Convergence tower (久遠/kuon)
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ある収束の記録【インストール〜1階】
【総合掲示板:3ch】
-最近話題のMMOについて語るスレ-
1 :名無しのプレイヤー :2015/05/06(水) 21:50:42 ID wgdm5jm
このスレはタイトル通りです!情報交換的な感じで使ってください!
…
98 :名無しのプレイヤー :2015/07/13(月) 18:26:30 ID mhppt84
このスレ久しぶりに見たわwww
今流行りのMMOってなんかあんの?
99 :名無しのプレイヤー :2015/07/13(月) 18:34:25 ID wgdm5jm
イザナギオンラインとかですかね?MMO自体下火になってるかもですけど
100 :レイカ :0001/12/19(月) 01:23:45 ID _____
私は、流行りでは無いですが、とても不思議な奇跡のMMOアプリを知っています。そのアプリは私の、人生を、変えました。もし、この中で自分の人生を、変えたい、一度リセットしたい、と考えてる方は、やるといい。でも注意して、インストールするのは。一度入れた、人生は、変わる、あなたの。気になった人は、調べてみて。
名前は「アヴァベル オンライン」
101 :名無しのプレイヤー :2015/07/13(月) 18:35:04 ID mhppt84
イザナギかーやったことあるんだよねーw他になんか無いかな?
102 :名無しのプレイヤー :2015/07/13(月) 18:35:36 ID wj64jmgp
うわっwなんだこれwwwレイカってやつw
103 :名無しのプレイヤー :2015/07/13(月) 18:35:42 ID wgamtptg
>>100 釣り乙
104 :名無しのプレイヤー :2015/07/13(月) 18:36:04 ID wgdm5jm
うーん、なんだか気持ち悪いのでコメント消しておきますね!
たぶん嘘だと思いますけど
105 :名無しのプレイヤー :2015/07/13(月) 18:38:15 ID mhppt84
システムバグってるの初めて見たわwww
ってかアヴァベル オンラインで検索しても何も出ねぇよwww完全に釣りじゃんw最後とかホラー要素入れてきてるしな!www
106 :名無しのプレイヤー :2015/07/13(月) 18:40:25 ID pgjdj1tw
>>105完全に釣られてんじゃんwww
…
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このコメントは投稿されてから数分足らずで消された。だがどうしてもおれの頭の中にアヴァベル オンラインという語は離れることは無かった。もしあの「レイカ」という人の言うことが正しければ、おれが検索をかければ見つかるだろう。確信すら感じていた。
おれはイジメを受けていた。行為自体はなんら大したことは無い。問題は当人に自覚が無いことだ。おれもイジメをしたことがあるから分かる。当人達はきっかけが無いと気づかない。そして被害者がいくら言ったところで聞く耳すら持たない。こうしてイジメはエスカレートしていく。どちらが悪いかなんて判断はつかない。
おれは今本気で人生を変えたいと願っている。そして、その奇跡のMMOアプリ「アヴァベル オンライン」を検索した。
画面には検索結果が一つだけ。インストールするか否か、ただそれだけのサイトだった。どうやら携帯アプリらしい。パソコン版は無かった。
結局おれはそれをインストールした。なんの変哲もない普通のタイトル画面が携帯の画面に展開される。これのどこが奇跡のアプリというのだろう?
『はじめまして!ファインと申します!ここはメインタワーという塔を中心に建設された街です!しっかり準備を整えてメインタワーを攻略してください!』
ゲームを始めると、まずそう言われた。他のMMOより説明は少ないが…あまり目立った要素は無い。PVもチュートリアルも無い。とりあえずそのメインタワーとかいうところへと向かってみる。メインポータルでワープした先は草原だった。遠くにはもう一つのポータルらしき光も見える。
「まずは…狩りか?…うわっ、なんだこれ。技とかスキルとかコンボも無いぞ…」
「最初はそんなモンよーまずは通常技でモンスターでも狩ってみなさーい」と、少し遠くの大きな木の下で仰向けになって空を見てた女の子が声をかけてきた。
えらく雑なチュートリアルもあったもんだなー。と言われたままにモンスターを狩るといくつかの素材と武器がドロップした。
「アイテム落ちたっしょー?それくれなーい?」
「え?」
「教授料よ、教授料〜」
「あ、ああ。そんなもんなのか?」
と、『小さな羽』を5個渡した。
「おっしゃー!これでクエが進められるぜ、やっほー!自分で狩るのはめんどくさかったからなー、ラッキー♪ラッキー♪」
このNPCはなんだかとても人間くさかった。…もしかしたら同じプレイヤーなのかもしれない。
「そのクエストってのはどこで受けられるんだ?」
「そんなのは自分で探すといいさ!See you!」
「おいおいおい!待ってくれ!あんたNPCじゃないのか?プレイヤーだったのか?」思い切って尋ねてみた。
「えぬぴーしー?ぷれいやー?なんの話?あっ!新しい装備かな!?初心者のくせに物知りなんだなぁ!」
否定…でもなく…言葉自体知らない…のか?
「え…じゃあ…あんた何者なんだ…」
「女の子の名前を聞くとはお主やり手だな!?私の名前はアイカ!クエストを受注したもののあまりの気持ち良さにうたた寝していたのさ!」
ではでは!おさらば!と言い残してポータルから拠点へと帰っていった少女を目で追いながら確かに心地の良い風に身を委ね…た…。
あれ?
いや、ちょっと待て
風を感じる?少女を目で追う?
これは…ゲームだろ?景色は風は、全部画面の中のことだろ?
これ…完全にゲームの中に入り込んでるじゃねーかッ!?
-ここはアヴァベル。多くの奇跡の起こる世界。一つの塔を中心にどこかで何かが起きている-
こんな感じで設定も背景もかなぐり捨てて自由に書いて行きたいと思います!
ちなみに作者はイザナギをやってみましたが動きに慣れずに挫折しましたw
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学者も体力仕事【2階】
「あぁ〜もう…なんっかなぁ…」
俺はあったかいが少し枯れた黄色っぽい草の上で寝転がっていた。おれは今、とある悩みを抱えている。
だがその悩みを言う前に私が何者かを言わねばならないだろう!
