは、この戦いにおいて切り札となる。なるべくヤツには悟られない様にしないとな。

 

 禁  手(バランス・ブレイカー)、『灼 銀 の 龍 衣(バニング・ドラゴン・クロス)』。『灼 銀 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』の力を鎧に具現化したもので、吸収の力を鎧全てに反映することが出来る。これで一つ目の弱点、範囲の狭さは完全に克服できる。

 

 そして二番目の弱点の容量(キャパシティ)も、この状態と俺の魔力が上手く出せるようになったお蔭で問題ない。

 

 つまり、今の俺に弱点らしい弱点は無い――!

 

 ……いや、実際は弱点はあるんだけどな。それもとんでもないやつが。それを律儀にライザーに教えてやる義理は全く無いけど。

 

「さあ、始めようかライザー・フェニックス。来いよ、今度はこっちが叩きのめしてやる」

 

 剣の切っ先をライザーに向けて俺は宣言する。

 

「っ……!」

 

 ライザーは無言で目元を引きつかせるだけだ。

 

「どうした? 来ないのか?……なら、俺から行くぜ!」

 

 俺は背中の翼をはためかせると、一気にライザーとの距離を詰める。

 

 突然、俺が目の前に来たのをライザーは反応出来なかったようだ。ぎょ、とした顔でこちらを見ている。

 

 それに構うことなく、両手で上段に構えた剣を、思いっきり振り下ろす!

 

「うお……」

 

 咄嗟に反応したライザーが右側に避ける。

 

 振り下ろした剣はそのまま衝撃で地面を引き裂く。

 

 それを確認したと同時に俺は剣を逆手に持ち替えてライザー目掛けて突きを放つ!

 

「くそ!」

 

 それを見たライザーは毒づきながら前に壁として炎を出した。

 

 ライザー。咄嗟だから気づけなかったのだろうけど、それは悪手だぞ?

 

 俺は剣をそのまま炎に突き立てる。

 

『Absorb!!』

 

 刀身に炎が吸収されていく。

 

「っ、しまっ……」

 

 ライザーが自分の失策に気づくがもう遅い。

 

 俺は炎を吸収し終えると同時にライザーに剣を突き刺す。

 

「ぐは……」

 

 ライザーは苦悶の声を上げるが、直ぐに右手に炎の塊を作ると、俺に投げつけてくる。

 

 いや、だから無駄だって。そんな攻撃効かないよ。

 

『Absorb!!』

 

 鎧に当たると同時に、炎は鎧に吸収されていく。

 

 いやあ、良いねこれ。熱も全くと言っていいほど感じないし、悪くない。

 

 俺はライザーに突き刺した剣をそのまま押すようにして突き出す!

 

 その反動でライザーは剣が抜けてそのまま吹き飛ぶ。

 

 しかし、炎の翼を背中に生やすと、体制を立て直して空中に避難した。

 

「何て神 器(セイクリッド・ギア)だ……。ここまで悪魔と相性が悪いものがあるとはな! お前の事を少し甘く見過ぎていたようだな」

 

「さっきまでの威勢はどうしたよ? 勝ち目が無いから怖気づいてしまったか?」

 

 俺の挑発にライザーは憤怒の表情を見せるが、直ぐに冷静になった。

 

「ふん、減らず口を。お前の神 器(セイクリッド・ギア)はその状態になった事で弱点の殆どが無くなったが無いわけじゃない。――物理的な攻撃なら普通に効くんだろ? なら問題は無い!」

 

 ライザーは全身に極大な炎を纏わせながらこちらに突っ込んでくる! 面白い。まあ、そうなるわな!

 

 俺も空にジャンプし、ライザーを迎え撃つ!

 

 お互いの拳をもう片方の手で受け止める。受け読める際に剣は消しておく。

 

 意外と力あるな! ちょっと予想外! けど、受け止められないわけじゃない。

 

 出力は互角。いや、お互いまだ全力じゃないから何とも言えないな。

 

 ……少しここで伏線張っておくか。

 

 リンドヴルム、『解放』を頼む!

 

『分かりました。手筈通りに』

 

『Liberate!!』

 

 俺の結晶の翼から炎が噴出する。更に、俺の体も炎が覆っていく。

 

「! そうか、俺の炎を!」

 

 そう、禁手化(バランス・ブレイク)したことによって神 器(セイクリッド・ギア)の力を全身に展開することで、『解放』の力も体全体に覆う事が出来るようになった。これにより、吸収した力分、戦闘能力を一時的にだが、一気に跳ね上げることが出来るようになった。

 

「お、らああああぁあ!!」

 

「く、このおおぉぉ!」

 

 力を高めた俺に負けじとライザーも炎の勢いを上げ対抗してくる。

 

 すごい炎だな! 熱は鎧のお蔭で感じないが見ているだけで熱くなりそうだ! 

 

 一進一退の力の押し合いが続く中、ライザーはこの状況を不利に思ったのか、体を引き、俺から距離を取った。

 

 ちっ、もう少しくらい取っておきたかったんだが、そう上手くいかないな。

 

「俺の炎も自分の力に上乗せ出来るのか……本当に厄介な神 器(セイクリッド・ギア)だな!」

 

「自分でも案外強いんじゃねこれ? って思ってるよ」

 

 そう言ってみるものの、俺の心中は「やはり」と思う気持ちがある。

 

 決定打が無い。これはこの神 器(セイクリッド・ギア)の大きな特徴ともいえる。以前にも考えたことだが、必殺技が無いのだこれは。一誠のドラゴン・ショットみたいなのがあれば良いのだが……。

 

 ……無いわけでは無い。あれが必殺技と言えるかどうか……。いや、確かに今の俺にとって破壊力抜群の技だが、あれ、一誠のヤツより使い勝手悪いんだよなあ。全く持って面倒なものだ。

 

 考え事をしていると、再びライザーが殴り掛かってきた。

 

「おっと」

 

 俺はそれを紙一重で躱す。危ない危ない。考え事している余裕は無いな。

 

 剣を再び出し、ライザーに斬りかかる。

 

 それをライザーは躱し、カウンターの要領で俺に殴り掛かる。

 

 ドガッ!

 

 鈍い音共に、わき腹辺りをライザーの拳が襲う。

 

 うお、意外に痛いな……。腐っても上級悪魔の拳か。効くな……。

 

 見れば、鎧にも僅かだが、罅が入っている。あいつ、ボンボンの癖に意外と重いパンチ持ってるな!

 

 リンドヴルム、鎧修復頼む。

 

『分かりました。ですが、何度も喰らうのは得策ではありませんね。()()()()禁手化(バランス・ブレイク)をした所為で、防御力は本調子には程遠いです。この鎧も貴方が思っているほど今は完璧ではありません』

 

 成程。いくらヤツを圧倒できるからって慢心しちゃいけないという事か。よーく分かったぜ。

 

 リンドヴルム、どんぐらい溜まった?

 

『先ほどの『解放』で少し使いすぎましたね。元のも含めて後もう少しは『吸収』しておきたいです』

 

 マジか。あいつも流石にもう遠距離で攻撃はしてこないだろうしな。こっからどうやって吸収するか……。

 

「……メンドくさ」

 

 思わず、言葉が出る。戦うのは好きだが、縛り有はあまり好きではない。戦いってのは思う存分に力を発揮するから面白いのだ。ああ、本当にメンド。

 

 ……まあ、そんな事言っている場合じゃないんだが。

 

「っ!」

 

 殺気を感じ、ふと見れば、ライザーが再び全身に炎を纏わせ、いや、さっきよりも炎がデカくなっている!

 

 その姿は炎の鳥――フェニックスそのもの。

 

「俺の全力で貴様を打ちのめしてやる! 覚悟しろ!」

 

「断るに決まってんだろうが!」

 

 迎撃の為に拳に魔力を込める。

 

 リンドヴルム、あれも『吸収』出来るよな?

 

『ええ。ですが、少し時間がかかります。その点を注意して』

 

 了解!

 

 ライザーが突っ込んでくる! 鎧なしだと流石に当たりたくないなあ。

 

「はああああ!!」

 

 魔力を拳に練りこみ俺も迎撃の構えを取る。

 

 ライザーとぶつかり、そして――。

 

 




いかがでしょうか? 感想、意見待ってます。


戦闘シーンが全然書けない。色んなラノベを読んで参考にしたいですね。


後、誠勝手ながら、私、水曜から一週間ほど旅行に出かけます。また再び更新が遅れる事どうかご了承ください。


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これで終わりだ

どうもー。無事旅行から帰ってきましたー。

いやあ、何かすまんせん。構想は頭の中でぐるぐる巡っているのに、それを文章にできませんでした。書いても出来としては良くは無いかと。主に戦闘描写が。主に戦闘描写が。大事な事なので二回言いました。

それでも良いと言う心の広い方、どうぞ。


「……やっべー」

 

 煙が辺りに立ち込める中、俺は片膝をつきながら冷や汗をかいていた。

 

 その姿は先ほどまでのドラゴンの鎧……では無く、スーツ姿の生身の状態だった。

 

「成程。お前が俺を挑発していたのはこういうわけか」

 

 煙から出てきたライザーは所々傷を負っているが、直ぐに傷に炎が這って治していた。

 

「鎧の方はあまり長時間使う事が出来ないみたいだな。だからお前は勝負を急いでいたんだ」

 

 ご名答。反論は無しだよ。

 

 そう、俺の禁手化(バランス・ブレイク)は確かに強力なのだが、中途半端に至った所為か、十五分も保たない。フェニックス相手にこれは流石にきつい。その為、なるべく早くに終わらせたかったのだが……。

 

「残念だったな。肝を冷やしたが、まあ結局はこうなる運命だったんだよ。余興としては中々楽しめたぞ小僧」

 

「うるせえよ」

 

 悪態つくも、内心どうするか頭を回す。

 

 『あれ』はまだ無理かな。確実にするにはもう少し、てかあいつに近づいてもらわないといけない。この距離だと少し心許ない。

 

 ……ライザーは冷静さを戻しているな。これは挑発してもこちらに近づいてこないかな。となると、俺が取るべき選択肢は……。

 

「っ!」

 

 灼 銀 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)を展開し、ライザーに向かって魔力で強化した足で一気に迫る。

 

 懐まで入り、俺は剣を一閃する。

 

 攻撃はもろに当たるが、残念ながら直ぐに癒えてしまう。

 

「無駄だ!」

 

 ライザーは拳に炎を纏わせ俺に殴り掛かってくる。

 

「ちぃっ!」

 

 俺は剣の腹を盾にするように前に出す。

 

 ガアッン!

 

 ライザーの拳が剣の腹にぶつかる!

 

 あまりの衝撃に、片膝をつく俺。

 

 ええい、面倒な!

 

 っ! ライザーの拳を抑えている俺の体に衝撃が走る。

 

 膝蹴りを腹に入れられた、と認識したのは後ろに吹き飛ぶ直後だ。

 

「が、は……」

 

 地面に倒れこみながら咳き込む。

 

 痛ったぁ……くそ、強化が間に合わなかった。

 

 痛みに顔を顰めながら上を向くと、目の前には足の裏が。

 

 ……やば。

 

 ライザーの足だと認識する前に、横に転がって避ける。

 

「ちょこまか逃げんな。鬱陶しい」

 

「逃げるに決まってんだろうが!」

 

 態勢を立て直し、魔力の球をライザー目掛けて撃つ。

 

 大きさは流石に一誠のドラゴンショットとは比べられないが、それでも上級悪魔とは引けを取らないと俺は思う。

 

 直撃すれば、大ダメージは否めないだろう。

 

 ――だが、ライザーには効果ないようだ。

 

 顔面に直撃し、頭が吹き飛ぶ。ぶっちゃけ文面だけ見ればホラーミステリーの一文だな。

 

 首から上を無くし、立つライザー。しかし、顔の部分を炎が出現し、再びライザーの顔の形を作っていく。

 

「もう諦めろ。あの鎧がもう消えたお前じゃあもう俺には勝てない。ゲームの時みたいにボロボロにされたくなかったらさっさと降参しろ」

 

 こちらを小馬鹿にしながら近づいてくるライザー。

 

 俺の目の前で立ち止まり、見下ろしてくる。

 

「終わりだ、小僧」

 

 

******

 

 私、リアス・グレモリーはその光景を見て、もう駆け出す一歩手前まで来ていた。

 

 もう夏蓮に勝ち目は無い。それはこの会場に居る悪魔たち誰もが思っていることだろう。

 

 最初こそあの龍の鎧を見て、私ももしかしたら、等と思ったが、結局は駄目だった。

 

「……夏蓮、もう良いわ。降参して。今度こそ貴方は死んでしまうかもしれない」

 

 ポツリ、と思わず言葉が出る。もう限界だ。あの時のような思いはゴメンだ。

 

 一歩踏み出す。この血統を止めさせないといけない。私の言葉では止まらないかもしれないが、お兄様の言葉なら……。

 

 そう考えた私は、隣にいるお兄様に進言しようとしたその時だ。

 

「――ク、ハハハハ」

 

 笑い声が聞こえた。

 

 一瞬、誰のモノか分からなかった。しかし、直ぐに夏蓮の笑い声だと気づいた。

 

 この状況で笑う? お兄様への進言も忘れ、私は思わずフィールドを見る。

 

 そして、ゾクリ、と背筋が震えた。

 

 確かに夏蓮は笑っていた。しかし、その笑みはいつもの私たちに向けるような優しい笑みなどでは無く――まるで獲物が捕まえるときの獣のような獰猛な笑みだ。

 

 でも、と私は思う。

 

 この状況下でまだ勝てる気でいるの夏蓮?

 

「何だ……頭が可笑しくなったか?」

 

 相対するライザーも突然の夏蓮の笑いに訝しげに――少し警戒している。

 

 そして、笑いを止めた次の瞬間、ライザーの腹部に夏蓮の左の拳がめり込んでいた。

 

「ごふ……!?」

 

 突然の衝撃に、ライザーは何が起こったのか分からない顔をしていた。

 

 かくいう私も何時、夏蓮がライザーを殴ったのか、見当も付かなかった。

 

 夏蓮は殴ったその手でライザーの服を掴むと、力強く宣言する。

 

「――禁手化(バランス・ブレイク)

 

「え!?」

 

 どういう事? だって、夏蓮はもう……。

 

 困惑する中、夏蓮が再び光に包まれる。

 

 そして次の瞬間、光が晴れると、夏蓮の体に再び鎧が装着されていた。

 

 ……ただし、左半身だけというひどくアンバランスな状態だが。

 

「時間を置かないでの再禁手化(バランス・ブレイク)はやっぱりこうなっちまうか」

 

 自分の状態を確認するように右手を握ったり閉めたりする夏蓮。その表情はまるでこの状況が分かっているかのような顔だ。

 

「どういう……事だ! お前のその鎧はもう解けたんじゃ!」

 

 ライザーが夏蓮の腕を外そうと必死にもがいているが、夏蓮の腕はびくともしない。

 

「ああ、解けたよ。但し、()()()。その言葉が先に付くけどな」

 

 夏蓮の言葉に会場の悪魔たちは驚愕する。私自身も驚きを隠せなかった。

 

 あれだけライザー相手に優位に立てていたのに一体なぜ……?

 

 私の疑問に答えるかのように夏蓮は話を続ける。

 

「ライザー、あんたの想像通り、俺の現段階での禁手化(バランス・ブレイク)は時間制限が大きくついている。あんたみたいな不死身相手にするならそいつは大きな枷だ」

 

 確かに、フェニックスを倒すには圧倒的な攻撃で倒すか、心を圧し折るかのどちらかだ。そして、今の夏蓮ではライザーを吹き飛ばすほどの攻撃力は残念ながら持っていない。

 

 となると、残りは相手の心を折る、だが……夏蓮は一体何をするつもりだろうか?

 

「けどな、この禁手化(バランス・ブレイク)、その時間制限内なら、一回鎧を外して再び再装着、何て事も可能だったわけよ。……最も、今回は左半分だけだが。まあ、この際仕方ないかな」

 

 ネタ晴らしをするように話を続ける夏蓮。

 

 でも、疑問が残っている。

 

「だ、だったら何故途中で解いた? その力なら時間制限があっても使い方では俺を倒せただろうに。何故そんな自分で自分を追い込むような真似を……」

 

 そうだ。夏蓮の禁手化(バランス・ブレイク)なら、ライザーを倒せたかもしれないのだ。それを何故……。

 

「いいや。倒せないよ」

 

 夏蓮はあっさりと言う。

 

「あ……?」

 

「いや、だってさあ。確かにこいつ強力だけど、それだけなんだよね。つうか、あんた俺を買いかぶりすぎだよ。時間制限無しだったら確かに俺はあんたを倒せる。けどこうもめんどくさい状態だと、俺も色々と考えるのよ」

 

 そして夏蓮は呟く。

 

「――展開」

 

 刹那、ライザーを掴んでいる鎧の左腕部分が光ったと思うと、二つのパーツが展開した。

 

 それはまるでドラゴンの頭。ドラゴンの牙。

 

「なっ……」

 

「……噛み付け」

 

 そう夏蓮が言うと、ドランゴンの牙はライザーの腹部に鋭く噛み付く。

 

「が……」

 

「こいつが俺の『切り札』だよ。どうだ、こいつの噛まれ心地は?」

 

 まるで天気を聞くかのような軽い調子で聞く夏蓮だが、当のライザーはそれどころでは無いようだ。

 

「さてさて。実はだな、こいつにはある機能はあるんだ。吸収した分の力をこの口から一点集中で放つことが出来る。吸収した分だけ攻撃力もアップだ」

 

 夏蓮はそれを狙っているのだろうか……? でも、だったら何故さっさと使わないのだろうか?

 

 私の疑問に答えるように夏蓮は続ける。

 

「でもさあ、まだ狙いが大味なんだよね。少しでも離れてると正直当てる自信が無い。だから、こうしてゼロ距離で撃たないといけないんだよ、分かる?」

 

 ライザーを噛んでいるドラゴンの口に光が集まり始めた。恐らく、夏蓮が言ってた砲撃のチャージを始めたのだろう。

 

 ……もしかして、夏蓮が一度鎧を解いたのはこの状況を作るため?

 

 恐らく、夏蓮が言っていた狙いが定まらないというのは本当なのだろう。そして確実に当てるためにライザーにゼロ距離で撃つ必要があった。

 

 ゼロ距離で撃つにはライザーを捕まえる必要があるけど、あのライザーを捕まえるのは中々難しい。だからライザーを油断させたんだ。自分から近づけるために。

 

 そこまで考えて、私は少し背筋が寒くなるのを感じた。

 

 多分、夏蓮はこの状況を作るために色々と策を講じていたのだろう。

 

 ライザーを倒せるだけのエネルギーを手に入れる事。そして鎧を解くタイミング。どれもかなりシビアな時だ。少しでも間違えたら失敗していたであろうに。夏蓮はそれをやり遂げたのだ。

 

「あんたから吸収した分、そして俺の魔力。最後に……聖水」

 

「なっ!?」

 

 どういう事? なんで聖水? だってこの決闘で一度も出たことは……。

 

「ああ、ここじゃないよ。ここ来る前に義弟と、その彼女に手伝ってもらったんだ。俺の神 器(セイクリッド・ギア)、純粋なエネルギーじゃなくても吸収出来るんだ。まあ、効率は悪いけど」

 

 聖水一つだけじゃあライザーには余り効果は無い。恐らく、相当数の聖水を注ぎ込んだんだろう。

 

 義弟はイッセー、その彼女はアーシアの事だろう。あの子たちに手伝ってもらいながら大量の聖水を剣に掛ける光景が脳裏に浮かんでくる。

 

「さて、長々となったが大よその疑問は解けたでしょ。だから――これで終わりだ」

 

 ドラゴンの口に濃密な魔力の塊が現れる。喰らえば、かなり不味いだろう。

 

 それを感じたライザーは今までにない狼狽を見せながら脱出を図ろうとする。

 

 しかし、牙の力が思った以上なのかビクともしない。

 

 外すのを諦めたのか、ライザーは手元に炎を作り、夏蓮の鎧を纏っていない方、つまり右半身を狙おうとした。

 

「おっと、それは困る」

 

 夏蓮はライザーの右手首を掴むと、万力の如く力を込める。

 

 更に追い打ちをかける様にライザーの足を踏む夏蓮。

 

 もう、ライザーに逃げ場は、無い。

 

「わ、分かっているのかお前!?」

 

 最後のあがきの如く、ライザーは言う。

 

「この婚約は悪魔全体の、種としての未来が関わっている。お前みたいな餓鬼がどうこうできる問題じゃあ――」

 

「――んなもん今はどうでも良い」

 

 冷徹な声でそう言う夏蓮。

 

「悪魔の未来? 上級悪魔としての責務? 下らない。全く持って下らん。そんなもんの為にあいつが泣くなら、全部いらん」

 

 夏蓮……。

 

「俺はな、あいつと約束したんだ。『お前の夢かなえてやる』って。その為にあんたをブッ飛ばす!」

 

 貴方は…………。

 

 気づけば涙が止まらない。

 

 どうしよう。私の大事なヒトが戦っているのに、命かけて、あんなになるまで戦っているのに。

 

 

 

 嬉しくて、たまらない。

 

 

 

 

「これで終わりだライザー・フェニックスっ!」

 

「く、くっそおおおおおおおぉおおおおお!?」

 

 

 そして、二人は閃光に包まれて――。




いかがでしょうか? 感想、意見待ってます。


次回、二章ラスト!


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後日談

今回で二章終わりです。長かったですねえ。後書きで反省なんかが書かれているのでどうぞ


「あーくそっ。マジで痛いなおい」

 

 呻きながら俺は立ち上がる。

 

 そして今の体の状態を見て……見なきゃよかったなおい。

 

 そう、思わずにはいられなかった。

 

 左半身は鎧を纏っていたおかげで殆どノーダメージだ。だが、纏っていなかった右半身は酷いの一言で表せる。

 

 スーツは焼き切れ、殆ど服としての役割を果たしていたない。左半分の無傷さがある分、変に際立っている。というか、自分で着てて気持ち悪い。おまけに痛いと思ったら、とんでもない深さの傷があった。

 

 やっぱりゼロ距離での砲撃は無理があったかな。右半身がどんでもないわ。血がダラダラだわ。やべえよ、血が止まんねえ。

 

 そういやぁ、ライザーのヤツどうした? 流石にあれでくたばらないわけはないと思うのだけど……。

 

 辺りを見渡すと、直ぐ近くに白目をむいて仰向けで倒れているのが見えた。

 

 ヤツの傷も服もボロボロで、体を再生させようとしている炎もひどく弱弱しい。恐らく、もうこれで終わりだろう。

 

 ――勝った。

 

 そう実感し、最初に感じたのは、喜びよりも疲れだった。

 

 いやはや、本当に面倒な相手だった。不死身がここまで面倒だったとは……。禁手化(バランス・ブレイク)が完全だったらもう少し簡単に行けたんだろうけど……。

 

 まあ良いや。兎に角疲れた。さっさとリアスを迎えに行って帰るか。

 

 フィールドを降り、リアスのもとに向かおうとしたら、俺の目の前に飛び出す者がいた。

 

 レイヴェル・フェニックスだ。俺の事を睨み付けるように、どこか怯えるように見つめてくる。

 

「……何か、用か?」

 

 俺が聞くも、レイヴェルは黙ったままだ。

 

 埒が明かない。そう思い、こいつの隣を横切ろうとした時、

 

「……どうして」

 

「ん?」

 

「どうしてそこまでして戦えるんですの? そんなにもお兄様に負けたのが悔しかったのですか?」

 

 俺が視線をレイヴェルに移すと、彼女は俺から視線を逸らしながらそう聞いてくる。

 

 そんな事か。俺はため息を吐きながら質問に答える。

 

「ま、確かにそれもあるけど、一番の理由は約束かな」

 

「約束……?」

 

「そ。リアスと約束したの。あいつの夢、叶えんの手伝うって。それだけを考えたらそれまで色々な事を考えていたのがもう何か馬鹿らしくなってな……自分が何をしたいのか。それを考えたら、こうなったわけ」

 

 俺はポン、と左手をレイヴェルの頭に置くと、言った。

 

「ま、女の為に馬鹿やった男とでも思っていてくれ。仇討ならいつでも歓迎だが、流石に今日は勘弁してくれ。少し疲れた」

 

「…………」

 

 俺の言葉に、レイヴェルは何も答えず、ただ耳元を赤くして俯くだけだ。

 

 どうやら、もう言うは無いみたいだな。そう俺は判断して、リアスの元に行く。

 

 純白のウェディングドレスを身にまとったリアスは泣き笑いのような表情で俺を見つめている。

 

 そして、リアスの隣にはリアスの父親のグレモリー卿がいた。

 

 俺はグレモリー卿に目を合わせて言う。

 

「申し訳ありません。ですが、自分に嘘を付いて後悔だけはしたくないんです」

 

 俺の言葉にグレモリー卿は一瞬目を見開くと、小さく笑った。

 

「……似ているな」

 

「え?」

 

 何か呟いたと思ったら、グレモリー卿は足早にその場を去った。

 

 はて、何か言われると思ったのだが、まあ良いや。さっさと帰ろう。

 

 俺はリアスに視線を戻して、手を差し出す。

 

「帰るぞリアス。ここにはもう用は無い」

 

「夏蓮……」

 

 俺はリアスの手を取り、グレイフィアさんから貰った魔方陣の裏側の方を発動させる。

 

 すると、魔方陣から鳥の翼を持った四足歩行の獣が現れた。

 

 こいつは……グリフォンか。グリフォンはルシファーと同じ傲慢を司るから、それと共通しているのか。

 

 俺はリアスを乗っけると、俺も飛び乗る。すると、グリフォンは翼をはためかせ、空高く飛び始めた。

 

*******

 

「はー。やっと終わったー」

 

 それなりの大きさを持つグリフォンの背中で寝そべりながら俺は冥界の空を見た。

 

 人間界と違い紫色という何とも反応に困る色だ。

 

 だが、不思議と嫌な感じはしない。寧ろ、どこか懐かしい。

 

 妙なものだ。冥界に来たのは今日が初めてなのに、悪魔になって帰巣本能なんてものが出来たのかな?

 

 冥界の空についてあれこれ考えていると、ふと、頭が持ち上げられて、何かに乗っかる感触を感じた。

 

 それがリアスによる膝枕と気づくのに然程時間は掛からなかった。

 

 俺の顔を覗き込むように顔を近づけるリアス。

 

「……馬鹿ね、貴方」

 

「いきなりだな」

 

「馬鹿でしょ。そんな大怪我を負って……私が何のためにゲームを降参(リザイン)したのか、分かってるでしょ」

 

「……」

 

「あなたに傷ついて欲しくなかった。ただそれだけだった。なのに、貴方は……」

 

「しょうがねえだろ。約束したんだから」

 

「約束……?」

 

 訝しむリアスに、何でもない様に言う。

 

 

 

「言っただろ、お前の夢かなえるの手伝うって。だったら、友人として、眷属としての前に、一人の男としてそれを叶えてやりたいと思った訳だよ」

 

 俺の言葉に、リアスは目を丸くし、その後ゆっくりと微笑を口元に浮かべた。

 

 

 そして、

 

「え……」

 

 唇に柔らかい感触。それを感じた瞬間、リアスの顔がゆっくりと俺の顔から離れた。

 

 いや、ちょ、待て。これってあれだよな。おいちょ、ま……。

 

 混乱する俺に対して、リアスは楽しげに笑うだけだった。

 

******

 

 後日談というか、その後の話。

 

 あれから、リアスは俺の家に住むことになった。

 

 うん、突然すぎて俺も良く分かっていない。誰か教えて。

 

 新たな突然のホームステイにも流石に義両親たちも訝しんだが、そこはリアスの悪魔の交渉術。あれやこれやの口八丁。気づけば二人とも涙ながらに歓迎していた。何があったんだよおい。

 

 何か義父さんに至ってはこちらにサムズアップしているし、義母さんは「我が家はこれで安泰よー」なんて言ってるし、もう訳わからん。

 

「これからよろしくね夏蓮」

 

 こちらに向かってニッコリとほほ笑むリアス。

 

 ……いや、それは良いんだけど、何か一誠が血涙を流さんばかりにこちらを睨み付けているんだけど。怖えよ。何か今のあいつなら俺でも負けそうな勢いを持ってそうだよ。

 

 後、リアスの婚約の件だが、結局破談となった。

 

 あの時はだいぶ勢い任せでやっていたんだが、あれで破談になるんだな。いや、魔王直々にやってくれたんだから当然と言えば当然なんだろうけど、ライザーが言ってた通り、色々とあの婚約にも意味があったんだろうに。まあ、今となってはどうでも良いけど。

 

 俺の禁手化(バランス・ブレイク)だが、当面は持続時間の安定にかけるのが重要だろう。その他の能力には不満は無いしな。

 

(問題は……他にあるか)

 

 リンドヴルムはこちらから話しかければ反応がある。しかし、あちらの男の方は反応が全く返ってこない。

 

 一体、ヤツは何者なのか? これは俺の勘だが、奴は俺のルーツについても何か知っている気がする。ヤツの正体を知ることが出来れば、何か分かるかもしれないな。

 

 けどまあ、死にかけないとあそこに行けないならちょっと考え物だが……どうにかするしか無いかな。

 

 

 

******

 

「いやーあいつも漸くあそこまで行ったか。中々大変だったねえ」

 

「……全部、貴方の思惑通りですか?」

 

「まさか。流石の俺でもあいつがどう行動するかなんて分からないさ」

 

「世迷言を。彼を戦いに駆り立てるように誘導しているくせに」

 

「あ、ばれちゃった? ははははは、まあ良いじゃないか。あいつも強くなってお前もうれしいだろぉ?」

 

「……」

 

「それに、あれはあいつが望んだことだ。俺は単にその手伝いをしただけ。だろ?」

 

「それはそうですが……」

 

「まあ、何にせよ、これで最強への一歩が踏み出せた訳だ。良いねえ、実に良い」

 

「…………」

 

「おっと、分かっているとは思うが、あいつには何も喋るなよ? 分かっているだろうな」

 

「……ええ、誠に遺憾ながら、そういう契約ですからね」

 

「分かっているなら良いよ。……ああ、もうすぐだ。もう直ぐ、俺の悲願が叶う。長かったなあ」

 

「……悲願、ですか。私には到底理解できないものですね」

 

「はっはっは! ドラゴンには理解できないって? 理知的に振る舞っていても、やっぱりお前さんはドラゴンだねえ。力と破壊を司る存在。お前さんたちは基本的に暴れる事しか興味無いもんなあ」

 

「私をあんな連中と一緒にしないでください。噛み殺しますよ」

 

「おお、怖い怖い。流石はあいつらの喧嘩に巻き込まれて……」

 

「殺す」

 

「うお! ちょ、いくら実態が無いからってお前さんに爪喰らったら、そりゃあ洒落になんないよ!」

 

「黙れ殺す」

 

「うえー完全に化けの皮剥がれてやがるよ。って、まあまあ落ち着けよ。お前さんのトラウマ削ったのは悪かったよ。謝るからさ。な?」

 

「……誠意もへったくれもありはしない癖に」

 

「えーこう見えても俺は誠意の塊だよ」

 

「もう付き合ってられません……」

 

「え、あ、ちょ……いなくなったちゃった。まあ、良いか……にしてもこれからが楽しみだな。()もそろそろ動くだろうし、色々と動くぞぉ」

 

「さあ! カレンよ! お前はどんな道を選ぶ? 覇道か? それとも邪道? 案外王道に行ったりしてなあ! 数奇な運命を持つ子よ! 汝の行く道、この俺がしかと見届けようぞ!」




大学試験が終わり、第二章を書き始めて気づけば八月も終わり。今回は色々とダメなところが多かったと思われます。

まず、殆どが原作をそのままにしてしまった事ですね。これについては二次創作者としては反省すべきところでしょう。

この後のでは色々と考えていたんですが、残念ながらこの章ではそれが全然できませんでした。この件は反省を生かしていきたいと思います。

次に戦闘描写ですね。これはもう書いていて自分でも酷いと思っています。上手く書ける人が本当に羨ましい。

さて、これらの反省点を生かして次章はもう少しまともな物を書いていきたいと思います。

同時に一時創作もそろそろこのサイトの多くの人が愛用していたであろう「なろう」のサイトで投稿しようと思います。投稿したらURLを貼るので、どうぞ見てみてください。


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第二.五章
前編


えー三章はまだです。前々からやりたかった使い魔編をやりたいと思います。今回は前編で、後篇で終わりですね。ただ、今回も出来は正直半々ですね……。


 使い魔。主たる悪魔の仕事を多岐にわたってサポートしてくれる存在。多くの悪魔が契約を結んでおり、使い魔の種類も膨大になる。

 

 俺の主に当たるリアスは紅い蝙蝠を使役しているし、朱乃は小鬼。朱乃の方は結構付き合いが長いようだ。

 

 祐斗は小鳥。小猫ちゃんはシロと名付けた白い小猫。自分の髪の色と一緒だから決めたのかと、見た当初は思った。

 

 さて、元からのメンバーは全員持っているが、勿論、新人の俺や一誠、アーシアは持っていない。

 

 他の二人はどうかは知らないが、俺はすっごく欲しい。

 

 本来ならば、あのチラシ配りも使い魔がやるべき仕事なのだ。体を鍛える分には良いが、正直に言えば、モノすんごくメンドイ。

 

 だから、使い魔との契約と言われたときは内心ガッツポーズをしたものだ。

 

 そう、その時は……。

 

 ******

 

「待てやごらあああああああああ!!」

 

 俺、兵藤夏蓮は走っていた。

 

 見ず知らずの森。今まで見たことのない幻獣の数々。

 

 普段なら心躍り、色んな物を見学していたであろう。

 

 だが、今の俺にはそんな余裕は全くない。

 

 そう、俺はヤツを追わなければならない。これは、俺のプライドを掛けた真剣勝負。決して負けることは許されないのだ。

 

 そう、あいつだけは。あいつだけは……!

 

 

 

 

 ――あのリスもどきだけは絶対に許さん!

 

 

 

 

 そう心に新たな決意をした瞬間だった。

 

 突如、俺の額に衝撃が走る。怪我を負うほどでは無かったが、それなりの衝撃で、全力で走っていた俺は態勢を崩し、後ろに倒れこんでしまう。

 

「うおっ!」

 

 咄嗟の事で回避も防御も出来なかった俺は、そのまま倒れてしまう。

 

 そして、更に俺に悲劇が襲う。

 

 倒れると同時に後頭部に衝撃が走った。

 

 転がっていた石に頭をぶつけたと直ぐに分かった。

 

 そして、馬鹿みたいに痛い事も。

 

「っ~~~~~~!?」

 

 普通、この勢いで後頭部をぶつけたら下手したら即死だが、そこは悪魔。頑丈だ。

 

 でも、痛いものは痛い……!

 

「ぐおおおおおお」

 

 前と後ろでダブルペインに俺は呻くしかない。

 

 くそおお、一体何が。

 

 痛みに堪えながら前を見てみると、そこには小さな物体が落ちていた。

 

 恐る恐るそれを拾ってみると、木の実だった。

 

 見たことない種だが、結構固い。投げつけられたら結構痛いだろうなー……投げられた、ら?

 

「まさか……!」

 

 俺がある考えに達したとき、上から笑い声が聞こえた。

 

 痛む頭を上に向けると、そこには腹抱えてこちらを笑ってやがる怨敵(リスもどき)がいた。

 

 ……あの野郎!

 

「何笑ってやがるこの野郎!」

 

 イラッとした俺は手に持った木の実をヤツに投げ返してやる。

 

 だが、現実は悲しい。

 

 俺が投げた木の実はそのまま明後日の方向に飛んでいく。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「………………」

 

 無言が、辛い。

 

 いや、待ってほしい。これは仕方ないんだ。俺は残念ながら投球センスが皆無と言っていいんだ。体育の授業でソフトボール何かをやると、いっつもあらぬ方向に行ってしまうんだ。だが、一応弁解させてほしい。努力はしているんだ。毎回毎回、ちゃんと相手の方向を見て確認してから投げているんだ。なのに、何故かボールが上行ったり横行ったりしちまうんだ。

 

『きゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!』

 

「うるせえ! 笑ってんじゃねえよ!」

 

 何あいつ、本当にムカつくんですけど! やべえよ。殴りたくてしょうがないよ。

 

 

 さて、何故俺があのリスもどき――カーバンクルと鬼ごっこをしているのか? それは、少し前にさかのぼる。

 

 ******

 

 丁度、部室に全員がそろっている時だった。リアスがこう言ったのだ。

 

 ――使い魔をそろそろ持たないか?、と。

 

 そういうのに憧れんわけでも無かったし、色々と雑事も任せたかったから、俺は賛成だった。一誠もアーシアも特に反対は無かったので、早速行くことになったのだ。

 

 

 俺たちが向かった先は、悪魔たちが使い魔等を選ぶのによく利用するという森だった。俺の第一印象は見るからに怪しい場所だ。迷ったら絶対に抜け出せそうにないような場所だ。

 

 どうやって使い魔を手に入れるかは分からなかったが、どうやらちゃんとした専門家であるインストラクターがいるようだ。

 

 ザトゥージという良い年したおっさんっぽい外見の癖に半そで短パンに帽子と、どこからどう見ても精神年齢と肉体年齢がかみ合っていないヒトだった。

 

 こんなんで大丈夫かと思ったが、リアスが言うには使い魔インストラクターとしては非常に優秀らしい……薦めてくるのにに、魔王をも殺せる毒を持つヒュドラや、五大龍王の一匹ティアマット等がいなければの話だが。

 

 流石にこいつらは無理だと、という事になって一誠が持ち前のスケベ心を持ち出し、可愛い使い魔などを所望し、じゃあこれはどうよと、水の精霊、ウンディーネが紹介された。

 

 ウンディーネと言えば、四元素の水を司る精霊だ。よく書物何かのイラストには清らかな乙女がイメージして書かれているから、実際はどんな奴なのだろうかと、俺も思わずワクワクしてしまった。

 

 ……何故かリアスに思いっきり耳をつねられたが。

 

 そして、ウンディーネが出るという湖で待つこと数分、遂にその姿を現した。

 

 ――筋肉ムキムキの漢女(おとめ)とも言うべき存在が。

 

 流石に俺も唖然とした。いや、せざるを得なかった。

 

 想像してみてくれ。清らかな乙女とイメージしてみて見れば、筋肉しかないような体をしたヤツが目の前に出てきたんだぜ? 正直吐き気がしてくるね。

 

 ザトゥージが言うには、ウンディーネは常に住処の湖の縄張り争いをしており、生き残るには体を鍛えないといけないそうだ。

 

 ……いや、だったら普通に能力とかあるんだろうから、そっち鍛えれば?

 

 まあ、今更何を言ってもしょうがない。一誠も流石にこいつは嫌だと言う。俺もそうだよ。

 

 何故かザトゥージはわがままとか言うが、これって俺たちが悪いのか……?

 

 とまあ、ウンディーネも駄目となると、どうするかとなり、ザトゥージは次なるお薦めを提案してきた。

 

 蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)というレアなドラゴンだ。

 

 普段は滅多に姿を現さないそうだが、ここ最近、森の中を幼体がうろついているそうだ。成体になるとゲットは無理らしいから、今がチャンスらしい。

 

 で、そいつを見つけたは良いが面倒事が起きた。

 

 突如、木の上からスライムが降ってきたのだ。

 

 どうやらそいつは女性の服を溶かすだけのヤツで女性のまさに天敵と言える奴だった。

 

 なんつーか、漫画の中に出てきそうな奴だったね。そして、女性の服を溶かすと言えば、当然――。

 

「俺、こいつら使い魔にする!」

 

 一誠が興奮するわけで。

 

 いや、考えてもみろよって話だよな。女性の服しか溶かすしか使えないやつをどう使うんだよ。つか、お前、女の服を消し飛ばす洋服崩壊(ドレス・ブレイク)なんて技持ってるじゃねえか。殆ど変らないだろうが。

 

 とまあ、そんな事を考えた居たわけだが、結局、リアスたちによってあっさりと退治された。

 

 その際、蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)が助けるようにして、俺たちを巻き込んでスライムを雷撃で消滅させた。

 

 そう、俺たちごとだ。ザトゥージが言うには、幼体は女性は近づけるが、男は近づくだけで攻撃してくるという。どんな助平野郎だよ。

 

 で、スライムを消滅させられた一誠は号泣するわけだが……スラ太郎とか、変な名前付けんなよ。

 

 当初の目的の蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)だが、こいつはアーシア嬢と契約した。

 

 まあ、近づく男を雷撃で攻撃してくるような奴だからな。当然と言えば当然かな……。

 

******

 

「さて、アーシアの契約が終わったわけだけど、夏蓮はどうするの?」

 

 アーシア嬢の契約が無事に終わり、一息ついたとき、服を着替えたリアスが聞いてきた。

 

「ん?」

 

「イッセーは今回は残念ながら諦めるしかないとして、貴方は何か要望は無いの?」

 

「そうさなあ……何かイメージが色々と崩れてきてなあ。正直、今回はちょっとなあ~」

 

 特にウンディーネが一番に大きい。あれはもう長年の俺のイメージが簡単に崩した。以前一誠から聞いたミルたんなる人を思い出させた。

 

 おかげでやる気が半分無くなちまったよ。というか、このインストラクターに任せるのが割と不安になってくるのもある。

 

 何せ使い魔を紹介する割にラスボスクラスを紹介するヤツだぞ? 本当にこいつプロ?

 

 ま、というわけで今回は俺と一誠は見送りという事で……。

 

 そこでふと俺の頭に小さな衝撃が走る。

 

「痛っ!」

 

 決して無視できないくらい痛みで思わず、頭を抱える。

 

「夏蓮、どうしたの!?」

 

 突然の出来事にリアスは驚きの声を上げる。

 

「いや、何か……頭に衝撃が……」

 

「ど、どこですか? 私が回復させます」

 

 そう言ってアーシア嬢が手に緑色のオーラを纏わせながら聞いてくる。

 

「いや、そこまで必要は無いよ。ていうか、一体何が……」

 

 

 辺りを見渡しても、何も見当たらない。

 

「祐斗、何か見えたか?」

 

 この中で一番目がいい祐斗に聞いてみる。

 

「いえ、殺気が感じられませんでしたし、僕には……」

 

 困惑しながら言う祐斗。

 

 朱乃や小猫に聞いてみても、同様の回答だ。

 

 おいおい、一体何が起きた? 見えない攻撃か何かか?

 

 俺たちが困惑している中、ざめざめと泣いていた一誠が声を上げる。

 

「あれ、これ……」

 

「どうした一誠?」

 

 一誠が何かを手にして、俺に見せてくる。

 

 それは……

 

「……木の実?」

 

 見たことも無いようなヤツだが、間違いなく木の実だ。

 

「何で木の実なんか拾ったんだ? 腹が減ったからそれで空腹を満たそうってか? やめとけやめとけ。腹壊すだけだぞ」

 

「俺はそんなに食い意地は張ってねえよ! そうじゃなくて、これじゃねえのか、兄貴の頭にぶつかったのは?」

 

「はあ? なんでそんな事分かるんだよ?」

 

「いや、ほら、この木の実に紅い髪が引っかかっているんだよ。これ兄貴の髪だろ?」

 

「何?」

 

 言われて、木の実をよく見てみる。

 

「……確かに、俺の髪の毛だな」

 

 一誠の手のひらに乗っている木の実には、紅色の髪の毛が一本絡まっていた。

 

 リアスのかと最初は思ったが、絡まっていた紅髪は微妙に黒っぽい……要は臙脂色をしていた。

 

 こいつは俺の髪の色だから、間違いなく俺だろう。

 

「これが俺の頭に飛んできたのか?」

 

「そうみたいね……」

 

「けど、一体誰が……? 僕は殺気なんかは感じませんでしたけど」

 

「……私もです」

 

「あらあら……」

 

 全員が頭を悩ませているその時だった。

 

 頭上から笑い声が聞こえてきたのだ。

 

「あン?」

 

 何だ? 人の笑い声じゃ無いよな……。

 

 俺は辺りを見渡す。すると、

 

「あだっ!」

 

「夏蓮!?」

 

 再び走る衝撃!

 

 こ、今度は額か……いったあ。

 

「誰だぁ!」

 

 今の一撃で大体方向は分かった。後は木の上を見れば……!

 

 そして、そこには少し濃い目の青い体皮。サイズはリスより少し大きめだろうか? 何より一番目を引くのは額に埋まっている赤い宝玉だ。

 

 あのリスもどきが俺の事を見てけらけら笑ってやがる。

 

 そうか、あの野郎が犯人か……。

 

「こりゃ驚いた! ありゃカーバンクルじゃねえか!」

 

 ザトゥージが驚きの声を上げる。

 

「カーバンクル?」

 

「ああ。あの赤い宝玉を手にしたものは巨万の富を得ることが出来るという、幸運を司るヤツだよ。俺も生で見るのは初めてだなあ」

 

「ふーん」

 

 巨万の富ねえ。正直、興味があんまり湧いてこない。

 

「で、あいつはなんで俺に木の実なんてぶつけてきているんだ?」

 

 そこが分からん。俺はあのカーバンクルという奴を今日初めて見た。そして、この森に入ってからも何かした訳でもない筈なのだが……。

 

 つーか、

 

「あいつ、単純に俺に悪戯したいだけじゃね?」

 

「それは流石に無いと思いますけど……」

 

 裕斗が苦笑する。

 

 いや、あれはどう見ても俺をやる気満々だったと思うね。

 

「……確かに笑っていますね」

 

 小猫が上を見上げながら言う。

 

 俺にちょっかい出して何が楽しいんだろうか、あのリスもどきは。

 

「きっと、夏蓮の髪に惹かれたのではないですか?」

 

「髪ぃ~?」

 

 朱乃の言葉に俺は疑問を覚えてしまう。

 

 そりゃあ、俺は紅髪だし、あのカーバンクルの額に付いているのは赤い宝玉だ。まあ、分からないのでもないが……。

 

「だけどよお、綺麗さで言えばリアスの方が上だろう? 髪だってさらさらだし……」

 

「え、そ、そうかしら……?」

 

 リアスが少ししもどろしながら髪をいじっている。

 

「で、どうするよ? あのカーバンクル、お前さんの事が気になっているみたいだぜ?」

 

 ザトゥージはそう言ってくるが、気乗りはしてこないな。

 

 そう、それは勿論、

 

「人の頭に木の実ぶつけてくるやつなんてこっちから願い下げだね。帰ろうぜお前ら」

 

 くるり、とカーバンクルから背を向けて歩き出す俺。

 

 しかし、そんな俺の後頭部にまた衝撃が走る。

 

「っ!」

 

「あ、兄貴……」

 

 む、無視だ。こんなのに一々構っていたら体が持たん。ここは……。

 

 そして再び来る衝撃。今度は二発だ。

 

 この野郎……。

 

 思わず、オーラを体に身に纏わせてしまう。

 

「兄貴落ち着け。相手は高々、リスみたいなヤツだ! 相手にする事……って!?」

 

 俺を落ち着かせようとした一誠が頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

 

 見れば、今度は石が落ちていた。どうやらこれらしいな。全く持って面倒な。

 

「はあ……! もう付き合ってられるか! 帰ろうぜお前ら」

 

 いい加減、バカバカらしくなってくる。あんなちみっこいやつに何を苛立つ必要があるっていうだよ全く。ああさっさと帰ってベットにでも入ろうか。うんそうしよう。寝ればこのイライラも収まってくるだろうしな。ほんと……。

 

 そこまで考えた俺に、最大のダメージが襲う。

 

 ――頭の頂上に。

 

 俺の頭を超える面積を誇る巨大な石が降ってきたのだ。

 

 腹を抱えてゲラゲラ笑っているあの怨敵(カーバンクル)を見るに、あいつがやったのだろう。

 

 どうやってあの小さな体でやったのかとか、俺の頭の上に持ってこれたのか、んなもん関係ねえ。

 

 ……あのクソリス。ぶっ殺してやる。

 

 ギロリ、と睨み付ける。しかし、俺のオーラに気づいたのか、カーバンクルは直ぐに別の木の上に移動し始めてしまった。

 

 ふっ、良いだろう。鬼ごっこか。この『鬼』に挑もうとはいい度胸だ。

 

「お前ら、少し待っててくれ。ちょいと用事が出来た」

 

「夏蓮……?」

 

「なあに。直ぐに終わる。取り敢えずは」

 

 ――あいつは確実に絞めてやる。

 

 




いかがでしょうか? 感想、意見待ってます。


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中編

使い魔編は前後編で終わると言った話。嘘です。

いやー話を膨らませたらどんどん筆が乗って。気が付いたらこんな感じに。

では、今回もどうぞ。


「くそ、あの野郎どこに行きやがった!」

 

 辺りの木々を見渡しながら俺は思わず毒づく――割とボロボロな姿で。

 

 目を凝らせども怨敵の姿は見る事は出来ない。その事が余計に俺の心を苛立たせていく。

 

 あーやべ。マジで殺意が芽生えてくるぜ。あの野郎ヒトを馬鹿にしやがって。

 

 あの後、俺とカーバンクルは血で血を争う『鬼ごっこ』を開始した。

 

 俺が地面を走るのに対し奴は木を利用した縦横無尽な方法で俺から逃げた。

 

 最初は俺も木を利用し等も考えたが、生憎と俺にそんな忍顔負けの移動は出来ない。仕方なく地面を走ったわけだが……。

 

 

 

 あいつ本当に幸運を司っているんだろうなあ。

 

 

 俺があと一歩という所まで追い詰めても俺が転んだり。

 

 木の枝が顔にぶつかったり。

 

 何故か俺がちょうどすっぽりと入れそうな穴に俺が落ちたり。

 

 兎に角、俺にとっては完全に運が無いような状況だ。

 

 おかげでもう体はボロボロ。制服も所々切れてしまっている。

 

 あーもう。俺も魔力一つで服を替えたい。リアスに今度教えてもらう。

 

 

 というか、どうもあの野郎、俺との『鬼ごっこ』を楽しんでいるな。こっちがムキになればなるほどあいつを喜ばせるような感じだよな。

 

 あーくそ! どうも感情がうまく制御できん。あいつをブッ飛ばさないと腹の虫が収まらん。

 

「つーかここ何処だ」

 

 周りを見渡してもさっきから森の風景は全然変わらない。

 

 だが、何となくだが雰囲気で分かる。どうも随分と奥にまで入り込んでしまったようだ。

 

 そういや、ザトゥージが最近森の奥地で物騒な魔物が出るとか言っていたな。あいつが薦めていたティアマットやヒュドラとはまた違った奴らしいが……。

 

「……あれ、もしかして俺やばい?」

 

 ライザーを打ち破ったとはいえ、今の俺の強さは酷く中途半端だ。禁手化(バランス・ブレイク)もまだ調整を繰り返している途中だ。

 

 流石にあいつを超えるやつが出てくる俺も少しやばいな。この未踏の地で戦うとなると、流石に……。

 

 仕方ない、ここは帰るか。っても、元来た場所も分からないんだけどな! はっはっはっはっはっはっはっは!

 

 はっはっはっはっは…………。

 

「……迷子だな俺」

 

 やっべえええええええええ!? ついつい熱くなりすぎたあああああぁぁぁぁ!!

 

 うわーどうしよう。後先考えずに行動したらとんでもない事になっちまった。この年で迷子とか笑えねえよ!

 

 んー。迷子になったら基本的にその場から動かない方が良いんだけど。例の危険な魔獣何かが出てきたら不味いよなあ。

 

「しゃあーない。戻るか」

 

 取り敢えずあのカーバンクルは置いておこう。

 

 しっかし、今更だが、俺らしくも無かったな。高々あの程度であそこまでキレるとは。

 

 お師匠様も言っていたじゃないか『心は常に冷静に』と。駄目だな俺は。帰ったら修行を再開するか。

 

 俺が決意を新たにした瞬間だった。

 

 突如、俺の頭に鈍い痛みが襲う。続けざまに二度。

 

「……………」

 

 無言で下を見下ろすと、同じような大きさの石が二つ転がっていた。

 

 俺はその一つを拾う。

 

『キャアキャキャアアキャア!!』

 

 首をぐるり、と回すと、クソリスが腹抱えてゲラゲラ笑っていた。

 

「……オーケー」

 

 手に持った石を思いっきり握りしめる。力を入れ過ぎたのか、小石が粉々に砕け散った。少し、手のひらを傷つけてしまった。

 

 だが、今の俺にとってこの痛みもむしろ現在抱いている怒りを増幅させるいい薬になる。

 

「そんなに鬼ごっこをやりたいのか? 安心しろ。かつては『鬼』なんて呼ばれたこともある俺だ」

 

 ――必ず捕まえてやるよ。

 

 ギロリ、と睨み付けてやる。すると、カーバンクルは再びこちらに背を向けて木々を跳んでいった。

 

 ……ふっ。

 

「待てやおらあああああああああ!!」

 

 鬼ごっこの再開じゃああああああああ!!

 

******

 

「もう、夏蓮ったらどこまでに行ったのよ」

 

 森に生い茂る木々に足を取られそうになりながら、私、リアス・グレモリーは自身の眷属の行方に頭を悩ませていた。

 

 今日はいまだに使い魔を持っていない眷属たちに契約をさせようとしていたのだが、結局成功したのはアーシアだけだった。

 

 まあ、それ自体は仕方のない事だ。寧ろ一回目でそれもかなり希少な子供ドラゴンと契約が出来たアーシアが例外なくらいだ。

 

 イッセーはもういつも通りとして。夏蓮は今回はあまり乗り気では無かったようだが。

 

 しかし、何が駄目だったのだろうか。最初のティアマットやヒュドラなんて夏蓮にはお似合いだと私は最初思ったのだが……どうやら、夏蓮には駄目だったらしい。

 

 まあ、あの巨体だと、飼うのに不便かしら。流石に旧校舎を使うにしても無理あるものね。

 

 ――いや、そういう問題じゃ無いからね!?

 

 ん? 何だろう、今夏蓮の声が聞こえたような……。

 

 そうそう、夏蓮よ。

 

 いくらあのカーバンクルに木の実を大量にぶつけられてちょっかい出されたとしても、あそこまでムキになる必要あったかしら?

 

 まあ、今更そんな事言っても仕様が無いでしょうけど。

 

 カーバンクルか。私も実物を見るのは初めてだったわね。

 

 巨万の富を呼ぶと言う幸運を持っているせいか、多くの人間達がカーバンクルを求めた。

 

 しかし、そんな人間達の邪な感情を察知したのか、カーバンクルたちは殆ど人間達の前に姿を現さなかった。

 

 数が少ないせいもあるだろう。兎に角、カーバンクルは私たち悪魔にとっても殆ど幻のような存在だ。

 

 だからさっき見たときは本当に驚いたのだが……。

 

 まさかあそこまでカーバンクルが悪戯好きだったとは。まあ、あれは夏蓮にだけに対してなのかもしれないが……。

 

「それにしても随分と奥まで張り込みましたわね。夏蓮君も少し心配ですわ」

 

 私の隣を歩いていた朱乃が困ったように手を頬に当てながら呟いた。

 

「確かに。日も傾いてきましたし。少し不味いかもしれませんね」

 

「……迷子になったら大変」

 

 祐斗と小猫も同様に心配そうにしている。

 

「確かにそうね。夏蓮は今日初めてここに来たのだし、迷子になってそうね」

 

 自分で言っておいてあれだが、夏蓮はそこまで抜けて……いるかも。

 

 イッセーの前だと大人ぶっているが、同じクラス、隣の席の私からしてみれば、夏蓮も十分子供だ。

 

 男子の友人が出来ないからと落ち込んでいたり、勉強で授業を聞いているふりをしているだけだとか。その後に私が勉強を教えているのもそうだ。

 

 まあ、最近は朱乃も一緒になってやろうとしているのだが……あとソーナも。

 

「ザトゥージ、あんたさっき最近この森で危険な魔物が出るって言ってなかったか?」

 

 イッセーがふと思い出したように言う。

 

 そういえば、そんな事も言っていたわね。

 

 イッセーの言葉にザトゥージが神妙そうな顔をして頷く。

 

「ああ。本当に森の奥深くでな。ここいらに住んでいる魔物たちが次々と殺されているんだ」

 

「随分と物騒な話ね」

 

 頷いたザトゥージが話を続ける。

 

「そいつはマンティコアって言ってな。ライオンの体に蝙蝠の羽。尻尾が蠍の尾というキマイラの一種でな。こいつが中々に厄介な奴でな。非常に狂暴なんだ」

 

 ちょ、マンティコアですって!?

 

「どいうことザトゥージ、そんな事聞いていないわよ!」

 

 私は慌ててザトゥージに詰め寄る。

 

「い、いや。まさかここまで奥地に入り込むとは思ってもいなかったんだ!」

 

 ザトゥージが慌てて弁解するが、今の私にはその弁解も余裕を無くす一因になってしまう。

 

 どうしよう。寄りにもよってマンティコアなんて……夏蓮。

 

「落ち着きなさいなリアス」

 

 私がこの後の状況に考慮していると、朱乃がそう言ってくる。

 

「朱乃、何を悠長なことを……! 貴方だってマンティコアの脅威は分かっているでしょ……」

 

「だからこそ、です」

 

 詰め寄る私に、朱乃は窘めるように言う。

 

「いま貴方が取り乱したら、眷属全員が何も出来なくなってしまいます。(キング)がしっかりしなくてどうするんですか」

 

 いつもの笑顔を潜め、真剣そうな表情で言う朱乃。

 

 朱乃の言葉に、私の頭は少しだが冷静になれた。

 

 更に気持ちを落ち着かせるために息を深く吐く。

 

「……ありがとう朱乃。おかげで少し頭が冷えたわ」

 

「いえいえ。気にしないでください」

 

 私の礼に朱乃はいつもの笑みを浮かべて応える。

 

 そうね、私が混乱してどうするのよ。今は夏蓮の安全第一を一番にしないと……」

 

「あの、マンティコアって魔物、そんなに危険なんですか?」

 

 私たちの会話を黙って聞いていたイッセーが遠慮がちに聞いてくる。

 

 その質問に私は答える。

 

「そうね……マンティコアという魔物自体はそう珍しくは無いのだけれど、一番に獰猛さがあげられるわ。個体差によって様々だけど、場合によっては、目につく生き物全てに襲い掛かるかもしれない」

 

「目につくもの全て……!?」

 

「もしそれで弱かったらまだ対処のしようもあるのだけど、その獰猛な奴ほど力が強いのよね。本当に厄介なものだわ」

 

「そして、奴らの大きな特徴として、蠍の尾の先に付いている毒があげられる」

 

 ザトゥージが私の説明を引き継ぐように言う。

 

「奴らは獰猛さと更にそれを補助する知能を併せ持つ。相手の強さによって毒を使い分けてくるんだ」

 

 そう、マンティコアの単体での強さで言うならば、私たち上級悪魔でも対処は出来る。問題は毒だ。これを喰らったら相当厄介な事になってしまう。

 

「夏蓮……どうか無事でいて」

 

 祈るように私は空を見上げる。

 

******

 

 森の中を疾走しながら、カーバンクルは内心ほくそ笑んでいた。

 

 久しぶりに良い遊び相手が出来た。こちらが少し挑発するだけで面白いほど乗ってくるのだ。

 

 ここ最近は森に入ってきた魔物が原因であまり他の魔物たちを見なくなってしまった。

 

 おかげで退屈した日々を送っていたが、つい先ほど、面白い者を見つけた。

 

 初めは森によく来ている使い魔インストラクターの悪魔が見慣れぬ悪魔たちを連れてきたことから興味を持った。そういう事は良くあったのだが、今回はその悪魔たちのオーラが他の者たちより数段上だったのが気になった。

 

 そして、その中でも一際カーバンクルの目を奪ったのが悪魔たちから夏蓮と呼ばれていた男悪魔だ。

 

 一目見て気に入った。理由などない。強いて言うならば、勘。ただ気に入ったから手を出した。

 

 自分の勘はどうやら正解だったようだ。彼は今まで遊んできた中で一番の相手だ。一番楽しかった。

 

 さて、次はどんな悪戯をしてやろうか。石や木の実を投げるのは少し飽きてきた。落とし穴にもう一回はめるのも悪くないだろう。いや、次は木を倒してやろうか。

 

 ワクワクしてきた。もうしばらくは遊んでもらいたい。その為には――。

 

『……?』

 

 そこでふと、気づいた。悪魔にどんな仕掛けをしてやろうかと、深く考えていたせいか、周りが全然見えていなかった。

 

 だが、今確実に気が付いた。決して間違いではない。

 

 ――辺り一帯に漂う濃密な血の匂いに。

 

『…………』

 

 知らず、息を呑みこむ。全身の毛を逆立て、辺りを警戒する。

 

 これは、不味い。もしかしなくても、命の危険に晒されている。

 

 間違いない。これは恐らくヤツの……。

 

『何だぁ? 面白そうな奴がいるなあ』

 

 ぞっとするような声音。

 

 ポタリ、ポタリ、と後ろから何かがたれ落ちる音。

 

 振り向きたくない。振り向いたら終わりだ。だが、振り向かないとやられる。

 

 恐る恐るカーバンクルは後ろを振り向く。

 

 そして、そいつはいた。

 

 まだ時間が経っていないのだろう。口から零れ落ちている血は湯気を立てている。そしてその量は尋常ではない。

 

 大地を踏みしめる四肢も同じく血に染まっている。体全体を使って相手に喰らいついたのだろう。

 

 蝙蝠の羽を畳み、蠍の尻尾をこちらに向けながら魔物――マンティコアは血に濡れた口をニタァと笑みの形にする。

 

『ほう、カーバンクルか。見るのは初めてだな。この森に棲んでいるとは聞いていたが、こんな所で出会うとは』

 

 やばいやばいやばいやばい! どうする? どうすれば……!

 

『くふふふふふ……俺も運が良い。幸運を司るカーバンクルはさぞ美味であろう』

 

 その言葉を聞いた瞬間、カーバンクルは走る。

 

『お?』

 

 呆けたような声をマンティコアは出すが、そんなものは無視だ。兎に角この場を離れなければ。

 

 自分のこの小さな体を使えば何とか逃げられる。

 

『逃がさないぜぇ~?』

 

 刹那、自分の首筋に何か鋭い痛みを感じる。

 

 気が付いたときには体が痙攣し、横たわっていた。

 

 何が起きた? どうして自分の体は……。

 

『くふふふふ、俺の毒の味の感想はどうよぉ? お前に入れたのは麻痺のヤツだ。なーに直ぐには殺さないさ。お前みたいなのは足から順番に喰いちぎってやるよぉ』

 

 気味悪い笑みを浮かべながらマンティコアがこちらに歩み寄ってくる。

 

 何とか体を動かそうとするも、痙攣するだけで何も出来ない。

 

 このまま終わるのか? こんな誰もいないような寂しい場所で一人惨めにこんな薄汚いやつに。

 

 くそ、くそ。

 

 せめて。せめて、あの悪魔をもう一度からかいたかった……。

 

『じゃあいただきまーす』

 

 こんな所で……!

 

 自分の終わりに、目を瞑ってしまうカーバンクル。

 

『ぐおっ!?』

 

 だが、終わりは来なかった。

 

 恐る恐る、目を開けると、自分を食べようとしていたマンティコアが横に吹き飛ばされていた。

 

 一体何がどうなって……。

 

 混乱しているカーバンクルの体がひょいっと持ち上げられた。

 

「――よお、捕まえたぜ、リスもどき」

 

 そう言って不敵に笑うのは、今まで自分がからかい続けた。紅髪の悪魔だった。




いかがでしょうか? 感想、意見待っています。

日曜は母校の文化祭。友人と行きたかったけど、時間がかみ合わなかった……。

ちくしょう、もう少し休みくれ大学!


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後編

何とか書けた……この一話で収めるために戦闘シーン短いです。思いっきり。


「ったく、どういう状況だよおい」

 

 俺はカーバンクルを手で持ちながら辺りを見渡す。

 

 現在、この場に居るのは、俺とカーバンクル。そして先ほど俺が魔力弾で吹き飛ばしたライオンの体に蠍の尾と蝙蝠の羽を付けた魔物……恐らくマンティコアだ。

 

 で、そのマンティコアだが、どうやら狩りの真っ最中だったぽいねぇ。

 

 口元が血で完全に濡れているし、こちらを見る目がやばすぎる。

 

『くふふふふ……カーバンクルだけでもラッキーだったのに、ここに来て悪魔。しかもその紅髪はグレモリー一族の者だな?』

 

「生憎、単に紅髪なだけだよ。まあ、そのグレモリー一族が主だけど」

 

『どっちでも良いさ。あんた強そうだな。その所為だろうな。上手そうだなあ』

 

 粘りつくような笑い声を上げながらマンティコアは舌なめずりする。

 

 ……気持ち悪い。こいつ心底気持ち悪い。

 

 ああ、もうカーバンクルをとっ捕まえようとしただけだが、予定変更だ。恐らくこいつが最近ここを荒らしている魔物なんだろう。

 

 だったら、ブッ飛ばしても何にも問題ないだろう。

 

 リンドヴルム、やるぞ。

 

『分かりました』

 

 いくぜ……。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 短く呟く。

 

 刹那、俺の体を龍の鎧が装着されていく。

 

 手に持っているカーバンクルが驚くのが雰囲気で分かる。ふっふっ。漸く仕返しが出来たな。

 

 そして、俺の体を禁 手(バランス・ブレイカー)灼 銀 の 龍 衣(バニング・ドラゴン・クロス)』が纏われた。

 

『ほう! 神 器(セイクリッド・ギア)か。そうかあんた、()と同じか」

 

「……俺と同じ?」

 

 どういう事だ。こいつも神 器(セイクリッド・ギア)を持っているのか? いや、確かに人間の血が混じっていたら発現するらしいけど、こいつが流石に人間が混じっているとは……って。

 

 そこまで考えて俺はもう一つの可能性に思い至る。そうだよ、そっちの方があったんじゃないか。

 

「お前……転生悪魔だな? それも『はぐれ』だろう」

 

『くふふふふ正解だぁ。よくわかったな』

 

「ふん、自分で言ったくせに。大方、その血の気の多さから主に楯突いたんだろうが」

 

『おお、よく分かったな。あのクソ野郎に噛み付いて喰ってみたんだけどよお、これが不味くてなあ。面倒だからこっちに来たって訳よ』

 

「……ホント、気持ち悪いなお前」

 

 もうこのマンティコアに嫌悪感しか湧いてこない。

 

 こんな醜悪な奴、さっさと殺した方が世の為俺の為だな。

 

「ここは俺の主の縄張りじゃないけど、手前みたいなヤツはさっさと滅ぼした方が良さそうだな……ここで始末してやる」

 

 そう宣言すると、マンティコアは可笑しそうに体を震わせる。

 

『くふふふふ……ほざけえ小僧!』

 

 咆哮と同時にマンティコアはこちらに突っ込んでくる。

 

 早いな。祐斗といい勝負じゃねえか。

 

 俺は右手に剣を出現させると、受け身の体制を取る。

 

 一瞬、強い衝撃と共にマンティコアの爪が剣に掛かる!

 

 っ! 俺は思わず右足を後ろに下げて体を支える。

 

 こいつ、騎士(ナイト)かと思ったが、戦車(ルーク)か! つうことは、防御も馬鹿に出来ないんだろうな!

 

 つうか、こいつ完全な物理的攻撃しかしてこねえのか! 『吸収』が使えない!

 

『寧ろ良かったのかもしれませんね。これから先貴方はこういった相手とも戦う事が多くなるでしょう。今のうちに対策を考えながら戦ってみると良いかもしれません』

 

 リンドヴルムがそう冷静に言うが、俺としてはこんな七面倒な相手とは嫌だよ!

 

 と、心の中で拒絶しようが現状の何かが変わるわけでは無いのだが。

 

 こっちは若干のお荷物があるからなあ。

 

 ちらり、と左腕の中でいまだに痺れているのだろう、少し痙攣しているカーバンクルを見る。

 

 あのマンティコアを右手だけでいなすのは少し面倒だな。かと言ってこいつをどこかに置いておくのも不安だしなあ……どうしたもんか。

 

 俺が次の一手に苦慮していると、マンティコアが再び襲い掛かってくる。

 

『ぐるるるぉおああ!!』

 

「おっと」

 

 連続で来る蠍の尾の突きを紙一重で躱していく。

 

 この尾、喰らったら不味いのかリンドヴルム?

 

『そうですね。マンティコアは自身の尾から様々な種類の毒を分泌させますから、掠っただけでも危険ですのでご注意を』

 

 そうかい! 鎧を付けているが注意しておくか。

 

『それが良いですね。あのマンティコア戦車(ルーク)ですから攻撃と防御が恐らく貴方が鎧を付けたぐらいの状態でしょう。奴が集中して尾を撃てば、この鎧を貫通するかもしれません』

 

 まじか、本当に注意しないと不味いな。

 

『どうしたあ! 逃げるだけか! ええぇ!?』

 

「うるせえよ。今手前をぶっ殺す算段考えているんだから邪魔すんな」

 

 とはいえ、このまま躱すのうざくなってくるし、少し反撃するか。

 

「しっ!」

 

 俺は尾が一瞬引くのと同時に前へと踏み込み、剣を横凪に振るう。

 

 それに気づいたマンティコアは後ろに下がろうとするが、それよりも先に俺はヤツに斬りつける。

 

 マンティコアも後ろに下がろうとしてしまったから完全には斬れなかったが、左前脚と体の付け根部分を深く斬りつけた。

 

 しかし、俺は思わず鎧の中で苦い表情を作ってしまう。

 

 固いなこいつ。力を思いっきり込めたわけでも無いが、抜いたわけでも無い。

 

 ライザー並に面倒か、それ以上だな。

 

 しゃーない。魔力で剣を強化……あれ?

 

 ぐらり、と視界が傾く。否、体そのものが立っていられなくなっている。

 

 な、何だこれ……? おい、リンドヴルム何が起きた?

 

『分かりません。いや、これは……!』

 

 リンドヴルムが何かに気づいたようだが、生憎と俺はもう立つことも出来なかった。

 

 たたらを踏んで地面に座り込んでしまう。

 

 くそが……何が。

 

 漸く麻痺が直ってきたらしいカーバンクルが俺の事を心配そうに見る。っても、カーバンクルの顔を既にグルグルと回っているだがな。

 

 あーやばい、気持ち悪くなってきた。

 

「おいおい、さっきまで俺の事を馬鹿にしたように見ていたヤツが何だ急に」

 

 だが、心配させない様に笑いかけるようにカーバンクルに言う。鎧を着込んでいるからカーバンクルは俺の表情が見えないだろうが。

 

『くふふふ。効いてきたようだなあ』

 

 マンティコアが下卑な笑顔でこちらに近づいてくる。顔が何十にもなっていて余計気持ち悪いなおい。

 

 俺はヤツの言葉だけで既に答えが分かった。

 

「なる、ほどな。お前の毒か」

 

 それしか考えられない。

 

 当たりだったのだろう。マンティコアは言う。

 

『おうよ! お前がさっき斬ってきたときにわき腹にぶすっとな』

 

 今もぐわんぐわんと動き回っている視界を必死に動かしながらわき腹を見る。

 

 何とか、本当に小さいが、小さな穴が空いている。

 

 ウソだろこんな……。

 

『お前に注入したのは平衡感覚を極度に狂わせるやつだ。普通なら喋ることも出来ない筈なんだがな……』

 

 道理で。視界が定まらないし気持ち悪い。

 

 いくら体を鍛えても三半規管までは鍛える事は出来ないからな。

 

 とまあ、ここにきて俺は気づく。

 

 さっきとは別の、しかもこっちの方が質の悪いピンチじゃね?

 

 このまま戦っていけば間違いなく俺がヤツに勝てる。さっきの戦いでこっちの方が地力が上だ。

 

 が、それは戦えたらの話だ。こんな状態じゃ不味いな……。

 

『さーて、どっちから喰いちぎってやろうかな。どっちも上手そうだ』

 

 マンティコアが楽しそうに俺かカーバンクルのどちらから先に食べようか考えていた。

 

 くそ、どうする……どうすれば。

 

 今も物理的に回転を繰り返す頭で思考する。このままじゃ本当に不味い。どうにかしないと共倒れ。それは最も避けるべきだ。

 

 こっから逃げるにしても、カーバンクルが……。

 

 そこまで考えて俺はふと左手に震えを感じる。

 

「…………」

 

 俺の手の中で震えているカーバンクルを見て、今までの考えが全部吹き飛んだ。

 

「おい、リスもどき。俺が合図したら逃げろ」

 

 気づけば、自然と言葉が出た。

 

 驚く様にカーバンクルがこちらを見る。

 

 俺は話を続ける。

 

「良いか? 俺が合図をしたら全速力で逃げろ。もう麻痺も抜けているんだろ? だったら大丈夫だ。兎に角分かったな」

 

 マンティコアが俺とこいつのどちらを食べるのか考えている隙に、俺は吐き気を我慢しながらゆっくりとカーバンクルを背中の方に降ろす。

 

 ガリガリ、と爪をカーバンクルは立ててくる。

 

「何だよ、これしか無いんだからしょうがないだろう」

 

 くそ、まだ視線が安定しない。リンドヴルム、指示を頼む。

 

『分かりました。毒の解析がもう少しで終わります。その後反撃に出ましょう』

 

 オーケー。うっし、じゃあやるか。

 

 マンティコアはまだ考え事をしている。呑気なものだ。まあ、その呑気も直ぐに終わるのだが。

 

 後ろにいるであろうカーバンクルに声を掛ける。

 

「行くぞ……3、2、1ゴー!」

 

 瞬間、俺は手のひらから魔力の塊を生み出し、マンティコア目掛けて打ち込む。

 

『ん? ゴハァ!?』

 

 咄嗟の出来事に対応できなかったマンティコアはもろに喰らい、吹き飛ぶ。

 

「今だ!」

 

 後ろのカーバンクルに逃げるように言う。刹那、後ろで動く気配があった。

 

 これで大丈夫だ。そう俺が少し安堵したその瞬間だった。

 

 脇から何かが飛び出してきた。それを見て思わず仰天する。

 

 カーバンクルだった。マンティコア目掛けて走り出していた。

 

 何やってるあいつ!? 逃げろと言ったのに!

 

 真逆の行動を始めたカーバンクルに俺は驚くことしか出来なかった。

 

 そうこうしている内に、カーバンクルは、俺の魔力を喰らって悶絶しているマンティコアの顔に張り付く。

 

『ぐお!? こ、この! 離れろ!』

 

 マンティコアがカーバンクルを振り払おうとするも、カーバンクルも必死に張り付いている。

 

 そして、カーバンクルがマンティコアの目に齧りつく!

 

『ぎゃああああああ!? お、俺の目がああああ!?』

 

 絶叫を辺りにまきちらしながらマンティコアはカーバンクルを引きはがすために必死に顔を振る。

 

 その光景に俺は何もせず、只々呆然と見ているしかなかった。

 

 何で、あいつ……勝てないって分かっているだろういくらなんでも。それがどうして……。

 

『分かりませんか夏蓮?』

 

 分かるわけないだろ! あいつは敵わないというのは分かっているはずだ。なのに……。

 

『貴方を守りたいからですよ』

 

 っ! 俺を……?

 

 リンドヴルムの言葉に俺は驚くより先に信じられないというのが大きかった。

 

『信じられませんか?』

 

 だってよ、あいつ俺に対してどんだけの事したか……やばい、今思い出しても腹立たしい。

 

『……好きな子にはついついちょっかい出したくなるでしょ? それと同じですよ』

 

 いや、あいつ男子か!? 小学生の気になる相手に上手く言葉にすることが出来ない男子か!? 後リンドヴルムは何、そんな経験あるの!? ドラゴンなのに?

 

『随分失礼ですね。食べますよ』

 

 いやさらっとそんな恐ろしい事言われても。つうか肉体が無いお前には出来ないだろう。

 

『いえいえ。夢の中で延々と食べ続けてあげましょうか?』

 

 何それ怖い。

 

 てか、そんな事言ってる場合じゃ……!

 

『ぎゃん!』

 

 短い悲鳴と共に、俺の前を何かが通り過ぎた。

 

 そして、木に何かがぶつかる音。

 

「…………」

 

 俺は音がした方を見る。

 

 そこには、激突した木からズルズルと落ちていくボロボロのカーバンクルの姿があった。

 

「……馬鹿が」

 

 だから逃げろって言ったんだ。勝てない相手に挑むなんて本当に馬鹿だ。

 

『くそがあ……ただ喰うだけじゃ俺の腹の虫が収まらん! 生かしたまま苦痛を味あわせグボォ!?』

 

 煩い口を黙らせる。もう毒は完全に解毒された。ああ、すっきりと見えるよ。

 

 うるせえんだよ。手前みたいなやつはさっさと消えるのが世の為だ。

 

 無言で俺は魔力を込めた右こぶしをマンティコアの腹に叩き込む。

 

『ぐはあ……』

 

 一瞬、宙に浮かびあったマンティコアの背中に回し蹴りを放つ!

 

 そのまま地面にめり込むマンティコア。

 

『こ、のおおおぉおお悪魔風情が!』

 

 悪あがきとばかりに尻尾の蠍の尾を俺に目掛けて奴は放つ。

 

 効くかよそんなの。

 

 俺は難なく尾を掴む。そのままマンティコアの体を踏みつけると、尾を力を込めて引っ張る。

 

 ブチブチ! と肉のキレる嫌な音と共にヤツの尾が千切れる。

 

『ギヤああああああああ!? お、俺の尻尾がああああああああ!?』

 

「喚くな高々尻尾風情で」

 

 邪魔な尻尾を放り投げて俺はマンティコアの体を押さえていた足を一瞬退けると、思いっきり宙に蹴り上げる。

 

『ぐほお!?』

 

 そのままの勢いで宙に飛んでいくマンティコア。

 

 俺は左手の砲口を展開させ、奴に照準を定める。

 

「じゃあな。お前は俺が会った中でも最高に下種な野郎だっよ」

 

 一気に砲口にエネルギーがチャージされていく。

 

 そして、放たれる!

 

 紅色のエネルギー砲がマンティコアを包み込む。

 

『ぐああああああああ!? 馬鹿な! この俺が! この俺があああああああああああ!!』

 

 耳に入れること自体が不愉快な絶叫を上げながらマンティコアの体は消滅していった。

 

 

******

 

 アーシア嬢の治療で緑色の柔らかい光に包まれているカーバンクルを俺は静かに見ていた。

 

 あの後、直ぐにリアスたちが駆けつけてきた。

 

 どうやら俺の放ったエネルギー砲が見えたらしい。

 

 リアスや朱乃にこっぴどく叱られ――曰く、どうして勝手に行動するのか、最も冷静に行動しなさい等々――まあ、俺が悪いでの一応全面的に聞いていたが。

 

 その後直ぐにカーバンクルの事を思い出し、あいつの元に急いだ。

 

 大分ボロボロだったが、アーシア嬢の治療で何とかなりそうだ。

 

「それにしてもマンティコアと本当に遭遇していたなんて……貴方って運が良いのか、悪いのか」

 

 呆れたようにため息を付くリアス。

 

「まあまあ、先輩も無事でしたし良かったじゃないですか」

 

「……倒したなんて驚き」

 

 そんなリアスを祐斗はなだめて、小猫ちゃんは俺の方をじいっと見て言う。

 

「別に。少しイラついていてね。そのイラつきをあのクソ野郎にぶつけただけだよ」

 

 今考えると、ホントどうかしていたかと思う。

 

 感情の制御がホント出来なくなっている。この年になって落ち着いてきたと思ったのに、これじゃあ昔に逆戻りだ。

 

 ……疲れているのかな。このままだとこの先、面倒な事態になりかねないな。

 

 少し休みを取った方が良いな。帰ったら風呂にでも入ろう。

 

 今後の事を決めた俺は治療を続けているアーシア嬢の元に向かう。

 

「どうだ、アーシア嬢」

 

「はい、だいぶ良くなってきたと思います。もう少しで治療も終わります」

 

「そうか、そいつは良かった」

 

 このまま死なれたら目覚めが悪いからな。治って貰わないと困る。

 

「しっかし、兄貴は大丈夫だったのか? マンティコアってすげえ毒使うって聞いたけど」

 

 アーシア嬢の隣にいた一誠が聞いてくる。

 

「ああ、一発喰らったけど問題ない」

 

『喰らった!?』

 

 何とも無いように言った俺の言葉に皆が仰天した。

 

 な、なんだよ。びっくりするじゃねえか。

 

 俺が混乱していると、リアスが凄い形相で詰め寄ってくる。

 

「ちょ、ちょ、どういうこと夏蓮! マンティコアの毒を喰らったの!? 何で言わないのよ!」

 

「いや、俺は……」

 

「アーシアちゃん、カーバンクルの治療が終わったらすぐに夏蓮の治療を」

 

「はい!」

 

「先輩、カーバンクルが心配だからって言わないなんて……」

 

「……意地っ張り」

 

「いや、別に心配なんて……つか、小猫ちゃんそれは何か違うと思う」

 

「兄貴、水臭いぜ!」

 

「お前は少し黙ってろ馬鹿野郎が」

 

「心配したのに罵倒された!?」

 

 当然だろうが。一誠だしな(笑)。

 

 

 結局、もう問題ないと説明するのにその後一時間かかった。

 

 

******

 

「兵藤夏蓮の名において命ず! 汝、我が使い魔として、契約に応じよ!」

 

 俺の紅色の魔方陣の中、俺とカーバンクルは使い魔契約をしていた。

 

 あの後、治療を終えたカーバンクルがじっと俺を見てきて、それを見たザトゥージが俺に使い魔契約をしたらどうかと薦めてきた。

 

 俺は最初、めんどくさがったが、カーバンクルがじっとこちらを見つめてきたから、やってみる事にした。

 

 そして、魔方陣の光が消えると同時に、カーバンクルが俺の方に駆け寄ってきた。

 

「契約完了か」

 

 カーバンクルを抱き上げて、俺は呟く。

 

「今日は豊作ね。貴方もアーシアも珍しい使い魔を手に入れられたわ」

 

 リアスは嬉しそうに言う。

 

 確かに、アーシア嬢は蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)。俺はカーバンクルだもんな。

 

「ま、何にせよ。これから宜しくなルベル」

 

 そう言うと、不思議そうに首を傾げるカーバンクル――ルベル。

 

「お前の名前だよ、赤のラテン語。こないだ偶々見つけてな。お前の額の石に因んで付けてみた。どうだ?」

 

 きゃきゃ、と嬉しそうに俺の頬にすり寄ってくるルベル。

 

 いやあ、良かった。気にってくれて。また木の実ぶつけられたらたまったもんじゃない。

 

 俺が安堵しているその時、頬に何か押し当てられる感じがした。

 

 何だ? 認識する前にその感触は消えた。

 

 ルベルの方を見ると、嬉しそうに笑っている。

 

 

「……まさかと思うけど、魔物にまで……」

 

「案外そうかもしれませんわ。彼、ヒト惹きつける才能みたいなのが有りますし」

 

「……タラシ」

 

 

 

 何故かリアスたちに厳しい目で見られた俺であった。




さあ、次からは第三章『月光校庭のエクスカリバー』編を始めます!

いよいよ夏蓮の過去が明らかに……なるか?


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第三章
昔は……


はい、漸く第三章の始まりです! この章はオリ主の過去は大体四分の一は明かされる予定ですね! ちゃんと書けるか不安ですが……。


 ――人は自分たちとは違うモノを極端にまで嫌う。それは最早ある種の本能みたいなものなんだろう。

 

『赤鬼だー! 赤鬼が出たぞ!』

 

『あっち行け化け物!』

 

『お前なんてこっから出ていけ!』

 

 それは特に子供がやることだ。子供は忌避感が無いとか言うがそれは大きな間違いだと俺は思っている。

 

 子供ほど残酷な存在はいない。子供の言葉ほど胸に突き刺さるものは無い。

 

 何度絶望しかけたか。何度世の中を恨みに恨んだか。

 

 だけど、その度にあの人の言葉を思い出していた。

 

『良い夏蓮? 他人と違う事の何がいけないと言うのよ。そもそも、違いなんて言っている時点で、それはもう自分が相手より劣っていると認めているようなものよ。つまり最初から負けを認めている。そんなヤツをどうして恐れる必要があるのよ?』

 

 あの人――母様は不思議な人だった。

 

 あの人と相対すると、常に俺のすべてを見透かされているようなそんな感じがしてきた。

 

 俺が大ゲンカをして帰ってきたときも直ぐにバレてこっぴどく叱れられた。

 

 そしてその度に先ほど言葉を言われ続けた。

 

 当時の俺は分からなかったが、恐らくあの人なりの慰めだったんだろう。少なくとも俺はそう感じている。

 

 母様は当時の俺にとっての全てだった。だから、だからこそ、俺は――。

 

 

******

 

「夢見心地最悪だな……」

 

 自室の天井を見上げながら俺は思わず呟く。

 

 嫌なものを見てしまった。悪魔になってから変な夢ばかりを見ている気がするな。

 

「…………」

 

 無言で横を見ると、そこにはリアスがいた。

 

 ――全裸で。

 

「……はあ」

 

 思わずため息を付いてしまう。

 

 ライザー戦の後リアスがこの家に住むようになり、別段それはもう構わないのだが、悩み事は多い。

 

 何故か俺と一緒に寝たがるのだ。それも毎回の如く。

 

 俺だって健全な高校生男子だ。そりゃあ可愛い子は好きさ。

 

 けどな、考えても見てほしい。全裸の美少女は毎晩同じベットで寝ていたらどうよ?

 

 リアスからしてみれば主と下僕のスキンシップかもしれないけどさ! 俺にとってある意味苦行の一つでしかない!

 

 ……まあ、そんな事言えないんだが。

 

 俺がじっとリアスの方を見ていると、リアスの瞼がゆっくりと開いていく。

 

「…………」

 

「…………」

 

「………………」

 

「……」

 

 …………なんで俺たち無言で見つめあっているんだ?

 

「……おはよう夏蓮」

 

「……おはようリアス」

 

 漸く挨拶する俺たち。

 

 おいおい。いやまあ、確かにこの漫画やら小説やらのシチュエーションみたいな状況だけどよ。何で俺はこんなに気まずいんだ。別に今日が初めてって訳でも無いんだぜ? なのに何故かいつも気まずいんだよなー。

 

 全く何を動揺してんだか……。ほんと……

 

「……えい」

 

「っ!?」

 

 うん? うん? うん?

 

 何か柔らかいモノが俺の口を塞ぐ。

 

 それがリアスの唇なのは、直ぐに分かる。

 

 数秒後、唇が離れる。

 

 恐らく、俺の顔は相も変わらず真っ赤に染まっているだろう。

 

「改めて、おはよう夏蓮」

 

「……おはようだよこんちくしょー」

 

 

******

 

 放課後、俺たちオカルト研究部は俺の部屋に集まっていた。

 

 ……うん、俺の部屋だ。旧校舎にある部室では無く。

 

 今日は旧校舎が使えないので俺たちの家で部活をする事になったのだが、そこに義母さんがアルバムを持って現れた。

 

 どうやら、義母さんは一誠が女の子を連れてきたら昔の写真なんかを見せたがっていたようだ。

 

 まあ、あいつは昔から少し面白、もとい、行動していたからな。写真を見るだけで面白いかもな。

 

「で、これが一誠の海に全裸で入った時の写真よ」

 

「うわああああああああ母さん見せんな!」

 

 母さんが出す写真を一誠が必死になって止めていた。

 

 ……流石にそこまでは知らなかったが、お前どんだけぶっ飛んでいたんだよ。

 

「あらあら、この頃から元気が良かったんですね」

 

 朱乃はそう笑って言うが、元気が良いで済まされるのかこれ?

 

「ふふ、イッセーは昔からイッセーだったのね」

 

 リアスもそう言うが、まあ何となくそれは分かる。

 

 しっかし、これは面白い。俺が一誠と交流が出来たのは小学校からだから、こういうのは割と俺も知らないんだよね。だから俺もある意味新鮮だ。

 

 さてさて、何かあるかなー。

 

 俺が次のアルバムを取ろとした時だ。

 

 じいっと視線を感じた。

 

 何だ? 俺は視線の方向を向く。

 

 そこには小猫ちゃんがいた。床に座っており、ひざ上にはアルバムの一つが置いてある。

 

 そのアルバムと俺に視線を交互にしていた。

 

「……何かな小猫ちゃん」

 

 流石に気になって聞いてみる。

 

「っ!…………何でもありません」

 

 ウソ付け。じゃなきゃそんな目が泳ぐことなんて無いだろうが。

 

 しかし、アルバムを見て俺を見る。まるで信じられないものを見るように。

 

 はて、何かあったかな……あ。

 

「やべ」

 

 漸く気づく。小猫ちゃんが何を見ていたのかを。そしてそれがどれだけ俺にとっての黒歴史なのかを。

 

「小猫ちゃーん。そのアルバム俺に渡しなさい」

 

 小猫ちゃんに近づくながら俺は言う。

 

 不味い不味い。あれだけは絶対に見られるわけにはいかんのだ。

 

「あら、どうかしたの?」

 

 リアスが俺たちの様子を見て聞いてくる。

 

「……これ」

 

 小猫ちゃんがアルバムをリアスに手渡そうとする。

 

「待て小猫ちゃん! それを渡してくれたら好きな物奢ってやる!」

 

「!」

 

 一瞬、迷う様に肩を震わす小猫。

 

 行けるか!? 俺がそう思った矢先。

 

「夏蓮、貴方が本棚の裏に隠してカバーを表裏逆にしたヤツ……」

 

「どうぞ見てくださいこんちくしょーが!」

 

 諦める。諦めざるを得なかった。

 

 馬鹿な、何でリアスがあれの存在を知っている!? あれはリアスが家に来たと同時にさっきリアスが言っていた場所に厳重に保管しておいた筈だ! 隠すときもリアスが風呂に入っているときを見計らったのに!

 

 がっくりと項垂れていると、リアスや、他の奴らも興味津々な様子で件のアルバムを見る。

 

「え……」

 

「あらあら、これは……」

 

「もしかして……」

 

「こ、これって」

 

「あーこれか」

 

 三者三様の反応を見せるオカルト研究部。

 

「ねえ、夏蓮……この子、貴方?」

 

 物凄く気まずそうにアルバムから写真を取り出して俺に見せてくるリアス。

 

 写真に写っていたのは一人の男の子だった。

 

 但し、とんでもない、が付くが。

 

 兎に角、目つきがやばい。もうその視線だけで相手を殺せるんじゃないかっていうぐらい目つきが鋭い。

 

 まるで目に映るもの全てが敵だと思っているような目だ。

 

 そして、この子のもう一つ目を引くのが紅色の髪だ。

 

 ぼさぼさな状態だが、それでも写真からは髪そのものの質は失われている気がしない。

 

「うん、俺だよ」

 

 まあ、俺の小さいころの写真なわけだが。

 

「す、すごい目つきね。そんなに写真が嫌いだったの?」

 

 俺と写真を交互に見ながら言うリアス。

 

「別に。当時の俺はそんなもんだよ」

 

「そうなんですか? ちょっと意外です」

 

「……予想外の事実にびっくり」

 

 祐斗と小猫ちゃんも驚きの声を上げる。

 

 まあ、そんな表情してたら誰だって驚くよな。だから見せたくなかったんだよ。

 

「今とは想像が付きませんわね。何かあったんですか?」

 

 朱乃が聞いてくる。

 

 うーん、あんまし言いたくないんだよなー。けどまあ、言うしかないかな。

 

「俺って昔は結構な悪ガキだったんだよ」

 

「悪ガキ? 夏蓮が?」

 

 信じられないようような目で俺を見るリアス。

 

 

「あー確かにそうだったな。兄貴この辺りでもめっちゃ有名だったもんな」

 

 昔を懐かしむように一誠は天井を見上げる。

 

 そういや、一誠は知ってるか?

 

「いやー昔はさ、この髪で色々と言われてさ。何やかんやでそいつらボコボコにしてやったわけよ」

 

「ボコボコ……?」

 

 アーシアが不思議そうに首を傾げる。

 

 アーシアには分からないか。うんまあ、分かってほしくないけど。

 

 さてさて、何故過去の俺があんな親の仇を見るかのような目つきでいるのか。一応理由はある。

 

 子供というのは酷く残酷なものだと俺は考えている。というのも、子供は親には嘘を付くかもしれないが、同年代には全くと言っていいほど嘘を付かない。

 

 今でこそ俺は自分の髪に誇りみたいなものを抱いている。が、ガキの頃はホントこの髪の色が嫌いだった。

 

 金髪や茶髪はまだしも紅髪というのは全くおらず、俺の同年代の奴らにとっては格好のからかいの的だったわけだ。

 

 当時は毎日が俺にとっては地獄だった。まるで珍獣を見るかのように俺を指さして笑ったりし、髪の事を紅ショウガなんかで染めてんじゃねえの? とか言われたときはそいつを思わず半殺しに仕掛けた。

 

 というか、当時の俺は何故か酷くグレており、もうムカつく対象は全部に対して殴り掛かっていたな。

 

 流石に女子には手を出さなかったけど、クラスの男子大半はもう完全に喧嘩して勝利したな。

 

 それからはもう何も言われなくなったけど、陰で「赤鬼」なんて言われるようになったなあ。

 

 時たま他の学校の奴が俺の「赤鬼」の噂を聞いて決闘だ! 何て勝負を挑んできたこともあったけど、全部返り討ちにしてやった。

 

「とまあ、こんな感じで泣く子も黙る赤鬼の誕生ってわけ」

 

 写真の経緯を話し終える俺。

 

 で、他の連中の反応は……。

 

『………………』

 

 

 無言。一切の音の無い無言だった。

 

「いやあ、まあ小学生の頃は色々とやんちゃもしたけど、中学の頃は収まったんだぜ?」

 

「ああ、そういや、兄貴、中学入った当初はこんな感じだったけど、ある時からぷつりと変わったよな」

 

「そうだったわね。貴方を引き取った時はどうしよかとも思ったけど、日月さんにも顔向けができたわ」

 

 安心したように頬に手を当てて言う義母さん。

 

「日月さん?」

 

 アーシアが首を傾げる。

 

「確かに、そのアルバムに一緒に……あったわ、この人よ」

 

 リアスから受け取ったアルバムから一枚の写真を見つけると皆に見せる。

 

 そこには濡れ羽色の髪を背中まで伸ばした女性が写っていた。

 

 つか、俺の母だ。

 

「この人が……」

 

「俺の母様。朝凪日月だ」

 

 子供の贔屓目を抜いても結構な美人だったと思う。覚えている限りは別段特別な事はしておらず、化粧もあまり好んでいなかった。それでいてこの綺麗さだからある意味では反則だな。

 

「うわー綺麗な方ですね」

 

「……美人」

 

 アーシアと小猫ちゃんが感嘆の息を漏らす。

 

「見かけに騙されるなよ。破天荒な人だったからな」

 

「破天荒?」

 

「ああ、家に帰ったと同時に『魚食べに行くわよ!』と言って山連れてかれた」

 

「……え?」

 

「そのまま山にある川に連れていかれて二人で魚捕っていたよ」

 

 あれは驚いた。訳の分からない内に連れられて気が付けば山に連れていかれて、山の中の川で魚を捕っていた。

 

 夏が近かったから寧ろ涼しかった。

 

 が、釣りの道具も無く、素手取るなど、素人には普通は無理だ。当然一匹も捕れん。

 

 ……何故か母様は大量に捕っていたが。

 

「何でそんな急に魚を?」

 

「うち貧乏だったんだよ。だから基本的に食料はほぼ自給自足」

 

「あらあら……」

 

 みな、何とも言えない微妙な表情をしている。

 

「日月さんは本当に豪快な人だったわよねー。私も以前助けてもらったことがあったのよ」

 

「そうなのですかお母様?」

 

「ええ、その時の縁から仲良くさせてもらったわあ」

 

 義母さんが懐かしむように言う。

 

 その後、俺の昔の話をリアスや朱乃が妙に聞きたがったり、一誠の恥ずかしい過去が赤裸々に暴露されたりと、中々に楽しい時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 しかし、俺はその時気づくべきだった。一枚の写真を見る祐斗の表情を。

 

 写真――その中に映る一本の剣を見るあいつの顔はどこか見覚えのあるような顔をしていた。

 

 今思えばこの時から今回の件はもう始まっていたんだろう。

 

 

 

 

 あいつの過去の決着も。

 

 

 

 

 

 そして、俺とリアスの過去も。

 

 

 

 

 もう止まらない。ここから先は一本道。寄り道することも止まることも許されない。

 

 




いかがでしょうか? 感想、意見待ってます。


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気まずいね……

今回は生徒会長こと、ソーナさんとのお話です。相変わらず、上手く書けませんが、よんでいってください。




 ふむ、この状況、どうしたものか……。

 

 現在俺は部室にて悩んでいた。というか、悩み事しか出来なかった。ある種の現実逃避と言ってもいい。

 

 他の奴らだってこの状況を見たら恐れを成してしまうだろう。

 

「……うふふふ」

 

 俺に腕を絡ませて一緒に座るリアス。その表情は兎に角嬉しそうだ。

 

「……」

 

 向かい側に座る我が駒王学園生徒会長支取蒼那は無言で紅茶を飲んでいる。

 

 が、今はその無言が怖い。普段と同様な無表情、というよりクールな面差しだが、何故かこちらを見る目が迫力あって怖い。

 

「……えい」

 

 この状況の打破をどうしたら良いか悩む俺に、新たな爆弾が投下される。

 

 リアスに抱き付かれている腕に柔らかい感触が。

 

 え、ちょ、リアスさん? 胸当ててます? 当ててるよね!?

 

「っ……!」

 

 ミシリと、蒼那が持つティーカップの取っ手部分が嫌な音を立てる。

 

 心なしか、蒼那の背後に何やらオーラらしきものが……。

 

「……リアス、少しくっつき過ぎじゃないかしら。年頃の男女が真昼間からそんな風にするのは感心しないわ」

 

 いや、一言言わせてほしい。これは俺は意思じゃない! 意思じゃないよ!

 

「あらソーナ、これは主と下僕のスキンシップよ。それのどこか問題があるのかしら」

 

「大有りです。いくら主従関係にあるとはいえ、節度というものがあるでしょうに」

 

 蒼那は生徒会長として実に模範的な事を言う。

 

「ホントは羨ましいんじゃないのソーナ?」

 

「なっ……」

 

 が、ここはリアスの方が一枚上手だった。と言うより、何がそんなに羨ましいんだ?

 

 一瞬の動揺を見せた後、蒼那は直ぐに落ち着きを取り戻し、改めて紅茶を飲もうとし、

 

「な、な、な、何を言って……」

 

「紅茶零れるわよソーナ」

 

 めっちゃ動揺していた。それはもう体が震えて、その震えがカップにまで伝わるほどだ。

 

 あーもー面倒くせ。マジでどうするか。

 

 つか、こいつら以外にも面倒な事があるんだよなあ。

 

 ちらりと、俺は未だに動揺を続ける蒼那の隣を見る。

 

「ちくしょう……」

 

 そこにはまるで親の仇を見るかのような目で俺を睨み付ける後輩がいた。

 

 別に怖くは無いが、それでも面倒なものだ。

 

「はあ……」

 

 ため息を付いて天井を見上げる。

 

 ほんと、どうしてこうなったよ?

 

******

 

 時間は三十分ほど前に戻る。

 

 他の部員がまだ揃っておらず、俺たち三年だけの部室でのんびりしていた時だ。

 

「失礼します」

 

 ノックと共に二人の生徒が入ってきた。

 

「蒼那?」

 

 入ってきたのは黒髪を肩辺りで切り揃え、眼鏡を掛けた理知的な雰囲気を持つ我が校の生徒会長支取蒼那だった。

 

 もう一人の男子生徒は確か最近生徒会入りをした書記の、えと、二年だったかな。名前までは思い出せないな。

 

 しかし、何で生徒会がこんな旧校舎まで……?

 

 俺が疑問に思っていると、リアスが笑みを浮かべて蒼那の元に歩み寄っていった。

 

「いらっしゃいソーナ。少し早かったわね」

 

「ええ、仕事が早く片付いたので、どうせならと」

 

 話から察するに、リアスが呼んだみたいだな。で、蒼那が少し早く着いたと。

 

「ごめんなさいね。他の子はまだ来ていないのよ。紅茶でも飲んで待っていてくれる?」

 

「気遣いは無用ですよ。こちらが早く来すぎたのですから」

 

 一旦、口を閉じると、蒼那はこちらを見る。

 

「お久しぶりです夏蓮君。元気そうですね」

 

「ああ、久しぶりだな蒼那。今日はまだ何でここに?」

 

 俺の疑問に朱乃が答える。

 

「今日は夏蓮君も含めた新人悪魔たちの顔合わせですわ」

 

 ……ん? 新人悪魔? 顔合わせ。顔合わせ、そしてここにいる蒼那。まさか……。

 

 唖然と蒼那を見る俺。

 

 そんな俺に、蒼那は少し口元に笑みを浮かべながら言う。

 

「改めまして、上級悪魔シトリー家次期当主ソーナ・シトリーです。よろしく夏蓮君」

 

 マジか……学園のアイドルに続き、生徒会長まで悪魔とは……悪魔に支配されてるじゃんここ!

 

 聞けば、表の運営はシトリー家が、裏の運営はグレモリー家がやるという共同運営でこの学園は成り立っているらしい。

 

 はあ、この学園に三年通っているが、流石にこれは予想していなかったな。

 

 てか、この様子だと、生徒会メンバーも……。

 

「まだ全員揃ってはいませんが、夏蓮君、この子は私新しい眷属匙元士郎です。貴方と同じ兵士(ポーン)で同じ時期に悪魔になったので仲良くしてあげてください」

 

 自分の隣に立っている男子生徒を手で指しながらそう言う。

 

 なーる。そういう事なら問題ないな。

 

 俺はソファーから立ち上がり、男子――匙君に近づく。

 

 そして、彼の前まで来ると手を差し出す。

 

「初めましてだな。君と同じ兵士(ポーン)の兵頭夏蓮だ。新人同士、仲良くしてくれ」

 

 俺は笑顔で挨拶。

 

「…………」

 

 が、匙君はじいっと俺の事を見詰め……いや、これは睨んでいるかな。特に何もしてこない。

 

 あれー? 俺何かしたかな。いや、初対面だから何もしていない筈だが……。

 

「……サジ?」

 

「っ……」

 

 訝し蒼那基もといソーナの声に、匙君ははっと我に返ると、手を差し出してきた。

 

「……どうも、生徒会書記、匙元士郎です。先輩とは同じ兵士(ポーン)なのでよろしくお願いします」

 

 何故だろうか。丁寧な挨拶なのにめっちゃ平坦の声音だなー。

 

 俺、ホントこの子に何かしたかな。

 

 そして、握手する俺の手に圧力がかかってきた。

 

 匙君が力を籠めて握ってきた。

 

 お、結構力強いな。良いぜ、返してやる。

 

 俺も思いっきり力を籠めて握り返してやる。

 

「え、ちょちょ! 痛い痛い! 痛いっす! 骨がミシミシ言ってる! 骨がああああ!」

 

 が、力を籠めすぎたか匙君が悲鳴を上げて俺から手を放そうとする。

 

「サジ、何をしているのですか。夏蓮君に失礼でしょうが」

 

「ええ!? 俺が悪いんですか!」

 

 手を放そうとしながら匙君が仰天する。

 

 まあ、君から始めたことだし。

 

 とはいえ、流石にこれ以上やると匙君の手が少々面倒な事になるだろうから、この辺にしておこう。

 

 俺は匙君の手を放す。

 

 匙君はしゃがみ込んで握られていた方の手をもう片方の手で押さえる。

 

「大丈夫だよな。まだ繋がっているよな?」

 

 随分と失礼だな。普通に力入れただけだぜ? それをまるで魔物にでも噛み付かれたかのような……。

 

「ごめんなさい夏蓮君。うちの子が迷惑をかけたようで」

 

 ソーナが申し訳なさそうに言う。

 

 それを見た匙君が涙目でソーナを見る。

 

「会長! やられたの俺っすよ!」

 

「貴方が先にやったのでしょうが」

 

 匙君の訴えにもソーナは冷たい。

 

 しかし、ここまでいくと少し悪い気がするな。

 

「ソーナ、余り匙君を怒ってあげるな。ついついやり過ぎたのは俺だし、別に俺は痛くも無かったからな」

 

 何とかフォローしようとするも、匙君はショックを受けた顔をしている。

 

「痛く無い……割とガチに力を入れたのに……」

 

 ガクリ、と項垂れる匙君。あれ、可笑しいな。ちゃんとフォローしたつもりだったんだが……。

 

 項垂れる匙君と慌てる俺を見たリアスとソーナは揃ってため息を付くのだった。

 

 因みに朱乃はニコニコと笑っており、小猫はいつも通り無表情で黙々と菓子を食っているのだった。

 

 

 

 で、話は冒頭に戻る。

 

 この後、まだ来ていない一誠たちが来るまで紅茶でも飲んで待とうと言う事になったのだが、ここで問題が発生した。

 

 当初、俺はリアスたちから離れた椅子に座ろうとしたのだが、リアスが俺を引っ張って隣に座らせたのだ。

 

 その時点でもうソーナの目が鋭くなり始めた。

 

 それだけならこれで終わりだが、残念なことにまだ終わりじゃない。

 

 紅茶を飲みながら談笑? していると、突如リアスが何か思いついたように俺と腕を組んできたのだ。

 

 

「そもそも、夏蓮君、貴方は何故このオカルト研究部に入っているのかしら?」

 

 漸く落ち着いたらしいソーナが紅茶のカップを置いて聞いてくる。

 

「何故って……リアスの眷属になったから?」

 

 つうかそれしかないんだが……。

 

 しかし……。

 

「成程、私の頼みは聞かなかったのにリアスの頼みは聞いたんですね」

 

「うぐっ!」

 

 胸に刺さった! 思いっきり!

 

 そう、これが俺がソーナに会いたくない最大の理由なのだ。

 

 前々からリアスやソーナにオカルト研究部か、生徒会に入るように打診を受けていたのだが、部活動をする気の無い俺は、それら全てを断っていたのだ。

 

 が、今年になって俺が瀕死の重傷を負い、そこからリアスの眷属として転生したことで、俺はオカルト研究部に入部したのだ。

 

 とまあ、こんな事があり、俺は今でもソーナに会うのが若干気まずいんのだが……。

 

「ソーナ、そんな夏蓮を責めては駄目よ。折角助かって、私の下僕になったのだから、ちゃんと私の部に入らないと」

 

「あら、死んだわけでも無いのによく転生させようと思いましたね。聞きましたよ、いくら腹部を堕天使の槍で貫かれたとはいえ、その程度なら貴方でも治療は直ぐに出来たのでは?」

 

「緊急事態だったのよ。彼の弟のイッセーも堕天使の槍で傷を負っていたの。知っているでしょ?」

 

「ええ、存じています。ですが、夏蓮君に対し態々悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を使用する必要性はあったのかしら?」

 

「……どういう意味かしら?」

 

「いえいえ、べつにあなたが自分の欲の為に使ったなんて私は考えていませんよ?」

 

「あら、悪魔は欲望を好むのよ? 何か問題あって?」

 

『…………』

 

 やばい、どうしよう。本気でこの部屋から出たい。なにこれ。なんでこの二人の間めっちゃ殺伐としてんの? 二人って親友同士じゃないの? 何でこんな笑顔で毒を吐きあっているの?

 

 俺が二人の応酬にげんなりとしていると、朱乃が近づいてきた。

 

 そして、俺の耳元に顔を近づけると、小声で話し始めた。

 

「うふふふ、お二人は前々から貴方を自分の所属するところに入れようとお互い争っていたのですわ」

 

 それは知っていたけど、つか争ってたの?

