とある暗部の御坂美琴(2周目) (一二三四五六)
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第一部 第一章 第一節 絶対能力進化実験中止計画~裏で蠢く複数の悪~ 御坂美琴① 絶望の始まり

原作三巻の再構成です。
超電磁砲34話からの分岐になります。
原作三巻及びマンガ超電磁砲妹達編の既読又はアニメ超電磁砲Sの視聴を推奨します。



 絶対能力進化実験(レべル6シフト)と呼ばれる計画がある。
 学園都市第一位の超能力者(レベル5)である一方通行(アクセラレータ)に学園都市第三位の超能力者(レベル5)超電磁砲(レールガン)』御坂美琴の劣化クローンである妹達(シスターズ)を2万体殺させることによって、一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベル6)に進化させようという計画だ。
 もちろん、クローンの製造は国際法で禁止されている。
 それどころか、クローンといえども生命体を二万も殺すような実験を国際社会が許すはずがない。
 たとえその実験の結果によって、莫大な利益がもたらされるとしてもだ。
 常識的に考えれば間違いなく狂っている実験。
 どうしようもなく、狂っている実験。
 だが、学園都市という閉鎖された世界の中でこの計画はすでに実行されている。
 そして、実験の内第10031次実験まではすでに終了している。
 それは、
 つまり、
 10031もの妹達(シスターズ)がすでに死亡しているということだ。
 10031。
 これは、途方もない数字だ。とても大きな数字だ。
 これだけの数の妹達(シスターズ)が死んでいながら世界は、学園都市の住人はそれを認知しておらず、学園都市上層部はこれを黙認している。
 つまり、このままでは20000もの妹達(シスターズ)が殺されてしまうということだ。
 そんなことは、認められない。
 認められるはずもない。
 だから、御坂は決めた。決心した。
 彼女たちを、
 妹達(シスターズ)
 自らを実験動物(モルモット)と呼び死を当たり前のモノと認知している愚か者達を、
 愛しい愛しい妹達を
 この手で、救ってみせるって。







 8月21日午後6時52分


 学園都市第三位の超能力者(レベル5)、常盤台のエース、超電磁砲(レールガン)など様々な異名を持つ少女、御坂美琴は絶望していた。
樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が……すでに何者かによって破壊されていた?)
 たちの悪い冗談だと思った。
 たちの悪い冗談であって欲しいと思った。
 自らが幼いころ筋ジストロフィーの患者を救うために研究者に差し出したDNAマップが自分のクローンを作られることに使われ、しかもそのクローンたちは一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベルシックス)に進化するための計画で一方通行(アクセラレータ)に殺されることを決定付けられていた。
 そんなのは、あんまりだと思った。
 妹達(シスターズ)と呼ばれている自分のクローン達にもっとまともな人生を歩ませてあげたいと思った。
 偽善かもしれない。
 怨まれるかもしれない。
 余計なお世話かもしれない。
 彼女たちは一方通行(アクセラレータ)に殺されることを望んでいるのかもしれない。それが、彼女たちの幸せなのかもしれない。
 だけど、それでもよかった。
 彼女たちを救えるならよかった。
 自分のせいで最悪の道のりを歩ませてしまうことになった彼女たちを救えるのなら、悪党にでもなってやろうと思った。
 だから、実験をとめるために絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)の演算を担当している世界最高のスーパーコンピューター『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を壊すことに決めた。
 『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は学園都市の頭脳とも呼ぶべきスーパーコンピューターだ。
 『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』はカオス理論やバタフライ理論などが絡むせいで本来ならば予測することしかできない天気を予知のレベルまで押し上げてしまう圧倒的な計算能力を持っている。
 その計算能力をもってして絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)は計画された。
 なら『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』に偽の実験中止命令を出させたうえで、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を破壊してしまえば、もう絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)は続けられないはずだ。
 もうあの子達は殺されずに済むはずだ。

 なのに、

 なのに、

 なのに

(こんなのもう、どうすればいいのよ………………)
 樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)がすでに破壊されていたことですべてが狂ってしまった。
(私にはもうあの子達を救う手段は残ってないの……?)
 嫌だ。
 そんなの認めたくない
 私のせいであの子達が殺されることになったんだ。
 何とかしないと
 何とかしてあの子達を救わないと
 何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと何とかしないと

 ()()()()()()()

(でも、どうやって……どうやってたすければいいんだろう…………)
 実験を受け継いだ研究所は百以上あるのだ。今までと同じようにチマチマと研究所を潰していたら、間違いなく、またあの子達は何百人も殺されてしまう。
(それは……………………絶対に嫌だッッッッッッッ!!!!!!!!!)
 もう、これ以上あの子達が殺される姿なんて見たくない。
 もう、これ以上あの子達が殺される事なんて認めたくない。
 もう…………これ以上あの子達を殺したくないッッッ!!!
(……………………とりあえずここから離れよう……何かするにしても警備員(アンチスキル)にでも見つかったらもともこもないし…………)
 絶望した表情のままもたれかかっていたフェンスから背を離す御坂美琴。
 彼女の記憶にこびりついて離れないミサカ9982号の砕け散った胴体と千切れた左足がよりいっそう御坂美琴の精神を責め立て、苛める。
 ソンナカノジョノヒトミニ
『××××××研究所』
 ノモジガウツッタ
(実験を引き継いだ研究所…………こんなところにもあったんだ…………)
 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………





「………………………………………………………………アハッ」




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御坂美琴② 研究所襲撃

御坂美琴②と言いながら御坂美琴は出てきません
なおこの話には若干の独自設定があります


8月21日午後6時54分『××××××研究所』内部にて
 
 カツカツカツカツカツカツカツカツ

「全く、なんで俺たちが見回りなんてしなきゃならないんだ」
「文句言うなって、俺だってめんどくさいんだから」
 『××××××研究所』の中を二人の研究員が歩いている。
「だいたいこんな辺鄙な場所にある研究所にわざわざ侵入者なんて来るわけないだろ」
 彼らは『××××××研究所』に所属している研究員だ。『××××××研究所』では毎日午後3時半から4時半にかけて当番制で研究所内部の見回りを行っている。彼らは『××××××研究所』の見回りの今日の当番だった。
「それはわからないぞ。ほらお前だって例のアンノウンの噂、知ってるだろ?」
「あぁ、あの研究所を数十件も破壊しまわってるって噂の。でも最近じゃ破壊された研究所の話なんて聞かないぞ」
「確かに最近破壊された研究所の話は聞かないな。だけど、だからといってそのアンノウンが今日ここに来ないとは限らないだろう。ほら、もしかしたらちょっと休憩でもしてるのかもしれない」
 冗談めかして世間話をする研究員たち、基本『××××××研究所』の見回り業務は暇なのだ。
「研究所を破壊しまくってる奴が休憩なんてするかよ。まぁ、仮にアンノウンとやらが襲撃してきたとしても他はともかくとしてうちは大丈夫だろうよ。うちの警備設備は他の研究所とは一線を画してるからな。ハッキングで電気系統を突破しようとしても、うちのレベルのセキュリティを破るなんてまず不可能だしな」
「まぁ確かにな。うちのセキュリティを破るなんて絶対不可能だからな。たいていのヤツは侵入なんて諦めて帰るしな」
「そういや、この間の企業スパイのヤツも情報のセキュリティが高すぎて諦めて帰ったからなぁ。あれは傑作だったな。なんてったって」

 ドッッッッッゴオオォオォォガアアァァァァアアァァアァアアァンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 そんな話を二人の研究員がしていた時、突如、研究所内にそんな爆音が鳴り響いた。
「なっなんだあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!????」
「おいなんだ今の音は!!!???どっかで爆発でも起こったのか!!!!??」
「んなの分かんねぇよ!!とにかく音がした場所に行ってみるぞ!!!」
「分かったよ!!!ああくそ、俺が警備の時にこんなことが起きるなんて!!!今日は最悪の日だな!!!!!!」
 音が聞こえた方向に走りながら、二人の研究員は今の爆音についての話をする。
「今日どっかで爆発物を扱うような実験ってあったか!!?」
「今日は爆発をともなう実験なんてなかったはずだ!!」
「じゃあ、いったい何が起こったっていうんだよ!!???」
「んなもん俺が知りたいわ!!!……いや」
 と不意に後ろを走る研究員の脳裏に一つの可能性が思い浮かんだ。
(……まさか、本当にアンノウンが襲撃してきたのか???もしそうだとすれば、俺たちが行ったところで全くの無駄だ。ヤツは数十の研究所を破壊してきた実力者。俺たちが行ったところで何も……いや最悪の場合殺される可能性だって……)
 自分が殺される可能性、そのことが脳裏をよぎり思わず研究員は走っていた足を止めた。
「おい、急にどうした!!?」
 急に立ち止まった研究員を不審に思ったもう一人の研究員が、立ち止まった研究員に怒鳴るように話しかけた。
「まさかとは思うがおじけづいてんのか?なに、いくら侵入者が強かったとしても俺たちの着てる最新型の駆逐鎧(パワードスーツ)の防御を抜ける奴なんてそうそういねぇよ。まぁ、もしもこの駆逐鎧(パワードスーツ)の防御を正面から抜こうと思ったら、確実に超能力者(レベルファイブ)級の攻撃力は必要だろうからな」
「……あぁ、そうだよな」
 『××××××研究所』では見回りの時には駆逐鎧(パワードスーツ)の装備を義務付けられている。だから、彼らも当然駆逐鎧(パワードスーツ)を着ていた。つい先日配備されたばかりの最新型の防御特化型駆逐鎧(パワードスーツ)を。
(……こいつの言うとおりだ。仮にアンノウンが襲撃してきたとしてもこの最新型駆逐鎧(パワードスーツ)の防御を抜ける攻撃力なんて持ってるわけがねぇ。なんてったってこの駆逐鎧(パワードスーツ)の防御力は至近距離からのFIVE_Over.Modelcase_”RAILGUN″の連撃を耐えたほどだ。……そうだよ、何を俺は怯えてるんだよ、大丈夫に決まってんだろうが!!!)
「あぁ、悪いな。ちょっと怖気づいてた。もう大丈夫だ」
「ったく、早くいくぞ。侵入者がいるなら排除しなけりゃいけねぇからな」
「ああ!」
 この二人の研究員は責任感が強いほうだった。
 だから逃げるという選択肢をとらなかった。
 立ち止まって会話をしていた研究員たちは不安が解消されたことで再び爆音のあった場所に向かって走り始めた。
 …………だが、彼らはもっと警戒するべきだったのだ。
 確かに、彼らの着ている駆逐鎧(パワードスーツ)の防御力は現段階では駆逐鎧(パワードスーツ)の中でも最高のものだ、それこそ御坂美琴(アンノウン)必殺技(レールガン)を正面から受けきれるほどに。
 だが、その駆逐鎧(パワードスーツ)には御坂美琴(アンノウン)に対して致命的かつ決定的な弱点が存在する。
 それは、彼らの装備している駆逐鎧(パワードスーツ)()()()()であることだ。
 これは、言うまでもなく、語るまでもなく電撃使い(エレクトロマスター)である御坂美琴(アンノウン)にとっては好条件だ。
 何せ、ハッキングすれば駆逐鎧(パワードスーツ)の制御を丸々奪えるのだから。
 だから彼らは後悔することになる。なぜ、自分たちはたかだか駆逐鎧(パワードスーツ)をこんなにも信用してしまったのか……と。






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『白衣の男』と御坂美琴① 遭逢

今話から(主要な)オリキャラが出てきます
そして、原作よりもだいぶ御坂美琴の精神状態がヤバいです


 8月21日午後7時8分 『××××××研究所』コンピュータールームにて


 御坂美琴は無数のコンピューターの画面の前でうなだれていた。
 先ほど見つけた『××××××研究所』の内部に侵入し、途中で襲ってきた駆逐鎧(パワードスーツ)などを倒して研究所の中枢を破壊しつくした御坂美琴は、今、哀しみと絶望と後悔がぐちゃぐちゃに混ぜられたような感情に心を侵されていた。
 見てしまったから。
 御坂美琴はLIVEと書かれた画面の中で一方通行(アクセラレータ)に残虐に殺される妹達(シスターズ)の一人を見てしまったから
 届かなかった。
 また、間に合わなかった。
 また、助けられなかった。
 また、一人妹達(シスターズ)が殺されてしまった。
 もはや、涙すら出なかった。
 ただ後悔だけがあった。
(あ…………………う……………………)

 血に染まった画面が、御坂美琴に訴えかける。

『お前が殺した』

 紅く染まった画面が、御坂美琴を責め立てる。

『お前が殺した』

 救えなかった事実が、御坂美琴の心をズタボロにする。

()()()()()()

 一歩も動けない。行動を起こさなければ絶対に妹達(シスターズ)を救えないとわかっているのに、もはや御坂美琴にはどうすればいいかわからなかった。
 過去に戻ることができるなら、あの日研究者を信じてDNAマップを渡してしまった自分自身を殺してやりたかった。
 もちろん、どんなに願ったところで過去に戻れるわけではない。だから、御坂美琴は妹達(シスターズ)を救うための手段をもう一度いちから考えようとして……



「やぁ、探し物は見つかったかい?学園都市第三位の超能力者(レベルファイブ)『御坂美琴』」



(ッッッ!!!???)
 
 咄嗟に御坂美琴は声が聞こえた方向に雷撃の槍を放った。
 彼女の放つ雷撃の槍は秒速200キロオーバーの速度である。ほとんどの人間には到底避けることはできないし、当たってしまえばほぼ確実に相手の意識を刈り取るだけの威力がある。
 その雷撃の槍を学園都市第一位の超能力者『一方通行(アクセラレータ)』なら自らの能力で反射して対処することで無傷ですむだろう。
 その雷撃の槍を世界の基準点である『幻想殺し(イマジンブレイカー)』をもつ上条当麻なら右手を避雷針のように体の前に突き出すことで雷撃の槍を打ち消しただろう。
 しかし、声をかけた人物はその二人のどちらでもない、ならば雷撃の槍があたり意識を失うのが普通である。
 そう、雷撃の槍が当たるのが普通なのだ。
「なっっっっ!!!!????」
 雷撃の槍は声をかけてきた人物には当たらなかった。いや、より正確に言うならとどかなかったというべきか。《/s》
「いやはや全く、いきなり攻撃してくるとは危ないじゃないか。この私が死んだらどうするつもりだい?『御坂美琴』」
(防がれた!?秒速200キロオーバーの雷撃の槍を、一体どうやって)
 動揺する心を抑えて御坂美琴は画面から目を離し後ろを振り返った。無論声をかけてきた人物を視認するためである。
 そして、御坂美琴は声をかけてきた人物の姿を視認した。
 どうやら、声をかけてきた人物は男のようだった。身長180センチぐらいで細身で白衣を来ていて、いかにも研究者然とした男。さらに、男は傍らに小学生くらいの女の子を連れていた。
(女の子の方は能力者か?)
 御坂美琴は思考する、先ほど自らの雷撃の槍を塞がれた原因を知るために
(仮に女の子が高位の能力者だとしたら、私の雷撃の槍を防ぐことも可能かもしれない。だとしたらどんな能力で防いだ?音を飛ばして声と体の位置を別々の場所に認識させた?いや電磁レーダーには確かに二人分の存在がある。なら何らかの壁・・・例えば空気の壁を作って雷撃の槍を防いだ?それとも・・・・・・)
 超能力者(レベルファイブ)としての頭脳をフル回転させて御坂美琴は思考する。
(純粋な力技で防いだ?いや常時発動系の能力ならともかく雷撃の槍が届くまでの間に演算を完成させられるとは思えない……なら……)
 何か、手掛かりはないか……と御坂美琴は女の子のほうに目を移した。
 女の子は水色のワンピースを着ていた。10人中8人が可愛らしいと判断するような愛らしい恰好をしていた。だが、何よりも目を引くのはその顔。女の子は信じられないほど無機質な顔をしていた。まるで、感情をどこかにおいてきてしまったような、そんな顔をしていた。
 そして、ふと御坂美琴は女の子の服の袖がわずかに濡れていることに気づいた。
(袖が濡れてる?……もしかして『あれ』を使って雷撃の槍を防いだ……?でも、この周囲には『あれ』は無かった。なら…………。なるほどね……彼女の能力は……)


「どうやら、そっち女の子の能力は水分生成(クウォータージェネレーション)みたいね」

 
 ここで一つクエッション。

 何、簡単な問題だ


 水は電気を通すかどうか?


 



 アンサーはイエスでありノー



 一般的に使われている飲料水や水道水、川や池の水などは電気をとても良く通す。
 だが、それらの水が電気を通すのは水の中にいくつかの不純物が混じっているからだ。
 この不純物があるからこそ水は電気をよく通す。
 ならば、もしもその水の中に混じる不純物の量を限りなくゼロに近づけたら水は電気を通すのか。
 例えば、我々の世界には一リットルの水の中にわずか一ナノグラム、すなわち0.000000001グラムしか不純物の溶けていない『超純水』と呼ばれるものが存在する。
 そしてその『超純水』よりもさらに純水な、さらに不純物の量が少ない、もっと言えば全く不純物の混じっていない水。
 この地球上に存在しない理論上の産物である『理論純水』を生成できたならばどうだろうか。
 そう、『超純水』は電気をほとんど通さない。
 そして、『理論純水』は()()に電気を通さない。

 この『水』を使えば、御坂美琴の雷撃の槍を防ぐことが可能である。



 だから、御坂美琴の予想した雷撃の槍の防ぎ方はこうだ。
 あらかじめ理論純水の壁を少女が能力で作っておきそのまま白衣を着た男が声をかける。そして、御坂美琴が振り返る間にその水を消す。
 水分生成(クウォータージェネレーション)の能力者だからできる単純にして明快な雷撃の槍の防ぎ方だ。
「つまり、そこの彼女はあらかじめ作った理論純水で私の雷撃を防いだのよ。どう、当たってる?」
「その問いに私が答える必要はない……と言いたいところだが、これから君に頼み事をしようという立場でわざわざ君に悪印象をもたれることはないかな」
 白衣を着た男は女の子を盾にするように一歩下がってから正解を告げる。
「当たっているよ。『超電磁砲(レールガン)』。確かにこの子の能力は『水分生成(クウォータージェネレーション)』だ。まさか、ただ一発君の攻撃を防いだだけでばれるとは思わなかったがね」
(やっぱり『水分生成(クウォータージェネレーション)』か……なら雷撃の槍は一切効かないと思ったほうがいい。でも、雷撃の槍は防げても。超電磁砲(レールガン)なら)
 その思考を遮るように白衣を着た男は御坂美琴に声をかける。
超電磁砲(レールガン)を撃つつもりなら止めてくれ。さっきも言ったが私は君に頼みごとをするためにわざわざこんな場所に来たんだ」
「頼み事……ですって?」
「ああ」
 そして、白衣を着た男は御坂美琴に告げた。
「何、簡単なことさ」
 彼女にとってはあまりにも決定的で
「君に、止めてほしいんだ」
 致命的な言葉を
「『絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)』を」



御坂美琴②の駆逐鎧(パワードスーツ)を着た研究員二人との戦闘シーンはカットされました。
期待していた方(はたしてそんな人はいるのか)には申し訳ないですがほぼワンサイドゲームになってしまうので。

水分生成(クウォータージェネレーション)・・・・・・水を作り出し、その作り出した水を操る能力。強度(レベル)が上がれば作り出せる水の量、操れる水の量も上がる。大能力者(レベルフォー)以上で『理論純水』を作り出すことが可能になる。ただし、理論純水生成中はほかの水は作り出せない。


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御坂美琴と一方通行① 戦闘前

早く戦闘シーンに入りたい……



 8月21日午後8時38分 絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)第10032次実験 実験場所にて


「止まりなさい!一方通行(アクセラレータ)ッッッ!!!」
 一方通行(アクセラレータ)がミサカ10032号の血みどろの肩に人差し指を入れようとした時、そんな叫び声が聞こえた。
(…………え???)
 一方通行(アクセラレータ)に全身をボロボロにされたミサカ10032号が最初に感じたのは疑問だった。だってそんなはずない。お姉様がこの実験場に来るはずなんてない。
 だってお姉様には、この実験場の場所を伝えていなくて、仮にハッキングをしてこの場所がわかったとしても、前に一方通行(アクセラレータ)に敗北しているお姉様がここに来るなんて

 そんなわざわざ一方通行(アクセラレータ)に殺されに来るなんて
 
 その声に反応して一方通行(アクセラレータ)はミサカ10032号の肩に人差し指を入れようとしながら、御坂美琴のほうにふりかえる。
「アァン、何しにきやがった、オマエ」
 疑問
 一方通行(アクセラレータ)御坂美琴(オリジナル)がここに何をしに来たのか、という疑問を抱いた。
 常識的に考えれば絶対能力進化実験(レブルシックスシフト)を止めに来たのだろうと思うが、この間自分に完膚なきまでにぶちのめされた御坂美琴が負けると分かっている戦いにわざわざ挑みに来るとは思えなかった。
「いいから…………」
 御坂美琴はそんな一方通行(アクセラレータ)に全身から電気を放電させながら、突き刺すように言った。
「いいから止まれって言ってんのよッッッ!!!!!一方通行(アクセラレータ)アアアァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
 天から落ちる落雷のような御坂美琴の怒号に思わず一方通行(アクセラレータ)は手を止めた。
「………………………………今、なんか言ったか。オマエ」
 まるで、信じられないことが起こったかのように、信じられない言葉を投げかけられたかのような表情で一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴の方向を見た。
 その表情はただ一つ『驚愕』に埋め尽くされていた。
「聞こえなかったんならもう一度言ってあげるわ。その動きを止めろって言ったのよ!!!!!一方通行(アクセラレータ)!!!」
「……、ヘェ」
 一方通行(アクセラレータ)の聞き間違いではなかったその言葉。一方通行(アクセラレータ)に向かって『止まれ』という命令を御坂美琴(第三位)は言い放った。その事実に一方通行(アクセラレータ)は少なからず面白いと感じた。
 だから、
「誰に向かって命令してやがンだ、第三位ごときがこの俺に向かって『命令』だと?オマエ、自分の立場わかってンのかァ」
 一方通行(アクセラレータ)は興味の対象を眼前のミサカ10032号(ガラクタ)から御坂美琴へと移した。こんなミサカ10032号(ガラクタ)を叩きつぶすことよりも御坂美琴をぶっ潰すことのほうが何十倍も重要だといわんばかりに。
「………………………」
 白い髪と紅い瞳を持つ一方通行(アクセラレータ)から御坂美琴に向かって莫大な殺気が放たれる。その殺気は既に散々痛めつけられてぼろぼろになったミサカ10032号でさえも震え上がるほどのものだった。
 だけど、
 その殺気を受けても御坂美琴は一歩も引かない。立ち上がって御坂美琴の方向に向かってくる一方通行(アクセラレータ)を見ても決して逃げない。
 助けると決めたから。
 誰にでもなく自分自身に、
 必ず妹達(シスターズ)を助けると誓ったから。
 そして、その光景を見ていた妹達(シスターズ)の一人のミサカ10032号は乱していた。
 お姉様はきっと自分を助けるために一方通行(アクセラレータ)と戦おうとしている。
 決して攻撃の通らない、最強無敵にして絶対の能力(チカラ)を持った一方通行(アクセラレータ)と戦おうとしている。
 そこまで思考してミサカ10032号は、
 出来損ないの人形(ガラクタ)
 全身のわずかな力を振り絞り、自らの大切な存在(オリジナル)に声をかけた。






「何を……しているのですか……とミサカは……お姉様に問いかけます」
 止めなければ。このままではお姉様が一方通行(アクセラレータ)に殺されてしまう。
「ミサカは……一方通行(アクセラレータ)絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)のために…………製造された……実験動物(モルモット)です」
 止めなければ。単価18万円でいくらでも製造できるミサカを助けるためにお姉様が一方通行(アクセラレータ)戦う(殺される)だなんて間違ってる。
「こんな……ただの出来損ないの量産品(クローン)に過ぎない……ミサカのためにお姉様が」
「……いわよ」
「えっ……?」
「うるさいわよ!アンタ!!!」
 静かなけれど力強い声が操車場に響いた。
絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)のために製造された実験動物(モルモット)!?単価18万円でいくらでも製造できる量産品(クローン)!?それがどうしたっていうのよっっ!!!?」
 その声には強い怒りがあった。
「たとえ、ボタン一つでいくらでも作れる命だとしても!!!!!!」
 その声には強い哀しみがあった。
「たとえ、アンタ達が実験のためだけに作られた存在だとしても!!!!!!」
 その声には確かな覚悟があった。
「そんなことは関係ないのよっっっ!!!!アンタ達は私のっっっ!!この学園都市第三位の超能力者(レベルファイブ)『御坂美琴』の妹なんだからっっっ!!!!!!!」
 その声には確かな優しさがあった。
「いいからそこで黙ってみてなさい。今から私が完膚なきまでにアンタ達を救って見せるから」
 その声には…………
「私はアンタ達の※※※※※だからね」
 妹達(シスターズ)の心に届く『何か』があった。


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御坂美琴と一方通行② 最強の壁

今回から一方通行との戦闘回に入ります


「オイオイ、まァた俺と戦おうと思ってんのかァ」
「……………………」
「前回の戦いで分かってンだろうがァ、俺とお前の能力(チカラ)にはそれこそ天と地ほどの差がある。それとも、そンなことも自覚できねえほど第三位の頭はお粗末なんですかァァ」
 嘲り馬鹿にするような声で一方通行(第一位)御坂美琴(第三位)に話しかける。その声からは絶対的な自信が、自身が敗北する可能性は皆無であるという考えが伝わってくる。だが、それは当然だろう。『一方通行』という能力はありとあらゆるものの向き(ベクトル)を皮膚上の体表面に触れただけで自由自在に操ることのできるものだ。
 防御においては敵対者の攻撃すべてを反射し、攻撃においては敵対者に少しでも触れれば血液の流れを逆流させ死に至らしめる。
 まさに最強の能力。
 実に最強の能力。
 そんな能力を持つ一方通行(アクセラレータ)が敗北するわけがないのだ。
 そんな能力を持つ一方通行(アクセラレータ)が苦戦するわけがないのだ。
 
 ()()()()()
「…………そうね」
 御坂美琴だってわかっていた。自分の能力じゃたとえどんな手段を使ったって一方通行(アクセラレータ)には勝てない。超電磁砲(レールガン)も雷撃の槍も砂鉄の剣も落雷も電気による身体強化も電磁波のレーダーも多分酸素を電気分解してオゾンに変えたとしても一方通行には勝てない。
 根本的に能力(チカラ)の強さが違うのだ。
 同じ超能力者(レベルファイブ)なのに、位はたった二つしか違わないのに
 そのわずかな『差』が絶対的な壁として立ちはだかる。
「だけどね……違うのよ……」
 御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)のそばに血みどろの姿で倒れ伏しているミサカ10032号を見る。
 ミサカ10032号の姿は散々なものだった。右肩は何かに貫かれたかのように穴が開いていて右腕はあきらかに折れていて左足は曲がってはいけない方向に曲がっていて腹には何十発も殴られたのかこぶしの痕がついていて、全身に切り傷と擦り傷が無数にあって、ありとあらゆる場所が血に染まっていて……
「アァ、何をぶつぶつほざいてンだ、お前」
 30メートル離れた場所に一方通行(学園都市最強の能力者)が立っている。
 その『最強』に向かって御坂美琴はスカートの右ポケットからゲーセンのコインを取り出して言った。
「私は、相手が勝てる相手だから戦いを挑むんじゃないわ!!!」
 取り出したコインを一方通行(アクセラレータ)に向かって構えて
 指で弾いて空中に投げて言った
「命を懸けても守りたい相手がいるから、戦うのよ!!!!!」
 弾いたコインが指に向かって落ちてくる。



          そして
                                        彼女は
                       御坂美琴は
                                                               それを
                                    それを
             それを
 



 一方通行(アクセラレータ)に向けて撃った
 
 超電磁砲(レールガン)と呼ばれる、彼女の代名詞を
 
 一方通行(決して勝てない敵)に向けて


 






 一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴が操車場に現れたことに疑問を覚えていた。前回の戦闘の時にすでに自分たち二人の格付けはすんでいたはずだった。御坂美琴(学園都市第三位)最強の必殺技(レールガン)は自分に傷を負わせることはおろか、ダメージを与えることさえ出来ていなかった。
 それなのに、それなのに、なぜか彼女は自分の前に現れた。

「命を懸けても守りたい相手がいるから、戦うのよ!!!!!」

 超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)に向かって迫ってくる。その速度は秒速にして約1000メートル、一般人や低位能力者からしたら驚異的にして脅威のある速度だがありとあらゆる向き(ベクトル)を操る一方通行(アクセラレータ)からしたら全く脅威ではない。
 その証拠に

 キイイィィィイイイイィィイィィイイイィィィィ

 と超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)の皮膚に触れることすらなく反射された。
(ただ超電磁砲(レールガン)を俺に向けて放っただけかァ……?この程度の攻撃で……いやどンな攻撃だろうとこの俺に攻撃が通らねぇことなんてあいつが一番わかってるはずだ……なら…………)
 一方通行(アクセラレータ)は腕を前に出した形で静止している御坂美琴に目をやる。
 超電磁砲(レールガン)では一方通行(アクセラレータ)の反射を破ることは出来ない。それは前回の戦いで御坂美琴がすでに学んだことのはずだ。だから一方通行(アクセラレータ)が着目していたのはその後、超電磁砲(レールガン)を撃った後の御坂美琴がどう行動するのかということだ。
 そう、一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴の行動を待った。何故ならこの戦いは勝者のわかっている戦いだからだ。一方通行(アクセラレータ)に御坂美琴が挑むというのは、訓練も何もしていない丸腰の一般人が米軍の最新式戦車に戦いを挑むということと同じだ。
 一方通行(アクセラレータ)からしたら勝敗のわかっている戦い。ならばその戦いをなるべく楽しもうとするのは当然のことと言えるだろう。
 幼稚園児相手に大人がかけっこで本気を出さないのと同じだ。
 一方通行(アクセラレータ)が持っている最強ゆえの『余裕』
 最強であるが故の『余裕』
 

 だが、その『余裕』は『油断』と同義だ。

 そして、御坂美琴はその余裕の隙の『油断』をつく!!!
 

(どうゆうつもりだァ???)
 御坂美琴はなぜかもう一度右ポケットに手を入れていた。その行動が示す意味は超電磁砲(レールガン)用のコインを取り出すということだろう。
 つまり御坂美琴はもう一度一方通行(アクセラレータ)に向けて超電磁砲(レールガン)を撃とうとしているということだ。
(無意味なこと、とでも思ってるんでしょうね)
 実際、無意味なことだ。たとえ何発何十発何百発超電磁砲(レールガン)を撃ったとしても一方通行(アクセラレータ)の反射は絶対に破れない。これは絶対の確定事項だ。
 


 まぁ、あくまで『一方通行(アクセラレータ)の反射は』だが
 

 御坂美琴は超電磁砲(レールガン)の照準を少し下げた。そして、右ポケットから取り出した五枚のコインを宙に連続で投げた。
 そして


 ドッッッッッゴオオォオォォガアアァァァァアアァァアァアアァン
 

 と操車場に轟音が鳴り響いた。そして、その瞬間に一方通行(アクセラレータ)の立っている地面が粉々に砕け散り、一方通行(アクセラレータ)の後方で倒れこんでいたミサカ10032号の体を衝撃波が容赦なくふっとばした。
(データ通りなら一方通行(アクセラレータ)の反射の膜があるのは一方通行(アクセラレータ)の皮膚からわずか数ミリ位の位置はず)
 立っている地面が砕けたことにより出来たわずかな穴に対応することができず態勢を崩す一方通行(アクセラレータ)
(ならまずは、超電磁砲(レールガン)で地面を砕いて一方通行(アクセラレータ)の態勢を崩すことで一方通行(アクセラレータ)の行動を制限する!!!その後は酸素をオゾンに電気分解して一方通行(アクセラレータ)を酸欠で昏倒させる!!!それと並行して周囲から一方通行に波状攻撃を仕掛け続ければ酸欠の攻撃から目をそらせられるはず!!!…………それでもだめならあの『白衣の男』に渡された『あれ』を使って…………)








今作における超電磁砲の速度は基本的に秒速1000メートルに設定しています。


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御坂美琴と一方通行③ 閃光

「オイオイオイオイ、なンなンですかァあのオリジナルはよおォ」
 超電磁砲(レールガン)の五連射によって地面を砕かれ態勢を崩した一方通行(アクセラレータ)は柄にもなく興奮していた。今の一撃は一方通行(アクセラレータ)にとっては予想外のモノだった。直接的攻撃ではなく間接的な攻撃で御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)を殺そうとしている。『反射』によって攻撃が通じないなら、通じないなりの方法で殺して見せる、そんな御坂美琴の意思が一方通行(アクセラレータ)には透けて見えた。
「ギャハ、そうだよナァ仮にも第三位なンだからこれくらいのことは出来ねぇとなァ」
 ベクトル操作で地面を蹴って周りにまっていた砂埃を一気に蹴散らす。すると、視界が晴れて一方通行(アクセラレータ)を睨んでいる御坂美琴が見えた。
 ここに至っても、一方通行(アクセラレータ)には自らの敗北の光景(ビジョン)は見えていなかった。今まで一度も負けたことのない一方通行(アクセラレータ)にはそもそも『敗北』というものが想像すらできないのだ。一方通行(アクセラレータ)の人生には勝利しかない、彼は能力(チカラ)を発現してから今までずっと勝利し続けてきた。
 

 しかし
 
 だからといって
 
 今夜のこの操車場での戦いも
 
 一方通行(アクセラレータ)の勝利で終わるとは
 
 限らない



 御坂美琴がミサカ10032号がまだ近くにいるのにもかかわらず一方通行(アクセラレータ)の立っていた地面に向けて超電磁砲(レールガン)の五連射を撃ったのには二つの理由がある。
 御坂美琴は直前の『白衣の男』との会話でこう言われていた。
「この街の闇のかなり深いところにいる私がいうのも変な話だが、たとえ腕がもげようと、足が折れていようと、骨が砕かれようと、鼻がそぎ落とされようと、皮膚が剥がされようと、目玉がくり貫かれようと、血液を抜かれようと、内臓をかき混ぜられようと、生きていれば、生きてさえいれば私の伝手を使って最高の医者に君の妹(ミサカ10032号)を治療させよう。何、心配することはないその医者は『死んでさえいなければどんな患者でも治す』ことのできる医者だ。だから、安心して、一方通行(アクセラレータ)を殺してほしい」
 要約すると、『死なない限り、ミサカ10032号の生は保証する』ということだ。
 無論、御坂美琴は彼女(ミサカ10032号)が大怪我を負うことは出来うることならば回避したい。
 だが、彼女(ミサカ10032号)を戦いに巻き込まないために気を使って戦えば必ず御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)に敗北する。
 全力を出してすら、御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)に手も足も出ないのだ。
 全力を出さずに一方通行(アクセラレータ)と戦えばその勝敗は火を見るより明らかだ。
 だから、苦渋の決断で、やむを得ず御坂美琴はミサカ10032号を自分の攻撃に巻き込んだ。
 当然、なるべくミサカ10032号がダメージを負わないようにしてではあるが。
 さて、一つ目の理由は超電磁砲(レールガン)の五連射で一方通行(アクセラレータ)の立っている地面を砕いて一方通行(アクセラレータ)の態勢を一時的に崩すことだ。
 態勢が崩されればいくら一方通行(アクセラレータ)でもすぐに行動を起こすことができなくなる。
 つまりわずか数秒ではあるが、御坂美琴に時間が与えられるのだ。
 これが、一つ目の理由。
 そして、二つ目の理由は……超電磁砲(レールガン)が着弾した時の衝撃によってミサカ10032号を戦闘となるであろう場所から引き離すこと。御坂美琴の超電磁砲(レールガン)は音速の約三倍の速度で放たれる。当然その衝撃は周囲に甚大な被害を及ぼす。それこそ着弾時の衝撃は人ひとりなんて簡単にふっとばせるほどのものである。
 一方通行(アクセラレータ)との戦闘が本格的になれば確実に周囲に甚大な被害が出る、その被害の中にはもしかしたら『守るべきミサカ10032号の死亡』という最悪のモノもあるかもしれない。
 前述したように戦闘になれば10032号に気を使っている暇などない。
 だから、超電磁砲(レールガン)の衝撃でミサカ10032号をふっとばして退避させた。
 そうすれば、少なくともミサカ10032号が死ぬことはないと考えて
「……さてと」
 ここまではただの前哨戦。本格的な戦闘を始める前のあいさつのようなもの。
 
 ゴッッッッバアアァァァアアァァァアアァアァアァァアァァアァァァ!!!!!!
 
 と音が鳴り響き地面が砕かれていたことでまっていた無数の砂塵が蹴散らされた。そして、一方通行(アクセラレータ)の赤い、紅い、赫い狂気と狂喜に染まった瞳が御坂美琴を捕らえる。
(わかっていたけど……砂の一粒も付いていない……か)
「オイオイオイオイ、今の一撃は驚いたぜ。まさか人形(クローン)が近くにいるのにためらわずに超電磁砲(レールガン)を撃ってくるとわよォ。なあァ、三下ァ」《/s》
「優秀な医者に心当たりがあるからね。『死んでさえいなければどんな患者でも治す医者』にね。それに今の私の最優先目標は(ミサカ10032号)の救出じゃないのよ」
 そう、御坂美琴の今の最優先目標は(ミサカ10032号)の救出ではない。たとえ、一人の妹達(シスターズ)を救出しようと実験が続く限り妹達(シスターズ)はいくらでも増産され、そして殺され続けるのだ。ならば本当に御坂美琴がやるべきことは……
「アアァ、お前の目的は人形(クローン)どもの救出のはずだろうが」
「確かに、つい数時間前まではそうだったわ。でも、今は違う妹達(シスターズ)の救出よりも優先すべき目的が、目標ができたのよ」
 だから、妹達(シスターズ)を本当の意味で救うために御坂美琴がやるべきことは……
「ほぉ、でその目的とやらはなンなンですかァ」
 一拍おいて言い放つ。
 これは決意の言葉。
 必ず妹達(シスターズ)を救うという誓いの言葉。
「あなたの……………………殺害よ!!!!!!一方通行(アクセラレータ)!!!!!!!!」
 体の電気信号を操って筋肉のリミッターを外し御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)との距離を一気に詰めた。その光景を見ながら一方通行(アクセラレータ)はただ嗤う。避けるという行動はとらない。
 なぜなら一方通行(アクセラレータ)には絶対防御の『反射』があるから。
 すべての攻撃を防ぐ『反射』があるから。
 だから、避けない、かわさない、動かない。
 だが、今回ばかりはその行動が命取りになった。
 まず、何の前触れもなく一方通行(アクセラレータ)の右の足元が15センチ以上沈んだ。
「ッッッッッ!!!??」
 唐突に起きたその不可解な現象に一方通行(アクセラレータ)は動揺した。そして、一方通行(アクセラレータ)が視線を下に向けるとコンクリートの地面が黒い砂に変わっていた。
(砂鉄だとォッッッ!!?)
 いつの間にか一方通行(アクセラレータ)の立っていた地面がコンクリートから砂鉄に変わっていた。そして、その地面に変わっていた砂鉄が一斉に下に沈み込んだことで右足の足場が消えたのだ。
(超電磁砲(レールガン)を撃って足場を破壊した後に土の足場を砂鉄に変えたのよ!!)
 そして、右足の足場が消えたことでもう一度一方通行(アクセラレータ)は態勢を崩す。その瞬間を御坂美琴は決して見逃さなかった。
(今ッッ!!)
 一方通行(アクセラレータ)との距離を70センチにまでした御坂美琴は右ポケットに入れていた閃光弾(フラッシュ)を取り出し一方通行(アクセラレータ)に向けて投げる。
 一瞬後、あたり一面を閃光が包み込んだ。
 
 

 ここでもう一度一方通行(アクセラレータ)の能力をおさらいしてみよう。
 『一方通行』という能力はありとあらゆるものの向き(ベクトル)を皮膚上の体表面に触れただけで自由自在に操ることのできるものだ。
 普段は能力を『反射』に設定しているが、この『反射』は万物を拒絶しているわけではなく物理法則に従って有害と無害のフィルタを無意識のうちに構築し、生活に必要なものは反射しないようになっている。
 つまり、酸素や音、光量、気圧、熱なども必要以上の物は『反射』してしまうのだ。
 
 
 だから、一方通行(アクセラレータ)閃光弾(フラッシュ)による影響は受けない。


 ……はずだった。

 




 キイイィィィイイィィイィイィィィイイイ
 
 と操車場に音が鳴り響いた。

 
 そして、

「なッッッッッッッッッ!!!!??」

 なぜか、一方通行(アクセラレータ)の『反射』がはたらかずに閃光が一方通行(アクセラレータ)の視界を完全に潰した。
 通常ならば ここで一方通行(アクセラレータ)の視界は潰されない。一方通行(アクセラレータ)の能力は光量すらも操ることができる。だから、閃光弾(フラッシュ)による異常な光量は『反射』の膜によって意味をなさないはずだった。
 (足場が消えちまったことに動揺して、無意識のうちに演算をミスっちまったってとこかァ。クソがァ、マヌケすぎんだろォ!!!)
 一方通行(アクセラレータ)は『反射』が機能しなかった理由をそう結論付けた。実際に能力(チカラ)を得てからしばらくは動揺して能力の演算が途切れたこともままあったのだ。
 何らかの要因によって『反射』が解除されたのではなく
 動揺によって、能力(チカラ)の制御が甘くなった、と結論付けた。
 そして、『格下相手にしてやられた』という怒りによって一方通行(アクセラレータ)の頭がグラグラと沸騰したように痛む。
 絶対的な力で目の前の敵をぶっ潰してやらなければ、絶望させてやらなければもはや一方通行(アクセラレータ)の気が済まなかった。
 目の前にいるであろう御坂美琴に向かって『死』をもたらす右手を伸ばす。
「アアァ!!視覚を潰した程度で俺の演算が途切れるとでも思ってんのかあァッッッ!!三下ァ!!!」
 御坂美琴の攻撃は一方通行(アクセラレータ)に身体的ダメージを与えるものではない。あくまで一方通行(アクセラレータ)の視覚が一時的にきかなくなる程度のものだ。
 そして、一方通行(アクセラレータ)の視覚が潰されるのはほんの数秒程度だろう。
「ッどこいやがる三下ァァァ!!!」
 一方通行(アクセラレータ)は周囲にがむしゃらに手を伸ばす。そのさまは傍から見れば滑稽に感じるだろうが、その手に触れられれば死ぬと理解している人間からすれば恐怖でしかない。そして御坂美琴もそれを理解している人間の一人だ。だから御坂はすぎに一方通行(アクセラレータ)のそばから離れた。
(クソが、あの三下はどこ行きやがった。…………いや……待てよ。そもそもあいつはどうやって閃光弾(フラッシュ)を手に入れた?暗部に属してるやつならともかく、ついこの間まで『闇』を知りもしなかった奴が簡単に手に入れられる代物じゃねェ。…………まさか……)






