比企谷兄妹の甘い日常 (暁英琉)
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俺は彼女達を愛している

 生物というものは変質と普遍を両立するものである。成長しても乳離れをした肉食動物は肉を食うし草食動物は草をはむ。互いの関係が逆転することはあり得ないし、どんなに身体が大きくなっても草食動物は本能的に肉食動物を恐れる。視覚的に変質を遂げてもどこかに必ず普遍が存在するものである。周りから比企谷君なんか変わったね、なんて言われても俺は俺なわけで特に俺が変わったわけではない。自分から話しかけることはないし、数学の時間は寝る。姿勢は相変わらず猫背だし、趣味は読書と人間観察だ。強いて言うなら俺が変わったと言うよりもまわりが前より話しかけるようになったと言う方が正しい。周りの環境が変わったことで今まで見えていなかった俺の普遍部分の一部が露見しただけなのだ。

 で、俺自身なにも変わっていないのだから――。

「比企谷、このレポートはなんだね……」

 三年になった今でも度々平塚先生に呼び出されている。

 というか、明確な答えのない感想レポートなんてある程度体裁が整っていれば問題はないと思うんだが、ちょっと他と違うと嫌な顔をするのは日本人の悪い癖だ。

「君は文系の成績はいいんだが、こういうレポートで確実に損をしているぞ。個性的と言えば聞こえはいいが、学校というのも一つの組織なのでな、あまりに個性的すぎると害とみなされてしまう。おかげで私も君の評価を少し落として記さざるを得なくなっているのだ」

 まあ、俺からすれば高校なんて卒業できればいいわけで、成績なんて留年しなければどうということはないのだが、たしかに平塚先生に迷惑をかけているのは事実なんだよな。こんな捻くれた生徒に見離さずに接してくれる教師はなかなかいない。もう聖人の域である。だから誰か早く貰ってあげて!

「ここ最近の君はいい方向に変化をしていると思うのだがな。相変わらずこういうところは変わらない」

「まあ、人間そうそう変われませんからね」

 肩をすくめてみせると先生は一瞬ポカンとして、クツクツと笑いだした。

「……なんですか」

「いや、最近はだいぶ変わったと思うんだがね。君たち兄妹はもはやうちの名物のようになっているし」

 勝手に家族を学校の名物にされても困るのだが。というか、仲良くしていただけで名物になるとかどうなの? そんなにこの学校の生徒兄妹と仲悪いの? あ、雪ノ下は悪いな。

「別に変わってなんかないですよ。家じゃあんなもんですし、むしろ抑えられてるまであります」

「あれで抑えられてるのか、さすがに仲良すぎじゃないか……?」

 ドン引きされた。千葉の兄妹の仲がいいのは当然ではないか。この人ほんとに千葉県民?

「まあいい。とりあえずレポートは再提出だ。もう行っていいぞ」

「うっす」

 新しいレポート用紙を受け取って職員室を出る。別に書こうと思えばそれっぽい無難な内容は書けるんだけどな。書いているうちについ楽しくなってしまうのだ。

 俺が妹であるいろはと小町と恋人関係になってから一月ちょっとが経った。知り合いは特に留年することなく進級して、小町も総武高に入学してきた。小町の制服姿がかわいくてかわいくて仕方がない。初お披露目の時に親父が一眼レフで激写してドン引きされて凹んでた。ちなみに俺はその陰で一枚スマホで撮ってお気に入りにしている。超かわいい。

 現在俺達の関係を知っているのは雪ノ下と由比ヶ浜だけである。由比ヶ浜が何かの拍子に漏らすことがなければ大丈夫だろう。なので、俺達三人は「相当仲のいい兄妹」としてそこそこ視線を集めている……らしい。由比ヶ浜が言っていたし事実なんだろうな。

 まあ、いろはは新二年のトップカースト筆頭兼生徒会長だし、小町もかわいいので一年の中では結構高いカーストに付けているようだ。そんな二人がこんな冴えない兄貴にべったりなのだからそりゃあ注目も浴びる。

 で、そんな冴えない兄貴に周囲も興味を持ったのか俺が話しかけられる機会も増えた。まあうち数割は俺を経由して二人とお近づきになろうとか考えてそうな奴らだけど。妹たちは誰にも渡さん。

 だから、変わったとすれば俺自身ではなく俺を取り巻く環境である。

 時計を見ると昼休みが半分ほど過ぎていた。いくら注意のためとはいえ昼休みに呼び出すのはやめてほしい。昼食の時間がなくなってしまう。放課後だったら合法的に奉仕部に遅刻する理由になるのに……。サボるという選択肢がない分、俺の社畜度が上がっている。

「あ、お兄ちゃんおっそーい!」

 教室に入ると40ノット以上の速度を出しそうな声が響いてきた。自分の席に目を向けると俺のクラスでの唯一の領土がいろはと小町によって占領されていた。

「お兄ちゃんまた平塚先生に呼び出されたの? まったくゴミいちゃんは……」

「それは事実だから否定しねえけど、俺がいないのに教室に居座るのやめてくれない?」

 自由奔放な妹たちを見られるとお兄ちゃん恥ずかしいんですよ。

「え~、でも葉山先輩がお兄ちゃんの席で待ってるといいって言ってくれましたし~」

 葉山てめえ……。葉山ににらみを利かせるとさわやか笑顔で応戦してきた。なんでお前「俺、ちょっといいことしちゃった」みたいな顔してんだよ、その笑顔叩きつぶしてやろうか。あ、隣のあーしさんの眼光が怖いんでそんなことしませんよ、はい。

 ちなみに、三年生になって文理選択&クラス替えが行われたわけだが、葉山グループに戸塚、川内など2-Fメンバーの一部がごっそり同じクラスに引き継がれた。トップグループである葉山グループがそのまま上がってきたからクラスの雰囲気も去年とあんまり変わらない。あーしさんは相変わらず女王だし、戸部は相変わらずやかましいし、童貞風見鶏は童貞だ。海老名さんはしょっちゅう擬態を解いて……ん? なんか他の女子とニヤニヤしながら会話してるんだけど、まさか海老名さん以外にも腐女子がいるのか? なにそれ怖い!

「もうお昼休み少ないですし、今日はここで食べましょうよ」

 そう言っていろはが俺に椅子を明け渡す。全員が教室で飯を食うわけではないのでところどころ席は空いている。近くから椅子を持ってくればいいだろうと思って自分の席に座ると――

「…………」

「およ?」

「お兄ちゃんどうしました?」

 二人の妹が楽しそうに笑いかけてくる、天使。天使なのだがここはあえて一言言わせていただきたい。

「……なんで椅子に座んねえの?」

 にひっと笑う妹たちの顔が近い、超近い。なぜなら二人とも俺の膝に座っているからである。いや確かに家では結構こういう状況になるけど学校ではさすがにこんなことしたことないんですが?

「どこに座ろうと私たちの勝手じゃないですか~」

「お兄ちゃんはなにも気にせずご飯を食べればいいんだよ」

「なに、俺っていつからお前らの椅子になったの? お兄ちゃんTPOわきまえない子に育てた覚えないよ?」

 さすがに人前でこんなことやられると恥ずかしさで死にそう。なんか男どもがちらちら見てくるし。見んなよ見せもんじゃねえぞ。

「小町、お兄ちゃんに育てられたつもりはないんだけど……」

「むしろ私たちがお兄ちゃんを育てているまであります……」

「うぐ……」

 いやまあ確かに? ほぼ毎食二人に作ってもらってるし? そういう意味では育ててもらっている感は否めないのだが……。

「……だって、お前らの飯うまいし……」

 小町はいままでも食事を作ることが多かったからうまいし、お菓子作りが趣味と言っていたいろはは料理もうまく、打ち解けて以来二人で台所に立つことも増えた。俺? 俺はそんなかわいい二人をリビングから眺めてにやにやしてるんだよ。

 俺としては胃袋を掌握されている事実を言っただけなのだが、両膝の二人は顔を真っ赤にしてあわあわ言い出した。なにこいつらかわいすぎるだろ、今すぐ彼女にしたい。あ、彼女だったわ。

「じゃ、じゃあ小町の作ったこのチーズオムレツ食べさせてあげる!」

「しかたないですから、私の作った生姜焼きを食べさせてあげます!」

 二人とも自分の弁当からおかずを取って俺に近づけてくる。というか「作った」をやけに強調するのやめて。

「お断りします」

「「なんで!?」」

 だって恥ずかしいし。

 猛抗議してくる妹たちをしり目に、自分の弁当に箸をつけるのであった。

 

 

     ***

 

 

 放課後、俺はいつも通り奉仕部に……ではなく生徒会室に向かっていた。五時間目の休み時間にいろはから放課後に生徒会室に来るようにメールが来たからだ。由比ヶ浜にその旨を伝えるとなんかすごい不機嫌な顔をされた。ただ、俺としても実はあまり最近の奉仕部には長居したくない。

 別に奉仕部の雰囲気が去年の修学旅行後みたく悪くなっているとかではないのだ。むしろ仲が良すぎてあれというか。三年生になってようやく自分の成績での大学進学に不安を感じてきたのか、依頼のない日は雪ノ下にマンツーマン家庭教師をしてもらっているのだが、なぜか最終的にゆるゆりな空気になるのである。いやたぶん雪ノ下の教え方が下手なのが原因の一つなのだろうけど、由比ヶ浜がすぐに勉強を諦めて雪ノ下とイチャイチャしだすのだ。そんな空間にいくら空気とはいえ男がいるとね? 花の名前の付いた月刊誌を購読しているお兄様方からリンチにあいそうないたたまれない気持ちになるんですね? だから、奉仕部は好きだけど理由があるなら逃げたいわけですよ。好きだけど逃げたい、なんというジレンマ。

「うっす」

「あ、お兄ちゃんいらっしゃ~い!」

 生徒会室に入ると不思議なことにいろはしかいない。あれれー? おかしいぞー? 俺はてっきり生徒会の手伝いだと思ってきたんだけどなー。仕事前提で考えてしまうこの社畜脳悲しい。

「生徒会の仕事じゃないのか?」

「ぁ、えっと……今日は生徒会お休みなんですけど……その……」

 どうにもいろはの歯切れが悪い。もじもじしながらちらちらと見てくる。なんか小動物みたいでかわいい、あとかわいい。

「お昼はお兄ちゃんの教室だったので、あまり甘えられなかったというか……いろは的お兄ちゃん分が足りないというか……」

 え、あれで足りなかったの? お兄ちゃんすっごいドキドキさせられたんだけど。やだこの子貪欲!

「ぁの……ダメ……ですか……?」

「っ……」

 あぁ、もう……ほんとダメ。

 ダメだろこんなの……。

 こんな表情されたら俺だって我慢できなくなる。

 そっといろはの頬に触れ、優しく唇を奪った。

「んんっ、ちゅっ、ぁむっ……」

 唇をついばみ、優しくなぞる。柔らかい唇の感触は心地よくて、何度も何度も味わってしまう。時々彼女の口から漏れ出るかわいらしい声に脳髄が焼かれ、酸欠でもないのに頭がくらくらしてくる。

「んぁっ、んちゅ……ぷはっ……お兄ちゃん……」

 唇を離して真正面にあるいろはの顔はかすかに上気していて、とろんとした目元はまるで物足りないと言っているようだった。そんな顔をされたら、俺だって物足りなくなる……。

 もう一度、お互いの唇が重な――

「あーやっぱり! 二人だけずるい!」

 ガラッと勢いよく扉が開く音に思わず二人とも動きが止まる。声だけで誰が来たのかは分かる。声の主、小町はとててと近づいてくると、俺の背中にギュッと抱きついてきた。

「こ、小町ちゃん! どうしてここに……」

「奉仕部に行ったらお兄ちゃんが生徒会の手伝いしてるって聞いたんですー。けど、昨日でやること大体終わったのにおかしいなと思ったら案の定二人でイチャイチャして、いろはさん抜け駆けはずるいよー」

 頬を膨らませていろはに抗議する小町。ところで怒りながら俺の胸元さわさわするのやめてくれません? きもち……くすぐったいから、ね?

「ぁの……えっと……ごめんなさい」

「まあ、お昼はあんまりイチャイチャできなかったもんね。というわけでお兄ちゃん、小町もいろはさんと同じことしてね!」

 俺の横に移動してんー、と唇を突き出してくる。たこ焼き屋の看板のタコみたいでちょっとシュール。けど、こういうちょっと間抜けな表情もかわいくて魅力的だと思えてしまうから不思議だ。

 実際堂々と二股をかけているわけだから、俺には二人と平等に接する義務があった。どちらか片方を贔屓してはいけない。それで二人がいがみ合うことがあればそれは俺の責任だし、俺も悲しくなる。

 だから、いろはの頭を軽く撫でて宥めてから、小町の方に向き直り、少し膝を落として口付けを始めた。

「ん……ちゅ、ちゅむ……お兄ちゃぁん……んっ」

 みずみずしくてぷるんとした果実はほんのり冷たい。いろはの唇があんまんのような熱と柔らかさだとすれば、小町のそれは水ようかんのような芯を含んだ感触だった。いろはとキスした直後だから比べちゃうのは不可抗力だからね。八幡悪くない。

「んぁっ、まむ、にゅぅ……」

 下唇を咥えてむにむにすると程よい反発を感じて気持ちいい。後なんか甘い。唇が甘いとか女の子の唇は実は本当にあんまんや水ようかんでできているのでは、などと馬鹿なことを考えて誤魔化さないともう理性が擦り切れてパンク寸前なんだもの。

 名残惜しさに後ろ髪を引かれる思いだが、なんとか唇を離す。

「ぷはぁ……お兄ちゃんもっと……」

 う……そんな表情されてもお兄ちゃんには通用……するけど、我慢する。八幡超我慢する。

「だめだ、学校でこんなことして、誰かに見られたら問題なんだから」

 実際兄妹で、しかも二股状態で付き合っているなんて周りに知られたら、俺はともかくきっとこいつらが苦しくなる。だから、あまり目立った“逸脱した兄妹”の姿は見せたくない。

「ふふーん、お兄ちゃん小町達の心配してくれてるんだ。それは小町的にポイント高いよ」

「でもですね、私たちはお兄ちゃんのことが大好きだし、いつでもお兄ちゃんと一緒にいたくてしょうがないんですよ? だから、お兄ちゃんと一緒にいられるなら他人の眼なんて気になりません」

 優しい笑みでそんなことを言われてはなにも言えなくなる。本当に、俺の予想をはるかに超えてこの二人はずぶとい。それが悪いことだとは思わないけど……ってなんで二人とも悪そうな顔してるのかな? お兄ちゃんちょっと怖いんだけど。

「でもお兄ちゃん、学校はダメだけど、家ならいいんだよね?」

「今日もお父さんとお母さんは帰り遅いですもんね」

 …………やばい。

 これは帰ってからやばい。むしろすでにピンチまである。

「きょ、今日はちょっと遅くまでファミレスで勉強して帰ろうかなー……」

「「お兄ちゃん?」」

 怖い! 怖いからその目が笑ってない笑顔やめて! マジ怖い! 後怖い! ほんと怖い!

 愛されてるなーと思いつつ、ふと考える。俺がこいつらのために何をしてやれるのか。こんな冴えない捻くれ者が兄貴というだけでも問題なのに、さらに恋人なのだから申し訳なさでいっぱいになる。

 きっと俺はなにも変わっていない。捻くれて、協調性がなくて、臆病で。

 そんな俺になにかこいつらのためにできることはないのだろうか、と。つい考えてしまうのだ。

 




どうも

前作はシリアス多めであまりいちゃいちゃさせられなかったので
こっちではおもいっきりいちゃいちゃさせたい所存

R-18なのも書けるといいですね(私の精神力が持てば


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お兄ちゃんは妹にもっと好かれたいのである

 比企谷家は基本的に三人で生活しているようなものである。社畜の両親は労基法に抵触しない程度の会社からの酷使と自身らの社畜精神によってほとんど帰ってこない。特に最近二人とも会社での地位が上がったようで、責任がー責任がーとか言いながら会社に泊まり込むことが増えた。まじで社畜怖い。けど、今となっては働かないわけには行かないんだよな。

 というわけで今日も今日とて比企谷家は比企谷三兄妹の根城と化している。家事は基本的に分担制なのだが、料理はなぜか俺の当番がなかった。まあ、去年も俺が料理を作ることはあまりなかったわけだが、それは部活のある俺よりも小町の方が先に帰ってきて作ってしまっていたからで、学校も同じになって帰るのも一緒な今は俺も手伝っていいと思うのだが、妹たちが二人で楽しく料理している姿を見るのも悪くないかなと思う今日この頃。

 ソファに座って勉強しながら時々台所の妹たちを眺める。何これ至福。

 実際今までは勉強は部屋でやっていたのだが、最近はこの至福の時間のためにリビングでやることも多い。そんなことで集中できるのかと思われるかもしれないが、これが思いのほか集中できるのだ。妹分で集中力と記憶力アップ! 深夜の通信販売とかでありそう。ないな。

「お兄ちゃーん、そろそろご飯できるからお皿出すのてつだっ……て……」

「おう、分かった。……どうした?」

 俺を呼びに寄ってきた小町が何やら固まっている。どうしたというのだろうか、お兄ちゃんなにか悪いことした? 少し不安になっていたのだが、小町の視線は俺の目の前にある勉強道具に固定されている。

「お兄ちゃん、どこか調子悪いの? 大丈夫? 頭腐ってない?」

「どういうことだよ」

 思わずおでこを小突いてしまうくらいには酷いことを言われた。頭腐ってるのは海老名さんだから。

「いたた……だってお兄ちゃんが数学の勉強なんてしてるから……」

「あー……まあ、ちょっとな」

 俺が今やっていたのは高一の数学だった。完全に切り捨てていた数学の教科書をちゃんと保管していた自分に俺自身驚いているんだから。散々理数系は必要ないと聞いてきた小町には余計に驚愕の事態だったのだろう。いやそれでも頭腐ってない? はないだろ、泣くぞ。

 実際受験には必要ないし、追試さえやればいいから差し迫って単位が危ないというわけでもないのだが、少し思うところがあって勉強していた。

「ほら、早く飯食おうぜ」

「あ、待ってよお兄ちゃん!」

 その理由を話すのはちょっと恥ずかしいというかくだらないというか、まあそんなもんなのでついぶっきらぼうに話を切っていろはのいる台所に足を向けたのだった。

 

 

     ***

 

 

 相変わらずうまい夕飯を済ませて風呂を浴びると自室にこもってまた勉強をする。さっきの数学の続きだ。

 実際のところ高校受験の時には数学も必要だったし、受験結果は今みたいな散々な点数ではなかった。それでも飛び抜けて高いわけではなかったが。理数系を勉強しなくなったのは私立大学文系学部の受験に理数系が必要ないと分かったからだ。だから今まで切り捨てていたし、一桁の点数を見ても特に何とも思わなかった。

 けれど、そんな俺を兄に持つ二人は周りからどう思われるのだろうか。兄としても恋人としても頼りない俺のせいで、あいつらが嫌な思いをするのは俺が耐えられないのだ。

「実際、気合入れて勉強してみると結構面白いもんだよな」

 別に、雪ノ下を抜いて学年一位になろうとかそういうことは考えていない。ただ、少しでもあいつらが俺という兄を、そして恋人を誇れるような存在になりたいと思った。動機としては不純だろう。好きな女のために努力をするなんて、まるで男子中学生のようで笑ってしまう。

 記憶力はいい方なので、公式などはすぐに覚えられる。問題はその公式をどういう場面で使うかなので、とりあえずほとんど使われた形跡のないワークブックの問題を解いて慣れていく。少しずつ、少しずつでいいから理解を深めていく。

「……ふう……」

 軽く息をついて緊張した頭を軽く揉み解す。時計を見ると午前一時半。だいぶ集中していたようでいつの間にか日付が変わってしまっていた。ぐっと伸びをしたところで視界の端に何かが写り込んで、そちらに目を向ける。

「「ぁ……」」

 部屋の扉が少し開かれて、そこからくりくりとした目が四つ覗きこんでいた。どうやら部屋に入ろうとしたら俺が勉強していたので遠慮していたらしい。いつもは自由奔放なくせにこういうときは遠慮がちになるのだからかわいらしい。

「そんなとこにいないで、入ってきていいぞ?」

 俺が呼びかけるとおずおずと二人とも部屋に入ってくる。

 あの日以来、ほぼ毎日俺達三人は一緒に寝るようになった。だいぶ安定してきたとはいえ、いろはを一人にさせるのはまだ少々不安だし、なにより二人からのたっての希望だったので断る理由はなかった。というか、いつもなら日付が変わる頃には二人とも来ることを考えると、ひょっとして一時間以上部屋の外で待っていたのだろうか。

「別に勉強してても遠慮せず入ってきていいんだぞ?」

「だって、お兄ちゃん今年受験ですし……」

「いや、受験勉強自体はそこまで気を張ってるわけじゃないから気にしなくていいぞ。今やってるのは受験とは関係ないし」

 フォローを入れると二人ともおよ? と首をかしげる。最近のこの二人のシンクロ率が高い。これがあざとかわいいという共通点による同一性なのだろうか、何も知らなかったら実の姉妹と言われても信じてしまうレベル。

「俺の志望だと文系科目のテストしかないからな。数学やってるのは気の迷いと言うか、まあそんなもんだから外で待ってないで入ってこい。外でハチ公みたいに待たれてたら俺も申し訳ないし」

 俺は志望大学をすでに決めていた。千葉の私立大学の中でも偏差値の高い大学で自宅からも比較的近い。それにここの名物教授がかなり面白い人のようで前から興味があった。

「気の迷いで勉強すると理解できないんですけど……」

「お兄ちゃん、いつの間にガリ勉君になったの? やっぱり頭打ったりしたんじゃ……」

 こいつら……いくらなんでも酷すぎやしませんかね。

「ま、まあとりあえず、別に急いでやってるわけじゃないから、我慢せずに入ってこいよ。今日はちょっと遅めだったけどいつも寝るくらいの時間までやってれば十分だからな」

 二人の頭をくしゃくしゃ撫でる。まだしっかり納得はしていないようだが二人とも気持ちよさそうに目を細めていた。

「じゃあ、電気消すぞ」

「うん、おやすみ」

「おやすみなさ~い」

 そこそこ大きめではあるが、やはり三人で寝るとこのベッドでは狭い。左右から柔らかい感触で挟まれるのは嫌いではないからいいのだが。

 恋人になる前“救済”としていろはと一緒に寝ていたときにはなにも感じなかったのに、恋人になってしばらくはなかなか寝付けずに睡眠不足の日々が続いた。意識の違い一つでこんなにも変わるのかと当時は驚いたし、今となっては三人で寝ることに何の抵抗も抱かなくなっているあたり、自分の適応能力に驚く。まあ、少しは恥ずかしいんですけどね?

 かすかに立ち始める二つの規則正しい呼吸音を子守唄に意識は少しずつフェードアウトしていった。

 

 

     ***

 

 

 三年に上がってから俺は自転車通学をやめた。小町といろはと三人で通学するためにバス通学に切り替えたのだ。最寄駅からバスで学校近くまで移動し、三人であるいて登校する。両手を二人に握られての登校という超恥ずかしい状態なのだが、一度文句を言った時に二人から激怒されて以来大人しく従っている。お兄ちゃんの立場低すぎ。

 結果、同じく登校中の生徒たちがチラチラこちらを見てきて俺の気は全く休まらない。あと、こっちをチラチラ見てくる男子の目を一つ残らず潰したくなる衝動に駆られてしまう。八幡破壊の波動に目覚めちゃうよ……。

「やあ、比企谷、いろは、小町ちゃん」

「おう」

「あ、葉山先輩おはようございま~す!」

「どもです! 葉山先輩!」

 去年より少し早い時間に登校していると、だいたい葉山とかちあう。ちなみに葉山は俺のことをヒキタニとは呼ばなくなっていた。いろはと小町から抗議を食らった結果なのだが、学校の帝王に文句言うとか君たち勇気あるよね。

「そうだいろは、今日の部活には出れそうかな? 一年生もそこそこ入ってきたから今日は練習試合を多めにやりたくてさ。できれば手伝ってほしいんだけど」

「あー、大丈夫ですよ。今日は生徒会の仕事ありませんし」

 昨日は部活サボって生徒会室でキスしてましたけどね。

 その後二人は部活の話をしだす。部外者の俺は必然的に黙ることになってしまう。あ、大抵黙ってるからいつものことか。

「…………」

 ふと、葉山と自分を見比べてしまう。がっつりではないとは言え適度に筋肉がついて引きしまった身体の葉山と贅肉はないが全体的にひょろい俺。首から下だけ見ても葉山の方が女受けはいいんだろうな。別に女受けしたいとか今さら思わないけど。これが運動部と(実質)帰宅部の差か。最近は自転車通学でもなくなったせいか、足もひょろくなったように感じる。そういえば、依頼のためとはいえマラソン大会のときは葉山に食いさがって、最終的に黒歴史を増やしたっけか。今だとあそこまで食い下がることもできないのかな。

 うーん、なんというか……。

 改めて考えると俺かっこ悪いな。

 葉山と比べている時点でおかしいとは思うけれど、なんかこう……やだな。

 筋トレとか……少なくとも持久力くらいは……つけたい気がしなくもない、よな……。

 なぜそんなことを考えてしまうのか。楽しそうに葉山とサッカーの話をするいろはを見てるとちょっと複雑な気持ちになるというか。いやでも部活の先輩後輩なんだし、話の内容は部活の事なんだし、そこまでとやかく言うのはいかに兄兼彼氏とは言っても図々しすぎて嫌われかねないというか。というか、こんなこと考えるのって……。

 

 ひょっとして俺は、葉山に嫉妬しているのだろうか?

 

 まったくもって図々しい。底辺カーストの俺が、トップカーストの葉山に嫉妬なんていう感情を抱くなんて。別次元の存在に妹が彼女が取られそうで怖いなんて感情を抱いているなんて。

 けれど、好きな女により好きになってもらいたい、自分だけを見てもらいたいという独占欲を抱くことは間違っているのだろうか。それは悪いことなのだろうか。きっとそれは独善的で性悪的なのだろう。

 けれど、それで自分を高めようと動くことはきっと間違っていないのだと思う。例え醜くても、きっと悪くない。

 だから……。

 




息抜きと言うか前作との繋ぎ的な話

八幡が理数系できないのは完全に捨ててて授業を聞いていないだけだと思うのん
つまり勉強すれば普通にできそう
そう考えると八幡って化物じみたスペックをしているのでは・・・

台風が近づいているせいか風が凄い強いです
台風の影響で休みになるのは構わんが、停電とかはやめてね(ガクブル


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お兄ちゃんはつい無理をしてしまう

「お兄ちゃん、どうしたんだろ」

「なにかあったのかな……?」

 夕飯の支度をしながら小町ちゃんが不安そうに声をかけてきました。私だって不安です。いえ、むしろ不安よりも恐怖の方が勝っているまであります。

 

 最近お兄ちゃんの様子がおかしい。

 

 お兄ちゃんは今家にいません。ここ最近、帰ってくるといつもすぐにどこかへふらっと出かけていきます。あの自宅大好きお兄ちゃんが毎日です。そろそろ二週間連続になるのではないでしょうか。

 理由を聞いても言い淀んで、「ちょっと一時間くらい出てくるだけだから」と言うだけです。あのお兄ちゃんがなんの理由もなしに家から出るなんて考えられないし、そりゃあ私たちも不安になります。

 それに暇を見つけてはずっと勉強をしているみたい。たしかにお兄ちゃんは文系は学年トップクラスの成績だし、成績維持のために勉強はするものだと思いますが、最近は特に数学の勉強をしている姿を見ます。あの数学を憎んでいる節すらあるお兄ちゃんがですよ?

「小町達に言えないことでもあるのかな?」

「言えないこと……」

 いや、きっと家族や恋人だからこそ言えないこともあるのでしょう。「近しい人間のことをなんでも知りたいと思うのはおこがましい。誰にだって自分のうちだけに留めておきたいことはあるし、どんな人間にだってそれを無理やり暴く権利はない。親しき仲にも礼儀ありという名台詞を知らないのかよ」というのはお兄ちゃんの弁です、超長い。

 けど、それでも何でも知りたいと思うのも人間なんですよね。知りたいけど聞けない、だから推察する。

 お兄ちゃんは内に入った人間にはとことん甘い傾向があります。驕りでも何でもなく、私たち二人はお兄ちゃんのその内に入っている自信があります。その私たちにもお兄ちゃんが言わない理由……。

「……浮気……?」

 いやいやまさか、あの平塚先生をして目を見張るリスクマネジメント力と言わしめたお兄ちゃんが浮気なんてそんなマネ……けど、それって逆に言えばリスク管理をしっかりすれば浮気もできるってことなんじゃ……いやいやそんなこと……。

「…………」

「…………」

 台所はお通夜ムード。どうしよ、不用意に浮気なんて口にしなければよかった。

「ただいまー」

「「!」」

 完全に暗くなっていた中に丁度お兄ちゃんが帰ってきました。

「おかえりー」

「おかえりなさーい」

 お兄ちゃんが話してくれないのなら調べるまでです。とてとてと玄関に向かうとジャージ姿のお兄ちゃんが靴を脱いでいるところでした。うっすらと汗をかいていてちょっと色っぽ……ではなく、自然な感じでお兄ちゃんに抱きつきます。小町ちゃんはお兄ちゃんの脇腹に抱きついていました、考えることは同じですね。

「うえっ!? どうしたんだ二人とも……」

 慌てるお兄ちゃんは無視して、背中に鼻を押し当てて深呼吸。すう~、はあ~、すう~、はあ~。はぅっ、お兄ちゃんの汗の匂い心地いいなりぃ……じゃなくて!

「女の匂いはなし……」

「こっちも確認できずであります、上官殿!」

「女? 上官?」

 お兄ちゃん、小町ちゃんの言い方に特に他意はないと思います。とりあえず、他の女性と会っていたという線は薄くなりましたが、やはりまだ不安はぬぐえません。というよりも、私たちの不安がもう許容限界なんです。

「お兄ちゃんが毎日帰って来てから出かけるから、小町達は心配なんだよ?」

「心配ってなんの?」

「だって、お兄ちゃんらしくないですし、その……浮気とかそういうの……」

 お兄ちゃんは大きくため息をつくと振り返って、私たちの頭をわしゃわしゃと撫でてくれます。なんかグルーミングされるペットみたい。

「あのなぁ、そんなに俺信用ないか?」

「いえ、信用ないとかじゃないんですけど……」

「俺は一途な男だぞ? 彼女がいるのに他の女にうつつを抜かしたりするかよ」

 お兄ちゃんは決め顔でそう言った。最近お兄ちゃんがどことなくかっこよく見えます。もしかしてもっと私たちを惚れさせてお兄ちゃんなしではいられない子にするつもりでしょうか。もうすでにそうなってる節があるので無理ですごめんなさい。

 というよりも、その発言って……。

「一途って……妹二人と付き合ってるお兄ちゃんには絶対に合わない言葉だと思うんだけど」

 ですよね~。

「う、ぐ……まあ、そのなんだ。お前らが心配するようなことじゃないからその辺は気にすんなよ」

 照れてそっぽを向いたお兄ちゃんは八幡検定一級に昇進した私の目から見ても嘘をついているようには見えません。どうやら本当に浮気とかではないみたい。

「じゃあ、一体何を……」

「あー、いや、本当に大したことじゃないんだよ。ただ、お前らに話すのは気恥かしいというかなんというか……」

 お兄ちゃんの顔はお願いだから聞かないでという困り顔。そんな顔をされたらそれ以上聞けないじゃないですか、別にお兄ちゃんを困らせたいわけじゃないですし。

「わかったよ。じゃあ、早くお風呂浴びてきちゃってー」

 小町ちゃんも同じ考えなのか、話を切り上げてお兄ちゃんをお風呂に向かわせました。あの様子だと私たちが気にするようなことじゃないみたいなので、お兄ちゃん自身が話したくなるまで待った方がよさそうですね。

 ……ん?

 そこで鼻をつくかすかな匂い。

「あ”……」

 フライパン火にかけたままだった……。

 

 

     ***

 

 

 歳を取ると人肌というか、人との会話が恋しくなるのだろうか。

 俺はまた平塚先生に呼ばれていた。今回は特に持論を展開したレポート提出したりとかはしていない……はず。うん、そんな記憶はない。じゃああれか? 結婚できない愚痴のはけ口に呼ばれたのか? なんという職権乱用……あ、別に何も変なこと考えてないんで睨まないでください。

「別に今日は怒るわけじゃない。数学の佐藤先生や生物の朝倉先生が最近の比企谷の授業態度がよくなったと言っていたからな。どうしたのかと気になっただけだ」

「別によくなったなら問題ないでしょ?」

 悪くなったならともかくよくなったなら別に気にする必要はないと思うのだが。

「まあ、確かにそうなんだがな。いままでのお前の理系に対する授業態度は酷かったと聞いているからな、どういう風の吹き回しかと気になったんだよ」

「……ちょっと内申点が欲しくなっただけですよ……」

 そうか、と短く呟くと平塚先生はふっと悪戯っ子のような笑みを浮かべる。こういう表情をしている時はやけに幼く愛らしく感じるから油断ならない。

「それは、妹たちのためかな?」

「…………」

 そしてこの教師は、それ以外のところでもまったく油断ならない。相変わらず生徒をよく見ているというか、生徒のことをよく分かっている。なんでこんなに気が利いて魅力的なのに結婚できないのか不思議で仕方がない。

 ここまで見透かされてしまっていてはもう隠すだけ無駄だった。他言無用を条件に話すことにした。話し終えると今度は優しい笑みで見つめられる。

「やっぱり変わったな、比企谷」

「妹のための行動なんて昔からやってますよ。今までと何も変わりません」

 つい目をそらしながら答えてしまう。視界の端で今度はくつくつと喉を鳴らしながら笑われる。今日はやけに笑いますね。

「清々しいほどのシスコンっぷりだな」

「別にそんなもんじゃないでしょ」

「だが、そういう比企谷は嫌いじゃない」

 なんだこの先生、男前すぎる。つい嘆息してしまうほどのかっこよさだ。この人のこういう部分には強く憧れてしまう。二人の恋人がいなかったら本当に俺がもらっちゃうレベル。

「まあ、捻くれてはいてもいい方向に進んでいるなら私からはなにも言うまい。ただ、あまり無理はするなよ? うまく隠しているつもりかも知れんが、最近の比企谷は少し疲れているように見えるぞ」

「そうですか?」

 自分ではあまり自覚はないのだが、そんなに疲れているように見えるのだろうか。

「まあ、気をつけますよ」

「そうか、それじゃあもう行っていいぞ」

 職員室から出て時計を確認する。放課後になって三十分くらいか、突然先生に呼び止められたから由比ヶ浜にも連絡してないんだよな。また雪ノ下から小言言われるのか……メンドクセ。

 

 

     ***

 

 

 放課後、二人と一緒に帰ってから手早くジャージに着替えて外に出る。まだ初夏にもなっていないこの季節の夕方は少し冷える。まあ、冷えるといってもジャージを着ていれば大して気にならないけど。

 軽く足首を回しながら歩いて、スマホのジョギングアプリを立ち上げる。距離を十キロに設定してゆっくりと駆けだした。

 少しずつ速度をあげて自分にあった速度を維持する。後は黙々と足を動かすだけだ。タッタッタッタッとアスファルトに規則正しい音がはじける。

 実のところジョギングはそんなに嫌いではない。なぜなら一人で誰とも関わらずに身体を動かすことができるからだ。ぼっちも楽しめるスタイリッシュスポーツ。もう材木座と組みたくないし、授業の体育全部ジョギングでいいよ。……生徒の大半から批判されそうなのでやっぱりいいです。

 普段あまり運動をしていなかったツケか、最初の頃は次の日足が筋肉痛になってやばかった。しかもそういう時に限って二人がくっついてくるから冗談抜きで死ぬかと思った。

そういえば、最近は全然雨が降らないからいいけど、梅雨の季節とかはどうするかな。家でできる運動を調べておいた方がいいかもしれない。

 十キロという距離はペースを乱さなければだいたい三キロから五キロの間が一番苦しい。足に乳酸がたまって足がどんどん重くなる。しかしそこを超えるとエンドルフィンの分泌によってランナーズハイになりだいぶ身体が軽くなる。普通に完走するならそのままのペースで、もう少し身体を酷使するなら加速と減速を繰り返すのもありだ。ちなみに大体めんどくさくてペースを変えずに完走する。

 今日もペースを上げずに完走するつもりなのだが、なんか身体が少し重い気がする。いつもよりも前に出す足が少し遅い。単に少し調子が悪いだけかな? 最近は勉強のために早めに起きるようになったし。

 そうこうしているうちに家に帰りつく。十キロ五十分か、まあまあかな。今日はいつもより遅めだったし、もう少しタイムは縮められそう。少しずつ距離も伸ばすのもありかもしれない。

「ただいまー」

 玄関を開けるとおいしそうな匂いが鼻腔をくすぐる。今日はハンバーグか。

「あ、お兄ちゃん。用意できてるよ」

「早く食べましょ!」

 シャワーで汗を流してリビングに行くと準備を終えた小町といろはが待っていてくれた。

「いつも済まないね」

「それは言わない約束でしょ?」

 定番の茶番も忘れない。いや、別に俺床に伏せってるわけじゃないけど。

 

 

     ***

 

 

「むむむ……」

 なぜだろう、なんか今日は勉強にも身が入らない。昨日は解けた二次関数が解けんぞ、これは復習の必要が……。

「あれ……?」

 ちょっとくらっときた。いつもより早いけど眠くなっているのだろうか。あいつらはまだ来ていないけど先に横になって、明日早めに起きて続きやるか。

 ベッドに沈みこむとふわっと意識が持っていかれて……

 

 

 朝起きると完全に寝込みました。

「三十八度超えてるじゃん」

「昨日先に寝てると思ったら体調崩してたんですね……」

 どうやら自分でも気付かないくらい疲れていたらしい。先生に注意された次の日に体調崩すとか時すでにお寿司。というか真面目に勉強と運動しただけで体調崩すとか病弱設定追加しなくていいんだけど、有情破顔拳で十割出しそう、テーレッテー。

 ていうか、割と症状が酷い。熱っぽいを通り越して熱いし、頭がガンガンする。その上、関節が痛すぎてまともに動けん……。

「どうしよ、小町学校休もうか?」

「私も休みましょうか?」

 なんかこの子たち休む気満々じゃない? 俺の看病のために積極的に休もうとするとか俺のこと好きなの? あ、好きだったわ。

「いや、こんなの薬飲んで寝てりゃあすぐ治るって。ヨーグルトと薬と水持ってきてくれたらそれでいいから、早くいきな」

 さすがに俺のせいで学校を休ませるわけにはいかないし、日々進化を遂げる医療薬品の力の前ではただの風邪など象に踏まれる蟻のごとく瞬殺である。というか、二人に風邪うつったらお兄ちゃん罪悪感で死にそうだから。

 なんとか二人を説得して登校してもらった。痛む身体をなんとか起こしてヨーグルトを食べ……なんかびっくりするくらい喉を通らないんだけど、通らなすぎて食欲もなくなるレベル。なんとか一口飲み込むともういいやって気分になってしまった。まあ、食後の薬を飲むために食べたのだから一口でいいだろう。薬を飲んで横になる。なんか今の作業だけで死ぬほど疲れた。瞼もだんだん重くなって……。

 

 

 …………?

 なんだろ、額のあたりと手に心地いい温かさを感じる。熱の熱さとは別の穏やかな温度。柔らかな触感が少し気持ちいい。これは夢、かな? なんかふわふわしてるし夢だな。なんとも俺らしくない夢を見ていると苦笑してしまう。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 小町の声が聞こえる。ただの風邪程度でそんな不安そうな声をあげられてもこっちが困るぞ。

「ごめんなさい、お兄ちゃん……」

 いろははいろはで何に対して謝っているのか。ていうか、妹二人の声の聞こえる夢とか逆に俺らしい。

 ん? いや、さっきまでふわふわした感じだったけど、今はむしろ額に乗せられた手の感触とか手を強弱をつけてにぎにぎされるこそばゆさを結構生々しく感じている気がするんですが……。

「……?」

「あ、起きた」

 うっすら瞼を開けると目の前にいるいろはと小町。夕方までずっと寝てしまってたのかと時計を見ると……正午?

「なんでお前ら、帰ってきてるんだよ」

 平日の正午ですよ? まだ学校の時間でしょ? 俺が怒っているように見えたのか、二人はもじもじもごもごし始める。いや、別に怒ってないんだけど。

「だって……」

「ん?」

「だって、お兄ちゃんが風邪引いちゃうまで最近頑張ってたのは小町達のためなんだよね?」

 え、いや、ちょっと、なんでそんなこと思っちゃうのかな? ハッ、まさかこれが八幡検定一級の人間の力。いやいやそんなわけないだろ。

「な、なんのことだ?」

「さっき、お兄ちゃんが風邪を引いたことを平塚先生に言いに行ったら、先生が教えてくれたんです」

 あの横暴教師、他言無用って言ったのに一日で破ってやがる。もう今後はあの人に秘密は絶対話さない。

「私たちのために、勉強とか頑張ってくれてたんですね」

 あぁ……。

 そういう顔が見たいんじゃないんだ。そんな悲しそうな顔を見るために努力しようと思ったわけじゃないんだ。二人の頭に手を乗せて軽く撫でる。まだ関節が痛むけど、少しはよくなっているようだ。

「お前らのせいじゃないし、頑張ろうと思ったのは俺のためだよ。大好きなお前らに少しでもいいところが見せたかっただけなんだから。逆に情けないとこ見せちまってるけどな」

 驚いた表情を見せた二人は次第に柔らかい笑みを浮かべる。

「今のお兄ちゃんは情けなくなんてないよ」

「そうですよ、今のお兄ちゃんかっこいいです!」

 そ、そんなこと面と向かって言われると恥ずかしいんですけど……。なにこの子たち俺をさらに惚れさせたいのかな?