私は学者だ。この草原一帯の生物の生態調査を任されている。ここは実に豊かだ、今寝転がってる草だって覆われてないところが無いくらい生い茂っている。少し遠くに行けば川はあるし、すぐ近くにはほんの十数年前まで実際に使われていただろう小屋さえある。さらに、その豊かさを象徴するように大きく成長した《飛べない鳥》や《火吹きトカゲ》などがそこかしこにいる。少し細いものの木だっていくつも生えているのだ。
…でも、この木が問題なのであった。もう一度言おう。私は生態調査を依頼された学者だ。間違いなく神学者ではない。神様なんて腹痛の時と試験前に祈る程度の存在でしかない。
だが…実際に見たものは否定しようが無い。ほんとは否定したくてしたくてたまらないけど。
私が今回生態調査を行う対象は〈アルベロ〉とかいう『動く木』。
ほら、もう嫌んなってくるだろ?少なくとも私は嫌なんだ…。だがこの『動く木』を生態調査3日目に見てしまった。まったく…最悪だよ。その後色々と聞き込みをしたがまともな答えが返ってこない。
やれ、あれは神だの、悪魔だの、果ては元々人間だった。なんて抜かすやつもいた。だが奇妙なことに誰も木が動くことを否定しないのだ。
このアヴァベルという街はどこかおかしいようだ。依頼もこの街に来てから受けたものだし。
じゃあ一度、私に依頼された生態調査の少し詳しい内容を見てみよう。
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To.アレン・アーノルド博士
この度は博士の著書である「既存の進化論を越えた超越生物」がこの依頼に向いていて尚且つ博士自身、現地のフィールドワークを専攻なさっているということでご依頼させていただきました。
依頼の内容は〈アルベロ〉の生態調査です。この生物については現地で情報収集をお願いします。妙な先入観を与えたくは無いので。では、ご依頼のほどどうかご検討ください。
From ≠≠総≠研究≠R≠≠KA
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今思えばこの手紙には違和感がいくつもあった。そもそもこれの書き手はこういう書類を書き慣れていない。ちなみに差出人の名前はシミがついていて読み取れなかった。生態調査書類をこの手紙に同封して送り返せば良いらしい。
「全く…妙な依頼を受けちまったもんだなぁ…」
「まったくですねー!あなた無頓着にもほどがあるのでは?」
「あぁん?うっせーなーほっといてくれ…?」
ガバッと身を起こすと目の前にニコニコと笑う少女が立っていた。
「おおう!?誰だお前!?そしてなぜ私の考えてることが分かった!?」
うーん?と、その少女は口を軽くすぼめてそっぽを向きながら人差し指をこめかみの辺りに添えて考える仕草をした。
「あたしエスパーだから☆」
「あーそうかいそうかい、そういうのは科学的に立証されてから帰っておいでー」
「あー!信じてないね!?」
「なんだよ、ほんとだって言うのかよ」
「うぅん、嘘だよ」
「嘘かよっ!学者の前で嘘は吐かないでよ!」
「あはは、おじさん面白いねー!語り口調の独り言といい、ツッコミといい、相当楽しい人生だったんだろうね?」
なんかもう全体的に失礼な少女だった。もう無視することにしてしまおう。ゴロン…とまた元の場所に寝転がると少女がぐるっと回り込んできた。あ、コラ。しゃがみこむんじゃない。自覚無いかもしれないけど色々見えてしまってるから。
「ねぇねぇーおじさん〜。おじさんの探してるアルベロってねー、もっと奥に住んでるんだよー」
「え〜……それ本当ぉ?」
「疑いすぎだってぇー、そりゃさっきのは悪かったけど現地では地元の人に付いてくのが1番なんだよ?」
言われなくても分かってる、なんてことはわざわざ口に出さない私、大人。
「はぁ…これも生活資金のため…行くよ…」
「よっしゃあ!さっすが大人!思い切りが良いねぇ!」
そんなにおだてても何も出ないぞ。っていうか何がしたいんだ?この子。
「その〈アルベロ〉ってのはなんなんだ?」
「そんなの見てのお楽しみだよー、すぐそこに居るのに答えを聞くなんて野暮だよ、おじさん♪」
「ああ、そうかい…」
先ほどキャンプしていたところから少し先に進むと木がまばらになった丘が見えてきた。
「ほら、あの木が全く無い丘の頂上あるでしょ?」
「あーあるな」
「大抵あの辺に居るんだけど___やばっ」
「え?」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!まるで蜂が大量に飛んでるみたいな音が…あ、いやこれ蜂だわ。ってデケェェェ!?
大体1m半くらい?とにかく尋常じゃない大きさの赤色の蜂が大量に辺りを飛び回っていた。前にも…横にも…もちろん後ろにも。
「なぁ…これまずくないか?」
「ちょっ!あんた喋るな!」
ギュルッ…と蜂達が一斉にこっちを睨んだ。
「おい…どういうわけよ…」
「おじさんが声出すから場所バレたじゃない…」
「具体的にどうするわけ…」
「逃げるしか無いよ…」
ブワァァァァァァァッッッ!!
「「うわぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」」
全力で丘を駆け上る!蜂が!迫る!
「おいおいおい!これどうするわけ!?逃げても追いつかれるってぇ!」
「あんた武器持ってないの!?使えない大人ねぇ!」
「すまん、今まで嘘吐いてた!おれまだ18!しかも自称学者!」
「はぁ!?じゃあ…あの『既存の進化論がどうたら』って本は!?」
「あんなのほとんど知られてないよ!今回声かけられてスッゲェ舞い上がったレベル!」
「あんた本当使えないー!」
「それさっきも聞いたー!」
ああもうラチが明かねぇ!
ザザザァッ。砂埃を上げながら立ち止まり、ドカッと《火吹きトカゲ》を蹴りつけて一撃で倒す。
「あんたそんなに強いならバトル・ビーも倒してよ!」
「おれが倒せるのはずっと見てた《火吹きトカゲ》と《飛べない鳥》だけだ!だけど…こいつらを倒すと何故か知らないけど武器が出てくる時がある…ッ!」
《火吹きトカゲ》が倒れた近くの地面に片手で振り回せそうな剣が刺さっているのを見つけて抜いた。ザッ…と少女を左手で庇いながら剣を右手に構える。
見よう見まねだけど…ここで引くわけにはいかねぇ…ッ!おれが産まれた街には手練れの剣士が何人か居た…そいつらが不思議な力を使っていたことがある。それを…ぶっつけ本番だが…試すッ!