原作にも書いてありますが、一方通行は『最強』であっても『無敵』ではありません。
つまり、やりようによっては御坂美琴にだって一方通行に勝つ方法があるのです。

8月17日 本文に修正をほどこしました。

※タグに設定改変を追加しました


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『白衣の男』と御坂美琴② 勘違い

時系列が戻ります


 8月21日午後7時10分『××××××研究所』コンピューター室

「私が……『絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)』を……止める?」
 白衣を着た男が御坂美琴に投げかけた言葉は御坂美琴の思考を停止させた。
「あぁ、その通りだ。君に止めてほしいんだよ。『絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)』を」
 わけがわからなかった。ここで自分にわざわざ会いに来たということは、目の前のこの男はじぶんがここにいることを知っていたということだ。自分がここに来たのは樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を破壊しに来たかえりにたまたま『××××××研究所』の看板を見つけたからだ。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)をはかいしに行くことは黒子にもツげていない。なのにこの男がここにいるということは私がかんしされていたということに違いない。しかもこの男のはつげんからしてこのおとこはまちがえなく絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)の関係者だ。水分生成(クウォータージェネレーション)の能力者をつれていることからも私がここにきていることが私の正体がばれていることがわかる。ならこのおとこは私のじゃまをしにきたのだろうか。いやそのまえに絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を止める?ワタシが???そんなことを不可能だ。だって私じゃ、一方通行(アクセラレータ)のはん射をとっパすることなんて………………
 思考が混乱する、考えがまるでまとまらない、あたまがハタラカナイ
「自分じゃ一方通行(アクセラレータ)に勝つことは不可能だ、とでも思っているのかい?」
 まるで心を読んだように白衣を着た男は御坂美琴の胸中を言い当てる。
「確かに、一見君の能力では一方通行(アクセラレータ)に勝つことは不可能に思える。何せ樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が出した演算結果によれば一方通行(アクセラレータ)超電磁砲(レールガン)が戦えば185手で超電磁砲(レールガン)が殺されるという結果が出ている。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の演算結果は絶対だ。この演算結果によれば君に勝ち目はない」
 そうだ、私に勝ち目はない。御坂美琴(わたし)に勝ち目はない。勝ち目は……皆無だ。
「だが、何事にも例外というものがある。今言った樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の演算結果は正確にいえば『一方通行(アクセラレータ)超電磁砲(レールガン)一対一(サシ)で戦った時の場合』だ。……つまり、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)は『外部からの協力者が戦いに介入する場合』ことを考慮して演算はしていないのさ。だから」
「待って!!!ちょっと落ち着かせて……」
 目の前の『白衣の男』からもたらされる情報の渦に御坂美琴は混乱していた。
(『一方通行(アクセラレータ)超電磁砲(レールガン)一対一(サシ)で戦った時の場合』?……『外部からの協力者が戦いに介入する場合』を考慮していない?……なんでこの男はこんな情報を私に与える?本当に私に一方通行(アクセラレータ)を止めてほしいと思っているってこと?……そんなことあるわけがない!!!だいたい学園都市上層部は絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を推進しているはずじゃ……)
             …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
(次の実験の開始時刻は今日の午後8時30分……まだ、時間は1時間ある。とりあえず目の前の男の話を聞くのが得策……のはず)
 この時点で御坂美琴はすでに正気ではなかった。直前にミサカ10031号が死ぬ姿をモニター越しで見てしまったせいで彼女はいつも通りに理路整然と物事を考えることは出来ず、思考が白衣を着た男に半ば誘導されたものだと気付けなかった。目の前の絶対能力者進化実験を自らの手で止められる可能性に喰いついてしまった。彼女の疲弊した心ではそれが自らを底なしの闇に招くモノだと気付けなかった。
「……学園都市の上層部は絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)黙認してるはずでしょ」
「それは勘違いというものだ。御坂美琴」
「かん……ちがい???」
 御坂美琴が今日樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を破壊しに来たのは絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)に対して統括理事会が推進ないし黙認をしていると考えたからだ。学園都市のありとあらゆる場所を見通す『目』を持っている統括理事会がクローンを製造してそれを学園都市第一位の能力者(アクセラレータ)に殺させるという実験内容に気付いていないはずがない。それなのに絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)が続けられているのは『統括理事会は実験のことをつかんでいるがそれを黙認している』からだ。絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)の関連研究所100以上をすべて潰したのに、たやすく代わりの研究所が手配されていることからもそれはうかがえるし、この間の『暗部』を名乗る人間の襲撃も学園都市上層部が手配したものと考えれば納得がいく。そう考えたから、御坂美琴は樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の破壊という無茶を実行しようとした。

 だが、
 
 もしも、

 その前提条件が間違っているとしたら

 御坂美琴の推理の結果が間違っているとしたら

 どうだろうか

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『白衣の男』と御坂美琴③ 交渉

「確かに我々学園都市統括理事会は全体の意思としては絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を黙認している。それは絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を学園都市に利益をもたらすものと判断しているからであり、量産品(クローン)の生産及び死を微塵も問題視していないからでもある。だが、それはあくまで学園都市統括理事会全体としての意思だ。当然だが統括理事会も一枚岩ではない。裏切り、同盟、虚偽、改竄、なんでもしてほかのメンバーを出し抜こうと、他のメンバーの権利を、権限を貪り喰おうとほとんどのモノが画策している。まぁ、一部には『悪』は一切行わず話術のみで交渉し、統括理事会を生き抜いてきた奇特な人間もいたのだが……まぁ、それは置いておこう。とにかく私が言いたいのはだね。『学園都市統括理事会の中にも絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)に反対している人間がいる』ということだ。もちろん、その反対理由は量産品(クローン)に憐みの情を持ったとかではなく純粋に自らの利益になるからだがね。」
「………………………………」
 語られる言葉の意味を噛み砕き、咀嚼し、飲み込む。唐突に語られる都合のいい情報(アマイカジツ)を頭の中に入れその裏にある意思を思惑を読み取ろうと努力する。
「まぁ、今の話を聞いて予想しているだろうが、私は統括理事会のメンバーの一人だ。名は残念だが自衛のためにも明かせないがね。そう、そうだね。私のことは『白衣の男』とでも呼んでくれたまえ」
「『白衣の男』…………………」
「そして、これもまた予想しているとは思うが、私は十二人いる学園都市統括理事会のメンバーの中でも三人しかいない絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)反対派の人間の一人だ。だからこそ、私は君に、このふざけた実験の当事者である君に絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を止めるために協力を要請したいわけだよ」
「…………アンタが絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)の反対派の人間っていうんなら、アンタは絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)が達成させられることによって不利益を被るってことよね」
 慎重に、言葉を選んで、御坂美琴は会話をする。言質を取られないように、知らぬ間に思考を誘導されないように。
「そういったつもりだが?」
「なら……アンタは絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)が達成されることで一体どんな不利益を被るの?それを言ってくれないととてもじゃないけど今の話を信用なんてできないわ」
「……………………」
妹達(あの子達)を助けたいのは紛れもなく私の本心よ。でも、いくらなんでもアンタの話は私にとって都合がよすぎる。こんな土壇場になって統括理事会の絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)反対派の人間が私に接触してくるなんて、あまりにも都合がよすぎる。極論アンタがただのやとわれで私を何らかの理由でだまそうとしている可能性すらあり得るのよ。アンタが本当に統括理事会の人間ならこの街の相当深い部分にかかわっているはず。ならその不利益を被るっていうのもおかしな話よ。この街の『闇』とは私もそこそこかかわってきたけど、絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)が成功したところで統括理事会の人間からしたらそんなものの利益は莫大とは言えないはず。科学的に超電磁砲(レールガン)を作り出せるような連中が、超能力者(レベルファイブ)を簡単に無力化できる連中が、たかだか絶対能力者(レベルシックス)の誕生ごときで私に接触してくる理由は?絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を止めるために私に接触することのリスクと絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)の成功を見逃すリスクを天秤にかければ前者のほうがはるかにリスクが大きいはずなのよ」
「……だから、私を信用できない……と?」
「信用したい気持ちもないわけじゃないけど……正直、警戒心のほうが強いわよ。声をあげて泣き叫んでも助けてくれる人間なんていないってことは知ってるから」
(ふむ…………)
 『白衣の男』は思ったよりも御坂美琴が冷静な思考をたもっていることに驚いていた。
 先ほど目の前の画面上で妹達(シスターズ)の一人が一方通行(アクセラレータ)に惨殺される様を見たばかりなのに自分の言葉を疑うほどの思考力は残っているのか……と
(少々予定とは違うが……ここまで思考力が残っているなら話しても構わないか?……いやむしろ話したほうが協力してくれる可能性は高いだろうな)
 ここまで散々語ってきているが『白衣の男』の目的は別に絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を止めることではない。御坂美琴が予測したように絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)が成功しようと失敗しようと『白衣の男』の今の地位にはあまり関係がないのだ。なぜなら、絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を利用して利益を得ることができる立場に『白衣の男』はいるのだから。

「私が不利益をかぶるという話は嘘ではない。君も知っての通り絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)の目的は一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベルシックス)に導くことだ。時に、御坂美琴、君はこの学園都市の究極の目的を知っているかね」
 「学園都市の究極の目的?」
 御坂美琴の知っている学園都市の究極の目的とはすなわち『人には理解できない領域ならば、人を超えた存在になれば理解できるはず』という思考から生まれる『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM)』への到達だ。だが、そのことがこの『白衣の男』が不利益を被る理由に何の関係があるのか。
(分からない…………)
 だが、答えなければ話は進まないだろう。だから、御坂美琴は『白衣の男』の問いに対して答えた。
 「神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM)への到達……」
 「そう、その通り。学園都市の究極の目的とは人を神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM)へ到達させることだ。その過程として絶対能力者(レベルシックス)を誕生させる必要があるわけだが……絶対能力者(レベルシックス)が誕生してしまうと私としては大いに困るんだよ」
「…………なぜ?」
 「私は統括理事会のメンバーの中でも能力開発の分野において強い権限を持っている。仮に一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベルシックス)へと到達してしまえば他のメンバーから攻撃を受け私のかかわる能力開発の分野の予算が減らされる、または権限の一部が絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)推進派の面々に譲渡されてしまう可能性が非常に高い」
「……………………………………」
「だからこそ私は君に声をかけたんだよ、御坂美琴。一方通行(アクセラレータ)を打倒できる可能性が最も高い君にね。君ならば絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を止めることができると確信しているからね」
「………………………………」



交渉ってこれでちゃんとできてるのだろうか………


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『白衣の男』と御坂美琴④ 看破

(すじは通っているような気がする……けど)
 『白衣の男』が語る自分にとっての不利益とやらは一応筋が通っている気がした。最も御坂美琴には『白衣の男』のことばが真実だと判断できる力はないので確実に信用できる要因にはならないが。だけど、今までの会話で一つだけ御坂美琴には確信ができたことがある。
(この『白衣の男』は、私に一方通行(アクセラレータ)を倒して欲しいと……いや、たぶん私に一方通行(アクセラレータ)を殺してほしいと思ってる)
 これまでの会話からそれは明らかだった。『白衣の男』はあたかも御坂美琴なら一方通行(アクセラレータ)を倒せると、御坂美琴が最も一方通行(アクセラレータ)を倒せる可能性が高いと語っているが、明らかにそれは違うと断言できる。
 何故ならば
(()()()()()()()()())
 そう、考えてみれば当たり前の話だ。名前も顔も能力も何もかもを知らないが、本当に確実に一方通行(アクセラレータ)を倒したいのであれば御坂美琴(学園都市第三位)に協力を申し出るのではなく学園都市第二位に協力を申し出たほうがいいに決まっている。
(でも、この男はそれをしない……ならその理由は?一番確率が高いのは何らかの計画に私を利用しているということ……)
 『白衣の男』は御坂美琴のことを侮っていた。所詮は学生に過ぎないと。能力(チカラ)が強いだけで(メンタル)はたいしたことが無いと侮っていた。自分の計画が見破られるはずがないとそう思っていた。
 だから
(私が一方通行(アクセラレータ)を殺すとこの『白衣の男』の利益になる何かが起こるということなら……)
 
今までの『白衣の男』との会話を思い出す。もう答えはすぐそこにあるような気がしていた。


 学園都市統括理事会 白衣の男 一方通行(アクセラレータ) 絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト) 妹達(シスターズ) 絶対能力者(レベルシックス) 筋ジストロフィー 破壊された樹形図の設計者(ツリーダイアグラム) 学園都市第三位(御坂美琴) 暗部組織 超電磁砲(レールガン) 常盤台のエース 学園都市第一位 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM) 一方通行(アクセラレータ)超電磁砲(レールガン)一対一(サシ)で戦った時の場合 外部からの協力者が戦いに介入する場合 量産品(クローン) 学園都市第二位 絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)反対派 第10032次実験 利益 不利益


(………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………今、何か)


 『白衣の男』の利益 『白衣の男』の不利益 襲撃してきた暗部組織 学園都市統括理事会 絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト) 学園都市第二位に協力しない理由 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM) 能力開発の分野における強い権限 絶対能力者(レベルシックス)
『白衣の男』の利益 『白衣の男』の不利益 襲撃してきた暗部組織 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM) 絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト) 能力開発の分野における強い権限



 襲撃してきた暗部組織


 襲撃してきた暗部組織


 襲撃してきた


 ()()()()!!!!!!!!!!



(そういうことか!だから、だからこの男は私にっっっ!!!)

 御坂美琴は『白衣の男』の本当の目的に気付いた。気付けた。気付いてしまった。恐ろしく複雑に仕組まれたであろう緻密な計画に気付くことができた。
 
 だから、
 
 だから、
 
 だから、
 
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 もし、もしも仮に『それ』の存在に気付けたのならこの後の行われる交渉で限りなく有利にことを運ぶことができただろう。
 何故ならば、それは学園都市の根幹を覆すものだから。
 何故ならば、それは学園都市の仕組みをひっくり返すものだから。
 御坂美琴ならたやすく『それ』を手に入れられるだろうし、『それ』のデータを改竄することさえ余裕だろう。
 彼女は千載一遇のチャンスを逃した。
 そしてそれはこの後の展開をすくなからず左右してしまう要素になりえるのだった。
「……何をためらう必要があるというんだい?君はただ僕たちに協力してくれればいい。こちらには一方通行(アクセラレータ)を倒すための策がある。一方通行(アクセラレータ)を確実に倒すための策が」
 一分
『白衣の男』との会話を御坂美琴が一時中断してから一分経っていた。
 そして、この一分を待って『白衣の男』は御坂美琴に再び会話を始めた。
一方通行(アクセラレータ)を確実に倒す策…………」
「そう、そうだとも一方通行(アクセラレータ)を確実に倒すための策がある。策の内容が気になるのなら、君が協力してくれるかは保留としてその策の内容を話してもいい」
 御坂美琴と『白衣の男』が会話を始めてからすでに十分以上が経過していたが、その間『白衣の男』の隣に立っている水分生成(クウォータージェネレーション)の能力者の少女は微動だにしていなかった。本当に、全く、少しも動いていなかった。表情すら変わっていない。呼吸すらしていないように思える。ともすれば人形かと勘違いするほどに。
「その必要はないわ」
 御坂美琴は言い放つ。
 私は騙されない、都合のいいコマになんてなってあげない、と。
「…………なぜだい?僕のいう策が信用できないからかい。もう一度言うが君が協力するかは保留して一方通行(アクセラレータ)を倒すための策を聞いてもらうだけでも」
「必要ないって今言ったわよね」
 あなたの本当の目的を見破った、と。
「……………………まさか、君一人で一方通行(アクセラレータ)の元へ行くつもりかい。やめておいたほうがいい。君が単独で戦ったところで一方通行(アクセラレータ)に勝てないことは樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が証明して」
「そうじゃないわ。自分の本当の目的を話さず、私を利用しようとしている人間なんてたとえどんな立場のヤツでも、信用できないって言ってるのよ!!!」
 叫んで、そして雷撃の槍を『白衣の男』に向けて放つ。
 当然ながらそれは水分生成(クウォータージェネレーション)の能力者の少女によって防がれる。
 が、
 だが、
「おかしい点はいくつもあるわ。一方通行(アクセラレータ)を倒すのに第二位じゃなくて(第三位)に接触してきたこと、私が絶望仕掛けていたこのタイミングで私の前に交渉しに来たこと、統括理事会のメンバーが直接的方法で絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を止めようとしていること、そして何よりもおかしいのは」
 唐突に雷撃の槍を撃ってきた御坂美琴の行動にわずかに驚きながらも彼女がその後に続けた言葉を聞いて『白衣の男』はわずかに動揺した。



ちなみに作者は禁書の女性キャラではレディリーがお気に入りです。


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『白衣の男』と御坂美琴⑤ 『白衣の男』の目的 上条当麻① 非?日常 

後半は原作読んでる人なら、書くまでもなく状況が把握できると思うので超ショートカットしています。


(見破られた…………?)
「統括理事会のメンバーが直接私に会いに来たってことよ!!!!!」
(見破られたと……いうのか?)
『白衣の男』には御坂美琴を侮ってはいたがその実力は正当に評価していた、仮にも学園都市第三位だ、その頭脳はそうとうのモノだと思ってはいた。
 しかし、たった数十分の会話で、たったこれだけの会話で自分の意図が、計画が、思惑が、見破られるとはこれっぽっちも思っていないかった。
「だけど、冷静に考えてみたらわかったわ。その行動の意味が」
 語る。告げる。御坂美琴は辿り着いた『白衣の男』の目的を話す。
「私に接触したのは私が『裏』についてほとんど知らない『表』の人間だから。このタイミングで私に会いに来たのは少しでも私があなたの計画に参加してもらう確率を増やすため。直接的方法で絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を止めようとしているのは私に今後もかかわるため。私に直接会いに来たのは面識を持つことで私に信用されるため」
「…………………………………………………………」
 見破られた、と『白衣の男』は思った。
 見破られてしまった、と『白衣の男』は思った。
 これでこの後行われるであろう交渉は自分の思い通りには進まない。
 自分が不利に進むことはないが、最悪対等に進むことになるだろう。
(……侮り過ぎていたか)
 だから、足元をすくわれた。
 猫と遊んでいたら突然爪で皮膚を切り裂かれた気分だった。
 今後は御坂美琴を自分と対等の相手とすると意識を変える。
 統括理事会のほかのメンバーと舌戦を繰り広げるつもりで相手をすることにする。
「そこまで考えたらわかったわ。あなたの本当の目的が」
(…………………………………………………………)
絶対能力者進化実験(レベルシックスシフト)を止めることでも、一方通行(アクセレラレータ)を殺すことでもない、むしろその先」
「そこまで分かっているのならもはやはいいだろう、言いたまえ君が辿り着いた私の本当の目的とやらを」
 仮に、本当に『白衣の男』の本当の目的が見破られているのならこの後に繰り広げられるであろう御坂美琴との交渉は『白衣の男』にとって有利に進むことはない。
 『白衣の男』も『切り札』を切ることになってしまうかもしれない。
 だが、
(おもしろい!!!!!!)
 本当に見破っているのなら御坂美琴は素晴らしい(コマ)になる。
 それは、『白衣の男』にとって最善の次に素晴らしい展開だ。
「さぁ教えてくれ!御坂美琴!!!君が辿りついた僕の本当の目的とやらを!!!!!」……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
 もしかしたら間違っているかもしれない、そんな不安が御坂美琴の脳裏をよぎる。
 だけど…………
(今更、躊躇ってなんかいられないッッッ!!!!)
 あの子達を救うためには確実に『白衣の男』の協力が必要になる。この予想が正しければ、『白衣の男』の隠していた意図を見破った御坂美琴には『白衣の男』から高い評価を得られるはずだ。
 そうすれば
(そう……後のことの心配も少なくなる。もっと言えばあの子達を※※に※※※※こともないはず!!!!!)
「『白衣の男』!!!あなたの本当の目的は……」
 言い放つ、証拠も確信も証言も断言もできない、けれで自信のある御坂美琴が辿り着いた結論を。
「私を※※※※※※※ることよッッッッッ!!!!!」

 その言葉を聞いて、

 『白衣の男』の表情が、
 
 ほんの、
 
 わずかに、
 
 歪んだ。





  8月21日午後7時40分 路地裏にて



 上条当麻は目の前で見た光景が信じられなかった。
 自分が古本屋で本を買った後、店を出て猫を預けていた御坂妹と合流しようとしたら待っているはずの御坂妹がどこにもいなくなっていた。御坂妹を探すために周囲を見渡すと古本屋とほかの雑居ビルの間に女の子の靴が片方転がっていた。そのことに嫌な予感を感じてそこに近づいてみると、どうもその靴は御坂妹の物のようだった。この先に御坂妹がいるかもしれないと思い、皮膚をゾワリと撫でるような感覚に襲われながらも路地の先に進むと、鈍い色のアスファルトの大地に銃の薬莢が転がっていた。それも、一つや二つではなく複数の数の薬莢が転がっていた。まるでジェットコースターの天辺に上った状態で『機械が故障したのでいったんシステムを停止します』とアナウンスされたような、絶望的な恐怖感に上条はおそわれた。だが、それでも前に進んだ。路地裏の静けさと得体のしれない恐怖感に体を震わせながらも路地裏の奥へ進んだ。
 
 すると、

 ()()()()()()()()()()()()()

 ここまでは、いい。
 まだ上条の拙い頭でも理解できる。納得できるかは完全に別としても御坂妹が死んだという事実の認識は出来る。なぜ御坂妹が死んだのかとか、路地裏に転がっていた薬莢はなんなのかとか、自分が古本屋に行っている間に何があったのかとか、疑問点は山ほどあるがその点を置いておけば理解はできる。

 その後上条当麻は震える指で混乱する思考でガクガク軋む足で何度も何度も何度も何度も番号を間違えながらも一一九に電話した。そして、人が死んでいるという状況を説明した。その後に来た警備員(アンチスキル)にもう一度状況を説明して再び御坂妹の死体が転がっている路地裏に入った。

 だが、そこで上条は違和感を、とてつもない違和感を抱いた。

 路地裏の入り口に転がっていたはずの靴がない。いやそれどころか路地裏に入ってすぐのところに転がっていた銃の薬莢もない。
 このとんでもない状況に、上条の喉がカラカラに乾いた。前をどんどん行く警備員(アンチスキル)にこの違和感を伝えたいがどう伝えればいいかもわからず、結局上条は黙っているしかなかった。
 そして、路地裏の奥へ先へ進んで、進んで、進んで、進んで
 そして辿り着いた。御坂妹の凄惨な死体が転がり鈍く光るアスファルトの地面も舗装された左右の壁も赤い血に染まっていた殺人現場に。

 が、

 だが、

 そこには御坂妹の死体はなかった。

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 わけがわからなかった。
 意味が分からなかった。
 死体が無いどころの話ではない、紅く染まっていいたはずの地面も壁もまるで汚れのない状態だった。あたりに散らばっていた御坂妹の肉片も髪も何もかもがその場になくなっていた。
 
 まるで最初から御坂妹の死体なんてなかったかのように。
 
 まるで最初から殺人事件なんて起こっていなかったかのように

 この裏路地は、今現在間違いなく『いつもと変わらない日常の風景』を体現していた。




我らがヒーロー上条当麻のご登場だぜえええええぇぇぇぇぇ!!!
さぁ、みこっちゃんを救ってくれよ!!!
ヒーローォォォォォォォォ!!!


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上条当麻② 御坂妹との『サイカイ』

 その後、上条は警備員(アンチスキル)に確かにここに死体があったと伝えたが、まるで相手にされなかった。当たり前だ。だって上条が死体があったという場所には何もないのだ。血痕も肉片も何もないのだ。殺人が起こったという証拠が、死体があったという事実を示すものが何一つとして存在しないのだ。それなのに、警備員(アンチスキル)に『ここで殺人が起きました』なんて言っても信じてもらえるはずがない。
(俺がさっき見た御坂妹の死体は幻覚か何かだったのか?)
 すでに、警備員(アンチスキル)は上条の電話をいたずら電話と決め込んで『もうこんなことはしないように』と注意した後帰ってしまった。上条としてはいたずらだったつもりはないのだが、目の前の状況はそう思われてしかたないものだった。だけど上条は確かにこの目で御坂妹の死体を見た。その肌で御坂妹の死体を感じた。いかに学園都市の技術が進んでいようとあそこまでリアルなモノを作るのは不可能だということは感覚的にわかる。
 御坂妹の死体は確かにこの場所にあった。
 上条は考えた末にそう結論付けた。
 だが、そう考えると新たな問題が浮上する。
 すなわち、御坂妹の死体はどこに行ったのかということだ。
 30分。上条当麻が警備員(アンチスキル)を待つために路地裏から離れた時間だ。たった30分、御坂妹の死体がここにあったと仮定するなら30分で『何者』かは置いてあった靴を片付け転がっていた薬莢を片付け飛び散った血痕を抹消し御坂妹の死体を移動させ路地裏を『日常』に戻したということになる。
 そう考えるしかない。
 そこで、さらなる疑問が浮かぶ。つまり、たった30分でそんな大がかりなことができるのかということだ。上条は別に刑事でも探偵でも殺人のプロフェッショナルでもないから、事件隠蔽の手順や時間なんてわからない。
 だけど、あそこまで完璧に『日常』を取り戻すことが30分で出来るとは上条は思えなかった。壁や地面にこびりついた血痕は洗い流せばいいというわけでは無い。元通りにするにはそれなりのことをしなければならにはずだ。
 なら、やっぱり自分が見た御坂妹の死体は幻覚か何かで本当は御坂妹は死んでいないで今もどこかの道を歩いているのか。
 「そんなわけあるかよ……」
 自分が見た御坂妹の死体は間違いなく本物だった。何故なら上条は『三沢塾』で複数の死体を見ている。生身の死体ではなかったが上条は経験から御坂妹の死を確かに感じていた。
 「くそっ!だったら御坂妹の死体はどこに消えたんだよ!!!」
 堂々巡りだ。御坂妹の死体があったというのならば30分という超短時間で『何者』かが御坂妹の死体を片づけたことになる。御坂妹の死体がなかったとするなら上条は自分の中の確かな感覚を疑うことになる。
 自分の経験という名の感覚を信じるか、時間的には死体の処理は不可能という現実を信じるか。

 そんな風に上条が、路地裏で青い顔をしながら悩んでいると。

「こんなところにいたのですか、とミサカは目の前の不審者に語りかけます」

 と、そんな御坂妹の声が聞こえた。

 バクバクと心臓の鼓動がうるさいほどに鳴る。全身から嫌な汗がとめどなくあふれてくる。

 ()()()()()()()()()()

 後方から、路地裏の入り口のほうから御坂妹の声が聞こえてきた。

 「な…………ん…………」

 ゆっくりと
 ゆっくりと振り返る。
 固まったように動かない全身をギチギチと動かして、上条当麻は全身で振り返る。

 ()()()()

 すると、
 そこには、
 間違いなく()()()が立っていた。
 「御坂……妹……か?」
 あまりの非現実的な光景に上条は凍り付いた。
 今、上条の前には間違いなく、疑いようもなく御坂妹が立っていた。
 半そでの白いブラウスに上からサマーセーターを着ていて下半身はプリーツスカート。肩まである茶色の髪に御坂美琴と双子のように同じ顔。前髪は広いおでこを覆い隠すように垂れ下がっていて風になびいている。白い靴下に髪と同じように茶色の靴。腕には上条が古本屋に入る原因にもなった黒猫を抱えている。
「?はい。ミサカはあなたが先ほどまで会話していたミサカですが、とミサカは何を当たり前のことを聞いているんだこいつは、と思いながらも返答します」
 その口調が、その仕草が、その姿が、その雰囲気が、その存在が、確かに御坂妹がそこにいると主張していた。
 「あ……いや」
 ここに御坂妹がいるのならさっき見た死体はいったい何だったのだ。もしかしたら本当はあそこには死体なんてなくて、到底信じられないがあれは幻覚だったのだろうか。もしかしたら『三沢塾』一件の影響で無意識のうちにあんな光景を想像してしまったのかもしれない。どこか釈然としないながらも上条は無理やりそう納得することにした。
 だって上条の前に御坂妹の姿があるのだ。幻覚でもホログラムでもなく確かにその存在が感じられるのだ。ならば、御坂妹の死体なんてなかったと納得するしかない
 別に上条は御坂妹を死んだことにしたいのではないのだ。当然、御坂妹が死んでいるよりは生きていてもらっているほうがいいに決まっている。ただ、自分の見た御坂妹の死体という光景にきちんと納得したかっただけなのだ。
「そんなことよりも、いったいなぜあなたはこんな場所にいるのですか、とミサカは少々あきれながら質問します。ミサカはずっとあなたが入った古本屋の前であなたを待っていたのですが、とミサカは語気を強めつつあなたに問いかけます」
「ずっと待ってた?古本屋の前で?」
 おかしい、と上条は思った。古本屋の前で御坂妹が待っていたのなら自分が気づかないはずがない。もう完全下校時刻は過ぎているから外を出歩いている学生の数は少ない。古本屋の前の通りもガラガラだったはずだ。あんな開けたスペースなら目立つ姿をしている御坂妹が立っていたらわかるはずだ。
「さっき俺が古本屋から出たときはお前の姿は見かけなったんだけど……」
 なぜか怒られている気がして上条はちょっと遠慮がちな声で言った。
「ミサカの姿がなかった?そんなはずは……あっ」
 急に御坂妹は何かを思い出したかのように声をあげた。
「申し訳ありません。実は、今抱えている猫が逃げ出してしまったので数分ほどあの場を離れていた時間がありました、とミサカはあなたに謝罪します」
「なんだ、そうだったのかよ」
 御坂妹があの場にいなかったことがただ逃げ出した猫を追いかけていただけだと知って上条は安堵した。
「ああー、心配して損したぜ。俺はてっきり」
「てっきり?なんですか、とミサカは問いかけます」
 てっきり、何か事件に巻き込まれたのかと思った。そう言葉をつづけようとして上条は口を閉ざした。脳裏には今も御坂妹の死体が転がっている光景が浮かんでくるが、わざわざ御坂妹にそのことを伝える必要はない。何よりそんなことを言っても『あなたの頭は大丈夫ですか、とミサカはそんな幻覚を見てしまうあなたのことを心配します』とか皮肉を言われるだけだろう。
「いや、なんでもねぇよ。それより、さっさとその猫を俺の寮に連れてこうぜ。せっかく猫の飼い方の本も買ったんだからよ」
 左手に持った古本屋の袋を掲げながら上条は御坂妹にそう促した。
「その件なのですが……」
 と、御坂妹は申し訳なさそうに上条に言った。
「実はミサカはこのあと予定が入っていましてあなたの寮まで行くと予定の時間に間に合いそうにないのです、とミサカは申し訳なさそうに言います。ですのでこの猫はあなたが寮まで連れて行ってくれないでしょうか、とミサカはあなたにお願いします」
「そうか、そりゃ残念だ。わかった。その黒猫は俺が責任ををもって連れて帰るよ」
 御坂妹とここで別れるのは残念だが、予定があるなら仕方ない。別に上条は本当は猫を持ち帰る必要はないのだが、上条は責任感の強い男なので一人で寮まで猫を連れ帰ることにした。
「お願いします、とミサカは言外にちゃんと連れて帰らねぇとただじゃおかねぇからなと思いながらもあなたに猫を渡します」
 そして上条は御坂妹から黒猫を受け取った。左手が袋でふさがっているので、おなかと右腕で挟むような形で猫を支えることになってしまったが。
「それではミサカはこれで失礼します、とミサカは別れの言葉を言います」
 猫の受け渡した御坂妹は上条に対してお辞儀をしてから少々走り気味に路地裏から出て行った。
「ああ、またな」
 その後、腕の中で暴れる黒猫をなだめながら上条も御坂妹の後を追うように路地裏から出て行った。



このミサカはどのミサカ?


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ミサカ×××××号と※※※※① 会話

この作品におけるだいたいの事件の元凶の登場です。


 8月21日午後7時42分 大通りにて



 上条と別れた後大通りに出たミサカ×××××号は何者かと電話をしていた。

「ということがことの顛末です、とミサカは※※※※に報告します。とりあえずこれでうまく実験にかかわらない方向に誘導することができたでしょう、とミサカは自己満足に浸ります」

「ずいぶんうまくやってくれたみたいだね。さすがは妹達(シスターズ)唯一の異常個体(イレギュラー)なだけはある。私の期待通りの成果だ」

「その呼び方は止めてほしいのですが、とミサカは抗議します。私が異常なのではなくほかの全個体が異常なのです」

「まぁ、異常性というものは客観的な価値観によって判断されるものだからね。9969人の妹達(シスターズ)の中で一人だけが違っているならその一人は異常と称されるのさ」

「ですが、人類という名の大きなくくりから見れば私が正常であるという事実に間違いはありません、とミサカは少々意固地になります」

「よりにもよって、単価十八万円の量産品(クローン)が人類を語るのかい?」

「私は人間です!量産品(クローン)などと呼ばないでください、とミサカは本気で怒ります」

「すまないね、どうも私の口は思ってもいない軽口をたたいてしまうらしい。やれやれこれも私の役職のせいなのかな」

「……………」

「あはは、不快に感じたなら謝罪させてもらうよ。悪かったね。心配しなくても私は君のことをちゃんと人間だと思っているさ。何せほかの個体とは違い君には『感情』があるのだからね」

「いえ、謝るほどのことではありません、とミサカはこたえます。しかし、今回の件はわざわざ私が行かなければならないことだったのですか、とミサカは疑問を抱きます。あの一般人が実験のことを知ったとしても何もできないと思うのですが」

「いやいや、実はね、彼は一般人なんかではないのさ」

「一般人ではない?動きからは訓練を受けているようには感じませんでしたし、高位能力者ということもないはずですが、とミサカはあなたの返答を不可解に思います」

「まぁ、確かに彼は無能力者(レベル0)だ。だけど彼の特殊性は能力(チカラ)ではなくその右手にあるのさ」

「……………………」

「彼の右手には幻想殺し(イマジンブレイカー)という力が宿っていてね。この幻想殺し(イマジンブレイカー)というのは『右手に触れた一切の異能の力を消す』という力なのさ」

「そんな力が存在するのですか、とミサカはそのチート具合に呆れ返ります」

「別にそんなにチートじゃないよ。結局は右手に触れさせないと異能の力は消えないからね。ようは、右手に触れないように能力を使っていけばいいんだ」

「ずいぶんと使い勝手の悪い力ですね、とミサカは感想を述べます」

「でも使いようによってはかなり強力な力だよ。特に今回のような状況ではね」

絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)中止計画ですね。なるほど、だから私に上条当麻を誘導させたのですか、とミサカは一人納得します」

「さすがに頭の回転早いね。そうなんだよ、私の計算だと上条当麻は一方通行(アクセラレータ)を真っ向からやぶれる人間の一人だからね。この計画にかかわってくれると困るわけさ」

「『反射』が幻想殺し(イマジンブレイカー)によって無効化されるということですか」

「その通り、そして上条当麻が一方通行(アクセラレータ)を倒すと色々と問題が起きるわけだ。超能力者(レベル5)を倒した無能力者(レベル0)なんて笑い話にもならない」

「計画上、お姉様が一方通行(アクセラレータ)を倒さないとあなたたちにとって都合が悪いだけでしょう、とミサカは言い放ちます」

「別にいいじゃないか。絶対能力進化実験(レベルシックスシフト)中止計画が成功すれば御坂美琴は君たち妹達(シスターズ)を救える。君は一方通行(アクセラレータ)に殺されなくて済むようになる。そして私たちは御坂美琴と君を※※※※※※ことができる」

「むぅ……と、ミサカは唸ります」

「あはは、そんなにすねなくてもいいのに。それじゃ、これからも期待しているよ。恐怖という感情を宿された妹達(シスターズ)唯一無二の異常個体(イレギュラー)。ミサカ19090号」

「あなたたちが約束を守る限りは、きちんと協力させてもらいますよ、とミサカ19090号は冷めた口調で言い放ちます」

「全く、少しはこちらを信じてくれてもいいだろうに」

 そして、その一言を最後に二人の間の通話は切れた。



















「ふふっ、それでも結局上条当麻はこの実験に関わってくるんだろうね。細い細い糸を手繰り寄せて、絶望という名の真実を手に入れて、関わってくるんだろうね」

「期待してるよ。上条当麻(ヒーロー)。いつか君が(悪党)に辿り着くことをね」



読めばわかりますがミサカ×××××号の×××××は19090という数字が入ります
ミサカ19090号はかなり設定を変えているのであしからず



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『白衣の男』と御坂美琴⑥ 質問  ※※※※① 観察

※※※※はオリジナルキャラではなくちゃんと禁書本編のキャラです


8月21日午後7時20分『××××××研究所』コンピューター室にて

(今更、躊躇ってなんかいられないッッッ!!!!)
 あの子達を救うためには確実に『白衣の男』の協力が必要になる。この予想が正しければ、『白衣の男』の隠していた意図を見破った御坂美琴には『白衣の男』から高い評価を得られるはずだ。
 そうすれば
(そう……後のことの心配も少なくなる。もっと言えばあの子達を人質にとられることもないはず!!!!!)
「『白衣の男』!!!あなたの本当の目的は……」
 言い放つ、証拠も確信も証言も断言もできない、けれど自信のある御坂美琴が辿り着いた結論を。
「私を暗部組織にいれることよッッッッッ!!!!!」
 その言葉を聞いて、

『白衣の男』の表情が、

 ほんの、

 わずかに、

 歪んだ。







8月21日午後7時21分某所にて

 はるか遠く、この地上では無い場所で名を※※※※という一人の少女は御坂美琴と『白衣の男』のやり取りを観ていた。
「どうやら、予測通りに進んでいるようだね」
 少女は優秀だった。世界という枠組みの中ではもちろん、この学園都市という名の外界とは隔絶された驚異的なまでの科学技術が存在する場所でも十指に入るほど優秀だった。直接的戦闘力は低かったが、それを補って余りある頭脳が少女にはあった。優秀で有能でだからこそ少女は人に恐れられ、怖がられ、地上から何も無い『無』の空間へと追放された。まぁ、少女的にはつい地上から追放されたことを特に恨んでも、悲しんでもいなかったのだが。
「えーっと確かこの後の展開は……」
この後の展開を少女は頭の中でシミュレートする。自分が立てた計画通りに事が進んでいることに少女はご満悦だった。基本的に地上のことにはあまり干渉しない少女だが、自分の頭脳を使う瞬間が少女は好きだった。
『……素晴らしいね。本当に素晴らしい。全く、予想以上の予測以上の展開だ』
 地上の『××××××研究所』の内部を映し出している画面の中で『白衣の男』のそんな声が聞こえてきた。
「おっと、もう次の展開に進んでいるのか」
 そして少女は画面に目を移し、最終的な交渉に入った二人を見つめる。この後もきっと自分の予測通りに進むだろうと思いながら。さながら、神のように地上を見つめる。







  8月21日午後7時21分『××××××研究所』コンピューター室にて


「……素晴らしいね。本当に素晴らしい。全く、予想以上の予測以上の展開だ」
 『白衣の男』からの称賛の声。その声を聴いて御坂美琴は少なからず安堵をしていた。自分の予想が間違っていなかったことに。『白衣の男』の目的を指摘しても『白衣の男』が自分を切るつもりはないことに。そして『白衣の男』からの評価が上がったことに安堵していた。
「正直なめていたよ。なるほど、さすがは学園都市第三位だ。ここまで消耗し、衝撃的な映像を見せられた後でも、私の意図を見抜く力はのこっていたわけだ」
ふふっ、と自嘲するように笑って『白衣の男』はその懐に手を入れた。
そして、その行動を御坂美琴は警戒する。御坂美琴が『白衣の男』の意図を見抜いた後、『白衣の男』は懐に手を入れるという行動をとったのだから、それはこの後の交渉に何らかの形でかかわってくるもののはずと予想して。
しかし『白衣の男』が取り出したのはただの煙草だった。
「そう警戒することはない、と言っても信じてはくれないだろうが、君が私の目的に気付いてしまった以上私としてはできるだけ君に譲歩した条件で取引をしたいんだよ」
「とりあえず、私をここで口封じするつもりはないってことでいいわよね」
御坂美琴は確認のためにも『白衣の男』にそれを明言してもらいたかった。これから取引をするような様子を見せておいて、実は殺すつもりだったなどということは冗談ではない。
「もちろんだとも。君が先ほど言ったように私は君を暗部組織に入れたいと思っている。より正確にいうには『私直属の暗部組織』のリーダーになってほしいと思っているのだよ。それなのにこの程度のことで君を殺してしまう選択肢などとれるはずがないだろう」
「……いくつか、確認してもいいかしら」
「ふむ……構わないが、あまり時間は無いぞ。現在時刻は7時22分、絶対能力進化実験(レベルシックスシフト)第10032次実験の開始まで残り時間はわずかに一時間だ。絶対能力進化実験(レベルシックスシフト)を止めるという君の目的からしたらあまり私と長々と話している暇はないのではないかね」
「私をあせらせて、情報を隠すつもり?」
「まさか、そんな意図はないさ。ただ、君のことを気遣っているのだよ」
「それなら、心配いらないわ。あなたから情報を引き出した後にちゃんと実験を止めに行くから。それじゃあ、一つ目の質問よ、さっき『私直属の暗部組織』のリーダーになってほしいって言ったわよね。なぜ、『闇』にほとんどかかわったことのない私をリーダーにしようとするの」




素朴な疑問なんだが全能神トールと神上状態の右方のフィアンマが戦えばどちらが勝つんだろうか?


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『白衣の男』と御坂美琴⑦ 超能力者唯一の例外

 『白衣の男』は思考していた。自分の目的がばれたことは大きな問題ではない。むしろ、御坂美琴の頭の回転の具合が高いと分かったのでいい収穫になったと思っていた。だからこそ、ここまで目的を把握されてしまったからにはもう逃すわけにはいかないと思っていた。もしも、この後の交渉が決裂して御坂美琴を逃がしてしまうことになれば、他の統括理事会の面々に対して明らかな『隙』になる。それは避けなければならない。
(ならば、重要なのは切り札を切るタイミングか)
 『切り札』
 『白衣の男』は御坂美琴を確実に味方につけるための切り札を持っていた。
 そう、その『切り札』は先ほど御坂美琴が気付けなかったもの、この絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)が計画される一番最初の段階に存在したものだ。
 今となっては、『それ』の価値は『白衣の男』にとってはほとんどないに等しいが、御坂美琴を逃がさないための『切り札』としては大いに使えるだろうと『白衣の男』は予想していた。
「その答えは簡単さ。先ほど君は『一方通行(アクセラレータ)を倒すのに第二位じゃなくて(第三位)に接触してきたこと』をおかしいと言ったね」
「言ったけど?」
「実はそのことは別におかしなことでも何でもないんだ。何故なら……学園都市第二位の超能力者(レベルファイブ)垣根帝督は既に暗部組織『スクール』のリーダーについているからね。僕が『スクール』に依頼をすればこれさいわいと、『スクール』の上司がそのことを利用するだろう。だから、僕は『スクール』には依頼できないのさ」
「……ッッッッ!??」
 明らかに
 あきらかにその一言に御坂美琴は動揺した。
 自分の知らなかった情報が『白衣の男』によって次々と開示されていき、グチュグチュと学園都市に対して持っていたイメージが崩される。
 暗部組織『スクール』
 かつて御坂美琴が命がけで戦った学園都市第四位が所属する暗部組織『アイテム』とはまた別の暗部組織の名。
 暗部組織『アイテム』には学園都市第四位の超能力者(レベルファイブ)が所属していて、暗部組織『スクール』には学園都市第二位の超能力者(レベルファイブ)がリーダーとして君臨している。
 そして、学園都市第一位の超能力者(レベルファイブ)絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)にかかわっている。
 学園都市に存在する超能力者(レベルファイブ)のうち三人が何らかの形で『闇』に関わっている。
 そのことを踏まえたうえで、『白衣の男』が自分に接触してきた意味を考えると……
 これが示すことは
 つまり…………
「そう、おそらく君の予想通りだよ。御坂美琴!君だけなんだよ。この学園都市の『闇』に大きく関わっていない超能力者(レベルファイブ)は。もはや、七人の超能力者(レベルファイブ)の内君だけなんだよ。超電磁砲(レールガン)の御坂美琴!!!」
 七人の超能力者(レベルファイブ)の内、『闇』に大きく関わっていない存在が御坂美琴だけだという事実。
「第一位の一方通行(アクセラレータ)は言うまでもなく『闇』の深部の住人だ。今も君も知っての通り、自分の意思で絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)に参加している。
 第二位の垣根帝督は現在は暗部組織『スクール』のリーダーを務めている。
 第四位の麦野沈利は垣根帝督と同じように暗部組織『アイテム』のリーダーをしている。『アイテム』とは君も研究所襲撃の時に戦ったことがあるだろう。
 君と同じ常盤台の生徒でもある第五位の食蜂操祈は前の三人ほど『闇』と深く関わっているわけでは無いが、それでも『闇』の研究の一つの才人工房(クローンドリー)やデッドロックなどとも関わっていたと聞く。
 第六位はかなり特殊な立場の人間でね。『闇』と直接的な関わりはないがそれでも『闇』をかなり深く知っている
 第七位の削板軍覇も第六位同様特殊な立場の人間だ。世界最大の『原石』と聞けば『闇』の連中が喉から手が出るほど欲しい研究材料と言えるだろう」
 七人の超能力者(レベルファイブ)の内、二人も暗部組織のリーダーの座にいるという事実。そして、敵対していたがある意味では自分と同じ立場の人間だと思っていた食蜂操祈も『闇』に関わっていたという現実が御坂美琴の常識を叩き壊す。
「私だって『闇』とかかわったことが無いわけじゃ……」
 だが、御坂美琴も別に『闇』かかわったことが無いわけでは無い。
 木山春生の起こした幻想御手(レベルアッパー)事件からのAIMバーストとの戦闘
 テレスティーナ=木原=ライフラインの起こした『能力体結晶』に関わる事件
 双方ともに学園都市の『闇』が関係している事件だった。
「君が関わった事件など学園都市の『闇』の中でも最も浅い部分に過ぎないよ。わかっているんだろう。絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)。この実験だって、別に『闇』の最深部の実験と言うわけでは無い。あくまでも成功すれば大きな利益の出る、という数ある実験の一つにすぎないのさ」
 数ある実験の一つにすぎない
 その言葉に御坂美琴はギリッと歯を軋ませる
 純粋にくやしいと思った。
 2万人を殺す実験を『数ある実験の一つにすぎない』という学園都市の状況を何一つとして把握していなかった自分自身が、超能力者(レベルファイブ)のくせに何も知らなかった自分自身を情けなく思った。



学園都市第六位の『藍花悦』の正体はいつになったら判明するんだろうか………
いやそもそも判明するのか?