 

「結局、勝ったのは部長。おかげで部長はソーナ会長に勝ち誇っているのですわ」

 

 あーだからこんな感じなのね。納得したわ。

 

 いや、待て待て、そもそもだ。なんでこの二人が俺を巡って争ってんだよ。そこが分からん。

 

 俺は別段、勉強は普通だし(それもリアスが勉強を見てくれているわけで)、運動はまあ、トップだったな。

 

 顔は自分ではよくわからん。『あいつ』が言うには結構イケているらしいけど。

 

 後、誇れるものと言えばこの紅髪ぐらいだしなー。

 

「あらあら、本当に分かっていないのですね」

 

 朱乃が困ったような顔をする。

 

「……でもまあ、そこも含めて全部良いんですけどね」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「いーえ、何も」

 

 しっかし、ほんとこの状況どうしようかな。このままだと埒が明かない。

 

 『女の喧嘩には口出しするな』とお師匠様に良く言われていたけど、これは正にその言葉が良く当て嵌まるよな。

 

 が、お師匠様分かってください。

 

 男には、危険だと分かっていてもやらないといけないことが、あるんです!

 

「おい二人ともいい加減その辺に……」

 

 

『夏蓮(君)黙っていて!』

 

「あ、はいすみません」

 

 終わった。もう終わったよ。

 

 ふ、よくよく考えたら無理な話じゃないか。学園トップスリーに入る美少女たちが喧嘩しているのに、ただの悪魔の俺がこの二人の喧嘩を止める事なんて。

 

「……情けない」

 

「ぐは……」

 

 痛いよ! さっきのソーナの言葉とはまた別に小猫ちゃんの言葉が突き刺さったよ! 

 

 う、うるせえやい! 無理なものは無理なんだらかしょうがないだろう!

 

 お師匠様、やっぱり女の喧嘩に男の俺が介入するべきじゃなかったな……すっげえ怖いわ。

 

 

 結局、一誠たちが来るまで二人のにらみ合いは続くのであった。




いかがでしょうか? 感想、意見待っています。

いよいよFateのアニメがスタート。二週連続で一時間スペシャル。ワクワクですね。

今期のアニメも中々目が離せません。


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この野郎が……

レポートを保存していたファイルを誤って消して……必死に明後日までの分を再生させていた。めっちゃ疲れたわ……。


「全く持って面倒なものだね」

 

 夜の散歩をしながら俺は思わず呟く。

 

 普段ならば気分よく歩き回れるが、残念ながら今回はそうもいかない。

 

 理由は言わずもがな、祐斗の事だ。

 

 球技大会中――種目は多々あり、俺は全敗――のあいつの集中力の無さには、普段温厚なリアスも流石に怒り、祐斗に平手打ちを食らわせたくらいだ。

 

 祐斗はそれをも受け流すのだった。

 

 正直、普段の祐斗とは大違いだった。ホントにあれは祐斗かと思ったほどだ。

 

 リアスの言葉に耳も貸さずにそのまま部室を出てしまった。一誠は慌てて追いかけていったが、直ぐに一人で戻ってきたところを見ると、どうやら、祐斗は一人で出ていったようだ。

 

 ――聖剣計画。

 

 リアスから聞いた、祐斗が関わっていた計画だ。

 

 聖剣、文字通り聖なる剣。俺たち悪魔にとっては光の剣以上の天敵中の天敵だ。刺さったら体が消滅するらしい。マジ怖いなおい・

 

 有名どころならエクスカリバーとか、デュランダル。日本で言うならば天叢雲剣とかだな。

 

 聖剣は誰もが簡単に扱えるものでは無い。特別な因子を持ったのでは無いと使えないそうだ。

 

 だが、そう簡単に因子を持った人間は中々現れない。

 

 そこで、教会あることを思いついた。

 

 人為的に聖剣使いを作ろうとしたのだ。

 

 それが聖剣計画。祐斗はその被験者だったそうだ。

 

 因子を持つ子供達をたくさん集めて、聖剣の一本、エクスカリバーに適合させようとしたのだ。

 

 しかし、そう簡単にいくものでは無かった。

 

 裕斗と、その同期全員がエクスカリバーに適合できなかったそうだ。

 

 結果、祐斗たちは不良品扱い。同期を含めて全員が処分されたらしい。

 

 裕斗だけが瀕死の状態で逃げて、死にかけていたところをリアスに拾われたらしい。

 

 出会った当初は祐斗は聖剣とその関係者、教会の者達に深い憎悪を抱いていたらしい。恐らく、今でも復讐したいのだろう。

 

 ……何とも胸糞悪い話だ。吐き気がしてくる。

 

 俺は宗教とかあまり好きではない。神の名のもとにと、免罪符を得て好き勝手やる人間は歴史を紐解けば大勢いる。

 

 勿論、信仰深い敬虐な信者だっているだろうが、この場合は前者だ。

 

 俺は、復讐は正直ありな方だと思っている。

 

 ドラマとかで復讐なんて死んだ人は望んでいないとか良く言っているが、死者の言葉なんて誰が分かるんだよ。

 

 それに、誰かの為とか良く言うが、結局は自分の為だ。

 

 復讐することで前に進める事だってある。それによって、過去と決別出来る事だってあるのだから。

 

 俺は……どうなんだろうか。

 

 もし、俺が祐斗と同じ状況になったら、俺も復讐を望むようになるのだろうか。

 

 ――会い、たい。会いたい――

 

「…………」

 

 考えを振り切るように頭を振る。

 

 やめておこう。今考えても意味のない事だ。

 

 そろそろ帰ろうか。一誠達もそろそろ家に戻っているころだろ。つか、帰らないとリアスに何か言われそうだな。

 

 散歩を切り上げて、帰路に付く俺。

 

 だが、これがいけなかった。もう少し散歩していればあいつらと鉢合わせする事は無かった。

 

 ただまあ、こうなってしまうのは結局は俺の運と言うやつだろう。

 

 

 

 

******

 

 

 

 家の前まで着いた俺はあることに気づく。

 

 全身を覆う嫌な感じだ。体全体から嫌悪感が出るようなそんな感じ。

 

 ……教会関係者か。

 

 何で家から反応が出るのかは分からないが、ちょいとやばい感じかな。

 

 俺はいつでも神 器(セイクリッド・ギア)を展開できるように準備する。

 

 左手でドアの取っ手を掴み、一気に開ける。

 

「それじゃあ、失礼……え?」

 

「ん?」

 

 まず最初に、俺の目に映ったのは二人の少女だった。

 

 一人は青い髪に一房だけメッシュを入れた外人。なかなかに顔立ちは整っている。

 

 もう一人は栗色の髪をツインテールにしている日本人らしき少女だ。こちらも中々の美人だ。なんか俺の事を目を見開いて見つめている。

 

 で、二人の服装は白いローブに身を包でいる。正直この時点で怪しい。街中を歩けば不審者呼ばわりだな。

 

 とはいえ、一番注目するべきは胸元に下げた十字架だ。

 

 エクソシストか? こんな女の子たちもあんなフリードみたいな悪魔にはサーチアンドデストロイ! 的なあれか。世も末だね。

 

 さて、玄関という実に動きづらいこの状況どう打開するか。

 

 俺が次の一手をどうするか悩んでいると、栗色の髪の少女がわなわなと震えながら俺を指差して叫んだ。

 

「――何で”赤鬼”ここにいるのよ!」

 

 …………。

 

「おいイリナ、いきなりどうした?」

 

「油断しちゃ駄目よゼノヴィア! この男、子供のころから目に付くもの全てを破壊しつくす正に悪鬼な如く男なんだから!」

 

「な、そうなのか!」

 

 栗色の髪の――イリナとか言ったか? の言葉を真に受ける少女ゼノヴィア。

 

 …………あははは、ぶっ殺す。

 

「おい、嬢ちゃん。俺は基本的に俺の事を”赤鬼”呼ばわりしたやつは二度と呼ばないように()をするんだ……いっちょ話すか」

 

「黙り無さい! まだこの町にいたなんて……ゼノヴィア! 主の名の下にこの男を成敗するわよ!」

 

「いや、イリナ……この男から人じゃな気配が……」

 

「問答無用! さあ、行くわよ」

 

「来いやおらあ!」

 

 その後、突然の事に呆然としていた義母さんが再起動するまで俺たちは取っ組み合いの喧嘩を続けるのであった。

 

******

 

「幼馴染~~?」

 

「そうだよ……」

 

 じゃあ何か一誠は教会のあの失礼極まりないあいつと昔からの知り合いって訳かよ。

 

「ほら、あれだよ。写真に写っていた俺と一緒にいた子。あの子だよ」

 

「ん? お前、あの子の事、男子だって言っていたじゃないか」

 

 写真とは、幼い一誠と例の聖剣と栗色の子供が写った写真だ。祐斗の豹変もその写真が関係している。

 

 俺が言うと、一誠はバツ悪そうにする。

 

「その子……女の子だったんだ。名前は紫藤イリナ」

 

 ふむ、つまりは、

 

「お前、女の子を男勘違いしていたのか。とんでもなく失礼な奴だな」

 

「うぐっ」

 

 こいつの勘違いってやつだな。

 

「し、仕方ないだろ。イリナは昔はボーイッシュみたいな感じだったから、俺も男と遊んでいる感じがしていたんだ」

 

「あっそ……」

 

 ま、あの写真じゃ、中性的な容姿だから一見しただけじゃ無理かな。それでも結構な時間遊んでいたんだからそれも考え物だけど……。

 

「で、久しぶりの再会。喜びもつかの間、お前は悪魔、あの性悪女は天の手先になったと言うわけか」

 

「……え、何どうしたんだよ兄貴? イリナと何かあったのか?」

 

「べっつにー。ほら、よくあるだろ。会った瞬間に「あ、こいつの事嫌いだ」とかいうヤツが。それだよ、それ」

 

「まあ、無いとは言わないけどさ」

 

「とにかく!」

 

 話を纏めるように、さっきまで黙って聞いていたリアスがパン! と手を叩く。

 

「無事で本当によかったわ。本来ならば問答無用で殺されていても可笑しくなかったのだもの」

 

 まあ、フリードという前例があるからな。ふん、どうせあの女たちもあれと一緒なんだろうよ。

 

「それで、明日、彼女たちから会談を申し込まれたわ」

 

「会談……?」

 

 悪魔たちを毛嫌いしている教会が? 何かあるって事か。

 

「どうも、エクソシストたちがこの町に随分と入ってきているのと関係しているようなのよ。……恐らく、何か彼らにとって緊急の事態が起きているようね」

 

 緊急、ねえ。そういや、まだ天使サイドの奴とはまともに会ったことは無かったな。

 

 アーシアとは彼女が悪魔になった後に会ったから、原則としては教会の人間とは言えないし、フリードは教会を追放された『はぐれ』。

 

 堕天使と悪魔には会ったことになるが、天使とは会ったことが無いな。その内会う事があるかな? まあ、悪魔の俺と会うと言う事は戦闘の一歩手前だと思うけど。

 

 

 はてさて、どうなる事やら……。

 

******

 

 さて、次の日の放課後。

 

 予定通り、あのいけ好かない紫藤イリナとメッシュ入りの少女、ゼノヴィアが現れた。

 

 内容は、今の俺たちにとってある意味鬼門だった。

 

 教会からエクスカリバーが盗み出されたのだ。

 

 本来の本物というべきエクスカリバーは昔の戦争で、折れてしまったそうだ。

 

 その後、残った破片を使い、エクスカリバーは七本に新生したという。

 

 その内の三本が盗まれたそうだ。

 

 聖剣くらいちゃんと管理しとけと文句を言いたくなるが、既に盗まれてしまった訳なのだからしょうがない。

 

 そして、盗んだ奴は日本のこの町に潜伏しているそうだ。

 

 来んなよ。盗んだそいつに対しても文句を言いたい。残念な事に来てしまった訳だが。

 

 で、そのエクスカリバー奪還の為に教会は聖剣使い二人を派遣した。

 

 その二人が俺たちの目の前に座る女二人。

 

 ゼノヴィアが持つエクスカリバーは『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。名前からして攻撃重視の聖剣だろう。

 

 で、栗髪が持つのは『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。様々な物質に変化が可能だと言う。

 

 んでもって、三本のエクスカリバーを盗んだのは堕天使幹部のコカビエル。聖書にも名前を残す堕天使の幹部だと言う。

 

 いやもう、堕天使も天使もここに何か惹かれるものがあるの? ここはリアスが縄張りにしている悪魔の場所だぜ? あれか、また戦争がしたのか、あんたたちは!

 

 ……一旦落ち着こう。

 

 で、こいつらの要求は堕天使コカビエルが奪った聖剣を取り返すまで俺たちに一切の手出しを禁じというやつだ。

 

 要するに俺たちが堕天使と手を組まないかと心配しているのだ。

 

 ……生憎と俺たちは堕天使とそれなりの因縁も持っているから手を組むことも無い。リアスも肩を震わせながら言っていた。

 

 最も、彼女らはその事を知らないが。

 

 話が終わり、そのまま終わりになればそれで良かったのだが、ここでこいつらは余計な事をしてくれた。

 

 アーシアを『魔女』として詰ってきたのだ。

 

 彼女たちからしてみれば未だに信仰を捨てきれない彼女は目障りな存在ともいえるだろう。

 

 彼女たちの不遜な物言いに、遂に一誠がキレた。

 

「お前たちがアーシアに手を出すなら俺は教会の全てを敵に回しても構わない!」

 

 おう……相変わらず、後先考えないヤツ。そんな物言いじゃ、宣戦布告と取られかねないぞ。

 

「グレモリー、眷属の教育はどうなっている。今の発現は我々教会に対する宣戦布告と見ていいのかな?」

 

 案の定、ゼノヴィアはその事を言ってきた。

 

 こいつは……全く。

 

 ま、そこが一誠の良い所もの一つでもあるんだが。

 

「それはこっちのセリフだぜ」

 

 取り敢えず、一誠に乗ろう俺も。さっきのこいつ等の発言に思う所が無いわけでは無い。

 

「……それはどういう意味かな」

 

「言葉通りだ。そっちこそ、こちらに喧嘩を売るような数々の発言、教会は下っ端戦士には言葉を使い方も教えていないのか? だとすると、程度が知れているな」

 

 俺の発言に、二人は殺気を募らせる。

 

「我らの主を侮辱するか……!」

 

「おっと、事実を言われて怒ったかな? 何だ、案外教会も大したことないな」

 

 嘲笑う様に言う俺。

 

「夏蓮、やめなさい――!」

 

 流石に不味いと判断したのか、リアスが止めに入ろうとする。

 

「……君もそこの彼と同様に我々との戦争を望んでいるのかな? それに私たちの事を下っ端と呼んでいたが、仮にも我々は聖剣を授かった身。君程度なら相手するのに問題は無いぞ」

 

「くっ……お前たち程度が俺とやり合う?」

 

 ――やってみるか?

 

 俺は体からオーラを迸る。

 

 それを見たゼノヴィアと栗髪が戦闘態勢に入る。

 

「ちょっとゼノヴィア、これって……!」

 

「ああ、どう見ても上級悪魔クラスだ。本当にこいつ眷属か……?」

 

 ふん、今更遅い。後悔しながらぶっ倒れろ。

 

 ……なんてな。ここでこいつ等とやるなんて面倒な事でしかない。リスクが大きい。

 

 聖剣がどれ程のモノなのかも分からない以上はな。

 

 オーラを引っ込め、「冗談だよ。本気にするなよ」と言おうとしたその時だった。

 

「――良いですね。先輩、僕も混ぜてくださいよ」

 

 …………やべ。

 

 しまったあ。こいつの事をすっかり忘れていたよこんちくしょうめ。

 

 顔を手で覆い隠しながら声の主を見る。

 

「――今度は何だ?」

 

 どこから疲れた様に言うゼノヴィア。

 

「キミたちの先輩だよ。――失敗だったけどね」

 

 

******

 

「計画はどうかね、コカビエル」

 

「ああ、順調だ。バルパーの実験も最終調整に入った」

 

「それは良かった。私も協力をした甲斐があったというもの」

 

「……一つ聞きたい。何故俺に協力する?」

 

「どういう事かな」

 

「惚けるな。貴様、何百年も雲隠れしていたくせに、何故今頃になって姿を現す。しかも堕天使の俺に協力するとは」

 

「くっふふふふ。なに、私は私であの町に少し興味があるんだよ」

 

「なに?」

 

「安心したまえ。私は君の邪魔をする気はない。寧ろ、キミには成功してほしいと思っているのだから」

 

「……まあ、良い。俺の邪魔だけはするなよフォカルス」

 

「ああ、勿論だとも」




いかがでしょうか? 感想、意見待っています。

この話が投稿される頃はFateの第二話。テレビアニメ初の二話連続の一時間スペシャル。楽しみです!


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いや、ないわ

どうも、先週は風邪をひき、見事にダウンしていました。

いやあ、久しぶりにひきましたが辛いですね。皆様もどうかお気を付けて。


「で、何か言い訳はあるかしら夏蓮?」

 

「俺は無実だ。無実を主張する」

 

「残念ね、あなたに無罪主張の権利は無いわ」

 

 ちくしょう。

 

 現在俺は正座をしている。リアスの目に前で。隣には朱乃が困ったような顔で笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

 

「夏蓮、私はもっと貴方を大人だと思っていたわ。だと言うのに……ああ、私は悲しいわ」

 

 嘆くように顔をわざとらしく振るリアス。

 

 いやあ、だってしょうがないじゃん? あの場はアレが正しいんだよ。一言言わないといけない空気だったよ、うん。

 

「かーれーん?」

 

「うを!」

 

 そっぽを向いていると、腹の底から響くような声。

 

 慌ててリアスの方に向き直ると、そこには笑みを浮かべたリアスが。

 

 だが、俺には分かる。怒っている。リアスは間違いなく怒っている。

 

「あなた、自分が怒られているって自覚が無いようね……お仕置きが必要かしら」

 

 ゆらりと立ち上がるリアス。その手には物騒極まりない魔力が込められ始めていた。

 

 いや、ちょっと待て。あれは不味い。不味すぎる!

 

「まて、リアス。落ち着け、落ち着いて話し合おう。な、話せば分かる」

 

「あら、その話を最初に放棄したのは誰だったかしら」

 

 俺です。はい。

 

「くっ! 朱乃!」

 

 ヘルプ! 俺は目で訴えかける。

 

「あらあら……」

 

 しかし、朱乃は助けず!

 

 ちくしょう!

 

「さあ、覚悟は良いかしら夏蓮?」

 

 あ、終わった。

 

******

 

「うぐ……まだ痛い」

 

 未だに痛みが引かない尻を撫でながら俺は町を探索していた。

 

 何故俺がこんな事をしているのか? そいつはまあ、色々と会った訳だ。

 

 あの時、祐斗が喧嘩に入り込み、収集が付かなくなり、一度模擬戦という形で収まり、一誠と祐斗が相手をする事になった。

 

 何故俺じゃ無いかというと、実に単純明快。一誠に押し付けたやった。

 

 ぎゃーぎゃー文句を言っていたが、そこは兄の特権。黙らせてやった。

 

 栗髪は俺と戦いたがっていたが、無視だ無視。

 

 で、始まったわけだが……最悪の一言で尽きる。

 

 一誠はもともと、聖剣何かと戦うのは初めて。上手く対処できずにやられてしまった。

 

 ……戦いの途中でイリナに洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を仕掛けようとして、間違えてアーシアと小猫に当てたわけだが。

 

 祐斗に至ってはもっとダメダメ。

 

 

 聖剣に対する憎しみが強すぎるせいで、普段の戦い方が全くできず、力に任せた単調な攻撃しか出来なかった。そこを突かれて、攻撃全てはじき返されてしまった。

 

 けどまあ、収穫が無かったわけでもない。

 

 ゼノヴィアが持っている聖剣『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』はその名の通り、破壊力重視の聖剣だ。

 

 威力は振るっただけで地面にクレーターが出来る程で威力だ。正直、背筋が寒くなってくるね。

 

 ゼノヴィアはその聖剣を活かしたパワーファイターで、祐斗の魔剣を悉く打ち壊していった。

 

 栗髪――紫藤イリナが使う聖剣『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』は、その形状をあらゆるものに変えることが出来ると言う。

 

 普段彼女は、その特性を使い、ひも状の状態にして腕に巻きつけていると言う。

 

 色んな形状に変えることが出来ると言う事はかなり戦闘の幅が広がるな。あいつもそれを使ったトリッキーな戦法を得意とし、一誠はそれに翻弄されてしまった。

 

 しっかし、本当にエクスカリバーは七本中二本があれ程の力を発揮するんだ。他の聖剣も厄介な能力を持っているんだろうなー。

 

 つか、七本に分かれてもなおそれだけの力を持っていると言う事は、本来の状態ならばどんだけの力を有しているのだか……しかも、その最強クラスの聖剣を折ったヤツがいるってことだよな……こわ。

 

 さてさて、このように見事に惨敗した訳だが、祐斗はその後どこかに行ってしまい、失踪してしまった。

 

 このままでは最悪「はぐれ」になり兼ねない。そこで、今回の原因の一端である俺が探すことになったのだ。

 

 ま、少しやり過ぎたのは否めないかな。祐斗にも少し悪いことしちまったな。

 

 けど、あそこまで復讐に囚われていると、連れ戻すのには難しいかな。最悪、戦う事になっちまう。

 

 ……理想的なのは祐斗に奪われた聖剣の一本でも破壊させて気を落ち着かせてもらう事なんだろうけど、リアスが許可するとは思えないしなー。

 

 それにあの教会の戦士たちがそんな事をしたら邪魔をするのか! てな感じで、こっちにまで攻めてきそうな感じがする。

 

 ああ、ホント面倒だ。つうか、あの聖剣使い達、今頃何をしているのやら……。

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉぉぉ!」

 

 ドン引きだ。マジでドン引きする。

 

 白いローブに身を包んだ怪しさむんむんの二人組が何やら祈りを捧げている。

 

「は、貴様、グレモリー眷属の!」

 

「あー! 赤鬼!」

 

 こちらに気づいた二人が俺に話しかける。

 

 が、俺は無視する。そのまま横を通り過ぎ去ろうとする。

 

 一部、聞き捨てならない言葉が聞こえたが、無視だ無視。こんな奴らの知り合いとは思われたくない。

 

 さあ行こう。絶対に振り向くな! 振り向いたら負けだ!

 

 何で一番会いたくないやつらがいるんだよ! 祐斗出せ! 祐斗を!

 

 くそ、まあいいさっさと行くぜ。

 

「あ、ちょ、待ちなさい――」

 

 ぐううううううう……。

 

「…………」

 

 足が止まる。

 

「………………」

 

「…………」

 

「……………………」

 

 沈黙だな。

 

 見れば、二人の顔は恥ずかしそうに赤く染まっている。

 

 そして、気まずそうにそっぽを向いている。

 

 どうするか。このまま放置するのも何か気が引けるし、かと言って、なあ……?

 

 けどまあ、このまま立ち去るのも後々面倒事になるだろうし。

 

 しゃーない。

 

 諦めて俺は二人に話しかける。

 

「…………腹、減っているのか?」

 

『…………』

 

 二人そろって頷く。

 

「…………金、無いの?」

 

『…………』

 

 再び頷く。

 

 俺はため息を付いて、提案する。

 

「…………奢ろうか?」

 

 二人の返事は言うまでもない。

 

******

 

 甘く見ていた。この二人を。

 

 どうやら俺はこいつらの事を過小評価し過ぎたのかもしれない。

 

「上手い! 上手いぞ!」

 

「これぞ日本の味ってやつよね」

 

 ――この二人の食欲を……!

 

 二人の前に次々と積み重なっていく空の皿を見ながら、俺は財布の中身を計算し始めた。

 

 二人を連れて取り敢えずファミレスに入ったは良いが、二人は余程腹を空かしていたんだろう、店員さんが営業スマイルが崩れそうになるほど注文し始めたのだ。

 

 ……俺、マジで大丈夫かなあ。

 

 取り敢えず、注文したオレンジジュースを飲みながら俺は二人を見る。

 

「お前ら、どんだけ腹空かしていたんだよ」

 

 食べていたモノを飲み込んで、ゼノヴィアが言う。

 

「仕方ないだろう。イリナが路銀を全部使い果たしてしまったのだから」

 

「はあ?」

 

 首を傾げながら俺は栗髪の方を見る。

 

「な、ゼノヴィア、これは良い絵よ。聖人への愛が詰まった渾身の一品なんだから。

 

 そう言って栗髪が取り出したのは、一枚の絵画だった。

 

 その絵にはまあ、何とも奇妙奇天烈な人が描かれていた。

 

 つか、これはどう考えても。

 

「詐欺られたんだろうがどう見ても」

 

「キミもそう思うか。やはりそうだろう」

 

「うぐ……」

 

 賛同者を得たゼノヴィアは納得するように頷き、対照的に栗髪は言葉に詰まっているようだ。

 

「お前ら……実は阿保だろ。そんな事に仕事の金を使うなんて。これぞまさしく公私混同ってヤツだな」

 

 俺がそう言うと同時に、二人がテーブルを叩いて立ち上がる。

 

「訂正しろ! 私は違う。買ったのはイリナだ。つまりイリナが阿呆だ」

 

「何言ってるのよ! この絵の良さが分からないゼノヴィアの方が阿保に決まっているでしょ!」

 

「何だよ!」

 

「何よ!」

 

 ガルルルル、とまるで唸り声を上げるかのごとくにらみ合う二人。

 

 火に油を注いだのは俺だけど、こいつ等空腹の所為で苛立っているんじゃなくて、単純にお互いが嫌いなだけなんじゃねえの?

 

 とはいえ、このままにしておくのもあれだな。

 

「ほら二人とも落ち着け。こんな所で騒いでいたら他のお客さんに迷惑だろうが」

 

 いがみ合う二人の前に手を出して落ち着かせる。

 

 取り敢えず納得したのか、二人とも席に座りなおした。

 

「しっかし、お前らも凄いねえ」

 

 一先ず話題を絵から逸らそう。

 

「む、何がだ?」

 

「任務の事だよ。聖剣を奪還するので、お前ら二人だけなんだろ? 俺は堕天使には中級クラスしか会ったことは無いが、コカビエルってやつは相当な手練れだろ?」

 

 中級クラスならこいつ等のどちらかが出向けば瞬殺だ。ただ、上級クラスとなると、随分と違ってくる。

 

 他がどうなのかは分からないが、ライザーより上だろうし、こいつ等二人では厳しいとかそういうレベルじゃないと思うけど。

 

 しかも――。

 

「しかも、教会の裏切り者も始末しないといけないから大変だよなー」

 

 俺が軽く言うと、二人は目を細める。

 

「……何故、その事を知っている?」

 

 いらぬ警戒を与えたのか、二人とも臨戦態勢一歩手前まで来ている。

 

 イリナは擬態させた聖剣に手を当てている。

 

 ありゃりゃ、もしかして俺が堕天使と繋がっていると思われた? そりゃあ不味いねえ。誤解は解いておかないと。

 

「いや、考えれば分かる事だろ? 聖剣ってのは教会側にとっては切り札の一つ。そう簡単に盗られるほど警備を緩くは無い。であるならば、誰か堕天使と通じているヤツがいるはずだ」

 

 いくら堕天使でも保管場所を細かくは知らないだろう。なら教会に裏切り者がいて、そいつがコカビエルに情報を与えたんだろう。

 

 堕ちた天使に寝返るとは。そいつは、こいつらと違って神様に対する信仰が無かったんだな。

 

 俺の言葉に納得してくれたのか、二人は落ち着いてくれた。

 

「君のところの下僕、私が戦った彼、聖剣計画の生き残りなのだろ?」

 

「ああ」

 

 別にここで隠すことでもないし、恐らくこいつらはもう確信を持っているんだろう。

 

「あの計画は我々の中でも特に異端とされている。当時、計画の首謀者となっていたモノは異端の烙印を押されて教会を追放された。現在は堕天使側の人間だ」

 

「首謀者……」

 

「名はバルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ」

 

「……嫌な異名だな」

 

 少なくとも信仰深い信者が付けられる異名じゃあ無いな。

 

「そいつがエクスカリバーの事をコカビエルに伝えたのか」

 

「恐らくは」

 

「今更だが、エクスカリバーを盗んでどうする気なんだコカビエルは? 堕天使にとって聖剣は使えるのか?」

 

「使うには使えるが、恐らく君たちと同じで興味は無いはずだ」

 

「ただ、盗んだコカビエルは堕天使の中でも非常に好戦的な性格だと聞いているわ。それも原因していると思う」

 

 成程、ね。多分、コカビエルは戦争をやりたいんじゃないかな。昔の三大勢力による戦争。

 

 けど、そうなると一番困るのは俺たちだよな。四大魔王は新しいヒト達――つまりサーゼクス様たちが継いだが、その下の上級悪魔七十二柱はその半数が断絶し、配下の軍団もほぼ全滅。攻められたら一番に滅びそうだな。

 

 とはいえ、今回は教会と堕天使の問題。俺たちが首を突っ込めん。というか、リアスが突っ込ませてくれないだろう。

 

 ふと、時間を確認すると、もう一時間以上ここにいた。

 

 そろそろ出るか。いい加減祐斗も探さないといけないし。

 

「じゃあな。俺はここいらで失礼するよ。ま、成功を祈っているよ。住んでいる町で何かやられても困るし」

 

「悪魔の君に祈られても正直困るね」

 

「違いない」

 

 俺は笑いながら伝票を手にレジへと向かった。

 

 

 

 …………会計がギリギリセーフだったのは本当に運が良かったとしか言いようが無い。




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やばいな……

バイトが見つからん……まじどうしようか。


それはそうと、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているのか?」遂にアニメ化決定やったー!

ファンとしては嬉しい限りです。




「じゃあ、行ってきまーす」

 

 そう言って、一誠は家を出る。

 

 アーシアと共にあいつを見送る俺の心中はため息を付きたくなるのを抑えたい程だ。

 

 祐斗が発見出来ず、ケータイに連絡しても反応が無いのでどうしたものかと思っていた矢先の事だ。一誠がコソコソと動き回り始めたのは。

 

 一誠の他にも小猫、それとソーナの所の匙君も一緒になって最近何かをやっているようだ。

 

 ……まあ、十中八九エクスカリバー絡みの事についてだよな。

 

「どうするよリアス。下手に首突っ込んでいい問題じゃ無いぜこれ」

 

 部屋に戻った俺は、リアスと話す。

 

 ベットに座っていたリアスはため息を付く。

 

「全くだわ。アーシアの時の様に一部の中級堕天使が騒ぎを起こしたなら、止めなかったかもしれないけど、今回は相手が悪すぎるわ」

 

「コカビエルか。幹部となると堕天使の組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』が黙っていないか?」

 

「トップのアザゼルがその気が無くとも、そういう風に受け取られるかもしれないわ。流石に私の一存では難しいわね」

 

 悪魔という種全体となると、リアスでも流石に難しいよな。リアスは次期当主とはいえ、まだ『次期』だ。権力も全然持っていない。

 

「サーゼクス様に相談したほうが良いんじゃね?」

 

 リアスの兄で、四大魔王の一人であるサーゼクス・ルシファー様。妹のリアスの事を可愛がっているあのヒトなら何とかしてくれるのではないだろうか。

 

 しかし、俺の言葉にリアスはそっぽを向くのだった。

 

「……お兄様の力は借りないわ」

 

 はい? 

 

「どうしたリアス? 別に今回はお前個人としての問題でもないから魔王であるサーゼクス様に要請しても何にも問題ないだろうが」

 

 結構上が絡んでいるからサーゼクス様が収めたとしても何も問題が無いはずだ。使える手は何でも使っておかないとな。

 

「いやよ」

 

 まるで子供みたいにそっぽを向くリアス。

 

 ええい、何がどうなっている。そっぽを向くリアスを見て思わず可愛いなとか思いながらも、俺は原因を考える。

 

 つってもサーゼクス様と知り合ったのはこの間のこいつの婚約パーティーだから……ああ。

 

 そこまで考えて俺は漸く気づく。

 

「リアス、お前サーゼクス様に迷惑を掛けたくないんだな」

 

「…………」

 

 無言は肯定と取るぞ。

 

 けど、まあそうか。婚約パーティーでもサーゼクス様の根回しによってリアスや俺にお咎めが無かったのだ。自分の我がままを通したリアスにとってはこれ以上サーゼクス様に迷惑を掛けたくないんだろう。

 

 俺としてもその件に一枚噛んでいるから強くは言えん……。

 

 俺はベットに腰かけているリアスの隣に座る。

 

「あーまあ何だ。お前の気持ちも分からんでも無い。けど、本当に俺たちの手に余る状況になっちまったらサーゼクス様に頼ろう。それでいいよな?」

 

 これが最低限の妥協ってヤツだ。リアスの意地でとんでもない事になったらやばいからな。

 

「……分かったわ」

 

 良かった。リアスの奴も納得してくれたか。

 

 さて、後の問題は一誠達と祐斗だな。あいつはまだかな……。

 

 コンコン。窓を叩く音がする。

 

 窓の方を見ると、カーバンクル――ルベルが窓を叩いていた。

 

「お、戻ったかルベル」

 

 窓を開けてルベルを入れてやる。

 

 部屋に入ったルベルは俺の肩に乗ると、すり寄ってきた。

 

「早速だが、祐斗は見つかったか?」

 

 ルベルに尋ねる。

 

 ゼノヴィアたちと別れて散々探し回っても祐斗の影すら見えなかった。どうも隠れながら行動しているみたいだと感じた俺は、使い魔のルベルを使って祐斗を探すことにしたのだ。

 

 幸運を司るルベルならラッキーもあり得るだろう。

 

 そう思ってルベルに頼んだのだが、結果は上々だったらしい。

 

 ぶんぶんと首を縦に振るルベル。

 

 そして、更に何かを伝えたいのか、身振り手振りしてくる。

 

「……すまん、必死に何かを伝えたいのは分かるのだが、ぶっちゃけ分からん」

 

 いや、ホント必死なのは分かるんだ。しかし、いくら俺が悪魔として様々な言語が分かる特性を持っているからと言っても、言葉が分からないと――。

 

「祐斗とイッセーたちが一緒に居るのね?」

 

「分かるの!?」

 

 うそーん。

 

「逆に聞くけど夏蓮は分からないのルベルの伝えたいこと。それでも主なの? 全くもう」

 

 ねえ、等と、ルベルとやっているリアス。

 

「え、あ、いやすんません」

 

 取り敢えず謝っておく。

 

「イッセーと祐斗が一緒に居ると言う事は何かをしているのね。今の祐斗がしているとすれば……まさかあの子たち!」

 

 顔を顰めると、直ぐに魔方陣を展開するリアス。

 

「朱乃? 聞こえる。直ぐにこっちに来て頂戴。イッセーたちがどうも行動を起こしてしまったみたい。今すぐに向かうわ」

 

 え、一誠の奴ら祐斗と一緒にいるのか? 何で俺たちに報告しない。

 

 ちょっと待て。一誠たちは祐斗の為に行動をしていた。小猫や匙君何かだな。

 

 で、祐斗と一緒という事は既に何かを始めていると言うわけだ。

 

 何かって? エクスカリバー破壊だよ。それしかない。

 

 ……あ、あいつ。リアスに手出し無用って言われてのを一日で忘れたのかーーー!

 

 ええい、さっさと向かって止めねば。あの訳わからん二人に何を言われるか分かったもんじゃない!

 

「夏蓮、直ぐ行くわよ!」

 

「了解!」

 

 取り敢えず、あのバカをしばく。

 

******

 

 結局のところ、俺たちは間に合わなかった。

 

 俺たち――ソーナたちも一緒に――が駆けつけたときは既に事が終わった直後だった。

 

 その場に残っていたのは一誠、小猫ちゃん。後は匙君の三人だけだった。

 

 残っていた奴らに問い詰めたところ、やはり一誠たちはエクスカリバー破壊に動いていたそうだ。

 

 祐斗の無念をせめてエクスカリバーの一本でも破壊することで晴らしてやりたかったそうだ。

 

 それで先ずゼノヴィアたちに接触し、エクスカリバー破壊の手伝いを申し出たそうだ。

 

 どうやら俺があの二人に飯を奢っているところ見て、俺が出たのを見計らって二人に接触したそうだ。

 

 あの二人に飯を奢ったのを聞いたリアスは俺の方を睨んできたが……。おのれ一誠め。後で覚えておけ。

 

 そして、無事に許可を貰って祐斗と合流。エクスカリバー捜索に入ったそうだ。

 

 それにしても祐斗め。俺からの連絡は完全に無視して一誠からの連絡は聞くとは……後輩として何たる不遜。あいつにも後で仕置きだ。

 

「一誠は分かるけど、小猫ちゃんはなんで協力したんだ?」

 

 この子は考えていることが良く分からないけど、それでもリアスに迷惑をかけるような行為はしない筈だ。

 

 俺の質問に、小猫は俯きながら言った。

 

「……祐斗先輩がいなくなるのは嫌です」

 

「む……」

 

 それを言われると少し痛いな。

 

「小猫ちゃん、その気持ちは俺たちグレモリー眷属全員の気持ちだ。だからこそ、もっと俺たちを頼って欲しかったな」

 

 まあ、今回の件は流石に止めたと思うけど。

 

「……夏蓮先輩」

 

 俺の事じっと見つめる小猫。

 

 何か妙に気恥ずかしいな。ちょっと恥ずかしい事言っちまったし。

 

「そうよ小猫。私だって祐斗を手放す気は無いわ。あの子は私たちの家族なのだから」

 

 リアスが優しく小猫に言う。

 

 家族かどうかは俺には分からないが、俺は祐斗の事は後輩としても、同じグレモリー眷属としても助けてやりたいと思う。

 

「あれ? てか肝心の祐斗はどこ行った?」

 

「それが、フリードの奴らをゼノヴィア達と一緒に追って行って……」

 

 一誠の言葉に、俺は思わず頭を抱えそうになった。

 

 いやいやいや、祐斗お前は何考えているだ。相手は堕天使の幹部がいるんだぞ。あいつらもなんて軽率な。

 

「ん? フリード? あの腐れ神父が何でここで出てくるんだ」

 

「フリードのヤツがエクスカリバーを使っていたんだよ。『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』て言う、自分の速度を速めるやつだった」

 

 速度、厄介だな。俺の目で追いきれるかどうかが鍵だな。スピード重視とはいえ、聖剣だから生身で喰らうのは不味いだろうなあ。

 

 てか、あの神父まだこの町にいたのか。あの野郎は害虫と同格みたいなもんだから、早々に駆除した方が良いだろうしなー。ああ、面倒だ。

 

「兎に角、二人ともしっかりと反省はしてもらうわよ。そこで自分は関係ないですーみたいな顔をしている夏蓮も」

 

「ふぁっ!?」

 

 突然の事に思わず変な声を出してしまう俺。

 

「ちょ、ちょ、待ってくれ! 何で俺まで!?」

 

 納得いくか! 今回は俺は何もしていないぞ!

 

「あなた、あの二人に食事を奢った何て一言も言っていないじゃない」

 

「え、いや、その……」

 

 リアスの半目の睨みに、思わず背筋に冷たい汗が流れてしまう。

 

「ほ、ほら。別に何もやましい事は無いぜ?」

 

「ならさっさと報告すれば良かったじゃない」

 

 はい、ご尤もです。

 

「いやあ、あれだよあれ。まさか、飯を奢っている現場を一誠たちが見ているなんて思いもよらなかったんだ。だから――」

 

「正座」

 

「あ、はい」

 

 情景反射で思わず正座する。

 

 てか、しまったーーーーー!! くそう、こないだのが体に染み付いてしまったのか! ええい、俺はこんな事で挫けないぞ!

 

「リアス――」

 

「……何かしら」

 

「いえ、何でもありません我が主(マイマスター)

 

 やばい。やばいよ。何あの目。絶対零度ってあれの事言うよね。漫画とか小説でよくあるヤツだよ。実際にあるなんて俺初めて見たよ! 怖いよ!

 

「あ、兄貴? どうしたんだ、体が異常なまでに震えているぞ?」

 

「え、え、な、何でも、無いぞ?」

 

「いや、めっちゃ震えているぞ!? 誤魔化しきれないほどに!」

 

「……ビビり過ぎ」

 

 そ、そうだよな。なんで俺はこんなに、ビビッて、いるんだ? 別に、リアスなんて怖くなんか……。

 

「……なあ、小猫ちゃん兄貴一体何があったのかな? 部長にあそこまで怖がっているなんて。てか、部長も兄貴に怒り過ぎじゃね?」

 

「……確かに」

 

「あらあら、夏蓮があそこまで怖がっているのは分かりませんが、部長のは単純ですよ」

 

「え、そうなんですか?」

 

「ええ、単に自分に隠し事をしていたのが気に食わないだけですわ」

 

「隠し事? ああ、あの二人に食事を奢った事をですか? けど、そんだけの事で……」

 

「……嫉妬」

 

「乙女心は複雑というものですわ」

 

「そんなもんですか……」

 

 後ろで三人がコソコソと話し合っていたが、生憎リアスが怖すぎて俺は何にも聞こえない。

 

「…………」

 

 無言があまりにも怖すぎる。

 

 ……仕方ない。ここは、お師匠様直伝の()()を使うしかない!

 

「リアス!」

 

 俺は立ち上がり、リアスの手を取る。

 

「え、ちょ、夏蓮!?」

 

 突然の俺の行動に驚いたのか、リアスは顔を赤く染めていた。

 

「済まないリアス。隠し事をしていたのは謝る。本当にごめん。けど、お前に心配を掛けたくなかったんだ」

 

「え、え」

 

「教会の二人に遭遇したら何が起こるか……そういうのも危惧して、俺たちに接触するなって言っていたんだろう? お前の心配はよーく分かる」

 

 うんうんと、納得するように頷く俺。

 

「だけどさ、あの二人、本当に困っているようだったんだ。あそこであいつらを放っておいたら、俺が後味悪くなっちまうし」

 

 これは本当だ。あそこでそのまま去っていたら、自分でも後悔する気がする。

 

「俺のお師匠様が言っていたんだ『後悔すると分かっているならばしっかりとやれ』ってな」

 

「へ、へえ。素敵な言葉ね」

 

 目を泳がせながらそういうリアス。

 

 行ける。俺は確信した。

 

「だからこそ、本来ならばやっていけないことなんだが、あそこで空腹で倒れている()()()を見捨てるには――」

 

 ビキリ、と。何かが割れるような音が聞こえた。

 

「女の子……?」

 

「え、あれ」

 

 あっれー? 選択ミスったかな?

 

「そう……夏蓮は女の子なら誰彼かまわずに助けるのね……ふーん」

 

「え、いや、そういうわけじゃ……」

 

「そういうわけに聞こえたけど……」

 

「俺も」

 

「……私も」

 

「あらあら、じゃあ私も」

 

「黙らっしゃい! 朱乃はなんだそれ! 便乗するな!」

 

 おいおい、どうなっている!? 何故だ! どこで間違えた。

 

「かーれーんー」

 

 地獄の底、冥界から聞こえてきそうな冷たい声。

 

 見たくない。心からそう思う。

 

 だが、ここで見ないとどうせ見る事に……! ならば――!

 

「男は度胸――って怖っ!」

 

 いや、だって、リアス何か巨大なオーラを体から発しているよ! 手から出る滅びの魔力がバチバチって音ならしているぞ!? 何あれ怖い!

 

「覚悟は良いかしら?」

 

 気づけば、リアスの手が俺の手から離れており、リアスは数歩下がったところで俺の前に立っていた。

 

「何の覚悟、でしょうか?」

 

 精一杯――ひきつった――笑みを浮かべながら俺はリアスに聞く。

 

 対してリアスはニッコリと笑うとこう言った。

 

「――お仕置きタイムよ」

 

 俺の尻は、しばらく感覚が無くなった事だけは言っておこう。




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必ずだ

最近、思ったように作品が書けない……四苦八苦しながらですが、頑張っていきたいと思います。


『ねえ人って死んだらどうなるのかな?』

 

 常日頃から突拍子に訳わからない事を聞いてくる奴だった。

 

『……突然何だ急に』

 

『いやあ、さあ。こないだ猫の死体を見つけちゃって。で、触ってみたらピクリともしないわけよ』

 

 ニコニコと笑っている彼女は表情と言葉が全然一致していない。

 

『お前、そんな事してたのか? 何やってんだか……』

 

 思わずため息を付いてしまう。

 

『あー何ため息ついてんの! ムカつく』

 

『訳わからん』

 

 突拍子の無い事を言うのはいつもの事だが、今回は群を抜いている。

 

『死んだらどうなるかって……? そんなもん、そこで終わりだろうが』

 

『? どうしてそう思うの?』

 

 キョトンと首を傾げてくる。

 

 それに少し可愛いなと、思いながら俺は答える。

 

『そもそも、死んだら生き返らない。だったら死後の事なんて誰にも確かめる事なんて出来ないだろうが。つまり、生きている者にとって死んだらそこで終わりって訳さ』

 

 死んだら、もう何もその人に出来る事は無い。それは俺自身、一番体に染みついていることだ。

 

 だが、こいつは俺の答えに納得しなかったようだ。

 

『えー私はそうは思わないな』

 

『何で』

 

『だって、死んだらそこでおしまいって誰が決めたの? 神様?』

 

『いや、そういうわけじゃ……』

 

『じゃあ決まりね。死後の世界は誰にも分からない。よし決定!』

 

 本当に訳が分からない。つか、何でお前が決めるんだよ。

 

『はあ……』

 

『なーにため息ついているのさ。折角の幸運が逃げてしまうぞ?』

 

『何の幸運だよ』

 

『私と付き合っていると言う幸運』

 

 ドヤ顔で言い切ったぞこいつ。何てヤツだ。

 

『アホくさ。どんな幸運だ』

 

『えー幸運でしょー」

 

 後ろから抱き付かれる。

 

『引っ付くな』

 

『ねえ、幸運でしょー? ねえねえ』

 

 だーもー! うるせえ!

 

『この……!』

 

 力を込めて腕を外そうとするも、ビクともしない。

 

 相変わらずの馬鹿力め……この!

 

『ふふふふ、君では外れないよ夏蓮君』

 

『やかましいわ!』

 

 が、言葉通りどうしても外れない。本当に女かこいつ?

 

『あはははは――大好きだよ、夏蓮君』

 

 その言葉に、俺は思わず手を緩める。

 

『あれ、何? 顔が赤くない?』

 

『赤くない』

 

『うっそだー。赤いよ』

 

『赤くないと言っている』

 

『赤いよ!』

 

『赤くない!』

 

 顔が赤いか赤くないかで言い争う一応の恋人。

 

 今思えば、この頃は割と楽しかった。毎日が充実していたと思う。

 

 そう思えるような日々だった――。

 

******

 

 夜、リアスのお仕置きで痛む体を気にしながら寝ていると、外から殺気を感じた。

 

「……やだね」

 

 心からそう思う。あれだな。寝ているときでさえ敵は待ってくれないか。奴らはいつ寝ているんだよ。もっと休めっての。

 

 とまあ、四の五の言っていても仕方ない。さっさと準備しますか。

 

「本当に無粋ね……」

 

 一緒に寝ていたリアスがため息を付きながら魔力で服を着替える。

 

 良いな。俺も後で教えてもらおう。

 

 家の外に出ると、そこには白髪の神父がいた。

 

「……フリードっ!」

 

 一誠が忌々しそうにその男の名を口にする。

 

「やっほーイッセー君! 夜分遅くにごめんね! お楽しみの真っ最中だった? そこのお兄さんもハッスルしまくりだった!?」

 

「うるせえ」

 

 久しぶりに聞いたが、この男の軽口はマジでどうにかならないかな。

 

 てか、こいつの事は祐斗たちが追いかけていたはずだ。この男が無傷でここにいるって事は……。

 

「――探し物はこいつか?」

 

「っ!」

 

 上空から声。直ぐさま顔を上に上げる。

 

 すると、視界に何かが覆った。

 

「え? っておお!?」

 

 落ちてきたそれを俺は慌ててキャッチする。

 

 転びそうになったが、何とか踏ん張る。

 

 そして、腕の中のヤツを見て絶句する。

 

「イリナ――!?」

 

 俺の腕の中に居たのは傷だらけになった紫藤イリナだった。

 

 瞼は力なく閉じられており、全身も傷だらけ。血の量が半端じゃない。

 

「っ! アーシア!」

 

 直ぐ様アーシアを呼ぶ。

 

「は、はい!」

 

 アーシアが慌てて駆け寄り神 器(セイクリッド・ギア)で治療を始める。

 

 イリナはアーシアに任せて俺はイリナを落としてきたヤツを睨み付ける。

 

 空に浮かんでいたのは堕天使。ただし、俺が会ったレイナーレと格が違うのが直ぐに分かった。

 

 翼が十枚。何より、ヤツのオーラが半端じゃない――!

 

 間違いないな。こいつが――。

 

「コカビエルか……!」

 

 堕天使幹部の一人。かの三大勢力の戦争を生き残った猛者の一人。

 

「ほお、一目で俺だと分かったか。下僕にしては良い目をして……いる?」

 

 口元で笑みを浮かべながら堕天使……コカビエルはこちらを向きながらしゃべり、そして俺の顔を見た瞬間に目を大きく見開く。

 

「……?」

 

 リアスも突然のコカビエルの反応に首を傾げていた。

 

 かくいう俺もそうだ。

 

 何か、この反応、前にもあったな。そうだ、グレイフィアさんだ。あの人と初めて会ったときも俺の顔を見てコカビエルみたいに動揺していた。

 

 一体全体何だって言うんだ? 俺の顔がそんなに可笑しいのか? 訳わからん。

 

「……くは」

 

「あ?」

 

「ハハハハハ! ハッハッハハハハハハハハ!!」

 

 笑う。コカビエルが。狂ったように。

 

「そうかそうか! やはり生きていたのか! 可笑しいとは思っていた! あの男がそう簡単にやられる筈が無いと! こんなの所に隠していたのか! くははははははは!」

 

「……何を言ってるの?」

 

 コカビエルの行動に、リアスはそれしか口に出せなかったようだ。

 

 かくいう俺も言葉を失っている。

 

 この男は俺を知っているのか? でも、俺にはこんな奴の知り合いは……。

 

「魔王の妹よ! 面白いぞ、実に面白いぞ! この極東の地でまさかこのような出会いがあるとは! いやはや、運命という奴かなこれは!?」

 

「さっきから何を言っているの貴方は!」

 

 激昂するリアスを無視して話を進める。

 

「あいつの横やりもこれが原因か! クハハハハ! こんなに愉快な気持ちになったのは何時以来だ!?」

 

 笑う。狂ったように笑うこいつに、俺は気味悪さすら感じるようになった。

 

 何なんだ。俺は一体何だっていうんだ! 俺は、俺は……。

 

 ――誰なんだ?

 

 

 そんな事が脳裏をよぎる。

 

 数年の全くない俺の記憶。顔も覚えていない父親。母の最期。

 

 知っているのかこの男は? 俺の過去を、俺の知らないことを。

 

「おい、お前! 何か知っているのか!?」

 

 聞きださないといけない。やっと分かるかもしれないんだ。俺の昔が。俺の知りたかったことが!

 

「リアス・グレモリーよ! 今回の事は前座程度でしか無かったが、興が乗った! 今から駒王学園に来い! 面白いものが見れるぞ!」

 

 それだけ言い残し、コカビエルはさっさと俺たちの学校方面に飛び去っていく。

 

「んー何かよく分かんないけどじゃあねイッセー君!」

 

 フリードの奴も直ぐ様コカビエルの後を追う。

 

「…………」

 

 後に残ったのは、押し黙る俺とリアス。そして気まずそうにしている一誠とアーシアだ。

 

「……行くわよ」

 

 それだけ言うとリアスは踵を返して歩き出す。

 

 前髪に隠れてよくわからなかったがその表情はよくわかる。

 

「兄貴……」

 

 一誠が心配そうに俺に近づいてくる。

 

「大丈夫だ……あのコカビエルには聞きたいことが出来た。戦う理由が出来た。それだけだ」

 

 指を鳴らしながら俺は笑う。

 

 ああ、今日は良い日になりそうだ。こんな所で俺の知りたかった事が分かる。こんなにも喜ばしい事は無い。

 

「くは、はははは」

 

 さあ、行くぜ。

 

******

 

 途中で朱乃や小猫と合流した俺たちは駒王学園正門に到着していた。

 

 祐斗とは連絡がまだつかない。まあ、あいつがそんなに簡単にくたばるとは思えないが……。

 

 イリナはアーシアの治療の甲斐もあって何とか持ち直したそうだ。現在はソーナの家で治療を受けているそうだ。

 

 さて、俺たちの目当てのコカビエルは現在グラウンドのいるそうだ。

 

 例のバルパーってやつも一緒に居るらしく、グランドで何か準備を始めているそうだ。

 

 先ず、碌な物ではないだろう。その事を踏まえてもコカビエルと戦うには現在の俺たちでは戦力不足。

 

 そこで朱乃はリアスに内緒でサーゼクス様に救援の要請をしたと言う。

 

 当然、リアスは怒るが、朱乃の正論にぐうの音も出ず引き下がった。

 

 サーゼクス様の援軍は一時間で到着すると言うが、その間コカビエルが何もしない筈が無い。

 

 ソーナの眷属は学園全体に結界を張る為に動けない。よって俺たちが動くことになった。

 

「しっかし、俺たちって結構堕天使と縁があるのかね」

 

「いきなり何だよ兄貴」

 

 グランドに向かう途中、俺は思わず口に出す。

 

 隣を歩いていた一誠に俺は言う。

 

「いやさ、俺たちって堕天使に殺られて悪魔になったわけじゃん? で、そいつらブッ飛ばしたら今度は堕天使の幹部が来た。俺たちって堕天使に好かれる性質なのかね?」

 

「やめてくれよ! 考えただけでもおぞましいぜ。俺は女の子に好かれる方が良いよ!」

 

「俺だって堕天使と女の子だったら女の子の方が良いさ」

 

 一誠と二人で軽口を言い合っていると、朱乃が後ろを振り向いてきた。

 

「夏蓮君はやはり堕天使が嫌いですか?」

 

「ん?」

 

 どこか暗そうに言う朱乃。

 

 その様子に内心首を傾げつつ俺は答える。

 

「うーん、堕天使そのものが嫌いってのは違う気がするな。それこそ、人種的な差別と同じになっちまうし。まあ、俺は基本的に堕天使とは敵対関係でしか会った事が無いから上手く言えないけど」

 

「そう、ですか」

 

 どこかほっとしたような様子を見せる朱乃。

 

 はて、堕天使の知り合いでもいるのだろうか? まあ、よくわからないが。

 

「おしゃべりはそこまでよ」

 

 リアスがそう言い、前を見ると、既にグランド前までたどり着いていた。

 

「夏蓮、イッセー。二人はこの場でプロモーションを」

 

「了解」

 

「はい!」

 

 それぞれ答えて俺たちは女王(クイーン)に昇格する。

 

 そして俺は神 器(セイクリッド・ギア)を展開する。

 

 『灼 銀 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』の柄の部分に埋め込まれている宝玉が光ると同時に声が聞こえてきた。

 

『フェニックスの次は堕天使の幹部ですか。貴方はつくづく奇妙な縁に好かれているようですね』

 

 リンドヴルムがどこか可笑しそうに言ってくる。

 

 やめてくれよ。心当たりが多すぎて笑えねえ。

 

『ですが、これもまたあなたにとって新たな試練と取って良いでしょう。良い事です』

 

 試練ねえ。まあ、ある意味試練ともいえるかな。

 

『?』

 

 だってよ、漸く俺の過去が分かりそうなんだぜ? これで失敗すれば俺は多分、自分の過去への道をもうつかめない気がするんだよ。

 

 だから、このチャンスを逃すつもりは――ない!

 

『…………そうですね』

 

 ああ、だからお前の力も貸してくれよリンド。

 

『はいって、リンド?』

 

 ああ。リンドヴルムって長いじゃん? だから略してリンド。

 

『はあ、まあ、構いませんけど。……略されて呼ばれたのは初めてですね』

 

 何やらため息を付いているリンド。はて、どうしたのだろうか。

 

 さあ、入ろうか。久々に戦闘だ。腕が鳴るぜ!




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負けるか――!

「はーははははは! どうした小僧! 全然攻めてこないではないか!」

 

「っ!」

 

 哄笑しながら極太の光の槍を何本も打ち出してくるコカビエル。

 

 俺は翼をはためかせながら何とか躱していく。

 

 ええい! 面倒な。おいリンド本当にこの光の槍は吸収出来ねえのか!

 

『難しいですね。あれくらいになると今の貴方ではエネルギーを吸収しきれなくてダメージを負いかねません。悪魔にとって光は天敵。それは分かっているでしょ?』

 

 そりゃあな! ああもう、悪魔にとって光はダメージが大きいけど、堕天使には弱点らしい弱点が無いんだよな。

 

 悪魔には弱点があって、堕天使には無いって何か不公平だ。ずるい。

 

『ずるいって……子供ですか貴方は』

 

 呆れたように言うリンド。

 

 だってよー。そうじゃん? 俺はそう思う。

 

「おわっ、と」

 

 リンドと話していると、再び目の前を光の槍が飛び去って行った。

 

「ふはははははははは!! どうしたどうした!」

 

 うぜえなあの堕天使。リアスたちは……。

 

「まだ戦っている最中か……」

 

 見ればケルベロスに少し苦戦しているようだ。

 

 流石は地獄の番犬。俺のペットに一匹欲しいかな……いや、やっぱ欲しくねえ。あんなにデカいと飼うのが無理っぽいし。エサ代だって馬鹿にならないだろう。

 

 まあ、あの面子なら大丈夫だろう。それに、こちらに近づいてくる気配が二つある。あいつらが来るなら何にも心配いらないだろう。

 

 というか、今更だけど何で俺ってコカビエルと一人で戦っているんだろう。

 

 確か、校庭に辿り着いたらバルパーのヤツがエクスカリバーを使ってこの町一帯を吹き飛ばす術式を作っていたんだよな。

 

 で、それを止めるにはコカビエルを倒さないといけないという何とも無理ゲーに近い状況で、それでもやるしかないと言う事で、いざ戦おうとしたら、コカビエルがある提案をしたのだった。

 

『俺と戦ってみるか?』

 

 突然の俺指名での戦いの申し出。

 

 これにはリアスも驚いていた。

 

 普通なら断るべきだが時間が無かった。あの術式が完成するまでにあと一時間程度しか無いらしい。

 

 丁度サーゼクス様が来る時間帯だ。かなりギリギリである。

 

 俺は、勝負に乗ることにした。禁 手(バランス・ブレイカー)なら、死にはしないだろう。

 

 つーか、コカビエルは間違いなく俺を知っている。これではっきりとした。

 

 普通自分より格下の奴に戦いを挑むなんてそう無い。奴は俺に興味を持っている。かなり強いな。

 

 この戦いでそれを聞き出せるかどうかがカギだな。

 

「はああああ!」

 

 剣に魔力を乗せてそのまま斬撃として飛ばす!

 

「ほう! 面白い方法だ。だが、甘い!」

 

 そう言ってコカビエルは手で軽々と弾き飛ばす。

 

 それなりの魔力を込めたと思ったんだがな! やっぱそう上手くはいかないか。

 

 俺は高速でジグザグに飛びながらコカビエルに詰め寄る。

 

 光の槍を躱しながら俺は奴の懐に入ると、そのまま剣で斬りつける!

 

 しかし、コカビエルも素早く反応し、光の剣を作り出し、俺の剣を受け止める!

 

「ちいっ!」

 

「クハハハハ! どうした、その程度の実力か!」

 

「誰が!」

 

 鍔迫り合いながら俺は左手を奴の腹部に打ち込む。

 

 コカビエルも直ぐ様片手で受け止める。

 

 ――かかった。

 

「展開!」

 

 俺の掛け声と同時に、左手のギミックが発動し、龍の口がコカビエルに噛み付く!

 

「ぐあっ!」

 

 これには流石にコカビエルも苦痛の声を上げた。

 

「まずはその腕を貰うぞ!」

 

 俺は直ぐに砲撃のチャージを始める。

 

 しかし。

 

「馬鹿め。そんな物待つはず無いだろう」

 

 その言葉と同時に、噛み付いているコカビエルの腕に光が集まる。

 

 っ! しまった!

 

 リンド! 口を外して――!

 

「遅い!」

 

 刹那、龍の口から眩い光が溢れると同時に左手に物凄い激痛が走る!

 

「く、そ!」

 

 腕を外して距離を取る。

 

 痛む腕を右手で押さえる。

 

 やばいな……流石に不味い。

 

 見ると、左腕の鎧も解除されて爛れた皮膚が露わになっている。

 

 うは、やば。鎧が無かったら左腕無くなっていたんじゃねえ? ほんと、ゾッとしないな。

 

「っ!……マジかよ」

 

 左腕を見ると、少しだが、煙を出して傷が広がりつつある。

 

 マジかよ。これはヤバいか……?

 

「夏蓮、一旦戻りなさい! アーシア、夏蓮の治療を!」

 

 俺の状況を見てやばいと判断したのか、リアスは大きな声を上げる。

 

 だな。これはさっさとアーシアの治療を受けたほうが早い。

 

 俺は素早くアーシアの元に降りる。

 

 途中、コカビエルの追撃があるかと思ったが、奴はニヤニヤと気味悪く笑っているだけだった。

 

 ハッ! 成程、追撃する必要も無いってか。良いだろう。その自慢、圧し折ってやる。

 

「夏蓮さん! 早く!」

 

 アーシアの元に降りた次の瞬間だ。

 

『グアアアアアアア!!』

 

 咆哮と共にケルベロスの一体がこっちに向かってきた!

 

「いぃ!?」

 

「きゃあ!」

 

 やば! 油断した。くそ、間に合うか!?

 

 俺は魔力の弾を撃ちだそうと右手を突き出す。

 

 しかし、突如、左腕が再び痛み出す!

 

 おいおい、ここに来て!

 

 一瞬、魔力の生成がぶれて、気が付けば既にケルベロスは俺たちの目の前まで来ていた。

 

 くそ、ミスった。ええい! せめてアーシアだけでも!

 

 アーシアの盾になるべく前に出る。

 

「兄貴! アーシア!」

 

 一誠の声が響く。だが、この距離じゃ――!

 

 もう駄目かと思ったその時だ。

 

 突如、ケルベロスの下の地面から無数の剣が突き出た!

 

『ギャアアアアン!?』

 

 突然の事に対応できなかったケルベロスは為すすべ無く剣の山の餌食となる!

 

 これは、魔剣群か? なら……!

 

「――お待たせしました夏蓮先輩」

 

 言葉と共に俺たちの前に降り立つ奴。

 

 たく、おせえよ!

 

「祐斗! 遅刻は厳禁だぜ!」

 

 俺の言葉に奴――祐斗は振り向いて苦笑いを浮かべながら言う。

 

「ははは、そこは先輩としての懐の広さをお願いします」

 

「調子の良い事言いやがって」

 

 全く、この後輩は……。

 

「祐斗さん! 無事だったんですね!」

 

 アーシアも感激極まって目じりに涙を貯めていた。

 

「あー、アーシアちゃん? 取り敢えず俺の怪我の治療してくれない?」

 

「は! そうでした! すみません直ぐにやります!」

 

 忘れていたんかい! 思わず突っ込みを入れたくなるが、まあアーシアには勘弁しておいてやるか。

 

 さて、状況は少し好転してきたかな?

 

 見れば、あちらにはゼノヴィアも合流してケルベロスの頭の一つを切り落としていた。

 

 リアスたちも残りのケルベロスを順序良く倒していっている。

 

 行けるか? そう思った矢先だ。

 

「――完成だ」

 

 ケルベロスを全て倒した直後、バルパーの声が校庭に響き渡る。

 

 野郎の方を見ると、奴らが奪った四本のエクスカリバーが徐々に一つに重なろうとしていた。

 

 融合するってか? 七本中四本のエクスカリバーが元に戻るって事か。

 

 眩い光が辺り一帯を覆い尽くすなか、遂にエクスカリバーが一本の聖剣になった。

 

 聖なるオーラの質が一本一本の時より圧倒的だ。四本でこれなんだから七本全て集まった時は一体どうなるのやら。

 

「エクスカリバーが一本になったことで術式が早まった。後二十分でこの町は崩壊するだろう」

 

 っ、なっ!? 馬鹿な! 早すぎる!

 

 おいおいおいおい、マジか! 流石に本気で不味くなってきたぞ!

 

 後二十分!? 短いよ! 

 

「しかも、協力者のお蔭で面白い仕掛けがあるからな。フリード!」

 

「はいな!」

 

 バルパーの呼びかけに応えるフリード。

 

 てか、協力者? 他にもコカビエルに協力しているヤツがいるってか。

 

「最後の余興だ。一つになったエクスカリバーで、こいつらと遊んでやれ」

 

「りょーかーいだぜえ爺さん! 四本が一つって事は俺っちが持つエクスカリバーって最強じゃね!? もしかして俺最強の聖剣使い!?」

 

 ……相変わらずテンション高いなこいつ。

 

 そして、俺たちがフリードに警戒する中、祐斗が一歩前に出る。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残りだ。いや正確には貴方に殺された身。そして今は悪魔となって生きながらえている」

 

 殺意を瞳に乗せながらバルパーを睨み付ける祐斗。

 

 それを面白そうに受け止めるバルパー。

 

 そして奴は語りだした。自分が如何に聖剣が好きなのかを。そして、それを扱えないと分かって絶望したかを。

 

 故に自分は聖剣を使える者達を作ろうとしたと。

 

 だが、バルパーが集めた多くの被験者は聖剣を使えるだけの因子を持っていなかった。

 

 そこで、ある計画を考えた。

 

 因子だけを抜き取って、集めた因子を他の者に移すと言うヤツだ。

 

 そう、祐斗たちも因子を抜き取る為だけに殺されたのだった。

 

「悪魔の俺が言うのも何だが……お前、下種だな」

 

 吐き捨てるように俺は言う。

 

「ふん、本当にそうだな。悪魔の貴様に言われたくは無いな。だがな、教会の奴らは私だけのを異端扱いして、私の研究成果を根こそぎ奪いおった! まあ、ミカエルの事だから被験者を殺してはいないだろうが、結局私とやっていることは変わらんよ!」

 

 まあ、殺すか殺さないの違いだけどな。とはいえ、その一線が大きな境目だとも思うが。

 

「因子を欲しくばくれてやる。どうせ今の私にはもう必要ない」

 

 そういってバルパーは結晶体らしきもの――恐らくその聖剣使いの因子と言うヤツだろう――を祐斗の方に放り投げる。

 

「……みんな」

 

 祐斗が涙を流しながらそれを拾う。

 

 やがて、祐斗の周りに光が集まり始める。

 

 それはやがて人の形を取り始めた。

 

 光が人の姿になる。その多くは小さな子供達だ。

 

「――聖剣計画の被験者。祐斗の、同胞か」

 

 何故死人である彼らがこの場にいるのか。そもそも彼ら本人なのか。それは俺自身は分からない。

 

 だけど、一つだけ分かる事と言えば、彼らは祐斗の為にここにいる。

 

 そして祐斗は懺悔する。

 

 自分だけ助かってよかったのか? 自分だけ幸せな日々を送っても良いのか。

 

 それは、ずっと祐斗が心の中で思っていた事なんだろう。

 

 別段、不思議な事では無い。そう思ってしまう奴の方が多いだろう。その気持ちはほんの少しだが、俺にも分かる。

 

 そして、彼らは本当に分かっていた。

 

 祐斗の同胞たちは次々と祐斗に声を掛けていった。

 

 どれもが暖かく、胸に染みるようだった。

 

 全く、悪魔になってから頭がこんがらがってくるような事が多いぜ。

 

 けど、不思議だな。それを嫌だとは思っていない。

 

『夏蓮』

 

 リンドが語り掛けてくる。

 

『貴方の周りは面白いですね』

 

 ん? どいうことだ。

 

神 器(セイクリッド・ギア)は所有者の思いの強さで様々な形に進化します。それとは別の領域の力があります。貴方にも覚えがあるでしょ?』

 

 ……ああ。そうか、そういう事か。

 

 漸くリンドが言いたかったことが分かった。確かに、今の祐斗なら出来るだろう。

 

『世界のバランスを崩壊させるほどの力すら発揮する事がある。そう――』

 

 リンドが穏やかな声音で続ける。

 

『それが、禁 手(バランス・ブレイカー)です』




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必ず倒す!

人生初めて一年で二回風邪をひきました。しかも一か月程度で。

自分の体の頑丈さには少し自信があったからショックです。皆さんも体には気をつけて。




「あれが祐斗の剣……」

 

 その美しさに俺は思わず目を奪われそうになった。

 

 聖なるオーラと魔のオーラ。その相反する二つの力をあの剣は有している。

 

「――禁 手(バランス・ブレイカー)、『《双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー》』聖と魔、その二つの力を持つこの剣を受けてみるが良い!」

 

 そこからはもう祐斗の独壇場だった。

 

 祐斗の新しい力は本家本元の聖剣をも上回り、圧倒する。

 

 フリードは統合したエクスカリバーの各種能力を使って祐斗を襲うが、その悉くを返す。

 

 すげえな。まだ完全な状態じゃないとはいえ、あのエクスカリバーを圧倒している。

 

「このぉ……ふざけんじゃねえよ!」

 

 激昂するフリード。

 

「ええい! フリード、あの力を使え! 今なら使える!」

 

「合点承知の助!」

 

 バルパーの焦った声にフリードが応える。

 

 あの力? まだ隠し玉を持っているのか?

 

 そして、フリードの体から突如として巨大なオーラが噴出し始める。

 

 何だありゃ! とんでもないオーラだぞ! 下手したら俺たちよりもずっと上だ。

 

「うは! 何じゃこりゃー! めっちゃ力が湧いてきますよ!」

 

 歓喜の声を上げるフリード。

 

「あれは一体……」

 

 俺の戸惑いに応えたのは朱乃だった。

 

「恐らくこの地の地脈のエネルギーを使ったのです!」

 

「地脈?」

 

 また新しい事か。そろそろ嫌になってくるぞ。

 

「地脈とは土地を栄えさせる土地の命そのものよ! それを使うって事はこの土地を死に絶えさせる気!?」

 

 信じられない物を見るかのようにフリードを見詰めるリアス。

 

「土地が死ぬって?」

 

「……人が住めないような荒れ果てた荒野に遠からずなります」

 

 小猫の答えに俺は思わずため息を付いてしまう。

 

 だって考えても見てほしい。コカビエルを倒さないとこの町を破壊する術式が発動するし、フリードをさっさと止めないとこの町が人が住めないような所になる。もう最悪だね。ムリゲーでもここまでの事は無いと思うぞ。

 

 けどまあ。

 

「やるしかないよな」

 

 立ち上がり、拳の骨をポキポキと鳴らす。

 

 リンド、再禁手化《バランス・ブレイク》までの時間は?

 

『後数分で』

 

 なるべく急がせろ。今回はマジで時間が無い。

 

『承知しました』

 

 リンドが短く答える。

 

 禁 手(バランス・ブレイカー)無しであそこに突っ込むのは流石に面倒だな。

 

「おい一誠」

 

 次の策を取る為に一誠を呼ぶ。

 

「何だよ兄貴」

 

「今から倍加の準備しろ。で、ある程度チャージが出来たら譲渡の準備だ」

 

 今の俺たちではコカビエルに届く攻撃は中々無い。

 

 だが、一誠の譲渡あれば、もしかしたら届くかもしれない。

 

「分かった」

 

 一誠もそれが分かったいるようで、直ぐに倍加を始める。

 

 さてと。

 

「先ずはフリードか」

 

 莫大なオーラを撒き散らしながら哄笑しているフリードを見て、俺は目を細める。

 

 ずげえな。地脈のエネルギーってあんなにパワーがあるんだ。ありゃ力だけなら上級悪魔クラスじゃね?

 

「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃはああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 奇声を上げながら祐斗に斬りかかるフリード。

 

「っ!」

 

 祐斗はそれを受け止めるが、その表情は冴えない。

 

 真っ向から受けるのではなく逸らすことで躱していく。

 

「どうしたよどうしたよおおおおお!! 手も足も出ないってか!?」

 

「っ、誰が!」

 

 祐斗も負けず、反撃に出る。

 

「はあ!」

 

 フリード目掛けてそのまま斜めに切断するように斬りかかる。

 

 フリードも負けておらず、体を捻って躱してそのままの勢いで祐斗に横殴りで斬りかかる。

 

 上半身を逸らすことで躱す祐斗。

 

 体を戻す勢いでフリードを突きを入れる。

 

 しかし、フリードもそれを躱す。

 

 そのまま高速で剣戟を交える二人。

 

 早え。どっちも早いな。いや、地脈の力を得てパワーアップしているフリードに付いてこれる祐斗の方が凄いのかもな。

 

 とはいえ、結構戦況は良くは無いかな。

 

 パワーアップを果たしたフリード君にいまだに無傷のコカビエルさん。いやーもう大変ですね。あははははは。

 

 …………。

 

「はあ……」

 

 ため息を付く。思いっきり。

 

「ど、どうしたんですか夏蓮さん?」

 

 アーシアが俺の異変に気づいて聞いてくる。

 

「いや、ただ世の中の不幸を垣間見た気がしてね」

 

「はあ……」

 

 良く分からないと言う顔をしているアーシア。

 

「何訳の分からない事を言っているのよ夏蓮」

 

「リアス」

 

 俺の方に近づいてくるリアス。

 

「夏蓮、分かっているとは思うけど、現在私たちの中で純粋な戦闘能力なら貴方が一番上よ。コカビエルと戦うときは貴方が中心となるわ」

 

「……戦闘能力でなら何となく分かるけど、今の俺たちに必要なのは奴に届く攻撃力だ。そっち方面だと俺は少し自信ないぞ」

 

 一応必殺技として禁手化(バランス・ブレイカー)の左手のギミックがあるけど、あれも十分に力を吸収してから撃った方が良いんだよな。

 

 あまりに格上すぎると、相手の攻撃を吸収しきれないのがこの神 器(セイクリッド・ギア)の欠点だよなー。まあ、その辺は俺が力を付ける事で解消できそうだけど。

 

「あなたの砲撃はエネルギー系の攻撃を吸収するのでしょ?」

 

 リアスが何か確信めいた感じで聞いてくる。

 

「そうだけど」

 

「それは別に相手のものじゃなくてもいいんでしょ?」

 

 っ! そうか、そういう事か!

 

「はは、俺の神 器(セイクリッド・ギア)だってのに、俺より使い方分かってそうだなリアス」

 

 俺がそういうと、リアスが得意そうに笑う。

 

「私は貴方の主よ? 当然でしょう?」

 

 全く、敵わないね。

 

「えと……」

 

 置いていかれたようにしているアーシア。まあ、今のじゃ分かりづらいかな?

 

 さて、フリードの方はどうなっているかな。

 

「……あれ?」

 

 変な光景を見て俺は思わず首を傾げる。

 

 何か、ゼノヴィアが祐斗とフリードの斬り合いに参加している。いや、それは良いんだ。

 

 問題はあいつの持っている剣だ。

 

 エクスカリバーじゃない。何だあの剣? 聖なるオーラを発しているから聖剣なのは分かるけど、量が半端じゃない。まるで、辺り一帯に撒き散らすように発しているぞ。

 

「リアス、あの聖剣何だ?」

 

 俺の質問にリアスは直ぐに答えた。

 

「デュランダルよ」

 

「……え? マジ?」

 

 え、うそ、デュランダル? マジすか!?

 

 デュランダルっていえば、かの騎士ロランが使ったと言う伝説の聖剣。その切れ味は何物にも勝ると聞いている。

 

「あいつ、エクスカリバーの使い手じゃねえの?」

 

「もともとデュランダル使いらしいわ。エクスカリバーはあくまで兼任していたそうよ」

 

 俺の疑問にリアスが再び答える。

 

 はーデュランダル。エクスカリバーみたいに七つ別れたわけじゃないからあっちはガチ物の聖剣か。

 

 リアスが続ける。

 

「何でも彼女は人工的な聖剣使いでは無くて、本物、つまり天然の聖剣使いだそうよ。だからデュランダルに適合出来たと言う話よ」

 

「……やけに詳しいな」

 

 一体いつそんな話を聞いていたんだ?

 

 俺の言葉に呆れたように息を吐くリアス。な、何だよ。

 

「貴方が変な事している最中に彼女が喋っていたわ。聞いていなかったの?」

 

「いや、全然」

 

 なんと、そんな事が。うーん、結構重要な話だった気がするな。勿体ない。

 

「貴方ってもう……」

 

 顔に手を当てて首を振るリアス。

 

 何だよ、何か文句あるか!

 

「リアス、今は夏蓮の駄目な部分を呆れるときではありませんわ」

 

「朱乃」

 

 こちらに歩み寄ってくる朱乃。

 

 って、ちょと待ておい! 駄目な部分って何だよ! 何それ! 俺の駄目な部分知ってんのお前ら!

 

「そうね。夏蓮の駄目な部分は後で何とかしましょう」

 

「はい」

 

 俺を無視して話を進めるリアスと朱乃。

 

 おいおい、どういう事よ!

 

「小猫ちゃん! 俺の駄目な所って何?」

 

 近くにまで来ていた小猫ちゃんに聞いてみる。

 

「……そういう所なのでは?」

 

 えー。

 

「もう良いや。……何か疲れたな」

 

「まだ疲れるには早いと思いますよ」

 

「言葉の綾だよ」

 

 小猫ちゃんと会話をしながらも俺は三人の剣戟の方を見る。

 

 ……状況は良い方かな?

 

 祐斗とゼノヴィアのコンビは確実にフリードを追い詰めている。フリードの方も統合したエクスカリバーの能力を使って応戦するが、二人には届いていない。

 

「何でだよ! 何で俺様負けてんのおおおおおぉぉぉぉ!? 最強の聖剣に最強の力手に入れたんだぜえええええええぇぇぇ!?」

 

 自分が負けているのが理解できないのか、首を激しく振るフリード。

 

 そんなフリードに祐斗は静かに答える。

 

「確かに、そのエクスカリバーが本来の状態なら僕たちに勝機は無かった。けど、そのエクスカリバーなら僕らは負けはしない!」

 

 祐斗の答えに納得していないのかフリードは更に激昂する。

 

「例えそうだとしても! 俺様には地脈のエネルギーがあるんだぜ! なのに!」

 

「まだ分からないのか?」

 

 フリードの言葉に被せるようにゼノヴィアが言う。

 

「確かにお前の今の力は上級悪魔クラスを超えているだろう。――だが、それだけだ。お前自身はその力を全く扱いきれていない」

 

「っ!」

 

「力だけ強くても、それを扱えなくてはただの木偶だ。フリード、お前にはその力は扱いきれないよ」

 

 ゼノヴィアの言葉に一瞬目を見開き、そしてぐらりと顔を上に上げるフリード。

 

「――殺す」

 

 ポツリと呟かれた言葉。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す!! 殺してやるよおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 まるで発狂したかのように殺すを連呼し続けるフリード。

 

 ここまで来ると流石にゾッとしてくる。

 

「俺様は! 最強の聖剣を! 持って――!?」

 

 言葉が唐突にとだえる。

 

「ゴハ……」

 

 訝しむ俺たちの前で突如、大きな血反吐を吐き出すフリード。

 

 おいおい、何が起きた?

 

 俺の疑問にリンドが答える。

 

『恐らく地脈の莫大なエネルギーに体が耐え切れなくなったのでしょう。いくら戦闘能力が高かろうと、所詮は人間の体。あれ程の大きな力持つはずがありません』

 

 成程な。過ぎたる力は身を滅ぼすってか。

 

『ええ。貴方も気をつけてくださいね』

 

 まるで俺が後先考えずにやるみたいに聞こえるぞ。

 

『そういうわけでは無いですが……』

 

 どう伝えれば良いか分からないと言った感じに言葉を濁すリンド。

 

 珍しい。ほんの僅かの付き合いだけど、こいつは言いたいことははっきりと言うタイプだと思っていたんだが違うかね?

 

 今は置いておくか。それよりも問題はあっちだし。

 

「フリード・ゼルセン、もう終わらせよう。僕はそのエクスカリバーを超える!」

 

「調子に、乗って、んじゃ……ゴバア!?」

 

 息も絶え絶えに再び血を吐くフリード。

 

 そんなフリードの前に静かに立つ祐斗。

 

「今こそ、僕はエクスカリバーの呪縛を解き放つ!」

 

 持ち前の足を使って一気に加速する祐斗。

 

「くそがあああああああ!!」

 

 フリードも負けじとエクスカリバーの刀身をいくつにも分断して祐斗に襲い掛からせた。

 

 しかし、祐斗のその全てを躱すか叩き落とすかでいなしていく。

 

 そして遂にフリードの目の前に辿り着く。

 

「ぐっ……」

 

「終わりだ!」

 

 言葉と共に祐斗はエクスカリバー諸共フリードに聖魔剣を叩きつける。

 

 パキン……。儚い音とともにエクスカリバーは砕け散る。

 

 フリードも切り付けられたところから血が大量に溢れ出す。

 

「うそ、だろ……」

 

 自分の負けが信じられないのか呆然としながらフリードは地面に倒れこんだ。

 

「みんな、僕たちの思いは聖剣を超えたよ」

 

 亡き同胞に向かって静かに言う祐斗だった。




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この章も後二、三話で終わらせる予定です。次章からは色々とオリジナル要素も入れていく予定です。


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何が……

読者の皆様にお知らせです。

このたび、私、遂にバイトが決定しました。

これからそれなりに忙しくなるかもしれないので、更新が遅れる事もあるかもしれないのでどうかその辺りをご了承ください。

では、本編をどうぞ!


「馬鹿な、聖魔剣だと……? 相反する二つの力が一つになるなどあり得ん……」

 

 フリードが敗れ、それを呆然と見るバルパー。

 

「バルパー・ガリレイ。次は貴方だ」

 

 次のターゲットを定めた祐斗がバルパーに近づく。

 

 しかし、それに気づかずバルパーはぶつぶつと何かを呟いている。

 

 祐斗が数歩前まで来たとき、はっと顔を上げる。

 

「そうか! そういう事か! 聖と魔。バランスが崩れている! つまり、あの戦争で魔王だけでなく神も……!?」

 

 その言葉が最後まで出る事は無かった。

 

 バルパーの腹に光の槍が突き刺さっていたのだ。

 

「ごは……」

 

 血を吐きながら地面に倒れ伏すバルパー。

 

 一目で致命傷だと分かる傷だ。予想通り、バルパーは直ぐに息絶えていた。

 

 この中で光の槍を使えるのはただ一人。

 

「バルパー、お前は優秀だったよ。そこに思考が至ったのも優れているが故だろうな。だが、俺は別に最初からお前など必要なかった。一人でも十分だったんだ」

 

 十枚の黒翼をはためかせながら空に浮かぶコカビエル。間違いなくヤツがバルパーを殺した。

 

 つか、そんな事よりも死ぬ直前にバルパーが言っていたことの方が俺は気になる。

 

 ”あの戦争で魔王だけでなく神も”って、まさかおい……。

 

 ある考えに至るが、その結論に思わず身震いする。

 

 まさかな……そんな事……。

 

「くくくくく、はーはっはははははははは!!」

 

 突如として哄笑を上げるコカビエル。

 

 相変わらず突然笑い出す奴だな、と場違いな感想を抱いてしまう俺。

 

 ひとしきり笑った奴は俺たちに向かってこう言い放った。

 

「――そこで高めている赤龍帝の力。誰かに譲渡して俺にぶつけてみろ」

 

 っ! 気づかれていたか。流石は聖書に記される程の大物。こちらの考えなんてお見通しか。

 

 とはいえ、明らかにこちらを下に見た言い方。当然リアスは怒る。

 

「ふざけないで……! 私たちにチャンスを与えるつもりなの!?」

 

「ああ、そうだ」

 

 あっさりと言うコカビエル。

 

「このままワンサイドゲームになっても何にも楽しみが無いだろう? だったらサーゼクスが来るまでもう少し余興を楽しんでおきたいのだよ」

 

 余興……。

 

 ったくよぉ。俺たちは必死こいて戦っているのに、奴にとってはこの戦いは余興かよ。

 

 ――腹立たしいねえ。

 

「……イッセー、倍加の準備は?」

 

「後もう少しです!」

 

 リアスの質問に一誠が直ぐに答える。

 

「夏蓮、貴方も準備を!」

 

「了解」

 

 視線をよこさずにそう言ったリアスに俺は直ぐに応じる。

 

 リンド、こっちの方は?

 

『いいタイミングです。丁度出来ますよ』

 

 オーケー。そうこなくっちゃ。

 

禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

 再び鎧を身に纏う俺。

 

 直ぐに左腕の砲口を展開する。

 

「倍加、準備オッケーです!」

 

 俺の準備が整うのと同時に、一誠の方も準備が終わったようだ。

 

「良いわ、予定通りイッセー、夏蓮に譲渡を!」

 

「分かりました! 兄貴!」

 

「さっさと来い」

 

 俺に近づく、籠手の方で鎧に触ってくる。

 

『Transfer‼』

 

 譲渡の音声と共に、俺の中に力が流れ込んでくる。

 

 うおっ! これが赤龍帝の力か! 凄まじいね!

 

『ああ、この私がドライグの力を借りる羽目になるとは……世の中分からないものです』

 

 リンドはリンドで何か変な事言っているし。

 

 前々から思っていたが、リンドは何か赤龍帝――一誠の中に宿るドラゴンに何か含むものがあるのか?

 

 つか、この力マジですげえ。十分な倍加でやったおかげか、力が有り余るほどに感じ取れる!

 

「ほお、凄まじいな。流石というべきかな。既に魔力で言うならば最上級悪魔クラス。優にそこいらのヤツを超えているな」

 

 そういいながらも奴は相変わらずどこか余裕そうだ。

 

 かっ! 面白れえ。その余裕、今に崩してやる!

 

「夏蓮! こっちも準備完了よ!」

 

「おうって、デカ!? デカくないそれ!?」

 

 思わず二度見する。

 

 リアスが作った滅びの魔力の塊は、俺たちの身長ほどの直径を持つ巨大な奴だった。

 

「今、私が作れる最大級の物よ! さあ、行くわよ!」

 

「いやいや! ちょ、待って!」

 

 無理無理! 流石に吸収出来ねえよそれ! 俺の体保たないよ!

 

「え、部長? 何してんすっか!?」

 

 何も話を聞いていない一誠が仰天している。

 

 そんな一誠を置いといて、リアスは()目掛けて滅びの魔力を撃ちこんできた。

 

 背中の強い衝撃と共に、俺の中に力が再び流れ込んでくるのが分かった。

 

「うぐ!?」

 

『Absorb!!』

 

 体の中に入ってくるリアスの魔力。

 

 いや、ちょ、これ不味くない? リンド、これ大丈夫か!?

 

『ギリギリですが、貴方の今の容量(キャパシティ)に何とか入っています。問題はありません』

 

 そうか、そいつは良かった。

 

 これが俺たちの策の一つ。

 

 俺の神 器(セイクリッド・ギア)はエネルギー系の攻撃を吸収する能力を持つ。

 

 そしてそれは何も相手からの攻撃では無くても良いんだ。つまり、味方から力を貰うっていうのも手の一つだ。

 

 それに気づいたリアスが俺に滅びの魔力を撃ちこんできたのだが……。

 

 いや、結構きついね。『滅び』という特殊な魔力の所為なのかもしれないけど、制御がかなり難しい。

 

 こりゃあ、さっさと『解放』した方が良いね。

 

『Liberate!!』

 

 刹那、俺を中心に巨大なオーラが辺りに撒き散らされる。

 

 鎧の至る所から魔力が噴出し、鎧がきしんでいく。

 

「これは……!」

 

「なんて言う魔力のデカさ!」

 

 朱乃や祐斗もこの魔力の大きさに驚きを隠せていなかった。

 

 一番驚いているのは俺自身なんだけどな。

 

 はは、力が溢れていると、何でも出来るような気がしてくるぜ。

 

 俺は頭上から見下ろしている奴さんを見上げる。

 

「覚悟しろコカビエル! 今すぐにそこから引きずり落としてやる!」

 

 俺の宣言にコカビエルは相変わらず不気味に笑うだけだった。

 

「くくくく! 面白い、やってみろ!」

 

 その減らず口、今すぐに叩けない様にしてやる!

 

 俺は左の砲口を奴に向ける。

 

 砲口にエネルギーがチャージされていく。

 

 赤黒い魔力と銀色の魔力が入り乱れ徐々に弾としての形を成していく。

 

「――喰らえ」

 

 エネルギーが充填されると同時に、放つ!

 

 一直線にコカビエル目掛けて飛んでいくエネルギー弾。

 

 っ! その形状に俺は驚く。何と、龍の頭の形をしているのだ。いくら砲口が龍の形をしているからと言って、弾まで龍の形にならなくてもいい気がするが……。

 

 一誠から譲渡された赤龍帝の力。リアスの滅びの魔力。そして俺自身の魔力が入り乱れての砲撃。

 

「くははははは!! 凄まじいな! この魔力の波動! 間違いなく魔王クラスだ! やはりか! やはりそうなのか!」

 

 っ! また訳の分からない事を!

 

 コカビエルは両手を突き出し俺の魔力を止めに掛かった。

 

 ウソだろ!? あの威力を素手で!?

 

「ぐ、のおおおおお!?」

 

 一瞬、動揺するも、力を込めるように俺は踏ん張る。

 

 効いていないわけじゃない! このまま、押し切る!

 

 だが、現実は無常である。俺の魔力の波動は徐々に大きさが小さくなっていく。

 

 本当に、効いていないわけじゃない。ヤツ自身にも体中に傷が出来ている。――小さいやつだが。

 

「くっくっ。赤龍帝の力を譲渡され、更に紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)の魔力を渡されたとはいえ、これ程の力! やはり素晴らしいな!」

 

 ……くそっ。結構マジでやった気がするんだが。腐っても堕天使幹部か。

 

 つうか、自分が傷ついてもガチで喜んでいるなんて、こいつマジで戦うの大好きなんだな。本当に嫌になってくるぜ。

 

 あーどうすっかなー。一誠の譲渡に加えてリアスの魔力を貰ってもこんな感じだ。流石に次同じことしろと言われたら俺の体が()たん!

 

 痛む体に苦慮していると、朱乃が飛び出していく。

 

「雷よ!」

 

 天から雷がコカビエルに降っていく! しかし、コカビエルは無造作に翼をはためかせるだけで、攻撃を弾く。

 

「俺の邪魔をするか、バラキエルの血を宿すものよ」

 

「――私をあんな者と一緒にするな!」

 

 今までに見たことが無いような表情で激昂する朱乃。

 

 バラキエル、確か堕天使の幹部だったよな。その戦闘能力は計り知れないって聞いているが……。

 

 バラキエルの血を宿すって事は……まさか。

 

「今は貴様になど構ってやる気等起きん。失せろ!」

 

 まるで虫を払うかのように光の槍を朱乃に放つコカビエル。

 

「きゃ!」

 

 朱乃も何とか槍を躱すが、槍の衝撃で態勢を崩し、地面に落下しようとしていた。

 

「っ! ああもう!」

 

 痛む体を堪えながら俺は前に出る。

 

 地面に激突しようとしていた朱乃の体と地面の間に何とか割り込んで朱乃を抱える。

 

「うぐっ!」

 

 やば、朱乃が落ちてきた衝撃で体が……!

 

「うっ……夏蓮!?」

 

「よお、朱乃怪我は無いか?」

 

「ええ……」

 

 頭を振りながら答える朱乃。

 

 良かった。怪我無いみたいだな。これであったら助けた俺が格好悪いな。

 

 朱乃を地面に降ろし、地面に立つ。

 

 気づけば、コカビエルはゆっくりと地面に降りてきていた。

 

「ちっ、お前は俺が地面に引きずり下ろしてやろうと思ったのにな……」

 

「それは残念だったな。降りてきてやったぞ」

 

 よく言うぜ。ああ、腹が立ってくる。

 

 オーラを高めながら俺はヤツを睨み付ける。

 

「クククク、まだ高まるか。良いぞ、もっとだ。もっと俺を楽しませろ!」

 

 笑うコカビエル。

 

「コカビエル!」

 

「私たちが相手だ!」

 

 俺の脇を祐斗とゼノヴィアが通り過ぎていく。

 

 それぞれ聖魔剣とデュランダルの手に、コカビエルに斬りかかる。

 

「ふん」

 

 コカビエルは両手に光の剣を出すと、祐斗たちの剣を受け止める。

 

 祐斗とゼノヴィアは交互に斬りかかっていくが、コカビエルはその攻撃全てをいなしていく。

 

 ウソだろ。あの二人が全然が歯が立っていねえ。コカビエルだって剣士って訳じゃ無いだろうに、あいつの攻撃を全部受け止めている。

 

 そしてコカビエルは同時に二人を吹き飛ばす。

 

「くそっ!」

 

「何て強さだ!」

 

 空中で態勢を整えて地面に着地する二人。

 

「全くもって詰まらん。伝説の聖剣に、イレギュラーな聖魔剣。どれ程のものかと期待してみれば的外れにもほどがある」

 

 心底詰まらなそうに言うコカビエル。

 

「まあ、仕えるべき主を無くしている割には頑張っている方か」

 

 仕えるべき主、ねえ……。

 

「……どういう事?」

 

 訝しげに聞くリアス。

 

 それを見て心底愉快そうに笑うコカビエル。

 

「クククク!! そうだな、お前たちはどうせ知らされていないんだろうな! 良いだろう教えてやる。先の大戦で魔王だけでなく、神も死んだんだよ!」

 

 ……神が、死んだ……?

 

 そこから面白おかしそうに話し始めるコカビエル。

 

 過去の三大勢力の戦争で四大魔王だけでなく神も死んだこと。それを人間に知られるのは不味いと言う事で各勢力の上層部だけの秘密という事になったこと。

 

 コカビエル曰く、人間は神という存在がいないだけでバランスを崩す脆弱な生き物と言う事らしい。

 

 神がいなくなったことで、純粋な天使が増え無くなった天使サイド。魔王と上級悪魔の大半を失った悪魔サイド。そして幹部以外を多く失った堕天使サイド。どの陣営も人間に頼らなければ勢力として保てないほどに疲弊していたそうだ。それ故痛み分けという感じで先の戦争は終わった。

 

 神がいなくなった今、神が遺した『システム』を使って大天使のミカエルが神の代行をやっていると言う。最も、神自身が行っているわけでは無いので、システムも昔通りとまではいかないそうだ。

 

 ……恐らく、アーシアが教会から追放されたのもそこが原因なんだろう。

 

 祐斗の聖魔剣が出来たのだって、神と魔王。この聖と魔を司る存在が消えたことでバランスが崩れたのだと言う。

 

「そん、な……」

 

 呆然と地面に座り込むゼノヴィア。教会の信仰心の熱い信者な彼女だからこそその衝撃も大きいだろう。

 

「アーシア!」

 

 後ろを見れば、アーシアがショックのあまり気を失っていた。彼女にはあまりにもデカすぎる話だったのだろう。

 

 他の奴も見れば、各々が少なからずショックを受けていた。

 

 そして俺はと言うと。

 

「……クハ」

 

「夏蓮……?」

 

「ハッハッハッ!! ハハハハハハハハハッ!!」

 

 笑ってしまう。堪え切れない。

 

 こんな、こんなことがあるのか!? 

 

 神が死んだ!? 数百年前に!? もうこの世に居ないってか!?

 

「ハッハハハハ……!」

 

 笑いすぎて腹が痛くなる……! 

 

「何だ? あまりの真実に頭が可笑しくなったのか?」

 

 少し気味が悪そうにこちらを見るコカビエル。

 

「いや、違うよ。あまりの馬鹿馬鹿しさに、笑いが堪え切れなくて」

 

「何?」

 

「だってよ、神がいない? それがどうした。今の世の中、何にも知らない人間がどれだけ神の存在を信じていると思うんだよ? それこそ考えるのが阿保らしい……いねえよ。そこの二人みたいな信仰深いやつならまだしも、少なくともこの日本じゃ数えるだけしかいないと思うぜ」

 

 昔と違って今じゃそういう事は全然信じられなくなっている。俺だって悪魔になる前まではあくまで空想の産物だと思っていたしな。

 

「それに……何かすっきりしたな」

 

「すっきり?」

 

「ああ、神がいなくて本当に安心した。――あの日の俺の考えは間違いじゃ無かったって訳だよ!」

 

 本当に神がいるなら、あの日、あの時の願いを叶えてくれたって良かった! 良かった筈だ! 

 

 ……神なんていない。そう確信できた。それだけでも本当に良かったよ。

 

「訳の分からん奴だ」

 

「あんたに言われたくないね。戦争を起こしたい戦闘大好きっ子めが」

 

「く、ぬかせ。お前も同じだろうが」

 

「戦いは好きだが、お前みたいに人様に迷惑をかけてまでやる気は無いよ」

 

「どうだか……」

 

 肩を竦めるコカビエル。

 

 その仕草にイラッときるのもあったが、取り敢えず今は仕掛けてみるか。

 

 俺の禁 手(バランス・ブレイカー)も後どれだけ保つかは分からないしな。

 

 背中の翼をはためかせ俺は一気に前に出る。

 

「夏蓮!?」

 

 後ろでリアスが驚きの声を上げている。

 

 一気にコカビエルに詰め寄り右手の剣で斬りかかる。

 

 コカビエルも光の剣で応戦してくる。

 

 凄まじい勢いで斬撃の応酬をする俺たち。

 

 コカビエル自身は剣士では無い。だが、先ほどの祐斗たちと斬り合えたことから実力は十二分にあるだろう。

 

 まあ、それでも負ける気はしないが。

 

 途中、いくつもフェイント入れながら斬りつけるが、コカビエルはそれを全て見切ってくる。

 

 コカビエル自身の攻撃も途中俺の体に掠るが、全て鎧に防がれて俺の体自体には届いてこない。

 

「くははは! 良いな! 楽しいな! お前もそうだろう小僧!」

 

 歓喜の表情を浮かべるコカビエル。

 

「うる、せえ!」

 

 何とか反応する俺だが、ぶっちゃけ余裕が無い。

 

 コカビエルの野郎、徐々にスピードを上げてやがる! 今だって反応しきれているのがやっとだ。

 

 どうする。どうするよ俺。

 

「クク、そうだな」

 

 斬り合いをしながらチラリと後ろを見るコカビエル。

 

 っ! こいつまさか……!

 

「こんなのはどうだ?」

 

 ヤツの頭上に浮かぶ巨大な光の槍。

 

 その槍が次の瞬間、後ろの――リアスたちの方に迫る!

 

「こ、のぉ!」

 

 剣でヤツを後ろに飛ばし、そのままコカビエルの方を向いたまま後ろに下がる。

 

 意外にも奴はその間全く攻撃してこなかった。

 

 余裕だな本当に!

 

「くうっ!」

 

 何とか槍がリアスたちに到達する前に間に入れた。

 

 俺はそのまま両腕をクロスして槍を受け止める。

 

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

『AbsorbAbsorbAbsorbAbsorb!』

 

 宝玉から連続して吸収の音声が流れる。

 

 やがて槍は徐々に小さくなっていく。

 

 あの中級堕天使ほどの大きさになり、槍を弾き飛ばす。

 

 つ、疲れた……。よく吸収出来たな、おい。

 

「夏蓮!」

 

「夏蓮くん!」

 

 リアスと朱乃が近づいてくる。

 

 それと同時に俺の鎧も遂に解けてしまう。

 

 やっべー。完全に時間切れになると次に使えるまで結構時間喰うからな。

 

「はははは、今の追いつくとはな。流石というべきか」

 

 コカビエルがこちらを称賛するようにパチパチと手を叩いている。

 

「しかし、貴様の力、こんなものでは無いだろう? どうした、もっと力を見せて見ろ」

 

 そう言われてもな。こちとら奥の手も返されて、禁 手(バランス・ブレイカー)も使えなくなってしまったんだがな。

 

「……なあ、さっきから気になっていたんだが、お前俺の事知ってんのか?」

 

「ん?」

 

 今は少しでも時間を稼ぐべきだ。何とかヤツの興味が持てそうな話題を持ち込まないと。

 

「一誠の様に神滅具(ロンギヌス)保有者なら分からないでもないが、俺は別に少し強いだけの神 器(セイクリッド・ギア)を持っているだけだぜ?」

 

『誰が少し強いだけですって?』

 

 何やらリンドが言っているが今は無視だ。

 

「当然だろう。()()()()なら誰だって知っているさ」

 

「あの事件……?」

 

 ――ドクン

 

「死んだと聞いていたが……いやはや、サーゼクスめこんな極東に隠していたのか。確かに盲点と言えるだろうな」

 

 ――ドクン

 

「何……」

 

「あの時の下手人は見つかっていないと聞いているし、隠すことにしていたのか」

 

 ――ドクン

 

「しかし、よく似ている。瓜二つと言えるじゃないか」

 

 ――ドクン

 

「……さっきから」

 

「ん?」

 

「さっきから! 何を言っている!? お前は俺の何を知っているって言うんだ!」

 

 心臓の鼓動がさっきから鳴り響いてしょうがない。

 

 これ以上は聞いてはいけない。心のどこかでそう囁いている俺がいる。

 

 だけど、ここで聞かなきゃ、俺は――!

 

「何だ? 別人だと言うのか?」

 

 今度こそコカビエルは訝しげな表情を作る。

 

 そして、

 

「――お前はレオン・グレモリーとあの人間の小娘との間に生まれた半悪魔(ハーフ)じゃないのか?」

 

 そう、言った。




いかがでしょうか? 感想、意見待っています。

遂に明かされた夏蓮の出生の秘密(一部)。

これから先、夏蓮の過去を徐々に明らかにしていく所存でございます。


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……壊す

後数話で終わると言いましたが……あれ、嘘っぽいです。もう少し続きます。何とか年末には終わらせたいですけど……。


 コカビエルは何を言っているのだろうか。

 

 私、リアス・グレモリーはそう思わずにはいられない。

 

 レオン・グレモリー? 誰だそれは。グレモリー家の次期当主たる私が知らないグレモリー一族がいるはずが無い。

 

 少なくとも、私が知る限りではレオンなどと言う悪魔は知らない。知ら……無い。

 

 だって――燃えている――私が知るわけ――何もかもが燃えている――無い――どこ?――。

 

 私が――どこに行ったの?――知っているわけ――どうしていないの?――。

 

 私は――約束したのに――グレモリーの――また会うって――次期当主――どうして――だから私が知らないわけ――どうして――。

 

「あ、あれ?」

 

 気づけば涙が出ていた。

 

 頭がぐちゃぐちゃだ。まるで知らない自分が頭の中に居るようだ。

 

 どうして? どうしてこんなに涙が沢山出ているの?

 

 何で、こんなにも悲しいの?

 

 夏蓮、夏蓮、カレン、夏蓮、カレン、夏蓮、カレン。

 

 頭の中で夏蓮の名前がグルグルと回っている。

 

 そして、同時に浮かび上がるのは小さい紅髪をした少年だ。

 

 誰なのこの子は。どうして私にこんな記憶があるの?

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 呼吸が荒くなっているのが自分でも分かる。

 

 私は、何かを忘れている? それが何なの? どうして私は……。

 

『約束だ。もう一度、この場所に――』

 

「あ、ああああああああ!?」

 

 瞬間、私の中で何かが弾け飛んだ。

 

 

 

 ******

 

 何も、聞こえない。

 

 変だな。さっきまではちゃんと聞こえていたのに、今は何も聞こえない。

 

 コカビエルの言葉を聞いた瞬間からだ。あの時、あいつは何て言った?

 

『お前はレオン・グレモリーの息子では無いのか?』

 

 息子。あの時、確かにコカビエルはそう言った。

 

 レオン、グレモリー。

 

 グレモリー。上級悪魔の一族の一つ。リアスの家。

 

 どうして、俺の父親の名前がグレモリーなんだよ。そんな訳、あるはずが……。

 

 だって、俺は人間から悪魔になって。神 器(セイクリッド・ギア)だって、人間に宿るものだって――!

 

 次の瞬間、唐突に脳裏に過ぎ去る映像。

 

 辺り一面を燃やし尽くす炎。

 

 誰かの怒声。

 

 そして、俺を抱きかかえる人。

 

 俺の抱きかかえる人の腕の中から見えるのは、俺と同じ紅髪をした男性。背中をこちらに向けているから顔は分からない。

 

 そして、その紅髪の男性と対峙しているのは、圧倒的なオーラを放つ剣を持った――。

 

「うぐっ!」

 

 突如として俺の頭に鋭い痛みが走る。

 

 何だこれ……? 頭が割れるみたいだ……。

 

 頭を抱えて膝を付く。

 

 痛い。痛い。痛い。

 

 今までに経験したことのないような激痛だ。

 

「あ、ああああ!?」

 

 何がどうなっている……!? ああもう、くそ、くそ! 

 

「いやああああああぁああああ!?」

 

 辺りに響き渡る様な悲鳴。

 

 何も聞こえ無かった筈なのに、この悲鳴だけは聞こえた。

 

 誰のだ? 決まっている。俺が、あいつの声を聞き間違えるはずが無い。

 

 痛む頭に顔を顰めながら、俺は後ろを振り向く。

 

 見れば、俺の同じ紅色の髪を乱しながら、うずくまっている人影が見えた。

 

 リアス。

 

 リアスが震えている。

 

 リアスが怯えている。

 

 リアスが泣いている。

 

 誰だ。

 

 誰がリアスを泣かした。

 

 誰だ、誰だ、誰だ! 誰だ!

 

 気づけば、頭の痛みなんて無くなっていた。

 

 それよりも、リアスの泣かしたヤツへの怒りの方が俺にとっては重要だった。

 

 ふらりと立ち上がる。

 

 前を見ると、男が立っていた。

 

 訝しげにこちらを見る男。

 

 ……あいつか。他にはいない。

 

 間違いない。あいつが、リアスを泣かした――!

 

 許さん。リアスを泣かす奴は、誰であろうと許さん!

 

「――殺して殺して殺しつくす」

 

 俺の中にあったのは、殺意と呼ぶにも生易しいと思えるような感情だった。

 

******

 

 ゾクリと、背筋が凍えるような寒気が襲う。

 

 俺、兵藤一誠は、思わず後ろを振り向く。

 

「兄貴……?」

 

 そこにいたのはこちらに背中を見せている俺の義兄、兵藤夏蓮だった。

 

 普段から俺の事を小馬鹿にしてくる若干嫌味なくせして、妙なところで頼りになる兄貴だ。

 

 けど、本当にあれ……兄貴、なのか?

 

 背中しか見えないが、いつもと雰囲気が全然違う様に見える。

 

 何なんだよ、あれ……? 正直、寒気が湧いてくる。

 

 兄貴が一歩、前に歩く。

 

「あ、兄貴!」

 

 思わず、声を掛ける。

 

 ゆらりと、まるで幽鬼の様な動作でこちらを向く兄貴。

 

「…………」

 

 そして、その眼差しに映る()()に、俺は体が震えあがる。

 

 な、何だよあれ。怒っているとか、そんなレベルかあれ?

 

 思わず、一歩引いてしまう。

 

「……」

 

 それを無感動に見ていた兄貴は、踵を返すと、そのままコカビエルの方に向かう。

 

 そして、コカビエルの近くまで来た瞬間、異変が起きた。

 

 突如、兄貴の周りに無数の魔方陣が出現した!

 

 兄貴を囲むように魔方陣はどんどん展開していく。

 

 何だよあれ! あれ一体どっから……。

 

 兄貴を囲む魔方陣を見てコカビエルが仰天する。

 

「まさか! 封印術式!? それほどの高位の魔方陣を一体誰が!」

 

 封印? 兄貴に? 何でそんなもんが兄貴に施されたんだよ! 

