やはり比企谷八幡は捻くれている。 (秋乃樹涼悟)
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なんだかんだで後輩を気にかける

初めまして。初投稿です。文章力がないと感じるとは思いますが、暖かい目で見ていただけると幸いです。
個人的にはいろはが好きなのでいろはをヒロインにしていきたいと思います。
1話はいろはす後半から出ます。
原作を意識して書いているわけではないので、矛盾していたりするかもしれません。
よろしくお願いします。


かさかさと擦れる紙。

紅茶を静かに啜る音。

時々聞こえるどこからか遠い廊下を歩く人の足音。

奉仕部、と書かれたその部屋にはそんな静かな日常が流れる。

 

最初は面倒なことになったものだと思っていたが、まあ、今は平塚先生にも感謝している。

 

いやでも結構酷いこともされたしな。ファーストブリットとか。あれは死ぬかと思った。

 

っていうか平塚先生のネタが古い。どうせやられるならデンプシーロールとかいいよね。

 

なんでだろうねあれ。ああいうの見ちゃうとやってみたくなるよね。

俺ってまだ中二病?

えっ、嘘、材木座と一緒?嫌だわー。

 

昨日、ピーカブースタイルでデンプシーの練習してたらいつの間にか小町に見られてたし。

 

またなんかやってるよ〜このごみぃちゃん。って蔑むような目で。

人によってはご褒美なんだけどなぁ。

なんか用があったはずなのになにも言わず戻っちゃったし。

 

…ちょっと恥ずかしかったなお兄ちゃん。ノックして欲しかった。

やっぱりノックは大事だね。うん。

 

俺がひとり静かに悶えていると廊下からこつこつと足音が近づいてくるのがわかった。おそらくは平塚先生だろう。

というかここへ来るのは基本、平塚先生か依頼者、それと生徒会長の一色くらいなのだ。

平塚先生が来ると大概面倒な案件持ってくるから嫌なんだよな。どこのふうせんかずら?

そしてふうせんかずらは勢いよくドアを開けた。

 

「今日は静かだな。そうか、一色がいないからか」

「平塚先生、ノックはした方がいいと思います。社会人としては」

「平塚先生、比企谷君に言われるということは相当なことだと自覚した方がいいと思いますよ」

「確かに。ヒッキーに言われるとちょっとイラっとするよね。イラっと」

 

なぜかさらと俺が貶されている。そしてこんな会話に慣れてしまった俺は病気かな。また一句でも読もうかな。

戸塚可愛いかったな。

そして由比ヶ浜はなんで同じこと2回も言うかな?強調しなくてよかったよね?

 

「そうだな。あの比企谷に言われるのはまずいな。人として。これからは私もノックをするとしよう」

「そんなことは置いておくとして、平塚先生、なにかご用ですか?」

 

そんなことって、相変わらず酷いですね雪ノ下さん。

 

「いや、ただ様子を見に来ただけだ。私もこの部の顧問だしな」

「先生、ここ来る暇あったらお見合いとかした方がいいんじゃ」

「比企谷、最近コークスクリューブローを覚えてな」

「すみませんでした。ハートブレイクショットは勘弁してください」

 

平塚先生が一瞬リーゼントのおっさんに見えたわ。

俺、リカルドじゃないからね。

エルボーブロックを覚えなきゃ俺が死ぬなこれ。

なんとか謝り倒して平塚先生にはお帰り頂いた。

なんか社畜みたいで嫌だな。働きたくないな。社畜ってほんと哀れだよな。やっぱ働いたら負けだな。うん。

 

「でも確かに、いろはちゃんいないと静かだよね」

「そうね。一色さんも結構ここに馴染んでいるようではあるし」

 

要約すると一色がいなくて寂しい、ってことだろう。かなり遠回しな言い方だが。可愛いなゆきのん。

 

「そうだゆきのん。いろはちゃんにティーカッププレゼントしようよ」

「そうね。一色さん、どんなものが好みなのかしら」

「今度買いに行こう」

「ええ、そうね」

 

女子ってそういうプレゼントとか好きだよな。

まあ俺ほどのぼっちにもなるとそんなものとはほとんど縁がないがな。

 

「ゆきのん明日って予定ある?」

「いえ、特にはないわ」

「じゃあ明日に千葉に行こう。ヒッキーも明日千葉に集合ね。時間後でメールしとく」

「え、俺も行くの?ってか俺には予定聞かないんだな、相変わらず」

「ヒッキー絶対暇じゃん」

 

絶対とまで言われるとは。

由比ヶ浜の今度は明日らしい。急過ぎるでしょ。

その後の予定をきゃっきゃうふふしながら(ガハマさんが)決め、そのまま解散になった。

 

ほんとあのふたりはくっついている。ゆるゆりだな。

ご注文はゆきのんですか?

 

だらだらと歩きながら階段を降り、玄関へと向かう途中、生徒会室の灯りがぽつんとしているのが見えた。

 

普段の俺なら真っ直ぐ小町の待つ家に帰るのだが、なんとなく生徒会室のドアをノックしてしまった。

 

「どうぞ〜」

「一色、調子はどうだ」

「せんぱいどうしたんですか?せんぱいからここに来るなんて珍しいですね。明日は猛暑になりそうです」

「いや、今冬だし。沖縄だって猛暑じゃないぞ」

 

こんなことで天変地異扱いされたくはない。

べ、別にあざとい後輩のことが気になったわけではないんだからな。

 

「っは、もしかして頑張っている後輩に声をかけて私の好感度上げて告白しようとしてましたか?ごめんなさい。もっと好感度上げてから告白してください。今はまだ無理です。ごめんなさい」

「俺は何度お前に振られればいいんだ…」

 

振られ続けて何千里なんですかね。

 

「っていうか、もう下校時刻だぞ」

「ほんとですね。今日はもう終わりにします」

「ん。じゃあな」

「せんぱい、待っててくれてもいいじゃないですか?」

 

なんでそうなるの、待つ理由なくね?はちまんまじ意味わかんないんだけど。

 

「もう、せっかく可愛い後輩がいるんですから一緒に帰らなきゃ損ですよ」

「あざといな」

「せんぱい酷いです」

 

その後は生徒会室の戸締まりを手伝い、鍵を返して一色を駅まで送ることになった。

一色は相変わらずあの言葉で脅すから困る。

 

俺としては安易に口に出してほしくない。

俺の求めているものはそんなに軽いものではないし、届かないとわかっていても手を出して掴もうとする。

そんなものは欺瞞だとわかっていながら、目の前のものを信じようとしている。

 

雪ノ下陽乃は俺の足掻きを見てどう思っているのだろうか。

綺麗で黒い瞳のうちで、滑稽だとあざ笑っているのだろうか。

 

考えることがやめられない。考えずにはいられない。

自分が傷つくとわかっていても、その思考は変わらない。

ただの行き過ぎた自意識過剰。こんな性格だから人も信用できないし、信頼できる人も周りにはいなかった。

 

どうしたら、手に入れることが出来るのだろか。

 

 

 

 

「お待たせですせんぱい」

「ああ」

「せんぱい、なんか機嫌悪くないですか?」

 

また態度に出てしまった。切り替えないと。

これじゃまた小町に口聞いてもらえなくなる。

 

「そうじゃねーよ。ただ単にこんな寒い日にわざわざあざとい後輩を送らないといけないのかと思ってな」

「いいじゃないですか。可愛い後輩と一緒帰れるんですから。むしろ感謝してほしいまであります」

「あざとい」

 

頬を膨らませ腰に手を当て、私、怒ってますアピールをしている。

 

「…あざとくない方が可愛いと思うんだけとな」

「ふぇっ、せんぱいなに言ってるんですか。急に褒めたりして。っは、もしかして私のこと褒めて自分のこと好きにさせて告白させようとしてますか、ごめんなさい私告白する気はないのでせんぱいから告白してきてくださいごめんなさい」

 

長い。よくわからんラップだったが振られたということだけはわかった。

 

ラップを言っている間にマフラーが乱れたのかマフラーを整え直している。

顔はほんのり赤く、ラップで息が上がったようだ。

よく噛まずに言えました。

 

 

「じゃあせんぱい、ここで」

「ああ。じゃあな」

「また月曜日です」

 

あざと可愛く手を振る一色はやはりどこか小町に似ていて、手のかかる後輩だ。

その後輩のために明日はプレゼントを買いに行かないといけない。

だらだらしていたかったのになぁ。

 

 

 

一色、どんなのが好きなのかな。

 




ちょっと書き足しました。


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わからない問題はどうやったってわからない

すみません。今回はいろはすは出ません。次回は出す予定です。


通話機能付き目覚まし時計を叩いて消し、リビングへと向かう。

 

この時期、やはり朝は辛い。

こんな朝は熱く甘い珈琲に限る。これ即ち、MAXコーヒー最強。

そしてMAXコーヒーのストックがない。

 

いそいそとインスタント珈琲を淹れていると小町が降りてきた。

だぼっとした寝巻きからは肩が露出している。右手で目をごしごししている小町。

 

小町ちゃん、非常に可愛いんだけど、その肩はどうかと思うなお兄ちゃん。そのままゴミ出しにでも行かれたら俺は道行く男どもの顔にみかんの汁を噴射しなくてはいけない。

 

「お兄ちゃんおはよ。今日はどっか出かけるの?」

「ああ、まあな」

「じゃあ雪乃さんと結衣さんにもよろしく言っといて」

 

誰とどこに行くのかすらも聞いてきてないのに。え、小町ちゃんエスパーなの。

 

「それと、出かける前に服装チェックするから後で小町のところに来るように」

 

どこの上司だよ。でもまあ小町にチェックしてもらえるなら安心ではある。

 

俺自体は別にどうでもいいが、あいつらにまで恥をかかせるのは気が引ける。

 

というか別に俺必要なくね?むしろ邪魔になったりしないのかしら。

とりあえず食事を済ませ、風呂に入る。

 

昨日は奉仕部に陽乃さんが来て色々引っ掻き回される悪夢を見てしまって汗をかいてしまったのだ。

ほんと陽乃さんは夢の中でも怖い。

 

風呂を上がり、服をてきとーに取り出して履いて確認してみる。特に問題はない。

 

小町コーディネーターの元へ行くと次の瞬間には、

「はぁ〜。これだからごみぃちゃんは」

とある意味予想通りの反応をさせた。

最早清々しい。

 

小町コーディネートに身を包み、小町に見送られる。今日はいい日だ。

待ち合わせの場所に着き、暇を持て余す俺。予定より20分早く着いてしまったためだ。

 

仕方が無いのでカバンから「妹だけいればいい」を取り出し読み始める。

 

顔がにやけないよう注意しないとまた由比ヶ浜と雪ノ下に

「ヒッキーキモい」

「由比ヶ浜さん、通報してもらえるかしら」

などと言われかねない。

というか何度か言われたし。もう開き直っちゃうかな。

 

「ヒッキー、やっはろー」

「おう、由比ヶ浜」

「ゆきのんはまだなんだ」

「そうみたいだな。まあ電車だろうし、多少時間がかかってもしょうがないだろ」

 

というかまだ約束の五分ほど前だし。

 

「…」

「どうした、由比ヶ浜?」

「…ばか」

「え、俺なんかした?」

 

なぜ由比ヶ浜は拗ねているんだ。っていうか俺ほんとになにかしたのか。全然わからない。雪ノ下がいないからばかって言われたのか?

 

『ごみぃちゃん、私服の女の子に会ったらちゃんと褒めなきゃだめだよ。それ小町的にポイント低いから』

 

ああ、そう言えば小町がそんなこと言って気がする。

 

「まあ、その、なんだ、あれだ。似合ってるぞ」

 

女の子ってのは色々面倒だな。やっぱりぼっちは家に引きこもるのが一番だな。

 

「あ、ありがと」

 

目を逸らして頭のお団子に手を当てている。そんな反応するなら言わせるなよ。可愛いとか思っちゃうだろ。てか思っちゃったし。

 

「ごめんなさい、待たせてしまったかしら」

「やっはろーゆきのん」

「こんにちは由比ヶ浜さん」

「揃ったし、さっさと用を済ませて帰ろうぜ」

 

明日の番組録画するの忘れてたし、忘れないうちにしないとスーパーヒーロータイムを見逃す可能性もあるからな。録画しとけば災厄寝過ごしても大丈夫だし、安心。

 

「はぁ、これだから比企がえる君は…」

「とりあえず行こっか」

「雪ノ下、相変わらず猫好きだな。もう猫ノ下でいいんじゃないの?」

 

猫ノ下が肩から掛けているバックには小さく猫のプリントがされているのだ。流石は猫ノ下猫乃さん。

 

「…悪くないわね」

「じゃあ私これからねこのんって呼ぼうかな」

 

こういう他愛もない会話を3人でするのは、悪くない。

猫ノ下と百合ヶ浜はいつものようにいちゃいちゃしているが、これにも慣れてしまった。

 

少し前は色々問題が多くて大変だったが、これでよかったのかもしれない。

 

だがそれと同時にどこかで俺はまた何か間違ってしまっているのではないだろうかといつも不安になる。

 

何度見返しても、何度問い直しても、答えはわからなかった。



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やはり比企谷八幡の思考は捻くれている

お気に入りに入れて頂いた方、ありがとうございます。
初めまして投稿したものが人に読んでもらえるというのはとても嬉しいです。
基本友達がいないので、誰かに読んでもらえる機会というのがなかったので…
作品の感想や、誤字脱字などがあれば編集致しますので、教えて頂けたら幸いです。


こんな寒い日は暖かいMAXコーヒーが一番なのだが雪ノ下が淹れてくれる紅茶もなかなか悪くないもので、だからコーヒーは帰りに買って飲もうと我慢し、かさかさと寒い廊下を歩き部室へ向かう。

 

「うす」

「ヒッキーやっはろー」

「んおう。さっきも教室で会ったけどな」

「いいの。あれだよ。お約束だよ。恒例だよ。伝統芸だよ、伝統芸」

 

最後のはなんか違う気がするがまあどうでもいい。

つまんねーこと言うなよ!

 

「こんにちは、比企谷君。紅茶、淹れるわね」

「おう、サンキュー」

 

いつもの席に座り小説を取り出し読み始める。

 

「あまり冷めないうちにね」

「それは猫舌な俺には無理な相談だな」

 

パンダのパンさんのプリントが施されている湯呑みからは紅茶の香りと湯気を漂わせる。

 

誰かがドアをノックしてきた。

 

「どうぞ」

「失礼しまーす。今日は生徒会の仕事特にないので遊びに来ちゃいました」

「一色さん、こんにちは」

「いろはちゃん、やっはろー」

「雪ノ下先輩、結衣先輩こんにちはです。せんぱいもこんにちはです」

 

あざとく敬礼しながらのあいさつ。初っ端からあざとさ全開。流石あざとす。

 

「おう」

「せんぱい、こんなに可愛い後輩があいさつしてるのに反応薄くないですか?」

「はいはい、あざと可愛いねー」

「棒読み…」

「いろはちゃん、今日はね、奉仕部からいろはちゃんにプレゼントがあるの」

「え⁈そうなんですか。ありがとうございます」

 

バックの中からプレゼントを取り出す雪ノ下。

 

嬉しそうな一色。こういうときの一色はなかなか可愛いから困る。あざとさがあまり感じらないからだろうか。

 

一色があざとくなかったらまた勘違いして好きになりそうまである。

 

いや、もしかしたら一色のことだからそれすらも計算かもしれない。

 

「ありがとうございます。開けていいですか?」

「うん」

「綺麗で上品なティーカップですね」

「一色さんもよくここへ来るし、毎回紙コップというのも味気ないと思ったから」

「マグカップにしようか迷ってたんだけど、ヒッキーが、一色は生徒会長だし、こういう上品なものの方がいいんじゃないか?って言うからこれにしたんだ」

「別にそういうこと言わなくていいから」

 

やめて、なんか恥ずかしいから。

っていうかなにそれ、俺のマネ?全然違うだろ。

 

「せんぱい、照れてるんですか?可愛いですね」

「ち、ちげーよ。あれだあれ、もうちょっと会長らしい振る舞いをしろってことだよ」

「その割にどのティーカップにするかあなたも随分と悩んでいたじゃない」

「仕方ないだろ、小町にそういうことは真剣に考えろって教育されてるんだよ。そもそもそんなに贈る機会なんてないんだけどな」

 

基本ぼっちにはそういうリア充なイベントはあまりない。

まあ奉仕部では何度かしたが。

むしろ小町以外だと奉仕部でしかしていないまである。

 

「小町ちゃんもなんだかんだでブラコンだね」

「そういえばせんぱい、妹さんいたんでしたね」

「一色さん、紅茶はいかが?」

「はい。是非頂きます」

 

雪ノ下が淹れた紅茶を飲む一色の姿はしっかりと様になっていて、真剣に選んで良かったと思えた。

少しだけ、一色に見惚れてしまった。

 

 

 

「今日もう、終わりにしましょうか」

 

陽が沈み始め雪ノ下の顔を蒼く染める光りが俺らの下校時刻を告げる。

 

「そうだね」

「今日も楽しかったです」

「一色さん、ティーカップはここに置いていていいかしら」

「はい。また遊びに来ますし」

 

カップの片付けをし、戸締まりをして雪ノ下は鍵を返しに行った。

 

廊下は寒く、部室に戻りたい衝動に駆られるが我慢だ。MAXコーヒーが俺を待っている。そして小町が待っている。あとついでにかまくらも。

 

自販機でMAXコーヒーを買おうとしているとさっき由比ヶ浜と帰ったはずの一色がいた。

 

「せんぱいMAXコーヒー?好きですよね」

「おう、どうした?さっき帰ったんじゃないのか?」

「ちょっと生徒会室に忘れ物しちゃって」

 

えへっといつものようにあざとくそう言った。

 

「そうか、早く帰らないと先生に注意されるぞー」

 

購入したMAXコーヒーを手に取り、カイロ代わりに手のひらで転がす。

 

「既に言ってることが先生とかお兄ちゃんみたいです。せんぱい」

「まあな、手のかかる妹がいるとこうなるんだよ」

「っは、もしかして私を妹だと思ってるんですか、お兄ちゃんっていうのはちょっと憧れますけどせんぱいはせんぱいなのでせめて彼女にしといてくださいごめんなさい」

「なんかまた振られたな、俺」

 

何回目だよ、ん?てか今の振られてなくね?まーいいか。

とりあえずMAXコーヒーを一口。

 

コーヒーの芳醇な香り、砂糖と練乳の甘みとコク。美味い。

 

「せんぱい、それって美味しいんですか?私にも一口下さい」

 

そう言って俺からさらっとMAXコーヒーを奪った。

一瞬、奪われたことに気づかなかったほどに自然に。

なんだったんだ今のは。

 

「あまっ⁈これ本当に珈琲なんですか?甘過ぎです」

 

っていうか間接キス。

 

やめろよそういうの。勘違いしちゃうだろ。

 

「もうそれお前にやるわ」

「あ、もういいです。今はまだこんな甘いのは飲めませんお返しします」

「って言われても」

 

もう意識しちゃって飲めないだろうし。

 

「もしかして私と間接キスとか思ってるんですか?せんぱいのそういうところは面白いですね」

「っ。それより、忘れ物はいいのか?」

「っは、そうでした」

 

ぱたぱたとあざとく走って行った。

よし、今のうちに帰ろう。また駅まで送れだの言われては叶わん。

 

それに、今の顔はなるべく見られたくない。



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一色いろははふと気づく

今回はいろは視点で進めたいと思います。


せんぱいは私のことをどう思っているのかなぁ。

 

最近はよくそのことを考えている。というか考えてしまっている。

 

もしかして私はせんぱいのことが好きなのかな。

生徒会長になる前の私は特定の誰かのことを想うことがなかったと思う。

 

せんぱいには葉山先輩がうんぬん言ってデートの参考というデートをしたし。

 

私は「葉山先輩を好きな私」が好きだっただけで、そして今もそれを利用している。

 

それでもせんぱいは振り向かない。

 

せんぱいは振り向こうとはしない。

 

どうでもいいものはすぐに手に入るのに。

 

欲しいものが手に入らない。

 

結衣先輩だってせんぱいのことが好きなのだろうし、雪ノ下先輩も好きか、それに近い感情があるはずなのだ。

 

せんぱいたちを見ていて辛くなる。あの3人の中に入っていけない。

 

手を伸ばせば届くはすなのに。

 

ティーカップをもらったときは嬉しかった。

私もあの3人の中に入れてくれたような気がしたから。

 

せんぱいが私のことをちゃんと考えて悩んでくれたことを聞いたときは内心、ドキッとした。

 

照れ隠しでせんぱいをからかったときの顔が可愛いかったな。それでいてやっぱり捻くれているし。

 

やっぱり。

 

私はせんぱいが好きなんだな。

自覚すると余計に恥ずかしい。

 

ベッドで悶えていると危うく落ちそうになった。

 

 

「こんにちは、一色さん」

「やっはろーいろはちゃん」

「おう、今日は生徒会ないのか?」

「こんにちはです。今日はないので遊びに来ました」

 

本当はまだ残ってるんですけどね。家ですぐに終わりそうなんで持って帰ってるんですよね。

 

せんぱいに会いたかったですし。

 

せんぱいをこき使わないといけないような量ではないですし。

毎回せんぱいを使うとふたりから嫉妬されちゃうかもですし。

 

「紅茶、入れるわね」

「ありがとうございます。雪ノ下先輩」

 

雪ノ下先輩の淹れる紅茶は美味しい。

 

優しくて甘くて、暖かくて、ほんのり苦い。

奉仕部の味がする。

 

「そういえば結衣先輩、最近駅前にイヌカフェができたらしいですよ」

「あーあそこか!気にはなっていたけど」

「今度一緒に行きません?雪ノ下先輩も」

「ごめんなさい。私…」

「ゆきのんはね、犬が苦手なんだよ」

「あなただって、猫、苦手でしょう。……あんなに可愛いのに」

 

雪ノ下先輩の猫デレしているときの顔が可愛すぎる。ギャップ萌えというものなんでしょうか。

 

「私は犬も猫もどっちも好きですけどね」

 

将来どっちを飼うかと聞かれると迷うな。究極の二択。

でも1番はせんぱいを飼いたい。

 

「せんぱいはどっち派ですか?」

 

今後の参考に知りたい。せんぱいの好きなものなら何でもいいから。

 

「ああ、そういえば前にもそんな話になったな。確か文化祭の打ち上げか」

「なんか懐かしいね」

「確か比企谷君はうさぎにしたのよね」

 

なんでそこでうさぎが出てくるのでしょうかね。

しかもまだ私がせんぱいを知らないときの話。 気になる。

 

「ああ。やっぱりあれだな、天使には叶わないな」

 

戸塚先輩のことか。納得。

でも戸塚先輩にちょっと嫉妬しちゃうな。

 

「葉山先輩はどっちが好きなんですかね?」

「んなこと知らねーよ。気になるなら聞いてみたら?いつもみたいにあざとく」

「せんぱい酷くないですか?私全然あざとくないですし。むしろせんぱいがあざといです」

「由比ヶ浜、俺ってあざといのか?」

「どうなんだろうね」

 

せんぱいはあざとくて鈍感で優しい。

そしてその優しさが辛い。その優しさに甘えたくなる。

 

でもそれではだめなんだろうな。

 



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やはり俺の後輩はあざとい

今回は一色と比企谷がデートです。
やっぱりいろはす可愛いですね。
いろはと八幡の視点が混ざっています。
混乱させてしまったらごめんなさい。


どうしよう。

 

せんぱいとデートする夢を見てしまった。

 

せんぱいは夢の中でも相変わらず捻くれているんですね。

 

ああ、もうちょっとでせんぱいにキスしてもらえたのに。

夢でもいいからキスしたかった。

 

私、何気にキスしたことないんですよね。

 

なんか恥ずかしいな。

 

せんぱいとデートしたい。

あわよくばキス。

 

時間を見ると朝の9時。

ダメ元でせんぱいをデートに誘おう。

 

 

 

 

やはり土曜日はいい。

休みが始まり明日も休み。

そして次の日は、仕事じゃねぇ学校。

学生にして社畜脳になっている俺って…

 

こんな日にはMAXコーヒーをちびちび飲みながら、ご注文はMAXコーヒーですか?を見るのが1番だ。

 

やっぱ ココアがいいよね。1番可愛いと思う。

声も可愛いしね。あやねる最高。

 

俺があやねるを堪能していると通話機能付き目覚まし時計が震えた。

 

画面には一色いろは。

 

一瞬、声を聞きたい衝動に駆られたがやっぱり面倒な事になるのだろうから出ない。

 

その後も何度か震えたが無視した。

そしてメールを一件受信。またしても一色いろは。

メールはこっちが見ても気づかないから楽である。

 

ラインとかだと既読だとかでやたらと面倒だっていうしね。

 

メールを開くと2文字、

本物、

 

一色のニヤつく顔が脳裏に浮かんだ。

嫌々ながら一色に電話をかける。

 

『せんぱい、可愛い後輩からの電話を無視とか酷くないですか?』

 

第一声が既にあざとい。

やっぱりいろはすよりココアがいいな…

 

「で、用件はなんだ?ないなら切るぞ」

『切らないでくださいよ。せ、せんぱいは私の事嫌いですか?うるうる』

「泣きそうな声でうるうるとか言ってもあざといだけだから。で、なんなの?」

 

たぶん電話じゃなかったらやばかったな。

対妹スキル発動してるとこだったぜ。

泣き落としとか可愛すぎるぜまったく。

 

『せんぱい、デートしましょう』

「また葉山とのデートの参考か。ていうか一色、お前結局葉山とデートしてるのか?前にも参考とか言って俺を連れ回してたろ?」

 

まあなんだかんだ楽しかったけどさ。

 

『いいじゃないですか。こんなに可愛い後輩とデートできるんですから。素直に喜んでくださいよ、せんぱい』

「ほんとあざといな」

『ほ・ん・も・の』

「どこへでも行きます。なんだったらどこでもドア出してやりますよはい」

 

の・ぞ・き・みみたいに言いやがって。

 

『じゃあ学校近くの駅前に来て下さい。行きたいところがあるので。そこ行ったら後はせんぱい、エスコートお願いしますね」

「時間はどうする?」

『11時くらいでいいですか?お昼もそこで食べたいですし。……せんぱいと一緒に』

「じゃあメシは食わずに行けばいいんだな、わかった切るぞ」

 

一色がなんか言ってたがそのまま切った。

はぁ、早く帰って続き見たいな。

 

 

 

 

せんぱいはちょっとおど…呪文を唱えると簡単にお願いとか聞いてくれるので楽です。

 

せんぱいとデート。

今絶対顔が緩んでる。

 

とりあえず支度しなきゃ。

さっとシャワー浴びてメイク。

ナチュラルメイクとあどけなさが出るような服をチョイス。

妹系で攻める。せんぱいシスコンですからね。

 

 

目的地に着いたのは約束の20分を過ぎたくらい。

せんぱい怒ってるかな…

 

一応メールしてはいるけど。

 

せんぱいはすぐに見つかった。

 

「せんぱ〜いお待たせしました」

「おう。んじゃぼちぼち行きますかね」

「せんぱい、怒ってます?」

「ん?なんでだ?」

「いや、その、遅れちゃいましたし…」

 

自分から誘っておいて遅れたのだし、怒っても当然かもしれない。

 

「いや別に。電車とかの都合もあるだろうし、女子って支度とか結構かかるしな。っていうかむしろ、ちゃんと来てくれたからな。これでドタキャンとかされたら流石にキツいけどな」

 

これが噂の捻デレ。

せんぱい、やっぱりあざといです。ドキッときました。

ちゃんと来てくれた、とか優し過ぎです。

せんぱいのばか。また好きになっちゃったじゃないですか。

 

「やっぱりせんぱいあざといです…」

「いや、全然あざとくないだろ。で、どこ行きたいんだ?サイゼ?」

「最近できたイヌカフェです。一度行ってみたかったんですよね」

「イヌカフェなら由比ヶ浜と行けば良かったんじゃ…」

「行きますよ」

 

せんぱいの手を掴んてそのまま手を繋いだ。

せんぱいの手は暖かくて優しくて、ずっと私を握っていてほしい。

 

 

 

強引に俺の手を引っ張る一色。

握られた手は柔らかくて小さくて。

手を握ったのは小町以外では初めてなんじゃないか俺。

 

しばらくして目的の場所へ着いたイヌカフェはオサレで、とても俺独りでは入る気になれないところだ。

 

「やっぱりワンちゃん可愛いですね。はぁ、もふもふしたい」

「もふもふしたいのは構わないが先にメシにしないか?お腹空いたんだが」

「そうですね。フフフッ待っててねワンちゃんたち」

 

本当にイヌが好きなのか、あざとさが感じられない。

猫といるときの雪ノ下みたいで可愛いと思ってしまう。

 

雪ノ下は猫と会話するからな。

一色もイヌと会話したりするんじゃないか。

 

 

とりあえず席に付き、メニューを注文。

一色はイヌイヌオムライスで俺はイヌイヌパスタ。

一色は両方食べたいと言い出し、俺にパスタを頼ませたのだ。小町もよく自分の食べたい物をさりげなく勧めてくる。女子ってのは欲張りだな。全く。まあ可愛いから許すけど。

 

飲み物は2人ともカプチーノ。

ラテアートでイヌを描いてくれるらしく、一色に限ってはそれ目当てのようだった。

 

互いの頼んだ料理が届き、食べ始める。

何やらチラチラと視線を感じる。

 

いっしきがたべたそうにこちらをみている。

 

「…食べるか?」

「はい!」

 

どんだけこれ食べたかったんだよ。

骨つき肉とかあげたら仲間になる勢いだったぞ。

 

「せんぱい、食べさせてください」

「いや、しないだろ普通。付き合ってるわけでもないし」

「いいじゃないですかー」

 

小さく頬を膨らませ、文句を言う一色。あざといなぁ。

するとぼつりと、

「本物…」

 

「わかったよわかりましたよ」

 

一色はニヤつきながら早く早くと急かす。

駄々こねるんじゃありません。

籠からもう一本フォークを取り出し、パスタを一色の口へと運ぶ。

 

美味しそうに食べる一色。

まあ、なんだ、わるくはない。

すると一色も自分のオムライスをスプーンですくい俺の方へ差し出す。

 

「せんぱいも、はい。あ〜ん」

 

恥ずかしい。可愛い。恥ずか死ぬ。

 

「食べづらい…」

「ほらほら」

 

羞恥に耐えながら一色のオムライスを口へ入れる。

一色はにっこにっこにーしている。

 

味はよくわからなかった。

 

「せんぱい…間接キス、ですね」

 

思いっきりむせた。




次回はデート後半を書く予定です。
間接キス…ですねとか言われたらたまんないですよね。


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そして一色いろはは比企谷八幡の唇を奪わんとする

デート後半です。
前回同様いろはと八幡の視点が混ざっています。
混乱するかもしれません。

感想を下さったhさん、ありがとうございます。
感想をいただくとモチベーションが上がるのでこれからも感想お待ちしています。


自分で言っておいてなんだけど恥ずかしかった。

顔見られてなかったかな。

 

まあせんぱい、思いっきりむせたのでバレてないとは思うんですけどね。

 

やっぱりせんぱいとここへ来れて良かった。

せんぱいも渋ってた割に楽しそうですし。

私といるからというわけではないかもですけど。

 

「まあなんだ、今日はその、お前と遊べて、まあ割と楽しかったわ、いろは」

 

勝手にせんぱいの捻デレが頭の中で再生される。

そんなこと言われたらもう勢いで告白しちゃいます!

というか言われたい。言ってほしい。

 

 

 

一色あざとすぎだろ?