「けど、今のお兄ちゃんは病人さんなので、しっかり看病してあげますね?」

「いや、そんなことしなくても大丈夫だから……」

 看病してもらって風邪うつしちゃったら嫌だし……。

「ヨーグルト一口しか食べてない病人さんの言うことなんて聞けないよ」

「そ、それはほら朝だったからだし、今はだいぶ調子いいぞ?」

「……えいっ!」

「ぎぐっ!!??」

 やめて! 関節ぎゅってしないで! 関節痛がやばいから!

「やっぱりまだ酷いじゃん」

「私たちがお世話してあげますからね~」

 ……どうやら、拒否権はないっぽい。

 




おかしいな、看病シーンまで6000字くらいに収める予定だったのにそこまで行かなかったぞ?

というわけで看病シーンは時間におあずけ


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妹たちはお兄ちゃんにご奉仕するのである

R-18です


「あのさ、自分で食べられるから……」

「関節まだ痛いのにどうやって食べるんですか」

「こういう時は楽するべきなんだからさ」

 どうしてこうなった……。

 昼食におかゆを用意されたのは、まあいい。朝ヨーグルト一口だけだったからおなかすいてるし、一人だと昼食べなかったまであるからとてもありがたい。けど、どうして俺はいろはに後ろから抱きすくめられながら小町に「あーん」をされているのだろうか。

「お兄ちゃん、もっと私に体重を預けていいんですよ? 今は私のことを世界一柔らかくて気持ちいい背もたれだと思ってもらえればいいですから」

 いやあのね? なんかね? 寄りかかるとね? 世界一柔らかい中でも群を抜いて柔らかい部分がですね? 背中に当たってね? きもち……心臓が破裂しそうになるんですよ。

「そうだよお兄ちゃん、無理しなくていいからね? はいあーん」

「あ、あーん……」

 あーんなんて学校でしょっちゅうやられているが、家の、しかも自分の部屋という環境のせいか妙に恥ずかしい。恥ずかしいせいでおいしいんだろうけど、おかゆの味が分からない。緊張すると本当に味が分からなくなるんだなと体験しなくても別にいいこと体験しちゃった。

「ていうか、お兄ちゃん汗びっしょりですね。食べ終わったら服着替えましょう」

 いろはがさわさわと服を触ってくる。その際服越しに身体を触られて、少しこそばゆいというか……。

「ひぅっ……そ、そうだな。このままだと風邪が悪化しちまうもんな」

 ちょっと変な声は出てしまったが、努めて平静を装いつつおかゆを食べる。もうこれはあれだ、無心になるべきだ。首から下はないものと思ってひたすらおかゆを口に運ぶ機械になってしまおう。

 まあ、そんなことは土台無理で、しっかり首から下に広がる感触に耐えつつなんとか完食した。疲労感半端ねえの。

「……ごちそうさま」

「はい、お粗末さま! じゃあ着替えようか。小町はお兄ちゃんの服を用意するのでいろはさんは濡れタオルの用意をしてください」

「わかったよ~」

 着替えくらい自分でできると言いたかったが、二人から発せられる「絶対一人では着替えさせないぞオーラ」がすさまじく、声の一つも上げられなかった。お兄ちゃんの立場ってなんだろうね。

 小町はおかゆの食器を片づけて戻ってくると、俺の服を取り出そうとタンスの前に立つ。ごくりと息を飲み込むと思いっきりタンスを引きだした。

「わぁ……」

 あの、そこにあるのトランクスなんですけど、なんですかその感嘆。拒絶とかの声よりも数倍ましだけど、顔赤くしてじろじろ見られると超恥ずかしいんですが……。

 たっぷり十秒ほどトランクスラインを凝視していた小町ははっと我に返ってトランクスの一枚を取り出し、上下のスウェットも用意する。そこにちょうどいろはがほかほかの濡れタオルを用意して戻ってきた。

「それじゃあお兄ちゃん、身体拭くのでまずは上脱がせちゃいますね~」

スウェットを脱いで上半身裸になる。ジョギングで体力と足腰はそこそこ鍛えているけど、筋トレなんかもしていないから上半身は全然自信がない。いや、自信があっても正直彼女二人に見られるの死ぬほど恥ずかしいんだけど、むしろすでに死んでるまである。

「じゃ、じゃあ、拭きますね……」

「あ、ああ……っ」

 おずおずと背中に当てられた濡れタオルの優しい感触に身構えていても一瞬息が詰まる。その後もゴシゴシというよりはフサァ、ファサァみたいな拭き方をされる度にこそばゆい感覚が広がる。

「じゃあ小町は前を拭いてあげよう」

「いや、前くらいは自分で……ひぅっ」

 ベッドの上を四つん這いでにじり寄ってきた小町がもう一枚の濡れタオルで胸元を拭こうと迫ってきた。後ろにはいろはがいるので身体をよじって逃れようとすると、そのせいで柔らかで湿った布が乳首を撫ぜ、思わず裏返った声をあげてしまった。

「お、お兄ちゃん……なんかその声エッチな感じだからやめてよ……」

「そ、そう思うなら、くふっ……そこ、弄んな……ぅぁっ……」

 口では非難しながら執拗に乳首を責めてくる。微妙な、しかし明らかな快感が断続的に身体を駆け巡ってどうしても声を抑えることができない。

「むぅ~……お兄ちゃん気持ちよさそう……えいっ!」

「ふぁっ!? ちょ、ちょっとまていろはっ、ひぁっ、くはっ……両方同時は、ま、待って……」

 背中を拭いていたいろはが空いているもう片方の胸の頂きをタオルで刺激してきた。ゆっくりと円を描くように刺激してくる小町と細かく振動を与えてくるいろはの二つの責めに小刻みに身体は震えるし、声をできる限り押し殺そうと奥歯を思いっきり噛みしめることに精いっぱいで抵抗する力もない。さらに胸を責められる段階でいろはが俺に抱きつく形になり、背中に人体とは思えないほど柔らかいものが……。

「お兄ちゃん、妹二人に乳首弄られて気持ちいいんだね」

「っ!」

 乳首を弄るタオルの動きを止めることなく見上げてきた小町の表情は今まで見たことのないくらい色気に富んでいた。潤んだ目にはどこかサディスティックな光が揺らめき全体の妖しさを増す。後ろから抱きつかれているいろはの呼吸も荒く、熱い呼気が彼女の口のすぐ近くになる耳を何度も淡く刺激して、ゾクゾクとしたものが背筋を走る。

 いつしかタオルは俺の膝に落ちていて、指で直接刺激してくるようになっていた。柔らかいタオルによる淡い刺激とは明らかに違う電流にも似た刺激に、もはや声を殺すこともできなかった。

「ぁっ、はぅっ、二人、とも……それ、やばい、から、ぃっ、待って……」

「っ~~、お兄ちゃんかわいい……」

「あはっ、お兄ちゃん声がふやけてますよ?」

 妹たちにこんな姿を見せているのだと思うと余計に羞恥を煽られる。しかし、今となってはその羞恥すら、官能を引きたてるスパイスにすぎない。俺にも、そしてきっと彼女たちにも……。

 そしてその官能は新たな官能を引きだす。ゆるく口を開け、ぽーっと俺の身体を視姦していた小町は――

「ぺろっ」

「っ!?」

 首筋をぺろぺろと舐め始めた。生温かいぬめり気のある味覚器官が肌を伝う度に穏やかな官能の波が広がる。穏やかだが苛烈な波は二人に弄られ続ける突起から発せられる波と合わさりその大きさを何倍にも膨れ上がらせる。

「お兄ちゃんったら妹にぺろぺろされて気持ちいいんですね……それじゃあ……はむっ」

「ひぅっ!? い、いろは!?」

 後ろからさらに追い打ち。いろはが俺の耳を甘噛みしてくる。はむはむと唇で耳介の上部分を食んだかと思うと、その輪郭をなぞるように口の中で舌を這わせてくる。それは完全に未知の感覚だった。未知すぎてそれが快感なのかも認識できない。

「ま、まっへ……しょ、しょんなにひたら、なんか、ふあっ、おかひく、なりゅ……っ」

 二つの手と二つの口から送られてくる刺激の暴風は俺の許容量を完全に超えていた。思考はまともに働かず、身じろぎすらできない。

「お兄ちゃんろれつ回ってないよ?」

「女の子みたいな声上げちゃって、もっと私たちを惚れさせたいんですかね?」

 カラカラと笑う二人。うーん、天使。いや、既に一周回って悪魔な上により具体的には淫魔。そんな艶を帯びたカラカラ笑い俺は知りません。

「ぴちゅっ、れろっ、ちゅっ、ちゅううぅぅぅっ」

 小町は首筋を中心に顎の下や鎖骨などに唇をせわしなく動かし、舌を這わせたり唇で吸いついてくる。その間、乳首を弄り続けていた手は爪先で軽く引っかくようにしたり手のひらで薄い胸板全体を解き解すように揉んだりとバリエーションを増やしてくる。

「れるっ、ぺちゃっ、んちゅっ、くちゅっ……」

 俺の耳介をひとしきり甘噛みしたいろはは舌を耳の中に差し入れてくる。明らかな異物が侵入してくる違和感もすぐに快感に変わる。わざと立てているのであろう水音は直接脳髄を撫でられたかのようで、背筋をゾクゾクしたものが何度も駆け巡った。

 今更だが、既に身体を拭くという目的は完全に失われて、ただただ快感を受ける・与える行為になっていた。最初はどこかたどたどしかった二人の動きは今では熟練者のように滑らかで、積極的に俺の快感を昂ぶらせていく。耳も首も二人の唾液でびちょびちょでそこに触れる空気の冷たさすら快感に変わろうとする。

「お兄ちゃんの乳首……女の子みたいに硬くなってて、おいしそう……」

 あの、小町ちゃん? また何か考えてるのかな? これ以上何かされたらお兄ちゃん快感で死んじゃいそうなんだけど……。

「こ、こま……ひやっ!?」

 制止しようとした矢先、小町が胸の頂きに吸いつく。柔らかい唇でついばまれ、熱い舌で転がされる快感は手でやられるそれとはまた違うものだった。

「っ~~~、っ~~~」

 その快感にもはや声も出ない。水を求める魚のようにひたすら口をパクパクさせるだけで、出るはずだった嬌声は喉を超える前に音を失ってしまう。思わず身体をのけ反らせようとするといろはと密着することになるし、柔らかい感触から逃げようと前に体重をかけようものなら小町に自分の胸を押しつけるようになってしまう。

 もうね……どっちに行っても地獄。

 今なら阿鼻地獄でも余裕で生活できるかも知れん。ごめん無理。

「お兄ちゃんそんなに気持ちいいんですね~。じゃあ、もっと気持ちよくしてあげます」

 耳の中で囁かれ、また背筋をゾクゾクと震わせていると……乳首を思いっきりつままれた。

「かはっ!? っ!? っ~~!!??」

 ちょっと待って無理無理もう無理こんな刺激耐えられるわけがない。もはや気持ちいいを通り越して怖いこんな快感知ったら戻れなくなりそうで怖い。

「れろっ、ちゅるるっ、いいよお兄ちゃん、いっぱいいっぱい気持ちよくなって」

「ぺちゃっ、ぴちゃっ、怖くないですから私たちでもっと感じてください」

 俺の恐怖を感じ取ったのか優しい言葉をかけながら二人はさらに責めを激しくしてくる。小町は空いた両の手で腹部と鎖骨をさわさわと刺激してくるし、いろはは舐めている方とは別の方の耳も小さな手を駆使してふやけさせてくる。

「ちゅっ、ちゅる、ぢゅるるるるううぅぅぅっ」

「えいっ!」

 そして、小町が思いっきり乳首を吸いたてるのといろはが頂きを激しくしごきあげるのが同時に起こり――

「っああぁぁぁぁ~~~~っ!!」

 視界が真っ白に染まった。身体はぴんと伸びたまま石像のように固まり、むしろそうなったことすら知覚できなかった。五感が全て失われたかのような感覚の後、じんわりと熱を取り戻すと……ゆっくりと身体が脱力していった。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫……ですか?」

 二人が心配そうに声をかけてくる。そんな心配そうな声をあげるならもうちょっと手加減してほしかった。いや、気持ちよかったんだけどさ。

「ぁ、あぁ……たぶん、大丈夫……」

 まだぼーっとするが、まあたぶん大丈夫。

「じゃ、じゃあ今度こそちゃんと身体拭こ……ぁ……」

 少し安心した様子の小町は俺の膝に落ちたタオルを取ろうと視線を下に向けて、止まる。後ろから「わぁ……」といろはがかすかに感嘆を漏らすのが聞こえ、何事かと小町の視線をたどると……。

「あ……」

 ズボンにいつの間にか張られてしまったテントが恥ずかしくもしっかりと自己主張していた。

 …………

 




これはR-18ですか?
>よくわからないから一応R-18タグを付けておこう(震え声

いやー、最初の予定では多少過度なスキンシップをしつつも普通にお世話をしてくれるだけだったはずなのにオッカシイナー
ま、かわいいからいいか

というか八幡から溢れるヒロイン臭が半端ない


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続・妹たちはお兄ちゃんにご奉仕するのである

R-18なんで注意


 ……………………

「あ、あの……一体何をされていらっしゃるのでございましょうか……」

 上半身を拭いた後……あれ? 全然拭いてなくない? ま、まあとりあえず。あの後ベッドにあおむけに寝かされた俺の足下、というか股間のテントの前にいろはと小町が陣取っている。ちなみに上半身は裸のままである。上半身裸で妹たちに股間を凝視されるお兄ちゃん、さすがの八幡もドン引き。いや俺のことなんだけど。

「だって、ちゃんと全身拭かないといけないし……」

「ね、やっぱりそうだよね……」

 ほのかに上気した二人の顔はどちらもとろんとしていて、説得は無意味と悟る。そもそも、この状態で我慢はさすがに無理と言うか、二人の表情がエロすぎて体調を崩していなかったらそのまま押し倒していたまである。

「お兄ちゃんのここ……凄い張ってて苦しそう……」

「今から楽にしてあげますね?」

「あ、ああ……」

 あれれ? おかしいぞ? 確かつい数秒までに全身を拭くと言っていたはずなのに、既にこの二人俺の股座のことしか意識になさそうなんだけど……。いやいやまさか、お兄ちゃんそんなえっちな妹持った記憶は……さっきまでのは十分えっちでしたねごめんなさい。

「…………」

「…………」

 緊張しているのか二人は身じろぎせずにテントに視線を集中させている。余計な音が一切ない空間に聞こえるのは少し荒くなった二人の息遣い。呼吸音というただの生命活動の音だというのに、それだけでこれから起こるであろうことに対する期待が高まる。

 ごくり、と。

 思わず飲んでしまった生唾の音は予想以上に大きな音を立てて部屋の中に響き渡り、その音で二人の愛らしい恋人たちはハッと顔をあげる。視線の先の俺の顔に何かを感じ取ったのか、二人とも深呼吸をして覚悟を決める。

「そ、それじゃあいこうか……」

「う、うん……」

 二人の手が両側からゆっくりとズボンの中でいきり立つ逸物に近づき――ゆっくりと触れる。

「くぁっ!?」

 ゆっくりとほんの少し軽く触れただけのはずだった。俺も健全な男子なのだし、自慰行為の一つや二つやる。男根に手が触れる快感にもある程度耐性があるものだと思っていた。

 他人にいきり立った局部に触れられることがここまで気持ちいいなんて知らなかったのだ。二枚の布越しだというのに、女性らしい手の柔らかさがありありと感じられる。

「うわぁ……おっきぃ……」

「すごく、熱いですね……」

 初めて触れるであろう男根に二人は夢中になっているようだった。何気に大きいと言われたのはうれしかった。「お兄ちゃんのはどうしようもない粗末チンだね、小町がっかりだよ。でもでも、それでお兄ちゃんを嫌いになったりはしないよ。あ、今の小町的にポイント高い!」とか「うわ、お兄ちゃんの小さすぎません? 別に嫌いになることないですけどちょっと拍子抜けなんでおちんちん長くする薬とか試してください」とか言われたらお兄ちゃん悲しみのあまり扉の向こうに行けちゃうレベル。いや、嫌いにはならないを強調するあたりだいぶ希望的観測入ってる気がするけど。

 小町はさわっさわっと撫でるように肉棒の上から下までさすり上げ、いろはは海綿体の硬さを確認するように指先で揉んでくる。射精に追い立てられるほどではないが、じんわりと視界に靄がかかるような気持ちよさだ。ふにふにさわさわとどことなくぎこちない手つきが逆に俺の官能を刺激する。

「そろそろ……」

 二人の手が肉棒から離れる。おあずけを食らった犬のような物悲しさを一瞬覚えるが、おずおずとズボンのウエスト部分を掴まれるとこの後行われるであろう事象に期待が膨らむ。ところで二人ともズボンと一緒にトランクスにまで手をかけてるんだけど大丈夫?

「お、お兄ちゃん。ちょっと腰浮かせて」

「お、おお……」

 まさか小町からズボンを掴まれてこんなこと言われるなんて一年前の俺は想像しただろうか。いや、してたらダメだろ。腰を少し浮かせるとズボンとトランクスが同時に下ろされ、二人の眼前に肉棒が露出する。

「うわぁ……ちっちゃい頃にお風呂で見たのと全然違う……なんか、ちょっと怖い……かも……」

「そうかな? 私はなんかちょっとかわいく見えるよ」

 小町と最後に風呂に入ったのは小学校五年くらいだったか。まあ、その時は第二次性徴期前だし、身体も今よりずっと小さかったからな。まして勃ってなどいなかったわけだし。

 それに比べて、いろはのこの落ちつきっぷりはどこからくるんですかね? 初めて見た勃起ペニスを「かわいい」と表現する子が歳下にいるとは思わなかった。いや、まさか初めてではないのか? しかし、最初の緊張具合からして初めてだと思う。ということはあれだな、エロはすモードなんだなきっと。エロはすモードすごいよ、さすが小町のお姉さん!

 アホなことを考えていたらまた二人の手が肉棒を包み込む。二枚の布越しでも気持ちよかったのだから、直接触られると快感は先ほどの比ではない。思わず漏れそうになる声を必死に押し殺す。

「すっごい硬いね。骨がないのに不思議。えっと……海綿体って言うんだっけ?」

「あ、けど先っちょの皮がむけてるところはぷにぷにして柔らかいよ~」

 小町は海綿体を硬さを確かめるように竿を上下にしごき、勃起しても柔らかい亀頭を手のひらを使ってむにむにと揉みこんでくる。触っているうちに緊張も解けてきたのか二人の目は好奇心旺盛な子供のように無邪気で、その目と実際にやっている行為とのギャップがまたいやらしさを際立たせていた。二つの手が別々の意思で肉棒を弄ぶ、四つの目に余すことなく視姦される。首筋をゾクゾクとした快感が走りぬける。

 これは、やばいかもしれない。

 ぎりぎり残っている理性が警告をあげてくる。このままこの快感に身を委ねてしまっては、もう戻れないかもしれない。そういう危機感を感じた。しかし、まともに動くことのできない現状では逃げることもできず、そもそも頑張って俺を気持ち良くしようとしてくれている妹たちを見ると抗うという選択肢は霧散してしまった。

「ぁ……なんかぬるぬるしてきました。これって、先走り汁……だっけ?」

 尿道からあふれ出し始めたカウパー腺液に気がついたいろはが指先で掬い取り、鼻を近づける。なんでそんなのの匂い嗅ごうとしてるのん? すんすんって鼻動かすのかわい……じゃなくて、高揚した顔よぬらぬら妖しく光る指先がいやらしいんだけど。……今のは言い直す必要なかったのでは、言い直した方が酷かった。

「あんまり匂いはしないみたいですね~」

「そうなの? おちんちんはこんなに匂いすごいからそのおつゆも凄い濃い匂いがするのかと思った」

 え、そんなに匂いきついのか? ちゃんと洗っているのだが……。あ、そもそも今日はずっと寝込んでたし結構汗かいてんじゃん。そりゃ匂いもこもりますわ。

「おい、恥ずかしいからあんまり匂いとか嗅ぐなよ……」

「えー、でも小町結構この匂い好きだよ? ……特にここら辺から濃い匂いが……」

 小町の上半身がどんどん下がっていく。頭は男根の下の方に近づけられ、ってちょっと待て待て待て待って!

「ぺろっ」

「ふあっ……」

 玉袋をべろりと舐め上げられた。男性器の中でも特に蒸れる部分だし、一番匂いがこもっているのは事実だろう。というか、そんなところを躊躇なく舐める小町がエロすぎる。竿と玉の付け根部分に鼻先を押し当てて、すんすんと鼻を鳴らしながら睾丸を舐め続ける。全体を舐め上げるようにべろっと舐めたり、袋の皺を伸ばすようにちろちろ猫の水飲みのように小刻みに舌を這わせたり、バリエーションを増やしながら甘い刺激を与えてくる。

「小町ちゃんずるい~。……じゃあ、私はこっちを……あ~むっ」

「うあっ!? ちょっと待て! 二人とも口はやばい……っ」

 いろはは小さな口を大きく開いて、亀頭の半分ほどを咥え込んだ。唾液と一緒に我慢汁を咥えた部分に塗り広げながら、少しずつ亀頭を口腔に迎え入れていく。我慢汁のぬめりが気になるのか、それとも変な味がするのか時折眉を寄せるが、口の動きは決して止めない。献身的なその姿がまたいじらしい。

「ぺろっ、ぺちゃっ、れろれろ……ちゅっ……」

「じゅぷっ、ちゅるっ、れろぉっ……」

 男性器から発せられる雄の匂いに当てられたのか二人の舌使いもどんどん激しさを増す。いろははいつの間にか亀頭全体を咥え込み、舌の腹を尿道口に押し当てたり、えらの部分に舌を這わせたりしながら小刻みに頭を上下に振っているし、小町は小町で蟻の戸渡りを舌先でぐりぐり押しこんだりと完全に未知の刺激を叩きこんでくる。

 愛している、しかもとびっきりの美少女二人にこんなことをされて、女性経験のない俺が長く持つはずもなく。

「くっ……も、むり……出るっ!」

 尿道を精液が駆けあがり、体外に勢いよく飛び出した。その出口たる尿道口はいろはの口の中にあり、彼女の口内に勢いよく流しこまれる。

「んんっ!? んぶっ、んんんっ……んくっ……」

 突然の放流にいろはは一瞬身を固まらせるが、舌を尿道口に当てて喉を刺激しないようにカバーする。その触れた舌が新たな刺激となってさらに精液を送り出す。精の放出がようやく止まることには、口に入りきらなくなった精液がどろっと口の端から漏れ出てしまっていた。

「ぷはっ……ふわぁ……いっふぁいれまひた……」

 口に精液を湛えたまま恍惚の表情を浮かべるいろはは扇情的で腰のあたりがまた少しぞわぞわしてくる。

「こまひひゃん……」

「ぁ……いろはさん……」

「おふほわけ……」

 いろはは小町の肩に手を乗せると、その唇を奪った。

「んんっ!?」

「れろっ、ぷりゅっ、ぺちゃっ、んぁっ……」

 舌を使って粘性の高い白濁が小町へ移される。最初は驚いていた小町もすぐにその白濁を受け入れ、いろはと舌をからませる。お互いの唾液を混ぜながら白濁が互いの口の中を行き来する。少しずつ二人で飲んでいるようで、交換される精液の量は次第に少なくなり、最後には白濁はもう見られないのに二人のキスは続けられた。

 いや、うん……。

 女の子同士のディープキス、すっごいエロい。エロいというか尊い。

 そりゃあ、百合雑誌が売れますわな。

 で、そんなものを間近で見せられて、生々しい音まで聞かされてしまっては――

「ぷはっ……あ、お兄ちゃんまた大きくなってるー」

「私たちでまた興奮しちゃったんですね~、かわい~」

 もう俺の魔槍グングニールも少しどころか完全回復で水ドロップ強化しちゃうレベルにそそり立ってしまうわけですよ。

「あんなに出したのにまだこんなにギンギンだなんて、お兄ちゃん性欲強くないですか~?」

「お兄ちゃん出そうになったらたまたまがキュッてなってちょっとかわいかったよ」

「なにそれ! 私も見てみたい!」

「じゃあ、次は場所交代しようね!」

 あの……キャピキャピとガールズトークみたいなノリで卑猥な行為の相談しないでもらえます? というか、あんなエロいの見せられたら誰だって勃つわ!

 

 

 その後、攻める場所を変えてもう一発抜かされました。いや、気持ちよかったんだけどね。

 

 

     ***

 

 

「ん……?」

 どうやら途中で意識を持っていかれたらしく、目が覚めたときにはすでに夕方になっていた。とりあえず、起きあがれる程度には回復したっぽい。替えの服に着替えさせられていて何事もなかったかのように布団をかぶせられていたが、消臭剤の匂いにかすかに混じる雄の匂いが、あれは夢ではなかったということを理解させた。

 いやまあ、ずっと一緒にいるならいつかはそういうこともするのだろうと心の隅で思ってはいたが、まさかこんな一方的に攻められることになるとは思いもしませんでしたね。ちょっとくせになりそ……いやいやいやいや。

「あ、お兄ちゃん起きた? ご飯食べれそう?」

「あ、ああ……」

脳内プチ反省会をしていると小町が入ってきた。どうやら夕飯の準備をしていたようで、黄色のエプロンをつけている。マジ天使みたい。

 小町はとてとてと寄ってくるとちょこんとベッドの端に腰かける。

「今日はごめんな? お前らに迷惑かけちゃって」

「ううん、迷惑かけてもいいよ。だって家族じゃん」

 にかっと笑う小町はまぶしくて、つい頭を撫でてしまう。「はわっ」と顔を赤くしながら俺の手の動きに身をゆだねていた小町だったが、俺に向き直って「でも」と続ける。

「いくら小町達のためとは言っても、今回みたいに無茶しないでね? 迷惑じゃないけど、心配はするんだから……」

 確かに、今回は変な維持を張って平塚先生に呼び止められるまで誰にも、何も言わずに勝手に体調を崩して二人に迷惑をかけてしまった。彼氏としてもお兄ちゃんとしても大変情けない。

「ああ、これからは気をつけるよ」

「そっか。じゃあ、約束……しよ?」

 正面にある小町の瞳は潤んでいて、何を求めているのか丸わかりだ。小町の小さな顎にそっと手を乗せて、軽く唇を合わせた。

 軽く唇を触れさせるソフトなキス。高まるのは官能ではなくじんわりと胸に広がる愛情だった。

「小町ちゃ~ん、お兄ちゃん起きた……ってああああ! ずるい! 私をのけ者にするなんてずるい! ずるいずるいずるい!」

「「あ……」」

 まだ唇が触れ合っている時、扉が開くと同時に入ってきたいろはが烈火のごとく捲し立ててきた。いや、よく聞くと「ずるい」しか言ってないけど。

「こないだ生徒会室でいろはさんも抜け駆けしてお兄ちゃんにキスしてたじゃん」

「いや、それは、そう、だけど……。でもでも! あの後小町ちゃんもキスしたし! う~、お兄ちゃん私ともしてください!」

「え、いやちょっとま、んんっ!?」

 早きこと島風のごとし。言うが早いか飛びつくように唇を押し付けてきた。そんなに焦る必要はないと思うんだが、焦っても羅針盤は狙ったルートに行かないよ?

 まったく、うちの恋人兼妹たちは相も変わらず騒がしくて、かわいらしい。そんな二人のために、やっぱり頑張りたいと心の底からそう思えた。

 次は心配をかけないように気をつけながら。

 




3人動かすのむずかしすぎぃ!

ところで、受け八幡(ホモ的な意味じゃなくて)はあまり受けがよろしくないのかしら(ダジャレ的な意味じゃなく)?
ヒロイン性の高い八幡は女の子に攻められても映えると思うのだけれど、ソフトMくらいの八幡とかかわいいまである


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葉山隼人はライバルである

 妹たちの献身的な介護もあって、あれだけひどかった風邪も二日で回復した。一応断っておくが献身的介護に性的な意味は少ししか含まれていない。

 で、しばらくは平穏無事の平常運転で学校生活を過ごしていたある日、その日は、その日の体育は少し勝手が違った。今の時期の選択はサッカーとテニスで俺はいつも通りテニスを選択していて、今日も今日とて壁打ちするか! 壁打ち超楽しい! ……と思っていたのだが。

「や、比企谷君。一緒に打たないか?」

「…………は?」

 今年も学年、いや学校の帝王葉山隼人からなぜかペアのご使命を受けた。お前戸部はどうしたんだよハヤトベで組んどけって、海老名さん喜ぶから。

「たまには壁じゃなくて人を相手にするのも悪くないだろ?」

「いや悪い」

 いや実際壁のほうがいい。しゃべらないし、素直に返してくるし。人相手とか面倒くさいことこの上ない。

「つうか、なんか最近俺に関わること多くね? なんなの? 俺のこと好きなの?」

「んー、興味はあるかな?」

 自分でふっといてあれだけど、そういう言い方やめて! なんか体育館の方から愚腐腐腐腐……とか聞こえてきそうだから。

 実際、最近の俺と葉山は割とよく話す。と言っても、たいていは葉山が一方的に話しかけてくるのだが。俺は「なるほど」「すごいな」「悪いのは君じゃない」しか返さない、嘘です「ああ」とか「そうか」ぐらいでしか返しません。こいつは何がしたいのだろうか? お互い嫌い宣言をした俺たちが会話を交えたところでマジで海老名さんくらいしか喜ばないと思う。

「妹分のお兄さんに興味持つことは普通だろう?」

 ああ、なるほど。

 要は自分のことを慕ってくれていたいろはが溺愛する兄である俺を、こいつはもう一度見定めたいのだ。まあ、実際いろははクリスマスの時に葉山に告白しているし、そんないろはが教室でもどこでも俺にべったりなので気になってしまうのだ。葉山にとっては部活の後輩でもあるからな。あの告白の後のモノレールでいろは自身が言った「布石」がある意味結実していた。

 まあ、それだけいろはが愛されていると思えば悪い気はしない。しかし……。

「お前にお兄さんって言われると虫唾が走るわ。人の妹を妹分とか言わないでもらえませんかね」

 全体的にいい気はしない。お兄さんなんて言われると川崎大志を思い出してイライラするし、“分”とはいえ兄の前で兄貴然とされるとビッキビキに青筋が立つ。

「じゃあ、テニスで勝負しようじゃないか。俺が勝ったらいろはを妹分と思っていてもいい。比企谷君が勝ったら俺はいろはをもう妹分なんて言わないし思わないよ」

 さあどうする、と葉山は最近見せる意地の悪い笑みを浮かべる。まったくもって安い挑発である。しかし、残念なことにこの安い挑発を無視することはできない。無視すればいろはが葉山の妹分であるということを暗に公認することになり、そんなことはお兄ちゃんとして許してはおけないのだ。

「はあ、いいぜ。受けて立つさ」

「ああ、よろしくな」

 そんなこんなでなし崩し的に俺対葉山のテニス対決が開始された。自分の都合で三面しかないテニスコートの一面を使わせてもらうなんて葉山マジ帝王。当然俺はアウェー感マシマシだが、もともと俺のホームなんて家くらいしかないから関係なかった。あれ、おかしいな。なんか視界がぼやけてきたぞ? まさか葉山、俺の五感を奪う気じゃないだろうか?

 三セット先取のテニス対決は葉山のサーブから始まる。まあ、こいつがいくら万能超人だからと言っても本業はサッカー部だ。去年やったテニス対決でも確かにうまかったがあくまで素人としては程度で――。

 

 ――――ッ!!

 

 バシュッと、俺のすぐ横を風が凪いだ。振り返るとポン、ポン、とバウンドを繰り返すボールが一つ。

 見えなかったわけではない。しかし、去年の情報を参考にして構えていたため予想以上の球速に反応できなかったのだ。こいつ……まさか……。

「去年は本気だしてなかったな、てめえ……」

「さあ、それはどうだろ?」

 相変わらず意地の悪い笑みは崩れない。雪ノ下もそうだが、こいつもこいつで相当な負けず嫌いだ。本当に、厄介な奴らに絡まれてしまった。超人的スペックで負けず嫌いとか凡人に対するあてつけでしょうか?

 しかし、そこでおとなしく負けてやるほど俺も諦めがいいわけではない。むしろ諦めは悪いのだ、大切なものを話したくないときは特に。

 再び葉山がサーブを放つ。確かに球速は速いが、一度見て構えておけば反応できない速度ではないのだ。去年戸塚の練習に付き合ったときを思い出し、フォームを崩さずに打ち返す。そこからはお互い散らしつつラリーが続いた。

 あくまで素人の俺は奇をてらう必要はない。あくまで基本に忠実に打ち返す。ジャンプのテニヌじゃなくてサンデーの見上げてごらん派でよかったと思った。あれも最終的にアホみたいなスペックがバンバン登場したけどまだ現実的だったし。

「あっ……くそっ!」

 左に体が寄ったタイミングを見計らって葉山が右の手前に落としてきた。こいつ本当にサッカー部かよと思うほど的確な攻めだ。

 葉山は明らかにポイントを確信していた。あいつの目はすでに次のポイントを見ているようだった。しかし、俺はまったく諦めていない。全力で最短距離を走り込み、ボールに飛びつく。かろうじてラケットに当たったボールはやり返すように葉山コートの手前に落ちた。

「なっ……」

「おおお!! この試合すごいっしょ! テニス部同士でやってるみたいじゃん!」

 驚愕の表情を上げる葉山。戸部を含めギャラリーのテンションも上がっている。まあ、戸部は言いすぎだけどな。テニス部ならもっと打ち分けるだろうし、あくまで素人に少し毛が生えた程度の試合だ。

「君も去年は手を抜いてたんじゃないか」

 さすがの葉山も表情を引きつらせる。こいつのこんな表情はなかなか拝めないのでニヒルに笑って応戦してやる。

「別に、去年は去年で全力だったさ」

こうして対人戦をしてわかったことがある。ここ二か月近くほぼ毎日走るようになって、明らかに持久力と瞬発力が上がっている。去年よりも数歩遠くまでカバーできるし、息切れもそこまでひどくならない。テニス部部長の戸塚が認めたフォームの良さに体力とダッシュ力がつけば、おのずと守備範囲が広がって攻撃の機会も増える。

 いつの間にかアウェー感はなくなっていた。一進一退の攻防にギャラリーも息を飲む。ところでみんなテニスしなくていいんですかね。先生何も言わないしいいか。

 デュースを挟んで二対二。タイブレークは採用していないのでこのセットを取った方が勝ちになる。さすが葉山というべきか、これだけ地力を上げても追いすがるのが精いっぱいだ。しかし、葉山の顔にも試合開始時のような余裕は見られない。

 サーブ権を持つ葉山がボールを高々と放って――。

 

 ――キーンコーンカーンコーン。

 

「「あ……」」

 ボールはそのまま地面に落ちる。授業終了のチャイム、つまり試合のタイムアップだ。

「引き分けか……」

「そうだな」

 二人して息をつく。こんなに全力になった体育は初めてかもしれない。着替えるために教室に戻ろうとして……周りを囲まれた。

 なに? なんなの? 葉山と引き分けたからリンチにあうの? なにこの学校怖い! てか、それなら葉山に勝ってもどのみちリンチにあって俺デメリットあるじゃん! なんて不公平な勝負だ! さすが葉山汚い。

 と内心悪態をついていたのだが。

「いやー、ヒキタニ君マジすごいっしょ。隼人君とあんなにやりあえるなんて、なんでいつも壁打ちしてるんだよー! 隠すなんて水臭いっしょ!」

「え……?」

 戸部に肩を叩かれる。思いっきり叩かれたので痛いがリンチではない模様。戸部に続いて大和や大……大……童貞風見鶏、名前もよく覚えていないクラスメイトも声をかけてくる。あのすみません、ほんとにあなた誰でしたっけ? わからないから「お、おう……」とかしか返せないんですよ。しかし、戸塚に「八幡すごいよ! 僕、八幡のこと尊敬しちゃう!」と言われた時にはちゃんと紳士的に誠実に対応できた。俺えらい!

「大人気だな、比企谷君」

「誰のせいだと思ってやがる……」

 まだ多少息は上がっているがいつものさわやかスマイルに戻った葉山が話しかけてきた。ほんとこいつのせいで余計な体力を使ってしまった。

「いや、俺も本当は勝つ気満々だったんだけどな。まさか比企谷君があそこまでやるとは予想外だったよ。やっぱりいろはが慕うだけのことはある」

 葉山の言葉は本音だろう。きっと去年の俺ならボロボロに負けていた。これが、あいつらのために努力している結果なのだと思うと、少しうれしい。その結果が実感につながり、俺の自信の一つになる。自信は俺のやり方は間違っていないという自負に繋がり、もっと上に行きたいという向上心をかきたてた。

「今回は引き分けだったけど、次は勝たせてもらうよ。やっぱり君には負けたくない」

 こいつのことだ、最近の俺の変化に気づいて、しかしそれを表に出そうとしない俺を煽りたてるために今回の勝負を持ちかけたのかもしれない。そもそも葉山グループの三人がいるのに俺と組んで、あまつさえ試合までするというのはおかしい。深読みのしすぎかもしれないが、こいつならありえないことではなかった。

 まあ、負けたくないという言葉に嘘はないんだろうけど。もし俺が負けてたらメンタル潰れてた可能性もあったと思うんですが、ひょっとして俺のメンタルは強いだろっていう信頼かな? そんな信頼いらないわ、やっぱ世の中って苦い。MAXコーヒー飲みたい。

 けど、負けなかった。勝ちもしなかったけど、きっと負けていたあいつに負けなかった。だから……。

「ああ、俺もだ」

 だから俺も、こいつには負けたくない。

 俺はその日、葉山隼人を明確な目標、ライバルと定めたのだ。

 




妹がいない!?

以降の布石として葉山と絡ませる(健全な意味で)必要があったので一年ぶりにテニスをしてもらいました

ちなみに私のテニス知識はテニプリと見上げてごらんではぐくまれています
テニプリだけだったら修造とかは波動球連発してるものだと思っちゃうね

テニスをしたことは1回だけありますが、球を打つとへろへろな上に打ちたいコースから45度ほど外れて飛んでいって全然面白くありませんでした。やテ糞(テニスに対する熱い風評被害


そういえば、ある日妹が増えましてシリーズが韓国語翻訳されて韓国サイトにアップされてるらしいよ(了承済み)
他国の人にも読んでもらえるとは思っていなかったので震えが止まりません


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ライバルと大事な人は俺を強くする

 ぶっちゃけ、高校の一学期というのは目立った行事がなくて暇である。そう思っていた時期が去年までありました。いろはに頼まれて生徒会の手伝いをする機会ができて知る仕事の多さよ。まあ、今年から小町も手伝ってくれるし、いろはと小町と一緒にいられると考えると苦でもなく、むしろ楽しいのだが。ハッ、こうやって社畜精神を育まれていくのね!

 ただ、生徒会の手伝いで割と忙しいとは言ってもやらねばならないことがある。学生の本分、勉強であり、もうそろそろ期末テストである。つまりテスト勉強に皆いっぱいいっぱいになる時期なのだ。特に普段勉強をサボっている奴は必死に詰め込もうとして、部屋の掃除を始める。一人だと掃除を始めるから他の人に教えてもらったり、勉強会と称して複数人で勉強したりする。

「ヒキタニくーん、ここどういうふうに解けばいいんだべ?」

 そう、例えば戸部のように。というか、君も一応今年受験生だと思うけどそんなことで大丈夫なのん?

 先日の葉山とのテニス対決以来、俺の周囲は少し変わった。あの葉山とスポーツで引き分けたという話から皆の話題に上がるようになり、いつのまにか俺の文系成績が高いという話まで知れ渡るようになっていた。たぶん原因は上のお口の緩いガハマさん。それ以来、戸部を中心に時々現国などの分からないところを聞きにくる人間が増えた。

 いや、そこは学年三位の接点の少ない俺より学年二位の皆の葉山に聞けよ、と思ったのだが、どうやら葉山も雪ノ下と同じ天才肌タイプのようで、分からない人間視点に立つことが難しいらしい。

「ん? あぁ、こういう問題の場合は言い換えとか対比表現が本文にある可能性があるんだ。だから、本文をざっと見て近い表現や対比表現の単語を見つくろって、そこを中心に読めば答えは出てくるはず。ただ、そこら辺の語彙力は自力で付けるしかないけどな」

 対して俺は勉強でそこを補ってきたタイプなので、どこが分からないのか、どう考えれば解きやすいのかを理解しやすい。理解しやすいということは転じて教えやすいということである。戸部も総武高校に入学するぐらいなので地の学力はいいらしく、コツを教えると結構すぐに理解してくれる。ちなみになぜか由比ヶ浜は教えても理解できない。本当にあいつどうやってここに入ったんだろうか。

「ありがとーヒキタニ君! いやー、ヒキタニ君の教え方マジ分かりやすいわー。絶対教師とか向いてるっしょ!」

「教師なー、生徒の相手めんどくさそうだな」

「そういうところは相変わらずなのな。じゃ、ありがとねー!」

 教師、か。確かに人に教えるのは向いているのかもしれない。けど、教えるだけが教師じゃないもんな。問題のある生徒とかの指導もしなくちゃいけないし、俺とか。うん、ないかな。

 まあ、こんな感じでクラスメイトに少し教えたりするわけだが、勉強会というものには参加していない。いや、誘われはするのだが毎回断っている。勉強は一人でするものという基本認識は変わっていないから、という理由もあるのだが、一番の理由は別にある。

 

 

「お兄ちゃん、これ全然わかんない。仮定法過去ってなに……?」

「お兄ちゃ~ん、この時代偉人が多すぎて覚えきれませんよ~……」

 お馬鹿な妹たちに勉強を教えないと非常にまずいのだ。中間テストの成績見たときからやばそうだとは思っていたが、予想以上にやばい。というか、歴史関係に関して覚えろとしか言えないんだけど。

 面倒くさいと思わないことはないが、この時間は嫌いじゃない。それぞれ学年の違う俺達は学校での接触は限られている。その上帰れば走りに行って一人で勉強をしてとあまり構ってやれていない現状だった。だから、勉強会という形でも三人で一緒にいられるのはうれしい。

「うー、分かったような分からないような……」

「ふえぇ、全然覚えきれません……」

「「休憩!」」

 ……やっぱりうれしくないかもしれん。この子たち集中力ないのに普段勉強しないんだもん。そりゃあ、テスト勉強なんてはかどるわけないよね。

「だから普段から復習をしっかりやっとけとあれほど……」

 ぶっちゃけ中間・期末テストなんてほとんど授業の内容しか出ないのだから授業の復習をしておけばだいたいできるはずなのだ。特に文系なんてマジで覚えればいいだけなのだから反復練習でシナプス回路を刺激してやれば余裕まである。

「「だって、生徒会とかで忙しいし……」」

 なんかこいつら思考レベル同じだよな……だからハモるのか。

「最近は週の半分くらいは奉仕部で雑談していると思うが?」

 一学期も半ばを過ぎると生徒会も安定してくる。文化祭や体育祭の準備も少しずつ始まるのだが、去年までの下地もあるし、本格的に活動が始まるのも二学期からだ。なので、最近はよく奉仕部でのんびりしているのである。正論を突かれて二人とも「うっ」と身じろぐ。いかんな、生徒会の仕事が理由なら多少の言い訳にはなるが、放課後ダラダラしているのが理由で成績不振になったりしたらお兄ちゃんの監督責任になりかねない。

「よし、じゃあ明日からは放課後は奉仕部で勉強しようか」

 俺と雪ノ下は基本読書で過ごしているが、別にその時間を勉強に当てても問題はないのである。雪ノ下としても今年受験生の由比ヶ浜の意識の低さを危惧していたから同意してくれるだろう。

 しかし、俺の提案に上の妹は難色を示す。

「いや、でもほら、まだサッカー部はテスト前の部活停止期間に入ってませんし、マネージャーとしてそっちに行った方がいいかなと……」

 いろはちゃん、目が超高速で左右に泳いでますよ? 君の目はいつからマグロになったのかな? 動かないと腐っちゃうのかな? あれ、俺の目がマグロだった可能性が微粒子レベルで存在している?