 

 突発的に起きる出来事の所為で、俺の頭の中はパニック寸前だった。

 

 兄貴は、無数の魔方陣を煩わしそうに見ると、呟く。

 

「……邪魔だ」

 

 兄貴が右手を横に思いっきり振ると、魔方陣に異変が起きた。

 

 突如として魔方陣すべてに罅が入る。

 

「まさか!」

 

 そして、そのまま魔方陣が音を立てて崩れていく。

 

「馬鹿な! あれ程の術式を一瞬で!?」

 

 コカビエルがあり得ないと言った感じで言う。

 

 そんなにすげえものなのか。

 

『封印系の術式の中ではトップクラスだろう。それを一瞬で破壊したのだから、コカビエルが驚くのも無理はない』

 

 俺が驚いていると内側から俺に宿るドラゴン――赤龍帝ドライグが話す。

 

 というか、何で兄貴にそんな封印術式が入っているんだよ!

 

『さあな。俺が知るわけないだろう』

 

 ドライグが素っ気なく言う。

 

 罅が入った術式が音を立てて崩れていく。

 

 刹那、兄貴の体から強大なオーラが噴き出始めた。

 

 兄貴の周りの地面がオーラに煽られて抉れていく。

 

 どんどん魔力が溢れていっている。既に部長の魔力を超えている。

 

 な、何だよあれ……。

 

 魔力が次から次へと溢れていく中で兄貴の体を鎧が装着されていった。

 

 ありゃあ、兄貴の禁手(バランス・ブレイカー)じゃねえか。確か、あれって一度制限時間を過ぎるとしばらく使えないんじゃないのか……。

 

「ううぅ……」

 

 呻きながら一歩コカビエルに近づく兄貴。

 

「っ!」

 

 それに対して怯むように一歩下がるコカビエル。

 

 だが、それがコカビエルには屈辱に感じただろう。憤怒の表情を浮かべていた。

 

「この、俺が、高々半悪魔(ハーフ)風情に怯えている……? ふざけるなああああああ!」

 

 コカビエルが激昂すると同時に、兄貴の姿が消える。

 

 次の瞬間、俺が確認できたのは兄貴が横からコカビエルの顔面を思いっきり殴っているところだった。

 

 あまりの威力に、コカビエルは一気に吹っ飛んでいく!

 

 ウソだろ、俺たちが手も足も出なかったコカビエルを!

 

「ぐ、お」

 

 俺が驚ている中、十枚の羽を使って何とか態勢を整えるコカビエル。

 

 だが、既に兄貴は追撃を開始していた。

 

 兄貴が無数に残像を生み出しながら高速でコカビエルに迫る!

 

 そして、そのまま右手に握られている剣をコカビエルに振りかざす!

 

 コカビエルも光の剣を出して、兄貴に対抗する。

 

 そのまま二人とも、凄まじい勢いで斬り合っていく!

 

 すげえ……さっきの兄貴の剣戟も凄かったけど、今の方がもっとすげえ!

 

 あまりの速さに、俺たちは言葉を失ってしまう。

 

 最初は拮抗しているように見えたけど、直ぐに押されている方が分かった。

 

「おのれ……!」

 

 コカビエルだった。コカビエルは両手でさばいているのに、兄貴の方がどんどん押していく!

 

 あのコカビエルが、防戦一方の状態になっていく!

 

 マジかよ! 兄貴って、あんなに凄いのか!

 

 確かに、兄貴は俺たちグレモリー眷属の中でも頭一つ抜けている状況だった。

 

 何せ、あのライザーをブッ飛ばしったんだからな。それだけで、多分上級悪魔クラスはいっているんだろう。

 

 兄貴は笑いながら「俺はまだまだ」って言っていたけど、実際、木場とかもそんな事言ってたし……。

 

 けど、何だろうな。

 

 俺はある疑問が拭いきれなかった。

 

 今の兄貴……大丈夫か?

 

 あれ、普段の兄貴には全然見えねえ。普段は、もっと冷静で、頼りになる。そんな感じしてくるのに。

 

 今の兄貴は……まるで、手負いの獣みたいだ。

 

 不味いんじゃないか。部長も何か急に倒れちまったし。

 

 リアス部長の方を見る。

 

 しゃがみ込み、顔は俯いて、髪によって隠されていてその表情が分からない。

 

 朱乃さんがしきりに声を掛けているが、全然反応が無い。

 

 部長も一体何がどうなっているんだ。兄貴もそうだけど、普段と全然感じが違いすぎる。

 

 やっぱり、あれだよな。さっきのコカビエルの言葉。

 

 「お前はレオン・グレモリーの息子じゃないのか?」、と。

 

 グレモリー。それって部長の家の名前だよな。って事は、兄貴は部長の……?

 

 あ、いや、でも兄貴って、出自が全然分かんないんだよな。

 

 あんまり会ったことないけど、兄貴の本当のお母さんと二人で暮らしていたことぐらいしか、兄貴が俺んちに来るまでの事知らないし。

 

 それ以前、兄貴の生まれについて。それが兄貴の今の状態と関係があるのかな……?

 

 ……無いとは思えない。思えば、兄貴の紅髪だって、結構珍しいもんだ。子供頃からずっと一緒に居るから珍しく思わなかったけど、考えてみれば、そうそうにいるはずが無いんだ。

 

「兄貴……」

 

 見れば、戦況は、兄貴有利の状態になっていた。

 

 いや、もう決着は付いていた。

 

「が、あ……」

 

 体中、ボロボロのコカビエルの首を持ち上げている兄貴。

 

 すると、左手のギミックが動き、龍の口――砲口が生み出される。

 

 凄まじい勢いでチャージされていくエネルギー。

 

 おいおい、やばくないかあれ!? さっきの俺の譲渡と、部長の魔力を合わせたのよりも溜まってるぞ!

 

 ある程度溜まった瞬間、兄貴がコカビエルを頭上に思いっきり投げつける。

 

 高く浮かんだコカビエル目掛けて砲口を向ける。

 

「……死ネ」

 

 短く呟くと同時に、コカビエル目掛けて兄貴は魔力の塊を撃ちだした!

 

 その大きさはコカビエルを優に包み込むほどの大きさを持つ程だ!

 

 でけえ! なんて大きさだ!

 

 これを喰らったら、大抵のヤツが吹き飛んでしまうんじゃないかと思えるほどの大きさだった。

 

 そして、コカビエルに当たろうとした瞬間だった。

 

『Divid!』

 

 どこからか、音声が鳴り響く。

 

 刹那、兄貴の魔力弾がコカビエルに当たる!

 

 轟音と共に辺りに爆炎が撒き散らされる。

 

「うわ!」

 

 爆炎がこっちにまで来た! 思わず籠手で顔を覆う。

 

 なんつー破壊力だよ!

 

 けど、何だろう、コカビエルに当たった瞬間、魔力の塊が小さくなったような……。

 

 俺はコカビエルがいた辺りを注視する。

 

 そして、煙が晴れてくると、そこには……。

 

「――やれやれ、当たる瞬間に『半減』したと言うのに、これほどの威力とはな。流石に驚いた」

 

 コカビエルを抱えて浮かんでいるヤツがいた。

 

 兄貴と同じような鎧。宝玉をが鎧の至る部分に装備されている。

 

 兄貴の鎧が銀色なら、あれは白。穢れが無い、どこか神々しさも持っている白だ。

 

 背中には八枚もある光の翼。

 

 ……体が震えあがってくる。俺の中に居るドライグが反応しているのか!?

 

 ま、まさか、あいつが……?

 

『ああ、あれが「白い龍(バニシング・ドラゴン)」。お前のライバルとなるやつだよ』

 

 ドライグが答える。

 

 白い龍(バニシング・ドラゴン)! あれが!

 

 コカビエルが呻きながら白い龍(バニシング・ドラゴン)に言う。

 

「貴様……何の真似だ。余計な邪魔は――!?」

 

 コカビエルの言葉を遮るように白い龍(バニシング・ドラゴン)はコカビエルに拳を打ち込む。

 

「き、貴様……!」

 

「少し黙ってろ。あんたを連れて帰るのがアザゼルから頼まれたものだが……気が変わった」

 

 鎧の下から笑っているような雰囲気を出す白い龍(バニシング・ドラゴン)。地面にゆっくりと降り、コカビエルを無造作に地面に落とす。

 

「少し、相手をしよう。銀の龍」

 

 こうして、白対銀の龍の対決が始まった。




いかがでしょうか? 感想、意見待っています。


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終戦

どうも、今回初の完全三人称です。

三人称が書けないから一人称視点で書いていたのに、意外と筆が進みました。




 辺りは沈黙に包まれていた。

 

 一誠たちグレモリー眷属は固唾を飲んでその場を見守っていた。

 

 彼らの視線の先にいるのは、二人の龍。

 

 片方は銀色の龍。メタリックシルバーの鎧を全身に身に纏い、体の各所に宝玉が埋め込まれている。

 

 背中に生えている一対の翼は結晶の様に光の反射で様々な輝きを幻想的に映し出していた。

 

 もう片方は白の龍。穢れ無き純白の鎧と、銀の龍と同じ宝玉を各所に埋めている。

 

 背中に生える光の翼は銀の龍の翼とは違った美しさを醸し出している。

 

 銀星輝龍と白龍皇。伝説のドラゴンが相まみえている。

 

「…………」

 

「…………」

 

 両者共に沈黙したまま動かない。

 

 一秒がまるで十分、一時間にも感じるような状況下。

 

 かくして、先に動いたのは白龍皇だった。

 

 光翼をはためかせながら銀の龍――夏蓮に近づく。

 

 その速度は一誠の目には移らないほどの高速だった。

 

 だが、夏蓮は反応するように右手の剣を前に振りかぶる。

 

 衝撃と共に、魔力が乗った斬撃を夏蓮は前方に飛ばす。

 

「ふっ……」

 

 白龍皇はそれを腕で弾く。

 

 そのままの勢いで一気に夏蓮との距離を詰める白龍皇。

 

 そして、夏蓮の目の前に来た白龍皇は右手で夏蓮を殴りつける。

 

「ぐう……!」

 

 顔面にクリーンヒットした夏蓮。鎧こそ破損しなかったが、うめき声をあげる。

 

「……触れられたな」

 

 白龍皇は小さく言う。

 

『Divid!』

 

 白龍皇の鎧の宝玉から音声が流れる。

 

 次の瞬間、夏蓮が身にまとうオーラが一気に減少した。

 

「兄貴!?」

 

 一誠が驚きの声を上げる。

 

「我が神 器(セイクリッド・ギア)、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバインディング)』は触れた者の力を十秒毎に半減していく。その力は俺の糧となる」

 

 白龍皇の言葉に、一誠は思わず戦慄する。

 

 つまり、これによって白龍皇は十秒毎に兄の力を半分ずつ奪っていく事になるのだ。戦いが長引けば長引く程、夏蓮にとっては不利となるのだ。

 

 だが。

 

 白龍皇が夏蓮から手を戻そうとした時だ。

 

「なっ!」

 

 夏蓮は戻されようとしていた白龍皇の腕を剣を持っていない左手でしっかりと掴む。

 

 そして、

 

『Absorb!』

 

 今度は夏蓮の鎧の宝玉から音声が流れる。

 

 そして、次の瞬間、白龍皇が身にまとっているオーラが夏蓮に吸い取られるように離れていく。

 

「これは……!?」

 

 この現象に直ぐに気づいた白龍皇は右足を、夏蓮の腰辺りに打ち込む。

 

「ぐう……!」

 

 痛みで、夏蓮は思わず左手を離す。

 

 その隙に白龍皇は大きく距離を取る。

 

「……驚いたな。こっちが半減して力を奪ったと思えば、逆に俺の力を吸収してきた。……あの神 器(セイクリッド・ギア)は、エネルギー系の攻撃しか吸収出来なかったんじゃ無かったのか?」

 

『その筈だが。……どうやら、力が私が知るのと違うものになっているようだ』

 

 自身に宿るドラゴン――アルビオンの言葉に、白龍皇は成程、と思う。

 

 神 器(セイクリッド・ギア)は所有者の思いに反応して様々な成長を遂げる。特にドラゴン系のは特異的な部分が多いと聞く。ならば、今まで発現しなかった能力があっても可笑しく無いだろう。

 

「……ふふ」

 

 思わず笑ってしまう。

 

 最初こそ、つまらない任務かと思っていた。相手がいくら堕天使幹部のコカビエルとはいえ、白龍皇である自分には相手になるとは到底思えなかった。

 

 後は精々自分の未来のライバルである赤龍帝を見に来ただけだったのだが。……人生とは何が起きるのか分からないとは本当だなと思った。

 

「面白い。さあ、もっと力を見せて見ろ!」

 

 心底楽しそうな声を上げる白龍皇。

 

「ううぅぅぅ……!」

 

 呻く夏蓮。

 

 夏蓮の鎧に変化が起きる。

 

 背中の翼が一瞬光ると、翼から非常に薄い結晶板が続々と展開し始めた。

 

 結晶板は夏蓮の意思に従い、白龍皇の体を包囲する。

 

「これは……」

 

 夏蓮は左手の砲口を展開し、エネルギーを充填する。

 

「がああああああ!」

 

 そして、チャージした魔力を一気に放つ。

 

 魔力の波動は真っ直ぐ白龍皇に迫る。

 

「そんな単調な攻撃……!」

 

 白龍皇は魔力の波動を難なく躱す。

 

 躱された魔力の波動は、そのまま直進し、白龍皇の背後に展開していた結晶板にぶつかる。

 

 次の瞬間、魔力の波動は小さな弾に分裂した。

 

「何!?」

 

 驚く白龍皇を他所に、分裂した魔力弾は結晶板に当たり、反射を繰り返す。

 

 徐々に速度を増し、無数の魔力弾が白龍皇に襲い掛かる。

 

 しかし白龍皇は冷静に対処していく。

 

 自身に迫る魔力弾を一つ一つ弾いていく。しかも、弾いていく中で、結晶板の隙間を通る等に絶妙な角度でだ。

 

 やがて、魔力弾全てを結晶板の外にはじき出す白龍皇。

 

「ううぅぅ……」

 

 夏蓮は、結晶板を翼に戻す。

 

「どうした? もう終わりか?」

 

 挑発するように手を振る白龍皇。

 

 それに応える様に更にオーラを高めていく夏蓮。

 

「があああああああああ!」

 

 獣の如く叫ぶ夏蓮。

 

「良いぞ。アルビオン、今のこの男になら『覇龍』を見せても良いと思うんだが」

 

『それは得策では無い。こんな所でやったら自滅以外の何でもないぞ』

 

 白龍皇の言葉に、アルビオンが窘めるように言う。

 

 そして、それらの光景をただ黙ってみる事しか出来ないグレモリー眷属。

 

 そんな中、一誠に声を掛ける者がいた。

 

『相棒』

 

 彼に宿るドラゴン、ドライグであった。

 

「何だよドライグ!」

 

『リンドヴルムからの悪い知らせだ。このままだと、お前の兄は死ぬ』

 

「は……?」

 

 ドライグのあっさりとした言葉に、一瞬呆ける一誠だったが、直ぐに我に返るとドライグに言う。

 

「ど、どういう事だよ! 兄貴が死ぬって!」

 

『言葉通りの意味だ。現在のお前の兄の状態は十数年貯めこまれていた魔力が一気に噴き出ている暴走状態。今はリンドヴルムが吸収しては解放することで何とかなっているが、このまま魔力が出続けたら、お前の兄の体が保たないそうだ』

 

「っ!」

 

 魔力が溜め込まれているとか何で自分の義兄に封印の術式が施されているとか、聞きたいことは山ほどあるが、今はそれどころでは無い。

 

 ドライグの言葉が本当なら、夏蓮はこのままでは危険という事なのだろう。何とかして止めねばならない。

 

 とはいえ、今のあの戦いに混ざるのだって至難の技なのに、止めろと言う。

 

 正直、今の義兄に自分の声が届くとも思えない。掛けたところで無視されるのが落ちだろう。

 

 ならば、どうすれば良いか。

 

「あ……」

 

 そして、唐突に閃く。考えても見れば当たり前だった。当然と言ったら、当然と言えた。

 

「部長」

 

 気づけば、一誠はリアスに声を掛けていた。

 

 リアスは相変わらず体を丸めて俯いてた。

 

 良心が痛むも、一誠は言う。

 

「部長、兄貴を止めてやってください」

 

「イッセー君?」

 

 朱乃が声を上げるが、一誠は構わずリアスに話しかける。

 

「今、兄貴は死ぬ痛い思いして戦ってます。それ、全部部長の為なんです」

 

 ピクリと、リアスが動く。

 

 一誠は続ける。

 

「卑怯な言い方かもしんないすっけど、兄貴は部長が泣いていたから戦っているんです! 部長が傷つけられたと思ってるから戦っているんです!」

 

 そう、何時だって、夏蓮はリアスの為に戦っている。

 

 ライザーの時も、今だって、リアスを守るために戦っているのだ。

 

 だから。

 

「だから、兄貴助けたやってください! お願いします!」

 

 心からの叫びだった。他のメンバーも固唾を呑んで見守っていた。

 

「…………」

 

 そして――。

 

******

 

 イッセーの言葉に、私、リアス・グレモリーはノロノロと立ち上がった。

 

 途中、よろけそうになったが、誰かが支えてくれた。

 

 恐らく、朱乃だと思うが、今の私には判断がうまく出来ない。

 

 視界がぼやけて見えにくい。

 

 それでも、目指すところは分かる。私はふらつきながらも一歩、また一歩と近づいていく。

 

 そして、私は漸く、見る事が出来た。

 

「ああああぁぁぁ!!」

 

 咆哮――どこか苦しげな声を上げながら、『彼』はそこにいた。

 

「――ぁ」

 

 声を出そうとするも、上手く出ない。まるで、自分から声を出すのを拒否しているようだ。

 

 違う。私は、『彼』に傷ついて欲しくない。『彼』が倒れてほしくない。

 

 出すのだ。出さなければ、『彼』は、『彼』は。

 

「……レン」

 

 何とか出るも、小さなもの。自分でも出しているのか分からない。

 

「カ……レン」

 

 また出してみるも、全然だ。

 

 そうして、私がまごついている間にも、『彼』は再び戦おうとする。

 

 ダメだダメだダメだ! これ以上、『彼』を傷つけては――!

 

 そして私は、

 

「――カレンっっ!!」

 

 『彼』の名を呼んだ。

 

******

 

 悲痛な叫びが響き渡った。

 

 思わず、敵である白龍皇も何事かと行動を止めてしまう。

 

 そして、夏蓮は……。

 

「……ぁ」

 

 先ほどまでの有り余る程のオーラが一瞬で霧散した。

 

 そして、鎧もあっさり解けた。

 

「…………」

 

 呆然する夏蓮。ノロノロと顔を動かす。

 

 その視線の先に、彼女がいた。

 

「……リアス」

 

 ポツリと呟かれる言葉。

 

 次の瞬間、ぐらりと夏蓮の体がよろめく。

 

 そのまま膝を付いて、倒れこむ。

 

「カレン!」

 

 ふらつきながらも夏蓮の元に駆け寄るリアス。

 

 夏蓮の元に辿り着いた彼女は、直ぐに夏蓮を抱きしめる。

 

 もう離すまい、と鬼気迫る部分があった。

 

「…………」

 

 その光景を、白龍皇は黙ってみていた。

 

 軽くため息を付くと、一歩、踏み込む。

 

「……ん?」

 

 しかし、その一歩で止まる。

 

 彼の目の前に、一誠たちグレモリー眷属が立っていたからだ。

 

 全員、ここは通すまいと、覚悟を決めた表情をしている。

 

 白龍皇からすれば、彼ら等、直ぐに片付けられるが……。

 

「安心しろ。興が覚めた。もうやる気は無い」

 

 肩を竦めて言う。

 

 それを訝しげに見る一誠たち。

 

「本当さ。こうなっては戦っても詰まらんだけだろう。後は本来の任務を果たすだけだ」

 

 そういって白龍皇は地面に転がっているコカビエルと、フリードを回収する。

 

 そして、そのまま飛び立とうとしたその時、

 

『無視か、白いの』

 

 一誠の籠手の宝玉が光りだした。

 

『起きていたのか、赤いの』

 

 対して、白龍皇の鎧の宝玉も光りだした。

 

『折角出会ったのにこの状況ではな』

 

『いいさ、いずれ闘う運命だからな』

 

『しかし、白いの、以前のような敵意は伝わってこないが?』

 

『赤いの、そちらも段違いに敵意が少ないじゃないか』

 

『お互い戦い以外の興味対象があるということか』

 

『そういうことだ、こちらは独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろう? また会おうドライグ』

 

『それもまた一興か、じゃあなアルビオン』

 

 天を称された二天龍。再び会う約束を交わし、この場を終わらせようとするも――。

 

 

『……待ちなさい。何をいい感じで終わらせようとしているんですか』

 

『『うぐっ!?』

 

 同時に詰まる。

 

 新たな声を発信源は夏蓮の剣からだった。

 

『いい度胸ですね、私への挨拶も何にも無いなんて……』

 

『いや、待てリンドヴルム。この場は仕方ないだろう?』

 

『ドライグの言う通りだ。この状況下で挨拶とか……』

 

『……あ?』

 

『『すみませんでした』』

 

 二天龍が謝る。そのあまりの光景に、宿主たちは目を丸くする。

 

「おい、ドライグ……」

 

『すまん、相棒。だが、俺はリンドヴルムにどうしても……!』

 

『そうですよね。貴方、私が近くにいるって分かっていながら無視していましたよね』

 

『っ! い、いや、そういうつもりじゃ』

 

『アルビオンも。出会ったら、まず私への挨拶が先でしょうに』

 

『し、しかしだな』

 

 二天龍がしもどろしながら話す。

 

 このままではずっと続くと思ったのか、白龍皇が口を挟む。

 

「リンドヴルムよ。話も良いが、貴様の宿主を放っておいて良いのか?」

 

『む……』

 

 白龍皇の言葉に、リンドヴルムが一旦口を閉ざす。

 

 これは幸いと、二天龍が次々に言葉を並べる。

 

『そ、そうだリンドヴルム。お前の宿主をこのまま放っておいてもいかんだろう! 今はそっちを優先したほうが良い!』

 

『う、うむ! ドライグの言う通りだ。ここでお前の宿主に死なれても困るだろう?』

 

 ドライグたちの言葉にため息を付くリンドヴルム。

 

『……まあ、良いでしょう。どうせまた会う機会があるでしょうし。今回はこれまでにしておきましょう』

 

 同時に安堵の息を付く二天龍。

 

 何ともいえない空気になるが、白龍皇は気にせず言う。

 

「ではな。また会おう。俺の未来のライバル君」

 

 そうして、白龍皇は去っていった。

 

 後に残ったのは、グレモリー眷属と、夏蓮を抱きしめているリアスだけだった。

 

 

 

 

 




いかがでしょうか? 感想、意見待ってます。

第三章も次でラスト。その後の展開も色々と考えています(出来るか分からないけど……)。


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終幕

遂に第三章終了……長かったな。

色々と試行錯誤していたけど、やっぱ上手くいかないものです。


「もう三日。兄貴たち帰って来ませんね……」

 

 オカルト研究部部室。そこにグレモリー眷属たちは集まっていた。

 

 と言ってもいつものメンバーのうち、夏蓮とリアスがその場にはいない。二人は冥界に行っており、三日ほど帰ってきていないのだ。

 

「そうですね。連絡もありませんし。もっと長くなるかもしれませんわ」

 

 紅茶を淹れながら朱乃がそう答える。

 

 その言葉に、部室内は再び暗くなる。

 

「しかし、一体リアス・グレモリーには何があったんだ? あれはいくらなんでも尋常では無かったぞ」

 

 そう言うのは、駒王学園の制服に身を包んだゼノヴィアだった。

 

 神がいないことを知った彼女は半ばやけくそ気味に悪魔へと転生した。祐斗と同じ騎士(ナイト)として、リアスの眷属となったのだ。

 

「あの時の私は主の不在を知って半ば自暴自棄になっていたから気づいていなかったが、今考えてみると、私をあんなにもあっさりと悪魔に転生させたのだから、逆に不気味に感じるな」

 

 確かに、と一誠は考える。

 

 コカビエルとの戦闘の最中、突如として悲鳴を上げて取り乱したリアス。その状態は普段の彼女を知るものならば、目を疑っているだろう。それほどのものだった。

 

 そして、もう一つは夏蓮。これもコカビエルとの戦闘の際、膨大な魔力を放出してコカビエルを圧倒した。

 

 その後乱入してきた白龍皇とも互角の戦いを繰り広げた。

 

 最も、白龍皇との戦いはリアスが止めて、有耶無耶になったが。

 

 あの後、夏蓮は意識を戻さず、やってきた魔王サーゼクスとの話し合いの末、冥界で暫く静養することになった。

 

 リアスだけが付き添い、後のグレモリー眷属は人間界に残ることになった。

 

「あの、朱乃さん。リアス部長のあれ、何か心当たりありますか?」

 

 一誠が今、誰もが知りたがっていた疑問を朱乃にぶつけた。

 

「…………」

 

「木場や、小猫ちゃんに話を聞いても分からないっていうし、リアス部長と一番この中で付き合いが長いのは朱乃さんだって聞きました。何か知っていませんか?」

 

 その場にいる者全員の視線を感じながら、朱乃は静かに口を開く。

 

「……私が知っているのは、あくまで一部だけです。それでも良いですか?」

 

 朱乃の言葉に全員が頷く。

 

 それを見た朱乃が言葉を紡ぐ。

 

「私が知っているのは、まだ私がリアスと会った頃の話です。あの時、リアスの部屋で本を読んでいた時の事です」

 

 ベットに腰かけて読んでいた時、ふと、本のページの間に何かが挟まっていたのに朱乃が気付いたのだ。

 

 何だろうかとそれを取り出してみた。

 

 それは、写真だった。完全な状態では無く、半分破かれた状態のものだった。

 

 写っていたのはその当時よりも更に幼いリアスだった。満面の笑みを浮かべており、その表情は誰もが見ても幸せそのものを感じ取れるだろう。

 

 写真に写っている彼女の右手は誰かの手と繋がれていた。その人は破かれた方にいる為、誰かは分からない。

 

 そして、朱乃がこの写真の事をリアスに問うた。

 

「すると、リアスはコカビエルの戦闘の時と同じような状況に陥りました。取り乱し、私の言葉も全く反応を示しませんでした」

 

 直ぐにリアスの母が数人の使用人とやってきて、魔力で眠らせた。そして、そのまま使用人に運ばせていった。

 

 その後、朱乃から事情を聴くと、朱乃にこう言った。

 

 ――この件は誰にも話してはいけない。たとえ主であるリアスに対しても――

 

 有無言わせない態度に、朱乃は頷くほか無かった。

 

「正直、普段は温和な表情を崩すことの無かった奥方様があれ程真剣になっていたのは驚きでした。結局、あの写真も奥方様に回収されてそれっきりですし」

 

 その際の「まだ残っていたなんて……」というリアスの母の言葉は今でも覚えている。

 

 次の日、帰ってきたリアスは何も覚えている様子も無く、朱乃も敢えて触れまいと、何も言わなかった。

 

「私が知っているのはそれだけです。あまり詮索するのは良くないと思いましたので」

 

「そんな事が……」

 

 祐斗や小猫、古参のメンバーも全然知らなかったらしい。基本的に無表情な小猫も驚いた顔をしている。

 

「ふむ。だが、私を悪魔にした時は随分と落ち着ていたぞ? あの時は主の不在で回りがあまり見えていなかったが、今思えば奇妙に思えてくるな」

 

「確かに。朱乃さんの話では、部長は何らかの処置を施されているんだと思う。あまり危険は無いと思うけど。そう考えると今回の件は自力で戻ったのかな?」

 

 ゼノヴィアと祐斗の会話に一誠はあの時の事を思い出す。

 

 あんなに取り乱していたリアスだが、夏蓮を抱きしめてしばらくして直ぐにいつもの状態に戻った。

 

 いや。元に、とは少し語弊があるだろうか。

 

 何と表現すればいいか。いつものリアスとは少し雰囲気が変わっていた。

 

 何が変わっていたのか。それは分からない。リアス本人がそれを拒否するようにしていたからだ。それだけで一誠は何も言えなかった。

 

「兄貴、部長……」

 

 冥界でも同じ様な空なのかな。と、冥界に行ったことのない一誠は、部室の窓から空を見ながらそう思った。

 

******

 

 冥界、グレモリー本城。

 

 その一室で、私、リアス・グレモリーは静かにカレンの寝顔を見ていた。

 

 穏やかな表情。息をしていなかったら死んでいるとでも言えるだろう。不謹慎だが。

 

「…………」

 

 そっとカレンの頭を撫でる。サラサラした私と同じ紅色の髪が少し乱れる。

 

 不思議なものだ。もっと取り乱すと思ったのに、自分でも驚くほど冷静だ。

 

 しばらくカレンの髪で少し遊んでいると、

 

「…………ぁ」

 

 カレンの目がゆっくりと開いていく。

 

 ぼんやりと眼差しを揺らす。

 

 その眼差しがやがて私の方に映る。

 

「……リアス?」

 

 ポツリと呟かれた言葉。彼にとっては無意識の内に呟かれた言葉だろうが、私にとっては、どれだけの意味が込められているか。

 

「ええ」

 

 私も言葉を返す。

 

 そして、言う。

 

「――久しぶり、カレン」

 

「――ああ、久しぶりだな、リアス」

 

「ほんと、酷いわね。私だって気づかなかったの?」

 

「そっちこそ。俺だって気づかなかっただろう?」

 

「そうね。お互い様ね」

 

「ああ、お互い様だ」

 

 本当に、不思議だ。もっと変な雰囲気を予想していたが、こんなにも穏やかな気持ちで接することになるとは。

 

「色々あったわね」

 

「ああ、色々あった。あり過ぎて何を話せば良いか分からん」

 

「奇遇ね。私もよ」

 

 そして自然とお互い笑う。

 

 問題は無い。時間は山ほどある。それこそ、悪魔は永遠に近い寿命を持っているのだ。のんびりといこう。

 

 カレン。私の幼馴染。私の従兄弟。

 

 私の――一番大好きなヒト。

 

 私たちはやっと再会したのだ。

 

******

 

「やはり、素晴らしい。彼がここまでの逸材とは」

 

「……本当にそうか? 私の目には精々魔力がデカい程度にしか映らなかったが」

 

「だからこそだ。彼はその有り余る魔力だけでコカビエルを倒しんだぞ? それだけの力を持っていると言う事だ」

 

「ふん……おい、剣聖、お前はどう思う」

 

『……我、主の言葉、従う』

 

「ちっ、木偶人形が。聞いた私が馬鹿だったか」

 

「まあまあ、良いじゃありませんか。計画はまだ始まったばかり。いくらでも修正が効きます。ここはリーダーのいう事を聞くのも一つの手でしょう」

 

「……本当にこいつ等大丈夫か……? 割と心配になってきたぞ」

 

「はは、相変わらず君は心配性だな。――私に任せておけ。それで全て万全だ。……いや、『私たち』だな」

 

「……その『私たち』は誰だ?」

 

「決まっているだろう。私たちだよ」

 

「……まあ、良い。私は計画が成就されればそれで良い」

 

 




これにて第三章は終わりです。それと同時に今年の更新もこれで終わりの予定です。

バイトも始まり、思う様に執筆活動も難しくなってきました。一旦落ち着いたらまた更新を再開する予定です。

次回の第四章は、いよいよ夏蓮の仇敵ともいえるやつらの登場です!



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第四章
第一話


皆さま、新年あけましておめでとうございます。大学のテストも終わり漸く更新再開です。

ただ、テイルズ最新作、テイルズオブゼスティリアを購入したため、色々と遅くなる可能性もございます。どうかご了承を。

何かヒロイン詐欺ゲーだとか、カメラシステム酷いとか言われておりますが、気にせずやります。


「本当に、大きくなったものだ……」

 

 感慨深そうにそう言うのは、俺の目の前に座る、男性。リアスの父、即ち俺の叔父だ。

 

「パーティーで見たときは信じられなかったが、若き頃のレオンに本当にそっくりだ」

 

 その瞳に映るのは懐かしさ、哀愁。

 

「生きていてくれて、本当に良かった」

 

「――叔父、上?」

 

 少し、自信無く呟く。正直、まだ当時の事がよく思い出せないのだ。確実に思い出せたのがリアスだけなのだ。

 

「ああ、そうだとも。何かね?」

 

「聞きたい、事があります」

 

「何だね? 何でも聞いてみなさい。私の知る限りの事なら直ぐに答えよう」

 

 叔父はそう言うが、実のところ俺のこの問いに応えられるかどうかは、俺自身、自信が無い。

 

 だけど、聞けるヒトが他にいないのだ。

 

 だから、俺は聞く。

 

「――俺の親父を、レオン・グレモリーを殺したのは一体誰ですか?」

 

 

******

 

 人生は何が起こるのか分からない。このフレーズはよく聞く。

 

 だが、大抵起こる事は大した深みは無い。精々が事故に遭って全治一か月程度のものぐらいじゃないだろうか?

 

 しかし、俺の場合、それは――。

 

「――じゃあ、何か? 兄貴は部長の従兄弟で、幼馴染で、半分人間の半分悪魔のハーフだって?」

 

「まあそういう事だ」

 

 オカルト研究部部室。そこで俺たちグレモリー眷属は一堂に会していた。

 

 皆が俺の事をマジマジと見つめていた。

 

 それに若干の居心地の悪さを感じながら、俺、カレン・グレモリーは言葉を続ける。

 

「まあ、詳しい話はまた今度として、俺は昔、ある事件に巻き込まれてな、その影響で当時の記憶を殆ど無くしていたんだ」

 

「記憶を……?」

 

「ああ。正直、まだぼやけているよ。まあ、その内思い出していくだろうよ」

 

 肩を竦める。

 

 カレン・グレモリー。それが俺の本当の名前。

 

 悪魔の父と人間の母の間に生まれたハーフ。父親はグレモリーの一族で、だから俺は紅色の髪を持っていたのだ。

 

 コカビエルとの戦いの後、冥界で目を覚ました俺は一旦人間界の方に戻った。

 

 現在、三大勢力が一堂に会しての会議に入ろうとしているのだ。魔王であるサーゼクス様や、名家であるグレモリー家もその準備に追われている。その為、俺がいても、ゆっくりと話が出来ないから一度戻ってきたのだ。

 

「部長も気づかなかったんですか? カレン先輩が従兄弟だって」

 

 祐斗がリアスに聞いてくる。

 

 俺の肩に寄りかかるように座っているリアスが視線を祐斗の方に向けて言う。

 

「ええ、私も当時の事を詳しく覚えていなかったの。それで気づくのが大分遅くなってしまったわ」

 

 悲しそうに目を伏せた。

 

 ……後、どうでも良いが、リアス、胸が当たっている。当たっているぞ。ワザとか? ワザとなのか?

 

「俺、ずっと一緒に暮らしていたけど、全然気づかなかったわ……」

 

 一誠の言葉に俺は苦笑する。

 

「俺自身、自分が何者かって分からなかったんだ。お前が分かったらそれはそれでビックリだけどな」

 

「……兄貴、俺の事貶している?」

 

「まさか」

 

 肩を竦めてそう言う。

 

 一誠は俺の事をじいっと疑わしそうに見つめてくるが、結局ため息を付いて視線を逸らすだけだった。

 

 そして、アッと何かを思い出したように声を上げる。

 

「そうだった。兄貴、ちょっと頼みがあるんだ」

 

「ん?」

 

******

 

「何で俺がお前の依頼者の所に一緒に行かないといけないんだよ」

 

「仕方ないだろ、連れてきてくれって頼まれたんだから」

 

 俺の文句に一誠は憮然としながら答える。

 

 俺は現在一誠と共にある高級マンションにいた。

 

 理由は一誠の現在のお得意様にある。

 

 何を気に入ったか知らないが、一誠の事を度々呼んでおり、その度に夜に釣りに行ったりとかパシらせたりとかよくわからないことをさせているらしい。

 

 しかもその対価として様々な宝石やら高価な絵画を贈るらしく、奇妙ともいえる客だ。

 

 んで、そんな一誠のお得意様が俺の事も呼んでいるらしい。

 

 一誠がどうも俺の事を話していたらしく、会ってみたいと言い出したらしい。

 

 俺が人間界に戻ってきたことからこれ幸いと、一緒に付いてきて欲しいと一誠に頼まれたのだった。

 

 一誠に合わせて転移魔方陣から行かない様にしていたが、これが中々にめんどくさい。一誠は毎回こんな事をしているのか。ある意味で頭が下がるぜ。

 

「ああ、ここだよ」

 

 一誠は玄関のチャイムを鳴らす。

 

 玄関のチャイムを鳴らして来訪を告げる悪魔……何だか笑えてくる。

 

「おー待っていたぜ悪魔くん」

 

 出てきたのは黒髪のワル面とか言われそうな風貌の男だった。

 

 イケメンというのに入る部類だろう。ただ、口元に浮かべている悪戯っぽい笑みが何か台無しにしている感じだが。

 

 てか、このおっさんもしかして……。

 

「お、そっちのイケメンの兄ちゃんが悪魔くんのお兄さん?」

 

 俺の方に気づき、目を細めながらそう言う男性。

 

「はい、そうです」

 

「へー本当に似てねえな。けど、何となく雰囲気がそっくりなのが不思議だぜ」

 

 興味深そうに俺たちを見詰めてくる。

 

 別にどうでも良いんだけどさ。

 

「おっと、悪いな、上がってくれ」

 

 男性に言われて部屋に入る俺たち。

 

「ゲームが多いですね」

 

 周りを見渡せば、最新式から旧式の古いやつまで多種多様に網羅している。何というか、趣味人って感じだな。

 

「ああ、こっちに来てから大分嵌ってな。今日はレースゲームのヤツを買ったんだ。どうだい、お兄さんも一緒に?」

 

 レースか。最近やってなかったしな、丁度良い。

 

 ゲーム機にセットしてコントローラーを俺と一誠に渡す男性。

 

 そういや、一誠の奴、この手のゲームは強いんだよなあ。

 

「おら、どうよ!」

 

 案の定、一誠の一人勝ち。その後に俺、男性と続く。

 

「はは、中々やるじゃねえか。だが、もうコツは掴んだぜ」

 

「お、言いますね。じゃあ、もう一回やりますか」

 

 そして再び始まる第二レース。

 

 宣言通り、男性は一気に強くなった。俺なんてあっさりと追い抜かれちまった。今は一誠と接戦中だ。

 

「こ、の!」

 

「はははは! このまま勝たせて貰うぜ」

 

 いい勝負だな。一誠もこりゃあ、負けるかもしれないな。

 

 ……その前に、もう良いかもな。

 

「で、あんた何もんだ? 人間じゃないだろ」

 

 俺のその一言で、場は静まり返った。

 

「あ、兄貴? 何言ってんだ?」

 

 一誠が戸惑う様にこちらを見る。

 

「……へえ」

 

 対して、男性は笑みを深めるだけだ。

 

「いつから気づいた?」

 

「一応最初っからかな。あんた、俺の事舐めすぎじゃね?」

 

「あの二人の息子であるお前を舐める事なんてしねえよ」

 

 あの二人の息子、ねえ。俺の事もきちんと知っていて呼んだのか。

 

「コカビエルを倒したと聞いていたが……クックッ。どうやら想像以上みたいだな」

 

 面白そうに肩を震わせると、男性はおもむろに名乗った。

 

「――アザゼル。堕天使の総督をやっている。よろしくな、赤龍帝、レオンの息子」

 

 ……まさかのトップ。どうやら、今度行われる三大勢力会議。一筋縄では終わらなそうだな。

 

******

 

「信じられない! まさか堕天使の総督が私の縄張りに無断で入り込んでいるなんて! どういうつもりよ!」

 

 リアスの怒声が部室内に響き渡る。

 

 俺はそれに眉を顰めつつ答える。

 

「別に何もないと思うぜ。ただ俺たちの顔を見に来ただけだと思うし」

 

「そうだとしてもよ! 信用ならないわ。アザゼルは神 器(セイクリッド・ギア)に造詣が深いと聞くわ。もしかして、二人のを狙っていて……? あり得ない話では無いわね」

 

 ぶつぶつと自分の考えを口にするリアス。

 

 ほんと、眷属の事になると周りが見えなくなると言うか何と言うか……。ま、そこもリアスの良い所の一つなんだろうけどさ。

 

「――アザゼルは昔からそうなのだよリアス。こちらが冷や冷やするような悪戯をしてくる」

 

 突如として部室内に聞こえる声。てか、この声……。

 

 声がした方向、つまり部室の入り口の方を見る。

 

 そこにいたのは――。

 

「お、お兄様!?」

 

 リアスが立ち上がると同時に驚きの声を上げる。

 

 そう、そこにいたのは紅髪の男性、サーゼクス・ルシファー。つまり、俺の従兄だ。その隣にはグレイフィアさんが付き添っている。

 

 サーゼクス……様は魔王の衣装では無く、スーツに身を包んでいる。グレイフィアさんは相変わらずメイド服だが。

 

 部員が片膝ついて礼をする。

 

「そうかしこまらないでくれ。今日はプライベートで来ているんだ」

 

 サーゼクス様は苦笑しながらやめるように言う。

 

 その言葉で、部員たちは皆立ち上がる。

 

「お、お兄様? 今日は一体どのような御用で」

 

 戸惑いを隠せないリアス。まあ、突然魔王である兄が来たらこうなるか。

 

「何を言っているのだリアス。授業参観だよ。もうすぐあるのだろ? 兄として、是非妹たちの勉学に励んでいる姿を見ておきたくてね」

 

 懐から授業参観のプリントを取り出すサーゼクス様。

 

 それを見て悟ったようにグレイフィアさんの方を向くリアス。

 

「グ、グレイフィアね? お兄様に授業参観の事を教えたのは」

 

「はい。グレモリー眷属のスケジュール管理は私の仕事なので」

 

 このヒト、ルシファー眷属としての仕事もあるだろうにマジすげえ。

 

「魔王の仕事が激務であろうと合間を縫ってみておこうと思ってね。安心しなさい、父上も当日には来るそうだ」

 

 父上。リアスのお父さん。つまりは俺の叔父。あの人も来るのか……。

 

「そういう問題ではありません! 魔王が一悪魔を特別視していい筈がありません!」

 

 サーゼクス様に詰め寄るリアス。

 

 まあ、確かに。リアスの言い分にも一理あるか。魔王が身内とは言え、仕事をほっぽり出してそんな事したら、悪意あるヤツからすれば格好の非難の的だしな。

 

 リアスの言い分にサーゼクス様はやんわりと首を横に振る。

 

「いやいや、リアス、これは公務でもあるんだ。実は三大勢力の会議、この駒王学園でやろうと思っていてね」

 

 っ、マジか。この学園で。

 

「っ、ここで? 本当に?」

 

 リアスが鋭い視線を送る。

 

「ああ、この学園は何らかの縁があるのだろう。私の妹であるお前。伝説の赤龍帝、聖魔剣の使い手、聖剣デュランダル使い、魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹が所属し、コカビエルや、あの白龍皇も来襲した。そして、私たちの従兄弟のカレン。これが偶然として片づけられるのか……これを引き寄せているのが、伝説のドラゴンを宿すカレンとその義弟の兵藤一誠君だと、私は思う」

 

 ……俺と一誠がこれまでの事件を引き寄せていたと? 

 

 ドラゴンは様々な超常なモノを引き寄せると聞いていたけど、確かに伝説級のドラゴンが二体もいれば納得できるかな。

 

 気づけば、サーゼクス様は俺の前に立っていた。

 

「サーゼクス、様?」

 

「そんな風に呼ばなくていい。昔の頃の様に兄様って、呼んでくれても構わないよ?」

 

 悪戯っぽく微笑むサーゼクス。

 

「い、いや流石にこの年で……」

 

 恥ずかしいわ!

 

「そうか? それは残念だな」

 

 本当に残念そうな顔をするな。こっちが罪悪感湧いてくるよ。

 

 ええい、仕方ない。

 

「え、と……じゃあ、サーゼクス兄さん、で」

 

 取り敢えず妥協点はこれだ。

 

 俺の言葉に、笑みを浮かべるサーゼクス様、もといサーゼクス兄さん。

 

「ああ、今はそれで構わない」

 

 今? 今って言ったか?

 

 サーゼクス兄さんは右手を上げると……。

 

 ――ポン。

 

 頭に何か柔らかい感触。頭を撫でられているという感触だと、直ぐに分かった。

 

「サーゼクス兄さん……?」

 

「本当に、本当に大きくなったものだ……本当に」

 

 感慨深そうに呟くサーゼクス兄さん。

 

 その言葉に、どれ程の思いが込められているのか、俺でも少しは分かる気がした。




いかがでしょうか? 感想意見待っています。

今回からタイトル簡略します。理由は単純明快。自分の語彙が完全に尽きました。これ以上無理っす。はい。


今月の初旬から「なろう」のサイトでオリジナル作品を投稿し始めました。下にURL貼りますのでどうか興味のある方は見てください。

ジャンルとしてはファンタジーを意識しています。

http://ncode.syosetu.com/n5757cl/


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第二話

今回は非常に難産で、しかも殆ど原作変わらず……時間はあったはずなのに、何なのでしょうか、これ。


「成程、リアスがご迷惑をかけていなくて良かったです」

 

「とんでもない! リアスさんはとても良いお嬢さんですよ」

 

 兵藤家リビング。そこで、義父さんたちとサーゼクス兄さんによる話が和気藹々と続いていた。

 

 義父さんたちが座っている対面にサーゼクス兄さんとリアスが座り、グレイフィアさんが後ろに控えている。

 

 一誠とアーシアは少し離れた場所に座っている。

 

 で、俺はというと、両者の間に座っている。

 

 あれから、色々と話した後、サーゼクス兄さんたちが宿泊施設を探していると聞き、一誠が提案したのだ。

 

 ――ウチに来ませんか?――

 

 サーゼクス兄さんは突然の申し出に目を丸くしていたが、直ぐに笑顔になって言った。

 

『丁度良い。リアスやカレンが世話になっているのだ。挨拶に行こうと思っていた所だよ』

 

 リアスは嫌よ嫌よ、と抵抗したが結局サーゼクス兄さんに押し切られて今に至る。

 

 俺は特に何も言わなかったが、今更に感じるのは若干の居心地の悪さだ。

 

 片や俺を今日まで面倒を見てくれた養父母。

 

 片や俺の本当の血縁者。但し悪魔。

 

 何これ。ビックリ仰天だよ。

 

「それでそちらのメイドさんは?」

 

 義父さんがチラリとグレイフィアさんの方を見てサーゼクス兄さんに聞く。

 

 まあ、普通はメイドなんてもの見る事なんて無いからな。

 

「ああ、彼女はグレイフィア。……実は私の妻なんです」

 

『ええええええええええ!?』

 

 一誠たちが驚きの声を上げる。

 

 当の本人のグレイフィアさんはサーゼクス兄さんの頬をつねりながら言う。

 

「メイドのグレイフィアです。我が主がつまらない冗談を言い、申し訳ありません」

 

「いひゃいよ、グレイフィア……」

 

 何だ冗談……冗談だっけ? あれ、可笑しいな。あんまり記憶が無いな。まだそこら辺はぼやけているからな?

 

「所で、夏蓮に関して重要な話があると聞きましたが……?」

 

 一通りの談笑が済んだ後、改めて義父さんがそう言う。

 

 予め俺が家に連絡するときにサーゼクス兄さんから大事な話があると言う事を告げていたのだ。

 

 まあ、今のうちに話して置くのも一種の手かもな。

 

「ええ、実は……」

 

 そこからサーゼクス兄さんも真剣そうな表情になって話し始める。

 

 俺がサーゼクス兄さんとリアスの実の従兄弟だと言う事。

 

 長年俺の事を探していた事。

 

 こないだリアスから話を聞いてもしやと思い。色々と調べた結果俺がカレン・グレモリーだと判明したことを。

 

 当然、義父さん達も驚きを隠せていなかった。

 

「夏蓮が、グレモリーさんたちの……?」

 

「ええ、我々の血族なんです」

 

「なんと……いや、確かに夏蓮はハーフとは聞いていましたがまさか……」

 

「私たちも驚いています。失礼ながら先日DNA鑑定を行ったのです。そしたら、見事に一致して……」

 

 はい? え、そんな事していたの? でもいつ? どうやって?

 

「あ……」

 

 そうか……ライザー戦の時に俺が負傷して眠っていた頃にグレイフィアさんが看病してくれた、あの時か!

 

 その時点でサーゼクス兄さんは気付いていたのか。こいつはまた早い……。

 

「そう簡単に信じられないかもしれません。ですので、本日はこちらをお持ちしたのです」

 

 そう言ってサーゼクス兄さんは懐からあるものを取り出した。そのまま、机の上に置いた。

 

 何だ? 俺や義父さん達が覗き込む。そして驚愕する。

 

「これって……」

 

 そこにあったのは、一枚の写真だった。写っているのは三人。

 

 一人は黒い髪を背中まで伸ばした二十代前半ぐらいの女性。その顔立ちは余すことなく写真に写っていた。

 

 そしてもう一人は、紅髪を無造作に伸ばしている女性と同じぐらいの年頃の男性。けど、一番驚いたのは……。

 

「俺と同じ顔……?」

 

 そう、瓜二つとまではいかないまでも間違いなく俺にそっくりだ。遠目から見たら分からない位に。

 

 もう一人は女性に抱かれている赤ん坊。多分男の子だな。男性と同じ紅髪を持っており、不思議そうに視線を前に向けている。

 

 女性の方は間違いない。俺の母様、朝凪日月だ。見間違えるはずが無い。

 

 って事は、この写真は……。

 

「赤ん坊がカレン。女性が日月さん。そして、男性は私の叔父で、カレンの父親レオン・グレモリーです」

 

 これが、俺の本当の家族……。

 

 無意識の内に写真を手に取る。

 

 そのままじっと、見つめる。

 

 何であろう。全然記憶なんて無いはずなのに、酷く懐かしい……。

 

「カレン、貴方……」

 

 リアスの言葉にはっと我に返り、頬を伝う何かを感じる。

 

 咄嗟に手を当ててみると涙だった。

 

 無意識の内に涙を流していたのか……?

 

「あれ? 可笑しいな……涙が……」

 

 止まらない。さっきからずっと溢れてくる。

 

「くそ……」

 

 目を覆う。何か、情けない。この年になってこんなに泣くなんて……。

 

 自分に四苦八苦していると、頭に柔らかい感触が入る。

 

 視線を上げると、リアスが俺の頭を撫でていた。

 

「大丈夫?」

 

 柔らかな視線で俺に聞いてくるリアス。

 

 その目に、俺は知らず知らず笑みを浮かべる。

 

「ああ、大丈夫だ。ちょっと落ち着いた」

 

******

 

「そ、そんな……カレンと一緒に寝てはいけないのですか?」

 

 枕を抱きながら心底ショックを受けた顔をしているリアス。

 

「ああ、済まない。私もカレンと二人で話してみたいのだ」

 

 漸く寝る時間になった時、サーゼクス兄さんが俺と二人で寝たいと言ってきたのだ。

 

 普段はリアスと一緒に寝ているのだが、そのリアスを抜きにして寝たいそうだ。

 

 リアスは強烈なまでに嫌がったが結局渋々とだが、折れた。

 

 この頃、リアスは俺と離れるのを極端に嫌がる。普段はあまり表に出さないが俺がトイレに行こうとするのだって一緒に行こうとするのだからビックリだ。

 

 ……まあ、理由は何となく想像が出来ている。あまり言いたくはないが。

 

「カレン、大丈夫? 夜は一人で寝れる? トイレは直ぐに行くのよ。ベットから落ちないように気をつけて。後は……」

 

「お前は俺の母親か」

 

 ため息を付く。

 

「前も言ったかもしれないが、俺はお前が覚えている頃のガキじゃねえぞ」

 

「でも……」

 

 尚も言い寄ろうとするリアスだったが、後ろからグレイフィアさんが声を掛ける。

 

「お嬢様、これまでです。さ、行きますよ」

 

「……分かったわ。カレンそれじゃあまた明日ね……」

 

 最後まで名残惜しそうに俺の部屋をグレイフィアさんと出ていく。

 

「随分とリアスに懐かれているね」

 

「記憶がお互いに戻って戸惑っているだけだと思いますよ。直ぐに治ります」

 

「そうかな?」

 

 そんな会話をしながらお互いに寝る準備をする。そして、電気を消してベットと布団に寝転がる。

 

「……俺の立ち位置って今どうなっているんですか?」

 

「どういう事だい?」

 

 ポツリと呟いた言葉。サーゼクス兄さんが反応する。

 

「今の俺はリアスの眷属って事でしょ? だから、グレモリーの一族としての俺の立ち位置がいまいち分からなくて」

 

 俺がグレモリーの一族としていたのはもう十数年前。ぶっちゃけた話、余り覚えていない。まともに覚えているのは本当にリアスに関する事だけだ。

 

 俺のそんな不安をサーゼクス兄さんは笑って言う。

 

「心配ないよ。お前がグレモリー一族という事は既に冥界でもちゃんと認識されている。上級悪魔として再登録される事になった」

 

「……よく通りましたねそんなの」

 

 思わずそう言う。

 

 うろ覚えだが、悪魔社会の貴族階級は血統やら伝統やらを重んじる。俺みたいなハーフを発見したとしてもあまりいい顔はしない気がするが。

 

「問題ないよ……これが通らないと怒る者達がいるからね」

 

「え?」

 

「いや、何でも無いよ」

 

 何か小声で言った気がするが、まあ、良いか。

 

「そういえば、アザゼルに会ったそうだね」

 

「ええまあ」

 

 話題はあの堕天使の総督に移った。

 

 あの飄々とした堕天使の総督は結局のところ俺たちに何かをするわけでも無く、そのまま俺たちは帰ってきた。

 

「正直、堕天使の親玉だからこちらに敵意満々かと思っていました」

 

「アザゼルはそういう性格はしていない。どちらかというと、戦争反対派かな? かの大戦でも真っ先に手を引いたのが堕天使だったのだから」

 

 へえ、そりゃまた意外というか。

 

「アザゼルが君たちに興味を持ったのはやはり伝説のドラゴンの神 器(セイクリッド・ギア)を持っていたからだろう。彼は神 器(セイクリッド・ギア)研究に力を入れているからね」

 

「一誠は天龍の一体を宿しているから分かりますけど、俺のは天龍って訳じゃありませんよ?」

 

 俺の言葉にサーゼクス兄さんは苦笑する。

 

「そうかもしれないが、それでも十分強力だ。最も、アザゼルがカレンに注目しているのは別の理由もあるだろう。たださえ君の両親は各勢力、他神話からも目を付けらているのだから」

 

 ……今更だけど、俺の両親ってどんな人だったんだ? 母親が人間だったのは何となくだけど覚えている。まあそこも若干怪しいけど。

 

「けど安心しなさい。君の義弟である兵藤一誠君共々、私達がしっかりと守ろう。――今度こそ」

 

「………」

 

 サーゼクス兄さんの言葉にどれだけの意思が込められているのか、俺にもほんの少しだけ分かる気がした。

 

 だから、

 

「……ありがとうございます、サーゼクス兄さん」

 

 心から礼を言う。

 

 そんな俺の礼にサーゼクス兄さんは笑って答える。

 

「構わないさ、私たちは家族なのだから。私やリアス、父上も母上もそう思っているよ」

 

 家族、か……。

 

 それから俺たちは色んな事を話した。サーゼクス兄さんやリアスの今まで事や、俺の学校生活など本当に色んな事を話した。

 

「え! 兄さん子供が生まれたんですか?」

 

「ああ、男の子だ。冥界に戻ったら会ってみると良い」

 

「へえ……おめでとうございます」

 

 そんな場当たり的な言葉しか出ないが、びっくりだ。まさかサーゼクス兄さんに子供が出来るているとは。

 

「そうそう、母上もお前に会いたがっていた。今回は来れないが冥界でちゃんと会っておきなさい」

 

「はい」

 

 伯母上か……ほぼ覚えていないが、大丈夫だろうか。

 

「学校は楽しいか?」

 

「ええ、リアスたちのお蔭で充実しています」

 

「それは良かった。今度の授業参観、楽しみにしているよ」

 

「あははは……」

 

 結局、俺のこの日聞くことが出来なかった。いや、サーゼクス兄さんも意図的に話さなかったのかもしれない。

 

 

 

 何故が俺が日本にいたのか。何故俺と母様だけがいたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――俺の記憶の中に残る親父を刺した相手が誰なのか。

 



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第三話

どうも、ちょっと大学関係で阿呆な事をしてしまい更新が遅れました。

何とか終わったので取り敢えず、二週間更新しなかった埋め合わせで今投稿いたします。

二週間も放置してぶっちゃけあまりいい出来ではありません。酷いなおいと思うかもしれません。感想欄にその旨を書く場合はオブラートに包んでお願いします。自分、心強くないので。


 次の日、サーゼクス兄さんとグレイフィアさんは家を後にした。

 

 今回の会談の為、町の中を色々と回るそうだ。

 

 で、俺たちグレモリー眷属はと言うと……。

 

「意外と過ごしやすいな」

 

 プールサイドに広げたシーツに寝そべり、空を仰ぎ見ながら俺は一人ごちる。

 

 現在俺たちは学園のプールにいる。理由はプール掃除だ。

 

 生徒会からプール掃除を請け負う代わりに一番最初にプールを使う事を許可してもらったそうだ。

 

 で、掃除も終わり俺たちはのんびりとプールを満喫しているのだ。

 

 いやー、こういう所でのんびり過ごすのも悪くない。

 

「ねえカレン。私の水着どう?」

 

 泳ぐのも良いけど、俺はこうやってのんびり寝転びながら昼寝するのが好きだな。

 

「私のもどうですか、カレン?」

 

 …………。

 

「ねえ、二人とも」

 

「なに?」

 

「どうしたのですか?」

 

「……その水着は何?」

 

 とうとう見逃せず二人を見る。

 

 リアスは赤い水着。自身の髪と同じで良く似あっている。

 

 対称的に朱乃の水着は白。こちらも良く似合っている。

 

 ……水着の面積は非常に少なく無かったら似合っていると素直に言えたのだが。

 

「何その水着!? 面積少なくない?」

 

 耐え切れず叫ぶ。

 

 そんな俺とは対称的に二人は平然としている。

 

「そうかしら。このぐらい普通だと思うのだけど」

 

「そうですわね」

 

 ええい、自分の肉体に誇りを持っているタイプだなこの二人。

 

「そうだぜ兄貴! 最高だって褒めないと!」

 

 一誠は一誠で鼻血を出しながら声高らかに叫んでいる。

 

 可笑しいな俺の感性が変なのか? 後一誠、そんなに鼻血を出していたら危ないぞ。

 

「で、どう? 似合う?」

 

 ぐいっと身を乗り出して聞いてくるリアス。

 

 朱乃も同じ様に乗り出してくる。

 

「うっ……」

 

 鏡を見なくても自分の顔が赤くなっているのが分かる。

 

 ここに答えなくては男として駄目だ! お師匠様もそう言うに決まっている!

 

「に、似合っているぞ二人とも……」

 

 取り敢えずそう返しておく。他になんて言えばいいかぶっちゃけ良く分からない。

 

 その言葉に二人は嬉しそうな顔をする。

 

「ああ、そうだカレン。頼みがあるんだけど……」

 

******

 

「そうそう、そうやって足を動かして」

 

「……はい」

 

 プールの中、俺は小猫ちゃんの手を持ちながら彼女の泳ぎの練習をしていた。アーシアは一誠が担当している。

 

「しっかし小猫ちゃんが泳げなかったとはな」

 

 リアスの頼みで小猫ちゃんの泳ぎの練習を手伝っていたのだが、中学とかの水泳の授業とかどうしていたんだろ。

 

「……先輩は普通に泳げるんですか?」

 

 バタ足を続けながら聞いてくる小猫ちゃん。小猫ちゃんは普通にスクール水着を着ている。胸元には「こねこ」と書かれている。

 

「ああ、水泳の授業とか知り合いと海に行ったときにアドバイスを聞いていたら何か普通に出来たよ」

 

 コツさえ掴めば泳ぎなんて案外楽にいけるものだ。

 

「まあ、大丈夫さ。小猫ちゃんは水の抵抗力が小さいだろう……しぃっ!?」

 

 な、があ……両手首が、両手首がああぁぁぁ!?

 

「……何です?」

 

 ジト目でこちらを見てくる小猫ちゃん。

 

「こ、小猫ちゃん……? 手首握り過ぎじゃない?」

 

「……何のことです?」

 

 あれー可笑しいな。何か俺悪い事したかな。

 

 取り敢えず25メートルを泳ぎきる小猫ちゃん。

 

「よし、良いんじゃない? この調子で泳いで行こう」

 

「……はい」

 

 ただ、一回休憩しようって事でプールから上がる小猫ちゃん。俺はそのままプールに入っている。

 

「どう、泳いでみて?」

 

「……先輩って教えるの上手いですね」

 

「そう? 自分ではよくわからないけど」

 

 基本的に指導を受けたことしかないし、妹弟子のあいつにも特に指導したって感じがしなかったし。

 

「はい、若干直感的にですけど、凄い分かりやすいですし」

 

「それ褒めている?」

 

 最近の事を話しながら俺たちは雑談を続ける。

 

「……カレン先輩は本当の家族についてどれくらい覚えていますか?」

 

「突然どうした」

 

 本当に突然だよ。

 

 ジッとこちらを見てくる小猫ちゃん。ちゃんと答えないと駄目っぽいな。

 

「……前にも言ったけど殆ど覚えていないな。リアスの事はちゃんと覚えていたんだけどなあ」

 

「そうですか……」

 

「何で急に?」

 

「いえ……本当の家族を突然思い出したのはどんな感じなのかと思って……」

 

 ふむ……まあ良いけど。

 

「そうだな……あまり実感が湧かないのが正直な所かな」

 

「やっぱり昔すぎるからですか……?」

 

「まあな」

 

 実際のところ半分本当で半分嘘だ。

 

 あの雨の日を境で俺の記憶は酷く曖昧だ。その所為で自分の記憶だと実感が湧いてこない。

 

 冥界に戻ったらもう少し変化があるだろうか。

 

「けどまあ、思い出せて良かったと思うな」

 

「……そうですか」

 

 それっきり黙りこくる小猫ちゃん。

 

 そしてお互いに黙ってしまう。

 

「……練習再開しようか」

 

「……はい」

 

******

 

「うーん、中々疲れましたねえ」

 

 シートに寝ころびながら俺は伸びをする。

 

 あの後練習を続けて何とか泳げるようになった小猫ちゃん。

 

 結構、筋は良かったからな。小猫ちゃんは直ぐに覚えていった。

 

「お疲れ様、カレン」

 

 俺の隣に座りながらそう言うリアス。

 

「ありがとう、小猫の練習に付き合ってくれて」

 

「構わないさ。後輩の面倒を見るのも先輩の務めってな」

 

「ふふ」

 

 少し微笑むとリアスはとんでもない提案をしてくる。

 

「じゃあ今度は私の体にオイルを塗ってくれないかしら?」

 

「……え?」

 

 思わず耳を疑う。

 

 しかし、リアスは構わず上の水着を脱ぐ。

 

「ごふっ!」

 

 思わずむせる。

 

「じゃ、お願いね」

 

 小瓶を俺に渡してくるリアス。

 

 え、えー。

 

 小瓶とリアスを交互に見る俺。

 

「はあ……」

 

 こうなっては仕方ないかな。

 

 小瓶の蓋を外し、中身を手に取り出す俺。

 

 手に伸ばし、リアスの背中に塗り始める。

 

「ん……」

 

 うーん、やった事はあるにはあるが、昔すぎてあまり覚えていないんだよなあー。気づいたらあいつが覗き込んでたわけだし。

 

 取り敢えず、余り力を入れ過ぎないようにやってみるか……。

 

 ヌルヌルとしながらも、リアスの体温を感じながら俺は塗っていく。

 

「あら……上手ね」

 

「そうか?」

 

「ええ、手慣れている感じ……誰かにやったことあるのかしら?」

 

 ズルっ! 手が滑る。

 

「……はは、まさかそんな事あるわけないじゃないか」

 

「声が上ずっているわよ」

 

 あれ!? 

 

「そういえば、あの夜の続き、まだしてなかったわよね? すっかり忘れてたわ」

 

「い、何時の夜だ?」

 

 聞きようによっては誤解されるようだが、俺たちの間には何もない。

 

「あの日、私が処女を貰ってほしいと言った日よ」

 

「あ、あー」

 

 あの日か。まだライザーとの婚約があって、それを破談にするためにリアスがあれこれやっていた時の。

 

「うっ……!」

 

 そして同時に思い出す。そうだ、あの時!

 

「私がいながら誰と付き合っていたのかしら?」

 

 顔をこちらに向けてニッコリと笑うリアス。

 

 だが、俺には分かる。あれは悪魔の笑み。あの日と同等、いやそれ以上の――! 

 

「いや、まあ、その……」

 

「目を泳がせずにまっすぐこちらを見なさい」

 

「はい」

 

 有無言わせない口調。俺は屈した。

 

 くっ。逃げ場無し。そうすれば……。

 

「――あらあら、何をしていますの?」

 

 突然の声と背中に感じる柔らかい感触。

 

「朱乃!?」

 

 リアスの声で、後ろに朱乃がいるのが分かる。

 

 ……あれ? もしかしなくても、朱乃、俺に寄りかかっている? この柔らかい感触は……!

 

「うふふ、リアスにオイルを塗ってあげているんですか? でしたら私にもお願いできますか?」

 

「はいぃ!?」

 

 後ろを向く。

 

 っ、朱乃の顔がドアップで目の前に――!

 

 ほんのり頬を染めながら朱乃は言う。

 

「リアスが良いのだから、私も構わないでしょ?」

 

「い、いや……」

 

 うおぉ……朱乃って本当に顔が整っているから不味い。

 

「どうです?」

 

「うっ……」

 

 目をあちこちに回す。

 

 だが、次の瞬間、後ろから肌で感じるほどの怒気が漂ってきた。

 

「――朱乃? 何をしているの?」

 

 恐る恐る再び振り向けばリアスが仁王立ちしてこちらを睨み付けている。

 

 大事な所は髪に隠れているが、目に困る状況だ。

 

「朱乃、カレンに何をちょっかい出しているの? カレンは私のものよ」

 

 へいリアス、俺はお前のものでは無いぜ。

 

「あら、ちょっかいだなんて……ただ私もカレン君と仲良くしたいのですよ」

 

 ピクリと眉を動かすリアス。

 

「へえ……そうやって体を密着するのが仲良くする事なの?」

 

 体の端々から魔力を出し始めているリアス。

 

 いやいや、これ不味くね? 何か洒落にならなくね?

 

「あらあら、怖いですわ。ねえカレン? こんなこわーい従姉妹さんなんて放っておいて、私と一緒に楽しく過ごしませんか?」

 

 ギュッと俺を抱きしめる朱乃。

 

 その光景を見て思いっきりギリッと歯を噛みしめるリアス。

 

「朱乃……調子乗るのも大概にしなさい。カレンに手を出そうとするなんて天地が許しても私が許さないわ」

 

「天地だなんて……表現が古いのでは?」

 

 一瞬、二人の間に火花が散ったように見える。

 

「お、おい二人とも! その辺にしておけよ!」

 

 これ以上は流石に不味い。このままだと、厄介ごとが起こるとしか思えん!

 

 何とか止めようと説得を試みる。

 

「いやよ」

 

「断りますわ」

 

 だがしかし! 失敗した。

 

「いや何で!?」

 

「カレン、これは女の戦いよ。貴方が口を出していい問題では無いわ」

 

「あらあら、言いますわね部長」

 

 気づけば朱乃も魔力のオーラを迸らせ始めていた。

 

 立ち上がり、両者対峙する。

 

「……」

 

「……」

 

 無言の一幕。そして、

 

「このっ!」

 

「っ!」

 

 お互いに魔力の塊をぶつけ合う。

 

「って! ちょ!」

 

 二人の間に立っていた俺は慌てて横にそれる。

 

 魔力がぶつかり合い、滅びと雷が当たりに飛び散る。

 

「前々からそうなのよ! 朱乃は私のものにちょっかいを出してばっかり!」

 

「良いじゃありませんか! 少しぐらい私に貸してくれても!」

 

「良くないわ! カレンは私のものよ! 絶対にあげないわ!」

 

「全くケチなヒトですね!」

 

 何ともよく分からない言葉の応酬を繰り広げながら魔力をバカスカ撃ちあっている二人。

 

 その余波でプールがどんどん破壊されていっている。

 

「どうすんのよこれ」

 

 俺を完全に置いてけぼりでやっている。正直もうここから離れたい。

 

「……カレン先輩」

 

「ん? おお、小猫ちゃん」

 

 どうするか思案していると、避難してきたのであろう小猫ちゃんが近づいてきた。

 

「二人を止めてください」

 

「えー」

 

 思わず声が出る。多分嫌そうな顔をしているだろう。

 

「何で俺が」

 

「……先輩が原因でしょ?」

 

 否定できないのが辛い。

 

「だから責任取って止めてください。このままじゃプールが完全に壊れます」

 

「確かに……」

 

 悪魔の力があればプールぐらい直ぐに直せるだろうが、それはそれとしてソーナ会長から小言が来そうだ。多分何故か俺に対して。

 

「けどなあ……」

 

 チラリと二人の方を見る。

 

 両者、力量は殆ど互角だから均衡状態だが、お互いに力が強いから多分ほんの少しの差で崩れると思う。

 

 そうなると今よりもっとめんどくさい事になるだろう。

 

 で、そんな中に入らないといけないとかものすっごく嫌だなあ。

 

「はあ……」

 

 いつまでもうようよしている俺にイラついたのか急に小猫ちゃんが俺を持ち上げた。

 

「へ? 小猫ちゃん?」

 

「……さっさと行ってください」

 

 その言葉と同時に、俺の体が宙に浮かぶ。

 

 投げられた、と判断するよりも先に俺は二人の間に飛んでいった。

 

「え、ちょ、ひでえええええええ!」

 

 




同時刻に「なろう」の方でオリジナル作品も更新しました。興味のある方は下記のURLからお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n5757cl/


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第四話

最近更新が不安定で申し訳ありません。もう少ししたら落ち着くと思うのですが。

ある方のアドバイスを聞き、今後、ヒロイン希望等は一切受け付けないことを宣言します。もともと、ヒロインは既に決まっていますのでこれ以上何か言われてもお答えしませんのであしからず。


「くそったれ……酷い目にあった」

 

 よろめきつつ、俺は学園内を歩いていた。

 

 あの後、何とか二人の喧嘩を止めたわけだが……その後俺がネチネチと責められるわけで。

 

 面倒なので途中で理由付けて逃げ出してきたのだが……。

 

「理不尽だ……納得いかん」

 

 文句を呟く。恐らく俺が原因ではあろうが、ぶっちゃけ俺は蚊帳の外で話が進められたんだし。

 

 あーでも、お師匠様なら「情けない男のくせに!」とか言いそうだな。んで、翡翠からは小猫ちゃん並の毒舌と。

 

「…………」

 

 思わず、翡翠を思い出した。

 

 あいつは今何をしているのであろうか。あの日以来会っていない。まあ、俺が会うのを避けているのもあるけど。

 

 ……やめよう。どうせ俺が会いに行ったところであいつは会う気が無いだろうし、何より俺を許すはずが無い。

 

 空を仰ぐ。こんな時は空でも見て気持ちを落ち着かせた方が良いだろう。

 

「って、おい……」

 

 が、落ち着かせることは出来なかった。学園内に強い気配を感じたのだ。

 

 俺や一誠と同じような……恐らくドラゴンの気配。

 

 しかも一誠のと同じかそれ以上。つまりは――。

 

「こんなに早く接触してくるなんて、堕天使の関係者はサプライズ好きか!」

 

 毒づきながら俺は気配のする方に走る。

 

 すると、一誠ともう一人、黒っぽい銀髪をした美少年が対峙していた。

 

「一誠!」

 

 俺の言葉にこちらを向く一誠。

 

「兄貴!」

 

「ほう……」

 

 一誠の隣に立ち銀髪の少年を見る。

 

「よお、取り敢えず初めましてで良いんだよな白龍皇?」

 

「ああ、コカビエルの時はまともなあいさつが出来なかったからな。初めまして、俺の名前はヴァーリ。今代の白龍皇だ」

 

 やはり、白龍皇か。

 

「祐斗、ゼノヴィア手を出すな」

 

『っ!』

 

 後ろの二人が寸で止まる。恐らく手には得物があるだろう。

 

「悪いね。突然敵らしきヤツが来たら警戒しちまうのは当然だろ?」

 

「それは後ろの彼らが俺よりも弱いという事さ。真に強いならそこまで敏感になる必要は無い」

 

 実に正論だ事で。

 

「で? 何をしに来た? お前、自分の立場ってもんがあるだろ?」

 

「まあね。今日は俺の未来のライバル君の顔に改めて見に来たのと……」

 

 こちらを見て不敵に笑う。

 

「キミに会いに来たんだカレン・グレモリー」

 

「俺かよ……」

 

「当然じゃないか。かのレオン・グレモリーと『世界のバグ』とも言われた朝凪日月の子どもだ。注目しても当たり前だ」

 

 バグ? 『世界のバグ』って……母様、あんた一体何をした……。

 

「あの時の戦い。久しぶりに心震えたよ。是非また戦い」

 

「あーそう」

 

 しょーじきあの時は意識が半ば吹っ飛んでいたからな……ホント、何にも覚えていない。

 

 他の奴に聞くにはコカビエルの奴を一方的にボコッて、後から来たこの白龍皇と激闘を繰り広げたらしいけど。

 

 堕天使の幹部を一方的って……俺何した訳よ。

 

「正直、あんまり実感が無いんだよね。記憶が無いし」

 

「謙遜する事は無い。君は間違いなく強い。白龍皇たる俺が保証するよ」

 

 うーん、何か白龍皇の彼からの評価やけに高くないか? 俺からすれば初対面の奴にこうも言われるとどうも、ねえ?

 

「ふむ、本当はもう少し話をしておきたかったのだが、どうやらそうもいかないらしい」

 

 白龍皇は視線を外しながらそう言った。

 

「――どういうつもりかしら白龍皇? 貴方が堕天使側の者ならば、会談を前に不用意な接触は控えてほしいのだけども?」

 

 リアスが俺の横まで歩いて来て言う。既に制服に着替えており、朱乃や、アーシア。小猫ちゃんもいる。

 

「さっきも言ったろ? ただの挨拶さ。同じ二天龍としてね。天龍にかかわった者は碌な生き方をしないと言う。貴方はどうなるかな? リアス・グレモリー」

 

「っ!……」

 

 リアスの反応を見て面白がったのか、白龍皇はフッと笑うとそのまま踵を返して去っていた。

 

 完全に彼の姿が見えなくなって、やっと他の面々は息を吐く。

 

「――強い。僕たちが束になって勝てるかどうか」

 

「まともに相手が出来るのはカレン・グレモリーぐらいだろう」

 

 祐斗とゼノヴィアがそう評する。

 

「つか、結局何しに来たんだあいつ?」

 

 顔合わせと言っていたが、そこまでやる必要があったのだろうか? 会談で否応なく会うわけだし。

 

 まあ、事前に会っておくのも悪くは無かったけど、まるで台風みたいな奴だったな。

 

「……リアス?」

 

 ふと、横見ればリアスは未だに固まっている。いや、正確に言うならば、緊張した面立ちだ。

 

 ……ふむ。

 

 何となく、彼女の頭に手を乗せる。そのまま少し撫でてやる。

 

 リアスが驚いた顔でこちらを見る。

 

「大丈夫さ。あれが来たとしても、返り討ちにしてやる。そう心配するな」

 

「……ええ」

 

 漸く、緊張の面差しを解くリアス。少し笑ったのは可愛いね。

 

******

 

「憂鬱ね……」

 

 まるでこの世の膿でも落とすかのようなため息を付くリアス。

 

「そこまでか……?」

 

 隣に座る俺は苦笑するほかない。

 

 白龍皇の来訪から次の日。俺たちは授業参観の日を迎えていた。

 

 普通、高校三年にもなってくる親がいるかとも思ったが、実際案外来るらしい。中等部の方からも結構な見学者が来るって言うし、一大イベントの一つってヤツだな。

 

 うちの養父母も来るそうだ。義父さんに至っては有給を取って来るそうだ。ビデオカメラを調整していたし、小学生の子供の運動会でも見に行く気か、と突っ込みたくもなる。

 

 まあ、観に行く目的は俺たちじゃなくてアーシアだが。野郎よりかは可愛らしい娘を観たいのは分かるけど。

 

 というわけで、養父母は二年の一誠たちの教室にいる。で、こっちはと言うと……。

 

 教室がざわめていてる。まあ当然だな。何せ後ろにいる父兄の中に凄いのがいるからだ。

 

 授業中という事もあってチラリと、目線だけ動かしてみる。

 

 三年という事で一年や、二年よりかは少し少ないが、それなりにいる父兄の中に二人の一際輝いているヒトがいた。

 

 一人はサーゼクス兄さん。朗らかな笑みを浮かべて俺たちを見ている。その笑みに、父兄の中のお母さん方は子供の授業そっちのけで頬を赤らめて夢中になっている。

 

 もう一人は俺たちと同じ紅色の髪を持つダンディなイメージを抱かせる男性。まあ、リアスの父親。つまり俺の叔父上なんだが。

 

 ぶっちゃけ授業になっていない気がする。生徒の多くは二人を見ているし、前に立つ教師も教師で緊張しているし。なんだこれ。

 

「もう最悪ね……」

 

 隣に座るリアスが頭を抱えている。

 

「分からんでもないが、そこまでか?」

 

 黒板を見ながら小声でリアスに話しかける。

 

「そりゃあ、落ち着いていないけど、まあ、この程度なら問題は――」

 

 俺の言葉を遮るようにリアスが首を振る。

 

「別にそこは問題じゃ無いわよ。あれよ」

 

「……あれか」

 

 漸くリアスが何を言っているのか悟る。

 

 こっそり後ろを向くと、二人がいる。で、サーゼクス兄さんの手元にはビデオカメラが収まっている。

 

 カメラは俺たちに向けられてずっと撮られている。

 

 ……確かに最悪だな、うん。

 

 この年になっても授業参観をビデオで撮られるとか、笑えねえ。今頃、一誠もこんな気持ちなのかねえ。

 

「――グレモリーさん、この部分を」

 

「は、はい!」

 

 教師に指名されて、教科書を手に慌てて立ち上がるリアス。

 

 そして、指定されたところをスラスラと答えていく。

 

「はい、その通りです」

 

 見事に正解し、席に座りなおすリアス。

 

「父上、リアスは立派に答えていましたね」

 

「うむ、我が娘ながら素晴らしいものだ」

 

 ――後ろから聞こえてくる際限ない褒め言葉に顔を羞恥に包みながら。

 

「はは、大丈夫かリアス?」

 

「カレン、貴方楽しんでいない?」

 

「まさか」

 

 肩を竦めて答えておく。

 

 実際そうなのだけどね。こんなリアス滅多に見れないから割と面白い。

 

 

 

 ――この後、俺も同じような状況になり、リアスにからかわれた訳だが。

 

 

******

 

「……疲れた」

 

「全くだ」

 

 休み時間。廊下にて二年生の一誠たちと俺たちは会っていた。

 

 俺とリアスは授業の疲れに顔を歪ませていた。

 

「そんなに緊張したのか?」

 

「緊張つうか……なあ?」

 

「ええ。羞恥心との戦いだったわ」

 

「はあ……」

 

 要領が掴めないといった感じの一誠。

 

「そっちはどうだった? 確か、英語だったろ」

 

「ああ……」

 

 話を振られて少し苦い顔になる一誠。

 

「どうした」

 

「……粘土」

 

「は?」

 

「粘土使ってイメージしろって」

 

「いや、え、英語だよな?」

 

 何で英語で粘土使うんだよ! ほんと大丈夫かこの学園!?

 

 悪魔が経営しているとこんな感じなのかと頭を痛めていると、祐斗が小走りでこちらに来た。

 

「祐斗、どうかしたの?」

 

 リアスが声を掛ける。

 

「いえ、何でもあっちで魔法少女がいるとか……」

 

 ……魔法少女?

 

 

******

 

 パシャ! パシャパシャ!

 

 祐斗が言っていた魔法少女がいるという場所に行って見れば大量のフラッシュがたかれており、小さな撮影会みたいなのが行われていた。

 

 フラッシュに目を細めながら中心を見てみれば、成程。確かに魔法少女がいた。

 

 魔法少女はキラリ、と星が浮かびそうなポーズを取りながらノリノリで撮影されていた。

 

「なっ!」

 

 リアスが驚いた顔をしている。どうやらリアスの知り合いらしいけど、誰かね。

 

 リアスの知り合いって事は悪魔で、かなりの地位のヒトだと思うが……こんなヒト、グレモリー一族にいたかな?

 

 あ、いや、グレモリーは紅髪を持っているから無いかな? 誰だろ。

 

「オラオラ! 天下の往来で撮影会たーいいご身分だぜ!」

 

 そんな事を言いながら生徒会の匙君が撮影の中心場所に割り込む。

 

「ほら! 撮影終了だ! 今日は授業参観だぜ! 撮影会じゃねえんだ!」

 

 手を身振り手振りしながら集まった人たちを散らす。

 

 撮影していた人たちは不満を口にしながらも辺りに散っていく。

 

 後に残った魔法少女に匙君は注意する。

 

「あんたも、何やってんだ。保護者の方ならそんな恰好でいらっしゃるのは……」

 

「えーだってこれが私の正装なんだもん!」

 

 もん! って、もんって。匙君も額に青筋を立てている。

 

「サジ、何事ですか。揉め事が起きたら速やかに片付けるようにと言ったはずですが」

 

 と、そんな時、ソーナがそんな事を言いながらこちらに来た。近くにはサーゼクス兄さんと叔父上がいた。

 

 確か、学園を案内するとか言っていたな。その過程でこちらに来たんだろう。

 

 だけど、ソーナの奴、魔法少女を見た瞬間に固まったな。ソーナの知り合いでもあるのか?

 

「ソーナちゃん見ぃ付けた!」

 

 魔法少女が嬉しそうにソーナに抱き付く。

 

 ふむ、ソーナの知り合いらしいな。抱き付くって事は家族……妹かな?

 

「ああ、セラフォルー。君も来ていたのか」

 

 サーゼクス兄さんがそう言う。

 

 ……ん? セラフォルー? どこかで……。

 

「レヴィアタン様よ」

 

「え……?」

 

「セラフォルー・レヴィアタン様。四大魔王のお一人よ。そしてソーナのお姉さまでもあるわ」

 

「え、ええええええぇぇぇぇぇ!?」

 

 一誠が驚きの声を上げる。かくいう俺も驚きを隠せない。

 

 この魔法少女コスプレをしている少女が魔王。しかもソーナの姉!?

 

 唖然としている俺を尻目にリアスが魔法少女――セラフォルー様に挨拶する。

 

「お久しぶりですセラフォルー様」

 

「はーいリアスちゃん☆ お久しぶりです!」

 

 軽いな。何というか、全体が軽い。魔王とは全く思えない。

 

 普段を知っているであろうリアスも戸惑いながら答える。

 

「今日はソーナの授業参観に?」

 

「そうなのよ! なのにソーナちゃんったら教えてくれなかったのよ。お姉ちゃん悲しくて天界に攻め込もうとしちゃったんだから!」

 

 えーそんな理由? そんな理由で天界に攻めるの?

 

 思わずため息を付く。

 

 もしかしなくても、コカビエル戦にセラフォルー様を呼ばなかったのはこれが影響しているんだろうなー。この姉が来ていたら今頃悪魔と堕天使の大戦争勃発していただろうし。

 

「あれ? サーゼクスちゃん。この子が……」

 

 俺に気づいたセラフォルー様がまじまじと俺を見詰めてくる。

 

 てか、サーゼクスちゃん!? 同じ魔王とはいえ、ちゃん付けとか……すげえなおい。

 

「ああ、彼がカレンだ」

 

 サーゼクス兄さんも普通に受け答えしている。これが普通なんだろうな。

 

「お初、と思いますが、カレン・グレモリーです。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 まあ、取り敢えず挨拶はしておこう。こんなんでも魔王だし。

 

「うわーうわー! 話には聞いていたけど、本当にレオンの叔父様にそっくり!」

 

 興味津々といった感じで俺の周りをグルグルと回るセラフォルー様。

 

「う……」

 

 ジロジロとみられてあまり気分が良くない。

 

「セラフォルー、それくらいに。カレンが困っている」

 

 困る俺を見かねてサーゼクス兄さんが助け舟を出してくれる。

 

「ああ、ごめんなさい。つい」

 

 そう言って俺の前に再び立つ。

 

「魔王の一人セラフォルー・レヴィアタンです! 気軽に『レヴィアたん』って呼んでね!」

 

 横ピースをしながらそう言うセラフォルー様。

 

 ……。

 

 …………い、言えるかああああああ!!

 

 




いかがでしょうか? 感想、意見待っております。


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第五話

執筆が進まない。頭に構想は浮かんでいるのにそれを文章に出来ないこのジレンマ何でしょうかね? 他の方は普段どんな風に書いているのやら。


 強烈な登場をしたセラフォルー様だが、その後ソーナとの鬼ごっこに出かけてどっか行ってしまった。

 

 まあ、あんな癖の強い姉がいたら、辟易するわな。

 

 朱乃が言うには、四大魔王は全員、あんな癖の強い自由人らしい。その所為か、四大魔王の家族は全員真面目な性格をしているとか。

 

 あのまともそうなサーゼクス兄さんもシスコンっぷりを発揮していた。

 

 しっかし、リーアか。懐かしいな。昔はそんな感じであいつも呼ばれていたな。てか、今でもそんな風に呼ばれているのかな。

 

 で、今は……。

 

「はっはははは! 見てくださいウチのリアスとカレンが先生に指されて答えているところです」

 

「おおっ!」

 

 絶賛恥辱タイムだぜ☆

 

 ……キャラが一瞬ブレたな。

 

 取り敢えずつまみを口にする。そうでもしないとやっていけない。

 

「ううっ……」

 

 隣でリアスが頭を抱えている。どんだけ恥ずかしがっているんだよ。

 

 現在、家にはサーゼクス兄さんと叔父上が義父さん達と一緒にプチ宴会をしていた。

 

 授業参観で会って何か意気投合したらしい。で、家に招いて授業参観での感想を言い合っていた。

 

 この時間帯、親にとっては楽しい時間なのだろうが子供にとっては恥ずかしいというか、顔から火がでる状況だ。

 

 リアスが一番恥ずかしがっているかな。こういうのは一番嫌なんだろう。

 

 アーシアなんかも撮られているが、そこまで恥ずかしがっているようには見えない。元々こんな経験も無いから良く分かっていないのであろう。

 

 てか、一誠が全然映っていないのだが。ほぼアーシアばっかりだぞ、義父さーん。

 

「はあ……」

 

 椅子から立ち上がる。

 

「どこに行くの?」

 

 隣で頭を抱えていたリアスが聞いてくる。

 

「部屋。ここにいたら疲れるからな」

 

「なら私も行くわ。ここにいたら恥ずかしくて死んでしまうわ」

 

 そこまで言うか……まあ、分からなくもないが。

 

 親たちに悟られない様にこっそりとリビングを抜け出る俺たち。途中で一誠が助けを求めるような視線を送っていたが無視だ無視。

 

 何とか部屋に辿り着き、床に座り込む。

 

「ふぃ~」

 

 ベットの縁に背中を預けて天井を仰ぎ見る。

 

「ホント、ウチの家族はどうなっているのかしら……」

 

 ベットに寝ころびながらため息を付くリアス。

 

「家族が好きなんだろ? 良い事じゃないか」

 

「それはそうなんだけどね……貴方のご両親はどうだったのかしら?」

 

「ん?」

 

 唐突にリアスが聞いてきた。

 

「レオン叔父様と、日月叔母様。どんな人だったの? 日月叔母様は分かるでしょ」

 

「あー」

 

 確かに、親父殿はあまり覚えていないが、母様はどうだろうか。

 

 母様――朝凪日月。白龍皇が『世界のバグ』などと評していたが、そこら辺は知らん。

 

「どんなって……あのヒトは、いっつも笑顔だったな」

 

「笑顔?」

 

「ああ。笑顔を絶やさない、何つうか、そこにいるだけで周囲を明るくさせるヒト、だったな」

 

 事実、あのヒトと一緒に暮らしている間は貧乏でも、全然苦しくは無かった。

 

 あのヒトがいれば、どんな事でも、周りの奴らに嫌われていても大丈夫だった。

 

 どんな事が起きても良いと、そう思っていた。

 

「……ま、そんなヒトだったけど、破天荒なヒトでもあったな」

 

「破天荒って?」

 

「何て言ったら良いんだろうな……兎に角、ヒトを振り回して色んな事をするんだよ。それも自分がやりたいことに」

 

 印象的なのは日が上る前にたたき起こされて「魚釣りに行くわよ!」と言われたことだろうか。

 

 唖然としている内にホイホイと準備されて半ば担がれるように連れていかれたのは印象深い。

 

 結局、魚は釣れたには釣れたが、殆ど小さなものばっかりで、正直、腹は満たされなかった。

 

「そんなことがあったの……」

 

 リアスは半ば引き気味に言う。

 

「ああいう、強引な所は俺は受け継いでいないなあ。だとすると、俺って全部親父似なのかな」

 

「どうかしらね。叔父様の事は全然知らないから何とも言えないけど、貴方は叔母様の性格受け継いでいるんじゃないからしら?」

 

「あ? 俺のどこが母様に似てるんだよ」

 

 クスリ、と笑うとリアスは面白そうに言う。

 

「これはお兄様から聞いたのだけど、叔母様、刀剣収集の異常な趣味を持っていたそうよ。それこそ、聖剣、魔剣問わずにね」

 

 ……刀剣収集。確かに俺も刃物とか好きだけど、そうか、俺の趣味は母様から受け継がれたんだな。

 

「叔母様が収集したコレクション、何個か行方不明になったらしいけど、ちゃんと保管してあるから多分、貴方に受け継いで欲しいと思っているわよお兄様も、お父様も」

 

「俺に、ねえ」

 

 母様が集めた刀剣には大変興味があるけど、もれなく他の面倒そうなモノまで付いてきそうな気がするな。

 

「そういや、サーゼクス兄さんが言っていたっけ。親父の領土を正式に受け継いでほしいって」

 

 詳しい話は冥界にまた戻った時にすると言っていたが、親父や母様の遺産を託すと。

 

「あら、何時の間にそんな話を?」

 

「こないだサーゼクス兄さんと一緒に寝たとき。触り程度だったけどな」

 

 それ以上に、サーゼクス兄さんは俺の今までの話を聞きたがっていたから、殆ど話していたのは俺だったな。

 

「良かったわね、それは」

 

「まあね」

 

 その分厄介な事もあるかもだけど。

 

「……ねえ、カレン」

 

「ん?」

 

 気づけば、リアスの腕が俺の首に回る。そのままギュッと俺を抱きしめるようにする。

 

「私の事好き?」

 

「唐突に何だ」

 

「良いから」

 

 有無言わせないその口調に俺はげんなりする。

 

 これは答えないと離さないな。頑固なものだ。

 

 昔からそうだな。ちゃんと答えないと直ぐに不機嫌になるんだから。

 

「好きだよ」

 

 ため息を付きたいのをぐっと堪えて言う。

 

「世界で一番?」

 

「え」

 

 なに、そんな重い話だったのこれ?

 

「どうなの?」

 

「え、えーと」

 

 や、やばい。何を答えても駄目な気がする。どうする。どうすれば――!

 

「リアス、カレン良いかな」

 

 サーゼクス兄さんがノックをしてくる。

 

 ナイス! サーゼクス兄さん!

 

「ああ、どうぞ!」

 

「ちょ……」

 

 リアスが何か言おうとする前にサーゼクス兄さんが入ってくる。

 

「おや、お邪魔だったかな?」

 

 俺たちの様子を見てサーゼクス兄さんが聞いてくる。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

 リアスの腕をやんわりと離して俺は立ち上がる。

 

「…………」

 

 リアスは不満そうな顔を隠さなかったが兄の前だろう。直ぐにいつもの表情になってベットから立ち上がる。

 

「それでお兄様、どうかなされたのですか?」

 

「ああ、昼間の話の続きだ」

 

 昼間……そういや、サーゼクス兄さんに呼ばれてリアスのヤツどっかに行っていたな。

 

「お前のもう一人の『僧侶(ビショップ)』についてだ」

 

 ……マジか。アーシア以外のもう一人のリアスの『僧侶(ビショップ)』。俺や一誠達がいまだに会ったことのない奴について。

 

 いよいよ、その知られざるベールが明らかになるのか!? 

 

「お前の実力も大分付いてきた。そろそろ()の封印を解いても良いだろう」

 

 ふむふむ、彼、という事は、もう一人の『僧侶(ビショップ)』は男か。……ん?

 

「封印って?」

 

 穏やかな言葉じゃないな。そんな危険な奴なのか?

 

「あの子は能力――神 器(セイクリッド・ギア)が特殊で、制御が出来ていないの。だから、基本的に旧校舎の一室から出てはいけないのよ」

 

 リアスが説明する。

 

 成程。そんなこともあるんだな。

 

「大公アガレス家や他の上級悪魔たちなども了承した。問題ない。明日にでも行くと良い」

 

「分かりましたわお兄様」

 

 明日か。どんな奴かねえ。同性が増えるってのも悪くない。今男子は俺と一誠と祐斗の三人だけだからな。ここで女が増えたら男が少なくなってくる。

 

 や、別に肩身が狭いとかいうわけじゃないんだけどな。やっぱり同性の友人は欲しいもんだし。

 

 ……まあ、何事もなく終わるはずはないだろうけど。

 

******

 

「ここか?」

 

「ええ」

 

 翌日。授業も終わり俺たちオカルト研究部は旧校舎のある一室の前にいた。

 

 ドアには厳重に符などが大量に貼られており夜中などに来れば心霊スポットに見えるそうだ。

 

「さて、と」

 

 リアスはドアの前に立つと、符をどんどん剥がしていく。

 

 やがて、すべて剥がし終えるとリアスはドアを開ける。

 

 すると、

 

『イヤアアアアアアアア!?』

 

 叫び声が響き渡る。

 

 なんぞ? 新参組が首を傾げている間、前々からいる面子はため息をつくや、苦笑いをしている。

 

 先にリアスと朱乃が入って、俺たちが後から入る。

 

 中は実に女の子の部屋、といった感じだ。趣味の良い装飾が施されており小奇麗な感じだ。ただ、カーテンは完全に閉めきられているから結構薄暗いな。

 

 さてさて、件の『僧侶(ビショップ)』はどこにいるのやら……。

 

 辺りを見渡す。

 

 ……いた。

 

 奥にある棺桶の近くで震え縮こまっている子が。

 

 金髪――と言ってもアーシアの金髪とは少し違う感じかな。赤い瞳に目じりに涙を浮かべて可愛らしい顔に見事にマッチしていた。

 

 そんな可愛らしい女子の制服を着た金髪美少女がいた。

 

 ……え、美少女? いや、これは……。

 

「い、一体何の騒ぎですかあああああああ!? というか、誰ですか後ろのヒトたちいいいいぃぃぃぃ!?」

 

 いや、ビビり過ぎだろ。見知らぬやつがいるだけでここまでビックリするか普通。

 

「久しぶりね。今日は貴方の封印が解除されたから外にいつでも出られるようになったのよ」

 

「は、はいいいいぃぃぃぃ!?」

 

 いや、どうやら知り合いでもビビるらしい。リアスが話しかけてもビビっているし。

 

「あらあら、そんなに驚かなくても良いですのよ。もう外に出ても良いから、一緒に出ましょ?」

 

 朱乃が優しくそういう風に言ってくるのだが、

 

「い、いやでうううぅぅぅ!! 僕お部屋の中が良い!!」

 

 すげえ引きこもりだ。ここまで拒否るか普通。

 

「うわぁ、美少女でもちょっときついな、これは」

 

 隣の一誠も困惑している。

 

 あーやっぱり気づいていないか。

 

「一誠、こいつ男だ」

 

「……は?」

 

 一誠が何言ってるの? みたいな顔で俺を見てくる。

 

「いや、だからこの金髪美少女は実は男だよ」

 

「いやいや! こんな美少女だよ!? あるわけないじゃん!」

 

 まだ信じられないと言った顔をしているが、残念ながらこれが真実だ。

 

「カレンの言う通りよ、この子は男の子よ」

 

 ほら、リアスも言っているじゃん。

 

「うっそだああああああ! こんな可愛いんだよ! 女子の制服だって着てるんだよ!?」

 

「女装趣味があるのですわ」

 

 朱乃が補足するように説明する。

 

「何でだよ! 何で男のくせに女子の制服着てんだよ!」

 

 一誠のまさに魂の叫びに『僧侶(ビショップ)』君は口を尖らせて言う。

 

「だ、だって女の子の服の方が可愛いんだもん」

 

 もん、もんって……。

 

「何だそりゃああああああ!」

 

 一誠が四肢を地面に付き、絶望を表す。

 

「……人の夢と書いて儚い」

 

 小猫ちゃんの痛烈なツッコミ! 一誠は更なる追い打ちを喰らう!

 

「さて、新しい子も増えてきたことだし、紹介するわ。先ず『兵士(ポーン)』のカレンと一誠。二人は義兄弟よ。貴方と同じ『僧侶(ビショップ)』のアーシア。それと『騎士(ナイト)』のゼノヴィアよ」

 

 紹介された順であいさつしていく。

 

「ね、一緒に外に出ましょ。もうここに居なくて良いのよ」

 

 リアスが優しく話しかけるも、

 

「い、嫌ですうううぅぅぅ! ここから出たくありません!」

 

 わお、重症。

 

 とはいえ、このままでは埒が明かないのも事実。

 

「なあ、お前、そんなに外に出るのが嫌なのか?」

 

 近くに来て、しゃがみ込み目線を合わせる。

 

「へ、あれ、何で部長と同じ髪の色?」

 

 俺とリアスの顔を交互にマジマジと見る『僧侶(ビショップ)』君。

 

 取り敢えず、手を伸ばしてみる。

 

「ひいっ!」

 

 あら、怯えさせちゃったかな? そう思った瞬間、意識が一瞬ぶれる。

 

「っ!」

 

 だが、直ぐに収まる。

 

「おい、今何か……!?」

 

 後ろを見て、思わず息を呑む。

 

 ――他の面子が固まっている。

 

 固まっていると言うより、『停まっている』いると表現したほうが良いだろうか。全く微動だにしていない。

 

 どういう事だ。

 

「え、何で停まって……」

 

 声がした方を見たら、『僧侶(ビショップ)』君が呆然とこちらを見ていた。

 

 今の言動。そして、この状況。まさか……。

 

「……停めたのか、時間を?」

 

 思わず出た言葉は正しかったようだ。『僧侶(ビショップ)』君はビクッと震えた。

 

 それと同時に他のヤツの時が動く。

 

「え、え?」

 

 一誠やアーシア、ゼノヴィアは突然の事に戸惑っているが、他の者は「またか」なんて反応をしていた。

 

停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)。視界に写した物を停止させる能力を持つ神 器(セイクリッド・ギア)です」

 

 朱乃の補足説明に俺は自分の考えに確信を持つ。

 

 半ば勘で言ったのに当たったものだ。

 

 リアスが宥めるように彼を抱きしめる。

 

「この子の名前はギャスパー・ヴラディ。駒王学園一年生よ。転生前は吸血鬼と人間のハーフだったわ」

 

 やれやれ。この眷属はクセの強いやつが多いようで。

 

 




いかがでしょうか? 感想、意見待っています。


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第六話

今回からストーリーに少しオリジナル要素を加えていきたいと思います。これが合わない方はまあ、ブラウザバックを。

後、前話で話的に矛盾している場所を少し直しておきました。読んでも読まなくても今後の物語には特に影響はありませんので大丈夫です。


「視界に写した物を何でも停止させるか。チート臭いな、おい」

 

 部室に移動し、未だにブルブルと震えているギャスパー君を見て俺は言う。

 

「あら、貴方やイッセーの神 器(セイクリッド・ギア)だって大概だと思うのだけれども?」

 

 からかう様にリアスが言う。

 

「一誠は兎も角、俺のは使いどころが難しいからな。何とも言えん」

 

 俺の神 器(セイクリッド・ギア)、『灼 銀 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』はその能力上、使い本人が強く無ければその効果を発揮できない。

 

 相手の攻撃を吸収出来るのはエネルギー系だし、それも俺の容量(キャパ)を超えたらしきれずにダメージを負う。

 

 まあ、俺が使っているから強いに見えるだけで実際はそんなに強くは無いんだよな!

 

『――言ってくれますね』

 

 リンドが何か言っているが無視しておこう。

 

 さて、今は俺や一誠は置いておいてギャスパー君だ。

 

 リアスが言うには彼は吸血鬼と人間のハーフ。吸血鬼としては名のある名家の出身だそうだ。

 

 ただ、吸血鬼は悪魔以上に純血を好み、ハーフには立場が殆ど無いらしい。

 

 加えて、時間停止の神 器(セイクリッド・ギア)も気味が悪られてしまい、家には本当に居場所が無かったそうだ。

 

 ……帰るべき場所に居場所が無い。どんなに辛い事か。彼の気持ちは心中察する。

 

 結局、彼は家を出て外で生活を始めたそうだが、今度は人間からも嫌われ、最終的には吸血鬼ハンターに討たれそうだ。

 

 死の間際、偶々通りかかったリアスがその命を助けたそうだ。

 

 何というか、波乱万丈という言葉が正しく使われるような人生だな。

 

 ただ、能力は非常に高いらしく、かなりの潜在能力があるらしい。

 

「しかし、よくそんなヤツを僧侶(ビショップ)の駒一つで転生させることが出来たな」

 

変異の駒(ミューテーション・ピース)を使ったからね」

 

「? 何だそれ」

 

 変異の駒(ミューテーション・ピース)。本来ならば複数の駒が必要な転生が一つで済ませる事が出来る特別な駒だそうだ。

 

 リアスはそれを使いギャスパー君を転生させたそうだ。

 

「へーそれまた便利なもんだ」

 

「何言ってるの、貴方にも使ったのよ」

 

「はい?」

 

 俺に?

 

「あなたを転生させる際、戦車(ルーク)の駒じゃ足りなかったの。だから最後の変異の駒(ミューテーション・ピース)兵士(ポーン)を使ったのよ」

 

「成程」

 

 確かに、俺と一誠を同時に転生させるにはいくらなんでも駒が足りないか。一誠は兎も角、最悪俺は兵士(ポーン)の駒八つでも足りなかったかもしれないし。

 

 

******

 

 その後、段ボールの中に引きこもっているギャスパー君を一誠たちが何とか外に出すように特訓させることになり、リアスと朱乃は会談の打合せ。祐斗はサーゼクス兄さんに聖魔剣関連で呼ばれて行った。

 

 で、俺はと言うと、

 

「――で、何の用だよ堕天使の総督さんよ」

 

「つれないな。ま、一緒に釣りでもどうだ?」

 

「断る。釣りは嫌いだ。全然釣れん」

 

 そりゃお前の技量だろうな、と肩を竦める堕天使――アザゼル。

 

 現在、俺はアザゼルと密会中だった。この男が俺にだけ分かるようにメッセージを送ってきたのだ。

 

「しかし、罠だと思わなかったのか? 俺がお前を洗脳するとかしたかもしれないぞ?」

 

 悪戯っ子のような笑みを浮かべてそう言うアザゼル。

 

「まさか。するわけ無いだろ? あんたはそういうヤツじゃないってサーゼクス兄さんが言っていたしな」

 

「んだよ、サーゼクスの奴は信頼してんのか」

 

「当たり前だろ」

 

 あのヒトを信じないという選択肢は俺に無い。それくらいには信頼しているつもりだ。

 

「まあ、良い」

 

 そう言ってアザゼルは目の前の川に釣り糸を垂らす。

 

「で、俺にこんな周りくどいやり方で会いに来たんだ。何が目的だ?」

 

 そこまでの危険性は無いだろうけど、それでも緊張状態にある勢力の長との対面だ。慎重になる必要がある。

 

「なに、お前に会談前にどうしても聞きたいことがあってな」

 

「聞きたいこと、ねえ」

 

 碌な事とは思えんが。

 

「神星剣って知ってるか?」

 

 アザゼルの唐突な質問に俺は答えを窮する。

 

 神星剣?

 

 リンド、知ってるか?

 

『いえ、初めて聞きましたが……』

 

 リンドも知らないと。

 

「何だとそれ?」

 

「やっぱ知らんか。まあ良い。教えてやる」

 

 アザゼルは言葉を続ける。

 

「神星剣ってのは文字通り神の力と星の力を宿した伝説の剣の事を言う。その威力は並の聖剣、魔剣を凌駕する」

 

「神は分かるとして……星?」

 

「ああ、水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星。これら八つの星の力を宿した剣だ。一本だけでも神滅具(ロンギヌス)と同等かそれ以上の力を持つ」

 

 神星剣。今の話を聞く限りでとんでもないモノだと言うのが分かる。

 

 つまり、一誠やヴァーリの神器と同等クラスの力を秘めていると言うわけだ。

 

「元々はこれらの星の欠片を聖書の神が自らの力を注ぎ込んで作り上げた代物だったんだが……余りの力の強さに聖書の神自らが封印した」

 

 アザゼルが話を続ける。

 

「これらの剣の利点とも欠点とも言えるのは、種族関係なくほぼ使える事だ」

 

「はあ?」

 

 何だその出鱈目は。

 

「聖剣は基本的に天使や、人間にしか使えんだろ? だが、神星剣にはそれらの制約が無い。もし、悪意あるものの手に渡れば世界の均衡が大きく崩れる。――俺も一度だけしか見たことが無かったが、本当に凄まじい力を秘めていたよ」

 

 昔を思い出しているのだろうか、遠い目をするアザゼル。

 

 そうか、堕天使という事はこの男も昔は天使だったんだな。なんで堕天したかは知らんけど。

 

「で、だ。封印し、それで終わりだったら良かったんだが、この神星剣、八つとも大戦の影響で全て行方知れずになった」

 

「……最悪じゃん」

 

 神滅具と同等クラスの力を持つ剣が行方知れず。しかも、それらの剣は誰にも使えると言う。非常に危険としか言いようが無い。

 

「天使たちも躍起になって探したらしいけど、見つからなかったらしいな。――一つを除いて」

 

 アザゼルはそこまで言い、一旦口を閉じ、次にこちらを見る。

 

 その視線はどこまで鋭く、俺は思わず身構えそうになった。

 

「で、だ。お前、神星剣の行方を知らねえか」

 

「はあ?」

 

 思わず、そんな言葉が口から出た。

 

「何で俺が知ってるって思ったんだよ」

 

 そもそも、俺は神星剣自体この話を聞くまで存在そのものを知らなかったんだが。

 

「そりゃあ、簡単な話だ。唯一行方の知れていた神星剣を持っていたのがお前の母親だったからだ」

 

 っ!