スゥッ…と一歩前に右足を踏み出し剣身を正面の蜂から隠すように引いて構える。剣士は確か…「イアイの構え」とか言っていた。蜂達が完全に間合いに入るのをジリジリと焼け付くような緊張感の中、待つ。
「ね、ねぇ、何してるの?」
まだだ…まだ早い…。
「もう…もう間に合わないよ!」
もう少し…引き付ける…!
「ああ…声なんかかけるんじゃなかったかも…!」
剣を中心に桜色のオーラが滲むように浮かんできた。
「[刹那]ッ!!」
シュキィンッッッ!!剣身が空気を高速で切り裂く音が聞こえた。
太刀筋上にいた蜂はもちろん、その延長上にいた蜂まで一斉に断ち切られた。
「すごいっ…」
「初めてやったけど…上手く…行ったな」息を切らしながら笑うと少女もようやく緊張から解き放たれたのかぎこちなく笑う。
「あれが…アルベロか…」蜂を撃退し、元々の目的だった丘の頂上の少し下で呟く。
「うん、あれがアルベロよ」
よし、とおれはキャンプ地から持ってきてたリュックサックからスケッチブックを取り出す。
シャッ…シャッ…。アルベロをデッサンしていると
「へぇ…あんたって絵、上手いんだね」いつの間にか今までに描いた《飛べない鳥》や《火吹きトカゲ》の絵を盗み見られていた。
「うわぁ…エミューとかすごい羽毛ふわふわじゃない…」そうか《飛べない鳥》はエミューと言うのか…。
「まあな…これだけが、唯一の特技みたいなもんだから」
「…さっきの剣技…凄かったよ」
え?と、少女の方に顔を向けると剣の切っ先が向けられていた。
「うぇっ、えぇ!?」
「絵、描き終わったらあたしの目的も果たしてよね!」
「お前の目的って…なんだよ?」
「アルベロを倒して手に入る【精霊の小石】を持って帰ること!転送管理人のステイルさんに頼まれてるんだよねー」
「あーはいはい…っておれが倒すの!?」言いながらスケッチブックを片付ける。
「だって剣使えるでしょ?あたしも手伝うから。」
「お前…自分も戦えるんじゃねぇかァ!」
「私支援専門なのよ、攻撃は何も出来ないの〜」
「oh...」
「さっ!行くわよ!」はぁ…と剣を手に取り、あまり慣れない構えを取りながら2人でアルベロへ近づいていく。
「あれ?お前武器は?」
「拳で十分…よ!」パァンッ!と実に頼もしい音を響かせながらスッと後ろへ下がる。
「え、さっきのフリじやなくてほんとに支援専門なの!?」
「杖は高くてね〜」
そうかい…と呟きながらアルベロの前に対峙する。
ウオオオオオァァァァッ!!アルベロが咆哮を上げながら近づいてくる。
「はぁ…早く帰って寝たいんだ…さっさと終わらそう…」
「おらー!斬れー!斬り刻めー!」
たじっ…とアルベロが身を引いた気がした。
「ほぉー、それが【精霊の小石】かぁ…案外綺麗なモンだなぁ」夕陽に照らされて真珠のように白く鮮やかな石が煌めく。
「ねぇ…あんた、あたしとずっと一緒にいてくれない?」
「え…?」
「よ、用心棒としてよ!その腕を見込んで!ね!」
「あ、ああ…喜ん…っておれは学者だって!剣なんてもう握らないからな!」
「な、なんでそんなこと言うかなーっ!」
顔が熱いのはきっと夕陽の照り返しのせいだろう。…どうか、陽が落ちる前に家に帰れますように。あ、もちろん1人で、ね。
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【生態調査報告書】
・アルベロ:文字通り木の化け物。自らが木であることを利用した攻撃方法で攻撃してくる。生息区域は草原のなだらかな丘の頂上付近。木のウロのように開いた口は想像より開くが特に噛み付いてきたりはしない。どうやら色違いのアルマという赤色をした個体もいるらしい。
備考:この依頼で出会った少女に付きまとわれている。少しくらい愚痴を書いても良いだろうか。大体私は学者だと言っているのに、あいつは____
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前回重かったし恋愛モノをぶち込む!w…と思ったけど恋愛モノなのかなぁ…コレw
アルベロさんは自分がアヴァベルをやり始めて初めて殺されたモンスターなのでネタ枠にしてやりました!w
へへっ、ざまぁみろ!wアルベロさん可愛いですけどねw
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輪廻する生命【3階】
無成gw有mwp汝は魂wg与。之wk59実なた試作hm_也汝動。亜手屋霊は嫌はか?言事琴。汝wa何をseeだろうか¿
∥\∥ ◎ \∥\∥ ¢ ◎ ∥\∥\ € .