「大丈夫、葉山にはしっかりお兄ちゃんから話をつけといてやるぞ。学生の本分は勉強だし、部活のせいで勉強が疎かになる可能性があるなら葉山も休ませてくれるだろ」

 生徒会ならまあともかく、部活を理由に勉強から逃げようなんてそうは問屋がおろさない。部長を抑えられてはぐうの音も出ないいろはは涙目になるが、ここで鬼になるのも優しさである。上の妹を押さえた俺は下の妹に優しく、やさしーく微笑みかける。

「小町は部活もないし、基本毎日参加できるな!」

「お、お兄ちゃん……鬼だ鬼いちゃんだ……」

 何を失礼なことを言っているんだこいつは。俺はシスコンではあるがロリコンではない。歳下好きとロリコンを一緒にしてもらっては困るのである。いや、妹関連に関しては吸血鬼もどきのアホ毛仲間の人よりレベルが高い自信があるけど。

 それでも渋っている妹たちに爆弾を投下してみる。

「お兄ちゃんはお前らのためなら鬼になるぞ。俺としても辛いが、中間よりも成績が下がったら今後一緒に寝ないまである」

 爆弾の効果は抜群なようで、ハッと顔を強張らせた妹たちは慌てて教科書に向き直った。俺もこいつらと寝られなくなるのは嫌なので、全力でバックアップするんですけどね。

 ちなみに、翌日葉山と雪ノ下に話すと二人とも了承してくれたが、その日から雪ノ下個人塾に強制入会させられた由比ヶ浜の呪詛にも近い悲鳴が学校にこだまするのであった。雪ノ下のスパルタ授業怖いからね、どんまい。

 

 

     ***

 

 

 そんなこんなで二週間ほど期末テスト対策スパルタ塾と化した奉仕部での勉強を経て一学期の期末テストが終了した。テスト終了と同時に由比ヶ浜が机に突っ伏したようだが、そっとしておいた方がよさそうだ。ああ、やっぱり今回もダメだったよ。雪ノ下の教え方は由比ヶ浜に合わないのね。教えるのめんどくさいから何も言わずに雪ノ下に押し付けるけど。すまんな由比ヶ浜、心の中で合掌だけしとくわ。

 次の日から随時テストが返却されて、成績表が配られるのはだいたい一週間後になる。

 テスト返却の時は授業中なのに教室がうるさくなるものである。自分の成績に一喜一憂し、友達との成績勝負で熱くなったりするようである。ぼっちの俺はいつも通り自分の成績だけを眺める。そのつもりだったが、後ろから声をかけられた。

「ヒキタニ君のおかげで点数上がったわー、マジヒキタニ君リスペクトっしょ!」

 戸部を含めた葉山取り巻き三人衆がやってきた。ちょこちょこ現国や古文のコツを教えていたが、どうやらしっかりと成績に結び付いたらしい。

「コツは教えたけど、お前らがちゃんと勉強した結果だろ? 由比ヶ浜なんて教えても自分で勉強しないから成績変わんないからな」

 奥から「私を引きあいに出すなー」とか聞こえてきたが、あまりに弱々しい声だったので放っておく。あの様子だと成績はお察しだろう。また、ゆきのんスパルタ塾に通えるドン! わーいだドン!

「いやでも! ヒキタニ君に教えてもらったやり方でやったからすごいやりやすかったし! ていうか、ヒキタニ君テストどうだったん?」

「あ、こらっ!」

 机に置いていた解答用紙を奪われてしまった。いやまあ、古文・漢文のテストだから恥ずかしい点数ではないのだが、親以外にテストを見せたことのない俺としては見られること自体が恥ずかしいのだ。だから、見ないでくださいお願いしますなんでもしま……。

「おお! ヒキタニ君95点とか凄いじゃん! 隼人君より点数いいし!」

 ――ピシッと。

 陶器が割れるような音が聞こえてくるくらい空気が固まった。正確には俺と葉山が同時に固まった。用紙を取り返そうと伸ばした手は空中で静止し、鏡を見なくても分かるくらい顔の筋肉がひきつった。

 しかし、心の中の俺は歓喜に震えていた。目標と、ライバルと見定めた葉山隼人に一矢報いたのだ。不覚にも単純に成績が伸びたことよりもうれしいと思ってしまった。

 そして恐らく、こいつは悔しいと思ったのだ。

「比企谷君、他のテストも比べてみようよ」

 おい葉山、いつものキラキラフェイスに内の感情が隠し切れてなくて、黒いキラキラオーラを纏ってるぞ。この負けず嫌いを発揮してもイケメンとかまじでむかつく。

「ああ、いいけど文系限定な」

 こいつを目標に定めてから、人と明確に自分を比較するようになってから、俺も相当な負けず嫌いだということに気付いた。目標、格上であると認識しているのに負けたくない。特に、こいつにだけは。

 結果だけをまとめると現国、古文・漢文、英語、世界史の四つのテストで勝負をした結果、現国、古文・漢文を俺が、英語、世界史を葉山が取り二対二の引き分けになった。「また引き分けか」と葉山が言ったがとんでもない。

「総合ではお前に負けるんだからどの道お前の勝ちだろ」

「それは勝負外だろ? だからやっぱり引き分けさ。むしろ今まで勝ってたはずの俺が負けた教科があるんだからむしろ俺の負けだよ」

「……なんか勝負だとか言いながらお互い負けを主張してるし……」

 いつのまにか背後に由比ヶ浜が立っていて、呆れたようにため息をついていた。俺の後ろに立つなとあれほど……言ってなかったな、テヘペロ。

「よう、アホガハマ。雪ノ下の逆鱗に耐える準備はできたのか?」

「うっ……。で、でもでも私だって数学ならヒッキーに勝てるし!」

 ビシッと数学のテストを突きだしてくるアホガハマさん。別に俺に勝ったところで逆鱗からは逃れられないと思うんですがそれは大丈夫なんですかね。後、32点でドヤ顔するなよ、アホに見えるぞ。あ、アホだったな。

 それと由比ヶ浜、お前は勘違いしている。

「由比ヶ浜、俺も人に見せるほどいい点数を取ったわけじゃないが、その点数をドヤ顔で見せるのはどうなんだろうか」

「な、じゃ、じゃあヒッキーの数学見せてよ! どうせ一桁とかでしょ?」

 確かに去年はそうだったけど、他人からそれを言われるとめちゃくちゃむかつく。このまま言いたい放題言わせておくのもあれだったので、渋々テストを見せた。

「え……」

 数学の点数は54点。一応平均の少し上だったので一安心だ。それを見た由比ヶ浜はテスト用紙を持つ手に力を込めながら、ぷるぷると震えだす。あの、俺の高校史上最高得点の数学テストが破れそうなんでやめてもらえません?

「ヒッキーなんでこんなに点数取ってんの? 去年の今頃とか数学9点だったじゃん!」

「去年は去年、今は今よ由比ヶ浜さん。いつまでも過去に縋っているようでは人間成長なんてありえないわ。勉強をすれば成績が上がるのは当然でしょう?」

 似非雪ノ下の声真似をすると正論を突かれたガハマさんは身じろぐ。その横で、葉山はまた意地の悪い笑みを浮かべていた。

「いろはと小町ちゃんのためか?」

「…………」

 やはり、こいつは俺の心境の変化を感じ取っていたのだ。だから体育の時といい今回といい、やけに俺に絡んできた。きっといい奴、なのだろう。やり方が嫌な奴だけど。

「別に、自分のためだよ。いつまでも頼りない兄貴でいるわけにはいかないだろ。それに、定期テストでこれじゃあ、実力テストや模試じゃまだ数学は点数が取れん」

 実際数学が平均以上だったのはそこまで捻った問題が出なかったからだ。教科書のような一つの公式だけを使う問題なら公式を記憶するだけでそこそこ解ける。しかし、実力テストや模試に出てくる複数の公式を組み合わせたりする問題はまだ俺には難しい。だからまだ全然なのだ。

「けど、努力の結果は出てるじゃないか。しかし、自分のためって言いながら結局妹のためってところが比企谷君らしいな」

「……うっせ」

 さわやかな笑顔でそんなこと言うな、恥ずかしいだろうが。

「……ヒキオって結構かわいいとこあんじゃん」

「妹たちのために密かに頑張っていた比企谷君。そしてそれを理解する隼人君。そんな隼人君に少しずつ心を開いていく、ハヤハチ。キマシタワー!」

「キマシタワー!」

「あんたらは擬態しろし!」

 ……なんか後ろから聞こえてきたが、怖いので無視。というか、鼻血の音二つ聞こえなかった? やっぱり増えてるの? このクラス怖い。

 

 

     ***

 

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん! 葉山先輩に現代国語と古文・漢文で勝ったってほんと!?」

「ほんとですか、お兄ちゃん!」

「お、おう……まあ、一応……」

 放課後、奉仕部に行くとスタンバっていた妹たちに問い詰められた。どうやらあの後二年間ずっと全教科学年二位を維持していた葉山隼人の敗北が学校中に知れ渡り、妹たちの耳にも入ったらしい。ついでにテニスで引きわけた話も。

「お兄ちゃんがどんどん自慢のお兄ちゃんになっていって、小町は鼻高々だよ」

「けどけど、私にとってはお兄ちゃんは前から自慢のお兄ちゃんですけどね!」

 笑顔の二人を見るともっと頑張ろうと思えてくる。まだまだ頑張れることはあるはずだと思えてくるのだ。

 ニコニコしていた二人だが、ふと視線を泳がせると「でも……」と続けてくる。

「最近密かにお兄ちゃんの人気が上がってきてて、それはうれしいといえばうれしいけど……」

「うん、お兄ちゃんが誰かに取られちゃわないか心配……」

 しょぼんと肩を落とす二人が愛おしい。こんなに思われていると感じるだけで、胸の奥が温かいもので満たされて、自然と手が二人の頭に乗せられる。

「お前らの自慢の兄貴で恋人になりたくてやってるのに、他の女子になびくわけないだろ。むしろお前らが誰かに取られないかこっちが心配なんだから」

 わしゃわしゃと頭を撫でると二人とも気持ちよさそうに顔を緩めた後、にひっと笑って抱きついてきた。

「お兄ちゃん以外の人なんて考えられないよ!」

「そうですよ。だから、絶対離さないでくださいね?」

「……ああ」

 小さく呟いて、二人の背中をそっと抱きしめた。

 

 

「……私たちは事情知ってるからって人前でいちゃつくのやめてほしいんだけど」

「それには同意だけど由比ヶ浜さん、今日はこの後私の家に来てもらえないかしら?」

「え、いいけど。どうしたの?」

「大した理由ではないわ。直前の詰め込みでは成績の上がらない由比ヶ浜さんのために今日から毎日個人授業をしてあげようと思っただけよ」

「あ、あの……ちょっとそれはご遠慮しようかな……」

「ちなみに拒否権はないわ」

「アッハイ……」

 その後、由比ヶ浜の姿を見たものはいなかった。ごめん嘘。

 

 

     ***

 

 

「さて……」

 俺の目の前には伏せられた二つの紙。そして緊張の面持ちの二人の妹。

 全てのテストが返されて数日。成績表が配られた。俺の成績は現国と古文・漢文が二位、他も軒並み順位が上がっていた。雪ノ下には相変わらず勝てねえな。あいつ満点なんじゃなかろうか。なにそれ完璧超人すぐる。

 特に今まで完全に捨てていた理系の成績のおかげで総合順位も一気に上がった。総合で二桁は初めて見たのんな。

 そして、今目の前にある紙は二人の成績表である。この間言った「成績下がったら一緒に寝ない」ということを律儀に覚えていたらしい。俺は半分忘れてたけどな。一緒に寝ないとか考えられんし。

 しかし、頑張ってくれた妹たちに「やっぱあれなしで」なんて言えるはずもない。というか、緊張に満ちた面持ちでごくりと生唾を飲む二人はそんなことを言える空気ではなかった。ちなみに二人ともまだ中身は見ていないらしい。むしろ見ててくれた方がよかった。お兄ちゃんの心臓にも悪い。

「じゃ、じゃあ……見るぞ……」

「うん……」

「ど、どうぞ……」

 恐る恐る成績表の端を持って……同時にひっくり返した。

「……お?」

 そこまで劇的ではない。しかし、二人とも順位は上がっていた。特に俺が教えられたからか文系教科はいい感じに上がっている。意識せず肩にこもっていた力を抜く。

「二人ともよく頑張ったな」

「「うん!」」

 まあ二人とも苦手分野はあるようだが、それはこれから少しずつ力をつけていけばいいだろう。今はこの成長を褒めるべきだった。二人を両脇に呼び寄せて、優しく頭を撫でる。

「えへへ、お兄ちゃんに褒められるならもっと勉強頑張ってもいいかなー」

「お兄ちゃんのなでなで好き~」

 猫のように目を細める二人はかわいい。それに、かすかに漏れ出る吐息が少し色っぽく感じた。

「ねえ、お兄ちゃん……」

「ん?」

「小町……その、頑張ったご褒美が欲しいかなーって……」

「ぁ……あの、私……も……」

 …………。

 見上げてくる二人の頬は朱に色づいて、瞳は艶っぽく潤んでいた。何を求めているのかはすぐに分かった。分かっていて、少し怖気づいて、けれど魅惑的な視線から目が離せない。

「わかったよ」

 頭に乗せていた手をそっと背中に回して、少し強めに愛する彼女たちを抱き寄せた。

 




葉山と戸部がよく動いた
そしてガハマさんごめんね、成績の悪い君がいけないの

次回はR-18の予定
2話の間あまり出番のなかった妹たちを思いっきりいちゃいちゃさせたいと思います
3人同時に書くの難しいけどがんばう・・・・・・


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がんばった妹にご褒美を・・・

R-18です


「お兄ちゃん、ちょっとベロ出してー」

「は? お、おう……」

 抱きしめていた小町からの要求に特に何も考えずべーっと舌を出す。二人はにひーっと目線を合わせると。

「「あむっ」」

「!!??」

 二人がかりで俺の舌に吸いついてきた。仲良く半分こするように唇で咥え込み、舌のふちをなぞる様にちろちろと舐めてくる。はむはむと口を動かす度にかすかに二人の唇が触れ合って、まるでゼロ距離で妹たちのレズキスを見ているような錯覚を起こす。その姿は百合百合しいなどと茶化すような言葉も思いつかないほど淫靡で、ゾクゾクしたものが背筋を駆けあがってくる。

「ぷはっ……お兄ちゃん、顔がとろけちゃってるよ? そんなに気持ちよかった?」

「もう、そんなえっちな顔しないでくださいよぉ。こっちまで変な気分になっちゃいます」

 いや。

 いやいや。

 どう考えても口元をびちゃびちゃに濡らして潤んだ瞳をしているお前らの方がエロい。しかも、変な気分になっちゃうって、最初からお前そういう気分だっただろうが。

「お前ら……んぶっ!?」

 文句の一つでも言おうと思ったら、二人に口をふさがれてしまう。二本の小さな舌が口腔に侵入し、縦横無尽に暴れまわる。

「んちゅっ、れろっ、あむっ、はむっ、ちゅるっ、じゅるっ、ちろちろっ……」

「ちゅっ、ちゅぷっ、れりゅっ、ぴちゃっ、ぺろっ、はむはむっ、ちゅっ、ちゅるるっ……」

 小町は歯の裏や歯茎を磨くように舌を這わせたと思うと頬の内肉をこそぎ落とすかのように尖らせた舌でつついてくるし、いろははいろはで唇を本当に食べてしまうのではないかと思うほど熱心に食み、舌で愛撫してくる。口という同じ個所から同時に送られてくる二つの刺激に、処理の追いつかない脳が悲鳴を上げる。何度も明滅を快感の電気信号によってまともな思考ができなくなっていた。

 だから、両の腕を掴まれても、なんの疑念も抱かない。焦り、というか戸惑いが生じたのは、運ばれた手のひらが柔らかい感触に包まれてからだった。

「っ!? ふあっ! お前ら……」

「どうですか、お兄ちゃん。私のおっぱい、結構大きいでしょ?」

 左手に添えられたいろはの胸はたしかに見た目よりも大きく感じる。シャツとブラという心許ない障壁に包まれたふくらみは少し力を加えただけで崩れてしまうのではないかと思うほど柔らかい。

「んっ……」

 試しに少しだけ指先に力を込めるとふにっと沈み込む。予想以上に沈みこんだので慌てて指の力を抜くとほよんっと元の形状に戻った。

 うっわ何これ、こんなに柔らかいのに張りがある。絹ごし豆腐と木綿豆腐を足して二で割ったみたい、自分で言ってて何言ってんのか分かんないわ。

「むぅ……小町もいろはさんくらい胸があればな……んんっ」

 右手を自分の胸に押し当てている小町がいじけてしまっていたのでそちらにも意識を向けて手を蠢かせる。確かにいろはの胸よりも少し硬く感じるが、それでも女性らしい柔らかさは俺を十分に興奮させてくれる。キスによる酸欠とは関係なく自然と息が荒くなる。

「んっ……はぅっ、ぁっ……お兄ちゃんの手、きもち、いぃょ……」

「はんっ……ふふ、妹のおっぱい触って興奮しちゃうなんて、本当にシスコンなお兄ちゃんですね。でも、そんなお兄ちゃんも、んんっ、好きですよぉ……」

 右耳を小町が悩ましい喘ぎ声を漏らして俺の耳朶を打ち、左耳ではいろはが吐息たっぷりにいやらしく話しかけてきてゾクゾクと背筋が震える。

「ひぁっ、ちょっと待てお前ら……ぅぁっ、くっ……」

 それだけでもくらくらするというのに、二人して耳介に舌を伸ばしてきた。

「ぴちゃっ、はぅ……ぁむっ、にゅるっ、ちゅっ、ちゅっ、れろろっ、ひんっ、にゃむっ……お兄ちゃんの耳、おいしぃ……」

「はむっ、れろおぉ……お兄ちゃん、妹に耳犯されてぇ、んちゅっ、きもちぃですか? 興奮、しますか? ぬろろぉっ、じゅるっ……」

 猫が水を飲むようにぺろぺろと耳介を舐める小町と耳の穴まで舌を浸食させて頭の中に直接いやらしい水音を聞かせてくるいろは。明らかに俺の許容量を超えてしまっている快感から逃れるすべはなく、理性がぐちゃぐちゃにかき回されてしまう。

「ぬるっ、れろっ……お兄ちゃん、そろそろ、直接おっぱい、触ってみませんか? ちゅるっ、はぅっ、んんっ……」

「ぁぐっ……ぁぁ……」

 何とも間抜けな声が出てしまったが、了承と受け取ったらしい二人はブラを外し、シャツの中に俺の手を誘う。吸いつくようなみずみずしい肌をお腹から上に伝っていくと、一際柔らかい部分に行きあたる。ふんわりと匂い立つ二つの甘い女の香りが思考に靄をかける。

「ひぁっ、ぁんっ、なにこれっ、なにこれなにこれっ、んんっ、小町知らないっ、こんな気持ちいいの、知らないよぉ……っ……んちゅっ、じゅるっ、じゅるるるるっ……」

「んはっ、ひぅっ、ぁっ、おにいちゃ、い、いいですよぉ、ふあっ、妹おっぱいいじめるの、上手、ですよぉ……れろっ、あむっ……」

 二つの異なるふくらみに手を這わせたり、揉んでみたりすると二人ともかわいらしい声をあげる。特に小町の反応が顕著で、快感の波に目を白黒させて、少しでも気を紛らわそうとしているのか再び耳に吸いつくと、加減なく吸ってくる。

 いろははまだ比較的大人しめの反応だが、大人しかったら大人しかったで性質が悪く、熱い呼気をたっぷりと耳に送りこみながらいやらしく語りかけてくる。ごく当たり前のはずの「お兄ちゃん」という呼ばれ方すら、背徳的な快感に変化してしまう。

 ふやふやにとろけそうな思考は、ただひたすら快感を求めようとする。なぜ触っているだけでこんなに気持ちいいのか。ひょっとして俺の手のひらは性感帯なのではないかと思うほど気持ちが高まる。それに、自分の手の動きに合わせて妹たちの声に艶めかしい色気を増していくのがうれしい。もっと、もっとこのかわいらしくもいやらしい声が聞きたいとせわしなく胸をまさぐる。

「はぅっ、んぁっ、ひくっ、おにぃちゃ……もっと……もっとぉ……んんっ、ちゅむっ、れろっ、ぴちゃっ、ちゅるるっ……」

「お兄ちゃんの、手、ひんっ、すきぃ……ちゅるちゅるっ、にゅるっ、れろっ、んぁっ……」

 高まった官能の前ではこのかわいらしい声もどんどん物足りなくなる。獣のような本能は貪欲に快感を欲し、さっきから手のひらの中で自己主張をしていた小粒な突起を加減なく責め立てた。

「ひゃあぁぁぁっ!? おに、ちゃっ、待って! それっ、はげしっ、はげしいよっ……」

「ひぅんっ! しげ、刺激が強くて、こんなのっ、すぐっ、すぐイッちゃう……っ」

 うわぁ……。

 やばい。反応がかわいすぎて楽しい。

 そういえば、この間は風邪でまともに動けなかったせいで一方的に攻められたけど、今ならこっちが攻め勝てるんじゃないだろうか。そう思うとさらに攻める手が激しさを増す。乳房をこねるように揉みほぐし、乳首を爪で軽く引っかくように弄り、指の腹でぐりぐりと押しつぶす。不意打ちで硬くなったサクランボをつまむと二人とも面白いほどいい声を聞かせてくれた。

「ううっ、お兄ちゃん、調子乗りすぎ……っ」

「うぁっ!?」

 プルプルと震えていた小町が俺のシャツをたくしあげて胸元をさらけ出させる。そして指と舌でまるでやり返すように両の突起を攻めてきた。女性のものよりも小粒なそれを舌で、指で器用に転がされる。じわっ広がる快感に彼女たちを責め立てていた手が疎かになってしまう。

「はっ、はっ……お兄ちゃん気持ちよさそうですねぇ……じゃあ、私はこっちを……」

「そ、そこは……っ」

 いろはは耳を責め続けながら俺の股間のふくらみをさわさわと触り始めた。その手つきはどんどん激しくなっていき、むにむにと揉みだしたかと思うと、ズボンのウエストから手を滑り込ませて直接触ってきた。

 形勢逆転。明智光秀もびっくりの短い優位に涙が出てくる。涙よりも先に快感の変な声が出そう。

 耳、乳首、陰茎を責められ、両手からは女体の柔らかさが快感を高めるスパイスになる。数の暴力の前に抵抗は無力で、苦し紛れに手を動かすくらいしかできない。その手も快感に震えまともに力も入らないわけだが。

「この間も思ったけど、お兄ちゃんって乳首弱いよね。こんなにすぐ硬くしちゃって、かわいい……」

「そ、そんなの……」

 しかたないではないか。溺愛していた妹にこんなに献身的に舐められ、弄られてしまえば気持ちよくないはずはない。きっと誰だってこうなる……いやたぶん、たぶんね。知らんけど。

 残り少ないまともな思考を使っている間も耳にはビチャビチャといやらしい音が直接流しこまれ、乳首は容赦なく弄られ、男の象徴はぐにぐにと亀頭や竿を揉まれる。こちらもなんとか彼女たちのいやらしい突起を弄ることで応戦する。

「はぁ、んっ、お兄ちゃん、ちくび、きもちぃよぉ……ちゅるっ、ちろっ、れろっ……」

「んっ、ぁっ、ぁっ……こんなに気持ちよかったら、もう、お兄ちゃんなしじゃ生きていけないですね……」

 二人の声がどんどん色を帯びていく。目の焦点がぶれ始め、ぷるっぷるっと小刻みに震える。そろそろ限界なのだろうか。かく言う俺も、だいぶ限界が近い。むしろこれだけ攻められてよくここまで持ったと自分自身を褒めたいくらいなのだが。

「ぁっ、ぁっ、ぁっぁっぁっぁっ……」

「ふぁっ、だめっ、んんっ、だめっだめっ、ひぅっ……」

 快感の上りつめるときの反応にも個人差というか癖のようものがあるようだ。小町は喘ぎ声がだんだんと短く断続的なものに変化していき、いろはの場合は「だめ」という言葉が口をついて出るようになる。というかいろはさん、耳元でそんな悩ましく「だめ」って言わないで。お兄ちゃん変な気分に……既になってるからいいか。

 部屋の中は甘い女の香りと男くさい濃い匂いが混ざり合ってむせかえるほどの濃厚なスメルで満たされていた。聞こえるのはぴちゃぴちゃという水音と快感を生む際の刺激音、そして限界に達しようとする各々の喘ぎ声だけだ。ひょっとしたら外からなにかしらの環境音が聞こえているかもしれないが、今の俺には目の前の音しか聞きとることができない。限界に耐える俺には快感に変わる音以外聞こえなくなっているのかも知れなかった。

 そして、我慢をしていると身体中に力が入ってしまうもので……力任せにつまんでいた突起を押しつぶしてしまった。

「ぁっ、ぁっ、ぁっぁっぁぁあああああああっ!!!」

「だめだめだめだめだめっひぅっ~~~~~~っ!!」

 二人の身体ががくがく震え、裏返り気味の嬌声があふれ出す。部屋を満たす雌の匂いが濃くなり思考は完全に意味をなさない。

 それだけでも限界突破には十分だったというのに。

「あああああ~~~~っ、カリッ」

 嬌声を抑えようと再び俺の乳首を口に含んだ小町が思いっきり歯を立ててきた。痛いと気持ちいいの混じり合った未知の快感に支配された上、いろはも先走りで濡れた亀頭を思いっきり擦り上げてきた。

「っ!? ぅあっ、出るっ!!」

 ――びゅるっ!! どぷっ、びゅるるっ、びゅくっ、びゅくっ、びゅる。

 我慢する暇すらなく訪れた爆発にガクガクと腰が勝手に動いた。ズボンの中だということも忘れて射精の快感に酔いしれた。

 後に残ったのは三人の荒く艶を含んだ息だけだった。

 




一日で書くのはこれは限界

もっとエロく書きたいなとは思うけど、なかなかむずかしい
というか、女の子の喘ぎ声セリフとか書くだけで死にそう

次回もこの続きかな?

そういえば、R-18の週間ランキングで2位に入ってました
予想以上に評価してもらっていて嬉しい限りです
もっとおもしろい(この場合はエロい?)作品が書けるように頑張ります


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続・がんばった妹にご褒美を・・・

R-18です


「お兄ちゃん……」

 少し息を整えた小町がスカートをたくしあげるとショーツにはじんわりとシミが広がっていた。見慣れた黄色い下着が浅黒く汚れている様は、見てはいけないものを見ているようで、しかし目を離すことはできない。ふわっと匂い立つ女の匂いが一時的に取り戻した理性をまた奪おうとする。

「お兄ちゃん……あそこが切ないです……」

 ハーフパンツを膝まで下ろしたいろはのショーツのクロッチ部分にもシミが広がって……ってちょっと待て。

「お前……そんなの履いてたのか……」

 いろはのショーツはピンクふちに白の紐パンだった。紐パンって初めて実物見たけどマジで紐じゃんこれ。デルタ領域最低限しか隠してないから数少ない布部分がもう全体ぐっしょりだし、水分を吸って重くなった布が今にもずり落ちそうだ。

「だ、だって……成績よかったらお兄ちゃんと、その……えっちなことできるかな……って……」

 なにこの子超かわいくないですか。どうしてこの子はこんなに男の劣情を煽るのがうまいんですかね。しかも今は全然あざとくないし、女の子ってずるいわ。

「むぅ……小町も勝負下着にしとけばよかった……」

 え? 小町もこういう下着持ってるの!? お兄ちゃん的にものすごく気になる。今度履いてもらおう。怒られそうだなぁ。

 しかし、二人のデルタゾーンからの雌の匂いが半端ない。なんでこんなに匂いだけでドキドキするのん? フェロモンってやつ? 女の子の身体神秘的すぎて八幡ひざまづきそうだよ。この匂いをもっと感じたくて、両手をそれぞれの足の付け根にあてがった。

「ひゃっ! お兄ちゃん、いきなり触ったら……」

「ふわぁ……お兄ちゃんの手、あったかくてゴツゴツしててきもちいぃ……」

 薄い布越しに初めて触れた秘部はきゅっと一文字に締まっていて、まだ一度も異物を受け入れていないことを思わせる。スジに沿って指をゆっくりと這わせてみると、ぐじゅぐじゅのショーツと擦れて、じゅるっ、ずちゅっといやらしい音をたてた。

「やっ、音たてちゃ、んんっ……」

 恥ずかしそうに顔をそらす小町。しかしたくしあげたスカートは放さない。

「音がたっちゃうくらい濡れてるんだから仕方ないだろ?」

「い、言わないでよぉ……」

 顔を真っ赤にして涙目になる表情はそそるものがある。そんな顔をされるともっとやりたくなっちゃうってことを分かっているのかな?

「あぁん、そこっ……しゅるしゅるって、きもちいいのぉ……」

 対していろはは恥ずかしがることなく俺の手をワレメに押し当ててくる。小町よりも汁気の多いそこは当然音も相当に大きく鳴り響く。その音も官能を昂ぶらせるのかどんどん顔が快感にふやける。

「二人ともすげえかわいいよ……」

「ふぇっ!? んんっ、そういうこと、言うの、反則……っ!」

「へへぇ、お兄ちゃん、に、かわいいって、言われちゃったぁ……やぁんっ」

 とろけ出した理性の中では本音も素直に言える。

 ワレメに指を這わせるだけでは飽き足らず、痴丘をむにむにと揉んでみたり、少しワレメの中に指を押し入れてみたりしてみると二人とも反応が変わる。

「んぐっ……ぁうっ……ひくっ……」

「にゃあぁぁ……膣内、膣内いいっ、いいですっ……」

 いろはの膣は比較的簡単に俺の指を受け入れる。ワレメをそっと撫でていた時よりも声が甘くなり、小刻みに身体が震えている。薄い布はどんどん湿り気を帯びていき、さらに淫靡な音を増していく。

 小町はまだ膣内に入る異物の感覚に慣れないのか少し苦しそうな声を漏らす。辛そうだったのでいろはよりも位置を浅くし、大陰唇をくすぐりながら膣口付近を重点的に弄る。

「くはっ……ん、んんっ……ぁ、ぁんっ……ひぁっ、い、今、ゾワッって……んんっ」

 苦悶の声は少しずつなくなっていき、だんだんと官能の色が戻ってくる。なじませるようにじっくり、じっくりと浅いところから弄って少しずつ指を沈めると、もう苦しそうな声は上がらなくなった。

 たぶんいろははいつも膣内でオナニーをしているのだろう。慣れないと基本的に膣内は辛い女性が多いと聞くし、いろはの反応を見るとたぶんそういうことなんだろうな。俺の手を掴んで自分が一番気持ちいいであろう位置に調整していた。小町は膣内に指を入れてのオナニーはしないのだろう。無理はさせないようにしないとと力加減に注意を払う。

「んっ、ぁぅっ、ふぃっ、はんっ……ぁ、お兄、ちゃん、また、大きく、なってる……」

 声がふやけ出した小町が俺の股間を覗いて嬉しそうに笑う。俺の八幡は既に限界まで復活。むしろ二人が濡れた下着見せた時点で勃ち始めてたけどな! その上エロい声聞かされたり、ぬちゃぬちゃと触覚、聴覚を刺激されたらもうギンギンですよ。勃ちすぎて痛いまである。

「お兄ちゃんも、またきもちよくして、あげます……」

 いろはが言うや否やズボンを下ろしてきた。ついでにトランクスもずり落ちる。

 エロいこと続きで完全に失念していたが、そういえばさっきの射精はパンツの中に盛大に出してしまったんですが……。

 ズボンを下ろした瞬間にこもっていたイカ臭い匂いがあふれ出して思わず顔をしかめる。俺でもこれだけきついのだから、俺より近いいろはや小町はもっときついかもしれない。

 ……って、あの……小町、さん? なんでさらに顔を近づけちゃうのかな?

「小町……匂いとかいろいろあれだから……離れてくれ……」

「ぇ? 大丈夫だよ、お兄ちゃんの匂い、好きだもん……」

 え、いや、あの……。

 この匂いが……好き?

 めっちゃイカ臭いんですけど?

 小町はスンスンと匂いを嗅ぎながら竿に指を這わせてくる。一度精を解き放った男根は刺激に敏感で鼻を近づけた小町の吐息でさえビクビクと反応してしまう。さらに竿に指を這わされたりしごかれたりすると精液まみれなせいで、ずちょっ、ぐじゅっ、と粘性の高い音が耳朶を打つ。

「お兄ちゃんの音、すっごいいやらしぃ……」

「あふっ……」

 いろはは指の腹で鈴口をねちっこくくすぐってくる。震えるほどの刺激に思わず手の動きが疎かになりそうになるがなんとか意識を集中する。とめどなくあふれ出す愛液でショーツはもはや下着としての役割を果たしていない。

「はぅっ、みゃっ、あふっ、あっ、んんっ、ひんっ……」

 特にいろはのショーツは布面積の少なさも相まって完全に水分が飽和状態になり、吸いきれなくなった愛液が太腿をツーっと伝っていた。

 高まった快感の前では布越しに刺激することすら物足りなく感じる。一度めり込ませていた指を引き抜き、ショーツを横にずらして直接触れてみる。ぬらぬらとした肉感が指に吸いついてくる。

 ――ぬちゃっ、にゅちゅっ、にぢゃっ。

「ぁっ、ぁぁっ、これしゅごぃ、さっきと、ぜ、全然ちがぅ……ひんっ」

「んぁっ、自分で、するより、はぅっ、きもちぃ、んんっ……」

 肉と布の擦れ合いとは違い、肉同士の擦れる音は艶めかしさを増し、聴覚が官能の音波を受け取る。それに、指に膣壁が吸いついてきて、動かすと離さないとばかりにざわざわと蠢いてくる。さっきとは違う刺激に嬌声をあげる二人を見ると不思議な優越感を感じてしまう。自分の手で気持ちよくさせているのだと思うとうれしくなるのだ。

 指で膣内を開発していき、時折大陰唇や小陰唇を空いた指でむにむに触る。なんかこのむにむに個人的にお気に入りなんだけど、むにむに。

 むにむにしていると、小町の方でなにやら少し硬めのものに指が当たった。はて、女性の身体には乳首以外に硬いところがあったのかしらと思って、その豆粒大の突起の存在を確かめてみる。

「っ~~!? おにぃちゃっ、そこっ、クリト、リス……いきなり、弄ったら……ひゃふっ、くんっ……」

 ああなるほど、これがクリトリスというやつか。大丈夫、八幡エロ動画(全年齢対象)とかで知識えてるから大丈夫。たぶん。

 小町の反応も激しいものだと思ったが、いろはのものはもっと激しかった。

「ひっ、ぁっ、ぁっ、ひゃっ、ああっ、ああぁっ、ひああああぁぁっ!!!」

 さっきまでの幾分余裕のあった色気は消し飛び、全く余裕のない嬌声があふれ出す。

「これっ、だめっ、ああっ、自分で、触った時、痛かったのに……っ!!」

「いろははここ、あんまり触ったことないんだな」

 小町の反応を見る限り、痛いというよりは刺激が強すぎるのだろう。小町のものを触るよりも優しく、触れるか触れないかくらいで刺激してみる。

「はぅっ、あふっ、にゃっ、ひ、ひんっ……」

 まだ少し刺激が強いようだが、さっきよりは激しくないようだ。びくびくと大きく震える。小町の方も反応は大きいが、明らかに……慣れている?

「小町、ひょっとして、いつもここ弄ってるのか?」

「へっ!? あ、いや、そんなことなくてっ……別にいつもじゃ……たまにっ、たまにだから!」

 うわぁ……なんかすごい慌てよう。これはいつもやってますね、お兄ちゃんには全部まるっとお見通しだ!

「本当にたまに? いつもじゃなくて?」

「ぁぅ……だ、だって……きもち、ぃぃし……」

「じゃあ、もっと気持ちよくなろうな」

「ぁえ……?」

 小町の反応を待たずに、人差し指と親指で肉豆をきゅっとつまむ。

「ひあっ!? ああっ、きはっ~~~~!!」

 クリトリスをつまんだ途端目が限界まで見開かれる。がくがくと腰が振動し、膣に入れたままの中指がぎゅっぎゅっと締めつけられる。恐らくイッてしまったのだろう。若干ぐったりした小町を……加減を変えずに攻め立てる。

「ぁえっ!? ぁっ、ぁっ、ぁっぁっぁっぁっ、ひあっ~~~~っ!! おにぃちゃ、イッ、イッてる、イッてるから、ぁっぁっぁっぁっぁっ、あああ~~~~っ!!!」

 何度も何度もイカせる。延々と見開かれた目からは涙があふれ出し、口はパクパクと開閉を繰り返す。

「小町ちゃん、すごぃ……」

「じゃ、いろはもそろそろ気持ちよくなろうな?」

「ふぇ!? ちょ、ちょっと待ってくださ……んぁっ、ひくっ、はげしっ、ですっ……」

 小町への責めを緩めずにいろはへの責めも強める。軽い刺激で慣らしておいた小町よりも慎ましい肉豆をプッシュするように軽く押しつぶす。いろはの愛液で十分に濡れた肉豆は程よく滑り、女性の敏感な性感帯をくりくりとつっかえなく刺激できた。

「ひあっ、これっ、だめっ、きもちよ、すぎっ、おに、ちゃ、だめっ、だめだめだめだめっ、りゃめ~~~~っ!!」

 …………。

 ……うわぁ……。

 クリトリスしゅごい。こんな簡単にイッちゃうものなのか。たぶん他人に触られる刺激に慣れてないせいもあるんだろうけど、ひょっとして二人とも敏感? なんか攻めるの楽しくなっちゃうよ?

 ところで、こちらが攻めると大きなデメリットを背負うことになる。何度もイカされていることで理性を失った二人が、握っている俺のモノに対する責めにどんどん加減をしなくなるのだ。

 いろはは手のひらで鈴口を擦りながらもう片方の手の親指と人差し指でわっかを作り、エラの出っ張った部分を磨くように刺激してくるし、小町は竿をわしづかみにしながら激しく上下に扱きあげる。さらに手の位置を調整して握った親指で裏筋も刺激してくる。その激しさはイク度に増していくのだ。

 さらに意識が朦朧となっているのかイレギュラーな動きも増える。俺が攻めれば攻めただけ、それは俺自身に返ってくる。

「イグッ、イクの止まんない、ぁっぁっぁっ、ぁぁぁぁあああ~~~~っ!!」

「おにぃちゃんっ、だめっ、これ怖いっ、気持ちよすぎて怖いっ、だ、だめだめだめっ!!」

 爪が当たるのも痛いくらい強く握られるのも、快感へと変換される。もっと気持ちよくなりたくて、もっと恋人たちのかわいい姿が見たくて、ひたすらに指を躍らせた。

 ――ぐちゅっ、ずるっ、じゅぶっ、ずちゃっ、ぬちゅっ、びちゃ。

 精液と先走りでまみれた肉棒と愛液まみれの二つの秘部から快感を引きたてる音が立て続けに鳴り響く。脳髄が焼かれ、頭も、身体も、許容限界を超えそうになっていた。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

「おにいちゃんっ」

 肉棒に絡みつく刺激が二つの手で竿を扱くシンプルなものに変わったと思うと、二人がしがみついてきた。行為を始めたときのように両の耳元に二人の顔が来る。荒く色っぽい息から逃げるすべは存在せず、それが耳にかかるだけで視界が淡く明滅する。

「な、なんだ……?」

 奥歯に力を込めながらもなんとか尋ねると二人は大きく息を吸って、さらに顔を近づける。

「好き……」

「大好き……」

「「ずっと、一緒にいてね……?」」

「っ!?」

 その声を認識した途端、視界がチカチカと激しく瞬いた。

 ――びゅるっ、どぷぅっ! びゅっ、びりゅっ、ぶりゅりゅううぅぅっ!