 

「俺の、母様が?」

 

 漏らすように声を出す。

 

「そう、『世界のバグ』とまで言われたほどの実力を持つお前の母親、朝凪日月が所有していた神星剣の一本。その行方が分かるのは最後に会ったお前だけだ」

 

「……悪いけど、本当に何も知らない。恐らくだけど、母様本人だって分からなかったと思う」

 

「どういう事だ?」

 

「母様は記憶を失っていた。どこまで覚えていたか、正直、全く分からない」

 

 俺自身、記憶を失い、母様本人も記憶を失っていた。

 

 どこまで忘れていたかは分からないが、それでも、多分親父の事は殆ど忘れていたと思う。

 

「…………」

 

 ジッと俺の事を見詰めるアザゼルだが、やがてため息を一つ付く。

 

「――分かった。お前の言葉を信じよう。嘘を付いているには見えんからな。――となると、奴らか?」

 

 ぶつぶつと、独り言を始めたアザゼル。

 

「って、まあ良い。俺が聞きたかったことはそれだけだ。態々すまなかったな」

 

「……まあ、良いけど」

 

 神星剣。神が作った星の剣。俺の母様が持っていたと言うが、本当のところ、どうなんだろうか。

 

******

 

「おろ? どうかしたか?」

 

 旧校舎に戻ってみれば、一誠と祐斗がギャスパー君の部屋の中にいた。

 

 で、部屋の主であるギャスパー君は段ボールの中に入っていた。

 

「お、兄貴、丁度いいところに。今、オカルト研究部男子での話をしてんだ」

 

「んー?」

 

 話を聞いてみれば、ギャスパー君と親交を深めるために色々と話をしているのだという。

 

「良いね。俺も混ぜてくれ」

 

「そうこなくちゃ!」

 

 俺も部屋に入り、話の中に加わる。

 

「で、さ。兄貴と木場が周りを防備している間にギャスパーが女の子を止めて俺が胸を揉む! どうよこれ」

 

「どうよじゃねえよ。お前だけ良い思いしてんじゃん」

 

「お、何だよ兄貴も揉みたいのか? 相変わらずむっつりだな~」

 

「ば、誰がむっつりだ! 俺は断じてむっつりでは無い!」

 

「嘘だね。こないだ部長が兄貴の部屋で兄貴のコレクション見ていたのを俺見たし!」

 

「ごふっ!」

 

 むせた。そりゃあ、もう盛大に。

 

 ば、馬鹿な!? リアスに見つからない様に表紙を使わなくなった問題集のヤツを掛けて本棚の隅に隠したんだぞ!? 何故見つかる!

 

「ぐ、ぬぬぬぬ。次はもっとちゃんとした隠し場所……いや、一誠のところに置いておくか?」

 

「おい」

 

 俺の呟きに一誠が突っ込み、祐斗とギャスパー君は苦笑い。

 

「え! じゃあカレン先輩とリアス部長って本当に従兄弟なんですか!?」

 

「そうだけど……そんなに驚く?」

 

「いえ、確かに、同じ紅髪だし、雰囲気も何となくだけど似ているから不思議じゃありませんけど……ほえー」

 

 マジマジと俺を見詰めるギャスパー君。

 

 何かむず痒さを感じるな。

 

 その後も俺たちは男水入らずで話を続けた。

 

******

 

「ここだよな……?」

 

「ああ、ここだな」

 

 とある日、俺と一誠はある神社に来ていた。

 

「あら、二人ともよく来ましたわ」

 

 声のする方を向けば、そこにいたのは巫女服を着た朱乃だった。

 

「朱乃さん!」

 

「よう」

 

 それぞれ挨拶を返す。

 

 俺たち兄弟は朱乃に呼ばれてこの神社に来たのだが……。

 

「悪魔の俺たちがこの神社に入っても問題ないのか?」

 

 悪魔、俗にいう邪の存在である俺たちが教会や神社といった神聖な場所に入ることは原則禁じられている。相容れぬ存在だからだ。

 

「それなら問題ありません。この神社は随分昔に寂れて、誰もおらず、尚且つ裏で取引が行われて悪魔でも特別に入る事が許可された場所なのです」

 

 ふーん、そんなこともあるのか。

 

「朱乃さん、もしかしてここで生活しているんですか?」

 

 隣を歩いていた一誠がそんな質問をする。

 

「ええ、先代の神主から引き継ぐような形で」

 

 つか、朱乃って巫女服姿が良く似合うな。元々巫女に関わりがあったのか?

 

「そういや、今日俺たちを呼んだのは? リアスから何も聞いていないんだけど」

 

 ただ神社にいる朱乃に会いに行けと言われてそのままだったのだが……。

 

「今日は二人にあるお方に会っていただく為です」

 

「あるお方って……!」

 

 第三者の気配を感じ、バッと顔を上げる。

 

 そこにいたのは十二枚の黄金の翼を持つ美青年。頭の上に光り輝く輪を浮かばせている。

 

 まさか、まさかしなくても天使――! それもかなりの最高位の!

 

 唖然とする俺と一誠を見て、青年はフッと微笑を浮かべて名乗る。

 

「初めまして、私はミカエル。天使長を務めております」

 

******

 

 ミカエル。四大天使の一人。熾天使の位を持つ天使の長。

 

 聖書の神を死亡した今、教会はこのヒトが取り仕切っているようだ。

 

 で、今回俺たちを呼んだのは一誠にあるものをプレゼントする為。

 

 聖剣アスカロン。

 

 かつて、龍殺しの英雄ゲオルギウスが扱った龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の属性を持つ聖剣だ。

 

 ドラゴンを宿す一誠が持つのもなんだかおかしな気もしたが、ミカエル様が言うにはこれを機に三大勢力で手を取り合いたいと願っているらしい。

 

 で、このアスカロンはその手土産のプレゼントらしい。

 

 ……正直、剣がからっきしの一誠が持っていても宝の持ち腐れだと思うが、そこは神器にくっつけたりと色々と考えているようだ。

 

 そして、

 

「こうして二人で顔を合わせるという事は、私に内密のお話があると言う事で宜しいですかミカエル様?」

 

 神社のある一室で俺はミカエル様と対峙している。

 

 聖剣を無事に融合させることに成功した一誠は先に帰ってもらい、朱乃は別室で待機してもらっている。

 

 朱乃は心配そうにしていたが、何とか出て行ってもらった。

 

「はい。貴方、いえ、正確には貴方の母親である朝凪日月の……」

 

「神星剣についてなら、私は何も知りません」

 

 ミカエル様の言葉に被せるように俺は言う。

 

 俺の言葉に詰まるミカエル様。

 

「……ご存知でしたか」

 

「あるヒトから聞きましたので」

 

 アザゼルの事を出すと色々と面倒そうだからな。置いておこう。

 

「嘘を言ってるわけでは無いのでしょう。そうでしたか……残念です」

 

 本当に残念そうに言うミカエル様。

 

 俺はそれに少しある違和感を感じた。

 

「失礼ですが、ミカエル様、貴方は何故そこまで神星剣に拘っているのです?」

 

「…………」

 

「神星剣の話は神滅具(ロンギヌス)クラスに匹敵すると聞きましたが、正直、貴方がそこまで必死になる理由が分からない」

 

 神滅具(ロンギヌス)は確かに極めれば神をも屠る事が可能だと言う。だが、三大勢力も探してはいるものの、血眼になっているとは言えない。

 

 だけど、神星剣は別だ。不確かとはいえ、情報が出た瞬間、三大勢力のトップの二人が俺に接触してきた。

 

 何かある。種族関係なく巨大な力をふるう事が出来るとかそんなのとは関係なく、神星剣には秘密がある。それも、三大勢力のトップが慌てる程の何か。

 

「……申し訳ありません。お話しする事は出来ません。それ程までに重大かつ危険極まりないからです」

 

 明確な拒絶。だけど、これで神星剣には大きな秘密があるとはっきりとした。それが何なのかは分からないが。

 

「ですが、神星剣は何としても回収しなければならない。それだけはお伝えしておきます」

 

 こうして、俺と天使長の会談は終わった。

 

 




はい、オリジナル要素『神星剣』。

もろ中二病ってやつですね。でもずっと出したかったんだーーーー!!

今回は展開を早くし過ぎた部分があります。ちょっとそこは反省ですね。


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第七話

 神星剣。それが何なのか、結局良く分からないままだ。

 

 ミカエル様もあの後直ぐに戻ってしまい、何だか不完全燃焼だ。

 

「はあ……」

 

 朱乃が出してくれたお茶を飲みながら俺はため息を付く。

 

「ミカエル様とのお話、何を話してのです?」

 

「んー? 別に」

 

 朱乃の言葉にも気が抜けたように返事する。

 

 母様の集めた刀剣が冥界にあると言う。神星剣もそこにあるというのだろうか……俄然、興味が湧いてきた。

 

「カレン?」

 

「ん」

 

 呼ばれて朱乃の方を見ると、少し不満げな顔をしていた。

 

「折角私とおしゃべりをしているのに考え事ですか?」

 

 おや、拗ねさせてしまったか? そんなつもりは無かったが、まあ、基本的に俺が悪いんだろうから謝っておこう。

 

「ごめんごめん。ちょっと気になることがあったんだけど、大丈夫だった」

 

「なら良いのですが……」

 

 取り敢えず神星剣は後にしておこう。今考えてもしょうがないしな。

 

「しかし、朱乃は巫女服姿が本当に似合うんだな」

 

「あら、そうですか? まあ、母が神社の巫女をやっておりましたから、その影響でしょう」

 

「へえ、お母さんが」

 

 母親が巫女かあ。朱乃はその血を継いだって感じか。

 

「――そして、同時に堕天使の血も継いでおります」

 

「…………」

 

 朱乃は視線を自分の湯呑みに移すと、静かに語りだす。

 

「あなたもご存知でしょうが、私は堕天使バラキエルと人間の母との間に生まれたハーフです」

 

 朱乃の背に悪魔の翼と――堕天使の翼が現れる。

 

「ある時、傷ついて倒れていたバラキエルを介抱したのが母だったそうです」

 

 バラキエル、ねえ。父親を名前で呼び捨てにするとは……結構な確執があるみたいだな。

 

「私にとってこの羽は忌むべき存在です。おぞましい、私の中に半分流れる忌々しい血……」

 

 ……本当に、憎むように堕天使の翼を見ている。それ程なのだろう。

 

「……カレンは堕天使が嫌いでしょう? 貴方と貴方の義弟のイッセー君を殺した堕天使が」

 

 自嘲するかのように言う朱乃。

 

「いや、別段」

 

 俺はそれに普通に答える。

 

「…………」

 

 俺の答えに唖然とする朱乃。はて、何か変な事でも言っただろうか。

 

「どうして、ですか?」

 

「どうしてって……いや、確かに俺は堕天使に殺されたけど、その相手はもう殺したし、それで終わりさ。一々堕天使を毛嫌いしていたら終わらんさ」

 

 確かに、好意感情を持っているというわけでも無いが、別に悪感情を有しているわけでも無い。

 

 特に、という感じなのだ。いや、本当に。

 

「だから、お前の事が嫌いとかそんなん全くないぞ。そもそも、お前はお前だろ? 堕天使だの、悪魔だの、ハーフだの、一々気にしていたら面倒極まりない」

 

 取り敢えず、自分の思いの丈を答えてみる。

 

 どうも、朱乃は自分の事を卑下しすぎな感じがある。もう少し、自分に肯定的になった方が良い気がするな。

 

 これは、俺の嘘偽りない気持ちだ。本当に、どうでも良い事なのだから。

 

 取り敢えず、朱乃の顔を見てみる。

 

「…………」

 

「……ん? 朱乃?」

 

 何か、顔を真っ赤にして固まってるな。え、どうしたの?

 

「はっ!? あ、ごめんなさい」

 

 直ぐに我に返り何やらあわあわとし始める朱乃。

 

 はて、俺、何か変な事でも言っただろうか?

 

「何か変な事でも言ってしまったか? それなら謝るが……」

 

「いいえ、寧ろありがとうございます」

 

「ん?」

 

「少し、気が晴れた感じがします」

 

「そいつは良かった」

 

 ……少し、か。本当の意味で朱乃が自分を受け入れる事が出来るようになるのは大分先かな。

 

******

 

「いよいよ、明日始まるそうだ、三大勢力会議は」

 

「ほう、魔法使い連中が動いているのはそれが原因か。全く、態々死に行くとは、馬鹿なものだ」

 

「まあ、良いではないか。カテレア様も赴くそうだ。少しは勝率が上がるであろう」

 

「――はっ。心にもない事を。あの程度の実力で、トップの――特にサーゼクス・ルシファーを相手取るなど無理であろうに。未だに過去にしがみ付く亡霊め」

 

「随分と辛らつな物言いだな。まあ、否定できんが。――さて、明日は私も行くとしよう」

 

「……何? お前自ら行くのか? どういう風の吹き回しだ」

 

「『彼』が記憶を取り戻したようでね。話を聞きに行こうと思う」

 

「あいつか……記憶を戻したとして、覚えているとは思えんが」

 

「問題ない。いざというときは、魂に直接問いかければ良い」

 

「……余りやり過ぎるなよ? ただでさえ、見つからないのだから」

 

「分かっている。ふふ、楽しみだね」

 

「全く、お前は相変わらず面倒な男だな、ルーファス・アガリアレプト」

 

******

 

 神社の一件から数日、遂に駒王学園は三大勢力会議を迎えていた。

 

 周りには悪魔、天使、そして堕天使の軍団が数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどいる。和平交渉が拗れたらその場で大戦の続きが起きそうな感じだ。

 

 まあ、大戦が再び勃発したらそれはそれで世紀末か感じで面白そうだが、学園が吹き飛ぶのはちょっとな。

 

 で、まあ、俺たちは今、その会議が行われる場所に向かっている途中だ。

 

 今回の会議が開かれる原因にもなったコカビエル戦での出来事を報告するためだ。

 

 一応、俺がぶちのめしたらしいけど、記憶が無いから何とも言えん。意見を求められても何も言えないぞ。

 

 因みに、ギャスパー君は部室で待機だ。あれから一誠達と特訓を続けていたらしいが、まだ制御が上手く出来ていないらしい。そんな中で、時間停止させたら大変だからな。

 

「失礼します」

 

 ノックし、入室の許可を貰ったと同時に、俺たちは会議場に入る。

 

 会議場には、静けさが漂っていた。会議場にはひときわ大きな円卓が置かれており、それぞれのサイドに一人か二人座っていた。

 

 先ず悪魔サイド。サーゼクス兄さんにセラフォルー様。セラフォルー様は授業参観の時のような魔法少女姿では無く、ちゃんとした格好だ。その横でグレイフィアさんが立っていた。

 

 天使サイドはミカエル様に女性の天使が一人。

 

 堕天使サイドはアザゼル。浴衣姿では無くローブに身を包んでいる。で、近くの壁際に白龍皇ヴァーリが立っていた。

 

 ヴァーリはこちらを見ると、フッと笑った。

 

「私の妹と、その眷属だ。先日のコカビエル襲来のときは活躍してくれた」

 

「報告は受けています。改めてお礼を申し上げます」

 

 サーゼクス兄さんの言葉を受けて、ミカエル様がこちらに礼を言う。

 

「悪かったな、うちのコカビエルが迷惑をかけた」

 

 アザゼルだけはおざなりに謝るだけだ。リアスも思わず口元をひくつかせていた。

 

 とまあ、挨拶も済み、いよいよ会談がスタートする。

 

「ここにいる者は皆、神の不在を知る者として話を進める」

 

 サーゼクス兄さんのその言葉を最初に、会議は始まる。

 

******

 

 内容は実に興味深いモノだった。と言っても、大半は理解できないことが多かったが、それでも歴史的な場にいると思い、俺は話を聞いていく。

 

『しかし、この面子が揃って話をしているとは……何が起こるか分かったものじゃありませんね』

 

 リンドが静かにそう言う。

 

 そういえば、気になっていることがあったんだが。

 

『何です?』

 

 以前から気になっていたんだが、リンドは二天龍の事が嫌いなのか?

 

『……何故そう思ったのです?』

 

 いや、一誠たちから聞いた話だと、随分冷たい対応をしているらしいじゃないか。しかも、二天龍は二天龍でお前の事を苦手としている。

 

『ふん、完全にあれらが悪いんです。貴方は二天龍が封じられた経緯を聞いたことがありますか?』

 

 ん、ああ。あれな。

 

 昔、三大勢力の大戦の時だ。

 

 どの勢力も自分たちが世界の覇権を取ろうと本気で戦っている最中、ある出来事が起きた。

 

 二天龍――赤龍帝ドライグと白龍皇アルビオンが突如として戦場のど真ん中で喧嘩を始めたらしい。

 

 当然三大勢力はキレた。「喧嘩なら他所でやれ」と。

 

 だが、

 

『神如きが、魔王如きが俺たちの邪魔をするな!』

 

 等と、三大勢力のトップ達を完全に馬鹿にする発言を連発。これには三大勢力も完全にイラッとしたらしく、彼らの討伐を決行。一時的に手を取り合って二天龍を攻撃したらしい。

 

 結局、二天龍は体をバラバラにされて魂は神器に封じられた。それが『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』。

 

 で、彼らは宿主を変えながら今も戦い続けていると。こんな感じだよな?

 

『ええ、そうです。但し、そこに一つ付け加える事があります』

 

 ん? 何だよ。

 

『それは――私を巻き込んだことだよこんちくしょう!』

 

 ……え、リンド?

 

『忘れもしない! あの時、のんびりと昼寝をしていた時にあの馬鹿どもの喧嘩に巻き込まれて私にとばっちりと受けたのだから!』

 

 え、えーと。つまりだ。

 

 リンドは、二天龍の喧嘩に巻き込まれて神器に封じ込まれたのか?

 

『ええ、その通りです』

 

 うわぁ。それは、また……。

 

 そりゃあ、リンドが二天龍を嫌うのも無理は無いし、二天龍が負い目を感じるのも分かる。

 

「――おい、カレン・グレモリー?」

 

 そして、声を掛けられた。

 

******

 

 私、リアス・グレモリーは自分の眷属で、同時に従兄弟でもあるカレンを見ていた。

 

 三大勢力会議。私たちグレモリー眷属も参加しているこの会議で、一種の結末が見えた。

 

 ――和平。長年争ってきた三つの勢力が遂に和平を結ぶことになった。私たちはその歴史的ともいえる瞬間に立ち会っていた。

 

 その和平を持ちかけたのが堕天使総督のアザゼルだったのは驚きだが、魔王ルシファーであるお兄様やセラフォルー様、そして天使長のミカエル様もそれに同意した。

 

 そして、一誠のミカエル様への質問。それに伴うアザゼルとのやり取り。どれもが、一誠にとっては大事な事なのだろう。

 

「はい、何か用ですか?」

 

 キョトンとするカレン。

 

「何か用ですか、じゃねえよ。さっきから呼んでいるのによ」

 

 アザゼルがやれやれ、と首を振る。

 

「失礼、少々考え事をしておりまして。申し訳ありません」

 

 柔和な笑みを浮かべて謝罪するカレン。

 

 隣にいる一誠が目をこすりながら信じられないような目でカレンを見ている。

 

 もしかして、余り一誠の前ではこんな態度を取ったことは無いのだろうか。

 

 私は知っているが、もともとカレンはちゃんと目上の者に礼儀を持って接することが出来る。

 

 ただ、今のカレンには少し違和感を感じるところがあるが。

 

 カレンの丁寧な物言いにアザゼルは顔を顰める。

 

「なんだその物言い。やめろ、気色悪い」

 

「マジで? じゃあやめる」

 

 あっけらかんと、砕けた口調になるカレン。

 

「で、俺に何か?」

 

「たく、お前はこの世界をどうしたい?」

 

「はい?」

 

「だから、お前はこの世界で何をしたいかって聞いているんだよ」

 

 アザゼルの質問に首を傾げるカレン。

 

「何で俺に……? そういう質問は神滅具(ロンギヌス)を持っている一誠やそこにいる白龍皇に聞けばいいだろう」

 

「おま、本当に話聞いていなかったな……その二人には聞いたよ。後はお前だけだ」

 

 アザゼルの言葉に、益々首を傾げるカレン。

 

「だから何で俺に? 俺は別に神滅具を持っているわけでも無いんだし、良くね?」

 

「良くねえよ。お前はここにいる赤龍帝と白龍皇とも引けを取らない戦闘能力を持っていると少なくとも俺は思っている」

 

 確かに、と私は納得する。

 

 カレンの戦闘能力は計り知れない。神器をさることなから、本人自身の魔力に、戦闘技術。今の私の眷属の中ではトップクラスだろう。

 

 カレンは肩を竦める。

 

「別に世界をどうこうする気なんて無いよ。興味ないし。……ああ、でも、やりたいことは一つあるかな」

 

「ほお、何だ?」

 

 そして、私は一瞬、背筋が凍りつくような寒さを感じた。

 

 思わず、カレンの顔を見たら、そこにはいつものはカレンがいなかった。

 

 冷たい、底冷えするような笑みを浮かべている(・』|か《・)がいた。

 

「――俺の、俺の本当の親を殺した奴を見つける。そして……」

 

 その言葉を最後まで聞くことは残念だけど、出来なかった。

 

 けど、私は後々ちゃんとここで聞かなかった事を後悔する事になる。




本日、遂にラストティーンを迎えましたーーーーー!!

いやあ、最後の十代、どう過ごすか考え物です。

しかし、この作品も気づけば二年以上やっているんですね。そのくせして未だに原作四巻をやっているとか(笑)自分の執筆の遅さに泣きたくなります。

けど、こんな作品でも感想が百件以上きたと思うとすごくうれしいです。これからも精進していきたいと思います!


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第八話

先週投稿出来ずに申し訳ありません。色々とありまして……。




「何だ……?」

 

 違和感を感じ、辺りを見渡す。

 

 サーゼクス兄さん達トップは顔を険しくして話し合っている。アザゼルは楽しそうに笑みを浮かべているが。

 

 他のウチのメンバーは……半々だな。

 

 リアスや祐斗、ゼノヴィアは動いている。だが、他のメンバーは軒並み停まっている。

 

「――ギャスパー君の停止能力か」

 

 そうとしか考えられない。この感じは以前のヤツそのままだ。

 

「間違いないようね」

 

 リアスたちが近づいてくる。

 

「ああ。……所でゼノヴィア、何でデュランダルなんて出しているんだ?」

 

 ゼノヴィアの手元にある物騒そうな聖剣――デュランダルを見る。

 

 見るからにやばい雰囲気を持っている。暴れ馬っていう表現は正しいだろう。

 

「時間停止の感覚は前に覚えたのでな、デュランダルのオーラを使えば防げると思ったが……上手くいったようだ」

 

 はは。すげえ。感覚で覚えたか。この子、ある種の天才タイプだな。

 

「祐斗も聖魔剣で?」

 

「はい、何とか」

 

 祐斗は聖魔剣。リアスは滅びの魔力が関係しているんだろう。

 

 俺はドラゴンの力と俺個人としての力。

 

 てか、ドラゴンの力だったらあいつも行けるんじゃね?

 

 そう思い、俺はあいつ――一誠の元に近づく。

 

 相変わらずなアホ顔を晒して何をやっているのやら……。

 

「おい、一誠」

 

 ペチペチと一誠の頬を叩く。無反応。

 

「ふむ」

 

 赤龍帝の力なら問題ないと思うのだが、如何せん、一誠の素の力がダメと言うわけか。

 

 どうしたものか。刺激を与えたところで何かなるわけでも無いだろうし。

 

 こういう時の用の知識を生憎と持ち合わせていない。完璧に手詰まりだ。

 

「……ん?」

 

 何気なく窓の外を見る。外で何か光っている……?

 

 一誠から離れて窓の方を見る。

 

 窓から見える校庭に大きな魔方陣が浮かび上がっている。

 

「何だあれ」

 

「転移の魔方陣だな。だが俺たちのもんじゃない」

 

 俺の呟きにいつの間にか近くに来ていたアザゼルが答えた。

 

「分かるのか?」

 

「ああ。あれは魔術師どもが好んで使っている転移魔方陣だな」

 

 アザゼルの言葉が正しいのを裏付けるように魔方陣から続々とローブを着こんだ者たちが現れた。

 

「どう考えても……歓迎ムードじゃないな」

 

 どいつもこいつも敵意むき出しでこちらを睨み付けている。

 

 そして手元に魔方陣を浮かばせて、次の瞬間、炎、氷、雷などあらゆる属性の攻撃がこちらに迫ってくる。

 

 思わず迎撃しようと身構えるが、

 

「大丈夫だ」

 

「え?」

 

 アザゼルの言葉に体が止まる。

 

 攻撃が校舎に当たったと思った瞬間、何かに阻まれるように止まり、霧散する。

 

「これは」

 

「結界だよ。今、俺たちで張った」

 

 なんでもない様に言うけど、やっぱりこいつも三大勢力のトップなんだな。あのコカビエルよりも実力は上って言うし。

 

「しかし、あの魔術師たちどこの奴らだ? ここが三大勢力の会議が行われている場所だって分かってやっているのか?」

 

「恐らくそうだろう。いつの時代も平和を嫌う奴らはいるもんだ」

 

「……なにか、あいつらはこの会議をぶっ壊そうと考えているのか?」

 

 だとしたら、勇気があるな。仮にも三大勢力のトップたちがいるんだ。自分たちだってただで済むはずが無いだろうに。

 

「たく」

 

 めんどくさそうにアザゼルが腕を上げる。

 

 すると、上空に極太の光の槍が何個も浮かび上がる。

 

 そして、アザゼルが腕を振り下ろすのと同時に槍が魔術師たちに迫る。

 

 魔術師たちもも防御用らしき魔方陣を展開するも紙の如くあっさりと貫かれていく。

 

 ……一瞬で全滅したな。まるで相手になっていない。

 

「ん?」

 

 再び転移魔方陣が輝くと――また魔術師どもがぞろぞろと現れた。

 

 ……何これ。無限ループってやつか?

 

「ちっ、成程な。俺たちの足止めか」

 

「足止め」

 

 つまり、トップを足止めしている間に何かすることがあるって訳か。

 

「兄貴!」

 

 お、一誠も動き出したか。

 

「どうなっているんだこれ?」

 

「テロみたいだぜ」

 

「テロぉ!?」

 

 驚く一誠。

 

 まあ、悪魔とはいえ、元日本人としては当然の反応か。

 

「あのハーフヴァンパイアの小僧の神器を強制的に禁手化したんだろう。外の軍勢をそれのお蔭で停止しちまったんだろう」

 

 流石は自称神器研究者。神器に関しては分析力は本物らしい。

 

「このままだと俺たちの誰かが停まるな。その前に何とかハーフヴァンパイアの小僧を止めないといけないな」

 

 ギャスパー君を何とかしないと敵の思う壺か。

 

「しかし、私たちは今下調べの為動けない。となると……」

 

 サーゼクス兄さんの言葉にリアスが一歩前に出る。

 

「お兄様、私が向かいます。ギャスパーは私の眷属。ならば私が助けるのが道理です」

 

 さっすがリアス。強いねえ。

 

「ふむ、しかし、どうやって行く? 外は敵だらけだ」

 

「旧校舎の部室に未使用の『戦車(ルーク)』の駒が保存されています」

 

「成程、キャスリングか……」

 

 キャスリング。『(キング)』の駒と『戦車(ルーク)』を入れ替える事を指す。レーティングゲームでもこの方法が使われており、リアスはこれを使って旧校舎に直接向かおうとしているんだろう。

 

「グレイフィア。私の力で何人飛ばせる?」

 

「この現状ですとお嬢様も入れて二人だけかと」

 

 二人か……。

 

「なら、俺が……!?」

 

 ――ドクン!!

 

 何かが俺の中で脈打つ。

 

「あ、が……?」

 

 胸を抑える。

 

 何だ、これ……? おい、リンド。何か起こっているのか?

 

『さあ、私には何とも』

 

 リンドじゃ、ない……? じゃあ一体……。

 

「カレン!?」

 

 血相を変えてこちらに駆け寄ってくるリアス。一誠たちも心配そうに見てくる。

 

「だ、大丈夫、だ……うぐ!?」

 

 再び襲う衝撃。

 

 な、何なんだよ……これ!? 一体どうなっている?

 

 窓に寄りかかる。

 

 そして、窓の外を見る。

 

 外は相変わらず魔術師どもがこちらに攻撃している。相も変わらない自殺願望者がうじゃうじゃとしているな。

 

 そして、その中にあいつがいる。

 

「…………」

 

 他の魔術師連中とは違う高級感が溢れる金色の装飾が施された黒いローブを身にまとい魔術師たちの中に佇んでいた。

 

 黒ローブがこちらを……俺を見る。

 

 俺の瞳とヤツの――金色の瞳が交わる。

 

「あの、瞳は……」

 

 ――覚えている。あの瞳を、俺は覚えている。

 

 窓を開ける。

 

「カレン……?」

 

「……禁手化(バランス・ブレイク)

 

 素早く鎧を身に纏う。

 

「ちょっと、カレン!?」

 

 リアスの言葉を無視し、俺は勢いを付けて飛び出す!

 

 魔術師どもが俺に気づき、一斉に攻撃をしてくるが、気に留める必要は無い。躱すか、吸収していく。

 

 そして、黒ローブに近づき剣で斬りかかる! 

 

 ――ギイイイィィン!!

 

 金属音と共に衝撃波が辺りに広がる。

 

 魔術師どもがその衝撃に飲まれて吹き飛んでいく。

 

「それは……」

 

 俺の剣を受け止めたのはやはり剣。

 

 だが、圧倒的なまでに神々しいオーラを漂わせている。

 

 刀身は神々しさ反するように闇色に光っており、柄には刀身と同じ闇色の宝玉が埋め込まれている。

 

 神星剣。()()()()()()()()()()()()

 

「お前は、お前は――!」

 

「ほう、私を覚えているか、カレン・グレモリー」

 

 何が嬉しいのかフードの中で笑みを浮かべる黒ローブ。声から察するに男だろう。

 

 だが、そんな事はどうでも良い。こいつは、こいつは――!

 

「ぐ、おおおおおぉぉぉぉおおお!!」

 

******

 

「おいおいおいおい! あいつ誰か止めろ!」

 

 普段から不敵な笑みを浮かべているアザゼルが珍しく焦っている。

 

 私、リアス・グレモリーはアザゼルに詰め寄る。

 

「どういう事アザゼル! ちゃんと説明なさい!」

 

 頭をガシガシと掻きながらアザゼルは言う。

 

「――神星剣だ」

 

「え?」

 

「今、カレン・グレモリーと戦っているヤツが持っているのは神星剣の一本、冥王星神剣《プルトーネ・グラディウス》だ!」

 

 アザゼルの言葉に場が騒然とする。

 

「アザゼル確かか?」

 

 お兄様が深刻そうな表情で聞いてくる。

 

「ええ、間違いないでしょう。私も一度見たことがあります」

 

 ミカエル様が言う。

 

「そんな……」

 

 神星剣。この前カレンから話を聞いていたけど、お兄様達がここまで警戒するなんて……。

 

「カレンちゃん止めたほうが良いじゃないの?」

 

 セラフォルー様が心配そうに言う。

 

「今のカレンに話が届くとは思えんが……」

 

 お兄様が苦い顔でそう言う。

 

 皆がカレンの方を見る。

 

『ああああああああぁぁぁぁぁ!!』

 

『…………』

 

 獣の如く咆哮を上げて縦横無尽に斬りつけるカレン。神星剣を持っている方はそれを涼やかに受け流している。

 

「あれじゃ聞かないな……チッ! おい、ヴァーリ!」

 

 アザゼルが白龍皇を呼ぶ。

 

「カレン・グレモリーを援護してやれ! あれはお前の大好きな強いやつだ」

 

「やれやれ……了解した」

 

 白龍皇が背中に光の翼を展開する。あれが彼の神器なのだろう。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!!』

 

 音声の後、白龍皇の体を鎧が身にまとう。

 

 カレンによって開けられた窓から外に出ると、高速で一気に向かう。

 

「……カレンは白龍皇の彼に任せよう。リアス、君はギャスパー君を助けに行きなさい」

 

「お兄様、でも……」

 

 チラリと外を見る。カレンと黒ローブ人物。そして合流した白龍皇の三者入り乱れての戦闘が行われていた。

 

 攻撃一つで地面が抉れるような激しい戦いだ。

 

「カレンが心配なの分かる。だけど、ここはギャスパー君を急いで救出しないと敵の思う壺だ。カレンの事は下調べが終わったら私が行く。お前はお前の出来る事をやりなさい」

 

「……分かりました」

 

 そう言いつつも、私の意識はカレンの方を向いていた。

 

 ギャスパーが心配なのはそうなのだが、どうしてもカレンの方に意識が向いてしまう。

 

 さっきのカレンの暗い笑みが影響しているのだろうか。神星剣の使い手のところに行った際の尋常じゃない雰囲気も関係していると思う。

 

「部長」

 

「イッセー……」

 

 イッセーが近づいてくる。

 

「俺が一緒に行きます。ギャスパーを早く助けて兄貴も助けに行きましょう! 大丈夫ですよ、兄貴は俺たちの中で一番強いですから!」

 

 本当は自分も直ぐにでも行きたいだろうに。

 

 ダメね。眷属に悟らせられるなんて……主失格ね。

 

 息を一回吸う。そして吐く。

 

「分かったわ。行きましょう!」

 

「はい!」

 

 待っててカレン。直ぐに行くから。

 

******

 

「はあああああああ!!」

 

 自分でも驚くような声を上げながら俺は斬りかかる。

 

「ハハ」

 

 この余裕ぶっているのがムカつく。俺の剣を全て受け切っているのがムカつく。

 

 こいつの全部が気に入らない。

 

「貴様! 何者だ!」

 

 気づけばそんな言葉が出ていた。

 

「おや、私を覚えていないのかなカレン・グレモリー?」

 

「つまり俺はあんたを会ったことがあるんだな! それだけ聞ければ十分だ!」

 

 間違いない、無くした記憶の中で俺はこいつに会っている! そしてもう一つ。

 

 ――こいつは敵だ。殺すべきだ。

 

「この……!」

 

 だが、こいつの実力がかなりのものなのは確かだ。

 

 剣技自体はそこまでものじゃない。けど、素で負けている。

 

 こいつ、身体能力がけた違いだ。鎧を身にまとっている俺が軽くいなされている。

 

 そこまで考えた時だ。

 

 これまで守勢に回っていた神星剣使いが攻勢に転じる。

 

 単純な横薙ぎや袈裟切り。だけども、速さが半端じゃない!

 

「っ!」

 

 一斬、二斬。と斬りかかってくる。

 

 剣で全部受け止める。

 

「くそ!」

 

 一撃一撃が重い! この!

 

 一旦距離を取る。一回態勢を立て直さないとな。

 

「ふう……ん? ってはあ!?」

 

 一息つく。そしてふと剣を見てビビる。

 

 剣が……折れる寸前じゃねえか! え、どういう事!?

 

 おいリンド! 何がどうなっている!? そこまで軟じゃないだろこれ()

 

『仕方ないでしょう。相手が悪すぎます。私が強度を高めたとしてもそう上手くはいきません』

 

 つまり格は全部あっちが上かよ。くそったれめ。腹立たしいぜ……。

 

 あーやばいイライラしてきた。あいつぶっ殺さないとこれ収まらないな。

 

『…………』

 

 リンド?

 

『……いえ。剣と鎧は壊れそうになったら即座に修復しますが、くれぐれも当たらない様に。あれはあらゆる種族に対して天敵となりうる剣です』

 

 そうかい。要は当たらなければ良いんだな。

 

「――面白そうだな、俺も混ぜてくれよ」

 

 後ろから聞こえてくる声。

 

「……何の用だ、白龍皇」

 

 後ろを見る。既に俺と同じように鎧を身に纏った白龍皇ヴァーリがそこにいた。

 

「何、アザゼルに言われてね、君の手助けに来たんだ」

 

「かっ、余計なお世話だな」

 

「そう邪険にしないでくれ。……俺も個人的に神星剣がどれ程のものか見てみたいんだ」

 

 完全に自分の趣味で来たなこいつ。

 

 白龍皇の参戦に、神星剣使いは苦笑する。

 

「これは白龍皇ですか。困りましたね、貴方と戦う予定はありませんでしたのに」

 

「気にするな。俺から勝手にやったと言っておけば良い」

 

「そうさせて頂きます」

 

「……?」

 

 何だ? まあ、良いか。

 

「いるのは良いが、俺の邪魔だけはするなよ」

 

「それはこちらのセリフと言わせてもらおう」

 

 こうして俺と神星剣使いの戦いは白龍皇ヴァーリを加えての第二ラウンドに移行するのであった。




先日ついに自分のお気に入りの作品「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」のアニメがスタートしました。

ただ、オープニングの絵で原作五巻ぐらいまで行くと思うのですが、1クールで五巻分やるもの無理がある気がしますけど……。2クールなら嬉しいなあ。

既にハーメルンで書いている人もいますけど、あれ、設定難しいんだよな。自分も書いてみたいけど。


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第九話

前々から思ったのだが、どの程度まで原作と同じにしたらダメなのだろうか。削除基準がいまいち分からない。


 現在、まれに見る光景では無いだろうか?

 

 二天龍が片割れ、白龍皇と共闘するなど、歴史的に見ても早々に無いんじゃないかな?

 

 とまあ、やっているわけだが。

 

「はっ!」

 

 左手の砲口に魔力を溜め、一気に放つ。

 

 神星剣使いはそれを神星剣を軽く振るだけいなす。

 

 その隙を突き、白龍皇が高速で迫る。

 

 そして、懐に飛び込み拳を繰り出す。

 

「おっと」

 

 しかし、白龍皇の拳は奴の左手で難なく受け止められる。

 

 そのまま神星剣で白龍皇を斬りつけようとする。

 

 今だな。俺は後ろに回り込み背中から斬りつける。

 

 これなら反応出来まい! どうだ!

 

 しかし、

 

「はは、甘い甘い」

 

「な……」

 

 俺の目論見が甘い事が判明した。

 

 足の裏で……止めた!?

 

 俺はその光景に目を疑う。

 

 魔力で強化し、本気の一撃だった。それをこうも容易く――!

 

「くっ!」

 

 その場から急ぎ離れる。白龍皇をヤツの手を振りほどき距離を取る。

 

「……やれやれ、流石と言うべきか。神星剣の加護ある状態だと半減も上手く作用しないようだ。中々に厄介だな」

 

「ふふ、そう悲観する事もありませんよ。今のあなたも十分強い。素の私でも苦戦は免れないでしょうし」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ」

 

 白龍皇と会話している間でも隙が見えん。難しいものだ。

 

「しかし、カレン・グレモリーに白龍皇。相手取るにも中々難しい。白龍皇殿、帰ってくれません?」

 

「酷いな。俺に用は無いのか?」

 

「今のところは」

 

 ……つまり俺に目的があるって訳か。

 

 くそ、こいつと会ったのは思い出した。それが何時なのかが分からん!

 

「さてさて、戦況も少し変わってきたようですね」

 

「あ?」

 

 神星剣使いの言葉に内心首を傾げたとき、上で強い力のぶつかり合いを感じた。

 

「何だ?」

 

 見れば巨大なオーラを身に纏った二人が激突していた。

 

 一人はアザゼル。十二枚の翼を広げ不敵に笑いがら光の槍で攻撃している。

 

 もう一人は女。扇情的なドレスを身にまとい、アザゼルの攻撃を防ぎながら攻撃していた。

 

 誰だ……? 悪魔の分かるが……。

 

「おや、カテレア様はもう動かれたか。しかし、一人で行かれるとは随分と豪胆な事で」

 

「カテレア?」

 

 知らない名だ。有名人か?

 

「カテレア・レヴィアタン。先代レヴィアタン様の子孫ですよ」

 

 っ、レヴィアタン。それも先代。つまり本来の魔王の血筋か。

 

 それが何でアザゼルと。

 

 俺の疑問に答えるように神星剣使いが答える。

 

「大戦後、徹底抗戦を唱えた先代様達の末裔は現政府との抗争に敗れ辺境に追いやられた。その恨みでテロリストになったのですよ」

 

「テロリスト……お前も仲間か?」

 

「組織は同じです。派閥は違いますが。禍の団(カオス・ブリゲード)。以後お見知りおきを」

 

 禍の団(カオス・ブリゲード)ねえ。聞くからに邪悪そうだ。

 

「まあ良い。貴様はここで殺す」

 

「怖い怖い……とはいえ、今の貴方では私は殺せませんよ? 天地がひっくり返っても」

 

「ぬかせ!」

 

 激情と共に俺は神星剣使いに突っ込む。

 

 激しく切り結ぶ俺たち。

 

 しかし、

 

「クソ……!」

 

 押されてきた……俺が。

 

 技は俺が上だ。だが、その他身体的能力が圧倒的にヤツが優っている。

 

 しかも、上がっている。力が。

 

「てめえ、手加減していたな……!」

 

「当然ですよ。しないと貴方を殺してしまう」

 

 ……! 男の言葉に言いようのない怒りを覚える。

 

 こ、の、野郎……!

 

『カレン! 落ち着きなさい!』

 

 リンドの声が聞こえてくるが内容が入ってこない。

 

「ああああああああ!!」

 

 咆哮を上げる。

 

 最早技など関係ない。ただ出鱈目に剣を振るう!

 

「やれやれ……少し黙らせようか」

 

 刹那、背筋が凍る。

 

 神星剣の闇色の光が強まる。

 

 そして、俺の視界を闇色の光が染まる。

 

 ******

 

「まだ改良の余地があるな。もうしばらく付き合ってもらうぜ、龍王ファーブニル」

 

 宝玉を手にアザゼルが言う。

 

 圧倒的だった。かの無限の龍神オーフィスの力を使い前魔王クラスの力を手にしていたカテレア・レヴィアタンを人口神器を使い、瞬殺してしまった。

 

 左腕を失っていたが、それも特に気にしていなかった。

 

 ギャスパーを助け、イッセーと校庭に戻った時、既に勝負は決しかけていた。

 

 堕天使総督の実力……これ程なんて。流石と言うべきかしらね。

 

 って、いけない! アザゼルなんてどうでも良い! カレンは……!

 

 刹那、轟音と共に何かが飛んできた。

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

 悲鳴を上げる私たち。

 

 な、なにが起こったの……?

 

 恐る恐る飛来したモノを見る。

 

 煙が晴れて、絶句する。

 

「カレンっ!」

 

 殆ど悲鳴に近い声を上げてしまう。

 

 急いで駆け付ける。

 

「う、が……」

 

 呻きながら何とか立ち上がろうとするカレン。だけど、無理に近い。

 

 鎧を貫通して大きな斬り傷が右胸から左腹にかけて刻まれていた。

 

「酷い……」

 

 見るからに重傷だ。

 

 というか、ちょっと待って。傷口が……。

 

 傷口に何かがうごめている……? これって……?

 

「神星剣の影響だな」

 

 アザゼルが近くに降り立つ。

 

「アザゼル! どういう事?」

 

「神星剣は聖剣や魔剣とも違う。それぞれの種族に対して別々の効果を及ぼす」

 

「それって一体……」

 

 アザゼルに聞こうとした時だ。

 

「――悪魔に対しては”祝福”を与える。それはフェニックスの涙でも癒せない」

 

 神星剣をその手に、黒ローブの男が近づいてきた。

 

 男の声を聴いた瞬間、アザゼルの顔色が変わった。

 

「その声、お前まさか……!」

 

「ああ、アザゼル殿がいたのか。なら仕方ない」

 

 そう言ってローブの男がフードを取る。

 

 現れたのは金色の髪と金色の瞳を持った、初老の男性だった。

 

「やっぱりお前か……ルーファス・アガリアレプトっ!」

 

 忌々しげに男の名を言うアザゼル。

 

「アガリアレプト……? ウソでしょ……!」

 

 かくいう私も男の苗字に驚愕を隠せなかった。

 

 アガリアレプト。お兄様がルシファーの名前を受けづいている私たちグレモリー家にとっては無視できない名前の一つだ。

 

 かつてお義姉さまの家ルキフグスと同様に先代魔王ルシファーに仕えた番外の悪魔(エクストラ・デーモン)の一族の一つ。ルキフグスが右腕ならばアガリアレプトは左腕と言われる程ルシファーを支えていてたと言う。

 

「かつて”あいつ”に仕えていたお前が何故単独動いている?」

 

「やりたいことがありましてね。久しぶりに動いてい見ようと思いまして」

 

 肩を竦めるルーファス。

 

 男の正体も衝撃的だが、それよりも聞きたいことがある。

 

「”祝福”ってどういう事!?」

 

 カレンは今も苦しんでいる。早くしないと……。

 

「言葉通りですよ、グレモリーの姫君。神星剣は悪魔に祝福を与える。――まあ、悪魔にとっては滅びかもしれませんが」

 

「滅び……ねえ」

 

「カレン!?」

 

 カレンが起き上がろうとしている。砕けた鎧からは苦痛に歪ませた顔が見える。

 

「ルー、ファス・アガリア、レプト……ねえ」

 

 息も絶え絶えにルーファスの名前を呟く。

 

 それを見て、「ほう」と感心するようにカレンを見るルーファス。

 

「驚きました。まだ口が聞けるんですね。凄まじい精神力だ感服だ」

 

「ごちゃ、ごちゃ、うるせえ……!」

 

 立ち上がろうとするカレン。

 

 しかし、足は既にガクガクと震えている。

 

「兄貴……! 無茶すんな!」

 

 イッセーはカレンを抑えようとする。

 

「黙れ一誠! どけ!」

 

 そんなイッセーをどかせようとするも、態勢を崩してしまう。

 

 イッセーが慌ててカレンを支える。

 

「ふむ、限界か……少し遊びすぎましたかね」

 

 観察するかのようにカレンを見るめるルーファス。

 

「これでは話を聞こうにも聞けないですね……」

 

 「困った」と呟くルーファス。

 

 それを見たアザゼルが考え込むように顎に手を当てるアザゼル。

 

「おい、ルーファス」

 

「何ですアザゼル殿?」

 

「お前、神星剣何本集めた?」

 

 アザゼルの率直な質問にルーファスは目を細める。

 

「何故、そのような質問を?」

 

禍の団(カオス・ブリゲード)のテロに合わせて動いたって事はそれなりの準備をしてあるって事だ。さっきのカテレアみたいに復讐心で動いているわけでも無いだろうし」

 

「成程……。確かに私は旧魔王派に所属しているわけではありません。協力は一応させてもらっていますが。あくまで、建前ですし」

 

 あっさりとしている。かつては魔王の左腕と呼ばれた家の悪魔なのだろうか?

 

「今は私自身の目的の為に動いている。その為に神星剣とその担い手が必要なのですよ」

 

「神星剣ねえ……そこの坊主は持っていないと言ってるが?」

 

「……どういう事?」

 

 カレンと神星剣に関係があるというの?

 

「神星剣の一本を最後に持っていたのがそこの坊主の母親、朝凪日月だったんだよ」

 

 っ! 初耳だ。カレンはそんな事一言も……。

 

「ええ、我々が所在を確認していない神星剣の一本。その一つを持っていたのが、朝凪日月。彼の母親です」

 

「だが、結局所在不明なんだろ?」

 

 アザゼルの言葉にルーファスは首を振る。

 

「いいえ。確かに彼女は持っていた。最後に見た彼女は彼と神星剣を握っていました」

 

「最後……まさかお前!?」

 

 何かに気付いたらしく、アザゼルが声を上げる。

 

「レオン・グレモリーの館襲撃事件の首謀者はお前か!」

 

 襲撃、事件……?

 

 襲撃って、でも、たしかにあの時何かが燃えていて。まさか……。

 

「彼女の死に目に立ち会ったのはカレン・グレモリーただ一人。……故に神星剣の行方は彼だけが知っている」

 

「……なら、なおさらお前に渡す訳にはいかないな」

 

 光の槍を手元に生み出しアザゼルがそう言う。

 

 しかし、その槍を別方向から飛来してきた何かに投げ飛ばす。

 

 爆発音とともに槍と飛んできたものが霧散する。

 

「……今度はお前か、ヴァーリ」

 

 攻撃してきたのは白龍皇!空中に浮かびながら悠々と此方を見下ろしている。

 

「すまないなアザゼル。此方の方が面白そうだったんでね」

 

「まあこいつが現れた時からなんとなく想像はしていたけどな」

 

 ため息をつくアザゼル。

 

「どういう事だよ?」

 

 イッセーが聞いてくる。

 

 その疑問に白龍皇自身が答える。

 

「俺の名はヴァーリ・ルシファーと言うんだ」

 

 ……嘘、でしょ?

 

 ルーファス・アガリアレプトの登場など吹き飛んでしまうような衝撃を受ける。

 

「死んだ先代魔王ルシファーの孫である父と人間の母から生まれたハーフでね。お陰で神器を手に入れられた」

 

 彼の背中から8枚に及ぶ黒翼が現れる。

 

 そんな事が……あると言うの?

 

「やれやれ、私に攻撃してきたときはどうしようかと思いましたよ、ヴァーリ様」

 

「すまないなルーファス。神星剣がどれ程のものかと思ってね、試したくなった」

 

 親しげに話す白龍皇とルーファス。

 

 察するに前々から知り合いだったのだろう。ルシファーとアガリアレプト。両家の付き合いは計り知れないと言う。

 

「しかし、カレン・グレモリーはもう虫の息のようだな。残念だ折角戦ってみようと思ったのに」

 

 心底残念そうに言う白龍皇。

 

「白龍皇ならそこの赤龍帝と戦ったらどうだ?」

 

 アザゼルがイッセーを指さす。

 

「お、俺!?」

 

 指名されたイッセーは驚きを隠せていない。

 

 しかし、白龍皇は一笑するだけだった。

 

「そこの義兄とは比べるまでもない弱っちい赤龍帝の相手は、ねえ……?」

 

「な……!」

 

 あからさまにイッセーを馬鹿にしている白龍皇にイッセーは口元をひくつかせている。

 

「本当に残念だよ。カレン・グレモリー、俺と同じ様に悪魔と人間の血を引き、その才を余すことなく発揮している。彼が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持っていたら最高の赤と白の対決が出来ただろうに……残念で仕方ない」

 

 ……確かに、カレンが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持っていたら白龍皇である彼と凄まじい戦いを行っていたかもしれない。

 

「だが、現実は残酷だ。対となる神器を持っていてもそれ以外は天と地の差だ」

 

「……随分と言ってくれるじゃねえか」

 

 流石に怒りを感じたのか、少し声が低くなるイッセー。

 

「ふむ、どうしたものか……ん、いやこういうのはどうだ?」

 

 白龍皇は何かを閃いたらしく手を叩く。

 

 何か、嫌な感じがする。

 

「キミの両親を殺そう! そうすれば君は復讐者となり、俺と戦う理由が出来る!」

 

 っ! な、なんてことを……!

 

「――殺すぞお前」

 

 今まで聞いたことのないような低い声で呟くイッセー。

 

「……待て」




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第十話

バイトで嫌なことあった……テンションダダ下がりです


 暗い。何も見えない。何も聞こえない。

 

 俺はどうしたんだ? 確か、あの神星剣使いに斬られて、それから……。

 

 そう、それから、記憶が無い。意識が飛び飛びになっている。一誠に肩を貸されていたかもしれないし、リアスの顔を見たような気もする。

 

 白龍皇も近くにいたような……ああ、駄目だ。記憶が無い。どうすりゃあ良い。

 

 気づけばこの闇の中だ。

 

 ここも、神器の中って訳じゃなさそうだな。リンドが姿を見せないし、あの男も姿を現さない。

 

 何がどうなっている? 戦況は? リアスや一誠は無事なのか?

 

 その時だった。

 

『――最終所有者との契約に基づき、《結びの儀式》を執り行います』

 

 

 闇の中から声が響く。

 

「っ!」

 

 驚き、辺りを見渡しても誰もいない。闇だけだ。

 

『貴方に問います』

 

 だが、確かに何かが俺に問いかけている。

 

「おい! 誰かいるのか!?」

 

 声を響かせるも誰も見えない。

 

『貴方はまだ生きる意志がありますか?』

 

「あ?」

 

 いきなり何を言っているんだ?

 

『貴方は力に何を求めますか?』

 

 いきなり何だよおい……質問を重ねて聞いてくるとか。

 

『貴方は力で何を成しますか?』

 

『貴方は……世界を変える力が欲しいですか?』

 

 その質問を最後に再び沈黙が訪れる。

 

 何か、これらの質問に答えないと先に進まないのか? 訳わからん。

 

 まあ、良い。兎に角答えるか。

 

「最初の質問だが生きる意志はある。つか、まだ死んでたまるか」

 

『受諾』

 

 短く答えるなあ。何も聞かないのか?

 

 良いか。次の質問に行こう。

 

「力に何を求めるか、か……」

 

 これは……あれかな?

 

「俺は力に不条理に、どうしようもない事への打ち勝つことを求める。何でも思い通りとかは思わないけど、譲れないものの為ならばそれを打ち破りたい」

 

『受諾』

 

 これまたあっさりと答える。

 

 三つめの質問に行くか。

 

 三つめは確か……。

 

「力で何を成すか、だったな……」

 

 難しい質問だ。ちょっと前の俺ならば迷うことなく答えていられただろうに。

 

 けど、今の俺にとって最もやりたいことは……。

 

「復讐だ。奴らを……俺の親を殺したあいつらを殺す。この手で、一人残らずだ」

 

『……受諾』

 

 今度は返答に間があった。だけど何も言わない。

 

 四つめ。次は、世界を変える力、か。

 

 突然、大きな話になってしまった。まるで神滅具(ロンギヌス)の事を言っているみたいだな。

 

「世界を変える力は……別に要らないかな? あーでも、俺の世界を守れるならば欲しいかな」

 

『……貴方の世界?』

 

 お、今度は別の反応があった。

 

「ああ、別に俺はこの世がどうなろうが別に興味なんて無い。ただ、俺の周りが……俺の世界が守れればそれで良い」

 

 リアスが、一誠が、朱乃が、アーシアが、小猫ちゃんが、祐斗が、ゼノヴィアが、ギャスパーが。

 

 サーゼクス兄さんに、グレイフィアさん。

 

 他の皆がいればそれで良い。だから、世界を、俺の世界を守れるなら。

 

「その力を俺に寄越せ……!」

 

『受諾。契約成立』

 

 瞬間、赤い光が辺りを包み込む。思わず目を手で覆う。

 

 しばらくして、光が収まり、目を開けると俺の目の前に一本の剣が浮かんでいた。

 

 赤い刀身は同じく赤く光っており、何処までも神々しさが漂っている。

 

「神星剣、か」

 

 一目で分かる。あの男が使っていたのとまったく同じオーラを漂わせている。

 

『神星剣が一本、火星神剣(マーズ・ソード)。その柄に取ってください』

 

 火星神剣(マーズ・ソード)……。これがあれば、ヤツを倒せる――!

 

 俺は迷うことなくその剣を手に取る!

 

 瞬間、再び世界が輝く。

 

******

 

 イッセーが白龍皇と激しい戦闘を開始した。

 

 技術は圧倒的に白龍皇が上だが、勢いは赤龍帝であるイッセーが上回っている。

 

「ほほう、今代の赤龍帝は余り素質が無いと聞いていましたが……いやはや、若者は凄いですね」

 

「おいおい、爺臭いセリフだな」

 

 アザゼルが笑みを浮かべながら言う。

 

 以前、状況は変わっていない。お兄様たちもまだ結界の解除に手間取っている。

 

 祐斗たちも他の魔術師たちの相手に手間取っている。

 

 そして私の腕の中には意識の無いカレン。アザゼルも左腕を失っている状態。

 

 完全に不味い状況。神星剣を持っているルーファス・アガリアレプトを相手取るには私じゃ絶対に無理だ。

 

 どうすれば……!

 

「さて、そろそろ時間も迫っている頃でしょうし、私も自分の事をやりましょう」

 

 ルーファスはこちらを見る。

 

「――カレン・グレモリーをこちらに渡して下さい。そうすれば、私は何もしません」

 

 あっさり、何も無い様に言う。

 

「なっ……」

 

 余りの要求に私は絶句する。

 

「ふざけ、無いで……!」

 

 絞るように呟く。

 

 何を言っているこの男! 冗談じゃ無いわ!

 

「随分と言ってくれるじゃねえか……」

 

 嘆息しながら言うアザゼル。

 

「アザゼル殿、貴方ならばこの状況を正しく理解できていますよね? どの選択が正しいのか」

 

「まあ、なあ。そこの坊主をお前に渡せば取り敢えずの危険は去るって訳か」

 

「アザゼル……!」

 

 キッと睨み付ける。

 

 アザゼルは肩を竦めるだけだ。

 

「……まあ、お前にこいつを渡したらもっと最悪な状況になりそうだな。それに俺がサーゼクスの野郎に殺されちまう。だからノーだ」

 

「そうですか……残念ですね」

 

 本当に残念そうに首を振るルーファス。

 

 そして、神星剣の切っ先をこちらに向ける。

 

「では力尽くで。覚悟してください」

 

「くっ……!」

 

 このままじゃ……!

 

 その時だった。

 

 カレンの体から赤い光が溢れる。

 

「これは一体……?」

 

 見れば、アザゼルも驚いている。

 

 たが、ルーファスはただ一人この現象に気づいているらしく、歓喜に身を震わせていた。

 

「まさか……! そこにあったのか……!」

 

 そして、カレンは立ち上がる。

 

「カレン……?」

 

 髪に隠れて顔は見えない。

 

 ゆらりと歩き出す。

 

 歩きながらカレンは自分の胸に手を――埋め込む!

 

「カレン!?」

 

 突然の事に驚く。だってカレン、貴方!

 

 驚き場を置いてカレンはゆっくりと手を胸から抜き始める。

 

 やがて見えたのは一本の剣の……柄。

 

「そうか、そういう事か! やってくれるぜ朝凪日月!」

 

 アザゼルも理解したらしく声を上げる。

 

 皆が見ている中で勢いよく柄を引き抜く!

 

 現れたのは赤い剣だった。

 

 刀身は赤く、さらに同じく赤い光が刀身を覆っている。

 

 まさか、あれって。

 

「――神星剣の一本、火星神剣《マーズ・ソード》。朝凪日月が所有していた剣。驚いた自分の息子の体の中に隠していたのか……! 道理で見つからないわけだ」

 

 愉快そうに笑っているルーファス。

 

 神星剣をカレンの体の中に隠していた……? 叔母様が……? 一体どういう事?

 

 混乱する私を尻目に場は動く。

 

「……覚悟しろルーファス・アガリアレプト。貴様は俺が殺す」

 

「おやおや、記憶が戻ったのですかな?――予定変更です。今ここで貴方の力を確かめておきます」

 

「ぬかせ。こっちも神星剣だ。ならば条件は同じ。覚悟しろ」

 

 ルーファスを睨み付けるカレンの瞳は、冷たく凍えていた。

 

 カレン、やっぱり貴方……。

 

 神星剣をお互いに構える二人。

 

 次の瞬間、二人の体が消える。

 

 何処に!?

 

 視線を彷徨わせれば、二人が神星剣をぶつけ合っていた!

 

 神星剣がぶつかり合うと同時に辺り一帯が吹き飛んでいく。

 

 砂や岩が飛んでくる!

 

「くっ……!」

 

 魔方陣を展開させてそれを防ぐ。

 

「はははは! マジかよ! こいつはやべえな!」

 

 アザゼルは笑いながらその光景を見ていた。

 

 カレンとルーファスは高速で移動しながら剣をぶつけ合っていた。

 

 残像が残す程の速さ……これが神星剣の力だって言うの……?

 

「はあ……!」

 

 一度距離を取りカレンは神星剣を振りかぶる。

 

 すると、斬撃のオーラがいくつも繰り出された!

 

「ふ……」

 

 ルーファスも同じく闇色の斬撃のオーラを繰り出す。

 

 同じ数の斬撃がぶつかり合い、当時に霧散する。

 

 その結果が分かっていたのか、カレンは既に行動を開始していた。

 

 一気に距離を詰め寄り、その勢いで突きを繰り出す。

 

 ルーファスは紙一重で避け、カウンターで、神星剣を振りかぶる。

 

 それを見たカレンは体を捻り躱す。

 

「ふふ……」

 

「…………」

 

 一瞬、見詰め合う二人。そして同時に神星剣を握っていない方の手を突き出し、手の平に強大な魔力の塊を生み出す。

 

 そして、紅と黒の魔力の波動を同時に打ち出す。

 

 爆発音と共に砂埃が辺りを覆う。

 

「けほっ!」

 

 思わず咳き込んでしまう。

 

 口を押えながら辺りを見渡すも、当たり一面何も見えない。近くにいたはずのアザゼルも見えないほどだ。

 

 カレンは一体……。

 

 カレンを探そうにもこの状況じゃ……どうすれば。

 

 次の一手に苦慮している時だった。

 

 誰かがこちらに近づいてきた。

 

 手元に魔力を生み出す。

 

 誰……?

 

 警戒する私だが、直ぐに警戒を解く。

 

「リアスか?」

 

 カレンだった。

 

「カレン!」

 

 私は直ぐにカレンに近づいた。

 

「無事?」

 

「ああ、何とかな」

 

 答えながらも辺りに注意しているカレン。

 

 その様子を見ながらも私はつい聞いてしまった。

 

「カレン……大丈夫?」

 

「ん? 怪我か? それならコイツのお蔭で何とかな」

 

 神星剣を見ながら言うカレン。

 

「そうじゃなくて……」

 

「?」

 

 上手く言葉に出来ない。この焦燥をどう表せば良いのだろう。かく言う私だってどうすれば良いのか分からないのだから。

 

 言葉に苦慮している時だった。

 

 カレンがいきなり私を抱き寄……せ!?

 

「ちょっ、カレン!?」

 

 突然の事に顔が赤くなるのを感じながらカレンを見る。

 

 その瞬間だった。砂煙からルーファスが姿を見せたのは。

 

 剣を振りかぶり、こちらに斬りかかろうとしていた。

 

 直ぐにカレンが応戦する。

 

 金属音と共に神星剣がぶつかり合う。

 

「……成程な。大体わかってきたぜ」

 

 ポツリと、カレンは呟く。

 

 そして、私を抱きかかえたまま私に告げる。

 

「リアス、俺に体を預けとけ。……少し速くなる」

 

「え……きゃ!」

 

 何が、とは聞けなかった。次の瞬間、凄い勢いで動き出す。

 

 私では無く、私を抱えたカレンが、だ。

 

「きゃああああああ!?」

 

 思わず悲鳴を上げる。

 

 そんな私にお構いなくカレンは高速で動き続けながらルーファスを剣を交え続ける。

 

「ちょ、カレン!」

 

 たまらず私は声を上げる。

 

「降ろしなさい! いくらあなたでも私を抱えたままじゃ戦えないわ!」

 

「……」

 

 同じ神星剣同士でも片手を使えないんじゃカレンでも無理だ。

 

 私も思いが通じたのか、ポツリと「それもそうだ」と呟く。

 

「だけど、そう言っていられない」

 

「え?」

 

「あの男、俺がお前を離した瞬間、お前を狙う」

 

「どういう事……?」

 

 彼の狙いはカレンじゃ無いの……?

 

「どうも俺を煽りたいみたいだ」

 

「煽るって……」

 

 カレンを怒らせてどうする気なのだろうか。ルーファスの真意が全然掴めない。

 

「兎に角、お前をどこか安全な……」

 

 激しい剣戟の音を繰り広げながらカレンは辺りを注視する。

 

 そして、ふと一点を見詰める。

 

「……リアス」

 

「何?」

 

「着地は頑張れ」

 

「へ?」

 

 言葉の意味が一瞬分からなかった。

 

 だけど、直ぐに理解する。体で。

 

「ふん」

 

 カレンが私の体を投げたのだ。ほぼ全力で。

 

「きゃああああああ!?」

 

 碌に態勢も取れないまま私は地面に近づく。

 

 ぶつかる! そう思い、目をつむってしまう。

 

 しかし、何時まで経っても衝撃が来ない。

 

「たく、俺がいなきゃどうする気だったんだか……いや、分かっていてやったのか」

 

 恐る恐る目を開けてみると、そこにはやれやれと首を振っているアザゼルがいた。

 

 気づけば、宙に浮かんでいる私。どうやらアザゼルに助けられたようだ。

 

 安心すると共に怒りがこみ上げてくる。

 

 そしてキッと空にいるカレンを睨み付ける。

 

「カーレーンー! 後で覚悟しておきなさい!!」

 

 




今回のあんまり出来が良くない感じですので、書き直すかもしれません。

ダンまち、一期だけみたいですね残念です。

DDの三期も始まりましたからテンション上げたいなあ。


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第十一話

 神星剣は単体でも強大な力を持っている。使用者に加護を与えてその能力を極限まで上げる。

 

 他にもいくつか能力があるが、そこはまだ分かっていない。追々分かってくるだろうか。

 

「素晴らしい」

 

「…………」

 

 剣を打ちあっていると、そう男――ルーファス・アガリアレプトは言った。

 

「まだ数十分と経っていないのに神星剣をそこまで使いこなしているとは……私の目に狂いは無かったようだ」

 

 心底嬉しそうにしている奴とは対照的に、俺は心は酷く冷めているのが自分でもわかった。

 

 そうまでに、この男が憎い。憎くて憎くて、殺してやりたい。

 

「では、貴方に褒美と行きましょう」

 

「褒美?」

 

「ええ、神星剣には色々な能力があります。それ固有の能力もありますが、共通の能力があります。その一つを見せましょう」

 

「…………」

 

 態々教えると? 気持ち悪い奴め。こいつ、俺と戦っているつもりが無いのか? だとしたら余計に腹が立つ。

 

 油断なく構えていると、ルーファスが切っ先をこちらに向ける。

 

 訝しむと同時に切っ先が……伸び!?

 

 殆ど反射的に躱す。

 

 切っ先が伸びた!? どういう事だ!

 

「これが能力の一つ刀身変化」

 

 伸びていた切っ先が元に戻る。

 

 すると、今度は剣がルーファスの身の丈を超える程の巨大な剣になる。

 

「こんな事も……」

 

 今度は小型のナイフになった。

 

 刀身変化か……。オーラの量は全然変わっていないから、あくまで見た目だけなのだろう。

 

 だが、斬ってる最中に形状を変えられるのは非常に厄介だな。

 

「では、行きましょう」

 

 ルーファスが一気に迫ってくる。

 

 距離を取るとさっきの様に刀身を伸ばしてくる。ならば!

 

 俺も距離を詰める。

 

 再び残像を生み出すような勢いで剣を交じり合う。

 

「こ、のお!」

 

 攻めきれない! 隙を見てヤツを直接斬ろうとしても全部防がれてしまう。

 

 逆にこっちはどんどん斬り傷が刻まれていく。

 

 つまり、こっちが下……。

 

 その事実がたまらなく俺をイラつかせる。

 

「くそがあああああ!」

 

 もっとだ。もっと力を寄越せ! ヤツを殺せるだけの力を、俺に!

 

 俺の思いに――まるで神器の様に――応え、力を増していく神星剣。

 

 だが、それに対抗するかのごとくヤツの神星剣もオーラの質が上がっていく。

 

「ちいっ!」

 

 たまらず、一回距離を置く。

 

 肩で息をする。

 

 対するルーファスは未だに余裕で構えている。

 

 どういう事だ……? 何で俺だけこんな。

 

「ふむ、どうやら力の使い方はまだ駄目の様ですね」

 

「あ?」

 

 何を言っている?

 

「まさか、神星剣が無限の力を貴方に与えると? それは間違いですよ。神星剣はあくまであなたの力を引き上げているだけ。力を使いすぎれば当然、動けなくなる。運動と同じですよ」

 

 ……つまり、ペース全く考えずに俺は力を振るっていたと言うわけか。

 

 ルーファスの言葉が引き金になったのか、体に一気に疲れが襲ってきた。

 

 怒りで殆ど無視していたのだろう。ここに一気に表に出た感じだ。

 

「さて、動けなくなっているようですし、このまま……」

 

 ルーファスが俺に一歩向かって歩き始めたその時だ。

 

『――そこまでだ馬鹿者』

 

 突如声が響く。

 

 見れば、ルーファスの近くの空間が歪み始めた。

 

 まるで水面の様に波打っている。

 

 そして、その何もない空間から人が出てきた。

 

 鮮やかな黒い髪を無造作に伸ばしており、手足はスラリとしている。

 

 顔は整っており、恐らくは女。ただ、酷く不健康そうな顔をしている。ただ、ルーファスと同じ金色の瞳はギラギラと輝いている。

 

「おや、ワイズマン。どうした?」

 

「どうしたではない。いつまで遊んでいるつもりだ。カテレア・レヴィアタンが死んだのならさっさと戻って来いと言ったはずだ」

 

「いやあ、中々楽しくなって。それに朝凪日月の神星剣の場所も分かりましたし」

 

「なに?」

 

 ルーファスの言葉に眉を顰め、そして胡乱げにこちらを見る。

 

「カレン・グレモリー……そうか、ヤツが持っていたのか」

 

 めんどくさそうにガシガシと髪を掻く女……ワイズマン。

 

「まあ、良い。所在が分かっているなら後は簡単だ。ほら、さっさと戻るぞ」

 

「これからが良い所なんだが……」

 

「黙れ殺すぞ」

 

 容赦がない。

 

 やれやれと首を振ると、ルーファスは神星剣を空間の裂け目に仕舞う。

 

「分かったよ……では、カレン・グレモリーまた会いましょう」

 

「何を……逃がすわけ」

 

 ガクッ、と足が崩れる。

 

 ガクガクと震える。

 

 震えを止めようと足を殴りつける。

 

 何度も叩く。何度も。

 

「くそ、があ……!」

 

 だけど震えてしまう。力が入らない。

 

 遂にその場に座り込む。

 

 神星剣を杖にして何とか上半身は保つ。

 

 肩で息をしながら睨み付ける。

 

 奴らは既に空間の歪を作ってその中に入ろうとしていた。

 

 ルーファスがこちらを振り向いて言う。

 

「ではカレン・グレモリー、また会いましょう。次は我ら『四死剣』を紹介しよう。それまでもっと力を付けてくれたまえ」

 

 楽しそうにヒラヒラと手を振るいながら歪の中に消えていくルーファス。

 

 ワイズマンは俺の事をジッと見ながら静かに歪に入っていく。

 

 俺はそれを為すすべなく、見るしか無かった。

 

 仇が、母様と親父殿の仇が目の前に居るというのに、何も出来ないのか……!

 

「っ!」

 

 頭を地面に叩きつける。

 

 何度も何度も。己の無力さを噛みしめるように。己の不甲斐なさに。

 

 気づけば血が滲み出ているが気にしない。気にしてはいけない。

 

 もう一度叩きつけようとする。

 

「――やめとけ」

 

 肩を抑えられる。

 

 見ればアザゼルがいた。

 

「……離せ」

 

「嫌だね」

 

 殴ってやろうか?

 

「カレン、やめなさい」

 

 首を動かせばリアスがいた。

 

「今は傷を治すのが先決よ。自分で自分を傷つけるのは馬鹿のする事よ」

 

「黙れ」

 

 低い声で返す。

 

 一瞬、リアスが泣きそうな顔になった気がした。そして、顔を伏せるとフッと手を上げる。

 

「カレン……覚悟しなさい」

 

 は? と一瞬思うも、背筋に冷たい汗が流れる。

 

 リアスの手元に不穏な魔力が集まる。

 

 え? 思った瞬間、頭の上に衝撃が走る。

 

 リアスに殴られたと気づいたのは意識を失う瞬間だった。

 

******

 

「お前……おっかないな」

 

 アザゼルが若干引き気味になりながら言う。

 

「問題ないわ。カレンを止めるにはこれくらいしないと」

 

 そう言うと、アザゼルが若干後ずさりした。

 

 何かしら? 変な事でも言ったとは思えないけど。

 

 まあ良いわ。今はカレンが重要。急がないと。

 

 カレンに駆け寄り、抱きかかえる。

 

 目を回しながらぐったりしている。顔に掛かった髪を払う。

 

 傷は……殆ど治りかけている。神星剣が影響しているのかしら?

 

 だけど、私が気絶させたとはいえ、全然起きる気配がしない。多分疲れているのだろう。恐らく、神星剣を使いすぎなのだろう。

 

「全く、グレモリー家はとんでもないな」

 

 アザゼルがやれやれと来る。

 

「ま、神星剣を自分の息子の中に隠す朝凪日月もとんでもないちゃあ、とんでもないな」

 

「神星剣程のものを出来るの……?」

 

「さあな……まあ、あの女の持つ術なら何とか出来るかもな」

 

 なら、あれもそうなのかしら?

 

 アザゼルは気付いていないのだろうか。

 

 カレンの、カレンの両の瞳が金色に染まっていたことを。

 

******

 

「いやあ、楽しかったなあ今日は」

 

「……何を楽しんでいるんだ貴様は」

 

「まあまあ、それでルーファス殿、彼の様子は?」

 

「ああ、ライヴラ、問題ないよ。発芽していた。神星剣の封印が解けたことで始まったんだろう。……後はこちらで挑発すれば良い」

 

「ちっ、まどろっこしい……残りの神星剣もさっさと集めんといかんのに」

 

『……何を、焦る? ワイズマン』

 

「剣聖か……お前には分からん」

 

『受、諾』

 

「ほらな」

 

「みんな落ち着き給え。大丈夫。すべては私たちの思う通りに動いている。これから少しずつやっていこう。すべては我らの理想の世界の為に」

 

 




今回短くてすみません。ちょっと時間が無くて……。次回第四章終了です。

後、オリジナルの方も投稿しました。よかったら見てください。

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後日談

「何であんたがここに居るんだ?」

 

「色々とあってな。どうだ、似合っているだろ?」

 

 決めポーズらしきものを取るアザゼルを俺は冷めた目で見る。

 

 またぶっ倒れた俺が起きたときにはすべてが終わっていた。

 

 白龍皇は一誠と激突。両者一進一退の攻防を繰り広げたらしい。

 

 更に白龍皇が何か奥の手らしき物を使おうとしたとき、乱入者が現れたと言う。

 

 美猴。かの西遊記で有名な闘戦勝仏、つまりは孫悟空の末裔らしい。

 

 その美猴だが、何やら他の神族と一戦交えるから戻るように来たと言う。

 

 結局、勝負は付かず、白龍皇は帰ってしまったらしい。

 

「しかし、良く互角に戦えたなお前。禁手化出来なかっただろうに」

 

「いやさ、アザゼルから貰った腕輪があったから出来たよ」

 

「腕輪?」

 

 話を聞くと、アザゼルが作成した一時的に禁手化させる腕輪を使い一誠は禁手――赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を発現したと言う。

 

 ただ、あくまで一時的なモノで精々が数十秒が限界らしい。

 

 けど、その戦いの際に白龍皇の鎧の宝玉の一つを自身の鎧に取り込み、結果として白龍皇の籠手(ディバイディング・ギア)を手に入れ、白龍皇の半減の力を手に入れた。

 

「お前、無茶すんなあ」

 

 実際、同じドラゴン系の神器とはいえ、可なりリスクがある筈だ。その辺分かっているのかねえこいつは。

 

 恐らく寿命とかそういう部分も削っていたんじゃないかな。そういう所が無頓着なのは不味いな。

 

「で、結局アザゼルは何なのさ?」

 

「同盟の証って事でな、このオカルト研究部の顧問を務める事になったんだよ。しばらくお前らのサポートを務めてやるよ」

 

「サポートねえ……」

 

 この胡散臭いヤツがなあ……まあ、神器についてはかなりの研究をしているって言うしサーゼクス兄さんもその辺分かっているのかもな。

 

「所でカレンよ。神星剣はその後どうだ?」

 

「名前で呼ぶな。……出し入れは普通に出来るよ。あれ以来一度も出していないけど」

 

 出すだけでも色々と面倒な部分があるからな。出来れば周りを気にせず出したいところだが……。

 

「そうか……お前はかなり特殊な立ち位置にいる。ルーファスの派閥の四死剣はこれからもお前を狙ってくるだろう。本来ならばお前は守られる立場にあるんだが、神星剣相手だとサーゼクスとかでもキツイだろう」

 

 やはりか……。

 

「いま一番手っ取り早いのはお前を鍛えて神星剣使い達と戦えるようにすることだ。早急に力をつける必要がある」

 

 力……力か。

 

「四死剣て言うからには奴らは神星剣を四本以上持っているんだろう。これ以上奴らに残りを渡しちゃいかねえ。その為にもお前は本当に強くなってもらわなくちゃいかねえ」

 

 やけに真剣だな。神星剣に何の秘密があるのやら。

 

 まあ、興味は無い。奴らを殺せるならば俺は文句なんて何もない。

 

「はあ……」

 

 ソファーに背中を預けて天井を仰ぎ見る。

 

 ああ、楽しみだな。奴らをこの手で殺す。その為の力の一つは手に入った。後は、それを高めるだけだ。

 

 こっちから探さないでも奴らから勝手に来るんだ。それまでに神星剣を完全に使いこなせるようにならないとな。

 

「待っていろよ。必ず全員殺してやるかな」

 

 誰にも聞こえないような声で決意を呟く。

 

「夏には冥界に改めて戻るわ。皆そのつもりでね」

 

 冥界……そういえば彼らをまだいるのだろうか。

 

 親父殿の眷属達は、まだ生きているのだろうか。

 

******

 

 冥界にある、とある火山。

 

 その内部に男はいた。

 

 肩まで無造作に伸ばした黒色の髪は邪魔にならない様に首元で一本にまとめられていた。

 

 屈強に鍛えらえた体の褐色の肌には無数の傷跡が刻まれており、戦いの傷跡が伺える。

 

 左腕には乱雑に巻かれた包帯がある。所々が剥がれていたが男は気にしている様子は無かった。

 

 そして、黒い髪からは二本の角が伸びており彼が人間では無い事を示していた。

 

「……」

 

 男は何をするでもなく、ボンヤリとマグマの川に片足を突っ込んで座っていた。

 

 しかし、痛がるわけでも無く、ただマグマを見詰めていた。

 

 静寂だけが辺りを包み込んでいる中、男が静かに口を開く。

 

「――何をしている」

 

 辺りに人影は無い。しかし、男は静かに後ろに問いかける。

 

「あらあら……相変わらず凄いわね」

 

 暗闇から姿を現したのは燕尾服を着た若い()()だった。

 

 カールの掛かった金髪を弄りながら青年は笑みを浮かべていた。

 

「結構気配は上手に消していたつもりだったんだけど……流石ね、茨木」

 

「質問に答えろ。何をしている」

 

 有無を言わせない口調に青年はやれやれと首を振る。

 

「決まっているでしょう。――坊ちゃまが冥界に戻っていらっしゃる。貴方もいつまでここに居るつもりかしら?」

 

「自分の領土にいて何が悪い」

 

 取り付く島の無い茨木と呼ばれる男に青年はため息を隠せなかった。

 

「もう……ティアちゃんは既に準備を始めているっていうのに、同じ眷属でこうも差があるなんて」

 

「俺はガキの下僕では無い。そこを間違えるな」

 

 男の言葉に青年は眉を顰める。

 

「確かにそうかもしれないけど、坊ちゃまに仕えるつもりじゃなかったの?」

 

「十数年前に会ったきりの奴にどうしろと? 俺はユースティアの様に盲目的では無い」

 

 地味に正論な為に返せない。青年はここでの説得を諦める。

 

「分かったわ。だけど、帰ってきたらちゃんと会いなさい。貴方だって本当は気にしているんでしょ?」

 

「……ふん」

 

 今はこれで良い。そう判断した青年は踵を返して立ち去ろうとする。

 

「……いや、待て」

 

 そこで男から静止の声がかかる。

 

「どうしたの? やっぱり来てくれる」

 

「そうでは無い。ガキが戻ったらここに来るように伝えておけ。良いな」

 

「は? ここに!?」

 

 青年は思わず男の方に振り返る。

 

 男は相変わらず背中をこちらに見せている。

 

「ちょ、ちょ、貴方分かってるの!? ここ冥界でも最も危険と謳われている火山の一つよ!? そこに坊ちゃまに来いだなんて」

 

「意見は変えん。ちゃんと伝えておけ」

 

 有無言わせない男の言葉に青年は冷や汗を隠せない。

 

(ど、どうしましょう。茨木がこう言うならもう意見を変えるつもりは本当に無いでしょうし。伝えなかったら私が茨木に殺される。で、坊ちゃまに伝えたら伝えたで私がティアちゃんに殺される……って、どのみち私殺されるじゃない!)

 

 私の人生終わった。青年はそう感じ、ガクリと肩を降ろすのだった。

 

******

 

 時を同じくしてとある館の一室でメイド服に身を包んだ少女は作業をしていた。

 

 机一つでも誇りの一つも許さないと風に丁寧に洗っている。

 

 顔立ちは非常に整っており、ウェーブがかかった金髪に金色の瞳が特徴的な美少女だ。

 

「……こんな所ですか」

 

 掃除がひと段落したらしく、部屋を見渡す。

 

 客間らしく、天蓋付きのベットに家具。机や冷蔵庫まで完備されていた。

 

 それのどれもが一級品で、並の悪魔ならば使うのさえためらうほどのだ。

 

「冷蔵庫の中身も炭酸系にお水。果物系のジュースも全て完備。軽食系も問題ない。後は……」

 

 指を一つ一つ折りながら確認していく少女。

 

(そういえば、セルヴィアさんはどうしたんでしょう。茨木さんに呼びに行くと言っていましたが……まあ、無理でしょうね)

 

 自信満々にここを出ていったオカマな青年の事を思い出しながら少女はそう断ずる。

 

「まあ、いざとなった私が無理やり連れて行けばいい事ですし」

 

 セルヴィアが聞いたら顔を真っ青にする事をあっさりと言う少女だが、ふと、あるものが視界に映る。

 

 それは写真立てだった。中に映っているのは四人。

 

 二人は大人だ。紅髪の男性と黒色の髪を持つ女性――レオン・グレモリーと朝凪日月だ。

 

 もう二人はレオンと同じ紅色の髪を持つ小さな少年と、子供よりも少し背が高い少女だった。

 

 恥ずかしそうにしている少女の手を少年が引っ張っている。それをレオンたちが微笑ましそうに見ている。

 

「カレン様……」

 

 写真立てを手に持ち、少年を愛おしそうに撫でる。

 

「もう直ぐなのですね。もう直ぐ、会えるのですね」

 

 どれ程の長かっただろうか。悪魔の永遠の生から見ればほんの些細な時間だったが、彼女にとってはその永遠に等しかった。

 

 あの時、何も出来なかった。その時の後悔だけを胸に少女は生き続けていた。

 

 いっそ死んでしまった方が楽なのでは無いかとも思った事も何度もあった。

 

 しかし、そのたびに少年の笑顔が浮かび上がり、思いとどまった。

 

 その思いとどまりが漸く身を結んだのだ。嬉しいわけが無い。

 

「カレン様、速く戻ってきてくださいね? 私はもう十分すぎる程待ちました。これ以上待ったら本当に死んでしまいそうです」

 

 その場で踊るようにステップを踏む少女。

 

 そのたびに金色の髪が揺れる。

 

 愛おしそうに写真を胸に抱え彼女は回る。

 

 回り続け、そしてピタリと、止まる。

 

「……何を覗いているんですかペルセウスさん。殺しますよ?」

 

「キミはあれだな。容赦という言葉を知っておいた方が良いぞ?」

 

 そんな言葉と一緒に入ってきたのはくすんだ茶髪をした青年だった。

 

 悠然とした佇まいは隙が無く、見る者が見ればかなりの実力者だと直ぐに分かるだろう。

 

 ペルセウスと呼ばれた青年に少女はじろりと視線を寄越す。

 

「貴方には館の周りの見回りを任せた筈ですが?」

 

「知っているさ。だが、僕の愛馬が疲れたと言ってね。少し休みを貰った。大丈夫さ、ここに居ても何かあれば直ぐに駆けつけるよ」

 

「なら良いですが」

 

「と、言うよりもだ。カレンはまだこちらに来てもいないのだろう。今からこんなに忙しくてしても意味が無い気が……」

 

「何を言っているんですか」

 

 ペルセウスの言葉を遮るように少女は口を開く。

 

「まだ来ていないからこそ、です。それまでにカレン様が不愉快に思われない様に全て万全にしておかなければなりません」

 

「はいはい……」

 

 困ったものだと、ペルセウスは思う。

 

 まだ来るにしてもあちらの高校が夏休みに入らなければ来るはずが無いのに、今から準備していても意味が無いだろうに。

 

 それだけ目の前の少女の気持ちが昂ぶっているのだろうが。

 

(泰然と待っている茨木とは正反対だな)

 

 セルヴィアが説得しにいっている筈だが、期待せずに待っておこう。

 

(さてさて、これからどうなるのだろうか)

 

 ずっと停まっていたモノが動き出した。ペルセウスにはそう感じる。

 

 カレンが帰ってくることで一体どうなるのか。それは英雄の子孫たるペルセウスにも分からない。

 

 だが、確実に何かが動き出す。それだけはペルセウスにも感じ取れた。




漸くこの章も終わりです。いやあ、長かったなあ。

取り敢えず、少し休憩を頂きます。今月は色々と忙しいので、二三週間ぐらい更新出来ないかも。

出来ればお気に入り登録1500を超えた状態で投稿したかったなあ。何か感想も二つほど減っていたみたいだし。どういう事?

ゴールデンウイーク中のバイト5日中4日と泣きたくなる状態……。

あーでも、コードギアスの映画見に行く予定だから楽しみです。何やら章が追加されるらしいし。今からワクワクしています。


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第五章
第一話


どうもー皆様お久しぶりです。更新再開します。


「……殺風景だな」

 

 列車の外を見て、俺は思わずそう言った。

 

「どうしたの、カレン?」

 

 隣にいたリアスが俺の呟きを聞いてこちらを見てくる。

 

「ん、いや外が何にも無いなと思ってな」

 

「ああ、次元の境目なのだから仕方ないわ。もう直ぐ冥界に着くから、そしたら色んな風景も見る事が出来るわ」

 

「そう、だな」

 

 少し気の抜けた返事をすると、リアスが少しムッとした表情になる。

 

 しかし、直ぐに表情を和らげると、俺のすぐそばに置いてあるものを見る。

 

「……叔母様を早く叔父様に会わせたい?」

 

「まあな……」

 

 俺は傍にある――母様の遺骨の入った箱を見てそう言った。

 

******

 

「冥界に?」

 

 夏休みが始まり、数日が経った日の事だ。

 

 何故か俺の部屋に集まり部活会議をしているわけだが、リアスが唐突に冥界に戻ると言ったのだ。

 

「そ、元々帰省する予定だったから、夏休み中は殆どあっちに居る予定だからそのつもりで」

 

 言葉から察するに俺たちも行くって訳か。

 

 …………。

 

「リアス、8月31日には戻っているか?」

 

「ええ、流石に次の日から学校だから……何かあるの?」

 

「少しな……大したことじゃない」

 

 良かった……それなら大丈夫か。

 

 俺はソファーに背を預けながら部屋を見渡す。

 

 昨日までと比べて大分変った。そう言わざるを得ない。いや、本当に。

 

 朝、起きたら何故か天蓋付きの十人くらいが優に寝れるベットで寝ているし、部屋の広さ自体も以前と比べて数倍もある。

 

 気になって家を探索してみたらなんと、六階に地下三階まであるとんでも屋敷にリフォームされていたのだ。

 

 正直に言えばびっくり、というよりはドン引きした。

 

 何がどうなっているんだと、事の元凶であろうリアスに聞いてみれば、

 

「カレンがお世話になっている兵藤家にお父様が何か恩返しをしたかったそうなの。だから、私も協力して家をリフォームしたの」

 

 だ、そうだ。

 

 寝ている間に家をリフォームとか、悪魔の力ってやっぱすげえなあ……。

 

「そういやあ、一誠は冥界に行った事無いんだっけ?」

 

「ああ、そういやあ、そうだな。兄貴はあるんだよな」

 

「そりゃあまあ、元々が冥界で生まれたんだしな」

 

 ライザーの時との戦いや、コカビエル戦後の倒れたときなど、二回ほど戻ったが、結局殆ど冥界に足を踏み入れたという感じはしていないが。

 

「つまり、カレンにとってもこれが帰省というわけですか?」

 

 朱乃の言葉に俺は頷く。

 

「そうなるな。まあ、正直覚えているかどうか不安だが」

 

「まだ、記憶はあやふやなんですか?」

 

 自信なさげに笑うと、祐斗が聞いてくる。

 

「ああ、リアスの事はだいぶ思い出せたんだが、他は少しまだな……」

 

「……戻ったら思い出せるかも」

 

 小猫ちゃんが言う。

 

「確かに、馴染みある場所に行ったら記憶が刺激されて思い出せるかもしれないな」

 

「そうですよね、自分の生まれた場所が思い出せないのは悲しいですし……」

 

 ゼノヴィアに同意するアーシア。

 

 ああ、本当にこいつ等、俺の事を心配しているんだなあ。その事がひしひしと伝わってくる。

 

 ――だからこそ、こいつらを置いて行きそうな気がして怖い。

 

「そうだぜ、思い出してもらわないと困る奴らもいるからな」

 

 っ……はあ。

 

「部屋に入った時点で声を掛けようぜ、アザゼル先生や」

 

「良いだろ? こっちの方が面白そうだったんでな」

 

 二カッと子供が悪戯に成功したみたいな顔を見て、皆、ため息を付く。

 

「で、誰だよ」

 

「何が?」

 

「俺に記憶を思い出してもらわないと困る奴らだよ。あんたか?」

 

 神星剣、ひいては奴ら四死剣の情報は必要なのだろうけど。

 

「いやいや、俺じゃねえよ。お前の親父の眷属達だ」

 

 っ! 親父の眷属……?

 

「言ったろ? お前の親父は結構有名だ。何せ、かつてレーティングゲーム成績無敗の男だったんだからな。正直、何で魔王にならなかったのか、不思議くらいだったさ」

 

 そんなに強かったのか、親父。母様も世界のバグなんて言われているが、親父それなりだな。

 

 ……だけど、それでも神星剣には届かなかった。だから親父たちは死んだんだろう。

 

「親父の眷属、生きてんのか?」

 

「全員では無いな。あの襲撃事件で殆どがやられたらしい」

 

 そうか……それはそれでやるせないな。

 

「ま、生き残った連中は全員一筋縄ではいかない相手だから覚悟しておけよ~?」

 

 何でアザゼル先生がニヤニヤとしてこっちを見るんだよ。訳わからん。

 

「はあ……」

 

 色々と予定が詰まって来て俺は天井を仰ぎ見ながら深々とため息を付く。

 

「あ……」

 

 そこで俺はある事を思い出す。

 

 そうだよ。冥界に行くんだったらやることあるじゃん。

 

「悪い、急用が出来た」

 

 ソファーから立ち上がってドアを目指す。

 

「どうしたんだよ、兄貴? どっか行くのか」

 

「ああ、今からちょっと……寺に行ってくるわ」

 

******

 

「全く、あの時は一瞬何を言っているのかと思ったわよ」

 

 深々とため息を付くリアス。

 

「仕方ないだろ。寺に母様の遺骨あるんだから。取るには寺に行くしかないだろうが」

 

「もう、寺は日本の教会みたいなところよ。三大勢力と同盟を結んだとはいえ、まだ日本の神々とはあまり交流は無いわ。行ったら敵対行動と取られるかもしれなかったのよ?」

 

「分かった分かった」

 

 いい加減うっとしいぞ、おい。

 

 まあ、何にせよこうして母様の遺骨を持ってこれたんだから良かったと言えるだろう。

 

 交渉してくれたリアスやアザゼル先生には本当に感謝だな。

 

「にしてもやることねえなあ」

 

 現在、冥界に向かう列車に乗ってるのだが俺とリアスは他の奴らとは別の車両に乗っていた。

 

 というのも、上級悪魔とその下僕とは乗る場所が違うのだと言う。まあ、普通ならそれもありなんだろうが、こうもやることが無いと本当に暇だ。

 

「あら、私は楽しいわよ。貴方と二人っきりですもの」

 

 ニコニコと笑いながら俺の膝に乗っかるリアス。

 

「おい、重っ……!?」

 

 い、と言葉を続けようとした瞬間、腹部に衝撃が走る。

 

「カレン? 女性に体重の事を言うなんてどうなの?」

 

 ニッコリと氷の笑みを浮かべるリアス。

 

 俺は脂汗を堪えながら返す。

 

「し、仕方ないだろ。重いものを重いと言って何が悪……!?」

 

 再び衝撃。

 

「すみませんでした……」

 

「分かれば宜しい」

 

 満足そうに俺の膝に頭を乗せるリアス。

 

 くそう……なんで男は女に勝てん。あいつにも結局勝ててないし。

 

「ほっほっほ、相変わらず仲が宜しいですな」

 

 げんなりとしていると、後ろから声を掛けられる。

 

 見れば、初老の男性が立っていた。

 

 服装は駅員。つまりは車掌の姿をしている。

 

 悪魔、だな。恐らく、この列車の管理をしているんだろうけど。

 

「あら、レイナルド久しぶりね」

 

 俺の膝から体を起こしたリアスが男性、レイナルドに話しかける。

 

「はい、お久しゅうございますリアス姫。それに若様も。ご成長された姿が見れて、本当に喜ばしい限りです」

 

 俺たちに挨拶をし、涙まで見せるレイナルドさん。

 

「カレン、貴方は覚えていないかもしれないけど、彼はレイナルド。この列車の車掌を務めているわ」

 

「若様とは幼き頃に二回ほど会っただけですから覚えていないのは無理ありません」

 

 む、そんだけしか会ったことないのか。覚えていないのも無理ないと自分で言うのも何だな。

 

「それでどうしたの? カレンの悪魔としての登録かしら?」

 

「いえ、それは以前からあったのも再登録すると言う形になりましたので。姫様の新らしい眷属様方の確認の前に姫様たちにご挨拶をと思いまして」

 

「確認?」

 

 俺は思わず口で繰り返す。

 

「ああ、貴方は知らなかったわね。列車に乗って冥界に行く際に、機械を使って本物かどうか確認するのよ。列車を占拠、なんてことになったら大変だもの」

 

 成程、空港のパスポートを使っての本人確認と似ているな。悪魔もそこら辺は考えているんだな。

 

「丁度いいや、俺たちも一緒に行こうぜ。二人でいてもやることないんだし」

 

「あら、私は貴方と二人でも楽しいわよ」

 

 不満げにそう言うリアス。

 

「良いじゃないか。あいつらが何をやっているのかも気になるし」

 

 俺はさっさと一誠たちがいる車両へのドアを開ける。

 

******

 

「よお」

 

「兄貴?」

 

 一誠たちがいる車両の方に来ると、皆、トランプなどをして遊んでいた。

 

「どうしたんだよ、部長と一緒に前の車両に乗っていたんじゃないのか?」

 

「ああ、だけど、暇なんでね。こっちに遊びに来たって訳さ」

 

「……何か部長が不満そうにしているけど?」

 

「気のせいだろ」

 

 その後、レイナルドの審査を終えて、俺は近くの席に座る。

 

 そしたら、ごく自然な形で朱乃が隣に座ってきた。

 

「……どうした朱乃? 何か用か?」

 

「いえ、そういうわけではありませんが、用が無いと来てはいけませんでしたか?」

 

「いや……」

 

「……ええ、問題ありよ」

 

 俺の言葉を遮るようにリアスが言う。

 

「朱乃、カレンの隣は私のものよ。貴方の物じゃないわ」

 

 いつからそうなった。

 

 リアスの極寒の視線に晒されながらも朱乃は笑みを崩さない。

 

「あらあら、相変わらず部長は独占欲というのがお強いですねえ。これぐらい眷属のスキンシップの一つとして大目に見るのも主として必須スキルのですわよ」

 

 朱乃が俺の腕に絡みつく。

 

 それと同時に朱乃の胸が俺に押し付けられる。

 

「……朱乃」

 

「うふふふ……」

 

 朱乃の笑いを見て確信犯だと感じる。

 

「…………」

 

 ああ、何かリアスがオーラを迸らせているぞー。こえー。

 

 一誠たちもビビっているしどうすっかなー。アーシアに至っては涙目だし。

 

 俺がここに来るって言ったからな。だから責任は俺にあるんだろうけど……。

 

 仕方ない。ちょっとやるか。

 

「リアス、ちょっと来いよ」

 

「……何かしら」

 

 怖い声出すなよ。俺も嫌になってくるだろうが。

 

「ほら、良いから」

 

「…………」

 

 リアスは俺の言葉に従い俺の前まで来る。

 

「よっと」

 

「え、ちょ……」

 

 俺はリアスの腰を抱き、そのまま俺の方に引き寄せる。

 

 そしてそのまま俺の膝の上に乗っける。

 

「カレン……?」

 

「これで我慢しろ。流石にこれ以上はもうやらん」

 

 つか、やっぱ重いな。おまけにリアスって俺と身長あまり変わらないから視界もこいつの紅髪で埋められているし。

 

「…………」

 

 再び黙りこくるリアス。だけど、今度はオーラは出していない。

 

「……兄貴って時々凄く大胆な事するよな」

 

 一誠が呆れたように言う。

 

「流石だな。カレン先輩は部長や朱乃先輩を上手く囲っているな」

 

「それはちょっと違う気がするな……」

 

「流石ですぅ」

 

 何やら見当外れな事を言っているゼノヴィアに祐斗が突っ込む。ギャスパーも何やら感心している。

 

 んで、ここで小猫の毒舌ツッコミが……。

 

「…………」

 

 来ないな。俺は小猫の方を向く。

 

 小猫は元気がなさそうにボンヤリとしている。

 

 珍しい。普段から無表情で分かりにくいけど、あそこまでボンヤリとする事は無いと思うんだが……。

 

 俺は小猫の様子を疑問に思いながらも冥界に着いてからの事を考えているのであった。

 

 




同時刻にオリジナルの方も投稿するので良かったら見てください

http://ncode.syosetu.com/n5757cl/


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第二話

ダンまちの二次が上手く書けない。意外と難しいんだよな。でも書きたい!


 グレモリー公爵家は元々の力も相まって、日本の本州と同等サイズの領土を持つ。

 

 しかし、勿論全ての土地を管理できているわけも無く、その多くが手が付けられていない未開拓な地域だ。

 

 だからこそ、ああやってリアスがポンポンと一誠たちに土地を渡すことが出来るわけだ。

 

「……デカ」

 

 思わず口に出る。

 

 それほど、目の前のものがデカいのだ。

 

 あれから少しして、漸く冥界の空が見えてきた。

 

 相も変わらない紫色の空だったが、記憶が少し戻った今は懐かしさを感じた。

 

 駅に着き、グレイフィアさんの案内の元、俺たちはグレモリー家の本城に辿り着く。

 

「……こんなデカかった?」

 

「これくらいよ。さ、早く入りましょう」

 

 そうだな。この大量のメイドさんと執事の列に挟まれていると息が詰まる。

 

 しかも、その多くが俺の事を見て涙流しているし。

 

 それだけ、俺の帰還が喜ばれていると言う事なんだろうけど、何かむず痒いね。

 

 俺たちは揃って門を潜ろうとする。

 

「リアス姉さま! お帰りなさい!」

 

 すると、執事の列から誰かが飛び出してきた。

 

 紅色の髪を持つ少年だった。少年はリアスに抱き付いてきた。

 

「ミリキャス! 大きくなったわね」

 

 少年、ミリキャスの頭を撫でながらリアスは言う。

 

 ミリキャス。紅色の髪を持っていると言う事はグレモリー家だろうけど、誰だ? 俺たちより年下のヤツなんていたか?

 

「紹介するわ、この子はミリキャス・グレモリー。お兄様の子供よ」

 

 ……子供! ゼクス兄さんの子供と来たか。

 

 まあ、俺がいなくなって十数年。そりゃ生まれるか。

 

 そんで、魔王の座は一代限りだからこの子もグレモリーの性なんだな。

 

「初めまして、ミリキャス・グレモリーです。どうぞよろしくお願いします」

 

 礼儀正しいな。流石グレモリー家って訳か。

 

 つか、ゼクス兄さんの子どもって事は母親がいるって事だけど……ああ、あのヒトか。

 

 俺はチラリと、前を先導するヒトを見てある考えに辿り着く。

 

 考えていると、ミリキャスがこちらをジッと見ていた。

 

「貴方がカレン・グレモリー殿ですか?」

 

「ん? そうだけど……ああ、そういえば俺は君と一応親戚関係に当たるのか」

 

 従兄弟のゼクス兄さんの子だから、いとこ違いってやつだっけ?

 

「はい! 会えるのを楽しみにしていました! よろしくお願いしますカレン兄様」

 

「っ……」

 

 兄様、兄様と来たか。

 

「? どうかしましたか兄様?」

 

「……いや、何でも無いよ。よろしくな、ミリキャス」

 

「はい!」

 

 そうこうしている内に、気づけば玄関ホールに辿り着いていた。

 

 ここもデカいな……。上にはシャンデリアが付いているし。

 

 辺りを見渡し、ふと気づけば、階段から誰かが降りてきていた。

 

「リアス、帰ったのね」

 

 降りて来ているのは美少女だった。ドレスに身を包んだ体は出るところがしっかりと出ていた。

 

 何となく、リアスに似ている。亜麻色の髪を除けば、殆どリアスと同じじゃないか。

 

 いや、もしかしてこのヒト……。

 

「……叔母、上?」

 

 自信が無いから声が少し小さい。

 

 しかし、聞こえたらしく、美少女がこちらを見て、笑みを浮かべながら近づいてくる。

 

「カレン! ああ、また貴方に会えるなんて」

 

 感慨極まったような顔をしながら俺に抱き付く美少女――つか、叔母上。

 

「叔母上?」

 

 一誠がポカンと俺に抱き付いている叔母上を指さす。

 

「ああ、俺の叔母上。リアスの母親だよ」

 

「え、えええええええええ!? いや、だって部長と全然変わらない年頃の美少女にしか!」

 

 一誠が仰天するように大きな声を上げる。

 

 ま、普通はそうだよな。

 

「あら、美少女なんて嬉しい」

 

 俺から離れて嬉しそうに頬に手を当てる。叔母上。

 

 いやいや、そんな年頃でも……!

 

 ゾクリと背筋に冷たいものが走る。

 

「何か変な事考えたかしらカレン?」

 

 笑みを浮かべているのに、めっちゃ怖いぞー叔母上ー。

 

 困ったようにため息を付く叔母上。

 

「全く、貴方のそういう所、レオンにそっくりね。日月さんから受け継いだのは、剣の腕だけかしら」

 

 そんな事俺に言われても困るのだが……。

 

「ああ、自己紹介がまだでしたね。初めまして、私はヴェネラナ・グレモリー。リアスの母です」

 

 優雅に一礼し、一誠たちも慌てて挨拶を返していた。

 

「しっかしまた、何でそんな姿しているんですか? 悪魔が魔力で姿を変える事が出来るからって、違和感を少し感じますよ」

 

「あら、良いじゃない。この方が過ごしやすいのよ」

 

 何でだよ。意味わからん。

 

 まあ、他人の趣味をとやかく言うつもりは無いけど。

 

******

 

「部屋も広い、と……」

 

 部屋の中を見渡しながら俺は呟く。

 

 凄いな。改築した俺の部屋よりも数倍の大きさはある。正直、使い切れないな。

 

 つっても、ここはあくまで一時的な借宿。明日には俺の家……生家に行くことになっている。

 

『既に準備はしてあるから、旅の疲れをここで癒してから行きなさい。貴方を待っているヒトたちも大勢いるから』

 

 と、叔母上の言葉だ。

 

 俺を待っている。やはり、親父の眷属達かな。

 

 正直、本当にあまり覚えてない。それを考えると不安もある。

 

「ま、なるようになるだろう」

 

 とはいえ、今思い出せるのは親父殿と母様。それにリアスとあの金色の髪の……。

 

「……ん?」

 

 そこで俺は自分に疑問を投げかけた。

 

 ちょっと待て。この子誰だ? 俺の記憶にこんな子いたか?

 

 朧げに残っている記憶を手繰り寄せても、俺はその金髪の女の子と良く遊んでいたように思える。

 

 ただ、その時は必ずリアスは傍にいなかったと思う。何でかは分からないけど。

 

 わ、分からん。本当にこの子、誰だ? 間違いなく俺はこの子の事を知っている筈なのに。何で想い出せない?

 

 くそったれめ……。こんなじゃ本当にこの子にも、親父殿の眷属達にも会えねえじゃねえか。

 

 いや、そもそもこの金髪の女の子がまだそこに居るとも限らないけど。

 

「誰なんだ?」

 

 考えてみればみるほど少女の正体が分からなくなってくる。

 

 家に仕えていた使用人の子供? いや、それにしてはやけに綺麗な身なりだよな。

 

 どっかの家の子だと言われればそっちの方が納得できる。

 

「行けば会えるのかな?」

 

 俺の生家がある方向を見て、俺は改めて思う。

 

 自分の記憶だっていうのに、ここまであやふやだと、自信も無くなってくるなあ。

 

「ああ、憂鬱だ」

 

 俺の偽りならざる現在の心情であった。

 

******

 

「遠慮せずにドンドン食べてくれ」

 

 そんな叔父上の言葉で始まった食事。

 

 馬鹿みたいに長いテーブルに座り、俺たちは豪勢な食事に圧倒されていた。

 

 因みに席順は上座に叔父上。その隣にリアスと叔母上。で、俺とミリキャスが続いて、その後に眷属の皆だ。

 

 しかし、ナイフとフォークの使い方、一応母様に習ったことがあったんだよなー。

 

 貧しかったけど、本当に時たまに使う機会何かがあったし、今思えば、母様記憶が少しくらい戻っていたりしてな。

 

 俺は少し忘れてしまったナイフとフォークを使いながら食事を進める。

 

 うん、美味しい。流石はグレモリー家だ。素材から違うのかな。

 

 そういうや、一誠はどんな感じかな?

 

 俺はチラリと視線を送る。

 

 見れば、案の定四苦八苦していた。

 

 一応形は為しているが、こりゃあ、後で教えたほうが良いな。

 

 そして、ふと小猫の方を見る。

 

 ……あれ? 全然食べていない。

 

 いつもならモリモリと見ているとこちらが満腹になるような食べっぷりと見せる小猫が全くもって食べていない。

 

 おいおい、どうした? 何かの前触れか?

 

 それくらい、小猫が食事をあまりしないのが珍しいのだ。

 

 ふむ、後でそれとなく様子をうかがっておいた方が良いかな。

 

「カレン」

 

 そうこう考えていると、叔父上から声がかかった。

 

「はい、何でしょう?」

 

「うむ、食事は楽しんでいるか?」

 

「ええ、こんなおいしい料理は久しぶりですからね」

 

「それは良かった。料理人たちもお前の為に腕によりをかけたからな」

 

「それはありがたいですね」

 

 いや、本当。久しぶりに帰ってきたらかな? つっても、ここで暮らしていた訳でも無い筈だが……そんなにここで食べる機会が多かったのかな?

 

「時に、兵藤夫妻はお元気かな?」

 

「ええ、あんな家までリフォームされて元気ハツラツと言った感じですよ。こっちに来るときは何かお土産を頼むとか言っていましたし。なあ、一誠?」

 

「あ、はい」

 

 いやでも、冥界の土産って何を買えばいいんだろう?

 

「ふむ、土産か……」

 

 叔父上は一瞬考え込むと、直ぐに手元に置いてあったベルを手に取り鳴らした。

 

 すると、執事が静かに近づいてきた。

 

「如何なさいましたか?」

 

「うむ、兵頭ご夫妻に城を一つ用意しろ」

 

「ごふっ!?」

 

 思わず咽る。

 

 城!? 城って言ったよな!? え、マジで!?

 

「は、東洋風と西洋風どちらにしましょうか?」

 

 執事も執事で普通に受け答えしているし!

 

「ううむ、悩みどころだな」

 

 いやいや、悩まなくて良いから!

