ペルソナ4 正義のペルソナ使い  (ユリヤ)
しおりを挟む

プロローグ

はじめましての方は初めまして
知っている方はお久しぶりです
ユリヤでございます
最近もう一つの方の小説が上手く書けずに悶々としていまして
リハビリがてらに書いてみました。
それではどうぞ


「ぐす…うう…くそぉ…」

 

 河原にて幼稚園の制服を着た男の子がボロボロになりながら地べたに倒れており、悔しそうに涙を零していた。

 少年の近くには数人の男の子が泣いている少年を見て馬鹿にしたような笑い声を上げていた。見ると男の子達も少しボロボロであったようで泣いてる少年も抵抗はしたようだが

 だが多勢に無勢だったようで、結局少年は負けてしまった。

 くそぉ…少年は悔しがりながら地面に拳を打ち続けた。喧嘩のきっかけは、男の子達が一人の女の子にやり過ぎな嫌がらせをしていたのだ。

 それを止めようとして、男の子達に注意をした。そしたら生意気だと男の子達のリーダーが少年に殴り掛かってきた。

 ただで殴られるつもりもなく、少年は殴り返しそこから喧嘩が始まってしまった。

 少年は父の教えで武術を習っていたから最初は優勢であったが、油断し一人の男の子が少年を羽交い絞めにしそこから優劣が決まった。

 羽交い絞めされた少年は、男の子達に殴られ蹴られと一方的にやられ話の冒頭に戻る。

 ボロボロになった少年を見て、面白くなった男の子達はもっと少年を痛めつけようとしたその時

 

「こらぁ!アンタたちぃ!!」

 

 一人の少女の声が聞こえ、此方に腕を振り回しながら近づいて来る少女が来た。

 少女の姿を見た男の子達はひぇッ!と顔を青ざめながら

 

「にげろぉ!おんなギャングのさとなかだぁ!!」

 

 リーダーの男の子の一声で男の子達は散り散りに逃げ出した。

 残ったのは少年と少女の2人だけ

 

「にげんなひきょうもの!!」

 

 少女は逃げていく男の子達に向かってそう叫んだ。

 男の子達が戻るわけもなく、少女はむぅと頬を膨らませながら倒れている少年に近づいた。

 

「だいじょうぶ?立てる?」

 

 少女はそう言いながら手を差し伸べてきてくれた。

 うんと少年は腕で涙を拭いながら

 

「ありがとう。ちえちゃん」

 

 そう言い少女、ちえの手を取った。

 少年と少女は河原の近くの切り株に座っていた。

 

「さやかちゃんがおおあわてでアタシのところにきたら、アスカくんがけんかしてるってきいてはしってきたけど、いたくない?さっきないてたし」

 

 ちえに聞かれ、痛くないと少年アスカは首を横に振った。

 

「べつにぜんぜんいたくないよ。いつもおとうさんとけいこしてるときのほうがいたいし。ただ…あんなよわいものいじめをするやつらなんかにまけたのがくやしくて…」

 

 カッコわるいよね?アスカはちえにそう言うが、ちえはううんと首を横に振りながら

 

「ぜんぜんカッコわるくないよ。それよりもだれかをたすけようとするなんて、せいぎのヒーローみたいでカッコイイよ」

 

 だから…ちえはニッコリと笑いながら

 

「アタシはそんなアスカくんがだいすきだよ」

 

 ちえに大好きだと言われ思わず顔を赤くしてしまうアスカ。だけど好きと言われたのが嬉しくて…

 決めた…とアスカはちえの方を向いて

 

「ぼくもっともっとつよくなって、みんなをたすけるような…ちえちゃんをまもれるようなヒーローになりたい」

 

「だったらアタシももっともっともっとつよくなって、みんなをまもるアスカくんをまもるヒーローになる。よくあるあいぼうってやつかな」

 

 えへへと笑いあうアスカとちえ。

 それでね…とモジモジとするアスカは

 

「もしぼくがつよくなったらその…よかったらぼくと…けっこんしてください!」

 

 恐らくアスカにとっての人生初の告白だろう。幼稚園児位は何かと好きな女の子に結婚してくださいと言ってしまうものである。

 しかし幼稚園児位では結婚というものを今一分かってはいないものであって

 

「うんいいよ!アスカくんがアタシよりつよくなったらけっこんしてあげる!」

 

 と簡単に言ってしまうものである。

 ちえの返事にパァッと顔を輝かせるアスカ

 

「ほんとう?じゃあゆびきり!」

 

「うんいいよ!」

 

 アスカとちえは指切りのためにお互いの小指を絡めた。

 

「うそついたらはりせんぼん」

 

「それとアタシのまわしげりがひをふくぜ!」

 

 とちえの訳の分からぬセリフに思わず笑ってしまったアスカ。

 そして指切りをしたアスカとちえは一緒に帰路に着くのだった

 

 

 

 

「……ん、夢か」

 

 ぱちりと目を覚ました少年、日比野明日香は夢から覚めた早々に体を伸ばした。

 夢に出た頃からはや10年、明日香は立派な好青年へと成長していった。

 今日から地元の高校、八十神高校の2年へと進級するのだ。

 

「確か俺らの担任ってモロキンだったけな…遅刻なんてしたら腐ったミカンだなこりゃ」

 

 そんな事を呟きながら制服に腕を通す明日香。

 忘れ物が無いかチェックをし、忘れ物がない事を確認するとよしと頷く明日香

 そんな明日香へ

 

「明日香ー早く朝ご飯食べないと、千枝ちゃんが来ちゃうわよぉ」

 

 下の階から母親の声が聞こえてきた。

 時計を見るともうそんな時間かと呟く明日香。

 

「はぁい!今すぐ行くよ!!」

 

 明日香はカバンを持って下の階へ降りて行った。

 

 

 朝食を食べて玄関から出て、しばらく待っていると隣の家からバタン!と盛大に玄関のドアが開き

 

「やっばい!遅刻だ!!」

 

 緑のジャージを着た少女が玄関から躍り出て、明日香の姿を確認するとバチッ!といい音を出しながら手を合わして

 

「ゴメン明日香!待ったでしょう!?」

 

 明日香に謝って来た少女、里中千枝の迫力に明日香は思わずポカンとしながらも

 

「いや待ったも何も今さっき玄関からでたばっかだし、遅刻って言ってもまだ30分位は余裕があるぞ」

 

 明日香の言った事に千枝はあれぇ?と首を傾げながら

 

「おっかしいなぁ、アタシの目覚ましもう8時をとっくに過ぎてたのに」

 

「ただ単に千枝の時計が少し早く進んでただけだろ?」

 

 明日香の的確な推理に千枝はなぁんだとホッと胸をなでおろしながら

 

「まだ時間に余裕があるならもうちょっと朝ご飯を…」

 

 千枝が家に戻ろうとすると、明日香は千枝の肩をガシッと掴み

 

「そんな事してたら本当に遅刻するだろうが。ただでさえ担任モロキンなんだからさっさと行くぞ」

 

「そッそんなぁ!まだベーコン4枚にウィンナー6本しか食べてないんだよ!?絶対お腹すくって!!」

 

「そんだけ食ったら充分だろ?どんだけ肉が好きなんだ千枝は…」

 

「いやぁ!肉を!アタシにもっと肉ぉぉ!!」

 

 千枝の悲鳴を無視し、明日香は千枝を引っ張りながら学校へと向かった。

 

 

「にくぅ…にくぅがぁ…」

 

「肉肉五月蝿いぞ千枝」

 

 先程から肉肉と呟きながら溜息を吐いてる千枝を見て、明日香も溜息を吐いた。

 夢に出たちえと言うのも、自分の隣に居る千枝であり、彼女も女の子らしく成長していた。

 特に胸が…と明日香は幼稚園の頃は地平線であった胸が、今では女の子らしく膨らんでいるのを見て明日香は思わず顔を逸らしてしまった。

 朝っぱらから何考えてるんだ俺は…と自分自身に喝を入れた明日香は、まだ嘆いている千枝を見て何だか可哀そうになり

 

「分かったよ。今度愛家の肉丼奢るから元気出せって。な?」

 

 明日香の肉丼の一言に

 

「ほんと!?やったぁ!」

 

 さっきまでの顔が嘘のように満面の笑みになった千枝を見て明日香も思わず笑みを浮かべてしまった。

 すっかり元気になった千枝はルンルン気分で歩き出した。

 現金な奴だな…と呆れていたが、そんな千枝も可愛いと思った明日香。

 あッそうだと千枝は何かを思い出して

 

「今日確かアタシらのクラスに転校生が来るらしいよ」

 

「転校生ね…転校したクラスがモロキンとは運がないな…」

 

「確かにね。その転校生って都会から来るらしいよ。前の花村みたいだね」

 

「都会からかぁ。モロキンの奴、色々と説教しそうだな『都会の奴らは腐った奴ばっかりだ!』とかさ」

 

「アハハ!今のモロキンの真似、結構似てた!」

 

 と明日香と千枝は笑いながら登校していた。

 だが明日香と千枝は思いもしなかった。その転校生が此れからの自分達の運命を大きく変える事になる事を。

そんな事を知る由も無かった4月12日の雨の朝の出来事である。

 

 




なんでいきなりペルソナ4の小説を投稿したのかと言うと
最近ペルソナ4ザ・ゴールデンにハマっておりまして
そしたら何か書いちゃいました。
ヒロインを千枝にした理由は、千枝が一番好きなのと最初にコミュをMaxにしたのです
まぁ不定期更新になると思いますが
もし楽しんでくれたのなら幸いです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話

 4月12日(火) 午前

 

 明日香と千枝は自分達のクラスである2-2の教室に入ると自分達の席に座る。

 

「お早う千枝」

 

「お早う雪子。アタシらの担任がモロキンなんてついてないよね」

 

 千枝は赤い上着を着た生徒、天城雪子に挨拶をした。雪子とは小学生からの親友であり、明日香も雪子と友人である。

 因みに雪子の隣の席は明日香である。

 

「お早う明日香君」

 

「お早う雪子。聞いてくれよ千枝の奴、新学期早々にやらかしてさ朝っぱらから大騒ぎだったんだぜ」

 

「ちょ明日香!その話は止めてよ!」

 

「ふふ…千枝ったらあわてんぼうだね」

 

 雪子の微笑みで、千枝は顔を赤くし頬を膨らませた。

 と千枝は自分の後ろの席の男子が机に突っ伏してるを見た。

 

「あれ?花村さっきからそんなんだけど何かあったの?」

 

「や…里中、今は話し掛けないで。マジで今結構最悪な気分」

 

「ほっとけよ千枝。陽介の事だし、どうせ登校中調子に乗って自転車飛ばし過ぎてゴミ捨て場に突っ込んだとかそんな感じだろ」

 

「いや明日香、なんでお前はあたかも見たような感じに俺のヘマを的確に当てるんだよ」

 

 突っ伏して顔を上げた茶髪でクビにヘッドフォンをかけた少年、花村陽介が疲れた様な溜息を吐いて明日香を見た。

 

「簡単な推理だ。陽介、お前の左足にゴミが附着してるぞ。それにさっきから足を押さえたりしてるのは飛ばし過ぎて足をぶつけた…そんな所だろ?」

 

「…マジでお前の推理能力には舌を巻くよほんと」

 

 明日香の推理力に呆れを通り越して感心する陽介。

 とクラスメイト達の話が耳に入り、大抵がモロキンのクラスになって最悪だとか、転校生は男か女かという話題でもちきりであった。

 と騒がしかったクラスが教室のドアが開いた事で自分の席へと戻って行った。

 教卓に出っ歯で七三分けにした男性教師、諸岡先生こと通称モロキンとそのモロキンの隣に銀髪の少年が立っていた。おそらく彼が転校生なのだろう。

 

「静かにしろー!」

 

 モロキンの一声でざわついていた教室が静かになった。

 

「今日から貴様等の担任になる諸岡だ。いいか春だからといって恋愛だ異性交遊だと浮かれてるんじゃないぞ」

 

 モロキンは新学期から『学生とはなんぞや』と自分の考えを延々と話し始めた。モロキンの話をほとんどの生徒が嫌そうに聞いている。

 明日香はモロキンの話も一理あると聞いているが、考えが偏り過ぎでは?とも考えている。

 しかしモロキンに対して反抗的な態度を取った生徒に対しては

 

「このワシに対して反抗の態度を見せた生徒に対しては腐ったミカン帳に記載しておくからな!」

 

 腐ったミカン帳とは違反行為をした生徒をそのミカン帳と呼ばれる手帳に記載し、目をつけ停学や最悪退学などもされるそうだ。明日香はよくは知らないが、前にモロキンに対して反抗的な生徒が居て、退学にさせられたそうだ。

 

「あぁそれと、不本意ながら転校生を紹介する」

 

 銀髪の転校生はチョークで黒板に自分の名を書きはじめた。

 名は鳴上悠、変わった名字だと明日香は思った。

 

「ただれた都会から、へんぴな田舎に飛ばされた哀れな奴だ。いわば落ち武者だ。女子は間違っても色目なんか使うんじゃないぞ」

 

 行き成り転校生が酷い言われ様だな…と明日香は哀れみの視線を転校生の鳴上に向けた。

 しかし鳴上もここまで来て分かっただろう。モロキンに逆らっても碌な事が起きないと

 だが明日香の予想は裏切られた。

 

「では簡単に自己紹介をしなさい」

 

「だれが落ち武者だ」

 

 鳴上の発言に生徒達、そしてモロキンまでもが目を丸くした。

 転校初日でモロキンに反抗するとは中々の度胸だと明日香は鳴上をそう評価した。

 

「貴様は腐ったミカン帳に書いておくから覚悟しておけよ!」

 

 案の定モロキンにさっそく目を付けられた鳴上、だが明日香は鳴上に対してお見事とそう評価していた。

 

「いいかね、ここは貴様がいままで居たいかがわしい街とは違うからな。いい気になって女子生徒に手を出したりイタズラしたりするんじゃないぞ。まぁ最近の子供もませてるからねぇ。どうせ暇さえあれば出会い系とかなんだとか…」

 

 とモロキンの話が延々と長くなりそうであった。

 明日香と千枝はアイコンタクトをした。これ以上長くなるのは嫌だから話を逸らそうと。

 千枝が先生!と手を上げながら

 

「アタシの隣の席空いてるんで、転校生の席は此処でもいいですか?」

 

 と上手く話を逸らした。

 

「む、そうか…貴様の席はそこだ。隣の女子生徒にちょっかいを出すんじゃないぞ」

 

 モロキンに言われながらも分かりましたと鳴上は頭を下げながら千枝の隣の席に座った。

 

「アイツ最悪でしょ?まぁ担任になったのが運のつき、1年間頑張ろ」

 

「でもま、モロキン相手にあそこまで言うなんて流石は都会から来たって所か?」

 

 千枝が同情し、明日香はモロキンに啖呵切った鳴上に流石と称した。

 

「よろしく」

 

 鳴上も千枝と明日香によろしくとそう言った。

 

 

 ――放課後――

 

 今日は新学期初日という事で、授業は早めに終わった。

 

「では今日の授業はこれまで、明日からは通常授業が始まるからな」

 

 授業が終わり生徒達も大きく伸びをした。

 そしていざ帰ろうとした瞬間放送スピーカーが鳴りだした。

 

『先生方に連絡します。ただ今より緊急職員会議を行いますので、至急職員室まで集り下さい。また全校生徒は各教室に戻り、指示があるまで下校をしないでください』

 

 新学期初日から緊急職員会議とは何事か?明日香がそんな事を考えていると、モロキンがブツブツと言いながら教室を出て行った。

 暫くすると、外の方からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

 

「なんだ事件か?」

 

「くそッこの霧のせいで全然見えねえ。なんだよこの霧」

 

「最近雨が上がったら霧が出るよな」

 

「そう言えば聞いたか例の女子アナ。パパラッチとかも出たらしいぜ」

 

「あぁ山野真由美だろ?」

 

「そうそう。でさその女子アナなんだけどな」

 

 と2人の男子生徒が小声で話したと思ったらマジかよ!?と1人の生徒が驚いたような声を出した。

 そしてそのまま雪子の方へ近づくと

 

「なッなぁ天城、ちょっと聞きたいんだけどな。天城の旅館に山野アナが泊まってるってマジ?」

 

「そういうの…答えられない」

 

 雪子の目線を逸らした回答に、質問をした男子生徒はだよなぁと言いながら退散して行った。

 天城の旅館と言う単語に鳴上が首を傾げていると

 

「雪子は旅館を経営してるんだよ。この稲羽の一番の名所かもな」

 

 と明日香がそう説明した。明日香が鳴上に説明していると、千枝と雪子が何かを話していた。

 

「ねぇ雪子、この前話した事もうやった?真夜中のやつ」

 

「ううんちょっと家の方が忙しくて」

 

「そっかでも何か隣のクラスで『俺の運命の相手は山野アナだー』って騒いでたんだって」

 

 とそんな事を話しているとまたスピーカーが鳴りだし

 

『全校生徒に連絡します。学区内にて事件が起こりました。通学路に警察官が動員されています。出来るだけ保護者の方と連絡を取って、落ち着いて下校をしてください。警察官の邪魔をせずに、寄り道をしない様に下校してください』

 

 再度同じ放送が流れ始めるが、生徒達は事件と言う言葉に過剰に反応していた。大抵の生徒が事件現場に行こうと騒ぎ出した。

 明日香は事件などを面白半分に見るわけもなく、さっさと帰る事にした。

 後ろの席の鳴上も帰る準備をしており、如何やら1人で帰るようだ。

 

「あれ?帰り1人?」

 

 千枝が鳴上に声をかけると鳴上はまあねと肯定した。

 

「よかったらアタシらと一緒に帰らない?アタシは里中千枝、隣の席だけど知ってるよね?」

 

「知ってるよ。宜しく里中さん」

 

 千枝と鳴上が自己紹介をし、今度は明日香である。

 

「俺は日比野明日香、お前の前の席の奴だ…ってさっき話したから知ってるよな」

 

「いや知らない」

 

 鳴上の知らない発言に明日香は肩に掛けていたカバンを思わずズリおとしてしまった。

 

「もしかして鳴上って冗談を真顔で言うタイプか?」

 

「?」

 

 首を傾げるとは無自覚ときたもんだ。

 

「まッまぁいいや。明日香や日比野って呼びやすい方でいいから呼んでくれ。因みに千枝と雪子とは小さい頃からの幼なじみだ」

 

「宜しく明日香」

 

「おう、俺も悠って呼ばせてもらうぜ。今日から仲良くしような」

 

 明日香と悠が握手をし、いざ帰ろうとすると陽介が申し訳なさそうに近づいて。

 

「あッあの里中さん、この前借りたDVDよかったですはい。アクションもまさに本場ってもので…」

 

 陽介が色々と言って千枝の気をそらそうとしたが、やっぱり無理だったようで

 

「ゴメン!今度の給料でお詫びするから許してくれ!」

 

 そう言って千枝にDVDのパッケージを渡して逃げ帰るように教室を出ようとした。

 が陽介が余りにも余所余所しかったので

 

「まてこら、貸したDVDになにした」

 

 逃げようとする陽介に千枝が飛び蹴りをし、陽介のひざに机の角をぶつけた。

 余りの痛さにうごごと悶絶する陽介。そんな陽介を無視し、DVDのパッケージを開いた千枝は憤慨した。

 

「何これ!?ヒビはいってんじゃん!アタシの成龍伝説がぁぁぁ…」

 

「俺のも割れそう…机の角が…直に…」

 

 ひざがダイレクトに当たったのか未だに悶絶している陽介

 

「だ、大丈夫?」

 

 雪子が悶絶している陽介に大丈夫かと声をかけたが

 

「いいよ雪子!花村何かほっといてかえろ」

 

 千枝はお冠の様で、痛がっている陽介を無視して教室を出てしまった。

 まぁ陽介の自業自得だな…と明日香も呟いて教室を後にした。

 

「そっとしておこう…」

 

 最後にでた悠の一言を聞いて、意外とドライなのか?とそう思ってしまった明日香であった。

 

 

 

 昇降口をでてこれからどうしようかと明日香達が話していると学校の門に他校の高校生がゆっくりと近づいてきた。

 

「君さ、雪子だよね?こ、これから何処かに遊びに行かない?」

 

「え?だッだれ?」

 

 雪子は戸惑った。目は濁ったように虚ろで、まるで生きてるのか死んでいるのか存在感が無かった。

 それに初対面のはずなのに行き成り雪子と下の名で呼ぶなんてかなり危ない。

 周りの生徒達は天城越えとか面白がっていたが、明日香は全然面白くもなんともない。

 

「いくのいかないの?どっち?」

 

「何が行くかだよ。行き成り雪子とかよんで雪子を困らせるなよ。あんまりしつこい様だと先生を呼ぶぞ」

 

 明日香の睨みに幽鬼のような少年は、たじろぎながらクソッと吐き捨てて逃げるようにはしりさっていった。

 

「何だったんだろ彼…」

 

「そりゃデートのお誘いだったんじゃん?」

 

「え?だったら私悪い事したんじゃ…」

 

「いや構わねぇよ。今の男なんかヤバそうな感じだったからな。生きてるのがやっとって感じだ」

 

「だよね。行き成り雪子は無いと思ったわ」

 

 明日香と千枝がさっきの男は危ないと話していた。

 

「天城さんは何時もこうなのか?」

 

 悠の問いに明日香が

 

「まぁ雪子には1日1回ぐらいはデートのお誘いがあるが、あんな奴は初めてだな」

 

 と答えていると陽介が自転車を押しながらやって来た。

 

「よう天城、また悩める男子高校生を振ったのか?」

 

「まぁな。今回も雪子にデートのお誘いをした男子生徒は哀れに玉砕。でもなんか暗いやばそうな奴だったけどな」

 

 明日香の報告にふーんと言った様子の陽介

 

「ま俺も去年バッサリ切られたけどな」

 

「え?そんな事してないよ?」

 

 陽介を振った覚えは無いと雪子は顔を横に振る。

 

「マジ?んじゃ今度どっか遊びに行かね?」

 

「…それは…いやだけど…」

 

 あっさり陽介も粉砕された。少しでも期待した俺が馬鹿だったよと肩を落とす陽介。

 雪子はごらんの通り恋愛に対してすこし天然の所があるのだ。

 

「てかあんま転校生を虐めんなよ?」

 

 それだけ言うと陽介は自転車に跨り、行ってしまった。

 何か生徒達も増えて来たので、これ以上注目の的になるのは御免だ。明日香達は学校を後にした。

 

 

 

 帰る道中、明日香や千枝に雪子は悠にこの稲羽の事を色々と教え、悠から如何して稲羽にやって来たのかと訳も聞いた。

 何でも悠は親の都合で転校を色々としているようだ。親の都合で転校と言うのも大変なものだ。

 稲羽の事については染物や焼き物が有名な所と雪子の家の天城屋旅館は1番の名所である。雪子はその旅館の次期女将なのだ。

 そんな事を話していると前方が何やら騒がしかった。

 ブルーシートが敷かれておりパトカーが数台停まっていたり、普通ではなかった。野次馬達も何があったのかと騒いでいた。

 アンテナに引っ掛かっていたやら警官や消防が先程降ろしたと色々と騒がれていたが、一つの単語が嫌に耳に入った。死体言う言葉が…

 

「いッ今死体って聞こえたよね?」

 

「あぁ聞こえた。さっき言ってた事件って若しかしてこれの事か?」

 

 千枝と明日香がそんな事を話しているとスーツの上着を手に持った刑事が此方に近づいてきた。

 

「おい、此処で何してる」

 

 明日香はやって来た刑事とは顔見知りで

 

「堂島さん!」

 

 と挨拶をしていた。

 

「おぉ明日香か。久しぶりだな。コイツとは知り合いなのか?」

 

「コイツ?」

 

 千枝が首を傾げていると

 

「そこに居る鳴上悠は俺の姉貴の息子なんだ。今俺の家で預かってるんだ…それで、何で此処に居るんだ?」

 

「偶然通りかかったんだ」

 

 悠の正直な答えに、堂島は舌打ちをしながらあの校長は…と文句を言っていた。

 何か事件なのかと明日香は効こうとしたら明日香達の前を1人の若い刑事が走って行って

 

「うぉぉ…うおえぇぇぇぇ」

 

 我慢できなくなったのか、道中で吐いてしまっていた。

 吐いてる若手の刑事を見て、たくっと舌打ちをする堂島は

 

「おい足立!何時まで新人気取りだ!?さっさと顔洗って戻って来い!!」

 

「はッはいぃ」

 

 堂島の怒鳴り声に若手の刑事足立は慌てて現場に戻って行った。

 あぁそうだと明日香は何かを思い出して

 

「堂島さん、俺の父さんは?」

 

 と聞こうとしたら

 

「明日香、僕の事を呼んだかな?」

 

 明日香の背後から男性の声が聞こえ、バッと後ろを振り返ると其処には明日香によく似た男性が立っていた。

 

「ちょ!何時も背後に立つなって言ったじゃん父さん!」

 

「はははごめんごめん。いつもの癖でね」

 

 男性は明日香に平謝りをした。彼の名は日比野未來、堂島と同じ刑事である。

 

「おじさん、こんにちわ」

 

「あぁこんにちわ千枝ちゃん。今年も明日香の事を宜しくね」

 

 と未來は千枝とにこやかに話していた。

 

「未來さん、他の目撃者は?」

 

 堂島が聞いてみると、未來はにこやかな顔から真剣な顔になり

 

「…やっぱりこの霧のせいで目撃者はほぼゼロ。早退したと言うその女子生徒が唯一の目撃者らしいよ」

 

 未來の報告にそうですか…と顔を歪める堂島

 と明日香達の事を見た未來は

 

「大丈夫。此処は僕達警察に任せて早く帰りなさい。明日香、明野さんには若しかしたら今日は帰れないかもしれないから戸締りはしといてと言っておいて」

 

 妻の名は明野だが、心配しないでと伝え解いてと明日香にお願いした。

 

「分かった。父さんも気を付けてよ」

 

 そう言うと、堂島足立に未來は現場に戻ってしまった。

 と明日香は先程の野次馬の会話を思い出していた。アンテナに吊るされた死体、どう考えても事故だとは思えない。

 

(仮に殺人だと決めつけたら何で態々アンテナに引っ掛けたんだ?なんかのアピールかそれとも…駄目だわかんねぇ)

 

 と色々と考えていると

 

「ねぇ雪子、ジュネスに行くのまた今度にしよっか」

 

「そうだね。今日はもう帰ろう」

 

 千枝と雪子は元々ジュネスによるつもりだったが、今はそんな気分ではなさそうだ。

 

「じゃアタシ達は此処でね。それじゃ明日ね鳴上君」

 

「また明日」

 

「気を付けろよ悠」

 

「分かった。3人も気を付けて」

 

 明日香と千枝と雪子は悠と挨拶をし、それぞれの帰路に着いた。

 

 

 

 途中雪子とバス停で別れ、明日香と千枝は同じ道なので一緒に歩いていた。

 しかし道中無言であった。自分達が住んでいる稲羽で奇妙な事故が起こるなんて思ってもみなかった。

 重い空気であったが、千枝が話し掛けて来た。

 

「あの…さ、さっきのおじさんと話したけどさ、あれって絶対事故じゃないよね?アンテナに死体だなんて」

 

「あぁ俺もさっきからそれを考えていた。死体をアンテナに引っ掛けるなんて普通じゃない。何かのアピールとかそんなだろ」

 

 と明日香の考えを話していると、ねぇと千枝が明日香の制服を掴んで

 

「あれがもし殺人だとしたらさ、あんな殺し方するんだし…若しかしたらまだこの辺に犯人とかがいるんじゃ…」

 

 千枝は自分で言って怖くなったのか少し顔を青くしていた。

 不安なのだろう。だからこそ明日香は千枝の頭を優しく撫でながら

 

「大丈夫だよ。何があっても俺が千枝を護るから」

 

「あッ明日香…」

 

 千枝は思わず顔を赤くしてしまったが、そんな事をしてる間に互いの家に到着してしまった。

 

「じゃあな千枝、何かあったら連絡するから」

 

「うん明日香も気を付けてね」

 

 バイバイといって千枝も自分の家に入っていった。

 千枝が家に入った事を確認すると、明日香も自分の家へと入って行った。

 

 

 ――夜――

 

 未來の妻であり明日香の母親である日比野明野に、今日は未來が帰ってこない事を告げるとしょんぼりとしてしまった。

 明野は明日香の母でありながら若々しく見えて大学生と見間違えてしまうほどである。

 夕食は明日香と明野の2人で食べ、夕食を食べ終えると明日香は欠かさずニュースを見ている。刑事の息子たる者毎日の情報は見逃さないのだ。

 とニュースは丁度稲羽の事についてであった。

 遺体で発見されたのは山野真由美と最近不倫騒動で騒がれていたアナウンサーである。確か議員秘書の生田目太郎と不倫関係であったそうだ。

 そんな山野アナが今日遺体で発見された。堂島や未來が働いている稲羽警察署の調べでは死因は今のところ不明で、事故と事件の両方で調べて言うとのことだ。

 だが事故はどうやって説明するのだ?巨大なトラックなどが山野アナを轢いて偶然アンテナに引っ掛かるなんて確率は零に等しい。それに轢かれたり何ならかの事故であるなら死因がはっきりするはずだ。そもそもアンテナに死体を吊るす意味が分からない。

 そんな事を考えていると明野が不安そうな表情をしていた。それはそうだろう。原因不明の死体が発見されたら不安がるのはしょうがない。それに未來が家に居ないと言うのも不安の原因の一つだろう。

 

「心配しないでよ母さん。父さんが家に居ない時は、俺が母さんを護るからさ」

 

 と明日香がそう言うと、幾らか安心したのか明野は笑顔を見せた。

 

「ありがとうね明日香。お母さん明日香がそんな事言ってくれるなんて嬉しいわ」

 

 とギュッと抱きしめてくる明野。明日香は思わず赤面しながら明野を押し返した。

 幾ら若く見えても母親は母親だ。かなり気恥ずかしい。

 

「ばッバカな事やってないで早く寝なよ!俺ももう寝るから、お休み!」

 

 そう言ってリビングを後にした明日香。明野はそんな明日香を見てクスクスと笑っていた。我が子が可愛くてついからかってしまうのだった。

 

「全く母さんったら…」

 

 部屋に戻った明日香は先程の明野のやった事に溜息を吐いていた。

 しかしやはり先程のニュースことが頭から離れない。何故山野アナが遺体で発見されたのか?

 ただの不倫疑惑で殺されたりするのはおかしい。それと今日の放課後の山野アナが天城屋旅館に泊まっていたかと言う噂については雪子が言葉を濁したのは恐らく山野アナが天城屋旅館で泊まっていたのだろう。

 では天城屋の人達が山野アナとトラブルがあって殺した?なんてそんなサスペンスドラマじゃあるまいし、天城屋の人達はいい人たちだ。人殺しなんかするはずもない。

 

「…色々と考えてもしょうがない。もう今日は早く寝ちまおう」

 

 明日香は寝巻きに着替えて寝てしまった。

 何故こんな事が起きたのかを考えるのも大事だが、それよりも大事なのは千枝にどんなことがあっても護るという事である。

 願わくば、もうこんな事が起こらない事を祈りながら、静かな寝息を立て始めた明日香であった。

 

 

 

 

 

 




鳴上悠ってこんな感じだっけ…
次回も楽しみに待ってくれたら幸いです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

早く投稿出来たので
どうぞ


 4月13日(水) 放課後

 

 モロキンの言った通り今日から通常授業が始まった。

 放課後になると、殆どの生徒が学校を後にし遊びに出かけて行った。

 明日香はトイレをし終わり、教室に戻ってみると悠と陽介が親しく話していた。

 

「ビフテキだぜ。すごいっしょ?野暮ったい響き。今朝助けてくれたお礼に奢るぜ?行ってみるか?」

 

 と陽介が悠を誘っていた。

 うーすと明日香が陽介と悠に近づいた。

 

「何か楽しそうな事話してるんじゃん。どっか行くのか?」

 

「あぁ明日香、今朝陽介を助けたお礼に奢ってくれるみたいなんだ」

 

「助けた?どうせまた陽介が自転車を飛ばし過ぎたんじゃないのか?」

 

「…もうお前の勘とかにはツッコまないよ俺は」

 

 陽介は苦笑いをしながら明日香にそう言った。と陽介は何か閃いた感じだった。

 

「今日は悠のためにちょっとした歓迎会でもやんねえか?安いとこなら俺が奢るぜ」

 

 と陽介が小さい歓迎会をしようとすると

 

「アタシにはそういうお詫びは無いわけ?成龍伝説」

 

 と千枝がやって来た。

 

「食い物の話になると来るよな里中って」

 

「まぁでも千枝の言ってる事も一理あるぞ陽介、ここは悠の歓迎と千枝のお詫びを一緒にするって言うのはどうだ?」

 

「…それもそうだな。分かったよ、里中も一緒な」

 

 陽介が折れるといよっしとガッツポーズをする千枝、と千枝は雪子の方を向いて

 

「雪子も来る?花村のおごりだよ」

 

 と千枝に聞いてみるが、ゴメンねと雪子は首を横に振りながら

 

「今日は家の手伝いがあるから…」

 

 雪子は天城屋旅館の手伝いで忙しい様だ。

 

「天城ってもう女将修行とかしてんの?」

 

「そんなんじゃないよ。ただ家の手伝いをしてるだけ」

 

 それじゃあと雪子は教室を後にした。

 

「じゃあアタシ達もいこっか」

 

「え?マジで2人分奢る感じ?若しかして明日香もか?」

 

「いや俺は奢ってもらうつもりはないよ。陽介がヤバくなったら俺も出すからさ」

 

 おぉサンキューと陽介は明日香にお礼を言った。

 明日香達も悠を連れて、教室を後にしたのだった。

 

 

 

「安い店ってここかよ。ここビフテキないじゃん」

 

 ジュネスのフードコートで千枝が不満そうな声を上げていた。

 ジュースを運んできた陽介はジュースを明日香達に配って

 

「お前に奢るんだったらあっちのステーキハウスは高すぎるんだって」

 

「だからって自分ち連れてくることないじゃん」

 

「いや自分ちじゃないっての」

 

 陽介と千枝が言い合ってジュネスが陽介の家という言葉に悠は首を傾げている

 

「あぁ悠は知らないよな。ここのジュネスって陽介の親父さんが店長をしてるんだ」

 

「まだ言ってなかったよな。俺も半年前に都会から引っ越してきたんだ。親父が此処の店長になるからってさ」

 

「成程」

 

 明日香や陽介の説明に納得した悠

 

「んじゃま歓迎の印って事で」

 

 陽介が乾杯の音頭を取って乾杯し、互いにジュースを飲みあった。

 他愛の無い話で盛り上がって

 

「此処が出来て半年になるけどあんまり行かなくなったよね、地元の商店街とか。店とかどんどん潰れちゃうし…あ」

 

 千枝は目の前に居る友人がこの店の店長の息子だと思いだし気まづくなってしまった。

 

「別にこの店だけのせいって事も無いだろ」

 

 確かに陽介の言う通りである。近年では大型ショッピングモールが建ち、地元の商店街の店が次々と潰れてしまうなんてことはしょっちゅうである。

 明日香達の間で気不味い空気が流れていると、一人のアルバイトの女性がベンチに座って休憩を取っていた。

 

「ん?小西先輩じゃん。悪いちょっと」

 

 陽介は席を外し小西先輩の元へ行った。

 

「陽介の彼女?」

 

「ははは、そうだといいんだがなぁ」

 

「小西早紀先輩、家は商店街の酒屋さん。でもここでバイトしてたんだ」

 

 陽介と小西先輩が何か話しており、小西先輩が悠に気が付くと此方にやって来た。

 

「君が転校生?私の事は聞いてる?都会っ子同士気があったりするのかな。花ちゃんが男友達連れてるなんて珍しいよね」

 

「別にそんな事無いよ。明日香だっているし」

 

 小西先輩の言った事に、ふざけ半分で返す陽介

 

「こいつ友達少ないからさ、仲良くしてやってね。でも花ちゃんお節介いい奴だけど、ウザかったらウザいっていいなよ」

 

 と小西先輩の冗談に

 

「そんな事無い。陽介はいい奴だ」

 

 と悠はそう返した。悠の正直な反応に小西先輩は笑いながら

 

「ふふふ、分かってるわよ。面白い子ね君」

 

「先輩~変な心配しないでよ」

 

 と小西先輩の茶化しに陽介も慌てながら返すと

 

「さてと休憩終わり、早く持ち場に戻らないと」

 

 と小西先輩は自分の持ち場に戻ってしまった。

 あ、先輩…陽介は腕を伸ばしたが、引っ込めてしまった。そして椅子に座ると

 

「ハハ、人の事ウザいとか先輩が一番お節介じゃんか」

 

 と恍けたような笑みを浮かべる陽介。人と壁も無く接しようとするのが陽介の良い所なのだろう。

 

「あの人弟が居るから俺の扱いもそんな感じっていうか」

 

 と陽介は悠にそう誤魔化していると

 

「弟扱いが不満なんだ。ふ~んそういう事なんだ」

 

 千枝は花村の扱いをニヤニヤとしながら見ており

 

「地元の老舗酒屋の娘とデパート店長の息子。禁断の愛てきな?」

 

「ばッアホか!そんなんじゃねえよ」

 

 千枝のからかいに陽介は顔を赤くした。

 

「そうだ、悩める花村に良い事教えよっか。マヨナカテレビって知ってる?」

 

 千枝の言ったマヨナカテレビと言うモノに男子勢は?を浮かびあげた。

 

「雨の日の午前0時に消えてるテレビを1人で見るんだって。で画面に映る自分の顔を見つめ続けると別の人間が映るってヤツ、その映った人間が運命の相手なんだって」

 

 千枝の言った事になんだそりゃと陽介が馬鹿にしたような顔で

 

「お前、一々こんな幼稚なネタで盛り上がれんのな」

 

「うっさい!幼稚って言うな!」

 

「いやどう見たって幼稚じゃねえか」

 

「だったらさ今日の夜は雨だし、皆でやってみようよ」

 

「やってみようってお前もやった事無いのかよ。久しぶりにアホくさい話を聞いたぞ」

 

 千枝の言った事に対して、呆れた様な溜息を吐く陽介

 

「……そう言えば昨日の事件ってやっぱ殺人なのかね?」

 

 昨日の事件と言うのはやはり山野アナの事だろう。

 

「実はその辺にまだ犯人とかいたりしてな。なんて」

 

「こら花村アンタの言ってる事の方が幼稚じゃない」

 

「そうだぞ陽介、人が1人死んでるんだ。面白がって言うもんじゃない」

 

「ととそうだったな。刑事の息子さんの前じゃ不謹慎だったなこりゃ」

 

 とこの話は終わる事にした。

 しかしマヨナカテレビか…と明日香はそんな事を考えていた。もしそのマヨナカテレビで映った者が運命の相手なのならば

 

「もし千枝が映ったら、俺の運命の相手は千枝なのかな」

 

「ちょ!行き成り何言ってんのよ明日香!?」

 

 千枝は行き成り自分が運命の相手と言われ、赤くなりながら戸惑っていると

 

「な~んか俺ら蚊帳の外じゃね?」

 

「青春とはいいものだ」

 

「ちょ!鳴上君!?」

 

 悠の歓迎会は楽しい時間を過ごした。

 

 

 ――夜――

 

 未來は今日も仕事で遅いため2人で夕食を食べ終え、何時ものようにニュースを見ていると山野アナの事件について、遺体第1発見者の女子生徒に色々とインタビューをしていた。

 インタビューされていた女子生徒は今日見た小西先輩に似ているなと明日香はそう思った。陽介と話している時に何で早退したんだろうと言う呟きが明日香の耳に入っていた。

 小西先輩に似ている?女子生徒のインタビュー映像が終わると、コメンテーターが警察に対して上から目線で言いたい事を平気で言っていて、未來さんはそんな人じゃないわよ!と明野がテレビのコメンテーターに文句を言っていた。テレビに向かって文句を言っても意味ないだろと明日香は明野にツッコミを入れたが、明野はプリプリと怒っていた。

 ニュースが終わると、明日香は千枝との約束でマヨナカテレビを見ることになっている。

 自分の部屋のテレビで色々とゴロゴロし、12時になるのを待っていた。時折外では雷が鳴っており、今日は大荒れだなと明日香はそう思った。

 そして11時59分とそろそろ時間だと思い、テレビを消し12時になるのを待った。

 そしてカチリと時計が12時となって、明日香は消えたテレビをジッと見続けた。

 するとテレビがズザザと言う音を出しながら砂嵐の映像が出て、しばらくすると時折だがぼやけた映像が見え、髪の長い女性が映ったり消えたりした。その女性はまるで踊っているかのように跳ねている映像であった。

 暫くすると映像が消え、何も映らなくなった。最初は千枝が映らなくて残念だったと思っていたが、映像が終わった瞬間に明日香は色々と考え始めた。

 

(今の女性は恐らくだが小西先輩だ。あの長い髪やパーマーがソックリだ。父さんに鍛えて貰って洞察力は高いと自負してるし、でもなんで小西先輩が映ったんだ?俺と彼女は全く接点は無い。精々2、3回程度挨拶した程度だ。それに今思ったがこのマヨナカテレビって何なんだ?そう言えば昨日も千枝が隣のクラスの奴が運命の相手が山野アナだって騒いでいたと言っていた。という事は山野アナもマヨナカテレビに映ったのか…山野アナとマヨナカテレビのつながりは…そして今日は何故小西先輩が映ったのか…若しかして山野アナの事件とマヨナカテレビには何かが繋がっているのか?もしそうなら事件の繋がりになるような証拠が欲しい…)

 

 だが決定的な証拠は今のところ出ていない。しょうがない…今日の推理はここまでにして、明日悠たちと話す事にしよう。

 明日香はそう決めると直ぐにベットに入り、眠りに着く事にした…

 

 

 

 4月14日(木) 朝

 

 朝も雨が降っており、明日香は千枝と相合傘をしながら登校していた。

 何故相合傘をしているのかと言うと、千枝がこの前カンフー映画の真似事で傘を使ったアクションがあったようでそれを真似て盛大に折ったようだ。

 

「ゴメンね明日香、アタシが馬鹿やって傘壊したのに」

 

「別に気にしてないさ。千枝のカンフー好きは今に始まった事じゃないしさ」

 

 明日香の言う通り、千枝は小さい頃からカンフー映画が大好きだ。特に足技が大好きで、明日香は小さい頃から千枝の我流の特訓に付き合っていた。

 今ではそこいらの不良には負けない程の足技を身に着けたのだ。

 2人は何も話さずに歩いていると

 

「そう言えばマヨナカテレビ見た?もッ若しかして、アタシが映ってたり…とか?」

 

 千枝は何処か期待したような眼差しを向けていたが明日香は首を横に振りながら

 

「残念ながら千枝は映らなかったよ」

 

 と言うと千枝も少し残念そうな顔をした。

 

「逆に千枝が誰を見たか当てよっか?髪の長いパーマーの女の子」

 

 明日香が言った事に千枝はビックリした顔をしていた。如何やら当たりの様だ。

 

「何で明日香が知ってるの?…まさかアタシの部屋を覗いた?」

 

「覗いてねーよ。俺もその女の子を見たんだよ。恐らくだが陽介や悠も同じ女の子を見たんじゃないのか?」

 

「でもそれじゃ可笑しくない?運命の相手が同じで、ましてやアタシは女だよ?アタシ自身そんな気は無いし」

 

 恐らくだが、明日香は1つの仮説を話し始めた。

 

「マヨナカテレビで映った人間は運命の相手でもなんでもないんじゃないのか?」

 

「運命の相手じゃない?運命の相手じゃないんだったらなんだっての?」

 

「それが分からない。若しかしたら何か重大なメッセージがあるんじゃないかって」

 

「…う~ん、アタシ自身考えるのが苦手だからよく分からないよ」

 

「兎に角今は学校に急ごう。悠や陽介に話を聞いてみたら何か分かるかもしれない」

 

 明日香と千枝は学校へと急いだ。

 

 

 ――放課後――

 

 授業を一通り終え、明日香達はマヨナカテレビの事を話していた。

 やはり明日香の推理通り、悠や陽介も見たのは同じ女の子であった。これでマヨナカテレビで映った人間が運命の相手ではないという事が分かった。

 分かったのだが、悠が変な事を言っていた。

 

「しっかし変な声が聞こえたって言うのはともかく、テレビに吸い込まれたなんて…動揺しすぎじゃね?じゃなかったら寝落ちだな」

 

「でも夢にしてはおかしいよね。テレビに入れないのは小さいからって言うのも何かリアルだしさ」

 

 陽介と千枝は悠の話を冗談だとしか思っていないようだ。しかし明日香は悠の言っていた事を色々と考えていた。

 マヨナカテレビなんて都市伝説の様な物を目の当たりにしたんだ。若しかしたら自分もテレビに吸い込まれていたのではと考えていた。

 

「如何したんだよ明日香?まさか悠の言った事を信じてるのか?」

 

「あぁそのまさかだ。マヨナカテレビなんてものを見たんだ。悠の言ってる事も信じてみようと思う」

 

 明日香の言った事にオイオイまじかよと陽介は呆れていた。

 

「そう言えばジュネスの家電売り場で巨大なテレビが売ってたな。それこそ人1人が軽く入れそうなテレビが」

 

「おい明日香…まさかだとは思うが」

 

「そのまさかだ。即行動、さっそくジュネスの家電売り場に行ってみよう」

 

「ったくお前のその即行動はものすごく疲れるんだけどなぁ…」

 

 やれやれと肩を竦める陽介、まぁまぁいいじゃんと千枝が

 

「そう言えばアタシもテレビ買い換えたいと思ってるんだよね。大画面でカンフー映画とか見てみたい」

 

 そう言いながら千枝は拳法家の構えをした。陽介はそんな千枝に呆れていたが

 

「まぁしゃあない、とりあえず行ってみるか。今品揃え強化月間だし」

 

 という事で、帰りにジュネスに立ち寄る事に決めた。

 と話に熱中していて気が付かなかったが、雪子の姿がもう無かった。

 

「なんか最近忙しいみたいだよ。如何したんだろう?」

 

「今日は何時もよりテンション低めだったしな」

 

 千枝と陽介がそんな事を話していたが、恐らく山野アナが天城屋旅館に泊まっていたから、遺品の整理とかお祓いとかで忙しいのだろうと明日香はそう考えた。

 帰る準備が整ったら、ジュネスによる事にした。

 

 

 

 ジュネスの家電売り場、確かに人が楽々入りそうなテレビが1台置いてあった。

 その大きなテレビの値段を見て千枝は

 

「うっわ高…こんなの誰が買うの?」

 

「そりゃ金持ちとかじゃね?」

 

 千枝と陽介が目の前にある大きなテレビを見てそんな事を話していた。

 

「けどま、ウチでテレビ買う客もいなくてさ。ここらへん店員が居ないんだよね」

 

「それは商売としては成り立ってるのか?」

 

 明日香の疑問もそうだが、売れない場所に店員を割っても意味が無いのだろう。

 そんな事よりも本当にテレビに吸い込まるのか、明日香・陽介・千枝はテレビに触ってみても吸い込まれる気配は無かった。

 

「やっぱ入れないよな」

 

「はは寝落ち確定だね」

 

「…」

 

 陽介と千枝は悠が寝落ちだと決めつけたが、明日香は無言であった。

 

「だいたい今のテレビって薄型だし、もし入っても突き抜けてって何の話をしてるんだ!?っと里中、お前どんなテレビが欲しいんだ?」

 

「取りあえず安いの。なんかお勧めとかある?」

 

 と陽介と千枝は千枝の見たいテレビを見せて色々と話をし始めた。

 残ったのは明日香と悠だけ。明日香は悠の方を見て

 

「悠、今度はお前がテレビに触ってくれないか?もしこれで何もなかったらそれでいい。でもなにか気になるんだ」

 

「分かった。やってみる」

 

 そう言って悠はテレビに手を伸ばした。明日香には聞こえないで悠には聞こえた謎の声、その声が悠がテレビに吸い込まれたのと関係があるはずだ。

 明日香の考えはドンピシャであった。悠の腕がまるで水の中に入ってるかのように、波紋を立てながら吸い込まれていた。

 

「そう言えばさ、おまえんちのテレビってどういう…!」

 

 陽介は悠がテレビに手を突っ込んでいるのを見て固まってしまった。

 

「なに?どしたの花村?」

 

 千枝も花村が見てる方を振り返り、陽介と同じように固まってしまった。

 2人は急いで悠の元へ駆けよる。

 

「おおおいマジで腕が刺さってないか?」

 