 精の放流が起こると同時に二人の秘部を刺激する。膣とクリトリスを同時にしかも手加減なしで……。

「ふあっ、すごっ、ぁっ、ぁぁっ、ああ~~~~っ!!!」

「すごい熱い……ぁっ、お兄ちゃんだめっ、だめだめだめだめっ、にぁ~~~~っ!!!」

 二人は背中に爪を立てる勢いでしがみつき、嬌声と共に身を強張らせた。女の子とは言え二人分の全力の抱擁に苦しさすら覚えたが、彼女たちを気持ちよくできた証だと思うとこの苦しみも心地よかった。

 

 

     ***

 

 

「鬼いちゃん」

「ゴミいちゃん」

「……はい……」

 妹二人に抱きつかれながら敬語になるお兄ちゃんって……。

 いや、さすがにやりすぎました。ちょっといい気になって攻めすぎてしまった。二人の制止も聞かずに責め続けた俺が悪いね。

「いや、その……ごめん……」

「はあ、まあいいけどさ。お兄ちゃん鬼畜すぎ」

 いや本当に返す言葉もございませんよ。

「まあ、気持ちよかったからいいですけど……気持ちよすぎて怖かったくらい……」

「それは……うん……」

 …………。

 …………いや、なんかそんなこと言われて赤くなられると……。

「……あれ? お兄ちゃん……?」

「ぁ……もう、私たちが怒ってるって言うのにしょうがないお兄ちゃんですね……」

 再び硬くなり始めた男根に手を這わせてくる。声には呆れの色があるのに、その表情は小悪魔の笑みで雌の色香を纏っていた。

「あ、あの……」

「もっと“ご褒美”もらっちゃうね?」

「まだまだ足りませんからね!」

 どうやら拒否権はないようだ。

 




おかしい
受け八幡の下地を作ったはずが結局攻めてる


ま、エロければいいか
……エロいかな?



妹シリーズはいつも3人でイチャイチャしてるけど、たまには2人でとかもありなのかなと思ったり思わなかったり
どうなんだろうねー


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海で兄は本物を確認する

 期末テストが終わったということは程なくして夏休みになる。例年なら家でごろごろゲームをしたり、家でごろごろテレビを見たり、家でごろごろ読書をしたり……家でごろごろしかしてねえな。

 ごほん、まあそうして怠惰に生活をしているわけだが、今年は受験生な俺、自然と生活の比重が勉強に傾く。予備校の夏期講習に参加したり、時間があれば自学もするわけだ。

 とは言っても、実際は自学の勉強時間は少ない。

「お兄ちゃん、この問題どうやるの?」

「ここの訳はどうすればいいんですかね?」

 大抵妹たちの家庭教師をやることになるからだ。期末テストで成績の向上が見られてから二人もやる気になったのか勉強に積極的に取り組むようになった。しかし、特にいろはは一人で勉強することに慣れていないのか自室で勉強していてもあまり集中できず、俺と一緒に勉強をするようになった。そこへ頬をむくれさせた(かわいい)小町もやってきて今の状況である。

 二人ともちゃんと勉強はしているのだが、近いしいい匂いするし柔らかい。俺自身こういうスキンシップには一定の耐性がついたと思うのだが、それでもやはり完全に平静を保つのは無理だから控えてほしい。勉強しながら楽しそうに笑う二人を見ると何も言えないんだけどね。

 実際、二人と一緒にいられる時間は俺も楽しい。それに、人に教えるという行為も自分の勉強に繋がる。頭の中では理解していたつもりでも、いざ説明しようとするとできなかったりするし、新しい発見をすることもある。違う立場で問題と向き合うというのはいい機会だった。去年までの復習にもなるしな。

 後、ジョギングも雨の日以外は毎日続けている。少しずつ距離を伸ばして、今では十五キロが普通になってきた。あまり走りすぎても時間をかけすぎるだけなので、これ以上距離を伸ばす必要はないだろう。最近、足回りに筋肉がついてきて上半身とのバランスが悪く感じてきたので、腕立てや腹筋もするようになった。こっちはまだ始めたばかりで、腹筋三十回で音を上げた時はあまりの不甲斐なさにしょぼんをなり、妹たちにドン引きされた。そこは優しく慰めてほしかったのんな……。

 ちなみにジョギングの時以外はほとんど家から出ない。むしろ自宅を警備するという過酷な仕事をしているわけだし、仕方がないことだ。しかし、たまに妹たちに引っ張られて家の外に出ることもある。やめて! 最高に灰になっちゃう! まあ、大体が三人でウインドウショッピングなんだが、受験生の俺に遠慮してか本当に時々しか誘ってこない。気分転換になるし、俺も悪い気分ではないんだけどね。

 そんな夏休みを過ごしていたある日、珍しく休みをもらったお袋となぜか二人で喫茶店にいる。妹たちも来たがっていたが、有無を言わさぬお袋の目に渋々同意してお留守番をしている。

「……で、話って何だよ」

 注文したコーヒーに口をつけて、何も話してこないお袋に目を向ける。三白眼で睨んでいるように見えてしまうのは仕様である。話があるから、と言っていたくせに何も言わないとかちょっと怖すぎんよ。

 お袋もアイスティーに口を付けて息をつくと、ようやく口を開く。

「八幡、あんた大学はどうするの?」

 ああ、そういうことか。大学のこととなると学費の話にもなるだろう。だいぶ比企谷家になじんできたとはいえ、いろはにはあまり聞かせられない。

「今年になって理系分野の成績上げてるけど、まさか国公立志望に切り替える気? さすがに二年間の遅れを取り戻すのは後半年じゃ厳しいと思うし、別に文系私立の学費くらいならお母さんたちも払えるわよ?」

「あー、いや……」

 確かにいきなり捨て教科の成績上げてる受験生なんて、その教科を使う大学狙いって思われても仕方ないよな。

「大学の志望は変わんねえよ。あの大学は前から興味があるから行きたいと思ってたし。それに、ここなら給付型の奨学金もいろいろあるから、頑張れば学費をかなり抑えられる」

 私立大学というものは給付型、つまり返還不要の奨学金というものが結構ある。この大学だと家庭の経済状況を基準にした奨学金の他に成績優秀者に対する奨学金もいろいろと用意されていた。比企谷家は一般的な中流家庭と比べると少し裕福な方だと思われるので前者は取れないだろう。だから俺が狙っているのは成績優秀者向けの奨学金だ。それを駆使すれば、国公立大学に行くよりも安くすることも可能だろう。

「確実に奨学金を取れるわけじゃないけど、少しでもあいつらに使ってほしいからさ」

 俺のせいで年頃の妹たちに節制をさせるなんて心苦しすぎる。いや、節制とか関係なしに妹たちに金をばらまく可能性のある親父にこそ危機感を持つべきなのでは……。

「あの子たちのこと、大事に思ってるのね」

「そりゃそうだろ、妹が大事じゃない兄なんていないんだし」

「恋人としても……でしょ?」

「っ!?」

 後数秒会話が遅かったらコーヒーを盛大に拭きだしていたところだった。冷汗がだらだら流れてくる。落ちつけ八幡、ここは冷静にならないと切り抜けられんぞ。

「にゃんのことだよ……」

 思いっきり噛んだ、死にたい。お袋は一瞬キョトンするとクククッと忍び笑いをしてくる。やめてよ息子を笑いの種にしないでくれよ……。

 しかしやばい。いろははともかく実妹の小町とまで付き合っていると知られたら……あれ、マジでやばくね? 高坂家だって期間限定お付き合いだった事を考えるとこれは勘当まであるぞこれ。思わず本当に睨んでしまう。そんな俺に対してお袋はまだ笑いが抑えられていない。そろそろ納めてもらえませんかねぇ。

「別に睨むことないじゃない。あんたも小町も、いろはちゃんも幸せそうなんだから」

「……気づいてたのか」

「私を誰だと思ってるのよ。いろはちゃんは何となくだけど、実の息子や娘のこと分からないわけないでしょ?」

 アイスティーで喉をうるおして手を組むお袋はどこまでもまっすぐな目で、そこからは怒りとか嫌悪という負の感情は見出せない。ただただ包み込むような優しい目だった。

「……怒ったりしないのかよ」

「まあ、堂々と二人相手にしたり、その片方が実の妹だったり、相当歪なのは事実でしょうけど、あんたたちはそれで幸せなんでしょ?」

 あんたら昔から仲良かったからねえ、とお袋は独りごちた。

「それがもし悪い影響を与えるならまだしも、皆勉強も頑張ってるし、あんたが奨学金取ってできる限り学費を抑える、なんて言うようになるんだから。そんなあんたたちを離そうなんて、私もしたくないわよ。それに……まだ何かあるんでしょ?」

 にやりと笑う表情は小町そっくりで、やっぱり親子だなと自覚させられる。本当にこの母親は厄介だ。さっきから隠し事が全然できていない。まあ、この件に関してはどの道卒業までに話そうとは思っていたわけだが。

「……はあ、そこまで知られてたら無理に隠す必要もないか。実は、相談があるんだ……」

 

 

     ***

 

 

「わあ! ここからもう見えますよ、お兄ちゃん!」

「海だー!」

 それから数日後、俺の提案で三人は海に来ていた。千葉の海というと南房総市の和田浦海水浴場や勝浦市の守谷海水浴場が快水浴場百選に選ばれているが、俺達がやってきたこの海もなかなか綺麗なものである。人も少ないし、所謂穴場スポットというやつ。

 駅からも少しだけ見える砂浜に二人はだいぶはしゃいでいる。そういえば、小町と最後に海に行ったのはもうかなり前か。夏休み時期でもほとんど仕事漬けの両親に海に連れて行けというのはなかなか酷なものだから仕方がないが。

 近づくにつれて磯の香りが強くなる。臨海部に位置する総武高校で感じるものとはまた違う潮風を肺いっぱいに吸い込むと海に来たという実感が身体の内側から湧いてきた。

 更衣室で着替え終えて最低限の小銭を防水クリアケースに入れて外に出ると既に二人とも着替えて待っていた。たぶん二人とも中に水着を着こんでいたのだろう。

「あ、お兄ちゃん早く早く!」

「ん? お兄ちゃんどしたの?」

「…………」

 目を奪われるとはこういうことかと実感する。青い海に二人の白い肌が宝石のように輝いている。小町はオレンジのホルターネックビキニで胸元には大きなフリルがふんだんにあしらわれたかわいらしいデザイン、いろはは淡いピンクと水色のグラデーションが鮮やかなモノキニに身を包んでいた。

 声も出ず二人のまぶしい姿に見惚れているといつの間にか視界が二人の顔で埋め尽くされていた……って近い近い近い!

「お兄ちゃん、どうしたのかにゃ~?」

「……別になんでもねえよ」

 こいつにまにましやがって……絶対わかってやがる……。ていうか、ナチュラルに腕に抱きついてくるのやめて! 柔らかいあれとかが当たってお兄ちゃんドキドキが止まらないんよ!

「お、お兄ちゃん……その、どうですか……?」

 いろはも抱きつきながら、少し恥ずかしそうな上目遣いでこちらを見てくる。そういえば、いろはとは冬ごろからの知り合いだから水着姿を見るのは初めてなんだよな。なんか、水着を見るよりももっとすごいこともしているはずなのに恥じらう姿がかわいらしい。

「二人とも綺麗だぞ。その……思わず見惚れた」

「ほんとですか!」

 うわあ……。

 ぱあっと表情を輝かせるもんだから一瞬太陽と勘違いしちゃったよ。最近でもあざとい部分を出すことの多いいろはだけど、その分素のこういう表情は小町以上にぐっとくるところがある。

「ふへへ、お兄ちゃんが『かわいい』じゃなくて『綺麗』って言ってくれたの初めてな気がするよ……」

 小町も小町で顔を赤らめたとろけ顔で照れている。にへらっとした表情を見ていると思わず抱きしめたくなるのを必死に我慢。八幡君は我慢の達人なんだから!

 というか、捻くれ者のはずの八幡君からこんな素直な言葉を吐かせるなんてなんと恐ろしい子たちだろうか。自然と「綺麗だ」なんて言ったことに今更ながら顔がほてってくる。いや、これは夏の日差しのせいだから。

「ほ、ほら、早く海行こうぜ!」

「「は~い」」

 抱きついた二人をそのままに海の方へ向かう。

 向かって後悔しました。

 いや、言い訳をさせてほしい。最近家でも学校でもところ構わず二人が抱きついてくるし、周りももうそういう俺達兄妹を受け入れている節があってだな。つまり……知り合いのいないこの海水浴場だと好奇の強い視線で見られることをすっかり失念していたわけですよ。わー八幡のうっかりさーん、死ね!

 そりゃあ美少女二人に抱きつかれている男とか視線集めないわけないですよね。しかも目が腐ってるし。特に男たちからの視線に殺意が混ざってて超辛い。水着という普段よりも露出の高い布に二人が身を包んでいるせいかららぽデートとかよりも視線が辛い気がするのん。

 ま、まあ気にしていても仕方あるまい。せっかく三人で来たんだから楽しまなきゃ損だね!

 波打ち際に足を突っ込むと冷たい海水が日差しに熱された肌に沁み込む。波が寄せたり引いたりを繰り返す度に足元の細かい砂が踊りくすぐったかった。

「ふおぉ、きもちー」

 小町は風呂にでも入ってるのかと思う声を上げながらばしゃばしゃと入っていく。女の子がそんな声出していいのかよ、一瞬やけに声の高いおっさんだなとか思っちゃったじゃん。

 俺ももう少し深いところまで行こうと海をかきわけて進む。胸元くらいまで海水に浸かるころに腕が少し重くなった。

「いろは……?」

 顔を向けるとさっきからやけに大人しいいろはが抱きついていた。水の中なのでそこまで重いわけではないが冷たい水の中だといろはの体温がはっきり感じられてって、いやなんでもないです。

「…………」

 いろはは何もしゃべらない。その口元はきゅっと引き結ばれていて……緊張している?

「お前……ひょっとして泳げないのか?」

「い、いえ……泳げないわけじゃないんですけど、ほら学校のプールとかって足がつく深さじゃないですか。だから、その……足がつかない深さを経験したことがないと言いますか、立ち泳ぎとかができないと言いますか……」

 確かにこのあたりの深さだといろはは顔を出すのがやっとだろう。俺としたことが全く気が回っていなかった。おどおどしながらしっかり腕にしがみついているいろはの頭をくしゃっと撫でると少し表情が緩和される。

「じゃあ、ちょっと練習しようぜ。難しかったら浅いところに戻ればいいからな」

「! はい!」

 結局のところ、いろはは立ち泳ぎを教わったことがないだけでやり方が分かるとあっさり習得してみせた。ちょっとしがみついたままのいろはもかわいかったから残念ではあるが、初めてゆらゆらと海に立つ感覚に興奮しているいろはもかわいいので良しとしよう。

「お兄ちゃん!」

「ん? んぶっ!?」

 呼ばれて振り向いたら思いっきり水をかけられた。頭を振って海水を飛ばすと少しむくれた小町がいて、そういえばずっとほったらかしにしていたことを思い出した。そもそも一人で飛び出していったの君だけどね。

「ひどいよ、かわいい妹を放置するなんて!」

「すまん、ちょっといろはに立ち泳ぎのやり方教えてたらな……」

「もんどーむよー! えいえいっ」

 ばしゃばしゃと容赦なく水をかけてくる。冷たくて気持ちいいけど目に海水入るのはいやなんだけど! ていうか、こいつただ水かけたいだけだろ。もう悪戯っ子のみたいに笑ってるし。

「ちょ、ちょっと待て! タンマ、タン……うおっ!?」

 小町の水責めから逃れるために後退していると横から思いっきり水を浴びせられる。意識を小町に向けていたため少し海水を飲んでしまった、しょっぱい。

「ふふふ~」

 水の飛んできた方からは手で水鉄砲を作っているいろはが小悪魔どころか悪魔の笑みで次弾を装てんしていた。まさかの二面楚歌。二正面作戦とかエジプトで内政屋をやる俺には無縁なんですけど、いつから俺はモンちゃんになったんだ。

「お兄ちゃん覚悟ー!」

「けっちょんけちょんにしてあげますよ~!」

 交渉の余地なし。もう二人とも満面の黒い笑みで水をかけてくる。ではお兄ちゃんにできることは何かというと。

「おら、かかってこいよ!」

 全力で妹たちと遊ぶことである。

 

 

「はっ、はっ……お兄ちゃん強すぎ……」

「も、疲れました……」

 精根尽きたように浜辺に転がる二人。一対二とはいえ、そもそも毎日走って夏休み前あたりから筋トレも積極的にやっている俺とこいつらではスタミナの差が海堂と壇きゅんくらい違うのだ。その上俺には風見雄二上官殿直伝(ゲーム)での水中ゲリラ戦法もあったので攻めてきた妹軍の猛攻をかわしながら奇襲攻撃を繰り返したのだ。さすがに俺もだいぶ息が上がっているけど。

「こういうところではお兄ちゃんの方が体力があるところを見せないとな」

「十分見せつけられました……」

 ははは……と乾いた笑いを浮かべるいろは。いや、さすがに女の子相手にあそこまでやる必要はなかったのではとかちょっと思っちゃう。

「お兄ちゃんの身体、最近どんどん筋肉質になっていくよね。なんか細マッチョって感じ」

 筋トレもまだ期間が短いとは言え毎日やっているので少しずつ身体もしまってきている。まだうっすらとしか腹筋割れてないけどね。特に筋肉がついているのはやはり足だ。ふくらはぎあたりは力を込めると結構硬くなる。だからと言ってふくらはぎをぺたぺたするのやめてくれない? 恥ずかしいから。

 ひとしきりふくらはぎをぺたぺたすると小町は「よし!」と起きあがる。

「じゃあ次はビーチボールやろうよ!」

「いいね! 三人で一番ミスした人がジュース奢るとかどうですか、お兄ちゃん?」

 いろはも立ち上がると提案してくる。君たちさっきまで疲れてたのにまた勝負とかして大丈夫なのかにゃ?

「いいぞ、相手してやるよ」

「ふっふっふっ、体育の授業で鍛え上げられた小町のスパイクを見せてあげるよ!」

「いや、そこは普通にパスとかトスだけにしておこうよ……」

 

 その後もまた海に入ったり、海の上にあった大きなフロートの上に乗ってのんびりしたりと海を満喫していると日もだいぶ傾いてきて、着替え終わる頃には夕日が沈む様を見ることができた。

「海に沈む夕日って綺麗ですよねー」

「ああ、いつもは建物の影とかに沈む夕日しか見れないもんな」

「そこは、『お前たちの方が綺麗だよ』って言うところだよ、お兄ちゃん」

「え、そうなの?」

 浜辺の端の歩道から夕陽を眺めながら他愛ない話をする。こんなどうってことない時間が、今はとても楽しくて輝いていた。

「けど、お兄ちゃんが海に行こうって言うなんてびっくりしたよ」

「ひょっとして、何か悪いことしちゃったんですか~?」

 俺自身柄にもないことをした自覚はあるが、それで悪いことをしたと思われるのは心外すぎるんだけど。

「まあ、ちょっと二人に話しておきたいことがあったからな」

「話?」

「ああ、俺達の今後のことだ」

 俺の言葉に二人が身を固くする。俺達の関係が歪なことは俺達自身が一番よく理解している。なによりも倫理的な壁が分厚い。だから不安になるのも当然だろう。

「そんなに固くなるなよ。別に別れ話とかじゃないから」

「じゃ、じゃあ何の?」

「二人とも分かっていると思うけど、俺は今年で卒業だ。そしたら大学に進学する。その時に……家は出ようと思う」

「「なんで!?」」

 押し倒すぐらいの勢いで詰め寄ってくる二人をなんとか落ちつかせる。

「落ちついて最後まで聞け。家を出るって言っても志望の大学は近くだし、家もその近くになる。いろは、その引っ越し先をお前の元の家にしたいんだ」

「え?」

 いろはの旧家は定期的に掃除をしているとはいえ誰も使っていない。せっかくのいろはの大事な場所をこのまま放っておくのはどうかと思っていた。

「それでその……来年からあの家で、お前の育ったあの家で三人で暮らさないか? いや、俺と一緒に暮らしてください!」

「…………」

「…………」

 沈黙。頭を下げているので彼女たちの表情はわからない。わからないのが底冷えするほど怖かった。

 どれくらいその沈黙が続いただろうか。不意に両の手を握られた。顔を上げると少し涙を浮かべながら優しく微笑むいろはと満面の笑みの小町。

「あたりまえじゃないですか。むしろ、お兄ちゃんには私がお兄ちゃんを大好きになった責任を取ってもらわなきゃいけないんですよ? 仮にお兄ちゃんが何も言わずにいなくなっても私は付いていきますから!」

「小町がいないとお兄ちゃんはだめだめだからね。小町もお兄ちゃんがいないとだめだめになっちゃうから大賛成だよ!」

「……ありがとう」

 二人の言葉にわずかに視界がぼやける。愛されているという温かい実感が身体を満たしていった。

「あ、お兄ちゃん泣いてるー」

「うれし泣きですか? かわい~」

「……うっせ」

 二人の頭をわしゃわしゃ撫でるときゃーきゃー言いながら楽しそうに笑う。それにつられて俺も笑っていた。

「ほら、そろそろ帰るぞ」

「「は~い」」

 薄暗くなった海沿いの道を三人でゆっくりと歩く。ゆっくりだけど、三人そろったその足並みは不思議と心が落ち着く。

 きっと俺達の関係は歪だ。周りからは理解されず、嫌悪すら抱かれるかもしれない。それでも、俺達の関係は壊れない。俺には小町といろはが必要で、小町には俺といろはが、いろはには俺と小町が必要なのだ。この関係は何物にも代えがたいもので、だからこそこの関係は一つの……本物なのだろうと思う。

「お兄ちゃん……」

「お兄ちゃん……」

 帰りの電車の中で遊び疲れた二人が俺の肩で眠っている。

 傍から見たらきっと間違っているのだろう。けれど、俺は間違っていないと断言できる。

 

 だって、俺の見つけた本物はこんなに温かいのだから。

 




水着回だったけど、よくよく考えたら文字じゃあんまりひゃっほー! とならない罠


このシリーズもこれで10話目
予定では後二つほど大き目の話を入れて完結の予定です


そういえば、今朝R-18週間ランキングを見たら・・・1位に!
皆さんの評価のおかげです
ありがとうございます! がんばって完走するのでよろしくお願いします


あ、ただ、そろそろ2週間ほど忙しくなると思うので、ひょっとしたら毎日更新はできないかもしれません
そもそも最初は毎日更新なんて考えてなかったんだけどなー(遠い目


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そして、俺達の祭は幕を開ける

 一番の懸念材料であったお袋たちが割とあっさり俺の今後の計画を受け入れてくれたので夏休みは楽しく過ごすことができた。まあ、勉強して予備校行って妹たちに勉強教えて読書して運動して時々妹たちと出かけていたわけだ。あれ? なんかやけに健康的な生活してない?

 ところで勉強というものは基本的に嫌なものである。特に学生にとってはだ。なぜかと言えば勉強することを“強制されている”からである。たとえばポケモン大好き少年がネット対戦のためのダメージ計算は嬉々としてやるように、面白い海外ゲームをやるために必死にwikiを和訳しようとするように、人は勉強をすることそのものは嫌いではない。しかし、学校という環境は興味のないものまで強制的に勉強させられるのだ。しかもその成績でお小言をもらうこともある。そんなの好きになる人間はマゾヒストか変人であることは確定的に明らか。

 そして、小町やいろはも典型的な「勉強が嫌い」な学生であった。新学期が始まってから二人が勉強をしている姿はほとんど見なかったし、期末テストの勉強の時もだいぶいやいややっていたからな。

 しかし、夏休みの二人は非常に勉強に積極的だった。まだ一年生と二年生である。夏休みにやる勉強など宿題以外はしないのが普通のはずだが、二人ともやけに気合を入れて勉学に取り組んでいた。なにか彼女たちの中で意識改革が起こったのかもしれないが、下手なことを聞くとせっかくのやる気をそいでしまうかもしれないので特に何も言わずに静観することにした。

 そんな夏休みも終わり、二学期である。九月と言ってもまだまだ暑い中を毎日通うのは億劫ではある。しかもこんな暑い中でも二人が両腕に抱きついてくるのだから余計に暑いし熱いし柔らかいしいい匂いで朝から俺の八幡を抑えるので必死である。少し前まではくっつかれたとしてもなんだこの柔らかいの!? ぐらいの反応で済んでいたが、今ではその手触りまで知ってしまっているのだ。ふとした拍子にその感触が想起されて俺の煩悩を刺激してくる。理性の化物って言われていても、結局俺も男の子だなぁ。俺が「男の子」とか言うとマジでキモい。

 どうでもいいことを考えながら煩悩を追い払い、二人と別れて教室に入るとリア充どもが久しぶりの再会を楽しんでいてわいわい騒がしい。というかお前らなんでそんなにうれしそうなんだ? ひょっとして学校以外では会っていないのだろうか。学校だけの関係とかちょっとエロ……なんでもない。

 自分を多少磨こうとしたり、周りからの見方が変わったとしても俺の口下手が治るわけもない。いつもと変わらず誰にも話しかけずにステルスヒッキーで席について、MP3プレイヤーを取り出してイヤホンを付けて机に突っ伏す――前に。

「おはよ、八幡!」

「おはよう、戸塚」

 天使がやってきたのでプレイヤーを音速で鞄に突っ込んだ。この速度が出せるなら俺の左は世界を狙えるかも知れんな。ところで最近俺の中で天使が戸塚と小町といろはで三人になってしまっている。もう一人増えたら八幡四大天使ができてしまうな。四人目なんてきっと現れないだろうけど。

「そういえば、そろそろ文化祭の準備始まるけど、八幡は今年はどうするの?」

「文化祭か、余ったところに突っ込んでもらえればそれでいいな。……葉山とのカップリングじゃなければ……」

 あれ? 前半のセリフにデジャヴを感じたぞ? 嫌な予感がビンビンするぞ? これはタイムリープして選択肢をやり直さなければならないのではないだろうか、俺タイムリープできないけど。

 

 

「比企谷、お前は今年も文化祭実行委員だからな」

 そして俺の予感は見事に的中した。現国の授業の後平塚先生がさらっと指名してきた。余ったところでもなく最初からのご使命である。なんて嬉しくないご使命だろうか。しかも断れば鉄拳制裁で結局引き受けざるを得ないとかマジ無理ゲー。

 しかし、ここで何も言わなかったらその後もいろいろと押しつけられるものだ。そもそも、去年の悪行が消えたわけでもないのに俺が今年も文実をやったら空気が悪くなりかねないではないか。ここできっぱりと断ることも重要である。ノーと言える日本人!

「あの――」

「ああ、今年は一色……いや、お前の上の妹が実行委員長に乗り気のようだぞ?」

「喜んで務めさせていただきます!」

 酷いや酷いや! 俺の妹への愛を利用するなんてまるで悪魔の所業だよ。鬼! 悪魔! アラサ……なんでもないですから睨まないでください。

 というわけで、俺は今年も強制的に文実にさせられてしまった。あーあ、また女子の方が長引くのか、めんどくせー……。

 去年の実行委員決めの長期戦を思い出すと気が重かった。

 しかし、そんな俺をよそに実際決める段階になるとほぼ即決だった。

「じゃあ、文実女子は私がやるねー」

 颯爽と手を上げたのはまさかまさかの海老名さん。なんで? と思ったが、本人曰く「去年は私の好きなようにクラスの方やらせてもらったし、今年は全体の裏方に徹そうと思って」らしい。確かに去年はやりたい放題でしたもんね。あれ以来「星の王子さま」を読むと薔薇が視界をちらつくようになってしまった。

 文実もサクッと決まり、クラスの出し物もお化け屋敷に決まった。まあ、無難どころだし、なんだかんだこういうお祭り事に強いメンツが揃っている。ほっといてもいい出し物になるだろう。

 あー、しかし文実やりたくねえなー。いや、むしろお化け屋敷の担当になったらノーメイクノーコスチュームでゾンビ役やらされそう。やったー! 文実最高! ……ぐすっ。

 そして文実の最初のミーティング。会議室に入ると見知った顔が見えた。

「今年も文実なんだな」

「ええ、あなたもなのね」

 雪ノ下は言葉少なめに返したきた。去年は全てを一人でこなそうとして体調を崩したこともあるこいつだが、もう一度やるということは去年の文化祭はこいつにとって楽しいものだったのだろうか。俺が引っかき回したあの文化祭を楽しいと思ってくれていたのなら、それは俺の数少ない救いになるのかもしれない。

「おにーちゃん!」

 物思いにふけりながら適当な席に腰を下ろすと後ろから抱きつかれた。あすなろ抱きをされると同時にふわっと漂う柑橘系の香り。毎日同じシャンプーを使っているはずなのに微妙に違う匂いが後ろの相手を教えてくれる。まあ、声とか感触とかで丸わかりではあるけど。

「お前も文実に入ったのか、小町」

「うん! だってお兄ちゃんもいろはさんも文実やるって平塚先生が言ってたから!」

 ああ、兄姉思いの末妹まで同じ手法で脅すなんて酷すぎる。いや、逆に考えるとくそめんどくさい文実の間いろはと小町とずっと一緒? これは神展開なのでは? グッジョブ平塚先生! 俺は先生が生徒思いの素晴らしい先生だと信じてましたよ!

「んんっ、そろそろ始めるから静かに」

 実行委員が揃ったようで件の素晴らしい先生が声を上げる。すぐに生徒が静かになるあたりやっぱり人望あるんだよな。本当になんで結婚できないんだろう。

「まずは実行委員長を決めるわけだが、事前に比企谷……三人もいて分かりづらいな。比企谷生徒会長が実行委員長に志願している。他に立候補者はないか?」

 先生の言葉に少し室内がざわめく。生徒会長と実行委員長の兼任は恐らく例がないだろう。両立できるのかなどの不安要素もある。しかし、特に上級生は一年生にして生徒会長になったいろはの手腕を見込んでいる。劇的ではないが、少しずつ学校をよくしていこうとしていることは皆が理解していた。だから反対意見は出ない。単に実行委員長をやってくれるならいいかって考えもあるかもしれないけど。

 先生に促されていろはが前に出てくる。少し瞑目するとすっと部屋全体を見渡した。

「生徒会長の比企谷いろはです。文化祭実行委員は初めてなので不慣れなところもあるかもしれませんが、今までで最高の文化祭だったって皆が思えるような文化祭にしたいです! そのために、皆さんの力を貸してください!」

 いろはの挨拶が終わるとところどころから拍手が沸く。まばらだった拍手はだんだんとその数を増し、部屋全体を包み込んだ。

 生徒会長としての責務をこなしてきた数カ月が自信に繋がっているのか、人の前に立つ時のいろはは堂々としている。確かに生徒会選挙の時から人前に立つことには慣れているようではあったが、あの頃はあざとさを前面に出していた。庇護欲をそそらせることで、失敗した時の予防線にしようとしていたのかもしれない。

「なんかいろはちゃん変わったね」

 横でぽしょりと呟いた海老名さんが言うように、きっといろはは変わったのだろう。そして俺は、その変化を好ましく思っていた。

 委員長が決まると次は各部署決めである。挙手制でいろはがてきぱきと部署を振り分けていく。数カ月とはいえ上級生に紛れて生徒会の会議を取り持ってきたおかげか会議進行の手際はかなりのものだった。相模と城廻先輩が二人で振り分けた去年よりも早く感じるのは俺の贔屓目のせいだろうか。

 知り合いは海老名さんが有志統制、小町と雪ノ下が記録雑務になり、俺は……副委員長になっていた、なんで?

「やっぱり文実は初めてなんで、去年の経験者にサポートしてもらった方が運営もやりやすいじゃないですか~」

「言いたいことは分かるが、それなら雪ノ下が適任だろ。去年の副委員長だぞ」

 いやあの、あくまで適任って話をしているだけなんで面倒くさそうにこっちを睨んでくるのやめてもらえませんかね雪ノ下さん。

「そ、それはそうなんですけど。雪乃先輩に頼むと本気になりすぎそうで怖いと言いますか、……ほらっ、去年一人で頑張りすぎて体調崩したって聞きましたし」

 まあ確かに奉仕部の依頼じゃなかったらまた全力でやりそうだな。なんか納得。

「……もう……お兄ちゃんの鈍感」

 いろはがぽしょりと何か言ったような気がしたが、他の部署の交流の声にかき消されたのかよく聞こえなかった。

「ま、やる以上はきっちりやるか。よろしくな、委員長」

「……なんで他人行儀なんですか……」

「大事な会議中に下の名前とかお兄ちゃんなんて呼んだら会議全体がゆるくなるだろうが」

「むぅ……こちらこそよろしくお願いします、……せんぱい」

 むくれながらも律儀に合わせてくれるいろはがかわいい。それに半年以上呼ばれていなかった呼び名が懐かしくて緩みそうになる頬をなんとか保つ。

 さて、少し頑張るとしましょうか。

 




文化祭ネタを使おうか悩んだけど、学校と言えば文化祭は外せないよねっ


ところで、ちょっと2週間ほど忙しくなるので、次の投稿は遅れます
できる限り早めの投稿を目指したいですが、たぶん2週間後くらいになるかと


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祭の準備も大変なのである。

 皆さんはろはろー、海老名姫菜です。文化祭実行委員になってから忙しくも充実した日々を送っています。隼人君から去年の文実の状況を聞いた時は結構身構えたものだけど、実際やってみると末端組は指示通りやっていれば何の問題もないようで、順調に作業は進んでいます。いろはちゃんもこの一年でこういう運営事に慣れているみたいだし、それをサポートするヒキタニ君も去年の経験があるからなのかいろはちゃんの手伝いで生徒会の手伝いをしているからかなのか、すごい様になっていてかっこいい。

 そもそも今回私が文実に立候補した本当の理由は最近のヒキタニ君が気になってしまっていたからだ。たぶん結衣を除く他のクラス女子の中で一番。

 きっと去年の修学旅行のせいだ。ヒキタニ君はあの時、私たちのグループの関係を壊さないために私にわざと振られた。振った相手のことはたとえ全く知らない人でも多少は気になるものだ。ヒキタニ君は知らない男子じゃない。その上、今まで会ったことのないタイプの男の子だった。考え方も価値観も理解できない彼に私は多少以上の興味を引かれていたのだ。そして、知れば知るほど比企谷八幡という男の子は不思議な魅力を秘めていた。

 そんなヒキタニ君が最近妙に目立ち始めた。悪目立ち……も多少はあるけれど、基本的にはいい方向で。一年以上彼を見てきて、それは初めて見るもので、私はその原因が知りたくなったのだ。

 ひょっとしたら彼に恋人ができたのかもしれない。それは私の腐女子にあるまじき淡い恋心の終焉になるかも知れないし、そう考えると、怖い。けれど、それでいいのだと思う。あんなことをさせてしまった彼にこんな感情を抱いている私が間違っているのだから。

 だから、もっとポジティブに考えるのだ。ひょっとしたら今後のはやはち妄想のいい材料になるかも知れないからね!

 

 

 …………うん。

 文実のお仕事はすこぶる順調です。いや、順調……なのかな?

 仕事の進み具合で言えば問題はなにも起きていない。けど、私たち文実委員のメンタルは日に日に削れている気がしてならない。しかも原因が委員長、副委員長としてこの順調な文化祭実行委員をまとめている比企谷兄妹にあるのだから始末に負えない。

「委員長、美術部から入場門のデザイン案が届きました」

「あ、ありがとうございます~」

 デザイン案の紙にいろはちゃんが目を通す。パラパラと紙をめくっていく中で「あっ」と小さく声を漏らした。

「おに……せんぱい、これとかよくないですか?」

 一枚の紙をヒキタニ君に見せると露骨に眉を寄せる。どうやらあまりお気に召さないご様子。

「いやいろ……委員長、これはないんじゃないのか?」

 ヒキタニ君が持っている紙を黒板に張り付ける。ピンクを基調にしたかわいいデザインでポップな明るい印象を受けた。うーん、そんなに悪いかな? いろはちゃんもそんなヒキタニ君に不満なようで頬を膨らませている。

「え~、なんでですか~?」

「……じゃあ聞くけど、二日目の一般参加者で一番多い層は誰だ?」

「そんなの、ここを受験しようって考えてる中学生ですよ~」

 去年のデータを出しながら得意気に突き出す。結構しっかり確認してるんだよね、この子。

「そうだ。で、このデザインだと確かに女子受けはいいだろうな。しかしだ、“かっこいい自分”に憧れている男子中学生がこの門をくぐるのは相当ハードル高いぞ? 普通の男子中学生なら門の前に立った途端に女子高に来たんじゃないかと緊張するレベル」

 ヒキタニ君の言葉に一部の男子が小さく首肯している。どうやら男子の中はヒキタニ君の意見を支持する人間が一定数いるみたい。

「一番好印象を与えたい中学生、受験生をターゲットにするならもっと中世的なデザインにした方がいい。こういうのとかな」

「え~、おに……せんぱいそれはシンプルすぎません?」

「いや、一例で挙げただけな上に、これ美術部が考えたデザインだからね? それにいろ……委員長、いいだろシンプル。シンプルイズベストという名台詞を知らないのかよ」

 状況はヒキタニ君有利。こういう論戦だとやっぱりヒキタニ君強いよね。ところで二人とも毎回相手呼ぶ度に言い直すくらいなら普通に呼べばいいんじゃないのかな?

「む~、おに……せんぱいはいつもそうやって屁理屈言ってきて卑怯です……」

 …………ん?

「この間も一緒に見てたドラマでよくわからないこと言ってましたし」

「なっ、それは今関係ないだろ?」

 ……なんか論点がずれてませんかね?

「私的には結構面白かったのに、あれで興が削がれちゃいましたよ……」

「だってしょうがないだろ。有名脚本家が脚本したって割に展開に無理がありすぎたし」

「あれはフィクションですよ? ご都合主義でいいじゃないですか~」

「ご都合主義と展開の甘さは別物だろ? あんな簡単にボロ出す天才犯罪者なんて全然天才じゃないじゃん」

 あー、どうやら二人は土曜の夜にやっているドラマの話をしているみたい。確かに私もちょっと展開が適当だなって思わなくもなかったけど、楽しんで見てる子にそう言う話をするのはどうなのかな……。

「でも……でも……ぐすん」

 あぁ、いろはちゃんが泣き始めた。妹を泣かせちゃうなんてお兄ちゃんは最低だなぁ。あ、これで論理的劣勢を逆転させようって魂胆なのか。さすがいろはすあざとい。

「お、おい」

「お兄ちゃん……私と一緒にテレビ見たくないんだ……」

「そ、そんなことあるわけないだろ、いろは?」

 あれ? それは泣きまねじゃないの? 二人とももう普通に呼び合ってるし。あれ? なんかいろはちゃんほんとに涙浮かべてない? マジ泣き? マジ泣きなの? お兄ちゃんと一緒にテレビ見れなくなるのそんなに嫌なの? ヒキタニ君も慌てすぎじゃない?

「だって私と見たらお兄ちゃん楽しくないだろうし……」

「あのなあ……」

「ふえっ……?」

 ヒキタニ君がぽんぽんといろはちゃんの頭を撫でる。わさわさ動いてるもう片方の手が気になるけど、ヒキタニ君ってやけに撫でるの似合うよね。

「その……あれだ。いろはと見るテレビは、いつも以上に面白いから……好き、だぞ?」

「……ほんと?」

「あぁ、本当だ」

 ……うわあ……。

 さっきまであんなに悲しそうだったいろはちゃんの表情がぱあっと明るくなる。

 なにその表情、ちょっとかわいすぎるんじゃないですかね? ……ハッ! いけないわ姫菜! はやはちの扉とは正反対にあるその扉は開いちゃだめよ!

「えへへ……」

 いや、マジでかわいすぎでしょ。じっとヒキタニ君に熱視線送ってるし、ヒキタニ君もほんのり顔赤くしてるし。

 あれ? ひょっとしてこの兄妹二人ともめちゃくちゃかわいいのでは?

「……………」

 なでなで。

「えへへぇ……」

 なでなで。

「…………」

 なでなで。

「おにいちゃぁん……」

 なでなで。

「いろは……」

「あ、これとか小町的に好きだなー!」

「「!!??」」

 いつまでも撫で撫でられの固有結界を展開していた二人に颯爽と割り込む影が! 小町ちゃんはケラケラと無邪気に笑いながらデザイン案の一枚を手に取っていた。そういえば、入場門のデザイン案の話してましたね。けど、なんか小町ちゃん……楽しそうに笑ってるけどちょっと目が笑っていないような気がするのは……気のせい、かな?

 小町ちゃんが手に取ったのは中世彫刻のようなちょっと凝ったデザイン。ていうかうちの美術部結構レベル高いな。デザインの幅も広いし。

「あ、ああ。こういうのもいいな」

「でしょ?」

「けど、門だけこういうのだと入口だけ浮いちゃいそうですね」

「それなら似たようなデザインのオブジェを校内にちりばめるとかどうだ? そうすれば雰囲気の統一性も取れそうだ」

「けど、美術部だけで準備できるかな?」

「手の空いてそうな有志を募ってみましょう。副会長、そういう方向で進めてください」

 …………。

 うん、ちょっとついていけませんね。さっきまでシスコンブラコン空間だったのに気がついたら仕事が一つ進んでた。空間の中心だった委員長、副委員長は何もともなかったかのように……あれ? 小町ちゃんといろはちゃんがヒキタニ君にぽしょぽしょ耳元でなにか囁いて……。

「……っ!」

 え、なんかヒキタニ君首まで真っ赤になったんだけど。二人ともなにやったの? あんなに恥ずかしがるヒキタニ君、私のはやはち妄想の中でも見たことないんだけど。

「小町ちゃんすごいね。あの二人のストッパーになれるなんて」

「そんなことないですよ姫菜さん」

 自分の席に戻ろうとする小町ちゃんに声をかけるとカラカラと笑いかけてくる。

「いや、すごいでしょ。記録雑務って準備の間仕事少ないし、書記とか担当すればいいんじゃない?」

 なんとなしに言ってみると小町ちゃんは「いやぁ……」と頬をぽりぽり掻いて曖昧な笑みを浮かべる。こういう仕草を見ると、ヒキタニ君の妹なんだなって納得できるな。

「小町は記録雑務にいた方がいいんですよ。たぶんあっち側にいたら小町もあの中に入っちゃうでしょうし」

「へ……?」

「外から見てないと普通に小町も便乗しちゃいますからねー」

 たははと照れる小町ちゃん。

 いや……。

 いやいや……え?