「………」
大木の目の前に誰かが立っている。フード付きのマントからちょっとだけ見える顔から少女だと分かる。彼女は何も言わない。
ここは早朝、太陽が出る前のどこまでも続く平原。しかし太陽はそれ以上昇ることはない。
少女は、すぐに大木の前を去って少し離れたところで光に包まれてどこかへ消えた。大木は風に吹かれ無数にあるその葉を一枚、また一枚と落とし続ける。
ふと、辺りを見回すと、3種類の生物がいた。手に棍棒を持った、人とイノシシを掛け合わせたような生物、紫と黒の毒々しい色の、ハチを大きくしたようなもの。あと一つは赤いウロコを持った火を吹く小型恐竜のようなモノだ。
3種類の生物は大木の周りをぐるりと囲むようにいた。
ある日、腰に剣を差した男が一人その草原にやってきた。
「へぇ、サラマンダーねぇ、ベタな名前だ」
小型恐竜を見ながらそう言った。どうやらその生物をサラマンダーと呼んでいるらしい。他にもぞくぞくと人々は草原を訪れた。
彼らは大木の周りにいる生物をその手にした武器で次々と傷つけ殺していった。殺されたモンスター(と人間達はあの3種類の生物をそう呼ぶ。)は死体も残さず光となって消える。宙に浮いたその粒はどこか、大木へと向かっているような印象を受ける。それほどその大木の存在感が大きい。
いつしか、モンスター達はその大木を自らの生みの親のように見るようになった。自らを守ってくれと祈るようになった。しかし、大木は何も出来ない。ただそこにあるだけだった。
また、ある日人間でもモンスターでもない生物が現れた。硬そうなウロコで覆われた巨大な体、太くたくましい四肢、鋭く尖った牙に尾、長いひげ、人間達はそれをこう呼んでいた。
「ジャバウォック」
ジャバウォックは次々と体当たりや振るった巨椀で人間達を葬っていった。
そこへ、黒い和風なハッピのようなモノを着た男がやってきた。風で少しズレたつばの広い帽子を直しながらこう言った。
「ひささにジャバさんでも狩るかぁ…イカ狩りにも飽きたし…」
と大木には理解不能だったが一つだけ分かった。
「(こいつは…さっきの人間達とは明らかに違うっ!?)」
そして腰の剣を抜き放つやいなや煙に包まれて姿を消した。ジャバウォックは男の存在に気づかず、悠々と歩いている。その頭上に突如姿を現した男が体を歯車のように回転させ、ジャバウォックの体を斬り裂く。
「グゥゥォォォォォオオっ!」
大地を振動させる程の声を上げるジャバウォック。そこへ追撃とばかりに雷をまとって男が地面へと急降下する。
ズバチィィィ!!
ジャバウォックも反撃しようと、体からスパークするエネルギー弾を正面の男へと放つ。
しかし予想していたように男は地面を転がりそれをかわし、すぐに目にも止まらぬ連撃をジャバウォックへと加える。
「______ッ!!!!!」
声にならない叫びを上げ、全身に力を込めたジャバウォックは力を纏い地面を踏みしめた。すると、ドッッ!!!紫色のオーラのようなものが周囲四方向に立ち上がり男を吹き飛ばした。
「おっと、ちょっとミスったな」
そう言って体勢わ、立て直し、すぐに足で地面を蹴り、滑るように移動する。男が先ほどまでいたところへジャバウォックが噛みつこうとして突進した。
「ノロいぜ」
男は移動した直後、方向を急に変え、すれ違いざまにジャバウォックを斬りつける。だが、ジャバウォックは斬りつけた後の硬直を狙ってバク宙し、尾から発生する衝撃波の斬撃を男へ飛ばす。男がジャンプし振り返った頃には斬撃は目の前だ。
「チッ!!」
ヤケクソで男は衝撃を纏いながら、ジャバウォックでへと突進する。だが、男とジャバウォックはあることに気づいた。ジャバウォックの斬撃は、男に直撃した後も進んで…
ドガッッッ!!!
大木に直撃する。そして……
ギ……ギギギギギ………。不気味な音を立てて大木の幹が傾いていく。男もジャバウォックもモンスター達もその大きな大きな大木が倒れゆく姿に見入っていた。
彼らは何を思ってその木を見上げていたのだろうか。一瞬のようにも、何十秒にも感じる大木の死を彼らは凝視する。だが、驚くべきことが起きる。倒れた大木が、モンスターのように光となって消えた。その光の粒は、空へと舞い上がって行く、しかも、大木の質量に比例してその量は膨大だ。
草原にいるモンスターと人間は、ただ呆然と光の粒が空へと消えていく様子を眺めている。
だが、彼らは気づかない。大木がなくなった地面の割れ目から小さな幼木が顔を出していることに。それは、大木が、ここにいる生物達を見守り続けたいと願った結果だったのだ。
やっほー!おーい!見てるー!?
…はい、急になんなんだこいつ。って思った人ばっかでしょうね!w
実はこの話はこの短編集を階層ごとに作るという案を思いついてさらにはその案を譲ってくれた友人の作品なのです!んで、その友人もハーメルンに登録してるので呼びかけたわけですw
そして…あれ?この話いつもの書き方と随分と違う。そう思ったあなた!さてはオレのファンだな?
ごめんなさい、冗談ですwこういうチャレンジャーなことが出来るのも短編集ならではですよねー…。
この話、個人的に結構気に入ってますw
次の4階はまた私が書きますので〜!今回の人が良かったとか言わないでね!w
※本人に許可を取って投稿しております。悪しからず。
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ある若者 ある少女 【4階】
『experimentum Demi lupus argentum』
私が生まれて初めて見た文字だ。言葉は知っている。話しかけられたら答えることだって出来る。でも…私は喋らない。あの文字の意味なんて知らない。どうせ『ガクメイ』とかいうやつだろう。
『おい!待て!!お前が外に出て何になるっていうんだ!戻ってこい!
……くそっ!獣め!所詮はその程度の知能ってことかよ!おい!応援を呼べ!捕まえるぞ!』
なぜあんなことを考えたのか分からない。あそこが酷いところだと分かったのも逃げ出して、外の世界を見て初めて気づいた。それくらい私は無知だった。ただ、ドアが半開きになっていた。そのドアの先に何かある気がしたから。
Love is short, but forgetting is long.