「これって最新型のテレビ?新機能とか…どんな機能?」

 

「んな機能、あるわけねーだろ!」

 

 千枝と陽介は自分達が見てる光景に目を疑っていた。

 

「本当に刺さってる…」

 

「マジかよ…どんなイリュージョンだよそれ!?」

 

 陽介と千枝が混乱してる中、明日香と悠は落ち着いていた。

 

「悠、もっと奥とかは見えないか?テレビの中がどうなっているのか知りたい」

 

「分かった。やってみよう」

 

「「ちょ!?」」

 

 陽介と千枝の制止を無視し、手を突っ込んでいた悠は今度は上半身をテレビに突っ込んだ。

 

「馬鹿!よせって!何やってんだお前!?」

 

「す…すげー」

 

 陽介は慌て、千枝はもはや呆然とするしかなかった。

 

「悠どんな感じだ?」

 

「中は空間が広がってる」

 

 悠は落ち着いた様子でテレビの中の状況を教えた。

 

「中って何だよ!?」

 

「空間って何!?」

 

「それに結構広そうだ」

 

 空間が広い事も教えてくれた。

 

「広いって何!?」

 

「ていうか何!?」

 

 千枝と陽介はもう混乱して何が何だか分からなかった。

 そして…

 

「やっべぇビックリの連続で漏れそう…!」

 

「は?漏れる!?」

 

 千枝は陽介の漏れると言う発言に引いてしまった。

 

「今まで行き時が無くて我慢してたけど…駄目だもれッ漏れるー!!」

 

 そう言って陽介は股間を押さえながらトイレへ直行したが、直ぐに戻ってきた。

 

「客来た客客!」

 

「客って、此処にからだ半分テレビに刺さっている人が居るんですけど!?」

 

 陽介と千枝は如何しようどうしようと!と慌てていると、明日香が陽介と千枝の腕を掴んで

 

「こうなったら…テレビの中へ入って客をやり過ごすぞ」

 

「は?ちょ明日香お前何言って…」

 

「うだうだ言ってないで行くぞ!」

 

 そして明日香は飛び込むような形でテレビの中へ入っていき、悠を押す形でテレビの中へずぶずぶと入って行った。

 明日香に腕を掴まれていた陽介と千枝は悲鳴を上げながらテレビに吸い込まれてしまった…

 

 

 

 




次回はあのキャラが出てきます。
戦闘パートはあと2.3話後ですかねぇ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

最近深夜投稿をしてたせいで体の調子が可笑しいユリヤです。
今回は時間的は早い投降ですね
それではどうぞ


「ぐえ!」

 

「くぅ!」

 

「あいた!」

 

 テレビの中へ入ってしまった明日香達、そのまま落ちていき地面へ激突してしまった。

 ゆっくりと上体を起こす悠

 

「皆、怪我は無いか?」

 

 悠が他に落ちて行った陽介や千枝に明日香と怪我が無いか聞いてみた。

 

「若干けつが割れた」

 

 アホな冗談を言う陽介、冗談を言えるという事は無事という事だろう。

 

「もともとだろが、ってあれ?ねぇ明日香は何処?」

 

 見れば自分達の周りに明日香の姿が無かった。

 まさか落ち所が悪くて、もっと下まで落ちてしまったのか、そう思った悠たちだったが

 

「!ひゃう!」

 

 千枝がいきなり顔を赤くしビクンと反応した。

 

「如何した里中!?」

 

「いい今何か動いた!あッアタシの股の下に何かいる…!」

 

 千枝がそう言い、千枝・悠・陽介は恐る恐ると千枝の股の下を見てみた。

 其処に居たのは…

 

「ふがふががふご!」

 

 千枝の股に顔を埋めていた明日香の姿があった。

 

「ッ!!!」

 

 変な感触の正体が明日香だと分かると千枝はスクッと立ち上がり、そして…

 

「明日香のエッチィ!!」

 

 まだ寝ていた明日香に向かって容赦のない蹴りをおみまいした。

 結構強烈だったのか、ビクビクと震えだした明日香

 

「ってゴメン明日香!なんかビックリと恥ずかしさで色々とぶっ飛んでた!」

 

 千枝も蹴った後でやり過ぎたと思って、明日香を助け起こした。

 

「…俺らだけ痛い思いしたのに、明日香の奴だけ良いおもいしてね?」

 

「青春だな」

 

「いや全然違うだろ」

 

 

 

 明日香の調子が戻った事で、改めて状況を把握する事にした。

 テレビの中へ入り、見知らぬ場所に投げ出されたわけだが、自分達が今何処に居るのか見当もついていないのだ。

 

「うおッ!?」

 

 陽介は上を見上げて驚いた声をあげた

 

「何!?ついに漏らした!?」

 

 千枝は我慢していた陽介が遂に限界に来てしまったと思い、思いっきり引いたが

 

「ばか違うって!周りを見ろ周り!」

 

 陽介に言われた通り明日香達も周りを見てみると、自分達が居るのが大きなスタジオだ。

 

「何ここ、スタジオ?それにすっごい霧…じゃなくてスモーク?」

 

 スタジオどころか自分達の周りを霧が包んでおり、正確な大きさが分からない状況だ。

 

「規模が大きすぎて分からないが、これだけはハッキリ言える。今俺達が居るところは稲羽じゃない」

 

 生まれてから今迄稲羽を離れた事の無い明日香は今自分達が居る場所は稲羽じゃないと断言する。

 

「兎に角此処に来たのは事故みたいなもんだが、如何するか?」

 

「調べてみよう」

 

 明日香が此れから如何するかと3人に聞いてみるが、悠が調べてみようと言う。

 

「えぇ?何も準備してないでウロチョロするのはまずいって。一度帰ってからさ」

 

 そう言って千枝は辺りをキョロキョロと見てみるが、さぁっと顔を青くして

 

「……ねぇ、そう言えばアタシらどっから入ってきたんだっけ?」

 

「は?何言ってるんだよ里中、そりゃテレビでって…」

 

 陽介は辺りを見たが、テレビなんか影も形も無かった。

 つまり…出れそうな場所が無いのだ。

 

「出れそうな場所がないってどういう事だよ!?」

 

「知らないよ!アタシにキレないでよ!もうやだ帰る!今すぐ帰るー!」

 

「だからどうやってだよ!?」

 

 陽介と千枝がパニック状態で言い争っていた。

 

「落ち着け2人とも」

 

 悠はパニック状態の陽介と千枝を落ち着かせようとした。

 

「そうだ落ち着け、言い争っていたって何も解決しない。まずは落ち着いて出口を探そう」

 

「そッそうだよな、冷静に冷静に…とにかく出口を探すか」

 

「でッでも出口なんかほんとにあるの?」

 

 落ち着いたが未だ不安そうな千枝。そんな千枝に明日香が

 

「現に俺らは此処に入ってきたんだ。だったら出口だってあるはずだ。大丈夫だって千枝、何とかなるさ」

 

 と優しく落ち着かせようとした。明日香に言われ漸く落ち着いた千枝。

 

「兎に角探してみよう。何かあるはずだ」

 

「分かった。とりあえず悠が先頭を歩いてくれ。テレビの中へ入れるのも悠がきっかけなんだ。若しかしたら悠のおかげで何か分かるかも」

 

 という事で悠を先頭にし、出口を探す事にした。

 

 

 

 出口を探す事数十分、明日香達は霧の中の建物を探索していた。

 暫く歩いていると霧が薄くなってきた。

 

「何かここらへん霧が薄いね」

 

「何かの建物みたいだが、霧自体が凄くてわっかんねぇ」

 

「大丈夫明日香?これって却って遠ざかってない?」

 

「此処まで来たら勘で行くしかないな、あんま離れるなよ千枝」

 

「兎に角今は先に進んでみよう」

 

 悠の言う通り先に進むしかなさそうだった。

 だが先に進んで明日香達が目にした光景は…

 

「何此処…」

 

 千枝は自分が目にしている光景に背筋を凍らせていた。

 部屋は行き止まりとなっていたのだが、問題はそこではない。その部屋が異常なのだ。

 ベッドや観葉植物まではいい。だかこっから問題であった。

 部屋中に張られている顔が無いポスター、赤いペンキなのか血なのか分からない染み。そして…

 

「なッなぁこの天井に張られてるロープと椅子、あからさまにマズイ配置だよな」

 

 陽介はロープと椅子を見てそう呟いた。

 

「これってスカーフか?輪っかつくってるけど…マジでアウトかもな」

 

 よくあるサスペンス劇場とかで出てくるようなものを連想する千枝と陽介。

 さっきから明日香と悠が静かだから如何したのかと、悠と明日香の方を見てみると、悠は色々と探しており明日香は携帯のカメラで写真を撮っていた。

 

「おッおい、明日香はなに写真なんか撮ってるんだよ!?」

 

「いやこの部屋が明らかに怪しいから、証拠として部屋の写真を」

 

 そう言って明日香は顔を切りぬかれたポスターと赤い染み、そしてロープと椅子そしてスカーフを何回かカメラに収めていた。

 

「明日香のやってる事は警察がやってる事みたいで分かるけどさ、一回戻らねえか?此処に居ると何か落ち着かないぜ」

 

「アタシも…それに何か気分が悪い」

 

 千枝が体調の不調を訴え始めた。確かに部屋の雰囲気のせいか明日香自身も少し調子が悪い。

 充分カメラに収めると携帯をしまい、不気味な部屋を後にした。

 

 

 

 先程のスタジオに戻ってきたが、これから如何するか考えていると

 

「ねッねぇ、あそこに何かいる!」

 

 千枝が指差した方に、人じゃない何かのシルエットが見えた。

 ずんぐりした姿、まるでクマの様だ。

 そしてシルエットが此方に近づいて来ると、そのシルエットの正体が露わになった。

 

「何此れ…クマ?」

 

 千枝はクマなる者の姿をまじまじと見ていた。クマと言ってもリアルな感じではなく、漫画のキャラクターのような愛らしい姿をしていた。

 

「何なんだコイツ…」

 

 行き成り自分たち以外の者に出くわして戸惑っている陽介

 

「結構可愛いな」

 

「悠って結構可愛いもの好きなのか?」

 

 戸惑っている千枝と陽介に対して悠と明日香は落ち着いていた。

 だが次の瞬間、落ち着いていた明日香と悠までもが驚いた。

 

「きッ君らこそ誰クマ?」

 

 目の前に居るクマらしきものが急に話し始めたのだ。

 

「そっちこそ誰よ!?ヤル気!?」

 

 千枝は驚いて思わず身構えてしまった。

 

「そそッそんなに大きい声出さないでよ」

 

 千枝の大声にクマ?は体を小さくして震えてしまった。

 

「千枝落ち着け。怖がってるじゃないか」

 

「でも明日香…!」

 

 明日香が千枝を宥めている間に悠がクマ?近づいた。

 

「此処は何処なんだい?」

 

 クマ?警戒を解こうと、悠が優しくクマ?に尋ねてみた。

 

「ここはここクマ。名前なんて無いクマよ。僕がずっと住んでるところ」

 

 如何やらここには名前なんかないらしく、クマ?はずっとここで住んでいるようだ。

 

「住んでいるという事は、君は此処の事については詳しいのかい?」

 

 と今度は明日香が尋ねてみるとクマ?体を縦に動かし

 

「クマはここで静かに住んでいたのに、最近誰かがここに人を放りこんでいるからクマ迷惑してるクマよ。だから君たちはここからさっさと帰るクマ。霧が晴れる前に帰らないと、此処は危険クマ」

 

「人を放り込む?何の話だよ」

 

 陽介はクマ?言っていることがちんぷんかんぷんだったが、明日香の頭の中ではパズルが少しづつ組み合って行った。

 

「だから誰の仕業か知らないけど、あっちの人にも少しは考えてほしいって言ってんの!」

 

 クマ?は自分の言ってる事が伝わっていないようで地団駄を踏んだ。

 

「ちょっと何なわけ!?行き成り出てきて何言ってんのよ!アンタ誰よ!此処は何処なの!?何がどうなってんの!?」

 

 千枝の迫力ある言い方に、クマ?は驚いて悠の背中に隠れてしまった。

 

「とっとにかく早く帰った方がいいクマ」

 

「だから出る方法が分からないって言ってんだろ?帰りたくても帰れないんだよ俺らは」

 

 クマ?の言い方に呆れた陽介は溜息を吐きながらクマ?にそう言った。するとクマ?はまたウガーッ!と怒りだし

 

「だからクマが外に出すってつってんの!」

 

「!今なんて言ったんだい?君が外に出してくれるのか?」

 

 明日香が再度尋ねると、クマ?は足を二回トントンと鳴らすと煙と共にレトロなテレビが3段のタワーとなって現れた。

 

「んだこりゃ!?」

 

「テレビ…だよねどう見ても」

 

 陽介と千枝は行き成り現れたテレビに驚いた。

 明日香や悠もまじまじとテレビを見ているとクマ?が背後に回って

 

「さー行った行ったクマ!僕は忙しいクマだクマ!」

 

 とクマ?は強引に明日香達をテレビに押し込んだ。

 千枝や陽介がまたも悲鳴をあげながらもテレビに吸い込まれてしまった。

 

 

「ん?あれ、此処は」

 

 明日香は周りを見渡すと、ジュネスの家電売り場だった。

 

「よかったぁ、戻って来れたぁ」

 

 千枝は脱力したようで、座り込んでしまった。

 

「にしても変な所だったな。変な部屋や喋るクマみたいなのにも会ったし」

 

 陽介はさっきまでの事を思い出していると、店内放送が流れた。今からタイムサービスが始まるようだ。

 

「けっこう俺らあそこに居たんだな」

 

 陽介がそう言っているあいだ、悠が何かを発見したのか歩いて行った。

 明日香は悠が歩いて行った方を見ると、同じく悠と同じ方向へ歩いて行った。

 

「これって…」

 

「あぁあの部屋のポスターだな」

 

 悠と明日香2人で納得してしまい、陽介と千枝も近づいてみると

 

「このポスターってあの部屋にあった顔無しの」

 

「そっかどっかで見たことあるって思ったのは、柊みすずのだったからか」

 

 陽介と千枝もポスターを見たが、確かに顔無しのポスターと柊みすずのポスターはまるっきり同じだった。

 柊みすず、最近不倫騒動となっている山野アナの不倫相手の生田目太郎の奥さんである。最近騒がれていた。

 

「おい、じゃあ何か?あの不気味な部屋と死んだ山野アナには何か関係があったりするのか?」

 

「恐らくな陽介。あの顔が無い柊みすずのポスター、顔が無いっていう事で何か強い恨みがあったんじゃないかって俺は考えていた」

 

「マジかよ明日香、明日香の推理は当たる確率が高いからな…それにあのスカーフの輪っかがぶら下がっていたけど…」

 

 と陽介はわーわーと行き成り叫びだした。

 

「なぁやめねぇかこの話?もうメンタル的に俺も限界だし、俺今日の事は纏めて忘れる事にするからうん」

 

「アタシも今日は気分最悪、もう帰る」

 

 今日の事は色々と精神的に堪えた。現地解散という事で明日香は千枝と一緒に帰ることにした。

 

 

 ――夜――

 

 あれから千枝も何時ものような元気はなく、黙って歩いていた。明日香も変に励ましたり元気づけたりするのは返って逆効果と判断、無言での帰りが続いた。

 互いの家に到着し、一応さようならを言って互いの家に入って行った。

 家に入ると、未來が帰ってきていた。今日は仕事が早く終わったようで一緒に夕食を食べることになった。なのだが

 

「如何したんだい明日香?全然箸が進んでないけど」

 

「今日は未來さんが早く帰ってきたから未來さんと明日香の好きなお寿司にしたのに、如何したの?」

 

 未來と明野は心配そうに明日香を見ていた。明日香は如何も気分が晴れなかった。恐らくはテレビの中に居たのと関係があるのだろう。

 だが未來や明野にテレビの中の事を言っても信じるどころか、かえって不安にさせてしまうに決まっている。

 

「いッいやぁ父さんが久しぶりに帰ってきたから遠慮してるだけだよ。遠慮しないんだったらいっぱい食べるけど」

 

「子供が親に遠慮するものじゃないよ。沢山食べなさい」

 

「明日香が食べると思ったから沢山作ったのに、これじゃお刺身が勿体ないわ」

 

 これ以上心配させないと明日香は少しづつだが寿司を平らげて行った。

 一貫一貫と食べすすめると食欲の調子も戻ってきたようで普通に寿司を食べ続けた。

 明日香と未來で殆どの寿司を平らげると、明日香は直ぐに部屋に戻って行った。

 久しぶりの夫婦水入らず、ゆっくりしなよとそう言い残して。

 さて部屋に戻った明日香はさっそく今日まで見た事を纏める事にした。

 

 ①不倫騒動になった山野アナ。

 

 ②マヨナカテレビにて山野アナの姿が映った。

 

 ③その後山野アナ、死体で発見される。

 

 ④山野アナの遺体の第1発見者の小西先輩?がインタビューされる

 

 ⑤小西先輩?がマヨナカテレビに映った。

 

 ⑥悠の力でテレビの中へ入った。

 

 ⑦テレビの中を散策、そこで顔が無い柊みすずのポスター、自殺現場のようなロープ・スカーフ・椅子

 

 ⑧クマ?がテレビの中の世界に誰かが人を放り込んでいると言っていた。

 

 以上を箇条書きで纏めると此れ位だろう。クマ?が言っていた人を放り込む、と言う言葉が引っ掛かった。もし、もしもだが山野アナが悠のようにテレビに入れる事が出来たら?もし何かの事故でテレビの中に入ったとしたら、若しかしたらあの不気味な部屋と山野アナは関係があるのだろうか?

 確かめるために、明日香は携帯で撮った写真を見ようとしたが、見れなかった。ボケているとかそういう事じゃない。濃い霧で何も写ってないのだ。

 結局あの不気味な部屋は謎だらけであった。

 色々と纏めていたらもう直ぐで12時だ。今日も雨が降っているからマヨナカテレビが映るのではとそう思った明日香。

 とりあえずマヨナカテレビを見てみるかと12時になったので明日香はジッと消えたテレビを見続けた。

 すると前のように砂嵐が起こり、少しづつだが映像がハッキリし始めた。

 今度はちゃんとした映像が見れると思ったが、明日香はマヨナカテレビに映った映像に目を疑い絶句してしまった。

 何故なら小西先輩がもう一人の小西先輩(・・・・・・・・・)に首を絞められている映像であった。

 首を絞められている方の小西先輩は抵抗していたが、首を絞めている小西先輩は力を緩める事は無かった。

 しだいに抵抗する力を失って、小西先輩は腕をだらんとしてしまった。そこで映像にノイズに走り遂には見えなくなってしまった。

 こんな映像を見て、明日香はこんな推測を立てた。マヨナカテレビに映った人間は死んでしまうのではないのか…と

 

「いやまさか、いくらなんでも話が出来すぎだ」

 

 そうだ出来すぎだと明日香は自分に言い聞かせ、ベッドへと潜った。

 だが明日香が出来すぎだという推測が思わぬ方向に進んでいくのを明日香は知るよしもなかった。

 

 

 

 4月15日(金) 午後

 

 全校生徒が体育館に集められていた。

 殆どの生徒は何故集まっているのか知らされていなかった。

 確かに今日の朝はサイレンがうるさかったり、未來が朝早くに事件と言って家を飛び出していったりと忙しかった。

 まさかと明日香は頭の中で嫌な予感のパズルがどんどんと組み合っていくのを感じていた。

 となりでは陽介が携帯をいじっていた。

 

「小西先輩からの連絡があんま来ないな…」

 

 生徒達で騒がしくなっていると、校長先生が壇上に上がって話を始めた。

 

「えー皆さんに悲しいお知らせがあります。3年3組の小西早紀さんが………亡くなりました」

 

 亡くなったと言う言葉を聞いて陽介は目を見開いて、顔面が蒼白になっていた。

 他の生徒達が亡くなったと言う事を聞いて騒々しくなったが、明日香はもう別の事を考えていた。

 明日香の推測通りマヨナカテレビに映った人間は死ぬのだ。そしてその死因は若しかしたらクマ?が言っていたようにテレビに放り込まれて、何かしらの事があってテレビの中で死んでしまったのだ。恐らく山野アナもそうなのだろう。あのもう一人の小西先輩は何だったのだろう…

 全校集会が終わるまで、明日香はその事を考えていた。

 

 

 

 小西先輩の事件があった為に、午後の授業は全てお休みとなった。

 小西先輩と面識がない生徒の殆どは午後の授業が休めてラッキーとしか思っていなく、さっさと何処かへ遊びに行ってしまっていた。

 他にはマヨナカテレビを見た生徒達が、小西先輩が苦しそうにしていたとそんな話で盛り上がっていた。

 

「ったく、好き勝手に言ってるよ。やんなっちゃう」

 

 千枝・明日香・悠は小西先輩の話で盛り上がってる生徒を見てそんな事を言っていた。

 

「ほっとけよ千枝、人間自分自身に被害が無ければ好き勝手に言うもんだ。自分に被害が被ると皆慌て助けを求めるもんだ。ほっとけばいいんだよ。一々真に受ける事はないって」

 

 明日香と千枝がこんな話をしていると、陽介が重々しい表情でやってきた。

 

「なぁお前ら、昨日のマヨナカテレ見たか?」

 

「ちょっと花村!アンタまでそんな事言って」

 

 千枝が花村に怒ろうとしたが、明日香が手で制した。

 

「話してくれ陽介、俺も皆に話したい事がある」

 

「サンキュー明日香…昨日映ってたの小西先輩で間違いない。先輩何か苦しそうだった。そしたら消えちまった」

 

「成程な。俺の話も聞いてくれ…花村恐らくお前にとってはつらいかもしれない」

 

 明日香は昨日見た映像を話した。一人の小西先輩がもう一人の小西先輩の首を絞めてたと

 

「2人の先輩?如何いう事だよ?」

 

「分からない。でも俺は昨日のテレビを見て、そして今日の集会ではっきりした。マヨナカテレビに映ったの人間は死ぬっていう事が。そして山野アナも恐らくマヨナカテレビに映っていた事も」

 

「あぁそれにあのクマも言っていやがった。霧が晴れる前に帰れやら此処は危険だとか。あと誰かが人を放り込んでいるとか」

 

「偶然としては出来過ぎているが、山野アナと小西先輩の死の原因にはあのテレビの世界が関係してるんじゃないのか」

 

 そして明日香は悠の方を向いて

 

「なぁ悠、俺や陽介の言っていることが間違っていると思うか?」

 

「いや俺も2人の言ってる事は正しいと思ってる」

 

 悠は明日香と陽介の考えを正しいと肯定した。

 

「もし繋がりがあるのなら、小西先輩も山野アナもあの世界に入ったかもしれない。だったらあのポスターの部屋も説明がつく」

 

「それに先輩の手がかりも何か掴めるかもしれない」

 

「花村、アンタまさか…」

 

 千枝が恐る恐ると言った形で聞くが、花村は頷いて

 

「俺、もう一度あの世界に行ってみようと思う。確かめたいんだ」

 

「ちょやめなって!危ない事は警察に任せようよ」

 

「警察なんかあてにできるかよ!山野アナの件でも進展無さそうじゃんか!第一テレビの中に入れるって話誰も信じねーって!…全部おれの見当違いならそれでいい。でも先輩がなんで死ななきゃいけなかったのか、それが知りたいんだ」

 

 明日香は陽介を悲痛な目で見ていた。恐らく一番慕っていた先輩なのだろう。そんな先輩が亡くなって色々とショックなのだろう。

 

「わりぃ。けど止めないでくれ。ジュネスで待ってるから」

 

 それだけ言うと、陽介は行ってしまった。

 

「どうしよう明日香…」

 

「此処は陽介の好きなようにやらせてやろう。大丈夫だ、何があっても俺が護ってやるから」

 

 そう言って明日香も準備のために家へと帰って行った。

 

 

 

 ――放課後――

 

 陽介が待っているジュネスへ明日香や千枝に悠もやって来た。

 

「来てくれたか…」

 

 陽介は来てくれたことに嬉しそうだった。

 

「何言ってんの!バカを止めに来たに決まってるじゃん。ねぇ止めなって、危ないよ」

 

 千枝は危ないと言って行くのを止めようとしていた。

 

「あぁ、けど無茶は承知だ。けどあのクマが居ればまた帰れるだろうしさ。この同じテレビに入ればまたクマに会えるってきっと」

 

「そんなの保証ないじゃん!」

 

「けど他の奴らみたいに他人事って盛り上がれない…明日香・悠お前らは如何する」

 

「俺は千枝が危険な目にはあってもらいたくない。此処に残ってもらう」

 

「俺もその意見に賛成だ」

 

 明日香は千枝に危険な目にはあってもらいたくないのだ。だから千枝には残ってもらう。

 

「あぁ行くのは俺達だけで十分だ。里中にはこれ頼む」

 

 そう言って陽介はロープを千枝に渡した。行き成りロープを手渡され戸惑う千枝。

 

「俺らそれ巻いてテレビの中入るから、里中はしっかり掴んでいてくれ」

 

「ちょっとこれ命綱?ちょっと待ってよ、アタシそんなの無理だって」

 

 無理だと言っても陽介は強引に千枝に渡した。

 

「悠、お前にはこれを渡しとく」

 

 そう言って陽介は悠にゴルフクラブと傷薬を数個を渡した。

 

「明日香、お前は大丈夫なのか?」

 

「あぁ自前のを持ってきてるからな」

 

 そう言って明日香は竹刀袋を見せ、中に竹刀がある事を教えた。

 

「そう言えばお前剣道習ってるもんな。じゃあこの中で一番戦えそうだな」

 

「あぁ戦う事になったら任せてくれ」

 

 明日香は戦闘面で活躍する事を誓った。

 準備は整った。あとはテレビの中に入るだけだ。

 

「準備は完了だ。里中ロープ絶対に離すなよ」

 

 明日香・悠・陽介は体にロープを巻いて準備完了だ。

 

「ちょっと待ってってば!明日香、アタシも一緒に」

 

 千枝がそう言ったが、明日香は千枝に心配すんなと笑いかけて

 

「絶対無事に帰って来るから、千枝はロープを絶対に離さないでくれ…な?」

 

 そう言って、悠・陽介・明日香の順でテレビの中へ入って行った。

 ポツンと残された千枝は少しづつだが命綱を引っ張って行った。

 クイクイと引っ張っていると、急にロープから重みが感じなくなった。

 まさかと思い、ロープを引っ張って戻してみると、ロープが途中で切れてしまっていた。

 

「ほらぁ…やっぱ無理じゃん。どうしよう…」

 

 千枝は膝から崩れ落ち、ペタンと座り込んでしまった。

 

「あすかぁ…うぅ…!」

 

 千枝一人ではテレビの中へ入る事が出来ない。今の千枝は明日香の名を呼びながら泣く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 




次回は戦闘パートとなります
恐らくですが、前編後編と分かれさせていただきます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話①

「いってて…」

 

 再度テレビの中へ入り、明日香や悠はちゃんと着地できたが、陽介だけまた尻を打ってしまっていた。

 3人は辺りを見渡してみると、先日クマ?と別れたスタジオに戻っていた。

 

「見ろ!同じ場所だ。やっぱり場所と場所で繋がってたんじゃねえか」

 

 陽介はそう言っていると、霧の中からクマ?が現れた

 

「きッキミたちなんでまた来たクマ?」

 

 クマ?はまたもや現れた明日香達に驚いていたが、ぬぬぬ~と唸った後に

 

「分かった!犯人はキミたちだクマ!」

 

 と行き成りクマ?は明日香達を犯人と呼んだ。

 

「おいこのクマ!行き成り何言いだすんだ!?」

 

「今俺達の事を犯人と言ったけど、それは如何いう意味なんだ?」

 

 陽介は行き成り犯人呼ばわりに腹を立て、明日香は如何いう意味なのか尋ねるとクマ?は明日香達に背を向けながら話し始めた。

 

「最近誰かがここに人を放り込んでいる気配がするクマ。そのせいでこっちの世界は最近どんどん可笑しくなってしまっているクマ」

 

 そして振り返りクマ?は話を続ける。

 

「キミたちはここに来れる…他人に無理矢理入れられた感じがしないクマ。よって一番キミたちが怪しいクマ!」

 

 クマ?は明日香達を指差しながら

 

「キミたちこそが、ここに人を放り込んでいる犯人クマぁ!」

 

 クマの言った事にカチンときた陽介は

 

「ふざけんな!何勝手に決めてやがる!!」

 

「落ち着け陽介!言いたい事は分かるが今は堪えろ!」

 

 明日香は陽介を押さえる。確かに色々と言いがかりはあるが、昨日今日自力でテレビの中へ入ってきたらクマ?が決めつけるのも無理はない。

 だがここで争っても意味が無い、まずはクマ?に色々と情報を聞き出す事が先決である。

 

「だいたいよ、こんな分けわからん所に人を放り込んだら、出れずに死んじまうかもしれないって…おいまさか…」

 

「若しかしたらはなから殺すために放り込んだかもしれない。山野アナや小西先輩も…偶然じゃなかったんだ」

 

「きっとそうだ」

 

 明日香と悠と陽介だけで勝手に話を進めてクマ?は置いてけぼりの状態であった。

 

「ゴチャゴチャうるさいクマね!一体何しに来たクマ!?ここは一方通行なの、入ったらもう出られないの!」

 

「出られない?昨日は出る事が出来たじゃないか」

 

「だからそれはクマが出してあげたからなの!自力じゃ出られないの!」

 

 どうやらこのクマ?の力がないと自力では出られ無いようだ。

 

「うっせぇ関係ねーよ!みろ今回はそんな事を考えて命綱を…」

 

 と陽介がクマ?に命綱を見せびらかせようとしたら、明日香がポンと陽介の肩を叩いて

 

「陽介、現実は残酷な形で進んでいるようだ」

 

 陽介は明日香が言っている意味が分からなかったが、腰に巻いてあるロープを見てみるとロープは途中で切れていた。

 切れたロープを見て陽介は叫び声をあげた。陽介はクマ?の方を見ると

 

「テメェ…調べが済んだら俺らをこっから出してもらうからな…!」

 

「色々と強引だな…」

 

「あんま言うな悠、陽介だって必死なんだろうだから」

 

 しかしこれでクマ?の力が必要になってしまった。陽介とクマ?の言い合いはヒートアップしていた。

 

「調べたいのはこっちクマよ!クマずっとここに住んでたけど、こんなに騒がしくなったのは初めてクマ!だったら証拠あるクマか?君たちが人を放り込んでいないっていう証拠が!」

 

「証拠!?」

 

 クマ?に証拠と聞かれ、陽介は戸惑う。そんな証拠なんて持っているわけがない。

 

「急に言われても…」

 

「俺達がそんな事をしない…ていうのは証拠にはならないよなうん」

 

 悠や明日香も急に証拠と言われ、戸惑っている。

 

「ほら、やっぱりキミらクマ!」

 

 クマ?の中ではもう明日香達が犯人だという事になっていた。

 

「違うって言ってんだろ!てかお前に説明する義理は無いっての!昨日は偶然来たんだが、今回はマジなんだ。知ってる事全部話してもらうぞ!」

 

 と陽介は霧が出ている時は死体が上がっているという事を説明した。

 説明を聞いたクマ?は

 

「そっちで霧が出ている時は、こっちは霧が晴れているクマよ。霧が晴れている時はシャドウが暴れるからとっても危険クマ」

 

 クマ?の説明で自分達の世界で霧が出ている時はこっちのテレビの中は霧が晴れているのが分かった。

 だがシャドウと言うのがよく分からない。霧が晴れている時はシャドウが暴れるという事はそのシャドウと言うのは生き物なのだろう。

 

「はっはーんそういう事クマね」

 

 とクマ?が勝手に納得していた。

 

「シャドウが暴れると危険だから早く帰れって言ったクマ。さぁ質問は終わりクマ!キミらが犯人なのは分かってるクマ。今すぐこんな事止めるクマ!」

 

「だから違うって言ってるんだろうが!いい加減キレそうだぜ…なんで人の話を聞かねーんだテメェは!」

 

 クマ?の一方的な問い詰めに、遂にキレてしまった陽介はクマ?に怒鳴り返した。

 

「たっただ犯人かもって言っただけクマよ…」

 

 さっきまで強気だったのが嘘のようにクマ?は弱々しく返した。

 

「んだよコイツ、さっきまで強気だったのに今度は弱気とか、調子狂うぜ」

 

「陽介気持ちは分かるが、怖がらせ過ぎだ。後は俺が聞いてみるから」

 

 そう言って明日香はクマ?に近づいてニッコリと笑いながら

 

「怖がらせて悪かったね。でも俺らもここの事がよく分からないんだ。君が分かる事があれば話して欲しいな」

 

 明日香の言い方にクマ?もゆっくりと頷いてくれた。ありがとうと明日香が笑いながら言うと

 

「まず最初に、今俺達がいるこの場所は何なんだい?スタジオみたいだけど、あのマヨナカテレビに映っている映像はここで撮影してるのかい?」

 

「マヨナカテレビ?撮影?何の事クマ?」

 

 どうやらクマ?はマヨナカテレビの事や撮影の事を知ら無いようだ。

 

「俺達の世界では雨が降っている日の夜中に可笑しな番組が流れるんだ。それも死んだ2人がその番組に映ってる。若しかしたらその映像をこの世界で撮影してるんじゃないかって」

 

 明日香の説明にうーむと唸っているクマ?

 

「ここは元々こういう世界クマ。誰かが何かをとるとか、そんなの無いクマよ」

 

「分かるように説明してくれ」

 

 悠がクマ?に分かるように説明を要求すると

 

「だからさっきも言ったけど、ここはクマとシャドウしか住んでないの!他の事なんか知らないの!」

 

「だから俺らはそのシャドウなんてものも知らないんだって!だいたいお前の方が怪しいじゃねえか!いい加減そのふざけた着ぐるみを脱ぎやがれ!!」

 

 と陽介はクマ?の頭を掴み強引に脱がせようとした。そしてクマ?の頭が脱げるとうわぁ!と陽介が驚いてしまった。

 

「なッ中身がねぇからっぽだ…何もんだよお前!?」

 

 明日香達はクマ?の中には人が居ると思っていたが、実際は中は空っぽで人なんて居なかった。

 改めて存在が謎なクマ?は外れた頭を戻すとシュンとしてしまった。

 

「クマが犯人だなんて…そんな事しないクマよ。クマはただここで住んでいるだけ。ただここで静かに暮らしたいだけ…クマ」

 

 クマ?の悲痛な訴えに明日香達は黙って聞いていた。

 

「…キミたちが犯人じゃないって信じても良いクマよ。でもその代わりに本物の犯人を捜してこんな事を止めさせて欲しいクマ。でも約束してくれないらこっちにも考えがあるクマ」

 

 クマ?の考えとは…

 

「ここから出してあーげない」

 

 その考えは流石にヤバかった。

 

「この…下手にでてればいい気になりやがって…」

 

 遂には我慢できなくなった陽介はクマ?に殴り掛かろうとしたが、悠が手で制止し黙って首を横に振った。

 

「クマは…クマは…静かに暮らしたいだけ、なのにこのままだとここがメチャクチャになっちゃうクマ。そしたらクマは…ヨヨヨ」

 

 と遂には泣き出したクマ。たく調子狂うぜと呟く陽介。

 だがこのままではクマ?が可哀そうであった。

 

「なぁ如何するよ悠、明日香」

 

「頼れるのキミたちしかいないクマ。約束、してくれるクマか?」

 

「分かった約束しよう」

 

「何かここまで来たら可哀そうになってきたからな。助けてあげるよ」

 

 悠と明日香はクマ?と約束するようだ。

 

「よッよかったクマ!」

 

 クマ?は喜んだ。

 

「ったくよ出さないとか足元見やがって、けどま色々と知りたくて此処に来たんだからな。今のところなんも分かって無いしな。俺達で犯人捜せとか…いいぜやってやろうじゃねぇか。一応名乗っておく俺は花村陽介」

 

「俺は鳴上悠」

 

「俺の名前は日比野明日香、君の名前は?」

 

 明日香はクマ?の名を聞いてみると

 

「クマ」

 

 まんまであった。こうして明日香達はクマに犯人探しの約束をしたのだ。

 

「でも犯人を捜すって言ってもどうすればいいんだ?」

 

「それはクマにも分からんクマ。けどこの前の人間が入り込んだ場所は分かるクマ」

 

「それって若しかして小西先輩か!?」

 

「クマ、その場所に案内してくれるか?」

 

「いいけど3人にはこれをかけてほしいクマ」

 

 そう言ってクマは3人に眼鏡を渡してきた。悠には黒、陽介はオレンジ、そして明日香は白だった。

 なんだと思いながらも3人は眼鏡をかけてみる。すると霧で曇っていた景色がクリアに見える。

 

「すげぇ、さっきまでの霧が全然見えねぇ。かけてると濃い霧が無いみたいだ」

 

「霧の中で探索するにはもってこいのアイテムだな」

 

 明日香が眼鏡をそう評した。

 

「クマはココに長く住んでるから、頼りにしてくれクマ。あ、でも自分の身は自分で護ってほしいクマよ。クマにできるのは案内だけクマ」

 

「頼りにならねーじゃねーか!」

 

 クマの言った事に陽介は思わずツッコミを入れてしまった。一応武器になりそうなものを持ってきたが、雰囲気だしと言うのも、シャドウなるものを相手にして、本当に大丈夫なのか心配になってきた。

 

「お前戦えないのかよ!?」

 

「無理クマ。筋肉ないもん」

 

 確かにクマは中身が空洞であった。本当に戦えないのか、悠は黙ってクマに近づくとクマを軽く押してみた。

 クマは軽く触っただけでひっくり返ってしまった。

 

「いやしょぼすぎだろ…俺らこんな奴と約束したのかよ」

 

 明日香はひっくり返ったクマを助け起こしてあげた。

 

「そだ、案内ついでに聞いておくけど、小西先輩って君らのなんなんクマ?」

 

「……なんでもいいだろ」

 

 陽介は直ぐに答えずに目を逸らしながらそう答えた。明日香はそんな陽介を怪しんでみていた。普段の陽介ならもう少し早く自分の大切な友人だと答えるはずだ。

 

「兎に角、先輩が此処に入れられている事は分かった。もっと何か分かるかもしれない。さっさと行こうぜ」

 

 クマの案内の元、小西先輩が入り込んだ場所へ向かった。

 

 

 

「何だよここ、稲羽の商店街そっくりじゃねえか」

 

 クマに案内されて着いた場所が稲羽の商店街そのものであった。

 これは如何いう事なのかとクマに聞いてみると

 

「最近おかしな場所が出現しだしたクマよ。色々と騒がしくなってそれで困ってるクマ」

 

 この商店街も可笑しな場所の一つなのだろう。

 

「クマ、稲羽でなんでこの商店街だけなんだい?」

 

「クマも分からない。でもここに居るものにとって、ここは現実クマ」

 

 ここは現実、その言葉が若しかしたら小西先輩と関係があるかもしれない。

 

「なぁ、もし商店街がそのまま稲羽とそっくりなら…この先って確か小西先輩の酒屋が」

 

「だよな明日香、もっと先に行ってみようぜ」

 

 更に先に行くと本当に小西先輩の酒屋があった。

 

「本当にあったよ。若しかして小西先輩この酒屋で…」

 

 陽介が酒屋に近づこうとすると

 

「ちょっと待つクマ!そっそこにいるクマよ!」

 

 クマが慌てだした。

 

「いるって何がだよ?」

 

 クマの慌てぶりに陽介は怪訝な表情をしていたが

 

「シャドウ…やっぱり襲ってきたクマ…!」

 

「!陽介、今すぐそこから離れるんだ!」

 

 明日香は何かの気配を感じとり、竹刀袋から竹刀を抜いて構えた。

 すると酒屋から5体の仮面が現れた。いきなり仮面が現れて陽介は短い悲鳴を上げた。

 仮面は泥のような体を作りながら明日香達に近づいてきた。が、泥のような体が球体に変わりはじめ、巨大な口だけの化け物となり、大きい口から舌を出しながら明日香達を見ていた。

 

「こッこれがシャドウ!?」

 

 シャドウ達は雄たけびを上げながら明日香達に襲ってきた。

 

「来るぞ!」

 

 明日香は竹刀を、悠はゴルフクラブを構えた。

 一体のシャドウが明日香に突っ込んできた。剣道をやってる明日香は剣の間合いを分かっている。

 球体のシャドウの動きを見切り、横に避けると

 

「面!!」

 

 明日香の鋭い上段打ちがシャドウにクリーンヒットした。

 

「よっし!」

 

「おお!!」

 

 陽介とクマは歓声を上げた。今のは決まったと思っただろう。しかし竹刀を振るった明日香本人は

 

「くそッ!あんまり効いてない!」

 

 シャドウは蚊に刺された程度しか思ってないのか、再度明日香に突っ込んできた。今度は3体が一斉に。

 明日香は相手に自分の間合いに入られない様に竹刀を振るい、逆に返し技をしたりした。

 と明日香は悠の方を見ていたが、悠は矢鱈目鱈にゴルフクラブを振っていただけだった。

 恐らく悠は今迄剣などを振った事が無いのだろう。遂に一体のシャドウの舌でゴルフクラブを捕まられてしまい、シャドウの体当たりを喰らっていた。

 

「悠!!」

 

 明日香は悠に気が行ってしまっていた。それがいけなかった。一体のシャドウが明日香に体当たりをしてきた。

 油断してしまった明日香は地面に叩きつけられ、シャドウが大口を開いて明日香に食らいつこうとした。

 明日香は竹刀でシャドウの口を防いで自分に食らいつこうとするのを阻止していたが、シャドウの力が余りに強力で今に食われそうだった。

 

「悠!明日香!おいクマ何とかならねぇのかよ!?」

 

「無理クマ!クマには戦う力なんてないクマよ!」

 

 万事休す、此処までなのか…明日香は踏ん張りながらそんな事を考えてしまっていた。

 

(ゴメン千枝。さっきは無事に帰って来るなんて言ったのに、無理みたいだ……)

 

 ジュネスにおいてきた千枝の事を思い、すまないと千枝に謝っていた。

 このまま食われてしまうと思ったその時であった。

 

「ペ…ル…ソ…ナ…ウオォォアァァァァッ!!」

 

 悠が叫びながら、手の平で蒼く燃えていた火を握りしめたのを明日香が見た瞬間、悠の後ろに黒い長学ランを着て、大剣を持った巨人が現れた。

 巨人が現れた瞬間、シャドウ達は唸り声を上げた。あの黒い巨人に警戒をしているようだ。

 2体ほどのシャドウが黒の巨人に突撃して行った。

 

「イザナギ!」

 

『ジオ』

 

 黒の巨人の名前なのか、悠がイザナギと叫ぶとイザナギは電撃を放ち、2体のシャドウは一瞬で消えてしまった。

 明日香はアレを見てイザナギはシャドウに対抗できる力だと言うのは直ぐに分かった。

 明日香に食らいつこうとしたシャドウもイザナギに向かって行った。

 

「ペルソナ!!」

 

『スラッシュ』

 

 今度はイザナギが大剣を振るい、全てのシャドウを切り倒してしまった。

 あれだけ苦戦していたのにイザナギの登場によって勝負は一瞬で決まってしまった。

 イザナギは役目が終わったのか、消えてカードが現れた。見てみるとカードにイザナギの姿が写っていた。

 

「すっげーな今の!どうやったんだ!?ペルソナとか言ってたけど何なんだよ!てか何したんだよ!?」

 

 陽介は興奮した様子で悠に聞いていた。明日香もほこりを払いながら悠の元へ行った。

 悠自身も今一よく分かっていなかったが

 

「落ち着けヨウスケ、センセイが困ってらっしゃるクマ」

 

 クマが悠の事をセンセイと呼び、陽介は呼び捨てであった

 

「いやはやセンセイは凄いクマね。クマはまったくもって感動した。こんな力を持っていたなんてシャドウが怯えるのも無理ないクマ。若しかしてこの世界に入って来れたのもセンセイの力クマか?」

 

「若しかしたらそうかもしれない」

 

 クマの問いに悠はそう答えた。答えを聞いてクマはもっと驚いたようで

 

「やっぱりそうクマか。こら凄いクマねーな、ヨウスケやアスカもそう思うだろ?」

 

「何で俺らはため口になるんだよ!ちょーしにのんな!」

 

「ハハハ…でもまぁ今さっきのペルソナって力はシャドウには効果的だろう。俺の攻撃もあんまり効いてなかった様だし」

 

 明日香は自分の剣道には自信はあったが、それは人間相手だと言うのが今痛感した。恐らく自分では時間稼ぎしか出来ないだろう。

 今は悠のイザナギに頼るしかないだろう。

 

「よしこの調子で調査を再開するぞ。何とかこの先も何とかなりそうじゃんか!」

 

 再度酒屋の前に立つ明日香達

 

「しかし先輩ここで何があったんだろな」

 

 陽介が酒屋に入ろうとしたその時、周りからザワザワと話し声が聞こえてきた。

 

『ジュネスなんか潰れればいいのに…』

 

『ジュネスのせいで…』

 

『ジュネスのせいで』

 

『ジュネスのせいで…』

 

 聞こえてくるのはジュネスに対する恨み妬みであった。

 

「何だよこれ…」

 

 陽介は行き成りジュネスに対する恨み言を聞いて、足が止まってしまった。

 

『そういえば小西さんちの娘さん、ジュネスでバイトしてるそうよ』

 

『まぁお家の方が大変だっていうのにねぇ』

 

『最近じゃジュネスのせいで売り上げが悪いって言うらしいじゃない?』

 

『最近の娘はお家の事よりもお金の方が大切なのかしらねぇ』

 

「やッやめろよ…」

 

 陽介は耳をふさぎたくなった。そこから流れるのはジュネスの悪口や小西先輩への悪口であった。

 

「クマ、ここは此処に居るの者の現実だって言ったよね?それは此処に迷い込んだ小西先輩の現実でもあるっていう事だよね?」

 

 明日香が聞いてもクマ唸るだけで

 

「クマはこっちの世界の事しか分からない」

 

 それしか言えなかった。とりあえずは酒屋の中へ入れば何か分かるかもしれない。

 

「上等だよ」

 

 陽介はそう言って酒屋の奥へと入って行った。

 続いて明日香・悠・クマの順で酒屋へと入っていく。

はたして明日香達に待ち受けるのは何なのか……

 

 

 

 

 




次回は後篇です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話②

今回は酒屋での戦闘です。
どうぞ


 酒屋の中に入ってみると、酒屋らしくお酒が一杯あった。お酒の樽がタワーのようにつまれていた。

 しかし酒屋の中は天井がなく、まるでドラマで使われているようなそんな感じであった。

 

「何だよこれ、外で見たのと全然違うじゃねぇか」

 

 陽介が酒屋を見渡してそう言っていると、またもやざわざわと騒ぎ声が聞こえてきた。

 

「また聞こえてきた。何処から聞こえてくるんだ…」

 

 明日香はこの声達の正体が何なのか考えていると、今度は男の怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「何度言えば分かるんだ早紀!」

 

「!この声、先輩の親父さんだ」

 

 陽介は怒鳴っている男は小西先輩の父だと言った。

 

「お前が近所でなんて言われてるか、知らないわけじゃないだろ!?」

 

「代々続いた酒屋の娘として、恥ずかしくないのか!」

 

「金か!それとも男か!よりによってあんな店でバイト何かしやがって…」

 

 小西先輩の父の怒鳴り声は延々と続いていた。先程のジュネスに対する悪口で、小西先輩の酒屋がジュネスのせいで売り上げが下がっているという事だ。

 売り上げが伸びないせいで、苛々が積もって小西先輩を怒鳴り散らしているのであろう。

 

「何でだよこれ…バイト楽しそうだったし、俺にはこんな事言った事無いのに…」

 

 陽介は顔を悲痛そうに歪めていた。陽介には悪いが何時もジュネスのせいで父親に怒鳴られているなんて、言えるわけがない。

 

「これが先輩の現実だって言うのかよ!?」

 

「陽介…」

 

 陽介は認めたくなく、悠はそんな陽介に声をかける事が出来なかった。

 すると陽介は何かを発見し、テーブルに駆け寄った。悠と明日香にクマも陽介について行った。

 テーブルにはバラバラに千切れていたジュネスでの集合写真があった。陽介や小西先輩の写っており、2人とも笑顔で写っていた。

 

「これこの前にジュネスで撮った集合写真、なんでこんな事に…」

 

 陽介はバラバラになっている写真を一枚一枚みてなんでこんな事にと悲痛な顔で見ていた。

 写真を見ていた陽介は写真ではない別の紙を見て、ギュッと握りしめていた。

 

「陽介、それは?」

 

 明日香が尋ねると陽介はポツリと

 

「前に先輩を誘った時に使った映画のチケット、今度一緒に見ようと言って先輩オーケーしたんだけど、結局行けなかったんだ…でもなんでこんな…」

 

 陽介は千切れている映画のチケットを見ていた。すると…

 

「ずっと…言えなかった」

 

 行き成り小西先輩の声が聞こえた。

 

「先輩!?」

 

 陽介は小西先輩の声が聞こえ、辺りを見渡した。しかし小西先輩はもう亡くなっている。つまり先程の小西先輩の父と一緒だろう。

 

「私、ずっと花ちゃんの事…」

 

「おッ俺の事?」

 

 陽介は少なからず期待しただろう。だが明日香はこの状況でそんな事にはならないと言うのは少なからず感じていた。

 小西先輩の次の言葉は

 

「……ウザいと思ってた」

 

 小西先輩のウザいと言う言葉に陽介は固まってしまった。

 

「仲良くしてたのも店長の息子だから、都合いいってだけだったのに」

 

「勘違いして、勝手に盛り上がって…ホントにウザい」

 

 小西先輩のウザいと言う言葉が陽介に刺さって行く

 

「ジュネスなんてどうでもいい。あんなののせいで潰れるウチも、怒鳴る親も、好き勝手言う近所の人も…全部なくなればいい」

 

 …これが小西先輩の本心なのか。明日香はクマに聞いてみた。

 

「クマ、この商店街や酒屋っていうのは、小西先輩の心の中の物が具現化したものなのかい?」

 

「恐らく、さっきの小西先輩の声は心の奥底で仕舞い込んでいた感情が爆発したんだと思うクマ」

 

 明日香は悠の歓迎会で見たにこやかに笑っている小西先輩も心の中で色々と負の感情を溜めこんでいたのだと思った。

 陽介は未だに呆然としていた。気になっている先輩に拒絶されたのだ…色々と認めたくないのだろう

 

「う…嘘だよな先輩、先輩は…そんな人じゃないだろう!!」

 

 陽介は上を見上げて悲痛そうな叫び声を上げた。悠や明日香も陽介になんて声をかけていいのか分からなかった。

 だがその時

 

『悲しいなぁ、可哀そうだなぁ…俺』

 

 ノイズが混じったような陽介の声が聞こえた。

 驚いた明日香達は声の聞こえた方を見てみると、其処にはもう一人の陽介が立っていた。

 

『てか何もかもウザいと思ってたのは、テメェの方だっての。あははは』

 

 もう一人の陽介は狂ったような笑い声を上げていた。

 

「なッ俺!?」

 

「ヨースケが二人!?クマ!」

 

 明日香と悠ももう一人の陽介の登場に驚いて声が出せないでいた。

 

「お前誰だ!俺はそんな事一度も思ってない!」

 

 陽介はもう一人の自分に戸惑っていたが、そんな事は思ってないと反論する。

 だがもう一人の陽介はクックックックとまだ愉快そうに顔を歪めながら笑い

 

『ハハハ、よく言うぜ、何時までそんな風にカッコつけてるんだよ』

 

 陽介の言った事を愉快そうに笑いながら否定した。まるで陽介の言っていることが一々愉快だと思っているかのように。

 もう一人の陽介は話を続ける

 

『商店街もジュネスも全部ウゼーんだろ?そもそも田舎暮らしがウザいんだよなぁ』

 

 もう一人の陽介の言った事に陽介は顔を歪めていた。

 

「違う…俺は…」

 

 陽介は否定しようとしたが、言葉が出なかった。そんな陽介の反応が愉快なのかケタケタと笑っているもう一人の陽介

 

『お前が孤立するのが怖いから、上手く取り繕ってへらへらしてるんだもんなぁ』

 

『一人は寂しいもんなぁ。皆に囲まれていたいもんなぁ』

 

 もう一人の陽介は囁くように陽介に言った。

 

『小西先輩のためにこの世界を調べにきただぁ?はッ!違うな。お前が此処に来た本当の理由は…』

 

「やッやめろ!!」

 

 陽介は大声を出してもう一人の陽介の次の言葉を遮った。

 陽介の反応が一々面白いのか笑っているもう一人の陽介。

 

『ははは!何焦ってんだ?俺には全てお見通しなんだよ。だって俺は…お前なんだからな』

 

 もう一人の陽介のお前は俺と言う言葉に、明日香は色々な考えがよぎった。目の前のもう一人の陽介は若しかしたら先程の小西先輩のように心の奥にに押し込んでいた陽介の一つの感情だろう。

 その押し込んでいる感情が具現化したのなら?