そりゃ大概の男子がやられるのもわかるわ。

 

危ねえ。持って行かれるとこだったわー。心を。

もう少しで一色いろはという真理の扉を開いちまうところだった。

右腕と左脚は持って行ってもいいけどさ、最悪。

 

可愛かったな。

 

やばいやっぱちょっと

持って行かれたー‼︎

 

ごめんなさいちょっと言いたくなっただけです。

あれ見た後よく使っちゃうんだよな。俺。

 

小町に漫画取られた時とか。

で、言うと蔑まれる。

もう別の扉が開きそう。

 

 

そのあとは一色とイヌたちが戯れていた。

一色とイヌは絵になる。

編集長、次のフリーペーパーの表紙は決まりですね。(ニヤリ)

 

「せんぱい、写真撮って下さい。せんぱいのでいいので」

「おう」

 

一色もイヌと同じようにイヌ耳を付けている。

やっぱイヌ耳いいな。萌えるね。

明るい茶色の毛並みをしたトイプードルを抱えるいぬはす。間違えた、いろはす。

 

数枚撮影し、一色に確認を取る。

違いが分からなかったが三枚目のものを後で送っておいてほしと言われた。

 

送った後に消しておこう。

保存してたらキモがられそうだし。

 

イヌカフェを堪能した一色は満足そうだった。

もう帰ってもいいんじゃね…

さてと、次どうしようか。

 

 

 

 

せんぱいイヌ耳とか好きかな。

さっき感想聞けば良かった。

せんぱいわかりやすいからなぁ。

 

「せんぱい、どこに連れて行ってくれるんですか?」

「まあ無難に最近できたイオンとかでいいか?割となんでもあると思うし」

「せんぱいにしては無難かもです」

 

また卓球とかもしたかったですけど。

それはまた次のデートでします。

次もあるといいけど。

 

電車にふたりで揺られていて時々当たるせんぱいの肩。

ドキドキが止まってくれません。

聞こえちゃうじゃないですか。

 

キキーッと悲鳴を上げる電車。

勢いよく振られて思わずせんぱいにしがみついた。

 

見上げるとせんぱいの顔がすぐそこにあって、微かにせんぱいの息が前髪にかかる。

 

そのまま見つめ合う。

あと少しでせんぱいと…

 

「ごめんなさい⁈」

 

恥ずかしくて密着していた体と目をはなす。

 

「…たぶんあれだな、動物でも、入り込んだんだろ」

 

途切れ途切れせんぱいが言葉を出す。

 

電車を降りるまでまともな会話は出来なかった。

 

 

 

電車を降りてイオンに着く頃には落ち着いて、せんぱいをからかっていた。

とりあえずゲームセンターで遊ぶことになり、そこへ向かう。

 

私とせんぱいもまだここへは来たことがなく、若干迷子になったりもしたけどなんとかついた。

 

せんぱいは

「人が多い…」

とげんなりしていた。せんぱい引きこもりですもんね。

せんぱいがわるいんですよ。ここに行こうって言ったから。

まあ私はせんぱいといられるならどこでもいいですけどね。

 

ゲームセンターに着き、卓球台を発見してしまった。

せんぱいも見たのか、ふたりで顔を見合わせ、勝負することになった。

 

次にと思っていましたけどここにあったが百年目!

せんぱいにお願いをするチャンス。フフフッ

 

「せんぱい、私が勝ったらまたお願い聞いて下さいね」

「ああ、勝ったら、な」

 

せんぱいは本気を出すのか着ていたジャケットの袖を捲る。

 

「俺が勝ってもお願いきいて…」

「行きますよ!」

「っておい!ずるいぞ」

 

せんぱい、既に闘いは始まっているんですよ。私の闘いが。

 

「せんぱいは今日負けるんですからお願い言う必要がありません。というかせんぱいはなしです。会長命令です」

「それ職権乱よってまたかよ!」

 

 

勝負は縺れマッチポイントを獲得した私。

僅差で今せんぱいに取られるとチャンスがなくなってしまう。

フフフッ仕方が無い。奥の手です。

 

私はせんぱいを真剣な顔で見つめ、

「せんぱい、好きですよ」

「へ?」

「スキあり‼︎」

「ああっ!今のはずるいぞ」

「せんぱい、まだまだだね」

「くっそ、はめられた」

 

せんぱいへのお願いをついに。

でも恥ずかしかった。

あんなの告白じゃないですか。

言うならちゃんと言いたかったなぁ

 

「ふふん。お願いはあとで言いますね」

「この間負けたからってそこまでするかね全く」

「せんぱい、プリクラ撮りましょ」

 

その目も多少はマシになりますよ。

 

 

 

帰りの電車、辺りはもう暗くて気付けば8時。

せんぱいも私ももうくたくたです。

この車両にはせんぱいと私だけで、あの時と同じです。

 

「疲れた…」

「せんぱい、デートで疲れたはないですよ。今日は楽しかったなくらい言ってくれないと」

「一色、ちょっと寝ててもいいか?」

「しょうがないですね。降りるまでですよ」

 

まあ今日は散々振り回しましたしね。

楽しかったなぁ。やっぱり好きな人とデートするのはたのしいですね。

 

せんぱいはもう既に寝息を立てている。

せんぱいと結婚とかしたら毎日寝顔見れるのか…

私気が早い。まだ付き合えてすらいないのに。

 

寝ているせんぱい、誰もいない車両。

これってチャンス?…

 

今なら…

 

せんぱいに顔を近づける。吸い寄せられそうになる。

あと少し。

 

っはダメだ恥ずかしい。やっぱり無理だ。こんなのずるいよ。

 

せんぱいの肩に寄りかかる。

せんぱいは暖かくて、落ち着くいい香り。もっと近づきたい。もっともっと。

 

お互いはこんなにも触れ合っているのに。

 

私はあと一駅で降りなければいけない。

お願い、まだしてないな…

 

 

 

 

 

薄れゆく意識、今日は心身共に疲れた。揺れる電車は心地よく、眠気に追い打ちをかける。

 

一色に了承を取り、ちょっと寝ることにした。

目を閉じているだけで気持ちがいい。

 

一瞬意識が消え、再起動する。視界は暗いまま。左肩には一色が持たれているのだろう。女の子の暖かみを感じる。

一色って暖かいな。

 

誰かが隣に居てくれるというのは嬉しい。

 

再び意識が消えそうになる。

 

何かが唇に当たった気がした。




八幡、デートの帰りに寝るってどうなんですかね。


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一色いろはは奉仕部に訪れない

前回のデート以降、どう展開していいのかわからないですが、ぼちぼちやりますかね。

MAXコーヒーとネタの在庫が早くも少なくてピンチです。


せんぱいは誰よりも優しくて、だから冷たくて。

 

誰よりも人のことを考えて、誰よりも気持ちを理解していない。

 

いつかはるさん先輩が言っていた。

比企谷君は理性の化物だと。

 

せんぱいの中には私はいないのだろう。

私の中にはせんぱいがいつもいるのに。

きっとせんぱいの中には雪ノ下先輩と結衣先輩だけがいる。

 

せんぱい。

もう私に優しくしないでください。

手を差し伸べないでください。

辛いです。寂しいです。

せんぱいが優しくすればするほどに。

 

 

 

 

 

「最近、いろはちゃん来ないね…」

 

由比ヶ浜が一色のティーカップを見ながら呟いていた。

 

「まあ生徒会長だしな。何かしらの仕事が溜まってるんじゃないのか?それにあれだ、小町も来るしな今年」

「正確には来年度なのだけれどね」

「小町ちゃんが来ることは決まってるんだね」

「当たり前だろ。由比ヶ浜でも来れたんだ。小町が落ちるわけがない」

 

小町もあんなに頑張ってたしな。

お兄ちゃん、信じてるぞ。

 

「それにしても、一色さん、頑張り過ぎてはいないかしら」

「でもほら、またいつもみたいにヒッキー借りに来るんじゃない?」

「それもそうね。どうせ消耗品なのだし」

 

もはや備品などですらない。

なんか悲しくなってきたな。

もう帰っちゃおうかな。八幡泣きそう。

 

「むしろこちらから派遣したほうがいいのかもしれないわね」

「それある!」

 

折本かよお前は。

ていうか同意するなよ。仕事増えちゃうじゃんかよ。

 

まあこの間のデート?以降会ってないし、てか最後寝ちゃつてたし俺。

 

それも謝っておいた方がいいかもな。

絶対なんか言ってきそうだなぁ。

『せんぱい、可愛い後輩を家まで送らずに寝るなんて酷いです。私的にポイント低いんですけど』

とか言いそう。てか最後の方とか小町入っちゃってる。

 

「んじゃまあ、ちょっと様子見てくるわ」

「仕事が溜まってるようなら手伝ってあげて。もしあれなら私たちも呼んでくれて構わないわ」

「最初からみんなで行くっていう選択肢はないんですね」

 

俺もう既に社畜じゃん。

俺も親父と同じ運命を歩むのか。嫌だな。

「だいたいのことならあなた1人で充分でしょう。あなた、無駄に優秀だもの」

 

雪ノ下、貶したかったのかもしれないがただの褒め言葉だったぞ。

 

「確かに。ヒッキー無駄に頭良いもんね。無駄に」

「同じこと2回も言わなくていいだろ。…まあ行ってくる」

 

なんだかんだであいつらに褒められると嬉しい。

あいつらと話しているときはあまり裏の意味とかそういうことを考えてないからだろうか。

 

他の奴からだとどうしても考えてしまうけど。

 

まだ完全下校の時刻には1時間ほど早く、仕事が残っていれば手伝うことになるだろう。

 

まあ一色を押したのは俺だし、一色が頑張っているなら俺もサポートしなければいけないだろう。

 

生徒会室の前に着き、ノックをしたが返事がない。

ただのくうしつのようだ。

 

開けてみると書類の束と一緒に寝ている一色がいた。

いや、いつもなら俺をこき使う量でしょこれ。

 

どうする比企谷八幡、あれをやるか。

というか仕事だしな。

もうほとんど社畜じゃん俺。

 

まああれだな。とりあえずMAXコーヒー飲みながらぼちぼちやりますかね。

 

 

 

 

 

かさりかさりと紙の擦れる音がする。

視界が暗い。

というか見えない。私、寝てたんだ。

 

書類が溜まってることを思い出す。

こんなときせんぱいがいたらなぁ。

 

「…せんぱ〜い」

「おう一色、起きたか」

 

せんぱいの声で覚醒した私。

なんでせんぱいいるの?今日呼んでないですよ?

 

「せんぱい、なんでいるんですか?」

「奉仕部から派遣されたんだよ。一色が仕事忙しいんじゃないかってんで」

「せんぱい、私の寝顔、見ましたか?」

 

せんぱいに寝顔見られるとか恥ずかし過ぎです。

 

「見るも何も、うつ伏せで寝てて見れるはずないだろ。それより、七割くらいは終わってるから残り片付けるぞ。時間ないし」

 

時計を見ると完全下校まであと15分。

せんぱいがいてくれなかったらやばかった。

せんぱいに感謝すると同時に苦しくなる。

 

せんぱいから身を引こうと決めたのに、せんぱいは、私に手を差し伸べてくれる。

 

やっぱりせんぱいはずるい。

 

 

 

「せんぱい、ありがとうございました」

「まあ、気にするな。仕事だしな」

 

やっぱり社畜って嫌だなと思いました。

 

「せんぱいお疲れ様です。でわでわ」

「おう」

 

今日の一色はやけにあっさりしている気にする。

今日は一度も振られてないし、全然あざとくなかった。

 

なんというかただの、後輩一色いろは、って感じ。

 

とほとほと歩く一色の後ろ姿はどこか悲しげに見える。

 

「一色」

 

一色を呼ぶと、静かに振り返る。

 

「まあそのなんだ、なんかあったら奉仕部に依頼なり相談なりしろよ。個人的にでも構わないが」

「ありがとうございます」

 

礼を言う一色の笑顔はやはりどこか悲しげで、あのときの雪ノ下を思い出させた。



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葉山隼人は仄かな火を灯す

ちょっとだけ葉山出ます。


奉仕部へ行かなくなった私の生活はモノクロの写真のように味気なくなった。

 

これでいい、これでいいと自分に言い聞かせる。

私のせんぱいに対する気持ちはいつかなくなって、ふと思い出すくらいの懐かしい思い出になる。

 

あの頃は私せんぱいが好きだったんだなーとか言って笑ってるはず。

 

…またせんぱいのことを考えている。

もう、辛いだけなのに。

 

仕事をしていたはずの私の手はいつの間にか止まり、ただ涙を堪える。

 

渇きゆく喉と心を癒そうとMAXコーヒーに手を伸ばす。

缶から流れ落ちる水滴は私の涙を誤魔化してくれる。

 

MAXコーヒーを飲むようになったのも、生徒会長になって仕事しているのも、こんなに苦しいのも、全部せんぱいのせいだ。

 

 

 

 

 

卒業式当日。

正直他人の卒業式なんて退屈で、睡魔との戦いで忙しい。

 

三年生で知り合いなんて城廻先輩しか知らないし、そんなに親しいわけでもない。

 

せいぜい、残念に思うくらいだろう。

 

中学の時の卒業式で俺は喜んでいた。

中学では恥をかき、他人に指を差され笑われて。

だからなぜこいつらは卒業式でこんなにも泣いているのか理解出来なかった。

 

人をあざ笑って、そして泣いているやつら。

人にあざ笑われて、泣くどころか喜びすら感じる俺。

 

どうしてここまで違うのだろうか。

卒業式をするたびに自分はとても醜いやつなのだと感じる。

 

一色が送辞をするために舞台に上がる。

久しぶりに一色を見た気がする。

一色が奉仕部へ来なくなって一週間。

あの悲しげな笑顔以降顔を見ていないのだ。

 

一色が抱えているであろう事について、俺はどうしていいかわからずにいる。

 

自ら踏み込んでいいのかわからないのだ。

 

ずっと独りだった俺は奉仕部に入りなにか変わったのかもしれないが、今だに人との距離がわからない。

 

結局、俺は成長していないのだろう。

 

 

 

 

 

「ねぇヒッキー、いろはちゃんとなにかあったの?」

 

卒業式を終えての奉仕部の部室。

一色が来なくなって静かだが、どことなく雰囲気は暗い。

 

「いや、なにも」

「でも急に来なくなるのはおかしくない?」

 

一色になにがあったのか、俺は知らないし、どうしていいかもわからない。

 

一色は来なくなったのはどうしてか、奉仕部に行きづらくなるなにかがあったのか。

考えても、なにもわからない。

 

 

 

 

 

 

卒業式の後片付けと生徒会の仕事を終え、今日はもうすることがなくなった。

 

ちょっとまえの私なら、迷うこともなく奉仕部へ足を運んでせんぱいをからかっていただろう。

 

普通の女子高生なら友達と遊びに行ったりするかもだけど。

私には友達いませんしね。

なんせ生徒会長に推薦されるくらいですから。

 

ふとサッカー部のマネージャーだったことを思い出す。

そういえばマネージャーでしたね。

せんぱいのことしか考えてなくてすっかり忘れてました。

 

久々にサッカー部へ顔を出す。

葉山先輩は変わらずイケメンで、戸部先輩は変わらず練習中でも鬱陶しい。

 

サッカー部は奉仕部とは違い活気があって、冬のはずなのに暑苦しい。とくに戸部先輩。

白い息を吐き出して、あんな薄着で走り回る。

奉仕部ではない光景です。

 

グラウンドを紅く照らす沈みかけの太陽が部活の終わりを知らせたのか、葉山先輩が片付けの支持をする。

 

私も道具の後片付けを始める。

 

「いろは、珍しいな」

「葉山先輩…」

「比企谷となにかあったのか…」

「いえ、ただたまには顔を出そうと思っただけですよ」

 

葉山先輩はあの3人の中で言うと、結衣先輩に似ている。

空気を察して上手く対応している。

 

そうやって人と適切な距離を保っている。

 

私、またそうやって奉仕部のことを考えている。

未練たらたらじゃないですか。

 

「比企谷はいろんな人を変えていく。雪ノ下さんもゆいも、いろは、君もだ」

 

葉山先輩は私になにを言いたいのだろう。

 

「君はもっと、自分の気持ちを大切にしないといけない。たとえあのふたりがいても。君はあのふたりにはないもので闘えるだろう。君はまだ、諦めてはいけない」

 

葉山先輩は消したはずのロウソクに火を灯す。けれどその火は小さくて、冬の風に晒されてすぐに消えてしまうだろう。

 

 

 

 

 

「なあ、大掃除の日って部活あるのか?」

あれ、無視ですか?え、酷くない?俺なんかしたのか?

本読んでたくらいしかしてないんだが。

 

「…もしかして、私たちに話しかけていたのかしら?ごめんなさい。てっきり空気の友達に話しかけていたと思っていたわ」

 

俺にはエア友達もいません。

でもいいかもな。トモちゃんって名前でもつけてさ。

きっと俺みたいな捻くれたろくでなしのやつにも優しいんだろうな。

 

「さっきの問いだけれど、どうしようか考えているわ。依頼者が来なければ意味のないことなのだし」

「じゃあみんなでどっか遊びに行かない⁈お疲れ様会みたいな感じで」

「お疲れ様会は行かないが、小町の合格祝いをしたいと思っていてな。家でやるのとは別に」

 

小町頑張ってたしな。

それに小町はこいつらと会うときとか結構楽しそうだしな。

由比ヶ浜の誕生日パーティーとか文化祭の打ち上げとかクリスマスパーティーとかな。

 

「それで合格祝いをするならここでやってやりたいと思ってな」

「だったらカラオケでよくない?騒いでも怒られないし」

「いや、ここじゃないと意味がないというか、あーなんて言えばいいんだ」

「比企谷君の言いたいことはなんとなくわかったわ」

「あっそうだ。じゃあいろはちゃんも誘おうよ。みんなで初詣行ったときいろはちゃん誘われなかったって怒ってたし」

 

そういえばあいつそんなこと言ってたな。

あのときもあざとかったな。一色。

でもあいつ来るかな。

 

「小町さんと一色さんは面識はあるのかしら?当日にぎこちなくなったりしなければいいのだけど」

「小町なら大丈夫だろ。俺と違ってコミュ力高いしな」

 

もうスカウターで計測したら壊れちゃうレベル。

ちなみに比企谷八幡はコミュ力たったの5。

っふ、ゴミめ。

 

自分でいうと悲しいな、余計に。

 

「でもいろはちゃん来るかな…」

「大丈夫だ。あいつは一度来てしまったらとりあえず場の空気に合わせるだろ。だから当日ここに来させればいい。小町はすぐ仲良くなるから後はそこから問題を見つければいいし、もしかしたら小町がそのまま解決してしまうかもしれない」

 

それに一色と仲良くしてもらっていた方が良い。

俺が卒業しちまっても一色に面倒見せれるし、俺の代わりに悪い虫がつかないようにしてもらえるかもしれないしな。小町は可愛すぎるからな。

 

問題は一色をどう引っ張ってくるかだ。

 

 




次のドラマCDでいろはが出てきたらいいなと願いを込めて書いてみました。
なにげにまだいろはは出てきてないんですよね。


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そして雪ノ下雪乃は紅茶を淹れる

小町といろはの初対面です。

今回は視点がコロコロ変わりますが混乱しないようご注意下さい。


ここ最近はずっと生徒会室で仕事してる気がする。

とくに学校が楽しいわけではなく、サッカー部に顔を出すのも面倒で寒いし、一緒に遊ぶ友達はいないし、せんぱいとは会ってないし。

 

まあ最後に関しては自分で決めたことですし、もういいんですけどね。

 

どうせ私じゃだめなんですよ。

 

MAXコーヒーを飲みながら再び仕事に取りかかる。

甘いな。

 

不意にドアがノックされる。

とりあえずどうぞと返事をすると雪ノ下先輩だった。

 

「こんにちは、一色さん」

「雪ノ下先輩、こんにちはです。どうしたんですか今日は」

 

雪ノ下先輩がここへ来るのは珍しいことです。

雪ノ下先輩とは久しぶりだな。相変わらず綺麗な黒髪だな。

 

「ええ。偶然会った平塚先生に一色さんに渡すよう頼まれた書類をね」

「それはご苦労様です。雪ノ下先輩」

「一色さん、生徒会の仕事は忙しいのかしら?最近は奉仕部へは来なくなったし、うちの比企谷君ならいつでも貸し出しているし、派遣してもいいのだけれど」

 

せんぱいは変わらずかわいそうな扱いを受けてるんですね。

雪ノ下先輩はせんぱいに対して酷いですね。

面白いですけど。

 

「それとも、奉仕部へ来るのが嫌なのかしら。いえ、正確には比企谷君に会うのが嫌なのかしら?」

 

雪ノ下先輩の目がさっきと変わって鋭く、棘がある。

 

「どういうことですか?」

 

やっぱり、雪ノ下先輩は私とこの話をするために来たのだろう。

 

「私も由比ヶ浜さんもあなたの比企谷君に対する好意くらいはすぐにわかるわ。比企谷君自身は気づいていないようだけど」

 

せんぱい鈍感ですもんね。鈍過ぎて辛いです。

 

「あなたは私と由比ヶ浜さんに対してずっとどこか気を使っていたでしょう。比企谷君となにがあったかはわからないけれど、来ないなら来ないで中途半端なことはしないでほしいわ」

 

中途半端?なにを言っているんですか?

私はもう奉仕部へは関わっていないですよ。自分からは。

 

「中途半端ってどういう意味ですか?」

「あなたにプレゼントしたティーカップのことよ。なんだか見ていて目障りなのよ」

 

勝手にプレゼントしておいてなんなんですかね。

別に私、欲しいなんて一言を口にしてないんですけど。

 

「目障りならそちらで処分して頂いて構いませんけど」

「私は処分出来ないわ。だって。比企谷君はあなたのために考えて選んだものだもの。処分するなら自分で取りに来てちょうだい。大掃除の日までは待つわ」

 

雪ノ下先輩はそう言い残して生徒会室を出て行った。

 

 

 

 

 

奉仕部へはもう行かない。そう決めたんだ。

せんぱいを思い出す。

雪ノ下先輩は言った。

あなたのために考えて選んだものだと。

 

やっぱりせんぱいはそこにいなくてもあざといですね。

 

 

それから数日、私は結局ティーカップを取りに行けないままでいた。

一度は部室の前まで行ったんですよ?

でも、ドア越しに聞こえる会話は暖かくて、なんかこう、家族で話しているような、そんな雰囲気で、やっぱり私はそこに入っていけなくて。

 

また逃げちゃいました。

 

そして期限日、大掃除の日、今日取りに行かないと、おそらくは処分してしまうのだろう。

 

雪ノ下先輩、嘘はつかないですからね。

 

せんぱいたちの気持ちがわかる唯一形のあるものを、処分されたくはない。

さらっと取って来て帰りましょう。

 

ノックをする前に深呼吸。

いつぶりかな。

二週間ちょっとくらいかな。

たかだか十数日なのにとても苦しかったな。

あのティーカップがあれば、ちょっとは楽になるかな。

 

ドアをノックし、どうぞと雪ノ下先輩の声が聞こえた。

 

「失礼します」

 

まだ二人は来ていなくて、雪ノ下先輩だけでした。

私にとっては嬉しいですけどね。

今せんぱいがいたらまた逃げちゃいそうでしたし。

 

「今日来なかったらどうしようか思っていたわ」

 

読んでいた分厚い本を優しく閉じて微笑む雪ノ下先輩。

この間とは全然違うじゃないですか。

 

「今日は由比ヶ浜さんと比企谷君は来るのが少し遅くなるそうだから、紅茶はいかが?」

 

いつもと変わらず接してくれる雪ノ下先輩。

やっぱり奉仕部っていいな。

 

「そうですね。じゃあ最後に一杯いただきます」

「ええ」

 

紅茶を淹れる雪ノ下先輩の仕草は上品で、私が見てもうっとりしてしまう。綺麗だな。

 

「どうぞ。お熱いうちに」

 

熱々の紅茶を一口。

雪ノ下先輩の淹れる紅茶は甘くて、ちょっぴり苦い奉仕部の味。

 

「あなたが来なくなってから少しだけ、この部は静かになったわ…」

 

「そんな顔で、言わないでください」

 

そんな名残惜しそうな顔をしないでください。

まるで永遠のお別れみたいじゃないですか。

 

「雪ノ下先輩って、せんぱいのこと、好きなんですか?」

 

最後に、ちょっとだけ意地悪しちゃいます。

みなさんが優し過ぎるから。

 

「さぁ、どうかしらね」

 

不敵に笑う雪ノ下先輩。

嘘はつかないけど、本当のことも言わない。

雪ノ下先輩も結構ずるいんですよね。

 

「そろそろね…」

 

雪ノ下先輩は小さいそうつぶやいた。

それと同時に廊下から声が聞こえてきた。

結衣先輩とせんぱいの声。そしてもうひとつ。初めて聞く声だ。

 

どうしよう。早く逃げなきゃ。

 

「言い忘れていたのだけど、今日は比企谷君の妹の合格祝いをするの。ここで」

 

「やっはろーゆきのん。小町ちゃん連れてきたよー。いろはちゃんもやっはろー」

「おう雪ノ下、一色。」

「雪乃さんやっはろー。あれ、もうひとり、美人さんがいる」

 

この子がせんぱいの妹さん。

せんぱいとは全然違う空気で、誰とでも仲良くなれそうな感じ。

 

「ああ、こいつはな、生徒会長の一色いろはだ。一年生にして生徒会長なんだぞ。最近も割と頑張ってるしな。一色、こっちは妹の小町だ。面倒見てやってくれよな」

 

せんぱいたちはいつもと変わらずに接している。

もっとぎこちなくなると思ったけど。

でもどうしよう。

 

「雪ノ下先輩…」

雪ノ下先輩を睨む。

 

「私は別に、騙したりはしてないわ。虚言もした覚えはないし」

「ゆきのんは嘘つかないもんね」

「一色さんも小町さんの合格祝い、一緒にどうかしら?」

 

わざとらしく聞いてくる雪ノ下先輩。

今帰ったりしたら、空気悪くしちゃうじゃないですか。

ずるいです。

 

「いろは先輩。初めまして。八幡の妹の小町です。うちのごみぃちゃんがいつもお世話になっています」

「お前はサラリーマンか」

「うるさい。今は小町がいろは先輩と話しているでしょうが。ごみぃちゃんは黙ってて」

 

小町さん、せんぱいに当たり強いな。

妹さんにもそんな扱いなんですね。やっぱりせんぱいですね。

 

「ゆきのん、もうパーティー始めようよ。いろはちゃんもちゃんと来てるし、私もうお腹空いた。ゆきのんのケーキ食べたい」

「わかったからくっつかないで。今出すわ」

 

 

…私はなにを悩んでいたんですかね…

なんか吹っ切れちゃいました。

 

 

「せんぱい、妹さんもっと早く紹介してくれても良かったじゃないですか?」

「そうだよごみぃちゃん。…私の知らないところで新たなお義姉ちゃん候補が…」

「わざわざ紹介する必要はないだろ、今回はただ機会があったからだし、それに、これからまたここで小町とも仲良くしてもらわにゃ困る」

 

 

 

やっといつもの一色さんに戻ったわね。

やっぱり比企谷君のおかげかしら。

比企谷君の言うとおり、小町さんも一色さんもすぐに打ち解けて、あんなに楽しそう。

一色さんが来てくれて良かったわ。

 

「一色さん、ティーカップはまだここに置いていていいかしら?」

 

一色さんに聞いてみた。まだここにいてくれるのかしらと。

 

「はい。また来ますから。雪ノ下先輩、ちゃんと保管しててくださいね」

 

 

 

 




次回は合格祝いの様子をお届けしたいと思います。


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結局、比企谷八幡は感謝している。

お気に入りを消去されると、結構きますね。精神的に。



気をとりなおして、小町の合格祝い編をお送りしたいと思います。
でもその前にちょっとだけいろはと八幡のいちゃいちゃ入れます。
どんどんぱふぱふー。


なんとか一色も来たし、なんだかんだで元の一色に戻ったようだし、問題は解決したらしい。

 

そういえば平塚先生も来るとか言ってたな。

平塚先生が来ると時々残念な空気になるんだよなぁ。

早く誰か貰ってあげて!ちょっとおっさんぽいけどいい人だから!

 

我らの天使、戸塚は部活が少しあるらしく、遅れはするが来てくれるそうだ。

と、戸塚ーー‼︎

思わず叫びたくなるあまりの可愛さ。

戸塚まじ天使。

 

 

ふと気付く。

ケーキは雪ノ下が作ってくれたがお菓子や食べ物、飲み物は準備していない気がする。

 

大丈夫。まだ戸塚は来ない。まだ間に合う。

一応念のため、雪ノ下に確認してみよう。

 

「なあ雪ノ下、ケーキ以外にはなにも準備してないよな?」

「ええ、そうだけど」

「だよな…」

 

いつもはカラオケとかだったから食べ物とかの準備し忘れるのも無理ないか。

どうしようか、ケーキだけではなんか味気ないし。

 

「せんぱい、食べ物とか飲み物とか買いに行きましょう。一緒に」

「そうは言ってもな。金がない」

 

こんなことなら親父から金もらっときゃよかった。

うちの親父は小町のことならすぐ金出すからな。ははは。

 

「お金がないなら経費で落とせばいいじゃないですか」

「生徒会長がそんなことしていいのかよ?」

「大丈夫です。バレません」

「さらっと恐ろしい生徒会長さんですね。いろは先輩」

 

俺はとんでもないやつを生徒会長にしてしまったのではないかと後悔した。

未来の総武高校がたまらなく不安です。

 

「まあいいか、とりあえず俺買い物行ってくるわ。金は後で親父からふんだくるから気にしなくていい。ちょっといってくる」

「せんぱい、私も行きます」

「いや、ひとりでいいんだが…」

「いいじゃない。一色さんも居てくれた方が安心だわ」

 

雪ノ下、それはどういう意味なんですかね?

一応俺の方が歳上なんですけど。

 

そういえば一色、誕生日4月だったな。

奉仕部でなんかしてやるか。

 

「ほらほらお兄ちゃん、早くしないと時間なくなっちゃうよ。いろは先輩、お兄ちゃんをよろしくです」

「任せて小町さん。ほらせんぱい、行きますよ」

「わかったからそんなに引っ張るな!」

 

やはり俺の後輩のあざとさはまちがっている。

 

 

 

 

 

やっとせんぱいとふたりになれました。

雪ノ下先輩と小町さんのおかげですね。

小町さんとは仲良くしておいた方がよさそうですね。

後で連絡先交換しておきましょう。フフフッ。

 

 

まあ今はお買い物が先ですね、せんぱいと一緒に。

 

 

「なあ一色、そろそろ離してくれないか。なんか恥ずかしいんだが」

「ああ、ごめんなさい」

 

私ってば、ずっとせんぱいの手握りっぱなしでした。

出来ればずっと握っていたかったですけどね。

ちょっと残念です。

 

 

とりあえず近くのスーパーで済ませましょう。

 

「小町さん可愛いですよね。とてもせんぱいの妹とは思えないほど」

「まあな。小町は可愛過ぎるまであるからな。悪い虫がつかないように注意しないといけないレベル」

「シスコン…」

 

もう小町さんに嫉妬しちゃいます。

小町さんが羨ましいです。

 

 

「一色、その、あの時は悪かったな。その寝ちまって」

 

?…ああ。せんぱいはおそらくデートのときのことを言っているのでしょう。

 

フフフッ。せんぱいが悪いんですよ。ほんとに。

私の前で寝ちゃうんですから。

まあまた寝てもらってもいいですけどね。

 

「そういえば、まだお願い言ってなかったですね」

「そうだったか?あれもう期限切れじゃないか?」

 

相変わらず捻くれてますね。せんぱい。

女の子のお願いに期限なんて存在しませんよ。

 

「せんぱい、また私とデート、してくださいね」

 

上目遣いで切実に。それでいて可愛く。

せんぱいはちょろいですね。

ほら、顔が赤いですよ。

 

「…次は絶対卓球負けねぇ」

「次のお願いはなんにしようかな」

 

私と付き合ってくださいとか言ったら付き合ってくれますかね?

 

「勝つ前提かよ」

「当たりまえです。せんぱいちょろいですからね」

 

ちょろいはずなんですけどね。

やっぱり捻くれてるのが面倒です。

 

まあそんなせんぱいがいいんですけどね。

 

 

 

 

「ただいまで〜す」

「疲れたー」

 

一色、明らかに買い過ぎだろ、これ。

 

「一色さん、比企谷君。おかえりなさい」

「ごみぃちゃん、おかえり」

「ヒッキーおっそい」

 

おかえりなさいってなんかいいな。まあ由比ヶ浜はただの文句だったけどな。

由比ヶ浜にもおかえりなさいって言って欲しかったな。

 

「比企谷、すまんな。私ももう少し気を使えていればよかったんだが」

「平塚先生は自分に気を使った方がいいとは思いますけどね…」

「比企谷。なにか言ったかね」

 

怖い。手に包帯巻き始めた。

 

「八幡、遅れてごめんね」

 

と、とつ、と、と、戸塚ー‼︎

 

「大丈夫だ全然待ってない。むしろちょうどいいまである。戸塚、ジュースなに飲む?」

「せんぱい、私ミルクティー飲みたいです」

「いや、一色にはきいてないんだが」

 

 

 

 

 

 

「そ、それでは、あー、小町の高校受験合格を祝って、きゃんぱい」

「「「「「「「乾杯‼︎」」」」」」」

 

「やはりこういうとき、噛んでしまうのね。噛み谷君」

「言うな、誤魔化そうとしたのに…」

しょうがないじゃん。ぼっちはこういうこと基本的にしないんだから。

 

「ささっ、みなさん飲みましょ」

「そうね、今日は小町さんのお祝いだものね」

「いろは先輩、ささっどうぞ。いろは先輩とたくさんお話ししてみたいです。…未来のお義姉さん候補」

 

小町はすぐ人と仲良くなろうとするな。

まあいいことだとは思うけどね。

俺がこんなだし。

 

「ゆきのん、これ食べてみようよ」

「由比ヶ浜さん、わかったから。近すぎるわ…」

 

こっちは相変わらずゆりゆりしてるな。

見ていて眩しいよ。おじちゃんは。

 

「いろは先輩、お兄ちゃんとはいつ知り合ったんですか?」

「えっとねぇ、去年の秋くらいかな、あれ冬だったっけ」

「…去年で既にお義姉さん候補が新たに出てきていたのか…」

 

小町ちゃん、お兄ちゃんの知らないところでなにを取り調べしているのかな?