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『白衣の男』と御坂美琴⑧ 『切り札』

今回は文字数増やしました。
5000字はあります。


「さて、君の質問に答えよう。最も今言ったことがほとんど答えなのだがね。『闇』が手を付けていない超能力者(レベルファイブ)は君しかいない。だから私は君に暗部組織のリーダーになってほしいと思うんだ。超能力者(レベルファイブ)の存在する暗部組織なんて数ある組織の中でも現段階では二つしかない。僕の組織する暗部組織を三つ目の超能力者(レベルファイブ)の所属する暗部組織にしたいんだよ」
 納得できる答えだった。
 少なくとも、自分の持つ情報の中では納得のいくものだった。
 そして、
(……現在時刻は7時25分。10032次実験開始まで残り65分。ここから実験会場までざっと計算しても30キロはある。そろそろ会話を切り上げて一方通行(アクセラレータ)を倒すための策を聞くべきか……………)
 御坂美琴は迷っていた。
 時間がない。
 『白衣の男』の言葉を信じるのならば、『白衣の男』は御坂美琴が一方通行(アクセラレータ)を確実に倒せる策を持っている。
 だけど、それを聞いてしまえば、ほぼ確実に自分は暗部組織のリーダーにさせられる。
 そこまで、聞いてしまった御坂美琴を『白衣の男』が逃がすわけがない。
 今なら、まだギリギリ逃げられるはずだ。ギリギリ『闇』に落ちなくても済むはずだ。まだ引き返せる。

 たぶん、今この瞬間が

 御坂美琴にとっての

 帰還不能地点(ポイントオブノーリターン)

 思考を加速させろ
 提示された条件から最善を読み取れ
 妹達(シスターズ)を救うために、大切な妹達を救うために
 (…………まず、大前提として私の目的は妹達(シスターズ)を救うこと。そして、妹達(シスターズ)を救うために必要となるのは絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)の中止。絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を中止するためには二つの方法がある。つまり、一方通行(アクセラレータ)の殺害による強制的な中止か、研究者たちによる絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)の中止の実行。後者の、研究者たちによる絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)の中止の可能性はほぼ零だと考えたほうがいい。だって、研究者たちは樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が破壊された後も絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を続けているし、研究施設をすべて破壊してもたやすく代わりを持ってきた。再演算ができない状況でも絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を続けているんなら、それだけ研究者たちにとってこの実験は重要だってことよね。しかも統括理事会がこの研究のバックに付いてる。これなら余計に研究者たちが絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を中止するわけがない。ならもう一つの可能性、つまり一方通行(アクセラレータ)の殺害による強制的な絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)の中止のほうは?研究者たちが実験を中止するよりも現実的な案のはず。問題はどうやって学園都市『最強』の超能力者(レベルファイブ)を殺害するのかということ一点。私の能力じゃ一方通行(アクセラレータ)の『反射』は超えられない。これは八月十五日の戦いからもすでに判明していることよ)
 御坂美琴は思いだす。八月十五日の出来事を。自らのクローンである妹達(シスターズ)との初めての邂逅と出会った妹達(シスターズ)一方通行(アクセラレータ)によってコロサレタ八月十五日の出来事を。
 そしてその後の、一方通行(アクセラレータ)との戦い……否、あれは戦いなどではなかった。一方通行(アクセラレータ)は全く本気を出してなかった。戦いというのは自分の力が相手に通用するから起こるのだ。だから、あの争いはただの虐殺。一方通行(アクセラレータ)が御坂美琴を殺すまでの遊びだった。
 (……ッッッ!!!やっぱりダメだッ!私だけじゃ一京分の一の奇跡が一京回起こったって一方通行(アクセラレータ)には勝てない。なら『白衣の男』の策に乗れば一方通行(アクセラレータ)に勝てるの?………………少なくとも私が単独で挑むよりも勝率はぐんと上がる。ここまで状況を用意しているんだ。『白衣の男』なら私が一方通行(アクセラレータ)に勝てる策を用意している可能性が高い。なら仮に私が『白衣の男』の策に乗って一方通行(アクセラレータ)を殺したとして……その後はどうなる。まず間違いなく私は『白衣の男』の組織する暗部組織のリーダーにされる。そして暗部に落ちて『闇』の仕事をさせられる。その中には誰か殺したりすることもきっとある。………………だけど、私が『闇』の仕事をしていればまず間違いなく妹達(シスターズ)は助かるはず。だって妹達(シスターズ)は私を操るうえでの道具として機能する。なら……これ以上の問答に時間をかけるよりは策の内容を聞いたほうがいいのか……?でも、もしもその策を聞いてしまった時点で私が『闇』から逃れられなかったらあの子達は本当に……)
 考えても考えても考えても絶対の正解なんて見えてこない。当たり前だ。人生はセーブもロードもできないゲームのようなもの。バックログもなければ選択肢もでてこない。自らの意思と力と頭脳で最善の選択を探り手を伸ばし掴み取るしかないのだ。
 (時間がないッッッッッ!!!!)
 あまりにも、あまりにも時間が足りなさすぎる。こんな短時間では正常な判断などできるはずがない
 だけど、選ぶしかない。限られた時間の中で御坂美琴は選ぶしかないのだ。
 妹達(シスターズ)を救うための最善の選択肢を。






(時間がない)
 一方で『白衣の男』もあせっていた。
(私の『策』は内容の説明と打ち合わせに最低でも25分はかかる。本来なら余裕をもって45分は時間が欲しいところだ。その上でここから実験場まで直線距離でも20キロはある。移動時間に10分は必要だ。現在時刻は7時25分。もはや実験開始まで65分しかない)
 『策』の説明時間45分+移動時間10分=55分
 実験開始時刻までの時間65分-準備時間55分=10分
 つまりここで交渉に使える時間はあと10分しかないのだ
(何を迷っているんだ御坂美琴ッッッ!!!)
 ここで手放すわけにはいかない。やっと見つけた手駒になれる強大な戦力。長い時間をかけて育てた重要な存在。
『白衣の男』の生涯を懸けた『計画』のための、『目的』のためのキーパーソン。
 手放すわけにはいかない
 こんなところで手放すわけにはッッッッッ!!!
(切るべきか……『切り札』を……ここで)
 『切り札』
 『白衣の男』が持つ御坂美琴を確実にこちら側にうつせる『切り札』
 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
 (切るか)
 『白衣の男』は覚悟を決めた。
 本来ならば使いたくはないが、それでもここで御坂美琴を確実に手に入れるために『切り札』を使う覚悟を決めた。
 だが、
 (関係の悪化は避けられないだろうな……)
 この『切り札』を使うということは御坂美琴を脅す、脅迫するということと同義だ。
 今、御坂美琴と『白衣の男』の間にはいびつで細いが奇妙な信頼関係が結ばれている。
 御坂美琴が暗部に落ちる代わりに、『白衣の男』が妹達(シスターズ)を救うというものだ。
 おそらく御坂美琴は自分が『策』を聞いた時点で『暗部』に落ちることが確約してしまった場合、妹達(シスターズ)を助けられるか確約がないと思っているのだろう。
 『暗部』に落ちた後は御坂美琴は妹達(シスターズ)との積極的な接触は避けるだろう。
 わざわざ、自分の弱みをほかに見せる必要はないし、不用意に接触すれば人質として利用されかねない。
 彼女からすれば『白衣の男』が本当に妹達(シスターズ)を助ける気があるのか疑わしいだろうし、そもそも一方通行(アクセラレータ)を殺した後に1万人いる妹達(シスターズ)を保護するための医療施設を確保できるのかということも疑問だろう。
 (まぁ、妹達(シスターズ)救出とその後の保護及び安定化のための施設の準備は現段階ですでにすんでいるのだがな)
 なぜなら
 そもそも絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)とその前身となる量産型能力者計画(レディオノイズけいかく)を計画し、そして過去に御坂美琴に接触して彼女のDNAマップを書庫(バンク)に登録させたのは
 紛れもなく『白衣の男』なのだから




「時間がない」
 不意に『白衣の男』がそうつぶやいた。
 くしくもそれは今現在御坂美琴が思っていることと同じことだった。
 「もはや第10032次実験が始まるまで時間がない。現在時刻は午後7時26分。実験開始まで残り64分しかない。ここから実験会場の第17学区まで直線距離でも20キロはある。移動には私が個人的に所有する超高速ヘリコプターを使うつもりだが、それでも移動には10分かかる」
 どうやら、御坂美琴が感じていたのと同じ焦りを目の前の『白衣の男』も感じていたらしい。
 (好都合だ!!!)
 この『白衣の男』の焦りを御坂美琴は好機ととらえた。
 人が焦るということは隙になる。
 たとえをあげれば受験におけるテストだ。テストを受けるとき50分の制限時間の間に問題を全部解いたと思ったら、残り時間5分の段階で解答欄が始めのほうから一つずつずれていたと分かった。そんなとき人は焦る。
 そしてその焦りは思考を少なからず混乱させ、結果的に解答欄を今度は全部埋められなかった、解答欄を二つずらしてしまった、解答をうつし間違えてしまったなどのミスを起こす。
 人は焦るとミスを犯す。
 ならば、と御坂美琴は言葉を紡ぐ。
 「なら時間はあと一時間は残ってるってことよね。……といっても協力する場合は『策』の説明も受けないといけないし実際はもっと少ないのかしら?」
 「あぁ、『策』の説明に30分は欲しいな。だから残り時間は30分といったところだ」
 「なら、あまり交渉に時間を割いているわけにもいかないわね。どっちにしても『策』の内容は聞くつもりだったし。だからこれを最後の質問にするわ」
 『最後の質問』
 御坂美琴がわざわざ最後という言葉を付けたことにはもちろん理由がある。
 人は「○○で最後にするから~」などそれ以後自分はその行為をやらなくていいというような言動をされると無意識のうちに気が緩み思わずそのことを叶えてしまう傾向がある。
 例えば、仕事で忙しいであろう人を呼び止めてアンケートなどをとってもらっているときを考えてみよう。
 その人、仮にAさんとして、Aさんは早く仕事に行きたいと思っている。だから当然アンケートが終わったら急いで仕事場に向かう、だがそこでアンケートをとっている人が「最後に一つだけ聞きたいことが~~」などと言ったらどうだろうか。
 以外にもAさんは立ち止まって質問に答えてくれるだろう。
 もちろんそれはAさんがアンケートに付き合ってくれるような親切な人間だからでもあるが、『最後に』という言葉に反応したからだとも考えられる。
 『最後』つまりはこれ以上の先は無いという言葉。
 これはその後自分はその行為をしないという意思表示なのだ。
 だからあえて御坂美琴はその言葉を付けてみた。『白衣の男』の言葉を引き出すために。
 だが、御坂美琴が質問を投げかける前に『白衣の男』が予想外のことを言ってきた。
 「いや、その必要はないよ」
 まるで、
 まるで先ほど御坂美琴が『白衣の男』の言葉を遮った時のように、今度は『白衣の男』が御坂美琴の言葉を遮ってきた。
 「……何?時間がないからこれ以上の質問は受け付けないってこと。悪いけどそんなんじゃとても協力する気なんてわかないけど」
 「いやいや、そうではないさ。もちろん、互いが互いを少しでも信用するために君の質問にはなるべくこたえるつもりだが、その前に私から少し君に伝えたいことがあってね」
 「それは、私の『質問』よりも優先させるべき、私にとっての有益な情報なの?」
 「あぁ、今私たちの間で行っているまどろっこしい交渉なんて一発でふっとぶほどの情報さ」
 わざわざ、『白衣の男』がまどろっこしい交渉という言葉を使ったことに御坂美琴は小さな違和感を覚えた。
 御坂美琴と『白衣の男』は今、信用を得る為の交渉をしているが、関係を悪化させるような『交渉』という単語を使うよりも、情報交換や話し合いという言葉を使ったほうが印象的にはいいはずだ。
 「これは、いわば僕にとっての『切り札』でね。本当はあまり言いたくない情報なんだ」
 『切り札』
 そのキーワードは御坂美琴の中にある違和感を加速させた。
 「なにせ間違いなく君との関係をこじれさせる。下手をしたら怒った君に僕が殺されてしまうかもしれない」
 続けられた言葉が御坂美琴の中に嫌な予感を募らせた。
 「だが、このまま交渉を続けていても貴重な時間が消費されていくだけだろうからね。悪いが切らせてもらうことにした」
 ここから先の言葉を聞いてはならない
 そう体中のすべての細胞が叫んでいるような
 そんな感覚が
 「御坂美琴。君は、」
 御坂美琴の体内を駆け巡り

 そして

素養格付(パラメータリスト)という言葉を聞いたことはあるかね」
 
 素養格付(パラメータリスト)
 その言葉がこの後の御坂美琴の運命を決定づけた



申し訳ないのだがまだしばらくこの二人の交渉が終わらなそうです………

文中の最後に~とかの説明はきちんとした理論に基づくものではないのであまり信じないでください。

そろそろ上条&黒子sideもやろうと思います。


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『白衣の男』と御坂美琴⑨ 素養格付

旧約22巻のネタバレありにつき未読のかたは注意

交渉シーン長いと皆様きっと思っているでしょう。
作者も長いと思っています。


早くバトルシーンにいきたい。


素養格付(パラメータリスト)…………?」
 御坂美琴にとって素養格付(パラメータリスト)というのは初めて聞く単語だった。
 素養とは『ふだんの練習や学習によって身につけた技能や知識』のこと、格付とは『様々な要因によって人や物の段階・等級を決めること』のこと。
 つまり文字通りに受けとれば素養格付(パラメータリスト)とは『ふだんの行っている練習や学習で身につけた技能や知識によって人や物の段階・等級を決めること』を示す。
 と、そこまで御坂美琴が考えたところで
「どうやら聞いたことが無いようだね」
 と『白衣の男』から声がかかる。
「ええ、全くもって聞いたことが無いわね。常盤台に所属してる私が聞いたことが無いんだから、その素養格付(パラメータリスト)っていう言葉『闇』に関わるものじゃないの?」
 義務教育終了までに世界に通じる人材を育成するというテーマを掲げるほど教育熱心な常盤台中学に所属している御坂美琴が聞いたことが無い言葉なのだ。よほどアンダーグラウンドな言葉か『表』にでてこない『闇』の単語だと思われた。
 そしてこのタイミングで『白衣の男』の口から言葉なのだから素養格付(パラメータリスト)という単語は『闇』に関わるものと御坂美琴は推測した。
 「そのとおり、素養格付(パラメータリスト)とは『闇』に関わる単語だ。さて、ここで話題を変えるが、御坂美琴。君にとっては思い出したくもないことだろうが、君は絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)が計画されるきっかけ……というよりも絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)に関する自分の最初の罪を自覚しているかね」
 「私の……一番最初の罪……?」
 『白衣の男』の言葉に導かれるように御坂美琴は過去のことを思いだした。
 そう、御坂美琴の一番最初の罪、あの白衣を着た研究者に筋ジストロフィーの治療のためにと騙されて自らのDNAマップを渡してしまったという罪。
 「研究者にDNAマップを渡したこと……それが私の一番最初の罪よ」
 自嘲気味に笑いながら御坂美琴はそう答える。
 あの時、御坂美琴はあの白衣を着た研究者にDNAマップを渡してしまった。
 どれだけ後悔してもしきれない、どれだけ悔やんでも悔やみきれないその行い。
 『君のDNAマップを提供してもらえないだろうか?』
 その言葉に騙されてDNAマップを渡してしまった自分自身をぶち殺してやりたいと幾度思ったことか。
「そうそれが、君の最初の罪だ。もしも君がDNAマップを渡さなければもしかしたら絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)は計画されないかもしれない」
「……何が言いたいの!重要な情報ってまさかそれのこと?そんなことなら私だってとっくに自覚してるわよッッッ!!!」
 キレ気味に御坂美琴は叫んだ。彼女にとってそのことは思い出したくもないことだ
(そんなことはわかってるッッッッッ!!!あの日、あの時、あの場所で私がDNAマップを渡しさえしなければこんないかれた実験は起こらなかったかもしれないなんてッッッ!!!)
 最も『思い出したくもないこと』というのは『罪から目をそらしている』ともいえることだが
 そう、御坂美琴は罪から目をそらしている。
 御坂美琴は罪を直視していない
 その証拠に、御坂美琴は重要な事実に気付けない。彼女ほどの頭脳の持ち主なら絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)発覚の時点でその事実に気付けるはずなのに。
「まさか!!!これが重要な情報だってそんなわけはないだろう!…………重要なのはここからだ、御坂美琴」
 唐突に、何の前触れもなく『白衣の男』の雰囲気が変わった。
 『静』から『動』に、
 『守』から『攻』に、
 まるで海底で獲物が来るのをじっと待っていたヒラメが獲物を捕食するときのように
 変わった
 (ッッッッッッッッッ!!!!!!!)
 来る。
 なんだかよくわからないがとにかく警戒するべき何かが来る。
 御坂美琴はそう直感した。
 『覚悟』を決める。自分が主導権を握っていた交渉がここから先は『白衣の男』の主導で進められる『覚悟』を。

 そして、

 そして、

 そして、


「いつだ?」


「………………………………えっ?」



「御坂美琴。君はいったい、いつ。研究者にDNAマップを渡した?」


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」






「………………………………………………………………………………………………えっ」





やりたかったシーンの内一つができました。

この作品は展開が亀の歩みよりも遅いですよね……

次の投稿は明後日です。


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御坂美琴③ 混乱とそして……

最初のほうが読みにくいのはわざとです



いつって私が研究者にDNAマップを渡したのは渡してしまったのは幼少期の私がまだ低能力者(レベルワン)電気使い(エレクトロマスター)だった時期で私がまだ6歳だった時のことでその時私は研究者の筋ジストロフィーの患者を治したいという言葉に感動して自分のDNAマップを渡してしまってそれが原因で絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)が始まってあれでもたしか絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)って超能力者(レベルファイブ)である御坂美琴の体細胞クローンの妹達(シスターズ)一方通行(アクセラレータ)が二万人殺すことによって完成して完遂する計画よねそれには私が6歳の時に騙されて渡したDNAマップが使われているのよねでもその時の私って確かまだ低能力者(レベルワン)電気使い(エレクトロマスター)にすぎなくてその時の私のDNAマップがちょっと待ってでもそれってよく考えたらおかしいだって私は低能力者(レベルワン)から時間をかけて数年の時間をかけて超能力者(レベルファイブ)になったんだからDNAマップを提供した時点じゃ絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)の計画どころかその前身となる量産能力者(レディオノイズ)計画を立てることだってできないはずなぜなら私がDNAマップを渡した時点で御坂美琴のDNAマップはまだ学園都市のなかでは対して珍しくもない低能力者(レベルワン)電気使い(エレクトロマスター)でしかないそのDNAマップを使ったところで量産できるのは低能力者(レベルワン)電気使い(エレクトロマスター)のDNAの量産品(クローン)でしかないはずなのにそれでも結論から先行していってしまえば量産能力者(レディオノイズ)計画の時点で私の能力(チカラ)低能力者(レベルワン)から超能力者(レベルファイブ)に学園都市のどこにでもいるありふれた電気使い(エレクトロマスター)から学園都市230万人の頂点の七人の一人学園都市第三位の電気使い(エレクトロマスター)にまでそだった育ってしまっただから仮に研究者たちがその時点でつまり私が電気使い(エレクトロマスター)の頂点に立った時点でDNAマップを手に入れて実験に使ったんだとしたら何も問題はないけど実際には大問題があるわよねつまり研究者達が入手した御坂美琴のDNAマップは入手した時点であればどこにでもいるありふれた低能力者(レベルワン)電気使い(エレクトロマスター)のDNAマップにすぎなかったけれど時間がたち時期がずれた時には超能力者(レベルファイブ)のデータに育っていたということとしか考えられないけどだったらなんでそんなことになったのよたまたま偶然運が悪く育ってしまったってことそんなバカなあり得ない可能性がないわけじゃないけどそんなもの絶無に等しいかのうせいでしかないわだったら別の考えをしたほうがいいなにか別の理由があるはずよそう例えば例えば例えば例えば例えば例えば『研究者たちは御坂美琴のDNAマップが超能力者(レベルファイブ)級の物であると知っていた』とかならどうよこれなら研究者たちが私が幼いときにうまく私をだまして私のDNAマップを入手した理由としては納得がいく理由よねだけどそう考えると研究者たちは私の能力が超能力者(レベルファイブ)級の物だと私がまだ低能力者(レベルワン)の能力者でしかなかった時点で知っていたってことそうとしか考えられないだとするとどうやってそのことを知ったの身体検査(システムスキャン)は能力が現段階で同程度のレベルなのかどういった能力なのかを調べるものであってどの程度まで能力が伸びるかをはかるものではないはずまさか私の身体検査(システムスキャン)のデータが改ざんされていたいやあり得ないあの時点での私は間違えなく低能力者(レベルワン)の能力者だった仮に渡された身体検査(システムスキャン)のデータが改ざんされたものであの時点で私の電気使い(エレクトロマスター)能力が低能力者(レベルワン)でなくて超能力者(レベルファイブ)だったりしたとしたら私はもっと大きな電撃を放つことができていたはずよあの時点ではまだ両の掌に小さな電気を発生させる程度の電撃しか操れなかったし出せなかっただから私が低能力者(レベルワン)だったのは間違えない感覚的にも現実的にもあの時点で超能力者(レベルファイブ)だったなんて絶対にありえないだったらなんで研究者たちはあの白衣を着た研究者たちは私のDNAマップを求めたの低能力者(レベルワン)の時点での私のDNAマップを手に入れたのそんなこと考えてみれば一つしかないつまり知ってたんだあの時点で分かってたんだあの時点で私のこの御坂美琴の能力(チカラ)がいずれ低能力者(レベルワン)から超能力者(レベルファイブ)に育つことを知ってたんだそうとしか思えないきっと何らかの方法で知ってたんだ知ってたんだ知ってたんだ知ってたんだ学園都市の『闇』の研究者たちはでもそれはつまり何らかの手段があるってことよね学園都市には能力(チカラ)の伸びしろを能力(チカラ)の限界を知るための何らかの手段が隠されているってことよねそしてそれがそれこそがそれこそが『白衣の男』が言った素養格付(パラメータリスト)の正体つまり素養格付(パラメータリスト)っていうのは私たち能力者の能力(チカラ)の伸びしろをはかるためのモノ私たち学園都市の能力者は素養格付(パラメータリスト)によって能力を管理されたただの実験動物(モルモット)だってこと?

 だけど、だけど今私が考えたことが真実だとしたら、事実なんだとしたら私たち能力者は学園都市の…………………………

『君も私と同じ、限りなく絶望に近い運命を背負っているということだ』

 かつて7月24日に木山春生によって起こされた幻想御手(レベルアッパー)の事件において拘束された木山春生が最後に言い残した言葉が思い起こされた。今ならばその言葉の意味が分かる。
 中途半端な戦力では全く役に立たず、強大な戦闘能力だけでも意味がない。仲間がいても頼れないほど敵は強大で、馬鹿みたいに理不尽な状況に追い込まれた。

『この街じゃテメェなんかただのデータ!!!そうだ減らず口をたたくデータだ!!!キャハハハハハ。テメェらは人間じゃねぇ、ただのサンプルだ。それが学園都市だ!!!!!』

 かつて8月9日に春上衿衣や枝先絆理、木山春生が関わった乱雑解放(ポルターガイスト)の事件において最後にテレスティーナ=木原=ライフラインに言われた言葉が思い起こされる。
 あの時御坂美琴は『闇』なんてほとんど知らないただの超能力者(レベルファイブ)にすぎなかった。力があるだけで『闇』なんて知ろうともしないただの一般人だった。その力さえも音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)の前には無力だった。
 あの時もしもあの場所に自分の友人の佐天涙子がいなかったらおそらく御坂美琴は殺されていた。
 音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)によって演算を妨害され、まともに能力を使うことができない状態だった御坂美琴はテレスティーナ=木原=ライフラインによって殺されていた。

 今更になって恐ろしいと思う。学園都市の『闇』、『暗部』、『裏側』そう呼称される自分の知らないモノに対して御坂美琴は根源的な恐怖を抱いた。
 それはいうなれば人間が暗闇にたいして抱く恐怖と同じようなものだ。
 『知らない』ということは『怖い』ということ。
 だから、次々と明かされる未知の情報に『怖さ』を抱くのはしかたがないことだった。



キャパシティダウンダウンは独自に音響式能力演算妨害装置という名前に対するルビにしました。
つまり音響式能力演算妨害装置=キャパシティダウンということです

次の投稿は三日後です。


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『白衣の男』と御坂美琴⑩ レールの上の人生

「思い当ったようだね。そう、当時の君はまだ幼くてレベルも低く低能力者(レベルワン)電気使い(エレクトロマスター)にすぎなかった。ならば、どうして研究者たちは君のDNAマップを求めたのだ?当時の学園都市にも、もちろん多くの電気使い(エレクトロマスター)がいた。そしてその電気使い(エレクトロマスター)の中には当然当時の君よりも強度(レベル)の高い能力者も大勢いた。それなのに、研究者が君のDNAマップを求めた理由は?…………ほら、考えてみれば簡単にわかるだろう」
 邪悪な嘲笑(えみ)を浮かべながら『白衣の男』は御坂美琴に語りかける。
 御坂美琴は答えられない。素養格付(パラメータリスト)の言葉の意味が分かってしまったが故に答えられない。
 認めたくないと、信じたくないと、わかりたくないと御坂美琴の心が叫んでいる。
「……認めたくないかな?だが分かっているんだろう。僕の言葉の意味が。そう単純なことさ、単純で簡単なことさ。つまり研究者たちはその時点で分かっていたんだ、知っていたんだよ。御坂美琴、君が」
 聞きたくない
「いずれ低能力者(レベルワン)から成長して」
 知りたくない
超能力者(レベルファイブ)になることを」
 だが、『白衣の男』によって無情にもその言葉は告げられた。





 ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。御坂美琴が今まで気づき上げてきたモノが崩れ落ち朽ち果てていく。
 『誇り』
 御坂美琴は今まで一度も口にしたことはないが自分の内側に『誇り』を持っていた。
 壁があれば乗り越えずにはいられない性格だった
 目の前にハードルが置かれたら、それを飛ばないと気がすまない性質だった。
 昔から、精一杯努力して、時間の許す限り努力していた。
 御坂美琴は自身が電気使い(エレクトロマスター)としての力が弱かったころ、まだ雷撃の槍なんて威力の高い技は出せず両の掌の中で小さな電気を現出させる程度の力しかなかった頃を思い出した。
 自分が手にした電気使い(エレクトロマスター)の力はいつか天から落ちる雷も再現できるようになるかもしれないと幼心に思った。
 憧れた。
 焦がれた。
 求めた。
 美しい雷を自分の力で降らせることができればそれはいったいどれだけ素晴らしいものだろうと想像した。
 その光景を求めて懸命に努力した。
 クラスメイトがゲームで遊んでいたり、外でスポーツをしているときも与えられた寮の部屋の中で自分の能力(チカラ)を伸ばす方法を考えていた日もあった。
 人の何倍も努力してきたという自覚があった。
 もちろん、才能もあったと思う。だけどそれを上回るほどの努力をした自覚がある。
 その結果として御坂美琴は超能力者(レベルファイブ)になった。超能力者(レベルファイブ)になることができた。
 学園都市230万人の中の頂点の7人、超能力者(レベルファイブ)の第三位になることができた。
 幼いころに求めた雷の美しさを今の御坂美琴なら再現することができる。
 それほどの力を、手に入れた。
 自分の力で、人の何倍もの努力で、手に入れた。
 手に入れたと………………思っていた。
 でも、それはただの幻想だった。
 築き上げてきた『誇り』、御坂美琴を構成している『誇り(プライド)』、御坂美琴という存在を支えてきたモノが、それがこの理不尽で不条理でどうしようもなく絶望的な絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)にたった一人で立ち向かってきた、立ち向かってこれた理由の一つだった。それがあるから絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)にさらされながらルームメイトの白井黒子の前で強さを見せられた。
 だけど、その力は自分で手に入れたものではなかった。
『白衣の男』は「研究者は御坂美琴がいずれ低能力者(レベルワン)から成長して超能力者(レベルファイブ)になることを知っていた」と言った。
 つまり自分は例え途中でどのような経過をたどろうとも超能力者(レベルファイブ)になることは決まっていたということだ。
 自分の努力は自分が超能力者(レベルファイブ)になる時期を早めただけだったのだろう。たとえ自分が怠惰にすごしていたとしてもいずれは研究者たちによって、いや学園都市によって超能力者(レベルファイブ)にさせられていたのだろう。
 普段ならば、いつもの御坂美琴ならばきっとここまで動揺しなかった。
 ここまではショックを受けなかった。
 だって彼女は『御坂美琴』だから、学園都市第三位の超能力者(レベルファイブ)『御坂美琴』だから。常盤台のエース、7人だけの超能力者(レベルファイブ)、音速の三倍の速度で超電磁砲(レールガン)を撃つことのできるほどの力を持った『御坂美琴』だから。
 御坂美琴は弱音を滅多にはかない。前述したように『御坂美琴』という存在は『誇り』を持っている。
 自分が『御坂美琴』であるという『誇り』を。
 それは悪く言うならば『見栄』だ。
 他人の前では弱さを見せない。他人の前では『超電磁砲(レールガン)の御坂美琴』として振る舞う。そんな『見栄』。そんな『強さ』。そんな……
 だが、その『強さ』は完膚なきまでに破壊された。まるで密閉された部屋の中で一人過ごしながら、その部屋の中に少しずつ硫酸を流し込まれるがごとく破壊された。
 ミサカ9982号の殺される瞬間を見た時から、少しずつだが確実に御坂美琴の心は疲弊し摩耗していたのだ。
 そして壊れた。この学園都市自体が敵だと分かった時に彼女の『強さ』は壊れた。
 駆逐鎧(パワードスーツ)のように彼女を外側のあらゆる悪意から守ってきた『強さ』は破壊された。
 だからこそ御坂美琴はここまで動揺したのだ。
 もはや彼女は確信してしまった。結局どれほどの力を持っていてもこの学園都市という名の『悪』からは逃れられないのだと。
 釈迦の掌の上を決して逃れられなかった孫悟空のように、自らが広大なだけのいけすの中にいると知らない魚のように
 無知だったのだ、あまりにも無知すぎたのだ。
 今だけだと思っていた。現在だけだと思っていた。
 でも違った、学園都市の『闇』は御坂美琴の過去にも関係していたのだ。
 逃れられないほどの強大で巨大な『闇』はもうとっくの昔から御坂美琴をむしばんでいたのだ。
 でも、
 だけど、
 それでも、
 まだあった。御坂美琴を『御坂美琴』たらしめるものがまだあった。後一つ、たった一つだけあった。
 そう、そもそも御坂美琴の目的は絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止めて妹達(シスターズ)を救うことだ。この目的が胸にある限り、この思いが胸にある限り、御坂美琴は決して、絶対に折れない。
 だから、まだ終わらない。終われない。
 自らの努力すらすべて学園都市の誘導によるものだとしても、御坂美琴はまだ立ち向かえる。自分の今までがたとえ学園都市に用意されたレールの上を歩んできただけだとしても、流れる涙を笑顔で隠し、震える足を無理やり止めて、傷ついた心を覆い隠して、
『彼女』はキリっと『白衣の男』を睨みつけた。



ここまで展開の遅い小説もめずらしいですよね。

次の投稿は明日です。


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『白衣の男』と御坂美琴⑪ 脅迫

「それが……今の状況に何の関係があるというの……」
 声は震えていないか、顔色は悪くなっていないか、動揺が表情に出ていないか、そんなことを意識できないほど御坂美琴は動揺していた。
 彼女は今『白衣の男』が、いや通りすがりの一般人が見ても明らかにわかるほど動揺していた。
「おいおい、何を言っているんだ。大いに関係あるだろう」
「今の話題、素養格付(パラメータリスト)っていうのはたぶん身体検査(システムスキャン)をさらに精密化したようなものなんでしょ。要はその人の能力がどのくらいの期間でどのくらいまで伸びるかを調べるためのモノ。違う?」
「いや違わない、その通りだよ。身体検査(システムスキャン)とは全く違うがね。それと、能力の成長速度と期間を調べるためではなく能力の上限を調べるものだ。つまり、この人は強能力者(レベルスリー)までしか成長しないと素養格付(パラメータリスト)での結果が出ればその人は絶対に強能力者(レベルスリー)以上の能力者にはなれない」
「だから!それは今の話には関係ないでしょっ!私たちは絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止める方法について話をしていたはずよ。たとえ私がっ!いや、私の能力が超能力者(レベルファイブ)まで成長したのが学園都市の思惑の通りだとしても、それと絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止める方法については何の関係もないでしょう!!!」
「………………………………」
「確かにショックだった。動揺した。でも私が聞きたいのはそんなことじゃない!私があなたに聞きたいことは、互いの信頼を表面上だけでも得るために必要な情報よ。私を動揺させてもその隙をついて一方的にやられるほど私は馬鹿じゃないわ!!!」
 冷静になって考えてみれば、『白衣の男』の今の話、素養格付(パラメータリスト)についても話は『今』の現状には全くと言っても関係がない。素養格付(パラメータリスト)をもって御坂美琴が利用されていたのは『今』に続いている話だが、それは『過去』から今に続いているだけで『現在』の問題、すなわち『どうやって御坂美琴が絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止めるのか』ということについては全く関係がない。その前段階における『白衣の男』と御坂美琴の信頼関係の構築についても関係がないことだ。
 つまり『白衣の男』が今この話題を御坂美琴の質問を遮ってまで出したのは
「なるほど……つまり御坂美琴。君はこういいたいわけだ『私が素養格付(パラメータリスト)の話題を出したのは君を動揺させてその隙をつくことでうやむやのまま交渉を私が有利なように終わらせるためだ』と」
「そもそも、交渉っていうのはそういうものでしょ。相手が知らない情報をアドバンテージに相手を動揺させ思考を混乱させた状態にすることで自分の有利になるように進める。古来から行われてきた当たり前のことだわ」
 絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)をめぐる交渉において『白衣の男』と御坂美琴は果たしてどちらが有利な立場にあるのか?
 この単純な問いに対する答えはもちろん『白衣の男』のほうが有利な立場にあるだ。
 二人はまず立っているステージが違う。
 片や、13人しかいない学園都市統括理事会のメンバーの一人、その立場をもってして得られる情報量は御坂美琴の何百倍にもなるだろう。さらに『白衣の男』に従う水分生成(クウォータージェネレーション)の少女。この少女は電気を操る御坂美琴にとっては天敵だ。そして学園都市統括理事会のメンバーとして培ってきた交渉スキル。加えて能力開発の分野における強い権限。これだけの『力』を持っている『白衣の男』。
 片や、学園都市に七人しかいない超能力者(レベルファイブ)の一人。ただそれだけで、特別な権力も協力してくれる強力な人材も鍛え上げられた交渉スキルもない御坂美琴。
 これだけの戦力差が、権力差がある。
 あらゆる面で『白衣の男』は御坂美琴よりも優れている。
 直接的戦力でも、情報収集能力でも、交渉能力でも、協力する人材の豊富さでも、もちろん財力でも『白衣の男』は御坂美琴よりも優れている。
 それを、御坂美琴は自覚している。
 だからこそ、もう一歩踏み込んでいく。
「でもおあいにく様ね!!!私はあなたに屈するつもりはないし、あなたに懐柔されるつもりもないわ!妹達(シスターズ)を助けるためにも()()()()のことじゃ私は揺らがない!」
 明らかな強がりだ。誰が見ても一発で分かる強がり。それでも彼女は進むしかない。後退は許されない。これ以上弱みを見せるわけにはいかない。
「おいおい、判断を下すには少々早計じゃないかい?それに……」
 だが、ここで『白衣の男』から予想外の言葉が投げかけられた。
「私の話はまだ終わってないよ。私の話はここからが本番だ」
そういって『白衣の男』は今まで決して近づくことのなかった二人の間の距離を縮めてきた。一歩踏み出すことによって御坂美琴に近づいてきた。
「さらに言えば勘違いしてもらっては困るな御坂美琴。確かに今まで僕たちは絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)の件で交渉してきた。私は君に絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止めるために協力してほしいと乞い、君は僕からなるべく多くの情報を得ようとした」
 一歩ずつ一歩ずつ『白衣の男』は御坂美琴に近づいてくる。
「もう一度言うが、勘違いしてもらっては困るな御坂美琴。今まで私たち二人の間で『交渉』成り立っていたのは君が超能力者(レベルファイブ)であるが故の強大な戦力を保持しているからであり、私が君となるべく対等な立場でいたいと思っていたからだ」
 徐々に徐々に『白衣の男』が御坂美琴との距離を縮めてくる。
「だが、それはもうやめだ。さっきも言ったが時間がないんだ。私は柄にもなく今少しだけ焦っている。だから、今から始めるのは御坂美琴、君との『交渉』じゃない」
 そして1メートルまで『白衣の男』と御坂美琴の間の距離は近づき
「御坂美琴。君を僕の陣営に入れるために」
『白衣の男』は宣言した。
「君を脅させてもらう」



 はためにもわかるほど御坂美琴は警戒心を高めた。わざわざ彼女の目の前で「君を脅させてもらう」などと『白衣の男』は宣言したのだ。何か、相当のモノがなければそんなことは出来ないと思った。
超能力者予備集団(セブンバックアップ)
 聞いたことのない単語だった。御坂美琴はさっきの素養格付(パラメータリスト)という言葉と同じく超能力者予備集団(セブンバックアップ)という言葉も『暗部』の専門的な言葉だろうとあたりを付けた。
 そして御坂美琴のその考えは当たっていた。
 ただ一つ、違っていたのだとすれば。
 超能力者予備集団(セブンバックアップ)という言葉は素養格付(パラメータリスト)とは違い、直接的には御坂美琴にはかかわりのない言葉だということ。
 そして
 ()()()()()()()()御坂美琴に関わる単語だということだった。



超能力者予備集団《セブンバックアップ》はこの作品のオリジナル単語です。
まぁ、文字からどんなものかだいたいわかるよね。

とりあえず、これで交渉前哨戦は終了。次は上条サイドです。

次の更新は5日後です


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上条当麻③ 違和感 白井黒子① 力不足

さて今回から上条&白井サイド
彼らは御坂を救えるのか?