 

『お前は単にこの場所にワクワクしてたんだ。ド田舎暮らしにはうんざりだったからなぁ』

 

『何か面白い事があるんじゃないか…此処へ来たのは要はそれなんだろ!?』

 

「ち…違う…やめてくれ…」

 

 陽介はか細い声で違う…違うと否定していた。

 陽介の反応が気に入らないのか、カッコつけやがってよと唾を吐きかけるかのような歪んだ表情に変わっていた。

 

『あわよくば、ヒーローになれると思ったんだよなぁ?大好きな先輩が死んだって言うらしい口実もあるんだしなぁ』

 

「違う!!」

 

 陽介は死んだ小西先輩を理由にした事を大声で否定した。

 

「お前誰だ…誰なんだよ!?」

 

『ククク…言ったろ?俺はお前…お前の影、全部お見通しだってな!』

 

「ふざけんな!お前なんか…知らない!」

 

 明日香は見た。陽介が否定すると、もう一人の陽介が蒼いオーラを纏い始め、どんどん大きくなっていった。

 まさか陽介が否定すれば否定するだけ、もう一人の陽介が力を大きくさせているのではないのか。

 明日香の考えが当たっているのでは、これ以上否定するとマズイ

 

「陽介駄目だ!これ以上否定したら…」

 

 明日香は陽介にこれ以上否定するなと言おうとしたが、一足遅かった。

 

「お前なんか、俺じゃねぇ!」

 

 自分の感情の一つを完全に否定してしまった。

 

『ククククック、アハハハ!良いぜもっとだ!もっといいな!!』

 

「駄目だ陽介、これ以上言うな!!」

 

 明日香の叫びも今の陽介には聞こえていなかった。

 

「俺じゃない…お前は俺じゃない…!」

 

 陽介が否定し続けていると、あぁそうさともう一人の陽介腕を広げながら

 

『俺は俺さ。もうお前なんかじゃない!』

 

 そう言った瞬間、もう一人の陽介は光に包まれた。光が晴れると其処にはもう一人の陽介の姿は無く、大きなカエルの背中に巨大な人間の上半身がくっついた様な異様な化け物が姿を現した。

 

「あ…あぁ…」

 

 陽介は腰が抜けて座り込んでしまった。

 

「でッでかい…さっきのが小さいと思えるほどに」

 

 明日香は先程の球体のシャドウが小さく思えてしまうほどに、目の前のもう一人の陽介だった化け物をそう見てしまった。

 

『我は影…真なる我』

 

 巨大な化け物…陽介の影は人間体の上半身をゆらゆらと揺らしていた。

 

『退屈なもんんは全部ぶっ壊す!』

 

 陽介の影は高く跳び上がり、着地した時に起こった強力な風で明日香達を吹き飛ばした。

 陽介やクマは地面に叩きつけられ、明日香と悠は受け身を取ってダメージを軽減させた。

 

『いつまで耐えられるかな』

 

 陽介の影はヘラヘラと笑いながら、明日香達を見降ろしていた。

 

「クッ!イザナギ!!」

 

 悠はイザナギを召喚し、陽介の影に向かって大剣を振るった。だがしかし

 

『はッおせぇ!!』

 

 陽介の影はカエルのような下半身で跳躍し、イザナギの剣を楽々と避けてしまった。

 壁から壁に跳ね、縦横無尽な動きでイザナギを惑わす。

 そして狙いを定めていないイザナギの背後から体当たりを食らわせる。

 

「ぐあ!」

 

 悠は顔を苦痛で歪ませていた。如何やらイザナギと悠はダメージを共有しているようだ。

 

「悠!」

 

 明日香は悠の元へ駆け付けようとしたが、悠に来るな!と叫ばれてしまった。

 

「俺は大丈夫だ…だから陽介を頼む!」

 

 悠は力強い目で明日香を見た。そんな力強い目で見られてしまったら嫌だとは言えなかった。

 明日香は悠に頷きで返して、陽介の影は悠とイザナギに任せた。

 吹き飛ばされた陽介とクマの元へ駆け付ける明日香

 

「無事か2人とも!?」

 

「クマは大丈夫だけどヨウスケが!」

 

 陽介はさっきから俺じゃない…俺はそんな事思っちゃいないと呟いていた。

 

「あれは元々ヨウスケの心の中に居た者クマ」

 

「嘘だ!俺はそんなんじゃない!!」

 

 陽介は未だに認めたくなく、否定を続けていた。

 

『いいぞ!もっと言え!もっと否定しろ!!そうすれば俺はもっともっと強くなるんだからなぁ!』

 

 そう言いながら陽介の影は更にスピードを上げた。陽介が否定すれば否定する程陽介の影は力を強めているのだ。

 

『吹き飛べぇ!!』

 

 陽介の影は先程と同じように着地した時の強風でイザナギを吹き飛ばしてしまった。

 吹き飛ばされ少しの間動けなくなったイザナギを無視し、陽介の影は陽介がいる方へ近づいた。

 

「きッ来たクマァ!」

 

 クマが慌てだし、明日香は竹刀を構えた。

 竹刀を構えている明日香を見て、ハハハと笑い声を上げる陽介の影

 

『なんだぁ?そんなもんで俺を倒せるなんて思ってるのか!?』

 

「思っちゃいないさ。でも俺の友達は俺が護る!」

 

 明日香の言った事に、陽介の影は馬鹿が!と明日香を罵り、長い腕を使い一瞬の速さで明日香を掴んでしまった。

 陽介の影は掴んでいる明日香をズイッと近づかせると

 

『俺はテメェの事もウザかったんだよ。なんでもかんでも俺に口出ししやがって、目障りだったんだよ!』

 

 だから俺の前から消えやがれ!と陽介の影は明日香を容赦なく投げ飛ばした。

 明日香は酒が入っているショーウィンドウに叩きつけられしまった。

 

「グハッ!」

 

 ショーウィンドウに叩きつけられ、肺から酸素が一気になくなったような気がした。

 

「アスカー!」

 

 クマは明日香の元へ駆け付け、助け起こしてくれた。

 

『お前は知らないだろうな明日香!コイツの情けない姿をよぉ!』

 

 陽介の影がそう言った瞬間、いつの間にかテレビが現れており、一斉にテレビが付くとジュネスのアルバイトが陽介の事をウザいと悪く言ったり、小西先輩に映画を誘ってオッケーを貰い喜んでいる陽介の姿が移っていた。

 

『コイツは自分がウザがられているのを知ってるのに、いい人ぶって自己満足してたんだよなぁ?』

 

『勘違いしていい気になって…ほんとウザい』

 

 また小西先輩の声が聞こえ、遂には陽介は縮こまって耳を塞いでしまった。

 動ける様になったイザナギがスピードで翻弄し、陽介に近づけさせないようにした。

 

『つまんねぇ田舎暮らしに飽き飽きしてたんだろう?刺激が欲しかっただけだろうが!!』

 

「ちがう!違う違う違う!俺はそんな事…!」

 

「イザナギ!!」

 

 陽介が更に自分自身の影を否定しようとしたが、イザナギが陽介の影を殴り飛ばしていた…悠も陽介を殴っていたが。

 明日香は悠が陽介を殴ったのを見て呆然としてしまった。

 

「あッ間違えた」

 

 悠が間違えて陽介を殴った事に明日香はええ~と心の中で呆れてしまった。

 

「お前なぁ!」

 

 陽介は殴った悠に文句を言おうとしたが

 

「好きだったんだろ?先輩の事」

 

 悠が言った事に、陽介は文句を飲み込んでしまった。

 

「……あぁ本当に好きだったんだ、俺は先輩の事を好きだったんだ」

 

 陽介はさっきまで否定し続けていたが、初めて本心を話した。

 

「だったらそれでいいだろ」

 

 そう言って、悠は陽介へ手を差し伸べた。

 

「あぁ、そう…だな」

 

 陽介は悠の腕を掴み引っ張ってもらい立たせてもらった。

 

「ぷぷー振られてやんの」

 

「コラクマ、そういう事はあんまり言っちゃいけないぞ」

 

 打ち所が悪かったのか、クマに体を貸してもらい明日香が戻ってきた。

 

「明日香…悪い、俺の影が酷い事しちまって…目障りなんて思ってなかった。ただ何時も自分に正直に生きてる明日香が時々眩しく見えて…」

 

「人間そんな簡単に本音では語れないって事だな。俺も今の関係に甘えてたかもしれない」

 

 そう言ってフッと笑いあう悠に明日香に陽介

 

「ほんとは分かってたんだけど、みっともねぇし認めたくなかった。皆と上手くやろうとして必死で一人でカッコつけて、俺だってこんな俺、ウザいって思うぜ」

 

 けど…と言いながら、陽介は内ポケットから何か取り出した。それは小西先輩を誘った映画のチケットだった。

 

「先輩への気持ちは本物だった」

 

 そう言って陽介はイザナギと戦っている自分の影を見た。

 

「あれも俺の一部だって事なのか…」

 

 そう言って陽介は自分の影へ自ら近づいた。

 陽介の影は陽介を仕留めようと腕を伸ばすが

 

「全部ひっくるめて…俺だってことだよな」

 

 陽介が自分の心の内を認めた瞬間、陽介の影は苦しそうに悶え始めた。倒すなら今しかない

 

「イザナギ!!」

 

『ジオ』

 

 イザナギのジオが陽介の影へ直撃した。苦しみの声を上げながら陽介の影は消滅し、もとのもう一人の陽介の姿に戻った。

 陽介は倒れたもう一人の自分の肩に手を置いて

 

「お前は俺で、俺はお前だ」

 

 陽介が自分の影を認めると、もう一人の陽介は満足そうに微笑みながら頷くと体が消滅した。

 そして消滅したもう一人の陽介は、忍びのようなペルソナ『ジライヤ』へと姿を変えた。

 ジライヤは姿をカードへと封じ込めると陽介の手の中で消えてしまった。

 終わった…そう思った瞬間、陽介はドスッと座り込んでしまった。

 明日香と悠が陽介の元へよると

 

「さっきの先輩の声、あれも先輩が心の底で抑え込んでたものなのかな。ははずっとウザいと思ってたか…盛大にフラれたぜ」

 

 そんな陽介の両肩に、明日香と悠がそれぞれ手を置いた。

 

「お前らが居てくれて助かったよ。ありがとな、悠、明日香」

 

「うん」

 

「俺にお礼なんかいいって。俺今回は役に立ってないんだし」

 

 明日香の自虐にそんな事無いさと首を横に振る陽介。

 

「なぁクマ、先輩はここでもう一人の先輩に殺されたのか?マヨナカテレビで明日香が先輩がもう一人の先輩に殺されたって言ってたし」

 

「たぶんそうクマね。ここに居るシャドウも元々は人間から生まれたものクマ。でも霧が晴れるとみんな暴走する。さっきみたいに意志のある強いシャドウを核に大きくなって、宿主を殺してしまうクマ」

 

 恐らくそれが町で霧が出た時に、こっちで人が死ぬ原因だとはっきりした明日香。小西先輩も自身の心を否定してそして小西先輩の影によって殺されたのだろう。おそらく山野アナも

 

「そっか…」

 

 陽介はそう呟くと、ふらついてしまった。明日香が倒れそうになる陽介を支えた。

 

「ヨースケ、疲れてるクマね。元々この霧は人間にはちっとも快適じゃないクマ」

 

「だな、さっきからあの変な声が聞こえなくなったし、これ以上ここにはいる必要が無いな」

 

「うん、戻ろう」

 

 此処に居る目的はない。明日香は陽介に肩を貸して、酒屋を後にしたのであった。

 色々とあった明日香達、だが陽介の表情は少しだけだがスッキリしたような顔であった

 

 

 




今回の陽介の影戦はアニメを主体にしたバトルシーンをイメージして書きました。
次回は千枝は出したいですねはい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

最近思った事は。あんま喋らないゲームの主人公が選択肢だけでよくコミュニケーションが取れるなって思った事…まぁゲームですし
それではどうぞ


 酒屋を去り、悠はイザナギを陽介はジライヤ、ペルソナの力を手に入れた。

 元のスタジオの場所に戻った陽介は再度クマに色々と尋ねてみた。

 

「なぁクマ、お前ここが現実だって言ったよな?さっきの商店街、それに前に見たあの妙な部屋、あれは死んだ2人がこっちに入った事で、2人にとっての現実になったっていう事なのか?」

 

「つまり、2人が入った事であんな場所が出来たのかな?」

 

 陽介や明日香の問いにクマは恐らくと頷いた。

 

「今まで無かったことだから断言できないけど、ここで消えた人達も恐らくヨースケみたいになったクマね」

 

「つまりだ、マヨナカテレビで小西先輩は小西先輩の影に殺された…これは確実だな」

 

 明日香が見たマヨナカテレビは、ただの映像ではなかった様だ。

 

「だけど本当に山野アナや小西先輩に同じ事が?」

 

 悠が再度聞いてみると、クマはこの世界の事を改めて教えてくれた。

 

「ここの霧は時々晴れるクマ。そうなるとシャドウ達はひどく暴れる。クマは怖くて何時も隠れているけど、最初の時とその次も人の気配は霧が晴れた時に消えたクマ」

 

「つまりだ…先輩や山野アナはこんな所に放り込まれて、出られずにさまよって…そのうち体からあのシャドウってのが出て、そいつが霧が晴れた時に暴れ出して、命を…」

 

 クソッと陽介は拳を握りしめて悔しそうに顔を歪めた。

 

「先輩たった一人でさまよって、なのに誰も先輩を…」

 

 陽介…と明日香は今の陽介の気持ちを理解は出来るだろう。

 もし千枝がテレビの中に放り込まれたらと考えてしまうと恐ろしい。

 悠は陽介の肩に手を乗せて何も言わずに頷いた。

 

「2人ともここの霧が晴れた時に襲われたけど、それまではシャドウに襲われなかったクマ。なのにボクら、さっきは襲われたクマ。シャドウ達すごく警戒してた。探索してたボクらを敵とみなしてるのかも」

 

「それは悠や陽介がペルソナの力を持っているから…そう考えるのが妥当じゃないか?」

 

 明日香の言う通り、悠がイザナギを出した瞬間にシャドウ達は一斉に警戒し始めた。

 

「おいだったらよ、俺らのペルソナを使えばこの先誰かが放り込まれても、その人を救えるって事だよな!?」

 

 陽介の言う事がそうなら、テレビの中に放り込まれても助け出す事は可能という事だ。

 

「そうに違いない。これ以上犠牲を出さないためにも」

 

 悠はこれ以上小西先輩の様な犠牲を出してはいけないとそう言った。

 悠の言った事に、明日香や陽介は頷いた。

 

「兎に角だ、ここに人を放り込んでいる人を捕まえて止めさせればいい」

 

「あぁ漸く少しは状況が掴めてきたぜ」

 

 明日香達は此れからの行動方針が決まったところだ。

 とクマがあのッあのさと手を上げながら

 

「逆に聞いてもいいクマか?シャドウは人から生まれるんだったら、クマは何から生まれたクマか?」

 

「いやお前自分の出生を知らねえのかよ!?」

 

 陽介はクマの出生に思わずツッコミで返してしまった。

 

「うーん、俺らはクマとは昨日今日知り合ったばっかだからなぁ…俺らも分からないよ」

 

 明日香がそう答えると、クマは落ち込みを見せた。

 

「この世界の事は知ってるのに、自分の事は分からんクマ。ちゅーか考えたことが無かったクマ」

 

 マジかよ…と陽介は驚きを隠さなかった。今まで自分が何者なのかと考えた事が無かったと言うのもどうかと思うが

 

「つかそれじゃ俺らが何聞いても無駄なはずだよな…」

 

 クマ自身が自分の事を知っていなきゃ意味が無いから。

 

「また…ここに来てくれるクマか?」

 

 クマは不安そうに此方を見ていた。

 あぁと明日香は笑いながら

 

「また来るさ。俺はクマとは友達だと思ってるからな」

 

「とも…だち?クマとアスカは友達クマか?」

 

「あぁ友達だ。悠だって友達だって言うはずさ」

 

「友達とは約束するものだ」

 

「と言っても約束を守らねえと此処から出さねえって言うんだろ?」

 

 陽介はそっぽを向いてそう言った。素直ではない陽介である。

 そッそうだったクマ!と自分でも言っていた事を忘れていたクマ。

 

「じゃあ出してあげるけど、その前にお願いクマ。僕はここで君たちが来るのを待っているクマ。だから君たちは必ず同じ場所から入るクマ」

 

「此処って言うのはジュネスのテレビに?」

 

 悠がそう訪ねると、そうクマと頷くクマ

 

「違うとこから入ると、違う場所に出ちゃうクマ。もしクマが行けない様な場所だったらどうしようもないクマ」

 

「確かに、テレビの中で遭難とか笑えないし、下手したら小西先輩や山野アナの二の舞になってしまうか…」

 

 明日香の言う通り、テレビの中で遭難は笑い話にもなりはしない。

 明日香達も大体は理解出来た。

 

「それじゃあクマ、出口を頼むよ」

 

 明日香が頼むと了解クマ!とクマは昨日と同じように足をトントンとさせ、テレビのタワーを出した。

 最初テレビが出てきて驚いた明日香・悠・陽介だが、シャドウやらペルソナやらもう一人の陽介やらを見てもう驚かなくなってしまった。

 

「さてと…店員たちが来ちゃってないか確認しないとな…」

 

 陽介はテレビに出るタイミングをうかがっていたが、クマがまた後ろに回って

 

「ハイハイー行って行って、ムギュウ!」

 

 と強引に明日香達を押し込んだ。

 

「うわ!?ちょ、クマ!」

 

 陽介は行き成り強引に押し込んできたクマに文句を言おうとしたが、文句を言う前に明日香達はテレビに吸い込まれてしまった。

 

 

 

 ドサリ!とクマに無理やり押し込まれたことで、元の世界にも投げ出される形で戻ってきた明日香達。

 

「あッ…」

 

 千枝は明日香達が戻ってきたのを見て、呆然としていたが

 

「かッ帰っでぎだぁ…!」

 

 明日香達の姿を見た瞬間大泣きをしてしまった。

 

「あ里中…うわ、如何したんだよその顔」

 

 見れば千枝の目元が赤く腫れていた。さっきまでどうすればいいのか分からずすすり泣いていたのだ。

 其れなのに陽介は普通に如何したんだと聞いてきたので、ムカついた千枝は命綱であったロープを陽介に投げ渡した。

 

「あがッ!」

 

 ロープが顔面に当たり情けない声を上げた陽介に対して千枝は怒りながら

 

「どうした、じゃないよ!ほんっとバカ!最悪!!もう信じられない!アンタらサイテー!!」

 

 千枝が大声で喚き散らすので、周りの客が集まって来た。痴話喧嘩だと思われたのか、主に主婦がヒソヒソと話していた。

 

「ロープきれちゃうし、如何していいか分かんなかったし…心配、したんだから…スッゲー心配したんだからね!あーッ!もう腹立つ!!」

 

 言いたい事を言うと、千枝は走り去ってしまった。

 

「あッおい千枝!待てよ!!」

 

 明日香は走り去った千枝を追いかけて行った。

 が何かを言い忘れたのか、振り返ると悠と陽介に

 

「俺、今日はあんま役に立たなかったけど、お疲れ様!これからだが頑張ろうな!」

 

 それだけ言うと、明日香は千枝を追いかけるために走り去ってしまった。残されたのは悠と陽介

 千枝が居なくなるのを見ると、周りの客たちもいなくなっていった。

 

「ちょっとだけ、悪い事したかもな。いやちょっとどころじゃないかもな」

 

「あぁそうだな」

 

 陽介の言った事に悠は頷いて同意した。

 

「まぁしゃあない。明日謝るか」

 

 陽介と悠は明日改めて、千枝に謝る事にした。

 

「今日はもうへとへとだ。帰って風呂入って寝るわ…今日は、眠れそうな気がする」

 

 そう言ってフッと小さく笑う陽介

 

「あぁよく休め」

 

 悠も陽介に微笑を浮かべながらそう言った。

 

「そうするわ…へへ、じゃあまた明日、学校でな!」

 

 あぁと陽介の言った事に悠は頷いた。

 

「しかし…明日香って里中と幼なじみで家もお隣だって話だけど、今、怒って帰った里中を相手すんのか…里中ただでさえ気が強いのに、怒ってる里中とか…明日明日香にも謝った方が良いかもな」

 

「青春だな」

 

「…悠、お前その言葉気に入ったのか?」

 

 

 

 

 雨が降る鮫川河川敷にて、走ってる千枝を明日香が追いかけていた。

 

「千枝!おい千枝ってば!待てよ!!」

 

「うっさい明日香!アンタなんか知らない!!」

 

 千枝と明日香の距離は縮まらなかった。

 明日香は痛む体に鞭打ってスピードを上げ、漸く千枝に追いついた。

 

「だから千枝、待てってば!」

 

 明日香は千枝の腕を掴み、止まるように言ったが次の瞬間、明日香の頬に痛みが走り、熱くなった。

 千枝に頬を叩かれたと直ぐに分かり、千枝はまだ泣いていた。ずっと泣きながら走り続けたのだろう。

 

「なんで…なんで明日香はそうやって何時も無茶すんのよ!」

 

 千枝は泣きながら明日香の胸倉を掴んだ。

 

「無茶はするさ!千枝を危ない目にあわせるわけにはいかないだろ!」

 

「明日香は何時もそうよ!自分で勝手に突っ走って、ボロボロになって…アタシが何時もどんだけ心配してるのか分かってるの!?」

 

 それを言われ、明日香は黙ってしまった。今だってそうよと千枝は

 

「走ってる時に足を引きずってた。あのテレビの世界で何かあったんでしょ!?アタシはそんなに頼りないの?明日香にとってアタシは何も出来ない女の子なの?アタシは…アタシは…」

 

 千枝はポスンと明日香の胸に顔を埋めて

 

「何にも出来ない事よりもアタシは…明日香に何かあったかと思うと…嫌なんだよ」

 

 千枝の悲痛な声を聞いて明日香は思わず抱きしめてしまった。ゴメン…と千枝に謝りながら

 

「ゴメン千枝、俺にとっては千枝が大切なんだ。だから千枝に何かあったら怖かったから。だから…」

 

「…明日香は自分を大切にしなさすぎだよ。もうちょっと自分を大切にして」

 

 千枝の言う通り、明日香は自分よりも他人を優先してしまう傾向がある。自分が傷つくと分かっていながらも誰かを助けようとするのだ。

 千枝はそんな明日香が心配であった。

 

「だから…明日香はもっとアタシを頼ってよ。何のためにアタシが修業してるのか分からないからさ」

 

「……分かったよ。何かあったら千枝、一緒に頑張ろうな?」

 

「うん!」

 

 明日香の答えに満足した千枝は漸く笑みを浮かべた。

 うーん!と大きく伸びをした千枝は

 

「なんか怒ったり走ったり、泣いたりしたらお腹が減っちゃった。ねぇ明日香、今から愛屋に行こうよ」

 

「今からか?俺、テレビの中に入って結構疲れてるんだけど」

 

「だって明日香、今度愛屋で肉丼奢ってあげるって言ったじゃん」

 

 むぅっと頬を膨らませる千枝に分かった分かったと思わず笑ってしまった明日香。

 

「今から行こうか。肉丼を好きなだけ奢ってやるよ。千枝を心配させたお詫びだ」

 

「いいの?だったら容赦しないわよ」

 

 明日香と千枝は笑いながら愛屋に向かう事にした。

 明日香と千枝が歩いてるのと同時刻、悠と雪子が色々と話していた事に2人は気づいていなかった。

 そして明日香は好きなだけ奢ってやると言う言葉を言った事を後悔した。千枝は本当に好きなだけ肉丼を食べ、明日香の財布からお札のお金が何枚か去って行った。

 出費は痛いが、千枝の嬉しそうな顔を見てまぁいっかと思ってしまった明日香であった。

 

 

 ――夜――

 

 夕食を食べ終わった明日香は何時も通りにニュースを見ていた。

 ニュースでは稲羽の事を話していたが、今度はなんと天城屋旅館…それも雪子の取材がされていた。

 何でも事件後、女将であり雪子の母親が一線を退き、今は雪子が代わりを務めているようだ。だから最近帰りが早かったのだろう。

 和服姿の雪子が映り、やはり雪子は和服が似合っており、自分の友人がテレビで報道されているのを見ると何か嬉しいし誇らしかった。

 だが現場リポーターの脱線したマシンガンインタビューに、雪子は戸惑っていた。

 余りに酷いインタビューに不快になった明日香は明野に頼みチャンネルを変えて貰った。明野もあんな困ってる雪子ちゃんを面白く見たくないと不快感を露わにした。

 がチャンネルを変えたバラエティー番組を見て大笑いをしていたが。

 しかし明日香は別の事を考えていた。山野アナ小西先輩と続き、今度は雪子だ。若しかしたらマヨナカテレビに映るのではないだろうか?とそう思ってしまった。

 今日も雨が降っている。確かめるならもってこいだ。明日香は早く風呂に入り、部屋に戻って行った。

 

 

 部屋に戻り、時間が刻々と迫っているのを見て、雨が降っているか確認する明日香。やがて12時となり、明日香は消したテレビを見続ける。

 そしてテレビは何時ものように砂嵐が起こった後に人の姿が見えてきた。

 だが顔はハッキリと見えなかったが和服姿の女性だと言うのは分かった。

 

「まさか…雪子?」

 

 見れば何処か雪子に面影が重なっているように思えた。だが何故雪子がマヨナカテレビに出ているのか…今のところは分からない。

明日、陽介と悠に聞いてみる事にして、今日はもう休むことにした。

 

 

 

 




千枝のようなお肉を美味しそうに食べるような女性とお付き合いしたいと言うのが
今の願望です……ってなんか変態っぽいなうん

と言うかこの作品のタイトル通り明日香君のペルソナを出したい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

 4月16日(土) 午前

 

 テレビの世界での激闘があった翌日、明日香と千枝は何時も通りに学校へ登校していた。

 千枝も明日香が肉丼をたらふくおごってあげたお蔭で、もう気にしてはいなかった。

 何時も通りに雑談しながら登校していたが、千枝が今日は雪子も一緒に登校する約束をしていた。

 雪子の名を聞いて、明日香は昨日のマヨナカテレビに映った雪子らしき女性を見て色々と心配していた。まさか雪子はもうテレビの中なのではないのかと色々と考えていた。

 いやまさか…こうじゃないのか…と明日香がブツブツ呟いているのを千枝は首を傾げていた。

 と雪子が何時も乗ってくるバスのバス停で雪子待つ明日香と千枝。

 ……が何時もの登校の時間になっても雪子が現れる気配が無かった。

 千枝が雪子の携帯に電話しても繋がらなかった。これ以上待っていると明日香と千枝も遅刻してしまう。仕方なく2人だけで登校する事にした。

 暫くの間千枝の表情がしずんでいたが、あのさ…と明日香に恐る恐る尋ねてきた。

 

「ねえ明日香、マヨナカテレビに映った人って絶対にテレビの中に入っちゃうんでしょ?」

 

「行き成り何を聞くんだ千枝?」

 

「だってアタシ見たんだよ。昨日のマヨナカテレビ、顔とかはハッキリしなかったけど…あの着物姿は間違いなく雪子だった」

 

「やっぱり千枝も見ていたのか…」

 

「ねぇもしかして雪子テレビの中にいるんじゃ…!」

 

「いや俺の考えではまだ雪子はテレビの中には入ってないはずだ」

 

 明日香が言った事に千枝は如何して?と尋ねてきた。

 つまり俺の考えはと明日香は指を立てながら

 

「小西先輩が自分の影に襲われたのを見た時は姿がハッキリしていた。だけど昨日は映像がハッキリしてなかった。それにまだ映っているのが雪子とハッキリしてなかった。ハッキリしてない時はまだテレビの中には入ってないだろう」

 

 これは明日香の予想だがはっきりしていない。それが千枝を不安にさせる。

 心配するなと明日香は千枝を安心させようとする。

 

「今日も学校に来れてないのは旅館の方が色々と忙しいんだろ?心配しすぎるとかえって千枝の体に悪いぞ」

 

「うん…」

 

 千枝は不安が無くならずに学校に向かう。

 明日香はそんな千枝を心配そうに眺めていた。

 

 

 

 教室に到着した明日香と千枝は、荷物を置いて千枝は証拠口へと向かった。若しかしたら雪子が遅れて登校してくるのではと思っていたのだ。

 部屋に残った明日香は悠と陽介に昨日の事を話していた。

 

「おいおいお詫びだからって、里中の奴に愛屋の肉丼をたらふくおごってやるって、凄いな明日香」

 

「まぁな、でも俺の財布から札のお金が数枚消えたよ。まぁ千枝が喜んでいる姿を見れれば満足だけどな」

 

「お疲れ様」

 

「いや悠全然疲れてもないって」

 

 と談笑していると千枝が教室に戻ってきた。

 

「おッおう里中、昨日は悪かったな」

 

「そんな事より、雪子やっぱり教室に来てないよね?」

 

 千枝の問いに明日香は首を横に振った。明日香が首を横に振った事に千枝は落胆する。

 千枝の落胆を見て、陽介は何があったのか尋ねると明日香と千枝が、昨日マヨナカテレビにて雪子の様な女性がぼんやりと映った事を話した。

 

「おいおいそれってヤバくねぇか?天城の奴もうテレビの中に」

 

「やッ止めてよ!」

 

 陽介の言った事に千枝は大声で遮った。教室に居た生徒達は千枝に視線を集中した。

 落ち着けと明日香は千枝を宥めた。

 

「千枝、落ち着いてとりあえず雪子の携帯に電話だ」

 

「うッうん!」

 

 千枝は携帯を出して、急いで雪子に電話をかけた。

 しかし電話は何回かコールしても雪子が出る気配は無かった。

 

「どうしよ明日香、雪子出ないよ」

 

「諦めるな千枝、今度は天城屋旅館の方の電話番号にかけてみろ。若しかしたら雪子の奴旅館の方で忙しいかもしれないし」

 

「わッ分かった!」

 

 明日香の言う通り千枝は今度は旅館の方の電話にかけてみた。

 数回のコールで誰かが電話に出た。

 

「もしもし…雪子!よっかたぁ携帯に出なかったから心配したよぉ」

 

 千枝は色々と雪子と話をした後に電話を切った。何でも団体客が急に入ってきたという事で手伝わないといけなかった様だ。

 これで雪子はテレビの中の世界にはいないと言うのが分かった。

 

「しかし俺はマヨナカテレビに映った人間は、もうテレビの中に入れらているのだ思ってだぜいやよかったわ」

 

 陽介もホッとした。流石に自分の知り合いである雪子がテレビの中と言うのは肝が冷える思いだ。

 だがそれでもマヨナカテレビに雪子らしき人影が映ったのには何か関係があるのかもしれない。

 

「今日の帰りにクマに会ってみよう」

 

 悠の提案に明日香、陽介に千枝は頷いた。4人は放課後にクマに会いにジュネスへ、そして今テレビの中では何が起こっているのか確かめることにしたのだ。

 

 

 

 ――放課後――

 

 ジュネスの家電売り場へと来た明日香達は、悠が千枝に昨日起こった出来事を話していた。

 

「まッまぁ俺の痛い話はいいからさ、早くクマに話を聞きに行こうぜ」

 

 陽介が誤魔化す様に言ったが、今日は周りでは家電売り場でのお客の数が多かった。

 

「何でよりによって今日は人が多いんだ?…そう言えば今日は家電はセールス中だっけか」

 

「どうすんの?これじゃテレビの中に入れないじゃん」

 

 千枝の言う通り、人がいる前ではテレビの中に入る事は出来ない。

 如何するかと考えていると悠が

 

「だったら腕、突っ込んでみるか?」

 

 結構大胆な行動に出る事にした。

 

「お前結構大胆だな…でもまぁ、それしか手が無さそうだな…」

 

 陽介は悠の提案を飲み、明日香と千枝と陽介が壁となり悠がテレビの中に腕を突っ込んだ。

 暫くすると悠がテレビから腕を出した。見ると悠の手には大きな歯形があった。

 

「ちょ、それ大丈夫なの?」

 

 千枝は歯形を見て大丈夫かと尋ねてみた。

 

「泣けてきた」

 

「いや泣いてないだろ」

 

 悠が冷静に冗談を言ったので、明日香は思わずツッコミを入れてしまった。

 しかしまぁこんな事をするのはクマしかいないだろう。

 

「クマ、其処に居るのかい?」

 

 明日香が小声でテレビの向こうのクマに呼びかけてみると

 

『なになに?これ、何の遊び?』

 

 クマがテレビ越しから悠が行き成り手を突っ込んできたので何かの遊びだと勘違いしたようだ。

 

「遊びじゃねえよ!今そっちに誰か入った気配はあるか?」

 

 陽介がテレビの世界に誰か入っていないかと聞いてみると

 

『誰かって誰?クマは今日も一人で寂しん坊だけど。むしろ寂しんボーイだけど?』

 

 クマはウケを狙おうとふざけで自分以外誰も居ない事を教えた。

 

「うっさい!…でも本当に誰も居ないの?」

 

 千枝は再度クマに本当にいないのか尋ねてみたが

 

『うッウソなんかついてないクマよ!クマの鼻は今もビンビン物語クマ!』

 

 クマが此処まで言うのだ、テレビの中には誰も居ないのだろう。

 クマの気配がテレビ側から消え、千枝は少しの間考え込み

 

「アタシやっぱり雪子に気を付けるように言っとくよ」

 

 今日は土曜日で明日は日曜、休日は旅館も忙しいはずだし、雪子も黙って出歩く事も無いだろうと言うのが千枝の考えだ。

 千枝は明日香を連れてジュネスを後にした。今日も雨が降る予報だ。マヨナカテレビで何かが映るかもしれない。

 今夜もテレビを見るという事で今日の所は解散する事になった。

 

 

 

 ジュネスを後にした明日香と千枝はさっそく天城屋旅館へとやって来た。

 土曜日という事でかなり忙しい様子だった。

 

「結構忙しそう…こんなんで雪子呼べるかな?」

 

「忙しそうだけど今は雪子の身の安全が第一だからな。仕方ないけど呼んでもらおう」

 

 明日香は忙しそうにしている仲居さんを1人見つけ、雪子を呼んでほしいと頼んだ。

 最初は明日香を怪訝な表情で見ていた仲居さんだが、雪子の友人だと話すと渋々と雪子を呼んできてくれた。

 暫く待っていると、雪子が慌てた様子で早歩きでやって来た。

 

「あの、私の友人が呼んでるって言われてきたけど、明日香君に千枝…何しに来たの?」

 

「あッあのさ雪子えっとね…その…」

 

 千枝は言葉に詰まって明日香と肩を寄せ合ってひそひそ話を始めた。

 

「どうしよ明日香、アタシさっきまで雪子がマヨナカテレビニに映って狙われるから気を付けてしか考えてなかった」

 

「いやそれじゃあ雪子が混乱するだけだろうが」

 

 仕方なく明日香が雪子に話す事にした。

 

「いや最近さ色々と物騒だろ?雪子は旅館の娘だし色々と言い寄ってくる奴とかいるかもしれないから気を付けてってな」

 

「そうなんだ…ありがとうね。態々来てくれて」

 

 雪子が静かに笑いながらそう言った。

 

「いやさ雪子が危ない目にあってほしくないしさ。友達だから当然だよ」

 

「まぁ俺も千枝も心配してるし、気を付けてな」

 

 千枝と明日香の心配してると言った事に、ありがとうと笑う雪子

 

「でもいいなぁ千枝には明日香君がいて、私には明日香君みたいに一緒にいてくれる男の子がいないから…」

 

「そんな事無いよ。明日香は家が隣だし、ただの腐れ縁だから」

 

「肘で突くな痛いから」

 

 明日香と千枝のふざけ合いを見て雪子は静かに笑い、明日香と千枝もつられて笑った。

 だが2人は気づかなかった。雪子が笑っている中時々寂しい様な悲しい様な表情をしてる事に…

 

 

 

 

 

 

 ――夜――

 

 雨が降る中、警察が事件現場周辺を捜査していた。

 奇怪な殺しをする人間だ。まだこの町に潜伏していると警察の方でもその線で捜査をしていたがまるで進展が無かった。

 堂島や未來が部下の警官に指示を出していると、傘をさした足立が戻ってきた。

 

「やっぱりこれ以上は出なさそうっすねぇ。犯人に直接つながる物証はなしかぁ」

 

 周りの家で聞き込みをしていたが、情報は出てこなかった様だ。

 

「まだ殺しとは決まったわけじゃない」

 

 堂島はそう言うが、足立はこんな事が事故なわけない。絶対殺しだと言い切っていた。

 警察でも死の状況が掴めず、同じ格好の仏…これで殺しなら鉄板で同一人物による連続殺人である

 

「けど、だとすると…どういう事だこりゃ」

 

 堂島は連続殺人だと考えるもこの状況が上手く説明できない。

 

「最初は三角関係のもつれだと署でもそんな話だったからねぇ」

 

 未來はそういう事を話していた。最初の山野アナの事件は生田目、柊みすずによる三角関係だと思われたが、柊みすずにはちゃんとしたアリバイがあった。

 

「そもそも愛人問題がメディアに出たのは柊みすずが会見で暴露したからだ。これから殺そうっていうのに、わざわざ自分に疑いが向くような事を言う奴ぁいない」

 

「ですよねぇ」

 

「旦那の生田目にしても、いくら揺さぶっても何も出てこないからな。奴はここ半年中央で仕事をしていた。」

 

 その生田目もつい最近のスキャンダルで町に戻ってきたようだが、事件当日は市外の議員事務所に詰めていたようだ。

 山野アナの死んだ日も泊まり込みで作業をしていたと裏が取れているようだ。それに山野アナが失踪した時も生田目との接触した形跡はなかったようだ。

 

「この事件のせいで、生田目の奴秘書をクビになってますからねぇ。生き残った関係者の中じゃ、むしろの一番の被害者じゃないですか?」

 

 そして2件目の被害者の小西先輩、遺体発見者としては口封じとしてはおかしい点が多い。小西先輩の死は1件目が出た後だし、あの遺体も隠すどころか見てほしいという感じだった。

 他の繋がりとしては山野アナが死の前に滞在していたのが、天城屋旅館でその娘の雪子と同じ学校という所だけである。

 

「だが動機と全然絡まないし、こんな人の少ない田舎じゃ、そんな偶然なんていくらでもある」

 

「ですねぇ、ニュースで見たッスよその辺」

 

「なにぃ?もう宿の話出てるのか」

 

「あはは、マスコミは情報が早いねぇ」

 

 未來はマスコミの早さに感心していたが、堂島は顔を顰めていた。

 あ!こんなのは如何すか?と足立は自分の推理を話した。

 

「2件目の小西早紀は山野真由美の遺体の状況に僕達には分からない何かがあった。それを口封じしたかったんですよきっと」

 

 足立の推理に堂島は唸っていた。

 

「とりあえずは、今はガイ者のまわりをしつこく洗うしかねえか…犯人は恐らく町の人間だな」

 

「おッ出ましたね刑事の勘」

 

 足立は堂島の言った事に茶化す。

 

「足立!俺を茶化してる暇があったらもう一回周辺を見て回って来い!」

 

「わッわかりましたぁ」

 

 堂島の剣幕に足立はすごすごともう一回周辺を見て回ってきた。

 たくと足立の事で堂島が溜息を吐く

 

「あはは、足立君は若いから堂島君を色々と茶化してくるねぇ」

 

「未來さんも面白がんないで下さいよ…それで未來さんはこの事件の犯人は如何言った人間だと思いますか?」

 

 堂島の問いに未來はそうだねぇと顎に指を当てながら

 

「僕も遼太郎君と同じでこの町の人間が犯人だと思うけど、僕としては犯人の犯行の動機は『目立つ奴なら誰でもよかった』って言うのが今の僕の推理かな?」

 

「誰でもよかった?」

 

「山野真由美は地元のアナウンサーではアイドルアナだった。そんな人気アナを勝手に妬んでいる人間がいた。番組を降板され、天城屋旅館に泊まっていると言う情報を何処からか掴んで、人知れず山野真由美を連れ去り殺害、そしてアンテナに吊るした。『不倫なんかしてるふしだらな女子アナを罰してやった』とかそんな勝手な事を考えてたんだろうね」

 

 次の小西先輩は

 

「遺体を発見した小西早紀も言っちゃ失礼だけど、見た目が遊んでいるような容姿をしていた。それで犯人は『みだらな女も成敗』とかそんなくだらない考えで小西早紀を山野真由美と同じようなやり口で殺害し、電柱にぶら下げた…今考えた推理はこんな所かな」

 

「もしそうだったら、そんな下らない理由で人を殺したのか…人の命をなんだと思ってるんだ」

 

 堂島は犯人に対して静かに怒りを燃やしていた。

 

「あまり気負うなよ遼太郎君。犯人を捕まえるのが僕達の役目だ。そんな僕達が先にまいってしまったら意味が無いからね」

 

 そうですねと頷く堂島。

 雨が降り続ける中、捜査を続ける警察であった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

今更ですがペルソナ4のBGMっていいですよねぇ


 夜中、明日香はマヨナカテレビが映るのを待っていた。

 そして午前0時となりテレビに映像が浮かび上がってきた。

 映像は昨日のようにぼんやりしたものではなく、何処か建物の外からの撮影してるものだ。

 なんだこれはと明日香が考えていると、画面の外から急に雪子が現れた。現れたのだが…

 

「なんでドレス…?」

 

 雪子は何時ものような和服姿ではなく、童話の御姫様が着るようなドレスを着ていた。

 ドレス姿の雪子はこんばんわ~とにこやかに笑いながら挨拶をし、雪子の次に言った事が明日香の目を見開かせる。

 

『えっとぉ、今日は私天城雪子がナンパ…逆ナンに挑戦してみたいと思います!題してやらせなし!突撃逆ナン雪子姫の白馬の王子様探し~!!』

 

 逆ナン!?明日香は思わず叫びそうになった。何時もは男子にナンパされてもバッサリ断っていた雪子が逆ナンなんて有りえないと明日香は思ってしまった。しかしドレス姿の雪子は何処か生き生きしており、最近の雪子とは雰囲気が正反対であった。

 明日香が唖然としている間にも雪子はドレスの下半身を押さえたり、胸の谷間を強調するようなきわどい映像が流れていた。

 

『もう私用のホストクラブをぶったてる位の意気込みでぇ、じゃあ!行ってきまぁす!!』

 

 其れだけを言い残すと、雪子は建物の中へ入ってしまった。建物の全体が分かるようになり、その建物は西洋のお城であった。

 映像は雪子が城に入る所で消えてしまい、明日香は未だに戸惑っていたが、携帯の着信音でハッとした。

 千枝からの様で明日香は直ぐに着信ボタンを押した。

 

「千枝いま映ってたの『明日香!さっき映ってたの雪子だった!ねぇ如何して!?さっき会ったばっかりなのに!』落ち着け千枝、混乱してるのは分かるけど!」

 

 千枝は明日香が思っていたように慌てふためいていた。とりあえず落ち着くように深呼吸をするように言った。電話越しに千枝が深呼吸しているのが聞こえる。

 漸く落ち着いた千枝は再度明日香に聞いた。

 

『ねぇ映像がハッキリしたんだったんなら、雪子ってテレビの中に入っちゃんだよね?もしそうなら雪子死んじゃうんじゃ…』

 

「落ち着け千枝、雪子がテレビに入ったのは恐らく俺らと別れてすぐの事だ。それに霧が出ないのなら雪子は直ぐには殺されない」

 

 天気予報を先程見たが、今日明日と霧が出る予報は無かった。クマが言ったこっちの世界で霧が出てる時はあっちでは霧が晴れてシャドウが暴れる。

 なら今のところは雪子が襲われる心配は無いのだ。だから心配するなと千枝に言い聞かせる。

 

「明日は日曜だ。朝一でジュネスに陽介や悠と集合しよう」

 

『う…うん分かった』

 

 千枝も納得したようで電話を切った。明日香も携帯をしまうと先程のテレビを考えていた。

 先程はまるでバラエティ番組のようで、今までとは違う感じであった。

 それについては明日悠たちと会って話す事にした。明日香は陽介と連絡を取って朝一にジュネスに集合するように言って眠りについた。

 