え?意味?知らないよそんなの。どうせ『エイゴ』ってやつだろ。読めないけど。ていうか今は僕に構わないでくれよ…。
な、なんだい!僕だって失恋くらいするよ!お前恋したことあんのな…って、そこからかよ!?あーもう!お前らと話してるとどんどん気分が落ち込むよ…。
『あなたは…うん、素敵…なのだけれど…私、他に好きな人居るんだー』
なぜあんなことを考えたのか分からない。一目見て…好きになった。焦りすぎた。フラれて、自分の行動を振り返って初めて知った。それくらい僕は無知だった。ただ、この一言を伝えたらその先に大恋愛が待ってるんじゃないか、って。そんな気がしたから。
私は食糧なんて無くてもある程度やっていける。でも今私は元いたところから人の街へと向かっている。方向はなんとなく人の匂いの濃い方へ向かえば良い。ここは…全面に濁った水に満たされてところどころに石とか木とかが生えている。全体的に暗くて人が立ち寄りそうにない。ここで休むとしよう。…そう言えばあいつら全然追ってこないな…。
「はあ?応援は寄越さない?何言ってんだあんた。大体あんたどこのどい…所長!?はぁ…1度外に出してみるのも良い…ですか。たまには、うんと羽を伸ばして貰おうじゃないか、って…化け物にそんな気遣い必要ですかねぇ…。あーはい、はい、分かりましたー。しばらく泳がせますよー」
僕は今、友人達とと街を歩いている。
「腹…減った…」
「おい見ろよ!失恋しても腹は減るらしいぜ!あー!おもしれー!」思いっきり大笑いしてる馬鹿2人。あれが友人だ。友人運が無かったとしか思えない。
「あーもう!うるさーい!!飯行くぞ飯ー!」ヤケクソ気味に叫ぶ。
「お?どこまで行く気だ?」
「遠出する元気は無いよ…ノクトアルで良いだろー」
「今日はナギト君の奢りでーす♪」
「もうそれで良いよ…」
「「Year♪」」
やたらとテンション高い…人が失恋してそんなに嬉しいかよ…。ちなみにこいつら。意外とモテる。妬ましい限りだ。
「いらっしゃいませー」
ノクトアルの2階部分は昼はテラス式のカフェのようになっていて、夜は酒場だ。とりあえず適当な軽食を頼む。今は昼だからサンドイッチが来るだろう。
「お前らさー、なんでそんなモテんのに誰とも付き合わないわけ?」
「そんなの簡単さ」
「愛しの」
「あの娘が」
「おれを」
「待っている」
「だから」
「おれは」
「告白されても」
「「なびかない」」
一応言っておくが双子ではない。名前もフレッドとかじゃないから。世の中ってほんと不公平だ…。
「あー…もう…付き合ってられないよ…」
「おいおい!待てよ!まあ話だけでも聞けって!」
「なんで慰められる側が聞く側に変わってるんだよ…」
「良いか、人ってのは夢とか目標があると輝く」
「そして女の子はそんな匂いを敏感に察知する」
「俺たちはそんな夢で溢れている」
「そう!運命の出会いってやつを夢見てる!」
聞くだけ無駄だった。
「目的と方法がゴチャゴチャじゃないか」
はぁ…とため息を吐きながら頭を抱える。そしてスクッと立った。
「お前らに奢ったせいで金無くなったしバイトでもしてくるよ…」
「ため息を吐くと」
「幸せが逃げるぜ」
はいはい、と生返事しつつ手を振って別れる。
ここは良い。夜になるととても綺麗な月が出る。月に罪は無い。この1週間、人と出会うことは無かった。私がここに居ついてることがバレるとどうなるか分からない。見た目が普通なだけにこんな場所に居ることは不自然だろう。
今宵も月が昇る。あと3週間…何も無ければ良いのだけれど。
「なんだよ……こんな仕事しか残ってないのか…ツイてないなぁ…」
《4階:湿原1の素材集め》
「よりによって湿原かよー…」
「ツイてないね♪怪我しないでよ〜?私が依頼したクエストで怪我人出たとかシャレにならないんだから」
「サラさん!?縁起でも無いこと言わないでくださいよー」
(普段こんなとこに来ない美容師のサラさんがわざわざ…!?これは…脈アリか!?)
「客に愛想振るのが仕事なんだからこれくらい普通、だ!」
痛ぁ!?
「な、背中叩かなくても良いだろう!?…ってお前らもう店出たのか?」
「お前に財布返しに来たの。それに、もうって言うけどここで相当悩んでたろ?1時間半経ってるぜ」
「ま、マジかよ…あ、財布さんきゅー、おぉ…見事に財政難だ…こりゃ受けるしか無いよなぁ…」
「頑張れ少年」
「女の子は」
「金が無いと」
「養えない」
「もうお前ら帰ってくれ!」
「はぁぁ…熟練のハンターはもっと上の階層だし初心者はちょっと下だし…。こんなとこ来る物好きは僕くらいのもんだよなぁ…」湿原特有のべちゃべちゃした土を踏みしめながら夜闇の中【揺れる草】【丸い小石】【湿った枯れ枝】を探す。
『溜息を吐くと幸せが』
『逃げる』
『嘘でも笑うと幸せが』
『やって来る』
友人2人の助言を思い出して、無理やり「にーっ!」と笑ってみる。すると、
バサバサッ、ダバンッ!
という何かが水の中に落ちる音がした。
最初から警戒はしていた。こんな人気の無いところに人が来たのだ。1人で、しかも夜に何かを探すように辺りを見回しながら。最初は追っ手かと思った。けどそれにしては顔が幼すぎた。一体こいつは何者なのか。見極めるために木の陰からこっそり様子を伺っていた。湿地の中程まで来ると、はぁ…と溜息を吐いたと思うと、キッ!と私の居る方を見た。いよいよ見つかったかと思うと急に自分の手で両ほほを「ぐにーっ」と引っ張って目を細めた。その面妖な顔に思わず気が抜けてしまった。隠れていた木の陰から水の中に落ちてしまったのだ。
「な、なんだ?」バシャバシャと音を立てて走り寄ると何か倒れていた。
「………女の子?」
その子は、必要最低限の…白色をした見たことのない感じの服を着ていた。どこか清潔そうなイメージのするその服は泥や土でドロドロだった。銀色の癖の強い髪もドロドロになっていた。
「あの…大丈夫?」
僕がよっぽど汚れていたのか、手を伸ばして助けようとすると、ビクッと体を強張らせた。