後この話から文章量は2倍にします、進みがクソ遅いので。


 8月21日午後7時45分 学園都市第七学区 大通りにて

「あっ、おいこら!暴れるなって!!」
 パタパタと暴れる腕の中の猫を押さえつけながら上条は歩いていた。上条当麻は御坂妹と別れた後、第七学区にある自分の学生寮に向かっていた。というかそもそも上条が今日制服を着てわざわざ外に出たのは学校で補修を受けるためであり、その補修がやっと終わったから自分の学生寮に帰ろうと思っていたのだ。それを途中で御坂妹につかまって猫を任された挙句に古本屋で猫の飼育のための本を買ったらおそらく疲れているからだろうが御坂妹の死体なんていう奇妙な幻覚を見てしまった。そんなこんなで予定よりだいぶ遅い時間に学生寮に帰る羽目になってしまった。
「インデックスの奴、死ぬほど腹空かせてんだろーな……」
 上条はちょっと憂鬱な気分になった。いや上条も自分が帰る時間が遅くなってしまってインデックスが腹を空かせているのを考えると早く帰って今日の晩飯を作ってやろう!!!という風に思うのだが、その過程でインデックスに噛み付き攻撃されると考えると憂鬱になっても仕方ないだろう。
「何か、すぐに食べられる物をコンビニで買ってきてやるべきなのだろうか」
 それを食べてる間に手早く調理して、パパッと夕飯をインデックスの前に出してやればもしかしたら噛み付かれずに済むかもと、素晴らしいアイデアを思いついた上条はちょうど目に入ったコンビニに入った。
 ただ実際は腹を空かせすぎたインデックスは月詠小萌の家に転がり込んで月詠小萌や姫神秋沙とともに豪華絢爛焼肉セット一二〇〇円の焼肉をおなかいっぱい食べているのでそんな心配は不要なのだが。
(そういえば……あの二人はいったいどういう関係なんだろうか?)
 コンビニでインデックスへのお土産(より正確にいうなら怒りを逃れるための餌)を選んでいる上条の頭にふとそんな疑問が浮かんできた。
 さっき会った御坂妹と御坂美琴はいったいどんな関係なんだろうか……と
 初めて御坂妹と出会った時、御坂美琴は御坂妹に向かって怒鳴り声をあげていた。
『――――アンタ!一体どうしてこんな所でブラブラしてんのよ!!』
 尋常ではない気迫だった。自分と河原で戦っていた時でもあんな怒鳴り声を彼女はあげていなかった。だから少し、上条は御坂美琴のことが心配になった。
(単純に姉妹仲が悪いのか……?)
 だとしたら何とか改善してはやれないものか。上条には兄も姉も弟も妹もいないが、兄弟姉妹の仲が悪いというのは少しだけ残念に思う。上条は今学園都市で家族と離れて暮らしているが、学園都市の中で姉妹一緒にいるのならば家族として仲良く過ごしているのが理想だと思う。友人や恋人はあっさり関係を構築し崩壊させることも可能だが、家族という関係は生涯離れることのない絆なのだ。記憶を失って両親との思い出がない上条はよりいっそう家族のつながりは大事なものに思えた。
(でもだからといってほかの家族の事情に無遠慮に干渉するのはなぁ)
 それはもはや、親切ではなくおせっかいの領域だ。誰にでも触れられたくない部分はある。御坂美琴にとって妹はその触れられたく無い部分なのかもしれない。そう思うと軽々には動けなった。
(そういえば本当に御坂妹は御坂の奴と顔が似てるよなぁ。たぶん双子なんだろうけど)
 先ほど会った御坂妹の顔を上条は思い浮かべた。
 そして次の瞬間

 ピタッッッと上条の動きがビデオを一時停止するように止まった。
 
 一言でいえば上条は違和感を感じた。何かとてつもないことを見逃している予感がした。そう、本当に何か重要なことを見逃しているような、そんな気がした。
(なんだ……これ……ッッッッ!!!?)
 思いだしてみる御坂妹と路地裏で再開した時のことを。
 特別あの時に御坂妹の行動に違和感を感じたということはなかった。上条が見当たらないから自分で探しに来た、とそれだけのことだった。上条が御坂妹を古本屋の前で見つけられないかったのも御坂妹が猫を追いかけて移動していたからだ。そして、御坂妹の死体は上条の見た幻覚だったということで納得がいく。
(なら……どこに違和感を感じた)
 御坂妹の恰好は上条とあった時のままだった。上半身に着ていた半そでの白いブラウスもその上から着ていたサマーセーターも下半身に履いていたプリーツスカートも肩まである茶色の髪も何も変わってなどいなかった。特に怪我を負っていたという風にも見えなかった。彼女の顔は前髪がおでこを覆い隠すように垂れ下がっていたが、髪が風になびいているおかげでよく見えた。御坂美琴と全く同じ顔だった。白い靴下も髪と同じように茶色の靴もあった時と同じだった。
 路地裏であった時と捨て猫の前であった時との違いなんてどこにも……
(……………………………………風になびく髪……?)
 もう一度上条は路地裏で御坂妹とあった時の御坂妹の顔を思い浮かべる。
 すると
(…………………………あ)
 なぜこんなことに気付かなかったのだろうか、そんな風に思うほど簡単なことだった。
 あの時、路地裏であった御坂妹は古本屋で別れた御坂妹と違って
 ()()()()()()()()()()()()()
 それが上条が感じた違和感。その正体だった。
(でもだから何だっていうんだ)
 何か重大なことが御坂妹に起こったかのようだが、実際はただゴーグルをつけていなかっただけ。御坂妹からそのことに対する説明はなかったが、別に猫を追いかけているときに何らかの原因でゴーグルが外れて回収を忘れてしまったと考えれば納得がいく。別にわざわざ違和感を覚えるほどのことではない。
 だが、
(…………いやな予感がする)
 ただ、嫌な予感がした。何か今決定的な選択をせまられているようなそんな感覚を感じた。いってみれば、一度クリアしたらもう再起動不可能な上にセーブもできないようなゲームで究極の二択を選ばされるような感覚だ。
 杞憂だったならばそれでいいと思った。自分の考えすぎならばそれでいいと思った。
 だから上条は
 インデックスへのお土産も買わずにすぐにコンビニを出て
 御坂美琴の住む常盤台の寮に向かって歩いた。












 8月21日午後8時  学園都市第七学区 常盤台中学学生寮二〇八号室にて


「はふぅ……お姉様ぁ。いったいどうしてしまったんですの」
 白井黒子は常盤台中学学生寮の自分の部屋のベッドでぐだーとだれていた。ここ数日のところ彼女の敬愛するお姉様こと御坂美琴が明らかに何かに悩んでいる風だったのがその原因だ。出来うることならば、白井黒子は御坂美琴に何があったのか、何が原因で元気がなくなっているのか聞き出来うるならば彼女と協力してその原因を取り除いてあげたいと思っていた。だけど、実際はそんな行動には移れなかった。
「今朝のお姉様は……どうも自棄になっているような気がしましたの」
 思えば御坂美琴の様子は今朝明らかにおかしかった。いつも通りならば起きざまに抱き付いた自分に対して『ア・ン・タはぁーーッッ』などと叫びながら手加減された電撃の一撃が来るはずなのだ。だけど、おかしなことに今朝の御坂美琴は『おはよっ。テーブルを飛び越えるのは危ないわよ』などと言って白井黒子の頭をなでてくれた。これはちょっと異常な事態だ。
「昨日の昼頃はいつもと変わらない様子でございましたのに……」
 と同時に白井黒子は思い出す。昨日の夜に御坂美琴から問われた問いを。『もし私が学園都市に災難をもたらすようなことをしたら……どうする?』この問いに対して白井は『街の治安を脅かすならたとえお姉様が相手でも黒子のやることは変わりませんの』と答えた。自分自身の『正義』に従った答えを白井は言った。だけど……この答えは果たして正しかったのだろうか?と今になって白井は思う。自分が答えた後御坂美琴は儚げに寂しそうに笑っていたように思える。すべてを諦めてしまったような笑みを浮かべていたように思える。あの時にもしもその笑みの理由を聞いていたのならば今は変わっていたのだろうか。もしも、もう一歩踏み込んで御坂美琴の悩みを聞かせてほしいと懇願していれば、現状は改善されていたのだろうか。
「件のあの殿方がいれば……お姉様もきっと」
 だけど、結局のところ白井はあの時何も言えなかった、明らかに何か悩みがある風の御坂美琴に対して何も聞かないことを選んだのだ。それは、本当に危ない案件ならばきっと自分に相談してくれるという自負と、それ以上にあの『御坂美琴』が明らかに衰弱するほどの案件に対して自分が首を突っ込んだところで足手まといになるだけではないのかという考えがあるからだった。結局協力は申し出られなかった。『実力不足』という単語が脳裏をかすめた。お姉様の、御坂美琴のいる領域の戦いにはきっと白井黒子の持つ空間移動(テレポート)の能力では役に立たないとも思った。だからこそその単純な問いができなかったのだ。ただ一言、『最近のお姉様はいったい何に悩んでいるんですの』とでも問えばきっと御坂美琴が巻き込まれている事件について教えてくれただろうに。
「もしも……黒子にもお姉様が安心して相談できるほどの力があれば」
 白井黒子は大能力者(レベルフォー)空間移動(テレポート)能力者だ。学園都市にわずか58人しかいない空間移動(テレポート)能力者の中でもさらに希少な19人しかいない一度に複数の物体を移動させる事が出来る空間移動(テレポート)能力者。だけどそれでも御坂美琴の領域には届かない。いつも間近で見ているからこそ分かる。超能力者(レベルファイブ)は別格だ。文字通り別格なのだ。
「お姉様ぁ……」
 あの時の自分の選択を後悔しながら白井黒子が御坂美琴のベッドでゴロゴロゴロゴロしていると
 
 ピンポーンと来客を示すチャイムが鳴った。

(寮に来客ですの。珍しいですわね)
 規則が非常に厳しい常盤台中学学生寮に来客が来ることはほとんどない、その上自分たちの部屋に来客が来るなんて今まで一度あったかどうかといったところだ。
 転がっていたベッドから抜け出し白井が誰が来たのか確かめようとすると
『………………あ、えっと。上条だけど……御坂か……?』
 来客を映す画面には昨日の昼にお姉様といっしょに公園のベンチに座っていたツンツン頭の少年の顔が写っていた。




ものすごくわかりにくいと思いますので補足説明

御坂妹がゴーグルをつけた場合ゴーグルが彼女の髪を押さえつけるので髪は風でなびきません。
そしてゴーグルをつけていない場合髪を押さえつけるものがないので彼女の髪は風になびきます。

上条当麻はこの差に違和感を感じたのでした。

ゴーグル位一目でわかるだろ!という突っ込みは無しの方向でお願いしますorz

後、あらすじをver2にしました。過去のあらすじを見たい人は活動報告の方へどうぞ。

次の投稿は4日後です。


例によって進行はクソ遅いです。ご了承ください。


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上条当麻と白井黒子① 御坂美琴の妹についての真偽

今日は私の誕生日、一人寂しくケーキを食べる!

一回、誕生日に更新ってしてみたかったんですよ。許してorz


 8月21日午後8時5分  学園都市第七学区 常盤台中学学生寮二〇八号室前にて
 
(ここが御坂の住んでる部屋か)
 上条は第七学区の大通りでいやな予感を感じた後バスに乗って常盤台中学の学生寮までやってきた。学生寮に入りポストに書かれた名前から御坂美琴の住んでいる部屋をわりだしインターホンを鳴らして美琴の部屋に回線をつなげてみると、昨日美琴をお姉様と呼んでいた白井黒子という人物の声が聞こえた。彼女の言によるとどうやら美琴はこんなに夜遅くの時間でもまだ寮に帰っていないらしい。また後日に出直そうかと思ったが『入れ違いになるよりは中で待つことをお勧めしますの』と言われて玄関の扉のロックが解除される音が聞こえたので悪いとは思いつつも学生寮の中に入ることにした。そして、上条は階段を上って美琴の部屋である二〇八号室の前まで来た。
 一瞬だけ躊躇って『二〇八号室』と書かれているドアに向かってコンコンとノックをする。すると中から声がかえってきた。
「どうぞ。鍵はかかっていませんので、ご自分の手で開けてくださいですの」
 ドアを開けて上条は部屋の中に入った。流石に常盤台の寮というだけあって上条の住む学生寮とは違いかなり豪華な部屋だった。そんな部屋の中で白井黒子は二つあるベッドのうちの一つに腰かけていた。
「まぁ、たいしたものはありませんがとりあえずそこの椅子にでも座ったらどうですの」
「いいのか?その椅子割と高級そうだけど」
「別に、どんなに高級そうな椅子でも誰かしら座らなければ意味がありませんの。そもそもお姉様の来客を立たせて待たせるなどということはこの白井黒子断じて認められませんの」
「……そういうことなら遠慮なく」
 そこまで言われて突っ立っているほど上条は礼儀知らずではない。指し示された椅子に腰かけて上条は一息ついた。
「それで」
 白井黒子は上条が椅子に座ったことを確認すると上条のほうに顔を向けて話しかけた。
「あなたが、普段からお姉様と頻繁に能力で戦闘している方でよろしいんですの?」
「…………???」
 上条は7月28日に何らかの原因によってエピソード記憶を丸ごと失っている。だから上条からすると白井がお姉様と呼ぶ御坂美琴のことは、『8月20日に自販機の前で初めて会った超能力者(レベルファイブ)の少女』でしかない。だから上条は白井の言葉に対してどう反応すればいいのかわからなった。
「違うのならばそれでよろしいですの。ただ最近のお姉様はなんだか元気がありませんでしたので……ですが、あなたの隣にいる時のお姉様は普段通りのお姉様でした。だからこそあなたがお姉様の支えになっているのかと思ったんですの」
「俺が、御坂の支えに……?」
「ええ、お姉様はきっと自覚していないでしょけど。いつもいつも嬉しそうな顔でその戦っている方のことをお話ししていればいやでも気が付きますわよ。全く、お姉様の力になりたい人ならばここにも一人いますのに」
 白井は憂い顔で小さくため息をついた。上条はその顔に少しの後悔とある種の諦めが見えたような気がした。
「それで、あなたはお姉様に何の用なんですの?デリケートな問題でしたら私が聞くわけにもいきませんが、これでも私お姉様のことはかなり詳しく知っていますわ。もしよければ、あなたがお姉様にどんな用件があるか聞かせてもらえませんの?」
「………………………」
 少しだけ上条は考えた。目の前の白井黒子という少女は御坂のルームメイトらしい。ならば、きっと記憶喪失の自分よりははるかに御坂のことを知っているに違いない。だけど本当にこの件を白井に話してもいいのか。上条が御坂に聞きたいことはただひとつ『御坂美琴と御坂妹がどんな関係なのかだ』彼女たちの仲が完全に良好とはいえないのは昨日わかった。家庭の事情が絡むならばこれはかなりデリケートな案件だ。そんなことを勝手にしかもルームメイト相手に話してもいいのか。非常に悩むところだ。
「……まぁ、無理には聞きませんの。ただ少し私もお姉様の力になれたらと思っただけですので」
 ちょっと、沈んだ顔をして白井はそう言葉を続けた。上条はそんな白井の顔を見てインデックスのことを思い出した。あの日、自分が記憶喪失となった7月28日のことを思い出した。自分の病室を訪ねてきたインデックスも沈んだ顔をしていた。今の白井と同じようにまるで関われなかったことを嘆くような、力不足を嘆くようなそんな顔をしていた。だから思わず言葉が口から出た。
「あの……さ。なら一つ質問してもいいか?御坂のたぶん結構デリケートなことなんだけど」
「よろしいので。お姉様のデリケートな案件を私などに話してしまって?」
「あぁ、迷ったけど、でもやっぱり御坂の親友っぽいアンタにも聞いたほうがいいかなと思って。構わないか?」
「構いませんの。ただこのことはお姉様には内緒にしておいてほしいですの」
「わかった」
 そして上条は質問を投げかける、この質問が自らと御坂美琴の関係性を大きく変えてしまう最初のきっかけになることも知らずに。
「御坂の……妹のことなんだけど。御坂と御坂の妹って姉妹仲がわるかったりするのか?」
「……………………何を言っているんですのあなたは?」
 その白井の返答に上条は別に姉妹仲が悪いわけじゃないのかと思った。明らかに白井の返答は直前の上条の言葉を否定している風だったから。
 だからこそ、上条はその後白井のつづけた言葉に心臓を凍り付かせた。
「お姉様には妹なんていませんですのよ。お姉様、御坂美琴は正真正銘の一人っ子ですわ」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」














 妹がいない?御坂美琴が一人っ子?白井が告げた言葉は上条の思考を混乱させるのに十分なものだった。
「何言ってんだよアンタ。そんなわけないだろッ!いるだろ、御坂美琴には双子の妹がッッッッッ!!!!!!!」
「ちょっと、あまり大きな声を出さないでくださいまし。ここは一応女子寮ですのよ!」
「あぁ、悪い」
 興奮のあまり大きな声を出してしまったことを上条は反省した。ただ、それほどまでに白井の発言は衝撃的なモノだったのだ。
「……ってここ女子寮なのか!初めて聞いたぞそんなの!」
「あら、気付いてませんでしたの。ちゃんと寮の前に書いてありますわよ。というかそもそも、常盤台中学は女子高ですし」
「なら俺がここにいるのもまずいんじゃ……」
女子寮に一人だけ男子が潜入しているだなんてシチュエーション、よくよく考えなくてもやばすぎる。ばれたら磔ものだ。
「まぁまぁ、そんなにあわてなくてもいいですわよ。ばれなければオーケですの。というかそんなことよりもさっきの話を詳しく聞かせてほしいですの。お姉様に妹がいるといっていましたが」
 真剣な声色で白井は話し始めた。そして上条も思考を切り替えた。上条は確実に御坂に妹がいることを知っている。御坂妹も自分が御坂美琴の妹だといっていたし、御坂美琴も御坂妹のことを自分の妹だといっていた。だけど、御坂とおそらく一番親しいであろう白井黒子は御坂妹のことを知らない。

 このことはいったい何を意味するのか

「私の知る限りお姉様には妹なんていませんの。妹どころか姉も兄も弟もいませんの。もちろんお姉様が双子だということも聞いたことがありませんの。なのにいったいなぜあなたはお姉様に妹がいると言ったんですの?」
 妹どころか姉もいない御坂美琴は完全な一人っ子。なら自分が見た御坂妹はいったい何なのだ。彼女はあの御坂と全く同じ顔をした彼女はいったい『誰』なんだ。
「…………昨日のことなんだけどな」
 そして上条は話し始めた。昨日自分が自販機の前で御坂妹と出会ったことからついさっきも御坂妹と会ったことまで。
 そして御坂妹と御坂美琴の関係性も一緒に話した。それに対して白井は
「…………わかりましたの。どうやらあなたは嘘を言っていないようですし、私が知らないだけで本当にお姉様には妹がいるみたいですわね」
「あぁ、今日はそれを聞こうと御坂を訪ねたんだけど……」
「やめておいた方がいいと思いますわよ。……ここ最近なにかお姉様は重要な案件を抱えているようでしたの。今そんな話をしても多分突き返されるだけですの。聞きたいのであれば申し訳ないですが後日また訪ねてもらった方がいいですの」
「…………そうか」
 上条は少し残念に思った。なるべく早いうちに妹のことを聞いて自分の中の胸のしこりをとりたいと思っていたからだ。だが、御坂が重要な案件とやらを抱えているならしょうがない自分の件は後回しにしようと思った。だけど、その重要な案件とやらはじぶんも手伝えないかとも思った。基本的に上条はおせっかいさんなのだ。だから、上条は白井に声をかけた。
「なぁ、その重要な案件ってやつは俺も手伝えないのか。できれば御坂の奴が抱えていることも手伝いたいと思ってるんだが」
「やめておいた方がいいですの。……というより私もその案件の内容は知らないんですの。ただ、ここ最近のお姉様はどうも衰弱した様子で帰ってくるので何かをしていることは確実ですの……」
「………………」
 衰弱して帰ってくる?あの御坂美琴が?上条はそのことが信じられなかった。自販機にけりを入れるような人間でもこの街の頂点の一角だ、そんな人間が衰弱するとはいったいどんな案件なのか。それと同時に
『――――アンタ!一体どうしてこんな所でブラブラしてんのよ!!』
 もう一度あの場面が思い起こされる。
 怒鳴り声をあげた御坂美琴、衰弱しているという御坂美琴、妹の存在をおそらく親友であるルームメイトにも隠していた御坂美琴。そして
『……、機械が決めた政策に人間が従ってるからよ』
 あの時の御坂美琴の声色は………………
 これらが意味することは
「なぁ、今御坂がどこにいるか分かるか?」
「お姉様がどこにいるか……ですの。まさかとは思いますがお姉様に直接会いに行くおつもりで」
「あぁ、このまま御坂を待っていても埒があかない。直接会って話を聞くのが一番だ」
 白井はその言葉を聞いて少しドキリとした。別に目の前の男に恋をしたとかではない。ただ、じぶんはその行動がとれなかったから、直接御坂美琴を問いただすなんて自分はそんな積極性がなかったからその行動をとれる上条をすこし尊敬したのだ。そして、その行動をとれなかった自分を恥ずかしく思った。
「あいにく、私はお姉様がどこにいるかは知りませんの」
「そうか……なら」
「ですが!!!」
 立ちあがり部屋から出ていこうとする上条に対して白井は声をあげて呼び止めた。
「ですが、私の知り合いならばお姉様の所在が分かるかもしれませんので、ちょっと待っていてくださいですの。今から電話しますので」
 自分はあの時動けなかった。だからこそ、今が積極性をもって動くべき時だと白井は思った。
「悪い、助かる」
「礼には及びませんの」
 そして白井は携帯を取り出した。電話を掛ける先は自分の親友で同じ風紀委員(ジャッジメント)でもある御坂美琴の友人の一人、初春飾利だ。



禁書全く関係ないけど、がっこうぐらし!って面白いですよね。
そうですあの似非日常系アニメのがっこうぐらし!です。
おもわず全巻買ってしまったですよ。

次の投稿は4日後です。


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白井黒子と初春飾利① 符丁

 8月21日午後8時10分  学園都市第七学区 柵川中学学生寮にて

「う~い~は~る~。ここの宿題教えて~~~」
「もうっ。ダメですよ佐天さん!宿題は自分でやらないと意味がありませんっ!」
 初春飾利は現在自分の住む学生寮で佐天涙子とともに学校の宿題をやっていた。彼女たちの通う柵川中学はそこまで優秀というわけでは無いのだが、なぜか夏休みの宿題が多いのだ。本当になぜか8月に入る前からコツコツやらないといけないほど多いのだ。
 そして、佐天涙子には今まで宿題をさぼっていた分のつけがきていた。
「もう無理だよ~。わかるわけないってこんなの~」
 佐天涙子は嘆いていた。自分が解こうとしてる問題が一ミリも解けない。というか解法がさっぱりわからない。
「ほらほらもう少し頑張りましょうよ、佐天さん!後でクッキー焼いてあげますから」
 ちなみに初春は学校の宿題はもう終わらせている。渡された瞬間からコツコツとやっていた人間はやっぱり強いのだ。
 そしてしばらく、初春と佐天は宿題と格闘していた。すると

 ピリリリリピリリリリピリリリリピリリリリと初春の携帯の着信音が鳴った。

「こんな時間に誰でしょうか?」
 午後8過ぎに電話をかけてくる人間なんて初春の友人には少ししかいない、ちょっと疑問に思いつつ携帯を見ると
 『白井黒子』という文字が見えた。
「はぁ」
 思わずため息をつく。十中八九というほぼ100パーセント白井からかかってくるときの要件は碌なことではないのだ。何か事件になるに決まっている。
 ピッと通話ボタンを押し初春は電話に出た。
「夜分遅くに失礼しますわよ、初春」
 いつも通り電話口から白井の声が聞こえてきた。何気に無線や遠距離通話イヤホンで会話する機会が多いので、電話で話すことは珍しいかもしれないなぁと初春は思っていた。
「はいはーい。聞こえてますよ白井さん。それでこんな時間にいったい何の用ですか」
「ちょっと聞きたいことがありますの、後調べてほしいことも」
 ほらきた、と初春は思った。経験上白井の『調べてほしいこと』は高確率で厄介ごとにつながるのだ
「お姉様が今どこにいるのかわかりますの?」
「御坂さんですか?あれ、そっちの寮には帰ってないんですか」
「えぇ、まだ戻ってきていませんの。だからあなたのところに電話すれば居場所がわかるかもと思いまして」
「うーん、今日は私御坂さんには会ってないんですよね。佐天さんはどうですか」
電話口から少し離れて初春は佐天にも聞いてみることにした。
「私?私も初春と同じで今日は御坂さんには会ってないよ~」
「と、言うことらしいですよ。白井さん」
「そうですの。二人とも会ってませんでしたか。ならもう一つの方初春に調べてほしいものがあるんですけど、今時間ありますの?」
 初春が佐天の方に目をやると佐天は腕で大きな丸マークを作っていた。行っていいよということだ。
「大丈夫ですけど、何を調べてほしいんですか」
「お姉様に………………妹がいるかどうか調べてほしいんですの」
「御坂さんって妹がいたんですかッッッ!!!!!!!????」
 予想外の発言に思わず大声をあげてしまった。単純に驚きだった。あの御坂美琴に学園都市第三位の超能力者(レベルファイブ)超電磁砲(レールガン)の御坂美琴に妹がいることが
「初春、声が大きいですのよ。後それがよくわからないんですの。少なくとも私はお姉様に妹がいるなどという話は聞いたことがございません」
「あの白井さん。白井さんが聞いたことが無いんじゃ御坂さんに妹なんていないってことでは?」
「それが…………お姉様の別の友人の方がお姉様と同じ顔をした妹を見たといっているんですの。双子だというぐらいそっくりな顔をしていたと」
「白井さんが知らないのに、そのご友人の方は御坂さんの妹のことを知っていたんですか。おかしいですね、仮に妹がいるなら白井さんは知っていてもおかしくありません」
「えぇ、自慢ではありませんが私はだいたいはお姉様のそばにいますの、なのにこの半年で一度もお姉様の妹と会わなかったのははっきり言って異常ですわ」
 白井黒子は御坂美琴と同室だが、同級生ではない。御坂美琴とのかかわりも常盤台中学に入ってからのもので半年に満たない関係でしかない。だが、この二人の関係は何よりも深いものだと初春は思っている。互いに信頼しあう素晴らしい関係だと思っている。
「本来ならば、こんなことを初春に頼みたくはありませんの。なにぶん、プライベートなことですし、お姉様に叱責されることは確実でしょう。でもこんなことは初春にしか頼めませんの」
「…………まさか、白井さんの頼み事って」
 脳裏を横切ったその想像がどうか外れていてほしいと思う。人のプライベートを調べることは絶対にやってはいけないことだ。それを初春は自覚している。だからそれは絶対にやってはいけないことのはずだ。
「単刀直入に言いますの、書庫(バンク)に潜入してお姉様の家族関係をあらって欲しいんですの」
 思わず、初春は掌で額を抑えた。出来るかどうかでいえばそれはもちろんできる。風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部に行ってパソコンを立ち上げればそれだけで書庫(バンク)につなげることができるし、ここからだってパソコンを立ち上げれば書庫(バンク)につなげられなくもない。
 だけど、それはあくまで『出来る』だけであって絶対にやってはいけないことのはずだ。
 それを白井黒子がわかっていないはずがない。
 だからこそ初春はこう答えた。
「何を言っているか分かっているんですか白井さん。いくら仲がいいからって勝手に書庫(バンク)で自分のことを調べられたら絶対に御坂さんはいい気はしませんよ」
「分かってますの」
「だったら、なんでそんなことを言うんですか。御坂さんが帰ってきたら直接きけばいいじゃないですか」
「……………………胸騒ぎがしますの」
 弱弱しい声が聞こえた。初春は思わず息をのんだ。あの白井黒子が、どれだけ傷付いてもいつも勇猛果敢に敵に向かっていき、強気で前に立っていた自分の先輩が、弱気になっている。
「……何か…………あったんですか」
「……………………………………………………………」
「白井さん、いったい何があったんですか!」
「………………………………………ここ数日のところお姉様の様子が明らかにおかしかったんですの」
 そして、初春飾利の言葉に導かれるように白井黒子は自分の心情を吐露し始めた。心を満たす後悔と悔恨に身を任せて。
「8月15日、その日は珍しくお姉様が寮に帰ってこなくて、それだけなら対して珍しくはないんですが、翌日からなにか追い詰められているような感じがしましたの。お姉様が焦っているような」
(8月15日?)
 初春は思い出した。そうだ8月15日。その日も今みたいに夜の時間に電話があって、確か御坂さんから何らかの実験や研究の符丁(パス)について聞かれた日だ。そして、その翌日御坂さんは焦っている様子だったと白井さんは言っている。
「その後もお姉様はどこかしら焦っているようで、外泊の期間も増えていって夜遅くに帰ることも多くなっていったんですの。それだけならまだいいんですけど、昨日のお姉様は私に対して何か学園都市の根幹にかかわる重大なことをしでかすかもしれないと言ってました。私はその時にただし返答をできたのかわからなくて、だからこそ少し弱気になっているんですの。私の力のなさが、お姉様に相談するという選択を考えさせられなかったのだとすれば、それは悔しくてたまりませんの」
「白井さん………………」
 初春は白井の感情が手に取るようにわかった。だってそれは自分が常々思っていることだから。もしも自分に白井を援護できるほどの戦闘能力があれば……と初春はいつも考えていた。戦闘するたびに負傷していく白井のために初春ができることと言えば、遠距離からの指示くらいで戦闘では何にもできやしない。今の白井も御坂さんに悩みを打ち明けてもらえるほどの力を持っていないと嘆いていた。自分と同じように。
「それで今日、お姉様のご友人の方が来ましたの。その方はどうやらお姉様の妹と会ったことがあるようで、私にはどうもお姉様の元気がない理由はお姉様の妹にあるような気がしますの。だからこそ、初春には」
「白井さん」
 あえて、初春は白井の言葉を遮る形で話した。伝えるべき情報は伝えなければならない。
「実は私も8月15日に御坂さんから電話をもらってたんです」
 たぶんこの情報は白井に伝えるべき情報だ、そう初春は直感した。あの日の情報は、御坂美琴が初春飾利に言った情報は伝えるべきだと思った。
「初春にもお姉様から電話が?」
「はい、時間帯は今と同じくらいだったんですけど、その時の御坂さんは私に符丁(パス)らしきものを聞いてきたんです」
「お姉様が符丁(パス)を……」
「はい、何の符丁(パス)かはわからなかったんですけど。御坂さんにたぶんどこかしらの機密情報アクセスのための符丁(パス)じゃないか、といったらありがとうと言われて電話を切られました。私は御坂さんとはそれっきりです」
「……………………………………………………………ちょっと待っていてほしいですの」
 どうやら、電話の向こう側で御坂さんの友人とやらと白井がなにか相談をしているみたいだ。時々、話し声が漏れて聞こえる。
 そして数分が経過すると電話口に白井が戻ってきた。
「初春、その符丁(パス)はどの研究機関のどんな内容の物か調べることは出来ますの」
「たぶん……できると思います。10分だけください。きっと辿り着いて見せます」
 初春飾利は自覚していないが超超超一流のハッカーだ。彼女にかかればたいてい防壁はかわして侵入することができる。だからこそ10分で出来ると彼女は言った。
「ならもう一つ、さっき言ったお姉様に妹がいるかどうかについても調べてほしいですの」
「御坂さんに妹がいるかどうかですね。それなら5分で調べられると思います」
「一度切りますわよ。終わったらもう一度私のところに電話してくださいですの」
「分かりました。白井さん」
 一度電話を切って一息つく。さっき白井は胸騒ぎがするといっていた、そして今初春飾利も胸騒ぎがしていた。白井の声色から、8月15日に御坂美琴からあった電話の受け答えから、あの時御坂美琴が符丁(パス)を聞いてきたことから、地震が起きる前にナマズが暴れるような、そんな嫌な予感を感じていた。
「はい、初春」
「ふえ」
 今まで白井と電話していたので気が付かなかったが、どうやら佐天はずっと聞き耳を立てていたらしい。佐天からさしだされたのはいつも初春が使っているパソコンだった。どうやら電話をしている間にとりに行ってくれたようだ。
「必要なんでしょ。私にはそういうパソコンのスキルは無いからあんまり何かを言うことは出来ないけどさ……頑張ってって応援することぐらいはできるから」
「…………はい、ありがとうございます!佐天さん!!!」
「じゃあ、私はココアでも入れてくるね~」
 そんな佐天の返答に笑みをこぼしながら、初春飾利はパソコンを起動させた。そして、キーボードを操りネットワークを経由して学園都市の書庫(バンク)に侵入。本来ならば書庫(バンク)にアクセスするのは風紀委員(ジャッジメント)のパソコンでなければやってはいけないことなのでこの行為は不正行為にあたるが、それでも初春飾利は書庫(バンク)に侵入した。自分の大切な友人の御坂美琴が巻き込まれていることを知るために。
「あった、御坂さんのデータ!」
 さすがに学園都市で七人しかいない超能力者(レベルファイブ)のデータだけあって少しプロテクトは堅かったがそれでも数分で初春飾利はそのプロテクトを突破できた。というか書庫(バンク)の防御プログラムを作ったのは初春なので自分が作ったモノに引っかからないように潜入していくだけなのだ。そして、初春はそのデータを調べていく、御坂美琴のデータを調べていく。
「御坂美琴。学園都市第三位の超能力者(レベルファイブ)。常盤台中学の二年生。能力は電撃使い(エレクトロマスター)…………………………家族構成は…………」
 彼女は画面をスクロールして少しずつ御坂美琴のデータをあらっていく、そして
「家族構成、母親 御坂美鈴……存命中、父親 御坂旅掛……存命中 以上……これで終わりですか……」
 書庫(バンク)に登録されている情報をうのみにするなら御坂美琴に妹はいないことになる。家族構成は父親と母親そして御坂美琴の三人家族、つまり御坂美琴は一人っ子だ。だけどそうなると白井さんが言っていた『お姉様の友人が見たというお姉様と同じ顔をした人』の正体がわからなくなる。同じ顔をした人間、普通に考えれば双子ということになるが。
「次は符丁(パス)について調べてみますか」
 学園都市には無数の研究所がある。この無数の研究所がどこでどんな研究をしているのかは書庫(バンク)にも載っていない情報だ。だから、ここからは御坂美琴が8月15日に言った符丁(パス)しか手掛かりがない。符丁(パス)というものは外部に行っている実験の情報が漏れないように研究所が設定するパスワードのようなものだ。それは完全ランダムに決定されて、一般にはまず出回らない。何せ、その研究所にとって符丁(パス)は最も大事なものの一つだからだ。
「……だけど、手段がないわけじゃありません!」
 符丁(パス)から研究所を特定することは出来なくても、御坂美琴の関わっている研究所という方面で調べれば、研究所がヒットする可能性がある。だから、初春はもう一度書庫(バンク)に登録されている御坂美琴の情報をスクロールして彼女が関わっている研究を調べようとして………………………………
「…………特記事項?」
 御坂美琴の関わる研究が記された欄に『特記事項』という文字を見つけた。
 



書庫にはその人物が関わっている研究もかいてあるという設定です

次の投稿は5日後です


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白井黒子と初春飾利と上条当麻① 得た情報と『対等』ということ

 初春は御坂美琴の関わる研究が記された欄に『特記事項』という文字を見つけた。
 そして、その特記事項という言葉が書かれた場所を初春はクリックしてみた。わざわざ書庫(バンク)に登録された情報の中で特記事項と書かれているのだ、きっと、もしかしたら自分や白井さん、そして御坂さんの友人の人が求めている情報があるかもしれないと思った。だが、クリックしたことで画面上に現れた情報は、そんなものではなかった。そんな物よりも、もっと重要で大きなことだった。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………嘘」
 現れた情報はただ一つ、とても簡単でシンプルなものだった。
 だからこそ、その異常性が際立った。だって、こんなことはあり得ない、あり得るはずがない。学園都市の第三位という地位はこんなことがあるはずがない地位のはずだ。
だが、初春のそんな思いとは裏腹に画面に現れた文字は変わらない。変わらない。変わらない。

 画面にはただこう記されていた。

『8月21日午後8時10分、現時刻において、学園都市第三位の超能力者(レベルファイブ)超電磁砲(レールガン)の御坂美琴が関わるすべての実験、研究等の恒久的な中止を学園都市統括理事会の名において宣言する。なおその理由及び詳細な説明においては別紙を参照にすること』







 事態はきっと自分たちが思っていることの何倍も深刻だ、そう初春飾利は直感した。風紀委員(ジャッジメント)としていくつもの事件に関わってきたことで鍛えられた直感がそう訴えていた。
「――――ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」
 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ、と全力でキーボードを打つ。表示された画面の別紙を参照にすることという言葉にリンクがはられていたので、それをクリックしてリンク先に飛ぼうとしたら、アクセスレベルが足りませんと、表示されたのだ。学園都市にはDからSまでセキュリティランクというものが設定されており寮などにあるランクCの一般端末ではリンク先に飛ぶにはランクが足りないといわれているということだ。だから初春は今、セキュリティランクCの端末をセキュリティランクAの端末に誤認させるようなプログラムを組み込んでいる、データの改ざんといわれるれっきとした犯罪行為だ。
「よし、これなら!!!」
 もう一度、改竄が終わったアクセスキーをもって初春はリンクをクリックする。すると、今度はアクセスレベルが足りませんとなどと表示されることもなく、リンク先に飛ぶことができた。
リンク先の画面が表示される。画面には一枚の紙が写されてた、その紙にはびっしりと文字が刻まれていた。
 
「学園都市第三位の超能力者(レベルファイブ)御坂美琴に対する処遇についての最終報告書?」

 画面には信じられないことが記されていいた

『学園都市第三位の超能力者(レベルファイブ)御坂美琴に対する処遇についての最終報告書


 この報告書は、先日から統括理事会において議題にあがってされている御坂美琴の研究所襲撃についての話及び彼女の今までの功績、彼女の友人関係、他の組織との兼ね合いや統括理事長の意見を加味したうえでのものです。
 あらゆる意味でこの報告書が彼女に関する最終報告となるのでどうかご了承ください。
 8月15日、御坂美琴が妹達(シスターズ)の一個体に接触。我々の進めていた例の絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)について情報を取得、その後彼女は絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)関連の研究所への破壊活動を行いました。(研究所破壊における損害についてはさらに別紙に記載)さらにその後、彼女の破壊活動を止めるために暗部組織『アイテム』を絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)主導の研究所の要請により向かわせましたが、彼女はこれを撃破(この時点で彼女の脅威レベルは5に引き上げられました。詳細は別紙に)。この時点で統括理事会のメンバーにより、御坂美琴の捕縛及び人形化の提言がなされましたが、同時刻において同じく統括理事会のメンバーにより御坂美琴の暗部堕ちの提言がなされました。双方の提言内容を議論、吟味したうえで統括理事会として採決をとり、その結果を御坂美琴の今後の処遇とすることで統括理事会は全会一致。一時間後に採決をとった結果、今後彼女には統括理事会管理下の元新設される暗部組織のリーダーにつくことで学園都市に対する損害の賠償とすることに決まりました。
 なお、彼女を統括理事会の管理下にする方法につきましては絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を利用することに決定。絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を餌として彼女を第10032次実験場(絶対座標北緯35.709521東経139.691504絶対時間8月21日午後8時30分)に誘導し、その後一方通行(アクセラレータ)と相う』

 と、そこまで初春が文字を読み進めたところで
 ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーとパソコンから警告音が鳴り響いた。
「巡回システムですかッッッッッ!!!!」
 つまり一定の時間をもって不正なアクセスが無いかを調べる自動巡回防御システム、それが初春飾利の不正アクセスを見抜いたのだ。
「逆探知される前に撤収しないと……ッッッ!!!」
 どこからアクセスされているかを調べられるとまずい、だからこそ初春はすべての文書を読み終わる前に撤収することにした。確実に撤収するなら使っているパソコンを壊してしまった方が早いのだが、さすがにそこまでのことをする勇気は初春にはなかった。学園都市製の高性能パソコンは案外高いのだ。だからネット上に痕跡を残さないように巡回システムを騙しつつ初春は撤退した。欲しかった情報のほとんどは手に入れられたから目的はもう果たしたと判断して。後はこの情報を電話で白井さんに伝えるだけだ。そう思って彼女は電話に手をかけた。
 着信履歴から白井黒子を選んで電話を掛ける。すると、コール音が数回鳴り響き電話がつながった。
「もしもしッッッ!!!白井さんですかッッッ!!!!!」
 



  8月21日午後8時8分 学園都市第七学区 常盤台中学学生寮二〇八号室にて


 白井黒子は初春飾利との電話を切った後、彼女の報告を待つ間に目の前の男と自己紹介をすることにした。自分はまだまともにこの男のことを知らないことに気付いたからだ。
「そういえば、自己紹介がまだでした。私の名前は白井黒子と申しますの。ごらんのとおり常盤台中学の一年生で、お姉様のルームメイトですわ。あなたの名前も教えてくださいませんこと?」
「あぁ、そういえば俺も自己紹介してなかったな。俺は上条当麻、七学区の学校に通ってるしがない無能力者(レベルゼロ)だ」
「ちょっと待ってくださいまし………………あなた無能力者(レベルゼロ)なんですの」
 白井は無能力者(レベルゼロ)という言葉に驚愕を示した。無能力者(レベルゼロ)それは学園都市の能力者の六割方が当てはまる強度(レベル)のことだ。能力が全く無いという訳ではないが、能力的には所謂おちこぼれと揶揄される存在。それが、無能力者(レベルゼロ)。白井は確信は持てていなかったが御坂美琴が口にする『あの馬鹿』という人物は八割方目の前の男だと思っていた。昨日、公園のベンチで一緒に座っていた時の御坂美琴の態度、いつも口にする『あの馬鹿』の身体的特徴、その外見、さらに性別、それらの要素からほぼ確信していた。
 御坂美琴の口にする『あの馬鹿』は御坂美琴に勝てる存在だ。勝てるというのがどういう状況かはわからないが、少なくともあの御坂美琴が負けを認めるだけの存在。そんな存在が無能力者(レベルゼロ)?ありていに言って白井には信じられなかった。
 別に白井は無能力者(レベルゼロ)を馬鹿にしているわけでは無い。個人的には頭のおかしい高位能力者、例えば虚空爆破(グラビトン)事件の犯人である介旅初矢なんかよりも自分の友人の佐天涙子の方がよっぽど信頼出来るし、尊敬できる。この街は能力が多くを占めているが白井は能力絶対主義者ではない。能力よりもその能力を持つ能力者の性格の方を重要視している。
 だけど、だけど、だ。
 あの馬鹿げた力を持つ学園都市の頂点の一人に勝つことができる存在が無能力者(レベルゼロ)だなんてことは全く信じられなかった。言い方は悪いが無能力者(レベルゼロ)がどう戦略を練ったところで超能力者(レベルファイブ)に勝てるとは思えない。全く持って思えない。自分が御坂美琴に挑むとすれば、確実に百パーセント敗北すると分かる。それほどまでに超能力者(レベルファイブ)は絶対の力を持つのだ。だから、白井は質問してみた。なぜ、あの御坂美琴にただの無能力者(レベルゼロ)が勝てるのかと。
「一つよろしいですか。あなたは確かお姉様に何度も勝ってるんですわよね」
「俺が、御坂に勝つ?」
「先ほどあなたは否定しましたが、私にはどうもお姉様の話す『あの馬鹿』はあなたのことだとしか思えませんの。昨日、あなたとあった時隣にいたお姉様は私といる時よりも何か輝いているというか、元気であるように思えましたわ。いつも私に『あの馬鹿』のことを話す時と同じ雰囲気がしましたの。ですからお姉様と『対等』な立場であろうあなたがうらやましく思ったのですが……」
「……………………………」
「不快に思うのであれば先に謝らせてもらいますが、そんなお姉様と『対等』な立場の人間がただの無能力者(レベルゼロ)とは到底思えませんの。失礼を承知で聞きますが、あなた本当に無能力者(レベルゼロ)なんですの?」
 無能力者(レベルゼロ)。学園都市に存在する6つの強度(レベル)の中でも最下位のモノ。目の前の少年は自らが無能力者(レベルゼロ)だといった。彼が本当に無能力者(レベルゼロ)ならどうやって御坂に勝ち、対等と認められたのだろうか。大能力者(レベルフォー)空間移動(テレポート)能力者の白井ですら御坂美琴にとっては庇護対象でしかなのに。
「あぁ、いや。そう意味でいうなら厳密には俺は無能力者(レベルゼロ)って区分じゃないんだけど」
「ますます意味が分かりませんわね、自分が無能力者(レベルゼロ)だといったのはあなたではありませんこと?」
「俺のこの右手、えっと確か幻想殺し(イマジンブレイカー)っていうだけどな。この右手に触れたものはそれがどんなものであれ異能の力ならなんでも打ち消すことができるんだ」
「………………そんなものが?」
 白井は信じられなかった。仮に本当に幻想殺し(イマジンブレイカー)なるものが存在するのならば、それは信じられないほど強力な力だ。ありとあるゆる異能を、能力(チカラ)を無効化する。つまりそれは、御坂美琴の雷撃の槍も食蜂操祈の精神操作も白井黒子の空間移動(テレポート)無効化できてしまうということ。右手に触れたもの限定という欠点もあるようだが、その欠点をもってなお強力無比な力だ。だが、上条の言葉だけで信じるほど白井は安易な性格をしていない。検証が必要だ、と白井は思った。
「少しよろしいですの。本当にあなたの右手に幻想殺し(イマジンブレイカー)なる力があるというのならば私の空間移動(テレポート)も無効化できるはずですわよね」
「あぁ、たぶんできると思うぞ」
「なら、右腕を前に出してみてくださいまし。今から、本当に私の力が無効化されるか検証させてもらいますの」
「……分かった」
 白井は自分の力で上条の言う幻想殺し(イマジンブレイカー)の力を検証してみることにした。前に出された右腕に自分の手をのせて、能力の演算を始める。空間移動(テレポート)は3次元上のベクトル空間から11次元上のベクトル空間への特殊変換を計算するため他の能力よりはるかに自分の脳への演算負荷が大きい。その空間移動(テレポート)能力を持つ白井の力は強大だ。
(演算……終了!!)
 白井は能力の演算を終了してから、上条を今の位置から一メートル横に移動させるように能力を発動させた。
 
 少なくとも白井はそのつもりだった。

「――――ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!??????」
 奇怪な現象が起きた。奇怪な現象が確認できた。
 演算を終了させ、能力を発動した。白井黒子の大能力者(レベルフォー)空間移動(テレポート)の能力を発動させた。
 そのつもりだったのに……
 だが、実際には能力は発動しなかった。これぽっちも能力の発動はされなかった。
 演算をミスったわけでも、能力の行使をやめたわけでもない。
 いうならば、()()()()()()
 発動前に、能力の発動を無効化されたようなそんな感覚。
(これが、幻想殺し(イマジンブレイカー)…………。本当にそんな力が……)
 能力を無効化されるなど白井には初めての感覚だった。あまりにも未知の感覚。なるほど、この力があるならばあのお姉様が『対等』と認めるのもわかる気がする。
「あの~、もう手を離してもいいか?」
「あっっっ」
 いつの間にか、5分も時間が経過していた。どうやら手を握ったまま考え込んでしまったらしい。ほんの少しだけ白井の顔が赤くなる。もちろん、恥ずかしさによって。
「えっえぇ、構いません。どうやら、あなたのいう幻想殺し(イマジンブレイカー)とやらの力は本物のようですし」
 自分の空間移動(テレポート)の能力が発動しなかったのだ。幻想殺し(イマジンブレイカー)の力は本物だと白井は断定した。
「なるほど、その力があればお姉様があなたを『対等』と認めるのもわかる気がしますわ」
「さっきから、俺が御坂の奴と『対等』って言ってるけどアンタは違うのか。御坂とルームメイトなんだろ?」
 上条は不思議だった。先ほどから白井は『対等』な立場というものを強調しているように思える。上条は自分が御坂と『対等』とは思っていない。というよりも電撃を所構わずぶっ放すような御坂がそんな立場なんてものを気にしているように上条は思えなかった。なぜそんなものを気にしているのか、上条はそれが気になった。
「……私は確かにお姉様のルームメイトでお姉様の一番の親友であるという自覚がありますが、あくまで親友止まりなのですわ」
 まるで自らの至らなさを嘆くように白井は言葉を口にした。
「そう、所詮はその程度なんですわ。お姉様にとって私の存在なんてただの」
 だが、その先の言葉を上条が聞くことは出来なかった。なぜなら

 ピリリリリピリリリリピリリリリピリリリリと白井の携帯の着信音が鳴ったからだ。





上条当麻の話しかたってこれであってるのかな…………

ハッキング系の描写は作者詳しくないので間違っていたら指摘してもらえるとうれしいです。

次の投稿は4日後です。


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白井黒子と初春飾利と上条当麻② 御坂美琴の関わっていること