 

「叔父上、そんな城とか無理ですから。そもそも、置く場所が無いです」

 

「そうですわ、あなた日本の領土は狭いのですから平民の方は城を持つことなんてできませんよ」

 

 叔母上の言葉に叔父上は眉を寄せる。

 

「しかし、カレンが長年世話に成っているのだ。何か恩返しはしたいのだよ」

 

「お父様、カレンとイッセーのご両親はあまり物欲もありません。下手に高価なものを送ってもあちらも困ってしまいますわ」

 

 リアスの言葉に叔父上はふう、とため息を付く。

 

「そうか、少し急ぎすぎたかな。事を急ぎすぎるのがグレモリー家の男子の悪い癖だな」

 

 あーそれはなんだか覚えがある気が……。

 

「ああ、そうそうカレン。こちらに滞在する間は勉強をしてもらいます」

 

 ん、何か叔母上の口から変な言葉が……。

 

「……勉強って言いました?」

 

「ええ言いました」

 

「……何でです?」

 

 冥界に久しぶりに帰ってきたと言うのに、何が楽しくて勉強なんぞ。

 

「当たり前です。貴方はグレモリー家の一員です。その名に恥じない教養を身に着けて貰わなくては。ああ、後は各貴族の方々にあいさつ回りを必要ですし、正式な帰還を発表しないと。それから……」

 

「ストップ、ストップ!」

 

 マシンガントークが止まらないそうになり、一旦止める。

 

「叔母上待ってください。俺、やりたいことがありますので」

 

「やりたいこと……ああ、そういえばそうでしたね」

 

 おう、納得してくれたか。

 

「では、それ以外の時間を使う事にしましょう」

 

「…………」

 

 なんてこったい。叔母上は教育熱心なヒトだったのか。

 

 ああ、いや、こういう有無言わせない迫力はリアスに通ずるな。怖い怖い。

 

 しかし、この帰省ただ済むはずも無いか。

 

 親父殿の眷属達。記憶の中の謎の金髪の少女。

 

 小猫の方も何か様子が変だし。全く、何も起きずに過ごすことは出来ないようだな。

 

 




いかがでしょうか? 感想、意見待っています。


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第三話

「あーいい湯だ……」

 

 暖かいお湯に包まれながら俺は深く息を吐く。

 

 現在、俺たちはグレモリー家が所有する温泉に来ていた。

 

 効能も確かなようで、入っているだけで体の内から疲れが取れていく感じがする。

 

「ほら、お前も早く入れよ! しかも何だそのタオルの巻き方は」

 

「いやですううう! イッセー先輩のエッチィィィィィィ!」

 

 おい、何だ? ヒトが折角気持ちよく入っているのに。

 

 出入り口の方を見れば、一誠がギャスパーの腕を引っ張っていた。

 

 どうやら、中々温泉に入りたがらないギャスパーを入れようとしているみたいだが……ギャスパーのヤツ、何で胸までタオルで隠しているんだ? あいつ男だろうに。

 

 女装までしていると心が女になってくるのかー? まあ、ありうるかな?

 

「さっさと入れ!」

 

 等と、馬鹿な事を考えていたらいい加減、イラッと来たのか一誠が無理やりギャスパーを温泉に放り込む。

 

 純粋な腕力なら一誠の方が上なので、ギャスパーはあっさりと宙を飛びながら温泉に突っ込む。

 

 激しい水音と共にギャスパーがお湯にダイブする。

 

「いいやああああああ!! 溶けるううううううう!! イッセー先輩のエッチぃぃぃ!」

 

「何でだよ」

 

 思わず突っ込む。吸血鬼ってお湯に入ると溶けるの? 訳わからん。

 

『イッセー、ギャスパーにセクハラでもしているの?』

 

 隣の女風呂からリアスがからかい気味に声を掛けてきた。

 

「ちょ、違いますよ!」

 

『あらあら、イッセー君は可愛い子なら何でもいいんですか?』

 

 朱乃も悪乗りし始めたな。

 

『そ、そうなんですかイッセーさん……』

 

 アーシア何か変な勘違いし始める気がするな。面白そうだから放置するけど。

 

「朱乃先輩まで何言ってんですか! アーシア、違うからな!」

 

 はは、相変わらず面白いなあ一誠がからかわれている姿は。見てて飽きない。

 

「相変わらず元気だなお前たちは」

 

 隣に誰かが入ってきた。

 

 見ると、アザゼル先生が頭にタオルを乗せながら気持ちよさそうにしていた。

 

「先生、確かゼクス兄さんたちと会議じゃなかったけ?」

 

 それが理由でグレモリー領で電車を降りずに魔王領まで行ったはずだが。

 

「終わったから来たんだよ。サーゼクスの方はまだやることが残っているらしいけどな」

 

「ふーん」

 

 しかし……。

 

「先生少し離れろ。風呂で男が近くにいるとか、むさ苦しい」

 

「ハハハハハ! 遠慮がねえなお前。まあ良いじゃねえか男同士、裸の付き合いってやつよ」

 

「誰がするかそんな事」

 

 しっしっと手で追い払う俺。

 

 相変わらずアザゼル先生は楽しそうだ。

 

「そういやあ、カレン、イッセー。お前ら女の胸ってもんだ事あるか?」

 

「……いきなり何言ってんのさ」

 

 アザゼル先生上せているのか? いや、このヒトは元々こういうヒトだったか。

 

「い、いえ。揉んだ事無いです」

 

 一誠が近くに来て真剣な表情を浮かべている。

 

「そうか、カレンの方はどうだ?」

 

「ノーコメントで」

 

 誰が答えるか。

 

 しかし、この対応が悪かったらしい。アザゼル先生は笑みを深める。

 

「ほお、どうやらカレンは経験あるらしいな」

 

「え、そうなの兄貴!?」

 

「……」

 

 思わず視線をあらぬ方向に向ける。

 

「どうやら経験済みらしいな」

 

「マジかよ! いつの間に!」

 

 血涙を流すんじゃないかと思える程悔しそうにしている一誠。

 

 ああもう、疲れるなあ。堕天使の幹部たちは人間の女に誑かされて堕天したって聞いたけど、この手の話には本当に食いつき気味だな。

 

「相手はリアスじゃあ無いだろうな。流石にイッセーたちが気づくだろうし。そうなると、昔の女か。なあ、どうなんだ?」

 

 アザゼル先生が興味津々な様子で聞いてくる。一誠も聞き逃さないと言った感じでこっちを見ている。

 

 幸いな事に女湯までは聞こえていないようだ。そこだけは本当に感謝だな。

 

「……何も言わないよ」

 

「ちょ、兄貴それは!?」

 

 いい加減鬱陶しいので、一誠の頭を掴むと、そのまま湯の中に突っ込む。

 

「がぼぼぼぼぼ!?」

 

「丁度いいや一誠、百数えるまでちゃんと入っていようぜ。そーら、いーーーーち、にーーーーい」

 

「がぼがぼ!?」

 

 長いぞ! とでもツッコミを入れているような目でもがく一誠。

 

 ははは、覚悟しろ。なーに悪魔だからそう簡単に死にはしないだろうぜ。

 

「お前容赦ねえな……」

 

 呆れたようにこちらを見るアザゼル先生。

 

「先生もやりますか?」

 

「やるわけねえだろ……」

 

 ため息をこぼす先生だったが、ふと思い返したように俺に聞いてくる。

 

「そういや、お前、親父の眷属達に会うんだろ?」

 

「え、ええまあ。あんまり覚えていませんけど」

 

 突然の話題の変更に戸惑いながらも応える。

 

「そうか、レオン・グレモリーの眷属達は現魔王たちの眷属と比べても遜色ないほどの実力を持っていた。それでも、神星剣には敵わなかった」

 

「……」

 

 神星剣……四死剣たちか。

 

 どろりと、胸の内に何かが生まれてくる。

 

 黒い感情が俺の中を侵食するような感覚だ。

 

「奴らの行方は?」

 

「まだ流石に分からん。三大勢力が血眼になって探しているんだけどな。禍の団(カオス・ブリゲード)に所属しているのは間違いなんだろうけどな」

 

 禍の団(カオス・ブリゲード)か……。神滅具持ちも何人かいるって言うし、あのヴァーリもいるんだよな。

 

「そこら辺は俺は興味ない。四死剣の連中が出たら俺が相手してやる」

 

「……ま、神星剣の相手は神星剣が一番だからな。ただ、問題は連中がどれくらい神星剣を集めているかにある」

 

 深刻そうな顔をする先生。

 

「四死剣と名乗っているからには四人の神星剣使いがいるって考えたほうが良いだろう。ただ、それだけで神星剣が四本だけしかないって訳にはならない。連中がお前の以外の全てを持っていたとしたら、本当にやばいからな……」

 

 俺以外のと言うと、七本か。

 

「問題ない。俺が全部叩きのめす」

 

「そういうが、お前の今の実力じゃあ一対一でも奴らには勝てないだろう?」

 

「…………」

 

 否定したいが、残念ながら先生の言う通りだ。

 

 今の俺はまだ神星剣に振り回されている部分が多い。このままじゃ、碌な勝負にならない可能性もある。

 

「ま、安心しろ。お前はまだ伸びしろが沢山ある。この夏休みでも、多少は修行するんだ。そこで少しでも伸ばせばいい」

 

「修行? そんな事するんですか?」

 

 聞いていないが、チャンスではあるな。

 

 恐らく、余り長い時間は使えないだろうがそれでもここで少しでも力を伸ばす必要がある。

 

「この修行でイッセーの完全な禁手化を……あ」

 

「あ」

 

 イッセーで思い出した。

 

 ふと、見れば、一誠がお湯に浮かんでいた。

 

 …………。

 

 ……やべ。

 

「おいいいいいいい!! 一誠! 大丈夫かぁ!?」

 

 慌てて一誠を救助する俺だった。

 

 その後、何とか息を戻した一誠だったが、俺はリアスたちにこっぴどく叱られた。

 

 この年になっても正座されて説教とか、笑えねえ……。

 

******

 

「もう直ぐ、か……」

 

 温泉に浸かった次の日。俺は実家に戻っていた。

 

 まあ、実家と言ってもあんまり実感が湧いてこないのだけどね。住んでいたのだって物心つくかつかないか位の年だっただろう。

 

 転移魔法等を繰り返し、途中からは馬車に乗って移動した。

 

「……で、なんでもお前らまでいるんだ?」

 

 馬車の中で喋っている一誠たちを見て言う。

 

「やっぱ、気になるしさ。兄貴の実家が」

 

「カレン先輩の生まれ育った場所なのだろ? 私も興味がある」

 

 一誠とゼノヴィアが口々に言う。

 

「お前らもか?」

 

 祐斗たちの方を見れば、苦笑いが返ってくる。

 

「すみません。迷惑かとも思ったんですけど」

 

「ぼ、ぼくも見てみたいですううう」

 

 祐斗のギャスパーは遠慮がちだから良いけど。

 

「カレンの実家なら私の実家でもあるわ。私が行かない理由なんて無いモノ」

 

「あらあら、相変わらずリアスはわがままですね。それでも言うのでしたら、私もカレンの実家には興味があります」

 

 但し、リアスと朱乃。お前らは駄目だ。なんでそんな自分気ままなんだ。

 

「はあ……」

 

 ため息を付く俺。

 

「……まあ、良いけどさ」

 

 そこで俺はふと、小猫の方を見る。

 

 相変わらずぼうっとしたままだ。

 

 普段からボンヤリとしている所があるのだが、今日は輪にかけて覇気が無い。

 

 俺が聞くのもお門違いかもしれんが、このまま放置しておくのも問題だろう。

 

 とはいえ、俺も今は自分の事で手一杯だ。これが片付いてからだな。

 

******

 

 馬車で移動する事、数十分。俺たちは俺の実家に到着した。

 

「ここが兄貴の実家……」

 

 一誠が感嘆するように呟く。

 

 俺は黙ったまま見上げていた。

 

 記憶が正しければ、この館全焼していたはずなんだが見事に復活しているな。

 

 グレモリー本家の城よりも小さいが、それでも人間の一般感覚からすれば本当にデカい。

 

「リアスお姉さまもここによく来ていらっしゃっていたんですよね?」

 

「ええ、私も詳しくは覚えていないのだけれどもね。でも、何となく懐かしい気持ちが湧いてくるわ」

 

 アーシアの質問にリアスは目を細めながら言う。

 

「行くか」

 

 俺を先頭に玄関に歩き始める。

 

 すると、門の前に男女が二人いた。

 

 どちらも金髪の髪をしており、執事の着る燕尾服とメイドの格好をしていた。

 

 男性、というか、青年の方はカールの掛かった髪で左右の腰に細剣を装備していた。

 

 メイドの方は俺とそんなに大差変わらない年頃だ。ただ、佇まいが凛として隙が無い。かなりの強者だろう。

 

 それは青年の方も言えるけどな。

 

 そして、同時に俺は少女の方に強い既視感を覚えていた。

 

「……まさか、彼女がそうなのか?」

 

「カレン?」

 

 俺は迷うことなく歩を進める。

 

 やがて、二人の前に着くと、二人は深々と頭を下げた。

 

「ご帰還、心よりお待ちしておりましたカレン様。よくぞご無事で」

 

 震える様に喜びを露わにしながらメイドが言葉を口にする。

 

「もうティアちゃんたら……私の方か言わせてもらうわ、カレンちゃん良く戻ってきたわね」

 

 心から嬉しそうに、青年が……言った。

 

「カレン、ちゃん?」

 

 ちゃん付けで呼ばれたことなど今まで一度も無かった筈なので、何だか変な感じがしてくる。

 

「ああ、カレンちゃんあんまり覚えていなかったわね。改めて自己紹介するわ。私の名はセルヴィア。セルヴィア・ロノヴェ。貴方のお父さんのレオンの騎士(ナイト)をやっていたわ」

 

 宜しくね、と軽くウィンクしてくるセルヴィア。

 

 親父の眷属。そういえば何となく覚えがあるような。

 

「お久しぶり、です……?」

 

「覚えていないんでしょ? これからまた親交を深めていけば良いわ」

 

 そう笑って言ってくれるセルヴィアだが、やっぱりこの口調に違和感を感じる。

 

「リアスちゃんも元気そうね、会うのは本当に久しぶり」

 

「ごめんなさい。お会いした事はあると思うんですけど……」

 

「仕方ないわ。リアスちゃん忘れちゃったから」

 

 ……? どういう事だ? リアスも忘れた?

 

「リアスちゃんの眷属の皆も宜しくねえ」

 

『よろしくお願いします』

 

 一誠たちも揃って挨拶をした。

 

「さ、ティアちゃん。貴方の番よ」

 

「ティア……?」

 

 ここにきて俺はその呼び名に引っかかりを覚える。

 

 記憶が刺激を受けている。

 

 そうだ、この少女は……。

 

「――ティア。ユースティア」

 

 俺が静かに彼女のフルネームを答える。

 

 少女、ユースティアが驚いたように顔を上げる。

 

 髪の色と同じ金色の瞳をこちらに見せながらマジマジと俺を見詰める。

 

 やがて、ゆっくりと泣き笑いのような表情を浮かべる。

 

「お久しゅうございます、カレン様。――漸く、会えた」

 

 目じりに涙を貯めて、直ぐにでも流しそうな勢いだ。

 

 俺は思わず、指で涙を拭ってやる。

 

「泣くなティア。――いや、ティア姉と呼んだ方が良いか?」

 

「いえ、昔ならいざ知らず、今は呼び捨てで。私は貴方様に仕える存在ですから」

 

 再び頭を下げるティア。

 

 頑なだな。

 

「兄貴、そのヒトの事は覚えているのか?」

 

 後ろから一誠が声を掛けてきた。

 

「ああ、紹介するよ。彼女はユースティア。昔俺の遊び相手をしてくれたヒトだ」

 

「お初にお目にかかります」

 

 再びお辞儀をするティアに、一誠たちも挨拶を返す。

 

 そんな中、リアスだけは複雑な表情を見せていた。



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第四話

最近疲れが取れない……。


「使用人に関してはまだ募集が中々出来ておらず、何か御用がございましたら私どもにお伝えください」

 

 ティア先導の元、俺たちは館の中を歩いていく。

 

 俺はその間、館の廊下を興味深く見ていく。

 

「どう? 何か思い出した?」

 

 俺の隣を歩いていたセルヴィアが俺に聞いてくる。

 

「一応、昔と全く同じようにしてあるのだけど、どうかしら」

 

「そうですね、懐かしさは感じますけど、そこまでですね」

 

「まあ、貴方も大分幼かったものね。仕方ないわ。あ、後私に敬語は要らないわ。私は貴方に仕える使用人何だから」

 

 ウィンクでもしそうな軽い感じでセルヴィアがそう言ってくる。

 

 しかし、このヒトは……アレなのだろうか? もしそうなら、俺は初めて出会う事になるな。

 

 まあ、そこまで接し方を考える必要も無いだろうけど。

 

「こちらです」

 

 気づけば、ティアがドアの前で立ち止まる。

 

 そしてドアを開けて俺たちの中に案内する。

 

「へえ……」

 

 中はシックな感じに落ち着いた装飾で、寛ぐように造られた部屋の様に感じた。

 

 ここの主は親父殿だったんだから、親父殿がそういう趣味を持っていたんだろうな。部屋に暖炉まで設置されているし。

 

 一誠たちも物珍しそうに中を見渡していた。

 

 とはいえ、本家ほどでは無いが、ここも十分に馬鹿でかい。見るからに高級品があちこちにあるし。

 

「それでは皆様、暫しご寛ぎください。お茶をお持ちします」

 

 ティアは一礼すると、部屋を出る。

 

「ふう……」

 

 俺は近くにあるソファーに体を預けて座る。

 

 良いやつだなこれ。座っただけで分かる。

 

「そういえば、セルヴィア」

 

「何かしら?」

 

「他の親父殿眷属は? お前だけなのか?」

 

 あんまり聞きたくないのだが、ここで聞いておかないとな。

 

 セルヴィアは少し顔を歪めると、言いにくそうになる。

 

「えーと、私以外にも後二人いるわ。ただ……」

 

「ただ?」

 

 少し視線を彷徨わせていたが、やがて諦めたようにセルヴィアは言う。

 

「一人はこっちから会いに行く気は無いって言って、もう一人はペガサスに乗って遠出しちゃって……」

 

「……何だそりゃ」

 

 思わず、口から出る。

 

 セルヴィアは本当に申し訳なさそうにしている。

 

「本当にごめんなさい。ペガサスに乗っている方はもう直ぐ帰ってくると思うんだけど、もう一人は多分無理ね……」

 

「なに、親父殿の眷属は自由奔放なの?」

 

「いえ、どちらかというと、我が強いというか基本的に『他者の命令なんて聞くか!』的なヤツが多かったから力で捻じ伏せないと駄目だったのよねえ」

 

 やれやれ、と首を振るセルヴィア。

 

 ……親父殿、すげえ。

 

「それで、その……来ない方が……」

 

「――それに関しては私の方が処理しておくと言っておいた筈ですが」

 

 言いにくそうにしているセルヴィアの後ろから声が聞こえた。

 

「ひっ!」

 

 怯える様に声を漏らすセルヴィア。

 

「セルヴィアさん、カレン様は帰ってきたばかりなのです。余計な心労を増やすべきではありません」

 

「それはそうなんだけど……」

 

 淡々とするティアに、セルヴィアは煮え切らない態度を取るが、ティアがジロリとセルヴィアを見る。

 

「分かりましたね?」

 

「……はい」

 

 諦めたようにガックリと項垂れるセルヴィア。

 

 何だろう、セルヴィアが苦労人の雰囲気を出している。

 

「お待たせしました皆様」

 

 ティーセットを台車に載せてティアがテキパキとお茶の準備をしていく。

 

「どうぞ」

 

 ティアが俺の前のテーブルにお茶を置く。

 

 それから順番に一誠たちの前に置いていく。

 

「皆様もどうぞ。そこいらの物よりかは自信がございますのでお飲み下さい」

 

 すげえ。自分の能力をアピールしてきた。グレイフィアさんとは違うなあ。

 

 では、この自信満々なメイドの淹れた紅茶はどんな感じかな?

 

 俺はカップを手に取り、口にする。

 

「…………」

 

 へえ……。

 

「上手い!」

 

「ほ、本当に美味しいです」

 

 一誠とアーシアが驚きを隠せていなかった。

 

「確かに、これは美味しいね」

 

「ああ、紅茶に関しては素人の私でも上手いと感じる」

 

「ほ、ホントですぅ」

 

 祐斗とゼノヴィア、ギャスパーを感想に口にする。

 

「あらあら、これは負けてしまいましたわ」

 

「……本当に美味しいわね」

 

 困ったように笑みを浮かべる朱乃と、不機嫌そうに飲むリアス。

 

「本当に美味しいよ。その自信は嘘じゃないようだな」

 

「当然でございます。私めは、貴方様の侍女でございますから」

 

 それでも褒められてうれしいのか、微笑を浮かべるティア。

 

「……ユースティア、お代わり頂けるかしら?」

 

 リアスが空のカップを上げてティアに催促する。

 

「はい、只今」

 

 ティアも直ぐに紅茶のお代わりを入れていく。

 

 何だリアスのヤツ、やけに不機嫌そうじゃねえか

 

「あらあら、これはちょっと面白そうね」

 

 何やら俺たちを見てニヤついているセルヴィア。

 

「…………」

 

 不機嫌そうに紅茶を飲みながらティアを見詰めるリアス。

 

「ふふ……」

 

 対して余裕そうに笑みを浮かべながらそれを見るティア。

 

 何だこれ? 何この修羅場的な感じ。可笑しいな。俺は今日実家に帰ってきたはずなんだよな? なのに何でこうなっているわけ?

 

 ああもう……。

 

「そうだ、セルヴィア聞きたいことがあるんだった」

 

「ん?」

 

******

 

 俺は皆と離れてあるところに向かっていた。

 

「……だから、何で付いてくるんだ?」

 

 俺はげんなりと後ろを振り向く。

 

「あら、叔父様のお墓に行くんだったら、私も挨拶しなくちゃ。姪ですもの」

 

「私はカレン様の護衛を務めております。ですので、空気みたいなものと思って下されば結構です」

 

 リアス、ティアの順番で言ってくる。

 

「はあ……」

 

 疲れる。本当にどうしたこうなった?

 

 確か、母様を親父殿の所に連れてってやろうとして皆がまだ寝ている早朝に向かおうとしたら、二人が玄関の前にいたんだよな。

 

 お互いに牽制し合う様に睨みあっていたから、険悪ムードで酷い。一瞬体が回れ右するところだったぜ。

 

 つうか、本当にこの二人何で仲悪いんだ? リアスや朱乃みたいなケンカするほど仲が良いって感じでも無く、本当に仲が悪いって感じだ。

 

 この二人って昔会った事あるっけ? そこらへんはセルヴィアに聞いておくか。

 

「ほら、二人とも行くぞ」

 

 めんどくさくなって俺はさっさと歩く。

 

「こら、カレン待ちなさい」

 

「…………」

 

 二人も睨みあうのを止めて俺についてくる。

 

「ええと後どれくらいだ?」

 

 セルヴィアに渡されたメモを頼りに俺は道を進む。

 

 親父殿が埋葬されているのは、この先の俺たち家族の思い出の場所という。

 

 思い出の場所。俺の断片的な記憶の中ではある光景が脳裏に思い浮かんでいる。

 

 俺の予想が正しければ多分あの場所だと思うんだけど。

 

「……ん?」

 

 そこで俺はふとあるものに気づく。

 

「何だこれ? 雪……じゃないな」

 

 それは小さな粒だった。金色の小さな粒子。

 

 見れば、あちこちにこの粒子が舞っている。

 

「これって……」

 

「どうやら近くになってきたようです。これが見えると言う事はもうすぐそこですよ」

 

 ティアが後ろから言う。

 

「これ何だか知っているのか?」

 

「はい、ですがちゃんと見たほうが説明しやすいのでそちらに向かいましょう」

 

 こちらです。と言ってティアが先導し始める。

 

 俺とリアスにそれに付いて行く。

 

「リアス、この粒子、覚えがあるか?」

 

「ええ……朧げだけど貴方と一緒に見たことがある気がするわ」

 

 だとしたら、やっぱり、ここは……。

 

 森を抜けた次の瞬間だった。

 

「あ……」

 

 俺の視界は金色で埋め尽くされた。

 

「これって……」

 

 隣のリアスも驚きを隠せていなかった。

 

 そこは草原だった。風で草が揺れている。

 

 そして、その草の隙間からはさっき見た金色の粒子が次々と噴き出ていた。

 

「ここは冥界でも特殊な場所で冥界の大地に存在する龍脈から魔力が噴き出る場所なのです。レオン様のお気に入りの場所で、良くご家族でいらっしゃっておりましたよ」

 

 ティアの説明に俺は納得する。

 

 確かにそんな記憶も無くはない(もしくはある)ような気もする。

 

「こちらです」

 

 草原をティアに先導されながら進む。

 

 ああここは本当に懐かしい。よく遊んだものだ。

 

「懐かしいわね。昔はよくここで二人で遊んだものね」

 

 風に揺れる髪を抑えながらリアスが懐かしそうに周りを見る。

 

「そうだな……二人でこっそり屋敷を抜け出してここで遊んで、帰ったら母様にめっちゃ叱られていたな」

 

 あのヒト、自分の事棚に上げて怒るからイラッとするんだよなー。

 

「……ねえカレン」

 

「んー?」

 

「彼女ともここで遊んだことあるの?」

 

「彼女?」

 

「ユースティアの事よ」

 

「ああ……」

 

 ティアとか……どうだったか。

 

「よく、覚えていないな……リアスの事ははっきりしているんだが」

 

「ふーん、そう……」

 

 機嫌よさげにリアスが呟く。

 

「――カレン様、問題ございません。これからまた親交を深めていけば良いのですから」

 

 前を歩いていたティアがこちらを振り返ってニコリと笑う。

 

「お、おう」

 

 妙に迫力のある笑みに押されつつ俺は頷く。

 

 そして更に数分歩き、漸く目的地に着いた。

 

 親父殿の墓があったのは滑らかな丘の上だった。

 

 その丘の上に一つだけポツンと墓が置いてあった。

 

「……ん?」

 

 墓の前に誰かいる。それに隣にいるのは……馬?

 

 馬ではあるのだが、毛並みは純白で、その背中からは翼が生えていた。

 

 あれって、うわさに聞くペガサスか?

 

「驚いた……ペガサスはギリシャ神話勢の領域の中でも極わずかしか生息していないと言われているのに」

 

 リアスが隣で感嘆の声を上げていた。

 

「……全く」

 

 しかし、ティアはため息を付くと、真っ直ぐ男に近づいていく。

 

 そして、男の後ろに立つ。

 

「――――」

 

 次の瞬間、ティアの足が目にも止まらなぬ速さで動く。

 

 そのまま男の首を刈り取ろうとするかの如く、轟音を伴いながら男の首を狙う。

 

 そして男は反応出来ないままその蹴りを喰らう。

 

 あまりの勢いに、周りの草が風圧で飛び散り、粒子も一気に飛ぶ。

 

「……は?」

 

 突然の出来事に俺は思わずそんな言葉を口にしていた。

 

「……危ないな。いきなり殺しに掛かってくるなんて、随分と物騒では無いじゃないか?」

 

 そして草が地面に落ち、改めて二人を見ると男の頭は首から離れていなかった。

 

 男は腕を盾にするようにしてティアの蹴りを防いでいた。

 

 あれだけの勢いの蹴りだったのに男の方は腕で防いだだけで全く態勢を変えていなかった。

 

「黙りなさい。ここで何をしているのです? 茨木さんの説得の成功の有無関係なく直ぐに戻るように言っていたはずです」

 

 ティアはその事に驚くことなく、足を戻しながら淡々と言葉を紡ぐ。

 

「いや、なに。帰りのここに立ち寄ってね。どうせカレンもこっちに来ると思って待っていたんだ」

 

 ニコニコと笑いながらそう言う男にティアは不機嫌さを隠そうともしなかった。

 

「……あーティア? そちらは誰かな? 紹介してもらえるんだよな」

 

 何となく悪くなった空気を払しょくするために俺はティアに尋ねる。

 

 俺の方に振り替えると同時にいつもの表情に戻ったティアが説明する。

 

「彼はペルセウス。かの英雄ペルセウスの子孫でしてレオン様の兵士(ポーン)を務めておりました」

 

 ペルセウス! かの大英雄ペルセウスか!

 

 怪物メデューサの首を刎ね、その傷口から生まれたペガサスに乗り、囚われていた王女アンドロメダを救い出した英雄だ。

 

 この二人は結婚し、その子孫にはあのギリシャの大英雄ヘラクレスがいる。

 

 血筋、実力共にトップの英雄だろう。

 

 その子孫がこのヒトというわけか。成程、さっきのティアの蹴りを難なく防いだのも実力の高さが伺えるぜ。

 

 紹介された男、ペルセウスは苦笑する。

 

「そんな大したものじゃない。……守るべきものを守れないような敗北者だ」

 

 どこか、憂いを帯びた目をしながら俺を見るペルセウス。

 

 しかし、直ぐに表情を笑みに戻し、俺に話しかけてくる。

 

「久しぶりだなカレン。本当にレオンのヤツにそっくりだ。いや、目元なんかは日月さん似かな?」

 

「正直、親父殿顔なんて写真でしか覚えが無いんですけど、そんなに似ているんですか?」

 

「ああ、生き写しと言われてもしょうがないくらいだ」

 

 そんなに、か。親父殿を知っているヒトから反応が今からめんどくさくなってきたよ。

 

 てか、今はそんな事は良いか。さっさとやらないと。

 

******

 

「これでよし、と」

 

 親父殿の墓の隣に少し大きめの石を置き作業は終了する。

 

「母様、約束はこれで守ったことにしてくれ。随分と長い時間がかかちまったけどな」

 

 石を撫でながら俺は語る。

 

 漸く、親父殿の隣に母様を埋める事が出来た。俺の肩の荷も少し降ろせた訳だ。

 

「やっとこの二人は一緒に成れたんだな。我々もようやっと落ち着けます」

 

 俺の隣の片膝を付いたペルセウスが二人の墓をジッと見つめる。

 

「……なあ、ペルセウス」

 

「何です?」

 

「あの日、何があった? 俺は親父殿を刺したのがルーファス・アガリアレプトとしか覚えていない。気が付いたら母様と二人、雨の中で倒れていた」

 

 後ろで、ピクリとティアが揺れた。

 

「叔父上やゼクス兄さんに聞こうとも思ったがどうも俺との再会を喜んでいる二人からは聞き出せなかった」

 

 そうすることで誤魔化しるのでは、と思ったりもしたが。

 

「そうか……それだけか」

 

 噛みしめる様に言うペルセウス。

 

「――すまないカレン。私の口からはまだ言えない」

 

「どういう事だ。あんた親父殿の眷属何だろ? だったら」

 

「“まだ”言えないと言ったんだ。時期が早い。――焦るな。我々はどんな事があってもお前の味方だ」

 

「…………」

 

 ペルセウスの顔を見て俺のそれ以上の言葉を紡げなかった。

 

「……必ずだぞ」

 

 何とかそれだけは口に出来た。

 

「ああ、必ずだ」

 

 そして、俺の後ろで、何かに耐える様に俯いているティアとそれを見るリアスに、俺は気付けなかった。



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第五話

 一旦本家の方に戻った俺たちは若手悪魔会合の為に魔王領の旧首都ルシファードに来ていた。

 

 途中、リアスの人気っぷりからまるでアイドルの如くの騒ぎが起きていたが、直ぐに地下鉄に乗り換える事で騒ぎは収まった。

 

 電車に乗って数分。やがて着いたのがこの都市で一番大きい建物だった。

 

 地下から係りの者に案内されてエレベーターに乗る。

 

「みんな、もう一度確認するわ。何が起こっても平常心でいる事。何を言われても手を出さないこと。――上に居るのは将来の私たちのライバル。無様な姿は見せられないわ」

 

 戦闘時のような真剣な声音でそう言うリアス。

 

 さてさて、どれくらい強いのやら。ソーナたちシトリー眷属もいるだろうけど、他の連中はどうだろうな?

 

 エレベーターが静かに動く。

 

 背中を壁に預けながら俺は周りを見る。

 

 一誠に視線を止めると、柄にもなく緊張していた。

 

「どうした一誠? 珍しく緊張なんぞして」

 

「だってそりゃ緊張するだろ? 部長と同じ上級悪魔の会合だぜ?」

 

「馬鹿か。そんなん緊張するだけ無駄だって話だ。気楽に行け。お前は伝説の天龍の片割れを宿しているんだ。大抵の奴になら負けはしないだろうよ」

 

「そうかな……」

 

 俺の言葉を受けてもまだ一誠は不安そうにしている。

 

 これ以上何を言っても効果なさそうなので仕方なく俺は話しかけるのを止める。

 

 やがてエレベーターが止まり、ドアが開く。

 

 廊下に出てある事数分。大きな扉から少し離れた場所に数人の集団がいた。

 

「サイラオーグ!」

 

 その中の一人を懐かしそうに呼ぶリアス。

 

「久しぶりだなリアス」

 

 にこやかにリアスにサイラオーグと呼ばれた男が返す。

 

 短い黒髪に紫の瞳はギラギラと輝いている。

 

 俺よりも身長が高い。しかも……。

 

「…………」

 

 ジッと男を見る。

 

 魔力というか、オーラはあまり感じられないがかなり鍛えられている。体つきを見ても明らかだ。

 

 体の芯も一度もぶれていない。武術をかなり極めているな。

 

 俺が冷静に男の評価をしていると、男が俺の視線に気づいたのか、こちらに視線を向ける。

 

「紅髪……リアス、この男が?」

 

「ええ、私の父方の従兄弟のカレン・グレモリーよ」

 

 リアスが俺の事を紹介すると男が手を差し出してきた。

 

「噂は聞いている。初めましてだな。俺の名はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ。リアスとは彼女の母方の従兄弟に当たるな」

 

 バアル。七十二柱の中でも元序列一位の大王。それの次期当主か。

 

 つうか、リアスもバアル家の血縁者だったのか。ハーフの俺とはえらい違いだ。

 

「初めまして、カレン・グレモリーだ。色々あってリアスの眷属やっている」

 

 俺の挨拶をしながら握り返す。

 

 握られた手の感触で俺は感じる。

 

 やはり、結構鍛えられている。それも生半可なモノじゃない。幼少期から血反吐吐くような鍛錬を積んでいたんだろう。

 

「ほお……」

 

 俺の探る姿勢を感じたのか、面白そうに目を細めるサイラオーグ。

 

 ほんの少しだけ睨みあう。

 

 そしてどちらともなく笑い、手を離す。

 

「これから拳を交わすのが楽しみだ」

 

「そうだな」

 

 俺たちが離れたのを見てリアスがサイラオーグに話しかける。

 

「それでどうしたのこんな所で? 待合室で待っていなかったの?」

 

「待っていたがな……下らんから出てきた」

 

「下らん? 他の家は集まっているの?」

 

「ああ、アガレスにグラシャラ=ボラス、アスタロト。それにシトリーにダンタリオン。お前以外は全員来ている。だが、到着早々ゼファードルとアガレスがやり始めてな」

 

 心底嫌そうに吐き捨てるサイラオーグ。

 

 やり始める? 何だエロいことでも始めたか?

 

 俺がそんなアホな事を考えていると会場全体が揺れる。

 

 続いて、ドオオオオオォォォンという爆発音も扉の中から聞こえてくる。

 

 何ぞ? 敵襲か?

 

 俺は警戒する中、リアスは迷うことなく扉の方に近づいていく。

 

「これだから顔合わせなど必要ないと言ったのだ。こういうのが起こるというのに」

 

 サイラオーグも面倒そうに眷属らしき者達と一緒に歩き出す。

 

 ああ、やり始めたってそういう事か。

 

 俺が納得すると同時に扉が開かれる。

 

 中は……まあ、惨状だな。

 

 装飾は至る所が破壊され、無事なところを見つけるのが難しいぐらいだ。

 

 そんな中で部屋の中央では二つのグループが睨みあっていた。

 

 一つは眼鏡を掛けた何というか冷たい雰囲気を持つ女性を中心としている。周りの眷属らしき奴らも理性的な雰囲気を持つ奴らが多い。

 

 で、もう一つの集団は何というか女の集団とは真逆だな。

 

 中心にいるのは露出の多い服を着て、全身に魔術的なタトゥーを入れて緑色の髪を逆立たせている見るからに危ないヤツだ。眷属の奴らも人外の姿をしたヤツが多い。

 

「――ゼファードル、貴方馬鹿なの? 死ぬの? 死んでくれない?」

 

 眼鏡を掛けた女が冷やかにそう言う。

 

 うは、口悪。嫁の貰い手とか無さそう。

 

「かっ、随分と言ってくれるじゃねえの! 折角、処女臭いからあっちで一発やってやろうと思ったのによぉ! これだから頭の固いアガレス家の次期当主様はいけねえ!」

 

 うん、男の方も見た目同様に口が悪いな。

 

 状況から見るに男の方がちょっかいを掛けてそれに女がキレたって訳か。

 

 悪魔って貴族社会の割にこういうヤツもいるんだな。いや、貴族社会でもやっぱりいるって事か。

 

 で、他の連中は……。

 

 周りを見てみると他にも二つ集団があった。

 

 一つは優しげな雰囲気を持つ少年が中心にいる集団だ。少年は優雅に席に座って紅茶を飲んでいる。

 

 ただ、周りの連中はフードで顔を覆っていて中が見えない。正直不気味だ。

 

 で、もう一つの集団は全身黒ずくめの俺と同じくらいの年の奴が中心のメンバーだ。

 

 周りの連中は……強いな。強者としての風格が滲み出ている。

 

 ていうか、あの野郎、どこかで……。

 

 俺の視線に気づいたらしく、黒髪のヤツが俺の事をニヤリと笑いながら見てきた。

 

 何だ?

 

「やれやれ……面倒だが、いい加減止めないとな」

 

 コキコキ、と首を鳴らしながら前に出るサイラオーグ。

 

 それを見た一誠が止めようとするが、リアスが止める。

 

「イッセー、よく見ておきなさい。彼が若手ナンバーワンの一人よ」

 

 っ! へえ……。

 

 俺が見守っていると、サイラオーグが二つの集団の真ん中に来る。

 

「おい、二人とも、一度だけ警告する。今すぐにやめろ。これ以上続けると言うならば次は俺が相手をする」

 

 凄むように言うサイラオーグ。

 

 アガレス家、かな? あの冷徹なお姉さんは一瞬動揺する。

 

 対して緑髪のヤンキーは怒りの色を濃くする。

 

「バアル家の無能が……!」

 

 ヤンキーがそう言ったとき、サイラオーグの拳がヤンキーの頬に直撃する。

 

 モロに入ったヤンキーはそのまま壁の方まで吹っ飛ぶ。

 

 あれまあ、速い。若手ナンバーワンというのは伊達じゃないな。

 

 ヤンキーの眷属は直ぐに怒りを露わにサイラオーグに向かおうとするも、直ぐにサイラオーグから主の方を優先するように諭されてヤンキーの方に向かった。

 

 冷徹なお姉さんは一旦部屋を出て化粧直しに出かけて行った。

 

 やれやれ、やっと終わったか。

 

 そう思い、一息ついた瞬間だった。

 

 突如として俺の方に目掛けて魔力の波動が飛来してきたのだ。

 

 しかも、結構デカい。鎧を着てなければ割とヤバめな傷を負うしかないかもしれない。

 

 それに気づいたリアスたちがギョッとした顔でこちらを見る。

 

 対して俺は特に構える事もせず、ボンヤリと波動を見る。

 

「……リンド」

 

 俺は呟き、右手に灼 銀 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)を展開し、波動を吸収する。

 

『Absorb!!』

 

 そしてそのまま俺の方に撃ってきたヤツ目掛けて放つ。

 

『Liberation!!』

 

 ついでに俺の魔力も上乗せしておいてやる。

 

 犯人――あの黒ずくめの野郎に真っ直ぐ進んでいく魔力の波動。

 

 俺が魔力を上乗せしたからさっきよりも威力は倍増している。

 

 眷属達が止めようとするが、野郎はそれを止める。

 

「――はっ」

 

 軽く笑うと野郎は無造作に防御用らしき魔方陣を展開する。

 

 魔力の波動がぶつかると、まるで最初から何も無かったかのごとく消え去った。

 

「……随分なあいさつだな。何か、喧嘩売ってんのか? 良いぜ、買ってやる。掛かって来いよ」

 

 切っ先を野郎に向けて軽く威嚇する。

 

 それに反応して直ぐに奴の眷属が前に出て構える。

 

「やめなさいカレン。また騒ぎなんて起こすものじゃないわ」

 

 それを見たリアスが俺の肩を掴んで止めようとする。

 

 そしてそのまま俺を庇うかのように前に出る。

 

「どういう事かしらオズワルド・ダンタリオン。折角サイラオーグがこの場を収めたと言うのに、貴方はまた騒ぎを起こしたいのかしら?」

 

 リアスの質問に野郎――オズワルドは肩を竦めるだけだった。

 

「いやいや、別に、だよ。俺は彼を、かの無敗の王者のレオン・グレモリーの息子の力を確認したかっただけだよ」

 

「成程。親父殿の息子である俺の実力を知りたかったと? で、どうだ? 期待通りか?」

 

 肩を竦めるオズワルド。

 

「さあな。流石にこれだけで分かるほど目は良くない。これからゆっくりと確認させてもらうさ」

 

 ニイッと笑みを浮かべるオズワルド。

 

「……カレン、気をつけなさい。彼もまた、若手ナンバーワンよ」

 

 つまり、サイラオーグと同等の実力の持ち主か。

 

「全く、最近大人しくなっていたと思ったのだがな……」

 

 サイラオーグが頭を痛そうにため息を付く。

 

「知り合いか?」

 

「ああ、長い付き合いだ。しかし、あいつに目を付けられたか……リアス、気をつけろ。あいつは自分の欲望を最優先にする、正に悪魔らしい男だ。カレン・グレモリーはそのターゲットにされてしまったと言うわけだ」

 

 おいおい、勘弁してくれ。面倒事はごめんだぞ?

 

 どうやら初っ端から妙な奴に気に入られたと言うわけか。

 

 若手悪魔ナンバーワンの一人。今の俺でどれくらい太刀打ちできるのやら。気が重いぜ。

 

******

 

 部屋も魔力で元に戻し、ようやっと部屋の中央に置かれた円卓で顔合わせを始める若手たち。

 

 各々が自己紹介をし始める。

 

 サイラオーグにアガレス家のお姉さん。それにアスタロトのディオドラ・アスタロトも挨拶を交わす。

 

 ヤンキーも顔を大きく腫らせながら自己紹介していた。

 

 そんであのオズワルドも挨拶をする。

 

 そしてリアスやソーナも挨拶を済ませた後、使いの者が来た。

 

「皆様方の準備が整いましたので、こちらへどうぞ」

 

 ようやっとか。

 

 俺たちはぞろぞろとまた別の部屋に移動する。

 

 さてさて、どうなるのやら。

 

 廊下を少し歩いた後、少し開けた場所につく。

 

 俺たちの前には高い所に設置された椅子が複数あり、そこには悪魔界の重鎮らしき悪魔たちが多くいた。

 

 恐らく、貴族連中の中でもそれなりの力と歴史を持っている奴らなんだろうな。

 

 重鎮の上の段には四人程座っていた。

 

 男三人に女一人。

 

 男の一人はゼクス兄さん。女セラフォルー様だ。

 

 もう二人は知らないが、恐らく残りの四大魔王。ベルゼブブ様にアスモデウス様だろう。

 

 四大魔王勢ぞろいか。まあ、ここには魔王血縁者がいるからな。

 

 さて、これからどうなるのやら、ちょっと楽しみになってきたぜ。

 

 



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第六話

 夢とは、尊いものだ。それを信じ、歩いていく事は輝いて見えるものだ。

 

 夢を見失った身としてはどんな夢であれ、本人が本気ならば是非とも応援してやりたいものだ。

 

『ハハハハハハハハハハハっ!!』

 

 こうやって誰かに馬鹿にされるように笑われると助けてやりたいくらいには。

 

******

 

 長ったらしいまるで学校の校長の話みたいに延々と話していた上役や、ゼクス兄さんだが、流石に俺たちが退屈してきたのを見抜いたのか、話を止めた。

 

「さて、長くなってしまったね。最後に皆の夢について聞いても良いかな? 何、未来ある有望な若者の夢を私たちに聞かせてくれ」

 

 ゼクス兄さんの話を聞いて最初に話したのはサイラオーグだった。

 

「俺の夢は魔王になる事です」

 

 堂々と、はっきりと答える。

 

『ほう……』

 

 お偉い方は感嘆するようにため息を漏らす。

 

 かくいう俺も驚いている。

 

 魔王。つまりは悪魔界のトップに立つって事だ。こいつの事だから魔王の中でも特別とされるルシファーを狙っているのかもな。

 

 次にオズワルドの番が回る。

 

「俺は全てを知りたいです」

 

『……?』

 

 オズワルドの言葉にその場の全員が首を傾げる。

 

 唯一オズワルドの眷属だけが表情に変化が無い。

 

「それはどういう事かなオズワルド? 分かるように言って貰えるかな?」

 

 ゼクス兄さんの問いにオズワルドは苦笑する。

 

「ああ、申し訳ありません。ルシファー様。確かにこれでは伝わりにくいですね。では、こう言い換えます。――私は世界の全てを知りたい。悪魔も天使も堕天使も、そして人間。神さえも。世界も! そのすべてを、私は知りたい」

 

 何かを掴むように拳を握りしめるオズワルド。その様子は熱に浮かされたようだった。

 

 その様に皆が圧倒される中、オズワルドはフッと雰囲気を和らげた。

 

「ま、要するに世界の知識を詰め込みたいですね。何せ俺はダンタリオンですから」

 

 それに納得を見せるお偉い方。

 

 しかし、何人かは顔を険しくしている。

 

「……ダンタリオン家は世界に存在するあらゆる書物を集めている、本の一族よ。その書庫の中には世界に一冊しか現存していない本があると言われる程よ」

 

 リアスが小声で補足する。

 

 本の一族か。読書とかする身としては興味があるな。今度行きたいって言えば、入れてくれるかね?

 

 その後も残りのメンバーが夢を語っていく。

 

 リアスは前々から言っているようにレーティングゲームで全タイトルを取ることだ。こいつはこいつで夢がぶれ無くて良い。

 

 そして最後にソーナの番になったわけなのだが……。

 

「これは驚いた! シトリー家の次期当主は酔狂な事を考える!」

 

「無理な話だ!」

 

「これが公の場でなくて良かったものだ」

 

 ソーナの夢、下級悪魔でも通えるレーティングゲームの学校を作る事を聞いた上役の反応がこれだ。

 

「やはり、か……」

 

 予想通りとはいえ、流石に嫌なモノが胸の内をよぎる。

 

 訳の分からないと言った顔をしている一誠に祐斗が淡々と説明する。

 

「イッセー君。悪魔社会は未だに上級と下級悪魔を分ける部分が根強く残っている。下級悪魔は上級悪魔に仕えるべき存在だという認識の方がまだ強いんだ」

 

 そう、悪魔界は大戦後随分と変わった部分もあるが、それでも変わらず根強く残っている部分も多い。

 

 特にこの格差社会は顕著だ。変わらないもの、変わってはならないものとして彼らは信じている。

 

 小さく嘆息する。

 

 見れば、流石に馬鹿にされたのを気にして匙君が反論していた。

 

「何でそんなに笑うんすっか! 会長は自分の夢を語っていただけですよ! それのどこかが可笑しいんですか!」

 

「控えろ下級悪魔。ソーナ殿、下僕の教育が成っていませんな。しっかりと躾けなくてはなりませんぞ」

 

「申し訳ありません」

 

 嫌味たっぷりの上役の言葉にソーナは表情を変えることなく頭を下げる。

 

「会長! 何で会長が頭を下げるんですか!」

 

「サジ、おやめなさい。私はあくまで夢を語っただけ。それをとやかく言われるのは仕方のない事です」

 

 そう、仕方がない。それは分かっているのだが……。

 

「……少し、宜しいですか?」

 

 気づけば、俺は手を上げていた。

 

 驚く皆に俺は黙っているようにジェスチャーを出す。

 

「何かね下級悪魔如くが我々に……ん? 紅髪?」

 

「それにあの顔は……」

 

 俺の事を見た上役たちがヒソヒソと隣同士で話し合っている。

 

「失礼、宜しいか?」

 

「ッ! ああ、構わんよ」

 

 話している最中で突然話しかけられたから、情景反射の様に返事をする上役の一人。

 

「では失礼して。先ほど、下級悪魔は上級悪魔に仕えるものとお聞きしました。成程、悪魔界の当たり前な事です。私も当たり前事とは言え納得させていただきました」

 

「ほう……」

 

 俺の言葉に上役たちは感心したようにため息を漏らす。

 

「良くわきまえている」

 

「ソーナ殿の所とは大違いだ」

 

「……っ!」

 

 何かに耐える様に拳を握りしめている匙君。

 

 そして、俺の方に視線を向けるソーナ。

 

 安心させるようにフッと微笑む。

 

「……ですが」

 

 ここからが面白いところだぜ。

 

 俺は、言葉を続ける。

 

「そんな下級だの上級だのにいつまで齧りついている頭が耄碌した老害などがここに居らっしゃるとは思いませんが」

 

 一瞬、場が固まる。

 

 そして次の瞬間、

 

「き、貴様! 我らを愚弄するか!」

 

「下級悪魔の分際で!」

 

「リアス殿! これはどういう事かね?」

 

 案の定激昂した上役のおっさんたちが身を乗り出して俺を罵ってくる。

 

「ああ、もう……」

 

「あらあら……」

 

 頭を痛そうに抱えるリアスに、困ったように笑みを浮かべる朱乃。

 

「まあまあ皆さん、それくらいで落ち着いてください」

 

 ゼクス兄さんがやんわりと宥める。

 

「サーゼクス様!」

 

「下級悪魔にこのような事を許しては……!」

 

「下級云々で言うならば、彼は上級悪魔ですよ」

 

 さらりと告げられたゼクス兄さんの言葉に上役の悪魔たちは一瞬止まる。

 

「サ、サーゼクス様? それはどういう……」

 

「彼の名はカレン・グレモリー。我が叔父、レオン・グレモリーの実子です。日本に居たのを妹のリアスが保護したんですよ」

 

 ギョッとするように俺の方に注目が集まる。

 

「道理で瓜二つだと……」

 

「しかし、それが本当ならば、ハーフであろう?」

 

「だとしても、あの朝凪日月の子だ……」

 

 すっかり混乱しているな。それだけ俺が物珍しいんだろうけど。

 

「この話はまた今度にしましょう。それとカレン、いくら上級悪魔でも目上の方には礼儀を持って接するように。分かったかな?」

 

「……はい、以後気をつけましょう」

 

 慇懃に礼をしておく。

 

 少しやり過ぎたな。今度はもう少し遠まわしに言ってやろう。

 

「黒い。黒い笑みを浮かべているぜ」

 

「あははは、カレン先輩、容赦ない所とかあるからね」

 

 一誠と祐斗が後ろでひそひそ話をしている。

 

 おいおい、俺は慈悲深いぜ? 単に敵対する相手には情け容赦ないだけだ。

 

「さて、ソーナも自分の夢を諦めるつもりは無いんだね?」

 

「もちろんです」

 

 即答するソーナ。

 

「それならどうだろう。リアスとソーナ、二人でレーティングゲームをしないか?」

 

『っ!?』

 

 ゼクス兄さんの言葉にリアスとソーナは互いに顔を見合わせて驚く。

 

「もともと、近日中にリアスのゲームを執り行う予定だった。ソーナも夢を語るには実力を示さなければならない。どうかな? セラフォルーもそれでいいだろ?」

 

 セラフォルー? 何でセラフォルー様の名前がそこで……ってああ。

 

 直ぐに納得する。

 

「うんうん! 良いよ良いよ! オジサマたちったらソーナちゃんを寄ってたかって苛めるんだもん! カレンちゃんもありがとうね!」

 

「はあ、どうも」

 

 そうこうしている内に、俺たちとソーナたちとのレーティングゲームは決定したのだった。

 

******

 

「あの、カレン君」

 

「ん?」

 

 ソーナが話しかけてきたのは会合も終わり、いざ帰ろうとした時だった。

 

「おう、どうした?」

 

「いえ、その……ありがとうございました」

 

「ん?」

 

 俺が首を傾げると、控えめに言う。

 

「私なんかの為に上役の方々に突っかかるような真似を」

 

「ああ、その事か。気にしなくて良いさ。俺が単純に気に喰わなかっただけだからさ」

 

「ですが、その所為であまり良い印象を持たれなくなったと思いますよ」

 

 ま、そうだろうな。どうでも良いけど。

 

「お前が気にすることじゃないさ。夢を持つって事は本当に良い事なんだから。お前が実現したいと思ったなら、実現しろ。それだけの努力をしてるって事はお前の性格からすれば、容易に想像付く」

 

「カレン君……」

 

 俺はポン、とソーナの頭に手を乗せる。

 

「ちょ、カレン……?」

 

 突然の事に戸惑うソーナだが、俺は言葉を続ける。

 

「俺はもう夢ってものを持つことが出来ない。だからこそ、夢を持っている奴が羨ましい」

 

「……? それってどういう」

 

 ソーナが聞き返そうとした時だ。

 

「カーレーンー?」

 

 妙に間延びした感じで名前を呼ばれる。

 

 それと同時に肩をガシッと掴まれる。

 

「リアスか……」

 

「ええ、私よ。それで何で貴方はソーナの頭に手を乗っけているの?」

 

「いや、何となく?」

 

 肩を掴む力が強まる。

 

「何となくで、貴方は女の子の頭を触るのかしら?」

 

「ふむ、確かに」

 

 言われてみれば何という事だ。男として駄目だろうな。

 

「失礼したなソーナ」

 

「いえ……」

 

 流石に恥ずかしがったのだろう。珍しく表情を崩し頬を染めているソーナ。

 

 後ろで『キャー!』等と言っている生徒会の女性陣。それと血涙を流しそうな勢いで歯ぎしりしている匙君。

 

 ……何ぞこれ?

 

******

 

「……そうか、シトリー家とゲームが決まったのか」

 

 火山の中、茨木童子は静かに呟く。

 

『ええ、ある意味、当然と言える組み合わせかもしれないわね』

 

 手のひらサイズの魔方陣から映像でセルヴィアの体が浮かび上がっており、茨木童子に笑いかけていた。

 

『しかも、聞けばカレンちゃんたら、上役の方々に喧嘩腰で馬鹿にしたそうよ? 思わず笑っちゃったわ』

 

「その点は母親似かもな」

 

 あの自由奔放という言葉が一番似合う女を思い浮かべながら茨木童子は静かに呟く。

 

「……それで? そんな事の為に俺に連絡した訳じゃ無いだろ?」

 

 その言葉にセルヴィアは真面目な表情を作る。

 

『そうね。じゃあ言うわね……今すぐ戻って来て!? いい加減ティアちゃんの機嫌がやばいのよ~!』

 

 だが、それも直ぐに崩れて実に情けない顔になる。

 

「…………」

 

 茨木童子はゴミを見るかのような目で見つめ、無言のまま通信を切ろうとする。

 

『あ、ちょっと!? 切らないでよ!?』

 

「黙れ。何度も言っただろう。小僧を俺のところまで連れてこい。そうすれば解決する話だ」

 

『もう……』

 

 本当に困ったようにため息を付くセルヴィア。

 

 それを見つつ、茨木童子はあることを思いつく。

 

「……おい、小僧はゲーム前に修行はするつもりなのだろ?」

 

『え? ええ、その筈よ。アザゼル総督が直々に訓練メニューを作ってくれるそうだから』

 

「そうか」

 

 考え込む茨木童子にセルヴィアは恐る恐る声を掛ける。

 

『……もしかしなくても何を考えているのかしら?』

 

「セルヴィア」

 

『話聞いていないし。何よ?』

 

「小僧の修行、俺が面倒を見よう」

 

『……は?』

 

 思わず、と言った感じで呆けた表情を作るセルヴィア。

 

 そして次の瞬間、必死な形相になり、首を振る。

 

『いやいやいやいやいや! 何を言ってるの!? 貴方が修行を見るなんてカレンちゃん殺す気?』

 

「何故そうなる?」

 

『貴方情け容赦ないし、手加減というものが出来ないじゃない!』

 

「手加減など何故する必要がある?」

 

『ほらそういう所!』

 

 最早、悲鳴と言えるほどの声を上げるセルヴィア。

 

 うるさそうに顔を顰めながら茨木童子は

 

「兎に角伝えたからな」

 

『あ、ちょ』

 

 まだ何か言いたそうなセルヴィアを無視して通信を切る茨木童子。

 

「……レオン、お前の遺したもの、俺が鍛え上げてやる。その結果がお前の望むものでは無いとしてもだ」

 

 洞窟に響かせる様に呟く茨木童子であった。



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第七話

「よし、全員揃ったな」

 

 グレモリー本家の庭の一角。俺たちはジャージ姿になってアザゼル先生の前に揃っていた。

 

 あの会合の次の日。俺たちは早速ゲームまでの間トレーニングとしゃれ込む為にアザゼル先生のミーティングを受ける事になった。

 

「予め言っておく。今回の修行はあくまで長期的に継続するための最初の一歩だ。短期的に結果が出る者もいれば、長期的に気づかない面で出る者もいるかもしれない。そこは分かっておく様に」

 

『はい』

 

 全員が返事をする。

 

 ま、それもそうだ。寧ろ直ぐに結果が出たらそれはそれで笑えるわ。

 

「さて、それじゃあ順番に伝えていくぞ」

 

 アザゼル先生が順番に俺たちの修行メニューを渡していく。

 

 一誠まで渡されて……俺の無かった。

 

 え、どういう事?

 

「先生? 俺のは……」

 

「あーお前のはちょっと別だ。最後に話すさ」

 

 あ、そう。そう言われては俺は引き下がるしかない。

 

 そしてアザゼル先生が修行の内容を伝えていく。

 

 先ずはリアス。リアスの場合は元々の才能は計り知れない。このまま順当にいけば最上級悪魔になれる素質を持っている。

 

 しかし、リアス自身は更なるパワーアップを望んでおり、アザゼル先生もそれに応えた修行法をリアスに渡した。

 

 とはいえ、そこまで特別な事をやる必要が無い。リアス自身も基礎的なトレーニングと王としての状況判断を鍛える様にするのがリアスの課題だ。

 

 次に朱乃。アザゼル先生に呼ばれたとき、朱乃はどこか不機嫌だった。

 

 やはり、まだしこりというか、堕天使に嫌悪感を持っているのだろうか。

 

 そんな朱乃だったが、先生が朱乃に出した課題は一つ。

 

 ――自分をさらけ出せ――。

 

 自分をさらけ出す。つまり、堕天使としての力を使えという事だろう。

 

 しかし、酷な話でもある。朱乃は堕天使の力を毛嫌いしている。だからこそ、今までピンチな状況でも使わなかったのだろう。

 

 だが、それでは前に進めない。今まで以上に強くなるためには自分とちゃんと向き合う必要がある。それは朱乃も分かっているだろう。

 

 次に騎士(ナイト)組の二人だ。

 

 祐斗は聖魔剣の長時間の維持。肝心なところで使えなきゃ意味が無いからな。

 

 剣術については師匠のところで一から勉強しなおすとの事だ。

 

 師匠か……。そういえば、もうそろそろか。

 

 次にゼノヴィアはデュランダルの制御。そしてもう一本特別な剣を扱えるようになること。

 

 特別な剣っていうのが分からんが、それも後のお楽しみだそうだ。

 

 次にギャスパーだが、しばらくは先生考案の引きこもり脱出プログラムを遂行するそうだ。

 

 外に出れなきゃゲームに参加するのも憚れるからな。

 

 同じくサポート要員のアーシアは今よりも神器の力を高める事。

 

 彼女の能力を強化することで俺たちの戦闘継続能力を高める事が出来ればチーム戦もだいぶ楽になる。期待しているぜ。

 

 次に小猫だが……。これも朱乃と同じ課題だった。

 

 自分をさらけ出せ。その一言であれだけやる気に満ちていた小猫のテンションが一気に下がってしまった。

 

 小猫にも何かあるとは思っていたが、どうやら、朱乃並みに厄介な事情が有りそうだ。

 

 一誠が軽い感じで小猫の頭を撫でようとしていたが、止めておく。今のこいつにそれは逆効果だろう。

 

「で、次にカレンだ」

 

 やっと俺か。

 

「お前は現在のグレモリー眷属の中でトップクラスだ。正直、ヴァーリと同等クラスの素質を持っていると俺は考えている」

 

 あの歴代最強の白龍皇とか。それは良い事を聞いたな。

 

「だが、お前はもっとその先、四死剣との戦いを念頭に入れているんだよな?」

 

「……ああ。勿論だ」

 

 自然、声が低くなる。

 

 そう、奴らは全員殺す。その為ならどんな事をしても強くなる。

 

「……そうか。じゃ、頑張れよ」

 

「は?」

 

 え、それだけ?

 

 先生のあまりに投げやりとした感じに俺は思わずポカンとする。

 

「い、いや先生? 俺の特訓メニューは?」

 

「ん? 一応作ったんだが無しになった」

 

「何でさ!?」

 

 何これ? 自分で考えろってそういう事?

 

 俺の表情で分かったのか、先生はめんどくさそうに手を振る。

 

「違う違う。お前には個別に付いてくれる師匠がいるんだよ。――お前の親父の眷属がな」

 

「っ」

 

 親父の眷属。セルヴィアか、ペルセウスか?

 

「取り敢えず、地図に書いてある場所に行け。そこで待っているそうだ」

 

 そう言ってアザゼル先生が地図を渡してくる。

 

 どれどれ、と俺は地図を覗き込む。

 

 目的地らしい赤丸付いている場所は……。

 

「火山?」

 

 何故か火山だった。

 

 いや、山籠もりなら分かるかもしれないが、何故に火山? マグマと一緒に生活しろと?

 

 何となく、不安になり、俺はリアスに地図を見せた。

 

 それを見たリアスが顔を驚きに染める。

 

「え、うそ? これって悪魔の領内で三指に入る危険火山の一つよ!? 今だって活動を続けているから絶対に立ち入りは禁止だって言うのに」

 

 マジか。そんな危険なの?

 

 リアスがキッとアザゼル先生を睨み付ける。

 

「ちょっとアザゼル! どういう事? カレンをこんな危険な場所に連れて行こうとするなんて!」

 

「俺に言われてもな……」

 

 困ったように後頭部を掻く先生。

 

「アザゼル?」

 

 ニコニコと笑みを浮かべながら手元に雷を集めている朱乃。怖いよ。

 

「お、おい待て待て。俺の所為じゃないって言ってるだろ! 文句ならあの馬鹿力に言え!」

 

「馬鹿力?」

 

「ああ、そうだ。お前の修行相手だ。正直あんまし関わり合いたくないんだよ俺は!」

 

 あの先生が珍しく嫌がっているとは……親父殿の眷属って言うけど、あいつらじゃないのか?

 

「あー二人とも、良いさ。先生にどうこう言ったってしょうがない。大人しく行くさ」

 

「カレン……」

 

「本当に大丈夫なんですの?」

 

 二人が心配そうにこちらを見る。

 

 その様子から心から心配しているのが分かるし、若干心苦しいがこれも強くなるためならば問題ない。

 

「あー良いか。じゃあ、最後はイッセーだが……お、来た」

 

 先生が空を見上げる。俺たちもつられてそちらを見る。

 

「ん?」

 

 空に黒い豆粒みたいな影がある。それが段々とこちらに近づいてくる。

 

 豆粒はやがてデカい影になっていき、猛スピードでこちらに迫っている。

 

 そしてでかい地響きと共に何かが俺たちの前に着地する。

 

「ドラゴンか……!」

 

 おれは思わず呟く。

 

 そう、着地したのはドラゴンだった。

 

 体長は十五メートル程で馬鹿太い四肢に大きな翼。まさしく物語に出てくるドラゴンそのものだ。

 

『タンニーンじゃありませんか』

 

 リンドが周りに聞こえる様に言う。

 

「ほう、リンドヴルムか久しいな」

 

 ドラゴンも口を開き懐かしそうに呟く。

 

「リンド知ってるのか?」

 

『ええ、『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーン。龍王の一角ですよ』

 

「正確には元、だな。今は悪魔に転生して最上級悪魔だ」

 

 リンドの説明にアザゼル先生が補足する。

 

「ドライグも聞こえているのだろ?……ドライグ?」

 

 反応が無いのを訝しんでタンニーンが一誠の方に目を向ける。

 

 少し経ってから声が聞こえる。

 

『あ、ああ久しぶりだなタンニーン』

 

 久しぶりに聞いたドライグの声にリンドが冷たく当たる。

 

『あら、私には何も挨拶が無いのかしら?』

 

『い、いや、普段から会っているわけだからな? 絶対に顔を合わせているわけだし』

 

 ……何だこれ。

 

 二匹の会話を聞いたタンニーンが嘆息をこぼす。

 

「リンド、いい加減機嫌を直せ。まだ根に持っているのか?」

 

『あら、何の事です? 私は何も根に等持っていませんよ?』

 

「……それが持っているというのだよ」

 

 全くだ。もう数百年も前の話なんだからいい加減許してやれば良いモノを。

 

『まだ、数百年です』

 

 ……そうですか。

 

「ま、ドラゴンの喧嘩はドラゴン同士でやっていてくれ。さてイッセー」

 

「? はい」

 

「こいつがお前の修行相手だ」

 

「……え?」

 

 言われたことが理解できなかったのか、固まる一誠。

 

「タンニーンがお前の修行相手だって言ってるんだよ」

 

「え、ええええええぇぇぇぇぇ!? このドラゴンがぁ!?」

 

 驚きを隠さない一誠。

 

 つか、そんな風に言うなよ失礼だぜ。

 

「ドラゴンはドラゴンによって鍛えられる方が良い。そういうわけだ」

 

 軽く言うが、元龍王の一角が相手とか笑えねえな。

 

「ドライグを宿した者を鍛えるのは初めてだ」

 

 タンニーンも楽しそうに告げる。

 

『あまり苛めてくれるなよタンニーン。俺の宿主は本当によわっちいからな。直ぐに死んでしまう』

 

「なに、死ななければ良いのだろう?」

 

 おう、見事にスパルタ発言。ま、一誠には丁度いいか。

 

「よし、じゃあ一誠はタンニーンとの修行で禁手(バランス・ブレイカー)を発現させろ。それじゃあ解散」

 

 そう言ってさっさと歩いていく先生。

 

 タンニーンも一誠を捕まえて近場の山にへと向かった。

 

 最後まで一誠は泣いて抵抗していたが、悲しきかな、非力な一誠では太刀打ちできなかった。

 

 ああ、一誠。俺はお前の事が心配で仕方ないよ。この義兄を許せ。

 

『何笑いながら変な事考えているんですか?』

 

 冷たいリンドの声が響く。

 

 おっと、ふざけるのもここらへんにして俺も自分の修行場所に向かうか。

 

「そんじゃ、俺も行くわ。みんな、修行頑張れよー」

 

 手をヒラヒラと振りながら俺もその場を後にしようとする。

 

「カレン、本当に大丈夫なの……?」

 

 心配そうにするリアスたちに俺は笑いかける。

 

「問題ないさ。それよりも自分の心配しろよ。自分の事を出来ないやつに心配される程俺は弱いつもりは無い」

 

 果たして俺の言葉に、二人ほど、胸を押さえていた人物がいた。

 

 それが誰なのか、俺は敢えて視線を送らずにその場を去った。

 

******

 

「……熱いってレベルじゃねえぞこれ」

 

 俺は思わず呟く。

 

 既に汗が滝の様に流れており服は雨に濡れたかのようにびしょびしょだ。

 

 あまりの熱気に呼吸するのが嫌になるほどだ。

 

「確かに危険地域って言われるほどの場所だな。悪魔でさえこれだ。並の生物じゃ棲むことすら出来ないだろうに」

 

 俺は脇を流れるマグマの近くにある何かの骨を見て思わず口に出す。

 

 ここでまだ山の中間の更に中間。四分の一しか上っていないのだ。頂上に一体どうなっているのやら。

 

「ああ、くそ、熱い」

 

 いい加減汗にうんざりした俺はシャツを脱ぐ。

 

 そしてシャツを絞ると汗がどんどん流れていく。

 

 うわ、もう着たくないな。とはいえ、これを捨てるわけにはいかないし。

 

 俺はシャツを肩にかけて再び歩き出す。

 

 しかし、と俺は歩きながらここに来る前の事を思い出す。

 

 一旦家に戻って事の顛末をティアたちに話したのだが、三者三様の反応を示した。

 

 ティアは静かに怒りを滲ませ、セルヴィアは顔をこれでもかと、言うぐらい青ざめさせてペルセウスは大爆笑していた。

 

 どこかに向かおうとするティアをセルヴィアが慌てて羽交い絞めにしてペルセウスがその間にペガサスに乗せて麓まで連れて来てくれたのだが……。

 

 ティアのヤツ、どうしのただろうか。ペルセウスに聞いても笑うだけで答えてくれないし。

 

 帰ったら聞いてみるか。俺はそう考えた。

 

「……ここか?」

 

 ふと、立ち止まった大きな洞窟を見上げる。

 

 親父殿の最後の眷属はここら一体で一番デカい洞窟の中に住んでいるとペルセウスが言っていたから、多分ここで合っていると思うのだが……。

 

 どこからと通じているらしく、風が洞窟の中から吹いてくる。

 

 すうっと息を吸う。

 

「行くか」

 

 俺は意を決して中に入った。




大学のテストの都合でしばらく更新できません。再開は恐らく八月中旬になるかと。


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第八話

皆様お久しぶりです。漸く帰ってきました。いやあ、前回の投稿から一か月くらいですかね。これからも頑張っていこうと思います。


 洞窟の中は酷く暑い。マグマが至る所から流れており、気をつけなければ当たりそうな程だ。

 

「こんな所に住んでいるとか、どんなヤツだよ」

 

 思わず口に出る。実際、ここに好き好んで住んでいるヤツなど、変人以外の何者でも無いだろう。

 

 親父殿の眷属はどうも変な奴しかいない気がするな……まあ、それは俺たちグレモリー眷属も似たもんか。

 

 そもそも、普通なヤツが強くなれるわけないか。そう考えると、家の面子は強くなれる奴らばっかりだな。個性は馬鹿みたいにあるし。特に一誠とかな。あれは最早変人で片付けていいレベルじゃないな。

 

 リアスもまあ、普段はまともだが、あれも暴走するとめんどくさい事になるし。朱乃に至ってはドSだ。

 

 祐斗も最近はホモ疑惑すら出てきているらしいし――主に一誠との。学校でとても噂になっていた――、ギャスパーなんて女装趣味野郎だ。

 

 小猫も無口無表情の大食い野郎で、力持ち。アーシアも純情すぎて眩しくて見てられないし、ゼノヴィアなどはついこの間殺し合いをしていた仲だ。

 

 そこで俺は足を止める。

 

 今更だが、本当にうちの面子って濃いやつらばかりだよな。というか、普通がいない?

 

 まあ、俺もその内の一人と考えると軽く憂鬱だな。少なくとも一誠と同列は勘弁だ。

 

「ん?」

 

 それからしばらく歩いていると、人影を見つける。

 

 男だ。非常にガタイが良く、上半身は何も着ていない。その上半身には無数の傷跡が残っており、この男の戦いの経験を感じさせる。

 

 こちらに背を向けてしゃがみ込んでおり、顔までは分からない。

 

「……来たか」

 

 ぼそりと、男が呟く。

 

「あんたが親父殿の眷属最後の一人か?」

 

「他の連中に会っているならばそうなるだろう」

 

「なら、多分最後の一人だな。で、あんたが俺の師匠を務めてくれるっていう話だけど?」

 

「そうだ」

 

 さっきから素っ気ないなこのヒト。セルヴィアやペルセウスとは違うタイプだな。

 

「で、どうやってするのさ? 筋トレ? それとも技でも教えてくれる?」

 

 さっさと修行を始めたい俺はどの様にやるのか方法を聞く。

 

 すると男が、

 

「……ハッ」

 

 小さく笑った。

 

「あ?」

 

 俺が訝しんだ次の瞬間だった。

 

 目の前に顔のぐらいの大きさと思えるほどの拳が迫ってきた。

 

「なっ……」

 

 俺は殆ど無意識の内に両腕をクロスさせて顔の前に出す。

 

 刹那、トラックにでも突っ込まれたような衝撃と共に俺の体は吹き飛ぶ。

 

「がっ……!?」

 

 そこまでの広さを持たない洞窟の中だ。上下左右あちこちにスーパーボールの如く俺の体ははね跳び壁に激突していく。

 

 全身に痛いところが無いと思えるようになってきた時だ。ふと、俺の視界が酷く明るくなった。

 

 外に出たと直ぐに分かった。そしてそのまま近くにある岩に激突することで漸く止まった。

 

「くそ、体中が痛い」

 

 痛みに顔を顰めながら俺は何とか上半身を起こす。

 

 幸いなことに壁にぶつけて出来た傷は大したことは無い。無視できる程度の傷だ。

 

 だが、問題は腕の方だ。

 

 いまだに痺れている腕を見て俺は戦慄する。

 

 咄嗟とは言え、今の俺の素での防御はそれなりにあるはずだ。禁手化状態の一誠の一撃でも悪くて骨折のぐらいの頑丈さはあるはず。

 

 なのに、直接喰らった右手は完全に砕けてやがる。右手の後ろのあった左手も多分罅が入ったな。折れてないだけマシか。

 

 おまけにしびれが取れない。右手は完全に、左手はしばらく動かせない。

 

「ほう、その程度で済んだか。正直もっとやられていると思ったのだが」

 

 洞窟の方から声がした。俺は痛みをこらえながらそちらを向く。

 

 見れば、男がこちらにゆっくりと近づていて来ていた。

 

 ここにきて俺は漸く男の顔を見た。

 

 褐色の肌に鋭い眼光。顔立ちは獣を印象させる。

 

 だが、それよりも一番目立つのが額に生えている一対の角だった。

 

「鬼……?」

 

 俺はその姿を見てそう呟く。

 

「然り。我が名は茨木童子。鬼の大将酒呑童子が配下の一人で、お前の親父の戦車(ルーク)をやっていた」

 

 堂々とした名乗りに俺は息を呑む。

 

 茨木童子。日本における鬼の伝説においてビックネームの一人だ。

 

 鬼の大将たる酒呑童子の最も重要な部下の一人と言われている。かの源頼光とその配下の四天王たちとの戦いでは唯一生き延びた。

 

 その後、一条戻橋で、四天王のひとり渡辺綱を襲ったと言うがその際は返り討ちに遭い、左腕を斬られたと言う。

 

 蛇足だが、その際は何故か老婆の姿で襲い掛かったとか。理由は知らないが。

 

 茨木童子の左腕を見ると、包帯が乱雑に巻かれているが、間違いなく左腕がある。

 

 たしか、斬られた後に取り返しに行ったんだよな。よく引っ付いたな。

 

 まあ、今はそんな事どうでも良いか。

 

「で、何だっていきなり殴ってくるのさ。お蔭で両腕が全然使えないんだが」

 

「ふん、貴様は攻撃を受ける際に前もって宣言を受けないと戦いが出来ない男か?」

 

「うぐ」

 

 それを言われると何も言い返せないが、だからって修行方法を聞いたとたんにいきなり殴りかかってくるのはどうかと思うが。

 

「それで? 俺の修行法って何? こうやってボコボコにされれば言い訳?」

 

 皮肉る様に言うと、茨木童子は小バカにするように俺を見る。

 

「貴様がマゾならばそれでも良いが、生憎と俺はそんな面倒な事はしない。故に」

 

 茨木童子が一歩踏み出す。

 

 それと同時に茨木童子の体から破壊的なオーラが迸る。

 

 その立ち姿は正に鬼。体が震えるのを感じる。

 

「どうした? 何を恐れる。俺を程度で恐れているようでは奴らには到底追いつけんぞ」

 

 その言葉に、俺の頭は急激に冷えていく。

 

「……四死剣の事か」

 

「然り。今のお前では神星剣を使ったところで歯が立つわけもない。いや、神星剣に頼っているようでは一生勝てんだろう」

 

「何だと」

 

 神星剣に勝てるのは神星剣のみ。少なくとも同じ力でなくては奴らには勝てない。俺はそう考えている。

 

 知らず知らずのうちに俺は神星剣を抜こうとする。

 

 だが、それよりも先に茨木童子の拳が俺に迫ってくる。

 

「っ!」

 

「愚か者が!」

 

 紙一重が躱す俺。茨木童子の拳はそのまま俺の後ろの岩を砕く。

 

「最初から巨大な力に走るか! 貴様はその程度の器か」

 

「まるで俺が悪いみたいな言い方だな」

 

 成程、確かに安易に楽な道を選ぶのはヒトとして駄目だろう。

 

 だが、それが何だと言うのか。そんな事を屁理屈の様に言って、肝心な時に何も出来ない様では意味が無いでは無いか。

 

 それで取り返しのつかないことが起きてしまったらそれこそ、後悔するしか無い。

 

 ならば、俺は躊躇いなくその力を使う。

 

「愚かだな。今の貴様に必要なのはそんなものでは無い」

 

 茨木童子がこちらに再び拳を振りかぶる。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 生身は危険と判断し、俺は鎧を身にまとうとする。

 

 だが。

 

「……? おい、リンド? 早く鎧を。リンド!?」

 

 いつまでも鎧が出てこない。そればかりか剣さえも出てこない。

 

 どういう事だ。この状況下でリンドが応えない理由が……。

 

 そしてここにきて俺はあることに気づく。骨が砕けて使えなくなっている右腕に何か腕輪のようなものが付いているのだ。

 

「何だ、これ」

 

「それは神 器(セイクリッド・ギア)の発動を封じ込める腕輪。まだ試作段階でどこまで持つかは分からないらしいが、アザゼル総督から俺が受け取った」

 

「あ」

 

 あのくそ堕天使総督が~~~~~~!!

 

 なんてものを! あの野郎一度しばいてやる!

 

 俺が思わずあの駄教師に復讐を誓っていると茨木童子が話を続ける。

 

「貴様は安易に他の力に頼る傾向がある。故に、これから終了日まで己の肉体のみで戦ってもらう」

 

「己の肉体のみ……」

 

 つまり、神器と神星剣を使う事は禁ずるって事だな。

 

「なんとまあ」

 

 使えるのは己の拳と魔力のみって事か。

 

 ああ、くそ。この二つでどうやってこいつブッ飛ばせた良いわけさ。

 

 おまけに両腕は全然使えないし、体中痛いし。最悪な状況だな。

 

「では、行くぞ!」

 

 茨木童子が拳を振りかぶるとそのまま地面に叩きつける。

 

 衝撃で地面に小さいクレーターが出来る。

 

 何てヤツだ。鬼ってのは誰もかれもがあんなにも馬鹿力なのか。

 

 俺がヤツの力に戦慄していると、地面が揺れ始めているのに気付いた。

 

 地震? いや、ここは火山。まさか……!

 

 噴火、という単語が俺の頭をよぎった瞬間、俺の周りで地面から溶岩が間欠泉ように噴き出た。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に体を魔力のオーラで覆う。こんな事ならばリアスとか朱乃に防御用の魔方陣の使い方習っておけば良かった後悔するが、今はそんな事を言っても仕方ない。

 

 幸いなことにマグマは普通のだったらしく――それでも触れればやばいが――新しい傷を負うことなく防ぐことが出来た。

 

 だが、それよりも問題なのは茨木童子が何をしたかだ。

 

 いきなり溶岩が噴き出のはこいつがさっき地面を殴ったことによるものだろう。だが、それだけで溶岩が噴き出る物なのか?

 

「そら、次だ」

 

 その言葉に俺は身構えるのであった。

 

******

 

「…………」

 

 カレンの実家。その一室でセルヴィアは針の筵の中に居るような気分でいた。

 

(どうしてこうなったのかしら……)

 

 原因は明らかだ。カレンの修行相手が茨木童子なのが理由なのだ。

 

 茨木童子は基本的に容赦がない。例え主であろうと自身が気に喰わなければ命令を簡単に無視するのだ。

 

 更に、今回の修行だって恐らく、グレモリー眷属の中でも最も過酷な修行となるだろう。下手をすれば命を落としかけないほどの。

 

 だが、結局はそれだけやらねば強くならない。そういう事でもあるのだ。

 

 普通の修行であっても恐らくカレンはしっかりと成果を出すだろう。しかし、彼自身がそれでは満足しない。

 

 セルヴィア達にとっても因縁があるルーファス・アガリアレプトを殺す為には更なる力がいるのだ。

 

「ティアちゃん、あのね」

 

「分かってます」

 

 セルヴィアが何かを言う前にユースティアが遮るように言う。

 

「え?」

 

「カレン様は強さを求めていらっしゃる。それは一目瞭然の事。なればこそ、私たちはその手伝いをしなくてはならない。あの方の眷属となるのだから」

 

「やっぱり、カレンちゃんの眷属に?」

 

「はい。この身の全てをあの方に捧げると誓っておりますゆえ」

 

 迷う事無く澄んだ瞳で言い切るユースティア。

 

 そんな彼女にセルヴィアは不安を抱くも、それを飲み込み、話を進める。

 

「そ、ならティアちゃんは女王(クイーン)かしらね?」

 

「私が、ですか?」

 

「そうよ、ティアちゃん、私たちの中でも攻守ともにバランスよく対応できるし、カレンちゃんをサポートすると言う点では一番いいと思うわ。私やペルセウス、茨木なんかじゃ無理よ」

 

「私が、女王……私なんかで良いのでしょうか?」

 

「勿論。ティアちゃん以外考えられないわ」

 

 ユースティアは少し影を帯びた表情を浮かべる。

 

 それをあえて無視してセルヴィアはパン、と手を叩く。

 

「さて、じゃあカレンちゃんに差し入れを用意しましょうか。あそこじゃあ食事だって満足に取れないでしょうし」

 

「分かりました。ここからでしたら転移魔方陣よりペルセウスのペガサスが早いでしょう。彼を呼んでください」

 

「了解よ」

 

 セルヴィアがペルセウスを呼びに部屋を出る。

 

 それを見送ったユースティアは窓の方を見る。

 

「カレン様、貴方様が強くなられることを心よりお祈りしております」

 

 それだけ呟くと、ユースティアもカレンへの食事を用意するために部屋を出るのであった。

 



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第九話

最近、上手く書けませんね……。


「はあ、はあ、はあ……」

 

 呼吸が荒い。正直、息をするのが嫌になってくる。

 

 何せこの暑さだ。呼吸するだけで喉が焼ける。

 

 汗が止め処なく溢れて来る。目や鼻に入り鬱陶しいこの上ない。

 

 それでも俺は油断なく前を見据える。

 

 目の前に立つのは俺よりもずっと上にいる存在だ。少しでも油断したらその瞬間にやられてしまうだろう。

 

「どうした? その程度か?」

 

 こちらに近づく茨木童子を見て俺は苦々しく思ってしまう。

 

 こちらは傷が無いところを見つけるのが無理なくらい。だが、茨木童子は傷一つ無いと言ったところだ。

 

「来ないのなら、またこちらから行くぞ!」

 

 地面を蹴り、宙に飛ぶ茨木童子。

 

「くそっ!」

 

 毒づきながら俺は魔力の弾を数個展開し、茨木童子目掛けて撃ち放つ。

 

 当たれば上級悪魔でもそれなりの傷は追うはずの力はある。

 

 しかし、現実は甘くは無い。

 

 茨木童子は飛来する魔力弾を避ける事もせずそのまま突っ込む。

 

 魔力弾は全て直撃するもまるで傷付かない。

 

 皮膚がどれだけ厚いのかと突っ込みたくなるほどの固さだ。いくら戦車(ルーク)とはいえこれは可笑しくないか。

 

 等と考えている間もなく、茨木童子の拳が迫ってくる。

 

 俺はオーラを身にまといながら右に避ける。

 

 だが、拳は完全に躱すもその衝撃までは躱せなかった。

 

 衝撃を受けて俺の体は後方に飛ぶ。

 

 何とか空中で態勢を整えて受け身の状態になり、地面に着地する。

 

 さっきからこんなやり取りがずっと続いている。茨木童子が攻めて俺が反撃するもまるで歯が立たずに拳を躱してもその衝撃でけがをする。

 

 悪循環に完全に落ちているな、これは。

 

 神器も無し。神星剣も無しとなると俺じゃあこの鬼には勝てない。それだけの差が今の俺たちにはある。

 

 ……結局、また俺の力不足が原因という事か。ここ最近、というかいつもそうだな俺の場合は。

 

 自分の力不足を強く痛感する。

 

 何時だって、後悔ばかりだ。

 

 お師匠様が言うには人間、後悔が無い生き方をするようにした方が良いと言う。

 

 まあ、俺もそう思うし、出来ればそうしたいと思う。

 

 だけど、そういう生き方が出来るのは本当に強いヤツだけなのだろう。俺ではダメだ。ここ最近は本当にそう思ってしまう。

 

 茨木童子が再び拳を繰り出してくる。俺はそれを何とか躱す。

 

「どうした、逃げてるばかりでは強くはなれんぞ。それでは四死剣の連中には歯が立たんぞ」

 

 瞬間、俺の中で沸騰するような感情が湧き上がる。

 

 自分でも分かるように茨木童子を睨み付ける。

 

「……そんなに憎いか」

 

「ああ憎いね。憎くて憎くてしょうがない」

 

 断言できる。この感情は晴らすまで永遠に続くものだ。

 

 たとえ何があろうともどうなろうとも。

 

 俺は、奴らを必ず殺す。

 

「…………」

 

 茨木童子が静かに俺を見据える。

 

 やがて大きなため息を付くと、

 

「少し煽り過ぎたか」

 

 ボソリと呟くと同時に茨木童子が姿を消す。

 

 それがあまりの速さで動いていると俺が認識できたのは目の前にヤツが現れた時だった。

 

「今日はここまでだ。少し休め」

 

 言うや否や、俺の腹に大きな衝撃が走る。

 

 殴られたと分かった時には俺の意識は闇の中に沈んでいった。

 

 薄れゆく意識の中で俺はある事を考えていた。

 

(これ、絶対にヒトを休ませる方法じゃねえ)

 

******

 

「……はっ!?」

 

 意識を取り戻す。

 

 自分が仰向けになって眠っていたのだと、態勢から何となく感じ取る。

 

 冥界の紫色の空が少し暗くなっている。恐らく、今は夜なのだろう。

 

(今、何時だ?)

 

 確か、冥界の時間は地球は同じだからズレとかは無いと思うが……。

 

「ほう、もう目覚めたのか。早かったな」

 

 声と同時に、ペルセウスがこちらに歩み寄ってきた。

 

「ペルセウス……?」

 

「ああ、ペルセウスだ」

 

 ペルセウスは濡れたタオルを俺に差し出す。

 

 俺はそれを受け取り、顔に当てる。

 

「ふう……」

 

 ひんやりとしていて気持ちが良い。

 

「にしてもあの茨木のしごきに耐えるとは素質があるぜ」

 

「どうだか。今更ながらに自分の欠点を認識したよ」

 

「認識できるだけマシだ。それを認識できずにやられてしまったら格好悪いにも程があるだろ?」

 

「確かに……」

 

 上半身を起こそうとすると、ペルセウスが手で制する。

 

「最初はフェニックスの涙でも使おうと思ったんだが、生憎と手元に無くてな。まあ、回復の心得はそれなりにあるから安心しろ」

 

「…………」

 

 そう言われて改めて体を確認する。

 

 体中が包帯だらけだが、きっちりと巻かれており無駄が無い。

 

 両腕も罅が入っていたりと動けなくなっていたはずだが、若干のしびれを残しているものの動く様になっている。

 

 凄いな。フェニックスの涙があるわけでも無く、アーシアみたいに回復の神器を持っているわけでも無い。にもかかわらずここまで治すなんて……。

 

「てか、俺ってどれくらい眠っていた?」

 

「四時間位といった所かな。飯を食うか? ユースティアが弁当を作ってきたからな」

 

「ティアが?」

 

 ほら、とペルセウスが包みを取り出す。

 

 ……重箱サイズのものを。

 

「……何これ」

 

「弁当だって」

 

 ペルセウスが包みを外すと本当に重箱が出てきた。

 

 驚くことなかれ何と五段という家族用の量としか言いようが無い。

 

 ペルセウスが重箱を外していく。

 

 中には驚くほど色とりどりの料理が詰まっており、普通なら腹の音が成るくらいには食欲が湧くであろう。

 

 そう、このボコボコにされて疲労状態が半端ない状態で食欲が一切湧いてこないこの状況でなければ。

 

「いやあ、ユースティアのヤツ一生懸命作っていたぞ。それはもう真剣に」

 

 わざとらしく言うペルセウス。

 

 この野郎……。

 

 俺はペルセウスを睨み付けるも本人はまるで気にしていない。

 

 意を決して改めて中を確認する。

 

 本当に上手そうだ。普段の食事の場ならどれだけ良かった事か。

 

 だが、もし食べなかったら恐らく何も言わないがティアの事だ、きっと悲しむだろう。

 

 それは俺としても望むところでは無い。

 

 ここは全て食べる事が男の甲斐性というものなのだろう。

 

 だが、この腹で行けるのか、俺は……!?

 

 

 ******

 

「いやあ、お前凄いな」

 

「……何がさ」

 

「何がってあれ全部食べ切ることがさ」

 

 結局全部食べた。正直、途中からもう何を食べているのか良く分からなくなってきていたけど。

 

「そういえば、二日後は一度本家に戻ってもらうぞ」

 

「本家に?」

 

 食後、膨れた腹を気にしながら食休みをしていると後片付けをしているペルセウスがそんな事を言った。

 

「ああ。修行後に顔合わせのパーティーがあるんだがダンスもある。お前、そこらへんは全然駄目だろ?」

 

「まあな」

 

 ぶっちゃけフォークダンス位しかやったことない。それを考えると練習は必要だな。

 

「だから修行の内、数日は休日にしてダンスの練習だ。そして何と教えるのは奥方様だ。喜ぶと良い」

 

 奥方様……叔母上か。あの人もあの人で結構厳しいからな。ま、ダンスはキチンと覚えておかないと後々面倒な事になるかもしれないからな。

 

 つか、それは休日じゃないだろうが。

 

「しかし、本当に派手にやられたな。流石は茨木といった所か」

 

「神器無しでこんなにきついとはな。改めて自分の弱さを実感したよ」

 

 こんなのでよく奴らを殺すとのたまっていたものだと、我ながら酷いものだ。

 

 俺の自嘲にペルセウスは否定を返す。

 

「結局のところ、神器も神星剣もお前の力に変わりは無いだろう。お前の場合、素の能力を鍛える事で全体的なパワーアップが可能になるのだからな」

 

「そうか?」

 

「ああ、お前の神器も身体能力を鍛える事で吸収できるのキャパも増えていく事だし、神星剣の基本能力も基礎の極端な迄の底上げだからな」

 

 確かに、その通りなのだろう。そう考えると、一誠の神器も素の能力を上げれば上げる程力を増すことが出来る。

 

 義理とは言え、兄弟だからってここまで強くなる方法が似る必要は無いだろうに。やれやれだぜ。

 

「ふむ、そうだ。どうせならお前の人間界での話を聞かせてくれないか?」

 

「はあ?」

 

 唐突にペルセウスが変な事を言い始めた。

 

「何だって急に」

 

「いやなに。まだ寝るには少し時間もあるだろうし、お前の人間界での生活には興味があった。――茨木もそうだろ?」

 

 え。

 

 俺はペルセウスの視線を辿ると何と岩の上に茨木童子が座り込んでいた。

 

 何時の間に……気配を感じなかった。すげえ、流石は親父殿の眷属と言うべきか。

 

「話ねえ……別に話すことなんて何も無いけどな」

 

「何でも良いさ。普段の駒王学園での生活での話を聞かせてくれれば良い」

 

 駒王学園での、ねえ……。

 

「本当に面白くないぞ?」

 

「構わないさ」

 

 茨木童子も特に反対では無く、無言のままだ。

 

「それじゃあ……」

 

 俺は駒王学園での特にオカルト研究部での話をする。

 

 当たり障りのない当たり前の日常の話をする。

 

 特段、面白い話でも無いが、ペルセウスや茨木童子も口を挟まず聞いていた。

 

 まだ一年も経っておらず、半年も経っていない。その割にはかなり濃い内容だったな。

 

「……でさ、一誠のヤツがまーた契約に失敗してさ。の割にはアンケートでは最高評価何だよなー」

 

「はは、意外性ナンバーワンというヤツなのかもしれなお前の弟は」

 

「まあ、かもな」

 

 俺としてもあれは面白い。一誠はあのままで問題ないだろう。

 

「そういうお前はどうなんだ契約の方は?」

 

「んー? まあ色々なヒトとやってるぞ。あーでも、何故か同世代の女子が多いんだよな。お蔭でリアスや朱乃がアンケートを読むと俺の事睨んでくるんだよな。本当に面倒だ」

 

 こちとら仕事はきっちりとこなしていると言うのに何という仕打ちか。

 

 やれやれと首を振っていると、ペルセウスがあきれ顔をしている。

 

「何とまあ……」

 

「……あの親にしてこの子どもだな」

 

 茨木童子がボソリと呟く。

 

 はて、俺の親が今の話で何か関係してくるのか?

 

 親父殿や母様も俺と同じようなやり取りをしていたのかな。

 

「俺の話もそうだけど、そういやあペルセウス」

 

「ん、何だ」

 

「お前、親父殿達の話をしてくれるって言っていたけど、何時になるんだそれは」

 

 こういう時じゃないと、俺だけで話が聞けない。

 

「ふむ……そうだなゲームが終わったら話してやってもいい」

 

「はあ?」

 

 つまり夏休みが終わりまでかかるって訳かよ。

 

 参ったな。夏休みが終わり前には人間界に戻りたいから時間が無いじゃないか。

 

 思わず恨みがましくペルセウスを睨んでしまう。

 

 それを受けたペルセウスは苦笑を浮かべる。

 

「そんな顔をするなよ。ちゃんと話はする。それは言っただろ」

 

「まあ……」

 

「なーに、その時になったら全員で話をしてやる。な、茨木?」

 

「…………」

 

 ペルセウスの問いに茨木童子は無言で答えるも特に反対しているわけでも無いから多分オーケーなのだろう。

 

「……分かった」

 

 仕方なく引き下がる。

 

 まだ一日目。正直どうなるかはまだ分からないが何とかして必ず強くなる。

 

 強くなって必ず目的を果たす。そう、心に誓うのであった。



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十話

ipad用にキーボード買ったら思った以上に筆が乗った。


「ふん!」

 

「っ!」

 

 茨木童子が繰り出す拳を俺は瞬時に躱す。

 

 そしてその勢いに乗り、魔力を込めた手刀を茨木童子の首に目掛けて打ち込む。

 

 しかし、茨木童子も直ぐに反応して上半身を後ろにずらして手刀を躱す。

 

 躱されたのを見て俺は直ぐに距離を取ろうとする。

 

 だが、茨木童子はそれを許さず、俺の腕を掴む。

 

「げ……」

 

 思わず声が漏れる。

 

 茨木童子がそのまま背中を俺に向ける。

 

 そして勢いよく俺の体を投げ飛ばす。

 

 気が付いたときには背中から思いっきり叩きつけられた。

 

「がっ……」

 

 肺の中から空気が口に流れ、思わず咳き込む。

 

「……安易に攻めすぎだ。攻めるときも常に危険を考えておけ」

 

「了解……」

 

 流石に甘かったか……もう少し考えてやるべきだったな。

 

 昔はそれをきちんと考えていたのに、神器の防御力を手に入れてそれに頼りきりだったんだな。反省しなくては。

 

「だが、魔力の扱い方は大分マシになってきたようだな。最初に比べて攻撃と防御に使う魔力の使い方が上手くなってきている」

 

「まあ、それぐらいはな……」

 

 自分でも魔力の扱い方は結構上手くなってきていると思う。お蔭で無駄な魔力消費を少しは抑えられるようになってきている。

 

 ただ、瞬間的に防御するとか、そういった事はまだ難しい。

 

「まだまだ、だな……」

 

 俺の呟きに茨木童子は首肯する。

 

「では、これも防いでみろ」

 

「え?」

 

 次に俺が目にしたのは眼前に迫る拳だった。

 

 ******

 

「お前、とんでもない修行してんな……」

 

「別に、慣れれば何にも問題は無いぜ」

 

 握り飯を食べながらアザゼル先生に返す俺。

 

「だからって体の殆どが包帯まみれじゃねえか。フェニックスの涙使った方が良いと思うが?」

 

「体を痛み付けてその分回復させる必要があるんだと」

 

「……実に鬼らしい」

 

 呆れたように首を振る先生。

 

 茨木童子の拳をもろに顔面に喰らった俺は右の顔を殆ど覆い尽くすようにして包帯を巻いている。

 

 で、その包帯を巻いている最中にアザゼル先生が来たわけだ。

 

 先生はリアスたちが作った握り飯を持ってきてくれて俺も現在休憩中だ。

 

 ティアには悪いが修行とかにはこっちの方が食べやすいな。今度からはちゃんと言っておこう。

 

「イッセーの奴も中々にやっているが、お前の方が結構やばいな」

 

「む?」

 

 一誠? そういやあいつ、龍王と修行してるんだっけ?

 

「あいつ、どんな修行してのさ?」

 

「ひたすらタンニーンに追いかけまわされているらしいぜ。死ぬかと思ったとか何度も言っていたな」

 

「そんな事してんのか」

 

 ドラゴンに追いかけまわされるとか、まんま怪獣映画だな。

 

「お前もサイズが違うだけで追いかけ回されているのは同じだろうけどな」

 

 確かに、それは言えているな。

 

「てか、先生が来たって事はダンスの方か?」

 

「何だ、聞いていたのか。ああ、そういう訳だから少し借りていくぞ」

 

 先生が近くにいる茨木童子に声をかける。

 

 茨木童子も無言で応える。

 

「しかし、イッセーやお前も無茶な修行をしているな……」

 

「今さらだろ。そういえば、他の連中はどうなっているんだ?」

 

 流石に俺たちみたいな無茶苦茶な修行はしていないと思うが……。

 

「ああ、それな……」

 

 先生が歯切れが悪そうに言葉を濁す。

 

「小猫が倒れた」

 

「は?」

 

 小猫が、倒れた?

 

「何だってまた」

 

「俺が与えたメニューを過剰にやり過ぎたせいだ。つまりオーバーワークだ」

 

 なんとまあ……何をしているんだあの後輩は。自分の限界がわからない訳では無いだろうに。

 

「何をそんなに必死になっているのか……」

 

 俺は空を仰ぎながらぼそりと呟くのであった。

 

 ******

 

「はい、そこでステップ。次にターン」

 

 音楽を耳に入れながら俺は必死に叔母上の指示に従う。

 

「はい、そこは遅れない。パートナーが戸惑ってしまいますよ」

 

「は、はい」

 

 くそ、戦闘とは訳が違うな。相手と呼吸も合わせないといけないから、そこら辺もしっかりと考えないといけないし。

 

 だが、ここで覚えなくてはいけないし、中々に厄介だ。

 

「ふう、すこし休憩しましょうか」

 

 漸く休憩だ。さっきから延々と続いていたからこのまま叔母上が満足するまで続くかと思ったぜ。

 

「筋は良いわ。これなら予定通りにいけそうね」

 

「なら良いんですけど」

 

 壁際に座り込んで俺は休憩する。

 

「しかし、茨木童子も相変わらずというべきかしら。顔大丈夫?ちゃんと治すのですよ?」

 

 側に座った叔母上が包帯の上から俺の顔を撫でる。

 

「……叔母上は茨木童子と知り合いなんですか?」

 

「それはまあ、レオンの眷属でしたからね。あまり交流は無かったけど、レーティングゲームは毎回見ていましたし。まあ彼の戦いっぷりは恐ろしいの一言でしたから」

 

「恐ろしい?」

 

「ええ、相手に一切合切、躊躇なく拳を叩き込むから相手は生死の境目をよく送っていましたから。正直、死ななかったのが不思議なくらいです」

 

 ……茨木童子の奴容赦無いのは昔からか。俺も死な無いようにしないとな。

 

「……そういえば、小猫の奴が倒れたって聞いたんですけど」

 

 少し気になったことを聞いてみる。

 

「ああ、今は部屋で休んでいるでしょう。リアスや朱乃さんが付き添っているはずです」

 

 成る程、だからこっちにもどってから一度も会っていないのか。

 

「彼女も今は自分の存在と力に向き合っています。難しい問題です。ですが、これは自分で答えを出さないといけません」

 

「……やっぱり、小猫も訳ありだったんですね」

 

「あら、気づいていたのですか?」

 

「まあ、あれだけ過去に色々とある面子が揃っているんです。一人だけ普通、というのも何だか可笑しいですし」

 

 俺や一誠が入る前からいるメンバーは皆が過去に碌でもない事を経験している。リアスも恐らくだけどそういった連中を中心に眷属として向かい入れている気がするしな。

 

「ただ、どんな過去を持っているかは分からないですけどね」

 

「まあ、貴方は最近になって戻ってきたのですものね。知らないのも当然です。少しお話ししましょうか」

 

 そうして叔母上は語り出す。

 

 良くありそうな、それでいて何とも悲しい二匹の姉妹猫の話を。

 

 ******

 

「……よお」

 

 小猫が休んでいる部屋に俺はノックをしてから入った。

 

「あら、カレン……ってどうしたのその顔!?」

 

「ああ、兄貴ってどうしたんだよその顔!?」

 

「カレン、一体何が!?」

 

「お前ら、揃いも揃って驚きすぎ」

 

 そりゃあまあ、右の顔全体を覆うように包帯を巻いていたらそんなリアクションを取るかもしれないけどさ。

 

「まあ色々とあってな」

 

「色々って……」

 

 色々は色々だ。聞くな一誠よ。

 

 俺は小猫が休んでいるベットに近づく。

 

 近くに置いてあった椅子を逆にして、背もたれに顎を乗せるようにして座る。

 

 小猫は上半身を起き上がらせており、普段と何なら変わらないように見えるが、決定的に違う部分があった。

 

「マジか」

 

 小猫の頭の上、猫耳が生えていたのだ。恐らく、普段隠せているけど、それすら出来ないくらいに弱っているんだろう。

 

「聞いたぜ、小猫。猫又なんだってな?しかも、その中でも最上級の猫魈だと」

 

「……」

 

 猫又。日本の鬼と同様妖怪の一種で大抵は死んだ猫が化けて二本の尾を持つ妖怪などで有名だ。

 

 この猫又、人を襲ったり霊を司ったりと色々と伝承を持っている事で知られている。

 

 その中でも上位クラスの猫魈は実力も半端ないそうだ。

 

「……そんな話をする為にここに来たんですか?」

 

 少し、というか、マジで不機嫌そうに俺に聞いてくる小猫。

 

「別に。ただの確認。倒れたって聞いたから可愛い後輩の見舞いに来たのさ」

 

 ニカっと笑う。

 

「しっかし、倒れるまで修行するとか、お前マゾか?」

 

 からかうように言う俺。

 

「ちょっと兄貴」

 

 一誠が咎めるように言う。

 

「……強く、なりたいんです」

 

「ん?」

 

「私、戦車(ルーク)なのに、一番……弱いから。お役に立てないのは嫌なんです……」

 

 ポロポロと涙を零しながら吐露する小猫

 

 ふむ、ここまで感情を露わにするとは、よっぽど思い悩んでいたわけ、という事か。

 

「でも、あの力を使うのは嫌……姉様と同じようになるのは……嫌」

 

 姉様。例のはぐれ悪魔か。

 

 小猫は昔、同じ猫又の姉と二人きりで生活していた。

 

 そしてある日、姉がある悪魔の眷属になる事で二人は漸く安住の地を見つける事が出来た。

 

 しかし、そんな生活も長くは続かなかった。

 

 悪魔に転生した事で姉猫の秘められた力が一気に解放されて、姉はその力に溺れた。

 

 ついには、主を殺して数々の追撃を振り切るだけの凶悪なはぐれ悪魔になってしまった。

 

 悪魔たちはこの責任を姉では無く、残された妹の小猫に押し付けた。

 

 妹の方もいつ暴走するかどうか分からないから今の内に処分するべきだ、と。

 

 胸糞悪い話だが、実際、犯罪者側の家族がひどいバッシングを受ける事は良くあることだ。まあ、処分ってのは行き過ぎだと思うが。

 

 そんな小猫を救ったのはサーゼクス兄さんだったそうだ。

 

 小猫にまで罪は無いと、自分の元で監視すると、上役達を説得したそうだ。

 

 そして小猫をリアスに預けた。『小猫』という新しい名前を与えて。

 

「なあ小猫、俺も自分っていう存在に疑問を持ったことがある」

 

「……?」

 

「ガキの頃、まあ詳しい話は省くけど。当時俺はこの紅髪の為に色々と嫌な目にあっていたんだ。正直、何でこんな髪を持って生まれちまったんだって何度も思った」

 

 ガキの頃は今以上にやさぐれていた。特に、母様が死んでからは一番やばかったかな。辺り構わず八つ当たりをしていた。

 

「俺一人じゃ多分受け入れることが出来なかった。俺という存在を受け入れてくれた人がいたからこそ、今の俺がある」

 

 もしもそいつらに会わなかったら、と思うと正直考えられないな。

 

「小猫、自分で受け入れられるならそれで問題無い。でも、もしも一人で本当にダメなら周りを頼れ。信じろ。少なくとも俺は相談位なら乗ってやる」

 

 ポン、と小猫の頭に手を乗せる。

 

「さて、じゃあな。俺はさっさと戻るわ」

 

 目的も果たしたし、あの鬼との特訓に戻りますか。

 

「カレン」

 

 部屋を出ようとした時朱乃に声を掛けられた。

 

「どうした朱乃?」

 

「……分かっているくせに」

 

 苦笑する朱乃。

 

 朱乃は俺の手を握ると、自分の胸元に押し付けるって、え、ちょ。

 

「な、何さ」

 

 胸の感触が、え、ちょっと?

 

 俺が混乱している中朱乃は目を閉じ、俺の手を握りしめる。

 

 数秒して、目を開けると、パッと手を離す。

 

「ん、大丈夫ですわ」

 

「何さ、もう」

 

 若干顔が赤くなっているのが自分でも分かる。

 

「ふふ、私も少し勇気を貰いました」

 

「勇気?」

 

「私たちも頭では分かっているんです。でも、どうしても心が追いついて来ない。だから、もう少しだけ待っていてください」

 

「……追いついて来れるか?」

 

「ええ、勿論」

 

 そう告げる朱乃の顔は心配なさそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十一話

「……」

 

 火山口付近。俺は目の前の茨木童子と対峙していた。

 

 修行最終日。この日は腕輪を外されて俺は久しぶりに神器を手にする事が出来た。

 

 リンドからは散々文句を言われたが。二週間近く誰とも話す事が出来ず、何かに縛られる不快な気分をずっと感じていたらしい。

 

 まあ、腕輪を嵌めたのは俺じゃあ無いんだけどな……。

 

 そして何とか宥めすかしてリンドの機嫌をとる事を専念した。

 

 いやあ、機嫌を悪くした女の機嫌を直すのはマジで大変だわ。つうか、あれか?俺と付き合いのある女が皆がそんな感じなのか?そうだとしたら何か納得がいかないな。

 

 閑話休題。

 

 修行最終日という事で、最後の模擬戦をやる事になった。

 

 まあ、模擬戦と言えるだけの規模では済まされないだろうけど。

 

 因みに禁手化は禁じられている。あくまで自分の素の力と、通常の神器の力のみで戦うように言われている。

 

『全く、どんな修行をしていると思えば、ここまで強力な鬼相手に素の力のみで戦っていたとは、貴方は自殺願望者ですか?』

 

 そこまで言っちゃう?

 

『ええ、言いましょう。私の今代の宿主は馬鹿で阿呆で考えなしで、すぐに冷静さを失う子供で馬鹿ですね』

 

 馬鹿って二回言われた。二回言われたんだけど!?