「あ、えーっと、何にもしないから、ね?」と、少しはにかみながら言うとようやくその子は僕の手を取ってくれた。手を貸しながら立たせてあげると意外にも自分と同じくらいの年齢の少女だった。そしてその可愛らしさと言うか美しさと言うかに驚いて思わず目を丸くした。
やっぱり怖がられた。私はそう思った。この人間は私を見ると目を丸くしたのだ。私はバケモノなのだから当然だ。私は街へ行こうとしながら躊躇っていたのも同じ理由だ。怖がられるのがイヤ。
「君…名前は何て言うの?」
僕が問いかけると少女は枝を拾って地面によく分からない字を書いた。
『experimentum Demi lupus argentum』
「…?なんて…読むの?」
「…エクスペリメンタム デミ ラプス アージェンタム」
初めて聞いた声はハスキーな素敵な声だった。
「エクス…デミ…?」
「エクスペリメンタム デミ ラプス アージェンタム」
「長いなぁ…ラプスで良い?僕の名前はレプスって言うんだー、僕が付けといてなんだけど何か似てるね!」
こくっと可愛らしくうなづいて
地面に書いた文字をジー…っと見ていた。
「よし、とりあえずその格好どうにかしよう!ラプス、家は?」
「家は…無い」
「そっか、一人暮らし始めたばっかりなんだな、ならとりあえず街の宿に泊まろう!おれの名義で借りるからさ!」
にかっ!っと笑って街の方を格好付けて親指で指した。
「あー、宿貸してください!…日程ですか…えーっと…出る時に払うかは…えーダメなの?どうしよう…じゃあとりあえず7日貸してよ!」
主人の了承を得て自分の名前を書類に書く。その間ラプスはずっと僕の手元を見ていた。
「よーし!宿は無事に借りれたし、そうだなー、美容室行こう!そのドロドロの服とかをどうにかしてもらおうぜ!」ビシッとラプスの服を指差す。
「僕は君の服を見繕ってくるからさ、のんびり待っといてよ!サラさんに任せておけば万事大丈夫さ!」
そう言ってレプスは病室(?)に連れて行ってくれた。
「いらっしゃーい、あら?レプスくん?」
「サラさんこんちわですー」
「レプスくん…その子は?すごくドロドロだけど…まさか誘拐…!?」
「ち、違いますよ!…いや違うことないかも?と、とりあえず色々と良さげにしてください!僕は服買ってくるので!」
「はいはい、サラさんに任せなさい」
じゃ!と言ってラプスは出て行ってしまった。
「ほら、まずはシャワー浴びてきな、奥にあるから」
シャワー?よく分からない顔をしているとサラさんが少し驚いた顔をした。……やっぱり嫌われたんだ。
「あー、ごめんごめん!シャワー知らない人なんて珍しくてさー、時々居るんだけどびっくりしちゃった。だからそんなに怖がらないで」
サラさんは困ったように苦笑いしながら頭をかいていた。なんだか…とてもサマになる画だった。
「ほら、手伝ってあげるから、おいで」
そう言われて私はサラさんに付いて行きました。なんか…雨の匂いがする…。
「はい、そこで服脱いで!」
発育が良いわね…。そう言ったサラさんもとても背が高い。不思議そうな顔をすると、無垢なのも罪なものよね、と言われてしまった。どういうことだろう…。
そして言われるままに服を脱ぐと籠を指差された。ここに入れろと言うこと…?
「うーん、シャワー初めてなら目閉じといた方が良いかもね」サラさんも服を脱いで奥の戸を開けるとモワッと白い煙が溢れてきた。
「あはは、そんなにびっくりしなくても大丈夫よ」
サラさんは笑いながら私を小さめの椅子に座らせた。目を閉じて、と言われるままに目を閉じる。
「じゃ、シャワーするわよー」
キュキュッと何かを捻る音がすると同時に何か暖かな……み…ず…?水…?
ッ!!?
「んっん〜♪どの服が良いかな〜」
るんるん気分でレプスが露店で女物の服を選んでいると後ろの方から
「おい、見ろよ」
「おう、見たぜ」
コソコソと
「どういう状況だ?」
「妄想上等じゃ…?」
二人組みが
「ついに頭がやられたか」
「ついに見方が変わったか」
話していた。
「失礼だな!さっきからぁ!」
「良かった」
「こっちの声は」
「届いてる」
「だ、だいたい!僕は妄想なんてしてないぞ!現実に実在してる…はず…だよね?」
出会いの時点で現実離れしていたために不安になってくる。
「俺らに聞かれても」
「困る」
「本当に居るのなら」
「ここに」
「連れて来て」
「みろ」
「今あいつはサラさんの美容室で…」
美容室のある方にチラと視線を向けると同時、ドバンッッッ!!というド派手な音と共に美容室の木製のドアが内側から吹き飛んだ。
「え…?」
そう言ったのは誰だろうか、その場の全員が唖然としていた。
ドアが吹き飛んだことにではない。
おそらくドアを吹き飛ばした張本人だろう、その真っ白の柔肌を見せつけるかのように全身何も着ずに少女が飛び出してきたのだ。
「ラプス…?」
呟いた声は幸か不幸かその少女まで届いた。思いっきり混乱した様子のラプスはその声の聞こえた方へ全力で跳んできた。
「うおおおおおおおっ!?」
さて、健全な年頃の男の子には様々な選択肢があっただろう。ここでレプスが取った行動は最もチキンで最も紳士的な行動だった。
ちょうど露店で見ていた服を広げて、跳んでくるラプスを受け止めた。
「おー、やるねぇ兄ちゃん!…ただその服はお買い上げだよね?」
露店の主が笑いながら言う。
「あ、あー…ツケで」
「まいどありーっ!」
くっ、結構高いぞ…っと思いながら美容室の方を見ると
「ごめんねー、まさかそんなにびっくりすると思わなくてさー」
サラさんが美容室の戸のない入り口からこっちを覗き込むようにして言った。ちなみに一緒に風呂に入っていたのか片手で体を纏うバスタオルを隠しながらだった。
「ほら、少年」
「バスタオル」
「俺らの好意」
「合わせて受け取れ」
2人がサラさんからバスタオルを貰って来てくれた。
「ああ、ありがとう」
完全に目を回しているレプスにかなり大きめのバスタオルを使って、くるっと巻いた後肩に担ぐ。周りにあの2人と他数人しか居なくて本当に良かった…。
「おーい、ラプス!おーい!……サラさん本当にシャワーしようとしただけ?」
「ほ、ほんとだってば〜!え?もしかしてラプスちゃんって水に触れると死んじゃうの?」