次の投稿で上条たちのサイドもいったん終了します。

新訳14巻のあらすじ公開されましたね。
はたして理想送りはすぐに退場してしまうのだろうか…………


 初春飾利からの着信だ。つい15分前に頼んだ要件が終わったのだ。ある意味ではこの着信は白井にとって救いでもあった。本来ならいうべきではない、言いたくもないことを言いそうになっていた、今の状況を断ち切ってくれたのだから。
「出ますわよ」
「ああ」
 一応、白井は上条に断りを入れた。会話を中断して電話に出てもいいのかという確認をとったのだ。もちろん上条としてはそれで構わない。そもそもここには御坂に妹のことを聞くために来たのだ。その情報を最優先に上条は行動している。
「もしもし、初は」
「もしもしッッッ!!!白井さんですかッッッ!!!!!」
 電話をかけてきた初春の声は信じられないほど切迫していた。ここまでの焦りを秘めた声を白井は今まで聞いたことがない。そう、焦っている。白井はそう感じた。風紀委員(ジャッジメント)として様々な活動を白井はしてきたが、その中でも群を抜いて危険な事態なのかもしれないそう感じていた。
「落ち着くんですの、初春」
「白井さん!!!落ち着いている場合じゃ!」
「初春ッッッッッ!!!!!いいから落ち着くんですのッッッ!!!」
 白井は初春が何を調べて、何を見て、どんな情報を手に入れたのかは今の段階じゃわからないし知らない。だけど、まずどんな事態が起こったとしても落ち着いて冷静にならなければ話にならない。そのことを白井は乱雑解放(ポルターガイスト)の一件から学んだ。
「いいですの初春、あなたがどんな情報を得たのか。落ち着いて説明してくださいですの」
「…………………すいません白井さん。……とりあえず、御坂さんの友人の方にも聞いてもらいたいので携帯をスピーカモードにしてもらえますか」
 カチカチッと携帯を高速で操作して白井は初春の指示通り上条にも聞こえるようにスピーカーモードにした。
「やりましたわよ。初春」
「オッケーです。それで御坂さんの友人さん、私の声が聞こえますか?」
 どうやら、初春は手に入れた情報を上条に伝えたいようだった。
「上条さん聞こえますの」
「ああ、大丈夫だ」
 電話の主のどうやら初春という人物の声はしっかりと上条にも聞こえた。上条は初めて聞く声だったがそれでも声の主が何か切迫している、焦っていることはわかった。だから続きを促す。今は少しでも多くの情報が必要だから。
「お二人とも私の声がちゃんと聞こえているようですね。いいですか。まずは、簡潔に私が得た情報を伝えます」
 ごくり、と上条と白井は息をのんだ。初春が得た情報、彼女が得た御坂美琴についての情報。
 それが、二人に伝えられる。
「結論から言ってしまえば、御坂さんに血縁上の妹はいません」
 その情報に上条はほっとする
 
 ことは出来なかった。

「待て、血縁上の妹は……?」
「はい、血縁上は……です。私の得た情報によると御坂さんの周りに妹達(シスターズ)とよばれる存在がいるようです」
妹達(シスターズ)…………ですの」
「はい。妹達(シスターズ)です。妹達(シスターズ)が具体的に何を示すのか、それがいったいどんな存在なのか、いったい御坂さんとどんな関係があるのか、いつからいるのか、どんな目的があるのか、そのすべては分かりません。ですが、御坂さんが妹達(シスターズ)と呼ばれる存在に接触した前後に、御坂さんはどうやら絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)と呼ばれる研究の関連施設を破壊しにまわっていたようです」
「ちょっと待て絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)?学園都市に存在する強度(レベル)は確か5が最高だったはずだよな」
「字面から想像するに、絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)とはおそらく超能力者(レベルファイブ)のさらにその先の領域に辿り着くための実験ですわよね」
「想像するしかありませんが、おそらくそうです。話を続けます」
「あぁ、頼む」
「それで研究施設を破壊し続けている御坂さんですが、どうやらそれを学園都市統括理事会は重く受け止めているらしいです。情報では御坂さんはこの後に統括理事会管理下の元に新設される暗部組織のリーダーにつくことで学園都市に対する損害の賠償を賄うことにすると書かれていました」
「暗部組織のリーダー?……それはまさかテレスティーナ=木原=ライフラインが所属していた先進状況救助隊(MAR)のような組織のリーダーにお姉様をするということですの!!!」
 思わず、白井は声を荒げた。それもそのはずだ。敬愛する御坂美琴を暗部組織のリーダーにするなど断じて認められない。
「ちょっと、待ってくれ。暗部組織?先進状況救助隊(MAR)?つまりどういうことだ?」
 当たり前の話ではあるが上条は白井と会ったのはこれで二度目だ。そして電話の主との会話はこれが初めて。白井と初春?の二人は前から友人のようなので情報の共有はされているようだが、上条にそんなものはない。御坂美琴のことも上条は二人よりも多くのことはきっと知らないのだから。
「二週間前のことですの。私たち、私たちというのは私とお姉様と初春ともう一人、今ここにはいませんが佐天さんという方の四人のことですが、とにかく私たちはとある事件に関わりましたの」
 そのことに気付いた白井は上条に自分たちが関わった事件のことを伝える。先進状況救助隊(MAR)、テレスティーナ=木原=ライフライン、能力体結晶、木山春生等が関わったとある事件、乱雑解放(ポルターガイスト)のことを。
「とある事件だって?」
「詳細は長くなるのではぶきますが、その事件において私たちは学園都市の『闇』の部分に関わりましたの。その『闇』は先進状況救助隊(MAR)警備員(アンチスキル)内部の組織の一つですが置き去り(チャイルドエラー)と能力体結晶と呼ばれる薬品を使って非人道的な実験を行っていたんですの」
 乱雑解放(ポルターガイスト)についての事件は長くなるし、詳しく語って気分のいいものではないので詳細は濁した。とにかく、上条に『暗部』というものを認識してもらえさえすればいいからだ。
「この街には、そのような『闇』がある。そして今初春はその『闇』の中で新設される組織のリーダーにお姉様がならせられるかもしれない、といったんですの」
「具体的に言いますと、おそらく御坂さんが行ったとされる研究所襲撃の際に出た損害、つまり壊された機械類や負傷した人間の治療費等を御坂さんを学園都市の管理下で働かさせることで帳消しにしてしまおうということです」
「……そのことを御坂はしってるのか?」
 上条としては御坂がそれを知っているのかを最優先で知りたかった。上条としては今まで得た情報の中である程度学園都市の思惑は分かったつもりだ。つまり、御坂美琴のせいでもたらされた学園都市にとっての損害を、御坂美琴を学園都市管理下の組織で働かせることで返してもらおうということだ、と認識していた。間違っていない。その認識は決して間違っていない。ただ、少しずれていた。上条の思う暗部組織というものが白井と初春の認識とは少しずれていた。上条は暗部組織のことを今白井から聞いたことしか知らない。だから、違法な実験や研究をしているとは理解しても、それが同程度のレベルの物なのかつまり人死にが出るレベルのものなのか、それとも違うのかわからなかった。でも、暗部組織、学園都市の『闇』というものがかなり危ないものだというのは白井の口調から理解できた。だからこそまず知りたかった。御坂がその事実、自分が暗部組織のリーダーにさせられるという事実を知っているのかを。
「おそらくですが御坂さんはこのことは知りません。この情報はセキュリティランクAの情報でした。御坂さんの持つ権限じゃこの情報は知ることは出来ません」
「ですが、初春。どうやって学園都市側はお姉様をその立場にするつもりですの。この街の『闇』を知っているお姉さまは到底そんな提案を受け入れるとは思えませんの」
 白井としては自分の敬愛する御坂美琴がそんな提案を受けるとは到底思えなかった。彼女は暗部の『闇』の悲惨さを残酷さを知っている。そんな彼女が自分から『闇』に堕ちて暗部組織のリーダーになることはまずない。絶対にない。なら学園都市統括理事会側から要請があった場合はどうだろうか。学園都市統括理事会から御坂美琴に対して『お願いですから。暗部組織のリーダーになってください。もちろん報酬も用意します』そんな風に言われたとしたらどうだろうか。おそらく断るだろう。あの悲劇を知っている彼女は例えどんな形でも『闇』にくみする側に、『闇』の仲間になることはあり得ないと断言できる。彼女の親友として、彼女を一番近くで見続けていた存在としてそう思えるぐらいは白井は御坂美琴のことを理解しているつもり出した。
 少なくとも白井としてはそのつもりだった。
「それは……たぶんですが私の得た情報の中では御坂さんを暗部組織のリーダーにすることに絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を利用すること、と書かれていました。だから、その絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)と呼ばれる実験が何らかの形で御坂さんに関与すると思うんですけど……」
「詳しい方法は分からない…………ということですの?」
「すみません…………白井さん。調べてる途中で巡回システムに見つかってしまって、撤退せざるをえませんでした………………」
「謝る必要などありませんの、初春。この短時間であなたはよくやってくれましたの。あなたのスキルが無ければこの短時間ではここまでの情報を得られませんでしたわ」
「白井さん……ッッ!ありがとうございますッッッ!!!」
 あの時に、もっと長く潜り込んでいられれば、もっと大きく、深く潜り込んでいればさらに多くの情報を得られたかもしれない。ことが御坂美琴に関するだけに初春の心に後悔が覆っていた。自分が巡回システムに見つからなければあの文章の続きが読めたかもしれない。それだけに、それだけに初春は泣きそうだった。白井の声掛けが無ければ確実に涙が出ていただろう。
「それで白井さん私が得た情報の中には続いてこうありました。『彼女を第10032次実験場(絶対座標北緯35.709521東経139.691504絶対時間8月21日午後8時30分)に誘導し、』と」
「誘導?ではお姉様は……!」
「つまり、御坂の奴は今その第10032次実験場ってところにいるってことか」
 上条は覚悟を決めた表情で立ちあがった。初春との会話を始めてからもう10分以上たっている。上条が腕時計を確認してみると現在時刻は8時25分。彼女が言った第10032次実験場とやらで実験が開始されるのがおそらく8月21日の午後8時30分。つまり後五分で御坂はそこに現れるはずなのだ。
「えっと……初春さんだっけか」
「はい、初春飾利です。上条さん……ですよね。私のことは初春と呼び捨てにしてもらって結構です」
「分かった。なら初春。教えてくれ。その実験の場所はいったいどこなんだ」
 右の拳を強く強く強く握りしめて上条は問う。
 再び、御坂美琴と出会うために。




座標の位置は適当です。一応実験場付近の座標だと思います。
白井たちは暗部を詳しく知っているわけでは無いのであくまで『学園都市の管理下の元働かされる』程度の認識でしかありません。美琴と違って『本物の暗部』を知らないので仕方がないですが。

次の更新は四日後です。



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白井黒子と初春飾利と上条当麻③ 実験場の場所 白井黒子② 空間移動能力者の武器

UAが10000を超えましたッッッ!!!
読んでくれている読者の皆様ありがとうッッッ!!!
感謝……圧倒的感謝……ッ!!!!!

いっこうに進まない物語ですがこれからも読み続けてくれると幸いです。


「分かった。なら初春。教えてくれ。その実験の場所はいったいどこなんだ」
 白井は上条の口からその質問が出たことに敗北感に似たものを感じていた。いや、敗北感というよりは単純に敵わないと感じたといった方が近いのかもしれない。
『分かった。なら初春。教えてくれ。その実験の場所はいったいどこなんだ』
 あの時のことを思い出す。もしもあの時今の上条のように御坂美琴に向かって
『お姉様。教えてくださいですの。お姉様はいったい何に巻き込まれているんですの』
 この言葉を吐けたら、言えたら今自分は一体どうしていたのだろうか。そうだ、今この情報を、御坂美琴についての情報を知れたのはすべて目の前の上条当麻のおかげだ。もしも、仮に彼がこの常盤台学生寮を訪れずにいたのなら、きっと白井は初春に連絡を取ることもせずにただベッドの上でゴロゴロして悩んでいるだけだった。きっと、何も行動せずに何も情報など得られないままだった。そうだ、悩んでいるだけじゃ何も変わらない。悶々としてるだけじゃ何も変えられないんだ。
 だけど、それでもこう思う。私は今行動を起こすべきなのだろうか、と。
 御坂美琴の関わっていること、初春からの情報で断片的だがその関わっていることがわかってきた。絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)。全く聞いたことのない研究だが名前からある程度の推測はできる。絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)つまり絶対能力に進化するための実験。学園都市の最高位の強度(レベル)が5までしかないことから、それよりも上の強度(レベル)すなわち噂でしか聞いたことが無い絶対能力者(レべルシックス)に進化するための実験だと推測できる。
 美琴は絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)関連施設への襲撃を行っている。つまり美琴は絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)と敵対的な立場にあるということだ。ここ数日のところ美琴が消耗していたのはそれが理由のはず。だから、何度でも思う。自分がこの一件に干渉してしまうことで、御坂美琴の迷惑になってしまうのではないのか?自分がこの一件に関わることで御坂美琴の負担になってしまうのではないか?白井黒子は自分自身の実力を把握している。普段なら自分の実力で御坂美琴を手助けすることは出来ると思っている。だが、それはこの一件でも当てはまるのだろうかとも思う。
 衰弱した様子の御坂美琴、自分には何も話さなかった御坂美琴、この一件を胸の内に抱え込んでいた御坂美琴。
 今ここで立ちあがれば、上条のように立ち上がれば御坂美琴の役に立てるのだろうか
 (黒子は…………お姉様に…………)





「分かった。なら初春。教えてくれ。その実験の場所はいったいどこなんだ」
 御坂の身に何が起こっているのか。御坂の奴が何とかかわっているのか、何と戦っているのか。それを知るためにも御坂と会う必要がある。御坂妹のことを聞くためにも、御坂妹との関係を聞くためにも、いったい今立ち上がらないでいつ立ちあがるというのか。
「実験の場所は絶対座標北緯35.709521東経139.691504と書かれていました。口で説明してもわからないと思うので今この携帯にマップを送ります」
 常識的に考えて北緯35.709521東経139.691504などと言われてその場所がわかる人間は皆無だろう。よっぽどの座標マニアでもない限り。
「いえ、初春ちょっと待つですの。上条さん、上条さんのメアドを初春に教えてあげてくれませんこと」
「あっ、確かに俺が白井の携帯を持っていくわけにはいかないもんな。悪い、うっかりしてた」
「いえ、そうではなく。私もあなたと共にその実験場に行くといっているのですわ」
「…………………………………」
 白井のそのひとことを聞くと上条は黙った。上条としては実験の場所には一人で行くつもりだった。白井黒子は御坂美琴の友人だ。もしかしたら御坂がかなりヤバい状態になっているかもしれないのに、その場所に彼女の親友を連れていくのは気が引けた。それに加えて白井は年下の女子だ。自分よりも能力(チカラ)は強いのだろうが、それでも喧嘩慣れしている自分と違ってそれほど戦闘経験があるとは思えない。実験場にはなんというかヤバい気配がプンプンするのだ。ただの感にすぎないが、それでも自分一人ならまだ危険な事態に遭遇しても、予想外の事態に遭遇してもまだ対応可能であろうから。
「ご心配なく、私これでも風紀委員(ジャッジメント)ですの。あなたが思っているよりもはるかに場馴れしていますわ。それに、事はお姉様に関わること。今まで行動しなかった私が言うのは滑稽かもしれませんが、私お姉様のことを微力ながら手助けしたいと思いますの。今までお姉様に助けられた分今度は私がお姉様を助けたいと」
 白井もまた覚悟を決めた表情で上条を正面から見返した。いまだ、迷いが完全にないというのならばそれは嘘になる。でもとりあえずその場所に行って御坂にあってみようと思った。それが、おそらく最善と信じて。
「……だけど白井」
「足手まといになるつもりはありませんし、私もこの一件は個人的に気になるんですの。暗部のことは風紀委員(ジャッジメント)としてもほうっておけないんですのよ。……上条さん、私もお姉様のことを助けたいんですの」
 それが、本音だということはこれが二回目の出会いになる上条にも分かった。瞳のまっすぐさと、純粋すぎる声から本当に御坂のことを心から心配していると分かった。
 本当なら、一人でいくつもりだった。自分一人で御坂に会いに行くつもりだった。
 だけど、こんな表情でたのまれたら断れない。上条よりも白井の方が御坂と仲がいいはずなのだから。そんな人間を置いて御坂に会いに行くことなんて今の上条にはできなかった。
「分かった、なら今すぐに行っても大丈夫か?できるだけ早くいきたいんだけど」
 現在時刻は午後8時28分。実験開始まで残り二分、もうどう考えても間に合わない、後二分で実験会場まで行くなんて空間移動(テレポート)能力者の白井でも不可能だ。だからこそ、一秒でも早くいきたい。一秒でも早くたどり着くために、一秒でも早くここから出発したい。
「ごめんなさいですの、実験場でお姉様に会うことになるでしょうし万全の準備をしたいんですの」
「……そうか、準備にはどれくらいかかりそうだ?」
「その前に初春の携帯にあなたのメアドを送ってくださいですの」
「………………分かった」
 白井から伝えられたアドレスを自分の携帯に入力して、そのアドレスにメールを送る。これで、初春に上条のメールが届きメルアドも伝わったはずだった。
 チャラリラリン
 メールを送ってすぐ上条の携帯に返信が来た。そのメールにはおそらく実験場らしき場所が画像データで添付されていた。
「上条さん先ほどの質問ですが、」
 白井とて上条の気持ちは痛いほどわかる。白井だってできることなら今すぐ上条とともに飛び出して実験場に向かいたかった。だけど、わずかな理性がそれに待ったをかける。不測の事態が起きてからでは遅いと、ストップをかける。出来る準備はするべきだ。何かが起きてからでは遅いのだから。
「私を待つ必要はありませんの。幸いなことに私は空間移動(テレポート)能力者。直線距離での移動なら時速288キロをだせますの。後から追っても十分に追いつけますわ」
「分かった。合流地点はどうする」
「実験場で落ち合いましょう。そこにはきっとお姉様もいらっしゃるでしょうから」
「……………?」
 白井の声にわずかにためらいの色が混じったのを上条は見逃さなかった。『お姉様』という言葉を口にした白井の声に緊張が混じったような気がした。普段なら見逃しているような小さな違い。いつもならスルーしているようなどうでもいい違和感。だが、気を張っていた上条はその小さな違和感に気が付いた。
「白井?」
「先に向かっていてくださいですの。私も必ず追いつきますから」
 だが、上条がその違和感を問いただそうと声をかける前に白井は自ら能力を使ってヒュッっと空間を移動してしまった。
「……………………………………………」
 声をかける前に行ってしまったことに、ほんの少しだけ後悔を覚えながらも上条は今度こそ完全に立ちあがり部屋のドアに向かった。扉を開け廊下に出る。そして全力で走り常盤台中学学生寮から出た。実験場に向かうために。送られてきた画像データによると実験場は第十七学区の操車場らしい。もう完全に午後8時30分はまわっている。だから上条は全力で走る、御坂美琴に会うために。実験場に向かって走る。

 



8月21日 午後8時40分 学園都市第七学区 風紀委員第177支部前にて

 ヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッ
 空間移動(テレポート)の際に起こる風切音を響かせながら、白井は常盤台学生寮から風紀委員(ジャッジメント)第177支部の前に移動していた。上条と別れて自分の所属する風紀委員(ジャッジメント)第177支部に移動している理由は上条に言った『準備』をするためだ。
 ヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッ
 連続で空間移動をすることで通常ではありえない短時間で白井は支部の前についた。風紀委員(ジャッジメント)第177支部は5階建てのビルの二階部分に存在する。白井が用があるのは支部の中だ。だが、この時間支部の玄関は完全に施錠されていて中に入るための指紋・静脈・指先の微振動パターン等のチェックもすでに行われていない。そもそも、風紀委員(ジャッジメント)は生徒によって構成されている組織だ。よって基本的には最終下校時刻にはその活動は行われないし行ってはいけない。だから、支部もその入り口は閉鎖され、基本的には中に入れなくなってしまうのだ。
 だが、完全に中に入れないかと言えばそうではない、例えば……
(例えば、私のような空間移動能力者(テレポーター)にとっては扉などあってないようなものですわ!)
 もう一度ヒュッと空間移動(テレポート)を行い、白井は扉を無視して支部の中に入った。彼女たち空間移動能力者(テレポーター)にしてみればたかだか一枚の扉や壁程度障害にはなりえないのだ。
 もっともだからこそ、学園都市の重要施設には空間移動能力者(テレポーター)対策はしっかりされているのだが。
「さてと、上条さんをあまり待たせるわけにはいきませんし、手早く『準備』をしなければ」
 ここで白井の言う『準備』というものは、簡単に言ってしまえば『戦闘準備』だ。普段風紀委員(ジャッジメント)として活動しているときの白井は太ももに金属矢が十数本入ったベルトをはめている。白井はそれをここに取りに来たのだ。
「こんなことであれば、寮の部屋にも金属矢を置いて置くんでしたわ」
 手早く普段使っているロッカーの中からベルトを取り出し、太ももにつける。ただし、いつもなら左太ももと右太ももにそれぞれ一つずつしかつけていないが今回のみは違う。
 今回は合計で()()
 右と左にそれぞれ四つずつベルトをつける。これで白井が身に着けたベルトの中に刺さっている金属矢の数は合計で百二十個程。初春がこの光景を見たなら過剰戦力だとでもいいそうだが、白井としてはこれでもまだ足りないと思っていた。御坂美琴が関わっていることに本気で介入するつもりなら、この程度の武器ではとてもではないが足りない。過剰戦力どころか戦力不足だ。
 だから
「……まさか、これを使うときが来るとは思いませんでしたわね」
 突然だが、空間移動能力者(テレポーター)にとって最も相性のいい武器とはなんだろうか?おそらくさまざまな意見があるだろうし、空間移動(テレポート)能力のタイプによっても相性のいい武器は違うだろう。だが、その中でもおそらくほぼすべての空間移動能力者(テレポーター)が使えるというものがある。爆弾?いや、違う。氷結系の能力者に凍らされれば爆弾は起爆しないかもしれない。拳銃?それも違う。空間移動能力者(テレポーター)が拳銃を使うぐらいなら直接殴ったほうがはるかに精確で速い。ならば白井の使う金属矢?ちょっと違う。金属矢は確かに強力だ。空間移動(テレポート)の利点の一つに『そこにある空間に割り込める』というものがある。簡単に言えば、もろいガラス窓のガラスで鉄骨ビルの支柱を切断することが、どこにでもあるような紙一枚でダイヤモンドを真っ二つにすることができるということだ。その利点を金属矢なら十分に活かせる。白井はやったことが無いしやるつもりもないが金属矢を人間の体内に、例えば脳に心臓に空間移動(テレポート)させれば、脳も心臓もその機能を停止させるだろう。だが、金属矢では小さすぎる。金属矢では相手が避けてしまうかもしれない。
 だから、結論はこうだ。空間移動能力者(テレポーター)にとって相性のいい武器とは金属矢のような『割り込み先の機能を停止させる』ことの出来るもの。
 つまり、軽く、持ちやすく、大きいもの。そんなものなら大抵のものは空間移動能力者(テレポーター)にとって相性のいい武器になる。
「お姉様…………今、黒子もそこに行きますわッ!!!」
 ロッカーの中にしまって置いた『それ』をとりだし、肩で背負い白井は支部の中から出た。移動中に初春から例の実験場の場所はメールで送られてきた。第十七学区の操車場。そこが絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)第10032次実験とやらの実験場らしい。携帯をとりだし地図を確認して白井もそこに向かう。敬愛する姉に会うために。連続で空間移動(テレポート)し、自らの空間移動能力者(テレポーター)としての最高速度時速288キロの速度でその場所に向かう。



空間移動能力者の武器についての考えはあくまでも私の考えです。他にも様々な考えがあるでしょう。
風紀委員第一七七支部の場所は原作準拠ではなくアニメ準拠となっております。

上条&黒子サイドはいったん終了。
次にオリ組織の話を2話挟んで中盤戦に入ります。

次の投稿は5日後です。


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風紀委員本部に住まうモノ達① 『シスラウの時計』

注意!
オリキャラが三人出てきます。その上オリ組織の話です。



正直あまり出来は良くない…………


 8月21日午後8時45分 学園都市第一学区 風紀委員本部最上階特別会議室 天秤の間にて


「……………………………そうか、例の幻想殺し(イマジンブレイカー)空間移動能力者(テレポーター)が動き始めたか。守護神(ゴールキーパー)の方はどうしている?……………………了解した。守護神(ゴールキーパー)の方はそのまま監視を続行しておけ。幻想殺し(イマジンブレイカー)空間移動能力者(テレポーター)のペアはこのままいけば十五分後に実験場につくだろう。埋娥(まいが)百目(ひゃくめ)に連絡して実験場前で出迎えてやれ。殺す必要はないが例の装置を埋め込む必要がある。気絶位の処理はしておくように伝えろ。それと、※※※※の干渉がある可能性もある。こちらの方で十五夜(まんげつ)の準備もしておく。ああ、それといざというときは緊急装置(ベイルアウト)を発動できるようにもしておくようにも伝えておけ。…………そうだ、そんなふうに伝えておけ」
 ここは学園都市第一学区に存在する風紀委員(ジャッジメント)の最上級機関。学園都市の治安を維持することを目的とし、一つの頂点とそれを補佐する最強そして六つの部隊からなる正義の名を語る巨悪。
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 六十階の地上部分と十三階の地下部分を含めた全部で七十三層の階からなる超巨大なビルが風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の在処だ。このビルは一般の建物とはセキュリティのレベルもビル自体も強度も何もかもが違う。超特殊伝導性単一物質(アレ・パリー)そう呼ばれる物質でビルの外壁となる部分はすべて作られている。
 超特殊伝導性単一物質(アレ・パリー)とは学園都市第七学区の『窓のないビル』の外周に使われている演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト=フォートレス)に勝るとも劣らない風紀委員本部(セントラルジャッジメント)製の新素材だ。その機構はありとあらゆる衝撃をまるで雷が木を通じて地面に伝わるように外部に『逃がす』ことで成り立っている。例をあげるなら、仮に超特殊伝導性単一物質(アレ・パリー)製の風紀委員本部(セントラルジャッジメント)外壁に超スピードで砲弾がぶつかってきたとする。普通の物質ならばその衝撃で壊れてしまう、また壊れなくてもゆがんだりするところだが超特殊伝導性単一物質(アレ・パリー)は違う。ぶつかってきたことで起こる衝撃、振動、その他の要素すべてを地面に、空気に、ぶつかってきた砲弾にそっくりそのまま『逃がす』より正確にいうなら『受け流す』ことで実質超特殊伝導性単一物質(アレ・パリー)に伝わる要素を完全にゼロにすることができるのだ。それが超特殊伝導性単一物質(アレ・パリー)の性質。ちなみに超特殊伝導性単一物質(アレ・パリー)は酸による『溶かす』攻撃や高温低温などの温度変化による攻撃、さらには気圧変化による攻撃もきかない構造になっている。『ダメージをほかの場所に誘導する』それがこの物質、超特殊伝導性単一物質(アレ・パリー)の性質だ。
 さて、そんな風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の最上階、六十階特別会議室『天秤の間』に現在二人の人間がいた。
「今言った通りだ十五夜(まんげつ)。場合によっては君にも戦闘に参加してもらうぞ」
 一人目はこの風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の主。すべての風紀委員(ジャッジメント)を統括する存在にして風紀委員(ジャッジメント)の最高権力者。
 風紀委員長 (はく)(びゃく)(しろ)
「承知しました、委員長。戦闘準備をしておきます。しかし委員長、※※※※が関わる可能性があるというのならば場合によっては拘束(リミッター)を解いてもよろしいでしょうか?」
 二人目は風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の最高戦力。学園都市における異例中の異例の能力者。唯一強度(ランク)を与えられなかった学園都市特記戦力の一人。ありとあらゆる幻想を生み出し、世界のすべてを否定する最強の能力者。
 風紀委員長補佐 最強原石 木葉桜(このはざくら)十五夜(まんげつ)
「ダメだ。それは許可できない。……さすがに、この段階で君の拘束(リミッター)を一つでも解けば※※※※に君の力について考察できる機会を与えてしまうことになる。そんな危険はとてもではないが起こせない」
「ですが委員長。お言葉ですが※※※※が関わって来ていて、制限の付いた状態で戦闘をするとなればいくら私といえども勝利どころか時間をかせぐことも不可能だと思われますが…………」
「その件については問題ないとも。ついさっき開発部隊の深罠に頼んでいた君の専用武器が完成したと連絡を受けたところだ。あの専用武器を使えば拘束(リミッター)を付けた状態でも時間稼ぎ位はできるだろう」
「完成していたのですか!はい、あの武器があればあちら側の投入する戦力にもよりますが一時間ほどは時間をかせげると思われます」
「十分だ。ほら、ちょうど来たようだぞ」
 コンコン、と鈍い輝きを放つ金で出来た特別会議室の扉がノックされた。この風紀委員本部(セントラルジャッジメント)六十階に入ることができる人間はごく限られている。正規で入室を許可されているのは八人、その八人の中で自由に出入りを許可されているのは風紀委員長と風紀委員長補佐の二人のみ。その二人は今部屋の中にいるのでノックをしたのはそれ以外の六人のうちの誰かとなる。
「誰だ」
「開発部隊総隊長魅隠罠明(みかくれみんみん)です。風紀委員長補佐の専用武器を届けにきました」
「入室を許可する、入れ」
「失礼します」
 ギギギギィー、と重厚な音を響かせながら特別会議室の扉は開かれた。入ってきた人物はひどく変わった恰好をしていた。まず、白の白衣を腕を通さないで肩にかけるようにして羽織っている、そしてそれの下になぜか花柄の浴衣を着ている、ちなみに浴衣はピンク色だ。そして頭にナースキャップとウサミミ、何らかの道具で固定でもされているのか両方とも歩いていても全くずれ落ちる気配がない。極めつけは足だ。室内なのに靴を履いておらずなぜかローラースケートを履いている。いったいなんだこいつは、と初対面の人間は確実に思うだろう。
「あいかわらず珍妙な格好だな罠明(みんみん)
 この奇妙な格好の人物は魅隠罠明(みかくれみんみん)風紀委員本部(セントラルジャッジメント)に存在する五つの部隊、そのうちの一つ開発部隊の総隊長だ。
「何度でも言うけど、別に格好位好きにしてもいいでしょう。こちとらアンタの要求する武器防具道具を開発するのに寝る間も惜しんで働いてるんだから」
「おいおい、まるで僕が君に労働を強要しているようじゃないか。そんな言い方はやめてくれよ。同じ子供といえども労働の強要なんて警備員(アンチスキル)に監査に入られてしまう」
「本当に……どの口がいうんだか。ほらこれが要求の武器よ」
 そういって、罠明は手に持っていた『武器』を十五夜に向かって投げた。弧を描きながらヒューンとそれは飛んでいき
「……………………………………………………………………………………………」
 ポン、と十五夜の手のひらに収まった。
「要求規格(スペック)はきちんと満たしているのか?」
「はぁ!!!誰に向かって言ってんのよ!!!当然要求規格(スペック)を凌駕しているに決まってるでしょうが!!!」
 急に罠明はキレた。キレたというかブチギレた。まぁ、当然ながら彼女がキレたことには理由がある。言ってみれば誰にでもある触れてはならない部分に触れてしまったとそういうことだ。
「何、アンタもう4年の付き合いになるくせになんでそういうこと聞いてくるわけッ!!???私のこと信頼してないの?ていうか私の作った道具信用してないっていうわけ!!!!!」
 白とてその部分は分かっている、分かっていてあえてその部分に触れてみた。理由?特にない。しいて言えばちょっと暇だったから。
「確かに今までの中じゃ段違いに難しい規格(スペック)で製作期間の制限も三か月とかいうテメェ馬鹿なんじゃねぇのとか素で文句言うレベルだけどね。これでも私学園都市で一番の製作者よ!!!この程度の要求軽くできて当たり前でしょうがッッッ!!!だいたい、」
 だけど、ちょっとウザくなってきた。罠明は道具製作者としては本人も言うように学園都市で一番だろうが欠点として過剰に自分の能力と自分が作った道具に誇りを持っている。自分の作ってモノや自分の技術が(けな)されたり(おとし)められたり疑いをもたれたり信用されなかったりすることに我慢ならないのだ。
「悪かった、悪かったよ罠明。いや信用してないわけじゃないんだ。だけど、一応本当に念のためだが確認の必要位はあるだろう?いや、君の技術が優れていることは君をスカウトした僕が一番よく知ってるし、もちろんその技術を疑ってもいないんだがね。万が一があってはいけない。風紀委員長として、万が一なにかがあってはいけないとも思うんだよ。だから、一応答えてくれなかな?この武器『シスラウの時計』の効果と仕組みを」
 キレた罠明を冷静にさせるのは自分であってもひどく苦労ことを知っている白はその思考の矛先をずらすことにした。罠明は自分の作ったモノに誇りをもっている、だからその作ったモノ説明を要求することで怒りを薄めようとしたのだ。
「………………『シスラウの時計』の機能はあなたの要求通りに作った後に私が独断で組み込んだ特殊機能がプラスされてるわ」
 まだ怒りは収まっていないようだが、それでも罠明は『シスラウの時計』の解説を始めた。優秀な開発者である罠明は自分の作った道具を説明するのが大好きなのだ。
「基本的にはあなたの要求通り、使い手の思い通りに周りに毒をばらまくようなモノになってるわ。もちろんその毒は使い手の想像するものを生成可能よ。例え現段階でこの世に存在しない毒であっても使い手が想像できるなら生成できるわ。ただし、もちろんこの『シスラウの時計』だって万能じゃないから制限もある。時計を刻んだ場所じゃないとその効果が発動できないということがその最たるものね。後は制限時間。どんなに長くても連続使用は一時間までしかできないから長期戦闘には耐えられないわ」
「時計を刻んだ場所というのは問題ないな。お前に『シスラウの時計』を製作中してもらっている間にこの街のいたるところに時計を刻んでおいた。この街の中ならどこでも『シスラウの時計』は使用可能の状態になっているさ」
 『シスラウの時計』それが今十五夜の手の中にある『武器』の名前らしい。白の言う『シスラウの時計』とやらの形状は懐中時計でそのパーツは大きく二つ、すなわち普通の時計部分とそれを支える鎖の部分に分かれている。鎖の色は金色でその見た目や光沢から純金が使用されていると見て取れる。そして時計部分はいわゆるオープンフェイスと呼ばれるケーズにふたがないタイプのものでガラス部分は特殊強化ガラスを使用、文字盤にはローマ数字でⅠ~Ⅻまでの数字が刻まれている。そして何よりも特徴的なのはこの『時計』は長針と短針が4時から()()()()()()秒針が()()()()()()()ということだ。だが、その豪華な見た目とは裏腹にその効果は残虐極まりない。少ない欠点も効果を考えれば足りないと感じるものが多いだろう。
「後は、付属効果ね。このままの状態で『シスラウの時計』を使うと使い手まで毒に感染しちゃう可能性があるから、一応『シスラウの時計』の所持者にはすべての毒を無効化する『無毒の守り(ポイズンアウト)』を付加しておいたわ」
「さすがは天才。無茶な機構を無茶な短期間で作ってくれと要求したのによく作ってくれたよ。まぁ、罠明ならできると思っていたけどね。ありがとう」
「……それで私が独断で組み込んだ機能だけど」
 白に褒められて罠明はちょっと照れた。白的には別に特別なことを言ったつもりはない。いいものを要求通りの期間で作ってくれた人間に対してねぎらいの言葉をかけてお礼を言うのは当然のことだ。だけど罠明からすると白に褒められるのは何度体験してもなれないことだった。自分を拾ってくれて、保護してくれて、酷使して(つかって)くれる白のことを罠明は好いていた。恋愛感情的な『好き』ではなく、いうならば主人に仕えるメイドのような『好き』だがたしかに好いていた。技術者として自分の技術を全力で揮える環境を用意して、自分の技術ではできなさそうな道具の製作を頼む人間は今までの人生で白以外にはいなかった。白以外の人間はみな簡単で単純で楽勝でつまらないモノの製作しか罠明に頼まなかったのだから。自分にとって白は『特別』だ。あらためて罠明はそう思った。
「組み込んだ機能は三つ。一個目はあたりまえだけどGPSの機能よ。『シスラウの時計』は常に特殊な電磁波を発していてその電磁波を風紀委員本部(セントラルジャッジメント)のほうでキャッチできるようにしておいたわ」
風紀委員本部(セントラルジャッジメント)のどこでキャッチするつもりだ?」
「支援部隊の九十九(つくも)に頼んで彼女の部屋にキャッチする機械を置いてもらうことにしたわ。万が一どこかで落としたりしてもどこにあるかはちゃんとわかるってわけ。それで二つ目は自壊機能。これも当然よね。万が一敵の手に『シスラウの時計』が渡ったらこちら側の被害が甚大なものになる可能性があるから。登録者、これは私と白と十五夜の三人だけだけど、この三人以外が触ったら勝手に自壊するように作ったから。最後は、というかこれが私独自の機能の目玉みたいなものだけど。一応『切り札』みたいなものを組み込んでおいてわ。まぁ、今回は使う機会はないでしょうからとりあえず省略するけど。今回の事件が終わったら改めて詳しく説明するとするわ」
「ふむ……」
 罠明の説明が終わると白は腕を組んで少し悩むようなそぶりを見せた。それを見てほんの少しだけ罠明は不安に思う。罠明は自分は何かミスをしたのだろうかと考えた。勝手に製作物に独自の機能を組み込むのは本来の機能を損なわず注文したモノをきちんと作るうえで加えるならば許可されている。だけどたまに本当にたまに、興が乗りすぎて失敗してしまうことや、自分の技術的な問題で作れなかったものもあった。今回はちゃんと要求されたものを作っているし、自分の加えた機能が本来の機能を阻害することもないはずだ。今、説明しなかった最後の機能も『シスラウの時計』を強化するものであって邪魔になる機能ではない。説明しなかったが、長い付き合いなのだからそれぐらい白も分かっているだろう。だったら何を悩んでいるんだろうか。ミスをするとしばらく謹慎部屋で謹慎されてしまい研究ができなくなるので、ミスなんかしていないと信じたいが…………
「……よしっ、決めた」
 沈鬱な表情で真剣に悩んでいると白が呟いた言葉が耳に入った。
(何を決めたんだろう……?)
 ミスしちゃったんなら次に活かしたいので早めに指摘してほしいなぁなんて思いながら罠明は白の次の言葉を待った。
「罠明、お前に三日ほど暇を出す。明日あたりから街で遊んで来い」
 
 その一言で、風紀委員本部最上階特別会議室天秤の間の空気が確実に凍った。
 十五夜(まんげつ)は『あっちゃあ、ヤバい事態になるなぁ。一言足りないんだよこの馬鹿』という表情をして、
 そして罠明は一瞬硬直しその言葉の意味を咀嚼した後、唐突に滂沱の涙を流した。



三人のオリキャラが出てきましたが、この三人の内二人は物語上の重要な存在です。
特に白白白は※※※※と同じこの物語におけるだいたいの事件の元凶です。

シスラウの時計の元ネタについてはちょっと調べればわかると思います。
この後作中でも説明しますが。

マッドサイエンティストって突然キレるイメージありません?