 なにこの兄妹、お互いのこと好きすぎやしませんかね? あれ? 兄妹ってこんなもんだっけ?

「ではでは、小町も仕事に戻りますので!」

「う、うん」

 とててーと自分の席に帰っていく小町ちゃんを見送る。

 三人ともてきぱきと仕事をこなしていっている。けれど、よくよく観察してみると時々お互いを目線で追っていて。

 ああ、これは敵わないな。そう思った。

 兄妹だとかそういうことを度外視してしまうほど、三人の中に存在する絆は離れがたいもので、きっと何者にもそこに割り込むことはできないのだろう。私はおろか、私よりもずっと近い結衣や雪ノ下さんだってきっと……。

 諦めてしまった。諦めるしかなかった。けれど、そこに嫌な感情はなくて。

 それはきっと、ヒキタニ君がどこか幸せそうだからかもしれない。

 

 

 けどさ、もうちょっと抑えてもらわないと鼻血どころか吐血しそうなんですけど……。

 

 

     ***

 

 

「「…………」」

 家に帰って早々、いろはともども正座させられています。目の前には仁王立ちの末妹小町。

「なんで正座させられてるかわかってるよね、二人とも?」

「「……はい」」

「別に言い争いをするなとは言わないよ。それで文化祭がよくなるならいいことだし。けどさ、そこに家の話を持ち込むのはいけないんじゃないかなって小町思うな。ね、いろはさん」

「まったくを持ってその通りです……」

 正座で妹に敬語を話す姉がいるらしい。妹つおい。

「お兄ちゃんもいろはさんいじめすぎだよ。口論じゃお兄ちゃんが圧倒的に有利なんだからもうちょっと手加減してあげないと」

「お、おう……そうだな」

 俺的にはそこまで本気で言い合ってたつもりはないし、そもそもいろはがいじけるとは思っていなかったんだが。ひょっとして俺の言動ってきついのだろうか……。

「こ、小町ちゃん、お兄ちゃんの言い分は尤もだったし、私が勝手に家のことを引き合いに出しちゃっただけだから……」

「いろはさんが言うならそれでいいけど……」

 いろはに止められて小町が俺への矛を収める。しかし、すぐに「でも!」と第二の矛をつきつけてきた。

「人前でいろはさんだけなでなでなんてずるくない? ずるいよね?」

 あ、これあれですね。怒ってる一番の理由こっちですね。ただでさえ委員長副委員長で距離が近いというのに自分をないがしろにしていちゃいちゃしていたのが気にいらないのだ。まあ、俺としてがいちゃいちゃとかではなくすねてしまったいろはを宥めるために仕方なく撫でただけなのだが。べ、別に途中から趣旨が変わってたとかそんなことないんだからね!

「というわけで!」

「うぉっ!?」

 いきなり小町が抱きついてきたので体勢を崩してしまった。小町に押し倒される形になっている。普通逆ではないのかな? 妹を押し倒すのはお兄ちゃんの役目だぞ?

 まあ、にししと楽しそうに笑う小町を見ると抗う気にもなれないのだが。こいつが何を求めているのかも検討がついているしな。

「というわけでお兄ちゃん! 小町もなでなでしてほしいのです!」

「はいはい」

 断る理由などあるわけがない。二人とも同じだけ愛するのが俺の義務であり権利だ。俺自身も楽しいしね!

「…………」

 なでなで。

「んー……」

 いろはもそうだけど、女の子の髪ってどうしてこうもさらさらふわふわなんだろうか。俺のごわついた髪とは大違いだな。撫でているだけで幸せになってくる。全人類が女の子の頭を撫でるようにすれば戦争は起きないのではないだろうか。

 なでなで。

「ふへへぇ……」

 しかしなんとも無防備な顔してんな。そんな表情をされているとちょっと悪戯心が沸いちゃうぞ? 変化技の優先度プラス1してやろうか。

「ふにゅ……ふぁっ!?」

 撫でる位置を少し横にずらして耳を優しく撫でると少し驚いた声を漏らす。しかし、そこに拒否の色はなく、さわっさわっと撫で続けると……。

「ふぃ……ん……んぁ……」

 だんだんと声に熱が混じりだす。頭を撫でるといういつも何気なくやっている行為が、健全なはずの行為がとてもいやらしいものに感じてしまう。

「……ぁっ……おに、ちゃ……」

 潤んだ瞳、赤く染まった頬。艶やかなその姿に自然と吸い寄せられる。

「小町……」

 そっと。

 二人の唇が重なった。触れ合うだけのソフトキスでお互いの熱を伝えあう。

 お互いを積極的に求めあうキスも好きだが、どちらかというとこのキスの方が俺は好きだった。

「む~……」

 唇が離れると恨めしそうな目で俺達を見つめているいろはが目に入った。昼間のことがあるせいか不満そうにしつつも何もアクションを起こさないあたり律儀と言うかなんというか。ついつい苦笑が漏れてしまう。

「いろは、おいで」

「ぁ……」

 いろはを引き寄せてこちらの唇も奪う。さっきも言っただろ? 平等に愛するって。

 そっと唇を離すと二人の手が背中に回される。それだけならよかったのだが。

「あ、こら……」

 さわさわと二人の柔らかい指が首筋や鎖骨、胸を這いだした。ここ最近のうちにすっかり快感に素直になってしまった身体が早くも甘い刺激を自覚する。

「お兄ちゃん、さっき言ったじゃん」

 二人の妹は悪戯っぽく笑う。それは委員会の時の一コマ。二人に囁かれた一言。それを再現するかのように二人の唇が耳に近づく。

「おうちに帰ったら……」

「今日もいっぱい……」

「「愛してね? って」」

 むしろ俺が愛されてる気がするんだけどな……。

 そう思いつつ、二人の妹に手を伸ばすのだった。

 




お久しぶりです

忙しい時期がようやくすぎたので久々に更新しました

ただ、今後はちょっとPCに触れる時間が短くなるので、毎日更新は無理だと思います

できるだけ早い更新を心掛けたいですが、ご了承ください


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妹たちと過ごす祭は楽しいものである

「あー、あー、テステス」

『インカム、良好です』

『こちらも』

 開会五分前の最終確認。インカムの調子も良好だ。ていうか、去年も思ったけど公立高校なのにこういう設備無駄にしっかりしてるよな総武高って。これもどこぞの魔王の影響かも知れんな。誰か魔王討伐して!

「委員長は大丈夫か?」

『大丈夫ですよ~』

 もうすぐ自分の番だというのにいつもの調子。さすがに慣れてるな。

「例年と違って生徒会長と委員長が一緒だから開会の挨拶と委員長の挨拶は一気にやるからな」

『分かってますよ~。まっかせてください!』

 頼もしい限りである。うちの妹少しお馬鹿だけどやっぱ高スペックだからな。どこに出しても問題ないいい子だ。どこにも出さないし誰にも渡さないけどな!

『それじゃあ、今日は最高に盛り上がっていきましょう!』

『『『おー!』』』

 そして、開会。

「皆~! 元気は有り余ってますか~!」

「「「おおーー!!」」」

「今日はお祭り!」

「「「楽しい祭り!」」」

「皆で作る~」

「「「三ツ星文化祭!!!」」」

 去年も思ったけど、うちの高校ってノリいいよな。俺こういうの無理だわ。そう考えるとこのノリを回避できる文化祭実行委員って天職なのでは……サンキュー平塚先生!

「というわけで、今年の実行委員長の比企谷いろはです! 皆よろしく~!」

「「「よろしく~!」」」

 もはや壇上に立っている姿はアイドルそのものである。ていうか、会場の返事が超野太い。ちょっと怖い。

 まあ、滑り出しは良好なようだ。多少張ってしまっていた緊張をほぐす。

 壇上では明るく、元気に、いろはが会場を盛り上げていた。

 

 

 さて、二日ある総武高校文化祭の初日は生徒だけの祭である。

 文化祭実行委員の初日の仕事はそこまで多くない。ローテーションで何人かの生徒が見回りをすればそれでこと足りるのでそれ以外は実質自由時間になる。実行委員やってるとクラスにはほとんど関われないからな。初日は見る以外ほとんどやることはない。

「よう」

「あ、ヒッキーおつかれー。文実の仕事終わり?」

「あぁ、あとは自由時間だ」

 最初に配置しておいた自分の仕事を済ませてクラスの方に向かうと呼び込み役らしい由比ヶ浜が声をかけてきた。お化け屋敷はなかなか好評なようで人の入りも良好。まあ、葉山のクラスってだけでネームバリューあるもんな。去年の演劇も好評だったし。

 しかし、そこそこ中から悲鳴が聞こえるのだが、気のせいか時々黄色い悲鳴が聞こえる気がする。なんか出てくる女子もにやにやしてる奴いるし。……ここ、お化け屋敷だったよな?

「じゃあ、ヒッキーもこっち手伝ってよ」

「ふむ……」

 クラスを手伝う。去年同様全くクラスの活動に参加していない俺ができる手伝いといえば、やっぱり受付だろうか。いや待て、去年の劇とは違い今年はお化け屋敷。つまり、長期の練習を必要としない内容だ。つまりは……。

「俺にノーメイクでゾンビ役をやらせるつもりだな?」

「なんか卑屈なこと考えてた!?」

 あれ? 違うのか。千葉村での肝試しでも普通に歩いているだけで怖がられてたし、てっきりこれだと思ったんだが。

「……今のヒッキーじゃそんなことできないし……」

 ぼそっと言われた驚愕の真実。どうやらあれは小学生相手だったから怖がられていたもので、高校生には通用しないらしい。くっ、せっかくこのアイデンティティを活かせると思ったのに! 活用法がマイナス方向すぎるアイデンティティに泣きそう。

 八幡の固有スキルが使えないとなると、やっぱり受付か。まあ、こんなことでしかクラスに貢献できないからな。

「あ、おにーちゃーん!」

 受付の椅子に座ろうとしていると後ろから声をかけられた。この声を聞き間違えるわけがない。脊髄反射で振り向くとマイプリティシスター小町が駆け寄ってきていた。隣にはいろはもいる。

「二人とも担当終わったのか?」

「はい、とりあえずざっと各クラス見てみましたけど特に問題はなさそうです」

 まあ、普通にやってればトラブルも起こりづらいだろうし、今年の実行委員は真面目なのが多かったから自分たちのクラスの整理とかも各自でそこそこ対応できているのだろう。

 しかし、せっかく二人と会えたのにクラスの手伝いがあるから一緒に回れないな。いや、仕方ないよな。これくらいの手伝いはしておくべきだろうし。けど、ちょっとテンション下がるなぁ……。

「……ん?」

 くいくいと袖をひっぱられたので視線を向けると由比ヶ浜がにっこり微笑んでいた。いったいどうしたのん?

「一緒に回ってきなよヒッキー」

「いいのか?」

 いやしかし、準備も手伝わなかったのに本番も手伝わないのはさすがにどうなのだろうか。

「そのかわり、まずはうちのお化け屋敷に三人で入って、感想教えてよ!」

「なるほど……」

 確かに第三者の意見を早い段階で取り入れるのはありだろうな。そういうことなら俺的には大賛成。後は二人が賛成してくれるかだが。

「二人はそれでいいのか?」

「私はいいですよ~」

「小町もいいよ!」

 ほむ、二人とも大丈夫みたいだ。八幡的にテンション三割増し!

「じゃあ、入って入って! 面白い出来になってる自身あるから!」

「面白いお化け屋敷ってどうなの……?」

 まあ、そうと決まればさっそく入ってみますか。

 暗幕をくぐって三人はお化け屋敷の中に入った。

 

 

「おぉ、結構雰囲気あるな」

 入ってみるとこれはドライアイスだろうか? 足元には薄い靄が沈んでいて、どことなくひんやりとしている。廊下側から窓に暗幕がされていたが、中から見ると窓にヒビのような筋が描かれていて、あたかも割れているようだ。ゾンビとか出てきそう。遺書に灰!

「け、結構怖そうですね……」

「そ、そうだね……」

 二人とも少し身を固くしながら抱きついてくる。いいぞもっとやれ、ではなく! なんかいろいろ柔らかいのが当たってお化け屋敷どころじゃないんですけど。

「お、お兄ちゃんは怖くないんですか?」

「ん? まあ、この世で一番怖いのは人間だからな」

「さすがお兄ちゃん……捻くれてるけど頼りになるね……」

 何を言っているんだこいつは。

「つまり……人間が作ったお化け屋敷は怖い」

「全然頼りにならないやつだそれ!」

 まあ、半分位二人をからかうための冗談なんだけど。いやあの……からかった俺が言うのも何だけど、さっき以上に抱きついて来てるんですけど? 柔らかいあれが四個ほど当たってるんですけど?

「ヒキタニ君いちゃつきすぎだろ」

「八幡嬉しそう……」

「お化け屋敷で鼻の下伸ばすとかヒキオ超あり得なくない?」

 おいお前ら! 陰口叩く暇があったら脅かし役しっかりやれよ!

 そう思いながらもせっかく雰囲気はあるので口には出さない。八幡マジお客の鏡。しかし、最初の直線では何も起こらない。ここは雰囲気を出すためだけの通路なのか?

 そう思って通路を曲がると……。

「ヴァッ!」

「「ひゃっ!?」」

「っ!!」

 一瞬だけ飛び出してきたお面に思わず二人とも声を上げる。よくよく見ればダイ○ーに売ってそうなパーティ用のお面だが、この雰囲気のある暗がりでは十分ホラーだろう。

 かく言う俺も突然の奇襲に思わずびくりと体が跳ねた。どうやらこのお化け屋敷はアメリカンテイストなびっくりホラー系のようだ。怖い怖くない以前に突然驚かされたらびっくりするのはしかたないではないか。しかし、声は出していないし、両脇の二人の方が大きく跳ねたので二人にはばれていないはず!

「お、お兄ちゃん……」

「こここ、これは怖いですよぉ……」

 むむっ、うちのかわいい妹たちを怖がらせるとは許さん! 企画者出てこい!

 という冗談は置いておいて、二人を安心させるためにそれぞれに腰に腕を回す。

「大丈夫だぞ、お兄ちゃんがついてるからな」

「「お兄ちゃん……」」

「「「だからいちゃついてんじゃねえよ! さっさと進め!」」」

 うるせえ! お前らはさっさと驚かせにこいや!

 

 

 しかし、このお化け屋敷、なかなかどうしてよくできている。なんというか、脅かし方が妙に上手いのだ。これ考えたの誰だよ、商業のお化け屋敷作らせたらマジで人気アトラクションになりそう。……そういえば、戸塚ってホラー系好きとか言ってたよな? ということは企画が戸塚の可能性が出てきた! さすが戸塚! 天使なだけじゃなかったんや!

「……うぅ……」

「……ふぇっ……」

 的確なびっくりポイントの連続に両脇の二人は涙目でしがみついてくるばかり。ていうか、二人とも泣き顔かわいすぎない? やばい、お兄ちゃん変な性癖に目覚めそう。

「ん?」

 最後の直線だと思われる通路にやけに存在感のあるステージ。いままでの脅かせ方とは明らかに違う。ここにきて和製ホラー特有のじわじわくる恐怖で来るのだろうか?

 恐る恐る三人でステージに近づく。ぼわっとライトアップされるステージ。

「「「……ごくり」」」

 固唾を飲む俺たちの前に現れたのは……葉山と戸部だった。

「隼人君……月が、綺麗だね」

「俺にはもっと綺麗なものが見えるよ」

「っべー、それってなに?」

「それは……お前だよ、戸部」

「は、隼人君……!」

「「「…………」」」

 誰だ!? 最後にこんなものぶっ込んできたの!? 海老名さん……はずっと文実の方をやっていたからこっちに関わっていないはずだし……。やっぱりキマシタワーが増築されてるの? 増えるホモなの? やめて、増えないで!

「…………」

 いや、葉山よ。そのさっさと行けみたいな視線やめて。いつもの葉山隼人でいてくれ。いや、気持ちは痛いほどわかるけど。ごめん二年連続でホモにされた気持ちは分かんないわ。

「……行くか」

「……うん」

「……そうですね」

 どうすんだよこの空気。三人ともものの見事に白けちゃったよ。そのまま葉山達に目を合わせることなく、俺たちはお化け屋敷から足早に脱出した。

 

 

「お疲れ様ー。どうだった?」

 出口を出ると由比ヶ浜が無邪気に感想を聞いてきた。この子はひょっとしてこのアトラクションの詳細を知らないんじゃないだろうか。大丈夫、ガハマさん? クラスではぶられてない?

「いや、まあ全体的に結構完成度高かったけど……」

 しかし、クラスの皆は準備期間の間懸命に頑張ったはずだ。それを否定するのはどうなのだろうか。続く言葉に窮していると、両脇から服をひっぱられた。見ると妹たちが「私達にまかせて」と目で訴えかけてきていた。

「もう怖くて仕方なかったですよ~。途中から声も出ませんでしたから~」

「そう? やっぱり彩ちゃんの考えたからかな? すごい怖くできてるよね!」

「戸塚さんってすごいんですね! ただ……」

「ただ?」

「最後のステージの演出はカップルとか男子にはあまり受けがよくないかもしれません」

「そうですね、女子だけの時にだけやるのがいいと思いますよ」

 さすが我が妹たちである。最初にしっかり褒めてから欠点を提示、さらに改定案の提示も行うフォローっぷりにお兄ちゃん脱帽です。

「ふむふむ、なるほどね。じゃあ、最後の担当の人たちにそれ伝えておくね!」

 由比ヶ浜から伝えれば雰囲気が悪くなることもないだろう。

「じゃあ、他のところ見て回るか」

「うん!」

「はい!」

 俺たちは早足にクラスを離れた。正直、中の内容を知ってしまった今、あまり長居はしたくなかったです。ホモ怖い。これから葉山と話すときは尻を抑えた方がいいな。

 




ごめん葉山……マジごめん……。


実は増えていた腐女子はこのシーンへの伏線だったのだ!
ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー


文化祭はまだまだ続くよ!


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祭の最中でも、比企谷兄妹は仲がいい

 その後も色んなクラスの出し物を見て回った。なんか二年生のクラスの半分がBL劇だった気がするんだけど、去年の葉山に影響されたの? もはや葉山=ホモの権化なの?

 というか、個性を出そうとしているのかイロモノが多すぎませんかね。回転寿司カフェとかなんなの? 落ち着かなくない? ちなみにいろはのクラスは謎解き迷路だった。謎解きというか意地の悪い迷路だったけど。最後にスタッフ専用の暗幕くぐる必要があるとか思い至る人間がどれくらいいるんですかね。

 上級生がホモだったりイロモノだったりする中で比較的落ち着いているのが一年フロアだ。入学から半年ほど経ったとはいえまだ多少の遠慮があるのだろう。展示系の出し物が多く、人通りも比較的少なかった。

「あ、小町じゃん!」

 小町のクラスの前でクラスメイトらしい女子生徒に声をかけられた。下の名前で呼ばれる友達がちゃんといると分かって、お兄ちゃん嬉しい。これが男だったら血の海が形成されていたかもしれない。死なずにすんだな川崎大志よ。

「あ、生徒会長と小町のお兄さん……ほほお、なるほどなるほど」

 小町の隣にいる俺達二人に気付くとその生徒はなにやら思案顔になった。少し考えた後ににやりと小さく笑う。なんなのん? 何か企んでるのん?

「小町ちょっとこっち! あ、会長さんも!」

「え?」

「ふぇ?」

「あ、比企谷先輩はここで待ってて下さい!」

「お、おう……」

 目の前で扉が閉められました。ハブられてしまった。いじめかな?

 扉の奥から小町やいろはのか細い悲鳴とか布ずれの音とかいろいろ聞こえてくるんだけど。一体何が行われているというんだ。ごめん二人とも、お兄ちゃん助けに行けないよ。

「比企谷先輩、入ってきていいですよー」

 不審者と思われないように入口の近くでぼーっとしていると、さっきの生徒がひょこっと顔を出してきた。

「失礼しま……す?」

 恐る恐る中に入ると、目に入るひらひら。カラフルで超ひらひら。

「お、お兄ちゃん……」

「あ、あんまり見ないで下さいよ……恥ずかしいです……」

 かわいらしいウェイトレス姿に身を包んだ小町といろはが恥ずかしそうにスカートの裾を掴んでいた。そういえば小町のクラスは喫茶店だったか。白いおそろいのブラウスに小町はオレンジ、いろははブルーのスカートだ。

ていうか、この制服って……。

 去年、材木座から読ませてきた小説で文章だと服のデザインが分からなかったので一度聞いたことがあった。その時見せられた元祖萌え系制服のアンナミラーズの制服がこんなデザインではなかっただろうか? 胸を強調するデザインに思わず息を飲む。実は結構出るところが出ているいろははもちろんのこと、小町のものも控えめではあるがふくらみが強調されていて……けしからん。

「比企谷先輩、二人ともどうですか?」

 にっこにっこにーしながら聞かれても困ります。いやマジで。ていうか、二人ともそんな心配そうな顔でこっち見ないで! かわいいから! 超かわいいから!

「いや、その……似合っててかわいいな……うん」

「ほんと!」

「ほんとですか!」

 いや、うん。本当にかわいいからそんな太陽みたいな笑顔向けないで! かわいくて眩しくてヒッキーの理性がじわじわ溶けちゃうから!

「ああ、かわいいぞ。さすが俺のか……妹たちだな」

 あぶねえ! 危うく「彼女」って言いそうになった。それ以前に公衆の面前で思いっきり抱きしめそうになったわ。なんて恐ろしい兵器が存在するんだ文化祭。

 理性を総動員させて二人の頭をポンポンと撫でる。

「へへぇ……」

「ま、まあ、お兄ちゃんにかわいいって思われるならこういうのも着てみるものですねぇ」

 うーん、かわいい。小町はふにゃんとふやけ顔になっているし、いろははなんだかんだ言いつつ俺の手に頭を擦りつけてくる。このまま今日一日撫でてても飽きないくらいかわいいな。むしろ撫で続けていいかな? だめ?

 あれ? なんで周りの子たち数人倒れてるの? 集団食中毒だったら実行委員的にやばいんだけど。

「ごふっ……そ、そうだ! 小町、その格好のままいろんなとこ歩いて宣伝してきてよ!」

「え……マジで?」

 小町困惑。たしかにこういう服って喫茶店っていう特殊な空間だから着れるんだろうな。ある意味外と隔絶された異空間だからでき、そのまま外に出るというのは非常に勇気のいることだろう。

「お願いだよ小町ぃ……あ、じゃあ会長さんも一緒にどうですか?」

「わ、私!?」

「ほら、二人なら恥ずかしくないみたいな? それに着替えてたら見て回る時間短くなっちゃいますし!」

 蚊帳の外だと思っていたのにいきなり引きずり込まれて困惑気味のいろは。二人だからと言って恥ずかしくない訳はないと思うのだが……。むしろ現在進行形で恥ずかしがっているまである。

「お兄ちゃん、どうしましょう……?」

「いや、俺に振られても……」

 ふむ、少し考えてみよう。小町がこの制服を着て外で宣伝をすれば、小町は俺と一緒に見て回りながらクラスに参加もできる。いろはも一緒なら宣伝効果マシマシで小町のクラス大勝利。女子生徒の言うとおり、いろはが着替えなければその分長く一緒に見て回れる。まさにwin-win。

 一つ問題があるとすれば……。

「この二人の姿が見られる前に廊下の男子生徒の眼球をいかに抉り出すかだな」

「「や、それはない」」

 え!? お兄ちゃんからすればめちゃくちゃ重要なんだよこれ!? 妹達のこんなかわいい姿を不特定多数の下卑た視線にさらすなんてそんなこと出来るわけないじゃない! けどそれってクラスの宣伝にならなくない? あれれー? おかしいぞー?

「いやまあ、それは冗談として(冗談じゃないけど)。お前らがやりたいならやってもいいと思うぞ?」

「うーん、クラスに関われるし、小町的にはやりたいとは思うんだけど……」

「やっぱりちょっと恥ずかしいんですよね……」

 やはりここは男どもの眼球を機能停止させるしか……いや、だから冗談じゃないけど冗談だから白い目で見るのやめてね?

「じゃあほら、恥ずかしかったら俺の後ろにでも隠れればいいし、なんかあったらちゃんと守ってやるぞ?」

 ぱっと顔を上げる二人。俺の言葉の意味を正しく理解すると、ふたたび太陽のように明るい笑顔になる。うーん天使。

「ちゃんとお兄ちゃんが守ってくれる?」

「ああ、むしろずっと守ってやるぞ」

「えへへぇ、じゃあやるぅ……」

「「「ごはっ」」」

 なんかまた数人倒れたけど、この喫茶店本当に大丈夫? 営業停止する?

「ぐぷっ……じゃ、じゃあお願いします」

「お、おう……」

 女子生徒も倒れる寸前みたいなんだけど。なんか必死に大丈夫アピールしてるしそっとしておくか。

「じゃあ行こ、お兄ちゃん!」

「早く行きましょうよ!」

「はいはい」

 さっきとは一転してノリノリですね、この子たち。まあ、楽しそうだからいいんだけどさ。

 その後も小町の喫茶店の宣伝をしながらぶらついていたのだが、行く先々で卒倒者が続出していた。俺たちは“いつもどおり”にしていただけなんだが、何かあったのだろうか。

 

 

     ***

 

 

「ふあぁ……すごい……」

 小町が静かに呟く。その隣にいる俺やいろはも息を飲んでいた。

 文化祭二日目。外部の人間も来るこの日が文化祭実行委員が最も忙しくなる日だ。俺たちは主にステージ関係の仕事に追われていたのだが、作業の手すら止まって思わず見入ってしまっていた。

 暴力的なまでの管弦の音の放流。本当にアマチュアかと思うほど洗練された音響に聴覚は完全に支配される。

 去年同様有志団体として参加した雪ノ下さんのオーケストラはすごかった。どこがどうすごかったとか、理屈がどうとかそんなことは関係ない。ただただ、すごいとしか言いようがなかったのだ。

 演奏が終わると一拍を置いて割れんばかりの拍手が会場を埋めつくす。堂々とした振る舞いを見せる彼女はいつもの、誰もが憧れる雪ノ下陽乃だった。

「やっぱり凄いですね、はるさん先輩は」

「いろは……?」

 いつもとは違ういろはの声の思わず振り向く。未だ声援にこたえる雪ノ下さんを見つめるその目は眩しいものを見るようで、それでいて諦めているようで。

 この目を俺は知っている。去年まで、雪ノ下が向けていた目だ。思えば、雪ノ下陽乃という人間に一番近い性質を持っているは雪ノ下ではなく、いろはなのかもしれない。性質は違えど仮面を被り、人に好かれようとする。明らかな上位互換のその仮面に、いろはは憧れたのかもしれない。仮面を被りつつも万人から好かれるその姿に、嫉妬していたのかもしれない。

 有志団体の申し込みに雪ノ下さんが来た時、いろはは一瞬逡巡した。きっとあれは、雪ノ下さんを自分の上位互換と認識して、近づかれることを忌避したのかもしれない。何かを指摘されることを恐れたのかもしれなかった。

「私は……ああはなれないんですね……」

「いろはさん……」

「…………」

 思い出されるのは俺たちが家族になってすぐの学校。学校では今までと変わらないように仮面をかぶり続けていたいろは。もし、いろはが雪ノ下さんのような完璧な仮面を持っていたら、こいつはあんなに悩まなかったのだろうか。きっと悩まなかったのだろう。けれど、その仮面はきっと、俺たちの前でも決して外されることはなかった。俺たちが入りこむこともできなかった。

 それは……いやだ……。

「別に、なれなくていいだろ?」

「え?」

 だから反論する。誰のためでもなく、俺自身のために。

「いろははいろはだ、雪ノ下さんじゃない。いろはにはいろはの、小町には小町のいいところがある。どんなに似ている人間だって、他人だ。絶対に違うところがある」

 同じ人間なんていない。人は千差万別だ。それぞれに長所があり、短所がある。誰からも嫌われない人間はいないし、誰からも好かれない人間もいない。それぞれの生き方が正しく、輝かしいのだ。

「それに、その、俺は誰でもないお前たちが好き、だから……」

「……ふふ、ありがとうございます、お兄ちゃん」

「別に。お前のためじゃないし……」

 これはただ自分のための発言だ。俺が好きなのは今のいろはや小町なのだ。だからこれは、変わってほしくないというただの我が儘に過ぎない。

 そっぽを向くと二つのぬくもりがくっついてきた。二人に優しく抱きつかれる。

「もう、お兄ちゃんはほんと捻デレだよ」

「そこがお兄ちゃんらしいですけどねえ」

「……うっせ」

 顔が熱くなるのを自覚しながら、それぞれの腰に回した腕に力を込めた。

「比企谷くーん。どうだっゴパッ!?」

 舞台袖には入ってきた雪ノ下さんが普段聞かない音を発したんだけど大丈夫だろうか?

「ほらいろは、エンディングの挨拶が残ってるぞ。お前がお前なりに盛り上げた文化祭。しっかり締めくくってこいよ」

「はい!」

 エンディングの準備が整おうと、いろははパタパタと駆けていく。兄として、恋人として、少しは妹の役に立てただろうか。立てているといいな。

「比企谷君……無視はひどくないかな?」

「あれ? 雪ノ下さんまだいたんですか? 俺、妹の晴れ舞台をしっかり脳に焼き付けておかないといけないんですけど」

「…………」

 ん? なんか空気が割れたように錯覚したぞ? 変な錯覚もあったもんだ。あれ? 小町ちゃん、なんで「やっちまったな」みたいな顔してんの? なんで雪ノ下さんは満面の笑みで青筋立ててんの?

「ひ・き・が・や・く・ん?」

「は、はいっ!」

 この後エンディング中ずっと説教されました。戻ってきたいろはにもしょうがないものを見るような目で見られました。泣きたい。

 




ウェイトレス姿の妹たちを妄想しただけー( ゚д゚)


はるのんの妨害とか試練的なのも書いてみたいけど私の発想力だとむつかしくてかけまーせん!
だから、ギャグ要因になってもらった
すまんなはるのん


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体育祭とは戦いである

 さて、文化祭が終わると我が校はすぐに体育祭である。……文化祭と体育祭のスパン短すぎない? 一学期あんまりやることないんだから体育祭そっちに回せよ。暑いから参加したくないわ。

 ところで総武高校の体育祭は全校生徒がクラス関係なく赤組と白組に別れる。つまりはクラス内で対抗意識が生まれるわけだ。ぶっちゃけ十クラス三年なんだからクラス単位で分けた方がややこしくないだろと思わなくもないが、学校の方針に口を出すなんてめんどくさ……めんどくさいこと俺がするわけないでしょう?

 いやほんと、文化祭でクラス一致団結したと思ったら体育祭では敵同士とかこの学校怖いね。後怖い。まあ、俺は二年連続文化祭は蚊帳の外だったけど。あ、一年の時も大して参加してなかったわ。

 それは置いておいて、俺は今年も赤組である。そして――

「やあ、比企谷君。今年も敵同士だね」

 さわやか笑顔な葉山隼人は白組である。ていうか、そんな笑顔で「敵同士だね」って言うやつ初めて見たわ。きゃー葉山君はらぐろーい。

 そもそもなんでこいつ組み分け決まった後に即俺のところに来てんの? 今から参加種目決めるし、お前が寄ってくると海老名さんとかが大量出血(鼻)するからやめてあげてほしいです。

「ところで比企谷君。俺の参加種目この三つにする予定なんだけど、当然君も参加するよな?」

「は? 一人一種目参加すればいいのになんで俺が三種目も参加する必要があるんだよ」

 葉山が参加するらしい種目は200m走、1500m走、棒倒しの三種目だ。棒倒しは全員参加の種目なのだからそれに参加すれば十分だよな。ていうか、今年も棒倒しやるんだ……。

「テニスでもテストでも決着つかなかっただろ? それとも、俺の不戦勝ってことでいいのかな、“お兄さん”?」

「てめえ……」

 こいつにしては雑な煽り方だ。釣針が露骨過ぎて普段の俺なら歯牙にもかけないだろう。しかし、事妹に関してはどんな釣針にだって俺は食いつくのである。だってそれがお兄ちゃんだから!

「いいだろう……その減らず口を黙らせてやる。妹は誰にも渡さん!」

「交渉成立だな。楽しみにしてるよ」

「互いに燃える闘志をぶつけ合う俺と葉山。視線と視線、想いと想いが交錯する。その最中、俺はふと思ったのだ。『葉山、俺は……」

「人のモノローグを捏造するのやめてくれませんかね、海老名さん!」

 「えー」っと口をとがらせてくる海老名さんはもう無視しよう。腐女子の相手とかマジ無理。ていうか、今ののせいでせっかくの空気が全然締まらなくなっちゃったじゃん!

 まあ、空気とかもうどうでもいいや……。

 つまり、まあ、あれだ。俺と葉山の闘いが始まったわけだ。

 ちなみに、雪ノ下と小町、いろはは赤組で由比ヶ浜は白組だった。その事実を知ったガハマさんは部室で思いっきり雪ノ下に抱きついて泣いていた。今日も奉仕部はゆるゆりです。

 

 

     ***

 

 

 思いがけず葉山と勝負をすることになった体育祭もあっという間に当日を迎えた。去年みたいに運営の手伝いとかをしたわけではないので本当にあっという間だった。あっという間な上に特に変わったこともないのでカットしてしまうくらい。

 あえて説明するなら勉強して運動していちゃついてた。十六文字で説明出来ちゃったよ。

「ところで……」

 なんか今日はやけに視線を感じるのだが、俺なんかした? ひょっとして社会の窓開いてる? 体育用のハーフパンツにチャックは付いてないな。

「あら、今日はやけに挙動不審じゃないかしら、不審者谷君?」

「…………」

 今日も元気に絶好調な雪ノ下さんだった。俺にそんな趣味はないから、そんな笑顔で罵倒してくるのはやめていただきたい。別の世界線なら一週間無視しちゃうレベル。挙動不審だったのは認めるけど。

「いや、なんかやけに周りから見られてるなと思ってな」

「あら、知らないのかしら……あぁ、ぼっちだからタイムリーな話は耳に入ってこないのね」

 ナチュラルに罵倒の材料にするのやめて。いや、本当に楽しそうですねあなた……。

「今回の体育祭で貴方、葉山君と勝負をしているんでしょう? それで他の生徒の間でもどちらが勝つか予想しあっているみたいね」

「なんじゃそりゃ……圧倒的葉山優勢でただでさえ狭い俺の肩身が余計狭くなるんだけど」

 葉山個人ならともかく、葉山周辺の集団とかマジで相手にしたくない。ありゃ一種の宗教だからな。新興宗教葉山教。新興宗教怖い。

「そうでもないと思うよー?」

 声のした方を振り返ると飲み物を買ってきたらしい由比ヶ浜が駆け寄ってきた。あぁ、なんで雪ノ下が赤組テントじゃなくてこんな中途半端なところにいるのかと思ったら由比ヶ浜のためか。相変わらず仲良すぎるでしょ。

「そうでもないって、どういうことだよ」

「確かに前までのヒッキーは悪い印象ばっかりだったけど、最近は小町ちゃんやいろはちゃんの影響とか隼人君との正々堂々の勝負とかで結構いい評価されてるんだよ?」

「そ、そうなのか?」

 面と向かってそういう事を言われるとさすがに照れるんですけど。今まで妹達以外から褒められることなんてそうそうなかったから耐性がないのですよ。

 いやしかし、自分のことは思いのほか分からなかったりするもんだなーとか考えていたら、ぼっちセンサーが後方からの強い視線を感知。これは……殺気!?

「「……お兄ちゃん?」」

「……なんでございましょう?」

 反射的に口調がおかしくなっちゃったぞ? だってしょうがないじゃない! 振り向いたら小町といろはがこっわい笑み浮かべてるんだから。怖すぎて妹相手に三歩後ずさるレベル。

「なーんでお兄ちゃんはにやけてたのかなー?」

「浮気は……ダメですよ?」

「イエ、ウワキナンテスルワケナイジャナイデスカ……」

 本当に耐性がないだけであって……いや確かに嬉しいんだけどさ。いい評価がつくようになったってことは、転じて言えば妹達が白い目で見られることが少なくなるわけだし。あれ? けどそのせいで俺が妹達から殺気当てられるとかひどくない? 世界残酷すぎない?

「ふう、まあお兄ちゃんが浮気しないのはわかりきってますけどね~」

「そだねー。あ、お兄ちゃんそろそろ200m走だよ」

 どうやら俺を呼びに来てくれたらしい。しかし、勢いで勝負乗っちまったけど……。

「やりたくねー……」

「うわ、お兄ちゃん始まる前から弱音吐かないでくださいよ~」

「いや、テニス勝負と違って純粋な身体能力勝負だからな……」

 そうなのだ。テニスはあくまで二人とも素人だったから多少追いすがることもできたが、この勝負は三戦中二戦が単純な身体技能の勝負。最近になって多少運動を始めた俺とサッカー部部長を務めていた葉山とでは勝敗は明らか……。

「大丈夫だよ! だってお兄ちゃんだもん!」

「それ、理由になってないぞ?」

 根拠もないことを言いながら背中をぽんぽん叩いてくる小町に呆れてしまう。お兄ちゃんだから完璧超人に勝てるなら一人っ子に未来ねえな。

 まあ、よく分からんことを言われたおかげで少し気が楽になった。気負っていても仕方あるまい。俺は、やれることをやるだけだ。

 

 

「さあ、次の種目は男子200m走です。今回の200m走はただの200m走にあらず! 隼人君対比企谷君の三本勝負の一試合でもあります! そう! ハヤハチ! ハヤハチです! 総武高校の中心と言っても過言ではない葉山隼人君と最近人気急上昇中の比企谷八幡君が互いに熱い視線を交わし、互いを高め合う! 戦うことでしか互いを意識することができない! 相容れないハヤハチ! キマシタワー!」

「ちょっ、姫奈擬態しろし!」

 ……あーしさん大変そうね。ていうか、人気急上昇とか嘘乙。俺の人気とか上昇するわけないじゃん。後、今ヒキタニじゃなくて比企谷って呼んだよね? 本当の読み方分かってんならちゃんと正しく呼べよ!

「よろしく、人気急上昇の比企谷」

「うっせ、総武高の中心の葉山」

 ほーら、こいつも調子に乗って絡んでくるし、ほんとめんどくせえ。

 しかし、妹のため……いや俺自身のためにもめんどくさいなどと逃げるわけにもいかない。今回は二本先取の勝負、しかも時間の制限もない。いままでの二回の勝負と違い、明確な勝敗が出る。お兄ちゃんとして、負けるわけにはいかないのだ。

「さあ、もう一組目二組目はどうでもいいから早く終わらせて! 問題は三組目のハヤハチ対決! 勝つのは! 攻めはどっちかああ!」

 ……いや、もはや実況としてどうかと思う上に攻め受けを競っているわけではない。誰か実況変わってよ。やだよこの実況……。

 いつの間にか終わっていた前二組。第三組で一緒になった俺と葉山は隣同士で位置に着く。周りの他の選手は完全に場の空気に飲まれている。そりゃあ、自分たちを完全に無視した実況をされているのだからアウェー感も半端ないだろう。どの道普通に走ったら葉山が一番になる。だから他の奴は関係ないのだ。狙いは葉山ただ一人!

 

 ――パンッ。

 

 ピストルの音と共に走り出す。脚部に込めた力を推進力に変える。先頭は葉山。ダッシュの練習はあまり出来ていなかったが、俺も思った以上の速度が出ている。しかし、相手はサッカー部だ。ダッシュへの慣れが俺とは全く違う。あと少しという差はなかなか縮まらず……。

「一位は隼人君だー! 三本勝負の一本目は隼人君の勝利! しかし、比企谷君との差はほとんどなし! 文化系の部活所属の比企谷君に負けて、他の選手は立つ瀬がない!」

「……くそっ」

 結局葉山が一位のままゴールして、俺は二位。実況の海老名さんの言葉を聞く感じだと、他の選手もサッカー部や野球部なんかの運動部だったようだが、これは葉山と俺の勝負なのだ。葉山に勝てなければ意味がない。

 妹達が、恋人達が自慢できるような比企谷八幡でなければ……悪評の多い俺がそうなるためには葉山と同じくらい、いやそれ以上の結果を出す必要がある。だから……負けられない。絶対、絶対に……。

「絶対に……勝つ」

 さっきまではどこか遊び半分だった。相手はついこの間までサッカー部でエースを張っていた完璧超人。負けて当たり前。そう考えていた。けど、そうじゃないんだ。

 男には、絶対に負けられないときがあるのだ。

 




体育祭編です

ぶっちゃけ一話でサクッと終わらせる予定だったけど、長くなったので二話に分けるスタイル

運動部に短距離で勝てちゃう八幡って・・・
まあ、基本高スペックだから・・・多少はね?

そういえば、この妹シリーズ思った以上に長くなりそうなんですよね
ぶっちゃけ、別シリーズのネタもいろいろ上がっているので、そっちも書いていきたいなーって思っていたり
あくまでこのシリーズが最優先ですが!

今は俺ガイル×SAOのクロスオーバーを書きたいと思っています
アクションのあるSSって書いたことないから書けるかわからんけど・・・


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体育祭は戦いである 2

 200m走から数種目終わるとすぐに1500m走になる。ところで1500mって長距離と言うには微妙な距離だよね。中距離走?

 まあ、その疑問はともかく、1500mというのは意外にペース配分が難しい。短距離のような全力疾走ではすぐにガス欠になるし、マラソンに近いペースでは余裕で集団に置いていかれる。そしてその両方ともが超かっこ悪いのだ。

 では、体育祭競技であるところの1500m走ではどういう事が起こるかというと、序盤はお互いけん制し合いながら集団を作り、最後の200mくらいで全力疾走しだす。普通ならな。

「じゃあ、ここで勝って勝負を決めようかな」

 これ見よがしに挑発してくるこいつは例外である。去年はあまり見ていなかったが、いろはから聞いた話では最初からぶっちぎりだったらしい。さらに200m走でダッシュ力では勝てないということは明白だ。なんですかねその化け物。なんでこいつと勝負してるのん?