 

まああんまり知らない方が身のためだな。

 

「八幡。これ一緒に食べない?ひとりじゃ食べ切れそうになくて」

「ああ!もちろん」

 

なんなら戸塚を食べたいまである。

戸塚が、食べながら戸塚を、食べたい‼︎そうしたい‼︎

 

やばい、戸塚が可愛過ぎて俺が喰種になりそう。

 

戸塚は僕のだぞ‼︎

 

「八幡は面白いね」

 

戸塚のニコッと笑ってスマイル。

可愛過ぎてドキドキする。

これ死んじゃうやつだ‼︎

 

 

 

 

「比企谷、今回の祝いは君が提案したそうだな。それもここでしたいと」

 

ひとりMAXコーヒーを飲んでいると平塚先生が話しかけてきた。

 

「ええ。そうですけど」

「君もまた少し変わったな」

 

こういうときの平塚先生はとても魅力的だと思う。

まあ普段が残念だからそう見えるだけかもしれないが。

 

「どうなんですかね。ただ、小町に、この部を改めてちゃんと知ってほしいと思っただけですけど」

「…誰かに知ってほしいと思えるものや居場所を持てるようになったのはなかなかの進歩だと思うがね」

 

もし、俺が奉仕部に入っていなかったら、今頃どうなっていたのだろうか。

時々考えることがある。

 

自分が変わった自覚はないが、きっと、違う自分なのだろう。

 

こいつらとも会話することすらもなかっただろう。

 

平塚先生には、やっぱり感謝している。




人が多いと書きづらいですね。

近いうち、またデートの話書きます。


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雪は溶けてやがて奉仕部に春が来る。

4月。

新しい出会いの季節だとか期待や希望に満ちた季節とか言うが、春なんてそんないいものじゃない。

むしろ一番大変ですらある。

 

何かのテレビで見たが春が一番自殺が多いそうだ。

まあわからなくもない。

 

受験生や新社会人になる人なんかは1年後、自分はどうなっているかと未来のことを嫌でも考え、夏休みはプレッシャーと不安に駆られてひたすらに勉強する。

 

最後の学園祭やイベントでも息抜きも兼ねてと言ってその時は楽しそうな顔をしているが、心のどこかで思っているのだ。

 

自分はこんなに楽しんでいるがそれでいいのだろうか。

 

自分はこんなことをしている場合じゃない。

 

みな様々な不安に駆られ、その不安に怯えて狂った様に勉強する。

 

クリスマスになれば、いちゃつくカップルや呑気な他の人を見て悪態をつく。

 

年が変わると藁にもすがる思いで神に祈る。

 

それからはあと何ヶ月、何週間、何十日と勝手に自分の中でカウントダウンが始まり、数字がひとつ減る度に不安や恐怖は積み重なり、押しつぶされそうになる。

 

いっそ潰されて諦めてしまった方が楽だとそんなことを考え、自分との戦いにも負けそうになる。

 

 

そんな一年を始めないといけない4月。

四月は君の嘘ならぬ、四月は俺の鬱、である。

 

 

 

 

 

「すみませ〜ん今日せんぱい持って行ってもいいですか?球技大会の準備があって、男手がほしいんですよ〜」

ぱたぱたと忙しく奉仕部へ来た一色。

いつもはただここでおしゃべりしているだけなのだが、こういう時いつも俺は仕事を押し付けられる。

 

やっぱ一色を会長にさせなければよかった。

 

「ええ、比企谷君なら貸し出しているわ。ただ一応これも受験生だからなるべく使用は控えてね」

「はい。使い終わったらすぐ戻しますのでご安心を。せんぱいも一応は受験生ですからね。多少は気を使わないと」

 

雪ノ下さん?優しくしている風だけど人の扱いしてないからね?

一色も雪ノ下も俺を道具扱いするのやめてね?

それと一色は既に気を使えてないから。

 

人権を訴える気も失せた。

今なら希望や期待を失った奴隷の気持ちがわかるかもしれないまである。

 

「…受験生になってもこき使われるとは思ってなかったな」

「可愛い後輩に頼られてるですからいいじゃないですか?せんぱい」

「そういうのは頼ってるとかじゃないだろ、…もういい、さっさと行くぞ」

 

というか俺らもう奉仕してる余裕とかなくね?

むしろ奉仕されたいんですけど。

 

「んじゃ行ってくる」

「ヒッキー行ってらっしゃい〜」

「行ってらっしゃい」

「でわでわ〜」

 

男手が必要ってことは重労働なんじゃないか?

余計に面倒になってきた。

ふと小町のことを思い出した。

 

「小町は生徒会の手伝い頑張ってるのか?」

「小町ちゃん頑張ってますよ。小町ちゃんとお仕事するのも楽しいですし」

 

小町がしっかり頑張ってるなら生徒会もまあ安心だろう。

奉仕部に小町が入りたがっていたがそのうち小町が1人になってしまうため、入部はさせなかった。

 

まあ小町なら他に部員になりそうなやつを引っ張って来れそうだが、そもそもこの部の必要性はあまりない。

 

雪ノ下と俺に奉仕活動をさせるために作られたといっても過言ではない。

由比ヶ浜はなんか、あれだな、いつの間にか部員になってた感じ。

一色も部員になりそうな勢いだ。

もうほとんど部員みたいなものだが。

 

生徒会がない日は小町もくるから結構賑やかだ。

というか小町がいるから明るいまである。

さすがは太陽の小町エンジェル。

 

 

「ところでせんぱい?なにかとっても大事なことをお忘れではありませんか?」

「忘れたと言うと、そうだなぁ、あれだな、MAXコーヒー飲み忘れたな」

 

部室で飲もうと思ってたのに材木座に声かけられて迷惑していたからなぁ。

おかげで買うのを忘れたのだ。

 

「それは大事なことには入りません」

 

頬を膨らませてぷんぷん言っている姿はとてもあざとい。

 

「…もうちょっと普通にしてたら可愛いのになぁ…」

「きゅ、急になに可愛いとか言っているんですか、も、もしゅかして私を口説こうとしてますか、ちょっとときめきましたけど、もっとちゃんと告白してくれないとお返事できませんごめんなさい」

 

よく噛まないよなぁ〜

 

「どうせあれだろ、一色の誕生日だろ?覚えてるよ。4月16日だろ」

「まさかのおいうち⁉︎もうせんぱい、あざといです。もう私が勘違いしてせんぱいのこと好きになっちゃいます。

 

…まあもう好きなんですけどね…」

 

「奉仕部で祝ってやろうと思ってるから心配すんな。ほら、仕事行くぞ」

 

早く小町エンジェルの元へ帰りたい。

一色がぶつぶつ言っているがどうでもいい。

どうせまた俺に対する文句だろう。それを気にしたら身がもたん。

 

「せんぱい、」

「なんだ?」

「私のお祝いとは別にデートしてくださいね。この間のお願い」

「はいはい〜」

 

ちっ、覚えていやがった。

そのまま忘れててくれば楽だったのになぁ。

 



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一色いろはは意外と仕事を頑張っている。

今回はいろはす出ません。

次回はいろはすお誕生日会にする予定です。


4月15日金曜日、つまり一色の誕生日の前日である。

この間奉仕部で祝ってやると言ってしまったために、忘れてたでは済ますことが難しい。

絶対あいつ怒るだろ、あざとくほっぺ膨らませて。

 

何気にあれ可愛いんだよな。

中学の頃の俺なら好きになって告白して振られるまである。

まあ告白してなくても振られてるけどね。

 

そして今日は一色が生徒会の仕事でここにはいない。小町には、今日は生徒会休めと言っておいたのですぐに奉仕部へ来た。マイ小町エンジェル。

雪ノ下も由比ヶ浜もいるし、ぼちぼちやりますかね。

 

さぁ、会議を始めよう。

 

 

 

「というわけで16日、明日は学校がないわけだ。だから明日の予定とか、どこでやるかとか決めたいんだが」

「お兄ちゃん、いろは先輩の誕生日知ってるんだねー。ほほぉ、小町的にポイント高いよ、お兄ちゃん」

 

なにやら小町がニヤつきながらポイント評価しているが面倒なので無視。

 

「じゃあどこでやろっか?カラオケ?」

「由比ヶ浜はすぐカラオケに行きたがるなぁ。他にないの?」

「じゃあヒッキーはなんかあるの?」

 

由比ヶ浜が怒って俺に聞いてくる。

 

「ぼっちの俺にそんなのが浮かんでくるわけないだろ」

「もはや清々しいくらいに捻くれいるわね。やはり比企谷君に聞いたのが間違っていたようね」

 

雪ノ下がいつものようにこめかみを抑えながら呆れている。

自分でも清々しいと思ったくらいだからな。はははっ!

小町と由比ヶ浜は苦笑いしてるけど。

 

「少しネットで調べてみるわ」

雪ノ下がPCを取り出し、電源を入れる。

立ち上がる前にPC用のメガネ、俺がプレゼントしたメガネをかける。

 

雪ノ下はメガネが似合う。

俺ってもしかしてメガネ好き?

由比ヶ浜がメガネかけたときもいいなって思っちゃったしなぁ。

 

一色も意外とメガネ似合うんじゃないか?

年下メガネ女子。

僕はメガネが大好きです‼︎

 

一色に不愉快です。とか言われそう。

でも若干言われたい気もする。

 

「やっぱり学生が気軽に祝うことのできる場所はあまりないようね。ほとんどがカップルなどで行くことが多いそうだし」

「じゃあやっぱりカラオケでいいんじゃない?お兄ちゃん」

「またカラオケか。でもまあ一色なら普通に喜びそうだしな」

 

今回は材木座が来ないようにしないといけない。

由比ヶ浜のときとかかなりうざかったし。

どうせまた俺が材木座担当になるのだ。それだけは嫌だ。

 

戸塚には既に予定を開けてもらっている。

それに関しては抜かりはない。

 

「じゃあじゃあ明日のためにプレゼント買いに行かないとですね」

「そうだね。今度はなにをプレゼントしようか。あっそうだ。手づくりクッキーにしようかな♪」

「由比ヶ浜さん、一色さんの誕生日が命日になってしまうわ」

「ゆきのん酷すぎ‼︎」

「まああれだ。あんまり食べ物とかだとあれだしな。カラオケでもなんか食うんだろ?だったら小物とか、そういうのにした方がいいだろ」

 

一色が死ぬかもしれないからな。

由比ヶ浜は奇跡でも起きない限り作れないだろう。

 

まあバレンタインのときにもらったクッキーは普通にうまかったけど。

 

「そういうことなら今からプレゼント買いに行きましょうか」

 

PCの電源を落としてメガネをしまう雪ノ下。

ああ、メガネが…。

 

 

 

 

奉仕部を出てみんなで電車に乗り、目的地へと向かった。

クリスマスのときにも訪れたのでだいたいの構図はわかる。

 

そういえばうざかったなぁ、戸部。

 

一色ってどんなのあげたら喜ぶのかなぁ。

この間のは既に買うもの自体は決まってたから、どんなデザインのものを買うかだけでよかったのになぁ。

 

一色のことだから俺のセンスがないとか言ってきそうだし。

 

そうこう悩んでいるうちに目的地についてしまった。

まあふらふらしてるうちになんか思いつくだろう。

 

 

「じゃあどうしよっか?クリスマスのときみたいにいったん解散する?」

「そうだな。あんまり時間ないしな。さっさと買って帰りたい」

 

うちに帰ってかまくらのお腹にもふもふしたい。

あれ結構あったかいんだよなぁ。かまくらは嫌がるけど。

というか俺を嫌がっているまである。

 

俺って人からも猫からも嫌われてるんだな…。

 

 

集合場所を決めて俺たちはいったん解散した。

 

 

 

さてと、どうしますか。

もうMAXコーヒー箱ごととかでもいいかな。

俺だったら超嬉しいんですけど。

八幡的にポイント高いよ。

 

というか食べ物とかじゃない方がいいとか自分で言ったくせにMAXコーヒーはだめか。

 

俺が悩んでいると小町がアドバイスしに来た。

なんかデジャヴ。

 

「お困りのようだね。ごみぃちゃん」

「おう小町」

「お兄ちゃんはどうするの?小町はね、万年筆にしようと思ってるの。生徒会の仕事で使ってくれたらいいなと思って」

 

確かに生徒会長に贈るものとしてはなかなかいい。

 

贈り物としは日常で使うものを選ぶのが一番無難かもしれない。

 

「使うものか…」

「いろは先輩の趣味とか知らないの?」

「…確か、お菓子作りが趣味とか言ってた気がする。バレンタインのイベントのときも手慣れてたし」

 

一色、結構エプロン姿似合ってたんだよな。

やっぱり制服エプロン最高。

一色なら腰に巻くタイプのものも似合うんじゃないかな。

 

「結衣さんは髪留めにするって。雪乃さんは腕時計にするって言ってたからかぶらないようにね」

「ああ。…小町、ちょっと付き合ってくれないか。ひとりで入ると通報されかねないからよ」

「なに買うか決まったんだね!どんなセンスなのかな。お兄ちゃんのプレゼントが楽しみですなぁ」

 

…うぜえ。

 

 

 

 

買い物を終え、集合場所でMAXコーヒーを飲みながら雪ノ下と由比ヶ浜を待つ。途中から小町と一緒に行動していたため、今は小町と一緒に待っている。

 

「それにしてもお兄ちゃんはやっぱり捻くれてるよね。めんどくさがってる割には真剣に選んでたし」

「当たり前だろ。てきとーに選んだら一色になに言われるかわかったもんじゃない」

「ふふん。いろは先輩、喜ぶと思うよ」

「だといいけどな」

 

 

ふたりでMAXコーヒーを飲んでいると由比ヶ浜がぱたぱたと走ってきた。

 

「おまたせー。あれっ?ゆきのんはまだ?」

「もう着くとは思いますから待ってましょう。結衣さん」

「ごめんなさい。少し迷ってしまって」

 

雪ノ下もプレゼントを持って集合場所に来た。

それとは別に袋がもうひとつあった。

 

「雪ノ下、一色にふたつプレゼントあげるのか?」

「もうひとつは私が欲しかったものよ。…帰る間際に猫のデザインの腕時計があってつい…」

 

だから遅れたのか、猫ノ下さん。

 

「まあ猫ノ…雪ノ下が工具とか選ばなくて良かったぞ」

「あの時はだって、プレゼントってなにを贈ったらいいのかわからなかったのよ。今は大丈夫よ」

「え?なんの話なの?」

 

由比ヶ浜がわけがわからずぽかんとしている。

アホっぽいから辞めろその顔。

 

ちょっと可愛いけど。

 

「由比ヶ浜さんの誕生日プレゼントを選んでいたときの話よ」

「こいつお前に工具あげようとしてたんだぞ」

「エプロンで良かった」

 

雪ノ下は結構抜けてるところあるからな。

 

 

一年の間に色々変わったな…

 

「それじゃあみなさん揃いましたし、帰りますか」

 

 

 

 

あと、どれだけ奉仕部にいられるのだろうか。

時々考える。

最初はいつ辞めれるのかとか考えてたな。

 

気がついたら一年たって、もう一年もしないうちに卒業して、きっと奉仕部を懐かしむのだろう。

 

 

 

 





メガネっていいですよね。
メガネ女子大好きです。
メガネは最高。

誰かメガネのいろはとか書いてくれませんかね。
挿絵とかに使いたいです。

そしてメガネいろはすを待ち受けにしたいです。


次回はお誕生日会です。
でわでわ〜


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戸塚彩加はメガネが意外と似合っている。

一色の誕生日会編です。


最近書くのが辛いです。
俺ガイル成分が足りていません。
11巻も読み終えてアニメも終わり、そしてラジオも終わる。

僕はこれからどうやって仕事を頑張ればいいのでしょうか。

もうあれですね。
仕事辞めて沖縄に帰っちゃいましょうかね。
そして実家で自宅警備員。

いいな。


「ねえねえゆきのん、後で一緒に『ユキトキ』歌おうよ。小町ちゃんと3人でさ」

「いいですね。その後に『春疑き』もいっちゃいますか⁉︎」

「はぁ。あなたたちと歌うと疲れそうだわ」

「大丈夫ですよ雪乃さん。3人なら疲れは3分の1ですよ」

「そうそう。2人より3人」

「はぁ」

 

今現在、いつものカラオケのロビーでまだ来ていない一色と戸塚を待っている。

女子3人はきゃっきゃうふふしている。

 

今回のカラオケは、女子の可愛さをお楽しみいただくために、邪魔にならないように比企谷八幡が静かにしている物語です。

 

じょしまち。

 

 

一色はいいけど戸塚早く来ないかな。

いつもは戸塚とテニスするからジャージとか動きやすい服装だけど今日は違うしな。

 

思わず戸塚の私服を妄想していしまい一瞬顔がにやける。

 

いかんいかん。

こんなときはコーヒーを飲んで引き締めなければ。

 

自販機に向かい買ったものはもちろんMAXコーヒーである。

 

この時期、まだ寒い日も時々やってくる。

なのにコーヒーはどんどんあったかいものは去って行く。

 

全く。けしからん。

 

冷たいMAXコーヒーを手に取り、カチャッと空いたコーヒーを口の中へ流す。

 

小町と目が合い、小町が駆け寄ってくる。

 

「お兄ちゃん。小町もMAXコーヒー飲みたいな〜」

 

上目遣いで腕をツンツンと突つく。

 

「仕方ないな」

 

懐から財布を取り出しもう一つMAXコーヒーを買い、小町に渡した。

 

「ありがとう。お兄ちゃん」

「おう。雪ノ下と由比ヶ浜はなんか飲むか?」

 

小町だけっていうのもなんかあれだしな。

 

またシスコンとか言われそうだし。

まあ別に嫌とかではないけど。

 

「ヒッキー奢ってくれるの⁉︎ありがとー。じゃあ私カフェオレ」

「私は遠慮しておくわ。比企谷君に奢られるのは、何か負けた気がするから」

「はいはいそうですか」

 

別に勝負とかしてないんですけどね。

 

「結衣さん当たりましたよ!」

「ホントだ!」

「雪ノ下、当たっちゃったらしいんだが、なにか選んでくれないか?」

「そう。なら仕方ないわね」

 

とか言いつつなんか若干もじもじしてるんだけど。

 

なに、そんなに嫌なの?

酷くない?酷いよね?

それあるー。

 

「ヒッキーありがとね」

「比企谷君、その、ありがと」

 

なんかまだもじもじしてるし。

むしろもう可愛いんですけど。

やめてくんない、また勘違いしちゃうでしょうが。

 

「おう。気にすんな」

 

みんなで飲みながら待っていると一色が来た。

 

「いろはちゃんやっはろー」

「こんにちは一色さん」

「いろは先輩やっはろーです」

「おう一色。…じゃああとは戸塚だけだな。早く来ないかな〜戸塚」

「みなさんどうもで〜す。っていうかせんぱい、可愛い後輩が来ていきなり戸塚先輩の話って酷くないですか?」

 

来てそうそうにご立腹だ。

というかそれで怒るっておかしくないですかー?

 

「はちまーん。ごめんね。遅れちゃって」

「戸塚!大丈夫だ。全然遅れてない。むしろ俺たちが早すぎるまである。さあ戸塚が来たことだしさっさとなか入ろうぜ」

 

戸塚マジ天使。

 

「戸塚、今日メガネなんだな。似合ってるぞ」

「本当?ありがとう。普段は伊達メガネとかかけないんだけど、この間買い物してて一目惚れして買っちゃったんだ」

 

可愛い過ぎる。

なんかボーイッシュなメガネ女子って感じがする。

まあ戸塚は男なんだが。

 

今度俺のプロフィールに好きなもの追加しておこう。

好きなもの-MAXコーヒー、戸塚、メガネ戸塚。

 

「むむ、せんぱいって意外とメガネ好きなんですね…」

「…そうなんですよ。小町もたまに勉強のときに伊達メガネかけるんですけど、感想言ってくれるんですよ。

…いろは先輩も今度お兄ちゃんとふたりきりのときとかにメガネかけてみたらどうですか?」

 

「おいお前ら、なにこそこそ話してるんだ?置いてくぞ」

 

ふたりのこそこそ話はどうでもいい。

とにかくなにか食べたい。

 

 

 

 

 

 

 

「ではでは、いろは先輩のお誕生日を祝って乾杯‼︎」

「「「「「乾杯!」」」」」

「一色さん、ケーキのろうそくの火を吹き消してくれるかしら」

「おまかせです♪」

 

息を吸い狙いを定める一色。

ろうそくに息を吹きかける。

 

その姿はあざとさがなくて、純粋に可愛いと思った。

 

「おめでとうございまーす‼︎」

「由比ヶ浜さん、ケーキを切るからお皿を抑えていてくれるかしら」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

「八幡ってさ、大学卒業したらどうするの?」

 

雪ノ下の作ったケーキを食べていると、戸塚が話しかけてきた。

 

「どうだろうな。…編集者とかいいなとはこの間思ったけどな」

「編集者かぁ。八幡文系すごいもんね」

「まあほんとは専業主夫なんだけどな。なれなかった場合の話だ。つっても簡単になれるもんじゃないからなぁ」

 

1年後は?5年後は?

先が見えないことほど怖いものはない。

 

この道であっているかもわからないのに進まなければならない。

選ばなければならない。

そして後悔する。

 

なにを選んだとしても。

 

最初の3体のどれを選んだってやっぱりあれがよかった。

こっちの方がかっこいい。これの方が強い。

 

なにかを選んだって後悔するし、選ばなくたって後悔する。

 

「八幡意外と喫茶店のバリスタとか似合いそう」

「バリスタか。まあ割と珈琲は好きだからな」

「もし八幡が喫茶店開いたら美味しい珈琲飲みに行くね」

 

もう戸塚のためにバリスタになっちゃおうかな。

編集者なんてどうでもいいや。なんかつかれそうだし。

 

「編集者やめてバリスタになろうかな」

「ダメですよせんぱい。せんぱいには編集者になってもらわないと。せんぱいが編集者になったら私が結婚してあげます。そしてお金のある快適な暮らしを…」

「なにこの子、完全にお金目当てなんですけど。最近の女子は怖いわ〜」

 

やっぱり専業主夫が安泰な気がする。

 

「せんぱい酷くないですか?せっかく可愛い後輩がお金さえあれば結婚してあげるって言ってるんですからもっと喜んでくださいよ」

「絶対に愛も平穏な暮らしも出来なさそうな結婚させられて喜んでいられるかよ」

「じゃあ愛をあげますからお金をください。等価交換です」

 

俺の全財産を持って行かれそう。

 

持っていかれたー‼︎

 

財産を。

 

「ではではそろそろ愛しのいろは先輩へプレゼントタイムといきましょうか⁉︎」

「そうね。やっと落ち着いたのだし」

「そうだね。じゃあ私からプレゼントするね」

 

小さなバッグからプレゼントを取り出し一色へ渡す由比ヶ浜。

 

「結衣先輩ありがとうございます。開けていいですか?」

「うん!」

 

ラッピングされたプレゼントを丁寧に開ける。

 

「可愛い髪留めですね。今つけてもいいですか?」

「もちろん」

「いろは先輩、手鏡ありますよ」

「ありがと小町ちゃん」

 

鏡を見ながら髪留めをつける一色。

 

なんか女の子って感じがする。

まあ女子なんだけどな。

 

「できた。…どうですか?」

 

なぜ俺に感想を求める?

 

「ほらお兄ちゃん、女の子から感想を求められたらちゃんと言わないと。小町にポイント低いよ」

「まあその、なんだ。あれだな。似合ってるぞ、うん」

 

で、このあと「感想テキトー過ぎないですかー?」とか言われるんだろうなー。

 

ん?言われてないな。

 

「…ありがとうございます…」

「お、おう。礼は由比ヶ浜にだけどな」

 

なんかあいつ照れてるぞ。

なんでだろう。なんか怖い。いつもの一色じゃないぞ。

 

「次は私から」

「ありがとうございます。…腕時計ですね。オシャレです。これも今つけてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 

あれ、やっぱいつもの一色だった。気のせいだったようだ。

ふぅ、びっくりした。

てっきり熱でもあるんじゃないかと思っちゃったぜ。

安堵していると小町も戸塚もプレゼントを渡し終えていて、残るは俺だけだった。

 

「んじゃ俺からも」

「せんぱい。ありがとうございます。開けていいですか?」

「おう」

「ヘッドホンですね」

 

小町が一瞬。あれっ?と変な顔をしたが目で大丈夫だと伝える。

小町は何かわかったようでちょっとにやついている。

 

ちゃんと伝わったのかな?

 

エプロンは明日渡すため、急遽別のプレゼントを用意したのだ。

 

一色のことだから今日とは別にプレゼントを要求してきそうだからな。

文句をぶつぶつ言われても困るし。

 

「俺も勉強する時とかに使っているんだ。学校では使っていないが」

「ありがとうございますせんぱい。もうそのまま首にかけておきましょうかね」

 

 

ヘッドホンを首にかける一色もなかなか良かった。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。たくさん歌いましたね。やっぱりやなぎなぎさんは最高ですね」

「そうだね。ゆきのんも歌ってくれたし」

「あなたたち、歌いすぎなのよ。もう疲れたわ」

 

クリスマスのときと同じく結局は最後、ただのカラオケになってしまった。

まあ今日は戸塚と一緒に歌えたのでよしとしよう。

戸塚ボイス最高。

もう声優好きになりそうまである。

 

「ごめん八幡。僕これから別に用事があるから先に帰るね」

「おう。今日は来てくれてありがとな」

 

そして戸塚はパタパタと帰って行った。

やっぱり戸塚は天使だ。

 

「では私たちも帰りましょうか」

「ゆきのん、今日ゆきのんち泊まっていい?」

「ええ」

「小町はスーパーでお買い物してから帰るからお兄ちゃんはいろは先輩を家まで送ってってね」

「えー。俺すぐ帰りたかったんだけど…」

 

もう疲れたし。

 

「いろは先輩送らなかったら晩ご飯はトマト尽くしだからね」

「はいはい。わかりましたよ」

 

面倒だな。帰るの時間かかりそうだ。

 

「じゃあせんぱい。いきましょうか」

 

 

 

 

モノレールには俺と一色以外は誰もいない。

 

「せんぱい、今日はありがとうございました。あんなにたくさんの人に誕生日祝ってもらったの初めてで」

「まあ楽しんでくれたみたいだからいいよ」

 

まあ祝ってやれるのも今のうちだしな。もう少ししたら勉強で切羽詰まってくるだろうし。

 

「明日もお願いしますね。デート」

「はぁ。今週の俺の週末は忙しいな。もっとだらだらしていたかったんだけどな」

「むっ。せっかく可愛い後輩とデートできるんですからもっと喜んでくださいよ」

 

あざといな〜。もうあざといとつっこむのも面倒なレベル。

 

「せんぱい、クリスマスのときの、覚えてます?」

「ああ。なんか懐かしいな。…責任はもう十分取ったんじゃないか?むしろ過払い請求したいまである」

「せんぱい、まだまだ責任は取ってもらいますよ。…いっそ責任取って嫁にもらって欲しいくらいです…」

 

まだ責任取らないといけないのかよ。

そうだよね。罪は消えないもんね。

 

「じゃあせんぱい、もう私この駅なので」

「そうか」

「でわでわせんぱい、明日もよろしくでーす」

 

一色は帰る間際にもあざといな。

 

 

 

さてと、明日はどうしてやればいいのかね?

 




なんかいつもより長くなりました。
疲れた。

でも明日はぼっちラジオがやるから頑張れる。

次回は再びデート編です。
お楽しみに。


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一色いろはは想い悶える。

今回はいろは視点で行きます。

また長くなりそうなので二話に分けます。


はぁ。今日は楽しかったな。

みんなから誕生日祝ってもらったのって初めてだったし。

 

でもなにが1番嬉しかったってせんぱいに祝ってもらったことですよ。

 

好きな人に祝ってもらうのってこんなにも嬉しいんですね。

 

そして明日はせんぱいとふたりで。

ふふふっ。

にやにやが止まりません。

 

ベットに寝転がり枕に顔を疼くめる。

もうせんぱいのことを考えるだけで悶え死にそうです。

でもそんな死に方なら幸せですね。悪くないかもです。

 

ちょっと前はあんなに苦しかったですけど、今はとても楽しいです。

 

せんぱいたちのおかけですね。

 

そして明日はせんぱいとデート。

なにを着て行きましょうか。

 

難しいですね。前は小町ちゃんをイメージした妹コーデで行ったので、今回は別のコーデにした方がいいですかね。

 

せんぱいの好きなものと言えば、戸塚先輩。

そういえば今日の戸塚先輩可愛かったですね。

メガネがまた。

 

分厚い本とか持って図書館に居そうな女の子でした。

でも戸塚先輩男の子ですけどね。

戸塚先輩が羨ましいです。

 

では今回は戸塚先輩をイメージしたボーイッシュないろはで行きます。

 

 

そういえばせんぱいは明日どこに連れていってくれるんですかね?

まだ予定知らないですし。

 

せんぱいに電話しちゃいましょう。

声も聞きたいですし。

 

携帯を掴みせんぱいに電話をかける。

電話かけるときいつもドキドキするんですよね。

 

『なんだ一色』

「せんぱい、お疲れ様です」

『おう』

「せんぱい、明日はどこに連れていってくれるんですか?」

 

私的にはせんぱいの家とかでもいいですよ。

と言いかけましたがセーフです。

 

『って言われてもな。…そもそもデートする場所なんて知らないしな』

「せんぱいぼっちですからね」

『そうだぞ一色。ぼっちにデートコースを聞くことはまちがっている』

 

清々しいくらい捻くれてますね。

まあそこが好きなんですけどね。

 

「せんぱいはどこか行きたいところとかないんですか?」

『俺だとしたら…本屋とか』

「ほかには?」

 

せんぱいが言うと思いましたよ。

 

『やっぱ1番は家だな。疲れないし。気も使わなくていいし。めんどくさくないし。お金もかからないし。やっぱぼっちは引きこもるのが1番いいな、うん』

「っは!今めんどくさくからとかなんとか言って私を家に連れ込んであんなことやこんなことをしようとしてましたか、ごめんなさい。せめてせんぱいの彼女になってからじゃないとそういうことは無理です。心の準備が出来てないのでごめんなさい」

 

はぁはぁと息を切らす私。

っていうか私、いつも断り切れてないですよね。

 

『あっそういえば一つ見たい映画があった。それ見に行くのでもいいか?』

「はい。では待ち合わせはどうしますか?」

 

せんぱいにしてはまともなところですよね。

 

『前みたいにどっかで食べてからにするか?それとも映画だけみてすぐ帰るか』

「すぐ帰るはなしです。ではどこかでお昼食べましょう」

 

せんぱいとランチ♪

この間は恥ずかしかったな。

今度も何かいじわるしちゃいましょうかね。

せんぱいが悪いんですよ。私の気持ちに気づいてくれないから。

 

『ん。じゃあまた後でメールするわ』

「でわでわまた明日で〜す」

 

あは。せんぱいの声聞けて良かった。

 

せんぱいとデート。せんぱいとランチ。せんぱいと映画。

 

やばいです。テンション上がり過ぎて眠れる気がしないです。

 

再び顔を疼くめて悶える。

私せんぱいのこと好き過ぎでしよ。

やっぱりせんぱいには責任取ってもらわないといけないですね。

 

悶えていると携帯が震えた。

 

「11時半、千葉駅」

 

とても無機質なメールはせんぱいらしくて笑っちゃいます。

 

「了解で〜す☆せんぱい、明日は楽しみにしてますね♪」

 

ちょっとあざとく返信して眠ることにします。

 

 

眠れるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると時間は8時。

ちょっと急がないとまずいですね。

 

眠りたい欲求と闘いながらリビングへ向かう。

冷蔵庫を開けてMAXコーヒーを一口。

 

甘ッ!