 

 

 4月17日(日) 昼間

 

 ジュネスにて悠と陽介とフードコートで集まった。千枝は本当に雪子がいないのか確認するために天城屋へ

 陽介が大事な物を取りに行くと言って今は席を外しており、今は悠と明日香の2人だけ

 

「しかし昨日のは驚いた。雪子が逆ナンなんか言うんだからなぁ」

 

「それには俺も驚いたけど、なんか天城イキイキしてた」

 

 そうなんだよなぁと悠が言った事に明日香も同意した。あのテレビ出ていた雪子は最近の静かな感じの真逆でものすごく明るかった。

 それに…と悠は何か思った様で

 

「若しかしたら天城は白馬の王子を望んでるんじゃないかって」

 

「望んでる?あの雪子がか…」

 

 俄かには信じられないが、そうだと思ってしまう事がある。それは…

 

「天城越えかな…」

 

「それが一番考えられる」

 

 天城越え、それは雪子に付き合ってほしいと言っても振られる事から、雪子と付き合う事事が困難という事で天城越えと言われている。

 大抵の男子は雪子と付き合う事よりも、天城越えを達成する事を目的としている。雪子の友人としてはそんなふざけた理由は納得できるわけなく、時折千枝と一緒に天城越え目的の男子を追い払った事がある。

 

「要するに雪子はちゃんと自分を見てくれる男子を求めていた?だからあんなお城やドレス姿の雪子がテレビに映ったのか?」

 

「今はそれしか分からない。とにかく今日テレビの中に入ってみよう」

 

 明日香と悠が話していると、陽介が手を背中に回して何かを隠しながら戻ってきた。

 

「わりぃ、またせたな」

 

「遅かったな陽介、何を取りに行ってたんだ?」

 

 明日香がそう訪ねると、陽介はバックヤードからあるものを取って来たと言った。

 

「じゃーん!どうよコレ?」

 

 陽介は背の後ろに隠していた物を見せた。刀と鉈である。明日香達が座っている席の近くに座っていた女性が陽介を見ていた。

 

「いくらペルソナの力があるからってゴルフクラブじゃ心許ないからな。と言うわけで悠、お前はどっちにする?」

 

「刀かな…」

 

 悠は一応刀を選んだ。ゴルフクラブを振っていたし、刀の方が鉈よりも扱いやすいと思った。

 

「おッお目が高いな。これジュネスオリジナルブランド、刃は当然偽物だけどな。でも俺は…あ、両方ってのもありかもな」

 

 そう言って陽介は刀と鉈を振り回し始めた。

 

「おい陽介、幾ら偽物って言っても刀とかをむやみに振り回したら…」

 

 明日香が陽介を注意しようとしたが

 

「挙動不審の少年3人組を発見。刃物を複数所持、至急応援を求む」

 

 巡回中の警官に見られてしまい、警官が此方に近づいてきた。

 

「へ?いやこれなんでもないっすよ!これ別に万引きとかじゃなくて!いや其処じゃないですよね!べッ別に怪しくないっす!」

 

 陽介は必死に誤解を解こうとしたが、逆にキョドってるせいで怪しさ倍増である。

 

「あーっと、俺ら刃物マニアっていうか…あそれもアブナイ話っすよねへへへ」

 

「俺らって俺も入ってるのか?」

 

 悠は陽介に巻き込まれて思わずツッコミを入れる。

 

「取りあえず詳しい話は署で聞くから、凶器を床に置きなさい。手は頭の上ね。ほら早く」

 

 警官は陽介に早く置くように急かした。これ以上は面倒な事になりそうだから明日香が助け船を出す事にした。

 

「すみません。ちょっと待ってください」

 

「何だね、本官の邪魔を…ってあれ?君どっかで見たような」

 

 明日香の顔を何処かで見たと言う警官

 

「日比野刑事の息子です。父が何時もお世話になっています」

 

 明日香はそう言って45度のお辞儀をした。こういう時はキョドるよりも冷静に話せば聞いてくれると言うのが明日香の考えである。

 

「彼は花村と言って僕の友人です。色々とぶっ飛んでいますが、友人思いなんです。最近物騒という事で態々ジュネスのバックヤードから護身用としてこの刀と鉈を出してくれたんですよ。ほら刃も偽物だし」

 

 明日香は陽介から刀を貸してもらい、刃の所を指で触った。指は切れておらず、偽物だと主張する。

 明日香はこれで納得してくれたら万々歳だと思っていたら、警官は一応は納得してくれたようだ。明日香の誠意のあるお辞儀と冷静な説明でなんとかなったようだ。

 

「成程、日比野刑事の息子さんの友人か。全くはた迷惑な…今度はこんな事をしない様に」

 

 警官も納得したのを見て、明日香の隣にいた陽介がホッとする。

 

「いや助かったぜ。ありがとな明日香」

 

「は?何言ってるんだ陽介」

 

 へ?と陽介は意味の分からないと言った顔をしていたが、明日香は

 

「こんな人がいる前で刃がついてないからって凶器を振り回したんだ。それなのに俺が話して注意で終わりな訳ないだろ?ちゃんと警察署に連れて行く」

 

「ちょっと待て明日香!警察署なんかに行ったら天城の救出が…」

 

「分かってるよ陽介、けどな人様に迷惑かけたんだ。ちゃんと説教は受けような」

 

 そう言って明日香は応援に来た警官の人達に陽介と悠を任せ、自分も一緒に稲羽署へ向かう事になった。

 

 

 

 

 

「お前、こういう馬鹿をするとは思わなかったんだけどな」

 

 堂島は呆れたような表情を浮かべていた。悠の叔父が堂島であり、未来の息子という事で何とか補導歴が付かなかった。

 

「スンマセンでした」

 

 凶器を持って居た陽介が堂島と未來に謝った。

 

「ハハハ、まぁ元気が有り余ってるようでいいじゃないか。けどこれっきりにしてほしいね、今起きてる事は知ってると思うし今は警官が色々な場所で配備されてるから」

 

 未來が言った事に3人は黙って頷いた。

 それだけ注意をすると、未來は堂島を連れて仕事に戻って行った。

 武器も没収されてしまい、どうしようかと考えているとコーヒーを持った足立が3人の前に現れた。

 

「おーっとゴメンね…あれそこの2人って堂島さんと日比野さんとこの」

 

「あッあの少しいいですか!?」

 

 陽介は足立に雪子が消えたとかで捜索願出ていないか聞いてみた。

 足立はう~ん言っていいのかなぁと唸っていたが

 

「まぁいいか、堂島さんや日比野さんのご家族だし、天城さんの友達だっていうなら…特別だよ?」

 

 足立は雪子の事について話してくれた。

 雪子は昨日の夕方から姿が見えなかった様だ。時間からして明日香と千枝が雪子に気を付けるように言った1時間後ぐらいだろう。

 旅館も土曜という事できりきり舞いだったらしく、夕方頃は誰も雪子の姿を見ていないそうだ。

 警察の方でも雪子が連続殺人と何か関係があるのでは?とその考えで動いているそうだ。

 

「そうだ…その天城さんだけど、最近何か辛そうだった?」

 

 足立の問いに3人は首をかしげた。

 なんでも旅館に山野アナが泊まっていて、その山野アナのクレームに女将さんが倒れてしまったようだ。

 それで娘でもある雪子が女将代役として旅館を切り盛りしてるようだが、まだ雪子は女子高生である。いくらなんでも女将の代役は無理があったのだろう。

 

「つまり警察は事件の他に、雪子が女将の代役に精神的に疲れてしまい、女将の仕事を投げ捨てて家出をしたと…そうも考えてるんですか?」

 

「おっと鋭いねぇ。流石は日比野さんの息子さんかな」

 

 足立は明日香の推理に感心していた。

 

「僕もちょっとしか天城さんのとこの娘さんを見たことないけど、しっかりした娘さんだよねぇ。あれで次期女将っていうのも納得できるよ…でもまぁまだ女子高生だからねぇ、女将の仕事をかわってあげたり旅館の仕事を毎日のように手伝ったりしたら、ストレスだってたまるはずだよ」

 

 でもまぁ女子高生女将ってのもグッと来るけどねぇと足立のお気楽そうな一言に、明日香は足立を睨み付けた。

 友人である雪子の生死がかかっているのだ。ふざけた事を言っている足立に怒りを覚える。

 明日香の睨みを見て、足立も不謹慎だったと頭を下げた。

 お詫びということで他にも何かを話そうとしたが、堂島の怒鳴り声で急いで堂島の元へ走り去っていった。

 残った3人は去っていった足立を見て頼りない刑事だと思った。

 

「悠の叔父さんや明日香の親父さんは頼もしく見えるけど、あの足立っていう若い刑事はハッキリいって頼りない。今は俺達が天城の居場所を知ってるし、その場所に行ける。早く行って天城を助けに行こうぜ」

 

「あぁ急ごう」

 

 陽介と悠は行こうと意気込んでいたが、ちょっと水を指して悪いんだがと明日香が

 

「テレビの中に入るのはいいが、お二人は武器をどうするんだ?」

 

 明日香の言ったことにそうだったと思い出す2人。

 先程の騒動で武器は没収されてしまった。今の二人は丸腰の状態である。

 いくらペルソナの力があったとしても武器がないと…

 どうしようかと考えていると、千枝が警察署へとやって来た。

 

「明日香達がパトカーに乗ってるの見て慌てて来たけど、どうしたの?」

 

 明日香は千枝に陽介がへまをして補導されかけたと包み隠さず話したら、千枝は陽介をジト目で睨み付けた。

 陽介も千枝に馬鹿をしたと謝り、これからどうするのかと話し合おうとしたら、明日香と千枝がなにやら話していた。

 

「?何を話してるんだ?」

 

 悠がなんの話をしているのか尋ねると

 

「その武器なんだけど、あそこなら色々と揃ってるかも」

 

「あぁ彼処なら…だいだら.なら」

 

 

 稲羽市中央通り商店街南側、明日香と千枝に連れられついたのは店の前に甲冑が置かれた武具店『だいだら.』

 悠と陽介は店の扉を開けると、いきなりの熱風に顔を覆った。

 店のなかは刀や鎧やらと現代にないものが並んでいた。

 そして極めつけがだいだら.の店主である。顔に大きな十字傷があり、その手の人にしか見えなかった。

 

「おっおい明日香、あの店主ヤバイだろ!?大丈夫なのかこの店?」

 

 陽介は明日香に小声で話しかけていた。

 だいだらの店主はジロリと睨み付けるような視線で、冷やかしなら帰りなと目でそう言っているように見えた。

 

「大丈夫だよ。店主のおじさんとは顔馴染みだし。顔は怖いかもしれないけど、腕は確かだから。おじさんが鍛えた刀は模擬刀でも真剣よりも斬れるって噂だし」

 

「いやそれは大丈夫なのか!?」

 

 陽介はツッコミをしていたが、千枝や悠は動じずに自分達の武具を選んでいた。

 そんな2人に呆れを通り越して感心してしまった陽介は、自分じゃ良いのが選べそうになかったので、悠にお金を渡して買って来てほしいと頼んだ。

 明日香も自分の装備を買おうと、店主に話しかけた。

 

「おう明日香坊じゃねぇか。お前さんが頼んだ模擬刀の手入れだが、まだ先になりそうだぞ」

 

「今日はおじさん、今日はその事で来たんじゃないんだ。手頃な模擬刀と鎖かたびらを頂きたい」

 

 明日香の注文にピクリと眉を動かす店主

 

「なんでいきなりそんな物を頼む?まるでこれから戦にでも行くようじゃねぇか」

 

 それは…明日香は本当のを事を言えずにいたが、悠が

 

「大切な友人を助けるためだ」

 

 悠の言ったことに、そうだなと他の3人も頷いた。

 それだけを聞いたら、アートを乱暴に扱わないのならそれでいいと店主は何も言わなかった。

 4人は各々の装備を購入すると、だいだらを後にした。

 

 

 

 

 装備が装備ということで、私服だと隠せないということで制服に着替えてもう一度ジュネス集合ということになった。

 鎖かたびらを装着し、その上から制服を着た。竹刀袋に模擬刀を入れて準備万端となり、家を後にした。

 丁度千枝も準備が終わったようで、一緒にジュネスに行こうとしたが明日香から話があるようだ。

 

「いいか千枝、今更だがテレビの世界は危険が一杯だ。だから無闇矢鱈に自分勝手に突っ走らないでほしい」

 

「わかってるわよ…」

 

「否千枝、悪いけど千枝は今焦っている。雪子が大切なのは分かってる…でも俺は雪子も大切だけど、千枝も大切なんだ。千枝に何かあったら俺は……」

 

 明日香の小さな声の訴えに千枝もわかったと小さく頷いた。やはりどこか焦っていたのだろう。

 

「俺は来るなって言ってないさ。ただ千枝や俺は何の力もない。そんなやつが前に出たとしても足手まといにしかならないさ…だから千枝は雪子を優しく抱き締めたりしてやってほしい」

 

 明日香のお願いに千枝も頷いてくれた。

 話もそれだけで2人は急いでジュネスへとむかって行った。

 しかし今の千枝の頭のなかは雪子のことで頭が一杯で、明日香の話を半分しか聞いていなかったのであった……

 

 

 




次回は雪子姫のお城へ突撃します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話

今回は雪子姫の城の第1回目の攻略ですが
先に謝っておきます。千枝ファンの皆様申し訳ありません

それではどうぞ


 ジュネスに集まった4人は、早速テレビの中の世界へと入っていった。

 テレビの世界に入るとクマが待っており、雪子がいる場所へと案内してくれた。

 案内してくれた場所はテレビでも映った大きな西洋のお城であった。

 

「このお城テレビでも映った…」

 

 千枝がお城を見上げながらそう呟く。

 

「この城の中に雪子がいるんだね?」

 

 明日香が雪子がこの中に居るのか尋ねると、クマはうんと頷いた。

 

「クマの鼻がこの奥のにおいをビンビンと感じとっているクマ」

 

 クマが雪子のにおいをかぎあてたということで、雪子はこの奥にいるのだ。

 

「雪子…!」

 

 千枝は雪子の名を呼んだ瞬間に千枝は走りだし、城の中へと入ってしまった。

 やはりと言うべきか、雪子のことで頭が一杯だったようだ。

 明日香や陽介の呼び掛けも無視をした千枝、千枝を一人で行かせるわけにもいかない。明日香たちも城の中へと入っていった。

 

 

 

 城のなかは前の酒屋とは違って、中もちゃんとした城の廊下となっていた。

 千枝はどんどん先に行っており、明日香たちとかなり差が開いていた。

 早く千枝を追いかけようとしたが、城の壁から2人の人がくっついたようなシャドウが現れた。

 

「クソ、やっぱり現れたか!」

 

 明日香は模擬刀を鞘から抜きながら構え、そう悪態をついた。

 

「いくぞ陽介」

 

「おう!」

 

 悠と陽介も模擬刀や二本の小刀を構えながら、ペルソナのカードを出現させた。

 

「イザナギ!」

 

「来いジライヤ!」

 

 悠はカードを握りつぶし、陽介は回転切りでカードを切った。

 イザナギとジライヤが出現し、シャドウ達をバッタバッタと斬り倒したり、手裏剣を投げて切り裂いたりした。

 

「イザナギ!」

 

『ジオ』

 

「ジライヤ!」

 

『ガル』

 

 イザナギのジオとジライヤが放った風のスキルガルが、シャドウを黒焦げにし、風で吹き飛ばした。

 イザナギとジライヤが倒しきれなかった瀕死のシャドウは

 

「ハァッ!」

 

 明日香が非戦闘員であるクマを護りながら模擬刀を振るい、シャドウを斬っていく。流石はだいだら.の店主が造った模擬刀、初めて使ったのに扱い易かった。

 あらかたシャドウを蹴散らしたのだが、明日香達が戦っている間に、千枝の姿を見失ってしまった。

 

「ったく里中の奴、一人で突っ走りすぎだっての!」

 

「一人じゃ危ない。早く探して追いかけないと」

 

「あぁ、千枝…無事でいてくれ…!」

 

 3人とプラスクマは城の中を探索して、道中シャドウと戦いながら、何故かある宝箱の中から使えそうな道具を手に入れながら階段を発見し、この先に千枝が向かったのでは?ということで、上の階に向かった。

 

 

 

 

 上の階に着くと、大きな扉がありその扉の向こうで何やら千枝が喚いていた。

 まさか…と嫌な予感が頭を過った明日香は急いで扉を開けた。其処に居たのは千枝ともう一人の千枝、千枝の影が居た。

 

「千枝ちゃんが二人クマ!」

 

「てことはもう一人の俺と同じように」

 

「里中の影…」

 

「千枝も心の底で何かを抑え込んでいたのか…」

 

 明日香は千枝にも何かを抑え込んでいるとは思っていなかった。あれだけ何時も明るくしていた千枝にも何かを封じ込めていたのだ。

 幼馴染の自分が何も気が付いてあげられなかった…そう思うと明日香は悔しくて仕方が無かった。

 千枝の影は明日香に気が付くとニンマリと笑みを浮かべた。

 

『明日香ぁ、アタシを追いかけてきてくれたのね…嬉しい。明日香だけがアタシを見てくれる』

 

「なッ何言ってんのよアンタ!」

 

 自身の影が言った事に千枝は戸惑う。千枝の影はジッと明日香を見ながら

 

『雪子は美人だから、何時も言い寄ってくる男子は雪子をいやらしい目で見ていた。でもそんな男子達を追い払う時、何時もアタシを見る目がまるでゴミを見るような汚い目だった…アタシだって女のにアイツらはアタシを女と見ていない!アタシの方が…アタシの方が…!アタシの方が雪子よりも何倍もいいじゃない!!』

 

 千枝の影は顔を怒りで歪めながら叫び、喚き散らした。その感情は…嫉妬、雪子に対しての負の妬みの感情である。

 でも…と千枝の影は明日香を見つめた。

 

『明日香だけは違った。明日香は他の男とは違って、アタシを女として見てくれていた…それにアタシを時々いやらしい目で見てくれた。それだけでアタシは嬉しかった。雪子しか見ていない男よりも明日香の方が何倍も素敵だった…それこそ明日香に…アタシの大切なものを全て差し出したいと思った』

 

 そうでしょ?と千枝の影は千枝に笑いかけながらそう言った。

 

「あッあんた…明日香の前で何を言って…」

 

 千枝の影は自分の肩を掴んで恍惚と笑い、悶えていた。千枝は思わず明日香に目線を逸らしてしまった。千枝の影に呼ばれていた明日香は、如何すればいいのか分からないでいた。

 恍惚の笑みを浮かべていた千枝の影はまた怒りで顔を歪めながら喚き散らした。

 

『アタシが居ないと何にも出来ない雪子なんてどうでもいい!アタシはアタシだけを見てくれる明日香がいればそれでいい!そうよ…今回だって雪子を助けようとしても、不運にも雪子を助けられないであわよくは不幸のヒロインを装って、明日香に慰めて貰いたかったんでしょ?』

 

「ちッ違う!アタシはそんな事思って…ない…」

 

 自分の影の言った事を千枝は否定した。アタシはそんな事を思っていないと

 

「ち…千枝…」

 

 明日香は千枝の元に近づこうとしたが

 

「!だッだめぇ!来ないで…みないでぇ!!」

 

 千枝が叫んだのと同時に至る所から大量のシャドウが現れた。

 

「しゃッシャドウがイッパイ出て来たクマ!」

 

「これじゃあ里中の所へ行けないぞ!」

 

「クッ!里中!!」

 

 悠と陽介がイザナギとジライヤでシャドウ達を蹴散らしても一向に数が減らなかった。

 

「千枝…俺は…」

 

 明日香は如何千枝に声をかければいいのか混乱していた。

 

「お願い明日香…こんなアタシを見ないでぇ…最低なアタシを見ないでぇ…!」

 

 遂には千枝は泣き出してしまった。こんな醜い所を明日香には見られたくなかった。

 泣いている千枝なんか知ったこっちゃないと千枝の影は笑いながら明日香に近づいた。

 

『ネェ明日香…そんなアタシなんかほっといて、こっちのアタシを見て?アタシ明日香のためなら…なんだってするから』

 

 そう言いながら千枝の影はゆっくりと緑のジャージを脱ぎ始めた。ただジャージを脱いでいるだけなのに、明日香にはそれが何処か官能的に見えてしまった。

 

「あッアンタは何なのよ!?明日香に変な事しないでよ!」

 

 千枝はゆっくりと明日香に近づく自分の影に叫んだ。

 

『だからさぁ言ったじゃない。アタシはあんただって…本当は雪子なんてどうでもいいんでしょ?今すぐこんなとこから抜け出して、明日香と色々な事をしたいんでしょ?』

 

「黙れ!アンタなんか…」

 

「よせ里中!」

 

「言うんじゃない!否定しちゃいけない!!」

 

「千枝!!」

 

 陽介、悠そして明日香の声も今の千枝には届いていなかった。

 そして千枝は言った。言ってしまった。

 

「アンタなんかアタシじゃない!!」

 

 自身の奥底に押し込めていた感情を…もう一人の自分を否定してしまった。

 

『フフフ…アハハハ!キャーハッハハハハハハ!!』

 

 千枝の影は高笑いをし、力がみなぎってきて千枝の影は巨大な影へと姿を変えた。

 その姿は、人の形をした人形の上を座り覆面を被り手に鞭を持った如何にも『女王様』と呼ばれそうなそんな姿であった。

 

『我は影…真なる我』

 

「あ…あぁ」

 

 千枝はもう一人の自分が異形の化け物になったのを目の当たりにして、後ずさりをする。そんな千枝に千枝の影が持っていた鞭を千枝に振り落した。

 

「千枝ぇ!!」

 

 明日香は模擬刀を振るい、千枝の前に立ちはだかっていたシャドウを蹴散らして間一髪、千枝の影の鞭から千枝を助けた。

 明日香が助けた事で、千枝が傷付く事はなかった。

 

「あッ明日香…」

 

「よかった千枝…ッ!」

 

 明日香がホッとした瞬間明日香の腕に痛みが走った。見れば明日香の腕が軽く切れており、腕から血がでて服が滲んでいた。

 

「明日香、腕が…」

 

「心配すんな。俺が怪我した事よりも千枝に何かあったらと思うとそっちの方がゾッとする」

 

 明日香は心配するなと千枝に笑いかけていた。そんな2人に千枝の影がゆっくりと近づいてきた。

 

『何よ明日香、アンタはアタシよりも、アタシを否定したそいつを護ろうとするわけ?』

 

「お前は確かに千枝の心の中にいた感情の一つかもしれない。だけど俺はそれでも目の前の千枝を護る」

 

 カッコつけて…と千枝の影は怒りで顔を歪ませていた。覆面越しでも怒り心頭なのがよく分かる。

 

『要するに明日香はこのアタシを見て見ぬふりをするんでしょ?結局はアンタもその程度の男って訳でしょ!!』

 

 千枝の影は自身の髪を束ねると、何本かの刃へと変えて明日香を串刺しにしようとした。

 千枝だけでも…!と明日香は千枝を護るために前に立ったが、イザナギとジライヤが刃を防いでくれた。

 

『フン!!』

 

 千枝の影が髪の刃を振るいイザナギとジライヤを弾き飛ばした。ペルソナが喰らったダメージがフィードバックし悠と陽介も吹き飛ばされてしまう。

 千枝の影は吹き飛んだジライヤを逃がさず髪で締め上げた。

 

「鳴上君!」

 

「陽介!!」

 

 2人が吹き飛ばされたのを見て千枝は悲鳴を上げた。明日香も陽介に向かって叫んだが、陽介は心配すんなと言って如何やら無事の様だ。

 

『…何よまだ居たの?さっさと消えちゃってよ。後はアタシが雪子の面倒を見てあげるからさ…踏み台としてね』

 

「ふみ…だい」

 

『一人じゃ何にも出来ないのは本当はアタシ、どうしようもないアタシ。でもあの雪子に頼られてる…だから雪子は友達、手放せない』

 

「里…中…惑わされるな」

 

 陽介は痛む体に鞭打って起き上がろうとし、惑わされるなと千枝に言ったが千枝の影に髪で首を絞められて黙らされた。

 

「陽介!」

 

 明日香は陽介の首を絞めている髪を模擬刀で切ろうとしたが、ビクともしなかった。髪が鉄のように固いのだ。

 そんな明日香に千枝の影が迫る。

 

『フフ…明日香ァ』

 

「クソ!しまった!」

 

 千枝の影は明日香を自分の元へ引っ張っていくと、なんと明日香を抱きしめたのだ。

 

「なッ…!」

 

 千枝は思わず目を見開いた。千枝の影は今は黄色い水着のようなきわどい格好なのである。そんな格好で明日香を抱きしめたのだ。

 

『ねぇ本当は明日香と色々したいんでしょ?だったらアタシが代わりにやってあげるから、アンタはそこで指を咥えて見てなさいよ』

 

 そう言って千枝の影は明日香を胸へと押し付けた。幾ら影と言っても女だ。女性に抱きしめられて嬉しくない男がいるはずもない。普通の女性であったらだが

 

「が…がは…おえ…!」

 

 明日香は全身の骨が砕け散るのではと思うほどの激痛が体中を廻った。相手は異形の怪物となった千枝の影、普通ではないのだ。まるでプレス機にゆっくりと潰される感じだ。骨がミシミシとなっている。

 

『そして…これがアタシの本音よ、ほ・ん・ね!』

 

 そう言って千枝の影は片手だけで明日香を抱きしめて、もう片方の手で鞭を振るった。鞭が床に当たった瞬間辺りが暗くなった。

 

 

 

『雪子は美人だ…』

 

『雪子はいつも男にちやほやされる』

 

『雪子が羨ましい』

 

『雪子が妬ましい』

 

 千枝の仮面のような顔が延々と雪子に対しての羨み妬みなどを延々と言っていた。

 

「な…なによこれ…これがアタシなの…」

 

 千枝はそんな声がするとこの中心にポツンと立っていた。

 

『そう…これがアンタの心の奥底にある本音、嫉妬、妬みよ』

 

 千枝の影が言っている間にも、千枝の嫉妬や妬みが千枝の耳元で囁いていた。

 

「いッいやだ…いやぁぁぁぁ!!」

 

 千枝は耳を塞いで悲鳴を上げた。

 

「これが…アタシの…本音…そんな…」

 

 千枝はこのまま妬みや嫉妬の言葉を吐いている仮面のような顔になってしまいそうだったその時

 

「本音ぇ?結構ッじゃねえか」

 

 首を絞められている陽介の声が

 

「それでも…友達なんだろ?」

 

 悠の声が

 

「雪子をグァッ妬むのも本音かもギァッしれない!けど…アグッ雪子を友達としてガハッ助けたいと言う気持ちもッハァハァ…本音のはずだ!」

 

 明日香の苦悶の声で、千枝は雪子との思い出を思い出した。何時も一緒に笑っていた雪子との思い出…そこには嫉妬なんて気持ちは無かった。

 

「雪子…そうだったよね。アタシ達、友達だよね」

 

 そう言って千枝は上を見上げた。

 

「アンタはアタシの中にいたアタシ」

 

 千枝がそう言った瞬間、暗闇が晴れて千枝の影が姿を現した。

 

「ずっと見ないふりをしてきた。どうしようもないアタシ…でもアタシはアタシなんだよね」

 

「ぐッ里中…」

 

「千…枝…!」

 

 陽介と明日香は髪や千枝の影の拘束から逃れようともがいて暴れた。

 千枝が自身の影を認め、千枝の影が苦しみ始めた。

 

『グゥッ!…ふざけないでよ、アンタがアタシを受け入れようっていうの!?』

 

 しかし千枝の影は認めても尚暴れようとしていた。一本の髪の刃が千枝を貫こうとしたが、イザナギが身代わりになり吹っ飛んだ。悠もイザナギと同じように吹っ飛ばされてしまったが

 

「悠…!このックソッタレが!」

 

 明日香は千枝の影の腕に思い切り噛みついた。痛かったのか千枝の影は一瞬だけ拘束を解いた。その隙を逃さず、千枝の腹を蹴り飛ばして脱出した。

 受け身を取って着地をし、すぐさま起き上がるがダメージが残っているのか膝を付いてしまった。

 

「明日香!」

 

 千枝は膝を付いた明日香に肩を貸してあげた。

 

「俺は大丈夫だ。けど陽介が…」

 

 陽介はまだ髪に首を絞められていた。千枝の影は更に首を絞めている髪に力を入れた。

 

『このまま体を引きちぎってやろうか!!』

 

 千枝の影はこのまま陽介を殺すつもりだ。陽介の顔が苦悶の表情を浮かべていた。

 

「およよヨースケー!」

 

 クマは戦う事も出来ずにただオロオロとしているだけ

 と悠は行き成りイザナギをカードへ戻してしまった。

 

「おい悠こんな時に何をやって…!」

 

 明日香は悠がふざけているのかと一瞬思ってしまったがそうではなかった。悠の目は何か考えのある目だった。

 そして悠は蒼く燃えるカードを握りしめた。明日香は直感で分かった。今のカードはイザナギではないと。

 

「ジャックランタン!」

 

 新たに出て来たペルソナはランタンを持ち、マントと帽子をかぶったかぼちゃのお化けのような姿だった。

 

「悠のペルソナが…変わっただとッ…!」

 

 明日香は呆然とジャックランタンを見ていた。

 

「やれ!」

 

『アギ』

 

 悠が叫んだのと同時にジャックランタンのランタンが光り、そこから火のスキルアギが陽介の首を絞めていた髪とジライヤを捕らえていた髪を焼き切った。

 漸く自由になった陽介とジライヤ。

 

「陽介行くぞ!」

 

「おうよ!」

 

 陽介は漸く自由となったジライヤで千枝の影にガルを放った。弱点属性だったのか千枝の影は怯みのけぞった。

 そして尽かさずジャックランタンがアギを放つ。小さな炎は風により威力を増し、巨大な炎へと変わった。

 体を燃え尽くされ、千枝の影は断末魔のような悲鳴を上げながら消滅した。

 そして元のもう一人の千枝の姿に戻った。

 

「アンタは、アタシ…」

 

 千枝が自身の影を認めると、千枝の影は姿を変えて黄色い姿の女性のようなペルソナ『トモエ』へと姿を変えた。

 トモエはペルソナのカードとなり千枝の体の中へと入って行った。

 

「これがアタシのペルソナ…」

 

 千枝がそう呟いた瞬間、千枝は倒れそうになるのを明日香が支えてあげた。見るからに体力が消耗しているように見える。

 

「これ以上千枝をこの場所にとどめておくのは危険だ。一回テレビの外へ出よう」

 

「待って明日香…アタシは平気だから…」

 

「平気だって言ってる奴が辛そうにしてるかよ。雪子を助けたいと言うのは分かる…けど千枝が傷付いたら意味が無いだろ?」

 

 明日香が千枝を説得して、一旦テレビの外へ出る事にしたのだった…

 

 

 

 

 テレビの外に出るともう日が傾いており夕方となっていた。

 陽介は接客をしていた。テレビの中で死闘と言われそうなほどの戦いをしてきたのに、陽介も意外とタフなようだ。

 陽介以外の3人はフードコートにて休んでいた。

 

「情けない…こっちじゃ霧がかかったら雪子が死んじゃうかもしれないって言うのに、体が言う事をきかないなんて…悔しい」

 

 千枝は涙を流しながら俯いていた。

 

「情けなくなんかないよ。天城を助けるには里中の力が必要になる」

 

 悠の励ましに少しだけ元気になったのかサンキューと言う千枝。

 

「お礼に特別に見せちゃおうかな」

 

 と千枝は携帯を取り出し、悠にある写真を見せた。

 それは大きな犬を千枝は笑いながら抱きしめている写真だった。

 

「この犬アタシが飼ってるんだけどね、ブクブク太っておまけにすっごく臭くてさ…でもこの子がさ、私を大切な友達に…雪子に引き合わせてくれた」

 

 聞けばその犬は元々は捨て犬で雪子が拾ったが、旅館という事で飼えないから元の場所へ戻してこいと言われたときに、千枝と初めて会ったと言う。それが千枝と雪子の出会いだった。

 

「雪子…」

 

 千枝はギュッと携帯を握って次こそは助けようと意気込んでいた。

 

「千枝、今はゆっくり休んで万全の状態で雪子を助けるんだ」

 

「分かってる。けれどアタシにはもう鳴上君や花村みたいな力があるんだから。逆に明日香を護ってあげるから」

 

 千枝が護ってあげると言う言葉に、明日香は一瞬だけ顔を歪めた。

 

「如何したの明日香?」

 

「いや夕日が反射して少し眩しくなっただけさ」

 

 と明日香は誤魔化したが、心の奥底で思ってしまった。

 

 

 ―――もう千枝が俺に護られる事は無いんだと……――――

 

 いけない今はそんな事を考えている暇は無い。一刻も早く雪子を助けなければと気持ちを切り替えようとした。

 だがしかし明日香の心の奥底でドロドロとしたどす黒い感情が蠢いているを感じ取っていたのであった。

 




はい何と言うかやり過ぎてしまったのではないのかと思ってしまいました。
歯止めが効かなくなってしまって

今回も戦闘シーンはアニメのシーンを使いました。ゲームではエンジェル使ってガルの後に一斉攻撃でボコってましたねぇ

次回は雪子姫の城の2回目の攻略ですがオリジナルが混じります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

今回は何時もより長いです
それではどうぞ


 4月18日(月) 放課後

 

 放課後、学校が終わったらすぐさまジュネスに向かい、すぐさま城の攻略へ向かった。

 

「トモエ!」

 

 千枝はペルソナのカードを足で蹴りあげてトモエを召喚する。

 トモエは千枝のペルソナらしい戦い方で、蹴り技でシャドウを蹴り飛ばしたり両刃の薙刀で斬り裂いていた。

 また千枝の足技でもシャドウを倒してしまうなど、無双状態であった。

 

「千枝ちゃん無双クマ…」

 

「里中、張り切ってるな」

 

「あぁ俺らの出る幕なしって感じ?」

 

 悠と陽介は自分らのペルソナが出る幕も無く、ただ見てる事しか出来なかった。

 シャドウを1人で倒してしまった千枝は振り返りながら

 

「何してんの!?さっさと先に行くよ!」

 

 そう言って先に行ってしまった千枝。このままだとまたもや先に行ってしまいそうだったから急いで明日香達も千枝を追いかけた。

 

「千枝、無茶しなきゃいいけど…」

 

 明日香はどんどん先に行ってしまう千枝を心配そうに眺めていた。

 幾らペルソナの力が手に入ったからと言って昨日の今日の事だ。あまり無理しないで欲しいと明日香は内心そう思っていた。

 

「アスカ大丈夫クマか?」

 

 明日香と一緒に走っていたクマが明日香に心配そうな表情を向けていた。

 

「大丈夫って何がだい?」

 

 明日香が走りながら聞いてみるとクマは

 

「アスカさっきから怒ったような、悲しそうな顔をしてるクマ。何かあったんじゃないかって心配クマ」

 

 クマにそう言われ、明日香は表情を固まらせた。そんな表情をしていたのかと顔を押さえた。

 確かに今の明日香の心の中はモヤモヤとどろどろでグチャグチャしており、そんな感情で一杯であった。此処のお城に来てからその感情があふれ出そうであった。

 恐らく怒っているような悲しんでいるような顔はそのせいであろう。

 

「大丈夫だよクマ。心配かけてゴメンな」

 

「うん、大丈夫ならいいクマ。アスカが悲しいとクマも悲しいクマ」

 

 気を使ってくれているクマにありがとうとお礼を言う明日香。そうだ今は、雪子を救出するまで気を抜いてはいけないのであった。

 ―――例え悠たちが羨ましいと思っていても……―――

 

 

 

 ある程度城の中を登って行ったら広い場所へ出た。

 更に上へ登ろうとしたが、急に真っ暗になってしまった。

 

「まっクマ闇クマァ!」

 

「いやクマ、それを言うなら真っ暗闇ね」

 

 明日香がクマの間違いを指摘していると、急にドラムロールとスポットライトが照らし始めた。

 そしてドラムロールが終わったのと同時にスポットライトがドレス姿の雪子を照らし出した。

 

「雪子!」

 

 千枝は思わず声を出してしまった。

 

「いや違うこれは…」

 

 悠が否定した。目の前にいるのは雪子の影である。

 雪子の影が千枝たちの姿を発見すると

 

『あらぁサプライズゲスト?うっふふぅ~盛り上がってまいりました!』

 

 オーバーリアクションを取り始めた。まるでバラエティ番組に出ているアイドルのように

 

『と言う訳で、次はこのコーナー!』

 

 と雪子の影が言った瞬間、ドンと空中に『やらせナシ!雪子姫 白馬の王子様探し』というバラエティ番組にありがちなタイトルロゴが浮かび上がった。

 

「今文字浮かんだよな?」

 

「やらせナシって何クマか?」

 

 陽介とクマが今出たタイトルロゴについて話していると、千枝が目の前の雪子の影にアンタはだれ?と強気で聞いた。

 雪子の影はフフフと笑って

 

『何言ってるの?私は雪子、雪子は私』

 

「違う!アンタ…本物の雪子は何処!?」

 

 千枝が本物の雪子の居場所を問いても雪子の影は笑っているだけで答えようともしない。

 

『それじゃ、再突撃いってきま~す!王子様、首を洗って待ってろよ!』

 

 雪子の影はまるで台本通りのようなセリフを言って、ドレス姿で奥へと走って行った。

 

「!待って!」

 

 千枝が追いかけようとした瞬間、部屋の電気が一斉に点いた。明かりが点いたのと同時に、球体シャドウと鳥の形をしたシャドウが行く手を阻んだ。

 

「このッ!邪魔すんな!」

 

 千枝は立ちはだかるシャドウ達に叫んだ。

 

「「「ペルソナ!!」」」

 

 悠・陽介・千枝が各々のペルソナを出し、シャドウの軍団と戦い始めた。

 数分後にはシャドウは全滅したのだが…

 

「ハァッハァッハァッ!」

 

 明日香が肩で息をしながら、模擬刀を杖代わりにしていた。

 無理もない。明日香は悠や千枝のようなペルソナの力など持っておらず、自身の力だけで戦っているのだ。

 

「ねッねぇ明日香、大丈夫?」

 

 千枝は見るからにキツそうな明日香に大丈夫かと聞いてみた。

 

「問題ないって千枝、少し疲れただけだ」

 

 明日香はそう言って平気だと言い切った。

 

「でもよ明日香、お前だけペルソナ持ってないだろ?これ以上俺らと一緒に戦うのはちょっときついんじゃ」

 

 陽介が無理をするなよと言った瞬間

 

「だから大丈夫だって言ってるだろ!!」

 

 明日香は大声で叫んでしまった。余りの大声に千枝やクマに陽介は体をビクッとしてしまった。

 ハッとした明日香は、すまないと皆に謝りながら、刀を鞘に戻した。

 

「取りあえず今は俺の事よりも雪子の事が最優先だ。ぐずぐずしてないで早く行こう」

 

「明日香の言う通りだ。今は先を急ごう」

 

 悠が先に行こうと言い、明日香はすまないと悠に言った。とりあえず今は先に進む方が大事だ。

 

「しっかし、さっきの天城は間違いなく本物じゃ無かったな」

 

「あれもヨースケや千枝ちゃんと同じように、心の中で押し込めていた感情が噴き出したクマね」

 

 だよなぁと陽介は頷いた。

 

「マヨナカテレビを見てた時から可笑しいと思ってたんだ。あの天城が逆ナンなんて、言うはずないもんな」

 

「逆ナン?逆ナンってなに?」

 

「逆ナンって言うのは、まぁ簡単に言えば女の人が男の人を遊びに誘う事だよ」

 

 と明日香がクマに簡単に逆ナンの事を教えてあげた。ホウホウとクマは何度も頷いて

 

「じゃあクマのこのプリチーな姿に、女の子はメロメロでクマは逆ナンイッパイされるクマね」

 

「いやそれはない」

 

 クマが胸を張って自信満々に言うが、陽介に無いと言われ膝からガックリと崩れ落ちた。

 しかし…と明日香はこのお城やドレス姿の雪子の影、そして白馬の王子様。これらが雪子にどのように関係があるのか考えた。

 お城に捕らわれの御姫様、それを助ける白馬の王子様…

 

「若しかして、雪子は天城屋旅館での手伝いとか、女将修行がもう嫌になっちゃったんじゃないか?」

 

 明日香の推理に千枝は如何いう事明日香?とその推理の理由を聞いてみる。

 

「雪子って毎日毎日、天城屋旅館の手伝いで忙しいだろ?千枝も何回か雪子を遊びに誘ったけど、やんわりと断られたのが何回かあっただろ?」

 

「それは…うん確かにあった」

 

「それに極めつけに、山野アナの事件で女将さんが倒れて女将の代役だ。恐らく今まで以上のハードスケジュールだったはずだ。疲労や精神的な疲れでストレスが溜まってたんだろうな」

 

 旅館の仕事なんて朝から晩まで仕事で休む暇もあまりないのだろう。女子高生の雪子にとっては自由の無い生活であったのだろう。

 それが嫌になってしまった。

 

「言わばこのお城は天城屋旅館そのもの、そして雪子はそのお城に捕らわれ身の御姫様…そしてそんなお城から外に連れ出してくれる白馬の王子様を求めている」

 

「でもよ?だったらさ、天城にナンパをしてる男だったら誰でもいいんじゃ?」

 

 陽介の言った事にそれはないなと首を横に振る明日香

 

「アイツらの目的は天城越えであって雪子じゃない(・・・・・・・・・・・・・・・)。そんな奴らが雪子の心労を理解するはずがない。もし雪子が駄目な男に身を任せたら、人生破滅だ」

 

「うわ…想像しちゃった…」

 

 千枝は雪子がそう言う駄目な男に着いて行ってしまった事を想像してしまい、苦虫を噛み潰したような表情となる。

 

「雪子は待っているんだ。自分の心労を理解してくれる、そんな白馬の王子様を…一度は誰だって嫌になるはずさ。人生にレールが敷かれている事を…」

 

 話は此処までだと明日香は話を切り上げて、上の階を目指す事にした。

 

 

 

 

 遂に城の最上階に辿り着いた一行、重々しいドアを開けた瞬間、雪子とドレス姿の雪子の影が其処には居た。

 

「雪子!」

 

 千枝は雪子の姿を見て、雪子の名を叫んだ。

 

「千枝!」

 

 雪子も千枝や明日香達の姿を見て叫んだ。

 

『あらあらあらぁ、王子様が4人もぉ。雪子困っちゃう~』

 

 雪子の影は同じように大袈裟な芝居掛かった口調でそう言った。

 

「なんなんだあの天城の影、すっげぇテンション高くねぇか?」

 

「あぁ今迄と違って別人みたいだ」

 

 陽介と悠はいつも見ていた雪子とはテンションが真反対であった為に戸惑っている状態であった。

 

『ねぇ~雪子どっかに行っちゃいたいんだぁ~誰も知らないずうっと遠くに。王子様なら連れてってくれるよねぇ。ねぇ早くぅ~』

 

 雪子の影は絡みついてくるような甘ったるい声で、誘うように言った。

 

「ムホホホ~これがさっき言ってた逆ナンクマねぇ~クマなんかドキドキしちゃう!」

 

 クマは生まれて初めての逆ナンなのか興奮気味である。

 

「4人の王子様って…若しかしてアタシも入ってるの?」

 

 千枝は自分も王子様と見られているのかと思うと、少し引いてしまう

 

「4人目はクマだクマ!」

 

 クマが自信満々にそう言うが、明日香がクマの頭を優しく撫でて

 

「ごめんクマ、恐らくそれは無いと思う」

 

 と明日香がそう言うと、クマはショックを受けていた。

 

『千枝、ウフフそうよ、私の王子様。何時だって私をリードしてくれる、千枝は強くて素敵な王子様…だった』

 

「だった?」

 

 千枝は何故過去形なのか分からなかった。千枝はゆっくりと雪子に近づいて行った。

 

『でももういらない』

 

 雪子の影が言った次の瞬間、千枝の頭上にシャンデリアが落ちてきた。

 

「!危ない、千枝!!」

 

 明日香は千枝に駆け付けそのまま千枝を突き飛ばし、シャンデリアの落下から護った。しかし…

 

「しまった、千枝を突き飛ばした後の事を考えてなかった」

 

 終わった、自分はシャンデリアに潰されて死ぬのか…明日香は逆に冷静になっていた。

 千枝の悲鳴が何処か小さく聞こえ、明日香は目を瞑った次の瞬間

 

「アラミタマ!」

 

 悠が叫んだ瞬間、紅い怒ったような御霊のペルソナが明日香をシャンデリアから護り、吹き飛ばした。これで3個のペルソナを悠は所持していた。

 悠がペルソナアラミタマで明日香を護ったが、ダメージが大きかったのか膝を着いてしまう。

 

「悠!」

 

「鳴上君!!」

 

 明日香と千枝が悠の元へ駆け付け、大丈夫かと聞く。心配ないと言ったが悠は少し苦しそうだ。

 

『結局は千枝でも駄目だった…千枝じゃ私をここから連れ出せない救ってくれない。明日香君なんてもっと駄目…明日香君は私と友達だって言っても、何処か余所余所しい所が有った。それに千枝と私じゃ千枝の事しか見えてなかった』

 

「…それはすまないと思ってる。自分にレールが敷かれているのが辛いと思う気持ちも分かる。けど雪子、レールが敷かれていることが何も辛い事だけじゃ…」

 

『黙れ!!』

 

 明日香が雪子の影を説得しようとしたが、雪子の影の叫びに掻き消されてしまった。

 それと同時に先程吹き飛ばしたシャンデリアが戻ってきた。

 明日香達はシャンデリアを避け、陽介はジライヤでシャンデリアを防いだが、壁に叩きつけられてしまった。

 シャンデリアを防いだジライヤの腹にダメージが来たのか、陽介は腹を押さえ蹲る。

 

「一旦戻せ!」

 

 悠は陽介にジライヤをカードに戻すよう言ったが

 

「駄目だ…この距離じゃ戻せない」

 

 ジライヤと距離が離れすぎたのか、カードに戻せないと訴える陽介。

 仕方ないと、悠はアラミタマをイザナギにチェンジしてジライヤを助け出す。

 

「こんな事…」

 

 雪子は自分の友人が傷付いているのを見ていられなかった。

 

『老舗旅館、女将修行…そんな束縛まっぴらなのよ!!』

 

 雪子の影は今迄ため込んだストレスを発散するかのように叫んだ。自由の無い生活なんて過ごしたくないと

 

「この!」

 

 千枝はトモエを召喚し雪子を助け出そうとするが、レッドカーペットが突如動きだしトモエ、千枝に何故かクマまでもが身動きを封じられてしまった。

 

「千枝!」

 

 雪子は苦しそうにもがいている千枝の元へ駆け付けようとするが

 

『たまたまここに生まれただけなのに、生き方を死ぬまで全部決められている。あぁイヤだイヤ』

 

 たまたまレッドカーペットから逃れた悠、陽介に明日香は助け出そうとするが、雪子の影のイヤァ!という絶叫とシャンデリアのろうそくが連動するかのように、ろうそくの火が大きくなりまるで火柱となった。

 そして溶けたロウが3人の足にくっつき、瞬時に固まってしまいこれまた身動きを封じられてしまった。

 

「そんな事無い…」

 

 雪子は自身の影の言った事を否定した。

 

『どっか遠くへ行きたい。此処じゃない何処かへ、誰かに連れ出して欲しいの一人じゃ出て行けない』

 

「やめて…もうやめて…」

 

『希望も無い、出て行く勇気も無い。だから私はずっと待ってるの。いつか王子様が連れ出してくれるって』

 

『此処じゃない何処かへ、連れて行ってくれるのを!』

 

「お願いもうやめて…」

 

 雪子は耳を塞ぎたくなった。だが次に雪子の影が言った事に雪子は身を凍らせた。

 

『老舗の伝統?町の誇り?…そんなのクソくらえだわ!!』

 

「なッなんてことを…」

 

 雪子をは目を見開いた。幾らなんでも言い過ぎだ。暮らしていた旅館やよくしてくれた町の皆へそんな事を言うのはあんまりだ。

 

『それが本音、そうよね?私』

 

「ち…がう。違うあんたなんか」

 

「雪子!」

 

「よせ言うんじゃない!」

 

 千枝と悠が言うなと叫ぶ。だがもう遅い。

 

「あんたなんか、私じゃない!」

 

 雪子も自身の影を否定してしまった。

 うふふと雪子の影は笑みを浮かべていた。雪子の影は力が高まっていく。

 

『そんなにしたら私…わたしぃぃぃぃッ!!』

 