「続いてはハヤハチ対決第二戦目! 1500m走です! ここで隼人君が勝負を決めてしまうのか! それとも比企谷君が下剋上して隼人君を攻めるのか! 期待に胸と鼻の血管が膨らみます!」

 実況に合わせてスタートラインに選手が並ぶ。ところで、なんで俺と葉山の競技だけ実況が海老名さんなの? さっきまで別の人がやってたじゃん。後半意味分からないし。

 まあ、化物相手でセオリーが通じないなら――

 

 ――パンッ。

 

「今スタートの合図が――っと比企谷君がいきなりダッシュで先頭に躍り出たあっ!」

 こちらもセオリーを無視するだけだ。

 開始から全力疾走とは言わないまでも明らかに早いペースで飛び出す。メイン集団どころか葉山も置いていく速度だ。そして速度を落とさずに足を運び続ける。

「比企谷君すごいペースだ! 去年の隼人君以上かもしれません。しかし、最初からこれだけ飛ばして大丈夫かなのか! 後半で受け攻めが逆転してしまうのでは? ハチハヤがハヤハチに……キマシタワー!」

「ちょっ、機械あるんだから鼻血自重しろし!」

 ……あーしさんあいかわらず大変そうですね。

 確かに海老名さんの言うとおりだ。いや、受け攻めとかハヤハチとかではなくペースね。普通に考えればこのペースでは途中で息切れを起こしてしまうと考えるだろう。……俺が奉仕部員だと知っている人間なら特に。

 ちらりと目を向けると葉山もそう考えているようで、その顔にはまだ余裕がある。特にあいつは去年のマラソン大会で俺が葉山のペースに息絶え絶え五キロまでしか持たなかったことを知っている。さらにさっきの200mでダッシュに関しては自分の方が優れているという自負もあるからその余裕も当然だろう。

 そして、その油断が俺にとっての最大の利点なのである。事前情報とは時に足枷になりうるのだ。

「比企谷君は未だペースを落とさない! 坦々とトラックを消化していく! 文化系の部活所属とは思えない体力だ!」

 海老名さんが鼻息を荒げて実況しているが、ぶっちゃけどうという事はない。走っている時にどこで一番体力を使うかと言われれば加速する時だ。エアコンが起動時と室温を上げ下げするときに多くの電力を使うように、加速する時は体力を多く消耗する。逆に言えば一定速度を維持すれば体力の消耗は抑えられるし、呼吸を乱すことも少なくなる。まあ、当然ある程度の体力は必要になるわけだが……。ところで奉仕部って文化系なのだろうか。一年以上在籍してるけど、やっぱりあの部活謎だわ。

 葉山の計算、いや予想では途中でスタミナ切れを起こして減速し始めたところで追い抜こうとしていたのだろう。確かにその方が明確に勝負がつくが……予想が甘かったな。

「っ……!」

 俺のスタミナ切れはないと判断してようやく葉山が加速してくる。マラソン大会で他生徒をゴボウ抜きして一位を勝ち取ったあいつの加速だが、四キロ程あったあの時に対して今回はもう200mもない。いくら加速の最高速度が高くてもこの距離は――詰められはしない。

「きぃまったあああ! 第二戦目は比企谷君の勝利! 男比企谷の下剋上だハチハヤだあっ!」

「だからヒナ落ちつきなって!」

「……ふぅ」

 もうあの実況席は無視しよう。というか、葉山が負けたのにやけにギャラリー盛り上げってない? あれかな、俺をリンチするための雄たけびかな? 何それマジ怖い。

上がった息を整えていると誰かの足が視界に入ってきた。まあ、誰なのかは分かり切っているのだが。

「参ったよ。体力をつけていることは気付いていたけど、あのペースを維持するなんて予想外だった。下手したらうちの部員たちよりもスタミナがありそうだな」

「そりゃどうも。なにぶん一日十八キロのジョギングが日課になってるんでね。お前が事前情報に踊らされずにもっと早く加速を始めていたら勝負は分からなかったが」

 一日十八キロ。それが今の俺のジョギング距離であり限界だ。たぶんこれ以上距離を増やすことはないだろう。これ以上は時間的にも体力的にも余裕がないのであって、決して風見上官と同じ距離だからというわけではない。

「単純な身体能力だけで状況を判断しないところが君らしいな。というか、十八キロって走りすぎだろ」

「……褒め言葉として受け取っておく」

 葉山の横を抜けてグラウンドから抜け出すとステルスヒッキーを全開にして人気のない場所に潜りこむ。誰もいないことを確認すると――

「……よっし!」

 思わずガッツポーズが出た。

 勝てた。あの葉山に勝てたのだ。引き分けたテニスや元からそこまで差の無かったテストとは違う。明らかに劣っていた分野で勝つことができた。

 ――これで少しは、あいつらに自慢できるだろうか。

「……いや、まだだな」

 まだだ。こんなところで満足なんてしていられない。そもそもこの勝負はまだ終わっていないのだ。

 ただ、今は少し休もう。

 最後にへまはできないからな。

 

 

 三本勝負の最終戦である棒倒しは男子の目玉企画のため去年同様最後の競技になっている。よってこの結果で俺と葉山の勝負と同時に体育祭そのものの勝敗も決まるわけだ。

 現在の勝負は僅差で白組優勢。これの前の競技である女子の騎馬戦(今回は白組が西洋鎧、赤組は日本鎧のデザインになっていた)で白組に負けたのがなかなかでかい。序盤に複数組で雪ノ下をチャージし、体力がなくなったところを見計らって三浦が雪ノ下の鉢巻きを奪っていた。去年MVPの活躍を見せた雪ノ下の序盤での脱落によって赤組は総崩れ。あーしさんもなかなか戦略的なことをする。ただの単純脳おかんだと思っていたが……むしろおかんだから皆を統率する戦術が取れたと考えるべきかもな。

 で、ひとつ前の競技の結果というものは次の競技に響くわけで……。

「「「「……どよーん」」」」

 赤組男子はテンションがこれでもかというくらい下がっていた。ここで負けたら戦犯扱いだもんな。

「皆! ここで勝てば逆転勝利だ! 気合い入れていこうぜ!」

「「「「おおー!」」」」

 逆に士気の上がっている白組に押されているのもあるのだろう。あっちには葉山もいるから余計にだ。このままでは結果は明白だろう。戸塚が士気を上げようと四苦八苦しているが効果は薄い。

 なら、少し俺が動くしかないだろう。赤組のためではない。あくまでここで負けることは俺が嫌だからだ。

「おい、お前ら」

 戸塚の声を押しのけて発せられた俺の声に思わず全員が顔を上げる。怪訝そうな顔の彼らに、あくまでも余裕を持った態度で語りかける。

「そんなに勝てる気がしないか?」

「……だって、向こうには葉山君がいるし」

「それに去年は白組が勝ったじゃないか」

 口々に発せられる理由はもっともだ。というか、去年は俺のせいで反則負けになっただけだけどな。

「確かに去年赤組は葉山率いる白組に負けた。けど、それは完敗だったか?」

「それは……」

「そう、勝負自体はいい勝負だった。反則があったらしくて赤組は負けたが、棒を倒したのも赤組の方だ」

 自分でも笑えてくるくらいいけしゃあしゃあと言葉が出てくる。誰がどういう反則をしたのかは知られていないらしいからって自分でこんなこと言うのはどうなの?

「確かに葉山隼人はなんでもできて完璧超人みたいだ。しかし、完璧超人“みたい”であって完璧じゃない。必ず付けこむ隙がある。だが、そのためには“勝てる”という自信を持つことが必要だ」

「自信なんて……」

「俺はあるぞ」

「「「「!?」」」」

「実際俺は勝てた。俺が勝てるのにお前たちは勝てないのか?」

 カーストとはいわゆるプライドの象徴だ。多少有名になろうがぼっちの俺はカースト最下層。故にこいつらの中で俺は格下に当たる。

「そんなわけないだろ!」

 そして、格下の煽りに自分が格上だと思っている人間はとっさに反論する。そりゃもう脊髄反射並の反論速度だ。ここまで焚きつければ俺の出番は終わり。戸塚に視線を向けるとさすがの天使は理解も早く前に出直してくる。

「さあ皆! やらなきゃ何も始まらないんだから、せいいっぱい頑張ろう!」

「「「「おー!」」」」

 さすがは戸塚だ。葉山のゾーンとは違う形でチームをまとめ上げる。トツカエルは大天使ではなく主天使説が存在する? やだ、戸塚の階級が一気に四階級も上がっちゃう!

「戸塚、ちょっと提案があるんだが」

「八幡……わかった。聞かせて」

 さて、俺も準備に着きますか。

「さあ、体育祭もついに最終競技! そ・し・て! ハヤハチ対決も最終戦です! ここでの勝者が攻めの称号を手に入れるのです!」

 手に入れません。

「さて、赤白両軍は……おや? 赤組はすでに陣形を組んでいるようです!」

 こちら赤組は主に四つの役割に別れた。一つは棒を支える最終防衛組。実はここはそこまで重要ではないので、運動が苦手な人間最小限で支えてもらっている。次にラグビー部を中心とした中陣防衛ライン。実質ここが最終防衛ラインで特攻してくる選手を食い止めてもらうのだ。そしてメイン集団になる攻撃部隊。六人一組のグループになって行動することになるグループだ。

 そして――

「我が名は剣豪将軍材木座義輝! 白組なんぞは我が前にひれ伏させてくれるわあああ!」

「おおっと! 開始早々暴れだす巨体が一つ! というか、あの光景去年も見た気がするぞ!?」

 材木座をはじめとしたぼっちを中心とした陽動人員だ。特に材木座はあの巨体のおかげで暴れればかなり目立つ。あと、汗だくだから相手も近づきたくないのだ。心なしか周囲の温度も高いしな。真夏のデブは滅されるべき。この競技終わったら材木座は滅されて、用済みだから。

 材木座がミスディレクションオーバーフローをしている中、フィールド上では赤白両選手が衝突を始めていた。

「赤と白の男たちがくんずほぐれつして……おや? 白組が劣勢のようです!」

 赤の攻撃部隊と衝突した白組選手がどんどん崩れていく。実は攻撃部隊はわざとガタイのいい人間と小柄な人間を混ぜている組が多く、ガタイのいい奴と衝突した相手はデカ物をスクリーンにして出てくる小柄な奴に混乱するのだ。戦線をすりぬけられればそちらに視線が行き、目の前への注意が疎かになるし、見えないところから襲われれば一気に潰される。さらに――

「くそっ……うわっ!?」

 別に陽動人員は材木座だけではない。陸上部の一部は陽動人員としてフィールド上を走りまわってもらっている。予想外の相手の出現はそれだけで混乱を招く。さらに攻撃部隊に時々加勢させることで白組全体にイレギュラーへの恐怖を刷り込ませる。彼らは注意を周りに向けるようになり、それによって最優先の相手への対応が更に疎かになるのだ。その上攻撃は慎重になっていく。

 そんな中、俺はあまり動いていない。分類としては陽動人員だが、俺の今の仕事は一つ。

「すごいな。これは君の作戦か?」

「……どうだろうな」

 葉山と対峙することだ。多少場をひっかきまわすために動くことはあるが基本的にこいつとのにらみ合い。お互い相手を視界に入れつつ牽制し合っている。

 葉山の表情はまだまだ余裕のもの。そりゃそうだろう。なにせ赤組の陣形は防御よりのものなのだから。

 防衛要因を多めに起き、チームを組ませることで衝突自体は勝てるが積極的に攻められるわけではない。陽動人員も含めたイレギュラー性の高い戦術で白組の攻めの手を緩めているが、対応してくるのは時間の問題だろう。こいつはそれを分かっていて、白組が対応できるまでの間に俺が余計な事をしないように見張っているのだ。

 だいたいその読みは合っている。……最後以外はな。

「序盤は赤組の戦術に押されていた白組ですが、だんだんと立て直してきています! 赤組は短期決戦のつもりだったのか!?」

 今回ばかりは実況があってよかったと思った。状況の把握がしやすい。

「……フェイズ移行だ」

「え……?」

「戸塚ぁっ!!」

「八幡! よし、皆散開!」

 後方に構えている戸塚に合図を送る。そして戸塚の一声で陣形は大きく変化した。

「おっと!? 赤組はほぼ全員が戦場に散らばったぁ! ここからナニが始まるんでしょうか!」

 棒を支える人間以外の赤組全員がフィールド上に不規則に散らばる。これでは連携も出来ないし、守りも薄くなる。しかし、突然の変化についていけないのが人間という生き物で、白組は警戒のためにまた及び腰になってしまうのだ。ところでなんで「なに」のところがカタカナなんですかね? ハチマンヨクワカンナイ。

「これは……」

「葉山、お前の敗因は第一フェイズ中に勝負をつける。いや、むしろ俺を確保しておかなかったことだ」

「なっ……」

 散らばり具合と目標の位置を確認して走り出す。葉山も慌てて追いかけてくるが、現状俺は負ける気がしなかった。

 確かにダッシュ力なら葉山の方が上だ。しかし、人がひしめき合っているこの空間ではそのダッシュ力も満足に発揮できない。さらに俺にはぼっちで極めた隙間把握能力がある。ぼっちは人の多いところで隙間を見つけ、滑り込む能力に長けているのだ。対して葉山は障害物になっている人にぶつからないように注意してしまうため全然速度が出ない。もはやあいつが俺に追い付ける道理はない。周りの白組にヘルプを求めても同様だ。

 そうして速度を維持したまま目標地点に近づく。そこでは開始からずっと暴れていた奴が一人。

「材木座! 準備!」

「あいわかった!」

 最初はフィールド中央で暴れていた材木座は場の混乱に乗じて少しずつ相手陣地に近づいていた。俺の声に材木座は体勢を整えて俺の方に両手を突き出す。その手に足をかけて踏み込む。

「材木座ああああぁぁぁバリスタああああぁぁぁっ!!」

 ネーミングセンスはともかく、材木座に打ち上げられて俺の身体は宙に舞う。忍者がやる壁越えの要領で跳ねた俺は飛距離を伸ばして白組の棒まで届いた。位置は棒の真ん中より少し上。

「うおりゃっ!」

 跳躍による運動エネルギーとてこの原理によって加えられる力は大きい。白組の棒を支える人間は運動が苦手な奴を集めただけのようで、そんな奴らが支えきれるはずもなく――棒は、倒れた。

「きぃまったああああああ! 赤組の勝利! そして、世紀のハヤハチ対決は比企谷君の勝利だああああ!!」

 ――終わったか……。

 周囲の歓声の中、どこか他人事のように感じていると、軽い衝撃が二つ。見るといつの間に駆け寄ってきたのか小町といろはが抱きついて来ていた。

「お兄ちゃんかっこよかったよ! 小町的に超々ポイント高い!」

「お兄ちゃんは最高のお兄ちゃんです!」

 興奮に弾んだ声でそんなこと言われたら恥ずかしいでしょ! ていうか、ここグラウンドのど真ん中なんだけど。周りの目が生温かくて超居心地悪……なんか平塚先生らしき人がどっかに走って行ったけど八幡何も見てないヨ。

「いや、あの、汗かいてるからあんまり抱きつかないで欲しいんだけど……」

「いやで~す!」

 即答で拒否すんなや……。

「お兄ちゃんの汗の匂い……好きぃ……」

 小町ちゃん? こんな人に見られてる状況で発情するのはやめてくれません? お兄ちゃん社会的に死んじゃうから。

「完敗だよ、比企谷君」

「葉山……」

 近寄ってきた気配に首だけ向けるとどこか楽しそうな葉山に声をかけられた。なんだかんだ言ってこいつにはいろいろ世話……というかなんかそんなあれになってるんだよな。こいつに焚きつけられなかったら体育祭は一種目出て終わってただろうし、その一種目にしてもここまで本気で取り組まなかっただろう。納得するのは癪だが、やっぱり世話になってんだなー。このお節介焼きめ……。

「別に、たまたまだよ。次やったらきっとお前が勝つ」

「そういうところは相変わらずだな」

 まあ、多少本心なんだけどな。今回の二勝は葉山側に情報が揃っていなかったから出来たことだ。単純な地力じゃまだこいつには及ばない。

「なら、また別の勝負をすることになるな」

「うへー、めんどくせー」

 まあ、だからこそ目標としては申し分ないのだけど。

「ハヤハチ再戦予告! 俺達のハヤハチはこれからだ!」

 うん、海老名さん今いい感じだったから黙ってて……。

「さて、二人とも閉会式始まるぞ」

「「もうちょっと」」

「あのな……」

 ていうか、いろはは生徒会長だから閉会式でも仕事あるだろうが。

 なんとか二人を引き剥がすと「しょうがないなー」とか言いながら渋々諦めてくれた。なんで俺が悪いみたいになってるのん? イミワカンナイ!

「あ、そうだお兄ちゃん!」

「ん?」

「今日は私達がお兄ちゃんの活躍記念に美味しい料理たくさん作って上げますからね!」

「……そうか、それは楽しみだな」

 にひっと笑いながらそれぞれの集合場所に向かう妹達を見送る。頭の中ではさっきの笑顔が鮮明に残っていて、それがじんわりと心を浸食していて。

「あぁくそ。なんだよあれ……かわいすぎだろ……」

 顔、にやけてないかな。

 




なんか海老名さん楽しみすぎじゃないですかね?
体育祭だけで失血死に陥ってそう
ハヤハチ怖い
むしろ八幡が勝ったからハチハヤ?

久しぶりにこのシリーズ更新しましたが、この間そろそろ終るかもーとか言ってたのに終わる気配ないでごぜーますよ
思った以上に続いている結果、どうやら8万字を超えたみたいで結構書いてるなーとか思ったり

けど、文庫換算すると1/4くらいなんですよね
職業作家さんってすごい

次辺りはまた久々にR-18展開にしようかなーって考えていたり
ていうか、R-18タグついてるのにR-18少なめだけどいいのかしら(´・ω・`)


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妹たちは不安なのである

「だるい……」

 

 体育祭から二週間が過ぎた。葉山とか海老名さんのせいで割と目立ってしまったわけだが、終わってしまえば特に大きな変化というものもない。いつも通り授業を受けて、妹たちと昼食を取って、放課後は生徒会の手伝い……あれ? いつのまにか生徒会に行くことがデフォになっているぞ? ま、まあそんな感じでいつも通りの生活が戻ってきた。ちなみに去年は遅かった生徒会選挙は体育祭直後に例年通り行われ、いろはは二年連続生徒会長に、小町は会計に当選した。おかげで毎日のようにダブルでお願いされるのだ。二人に勝てるわけないだろ!

 そんなわけで、今日も今日とて放課後は生徒会の手伝いをしていたわけだ。受験生だけど、妹達を優先するのは当然のことだな! いやまあ、模試の判定はよかったし気を抜かなきゃ大丈夫なはず。

 

「じゃあおにいちゃん、ちょっと待っててくださいね!」

 

「……ああ」

 

 俺と小町を置いていろはが廊下を駆けていく。生徒会長が廊下を走るなよと思わないこともないが、最近だと慣れてしまって「別に誰も見てないからいいか」なんて考えてしまう。

 体育祭が終わってから大きな変化はないとは言ったが、逆に言うと細々した変化はあった。校内で少し見られることが多くなったように感じたりと、なんとなくそう思う程度の変化がほとんどだが、このいろはの行動もその変化の一つだ。今までは普通に登下校をしていたが、最近は登校の時は小町、下校の時はいろはがどこかへ行くようになった。その間俺はもう一人の妹と校門なり廊下なりで待つことになり、戻ってきた妹たちは大抵いつも袋を持って戻ってくる。最初のうちはなにが入っているのか聞こうと思いもしたが、有無を言わせぬ二人の様子になあなあになってしまった。妹に質問もできないとかお兄ちゃん弱い……。

 

「お待たせしました~!」

 

 一人で打ちひしがれていると、いろはが戻ってくる。その手にはやはり何かしらの入った袋があったが、今さら聞けるわけもなく、そのまま三人で帰ることになった。

 

「またあったんですか?」

 

「そうなんだよ、朝もあったのにね」

 

 どうやらあの袋の中身は二人に共通するもののようだ。女の子には秘密がつきものだから、男の俺があまり踏み込むものでもないだろう。あんまり無遠慮に踏み込むと二人から白い目で見られるしね! あれ超辛い。

 後、帰ってからも二人で何かやっているみたいだけれど、一体何をしているんだろう。仲間外れでお兄ちゃん悲しい。

 

 

     ***

 

 

 帰ってからお兄ちゃんは受験勉強のために夕飯まで自分の部屋で過ごす。それを利用して行われるのが小町といろはさんの定例会議だ。

 

「それで、これが今日の分か……」

 

 リビングのテーブルに広げられている小山を見て、いろはさんが呻くように呟く。女の子としてどうかと思うけれど、気持ちはよくわかるんだよね。

 

「……日に日に増えていきますね」

 

 だって――小町も似たような声が出ちゃっているもの。

 二人の眼前にあるのは、今日の登校時と放課後に靴箱から回収した手紙。ちなみに全部お兄ちゃんの靴箱からだ。体育祭明けの月曜日、まさかと思いつつ見てみたら靴箱の中にあった一通の手紙が事の発端。日を追うごとに少しずつその数は増えていき、今日に至っては二回の回収で二十通近く入っていたのだ。

 

「どうしようか……」

 

 ここ最近、葉山さんとの対決でにわかに出てきたお兄ちゃんの人気は、体育祭での活躍で爆発する……とは小町達も思っていたけれど。まさか皆ここまで露骨にアピールしてくるなんて想定外だよ。

 

「前まではお兄ちゃんのこと悪く言ってたくせに……」

 

 ちょっとかっこいいところを見ただけですぐに色目使うなんて最低だ。この間なんかクラスの子が「比企谷先輩ってかっこいいよね。変な噂もあるけど、一匹狼って感じだよ!」なんて言っていた。前は「あの先輩、ちょっと暗いよね」とか言っていたのに、都合がよすぎる。

 

「小町ちゃん、落ちついて」

 

「ぁ……ごめんなさい」

 

 いけない。つい思考が悪い方向に行ってしまった。

 正直、周りがお兄ちゃんのことを好意的に思ってくれること自体はいいことだと思う。お兄ちゃんもそうして小町達に自慢できるお兄ちゃんになろうとしていたわけだし、その目標が達成されていると考えると……うれしい。

 けれど、それと同時に不安にもなるのだ。お兄ちゃんが人気になるということは、当然こういうふうにアピールをしてくる子もいるわけで。お兄ちゃんのことは信頼しているし、小町達を残して他の女の子に靡くことはないと信じているけれど、お兄ちゃんだって男の子なのだ。このラブレターを見てお兄ちゃんが少しでも嬉しそうにするかもしれないことを想像すると、途端に心が寒くなる。

 これはあまりにも醜い所有欲だ。兄妹という肩書きがある以上、周りに付き合っていると公言して牽制することもできない妹の黒い感情。

 だから、回収したラブレターは結局お兄ちゃんには渡せていなくて……。

 

「どうすればいいのかな……」

 

 小町の未熟な心ではこの黒い感情を鎮める術も、あふれ出る不安を宥める方法も思いつかなくて、頭の中がぐるぐると思考のループを繰り返す。自分の醜さに吐き気がしてくる。こんなこと考えていたら、お兄ちゃんに嫌われちゃうよ……。

 

「ふぇ……?」

 

 思考の渦に飲まれていた小町の頭にぽん、と手が添えられる。お兄ちゃんの大きくてごつごつしたそれとは違って、小さくて柔らかい手のひらが優しく頭を滑る度にぐるぐると渦巻いていた思考の波が穏やかになっていく。お兄ちゃんに撫でられるのに似た、けれどまったく別な心地よさ。見上げると、いろはさんは優しい表情をしていた。

 

「大丈夫だよ、一緒に考えよ」

 

 きっといろはさんだって小町と同じことを考えて悩んでいるはずなのに、そっと小町を抱きしめて落ちつかせてくれる。かっこいいお兄ちゃんに、やさしいお姉ちゃん。こんな二人と一緒にいられる小町はきっと世界一幸せな妹に違いないね。

 

「こんなにラブレターが来たら不安になっちゃうよね」

 

「はい……」

 

 心はだいぶ落ち着いてきたけれど、小町達の悩んでいる問題が解決したわけじゃない。結局、今のままじゃ怖くてラブレターをお兄ちゃんに返すことはできないし、もしもお兄ちゃんに直接告白してくるような女の子が出てきたらと思うと、また不安で押しつぶされそうになる。信頼しているって言いながらこんなに不安になってちゃ世話ないよ……。

 

「そもそもお兄ちゃんって相変わらず女の子に耐性なさそうだし……」

 

「確かにそうだね」

 

 お兄ちゃんは教室とかでも戸塚さんにすら自分から話しかけることはほとんどないみたいだし、お兄ちゃんのいい面が見えてきたと言っても、ぶっきらぼうなお兄ちゃんに話かける女の子はやっぱり少ない。話しかけてくるのは雪乃さんや沙希さんみたいな強気な人とか、結衣さんみたいな極端に優しい人、後は姫菜さんとかの特殊な人しか……あれ? 結構話しかけられてない?

 しかし、それでも女の子と話すとよくキョドるお兄ちゃんだし、もしも強引に攻めてくる子がいたりしたら……。

 

「あっ!」

 

 思わず声を上げる。いろはさんを見ると、彼女も同じことを思いついたみたいでにっこりと笑う。ことお兄ちゃんに関しては考えが重なるところなんかは、実の姉妹みたいでちょっと笑ってしまう。

 

「おにいちゃんへの周りからのアピールが怖いなら」

 

「小町達が今まで以上にアピールすればいいんですね!」

 

 けれど、さっきも言ったように周りに彼女であることはアピールできない。

 それなら――お兄ちゃんにもっとアピールして、小町達にもっとメロメロになってもらえばいいんだ。

 そうと決まれば善は急げだ。目下の仕事である夕飯の用意を始めながら、いろはさんと作戦を考えることにした。

 

 

     ***

 

 

「お兄ちゃん、はいあーん」

 

「こっちもあ~んですよ、おにいちゃん!」

 

 なんだろうこれ。

 三年生が参加する学校行事も大体終わり、クラスの空気も受験色が強くなってきた。かくいう俺もそろそろ受験に向けて本腰を入れる形になり、少なくとも帰ってから夕飯までの間は自室で集中して勉強することにしているのだが……夕飯ができたと呼ばれてリビングに行って早々に二人のあーん攻撃を受けているのだ。昼休みとか寝込んだ時とかにされることはあったが、家での普通の食事でされることはほとんどなかったはずなのだが……。

 

「あーん」

 

「おにいちゃん、はやく~」

 

 いや、なんというか……びっくりするくらい恥ずかしいんですけど。飯くらい普通に食べさせてほしい。別に嫌なわけではないのだが、こう……恥ずかしさで疲れてしまうのだ。

 しかし、こんな状態で断ることはなかなか困難だ。学校とかなら人の目だのなんだのと言い訳ができるのだが、いかんせん家だからいいかな、なんて考えてしまう。それに、恥ずかしいと嫌は決してイコールではない。そもそも最愛の妹たちがこういうことをしてくれること自体はうれしいのだから、断る気自体がほとんど起きないのだ。

 

「あ、あーん」

 

 だから少し考えた後に差し出された箸をそれぞれ口に含むのだが、やっぱり超絶恥ずかしいわけで、びっくりするくらい味が分からなかった。今までも散々やられているはずなのに、全然慣れないとか「あーん」強敵すぎるでしょ。

 

「おいしい?」

 

「あ、ああ……」

 

 ごめん、たぶんおいしいんだと思う。二人の作る料理、基本的に全部おいしいし。

 心の中で懺悔していると、いろはの方から何かが近づけられる。またあーんをさせられるのかと内心ため息をつきながら振り向くと―――

 

「おにいひゃん、あ~ん」

 

 唐揚げを咥えたいろはの顔がすぐ近くに迫っていた。

 …………んん? いろはちゃんはなにをやっているのかな? それはお兄ちゃんの知っているあーんではないんだけれども。

 思考がこんがらがっている間もいろはの顔はゆっくりと、しかし確実に迫ってきていて、鼻腔が唐揚げの香ばしい匂いを覆い尽くすほどの甘い女の子の色香に包まれる。頬に添えられただけのはずの手は不思議な拘束力を持っていて、それだけで俺は全く動けなくなってしまって……。

 

「んぶっ」

 

 唐揚げに唇が触れる。おずおずと口を開くと、小ぶりの唐揚げを口内に押し込まれ、そのまま唇を奪われた。柔らかい唇は、油のせいかグロスを塗ったようにテラテラとツヤを帯びていて、思わずドキリとしてしまう。

 

「んみゅっ、ちゅっ、ちゅぷっ、れるっ……お兄ちゃん、おいしい、ですか? ちゅるっ……」

 

「~~~~っ」

 

 いや、いやいや。

 こんなの味が分かるわけないじゃん。いろはは唇を重ねるだけでは飽き足らず、内部に舌を差し込んできたのだ。舌先を触れ合わせたかと思うと、咀嚼されていない唐揚げを転がすように踊らせたり、舌同士に押し付けたりしてくる。自分から分泌される唾液といろはの唾液が混ざり合い、溢れそうなほどのそれが唐揚げをぐちゃぐちゃに濡らす。肉と油、調味料の味がするはずの唐揚げが不思議と甘く感じてしまうのは、彼女の唾液のせいだろうか。

 

「んちゅぶっ、じゅるっ、ぇんっ……おに、ちゃ……」

 

「っ……ちょっ、ちょっと待て!」

 

 頬に添えられていたはずの手が舌をからませながら降下していき、胸にそっと当てられたところで反射的に背を逸らして唇の接合を解く。いろはが「ぁ……」と名残惜しそうな声を上げたことからは目を逸らして、口の中に残った唐揚げを咀嚼して飲み込んだ。ふやふやにふやけた唐揚げは、唾液の湖の中でほぐれ、驚くほど甘かった。いろはの唾液だけでこんなに甘いとか、マッカンすら不要になるレベル。ごめん、マッカンは必要だわ。

 

「いや、いきなりどうしたんだ……」

 

 呼吸を整えていろはを問いただそうとする前に、後ろから肩を掴まれて――

 

「んな……っ!」

 

 後ろから身を乗り出した小町に口を塞がれた。それだけでも驚きに身体が硬直してしまうのに、あろうことか何かを流し込んできた。小町の唾液によってグズグズになったそれは俺の唾液と交わって口内全体に広がる。いろはの甘ったるいくらいのそれとは違う、さわやかな甘さの唾液に紛れて、かすかなジャガイモの風味が味覚と鼻腔をついた。

 

「ずろろろっ、じゅむっ、れるっ、ぬりゅっ、じゅるるっ、ちゅ、ちゅるっ……」

 

 口腔に散乱したポテトサラダを小町の舌が掬いあげ、味蕾に擦りつけ、直接味覚電流を走らせようとしてくる。しかし、それをかき消す強さの快感電流によって脳は味を認識することが不可能な状態だ。口内粘膜の接触を続けつつ正面に回った小町が首にしがみついてくる。

 

「じゅぶっ、れあっ、んっ、んみゅっ……」

 

 もはや脳は触覚情報以外の全てを遮断してしまい、踊る末妹の舌と共に触れるそれが唾液なのか、サラダの残骸なのかすら認識できなくなってしまっていた。

 

「ぷはっ……はあ、はあ……」

 

 短時間に二回も乱された息はなかなか整えることができず、唇が離れた後も荒い呼気が不規則に喉から漏れ出る。「一体お前ら、急にどうしたんだ?」とも聞くことはできず、声になれなかった意味のない音が途切れ途切れに溢れるだけだった。

 そんな俺に――

 

「おにいちゃん、次ですよ」

 

 再びいろはが迫ってきていて、小町も息を乱したまま唐揚げを口に含もうとしていた。

 ……えーっと。

 ひょっとしてこれって、逃げ道……ない?

 

 

     ***

 

 

 蛇口を捻るとシャワーノズルから温かい液体が降り注ぐ。髪を濡らす温水は身体を下へ下へと伝い、全身を濡らしていく。流れ落ちるそれに混ざって余計な思考も流れ出ていくように少しずつ、少しずつ頭がクリアになってきた。

 

「……はああぁ……」

 

 最初に漏れ出たのは長い溜息。いや、これは仕方のないことだと思うのだ。結局あの後、二人から代わる代わる口移しで夕飯を食べさせられたのだから。それはもう全部、白米から味噌汁に至るまで全部口移しで食べさせられた。

 もうね、お腹より先に胸いっぱいになったよね。

 おかげでいつもより少ない量でギブアップした俺は、逃げるように風呂に逃げ込んだことで、ようやく一息つくことができた。

 

「……本当に、あいつらどうしたんだ?」

 

 いままでも実生活で多少は過度なスキンシップがあったのも事実だが、ここまで露骨なアプローチは早々なかった。俺、なにかあいつらの機嫌を損ねることでもしただろうか。そういえば最近は体育祭や受験勉強もあって、あまり三人で出かけていなかった気もする。それが原因だろうか。

 

「……いやしかし、それにしては唐突すぎるよな」

 

 昨日まで、いや今日帰ってくるまでは特におかしなところもなかったはずだ。俺の受験勉強に対する理解もあるはずだし、それでも十分甘えてきていると思うのだけれど。

 まあ、直接聞いてみるしかないよな。とりあえず、今はこの後起こるかもしれない戦いに向けて、ゆっくりと身体を休めるとするか……。

 

「おにいちゃん、お背中流しますよ~」

 

「お兄ちゃんのお世話をする妹、小町的にポイント高いね!」

 

 風呂なら休めると思っていた時期が、俺にもありました。浴室の扉を開けて入ってきた二人は、タオルで隠すこともしていない、生まれたままの姿なわけで。逃げようにも入口は当然二人に塞がれてしまっているわけで。

 

 

 ああ、もう本当に――なにが起こっているんだ?

 




かなり久しぶりの更新です

久々に書いたらどんな感じだったっけ? と全話読み直すハメに・・・
こまめに更新した方がいいと思いました(今後こまめにするとは言っていない

前にこのシリーズを書いていたときに、小町もいろはも八幡のことを「お兄ちゃん」と呼んでいてややこしかったので、今回からいろはの方に「おにいちゃん」と呼ばせることにしました
過去の話も余裕を見つけて修正しておこうかなと思います


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妹たちの猛攻撃!

R-18です


「おにいちゃん、気持ちいいですか?」

 

「わあ、お兄ちゃんの背中おっきい……」

 

 ボディソープを泡立てたボディ洗い用のスポンジで二人に背中を洗われる。小町は遠慮のない感じにゴシゴシとスポンジを擦りつけ、いろはは産毛の一本一本を磨くように丁寧に滑らせてくる。普段は直接手が届きにくいこともあって上手く洗えているか微妙な背中を人に洗ってもらうという行為は予想以上に気持ちよかった。それも、彼女たちが相手ならなおさらだ。

 

「ん、しょっ……ん、しょっ」

 

「ごーし、ごーし」

 

 入念に、慈しみを込めるように一生懸命洗われていると、汚れと一緒に疲れまで落ちていくような錯覚を覚える。二人が風呂に押し掛けてきたときはどうしたものかと焦ったが、この様子だと夕食の時のようなおかしなことにはならないだろう。

 

「よいしょっ、と。こんな感じかな?」

 

「そうだね。おにいちゃん、シャワーかけますよ~」

 

「おう」

 

 了承の声を上げると、シャワーの温水がそっとかけられる。右肩から首の付け根、左肩へとゆっくり流水が流され、泡を落とす。柔らかい手でペタペタと背中を触られると、こそばゆくて変な声が出そうになってしまう。いけないな、せっかく妹たちが善意でやってくれているのに邪な感情を抱いてしまっては……。

 ムラムラと仄かに沸き上がってくる劣情に耐えていると、背中に当てられていた流水が途切れる。どうやら泡が流れ切ったらしく、後ろからいろはの「よし」という声が聞こえた。

 

「おにいちゃん、背中終わりましたよ~」

 

「そっか、ありがとな。じゃあ……うあっ!」

 

 後は自分でやる、と言おうとした声は、後から湧いてきた呻きにも似たそれに掻き消されてしまった。原因は突然身体の前に回された細い腕。首だけで振りかえるとにい、と笑ういろはと目が合って。

 ……あぁ、これはダメだ。

 

「他のところも綺麗にしてあげますよ?」

 

 いろはの表情は性独特のいやらしい雰囲気を醸し出しており、その声にも明らかな熱

が絡んでおり、聴覚から俺の理性を溶かしにかかる。

 おかしなことにならないはずがなかった。彼女たちは最初からその気だったのだから。

 とてとてと俺の正面に回り込んだいろはは小さく意気込むと、ボディソープを普段彼女が使っているのであろう泡立てネットで泡立てる。ネットから生成されたきめの細かい泡を素手で掬い取ると、俺の胸の上でそっと塗り広げた。

 

「おにいちゃんのお胸、あわあわになっちゃいましたね~」

 

 肌に触れるか触れないかの微妙な距離で胸部からみぞおち、腹部を撫ぜられる。ふわふわの泡の触れる面積が増える度にゾクゾクと背筋が震え、自然と息が荒くなる。脇腹を小さな手が掠める度に漏れそうになる声を抑えている俺が面白いのか、いろはの口からふふっと笑い声が漏れ、ただそれだけで羞恥心に顔が熱くなるのを感じた。

 それだけでも刺激としては十分だというのに――

 

「じゃあ、小町はこっちを洗うね!」

 

 静かだった末妹が手に乗せたボディソープを俺の腕に塗りつける。泡立っていない原液の石鹸水は数個のシャボンを浮き上がらせながら腕を鈍くてからせていて、どことなくいやらしい。いや、いやらしく感じてしまうのはこのシチュエーションに呑まれてしまった俺のせいなのかもしれないのだが。

 それにしても、手でボディソープを塗りたくるだけでは身体は綺麗にならないのではないだろうか。

 

「えへへ~」

 

「よっ……んんっ」

 

「えっ、おいお前らっ」

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 ある程度身体に泡とボディソープをまぶし終えた二人が、何の躊躇もなく密着してきたのだ。いろははハグをするように正面から抱きついてきて、柔らかい性肉を押し付けてくる。さらに身体を上下左右に揺らしてその胸で泡越しに俺の身体を撫ぜてくるのだ。すべすべとした女の子らしい肌が擦れる度にむずり、むずりと鈍い刺激が沸き上がってくる。

 さらにやばいのは小町だ。泡立てていないボディソープに濡れた腕に跨り、腰をカクカクと震わせてくる。わずかに生えた恥毛がショリショリと擦れてソープを泡立て、ぷにっとした恥丘がその泡を再び塗りつけてきた。俺ですらほとんど触れたことのない女の子の花弁は、熱でもあるのではと思うほど熱い。

 これじゃあまるで、ネットで一度見たソープじゃないか……。

 

「ぁふ、これ……おっぱいが擦れて……」

 

「ぅぁ……気持ちぃぃ、気持ちいぃよぉ……お兄ちゃん、お兄ちゃんっ」

 

 なにこれ。なにこれ、なにこれなにこれ!

 金属バットで殴られたような衝撃が頭を貫き、クラクラしてくる。身体中の神経が官能的な情報のみを絶え間なく脳に送りつけてくるのだから、なおのことたちが悪い。

 身体のいたるところから女性的な柔らかい感触が伝わってきて、嗅覚はボディソープの香りでは隠しきれないほどの甘ったるい匂いで肺が満たされ、むせ返りそうだ。視覚はいたるところが肌色で埋め尽くされているし、鼓膜は二人の漏らす悩ましい声で情欲のままに震える。いや待て小町、耳に唇を押し付けて直接喘ぎ声を送り込んでくるな! ダメ! 熱い湿った吐息もダメ! いろはも自分の乳首と俺の乳首を何度も擦りつけんな!

 

「んぐ……ぅ……ふー、ふー」

 

 声を必死に抑えようとすれば当然呼吸は乱れ、息は荒くなる。いや、それ以前にこんな状況で平常心なんて保てるわけがないのだが……。

 そして、その興奮は当然のように一点に集まるわけで、真正面にいたいろはがそれに気づいて「ぁ……」と小さく声を上げる。

 

「おにいちゃん、身体洗ってるだけなのにこんなにおちんちん固くしちゃって……しょうがないおにいちゃんですね~」

 

 いや……え、俺が悪いの? だってしょうがないじゃん。理性の化物だって思春期真っ盛りの男なんだから、こんなことされたら意思に反して夜のスターバースト・ストリームの準備しちゃうだろ! ごめん、十六連発とか無理。

 

「んぁっ、へへ……お兄ちゃんえっちだぁ……んちゅっ、ちゅるっ……」

 

 小町が耳介に唇を密着させて熱を送り込むように色っぽい声を送り込んでくる。その上、耳の穴の入口にぴちゃぴちゃと舌を這わせてくるのだから、くすぐったさと気持ちよさに気を抜くと間抜けな声を上げてしまいそうだった。その間も小町の腰は腕の上を這いずりまわるように動いているのだが……。

 

「ひにゃっ、ふくっ、んんっ……はむっ、ちゅっ、れろっ……ふにっ、んっ……」

 

 シャリシャリの陰毛とプニプニの大陰唇の感触に混じって、少し硬い感触がある気がするんだけれど……。小町を横目で見やると腕素股を始めた頃よりも背を逸らせるようにして腹部を押し付けていた。

 これあれだよな。明らかに意図してクリトリスを擦りつけてきているやつだよな。前に二人の秘部を触れたとき、クリトリスでオナニーをするということは聞いていたが、改めて目の前で見せつけられると、あの時の何倍もの衝撃だった。

「おに、ちゃ……きもち、いぃ……ょぉ……」

 衝撃的なまでにエロい。よく十五年もの間、手を出さなかったと妙な関心をしてしまうほどその姿や声は、エロティカルなものだった。

 そんな妹を見てしまえば、上限を知らない性的興奮はさらに増大するわけで――その増大分だけ律儀に愚息も反応してしまうのは、もはや仕方のないことでしょう?