 

やっぱり何度飲んでも甘いです。

朝一で飲むと衝撃ですね。

目が覚めましたよ。

甘々で稲妻な感じで目が覚めましたよ、ええ。

 

さてと目が覚めたことですし、ぼちぼちお風呂に入りますかね。

ふふふっ。せんぱいの真似です。

 

 

 

 

 

 

 

よし。

今日は間に合いそうです。

お家を出る前に忘れてはいけないものを。

 

じゃじゃーん。黒ぶちメガネ〜。

 

昨日の戸塚先輩にかなり反応してましたからね。せんぱい。

もう私が嫉妬しちゃうくらい。

あのせんぱいが人の服装とかをさらっと褒めるんですから。

私のことも褒めてほしいです。

 

そういえば小町ちゃんが褒められて頭撫でてもらってるところたまに見ますがどうなんですかね。

 

せんぱいに頭を撫でてもらう。

想像するとなんかちょっとドキドキします。

 

人によっては撫でられるの嫌う人もいるみたいですけど、私的には撫でられたいです。

 

小町ちゃん、いいな。

 

妄想やらなにらやで遅刻しないように気をつけないと。

 

お腹も空きましたし待ち合わせ場所に急ぎましょう。

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ時間の五分前。

近くのベンチで本を読んでいるせんぱいを発見。

 

背後から気配を殺し迫る。

若干見えるせんぱいの顔は眼が死んでいるけど、知的な感じでかっこいいなって思っちゃいます。

 

真後ろに立っても気づかないせんぱい。

さっそくいたずらしちゃいましょう。

 

せんぱいの肩を勢いよく叩き「せんぱい!」と耳元で叫んだ。

 

「はぁっ⁉︎はぁっあっつ⁉︎って一色、脅かすなよ!」

「せんぱい、反応がきもいです。不愉快です」

「なんで会ってそうそう貶されないといけないんだ俺は」

 

やっぱりせんぱいは面白いですね。

好きな人をいじめたくなる人の気持ちもわからなくはないです。

 

「一色、なんで今日はメガネなんだ?」

「どうです?似合ってます?素直な感想をどうぞ」

「まああれだな。新鮮な感じはするな。そしてメガネが若干ずれてる感じがあざとい」

「これはせんぱいを脅かしたからずれたんです。せんぱいが悪いんですよ」

「元をたどれば一色が悪いんだが」

 

やっぱりせんぱいは捻くれてますね。

「可愛いよ、いろは」

とか言ってくれたら良かったのにな。

 

まあせんぱいはそんなこと言わないですけどね。

そんなこと言ったらせんぱいを病院に運ばないといけないです。

 

「まあなんだ、その、似合ってるぞ」

「っ!…不愉快です…」

「…どこの栗山さんだよ」

「とりあえず、ランチ行きましょう。ランチ」

 

栗山さんって誰なんでしょうかね?




黒ぶちメガネにするか、それとも赤にするか迷いました。
ほんとはどんな服装かとかも書きたかったのですが、あいにくファッションには疎いので無理でした。

ここはおのおののご想像にお任せします。

ボーイッシュなメガネいろはす。

たまらんです。

でわでわ次回デート後半です。


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一色いろははエスプレッソに願いを込める。

今回はいろはすと八幡視点の入れ替わりです。
メダパニ状態にしてしまったらすみません。

最初は八幡視点で、会った直後あたりからです。


「せんぱい、栗山さんって誰ですか?」

「通じてないならいいよ。ほらさっさとメシ食って映画見て帰るぞ」

「可愛い後輩とのデートを面倒くさそうにするのは酷いです」

 

不愉快ですとでも言いたそうな顔だな、全く。

メガネが似合いすぎなんだよ。

 

可愛いなって思っちゃったよ。

 

どう思いますみなさん。

人が本読んでて後ろからいきなり肩を叩かれて驚きつつ見てみるとメガネ美少女。

 

べー。これやばいでしょー。まじやばいからー。

ていうかこれ脈ありじゃね?違う感じ?

べー。それないわー。

 

ようは勘違いしそうになりました。

 

たぶんあれだな。

一色にドキッとしたんじゃなくてメガネにドキッとしたんだな、うん。

 

 

 

一色、メガネが似合ってて可愛いかったです。

今なら神原の気持ちがよくわかる。

 

「一色、お前っていつもはコンタクトなのか?」

「いえ、違いますよ。これは伊達メガネです。昨日戸塚先輩がかけてるのみて、いいなって思ったので。あっ、もしかして可愛いなって思っちゃいました?」

 

なんか一色が小悪魔みたいになってきてる気がする。

 

これはもう俺がいつ勘違いして好きになっちゃうかわからないな。

そして告白すらせずに振られる。

 

つれー。俺の人生ハードモード過ぎでしょ。

 

「まあ、メガネはちょっと可愛いかもな」

「っ!…やっぱりせんぱいあざとい…」

 

やっぱり黒ぶちメガネはいいね。

僕はメガネが大好きです‼︎

 

「ほら着いたぞ。さっさとメシ食おうぜ」

「ここ、ですか」

「ああ、別にラーメンとかサイゼとかじゃないし、いいだろ?」

 

前に折本に笑われたしな。

なんでサイゼはないんですかね?

八幡的にはポイント高いんだけどね。

とりあえずなかに入るとしますかね。

 

「せんぱいにしては意外といいですね」

「だろ?ここで珈琲飲みながらの読書が結構いいんだよ」

 

一色が文句を言わないということは割といい店なのだろう。

自分が気に入った店が他の人にも気に入られるというのは悪い気はしないな。

 

いつもならカウンターの端っこを探して座るのだが、今日は一色がいるため、ふたり用のテーブルに座った。

 

「せんぱい、オススメはなんですか?」

 

「まあ和風キノコパスタと特製ベーコンオムライスだな。オムライスの方は結構ボリュームあるから女子はきついと思うぞ」

「じゃあ私はパスタにするんで、せんぱいはオムライスにしてください」

「はいはい」

 

前回同様一色は両方食べたいらしい。

女子ってなんで色々食べたがるんですかね。

 

もうバイキングとかビッフェにすれば良かったまである。

でもそれは高いからやっぱなし。

 

「せんぱいどこの大学行くんですか?」

「とりあえず私立文系、だな。あ、でもバリスタの専門学校もちょっと興味はあるからなぁ」

「せんぱいは私立文系出て編集者になってください」

「いやそんな簡単にはなれないからね?前にも言ったろ、編集者になるのは難しいって」

 

まあその分待遇はいいからな。できればなりたいけど。

どうせ働くんなら給料は高い方がいい。

 

でも1番は働きたくない。

社畜なんてやってられるか。

 

「一色はもうなんとなくでも進路は決まったのか?文系とか理系とか」

「私は文系ですかね。理系はあんまり得意じゃないですし」

「まあ大体はそんな感じになるわな」

 

文系理系なんてどっちが得意とかで決めてるしな、大体は。

 

「もしせんぱいの行く大学に私が行くことになったらそのときはよろしくお願いしますね」

「大学までお前の面倒見るのは疲れそうだな…」

「いいじゃないですかー」

 

でも実際大学なんてそうそう被らないだろ。

正直今はそんなことはどうでもいい。

 

丁度良い時間に店員さんが料理を運んできた。

ふたつの料理からはいい香りが漂い、忘れていた空腹を思い出させた。

 

「あ、すみません。取り皿ももらえますか?」

「取り皿必要なんですか、せんぱい?」

「お前両方食べたいんだろ、だったらあった方が便利だろ」

 

というのは言い訳で、実際はただ単にまた「あーん」とかをされないようにするためだ。

 

こいつ、俺を恥ずかしくさせるが好きらしいからな。

だが甘い。

俺に二度も同じ手が通用すると思ったか。

甘いぞ一色、マッカン並みに甘いわ!

 

「せんぱいのオムライス、なんか和風って感じですね。キノコとか玉ねぎ入ってますし、でも周りにホワイトソースみたいなのかかってますね」

「これがまた美味しいんだよ」

「でわでわ、いただきまーす」

「いただきます」

 

取り皿に分けて一色に差し出す。

前にも思ったけどこいつ、料理食べてるときなんかキラキラしてるというか、なんて言えばいいんだろうな。

あざとさがなくていつもより可愛いんだよな。

 

 

 

 

 

 

せんぱいめ、取り皿なんてもらっちゃって。

それじゃ「あーん」出来ないじゃないですか。

せんぱいのくせに学習してますね。

 

やっぱりせんぱいは手強いですね。

せんぱいの攻略本とかあればいいのに。

 

まあとりあえず食べちゃいましょう。

せんぱいのオススメですしね。

 

「せんぱいって奉仕部いつ引退するんですか?」

「どうだろうな。まあ平塚先生次第だろ」

 

そう言うせんぱいは、なんだか少し寂しそうな、名残惜しそうな顔をしていた。

 

奉仕部がなくなったら、私はどうすればいいんですかね?

楽しみがなくなっちゃいます。

 

せんぱいと一緒にいられる時間も。

 

「せんぱいには奉仕部がなくなっても仕事手伝ってもらいますからね」

「一応俺、受験生なんだけどな」

 

 

 

「ふぅ〜。うまかったな」

「美味しかったですね。せんぱい」

「少ししたらエスプレッソがくるだろうから飲んでから行こう」

 

ここのエスプレッソは美味い。

マッカンも好きだがエスプレッソも好きだ。

 

でも熱いからいつもスチームどミルクとは別でミルクを足してもらっている。

 

なんで俺は猫舌なんだろうな。

 

「せんぱい、エスプレッソと普通の珈琲って何が違うんですか?」

「俺もうろ覚えだからちゃんとは知らんが、ようは入れ方の違い、だな。多分。

エスプレッソはマシンで高圧で抽出するものだ。

俺らが普段飲んでるやつはインスタントとか、挽いた粉を紙で抽出するのものだろ。なかにはビーカーみたいなので抽出するやり方もあるらしい。」

「せんぱい、結構詳しいんですね」

「本で読んだだけだ。本当の珈琲通ならもっと詳しい」

 

実際珈琲の勉強はしていない。

だが興味はある。

 

ほんとにバリスタになるならもっと勉強しないといけないし、バリスタなら飲んで産地も当てることができる。

すごいバリスタならブレンドしているものも全て当てることが出来るらしい。

 

「エスプレッソを飲むときのおまじないみたいなのがあるらしいんだ」

「おまじない、ですか?」

「クレマがあるだろ?あ、クレマはエスプレッソの泡のことな。このクレマに砂糖を落として10秒以上沈まなかったら願いが叶うんだそうだ」

 

これは漫画で読んだものだ。

いいエスプレッソのクレマは砂糖を落としても分厚いクレマが砂糖の上に乗るそうだ。

 

「じゃあやってみますね」

 

 

 

 

 

 

せんぱいの言うおまじない。

なんだか素敵でとてもせんぱいが言うこととは思えないですね。

 

目の前のエスプレッソに砂糖を入れる。

そして願いを込める。

 

せんぱいと一緒にいられますように。

 

「叶うといいな…」

「そうだな」

 

まあ私の願いはせんぱいにかかってるんですからね。

そしてなにも聞いてこないのがせんぱいらしいです。

 

 

 

せんぱいはなにかお願いしたのかな。

 

 

 




すいません。書いてたらなんだかながくなりそうなのでもう1話足します。すみません。



さっきニセコイ19巻ちょっとだけ読んだんですけど、やばかったです。
悶え死にそうでした。
それに小咲ちゃんのメガネがまた。

次回はデート、映画編です。
なんかすみません。
でわでわ。


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一色いろはの想いは降り積もる

すみません。デート編、3話にもなってしまって。
今回は映画です。

でわでわ



「せんぱい、何をお願いしたんですか?あっ。もしかして可愛い後輩と一緒にいられますように、とかですか?せんぱいも可愛いところありますね」

 

せんぱいと食事をして、せんぱいおすすめのエスプレッソを飲み終えて私とせんぱいは今、映画館へ向かっている途中。

 

「そんなんじゃねーよ。大体は願ったって叶わないし、そもそも願い事がない」

「だったらせんぱいはなんでそんなおまじないなんて知ってるんですか?興味ないこととか覚えないくせに」

 

この人最初、結衣先輩とか戸塚先輩の名前とかも知らなかったらしいんですよ。クラスメイトなのに。

 

「おまじないとか、そういうの女子は好きだろ?だから小町に教えてやろうと思ったんだよ」

 

やっぱりシスコンですね。

小町ちゃんが羨ましいです。

 

「まだちょっと時間あるな。…なぁ、ちょっと本屋寄っていいか?」

「そうですね。暇つぶしにはちょうどいいかもしれませんし。せんぱいのわがままを聞いてあげましょう」

「なんで上からなんですかね。いつも俺が一色のわがままに振り回されてるですけど」

「細かいことを言わない。ほらせんぱい、行きますよ」

 

本読んでるときのせんぱいは知的な感じがしてちょっとかっこいいんですよね。

 

にやにやしてない時は。

 

「せんぱい普段はどんなの読んでるんですか?」

「まあ割となんでも。ラノベとかもよく読むし。…今日見る映画の原作も読んだな」

「今日見るものって?」

「『陽だまりにいる彼女』だ」

「ああー。テレビでCMやってましたね」

 

確か恋愛ものだった気がしますけど。

せんぱい恋愛ものとかも読むんですね。意外です。

 

「意外ですねーって顔してるな」

「まあ意外でしたから」

 

どうしよう。映画見終わった後にいい感じの雰囲気になったら。

 

手とか繋いだり出来ちゃうかな。

ギリギリぽっぺにチューくらいいけますかね。

いつもみたいにあざとくやれば…

 

ああ!無理です。耐えられません。

絶対無理です。

 

てかそもそもせんぱいが雰囲気なんてすぐに壊しちゃいますし。

 

私が考え事している間にせんぱいはレジで会計を済ませていた。

なにを買っていたんですかね。

 

「せんぱい、何を買ったんですか?」

「漫画だ。やっとエセコイの19巻が発売されたからな。一色は見なくていいのか?だったらもう映画行くけど」

「私はとくにないので。でわでわ映画行きましょう」

 

せんぱいと映画。

楽しみです。

 

 

 

本屋さんからちょっと歩いて映画館へ。

チケットを買い、せんぱいと席に座って上映を待っている。

 

「せんぱい、始まるまで寝てていいですか?」

「いいぞ」

 

そう言って目を閉じる。

 

フフフッ。

せんぱい、私が寝るわけないじゃないですか。

 

まずは寝たふり。

ちょっとしてからせんぱいにもたれ掛かる。

 

せんぱいはあったかいですね。

せんぱいの枕が欲しいまであります。

 

「こいつ寝るの早くないか…」

 

聞こえてない聞こえてない。

 

「なんか、恥ずかしいな…」

 

せんぱい、もっと恥ずかしんでください。

もっと私を意識してください。

せんぱいがいつも勘違いで済ませるから悪いんですよ。

 

「こいつ、あざとくなかったら可愛いんだけどな…」

 

やばいやばいやばい。

顔が熱い。

せんぱい卑怯です。ずるいです。

せんぱいがあざといです。

 

さっきまで私が優位に立っていたはずが…

 

「そろそろか…一色、起きろ」

 

なんとなく一回では起きない。

ちょっとせんぱいを困らせてやります。

 

「一色、お前、もしかしてさっきから起きてる?」

 

え、なんでばれたの?

いや、まだなんとかなる。

まだ疑問形でしたし。

 

「起きてるな。あくまで寝たふりをするならこっちにも考えがある」

 

せんぱい、なにをする気ですか、あんなことやこんなことですか。

 

まあせんぱいにならいいかな。

 

私、重症ですね。

 

「ベー。マジやばいでしょー。寝たふりとか、いろはすマジやばいからー。ベー。無視とかそれないわー」

 

なんでそこで戸部先輩のマネ?

あ、やばい。なんかじわじわ来る。

 

「ぷっ。あはははーっ。せ、せんぱい、ずるいです。じわじわきます」

 

思いっきり笑ってしまった。

あー恥ずかしい。

 

「やっぱり起きてたな。てか、静かしろ。マナーが悪いぞ」

「せんぱいのバカ…」

 

そのあとの内容はあまり入ってこなかった。

 

 

 

「やっぱ原作の方が良かったな」

「そうですかー」

 

映画と戸部先輩のマネはどうでもよかったんですけど、その前のね。

せんぱいが私のこと可愛いって。

 

あーやばい。またニヤけそう。

 

もしかして私があざとくなかったら、せんぱいは私のこと好きになってくれるのかな。

 

でも可愛いと好きは別か…。

 

「一色、もう5時だがどうする?」

「あ、もうそんな時間ですかぁ」

 

せんぱいと一緒にいると時間が経つのが早く感じるから困っちゃいます。

 

「まだなんかするなら小町に今日は飯いらないって連絡しないといけないんだが」

 

そういうところちゃんとしてるんですね。

結婚してもそういう連絡とかちゃんとしてくれるんですかね。

『いろは、今日は晩飯はいいから』

とか。

さらっと心の中でいろはって呼ばせましたけどそれでも恥ずかしい。

そしていろはって呼ばれたい。

 

「じゃあ今日はもう帰りますか」

「んじゃ送るわ」

「せんぱいにしては気が利いてますね」

「こういうのちゃんとしないと小町に怒られるからな。小町が怒ると面倒だし」

「シスコン…」

 

 

 

電車からモノレールに乗り換えて今、せんぱいとふたりっきり。

せんぱいと乗る時はなぜかいつもいないんですよね。

まあその方がせんぱいといちゃいちゃできるんでいいですけど。

 

「せんぱい、今日は楽しかったです」

「そうか、まあそれならわざわざ日曜日に外に出た甲斐はあったな」

「せんぱいも素直じゃ無いですね。素直に『今日は可愛いいろはといれてよかった』って言えばよかったのに」

 

さらっといろはと呼ばせたい願望が出てしまった。

 

「いや、言わないだろ。どんな罰ゲーム?そんなに俺を恥ずかしめたいの?」

「せんぱいが恥ずかしがっているのを見るのはとても愉快です」

「メガネをかけて愉快ですというのは俺的に不愉快だな」

 

それってメガネ関係あるんですかね?

まあいいですけど。

 

「そうだ一色…」

「なんですか?」

 

せんぱいは肩にかかったバッグからなにかを取り出した。

 

「ほれ」

「?、なんですか?」

「プレゼントだよ…昨日のとは別にな」

 

昨日のとは別に?

 

「一色のことだから今日もプレゼントないのかって言ってくると思って用意したが、なんもなかったからな」

「…やっぱりせんぱい、あざといですよ…」

 

これじゃ私だけがどんどんせんぱいのこと好きになっちゃうだけじゃないですか。

 

「せんぱい、ハグしても?」

「もちろん否だ。てかなんでそうなるんだよ」

「嬉しかったのでつい」

 

もう少しでハグしてキスとかしちゃいそうな勢いでした。

 

「開けてもいいですか?」

「開けてもいいが、しまうの面倒じゃないか?小物とかじゃないし」

「そうですか」

「まあ帰ってからのお楽しみにでもしとけ」

 

モノレールが私の降りる駅に来てしまった。

もうお別れかぁ。

もっといたかったんですけどね。残念です。

 

「じゃあせんぱい、私、ここなので」

「おう。また明日、な」

「はい。また明日、です」

 

椅子から立ち上がり、荷物を持つ。

出口に向かって歩き、やっぱり止まる。

このまま帰るのは惜しい。

 

せんぱいの元に駆け寄りせんぱいの頬にキスをした。

 

「え、」

「でわでわせんぱいまた明日で〜す!」

 

ダッシュで逃げる。

やっぱり恥ずかしい。

 

前はせんぱい、寝てましたし…

というかあれはノーカウントです。なかったことに。

卑怯ですからね。

 

 

明日、どうしよう。




疲れました。
書いている途中途中で詰まってしまい、どうしていいか考えました。

なんだかいつにもまして文章に落ち着きがない気もします。
もうこれはあれはですね、仕事が悪い。
仕事が悪いんですよ。


次回は普通に奉仕部でのお話になる予定です。
でわでわ


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由比ヶ浜結衣はやっぱり鋭い

前回からかなり悩みました。
これ次どうすんだよ?
どうなんの?

ということでデートの次の日の話です。


「こんにちは、由比ヶ浜さん、比企谷君」

 

ドアを開けると雪ノ下の淹れた紅茶の香りがした。

 

「うす」

「ゆきのんやっはろー」

「紅茶、いかがかしら?」

 

優しく微笑みかける雪ノ下。

 

「ゆきのんありがとー」

 

元気よく返事し、明るい花を咲かせる由比ヶ浜。

 

「俺もいいか?」

「ええ、もちろんよ」

 

このふたりが俺の求める本物なんだと思っていた。

いや、今もそう思っている。

 

ただ、本物は、他にもあったのかもしれない。

ないと思っていて、周りを見渡すこともしなかった。

 

ただ目の前のものだけを見ていた。

でも、実際にはただの勘違いなのかもしれない。

 

一色が昨日、俺にしたことの意味はなんだったのだろうか。

ずっと考えたが、どうなんだろう。

一色のカップを見つめても、答えは出ない。

 

 

 

 

 

パンダのパンさんの湯呑みから湯気が消えたあたりでもうひとりはやって来た。

 

「お疲れ様でーす」

「こんにちは、一色さん」

「やっはろーいろはちゃん」

「おう」

 

昨日の今日でやはりなんとなく気まずい。

だが一色はいつもそんなに変わらないように見える。

 

やはり俺の勘違いだったようだ。

そう思うとなんだか気が楽になってきた。

 

そうだよな。一色に限ってそんなわけはない。

一色が好きなのは葉山なのだ。

俺であるはずがないし、もしそうだったとしたら一色を病院に連れて行かないといけないまである。

 

「みなさんこんにちはでーす。土曜日はありがとうございました」

「一色さんが喜んでくれてよかったわ。一色さん、紅茶はいかが?」

「いただきまーす」

 

一色にプレゼントしたカップを丁寧に取り出し、紅茶を淹れる。

雪ノ下が俺の湯呑みが空なことに気づき、おかわりを聞いてきた。

 

「比企谷君は猫舌だから、飲むのが遅くておかわりのタイミングに困るわ」

「ヒッキーいつも遅いもんね。かまくら?だっけ、ヒッキーもかまくらに似てるんじゃない?」

「まあ確かに俺も小町も猫舌だが…ペットに似るってのはなんか嫌だな」

 

ペットが飼い主に似るのはわかるが、飼い主がペットに似るってのはなんか立場逆転してない?

なに?そんなに俺って下なの?

 

雪ノ下が猫を飼い始めたらその猫に似そうだけどな。

本格的に猫ノ下だな。

 

「そう言えば小町さんはどうしたのかしら?今日は生徒会はないのでしょう」

「今日はクラスの友達とカラオケに行くって言ってましたよ。ほんとはこっちに来たがってましたけど」

「まあ小町は俺と違ってコミュ力高いしな。友達がいるなら大切にした方がいいと思う。兄的に。

…まあてきとーにつるんでハブられたりしなければいい。

小町を泣かしたら許さん」

 

小町を泣かしていいのは俺だけだ。

小町の泣き顔はたまらないからなぁ。

 

どこの名瀬博臣だよ。

 

「せんぱいはやっぱり変態シスコンですね」

 

一色はやれやれといった感じで俺を変態呼ばわりした。

シスコンはいいが変態は納得いかん。

 

ふと昨日のことを思い出し、そして一色と目が合ってしまった。

 

すぐに一色は目を離したため、とくに気まずくはならなかったが、雪ノ下と由比ヶ浜になにか気づかれたかもしれない。

いや、別に特別なにかあったと言うかそこまでではない。

はず。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしよう。

やっぱりせんぱいにほっぺにチューなんてするんじゃなかった。

どうせするなら唇に…ってそういう問題じゃない。

 

頑張って奉仕部来たけどあんまりせんぱいと話せない。

しかも一瞬せんぱいと目が合っちゃった。

 

雪ノ下先輩と結衣先輩ならすぐに異変に気づいちゃうから気をつけないと。

 

「ねぇ、いろはちゃんとヒッキー、なにかあったの?」

「なにかってなんですかー?」

 

やばい。速攻で気づかれた。

 

「比企谷君、あなたついに犯罪を…」

「いや、別に犯罪とかしてないから。しかもなんですぐ俺がなんかしたってなるんだよ」

 

雪ノ下先輩はせんぱいに対していつもひどいですよね。

まあ面白いんですけど。

ここは誤魔化すのも含めて悪ノリしちゃいます。

せんぱいごめんね。てへぺろ☆

 

「そ、そうなんです。あの後、せんぱいに襲われそうに…」

「由比ヶ浜さん、この人を通報してもらえるかしら?」

「わかった。えっと…いちいちきゅ、と」

「由比ヶ浜さん、それは救急車よ」

 

わざとらしく泣き真似してみせるとふたりともちゃんとノッてくれました。

せんぱいはどこでもアウェーなんですね。

 

「みんな俺に対して酷くない?あと、一色は嘘の供述をするな。だから冤罪は消えないんだ。

それでも僕はやってない」

 

なんか懐かしい映画の名前出てきました。

というかそれじゃフラグ立ってますよ。

 

「せんぱい、それだと冤罪で捕まっちゃいますよ」

「大丈夫よ比企谷君。私が証言台に立ってあげるから」

「おう、雪ノ下が証言してくれるなら安心だな」

「事実を包み隠さず話すわ。比企谷君の不利になるように」

「敵なのかよ…」

 

いつも思うんですけど、せんぱいをいじるときの雪ノ下先輩が輝いているんですよね。

 

まあわからなくはないですけど。

せんぱいをいじめるのは楽しそうですしね。

 

「じゃあ私がヒッキーの弁護士やるね!」

「…勝てる気がしないな」

「ヒッキー酷すぎ!」

 

弁護士なら雪ノ下先輩が安泰ですよね。

スーツきてメガネかけて論破してそうです。

雪ノ下先輩かっこいい。

 

「では私が検察役でいいかしら?」

「なんで雪ノ下はノリノリなんだよ…」

「私裁判官したいでーす。フフフッ。せんぱい、覚悟して下さい。懲役50年は堅いです」

 

なんなら私の家に服役してくれても構わないですけど。

 

「理不尽過ぎるだろ…」

 

せんぱいも流石にげんなりですね。

せんぱいをからかってると昨日のこともなんかあまり気にならなくなってきました。

 

「でもメリットもあるなぁ。働かなくていいし、一応飯は出るし…」

「あなたすごい捻くれた思考回路をしているわね」

「まあヒッキーだしね。しょうがないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はもう帰りましょうか。ちょっと疲れてしまったし」

「ああ、そうだな。主に俺の心が疲れたけどな」

「あら、ごめんなさい。あなたに心があったことをすっかり忘れていたわ」

「そのちょっといい笑顔やめろ。全然申し訳ないっていう気持ちがなかったぞ」

 

雪ノ下先輩はさらっとSですね。

やっぱりこの3人は面白いです。

ちょっと焼けちゃいます。

 

雪ノ下先輩がせんぱいをひとしきりいじめた後、みんなで戸締りをして雪ノ下先輩と結衣先輩は鍵を返しに行った。

 

私も帰ろうとすると、結衣先輩がパタパタと走ってきて私の耳元で囁いた。

 

「私だって負けないから」

 

 

 

 




他の作者のssでも似たような場面を読んでいて、被ったりしたらいけないなと意識して書きました。

感想やご意見等ありましたら是非お寄せ下さい。
感想やご意見等ありましたら是非お寄せ下さい!

大事なことなので2回言ったとかそういうわけではありません。

でわでわー。


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手を握るのは結構恥ずかしい。

いやぁ、頑張っちゃいますとか言って寝ちゃいました。
もう気が付くと朝の5時とかマジないわー。

そしてその後二度寝。


今回はガハマ回です。
なのでいろはす出ません。すみません。

というか僕、遊園地とかああいうの行ったことないんですよね。

まあ疲れそうなので行かないですけど。

ほんとはただぼっちなだけなんですけどね。

でわでわガハマデートです。


ヒッキーはいろはちゃんのことどう思ってるのかなぁ。

可愛い後輩?手のかかる後輩?

 

いろはちゃんは小町ちゃんに似てるからなんだかんだで好きになっちゃいそう。

もしくはもう好きかも。

 

それに日曜日にもなんかあったっぽいし。

土曜日は普通だったけど。

 

…デート、したのかなぁ。

いいな。

 

私もヒッキーと…

あー!顔が熱い。

 

「サブレ!おいで!」

 

自分の部屋からサブレを呼ぶ。

私が呼ぶと走って飛んで来てくれる。

 

「わんわん!」

「うーん!サブレ!」

 

もふもふ。

あぐらをかいてサブレを抱えるようにして私の足に座らせる。

 

ふとまたヒッキーのことを考える。

そういえば、ヒッキーとふたりでディスティニィーランド行くって約束、まだだな。

 

 

 

 

 

 

 

5月にもなるともうすっかり涼しくなって、桜は見かけなくなる。

時々時期違いのセミみたいにぽつんと満開になっている桜もたまにあるにはあるが。

 

月が変わっても奉仕部はそんなに変わらない。

変わったことといえば衣替え調整期間になり、制服が夏服になっていることぐらいだろうか。

 

由比ヶ浜はボタン開けるから胸元が気になってしょうがない。

いや、別に見たいとかそういうわけじゃなくてだな、なんかこう、条件反射みたいな感じなわけですよ。

 

俺は悪くない。由比ヶ浜が悪い。

さらに言うと由比ヶ浜の胸が悪い。

 

そういえば、由比ヶ浜とディスティニィー行ってないな。

バレンタインの日は3人で水族館デート?だったからなぁ。

 

正直ディスティニィーよりも水族館の方が俺は好きだ。

サメとかかっこいいじゃん?あと深海魚とかも面白そう。

 

どうしましょうかね?早いうち行動しないと忘れちゃうかなぁ。

由比ヶ浜はこういうことは地味に覚えてそうだしな。

一応俺から誘うのがいいのだろう。

 

メールでそれとなく予定とか聞くとしますかね。

☆☆ゆい☆☆

すぐ見つかった。

まあ俺の連絡先なんて数えるほどしかないんですぐにわかるんですけどね。

 

☆☆ゆい☆☆ってさ、どこぞの怪しいお姉さんって感じしない?

中学のときにアダルトサイトかなんかからのメールでクラスメイトと同じ名前の人からで間違って返信したことあるんだよね。

 

みんなも怪しいサイトには気を付けましょう。

 

『週末暇か?』

 

我ながら短いな。

まあ男子ってこういうもんだろ。

 

そしてこれが社畜になったら無駄に長くなるんだろうな。

 

『うん(=゚ω゚)ノ

っていうかヒッキーからメールとかちょー久しぶりじゃない?(^∇^)』

 

相変わらずこういうの好きだよな。由比ヶ浜は。

 

『まぁな』

『ヒッキーは相変わらず返事が短いね|( ̄3 ̄)|』

『別にいいだろ。

じゃあ今週の土曜日、ディスティニィーランドな』

『…ヒッキー覚えててくれたんだ…』

『まぁ今思い出したんだけどな』

『そういうこと言っちゃうのは結衣的にポイント低い( ̄ー ̄)』

 

なに?最近小町の真似するの流行ってるの?

まあちょっと可愛いなって思っちゃったからいいけどね。

可愛いは正義だ。

 

『でも、ありがとね』

 

由比ヶ浜はこうだから困る。

メールじゃなかったらまた気まずくなってるよこれ。

 

『じゃあそういうことで。

時間とかはまた後で連絡するわ』

 

よし。これでまあ大丈夫だろ。

あ、そうだ。本屋寄ろう。

 

 

 

 

 

 

サブレをもふもふしているとケータイが騒いだからびっくりした。

サブレもびっくりして私に頭ぶつけるし…

 

ヒッキーってエスパーなのかな?

ディスティニィーのお誘い。ヒッキーとふたりで。

 

嬉しいな。ちゃんと覚えててくれたんだから。

今思い出したとか言ってるあたりがもう捻くれてるよね。

 

土曜日が楽しみ。

ヒッキーとふたりでディスティニィー。

 

いろはちゃんには負けないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分から誘ったわりに行くのが面倒だ。

まあ約束してしまったものは仕方ないんだが、だがやはり面倒だ。

 

しかもディスティニィーランド。

今回は人が少ないって言われてる方に行くことになってはいるがそれでもいやだなぁ。

 

まあ由比ヶ浜が楽しんでくれればそれでもいいかもしれないが、でもやっぱり面倒だ。

 

仕方ない。

ぼちぼち行ってきますかね。

 

 

 

 

待ち合わせ場所につき、今は由比ヶ浜待ち。

とりあえずMAXコーヒーを飲みながら待っている。

 

それにしても、最近よく外に出ている気がする。

まあ一色に関しては大体連れ出されてるって感じなのだが。

 

「ヒッキーお待たせー!」

 

由比ヶ浜が元気よくこちらへ向かってくる。

ミニスカートはひらひらと舞い、いい感じで見えない。

ちくしょう!