「いや…それは無いと思いますけど…少なくとも泥は大丈夫でした!」
何やら2人が話をしているのが聞こえる。私は…水をかけられてどうしたんだっけ。うっすらと目を開けるとまだ髪の濡れたサラさんとレプスが覗き込んでいた。
「そ、それは…どういう状況なのか…あ、起きた!」
思い出した。私は驚きのあまり病室の扉を思いっきり蹴り抜いて…。扉を見ると明らかに修繕の跡があった。つまり…外に出てから起きたことも現実なのであって…。
「大丈夫かい?ラプス…お、おお!?暴れないで!待って!また戸をぶち抜かれると今度は弁償になるからー!」
レプスが必死になだめる。するとサラさんが私の耳元に口を寄せて小さな声で
「レプス君に嫌われるぞ?」
ボッと顔が燃えるかと思った。なぜか分からないけどものすごく心臓が痛い。なんで…嫌われたくないんだろう…。
フシュゥ…と急に勢いを失った私を見てレプスが
「な、何を言ったんですか?」
と、聞く。ふふん、と軽くドヤ顔をしたサラさんが
「レプス君はまだ知らない方が良いと思うな〜。さ!男は出てった、出てった!」
な、なんなんだよ〜と言いながら外れそうになる扉を建てつけ直してレプスは外に出て行った。
横に3〜4個並んだ、前の壁に備え付けられた鏡とワンセット椅子の一つに座らされて大きな袖の無い白い服を着せられた。
「ラプスちゃん、その服、レプス君が買ってくれたんだよ」
また顔が赤くなるのを感じた。
「む、可愛らしい反応ね…全くレプス君はこんな可愛い子どこで拾って来たんだか…」
と、ぷにぷに後ろからほっぺたをつつかれる。
「レプス君狙ってたのになー」
髪、長いけど癖っ毛だから櫛だけ通すのもアリね、と小声で言ってサッサッと髪を梳いてもらう。
「はい、出来た!お代は要らないからレプス君に見せてきてあげな!」
扉の前でお辞儀をして顔を上げると、にかっと笑ったサラさんが手を振ってくれていた。もう一回お辞儀をして外に出るとレプスがキザな感じで手すりにもたれかかっていた。…格好つけようとしていたのか足がプルプルしている。
「や、やぁ!ラプス!随分と可愛くなったね!」
なんだか逆に格好のつかない感じだった。それに…小声で誰かと話してる?妙に思って耳を澄ましてみると。
ラプスが扉を開けて出てきた時、特に髪型を変えていなかったというのにとても綺麗だった。左右にぴょこぴょこ跳ねていた髪を丁寧に撫で下ろしてスッキリとした腰くらいまでのロングヘアーはとても似合っていた。
「や、やぁ!ラプス!随分と可愛くなったね!」
このセリフは手すりの向こう側に(無理やり)隠れている2人に言わされたものだ。
「あれが」
「君の妄想の…」
「妄想じゃないってば!」
3人は小声でやり取りをする。ラプスが妙な顔をしたため慌てて2人が身をさらに縮ませる。
「まさかラプスに」
「彼女が出来るとは」
「実はまだ告白してないんだけどね」
つまりはそういうことらしかった。あの後ろの男2人からの助言で言わされたらしい。普段の話し方の方が似合ってるのになぁ…。
「あーもう!お前らの言ってること分かんない!ラプス!晩ご飯食べに行こうよ!」
あ、戻った。やっぱり私はこっちの方が好きだ。
「お子様め」
「お子様め」
「う、うるさい!さ、行こう!ラプス!」
手を握られて向かった先はすぐそこの二階だった。
それから私とレプスは色々なことをした。この街を案内してもらったり、一緒にご飯を食べたり。レプスの話してくれることはどれも面白かった。どれも今まで経験したことのないことばかりだった。でも、バケモノの私は長居するべきではなかったのかもしれない。とても楽しい日々はたった半月ほどで終わってしまった。
レプスがモンスターに襲われた。
モンスターに襲われる程度、この街では特に珍しいことでは無いらしい。問題は場所だった。レプスがモンスターに襲われた場所は。ここ。モンスターが絶対に入ってこないはずの街だった。幸いレプスの怪我は大したことがなく、無事だった。なぜこんなところに。街の人々は疑問に思った。そしてその後モンスターが現れる気配もない。一体何が起きたのか。
でも、考えてみれば簡単なことだった。私というバケモノがすでに街に入っているのだ。理を覆してしまった私を追ってモンスターが入り込んでしまうのも当然かもしれない。
細かい理屈は分からないけど、これ以上レプスや街の人たちを危険に晒したくない。だから私は街を出た。誰も追ってこれないように誰にも言わずに。
私が昔潜んでいた湿原に辿り着いた頃、辺りはすでに暗くなっていた。
今日はここで寝よう。と前に雨風を凌いでいた場所に潜り込んで葉の間から覗き見える月を眺めた。もう月はかなり丸く太っていた。明日辺りが満月だろう。間に合って良かった。これで良かった。これが一番最良の選択肢のはずだ。私はバケモノ。レプス達や人間と関わってはいけない。
白衣を着た男は電話で指示を仰いでいた。
「そろそろ満月ですね、どうします?良い加減捕まえないと…」
「そうね、でもあなた達が行かなくても良いわ。これから起きることはただの狩りよ。自然の摂理。生態ピラミッドの中の話」
「は、はぁ…要するにこっちは受け入れ態勢だけ整えていれば良いんですね?」
「ええ、そうしてちょうだい。ところであなた、魂晶って便利だと思わない?」
「魂晶ですか…確か今回の個体もそれ使ってるんでしたっけ」
「魂晶はね、取り出すのが非常に難しいの。だから市場に出回ることはほとんど無い。けれどね、どの生物にだって魂晶はあるの。じゃあそれを体外から直接操作することが出来たら?魂晶というのは名前の通りその生物そのもの。ね?とっても面白そうじゃない?この世界はどこまでも素敵に出来ているわ」
「よく分からないですけど…計画通りってことで良いんですね?」
「ええ、そう思ってくれて良いわよ。私は計画通りって言葉、とても嫌いなのだけれど」
そう言って男は電話を切られた。最後まで何を言っているのか分からなかった。その声が示唆するものが同じ科学者としての概念に収まるのか、それすらも判断の付けようがない。男は携帯を白衣のポケットに入れ、空を仰ぎ月を見上げる。