 

「あはっ。おにいちゃんのおちんちん、もうバッキバキですよ?」

 

「くぁっ……い、いろは……触んな……」

 

 だからいろは、楽しそうに実況しながら触るのはやめてくれないか……。指先でペニスの輪郭をなぞるように触られる。性感を掻きたてるような激しいものではないのだが、羽で撫ぜられるような微妙な刺激に何度も腰が浮いてしまう。

 

「だってぇ、ここも綺麗にしなきゃ、ですよね?」

 

 自分の胸で胸部からみぞおちを磨きながら、脂肪の薄い、しかし十分な柔らかさを持った腹部を使って亀頭を刺激してくる。さらに絶えず優しい手つきで男根全体に指を躍らせてくるのだ。

 

「ぁぐっ、はっ、はっ……んあ……」

 

 俺の腕を使ってクリトリスオナニーをしながら耳を猫のように舐める小町の刺激も、胸や肉棒を弄りまわすいろはのそれも、決して射精してしまうようなものではない。しかし、その小さな快感同士が幾重もの相乗効果を成して、鈍いスパークが視界を何度も明滅させてきた。

 快楽電流によって思考は既に飽和状態。むしろ爆発に至らないギリギリの快感の波のせいで生殺しも甚だしい。いつしか、飽和した思考をさらに塗りつぶすように――

 

「お兄ちゃん、すっごいえっちな顔してる……」

 

「ふふ、おにいちゃんはえっちなミルク出したいんですね」

 

 ばれている。そうだ、ただただ射精したくて、欲望のままに精を放ちたくて仕方がなかった。

 だから……声は出さずに静かに首肯した。そんな俺を見ていろはは優しげに眼を細めると、床に座るように促してきた。今の俺にはなぜ床に座らなければならないのかなどと考える余裕もなく、素直にその言葉に従ってバスチェアからタイルの床に腰を下ろす。

 

「小町ちゃん、ちょっと……」

 

 何をしようとしているのか疑問に思いつつ、様子をうかがっていたらしい小町にいろはがぽしょぽしょと囁きかける。小町はぎこちない動きでチラリと俺の方を見ると、小さく頷いた。一瞬にして顔が真っ赤になったのは、風呂場に長時間いたから……というわけではないだろう。

 

「じゃあおにいちゃん、動かないでくださいね」

 

「あ、ああ……」

 

 左脇に寄ってきたいろはに頷く。同じく右脇に来た小町がもじもじとしている姿にこれから始まる行為への言い知れぬ期待が高まった。

 

「そ、それじゃあ……」

 

 二人はあおむけに反るようにして俺の腰あたりに跨り、互いの足をクロスさせるとゆっくりと近づけて――

 

 

 ――ぐちゅり。

 

 

「うぁ……っ」

 

「ひぁっ!」

 

 思わず情けない声を漏らしてしまい、同時に腰が勝手に突き上がった。ずちゅっと柔らかく湿ったモノをつきぬける感触が男根全体を包み込み、先ほどまでとは違う明らかな快感で視界がチカチカして、危うく意識を持って行かれそうになった。

 

「もう、おにいちゃんいきなり暴れちゃだめだですよぉ……んっ……」

 

「いや……」

 

 だってこんな状態になったらしょうがないじゃん? 今、俺の愚息には二人の柔らかい恥丘が挟み込むように密着しているのだ。耳たぶのような柔らかい大陰唇に包まれてビク、ビクと男根が震える。先ほどまでの行為で彼女たちも興奮しているのか、触れ合っている女性器は明らかにお湯とは違う、粘りのある汁に濡れていた。

 

「えへへ……お兄ちゃん、妹のおまんこサンドイッチ……気持ちいい?」

 

 ………………。

 いや、小町さん……? そんな単語どこで覚えてきたのでしょうか……。十五年連れ添った実の妹の口からそんな言葉が出てきたというだけで、背徳感からかドキリと胸が高鳴った。

 もう……最高です。セリフ的にも感触的にも。

 

「ふふ~ん、おにいちゃん気持ちいいんですね」

 

 どうやら顔に出てしまっていたらしく、ニマニマしたいろはに指摘されてしまった。超恥ずかしい……。

 そんな俺に小町も頬を染めながらも笑いかけ、より一層秘部同士を密着させてくる。ぷちゅっ、と水気を含んだ音が漏れ、陰茎がさらに愛液によって熱く濡れるのが分かった。

 

「んっ……じゃあ、一緒にもっと気持ちよく……なろ?」

 

「……ああ」

 

 そんな提案、断れようはずもない。俺は二人の腰に手を添えて、今度は意図的に、腰を突きあげた。

 ――ずちゅっ。

 

「ぐっ……」

 

 再び湿った秘部で肉棒を擦り上げられ、快感信号が全身を駆け巡った。それはまるで未知の感覚、手でされるのとも、口でされるのとも違う。肉棒全体を柔肉が包み込み、粘性のある愛液がぬるぬるの潤滑油となって快感を増幅させる。

 秘所同士を擦り合わせる、いわゆる素股と呼ばれる行為だが、貝合わせ状態で行われるそれは男にとってはもはやセックス同義なのではないかと思わされた。

 その錯覚が、理性をあっという間に奪い去り、俺をただの獣に変えてしまう。

 

「ふにゃっ、ぇあっ……これっ、きもち……ぃぃ……っ」

 

「うぅっ、あはぁっ、ひぃ……んっ……おまんこ、擦れて……ぇ、えっちですよぉ……」

 

 ずりゅっ、ぐじゅっと何度も何度も腰を突きあげる。その度に二人が悩ましい喘ぎ声を上げるのが、たまらなくうれしい。そのうれしいという感情さえ快感に変換され、より気持ちよくなろうと、より二人を気持ちよくしようとひたすらに腰を振った。

 

「はあっ、はあっ……んぐっ!?」

 

 妹たちのサンドイッチにピストンを繰り返していると、愚息の受ける感触が変わって呻くような声が漏れてしまった。

 

「ああっ、これ、すごいよぉっ、お兄ちゃんのおちんちん、硬い……にぁっ……」

 

「こ、腰ぃっ、勝手に、動いちゃ……っ、くにゅっ、わっ、わゎっ……」

 

 二人がそれぞれ動き出したことによって、刺激に不規則性が生まれたのだ。三つの別々の意思による動きは、男根に対してその瞬間ごとにまったく別の刺激を与えてくる。瞬間的な刺激が許容限界に達して、ガクガクと腰が振るえてしまうのだが、それすらも新しい悦楽を生み出す行為となってしまう。

 性の悪循環……いや、決して“悪”ではない点が厄介なところだろうか。循環どころか俺の性欲はうなぎのぼりなわけだが。

 

「はふっ、っあ……にゃっ!?」

 

「おにいちゃ……っ」

 

 あふれ出る情欲を抑えることができず、思わず二人を抱きしめてしまう。しっとりとした肌が優しく吸い付いてきて、幸せな気持ちに包まれる。ハグという行為だけでこんなに心穏やかに幸福を享受できるなんて、これがいわゆる「恋は盲目」というやつだろうか。

 ただ、抱きしめたということはお互いの密着具合がさらに高まったということであり――

 

「ひあっ!? おにい、ちゃ……っ、ま、まって、ひぅっ……っ」

 

「これぇ、さっきより、んんっ、しげき……ぁんっ……」

 

 腰を動かすと、二人の反応がまた変わった。声にはより色欲が混ざり、目の焦点はいやらしくぶれて、俺に視覚的快感を与えてくる。

 

「は、はげしっ、はげしぃ、です……っ、ひゃんっ、だっ、だめ……っ」

 

 特にいろはの変化が顕著だった。行為中でも小町に比べると基本的に余裕を持っているように見える彼女だが、今は小町よりも反応が大きい。身体は何度もビクビクと痙攣を起こし、声を押し殺そうとしているのか必死に歯を食いしばっている。それでもその口は何度もだらしなく緩み、端からはツーッと唾液の筋が流れた。

 一体何があったのかと思ったが、理由は明白だった。密着している中でも最も大事な部分、二人の大陰唇が過度の密着によってくにゅりと口を開いて、隠れていた肉豆と肉棒が擦れあっていたのだ。ふにふにとした柔らかさを持つ女性器の中で、異質な固さを示すそれがカリ首を掠める度に二人の口からは嬌声の音が溢れ、俺の肉棒は歓喜に何度も震えた。

 

「いいっ、いいよっお兄ちゃんっ……ぁあっ、んあっ……」

 

 小町はやはりクリトリスが一番感じるのか、腰を前に突き出して積極的に男根に擦り寄せてくる。竿の血管を圧迫するように刺激され、単純な快感に微かなアクセントを与えてきた。

 

「ひぁっ、ぁ~~~~っ、ぃ――――っ」

 

 というか、いろはは大丈夫なのか? 元々分泌が多いらしい愛液は洪水状態でとめどなく流れ、少し動くだけでビチャビチャといやらしい水音を大きく鳴らす。だらりと開いた唇には既に引き結ぶ力は残っていないようで、抑えるもののない声は反射しやすい風呂場に大きく、鋭く木霊し――

 

「ひあっ~~~~――っ、~~~~っ」

 

 待て待て待て待て!

 絶え間なく続く音のない嬌声に思わず腰の動きが止まる。クッと逸らされた綺麗な白いおとがいに見惚れる余裕もなく、ただただ彼女が心配になったのだ。めちゃくちゃに愛でたい、そういう気持ちも当然あるが、一方的な愛の押し付けはしたくなかった。

 

「いろは、大丈夫か? 無理なら……」

 

「だめですっ!」

 

 密着を解除するために抱擁を解こうとするよりも早く、その腕を彼女に掴まれた。その上、いろはは俺の胸に顔を埋めるようにしてさらに密着度は深めてくる。

 

「私が、私たちがおにいちゃんの、かの、じょ、なんですからっ……おにいちゃんを気持ち良くするのだって、私たちがするんですから……っ!」

 

「っ……!」

 

 その目にあるのは……脅迫観念。いや、もっと単純に恐れか? その強い感情をぶつけられて困惑していると、胸部にもう一つ重みが増えた。

 

「小町……?」

 

「……お兄ちゃんは誰にも渡さないの! 小町たちがお兄ちゃんの……三人で恋人同士なんだからっ!」

 

 ……あぁ、そうか。

 強迫観念でも恐れでもない。二人は不安だったのだ。多少話しかけられるようになったとは言ってもぼっちはぼっち――この間葉山に言ったらすごい腐った目をされたが、積極的に話しかけなければぼっちと同じだろう――、情報はなかなか入ってこないものだ。俺の知らないところで二人が何かを聞いたのかもしれないな。

 どんなに心配するなと口で言っても、やはり心配になるものだ。ソースは俺自身。二人が俺から離れて行かないだろうかと戦々恐々する毎日だからな。自分自身が抱いている感情を相手は抱いてないと無意識に思ってしまっていた。相変わらず俺は人の心を理解することに劣っているらしい。

 そんな自分を恥じるのと同時に、より一層二人が愛おしくなった。絶対に誰にも渡したくないと、強く思ったのだ。

 愛おしくて愛おしくて、それをどう表現すればいいかわからなくて……とりあえずキスで表すことにした。

 

「んっ、ちゅっ、ちゅむっ……」

 

「ちゅるっ、れるっ、ぁむっ、じゅるっ……」

 

 軽いキスから舌を絡めるようなキスへ、交互にしていたキスはいつの間にか、ごく自然に三人でのものに変わる。

 二人から送られてくる甘い唾液を口の中でブレンドし、自分のものも混ざったそれを返す。絶えず舌を絡ませ合いながらもコクコクと二人の喉がかわいらしく何度も上下した。

 

「んくっ、じゅりゅっ、はぅ……ひぁっ、おにいちゃ……それっ……」

 

 腰の動きを再開すると二人の身体がビクンと跳ねる。やはりクリトリスへの快感に慣れていないいろはの反応が大きいが、唇を離すこともなく、いやむしろより深く舌を絡めてくる。

 

「おにぃちゃん……これ怖いです、んんっ、気持ちよすぎて……こわぃ……ひぁっ」

 

 ばっかやろう……!

 そんなこと言われたら! めちゃくちゃにしたくなっちまうだろうが!

 

「ひぐっ、だめっ、んんっ、だめだめ……っ、はわ、ぁ~~~~っ」

 

 貝合わせから亀頭が抜けきるギリギリまで腰を引いて、一気に奥まで突き刺す。ぶじゅりと大きな音を立てて、根元まで熱い粘膜に包まれる。優しい柔らかさのはずなのに、視界がくらみそうなほどの攻撃的な快感とか、本当に訳が分からない。訳が分からないほど、気持ちがいい。

 

「ぁぁっ、ぃあ~~~~っ、だ…………っ、……――っ」

 

 抑えきれないいろはの喘ぎをキスで抑えつけて、左手を胸の頂きに添える。指でつつき、押し潰して、撫ぜると彼女は大きく目を見開くが、決して離れようとはしなかった。自分の浅ましい肉欲をさらけ出しても求めてくる姿を見て、心の奥からじわりと温かいものがあふれ出すのを感じた。至極単純明快な“うれしい”という感情が、ここまで温かいものだなんて……。

 

「ひぅっ、お兄ちゃ……ん、ふあっ、それ、くすぐった……ひにゃっ……」

 

 もちろん、いろはだけを特別扱いはしない。右腕を小町の背中に伸ばして、首の付け根から背筋を下らせる。人差し指、中指、薬指を不規則に躍らせるとくすぐったそうな反応を見せるが、嬌声は止まない。くすぐったいという感覚は気持ちよくなるの一歩手前とかいうのをどこかで見たし、性器からの快感を増幅させているのだろう。

 

「だめっ、ぁっ、だ――――っ、ぇあ…………っ」

 

「ふぁっ、ひんっ、ぁ、ぁぁっ、~~~~っ……ぁぁぁっ……」

 

 三人で隙間なく密着された口に二人の甘い喘ぎ声が溢れて、口内から鼓膜を刺激する。さらに、下腹部から漏れるぐじゅぐじゅという官能的な音も、耳介がくまなく拾って聴覚神経まで届けてくるし、当然のごとくキスやダブル素股の肉感的な快感も余すことなく脳を揺さぶった。

 なにが言いたいかというと、つまり……もう、限界も限界だった。

 

「ぐ……で、る……っ」

 

 腰の奥でくすぶっている射精の熱を発散させようと、腰の動きをさらに早めた。頭の中はグツグツと滾る熱を爆発させたい、大好きな二人を自分の欲望で汚してしまいたいという想いでいっぱいで、それすらも痛いほどの快感にどんどん真っ白に塗りつぶされていく。

 

「おに、ちゃ……っ、一緒に、一緒にイって! ……ぁぐっ、だめ、だめっ……」

 

「こまち、も……飛ぶ、飛んじゃ……ぁ、ぁっ、ぁぁっ……ぁぁあっ……」

 

 焦点が完全に合わなくなった目をキュッと閉じて、二人が力いっぱいに抱きついてくる。密着をより強めた下腹部への快感は、もはや暴力とすら呼べるレベルのもので、限界の一歩、いや半歩手前だった俺の精の壁は――

 

「あがっ、~~~~――ッ」

 

 いともあっさり決壊した。

 ――ドブッ、ビュルビュルルッ、ブビュッ、ジュブベヂャッ。

 特濃の白濁液が断続的に尿道口から吐き出される。ネバネバとした粘度の液体が通る度に尿道は拡張され、男根はビクッ、ビクッと勝手に跳ねた。

 そしてその振動は当然、秘部を接触させている二人にも伝わり、絶頂のトリガーは連鎖的に引かれた。

 

「だめっ、だめだめだめだめっ、だっ、ん~~~~っ」

 

「ぁっぁっ、ぁぁぁぁあああああああ――――ッ」

 

 身を一際硬くした二人は抱きつきながらもわずかに身体を逸らせて、綺麗なおとがいを覗かせた。大陰唇の中、竿を這うようにして触れていた膣口は、それぞれが空腹の獣のように蠢き、肉棒を甘く食む。その刺激に終わろうとしていた射精感が再び奮い立たされ、最後にビュルッと精の残滓が飛び出した。

 

「はっ、はっ、はっ……ふえっ? ……えへへ」

 

「はあ、はぁ……わぁ、お兄ちゃんの、なでなで……」

 

 絶頂を終えてぐったりと身を預けてきた二人の頭をそっと撫でると、胸板に頬を擦りつけながらだらしなく頬を緩めていた。

 

「…………」

 

 そんな二人を見て、やっぱりこいつらのことが好きなんだなと納得する自分がいるわけで。

 そんな事を考えている俺の頬も、さぞかしだらしのないことになっているのだろう。

 




どうも

最近とんと投稿ペースが落ちてきましたが、それでも少しずつクオリティを上げるように努力しています

まあけど、もうちょっと投稿ペースも上げたいよね!(ジレンマ


まあ、そこら辺は慣れていくしかないわけですが、第1部の「ある日妹が増えまして」から続いたシリーズもだいぶ佳境に迫ってきました
なんだかんだ初めての長めのR-18ストーリーで表現とか凄い苦労しています(現在進行形
3Pとか経験あるわけないだろ!

後2,3話くらいでお話は終わらせようと思うので、ちょっとこのシリーズに注力しようかと思っています(息抜きに脱線するかもしれないけど

このシリーズが終わったらちょこちょこ虜シリーズとかSAOクロス書きつつ短編書いて、最近ちょくちょくネタを考えているオリジナルも書きたいなーなんて思っていたりします

ただ、渋とかハーメルンってオリジナル読まれるのかなーとちょっと不安・・・な○うとかで書いた方がいいのかしら? あそこ怖いイメージしかないんですけど


まあ、それはこのシリーズが終わった後にでも考えましょう
ではでは、また次の更新まで~


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俺は妹を深く、深く欲する

「それで……これがその手紙か」

 

 お互いにかいた汗やら身体についた汁やらをシャワーで流して、今は俺の部屋。目の前にあるそれを見てぽつりと呟くと、二人は小さく首を縦に振った。目の前にあるそれ、二人が俺の靴箱から回収していたらしい手紙はざっと見て五十通はあって、二週間でよくもまあこんなに届いたものだと妙な関心をしてしまった。恐らくバブルのようなもので、もう少ししたら落ちつくだろう。

 そのうちの一通をおもむろに取ってみる。花柄のシールで止められた封をはがすと、中から小さな丸文字の書き連ねられた、いかにも女の子らしい便箋がでてきた。内容に目を通してみると、二年の頃は俺に対する悪い噂をよく聞いていたけれど、最近はいい噂もよく聞くし、体育祭の時に葉山と勝負する姿はかっこよかった――自分で言うとくっそ恥ずかしいんですけど、ジェノス君よく平然と言えるな――といったことが好意的な文章で書かれていた。

 便箋の下のところに、ご丁寧にクラス付きの名前が書かれているところを見るに、十中八九本物のラブレターと言えるだろう。

 

「おにいちゃん……」

 

「その、やっぱりそういうのもらうと……うれしい、のかな……」

 

 二人の瞳には純粋な不安の色がありありと浮かんでいた。たぶん、今の俺の一挙手一投足が二人の不安を増幅させてしまうだろう。兄妹で、しかも三人で恋人同士という歪な関係が、否が応でも彼女たちの心を苛んでいるはずだ。葉山あたりならこんなとき、いつもの完璧な笑顔でも見せて「そんなことないよ」なんて言って安心させるのだろうが、あいにく俺はそんな芸当を持ち合わせていない。

 それに、二人に対して隠し事をするのは、感情を偽ることは、なによりも俺自身が許せなかった。

 

「……まあ、そうだな」

 

「ぁ……」

 

「…………」

 

 俺の返答を聞いて、二人の表情が明らかに暗くなる。落とされた小さな肩に心が強く締め付けられるが、これが俺の選んだやり方なのだ。ぐっ、と息を飲みこんで言葉を紡ぐ。

 

「少しは、お前らの自慢の兄貴になれてるってことだからな」

 

「「ぇ……?」」

 

 素っ頓狂な声を上げて妹たちが顔を上げる。しかし、本当によくハモるな。姉妹かな? 精神レベルで姉妹まである。

 こういう手紙をもらったこと自体は確かにうれしい。しかし、それは決して好意を寄せられたことがうれしいのではなく、それだけ周りに認められてきたという物的な証拠だったからだ。

 俺の目的はただ一つ、二人に見合うような、自慢になれるような兄に、恋人になりたいということだけだった。だからこの半年努力してきたし、乗せられたこととはいえ葉山と何度も勝負もした。勝利への高揚感なんかの副産物を得ることはあっても、目的は何一つ変わらない。どんなに心のこもった好意的な言葉を書き綴られたところで、俺の気持ちは揺らぎはしない。

 

「俺が好きなのは……お前ら二人だから」

 

 二人のどちらかを選ばずに、臆面もなく二人とも好きと言うなんて、なんと傲慢なことだろうか。酷く傲慢で、我儘で、尊大で……それでも、紡ぐ言葉に後悔なんて、あるはずがなかった。

 

「小町、いろは。俺は――」

 

 紡ぐ声には自然と熱が籠る。この言葉を発するのは二度目だけれど、きっと今度は黒歴史だと思うことはない。

 だから、その音は自分でも驚くくらい自然に喉を通った。

 

「お前たちと、本物を探したい」

 

 分かりたい、分かられたい。そんな夢のようなものが本当に存在するのか、俺自身分からない。それで、そのあるかも分からないそれを、三人で見つけたいと、そう思ったんだ。

 

「「………………」」

 

 二人はじっと俺を見つめて、互いにそっと目配らせをして――

 

「はいっ!」

 

「一緒に探そ、お兄ちゃん!」

 

 にっこりと笑って抱きついてきた。さすがに二人分の勢いは支えきれず、床に倒れこむといつかの時のように三人で転がった。二人もそれを思い出したのか、クスクスと笑うので、俺も釣られて笑ってしまう。

 くしゃっと二人の髪を梳くように撫でると、口角を緩めて「えへへ」とかわいらしい声を漏らす。柔らかい髪が揺れる度に、柑橘系の優しい匂いがふわりと届いた。

 

「……おにいちゃん」

 

 けれど――

 

「ぁぅ…………」

 

 手を頭から背中に下らせてゆっくりと撫でていると、その香りに混じって甘ったるい別の匂いが嗅覚を刺激する。それがなんの匂いなのかを知っている俺は、心臓をぐわっと掴まれたように悩ましい感情に襲われた。

 

「なあ……」

 

 自分の声が震えているのが分かる。いや、ひょっとしたら身体すら震えているのかもしれない。見上げてくる二人の視線に、臆病な自分が顔を覗かせる。逃げだそう、逃げてしまえと囁いてくる。それでも、それでも俺は、二人となら先に進める、そう思ったんだ。

 頭を小さく振って、弱い自分の誘惑を振り払う。大きく一つ息を吐いて、ゆっくりと続きの言葉を紡いだ。

 

「今日は……最後まで、したい」

 

 兄妹という関係の制約。兄妹でも関係はないと言いながらも、肉体的な愛情表現に及びながらも、無意識に、あるいは意図的に、お互い最後の一線は越えないようにしていた。倫理観だとかそういうものよりも、その行為によって関係が変わってしまう可能性への恐怖があったのかもしれない。

 今もその恐怖心は消えない。けれど、怖くて怖くて仕方がなくても、俺はもっと二人と繋がっていたかった。もっと深く、少しでも長く。

 

「「…………」」

 

 二人はなにも言葉を発することなく、一瞬視線をぶれさせて――目を伏せると、抱きつく腕に込める力を少しだけ強めた。

 

 

 

     ***

 

 

 

「んちゅっ、ちゅむっ、れろっ、ぁむっ……」

 

「はむっ、じゅちっ、るむっ、ぴちゅっ、ちゅぷっ……」

 

 二人と唾液の交換を行いながら、そっとベッドに押し倒す。わしゃわしゃと髪型が乱れるくらい頭を撫でると、目を細めながらピクリと身体を震わせた。二人とも結構頭撫でられるの好きよね。まあ、俺も撫でるの好きなんだけれど。利害関係一致しているから何の問題もないな!

 それにしても……ここにきて俺は非常に悩ましい事態に陥っていることに気がついてしまった。スウェットの中に収まっている愚息は確認するまでもなく硬くなっている、それはいいのだ。しかし、どんなに痛いほど起立していてもそれは一本なわけで、俺が相手をするのは二人なわけで、つまりはどちらかを最初の相手として選ばなくてはいけないのだ。

 …………え、なにその究極の選択。

 付き合い始めて半年以上。これまでできる限り二人と平等に接してきた俺にとっては、かなり厳しい選択だった。確実にどちらかと先に……その、致さなければいけないわけで、それは片方を優先するということになってしまう。どうすれば、どうすればいいのだろうか……。

 

「んにゅっ、ちゅるっ、ぷはっ……お兄ちゃん」

 

「小町……?」

 

 唇を離した小町がころりと転がって交わりから抜け出す。起きあがってぺたんと女の子座りになると、いつものようににひっと笑いかけてきた。

 

「いろはさんを先にしてあげて?」

 

「…………わかった」

 

 きっと彼女は、どうすればいいのか悩んでいる俺のために自分から席を譲ったのだろう。こういう気遣いができるあたり、本当に俺の妹とは思えないと、心の中で苦笑してしまう。

 

「ぇ、でも……いいの?」

 

「いいんですよー。それにほら、二人がしてるのを観察すれば、小町の時に失敗はしませんからね!」

 

 ああ、うん。やっぱりお前俺の妹だわ。いやまあ、そういうところもかわいいんだけれど。呆れた表情を小町に向けて――。

 ひょっとしたら……。

 

「お兄ちゃん」

 

「……ああ」

 

 いや、今はせっかくの末妹の好意に甘えるべきだろう。そのおかげで、片方を優遇するということにはならないのだから。

 

「いろは……」

 

「おにいちゃん……」

 

 つっといろはの頬に触れて軽くキスをすると、もう片方の手を彼女の秘密の園へあてがった。

 

 

 ――ぐちゅっ。

 

 

「っ……いろは、お前……」

 

 パジャマ越しに触れたはすだった。いや、間違いなくパジャマとショーツを挟んで触れたはずなのに、いろはの秘部はすでに直接触ったのかと錯覚してしまうほどびしゃびしゃに濡れていた。なんで、と無意識に向けた視線の先で、いろはは泣きそうな表情をしながら「だって……」とか細い声を上げる。

 

「だって、やっと……やっとおにいちゃんと最後までえっちができるって思ったら、それだけで……」

 

「…………」

 

 やばい。死にかけた。

 なんてこと言うんだこいつは。

 危うく乱暴に扱いそうになるのをぐっとこらえる。もう本当に歯を痛いほど食いしばらないと、めちゃくちゃにしてしまいそうなくらい危なかった。

 

「んふっ、ぁっ、はふっ……ひんっ……」

 

 パジャマ越しにゆっくりと秘裂をなぞると、じっとりと湿った布がずちゅっ、ずちゅっと水音を漏らす。その音だけで、興奮に脳髄の奥がじりじりと痺れた。

 正直、これ以上我慢なんて全くできるわけがなく、ズボンのウエスト部分を掴んだ。

 

「いろは……下ろすぞ?」

 

「は、はい……っ」

 

 恐らく、今の俺はだいぶ血走った眼をしているに違いない。しかし、彼女は緊張しながらもしっかりと頷いた。それを確認して、そっと、生まれたばかりの赤ん坊を抱くくらい慎重にパジャマを下ろした。

 

「すごい、な……」

 

 ズボンの濡れ具合から予想はしていたが、彼女の局部は大洪水という表現がしっくりくるくらいの濡れ具合だった。薄いピンクであろうショーツはもはや浅黒く変色していない部分の方が少ないほどで、太腿にはいくつものいやらしい筋が流れている。

 

「ぁっ……」

 

 もはやただの布と言っても過言ではないショーツを横にずらすと、愛液の源泉が顔を覗かせる。ゆるくほどけた大陰唇の奥から小陰唇、陰核、そして膣口が見えた。ピクピクと小刻みに震える性の鞘からは、とろりとした愛液を溢れださせている。その光景が官能的すぎて、これが妹の身体の一部だと言うことが一瞬信じられなくて、ついいろはの顔と見比べてしまう。

 

「~~~~~~~~っ!」

 

 ああ、なにこいつ。かわいすぎません?

 秘裂の奥を見られることがよほど恥ずかしいのか、両の手で真っ赤に染まる顔を覆っていやいやと首を振っている。けどね、いろはさん。君ついさっき、その恥ずかしい部分を俺の肉棒に押し付けていたんだからね? 能動的だと平気だけど、受動的だと見られるだけでも恥ずかしいなんて、ギャップ萌えでも狙っているんですかね? すごくグッときました。もっと虐めたくなっちゃうぞ。

 ……おっと、いけないいけない。

 ふつふつとわき上がる嗜虐心に流されそうになるのをグッと堪える。これから互いにとって初めての体験をするのだ。あまり焦らすのも酷というものだろう。虐めるのはまた今度だな、うん。

 

「……っ」

 

 自分のスウェットをパンツもろとも下ろして、肉棒を解放する。こきゅっ、という小さな音で顔を上げると、いつの間にか顔から手を離したいろはがガチガチになった俺の愚息にじいっと視線を送っていた。その瞳に宿っているのは期待、不安、興奮。

 

「ひぅっ」

 

 亀頭の先端を膣口に押し当てる。粘膜同士が触れ合い、小さな水音を漏らすと、いろはの身体がビクンと震えた。

 というか、俺も変な声が出そうになった。生殖器の入口と先端を触れ合わせているだけなのに、膣口がまるで甘噛をするように不規則に亀頭を食んできて、それだけで腰が浮きそうになった。

 

「……挿れるぞ?」

 

「は、はい……ぐっ」

 

 腰に力を込めて前に突き出す。いろはの顔がわずかに苦悶表情に歪み、押し潰されそうな締め付けを受けながらも、少しずつ肉棒が飲み込まれていく。というか、本当に締め付けがやばい。風呂で一回発散していなかったらこの時点で暴発していたかもしれないほどに強く、しかし柔らかく圧迫されていた。

 

「はうっ、おっき……ぃぁ……っ」

 

 指程度の刺激なら慣れているいろはだが、さすがにそれよりも太い男根は勝手が違うらしく、少し苦しそうだ。

 やがて亀頭が全て収まったあたりで、先端が突き当たった。最奥、というわけではないはずだから、たぶんこれが処女膜ってやつだろう。いろはもそれが分かるようで、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

「おにいちゃ、ん……遠慮、せずに、奥まで……きてっ」

 

「っ……ああ」

 

 あまりゆっくりしてしまっても、逆に痛みを長引かせてしまうことになるかもしれない。いろはの腰に両手を添えて、一気に肉棒を押し込んだ。

 

「っ――――!」

 

 パチンとなにかが弾ける感覚と共に、引き込まれるように肉棒が沈みこむ。ざわざわとざわめくヒダに促されるように押し進めると、亀頭の先がぐにゅりと包み込まれる。どうやら、今度そこ最奥に行きついたようだ。

 つうか、これ……っ、予想以上にやばい。手でされた時も、口でされた時も、あまつさえダブル素股をされたときでさえ、これ以上の快感は存在しないと思っていた。それなのに、いろはの中は今まで感じてきた刺激とは段違いのものだった。膣壁はまるで意志を持った生き物のように蠢いて、全く動いていない今でさえ絶え間なく肉棒を刺激してくる。ざらついたヒダが幹の部分を扱き上げ、つるつるとした最奥の肉壁はピクピクと痙攣するように亀頭を刺激してきた。

 気を抜いたら一気に理性を持っていかれて、欲望のままに腰を振る獣になってしまいそうだ。何度も無意識に腰に入る力を必死に抑える。純潔を失ったばかりのいろはにとって、今動かれるのは辛いだろう。現に、彼女はうっすらと涙を浮かべて、その息もだいぶ荒くなっている。その上、さらなる苦痛を与えたくはなかった。

 

「おにい、ちゃん……」

 

 しかし、眉を寄せながらも、目の前の妹は俺の手にそっと自分のそれを添えて、小さく微笑んできた。苦悶と笑みの混同。別々の感情の混じった歪な表情のはずなのに、彼女の浮かべたそれはつい息を飲んでしまうほど蠱惑的で、なによりも綺麗だった。

 

「動いて、おにいちゃん」

 

「でも……」

 

「だいじょ、うぶ、です。思ったよりも、痛くないから……。おにいちゃんが、動きたいのを我慢して、心配してくれてるだけで、すごくうれしいです。けどね……おにいちゃんにはいっぱい気持ちよくなって欲しいから、……私を、使ってください」

 

「…………っ」

 

 もう、歯止めなんてきかせられなかった。ゆっくりと男根を半分くらいまで引き抜く。カリ首や亀頭をヒダの凹凸が掠め、それだけで視界がぶれそうになるのを歯を食いしばってこらえる。破瓜の痕が痛むのか、いろはがベッドのシーツを力いっぱいに握りしめるが、決して「痛い」とは言わなかった。

 そんな彼女に心の中で感謝して、再び腰を前に押し進める。痛いほど擦ってくる肉ヒダ部分を抜けると、再び最奥の肉壁にポスっと密着して――

 

「ひぁぁぁぁあああぁぁっ!」

 

 …………え?

 思わず腰の動きが鈍る。膣の奥に亀頭を押し付けた瞬間にいろはの喉からあふれ出た声は、痛みというよりも強い快感のような気がして、女性の初体験は痛いものという俺の知識からはずいぶんとかけ離れた反応に困惑してしまう。

 ひょっとして。そう思って今度はあまり引き抜かずに、グイッと亀頭をめり込ませてみた。

 

「はひっ、ふぁあぁっ、あぇっ、くっ……ひにゃぁぁああっ」

 

 間違いない。まだ多少の痛みはあるようだけれど、それ以上に明らかにいろはは奥への刺激に感じていた。それならばと小刻みに腰を振り、何度も膣奥を圧迫する。竿の付け根と濡れた秘部が幾度となく密着し、ぴちゃっ、びちゃっと粘性の高い音色を奏でた。

 

「ひふっ、ああぁぁっ、みぁっ……おにぃちゃん、これ、きもちいぃですっ……おにいちゃんとのえっち、きもちいいっ、はぁんっ……私っ、初めて、なのに……感じて……っ」

 

 なーにこの子、めちゃくちゃかわいいんですけど。いや、元からめちゃくちゃかわいいのだが、今はさらにかわいい。快感にふやけた顔を羞恥心で真っ赤に染める姿は、普段の彼女に比べてだいぶ幼く、どうしようもなく庇護欲を掻きたてられた。

 

「私っ、淫乱な子じゃ……えっちな子じゃ……ひゃっ」

 

 だから、つい抱きしめてしまうのも仕方がないわけで。

 

「俺は、そんないろはもうれしいよ。俺も、その……一緒に気持ち良くなってくれると、うれしいから……」

 

 耳を手のひらで覆うように髪を梳きながら口にすると、いろはは一瞬動きを止めて、背中に腕を回して胸に顔をうずめてきた。

 

「なりましょっ! 一緒に、気持ちよく!」

 

「っ……!」

 

 胸元にすりすりと頭を擦りつけていた彼女が顔を上げると、そこには羞恥を何倍も上回る喜びの色があった。

 そんな表情で、そんな事を言われてしまえば、すでにボロボロだった理性は存在すらすることができず――

 

「ひぁっ、ぅあぁぁっ、へぐっ、あぇっ、んっ、んんっ……」

 

 溜まっていた欲望を、そのまま妹にぶつけることになった。盛った獣のように腰を打ちつけて、亀頭を最奥に突きつける。何度も、何度も。

 

「はぅっ、ひぐっ、ぁぁあっ……きもちいぃっ、きもちぃぃよぉっ、ひやんっ……」

 

 いつの間にか膣から抜けそうになるほどのロングストロークも混じるようになったが、いろはの表情や声にはもはや苦悶の色は微塵もなかった。

 

「ひぅっ、ぁああっ……おにいちゃっ、だめっ、だめ……ぇっ、ひあっ……」

 

 膣は何度も収縮を繰り返し、蠢くヒダとの相乗効果で肉棒を爆発させようとしてくる。最奥の肉壁はまるで尿道から精液を吸いだそうとするように、亀頭が近づくたびに吸いついてきた。

 蜜壺の中で男根が動く度に、いろはの身体はビクビクと大きく震え、声はどんどん大きくなる。表情はだらしなく緩み、視線はどろりと揺れて焦点が合っていなかった。肉体的にも、聴覚的にも、そして視覚的にも官能を刺激されて、腰の奥が重くなる。

 終わりが近づくにつれて、より貪欲に俺の心は快感を求めていった。

 

「……ぁっ………ゃん……」

 

 だからだろうか。官能にまみれた脳に、かすかなその声が確かに届いたのは。快感によって頭にかかっていた霞みのような靄が一瞬晴れる。それによって、かすかに聞こえたその声が今度はしっかりと俺の耳に届いた。

 

「ぁうっ、んんっ、あっ、ぁぁあっ、かふっ……お兄ちゃん……お兄ちゃん……っ」

 

 ベッドの脇、さっきにひっと笑いかけてくれた小町が、切なげな声を上げていた。その右手はズボンの中に伸び、左手は俺のお下がりのジャージの上から乳房に添えられている。ズボンの中からはかすかにくちゅくちゅと音が漏れ、その度に小さな身体がピクンと震えていた。

 その姿は、その甘い声は、酷く熱っぽくて。俺の中にいる獣をさらに奮い立たせるには十分すぎるものだった。

 

「おに、ちゃっ……ひんっ、かはっ、深ぃっ……ひぅっ、ぇああぁぁっ、だめっ、だめだめだめっ、だっひあぁぁ……ん……っ」

 

 緩急だとかそういうテクニックはすでになかった。ただひたすら全力で腰を振る。接合部からはぐちゅっ、ぶちゅっと淫猥な音と共に愛液と先走りの混じった半透明のカクテルが溢れだし、嬌声はどんどん大きく、高くなる。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ、あぁっ、ぁっ、ぁぁっ……」

 

 俺達のまぐあいが激しくなるのに呼応して、視界の端で自慰に耽る小町の声もその度合いを増す。部屋の中は悩ましい喘ぎに水音、荒い呼吸音で満ち、ゾクリとするほど官能的な空間に作り替えていた。

 初体験の膣の刺激に外部からのいくつもの性的な攻撃。

 

「ぐぁ……っ、もう、もたな……っ」

 

 当然ながら、これ以上もつわけがなかった。ブルリと肉棒が震える感覚に、思わず膣内から引き抜こうとすると、腰に足を回されてしまう。足を絡めた張本人であるいろはは、玉のような汗を額に浮かべながらも目尻をとろんとさせて懇願するような表情を浮かべていた。

 

「なかっ、中に出して! おにいちゃんで、いっぱいにして……!」

 

「お前……っ」

 

 そんな事を言われて抗えるはずもなく。引き抜こうとしていた肉棒を根元のさらに奥まで押し込んだ。そして、肉壁がぐにゃりと亀頭の形にひしゃげるのと同時に――

 

「だめだめだめっ、あああぁぁああ~~~~っ」

 

 いろはの身体がビクビクと跳ねる。背筋がいっぱいに反らされ、喉が裂けそうなほどの声が飛び出した。そして、彼女の膣内はざわつきながらギュウギュウと肉棒全体を扱きあげてきて――爆発への最後のトリガーを引いた。

 

「ぐ……ぁあ!」

 

 ――どぶっ、どびゅびゅるっ、ぐぷっ、びちゃっ。

 

「ひゃぁぁあああぁぁぁああぁっ!」

 

 最奥に叩きつけられる熱い白濁液に、絶頂に達したばかりの妹の身体は過剰に反応し、より一層背を反らせて、全身を強張らせた。それでも貪欲な蜜壺は残りの一滴すらも逃すまいと、絶えず男根を締め付けて吐精を促してきた。

 やがて全ての精を吐き出しきると、ゆっくり愚息を引き抜いた。コプッという音と共に秘部から抜け出した肉棒は、愛液と精液に濡れててらてらと鈍く輝く。肩で荒い息をするいろはの恥丘はぱっくりと開き、許容量を超えた白濁が溢れだし、尻たぶに淫靡な筋を作る。それが彼女を俺自身で染めた証だと思うと、愛おしくて仕方がなかった。

 虚ろな目でベッドに寝そべる妹の額にそっと唇を触れさせてから、視線をずらす。その先にいるのは興奮に頬を染めた、絶賛悩んでいるであろう末妹だ。

 

「小町……」

 

 熱い頬に手を添えると、ぴくんと小さく震える。彼女の浮かべる表情が表す意味を正確に理解した俺は――そっと唇を重ねた。

 




R-18が続くと自分の表現力の幅のなさにちょっとしょぼんとなります。
もっといろんな官能小説を読んで勉強しないと!

そういえば、この間kindleで官能小説を探してたら、気がついたら妹モノの官能小説がアプリ内に入ってました。フシギダナー。
割とえり好みするタイプなんで、ぶっちゃけいちゃラブもの以外はスルーしてしまいますね。


そういえば、最近になってようやくデレステを始めました。646回のリセマラの末に、お目当ての凛ちゃんではなく新田ちゃんで始めたわけですが、音ゲー苦手な私でも楽しく遊べています。皆も始めよう!(宣伝)


次の更新もこのシリーズの予定です。ではでは!


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禁忌ですら、俺達の前では意味をなさない

R-18です


 お兄ちゃん達の交わりは、頭の奥が痺れそうなほどえっちなものだった。少女漫画のおかげで多少の知識はあったけれど、実際にいろはさんの中にお兄ちゃんの大きなおちんちんが入れられる光景は、十分な衝撃だった。

 

「おにいちゃっ……だめ、だめだめっ、ひぁっ……」

 

 あられもないいろはさんの声、二人の身体同士が重なる音にお股の奥がキュンとしてしまう。ジャージの中に手を入れてみると、女の子のワレメがくちゅっと音を立てた。

 

「ひぅっ……」

 

 電流のような刺激がアソコから全身に広がる。触っていなかったはずなのにししどに濡れているワレメが、二人を見て興奮しているという事実をありありと自覚させてきた。

 

「ぁん……くふっ……」

 

 自分の指のはずなのに、まるでお兄ちゃんのそれ、いやお兄ちゃんの凶悪になったおちんちんで弄られているような錯覚をしてしまう。浅く指を差し込んだ自分を今のいろはさんに投影すると、訪れる快感は一人でしているときとは比べ物にならなかった。

 けれど、本物はこの程度じゃない。もっと大きくて、ずっとずっと深い。お腹の奥、さっきからキュンキュンうずいているところまできっと届くんだ。そう思うだけで、えっちな声がどんどん抑えられなくなる。

 けど……。ワレメの奥の女の子の穴を弄びながらも、ジワリと沈んだ感情が滲み出てくる。いろはさんに先を譲ったのは、決して二人を参考にしようとしたわけじゃない。

 ただただ怖かった。初体験への恐怖ではなく、実の兄妹での交わりに対する恐怖があった。

 お兄ちゃんのことはもちろん好きだ。好きで好きで仕方がない。けれど、小町の中の倫理観が、感じたことのないような恐怖心を沸々と沸きあがらせてくる。

 きっとこれが最後の一線だ。小町は――その一線を越える一歩を踏み出せるのかな。踏み超えたとして、その隣にお兄ちゃんはいるのかな……?