でもこのギリギリがまたいい。

 

「おう由比ヶ浜」

「やっはろーヒッキー。ヒッキーとふたりってなんか新鮮かも」

 

今日の由比ヶ浜はなんかいつもと違う気がする。

なにがだろうか。なにかが足りない。

胸?いやいつもと変わらず豊満だ。

身長?いやむしろいつもより少し高いくらいだ。

 

ああそうか、あれがない。

 

「由比ヶ浜、いつものお団子はいいのか?」

「あ、気づいた⁉︎どう?イメチェンしたの。今日だけ。どう?似合うかな?」

 

髪を下ろした由比ヶ浜は新鮮で可愛い。

由比ヶ浜も雪ノ下みたいにもっと長くしてもいいと思う。

 

「まああれだな。なんだ。似合ってるぞ。なんならもうその髪型でいいまである」

「そか。ありがと」

 

いつものクセなのだろう。

お団子をぽんぽんと叩こうとしているが今日はないため空ぶった。

 

「お団子ないんだった。えへへ」

「まああれだ。ささっと行っちゃおうぜ」

「うん!」

 

いちいち可愛いなこんちくしょう。

 

 

 

 

 

「ヒッキー!次あれ乗ろうあれ!」

「由比ヶ浜、お前ほんと元気だな。あれ乗ったらどっかで休憩しないか?俺はもう疲れた」

 

由比ヶ浜元気過ぎるだろ。

一色のときより疲れるんですけど。

一色とは卓球ぐらいでしか疲れることしなかったからなぁ。

 

 

 

「ヒッキー、ヒッキーはさ、いろはちゃんのことどう思ってるの?」

 

ふたりでお店に入って休憩していると、ふいに由比ヶ浜がそんなことを聞いてきた。

 

「どうって言われてもなぁ。…あざとい後輩?」

「そっか」

「あとは面倒だな。あいつといると。仕事押し付けられるし。誰だ?あいつを生徒会会長に押したの?」

「ヒッキーじゃん」

「そうなんだよなぁ。だから余計に面倒なんだよ。手伝わないとまたなんか言ってくるし」

 

しょっちゅう脅したりするから面倒なんだよ。

しかもあざといし。

そして可愛い。

我ながらちょろいな。俺って。

 

「でもまあ今のうちに貸しを作っとかないとな。小町を悪い虫から守ってもらわないといけないし」

「なんで?虫よけスプレーでもかければいいじゃん?」

 

この子ポケモンとかと勘違いしてない?

 

「そういうことじゃなくてだな。ようは男どもから小町を守ってもらうんだよ。ほら、小町可愛いだろ?絶対男どもが近づいてくるじゃん」

 

俺が卒業したら守ってやれないしな。

可愛い妹がいるのも大変だな。

 

「あはは、シスコン…」

 

 

 

 

 

店を出て再び遊ぶ。

もうお父さん疲れたよ。

明日また仕事なんだからね。

 

いやまあ仕事じゃないけど。

なんなら明日も休みだけど。

 

「由比ヶ浜、今日は何時に帰るんだ?」

「あーそうだね。パレード見てからならいい感じじゃない?」

 

確かパレードは19時から。

まあ妥当だろう。

 

にしても人が多くなってきたなぁ。

とても不愉快です。

 

「ねぇねぇヒッキー、観覧車乗ろう!あれ乗ったらちょうどいい感じでパレード見られるよ」

「まあそうだな。じゃあそうするか」

 

 

 

 

「うわぁ。やっぱちょっと怖い」

「…なんで観覧車乗ろうとしたんだ?」

「いいじゃん。それに前はゆきのんが隣に居たし。…ヒッキー、隣行ってもいい?」

 

なんか高い木に登って降りられなくなった子猫みたいだ。

ちょっと怯えてる顔が可愛いなとか思っちゃったよ。

 

「まあ、いいけど」

「ありがと」

 

観覧車が上にいくに連れて風の影響を受けてるのか、少し揺れる。

由比ヶ浜は「っは!」とか「うわっ!」とか言ってるし。

 

由比ヶ浜は怖いのか、ずるずると俺の方へ近づいて腕に抱きついてきた。

 

「今だけ…」

「お、おう」

 

やめてくれ、恥ずかしい、いい匂い、可愛い。

しかもちょっと当たってるし。

 

一色のときにはない感触だ。

 

 

そのあとの数分間はやばかった。

 

 

 

 

 

観覧車を降りてパレードの場所へと向かう。

由比ヶ浜はさっきのが気まずかったのか一言もしゃべらない。

いや、俺だって気まずかったんですけどね。

なんで最近の俺は気まずい思いをしないといけないのかね?

一色もそうだし。

 

「人、多いね」

「そ、そうだな。はぐれないようにしないとな」

「うん」

 

はぐれると面倒だしな。

どのくらい面倒かと言うとはぐれメタルを仲間にしようとするくらい面倒。

あれ、はぐれメタルって仲間になったっけ?

メタルキングは無理だった気がする。

 

「ヒッキー、手、繋いていい?はぐれちゃいそうだし」

 

そんな上目遣いで聞かれたら駄目って言えないでしょうが。

由比ヶ浜といい、一色といい、可愛いな全く。

 

「まあ、はぐれるとあれだしな」

「うん!」

 

 

由比ヶ浜の手は小さくて、すべすべしていて女の子の手だ。

 

女子と手を握るのは、腕組みよりも恥ずかしい。




由比ヶ浜もなかなか可愛いんですよね。
ちょっとアホな感じが。

今回は由比ヶ浜とデートですが、八幡のなかに一色がちょっとだけいるようなイメージで書いてみました。

多分伝わらないですね。文章ヘタですから。


感想とか感想とかご意見とか感想あればどうぞお寄せ下さい。

でわでわー。


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梅雨もなんだかんだ悪くない。

今回は奉仕部のおしゃべり会です。
八幡が可愛い女子たちにいじめられる会です。

いいですね八幡。


でわでわどうぞ。


六月にもなると夏の暑さを時々感じるようになる。

そしてこの時期、梅雨である。

 

一般のアホな男子高校生は女子の制服が透けてラッキーとか思っているが、俺のような読書家からすれば不愉快である。

 

紙がふにゃふにゃになるし、たまにページがくっつくし、由比ヶ浜や一色の制服が透けて目のやり場に困るし。

 

雪ノ下は絶壁だからまだなんとかなるが。

 

ていうか俺もその辺のアホな男子高校生だな…

 

 

 

 

 

「うす」

「やっはろーゆきのん!」

「こんにちは、比企谷君、由比ヶ浜さん」

 

やはりこの部屋も少し湿っている。

いつもは雪ノ下の淹れた紅茶の香りが漂っているのに。

 

「紅茶、いかがかしら?」

「ありがと。ゆきのん」

「ありがとな」

 

雪ノ下の淹れる紅茶はなんだかんだ飲んでしまうのだ。

暑い日でも飲んでしまう。

 

べ、別に雪ノ下の淹れる紅茶が好きとか、そんなんじゃないんだからな。

 

「お疲れ様でーす」

「失礼しまーす」

「こんにちは、一色さん、小町さん」

「やっはろーいろはちゃん、小町ちゃん」

「おう」

 

今日は生徒会もないのか一色と小町が奉仕部に来た。

しかし一色の「お疲れ様でーす」ってなんか社畜って感じがする。

 

多分あれだな、生徒会の仕事し過ぎてこうなったんだろうな。

一色も社畜だなぁ。可哀想。

誰だ?一色を会長に押したやつ?

 

 

俺。

 

「紅茶、淹れるわね。…それにしても雨が続くわね。比企谷君のせいかしら?」

「いや、俺は関係ないだろ。別に俺は雨降らす能力とかないんですけど」

 

なに?俺ってカイオーガなの?まあそれはそれでいいけどさ。強いし。

 

「せんぱい、目の整形をオススメします」

「ヒッキーの目が死んでるせいなんだ…」

「昔はこうじゃなかったんですけどね…」

「そうだ。俺の目は悪くない」

 

時の流れとは残酷ですね。いやほんとに。

 

「比企谷君の目が死んでいなかったから…通報しない自信がないわ」

「俺はどっちみち通報されるのかよ」

「私が警察官ならせんぱいを職務質問しちゃいますよ」

 

俺は変質者じゃないんですけどね。

 

「そうだ、今度昔のお兄ちゃんの目が死んでない写真持って来ましょうか?多分探せばありますし」

「やめろ小町」

「昔のヒッキー見てみたいかも」

「確かに興味ありますね」

「想像もつかないわ」

 

なんでみんなこういうの好きなんですかね?

卒アルとかもやたら見たがったりするんだよね、たぶん。

やめて、恥ずかしいわ八幡。

 

「比企谷君はいつからそんなに捻くれてダメな人になったのかしらね」

「そのちょっといい笑顔やめろ」

「確かにせんぱいはダメでぼっちでキモくてダメですよね」

「おい、なんでダメが2回も入ってるんだよ、繰り返さなくいいから」

 

みんなして俺をいじめすぎでしよ。

まあ可愛いから許してやることにしよう。

それでいいのか俺…

 

「でも、ヒッキーもいいところはあるよね?」

 

流石由比ヶ浜。こんなダメでぼっちでキモくてダメな俺をフォローしてくれるんだから。

 

優しくしないで。泣きそうになるから。

まあ泣かないけど。

 

「そうね。…なにかあったかしら?」

「せんぱいのいいところはあれですよ、便利…優しいところですよ」

「おい、今便利って言ったよな?明らかに都合のいい人じゃんかよ」

 

どうぜ俺は(都合の)いい人ですよ。

にしても一色ひどいな。相変わらずだけど。

 

「俺のいいところと言ったらあれだろ、妹想いのいいお兄ちゃん的な」

「シスコン…」

「お兄ちゃん、そういうことはやめてくれない?せめて家だけにしてよ」

「家ではいいんだね小町ちゃん」

 

なんでそんな視線を向けられないといけないんだ?

全く理解出来ない。

 

てかこんなやりとりクリスマスのときもしなかったか?

 

「ところで一色、この間やったフリーペーパーってどうなったんだ?」

「つまんねーこと聞くなよ!」

 

どこのぶらっていまりーさんだよ。

てかキャラ間違えてるだろ。

あやねる?今はじょしらくじゃないんですけど?

 

「すいませんなんとなく言ってみたかっただけです。ていうか結構前ですね」

「あの時は比企谷君、本当に目が死んでいたわね」

「ヒッキー頑張ってたもんね」

「辛かったなぁ…」

 

今なら渡航の気持ちがわかる気がする。

雪ノ下が来たときなんて一瞬編集に見えたまである。

作家は辛いな。

売れても売れなくても。

 

社畜とどっちがマシなんだろうな。

 

「せんぱい、また今度お願いしますね。てへぺろ☆」

「もういやだ。辛い。まず急過ぎだったし」

「私たちよくあのスケジュールでこなせたわね」

 

一色、可愛くしても無駄だ。

どんだけ辛かったと思ってるんだ。

 

…まあもうちょっと準備期間があれば考えてもいいが。

 

意外と一色のてへぺろ☆が効いてる。

 

「今度は小町も参加したいです〜」

「次があれば、な」

 

ないことを祈る。

 

「せんぱい、お願いしたいことがあるんですけど…」

「断る。また脅しのネタにされでもしたらたまったもんじゃない」

「っち。ばれたか」

「ちょっと一色さん?今一瞬黒いところ見えたよ」

「え?なんのことですか?」

 

とぼけやがった。一色怖い。

最近の女子高生は怖いわね。怖いわぁ全く。

 

「ヒッキーやっぱりあの時脅されてたんだ…」

「まあ比企谷君を脅すことくらい簡単だものね。捏造すれば早いことだもの」

「もうどうしようもないじゃねーかよ俺」

「まあせんぱいは私の下僕…頼れるせんぱいですからね」

「そのいい感じにぽろっと出すのやめてくれない?なんか余計に辛いんだけど」

 

やっぱり一色怖い。

ダメージの与え方ががえぐい。

雪ノ下はばっさり切ってくるからまだ清々しいんですけどね。

 

「一色さん、残念だけど比企谷君はあなたの下僕ではないわ。…奉仕部の下僕よ」

「雪ノ下、それフォローのつもり?」

 

 

 

 

 

 

 

「今日はもう終わりにしましょうか」

 

雪ノ下が分厚い本を閉じ、活動終了を告げる。

みんないそいそと帰り支度を始める。

 

外はまだ雨が降り続けていて、止む気配はない。

ただ降り続ける雨はそれはそれで落ち着きもするが。

 

 

 

最近の奉仕部は賑やかで楽しい。

この空間を楽しんでいる自分は変わったのだろうか。

 

まあ変えてくれたのはこいつらなんだけどな。

ここにいられる間は大切にしようと思う。

 

「お兄ちゃん、帰りにスーパー寄ってこ。夕飯のお買い物したいし」

「ああ、そうだな。MAXコーヒーも買いたいしな」

 

帰ってMAXコーヒーでも飲みながらぼちぼち勉強しますかね。

 

 

 




やっぱり5人いると書きづらいです。
どうしても会話文が増えてしまいます。
僕の文章力の無さも原因ですが。


ご意見ご感想等お待ちしております。
でわでわ〜


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比企谷八幡はあの時を思い出す。

更新だいぶ遅れてすみません。
どう書いていいかわからなくなってしまって。

しかもなんか一瞬日間ランキングで30位までいっていたのでびっくりでした。

そしてちょっとにやけちゃいました。


今回は由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行くお話です。



梅雨が明け、気が付けば6月半ば。

なんだかんだ奉仕部で過ごしてもう1年は経っている。

 

1年前の今頃だと、由比ヶ浜の誕生日で雪ノ下とプレゼントを買いに行ったんだったな。小町もいたけどなんか途中でフェイドアウトしたし。

 

今年はどうするのかね?

とりあえず雪ノ下をひとりでプレゼントを選ばせたらどうなることやら。

 

今回はプレゼントで工具セットはないと思うが。

 

 

 

リビングに行きコーヒーを淹れる。

途中で小町も来たのでさっきの件を聞いてみようか。

 

「小町、お前もコーヒー飲むか?」

「小町も飲みたい。今日は砂糖無しでね」

「あいよ」

 

小町はソファーでだらだらしながらテレビを見ている。

おもむろにメガネを取り出し、かけて俺の方を向いた。

 

「不愉快です」

 

なんか俺の妹が妖夢に取り憑かれているんだが、どうしましょうかね。

 

「お兄ちゃん、小町がボケたらちゃんとつっこんでくれないと。…なんか恥ずかしいじゃん」

「不愉快です」

 

そしてメガネが似合う小町はやはり可愛い。

しかもちゃんと赤いメガネだし。

 

「冷めると不愉快だからさっさと飲めよ。…それと、由比ヶ浜の誕生日なんだが…」

「お兄ちゃんがちゃんと覚えてたなんて…明日辺りで虚ろな影が千葉にやって来るかもしれない」

 

虚ろな影を台風みたいな扱いすんのはやめようね。

 

「またプレゼント買いに行くのか?」

「そうだよ。雪乃さんといろは先輩にはもう声かけてあるから。というわけで、明日買いに行くよ」

「なんで俺には声かけてないの?」

「ごみぃちゃんは予定ないから当日連行した方が早いと思って」

 

なんでみんな俺の予定を聞いてくれないの?

まあ暇だけどさ。

と、戸塚は来るのかな。

 

「他にはいないのか?」

「そうだね。だから明日は小町とごみぃちゃんと、雪乃さんといろは先輩の4人だよ」

「…そうか」

「戸塚先輩は部活今忙しくて多分無理だって」

 

流石小町。お見通しだな。

そうか、戸塚来ないのか。明日行くのやめちゃおうかな。

 

「逃がさないからね」

 

俺の妹がエスパーなのは間違っている。

 

 

 

 

 

小町に引きずられてやってきたのは去年と同じららぽーとである。

またこんなところに来るとはな…

既に雪ノ下は来ていた。一色はまだのようだが。

 

「雪乃さんやっはろー」

「うす」

「こんにちは、小町さん、比企谷君」

「いやぁ1年ぶりですねー。雪乃さんとまたここに来るの」

 

前と違うのは一色が加わることくらいだろうか。

 

「そうね。…私もここに来ること自体が久しぶりだから迷ってしまいそうだわ」

「前に動物見に来たときも迷ってたな」

 

雪ノ下方向オンチだからな。

でもそういうところはちょっと可愛いなと思ってしまう。

なんか迷ってきょとんとしてそう。

 

「もし迷ったら小町かお兄ちゃんに連絡してくれればいいですから」

「そうね。そうするわ。…と言っても比企谷君の連絡先は知らないのだけど」

「そういやそうだな」

 

なんだかんだ雪ノ下の連絡先だけ1年以上知らないままなんだよな。

まあべつに今までそれで困った事もないから別にいいんだが。

 

「もしものときの為にお兄ちゃんのも知っていてくれるとありがたいんですけど…」

「そ、そうね。比企谷君のだけ知らないというのもね。比企谷君、携帯を出しなさい」

 

なんでそんなもじもじしてんだよ。

なに?そんなに俺の連絡先知るのが嫌なの?

なんかちょっと傷つくんですけど。

 

「同じ名字があると間違ってしまいそうね。比企谷君は別にした方がいいかもしれない。

そうだ。バカ、ボケナス、八幡にしようかしら?」

「それただの悪口じゃねーか。それと、八幡は悪口じゃないから。

そしてなんで小町はニヤニヤしてんだよ」

 

なんか俺と雪ノ下見てさっきからニヤついてるだけど。

 

「別になんでもないよ〜。あ、いろは先輩来ましたよ」

 

パタパタ走ってくる一色。

…やっぱあざといんだよな。

まあ可愛いんだけどさ。

 

「すみませ〜んお待たせしましたー」

「こんにちは、一色さん」

「いろは先輩やっはろーです」

「やっと来たか。んじゃサクッと行ってサクッと帰ろうぜ」

 

まだプリキュア見てないんだよね。

 

「せんぱい、せっかく可愛い後輩が来たのに反応なしはないですよ」

「そうだよごみぃちゃん。ちゃんと褒めてあげないと」

「はいはい。そうだなぁ。髪型似合ってるぞー」

「っ!まさかせんぱいが気づくなんて。…ちょっとだけ髪切っただけなのに…やっぱりせんぱいあざといですよ…」

 

なんか一色がぶつぶつ言っているが気にしない。

さっさと帰りたい。

 

 

 

「じゃあまたいったん解散して後でこの広場に集合でいいか?」

「そうね。そうしましょう」

「でわでわまた後でで〜す」

 

 

みんなと別れてプレゼントを買いに行く。

さてと、なにを買いますかね?

とりあえず雑貨屋を歩いているがなにを買えばいいのか。

 

身に付ける系は重い。

高いやつもダメ。

 

やはりプレゼントとはとても面倒である。

奉仕部に入る前は小町にしかプレゼントしていなかったから、今みたいに何回も悩まなくて済んだのだが。

 

ふとぬいぐるみコーナーに目をやると猫ノ下がいた。

なにを見ていたかは言うまでもない。

 

 

「猫ノ下、由比ヶ浜は猫苦手だぞ」

「あら比企谷君。そんなことはわかっているわ。ただ少し興味があっただけよ」

 

猫ノ下って言ったのにスルーされちゃったんですけど。

多分あれだな。猫ノ下ってあだ名が何気に気に入っちゃったんだろうな。

 

ぬいぐるみの中に見たことのあるようなイヌがいた。

なんかとても由比ヶ浜の飼っているイヌのサブレに似ているのだ。

そのサブレっぽいぬいぐるみを手に取った。

 

「俺はこれにしようかな、プレゼント」

「このイヌ、なんか似てるわね…」

 

こいつもしかしてぬいぐるみもダメなのか?

なんかちょっと可愛いんですけど。

試しにちょっといじめてやろう。いつもいじめられてるし。

 

「これ、可愛くないか?ほれ」

 

わざと雪ノ下の目の前に出すととても嫌そうな顔をした。

やばい、ハマりそう。

嫌がる雪ノ下、なかなかいいな。

 

おっと、そろそろやめないと後が怖い。

 

「んじゃそろそろ行くわ。プレゼントも決まったし」

「ええ、また後で。…はぁ

…バカ、ボケナス、八幡…」

 

 

 

 

 

プレゼントを買い終え、先ほどの広場のミスドに入ると一色が既に美味しそうにドーナツを頬張っていた。

 

こいつほんとスイーツとかそういうの好きだよな。

 

「ここいいか?」

「どうぞ」

「一色はもうプレゼント買ったのか?」

「はい。今はみんなが来るまで暇つぶしです。せんぱいもですよね」

 

まあなと言いつつ俺もオールドファッションを頬張る。

やはりドーナツはオールドファッションに限る。

 

ふとなにかの視線を感じる。

 

「じー…」

 

目の前から視線を感じる。

こいつまだ食い足りないのか?

 

「…食うか?」

「はい。頂きます」

 

そういうと一色は小さな口を開けた。

 

「せんぱい、あーんしてください」

「なんでだよ」

 

恥ずかし過ぎるだろ。

 

「いいじゃないですか。ほら」

 

仕方がないので俺のオールドファッションを千切って一色の口へ近づける。

 

「はむっ」

 

勢いよく食らいついた一色の唇が少しだけ指に触れた。

 

「美味しいですね。私も今度からオールドファッションも頼むことにします」

「お、おう、そうか。気に入ったのなら良かった」

「せんぱい、もしかして私の唇が当たってちょっと緊張してます?」

「別に、そんなんじゃねーよ」

 

ただちょっとあの時一色が俺の頬にしたキスを思い出しただけだ。

 

本当に、あれに深い意味はないのだろうか。

目の前の一色はニコニコしていて、その意味はわからない。




疲れました。

非常に眠たいです。
これからまた仕事をしないといけないと思うと辛いです。
不愉快です。


もう寝ます。
そしてご意見・ご感想頂けたら幸いです。

でわでわ。


PS
ただいまアンケートを実施しております。
内容はこの作品の中でどの話が1番良かったか、どの話のいろはが1番可愛かったか、など。

またご要望なども受け付けおります。
僕のできる範囲でですが頑張っていきたいと思います。

アンケートご協力お願いします。

今後の参考にしたいので。
でわでわ。


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そして奉仕部は。

更新遅れてすみません。

ネタが浮かばなくて大変です。

由比ヶ浜の誕生日会の様子は今回ほとんどありません。
ドラマCDを聞いてなんとか書こうととは思ったのですが無理でした。

ちょっとシリアスになります。




退屈な授業が終わり、奉仕部へと向かう。

カラオケに行く前に一度奉仕部へ集まることになった。

 

カラオケに集合でもいいんじゃないかとは思うのだが、みんなが集まるのに時間がかかるとのことだ。

 

 

奉仕部のドアを開けようとするも開かなかった。

いつもは雪ノ下が一番に来ていて、ドアは空いているはずなのに。

 

イタズラでしめられていると思い、中の人の気配を探すも気配は感じられなかった。多分。

 

奉仕部の前で待っていると雪ノ下が鍵を持ってやって来た。

 

「ごめんなさい。今開けるわ」

 

雪ノ下の様子がどこかおかしい。

なにかあったのだろうか。

 

「雪ノ下、なんかあったのか?」

「いえ、ただ今日も死んだ目を見る事になると思うと、ね」

「そのちょっといい笑顔やめろ」

 

なんだよ。心配して損しちゃったじゃんかよ。

 

前の俺ならそんな事を聞いたりしなかっただろうな。

いや、変わったのは俺たちの関係なのかもしれない。

 

「中に入りましょう。紅茶を入れるわ。…由比ヶ浜さんの誕生日会が終わった後、話すわ」

 

紅茶を差し出す雪ノ下の顔は、どこか悲しそうな表情だった。

 

 

 

 

 

「すみませーん。遅くなりました」

「やっはろーです」

 

雪ノ下とふたりで紅茶を飲んでいると小町と一色がやって来た。

 

「こんにちは小町さん、一色さん」

「おう」

「いやぁ、生徒会の仕事がちょっとあったんですけど思ったより早く終わってしまって。これならカラオケ集合でもよかったですね」

 

まあ仕事が早く終わるに越した事はない。

なんなら仕事なんてしたくない。

だから働きたくない。

 

社畜は哀れである。

 

だから俺は働かない。

大学でもだらだらしてやる。

 

「せんぱいは相変わらず目が死んでてキモイですね」

「そのちょっといい笑顔やめろ。お前も雪ノ下みたいになってきてるぞ」

 

さらっと人を貶して笑顔って酷くない?酷いよね?

しかもなかなかの笑顔。

「え?私も雪ノ下先輩みたいに美少女ってことですか?恥ずかしいですね。

っは‼︎もしかしてそうやってまた私を口説こうとしてますか⁉︎妹さんが居る前でくどかれるとはちょっと恥ずかしいのでふたりだけのときにして下さいごめんなさい」

「…何回目だよ振られるの」

 

理不尽すぎるでしょ。せめて告白してから振られたいまである。まあ告白なんてしないけどね。

 

「…ごみぃちゃん、よく聞いて。全然断ってないから。むしろ逆だから…」

「比企谷君が振られるのはどうでもいいのだけれど、紅茶、冷めるわよ」

 

雪ノ下は傷心の俺よりも紅茶の方が気になるらしい。

ちょ、ちょっとは慰めてもいいんじゃないでしょうか?

 

「やっはろー」

「こんにちは由比ヶ浜さん」

 

やっと由比ヶ浜が来ましたよ。

由比ヶ浜が三浦たちとおしゃべりしてる間に俺がどれだけいじめられたと思ってるんだ。

 

「ではそろそろ行きましょうか」

「うん!」

「…暑苦しい」

 

由比ヶ浜は嬉しそうに雪ノ下にくっついている。

嫌がる割には拒絶しない。

というかほんとは嫌でもないんじゃないか?

 

 

 

 

「…いろは先輩も大変ですね」

「わかってくれる?小町ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

カラオケに行く途中、一番大事なことに気付いた。

 

「なあ、今日は戸塚来ないのか?」

「さいちゃん部活が忙しいんだって。最後の大会近いし、仕方ないよね」

 

…なんだと、と、とつ、と、戸塚がこない、だと。

なんて日だ!せっかくの誕生日なのに…

 

いや、俺の誕生日じゃないけど。

 

 

 

 

 

 

カラオケに着き、早速誕生日のお祝いをすることになった。

 

「結衣さんお誕生日おめでとうございまーす‼︎

イエーイドンドンパフパフ」

 

「ありがとう!」

 

由比ヶ浜は嬉しそうに笑っている。

1年前にも見た笑顔。

 

俺たちは、これからどうなるのか。

俺たちは、いつまで一緒に居られるのだろうか。

 

「でわでわ早速ーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん!楽しかった。みんな今日はありがとね」

「いえいえ、小町たちも今日は楽しかったです」

 

気がつくと誕生日会は終わっていた。

去年と同じように最後は結局歌っていた。

 

「そろそろ帰りましょうか」

「そうだね。明日も学校だしね」

 

去年はこの後更にゲーセンに行って余計に遅くなったが、今回は誕生日会を始めるのが遅くなったため、遊ぶ流れはなくなったようだ。

 

それはそれで早く帰れるからいいのだが、結局この後話があるのだろう。

 

「比企谷君、由比ヶ浜さん、この後少しいいかしら?」

「…うん」

「ああ。…小町は先に帰っててくれ。遅くなるようなら連絡する」

 

由比ヶ浜も、雪ノ下の顔を見てなんとなく察したのだろう。

いつかのバレンタインの日のような顔をしている。

 

「わかった」

「じゃあ私もそろそろ帰りますね。でわでわまた明日です」

 

なんとなく、ふたりに申し訳ないような気持ちになる。

 

でも、おそらくこれは俺たち3人の事なのだ。

 

「近くに喫茶店があるからそこで話しましょう」

 

 

 

 

 

喫茶店に入り紅茶を注文し沈黙。

俺も由比ヶ浜も、雪ノ下から口を開くのを待っている。

 

辺りはもう暗く、20時を過ぎようとしている。

 

目の前に置かれた紅茶を手に取り口へと運ぶ雪ノ下。

 

静かに紅茶をテーブルに置き話し始めた。

 

「部室の鍵を取りに行ったとき、平塚先生と話した事なのだけれど…奉仕部は、今学期で活動を終えようという話になっているわ。もちろん、まだ決定はしていないわ。

ふたりとも、よく話すようにとのことよ」

 

「今学期ってことは、夏休みまでってこと?」

「そうよ、由比ヶ浜さん」

 

理由としてはやはり進路関係だろう。

それに、早い人たちはもう今年には合格をもらえるのだ。

OA入試?だかなんだかよく知らんが一般なんかよりも全然早い。

 

夏休みを面接の練習に当てる必要もあるだろう。

 

 

もう俺たちは受験生なのだ。

 

「そもそも、この奉仕部の必要性自体はそこまでないのよ。私が奉仕活動をするための部活だった。そこへ捻くれた目の死んでいる比企谷君が強制入部させられて、そして由比ヶ浜さんが加わった」

 

なんか真面目な感じで貶されちゃったんですけど、俺。

しかも突っ込んで良さそうな雰囲気じゃないから余計困る。

 

「で、でも、奉仕部はテニス部とかサッカー部とかみたいに最後の大会とかないじゃん。だったらもうちょっと続いてもいいんじゃ」

「だからよ。いつまでもこのままじゃ、だめなのよ。

…もう、受験生なのだし。この話はまた明日にしましょう。今日はもう、帰りましょう」

 

熱々だった紅茶からは、伸びていたはずの湯気がもう消えてしまっていた。

 

 




夜中で仕上げようとしたら寝落ちしてました。
よくあるよねー。

それあるー。

次回は多分いろはす視点です。

でわでわ。


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結局、一色いろはは。

21話読み返していて気づいたのですが本来は、腐った目のはずが死んだ目になっていました。

死んだ目になったのは僕なのですが…。


この間同僚に言われました。
「お前、目ぇ死んどるぞ」




働きたくないなぁ。


雪ノ下先輩と結衣先輩とせんぱいは3人で、どこかへ行ってしまった。

 

私と小町ちゃんは暗くなった道をとほとほ歩く。

 

やっぱり私は奉仕部ではないんだ。

私の気持ちがあの時から変わっても、学年が上がっても、結局それは変わらない。

 

唐突に小町ちゃんが口を開く。

 

「いろは先輩、小町たちもどこかでちょっとだけお話しません?」

 

私を気遣ってくれているのだろうか。

それとも小町ちゃんもどこか似た想いがあるのだろうか。

 

「じゃあ私のお気に入りのお店でしよう。ここから割と近いんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お店に入り紅茶を注文する。

ふたりで窓際の席に座っている。

 

窓からは、月明かりに照らされたアザレアが咲いている。

 

「お兄ちゃんね、奉仕部に入ってから変わったんですよ。昔は今よりもずっと、腐っててバカでした」

 

アザレアを眺める小町ちゃんはなんだか色っぽい。

小町ちゃんも、小町ちゃんなりの立ち位置でせんぱいをずっと見てきたのだろう。

 

「小町ちゃん、ブラコンだね」

「そうかもしれませんね。…」

 

紅茶を手に取りブラコンを認める小町ちゃん。

やっぱり兄妹だなぁ。

 

「小町ちゃん、せんぱいのこと好き?」

 

なんで、私はそんなことを聞いているのだろう。

自分でもよくわかっていない。

 

「好きですよ。…いろは先輩はどうですか?」

「好きだよ。目と根性は腐ってるし、鈍感だし、露骨に嫌そうな顔するし、たまににやにやするしキモいけど、好きだな」

 

こんなことをせんぱいの妹に話すことになるとは。

けど、誰にも言わなかった気持ち。

誰にも言えなかった気持ち。

 

どうしてだろうか。胸の奥からせり上がってくるこの気持ち。

泣きたいけど、泣きたくない。

 

やっぱりどこか、ずっと苦しかったのかな。

 

「いろは先輩、お兄ちゃんのことが好きなら、もっと頑張らないといけません。

…お兄ちゃんは、大切ものの掴み方はわからないけど、離し方は知ってるんだよ。なぜか」

 

紅茶の入っていたカップには、薄い三日月が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日は生徒会の仕事溜まっていて、奉仕部へは行けなかった。

 

副会長さんも書記ちゃんももう帰ってしまって私ひとり。

小町ちゃんは今日いないし。

私もせんぱいと同じぼっちですね。

 

さっき買ったはずのマックスコーヒーからは雫が垂れていて、冷たくなくなってしまった。

 

唐突にドアが開く。

 

「失礼するぞ」

「平塚先生、ノック出来ないと男の子にモテないですよ」

 

くわえ煙草で登場って男子的にどうなんですかね?