 雪子の影は影に包まれて空へと登って行った。

 そして降りてきた時には鳥かごの中に、赤い鳥のような姿をした雪子の影が現れた。

 

『我は影…真なる我』

 

 雪子の影は赤い羽を広げてそう言った。

 

「あ…あぁ」

 

 雪子はもう一人の自分が赤い人面の鳥となったのを見て、後ずさりをした。

 が、雪子の足元に空の鳥かごが現れ、鳥かごが巨大化し雪子を捕らえてしまった。

 

「雪子!」

 

「千枝ェ!」

 

 千枝と雪子は手を伸ばしたが、届かずに雪子を捕らえた鳥かごは天井へと持って行かれた。

 

「雪子!こんのどけえ!!」

 

 千枝はトモエにレッドカーペットを斬ってもらい、漸く自由となった。

 

「待ってて雪子、アタシが全部受け止めてあげる!」

 

『あら嬉しい。だったら私もガッツリ本気でぶつかってあげる!』

 

 雪子の影は羽を羽ばたかせると、羽根が抜け落ちた。その羽根が燃えて、連続して大きな爆発となった。

 

「きゃッ!」

 

「あっちい!もっと優しくしてくれよ!」

 

「燃えるクマ燃えるクマ!!」

 

 何とか火に焼かれる事は無かったが、クマに火がついてしまい火を消そうと動きまくった。

 火によってロウが脆くなり、何とか動ける様になった。

 

「行くぞ陽介!」

 

「おう!やっちまえジライヤ!」

 

『ガル』

 

 ジライヤがガルを使った瞬間、雪子の影はかごに戻ってしまいガルを防いでしまった。

 ならば接近戦とイザナギが大剣を振るったが、かごはビクともしなかった。

 

「クッ固い!」

 

「ビクともしねぇじゃねえか!」

 

「だったらこれは如何!?トモエ!」

 

『ブフ』

 

 トモエは雪子の影を凍らせる氷のスキル、ブフを使った。雪子の影は火の属性であり、氷が有効だったのか怯んだ。

 

「よっしゃ今の内に!」

 

「イザナギ!」

 

 イザナギとジライヤが怯んだ雪子の影に総攻撃を仕掛けた。

 攻撃は脅威だが、耐久力はそこまで無いのか直ぐにボロボロになってしまった。あと少しで倒せると思いきや

 

『くッバカにして…王子様!王子様!!私のために来て下さい!!』

 

『召喚』

 

 雪子の影は何かを召喚し、ハッキリ言って白馬の王子様には見えないシャドウが現れた。

 

「なんだアイツ、しょっべえ奴だな」

 

「油断するな陽介、あのシャドウはきっと…」

 

 悠は現れたシャドウを警戒していた。そしてその警戒は現実のものとなる。

 

『ディアラマ』

 

 白馬の王子がスキルを使った瞬間、雪子の影はボロボロだったのが元通りの元気になってしまった。

 

「んな!そんなのアリかよ!?」

 

「あのシャドウ、厄介すぎる」

 

「だったら…」

 

 明日香は模擬刀を構えて、白馬の王子に突貫して行った。

 

「明日香!お前何やってるんだよ!?」

 

「俺があのふざけたシャドウを引き付けておく!だからお前らは雪子の影を!」

 

 明日香は白馬の王子に模擬刀を振り下ろす。白馬の王子も持っているサーベルで防ぎ、フェンシングのようにサーベルを突いてきた。

 剣を持った敵なら負ける気はしない明日香、確かに自分はペルソナなんて力は持ち合わせていないが、足止めぐらいなら出来る。

 

「はぁッ!!」

 

 明日香は白馬の王子のサーベルを弾くと、思い切り蹴飛ばして転ばせた。

 白馬の王子は大してダメージが入ってはいなかったが、明日香の気迫に恐れをなしたのか逃走してしまった。

 

『王子様!王子様!』

 

『召喚』

 

 雪子の影は再度白馬の王子を召喚しようとしたが、何も出ては来なかった。

 

『なんで…何で来てくれないの…』

 

 雪子の影は白馬の王子が来てくれない事に少なからず動揺していた。

 その隙を逃さず、イザナギとジライヤが雪子の影にダメージを与えていく。

 

『ケッやっぱ見込み違いだったわ…』

 

 雪子の影が白馬の王子に対してそう悪態をついた。

 

「雪子!」

 

 悠と陽介が戦っている間に、千枝が雪子を助け出そうとするが、雪子の影が入っているかごのシャンデリアが、トモエを跳ね飛ばす。

 

「千枝!」

 

 トモエと一緒に飛ばされた千枝に悲鳴を上げる雪子。

 

『千枝なら、アタシを助けてくれると思った。だけど駄目だった!千枝は私の王子様じゃなかった!ずっと…ずっと』

 

 雪子の影が力を溜めるのと同時に、シャンデリアのろうそくが激しく燃え上がる。

 

「やっばい!里中!」

 

「千枝、逃げろ!!」

 

 明日香は千枝の元へ駆けよりたかったが、白馬の王子との戦いで知らず知らずのうちに体力が減っていたのだ。こんな時に…と自分自身を叱咤する明日香。このままでは間に合わない。

 

「来い!」

 

 悠はイザナギを別のペルソナにチェンジする。

 

『待ってたのにぃ!!』

 

 雪子の影の感情が爆発し、ろうそくの炎が巨大な炎の渦となり千枝に迫ってくる。

 このまま千枝が焼き殺されてしまうのではと思われたが、千枝の前に千枝の影と戦ったペルソナ、ジャックランタンが現れた。

 ジャックランタンはランタンを前にかざすと、炎の渦がランタンに吸い込まれていった。

 

「雪子…」

 

 千枝は雪子の心の叫びを聞いて、自身は雪子の友達だったのに何も知らなかったと後悔した。

 だがしかし

 

「里中は王子様じゃないかもしれない。だけどそれがなんだ!?」

 

 悠が雪子の影の叫びを否定した。

 

『何ですって…!』

 

「里中は天城を助けたくてここまで来た。自分を本気で思ってくれるのって、凄い事じゃないのか?」

 

 悠は千枝が雪子の事をどんなに大切に思っているのか伝えようとした。しかし

 

『私は…わたしはぁぁぁぁぁッ!!』

 

 元々暴走している雪子の影がそれだけで落ち着くはずもなく、更に感情を爆発して炎と言うよりも爆発になっていた。

 部屋が殆ど火に呑まれており、クマは燃えない様にと逃げ惑っていた。

 ジャックランタンも千枝に炎が当たらない様にと炎をランタンで吸い込んでいたが、不意を突かれて炎に吹きとばされてしまった。

 

「これじゃあ近づけねぇよ!」

 

 陽介は一歩も前に出れなくて焦りを感じていた。

 

「雪子…」

 

 千枝はゆっくりと雪子の元へ歩いて行った。

 

「千枝…逃げて…」

 

 雪子はこれ以上千枝に傷ついてほしくなく、逃げてと言った。しかし千枝は逃げないよと首を横に振りながらそう言った。

 

「アタシ、雪子に伝えなきゃいけない事があるから」

 

 千枝は爆発にも怯まず、ゆっくりとそして力強く前へと進んで行った。

 

「アタシね、ずっと前から雪子が羨ましかった。雪子は何でも持ってて、アタシなんて全然で…だからそんな雪子がアタシを頼ってくれると思って嬉しかった」

 

 千枝は今迄黙っていた気持ちを雪子に伝えた。自分は雪子に嫉妬していたと…

 

「雪子は私が護んなきゃいけないって、そう思っていたかった」

 

『そうよ!私は一人じゃ何にも出来ない!何もない!!』

 

 雪子の影は羽ばたきながら炎を大きくした。雪子自身も自分には何もない。そう思い始めていた…

 

「そんな事無い!雪子は…雪子は本当は強いもの」

 

「外に出たい?だったらそんな鳥かごなんか自分で壊して、何処までも羽ばたいて行けるよ!」

 

「雪子なら…雪子だったら!」

 

 遂に千枝は涙を流し始めた。

 

「そんな事無い…私は強くなんかない…」

 

 雪子は前に地面に落ちている雛鳥を見つけた。そして少しの休みの間や学校の行と帰りに世話をしていた。

 鳥に自分と一緒だと鳥かごの中でしか生きられないと言い聞かせていた。

 だがある時鍵をかけ忘れて、鳥は鳥かごから逃げてしまった。鳥が鳥かごから飛び立ってしまい、悔しかった。

 自分と同じだと思っていた小鳥が自分の意志で鳥かごから出て行ったのが悔しかったのだ。

 鍵をかけ忘れたのは確かに雪子だった。しかし鳥は勇気を出して空へと飛び立って行ったのだ。鳥が出来たのに自分には出来ない。それを認めるのが嫌だった。

 

「私は強くなんかない…私は…最低…」

 

「勇気が無くて、人に頼って連れ出してもらおうと思って…」

 

「最低だって…ゲホッ!ケホッ!!」

 

 千枝は煙を吸ってしまい咳き込んでしまった。

 

「いいよ!アタシだって雪子の思うようなアタシじゃない。最低な所だっていっぱいある…それでも!アタシは雪子のそばに居たい!」

 

 そばに居たい。その気持ちは本物である。千枝は雪子に手を伸ばしながら

 

「大切だから…友達だから」

 

 友達だから一緒にいたい…

 

『ヤメロ!ヤメロォォォォォォッ!!』

 

 雪子の影は足掻いて喚き散らして炎をまき散らした。

 

「……私は何を怖がってたんだろ。怖がる必要なんてなかった。私には…」

 

 雪子は鳥かごに力を入れ、そして自分の力で鳥かごを開いた。

 

「千枝!」

 

「雪子!!」

 

 漸く千枝は雪子の手を掴むことが出来た。千枝は雪子を強く抱きしめた。

 

「千枝ありがとう…」

 

「ううん、雪子が戻ってきて嬉しい」

 

 千枝と雪子は本当の意味で通じ合う事が出来たのだろう。

 

『嘘よ…ウソヨォォォォォォォォッ!!』

 

 雪子の影はもがきながら空へと逃げようとした。

 

「様子がおかしいクマ!今なら倒せるクマ!」

 

「やるぞ相棒!」

 

「あぁ」

 

 陽介の掛け声に悠は頷き、ジャックランタンで周りの炎を全て吸いこみながら雪子の影に突撃させた。

 

『何なのよ!離れなさいよ!』

 

 雪子の影は羽ばたいて炎を出してジャックランタンを追い払おうとするが、ランタンに炎が吸い込まれて意味が無かった。

 雪子の影がジャックランタンに気を取られている内に、ジライヤが雪子の影の背後に回り手裏剣を刺した。

 

「決めろ里中!」

 

「とんでけぇ!!」

 

 千枝はトモエの強力な蹴り技で雪子の影を蹴り飛ばし、雪子の影は上へと飛ばされていった。

 飛ばされながら雪子の影は炎に呑まれていき、遂には爆発してしまった。

 爆発した雪子の影から、赤い羽根がヒラヒラと舞い落ちて行った。

 千枝は落ちてきた一枚の羽根をギュッと握りしめながら

 

「ゴメンね雪子、アタシ自分の事しか頭に無かった。雪子の悩みを全然分かってあげられなかった。友達なのに…」

 

「私も千枝の事を見えてなかった。自分が逃げるばっかりで、だから貴女を生んでしまったのね」

 

 雪子はドレス姿に戻った雪子の影にそう言った。

 ゴメンねと雪子は雪子の影の手を取ってそう言った。

 

「認めてあげられなくて、逃げたい誰かに救ってもらいたい。そうね確かに私の気持ち」

 

 雪子は優しく自分を抱きしめてあげた。

 

「貴方は私だね」

 

 雪子は自身の影を認めた。うん…と雪子の影は満足そうに頷くと姿を変えた。

 雪子の影は赤き女性のペルソナ『コノハナサクヤ』へと変わった。

 

「これが天城のペルソナか…」

 

 陽介がコノハナサクヤを見上げながらそう言った。雪子らしい綺麗なペルソナだと

 コノハナサクヤはカードに戻ると雪子の体の中へ入って行った。

 そして雪子はフラフラと座り込んでしまった。

 

「雪子!」

 

 千枝が座り込んでしまった雪子をゆっくりと立ち上がらせてあげた。

 

「少し疲れただけ。皆助けに来てくれたんだね」

 

「当たり前だろ?」

 

「俺達友達だし」

 

 悠と陽介が友達を助けるのは当たり前だとそう言った。

 

「んで君を此処に放り込んだのは誰クマ?」

 

 クマが雪子に行き成り犯人は誰だったのかを尋ねた。

 

「へ?あなた誰?ていうか何?」

 

「クマはクマクマ!」

 

 クマは雪子に自己紹介をした。

 

「ごめんなさい、意味が分からない」

 

「お前は存在自体が意味不明だってーのちょっと黙ってろ」

 

「クマは差別反対クマ!」

 

 陽介の呆れたような言い方にクマはムキーッと反論した。

 

「ねぇ犯人の事も気になるけど、早く外出ようよ。雪子も辛そうだし」

 

「そうだな。戻ろう」

 

 千枝の提案に悠も賛成し、今日はもう戻る事にした。

 

「えぇクマを置いてっちゃうの!?」

 

 クマは急に慌てだすが、陽介は呆れながら

 

「なに言ってんだよ、置いてくって元々はこっちに住んでるだろうが」

 

「そッそうだけど…」

 

 急に1人になるのは寂しいとしょんぼりするクマだが、雪子がゴメンねクマさんと謝りながら

 

「また今度改めてお礼に来るから、それまでいい子に待っていてね」

 

「くックマァ~ユキちゃんは優しいクマねぇ~。クマ良い子で待ってるクマ!」

 

 とクマも良い子で待っているとそう言った。今度こそ帰る事にした。

 

「…なんか少し蚊帳の外だったけど、まぁ雪子が無事だったからそれでいいか」

 

 明日香はそんな事を呟きながら模擬刀を鞘に戻した。これで一応一件落着だな。そう思っていると……

 

 

 

『一件落着ぅ?何言ってんだよ、結局はまた俺一人が取り残されてるんじゃねぇかよ』

 

 明日香ではない、もう一人の明日香の声が聞こえた。

 明日香や悠達もハッとして今の声が何処から聞こえたのか辺りを見渡すと、あそこ!と千枝が指を差した。

 千枝が指を差したのは女王の椅子に気怠そうに座っている。

 

『よう…俺』

 

 もう一人の明日香、明日香の影が其処には居た。

 

 

 

 

 




次回は明日香の影戦になる予定です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話

前回のあとがきで影戦になると書きましたが、今回は2話構成で行っていきます。
今回は会話パート、次回が戦闘パートになります。


「おッ俺…!?」

 

 明日香は椅子に座っているもう一人の自分に愕然とした。あれはまさしく自分、そして自分の影だと。

 

『おいおい、なに驚いてるんだよ?頭のキレる俺だ。そろそろ俺が出てくるんじゃないかって、少なからずは分かってたんじゃねえのか?』

 

 明日香の影は愉快そうにケタケタと笑いながら階段を降り始めた。

 雪子の影との戦いの後に明日香の影が現れたのだ。警戒は解かない。

 

「明日香の影、何かヤバそうな雰囲気があるんだが」

 

 陽介はすぐにでもジライヤを召喚できるような体勢をとっていた。

 

「あのアスカ、何かヤバそうな臭いがするクマ。ヨースケや千枝ちゃんやユキちゃんの影よりも…ヤバそう」

 

 クマは悠の背中に隠れながら、震えながら言った。

 先程雪子の影との戦いで体力が消耗しているのに、ここにきて明日香の影が現れるとは…

 明日香の影はゆっくりと階段を降りて、明日香に近づくと思いきやそのまま明日香をスルーしてしまった。

 

「は?」

 

 明日香は思わず呆けた声を出してしまい、明日香の影はそのまま千枝と雪子へ近づいた。

 

「なッ何よ、やるって言うの!?」

 

 相手は明日香の影だ。今ままでの陽介、千枝そして雪子の影のように何するか、何を言いだすのか分からない。

 千枝は何時でも蹴りがいれられるよう、構えていた。

 そして明日香の影は、千枝にニコリと笑った後に…千枝に抱き着いた。

 なッ!?と千枝以外の皆が、明日香の影の行動に唖然としていた。

 

「いや!ちょッ何すんのよ!?」

 

 千枝は行き成り抱きついてきた明日香の影に動揺と恥ずかしさで顔を赤らめた。

 明日香の影は千枝に抱き着いたまま、あぁと感嘆の声を上げる。

 

『あぁ…千枝、千枝ェ…こうやって君を抱きしめたかった』

 

 明日香の影は抱きしめながら、心底嬉しそうにしていた。目にはほんのり涙を浮かばせていた。

 明日香は自身の影がやっていることに目を見開いており、本来だったら千枝から離れろと言う所が何も言えなくなっていた。

 陽介や悠も明日香の影の行動に、自分達が如何動けばいいのか分からなかった。

 

「なッなぁ、あの明日香の影本当に危ないのか?さっきから里中にべったりしてるぞ」

 

 陽介は目の前にいる明日香の影に対して余り危機感を感じられないでいた。

 雪子の影も色々とぶっ飛んでいたが、行き成り千枝に抱き着くと言うかなりぶっ飛んでいる。

 何を言ってるクマ!とクマは陽介に憤慨しながら

 

「あのアスカの影は本当にヤバいクマ!だって僕らの事をまるっきり無視クマよ!千枝ちゃんの近くにいるユキちゃんだって無視してるクマ!」

 

 クマの言った事にハッとする悠、確かに明日香の影は千枝の近くにいる雪子の事なんか眼中になかった。

 まるで千枝以外の者なんかどうでもいいと言っているような感じであった……

 

「ねッねぇ明日香君…なんだよね?」

 

 雪子は明日香の影に恐る恐ると近づいた。千枝の以外の者が近づいたら、何かしらのアクションを起こすのではないか。

 雪子が近づいて、明日香の影はアクションを起こした。

 だがそのアクションと言うのが、雪子を思い切り突き飛ばした事である。

 

「キャッ!」

 

 雪子は突き飛ばされ、尻餅をついた。

 

「雪子!?アンタ雪子に何すんのよ!」

 

 千枝は雪子が突き飛ばされたのをギョッとしてしまい、抱き着いている明日香の影を強引に突き飛ばして、雪子の元へ駆け付けた。

 明日香の影は雪子の元へ駆け付けた千枝を見て、見るからにテンションが下がっていた。顔に影を落としながら

 

『やっぱり千枝は俺なんかよりも、俺から千枝を奪ったその女の方が大事なんだな…』

 

 明日香の影は金色の瞳をぐらぐらと泳がせながら、焦点の合ってない目でこの女がこの女が…と呟いていた。

 

『千枝がこの女と出会ってから千枝は俺よりもそこの女と一緒にいる事が多くなった。其処に居る女のせいで千枝は変わってしまった!』

 

 明日香の影は千枝千枝千枝千枝千枝!!と喚き散らしながら、何処から取り出したのか刀を構えながら近づき

 

『その女が居なくなれば、千枝は俺の元へ戻ってきてくれる。だから……死んでくれよ雪子』

 

 明日香の影は千枝が一緒に居るのに、容赦なく刀を振り落した。

 明日香の影が雪子を突き飛ばすと言う光景を見てしまい、ペルソナを出すタイミングを逃してしまった悠と陽介。

 間に合わないと思いきや、明日香がすぐさま駆け付けて明日香の影の刀を模擬刀で防いだ。

 刀を防いで鍔迫り合いとなる。

 

「テメェ何やってんだ!本気で雪子と千枝を斬るつもりだったのか!?」

 

『あぁ斬るつもりだったさ。俺なんかよりも雪子を優先する千枝なんかいらない』

 

 ふざけんな!!明日香は自身の影の刀を押し出し、一気に斬りかかった。

 だが明日香の影なだけあって、明日香の剣筋を読んでいた。

 

「クソ!俺の影だからか剣筋が読まれる…!」

 

 焦りを感じていた。明日香に明日香の影は余裕そうに挑発する。

 

『あぁ知ってるさ。俺はお前だからな。テメェの剣の癖も分かってる…テメェが心に押し込んでいる事もな』

 

「ッ!」

 

 明日香の影の言動に動揺した明日香は動揺してしまい、剣筋が乱れてしまった。

 その隙を逃さず、明日香の影は明日香を容赦なく蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされて、仰向けに倒れる明日香。

 蹴飛ばされた明日香を笑い飛ばした明日香の影は、今度はスゥッと静かになり

 

『そうだ、此処には千枝と雪子がいるからあの話でもしようかねぇ……あれは初めての天城越えがあった小学6年の頃、千枝が雪子を庇ったその放課後…いじめが起こりそうになった』

 

「いッいじめ!?アタシが」

 

 いきなり自分がいじめにあいそうになった聞いて、仰天する千枝。

 明日香の影がさらに詳しい話をする。

 

『雪子に遊び半分で付き合おうと言った男子生徒を、千枝は追い払った。その腹いせに仲間を連れた男子生徒は、千枝の上履きを隠すと言う嫌がらせをしようとした』

 

「しようとした。と言うことは未遂だったのか?」

 

 悠が未遂だったと分かり、明日香の影に何故なのかと尋ねた。

 それはこいつのおかげさと明日香の影は、倒れている明日香を指差した。

 

『そこで寝てる俺がそいつらを止めたんだよ。そいつらも俺を口封じしようとしたけどな。まぁ返り討ちだったけど』

 

 返り討ちされたその後も男子生徒達は、こりずに千枝に嫌がらせをしようとしたが明日香がみぜんに防いだり、先生に報告したりしたそうだ。

 

『その男子生徒も今度は俺に暴力をふるわれた、なんてホラを吹いて親を呼んで軽く大事にしようと馬鹿な事に走ったけどな。まぁ俺が千枝の嫌がらせについての動かぬ証拠やら、父さんが刑事ってことで立場が逆転したけどな』

 

 あの時のガキとその親のアホ面が目に浮かぶぜと明日香の影は思い出し笑いをする。

 その後はその男子生徒は、クラスの男子に明日香を無視するように命令していたようだ。

 その男子は乱暴者で有名だったらしく、他の男子生徒は逆らえなかった。その日から明日香はクラスの男子から仲間外れとなり一人ぼっちになっていた。

 男子生徒は仕返しが出来たと思い込んでいたが、明日香自身親譲りの正義感で間違った事は正そうとして、孤立する事がしょっちゅうあったので慣れていた。

 

「そんな……アタシのせいで明日香は虐められてたの…?」

 

 千枝は明日香に対して申し訳ない気持ちで一杯になっていた。

 別に構わないさと明日香の影は首を横に振りながら

 

『俺は一人になっても構わない。千枝が俺に笑いかけてくれるならそれでいいのさ』

 

 明日香の影は千枝に笑いかけながらそう言った。

 だが次の瞬間からギリッと歯ぎしりをした。

 

『中学、高校と進むにつれて天城越えをする生徒が後を絶たなかった。千枝だけじゃ負担になると思ったから俺も雪子に近づこうとする男達を追い払った。俺は陰で何を言われても構わなかった……けど千枝が陰で男共にウザいやら可愛げがないやら、女じゃないやらと好き勝手に言いやがって……ふざけんな!千枝が可愛くないだと!魅力が無いだと!?テメェ等の節穴の目の奴らが千枝を語るじゃねえよ!千枝は俺にとっての生きる喜びだ!それを侮辱するなんてアイツ等は生きる資格なんかねぇんだよ!』

 

 明日香の影の叫びにたじろぐ悠達。

 それとお前だ!と雪子に指を差す。

 

『テメェは千枝に助けてもらうって言うのがあたりまえって面をしていた。そして時々千枝に対して下に見ているような面が気にくわなかった!テメェにそんな自覚が無かったかもしれねぇが、テメェは友達である千枝を対等じゃなくて下として見ていやがった。自分には何もない?ふざけんなよ…その何もないテメェに千枝は嫉妬していたのか…千枝がため込んでいた負の感情は何だったんだよ…』

 

 だから…と明日香の影は刀の切っ先を雪子に向けながら

 

『俺は心のどこかでこう思ってたんだ……この世界で雪子が死ねば千枝は雪子と言う重みから解放されるってな。雪子が居なくなれば千枝はもう誰からも陰口を言われないし、虐められることも無い。だから俺は出て来た。雪子を亡き者にするために』

 

 明日香の影は刀を持ち、雪子に近づいた。

 

「待て…!そんな事は俺が許さない!」

 

 影に蹴り飛ばされた箇所を押さえながら、明日香は模擬刀を構えていた。

 そんな明日香に、明日香の影は呆れた様な顔をしながら

 

『んだよ、お前も素直じゃないよなぁ。お前だって本当は千枝を悩ますような雪子の存在が目障りだと思った事はあるだろう?いい加減素直になれよ。俺はお前だ…だからお前がやりたい事をやろうとしてんだよ』

 

「黙れ!俺は雪子の事なんかそんな風に思っていない!雪子を亡き者にしようなんてな!お前みたいな歪んだ考えを俺は持っていない!お前は俺じゃない!!」

 

「ッ!駄目!明日香!」

 

「言うんじゃねえ明日香!!」

 

 千枝と陽介がこれ以上言うなと明日香に叫んだが、一足遅かった。

 

「お前は俺じゃない!!」

 

 明日香も千枝達のように自身の影を否定してしまった。

 明日香の影はハァと溜息を吐きながら

 

『結局お前も俺を否定するのか……まぁいいさ、これで俺に力が漲って来るんだからなぁ!!』

 

 明日香の影を黒い影が包み込んでいった。

 そして影が晴れると、鎧武者の姿で縦半分に割れた鬼の仮面を被った明日香の影が現れた。

 

『我は影…真なる我』

 

 明日香は自身の影が、巨大な武者の姿をした化け物変わってしまった事に呆然としてした。明日香の影はそんな明日香なんか無視し、腰に差している太刀を鞘から抜いた。

 

『じゃあな…俺』

 

そして明日香の影は、太刀を呆然としている明日香に振り下ろした。




次回が1話丸ごと戦闘パートになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話

今回は後篇ですね


『じゃあな……俺』

 

 明日香の影は、太刀を明日香に向かって振り下ろした。

 そのまま太刀によって、明日香が両断されそうになったが

 

「イザナギ!」

 

「ジライヤ!」

 

 悠と陽介がイザナギとジライヤを召喚し、明日香を太刀から護ってくれた。

 だが明日香の影の力は強く、徐々に押され始めた。

 

『邪魔を……するなぁ!!』

 

 明日香の影の気合を纏った風圧で、イザナギとジライヤが吹き飛ばされる。

 

「クソ!これでも喰らえ!」

 

『ガル』

 

 陽介はジライヤにガルを発動させ、風により明日香の影を切り刻もうとした。

 だが…

 

『鬱陶しい風だ!』

 

 明日香の影は自身の周りで吹いているガルの風を太刀で斬り裂いてしまった。

 

「んな!そんなのアリかよ!?」

 

 陽介はいとも簡単にガルが防がれてしまった事に、愕然とする。

 ならばと今度は悠が

 

「イザナギ!」

 

『ジオ』

 

 悠がイザナギのジオを明日香の影に放った。

 ジオは明日香の影に直撃した。これは効いただろうと悠と陽介は思った。

 

『こんな電撃、効かないな!!』

 

 明日香の影が軽く手を振るうと、電撃がいとも簡単に消え去ってしまった。

 明日香の影は今のところ、ダメージと言うダメージが入っていなかった。

 

「マジかよ……全然効いてねぇ」

 

「クッ……!」

 

 陽介は青い顔となり、悠は苦虫を噛み潰したような顔となる。

 悠は悟った。今まで戦ってきた陽介に千枝の影、そしてさっきまで戦ってきた雪子の影より厄介で強いという事を……

 明日香の影は太刀で中段の構えをして

 

『来ないのか?だったら……こちらから行くぞ!』

 

 一気に踏み込み、イザナギとジライヤの間合いへと入った。

 此れは躱せない…!そう思った悠と陽介はイザナギとジライヤに防御をさせた。

 

『ハァッ!』

 

 明日香の影の見えない程の太刀の斬撃がガードしているイザナギとジライヤに直撃する。

 

「イッツ~!防御してるはずなのに、なんて力だ!」

 

 陽介はジライヤに伝わってきたダメージで腕をブンブンと振るった。

 悠もダメージに耐えていたが、このままでは負けてしまう。

 

「花村!鳴上君!アタシも」

 

 千枝もトモエを出そうとしたが、陽介が制した。

 

「里中、お前は天城と一緒に下がれ!正直言って俺と悠でアイツを止められるかも分からねぇ。もしもの時は天城を連れて逃げろ!」

 

「でもッそれじゃあ……!」

 

 千枝は納得がいかずに首を横に振った。だが雪子を護りながら明日香の影と戦うのは無理がある。

 現に2対1なのに悠と陽介は押されているのだ。

 先程からイザナギの矛による斬撃、ジライヤの手裏剣の攻撃が、太刀にいとも簡単に防がれているのだ。

 

「クソ!里中の影みたいな長い髪があるわけでもないのに……!」

 

「天城の影のような鳥かごや炎があるわけでもない。武器は太刀だけ……なのに強い!」

 

 陽介や悠の言う通り、明日香の影は武器は構えている太刀と、もう一つ腰に差している脇差だけだ。

 武器はいたってシンプルなのに強い。それは明日香の影が普通に強いと言う訳だ。

 明日香は剣道をやっているから、それが明日香の影に影響を及ぼしているのであろう。

 

『ハァッ!!』

 

『木っ端微塵斬』

 

 明日香の影が太刀の振り回す斬撃で、イザナギとジライヤを切り刻む。

 陽介と悠は悲痛な声を上げて膝をついた。スキルが効かず尚且つ相手の方が強い。こんな相手に勝てるのだろうか……そう一瞬悠と陽介が思ってしまった。

 だが、それがいけなかった。

 

「クッソ、舐めやがって……!」

 

 陽介は痛む体に鞭打って立ち上がったが、明日香の影を見て固まってしまった。

 そして次の瞬間から顔から脂汗を吹き出し、呼吸は荒くなり後退りを始めた。

 

「如何した陽介!?」

 

 悠は陽介に近づき、体を支えたが体が震えていた。

 悠も明日香の影を見たが、明日香の影を見た瞬間悠も固まってしまった。

 明日香の影が二回りも大きく見えているのだ。そして影に纏わりついている邪気の様な気。

 それを見た瞬間、悠は陽介と一緒に震えが止まらなくなってしまった。

 此れは……まさしく恐怖、2人は恐怖により動けなくなってしまった。

 恐怖で戦意が途切れたのか、ペルソナは元のカードに戻ってしまった。

 もう一度ペルソナを出そうとしたが、恐怖で動けないでいた。

 

『如何した?もう終わりなのか?だったら……トドメと行くか』

 

 動けなくなった2人を見て、明日香の影はトドメと太刀を上段へと構えた。まるで斬首をする処刑人の如く。

 2人がやられる。そう思った千枝はトモエを召喚した。友人を置いて逃げるなんて考えは、千枝には無かった。

 太刀が振り下ろされる瞬間、トモエが両刃の薙刀で太刀を防いだ。

 太刀と薙刀がぶつかり合い、火花が飛び散る。

 

『千枝ッ……!』

 

 明日香の影はトモエに太刀を防がれ、少々驚いていた。

 トモエを操っている千枝は俯きながら、アタシ……と小さく呟いていた。

 

「アタシ、今まで明日香の事知ってるつもりで知らなかった。それが明日香を傷つけていたのかもしれない。ごめんなさい……だからアタシが明日香の事を受け止めてあげるから!」

 

『そうかい千枝、だったら受け止めてくれよ。俺の……千枝に対する気持ちを!!』

 

 明日香の影は腰に差した小太刀を抜き、二刀流となる。そして一気にトモエの間合いへと入った。

 

「ハァァァッ!!」

 

『ウオォォォォォォッ!!』

 

 千枝と明日香の影の叫び声と一緒に、斬撃がぶつかり合う。

 太刀と小太刀の二刀流による斬撃を、両刃の薙刀で防ぎ、両刃の薙刀の薙ぎ払い攻撃を太刀と小太刀で防いだ。

 時折トモエが千枝の足技を模した蹴りを放つ。が、明日香の影はトモエの足を掴むと今度はトモエに足技を喰らわした。

 明日香は剣道の他に空手をかじっていた事もあり、千枝の修行の時に足技を明日香が教えていたのだ。

 互いに攻守互角の攻防が繰り広げられ、引く事は無かった。

 

「あれ……俺ら何してたんだっけ?」

 

「さっきまで、何かに怖がっていたような…」

 

 悠と陽介は恐怖状態から元に戻り、正常に戻った。そして千枝と明日香の影が戦っているのを見る。

 

「おッおい里中!お前何やってんだよ!?お前は天城の所にいろって!」

 

 陽介は千枝を下がらせようとしたが、千枝は首を横に振りながら

 

「悪い花村、明日香の影とはアタシ一人で戦わせて」

 

「はぁッ!?何言ってんだよ里中!無茶だって!」

 

 陽介は無謀だと千枝にそう言った。2対1で苦戦を強いられていたのを、一人で戦うと言っているのだ。

 

「分かってる。けどアタシが止めなくちゃいけないんだ……明日香が色々と閉じ込めていたのも、アタシにも責任があると思うから」

 

「けどよ!」

 

 陽介はまだ何かを言おうとしたが、悠に手で制止られてしまった。

 そして悠は黙って首を横に振り、千枝の方に顔を向けた。

 

「里中、本当に一人で大丈夫なのか?」

 

 悠が一人でも大丈夫かと尋ねると、まっかせてよ!と千枝はサムズアップしながら

 

「身勝手な言い分かもしれないけど、明日香の影を止めるのはアタシの役目だと思ってるから、絶対勝って見せる」

 

「そうか……絶対勝てよ」

 

 そう言って負けるなよと悠もサムズアップで返した。

 短い遣り取りであったが、千枝はトモエを再度明日香の影に向かわせた。

 

「おッおい悠!里中一人で大丈夫なのかよ!?」

 

「今は里中を信じよう。それよりも……今は天城や明日香の方を優先しよう」

 

 そしてその明日香はと言うと、膝から崩れ落ちて床に手を置き、項垂れていた。

 近くではクマが明日香を励まして、これ以上明日香の心が折れない様に支えてあげている。

 

「あれが俺の中にいたのか……俺の本心、俺が本当に望んでいた事……」

 

「アスカ危ないクマよ!早くセンセイが居るところに行くクマ!」

 

 明日香はトモエと戦っている自分の影を呆然と眺め続け、クマは明日香を悠たちの元へ連れて行こうとした。

 明日香の影はトモエと戦いながらも、自身が隠していた本音を話し始めた。

 

『父さんが刑事だったから、人一倍正義感が強いと自負していた。どんな時でも、間違っている事は正してきたつもりだ』

 

『人に対する嫌がらせに虐め。人様が迷惑するようなピンポンダッシュ……悪い事してる奴がいたら、何が何でも止めていた。助けてあげた子達には正義の味方、なんて呼ばれていた事もあった』

 

 一度下がり、太刀と脇差で飛ぶ斬撃を放つ。トモエは薙刀で飛ぶ斬撃を弾く。

 弾かれた斬撃は、部屋の柱に直撃し柱は砕け散る。

 

『女の子達には正義の味方として慕われ、先生や大人たちには真面目でしっかり者として褒められた……だが、同性の奴等には俺のやっている事が、疎ましく思われていた。遊ぼうと誘っても仲間外れにされる事が多かった』

 

『女にちやほやされて調子に乗ってる……先生はアイツを贔屓してるなんてことはしょっちゅう言われた。他の男子には妬まれて……気が付けば一人でいる事が多くなっていた』

 

 明日香自身の過去を話しながら、今度は太刀と脇差を鞘に納め、太刀で居合切りをする。それをトモエは足で防御する。

 

『慕われて、褒められる事があっても、俺は……何時も一人。そんな中……千枝だけが俺と一緒にいてくれた。一緒にいてくれて、俺の事を好きだと言ってくれた……それだけで俺は救われた!』

 

 また2刀流となり連続攻撃をするが、トモエにいとも簡単に躱されてしまう。

 

『今まで人のためにしていた事は、全部千枝に俺を見てもらうため!俺を見てくれるための偽りの正義の味方でしかないんだ!』

 

 太刀と脇差を振り回すが先程の様な剣術ではなく、ただ闇雲に振り回しているだけだ。

 だが太刀と脇差を振り回すだけで、城の床や柱が切り刻まれ、剣圧で弾丸のように吹き飛ばされていった。

 トモエは瓦礫の弾丸から千枝を護る為に、飛んでくる瓦礫を薙刀で切っていく。

 悠は雪子を陽介は明日香とクマを、イザナギとジライヤを召喚し瓦礫に当たらない様に防ぐ。

 

『そして!千枝の前に雪子が、陽介が、悠が……終いにはペルソナなんて力が……千枝が俺の前から居なくなってしまう!そんなのはイヤダ!俺から千枝を取らないでくれ!!』

 

 遂には癇癪を起した子供のように、見境もなく大暴れをしだした。太刀と脇差が扇風機の羽のように高速に動き、斬れる竜巻が発生した。

 柱や壁がどんどん崩れ去り、城の原型が段々と無くなっていった。

 明日香は暴れている自分の影を見て、あぁそういう事か……と呟きながら

 

「俺は……千枝を独占したいって言う気持ちがあったんだな。全く……ガキじゃないんだから」

 

 明日香は乾いた笑みを浮かべていた。

 この心境はまさしく、好きな子が他の子と話しているのを見て、嫌な気持ちになると云う小学生特有の恋愛感情なのだろう。

 あぁ何という幼い考えだろうか……こんな自分に千枝は振り向いてくれる事なんかない。

 明日香がそう結論付けていると

 

「勝手に決めつけないでよ馬鹿!」

 

『ブフ』

 

 千枝は叫びながら、トモエにブフを発動させて明日香の影の足元を凍らせ、動きを封じた。

 

「ちッ千枝?」

 

 明日香の声に千枝は何も言わずに黙って近づいた。

 何も言わずに明日香に近づいた千枝は、黙って明日香の頭を叩いた。

 

「イテッ!何すんだよ!?」

 

「何すんだじゃないわよ!自分の気持ちを抑え込んで!」

 

「何時もアタシに護ってやるって言ってるけど、あれは嘘だったの?そうじゃないでしょ!?」

 

「だったら護るなんて回りくどい事言わないで……素直に好きだって言いなさいよ!!!」

 

 千枝は感情の高ぶりで思わず言ってしまい、ハッとしながら明日香の方を見た。

 明日香は千枝の叫びに思わず呆然としてしまった。

 千枝も勢いで言ってしまい、恥ずかしくなり顔を明後日の方向に向けててしまった。

 

「千枝……俺は……」

 

 明日香は何を言えばいいのか口ごもっていると

 

「おいおい明日香、何ビビってんだよ」

 

 陽介が

 

「好きな子が告白したんだ。男だったらちゃんと返事をしなきゃだろ?」

 

 悠が

 

「アスカは男クマ!だったら男らしく、バシッと決めるクマよ!」

 

 クマが明日香にエールを送った。

 

「陽介……悠……クマ……あぁ、そうだよな」

 

 明日香はゆっくりと立ち上がり、先程の呆けた表情から覇気の戻った表情へと変わっていた。

 

「あぁそうさ、俺は千枝の事を……ずっと前から好きだったよこんチクショウ!!!」

 

 明日香は今迄ため込んでいた気持ちを吐き出した。

 明日香が本音をぶちまけて、明日香の影は苦しそうに呻きながら、最後のあがきと暴れ出し氷の拘束から抜け出した。

 

『アァッ!千枝!千枝ェェェェェェ!!』

 

 明日香の影は矢鱈目鱈に太刀を振り回し始めた。あともう少しだ。

 

「千枝、陽介、悠には頼みがある。俺の影を一思いに倒してくれ」

 

 明日香の頼みに3人は黙って頷いた。

 

「行くぞ!」

 

「「おおッ!!」」

 

 悠の掛け声に、陽介と千枝は応じた。

 

「イザナギ!」

 

「ジライヤ!」

 

「トモエ!」

 

 

 3人は自身のペルソナの今の最大の一撃を、明日香の影に喰らわせた。

 これにはひとたまりもなく、明日香の影は断末魔を上げながら、影を爆散させた。

 そして鎧武者の影から元の人の姿をした明日香の影が出て来た。

 明日香の影がゆっくりと倒れそうなのを、明日香は支えあげながら

 

「お前は、俺だ」

 

 自身の影を認めた。

 明日香の影は満足そうに静かに頷くと、人の姿が消えて新しい姿となった。

 新しい姿は下半身は鎧具足であり、上半身は白い鎧武者の甲冑で身を包んでいる。

 仮面は日曜の朝のバイク乗りのヒーローを思い浮かべる。

 此れが明日香のペルソナ『ヨシナカ』である。

 

「これが俺のペルソナ……」

 

 明日香はヨシナカを見上げながら呟いていると、ヨシナカはペルソナのカードとなってしまった。

 明日香はカードが自身の体の中へ入っていくのを感じると、仰向けに倒れてしまった。

 

「「「明日香!」」」

 

「明日香君!」

 

「アスカ~!」

 

 悠達は倒れた明日香に駆け付けた。

 倒れた明日香は辛そうではあったが、清々しいほどの笑顔を浮かべていた。

 

「大丈夫か?」

 

 悠がそう訪ねると、明日香はあぁと頷きながら

 

「正直言うと、スッゲーしんどい。けど……今は清々しい気分だ」

 

 そう感想を述べた。悠が手を伸ばしてきたので、明日香は悠の手を取り立ち上がるのを手伝ってもらった。

 

「あッあの明日香君、私その、千枝の事を考えて無くて……ごめんなさい」

 

 雪子は明日香の影が言っていた事を気にして謝ったが、明日香は気にしていないと首を横に振った。

 

「こっちだって、雪子に危害を加えようとしたんだ。謝るのだったらこっちの方だ」

 

 と明日香が逆に謝った。このままだと謝りが平行線になるだろうという事だ。

 しかし何はともあれ、雪子を救出出来て明日香もペルソナの力を手に入れる事が出来た。もうこの城にこれ以上いる必要もない。

 

「さてと、んじゃま帰りますか」

 

 陽介の提案に誰も反対はせず、明日香達は廃墟同然となった雪子姫の城を、後にしたのであった。

 

 




今回で漸く明日香のペルソナが出てきました。
明日香の初期ペルソナは「ヨシナカ」で元ネタは木曽義仲となっております。
千枝のペルソナがトモエつまり巴御前なら、明日香は木曽義仲と試行錯誤で決まりました。
ヨシナカはと言うか今更ですが、明日香のイメージカラーは白と自分では思っているので、ヨシナカも白を強調するようなペルソナとなっています。
ヨシナカのペルソナイメージは仮面ライダー鎧武の仮面ライダー斬月となっています
分からない方は画像検索を行ってください。

次回は雪子姫の城の後日談となっています。
ではまた次回


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

あぁお盆休みが逆につらいよ…


 雪子を無事救助した明日香達、直ぐに雪子の家に連れて帰るのは体力的な面で無理をするのはいけないという事で、少し休もうと言う事となった。

 雪子をジュネスのフードコートに連れ、テントがある大きめのテーブルとイスがある場所に座らせた。

 

「雪子……大丈夫?本当に怪我とか無い?」

 

 千枝は再度、雪子が本当に大丈夫なのかを尋ねていた。

 雪子もうん大丈夫だよ……とほほ笑みを浮かべながら自分は大丈夫だと伝える。

 

「大丈夫だけど……ちょっと疲れた……かな」

 

 雪子は少し疲労を感じていた。ペルソナの力も無くほぼ丸一日テレビの中に入れば、かなり疲労も溜まるだろう。

 雪子の心情は察しているが、雪子には聞きたい事があった。雪子をテレビに入れた犯人……恐らくは山野アナや小西先輩をテレビの中に放り込んだのと同一犯であろう。

 

「それで雪子、何か覚えてないか?犯人の特徴やら、最低でも男性か女性かは分かったかい?」

 

 明日香が詳しい事を聞き出そうとしたが、雪子は申し訳なさそうに

 

「ごめんなさい……何も覚えて無くて、気が付いたらあのお城に居て……」

 

「いッいいっていいって!雪子が無事だったんだから!」

 

 ね?と千枝がそう言い、明日香と悠と陽介はその通りだと頷いた。

 だが陽介が直ぐに苦い顔になり

 

「けどよ、天城が前の2人と同じ手口でその……」

 

 陽介は言葉を濁していたが、雪子が殺されそうになったのは確かだ。

 

「それと雪子がマヨナカテレビでドレス姿で写ってたけど、あれは雪子の影だった気がするな」

 

 明日香は自身の推測を話し始める。雪子自身、旅館の後継ぎという事で色々と抑え込んでいる所があったのだろう。

 そして現実の世界で抑え込んでいたものが、テレビの世界に入った事で現実となったのではないか……と

 

「そう言えばクマ君もそんな事を言っていたような……」

 

 千枝もクマにテレビの世界について色々と聞いていた。こっちの世界での現実はあっちの世界の現実になると

 

「あ~駄目だ……全然わっかんねぇ」

 

 陽介は色々と行き詰っているようでウンウンと唸っていた。

 しかし3人もテレビの中に平気で放り込んでいるのだ。正気ではないだろう。

 明日香達は犯人が如何言った人間なのかを考えていた。

 

「犯人の事もそうだが、今は天城の方が心配だ」

 

 悠が雪子を心配してそう言った。確かに今は雪子を安全に旅館に送りに行くことを優先としよう。

 

「うん、難しい話はまた今度にしよう?」

 

「今は雪子を家に送り届けて、旅館の人達を安心させよう。俺と千枝で雪子を送って行くから」

 

 千枝と明日香が雪子を家へと送り届ける事となり、今日は解散する事にした。

 雪子を無事救出する事が出来た。だが事件自体は犯人の目星もつかず、深まるばかりであった……

 

 

 

 

「雪子!」

 

「雪ちゃん!」

 

 明日香が天城屋旅館へ雪子が無事に見つかったと連絡をし、旅館に到着した途端、雪子の母親や仲居さんに板長と、全員が雪子のお出迎えをしてくれた。

 

「お母さん、皆……心配をかけてごめんなさい」

 

 雪子は皆に心配をかけた事を謝った。

 雪子の母親は雪子に怒鳴りづける事も無く、涙を流しながら優しく抱きしめてあげた。大事な娘が無事に戻ってきたのだ。

 雪子の母親以外に仲居さんや、板長までもが雪子が無事に戻ってきたという事で、うれし涙を流した。

 雪子は仲居さんに連れられ、雪子の部屋へと向かった。今の雪子は休養が必要だろう。

 

「雪子早く元気になってね!」

 

「今はゆっくり休んでほしい」

 

 千枝と明日香は仲居さんに連れられて行く雪子にそう言った。

 

「うん……千枝に明日香君……本当にありがとう」

 

 雪子はそれだけ言うと、旅館の奥へと行き見えなくなった。

 

「千枝ちゃん、明日香君……雪子を見つけてくれて、本当にありがとう」

 

 雪子の母親は千枝と明日香にお礼を言った。

 

「雪子はアタシ達にとって大切な友達ですから、助けるのは当然ですよ」

 

「雪子が無事で、本当に良かった」

 

 千枝や明日香も雪子が無事でよかったと雪子の母親に言った。

 あぁそれと……と明日香は申し訳なさそうに

 

「俺の身勝手な言い分なんですが、少しでも雪子に自由な時間を設けてはどうでしょうか?雪子は女将を継ぐという事で、自分を抑え込んでいたみたいですが、最近も時々辛そうにしてたので……雪子ももっと自由になりたいと望んでいるはずです」

 

 明日香の言った事に雪子の母親は黙ってい聞いていたが、分かったわと頷いた。

 

「雪子が我儘を言わずに旅館の手伝いをしてくれていた。山野さんの件で私が倒れて、雪子が代役をすることになってもあの子は文句を言わないでやってくれていた……あの子が辛そうだったと言うのも何処か分かってたつもりだったけど、甘えていたのかしら。私もそろそろ復帰するから、雪子には余り無理はさせないようにするわ」

 

 それじゃあと雪子の母親は会釈をして、千枝と明日香から去って行った。

 これ以上長居をする必要と無いという事で、旅館を後にするのであった。

 

 

 

 帰路に着いている明日香と千枝は、互いに近すぎず離れすぎずの距離感で歩いていた。

 

「ねぇ明日香、雪子はこれから大丈夫かな?」

 

 千枝は雪子の事が心配で、明日香に大丈夫かと聞いていた。

 

「雪子は無事に助けたんだ。後は無事に回復する事を待つだけさ」

 