 

 何だろう。まだ機嫌悪いのか?何時になく口が悪いぞこの龍。口は無いだろうけど。

 

「……そろそろ始めるぞ」

 

 黙っていた茨木童子が口を開く。

 

「良いか、あくまで使って良いのはその状態だ。禁手化を使うのは禁止する」

 

「ああ」

 

「では……」

 

 茨木童子が……構えた。

 

 そう、構えたのだ。この修行期間、一度も構えたことが無い茨木童子が。

 

「……」

 

 俺も剣を構える。ここまで剣を握らなかったのは恐らくあの時以来だろう。

 

「……は」

 

 息を短く吐く。

 

 油断するな。一瞬で奴から動きを逸らした瞬間にやられる。

 

 一挙一動に目を凝らせ。見逃すな。さすれば勝機がある。

 

「……」

 

「……」

 

 ジリジリと足を動かす。

 

 突起物が多い火山だ。足元にも神経を集中する必要がある。

 

 汗が垂れる。流石に火山口近くだとここまで暑いか。

 

 緊張感が漂う。

 

 そして、それは訪れた。

 

 火山口からマグマが噴出する。

 

「っ!」

 

「……」

 

 同時に動き出す。

 

 ******

 

「よお、茨木」

 

 ペルセウスが親しげに話しかけるも、茨木童子は無言であった。

 

「カレンはもう山を降りたのか」

 

「……ああ」

 

「どうだったよ、あいつ?」

 

 ペルセウスの質問に茨木童子は右腕を上げることで答える。

 

 右腕には刀傷が残っており血が流れていた。

 

「驚いた……カレンの奴、そこまで力を付けたのか」

 

「あの二人の才を十二分に受け継いでいる。それは間違いないだろう」

 

「我らが主とその妻の才能か……末恐ろしい」

 

 冥界のみならず、各勢力の上層部にその存在を知られているレオン・グレモリーと朝凪日月。その二人の間から生まれた子供。注目を浴びるのは当然と言えるだろう。

 

「それよりも、見たかあの傷」

 

「傷……カレンの胴体に出来ているあの大きな傷か」

 

「ああ、あれは間違いなく神星剣によるものだ」

 

 かつて自分たちが受けた傷があった場所を摩りながら茨木童子は言葉を続ける。

 

「神星剣でつけられた傷はそう簡単に治らない。それは俺たちが一番よく分かっている事だ」

 

 眷属の殆どが命を落とし、生き残ったのはセルヴィアと茨木童子、そしてペルセウスの三名だった。

 

 その三人も神星剣でつけられた傷が治らずしばらく生死の境目をさまよっていた。

 

「カレンは日月の持っていた神星剣の加護のお陰で何とか大丈夫だったようだな」

 

「……だが、傷跡は残っている」

 

「まあ、それもそうだが、問題はカレンの持っている神星剣の方だ。間違いなく、四死剣の連中は狙ってくるぞ」

 

「そして小僧自身も、だ」

 

 二人の間に沈黙が漂う。

 

「茨木、分かっていると思うが……」

 

「分かっている。……あの時の約定は守るつもりだ」

 

「なら、良い」

 

 ペルセウスは空を見上げる。

 

 そこには変わらず、冥界独特の紫色の空があった。

 

(そういえば、彼女はこの空を嫌っていたな)

 

 ――何よこの空。気持ち悪いわねー。人間界の方が断然綺麗に決まっているわ――

 

 冥界に住む全員を敵に回すような物言いを公衆の面前で堂々と言い切るのだから、彼女の豪胆さには呆れてしまう。

 

 だが、そんな彼女に嘗ての主人は惚れ込んだんだろう。でなければ、あれ程にアピールしないだろう。

 

「さて、我らが新しい主の恋路はどうなるかな?」

 

 これからの事を想像しながら、ペルセウスは笑った。

 

 ******

 

「うぃーす、元気かーお前ら」

 

 茨木童子との最後の打ち合いを終えて、グレモリー本家に帰還した俺。

 

 他の面々は既に戻ったらしく、一同揃っていた。

 

「カレン先輩、お久しぶりです」

 

「よお、祐斗。お前も結構ボロボロだな」

 

「先輩程じゃあありませんよ」

 

 そう言って笑う祐斗だが、体には結構包帯が巻かれている。

 

 そして、身に纏うオーラが随分と変わった。以前よりもずっと洗練されている。

 

 こりゃあ、期待大だな。

 

「うむ、皆修行はしっかりと出来たようだな」

 

「おお、ゼノヴィアって、何だその格好?」

 

 思わず唖然とする。

 

 何せ格好が完全にミイラとしか言えないほどに包帯だからけなのだ。

 

「うむ、怪我したところをどんどん包帯を巻いていったらこうなった」

 

「お前、薄々思ったが、馬鹿だろ」

 

「何故だ!?」

 

 いや、そうだろう、どう考えても。

 

「兄貴」

 

「おお、一誠か」

 

 確か、一誠も山籠りをしていたんだったな。俺と違うのはドラゴンに追いかけ回されていたんだっけ。

 

「兄貴は大分強くなったのか?」

 

「さあ、力の使い方は少しはマシになっただろうけど、強くなったのかは分からないな」

 

「なんだよ、兄貴にしては珍しく弱気な発言だな」

 

「言ってろ」

 

 そんな風に軽口を叩いていると、リアスたちも来て、場所を移して修行の成果を話し合う事になった。

 

 そんでもって、何故か俺たち兄弟の修行内容がドン引きされた。

 

 皆、ちゃんとした場所で寝泊りしながら修行をしていたらしい。

 

「あの、先生?俺たちだけなんか酷くありません?」

 

「俺もカレンは兎も角、お前は直ぐに逃げ出すと思ったんだよ。正直驚いたぞ」

 

 あっさりと言う先生。

 

「俺は兎も角って、俺が逃げ出す事は考えなかったのかよ」

 

「お前の場合、逃げ出したところで茨木童子に連れ戻されて終わりだろ?」

 

 確かに。

 

「そ、そんな……俺、魚とか、食べられそうな猪とか捕まえたり、水を一回沸騰させてから水筒に入れていたりしていたのに」

 

「お前、サバイバル技術がしっかりと身についたじゃないか。良かったな」

 

「そんなんついても嬉しくない!つうか、兄貴もこんな感じだった!?」

 

「あーいや、すまん。飯に関しては全部差し入れがあったから大丈夫だった」

 

「なんだよそれーーーーーー!」

 

 涙を滝のごとく流して地面を叩く一誠。

 

 正直、これにビックリだよ一誠よ。

 

「まあ、一誠よ。こういった辛い出来事の後には必ず良い事もある。そう考えろよ」

 

「良い事って?」

 

「…………さあ?」

 

「間が空いた上に無いのかよ! ちくしょーーーう!」

 

 うるせえな。全く。

 

「まあ一誠は放っておくとして」

 

「放っておかないで下さいよ先生!」

 

「もう、イッセーたら、アーシアお願いね」

 

「は、はい。イッセーさん」

 

「うう、アーシア……」

 

 アーシアに抱きつく一誠。アーシアもよしよし、と頭を撫でている。

 

「しかし、そんだけやって禁手化はで出来なかったか。そこは残念だな」

 

 そう言うが、然程残念そうでも無い様に見える先生。

 

 まあ、そう簡単に禁手化出来たら苦労しないか。俺や祐斗も本人に劇的な何かがあったからこそ、禁手にいったんだし。

 

 だからこそ、先生もそこまで残念そうじゃないんだな。

 

 一通りの成果報告を終えると、夜からのパーティーに向けて女性陣は着替えを始めて、その間男性陣はその辺をぶらついていようと思ったのだが……。

 

「俺も着替えなきゃいけないのか?」

 

「此度のパーティーはカレン様の帰還を知らしめるためのものでもあります。その御身はキチンとした礼服を着ないのは考え無しでございます」

 

 そこまで言うか。

 

 仕方なく、本家に来ていたティアから礼服を受け取ろうとする。

 

「さ、こちらに」

 

「……ちょっと待て。何、俺はお前によって着替えさせられるのか?」

 

「? 何か問題が?」

 

「大有りだよ!」

 

 何が楽しくてこの年になって自分と同年代の女の子に着替えを手伝わられなくちゃいけないわけ!? 嫌だよ!?

 

「どうされたのですかカレン様?」

 

 本当に不思議そうに首を傾げるティア。

 

 あれーあれのか。俺が悪いのか。俺が間違っているのか。

 

「い、いやあ、俺もさ、男の子だから、やっぱり恥ずかしいんだよ。な?」

 

「そうでしたか……申し訳ありません。カレン様のお心を知らずに、仕える者として失格でございます」

 

 本当に後悔しているようで、顔を伏せるティア。

 

 流石にちょっと悪い事しちゃったか?

 

「ま、まあ、分かってくれれば良いさ。気にしないでくれ」

 

「はい、でしたら私も心を鬼にさせていただきます」

 

 ……はい?

 

「カレン様のお心、私目にも良く分かりました。しかし、グレモリー家に連なるお方がそのような事で動揺されてどうされますか」

 

 あれ、何か雲行きが。

 

「これからの長い悪魔としての人生、時としては着付けが難しい服装をお召しになれる事もありましょう。そのような時に先ほどのような事を言うおつもりですか」

 

 もしかしなくてもこれって説教されているよね?

 

「カレン様」

 

「は、はい」

 

 思わず敬語が出る。それくらい今のティアには迫力がある。

 

「今すぐに慣れろとは、私も言いません。ですが、今日は私は介添えをさせていただきますので、そのつもりで」

 

「……はい」

 

 逆らえなかった。

 

******

 

「なあ、兵藤。会長って、カレン先輩の事が好きなのかな?」

 

「は?」

 

 グレモリー家の庭で匙はそんな事を唐突に言い出した。

 

 一誠は、思わず目をぱちくりとさせるが、直ぐに気を取り直して聞いてみる。

 

「何だって急に」

 

「いやさ、会長って先輩に会うといつも生徒会に勧誘していたんだよ。先輩は全部断っていたけど」

 

「ああ、そういえば、そんな事あったな」

 

 まだ悪魔になる前にカレンがそのような事を食事中に愚痴を零していたことを思い出す。

 

「……え、マジなのか?」

 

「そうとしか思えねえ」

 

 半端無いほど落ち込む匙。

 

「ちくしょう、お前の兄貴は何なんだよ……三年生の中でも二大お姉さまと言われているグレモリー先輩と姫島先輩に好意を抱かれて、しかも会長までって……。納得いかねえ」

 

「俺に言われても」

 

「お前弟だろ!? 何か弱点とか無いのかよ!?」

 

「何を聞こうとしてんだよお前!?」

 

「闇討ちでも何でも良い! あのヒトを倒して会長を!」

 

「お前少し落ち着け!」

 

 そうして、女性陣が来るまでギャーギャー言い争いをしている二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十二話

「ドラゴンの上から空を見る。冥界に来てから色々な事を体験したが、コレが一番の大きな出来事かも」

 

 ドラゴン――タンニーン殿の背中で寝そべりながら俺は呟く。

 

 恥ずかしき着替えを終えて中庭に向かうと、既にほかの面々は揃っていた。

 

 リアスたち女性陣は既にドレスに着替えて完全にメイクも済ませていた。

 

 まあ、何故かギャスパーもドレスを着ていたのは突っ込みたくなったが。

 

 で、会場にはどうやって行くのかと思ったら、なんとタンニーン殿が眷属を率いて現れたのだ。

 

 聞けば、一誠がタンニーン殿と約束をしていたらしく、会場まで乗せていってくれるそうだ。

 

「しっかし、ドラゴンの上に乗って空を飛ぶ感じはどうよリンド?」

 

『……最悪ですね。まあ、これがドライグだったらゲロを吐きたいくらいです』

 

 俺のからかいにリンドは酷く冷たく答える。

 

 まーだドライグの事恨んでいるのか。相当根が深いな。

 

 というか、吐き出す胃袋持っていないだろこいつ。

 

「お前はまだ根に持っているのか、リンドヴルム? いい加減許してやったらどうだ?」

 

 呆れる様に言うのはタンニーン殿だ。

 

『貴方は封印されていないからそんな事が言えるのですよタンニーン。巻き添えでこうなれば私の気持ちも理解できるでしょう』

 

「まあ、確かに封印されたことは無いが……そうか、そう考えると、龍王の内、ヴリトラとファーブニルは神器に封印されて、ウーロンとミドガルズオルムは隠居。唯一現役なのはティアマットぐらいか。随分と減ったものだ。いつの世も、強すぎるドラゴンは退治されてしまうものだ」

 

 どことなく寂しげなタンニーン殿。

 

 そんなタンニーン殿をリンドは鼻で笑う。

 

『何を今更。私たちドラゴンは好き勝手に生きて、暴れて、他者への迷惑などお構いなし。自分の欲求を満たせればそれで良い。それが私たちドラゴンでしょうに。だからこそ、他の勢力の者達から嫌われていた』

 

「それを言っては元の子も無い気がするがな」

 

『まあ、滅びゆくドラゴンの種族を救うために悪魔に転生する貴方など、私には理解できませんね。というより、貴方ぐらいでしょうね、ドラゴンという種全体で物事を考えているのは』

 

「褒められているのであろうな。リンドヴルムの口からそのような事が出るとは思いも寄らなかったが」

 

 そう、タンニーン殿はとある果物、ドラゴンアップルという果物で生きているドラゴンの種族を助けるために悪魔に転生したのだ。

 

 何でもこのドラゴンアップル、既に人間界では存在せず、冥界の悪魔領のほんの一握りの土地でのみあるという。

 

 当然、悪魔がタダでドラゴンに土地を分けるわけ無く、タンニーン殿は転生悪魔となってレーティングゲームを始めたと言う。

 

 レーティングゲームで上級悪魔となれば、魔王から直轄領が貰える。そうすることでドラゴンアップルが成っている場所を丸ごと領土にしたのだという。

 

「おっさんは良いドラゴンだな」

 

 一誠がタンニーン殿をそう表現する。

 

 それに対してタンニーン殿は大笑いする。

 

 自分は力ある龍として力ない龍を守っているだけに過ぎないと。

 

「俺もタンニーン殿以外に龍王と会ったことが無いから分からないが、リンドが言った様に貴方ぐらいじゃないのか、ドラゴンという種全体で物事を考えているのは」

 

「かもしれんな。ま、俺はこういう生き方が存外気に入っている。だから構わん」

 

 一旦そこで口を閉ざし、タンニーン殿は話を変える。

 

「しかし、改めて見るとやはりそっくりだな元チャンピオンに」

 

「元チャンピオンって……親父殿か?」

 

「ああ、以前ゲームで戦ったことがあったが、いやはや。強かったぞ。現チャンピオンである皇帝(エンペラー)にも引けを取らなかった。何せ公式試合無敗だからな」

 

「無敗!?」

 

 親父殿というか、セルヴィア達もそんなに強かったのか。まあ、強いのは分かっていたけど、そこまでとは……。

 

「それに、お前の母親の朝凪日月は女王でありながらどの騎士よりも剣で優っていた。正に、剣の女王(クイーン・オブ・ソード)の異名に相応しかった。俺も何度も斬り付けられた」

 

 どことなく遠い目をして言うタンニーン殿。

 

 きっと、色々とあったんだろうな。

 

「兄貴の両親ってすごかったんだな」

 

 一誠の言葉にタンニーン殿は首を振る。

 

「すごいと言うモノじゃない。レオン・グレモリーは朝凪日月を女王に迎えるまで女王無しで戦って負けていなかったのだからな」

 

「はあ?」

 

 つまり、母様と出会うまで最強の駒を使わないで勝っていたのか? どんだけだよ。

 

「流石にそれは驚くな」

 

「だろうな。ま、他にもあの二人には色々な逸話がある」

 

「例えば?」

 

「朝凪日月が欲しがった剣の為に領土の一部を売ったとか」

 

「……おい」

 

「レオン・グレモリーが朝凪日月に何度も求婚を迫ったために『ストーカー野郎!』と罵倒されてもめげなかったり」

 

「ちょっと待て」

 

「後は――」

 

「もう良い! 何だろ、この聞きたくも無い残念な話を聞いた感じは!」

 

『事実、残念な話を聞いていたんでしょうに』

 

 リンドのツッコミも聞かなかったことにする。

 

 あれだな。うちの両親はどこかおかしいヒトなんだな。うん、そうに違いない。

 

『間違いなく受け継いでいますね』

 

 あーあー聞こえなーい。何にも聞こえなーい。

 

 くそう、セルヴィア達に聞くのが少し怖くなってきたぞ。他の両親の武勇伝を聞くと更に残念な感じになるだろうな。

 

 はあ、今から憂鬱になってくるぜ。

 

 ******

 

 パーティー会場に着いてまず最初に俺を迎えたのは目を覆うほどの光だった。

 

 どうやら様々な会場が一箇所に集まった複合会場らしく、ドームが無数に存在している。

 

 その中でもタンニーン殿達大型な存在用のフィールドに降り立った。

 

「では、俺たちは別の会場に向かう。またな、兵藤一誠、カレン・グレモリー」

 

「ああ、またなおっさん」

 

 再び飛んでいくタンニーン殿達。

 

「さてと、俺たちはどこに向かえば良いんだ?」

 

「こっちよ」

 

 リアスに先導されて車に乗る俺たち。

 

「カレン、分かっていると思うけど、今回貴方は挨拶回りが重要な事になるわ」

 

「ああ」

 

 帰還したとはいえ、俺の存在はまだ完全に公になっていると訳では無い。

 

 だからこそ、多くの上級悪魔が集う場所などでその存在をお披露目する必要がある。

 

「ところで、カレン、私に何か言うことない?」

 

「んー?」

 

 どことなく、自分の体を見せつけるリアス。

 

 俺は何となく見てみる。

 

 リアスはドレスを身に纏っており、髪もキチンと整えている。

 

 化粧も薄くだがしており、それが普段とは違う雰囲気を出している。

 

 ふむ、何かいう事か。

 

 …………。

 

「いや、別に」

 

「……」

 

「え、ちょ、襟元掴まないで。待て待て滅びの魔力は不味い! それをやられると流石に俺でも危ない!」

 

「構わないわ。女の褒め方を知らない男はこうなる運命なのよ」

 

「何言ってるのさ! お前大丈夫か!?」

 

 何さこれ! 不味いぞ! ええい、兎に角何か言わなくては。

 

 ……何を言えばいいんだろ。

 

「……カレン、部長は自分の姿を褒めてほしいのですわ」

 

 近くに座っていた朱乃がこっそりと伝えてくる。

 

「自分の姿って、リアスはいつも綺麗じゃねえか。ドレスだって結構着ているから似合うのは知ってるし」

 

「……そ、そう」

 

 急に顔を真っ赤にしたリアスが魔力を霧散させて、座り込む。

 

 やれやれ、何とかなったか。

 

 ため息を付いていると、袖を引っ張られる。

 

 そちらを見ると、朱乃も何か言いたそうにこちらを見ている。

 

「……」

 

「…………」

 

 これはあれか? あれなのか。

 

「……朱乃も似合っているぞ。普段は和服ってイメージが強かったからドレスもギャップが合っていいな」

 

「うふふ、ありがとうございます」

 

 心から嬉しそうに笑う朱乃。

 

 で、リアスは面白くなさそうにすると。

 

 ほんと、どうすれば良いのやら。

 

「そういや、ソーナと何か話していたけど、何を話していたんだ?」

 

 話題を変えてリアスに話を振る。

 

「ああ、ゲームについて宣戦布告を受けたのよ。『私たちが絶対に勝つ』って」

 

「ほうほう、あのソーナがね。何だか意外かな」

 

「そうでもないわ。ソーナはああ見えて負けず嫌いな所もあるし。それに、今回のゲームもソーナにとっては夢を叶えるための第一歩といった所ですもの」

 

 夢、か。冥界に誰もが通えるレーティングゲームの学校を作るっていう。

 

「けど、私達にも夢がある。だからこそ、今回のゲームは負けられないわ」

 

 意気込むリアス。

 

 リアスにも叶えたい夢がある。こんなに意気込むのも無理は無いか……。

 

 何となく、羨ましくも思う。今の俺には残念ながらそういった夢は無い。

 

 憧れない、と言えば嘘になるが、そうまでして夢を持つ気は無い。

 

 今の俺にとって叶えたいことはただ一つ。それさえ叶えられればいい。

 

******

 

 パーティー会場に着き、あいさつ回りを始める俺とリアス。

 

 途中、親父殿たちの話を聞いたのだが、残念がらタンニーン殿が話したような事ばかり。

 

 ……いや、ホント何してんのあの人たちは。

 

 そしてもう一つ分かったことがある。

 

 あいさつ回りをしている中で少なからず俺に嫌悪を感情を向けていた奴もいた。

 

 勿論、露骨に出していたわけでは無いが、俺の事を見下すように見ている様に感じた。

 

 恐らくは親父殿根強い人気や俺がハーフだってことが影響していると思うが、まだよく分からないな。

 

 グラスに入ったジュースを飲みながら俺は壁に背を預けて会場を見渡す。

 

 リアスや朱乃は他の同世代の女性悪魔と楽しそうにしゃべている。

 

 祐斗もお姉さん世代を中心に囲まれている。

 

 一誠たちは周りの空気に圧倒されたのか、壁際で休んでいた。

 

 さて、大体の挨拶は済ませたし、ここからどうするか。

 

「お、お久しぶりです」

 

「ん?」

 

 話しかけられて俺はそちらを見る。

 

 見ればそこには金髪縦ロールの少女が。

 

「……ごめん、誰だっけ?」

 

「レイヴェル・フェニックスです! 貴方に決闘で負けたライザー・フェニックスの妹の!」

 

「ああ、君か」

 

 あの時以来だからすっかり忘れちまっていたぜ。

 

「全く、リアス様と同じグレモリー一族と聞いていたのに、何ですかその態度は」

 

「はは、済まない済まない。ほら、あの時は俺も色々と余裕が無かったしさ、許してくれよ」

 

 いやあ、本当に久しぶりな気がするな。

 

「そういや、馬鹿兄貴は何している? 相変わらず女の尻でも追っかけているのか?」

 

「馬鹿……いえ、貴方に負けたショックで家に引きこもっておりますわ」

 

「あ? マジで? あいつが?」

 

 あの自分に酔っているとしか思えないあの野郎が? はは、笑えてきた。

 

「まあ、調子に乗っていたところもありましたからいい薬だと思いますが」

 

 この子、意外に冷たいな。兄貴が引きこもっているのに。

 

「と、所で、貴方も王としてレーティングゲームを始めるのですか?」

 

「まあ、そのつもりだけど」

 

「眷属はもう集まっておりますの?」

 

「いや、まだまだだな。僧侶なんかは全然候補いないし」

 

 あいつらもなってくれるかどうか。

 

「そ、そうですか」

 

 ぱあ、と顔を輝かせるレイヴェル。

 

「確か、お前さんも僧侶だったな」

 

「ええ、今はお母様の僧侶ですが」

 

「どういう事だ?」

 

 聞けば、同じ駒同士なら『トレード』が出来るそうだ。レイヴェルはライザーと母親の未使用の駒で『トレード』したことで今は母親の僧侶らしい。

 

 で、母親はゲームをやらないから実質フリーの状態らしい。

 

「成程ね。そんな制度もあるんだな」

 

「主同士が決めればそれでトレード出来ますが、デリケートな部分もありますから慎重にする必要がありますが」

 

「ふむ」

 

 まあ、多分俺には縁が無い話だろう。

 

「しっかし、お前さんが俺の僧侶になってくれれば案外助かるかもな。まあ、あり得ないが」

 

 軽く冗談を言ってみると、

 

「本当ですか!?」

 

「うお!?」

 

 身を乗り出す勢いでレイヴェルが迫ってくる。

 

「わ、私を貴方の僧侶に?」

 

「え、いや、そうなったらいいなーって」

 

 何この子。めっちゃ喰いついてきた。え、どういう事?

 

「レイヴェル、旦那様がお呼びに……ってどうしたんだ?」

 

 右の顔に仮面をつけた女性が俺たちの様子を見て目を丸くしていた。

 

 確か、このヒト一誠と戦ったライザーの戦車でイザベルだったな。レイヴェルの付き添いか?

 

 イザベルの言葉にハッと我に返ったレイヴェルは顔を話し、恥じらう様に顔を赤くする。

 

「す、すみません。私ったら」

 

「まあ、良いけど」

 

 いや、ホントビックリしたわ。喰いつきっぷりが半端ないわ。

 

「カレン様、今度一緒にお茶でもしながらお話ししましょう」

 

「あ、ああ」

 

「では」

 

 最後は礼儀正しく挨拶をしてレイヴェルは離れていく。まるで嵐の如く。

 

 ……ホント、何なんだろうな。



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第十三話

「なんだったんだ一体……」

 

 ごきげんよう、とにこやかに挨拶をして去っていたレイヴェルを見送りながら俺は思わず呟く。

 

 なんと言うか、喰いつきすぎだった。正直、若干引いた。

 

 俺の眷属にそんなに成りたいのか?俺と彼女の接点などあの婚約騒ぎのみだぞ。その時だってそんなに話した覚えも無いし。

 

「訳わからないと言った顔をされていますね、カレン様」

 

「ん」

 

 横を見れば、ライザーの眷属の一人、イザベルがそこにいた。

 

「まあな、ってあんたに敬語を使われると何かむず痒いな」

 

「御身はグレモリー家の一族に連なるもの。私もそれ相応の態度を取らせていただきます」

 

 うむ、それもそうだろうが、やっぱり奇妙な感じだ。

 

「話を戻すけど、俺、彼女にそんなに気にいられる事なんてしたっけ? 寧ろ嫌悪の対象真っ盛りな行動ばっかしていた気がするんだが」

 

 あいつの兄貴の婚約パーティーに乗り込んで兄貴ブッ飛ばして、兄貴の婚約者を連れ去ったヤツ。

 

 ……うん、客観的に見たら俺最悪な事してんな。まあ、後悔は全然していないけど。

 

「いえいえ、むしろ逆です」

 

「逆?」

 

「はい、あの時の貴方の雄姿が……」

 

 その時、ビクッとイザベルの体が震える。

 

「どうした?」

 

「あーすみません。私少し用事を思い出しまして、これで失礼します」

 

「は? え、ちょ」

 

 戸惑っているうちにイザベルがそそくさとその場を立ち去る。

 

 俺が首を傾げていると、ふと視界にレイヴェルが入った。

 

 見れば、男性とにこやかに話していたが、どうも男性は若干引き気味だ。

 

 何かあったのやら。

 

「よお、元気そうだな」

 

 後ろからまた声を掛けられる。

 

 今度は誰だ? いい加減めんどくさくなってきたぞ。

 

 そう考えつつ、俺はそれを表情に出さない様にしながら後ろを振り向く。

 

 そこにいたのは、

 

「……オズワルド・ダンタリオン」

 

「あの時以来だな、カレン・グレモリー」

 

 黒い髪に黒い衣装。全身黒ずくめの悪魔。

 

 オズワルド・ダンタリオン。若手悪魔の中でも最強と言われているサイラオーグと同等と言われるほどの男。

 

 見れば、隣にはそれぞれ同じ顔で同じ衣装で、同じ茶色の髪を持つ少女達が侍っていた。

 

 双子、何だろうな。同じ顔をしているし。

 

 しかも、こいつ等まるで隙が無い。かなりの使い手だな。流石は、と言う所かな。

 

「何の用だ?」

 

 若手悪魔が集った時の事を思い出すと、知らず知らずのうちに口調が固くなってしまう。

 

 そんな俺の態度にオズワルドは苦笑する。

 

「怖い顔するなよ。俺はただ、お前に会いに来ただけだ」

 

「そうか、もう会ったから良いな。じゃあな」

 

「待て待て。もう少し話をしようぜ」

 

 馴れ馴れしく肩に腕を絡ませるオズワルド。

 

「気持ち悪い。放せ」

 

「ははは、お前素直だな。やっぱ気に入ったわ」

 

 何こいつ。本気でめんどくさい。

 

「で、話って何だ? 俺はお前と話すことなど何も無いぞ」

 

「やれやれ、つれないなあ。まあ、良いや。本題に入ろう」

 

 一旦口を閉ざすと、オズワルドは声を低くして俺の耳元に囁く。

 

「……なあ、お前が持つ神星剣ってどんな感じだ?」

 

「っ!?」

 

 思わず、息を呑む。

 

「あ、その反応。やっぱり持ってるんだ」

 

 舌打ちしてしまう。

 

「……何故その存在を知っている?」

 

 先生やゼクス兄さんが言うには神星剣の存在を知っているのは三大勢力の上層部の中でも本当に一握りだけだと聞いている。

 

 間違ってもこんなヤツがその一握りの訳ない。

 

 俺の質問にオズワルドは笑みを浮かべるだけだ。

 

「さあ、何でだと思う?」

 

「…………」

 

 口を割らせるか? 思わず考えたが、直ぐにその考えを捨てる。

 

 何を考えているのやら。ここは上級悪魔たちが集う場所。そんな場所で騒ぎを起こしたら、俺以外にも迷惑が掛かってしまう。それだけは避けなくてはいかない。

 

 俺はオズワルドの手を振り払う。

 

「悪いがお前に教えることなんて何一つ無い。じゃあな」

 

 これ以上、こいつと話したくない。話していたら色々と厄介な事が起きるだろう。

 

 俺がオズワルドに背を向けて歩き出した瞬間だ。

 

「所で、この会場から姿を消したヤツが三人ほどいるんだが、分かるか?」

 

 唐突なオズワルドの質問に俺は足を止める。

 

「……何?」

 

 思わず、俺は辺りを見渡す。

 

 そして、ここにきて漸く気づいた。

 

「リアス、一誠、小猫……?」

 

 三人がいない。一人だけならトイレ等と思えるが、流石に三人同時に居ないのは気になってくる。

 

「急がないと不味いんじゃないか?」

 

 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるオズワルド。

 

「……お前」

 

 漸く気づく。こいつが何を目的としているのか。

 

「オズワルド・ダンタリオン」

 

「何だ?」

 

「覚悟しておけ」

 

 短く告げる。

 

 それを受けたオズワルドはますます笑みを深める。

 

 俺はもう振り返ることも無く、急いで会場を出ようとする。

 

「神星剣には意思がある。聞いてみると良いよ」

 

「…………」

 

 足を止めそうになるが、それを抑えて俺は走り出す。

 

******

 

「良かったのー?」

 

「ん?」

 

 カレンの後姿を見送った後、オズワルドの両隣に控えていた茶髪の少女の内、髪をアップでまとめている方がオズワルドに話しかける。

 

「あんな敵対行動を匂わせるような事しちゃってさー。お蔭で彼、最後はすっごい殺気出していたよ? 思わず私、手が出そうになっちゃったもん」

 

「その通りよ、あんな事してどうなるか分かってるの?」

 

 もう一人の少女、髪を肩辺りで切り揃えている方がジッとオズワルドを見る。

 

「いやあ、彼の反応があまりに良くて。ついついからかっちゃった」

 

 テヘ、とでも言うような反応に二人の少女は同時にため息を付く。

 

「「この快楽主義者」」

 

 そして同時に言い放つ。

 

「お、見事な発言だ。正に俺の事を指している。良いねえ。二人に座布団一枚ずつ!」

 

「「ふざけるな」」

 

 ひとしきり笑ったオズワルドは不意に真面目な表情を作ると、告げる。

 

「まあ、彼があのまま行ったら直ぐに終わっちゃうでしょ? それじゃあ面白くない。それに」

 

 そこで一旦口を閉じて、オズワルドは持っていたグラスの中身を一気に飲み干す。

 

 そして、怪しく笑うと、

 

「大事なヒト達がボロボロになっていた方が、彼も怒るでしょ?」

 

「「サイテー」」

 

「あははははは」

 

 ヘラヘラと笑いながらオズワルドはカレンの事を考える。

 

 カレン・グレモリー。彼ならば、あるいはなるかもしれない。己の望みの為に。

 

「さあ、上って来いカレン・グレモリー。俺の為にもっと強くなれ」

 

******

 

「くそ、どこだ」

 

 視界に映る森を見ながら俺は近くの木に拳を叩きつける。

 

 それほどまでに焦ってしまっているのだと、自分でも自覚している。

 

 急いで会場の外に出るも、これだけの広さだ。見つけるのは難しい。

 

 だからこそ、一番近くで人気が最も少ないこの森に来たのだが。

 

「人影どころか、小動物一匹もいない。当てが外れたか?」

 

 気配が全く感じない。違和感が無い訳で無いが、探しようが無い。

 

 リンド、何か分からないか?

 

『……先ほど、タンニーンの気配がこちらの方に向かったのは分かっています。恐らく、貴方と同じように貴方の弟たちを探しているのでしょう』

 

 マジか、タンニーン殿も。でか、あの巨体で見つからないのは変だな。

 

「……隔離されている?」

 

『恐らくは。空間系統の術式でしょう。詳しくは無いので分かりませんが、タンニーンを閉じ込めるのだから相当なモノです』

 

 龍王を封じ込めるだけの力を持っているって訳か。

 

「禍の団か?」

 

 あり得る話だ。何せ、テロを基本的な活動とする連中の集まりだ。可能性は十分ある。

 

 何せ、あの白龍皇が所属しているんだ。それだけの実力者の集まりって訳だろう。

 

「どうするか……ゼクス兄さんたちに報告するか?」

 

 だけど、いなくなってから大分経っている。このままだと……。

 

「いや、まて……」

 

 ここにきて俺はある事を気づく。

 

 そうだ、俺にはあれがあるじゃないか。

 

『カレン……?』

 

 俺は一度深呼吸する。

 

 出し方は頭の中に既にある。後はそれを実践するだけだ。

 

 右手を前に出す。

 

 そして、念じる。

 

 ――来い――

 

 それだけで十分だった。

 

 俺の目の前に見たことが無い赤い色の紋章が浮かび上がる。

 

 紋章はゆっくりと下に下がっていく。

 

 すると、徐々にそれは姿を現す。

 

 最初は柄だけだった。それがどんどん剣の形を成していく。

 

 紋章が地面近くまで到達すると、自然と消える。

 

 残ったのは一本の剣だった。

 

「……神星剣」

 

 知らず、畏怖が籠ったように呟く。

 

 それだけ、この剣に圧倒されているのかもしれない。

 

 聖書の神が作った星の力を宿した剣の一本。その力は破格のモノだ。

 

 俺は柄を持つ。

 

 それだけで全身に力が漲ってくる。

 

『何をするのですか』

 

「神星剣で空間を引き裂く」

 

『な……』

 

 俺の言葉にリンドは絶句する。

 

「以前、奴らが撤退するとき、同じようにやっていた。神星剣は、ほぼ共通の能力を持っている。ならば、俺のだって同じことが出来る筈だ」

 

 火星神剣(マーズ・ソード)を構える。

 

 そこでふと、俺はオズワルドが言った言葉を思い出す。

 

 ――神星剣には意思がある――

 

 それが本当かどうかは俺には良く分からない。

 

 いや、もしかしたら本当にいるのかもしれない。

 

 あの時聞いた声はそれなのかもしれないな。

 

 今はそれは置いておこう。やるべきことをやるんだ。

 

 目を閉じ、意識を集中する。

 

 この森であることは間違いない。ならば、その場所は正確に見つけるんだ。

 

 神星剣の力を高める。そうする事で空間の歪みを見つける。

 

 すると、神星剣が一際輝く。

 

 見つけたか。

 

 俺は神星剣をゆっくりと振りかぶる。

 

 そして一息に振り下ろす!

 

******

 

「弱いにゃあ、これで赤龍帝?」

 

 嘲笑するように黒い猫又――黒歌は嗤う。

 

 その視線の先には一誠が這いつくばってる。

 

「イッセー!」

 

 悲鳴の様に叫ぶリアスも体に力が入っておらず、体をしゃがみ込ませている。

 

 近くにいる小猫も悔しそうに一誠を見ている。

 

「にゃははは、これでヴァーリと同格の神器を持っているんだから笑えるわね。弱すぎて話にならないわ」

 

 その言葉に一誠は悔しそうにするだけで何も言い返せない。

 

 黒歌の言う通り、今の自分には何も出来ない。大事な仲間二人も守れないでいる。

 

 それがたまらなく、嫌だった。

 

「……姉さま、私がそちらに行きます。だから二人は」

 

「小猫!?」

 

 小猫が二人を庇う様に前に出る。

 

「駄目よ小猫! 利用されるのが良い所よ!」

 

「分かっています。でも、こうするしか」

 

 リアスも悔しそうに歯を食いしばる。

 

 今のリアスは黒歌の毒によって動き事もままならない。それは小猫も同じだろうに。

 

(俺、あんなに修行したってのに、女の子一人も守れないのかよ? ちくしょう)

 

 悔しくて涙が零れる。

 

『――男が何泣いてるんだ。みっともない』

 

 声が響く。

 

 黒歌が顔を上げる。

 

「……嘘」

 

 その言葉が引き金になったのか、空間に亀裂が走る。

 

「そんな、あり得ない! 私の術を強引に破ったの!?」

 

 信じられない、といったふうに頭を振る黒歌。

 

 誰もが唖然としながら空間の割れ目を見ていると、中から人が出てきた。

 

「いやー初めてやったけど、案外何とかなるものだな」

 

「っ!」

 

 その声を聞いただけで一誠は再び涙を溢れそうになる。

 

 リアスも安心したように安堵の表情を浮かべている。

 

「……兄貴!」

 

 一誠の叫びにカレンは笑う。

 

「おう、お前の兄貴のカレン・グレモリーだぜー。どうした、そんなボロボロになって」

 

 手に持った神星剣を軽く振りながらカレンは一誠に近づく。

 

「ふむ」

 

 カレンが一誠たちを見る。

 

 そして、黒歌に切っ先を向ける。

 

「覚悟しろ。俺の身内に手を出したこと後悔させてやる」

 

 



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第十四話

どうも、一か月失踪していました。

親知らずを抜いたり、レポートに追われていたりと、気づけば随分と経っていました。

少し落ち着いたので、またボチボチ更新していきたいと思います。


 俺が結界内に入った時、既に状況は大分悪い方に向かっていた。

 

 最初に目に入ったのが、ボロボロの一誠と倒れているリアスと小猫。

 

 そんな三人に相対するよう黒い着物を着崩して着ている猫耳を生やした美女が木の上に座っていた。

 

「あんたが敵で良いんだよな?」

 

 俺はマーズ・ソードの切っ先を着物の女に向けながらそう聞く。

 

「……ええ、まあ、そうなるかしらね」

 

 微笑みこそ浮かべているが、その眼差しは最大限の警戒を俺に向けている。

 

「それが噂に聞く神星剣でしょ? 厄介ね全く。ヴァーリからもそれは出来るだけ真正面からやるなって言われているし。困るにゃ」

 

「ヴァーリ?」

 

 やっぱり禍の団か。となると、さっきからあっちで爆発音でやっているのは。

 

「ハハハハハハハハ! こいつは面白れえ! 赤龍帝の兄貴まで来ているじゃねえか! しかも黒歌の結界を破ったってか!?」

 

 上機嫌な笑いが聞こえ、そちらを見ると、雲の上に乗っている男がいた。

 

「お前が孫悟空の子孫か?」

 

「そういやあ、会うのは初めだな。俺っちは美候ってんだな。よろしくな赤龍帝の兄貴!」

 

 ヤツが噂の。じゃあ、あの乗っている曇って筋斗雲か? マジであるんだな。

 

「来たかカレン・グレモリー」

 

 タンニーン殿がこちらに視線を向ける。どうやらあの猿野郎と戦っていたんだな。

 

「すまんが、こちらは手一杯だ。そちらは任せる」

 

「ああ、任された」

 

 視線を黒歌に戻し、俺は一歩前に出る。

 

「……ホント、困るにゃあ。それ、強力ってレベルじゃないんでしょ?」

 

「良く分かってるじゃねえか。四死剣の連中にでも聞いたか?」

 

「いやいや、あの連中めんどくさいのよね。あたしたち以上に独立性が強いし、何を目的としているのか全く分からないし。正直薄気味悪いのよね」

 

 禍の団の内でも奴らは秘密主義って訳か。アガリアレプトはルシファーに仕えていたと聞いてるけど、どうもそのままって訳じゃなさそうだ。

 

「まあ良い。どんなに細くても奴らに近づく材料だ。話を聞かせてもらうぞ」

 

「にゃはははは、そりゃあ、勘弁ね!」

 

 そう言うや否や、四方から力の波動が迫る。

 

「ふん」

 

 俺は軽く神星剣を振る。

 

 それだけで波動は全て消え去る。

 

 黒歌もそれは想定内なのだろう。最初に放った波動に隠すように二発目が迫っている。

 

 俺は当たる場所に魔力を集中させてそれを防ぐ。

 

 それを見た黒歌がニヤリと笑う。

 

 刹那、俺の体が片膝を付く。

 

「何だこれ」

 

 急に体がいう事を聞かなくなってきた。どうなってる?

 

「にゃははは。不用意に仙術の攻撃を受けたからにゃ。体内の気を乱したのよ」

 

 仙術?

 

「魔力や光力と違って直接的なダメージは無いけど、そうやって体の体内から働きかける力を得意としているの。気を乱して、貴方の体の状態を悪くしたの」

 

 黒歌がニヤニヤと笑いながら俺に教える。

 

 成程、当たると厄介な奴って訳か。

 

 ただ、まあ。

 

「俺には関係ないな」

 

 立ち上がる俺。

 

 それを見て黒歌は驚愕している。

 

「ちょっと、そう簡単に立ち上がれるようなモノじゃないわよ!? 何だって」

 

「はん、知るか」

 

 神星剣を振りながら俺はゆっくりと黒歌に近づく。

 

 神星剣を見て、黒歌は何かに気づいたように忌々しそうな表情を浮かべる。

 

「神星剣ね。確か、所有者の力を数倍にも引き上げる事が出来るっていう。それを使ったのね」

 

「へえ、知らないって言う割には良く知ってんじゃねえか」

 

「にゃはは、少しくらいは情報も流れてくるものなのよ」

 

 じりじりと後ずさる黒歌。

 

「まあ、良い。この結界作っているのもお前だろうし、さっさと抜け出したいからちょっと痛めつけるぞ」

 

 剣を突き出す構えを取る。

 

 黒歌の目に緊張が走るのが分かる。

 

 恐らくというか、確実にこいつは遠距離からの攻撃タイプだ。接近戦はてんで駄目だろう。

 

 終わりだ。

 

 俺が剣を黒歌に繰り出そうとした次の瞬間。

 

「――そこまでです」

 

 突如、何もない空間から出た何かが神星剣を受け止めた。

 

 否、剣の切っ先だ。それが神星剣を受け止めのだ。

 

「やれやれ、黒歌危なかったですね」

 

 その言葉と一緒に出てきたのは背広を来た眼鏡の男。手に持った剣からは膨大な量の聖なるオーラが放たれていた。

 

 聖剣だな。しかもエクスカリバーやデュランダルを余裕で超えてる。

 

「全員、その剣に斬られるな! それは聖王剣コールブランド。またのカリバーン。最強の聖剣だ」

 

 っ、カリバーン。かのアーサー王が選定の為に抜いた剣。大昔に折れたって伝承にあったはずだけど。

 

 まあ、そんなもん、意味無いか。現にここにある。それだけで充分だ。

 

「あなたがカレン・グレモリーですね?初めまして、私はアーサー。アーサー・ペンドラゴンの子孫に当たるものです」

 

「それはどうもご丁寧に。最強の聖剣様に会えて光栄だよ。で、腰にぶら下げている方は?そっちも聖剣だろ?」

 

 アーサーが腰に帯剣している方を見ながら俺は聞く。

 

「これは支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)。行方不明とされていたエクスカリバー最後の一本です」

 

 エクスカリバー。教会には保存されていなかった最後の一振り。

 

 まさか、こんなテロリスト野郎に渡っているとは、聖剣も悲しいね。

 

「さて、本来ならばここで退散しておきたいところですが、そう簡単には返してくれいない様ですね」

 

「わかっているじゃねえか。当然だろ。お前らはここで捕らえる。聞きたいことは山程あるしな」

 

 神星剣の切っ先を今度はアーサーに向ける。

 

「ふむ、最強と言われる神星剣。その内の一本の力、ここで見るのも悪くは無いかもしれませんね」

 

 アーサーもまた剣を構える。

 

「…………」

 

「…………」

 

 一瞬の無言の内に、俺たちは同時に前に出る。

 

 高速で動く俺の斬撃にアーサーは全て対応してみせる。

 

 防御ばかりでなく、要所要所で急所に攻撃をしてくるのが厄介だ。

 

 他の奴らと違ってこいつは唯の人間だ。の癖して、ここまで速いのか。流石に嫌になってくるな!

 

「お前本当に人間か!? やたら滅多に速いな! ハーフの俺について来るなんてな!」

 

「はは、純粋な人間ですよ。英雄の子孫ではありますが」

 

「かっ、ヴァーリのチームは多種多様だな。まあ、あいつもハーフだって言うし、ある意味当然かもな!」

 

「まあ私は彼と性格が合ったから一緒にいるもので! 皆そうですよ」

 

 そんな軽口を言い合いながら俺たちは斬り合っていた。

 

 しかし、こいつマジで強いな。純粋な剣技なら俺よりも何段階も上だ。

 

 こっちは神星剣によって身体能力跳ね上がっているが、問題は最強の聖剣であるコールブラッドに当たったら神星剣並みに不味いってことだ。

 

 そう考えると、俺って弱点多いよなー。あー嫌になってくる。

 

「おっと!」

 

 そんな事を考えていると、横の空間が歪み、そこから剣の切っ先が俺を狙ってくる。

 

 体を後ろに反らすことでかわす。

 

「あぶねえな! なんだそりゃ、そんな曲芸も出来るのか」

 

「まあ、他にも色々とありますよ」

 

「そりゃあ怖い。先に教えてくれよ」

 

「そんなことしませんよ」

 

「それもそうだ!」

 

 しかし、何だか楽しくなってきたな。アーサーも楽しそうに、てか滅茶苦茶楽しそうだし。

 

 もしかしなくてもこいつ戦闘狂の気があるな。まあ、強い者と戦うためにテロリストになったヴァーリの仲間だし、当然といえば当然だな。

 

 けどまあ、何時までもお互いに本気を出さないのは延々と終わらん。斬り合うだけなら誰にも出来ることだしな。

 

 ……少し、本気でいってみるか。

 

 俺は一度距離を取って刀身にオーラを纏わせる。

 

「らあっ!」

 

 そして、そのまま斬撃として飛ばす。

 

 しかし、アーサーはそれを苦もなく躱してみせる。

 

 当然それを予測しており、俺は斬撃を放つと同時にアーサーに迫る。

 

 そして左手に神器を展開させると逆手に持って斬りかかる。

 

 アーサーはそれをもう一つ持っていた聖剣、エクスカリバーで受け止める。

 

「ああ、そういえばそれを忘れていたな。コールブラッドの方がインパクト強すぎて」

 

「確かにこれは最強の聖剣ですが、こちらも伝説のエクスカリバーの一本ですよ。忘れてもらっては困ります」

 

「そいつは失礼した」

 

 同時に後ろに飛ぶ。

 

「ふむ、そろそろ本当に不味いですね。これで退散させて貰います」

 

 アーサーはコールブラッドで何も無い場所を斬る様に動かす。

 

 すると、空間に裂け目が出てきた。

 

「逃げるか」

 

「追いますか?」

 

「……いや、良い。行くならさっさと行けよ」

 

 驚いた様に目を開くアーサー。

 

「先程とはまるで違いますね。憎悪をあれほど感じていたのに」

 

「ふん、萎えた。さっさと行け」

 

 しっしっ、と手を振る。

 

 それを見てアーサーは苦笑する。

 

「変わった方だ。それではお言葉に甘えまして。これで失礼させていただきます」

 

 言葉通り、アーサーは他二名を連れて裂け目の中に消えていった。

 

 因みに美猴は「またなー」と実に軽い様子で言ってきて、黒歌はこちらを恨めしそうに見ていった。

 

「ふう……」

 

 俺は神星剣と神器を仕舞うと、リアス達の元に近づく。

 

「よお、無事か」

 

「……毒がなければ完全に無事って言えたのだけれどもね」

 

 リアスが嘆息しながら言う。

 

「それもそうだな。小猫、お前は?」

 

「……同じくです」

 

 二人は問題無い、と。一誠はどうかな?

 

 一誠の方を見ると、蹲ったまま、身じろぎ一つ見せない。

 

「ふむ」

 

 取り敢えず軽く蹴ってみる。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「った、なんで蹴るんだよ!?」

 

「え、何となく?」

 

「何となくで弟蹴るなよ!」

 

「うるせえなあ。これだから一誠は」

 

「何その反応、俺だから何!?」

 

「え、聞きたい?」

 

「待った。聞いたら余計最悪な事になりそうだから良い」

 

「お、聞きたいか。よし、なら聞かせてやろう」

 

「ヒトの話聞けよ!?」

 

 少し元気になったか。

 

 ぎゃーぎゃー騒ぐ一誠を見て俺は内心ため息をつく。

 

 元気が無かったのは何となく分かったが、まあこれも急場凌ぎだな。つっても、俺が何か言っても意味あるかどうか。

 

「ああ、面倒だな」

 

 騒ぐ一誠の頭を押さえながら俺は天を仰ぎ見る。

 

 相も変わらない紫色の空は夜でも特に変わることなく、そこにはあった。

 

 

 ******

 

 黒歌達の襲撃の対応策を話し合う中、アザゼルとサーゼクスは席を外してリアスとソーナのレーティングゲームについて話していた。

 

「アザゼルならば、リアスの眷属の内誰を最初に狙う?」

 

「カレンだな。と、言いたいところだが」

 

 一旦口を閉じると、アザゼルは一回ため息を付く。

 

「修行から帰ってきたあいつを見て確信したよ。ソーナの眷属が総出で掛かっても今のあいつには勝てない。良くて相打ちだ」

 

「……そこまでの力を?」

 

「元々、力自体は非常に持っていた。でもそれを茨木童子との修行でコントロールする術を身に着けた。もう、そんじょそこらの相手じゃ話になんねえよ。正直、ヴァーリクラスじゃないと話にならないんじゃないかな」

 

 ソーナには悪いけどな、とアザゼルは付け加える。

 

「ま、とはいえ、ゲームのルールがどうなるかによっては、いかに突出したヤツがいても負ける可能性だってある。そうだろ?」

 

「ああ、その通りだ。何が起こるかは分からない。それこそがレーティングゲームだ。リアスもカレンもそこはもう分かっているとは思うが……」

 

 本来ならば、魔王として特定の悪魔に肩入れする事は褒められることでは無いが、それでも最愛の妹と従弟だ。心配したくもなる。

 

 そして、個人としての負い目も。

 

「……アザゼル、少しカレンについて大事な話がある。時間がとれる日があるか?」

 

「あ? ああ、調整するが何についてだ?」

 

「ここじゃ話にくい。改めて連絡する」

 

「……そんなにか?」

 

「まあ、な」

 

 杞憂で済めば良い。だが、それで取り返しのつかないことになってしまったら今度こそ本当に後悔だけでは済まない。

 

 それだけは、何としても阻止しなくてはならない。サーゼクスはそう、心に誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十五話

全然更新できない……。もっと頑張らねば。


 遂に始まったシトリー眷属とのレーティングゲーム。

 

 皆が皆、やれるだけの事をやって臨む大事な一戦。

 

 この一戦は俺たちにとっても、ソーナ達にとっても負けられない戦いだ。皆、大きな覚悟を持っている。

 

 勿論、俺もその一人だ。リアス達の為。それに、俺に修行をつけてくれた茨木童子や、ティア達にも情け無い所は見せられない。

 

 なのだが。

 

「……暇だ」

 

 寝転がりながら天井を仰ぎ見る分には暇だった。

 

「ちょっと待った。今ゲーム始まってるよな」

 

「始まってるわね」

 

 隣に座っていたリアスが返す。

 

「ソーナ達とお互いの夢の為に戦っているんだよな?」

 

「そうですわね」

 

 今度は朱乃が返してくる。

 

「で、今は一誠達が進撃しているんだよな?」

 

「は、はい。その筈です」

 

 アーシアも返してくれる。

 

「ふむ……じゃあ何で俺、こんなに暇なの!?」

 

 上半身を起こし、周りを見る。

 

「はあ、貴方ね、さっき説明したでしょ?」

 

 リアスがため息をついてまたさっきと同じことを言おうとしているので手を出して止める。

 

「分かってる。俺がソーナの最重要警戒に入っているから不用意に動くのは危険だって。先に一誠達で様子を伺うって」

 

 グレモリー眷属の最高戦力は現在は俺だ。当然、ソーナもそれを分かっているからこそ、間違いなく俺を一番に叩こうと思うだろう。

 

 だからこそ、切り札たる俺をそう簡単に出さないで、相手の出方を見るのは分かるのだが。

 

「暇すぎる。何とかしてくれ」

 

「カレン、ちょっと気が抜けすぎよ。もう少し気を引き締めなさい」

 

「だってさ、いざやってやろうと思ったら待機だぜ?つまらん」

 

「あらあら、子供みたいですよ?」

 

 朱乃が苦笑する。

 

「第一さあ、今回のルールなら俺の方が良かったんじゃね?一誠とかゼノヴィアとかはあいつらにこのルールを守れる気がしないんだが」

 

 今回のゲームにはある特殊ルールが加えられることになったのだ。

 

 フィールド内のものをなるべく壊さないこと。

 

 つまり、辺りを巻き込む様なでかい技は使いずらいのだ。

 

 力加減が下手な一誠とゼノヴィアは勿論、グレモリー眷属は大きな技を持ち味にしている奴らが多いので、俺たちは持ち味を半減させられてしまった。

 

 祐斗の様な、テクニック的な戦い方を主にするのも居るが、それでも苦戦は否めない。

 

「あー何だろう、口にしたら余計心配になってきた。あの二人がルールを守って戦っている姿が想像できん」

 

「それは幾ら何でも……あり得るかしら」

 

「そ、そんな事ありません!イッセーさんもゼノヴィアさんもルールを守って戦います!多分……」

 

 アーシア、庇うならせめて最後まで庇おうぜ。

 

「兎に角、貴方は待機。良いわね?」

 

「はいはい、大人しくあいつらが暴れている中で待ってるよ」

 

 そう言った途端。

 

『リアス・グレモリー様の僧侶一名リタイアです』

 

 辺りに沈黙が辺りに漂う。

 

「……僧侶ってギャスパーだよな?」

 

「ええ、アーシアがここにいるからそうね」

 

 何やってんのあいつ!?確か、偵察に行ったよな?それでもう負けたの?早いよ!

 

「あいつの神器があればそう簡単に負けるとは思えないんだが」

 

「多分、ニンニクを使われたんでしょうね。ここはショッピングモールで食材を再現されているでしょうし」

 

 ニンニク、吸血鬼の弱点の一つだな。

 

 あの野郎、男を見せるとか言っておいてこれか。ニンニクに負けるとか、ダサいにも程がある。

 

「他の奴らはしょうもない負け方したら、どうしてやろうか」

 

「何言ってるのよ」

 

 呆れるリアスだが、これはテレビでも放映されているんだ。みっともない姿を見せたら笑い種じゃ済まないぞ。

 

 つまり、あいつらも見てるって訳だ。

 

 ここで変な所を見せたらどうなるか……考えただけでも寒気がしてくるぜ。

 

 ええい、一誠よ。変な所を見せたら承知しないぞ。分かったな!

 

 ******

 

(何だろう、今兄貴に猛烈にふざけんなって言いたくなった)

 

『何を言っている相棒?』

 

 呆れた様にドライグが言っているが、一誠は無視する。

 

「どうした兵藤!そんなもんか」

 

 それよりも今目の前に立ちはだかる匙が問題だと前を見据える。

 

 状況はあまり良く無いと言える。

 

 現在、一誠は小猫と共に匙ともう一人の兵士と戦っていた。

 

 一誠の神器は現在、禁手一歩前まで来ていると言われているが、そこに至るまでがどうしても出来ない状況である。

 

 機能が少し落ちており、普段よりも力が出せないのだ。

 

 リアスも最初は譲渡を主体として戦わせようとしたが、他ならぬ一誠自分から戦いたいと志願した。

 

 ーーもうこれ以上みっともない所は見せる事が出来ない。

 

 そんな気持ちが一誠の中を渦巻いていた。

 

 そして、同じ兵士である匙との対決が始まったのだ。

 

 序盤から一誠は圧倒されてしまった。

 

 力量は間違いなく神滅具を持っている一誠の方が上である。しかし、驚くべきは匙の戦い方である。

 

 匙の神器はラインを繋げる事で、相手の生命力を奪ったりする、龍王ヴリトラの力が宿ったものだ。

 

 それ以外は匙は平均的な悪魔で、一誠よりも魔力はあるが、あくまで普通止まりだ。

 

 だが、彼は本気であった。本気で自分の主たるソーナの夢をかなえようとしていたのだ。

 

 その為に匙はラインを自分の体につなげて命を削ってそれを攻撃に転換したのだ。

 

「……すっげえな匙」

 

 思わず、そんな言葉が出てしまう。

 

 一誠は足を震わせながら立ち上がる。

 

「なあ、匙。俺の夢ってさハーレム王になる事なんだよ」

 

「ああ、聞いたぜ」

 

「でも、最近、別の目標が出来たんだよ」

 

 一誠の言葉に匙は訝しげな顔をする。

 

 自分でもらしくないと一誠は考える。

 

 だけど、この目標は絶対に達成しないといけない。そう考えている。

 

 自分は何時だって肝心なところで役に立てていない。

 

 ライザーとの戦いのときも、コカビエルとの戦いでも、この間の黒歌との戦いでも。

 

 いつも見ているだけだった。何時だって、兄の背中を見ているだけだった。

 

「……ずっと兄貴と暮らしてきた。兄貴がすげえ奴だってのは知っている。俺の自慢の兄貴だ。……だけど、それだけじゃダメなんだ。兄貴になんでも頼っているだけじゃ悔しいんだ」

 

 一瞬、俯く。そして直ぐに顔を上げる。

 

「俺は――兄貴を追いかけたいんじゃない! 隣で一緒に戦いたいんだ! 兄貴に頼られるような男になりたい!」

 

 心からの叫びだった。その迫力に、匙も、先ほどまでシトリー眷属の兵士と戦っていた小猫も目を開いていた。

 

「兵藤……」

 

「イッセー先輩……」

 

 ドライグもクックッと笑う。

 

『急にどうした相棒。熱血漢にでも目覚めたか?』

 

(うるせーよ。さっさとやるぜ)

 

『ああ、その叫びのお陰で至ったぞ』

 

(は?)

 

 思わず、ポカンとしたその時だった。

 

 一誠の赤龍帝の籠手が赤く輝きだしたのだ。

 

 ******

 

 神器を軽く振り回していると、柄に埋まっている宝玉が輝きだした。

 

「あ?……ああ、成程」

 

 それを見て一瞬、疑問に思うも、直ぐに解消する。

 

 そうか、至ったのか。

 

 たく、遅いったらありゃしない。ま、あいつにしては良い方と言うべきかな?

 

「どうしたカレン?」

 

「んー? 別に。ただ、あいつが一皮向けただけさ」

 

「?」

 

 

 ******

 

 赤い閃光が晴れると同時に一誠は目を開ける。

 

 最初に目に飛び込んできたのは、赤い鎧に包まれている自分の腕だった。

 

「これって……!」

 

 その正体を知っていた一誠は思わず声を上げる。

 

『ああ、遂に禁手に至ったのさ。まさか、最後の一押しがお前の兄への葛藤だったとはな』

 

 ドライグが愉快げに語る。

 

 一誠は思わず拳を作る。

 

 やっと、スタートラインに立った。既に随分と距離は出来てしまっているが、それでも必ず追いついてみせる。

 

「さあ、匙!悪いがさっさと終わらせるぜ!」

 

 唖然としていた匙だったが、思わず、という風に笑い出した。

 

「この土壇場で禁手かよ……たまんねえな!」

 

 明らかな力の差。だが、匙は迷う事なく前に出る。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 雄叫びを上げながら匙は一誠に拳を繰り出す。

 

 一誠はそれを躱す事なく受け止める。

 

 そのまま握りしめた右手で匙の腹部に強烈な一撃を与える。

 

「ぐふ……」

 

 血反吐を吐き出す匙。そのままヨロヨロと後ずさりする。

 

 しかし、それでも倒れず、再び一誠目掛けて魔力弾を放つ。

 

 一誠はそれを腕で弾き飛ばす。

 

 弾かれた魔力弾は壁を大きく削る。

 

 それを見て一誠は顔を顰める。今回のゲームではなるべくフィールドを壊してはいけないのだ。この場で禁手化したのは間違いだったのかと思う。

 

(いや、此処で禁手化していなかったら匙に負けていた!)

 

 そう思えるだけの気迫が今の匙にはある。

 

 心負けしてはいけないと自分に言い聞かせて一誠は匙に殴りかかる。

 

 何度も。何度も。何度も。

 

 既に全身は血塗れ。拳も殆ど使い物にならない。足も全然覚束ない。見たら一目でもうダメだと思ってしまう。

 

 だが、それでも匙は立ち上がる。

 

 夢の為。仲間達の為。何よりも主人であるソーナの為。

 

 彼は何度も立ち上がった。

 

 一誠も匙が立ち上がる度に殴る。

 

 それを何回繰り返したのか一誠は覚えていない。

 

 少なくとも肩で息をする程には殴ったのだろう。

 

 気づけば、匙は立ったままピクリとも動かない。

 

「匙、お前……」

 

 既に匙の意識は無くなっていた。それでも倒れる事だけはしなかった。それだけはしなかったのだ。

 

 匙の体が光に包まれる。転移の光だ。

 

 匙の体が消えるのと同時にアナウンスが流れる。

 

『ソーナ・シトリー様の兵士一名リタイアです』

 

「イッセー先輩」

 

 既に戦いを終えた小猫が一誠に歩み寄ってくる。

 

「ああ、小猫ちゃん。……悪い、何か頭がこんがらがってるわ」

 

「いえ……」

 

 戦いには勝利した。それは間違いない。

 

 なのに、どこか勝利を喜べない自分がいる。

 

「やっぱ凄えよお前は」

 

 そう、呟く。

 

 その言葉の中には紛れもなく相手に対する敬意が含まれていた。

 

 ******

 

「さてさて、大分削れたな」

 

 ソーナの兵士一名のリタイアを聞いて俺は呟く。

 

「ええ、これでソーナの残りの眷属は女王と僧侶二人だけ。そろそろ私たちも行くわよ」

 

 やっとか。俺は立ち上がり体を解す。

 

「やべ、大分固まったな。解さないとな」

 

 どうも、今回は最初から出番が無さ過ぎて気が抜けているな。いかんいかん、こんなの見られたら大事だな。

 

「で、全員で行くのか?リアスは残った方が良いんじゃね?一応万が一って事もあるしさ」

 

「あら、大丈夫よ」

 

 リアスは自信満々に言う。

 

「それまたどうして?」

 

 俺が尋ねると、笑いながら言う。

 

「だって、貴方が守ってくれるでしょ?」

 

「…………」

 

 いや、そんなまっすぐ言われるとなあ……。

 

「あらあら、仲が本当に良いですわね」

 

 むにゅん、と俺の背中に柔らかい感触が伝わってくる。

 

「…朱乃、わざと?」

 

 背中の感触に動揺を何とか抑えながら俺はため息をつきながら聞く。

 

「あらあら、何の事です?」

 

 俺の耳元で囁く朱乃。

 

 ちょ、息がかかってる。何かむずかゆいよ!

 

「はわわわわ」

 

 その光景を見たアーシアが顔を真っ赤にする。

 

「……朱乃? 今はゲーム中よ? こんな大事な時に何をしているのかしら?」

 

 リアスは感情を抑えるように――但し口元をひくつくかせながら――言葉を口にする。

 

 

「あら、こんな時だからこそですわ。終盤戦に突入する前に緊張を解しておかないと」

 

「いや、別に緊張なんて」

 

「何か言いましたか?」

 

「いえ、別に」

 

 怖い。何か迫力ある言い方だったよ!?

 

「ちょ、ちょっと待て二人とも! 今から相手陣地に乗り込むんだろ? さっさと行くぞ」

 

「ちょっと黙ってて」

 

「黙っててくれますかカレン?」

 

「……なんでだよ」

 

 俺ってそんなに威厳無い? これでも、もう直ぐキングになるんだぜ? 笑えねえわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後二話で五章完結予定


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第十六話

全然時間取れねえ……書けねえ。


「あれま」

 

 相手陣地近くまで来て、俺は思わず口に出す。

 

 何せ目の前の広場にキングであるソーナが立っていたからだ。

 

「こんばんはカレン君。漸く出てきましたか」

 

「よお、ソーナ。どうしたよ、キングがこんな所に出てきて。もう諦めたか?」

 

「まさか。私はまだ勝負を諦めていませんよ」

 

「そうですかい」

 

 そんな風に軽口を言い合いながらも、俺は周りを確認する。

 

 ソーナの他には僧侶の女の子が二人ソーナを挟むようにして立っている。

 

 他に目立つものとすれば、僧侶の女の子の一人が持っている物か。こちらからは良く見えないが、何か黒いラインと繋がって、ずっと奥まで続いている。

 

 確か、あっちには一誠たちがいるはずだな。てか、黒いラインって匙君の神器の能力だよな? けど、彼はもうリタイアしちまっているし、何かあるって訳か……。

 

「しかし、どうやって勝つつもりだ? 言っちゃ悪いが、現在の戦力は圧倒的に俺たちの方が優勢だ。こっちは二人やられたが、そっちは倍以上やられているだろ?」

 

 狙いを探る為、会話を続けてみる。

 

「ご安心を。手は打ってあります。本音を言えば、貴方に仕掛けたかったのですが……まあ、言っても仕方ありません」

 

「何?」

 

 俺に仕掛けたかった。つまり、誰かに仕掛けた? 

 

「すんません! 遅くなりました!」

 

 俺が考えようとした矢先、広間に声が響く。

 

 そちらを見れば、鎧を身に纏った一誠と……猫耳と尻尾を生やした小猫だった。

 

「おお、それが例の」

 

 思わず見入る。確か、ライザーの眷属にも獣人娘がいたが、小猫のはそれとは大分違う印象を見せられる。

 

「はい……猫又モードです」

 

 ジロジロみられて恥ずかしかったのか、少し頬を染める小猫。

 

 成程な。確か、この状態なら仙術を使えるんだけっけか。しかも、見た感じ目立った外傷も無い。以前の小猫なら少しは怪我を負っていただろう。つまりそれだけ成長しているって訳だな。

 

「今度は手合わせしてもらいたいな」

 

「……カレン先輩は戦う事ばかりですね」

 

 どこか呆れた風に言う小猫。

 

 失礼な。それではまるで俺が戦闘狂では無いか。断じて俺はそんな人種では無い。

 

「おい、兄貴」

 

「ん?」

 

 一誠に声を掛けられ、そちらを向く。

 

 そこには赤龍帝の鎧を身に纏った一誠がいた。

 

 …………。

 

 ……ふむ。

 

「よし」

 

 俺は体を逸らす。

 

「って、俺には何か感想は無いのかよ! やっと禁手化出来る様になったんだぜ!?」

 

「あーうん。良かったなー」

 

「棒読み!? ひでえな! 弟が活躍してきたっていうのに!}

 

「やー、だってねえ」

 

 何が楽しくて野郎の事を褒めないといけないのやら。

 

 しかも弟だぜ? 笑えねえよ。

 

「つうか何で今禁手化? 馬鹿なの?」

 

「はあ!?」

 

「だって今回は大味な技を出したら不味いんだぜ? それなのにお前は全力全開な力しか出せねえのに……ホント、タイミング悪い」

 

「うぐ……それを言うなら兄貴だってそうだろうが!」

 

「俺? そうだったねえ。でも残念、俺はもう大体の力のコントロールなら出来ているから。お前と違って」

 

「何その厭味ったらしい顔。ムカつくんだけど!」

 

「うん、だってわざとやっているし」

 

「うぜえ!」

 

 ギャーギャー喚く一誠をからかっていると、ふと、あるものが目に付いた。

 

「……おい、一誠それなんだ?」

 

「大体……え? ああこれ」

 

 俺の目に映る……黒いライン状のものが一誠にひっついていたのだ。

 

「匙と最初にぶつかった時に付けられたんだよ。禁手化したときも外れなかったし、あいつがリタイアした後もこのままで」

 

「…………」

 

 やはり匙君のか。だが何だこれは? 力を抜いてる様にも一誠の今の状態からはそうは見えないし、かといって彼がリタイアした後でも残っているってのは何か不自然だし。

 

 さっきソーナが仕掛けったていうのはこれの事か? 

 

「すみません、お待たせしました!」

 

 俺が考えていると、再び声が聞こえてきた。

 

 見れば、俺たちや一誠たちとは別の通路から祐斗が出てきた。

 

 やはり、負けたのはゼノヴィアか。まあ、仕方ない。それに今回のゲームで言うならば、祐斗の方が残った方が良いしな。

 

 さて、これで全員揃ったし、そろそろ。

 

 そう思った矢先だった。隣に立っていた一誠が突如、膝を付いたのだ。

 

「……イッセー?」

 

 訝しんだリアスがアーシアに回復を掛ける様に伝える。

 

 アーシアも直ぐに回復のオーラを飛ばした。

 

 しかし、緑色のオーラに包まれても一誠は膝を付いたままだった。

 

「おい、一誠どうした? 何処をやられた」

 

 流石にこれは不味いか。俺も膝を付き、一誠に話しかける。

 

「分からない……何か急にめまいがしてきて」

 

「めまい?」

 

 俺が訝しんでいると、ソーナが声を出す。

 

「――ああ、やっとのようですね」

 

「ソーナ」

 

 俺は立ち上がり、彼女を見据える。

 

「お前が言っていた仕掛けってこれか?」

 

「ええ。本当はさっきも言った様に貴方に仕掛けたかったのですが。赤龍帝の鎧を身に纏った彼でもそう簡単に外せなかったのですから上手くいったかもしれませんね。最も、今となってはどうしようも無いですが」

 

「悪いけど、ここまで来ても答えが分からん。種明かししてくれないか?」

 

「構いませんよ。簡単な事です」

 

 僧侶の一人が持っていたモノをこちらに見せてきた。

 

 それは……血だった。病院などでよく見かける輸血パックの。

 

「おい、まさか……」

 

 それ見た瞬間、漸く俺は答えに達した。直ぐに神器を出すと、少し力を込めて一誠に繋がっている黒いラインを切る。

 

 思いのほか、簡単に切れて、切断面からは……赤い血が出てきた。

 

「そういう事か……」

 

 俺の苦々しいつぶやきにソーナは頷く。

 

「ええ、貴方の弟の血です。匙がラインを付けてからずっと気づかれない様に少量ずつ抜いていました」

 

「ソーナ、貴方……!」

 

 流石にリアスも動揺しているのか、ソーナを睨み付けていた。

 

「リアス貴方の評価を崩させてもらいます。かの不敗を誇ったレオン・グレモリーの息子であるカレンとその義弟である赤龍帝の兵藤一誠君。どちらか一人でも倒せば、貴方の評価はガタ落ちでしょう」

 

 うん、まあその通りとしか言いようが無い。他の皆も苦虫を噛みしめたような顔をしている。

 

 俺はというと、最早笑いすら出てきた。

 

「ははは、いやあ参った。こんな形で一誠をつぶしに来るとは。レーティングゲームってのは実際の戦いとは大違いだな」

 

「ええ、その通りです。普通の戦いならばこうはならないでしょう。ですが、レーティングゲームは実戦と似て非なる戦い。今回はそこを突かせてもらいました」

 

「成程」

 

 俺はチラリと一誠を見る。

 

 見るからに体調が悪いのは鎧越しでも分かる。生憎と今から血を増やすことは出来ないし、一誠は残念だがここでリタイアか。

 

 俺がそう思った矢先だった。

 

 一誠が突如不気味に笑いだしのだ。

 

「リタイア前に……俺は俺の煩悩を果たしてから消えようと思う」

 

「は?」

 

 何言ってんだこいつ?

 

 すると、一誠を中心に妙な魔力が辺りに広がった。

 

「高まれ、俺の欲望! 煩悩解放!」

 

 今自分で煩悩って言った? マジで何考えてんのこいつ?

 

「ふふふ、部長、今俺の事心配してくれましたね?」

 

「え!?」

 

 まるで考えが当てられたかのような表情を浮かべるリアス。

 

「アーシア……ツンデレ系?」

 

「はい?」

 

 アーシアに関しては何を言ってるのか分からん。

 

「ソーナ会長、もしかして今俺の技が相手の心の内を読めるものだと思いましたね?」

 

 ソーナが驚いた顔をする。

 

 え、まじ? 一誠のヤツ、そんな凄い技を思いついたのか? 一誠の癖に?

 

「ふふふふ、心を読んでいるわけじゃねえよ。俺のなけなしの魔力の才能全てを注いで作った、女性の胸のうちを! 否、おっぱいの声を!」

 

 ………………は?

 

「その名も乳語翻訳(パイリンガル)! 女性相手ならば絶対にそのおっぱいと会話が出来るんだ!」

 

 気づけば、女性陣ほぼ全員が腕で胸を隠していた。

 

 ……これは酷い。

 

 思わず、一誠を蹴飛ばす。割と本気で。

 

「って、何すんだよ兄貴。血が足らねえんだけど」

 

「知るか、さっさとリタイアして生命維持に必要な最低限残して全部血を吸われて来い」

 

「何で!?」

 

「お前のそのふざけた技に呆れてんだよ!」

 

 マジでこいつの頭はどうなってるんだ! ガキの頃からエロ方面は酷いと思ってたけど、これはマジでやばい!

 

「リアス、これは……」

 

「ええ、ゲームでは絶対に使えないわね」

 

 リアスとソーナも同意見の様だ。

 

「そんな……ちょっと待ってくれ」

 

 一誠が信じられない。という風に呟く。

 

「これじゃ……俺が唯の変態みたいじゃないか!」

 

『その通りだ!』

 

 全員からのツッコミ。敵味方関係なく、俺たちの心が一つになった証だった。

 

 マジでないわー。いっそのこと俺がリタイアさせてやろうかな。

 

「ちょっと待った兄貴。出てる、出てるよ声に! 怖いよ目がマジだぜ!」

 

「よし、じゃあやるか」

 

「本当にやる気!? 待ってくれよ……あ、やべ、叫んでたら頭くらくらしてきた」

 

「しゃあないな」

 

 本当に仕方ない。

 

「一誠、ソーナの胸に聞いて作戦聞け。それで俺からはチャラにしてやる」

 

「な……」

 

 そんな事を言うとは思っていなかったのか、ソーナが胸を腕で隠す。

 

 だが、それはあまり意味が無かったようだ。

 

「……みんな聞いてくれ。あそこに居るソーナ会長は精神だけをこっちに持ってきたんだ。幻影を攻撃させてこっちの、てか兄貴の体力を少しでも減らす作戦なんだ。本物の会長は屋上にいる」

 

 あれま、あれ精神だけとか。中々面白い事しんてだな。

 

「ほんじゃま、さっさと行くか。お疲れさん。お前はさっさとリタイアしてマジで頭冷やして来い」

 

「何だよ……それ」

 

 最早限界に近い一誠。

 

「イッセーさん」

 

 アーシアは再び回復のオーラを飛ばそうとする。

 

 効果が無いと分かっていてもやるとか……アーシアはマジでイッセー大好きっ子だな。

 

「それを待っていました」

 

 だが、それを予感していたかのように僧侶の一人がこちらに向かってきた。

 

 既に回復のオーラは出ている。何をする気だ?

 

反転(リバース)!」

 

 刹那、回復のオーラは緑色から禍々しい赤色へと変わった。

 

「あ……」

 

 それをもろに浴びたアーシアはリタイアの光に包まれる。

 

 って、リタイア!? おい、どうなってる?

 

 待て待て。この子、リバースって言ったよな。って事は、アーシアの治癒能力を反転させたって事か?

 

 反転、つまり逆の状態。傷を治すでは無く、傷つける方に力を変えた。

 

 やばいなそれ。アーシアの治癒能力は半端じゃない。それと同等の傷つける力になったら、手が付けられん。

 

 実際、反転させた僧侶の子も血を流しながらリタイアの光に包まれている。

 

 自滅覚悟で、うちの回復要員であるアーシアをつぶしにかかってきたか。

 

 とんでもないな、シトリー眷属は。

 

 そうこうしている内に、一誠とアーシア。それにシトリーの僧侶が転送されていく。

 

 残るはソーナと女王と僧侶の三人。

 

「しゃーない。さっさと終わらせるか」

 

 これ以上うちの評価を下げるわけにもいかん。とっとと、ソーナを倒して終わらせよう。

 

 そう思い、俺は屋上へと続く階段に急ぐ。

 

「っ、いかせません!」

 

 残った僧侶の一人が俺に魔力の波動を打ち込んでくる。

 

 って、おいおい。

 

『Absorb!!』

 

 直ぐに展開した神器に攻撃を吸収させる。

 

「俺にその攻撃は通じないって分かってるだろ? 失策だぞ」

 

「っ!」

 

 苦々しそうに顔を歪める僧侶ちゃん。

 

「そんじゃ、後は任せた」

 

 そう言って俺はさっさと階段を上っていく。

 

 



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第十七話

 屋上に着くと、フェンスに手を当てて空を見上げているソーナがいた。

 

「よお、さっきぶり」

 

 俺が声を掛けると、ソーナが後ろを振り向いて微笑んでくる。

 

「やはり貴方が来ましたか」

 

「予想通りってか?」

 

「貴方ならば真っ直ぐここに来るとは思っていましたから」

 

「ふーん」

 

 俺は神器を振り回しながらソーナに近づく。

 

「恐らく、お前の残りの眷属はリアスたちに倒されるだろう」

 

「ええ」

 

「それでもやるか?」

 

 答えなど分かり切っているが、それでも聞いておかなければならない。

 

「勿論――戦います」

 

 ソーナの体から魔力が発せられる。

 

 ふと、空を見れば、次々とフィールド内の水がソーナに目掛けて集まって来ていた。

 

 確か、氷の魔力を得意とする姉のセラフォルー様に対してソーナは水の魔力を得意としていたな。

 

「これが、私の全力です」

 

 ソーナが水で動物――ライオンや、蛇、大きな鳥。挙句の果てにはドラゴン等を作り出す。

 

「わお」

 

 思わず声に出る。場違いな感想かもしれないがまるで水のアートを思わせるぐらい精密だ。

 

「驚いていただいているようで良かったです」

 

「いやあ、びっくり」

 

 俺は神器を構えると真っ直ぐソーナに向かう。

 

 水で作られた動物たちが俺に襲い掛かってくる。

 

 俺は神器を振りかぶり、斬りかかる。

 

 しかし、

 

「あり?」

 

 斬った。そう斬ったは良いが斬った直後に何と体が再生したのだ。

 

 って、そうか。水だから斬っても意味ねえのか。

 

「厄介な」

 

 剣を主とする俺には相性が最悪に近い。何せ斬っても意味が無いのだ。

 

 吸収も、魔力そのものならまだしも、実体のある水を吸収するのは難しい。

 

 リアスの滅びの魔力とかあれば問題ないんだろうけど、生憎と持ってはいない。

 

 水で作られたライオンが牙をむきながら俺に迫ってくる。

 

「ちっ」

 

 剣で斬るのを止めて俺は魔力の弾を一つ作り、撃ちだす。

 

 弾が直撃したライオンは弾けるも、直ぐにまた別の獣たちが迫ってくる。

 

「解せまんね。何故、禁手を使わないのですか?」

 

 俺が苦戦する様をジッと見ていたソーナがふと、そんな事を言ってきた。

 

「まさか、禁手無しで私に勝てると思っているのですか? 流石にそれは舐めすぎではないでしょう」

 

「いやいや! お前さんを舐めているつもりはねえよ」

 

 水の獣たちの攻撃を避けながら俺は答える。

 

 まあ、単純な話。禁じられているんだよねえ。

 

 俺は昨日の事を思い浮かべる。

 

******

 

「禁手無し?」

 

「そうだ」

 

 明日のゲームに備えてもう寝ようかと思った矢先、茨木童子が俺にそう告げた。

 

「え、何で?」

 

「……言わねば分からんか」

 

 やばい。茨木のヤツ、キレてきている。

 

 ええい、考えろ。考えるんだ俺!

 

「ええと、修行?」

 

 多分だが、茨木の奴ならこれしか無いだろう。

 

「それに近い。今のお前は禁手すれば大抵の者には勝てるだろう。だが、それでは意味が無い」

 

「意味が無い?」

 

「禁手出来れば勝てると思っていては意味が無い。なればこそ、常に厳しい状況に身を置いて己を高める事を忘れるな」

 

******

 

「とは言ってもなー」

 

 近づく水の獣たちを魔力で蹴散らしながら俺はどうするか考える。

 

 この水は魔力で造った訳じゃ無くて実際にある水をそのまま応用したものだ。それを魔力で操っている。

 

 こうなると、水そのものをどうにかした方が良いかもしれないな。

 

 だったらどうするか。水を消し飛ばすだけの魔力を辺りに放出する? いやいや、確実性が無い。それにここが屋上だからってフィールドを傷つけたら厄介な事になるだろうし。リアスに怒られるのも嫌だね。

 

 ……あれ、何だろう。何か忘れている気が……って今はソーナとの戦いに集中しないと。

 

 しかし、このまま囲まれていても埒が明かん。一度距離を取るか。

 

 俺は背中に悪魔の翼を広げると空へと飛ぶ。

 

 うーむ、多いな。

 

 水の獣たちの数は正直馬鹿にならない。まあ、このフィールド内すべての水を使っているから当然かな。

 

 ……ふむ。

 

「面倒だな。消すか」

 

「は?」

 

 俺の言葉にポカンとするソーナ。

 

 俺は魔力をある物質へと変換する。

 

「な……」

 

 それを見たソーナが思わず、口を開けていた。

 

 当然と言えば当然である。何せ、俺の頭上に浮かぶのはマグマ。超特大のマグマの塊なのだ。

 

「水を魔力で一々消し飛ばすのも面倒だし、これで一気に蒸発させるよ。ソーナ、気をつけろよ!」

 

 両腕を振りかぶる。

 

 それと同時にマグマの塊が地面に目掛けて落ちていく。

 

「っ!」

 

 その容量に危機感を覚えたのかソーナは魔方陣を自分の眼前に展開するのと同時に水の獣の数匹自分の前に配置した。

 

 だが、それでも足りないぜ?

 

 マグマの塊が地面にぶつかるのと同時に弾ける。

 

 弾けたマグマは大波の如く浮かび上がり、獣たちを飲み込んでいく。

 

「……信じ、られませんね」

 

 マグマの熱気に当てられてか、ソーナが額に大量に汗をかいている。

 

「いやあ、想像以上。はは、笑えてくる」

 

 マグマに降れない程度にまで地面に近づく。

 

 周りを見れば屋上はほぼマグマで埋め尽くされており、灼熱の地獄と化していた。

 

 いやあ、俺がやったとはいえ、ひでえな、うん。

 

「さて、まだやる?」

 

 ソーナに笑いかけてみる。

 

「……どうせ私の魔力で同じことをしても意味は無いのでしょうね」

 

「当然」

 

 今あるマグマを使ってまたさっきと同じことをすれば良いんだしね。

 

「分かりました……降参です」

 

『投了を確認。リアス・グレモリー様の勝利です』

 

 終わったー。やあ、実に反省点の多い勝負だったな。茨木のヤツに殺されそう。

 

 って、その前にこのマグマ消さないとな。

 

「あ」

 

 その矢先、ソーナが態勢を崩した。

 

 そのままマグマに落ちそうになる。

 

 やば!

 

 俺は慌ててソーナもとに近づき、その体を支える。

 

「おい、大丈夫かソーナ?」

 

「……暑いですね」

 

「え、ああ。直ぐに消すからちょい待ち」

 

 魔力を操作し、マグマを消すようにする。

 

 直ぐにマグマは霧散し、屋上は元の状態に戻った。

 

「あちゃー。床が若干変形しているな。操作を間違えたかな。こりゃあ減点されてそう」

 

「あの」

 

「あーあー。茨木に何を言われるや。いや、何をされるか、か」

 

「カレン」

 

「しかしさ、俺だって頑張ったぜ。それはあいつを分かってくれるかな? いや、分かっててやりそう。やだやだ」

 

「カレン」

 

「はー。終わったらさっさと人間界に戻った方が良いかも」

 

「カレン!」

 

「ん?」

 

「いつまで抱きしめているのです?」

 

 あ。

 

 そう、崩れ落ちそうになっていたソーナを抱きしめるような形なのだ。今は。

 

「あ、ああ悪い。直ぐに」

 

「――直ぐに? 何をするのかしら?」

 

 …………おふぅ。

 

 今人生で一番聞きたくない声だ。

 

 だが、ここで振り向かなくては後はもっと怖くなる。

 

 俺は少し顔が赤くなっているソーナを離して、なるべく笑みを浮かべながら振り返る。

 

「よお! お疲れ……!?」

 

 振り向いた瞬間、俺の顔の両隣を何かが通り過ぎていった。

 

 それが滅びの魔力と、雷に光が混ざった雷光だとは直ぐに分かった。

 

 背中に冷や汗が流れ始める。

 

 視線の先にはリアスたちがいる。

 

 ……尋常じゃないオーラを纏いながら仁王立ちをする二 人(リアスと朱乃)が居なければもっと良かったんだけどなー。

 

「カレン」

 

「お、おう」

 

 ニッコリと笑っているがあれはヤバい。一番激怒している。

 

 てか、何で朱乃まで!? 俺何かした!?

 

「ゲームには勝ったわ。それは良かったわ」

 

「お、おう。俺がソーナを倒したんだからな」

 

「ええ、その通りですわ」

 

 朱乃もいつものニコニコとした顔を浮かべながら言う。

 

「けど、私との約束はどうしたのですか?」

 

「…………」

 

 やばい。

 

 やばいやばいやばいやばい!

 

 完全に、忘れてた!

 

 どうするよ! 朱乃と約束したじゃん! 自分の忌むべき力を使うから見守っていて欲しいって!

 

 うわーうわー。これは完全に俺が悪いなー。

 

「それでカレン」

 

「は、はい」

 

 完全にびくつきながら俺はリアスの方を向く。

 

 今は朱乃の方を見たら怖いとかそういうレベルじゃない。

 

「何でソーナと抱き合っているのかしら?」

 

「……」

 

 …………ふっ。

 

 俺は回れ右をすると直ぐ様脱走を図る。

 

『待ちなさい!』

 

 二人は直ぐさま滅びの魔力と雷光を放ってきた。

 

「うお! あぶねえ! 本気で当てる気か!」

 

「黙りなさい! 何をしていたのかちゃんと言いなさい!」

 

「そして私たちのお仕置きを受けなさい!」

 

「俺は無実だあああああああああ!!」

 

******

 

「で、結局捕まって何時間もお仕置きと説教? 何をやってるんだいお前は」

 

「……うるせえ」

 

 ペルセウスが呆れたように言うも、俺は憮然として返す。

 

「まあまあ。カレンも女の子に手を出さなかったのだから偉いわよ」

 

「頭撫でんな。何かお前にやられるとゾワッとするんだが」

 

「もう、恥ずかしがっちゃって」

 

 俺の言葉に構わず撫でまわすセルヴィア。

 

「――セルヴィア、おやめなさい。カレン様が嫌がっております」

 

 冷やかに言うのはティア。冷たい眼差しをセルヴィアに送っている。

 

「もう、冗談よ。そんなに本気にしちゃあダメよ?」

 

 このおねえ野郎はどうも苦手だ。

 

 冥界滞在最終日。俺は屋敷に戻り、ティアたちに挨拶をしていた。

 

 ティアたちはもう少しいてほしいようだが、生憎と俺にもやることがある。それもあと数日の内にだ。

 

「カレン様、次は何時こちらに?」

 

「ん? んーもう直ぐ二学期が始まるから少し忙しくなるかな。けどまあ、残りのレーティングゲームもあるからちょくちょく来ると思うな」

 

「そうですか……」

 

「あら~? やっぱりティアちゃんはカレンと離れるのが寂しい?」

 

「…………」

 

 刹那、ティアのビンタがセルヴィアを襲う。

 

「あらあら」

 

 セルヴィアはそれを笑いながら躱す。

 

「もう、危ないわよ。直ぐに手が出る女の子は嫌われるわよ?」

 

「……それ、リアスたちにも言って欲しいな」

 

「それは貴方が悪いわよカレン。女の子には優しくいないと」

 

「男女差別って知ってる……?」

 

「まあまあ。そこら辺はまた今度ゆっくりとな?」

 

 ペルセウスが笑いながら言う。

 

 結局あの日、この場所で何があったかは聞くことが出来なかった。

 

 本当は今すぐにでも聞きたいところだが残念な事に時間が無い。

 

 あそこには必ず行かないといけないしな。

 

 ……ただ、あいつには会いたくは無いけど。

 

「カレン様、では次のご帰還、心よりお待ちしております」

 

「ああ」

 

 本当は茨木のヤツにも別れを言いたかったが、仕方ない。

 

 ま、あいつは何かそういう感じじゃないし、当然かもな。

 

「そろそろ時間か」

 

 もう列車の時間に間に合わなくなっちまうからな。転移魔方陣で飛んでいかないと。

 

「そんじゃ、あっち戻ったら連絡するよ」

 

「ええ」

 

「気をつけろよ」

 

「お気を付けて」

 

 三者三様の挨拶を告げられて、俺は生家を後にするのであった。

 

******

 

「……あの子、一応まだ大丈夫みたいね。四死剣の話をしなければ敏感にならないみたいだし」

 

「今回は、だよ。茨木が修行を付けたおかげでそちらに集中していたからな。次会った時は必ず話さないと」

 

「……その際は私が話します」

 

「ティアちゃん、無理しなくていいのよ」

 

「構いません。これは私がすべきことです」

 

「前にも言ったが、あれはお前の所為じゃない。お前にも我々全員にもあれは分からないかった事だ」

 

「…………」

 

「やれやれ、まあ良いわ。後で茨木とも相談しないと」

 

「どうかな、あいつは『くだらん』で終わりそう」

 

「確かにね。もう、まだまだ気が重いわね」




これにて五章終わりです。いやあ長かった。10月や11月に課題が多く出てそちらにかかりきりだったので、中々書けなかったですね。

次は原作6巻。ですが、前々から考えていたオリジナルの章を書いてみようと思います。主人公の過去の一端を明かしていこうかと。

取り敢えず、今年はこれで終わりです。次の章は新年の出来れば1月末日までには投稿したいですね。


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第六章
第一話


はい、皆さまお久しぶりです。待っていた方別段待っていない方。お待たせしました第六章です。

今回、オリジナル回という事で、かなり難しいですね。何か、頭の中には思い描けているのに、それを上手く文章に出来ないというか。

また、日曜に更新していきたいと思いますのでどうかお願いします。


「……何で夏って暑いんだろうな」

 

 そんな文句が口から出るくらい今日は暑い。

 

 八月最後の日とはいえ、これから暫く暑さは続くだろう。それを考えると気が滅入る。

 

 こんな日こそ、明日からの新学期に備えて冷房の効いた部屋でのんびりと過ごすのも悪くは無いが今日だけはそんな事を言ってはいられない。

 

 本当は昨日か一昨日の方が良かったんだが、冥界に行っていたからな。結局この日になっちまった。

 

 ……なるべく早く済ませて早く帰ろう。あいつにだけは会いたくないしな。

 

 おまけにリアスたちには何も言わないで来たから説明もめんどくさい。

 

 考えてみると、最近あまり一人の時間が無いなー。まあ、あいつらと一緒に居て煩わしいと言う訳じゃあ無いけど、やっぱり一人は一人で別の意味で落ち着くな。

 

 セミの鳴き声が響く中、俺は少し朧げな記憶を頼りに歩いていく。

 

 近づくのが分かるのと同時に俺の足取りは重くなってくる。

 

 出来る事ならば行きたくないのかもしれない。正直、自分でも良く分かっていない。

 

 だけど、行かないという選択肢は無い。それこそあってはならない。

 

 そんな事、俺には許されないのだから。

 

 やがて俺は一つの寺の前に立った。

 

「やっぱり、悪寒がしてくるな」

 

 寺も教会と同じように聖なるものに属する所だ。俺みたいな悪魔が入ったら即アウトだ。

 

 おまけに悪魔界と協定を結んでいるわけでも無いのだから入った瞬間に滅せられても文句は言えない。

 

 なので、叔父上とゼクス兄さんに頼んで何とか今日だけは入ることを許可してもらう事にした。

 

 事情が事情なだけに二人には一応の説明はしておいた。あれだけで納得してくるとは流石に思わなかったが。

 

 いや、本当は分かっていてそれでも俺のわがままを聞いてくれたんだろう。

 

「……行くか」

 

 意を決して、俺は門を通る。

 

 数秒間そこで止まるが、何も起きない。どうやら本当に取引は成功しているみたいだな。

 

 ここに来てやっぱ駄目ですなんて言われたら俺のストレスが爆発するかもしれんな。

 

 ま、兎に角行こう。

 

 俺は本堂には寄らず、真っ直ぐ目的地である墓地に向かう。

 

 無数の墓が並ぶ中で俺は直ぐに目的の墓を見つける。

 

 そこに書かれているのは寿家。

 

「……よお、紫水。一年ぶりだな」

 

 簡単に墓の周りを綺麗にして持ってきた花を添える。

 

「あれからもう三年か。これが短いのか早いのかは俺にも分からん。気づけば、俺はもうお前の年を超えちまった。早いもんだ」

 

 あれだけ年下扱いされていたのに、今じゃ俺の方があいつの年を超えてしまった。

 

「本当に早いな。おまけに今年に入ってからは色んな事が起きちまった。まだ一年経ってないのに、それぐらい感じるぐらいの濃い経験をしたと思うよ」

 

 そう、リアスたちによって悪魔となり、色んな事を経験した。

 

 どれもが俺の中で忘れられない事で、忘れてはいけないことだ。

 

「なあ、紫水。お前が生きていたらもっと別の人生を歩んでいたのかな?」

 

 ずっと一緒に居て、道場で汗を流し、笑いあったり、からかわれたり、飯を食ったり。

 

 そんなずっと同じような日常が続いていたのかもしれない。

 

 けど、どれだけ思ったと事で時間は戻らない。戻ってはいけないのだ。

 

 時間はずっと動いたままだ。それが絶対だ。

 

「……ああ、何か辛気臭くなっちまったな。このクソ暑い天気の影響かな。紫水、今日はここまでだ。次はまた何か面白い話を持ってくるよ」

 

 別れを告げて、俺がこの場を去ろうとした時だった。

 

「――兄様?」

 

 鈴の音と同時に掛けられた言葉に、俺はその場で凍り付いてしまった。

 

 馬鹿な何で気づかなかった。久しぶりだから周囲の計画を怠った? そんな馬鹿な。油断していたとはいえ、俺がこんな近くまで気づかなかったなんて。ああ、やばいやばい。思考が変だ。落ち着け落ち着くんだ。深呼吸だ。深呼吸するんだ。

 

 呼吸が早くなるのを感じる。これは駄目だ。変な呼吸になっちまう。

 

 兎に角落ち着け。落ち着くんだ。

 

 俺はゆっくりと振り向く。

 

 そこにいたのはやはりというか、予想通りの相手だった。

 

 淡い緑色の浴衣を身に纏い、日よけ用の麦わら帽子を被っている。

 

 手には花を持っている。墓参りであることは容易に想像がつく。

 

 茶色の髪を紫水と同じぐらいに伸ばしており、顔立ちもそっくりな事から一瞬、見間違えそうになる。

 

 まあ、それは当然でもあるか。

 

「……翠」

 

 紫水の妹なのだから当たり前だ。

 

 お互いに呆然としている。

 

 実に三年ぶりだ。あの日以来、全く会っていないのだから。

 

 俺は耐え切れず、目を逸らしてしまう。

 

「っ……」

 

 息を呑む音が聞こえる。

 

「……何をしているんですか」

 

 冷たい、何も感じさせない声に、体が硬くなっていく。

 

「何で貴方がここにいるんですか?」

 

「……それは」

 

「貴方がここに居る資格なんて無いのに」

 

「…………」

 

「貴方が、姉さんの墓の前にいる資格なんて無い。分かってるはずだわ」

 

 そうだ。その通りだ。翠の言葉に何も間違いはない。

 

「貴方が姉さんを殺した」

 

 その言葉は俺の胸に貫かれたような痛みがもたらされた。

 

「貴方が」

 

 次の瞬間、俺は駆け出してた。

 

 悪魔としての身体能力をフルに活用させて逃げた。

 

 翠に声を掛けられたと思うが、それも無視して駆け抜いた。

 

 全速力で何処を走っているのかも分からず走り続ける。

 

******

 

「はあ……」

 

 近くにあった電柱に背を預けてしゃがみ込む。

 

 何処だかまるで分からないが、ケータイで調べれば何とかなるだろう。

 

 やっちまった。そんな感情が俺を支配する。

 

 またしても俺は逃げてしまった。あの頃と同じだ。

 

 目を背けて、結局乗り越えられていない。

 

「やれやれ……他の奴らには偉そうな事言ってるのに、言っている本人がこれじゃあ、説得力が何にも無いな」

 

 自嘲気味に呟く。

 

 いくら強くなっても、ここら辺の部分は何も変わっていない。

 

 紫水、俺は何時までこんな感じなのかな? 翠とも結局何も話せなかった。

 

 このままじゃいけない。それは分かっている。

 

 分かってはいるんだが……進めないこのもどかしさ。嫌になってくるな。

 

「……帰るか」

 

 本当は帰りたく無いのだが、ここに居たってしょうがない。ならば帰るしか無いだろう。

 

 さて、さしあたって俺がやるべきことは……。

 

「ここ、何処だっけ?」

 

 ケータイで地図を見て現在地を調べる事だ。

 

 



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第二話

「はあ……」

 

「…………」

 

「ああ……」

 

「………………」

 

「はあぁああ」

 

「……カレン、どうかしたの? さっきからため息ばかりを付いているけど」

 

 俺の連続ため息に耐え切れなくなったのか、頭を押さえながらリアスが聞いてきた。

 

 翠との再会から一日。遂に新学期が始まったわけだが、初日という事もあって学校は午前で終わり、俺たちはさっさと家に戻っていた。

 

 で、俺はというと、何をするわけでも無く只々自室のベットでゴロゴロしているわけなのだが……。

 

 うん。元気が全く出ないな。何かすることがあるはずなのに何もする気が起きない。

 

「ちょっとカレン、無視しないの」

 

 ペシっと俺の頭を軽く叩くリアス。

 

 仕方なく、俺は体をリアスの方に向ける。

 

 見ると、我らがグレモリー眷属の内、家に住んでいる連中が勢ぞろいしていた。

 

 いや、そもそもここ俺の部屋の筈なのだが、何でこいつ等いんの? って、言った所で、意味ないか今更。

 

 他の奴らもこちらを見ている。

 

「ホント、どうしたんだよ兄貴。昨日帰って来てからずっと変だぜ」

 

 一誠も心配そうに聞いてくる。

 

 一誠にまで心配を掛けるとは……俺もまだまだの様だな。

 

「どこか上の空で、ボンヤリとしてますわ」

 

「……注意力が無い」

 

 朱乃や小猫も心配そうにしている。

 

「うん、普段のカレン先輩からは想像も出来ない」

 

「お、お疲れなのでしょうか?」

 

 アーシアやゼノヴィアもこちらを見て話している。

 

 うーむ、どうやら他の連中に随分と心配をかけたようだな。この分だと祐斗やギャスパーの奴にも同じように心配をかけていたようだな。

 

「あーなんだ。すまん。どうやら変な心配を掛けちまったようだな。悪い」

 

 軽く頭を下げておく。

 

「本当にどうしたの? 昨日帰ってきたから本当に元気が無いし……結局どこに行くのかも教えてくれなかったし」

 

 リアスが少し不満げに言う。

 

「良いだろ別に。俺だって個人的な用事で動くことだってあるさ」

 

「それはそうだけど……」

 

「あんな表情で帰ってきたらビックリするに決まっていますわ」

 

「……心配」

 

 皆口々に言うが、生憎と話すつもりは無い。

 

 話したら話したで自分の過去についても話さなければならない。何が楽しくてそんな事をしなきゃいけないのだろうか。

 

「あーもーやめやめ。こんな話してても不毛だ。別の話をしようぜ」

 

「カレン、貴方ね……」

 

「気持ちを切り替えるからさ、それで良いだろ?」

 

「もう……」

 

 しつこく食い下がりそうだったので、俺はリアスの耳元に口を近づけると、小声で言う。

 

「頼むよリアス。今度何かお願い事聞いてやるからさ」

 

 その言葉にリアスの雰囲気が変わる。

 

「……なんでもって言った?」

 

「え、言って」

 

「言ったわよね?」

 

「……ハイ、何でも聞きます。一つだけ」

 

 一先ず一個だけにしておく。

 

「分かったわ……破ったらタダじゃおかないわよ?」

 

 ゾッとするような声音で俺の耳元で囁く。

 

 ……後悔するかも。

 

 そんな事を思う俺であった。

 

*****

 

「ディオドラ・アスタロト?」

 

「ええ」

 

 授業が本格的に始まったある日の昼休み。

 

 俺とリアス、朱乃の三年生組は中庭で三人昼食を取っていた。

 

 俺も含めて非常に目立つメンバーだが、遠巻きに見るだけで近づく子がいない為、周囲には人がいない。

 

 そんな中で出た話題が一人の悪魔だった。

 

「確かそいつ、若手悪魔のメンバーの一人だった。アスタロトっていうと、現ベルベブブ様の実家だったな」

 

 アジュカ・ベルゼブブ。妖艶な雰囲気を持つ方なのは見て分かるが実際のところあまりは知らない。

 

「で、そいつがどうしたのさ?」

 

「どうもこうも無いわ。アーシアに求婚しているのよ」

 

「はあ?」

 

 何でアスタロト家の次期当主がアーシアに?

 

「以前、アーシアちゃんが悪魔の治癒したことで教会を追放されたことは覚えてますよね?」

 

「ああ」

 

 朱乃の言葉にうなずく。

 

 それであの堕天使の組織に身を置いていたんだからな。

 

「って待て。もしかしなくてもその時の悪魔がディオドラ・アスタロトなのか?」

 

「そのまさかよ」

 

 嘆息するリアス。

 

「すると何か? 助けられた時の恩で恋心が目覚めたと? はは、過程をすっ飛ばし過ぎていて笑えてくるな」

 

 今どき、出会ってすぐに結婚なんて無理に決まっている。普通は順序良くいかないとな。

 

 まあ、出会ってスピード結婚なんて人もいるだろうが。

 

「で、結局断ったんだろ?」

 

「ええ、でも」

 

「あの様子だと、諦めてはいないでしょうね」

 

「そいつはめんどくさいな」

 

 普通ならバッサリと断ってやれば良いんだろうけど、相手が現ベルゼブブを輩出した名門ならば、無下に出来ん。

 

「何とか俺たちだけで解決できれば良いが」

 

「ほんとね……」

 

 悩ましい問題だと、俺たち三人はため息を付いてしまう。

 

 しかし、結婚。結婚か……。

 

『ねえ、私たち結婚する?』

 

「…………」

 

 最悪だ。最悪過ぎて嫌になってくる。

 

 翠に会ったせいか? 何だってあんなことを思い出さなきゃならないんだよ。

 

 いや、思い出さなきゃいけないことだったのかもしれないな。

 

 悪魔として生きていくならば遠からず、翠達とは別れる様になる。もしこのままだったら、何も出来ないまま、長い時間を生きる事になるって訳か。

 

 とはいえ、解決するって言ってもどうすれば良いのやら。

 

「はあ……」

 

 またため息を付いてしまう。

 

 本当にここ最近ため息を付くことが多くなってきている気がする。

 

「……おし」

 

 俺は席を立ちあがる。

 

「どうしたのカレン?」

 

 リアスと朱乃が目を丸くして俺を見る。

 

「ちょっと走ってくる。五限には間に合うようにするから。じゃ」

 

 それだけ言うと、俺はそのまま走りだす。

 

******

 

「行ってしまいましたね」

 

「本当ね」

 

 走り去っていくカレンを見て、私――リアス・グレモリーと朱乃は揃ってため息を付いた。

 

 本当にどうしたのかしらカレンは。昨日から様子が酷かった。

 

 本人は気付いていなかったようだけど、夜、寝ている時もうなされていることがあった。

 

 起こそうかとも思ったが、結局そのままになってしまった。

 

 ……実のところ、気になってしまっているのだ。うなされている時に寝言で呟いていたこと言葉が。

 

『ごめん、紫水。ごめんな紫水』

 

 紫水。名前からして男か女かは分からないが、恐らく女だろう。私の女としての勘が、それを告げている。

 

 多分だけど、カレンの昔の女だ。私の処女を貰ってほしいと言ったときのカレンの反応からしてみて間違いない。

 

 まさか、私以外に女を作っているなんて……!

 

 思わず怒りに身を任せそうになって、私はあることに気づいた。

 

 私は、カレンのこっち(人間界)に来てからどうやって生きていたのかを知らないのだ。

 

 知っているのは叔母様……日月さまが亡くなられてからは兵藤家に引き取られて一誠とは兄弟として暮らしていたことぐらいだ。

 

「……朱乃」

 

「はい?」

 

「カレンの過去についてちょっと調べてみるわ」

 

「え、急にどうしたのですか?」

 

 驚いた顔をする朱乃。

 

 まあ、当然よね……。

 

「どうしても知りたいことが出来たのよ。今夜にでも、兵藤の叔母様と叔父様にお話を聞くわ」

 

「まあ、それは構いませんが……カレンは自分の過去を知られるのを嫌がると思いますが……」

 

「今のカレンは昔の事で何かを悩んでいる。こんな状況で禍の団(カオス・ブリゲード)が襲って来たりしたら危ないわ。特にあの四死剣の連中なんかはね」

 

「四死剣……神星剣の保有者達ですね」

 

「ええ。彼らはカレンを狙っている。最近は姿を見せていないけど、間違いなくカレンに接触してい来る筈だわ。だからこそ、カレンには万全の状態でいて貰わなければ」

 

 本当は私達がサポート出来れば良いのだろうけれど、神星剣の力の恐ろしさはカレンの持っているものを通じて把握している。

 

 悔しいが、あれは今の私達でどうこう出来る物じゃない。

 

 お兄様やアザゼルだったら別かもしれないが、この二人はそう簡単には動けない。

 

 だからこそ、同じ土俵に立てるカレンには戦えるようになってもらわないといけないのだ。

 

 心苦しくもある。そして心配でもある。

 

 あの日、親の敵に会ったカレンの顔は尋常では無い程に憎悪に染まっていた。

 

 それがどういう事を意味するのか。嫌でも予想が付く。

 

 祐斗の様に乗り越える事が出来るかどうか。……正直、分からなくなってくる。

 

 もしも戻れなくなってしまったら……考えただけで寒気がしてくる。

 

 そんな事絶対に許されない。私が許さない。

 

 もう二度と、カレンは離さない。そう、絶対に。

 

「……リアス?」

 

 朱乃が顔を覗き込んでくる。

 

「貴方もあまり根を詰めてはいけませんわよ? 貴方は私たちのキングなのですから。私たちの事も頼ってください」

 

「朱乃……」

 

 本当に私にはもったいないくらいの女王だわ。

 

「けど、カレンはそう簡単に渡さないわよ?」

 

「あらあら」

 

 



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第三話

お待たせしてしまい申し訳ありません。身内の不幸などがありまして色々とバタバタしておりました。いい加減更新を再開しようと思います。


「あの、俺何で皆に囲まれているんです……?」

 

 おっかなびっくりな様子で自分を囲んでいる私たちを見るイッセー。

 

「何か、怒られるような事しました?」

 

「いいえ、そういうわけじゃ無いわ」

 

 話を聞くだけっていうことで、これはやり過ぎたかしら?