 

「そんなことはどうでも…どうでも…すまん直すよう精進する」

 

なんかちょっと落ち込んでる…

やばい、地雷踏んだ。

いつもはちょっと怒るくらいなのに。

 

またなんかあったんだろうな。

 

「今日来たのは奉仕部についてだ」

 

さっきとは打って変わって真剣な表情。

 

「昨日雪ノ下と話したんだが、奉仕部は今学期をもって活動を終了しようという話になっている。もちろん、まだ決定ではない」

 

多分昨日3人で話したことはそれだったんだろうな。

 

「どうしてそれを私にするんですか?」

 

私は奉仕部ではないのに。

 

「…どうしてかな。ただ君にとっても大事なものだろうと思ったのでな」

「…先生は一番長くあの3人を見てきたんですよね」

 

私が奉仕部を知る前から。

 

「ああ。雪ノ下も比企谷も、だいぶ変わった。初めはふたりとも馴れ合いを嫌っていた」

 

せんぱいに関しては嫌われていたんだと思いますけどね。

 

「君が初めて依頼したときは一番大変だったな」

「まあちょっと空気はよくなかったですよね」

 

なんか懐かしいな。まだ1年も経ってないんですけどね。

 

「いつか比企谷にも言ったが、私はいつまでもお前たちを見てやれん。だから、私が見ていられるうちに、自分の足で立って歩けるようになってほしい。無論君もだ、一色」

 

先生、こういう時はカッコいいんですけどね。

先生が男なら私惚れちゃってたかもしれないまであります。

 

「先生、生徒会長一色いろはを舐めないで下さい」

 

平塚先生やせんぱいに手を引かれなくたって歩きます。

 

まあせんぱいには手を引かれたいですけどね♪

 

「…頼もしいな」

 

平塚先生の顔は、巣立ち行く我が子を見送る親のような顔をしていた。

 

 

 




最近不調です。

話が浮かばないし、なんか噛み合ってない文章とかあるし。

すみません。今回はちょっと少なめです。


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奉仕部は変わらない。

久々の更新。
皆さんお待たせしてすみません。
待っていてくれているかはわからないですけど…

更新していない間に感想をいただいて、お身体に気をつけてください。などの温かな言葉をかけて下さった方々、ありがとうございます。

こんなダメでアホで目が死んでいるダメなぼっちの僕にそんな温かな言葉をかけてくれるなんて。

これからもぼちぼち更新していきたいです。
頑張ります。


授業が終わり奉仕部へ向かう。

その足取りはどことなく軽い。

 

昨日は生徒会の仕事で行けなかったんですから今日は奉仕部でだらだらしちゃいます。

 

雪ノ下先輩の淹れた紅茶を飲んで結衣先輩たちとお話して、せんぱいをいじめないと。

 

せんぱいをいじめるのは楽しいですから。

雪ノ下先輩もよくいじめてますけど、楽しそうですし。

 

 

 

奉仕部のドアをノックする。

中から雪ノ下先輩の声が聞こえてきた。

 

私はなるべく静かにドアを開けて中に入った。

 

「お疲れ様でーす!」

「こんにちは、一色さん」

「いろはちゃんやっはろー」

「おう」

 

雪ノ下先輩は相変わらず綺麗な佇まい。

結衣先輩は相変わらず元気で可愛い。

せんぱいは相変わらず素っ気ないあいさつ。

 

いつもとそんなに変わっていない。

むしろせんぱいにはもうちょっと変わってほしいまであります。

 

こんなに可愛い後輩が来たんですからちょっとくらい嬉しそうな顔してもいいと思うんですけど。

 

「一色さん、紅茶はいかがかしら?」

「ありがとうございます。昨日来れなくて雪ノ下先輩の紅茶が恋しかったところなんですよ」

 

まあひとりで飲むMAXコーヒーもそれはそれでいいんですけどね。

 

「そこまで言ってくれるのは嬉しいわ。…あれなんて、いつも素っ気ないもの。由比ヶ浜さんは喜んでくれるけど」

 

雪ノ下先輩はあれをチラッと見ながらわざとそんなことを言った。

…なんか妻の夫に対する愚痴みたいな言い方。

新婚を過ぎて落ち着いてきた夫婦みたいな感じでなんか嫉妬します。

 

雪ノ下先輩にはせんぱいを渡せません。

でも紅茶は渡してもらいます。

えへへっ。

 

「あれってのは誰のことなんですかね?…別にそんな素っ気ない態度は取ってないだろ」

「由比ヶ浜さん、あれがなにか戯言を言っているのだけど、どうすればいいのかしら?」

 

なんか雪ノ下先輩、キャラ変わってない?

まあせんぱいをいじめるときの雪ノ下先輩は面白いですけど。

 

「まあヒッキーはダメでアホで目が腐ってて捻くれてるからどうしようもないよ」

 

結衣先輩はやれやれと言った感じでせんぱいを貶した。

結衣先輩もちょくちょく貶しますよね。

 

「由比ヶ浜、おまえにアホと言われるほどアホじゃない。それ以外は否定しないが」

 

その他は否定しないんですね。流石の捻くれぼっち。

 

「私だって総武高受かったんだからね!」

「由比ヶ浜さんがなぜ受かったのか、もはや総武高校の七不思議のひとつね」

 

神妙な顔でやんわりと酷いことを言う雪ノ下先輩。

このふたりも仲良いですよね。

 

「ゆきのん酷すぎ!」

「結衣先輩裏口入学疑惑です。生徒会としては見逃せないですね」

「生徒会に目を付けられた!っていうかそんなことしてないし!」

 

結衣先輩をいじるのも楽しいですね。

 

「由比ヶ浜、もう諦めろ。自首した方がいい、楽になるぞ」

「そうよ由比ヶ浜さん。今ならまだ間に合うわ」

「結衣先輩、話は生徒会室でお聞きしますのでご同行願います」

 

結衣先輩完全アウェー。

 

「いろはちゃん、刑事みたいなこと言ってるし…」

「あ、由比ヶ浜が拗ねた…」

 

頬を小さく膨らませて廊下の方を見る結衣先輩。

なんだろう、可愛い。

こ、これが天然なのか⁉︎

 

「由比ヶ浜さん、これは全部比企谷君が悪いのよ」

「さらっと俺に罪を押し付けるやめてもらえますかね?」

「せんぱい、責任とってもらわないとですね」

 

流石せんぱい。簡単にアウェーになりますね。

 

「…ヒッキーのバカ、ボケナス、八幡」

 

せんぱいを睨みつけながら罵倒する結衣先輩。

 

「全部俺かよ…あと、八幡は悪口じゃねー。雪ノ下もいらんことを吹き込むな」

 

いいな。私も今度せんぱいをいじめるときは使おう。

さらっと八幡って呼べるし。

 

「バカでボケナスの八幡のことはどうでもいいのだけど、小町さんは今日はどうしたのかしら?」

 

雪ノ下先輩まで八幡って…

羨ましいです。

 

「雪ノ下、お前何気にそれ気に入ってるよな…」

 

何度か言われてるようですね。むむっ。

せんぱいももう抵抗するの疲れたようです。

 

「そういえば小町ちゃん、今日来てないよね」

「今日は一緒帰りながら夕飯の買い物するって言ってたのになぁ」

「せんぱいってほんとシスコンですよね。…これだからバカでボケナスの八幡は…」

 

八幡って言えた♪

ちょっとドキドキした。

 

「お前まで言うのかよ…」

 

せんぱいをいじめるのが楽しすぎてやばい。

私が楽しんでいるとせんぱいのケータイが震えるのが聞こえてきた。

 

「…小町からだ」

 

小町ちゃんからのメールを読むせんぱいの頬は少しだけ上がっている。

 

「せんぱい、なに小町ちゃんからのメール読んでニヤニヤしているんですか?」

「いや、別にしてないだろ」

「由比ヶ浜さん、通報してもらえるかしら?今度は間違えないでね」

「うん!えっと、ゼロイチニーゼロっと」

「由比ヶ浜さん、それはフリーダイヤルよ…」

 

結衣先輩は面白いですね。

でももしものときは大変そう。

 

「せんぱい、小町ちゃんからのメールはなんだったんですか?」

 

それとなく机に肘をついてせんぱいに近づく。

私の顔が近くにあることに気が付いてちょっとビックリしてましたけど。

 

「お前みたいにあざといメールだよ」

 

せんぱいに見せてもらった。

 

『お兄ちゃん、奉仕部行けなくてごめんね☆

さっきクラスの子達にカラオケ誘われちゃって…

小町がいないとお兄ちゃん寂しがると思うけど我慢してね☆

っあ。今の小町的にちょーポイント高い♪

 

それと、夕飯の買い物は小町が後でしとくから大丈夫だよ。楽しみにしててね!

 

お兄ちゃんの大好きな小町より。テヘペロ☆』

 

…。

 

「せんぱいはなんて返信したんですか?」

「わかった。ってした」

「素っ気な!」

 

小町ちゃんはあざとすぎ。

 

「これくらいがいいんだよ。素っ気ない方が愛を感じるんだと」

「それは歪んだ兄妹愛ね」

「ヒッキーも小町ちゃんも大概変だよね…」

 

小町ちゃんが羨ましいな。

 

 

 

 

 

 

部活が終わって、今日は奉仕部が解散となった。

雰囲気はいつもと変わらなかった。

昨日もなにか話していたんだろうな。

 

せんぱいたちは、残された時間を大切に過ごそうとしていた。

多分、わかっているのだろ。いつまでもここにいてはいけないと。

 

 




なんかこの間のちょっとしたシリアスな感じがあんまりなかった気がします。
最後にちょっと足しましたけど、大丈夫ですかね?


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比企谷八幡は逃げてはいけない。

今回は小町と八幡しか出ません。
内容としては前回の続きみたいな感じになります。

それにしても、働くって嫌ですね。
正社員って言葉がこんなに重いとは思っていなかったです。
まだお酒も飲めないような歳なのに、責任と疲労が増える。

沖縄に帰りて〜


目が覚めるとリビングは薄暗かった。

帰ってきたときはまだ紅い光が差し込んでいたが、今はもう月明かりすら差していない。

 

申し訳程度に豆電球が灯りをともしているだけだ。

 

そういえば左肩辺りが重い。

そして腕には小町の腕が絡み付いている。

 

小町の髪からはまだ微かにシャンプーの香りがする。

 

空いている手で小町の頭をそっと撫でる。

 

改めて思うが、可愛いな小町。

可愛い過ぎるぜこのやろー。

 

小町のアホ毛をツンツンと突いてみる。

なんだこれ面白いな。跳ね返ってくる。

俺が遊んでいると小町が起きてしまった。

 

「ぅ〜ん。…お兄ちゃん、ぉはょ」

「おう」

 

もうちょっと寝てても良かったんだけどな。

小町にラリホー唱えたら効くかな?

 

「お兄ちゃん、今、何時…」

 

変わらず俺の腕に巻きついている。

朝起きてからの眠ろうとするのと起き出さないといけないという葛藤している最中の小町。

 

これはこれでなかなか可愛いから困る。

 

「20時半くらいだ」

 

俺も結構眠っていたらしい。

 

「もうそんな時間かぁ。…お兄ちゃんご飯まだだよね?」

「そういえばまだ食べてないな」

 

小町の帰りを待っていてそのままだったからな。

まあ今のところお腹は空いてはいないが、これでは夜中に空腹で目が覚めてしまうだろう。

 

「じゃあなんか作るね。小町はカラオケで食べちゃったからお兄ちゃんのご飯だけだけど」

 

絡ませていた腕を解き、立ち上がってエプロンを巻き始める小町。

 

ああ、小町の温もりが…。

 

「悪いな」

「ていうかごめんね。急にカラオケ行っちゃって」

「いや、別にいいよ。誘われたらとりあえず行った方がいいだろ」

 

人との関わりとは面倒なものだ。

どうでもいいやつとも仲良くしないといけない。

上位カーストのやつらの会話とか、もう聞くに堪えん。

やんわり断ったとしても、裏で何を言われているかわからない。

「そっかぁ、また今度ね〜」とか言いながら、

『アイツ付き合い悪過ぎでしょ。マジありえないんだけど』

とか思っているのだ。

聞いているだけで気分が悪くなる。

 

まあその点ぼっちである俺は、そもそも人に誘われないからそんな悩みはない。楽でいいよな、ぼっちって。

 

…なんか、自分で言ってて悲しくなってきた。

 

俺が独り悲しくなっていると、小町は既に俺の夕飯を作り終えていた。

 

…早いな。3分クッキングより早いんじゃないか?

っていうかあれ、3分じゃなくね?

まあそもそもそんなに見たことないからよく知らないけど。

 

「おっ待たせー!小町特製loveloveチャーハンだよ☆」

「おう。サンキューな」

 

真っ白なお皿の上にはハートの形のチャーハンが乗せられている。

 

なんかすごいあざとかったけど可愛いから許す。

可愛いは正義だ。これ即ち小町は正義。

小町可愛い。

 

「さあさあどうぞ召し上がれ」

「頂きます」

 

テーブルの向かいでニコニコしながら俺を見る小町。

なんか食べづらい。

 

とりあえず一口。

 

咀嚼するたび美味しさが出てくる。

ブラックペッパーが効いていて食欲が増す。

速攻作ったとは思えない。

 

「美味いな…」

「えへへっ」

 

ニヤける小町。

なんだよ可愛いな。

 

「お兄ちゃん」

 

頬杖をついて俺を見る小町

 

「なんだ?」

「これからどうなるの?奉仕部」

「…別に、普通に引退だ」

 

もう俺らは受験生だ。

いつまでも、あそこに居てはいけない。

あそこは、居心地が良すぎる。いつまでも浸かっていたいと思ってしまう。

 

「いつ終わるの?」

 

小町の声は、どこか寂しそうだった。

 

「1学期終わったらだな」

 

それは、後1ヶ月ほどで終わるということだ。

 

夏休みが、初めて待ち遠しく感じられなかった。

 

「そっか…」

 

小町もそれ以降口を閉ざす。

小町も去年は受験生だったのだ、高校三年生の大変さ、と言えばいいのか、それを察してはいるようだ。

 

「じゃあ、仕方ないね」

 

その一言は、なんだかひどく罪悪感に苛まれた。

 

奉仕部は俺たち3人だけが大切に思っているだけではない。小町も、一色だって大切に思ってくれているだろう。

 

そのことが嬉しくて、そして申し訳なかった。

 

残ったチャーハンを一気に掻き込む。

味はしなかった。

 

「ごちそうさまでした」

「うん」

 

流しでお皿を洗う小町の後ろ姿は先ほどとは全く別になっていた。

 

「まああれだな、奉仕部がなくなっても別に大丈夫だろ。由比ヶ浜がことあるごとにパーティーとかそういうのしたがるだろうし、一色だって、何かしらの企画とか立ててくれるだろうし、むしろあれだな。小町にも一色にも奉仕部離れしてもらわないといけないまである」

「そうだよね。奉仕部がなくなっても終わりじゃないもんね」

 

そうだ。別に終わりじゃない。

これからだってその関係は続いていく。

 

「んじゃ風呂入ってくるわ」

「うん。お兄ちゃん早くしてね。小町も入るんだから」

「はいはい」

 

 

 

 

 

風呂に入ってさっぱりしたあとはベットでだらだらしていた。横になりゲームをして、本を読んだ。

 

夕方に眠ってしまったせいか、眠気はこない。

時計を見ると24時を過ぎていた。

 

とりあえず電気を消して眠ろうと試みる。

まあそのうち寝ていることだろう。

 

目を閉じてじっとしていると、ドアが静かに開くのがわかった。

 

「お兄ちゃん」

「…なんだ?」

 

小町が夜中に来るなんて珍しい。

 

「今日だけ一緒に寝ていい?」

「ああ。別に構わんぞ」

 

そう言うと俺のベットにもそもそと入り込む小町。

なんとなくお互い背を向けて眠る。

小町の背中は暖かい。

 

「お兄ちゃんはさ、雪乃さんと結衣さんといろは先輩のこと、どう思ってるの?」

「…どうって言われてもな、どうだろう。友達…ではないしな、まあ一色はあざとい後輩だな。雪ノ下と由比ヶ浜はどうなんだろうな」

 

簡単には言い表せないのだ。あのふたりとの関係は。

ただ、大事に思っているのは確かだ。

 

強いて言うなら、1番本物に近い存在、だろうか。

 

「お兄ちゃん…逃げないでね」

 

小町はその後静かになった。

 

逃げないでね。

 

その意味が俺にはわからなかった。

 

 

 

 




自分で書いていて思ったのですが、なんか終わりが近づいている気がします。

自分はこの後どうするのでしょうか?

ご意見・感想お待ちしております。
次は多分いろはす出るかな、うん。

お楽しみに。


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比企谷八幡は悩み考える。

更新遅れてすみません。
もう少し更新遅れて続けるかもです。


授業が終わり、部活へと向おうと教室を出て立ち止まり、思い出した。

五時限目の国語の授業の後に平塚先生に呼ばれたのだ。

 

「放課後職員室に来るように」とだけで、内容はわからない。

俺がまた何かやらかしたというわけではないはずだ。心当たりはないし。

 

歩きながら考えていると、何ガハマかはわからないが近寄ってくるのがわかった。

後ろからバッグで叩かれ「なんで先行くし」と、もはや恒例になっている。

 

別に由比ヶ浜に叩かれるが気持ち良いとかそういうわけではない。

 

「ヒッキー、部室行くの?」

 

俺の横に並んで歩く由比ヶ浜。

由比ヶ浜を見ていると、昨日小町に言われたことが唐突に浮かぶ。

 

『逃げないでね』

 

何からだろうか。由比ヶ浜?雪ノ下?それとも奉仕部から?

 

「いや、平塚先生に呼ばれてな。…少し遅くなると雪ノ下に伝えといてくれ」

「ヒッキーまた何かやらかしたの?」

 

なんでそうなる…

俺はそんなに問題児じゃないだろ。少なくとも由比ヶ浜よりは頭とかいいし、ぼっちな俺は人にそんなに迷惑とかかけてないだろ。

ぼっちなのに迷惑かけるとかダメだろ。

 

「なんでそういう発想になるんですかね?」

「なんでだろ。ヒッキーだから?呼び出しと言えばヒッキーじゃん?なんとなく」

 

いやまあ中学にそんな奴いたけどさ。

そいつが呼ばれる度に、

「お前またなんかしたのかよ〜」とか言われてたな。

 

これは俺じゃないぞ。

俺の場合、反応無しか「え?比企谷?誰それ?」って感じだったからな。

あんなうざ絡みされたことないし。

 

「なんだよそれ…まあどんな内容かはわかる。この時期だしな」

 

進路調査表のことだ。さっきのホームルームで最終の進路調査表を渡されたのを思い出した。

 

まあこの時期になって急に進路変更をした生徒なんてのはそうそういないとは思うが、念には念をって奴だろう。

 

ってことはあれかな。

「この後に及んで専業主夫とは言わないだろうな」

とか釘でも刺すんだろうか。

 

どうしよう、そんなこと言われたら八幡困っちゃう。

 

「そっか。じゃあ、先に行ってるから。ちゃんと来てよ」

「サボるわけないだろ…終わったらすぐ行く」

「うん!」

 

雪ノ下の待つ部室へと向かう由比ヶ浜は楽しそうで、可愛かった。

 

 

 

 

 

職員室を覗いて探していると平塚先生と目が合った。特にドキドキはない。

 

平塚先生に応接室に入るよう言われて中に入った。

扉を閉めると平塚先生はいつものようにタバコを吸い始めた。煙を吐き出して数秒、平塚先生は口を開いた。

 

「比企谷、進路はどうするのかね?」

「特に前回書いた内容とあんまり変わりないですけど」

「…まあいい。今ここで先ほど渡した用紙に書いてくれ」

 

平塚先生はタバコを持っていない方でこめかみを押さえている。

雪ノ下の癖に似ていると思ったが、それを呑み込んだ。

今なにか言うとファーストブリットくらいそうだし。

 

バッグから進路調査表を出し、進路について書いた。

書き終えたものを見せると、平塚先生はため息をついた。

そんなに悪いとは思わないのだが。

 

「…第一志望、専業主夫。第二志望、私立文系。第三志望、バリスタ専門学校。……第二志望と第三志望の理由を聞こうか」

 

第一志望については触れられてもいない。

先生も疲れたんだろうな、うん。

 

「まあ私立文系は元々変わらないです。出来れば編集者になりたいなとは思っていますけど。専門学校についてはただ単に珈琲が好きだから興味がある、それだけです」

 

理由を話し終えると、平塚先生はもう一本吸いだし、何かを考えているようだ。

 

まあ今のは簡単な説明でしかない。

俺自身、バリスタ専門学校に行きたいのかはまだはっきりとはしていない。

 

「第二、第三のどちらかを選ぶかは君の自由だ」

「第一は?」

「却下だ」

 

コンマ1秒なく却下されしまい、もはや清々しい。

 

「比企谷」

「はい?」

 

これからまた長いお説教が始まるのだろう。耳栓でもあればなぁとどうでもいいことを考えていると平塚先生は立ち上がりもう一度俺の名前を呼んだ。

 

「比企谷、私は君が淹れる珈琲が飲んでみたいとは思うよ」

 

そう言うと平塚先生は応接室から出て行った。

 

決まっていたはずの俺の気持ちが傾いたのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

どうすればいいんだ。

自分はどうすればいい?何がしたい?

 

何もしたくない。だから専業主夫とかそんなことを言っているわけだし、なんなら専業主夫すら嫌だ。専業主夫だって家事をしないといけない。

 

 

自分が私立文系を目指す?いや、目指すというかただ単にそれが得意だからというだけで、消去法に過ぎない。

もし自分が理数系が得意ならその逆だろう。

 

編集者になりたいと思ったのは?

給料が高いから?自分が頑張ればなれそうだから?

 

 

専門学校に行きたいと思ったのは?

珈琲が好きだから?一番好きなのはMAXコーヒーだ。

そう言えば、戸塚にも平塚先生と似たようなことを言われた気がする。

 

 

どうすればいい…

 

 

あれこれ考えているといつの間にか部室の前だった。

部室の扉とは不思議なもので、頭の中のごちゃごちゃとしたものがスゥーっと消えていくような感覚になる。

 

扉を開けると紅茶の香りが漂ってきた。

 

 

 

 

 

「こんにちは比企谷君」

「ヒッキーおっそい!」

「せんぱい、こんにちはです」

「お兄ちゃんおかえり!」

 

いつもの奉仕部。

それがたまらなく心地いい。

 

「おう」

「紅茶、淹れるわね」

「サンキュな」

 

どうすれば、いいのか。わからないなら誰かに聞いてみるのもいいのかもしれない。

自分の答えがわからないなら、自分を知ってる、知ってくれている誰かに聞いてみてもいいかもしれない。

 

今まではそんな人は小町くらいしか居なかったが、こいつらになら、俺は聞けるかもしれない。

 

「せんぱい、ニヤついたり真剣な顔になったりして色々キモいです。…なにかあるなら聴きますよ。私たち」

 

普段はあざとい生徒会長一色いろはも頼りになりそうだ。

 

「…そうだな」

 

自分の椅子に座ると、雪ノ下はそっと湯呑みに入った紅茶を置いてくれた。

 




次回は八幡が相談する話です。
シリアスな感じにはならないとは思わないと思います。


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比企谷八幡がバリスタというのも案外悪くない。

今回少し少なめです。


誤字脱字が今回多いかもしれません。報告して頂ければ幸いです。

前回の続きです。でわでわどうそ。


「せんぱい!なんで私立文系が第一志望じゃないんですか?せんぱいは私立文系行って、編集者になるんですよ。そしたらぼっちなせんぱいと私が結婚してあげるのに」

 

先ほど平塚先生に見せた進路調査票をみんなに見せるなり一色がそんなことを言い出した。

 

一色怖いわ〜。お金さえあれば俺みたいなのとでも結婚するって言ってるんだから。

それが本気ではないことを祈る。

 

まあ一色は可愛いし、それはそれでいいかもしれない。

まあそんなわけはないのでどうでもいいのだが。

 

「第三志望がバリスタ専門学校…専業主夫よりは全然まともね」

「ヒッキーがバリスタかぁ。

…ちょっとかっこいいかも」

 

そんなに専業主夫はダメなのだろうか?むしろ何がダメなのかわからない。

そもそも、男が専業主夫になるということをゴミと考えるのは間違っていると思う。

 

「まあ小町的にも専業主夫よりはいいですよね。少なくともダメ男ではなくなりますし。あとは結婚相手が見つかってくれれば小町はもう安心だよ。お兄ちゃん」

「せんぱい、バリスタでもいいところで働いていれば結婚してあげてもいいですよ」

「お兄ちゃん!結婚相手が決まったね!小町はもう、思い残すことはないよ。うん」

 

いつから小町はお母さんみたいになったんだろうな。

そんなに心配なんですかね?別に俺はぼっちのままでも良いんだけど。

 

「なあ、専業主夫はダメなのか?」

「「「「絶対ない!」」」」

 

4人がシンクロする程だめらしい。

そうですよね。はぁ…。

 

「比企谷君、私的には私立文系に行って、編集者になる方がいいとは思うのだけど」

「ですよね雪ノ下先輩!ほらほら、編集者どうですか?今なら可愛い一色いろはもつけちゃいます☆」

「なんだよその『今なら更にプリンターもお付けします!』みたいな言い方は。しかもなんかあざといし」

 

ちょっと可愛かったけどさ。

その特典いいな。思わず編集者になるとか言いそうになっちゃうじゃんか。

 

「でもヒッキーがカウンターに立ってたらみんなお店からいなくなっちゃいそうだよね」

「そうね。比企谷君の目があまりにも腐っているから、出した珈琲が美味しくなさそうだもの」

 

酷すぎるでしょう。別に目が腐っても珈琲は美味しいでしょ、多分。

しかも由比ヶ浜もさらっと酷いし。

目が腐ってるだけで客に逃げられるって辛すぎるだろ。

 

そんなに俺の目はヤバイのか?

 

「まああれだな、お店では猫を飼って俺の腐った目をカバーしてもらおう」

「それなら安心ね。比企谷君」

 

雪ノ下は簡単だな。しかも小さく「猫…」って呟いてるし。今日も猫ノ下さんは健在ですね。

 

「ヒッキー、それじゃあたしがお店に入れないじゃん!」

「じゃあ犬…」

「比企谷君」

 

なんで由比ヶ浜からも雪ノ下からも睨まれないといけないんだ…。

 

 

 

なんか、こいつらに話したらなにかわかるかもしれないとか思ってた俺はなんなんだろうな。

まあ、こいつらとこんなやりとりをするのも悪くはないのだが。

 

「平塚先生はさっき、なんて言っていたのかしら?この調査票を見て」

「君が淹れる珈琲を飲んでみたいとは思う…みたいなことは言ってた」

「…そう。私も、比企谷君の淹れる珈琲なら飲んでも構わないとは思うわ。あまり珈琲は得意ではないけれど」

 

雪ノ下も、平塚先生と同じ顔をしている。

そんな顔を見ていると、なんだか俺もそれでいいのかもしれないと思ってしまう。

 

「あたしもヒッキーの淹れた珈琲飲みたいな。あ、あたし砂糖とミルク多めでね」

「せんぱいのことだからMAXコーヒー並みに甘いの出しそうですけど、飲んでみたいかもです」

「だってさ、お兄ちゃん」

 

前に読んだ小説の主人公の気持ちがなんとなくわかった気がした。

誰かのために淹れる一杯。それに込める気持ち。

 

ひとりだった俺にはその気持ちはよくわからなかったが、今ならわかる。

 

「そろそろ今日は活動を終わりにしましょうか。陽も落ちてきたことだし」

「そうだな。まあもうちょっと考えてみるわ。まあ今日はその、なんだ。ありがとな。お前らのおかげで少しだけ、すっきりしたわ」

 

まあ実際は編集者とバリスタの天秤が同じくらいの重さになっただけなのだが。

 

「またいつでもお話は聞きますよ。せんぱい」

「一色の場合は編集者になれっていう説得だろ」

 

 

 

 

 

廊下に出て歩くだけで少し汗ばんでくる。

いよいよ夏が来て、この部活も終わりを告げてしまう。

残り一ヶ月。大切に過ごそうと改めて思う。

 

 




感想などお待ちしております。


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たった一言で感動することもある。

なんか今回も少なめです。すみません。



大切にしていた一ヶ月は、最後になってしまった。

クラスのリア充達は夏休みだと浮かれつつ、見なければいけない現実に向き合わなければいけないと感じ始めている。

意識の高い連中は既に面接の練習を始め、夏休みで仕上げると意気込み、履歴書には何度も志望動機を書く。

鉛筆はシャーペンとは違うボールペンの感覚に、なぜか寂しさを感じる。

リア充でも意識が高いわけでもないやつは進路室で資料を漁り、教師達には急かされ嫌でも自分という人間と向き合わされる。

何がしたいかも何ができるかもわからない、そんな中で自分の決断をしないといけない。

きっとそれは何を選んだとしても後悔するのだろう。

 

俺は絶対に後悔なんてしたくない。だから足掻いて足掻いて、答えを出す。

 

 

 

 

 

「なんか、ほんとに終わりなんだね…」

 

修業式を終えて、校内どこか閑散としている。

グラウンドや体育館から響く声は最近小さくなっている。

奉仕部の部室からは、雪ノ下が持ち込んだ紅茶のセットとそれぞれのカップや湯呑みは無くなった。

たったそれだけなのに、酷く寂しい。

窓から差す夕陽は暖かく、その暖かさすらも惜しく感じる。

 

「…そうね」

 

雪ノ下も今日は本を読むことをしていない。

 

「ねぇ、そう言えば『千葉県横断お悩み相談メール』の確認、まだしてないよ」

「そう言えばそうね。もしかしたら、来ているかもしれないものね」

 

由比ヶ浜も雪ノ下も、なんとなくそれに縋っているように俺は見えた。

もしかしたらもう少しだけ、ここに居てもいい理由が見つかるかもしれない、そう思っているのだろうか。

 

「一件、来ているわ」

 

雪ノ下はぼつりとつぶやきマウスを進める。

由比ヶ浜は雪ノ下にくっ付き画面を見つめる。

 

「比企谷君もここに来てもらえるかしら…」

 

雪ノ下は優しく微笑んでいるが少しだけ、目が赤い気がする。

 

立ち上がり画面を見れる位置に立ち、最後のメールを見た。

相談メールの割には短く、相談メールの割には違う意味で重い。

 

『お疲れ様。』

 

それでいて、どうしようもなく暖かい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休みになり、奉仕部はなくなってしまった。

生徒会室に籠もりっきりの私にはやはりそれはショックだった。

わかっていたけど、やっぱりどうしようもなく寂しい。

別にせんぱい達が卒業した訳でもないし、会えなくなった訳じゃないけど、無性にせんぱいに会いたくなる。

けれど、せんぱい達はもう受験生、迷惑をかけてはいけない。

たまたま進路室に行く機会があって進路室に行ったことがある。

気がつくとせんぱいを探してしまう。

そしてふと見つけたせんぱいは、パソコンを真剣に見ていた。目は全然腐っても死んでもいなくて、声をかけることをやめた。

そう言えば、せんぱいは結局どっちにしたのかな…

せんぱい、私が結婚してあげるって何度も言ったのに全く本気にしてなかったな。

鈍感過ぎじゃないですかね?