次の投稿はちょっと早めの明後日です。


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風紀委員本部に住まうモノ達② 次のステージ

説明不足が多いですが、こいつらを掘り下げると数十話行っちゃうので最低限のことだけを語りました。


「うっううぅぅッッッうううぅゥうぅうううぅゥゥぅうっっッッ……………」
 その言葉を聞いて罠明は思わず、滝のように涙を流しながらすすり泣いた。
「委員長…………あまりにもあんまりな言い方ではないでしょうか。彼女たぶん勘違いしてしまっていますよ」
 急に泣き出した罠明をみてちょっとビビっていた白は十五夜の言葉で自分の意図が罠明に伝わっていないことがわかった。……これは完全に白の方が悪い。暇を出すなんて言い方をされたら『クビだ』と言われたと勘違いしても仕方がないだろう。
「ん?……あ、いや違う。違うぞ罠明。そうじゃない、そういうことじゃない!!!別にお前の役職を解任するとか、お前を風紀委員本部(セントラルジャッジメント)から追放するとか、お前をすてるとかそういうことじゃない」
「グスッ……はあ?……ほかになんだっていうのよ……グスッ…………どうせ私なんてもう不要だっていうんでしょ」
「いやだからそうじゃないって、ネガティブになるな悪いほうに考えるな。一流のお前を有用な(つかえる)お前を僕が手放すわけがないだろう。というか各部隊の総隊長は何があっても解任するつもりはないとも、なんといっても君たち総隊長はこの僕がわざわざ出向いて一から集めたメンバーなんだから」
 前述したが風紀委員本部(セントラルジャッジメント)には6つの部隊がある。それは今天秤の間で号泣している魅隠罠明(みかくれみんみん)が総隊長を務めるありとあらゆるモノを作る開発部隊のほかにも5つの部隊があるということだ。その5つの部隊はそれぞれ主に敵対存在に対しての戦闘を担当し扼ヶ淵埋娥(やくがぶちまいが)を総隊長とする攻撃部隊、主に拠点防御を担当とし特に風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の防衛を担当する常闇燕獅(とこやみえんし)を総隊長とする防御部隊、主に情報収集や潜入調査、敵地での工作を担当し戦闘の御膳立てをする向峠妃(むかいとおげきさき)を総隊長とする諜報部隊、そして食料の支援や資金の収集さらに補助人員の派遣等を行うありとあらゆる支援(バックアップ)を行う白神九十九(つくもがみつくも)を総隊長とする支援部隊のことを言っている。
 風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の所属者は基本的に風紀委員(ジャッジメント)各支部が一年に一度それぞれの支部の責任者がとても優秀だと判断した人間を推薦し、その推薦された人が風紀委員本部(セントラルジャッジメント)への異動を決めるという形で集まっている。基本的に風紀委員本部(セントラルジャッジメント)側の人間がこの人が欲しいなと思ってもその人を引き抜くシステムは存在しないのだ。
 だが、当然これは表向きの話。本来なら禁止されているが支部に便宜をはかることを条件に人員の引き抜きがそこそこ一般的にされている。もちろん表立ってではないが。
 その中でもこの総隊長五人はさらに特別だ。何故ならそもそもこの五人の前の所属は風紀委員(ジャッジメント)ではない。ある者は非合法な研究組織の研究員、ある者は学園都市を震撼させ暗部組織まで出張らせた史上まれにみる殺人鬼、またある者は……という風にまともな人間は一人もいない。そして、全員が風紀委員長白白白との直接交渉によって風紀委員本部(セントラルジャッジメント)への所属を決めたものなのだ。風紀委員本部(セントラルジャッジメント)にの総隊長となる際に書類を改竄するという形で所属したモノなのだ。そんな苦労をして集めた総隊長たちを白が手放すなんてことはそれこそあり得なかった。
「いやいや、本当に落ち着いてくれ頼むから。僕はわざわざ自分の足で集めたメンバーを捨ててしまうほど薄情者ではないんだから。君以上に開発部隊のトップにふさわしい人間はいないんだ。これは本当のことだぞ。少なくとも僕は君の技術はかの『木原』よりも優れていると思っているからな」
 とにかく褒める褒めちぎる。せっかく手に入れた優秀な人材をこんなくだらないことで手放すなんて冗談ではない。わざわざ能力(チカラ)まで使って白は彼ら彼女らを口説き落としたというのに。
「十五夜、君からも言ってやってくれないか。罠明以上に開発部隊総隊長にふさわしい人間はいないと」
 これに対して十五夜は『シスラウの時計』を服のポケットにしまい、白に対して微笑みながらこう言った。
「……委員長、自分でした失言の責任は自分でとってください。私は※※※※対策のために所定の位置につかせてもらいますね」
「いや、ちょっ!!!待っ」
 次の瞬間にはヒュンと音を響かせて十五夜は白の前から、いや白たちのいる天秤の間から消えてしまった。呆然とする白。まぁ、時間的に言えばそろそろ例の二人組が実験場についてしまうので十五夜がここから出ていくのは正しいと言えば正しいのだが……。ちょっと薄情じゃないかなぁ……なんて白は思った。思ったがとりあえず罠明相手に自分の意図を話すのが先だ。
「さて罠明。さっきも言ったが僕は君を手放すつもりはない。絶対にない。ないったらない。100パーセントない」
「……じゃあどうして私に暇を出すなんて言ったのよ」
 若干涙声で罠明は白に問う。というかまだ涙は流れていた。忠誠心が強いというか強すぎるというか、四年の付き合いになるが少し『初期設定』を間違えたかもしれないなぁ、なんて白は思った。
「『三日ほど』暇を出すと言ったんだ。暇を出すといっても君をやめさせるという意味じゃない。文字通り休暇を与えるという意味だ。しかも僕はその後に『明日あたりから街で遊んで来い』とも続けたはずだが?」
「???ごめん白。余計意味が分かんないんだけど」
「……とりあえず、お前が考えていたことは勘違いだったということは理解したか?」
 ある意味予想通りの反応だったので白はため息はつかなかった。とはいえ『休暇を与えるから街で遊んで来い』という言葉が本気で理解できていないことは白も分かっていた。罠明の性格からして休暇と遊びが結びつかないのだ。
「……うん、それは理解したわ。ごめん白私の早とちりだった」
「分かってくれればいいんだ。まぁ、僕の言い方も悪かった。すまないな勘違いさせるような言い方をして。……それで今の言った件だが」
「白、休暇だからって街で遊ぶことはないでしょ。私は部屋で研究しているほうがよっぽど疲れが取れるわよ」
 さっきまで涙を流していた姿はどこへ行ったのか、白の『暇を出す』という言葉の意味は『首だ』という意味ではなく、自分の勘違いだったと分かった罠明は白の発言を遮るまでに回復していた。今までも何回か白に外に出て遊んで来いということは言われていたが、罠明は四年前から一度も風紀委員本部(セントラルジャッジメント)を出たことはない。この風紀委員本部(セントラルジャッジメント)にある自分の部屋の中には罠明の生活に必要なモノのすべてがそろっているからだ。研究施設も研究用品も機械類もそろっているし、必要な人員も呼べばくる、研究費用もよっぽど高額でなければ八桁ぐらいまでは出してくれる、はっきり言ってこの環境は罠明にとって天国だった。わざわざ外に出る必要がないほどに。
「罠明、君の理由は分かっている。風紀委員本部(セントラルジャッジメント)内に必要なものがすべてあるからわざわざ外に出る必要はないというんだろう」
「そうよ。必要なものがそろっているのにわざわざ不便な空間に出ていく必要はないじゃない」
「……まぁ、いつもならそうなんだがな。今回ばかりはそうも言っていられないんだよ。罠明、はっきり言って君の人生には刺激が足りないと思うんだ」
「刺激?」
「そう、刺激だよ。刺激。罠明、君は優れた開発者だ。武器も防具も道具も新物質も要求するものはほとんど作り出せるオールラウンドな開発者。だが、その割には経験が足りないと思うんだよ」
 白は優れた人間は様々なものに興味を示すことで外部からの刺激を受けそれを奇想天外な発想につなげていくものだと思っている。その点でいえば罠明は落第だ。罠明は外部に興味を示すことがほとんどない。彼女の世界はこの風紀委員本部(セントラルジャッジメント)中で完結している。だからこそ白は外に出てほしいと思っていた。そうすれば刺激を受けた罠明はきっともっと素晴らしいモノを作ってくれると思っていたから。
 だが、理由はもう一つあった。
「罠明。何度でもいうが君は優れた開発者だ。だが、いまの技術力のままではおそらくこの先の戦いでは君は生き残れない」
「…………この先の戦い。それはあの『白衣の男』のことを言っているの」
 ゴクッ、と罠明は唾をのんだ。『白衣の男』のことを罠明はあまり知らない。そもそも開発部隊の総隊長である罠明は前線で戦うことなんてまずないし、風紀委員本部(セントラルジャッジメント)内で書類の情報を見るぐらいしか『白衣の男』のことを知らない。知らないが風紀委員本部(セントラルジャッジメント)と敵対関係にある存在だとは知っている。そして風紀委員本部(セントラルジャッジメント)に匹敵するほどの力を持っていることも知っている。
「そう『白衣の男』こと死縁鬼苦罠(しえんきくわな)のことだ。そして彼のブレインも」
「※※※※……」
「ここから先は学園都市で大きな戦いが起こる可能性がある。風紀委員本部(セントラルジャッジメント)が全力で戦ったとしても確実に勝てるとは言えない戦いがね。何せ※※※※は僕と同じ存在だからね」
「だから、私に外に出るようにと」
「そう、一段階上のステージに上がってほしい。外に出て刺激を受けて階段を一つ昇ってほしい。そして風紀委員本部(セントラルジャッジメント)が『白衣の男』に勝てるように強力な道具を作ってほしい。…………頼めないだろうか」
「私は………………」
 外に出る。この安全で安心できる空間からいつ暗殺されるかも分からない外に出る。風紀委員本部(セントラルジャッジメント)に所属してから、いやその前から罠明この街の『闇』は数えきれないほど見てきた。だから、自分の立場の重要性がわかる。風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の一部隊の総隊長、この立場はいくつもの組織が身柄を確保しようと動くほどのものだ。だから、本当なら外には出たくない。戦闘能力のない罠明は外になんて出たくない。
 だけど、
 これから先の戦い。『白衣の男』との戦い。
 次のステージ、新たな段階。
 もしも、今の私の技術力では『白衣の男』の、※※※※の力に勝てないんだとすれば、私の作ったモノで大事な風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の友人たちを守れないなら
 私は、
 私は、
 私は、
「……………………………………………………………………………………………………………私は、外に、」
 想像する。外に出た後周りの景色に圧倒されるであろう自分のことを。
 思い出してみる。四年前の外の風景を。
 考えてみる。進化した私の道具で風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の人たちを守れることを。
 今、一歩踏み出して、『あの時』の恐怖に打ち勝って外に出れば
 外に……出れば
「外に……外にっ」
 胸が苦しい、想像しただけで吐き気がする。
『あの時』の光景が、『あの時』の血飛沫が、銃弾が頭の中を駆け巡る。
 だけど、
 もう、『あの時』のようなことにならないように私が、
 私が作ったモノでみんなを、風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の皆を
「外に出るわ」
 その言葉にどれほどの思いが込められたのかは白にはわからない。
 その一言にどれほどの葛藤があったのかは白には理解できない。
 だけど、『あの時』のことを知っている白には彼女の苦しみがほんの少しだけ分かったから。
 『あの時』のことを知っている白には彼女の痛みがほんの少しだけ理解できたから。
 多くは語らなかった。それは、彼女の覚悟を乱す行為だと思ったから。
 だから、白はただ一言。感謝を込めて一言だけ言った。

「ありがとう、罠明」



これで役者は全員そろったはずだ、後はストーリーを進めるだけだッッッ!!!

白衣の男の本名が判明しました。彼の名は死縁鬼苦罠といいます。このあとの本文では苦罠と表記してあるところが多々あるので注意してください。

後、この話で第一部第一章は終了です。

次から第一部第二章 絶対能力進化実験中止計画~揃った役者と進む物語~ が始まります。

次回の更新は一週間後です。


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第一部 第一章 第二節 絶対能力進化実験中止計画~揃った役者と進む物語~ 『白衣の男』と御坂美琴⑫ 届かない雷撃

さて、ここから中盤戦。予定通りならあと7話程でこの二人の交渉は終わるはず


 8月21日午後7時30分『××××××研究所』コンピューター室にて


超能力者予備集団(セブンバックアップ)?」
 素養格付(パラメータリスト)と同じように御坂美琴には聞き覚えのない単語だった。そして素養格付(パラメータリスト)と同じように『闇』に関わる単語だろうと思った。だけど、それに関して御坂美琴が思考を始める前に、言葉を紡ごうとする前に『白衣の男』が御坂美琴に話しかけてきた。
「学園都市には現在、君を含めて七人の超能力者(レベルファイブ)がいる。あぁ、これは前提条件だが超能力者(レベルファイブ)という存在の枠は七つと決まっているんだ。多すぎても少なすぎても、我々が管理しきれないからね。その超能力者(レベルファイブ)達は誰もが巨大で強大で絶大な力を持っているがさて、ここで君たち学生側ではなく大人側つまり学園都市を管理する側の立場で考えてみよう」
 受け身ではなく自発的に、防御に回るのではなく攻撃の側に移った『白衣の男』は御坂美琴に会話の主導権を握らせない。御坂美琴を対等な立場に立たせない。威圧的かつ高圧的に、反論異論受け付けないと言わんばかりに『白衣の男』は会話をつづけた。
「普通に考えてみよう、なんの能力も持っていない大人たちは超能力者(レベルファイブ)をどう思うのか」
「……恐れてるんじゃないの?」
 もしかしたら答えなど期待していないのかもしれないが、それでも御坂美琴は答えた。『白衣の男』の言葉に介入できないのならばこのままずっと主導権を握られたままだと思ったから。
 すると、わずかに『白衣の男』は笑った。。
「そう、恐れている。怖がっている。無力な大人たちは能力(チカラ)を持った子供たちを。……ただ、それは無力な力のない大人たちだけの話だ」
「つまり、力のある大人たちもいるってわけ?」
「当然だろう!そしてその力のある大人たちが僕ら学園都市統括理事官のメンバーであり、『暗部』関連の大人たちだ。さて、ではこの大人たちは超能力者(レベルファイブ)をどう思っているのか」
「それは…………」
 明確な問いかけだった。今までの会話からも『白衣の男』の言葉からも明確に回答の読み取れる問いかけだった。だってそんなの答えは一つしかない。絶大な権力を持っている大人が子どもをどうしようとするかなんてそんなの決まってる。
「……超能力者(レベルファイブ)を利用しようとしている」
「大正解だ、御坂美琴。そう僕らは君たちを利用したい。自分の利する存在にしたい。さて、だけど困ったことに君たち超能力者(レベルファイブ)は僕らなんかよりも何倍も強い。つまり潜在的な反乱分子でもあるわけだ。でも、君たちにはそれと同じくらい利用価値がある。さてどうしようか」
 楽しそうに笑いながら、『白衣の男』は語る。得意げに、自慢げに語る。
「ここでいくつか方法がある。例えば洗脳、例えば人質、例えば望む報酬を与える、例えば…………」
「もう御託はいいわ!!!結論をっ!端的にっ!述べなさいよっ!超能力者予備集団(セブンバックアップ)っていったい何なのッッッ!!!!!???」
 このままでは『白衣の男』はグダグダと結論を先延ばしにするだろう。無論それが御坂美琴に焦りをもたらすための、正常な判断力を失わせるためのものだとは分かっている。
 分かっているが、
 もうたくさんだった。
 そもそも御坂美琴はまどろっこしい交渉事があまり好きではない、ましてや得意なわけがない。御坂美琴は直接その力を使って、超電磁砲(レールガン)としての力を使って物事を解決していく人間なのだ。
 だから、もう限界だった。焦りと苛立ちとそのたもろもろのものが胸を満たして限界だった。
「これはすまないね。先ほど時間が無いといったのは私なのに。……結論を端的に述べようか」
 表面上は謝っているが全く謝罪の意を感じられない態度で『白衣の男』は言う。
「要するにね、僕らは君たち超能力者(レベルファイブ)を恐れながらも必要としている。ただ自分に不都合な超能力者(レベルファイブ)は処分してしまいたい。けれど、処分してしまえば七人いる超能力者(レベルファイブ)が減ってしまう。でも仮に一人の超能力者(レベルファイブ)を処分してしまえば超能力者(レベルファイブ)の席が一つ空くよね。七人しか枠のない超能力者(レベルファイブ)の枠が一つからになるわけだよね」
「…………………まさか」
「その時に自分の手持ちの人間を超能力者(レベルファイブ)の枠の中に入れられたら、それは自分を有利な立場にできると思わないかい」
 ぞっとした。
 思わず一歩後ずさった。
 無意識のうちに体を両手で抱いた。
 怖い。人間をそんな風にモノのように扱っている目の前の存在がたまらなく怖い。『超能力者(レベルファイブ)の席が一つ空く』ただそれだけの理由で超能力者(レベルファイブ)を、人間を処分しようだなんて。勝手に決めた七つの枠に自分の利となる存在を入れるために人を殺すなんて。
 理解できない。理解できない。理解できない。理解できない。
 理解できない。理解できない。理解できない。理解できない。
 理解できない。
 理解できない。
 理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない。
 全くこれっぽっちも目の前の『白衣の男』が理解できない。
「つまり、現在の超能力者(レベルファイブ)代わり(スペア)。現行の超能力者(レベルファイブ)後釜(バックアップ)。それが超能力者予備集団(セブンバックアップ)の意味だよ」
「待ちなさいよッ!」
 なるほど、超能力者予備集団(セブンバックアップ)の単語の意味は分かった。超能力者(レベルファイブ)をいくらでも替えのきく消耗品だと思っていることは御坂美琴にとって大いに気に障ることではあったが、だがそんなことよりも御坂美琴には気になることがあった。
「いったいどうやって代わりを選定しているっていうの?」
 超能力者予備集団(セブンバックアップ)。大人たちにとって都合の悪い超能力者(レベルファイブ)を殺して都合のいい超能力者(レベルファイブ)に変えてしまう、そんなもの。だが、超能力者(レベルファイブ)の後釜なんて、代わりなんてそんな簡単に見つかるのか?いくら学園都市総人口二百三十万人のうちの八割が学生つまり能力者だとしてもそんな簡単に超能力者(レベルファイブ)級の潜在能力を、能力を持った人間なんて存在するのか?現段階ですら表側に開示された情報の中では七人しか超能力者(レベルファイブ)はいないのだ。御坂美琴は今まで超能力者(レベルファイブ)級の能力者の話なんて噂話ですら聞いたことが無い。様々な事件に首を突っ込んできたが全く聞いたことが無い。なのに、そんな都合よく大人たちは、否『白衣の男』ら学園都市統括理事会は超能力者(レベルファイブ)後釜(バックアップ)なんて確保できるのか、というか存在するのか。
「御坂美琴、君はさっきまで私たちが話していた話題を忘れているのかい?」
「…………………ま………………さか」
「能力者の上限を調べるための機械、能力者の成長限界を調べるための機器。さっきまで私たちが話していたことじゃないか。素養格付(パラメータリスト)これはいったい何のためにあると思っているんだ」
 さっきまで話していた話題なのにすっぽり頭から抜け落ちていた。素養格付(パラメータリスト)。そう、そうだ。なぜ忘れていたんだ。いったいなぜ忘れていたんだ。ついさっき、たった十分前の話だったのに、一体全体どうして記憶していなかったんだ。…………いや違う。覚えていなかったわけじゃない、言われてすぐに思い出せたんだから決して忘れていたわけじゃない。ただ、思い出したくなかったんだ。ショックだったからその答えから逃げていたんだ。逃避していたんだ。だから、気付けなかった。気付かなかった。
素養格付(パラメータリスト)を使えば、将来超能力者(レベルファイブ)に育つ可能性のある能力者が一発で分かる。というそのための素養格付(パラメータリスト)だ」
「………………………………………………………………………………」
「で、だ。なんで僕がこんな話をしているかなんだが」
 正直言って、御坂美琴は少しつかれていた。だが、それも仕方がないだろう。いかに超能力者(レベルファイブ)と言えども、いかに学園都市第三位と言えども、その身はまだ中学生だ。たかだか十数年しか生きていない中学生。確かにただの中学生よりは精神力は上だろう、肉体強度も上だろう。金もコネも持っているしただの中学生とは間違っても言えない。ただ、それでもまだ幼い中学生。だから仕方ない。長時間にわたる交渉に疲れを覚えても仕方ない。彼女は学生で交渉人ではないのだから。
 だが、
 だけど、
「確か……初春飾利と言ったかな?」
「ッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!???????」
 一瞬で、
 まさに一瞬で今まで感じていた疲れなど吹っ飛んだ。それはもう宇宙のかなたまで吹っ飛んだといっても過言じゃないくらいには吹っ飛んだ。
 ただ一言、『白衣の男』が発した言葉に、『初春飾利』という言葉に一気に体が反応した。緊張状態を取り戻す。意識が冴える。友人の名前が目の前の『白衣の男』の口から出た。どうやって初春のことを知ったのか、なぜ今その名前を出すのかそんな疑問が頭をめぐるよりも早く御坂美琴は行動を起こした。
「初春さんに……………………」
「ん?」
「初春さんに何をする気よッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
 怒りの言葉を叫ぶとともに額から雷撃を放出させる。現在の『白衣の男』と御坂美琴の距離はわずか一メートル。雷撃の槍の速度は秒速200キロメートル。一メートルの距離などわずか0.000005秒しかかからない。0.000005秒などどれだけ反射のいい人間でも反応することは絶対にできない時間だ。雷撃の槍を視認することが出来ないどころか避けることなんて出来るはずがない。その上で御坂美琴は雷撃の槍を放つ直前に『白衣の男』と自分の間に『理論純水』の壁がないことを確認している。どれだけ優れていようと、たとえ超能力者(レベルファイブ)級の能力者であろうとこんなわずかな時間では『理論純水』の壁は生成できないはずだ。
 雷撃の槍を遮るものは何もない。
 『白衣の男』が雷撃の槍に反応して避けるようなそぶりを見せる様子もない。
 そして、御坂美琴の放った雷撃の槍は『白衣の男』へと距離を詰める。
 80センチメートル。
 50センチメートル。
 20センチメートル。
 5センチメートル。
 そして残り、1センチメート

 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチィィイイイイィィィイィィイイィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 と、轟音がなった。
(でしょうねッッッ!!)
 端的にいうなら雷撃の槍は防がれた。完全に、完璧に、防がれた。『白衣の男』に雷撃の槍は届かず、その身を電撃で焼かれることはなかった。始めと同じように『理論純水』によって防がれたのだ。だが、いったいどうやって防いだというのか。御坂美琴と『白衣の男』の間には『理論純水』の壁はなかった。
 …………というのは嘘だ。より完璧にいうのならば。御坂美琴と『白衣の男』の間には御坂美琴の目では『理論純水』の壁を視認できなかったということだ。
 『白衣の男』は確かに傍らに水分生成(クウォータージェネレーション)の少女を連れている。その少女は水分生成(クウォータージェネレーション)の能力者だから『理論純水』を作れば御坂美琴の雷撃の槍を防げる。
 だが、いったいいつ『白衣の男』は自らが連れてきた人間を一人だと言ったのか。
(…………反応は全部で三つか)
 御坂美琴は周囲の様子を再び電磁レーダーを使って把握した。それによるとこの空間にいる人間は自分を含めないで全部で()()。二人はもちろん御坂美琴の目の前にいる『白衣の男』と水分生成(クウォータージェネレーション)の少女。
 では、もう一人はどこに?
 現在この部屋の中には三人の人間しかいないはずだ。そして、御坂美琴の視界の中には二人の人間しかいない。なのに電磁レーダーに()()()の反応がある。これはどういうことなのか。
 その答えはとても簡単だ。
(つまり……どんな手段か知らないけど私には視認できない人間がいる!!!)
 視覚では確認できない人間がこの部屋の中にいる。
 それが、答えだった。

 




本文100000字突破(白目)

次の更新は五日後です。



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巳神蔵豈唖と殿岳深罠① 超電磁砲の攻略方法

解説ばっかりでほとんど物語進んでないわ……


 死縁鬼苦罠はこの場所に来るときに複数の人間を連れてきていた。
 一人目は巳神蔵豈唖(みかぐらあにあ)大能力者(レベルフォー)水分生成(クウォータージェネレーション)能力者。この豈唖によって御坂美琴の超電磁砲(レールガン)は今までに三度も防がれている。
 そして、()()()殿岳深罠(てんがくみみん)大能力者(レベルフォー)染まらない透明(インビジブレ)を持つ能力者。
 今、『白衣の男』に雷撃の槍が届かなかったのはこの二人のおかげだ。
 殿岳深罠(てんがくみみん)の能力染まらない透明(インビジブレ)とは『物質の無存在化』をするものだ。効果時間、効果対象の個数は対象の大きさにもよるが、大能力者(レベルフォー)ならば能力対象の限界は一立方メートル位といったところだ。そして染まらない透明(インビジブレ)を使われた物質は『そこにあるのもかかわらず絶対に観測できない存在』になる。
 『そこにあるのもかかわらず絶対に観測できない存在』。つまりそれは視覚、聴覚、嗅覚などの五感はもちろんのこと電磁波、赤外線、紫外線、X線などによる観測もできない存在だ。だが、観測ができないだけで存在はする。決して見ることは出来ないが確かにそこにある。そんな存在に対象をすることが出来る。染まらない透明(インビジブレ)とはそんな能力だ。
 そして御坂美琴が三発目の雷撃の槍を放つよりもずっと前、具体的にいうと御坂美琴が二発目の雷撃の槍を放った直後に殿岳深罠は巳神蔵豈唖が作っていた『理論純水』に染まらない透明(インビジブレ)を使った。だからこの段階で『理論純水』は御坂美琴の視覚ではもちろんのこと御坂美琴の持つ電磁レーダーでも感知できないものになった。そして豈唖はあらかじめ『白衣の男』の前身を覆うように『理論純水』を配置した。だから、届かなかったのだ、弾かれたのだ。御坂美琴の雷撃の槍は、友人の危機に反応して放った雷撃の槍は。
(御坂美琴……悪いが苦罠様に手は出させんぞ)
 御坂美琴にとって死縁鬼苦罠は敵だろうが、殿岳深罠にとって死縁鬼苦罠は恩人だ。深罠を救ってくれた、地獄の底から救い上げてくれた恩人だ。だから全力で守る。全身全霊で守る。例え相手が超能力者(レベルファイブ)であってもそれは変わらない。
 深罠に『覚悟』はあった。
 深罠に『決意』はあった。
 深罠に『想い』はあった。
 だけど、

 それでも届かないのが超能力者(レベルファイブ)という存在だ。

 深罠は知らなかった。超能力者(レベルファイブ)をいう存在の『本気』を。この学園都市の頂点に君臨する超能力者(レベルファイブ)の力を。
 だから深罠は『白衣の男』を、死縁鬼苦罠を守れなかった。










 この部屋の中にいる『四人目』の人間。御坂美琴がそれをあぶりだすためにしたのは簡単なことだった。
「アアアアアアァァァアアァァアアァァァァアァアァアアアアァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
 その全身から御坂美琴は周囲に向けて完全に無作為に電流をばらまいた。壁に、床に、モニターに部屋のあらゆるところに電流がぶつかり、このモニター室をぶち壊す。
「ッッッッッッッ!!!!!」
(なぁ……ッッッッッ!!!!!)
 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチィ、とそこら中から音が鳴る。視界が黄色に染められて目がチカチカしてしまう。
(まさか……こいつッッッッッ!!!!!)
 そうこれだけ無作為に周りに電流をばらまけば相当高スペックな人間でもない限り、どれが苦罠に当たるのかなど判断できない。出来るはずもない。だからこの縦横無尽にあたりを駆け巡る電流から苦罠を守るには片っ端から電流を撃ち落とすしかないとそう豈唖と深罠は判断した。
 だが、こう思った人もいるのではないだろうか。電撃を『理論純水』で撃ち落とす?そんなことをするぐらいなら死縁鬼苦罠と自分たちの全面に『理論純水』を置いた方がいいのではないかと。
 だが、そんなことは不可能だ。実のところ豈唖は『理論純水』を無限に生み出せるわけでは無い。
 当たり前と言えば当たり前だ。『理論純水』、一切の不純物の混じっていない完全な水。考えてみてほしい。空気中には様々な物質がある。窒素、酸素、水素、二酸化炭素、アルゴン等々多くの不純物が存在している。そして、水は空気に触れているだけでその様々な物質が溶けてしまうのだ。
 もちろん、一つ一つの物質の解ける量は微々たるものかもしれない。だが、多くの種類の不純物が少しずつ混ざってしまえばもうその水は『理論純水』ではいられない。それどころか『超純水』でもなくなってしまう。我々が普段使う『水』と何ら変わらないレベルまで落ちてしまうのだ。
 それを防ぐために豈唖は常に作り出した水の中から『水では無いモノ』を取り出す作業をしている。これは非常に神経を使う作業で、大能力者(レベルフォー)水分生成(クウォータージェネレーション)能力者でもかなり演算することが難しい。
 そもそも、水分生成(クウォータージェネレーション)という能力は『何も無い空間から』水を発生させるというものではなく、空気中に存在する『水素()』と『酸素()』から『(H₂O)』を作り出すというものなのだ。空気がない場所では水は作れない。だから必然的に作り出した水は空気に触れていることになる。これはもう、水分生成(クウォータージェネレーション)で『理論純水』を作り出す上ではどうしようもない欠点だ。
 さらに付け加えるならば、学園都市には大能力者(レベルフォー)水分生成(クウォータージェネレーション)能力者は豈唖を含めて6人いるが『理論純水』を長時間維持でき、なおかつ思い通りに動かすことが出来るのは豈唖一人だけだ。六人中一人だけ。それだけ扱いが難しいモノなのだ、『理論純水』というものは。もちろん豈唖が『理論純水』を制御できるのは才能以上に努力有ってのことだが。
 話がそれたがつまり、豈唖レベルの能力者でも『理論純水』を多くは生み出せないのだ。具体的にいうと一立方メートル。これが現在の豈唖が自由に操れる『理論純水』の限界量だ。
 ようやく豈唖の能力の説明が終わったのでそろそろ『なぜ電撃を撃ち落とす方法を選ぶのか』について語ろう。
 まぁ、簡単なことなのだがつまりは自分たち三人を守り切れるだけの『理論純水』を用意できないのだ。まず、最優先で守るべき苦罠の前面に用意すべき『理論純水』は縦1.5メートル横0.5メートルそして幅0.6メートルの直方体の形だ。なぜ直方体なのかというと『理論純水』を作るにあたっては形のイメージが球体などの曲線のある物よりも直線のみで構成されたものの方がイメージしやすい、つまり作りやすいのだ。それでその直方体の体積は1.5×0.5×0.6=0.45。0.45立方メートルだ。ではなぜ幅に0.6メートルも必要なのかというとそれは御坂美琴の放つ超電磁砲(レールガン)の威力に耐えるためだ。
 御坂美琴の放つ超電磁砲(レールガン)の仕組みは豈唖達が調べた限りではまず超電磁砲(レールガン)を放つために対象物へのレールを作る。このレールはリニアモーターカーとおなじようにN極とS極を順番に並べてあるものである。そして、そのレールの発射地点つまりは御坂美琴の手元のあたりに例えばコインを置き指で弾くことで初速を付け発射する。ただこの発射時に御坂美琴はさらに初速をあげるために電流を使う。電流を超電磁砲(レールガン)を放つための道具(例えばコイン)にあてることでさらに初速をあげるためだ。と同時に御坂美琴は道具に磁力的性質すなわちN極とS極を加える。これにより手元から離れた道具はレールにのってN極とS極の引き合う力、又はN極同士S極同士の反発する力を受けながら攻撃対象に向かう。そして、さらに電流を放出し続けることによってその速度を押し上げる。最終的にこれらの要因によって超電磁砲(レールガン)は音速の三倍の速度で進む。
 これが超電磁砲(レールガン)の仕組みだ。
 さて、ではこの超電磁砲(レールガン)を豈唖が止めるにはどうすればいいのか。
 その答えとしてまず豈唖は『理論純水』の壁を用意することにした。これによって飛ばすもの(コイン等)を押す電気は遮断できる。『理論純水』の壁と接触した時点で電気は『理論純水』に弾かれ遮断され無効化される。
 残ったのは衝撃波をあたりにまき散らしながら進むコインのみ。後はこのコインを止めることが出来れば超電磁砲(レールガン)を無効化できる。
 この時点でのコインの速度は約秒速1000メートル。その威力は楽々コンクリートの壁をぶち破れるものだから、真正面から『理論純水』を使って止めることは困難きわまりない。『理論純水』は電気を通さないが衝撃を通さないわけでは無いのだ。真正面から受けとければその衝撃によって『理論純水』があたり一面に飛び散る可能性が非常に高い。だが、『理論純水』といえどもあくまで水なので威力の減衰は出来る。もちろん速度を零にすることは出来ないが、遅くすることは可能だ。
 『理論純水』を用いて作った直方体の中で超電磁砲(レールガン)に対するように超速の()()を作る。たったこれだけで超電磁砲(レールガン)の速度を下げることが可能だ。ただし『理論純水』は超電磁砲(レールガン)が当たったそばから蒸発したり飛び散ったりするので超電磁砲(レールガン)を止めることは出来ない。
だが、冷静に考えてほしい。苦罠を守るためには何も超電磁砲(レールガン)を止める必要はないのだ。そんな困難極まりないことをする必要はかけらもないのだ。そう超電磁砲(レールガン)を止めなくてもいい。ただ超電磁砲(レールガン)()()()()()()()()いいのだ。超電磁砲(レールガン)を逸らす。普通ならできないが『水の壁』によって速度が落ちた状態ならギリギリで可能だ。超電磁砲(レールガン)のコインは対流によって速度が落ちている、そしてコインはその状態で『理論純水』の中を進んでいるわけだから今度はコインに対して()()()()水流をぶち当てる。これならコインは逸れる。十分に逸らせる。そして逸らしたコインは対象には当たらない。
 最後に残った問題としては超電磁砲(レールガン)を放つうえでのレールの問題がある。つまり、御坂美琴の超電磁砲(レールガン)はローレンツ力ではなくリニアと同じ磁力の反発、引き寄せの力を利用しているから水流を当ててもレールを曲げないと意味がないのではないかということだ。
 これについては心配する必要はないと結論が出ている。超電磁砲(レールガン)のレールは豈唖の調べた限りでは()()()()()()()()()()。どうやら、御坂美琴にとってレールはあくまで超電磁砲(レールガン)を撃つ方向とコインの加速に用いられるものであり対象まで伸ばす必要はないようなのだ。その証拠に一方通行(アクセラレータ)との戦闘時は超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)に当たっている。もしも磁力のレールが対象まで伸びているのなら、一方通行(アクセラレータ)との戦闘時一方通行(アクセラレータ)に磁力のレールがあたり『反射』が発動し超電磁砲(レールガン)の標準が狂うはずだ。
 だが、豈唖の確認した限りそんなことはなかった。これは磁力のレールが対象に届いていないということの証明になるだろう。おそらく磁力のレールが対象に届くと距離にもよるが超電磁砲(レールガン)の加速が御坂美琴の体の耐久の限界を超えてしまうのだろう。だから、速度を速めるための超電磁砲(レールガン)の磁力レールはあえて短くなっているのだ。そう豈唖達は考えた。
 長くなったが、これが豈唖が導き出した超電磁砲(レールガン)の攻略方法だ。
 超電磁砲(レールガン)発射に対して『理論純水』によりまず電流を遮断。その後超速で飛んできたコインに対して水の対流を当てコインを減速させそこに真横から水流をぶち当てて超電磁砲(レールガン)を対象から逸らす。
 これが豈唖の水分生成(クウォータージェネレーション)で可能な超電磁砲(レールガン)の逸らし方だ。



はいというわけで視認できない敵の能力は『物質の無存在化』というチート能力でした。この能力をかけられたものは基本的に観測不可能になります。

本来超電磁砲はローレンツ力をもって発射されるものですが、この作品ではどちらかというとリニアの仕組みで放つモノとしています。
ただ作者は優秀ではないので今回の超電磁砲の説明は間違っている可能性が多々あります。
決して信じないようにお願いします。

こんな方法で超電磁砲を逸らせるのか?と思った方。次話にてその答えが出ます。

次の投稿は三日後です。


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巳神蔵豈唖と殿岳深罠② 水分生成の応用性

みなさん!!!明日は新約14巻の発売日ですよ!!!
明日ですよ!!!明日!!!




 さてさて、話が盛大に逸れたので本筋に戻そう。超電磁砲(レールガン)の防ぎ方は理解いただけたと思う。ではその前段階の『なぜ雷撃の槍を理論純水で撃ち落とす必要があるのか』に話をもどそう。
 苦罠に使う『理論純水』の体積が0.45立方メートルであることは話したのでその次の話にうつる。ちなみにこの0.45立方メートルの『理論純水』は常に苦罠の前面に置いてある。いつ御坂美琴が超電磁砲(レールガン)を撃っても問題なくふせげるように、対応できるように。
 では話をもどそう、次の話は豈唖と深罠を雷撃から守るために必要な『理論純水』の体積の話だ。単純に考えれば二人に使える『理論純水』は(1.00-0.45)÷2=0.275立方メートルとなる。
 だが、この計算だと豈唖の操れるすべての『理論純水』を使ってしまうことになる。それはまずい、非常にまずい。もしもの時のための予備としていくらかの『理論純水』はとっておくべきだ。何か予測外の緊急事態が起きていざとなった時にまわせる『理論純水』が無く苦罠を守れなかったら豈唖は悔やんでも悔やみきれない。
 だから0.1立方メートル。豈唖は0.1立方メートルの『理論純水』は予備として常に使わずに確保している。
 さてこれをふまえたうえで残った『理論純水』は0.45立方メートル。これを2で割って0.225立方メートル。人間の横幅は約0.5メートル、二人の身長は1.5メートルほどだから『理論純水』の厚さは約0.3メートルだ。
 仮に『理論純水の壁』が電撃の直撃を受けたとして、この時『理論純水の壁』の厚さは当然ながらある程度無ければならない。前述したようにいかに『理論純水』といえども衝撃は通るのだから。で、その厚さだが豈唖達の試算によれば十センチメートル。十センチメートルの厚さがあれば通常の電撃も、秒速200キロオーバーの雷撃の槍も防げる。そう豈唖達は試算している。そしてそれはただしい。厚さ十センチメートルの『理論純水の壁』なら十二分に電撃も雷撃も遮断可能だ。もちろん連続で叩きつけられてもそのすべてを防ぐだけの性能を持つ。
 さてではここで計算の時間だ。高さ1.5メートル、横0.5メートル、幅0.1メートルの物体の体積はいくつでしょう?
 正解は0.075立方メートル。身を守るためにはこれを豈唖たちの前方、後方、左側、右側、頭の上に配置する必要がある。だから必要な量は0.075×10=0.75で0.75立方メートル。
 足りない。どう考えても足りない。苦罠と豈唖、そして深罠の三人を守りきるだけの『理論純水』は用意できない。だからこそここで必要になるのは『電撃を防ぐ』という選択ではなく『電撃を撃ち落とす』という選択なのだ。
 『理論純水』の量が足りないからこそとるべき選択は『電撃を撃ち落とす』の一点なのだ。
「ッッッッッッッ!!!!」
 豈唖は苦罠の前に置いてある0.45立方メートル以外の『理論純水』を使って電撃を撃ち落とし始めた。もちろんその『理論純水』には深罠がすべて染まらない透明(インビジブレ)を用いて『無存在化』を行っている。でなければどこに『理論純水』があってどのような動きをしているのかが一発で分かってしまう。
 そしてこの染まらない透明(インビジブレ)は苦罠の前に置いてある『理論純水』にも使っている。同じようにそこに『理論純水』がそこにあると分からせないために。
(さっき『白衣の男』への雷撃の槍での攻撃が防がれたのは明らかに『理論純水』でのものだった。だけど、電磁レーダーにはこの部屋から一切の『理論純水』の反応はない。この瞬間、今も。明らかに電撃が『理論純水』で撃ち落とされているのに!!!)
 先ほど雷撃の槍を苦罠に向けて放った時、御坂美琴の雷撃の槍は防がれた。だが、実のところ御坂美琴はあの時は雷撃の槍が苦罠にあたるとは思っていなかった。『理論純水』は電磁レーダーには感知できなかったがおそらく、いや絶対に苦罠の前にあると踏んでいた。
 当然だ。守る対象がいるのにいったいどういう理由で『理論純水』を消すというのか。そして、御坂美琴のその予想の通り『理論純水』は苦罠の前にあった。御坂美琴には感知できなかったが。御坂美琴には見えなかったが、確かにあった。
(透明化……いや、電磁レーダーの無効化か?それとも、私の感覚が狂わされれる?いやそれはあり得ない。体の電気信号はちゃんと私の制御化にある。どう考えてもそれは無い。…………………………ここで考えても仕方ないか)
 学園都市で発現されている能力はそれこそいくらでもある。美琴の知っているだけでも数百種。その中から能力の種類を特定するのは至難の業だ。さっき水分生成(クウォータージェネレーション)の能力を特定できたのは状況がたまたまわかりやすくて能力の特定が容易だったからだ。
 だけど今は違う。『理論純水』が感知できないこの状況、ヒントが少なすぎて能力の特定には至れない。流石の御坂美琴といえども使われている能力の正体はわからない。
 そして、別に能力の正体がわかる必要はない。『理論純水』は見えないが確かにこの空間にある。それがわかれば十分だ。
(だけどもしも、この予想が正しいとすれば…………)
 右ポケットからゲームセンターのコインを取り出す。そして、それを宙に放り投げる。
 超電磁砲(レールガン)
 彼女の代名詞。音速の三倍の速度で放たれ絶大な破壊力を生み出す極悪の攻撃手段。それを、目の前の『敵』に向けて、友人の名を口にした『白衣の男』に向けて放つために。
 そして、その光景を豈唖は電撃を撃ち落としながら見ていた。御坂美琴がポケットからコインを取り出し宙に投げる一連の動作を見ていた。
 超電磁砲(レールガン)が、
 あの超電磁砲(レールガン)が放たれる。豈唖はそう思った。コインを宙に投げるなんて動作をするからには一秒後には超電磁砲(レールガン)が放たれるはずだ。
 だから準備を始めた。超電磁砲(レールガン)を逸らすための準備を。苦罠の前にある『理論純水の壁』を用いて超電磁砲(レールガン)を防ぐための準備を始めた。
 
 そして、

 ドオォォオオオォォォォォォオオォォオオォォォォオオォォオン

 と、轟音が響き超電磁砲(レールガン)が放たれた。苦罠に向けて超電磁砲(レールガン)が放たれた。
 だが、超電磁砲(レールガン)が苦罠に着弾する前に超電磁砲(レールガン)は『厚さ60センチの理論純水の壁』に当たる。そして、その『理論純水』の中で渦巻く対流によって超電磁砲(レールガン)の速度が落ち

「ッッッッッッッ!!!!!」

 なるほど、確かに速度は落ちた。そして『理論純水』に接触した瞬間にコインを押していた雷撃は遮断された。さらに、豈唖たちの予測通りに磁力レールも理論純水の中までは通っていなかった。
 さすがは大能力者(レベルフォー)だ。さすがは苦罠がこの場所に連れてきただけの人材だ。さすがは長年暗部にいた人間だ。すばらしい。すべて予測通り。
 だが、予測外のこともあった。それは超電磁砲(レールガン)の速度が思ったよりも落ちなかったということだ。音速の三倍、秒速にして1000メートルの速度で進む超電磁砲(レールガン)の速度は対流によって確かに落ちた。落ちたが、それは秒速1000メートルの速度が秒速950メートルにおちたというものだった。
 秒速1000メートルの速度が秒速950メートルに落ちた。
 なんだそれは、そんなものただの誤差だ。
 誤差だ。誤差。
 誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差誤差。
 ただの、誤差。
 その程度の減速では超電磁砲(レールガン)は逸らせない。いや、逸らせないということはないが例え逸らしても苦罠に当たってしまう。逸らすことがわずかしかできずに超電磁砲(レールガン)が直撃してしまう。
 このままでは超電磁砲(レールガン)が死縁鬼苦罠に当たってしまう。
(ま…………ずい……ッッッッ!)
 深罠はそう直感した。自分たちが想定したよりも超電磁砲(レールガン)の速度が落ちていないと思った。だが、深罠は何もできない。深罠の能力(チカラ)では、染まらない透明(インビジブレ)では何もできない。染まらない透明(インビジブレ)水分生成(クウォータージェネレーション)ほど応用力が広くないのだ。染まらない透明(インビジブレ)では『物質の無存在化』しかできない。そしてそれはこの状況では何の役にもたたない。染まらない透明(インビジブレ)では超電磁砲(レールガン)に対抗することは出来ない。
 だからこの状況をどうにかできるとしたら、今真っ向から超電磁砲(レールガン)を相手にしている豈唖の水分生成(クウォータージェネレーション)だけだ。
 だが、もともとの策は超電磁砲(レールガン)に真横から水流をぶち当てて逸らすというもの。このたいして超電磁砲(レールガン)の速度が落ちていない状況では水分生成(クウォータージェネレーション)で起こした水流では超電磁砲(レールガン)は逸らせない。この状況では水分生成(クウォータージェネレーション)じゃ超電磁砲(レールガン)は止められない。
「ッッッッッッッ!!!!」
 せめて、もう少し、あと少しだけ超電磁砲(レールガン)の速度が落ちれば水流を当てることで超電磁砲(レールガン)を逸らせるのに、と豈唖は思う。秒速950メートルの超電磁砲(レールガン)を秒速800メートルまで落とせれば……。『理論純水の壁』はもう後0.4メートルしかない。このままでは突破される。超電磁砲(レールガン)が苦罠に当たってしまう。
超電磁砲(レールガン)の速度は落とせない。
 この速度の超電磁砲(レールガン)に水流を当てたところで5センチも横には逸らせない。
 豈唖たちの位置では今から盾に入ることもできな……………………
(……………………………ッッッッッ!!!)
 そうか、と豈唖は一つの策を思いついた。出来るかどうかは分からない。出来たとしても超電磁砲(レールガン)を完璧に逸らせるかの保証はない。だけど、もうかけるしかない。苦罠を守るためにはこの方法にかけるしかない。
 超電磁砲(レールガン)の速度を落とせないなら、超電磁砲(レールガン)に水流を当てたところで5センチも横には逸らせないなら、
 ()()()()()()()()()()()!!!
 
 





 一つの箱を思い浮かべてほしい。立方体の透明な箱だ。その箱の中央に、箱の底面の中央という意味ではなく縦横高さそれぞれ三つの中央という意味だが、一枚のコインがある。まぁ、ちょうど箱の真ん中にコインが浮いていると思ってくれて構わない。
 そして、その箱の中に水を入れる。この水は『理論純水』ではなく普通の水だ。そして水を入れた状態でもコインを箱の中央にあるとする(一般的にはコインは浮くか沈むかだがここでは中央にあるとする)。
 さてその状態で箱を思いっきり()()()()()。すると中のコインはどうなるか。箱の移動についていくように箱の中央にあり続ける?いやいやそうではない。実のところ、コインはずらした方向とは逆に動く。箱を右に動かしたならコインは左に、箱を左に動かしたならコインは右に動く。だからコインが箱の中央にあり続けるということはない。





 では、箱の中に満ちている()()に変わってしまったらどうだろうか?