 

「ふむ、取り敢えず私は何も聞いていないのだが?」

 

「わ、私もです」

 

「……同じく」

 

 ゼノヴィア、アーシア、小猫が首を傾げている。

 

「突然、イッセー君たちの家に来いって言われただけですしね」

 

 祐斗も困惑している様子だった。

 

 まあ、今回は私と朱乃しか知らないし、当然ね。

 

「と、所でカレン先輩は、家に来てから見かけていませんが」

 

 ギャスパーが段ボールに入ったまま辺りをキョロキョロしている。

 

「カレンは今冥界に居るわ。カレンの悪魔の駒が漸く準備出来たらしいの」

 

「兄貴の? てか、上級悪魔になったんすか!?」

 

 イッセーが驚きの声を上げる。他の皆も大なり小なり驚きを露わにしている。

 

「別に不思議な事じゃないわ。カレンだって半分とはいえグレモリーの血を引いているのよ? おまけに実力も織り込み済み。問題ないわ」

 

 本当はもっと面倒な事になるのでは無いかと思ったのだが。

 

 カレンはグレモリーの血を引いているが、転生前は半分に人間だったのだ。

 

 最近は露骨では無いものの、純血主義は悪魔界に根強く張っている。

 

 魔王の血縁者である者が半血となると、お兄様の政敵何かは喜んでそこを突いてくるだろう。

 

 実に腹立たしい。そんな事でカレンの評価を不当に貶めようとする、とまではいかないまでももっとごねると思っていたのだが。

 

 ソーナたちとのレーティングゲームが影響しているのかしら? それ以外にも何かあるのか……。

 

「まあ、それは今は置いておいて、カレンは明日まで帰ってこないわ。というわけでイッセー」

 

「は、はい」

 

「カレンの昔話をして?」

 

「……はい?」

 

「だから、カレンの昔話をしてちょうだい」

 

「いや、え、ええええええ!?」

 

 そんなに驚くことかしら?

 

「ちょ、部長何言ってんすか!? え、兄貴の昔話?」

 

「そうよ、だからほら、話しなさい」

 

「ぶ、部長……急にどうしたんですか、いきなり」

 

 本当に困惑したようにする祐斗。他の皆も似たり寄ったりな反応だ。

 

「私たちはカレンについて知らなさすぎるわ。それは今後の戦いに大きな支障を来たす――別に私がカレンの事知りたいわけじゃ無いわよ」

 

「最後の一言で全部台無しです」

 

 ため息を付くイッセー。

 

 何よ、良いじゃない。カレンの事私だって知りたいし。

 

 ……それに気になるのはカレンの元カノらしき影。それが一番知りたいことだ。

 

「まあ、いいすっけど、何処から聞きたいんです?」

 

「イッセーは一番最初に覚えていること」

 

「一番最初……えっと、確か俺と兄貴が初めて会ったのは、公園っすね」

 

「公園」

 

 成程、子供としてはベタな所ね。

 

「で、俺が公園に入ったら、兄貴何か当時確か小学生だったんですけど、中学生をボコボコにしてて」

 

「待って、そこから可笑しいわ」

 

 何でそうなってるの!? いや、まあ、あの子結構短気な部分もあるけど。

 

「あんときはビビったな。顔面とか思いっきり殴っていて、まるで容赦無いんです」

 

「い、今では想像が付きません」

 

 恐ろしげに体を震わすアーシア。

 

「全くだ。寧ろ、本当にカレン先輩なのか? と疑いたくなるな」

 

「……別人みたい」

 

 ゼノヴィアや小猫も同意見の様ね。

 

「いやいや、マジだって。昔の兄貴って髪が原因で色々とあったみたいでさ」

 

「髪……紅髪でかい?」

 

 祐斗の質問にイッセーは頷く。

 

「ああ、高校ではそうでも無いけどさ、小学生にはあの髪は結構目立つんだよな。それが原因でからかわれたり、いじめを受けたりさ」

 

「何てこと……」

 

 そんな物受けていただなんて……そいつら後で探し出して粛清してやろうかしら?

 

「酷い話ですわ……それで喧嘩などを?」

 

「ええ、まあ。特にちょっかいを出す男子たちをボコボコにしたり、そいつらの中学生の兄貴たちを更にボコボコにしたり、そんな事を繰り返しているうちに付いたあだ名が赤鬼っす」

 

「赤鬼……」

 

「本当に今とは想像が付きませんわ……」

 

 同時に、それだけ荒んだ生活を送っていたのかと、思うと胸が締め付けられる。

 

「当時、赤鬼には近づくなってのが、子供たちの共通ルールでしたから、他には誰も居なくて、で、兄貴こっちに近づいてきたんすよ」

 

 こう、ゆら、ゆら、っと。恐ろしげに語るイッセー。

 

「当然、俺は恐怖で体が竦んぢまって、動けなくなったんですよ……」

 

 当然と言えるわね。小さいころにそんなのに出会ったたまんないですもの。

 

「で、兄貴が俺の目の前に来たんですよ。そんで咄嗟にこういったんです」

 

 ――おっぱい好きですか!?――

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………。

 

 はい?

 

 場を沈黙が漂った。

 

「ごめん、イッセー君なんて言ったの?」

 

 祐斗が信じられなかったのか、頭を押さえながらイッセーに聞く。

 

「いや、だからおっぱい好きですか、って聞いたんだよ」

 

『何で!?』

 

 全員がツッコんだ。それだけ内容が奇怪だったのだから、当然と言えるわね。

 

 何よそれ……おっぱい好きですか、何て。まあ、イッセーらしいと言えばイッセーらしいけど。

 

「何をどうやったらそうなるのかしら」

 

「……当時から変態」

 

 私が嘆息すると同時に小猫も痛烈な一言を送る。

 

「いやあ、当時からおっぱいに興味あったんですけど、咄嗟に出たのがそれだったんですよねー」

 

 あはははーと軽く笑うイッセー。

 

 それを見て、皆軽くため息を付く。

 

 ――やはり、イッセーはイッセーなのだと。

 

「それで、どうしたのですか?」

 

 朱乃がイッセーに続きを促すと、イッセーは話を再開する。

 

「えっと、俺が叫んだ瞬間、兄貴は固まったんですよね。で、十秒ほど止まって『…………は?』って言ったんすよ。で、もう一度俺がおっぱい好きですか!? って聞いたんですよ」

 

 それからはこうだ。

 

 あまりの事にカレンは呆れたようにため息を付いて、その場を去ったらしい。

 

 で、次の日にもう一度公園に行くと、カレンはのんびりとベンチに寝そべって昼寝をしていたらしい。

 

 イッセーが近づくとカレンは直ぐに起きて、イッセーを睨み付けた。

 

『何の用だ』

 

 低く、まるで全部を拒絶するようなそんな目をしていた。

 

 だが、イッセーは不思議と、怖くなかったらしい。昨日怖がっていたのが、不思議だったと言う。

 

『なあなあ、あんた女の人のおっぱい好きか?』

 

『あ?』

 

 それからイッセーは良くカレンと話をするようになったらしい。

 

 最初は鬱陶しそうにしていたカレンも数日経つと、根負けしたようにイッセーと会話するようになってきたらしい。

 

 そこからちょくちょく遊ぶようになってきて、親同士も交流を持つようになったという。

 

 そこで驚いたのが、イッセーのお母様と日月さまが同じ所でパートのお仕事をしていたと言うのだ。

 

 そんな事もあって、両家は家族ぐるみでの付き合いを始める様になったと言う。

 

 イッセーの家族との交流を深めていく中で、カレンも大分落ち着いてきたのだが、カレンに、また悲劇が襲う。

 

「叔母さん……日月さんが亡くなったんすよね」

 

 原因不明の病気でこの世を去った叔母様。

 

 一人残されたカレンを不憫に思い、兵藤家に引き取られたのだと言う。

 

 中学にあがったカレンはしばらく不良たちと喧嘩に明け暮れる毎日を送っており、また、イッセーたちも強く言えなかったらしい。

 

「けど、兄貴が中学一年の秋くらいかな、急に喧嘩をしない様になったんすよ」

 

「急に?」

 

「はい、原因は俺も分からなくて、あーでも、何か武術習い始めたって聞きはしましたね」

 

「そう……恋人、とかの話は?」

 

 私は気になっていたことをイッセーに聞く。

 

 それに過敏に反応したのは朱乃と小猫。

 

 朱乃は気付いていたけど、まさか小猫まで……油断ならないわね。

 

 さて、私の質問にイッセーは首を傾げる。

 

「恋人……ですか? いえ、そんな話は聞いたことないっすけど。あーでも」

 

 何かを思い出したようにイッセーは声を上げる。

 

「兄貴が中三で、確か、夏の終わり。そう、丁度今ぐらいの時から、ですかね。何か葬式には出たみたいっす」

 

「葬式?」

 

「はい、それからしばらくずっと無気力に過ごしていて、どうしたのかって聞いても、『何でも無い』の一点張りで」

 

「葬式……」

 

 それが恐らく一番大きく関係しているようね。

 

 これ以上はイッセーからは何も聞けないかしら。後は、カレンから直接聞くしか……。

 

 けど、話してくれるかどうか。

 

 新たな問題に、私は思わず、頭を押さえてしまう。

 

******

 

「何か悩んでいるか?」

 

「は?」

 

 ボンヤリと、車の窓から外の風景を眺めていると、隣に座っていたペルセウスが俺に声を掛けてきた。

 

「何さ、急に」

 

「いや、だから何かを悩んでいるんじゃないのか? と聞いているんだ」

 

 めんどくさいと思いながらも俺はペルセウスの方を向く。

 

「あんたあれか、エスパーか」

 

「ははは、面白い事を言う。俺は超能力は使えんぞ」

 

「そういう意味じゃねえよ」

 

 ああ、面倒なヤツだ。俺は内心ため息を付きたくなる。

 

 自分の膝の上に置かれているケースを見て、今日の事を思い返す。

 

 悪魔の駒の準備が出来たと聞いて冥界に一人で来たときは正直、随分と早い帰還だな、と思ってしまった。

 

 帰るのはもう少し後になるのでは無いかと思っていてので、ほんの少し、ティアたちとどうやって顔を合わせようかとも考えてしまった。

 

 駒は首都で貰うらしく、誰か一人供を付ける様にと、言われた。

 

 供、まあティアたちしかあり得んのだが。

 

 先ず茨木は完全に論外。つうか、こっち来ても未だに火山に居るとか。

 

 後は三人だが、ここは何故かペルセウスに決定していた。

 

 セルヴィアはニコニコと手を振りながら『いってらっしゃーい』と言うし、ティアは頭を静かに下げるだけだった。

 

 結局ペルセウスを伴って俺は首都へと向かった。

 

 そして魔王城で駒を貰う作業を色々とし、拍子抜けするほど簡単に駒を入手することが出来た。

 

 ゼクス兄さんたちに会うかとも思ったが、やはり忙しいのだろう、会う事は叶わなかった。

 

「何か、色々とすんなりといったな」

 

「まあ、前回のシトリー戦での働きが大きく出たな。禁手を使わずに王であるソーナ・シトリーを倒したのだ。大きくプラスされていたなのだろうよ」

 

 成程、だからこそハーフである俺がこんなに簡単に駒を手に入れる事が出来たわけか。

 

「良いや。少し疲れた。直ぐに人間界に戻らんといけないし、色々と考えるのは後だな」

 

「そうか……ま、確かに強行軍ではあったな。それで? 悩みも後か?」

 

「……一気に頭の中に思い浮かんだよ。お前最悪だな」

 

「ははは、問題を先送りにしても意味は無い。結局いつかは来る。ならば、予め覚悟が出来ているうちにやった方が良いと思うけどな」

 

「………………」

 

 分かってはいるが、それを実際に行うとなると、全然なのだ。

 

 未だに引きずっている俺は何時まで経っても変わることが出来ないのだろうな。

 

 ……だけど、今がその時なのかもしれない。数年ぶりに翠に会ったのだ。今会うという事は、つまりそういう事なのだろう。

 

「……ああ、めんどくせーな」

 

 思わずぼやいてしまうが、それでもやる事にはした。



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第五話

 いつになく家の雰囲気が悪い。

 

 駒を貰い冥界から人間界に戻ってきたら、何か家の様子が変だ。

 

 イッセーやリアスたちも会話こそするが、どこか変な遠慮を感じる。

 

 義父さんや義母さんたちは特に感じないからあいつらが何かしたんだろうけど……。

 

 俺が何を言ってもはぐらかすだけだし、ゼノヴィアや一誠に至っては露骨な話題転換をするし。いや、本当に何なんだろうな。

 

「で、何が起きた?」

 

「あははは、どうして僕に聞くんです?」

 

「お前なら露骨な話題転換はしないだろ?」

 

 悪魔としての仕事をする中、俺と祐斗は部室で二人で話していた。

 

 他の連中全員契約に出ており、俺と祐斗は珍しく依頼が入っていない為、こうやって二人でいるわけだ。

 

「リアスたちから口止めされてんのか? 別に良いぜお前から聞いたとは言わないから」

 

「いえ、そういうわけじゃあ……」

 

「じゃあ言えるよな? 言おうぜ。うん、言え」

 

 ニッコリ笑って祐斗に圧を加えると、祐斗は諦めたようにため息を付く。

 

「カレン先輩の過去について少々イッセー君から聞いたんですよ」

 

「……あ?」

 

 いや、ちょっと待て。何、俺の過去? 俺の昔について一誠から聞いた?

 

 ……何考えてんだこいつ等。あれか? 頭の中に何か湧いてんのか? あ、こら? 

 

「……やっぱり怒ってますよね?」

 

 恐る恐る聞いてくる祐斗を思わず睨んでしまうが、直ぐに目を逸らす。

 

「はあ……」

 

 本当に疲れる。最近マジでやばいな。あれかな、マッサージでも行った方が良いのかな。

 

「……他の奴は兎も角、お前の過去を俺は勝手に聞いた。なら、お前に関しては特にいう事は無い」

 

「別に僕のは特に構わないですし」

 

「あーもー、なら俺も良い。で、どこまで聞いた?」

 

「先輩が中学になった辺りですかね」

 

 ああ、そこか。確かに、あそこが俺の人生を節目でもあったな。

 

 紫水と会ったのは丁度あの頃だったし。

 

 そっか、もう結構経つんだよな。

 

「……あの頃、俺は母様が死んで何もかも嫌になっていたんだ」

 

「…………」

 

 俺の独り言に祐斗は何も反応を示さない。

 

 けど、話を聞いているのは分かる。

 

「そのころ、俺は不良共とやたら滅多に喧嘩してたんだ。それこそ、飽きるかってくらい」

 

 そうだ。今思えば、何て馬鹿な事をしていたのだろう。これが後々の原因になったってのに。

 

「まあ、その後、とある奴に会ってな。そいつのお蔭で大分救われた」

 

「じゃあ、今のカレン先輩がいるのはその人のお蔭なんですか?」

 

「んーまあ、そうかな。後はそいつの祖母(ばあ)さんだ」

 

「祖母さん?」

 

「そ、俺の師匠」

 

 お師匠様、今はどうしているのやら。まあ、あの人がくたばるのは世界が終わるころじゃね? と思えるほどには元気ではあったが。

 

「先輩はその人に剣術をお習いに?」

 

「ああ、結構強かったよ。というか、三年前まで結局一回も取れなかったし」

 

「カレン先輩が?」

 

「あの頃よりはだいぶ強くなったけど、どうかな。今でも勝つイメージが湧いてこないな」

 

 これは単純に俺がお師匠様に対してそんなイメージを抱いているだけなのかもしれないが。

 

「ま、その後色々とあって今は全く寄り付いていないけど」

 

「そうですか……」

 

 俺の言う”色々”が本題だっていうのに、祐斗は踏み込んでこないな。

 

 それはリアスの役目ってか? たく、こいつは。

 

 どこか生真面目な後輩に俺はついつい苦笑を漏らしてしまった。

 

******

 

「おりゃああああああああ!」

 

「…………」

 

 声を上げながら突進してくる一誠。

 

 その身は既に赤龍帝の鎧に包まれており、俺も鎧に体を包んでいる。

 

 背中のジェットを吹かせながら一誠が迫ってくる。

 

 俺も構えを取り、一誠を迎え撃つ準備をする。

 

 直ぐに一誠は俺に接近し、拳を振りかぶる。

 

 俺は拳の勢いを殺さない様に軽く一誠の腕を上に軽く殴る。

 

「うえ!?」

 

 いや、別に上に殴ったからってそんな事言う必要ないぞ?

 

 そんな事を心の中で突っ込みながら俺は一誠の懐に入り、逆にボディブローをぶちかます。

 

「ぐふ……」

 

 拳はめり込み、鎧にひびが入る。

 

 そのまま拳で押し込んで少し距離を取る。

 

 そして右で回し蹴りを食らわせる。

 

「うおおおおおおお!?」

 

 叫び声を上げながら飛んでいく一誠。

 

 む、少しやり過ぎたか?

 

『問題ないでしょう。仮にも赤龍帝の鎧を身に纏っているんです。あれしきの攻撃で死んでいたらそれこそ笑いものです』

 

 お前は本当に二天龍に対して厳しいな。

 

『さて、何の事だが』

 

 まあ、良いけど。

 

 飛ばされた一誠に近づき、声を掛ける。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「……飛ばした人が何を言ってんだよ。いてて」

 

 起き上がった一誠だが、声からして本当に問題なさそうだな。

 

「お前こそ馬鹿か。馬鹿正直に突っ込んでくるか。あれは相手の意表は付けるけど、それは戦闘を継続していた時だ。分かった馬鹿」

 

「馬鹿しかいえねえのかよ!」

 

「何だ? やるか? ほらほら、来いよ」

 

「この!」

 

 煽りながら俺は翼を使って空を飛ぶ。

 

「あ、汚いぞ!」

 

「悔しかったらお前も空を飛んでみろ」

 

 一誠も直ぐにジェットを使って空に居る俺を追いかけ始める。 

 

 俺の様に自由に方向転換できるわけでも無く、一誠は直進して、俺に躱されるたびに途中で止まって方向転換している。

 

 さて、俺たちが何をしているかというと、単純な話、修行だ。

 

 元々やってはいたが、現在はより本格的に、夏休みの修行と同じ程度には皆が励んでいる。

 

 俺と一誠は現在、禁手状態での模擬戦を行っていた。

 

 鎧という頑丈なものに包まれているせいか、俺達は二人とも本気でやり合っていた。

 

 最も、戦闘という点では一日の長のある俺が一歩どころか二歩から三歩もリードしていた。

 

 とはいえ、一誠の瞬間的な爆発力は目を見張るものがあるし、何より気迫が凄い。

 

 そう、凄いのだが……。

 

「ぜえ、ぜえ……」

 

「この持続力の無さが問題だな」

 

 地面に横たわり、息を吐いている一誠を見て俺はため息を付く。

 

「十五分。今回の鎧を具現化出来ていた時間だ。相も変わらず遅いぞ」

 

「分かってる、よ……」

 

 何度も息を吐きながら答える一誠。

 

「相手が逃げの一手を取ってきたら、お前は大分不味いな。能力的には倍加すれば大抵の奴には勝てると思うし、そこは問題ないけどやっぱ継戦能力が無きゃ長期戦は無理だな」

 

「……やっぱそうだよなー」

 

「まあ、でも最初に比べて大分伸びてきただろ。才能無い無いって言われてるけど、案外そうでも無いかもな」

 

「ホント?」

 

「ああ、根性だけは才能があると思うぞ」

 

「根性だけかよ!」

 

「いやいや、根性は馬鹿に出来ないぞ。何事においても必要な事だ」

 

 お師匠様も言っていたが、何事にも継続してやろうとし、諦めない気持ちが重要なのだ。

 

 その点、一誠はそれがちゃんと備わっている。今後において必要になってくるだろうからな。

 

「しっかし、ここは良いね。周りに気にせず戦える」

 

 俺は広大なこの空間を見渡す。

 

 この空間は上から貰った異空間に作られた修行専用のフィールドだ。

 

 レーティングゲームでそれなりの成果を見せた俺たちへのプレゼントというわけだな。

 

 これと同じものをバアルとダンタリオンも持っていると言う。

 

 ……ダンタリオンに関しては確かもう直ぐシトリーとやるだけでまだゲームはやっていない筈だ。

 

 そのくせして俺たちと同じフィールドを持っているんだから変なもんだ。

 

 それだけ期待されているわけって訳か。

 

 バアルとツートップとは聞いているが、どれだけの実力やら……。

 

 まあ、シトリーが先に戦うから後から試合映像でも見たらいいか。

 

 そういやあ、他の連中はどうなってるかな?

 

 直ぐ近くで剣で斬り合っている祐斗とゼノヴィアの方を見る。

 

 お互いに聖魔剣とデュランダルを手に真剣に斬り合っている。

 

 パワーで押すゼノヴィアに対し、祐斗は守りながらもフェイントを掛けながらカウンターで相手を狙っている。

 

 ゼノヴィアも前回のゲームでカウンターでやられたんだからそこは警戒していると思うんだが。祐斗もそれを分かってそんな戦い方をしているんだろう。

 

 聞くところによると、デュランダルは祐斗も扱えたそうだが、祐斗の方が制御を出来ていたらしい。

 

 まあ、だからといってデュランダルを使うのはゼノヴィアだ。あれ程の大剣は祐斗には似合わないしな。

 

「カレン」

 

 休憩中か、リアスが近づいてきた。

 

「どう、調子は?」

 

「まあ、ボチボチかな。一誠のタイムもだいぶ伸びてきた。そっちは?」

 

「朱乃と二人で魔力を高め合っているわ」

 

 堕天使としての力を解放した朱乃。その力は飛躍的にアップしており、リアスも苦戦することが多くなっているようだ。

 

「みんな、各々がパワーアップをしているようだな」

 

「そうね……」

 

 リアスの方を見ると、何か言いたげだ。

 

 いや、まあ、理由は何となくだが見当が付いている。

 

 だからこそ、最近俺に対してぎこちないんだろうけど。

 

 それはどうも、朱乃や小猫にも言える事で、俺との接し方が変だ。

 

 ……ああ、何とまあ面倒な状況になってきたね、どうも。

 

「ねえ、カレン」

 

「ん?」

 

 話しかけてきたリアスだが、何か葛藤するように口を開いたり閉じたりしている。

 

 何だ、一体。

 

 俺がジッと見ていると、やがて決心がついたのか、意を決した表情になり、こう告げた。

 

「私とデートなさい!」

 

「……はい?」

 

******

 

「で、どう思うよ男子諸君」

 

「何が」

 

「リアスが俺をデートに誘った事だ」

 

「行けば?」

 

「何でさ」

 

「何でって、え、行かないの!?」

 

「本気ですか?」

 

「ま、不味いと思いますぅ」

 

 一誠と祐斗、そしてギャスパーが信じられないもの見る目でこっちを見て来る。

 

「やっぱ行った方が良いか?」

 

 俺が聞くと三人が同時にうなずく。

 

 さて、リアスにデートに誘われた訳だが、返事をする前にリアスがどっか行っちまったから仕方なく、修行を終えた後に男衆で話をしているのだ。

 

 まあ、当然内容はリアスが俺をデートに誘ってきたことだ。

 

「兄貴、何でそんなに行きたがらないんだよ? 何か理由でもあるんのかよ」

 

「理由?」

 

 理由。理由か。

 

 確かに、無いわけでも無い。けど、それを話すことは過去について話すことでもある。

 

 今更だから話す事には問題ないのだが、本音を言えば、一番最初に話す相手はあいつが良いしな。

 

 ……だったらデート受けたほうが良いんだろうな。

 

「先輩、受けたほうが良いかと……。ここで断ったら部長もどうなるか分からないですし」

 

「そ、そうですうぅぅぅ! 部長が本気で怒ったら怖いですよぉぉぉぉ!?」

 

 いや、まあ、そうなんだけどな。

 

「受けるしか、無いのかな」

 

 俺の呟きに三人同時に頷くのであった。

 



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第六話

 日曜日。

 

 雲一つない、実に晴れやかな天気だ。のんびり散歩をするのも良し。どこかに遊びに行くのも良し。

 

 ……デートするも良し。

 

「いやあ、無いわー」

 

 何やってんだろ俺。今更ながら今の自分のテンションの低さに自分でも驚いている。

 

 リアスとのデート。それが今日の俺の予定だ。

 

 一応、一緒の家に住んではいるんだが、何故か外で待ち合わせをしてからするという事になった。

 

 あれか、雰囲気的なものを大事にするあれか? まあ別に良いが。

 

 ショッピングモール近くの噴水広場の近くの椅子に俺は腰かけていた。

 

 因みに服装は適当だ。いやまあ、男子組に相談に乗ってもらいながら服を選んだが、それでもおしゃれとは程遠い感じかな。

 

 何気なく俺は広場の時計を見る。

 

 時刻は一時ちょっと前。一時丁度に約束をしていたから少し早めにこっちに来たけど、リアスも、もう直ぐ来るかな。

 

「……お、お待たせ」

 

 ボンヤリとしていると、後ろから声が聞こえてきて、そちらを向くとリアスが……立っていた?

 

「ま、待たせちゃったかしら? ごめんなさい」

 

「…………」

 

 声が出なかった。

 

 普段からリアスは美人だと思っている。普通に制服を着ているだけでもそれは分かる。

 

 まあ、何が言いたいかと言うと、そんな美人なリアスが化粧などをして、綺麗に着飾ったらどうなるか。

 

 ――めちゃくちゃ美人じゃん!

 

 思わず顔を背ける。

 

 あっれー? リアスってこんなに化けるの? 化粧を軽くするだけで? え、マジで? 化粧をした姿なんて冥界でも見たのに何で今日はこんなに美人に見えるのさ。訳わからんぞ。

 

 くそう、従姉妹だからって甘く見ていたか? ぶっちゃけ紫水よりも可愛いと思っちまった。いや、別に紫水が劣っているって訳じゃ無いぞ。あいつはあいつなりの良さがあったし。

 

 というか、そもそも何でこんな事を考えているんだ俺は。まあ理由は分かってるけど。ああヤバい何だか思考が完全にパニくってる。メンドくせー。

 

「カレン?」

 

「はっ!?」

 

 リアスに話しかけられて我に返る。

 

 見ればリアスが不安そうな顔をしている。

 

「や、やっぱり変だったかしら? 朱乃達に相談に乗ってもらいながら色々と決めたのだけど……」

 

 それで変って朱乃達も変、って事になるが……。

 

「いやいや、あんまりに綺麗だったんでびっくりしていただけだよ。正直、舐めてたな」

 

「綺麗? そう、綺麗なのね……」

 

 照れたように頬を染めるリアス。

 

 何だこりゃマジで可愛いな。やばいやばい。

 

「えっと、取り敢えず行くか? どこ行くんだっけ?」

 

 話題を変える為、俺はリアスに聞く。

 

 今日のデートに関してはリアスに一任しているから俺はリアスの言う通りに動く様になる。

 

「え、ああそうね。ちょっと待って」

 

 リアスは慌てたように肩に下げていたバックからメモ帳を取り出し中を確認し始めた。

 

「えと、先ずはそうねここに行きましょう!」

 

「あ?」

 

 メモ帳を突き出されて俺はその内の一ページを見る。

 

 そこには『オススメ!!』とデカデカと上に書かれており、下には何かしらの店の名前が書かれている。

 

「何だこの店? 聞いた事無いけど」

 

「最近できたらしいわ。何でもここのケーキすごく美味しいらしいわ」

 

「ケーキって、何というか女性はケーキとか甘いモノとか本当に好きだよな」

 

「あら? 貴方だって好きでしょ?」

 

「まあ、否定はしない」

 

 甘いモノとか良く食べるしな。

 

 とはいえ、女みたいに休みのごとにメルヘンな店に行って食べる程では無いと、自分では思っている。

 

「てか、出来たばっかでケーキも美味しかったら混んでじゃねえのか?」

 

「そこは抜かりないわ。しっかりと前もって予約を入れておいたわ」

 

「予約?」

 

 え、何ケーキ屋で予約なんてあるの? それがちょっとびっくり何ですけど。

 

「けど、その予約も良く取れたな」

 

「それはまあ、色々とね」

 

 ニッコリと笑みを浮かべるリアス。

 

 ……もしかしなくても悪魔としての力が関係しているのだろうな。何せこの町はグレモリーの管轄だ。ケーキ屋の予約などお茶の子さいさいだろう。

 

「予約出来ているなら良いか。じゃ、行くか」

 

「ええ。あ」

 

 頷いた瞬間に何かを思い出したように声を出すリアス。

 

 そして恥ずかしそうにもじもじとし始める。

 

 何だよ急に。可愛いじゃねえか。

 

「えっと……手を繋いでも良い、かしら?」

 

 上目遣いをしながら俺の方を見るリアス。

 

 …………。

 

「……ん」

 

 俺は手を差し出す。

 

 それを見たリアスはホッとした顔になり俺の手に自分の手を重ねた。

 

 俺はそのまま手を握る。

 

「あ……」

 

「行くか」

 

「え、ええ」

 

 しっかりと握りながら俺たちは歩き始める。

 

 考えてみれば、誰かとこうやってしっかりと手を繋ぐなんて紫水以来か。そう考えると全然握っていないのかな。

 

 いや、別にそもそもそれが普通なのかな? 良くは分からないけど。

 

 ともかく、久しぶりのデートってやつだ。まだ心が晴れたわけじゃあ無いけど、それでもいい加減強引にやる必要もあるのかもしれないな。

 

******

 

「うーん、美味しいわね」

 

 ケーキを口の中に入れながらリアスが幸せそうに言う。

 

 それを尻目に俺もケーキを口に入れる。

 

 ……確かに上手い。甘いだけでなく、他の素材の味もよく引き出されており、お互いにマッチしている。

 

 にしても。俺は辺りを見渡す。

 

 日曜と言う事もあって店内は満席だ。店に来た時など、店からはみ出て行列が出来ていたのを見ると流石に驚いた。

 

 そんな行列を通り過ぎながらリアスが店の前に立っていた店員に声を掛けると、予め分かっていたのか最上級の笑顔を向けられながら店内に案内された。

 

 他の客もマナーがちゃんとなっているのかこちらに不躾な目を向けては来なかったが、流石に紅髪二人は目を引くようで、チラチラとこちらに視線を寄越していた。

 

 もう一つ、店内に居る男は圧倒的に少なく、客だけならば俺を含めて三人。店員を含めるならば四人だけだった。後は皆女同士で来ているみたいだ。

 

 店内は十数人は居ると言うのにその中で男が四人だけってどうなのよ。流石に肩身が狭い。

 

 それでもケーキの味は分かるのだから俺もそこそこ図太い方なのかもしれないけど。

 

「しかし、見事に女ばっかりだな。所謂ここはカップルの専用って訳じゃ無いのか?」

 

「そうみたいね。内装を見て分かると思うけど女性を主にターゲットにしているからでしょうね。まあ、それでも居る事に居るみたいだし、変に気にしなくても良いと思うわよ?」

 

「いちいち人の視線を気にするのはもう中学で辞めた。問題ないさ」

 

 昔は過剰に反応し過ぎていたのだろう。今は特に反応しない様にしては居るけど……。

 

「知ってるだろうが、俺は兎に角俺を馬鹿にするやつが許せなかった。だから結構やらかしていた」

 

 今でもよく思い出せる。目につく敵は全部殴り飛ばしていた。

 

 小学生にしては力が強いとは思っていたが、まあ悪魔のハーフだったから当然だろうけど。

 

「今は思えば、本当に子供だったなって思うよ。自分でも、短気だったと思うし」

 

「……私は当時の貴方の苦しみは分からないな。けど」

 

 一旦言葉を切り、リアスは俺の方を見て微笑む。

 

「少なくとも今の貴方には私たちが付いている。だから大丈夫よ」

 

 ……やばい、ちょっとグッと来たな。

 

 紫水。お前がいなくなってから俺はもう立ち直れないと思っていた。正直、今のままだとその通りだろう。

 

 だけど。だけども。

 

「……本当に潮時なのかもな」

 

「? 何か言った」

 

「いや、何でも無い。さ、ケーキ残り食べようぜ。その後にも行くところあるんだろ?」

 

「ええ、今日は沢山考えてきたもの。全部やらなきゃ」

 

 それは楽しみだ。リアスが考えたプランはどうなるのやら。

 

******

 

「……どんだけ回れば良かったんだよ」

 

 最初の集合場所の噴水広場のベンチで俺はぐったりとしていた。

 

 疲れた。兎に角そう感じた。

 

 リアスの行動力を舐めていた。

 

 ケーキを食べた後、あちこち色んな場所に出かけた。

 

 ボーリングは数ゲーム。リアスがあそこまで上手いとは。ストライク以外全く出さねえ。ありえねえー。

 

 その後に行ったカラオケもそうだ。プロ顔負けの上手さだった。

 

 前々から多才なヤツだとは思っていたが、ここまでとは。正直悔しい。カラオケに関してはまあ、それなりだと思ってはいたんだが。

 

 カラオケの後もバッティングセンターやゲーセン等に行ったが、流石にそこまで負けはしなかった。最も、リアスは随分と悔しそうだったが。

 

 こんなに遊んだのも何時以来だろうか。そもそも、高校になってあまり友人の出来なかったから遊ぶと言う事を全然していなかったと思う。偶に一誠何かと遊ぶ事なんかもあったが、それはあくまで兄弟同士だからノーカンだな。

 

 誰かと遊んだのも多分紫水で最後だ。

 

 本当ならあの夏休み最後の日が…………。

 

「カレン、お待たせ……どうしたの?」

 

 自動販売機で飲み物を買ってきたリアスが戻ってきた。

 

 手にはジュースが二本。俺は一本を貰い、キャップを開ける。

 

「いや、昔の事をな……」

 

 中身を一口飲み、一息つく。

 

「子供の頃俺は兎に角周りに八つ当たりをしていた。それこそ、何のためにやっていたかは分からないほど」

 

 あの日の事は良く覚えている。雨がそれこそ滝の様に振っている中、母様に抱きかかえられながらあの曇天を見上げていたあの日を。

 

 それからの生活は貧しかったけど、母様と一緒だったから耐える事が出来た。 

 

「だけど、自分の髪を馬鹿にされるのはどうしても嫌だった。まるで、自分の事を全否定されているようでな」

 

 気づいたら手が出ていた。一度始まったらそこからはずっと歯止めが効かないままだった。

 

 何度か母様に窘められたこともあったけど、それでも髪とかを馬鹿にされると我慢が出来なかった。

 

「母様が死んで、正直荒れた。その頃は一誠と会って少しは落ち着いたんだが、またな」

 

 中学に入ってからは不良との喧嘩に没頭。義父さんや義母さんには随分と迷惑を掛けちまったものだ。今でも申し訳ないと思っている。

 

「で、喧嘩に明け暮れる中で、あいつに会ったんだ」

 

「あいつ……?」

 

「寿紫水。俺よりも一学年上で……俺の恋人だった」

 

「…………」

 

 リアスが息を呑むのが聞こえた。

 

 言った。遂に言ってしまった。

 

 もう歯止めは効かないぞ。

 

「紫水が俺をこっち側に戻してくれた。紫水がいなきゃ正直どうなっていたか分からない。それくらい、恩もあるし、感謝している」

 

 初めて会ったのは路地裏で喧嘩していた時だった。

 

 同じ中学生をボコボコにしていたら、後ろから声を掛けられたのだ。

 

 ――貴方が『赤鬼』? 成程、確かに鬼ね――

 

 紫水は兎に角強かった。実家が武道の道場をやっていたためか、滅法強かった。

 

 俺が何度挑んでも傷一つ付けられることなく、俺は地面に伏していた。

 

 ――貴方見どころがあるわ。ねえ、私と来ない?――

 

 しゃがみ込んで俺の顔を覗き込む紫水の顔は実に楽しそうだった。

 

 それからはずっと道場に通いぱなっしだった。

 

 お師匠様――紫水の祖母はあんな皺くちゃな癖に紫水並に強いと言う。当然ボコボコにされるという事を何度も繰り返した。

 

 今思えば、あの二人は俺の鼻っ面を徹底的に叩き折る事を目的としてた気がする。お蔭でその後の修行もすんなりと俺は受け入れていたし。

 

 修行のお蔭で俺は喧嘩することは無くなった。自分の中にある持て余していた力に方向性を付ける事が出来たからかもしれない。

 

「母様が死んでから、漸く楽しい事が見つかった。それからの毎日は本当に楽しかった」

 

 反発することもあった。だけど、それも含めて本当に楽しかった。

 

「紫水と付き合い始めたのは出会ってから一年経ったくらいかな。そんであいつに初めて試合で勝った時こう言われたんだ」

 

 ――貴方はあたしと付き合う権利を得たわ! さあ、私と付き合いなさい!――

 

 

 

 

 



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第七話

かなりぎりぎりだった。最近、更新が上手く出来ていないからなるべく定期更新したい。


「紫水と付き合い始めてから別に何かが変わったわけじゃ無い。あるとすれば月に最低でも五回はデートに連れられたことかな?」

 

 デートと言っても、あれをデートと呼ぶのかどうかは生憎と他者がどのようなデートをしているか分からないから何とも言えない。

 

 兎に角、紫水に連れまわされてばっかりだった。

 

 しかし、楽しかったのもまた事実だ。そう考えると俺は女に振り回される方が嬉しいのだろうか。

 

「正直、すげえ幸せだった。母様の死を漸く乗り越える事が出来たと思った」

 

 紫水が何故俺の事が好きになったのかは一度も聞いたことが無いので分からない。

 

 それを考えると、俺も紫水の事が好きになったわけ……でも無いんだよな。

 

 あれ、ちょっと待って。今考えると俺たちの関係って変じゃないか?

 

 お互いに好きだって言った訳じゃ無いのに付き合っていた? 変だろ、変過ぎだろ。

 

「どうしたのカレン? 急に頭を抱えて?」

 

 三年ぶりの新事実に俺が頭を抱えていると、リアスが声を掛けて来る。

 

「……いや、当時の俺の頭加減についてな」

 

「はい?」

 

「何でも無い。話を戻そう」

 

 今は置いておこう。これは後々考えていけば良い。

 

「そんなこんなで、二年ぐらい付き合っていた。で、中学最後の夏に唐突に終わった」

 

「終わった……?」

 

 一旦口を閉じ、大きく息を吸う。

 

 ここから先は本当に言うべきかどうか。今でも迷う。

 

 だけど、言わなくてはいけない。ここまで話してしまったんだ。もう話すしか無いだろう。

 

「紫水が……」

 

 その時だった。

 

 鈴の音が鳴ったのは。

 

 俺は立ち上がり鈴の音がした方を向く。

 

 そこには当然あいつがいた。

 

「……翠」

 

 かすれる様に少女の名を呟く。

 

 当の翠は呆然と俺の事を見ている。いや、俺だけでは無く、俺の隣で突然の事に困惑しているリアスもだ。

 

「翠、いや、これは……」

 

 言葉が出ない。可笑しい。何もやましいことなど無い筈なのに、何故俺はこんなにも動揺している。

 

 狼狽える俺を見て、落ち着いたのか、翠は口元を皮肉げに上げた。

 

「……そうですか。もう三年経ちますものね、当然ですね。もう、姉さんの事は忘れたんですね。あれですか? けじめ的な奴ですか?」

 

「翠」

 

「良いですね、貴方と同じ紅髪。成程、実にお似合いです」

 

「翠……」

 

「過去の事は忘れて未来に思いを馳せる、的なあれですね。分かりますよ……」

 

「翠!」

 

 大きな声を上げて翠の言葉を遮る。

 

 ビクッと肩を震わせた翠はこちらを睨み付ける。

 

「……何ですか?」

 

「翠、話を聞いてくれ」

 

「聞きたくない」

 

「翠」

 

「聞きたくない!」

 

 今度は翠が大きな声を上げた。

 

 その瞳には涙が目一杯溜まっていた。

 

「貴方にとっては姉さんや私たちはもう過去の存在なんでしょうね。だからこんな事になるんでしょうね」

 

「っ……」

 

 翠の瞳が俺を責める様にして見て来る。

 

 その瞳に対して、俺は目を逸らしてしまう。

 

 あの日以来、俺は翠の顔を見れない。あの目をずっと見る事が出来ない。

 

 それが癇に障ったのだろう。翠は踵を返して走り去っていく。

 

「みど……」

 

 呼び留めようとして止めた。

 

 呼び留めてどうする? 何を話す? 何も話せない。話せるわけも無い。

 

「……はは」

 

 笑えてくる。自分の愚かさに。

 

 今まで問題を先送りにし、見ないふりをしてきた俺が招いた結果だ。

 

「カレン……」

 

 リアスが俺に駆け寄る。

 

「……すまん、見苦しい所を見せた」

 

「そんな事無いわ……大丈夫? 酷い顔よ?」

 

「そんなに?」

 

「ええ、死人みたいだわ」

 

 それは酷い。

 

 自分でも今の状態が酷いってのは分かっている。

 

「悪いなリアス、今日はもう帰りたいわ。帰って寝たい」

 

 本当に申し訳ない。リアスには全然関係の無い事だ。これはあくまで俺の問題だ。それにリアスを巻き込んでしまった。

 

「大丈夫よ、カレン……話の続きはまだ今度聞かせてくれる?」

 

「ああ、必ずな」

 

 その前にやる事も出来たが。

 

 

******

 

 胸が苦しい。普段なら全力疾走でもそう簡単に呼吸を乱さないのに、今はこんなにも簡単に呼吸が変になっている。

 

 寿翠は、何時しかフラフラとまるで幽霊のような足取りで歩き始める。

 

 ――夏蓮に新しい恋人が出来た――

 

 不思議では無いであろう。姉が死んでからもう三年が経った。

 

 彼は顔立ちも整っており、性格もそこそこ良く、女性受けもいい。

 

 だから、新しい恋人がいても不思議では無い。

 

 だが。

 

「うう……」

 

 胸が苦しい。体が痛いのではない。心が悲鳴を上げている。

 

「何で……?」

 

 もう断ち切ったつもりだった。会わなかった三年が思いを消し去ったはずだった。

 

 事実、姉の墓の前で再会したときも動揺こそしたものの、特に大丈夫であった。

 

 なのに。なのに。

 

 今日、カレンが女性と一緒に居たところ見た瞬間、自分の中で何かが崩れたのを感じた。

 

 カレンと同じ紅髪の美少女だった。同性である自分が見てもこんな美しい女性がいるのかと思った。

 

 姉もまた驚くほどの美少女だったが、彼女はまた別方向での美しさを持っていた。

 

 そして同時に思った。お似合いだと。

 

 同じ髪を持つのもそうだが、何故か分かった。この二人は一緒に居るべき存在なのだと。

 

 理屈とかそういう話じゃない。ただの直感とも言うべきものだった。

 

 ――だからこそ、余計に辛かった。

 

「こんな、こんな感情(もの)が何でまだ」

 

 辛い。辛すぎる。

 

 何故会ってしまったのだろうか。もう会わなければ良かったのに。

 

 いや、そもそも、最初から会わなければこんな気持ちにならなくて良かったのかもしれない。

 

「……どうしたら良いのよ、姉様。……兄様」

 

 縋るように声を振り絞った。

 

「――心は時に本人が思いも寄らない事を宿す。難儀なものだ」

 

 後ろから声を聞こえ、翠は後ろを振り向く。

 

 そこにいたのは、凡そ奇妙としか言えない人物だった。

 

 金色の髪にスーツを着こなした紳士然とした男性。顔立ちは外国人だ。

 

 この駒王町は外国人が多い事で有名だから別段不思議では無いが、こちらを見る男性の金色の双眸は何処か不気味さを漂わせている。

 

「いや、済まない。歩いていたら目の前に君がいてね、不躾ながら声が聞こえてしまってね。何だか尋常ではない様子だったので声を掛けさせてもらった訳だ」

 

「う……」

 

 しまった。ここは別に自分の部屋とかそういうのではなく、ただの道の一つだ。人が通っても可笑しくないのだ。

 

「申し訳ありません、見苦しいところを見せたようで。もう大丈夫ですのでこれで」

 

 そう言ってこの場を切り上げようとする翠だったが、男性の一言に体を止める。

 

「君は報われない恋をいつまで続けるのかな?」

 

「…………何の、事ですか」

 

 動揺を押し隠しながら翠は鋭い視線を男性に送る。

 

 当の男性はそよ風を受けるかのごとく受け流し、言葉を続ける。

 

「君は三年前からその恋を抱き続けていた。いつそれを自覚したかは自分でも分かっていないだろうけど、少なくとも気づいたのは、君の姉が付き合い始めたのが切っ掛けじゃないかな?」

 

「…………」

 

 何故、この男はここまで詳しく知っているのか、等という考えは浮かばなかった。

 

 男性は知っているのだと()()()()()()()()

 

「敬愛する姉の恋人に自分も恋をしてしまった。普通は姉が付き合っているのだから仕方ないと、諦めるかもしれない。だが、君はそうはならなかった。寧ろ、余計に火が付いた」

 

「……」

 

「君は姉が恋をしているからこそ、彼に惹かれた。それはもう、人生で彼以外に有り得ないと思ってしまう程に」

 

 その通りだ。翠は思う。

 

 姉が付き合い始めたと聞いたときにショックを受けたのと同時に、更に愛おしくなったのだ。

 

 自分でも分からなかった。この感情をどうすれば良いのか。

 

「戸惑うのも仕方ない。だが、心に普通など無い。特に愛というものはそういうものだ。愛は国を亡ぼす程に激しく燃えることだってある。君のだってそれの一つだ」

 

「私のは、そんな……」

 

「事実だ。君の愛もまた、他者を傷つける事で成就されるものだ」

 

「…………」

 

「だが、それで良いのだ。愛は誰にも否定することは出来ない。してはいけない。例え神であろうともだ」

 

「……良い」

 

「そうだ。だから、その感情を閉じ込めてはいけない。解き放つんだ」

 

「解き、放つ」

 

 頭が上手く働いていない。男の声が染みつく様に耳から入ってくる。

 

「今の君では彼を手に入れる事は出来ない」

 

「出来ない……」

 

「そう、だが君は運が良い」

 

「え?」

 

「私がその為の力をあげよう。誰も彼も君の邪魔を出来ないほどの力を」

 

「力……」

 

 そうだ。力がいる。誰も翠の邪魔を出来ないような、強い、強い力が。

 

「どうだい、欲しくないか?」

 

「……欲しい」

 

 欲しい欲しい欲しい欲しい。

 

 力が。カレンを手に入れるための力が、欲しい。

 

「良いだろう。なら、少しだけ眠っていなさい。目が覚めたらその力を君にあげよう」

 

 男が告げた瞬間、翠の意識が暗転する。

 

******

 

「……終わったか?」

 

 男性――ルーファス・アガリアレプトは、寿翠を抱きかかえると、後ろを振り向く。

 

 そこには不健康そうな表情をしている黒髪の女性――仲間の内からはワイズマンと呼ばれている者が立っていた。

 

「やあ、ワイズマン。来てくれてありがとう」

 

「ちっ」

 

「何故そこ舌打ち何だい?」

 

「意味は特にない」

 

「そうか」

 

 いつもの事なのでルーファスは気にすることなく肩を竦める。

 

 ワイズマンは胡乱下に翠を見る。

 

「そんな小娘が本当に役に立つのか?」

 

「立つさ。少なくとも彼をより輝かせるためにはね」

 

 ルーファスが言うと、ワイズマンは不機嫌そうに表情を歪める。

 

「お前の一番のお気に入りカレン・グレモリーか。確かに強くはなってはいるが、それでも白龍皇よりはまだ下だろうに。そんなので良いのか?」

 

「なあにまだまだ。時間はある。それにこれからの禍の団との戦いで、カレンも苛烈な戦いに身を投じるだろう。今回はその手助けだ」

 

 にこやかに言うルーファスだが、ワイズマンは盛大にため息を付く。

 

「何が手助けだ。それで苦労するのは私では無いか」

 

「まあまあ。今回は剣聖とぶつけてみようと思うのだが、どうかな?」

 

 ワイズマンは眉を顰める。

 

「調整はもう済んでいるから出そうと思えば出せるが、正気か? お前、あいつを殺したいのか?」

 

「大丈夫さ。私のカレンならね」

 

 今度こそ気持ち悪いモノを見るような目でルーファスを見ると、ワイズマンは付き合いきれん、と首を振り、無造作に手を振るう。

 

 すると、二人の近くの空間に歪みが生まれる。

 

「その娘の調整せねばならん。連中に気づかれる前にさっさと戻るぞ」

 

「ああ、分かっている」

 

 三人が空間の歪みに入ると、歪みはもとに戻り、後は誰も居なくなった。



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第八話

「はあ……」

 

 シャワーを浴びながら俺は大きく息を付く。

 

 勇気を振り絞った結果がこれだ。正直笑えてくる。

 

 翠と会う事になるとは。これはつまり俺に対する警告のようなものなのかもしれない。

 

 昔を忘れるな。これはその罰だと。

 

 もしそうなら最高に俺にうってつけの罰だ。翠にこれ以上ないくらいに嫌われた。

 

 元々、嫌われていただろうけど、今回でもう修復できない位嫌われたか。

 

 分かっている。全部俺の自業自得だ。翠に嫌われたのだって三年前に俺が逃げたのが始まりだ。それが今回、改めて示されただけだ。

 

「…………」

 

 シャワーを止める。

 

 そして壁の付いている鏡の前に立ち、自分の姿を見る。

 

「酷い顔だ」

 

 シャワーを浴びたのにまるで二回ほど徹夜したかのようなやつれた顔。

 

 これが自分かと思うと、正に自分の心を体現していると感じる。

 

 そのまま視線を下に移す。

 

 上半身には大きな傷が刻まれていた。

 

 あの男、ルーファス・アガリアレプトに付けられた傷だ。

 

 この傷だけは完全には治癒できず今も残っている。

 

 ふと思う。俺は縛られ過ぎなのかと?

 

 翠の事もそうだが、リアスや一誠。グレモリー眷属の奴ら。

 

 冥界に居る。ゼクス兄さんや叔父上、叔母上。それにティア達。

 

 あまりに多すぎるから俺はぶれているのだろうか? ただただ、奴ら四死剣に対してのみ殺意をぶつけていれば、こんなにも思い悩むことは無いのではないか? そんな事を考えてしまう。

 

 事実そうだろう。重い荷物を背負ったままじゃ俺は何時までもあいつらを殺せない。

 

 ならば、どうすれば良いのか? 答えは簡単だ。

 

 だけど。

 

 ――本当にそれで良いのか?

 

「っ!」

 

 無意識の内に鏡に拳をぶつける。

 

 鏡はひび割れ無数の破片が俺を映す。

 

 何をやってるんだ俺は。感情が全然制御出来ていない。

 

「なあ、俺はどうすれば良い? どうすりゃあいいと思うよ紫水」

 

 縋るようにあいつの名前を呟く。

 

 だけど、その問いかけに答える事は無い。

 

 当然だ。紫水は俺が原因で死んだ。そんなヤツの前に出て来る訳が無い。俺だったら唾を吐きかけて文句の一つでも言うけど。

 

 ……風呂に入ろう。取り敢えず熱いお湯に入りたい。

 

******

 

「全く、長風呂していると思ったら何をしているのよ、鏡を殴るなんて」

 

「あらあら、あまり物を傷つけてはいけませんよ?」

 

「……物は大事に」

 

「ぬう……」

 

 リアス、朱乃、小猫に言われてぐうの音も出ない。

 

「その、あれだ、鏡を壊したい気分だったんだ」

 

「どんな気分だよ……」

 

「カレン先輩もたまに発散したいことがあるとか」

 

「疲れているのでしょうか……」

 

 俺の言い訳に一誠はため息を付きゼノヴィアは妙な勘違いをし、アーシアは心配そうにこちらを見ていた。

 

 ぬぐぐぐ、俺の味方は居ないと言う事か。

 

 いや、まあ、鏡を壊したのは俺だしな。

 

 風呂から出たとき、バッタリ出くわした一誠が俺の傷ついた手を見て驚き、騒ぎを聞きつけた他の奴らも来てちょっと面倒な事になった。

 

 風呂場を見たリアスが割れた鏡を発見。理由を察し、今の至る。

 

「どうでしょうか?」

 

 アーシアの神器による治療が終わり、アーシアが聞いてくる。

 

「ああ、問題ないよ。悪いな、こんな事に能力を使わせちまって」

 

 手を何回か握って確認しながら俺は言う。

 

「いえ、そんな事……」

 

 手を振り大丈夫だと言うアーシア。

 

 うーむ、やはりアーシアは優しいね。一誠やリアスが溺愛するのも分かるってものだな。

 

「けど、らしくないぜ兄貴。どうしたんだよ?」

 

 一誠が本当に心配そうに聞いてくる。

 

「別に。ちょっとナーバスになっていただけだ」

 

「ナーバスって、別にって訳じゃ無いじゃないか」

 

 呆れる一誠。

 

 他の面々も首を傾げているなか、唯一リアスは表情を曇らせていた。

 

 俺の不調の原因に察しが付いているんだろう。

 

「まあ、何はともあれ、大丈夫だよ。だから」

 

 そこまで言いかけて俺はバッと窓の方を向く。

 

 窓の向こう、深い闇の中に何かがいる。

 

 俺の突然の出来事に皆戸惑うが、俺の視線の方を向くと、気づいたらしく警戒を始める。

 

 俺はゆっくりと窓の方を近づく。

 

 歩きながら神器を発動する。

 

 慎重に歩を進め、窓の近くまで歩き、窓を開ける。

 

「――誰だ」

 

 脅すように声を掛ける。

 

 だが、相手は何も反応せずにゆっくりとこちらに近づく。

 

 そしてその姿は――。

 

「……鳩か?」

 

 鳩。そう、鳩だった。くちばしに何かを咥えていた。

 

 何だって鳩がこんなに時間に?

 

 訝しげにしている俺の前に鳩はくちばしに咥えていたモノを俺に放り投げる。

 

 咄嗟にキャッチする俺。

 

 鳩に注意を向けながら俺は鳩から渡されたものを見る。

 

「――――」

 

 呼吸が止まりそうになった。

 

 鈴だ。鳩から渡されたものは鈴だった。

 

 それに俺は見覚えがある。俺が贈ったものだ。俺が買い、それをあいつにあげた。

 

 何故これがここにある? 何故、この鳩が持っていて、俺に届ける?

 

「カレン、どうしたの?」

 

 固まっている俺を心配したのか、リアスが近づいてきた。

 

「それ、鈴?」

 

 リアスが俺の手元を見ながら聞く。

 

『――贈り物は気に入って貰えたかい? カレン・グレモリー君』

 

 辺りに声が響く。

 

「この声……!」

 

 リアスの驚きを他所に声は続く。

 

『その鈴の持ち主は現在、私の手元に居る。一応、危害などは加えていないよ。一応ね』

 

 鳩だ。鳩から声が出ている。つまり、こいつは奴の手先って訳だ。

 

 神の使いとも言われる鳩を使うとか、皮肉としか思えないな。

 

『さて、何故こんな事をしたかと言うと、二つある。一つは君の今の力を知りたいのと、ある実験がしたいんだ。その実験に彼女が必要だったわけだ』

 

 実験だと? 完全に碌なモノじゃねえだろ。それで危害を加えていないだと?

 

『我々としては実験が優先されるべきなのだが、今回は君にもその実験に参加してもらいたい。具体的には今から指定するポイントに来てほしい』

 

 最後に、と鳩は続ける。

 

『このポイントに来るのはグレモリー眷属のみで願いたい。他の者が来た場合は我々は即座に撤収するのでそのつもりで。ではカレン・グレモリー君、待っているよ』

 

 その言葉を最後に鳩は飛び去って行く。

 

 後に残ったのは沈黙だった。

 

「カレン……」

 

「これは、翠の……今日会ったあいつの鈴なんだ」

 

 俺の言葉に口元を覆うリアス。

 

 ほんと、きついね全く。これも罰だったら、間違いなくこれを俺に科した奴は俺の嫌がる事を熟知してやがる。

 

 良いぜ。やってやるよ。どうせお前らの事は探す予定だったんだ。寧ろそっちから来てくれて嬉しいよ。

 

 ……覚悟しろルーファス・アガリアレプト。四死剣。

 

 全員殺してやる。

 

*****

 

「……なるほどな。カレンの昔の知り合いか」

 

 アザゼル先生が難しい顔をしながら呟く。

 

 オカルト研究部部室。俺たちグレモリー眷属とアザゼル先生はそこに集まっていた。

 

 あれから直ぐにあの場に居なかった奴らも含めて連絡を取り、俺たちは一度集合していた。

 

「先生、最初に言っておくが俺は一人でも行くぞ」

 

「やめろ、返り討ちに遭うのがオチだ。別に止めるつもりはねえよ。奴らの言う実験は防がないといけないし、お前たちを指名している以上、お前たちを寄越さないと駄目だろう。ただ」

 

 難しい顔のまま、先生は言葉を続ける。

 

「間違いなく神星剣使いが相手に出て来るだろう。そうなった場合、今のお前たちでまともに相手取る事が出来るのは同じく神星剣を使った状態のカレンだけだ。てか、俺でも勝つのは難しい」

 

 堕天使総督である先生にそこまで言わせるほどの代物なのだろう、神星剣とは。

 

「本音を言えば、お前たちを行かせたくはない。確かに今のお前たちは大分強くなったが、それでも神星剣を相手取るには危険すぎる。――けど、行くんだろ?」

 

 諦めたようにこちらを見る先生。

 

 驚いたことに俺以外の奴ら全員が頷いていた。

 

「お前ら……」

 

「兄貴の妹分何だろ? だったら助けなきゃ!」

 

「貴方一人で行かせるわけにもいきませんわ」

 

「……一人だと心配」

 

 一誠、朱乃、小猫。

 

「先輩、僕たちの事も偶には頼ってください」

 

「は、はいいいいい! 僕も頑張ります」

 

「うむ、良い心がけだ、ギャスパー。なあ、アーシア」

 

「はい!」

 

 他の奴らも皆口々に言う。

 

「カレン」

 

 リアスが優しげに俺に言う。

 

「貴方の大事な人なら、私たちにとっても大事な人よ。だから助けに行きましょう」

 

「…………」

 

 胸の内にあった黒い何かが少し晴れた気がした。

 

「……ありがとう、皆」

 

 自然と、口から礼の言葉が出てきた。

 

 気にするな、と皆が笑いかけて来る。

 

 本当に、良い連中だ。俺には心底勿体ないと思えてくる。

 

 俺たちの様子を見て、先生はやれやれと苦笑する。

 

「どうやら、全員の腹は決まっているようだな。なら、俺も出来る事をやっておこう」

 

「何をです?」

 

「そいつは内緒だ。だが、きっとお前たちの手助けになるはずだ」

 

 先生は俺たちを見渡しながら続ける。

 

「本音を言えばお前たちを行かせたくは無い。だが、連中はお前たちを舐めきっているなら勝機はある。行って来い!」

 

『――はい!』

 

 全員が声をそろえる。

 

 戦いが始まる。

 

******

 

「……ここか」

 

 一時間後、俺たちは指定されたポイントに着く。

 

 辺りを見渡しても、何も無く、深夜でもあることから酷く不気味に感じる場所だ。

 

「何にも無いけど、本当にここなのか?」

 

「間違いない。奴らが指定したポイントはここだ」

 

 一誠の疑問も最もだ。人っ子一人は愚か、草木すら無いような場所だ。

 

 こんな所でどうやってと疑問に思っていた時だった。

 

『――良く来た』

 

 声が響く。

 

 次の瞬間、俺たちの足元に魔方陣が展開された。

 

「これって、転移魔方陣!? いけない、強制的に飛ばされます!」

 

 いち早く気づいた朱乃が声を上げる。

 

 強制転移か! また面倒なものを!

 

 俺たちが戸惑っている間に気づけば視界は光に包まれていった。

 

 

 

「っ!」

 

 光が収まり、目を開けると、そこは先ほどの場所とはまるっきり変わっていた。

 

 最初に目に映ったのは広い空間だった。

 

 直径で十数メートルくらいはあるだろう。壁も天井も白一色で、どこかの研究所でも思い浮かべる。

 

 成程、確かに実験を行う場所かもしれないな。

 

 そして、()()()はそこにいた。

 

 この白い空間で異色というか、一際目立つ姿をしている。

 

 全身を甲冑で包み、一部の肌の露出も無い。

 

 白銀色の鎧はどことなく神聖な雰囲気を醸し出している。

 

 そして、もう一つ見逃してはいけないものがある。

 

 ――奴の手に握られている剣だ。

 

 緑色の輝きを放つ。俺の持つ剣と全く同種のモノだ。

 

「神星剣……」

 

 紛れもない神星剣だ。

 

 つまり、こいつは四死剣の一人。

 

「丁度良い。翠を助けるのとついでにテメエも殺してやる」

 

 俺もあれを出す。

 

 赤き剣。奴の神星剣と同じ波動を持つ俺の火星の崩剣。

 

 空間の歪みから出ている柄を手に取るとそのまま引き抜く。

 

「さあ、覚悟しな」

 

 



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第九話

大学が始まって大分忙しくなりました。少し更新遅れる可能性がありますがご了承ください。


 強い。俺が一番最初に鎧野郎から感じたのはそれだった。

 

 対峙しただけで分かる。この威圧感、恐らく純粋な戦闘能力ならばルーファスより上だろう。

 

 無造作に立っているだけなのに隙がまるで無い。所謂、戦士の理想形の形とも言うべき感じだ。

 

 何処から攻めるか。あんまりいいプランが思いつかんなあ。

 

『――汝、カレン・グレモリーか?』

 

 俺が攻め手に苦慮していると、鎧野郎から声を掛けられた。

 

 その声に少し違和感を感じる。何と言うか、口から発しているとは思えない。

 

 違和感は一先ず置いておき、俺は言葉を返す。

 

「そうだけど? そういうお前は四死剣で良いんだよな?」

 

『然り。我、剣聖』

 

「剣聖?」

 

 随分と大層な名だ。剣士として最高峰と言いたいわけか。

 

『我、使命果たす。我、汝との決闘なり』

 

 決闘か。今の俺の実力を知りたいってあの野郎は言っていたな。

 

 ん? そこまで考えて俺は一つ疑問に思う。

 

 ちょっと待って。決闘なら何で俺だけを呼ばなかった? オカルト研究部全員を連れて来るって事はこいつらも戦力に入れて良い筈。なのに、俺との決闘? 訳が分からん。

 

 俺が言葉の意味を考えていると、剣聖の影が大きく広がる。

 

「は?」

 

 思わず、そんな声が出る。

 

 俺たちが唖然としていると、影はどんどん大きくなっていき、ある一定の広さまでになるとそこで止まった。

 

 そして、影から何かが出てきた。

 

「また、鎧野郎か」

 

 そう、またしても鎧だった。剣聖のと同じ白銀色の鎧。形は少し異なっているが、概ね剣聖のとそっくりだ。

 

 数にして十数体。そこまで多くは無いが、問題は奴らの持っている剣だ。

 

 少量だが神星剣と同じオーラを有している。

 

 どういう事だ? いわゆる量産ってやつか。もしそうなら手が付けられないとかそんなレベルじゃないな。

 

「成程、とにもかくにもそいつらも相手って訳か」

 

 他の奴らも全員戦闘態勢に入る。

 

『…………』

 

 剣聖が手を上げると同時に鎧達が剣を構えながら迫ってきた。

 

「お前ら、あいつらが持ってる剣、少量だが、神星剣のと同じオーラを感じる。間違っても斬られるな!」

 

「みんな、カレンの言う事は聞いていたわね? 攻撃は出来るだけ避けなさい!」

 

『はい!』

 

 先ず最初に前衛の俺、祐斗、ゼノヴィア、一誠が突撃する。

 

 一誠もカウントを既に終え鎧を着こんでいる。

 

 俺も走り出すと同時に禁手化し、神星剣片手に突っ込む。

 

 そして、鎧兵の一体と接戦、剣をぶつけ合う。

 

「っ!」

 

 一撃で仕留めるつもりでオーラを込めたものの、後ずさりしたものの五体満足の鎧兵。

 

 本物かどうかは置いておいて、神星剣の力を持っているのは確かみたいだな。

 

「おりゃあ!」

 

 一誠は倍加しながらそのまま突っ込んでいく。

 

 相も変わらず直線的だが、そのスピードは目を見張るものがある。

 

 背中のブースターを噴射しながら一誠は鎧野郎に近づいていく。

 

 そのままの勢いで鎧野郎を殴りつける。

 

 鎧野郎も負けておらず、剣で防ごうとする。

 

 しかし、一誠の勢いには勝てず、そのまま吹っ飛んでいく。

 

 わお、痛そう。

 

 鎧兵はそのまま何度もバウンドしながら地面を転がっていき、一定の距離で止まる。

 

 そのままかと思ったが、鎧兵は何と立ち上がった。

 

 先ほどよりも動きは悪く、糸の切れかかっている人形の様だ。

 

 あれだけの攻撃を受けて大丈夫とか、何だあの鎧。

 

「はあ!」

 

「この!」

 

 祐斗とゼノヴィアが絶妙なコンビネーションで鎧兵の急所を狙っていく。

 

 だが、それでも彼らは倒れない。

 

「何だこいつ等! 斬ってもまるで倒れん!」

 

「いくら神星剣らしきものの加護があるとはいえ、これは流石に……」

 

 ゼノヴィアや祐斗たちも困惑の声を上げる。

 

「……えい」

 

 小猫が猫又モードで鎧兵に仙術を込めた拳を打ち込む。

 

 すると、何かに気づいたようで、声を上げる。

 

「……皆さん! この鎧兵、中身がありません!」

 

「中身が無い?」

 

「つまり、鎧だけで動いていると?」

 

 リアスたちの質問に小猫は頷く。

 

 成程、仙術を扱い、生命力を感じ取ることが出来る小猫だから分かったというわけか。

 

 そうなるとまた厄介だな。つまり、完全に動かなくなるまでダメージ与えないとこいつ等動かなくならないって事だろ? めんどくさ!

 

 そも、この後に未だに微動だにしない剣聖とルーファス・アガリアレプト、他の四死剣の連中もやり合う必要があるから、余り無駄な力を使いたくは無いんだがな。

 

「そうも言ってられないか!」

 

 二体の鎧兵と剣を交じりあいながら俺は剣聖の方をチラリと見る。

 

 何かをするわけでも無く、一番最初の時から変わらず動かないままこちらを見ている剣聖。

 

 見た感じ、あいつが操っているわけでは無いらしい。という事は、あいつも倒せば良いって訳じゃ無いか。

 

 このまま、というわけにもいかない。仕方ない。

 

 神星剣の形状を変化させる。

 

 通常のよりも細く、但し、長さはそのままのロングソードの形状に変化させる。

 

 俺は高速で動き、鎧兵が反応するよりも前に二体の鎧兵を斬りつける。

 

 一撃で終わらせず、二撃目、三撃目、と続けて斬りつける。

 

 兎に角、相手が動かなくなるまで斬りつける。

 

 脳筋みたいな戦い方だが、今はこれが一番手っ取り早いだろう。

 

 十数撃やった後、完全にバラバラになった鎧兵を見て一息つく。

 

 中身は……本当に無いみたいだな。鎧の一部を手に取り観察する。

 

 鎧自体に何かがあるわけでも無いよな。

 

 となると、鎧に何か魔方でも使って操っているのかもしれないのかな。

 

「消し飛びなさい!」

 

 リアスが滅びの魔力を鎧兵目掛けて打ち込む。

 

「雷光よ!」

 

 朱乃も雷光を鎧兵目掛けて撃ち落とす。

 

 まともに攻撃を受けた鎧兵たちはバラバラになった。

 

「厄介ね、少し強力に撃てば大丈夫だけど……」

 

「数が少ないのが幸いですわね」

 

 二人は渋面を浮かべながら攻撃を続けている。

 

 他の奴らも連携しながら何とか鎧兵の数を減らしていく。

 

 そして残り三体となった時だった。

 

『…………』

 

 剣聖が神星剣を構えた。

 

「っ!」

 

 来る。俺が神星剣を構えた瞬間だった。

 

「…………」

 

 目の前に剣の切っ先。

 

 剣の切っ先が頭の部分の鎧に侵入を始める。

 

「うおっ!?」

 

 殆ど無意識に剣を弾く。

 

 少し刺さっていた為、鎧の一部が抉れる。

 

 慌てて後ろに下がる。

 

 しかし、剣聖は追撃のまま、神速の剣戟を繰り返す。

 

「おおおおおおお!?」

 

 防御出来ない。いや、何回かは防げる。

 

 だが、殆ど防げない。鎧が徐々に削れていく。

 

 何だ、これ。何だこの剣は!?

 

 手が出せないとかそういうレベルじゃない。最早どうすれば良いかも分からない程。

 

 間違いなく俺が今まで戦ってきた中で最強クラスだ。神星剣アリならば間違いなくルーファス・アガリアレプトよりも上であろう。そうとしか思えない。

 

「こ、の!」

 

 何とか反撃しようとするも、まるで意味をなさない。というより、反撃しようとしたならば間違いなくやられる。

 

 正に暴風。天災だ。

 

「カレン!」

 

 俺の現状を見て加勢しようとするが、

 

「やめろ、来るな! こいつ相手じゃお前たちじゃ直ぐにミンチになる!」

 

「っ!」

 

 俺の言葉に全員が止まる。

 

 それだけの事だと理解したのだろう。

 

 だが、本当にどうする? このままだと翠がまずい。

 

 くそったれ! 何だってこんなヤツがいるんだ! ああもうめんどくさいなホント。

 

 ……いやまて。まだ方法があるじゃねえか。

 

「おい一誠!」

 

「お、おう!」

 

「今のお前の上限まで『倍加』しろ! で、リアス! 後は分かるな!?」

 

 流石に全部を伝えるわけにはいかない。こちらの狙いまでばれるわけにはいかない。と、いうよりも、そんな余裕がそもそも無い。

 

 ちゃんと分かっているよな一誠、リアス?

 

 ******

 

「ああ、分かってるよ兄貴!」

 

 直ぐに義兄の狙いに気づき『倍加』を始める一誠。

 

『Boost!!』

 

 倍加が始まる。

 

 しかし、焦燥が募っていく。

 

 他の皆もそうだろう。リアスや朱乃などは今すぐにでも加勢したいと思っているのだろう。

 

 だが、今行われている戦いは常軌を逸している。

 

 白龍皇たるヴァーリも戦闘力は桁違いで、今の一誠では全く歯が立たないだろう。

 

 しかし、この戦いは何だ。ヴァーリですら超えているのではないだろうか。

 

『その認識は間違っていないだろう。神星剣の能力もあるだろうが、あの鎧の者、尋常では無い力量だ。今の相棒では恐らく、一分で片が付くだろう』

 

(一分……)

 

 そこまで強いというのか。

 

 確かに神星剣を持った兄は訓練で戦うさいは神星剣を使うことは無かった。

 

 神星剣で斬られた傷はほぼ治す事が不可能だからでもあるが、一番理由は自分たちでは相手にならないのだろう。

 

 悔しい。これだけ修行してもまだ届かない。兄が本当に遠く感じる。

 

 他の皆も同じ気持ちだろうか。恐らくそうだろう。

 

 だからこそ、追いかけ甲斐があるというものだとも思う。

 

「イッセー」

 

 リアスから声をかけられ、一誠はそちらを向く。

 

 リアスは既にオーラを高めており、準備万端といった感じだ。

 

「後どれくらいで出来る?」

 

「もうちょいです」

 

「急いで。カレンも恐らくそうもたないだろうし、敵はまだ多いわ」

 

「分かってます」

 

『Boost!』

 

 そう言った直後に十数回目の倍加を告げる音。

 

「来ました!」

 

「カレン!」

 

 リアスが声を上げる。

 

 それだけで伝わったのか、カレンは剣聖相手に鍔迫り合いを始める。

 

「はあっ!」

 

 リアスは直ぐ様、魔力を撃ちこむ。

 

 狙いは正確で真っ直ぐ――カレンに向かっていく。

 

 剣聖を動かさない様に鍔迫り合いを続けるカレン。

 

 そんなカレンの背中にリアスの滅びの魔力が直撃する。

 

『Absorb!』

 

 滅びの魔力がカレンの鎧に吸収されていく。

 

「行くぜ兄貴!」

 

『Transfer!』

 

 一誠も続けて譲渡の力をカレンに贈る。

 

 これは以前、コカビエル戦でもやった方法だ。

 

 あの時と違うのはリアスと一誠もあの時よりも格段に力が上がっており、カレン自身も成長することでその力を受け止められるようになっていた。

 

「行くぜこの野郎!」

 

『Liberate!』

 

 カレンの鎧の宝玉からその音声が響いた瞬間、カレンの纏うオーラが劇的に変化した。

 

 赤黒いの銀色のオーラが入り乱れて撒き散らされていく。

 

 その光景に全員目を剝く。

 

 以前も凄まじかったが、ここまで変化するとは。

 

 リアスから譲り受けた滅びの魔力がカレンの体から迸っている。

 

『その、力』

 

「悪いね。これでも中々に手一杯でね。こんなふうにしないといけない」

 

『構わず。我、望むのは、汝との、戦い』

 

「そりゃどうも!」

 

 言葉と一緒にカレンは力を込めた。神星剣に滅びの魔力を纏わせての攻撃だ。

 

『……』

 

 ここに来て初めて剣聖は一歩後退する。

 

「はっ、漸く一歩か……だが」

 

 カレンは鎧の翼からを羽――以前の戦いで使用した水晶の欠片――を展開する。

 

 自分と剣聖との周りに置く。

 

「強化された滅びの魔力――全方位から喰らえや」

 

 刹那、カレンの周りに魔力の弾が無数に展開。それが同時に水晶の羽に飛んでいく。

 

 そして、無数に反射していき、剣聖に襲い掛かる。

 

 それに対して剣聖は、

 

『…………』

 

 三歩後退し、神星剣の形状をコンバットナイフ程度の大きさに変える。

 

 更に自身に襲い掛かってくる。魔力弾を弾き落としていく。

 

『なっ……』

 

 それを見たグレモリー眷属達は瞠目する。

 

 全方位からの攻撃を魔方陣による防御もせず、ナイフ一つで捌いていくのだ。

 

「無茶苦茶じゃないか……」

 

 同じ剣士だからこそ祐斗には分かった。

 

 剣聖は全ての弾を見切り、全て正確に落としていっているのだ。

 

 あれだけの速度で、しかも当たればかなりのダメージを受けるであろう滅びの魔力の弾を全て弾き落としていった。

 

 全員が唖然としている中で、剣聖は再び神星剣を元の形状に戻した。

 

 誰もが固まっている中でカレンが再び動き出した。

 

「……上等だ。覚悟しろや」

 

 



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第十話

最近、マジで忙しいなー。


 舐めていた、というわけでも無い。神星剣を持った奴の出鱈目な戦闘能力は俺自身、身をもって知っているし、過小評価など一切していない。

 

 だが、これは何だ。俺自身も戦いが始まった時よりも強化された一誠の譲渡の能力。リアスの滅びの魔力を纏って普段よりも強力の筈だ。

 

 なのに、届かない。こいつに。剣聖に。

 

 さっきよりも攻撃に移ることは出来た。だけど、当てられない。攻撃を全然当てる事が出来ない――!

 

 何故だ。あれから少ししか経っていない。だが、冥界で修行し、人間界へ戻っても一日たりとも鍛錬を怠った日は無い。

 

 それでも、まだ、駄目なのか――!

 

「くそったれが……!」

 

 思わず毒づいてしまう。

 

 頭の方は思ったよりも冷静の様で、集中を切らす事無く戦闘を行う事が出来ている。

 

 だが、時間が無いのも確かだ。翠がどんな実験を受けているのか。十中八九碌なモノじゃ無い事が分かる。

 

 急がないといけないのに、何でこんなヤツが相手何だよちくしょうめ!

 

 面倒だ。勝負を仕掛けるか、俺自身の方も時間が無いしな。

 

 俺は一回、剣聖から距離を置く。

 

 神星剣を上段に構え、力を籠める。

 

 神星剣の刀身にリアスの滅びの魔力が纏っていく。

 

「はああぁぁ」

 

 辺りにオーラを撒き散らしながら俺は貯めていく。

 

「ちょ、兄貴!?」

 

「何をする気よ!?」

 

 一誠とリアスが驚きの声を上げる。

 

「ちょっと埒が明かないから一発デカいのを撃つ! お前ら、注意しろ」

 

「注意しろって!」

 

「もっと早く言ってほしかった!」

 

「……遅い」

 

「もう、後でお説教ですわ!」

 

 皆、何故か口々に文句を言いながら距離を取っていく。

 

 ある程度離れたのを確認した瞬間、俺は剣を振り下ろす!

 

 次の瞬間、巨大な滅びの魔力が斬撃の形を取りながら剣聖に突っ込んでいく。

 

 その速さは放った俺も驚くほどだ。

 

 流石の剣聖もこれは躱すことが出来ず、そのまま受け止めた。

 

 滅びの魔力プラス赤龍帝の譲渡の力プラス神星剣で強化された俺の魔力を込めた攻撃だ。そうやすやすと止められるはずは無い。運が良ければ最上級悪魔にでも深手を負わせることが出来る筈だ。

 

『…………』

 

 剣聖が徐々にその位置を後ろにずらしていく。

 

 押し込んでいる。いける。これならいける。

 

 俺がそう確信した瞬間だった。

 

 剣聖の持つ神星剣が大きく輝きを放った。

 

木星の重砲(ユーピテル・グラビトン)

 

 気づいたとき、俺の体は地面に叩きつけられていた。

 

「な……」

 

 全身を上からまんべんなく押さえつけられるような感覚。指の一本も動かせないような状態だ。

 

 何が起きている? 何で急に。

 

 顔だけでも動かそうともがきながら俺は辺りを見渡す。

 

 リアスたちもやられているらしく、全員が倒れこんで動けない様だった。

 

 距離を取ったリアスたちがやられているのを見る所、範囲はかなりのものと見るべきだな。

 

 けど、可笑しいのは神星剣で能力が底上げされている筈の俺もこのざまだ。何がどうなっている。

 

 俺が体を動かそうとしていると、剣聖がゆっくりと近づいてくる。

 

『神星剣には、技が、ある』

 

「技?」

 

『然り』

 

 つまり、この状況はその技が原因と。

 

 神星剣には、って事は俺のにもあるって事だよな。

 

 全く知らなかった。そんなモノがあるなんて。

 

 神星剣の目先の能力に目が行き過ぎていたって事か?

 

「ぐぐぐ……」

 

 何とか立ち上がろうとするが、体はピクリとも動かない。

 

 そんな俺を見下ろしながら剣聖は神星剣を逆手に持つ。

 

 そして、そのまま俺に突き下ろしてくる。

 

 しかし、その刃が俺に突き刺さることは無かった。

 

 神星剣と俺の前に魔方陣が出現し、神星剣を食い止めているのだ。

 

 いや、よく見たら違うな。剣聖の体のあちこちを魔方陣で止めているのか!?

 

「……間一髪、と言うヤツでしょうか」

 

 凛とした声がフィールドに響いた。

 

 顔だけでも動かしながらそちらを見ると、そこに居たのは……。

 

「――ティア?」

 

 ユースティア。俺に仕えているメイド、になる。今は動きやすい戦闘服らしきものに着替えているが、間違いなくティアだ。

 

 つか、あいつが剣聖の体を止めているのか? だとしたら凄いってもんじゃないぞ。このバケモンを一人で止めているって事なんだから、半端じゃねえ。

 

「破られますか」

 

 は?

 

 何を言っているのか、思わず、聞き返そうとした瞬間、剣聖は自分を縛っていた魔方陣を全て打ち破った。

 

 早いなおい!

 

「茨木!」

 

 ティアが声を上げる。

 

 俺の目に入ったのは茨木童子が拳を振り上げている場面だった。

 

「はあっ!」

 

 凄まじいオーラを纏わせながら茨木童子は拳を剣聖を打ち込もうとする。

 

 剣聖は神星剣を盾にするように自身と茨木の間に滑り込ませる。

 

 神星剣と茨木の拳がぶつかり合った瞬間、ふざけているのかと言いたくなるほどの衝撃が走った。

 

 当然、目の前に居た俺はもろにそれを喰らい、俺の体は吹っ飛んでいく。

 

「うおおおおおお!?」

 

 茨木覚えてろてめコラ!

 

 そんな文句を言えないほどに吹っ飛ばされていく。

 

「――おっと」

 

 吹き飛ばされる俺だったが、誰かが受け止めた。

 

「もう、大丈夫? カレン」

 

「セルヴィア」

 

 ウィンクしながらセルヴィアは俺を降ろす。

 

「何でお前らが?」

 

 冥界に居るはずのこいつ等がなんだって人間界にいる。

 

「アザゼル総督から連絡を受けてね。四死剣が襲来したと聞いていても経ってもいられなくなって」

 

 ああ、アザゼル先生が言っていたアテってこの事か。

 

 セルヴィアは厳しい視線を剣聖に向ける。

 

「漸く会えたわ」

 

「知ってるのか?」

 

「勿論。あの日、襲撃してきたメンバーの中にあいつはいたわ」

 

 襲撃……俺が全てを失ったあの日。

 

「正直、あの当時からあいつの実力は半端じゃないわね。四死剣の中では純粋な実力ならあいつが一番上じゃないかしら」

 

 一番、強いか。

 

 確かにそう思えるほどの実力がこいつにはある。

 

 それでもやはり悔しいと感じてしまう。まだ追いつけないと思うと自分の力不足に怒りすら湧いてしまう。

 

「焦っちゃダメよ」

 

 自分の無力感に苛まれているとセルヴィアがポン、と手を頭に乗せてきた。

 

「貴方は素晴らしい才能を持っている。でも、それは一朝一夕で開花するわけじゃ無い。分かるでしょ」

 

「……ああ」

 

「だったら少しは私たちを頼りなさい。私たち全員あなたの為なら何だってするんだから」

 

「セルヴィア……」

 

 セルヴィアはニッコリと笑うと、剣聖の方に鋭い視線を向ける。

 

 腰に佩いていた二本のレイピアを鞘から抜き構える。

 

「さて、貴方のお父さんの騎士(ナイト)の力少し見せてあげるわ」

 

 言うや否や、セルヴィアは俺の目の前から消えた。

 

 何処に!? と思った矢先には茨木と戦っていた剣聖の懐に入り込んでいた。

 

「お久しぶりね」

 

『…………』

 

 セルヴィアは凄まじいまでの剣速で剣聖に斬りかかる。

 

 剣聖もそれに負けじと神星剣で全て捌いていく。

 

「すげえ……」

 

 思わず、声が出てしまう。

 

 何がすげえって、神星剣を持った剣聖に純粋に自分の力だけで渡り合えているのだ。驚かない方が無理な相談だ。

 

 先に戦っていた茨木ともうまく連携して剣聖に攻撃をさせる隙を与えないでいる。

 

「すごいモノだろ? 茨木も、セルヴィアも」

 

 後ろから声を掛けられそちらを向く。

 

「ペルセウス」

 

 ペガサスの背に乗ったペルセウスはこちらを見ずに話を続ける。

 

「あの日以来、俺たち全員生き残った奴らは死に物狂いで修行を続けた。亡き主の仇を。そしてどこかで生きていると信じた主の妻である女王(クイーン)とその息子の為に」

 

 淡々と言うペルセウスだが、その表情は憂いを帯びたものだった。

 

「だからこそ、同じことは繰り返さない」

 

 ペガサスごと覆うようにオーラを迸るペルセウス。

 

 オーラの質は神星剣無しの俺ではまるで歯が立たないだろう程のオーラだ。

 

 かつてはレーティングゲームで負け無しと言われた親父の眷属の生き残り達。

 

 そんな彼らが負けてしまった相手たちに再戦しようとしていた。

 

「さて、ここは俺たちに任せろ」

 

「……どういうことだ」

 

 俺に、敵を前にして何もするなというのか。

 

 ペルセウスは相変わらずこちらを見ず、言葉を続ける。

 

「待ってる子がいるんだろ?」

 

「っ」

 

 俺の脳裏に浮かぶのは翠の顔。

 

「悔やんでも良い。だけど、出来るのにやらないのだけは止めておけ」

 

 出来るのにやらない……。

 

 ……後悔はしたくないなあ。

 

「分かった。後は任せる」

 

「おう、恐らく剣聖の奥にある扉が次の場所だろう。行って来い」

 

 ペルセウスが指さす先に、先ほどまでは見れなかった扉が出現していた。

 

 来たときはあんなもの無かったと思うが。

 

 ティアたちが来たためにあの扉が出てきたのか?

 

 いや、考えても仕方ない。さっさと終わらせに行こう。

 

「ペルセウス、皆を頼む」

 

「了解した」

 

 俺は鎧の翼を広げると、そのままトップスピードに乗る。

 

 それに気づいた剣聖が俺を止めようとするが、

 

「おい、何処を見ている」

 

「貴方の相手はこっちよ」

 

 茨木とセルヴィアが止めに入る。

 

「カレン様!」

 

 ティアの方を向くとこちらを真剣な表情で見ていた。

 

「――ご武運を」

 

 それだけだ。だけど、その言葉にどれだけの思いが乗せられているか、容易に理解出来た。

 

「ああ!」

 

 短く返すと、俺は真っ直ぐ扉に突っ込んでいく。

 

******

 

「行きましたか……」

 

 おのが主が言ったのを確認してユースティアは小さく息を吐いた。

 

 恐らくあの扉の向こう側には四死剣がまだ残っているだろう。

 

 なのに、主を単身で行かせたのには理由がある。

 

(恐らく、あのヒトはカレン様を今すぐどうこうする気は全くない)

 

 ある種の確信である。でなければ、誰がいかせるものか。

 

 剣聖は茨木やセルヴィアなどに任せおこう。自分は彼らを。

 

「大丈夫ですか皆さま」

 

 ユースティアは剣聖の重力攻撃から解放された一誠たちの元に近づく。

 

「はい、大丈夫っす……」

 

 鎧が解除された一誠はしゃがみ込んでだまま荒い息を付いていた。

 

 他の面々も怪我などは負っていないが、体を押さえつけられていた痛みが残っているのだろう。皆しゃがみ込んでいた。

 

「……ん?」

 

 ここで眉を顰める。

 

 一人足りない。周りを見るも彼女は何処にもいない。

 

「……ペルセウス、彼女は?」

 

 ユースティアは同じく護衛に付いていたペルセウスに問いかける。

 

 ペルセウスはどこか楽しそうに言う。

 

「いやあ、ちょっと目を離したすきにどこかに行ってしまってね。恐らく、あの扉の向こうに行ったんじゃないのかな?」

 

「何を考えているのです?」

 

 自然、ユースティアの声は固くなっていく。

 

「今の彼女では足手まといになるだけでしょうに」

 

「いや、それは分からないさ。やってみないとね」

 

「本気ですか?」

 

「本気さ」

 

 にこやかに答えるペルセウスの表情からは何も伺えない。

 

 思わず舌打ちをしたくなる。

 

 昔からそうだ。この男は何を考えているのか今一つかめない部分がある。問いただしてものらりくらりと躱してしまう。

 

「何かあったらどうするのですか」

 

「何も起きないさ。彼女には」

 

 

******

 

 扉の向こうは先ほどの空間よりも更に広くなっていた。

 

 さっきと違うのは無数の計器が綺麗に置かれており、忙しくデータらしきものを取っていた。

 

 俺は一度鎧を解除して前に進む。

 

 恐らく、まだ戦闘は無いだろうし、体力は温存しておいた方が良い。神星剣もついでに仕舞っておく。

 

「何だこりゃ。さっきのは実験場でこっちはそのデータ取りか? はっ笑えねえな」

 

「全くね。私たちの実験動物か何かと思っているのかしら」

 

 …………。

 

「何でお前がここに居るリアス」

 

 めんどくさいと感じながら俺は後ろを振り向く。

 

 そこにはやはり、リアスがいた。

 

「お前、何してんだ」

 

「何って、貴方がどっか行こうとするか追いかけてきたんじゃない」

 

「えー」

 

 何を馬鹿な事を聞いていると言いたげだ。

 

「勘弁してくれ」

 

 思わずそんな言葉が口から出てしまった。

 

 

 

 



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第十一話

ゴールデンウイークはバイト尽くしだったなー。マジで疲れた。

最近、マジで戦闘描写が駄目になっている。どうすりゃあ良いかな。


「で、本当に何で来た?」

 

「だから貴方が心配だって言ったでしょ」

 

 それは分かってるが……。ああ、もう。

 

 俺たちは機械が所狭しと並んでいる場所を二人で歩いてた。

 

 本当は一人で良かったのに、何だってこいつが来てるんだか。

 

「しかし、ここは随分と長いな。どれだけの広さだか」

 

 先ほどのフィールドよりもずっと長い。歩けど歩けど、ゴールが見えてこない。

 

 走った方が良いのであろうが、何故か、歩いた方が良いという感覚が俺の中にある。

 

 翠の事を思えば走ってでも行くべきなのに、何故だろうか。

 

「……ねえ、カレン」

 

 無言でしばらく歩いていると、リアスが話しかけてきた。

 

「貴方とあの子……翠との間に何があったの?」

 

「…………」

 

「あの子は貴方を恨んでいる、とは一概に言えないけど、何か複雑な感情を抱いているのは確かだわ。少なくとも簡単なものでは無い。そうでしょ?」

 

「…………」

 

「無理に話したくないのなら聞かないけど、ああいや、違うわね。聞きたいわ、私は。貴方が何を抱えているのか。何に対して罪悪感を抱いているか」

 

 罪悪感、か。

 

 確かに、俺は翠に対して負い目らしきモノを感じている。

 

 だけど、それだけじゃないんだよな。それだけじゃ。

 

「どこまで話したっけ?」

 

「貴方が紫水さんと付き合い始めて、二年くらいで終わったって」

 

「そうか、そこらへんか」

 

 静かに話し始める。

 

「俺が中学三年の頃、一つ上の学年だった紫水は駒王学園に入学していたんだ」

 

「駒王学園に?」

 

「ああ。だから、俺も駒王学園に入学しようとしていた」

 

 勉強自体は特に問題は無かったと思う。余りいい成績では無かったが、紫水が勉強を見てくれていたお蔭で何とかやれていたからな。

 

「そんで、夏休み最後の日に、紫水は俺を祭りに誘ったんだ」

 

 それが終わりの始まりってやつだった。

 

「待ち合わせをして行こうって話になって、俺が少し遅れそうになった」

 

 だからこそ、急ごうと走っていたのだ。

 

「そしたら、誰かとぶつかって、直ぐに謝ろうとして、そいつの顔を見たら、覚えがあってさ」

 

 あちらもこっちの事を覚えていたらしく、驚いた顔をしていた。

 

「そいつ、俺が昔ボコしたヤツの一人だったんだ。いやあ、びっくりした。しかも俺にやられた恨みを忘れていなくて襲い掛かってきたんだ」

 

 昔なら相手をしていたが、当時の時点で俺はもう喧嘩はしないと決めていたから逃げる事にした。途中で紫水に遅れる事をメールで伝えた。

 

「何とか巻いて待ち合わせ場所に行ったら」

 

 一回大きく息を吸う。

 

「もう、紫水は死んでいた」

 

「…………」

 

 リアスは息を呑む。

 

「事故、だったそうだ。暴走した車が歩道に突っ込んで、紫水を含めた五人を巻き込んだ大惨事だった」

 

 今でも直ぐに思い出せる、あの光景は。

 

 悲鳴や怒声。野次馬なども大勢居て辺りは大混乱だった。

 

 そんな中を俺は人ごみをかき分けながら進んだ先に居たのは。

 

「血塗れで倒れていた紫水だった」

 

 体中が血で染まっており、着ていた浴衣など元の色が分からないほどだった。

 

 俺自身、暫くそこから動くことも出来ず、正直、その前後の記憶はあまり残っていない。

 

「俺の所為だったんだ、紫水が死んでしまったのは」

 

 俺が昔の因縁で絡まれず、遅れなかったら紫水とそのまま祭りに出かける事が出来た。

 

 俺の今まで行いのツケが纏めて払わされた。

 

「その事を俺は正直に話した紫水の両親やお師匠様は許してくれたけど、翠は違った」

 

 ――あなたの所為で姉さまは死んだ!――

 

 あいつの通夜の時、翠は俺の頬をひっぱ叩きながらそう言った。

 

「まさしくその通り。俺が悪い。俺の行ってきたことが紫水を殺した。――俺が殺した」

 

 あれ以来、道場には顔も出せず再び無気力な毎日を送ることになった。

 

 だけど、それもある種の俺への罰なのかもしれないが。

 

「良く夢を見るよ。あの日の出来事。何度やり直しを望んだ事か。夢の中で、紫水の手を取ろうとした瞬間に、夢は覚める。俺は夢の中でさえ、紫水を助ける事は叶わないって訳だ」

 

 大きく息を吐く。

 

「これが俺の罪。俺の懺悔ってヤツだな」

 

 一先ずは全部吐き出した。余り思い出したくなかったものも何とか口にすることは出来た。

 

 さて、これを聞いてリアスがどう反応するか。

 

 貴方の所為じゃない。貴方は悪く無い、何て言うか。はたまた。

 

「カレン、貴方はどうして彼女を助けようとするの?」

 

「……」

 

 全くノータッチの所からの質問だった。

 

「何で、って言われてもなあ。妹分だから、かな」

 

「貴方の事を嫌っているのに?」

 

 何だ、何が言いたいんだこいつ。

 

「あいつが嫌っていようとも関係ないさ。俺が助けたいから助ける。それだけだ」

 

「そう……」

 

 それっきり、リアスは黙ってしまった。

 

 何なんだ本当にもう。

 

 それから暫し無言で歩く俺たち。

 

 そんな中、再びリアスが口を開く。

 

「カレン、大切な人を多く失った貴方の苦しみは私は少ししか分からない」

 

「…………」

 

「でも、私でも分かるわ。少なくともあなたの恋人だった紫水さんは貴方やあの子が苦しみ事は望んではいない筈よ。貴方だってそれは分かっているでしょ?」

 

「それは……」

 

「貴方は自分が苦しむ事で紫水さんが亡くなった苦しみから逃れようとしている。翠と向き合う事を拒絶しているのでしょ?」

 

「っ」

 

「だから、翠って子は貴方に対してあれだけの怒りを持っている」

 

 ……そういう事なのか? 翠が俺を憎んでいるのは。

 

「まあ、これはあくまで私の推測だから分からないわ。――だから、会って話しなさい彼女と。ちゃんと目を見て」

 

******

 

「やあ、待っていたよ」

 

 狭い道を長い事歩いた後、俺たちは再び広大な場所に足を踏み入れていた。

 

 そこに居たのはいつもの微笑を浮かべたルーファス・アガリアレプトと不健康そうな顔をしているワイズマンと呼ばれている女。

 

 そして、

 

「翠……」

 

 俺の呼びかけに反応せず、ただだらりと幽霊の様に立っているその姿は幽霊を思わせる。

 

「剣聖はどうだったかな? 私たちの研究の中ではそこそこの作品何だが」

 

「作品?」

 

「ああ、あれは作ったんだよ。とある高名な魂を生前彼が使っていた鎧に定着されてね。いやあ、あそこまでの形にするまで時間が掛った」

 

「な、あれ程の力を持っている者を自分の駒にしたっていうの? 一体どれだけの力を使って」

 

 ルーファスの言葉にリアスが驚愕する。かく言う俺もそうだ。

 

 元々出鱈目なのはさっきの戦いでも分かっているが、あれを作った? どんなやり方を使ったんだか」

 

「まあ、それは今は置いておいて、だ。こっちの彼女に集中してもらおうか」

 

 そういうと、ルーファスは魔方陣を手元に展開させて何かを取り出す。

 

「神星剣、だと?」

 

 ルーファスが使っていたモノで無い。それは別物だ。

 

 黒く。どこまでも黒く澄んだ色の刀身をしている。

 

冥王の砕剣(プルトーネ・グラディウス)。私が所持している神星剣最後の一本だ。とくと味わうと良い」

 

 そう言った瞬間に、俺は火星の崩剣を取り出し構える。

 

 そうしたときにはもう、翠は剣を振りかぶって俺の目の前に来ていた。

 

 神星剣同士がぶつかる。

 

 瞬間、剣聖の時と同様か、いやそれ以上の衝撃が辺りに広がる。

 

「きゃあ!?」

 

 その衝撃をもろに受けたリアスが吹き飛ぶ。

 

「リアス!?」

 

 俺は思わずそっちの方を見る。

 

「――何処を見ているんですか」

 

「っ!」

 

 ゾッとするような低い声。視線を翠の方に戻す。

 

「何であんな女の事を心配するんだ。何で私を見ない。何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!」

 

 癇癪を起こした子供の様に翠は叫ぶ。それに呼応するように翠の神星剣も輝きを増す。

 

 翠が俺の顔を覗き込む。

 

 思わず、息を呑む。

 

 何も浮かんでいない。

 

 俺が想像した怒り、憎しみ。そう言った感情が何も浮かんでいない。空虚な表情だ。

 

 だからこそ、余計に怖い。

 

「翠……」

 

 思わず、名前を呼ぶ。

 

 すると、空白だった翠の表情はゆっくりと笑みが浮かんできた。

 

「名前で呼んでくれた」

 

「は?」

 

「呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた!!!!」

 

 ……どうなってやがる。

 

 壊れた機械の様に同じことを何回も呟く翠。最早、何が何だか分からない。

 

 どう考えても何かされたとしか思えない。

 

「ルーファス・アガリアレプト! 翠に何をした!」

 

 事の元凶の男に罵声を上げる。

 

 どう考えてもこいつだ。じゃ無きゃ翠がこんなんになるわけが無い。

 

 しかし、ルーファスは変わらず笑みを浮かべるだけだ。

 

「確かに私は色々と調整はしたが、そこらへんは彼女自身だよ」

 

「何?」

 

「だから、今まで抑圧していた感情が一気に出てきたって感じじゃないかな。いやあ、人間は怖いね。愛で世界を滅ぼす! 何てね」

 

 これが翠自身って。

 

「うお!」

 

 動揺した瞬間を逃さず翠は一気に踏み込んでくる。

 

 俺は受け流し翠に斬りかかろうとし、剣を直前で止める。

 

 それを見逃さず、翠は凄まじい勢いで斬りかかってくる。

 

「ちぃ!」

 

 剣聖ほどでは無い。確かに動きは凄まじいが、あいつの剣は最早笑うしか無い程だ。

 

 確かに翠は俺が最後に手合わせしたときよりもずっと強くなっている。俺と会わなくなってからもずっと鍛錬していたのだろう。

 

 だけど、それでも俺にまだ届いていない。

 

 元々の地力の差もある。翠は純粋な人間に対して俺は元悪魔のハーフで現在は完全な悪魔だ。

 

 その時点でもう駄目だろう。恐らく、直ぐにでも決着をつけられる筈なのだが。

 

「くそったれめ」

 

 毒づく。翠の神星剣。冥王の砕剣だったか? 能力が良く分からん。

 

 神星剣には各々固有の能力があると聞くが、それなのだろう。

 

 翠の神星剣に斬りかかる。

 

 するとどうだ、そのまますり抜けやがった。

 

「またか!」

 

 剣を振りかぶってがら空きになっている胴体部分に翠は剣を構えたままもぐりこんでくる。

 

 翠は小柄な体格であるから、普通の立会いならば、俺の方が有利なのだが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。

 

 翠の体格に合わせて神星剣の形状も変化しているからつまり俺にすでに切っ先が迫っていて。

 

「うおお!?」

 

 咄嗟に俺自身の神星剣を逆手に持って、その剣先を伸ばす。

 

 伸びた俺の神星剣は翠の神星剣にぶつかり、軌道を逸らそうとする。

 

 完全には逸らすことは出来ず、俺のわき腹を抉ってくる。

 

「うぐ……」

 

 思わず声が出る。

 

 相も変わらず神星剣で傷を負わされると無茶苦茶に痛い。どの種族に対しても天敵成り得る能力を保有しているのだから当たり前と言われたらおしまいだが。

 

 反撃として俺は左の手のひらに魔力の波動を生み出し、そのまま翠にぶつけようとして――途中で再び止めてしまった。

 

 それを見逃すはずも無く、翠は握りこぶしを作り、俺のがら空きの腹に拳をねじ込んできた。

 

「ぐふっ」

 

 口から何か出ちゃいけないもんが出た気がする。

 

 つか、翠のヤツ腕が上がってんなやっぱ。的確に、ねじ込んで、来て。

 

 苦し紛れに神星剣を振る。

 

 当然翠はそれを難なく躱し、後ろに後退する。

 

 俺は痛む腹を抑えながらチラリとリアスの方を見る。

 

 さっき吹き飛ばされてどうなったか心配だったが、大丈夫なようで頭を振りながら何とか立ち上がろうとしているのが見える。

 

「――誰を見ているんですか」

 

「おっと」

 

 流石にもう予想が出来る。気配を消して近づいてきた翠に俺は神星剣で防御する。

 

 何となくだが、今の翠の状態が分かってきた気がする。

 

 どうやら本当に洗脳とかは受けているようには思えん。いや、何かしらの暗示的なものは受けているんだろう。じゃ無きゃ、この暴走状態が説明が付かない。

 

 そしてもう一つ分かったことがある。

 

「どうしたもんか」

 

 俺は、翠を傷つける事が出来ないらしい。



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第十二話

はい、遂に一カ月以上丸々放置でした。実習が六月に集中してそちらに手一杯になってしまったのが大きな理由ですが。

一先ずひと段落したのでまた更新していきたいと思います。


 今、現在俺は自分の認識について大いに変更を余儀なくされている。

 

 自分でも何だが、俺は基本的に戦うときは女であろうと容赦はしない。

 

 レーティングゲームとかだったらまあ、顔はなるべく狙わない様にはしているが。

 

 俺の周りの女はやらた滅多に強いというのも大きな理由の一つだが。

 

 で、何が言いたいのかと言うとだ。

 

「どうすっかなあ、と!」

 

 魔力の波動を数発翠に向けて撃ちこむ。

 

 それなりの威力はあるが、しかし普段の俺ならばもっと強力な威力を出せる筈だが、何故かこうなってしまっている。

 

 当然、神星剣を持っている翠には効かず、あっさりと神星剣で払われてしまう。

 

 それを見た俺は嘆息する。

 

 何故だろうか。今一実力を発揮できていない。どうしたものか。

 

『貴方が存外女々しいだけでしょう』

 

 何だとコラ。リンド、最近黙っていることが多かったと思ったらそんな事を考えていたのか。

 

『黙りなさい。昔の女に情けを掛けている時点で間違っていないでしょう』

 

 誰が昔の女だ!? アホか! 翠は俺の女でもなんでも無いわ!

 

『貴方の事を好いているのは確かでしょ?』

 

 それは、そうかもしれんが。でも俺の女じゃねえよ!?

 

『ごちゃごちゃとうるさいですね。……めんどくさい』

 

 おま、めんどくさいとは何だ!?

 

『どうでも良いですが、来ますよ』

 

「っ!?」

 

 翠が再び接近してくる。

 

 俺も負けじと神星剣を使って斬り合う。

 

 高速で動く中、俺の頬に何かが飛び散ってきた。

 

 何だ? 俺は頬に飛び散った物を舌で少し舐めてみる。

 

「……血?」

 

 鉄の味。間違いなく血だ。だが、今は俺は血を流していない。先ほどの剣聖との戦いで出来た傷は殆ど癒え始めている。まだ血がにじんでいるところもあるが、殆ど固まっている。

 

 じゃあ、この血は……。

 

「翠……!」

 

 翠の体を見て俺は絶句する。

 

 翠の体にはあちこちに裂傷が出来ている。そこから血が流れており、俺の頬に当たったのはそれの一部だろう。

 

 いや、そんな事はどうでも良い。

 

 問題は何で翠がこんな風になっているかだ。

 

 どういう事だ。俺は傷つけていない。寧ろ、俺の方が傷つけられそうになっているのだ。

 

『体が付いて行っていないのでしょう』

 

 どういう事だリンド。体が付いて行ってないって。

 

『神星剣は確かに所有者の肉体を極限までに高める。しかし、それはあくまで馴らしていく必要があります。現に貴方だって初めて神星剣を使ったときは疲労で倒れたでしょ?』

 

 あれってそういう事なのか? てっきりルーファスに斬られたときの傷が原因かと。

 

 まあ、今は置いておこう。

 

 問題は翠だ。リンドの言葉通りなら、神星剣の力にあいつの体が耐えられていないって事だな?

 

『ええ、このまま行けば貴方が倒すよりも先に彼女の体が自滅するでしょう』

 

 …………。

 

 改めて翠を見る。

 

 息は荒く、全身を血で濡らし、さながら戦場でずっと戦い続けている戦士……いや、そんなまともなモノじゃないな。狂戦士か。

 

 さて、どうするか。

 

 このままの状態で戦っていたら翠は神星剣の力に耐える事が出来ずに死ぬ。かといって、俺が大人しく翠に殺されるわけにもいかん。

 

 ならば俺の選択肢は?

 

 ……翠を殺す。

 

 その考えはすんなりと出てきた。最も、実践できるかどうかは別としてだ。

 

 今の翠は洗脳を受けているわけじゃないから意識を刈り取れば元に戻るとも限らない。

 

 目を覚ました時に再び暴れだしたら最悪死人が出る。それだけは避けなくてはいけない。

 

 だけど、俺に出来るのか。それが。翠を殺すという事が。

 

 ……俺はあの姉妹を殺すことが運命づけられているとでも言うのか。だとしたらとんでもなく最悪だな。

 

「どうしたんですか兄様。来ないんですか? だったらこっちから言った方が良いですか? 昔からそうですもんね兄様は私と戦うときは全然自分から攻めてこないんですもん」

 

「…………」

 

「だんまりですか。まあ良いです。そろそろ終わらせましょうか」

 

 そう言うと、翠は冥王の砕剣を頭上に掲げた。

 

 すると、冥王の砕剣は怪しげな輝きを放ち始める。

 

 不味い。あの輝き、さっきの剣聖と同じ――!

 

「リアス、全力で防御を敷け! 今すぐ!」

 

 慌ててリアスに指示を出すも、

 

「――遅い」

 

 翠の方が一足早かった。

 

冥王星の闇帳(プルトーネ・リタース・グローリー)

 

 次の瞬間だ、世界が闇に染まった。

 

「なっ」

 

 何だ、これ……さっきの剣聖のヤツより何だこの異質さは……。

 

 見えない。それに何も聞こえない。まるで世界に一人ぼっちみたいなそんな感じだ。

 

『リアス!』

 

 リアスの名を呼んでみて愕然とする。

 

「――――」

 

 声が出ない。いや、発声は出来るている。なのに、声が俺の耳に入ってこない。 

 

 どうなっている。これっていったい。

 

 俺が混乱している中、背中に衝撃が走る。

 

「っ!」

 

 斬られたと判断するのに、そう時間は必要なかった。

 

「こ、の」

 

 殆ど苦し紛れに火星の崩剣(マーズ・ソード)を振りかぶる。

 

 当然当たった感触はせず、空振るだけだ。

 

 どうなってやがる。全く気付かなかったぞ。翠のこの技、一体何だってんだ。

 

『恐らく、五感の完全遮断ですね』

 

 どういうことだリンド。

 

『現実では暗くなっているわけでは無いでしょう。単に、貴方の五感が何も感じることが出来なくなってきているだけの事』

 

 いや、何気なく言っているけど、それって相当やばいじゃねえか。

 

 つまりは俺は何も見えないし、聞こえないし、感じ取れないって事だろう。

 

 ああ、やばい。神星剣を持っているはずなのに、それも感じ取れなくなってきている。確かに持っているはずなのに、柄を握っている感触が無い。

 

『直接的な攻撃力は無いですが、流石は神星剣といったところですか。下手をすれば何百人規模で今の貴方と同じことが出来るでしょう』

 

 それは……怖いな流石に。まるで神滅具みたいじゃねえか。

 

『一先ず私の鎧を纏っていると良いでしょう。私の力と神星剣のオーラが組み合わさればそれなりの防御は約束できます』

 

 それもそうか。俺はリンドの言葉に従い、素早く禁手化して鎧を纏う。

 

 さてと、どうするか。

 

 翠を倒さない限りはこの技を解除することは出来ないだろうし、傷の痛みも今は殆ど無くなってきている。お陰でどんだけの傷の深さなのか今一分からなくなってきている。それは流石に不味い。戦っている最中に倒れちまったらやばいしな。

 

「やっぱ方法はこれしかないか……」

 

 俺は手に握っている火星の崩剣を顔に近づける。

 

『カレン?』

 

 なあ、リンド。さっき剣聖は神星剣には技があるって言っていたよな?