ちゃんと告白しないと伝わらないですかね?やっぱり。

あの捻くれぼっちに告白する勇気がないんですけど。

どんな顔をするんですかね?顔を真っ赤にするのかな?それともかっこつけようとするんですかね?もしくはキョドってそうですね。せんぱいキモいです。

 

そんなことを考えていても、ふと浮かんでくるのは困った顔をするせんぱい。

 

やっぱり、こわいな…

 

 

 

 

 

 

 

 




途中どう書いていいかわからなくなってしまいました。
とても疲れた。

感想・ご指摘・ご要望などありましたらお寄せください。
ありがとうございました。


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こんな雪ノ下雪乃も悪くはない。

奉仕部の終わりを書いてからどう書こうか迷いました。
まあ奉仕部が終わっても俺ガイルが終わるわけではないのですが、やはりどう書いていいのかわからなくなります。



執筆中にある方からメッセージを頂きました。
一色いろはのどこがいいのか全くわからない、そのようなメッセージでした。
まあ確かに、リアルで一色みたいな女子がいたら僕も無理ですけど。

僕としてはこの作品を読んで一色いろはのことも少しは好きになってもらえたらいいなと思います。

といっても今回は雪ノ下の回なのですが。




「比企谷、君は面接は落ち着いていてよかったが、やはりどこか捻くれている発言や態度がある。そこをどうにかすればいけると私は思うのだが…」

「それはどうしようもないので諦めてください、平塚先生」

 

夏休みになり、早くも一週間が過ぎようとしている。なんだかんだ進路を決め、今は平塚先生と面接の練習を終えた。

にしても、捻くれている発言や態度を直せって無理だろ。それができたら俺はおそらくぼっちになっていない。

 

「まあいい。君の成績なら多分なんとかなるだろう。…ところで、最近は由比ヶ浜と雪ノ下とはどうなのだ?」

「いえ、特には…。まあ今の時期ですから、お互い色々大変でしょうし」

 

今のところ、奉仕部を解散してからは会っていない。由比ヶ浜と雪ノ下が会っているのかはわからないが、多分由比ヶ浜が構ってくるだろから会ってはいるのだろう。ゆるゆりだからな。

 

「君も頑張っているし、少しは羽目を外してもいいと私は思う。…この時期の子たちは、一生懸命過ぎて心に余裕がない。…雪ノ下のことも心配ではあるしな」

「まあ雪ノ下なら大丈夫でしょう。由比ヶ浜がいますし」

 

由比ヶ浜ならちゃんと見てくれる。由比ヶ浜がいれば特に心配することはない。

 

「…雪ノ下にも、君は必要だと思うがね」

 

そう言うと平塚先生は懐からタバコを取り出し、火を付けて去っていった。

辺りには仄かな甘みのある匂いが残っていた。

 

とりあえず、マッカンでも買って帰りますかね。

自販機に向かう途中、ケータイが震えた。歩きながらケータイを開き、立ち止まって小銭を入れる。

メールが一件来ていた。相手は雪ノ下からだった。

購入したマッカンを一口飲んでから雪ノ下からのメールを開いた。

 

『突然なのだけど、今から付き合ってくれないかしら?』

 

…なんかすごい言葉が足りないんだけど。

まああれだな。まず交際の申し込みじゃないのは確かだな。前にも似たような感じで由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行った覚えがあるから多分買い物かなにかなのだろう。

 

『どこへだ?』

 

とりあえず返信し、マッカンを飲みながら駐輪場へ向かう。途中で再びケータイは震えた。

 

『とりあえず学校近くの駅まで来てもらえるかしら?』

『今学校だからすぐ着くぞ』

『わかったわ。私もすぐに行くから、駅前で待っていてもらえるかしら?』

『あいよ』

 

結局、なにをするのかはわからない。

まあ雪ノ下がメールしてくるのは珍しいし、なにかしらあるのだろう。

一色からのメールは嫌な予感しかしないが、雪ノ下からだと心配になるまである。

 

いつだったか、雪ノ下は俺に言った。

「いつか、私を助けてね」

俺も雪ノ下も、誰の力も借りずひとりでやってきた。

助けてくれる人なんて周りにはいないから、だからひとりでやってきた。

そんな雪ノ下が、そんなことを言ったのだ、俺に。

俺はいつか、雪ノ下を助けることができるだろうか。

少なくとも、前の俺のやり方では雪ノ下や由比ヶ浜、一色を助けることは出来ないだろう。

それは平塚先生にも言われたことだ。

 

「ごめんなさいね、急に呼び出してしまって」

 

いつの間にか雪ノ下は俺の前に来ていた。

夏休みのため、雪ノ下は私服姿だ。

雪ノ下にしては珍しくミニスカートだ。服はTシャツなのだが、胸(があるであろう場所)とお腹のちょうど真ん中を通るようにして英文があった。

アイラブドッグ♥︎

 

俺が雪ノ下の服装をじろじろと見ていたため、雪ノ下はすくに視線に気づいた。

 

「こ、この間、由比ヶ浜さんとお買い物に行って買ったのよ。似合うと言ってくれたから…」

 

なぜか雪ノ下は頬を赤く染め、恥ずかしがっている。

恥ずかしがる雪ノ下は新鮮で、可愛いと思ってしまった。

しょうがないよね。美少女の雪ノ下が恥ずかしがってたらどうしようもなく可愛いじゃん。

これだから美少女は困る。そんなのは小町だけにしてほしい。

 

「まああれだな、新鮮で似合ってるんじゃないか?」

 

なぜか疑問形になってしまった。

 

「そ、そう。ありがとう」

 

そしてお互い無言。

…なんでこんな空気になってるの?とりあえず呼び出された理由を聞く。

 

「で…あれだ。今日はなんの用なんだ?」

「そ、そうだったわね。今日はその、息抜きをしたいと思って」

 

まあ雪ノ下も色々と忙しいだろうし、たまには息抜きもしたくなるのだろう。

だが、息抜きなら俺ではなくて由比ヶ浜を呼べばいいんじゃないか?どうして俺のなんだ?

 

「では、さっそく行きましょうか」

 

そう言うと雪ノ下はテンポ良く歩いていった。心なしかウキウキしているように見えた。

 

 

 

 

 

 

「にぁぁ。にぁ?にぁにぁぁ」

「…」

「にぁぁ。にぁにぁ。にぁ♡」

 

アイラブドッグのTシャツを着た女の子が猫カフェで猫たちとお話している。

なんだこの状況は。

まあ息抜きにと連れて来られたからまあいいのだが、猫ノ下さんやばすぎるでしょ。もはやちょっと猫より可愛いなって思っちゃったし。

 

この喫茶店、前は普通の喫茶店だったらしいのだが、近くの犬カフェに対抗して猫カフェにしたらしい。

ちなみにその犬カフェは俺と一色が一度行ったことのあるお店だ。

 

「…。なぁ猫ノ下」

「なにかしら?」

 

急にいつもの態度に戻りましたよこの子、怖い。

さっきまでは猫を愛でるただの女の子だったのに…

しかも猫ノ下できっちり反応してるし。

 

「お前、前はそんなに人前とかでデレてなかっただろ」

「別にここはいいのよ。むしろこの方が自然だわ。…それに比企谷君にならもう、見られても大丈夫だもの」

 

なぜか猫をさわさわしながらもじもじしている猫ノ下。

 

「猫ノ下、写真撮るか?」

「いいのかしら?…でも私も一緒に写るのは少し、恥ずかしいのだけれど」

 

そう言えば猫ノ下もあんまり写真は好きではなかった気がする。

ディスティニーのときも由比ヶ浜に撮られてちょっと怒ってたし。

 

「まあ別にいいんじゃないか?誰に見せるわけでもないんだろ?」

「それはそうだけど。…では比企谷君も一緒どうかしら?私だけではやはり恥ずかしいし」

「いや、俺は…」

 

断ろうとすると猫ノ下さんは自分の膝に猫を乗せ、猫の両手(前脚)を掴み寂しそうにこちらを見る。

にぁぁ、と捨てられた子猫のようにか弱い声を出す猫ノ下。

いやいや猫ノ下、キャラ崩壊し過ぎでしょ。

ここまでは初めて見たぞ俺。

名残惜しそうに見つめる猫と猫ノ下。

やめろ、そんな目で見るな!ドキドキしちゃうだろ!

まあ俺がそんな手にかかるわけがないがな。

 

「仕方ないな…」

 

思いっきりかかりましたね。

だってしょうがないじゃん。捨てられた子猫を見つけてしまってそのままにできるかよ⁉︎出来ないよ俺は。

 

「店員さん、写真を撮って頂けるかしら?ほら比企谷君、あなたもこっちへ来て」

 

猫ノ下は自分のケータイを店員さんに渡し、俺に近くに来るように促した。

猫ノ下さんは既にお気に入りの猫を抱えて準備オッケーだ。

 

「はい、では撮りますよー。男性のお客様、目が死んでますよー。笑って笑って」

 

この店員失礼じゃないですかね?

しかも猫ノ下は隣で笑いを堪えているし。

 

不意に当たる肩が雪ノ下との距離が短くなったと感じた。

 

前は、こんなに近くには居なかった気がする。

それは雪ノ下が少しずつ近くに来ているのか、それとも俺の勘違いか。まあ多分勘違いだろうが。

 

 

 

写真を撮り終えた後、3時間後にその店を出た。

 

 

 

 




次回は猫カフェを出た後の話を書こうと思っています。
でわでわ。


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一色さんが聞いている。

途中から一色が出ます。
と言ってもふたりとは絡んでいません。




「はぁぁ♡猫♡」

「…」

 

猫ノ下さんは満足した様子です。

息抜きにって来たが、これでは息抜きし過ぎて腑抜けてしまいそうな気がする。

頬も緩みきっているし。

もう俺がその顔を真似したら通報されちゃうレベル。

 

しかし軽く3時間以上はいたんですけど。

 

「あと5時間くらいは居たかったわ。比企谷君、また今度誘っても良いかしら?」

 

え?それって次は8時間コースなの?なにそれ無理。もうあれだな、猫アレルギーになっちゃうまである。

もう猫飼っちゃえよ…

 

「い、いや、うちにはカマクラがいるから俺は遠慮しとくわ」

「…カマクラ」

 

…なんかまた猫ノ下さんになってるんだけど。

この調子だとうちに来るとか言いそうだし、適当に話を逸らさないといけない。

 

「猫ノ下、今もろに通りすがりの人に見られてるぞ」

 

通りすがりのカップルの男子が猫ノ下をチラチラ見ていたのだ。そしてその女子の方が怒り始めて男子が叩かれている。

そしてそのあとなにやら話して女子の方が顔を真っ赤にしていた。

全くこれだからリア充は…

 

リア充は爆発しろ!とまでは言わない。

破片が飛び散ってきたないからな。

だからリア充は溺死しろ。

 

我に返った雪ノ下も恥ずかしかったのか、少しだけ頬を赤らめていた。

 

「と、とりあえずどこかへ入りましょう。…話したいこともあるから」

 

雪ノ下はその場から逃げるように歩く速度を上げた。

今度はまた別の猫カフェじゃないことを祈る。

 

 

 

 

 

夏休みと書いて宿題の山。

私、一色いろはは今現在夏休みの宿題と戦っています。

私には時間がないのです。8月の始めまでにはどうしても終わらせておきたいのです。

午前中は生徒会の仕事で大体午後はフリー。

え?サッカー部?なんですかそれ。私そんな部活に予算出した覚えはありません。そんな部活知らないです。

 

そんなフリーな午後は基本、学校の駅近くの喫茶店でひとり宿題をしているのです。

落ち着いた雰囲気の店内。心地の良いBGM。暑くもなく、寒くもないちょうど良い温度。

そしてMAXコーヒーのように甘いコーヒー。

その甘いコーヒーを一口飲むと、店内に鈴の音が涼しげに響いた。

 

「なんかここ、雰囲気いいな」

「私もたまにしか来ないのだけど、ここに来て読書をするのが好きなの」

 

…なんかよく聞き慣れた声がふたつ。

なんとせんぱいと雪ノ下先輩の声です。間違いありません。

すぐ後ろの方から聞こえてくるのでおそらく隣のテーブル。

 

もしかして、で、デートなんじゃ…

せんぱいが雪ノ下先輩を誘うなんてのはほとんどないですから、多分雪ノ下先輩からですね。

 

やばいです、これは非常にヤバイです。雪ノ下先輩に先越された。

 

い、いや、でもまだデートとは限らないじゃないですかぁ?というかそれを切実に願う。

 

デートだったらどうしようかな。明日の生徒会サボっちゃおうかな。

 

なんか一気にやる気がなくなってきたんですけど。

 

「比企谷君、後でさっきの写真送るわね」

「ん?ああ、別にいいよ。俺は」

「いえ、後で必ず送るわ。あなたにあの子たちの可愛さを残しておいて欲しいもの。いらないと言うのなら、そうね、小町さんに送ろうかしら?小町さんならわかってくれるわ」

「まあ小町も、あの店知ったら来たがるかもしないな」

 

雪ノ下先輩が饒舌ですね。おそらくは猫の話をしているのでしょうか?

 

ということはふたりで猫カフェデート…

私も行きたい。せんぱいとふたりで。いいな、雪ノ下先輩。

 

「もう次は小町と行けばいいんじゃないか?小町なら8時間でも多分大丈夫だろうし」

「そうね。あなた、途中からまるで妻の買い物に付き合わされている休日の夫のような顔をしていたもの。見ていて不愉快だったわ」

「なんかリアルだな。まあたまに小町にもそう言われるけどな」

 

…なんか会話がデートしてる感じじゃないんですけど。むしろなんか物足りない感じすらあります。

結局いつもの奉仕部みたいです。結衣先輩はいないですけど。

 

「あなた、引きこもりのわりには小町さんのためならどこへでも出て行くわね」

「当たり前だろう。小町に悪い虫でも付いたら大変だからな」

 

シスコン…。

 

小町ちゃんが羨ましい。小町ちゃんへの愛を私に向けてくれればいいのに。

 

せんぱいの鈍感シスコンやろー。

バカ、ボケナス、八幡。

 

「…小町さんも苦労しているのね」

 

今、絶対雪ノ下先輩こめかみを押さえてますね。

なんか容易に想像できちゃいます。

 

「そう言えば話ってなんだ?さっきなんか言ってただろ、ここ入る前」

「そうだったわね、ごめんなさい。あなたがいるとつい罵倒したくなってしまったりするのよ」

「由比ヶ浜にかまってもらえないからって、俺を罵倒して遊ぶのやめてもらえませんかね?」

「べ、別にそういう訳ではないわ。…話、始めて良いかしら?」

 

せんぱいからかうのおもしろいですよね。

雪ノ下先輩の気持ちはなんとなくわかります。まあ私の場合罵倒じゃないですけど。

 

「その、私、迷っているの」

「…何にだ?」

「進路よ」

「確か雪ノ下は国立理系だっけ?」

「ええ、そうよ」

 

なんかすごい頭良さそう。

わたしでは絶対無理だろうな。

そう言えばせんぱいは結局どこにしたんですかね?どこにするかの話最後まで終わってなかったんですよね、この間。

 

「前にあなたが相談してくれたでしょう。私立文系か専門学校で悩んでいると」

「おう。第一志望が抜けてるけどな」

 

せんぱいこの期に及んでまだ専業主夫って言ってるんですか?

しょうがないですね。

せめて私が就職するまでは仕事していて欲しいんですけど。

 

「あなたを見ていて私も少し、羨ましいと思ったわ」

「まあ、雪ノ下の家だと色々ありそうだしな。好きなことをしたいって言ったってそれが通るとは思えないしな」

「私、猫に携わる仕事がしたいの」

 

ですよね。雪ノ下先輩ですもん。むしろそれしかないまであります。

私だったらせんぱいに携わる仕事がしたいです。

ということはせんぱいの妻ですね。

 

「親にはまだ話してないのか?」

「ええ。なんて言われるかくらいわかるもの」

「まあ正直、雪ノ下なら親に反対されたとしてもどうにか行けるとは思う。学年一位のお前なら奨学金ももらえるだろうし、バイトすれば生活費もどうにかなるかもしれない。まあ生活についてはかなり厳しくなるとは思うが」

 

しばらく沈黙が続いた。

気が付けば甘いコーヒーは冷めてしまって、ちょっぴり酸っぱい。

やっていたはずの数学のプリントは一枚も進んでいなかった。

 

「平塚先生はなんて言ってたんだ?もう話したんだろう」

「ええ。親とぶつかるのは仕方ない。時にはぶつかることを大切なことだと言っていたわ」

 

平塚先生なら拳で語れとか言いそうですけどね。

 

「なあ雪ノ下、案外勢いでやってみたらあっさり大丈夫だったってこともある。初めてやったバイトで社員に聞けなくて間違ってもいいから適当にやってしまえってな。まあ居づらくなったらバックれちゃえばいいし、なんて考えたりもした」

「あなた、相変わらず捻くれているわね…」

「まあ結局、後悔したくないから相談して慎重に決めるんだ。決めることは覚悟がいる。じゃないと、それはいつか言い訳になる。遊びだからとか、親が決めたから、なんとなく勢いで、とかそんなんで俺は後悔したくない」

 

せんぱいは捻くれているけど、誰よりも真面目。真面目過ぎて捻くれてしまったのかもしれないですね。

 

そしてそんなせんぱいを、私は好きです。

 

 

 

 




なんかさっきランキング見たら6位になってました。
感動。
まあすぐにランク外になるとは思うんですけどね。

感想・ご意見お待ちしています。

でわでわ。


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本物にも色々ある。

遅くなってしまいすみません。



とある日、いつものように面接練習を終え、読んでいたラノベの新刊が出たことを思い出しながら駐輪場へと向かっていたときのこと。

ケータイが鳴りマナーモードをし忘れたのか、ピロリンと小さく響いた。

面接中に鳴らなくてよかったと安堵しメールを確認する。

 

8月7日 一色いろは

用件:今日暇ですよね?

『せんぱいお疲れ様です☆

突然なんですけど今日暇ですか?暇ですよね?w

これから可愛い可愛い後輩のお買い物に付き合って欲しいんです( ^ω^ )

16時に千葉駅で待ってます^_−☆

 

☆追伸☆

メール見てなかった〜とか無しですよ(^^)

小町ちゃんにも既にせんぱいとお買い物行くって言ってあるので。

でわでわまた後で(≧∇≦)』

 

たった1通のメールで逃げ道を潰されあざとい後輩の荷物持ち決定になってしまった。

しかも小町にそれを言ってあるって…

もし家に帰って見なかった事にしてもどのみち小町に家から追い出されるだろう。

 

とりあえず制服のままではあまりうろちょろするのもアレなので家へと向かう。

 

照りつく太陽は頭の真上で、夏の暑さが全身に刺さった。

 

 

 

 

待ち合わせの場所で一色を待つ。

服装は我が妹の完全コーデである。

飲み終えたMAXコーヒーの缶は既に空っぽで、2本目を買おうかと思った頃に一色は来た。

時間を見ると約束の5分ほど前だった。

 

そして一色はメガネであった。

前の黒縁メガネとはまた違うもので、どこか文学少女のような雰囲気だ。

 

「せんぱ〜い。待たせちゃいましたか?」

「いや、別に待ってはないな。約束の時間よりは早いし、この場合待つのは時間を過ぎてからだろう。だがその第一声がなんかあざとい」

 

せんぱ〜いってなんだよ。なんか恥ずかしいだろ。

 

「せんぱい、そこは普通に『いや、待ってないよ』でいいじゃないですかぁ?これだから捻くれぼっちのせんぱいは」

 

俺への不満を漏らしながらメガネを左手で上げた。

その仕草は自然で、かけ慣れているように見えた。

前よりも一色のメガネ度が上がっている。

 

「でわでわ行きましょう、せんぱい」

「そうだな。さっさと買い物終わらせて、家帰って本でも読みたいし」

 

まあ実際は本を読んでいる暇はあまりない。

具体的な目標と、その為に必要なものを身につけなければならない。

かと言って勉強漬けなわけではない。

 

真面目にやったって大抵うまくいかないし、俺みたいな奴がやったってすぐに飽きてしまうだろう。

人間、適度にサボらないといけないと俺は思う。

 

真面目な人には悪いが、真面目に生きてもいいことは少ない。むしろ貧乏くじを引かされるまである。

 

まあ俺の場合、大体が無条件で貧乏くじを引くのだが。

 

「なあ一色、買い物なら戸部でも良かったんじゃないか?」

 

貧乏くじなら全部戸部に引いてほしい。

いい奴なんだけどな。

 

「ほら、戸部先輩って部活とか忙しそうじゃないですかぁ?」

「俺も戸部も受験生なんだけどな」

 

サッカー部はまだ引退していないのか、夏休み中部着姿の葉山や戸部を見かける。

色々大変そうである。

 

「ほら、行きますよ。せんぱい」

そう言って一色は俺の手を強引に引っ張って歩き出した。

 

不意に一色の髪から甘い香りがした。それはビターなチョコレートと、甘いコーヒーのようなにおいだった。

 

 

最初に入ったのは女の子が好きそうな服が揃っているお店だった。早くもお家に帰りたくなった。

 

「…せんぱいはどんなのが好きなのかなぁ…」

「葉山ならなんでも褒めてくれそうだけどな」

「そうですねー、葉山先輩ならちゃんと褒めてくれそうですよねー」

 

メガネ越しにジト目で俺を見る一色。

なんだよ、もっと私を褒めて下さいってか?嫌だよ恥ずかしい。

 

「…はぁぁ。まあいいです。次のお店行きましょ」

 

なんだか一色が小町に見えてきた。

 

 

 

次に入ったのはちょっとオシャレな雑貨屋だった。

ダイソ○のような雰囲気は一切なく、明らかにワンランク上な品揃えである。

猫のデザインのされたブックカバーがニ千円。

こんなものを買うのは猫ノ下さんくらいのものである。

まあ猫ノ下さんにプレゼントする機会でもあればこれにしようとは思う。機会があれば、の話だが。

 

「せんぱいせんぱい、このシャーペン可愛くないですか?」

 

一色が手に持っているのは犬と猫の顔がデザインされたシャーペンだった。

犬と猫、というだけで由比ヶ浜と雪ノ下が頭の中に浮かぶ。

 

「いいなそれ。由比ヶ浜と雪ノ下にお揃いであげたら喜びそうで」

「…せんぱい、女の子とのデート中に他の女の子の話をするのはいろは的にポイント低いです」

 

今度はメガネ越しに一色に睨まれてしまった。

この気持ちは何だろう。なんか複雑。

なぜか俺の中に喜びを感じる。おそらくこれは一色に睨まれてしまったからではなく、メガネの一色に睨まれてしまったからだろう。

俺も大分変態だな。

 

というか小町にも似たようなことを言われた気がする。

 

「今は私とデートしてるんですから、私のことを考えていて下さい。ほら、試しに私を褒めてみて下さい」

 

デートしているというよりかはただの荷物持ちだろ。

 

「…褒めないといけないのか?」

「こんな私ですから褒めるところはたくさんあるじゃないですか?」

 

ほら、私って可愛いじゃないですかぁ?

 

そう聞こえる。いやまあ可愛いけどね。

俺が一色を褒めるところなんてひとつしかない。

 

「…まああれだな。メガネが似合ってて、いいと思うぞ。黒縁のときも良かったが…」

「……ありがとうございます」

 

目を逸らし両手でメガネの両サイドを上げる一色。

頬はほんのり赤くなっている。

 

いやお前が照れるなよ、こっちまで恥ずかしくなっちゃうだろうが。

褒めろと言われて褒めたらこれである。

案外こういうのも理不尽な気がする。特に悪い意味ではない。

 

不意に一色のケータイが鳴った。どうやらラインらしい。

それに返事するとすぐに一色はケータイをしまった。

 

「私お会計してきますね」

 

そう言った一色は先ほどのシャーペンと、ちょっと高級感のあるメモ帳とボールペンを買っていた。

一色が使う、にしては堅いイメージだが、生徒会長である一色にならむしろ合っていると思った。

 

 

 

「せんぱい、帰る前にクレープ食べて行きませんか?」

 

日が暮れかかっている頃、一色を送るため駅まで歩いているとキャンピングカーのようなクレープ屋があった。

 

クレープ屋を指差しながら俺を見る一色。

目はレンズ越しでも輝いているのがわかる。

 

一色のたまに出る女の子なところが可愛いと思う。

普段はただあざといだけなのだが…

 

「たまにはいいかもな」

「やった!せんぱい、早く行きましょ」

 

一色は俺の手を引っ張りクレープ屋まで走った。

握られた手は暖かった。

 

「お兄さん、クレープ下さいな♪」

 

一色って、クレープそんなに好きなのか?浮かれ過ぎだろ。

なんか子供っぽくなってる気がする。

 

「お、いいね〜カップルでご来店かぁ。青春だね〜」

「そんなんですよぉ〜」

「いや、一色嘘つくな。別に付き合ってないだろ」

 

なぜそこでそれを肯定するのかわからん。

むしろ普通は勢いよく否定すると思うのだが。

 

「そうか、カップルじゃないのか。じゃあ君たちがカップルになることを祈ってお兄さんはサービスしちゃおう」

 

なんでそうなる…

 

「ありがとうございま〜す」

 

だからなんで一色はそれに乗っかるんだよ…

 

もしかして全てが計算⁈サービスしてもらうがためか⁉︎

一色怖い。もとい女の子怖い。

 

俺と一色はクレープを買い、食べながら駅へと歩く。

不意に隣から視線を感じた。デジャブ。

隣を見ると一色が食べたそうに俺のクレープを見ている。

やっぱ一色と同じやつ買えばよかった…

 

「…味見するか?」

「はい!」

 

一色は即答すると同時に俺のクレープにかぶりついた。

 

「せんぱいのも美味しいですね。コーヒーの苦味と甘さがいい感じです。コーヒーの香りもいいですね」

 

いつから一色はグルメレポーターになったのだろうか。

そしてこの幸せそうな顔。

 

「せんぱいもどうぞ」

「いや、俺は遠慮しとく」

「間接キスでも気にしてるんですかぁ?いいじゃないですか、私と間接キスできるんですから」

 

よく自分で言っていて恥ずかしくないよな…

俺だったら死にたいほど恥ずかしいんですけど。

 

「…それとも、本物欲しいですか?」

 

そう言った一色は俺に一歩近づき顔を近づけてくる。

一色の、綺麗な目と唇に意識がいく。吸い込まれそうだ。

 

心臓の音の感覚が速くなるのがわかる。

理性の壁が崩壊しそうになる。

一色の唇との間は近づく一方だ。

 

「…一色、からかうな。行くぞ」

辛うじて残った理性でなんとかなった。

俺は一色から目を逸らし頭を撫でた。

 

その後一色は喋らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『いろは先輩、どうでした?』

「やっぱりだめだった」

『そうでしたか。まあまた明日頑張りましょう。明日はみんな呼んでありますけどね』

「そうだね。…じゃあ明日、学校で。ありがとね、小町ちゃん」

 

 

 

 

 

 




感想など有りましたらお願いします。


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回り巡ってかえってくる。

更新遅れてごめんなさい。いつもより長くなってごめんなさい。気が付いたら12月でごめんなさい。
別にアニメとか見まくって更新遅れたとかじゃないです。ゲ○とか○タヤとか行きまくったとかじゃないです。ごめんなさい。


「比企谷、」

 

面接練習を終え家に帰ろうとした間際、くわえ煙草の平塚先生が呼び止めた。

とてもその格好が似合っていて、そして残念だった。

 

「はい」

「家に帰る前に、奉仕部の部室に寄ってくれ。昨日あの部屋の整理をしていたら君達3人の忘れものが残っていてな。既に雪ノ下と由比ヶ浜はもう来ていて、部室も空いているだろう」

「はぁ」

 

忘れ物なんて何もなかったはずなのだが。

そもそも忘れるものがあるほど私物は持ち込んではいないし、各々のカップだってしっかり持って帰ったし、今も使っている。忘れもしない。

 

なぜなら、パンさんのイラストの湯呑みに珈琲を淹れていつも飲んでいるからな。

いついかなる時に見てもシュールだ。

それでいて心地よかったりもする。

 

「早く行かないと部室を閉められてしまうぞ」

「はい。…何を忘れていたんですか?俺や由比ヶ浜はともかく、雪ノ下がそんなミスをするとは思えないんですけど」

 

懐から携帯灰皿を取り出し吸い終えたタバコをしまう平塚先生は一瞬だけ優しい顔をしていた。

 

それがずっと出来れば誰かもらってくれると思うのだが。

 

「行けばわかるさ」

 

そして平塚先生はどこかへ消えた。

 

まあさっさと行って、さっさと帰りますかね。

雪ノ下達と入れ違いにでもなったらまた鍵を取りに行かないといけないし。

 

「うん、うん。わかった。今から行くよ」

 

ふと聞こえてきた天使、もとい戸塚の声。

夏休みになっても戸塚の声が聞けるなんて。

戸塚は電話を終えたらしく、ジャージのポケットにケータイをしまった。

そして一瞬だけ戸塚と目が合ってしまった。

もう運命を感じるレベル。

 

「とつk」

「あ!ご、ごめん八幡」

 

戸塚は一目散に逃げ出した…

 

はちまんはめのまえがまっくらになった!。

 

 

 

 

それから立ち直るのに時間がかかった。ショックのあまりその場に立ち尽くし、時々すれ違う生徒から変な目で見られた。

もうそのまま家に帰って泣きたかったがなんとか堪えた。

まああれだよ、部活で忙しかったんだよ、うん。うん…

 

落ち込みながらも足を動かしているといつの間にか元奉仕部の部室に着いてしまった。

由比ヶ浜がいるという割には静かな気もするがまあどうでもいいことである。

 

とりあえずドアを開けて中に入ると、いきなりド派手な音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁ⁉︎は!はーぁ⁉︎」

「せんぱい、(比企谷君)(ヒッキー)(お兄ちゃん)(八幡)お誕生日おめでとう〜!」

「へぇ?」

 

…頭にぽつぽつとクラッカーから放たれたカスを乗せて惚けているせんぱい。イマイチ状況が飲み込めていないようです。

 

「ほら、せんぱいって、コミュ障ぼっちで誰からも誕生日とか祝ってもらえないじゃないですかぁ?だから、今日はせんぱいに同情して誕生日会を企画したんですよ」

 

よくよく考えると、結衣先輩や雪ノ下先輩とかの時は祝ったりプレゼントしたりしましたし、私だって祝ってもらいましたし。

 

「てかヒッキー、ビックリしすぎだし」

「確かにそうね。気持ち悪すぎて通報しようとか思ったわ。あなたの誕生日でなかったら今頃はパトカーのなかだったわよ」

 

せんぱいを罵倒している雪ノ下先輩は、どことなく楽しそう。

せんぱいって、誕生日でもいじめられるんですね。

まあでも確かにさっきの悲鳴はキモかったです。

 

「八幡、さっきはごめんね。八幡を驚かせようと思ってたから、慌てて逃げちゃって」

「いや大丈夫だ、戸塚、いや彩加。俺は彩加に祝ってもらえてとても嬉しい」

「は、八幡。急に名前呼びはずるいよ…恥ずかしいよぅ」

 

顔を真っ赤にしている戸塚先輩…可愛すぎる。そして戸塚先輩に嫉妬してしまいます。

私だっていろはって名前呼びされたい。

 

「お兄ちゃん、戸塚先輩といちゃいちゃしない。でわでわ早速、主役が来たことですし誕生日パーティーを始めましょう!どんどんぱふぱふー!」

 

小町ちゃんの合図と同時に雪ノ下先輩がケーキを取り出す。

保冷剤が持つかどうか心配だったんですよね。戸塚先輩が来てから20分くらい後に来ましたし。

 

ケーキを見たせんぱいは少し子供のような顔をしている。腐った目が少しだけ輝いています。

 

「このケーキはね、ゆきのんといろはちゃんが作ったんだよ」

「ひとつ聞くが、由比ヶ浜は製作には参加してないよな?参加してると、俺の誕生日が命日になる可能性ががあるんだが」

「ヒッキー酷すぎ!私は飾り付けとかしかしてないし」

 

ちょっとそれは私が困りますね。今死なれては困ります。

せんぱいには私が死ぬまで生きていてもらわないと。

私はせんぱいの胸の中で死ぬ予定なんですから。

 

「冗談だ由比ヶ浜。…これはチョコレートケーキか?」

 

せんぱいがケーキに反応していますね。まあ私と雪ノ下先輩が作ったんですから間違いなく美味しいと思いますけどね。

 

「本当は無難にショートケーキにしようと思ったのだけど、一色さんがアイディアがあるというからこれを作ったのよ」

「そうか。…もう食べてもいいか?」

「ヒッキー急ぎ過ぎ。まだお誕生日の歌歌ってないじゃん」

 

そうですよ。ちゃんとロウソク持ってきたんですから。

また来年もこうしてせんぱいの誕生日を祝えたらいいな。今度はふたりきりがいいですね。

ケーキもせんぱいにあーんして食べさせてあげたいです。私今ヤバイです。顔が緩みそう。

 

「じゃあ歌おうか。ねぇ、歌の最後は『はちまん』にしない?バラバラっていうのも味気ない気がするし」

「そうですね。さっきもみんなバラバラでしたし、戸塚先輩の言うとおりにしましょう。…なんかお兄ちゃんをはちまんって呼ぶのは恥ずかしいな…」

 

私もいつかせんぱいと、「はちまん」、「いろは」って呼び合う仲になりたいです。

でも私、せんぱいっていうのに慣れちゃってるんですよね。なので、せんぱいにいろはって呼ばせたいです。

 

「まあなんでもいいが、早く始めてくれ。俺はこのケーキが食いたい」

 

私にはそれが照れ隠しに見えます。俺は早くこのケーキ食べたいんですけどー、みたいなこと言ってますけど、ちょっとそわそわしちゃってますし。

 

みんなで歌いながら、小町ちゃんはそんなせんぱいを見て嬉しそうにしている。というか本人より嬉しそう。

なんだか小町ちゃんがせんぱいの保護者みたいです。

 

せんぱいが羨ましくなってきました。だって、こんなにも愛されているんですから。

私だけではなく、ここにいるみんなから。

でも本当なら、せんぱいはもっと愛されていいはずの人だと思うんですけどね。

救った分、救われたって良いはずです。

 

「〜♪ハッピバースディ、ディアはちま〜ん、ハッピバースディトゥ〜ユ〜♪はちまんおめでと!」

 

みんなで歌い終え、せんぱいもまんざらではない様子です。

 

「その、あれだな。みんな、…ありがとな」

 

ロウソクの火を吹き消して残った煙は辺りを漂う。

せんぱいは照れているのか、その煙を見ながらお礼を言った。

 

「ふふぅん。でわでわ続きまして、小町達からのお兄ちゃんへのプレゼントです。はいはい皆さんプレゼントを出してください」

 

場の空気がしっとりしてしまい耐えかねたのか、小町ちゃんが司会進行する。

まあしょうがないですよね。いつも捻くれているせんぱいが素直にお礼を言うんですから。みんな恥ずかしいですよ。

 

「じゃあ、僕からで良いかな?」

「でわでわ戸塚さん、どうぞ!」

 

プレゼントを後ろに隠しながら席を立ち、せんぱいの前に来た戸塚先輩。恥ずかしがっているのか、頬を赤らめながら上目遣いでちらちらとせんぱいを見ている。

 

なんですか告白ですかバレンタインデーの日にチョコを渡す女子ですか。なんで戸塚先輩は男の子なのにこんなに可愛いんですか。

もうせんぱい、今告白されたら了承しちゃいそうじゃないですか。

 

「は、八幡…」

「お、おう」

 

今せんぱいの唾をゴクリと飲み込む音と心臓の音が聞こえる気がします。

 

「はい、八幡。」

「おう、サンキュな。…彩加」

「もう、八幡!」

 

戸塚先輩顔が真っ赤です。そして羨ましいですとても。

 

「開けていいか?」

 

こくりと頷くのを見たせんぱいは優しくプレゼントを開け始めた。

戸塚先輩は上目遣いのまませんぱいを見つめている。それは女の子が好きな子のために作ったお弁当の感想を心待ちにしているような顔をしていた。

 

「リストバンドか…。」

「うん。また一緒にテニスしようね、八幡」

「彩加、次はいつ予定空いてる?テニスしよう。なんなら今かr」

「はいはい!次は小町ですよ」

 

せんぱいが戸塚モードになりそうになったのを見かねて小町ちゃんが次に進める。せんぱいは気を抜くとすぐそうなるんですから。

それは私にしてくれればいいのに…

 

「ジャジャーン!小町からはね、お兄ちゃんが欲しがってた新作ゲーム!」

「なんで俺がこれを欲しいと思っているとわかった?俺はそんなこと一言も言ってはいないぞ」

「ふふん。まあ小町はお兄ちゃんの妹だからね」

「…そうですか」

 

胸を張り自慢げに言う小町ちゃん。

そして小町ちゃんの頭を撫でるせんぱい。とっても仲がよくて羨ましいです。

私もされたいです。

 

「えへへぇ〜。……うふん!でわでわ次は結衣さん!行っちゃいましょうか⁉︎」

「うん!」

 

元気よく立ち上がりせんぱいの前へ。

 

「あはは。なんかこっちに来ると恥ずかしいね」

 

片手でせんぱいへのプレゼントを持ち、もう片方の手でお団子のポンポンと触る結衣先輩。

あれって結衣先輩の癖ですよね。恥ずかしいときに出るんですかね?