 超えてしまえば、本当の本当に取り返しはもう付かない。小町の奥の奥にできる傷は一生消えはしない。ひょっとしたら、いままで仲良くしてくれた人たちだって離れていくかもしれない。怖くて仕方がない。

 いや、ひょっとしたらお兄ちゃんとの今の関係だって――。

 怖い。怖い、怖い、怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわい。

 思考が袋小路に迷い込んじゃう。いや、袋小路でも、あまつさえ迷路ですらないただの小部屋だ。怖くて、不安で仕方なくて、入口もない部屋の中にただただうずくまっているだけ。

 火照った身体は熱が引く様子はなかったけれど、いつの間にかパジャマの中の手は動きが止まってしまっていて――

 

「小町…………」

 

 優しい声がしたと思ったら、大きな手がぴとっとほっぺたに当てられた。ハッとなって顔を上げると、すぐそばまで近づいていたお兄ちゃんの顔が目に入る。前に比べるとだいぶ腐りが抜けてきた瞳にはいやらしい炎がくっきりと浮き出ていて――けれど、どこまでも優しかった。

 

 

 ――大丈夫だから。

 

 

 ぁ…………。

 ゆっくりと動かされた唇が音にせずに紡いだ意味を理解したのと同時に、優しく唇を掬い取られた。ついばむような穏やかなキス。ほっぺたに添えられていた手はいつもよりもだいぶ慎重に、まるでガラスでも扱うかのようにそっと撫でてきてくれて――

 絶対不可侵だったはずの小部屋には、いつの間にか開け放たれた扉が存在していた。その扉の先に立っているのは、誰よりも近くて、誰よりも大切な人のちょっと猫背なシルエット。

 うん、きっと大丈夫だ。

 この先どんな辛いことがあっても、お兄ちゃんならきっと助けてくれる。いろはさんもきっと支えてくれる。兄妹で恋人な小町達の関係は、絶対に変わらない。だって、お兄ちゃんと小町、いろはさんなんだから。

 

「んっ……ぁむ……」

 

 啄みを返すと小町の安心が伝わったのか、ほっぺたの手がずれて頭の後ろに添えられて、今度は少し強めに撫でられた。それだけで心の奥からぽかぽかしたものが溢れだしてくる。それが嬉しくって何度も何度もお兄ちゃんの唇に触れ合わせた。

 

「はぷっ、ちゅむっ……れろぅ、んむっ、ぁぐっ……」

 

 唇だけのキスはだんだんと深いものに変わっていく。遠慮気味にお兄ちゃんの舌が口先を突いてきたから小さく口を開けると、待ってましたと言わんばかりににゅるりと口の中に入り込んできた。歯と歯ぐきの隙間をくすぐるように撫ぜられて、舌表面のぶつぶつ全てを舐め上げるように這いまわる。くすぐったさに似た気持ちよさが舌から伝わって、頭がぼーっとしてきちゃう。

 

「れるっ、ぁんっ、はむちゅるっ、れるるぅ……っ……」

 

 小町からも舌を絡ませ返すと、お兄ちゃんの舌はちょっとだけピクッと固まったけれど、すぐに絡ませてきてくれた。唾液を含んだ舌同士が触れ合い、擦れ合う度にぐちゅ、ぴちゃとえっちな水音が聞こえてきて、ぼーっとする感覚がもっと強くなる。

 

「ぷはっ……へへっ」

 

「もう、大丈夫か?」

 

 やっぱり全部ばれちゃってたんだなぁ。唇が離れてからも絶えず撫で続けながら、心配そうに聞いてくるお兄ちゃんがかっこよくて、お兄ちゃんに理解されていることが嬉しくて仕方のない小町は、くるっと反転してお兄ちゃんにもたれかかった。後頭部をお兄ちゃんの胸板にこすこすと擦りつけるだけで、嬉しい気持ちがどんどん溢れてきてそれがまた小町の中の嬉しさをどんどん膨れ上がらせた。

 

「その様子なら、大丈夫そうだな」

 

 息をついたお兄ちゃんの手が小町の頭に伸びてきて――

 ――くしゃっ。

 

「ふあぁぁぁ……っ」

 

 やばい……やばいよこれ。ただ撫でられただけなのに、一瞬頭が真っ白になっちゃった。背筋はゾクゾクって震えて、アソコが少し熱くなって……。お兄ちゃんに触ってもらえている、それだけでのぼせたみたいにクラクラしてくる。

 

「小町? ……うおっ!」

 

「お兄ちゃんっ……もう、我慢できないよぉ……!」

 

 ズボンを下ろして、お尻に当たっていた硬いのの先端をワレメに押し当てる。たぶんこのまま腰を落とせば入るは……いや、ちょっと待って。なんかお兄ちゃんのおちんちん出したばっかりのはずなのに大きくない? 幹の部分も、いつもよりも硬い気が……。

 こんなに大きいものが入るのかな、とちょっと尻込みしちゃうけれど、くっと息を吸いこんで思い切って腰を落とした。

 

「んぐっ……つ……っ」

 

 痛い、痛いよ。まだ先っちょの先っちょが入っただけのはずなのに、ズキズキって鈍い痛さについ動きが止まっちゃう。いろはさんを見てたらそんなに痛そうじゃなかったのに、涙が出そうになるくらい痛かった。

 

「小町、自分でやるのが辛いなら俺が……」

 

 けど、お兄ちゃんが心配そうに声をかけてくれるのが嬉しくて、少しでも小町の気を紛らわそうと頭を撫でてくれるのが温かくて、震えながらも小さく首を横に振る。

 

「だい、じょうぶ……っ。小町が、やるよ……お兄ちゃんに、もっと近づけたって証は、自分で……付けたい、から……ぐっ……」

 

 お兄ちゃんは、小町達は絶対に離れることはないって示してくれた。だからこの証は、小町自身が付けたい。震える身体に必死に力を入れて、お兄ちゃんのおちんちんをゆっくり、ゆっくり奥に迎え入れる。少し奥に進むだけで今まで感じたことのない痛みが溢れてくるけれど、それがお兄ちゃんと、大好きなお兄ちゃんと繋がっている証拠だと思うとその痛みすらも嬉しかった。

 

「ぁ…………」

 

 汗がにじむのを自覚していると、おちんちんの動きが止まる。ただでさえ進みづらかった膣の中で不自然な引っかかりを感じて、グッと力を込めるとピリッとした痛みが走ったので、もう一度動きを止めた。

 たぶん、これが処女膜なんだ。今までだって十分痛かったけれど、ここを突き抜けるときっともっと痛い。

 それでも、それでも小町は、ここに証を刻みたい。お兄ちゃんと小町の絆を小町の中に作りたかった。けれど、膝に何度も力を入れて膜を突き破ろうとしても、その度に溢れてくる痛みのせいで全然先に進んでくれない。やっぱり、小町一人の勇気じゃ足りないのかな……そう思うと、痛みとは別の涙があふれてきそうになっちゃう。

 

「大丈夫だよ、小町ちゃん」

 

「いろは……さん……?」

 

 いつの間にか起き上がってきていたいろはさんがにこっと微笑んでくる。その優しい表情はどこかお兄ちゃんに似ていて、小町を安心させてくれる。けれど、なにが大丈夫なんだろう……? そう思っていると、ゆっくりいろはさんの手が伸びてきて――

 

「ふあぁ……っ」

 

 そっと小町のおっぱいを触ってきて、身体中を流れる淡い電流に変な声が出ちゃう。体育の着替えの時なんかに女の子同士で触り合うことはたまにある。だけれど、いろはさんの手つきはそういうときとは明らかに違っていて、まるでお兄ちゃんがしてくれるみたいにえっちな触り方だ。

 

「あぁっ、ん、ひにゃぁっ……はぁ、ん……っ」

 

 お世辞にも大きいとは言えない小町のおっぱいはその分敏感みたいで、揉まれたり先っちょを摘ままれたりする度にいやらしい声が漏れてしまう。それが恥ずかしくって、けれどその恥ずかしさも余計にえっちな気分を掻き立ててきた。

 ……あれ?

 さっきよりもお股が熱くなって、痛みが少し引いているような気がする。その結果、少し中の様子を感じ取れるようになって、お兄ちゃんの凶暴なのが小町の中を押し広げているのが分かった。こんな大きいのが本当の小町の中に入っていて、もっと深くに入るんだと思うと、感動すら覚えた。

 

「一人で無理しなくても大丈夫だよ。皆で一緒に進めばいいんだから」

 

 そうか、そうだね。小町達は三人で一つのカップルなんだから、傷をつけるのも、傷を作るのも、そして傷を癒すのも、三人でやればいんだね。

 

「ぺろっ、ちゅむっ、じゅっ……はむっ、れろろぉ……」

 

「ひぅ、んんんっ……あ、あぁぁぅうぅうう……」

 

 乳首の先っちょを舐めはじめたいろはさんに声を抑えられない。乳首の周りの色が違うところをなぞるように舐められ、突起全体を余すことなく濡らされる。そしていろはさんは小さく口を開くと――

 ――カリッ。

 

「ひいいぃぃぃ――んっ!」

 

 なに! なになになにっ! 今のすごい……乳首、優しく噛まれただけでお股がじゅんってしたの分かっちゃった。あまがみ、気持ちいい……。

 いろはさんのおっぱい責めに頭がぽーっとしてくる。いつの間にかあんなにお股から発していた鈍い痛みはなりを潜めて、入れる前以上に熱いおつゆが溢れているのがわかった。おちんちんが小さく動く度に快感すら生まれている気がして、上からの刺激と下からの刺激が合わさって、視界がチカチカしてきた。

 ぁ……。

 気持ちよさのあまり背中を反らせると、後ろにいるお兄ちゃんと目が合った。なんか辛そうに顔を歪めていて……動かないように我慢してくれている上に目の前でえっちなことしてたらそりゃあ辛いよね、ごめんお兄ちゃん。お兄ちゃんは辛そうにしながらも少し目線を泳がせて、にやりと口元を歪めた。え、なに考えてるのお兄ちゃん……。

 

「小町……」

 

 お兄ちゃんの腕が首元に巻きついてきたかと思ったらつむじに軽く口付けをされた。当然、そんなところは性感帯ではないけれど、だからこそ快感とは違う心地よさにほうっと息が漏れる。キスをされた部分から温かい、いわば愛情のようなものが伝わってきた。

 けれど、あんな表情を浮かべたお兄ちゃんがその程度で終わるなんてことは当然ないわけで。

 つむじを起点に少しずつキスの位置が下へ下へとズレて行く。そこに近づくにつれて刺激が伝播するのか、だんだんとむずむずしてくる。

 

「ふうっ」

 

「にゃあぁぁぁっ」

 

 そして、恐らく当初の目的であるところの耳にたどり着くと、耳の穴に向けて息を吹きかけてきた。小さな穴の中で風が反射して大きくなった音にぞわっとする。耳を直接刺激されると、頭の中を直接かき混ぜられるみたいで変な感じなんだよね。それがお兄ちゃんやいろはさんにされるととっても気持ちいいんだけどね。

 二人とも、小町が少しでも痛くないように気遣ってくれている。それが嬉しくって、痛みに耐えるための勇気が心の奥からつーっと沸いてきた。

 

「くっ、うあっ……」

 

 ぴっちりと閉じた通路を無理やりこじ開けていく。何度も鋭い痛みが走るけれど、その度に二人が慰めてくれるから、もう止まることはなかった。一回大きく息をついて――

 ――――ッ!

 

「っ――――!」

 

 今までで一番の鋭い痛みと共に、小町の中で何かが――消えた。

 

 

     ***

 

 

 根元まで入った男根を伝うように赤くて粘度の高い液体が流れ落ちる。いろはの時は血なんてほとんど出ていなかったから、漫画の誇張表現だったのかと思っていたが、どうやらこういうところでも個人差というものはあるらしい。痛みに震える小町を抱きしめて、頭を撫でながら耳に舌を這わせる。

 

「くはっ、ぁうっ……はっ、くぁっ……」

 

 嬌声に混じって、苦しそうな声が漏れだす。耳介の輪郭をなぞるように舌先を這わせ、耳の裏をくすぐり、口に含む。

 

「にゅぅ……く、はあぁぁっ、んぁっ……」

 

 何度も、何度も、ねちっこく舐める。舌に溢れそうなほどの唾液を溜めて丁寧に舐め上げ、耳たぶを口に含むところころと口の中で転がす。

 

「ひゃあぁぁあぁ、お兄ちゃっ、んんっ、ぇあぁぁぁ……」

 

 耳の穴までたっぷりと唾液を塗り込んで、ぐちゅぐちゅと露骨に音を鳴らす頃には、小町の声からはだいぶ苦悶の色が抜けてきていた。抱きしめていた方の指に唾液を纏わせて、今度はかわいらしく起立したピンクの果実を指先で押しつぶすようにクニクニと刺激すると、一段とかわいい声をあふれさせた。

 どれくらいそうしていたか分からないが、完全に快感による喘ぎ声を漏らすようになった小町が、うつぶせでベッドに倒れ込んだ。とろけた表情をちらりと見せて、荒く息をする姿は今まで見てきた妹のどんな姿よりもいやらしく、そして魅力的だった。

 

「はあっ、くふっ……お兄、ちゃん……もう、大丈夫、だから……」

 

「――――っ!」

 

 我慢できるはずが、なかった。

 小町の上に覆いかぶさると、ずっと動かさないようにしていた腰を突きたて始める。

 

「ぐっ、くぁっ……ふかぃぃ……」

 

 正直、事前に出していなかったら本能のままがむしゃらに腰を振っていた自信がある。なんとかその誘惑に耐えてゆっくりと確かめるように腰を動かすと、やはりまだ少し痛むのか苦しそうな声が混じった。さっきほどではないようだが、やはりあまり無理はさせられない。

 なにか痛みを紛らわす方法はないから思考を巡らせてみると。

 

「ぁ……」

 

 綺麗な桃尻の狭間、ヒクヒクと小さく震える菊口が目に入った。意識せずに手が伸びる。いやほら、妹を気遣ってだから、興味本位とかそんなわけ……いや、割と興味本位です、はい。

 中指で撫ぜるようにそっと触れてみる。

 

「えっ! ふにゃ、ああぁぁあぁぁ……っ」

 

 ……ほう、これはすごくいい反応ですね。

 軽く触っただけ、それだけなのにいろはのものよりも狭い小町の膣内がさらにきゅうきゅうと締め付けてきた。今度は唾液をつけて菊口をぐっと押し開けようと不規則に力を込める。

 

「おに、ちゃっ、そこ……おひりっ、おひりだからっ、きたない、から……ぁあっ、んあああぁぁっ……」

 

 あれ、なんか予想以上に反応よくないか? ひょっとしたらうちの妹はお尻が性感帯の可能性が微粒子レベルで存在している? 小さな皺を引っかくように指を這わせると、やはりというか声のトーンが上がる。そのことが恥ずかしいらしくて、シーツに顔をうずめながらいやいやする姿とか……なにこの子めちゃくちゃかわいい。元々かわいいけど!

 

「あぁっ、んはっ、くんんっ……お尻と、アソコ……一緒に弄っちゃ……ぁぁぁっ」

 

 アナルから来る刺激がよほど甘美なものなのか、苦しそうな声は一気になりを潜める。腰の動きを少し速めてももう問題はなさそうなので、むしろ嬌声はその度合いを増す。さあて、それなら次はどういじめてみようかな、なんてことを考えながら腰を振っていると。

 

「まったく……おにいちゃん、初めての妹に対して鬼畜すぎますよ」

 

「え? ……うぉっ!」

 

 突然いろはの声が聞こえたと思ったら、柔らかいものが臀部の割れ目に押し当てられて――尻穴がぬらりと濡らされた。

 

「ぴちゃっ、くちゅっ、じゅるるっ……」

 

「おい、いろは……やめ……っ」

 

 臀部に顔を埋めたいろはが舌で、口で尻穴を刺激してくる。時々熱い吐息を吹きかけてくるせいで、意識せずに尻に力が入ってしまう。というか、なんでこの子なんの躊躇もなく俺の尻舐めてるの? エロはすなの? うちの妹のエロさの底が見えなくてお兄ちゃんちょっと恐怖しているよ。

 

「あっ、にゃぁっ、んんっ……きもちい、きもちいぃよぉ、おひりぃ……きもち、ひぁぁあぁっ……」

 

「じゅちゅっ、ぐちゅじゅちゅっ……おにいちゃんのお尻、ヒクヒクしてかわいいですよぉ」

 

 いや、これやばい。なんで小町<俺<いろはみたいな図式になってんのってのもやばいが、ケツから来る刺激が予想外にでかいし、小町のアナルを弄る度に秘裂が痛いくらい男根を締め付けてきて、全然持つ気がしない。

 というか、もう持たない。

 

「すまん小町、もう出ちまう……っ」

 

「っ、いいよっ、小町、もっ、イキそ……ふぁっ! ぁっ、ぁあっ……」

 

 少しでも長く繋がっていたいのだが、無情なまでに持たない。力任せに締め付けてくる膣内で必死に肉棒を動かし、菊門を刺激して小町を絶頂に誘おうとする。

 しかし、この空間は現在二人っきりではないわけで。いや、別に邪魔物ではないのだが、俺のお兄ちゃんとしての尊厳とか、彼氏としての自尊心とかを意図せずボロボロにしようとしてくる子がいるわけだ。

 

「じゃあ、私も手伝ってあげますね~」

 

「あ、ちょっ、ばっ……!」

 

 尻穴責めに明け暮れていたいろはが一度顔を離したかと思うと、舌をドリルのように尖らせて穴の中央に突き立ててきた。括約筋を強張らせて対抗したが、守っている最中も絶えず与えられる甘い刺激のせいですぐに緩み――くぷっと中に受け入れてしまった。

 

「ああぁぁぉぉおおぉっ」

 

 本来排泄口である場所に異物が入ってくるという未知の感覚に獣の雄たけびのような声が出てしまう。普段味わうものとは別種の快感電流が全身を駆け抜け、身体全体の筋肉に力が入り、その結果――

 

「おしっ、ひぎっ、ああぁぁあああ~~~~ッ」

 

 這わせたり圧迫したりするだけだった指が、小町の菊口を押し広げて深々と貫いた。背中を反らせながら大きな痙攣を繰り返す末妹に連動して、膣全体が不規則にざわめきながら押し潰そうとするくらい締め付けてきた。

 限界間近で前後からそんな刺激を受けて耐えろという方が無理な話で。

 

「ぐあああっ」

 

 ――どぶっ、ぶじゅじゅぶっ、びゅるるるっ。

 気がつくと、小町の中で男根が弾けてしまっていた。絶頂を迎えたはずの小町の膣壁は、しかし貪欲に蠢いて、睾丸の奥に残っている精液を残らず絞りだそうとしてくる。射精直後の敏感な肉棒を刺激するその淡い感覚だけで、視界が真っ白に染まりそうだった。

 ようやく最後の吐精が終わり、肉棒を引き抜く。さすがに何度も出しているだけに男根の硬度はだいぶ落ちていた。いやまあ、なんとか二人とも相手できたから、まあまんぞ――

 

「くぅっ……!」

 

 思わずモノローグから続いて声が出た。声の原因、男根を見下ろすと、頬を紅く染めたいろはが幹の部分を掴みながら亀頭をさわさわと撫でてきている。や、なにやってんのこの子。

 

「おにいちゃん、もう一回しましょ?」

 

「いや、お前さっきまで処女……」

 

「わ~た~し~が、したいって言ってるんだからいいんです! 大丈夫なんです!」

 

 いや、多少なりとも痛い思いをしたはずの妹の身体を気遣っているのだが。そう思っていると、背中にとん、と重みが加わる。振り向くと、まだ荒い息をした小町が寄りかかってきていた。相当疲れているようだし、小町越しにいろはを説得してもらえば今日はお開きにできるかもしれない。

 そう考えていたのだが――

 

「お兄ちゃん……」

 

 ゆっくり上げられた顔は、官能にとろけながらも濃厚な嗜虐を纏っていたわけで。

 

「今度は、小町が……お兄ちゃんを責めて、あげるね!」

 

「え……?」

 

 気がつくとベッドに押し倒されていて、視界は妹たちでいっぱいになってしまっていて。

 まあ、二人がその気ならば、俺だって迎え撃つに決まっているじゃないか。

 

 

 

 結局、その後も延長戦が行われ、記憶の最後では窓の外からわずかに朝日が昇ってきていた。

 




ようやく小町書き上げられました

R-18では初の小町視点も導入
表現とかやっぱり難しいです

とりあえず、妹シリーズは次で最終回になります
元々は最終回もR-18で~と思っていましたが、たぶん内容は一般向けレベルになるかと

まあ、私にとってセックスはあくまで恋愛の延長線上のものなので、もしエロ最終回を期待していた方がいたら申し訳ないですがそういうことで

ではでは~


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俺達兄妹の青春ラブコメは、決して間違ってなんていない。

 カリカリとシャーペンを走らせる。浅く静かな呼吸を繰り返しながら、文字列に目を通し、ヒントを探し出して答えを導き出す。時に全体を読み込んで熟考し、時に当たりをつけて瞬時に答えを書きこむ。

 時計をちらりと見ると――時間も残り少ない。見直しの時間はあるだろうか。刻一刻と迫るタイムリミットに否が応でも焦りが出てくる。思考にだんだんと靄がかかり、シャーペンが止まりそうになってしまう。

 ……いや、これじゃだめだ。

 意図的にペンを机に置いて、ゆっくりと目を閉じる。真っ暗な世界で深く、深く息をする。脳に、身体中に酸素をしっかりと行き渡らせていくが……まだ足りない。抑えようとしていた焦りはどんどん膨張していく。

 ――お兄ちゃん。

 ――おにいちゃん。

 自分だけの世界に声がする。真っ暗な、自分すら見えない世界に、いつの間にか彼女たちはいた。

 小町といろは、あざとくもかわいく、健気で明るい二人はいつものようににひっと俺に笑いかけてくれた。

 ――頑張って!

 幻想のはずの声は確かに俺の耳に届いて、増長する焦りを不思議と抑えてくれる。逆に溢れてくるのは温かくて優しいなにか。

 大丈夫。思考も視界も限りなくクリア、もう靄なんてかかっていない。再びシャーペンを手にして問題と向かい合った。

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 

「テスト終了。全員解答をやめたまえ」

 

 平塚先生の声が聞こえると、教室全体の空気が弛緩する。それに合わせて、俺も大きく息をついた。十二月の中旬、三学期が自由登校になる三年にとって、この期末テストが最後の学内テストになる。進学校である総武高校の最後の期末は当然受験を意識したものになり、実質模試のような難易度になるのだ。実際最後のテストである現国が終わるこの時まで、俺の神経はずっと張り詰めた状態だったしな。気を緩めると相当疲れが溜まっていたようで、思わず机に突っ伏してしまった。いやもうマヂ無理……。

 

「比企谷、おつかれ」

 

「……おう、お前もな」

 

 テスト用紙を回収した先生たちが退室したようで、葉山が声をかけてきた。こいつもかなり疲れたのか、いつものイケメンスマイルにも若干の陰りがある。いつもテストの後というものはそこかしこで談笑が行われるものだが、他のクラスメイト達も相当疲れたのか多少の会話は聞こえても、あまり活発というほどではない。あ、由比ヶ浜があーしさんに慰められてる。今回難しかったからね、気落ちしたらだめだよガハマさん。

 

「さすがに模試レベルになると皆疲れちゃったみたいだな」

 

「まあ、全教科だからな。一般入試じゃ多くて三教科くらいだし、そこだけ見たら今回の方が大変かもしれん」

 

 一理あるかもな、と苦笑する葉山とは今回もさも当然のように勝負をすることになっていた。もちろん文系オンリー、さすがに二年のブランクがある理数系で勝負とか無理だからな。まあ、面倒くさいとは思いつつ分かりやすい目標の葉山に勝負を挑んだのは俺なんですけどね。

 ただ今回は……。

 

「現国はどうだった?」

 

「途中で頭の中真っ白になったわ。見直しの時間が少ししか取れなかった」

 

 今回はお前に負けたかもなと言うと、当の葉山は一瞬キョトンとした顔をして、フルフルと首を横に振った。

 

「俺じゃなくて、雪ノ下さんに勝てるかどうかだろ?」

 

「なっ……!」

 

 なんでこいつがそのこと知っているんだよ。確かに、こと現国に関して俺の目標は葉山ではなく雪ノ下だったわけだが……なんなのお前、俺のこと好きなの?

 

「最近の比企谷を見ていたら、なんとなくわかるよ」

 

 本当にホモの可能性がありますねこれは。残念ながら海老名さんを喜ばせるようなルートはNGな上に、俺は妹たち一筋なんで戸部あたりとやっていてください。

 

「どうだろうな、相手は雪ノ下だぞ? 満点取らなきゃ勝てないんじゃないのか?」

 

 いや実際あいつの底は全く見えない。本当に全教科満点とか取っているんじゃなかろうか。チート系主人公か何かかな? やばい、マジで勝てる気がしない。

 

「そんなことはないと思うけどな」

 

 頭を抱える俺に葉山はただただ苦笑してくるだけだった。

 

 

     ***

 

 

 テスト後というものは大抵の生徒にとっては羽を伸ばす時期だが、逆に教師にとっては鬼のように忙しい時期なのかもしれない。それぞれの教科に複数の教師がいるとは言え、数日で全員分のテストを添削しなくてはならないのだ。

 

「それじゃあ、テスト返すぞ……」

 

 そして、それを一日で成し遂げたらしい平塚先生は死んだ目に濃い隈のダブルコンボを披露していた。公務員まで社畜みたいなことしているのを見ちゃったら俺、もう働きたくなくなっちまうよ……いやちゃんと働くけどさ。

 

「次、比企谷」

 

「うっす」

 

 さっさと先生から答案を返してもらい、席に着く。机の上の答案用紙は――裏返したまま。ごくりと唾を飲み込んでそれと対峙する。

 

「…………」

 

 恐る恐る用紙の端を摘まんで……離す。こんなに点数を見るのが怖いと思うのはいつ振りだろうか。いや、そもそもそんな感情を抱いたことすらなかっただろう。いっそこのまま、点数を見ない方がいいのではないだろうか。箱の中の猫が中身を確認するまで生きているか死んでいるか分からないように、この答案も裏返さなければ点数は分からない。分からないままにした方が幸せなのではないだろうか。楽なのではないだろうか。

 

「……いや」

 

 そんなことをして逃げても仕方がない。どんなに捻くれたところで、既に出た結果は変わらないし、それは紛れもなく俺が出した結果だ。なら、正面から向き合うのが正しいのだろう。

 もう一度慎重に答案の端を摘まみ、何度か力を加えたり緩めたりを繰り返す。ことさら大きく息を吸いこんで、一気に捲った。俺には鉛のように重く感じた紙は、当然のことながら難なくふわりと翻って、その全容を眼前に広がらせた。

 

「ぁ……」

 

 ――――――……。

 

 

 

 放課後になり、部室へ行くために一人廊下を歩く。由比ヶ浜は相変わらずあーしさん達と談笑タイムだったので置いてきた。

 あの後も大半の授業がテスト返却だったり問題の解説だったが、正直ほとんど聞けていなかった。今だって周囲の音がどこか遠いように感じるし、視界が少し暗いような気がする。足はパワーアンクルでも付けているのかと思うほど重いし、なによりも朝とさして内容物が変わらないはずの鞄が取り落してしまいそうなほど……重かった。

 

「はあ……」

 

 状況を確認するだけで気分が沈み、ついため息が漏れてしまう。

 原因は当然のことながら、バッグの中にある現国のテスト。あぁ、思い出しただけでまた身体が重くなる。

 九十八点。

 間違いなく過去最高の点数。葉山にも勝る点数で、今までの俺だったら確実にガッツポーズを取っているレベルだ。

 けれど、これじゃあ全然足りない。相手は完璧超人雪ノ下だ。いや、体力ない時点で完璧じゃないけれど、そこは置いておいて。結局、この点数を取っても全く安心ができないというか、既に敗色濃厚というか……。

 

「それに……あそこを間違えたのはなぁ……」

 

 減点二点。長文解答のミスでの減点ならまだ納得はできたが、あろうことか漢字問題での凡ミスだった。解答のタイミング的に焦りがピークになった頃……悔むに悔やみきれない。

 結局、あいつには何一つ敵わなかったなぁ。

 そんな事を考えていると、部室の前にたどり着く。まあ、考えたってしょうがないか。俺の努力が足りなかった、ただそれだけのことだ。

 

「うっす」

 

「あら、こんにちは九十八谷君」

 

 扉を開けた瞬間、罵倒なのか判断の難しいあだ名を呼ばれた。指定席に腰を下ろしている雪ノ下は、俺を見てクスリと微笑を浮かべていて……というか。

 

「なんでお前が俺の点数知ってんだよ」

 

 なんなのストーカーなの? 何それ怖い。

 

「テストが返された時に平塚先生から聞かされたのよ」

 

 おい教師! なんで生徒の個人情報をそんな軽々とばらしてんだよ。しかもそれ、俺が止めること無理じゃん。そんな横暴だから結婚できな……なんでもない、誰かもらってあげて!

 というか、なんでお前はそんなに不機嫌なんだよ。むしろ俺が不機嫌になるまであるんだが。

 俺の視線を避難と受け取ったのか、雪ノ下は咳払いをして居住まいを正す。

 

「とりあえず、おめでとうと言うべきかしら?」

 

 ……は?

 

「なにそれ、学年二位おめでとうっていう嫌味か?」

 

 ちょっと雪ノ下さんいい性格しすぎじゃないですかね。肩の力を脱力させる俺を見て、雪ノ下はキョトンと首をかしげていたが、いきなり声を上げて笑いだした。こんなに面白そうに笑う雪ノ下雪乃は俺にとって初めてで、思わず動揺してしまう。

 

「な、なんだよ……」

 

「ふふふっ、まさか比企谷君は私が満点を取っていたとでも思っているのかしら?」

 

「え……違うのか?」

 

 いやだって、雪ノ下雪乃だよ? 眉目秀麗成績優秀、欠点と言えば体力のなさと口の悪さと方向音痴と人心掌握能力のなさ……あ、すみません一部誇張なんで睨まないで。つうか、ナチュラルに心読まないで。

 三白眼で俺を射抜いていた雪ノ下ははあ、と呆れたように大きなため息をついた。そして、どこか優しげな眼をしながら鞄のチャックを開く。

 

「あなたは私を過大評価しすぎなのよ。私は完璧でもなければ、まして万能でもないわ」

 

 取り出されたのは一枚のプリント。俺のものと同じ現国の解答用紙の最終問題は空欄になっていて、名前の下には九十五の数字が赤文字で大きく記されていた。

 

「テストの内容を話す相手を作らないあなたは知らなかったかもしれないけれど、そもそも今回のテストで全ての解答を埋めた生徒自体がほとんどいなかったのよ。誰よりも努力を重ねていたあなただからこそ、その点数を出せたのよ」

 

 だから、おめでとう。そう口にする雪ノ下の瞳はどこまでも澄んでいて、底抜けの優しさを見せていた。

 

「そっか……」

 

 俺の小さな呟きは、どこか柔らかい空気に滲み、混ざって溶ける。冬だというのに、気恥かしさからか全身は不思議なくらいポカポカとしていた。

そうか、それじゃあ俺は――

 

「目標は達成できたかしら、比企谷君?」

 

「お前はなんでも知ってるのな……」

 

 まさか、密かに目標にしていた相手にそのことがバレバレとか、ちょっと恥ずかしすぎません? いや、なんか前にも葉山にバレバレだった節あるけれど……。

 

「なんでもは知らないわよ。あなたは分かりやすいもの」

 

「……そんなもんかね」

 

 目を伏せて「そういうものよ」と返してくる雪ノ下はどこか嬉しそうで、俺は頬をかいて視線を逸らした。なんだよ、皆して俺のことよく知っていますみたいに……お前ら俺のこと好きすぎでしょ。

 

「こんにちは~!」

 

「どもです! ……あれ? お兄ちゃんどしたの?」

 

 部室に入ってきた小町といろはが不思議そうに覗きこんでくる。なんだお前らかわいい顔しやがって、キスした後に抱きしめてやろうか。

 

「な、なんだよ……」

 

「ほっぺゆるゆるだよ」

 

「笑ってるじゃないですか~」

 

 ハッとして頬に手を当てる。ああもう、触っただけで分かるくらいふにゃふにゃじゃねえか。最近事あるごとに頬緩ませすぎじゃないですかね、俺。

 

「なんでもねえよ」

 

 まあ、きっとそれだけいいことがあったってことなんだから、いいのかもしれないな。

 二人の頭に手を乗せてわしゃわしゃとこねくり回すと、二人ともわーきゃー言いながら楽しそうに笑いかけてくる。

 きっとまだ足りない。最近になって気付いたが、俺はどこまでも貪欲なんだ。もっと二人に笑ってほしい、もっと二人の自慢になれるような存在になりたい。もっともっと、まだこんなものでは全然満足できなかった。

 だから俺は、いくらでも前に進む。自分のために、そして隣で支えてくれるこのかわいくて仕方のない二人の妹たちのために――

 

 

 

「まあ、今回は負けてしまったけれど、センター試験では勝たせてもらうわ」

 

 俺達の兄妹愛空間にはもはや慣れてしまったのか、いつも通りな口調で雪ノ下は髪をかきあげた。いや、正確にはこれは兄妹愛なのだろうか。いやけど、やっぱり俺達兄妹だし、けれど恋人でもあるわけだし……むむむ、難問だな。

 というか……センター試験?

 

「雪ノ下、俺奨学金狙いだから一般入試一本なんだが……」

 

 志望大学の返済不要の奨学金は一般入試での上位成績者に配布されるものだ。まあ、安全策としてセンター利用の方も受けた方がいいのかもしれないが、正直あまり金はかけたくないし、より確実に上位に入るために記述試験の勉強に集中したいっていうのもあるからな。我ながら真っ当な考えだと思う。

 

「…………」

 

「雪ノ下?」

 

 しかし、それを聞いた雪ノ下はなぜか呆然としている。その頬は、いや顔面全体が次第強張っていき、学校一の美少女がしてはいけない表情になってしまう。え、何これホラー? 尋常じゃなく怖いんですけれど……。

 

「私が……勝ち逃げをされる……? 姉さん以外の人間に、勝ち逃げ……。一生の、敗北……敗北……敗北……ふふふ。ふふふふふ」

 

「「「――――――ッ」」」

 

 怖い超怖い後怖い底なしに怖い! 不気味に嗤う雪ノ下を中心に室温は完全に氷点下。やめるんだ雪ノ下、お前が氷属性の絶大な空間干渉力とかもったらやばい、主に声的な点で。小町といろはも涙目になって震えながら抱きついてきている。ごめんな、お兄ちゃんもあれには勝てる気がしないんだ……。

 

「やっは……さむっ!?」

 

 ああ、ガハマさんいいところに。早く火属性のゆるゆり攻撃で雪ノ下を鎮めてあげて。

 

 

 

 結局、ガハマさんの力でも雪ノ下の暴走は抑えきれず、俺がセンター試験を受けるという形でようやく収まった、なじぇ……。

 

 

     ***

 

 

「以上で入学式は終了となります。新入生、保護者の皆様は退席してください」

 

 俺のアナウンスを皮切りに、会場中が喧騒に包まれる。未だ着慣れないであろう真新しいスーツに身を包んだ新入生たちがぞろぞろと出口へと向かう。まあ、そのスーツはすぐにタンスの肥やしになるから着慣れることなんて当分ないんですけどね。

 なぜ俺が大学の入学式の進行役なんて面倒くさいことこの上ないことをしなくてはならないのか。いや、ゼミの教授と学部長から頼まれたから断るに断れなかったんですけどね。上司に逆らえない社畜みたいだぁ。

 

「おにいちゃん、お疲れさまです」

 

「おう、マジで疲れた……」

 

 手伝いに来ていたいろはが声をかけてくる。いつもはもっとキャピキャピした格好のいろはがピシッとしたスカートスーツを身につけていると、普段とのギャップについドキリとしてしまう。いやしかし本当に疲れた、大学入ってからそこそこ行事だとかに参加してきたけれど、やっぱり人が多いのは本質的ぼっちである俺にはなかなかの重労働だ。

 

「ただまあ、すぐ近くで小町の晴れ姿を見れたからいいか」

 

「お兄ちゃんはあいかわらずシスコンすぎますなぁ」

 

 噂をすればなんとやら、聞き慣れた声に振り返ると、今回の式の主役の一人、いや八幡的には今回の主役中の主役である小町が呆れた顔をして立っていた。二年半ほどでだいぶ女性的に成長した小町と、大人っぽいパンツスーツが相まってかわいいというよりは綺麗と呼ぶべき印象になっている。

 あれから、俺の受験、いろはの受験、小町の受験と、毎年誰かしらの受験があった三年間も終わり、無事に三人共同じ大学に入学することができた。二人とも事前に勉強を頑張っていたのもあって、あまり苦労しなかったのは幸いといったところだろう。

 

「ていうか、帰らないのか? 俺達まだ片付けとかあるんだけど」

 

「ヴぇー、そんな言い方酷くない? 小町的にポイント低いよ」

 

 いやまあ、一緒にいたいって気持ちは痛いほど伝わってきて嬉しい限りなのだが、現在進行形で周りからの視線がやばいと言いますか……。

 

「あの子って比企谷の妹さん? いろはちゃんもかわいいけど、あの子もかわいいじゃん」

 

「しかもお兄さんにべったりなのね。まあ、八幡君も妹さん至上主義なところあるけど」

 

「くー、比企谷先輩羨ましすぎっす!」

 

 おいこらお前ら、聞こえてるから。ていうか、鋭い視線と生温かい視線混ぜるのやめて! 八幡のライフ既にないから!

 

「はあ、じゃあちょっと待ってろよ。さっさと済ませるから」

 

「はーい!」

 

 三人で付き合い始めて三年。未だに両手に花状態に慣れない俺であった。

 

 

 

「「「ただいまー」」」

 

 いつの間にか小町も手伝っての会場撤去作業も終わり、三人で帰宅した。帰りも二人が腕に抱きついてきたりするもんだから、八幡のライフガリガリ削れたけど。家に着くころにはもはやマイナスだった。ゲームオーバーしてるじゃんそれ。

 帰りついたのは長年慣れ親しんだ比企谷邸ではなく、旧一色邸。俺の大学進学を機に三人で移り住んだこの家にもだいぶ愛着というか、慣れが出てきたように思える。それにしても、学生三人だけでの生活を認めてくれるとは、うちのかーちゃん懐が広すぎるだろ。渋い顔をした親父を説得してくれたし、老後はかーちゃんを存分に労わろう。親父も当然労わりますよ、かーちゃんの次にね。

 リビングの時計を見ると昼過ぎのちょうどいい時間。食材もそんなになかったはずだし、着替えてから買い物がてら外食でもするのがちょうどいいかな。

 

「昼外で食うからさっさと着替えようぜ……んんっ!」

 

 振り返ると、いきなり二人に口を塞がれた。さすがに不意打ちで二人分の体重は支えきれず、フローリングに背中から倒れ込んでしまう。

 

「ぷはっ、どうしたんだよ二人とも……っ」

 

 ようやく唇への圧迫から逃れて至近距離の二人を見て、呼吸が止まりそうになった。いつからそうなのか、二人の頬は見間違えようのないほど朱に染まり、熱い呼気を纏わりつかせるように漂わせている。その唇は小さく開かれ、紅い舌をちらりと覗かせており、その瞳には、深い情欲の炎がぐるぐると渦巻いていた。

 完全に臨戦態勢。え、さっきまで普通だったのにこの変わり身の早さはなんなの? 俺の速さが足りないの?

 

「お昼……別に食べなくてもいいじゃん」

 

「え……?」

 

「受験続きであんまりできませんでしたし……」

 

「え……?」

 

 ちょっと待て、確かに毎年受験受験だったわけだが、俺の記憶が正しければなんだかんだ二人から求められて週一、週二ペースでやっていたぞ? ていうか、小町の合格が決まったその日からほぼ毎日――

 

「……いや」

 

 小さく音を口の中で転がして、余計な思考をやめる。そもそも二人がこんな表情をした時点で俺の選択肢なんて一つしかない。……だから二人の受験中もしょっちゅう交わっていたわけだけれど。

 

「ったく、しょうがないな」

 

 全然しょうがないなんて思っていないのにそんな事を言いつつ、俺は二人を抱きしめたのだった。

 

 

 

 間違って、近づいて離れてもう一度近づいて、いろいろあったし、やっぱり傍から見たら歪な関係なんだろうけれど――

 俺達兄妹の青春ラブコメは、決して間違ってなんていない。

 二人の柔らかい香りが、俺にそう強く思わせてくれた。

 




これにて前作「ある日妹が増えまして」から続いていた妹シリーズは完結です。
途中、二ヶ月ほど更新が止まってしまったりもしましたが、なんとか完結させることができました。

虜シリーズの方でR-18はだいぶ慣れたと思っていましたが、三人動かすことの大変さは予想以上で、四苦八苦しながら、しかし楽しく書くことができました!

今後は現行シリーズの更新をしながら短編を書いたりしたいなーと
けど、長編向けのネタもいくつかあるんですよね・・・さすがにもう3シリーズ掛け持ちとかしたくないですが!


というわけで、他の作品も読んでもらえるとうれしいです!(ダイマ

ではでは!


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