(…………は?)
 深罠は目の前の光景に驚愕した。
 『理論純水』が、超電磁砲(レールガン)を止めるための『水』が()()()()()()()
 一瞬前まで確かに水だったものが、氷に変わっている。染まらない透明(インビジブレ)を使った物質は普通の人間には見えないが、染まらない透明(インビジブレ)を持つ能力者である本人とその能力を使われた対象を作った能力者、その能力を直接使われている人間には見えるのだ。でなければ染まらない透明(インビジブレ)を正確に使うことは出来ず、別の能力者と協力することもできない。
 そんな、深罠だからこそ見えた。氷と化した『理論純水』が横方向に移動しているのを。ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリィ、と氷を削りつつ超電磁砲(レールガン)は確かに苦罠に迫っている。
 迫っているが、明らかにその速度は落ちているように見えた。
 ()
 そもそも、()とは水の状態の一つであり、液体である水が状態変化することによって発生する物質である。
 豈唖の能力水分生成(クウォータージェネレーション)は空気中に存在する『水素()』と『酸素()』から『(H₂O)』を作り出し、作りだした『(H₂O)』操る能力だ。先にも説明したが氷とは固体の状態にある水のこと。つまり、解釈によっては『氷は水である』という説明もあり得る。
 もちろん、『水』と聞いて一般的に思い浮かべられるのは液体の状態の水だ。個体の状態の水、『氷』を思い浮かべるものなどまずいない。だけど、氷だって水だ。そして、水分生成(クウォータージェネレーション)の能力はひどく難しいが水の状態変化を操ることもできる。詳しく説明すると、水というモノの分子一つ一つを操ることで状態変化を起こすことが出来る。もちろん、それが出来る人間は決して多くはないが。
 豈唖はこのままでは超電磁砲(レールガン)を止められないと判断した。だから『理論純水』を『氷』に変化させた。水よりも、氷の方が抵抗が大きい。水流によって超電磁砲(レールガン)を逸らすことは出来ないと判断したから別の方法を使うことにしたのだ。
 氷をもってしてコインを包む、そしてその『氷の檻』を横方向にずらす。そうそれば、『氷の檻』の中にあるコインは『氷の檻』に引きずられるようにして一緒に横に移動するはず。
 『氷の檻』の厚さは残り0.2メートル。それがすべて削られないうちにコインを逸らせれば豈唖の勝ちとなる。
 
 そして、氷に包まれたコインがほんの一瞬だけ完全に停止して

 ズッガアアァアアァアアアァアアアアァァァァアァアアアアァァアンンンン

 と、超電磁砲(レールガン)が苦罠をかすり壁に当たって轟音がなった。
 豈唖の策は成功したのだ。彼女はうまく超電磁砲(レールガン)を逸らすことに成功した。突発的に起きた予想外の出来事にもうまく対応して苦罠を守り切った。
 学園都市広しと言えども御坂美琴の超電磁砲(レールガン)を真っ向から防げる能力者はそう多くない。彼女は誇るべきことをしたのだ。
 だから、安心してしまった。
 超電磁砲(レールガン)を防いだことで安心してしまった。心の緊張をほんのわずかに緩めてしまった。
 故に、豈唖達は御坂美琴の次の行動に対応できなかった。
 故に、豈唖達は苦罠を守れなかった。




ごめんなさい、そんな方法で超電磁砲がふせげるわけないだろ!!!という方々。
その方々は今回の話の解説をちょっと後にやるのでその話が来るまで待っててくださいorz

次の更新は三日後です。




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『白衣の男』と御坂美琴⑬ 無力

最新刊面白かった。前半が苦痛だったけど後半が最高すぎた。特に最後の人と犬の会話がすごいよかった。


 御坂美琴は超電磁砲(レールガン)を放つ前に超電磁砲(レールガン)を放った後の自分の行動についてすでに決めていた。
 まず、超電磁砲(レールガン)が『白衣の男』に当たった場合。その場合は速やかに『白衣の男』の部下であろう二人の人間を無力化し、暴力をもって『白衣の男』を脅す。
 そして、超電磁砲(レールガン)が何らかの要因によって防がれた場合。より正確にいうと防がれると直感した場合。その場合は、直感を感じた瞬間に前方に飛び出すと決めていた。
 実のところ、御坂美琴としては超電磁砲(レールガン)が『白衣の男』に当たろうが当たるまいがどっちでもよかった。
 御坂美琴の目的は友人の名を出した『白衣の男』を脅してその真意を聞き出すこと。超電磁砲(レールガン)が防がれても問題はない。
 なぜなら、超電磁砲(レールガン)はただのおとりにすぎず、超電磁砲(レールガン)を放った真の目的は美琴と『白衣の男』の間にあるであろう『理論純水』を消すことだからだ。
 『理論純水』、これがある限り御坂美琴の力は十全に使えない。万全に使えない。
 だから、排除した。除去した。超電磁砲(レールガン)という特大のおとりをもってして、『理論純水』で超電磁砲(レールガン)を防がせることで御坂美琴と『白衣の男』の間にある『理論純水』を消費させた。
 超電磁砲(レールガン)が『理論純水』と接触した瞬間を御坂美琴は感知できなかった。『理論純水』に染まらない透明(インビジブレ)が使われていたことによって、超電磁砲(レールガン)に接触した『理論純水』はどのような手段をもってしても観測できない存在になっていたからだ。
 だが、それは接触したことが観測できなかっただけだ。御坂美琴が超電磁砲(レールガン)の速度を上げるために放っていた電撃が何らかの要因によって遮断されるのを確かに御坂美琴は見た。その空間には何もなかったが、電撃が消え去っていくのを御坂美琴は見た。ある、と思った。視覚ではとらえられないし、電磁レーダーを使っても感知できないが確かにその場所に『理論純水』がある、と思った。
 だから、御坂美琴は行動を起こした。友人を守るために、妹達(シスターズ)を守るために『白衣の男』との距離をつめるという行動を。
 体の電気信号を操って筋肉のリミッターを外す。
 電気信号の伝達速度を操作して体の反応速度を上げる。
 同じようにして運動能力も上げる。
 電撃使い(エレクトロマスター)としての力をフルで使って自分自身のスペックをあげていく。この瞬間御坂美琴の身体的スペックは超一流のスポーツ選手をはるかに凌駕する領域まで引き上げられた。
 ダッ、と地面を蹴って前に出る。と同時に超電磁砲(レールガン)として放ったコインが何らかの要因によってそらされるのを御坂美琴は見た。
(もうあの場所に『理論純水』はないはず……ッッッ!!!)
 もはや御坂美琴と『白衣の男』とを遮るものは何もない。豈唖の操る『理論純水』は今さっき電撃を撃ち落とすのと超電磁砲(レールガン)を防ぐのに使ってしまったからだ。
 そして、予備としてとっておいた0.1立法メートルの『理論純水』でできることなどもはやない。
 視界の先で水分生成(クウォータージェネレーション)の少女が焦りの表情を浮かべるのを見た。それを見てさらに確信する。今御坂美琴と『白衣の男』の間には『理論純水』はないと、水分生成(クウォータージェネレーション)で私に対応することは出来ないと。
 超電磁砲(レールガン)が本命ではないことを豈唖達は見抜けなかった、だから対応に遅れた。
 御坂美琴の方が豈唖達よりも一枚上手だったのだ。
 これが超能力者(レベルファイブ)
 これが学園都市の頂点の一人。
 御坂美琴が苦罠に、豈唖達の主に近づく。もはや、『理論純水』を使ってしまった豈唖達はそれをただ黙ってみることしかできなかった。
 そして身体能力を限界まで強化した御坂美琴が『白衣の男』に肉薄し、

 ピタっっと御坂美琴の動きが止まった。

(ッッッ!!!動けないッッッッッッ!!!!!)

 陸上競技のスタート直後のような格好で御坂美琴は停止していた。動けない。電気信号を操作して筋肉のリミッターを外した御坂美琴ならどんな障害だって力づくで排除できるはずなのに指先すら全く動かない。なんらかの外的要因の影響を受けているとしか思えなかった。
(まさか…………五人目?)
 自分に見えない四人目の存在を確認した時点で『それ以上』の存在を考えなかったわけではに。もししかしたら五人目、六人目、七人目、それ以上の人間が隠れ潜んでいるのかもしれないと考えなかったわけでは無い。だが、それを考えたところでどうなるというのか。考察の余地なんていくらでもあるし、いるかいないかわからない存在に対してあれこれ考えても無意味だ。だから、思考の隅に置く程度しか考えていなかった。だが、ここで何者かが御坂美琴に干渉してきた。御坂美琴の動きを止めてきた。
 ならば、と御坂美琴は電撃を放とうとした。すでに『白衣の男』との距離は詰めてある。例え体が全く動かなくても雷撃を当てさえすれば一撃で『白衣の男』の意識を刈り取れるはずだ。
 そして、御坂美琴は時速200キロの雷撃の槍を『白衣の男』に放ち、
 だが、雷撃の槍は『白衣の男』に当たらなかった。
「……………………え?」
 思わず声が出た。それほどまでにあり得ない現象が起きたのだ。雷撃の槍を放つための演算を組み、対象を『白衣の男』に設定し、雷撃の槍を放つ。たったこれだけの何千回と行ってきた行為。今更演算をミスしたり雷撃の槍を外したりするわけがない。事実、御坂美琴はきちんと演算を終了させ雷撃の槍を放った。のにもかかわらず、空間に雷撃の槍は現れなかった。空間そのものが雷撃の槍を阻んでいるようなそんな感覚が御坂美琴を襲っていた。どういうことなのか、まるで分らなかった。
「一つ、言っておこう」
 今まで身じろぎひとつせずにただそこに立っていた苦罠は美琴の行動を嘲笑うような口調で言った。
「これが僕と君の間にある()()()だ」
 御坂美琴の背中に衝撃がはしる。誰かに背を押された。だが、いったいに誰に押されたのか御坂美琴にはわからなかった。
 そして、御坂美琴は何の抵抗もすることが出来ずコンクリートの床に倒れこんだ。いまだに体が石のように固まって指先すら動かせない御坂美琴は倒れこんだまま全く起き上がれない。
 せめて自分の後に人がいるのかを確認するために御坂美琴は電磁レーダーを使ってもう一度部屋の中をあらってみる。
(どうしてッッッ!!!!!??)
 だけど、結果はさっきと同じだった。この部屋の中にいるのは自分を含めずに三人。人の位置も全く変わっていない。そんなバカな、と思った。ならばさっき御坂美琴の背を押したモノはなんだ。確かに人の手で押されて倒された感触があった。
 『白衣の男』は自分の目の前から移動していない。水分生成(クウォータージェネレーション)の少女も同様だ。そして、仮に『四人目』が御坂美琴の背中を押したのだとしたら少なくとも0.3秒以内に御坂美琴の背を押す→御坂美琴から5メートル離れた場所に戻るという動作を出来る人間でなければならない。
 空間移動能力者(テレポーター)ならそれができなくはないが、空間移動能力者(テレポーター)特有のヒュンという風切り音がしなかったことから空間移動能力者(テレポーター)では無い。他の能力者の可能性を考えるが少なくとも御坂美琴の知る範囲ではそんなことのできる能力は知らない。0.3秒で5メートル、つまり秒速16.7メートル。しかも直線距離ではなく曲線距離の移動で風の流れる感触もなかったことから対して速度は出していない。
(なら、やっぱり『五人目』がいるってことよね)
 こと空間把握においては万能と言っても過言ではない電磁レーダーを無効化できる『五人目』がいる。そう考えるのが一番自然に思えた。『五人目』御坂美琴はそれについて考えるのはいったん放棄した。考えても無駄だからだ。それよりもこの一切体が動かせず、雷撃の槍もなぜか現れない現状からどう脱出するかを考えていた。
(よし、電気信号は操れる)
 一切の体は動かせなかったが、体内の電機信号は操ることが出来た。ならば、その電気信号を活性化させて自分の体を内側から動かせれば、この干渉を打ち破れるかもしれないと考える。
 
 だが、御坂美琴が思考できたのはそこまでだった。

「御坂美琴、その姿勢のままで構わないから僕の話を聞いてもらえないかな。君の友人の初春飾利に関わることなんだが」
「………私にならともかく、初春さんに手を出したら絶対に許さないからッ!」
 思考を中断せざるをえない。初春飾利を巻き込もうというのなら絶対にそれは阻止してやると御坂美琴は『白衣の男』を強く強く強くにらみつけた。
「心配しなくてもいい、僕が初春飾利に手を出すことはないさ。僕からしたら彼女は大した戦力でもないしね。だが……他の人間はそうは思っていないかもしれないなぁ」
「……………どういう意味よ」
「わからないか?」
 結局のところ今まで苦罠が話していたこと、絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)素養格付(パラメータリスト)超能力者予備集団(セブンバックアップ)という話題はすべてここにつなげるための伏線にすぎない。周到に用意された何通りもの脚本に御坂美琴は誘導されていたに過ぎない。過程はどうあれ、御坂美琴が辿る結果は変わらない。そのことを御坂美琴は思い知らされることになる。
「初春飾利が超能力者予備集団(セブンバックアップ)の一人として登録されているという話さ」
「………………………な…………………ん………」
 超能力者予備集団(セブンバックアップ)。現行の超能力者(レベルファイブ)達の代わりとなりうる存在。
 そんな存在に初春飾利が選ばれている?
「初春さんは低能力者(レベルワン)のはずよ!」
「確かにそうだ。だが、それは『今』の話だろう?素養格付(パラメータリスト)によれば初春飾利には超能力者(レベルファイブ)になることのできる素質がある」
「そんな…………嘘よ…………」
「嘘なものか!ここで僕が嘘をいう理由がないだろう。……初春飾利がたぐいまれにみる超一流のハッカーであることは知っているかな?」
「知ってるけど。それがどうしたっていうのよ」
「初春飾利の能力(チカラ)については?」
低能力者(レベルワン)定温保存(サーマルハンド)でしょ。それがどうしたっていうのよ」
 その答えを聞いてふっと苦罠は笑った。
「ハッキングをするためにに必要なものはいくつかある。優れたパソコンの操作能力と豊富な知識、プログラミングやインターネットに関わる知識も必要だろう。だが、ハッキングに最も重要なものは()()()()だ。初春飾利は非常に高い演算能力を持っている。それこそ、演算能力だけなら君に匹敵するほどに」
「だとしても……ッッッ!!!」
 心当たりはあった。初春飾利が超一流の、それこそ電気系統の能力者の中でも頂点に君臨する御坂美琴よりも優れたハッカーであることは知っていた。絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)関連施設の設備を通信回線を介してのサイバー攻撃で破壊した時も初春飾利ならもっとうまくできるんだろうなぁ、と御坂美琴は思ったものだ。だから、初春飾利の演算能力が超能力者(レベルファイブ)級だと言われて納得できることもあった。
「初春さんの能力(チカラ)定温保存(サーマルハンド)、持っているものの温度を一定に保つってだけの能力よ。超能力者予備集団(セブンバックアップ)はあなたたち統括理事会の都合いい存在として選定されるんでしょ。だったら、例え超能力者(レベルファイブ)に成長したところで初春さんがあなたたちの役立つ存在になるとは思えないけど」
「残念だが、御坂美琴。それは前提条件が間違っている」
 肩をすくめて苦罠は御坂美琴の予想を否定した。だが、御坂美琴が勘違いするのも仕方がない。初春飾利本人ですらこの事実は知らないのだから。
「……どういう意味よ」
「僕は初春飾利の能力(チカラ)定温保存(サーマルハンド)だと言ったつもりただの一度もはないが」
「まさか……初春さん本人が定温保存(サーマルハンド)だって言ってたのよ!初春さんが私に嘘ついているっていうの?」
「まさか、それこそ違う。僕も詳しく知っているわけでは無いが、どうやら僕の同類が初春飾利の身体検査(システムスキャン)のデータに対して干渉しているらしい」
身体検査(システムスキャン)のデータに対して干渉……?」
「おそらく数年前から干渉しているんだろうね。初春飾利本人も自分の能力が定温保存(サーマルハンド)だということに疑問を持っていないようだし」
 今度こそ、今度こそ本当にショックで声も出なかった。御坂美琴自身が数年前から暗部組織に利用されていたこと、初春飾利の身体検査(システムスキャン)のデータが同じように数年前から統括理事会によって改竄されていたこと。
 何も知らなくて、何もできなくて、何も変えられなくて、何もできなくて、
 無力で、非力で、不能で、無能で、
 御坂美琴はもう地面倒れ伏したまま起き上がることも出来なかった。
「だったら、初春さんの本当の能力はなんだっていうのよ」
 弱弱しい声だった。今までの御坂美琴を考えたら信じられないほどに弱弱しい声だった。もしも、白井のような御坂美琴に近しい人間が今の彼女を見てしまえば本当に彼女は御坂美琴なのかと疑ってしまうかもしれない。それほどまでに、いつもの御坂美琴とは別人に見えるほどに彼女は弱っていた。
 超能力者(レベルファイブ)としての力を全力でふるっても指一本体を動かせない現状に、
 学園都市の頂点の一角にいるくせに大切な友人(初春飾利)を守ることも出来ずにいた過去に、
 妹達(シスターズ)を自力で守ることが出来ず、一方通行(アクセラレータ)に単独で勝てる光景(ビジョン)も浮かばない自分自身に、
 ひどく失望していた。
「彼女の、初春飾利の本当の能力は」
 そんな御坂美琴の様子に当然苦罠は気付いている。気付いたうえで気付いていないふりをする。もう、御坂美琴は堕ちたも当然だ。後は何もしなくても勝手に苦罠の使いやすいコマになってくれるだろう。
 そう、苦罠は思っていた。
素粒細動(ミニマムバイブレーション)。物質を構成する最小の単位である素粒子を操る能力。それが初春飾利の能力だよ」



次回の更新は三日後です。



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『白衣の男』と御坂美琴⑭ 超能力者の席

後二話で交渉終わり。


素粒細動(ミニマムバイブレーション)……………」
 小さな声でつぶやいた。初春飾利の隠された本人すら自覚していない、本当の能力の名を。
「この世の物体は必ず素粒子からできている。素粒細動(ミニマムバイブレーション)とは素粒子すなわちアップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトムなどと呼ばれるクォークと電子、陽電子、ミュー粒子、タウ粒子、ニュートリノなどと呼ばれるレプトン、それらを合わせたフェルミ粒子、さらに光子、ウィークボソン、グルーオンなどと呼ばれるゲージ粒子とヒッグス粒子などと呼ばれるスカラー粒子、それらを合わせたボース粒子、そのすべてを制御し干渉し操作する能力のことだ。そして素粒子に干渉することで原子、分子さらにはあらゆる物体に干渉することが出来るというものだ」
 馬鹿げている。素でそう思った。素粒子に干渉する?そんなことが出来ればもはや無敵じゃないか。電気を操る御坂美琴はもとよりその気になればきっとありとあらゆる向き(ベクトル)を操る一方通行(アクセラレータ)とも互角に戦える。
 納得だ。そんな能力が隠されているとしたら超能力者予備集団(セブンバックアップ)に選ばれるのも納得だ。
(いや……もしかしたら最初からそのために育てられてきたのかも)
 自分の能力を勘違いするなんてそれこそ最初期から身体検査(システムスキャン)を改竄しなければ絶対に起こらないことだ。おそらく素養格付(パラメータリスト)を用いて初春飾利の能力(チカラ)に気付いた統括理事会のメンバーの一人が将来の自分の手駒に加えるべく、その能力(チカラ)のことを秘匿し、秘密としたのだろう。だから初春飾利は自分の能力に気付かなかった。気付けなかった。
「なら定温保存(サーマルハンド)としての力を使っている方法は、温度を一定にしているんじゃなくて分子の運動量を一定にしているってこと?」
「おそらくは……ね。もちろん、無意識の内だろうが。彼女自身は自分の能力を定温保存(サーマルハンド)だと信じ切っているようだし。……初春飾利が常につけている花飾りがあるだろう。私の調べたところによればあの花飾りにはとある機能が搭載されていた」
「……?どういうことよ。あの花飾りは初春さんがファッションでつけているんじゃないの?」
「私も最初はそう思っていたんだがね。だからこそ調べてみて驚いたよ。まさかあの花飾りが一種の洗脳装置だったとは」
「…………………………………は?」
 血の気が引いた。今、『白衣の男』は何と言った。洗脳装置?あの花飾りが、初春飾利を洗脳するための機械?
 意気消沈としていた御坂美琴は自分の心にほんのわずかな、マッチの火のように小さい炎がくすぶったような気がした。
「どうやらあの花飾りは初春飾利の脳に対して特殊な電磁波を放射するための精密機械らしい。その特殊な電磁波は彼女のAIM拡散力場に干渉し彼女自身の能力を制限している。もっとも初春飾利自身はそんなこと気付いていないがね」
「そんな…………。なら初春さんはもっと高位の能力者だっていうこと?」
「あぁ、実際のところ初春飾利の強度(レベル)低能力者(レベルワン)などではなかった。彼女は強能力者(レベルスリー)の能力者だ」
強能力者(レベルスリー)…………」
 素粒細動(ミニマムバイブレーション)強能力者(レベルスリー)、それはどのくらい強い能力なのだろうか。物体の分子を崩壊させることができるほど強力なモノか、一つ一つの素粒子を完全に操り電子すらも自由にできるほどのモノか。それは御坂美琴にはわからない。だが、初春飾利の能力が正当に評価されなかったことは確かだ。この学園都市において能力は学生のすべてと言っても過言では無い。もしも、初春飾利の能力(チカラ)が正当な評価を受けていれば彼女はもっと違った人生を歩めたかもしれない。
「さて、そしてだ。……近々、七人の超能力者(レベルファイブ)のうち一人が死ぬことになっている」
「それは…………私を殺すっていってるの?」
「そうとも言えるし、そうでないともいえる」
「あいまいなものいいね」
「仕方がないだろう。現段階ではまぁ自覚しているだろうが君が死ぬことになっている。御坂美琴、君はやりすぎたんだ。絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止めるために君は多くの研究所を襲撃し、壊滅させたが実のところ君が破壊した施設のうちの一つに統括理事会のメンバーの緊急避難用のシェルターがあったんだ」
 予感はあった。あの『アイテム』とかいう暗部組織の襲撃を受けたころから、御坂美琴は自分の命が危機に瀕しているかもしれないという予感を感じていた。
「そのシェルターのある施設を破壊されたことでそのメンバーは君の後ろに何者かがいて自分の命を狙っているのかもしれない、なんていう危機感を抱いてしまってね。君を抹殺しようとする案が統括理事会において承認される直前までいったんだが」
「でも承認はされなかった」
「その通り。僕が干渉して別の提案を示したからね」
「……その提案が(御坂美琴)による一方通行(アクセラレータ)の殺害」
「そういうことだ」
 おかしいとは思っていたのだ。違和感は感じていたのだ。なぜ絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止めることを報酬として御坂美琴を暗部に落とそうとしているのか疑問には思っていたのだ。目の前の『白衣の男』なら、そんな報酬を与えなくても御坂美琴を脅すという方法によって簡単に御坂美琴を手駒に加えられるはずだ。なぜそうしないのか。なぜその方法をとらないのか不思議に思っていた。
 だが、今の手掛かりから推測できた。その理由は『裏切りの警戒』これだろう。統括理事会のメンバーの間での駆け引きで御坂美琴の所有権が『白衣の男』と決定した。だが、はたしてほかのメンバーはその後に御坂美琴に干渉しないのか。否、否だ。絶対に干渉してくるし、あわよくば自分の陣営に裏切らせようとするはずだ。それを防ぐために『白衣の男』は御坂美琴との間に信頼関係を作ろうとしているのだ。
 そしておそらく、その統括理事会のメンバーのシェルターが破壊されたというのは嘘なのだろう。仮に本当であったとしても、そのシェルターとやらは対して重要ではないもののはずだ。
 ならなぜ、そのメンバーは御坂美琴を殺害するように言ったのか?おそらく『空き』が欲しかったのだ『超能力者(レベルファイブ)の枠』に『空き』が。だから御坂美琴を殺害することにした。御坂美琴には絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)関連施設の破壊を行っているという問題があったから。御坂美琴を殺害できれば、絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)の妨害を止めることができ、超能力者(レベルファイブ)の枠に『空き』ができ、研究者に恩を売ることもできる。
 『白衣の男』のいう初春飾利の身体検査(システムスキャン)にデータを改竄した統括理事会のメンバーと御坂美琴の殺害を提言した統括理事会のメンバーは同一人物のはずだ。そのメンバーの目的は超能力者(レベルファイブ)の地位に自らの手駒ないし関係者を入れること。これのはずだ。
 だが、『白衣の男』はそこに待ったをかけた。その理由は今のところ分からないが予想するに『御坂美琴を殺されると困る』理由でもあるのだろう。だが、そんな理由でそのメンバーが引くわけがないし、超能力者(レベルファイブ)の枠に『空き』が欲しいのはほかの統括理事会のメンバーも同じのはずだ。だから、『白衣の男』は妥協案を出した。そしてその妥協案が『御坂美琴による一方通行(アクセラレータ)の殺害』。
 これなら超能力者(レベルファイブ)の枠は『空く』。交渉の最中に『白衣の男』が言っていたが絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)は成功すれば大きな利益の出る、という数ある実験の一つにすぎない。だからきっとほかの統括理事会のメンバーはその案にオーケーを出したのだ。御坂美琴の方が一方通行(アクセラレータ)よりも扱いやすいと判断したから。
 そして、御坂美琴との交渉役として『白衣の男』が現れた。そう考えれば納得が……
(いや、おかしい。ならどうして『白衣の男』は『僕直属の暗部組織のリーダーになってほしい』なんて言ったの?統括理事会が決めたことなら『統括理事会が新しく組織する暗部組織のリーダー』という言い方のはず……。この意味は…………)
 地面に伏した状態のまま御坂美琴は思考を巡らせる。だが、案外あっけなくその理由に行き当たることが出来た。
(たぶん、力関係だ。この『白衣の男』は能力開発分野においての強い権限を持っているって言っていたわよね。ならきっと、統括理事会内でもその権力は強いはず。加えて……そうだ『新しく入る超能力者(レベルファイブ)』。仮にその『新しく入る超能力者(レベルファイブ)』の選定を『白衣の男』ではなく別の統括理事会のメンバーに行わせると取引していたら、私を『直属の暗部組織のリーダー』に出来ることの理由が付く)
 ほぼあっているといってもいい。100点中98点ぐらいの解答。そう、苦罠は新しく入る超能力者(レベルファイブ)の選定に一切かかわらないと公言することで、事実上御坂美琴の所有権を得ていた。それほどまでに苦罠にとって御坂美琴は替えのきかない存在なのだ。
 そのことを、御坂美琴が自覚していれば自分の身を取引の材料として加えることもできるかもしれないが、御坂美琴はそれに気付けない。なぜなら、今までの会話の流れから苦罠は御坂美琴の身柄には大きな価値はないということを示しているからだ。もちろん、ある程度の価値があるからこそ苦罠が御坂美琴の身柄をほっしていることを御坂美琴は自覚している。が、あくまでそれは替えのきく身柄であり、すべてをかけて求めているわけでは無いと御坂美琴は思っている。
 そう、誘導されている。
(そして、問題になるのは『空いた超能力者(レベルファイブ)の枠』に誰が入るのかってこと)
 その答えはもう出ている。
 ここまで御膳立てされてわからないほど御坂美琴は馬鹿ではない。
 新しい超能力者(レベルファイブ)、統括理事会のメンバーの操り人形になるかもしれない超能力者(レベルファイブ)
 その人物は…………………
「その『空いた超能力者(レベルファイブ)の枠』に初春さんが入るかもしれないってこと」
「かもしれないではない。初春飾利が次の超能力者(レベルファイブ)になることはほぼ決まっている。これは統括理事会による確定事項でもある」
 確定事項、その言葉に御坂美琴は思わずくらっと来た。御坂美琴はこの絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)の件から、いやその前ずっと前自分が超能力者(レベルファイブ)になったころから超能力者(レベルファイブ)のつらさは身に染みている。超能力者(レベルファイブ)の地位にいつづけるには生半可な精神力ではだめなのだ。城南朝来の一件からもそれは身に染みて分かっている。だからこそ、そんな地位に初春飾利をつかせるわけにはいかない。絶対にッッッ!!!
「だが、だが、だ。まだこの件には付け入るスキがある。確定してしまったこの事態を覆せるカードがある」
 まるで、初春飾利が超能力者(レベルファイブ)になるのは自分にとっても不都合があるかのような口調で『白衣の男』は言う。
「それが君だ、御坂美琴」
「私が…………事態を覆せるカード?」
「現在、初春飾利をあらたな超能力者(レベルファイブ)にすることに賛成しているメンバーは十二人中六人、そして反対している人間は僕を含めた残りの六人。もしも、賛成派の人間が一人でも反対派に寝返れば初春飾利が超能力者(レベルファイブ)になることはなくなる」
十二人が半数ずつ賛成派と反対派に分かれている現状で、賛成派の意見が通ってしまっている現状を変えるためのカード。それが御坂美琴。
「僕ら反対派の人間は出来うる限りのことをして初春飾利を超能力者(レベルファイブ)の地位につかせないようにしたいんだ」
「……なら、空いた超能力者(レベルファイブ)の地位には誰が入るってわけ?」
 仮に初春飾利が新たな超能力者(レベルファイブ)にならないとしたら、いったいその『空き』はどうなるのか。まさか、今度は反対派の推薦する人間が超能力者(レベルファイブ)の地位につくとでもいうのか。もしも、そうなら御坂美琴は絶対にそれは阻止したいと思った。利己的な思惑からではない。超能力者(レベルファイブ)という地位が必ず闇に巻き込まれる地位だと御坂美琴は知っているからだ。
()()にする」
 だが、『白衣の男』が言ったのは予想外の答えだった。
「空席?」
「あぁ、超能力者(レベルファイブ)第一位の席は空席にする。それが反対派の出した結論だ。……たとえどんな存在が超能力者(レベルファイブ)の席に着くとしてもそれはおそらく統括理事会の誰かに利する存在になってしまうだろう。自分の利する存在ならばいいが、自分の害する存在がついてしまう場合もある。ならば、そんな地位は空にしてしまえ、というのが反対派の人間の出した結論さ」
 いくつもの複雑な思惑が絡まりあっていた。多くの謀略が交錯していた。統括理事会という闇の中で様々な思いがぶつかり合っていた。
 だが結局、今回の話は御坂美琴というカードが誰の手に行くのかという話でしかない。そして、彼女の自覚有る無しに関わらず御坂美琴というカードは死縁鬼苦罠の手に渡ることになっていた。
 これは、結局そういう話だ。



もちろんですが、統括理事会の面々が御坂美琴を求めるのには様々な理由があります。

初春飾利の花飾りの設定は完全にオリジナルですからね!勘違いしないでくださいね。


次の更新は三日後です。


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『白衣の男』と御坂美琴⑮ 受諾か拒否か

「そこで、だ。御坂美琴君にしてほしいことがある。初春飾利を守るためにね」
「……私がカードって言ってたわよね。なんで、こんな私がカードになるわけ?」
「それはね、御坂美琴。君が強大な力を持ちながら完全にフリーな存在だからさ」
「フリーな存在?」
「君は超能力者(レベルファイブ)だ。学園都市の頂点に位置する能力者だ。だが、同時に『闇』に所属していない唯一の超能力者(レベルファイブ)だ」
 初春飾利を守るため、その言葉が本気なのかどうかは御坂美琴には判断できない。だが、少なくとも超能力者(レベルファイブ)の椅子を空席にするという話は真実だと思った。それまでの説明にきっちりと筋が通っていたから。統括理事会が相手じゃ御坂美琴一人では対抗できない。絶対に。だから、御坂美琴はおとなしく話をきいていた。自らがカードになるならそれでもかまわないという覚悟で。
「僕ら統括理事会の面々は互いに互いを監視しあっている。超能力者(レベルファイブ)の空席をめぐる話で互いに牽制しあっている今なんかは特にね。もしも、統括理事会の誰かが別派閥の、この場合は賛成派なら反対派の、反対派なら賛成派の派閥だが、とにかく別派閥の人間を排除しようとしたらその動きは必ず察知されるだろう。それぐらい今の僕らは警戒しあっている」
「排除って言うのは…………殺すってことよね」
「一概にそうとは言わないが、まぁ大方そんな感じだろう。少なくとも僕は殺すつもりだ。暗殺するつもりだ」
 暗殺。暗殺。暗殺。
 頭の中でリピートされる『暗殺』という言葉。『白衣の男』がいう御坂美琴がカードとなるという言葉の意味。そして、フリーな超能力者(レベルファイブ)という言葉。もしかして、と御坂美琴の頭に一つの考えが浮かんだ。普段の御坂美琴なら絶対に浮かばないような考えだったが、御坂美琴はもう変わってしまった。自覚していないが変わってしまった。『白衣の男』と言葉を交わして、思考を誘導されて無意識のうちにほんのわずかに変わってしまった。
「ここで君の出番が来るのさ。統括理事会のメンバーの動きは必ず察知される。だが、統括理事会以外の人間ならどうだ?統括理事会以外の誰かが動けばどうだ?統括理事会内に注意をむけている今それ以外の人間の動きは察知されにくい。御坂美琴、君が賛成派の人間の内一人でもいいから排除してしまえば、一時的にだが反対派が多数になり初春飾利が超能力者(レベルファイブ)になるという話は流れるだろう」
「それは………………………私に賛成派の人間を殺せと言っているの」
「ああ。そうだ」
 ドクン、ドクンといやに心臓の鼓動が響く。全身から嫌な汗が噴き出てくる。
 人を殺す。友人のためという大義名分を掲げて人を殺す。
 ()()()()
(ッッッッッッッ!!!!)
 心的外傷(トラウマ)として御坂美琴の脳裏に刻まれている光景が呼び起される。八月十五日深夜の光景が呼び起される。
 ミサカ9982号と一緒に猫を助けた記憶が、
 ミサカ9982号とアイスクリームを食べた記憶が、
 ミサカ9982号とゲコ太の缶バッジを取り合った記憶が、
 そして、
 ミサカ9982号の切断された足が美琴に記憶に浮かび上がり。
(落ち着けッッッ!!!)
 無理やりその光景を消す。
 今はそんなことを考えるべきではない。今は過去の光景を呼び起こすべきではない。今は心的外傷(トラウマ)に惑わされるべきではない。
 考えるべきは未来(さき)だ。もしも、御坂美琴が統括理事会のメンバーを殺したとしてどんな影響が出るかだ。
(そうだ。落ち着きなさい……。落ち着いて、最初から考えてみなさい。……そもそもの話は絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)の中止計画について、どうやって妹達(シスターズ)を救うかについての話だった。その後、私が『白衣の男』の真の目的を看破して『暗部組織』の話になった。そして、素養格付(パラメータリスト)超能力者予備集団(セブンバックアップ)の話に発展していった。さらに今初春さんが超能力者予備集団(セブンバックアップ)の一人として次の超能力者(レベルファイブ)に選ばれてるって話をされた。ここまでが今までの流れであっているはず。……今『白衣の男』は私に初春さんが次の超能力者(レベルファイブ)になることに賛成する人間を殺すことを依頼してる。確かに、私がその人間を殺せば初春さんが助かるかもしれない。『白衣の男』の語り口からして超能力者(レベルファイブ)の席を空席にしたいっていうのは本当だろうし。…………………いや違うッッッ!!!初春さんを助けるってことは私が『暗部』に落ちるってことと同義だ。だって、統括理事会のメンバーを殺してしまえばもう絶対に後戻りはできない。例え何らかの方法で妹達(シスターズ)を救えたとしてもその後の保護が不可能になっちゃう)
 もう、八方ふさがりだといってもいい。
 まず、この後絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を御坂美琴が何らかの方法を用いて止めるとする。もちろん御坂美琴単独でつまり『白衣の男』の提案を蹴ってだ。この場合絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止めた後に初春飾利を救う手立てがない。統括理事会のメンバーの居場所を御坂美琴は知らないからだ。居場所がわからない人間を殺すことなんて出来ない。
 万が一奇跡が起こって統括理事会のメンバーの居場所を全員分知れたとしよう。だが、出来てそこまでだ。統括理事会のメンバーの詳細を知らない御坂美琴では誰が賛成派の人間かわからない。初春飾利を救ううえで『白衣の男』の協力は必須だと言える。
 さらに、御坂美琴が『白衣の男』の提案を蹴ったことで『暗部』の人間が御坂美琴を殺しに来る。一方通行(アクセラレータ)の代わりに御坂美琴を殺して超能力者(レベルファイブ)の席を空けるために。仮に御坂美琴が統括理事会の賛成派の人間を殺すことではなく初春飾利を守ることに全力を注いだとしよう。それこそ二十四時間ずっと監視するレベルで護衛したとしよう。だが、それでは結局初春飾利は守れない。だってどれくらいの戦力があるかもわからない『暗部』対しての戦いなんて絶対どこかで電池切れを起こす。御坂美琴は永遠に戦えるわけでは無いのだから。
 しかも、だ。御坂美琴は単独で妹達(シスターズ)全員を保護できるだけの力はない。学生一人じゃ一万人は保護できない。
 次に、絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を御坂美琴が単独で止められず御坂美琴が死亡ないし重傷を負ってしばらくの間動けなくなってしまった場合。この場合も同じだ。いや、状況は余計に悪いといってもいい。御坂美琴が動けないのだから初春飾利を守る戦力がない。その上で妹達(シスターズ)を救うこともできない。御坂美琴はその時動けないのだから。
 第三に絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)のことは完全に諦め、つまり妹達(シスターズ)は見殺しにして『白衣の男』と協力して初春飾利を救う場合はどうだろうか。
 『白衣の男』と協力して初春飾利を救う、それはつまり統括理事会の賛成派のメンバーの居場所を『白衣の男』に教えてもらうということだ。そして、御坂美琴が統括理事会のメンバーの一人を殺す。問題となるのはこの後だ。はたして御坂美琴が統括理事会のメンバーを殺したことは発覚しないのか。絶対に発覚する。御坂美琴は殺した後のあと処理のやり方なんて知らないし、『白衣の男』は後処理に協力しない。
 なぜなら、御坂美琴の犯した殺しが発覚すれば御坂美琴は統括理事会から追われることになり、そんな彼女が頼ることができるのは同じ統括理事会のメンバーで唯一の知り合いである『白衣の男』だけだからだ。このパターンでは結局御坂美琴は暗部に落ちてしまう。しかも妹達(シスターズ)は救えずに。
 さらに、御坂美琴が妹達(シスターズ)を『白衣の男』の提案に乗って止めた場合。このパターンだと、この時点で御坂美琴は『暗部』に落ちる。
 結局最良の展開、妹達(シスターズ)を救えてアフターケアも出来たうえで初春飾利を超能力者(レベルファイブ)にせずに御坂美琴が『暗部』に落ちない。こんな最高の結末(ハッピーエンド)にはどうやったってたどり着けないのだ。どれかをあるいは複数を諦めるしかない。無茶をして全部、何もかも失ってしまうなんて最悪の展開だ。
(だから、私が選ぶべき選択は…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………)
 そんな御坂美琴を死縁鬼苦罠は黙って見つめていた。御坂美琴が苦悩しているさまがありありと分かる。当たり前だ。なんのためにわざわざ初春飾利の話を出したと思っている。それは、御坂美琴を確実に『暗部』に落とすため。御坂美琴を絶対に苦罠の戦力に加えるため。優秀な頭脳を持つ御坂美琴ならすでに気づいているはずだ、妹達(シスターズ)を救えて初春飾利も救うためには御坂美琴が『暗部』に落ちるしかないということに。
「さぁ御坂美琴」
 地に伏した御坂美琴としゃがむことで視線を合わせて、真正面から御坂美琴を見つめて死縁鬼苦罠は語る。
「君はそんな彼女を、統括理事会のおもちゃになって、自分の本当の能力も知らされず超能力者予備集団(セブンバックアップ)などというものに勝手に選ばれて、悲劇的な人生を送ることがほぼ確定してしまっている初春飾利を救ってあげたいとは思わないかね」
 誠実な口調だった。嘘をついているとは思えなかった。
「そして同じように絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)などという馬鹿げた実験のために人形のように消費され続ける妹達(シスターズ)を救ってあげたいと思わないかね」
 言葉()が御坂美琴を侵食していく。
「君ならそれができる」
 いやらしい声だった。
「君になら、いや君だけが初春飾利を救える」
 溶けるように声が脳にしみこんでいく。
「僕の手を取り、僕とともに『闇』の中で戦ってくれるのなら初春飾利のような悲劇も減らせるかもしれない」
 甘い誘惑。甘い理想論。
妹達(シスターズ)のような悲劇も絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)のような惨劇も君と僕が手を組み協力し合えば事前に止めることがきっと出来る」
 学園都市の『闇』の純度を減らせるかもしれないという誘惑。
「もちろん、君がこちら側についてくれるというのなら僕は君に対して最大限の便宜をはかろう。妹達(シスターズ)全員を保護することは勿論として、君の友人知人知り合いレベルの人間まで出来る限り守りきるよう努力しよう」
 統括理事会という最高位の地位に所属している権力者と超能力者(レベルファイブ)という軍隊すらも軽く蹴散らせるほどの力を持った存在が手を組めば本当にそんなことも可能になるかもしれないという想像。
「さぁ」
 白い白衣に包まれた腕を伸ばし、握手でも求めるかのように気楽に『白衣の男』は言う。
「僕の手を取り、ともにこの街の悲劇を減らそうじゃないか」
 対して。
 御坂美琴はまっすぐ死縁鬼苦罠の目を見つめて。
 そして答えた。









「断るわ」







次の更新は三日後です。


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『白衣の男』と御坂美琴⑯ 交渉終了 死縁鬼苦罠とその部下たち① 四人

ごめんなさい、予約投稿ミスって昨日投稿できませんでしたorz


この話で御坂美琴と死縁鬼苦罠の交渉は終了です。
やっと、やっと、やっと、やっと、やっと、やっと、やっと、やっと終わった。
こんなに長くなるなんて当初は想像してなかったわ……。
プロットなら四話程度で終わるはずだったんですよ………。本当に。

あっ、前話では騙すような真似をしたごめんなさいね


「さぁ」
 白い白衣に包まれた腕を伸ばし、握手でも求めるかのように気楽に『白衣の男』は言う。
「僕の手を取り、ともにこの街の悲劇を減らそうじゃないか」
 対して。
 御坂美琴はまっすぐ死縁鬼苦罠の目を見つめて。
 そして答えた。








「断るわ」















 ()()()()()()()()()()()()()ッッッッッッッ!!!!
 