 

「ヒッキー。お誕生日、おめでと」

 

満面の笑みでプレゼントを渡す結衣先輩。

アニメでなら周りに綺麗なお花が咲いていそうまであります。それくらい明るくて暖かい顔。

「開けていいか?」

「うん。いいよ」

「…ブックカバーか。なんか質が良さげだな。ありがとな」

 

あ、結衣先輩、頬が少し赤いです。再びお団子を触ってますし。

 

「ヒッキーたまにブックカバーなしで読んでたから。…たしか、俺の妹がこんなになんたら?」

「ああ。あれな。あれもな、千葉の兄妹の話なんだ」

 

せんぱいどんだけ千葉好きなんですか。全く。

私のせんぱいがこんなに千葉が好きなわけがない。

 

「高坂兄妹はどうでもいいんで、次は雪乃さん、行っちゃいましょうか!」

「ええ。そうね」

 

どうして私が最後なの?というか普通は奉仕部を最後にしそうなんだけどなぁ。

ちらりと小町ちゃんを見ると目が合い、小町ちゃんがわざとそうしたことがわかった。

私に気を使ってくれているらしいです。

別に告白するとかじゃないんですけどね。

 

「あなたに何をプレゼントすればいいのかかなり迷ったのだけど、あなたの将来のことを考えて、これにしたわ」

「開けるぞ。…コーヒーミルか。しかも手回し式」

 

プレゼントをもらったせんぱいは、まるで大好きなおもちゃをもらった小学生みたいです。

あの腐った目に光が灯ってますよ。

 

「前に読んだ小説に、このハンドミルで豆を挽きながら謎解きをするバリスタがいて、それを思い出したの。まさか、あなたにこれを贈るとは思っていなかったのだけれど。…いつか、あなたの淹れた珈琲、飲ませてね」

「…そのうちな」

 

なんか、さっきから思ってましたけど、なぜかお別れ会のような感じになっている気がします。別にまだお別れじゃいので勘違いしないで下さいね。

 

「でわでわ最後、今回の誕生日会を企画したいろは先輩、お願いします」

「はーい。」

 

バックの中から自分でラッピングしたプレゼントを取り出す。

席を立ち、せんぱいと目が合い不意に心臓がドキドキするのがわかった。

私がどれだけドキドキしても、せんぱいには全然伝わらないんですけどね。

 

「せんぱいは良かったですね。こんなに可愛い生徒会長からプレゼントをもらえるんですから」

「そーだな。光栄だ」

「棒読みですね…」

 

手ごたえなしです。せんぱいって無駄に手強いですよね。

私がプレゼントをあげたいって思うのはせんぱいだけなんですけどね。

 

「せんぱい、あげます」

「おう。ありがとな。開けていいか?」

「どうぞどうぞ」

 

せんぱいはリボンをスルスルと丁寧に解いて中のものを取り出した。

せんぱいは少しだけ驚いているようです。

アホ毛がビックリマークになりました。

 

「これ、俺へのプレゼントだったのか。てっきりお前が自分で使うものだと思ってたな」

「せんぱいは本当に鈍いですよね」

 

本当に。

 

「このボールペンとメモ帳はしっかり使わせてもらうわ」

「はい。むしろちゃんと使ってもらわないと怒るまであります。ふふん。せんぱい、来年の私の誕生日は期待してますから」

「ああ。そうだな」

 

来年。

来年にはみんなどうなっているんでしょう。せんぱい達は卒業して、それからもこの関係は続けていられるのでしょうか。

一度離れてしまったものは、少なくとも元には戻らない。

今でさえ、少しずつ変わっていく。勝手に変わっていく。

必ずしも悪いことばかりとは限らないと言う人もいますけど、争うことができない変化が、私は怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多分あと2、3話で終わるかもです。多分。

感想お待ちしています。感想なら真夜中でも大歓迎です。
罵倒なら仕事中以外でお願いします。仕事中はいつもうつっぽくなっているので色々と辛いです。

でわでわ。


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ぼっちの誕生日ほど辛いものはない。

今回は前回の話から少しだけ飛びます。
あれ?さっきまで誕生日会してたじゃん?と思うかもしれないですが、ご了承下さい。


「…なあ一色…」

「なんですかー?」

「今日って、俺の誕生日だったよな?」

「…そーですよ」

 

つい1時間程前、俺は一色が俺のために企画してくれた誕生日パーティーで楽しくしていたのだ。奉仕部の部室でケーキを食べ、プレゼントをもらっていた。

 

だが今は、平塚先生が一色を呼び出し、なぜか俺だけ一色の仕事を付き合わされ、生徒会室で一色とふたりきり、山の様に積まれた書類に囲まれている。

一色の顔はまるで残業中のOLのようで、先程とは全く違う。

 

プレゼントをくれた時の一色は正直言って、可愛かった。

不覚にもドキリとした。

あのときは危なかったぜ…うっかり一色に惚れちまうところだったぜ。

 

「せんぱい、諦めてください。せんぱいのこれからの人生はひとり寂しく生きていくんですから。誕生日もバレンタインデーも、クリスマスも」

「…」

「せんぱいもいずれは家を遠回しに追い出されて、生きるためにどっかのブラック企業に就職して独りになるんですから」

 

パソコンと睨めっこしならがら俺のヒットポイントを削ってくる一色。すでにイエローゲージ突入である。

 

「遠回しに追い出されるってなんかリアルだな…」

「まあそうなっちゃったら私が拾ってあげてもいいですよ。ほら、私って、捨てられた子犬とか子猫とか見捨てておけない人じゃないですかぁ?」

「人を捨てられた子犬とかと同じ扱いするなよ。…でもまああれだな。養ってくれるってんならいいかもしれない」

 

むしろ一色に養ってもらえるなら捨てられた子犬でもいい。

小町にどこか似てるからだろう。なんか落ち着く気がする。

 

「せんぱい今私と結婚とか考えてましたか?ごめんなさいいきなり結婚とかって話は流石にアレなんでプロポーズする前にまず私に告白して付き合ってからにして下さい心の準備とか色々大変なんでごめんなさい」

「あ〜はいはい」

 

なんでそこから結婚の話になるんだよ、飛躍しすぎだろ。

 

「一色、比企谷、どうだ?」

 

突然ドアを開けて入ってくる平塚先生。毎度のことながらノックはなし。…よくこれで社会人やってるよな。

 

「平塚先生、私前に言いませんでした?ちゃんとノックはして下さいって」

「いやぁすまんすまん。ついな」

「そんなんだから婚期遅れるんですよ、平塚先生」

 

やばい、ついうっかりポロっと出てしまった。

歯を食いしばらないと!と!…ん?

ファーストブリットが来ない。

 

「…どーせ私なんか結婚なんて出来ませんよ…昨日のタイムラインで昔仲の良かった子達が男と一緒に楽しそうにビーチパーティーしてるの見て嫉妬してますよ。…また私だけ呼ばれなかったな……あは、あははははー…はぁぁ」

 

やってしまった…。

笑い出した挙句しくしくと子供のように泣き出す平塚先生。

ものすごく罪悪感を感じる…これならまだファーストブリット食らった方がマシだった気がする。

 

「それで平塚先生、なんでまた来たんですか?私とせんぱいの邪魔をしに来たんですか?」

「一色、今の言い方だといちゃいちゃしていた様に聞こえるぞ。仕事の邪魔だろ、それを言うなら」

 

いちゃいちゃなんて一粒も入ってなかったからな。リアルな現実を聞かされて、告白もプロポーズもしていないのに振られただけだ。

 

「まああれだ、比企谷の誕生日だし、仕事も急にさせてしまったし、せっかくだからこれが終わったら飯でも奢ろうかと思ってな。もちろん一色もだ」

「じゃあじゃあ私、あのお店がいいです!らっせの人!」

「ああ。なんか懐かしいな」

「じゃあそこにするか。では仕事が終わったら私を呼びに来てくれ」

 

用を済ませると平塚先生は職員室に戻った。これからまた仕事があるのだろう。社会人ってほんと嫌だなぁ。

俺に至っては誕生日なのに仕事してますけどね。俺ってマジ社畜。

 

その後三十分ほど仕事をし、要約残り2、3割となった。夕方には終わるだろうし、丁度良い時間帯になるだろう。

 

ふと一色を見ると、手を重ねて頭の上に上げ、伸びをしていた。一色も疲れがきているようだ。

 

「せんぱ〜い」

「なんだ?」

「私の肩揉んで下さい〜」

 

机に突っ伏しながらそんなことを言ってくる一色。いやむしろ俺がされたいんですけど。

誕生日だからやってくれないかな?今日くらい。

 

「せんぱい疲れた〜」

「いや、俺も疲れたんですけど」

「じゃあせんぱいがしてくれたら私もしますからぁ」

 

いやどんだけ疲れてんだよ…

それにちょっと甘えた感じがあざとい。

 

でも確かに俺も疲れているし、一色もしてくれるというならお互いにメリットもあるし、いいかもしれない。

 

「…わかったよ。やりゃあいいんだろ?その代わりちゃんと俺にもやってもらうからな?等価交換だし」

「わかってますよ。ほらほら早くせんぱい。私は疲れました」

「へいへい」

 

とりあえず立ち上がり、一色の元へと歩く。一色の後ろにつくとなぜか少し鼓動が早くなった。

その小柄な肩や亜麻色の髪から香るほのかな香りに、一色が女の子なのだと感じているからだろうか。

 

「じゃあ、始めるぞ」

「はい。お願いします」

 

肩揉みなんて小町以外にしたことがない。小町にもよく肩揉みをお願いされてやっていたことはある。だが小町は妹だし、とくに意識したことがないが、相手が一色だとこれはまた別の話である。

一色の肩はやはり小さくて、こんな女の子が1年にして生徒会長を務めているのだから、やっぱりすごいと思う。

 

「せんぱい肩揉み上手ですね〜気持ち良いです〜」

「まあな。よく小町にせがまれて肩揉みしているからな」

「シ〜ス〜コ〜ン〜」

 

一色にシスコンと言われているがとくに気にならなかった。というか別のことがずっと気になっているのである。

完全夏服の今、俺も一色も制服のシャツだけなため、制服越しに一色の熱を感じる。

 

「せんぱいありがとうございます。もう大丈夫ですから、次はせんぱいの番ですよ。はい、腰掛けてください」

「おう、そうか」

 

一色は立ち上がり、一色の座っていた席に座るようにとぽんぽんと椅子を叩いた。向こうの席までいくのは面倒だからだろう。

一色の席に座ると、仄かに一色の温もりが残っていて、再び一色という女の子を意識させられる。こういうところは本当にあざといと思う。本当に。

 

「じゃあ始めますね。せんぱい、気持ち良すぎて眠っちゃったりしないで下さいね」

「それは保証できんな」

 

そうは言ったが、正直眠れる気はしない。

小町にしてもらうときはちょくちょく眠ったりもしていたが、一色にしてもらうとなるとまた別のことなのだ。

 

一色の手が優しく俺の肩に触れる。やはりのその手は小さくて、そして温かい。

 

「せんぱい」

「なんだ?」

「せんぱいは結局、どこに行くんですか?進路」

「そう言えば言ってなかったな」

 

この間話してから、答えはみんなには言ってはいなかったのだ。まあわざわざ言いふらすことでもなかったし、聞かれもしなかったため言わなかっただけなのだが。

 

「まあ結局あれだな、専業主夫」

「せんぱい、アホ毛抜きますよ」

「嘘ですすみません。…結局私立文系に落ち着いたよ」

 

色々と迷ったがやっぱり私立文系になった。まあそっちの方が安泰だからというのもあるが、理由はひとつではない。色々が絡み合って、結果そうなっただけのこと。

 

「じゃあもし私がそっちに行ったら、面倒見て下さいね」

「もし来たら、な」

 

その後は再び仕事に戻り残りを片付けて平塚先生を呼びに行った。

 

 

 

 

 

「いやぁここに来るのも久しぶりだな。比企谷はわかるが、一色もここに来たことがあるのだな。一色がラーメン、というのは意外な気もするのだが」

「この間せんぱいに連れて行ってもらったんですよ」

 

一色の言う「らっせの人」もしっかりいて、今日はなんだかんだついているようだ。

最近は勉強やら面接やらであまり来れなかったし、またあの味を堪能できるのは嬉しい。

 

3人でカウンターの席に座り、右から俺、一色、平塚先生となっている。

平塚先生と一色がおしゃべりしている間に注文したラーメンは3人とも受け取っていて要約食べられる。

 

「比企谷、替え玉欲しいなら頼んでもいいからなー。一色もだぞ」

「平塚先生今日は太っ腹ですね。じゃあお言葉に甘えて」

「じゃあ私もお言葉に甘えちゃいます」

 

平塚先生が替え玉を3つ頼んで、それぞれの器に入れられた時に平塚先生のケータイが鳴った。

 

「すまんな」

 

画面見た平塚先生は露骨に嫌な顔をしてから電話に出た。

そして話しながら外へと向かっていった。その姿を見ると、社畜って嫌だなと思う。

すぐに平塚先生は戻ってきたが、なにかの仕事を押し付けられたらしく若干不機嫌だ。

 

世の高校生・中学生よ、これが大人だ。

早く大人になりたいなんて言う奴は一度周りの大人のこんな姿を見てみるといい。希望なんてほとんどない。

 

「すまんな比企谷、一色。これからまた仕事をしなくてはならなくなった。代金はここに置いておく。すまんが比企谷、食べ終わったら一色を送ってやってくれ」

 

器に入っていた替え玉を一瞬で食べ終え慌てて店を出ようとする平塚先生は立ち止まり戻ってきた。

 

「比企谷」

「はい?」

「誕生日おめでとう」

 

そう言って平塚先生は仕事に行った。

平塚先生、かっこよすぎるぜ。俺があと10歳年とってたら惚れてたまである。

なんで平塚先生は結婚できないのだろうか。本当に色々と残念である。

 

「せんぱ〜い」

「なんだ?」

「私お腹いっぱいです」

 

見ると一色の器には替え玉が半分はないが、まだ結構残っている。むしろ一色にしはよく食べた言えるがやはり残すのはもったいない。

 

「せんぱい、食べて下さい〜」

「…わかったよ」

 

こういうときの一色には結局折れてしまうのが俺なので早々に諦めた。人間、諦めがやはり肝心である。

 

 

 

 

 

ラーメンを食べ終えると外はもう日が落ちていて、月はほとんど照らしてはくれなくて、街灯の鈍い明かりだけが俺と一色の歩く道を照らしていた。

半歩前を歩く一色の髪はどれだけ暗くても、わずかな明かりで亜麻色に輝いていた。

 

 

 

 




たぶん、あと2話で終わるかな?たぶんですけど。
流れによっては終わる終わる詐欺とかしちゃうかもしれないけど。


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夏休みくらい羽目を外しても良いと思う。

夏休みも終盤を迎え、面接練習も大分仕上がってきた。

練習のときだけは捻くれた発言や態度を取ることが無くなって、どうにか本番でもいけるようになったと平塚先生からお墨付きを頂いた。

それではお墨付きを頂いたとは言えないだって?なにを言う。俺が面接の間だけでもまとも、というのは自分言うのもアレだが凄いことなのである。

もうあれだ、沖縄に雪が降っちゃうレベル。

 

まあそうして平塚先生からお墨付きを頂いて家に帰って勉強しているときにケータイは震えた。

一色からの電話で、俺の誕生日以降とくになにもなかったのだが、おおよそはまた買い物に付き合えとか言われるんだろう。そして俺はこの電話に出てしまったら必然的に行くことになるだろう。

…ここは見なかったことにしよう。

ケータイをベッドに放り投げMAXコーヒーを取りに行った。

 

 

部屋に戻りケータイを一度チェックしてみた。

いつもなら電話を無視した後にはメールが来てその後に小町に連絡がいって逃げ道を潰されているのだが、さっきの電話以降なにもない。

試しに五分程小町が来るのを待ってみたがやはりなにもない。

あの一色が俺に用がありながら電話一本で終わるとは思えない。だがなにもない。

もし俺の考え過ぎでなければ一色は今普通の状況ではないのかもしれない。

 

「…全く手のかかる後輩だな…」

 

これでは気になって勉強出来ないだろうが。

仕方なく一色に電話をかけることにした。

3コール目で一色は電話に出た。

 

「おう一色か、すまんな。勉強してて気付かなかった」

『せんぱいが途中で気付いて電話をかけてくれるなんて、明日は雪が積もるかも知れませんね』

「人の行動に対していちいち天変地異になるかもしれないとか言うな。今は夏だ」

 

どこか落ち着いた声で、いつものあざとさはあまり感じられなくて、やはり何かあったのではないかと思わせる。

 

「で、用件はなんだ?」

『せんぱい、花火大会に行きませんか?せんぱいにとっては高校最後ですし』

「別に花火興味はないんだが…」

『ですよね…別に無理はしなくて良いんです。せんぱいも受験生ですしね…』

 

一色は風邪でも引いているのだろうか?それとも夏バテだろうか?どうしてこうもあっさりと引き下がるのだろうか。いつもの一色ならあの手この手を使い食い下がるはずだ。

 

「…まあ別に勉強とか面接は大分余裕出てきたし、行けなくはないが」

『良いんですか?』

「まあたまには羽を伸ばすのも良いだろう。それに俺は頭いいし」

『知ってます』

 

クスクスと小さく笑いながらそう言った。

 

『でわでわ、詳細はメールで』

「おう」

『せんぱい、ありがとうございます』

 

やはり一色はなにかの病気かもしれない。

 

 

 

 

 

 

いつものように小町コーデで待ち合わせの場所で待つ。

途中電車を乗り換えて合流することになった。

去年由比ヶ浜とのときもそんな感じだった気がする。

 

「せんぱい、お待たせしました」

 

振り返ると、浴衣を着た一色がいた。青とピンクの不思議と綺麗な模様の浴衣で、それが似合う一色はただただ綺麗だった。

 

「おう、一色」

「えへへ。せんぱい、どうですか?」

「ああ、…合ってると思うぞ」

 

そんなありきたりな言葉しか出てこない。

今の俺の顔はきっと、少しだけ赤いのだろう。

夕陽が少しばかり隠してくれているとは思いたい。

 

「でわでわ行きましょうか、せんぱい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「一色はなにか食いたい物とかないのか?」

「…そうですね〜」

 

色々出ているお店を忙しなく見ている一色はどこか楽しそうである。まあお祭りとは楽しむものだし、それが普通なのだが。

 

「あ!せんぱいせんぱい、私りんご飴食べてみたいです!」

「なんかあざといが定番ではあるな」

 

りんご飴というチョイスがあざといかは一瞬迷ったが、一色が言うとなんでもあざとく感じるのでしょうがない。

 

「ん?てか一色、りんご飴食べたことないのか?」

「はい。というか、あまりこういうお祭りとか来ないですし」

「なんか意外だな。一色の事だから、いつもクラスの男子でも連れて荷物持ちにでもしてると思ったが」

 

というか一色がお祭りにあまり行かないということ自体が意外だ。

 

「まあ確かに前は買い物とかで荷物持ちとかさせてましたけど、お祭りとか花火大会とかはなんか違うかなって思ってたんです」

 

りんご飴を食べながら一色はそう言った。

 

「せんぱい」

「なんだ?」

「手、繋いでもいいですか…」

 

差し出された手は小さくて、綺麗だった。

 

「まあ人も増えてきたし、はぐれたりしたら面倒だしな。こういう時に限ってケータイの電池が切れたりするしな」

「せんぱいも中々に捻くれてますね」

 

まあ捻くれてなかったらぼっちじゃなかっただろうしな。

 

「せんぱいのそういうところ、私、結構好きですよ」

 

ああ、俺もこんなに捻くれているが割と自分は好きだ。

 

「そいつはどうも」

 

それからも色々回って食べたり遊んだりした。

なんというか、普通に楽しい。

 

 

 

 

 

「せんぱい、そろそろ花火の時間です」

「そうか、じゃあ移動するか。いいところ教えてやる」

 

手を繋ぐのも慣れて、そのまま二人で絶好の場所へと向かう。

 

「せんぱい、なんでそういうのは知ってるんですか?」

「よく小町と来てたからな」

「納得です」

 

歩くこと数分。

人気はほとんどなくなり、俺と一色のふたりになった。

やっとこさベストプレイスに辿り着いた。

 

そこにはあまり大きくはないベンチがあるだけの場所で、ここで毎回小町とふたりで花火を見ていた場所だ。

そこで今日は一色とふたり。

小町が知ったら拗ねてしまうんじゃないかと思った。

 

 

 

 

 

「いい場所ですね」

 

せんぱいがこんなにロマンチックな雰囲気の場所を知ってるなんて、思ってませんでした。

いろは的にポイント高いです。

 

「まあとりあえず座るか」

「はい」

 

ベンチはあまり大きくなくて、ふたりで座ると肩が当たっちゃいそうです。ドキドキします。

今もせんぱいは私の手を握っていてくれて、それが私のドキドキがせんぱいに伝わっていないか心配です。

 

「せんぱい、私…」

 

私が話そうとすると、目の前で綺麗な花火が咲き始めてしまった。

少しベタなタイミング。

 

せっかくなので、せんぱいに甘えちゃいます。

せんぱいの肩に持たれて少しだけ手を強く握る。

 

「一色。近いんだが…」

「いいじゃないですか。今日くらい」

 

それきりせんぱいはなにも言わなくなりました。このままでもいいみたいです。

 

花火も終盤になったらしく、大っきな花火が打ち上げられ始めた。

 

「せんぱい、」

「なんだ?」

 

私を向いたせんぱいに、私はキスをしました。私の想いが届くように。

 

「せんぱい」

 

固まるせんぱいをもう一度呼んだ。

 

「好きです。せんぱい」

 

 

 



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人生は珈琲のように熱くて苦くて甘い。

すいません、何話か伸ばすかもとか言ってやっぱりこれで最後です。
途中から結構飛びます。


「一色、」

 

繋いでいた唇は、せんぱいに優しく離された。

優しいけど、どこか拒絶するように。

 

ただ名前を呼ばれただけなのに、もう全部聴こえてしまった。わかってたのもあるけれど。

 

大丈夫、大丈夫。覚悟していたことだから。

傷付く覚悟もしてたし、傷付けさせる覚悟もして来た。

せんぱいごめんなさい。

 

「その、なんだ、嬉しいよ」

 

嬉しいと、そう言ってくれるせんぱい。

その気持ちも多分本当で、でも全部じゃない。

戸惑い、動揺、疑問、疑い。色々混じってる。似たような感情、全く違う感情も。

 

うつむく私の手を握りなおすせんぱい。

 

「一色も知っていると思うが、俺はあまり人から好かれない。そういう人間だったし、そういう生き方もして来たからしょうがないんだが」

 

花火を見ているのか、私に話しかけつつも、自分自身にも語りかけているように聞こえた。

 

きっと今、せんぱいの中にあるのは奉仕部のことなのだ。

暖かくて、紅茶の香りがする。

 

「でも奉仕部に入って、いや、正確には強制的に入らされたのか。あいつらと出会って色々わかった。口で言わなきゃわからないって言うけど口にしたってわからなくて、わかり合えなくて」

 

あの日3人が屋上に行った後のことは私は知らない。

きっとぶつかり合って、わかり合えなくて、それでもまだ奉仕部でいたい言うなにかがあったのだろう。

 

「それでもな、一色。追い求めないといけないと思った」

 

握ってくれているその手がじわりと暖かくなるのがわかる。伝わってくる。

 

「一色、俺は私立文系に行く。多分凄く遠回りだと思うが」

 

最後の花火が咲き終えて、せんぱいが私の手を離して立ち上がった。

とてもさむい。

 

地面と砂利を擦るようにして歩くせんぱい。

せんぱいにも辛い思いをさせてしまった。

 

「…一色、俺も本物がほしい…」

 

しばらくして足音は聞こえなくなってしまいました。

 

「フフフッ」

 

やっぱりせんぱいって捻くれてますよね。

 

「フフフッ」

 

ついて来てくれって聴こえました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業式です。

少しばかり寒い体育館、我が子の晴れ姿を拝まんと駆けつけたそれぞれの家族。教え子達の最後を優しく見送る先生。平塚先生には大分お世話になってますからね。

卒業式って何回やっても緊張しますよね。下手なことできないですし、首元もいつにも増して苦しいです。あ、私別に太ってないですよ。むしろスレンダーボディです。

これで落ちない男はそうそういないですよ。

 

舞台の上に立ち、生徒会長として挨拶をさせてもらってます。

頭の中でどうでもいいことを考えていても、覚えた文章はスラスラと出てくるから驚きです。

まあこう言う場では形が大事ですからね。それらしい事を言っておけばいいんですよ。

と言ってもまあ、真面目にやらないとまた平塚先生に怒られてしまいますから真剣ですよ、一応。

 

「卒業生代表、一色いろは」

 

 

 

 

 

 

 

「いろは先輩!ご卒業おめでとうございます!」

 

花束を抱えて走ってくる小町ちゃん。

 

「ありがとう小町ちゃん」

「いろは先輩、写真いいですか⁉︎」

 

小町ちゃんには生徒会でずっとお世話になっちゃいました。

もうほんと、小町ちゃんがいなかったらやっていけなかったと言える。そんな小町ちゃんは現生徒会会長です。

 

「一色、ご卒業おめでとう。私も嬉しいぞ」

「平塚先生…私も早く平塚先生を祝ってあげたいです。結婚祝い」

「私だって祝われたいよ…」

 

平塚先生はからかい甲斐がありますね。まあほどほどにしておかないと大変な事になるので自重しますけど。

 

「一色は、調理科の専門学校に行くんだったな。頑張れよ」

「はい。まあ正確には調理科に一年と製菓で一年ですけどね」

 

結局、私はせんぱいの行っている大学に落ちました。そしてなんとなく、その大学に割と近い専門学校に行くことになりました。

頑張って勉強したんですけどね…やっぱり簡単にはいかないですね。せんぱいの頭が良すぎるのが悪いんですとは言えない。結局落ちた私が悪い。

 

「いろは先輩は調理師になるんですか?それともパティシエですか?いろは先輩ならどっちも似合いそうですね」

「まだどっちにしたいかは迷ってるんだ。どっちも興味があるから」

 

それでも藁にもすがる思いで、少しでもせんぱいの近くに居たい。

 

 

 

 

 

 

 

 

専門学校の生徒になって一週間、やっと学校にも慣れてそしてなんと⁉︎友達が出来ました!

 

「いろはす〜」

「なに〜葵〜」

 

青峰葵(あおみねあおい)ちゃんです。

 

「いろはすごめん!今日一緒に行く予定だった喫茶店行けなくなった!」

「ははぁ〜ん。もしかして彼氏かな?」

 

脇腹を肘でツンツンすると葵は急にニヤけながらまた謝ってきました。

全く、羨ましいです。

 

「ほんとにごめん!この借りはいつか必ず」

「じゃあ今度いちごパフェおごってね」

「うん!ありがと!またねいろはす!」

 

元気よく帰っていった葵。急に予定が空いてしまった私。

まあ仕方ないよね。だってあんなにニヤけて幸せそうな顔してたら許しちゃうよ。

 

とりあえず暇になってしまったし、当初の予定通り喫茶店にでも行きますかね、ひとりで。

ずっと気になってたんだよね。

あそこの前を通る度に珈琲のいい香りがするだよね。

 

うちの専門学校からは歩いて10分くらいのところで、ちょっとした隠れ家みたいな雰囲気のお店。

純喫茶クレマ。

 

ドアを開けると涼しげな鈴の音が鳴り、たったそれだけでここに来て良かったと思った。

中に入るとあの珈琲の香りと、アップルパイでも焼いているのか林檎の甘酸っぱい香りが漂っていた。

 

鈴の音を聞きつけてか、店員さんが「はいはい〜ただいま〜」と気だるそうに言った。それはいつか聞いた声にとてもよく似ていた。

 

「一色?」

「…せんぱい?」

 

 

 

 

 

 

 




今まで「やはり比企谷八幡は捻くれている」を読んで頂きありがとうございます。
他のssとは違う最後にしたくてこうなりました。

もし続編を書くとしたらまた頑張ります。
タイトルはなんにしましょうかね?
「やはり比企谷八幡は捻くれている。続」
とかですかね?w

でわでわ、ありがとうございました。

追伸、やはり比企谷八幡は捻くれいる。続
連載開始しました。続の方も読んで頂ければ幸いです。


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