 

『ええ、剣聖が先ほど使った重力攻撃。それに貴方の妹分が使ったこの技ですね』

 

 ああ。つまり、俺の火星の崩剣にもあるって事だよな?

 

『……確かに、そうなりますね。ですが、使えるのですか?』

 

 う、それを言われると。

 

 残念なことに剣聖の話を聞いた時から色々と考えてはいるのだが、どうやってあんな技を出せるのか分からないままだ。

 

 手に入れて一日も経っていない翠ですら技を手に入れる事が出来たというのにだ。

 

 ……そういえば。

 

『どうしたのです?』

 

 いや、火星の崩剣(こいつ)を手に入れたとき、だれかと喋った記憶があるんだよ。

 

 そいつが、何かのヒントになるんじゃねえかと思ってな。

 

『……誰かとは男ですか?』

 

 いや、確か女だった気が……なんでそんな事聞くんだ?

 

『いえ、男では無いのならば良いのですが……』

 

 ? 何を言ってるんだか。

 

 それはそうとして、もう一回あんときの声を聞くことが出来れば突破口になる筈だ。

 

 そこまで考えた時だ。右足に鈍い痛みが伝わってきたのは。

 

「いっつう……!」

 

 思わず顔を顰める。

 

 また斬られた。反応がついに出来なくなったなこりゃ。

 

 どうする。どうすりゃあ技を出せる? どうすれば……。

 

 落ち着いて考えてみろ。今日神星剣を手に入れたばかりの翠でさえ技を使うことが出来たんだ。なら、俺だって技を使うことが出来たっておかしく無いはずだ。

 

 それが出来ないのは、どうしてか。

 

 やっぱり、あの女との対話かな。

 

 ――なあ、火星の崩剣(マーズ・ソード)。俺は、この戦いに勝たなきゃいけない。俺が負ければ翠はリアスを殺すだろう。そうなったら、俺はもう自分が許せなくなるし、翠にそんな事をしてほしく無い。だから頼む。力を貸してほしい。母様に力を貸していたんだろ?――

 

 心の中で念じるように、祈るように火星の崩剣に話しかける。

 

 頼む。もう時間が無い! だから。

 

 必死に祈っている時だった。

 

 ――問いを投げかけます――

 

 殆ど耳も聞こえなくなっている状態で誰かの声が頭の中に響いてきた。

 

 なんだ? 誰だ。

 

『……これは』

 

 リンドは何かを分かったようにつぶやく。

 

 ――貴方は奴らに復讐するために力が欲しいと契約時に言いました。その言葉に嘘偽りは無いと――

 

 ああ、そうだ。あいつらを全員殺すまで俺は死ねない。それは間違っていないぞ。

 

 だが、奴らが俺の大事なもん取るなら情け容赦しない。

 

 ――つまり、今回の力を求める理由は契約理由に反していないと?――

 

 ああ、そうだよ。その通りだ! だから力をくれ頼む!

 

 ………………。

 

 俺の思いが伝わったかどうかは分からないが、俺の目の前に一人の少女が現れた。

 

 暗闇で何も見えないはずなのに、確かに見える。

 

 年齢は翠と同じが少し上だ。

 

 赤を基調とした赤いドレスと赤い髪。そして赤い瞳をこちらに見せてくる。

 

「お前は……」

 

「識別名称、テルティウム。火星の崩剣(マーズ・ソード)の管理人格です」

 

 以後お見知りおきを。そういって少女――テルティウムはスカートの裾をちょん、と摘まむと軽く挨拶をしてきた。

 

「管理人格?」

 

「はい。我ら神星剣を管理する為に聖書に記されし主が付与されました」

 

 主。つまり聖書の神か、亡くなった。その神がこんな人格を付けたと。神様ってのはなんでもありなのかね。

 

 思わず俺はまじまじとテルティウムの顔を見る。

 

 顔立ちは非常に整っているが、寧ろ整い過ぎている。まるで人形のようだ。

 

「完璧すぎる美は美では無いってか……」

 

「?」

 

「あーいや、何でもない」

 

 今は関係ない話だったな。本題は別だ。

 

「で、俺に技はくれるのか?」

 

 俺の質問にテルティウムがこくりと頷く。

 

「助かる。……にしても、翠はなんだって今日手に入れたばかりなのに技が使えているんだ?」

 

「解答します。恐らく、他の神星剣を使い、無理やり力を引き出しています」

 

「無理やりか……」

 

 四死剣の連中は全員神星剣を持っているだろうから、可能なんだろうな。

 

 ……翠を止めないと。

 

「テルティウム。技をくれ」

 

「受諾します」

 

 そう言うと、テルティウムの体から赤い粒子が俺を包む。

 

 力が流れ込んでくるのが分かる。

 

 神星剣を使っているときと同じ力の波動を感じるが、それよりもずっと力強い。

 

「解答します。今、貴方の頭の中に入った名が技の名です」

 

 これ、か。

 

 俺は神星剣を逆手に持ち、地面に突く。

 

火星の獄炎(マルス・ヘルフレイム)

 

 火星の崩剣から火が、獄炎が放たれる。

 

******

 

「なん、ですかこれ……」

 

 チリチリと自分の頬を焦がすような熱さを感じながら翠は呆然と呟く。

 

 途中までは完全に上手くいっていたはずだ。

 

 神星剣の技を使い、カレンの五感を奪ってやった。そこからは嬲るように彼の体を斬ってやった。

 

 途中であの女――五感の内、耳以外は奪ってやったはずだが――邪魔してきたが、特に問題は無かった。

 

 そして、いざ止めをと思った矢先だ。

 

 カレンが火星の崩剣を地面に突き刺した途端、剣から炎が溢れてきたのだ。

 

 その炎は辺りは一帯を燃やし尽くすように広がっていた。

 

 翠は咄嗟に自身の神星剣を使ってガードしたが、辺りは焼け野原に等しく成っていた。

 

「――ああ、見えたやっと」

 

 ビクッと体が震えてしまう。

 

「よお、翠。よくまあ、色々とやってくれたな。お仕置きの時間だ」

 

 恐る恐る前を向くと、カレンが不敵な笑みを浮かべてこっちを見ていた。

 




後最低でも二話程で終わらせようと思います。


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第十三話

「お仕置き? お仕置きですって?」

 

 翠は肩を震わせる。

 

「何様のつもりですか。貴方ごときが私に何をするというのですか!」

 

 翠の激昂に反応するように翠の冥王の砕剣が輝きを増していく。

 

 それすなわち、翠の体がどんどん不味い状況になっていくのが手に取るように分かる。

 

 翠を止めないといけない。今度こそ絶対に。

 

 リンド、テルティウム。力を貸してくれ。

 

『まあ、構わないですが』

 

『承諾』

 

 それぞれ返事を返してくる。

 

 改めて体の状態を確認する。

 

 まだ五感が少し鈍いが少しずつ戻ってきている。

 

 同時に痛覚も戻ってきているから翠に斬られた所から痛みが滲み出てきている。

 

 まだ暫くは大丈夫だと思うけど、翠の事もあるし、あんまり時間はかけないでさっさと終わらせよう。

 

「――――」

 

 一旦、深呼吸をする。

 

 心を落ち着かせる。痛みを意識からなるべく排除して翠だけを見据える。

 

 こちらをまっすぐ見据えている。

 

 剣を構えて、今にも攻めてきそうな雰囲気だ。

 

 …………次で決めよう。

 

 ふと、そう考える。

 

 俺としては翠のことを考えてそう思ったが、恐らく翠もそう考えているんだろう。

 

 となると……。

 

 俺も剣を構える。

 

 場違いかもしれないが、道場で翠と試合をしていた時を思い出す。

 

 あの時と違うのは、お互いに真剣を使っているのと。

 

 お互いに殺しあおうとしていることだ。

 

「こい、翠」

 

「っ!」

 

 俺の言葉が合図となり、翠は一気にこちらに迫ってくる。

 

 その様はまるで弾丸のように鋭い。

 

「あああああああああああ!!」

 

 獣のような叫び声をあげながら翠は剣を突き出す。

 

「…………」

 

 ああ、やっぱり翠。お前はあの頃のままみたいだな。

 

 それがたまらなく嬉しくて、同時にとても悲しい。

 

 そんな複雑な感情を他所に、俺は冷静に翠の剣を弾く。

 

「なっ…………!?」

 

 まさか止められるとは思っていなかったのだろう、翠は驚愕の感情を隠せていなかった。

 

 そこは相変わらずみたいだな翠。だからこそ、ダメなんだよお前は。

 

 俺は剣をまっすぐ翠の心臓に突き立てる。

 

 …………肉を突き立てる感触。

 

 ここ最近はずっと感じている感触なのに、今日のは一番重く感じる。

 

「あ……」

 

 翠はか細く声を上げる。

 

「どう、して……」

 

 何故、自分の攻撃があんなにも簡単に弾かれたのか、だろう。

 

 それに対して俺は答える。

 

「お前、最後の決め手いっつも突きで決めようとする癖があるだろ? 俺や紫水から直せ直せって言われてたのに、結局直せていなかったな」

 

 俺の答えに翠は目を見開くと直ぐに表情を和らげる。

 

 そして、のろのろと手を上げると、俺の顔に添える。

 

 俺は鎧のマスクを外す。

 

「あ……」

 

 翠が嬉しそうに笑う。

 

「……なんで笑ってんだお前」

 

 思わず口に出す。

 

 それに対して翠は本当に嬉しそうに言う。

 

「だって、兄様、やっと私の事見てくれた」

 

「は?」

 

「私の顔、ずっと見てくれなかった……」

 

 思わず、息をのむ。

 

 それと同時に気付く。翠の言う通りだということに。

 

 そう、だ。俺、紫水が死んでから翠の顔、まともに見ていない。

 

 翠の顔を見るたび紫水を思い出してつらいから見てねえんだ。

 

「ごめん、翠」

 

「良いんです、見てくれた。それだけが私が望んだ、事、だから」

 

 まさか、俺に顔を見てもらう為だけにこんな事を?

 

「お前、馬鹿だろ」

 

「兄様、に、言われ、たく、ありま、せん……」

 

 だんだんと、翠の瞳から光が無くなっていく。

 

「兄様……」

 

「なんだ?」

 

「大、好き……」

 

 その言葉を最後に、翠は何も言わなくなった。

 

 俺の頬に添えられていた手は力なく、糸が切れた人形の様に地面落ちる。

 

 死んだ。翠は死んだ。疑うことなく死んだ。

 

 人の死なんて慣れているほうだ。特に、俺は俺自身に近しく者の死を多く経験している。

 

 だから、今更……。

 

「カレン……」

 

 後ろからリアスが声を掛けてくる。

 

「ああ、悪い。お前の事すっかり忘れていたわ」

 

「酷いわね……って言いたいところだけど、まあ良いわ」

 

 そう言うと、リアスはふわりと、俺を包むように抱きしめる。

 

「何だよ?」

 

「辛いんじゃないかと思って」

 

 辛い? 馬鹿を言わないで欲しいね。俺がそんな。

 

「無理しないの。泣いているじゃない」

 

「泣いて……?」

 

 そっと頬に手を当てる。

 

 確かに液体が自分の頬を伝っているのが分かる。

 

 そう、か。俺は泣いているのか。何だ、まだ女々しい部分を残しているんだな。

 

「……ん?」

 

 俺が自虐的になっているときだった。

 

 翠の神星剣、冥王星の砕剣が闇色の光を放つ。

 

 何だ? そういういやあ、所有者がいなくなったら神星剣ってどうなるんだ?

 

 俺が戸惑っている中、冥王星の砕剣から少女が現れた。

 

「お前……」

 

 驚いた。別に神星剣から少女が出てくるのは別に不思議じゃあない。テルティウムの例があるしな。

 

 でも、驚いたのはテルティウムと全く同じ顔なのだ。

 

 あ、いや髪の色と瞳の色は黒で来ている服も黒だからまるで格ゲーの2pキャラみたいな感じだ。

 

「お前は……」

 

「解答します。識別名称オクタウム。冥王星の砕剣の管理人格です」

 

 これまたテルティウムと同じようにスカート裾を掴んで挨拶をしてきた。

 

「で? 何の用だ」

 

 まさか挨拶だけで終わらせるわけでもないんだろうし、何かあるに決まっているんだろうけど。

 

「解答します。盟約に従い御身との契約を開始します」

 

「……は?」

 

 何言ってんだこいつ? 盟約? 契約?

 

「……質問だ。その盟約とは何だ?」

 

「解答します。我らを制作せしめた主より付与されしこと。神星剣の担い手同士が戦った場合、勝者に敗者の神星剣の所有権が移ること」

 

 なんだそりゃ。それって聖書に記されし神が神星剣同士が争うってことを予め分かっていたことじゃ……。

 

「――その通りだよ」

 

 バッ俺は後ろを向き、リアスを庇うように前に出る。

 

「……ルーファス・アガリアレプト!」

 

「おめでとうカレン。無事、神星剣の二本目を手に入れたようだな」

 

「何だその言いぐさ。まるでその事を望んでいるように聞こえるぞ」

 

 相も変わらず不気味な笑みを浮かべているルーファス。

 

 こいつは本当に何を考えているのか分からない。俺の家を襲ったのも結局良く分かっていないからな。

 

「ふむ、望んでいる。確かにそうかもしれないな。事実、私は君が強くなるのを望んでいる」

 

「あ?」

 

 何なんだこいつ……何を考えてやがる。

 

「おい、ルーファス」

 

 不機嫌そうにしてるワイズマンがルーファスに声を掛ける。

 

「これで実験は終わりの筈だ。さっさと帰るぞ」」

 

「実験……?」

 

 訝しげに呟くリアス。

 

「待ちなさい。実験ってどういうこと? 貴方たちはカレンを使って何がしたいの?」

 

 詰め寄るようにリアスが問いを続ける。

 

 それに対してワイズマンはめんどくさそうに頭をガシガシと髪の毛をかく。

 

「なんでそんな事を答えなくてはいかん。こいつを育てることで神星剣の担い手として最高の状態にすることが目的などとって、あ……」

 

 思わず、といった感じでワイズマンは口に手を当てる。

 

『…………』

 

 こいつ、ワイズマン(賢者)なのに、案外抜けているのか。

 

「くそ、これも寝ていないせいだ。どうしてくれるルーファス」

 

「ええ、私の所為かい?」

 

「当然だろう! 貴様の計画が面倒だから私がそのしわ寄せが来ているのだ。剣聖なんかは全く役に立たんし、あいつはあいつでやろうともしない!」

 

「はは、そう怒るな。眉に皺が寄って戻らくなるよ?」

 

「そうか、そんなに死にたいのだな。ならば死ね」

 

 突如として現れた球体の金属を手のひらで転がすワイズマン。

 

 すると、球体が尖ったピックのような形になる。

 

 その形になった瞬間、ワイズマンはピックをルーファスめがけて打ち出す。

 

 しかしルーファスは首を動かすだけでそれを躱す。

 

「やれやれ、短気は損気というだろ? ワイズマンという名を持って者として恥ずかしくないのかね?」

 

「黙れ。そして地獄に落ちろ」

 

「悪魔に地獄に落ちろとか笑えるね」

 

「ちぃっ!」

 

 思いっきり舌打ちをするワイズマン。

 

「まあいいや。取り敢えず、冥王星の砕剣は君に暫く預けておくよ。それじゃあまた会おう」

 

 そう言ってルーファスは手にした神星剣を使って次元に穴を開けるとワイズマンと一緒にその中に入っていった。

 

 ルーファスたちが消えるのと同時に空間が崩壊を始める。

 

「ええい、面倒な! さっさと逃げるぞリアス」

 

「ええ!」

 

 俺はリアスと翠の体を抱えると直ぐに飛び立つ。

 

 来た道を戻っていき、最初に剣聖と戦った場所まで戻る。

 

「お前ら!」

 

 広場に着くと既に剣聖の姿は無く、一誠達は一か所に集まっていた。

 

「兄貴! 部長!」

 

 直ぐに気付いた一誠がこっちに駆け寄ってくる。

 

「っ! その子……」

 

「話は後だ。直ぐにここを出る」

 

「既に準備は出来ています。直ぐにでも出れます」

 

 ティアが手元で何かを操作しているらしく、魔方陣の中の文字が高速で回転している。

 

「よし、離れるぞ!」

 

 俺の一言で俺たちはこの場所を離れていくのであった。

 

******

 

「そうか、そんな事が……」

 

 一誠の表情に影が差す。

 

 ほかの奴らも皆同じような表情だ。アーシアなど、涙を流している。

 

 優しいものだ。翠とは会ったことないのに。

 

 俺たちは最初にルーファスに指定された場所に戻り、体を少し休めていた。

 

 アザゼル先生も直ぐに駆けつけて、俺と翠を見て何かを察したのか何も言わずにただ、俺の頭に一度ポン、と頭を乗せて後は事後処理に入っていた。

 

「悪かった皆。今回は俺個人の問題に巻き込んでしまって」

 

「そんな事ありません! それを言うなら、僕の件だって」

 

「水臭いぞカレン先輩。私たちは同じグレモリー眷属だろ?」

 

 祐斗、ゼノヴィア騎士コンビが心外だとも言いたげに言い、

 

「そ、そうですうううう! カレン先輩の為なら、僕たち、なんだってしますううう!」

 

「……私たち仲間ですから」

 

 後輩コンビたちも励ますように言ってくる。

 

「カレン、そんな事言わないでください。貴方だって私たちの個人の問題を色々と助けてくれたじゃありませんか。なら、私たちも助けますわ」

 

「はい、その通りです」

 

 朱乃やアーシアも励ましてくる。

 

「なあ、兄貴。俺たち仲間だし、俺は兄貴の義弟だ。兄貴の為なら何だってするぜ」

 

「一誠……」

 

 やばい一誠に励まされる日が来るとは……本当にどうしよう。

 

「……何だろ、今馬鹿にされた気が」

 

「気のせいだろう」

 

 意外と勘が鋭いよな一誠の奴。

 

「ねえカレン」

 

「んー?」

 

「つらいならつらいと言いなさい。私たちだって、貴方に慰められることがあるのだから、その逆があってもいいはずよ」

 

「…………」

 

 何だ急に。恥ずかしくなってくるぜ。

 

「あーティア、皆も今日はありがとうな助けに来てくれて」

 

 俺は逃げるようにティア達の方に視線を向ける。

 

「眷属として当然のことをしたまでです」

 

「そうよそうよ。気にしなくて良いわ!」

 

 ティアは相変わらずの様子でお辞儀をし、セルヴィアはウィンクする。

 

「……ふん」

 

「はは、ま我々も久しぶりに楽しんだからな問題ないさ」

 

 茨木はそっぽを向き、ペルセウスは笑いかける。

 

「さて、カレン。相談があるんだが」

 

「何だよ?」

 

 ペルセウスの言葉に俺は胡乱げに返す。

 

 今度は何だ。もう、流石に今日は色々と疲れた。

 

「実は今日はこんなものを持ってきていたのだー」

 

 そんなふざけながらペルセウスが懐から取り出したのは……。

 

「悪魔の駒か」

 

 そう、悪魔の駒、その一つの騎士の駒。

 

「それ、俺のか?」

 

「ああ。今回の話を聞いて持ってきたのさ」

 

 ニヤリと笑うペルセウス。どこまで読んでいたのやら。

 

「それで? それを使って翠を甦らせれば良いと?」

 

「決めるのはお前だよカレン。俺たちはそれを全力で支えるだけだ」

 

 ずるいもんだ。そんなことを言われたら考えないといけないじゃないか。

 

 他の奴らも固唾を飲んでじっとこちらを見ている。

 

 俺はペルセウスから駒を受け取り、横たわっている翠の体を見る。

 

 果たしてこのまま翠を甦らせていいのか。

 

 翠は恐らく、それを望まないんじゃないだろうか。そんな風に選択させたのは俺が原因だろうし。

 

 そんな翠を甦らせたらどうなるやら。また殺し合いになったら笑えねえな。

 

 けど。だけど、翠は、紫水の妹で、俺の妹分だ。

 

 そんな奴を失うのは……辛いなあ。

 

 でも、翠は意思は尊重はすべきではあるだろう。

 

「…………」

 

 迷いながら、俺は一つため息をつく。

 

 そして、決断する。




あと一話で終わる予定。


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第十四話

一応、今回の話で六章は終了です。オリジナル回でしたが、相も変わらず、グダグダ感が……。


「……あれ?」

 

 ベットで寝ていた翠は思わず、といった風に声を発していた。

 

「……ここってあの世?」

 

「残念ながら違うと言うべきかな? ここは俺の持っている屋敷の一部屋だよ」

 

 俺が声を掛けると、翠はゆっくりとこちらに顔を向けた。

 

「兄様?」

 

「そう、兄様だ。三日間眠っていたな」

 

「三日間も……?」

 

「一応事情を説明してやろうと思うがどうだ?」

 

 まだ、ぼんやりとしているようだが、こくりと頷く翠。

 

「じゃあ、お前が一回死んだ後からだな」

 

 あの後、ペルセウスから騎士の駒を受け取った俺は散々迷った末に翠を甦らせることにした。

 

 理由はまあ、色々とあるけど、やはり、翠に死んでほしく無かったという完全な俺のわがままによるものだ。

 

 駒を使うことで翠を甦らせたのは良いが、何故か目を覚まさず、冥界の俺の屋敷に連れてきてこうして俺が傍にいたわけだが……。

 

「冥界……私、死んでるんですか」

 

「冥界イコール死んだと思うのは止めろ。さっきも言っただろ。お前はよみがえったの。一応生きているよ。人間辞めたけど」

 

「人間を、辞めた……?」

 

「そうだ。人間としての生は終わったけど、悪魔としての生が始まったというわけだな」

 

 自分が悪魔になったと聞いてどう思ったか。俺は翠の顔をちらりと見る。

 

 その瞳は何かを映している訳でもなく、ただボンヤリと虚空を見ていた。

 

 俺はためらいながらも、翠に話しかける。

 

「なあ、翠。紫水が亡くなって、俺はお前から逃げた。向き合うべきだったのに、大切な人を二度も失った俺はあの頃、どうかしていた」

 

「…………」

 

 翠は無言で続きを促す。

 

「何も考えられなくて、ただ生きているだけの時間になっていた。そうやって、お前とも距離を置いた」

 

 あの時、もう少し強ければ今回の件は起こらなかったのかもしれない。

 

 翠をほったらかして、俺はリアスと再会して、一誠や朱乃達と交流を深めていって、俺の心は漸く元に戻りつつあった。

 

 だけど、それだけじゃあ意味が無かった。過去を忘れて、放っておいて良いわけない。

 

「すまなかった」

 

 俺は頭を下げる。こんな事でしか翠に償えるとは思えない。だから、これから始めていかないといけない。

 

「翠、もう俺はお前から逃げない。どんな事があってもだ」

 

 真っ直ぐ翠の目を見て言う。背けてはいけない。背けてはまた同じことを繰り返してしまう。

 

 暫く無言のまま時間が過ぎていく。

 

 翠はただ黙ったまま俺の事を見ていた。

 

 俺も、自分から目を背けずにじっと翠を見つめる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……………………」

 

「…………………………」

 

 無言が、つらくなってきた。

 

 不味い。もしかしたら言葉を間違えたか? もしそうなら笑うしか無いのだが。

 

 いや、まだだ。まだ間違えたとは限らない。

 

 そうだとも!

 

「……変な顔」

 

 俺が葛藤する中、翠はポツリと呟く。

 

「は?」

 

「変な顔をしているわ、兄様」

 

 え、マジ? そんな顔をしてんの俺?

 

 思わず、顔に手を当てる。

 

 そんな俺の様子を見た翠がクスリと笑う。

 

「何だよ」

 

「いえ、なんだか可笑しくて。兄様がそんな風になっているのは久しぶりだな、と思って」

 

 …………。

 

「お前が知っている俺はこんな風じゃなかったか?」

 

「姉さまが死ぬ前はこんな感じだったわ。でも、姉様が死んで、兄様は心を閉ざした。そんな兄様を心を開いたのが、あのヒトだったのね」

 

 あの人、リアスの事か。

 

 確かに、その通りだ。高校に入学して無気力になっていた俺を元に戻すきっかけを作ったのはリアスだ。あいつのお陰で今の俺があるといっても過言では無い。

 

「だから、少し見てみたくなった」

 

「何を?」

 

「兄様を変えたあのヒトがどんなヒトなのか。気になってきたから、もう少しだけ生きてみようかな」

 

 微笑みながらそう言う翠。

 

 ……たく、素直じゃないと言うべきなのか。

 

「一応、悪魔って一万年以上は生きられる寸法だからのんびりいこうや」

 

「え、そんな生きるの!? 殆ど不老不死じゃない。よくそんなのになったわね兄様は」

 

「いやまあ、色々とあったからな。そこらへんも少し事情を説明してやんよ」

 

 そこからは俺の今までの事を話し始めた。

 

 なるべく面白いようにしながら話、翠も笑いながら聞いてくれた。

 

 なあ紫水。翠も俺も漸く元に戻ることが出来たと思う。けど、ここまで時間がかかったのはお前がそれだけ俺たち二人にとってデカい存在だったからだ。

 

 もう大丈夫だ。お前の事、時々思い出して悲しむかもしれないけど、それでも前に進んでいく。進まなきゃいけない。そうしないといけないからだ。

 

 

******

 

「全く、冥王星の砕剣を渡して本当に良かったのか? 貴重な神星剣が奴らに渡ってしまった」

 

「作戦前にも言っただろ? 彼に元々渡す予定だったのだから問題ないさ」

 

『……奴、技、使った』

 

「ああ、そうだね剣聖。いやあ、対話をあの土壇場で出来るとは。私の想像以上だよ彼は」

 

「ふん、まあいい。で、これからどうする気だ」

 

「暫くは大人しくするさ。今、シャルバ様とクルゼレイ様から協力を打診されてね、そっちに少し顔を出そうと思う」

 

「またか。お前も大概だな。忠義も何も抱いていない昔の主の末裔にいつまでも力を貸すとは」

 

「何、私の義理を果たしているだけさ。彼らの計画に少し便乗してカレンをもう少し鍛えていこう」

 

「……私はもうやらないぞ疲れたしめんどくさい。次はあいつを呼べばいい。最近はどこをほっつき歩いているのやら」

 

「全く、君は本当に賢者の子孫かい? ホーエンハイムの名が泣くよ?」

 

「黙れ、そして死ね」

 

 




もうじき大学のテストと実習が始まりますので、八月の中旬迄また、更新を休むと思われると思いますが、戻ってくるときはもう少し初期の頃の雰囲気を戻せるようになりたいですね。


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第七章
第一話


一カ月を超えてしまった……一週間で投稿していたころが懐かしいな。もう少し執筆速度を上げないと。


 結婚、というのは将来を誓い合った男女が永遠に愛を誓い合う一種の儀式のようなものだ。

 

 ――まあ、あっさり離婚してしまったり、昔の浮気がバレて八十代になって離婚したりもする夫婦もいるが。

 

 結婚というのはそう簡単にするものじゃない。将来に大きく影響してくるのだから。

 

 の、筈だが……。

 

「――また来たのか」

 

 手紙を手に取りながら俺は呆れながらため息を付く。

 

「ええ、そのようね」

 

 隣にいるリアスもため息を付く。

 

「今回は手紙だからよかったが、前回なんて何だあれ? 変な置物が玄関に置かれていた時は目を疑ったぞ」

 

「あれでも、高級品よ? まあ、今回は確かに大人しいわね」

 

 手紙の中身をざっと確認するとまたいつもの通り愛を綴ったラブレターだ。

 

 最も、内容は何というか中身が無いようなありきたりだ。正直、読んでて心を動かされない。まあ、動かされても不味いだろうけど。

 

「いい加減何とかしようや。一誠の野郎が嫉妬で悶え死にそうだ」

 

「そうね。アーシアにその意思が無いのだからいい加減きっぱりと断ったほうが良いわね」

 

「普通ならそれで良いんだろうけど大丈夫か? 相手はアスタロト家の次期当主だろ? 何か問題になりそうな気もするが」

 

「そこが問題ね……」

 

 困ったように額に手を当てるリアス。

 

 さて、俺たちが何の話をしているかというと、単純な話だ。アーシアが求婚を受けているのだ。

 

 しかも相手はアスタロト家次期当主のディオドラ・アスタロト。現ベルゼブブを輩出したグレモリー家と並ぶ名門だ。

 

 そんな家の次期当主から何故アーシアがプロポーズを受けたかというと、そこにも色々とあったようだ。

 

 詳しい話は省くが、アーシアが教会を追放される原因となった悪魔なのだ彼は。

 

 あの若手悪魔の会合で偶然アーシアを見かけたディオドラは、昔助けられた恩もあって彼女にプロポーズをする。

 

 アーシアはその場で断ったが、ディオドラは諦めることなく、贈り物を送り続ける事でアプローチを続けている。

 

「もうこの際家を通しての抗議するか? 鬱陶しいって」

 

「そこまでの大事にするのはちょっと不味いわ。今は若手の試合を行っているし、アーシアもあまり面倒な事にはしたくないでしょうし」

 

「そりゃあそうだが……」

 

 きっぱり断らないとこの手の男はまず諦めない。何というか、ストーカーというか、変態的な匂いがしてくるのだ。

 

「ほんと、どうしたもんだか」

 

 自室の天井を仰ぎ見ながら俺は思わず呟く。

 

******

 

 二学期になって、一カ月程度。

 

 その間、翠の件が合ったりと色々と忙しかったが、最近は少しのんびりとしていると思う。

 

 まあ、そののんびりももう終わるが。

 

「それでは次の種目を決めていきたいと思います」

 

 委員の言葉に皆がざわつきながらも黒板の方を見る。

 

 現在、俺たちはホームルームでもう直ぐ行われる体育祭に出る個人種目を決めていた。

 

 もう殆どの種目は決まっておるが、いくつかの種目はまだ決まっていなかった。

 

 その種目とは……。

 

「じゃあ、次は男女混合の二人三脚を決めたいと思います」

 

 委員の発言にざわついていた教室がピタリと止まる。

 

 やっぱりか。そう思ってしまった。

 

 二人三脚は別に問題は無いが、男女混合が一番注意すべき点だ。

 

 男女混合。つまり、これに積極的に参加する奴は恋人同士。そう捉えるのが妥当だ。

 

 世の常として、こういうのはからかわれる。それはもう盛大に。

 

 所謂悪意を持って接することは無いから笑い半分ではあるけど、それでも当の本人たちからすれば恥ずかしい以外の何物でもない。

 

 だからこそ、これは誰もやりたがらない。誰でもからかわれたくない。

 

 さて、やはりというか、止まってしまった。誰も手を上げようとしない。

 

 つまり、ホームルームが永遠に終わらないことを意味する。

 

 全く、早く誰か手を挙げてくれ。さっさと終わらせたいんだよ。

 

「カレン」

 

「んあ?」

 

 声を掛けられて俺はそちらを向く。

 

 隣に座っているリアスがニッコリと笑いかけてくる。

 

 なんとなくだが、嫌な予感がしてきた。

 

 あれ、これってもしかして不味いパターンじゃね?

 

「カレン、ちょっとお願いがあるの」

 

 俺の嫌な予感が当たった。

 

******

 

「兄貴も二人三脚、男女混合で出るんだ」

 

「も、ってことはお前も……ああ、アーシアとか」

 

「なんでわかるんだよ?」

 

「そん位しか思いつかん」

 

 放課後、オカルト研究部の部室で俺と一誠はお互いに疲れた様子で話していた。

 

 そう、俺は男女混合の二人三脚に出ることになったのだ、リアスと。リアスと一緒に。大事なことなので二回言っておく。

 

 何だってこんなことに。短距離走で適当に流して終わらせるつもりだったのに。

 

「どうしたんですかカレン先輩? 折角の体育祭なんですから頑張っていかないと!」

 

 元気よく発言するのは栗色の髪をツインテールにした少女、紫藤イリナだ。

 

 紫藤イリナ。ゼノヴィアと一緒にエクスカリバー奪還の任務を受けていた教会所属の聖剣使いだったが、何とこのたび駒王学園に転校してくることになったのだ。

 

 しかも天使になって。

 

 天界は悪魔や堕天使の技術を応用して『御使い(ブレイブ・セイント)』と呼ばれるトランプの絵札をモチーフにした転生天使の技術を作成したらしい。

 

 イリナは天使長のミカエルの『御使い』、Aの称号をもらって転生したらしい。

 

 他にもジョーカーと呼ばれる天界の切り札もいるらしいが、まあそれは今は置いておく。

 

 イリナは悪魔と堕天使がいるのに、天使側は誰もいないのはどうかということで、この街に来たわけだが、実に学校生活を満喫している。

 

 ……まあ、それでも良いんだけど、なんかこう、あんまり使者って感じがしてこないんだよな。

 

 あのミカエル様の事だから考えあっての事だろうけど。

 

「イリナは何だってそんな元気なんだか」

 

「まあ、元気が取り柄ですから! ああ、主よ!」

 

 いきなりお祈りを始めるイリナ。

 

 やめろ、別に何ともないけど悪魔的にやめろ。

 

「……でさ、小猫」

 

「…………何ですか?」

 

 お菓子ももりもりと食べていた小猫がこちらを向く。

 

 無表情ながらも小首をかしげる様は愛くるしいが今は置いておく。

 

「なんで俺の膝に乗るんだ。せめて隣にしろ」

 

 最近、何故か小猫は俺に懐いてくる。

 

 前々からその傾向はあったが、最近は特に顕著だ。特に翠と顔合わせをしてからはずっとこんな感じだ。

 

 そういやあ、翠と顔合わせしたとき無言で睨み合っていたが、それが原因か?

 

「……負けられませんから」

 

 何の勝負してんだお前たちは?

 

「みんな集まっているようね。じゃあ、今から映像を見るわよ」

 

 オカ研が全員集まったのを確認したリアスが記録媒体らしきものを取り出しながらそう言う。

 

 今日は他の若手悪魔たちの試合映像を見る日なのだ。

 

 俺としてはバアルも気になるが、一番注意しているのはダンタリオンだ。

 

 会ったのは二度だけだが、あの不気味さは警戒すべきだろう。ただ、今回一つだけ余ったあの家は試合には出ていないそうだから残念だ。

 

 映像の再生が始まり、バアル対グラシャラボラスの試合が始まった。

 

 内容は圧倒的なパワーというところか。

 

 序盤から眷属同士のぶつかり合いが始まったが、最終的にはグラシャラボラスの眷属は全てやられてしまい、焦ったあのヤンキー君はサイラオーグに一騎打ちを申し込んだ。

 

 サイラオーグはそれに応えて一騎打ちが始まったわけだが、そこからはもう一方的だった。

 

 ヤンキー君が魔術やら魔力やらで攻撃してもサイラオーグは全く動じず拳一つで全部を打ち負かしていった。

 

 流石に動揺を隠せていなかったヤンキー君をサイラオーグは容赦なく殴り飛ばした。

 

 その威力は凄まじく、ヤンキー君の体が数百メートルも吹っ飛ぶ程だ。

 

 結局、ヤンキー君が片隅で縮りこまりながら降参を宣言することで試合は終了となった。

 

「……馬鹿力にも程があるな」

 

「凶児と忌み嫌われたグラシャラボラスの次期当主がこうもあっさりと」

 

 俺が呟き、祐斗は厳しい視線を隠さずに言う。

 

「今回の七家に限定して言えば、彼もそこまで弱くは無いわ。だた、サイラオーグが圧倒的に強いだけで」

 

 みたいだな。神星剣無しで戦うとなると、全力でいってどうなるか。ああいう、単純な打撃系統は俺の神器には相性が悪いし。

 

「しかし、なんでサイラオーグは滅びの魔力を使わない? あれは確かバアル家のものだろ?」

 

 リアスとゼクス兄さんは母親である伯母上がバアル家の現当主の姉、つまり血縁者だからその特色を受け継いだのだが、サイラオーグは使わないのか?

 

 俺の疑問に答えたのはアザゼル先生だった。

 

「サイラオーグはバアル家始まって以来の才能の無い悪魔なのさ。滅びの魔力を受け継ぐどころか、魔力だって殆ど持っていない。――落ちこぼれだったのさ」

 

 ……そいつは驚きだ。

 

「つまり、この強さは才能云々では無く」

 

「ああ、凄まじいまでの努力の結果さ」

 

 努力か。こういうタイプは厄介だな。油断とかそんなのが一切無いからそこを突くような事も出来ないし。しかも、見た感じまだ余力を残している感じだし、ダンタリオンもそうだけど、こいつも油断できなさそうだな。

 

「なあ、ダンタリオンはどんな奴なんだ?」

 

 少し気になってみたので、先生に聞いてみる。

 

 先生は渋い顔をしながら話す。

 

「……オズワルド・ダンタリオンか。奴の噂は和平が実現する前から俺たちの耳に入っていた。かのサーゼクス、アジュカクラスの悪魔が再び誕生したとな」

 

 魔王クラスって事かよ。どんだけだおい。

 

「オズワルド・ダンタリオンは歴代のダンタリオン一族の中でも異端児と言われているほどの破格の才能を持っているの。サイラオーグとは真逆ね。でも、二人は随分と仲が良いみたいだけど」

 

 へえ、確かにそれは意外だ。大抵はお互いを嫌いあうと思うんだが。何か通じるところがあるのかどうか。

 

「一応、ダンタリオンを入れて若手悪魔の能力値をグラフにしたやつがある見てみろ」

 

 そう言って先生は立体映像的なものでグラフを出した。下にはリアスたち若手悪魔の王達七人の顔が映っており、その上にはパワーやテクニックなどゲームでのタイプがいくつか書かれており、そこからグラフが伸び始めた。

 

 リアスなんかはバランスよく出来ているが、問題はサイラオーグとオズワルド・ダンタリオンの方だ。

 

 サイラオーグはパワー。オズワルド・ダンタリオンはウィザードの部分はほかの奴らをぶっちぎりで抜いていき、オズワルド・ダンタリオンに至っては天井に到達してなお伸び続けるほどだ。

 

「マジか。どんだけなんだよこいつ」

 

 最早呆れるしか無い。

 

「お前たち、アスタロト家と戦った後はサイラオーグと試合だぞ」

 

 先生の言葉に全員が緊張する。

 

 そう、俺たちの次の相手はアーシアに求婚しまくっている、あのディオドラ・アスタロト。まあ、そこは別にどうでも良いんだが、問題はサイラオーグとだ。

 

 現状、あのサイラオーグをどう打倒すべきか。まだビジョンが浮かび上がってこない。恐らくだけど、純粋な殴り合いになる気がするな。生半可な魔力攻撃はあいつに殴られて終わりだろうし。

 

「オズワルド・ダンタリオンとはその後か?」

 

 俺の言葉に、先生は頭を掻く。

 

「どうかな。ダンタリオンはバアルと次試合をすることは決定しているが、お前たちとの試合はどうなるか」

 

「……どういうこと?」

 

 リアスが訝し気に質問する。

 

 リアスの質問に先生はあっさりと答える。

 

「上の連中はバアルはまだしも他の連中とダンタリオンが試合を出来るかどうか不安なんだよ」

 

「……それはつまり、私たちでは相手にならないかもしれないと?」

 

 朱乃の言葉に先生は頷く。

 

 ……それはまた、随分と舐めてくれているものだ。

 

 他のみんなも大なり小なり怒りを感じているらしき、視線が険しくなっている。

 

「バアルと対戦出来てダンタリオンとは出来ない? 上は何を考えているんだよ」

 

「俺に言われてもな。まあ、次のアスタロト戦とバアル戦に勝てればダンタリオン戦もやることになるだろうけどな」

 

 成程。勝てば良いのか。実に単純明快で良いじゃないか。

 

「まあ、今はダンタリオンとの戦いは置いておくわ。次のアスタロトとアガレスとの試合を見ましょう。何せ、大公アガレス家が負けたのだから油断できないわ」

 

 へえ、アガレスが負けたのか。あのディオドラって坊主、そこまで弱いわけじゃないけど、あのアガレスの姉ちゃん程じゃあないと思ったんだが、意外や意外。爪を隠していたか?

 

 リアスが映像を再生しようとした時だった。

 

 部室の片隅に魔方陣が浮かび上がったのだ。

 

 転移の魔方陣。あの家紋って確か……。

 

「……アスタロト家の紋章」

 

 祐斗がぼそりと呟く。

 

 てことは、

 

「こんばんは皆さん、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 光の中から現れた優男風の少年は開口一番そんな事を抜かしてきた。



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第二話

少しずつ更新間隔を戻してきているかな。


「いやあ、アーシアには驚いた。よくやった。褒めてやろう」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

「アーシア、別にお礼を必要は無いぞ」

 

 アーシアが正直に頭を下げていると、一誠が突っ込みを入れる。

 

「いやいや、あれは勲章ものさ。少し胸がスカッとしたね。お前だってそうだろ、一誠?」

 

「それは、まあ……」

 

 大なり小なり、あの場にいた奴は怒りを感じていたはずだ。

 

 部室に来たディオドラだが、まあ予想通りというか、当然というかアーシア狙いだった。

 

 贈り物でダメと来たら次はトレードを申し込んできたのだ。

 

 当然リアスは断るものの、ディオドラもそう簡単に引き下がらない。

 

 というか、アーシアの意思を完全に無視してトレードを申し込んできやがった。

 

 流石に一誠が我慢できなくなったらしく、口を出したが当のディオドラは低俗なドラゴンとして侮蔑を隠そうともしなかった。

 

 それを見たアーシアも堪忍袋の緒が切れたらしく、何とディオドラの頬を引っ張ったのだ。これには流石に驚いた。

 

 叩かれたディオドラはそれでも薄笑いを辞めなかったが、流石に分が悪いと感じたのかその場は引き下がった。

 

 正直、ここまでくるともう純粋な心とかそんなもんを全く感じてこない。寧ろ、粘着的なストーカー的なモノをを感じる。

 

「私はその場にいませんでしたが、話を聞く限りその男は中々の屑野郎ですね。去勢したほうが世の為人の為になるのではないでしょうか」

 

「お前さらっと恐ろしいことを言うな」

 

 翠の発言に俺は軽く引く。

 

 さて、現在俺たちは家でのんびりと寛いでいるわけだが、翠が家に遊びに来ているのだ。

 

 俺の眷属悪魔となった翠だが、基本的には実家の方で暮らしている。悪魔家業も中学を卒業してからに免除をしてもらっている。

 

 で、今日はお師匠様とかが家におらず、一人で留守番させるのは不安ということでウチで預かっているわけだ。

 

 そして、三年ぶりにお師匠様や翠と紫水の両親であるおじさんとおばさんに会った。

 

 三年ぶりというのに、おじさんとおばさんは俺を快く迎い入れてくれた。いつの間に俺たちが仲直りしてのかと、驚いてはいたが。

 

 お師匠様とは……あまり語りたくない。

 

 五本勝負をして五本とも地面に叩き付けられるとは流石に思わなかったが。

 

 というか、何だあれは。俺も悪魔に転生して修行もして実力はかなり上がったはずなのに、御年77歳の老人にボコボコにされるとか笑えねえよ。しかもお師匠様の奴、俺や翠の状態に何となくだろうけど感づいている節が当たったし。

 

 で、家に来た翠だが、義父さんや義母さんに説明すんのもめんどくさかったなー。まあ、何とかしたけどさ。

 

 そんな事で我が家に来た翠だが、意外と家に住んでいる奴らとはうまく交流出来ている。

 

 元々、余り人とコミュニケーションを取るのが苦手な奴だという認識を持っていたこともあり、少し驚いている。

 

 まあ、俺が会わなくなってもう三年も経つのだから翠もその間成長していてもおかしくは無いだろう。

 

「そういえば、リアスさん達はどうしたのですか? 先ほどから姿が見えませんが」

 

「リアス達? あーそういやあ、何か部屋に篭ったきり、出てこないな」

 

 翠と会って何か秘密の話をした後、直ぐに部屋に入ったリアスと朱乃。気付けば小猫もいなくなっていた。

 

 何となく嫌な予感がしてくるから何もアクションを起こしていないんだけど、そろそろ起きそうな気が……。

 

『カレン!』

 

 ほら、起きた。

 

 嫌な感じがしながらも俺は声がした方を向く。

 

 果たしてそこにいたのは、浴衣を着た二人だ。

 

 何で浴衣? つか、胸が出そうでじゃね? 少しでもズレたら間違いなく見えるだろアレ。

 

 リアスは自分の髪色に合わせて赤色の浴衣。朱乃も同じように自分の髪色の合わせて黒に近い藍色の浴衣を着ている。

 

「……一先ず、何で浴衣?」

 

 取り敢えずの疑問は解消しておこう。

 

「だって翠が言うにはカレンが浴衣とか和服が好きだって」

 

「ごふっ」

 

 リアスの答えに俺は思わず咽る。

 

「翠お前か!」

 

 思わず翠の方を向く。

 

 当の本人は素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。

 

 こ、この野郎……あの時話していたのはこれか。人の性癖を一端をばらすとか何を考えてやがる。

 

「ほら、どうですか?」

 

 朱乃が俺の方ににじり寄ってくる。

 

 今にもこぼれそうな胸を俺に押し付けながら耳元で息を吐く。

 

「……に、似合ってるとは思うけど、もう少し、露出は減らしたほうが良いと思うけど……」

 

 ついつい視線は胸元に行きながらもちゃんと言うべきことは言う。

 

「……むっつりスケベ」

 

「おいこら翠! 何言ってんだ!?」

 

 ぼそりと、しかしこの場全員に聞こえるように言う翠。なんて奴だ。俺の内面をそこまで知ってるなんて……。

 

「まあ、むっつりスケベなのは知ってるけどね」

 

 そんなことを言いながらリアスが後ろから俺に抱き着いてくる。

 

 布一枚で遮られた胸が俺の首元辺りに当たってくる。

 

 くそ、やばい。ここまでとは……!

 

 どうする。どうすればこの状況を!

 

「……えい」

 

 この状況を打開する方法を探そうとするも、再び誰かが俺に抱き着いてくる感触がある。

 

「小猫お前もか!」

 

 ブルータス! とでもいうかのように俺は叫ぶ。

 

 白い浴衣に着替えた小猫が俺に抱き着いてきていた。

 

 しかも猫耳と尻尾を出し、うるんだ瞳で俺を見てくる。

 

「……似合ってますか?」

 

 小首を傾げながらそんな事を聞いてくる小猫。

 

 やめろ。マジでやめてくれ。――可愛すぎるじゃねえか!

 

 ええい、冥界から帰ってきてから小猫の奴どうしたんだ。前よりもずっと俺に密着してきやがる。

 

 くそ、この溢れそうなモノをどうやって止めれば!

 

「……兄様、変態の顔をしていますよ」

 

「はっ」

 

 ふと我に返る。

 

 恐る恐る翠の方を向けば、まるでそこいらの小石を見るかのような目で俺を見る。

 

「待て! 変態の役割は一誠の筈だ! 俺では無い!」

 

「ちょっと待て! なんで俺なんだよ!」

 

「うるせえ! 俺は変態なんかじゃない! いや、確かに性的趣向はあるけどそれを一誠みたいにさらけ出すことは無い! よって俺は変態では無い!」

 

「要はむっつりスケベって自分でも分かっているんですね。まあ、知っていましたけど。姉様と二人きりの時は普通にさらけ出していた様ですが」

 

「待て、なんでお前が知ってる翠!」

 

 馬鹿な。紫水と二人きりの時しかやっていなかったはずなのに!

 

「ドアはちゃんと閉めたほうが良いですよ」

 

「ぐふっ!」

 

 ば、馬鹿な。あれが見られていたというのか。あ、あんなことや、こんな、事が……!

 

「兄様は女性と二人きりの時は結構積極的になりますよ」

 

「おいバカ!」

 

 止めようとしても遅い。

 

「二人」

 

「きりの時は」

 

「……積極的」

 

 俺の後ろから抱き着いていたリアスが耳元で囁く。

 

「ねえカレン。二人きりでいろんな事をしない? 大丈夫、私結構優しいわよ?」

 

 何をする気だよ怖いよ。

 

「あらあら、リアスなんかよりも私と遊びましょう? リアスが出来ない事でも出来ますわよ」

 

 こちらも耳元で囁く朱乃。なにこれ、ゾクッとしてくるんだけど! 寒気がしてきたんだけど。

 

 朱乃の言葉にリアスが口元を引くつかせる。

 

「あら、朱乃。何をする気かしら? 生憎とカレンはこれから私と二人でやることがあるから諦めてもらえるかしら?」

 

「それはあなたの方よリアス。カレンは私と色々なことをしたいんですよ。ねえカレン?」

 

「え」

 

 何故ここで俺に話を振る。やめろ、これじゃあ俺が決める必要が出てくるじゃねえか。

 

「……先輩」

 

 ここで小猫も参戦かあ! いやあ、本当にどうしよう。誰か助けてくんないかな!

 

 さっと周りを見ても皆目を逸らしてくる。この人でなし! いや、人ではないけどさ。

 

 くそっ! ここで手助けは無理か。ならば!

 

 俺は自分の足元に転移魔方陣を作る。最近はこいつは即興で作れるようになったんだよな。まあ、長距離移動はまだ出来ないけど。

 

 作った転移魔方陣を通って俺は直ぐ近くの床にジャンプする。

 

「きゃ!?」

 

「あら?」

 

「……」

 

 突然寄りかかっていた俺がいなくなって所為でリアスたちがソファーに倒れこむ。

 

『…………………』

 

 一誠達が何やってんだこいつみたいな顔で俺を見ている。

 

 フ、しょうがないだろう。こうするしかないんだから。

 

「カーレーンー?」

 

 地獄からの使者のごとく低い声が辺りに響く。

 

 怖いと思いながらも俺はそちらを見る。

 

 ……うん、見なきゃよかったな。そう思ってしまう。

 

 リアスたちがそれぞれ危険なオーラを身にまといながら立ち上がってきた。

 

「………………」

 

「…………」

 

「…………………」

 

「……さらば!」

 

 ダッシュで駆ける。

 

「逃がさないわよ!」

 

「あらあら、いけない子ですね」

 

「……逃がさない」

 

 怒りの形相で俺を追いかけてくるリアスたち。

 

「なんで逃げるのよ!」

 

「そりゃ逃げなきゃお前ら何をする気だ! それが怖くてしょうがねえんだよ!」

 

「何もしないわよ! 失礼ね!」

 

「じゃあ追いかけてくんな!」

 

「あらあら」

 

「朱乃は何さその不気味な笑いは。怖えよ」

 

「…………」

 

「小猫は何か言ってくんない!? お前が何も言わないとそれそれで怖いんだよ!」

 

「……酷いです」

 

「えー」

 

 俺そんな悪いこと言ったか?

 

 考えても欲しい。小猫みたいに無表情がデフォルトの場合何か言ってくんなきゃ分からない事だってあるだろうに。

 

「ええい、とにかく俺は捕まらないぞ!」

 

 階段を上らずジャンプしながら上に登っていく。

 

「ふははは! 隠れるならばそう簡単に見つからない自身があるからな。このまま逃げ切ってきやるって、しまった!?」

 

 今気づいたけど、あっち小猫いんじゃん! そうなったら俺隠れても意味ねえ!

 

「今頃気付いたのね……小猫」

 

「……問題ありません。カレン先輩の気は辿れています」

 

「あらあら、どうしてあげましょうかねえ」

 

「……うわーやばーい」

 

 さー地獄の鬼ごっこだ。逃げるぞー。

 

「ちくしょーー!」

 

 叫ばなきゃやってられない。

 

******

 

「…………なんてこったい」

 

 一先ず、それしか言葉が出てこなかった。

 

 夜、寝ているわけだが、俺は眠れていない。

 

「…………」

 

 右を向けばリアスがピタリとくっついている。

 

 左を向けば朱乃がこれまたぴったりとくっつている。

 

 そして前を向けば小猫と翠が俺の上に乗って寝ている。

 

「……暑苦しい」

 

 取り敢えず感想はこれだけだ。

 

 九月になったとはいえ、季節はまだまだ夏だ。そんな中で四人にくっつかれてみろ暑いわ!

 

 ま、そんな事言った瞬間に俺はボコられると思うけどね。

 

 あーあー。結局捕まるし何故かリアスたちと一緒に寝ることになるし。

 

 やっぱり、どうも居心地が悪い。昔は母様と同じ部屋で寝ていたけど、流石に布団は別だったし。おまけに四人と寝ているわけだ。変な感じになるのも当然というべきかな。

 

 明日はテレビの取材があるというし、寝不足なって変な事を言わないようにしないとな。

 

「……寝よう」

 

 とにかく寝る。目を閉じて何も考えないようにして眠ろう。

 

 ――眠ってしまえば、またあの悪夢を見ることになるだろうが。

 

 



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第三話

はい、一カ月以上過ぎましたね。マジでやばい。

二人の白皇が面白すぎるのがいけないんだー。


「……眠い」

 

 正直、頭が全く動いていない。頭の中に霧が掛かっているみたいだ。

 

「もう、しっかりしなさい。収録中に変な事言ったらそのまま冥界中に流れるわよ」

 

 隣でリアスがそんな事を言うが、あえて言おう。誰の所為だと思ってやがる。

 

 結局、寝れたのはあれから二時間経ってからで、今日も普段通りの時間に叩き起こされたのだ。文句の一つも言いたくなる。

 

 現在、俺たちは冥界にあるテレビ局に来ている。

 

 理由は取材。若手ゲームで活躍した俺たちに注目が集まり始めているのだろう。

 

 リアスは元々魔王の血縁者という事とその美貌から人気が高いし、俺という存在もある。

 

 レーティングゲームで現皇帝と並び無敗を誇った親父殿とその女王である母様は今でも冥界では根強い人気を誇っている。その息子である俺が帰還したのだ、注目は集まり始めている。

 

 何せ、事前の話で俺個人としてのインタビューもあるとか言う話だ。はっきり言ってめんどくさい。さっさと終わらせて寝たいところだ。

 

 そんな事を考えていると、前から十人ほどの集団が歩いてきた。

 

「サイラオーグ」

 

 そう、サイラオーグ・バアルとその眷属だ。

 

 貴族服も大胆に肩に羽織っての登場だ。

 

「リアス、お前もインタビュー収録か」

 

「ええ、そちらはもう終わったところ?」

 

「いや、俺たちはまた別の所でだろう。試合を見たぞ。お互い、新人臭さが抜けないな」

 

 苦笑するサイラオーグとは対照的にリアスは少し顔を顰めた。まあ、結果的には圧勝に近かったが、一誠やアーシア何かがリタイアしちまったからな。あまり満足できる結果では無かったな。

 

 次にサイラオーグは俺と一誠に視線を向ける。

 

「どんなにパワーがあっても、カタにハマれば負ける。相手は一瞬の隙をついてくるわけだからな。とりわけ神器には未知の部分が多い。何が起こり何をされるか分からない。実際、シトリー戦ではそれで赤龍帝は負けてしまっただろう?」

 

 確かになー。正直、あの匙君があそこまで奮闘するとは流石に予想外も良いところだったからな。油断は駄目って事だな。

 

 サイラオーグはポンと一誠の肩をたたく。

 

「ま、そういう事を抜きにしてもお前とは純粋なパワー勝負をしてみたいよ」

 

 へーサイラオーグは一誠に期待しているわけだ。

 

「おいおい、俺とはしたくないのか?」

 

 軽くからかう様に言う。

 

 サイラオーグは肩を竦めるだけだった。

 

「お前はオズワルドの奴が大層執心しているからな。俺から手を出したら怖いからな。ああ、そういえば確かあいつも今日、インタビューで……」

 

「――俺が何だって?」

 

 後ろから新たな声。

 

 そちらを向くと、そこにいたのは黒髪の美少年。

 

「オズワルド……」

 

 そう、そこにいたのはオズワルド・ダンタリオン。後ろには奴の眷属もいる。

 

「これはこれは。サイラオーグにカレン・グレモリーまでいるとは。詰まらないインタビューだけで終わるかと思ったが、どうやら運が良いようだ」

 

 こちらはピッシリと貴族服を着こなしており、薄笑いを浮かべながらオズワルドは近づいてきた。

 

「やあ、カレン。こないだの会合ぶりだな」

 

「ああ、お前に馴れ馴れしく俺の名前を呼ぶのを許可した覚えは無いんだが」

 

「良いじゃないか。俺と君の仲だ」

 

「どんな仲だ。殺すぞ」

 

「はは」

 

 軽く殺気を込めて言うも、オズワルドは薄笑いを浮かべるだけだった。

 

「で、俺に何か用か」

 

「おいおい、君に挨拶をするのに理由なんているのか?」

 

 本当に何だこいつは。会ったのはリアスの婚約パーティの時と若手の会合時だけだぞ。それも直接的な会話は無かったはずだ」

 

「……私への挨拶は無しかしらオズワルド・ダンタリオン」

 

 それまで黙っていたリアスが口をはさんできた。

 

「ん? ああ、リアス・グレモリーか。悪いね気が付かなかったよ」

 

 まるで興味なさげにそう言うオズワルド。

 

 ピクリと眉を動かすリアス。

 

「私なんて、眼中に無いのかしら?」

 

「お、よく分かったな。その通りだよ」

 

 言いきりやがった。しかも本気でそう思っているなこいつ。

 

 案の定、リアスは怒りで肩を震わせる。

 

「……良い度胸ね。私たちを馬鹿にするのも大概になさい」

 

「事実だ。試合を見させてもらったけど、あそこまで酷いとは思わなかった。正直、魔王ルシファーの血縁としてもう少し期待していたんだけどね」

 

 おいおい、そろそろやめてくんね? いい加減、うちの者達が怒りのオーラを出しまくってるからさ。

 

「ま、今回は諦めるしかないな。次、プロで戦うときは君の本来の眷属で戦おう。――楽しみにしている」

 

 無理やり握手をするオズワルド。

 

 その時だった。

 

「っ!」

 

 俺の全身に寒気が襲い掛かる。

 

「……お前」

 

 直ぐに原因に気付き、俺は本気でオズワルドを睨み付ける。

 

 対してオズワルドは胡散臭い笑みを浮かべたままだ。

 

「では、また会おう」

 

 それだけ言い残してオズワルドは眷属を連れて去っていく。

 

 すれ違う時、灰色の髪をした少女はこちらに軽く頭を下げていった。

 

 後に残った者たちには沈黙が漂った。

 

「……まともに会話したのは初めてだけど、なんて無礼な男なの……!」

 

 リアスが吐き捨てるように言う。

 

 皆同じ様で、表情を険しくしていた。

 

 そんな俺たちの様子を見ながらサイラオーグはため息を付く。

 

「完全に目を付けられたな。ああなったオズワルドはしつこいぞ」

 

「……俺にそっちの気は無いぞ?」

 

「安心しろ。オズワルドはどっちもいけるやつだ」

 

「ちょっと待て。何も安心できないんだけど!?」

 

 何あいつ、そういうやつだったのか。やばいな。今度会うときは後ろを気を付けないと。

 

 って、バカやっていないでこっち先にやらないと。

 

「アーシア」

 

「は、はい?」

 

「手のひら治してもらって良いか? 時間たてば治るだろうけど、今はあんまり時間ないし」

 

 俺は右手の手のひらをアーシアの方に向ける。

 

 手のひらは皮膚が腐り始めており、異臭を放ちつつあった。

 

 ていうか、むっちゃ痛い。何をしやがったんだか、あいつ。

 

 俺の手のひらを見て皆が仰天する。

 

「アーシア直ぐに治療を!」

 

「はい!」

 

 アーシアが神器を展開させて治療を始める。

 

 それを見ていたサイラオーグが渋い顔をする。

 

「オズワルドの魔力『瘴気』だな。あらゆるものを毒で犯し、溶かしつくす」

 

 『瘴気』。成程、アザゼル先生たちがあんなに警戒するわけだ。確かに、これは強い。

 

 全く持って腹立たしい。完全に舐められているな。

 

 オズワルド・ダンタリオンか……奴と戦うにはまだ力が足りないか。

 

 神星剣は流石に使えないとは、思うけど……何だこの感覚。一瞬だが、ルーファスと対峙したときと同じ感覚が体を走った。

 

 憎悪、の方では無い。

 

 兎に角奴の叩きのめしたい。ぶっ飛ばしたい。

 

 とんでもない感情なのは分かっているが、それでも何なんだろうなこの感情は……。

 

******

 

「……何してんのさー」

 

 己の女王の呆れたような声にオズワルドは後ろを振り向く。

 

「何がだい?」

 

「あんな挑発行為、怒らせる以外に目的あったのー?」

 

「何を言ってるんだ――それ以外に何がある?」

 

 清々しい笑みを浮かべるオズワルドに眷属全員はめんどくさそうな顔をする。

 

 この主のこういった性格は分かってはいたが、それでもまさか魔王ルシファーの血縁者であるグレモリー眷属に喧嘩を売ってくるとは思わなかったが。

 

「そんなにあのカレン・グレモリーが気に入ったのー?」

 

「当然さあ。あれほどの逸材はまだいたとは……」

 

 凄みすら感じる笑みに眷属たちは何も言えなくなる。

 

 自分たちの主が何を望んでいるか、それを知っているからこそ、何も言えなくなる。

 

「まあ、でもあの者たちがサイラオーグ殿と戦って勝てるとは思えないけどなー。シトリー戦を見る限り、全然だったじゃない」

 

「そりゃあ、あんなに自分たちの持ち味を封じられていたらね。というより、次のアスタロト戦の事を忘れているよ?」

 

「えーでも、()()()()に負けるかなー?」

 

「そうだね。アスタロトのズルに誰が最初に気付くか。それによって今度のゲームは色々と変わってくる。精々、そこを楽しみにしていこうじゃないか」

 

******

 

 レポーターのインタビューにリアスが答えていく中、俺はオズワルドについて考えていた。

 

 初めて会ったのはリアスの婚約パーティーの時。

 

 あの時から奴は俺に興味を持っていた。だからこそ、あの場で助太刀をしたのだろう。

 

 次に会ったのは若手悪魔の会合の時。

 

 この時はいきなり出合い頭にちょっかいを掛けてきた。流石にイラッとしたが。

 

 そして三度目。

 

 だが、何故だ? 何故奴は俺に興味を抱いている?

 

 確かに俺はレオン・グレモリーの息子として奇跡とも呼べる帰還をなし、注目を集めていることは知っている。

 

 けれど、それだけか? それだけの事であの男は俺にあそこまで眼を付けてくるのか? 

 

 サイラオーグは何かを知っているような様子だった。だけど、俺には教えてはくれなかった。警告はしてきたが。

 

「ちょっと、カレン」

 

 それにダンタリオン眷属も一目見ただけで全員が強者だ。たぶん、今の俺たちでは歯が立たない。

 

「カレンったら」

 

 アスタロト戦をやったら次にはバアル戦。バアルもダンタリオンと同じように負け劣らずの強者の集まりだ。今の俺たちではまともに戦えるのは俺と禁手化した一誠位だろう。

 

「もう……」

 

 だけど、今の一誠の制限時間じゃあとてもじゃないが、まともな戦力として数えることは出来ない。

 

 となると、やはり俺たち全員の能力の底上げが重要視されてくるか。

 

 なら……。

 

「こらっ!」

 

 どうやってトレーニングしていくか考えようとした矢先、突如頭の衝撃が走る。

 

「痛っ!」

 

 何だ一体……?

 

 後頭部をさすりながら俺はあたりを見渡す。

 

 すると、ほかの皆が全員俺の方を向いている。

 

「……どうした?」

 

 思わず尋ねると、リアスが盛大にため息をついた。

 

「もう、貴方のへのインタビューなのに、何をボンヤリとしているのよ」

 

 はて、俺のインタビュー?

 

 首を傾げると、リアスは困ったように手で顔を隠す。

 

「聞いていなかったのね? 次、貴方へのインタビューよ」

 

「俺?」

 

 視線をずらせば、レポーターの人が困ったようにこちらを見ていた。

 

「ふむ、それは失礼した。何分、このような事は始めてどうやら緊張していたようだ」

 

 取り敢えずそう返しておく。そうでもしないと、笑いものにされるしなー。

 

「そうでしたか。いえいえ、こちらこそお待たせしてしまったようで」

 

 幸い、レポーターの人は話が分かる人のようで、笑顔で答えてくれた。

 

 リアスたちは呆れたようにこちらを見ていたが。

 

「それでは、カレンさん。十数年ぶりに冥界に帰還されてどういった感想を持ちましたか?」

 

「何分、冥界に居たのは随分と幼かったですから、良くは覚えていないですね。ただ、足を踏み入れた時は酷く懐かしいという気持ちにはなりました」

 

 その後も当たり障りない質問を繰り返していき、俺もその質問を返していく。

 

 そして、最後にこんな質問が出てきた。

 

「カレンさんは今後、冥界でどのような事をしていきたいでしょうか?」

 

 冥界で、どのような事を、か。

 

 そんなの決まっているじゃないか。

 

 

「もちろん、父と母の敵を取ることを最優先とします」

 

 



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第四話

またもや遅くなった。本当に申し訳ない。色んな事が重なりもう何が何だかって感じですね


 テレビの取材から数日。遂にやってきたアスタロトとのレーティングゲーム。

 

 ただまあ、余りやる気が無いのは確かだ。

 

 あのディオドラ、確かに終盤で見せたあの力には驚きはしたがそれだけだ。正直、これならソーナともう一度戦ったほうが有意義なのは間違いない。

 

 それに何となくだが、ディオドラが()()をしているのも分かる。なんというか、あいつはそういうタイプなんだろう。

 

 別にズルを否定するつもりは無いけど、やるなら一人でやっていろという話だ。なのにこんなにも大勢の前でやりやがってからに、バカなのかあいつ? 魔王や他の神々の目迄誤魔化せると思ったのか? もし出来ると思ったんなら本当のバカだな。

 

 本当なら一誠にでも適当に任せて俺はのんびり他の眷属でも軽くボコしていこうとも思ったんだが……。

 

「いや、ホント何でこうなってんだろ?」

 

「ほれほれ、年寄りばかりに働かせんでしっかりやらんかい」

 

「分かってますよ!」

 

 そんな事を言いながら俺は襲い掛かってくる旧魔王派の悪魔を禁手状態で両断し、続けざまに魔力砲を奴らが密集しているところに撃ち込む。

 

 ……ホント、どうしてこうなったよ?

 

 ええと確か、ゲームのフィールドに転送されてから一向に開始の合図が出てこないからどうしたものかと思っていた時だ。

 

 俺たちの周りに数えるのもバカらしくなる転送魔方陣が出現したのだ。

 

 しかも、その全てが旧魔王派に傾倒した奴らのものだったのだ。

 

 転送魔方陣から出てきた悪魔たちだが、全員こちらへの敵意を隠そうともせずにこちらを睨みつけている。

 

 まあ、察するに現魔王の血族であるリアスや俺を狙ってのテロ何だろうけど、なんでまた俺たちのゲームの時に来るのやら。

 

 俺たちが出てきた悪魔たちに注意を持っていかれた時だ。

 

 ――ディオドラがアーシアを連れ去ったのは。

 

 あの性格下種な彼はどうやら『禍の団』と繋がっていたらしい。じゃなきゃこのタイミングで現れるわけが無い。

 

 アーシアを連れ去って消えていったディオドラ。

 

 直ぐに追いかけたい所だが先にこの旧魔王派の悪魔どもを何とかしないといけない。

 

 取り敢えず片付けようと戦闘を開始しようとした矢先だった。

 

 北欧の神オーディンがこの場に出現したのは。

 

 出現早々朱乃の尻を揉みやがったスケベ爺さんにしか見えないが、オーディンと言えば、北欧の最高神。その能力は馬鹿にできない。

 

 で、何故オーディンがこちらに来たというとまあ、予想通りゲームが旧魔王派によって占拠されたというわけだ。

 

 しかも、このフィールド内は強力な結界で囲まれており、ミーミルの泉に片目を差し出しあらゆる魔術に精通しているオーディンでさえ、入ることがやっとで出ることは不可能に近いという。

 

 北欧の主神が突破できないというのだからどれだけふざけた結界なのか分かってもらえるだろう。

 

 で、ここはオーディンに任せてアーシアが連れ去られた神殿の方に向かおうとしたのだが。

 

 ――お主はこっちで儂の手伝いをせい――

 

 そういわれた俺はオーディンの手伝いをしているのだ。

 

「てか、なんで俺だけ残されたんですか?」

 

 悪魔たちの攻撃を受け流しながら俺はオーディンに聞く。

 

「何、あの小娘の息子がどんな奴か、少し気になってな。こうして話をしている訳じゃよ」

 

 オーディンは自身の槍グングニルを悪魔めがけて投げつけながら言う。

 

 小娘の息子? ってまさか。

 

「母様の事知ってるんですかい?」

 

 朝凪日月。俺の母親。

 

 世界のバグなんて呼ばれているけどオーディンとも知り合いとは。

 

「なあに。人間の癖に儂らの領域に侵入し、挙句の果てに『面白そうな剣があったら欲しいから頂戴?』って言われただけじゃよ」

 

「何してんのあの人」

 

 剣欲しさに北欧の神々の領域に侵入するとかどんだけだよ!?

 

「結局、名剣や魔剣を数本持っていきおったわい」

 

「母がマジですみませんでした」

 

 これはちゃんと謝罪しないと。てか、あの人そんな事をしていたのか。普段はお淑やかな印象が強かったけど、そんな一面があったとは知らなかった。

 

 ……もしかしなくとも屋敷の保管庫にあるあの数えるのも馬鹿らしくなる母様のコレクションって色んな勢力からパクった奴じゃあ……。

 

 …………。

 

 ……………。

 

 …………………考えないでおこう。

 

「余所見などしておって!」

 

 激昂する悪魔数人が強力な魔力の弾を俺めがけて打ち込んでくる。

 

 上級悪魔に相応しい凄まじい攻撃だ。だが。

 

「俺にそういう攻撃はいけないだろうに」

 

 俺は躱すわけでもなくそのまま攻撃を受ける。

 

『Absorb!!』

 

 鎧に当たった瞬間、そのまま魔力の弾は鎧に吸収されていった。

 

『っ!』

 

 それを見た悪魔は愕然としている。

 

「それ、返すぞ」

 

 剣の切っ先を悪魔たちに向ける。

 

『Liberation!!』

 

 先ほど吸収した魔力に俺の魔力を少し乗せてそのまま撃ち出す。

 

 魔力砲となった魔力の塊は悪魔たちをそのまま飲み込み消滅させる。

 

 しっかし、無駄に数が多いなおい。どれだけ現政権に不満を抱いているのやら。

 

「今回の件、どこまで話を聞いています?」

 

「ふむ? そなたはどこまで感づている?」

 

 質問に質問を返されるのはあまり好きじゃないがまあ、神様相手だし仕方ないか。

 

「そうですね……今回のテロは旧魔王派が主役なのは間違いないでしょう。ディオドラに接触したのも悪魔だけだろうし」

 

 ただ、

 

「もう一つくらい別の派閥が関係しているかと」

 

「ほう、何故そう思う?」

 

 オーディンの興味を宿した視線が俺を貫く。

 

「主神たるオーディン様さえ出ることが出来ない結界ですよ? 言っちゃなんだけど、あの旧魔王派が作れるとは思えない。阿呆みたいな復讐心しか持っていない奴らですよ? 実力も何も無い。ただ、烏合の衆だ」

 

 そう、旧魔王派など特に怖くは無い。連中は数だけは馬鹿みたいに多いだけの連中だ。実力はそりゃまあ上級悪魔以上の力を持っている連中もいるけど、所謂特異的な能力を持っている連中はいない。ならば油断さえしなければ負けない相手じゃない。

 

 問題はこの結界だ。神を閉じ込めることが出来る結界なんて、一体全体どうやって作っているのやら。

 

「恐らく、神滅具じゃろうな」

 

「神滅具?」

 

 俺の考えを聞いたオーディンがそう答える。

 

「これほどの強力な結界を張れるのは一つしかない。絶霧(ディメンション・ロスト)。霧を操る結界系の神器の中では最強じゃ。使い方次第では一国を次元の狭間に飛ばすことが出来る」

 

 何それ怖い。直接的な攻撃力は無くとも、恐ろしい力を持っているものだ。まさしく神滅具と呼ぶに相応しいものだろうな。

 

「てか、俺そろそろ行っていいですかい? いい加減あいつらの事が気になるんで」

 

 見ればもう殆ど悪魔たちはいなくなっており、残っている連中も俺たちの強さに恐れをなしたのか、怯えた目でこちらを見るだけで襲ってこようとはしてこない。

 

「そうじゃのう。まあ、見たいものも確認できたし、良しとしようかのう」

 

 ……見たいもの? 俺の実力ってやつか。まあ聞いている時間も無いしさっさと行こう。

 

「それでは失礼します」

 

 それだけ言って俺はリアスたちが向かった神殿に飛んでいく。

 

******

 

「……行ったか」

 

 神殿に飛んでいくカレンを見て、オーディンは静かにため息を付く。

 

「どうやら、危惧していたよりかはマシか……いや、見せていないだけで本性は分からないか」

 

 別段、ここに残るのは自分だけでも十分であった。幾ら上級悪魔や最上級悪魔がいたとしても北欧の主神たるオーディンを傷つけることは早々に出来る事では無い。

 

 ならば、何故ここにカレンを残したのか?

 

 一つは世界が生んだバグとまで呼ばれた朝凪日月の息子を見るため。もう一つはアザゼルに個人的に頼まれた事だ。

 

『爺さん、アンタから見てカレンがどんな感じなのか、確かめて欲しいんだ』

 

 カレンの『業』を一部だが聞いたオーディンとしても見定める必要があると感じ、こうしてカレンだけを残したのだが……。

 

「流石にこれだけでは分からないか。しかし、神星剣を使ってくるとかとも思ったが、いやはや、神器だけでもとんでもない強さじゃのう」

 

 歴代最強と言われる白龍皇に引けを取らないのではないだろうか。

 

 だからこそ、道を踏み外した時の事をアザゼルやサーゼクスは心配しているのだろう。

 

「難儀な事じゃな」

 

 ほんの少し哀れに思えてしまう。家族を殺され、その敵がまるで示し合わせたかのように現れたことに。

 

 願わくば、彼が闇に落ちないことを願うしかない。

 

******

 

「くそ、全然追いつけないな」

 

 神殿内を飛びながら俺は思わず毒づく。

 

 かなりの速度で飛んではいるのだが、未だに追いつけないでいる。

 

 あいつらかなり進んでいるみたいだな。おまけに戦闘の方をやっているみたいだし。

 

 ここに来るまでの間、何人か倒れており、顔を見ると、皆ディオドラの眷属だと分かった。恐らくリアスたちが倒したのだろう。

 

 ……どうでも良いが、何故こう待ち構えるように何人かで分かれているんだ? こちら馬鹿なんじゃね? 自分たちの実力を考えないでさ。

 

 途中で細切れになった肉片も見つかったが、あれは多分祐斗の仕業だろう。ゼノヴィアにはあんな細かい攻撃は出来ないだろうし。

 

 てか、本当に追いつけないんだが、え、何もうあいつらディオドラの所まで達しているの? 早いなおい。いや、ディオドラの眷属が弱すぎたのかそれともリアスたちが強すぎたのかのどちらかだろうな。

 

 そんな事を考えている時だった。

 

 奥から一際大きな音が響いてきた。

 

 それと同時に感じた波動は一誠のものだった。

 

 一誠が戦っているということはディオドラとか。もし仮にドーピング――おそらくオーフィスの『蛇』だろうな――使っているとしたらちっとは強いだろうな。

 

 ただまあ、アーシアの為ならあいつは何だって出来るだろう。

 

 結構感情を乗せて戦うってのは馬鹿にできないからな。だからこそ、ヴァーリと戦った時だってあいつはあんなに戦えたんだろうし。

 

 その証拠に、

 

「二度とアーシアに近づくんじゃねえ!!!」

 

 ほら、この通り。

 

 鎧を身にまとった一誠と、デュランダルを突きつけたゼノヴィアがディオドラに啖呵を切っていた。

 

 やれやれ、相も変わらず二人はアーシアの事が好きだね。

 

 見ろ、ディオドラなんて首を残像が生み出せそうな勢いで振ってやがる。自業自得とはいえ、可哀想とは思うけどね。

 

 さて、どんな状況やら。

 

「もう終わったのか?」

 

「カレン!」

 

 俺が近くに降りると皆がこちらを向く。

 

「たく、面倒な事を終わらせてこっちに来てみたらみんな終わっているんだもんな。早いもんだ」

 

「そうかしら、貴方が遅かったんじゃなくて?」

 

 どうだろうか。別段、苦戦していたわけでは無いが、まあ確かに数は多かったな。

 

「そんで、この後どうするわけ?」

 

「決まってるでしょ、アーシアを助けるの」

 

「あ?」

 

 見れば、アーシアが何やら変な装置につながれて拘束されていた。既に一誠がアーシアの枷を外そうとしていた。

 

 しかし、

 

「あれ、外れねえ!?」

 

 おいおい、鎧を纏った一誠でもビクともしないってか?そいつはまた頑丈だな。

 

 今度は試しに祐斗が聖魔剣で攻撃するもこれまた弾かれてしまった。

 

 リアスや朱乃も一誠の『譲渡』で力を上げて攻撃してみたがこれでも駄目だった。

 

 おいおい、どんだけ固いんだこれ。

 

「兄貴! 兄貴の神星剣なら壊せるんじゃねえのか?」

 

 一誠の問いに俺は難しい顔を隠さずに答える。

 

「……出来なくも無いが、装置とアーシアが密接すぎる。これだとアーシア諸共斬りかねん」

 

 神星剣に斬れないものは早々に無いけど、問題は威力の微調整が難しすぎるだ。刀身に纏うオーラだけでもアーシアを傷つけかねん。

 

「そんな……」

 

「……無駄だよそれは破壊できない」

 

 俺たちが困り果てているところにディオドラが告げる。

 

 奴が言うには、こいつは絶霧(ディメンション・ロスト)の禁手である霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)によって作り出された装置であり、そう簡単には破壊できないそうだ。

 

 問題はこの装置の効果だ。アーシアの神器の能力を『反転』させることが出来るという。

 

 つまり、アーシアの強力な回復能力が一気の逆の命を奪う能力になるというのだ。

 

 発動はもう間もなく。それまでに何とかしないといけない。

 

「こいつは……本格的にちとやばいかもな」

 

 アーシアの能力が『反転』したとなれば、下手したらトップ陣の神々でさえもやられる可能性だってある。

 

 旧魔王派も数だけの烏合の衆かと思いきやまともな作戦を考えてくるじゃねえの。

 

「どうしたもんか」

 

 久しぶりに冷や汗を感じながら俺は頭を悩ますのであった。

 



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第五話

待ってくださっていた方お待たせしました。これから更新を再開していこうと思います。


「おい、一誠。聞こえるか―?」

 

『…………』

 

「返事無し。これ、本格的にまずいかね」

 

『覇龍を使ったのですから当然と言えば当然と言えるでしょう。しかも彼は歴代の中でも最弱といわれるほどの力しか持っていない。恐らく、寿命を極端なまでに削って使っているのでしょう』

 

 リンドの言葉に俺は頭を悩ませる。

 

 つまり、このままの状態が続いたら間違いなく死ぬって事か?

 

『ええ』

 

 リンドもあっさりと言う。

 

 ぶん殴って止めると言ったは良いが、今の一誠を止めるのは骨が折れそうだ。

 

 神星剣を使ったら一誠は本当に死んでしまうし、逆に神星剣無しで、この状態の一誠を止めるにはどうしたら良いものか。

 

「ホント余計な事しかしないよな旧魔王派は」

 

 どうしてこうなったのか、それもこれも全部あのシャルバとかいうクソ野郎の所為に決まっているんだけどな。

 

 

******

 

「お前ってさ、本当に変な事しか考えないよな」

 

「変な事しかって! そりゃ酷くないか!?」

 

「だってさあ」

 

 そう思っているのは俺だけでは無いだろう。というより、リアスたちも全員そう思っているはずだ。

 

 アーシアに取りつけられた神滅具によって作られた結界装置。

 

 俺たちの攻撃では壊すことが出来ず、俺の攻撃では逆にアーシア自身も傷つけてしまう恐れがあったため、俺も打つ手が無かった。

 

 どうしたものかと悩んでいた時だ。一誠が変な事を考えて実行したのは。

 

 ドレス・ブレイク。一誠の女性限定で服を消し飛ばす実に一誠らしい必殺技だ。

 

 それを禁手化状態で発動して何とアーシアの服諸共消し飛ばしてしまったのだ。

 

 これには流石に唖然とする。この絶望的な状況であんなふざけた技で逆転するとか、一誠位なんじゃねえか?

 

「ま、兎に角アーシアは助けられたんだ。良しとしましょうや。他の戦況も大分いい感じじゃないのかな?」

 

「貴方がここに来たってことは表の旧魔王派は大丈夫って事?」

 

「ああ、殆ど数も少なくなってきていたし、オーディンの爺さんに任せた」

 

「爺さんって……仮にも北欧の主神相手に何を言ってるのよ」

 

「良いんじゃね? あんな助平爺さん」

 

 まあ、流石に公の場とか本人の前とかでは様付けはするつもりだ。要は顔を変えていけば良いのだ。

 

「しかし、お前ら、特に苦戦はしなかったみたいだな。目立った怪我、というか怪我してないし」

 

 一誠は大分大きな怪我が目立つが、こいつはディオドラとの戦いで傷ついたもんだろうし、実質、無傷で勝ったに近い。

 

「さて、これで終わりか。何かあっけない感じもあるが、これでよしとするか」

 

「そうね。他の戦いももう直ぐ終わるでしょうし。後はアザゼルと連絡を取って今後を決めましょう」

 

 そう、俺とリアスが話した瞬間だった。

 

 背後から巨大な光が灯る。

 

 何だ!?

 

 俺たちは同時に後ろを振り返る。

 

 そこには巨大な光の柱が天を貫かんばかりに立ち上っていた。

 

 何だこれは!?

 

 突然の事に驚く俺たちだが、光は直ぐに止む。

 

 そして、

 

「………………アーシア?」

 

 そこにいたであろうアーシアは居なくなっていた。

 

「クルセイドは死んだ。まあ、この真なるベルゼブブの血統である我が残っていれば何ら問題は無い」

 

 頭上から声が聞こえてくる。

 

 軽鎧を身に纏っている悪魔だ。中々に力強い波動を身に纏っている。

 

 こちらを見る目は完全に侮蔑に塗れている。どう考えても旧魔王派だ。

 

「……誰かしら?」

 

「お初にお目にかかる忌々しい偽りの魔王の妹よ。私はシャルバ・ベルゼブブ。真なるベルゼブブである」

 

「ああ、その口調からもう完全に旧魔王派のメンバーだって分かるよ」

 

 リアスの質問にそんな風に答えるって事は間違いなく旧魔王派だ。しかもベルゼブブ。三大勢力の会談の時に襲ってきたカテレア・レヴィアタンと同じ先代魔王の血縁者って事だ。

 

「旧、等と呼ぶのは止めてもらおうか下劣な半端者め。貴様らにそんな事を言われるのは不愉快極まるよ」

 

「別にお前の気分なんてどうでも良い。それで? 何をしに来た? 生憎テメエに構っている暇なんてこっちはねえんだよ」

 

 軽く殺気を込めながら睨み付ける。

 

「シャルバ! 助けておくれ! 新旧ベルゼブブが力を合わせれば――」

 

 そんな中、ディオドラの坊主が懇願するようにシャルバに助けを求めていた。

 

 あの野郎、まだやる気があったのか。一誠にボコボコにされて心が折れたと思ったのに。

 

「――ふん」

 

 だが、そんなディオドラの懇願を鼻で笑い、シャルバは腕に付けられた腕輪らしき物から光をディオドラに飛ばした。

 

 飛ばされた光はディオドラの腹に深々と突き刺さった。

 

「がっ!?」

 

 苦悶の声を上げると同時にディオドラは体を灰にして消えていく。

 

 あっさりとした退場に誰もが呆気にとられる。

 

 ちょっと待て。何で悪魔のあいつが天使や堕天使みたいに光を扱える? 流石にそいつは不可能の筈だ。いや、まあ確かに奴らは三大勢力のお尋ね者が集まった集団だ。当然堕天使だっている。なら、奴らの技術だって流用されているのか?

 

「計画を漏らすとは何とも愚昧な男よ。やはり偽りの魔王の血族など信じるべきでは無かったな」

 

「……なーるほどな。あの坊ちゃんと繋がっていたのはお前か。あいつも哀れだな。こんな奴と手を結ぶとはな」

 

「ふん、負ける奴が悪い」

 

「で? アーシアをどこにやった? 返答次第ではまあ、惨たらしく死ぬのだけは勘弁してやるよ。ちゃんと一瞬で殺してやる」

 

 殺意を混ぜながら問う。

 

「半端者が図に乗るな。分かり切っていることを聞くということは愚かな……」

 

 ……ああ、やっぱり。そういうことか。

 

 思わず頭上を仰ぎ見る。

 

 分かってはいたことだが。やはり辛いものだ。大切なものがいなくなるという事は。

 

「さて、今回は我々の負けだ。まさか、中堅クラスの神滅具である赤龍帝の籠手に上位クラスのディメンション・ロストが敗れるとは。まあ、データは手に入った。次のテロに活かせば良い。で、突然ではあるが、死んでくれるかなグレモリーの小娘よ」

 

「……卑怯者! 直接現魔王の決闘を挑まずにその身内を狙うなんて、下劣な!」

 

「そうでなくては意味が無い。まずは絶望を与える。それから奴らを殺さないとな」

 

 ホント、どこまで身勝手な連中だ。幾ら現魔王たちに辺境に追いやられたとはいえ、ここまでやられると流石に頭に来てしょうがない。

 

 見れば、他の皆も怒りに体を震わせていた。

 

 終わったな。シャルバとかいったかこいつ。グレモリー眷属は身内に手を出されるとどれだけ怒りを買うか分かっていないようだな。

 

 ならばこそ、徹底的に、冷徹的に、その事を味わ合わせてやろう。

 

 となると、問題は一つか……。

 

 俺は静かに一誠の元に歩み寄る。

 

「どうする一誠。アーシアの仇取るか? それともこのまましゃがみ込んでいるか?」

 

「…………」

 

 沈黙が返ってくる。

 

 ……こりゃあ、不味いかもな。周りが見えないほどにダメージを受けたか。

 

 どうする。ギャスパーか小猫辺りに安全な場所まで引っ張って貰うか、それとも……。

 

 俺がそこまで考えた瞬間、一誠がふらりと立ち上がる。

 

「……一誠?」

 

 返事が再びなく、何処を見ているか分からない虚ろな視線を漂わせながら一誠はふらりと幽霊の様に歩き始める。

 

『おい、カレン・グレモリーよ』

 

 俺の神器からリンド以外の声が響く。

 

 この声って、ドライグか?

 

『ああ。死にたくなければ他の連中を連れて今すぐにここから離れろ』

 

 それってどういう。

 

『そこの悪魔、シャルバとか言ったか?』

 

 俺の質問に答えず、ドライグは今度は『赤龍帝の籠手』から声を出して、シャルバに話しかける。

 

『お前は――選択を誤った』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、覇龍は目を覚ます。

 

 

******

 

「……圧倒的とかそんなん関係ないなこれ」

 

 最早、そんな次元の話では無い。これは、まさしく龍の逆鱗というやつだろうな。

 

 辺りを見渡す。先ほどまで俺たちがいた神殿は既にその原型を留めておらず、瓦礫の山と化していた。

 

 思わずため息が出てしまう。俺も大概な力を手にしたが、これは酷い。方向性が無い分、余計に性質が悪いだろう。

 

 俺は前を見つめる。

 

『……ゥオオオオオオオオオン!!』

 

 嘆き苦しむ様に覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を発動させた一誠が叫ぶ。

 

 その姿は最早、見るに堪えない。

 

 一誠が抱えた怒り全てはシャルバへとぶつけられた。

 

 シャルバもオーフィスの『蛇』を手に入れて前魔王クラスの力を手にしていたが、そんなのはお構いなしで一誠はシャルバを叩きのめしていった。

 

 両腕をもがれたシャルバは足で転移魔方陣を描いて逃げ出そうとしたが、そこで待ったをかけたのが一誠であった。

 

 何と、ギャスパーの神器である停止の邪眼を一誠が使ったのだ。それによってシャルバの足を停めて逃げ出せなくしたのだ。

 

 愛が深ければ深いほど、それを失った時、悲しみはデカい。

 

 今の一誠の気持ち、俺にとっても痛いほど分かる。母様と紫水が死んだときも俺は同じような気持ちだった。

 

 正直、今の力があったら目に付くモノ全てに当たり散らしていたかもしれない。

 

 だけどな、失ったモノは帰ってこない。それを受け入れて次に進むことが出来ず、その場でずっと止まっていることなんて、やるもんじゃない。俺みたいなるぞ?

 

 さて、そろそろ止めてやんないとな。

 

『……本気ですか?』

 

 本気さ。じゃなきゃこんな所にいないさ。

 

『いくら不完全な覇龍とはいえ、神星剣無しで勝てるほど、天龍は甘く無いですよ?』

 

 分かってるよ。優しいなリンドは。

 

『……何ですか急に』

 

 いや、だって態々忠告してくれるんだもん。優しいだろ?

 

『何を馬鹿な事を。私は端に宿主に死なれては困るから言っているだけです』

 

 そうかい。まあ、そういうことにしておこう。

 

『含みのある言い方ですね……力を出させませんよ?』

 

 え、ちょ待ってそれは困る!

 

 やめてよ? 神星剣は使わないんだから、神器まで使えなくなったら俺泣くよ? 泣くからな!

 

 そんな漫才みたいなやり取りをしていた時だ。

 

『グオオオオオオオオオオ!!』

 

 一誠の叫びが変わった。嘆きから攻撃的な質を感じ取るようになってきた。

 

 そちらの方を向くと、一誠がこちらを見ていた。

 

 睨みつけるようにこちらを殺気丸出しで見ている。

 

 ふむ、どうやらターゲットをこちらに設定したようだな。いやあ、見事に暴走してるね! なんせ俺の事を完全に分かっておらずに殺そうとしているし!

 

『グガガガアアアアアアアアアア!!』

 

 再び咆哮を上げてこちらに迫る一誠。

 

 その速さに思わず瞠目する。

 

 何せさっきのシャルバとの戦いを見ていなかったら間違いなく対応できないほどの速度だ。

 

 俺は殆ど考えずに剣を盾にするように前に出す。

 

 一誠はそのまま突っ込み、剣と激突する。

 

 あ、これ駄目かな?

 

 そう思う程に力が強すぎた。

 

「ぐううううう!?」

 

 足に魔力を集中させて、何とか踏ん張る。

 

 これ、本当に凄いな! 覇龍ってのは、ここまでヤバい物か!

 

 正直舐めてたなこいつは。何せ、俺がもう押され始めている!

 

 拮抗保てたのは、ほんの僅か。次の瞬間には、俺はそのまま吹き飛ばされていた。

 

 凄まじい勢いのまま、俺は後ろにあった瓦礫を五個くらい貫通して漸く止まる。

 

「くそったれめ……」

 

 思わず毒づく。

 

 なんてパワーだ。シャルバの時も感じたが、これは半端ないな。

 

 赤龍帝の『倍加』の能力もあるから理論上は無限にパワーを上げられるんだよな、あれ。

 

 最も、一誠の体が持つ筈も無いから、一定以上は上がらないはずだけどな。

 

 とはいえ、このままでは埒が明かないのも事実。どうしたものか。

 

 叩き潰さないといけないけど、流石に覇龍と化している一誠を止めるのは本当に難しい。神々だって滅ぼせるんじゃねこれ? 何て思ってしまう。

 

「……ふう」

 

 思わずため息が出る。出させて欲しい所だ。

 

 剣を構えて前を見据える。

 

『グオオオオオ!!』

 

 一誠が口元に魔力を集める。

 

 見るからに不味い程の量を込めてるいるな、おい。

 

 剣を両手でしっかりと構える。

 

「よし……来い一誠」

 

 俺の言葉に反応したかどうかは知らないが、一誠が魔力弾を放つ。

 

 俺の全身を覆いつくす位の大きさの魔力弾が迫ってくる。

 

 慌てず俺は剣の切っ先を魔力弾に向ける。

 

『Absorb!!』

 

 魔力弾を吸収し、一気にトップスピードに乗り突っ込む。

 

 剣を振りかぶり、一誠に斬りかかる。

 

 普段からは想像がつかないほどの反応の速さで一誠は対応。腕で受け止める。

 

 そのまま左手の砲口を展開。急速に魔力を込めて撃ち放つ。

 

 ほぼゼロ距離から撃たれた砲撃は一誠に直撃する。

 

 これでどうだ? 並みの上級悪魔ならこれでノックアウトするだけの力は込めたぞ?

 

『グオオオオオオオオ‼︎』

 

 そんな俺の期待を壊すように、一誠は右手を振りかぶって俺を殴りつける。

 

 瞬間、強い衝撃と共に俺は地面に叩き落された。

 

「ごふっ」

 

 口から血を吐き出してしまう。

 

 おい、これは流石に洒落にならないぞ……! 一誠の奴正気に戻ったらいびり倒してやる!

 

『ふざけている場合ですか! 次が来ますよ!』

 

 リンドの叱責に俺はハッと我に返り、痛む体に顔を顰めながら後ろに体を回転させる。

 

 それと同時に一誠が再び右手を地面に殴りつける。

 

 それだけで地面が砕けてその余波で俺が吹っ飛ぶ。

 

 吹き飛ばされた衝撃を利用して何とか態勢を立て直す。

 

 いやもう痛いね。何さあいつ。ヒトが折角正気に戻してやろうとしているのに恩を仇で返すみたいだな!

 

『逆ギレでしかも全然意味が違う様な……』

 

 何やらリンドが呆れたように言っているが、無視しておこう。

 

 さて、どうしたものか。まさかここまでとは。自分の危険予測の低さに泣けてくる。

 

 神星剣無しであれと戦うとなると、まだまだ力不足。俺もあんな感じで力を開放出来たらいけるかもしれないけど。

 

『お薦めはしませんよ? 無いわけでは無いですけど、使えば、貴方の義弟と同じように命を削りかねませんよ。貴方の場合、膨大な魔力がその代わりをするかもしれませんが、それでも危険は大いにあります』

 

 覇龍の様にリスクが高すぎるわけか。博打に近い物をこんな大事な場面でするってのはヤバい話だな。

 

『グウオオオオォォォォォ!!』

 

 再びの咆哮。今度は何だ一体。

 

 意識を一誠の方に戻すと、信じられない光景が目に入ってきた。

 

 一誠の胸の装甲が開き、そこから砲門が出現してエネルギーを充填し始めているでは無いか。

 

 あれってシャルバを吹っ飛ばした攻撃か! 不味いなまたこの辺りが吹き飛ぶぞ!

 

「くそったれが!」

 

 迷うことなく神星剣を手元に出す。

 

 そしてそのままオーラを纏わせていく。

 

 技を使うのは不味い。あれ程の威力になると俺も手加減が難しい。

 

 ならば、このまま魔力を練り込んで斬撃を放ってやる!

 

 俺と一誠は同時に力を貯め始めた。

 

 間に合えよおい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Fateのアニメ新しいの始まって書いてみたいと思うんですよねー。もしかしたら、投稿するかもしれません。


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第六話

全然筆が乗りません……。リハビリがてら別の作品を書いてみようと思っています。


「カレン……」

 

 私、リアス・グレモリーは兄弟同士で戦う所を為すすべなく見る事しか出来なかった。

 

「ふむ、やはり覇龍か。しかし、カレン・グレモリーめ、通常の禁手化で良くあそこまで戦えるものだな。流石というべきか」

 

 後ろから突然聞こえた声に私たちは振り向く。

 

 そこにいたのはヴァーリ・ルシファーだった。後ろには孫悟空の子孫たる美猴、そして聖剣コールブランド使いが立っていた。

 

「貴方たちどうして」

 

 全員、警戒を強めるが、白龍皇は肩を竦めるだけだった。

 

「探しものをしていてね。けれど、覇龍の力を感じてこちらに出向いた訳だ」

 

 同じ天龍として力を感じ取れるという事なのだろうか。

 

「ほれ、これお前さんたちの所の子だろ」

 

 そう言って美猴が差し出したのは――アーシアだった!

 

「アーシア!」

 

 全員アーシアの元に駆け寄る。

 

 静かに呼吸をしているのを見て全員涙を浮かべる。

 

 聖剣使いが言うには、次元の狭間で漂っていたところを保護したそうだ。もしそのまま次元の狭間に居たら消えてしまっていたという。

 

「白龍皇、感謝するわ」

 

「別に。偶々目に付いただけだ」

 

 本当に興味が無いようで、既に白龍皇の視線はカレンとイッセーの方に向いていた。

 

「兵藤一誠の方は不完全な覇龍化をしたようだな。そのお蔭でカレン・グレモリーは何とか喰いついていけているような感じか。神星剣をもっと使っていればあの程度なら圧倒出来ただろうに」

 

 カレンが神星剣を使わないのは、付けた傷が治りにくい神星剣の特性を考慮するのと、手加減が出来ずにイッセーを殺してしまうのでは無いかと考えているのだ。

 

 あの時見せたカレンの大技は間違いなくイッセーに大きなダメージを残す。最悪、フェニックスの涙を使っても完治は難しいだろう。

 

 だからこそ、カレンも手をこまねいている。おまけに、倒したとして、イッセーが元に戻るとも限らない。

 

「何か方法は無いの?」

 

 本来敵である彼に聞くのは筋違いというものだろう。だけど、もう時間が無い。このままだとイッセーの体が保たない。

 

 白龍皇はふむ、と手を顎に当てる。

 

「そうだな、何か彼の深層心理を刺激するものがあれば良いのだが」

 

「おっぱいを見せれば良いんじゃね?」

 

 そんなふざけたことを言うのは美猴。貴方、どうでも良いと思って適当に答えていないかしら……?

 

「そもそも、見せるにしても今の状態では――おや、勝負を仕掛けたか」

 

「え……? どういう……」

 

 意味? と聞く前に、強大な波動が私の肌を突き刺すように飛んできた。

 

 全員そちらのほうを向くと、イッセーが神殿を吹き飛ばした時の同じ攻撃をしようとしていた!

 

「ロンギヌス・スマッシャー……神をも滅ぼせると言われるほどの最強の力」

 

 ぼそり、とつぶやく白龍皇。

 

 神をも滅ぼせる一撃って、このままだとこの場にいる私たちもまた。

 

 同じ考えに至ったのか、カレンは一瞬こちらに顔を向けてから神星剣を取り出し、濃密なオーラを刀身に纏わせて構えた。

 

 あの時の翡翠との戦いで使った技は使わないようだが、それでもゼノヴィアの使うデュランダルとアスカロンの合体技よりも遥かに強大なオーラを纏わせている。

 

「ふむ、このままだと、ここら一帯が今度こそ吹き飛ぶか。下手をしたら空間に歪みが出来るかもな」

 

 冷静に語るヴァーリ。

 

 冷静に語っているが、かなり不味い状況だ。二人の攻撃がぶつかり合えば、下手をしたらどちらかが危険な状態に――!

 

「止める方法は無いの!?」

 

「さっきも言ったが、彼の深層心理を刺激するものがあれば良いのだが……。そうだな、ドラゴンを鎮めるのは何時だって歌だった。ただ、二天龍に関する歌は無い」

 

 じゃあ、本当にどうしようも無いの……? このままあの兄弟が戦いあうのを黙って見ていろって事なの?

 

 無力感に苛まれている中だった。

 

「歌なら、あるわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 そんな声と一緒に上空から飛んできたのは、天使の羽を背中に生やした紫藤イリナさんだった。

 

 そして、彼女が持ってきたモノは、その、何というか、色々とツッコミを入れてしまうであろうモノであった。

 

 

******

 

「いくぞ一誠!」

 

 何処まで防げるかは分からない。だがここで俺がやらないとこいつが戻ってこれない所まで行ってしまうかもしれない。

 

 なら、

 

「やるしかねえよな!」

 

 神星剣を上段に構えた時だった。

 

 

『おっぱいドラゴン! はっじっまるよー!』

 

 

 …………。

 

 ………………。

 

「………………は?」

 

 思わず、気の抜けた声が出てしまった。

 

 戦闘中にも関わらず、一誠から目を逸らし、音声がした方を向いた。

 

 そこには空中に映像が投影されており、見れば、態々赤龍帝の鎧を身に纏った一誠と小さな子供たちがいた。

 

 なにやら、音楽に合わせて踊りを開始しており、それだけ見ると何やら歌のお兄さん的な何かを想像するが。

 

『おっぱい!』

 

 この単語だけでもう何なのかは分かった。

 

 そして、これを作った元凶が誰かは容易に想像出来た。

 

 ――あのおっさん何してんだ!?

 

 混乱している中、歌が始まる。

 

 内容は予想通りというか、おっぱいに関する歌だ。もうそれしか無い。

 

 何これ。何を聞いているんだ俺は?

 

「……うう、おっぱい」

 

「はい?」

 

 信じられないことに一誠が反応した。

 

 いや、別に信じられないことでは無いか。何せこいつはおっぱいに命を懸けられる男だ。というか、それしかほぼ興味が無い。

 

 ……けどさ? けどよ、俺が必死こいてお前を元に戻そうとしているのに何だお前は。おっぱいで戻るのか?

 

「…………ふざけろおおおおおぉぉぉおおおお!!」

 

 キレた。兎に角俺はキレた。

 

 怒りのまま一誠を殴り飛ばす。

 

「ぐおぉ!?」

 

「おいこらおいこら。ヒトが命張って助けてやろうとしているのによお、お前はよりにもよって胸で意識を戻そうっていうのか? 俺の今までの苦労は何だっていうんだよおおおぉぉぉ!」

 

 何なのこいつよぉ! 人様が覚悟決めて助けてやろうとしてんのに、おっぱいの歌で助かるってか!? ふざけんじゃねえ!

 

「覚悟しろコラ。神星剣は勘弁しておいてやるよ。その代り……」

 

 手の骨をボキ、と鳴らす。

 

「ボコボコにしてやんよ」

 

 

******

 

「う……」

 

 うめき声と共に一誠は目を開けた。

 

「気が付いたか」

 

 俺が声を掛けると、一瞬彷徨うに視線を動かして、俺を捉えると目を見開く。

 

「兄貴……?」

 

「そう、お前の兄貴のカレンだ。頭働いているか? 思いっきりぶん殴ったんだが」

 

「ああ……て、ぶん殴った?」

 

「気にするな」

 

「いやいや、気にするだろ!?」

 

 うるさいやつだな。ヒトが折角助けてやったというのに。

 

「で、どこまで覚えている?」

 

「覚えているって……」

 

 思い出すように、頭を捻る一誠。

 

「確か、アーシアを助けて、その後……!」

 

 目を大きく見開いた後、瞳に涙を貯める一誠。

 

「そうだ……アーシアは、アーシアはもう」

 

「……悲しんでいるところあれだが、後ろを見ろ。後ろを」

 

「え……」

 

 俺が指さした方を見ると、そこにはリアスたちがいた。

 

 そして、ゼノヴィアが抱えているのは気を失っているアーシアだった。

 

「アーシア!」

 

 一誠がアーシアの方に駆け寄る。

 

「やれやれ……」

 

「お疲れ様」

 

 ため息を付くと、リアスが微笑みを浮かべながら近寄ってきた。

 

「全くだ。もうこんな事はしたくないよ。つか、あん時流れてきた歌って、アザゼル先生が関わっているだろ?」

 

「ええと、まあ、ね。それと、お兄様とセラフォルー様も作曲と振り付けを……」

 

 ……何してんだ魔王は! あれか、実は暇なんじゃねえの!?

 

 ゼクス兄さんって昔からあんな歌を作っていったけ? 昔すぎて流石に覚えていないけど。

 

「もういいや。帰って休みたいけど……なんでお前がここに居るのさヴァーリ?」

 

 じろりとヴァーリ一行を見る。

 

 ヴァーリは不敵に笑みを返し、美猴はヘラヘラと笑いながら手を振って来て、聖剣使いの男は会釈をしてきた。――その瞳には隠し切れない興味が滲み出ていたが。

 

「アーシアを助けてくれたらしいけど、まさかそれだけの為に次元の狭間を彷徨っていた訳じゃ無いだろ?」

 

「ああ、探しているものがあってな。――丁度良い。出てくるようだ」

 

 出て来る? 一体何が?

 

 疑問に思うのも束の間、空がバチバチと音を立てて割れた。

 

 俺たちが驚ている中、割れた空間の裂け目から出てきたのは龍だった。

 

 但し、デカい。百メートルは優に超えている、タンニーンよりも遥かにデカい深紅の龍だ。

 

 ヴァーリが言うには、あれこそが黙示録に登場する赤き龍。ドラゴンオブドラゴン、グレートレッドだそうだ。

 

 ……あれが黙示録の赤い龍。半端ないな。ヴァーリが言うには世界で最強何だろ? ぶっちゃけ神様が相手でも問題ないという。どれだけ強いのさ。

 

 ヴァーリが言うには、あのグレートレッドを倒して真なる白龍皇になるのが、ヴァーリの夢らしい。

 

 随分と変な夢を持っているな。いや、強さを追い求めるヴァーリならではの夢と言う所か。

 

「グレートレッド。久しい」

 

 突然、新しい声が聞こえてきた。

 

 今度は何だよ……。声がした方を向いてみると、そこには少女が一人立っていた。

 

 黒い髪にゴスロリな服を身に纏った、『黒』という風な感じだ。

 

「誰だ?」

 

 一誠も同じ疑問を感じたのか、首を傾げている。

 

 ヴァーリは苦笑しながら答える。

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスだ。禍の団のトップでもある」

 

 つまりはテロリストの親玉と! こんな少女がか!?

 

「我は必ず静寂を手に入れる」

 

 指をピストルの形にして、その指先をグレートレッドに向けるオーフィス。

 

 静寂? 何を言ってるんだこいつ?

 

 思わず首を傾げてまう。

 

 そんな俺に何とオーフィスが視線を向けてきた。

 

 黒い瞳が俺を射抜く様に見つめて来る。

 

「…………」

 

「……何だよ?」

 

 無言で俺を見詰めて来るオーフィス。人形めいているからか、何だか不気味である。

 

「お前、日月の子供?」

 

「!?」

 

 ちょっと待て、何でこいつ、母様の名前を!?

 

「お前、母様を知ってるのか?」

 

「少し前、我に喧嘩を売ってきた」

 

 最強の龍の一角に何してんだあの人は!? 馬鹿なんじゃねえのか!?

 

「というか、良く分かったな。俺って親父似だと思うが」

 

「よく似ている」

 

 いや、だから親父似だと思うのだが……まあ良いや。

 

「お前も我に喧嘩売る?」

 

「売らないよ!?」

 

 誰が世界最強の存在に喧嘩を売るか!

 

 ええい、あの人本当に何してんだ!

 

 

 

 

 

 



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