 それだけ言うと、明日香は黙って歩く。それを追いかける千枝。

 何時もだったら肩がぶつかるほどの距離で歩き、もっといろいろと話しているものだが

 

「……」

 

「……」

 

 明日香と千枝は黙りながら、目を合わせようとしない。

 と言うのも原因は明日香の影の戦いのときに

 

 ――素直に好きだって言いなさいよ!!!――

 

 ――俺は千枝の事を……ずっと前から好きだったよこんチクショウ!!!――

 

 戦いの勢いで千枝の事を好きだと大声で叫んだ明日香と、素直に好きと言えと言った千枝。今思い出すと、戦いの場で思い切った事を言ったなぁと思っている2人

 簡単に言えば、恥ずかしくなり何を話せばいいのか分からないのだ。

 

「「あッあのさ!」」

 

 明日香と千枝が何かを言おうとしたが、ちょうどハモッてしまい、またもや何も言えずに固まってしまった。

 

「あ明日香からどうぞ」

 

「いッいや千枝からで」

 

 と互いにどうぞどうぞと言い合っているせいで話が全然進まなかった。

 そんなやりとりがかれこれ30分ほど続き、2人は鮫河へと来た。

 

(そういえば……)

 

 明日香は鮫川での出来事を思い出していた。

 千枝と指切りをしたあの日の出来事を

 

「なぁ千枝、行き成りすぎて悪いけどさちょっと土手まで行かね?」

 

「え?うん……いいけど」

 

 明日香に誘われ、一緒に土手へと降りた千枝。

 土手に入り、川の水は静かに流れていた。

 明日香と千枝は土手にある切り株に座り、此処であったことを話す事にした。

 

「此処で俺がいじめっ子たちと喧嘩したことあったよな。多勢に無勢で俺が泣かされた時の。それで千枝が俺を助けに来てくれた時の事を」

 

「あ~あったね。アタシが来ただけで逃げた事にはもうツッコまないつもりだけど、それで色々と話したよね。その……明日香の事が好きだって事も」

 

 千枝はその当時の事を鮮明に思い出して、顔を赤くしながら。

 

「俺が強くなったら結婚してください。そう言って指切りしたっけな……俺はあの時から千枝の事を好きだって自覚したんだ」

 

 そう言って明日香は、再度千枝が好きだと改めてそう思った。

 

「ねぇ明日香、なんでアタシなんか好きになったの?アタシって女の子っぽくないし、オシャレとかあんまりした事無いし、肉大好きだし……正直言ってアタシみたいなんかを好きになるなんて」

 

 千枝が自分の事を下に見ていたが、明日香がそんな事無いと首を横に振りながら

 

「俺が最初は千枝の事は元気がいっぱいな女の子だと思ってた。千枝が気になってからは俺は千枝をいつも目で追っていた。笑顔を浮かべていた千枝を可愛いと思い始めていた……一目惚れだったんだ」

 

「俺が強くなったり、正義の味方紛いの事を続けていたのも……千枝に見てもうのと千枝に相応しい人間になりたいって思ったから。だから……その……」

 

 明日香は何と言っていいか言葉が詰まっていたが、覚悟を決めて千枝の肩を掴んだ。行き成り肩を掴まれ赤くなる千枝。

 

「千枝、ハッキリ言って俺はまどろっこしい事は好きじゃない。だからハッキリと言う……里中千枝さん、俺は初めて会った時から貴女の事が好きでした。こんな俺で良かったら付き合って下さい」

 

 明日香は人生で初めての告白をした。

 そして告白された千枝の反応はと言うと……

 

「え……えと……本当にアタシなんかでいいのかな?」

 

 未だに戸惑っており、本当に自分なんかでいいのかと聞いてきた。

 千枝の反応に明日香は苦笑いを浮かべ

 

「何言ってんだよ。俺は千枝の事が好きなんだ。俺が千枝を護りたいんだ」

 

 明日香は自身の思いを千枝にぶつけた。

 明日香の気持ちが本物だという事に、千枝は赤くなりながら俯いて

 

「こッこんなアタシで良ければその……よろしくお願いしま……す」

 

 千枝は明日香の告白にOKをした。

 千枝がOKをしたのに明日香は何故か呆然としていた。

 千枝があれ?と首を傾げていると明日香が

 

「いや、嬉しいはずなのに何というか……言葉が出ない」

 

「……ぷッ何よそれ」

 

 明日香の言った事に千枝は吹き出した。明日香も千枝の笑っている所を見て、一緒に大笑いをした。

 笑いあった明日香と千枝は互いに見つめ合いながら

 

「千枝、改めてだけど……これからもよろしく」

 

「うん、よろしくね」

 

 明日香と千枝は笑いあいながら帰る事にした。恋人らしく手を繋いで……

 

 

 ――夜――

 

 夜は未來が珍しく早く帰ってこれたので、3人で夕ご飯を食べていた。

 

「そう言えば雪子ちゃんが無事に見つかってね、雪子ちゃんの御母さんから連絡があったんだよ。明日香達が雪子ちゃんを見つけたって。雪子ちゃんを何処で発見したんだい?」

 

 未來が明日香に何処で雪子を見つけたのかを尋ねていた。

 

「何処ってジュネスだよ。見つけた時はかなり疲れていたけど」

 

 明日香の言った事に成程と未來は頷きながら

 

「ジュネスは何人かが見回っていたんだけどね、何処かですれ違ったのか……でも雪子ちゃんが無事に見つかってよかったよ」

 

 未來はそれだけ言うとそれ以上は何も言わなかった。

 

「父さん俺を咎めたりはしないの?俺達は勝手に雪子を助けたんだよ?」

 

「確かに捜索をするのは警察の役目、でも明日香達が雪子ちゃんを助けようと言う気持ちは、遊びでもなんでもない事は分かっているつもりだよ。けどこれっきりにしてほしいな。遼太郎君だとお説教は長いはずだからね」

 

 未來は笑いながらそう言った。明日香は未來の寛大な心に感謝した。

 

「あのさ父さん母さん、ちょっといいかな?大事な話があるんだ」

 

 明日香の大事な話に未來と明野は首を傾げていると、明日香は千枝との関係について話した。

 

「こんな時期に不謹慎かもしれないけど……俺、千枝と正式に付き合う事になったんだ」

 

 明日香の話に未來と明野は黙って聞いていたが、明野がまぁまぁまぁ!と顔を輝かせた。

 

「何時告白したの!?やだもぉ~もっと早く行ってくれたらお赤飯炊いたのに~!」

 

「まぁ明野さん落ち着いて、でも明日香が千枝ちゃんとか……漸くって感じだねぇ」

 

「何時か千枝ちゃんにお義母さん、なんて呼ばれちゃうときが来るのかしらぁ」

 

 明野は興奮しながら明日香の両肩をグワシ!と掴むと

 

「明日香、絶対千枝ちゃんを泣かせるんじゃないわよ」

 

 と強く言われ、明日香ももちろんだと頷いた。

 こうして明日香が千枝との事について話した事で、軽いお祝いとなったのであった。

 

 

 自分の部屋に戻った明日香は、今日は特に一日が長く感じた……とそう思っていた。

 明日香はふと自分もペルソナの力を手に入れたから、もしかしてテレビに自力で入れるのでは?とそう思った。

 試に自室のテレビに手を当ててみると、手がテレビに吸い込まれてしまった。成程テレビの世界に入るにはペルソナの力が必要のようだ。

 

「しかしシャドウやらペルソナやらと、有りえない事が続いてるな……」

 

 と明日香は一瞬遠い目をしていたが、改めて事件の事について纏めてみた。

 今のところは、殺された山野アナに関わった人間が襲われている。小西先輩は山野アナの遺体を見た第一発見者だし、雪子の家の天城屋旅館に山野アナが泊まってトラブルがあった。

 今のところ襲われているのが、山野アナに関わったあるいは目撃した女性となっている。犯人が女性だけを狙っていると考えても少し疑問が残る。

 小西先輩は酒屋の娘ではあるが、山野アナや雪子と言うより天城屋旅館のようなメディアに取り上げられるほど有名ではない。

 

「ん?メディア……?」

 

 明日香はメディアと言う言葉で何かを思い出した。そう言えば山野アナや小西先輩、そして雪子もテレビの中に放り込まれる前に一度ニュースで顔が映っていた。小西先輩はモザイクがかかっていたが、稲羽であそこまで目立つ髪型は早々いないだろう。

 

「まさか、マヨナカテレビに映ったりテレビに放り込まれている人たちの共通点は、山野アナに関係してる訳でもなく、女性と言う訳でもない。メディアに取り上げられた人間が狙われているのか?」

 

 山野アナに関わったり、襲われたのが3人とも女性という事で惑わされそうになるが、もし山野アナの遺体を最初に発見したのが男であったら?もしそうだったら狙われるのが女性と言う線は無くなる。

 そしてもし次に襲われる人間が山野アナと関わりを持ってない人物がニュースに出て、マヨナカテレビに映ったらまさにメディアに取り上げられた人物が狙われるという事になる。

 

「まぁ次のマヨナカテレビに映れば分かるか……って人の命が危うい事になるって言うのに、不謹慎だな」

 

 今日は疲れており、物事をマイナスで考えてしまいそうだ。もう今日は早く寝ようとベットに寝ようとしたら、電話が着信で震えた。

 誰からだ?と見てみると千枝の名前が、明日香は直ぐに着信ボタンを押した。

 

「如何したんだ千枝?」

 

『あッゴメン明日香、若しかして寝ようとしてた?』

 

「いやまだ寝ないさ。それで如何したんだ?」

 

 明日香は何か要件を聞いてみると

 

『いや、明日香の事だから事件の事をあれこれ考えすぎちゃって、頭の中がパンクしそうになってるんじゃないかって』

 

 明日香は千枝がさっきまでの自分を見ていたのでは?と思ってしまった。

 

「凄いな千枝、分かったな。千枝は何でも分かるんだな」

 

 と千枝に感心してると

 

『なんでも分かるわけじゃないよ。明日香が考えている事なら分かってるつもり。明日香もあんまり自分一人で考え込まないで。その……彼女のアタシが居るんだからさ、アタシをもっと頼ってほしいな』

 

「あぁ分かった。もし困った事があれば、千枝に助けてもらうよ」

 

 明日香がそう言うと、千枝はよろしいとそう返した。

 と千枝があッあのさ……と急にしおらしい雰囲気を出しながら

 

『こッ今度の休みの日にさ、2人でどっか行かない?』

 

「え?それって若しかしなくてもデート?」

 

『うッうん……ダメ?』

 

「いッいや駄目じゃない、寧ろどんと来い!って感じだよ」

 

 友人同士でのお出かけではない。恋人同士の初めてのデートだ。此処で断ったら男が廃るというものだ。

 電話越しの千枝もよかったとホッと一安心の様だ。

 

「それで、出掛ける場所は何処?」

 

『えっと……ジュネスでもいいかな?』

 

 千枝の要望に、明日香はズッコケそうになった。

 初めてのデートが地元で、店長が友人の父親で、そして友人がそこでバイトしてるのだ。もし2人きりの時を目撃されたら、何を言われるか分かったもんじゃない。

 

『前にテレビを買い替えようって事でジュネスに言った時に、テレビの中に入ったりで大騒ぎだったじゃない。だから改めて見に行こうっと思って』

 

「うん、いいんじゃないか?それ位だったらお安い御用さ」

 

 最初から遠目の場所に行っても千枝が戸惑うだろう。だったら最初は地元などで慣れさせて、遠くの場所に行くことにしよう。

 

『よかった。じゃあ今度の休みにジュネスでね?それじゃお休み。また明日ね』

 

「お休み千枝。今度の休み楽しみにしてるから」

 

 互いにお休みと言って、電話を切った明日香。

 その顔は笑みを浮かべていて、小躍りをしていた。

 そしてベットに横になると、たった数分で寝息を立ててしまったのであった。




次回は学校生活回ですかねぇ
エビが出るかも


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

 4月19日(火) 朝

 

 雪子を無事に助け、雪子や明日香もペルソナの力を手に入れた。そして明日香は千枝と恋人同士になったのだ。

 その翌日の朝

 

「え?何で赤飯?」

 

 朝食が白米でなく、赤飯となっていた。

 明野がふふ~んと上機嫌で笑いながら

 

「何でって昨日言ったでしょ?お祝いだから赤飯炊こうって」

 

「いやだからって、朝から赤飯って……」

 

「まぁまぁ、朝から赤飯って言うのも悪くないよ」

 

 未來は笑いながら赤飯を頬張っていた。

 明日香も文句があると言う訳ではないので、まぁいっかと明日香も赤飯を食べることにした。

 朝食を食べ終えると明野は、何時ものようにお弁当を明日香に手渡した。手渡したのだが……

 

「母さん、何か今日の弁当は何時もより重い感じなんだけど」

 

「うふふ、今日は何時もより多めに作ったの。よかったら千枝ちゃんと一緒に食べてね」

 

「千枝と?……まぁいいけど」

 

 明日香は別段気にせずに、弁当を持って外へと出て行った。

 明日香は気づかなかった。雪弁当を渡した明野がにんまりと笑っているのを。

 外へ出た明日香は、千枝を待っていると直ぐに千枝が玄関から出て来た。

 

「あッお待たせ明日香」

 

「お早う千枝、それじゃあ行こうか」

 

 千枝が来たので学校に行くことにした。

 

「あのね、雪子からさっき連絡があったんだけど、雪子元気にはなったけど当分の間は学校は休むそうだよ」

 

「そうか……でも雪子が直ぐに元気になって良かったよ」

 

 明日香と千枝が雪子の事を話し終えると、他愛のない話をする。

 ふと千枝と目が合った明日香はフフと笑ってしまった。明日香の笑いにつられて千枝も笑みを零した。

 明日香は実感する。あぁ漸く千枝と俺は結ばれたんだな……と

 

「如何したの明日香?なんだかとっても嬉しそう」

 

「まぁね。恋人同士になった千枝と一緒に登校するのは、何か一味違う感じがしてね」

 

「アハハハ、確かにアタシと明日香ってお隣同士だから何時も一緒に学校行ってたからね。でも彼氏一緒に学校を登校するって、結構憧れがあったんだよね」

 

「よかったな憧れが叶って、俺も千枝の恋人になりたいって言うのが叶ったし」

 

 明日香と千枝はアハハと笑いながら登校していた。周りの登校してる生徒なんか見向きもせず。

 明日香と千枝の周りにいた生徒達は、2人の仲を見て若干引きながらその光景を見ていた。

 学校に着いた明日香と千枝は自分達の教室に入ると、もう悠と陽介は教室にいた。

 

「お早う~」

 

「お早う」

 

「おうおはようさん」

 

「お早う」

 

 千枝と明日香が陽介と悠に挨拶をし、陽介と悠も挨拶を返した。

 明日香と千枝が自分達の席に座ると前日ことを話す。

 

「しっかし昨日は色々と疲れたねぇ。おかげで肩がバッキバキだぜ」

 

 陽介が肩を回しながらそう言った。

 

「ゴメン陽介、俺の影が色々と迷惑をかけて」

 

 明日香は自身から出た影の暴走に申し訳なさそうにしていたが、気にすんなよと陽介は笑いながら

 

「俺だって自分のシャドウとか出たんだし、おあいこだって」

 

「誰にだって、言いたくない事はあるさ」

 

 陽介と悠のフォローにありがとうと礼を言う明日香

 

「そう言えば天城は如何なんだ?」

 

「当分は学校は休むって。体はもういいそうだけど念のためにって」

 

 陽介は雪子は如何してるかと尋ねて、千枝が今のところは旅館で休養中だと教えた。

 

「そっか……でも俺らで天城を助けたんだよな。やっぱすごい事だよな」

 

「確かに、テレビの中に入ったりペルソナなんて不思議な力とかも持ってるしな。俺はまだペルソナの力を使った事無いけど」

 

 陽介の言った事に、明日香も同意した。

 

「これ以上テレビに誰かを放り込まれたくないけど、何かあったら俺らで対処しよう」

 

 悠がやろうと言って、明日香達3人が頷く。

 4人が意気込んでいると教室にモロキンが入ってきたので、HRが始まった。

 

 ――昼休み――

 

 明日香は一段と重かった弁当箱を机に置いた。明野は千枝と一緒に食べてほしいと言っていたが、どういう意味なのか

 明日香が色々と考えていると、千枝が申し訳なさそうに明日香を呼び

 

「ねぇ明日香、悪いんだけどさお弁当分けてもらってもいいかな?」

 

「あれ?弁当はないのか?」

 

 明日香が尋ねると

 

「それがさ、お母さんお弁当作るの忘れたらしいんだよ」

 

「忘れたと……千枝のお母さんにしては珍しいな」

 

 千枝の母親はしっかり者であり、千枝を此処まで育てたのだ。

 そんな母親が弁当を作り忘れるのは珍しい。

 

「お母さん、弁当作り忘れたのに悪びれた様子も無かったし、何か変にニヤニヤしてたと言うか嬉しそうと言うか……なんか絶対隠してたよ」

 

「ふぅん……まぁいいや母さん今日はいっぱい作り過ぎたって言ってたし、千枝が食べれる分ぐらいはあると思うぞ。屋上で食べようぜ」

 

「本当?ありがとう明日香」

 

 明日香は何時もより重い弁当を千枝と一緒に屋上で食べることになった。

 明日香はこの後、誰も居ない屋上で弁当を食べた事をよかったと思うようになる。

 屋上に着いて、袋を開いて見ると何時もの弁当箱ではなく、2段重ねの重箱である。何で重箱?と思いながらも重箱を開けてみた。

 上の2段目は千枝が大好きな肉料理やら、サラダや卵焼きと色々とおかずが入っていた。

 此処までは普通だ。しかし1段目の方を見て、千枝と明日香は固まった。

 

「えっと明日香これ……」

 

 千枝が指を差した1段目の重箱には御飯が入っており、ご飯の上には明日香と千枝とのりで名前が書かれており、その周りをさくらでんぶがハート形で囲っていた。

 明日香と千枝が正直言って痛い弁当を見ていると、重箱の底に手紙が入っていた。何の手紙かと明日香は開いて見てみると

 

『お弁当どうだった?千枝ちゃんと仲良く食べてね♡ お母さんより』

 

「母さんんんんッ!?」

 

 明日香は手紙を握りしめて思わず叫んでしまった。

 

「明日香これは如何いう事なの?」

 

 千枝が如何いう事なのかと尋ねた。明日香は誤魔化しても意味は無いと思い、正直に全部話した。

 

「ゴメン千枝、昨日の夜に父さんと母さんに千枝に告白したことを話したんだ。大切な事だしちゃんと話しておかなきゃって」

 

「だからお母さん、今日機嫌が良かったんだ。若しかしてお弁当作り忘れたのもこの事かな?」

 

 明野と千枝の母親はとても仲が良い。明日香の家と千枝の家の関係はとても良好と言える。

 恐らく明野が事前に千枝の母親に連絡をしたのだろう。

 息子に文字通り春が来たという事で張り切りすぎじゃないのかと明日香はそう思ってしまった。

 

「ごめん千枝、恥ずかしい思いをさせて」

 

「ううん全然気にしてないよ。いつかはお母さんとかに話そうと思ってたんだし、少し早くなっただけだよ」

 

 明日香が謝っても、千枝は別段気にしてはいないようだった。

 千枝が食べようと言ったので、明日香も気にしないで食べることにした。

 恥ずかしい弁当ではあったが、味は文句も無く美味しかったので明日香と千枝は2人で大量にあった弁当を平らげたのである。

 

 

 ――放課後――

 

 行き成りだが、高校生の間での学生生活で欠かせないのは部活ではないだろうか。

 運動部で青春の汗を流すのもよし、文化系部に入って皆とのコミュニケーションの輪を広げるのもよいだろう。

 と言っても高校生の部活は義務制でもないので、帰宅部でアルバイトなどをするのもよいだろう。

 モロキンも夜遊びをする位なら、部活で青春の汗を流せと口酸っぱく言っているのだ。

 何故行き成り部活の事を話したのか……それは今日を含めた数日間、転校生の悠が色々とトラブルに巻き込まれるからである。

 

 

 明日香と千枝が談笑しながら昇降口に向かっていると、学校掲示板を見ている悠を見た。

 

「あれ鳴神君じゃん。何見てんの?」

 

「里中、明日香……いやこれを見ていたんだ」

 

 悠が見ていたのもの、それはバスケ部の部員勧誘のポスターであった。

 

「何だバスケ部の勧誘かぁ。悠はバスケやったことあるのか?」

 

「いややった事はないけど、興味はある」

 

「だったら見学に行ってみるか?バスケ部に知り合いがいるから。千枝も一緒に来てもらってもいいか?」

 

「うんいいよ」

 

 千枝もついて行くという事で、明日香達はさっそくバスケ部の活動場所である体育館へと向かった。

 

 

 

 体育館に到着した3人は、バスケ部が活動をしているか確認してみると、一応活動はしていた。

 殆どの部員は気怠そうにパス練習をしていたが、一人だけ張り切って練習をしている者が一人、あと何故かサッカーのユニフォームを着ている者が1人混じっている。

 

「おーい!」

 

「じゃまするけど、今大丈夫か?」

 

 千枝と明日香が体育館に入ると、張り切って練習をしていた男子が振り返った。

 

「さッ里中さん!日比野も!悪いちょっと休憩!」

 

 張り切っていた男子はメンバーの一人にボールを渡すと、明日香達の元へやって来た。

 

「やッやぁ里中さんそれに日比野も。何の用だい?」

 

「あぁ一条、転校生は知ってるよな?バスケ部に興味があったらしくてな、連れてきた」

 

 明日香は何の用かと尋ねてきた一条に簡潔に教えた。

 一条はマジで!?と喜びながら悠の方を見て

 

「最近来た転校生だよな?バスケに興味あるの?」

 

「興味があって仮入部を……」

 

 悠が話している間に、一条が悠の手を取って

 

「俺、一条康。入部大歓迎だから!」

 

 と爽やかな笑みを浮かべながら自己紹介をしたが、この流れはバスケ部に入部する流れだと

 一条が自己紹介していると、サッカーのユニフォームを着た男子生徒も近づいてきた。

 

「サッカー部の長瀬だ。よろしく」

 

 サッカーのユニフォームを着た男子はやはりサッカー部のようだった。しかしサッカー部の長瀬が何故バスケ部の練習に付き合っているのか?

 

「サッカー部が何故?」

 

「あぁ練習抜けてバスケ部に遊びに来てんだ。一条とは腐れ縁でな」

 

 悠が尋ねると、長瀬は簡潔に教えてくれた。

 

「バスケ部はあんまり人がいないから」

 

「挙句には幽霊部員の方が活動してる人よりも多いと来たもんだ。だから長瀬が偶に来てサッカー部の手伝いに来てるんだと」

 

 千枝と明日香の説明に成程と頷く悠。

 

「ウチの部、幽霊部員が多くて潰れかけてて、だから入部大歓迎!」

 

 一条は悠の手をブンブンと振って、悠をバスケ部に勧誘しようとした。

 

「あの……俺は仮入部を」

 

 悠は少々戸惑っていると、一条は頼む!と懇願してきて

 

「期間限定でもいいから、頼む!」

 

「……まぁ試しにやってみたらどうだ悠?」

 

 一条の必死の頼みに、明日香が悠にやってみないかと聞いてみると

 

「えっと……分かった。期間限定なら」

 

 期間限定の仮入部という事で話が付いた。

 一応の仮入部という事で、新たなメンバーが出来た事に喜ぶ一条。

 

「ありがとう!短い間かもしれないけど、よろしく!」

 

 一条の爽やかな笑みを見て、悠は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 悠がバスケ部に仮入部が決まり、最初のやる事は練習ではなく練習後の後片付けであった。

 一条が悠の紹介をした後、練習を再開しようとした。が、他のメンバーはヤル気は失せておりほとんどが帰っており、数名しか残っていなかった。

 しかもバスケ部のマネージャーである女子生徒、名前を海老原あいと言うが、彼女は後片付けもせずにさっさと帰ってしまった。

 海老原に続くように他のメンバーも合コンなどの理由で後片付けもしないでさっさと帰ってしまった。

 残ったのは明日香に悠と千枝、そして一条と長瀬である。彼らで後片付けをすることになった。

 

「全く、何もしないで先に帰るなんて、勝手すぎるよ」

 

 千枝は勝手に帰った海老原や他のメンバーに文句を言っていた。

 

「ごめん里中さん。日比野も……鳴上なんて今日仮入部してくれたばっかだって言うのに」

 

 ボールを磨いていた一条が申し訳なさそうに謝った。

 

「いいさ此れ位」

 

「困った時はお互い様だ」

 

 悠と明日香が別段気にしてないと言った感じでそう答えた。

 

「ほんとアイツ等、あんまりやる気が無いからなぁ……なぁ日比野、バスケ部に入ってアイツ等を少しでもいいからヤル気を出す様に指導してくれないか?」

 

「冗談、俺が指導なんかしたらもっと幽霊部員が増えるぞ」

 

 一条は明日香もバスケ部に勧誘したが、明日香は勧誘を断った。断ったのにはわけがある。

 実は明日香は高1のころは剣道部に所属していた。実力も中々といった所で、3年が引退したのちはその強さを衰えない様にと明日香は張り切っていた。

 が他の部員たちは先程のバスケ部と同じほどにやる気を出しておらず、明日香の指導について行けずに部員たちが退部、遂には剣道部は廃部となってしまった。

 

「まぁそういう事だ。俺のせいでバスケ部を廃部にするのは居た堪れないからな」

 

「そっか、分かった。でも偶には助っ人として力を貸してほしい」

 

 一条の頼みに分かったと頷く明日香。

 今日の活動はここまでで、バスケ部は解散した。

 

 

 

 




ヤバい何かやる気が起きないでグダグダになってしまった
次回はこの話の後半となります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

お久しぶりです
約10ヶ月以来の投稿です
覚えていてくれたら幸いです


 4月20日(水) 朝

 

 

「今日も母さん千枝と一緒に食べなさいってかなり多めの弁当だったな。今回は変な感じじゃないよな……」

 

 呟く明日香、他の男子からしたら女子とお昼なんて羨望の眼差しなのだが。

 モロキンに聞きたい事があったから職員室に行き、モロキンからお前は生徒の鏡だなんて行き成り褒め始め、次には最近の生徒はと愚痴りだした。ただ愚痴りたかっただけなんだなと明日香は正直どうでもよかった。

 職員室から出たら午前の授業が始まりそうになっていた。急いで戻ろうと思っていると、階段に悠と海老原の姿があった。

 何やら話しているが、悠と海老原は教室ではなく昇降口に向かっていた。

 

「悠、海老原さん、もうすぐ授業が始まるのに何処行くの?」

 

「あ、明日香」

 

「うッ日比野君……」

 

 明日香が呼び止めると海老原は目線を逸らした。

 

「悠、これから何処に行くんだ?」

 

「エビの付き添いでバスケ部の大切なモノを買いに行く」

 

「エビってあぁ海老原さんのエビね……それで本当なのか?海老原さん」

 

「えッえぇそうよ。一条君に頼まれて。ほッほら私マネージャーだから」

 

 怪しいと思いジーッと海老原を見つめていたが、今回は海老原の言う事を信じる。

 

「気を付けてね。悠も海老原さんに何かあわないような」

 

「あぁ」

 

「それじゃあ日比野君、私達はこれで!」

 

 海老原は悠を連れてそそくさと昇降口に向かって行った。

 

「海老原さん、見た目があれだからと思ったけど、ちゃんとマネージャーをすることもあるんだな」

 

 なんてことを思いながら明日香は教室に向かう。

 

 

 

 ―――――昼―――――――

 

 

「で海老原さんと鳴上君をそのまま行かせちゃったんだ」

 

「あぁ。何かヤバかったか?」

 

 昼休憩にて、明日香と千枝は2人だけで屋上でお弁当を箸でつついていた。

 明日香が朝にあった事を千枝に話すと、千枝は溜息を吐きながら

 

「明日香、もしかしてだけど海老原さんの噂を知らない」

 

「海老原さんの噂?どんなんだ?」

 

「やっぱり知らないか……実は海老原さん学校じゃ評判悪いんだよ。平気で授業をさぼったりするから。部活のマネージャーをやってるのも出席日数のためなんだって。これは噂なんだけど、夜に知らないおじさんと二人で歩いていたとかなんとか」

 

「海老原さんそんな事を。もしかして朝の事も嘘だったのか」

 

「うん……鳴上君、今頃海老原さんの荷物持ちやってるんじゃ。しかもアタシらの担任モロキンだし」

 

「転校早々授業なんかサボったら即ロックオンか。すまない悠。何かあったら俺がフォローするから」

 

 今はいない悠に謝罪をする明日香である。

 

「所で話変わるけどさ、海老原さんってすごく美人じゃん?それにお洒落大好きみたいだし、同じ女として憧れちゃうなぁ……」

 

「確かに綺麗だけど、俺にとっては千枝が一番だから」

 

「ちょっやだ明日香ったら」

 

「千枝……」

 

「明日香……」

 

 互いに見つめ合う2人。付き合いだしたらまるでバカップルのような雰囲気を出している2人であった。

 

 

 

 4月21日(木) 放課後

 

 

 特にやる事もない明日香は、悠のいるバスケ部に遊びに来ていた。

 千枝は雪子のお見舞いである。偶には女の子同士でゆっくりするといいと明日香は千枝にそう言った。自身の影との戦いの後、心に余裕が出来た明日香である。

 今日の練習は、相も変わらずパス練習を行っている。悠の相方は一条だ。

 

「上手いな。やっぱり鳴上は素質があるよ」

 

 悠の投げたボールをキャッチしながら、一条はそうほめた。

 明日香はまだ海老原が来てない事に気ずく。

 

「今日もマネージャーこねぇのか」

 

「バスケ部唯一の楽しみなんだけどな」

 

「あれだろ?放課後は男漁りに忙しいんだろ?遊んでいるらしいぜ?」

 

「パパとか居るんだってよ」

 

「あの顔であの体であの腰だろ?そりゃパパの1人や2人居ても可笑しくないって」

 

 明日香はバスケ部の部員の好き勝手な物言いにムッと来た。海老原が不在だからと言って、言っていい事と悪いことがある。

 部員を注意しようとしたが

 

「お前らいい加減にしろよ。あることないこと言われちゃかわいそうだろ!」

 

 一条が部員たちを注意した。言葉に怒気が入っているのを見て本気で怒っていると明日香は感じた。流石は一条と思った明日香

 

「いやこりゃマジなんだって……ッ!」

 

 まったく反省していない部員の一人がまた何か言おうとしたが、固まってしまう。

 明日香は固まった部員の方を見てみると、其処には海老原が立っていた。

 海老原は何も言わずに体育館を後にした。

 

「あッあの!」

 

 一条は海老原に何か言おうとしたが、海老原に睨まれてたじろいでしまった。

 海老原の去って行った後に、体育館が気まずい雰囲気となる。

 

「やっべぇ、今の絶対聞かれてたよな」

 

「すんげぇ睨んでた。どうしよう」

 

 自業自得だ。呆れて溜息が出る明日香。

 一条はどうすればいいのか立ちすくんでいて、悠が代わりに海老原を追いかけていた。

 

「どんまい、元気出せって一条」

 

「わりぃ日比野、なんかさ」

 

「一条は悪くないさ。本人が居ないからって平気で好き勝手言う奴を注意したんだからな」

 

 明日香は黙って部員たちを睨みつける。部員たちは気まずそうに逃げるように体育館を後にしていた。

 

「たく後片付けぐらいはして帰れっての」

 

 結局後片付けは明日香と一条でする事となった。

 本当にやる気が無いんだなとそう思っていると

 

「はぁ」

 

 一条は溜息を吐きながらボールを磨いていた。

 

「どうした一条、今日は何時もより元気が無いな」

 

「あぁゴメンな日比野」

 

 謝りながらボールを磨く一条、溜息を吐きながらボールを磨く姿を見ると何やら訳がみたいだ。

 

「本当に何かあったんだったら話相手になるぞ?」

 

「ありがとう。でも別に大したことはないからさ」

 

 それからは無言で作業をして、一条が後はやっておくと言ったのでお言葉に甘えて体育館を後にした。

 教室に忘れ物をした事に気づいて、忘れ物を取りに戻り家に帰ろうと思った矢先、屋上で何やら騒がしかった。

 見上げてみると、悠と海老原が何やらもめているのが見えた。

 最初は駆けつけた方がいいかと思ったが、悠に任せていれば大丈夫だろと、そんな軽い気持ちで判断してしまった明日香はそのまま帰ってしまった。

 だがこの後、悠が色々と大変な目にあう事を今の明日香は知らなかった。

 

 

 

 4月22日(金) 朝

 

 

 久しぶりに明日香・千枝・悠・陽介・の4人が集まったので一緒に学校に向かう事になった。

 

「どうよ悠、バスケ部にはもう慣れたのか?」

 

 陽介は悠のバスケ部はどうかと聞くと、何故か悠はビクッと大げさに反応した。

 そして明日香と千枝を交互に見て、えっと……と言葉を詰まらせていると

 

「ゆ~~~う~~~~!!」

 

 海老原がにこやかに笑いながら、悠と下の名を呼びながら走ってきた。

 明日香達の事なんか無視して、海老原は悠の手を握って

 

「悠!今日は学校なんかサボって2人で遊びに行こう!ね!」

 

 悠が何か言う前に海老原は悠の手を掴んで何処かへ行ってしまった。

 

「なんだアイツら?」

 

「さぁ?」

 

 陽介と千枝は首を傾げていたが、明日香だけはこれは何かあったなと直感で感じ取った。

 悠と海老原のサボりはかなりの生徒に見られており、結局……

 

 

 4月23日(土)午前

 

 

 悠と海老原のサボりはモロキンの耳にも入っており、悠と海老原はモロキンに説教を受けられていた。

 堂島にも報告がされており、これはおじさんも説教だなと思った悠である。教室に戻ってきた悠はぐったりしていた

 

「大丈夫か悠?」

 

「なッなんとか……」

 

「海老原さんと付き合うなんて、鳴上君も大変だね」

 

 陽介と千枝がぐったりしているから大丈夫かと聞くと、辛うじて答える悠。

 

「悠、疲れている所悪いが今日の放課後ジュネスのフードコートに集合するぞ。事件のまとめをしたいからな。海老原さんと何かないか?」

 

「あぁ今の所だいじょう『♪~♪』うぐッ!!」

 

 大丈夫だと言おうとした瞬間、悲劇の着信音が流れて、悠は息を詰まらせた。

 電話に出た悠だが、相手は海老原の様で明日香達にも聞こえるほど大きかったが、悠は電話を切ってしまった。

 

「おい悠、いいのか?電話に出ないで」

 

「……」

 

 明日香の呼びかけに悠は数秒黙っていたが、もう一度電話をかけて教室を去った。かなりの小声で……

 

 

 

 ――放課後――

 

「どう思う?あの2人」

 

 結局悠はジュネスにくる事は無く、明日香・千枝・陽介の3人で集まる事になった。

 話も事件の事ではなく、悠と海老原の関係の話となった。

 

「悠と海老原だろ?海老原問題児だし、俺としては以外って思った所もあるけど、何かお似合いじゃん?海老原ってこの町には居ない都会っぽい感じの女子だし、悠も元都会人だし」

 

「花村も元都会人じゃん。でも海老原さんとは……うん合わない」

 

「陽介は地雷を踏んで勝手に自滅しそうだ」

 

 明日香と千枝に言われてヒデェと落ち込む陽介である。

 話を悠と海老原の関係に戻そう。

 

「俺は悠は、海老原さんに仕方なく付き合ってる気がする。付き合うと言うのは普通は両者が楽しむものだと思ってるし、なんか悠は引っ張られて疲れているって感じだ」

 

「明日香もそう思うでしょ?鳴上君も嫌なら嫌っていっそのこと言えばいいのに。周りの人の事を気にしないでベタベタしたり、授業をサボるなんて鳴上君らしくないよ」

 

 まったくと呆れながら怒っている千枝を見て陽介は

 

「う~んそうだな……おっし閃いた!!」

 

「は?」

 

「いや!みなまで言うなって。泥船に乗ったつもりで、全部俺に任せておけって!」

 

 サムズアップをする陽介を見て2人は思った。あぁコイツ絶対面倒な事を起すつもりだなぁ……そう思ってしまい溜息が出て止まらなかった。

 

 

 

 4月26日(火) 放課後

 

 どうやらバスケ部は近いうちに他校のバスケ部と練習試合をすることになったらしい。

 てきとうに練習をしていたバスケ部のメンバーは大ブーイング。

 そこに明日香・陽介・千枝が部活に遊びに来た。

 

「よう少しいいか?」

 

「なんだ花村か。バスケ部に何かようか?」

 

 千枝を見て一瞬顔を赤くした一条が何の用か尋ねると

 

「里中がさ、バスケ部のマネージャーをしてみたいってさ」

 

「え゛!?」

 

「えッ!?」

 

 陽介の言った事に千枝はギョッと、一条は少し嬉しそうな声を上げた。

 

「仮入部って可能か?」

 

「そッそりゃあもちろん!」

 

 千枝の了承も得ずに話が勝手に進んでいく。

 

「ちょっと花村、どういうことよ?」

 

 陽介と明日香を体育館の端の方に連れて行き、小声で話し始める千枝

 

「いいから話を合わせてくれって。一条には悪いけど、一回ぐらいは失恋も大切だろ」

 

「失恋?」

 

 陽介の言った事に首を傾げていると陽介は

 

「知らなかったと思うけど一条の奴、里中が好きだったみたいなんだぜ」

 

「え?そうだったの?」

 

 知らなかった事を聞いて驚く千枝、確かに一条は偶に千枝の事を目で追っていたからもしやと思った明日香

 

「ほんとついさっき海老原のクラスの女子に聞いたんだけどな、海老原が悠と付き合う前によく話題にしてた男子が一条なんだってさ」

 

「えっとつまり何か?海老原さんは何処かで一条が千枝の事を好きだって言うのを聞いて、腹いせで悠と付き合っているのか?」

 

 明日香は思った事を口にする。もしそうだったなら悠はかなり迷惑な事になって事になる。じっさいかなり疲れていたし

 

「まぁそうなんじゃねぇのか?」

 

 そこでだと陽介は提案する。

 

「里中がマネージャーとして仮入部して、それで海老原に言うんだよ『アタシにはもう好きな人が居るから、自分の都合で鳴上君に迷惑をかけないで』ってな」

 

「アタシが言うの!?だって海老原さん……」

 

 千枝が海老原の事を見てみると、海老原は千枝の事を睨んでいた。

 

「うわッなんか海老原さん怖い。それに花村、アンタなんでアタシに好きな人が……」

 

 陽介は呆れながら

 

「あのな、明日香とのシャドウの戦いのときにお前ら大声で告白してたじゃねぇか。それにお前らが屋上で仲良さそうに昼飯食ってるの知ってる奴が居るんだぜ?」

 

「なんか視線があったような気がしてたんだけど、気のせいじゃなかったのか」

 

「え?それ本当なの明日香。やだ何か恥ずかしい」

 

「かえって堂々としてる方が良いのさ。俺と千枝の仲の良さを見せつければいい」

 

「はいはい御馳走様でしたと」

 

 明日香の堂々とした台詞に苦笑いをする陽介

 

「けど陽介、もし千枝に何かあったなら、たとえ陽介でも許さないからな」

 

「大丈夫だって、そうならない様に俺もちゃんとフォローするからよ」

 

 こうして千枝がバスケ部のマネージャーとして仮入部すると言う裏腹に、とある作戦が始まろうとしていたのであった……

 そして部活が終わり、悠は帰ろうと思っていたら校門に明日香が立っていた。

 

「お疲れ」

 

「あぁ。里中は?」

 

「先に帰ったよ。偶には悠と帰ろうと思ってさ。一緒に帰ろうぜ」

 

「そうだな」

 

 明日香と帰る事にした悠。

 暫く黙っていた悠だったが、ふと口を開いた。

 

「一条が今度の試合が終わった後に、バスケ部を止めるかもしれないそうだ」

 

「一条が?……若しかして一条の家の問題か?」

 

 明日香は一条の家の事情を知っている。明日香も友人としては助けてやりたいが、家の問題には流石に口出しは出来ない。

 

「……今度の試合に勝ったら里中に告白するみたいなんだ」

 

「そう……か」

 

 やっぱりか……そう思った明日香。一条は何かと真っ直ぐな性格だが、それが今回裏目に出るとは

 

「なぁ悠」

 

「なんだ?」

 

「そのなんだ、こんな時に言うのもなんだけどさ……俺と千枝な最近になって正式に付き合う事なったんだ」

 

 明日香が言った瞬間、悠は表情を硬くした。今の悠の頭の中はもう色々な事でいっぱいいっぱいなのだろう。

 明日香は悠の肩を軽く叩きながら

 

「俺が一条に話すさ。千枝には俺が居るお前には悪いけど諦めてくれってな。正直俺が言うのは嫌味でしかないかもしれない。でも俺がキッチリと話を付けなきゃいけない」

 

「明日香……」

 

 なぁ悠と明日香は悠の方を向きながら

 

「お前は海老原さんと一応付き合ってるけどさ、正直言って楽しいと思った事はあるか?それと海老原さんも本心から悠と付き合ってると思うか?」

 

 明日香の問いに悠は首を横に振りながら

 

「エビは正直言って無理をしてると思う。無理して俺の事を好きになろうとしているようだった」

 

 一条の事を本当に諦めたのなら、千枝の事を睨まないはずだ。

 

「やっぱり恋愛って言うのはさ、互いに好きじゃないといけないと思うんだよ俺は。確かに恋愛なんてそんなに簡単に上手くいくとは思ってないさ。けどな一方的に押し寄せるなんて結局はただの迷惑な行為に変わりはないと俺は思うんだ」

 

 俺の考えだからなと明日香は苦笑いをしながらそう言う。

 

「海老原さんも、ちゃんと自分の気持ちに正直になった方がいいんだ」

 

「ありがとう」

 

 悠がお礼を言うが

 

「何言ってんだよ。正直俺は悠に感謝してるんだ。悠のおかげで俺は自分の心に正直になれて千枝と結ばれる事が出来た。俺に出来る事があるんだったらなんでもするさ」

 

 そう言って明日香と悠はしっかりと握手をした。その瞬間、明日香と悠の間で何かが繋がったような気がしたのである。

 

「そう言えば里中とは付き合ってると言ったけど何かしたのか?」

 

「え?まぁ屋上で一緒に同じ弁当を食べたりかな」

 

「青春だな」

 

「久しぶりに聞いたな悠のそのセリフ」

 

 なんて談笑をしていると、2人の前に一人の少女が歩いてきた。

 白と青を強調としたファッションで、大きい青色のカバンが目立つ。いろんな意味で目立つため、稲羽に住んでいる子ではないと直ぐに分かった明日香

 

「あ……」

 

「知ってるのか悠?」

 

 どうやら彼女の事を知っているようだ。

 悠は彼女に近づいたので、明日香も近づいた。

 

「マリー」

 

 悠は彼女の名前を呼んだ。マリーとは珍しい名前だ。

 

「あッまた会えた……」

 

 マリーと呼ばれた少女は、無表情に近い感じで返事をした。

 とマリーは明日香にも気付いたのだが

 

「君はだれ?」

 

 かなり無愛想な感じで何者かと尋ねてきた。

 変わった子だなと明日香は思っていると

 

「明日香だ。俺の友達だ」

 

「日比野明日香と言います。よろしくマリーさん」

 

 マリーに自己紹介をする明日香だが、マリーは何かを考えていて

 

「こういうの聞いた事がある。確か堅物?それにマーガレットと何か似てる」

 

 初対面の相手に堅物とはよく言いきったなぁと思った明日香。マーガレットと言うのはマリーのお姉さんなのだろうか。堅物とは……

 とマリーはジッと明日香を見て

 

「君は……ふーん」

 

 特に何も言わずに、マリーは去って行った。

 

「不思議な女の子だったな。マリーさんとは何処で知り合ったんだ」

 

「稲羽の駅で最初に会った」

 

 不思議な女性もいるもんだ。途中で悠と別れて帰った時にそう思った明日香である。

 だがマリーが今後悠や明日香達、ペルソナ使いに大きくかかわる事になるとは、知る由も無かった。

 

 

 

 4月29日(金)祝日  午前

 

 

 波乱の展開へとなりそうなバスケ部の練習試合。

 メンバーは全員集まっているのだが、バスケ部で来ているのは悠と一条だけ、助っ人として明日香に陽介、そして長瀬が集まっただけであった。

 

「どんだけヤル気ないんだよ。大丈夫かバスケ部」

 

「まぁ何時もの事だ。気にするな」

 

 ユニフォームを着た陽介が呆れたような溜息を吐き、それを長瀬が慰めた。

 一方千枝は、練習試合の記録としてのビデオカメラを設置し終えた。ちゃんと映るかどうか試しに映していると、海老原が遮った。

 

「腰掛けでマネージャーされても迷惑なんだけど」

 

 敵意丸出しな海老原の態度にムッとする千枝であったが、怒りを飲み込みながら

 

「そっちこそ、最近部活に来てなかったらしいじゃない」

 

 それからは無言の睨み合いが続く

 

「今のあの2人には近づきたくない感じだなまったく」

 

「千枝大丈夫だろうか」

 

 明日香が心配している中、試合は始まるのであった。

 ジャンプボール、最初に制したのは相手のチームである。それを必死に追いかける明日香達であるが、相手の方が上手のようで先取点を決められてしまう。

 明日香達が点を取ったり取られたりの攻防をしている中、千枝と海老原による女の戦いも繰り広げられそうになった。

 

「そばで見てたら、ますますムカついてきた。何でこの私がアンタみたいなダサい娘に負けたなんて」

 

「ダサいって、あんまりお洒落とかしてないから言われても仕方ないけど、言われたらアタシでも傷付くなぁ」

 

 海老原に対して落ち着いた態度を見せている千枝。だが海老原にとってはますます気に入らない様子で

 

「アンタのせいで、私は大迷惑をこうむってんの!」

 

「ならアタシも言わせてもらうけど、海老原さんに振り回されている鳴上君が可哀そう」

 

 千枝の言った事に海老原は小ばかにしたように

 

「何アンタ、もしかしてアイツの事が好きなの?」

 

 ううんと千枝は首を横に振りながら

 

「鳴上君は友達だよ。それにアタシにはもう彼氏がいるから」

 

「……は?」

 

 海老原は千枝の言った事が信じられないと言った感じで呆けた声を出す。

 

「アンタみたいなだっさい女に彼氏?どうせアンタと同じようにだっさい男なんでしょ?」

 

「ううん。一条君や鳴上君と今一緒に試合をしてる明日香が、アタシの大切な彼氏だよ」

 

「なッ!?」

 

 海老原は信じられなかった。明日香はひそかに女子に人気があった。

 それなのに目の前の千枝が明日香の彼女とは信じられなかった。

 

「アタシダサいかもしれないけど、彼氏持ちって事で海老原さんよりは女としては上だよね」

 

 千枝の言った事に何かが切れた海老原は

 

「愛されている上に友達なんて持って……贅沢なんだよ!アンタ!」

 

 叫びながら千枝に平手打ちをしようとした。

 が海老原がそう言った行動に出るかもしれないと思った千枝は、海老原の腕を掴んで離さない。

 

「ッ!」

 

「悪いけどアタシはもう明日香の女なの。アタシの顔に傷でもつけたら私は怒るし、明日香も許さないと思うから」

 

 千枝の凄味のある目に思わずたじろぐ海老原

 

「おっある意味青春だなこれは」

 

「馬鹿言ってないでボールを追うぞ陽介!」

 

 千枝と海老原の遣り取りを見て、ニヤついている陽介を注意する明日香。

 そして千枝に任せたとアイコンタクトをして、明日香はボールを追いかける。

 

「ねぇ海老原さん、アタシもね、正直言って最近まで明日香との関係がなんか曖昧だった。明日香だけがアタシを見てくれるからそれでいいって思ってたんだ。鳴上君が来てくれたおかげでアタシや明日香は変わる事が出来た」

 

「鳴上君はいい人だよ。でもだからといって彼に甘えちゃいけないんだよ」

 

  千枝に言われて、黙る海老原。

  悠は海老原に近づき

 

「エビ、一条の最後の試合になるかもしれない。だからしっかりと見るんだ」

 

  悠の言ったことに海老原は目を見開いた。そんな事は一度も聞いていなかった。一条の家の事情はすこしだけ知っていたが、まさかバスケを辞めるかもしれないというのは、知らなかった。

 それなのに自分は、一条の好きなのが千枝なのを知って、自暴自棄になって悠の答えも聞かずに勝手に付き合って。一条が千枝と付き合っているわけではないのに、自分の想いを伝えずに……海老原は今更だが、自分の行いに後悔した。