朝、目が覚めて起き上がると朝露に濡れた葉が頭に当たった。まるで水を浴びたかのように全身が濡れてしまっていた。もう水は怖くない。レプス達と生活する内に慣れてしまった。特にすることもなく、ぽー…っと過ごしていると、以前ここにいた時とは比べものにならないくらい退屈なのに気がついた。
もしも私が…なんてくだらないことまで考えてしまう。これ以上考え事をしていると要らないことまで考えてしまいそうで起きたばかりだというのに寝てしまうことにした。
何かが聞こえた気がして目が覚めた。辺りはすっかり真っ暗で、どうやらぐっすり眠っていたらしい。疲れてたのかな…。一応辺りを見回すけど誰も居ない。モンスター達も夜はどこか大人しい。今宵は満月。誰も…来ないことを祈るしかない。
そんな私の祈りがカミサマに聞き届けられることは無かった。
朝、起きたらラプスが居なくなっていた。街のどこを探しても、誰に聞いても今日は見ていないらしい。もしかしたら街の外へ散歩に行っているのかもしれない、と自分に言い聞かせて1日を過ごした。けれど、結局ラプスは帰って来なかった。
次の日、僕は街の外へラプスを探しに行くことにした。友人達にはちょっと出かけてくると言ってある。
「まずは…草原から探そう。もしかしたらどこかで寝てるのかもしれない」
それは自分の願望かもしれなかった。昼寝していて、夜になってしまったからそのままそこで夜を過ごした。だから1日居なかった。そうであって欲しかった。
草原をくまなく探したがどこにもラプスの姿は無かった。妙な胸騒ぎがする。
「初めて会った湿原に行こう」
言霊というのはあまり信じてなかったけれど、もしかしたら奇跡が起こるかもしれない。そう思って口に出してみた。そして僕は草原を出て湿原へと歩き始めた。夕陽が落ち、反対側から月が昇り始める。今宵は満月だ。僕はラプスを呼び続けた。草原も湿原も非アクティブなモンスターであるため、大声を出しても大丈夫なはずだった。
なのに…湿原の中程で僕はモンスターに囲まれてしまった。
「カエル型は…『パウロウ』か、カメ型は『タルタルガ』だな…花型は…『ロータス』ってやつだ」
護身用に短剣は持ってきてある。なぜモンスターが急に普段とは違う行動を取っているのか分からなかったが、ここを切り抜けるには戦闘を始めるしか無かった。
だが異常は続く。
「ぐっ…ぅ…!」
モンスター達の攻撃は明らかに今まで観測された攻撃パターンに無い動きだった。何度目か分からない『ロータス』の体当たりを喰らい、思わず膝をつく。
(ああ…ラプスに会えなかったことだけが心残りだな…。)
声にならないその呟きが虚しく心の中に響いた時、幻覚が見えた。
(ラプスだ…良かった。無事だった。)
銀色の髪は初めて出会った時よりさらに跳ねていて、髪の中からはピョコンと耳が生えていた。そして今、背中を向けているラプスのスカートの下から髪と同じ美しい銀色の尻尾が伸びていた。
(綺麗な銀色狼だ…。)
幻覚は現実離れしすぎて実感が無かった。
モンスター達が集い、円になったその中心に自分を庇うように立ったラプス。
「ラプス…君は一体…?」
思わず…聞いてしまった。
レプスがモンスターに攻撃をされる度に飛び出したい衝動に駆られた。でも、自分がバケモノだと分かって、彼は私のことを嫌わないだろうか。私はバケモノだ。人間でも、モンスターでもないどっちつかずの『experimentum Demi lupus argentum』。
だけど、レプスがタックルを喰らい膝をついた時、自制するよりも早く、思わずレプスのそばまで高くジャンプしていた。
そしてレプスは私の姿を見て
「ラプス…君は一体…?」
と聞いた。
私は後ろを向いて顔を見せることなく突き放すように言った。
「私はラプスではない。私はバケモノ。だから、あなたと一緒には居られない。ここから逃げたら…もう、忘れて」
本当は泣きそうだった。もしかしたら泣いていたかもしれない。レプスは何かを言おうと息を吸ったが、声になる前に私はそれを断ち切るようにバケモノとして目の前のモンスターへと突進した。
私の半分は人間。もう半分は『フェルン』と呼ばれる銀色の体毛の狼。まぎれもないバケモノ。私は風を纏い、鋭い爪と牙を使って辺りに群れるモンスターを次々に屠っていった。数分もしない内に全て完了した。心というものが見えるのなら私の心はボロボロに見えるだろう。モンスターを引き裂き、噛みちぎる度に何かが剥がれ落ちていった。レプスはもう逃げ帰っただろう。私ももっと奥の人の来ないところまで行こう。そう思って一歩前へ足を踏み出そうとした時、
「君がバケモノなわけないじゃないか、だって君はこんなにも優しいんだから」
ツゥ…と頬を伝った涙を後ろから、そっと指で拭いながら彼は言った。
「ありがとう。助けてくれて。僕は君にまた会えたことがすごく嬉しい。僕は君がバケモノだなんて思わないよ。君はちょっとだけ特殊な僕たちと同じ人間さ。そしてごく普通の女の子だよ」
「だから、もうどこにも行かないで。僕はラプス、君のことが好きなんだ」
後ろからもたれかかるように腕を回して抱きつかれる。傷ついた心が満たされていくようなそんな想いがした。
「私も…レプスのことが好き」
後ろから回された手を握るように胸元に抱いて、私も言った。
「あはは、嬉しいな」
私の肩に顎を乗せたレプスの顔を見ると涙を流していた。
「ねぇ、ラプス。知ってるかい?嘘でも笑うと幸せがやってくるんだよ。僕にはこんな素敵な幸せがやってきたんだ」
ギュッ…と回した腕の力をちょっと強めてレプスは言った。
今回の話は自分の中で最上級に好きなんですよね…ただ…難点が一つ…。ラプスとレプスって名前似すぎだっつーの!これはある意味仕方ないんですけど、変えれば良かったかもなー、とちょっと後悔w ちなみにラプスとレプスはそれぞれラテン語で『lupus=狼』『lepus=野うさぎ』なんですよー、レプス変えりゃ良かったな…w
まあそれはともかく!ぜひ湿原に行って月を探してみてくださいね!ではでは次は湿原2のザリガニさんのお話で会いましょう〜
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