 だったら今はしっかりと一条の試合を見守ろう。海老原は練習試合をしっかりと見続けることにした。

 何とか問題は解決した。明日香と千枝は頷きあい、悠と陽介にアイコンタクトを送った。

 試合は残す所数分、一条のためにもこの試合は絶対に勝つ。ボールに向かっていく悠と明日香はそう思った。

 

 

 

 

 ―午後―

 

「一条」

 

「おぉ日比野か」

 

 練習試合が終わり、一条は学校の屋上で下を見降ろしていた。

 

「試合、中途半端に終わったな」

 

「そうだなぁ」

 

 練習試合は、引き分けに終わった。

 最初は相手校が優勢であったが、試合終了間近になって明日香・悠そして一条が踏ん張り同点まで追い込んだ……なお陽介はそこまで目立ったプレーは見れなかった。

 

「やっぱ里中さんに告白する!……なんてことを宣言しっちゃたのがいけなかったのかなぁ」

 

「一条、あのさ……」

 

 明日香は自身がもう千枝と付き合っていることを言おうとしたが

 

「知ってるんだよ。日比野と里中さんが付き合っていること」

 

 一条は明日香と千枝が付き合っていることを知っていた。

 

「いつから知ってたんだ?」

 

「練習サボったバスケ部の一人がさ、偶然日比野と里中さんが告白しあってるのを見ちゃってさ」

 

 結構前からだった。

 

「……聞くのは悪いと思うけど、何で千枝に告白しようと思ったんだ?」

 

「けじめをつけようと思ったからかな。叶いもしない恋を引きずるよりも、いっそ告白して潔くフラレる方がよっぽどいいかなと思っただけだ」

 

「すごいよ一条。俺はそういうことは出来ないよ」

 

「よせよ。てかさ、里中さんと席近いし幼馴染なんて羨ましいんだよ!」

 

 このこのと肘で明日香の脇腹をつつく一条。

 じゃれあった直ぐに一条はため息をついて

 

「これで俺の初恋も終わりかぁ。合コンで新しい恋でも見つけるか」

 

「直ぐに見つかるさ。爽やかな一条ならお似合いの彼女がさ」

 

 その後直ぐに一条が千枝と付き合ってどうなんだ?と聞いてきたから、明日香は自然な感じでのろけ話をしたのであった。

 

 

 

 

 練習試合が終わった打ち上げとして、愛屋で皆で食べた。

 千枝がバスケ部のマネージャーはこれっきりと一条に伝え、海老原は自分はずっとバスケ部のマネージャーを続けるよと一条に熱心に伝えた。

 一条と海老原がいい雰囲気になったところでお開き。

 現在明日香と千枝は帰路についていた。

 

「そっか、一条君はアタシと明日香が付き合ってるのしってたんだ」

 

「あぁ。知っていてなおけじめとして、告白して潔くフラレようとしたんだ。同じ男として、大した奴だと本当に思うよ」

 

「本当。でもね……」

 

 千枝は明日香の目をしっかり見て言った。

 

「一条君が自分の気持ちを正直にぶつけるんだったら、アタシもしっかりとこう言うよ。アタシは明日香と付き合ってるんじゃなくて、明日香のことが本当に好きだって」

 

 面と向かって言われて、赤くなる明日香。

 

「そういうことを真顔で言われるのは、少し恥ずかしいな。でも俺も千枝のことが大好きだ」

 

「そっそのありが……とう」

 

 互いに赤くなる。

 

「そっそういえば、雪子そろそろ学校にこられるみたい」

 

「そっそっか。だったら少し落ち着いたらどこかに出掛けるか!」

 

 初々しい二人は改めて何処かへ出掛ける話をしながら帰っていったのであった

 

 

 

 

 




今度から文字数を減らしていこうと思っています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話

早めに書き終わった……


 4月30日(土) 放課後

 

「まったく。悠も陽介もお金持ってきてないなら全部食べるなよな」

 

 文句をいいながら購買に向かっている明日香。

 雪子が漸く復帰して学校にやって来た。

 復帰したお祝いとして屋上でワイワイと騒いでいた。

 千枝がカップうどんとカップそばを買ってきた。

 最初は雪子と千枝が食べてたのに、悠と陽介が一口とせがんできた。

 最初は一口食べたのだが、箸が止まらず全部食べてしまった。

 詫びとして悠と陽介が買うことになったのだが、小銭が足りないために明日香が買うことになった。

 そして現在に至る。

 

「悠と陽介には今度奢って貰うか……ん?」

 

 財布が落ちていた。拾ってみると女物のがらだ。

 職員室に届けておくか……そんなことを考えていたら、どこからか騒ぎ声が聞こえてきた。

 

「何だ?購買の方から聞こえるな……」

 

 購買へ急いでいってみると

 

「だからとってねぇって言ってるだろぉが!!」

 

「嘘つくんじゃないわよ!不良の言うことなんか信じられるわけないじゃない!」

 

 金髪で長身の男子と女子がもめていた。

 

「おばちゃん何をもめてるんだい?」

 

 購買のおばちゃんに騒動の原因を訪ねると

 

「何でもあの女の子が財布を落としたらしくてね、偶然歩いていた巽君がとったって言い張ってるのよ。彼見た目がいかついじゃない。とってないって言っても信じていないみたいなのよ」

 

 巽……明日香は金髪の男子の顔をよくみて、そして思い出した。

 

「(巽ってもしかして巽屋の完二か。ずいぶんとたくましくなったな。見違えたな)」

 

 巽完二は小さい頃はよく見かけていた。実家が染め物屋で雪子の旅館がお土産として染め物を取り寄せている。その時に完二とは面識があった。

 昔馴染みが言いがかりをされているのは黙っていられない。それよりも何もしていないのに、勝手に決めつけるのが許せない。

 

「止めろ。彼がとったと言う証拠もないのに言いがかりはよせ。それに落とした財布というのはこれだろう」

 

 明日香が落とし物である財布を女子に見せた。さっきまで怒鳴っていた女子は何も言えずに黙った。どうやら持ち主のようだ。

 女子は明日香から財布をひったくるようにとって、この場を後にしようとしたが

 

「待てよ。さっきまで言いがかりをかけた巽には謝らないのか」

 

 自分の方が分が悪いと理解している女子は、小さい声でごめんなさいと謝り、逃げ出すように去っていった。

 

「まったく……お前も災難だな完二」

 

「どもっす日比野先輩」

 

 完二は明日香に会釈をした。

 彼は見た目が不良ではあるが、根は素直で優しい少年である。

 

「お前も見た目で決めつけられて災難だな。でもお前が根がいいやつっていうのは、分かってるからさ」

 

 カップうどんとそばを購入した明日香は、頑張れよと完二に言い、悠たちがいる屋上へと急いだ。

 

「日比野先輩……明日香さん」

 

 完二は明日香の後ろ姿をじっと見続けた後、購買を後にした。

 

 

 

 

 5月1日(日) 昼

 

 日比野家自宅、玄関のチャイムがなった。

 

「は~い。あらあら千枝ちゃんこんにちは」

 

「おばさんこんにちは」

 

 明野が玄関を開けると、いつものみどりのジャージ姿の千枝が立っていた。

 

「明日香ぁ。千枝ちゃんが来たわよぉ!」

 

「大丈夫!もう用意は終わってる!」

 

 明野に呼ばれ、事前に準備できていた明日香が降りてきた。

 明日香も白い上着をはおる、いつもの格好だ。

 

「悪い千枝。本当だったら俺が向かいに来るつもりだったのに」

 

「いいよ。いつも明日香が迎えに来てくれてるんだし、たまには逆もいいでしょ」

 

「うふふ。千枝ちゃん初めてのデートで張り切っちゃたみたいね。明日香、しっかり千枝ちゃんをエスコートするのよ」

 

「かっ母さん。千枝の前で言わないでくれよ。結構恥ずかしいんだから。それじゃあ行ってくる」

 

「おばさんいってきま~す」

 

 明野に見送られて出発した2人。

 今日は雪子が復帰して落ち着いたら出掛けようと言った日。簡単に言えばデートである。

 

「そのさ、いつもの格好だけどいいのかな?」

 

「大丈夫だ。俺はいつもの千枝が好きだから。それよりも初めてのデートがジュネスでよかったのか?」

 

「うん。やっぱ初めては地元の方が落ち着くし、それに……デートで来たらなんかいつもと違うんじゃないかなってさ。アハハ」

 

 千枝のはにかんだ笑顔を見てカワイイと思った明日香。恥ずかしくなって思わず俯く千枝。どちらも初々しいかんじである。

 

「早くいこう。時間は有意義に使わないと」

 

「そっそうだよね!いこういこう!」

 

 照れながらもジュネスへと急いだ2人。今ここに悠がいたら「青春だな」というセリフがでそうな雰囲気であった。

 

 

 

 

 ジュネス家電売り場。

 2人は家電売り場のテレビを見ていた。

 前々からテレビを買い換えようという話はしていた。

 

「明日香はさ、どういうテレビがいいと思う?アタシらの一家、家電には疎くてさ。アタシもでっかくて安いのならなんでもいいかなぁって」

 

「最近のテレビはでかくて高性能な品が増えてるらしいけど、その反面値段が高いからなぁ。でかくて安いとなると、少し前のやつか最悪中古品になっちゃうかもなぁ」

 

 恋人同士になっても、会話はいつもと同じ。それが彼らの基本スタイル。

 

「あれ明日香と里中じゃん。うーす」

 

 テレビを見ていたら陽介がやって来た。

 

「花村じゃん。おーす」

 

「よう陽介。陽介はバイトか?」

 

 ジュネスのエプロンを着けているし、食品売り場でのバイトだろう。

 

「まぁな。それにしてもお二人仲良く、もしかしてデートか?デートでジュネスとか変わってんなぁ」

 

 陽介は2人を冷やかしたが

 

「まぁね初めてのデートは地元で落ち着ける感じがいいと思ってたし」

 

「見栄はって遠いところ行って失敗する……なんてことはしたくないからな」

 

 相思相愛な2人を見て、ハイハイごちそうさまごちそうさまと苦笑いを浮かべる陽介。

 

「ととそろそ持ち場に戻らないとな。んじゃお二人さんごゆっくり」

 

 陽介はそう言って持ち場へと戻っていった。

 しばらくテレビを品定めしていると

 

「あれ鳴上君じゃん」

 

 悠が現れた。千枝は悠を呼ぶ。

 

「おーい鳴上くーん!と……誰?」

 

 悠の後ろには前にあった不思議な少女、マリーがいた。

 

「またあった。えっと……堅物」

 

 それもう定着してるのね……思わずずっこけそうになった明日香はそう思った。

 自分の彼氏である明日香が堅物と言われ、苦笑いを浮かべる千枝。がマリーのことがきになるから、悠にマリーのことを聞いた。

 

「鳴上君、この子誰なの?もしかして鳴上君の彼女とか」

 

「彼女はマリー。ここの駅で知り合った。時折会っているんだ」

 

 千枝にマリーのことを紹介し、悠は千枝は自分の友達だということを教えた。

 マリーは千枝をじっと見て

 

「ミドリ」

 

 アダ名のつもりだろうか。千枝がみどりのジャージを着ているからなのか。なんと安直なアダ名だろうか。千枝は乾いた笑い声をあげた。

 

「堅物とミドリはどうして一緒にいるの?」

 

 堅物とミドリ……端から聞くと奇妙なカップルだなぁ。そんなことを明日香は思っていると

 

「マリー、二人は付き合ってる恋人同士なんだ」

 

 第3者に言われると恥ずかしいと思った明日香と千枝。

 しかしマリーは

 

「恋人同士って何?私と君と一緒にいるのと何が違うの?」

 

 悠に恋人同士というのは何のかと聞いてきた。冷やかしやからかいではなく、本当に恋人同士がなんなのかわからないようだ。

 悠は返答に困った。今までだって付き合ったことが皆無なためにどう答えたらいいか……

 困った悠は現在千枝と付き合っている明日香に、アイコンタクトで助け船を求めた。

 明日香は悠の代わりに、恋人同士がなんなのかを教える。

 

「マリーさん、恋人同士というのは一緒にいると楽しくて、離れてしまうと心がチクチクして痛い。ケンカもするけど、相手が大切だから直ぐに仲直りができる。いつまでも大切にしたい……それが恋人同士だと俺はそう思ってるよ」

 

 自分の考えをマリーに伝えた。自分のことを言われていると実感している千枝は、嬉しい反面恥ずかしくなり赤面していた。

 明日香に恋人同士がなんたるかを教えてもらったマリーは

 

「ふ~ん……あっそう」

 

 自分から聞いてきたのに、返答はなんとも淡白なものだった。

 肩透かしをくらった明日香を無視して、マリーはテレビの映像を熱心に見ている。

 

「マリーちゃんはテレビ好きなの?」

 

「うん好き。だけど鼻が見せてくれない」

 

 テレビを見せてくれないのは結構厳しい家なのか。というより鼻と呼んでいるのは家の人と仲が悪いのだろうか。

 

「マリーさんは好きなテレビ番組はあるの?」

 

「やじうまテレビ」

 

 明日香・悠・千枝は首を傾げた。そんな番組は聞いたことがない。

 

「知らない?やじやじ~うま!」

 

 マリーはその番組の決めポーズをしたが、やっぱり知らない。恐らく他方のテレビ番組なのだろう。

 同意を得られなかったマリーはもういい、とそっぽを向いてまたテレビを見始めた。

 しばらくして見飽きたのか、さよならを言わずに家電売り場を後にした。

 悠は二人にサヨナラを言うと、マリーを追いかけた。

 

「マリーちゃんて不思議な子だね」

 

「ファッションもここら辺のじゃないし、都会の子なのかもな。都会は進んでるんだなぁ」

 

 改めて都会は凄い所だと実感した明日香と千枝である。

 その後は屋上のフードコートで軽く食べ、スポーツエリアで物色して、気に入ったものがあったので購入した後、ジュネスを後にした。

 

 

 

 

 帰り道、いつもの雰囲気の2人。

 

「それで千枝、初めてのデートはどうだった?」

 

 明日香は初めてのデートの感想を千枝に聞いてみた。

 千枝はう~んと少し唸った後に

 

「なんかいつものおんなじ感じだった」

 

 あっけからんに言いきった千枝。だなと頷く明日香は

 

「幼馴染が恋人同士になったら最初はこういうもんだと俺は思うよ。それに幼馴染だからこそ遠慮なく楽しめると思うしな」

 

「そうだね」

 

 笑い合う2人。だけど……と明日香が

 

「そろそろ中間テストがあるから、遊ぶ時間とかメッキリ減るなぁ。テスト勉強大事だし」

 

 明日香のテスト発言に千枝が固まった。

 

「……千枝?」

 

「アハハ……最近色々と大変だったからテスト勉強してない」

 

 困った困ったと苦笑いを浮かべる千枝。

 

「ふぅ……晩飯一緒に食べた後、勉強会だな」

 

「よろしくお願いいたします」

 

 

 

 

 その日の夜、明日香の家にて晩飯をごちそうになった千枝。

 そのすぐに明日香の部屋にて軽い勉強会が始まった。

 最後は勉強会となったが、初めてのデートはとても楽しかった。そう思った2人だった。

 

 

 

 

 




今度から多くても五・六千字にまとめられるように頑張ります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話

 5月2日(月) 放課後

 

「すごい……本当にテレビの中にこんな世界があるなんて」

 

 復帰した雪子にテレビの中の世界。そしてペルソナについて色々と話した。

 救出した時は疲労などで意識や記憶が途切れ途切れだった。落ち着いて、雪子が元気になったら改めてここに来ようと決めていたのだ。

 そしてマヨナカテレビの内容やへたをしたら雪子が死んでいたかもしれないことを話した。

 雪子も自分が死ぬかもしれないと聞かされたときは、顔色が悪くなった。でも……と雪子が

 

「ありがとう。千枝やみんなが私を助け出してくれたそれだけ今わかれば十分だから」

 

 雪子が笑ってくれた。最近見ていなかった雪子の微笑み。今まで溜め込んでいた胸のつっかえがとれてスッキリしたのだろう。

 いつもの雪子に戻ってくれた。幼馴染である明日香と千枝は本当によかったと心からそう思った。

 

「それにしても、クマのやつどこに行ったんだ?アイツが居ないと困るってのに」

 

 陽介はクマが来るのを待っていた。クマが来ないと色々と始まらないからだ。

 陽介がクマが来ないことをぼやいている矢先に、クマが現れた。

 

「おようやく来たか。ってどうしたんだよ?」

 

 クマは見るからに元気がなかった。

 しょんぼりとしているクマは

 

「クマ、みんなが来なくってさびしかったクマ。みんなが来るあいだ、ずっとさみしんボーイだったクマよ」

 

 クマは皆が来ないあいだ一人ぼっちで寂しかったようだ。つい最近までごたついていて、こっちの世界に来ることがなかったからだ。

 雪子はクマに近づくと、優しく頭を撫でながら

 

「ごめんね。でも今度から時間がある時はここに遊びに来るから」

 

 雪子に撫でられていい気分になったクマは

 

「まっまぁ遊びに来てくれるなら、許してあげるクマよぉ」

 

 調子いい奴と陽介が呆れていると

 

「そうだった、ユキちゃんにプレゼントがあるクマ!」

 

 そう言ってクマが取り出したのは、雪子のイメージカラーである赤の眼鏡だ。

 皆がかけているように、雪子も眼鏡をかけてみると霧が消え、周りがくっきり見えることに驚いた。

 

「もうひとつプレゼントがあるクマ。はいクマ」

 

 クマはもうひとつの眼鏡を雪子に渡した。渡された眼鏡をかけてみた。

 どんな眼鏡だと思った明日香だったが、もうひとつの眼鏡をかけた雪子を見て固まった。

 何故ならその眼鏡が……鼻眼鏡だったからだ。

 

「……」

 

 鼻眼鏡をかけた雪子は黙っていた。

 まさか鼻眼鏡なんてものをプレゼントされて、怒ってしまったのだろうか。

 

「雪子……?」

 

 千枝がおそるおそる雪子の様子を見てみると

 

「ぷっ……ぅくくくく、あははははは!おおかおかしぃあははははは!」

 

 いきなり大爆笑した雪子に呆然としてる悠と陽介。

 幼馴染である明日香と千枝は別段驚いた様子はない。

 

「なんかこの雪子久しぶりに見た気がする」

 

「雪子は変なところがツボだからな。長年友達やってるけど、いまだにわからん」

 

 2人は慣れっこのようだ。

 その後、雪子は千枝に鼻眼鏡をつけてこれまた大爆笑。最初は微妙な表情をしていた千枝や明日香達だったが、雪子につられて笑ってしまった。

 雪子がいつもの調子に戻ってよかった。そう思った明日香であった。

 

 

 

 ―夜―

 

 夕食を食べ終わった明日香の家の電話が鳴り響いた。

 

「はい日比野です。まぁ遼太郎君」

 

 電話は堂島からのようだ。

 

「元気にしてた?……え?明日香に話があるのね。ちょっと待ってね。明日香~遼太郎君からよ」

 

「わかった」

 

 堂島は明日香に用があるようだ。

 

「はい電話かわりました」

 

『おぉ明日香』

 

 堂島の声がいつもより元気がない。そう感じとった明日香

 

『いきなりだが、お前明日は予定はあるか?』

 

「予定ですか?とくにありませんけど」

 

 明日からまた連休が始まる。それが何か関係があるのだろうか。

 堂島の話は、本来だったら明日は家族で日帰りで出かける予定だったが、急病で倒れた部下の仕事を代わりにすることになってしまった。

 

『お前が大丈夫なら、奈々子と一緒に遊んでくれないか?』

 

「奈々子ちゃんですか?はい構いませんよ」

 

 奈々子は堂島の一人娘だ。まだ7歳ではあるがしっかり者である。

 

『そうか。それじゃあ奈々子の事を宜しく頼む』

 

「はい分かりました。お仕事頑張ってください」

 

『……あぁすまないな』

 

 堂島が電話を切った。明日香は明野に明日の予定を伝え、自分の部屋へと向かう。

 そして千枝に電話をかけた。千枝が電話に出てから、明日の予定を伝える。

 

「てことで、千枝も明日付き合ってもらうけど構わないか?」

 

『うん大丈夫!アタシも久しぶりに奈々子ちゃんに会いたいし』

 

 千枝は明日香の付き合いで奈々子に何回か会った事があるのだ。

 

「それじゃあ明日はよろしくな」

 

『了解了解。んじゃお休み~』

 

 千枝が電話を切ったので、自分も明日遅れない様に今日は早く寝るのであった。

 

 

 

 5月3日(火) 午前

 

 

 堂島に頼まれ、明日香と千枝は悠と奈々子を誘うために堂島家へと向かう。

 堂島家に到着した2人はチャイムを押す。しばらくしたら、悠が玄関のドアを開けた。

 

「よ悠。これから遊びに行くんだけどさ。一緒に行かねえか?」

 

「奈々子ちゃん久しぶり!奈々子ちゃんも一緒に行く?ジュネスだけど」

 

 悠の後ろに隠れるように明日香と千枝を見ていた少女、奈々子はジュネスの言葉に反応した。

 

「いっいいの?」

 

「もっちろん!良いに決まってるじゃん」

 

 千枝が一緒に遊ぼうと奈々子にそう言う。奈々子は喜びを飛び跳ねで表現した。お出かけできるのが嬉しいようだ。

 悠と奈々子を誘った明日香と千枝はさっそくジュネスへと向かう。

 

 

 

 ジュネスフードコート。

 バイト中の陽介や家の手伝いを切り上げた雪子らと合流した。

 テーブルに座って談笑をしていると

 

「しっかしゴールデンウィークなのに、こんな店じゃ奈々子ちゃんが可哀想だろ」

 

「だって他無いじゃん」

 

 陽介の言った事に、千枝はそう返した。稲羽で一番大きい所と言ったら、ここジュネスしかないのだ。

 

「ううん、ジュネス大好き!」

 

 奈々子がジュネス大好きと言ってくれて、陽介は感激した。小さい女の子にジュネが好きと言ってくれるのは店長の息子である陽介は嬉しいってものである。

 けど……奈々子はシュンとなりながら

 

「本当はお出かけするつもりだったんだ。おべんとう作って」

 

「お弁当、奈々子ちゃん作れるの?」

 

 雪子が奈々子に弁当を作れるのか尋ねると、首を横に振って悠を見た。どうやら悠が弁当を作る係りの様だ。

 

「へー家族のお弁当係?すごいじゃんお兄ちゃん?」

 

 千枝が悠の事をからかう

 

「お兄……ちゃん?」

 

 奈々子は悠の事をジッと見てポツリと呟いた。

 

「へぇ料理とか出来るのか。確かに器用そうな感じはするけどな」

 

「でも悠が料理できるって言うのは、何か納得できるな」

 

「そんな事無い。下手の横好きだ」

 

 陽介と明日香が悠を褒めると、そんな事は無いと謙遜した。

 

「あっアタシも何気に上手いけどね。たぶん!お弁当ぐらいなら作ってあげたよホント」

 

 いや何故そこで張り合う千枝よ。と明日香が心の中でツッコミを入れた。

 

「いや、無いだろソレは」

 

 陽介がナイと言い切ると、ムキになった千枝は

 

「何で決めつけるのよ!?んじゃあ勝負しようじゃん!」

 

「ムキになってる時点でバレバレだろ。てか勝負って俺作れるなんて言ってねーよ」

 

 陽介はムキになった千枝を見て、呆れかえっていた。

 

「あ、けどお前位なら勝てそうな気がするわ」

 

「あはは。それ分かる」

 

 陽介にスパッと言われ、陽介の言った事がツボだったようで雪子が噴き出した。雪子が陽介の言った事を肯定して、千枝がショックを受けた。

 

「んじゃあ奈々子ちゃんが審査員かな?」

 

 矛先が奈々子に向いた事に、明日香はこの先の事が予想できてしまった。

 

「そっそうだ!奈々子ちゃんお腹すいたり、のど乾いてないかな?俺が奈々子に色々と買っちゃうよ!てことでジ店長の息子の陽介君、奈々子ちゃんが喜びそうなのをチョイスしてくれ!ついでに千枝と雪子も一緒に。悠は奈々子ちゃんと一緒に待っててくれ!」

 

「あぁ分かった」

 

「おっおい明日香?」

 

「うわわ」

 

「え?あの?」

 

 明日香は強引に話題を変えると、悠と奈々子をテーブルに待たせて、千枝たちを連れて行ってしまった。

 

「おい明日香、行き成りどうしたんだよ」

 

 陽介は強引に話題を変えた明日香に尋ねると。

 

「陽介、お前あの後奈々子ちゃんに、『奈々子ちゃんのお母さんと同じくらい美味しいものをつくれるのは誰か』みたいなこと言おうとしただろ」

 

「あぁ言おうとそたけど」

 

 やっぱりかぁと呟いた明日香は

 

「奈々子ちゃんのお母さん、事故で亡くなっちゃたんだよ」

 

 明日香の発言に陽介と雪子は絶句した。

 

「だから奈々子ちゃんの前でお母さんの話をするのはタブーな。奈々子ちゃんも分かっているつもりだけど、やっぱり寂しい思いをしてるのは確かなんだから」

 

「了解。まさか奈々子ちゃんのお母さんがそんな事に……明日香のおかげで地雷踏むことなくてよかったぜ」

 

「ほんとだよ。でもアタシもさっきはムキになり過ぎちゃったな。反省しないと」

 

 

 陽介と千枝はお詫びと言う事で、自分らからお金を出してジュースやスナックなどを色々と購入した。

 トレーを一杯にして、悠と奈々子が居るテーブルに戻ってきた。

 

「お待たせ奈々子ちゃん。奈々子ちゃんのために色々と買ってきてあげたよ」

 

「うわぁ!いっぱいある!」

 

 陽介が笑顔で奈々子にトレーを見せると、奈々子は目を輝かせた。

 明日香や千枝がスナックやジュースを配り、軽いパーティーが始まった。

 奈々子が楽しそうにスナックやジュースを頂いていると

 

「ねぇ奈々子ちゃん。いま楽しい?」

 

 雪子がさりげなく楽しいかと聞いてみると

 

「うん!お出かけ出来てうれしいし、それに……お兄ちゃんがいるし」

 

 悠の方を見て顔を赤くした奈々子。

 笑顔の奈々子を見て、楽しんでもらってよかった。そう思った明日香達であった。

 食べて飲んだ後は、時間が許す限りいっぱい遊んだのであった。

 

 

 

 

 

 陽介がバイトの時間になったのでバイトに戻り、雪子は旅館の手伝いと言う事で、旅館に戻った。

 奈々子も少し疲れた様子を見せたので、今日は解散となった。

 

「じゃあ明日香、里中」

 

「バイバイ!明日香お兄ちゃん。千枝お姉ちゃん」

 

 帰りの道中、悠と満足そう笑顔を浮かべている奈々子と別れて、自分達の家へと向かう明日香と千枝。

 

「奈々子ちゃん、楽しんでくれたみたいだな」

 

「うんよかったよかった!誘ったこっちとしては楽しんでくれただけで満足だよ」

 

 でも、と暗い表情になる千枝

 

「こんな事言うのは分かってるけど、奈々子ちゃんが可哀そう。折角のお休みなのにどこも出かけられないなんて」

 

「仕方ないさ。堂島さんも刑事としての仕事が忙しいだろうし。それに、まだ奈々子ちゃんとどう接していいのか分からない所もあるんだろうさ」

 

 奈々子の母親は保育園の迎えに行くときに、車に轢かれて亡くなった。しかも轢き逃げで、犯人は見つかっていないのだ。堂島はその犯人を捕まえるために何時も資料を漁っている。そして明日香の言う通り、7歳の少女である奈々子とどう接すればいいのか分からないのだ。

 

「でもさ悠が奈々子ちゃんのお兄ちゃんになってくれたから、自然と何とかなるんじゃないかと俺は思っている」

 

「それは……うん鳴上君ならなんとかしてくれそう」

 

 悠なら、奈々子と堂島の心の殻を破ってくれる。そんな気がしたのだ。

 

「それにしても、奈々子ちゃん見てると改めて子供って可愛いなって思うなぁ。アタシも欲しくなっちゃった」

 

「……そう言う事をおおっぴらに言うんじゃない。要らぬ誤解を生むだろうが」

 

 千枝の問題発言になりそうなセリフに、呆れながらツッコミを入れる明日香であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

久しぶり投稿出来ました。

近々ペルソナ5が発売されますが
わたくしユリヤめはPS4を持っていません。
ペルソナ5が出来る皆さまが羨ましいです……


 5月6日(金)放課後

 

 

「……あぁどうして連休が終わっちゃうんだろう」

 

 千枝がぐったりとした形でぶーたれていた。この連休と言う連休、ずっと遊び通しだった千枝。遊んでいたせいかあっという間に終わってしまったのだ。

 

「まぁ何事も、平和が一番だろ?ジュネスのパートのおばさんたちの噂話聞いてたけど、誰かが失踪なんて事も起きてないみたいだし、事件も天城の件で終わりじゃないのか?」

 

 陽介が問題なしと言う。陽介の言う通りこれで事件は解決したのであろうか……

 

「いや、そうとは限らない」

「悠の言う通りだな。まだすべてが終わったとも言えない。犯人がハッキリしていないんだからな。警戒はしておいた方がいい」

 

 悠と明日香がそう言い、陽介たちも改めて気を付けようと思った。

 

「事件も大事だが、俺たち学生には大切なものがある。試験がな」

 

 明日香が言った瞬間、千枝と陽介が分かるように沈んだ。

 

「あぁ何でそんな事言うのかねぇ明日香君は……俺その事考えないようにしてたのによぉ~」

 

 陽介は試験の事を考えないようにしていたようだ。

 

「はぁアタシ自信無い……明日香ぁ助けてぇ~」

 

「まったく、しょうがないな千枝は」

 

 早速明日香に助けを求めた千枝。この後に勉強会は目に見えている。

 

「いいよなぁ里中は、頼りになる明日香君が居てよぉ。明日香も学年じゃトップだからな」

 

「まぁ授業をしっかり聞いて、予習復習をしとけばまぁ普通に点は取れるだろうさ」

 

「ははぁ~その台詞、一度は言ってみたいもんだぜ」

 

 脱力した感じで言う陽介に千枝が

 

「だったら雪子に頼んでみたら?雪子も頭いいし」

 

「そう言えばそうだな。だったら個人レッスンでも頼んでみようかね」

 

「こっ個人レッスン!?」

 

 何も考えてないで軽い感じで個人レッスンと言った陽介に対して、過剰に反応する雪子。

 

「ん?どしたん天城?」

 

 パンと行き成り雪子が陽介の頬を叩いた。

 

「ぶべらっ!?なっ何すんの!?」

 

「あっゴメン。つい……ギャグだと思って」

 

「ギャグだと思ったならなおさら流せよ!」

 

 陽介のツッコミを見ながら、所でと明日香は悠に向き直る。

 

「所で悠って前の学校じゃテストの出来ってどれくらいだったんだ?」

 

「まぁそれなりに」

 

「ほほぉその『それなり』って台詞、出来るが謙虚に言っていると見た。今度の試験どっちが上か勝負しないか?負けたら1週間ジュースおごりで」

 

「乗った」

 

 明日香と悠がテストで勝負する事になった。

 

「テストで勝負とか、俺には考えられない事で、俺はギリギリ赤点回避できればそれでいいや」

 

 なんて後ろ向きな考え方の陽介であった。

 

 

 

 

 

 

 5月7日(土)放課後

 

 

 今日も何時も通りの学生生活を送った明日香達。午前中の現代文の細井先生の自分そっくりのパペットを使いながらの授業、そのパペットは自作なんだろうかと思いながらも授業を聞いていた明日香である。

 外の天気は雲行きが怪しく、雷も鳴っている。

 

「嫌な天気だなぁ。今にも落ちそうって感じ」

 

 雷が苦手な千枝は嫌そうに呟いている。

 

「うーす里中、この前割っちまった『成龍伝説』新しいの買って来たぜ」

 

 弁償として新しいのを買ってきた陽介だが、雷が近づいている事で千枝はそれどころじゃなかった。

 

「何だよ里中、お前雷怖いのか?格闘映画好きなんだから、雷が落ちてる中で新技が出来たなんて事しないのか?」

 

 からかっている陽介にカチンと来た千枝。

 

「ムカつく……人の気持ちも知らないで。落ちるんだったらコイツに落ちろ!」

 

 と言った瞬間、光と音が同時に来た。学校の電気が消えた、どうやら学校に落ちたようだ。

 

「里中が落ちろなんか言ったからだぞ」

 

「アタシのせいにしないでよ!ねぇ雪子明日香ぁ早くかえろ?」

 

「ねぇ千枝こんな話知ってる?真っ暗な校舎に忘れ物をした女の子が、急にトイレに行きたくなったの。トイレは不気味でふと鏡をみたら女の子の後ろに……」

 

「て何で急に怪談なんか話すの!?」

 

 急に怪談を話し始めた雪子にツッコミを入れる千枝。

 

「え?千枝怪談好きじゃなかった?」

「何故に今!?もうやだ。早く帰ろうよぉ」

 

 完全にビビっている千枝。明日香は安心させようと、千枝の肩にそっと手を置いた。だが何も言わずに手を置いたのが間違いであった。

 

「っいやぁ!」

 

 ガタっ!と席から立った千枝が、本気の回し蹴りが明日香の顔面を捕らえた。

 

「ぶべらぁっ!!」

 

 直撃した明日香は錐揉み回転をしながら、教室の後ろのロッカーへと直撃した。

 電気がついて、明日香がロッカーで伸びているのを見て千枝が大慌てになる。

 

「きゃあああっ!ゴメン明日香ぁっ!!」

 

 千枝は完全に気を失っている明日香の元へ急ぐ。

 

「完全に入ってたよな里中の蹴り。明日香、大丈夫だろうか」

 

「いい蹴りだった。全国は狙える」

 

「いや何のだよ」

 

 サムズアップをする悠をツッコむ陽介のコントを誰も見てはいなかった。

 

 

 

 

 

 5月8日(日)夜

 

 

 

 5月の第2日曜日、今日は母の日だ。お隣通しのよしみと言う事で、日比野家と里中家では『母の日会』と言った食事会を開催している。

 明野と千枝の母がごちそうを作り、他の家事は未來や千枝の父が手伝ったり、明日香と千枝はありきたりだが、カーネーションの花束をプレゼントであった。

 今回はこの母の日会の他にも、両父母にはめでたいことがある。

 

「さて、今日この日まで僕達のお母さんが健康で会った事と、僕の明日香とそちらの娘さんである千枝ちゃんが無事付き合う事になった事を祝して、乾杯!」

 

「ちょ!父さん!?」

 

 明日香が噴き出している間に、未來に乾杯の音頭を取られてしまった明日香である。

 明野と千枝の母は漸く明日香と千枝が付き合った事に華を咲かせ、千枝の父はめでたい事だと酒をたらふく飲んで、完全に出来上がってしまった。

 

「所で明日香君、うちの千枝のどこが好きになったんだい?」

「ちょっとお父さん止めてよ!」

 

 酔って絡んでくる千枝の父を止めようとする千枝であるが、明日香はここで誤魔化すのも駄目だと思い正直に答える。

 

「笑顔が素敵な所と、何処までも真っ直ぐな所ですお義父さん」

 

「はっはっは!もうお義父さんだなんて。千枝、素敵な明日香君と結ばれて良かったなぁ」

 

「もうお父さん、明日香まで……」

 

 恥ずかしくなって顔を赤くなる千枝に対して、酔っている未來が更なる事を言った。

 

「ふふ、これなら孫の顔を見るのも早くなりそうだね。でも子供はちゃんと大学を卒業して、仕事に着いてからじゃないと駄目だよ」

 

「ぶはっ!父さんも何言ってるのさ!?」

 

 といったどんちゃん騒ぎは、夜の10時まで続いたのであった。

 

 

 

 

「もぉ。お父さんもおじさんも、気が早いよもぉ」

 

 テストが近いと言う事で泊まり込みで勉強する事になった明日香と千枝。互いの両親は了承済みで、今は明日香の部屋で勉強中である。

 

「まぁおじさんもおばさんも、千枝が付き合えることになって嬉しいんだと思うよ」

 

 千枝に数学の公式を教えながら、にこやかに笑う。と急にペンを止める千枝。

 

「ねぇ明日香、行き成りで変な事聞くかもしれないけど……アタシって可愛い?」

 

「……うん可愛いさ。雪子よりもずっと」

 

「そのああアタシなんかで、そのっむっムラムラしたり、ええエッチな気持ちになったりとかしちゃったり、その……」

 

「こーら、女の子がそんな事言っちゃダメだろ?」

 

 顔を赤くしながら言う千枝に対して、割と強めにでこピンをする明日香。

 

「父さんの言う通り、そう言ったのは計画を持ってしないと、後々大変な事になるんだから。まったく……そういう事を言う子にはお仕置きが必要だな」

 

 くいっと千枝の顎を上げなら顔を近づける明日香。千枝は思わず目をギュッと閉じた。キスされる……千枝はそう思った。だがキスの場所が唇じゃなく、でこであった。

 

「……今は此れ位で我慢な?」

 

 一気に顔が赤くなった千枝は机に顔を突っ伏した。

 

「さて勉強を再開するぞ」

「……ごめん。ドキドキしちゃって集中出来ない」

「……だったら今回の試験、順位が2桁ならご褒美としてほっぺにキスを……」

「頑張る」

 

 一瞬で気持ちを切り替えた千枝に、やれやれと言った明日香であるが、ご褒美と言った明日香本人の方が顔を真っ赤にしていたのであった。

 

 

 

 5月9日(月)朝

 

 

 何時もの雰囲気の教室の中で、異様にヤル気に満ちている千枝が居た。

 

「里中、今日は何時もよりも張り切ってるけど、何かあったのか?」

 

「いやこの件については、俺と千枝の名誉のために黙っておくわ」

 

「青春だな」

 

「その一言で何かを察した悠さんがコワイワー」

 

 男子3人の遣り取りも終わり、中間試験がスタートした。

 

 

 5月9日~12日(木) 放課後

 

 

 無事に中間試験が終わった。明日香は勉強していたおかげで、回答を全て埋める事が出来た。後は結果を待つのみだ。

 一方千枝と雪子が試験の答え合わせをしていたが、千枝が何回か珍解答をしていたようだ。

 

「あぁ~これ順位2桁入ってるか心配だなぁ」

「順位2桁以内だと、何かあるの?」

「……ごめん。雪子でもこれは言えない」

 

 顔を赤くして、顔を逸らす千枝。

 

「何だよ里中、2桁以内だったら明日香にチューでもしてもらうのかよ?」

 

「「……」」

 

「マジかよオイ。頼むからモロキンや俺らが居ない所でしてくれよ?」

 

「教室の中で言わないでよ!」

 

 などと話していると、教室の男子生徒の何人かが、最近この町で暴走族が騒いでいると言う事を話している。

 

「ほんと迷惑だよね?雪子の所は大丈夫?」

 

「うん大丈夫。でも夜は出歩かない方がいいってお客さんに注意はしてる」

 

「でもこの町で、中学で族を潰したって伝説を作った奴がここの1年だって聞いた事あるな」

 

 それを聞いて、明日香はこの前会った完二だと思った。明日香よりも大きいあの体格なら一人で暴走族と相手をするのもわけないかもしれない。

 

「用心しておいた方がいいかもしれないな……」

 

「ん?どうしたんだ明日香?」

 

「ん?いや、千枝が2桁以内に入ってるといいなぁ~って思っただけさ」

 

 呟きを誤魔化す様に言った明日香の肩を、軽めに叩く千枝であった。

 

 

 

 

 5月13日(金) 夜

 

 

 中間試験が終わり、のんびりしている明日香と千枝。今日は明日香の家でゲームをしている明日香と千枝。

 家に帰ってきた未來がテレビをニュースにして欲しいと言ったので、ニュース番組にすると、丁度巷で騒がれていた暴走族の特番になっていた。

 

『てめーら、何しに来やがった!見せもんじゃねーぞコラァっ!』

 

 長身で金髪で体格のいい男、と言うより完二がカメラを向けているカメラマンたちに向かって怒鳴り散らしていた。

 完二を見て苦笑いを浮かべる未來。

 

「あはは、彼は変わらないなぁ」

 

「おじさんも知ってるんですか?」

 

「あぁ僕達警官で彼を知らない方が少ないかもね」

 

 

 未來は完二の事を軽く説明した。

 しかし完二が暴れているのは、夜中に暴走行為をして、眠れない母親の事を想って中三の時に暴走族を全員潰してしまったらしい。その時走っていたバイクと並ぶようにチャリをこいでいたとか。

 

「でもお母さんの事を想っていたんだったら、いい子っぽいですけどね」

「そうなんだけどね。でも彼やり過ぎちゃう所があるから、逆にお母さんが頭を下げちゃうことになるんだけどね」

 

 千枝と未來の遣り取りの中で、ぼかされている完二の事をジッと見続ける明日香。

 

「明日香?どうしたの?」

 

「千枝、大事な話がある。俺の部屋に来てくれないか?」

 

「へ?うん分かった」

 

 明日香は千枝を自分の部屋に入れ、誰も入って来ないように鍵を閉めた。

 

「それで、どうしたの明日香?大事な話って」

 

「あぁ。次のマヨナカテレビなんだが、次に映るのは完二だと俺は思う」

 

「え?でもマヨナカテレビに映るのは山野アナの事件にかかわった人間だけが映るんじゃないの?」

 

「俺も最初はそう思った。山野アナに関わった人そして女性が襲われる。けどそれだけじゃ可笑しいと思ったんだよ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話

最近全然書くことに手を伸ばしてない……軽いスランプ状態です……


 5月14日(土)放課後

 

 

 昨日の夜から雨が降っており、今日も雨はやまないようだ。つまり、今日の夜にマヨナカテレビが映ると言う事だ。

 明日香は悠と陽介に雪子と、昨日千枝と話していた事を話す。

 

 

「昨日明日香と里中が話してた、その巽完二って奴が映るかもしれないんだな?」

「正直何も映らなきゃいいんだけど」

「それが一番だけど、犯人に繋がる何かのヒントが見えればいいんだけどな」

 

 

 陽介が溜息を吐きながら言う。マヨナカテレビに誰も映らないのが一番いいのだが。

 

 

「んじゃ皆、今夜はテレビを欠かさずチェック。オーライ?」

 

 

 千枝の確認に明日香達は頷き、下校する事にした。

 帰り道の道中、雪子と途中で別れた明日香と千枝は、完二の事について話していた。

 

 

「でもさ明日香、その完二君ってさ明日香よりもおっきいんだよね?」

「そうだな、軽く180㎝はある」

 

 

 ハッキリ言えば完二は学校の中で一番でかいかもしれない。だからこそ彼は結構目立つのだ。

 

 

「それに喧嘩も強いんだなんて。そんな男子を本当に誘拐なんて出来るのかな?」

「まぁ力技で完二に勝つのは難しいだろうな。誘拐でよく使われるクロロホルムとかは簡単に入手できないし、強力なスタンガンで気を失わせたりすれば、いくら完二でも無力だからな」

「そっか、誘拐も何も力技でやればいいってわけじゃないもんね」

「まぁ頭も使うのが大事って、誘拐についてべらべらと喋るのも可笑しいか」

 

 

 などと喋りながら家に到着し、2人は夜になるのを待った。

 

 

 

 ―夜―

 

 

 明日香は自分の部屋のテレビで、深夜になるのを待った。カチコチカチコチと時計の針の音が良く聞こえ、そして深夜の0時となった。

 何も映ってないテレビに砂嵐が起こり、人影が映りだした。

 人影はぼんやりとしているが、体つきは見るからにがっしりとしており、男が映っていた。

 映像は数秒で消え、明日香はまず最初に陽介に電話をかけた。

 

 

『おう明日香か。電話をかけて来たって事はマヨナカテレビを見たって事でいいんだな?』

「あぁ映っていたのは男だったな。人影がぼやけて、誰なのか上手く認識できなかったけど、恐らく完二だと俺は思う」

『そうか、それじゃあ詳しい事は明日話そう。悠には俺が電話しておく』

「あぁ頼んだ」

 

 

 通話を終え、明日香はベッドに腰掛けた。

 

 

「今度こそ、未然に防ぐんだ。皆で一緒に」

 

 

 

 

 

 5月15日(日)昼間

 

 

 早速明日香達はジュネスのフードコートに集合した。

 

 

「えーそれでは、稲羽市連続殺人誘拐事件、特別捜査会議を始めます」

 

 

 陽介が司会進行役を務める。

 

 

「長っ!」

 

 

 千枝が余りの長さにツッコミを入れていると

 

 

「あ、じゃあここは、特別捜査本部?」

 

 

 雪子が顔を輝かせながら、そう言うと陽介は特別捜査本部の名を採用した。

 千枝も名の響きに何処か惹かれるものがあるようだ。

 

 

「それじゃ昨日の夜についてだが」

「その前一つだけいいか?」

 

 

 陽介が会議を再開しようとしたが、明日香が話の腰を折った。顔はいつにもまして真剣味がある。

 

 

「これは遊びじゃない。人の命に係わる重要な事。もうこれ以上、誰かが危険な目に会うのを止めるんだ。皆もう分かってると思うが、これだけは言って置きたかった」

「何言ってるんだよ明日香。俺はもう面白半分に首を突っ込むつもりはない。小西先輩みたいな犠牲者をこれ以上出すわけにもいかないしな」

「俺達で出来る事があるならやろう。それが全ての解決に繋がるのなら」

 

 

 明日香の言った事に、陽介と悠がそう答えた。愚問だったよな……と心の内でそう思った明日香。

 

 

「話の腰を追ってすまない。陽介、続けてほしい」

「了解。今まで起きた事件の被害者は、山野アナ、小西先輩、そして天城。殺されたのと誘拐されたのは、山野アナ。山野アナの遺体を最初に目撃した小西先輩、山野アナが泊まった天城屋の娘である天城。ターゲットは全て女性となっていた。けど昨日のマヨナカテレビに映っていたのは男だった。それについて明日香から話がある」

 

 

 陽介が明日香に話を振ってきた。明日香は持参したノートを開いて自身の考えを話す。

 

 

「俺も事件の最初は山野アナの事件に係わった小西先輩と雪子といった女性だけが狙われると思っていた。けど昨日映ったのは男性、しかも俺の知っている完二に見えた。完二と雪子そして小西先輩には共通点がある。それはメディアの一つであるニュースに出てた事。小西先輩は山野アナの遺体の第一目撃者として顔をぼかしながら出ている。雪子は天城屋の取材の時のインタビュー。完二も顔をぼかしながらもニュースの特番に出てる。山野アナも人気アイドルアナだからこそ毎回と言っていいほどメディアに出てた。だからこそマヨナカテレビに映るのはメディアに出てる人物だと俺は睨む。なんでメディアなのかが分からないが」

 

 

 明日香の考えに、悠たちも納得したようだ。

 

 

「私がテレビに入ってから、テレビの内容が変わってたんだよね?」

「あぁ急にハッキリ映るようになって、内容もバラエティみたいになった」

「天城の中にため込んでいた気持ちが、あの番組を作ったと思う」

 

 

 あの雪子の城について、陽介と悠が説明した。

 

 

「でもテレビに映っていた人、まだはっきりしてなかったよね」

「あぁ。まだテレビの中へ入っていないかもしれない」

「うん可能性高いよね」

 

 

 雪子と悠がまだテレビに映った人はまだテレビの中に入っていないと話していた。

 

 

「誰が映っているのがハッキリと分かれば、犯人より先回りして被害に遭う事がなくなるかもしれない」

「完二だと言い切ったが、ハッキリと映る前に色々動くのは早計だな。自分の考えに絶対的な自信を持って、それがはずれだった時に取り返しのつかないことになったら遅いからな」

 

 

 テレビの映像がハッキリしてから、動く事に話は進んでいく。千枝が難しい顔をしながら、今まで話していた事を復唱して、陽介にツッコまれて雪子が大爆笑すると言った変な感じで特別捜査本部の最初の会議は終わった。

 

 

 

 ―夜―

 

 

 今日の夜も雨が降り続けており、明日香はマヨナカテレビを見る。

 テレビは昨日と同じで人影しか映っていないが、仕草や動作がやはり完二と似ている。これで次に狙われるのが完二であると確信する。

 明日から色々と動くことになるだろう。もう休もうとした瞬間、明日香の携帯が鳴った。見ると千枝からだった。

 

 

「もしもし千枝。どうしたんだ?」

『明日香、マヨナカテレビ見たよね?やっぱり映ってたの完二君だと思う。ニュースの特番と雰囲気が一緒だったし』

「あぁ。明日から完二の周りを迷惑がかからない範囲で張り込もうと思う」

 

 

 明日香が明日の計画を話すと、うんと少し気の沈んだ千枝の返答が聞こえた。どうしたと尋ねると千枝は

 

 

『今日の特別捜査本部の会議で、アタシ全然役に立ってないって思ってさ。明日香は色々と考えたり調べたりしてたし、花村は司会進行で上手く纏めたりしてたし。鳴上君は冷静だし雪子も気づいたところを言ってたし。アタシはただ会議で話した事を繰り返しただけだし。アタシってお荷物なのかなって思っちゃてさ……』

「そんな事無いさ。適材適所と言う言葉だってあるんだし。それに俺は千枝が近くに居るから何時もの力が発揮できるんだ。千枝に何かあったら逆に俺が使えないお荷物になっちゃうよ」

『ありがと明日香。よっし!クヨクヨするのはアタシらしくないからね。気持ちを切り替えてもう寝るわ。お休み明日香』

「お休み。明日もよろしく」

 

 

 通話を終え、自身も眠りにつく明日香である。

 なお特別捜査本部で千枝が活躍する事になるのはまだ少し先の話である………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話

 5月16日 (月) 放課後

 

 

 明日香達は、昨日のマヨナカテレビの事について話し合っていた。

 陽介に雪子そして悠も、昨日の男性は暴走族特番に出ていた完二だと断言する。

 雪子は、幼少の頃の完二を覚えており、小さい頃は乱暴者じゃなかったと暗い表情で呟いた。

 明日香も完二の昔の事をよく覚えている。

 雪子の旅館は完二の家の染物屋で、お土産品を仕入れている。完二の母親とはよく話しているそうだ。

 

 

「これから染物屋に行って見る?話ぐらいは聞けるかもしれないよ」

 

 

 雪子の提案で染物屋に行くことにした。

 

 

 

 

 染物屋に直行した明日香達。

 

 

「こんにちは」

 

 

 顔馴染の雪子が最初に店に入ってみると、そこには先客がいた。

 

 

「あら雪ちゃん。いらっしゃい」

 

 

 店の主人である完二の母が雪子を見てにこやかに笑った。

 

 

「それじゃあ、僕はこれで」

 

「あんまりお役に立てなくてすみませんね」

 

「いえ、中々興味深かったです。ではまた」

 

 

 帽子を深くかぶった少年が完二の母に軽く会釈した後に店を出て行った。

 

 

「何だ?変な奴」

 

「見ない顔だよね」

 

「最近越して来たのか」

 

「不思議な雰囲気が漂っていた」

 

 

 陽介、千枝、明日香と悠が少年をそう評している。

 雪子と完二の母が世間話をしている所に、悠が割って入り、最近何か身の回りで不審な事が起きていないか聞いてみた。

 

 

「あれ?これって」

 

 

 千枝は店に飾られていたスカーフをジッと見ていた。

 

 

「どうした千枝?」

 

「明日香、このスカーフどっかで見た覚えない?」

 

「スカーフ?これは……あの顔無しのポスターの部屋にあったスカーフだな」

 

「てことは山野アナと同じスカーフ?」

 

「あら明日香君、貴方山野さんと知り合い?」

 

 

 千枝と明日香の話が耳に入った完二の母が聞いてきた。

 

 

「いえテレビを見てた時に、彼女の首に巻いてあったスカーフを見ていたからです。このスカーフと山野アナのスカーフが似ているのは?」

 

「それは元々彼女に頼まれて作ったオーダーメイドなの。男物と女物のセットだったんだけど、やっぱり片方しかいらないって言われてね。仕方なくもう一枚は売り物として出しているのよ」

 

「男物って事は山野アナって誰かに渡すつもりだったんだよね」

 

「おそらく渡す相手は生田目だったんだろうな。まさか被害者が買った物が完二の家の商品とは……偶然にも程があるだろう」

 

 

 もっと聞き出そうとしたが、チャイムが鳴り来客が来たようで、今日は仕方なく帰る事にした。

 店を出ると

 

 

「あれ、完二君だ」

 

 

 と目の前で完二と先程店に居た少年が何やら話していた。

 少年と話している完二を比べると、少年が小さく見えてしまう。180以上ある完二は明日香・陽介・悠の3人よりも頭一つ飛び出てる。

 

 

「やばっ隠れるぞ!」

 

「隠れるって丸見えじゃん!」

 

 

 慌ててポストの後ろに隠れるように言う陽介だが、どう見たって丸見えなのをツッコむ千枝。

 完二と少年の話に耳を澄ましていると。

 

 

「学校?一応行ってるけどよ……」

 

「そう。だったら明日の放課後、君を迎えに行くよ。話を聞いて君に興味が湧いてきたしね。それじゃあ」

 

 

 話は終盤だったようで、明日会う約束をして、少年は去って行った。

 

 

「興味つったか……男のアイツと男のオレ。オレに興味……」

 

 

 ブツブツと呟いていた完二だが、隠れていたつもりの明日香達に気づく。

 

 

「あん?何見てんだゴラァァ!」

 

 

 大声を出しながら向かって来る完二。

 

 

「やべっ!逃げるぞ!!」

 

 

 慌てて逃げ出そうとする陽介。

 だが

 

 

「皆ここは俺に任せてくれ」

 

 

 そう言って明日香が皆の前に立つ。

 千枝や陽介は止めようとする。相手は暴走族を1人で潰した男だ。そん相手に1人でなんて無理だ。

 

 

「あっ明日香さん!?」

 

 

 向かってきた完二が急ブレーキで止まるように止まった。

 予想してた光景とは別の光景に千枝や陽介は呆然としている。

 

 

「つい最近も会ったけど、今日も元気そうだな」

 

「どっどもっす」

 

 

 悠の背中に隠れていて、明日香の事を視認できなかった様だ。

 

 

「余り大声を出したらご近所の迷惑になるだろ?久しぶりに静かな所で2人で話さないか?」

 

「うっうっす……」

 

 

 完二の背中を軽く叩いて何処かへ向かおうとする明日香。

 置いてけぼりを食らっている悠達。と千枝の携帯にメールが入った。差出人は明日香。

 

「『完二に色々と聞いてみるから千枝達は近くでばれないように待機してほしい』だって」

 

「俺は明日香がアイツと知り合いって事に驚きだよ……」

 

 

 悠達は完二にばれないように後をついて行くことにした。

 

 

 

 

「ほら、コイツは俺のおごりだ」

 

「あっありがとうございます」

 

 途中で買った缶ジュースを完二に投げ渡す明日香。

 鮫川の土手にある切り株に座る2人。千枝たちは階段を上がった奥の方のベンチに待機してもらった。

 缶のプルタブを開け、ジュースを飲む2人、一息ついたところで明日香が

 

 

「高校1年になりたてだが、どうだ高校生活は?楽しいか?」

 

「……正直言うと楽しくないっす。クラスの奴らは俺が居ると嫌そうな目で俺の事を見るし、財布や携帯が無くなった時は最初オレが疑われる。特に出っ歯の先公が目の敵してオレに色々と言ってくるっす。居心地悪いったらないっすよ。まぁオレ今迄起してきた事の積み重ねの結果なんですけどね」

 

 

 出っ歯と言うとモロキンだろう。彼は規則や輪を乱す不良生徒の存在を認めていない。

 

 

「あの先生は正直言うと俺も苦手だ。頭が固いと言うかなんというか。それに、お前は人の迷惑になる事や、自分より弱い人間に力を振るった事がないだろ?根が優しいと言う事は俺は分かってるつもりさ」

 

「明日香さん……」

 

 

 顔を赤くして頭を掻く完二。

 

 

「所で、完二は今も編み物とかはやってるのか?」

 

「やっやってねぇっすよ!誰があんな女々しいもの!!」

 

 

 明日香が編み物の事を聞いてみると、完二は全力で首を横に振って否定した。

 

 

「そうか?俺が小学生の時、器用だったお前が編み物で小物の動物を編んだり、上手い絵を描いてたのに勿体ない」

 

「……気持ち悪いと思わないんすか?男の俺が編み物やったり絵を描いたり、女っぽい事をやって」

 

「思わないよ」

 

 

 ジュースを飲み終わった明日香は近くにあったゴミ箱に捨てる。

 

 

「俺さ、不器用だから器用に編み物やったり絵を描いたりする完二を羨ましいと思ったんだよ。俺も好きな子に手作りの物をプレゼントしたいと思ったけど、作る事が出来ずにもどかしい気持ちになった事が何回かあるんだ。だからさ改めて完二が凄いと思ったんだよ。お前の事を気持ち悪いって言ってる奴は、お前の器用な才能を妬んでるんだよ。誇ってもいいんだぞ完二。お前の才能は素晴らしいってな。て言うかあの小物売り物に出しても売れるって絶対」

 

「明日香さん……」

 

 

 完二は顔をそむけた。

 

 

「どうした?」

 

「別に目にゴミが入っただけっす」

 

「そっか」

 

 

 その後も他愛もない話をする。

 明日香が彼女が出来て付き合う事になったと聞くとおめでとうございますと祝福し、修羅場みたいなのになったことがあると聞くとマジすか!と心底驚く素振りを見せる。

 根は正直な完二である。と雑談を続けていた明日香と完二だが、明日香が本題に入る。

 

 

「なぁ完二、聞きたいことがあるんだけどいいか?此れから聞く事はお前にとっても嫌な事かもしれない。けどもし大丈夫なら、正直に答えてほしい。最近誰かに恨まれたり狙われたりしてないか?例えばお前が締めたって言う暴走族とか」

 

「恨まれたり狙われたりっすか?オレにケンカ売ってきた奴は皆返り討ちにしてきたし、恨まれる事はしょっちゅうだし、族の奴らも年下のオレ一人に潰されて、逆に改心したって聞くし、今の所思いつく奴は……あ」

 

「どうした?」

 

「狙われたりとかじゃなくて怪しい奴は見かけたっす」

 

「いつ?どこで?」

 

 

 詳しい情報を聞き出そうとする明日香。

 

 

「つい最近っす。ホンの2~3日前。家の前で変な奴がうろうろとしてて、オレが怒鳴りつけたら一目散に逃げていきました」

 

「男か女か?顔は分かったか?」

 

「男っす。けど帽子を深くかぶって顔は分かりませんでした。んでそんな事聞いてどうするんです?」

 

「いや、最近物騒だろ?つい最近だって殺人事件が起きたし。お前とお母さんの2人暮らしだし、怪しい奴がうろついてたら不安がるだろ?」

 

「大丈夫っすよ。もしも襲ってきたら返り討ちにしてやりますから」

 

「やり過ぎてお母さんに心配かけさせるなよ。……今日は色々と話せて楽しかった。また今度色々と話そうな」

 

「うっす」

 

 

 完二が返るのを見届けると、千枝たちが待っているベンチへと向かった。

 

 

「御疲れ様。どうだった?」

 

「あぁ……」

 

 

 明日香は完二から聞いた不審な男について話す。

 

 

「なぁおい、2~3日前なんて丁度マヨナカテレビでアイツが映った時じゃねぇか。そんな時に怪しい男が居るなんて可笑しいだろ」

 

 

 陽介が言った事に明日香達は頷いた。

 

 

「その男はマヨナカテレビの事を知っていて、なおかつ映っていたのが完二だと分かっていた?」

 

 

 悠は推測を呟いた。マヨナカテレビが映った後に不審者がうろつくのは偶然過ぎる。

 

 

「じゃっじゃあその不審者が若しかして犯人?だったりする?」

 

 

 不安そうに首を傾げる千枝。

 

 

「かもしれないと言った所だな。不審な奴なんてごまんといる。けど今はその不審者の線が強いな」

 

「その怪しい奴が山野アナや小西先輩を……クソっ」

 

「陽介、気持ちは分かるが焦るのはいけない。俺達が出来る事はこれ以上犯人が人をテレビに放り込むのを止める事。捕まえるのはおじさんや明日香のお父さんの役目だ」

 

「悠の言う通りだ。俺達が出過ぎた真似をして、かえって危ない目にあうかもしれない。完二からの情報で、今はその不審者を警戒しよう」

 

 

 今後の方針が決まった明日香達である。

 だが完二の情報でも、明確な犯人像は把握できていない。

 捜査に一歩前進したかと思ったが、全然前進などしていなかった。

 

 

 

 

 

 ――――夜―――――

 

 

「くそっ……」

 

 

 顔面に傷をつけた完二が呟きながら悪態をついた。

 明日香と別れた後、数人の不良が完二に絡んできた。

 どうやら前に完二に喧嘩を売ってきた不良達が報復に来た。

 一度返り討ちにした者に負けることなく、またも追い払った。

 だが油断したのか、不良の拳が完二の頬に当たった。顔の傷はそれである。

 

 

(結構目立つな。またお袋が心配しちまうな……)

 

 

 完二が遅くに帰って来ることには何も言わない母だが、喧嘩をしてくると色々とうるさい。相手に怪我をさせたのか、完二の怪我が大丈夫かとしつこく聞いて来る。

 完二も母親が自分を大切にしてくれている事は理解している。こんな息子を大切にしてくれることに感謝してる反面申し訳なく思っている。

 もう夜である。早く帰路につこうとするが。

 

 

「失礼、そこの背の高い少年」

 

「あ?」

 

 

 行き成り誰かに呼ばれ、振り返ると帽子をかぶりインバネスコートを着て、手にはクラシックトランクを持った、一昔前の恰好をした20代後半から30代前半位の男が立っていた。

 その男が完二を呼び止めた。

 

 

「オレに何か用か」

 

「行き成りですまないが道を教えて欲しいのだよ。天城屋旅館と言う宿なのだが、知っているかな?今日この地に来たのだがいかんせん、初めて来る場所だから土地勘と言ったものが無くてね途方に暮れていたのだよ。困っている所で少年が歩いて来るのが見えてね、道を尋ねたと言う訳だ」

 

「はぁ。天城屋旅館だったらこの道を真っ直ぐ行けば旅館行のバス停があるから、この時間だったら1本ぐらいあるはず……」

 

「おぉそうかい。いやはや助かったよありがとう少年」

 

 

 帽子をとり、にこやかにお礼を言う男。バス停に行こうとして、足を止める。

 

 

「あぁもう一つ、聞きたい事があるのだが、よろしいかな?」

 

「聞きたい事?」

 

「人は何故、自分が見た者のその見た目と中身が違うだけで、拒絶し糾弾するのだろうか」

 

「?」

 

 

 完二は男の言っている意味が今一分かっていないために首を傾げる。

 

 

「分かるように言えば『男のくせに』『女のくせに』といったものだよ」

 

「っ!男が女のやりそうなことやってれば気持ちわりぃに決まってるだろうが!!」

 

 

 今自分が考えたくない事を言われ、怒鳴り返す完二。

 怒鳴られた男は驚いた様子も見せずに、平然とした様子で帽子をかぶり直した。

 

 

「成程、気持ち悪いか。その答えも正解と言えるのだろう。人と言うのは色々な答えを持っていて面白い」

 

 

 男は完二に会釈し、天城屋旅館へと向かった。

 

 

「……変な奴」

 

 

そう呟いた完二はさっさと忘れるように家へと帰って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話

 5月17日(火)

 

 ―夜―

 

 狙われているのが完二だと分かった明日香達。さっそく完二の周りに怪しい人物が来ないか、完二を放課後に尾行する事にした。

 が今回は明日香は待機する事になった。理由は陽介が『昨日お前だけに完二の相手をさせて、自分達は何もしていないのは申し訳ないから、今日は自分達だけにまかせてほしい』と懇願してきたからだ。

 ふざけも無く、真剣な表情で陽介が言ったので、明日香は今回は何かあった時のための悠と雪子と一緒に待機する事にした。

 しかし尾行は失敗した。陽介と千枝(千枝は嫌々と)が彼氏彼女役で完二と完二の家の店に来た少年の後をついて行ったのだが、バレバレな尾行であっさりと完二にばれてしまった。

 千枝が完二と少年の仲がとてもいいと言って誤魔化そうとしたが、完二は仲がいいと言ったのを別の意味で捉えたらしく、顔を赤くしどもりながら陽介と千枝を追いかけ始めた。

 明日香達が居るところまで戻ってきて、そのまま一緒に撤退する形で完二から逃げて行った。

 尾行が失敗し、また明日仕切り直しにしようとした矢先に

 

 

『あぁ~ん。熱い、熱いよぉ~。こんなに熱くなっちゃったボクの体、どうしたらいいのん~。んもぉこうなったら、もっとおくまで……あっ突・入!しちゃいま~す!』

 

「……まじかよ」

 

 

 完二が無事かどうか確かめるために、マヨナカテレビを見た明日香は2重の意味で呟いた。

 1つは完二がもうテレビの中に入れられてしまった事。もう1つは全裸に褌一丁の一部の人間には喜びそうな完二の影の姿を見てだ。

 と千枝から電話が来たので出る。

 

 

『明日香……』

 

 

 電話越しの千枝の声だが、覇気がまったく感じられない。

 

 

「その様子だとテレビ見たみたいだな」

 

『うん……今色々とショックで。ゴメンアタシらが尾行で失敗したばっかりに』

 

「いや千枝や陽介だって頑張ってたし、攻めないさ。それよりも完二がテレビに入れられたって言う事は急がないとな」

 

『アタシらの本領発揮だね。明日も直ぐ動けるようにもう寝るわ。お休み』

 

「お休み」

 

 

 直ぐに電話が切れ、次は陽介だった。

 

 

『明日香、テレビ見たか?』

 

「あぁ見た」

 

『すまねぇ俺がヘマしたばっかりに』

 

「いやさっき千枝から電話が来たが、まだチャンスはあるんだ。あまり気負うと完二救出に支障が出るかもしれないからな」

 

『ありがとう。そう言われると幾段か楽になったぜ。でもあの完二がなぁ……昼とのギャップが、うぇ何か吐き気が戻ってきた』

 

 

 それだけ言い残して陽介は電話を切った。どうして完二の影はあんな恰好をしたのだろうか。そう思いながら明日香も寝ることにした。

 

 

 

 

 5月18(水)

 

 

 ―放課後―

 

 

 完二を救出するために、早速テレビの中に入ったが問題が発生した。クマの鼻である。

 

 

「はぁ!?巽完二がどこに居るのか分からないって?」

 

「うぅ~誰か居る匂いはするのに、それが誰で何処に居るのかさっぱりなのクマよ~」

 

 

 頭を抱え、どうしたらいいのか分からない様子のクマである。

 なんでもクマは最近自分が何者で何処から来たのかを改めて考えており、寝る時間も考えることに割ったようだ。

 

 

「でも雪子の時はすんなり分かったのに、何で行き成り」

 

「恐らくだが、テレビに人を放り込んだために、この世界が段々と可笑しくなったんじゃないか?料理に色々といれてしまった事で何の匂いか分からなくなったとか」

 

「悠の言った事もある意味正解かもしれない。だからクマの鼻の効き目が弱いのかもな」

 

 

 しかしこれでは完二を探す事が難しくなってしまう。

 

 

「何かヒントが欲しいクマ!その人の匂いがする物を持っていれば大丈夫クマよ!」

 

 

 とクマがそう提案するが、あいにく今完二の匂いがついているものは持っていない。とりあえず完二の家に向かう事にした。

 完二の家に向かってみると、完二の母親も完二が帰ってこない事を心配して警察に届け出を出したようだ。一応完二は母親が心配するといけないために喧嘩をしてもちゃんと帰ってきていたと母親はそう教えてくれた。

 と店の前で少年が立っていた。なんでも友達の女の子に借りたウサギのストラップを何処かへ落としてしまったらしく、困って泣いている所で完二が現れた。

 完二は少年に女の子と男の子のためにおそろいのウサギのストラップを編んでくれたようだ。売り物で出せるほどの精巧さに陽介や千枝は驚いていた。

 明日香は困ってる少年のために編んでくれた完二の優しさに小さく笑い、ウサギのストラップを見た。ウサギのストラップには完二の匂いが残ってるだろう。

 少年にお願いしてウサギのストラップを借りてジュネスに戻ってくると、完二と一緒に居た少年がエレベーターの前で立っていた。

 陽介が昨日完二と何を話していたのか聞いてみると、少年は世間話を答え、もう一つ加えた。

 

 

「彼が変な態度を取っていたのでハッキリ言ってあげたんです。変な人だと。そうしたら彼、行き成り顔色を変えたんです」

 

「なんだぁ?それ位気にしねえと思ったんだけどな」

 

「人は見かけで判断する事は出来ません。彼は彼なりにコンプレックスを抱えてたみたいですね」

 

(コンプレックス……成程な)

 

 

 少年のコンプレックスの発言で、明日香は何か分かったようだ。

 少年はジュネスを後にして、明日香達はエレベーターに乗った。

 

 

「明日香、何か分かったのか?顔にそう出てたが」

 

「あぁ悠。ところで完二が作ったこのストラップ。これが完二から作られた事にたしてどう思う?素直に答えてほしい。因みに俺は素晴らしい才能だと思う」

 

「どうって意外?」

 

「俺も意外って感想しかねぇな」

 

「素敵だと思う」

 

「可愛い」

 

 

 明日香の問いに千枝、陽介、雪子、悠の順番に答えた。明日香は悠の可愛いと言った答えを聞いて嬉しそうに頷いた。

 

 

「しかし、心の無い奴はこう答えるだろうな。気持ち悪い、男らしくないとかな」

 

「完二から生まれた世界はコンプレックスから生まれた世界?」

 

 

 悠の言った事に恐らくと頷く明日香。

 

 

「行って見たら分かるさ」

 

 

 借りたストラップをクマに嗅がせて、漸く完二の匂いと何処に居るのか分かった。明日香達はその場所に向かってみると、そこは銭湯のようだった。男子専用の暖簾が目立つ。

 

 

「ここに完二が……」

 

「何かここの霧、今までと違くない?」

 

「霧と言うより湯気?」

 

「眼鏡くもっちゃった」

 

「にしてもあっちーな」

 

 

 陽介が制服を仰いでいると、銭湯の方から2人の男の艶めかしいと言うか、男同士が出してはいけなさそうな、一部の女子は喜びそうな声が聞こえてきて、明日香悠陽介3人に鳥肌が立った。

 

 

「やっヤバいだろこれ!俺行きたくねーよ!!」

 

「行ったらヤバい……」

 

「嫌な感じの寒気が来たぞ……」

 

「ねぇクマさん。ここに完二君いるの?」

 

「クマの鼻センサーなめたらアカンぜよ!」

 

「はぁ……んじゃ行くしかないか」

 

 

 腹を括った千枝が入ろうとするが、陽介は拒否って入ろうとしない。終いには千枝に耳を引っ張られ、強引に入って行った。

 それに続く形で、悠と雪子、明日香とクマが銭湯へと入って行った。

 湯気が立ちこもるロッカールームを何とかして抜け出そうとする陽介と悠を千枝が叱り、ロッカールームを抜けると

 

 

『うっほっほ~!』

 

 

 褌姿の完二……の影がお出迎えしてきた。

 

 

「「「「「……」」」」」

「?」

 

 

 余りにも酷い光景に、流石の明日香も入れて苦い顔をする。クマは何となく分かっていない様子で首を傾げていた。

 

 

『これはこれは、ご清聴ありがとうございま~す!ボク完・二ぃ』

 

「「ペルソナ!!」」

 

 

 完二の影がウィンクをした瞬間、悠と陽介がイザナギとジライヤを出した。

 

 

「ちょちょっと!早いって!」

 

「気持ちは分からなくもないが、落ち着け二人とも!」

 

「うるせぇ!早くなんとかしねぇともたねぇんだよ!精神的に!」

 

「あぁこれは不味い……」

 

 

 精神的ダメージを受け続けている悠と陽介を何とか止めようとする明日香と千枝だが

 

 

『うふふふ。あ・や・し・い熱帯天国からお送りしてまぁす。熱い湯気のせいで胸がビンビンしちゃぁう!』

 

「「ペルソナ!!」」

 

 

 今度は千枝と明日香がトモエとヨシナカを出した。明日香は今回が初のペルソナお披露目で刀を上段から振り下ろすアクションもした。

 

 

「クマァっ!千枝ちゃんとアスカまでーっ!!」

 

「いや、ムカついて体が勝手に……」

 

「だよな」

 

「俺は防衛本能が働いて……俺の初ペルソナがこんな形でだなんて……」

 

『うふふ。皆も熱くなってきた所で、このコーナーいっちゃうよぉっ!』

 

 

 と空間から『女人禁制!突☆入!?愛の汗だく熱帯天国!』と雪子と同じようなロゴが現れた。

 

 

「やばい。色々な意味でやばいぞ……」

 

「確か雪子の時もノリはこんな感じだったよね」

 

「うっ嘘!こんなんじゃないよ!」

 

「あぁ雪子の時も色々とヤバかったなぁ」

 

「あっ明日香君まで!?」

 

「やっぱりこの世界にテレビの中に入った奴が生み出してるんだな……」

 

 

 場面が混沌としている間も完二の影の勢いは止まらない。

 

 

『それでは更なる愛の高みを目指して、もっと奥まで……あっ突・入!いくぞごらぁぁぁ!』

 

 

 1人で暴走して、奥へと突っ走って行った完二の影。慌てて追いかけようとしたら、警官の制服を着たお腹に大きな風穴を開けたシャドウが向かってきた。

 

 

「きやがった!」

 

「構えろ皆!」

 

 

 迫りくるシャドウへ臨戦態勢を整えた明日香達。

 

 

「こんなのと一緒……私の時も……そんな、そんなの……何かムカつく!!」

 

 

 さっきまでこんなのと違うと呟いていた雪子がカッと目を見開き、扇子を構えた。

 

 

「ペルソナ!」

 

『マハラギ』

 

 

 そして舞いを踊るように雪子はコノハナサクヤを出し、炎で警官シャドウを攻撃する。

 

 

「いっけぇジライヤ!」

 

 

 更に陽介が炎で攻撃されている警官シャドウにジライヤで追撃するが

 

 

「あっち!あっちぃよ!熱い所で熱いの出してんじゃねぇよ!!」

 

 

 ジライヤのダメージがフィードバックしたのか、突如陽介の背中が燃え上がる。

 

 

「まったく何やってんのよ!明日香行くよ!」

 

「ああ。ペルソナ戦の初陣、ヘマはしない。ヨシナカ!」

 

「トモエ!」

 

『ブフ』

 

『ブフ』

 

 

 トモエは薙刀から、ヨシナカは双刀から氷を出し、燃え盛る警官シャドウ達を大きな氷の塊へと変えた。

 

 

「さみぃよぉ。限度ってもんがあるだろ……」

 

 

 と今度は背中が凍りついて、寒さで震えている陽介。最後は氷の塊となった警官シャドウをイザナギが蹴り飛ばして破壊する。

 

 

「何か花村の言っている事も分かってきた。ここに居たら可笑しくなりそう」

 

「あぁそれに完二も心配だ。昨日から今日までこんな熱い所に居たら熱さで倒れてるかもしれない」

 

「これ以上気持ち悪い事したら、灰にしてやる!」

 

「いいんじゃないか?」

 

「よくない!」

 

「雪子も早まるなって!」

 

 

 雪子が変な決意をして、それに賛成する悠にツッコミを入れる明日香と千枝である。

 

「兎に角、此処で立ち止まっててもしょうがない。先を急ごう」

 

 

 完二の影を追いかける形で、銭湯の奥へと向かう明日香達である。

 

 

 

 

 ―おまけ―

 

 

 銭湯の中もダンジョンの様な形状になっており、道中でも戦闘が続いた。おかげで全員が汗だくとなってしまった。

 

 

「あぁ~熱い!もう我慢できない!脱いじゃお!!」

 

 

 ジャージを着ていた千枝は我慢できなくなり、ジャージを脱いで袖を腰へと巻いた。

 

 

「ふぅ~幾段か楽になった!」

 

 

 制服姿になった千枝が少し伸びをしていたが、何故か明日香は千枝を見ずに銭湯の壁を見ていた。

 

「?どうしたの明日香?」

 

「いやっそのだなっ目のやり場に困ると言うか……」

 

 

 明日香の遠回しな言い方に首を傾げていた千枝だが、自分の上半身を見て漸くわかった。制服が汗で透けており、ジャージを同じ色の緑の下着が見えていた。

 顔を赤くし、すぐさま腕で隠す千枝。そして明日香を見た。

 

 

「見た?」

 

「……少し」

 

「エッチ」

 

「えっエッチって!見えちゃったんだからしょうがないだろ!」

 

 

 と明日香と千枝の他愛も無い痴話喧嘩を、ご馳走さまと思いながら見ている悠達であった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話

 度重なる戦いや痴話喧嘩(明日香と千枝の)を潜り抜け、明日香達は漸く銭湯の奥へと到着した。

 大きな扉には『おいでませ!熱帯天国』と豪快に書かれていた。この奥に完二と完二の影が居る事は間違いないのだが、扉を前にして誰も開けようとしない。

 

 

「何で開けようとしないクマ?」

 

「いや何つうか、この先の光景が分かりきってるっつうか、正直言って開けたくないっつうか……」

 

 

 渋って開けようとしない陽介。悠も正直言えば開けたくなかった。ここは男子が先陣を切る所なのだが

 

 

「俺が開ける。俺達は完二を救出するために此処まで来たんだから。行くぞ」

 

 

 明日香が重い扉を開け、扉の先の光景は

 

 

「このっ大人しくしやがれ!」

 

『あんっ!すっごい!逞しい!!』

 

 

 完二が自分の影を押し倒している光景であった。流石の光景に一行はドン引きしている。

 

 

「なっテメェ等!それに明日香さん!?如何してこんな所に!?」

 

「いや、そのな……」

 

「助けに来たんだ完二。お前を」

 

「あぁっ!?言うならハッキリ言いやがれ!明日香さんは何で目ぇ逸らしてんスか!?」

 

 

 がたいの良い男同士が押して押し倒された光景を好きで見たいと思えなかった。

 完二が影から目を逸らしたすきを突いて、影が完二を突き飛ばした。

 

 

『邪魔はさせないよ!フンっ!』

 

 

 と影の掛け声を合図に湯船のお湯が溢れだし、床が濡れだす。

 

 

「何これ?こんなので足止めのつもり?って!うわぁ!滑る!」

 

「千枝!」

 

 

 お湯と言うよりローションに足をとられ、滑りそうになった千枝の手を雪子が取った瞬間、2人そろって床に倒れてしまった。

 

 

「何やってんだよお前ら……っておぉ!」

 

 

 最初は転んだ千枝と雪子を見て飽きれた様子を見せている陽介だったが、ローションまみれになった千枝と雪子が動けない光景がいやらしく見える。さらに先程ジャージを脱いで下着が透けて見える千枝によっていやらしさが増している。

 

 

「悠!何か録画できるもの持ってないか!?」

 

「くっない……!」

 

「何言ってんだそこっ!」

 

 

 どうにかして目の前の光景を残そうとした悠と陽介の背後から強い殺気を感じた。後ろを振り返ると鞘から模擬刀を抜いた明日香が立っており

 

 

「お前ら、千枝をいやらしい目で見たら……斬る」

 

「わっ分かったよ!俺らも命かけてみたいわけじゃないし」

 

「これが彼女を独占したい男」

 

「悠も納得してんなよ!」

 

 

 などと言った遣り取りをしていたが、完二もローションによって立てないでいた。立つことに苦戦している完二に影がゆっくりと近づいてくる。

 

 

『もぉ止めようよ無理するの。やりたい事やりたい言って何が悪い?ボクは君のやりたい事だよ』

 

「何ふざけた事言ってんだテメェ……!んなわけねぇだろ!!」

 

 

 影の言った事を強く否定する完二。

 

 

「よせ!ジライってどわぁ!?」

 

 

 陽介がジライヤを出して影を止めようとしたが、ローションで足を滑らせ、ジライヤを出す事が出来ない。

 

 

「陽介!」

 

「って俺も!?」

 

 

 陽介を助けようとした悠も足を滑らせ、思わず明日香の肩を掴んでしまい、3人も転倒してしまった。さらに悠を助けようとしたクマも滑ってしまい、まともに動けるものが誰一人居なくなってしまった。

 

 

『女は嫌いだ。ボクが裁縫したり絵を描いたりすると、皆が気持ち悪い男のくせにって馬鹿にする』

 

「テメェ!いい加減にしねぇと……!あぐっ」

 

 

 見るからに辛そうな完二に影が更に畳み掛けるように言い続ける。

 

 

『男のくせに!男のくせに!ってじゃあ男らしいって何なの?女は怖いよなぁ』

 

「怖くなんか……ねぇ……!」

 

 

 影の言った事を必死に否定し続ける完二。でも……と影は不意に明日香を見た。

 

 

『男がいい。男のくせにって言わないから。だから男がいいんだ。それに明日香さんはボクのやった裁縫や絵を凄いって褒めてくれる。明日香さんだけがボクの事を理解してくれた。強くて優しくてカッコイイ明日香さん……明日香さんだけいれば僕は女なんかいらない』

 

 

 銭湯の入り口の男子専用と言うのが、自分を理解しない女はいらないと言った所なのだろう。

 さらに完二は明日香に対して一種の憧れが強いようだが、影のせいで酷く歪んでいる。

 

 

『けど、その明日香さんに女が出来た。口ではおめでとうなんて言ったけど、明日香さんを女に盗られる事が許せなかった。そうでしょ?僕から明日香さんを奪う女、最低だよね?』

 

「うるせぇ!俺の目の前で明日香さんを語るんじゃねぇ!!」

 

『んもぉつよがっちゃって。ボクは君なんだから、素直になっちゃいなよ』

 

「黙れ!」

 

「よせ!」

 

「ダメだ完二!」

 

「言うんじゃない完二!!」

 

 

 悠や明日香達が完二に言うなと叫んだが、完二は叫ぶ。

 

 

「テメェなんかが俺なわけねぇだろ!!」

 

 

 否定の言葉を叫んだ瞬間、影は高笑いした。

 

 

『ウフフフっ!ボクは君、君さぁ!!』

 

 

 影を大量の薔薇が包み込み、薔薇が無くなると、巨大な黒い肉体と手には男性のマークが握られており、体の中心に薔薇に包まれた影が佇んでいると言った、見るからに巨大な影が現れた。更に取り巻きに2体のボディービルダーの様な筋骨隆々のシャドウも現れた。

 

 

『我は影、真なる我』

 

「クソっやっぱり駄目だったか……」

 

 

 苦々しい表情を浮かべる明日香。

 

「クソが……勝手な事ほざいてんじゃねぇぞ!」

 

 

 苦しそうな完二は影に立ち向かおうとするが、相手との体格差は歴然である。

 

 

『ふふふ。邪魔はイヤン!!』

 

 

 完二の影がボディービルダーのポージングをした瞬間、電撃が完二を襲い、完二が吹き飛ばされる。ローションが無くなり、完二に駆け寄る明日香達。

 

 

『ボクは自分がやりたい事に正直になりたいんだ。だから君達には消えてもらうよ。例え明日香さんでも』

 

 

 完二の影は明日香達を殺す気満々の様だ。

 

 

「こんなのが完二君の本音だなんて」

 

「こんなのが本音なわけあるか!たち悪く暴走してるだけだ!」

 

「一刻も早く暴走を止めるんだ!」

 

 

 明日香達は各々のペルソナを出した。影に突撃しようとしたが、2体の取り巻きが行く手を遮る。

 

 

「この!邪魔!」

 

 

 トモエが1体に蹴りを入れるが、蹴りを厚みのある尻の肉で防がれる。

 

 

『ヘイ!カモンベイベー!』

 

「なにこいつ!?」

 

 

 蹴られても涼しげな表情のマッチョシャドウに千枝は引き気味である。コノハナサクヤがもう1体のマッチョシャドウに炎攻撃を喰らわせても

 

 

『あぁ~きくぅ~!!』

 

「うそっ……」

 

 

 効いているどころか、むしろ熱さに感じているのか頬を赤くするマッチョシャドウに全身に鳥肌が立った雪子。

 

 

「何だコレ」

 

「おいクマ!完二の影に交じってるあの変なのは何なんだよ!?」

 

「たぶんあれは完二の影の一部クマ!!」

 

 

 引いている陽介にクマが答えるが、明日香は何故千枝と雪子の攻撃に対して余り効いているような素振りを見せないのかが分かった。

 

 

「若しかして2人は女の子だから、心のどこかで女性に対して抵抗感を持っている完二に連動して攻撃が聞きにくいのか……」

 

「マジかよ!戦力半減じゃねぇか!」

 

「取りあえず天城と里中は援護を頼む」

 

「わっ分かった!」

 

「何か私達今回余り役に立たないみたい……」

 

 

 今度はイザナギ、ジライヤとヨシナカが影に攻め込むが、イザナギがマッチョシャドウに捕まる。

 

 

『あ~らいい男!』

 

「ちぇっチェンジで!」

 

 

 急いでイザナギをカードへ戻し、悠は別のペルソナを出す。

 

 

「ラクシャーサ!!」

 

 

 新たに出てきたペルソナは2本の曲刀を持った2本角の鬼のような鎧武者だった。マッチョシャドウの拘束から逃れ、再度突撃しようとするが、もう一体のマッチョシャドウにまた捕まってしまう。今度はジライヤも一緒だ。

 

 

「チェンジ!」

 

 

 すぐさまペルソナをチェンジしようとした悠だが、背後にマッチョシャドウが立ちそして

 

 

『うふっ食べちゃいたい』

 

「あっ……」

 

『こっちの坊やも』

 

「あうっ……」

 

 

 尻を優しくタッチされた悠と陽介。まさにゴリラの様な男に触られたことに精神的なダメージを受けた2人は床に沈んだ。

 

 

「これが俺の初体験……」

 

「もうお嫁にいけねぇ……」

 

「毒だクマー!心が折れたクマー!」

 

 

 精神的ダメージで戦闘不能になってしまった悠と陽介。実質戦えるのが明日香だけになってしまった。

 

 

「こうなったら完二の影を直接叩くしか……ヨシナカ!!」

 

『ウフっ来て明日香さん。ボクの想いを受け取ってぇ!』

 

 

 明日香に応じるかのようにヨシナカが2刀を振るい、完二の影が持っている2つの男性のマークとぶつかり合う。

 

 

「マズイ!明日香だけしか戦ってない!でも此奴らが……」

 

「大丈夫だよ千枝。私達には興味ないはず……」

 

 

 2体のマッチョマンが千枝と雪子の行く手を遮っていたが、赤パンツをはいたマッチョマンが雪子をジッと見た後、鼻で笑い

 

 

「下品な赤ね!」

 

「はぁっ!?」

 

 

 挑発に乗ってしまった雪子は連続で炎攻撃を浴びせるが、効いている様子が全くない。

 

 

「ちょっと雪子落ち着いて!」

 

 

 千枝が矢鱈目鱈に炎攻撃を繰り出す雪子を落ち着かせようとすると、今度は白パンツをはいたマッチョマンが近づく。そして千枝をジッと見ている。

 

 

「なっ何よ?」

 

 

 何も答えなかった白パンツのマッチョマンは、千枝の肩を優しく掴むとうんうんと頷いた。『何も言わなくても分かってる』とでも言いたいのだろうか。

 

 

「何か言えっーーーー!!」

 

 

 千枝もトモエを使って氷で包み込んだがこれも全く無傷。挑発され哀れまれ、自分達の攻撃が全く効いていないために、女性がやってはいけない憤怒の表情を浮かべる千枝と雪子。

 まともに戦えるのが明日香だけのこの状況、ハッキリ言って不利である。

 

 

『フフ。てんで大したことない……笑っちゃうよ!!』

 

 

 影がまた電撃を繰り出し、ペルソナたちのダメージがそのままフィードバックで来る。

 電撃で痺れて動けない明日香を、影が捕まえる。

 

 

『明日香さん、捕まえたぁ。もう離さない。貴方はボクのものだよ』

 

「くっ!このっ離せ!!」

 

 

 影がゆっくりと明日香を自分の元へと近づかせる。しかもその先が影の、完二の影の唇である。

 明日香は抵抗するためにヨシナカを使おうとするが、そのヨシナカもあの2体に捕まって身動きが取れないでいた。

 ならば自分の力で脱出を試みる明日香だが、いくら暴れてもビクともしない。

 そしてゆっくり、ゆっくりと明日香の唇が影に奪われそうだ。

 

 

「おいおい!ヤベェだろ!?男に唇を奪われるなんて!しかも彼女の前だぞ!!」

 

「一生モノのトラウマものに……」

 

「いやっ明日香君!」

 

「アスカが行けない道に走っちゃうクマーー!!」

 

 

 そして明日香の彼女である千枝は目の前の光景を呆然と見ていた。

 

 

(えっ何これ……明日香のファーストキスの相手がアタシじゃなくて完二君の影……?それもアタシが見てる前でやるって言うの?そんなの……そんなの……)

 

 ―――だったら今度の試験で2桁だったらご褒美にほっぺにキスを――――

 

 

 千枝の中で中にかがキレた。

 

 

「アタシの……アタシの彼氏に……何しようとしとんのじゃボケェェェェェっ!!」

 

 

 キレた余りに口調が荒くなり、赤いオーラが見えそうな千枝はトモエで2体のマッチョシャドウを蹴り飛ばした。さっきまで攻撃が効かなかったのが嘘のように、蹴り飛ばされた2体は勢いのあまり、壁にめり込んでしまった。

 トモエの勢いは止まらずに、明日香を掴んでいる腕に踵落としを浴びせた。あまりの威力に影は明日香を手放し、明日香は床に尻餅をついた。

 

 

「つつ……何とか助かった」

 

「大丈夫明日香!?唇奪われてないよね?ないよね!?もうこうなったら誰かに奪われる前にアタシが明日香の唇を奪う!!」

 

「落ち着け千枝!何かお前目がいっちゃってるぞ!それにこんな形で千枝との初めてをしたくない!!」

 

 

 目をグルグルと回し、明らかに正気じゃない状態で唇を近づけようとする千枝を落ち着かせようと踏ん張る明日香。陽介はもう他所でやってくれとさっきまでの戦いを忘れ呆れかえっていた。

 

 

『ボク明日香さんを返せ!下品な女め!!』

 

「誰が下品だ!それに明日香はアタシの彼氏だ!!」

 

 

 遂には千枝と影による激しい攻防戦が繰り広げられた。千枝の無双状態を見て、明日香は助太刀する事が出来ない状態だった。

 

 

「明日香!ここはアタシが何とかするから、完二君をお願い!!」

 

「わっ分かった!千枝!無理だけはするなよ!」

 

 

 本当は助太刀したかった明日香だが、千枝の勢いが凄まじくかえって邪魔になってしまいそうだ。

 だがこのまま千枝に任せても勢いがなくなってしまえばまた戻ってしまう。一刻も早く完二に自身の心の内を認めさせなければならない。明日香達は完二の元へ向かう。

 

 

「完二大丈夫か?」

 

「明日香さん……すいません。みっともない所見せちまって」

 

 

 自分一人で立とうとするが、足に力が入らないのかまた座り込んでしまう完二。

 しかしどうしたものかと考える明日香。今此処でお前の才能は素晴らしいと言っても俺の事を分かってくれるのは結局明日香さんだけだとまた影が暴走すると言ったいたちごっこになりかねない。

 こうなったらと、明日香は悠の方を向いた。

 

 

「悠、お前が完二に言ってくれ。ウサギを見せた時にお前が言った感想を。完二の目の前でもう一度」

 

「分かった」

 

 

 悠は少年から借りたウサギのストラップを取り出すと、完二に見せた。完二はどこでそれをと悠を問い詰め、悠は少年から借りた事を話す。

 それを聞いた完二は自嘲するかのように笑い

 

 

「こんな図体のデカイ野郎がそんなモン作るなんて、気持ち悪いだろ。俺みたいな男が編み物なんてダセーよな……」

 

「いや可愛いと思う……可愛いよ」

 

 

 悠が完二と面と向かって可愛いと答えると、顔を赤くしながら悠を見る完二。そして影にも影響が出ているのか影の体にノイズが走る。

 

 

「シャドウの奴が弱ってきてる!これならいけるぞ!」

 

 

 陽介がガッツポーズを見せ、それと同時に千枝がフラフラとなる。それを優しく抱きかかえる明日香。

 

 

「えへへ。無理しすぎたみたい」

 

「ありがとう千枝。後は俺達がやるから少しでも休んでくれ」

 

 

 弱体化している影達を一掃しようとしたが、悠が何故か立ったまま呆然としていた。

 

 

「おっおい悠どうしたんだ?」

 

 

 明日香が声をかけると、悠は一度目を閉じた。そしてカッと目を見開くと、悠の周りに2枚のペルソナのカードと魔法陣が現れた。

 そして2枚のカードが魔法陣の中で1つに溶け合おうとしている。

 

 

「ヤマタノオロチ!!」

 

 

 1つのカードから現れたのは、日本の神話に出てくる伝説の生き物、8つの首を持つ蛇ヤマタノオロチであった。

 

 

「すっすげぇ」

 

 

 ペルソナが合体したことに呆然と見ている陽介。その間にも8本の内2本の首がマッチョシャドウに巻き付く。首に強く巻きつけられているのに恍惚な表情を浮かべているマッチョシャドウを見て呆れかえる明日香達。

 

 

『もう!邪魔しないでよ!!』

 

 

 影が男性のマークを持って反撃しようとする。

 

 

「今までいい所見せてないからな。ここいらで挽回するぜ!ジライヤ!」

 

「俺も続くぜヨシナカ!」

 

『スラッシュ』

 

『二連牙』

 

 

 ジライヤの手裏剣とヨシナカの2刀が男性マークの武器を弾き飛ばす。

 

 

『んもう!酷いじゃない!!』

 

「ヤマタノオロチ!」

 

『ブフーラ』

 

 

 悠が反撃を許さず、影を巨大な氷で閉じ込めた。だが直ぐに氷を破壊しなおも向かってこようとする。

 それを見て、悠はウサギのストラップを完二に渡した。

 

 

「後はお前の問題だ」

 

「……」

 

 

 悠の言った事が分かったのか、ストラップを優しく握りしめた完二はゆっくりと影に向かっていく。

 

 

「あぁそうだよ……」

 

『何よぉっ!?』

 

「俺はっ俺は……可愛いものが好きなんだよ!!」

 

 

 そして駆けだした完二は、自身の影を殴り飛ばしてしまった。殴り飛ばされた瞬間、2体のマッチョシャドウも消滅する。

 

 

『あぁそんな!僕を優しく受け止めてぇ~!!』

 

「マジかよ……!」

 

「自分で自分のシャドウを倒しちゃった」

 

 

 完二が自分の影を倒した事に陽介や雪子は驚愕する。

 

 

「そのっ嬉しかったぜ。かわいいって言ってくれて。明日香さん以外に俺の事を受け入れてくれた事なんて初めてだから」

 

「あぁ」

 

 

 完二の言った事に悠は大きく頷いた。だが、まだ終わっていなかった。巨体の影から褌姿の完二の影がまだ残っていた。よほど強く拒絶されたのだろうか。

 

 

『もう誰でもいい。僕を受け入れて……受け入れてよぉぉぉ!!』

 

 

 こっちに向かって来る影。まだ戦わなければならないのかと明日香達は構えるが

 

 

「いい加減にしろ馬鹿野郎!!」

 

 

 完二の一声に影は歩みを止めた。

 

 

「情けねぇぜ。こんなんが俺の中に居ると思うとよぉ……男とか女とか関係ねぇ。ただ拒絶されるのが怖かっただけだ。自分から嫌われようとしているチキン野郎だ。だけどな、そんな俺を受け入れてくれる人もいるんだよ。もう分かってんだよ。俺がお前で、お前が俺だっていう事はな。だからとっとと戻って来いクソッタレが」

 

『……うん』

 

 

 影は満足そうに頷いて姿を変えた。先程と同じような黒くて力強そうなペルソナ『タケミカヅチ』へと

 

 

「アレが完二君のペルソナ」

 

「男らしくていいじゃん」

 

「あぁ完二らしい、立派なペルソナだ」

 

 

 タケミカヅチが完二の中へ入るのを見届けた明日香達。限界が来たのか、膝から崩れ落ちる完二。

 

 

「完二君!」

 

「大丈夫か!?」

 

 

 完二に駆け寄る明日香達。けど完二の表情は苦しそうだが、どこかスッキリとした表情を浮かべている。

 そんな完二の肩を担いであげている明日香。

 

 

「よく頑張ったな完二」

 

「明日香さん……すいません。迷惑かけて」

 

「そんな事無いさ。お前が無事で本当に何よりだ……さぁ帰るとするか」

 

 

 完二を担ぎ、湯気の立ち上る銭湯を後にする明日香達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。