 言えない。言えるわけがない。言えるはずがない。そんなこと。
 だって、この提案を断るということは妹達(シスターズ)に、初春飾利に死ねって言っているようなものだ。
 死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。
 大切な妹だから。例えいくらでも増産できる、単価にして18万円の存在だとしても、本当に大切な妹だから。
 大事な友人だから。御坂美琴のせいで超能力者(レベルファイブ)なんて最悪の地位につかせるわけにはいかない。本当に大切な友人だから。
 どちらかを見捨てることなんて出来ない。
 両方とも見捨てるなんてもってのほかだ。
 だから、結局御坂美琴は死縁鬼苦罠の提案を断れない。あぁ、と御坂美琴は諦観した。もうだめだ。御坂美琴にはもう『白衣の男』の手を取る道しか残されていない。権力でも暴力でも財力でも『白衣の男』に勝てない御坂美琴はもう『白衣の男』のもとにくだるしかない。結局御坂美琴ではだめだったのだ。例え、どれだけの言葉を重ねたとしてもどれだけの力を揮ったとしても、おそらく数年単位でこの瞬間のために準備してきた『白衣の男』にたった今『白衣の男』の存在を知った御坂美琴が勝てるわけがなかったのだ。
 御坂美琴は自分が『暗部』に落ちた後のことを考えてみる。『暗部』に堕ちるということはもう表世界にはいられないということだろう。常盤台も退学しなければならないだろうし、白井黒子とも佐天涙子とも初春飾利とも固法美偉とも湾内絹保とも婚后光子とも泡浮万彬とも会うことは出来なくなるだろう。『暗部』の人間が『表』の人間に会うことなんて出来ないだろうから。
(それは……………寂しいな)
 暗部組織というものがどういうものなのかは御坂美琴にはよくわからない。かつて戦った『アイテム』という組織を見るに少数精鋭の、『闇』に関わる人間からの依頼を受けてそれを遂行する組織という印象だった。
 御坂美琴は自分を社交性のある方だと自負しているが、それでも『暗部組織』という枠組みの中で信頼できる友人が出来るかどうかは分からない。もしかしたら殺伐とした関係性になってしまうかもしれない。その場合はやっぱり寂しいと思ってしまうだろう。『表』にいた御坂美琴ではきっと『暗部』になじむことは早々にはできない。だからこそ、出来うるならばチームの中でくらいは仲のいい背中を預けられる友人が出来ればいいなと思った。命を懸けて戦うのならば特に。
 でも、メリットもちゃんとある。御坂美琴が暗部に堕ちることで妹達(シスターズ)と初春飾利は確実に助けることが出来るだろう。彼女たちは御坂美琴に対する人質として機能するのだから。御坂美琴が役に立つうちは彼女たちは殺されたりしないはずだ。
 それに『暗部』に入れば今まで手に入らなかった、手に入れることが出来なかった情報だって手に入るだろう。セキュリティランクAどころか一般ではどう頑張っても手に入らない、御坂美琴のハッキングをもってすら手に入れられない特殊な情報すら手に入るかもしれない。これは御坂美琴が『表』の友人を守るにあたって大きな力となる。これだけでも御坂美琴が『暗部』に堕ちる理由にはなりうる。
(ここはプラス思考で考えましょう。私は『白衣の男』に脅されて『暗部』に堕ちるんじゃない。大切な存在を守るために、自らの意志で『暗部』に堕ちるのよ)
 そうでも考えないと心が壊れそうだった。

 そして、ついに御坂美琴はその言葉を言う。
 『白衣の男』が、いや、死縁鬼苦罠が望んだその言葉を。

「…………………ったわ」
「ん?聞こえないが」
「アンタの部下になって、アンタの組織する『新しい暗部組織』とやらのリーダーになるって言ってんのよ。…………これでいいんでしょ」
 苦罠はその言葉に静かな笑みを浮かべた。思わず哄笑をあげそうになる。それほどまでに苦罠は今気分がよかった。予定通りとはいえあの御坂美琴を手駒に加えることが出来たのだから。
(さてさて、幻生にも御坂美琴が手駒に加わったと報告しておかなければな。これで『例の取引』も順調に進むだろう)
 実のところ、苦罠が御坂美琴を求めていたのは彼だけの意思ではない。彼の協力者や、彼のブレインである※※※※の意見もあった。特に、協力者である幻生は強く御坂美琴の身柄を求めていたので、余計にここで御坂美琴の身柄の確保を失敗するわけにはいかなかった。まぁ、結果論で言えば当初の予定通りに御坂美琴を部下にできたのだから、その点で言えばさすがと言えるだろう。
「もう能力を解除していいぞ、水跳(しぶき)
 立ちあがった苦罠は御坂美琴の背後にいる『誰か』に対して声をかけた。すると、御坂美琴を地面に縫い付けていた『何らか力』は消えて、御坂美琴は自由になった。
(やっぱり、私を拘束していたのは何らかの能力……水跳(しぶき)っていうのがその能力者の名前みたいね)
 水跳(しぶき)。その名前を一応御坂美琴は記憶しておくことにした。その水跳(しぶき)という人物が『白衣の男』の部下ならば今後御坂美琴も会うことがあるかもしれないと思ったからだ。
「さて、それじゃあ御坂美琴。早速で悪いがまずは君の第一の目的である絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止めに行くとしようか」
 苦罠に続くように立ち上がった御坂美琴はパンパンと地に伏してしまったことでついた汚れを払いながら『白衣の男』に問う。
「それで、まだ肝心なことを聞いてないんだけど。いったいどうやって(第三位)一方通行(第一位)を殺すってわけ」
 今まで苦罠と美琴の間では複雑極まりない交渉が行われていたため肝心なその方法を御坂美琴は聞いていなかった。
「それについては外で聞いてくれ」
「……?どういうことよ、外って」
「外に移動用の高速移動ステルスヘリを待たせているんだ。そのヘリの中で僕の部下が作戦の概要については説明する手はずになっている」
「アンタは来ないわけ?」
 まるで自分自身はヘリに乗らないと言っているような言い口に御坂美琴は困惑した。てっきり『白衣の男』本人が作戦概要について説明すると思っていたからだ。
「行かない。というか行っても意味がない。なんといっても僕は作戦概要を知らないからね」
「はぁ!!!!!!!」
 御坂美琴は驚愕した。作戦概要を知らないのに『白衣の男』は自分に対してずっと交渉をしてきたのかと。もしも、御坂美琴が作戦の詳しい内容について聞いてきたらいったいどうするつもりだったのか。いやきっとのらりくらりとごまかすつもりだったのだろう。つくづく格の違いというか居場所の違いを思い知らされる。
「だからほら、早く外にいったらどうだ。もうそろそろ午後八時をまわるぞ。僕はいいが、君には時間がないんじゃないのか」
「ッッッッッッッ!!!!」
 時計を見てみればいつの間にか午後八時に近い時間になっていた。まずい、『白衣の男』は実験場までの移動に20分近くかかると言っていた。今すぐにいかないときっと実験開始時刻には間に合わない。だから、御坂美琴はまだ『白衣の男』に対して聞きたいことがあったが出口に向かって走り出した。それを苦罠は見送る。苦罠が『策』の内容を知らないのは本当だし、苦罠自身がヘリに乗ることで撃墜の可能性を増やすことにもなる。安全性という意味でも苦罠は御坂美琴についていくわけにはいかない。
「一ついい?」
 出口に向かう途中、御坂美琴は一度だけ立ち止まって『白衣の男』に質問した。
「かまわないが」
「結局、私を地に伏せさせたのってどんな力だったわけ?」
 御坂美琴はずっと疑問に思っていた。電気信号を制御して人体の限界能力をはるかに超えた力を揮うことのできる状態になった御坂美琴を地面に縫い付けていた力はいったい何なのかということだ。重力を操っていたわけでは無いのは体感で分かる。体は地面に縫い付けられていたが負荷がかかっているというわけでは無かった。どちらかというと()()()()()()()()()という感じだった。だからこそ、よけい不思議に思っていた。いったい何の能力なのか、と。
「あぁ、君を縛っていたのは不動冥奧(ストップモーション)と呼ばれる、物体をその場所に完全に固定する能力さ」
「なるほどね。……物体の完全固定か」
 そうつぶやいて、今度こそ御坂美琴は研究所の外へ向かって走った。今ここで能力を明かすということはその不動冥奧(ストップモーション)という能力はここで明かしてもいい能力なのだろう。つまり、御坂美琴を制するための切り札は不動冥奧(ストップモーション)以外にも存在するとみてもいい。そのことを胸に刻んで御坂美琴は今度こそ外に出ていった。















 死縁鬼苦罠は御坂美琴が完全にこの研究所を出ていったのを確認した後、この場に残っている自分の部下たちに向けて声をかけた。
「やれやれ、お疲れさま。君たち()()の力がなければ僕はこの場所で死んでいたよ。感謝するよ、特に相園美央(あいぞのみお)、君にはね」
 ()()
 死縁鬼苦罠はこの場所に()()の人間を連れてきていた。
 一人目は前述したように巳神蔵豈唖(みかぐらあにあ)大能力者(レベルフォー)水分生成(クウォータージェネレーション)能力者。
 二人目は殿岳深罠(てんがくみみん)大能力者(レベルフォー)染まらない透明(インビジブレ)を持つ能力者。
 そして()()()柿柘榴水跳(かきざくろしぶき)強能力者(レベルスリー)不動冥奧(ストップモーション)を持つ能力者。
 最後に()()()相園美央(あいぞのみお)。元白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)所属、現在は死縁鬼苦罠の部下である大能力者(レベルフォー)油性兵装(ミリタリーオイル)を持つ能力者。
 柿柘榴水跳(かきざくろしぶき)相園美央(あいぞのみお)のことを御坂美琴が電磁レーダーを使っても確認できなかったのは当然染まらない透明(インビジブレ)によるものだ。染まらない透明(インビジブレ)を二人の体に使っていたことで二人は電磁レーダーの探索に引っかからなかったのだ。
 これで、染まらない透明(インビジブレ)は使用限界まで使われた。0.9立方メートルの『理論純水』と二人の『人間』が染まらない透明(インビジブレ)を使われていたものですべてだ。
 ではなぜ深罠のことを御坂美琴は視認できなかったのか、その答えは実に単純深罠は周囲同化服(カメレオンスーツ)と呼ばれる周囲の景色と同化し視覚ではとらえられないようになる『暗部』特注の洋服を全身に着ていたからだ。これが無ければ深罠は一部『理論純水』に使っている染まらない透明(インビジブレ)を解除して自分自身に使わなければならなかっただろう。
 後半の二人は目立った活躍をしていないように思えるが実のところ豈唖と深罠の二人よりも活躍している。不動冥奧(ストップモーション)という能力は『視認したモノを固定する能力』、油性兵装(ミリタリーオイル)という能力は『油分の分解と再構築を自由自在に行う能力』。どちらも恐ろしく使える能力だ。
 柿柘榴水跳(かきざくろしぶき)不動冥奧(ストップモーション)は予想はついているだろうが御坂美琴を地面に縫い付けていた能力の正体だ。
 ただ、御坂美琴を地面に縫い付けるにあたって、柿柘榴水跳(かきざくろしぶき)不動冥奧(ストップモーション)の能力を御坂美琴本人ではなく御坂美琴の周りの空間に使用した。すると、その能力を使った周りの空間は固定され御坂美琴に対して鎖のような効力を持つ。
 御坂美琴本人に能力を使わなかったのは御坂美琴の体を抑え込める自信が水跳になかったからだ。水跳の能力は『視認しているモノ』にのみ有効だ。だから、御坂美琴の()()()()()()()までは固定できない。電気信号を固定できないということは固定できるのはあくまで御坂美琴の体表面だけということ。御坂美琴の内側を固定することも出来ないということ。筋肉を、電気信号を、神経を固定できないのであれば強能力者(レベルスリー)程度の力しか持たない水跳の能力では拘束を力づくで破られる可能性がある。
 例えば、雷撃の槍などを放った反動で体を動かされる危険性がある。だからこそ、水跳は空間を固定したのだ。『状況として固定された空間』では雷撃の槍が発生することはない。なぜなら『雷撃の槍が放たれていない空間』としての『状況』を『固定』しているからだ。このあたりの判断はかなり称賛されるべきものだろう。なんといっても実際に御坂美琴は雷撃の槍を撃っていたのだから。
 もしも水跳が空間ではなく御坂美琴本人を固定していたら、間違いなく御坂美琴は拘束から逃れていただろう。その点で水跳の判断はかなりナイスなものだったと言える。
 さらに、だ。実のところ水跳がいなければ苦罠は死んでいた。御坂美琴に直接襲われて、という意味ではない。御坂美琴が苦罠に近づくまえ、御坂美琴が撃った超電磁砲(レールガン)によって死縁鬼苦罠は死んでいた。水跳がとっさに能力を使わなければあの場面で苦罠は死んでいたのだ。
 そう。
 巳神蔵豈唖は水分生成(クウォータージェネレーション)の能力で御坂美琴の超電磁砲(レールガン)を防ぐことなどできていなかった。
 御坂美琴の超電磁砲(レールガン)はたかだが『理論純水』と『氷』で防げるほど甘いものではなかったのだ。



予定通りこの話で御坂美琴と死縁鬼苦罠の交渉は終わりました。
この後一話、死縁鬼苦罠サイドにの話を続けます。主に超電磁砲を防いだ本当の方法と御坂美琴をリーダーとして作る新しい暗部組織のメンバーについての話を。



次の話で※※※※の正体がわかります。

次の更新は3日後です。


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死縁鬼苦罠とその部下たち② ブレインの名

この小説っていつ終わるのかなぁ。
予定の10倍くらいの長さになってるんだけど…………


 御坂美琴による超電磁砲(レールガン)の発射のシーンをもう一度思い返してみよう。まず、御坂美琴が超電磁砲(レールガン)を撃つ。次に巳神蔵豈唖が超電磁砲(レールガン)の電流を『理論純水』で遮断。その後同じく『理論純水』で超電磁砲(レールガン)を受け止めるも失敗。超電磁砲(レールガン)を防ぐため巳神蔵豈唖は『理論純水』を『氷』としてその氷を超電磁砲(レールガン)を巻き込むように移動させることで超電磁砲(レールガン)の軌道をずらし超電磁砲(レールガン)を防いだ。
 
 疑問には思わないだろうか。不思議には感じないだろうか。
 たかだか、『理論純水』ごときが、『氷』程度が超電磁砲(レールガン)を防ぎきれるものなのかと。

 巳神蔵豈唖は『理論純水』では超電磁砲(レールガン)を防げないと感じたから『氷』で超電磁砲(レールガン)を包んで超電磁砲(レールガン)の軌道を逸らそうとした。だが、冷静になって考えてみよう。どう考えてもそんなことじゃ超電磁砲(レールガン)は逸らせない。『氷』で超電磁砲(レールガン)を包んで超電磁砲(レールガン)の軌道を逸らす?いやいや、逸らしきる前に『氷』が超電磁砲(レールガン)に削りきられる方が早いだろう。そして、結局は超電磁砲(レールガン)はほぼ直進して死縁鬼苦罠に当たってしまう。
 それを防いだのが柿柘榴水跳(かきざくろしぶき)不動冥奧(ストップモーション)だ。普通に考えれば『氷』は超電磁砲(レールガン)に削られきって超電磁砲(レールガン)は死縁鬼苦罠に当たってしまう。が超電磁砲(レールガン)が『氷』を削って直進するのは、当たり前だが超電磁砲(レールガン)自身が莫大な運動量をもって『動く』からだ。ここで不動冥奧(ストップモーション)の出番だ。不動冥奧(ストップモーション)という能力は『視認したモノを固定する』というモノだ。
 そう、水跳は超電磁砲(レールガン)として発射された()()()の『前方に動く状況』をその能力(チカラ)をもって固定したのだ。『前方に動く状況』を『固定』。つまり、音速の三倍で進むコインの一瞬の状況を固定したのだ。
 『前方に動く状況』を『固定』されたコインはその場から前に進む力を失う。あの時の状況を思い返してみれば、確かに一瞬だけコインは静止していたはずだ。そしてコインが静止した状態の中で、豈唖は『氷』を動かした。裏で水跳が協力していたからこそ超電磁砲(レールガン)を逸らすことが可能になったのだ。
 ちなみに、水跳は『氷』の中にあるコインを視認できたのかという問題だが、これは問題ない。『理論純水』で作った氷はほぼほぼ透明だからだ。氷が透明ではない理由は結局のところ水の中に不純物があるからという理由が大きい。だから、不純物のない水『理論純水』なら透明な氷が出来るのだ。
 では次に相園美央(あいぞのみお)の活躍について語ろう。先ほど水跳がいなければ苦罠は死んでいた、と語ったが実のところ美央がいなくても苦罠は死んでいた可能性がある。死ぬというのは大袈裟だが、小さくない怪我を負っていた可能性があるのだ。
 超電磁砲(レールガン)を逸らすことは豈唖と水跳の協力プレイによって成功したが、もう一度だけ超電磁砲(レールガン)を逸らしたシーンを思い返してみよう。
 超電磁砲(レールガン)は本当に完全に逸らすことが出来ていたのか?
 実のところ超電磁砲(レールガン)を完全に逸らすことは出来ていない。超電磁砲(レールガン)はほんのわずかに苦罠の左脇腹を()()()()()のだ。だが、苦罠は超電磁砲(レールガン)が掠ったにもかかわらず痛みに顔をしかめることも、流血することもなかった。
 これこそが美央の活躍だ。美央は超電磁砲(レールガン)が苦罠を掠るずっと前からその能力油性兵装(ミリタリーオイル)をもって苦罠の全身に再構築した石油を配置していた。この再構築した石油は真っ向から超電磁砲(レールガン)を受け止めきれるほどの頑丈さ強固さを持っているため、超電磁砲(レールガン)が掠っても苦罠は傷を負うことはなかったのだ。
「べっつにー。契約を守っただけですし」
 ものすごく煩雑な口調で美央はそう口にした。彼女からしたら苦罠は西東颯太を確実に守るために契約を結んでいる存在にすぎず決して苦罠に好感情を持っているわけではないのだ。まして、深罠のように利害関係なく苦罠を守ることなどあり得ない。もしも西東颯太に危害が及ぶようなことがあれば彼女は間違いなく苦罠のことを殺すだろう。
「嫌われてますねぇ、嫌われてますねぇ。苦罠さん」
 くすくすと笑いながら水跳は嘲る。彼が苦罠を守った理由は美央や深罠の理由(わけ)よりももっと単純だ。金、以上。……もっと詳しく言うと水跳は苦罠の正式な部下ではない。外部からの雇われだ。
 彼の本来の所属は彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)と呼ばれる学園都市の『闇』に存在するフリーの傭兵組織で、現在この彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)と苦罠は超長期契約を結んでいる。苦罠がこの組織と超長期契約を結んだ理由は二つ。自分の身を守るためと、そして()()()()()()()()()()だ。だから、水跳は金さえ払えば基本的には苦罠に従う。もっとも金が払われなければ一瞬で裏切るだろうが。傭兵なんてそんなものだ。
「水跳もお疲れ。助かったよ、君が不動冥奧(ストップモーション)でコインを止めてくれなければどうなっていたことか」
「よく言うねぇ、よく言うねぇ。どうせ服の下には油性兵装(ミリタリーオイル)式の防御があるくせに」
 水跳はきちんと見抜いていた。例え水跳が不動冥奧(ストップモーション)超電磁砲(レールガン)を止めず超電磁砲(レールガン)が苦罠に直撃することになったとしても油性兵装(ミリタリーオイル)超電磁砲(レールガン)が防がれるだろうということに。この辺は傭兵としての観察眼のたまものだ。
「ははは、何のことかな。ま、それはそれとして水跳、君はもう撤収してもらって結構だよ。金についてはいつものように純金で第三金庫に置いておくから」
「了解、了解。一ミリグラムでも足りなかったら地の果てまで追いかけてやるから」
 撤収していいと言われたので水跳は即座に帰っていった。傭兵なので契約金以上のことはしないし雇用者の命令に基本的に忠実なのだ。
「豈唖、深罠。君たちもポイント36に帰ってもらって構わないよ。僕はまだここで相園美央に話すことがあるから、後で帰るけどね」
「……お言葉ですが苦罠様。こんな奴と二人きりになるなんて危険では」
 深罠はめちゃくちゃ警戒した視線を美央に向けた。それもそのはず、深罠からしたら美央はいつ苦罠(飼い主)に牙を剥ける狂犬となるかわからない爆弾だからだ。
「警戒しすぎじゃないかにゃーん?」
 おちょくった態度で美央は深罠を煽る。苦罠に忠誠を誓う深罠とあくまで利害の一致で行動を共にしている美央とではもうどうしようもないほど相性が悪かった。
 ちなみに豈唖は苦罠の命令に忠実、というか異を唱えることは絶対にないので深罠を放って彼らがポイント36と呼ぶ住居に帰ってしまっている。
「心配ないさ、彼女もこの場で僕をどうこうするほど馬鹿ではないだろう。何より僕に危害を加えてしまえば彼女の大切な西東先生が」
 苦罠が西東先生と口にした瞬間美央の顔が般若のように歪む。
 そして、

 キュガッッッと風切り音が鳴り苦罠の顔に油性兵装(ミリタリーオイル)で作られた槍状の武器が突き付けられた。

「苦罠様ッッッ!!!??」
 その瞬間的な行動に驚いた深罠が大声をあげる。そして、一瞬で懐から大口径の拳銃を取り出し美央に向けて構えた。洗練された何千回も繰り返したと分かる動作だった。
 だが、その行動を見ても美央は顔色一つ変えない。例えば窒素装甲(オフェンスアーマー)と呼ばれる能力がある。この能力ならば超至近距離から大口径拳銃の弾丸を発射されても完全に防げる防御力がある。美央の能力油性兵装(ミリタリーオイル)もそれと同じだ。超至近距離からの大口径拳銃の一撃などとるに足らない程度の威力でしかない。
「銃を下げろ、深罠。そんなことをしても無意味だ」
「しかしッッッ!!!」
「深罠」
 静かな、深みのある声だった。特に力強いという印象ではない、何か迫力があるというものではない。けれど響く、だけど届く。その声は『人に聞かせる』声だった。
「分かってると思いますけどぉ、西東先生に手ェ出したらぐちゃぐちゃのミンチにしますから」
「分かっているとも。君が契約を守る限り僕も契約を守るさ」
 一瞬だけ苦罠と美央の交錯する視線に何かが宿った。そこにある思惑、意識を深罠では読み取れなかった。ある意味では無条件の忠誠を誓っている深民よりも深いところでこの二人はつながっているのだ。そして、油性兵装(ミリタリーオイル)製の槍は一瞬で姿を消した。
「深罠。三度目は言わないぞ、ポイント36に帰れ。僕は相園美央と話すことがある」
「……………………了解しました」
 私納得してませんよオーラを出しながらも深罠はすごすごと引き下がっていった。ただし目線は美央のことをにらみつけて、それを見て美央は手をしっしっと振る。ベキリ、とめちゃくちゃむかついたが苦罠に三度目は言わないとまでいわれて引き下がらないのならばそれは苦罠の格を下げることになってしまう。だから全く納得していないが、それでも深罠は引き下がることにした。
 そして、苦罠は美央を睨み続けつつ研究所から出ていった深罠のことをやれやれと思いつつ用件を切り出した。
「単刀直入に言おう。君にはこの後、僕が組織する御坂美琴をリーダーとした新しい暗部組織『ボックス』のメンバーになってもらう」
「ふぅん」
 ふぅん、と美央は苦罠の話し合いという名の命令に言葉をこぼした。どのみち、現段階で美央は苦罠に逆らう気はない。自らの命よりも大切な存在である西東颯太が苦罠の手の内にあるといっても過言ではないからだ。もしも、美央が苦罠に逆らうとしたらそれは西東颯太を自分の手で確実に守れるという確信を持てた時だ。
「まぁ、いいですけど……なぜ私なんですか」
 逆らう気はないが、一応理由は聞いておかなければならない。相園美央は苦罠の奴隷になっているわけでは無いのだから。その思惑くらいは把握しておくべきだろう。
「理由は四つ。まず、君が単独で御坂美琴に比肩しうる能力者だということ。二つ目にいざというときに御坂美琴を抑えうることが可能な人材であるということ。そして、三つ目に君の能力(チカラ)は一見しただけじゃ把握がしづらいということ。最後に、僕が個人的に君を信用しているということ」
「信用?はっ、利用の間違いじゃないんですかぁ」
「そこら辺はものは言いようといったところさ。……ともかくこの件受けてくれるね?」
「まぁ、いいですけどね。用件はそれだけですか、なら私はもう帰りますけど」
「愛しの西東先生のもとへ……かい?」
 出口に向かって足を進めていた美央はその言葉に足を止めた。そして顔だけ苦罠の方を向いて言った。
「えぇ、愛しの西東先生のもとへ……です」
 まさか、素直に自分の行く場所を言うとは思わなかったのでほんの少しだけ苦罠はあっけにとられた。それを見た美央はしてやったりという表情を浮かべて、そして油性兵装(ミリタリーオイル)をつかった高速移動で研究所から出ていった。
「やれやれ、一本取られたかな」
 ふっ、とほんの少しだけ苦罠は笑った。それは美央が順調に成長していることへの笑みであり、自分が一本取られたという自嘲でもあった。そして、右ポケットから特注の携帯を取り出す。
 苦罠が今持っている携帯電話は学園都市最先端中の最先端の技術が使われたものだ。本来は携帯電話というのは電波を基地局に発信して様々な通信を行うがこの最新式携帯『全宇宙空間内通信携帯電話』は違う。この携帯は宇宙マイクロ波背景放射とよばれる宇宙に満ちている電磁波を利用している。だから、地球に居ながらにして宇宙空間にいる人間と通話をすることが可能となるのだ。もちろん、モードの切り替えによっては地球上にいる人間とも通話をすることは可能であるのだが。
 そして苦罠は11216311219611#9632969363とリズミカルに、規則性を持った動きで携帯の番号をプッシュした。
 プルルルルプルルルルプルルルルプルルルルと四回ほどコール音が鳴り響き、
 ガチャッという音とともに通話が開始された。
「やぁ、電話で話すのは久しぶりだね。郭夜(かぐや)
「正確にいうなら八か月と三日ぶりだ、私の共犯者。では報告を聞こうかな、一応見てはいたが詳しいことは映像ではわからないからね」
 死縁鬼苦罠の電話の相手、それは彼のブレインであり、宇宙空間に存在するひこぼしⅡ号に住まう統括理事会メンバーから『忌まわしきブレイン』と呼ばれる存在。埒外にして規格外の頭脳を持つ学園都市特記戦力の一人にして、風紀委員長白白白と同じ造られた子供たち(プログラムチルドレン)と呼ばれる子供。
 天埜郭夜(あまのかぐや)だった。



遂に今まで※※※※と記されていた人間の正体が明らかになりました。※※※※の正体は新約10巻にほんの少しだけ登場した存在。天埜郭夜でした。
個人的にお気に入りのキャラなので物語の深いところに関わってきます。
彼女のこと分かった人どれくらいいたかな?

次の更新は4日後です。


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御坂美琴④ 第10032次実験実験場へ 御坂美琴と一方通行④ 頂点の二人

 御坂美琴は研究所から出た後『白衣の男』が外にあると言っていたヘリを探していた。日が落ちかけていて周囲が暗いためヘリがどこにあるか把握できないのだ。
「あぁ、もう。時間がないってのに」
 焦りが胸を満たす。もう、あまり時間がないっていうのに、こんなところで意味の分からない足止めを食らっている暇はないのにッッッ!!!
「失礼ですが、御坂美琴様でいらっしゃいますか」
「のわっ!!?」
 急に横から声をかけられた。今まで横には誰もいなかったのにもかかわらず、誰かが御坂美琴の隣に現れた。その事実に御坂美琴は驚愕する。まるで何もない空間から急に何かが現れたようなに自然にその人間は御坂美琴の隣にいた。
「そうだけど、アンタは誰」
 御坂美琴は問いかけたが本当は答えなどわかっていた。今、この場所にいて御坂美琴に声をかける存在なんて『白衣の男』の関係者しかいない。
「私の名前は神亡島刹威(かみなきじまさつい)と言います。想像通り『白衣の男』様の部下ですよ」
「そう、それでアンタが私をヘリまで案内してくれるってわけ?」
「はい、移動用のヘリはこちらになります。私についてきてください」
 そういって少女、神亡島刹威(かみなきじまさつい)は御坂美琴を先導するように歩き始めた。だが、御坂美琴の見る限り少女の向かう方向はまっさらなコンクリートの地面が広がっているだけでヘリなんてものは影も形も見えない。
(いや、そういえばヘリはヘリでもステルスヘリって言ってたわね)
 ステルスヘリというのはたぶんレーダーを無効化するというものではなく、もっと高性能なヘリ自体を透明にするものなのだろう。でなければこんななにもない場所でヘリが見つからないわけがない。どんな大きさかは知らないが人が乗れるものならある程度の大きさはあるだろうから。
「到着いたしました。現在このヘリは襲撃を回避するために透明化状態にありますので私の後に続いてください」
 そして刹威は一見して何もない場所にとまった。透明化状態にあるというヘリが目の前にあるらしいが当然見えない、しかも御坂美琴が電磁レーダーで確認してみたところそこにヘリがあると感知も出来なかった。だから、現段階では完璧なステルス性を持っているヘリと言っても過言ではないだろう。
「へぇ、私の電磁レーダーにもひっかからないんだ」
「『白衣の男』様によって最新式のものを用意するように言われましたので、さぁどうぞ」
 御坂美琴は刹威に続くようにしてヘリの中に入った。目の前にあるにもかかわらず全く見えないものの中に入るというのは非常に変な感じがしたが現段階では『白衣の男』を信用しているのでおとなしく刹威に続いた。
 ヘリの中は予想よりもかなり豪華なモノだった。一般的なヘリの内装は運転席がありその隣に助手席のようなものがありそして後ろに2人か三人ほどが乗れるスペースがあるというものだと思う。もちろんこれらの席はすべて前方向を向いている。だが、御坂美琴が乗ったヘリはどちらかというと車のベンツのような席の位置だった。運転席と助手席は一般的なヘリの位置と何ら変わらないがほかの席の位置はヘリの外に沿うような形となっていた。しかも、広い。透明だったので外からでは全くヘリの大きさは分からなかったが入ってみるとめちゃくちゃ広い。通常のヘリよりも三倍くらいの大きさがあるように思える。内装も豪華でパッと見ただけでも冷蔵庫や菓子類にマッサージチェア、しかもなぜかカラオケ設備まである。なんだこれと御坂美琴は思った。統括理事会の人間が使用するヘリというよりは成金の人間がステータスで所有するようなモノに思える。
「御坂様、そこに座ってください。ヘリが離陸後にあなた様が一方通行(アクセラレータ)を殺すための方法論を説明したいと思います」
「そう、分かったわ」
「離陸してください」
 刹威は振り返りながら運転席にいる人物に向けて声をかけた。数秒してエンジンがかかる音がしヘリのプロペラが回り始める。そして周りに暴風をまき散らしながら徐々にプロペラの速度が上がり始める。
「御坂様、離陸時ほんの少しだけ振動が起きますのでご注意ください」
「わかったわ」
 そしてヘリは離陸した。刹威の言ったように離陸時御坂は振動を感じたがそれもひどく些細なモノだった。振動が大きいと中に乗っている人は不快に感じてしまう。だからこそ、技術レベルの高いヘリは離陸時、そして飛行時にはあまり振動がしないような仕組みで作られているのだ。
 そして、ヘリが離陸して一分くらいがたち飛行状態もそこそこ安定してきたところ刹威は御坂に向かって切り出した。
「御坂様、承知していると思われますが現在このヘリは第10032次実験場へと向かっております。そこで、あなた様は私が今から言う策の沿った戦いを繰り広げると思われますが……」
 言いづらそうに、刹威は言葉をつづけた。まるで自分の力不足を嘆くような口調。まるで御坂美琴が実験場に向かうのをできれば止めたいと思っているような口調。
「正直に言いますと、我々が考えた策であなた様が一方通行(アクセラレータ)に絶対に勝てるとは限りません。確率で言えばあなた様の勝率はおよそ65パーセントといったところです。出来れば、あなた様が確実に勝てるような策を考案したかったのですが……力不足で申し訳ありません」
 まっすぐな視線で深く刹威は頭を下げた。『白衣の男』のような形だけの謝罪ではなく本当に申し訳なく思っている謝罪だった。勝率65パーセント。この確率は決して低いモノではないと御坂美琴は思う。御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)を倒すための策なんて一切思いつかなかった。刹威は0パーセントの確立を65パーセント、ほぼ三分の二まで上げたのだ。これは、普通なら絶対にできないことだし、なんら謝るべきことではないと思った。そして刹威は頭を下げたまま御坂美琴に対して問いを投げかけた。
「その上で問います。御坂様、あなたは我々の策に乗り、絶対と言えない勝率に賭け、一方通行(アクセラレータ)のもとに向かう覚悟がありますか?」
「当り前よっ!」
 その覚悟がなければ最初から絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を止めようなどとは思わない。一時は樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を破壊してでも、つまり親友である白井黒子に逮捕されるような結末が待っていたとしても構わないと思うほどに追い詰められていたのだ。だから、例えどんな状況であろうと一方通行(アクセラレータ)に勝てるかもしれない現状があるだけましだと思っていた。
「……強いですね、御坂様は。分かりました御坂様に覚悟は十分おありのようですので私も覚悟を決めましょう」
 下げていた頭を元に戻し刹威は御坂美琴を正面から見つめた。
「今から、御坂様に一方通行(アクセラレータ)を殺すための策の説明を行います。全体で10分ほどの時間がかかりますので心してお聞きください」
 御坂美琴は首を縦に振って了解の意を示した。
もう覚悟は決めた。心は固まった。
 妹達(シスターズ)を救う。
 初春飾利を助ける。
 絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、
 絶対に助けて見せる。
 例え、すべてが終わった後この身が闇の底に堕ち二度と『表』に戻れないような状態になって全身を血と肉と臓物に濡らしてもう友人たちには絶対に見せられないような姿になってしまったとしても。
 それでもかまわないと思った。そんな目にあっても構わないと思っていた。
 本気で、本当に本気でそう思っていた。
 そこまでの覚悟を決めた。
 どんなことをしても助けて見せる。
 どんな目にあっても救って見せる。
 御坂美琴という存在のすべてをかけて絶対にッッッッッッッ!!!!
 そして刹威は話し始めた。御坂美琴が一方通行(アクセラレータ)を殺すための、その方法論を。









 8月21日午後8時53分 絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)第10032次実験 実験場所にて




 閃光弾(フラッシュ)によるダメージから完全に回復した一方通行(アクセラレータ)は少なく見積もって10メートル以上離れた場所に御坂美琴を見つけた。そして声をかける。威圧的かつ高圧的に『それでも勝てない』ということを伝えるために。
「ギャハ、なるほどなァ。三下ァ、オマエ絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)反対派の連中と手ェ結んだのかァ」
「ッッッ!!!」
 戦闘開始からまだ十分もたっていない。にもかかわらずもう御坂美琴が単独で一方通行(アクセラレータ)に挑んでいるわけでは無いことがばれてしまった。御坂美琴の裏に協力者がいることがばれてしまった。それだけで一方通行(アクセラレータ)という存在がどれだけ優秀なのかがわかる。
(落ち着け、こんな展開は想定内でしょうがッ!)
 思わず焦ってしまったが、だからどうしたといったところだ。御坂美琴に協力者がいることがばれたとしてもそれは問題ではない。『準備』はもう済んでいるのだ。そしていくら一方通行(アクセラレータ)と言えども万能ではない。いくらなんでも『白衣の男』らが用意した『策』の内容までは分からないはずだ。
「だとしたら、何よ」
 おそらく、閃光弾(フラッシュ)のせいで御坂美琴の後ろに誰かがいるということが分かってしまったのだろう。動揺するほどのことではない、そう御坂美琴は自分自身を落ち着かせる。
「いやァ、ただ教えてやろうと思ってなァ。三下ァ、テメェがどンだけ策をねろうが、どっちにしろ意味がねェってことをよォッッッ!!!!!」
 返答はシンプルだった。
 そして、一方通行(アクセラレータ)が起こした行動はもっとシンプルだった。ただ、突っ込む。御坂美琴のいる方向に向けて突っ込んでくる。特徴的なのはその速度だ。足のベクトルを操作した一方通行(アクセラレータ)は通常ではありえない速度で突っ込んでくる。そこに防御という概念はない。ありとあらゆる攻撃を『反射』出来る一方通行(アクセラレータ)にとって防御行動などとる意味がないからだ。
 その驚異的な速度を前にしたら、普通の人間は対処行動をとる前に殺されてしまうだろう。だが、幸いなことにこの操車場にいる人間にただ一人として普通の人間などいなかった。
 片や学園都市最強能力者にしてありとあらゆる攻撃を『反射』する一方通行(アクセラレータ)
 対するは学園都市第三位の能力者にして電気系最強の能力者御坂美琴。
 だからこそこの戦いはここでは終わらなかった。
 超速で御坂美琴に近づいた一方通行(アクセラレータ)その勢いのまま右腕を振り下ろす。たいして力のこもっていない、少しでも喧嘩をしたことがある人間なら笑ってしまうような一撃。にもかかわらずその一撃はたやすく人を殺すだけの力を持っている。
 だがその攻撃は御坂美琴には当たらない。身をかがめ体を丸めたことで御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)の一撃をさけていた。
 先読みをしたわけでは無い、一方通行(アクセラレータ)の行動を読んでわけではない。ただ一方通行(アクセラレータ)の行動を見てそして対処しただけだ。
 続く左腕の一撃。真横からバットをスイングするような一撃にも御坂美琴は一歩バックステップをすることによって完璧に避けた。一方通行(アクセラレータ)の攻撃は御坂美琴にかすりもしなかった。あくまで一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作は相手に触れなければ効果を発しない。一方通行(アクセラレータ)の攻撃を避け続けるというのは一方通行(アクセラレータ)と戦闘するにおいての大原則だ。なにせ、一方通行(アクセラレータ)に触れられることはイコール『死』なのだから。
 だがまだ終わらない。一方通行(アクセラレータ)の攻撃はまだ続く。そして三発目の攻撃。操車場の砂利の地面に着地した一方通行(アクセラレータ)はその着地の衝撃のまま砂利の『ベクトル』を操り大量の砂利を散弾のように御坂美琴に向けてたたきつけた。
 だがそれも回避される。下から上に向けて上がってくる砂利は御坂美琴が磁力で操った『砂鉄の壁』によって防がれる。
 一方通行(アクセラレータ)の三度の攻撃は御坂美琴の完全な回避行動によって対処された。そして、御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)から大きく距離をとった。30メートルという距離を。これだけ二人の間の距離が離れていれば例え一方通行(アクセラレータ)がもう一度御坂美琴に突っ込んできたとしても十分に対処できる。
 仕切り直しだ。最初の状態にもう一度戻ってしまった。
「ハッ、御大層な口をきくわりには逃げてるだけじゃねェか。この俺を殺すンじゃなかったのかァ。三下ァ!!!」
 つまらない。一方通行(アクセラレータ)はそう感じていた。最初の攻撃が予想外だっただけにただ避けるだけの動きしかしない御坂美琴に失望していた。これから先も御坂美琴が時間稼ぎのように一方通行(アクセラレータ)の攻撃を避けるだけであれば一方通行(アクセラレータ)はいづれ飽きを感じて遊びをやめてしまうだろう。
「心配しなくても、アンタを殺して妹達(シスターズ)を救うわ。必ずね」
 自信に満ちた声で御坂美琴は宣言した。それを聞いて面白そうに一方通行(アクセラレータ)は笑う。まだまだ楽しませてくれそうだと、そう思った。そして、先ほどと同じように足のベクトルを操作して御坂美琴に近づくために態勢を低くした。
「ッッッ!!!」
 だが一方通行(アクセラレータ)が近づいてくる前に牽制のように御坂美琴は雷撃を放つ。もちろん一方通行(アクセラレータ)にきかないのは分かっているが視線を一時的に逸らすことぐらいは出来るだろう。そして、その間に周囲にある砂鉄をありったけ集めた。
「ところでアンタ」
 集めた砂鉄の四分の一を一方通行(アクセラレータ)への攻撃に使い、残った半分を使って御坂美琴はみずからの周りに『砂鉄の壁』を作り、そしてさらに余った砂鉄でミサカ10032号の周りに同じように『砂鉄の壁』を作りながら言った。
「コンテナの主成分って知ってる?」
 



次の更新は四日後です。


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御坂美琴と一方通行⑤ 粉塵爆発

これなんだよ私が書きたいのは、御坂美琴と一方通行の戦闘を書きたいんだよ。


 この操車場は基本的には砂利に満ちた地面が広がっている場所だが、その周りにはコンテナが大量に積み上げられている。そして、そのコンテナの中身は小麦粉だ。どこかの企業が一時的な保管場所としてこの操車場を使っているのだろう。
 時に、コンテナの主成分を知っているだろうか?
 コンテナの主成分となるのは鋼鉄、鉄の一種だ。そして鋼鉄はもちろん御坂美琴の操る磁力によって()()できる。つまり、御坂美琴は大質量のコンテナを操れるということなのだ。
 だから、

 ドッガアアァアァアアアアァアアァアアアアアアァアアァァァァァァアアアアンンンゴキャガラバキバキバキバキバキィッッッッッッッ!!!!!!!!!!!

 と轟音がなり大量のコンテナがまるで砲弾のように一方通行(アクセラレータ)に向かって殺到した。
 だが、
「ギャハハハハハハ、こンなもンが効くとでも思ってンのかァ」
 いかに大質量だとしてもベクトルが存在するのであれば一方通行(アクセラレータ)はそれを操れる。だから、殺到してきた大量のコンテナもまるでバレーボールの球のように腕で殴り返した。殺到したコンテナ同士がぶつかり合いコンテナの外壁が破壊される。そして、コンテナの中に入っていたものが無秩序に外に出て、一方通行(アクセラレータ)の周囲に大量の白い粉がまった。
「アァン」
 周囲に粉が待っているせいで一方通行(アクセラレータ)はまたもや御坂美琴の姿を見失う。面倒だな、そう思いながら粉塵を晴らすべく一方通行(アクセラレータ)は地面を大きく踏みしめて風を起こし視界をクリアにしようとした。
 そしてふと一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴の真意に気付いた。
「待てよ……粉塵が空間を満たす?まさか……」
 ピリッ、と空間に電気が流れる音がする。御坂美琴が電流を放出したのだ。ただし、一方通行(アクセラレータ)に対してではなく空間を満たす小麦粉の粉に向けて。一方通行(アクセラレータ)が御坂美琴の意図に気付いた時にはもう御坂美琴の行動は終わっていた。そして次の瞬間、
 



 操車場に大きな爆発音が響いた。




 ()()()()
 粉塵爆発とは一定条件下において空間を微細な粒子が適度に満たした状態の中で静電気などを原因として起こる爆発現象のことだ。この爆発は初めに起きた爆発の爆風によってまだ燃えていない粉塵が舞い上がり、そしてその粉塵にさらに火がつきさらなる爆発が起きるという二次爆発を起こしてしまうため爆発の範囲が拡大する大変危険な現象の一つだ。そして、御坂美琴と一方通行(アクセラレータ)がいた空間には小麦粉の粉が大量に存在していた。そこに御坂美琴は電気を使って着火したのだ。その結果起きたのが数秒にわたる超大規模の粉塵爆発。
 これを起こした御坂美琴はあらかじめ強固な砂鉄の壁を作って身を護っていたために無事だった。まぁ、当然のことだ。自分で起こした爆発に対してあらかじめ対処法をとっているなんて当たり前だ。爆発がおわり御坂美琴は砂鉄の壁を解除した。ただし、ミサカ10032号にほどこした砂鉄の壁は解除しない。無駄な戦闘の余波にミサカ10032号が巻き込まれるのを防ぐためだ。
 そして一方通行(アクセラレータ)はどうかというと。
「オイオイ、さすがに死ぬかと思ったぜェ」
 当然無傷だった。御坂美琴のように何らかの対処をしたわけではない。自然体。あくまでも自然体で過ごしながら全くの無傷だった。
 『反射』。
 結局一方通行(アクセラレータ)に傷を負わせるためにはこの『反射』をどうにかするしかないのだ。例え超大規模の粉塵爆発だろうが、音速の三倍の速度で放たれる超電磁砲(レールガン)だろうが、核ミサイルの雨だろうが『反射』をどうにかしない限り一方通行(アクセラレータ)に対しては全く意味をなさない。
 御坂美琴とてそれは分かっている。八月十五日の戦闘で十二分にわかっている。
「で、三下ァ。オマエの攻撃はこれで終わりですかァ」
 だから、御坂美琴は笑みを浮かべていた。一方通行(アクセラレータ)は粉塵爆発を耐えることしか出来ず能動的に対処できなかった。この事実を確認して笑っていた。
「まさか、そんなわけないでしょ。それに今の攻撃で一方通行(アクセラレータ)、アンタの弱点がわかったしね」
 その言葉に思わず一方通行(アクセラレータ)は動きを止めた。弱点がわかった?いったい、誰の弱点がわかったというのか。
「俺の聞き間違いかァ三下ァ。オマエ今この俺の弱点がわかったつったのかァ」
「えぇそういったのよ。もう、アンタなんて欠片も怖くないわ」
 弱点がわかった。一方通行(アクセラレータ)の弱点がわかった。もう、一方通行(アクセラレータ)なんて怖くない。欠片も怖くない。目の前の存在は傷一つおっていない一方通行(アクセラレータ)を対面にしてそんなことを言っている。強がりで言っているとは思えない。嘘を言ってるとも思えない。ということは本当に御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)の弱点を発見したということになる。絶望しかないこの状況下で一発逆転のための方法を発見したということになる。
「ギャハ」
 一方通行(アクセラレータ)はその事実を確認して大声で嗤った。
「ギャハハハハハハハハハハハハ。オマエ、自分が何言ってンのかわかってンのかァ。く、く、くは。笑かすなよ三下ァ。何を勘違いしてるかしらねェが万が一この俺に弱点なんてもンがあったとしてだ……その弱点をオメェごときがつけるとでも思ってんのかよ。クハッ、なめてンじゃねぇぞ三下ァァァ。オマエ程度俺がちょっと本気をだせば二秒で殺せンだよ。手加減してやってンのが分かンねェのか。それともまさかその弱点とやらをつけばこの俺に勝てるとか本気で思ってンのかァ」
「勝てるわ」
 静かな宣言があった。その宣言に思わず一方通行(アクセラレータ)は笑いを止めた。その代りに引裂いたような笑みを浮かべる。楽しそうな笑みを浮かべる。
 一方通行(アクセラレータ)はうれしかった。絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)に参加して絶対能力者(レベルシックス)を目指している一方通行(アクセラレータ)だが、二万体もの妹達(シスターズ)を単調に殺している行為に飽きが出てきたところだったのだ。妹達(シスターズ)ときたらどいつもこいつも戦闘開始から30分も持たないで死んでしまう。まぁ一方通行(アクセラレータ)が殺しているのだが。
 ともかく、一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴との戦いを楽しんでいた。妹達(シスターズ)の素体だけあって御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)を様々な方法で攻撃してくる。一方的な殺戮ではなく莫大な力の差がありながらも一応戦闘を行えていることに一方通行(アクセラレータ)はひどく満足していた。それこそ『一方通行(アクセラレータ)に勝てる』などとほざく御坂美琴をしばらく殺さないでおいてやろうと思うほどに。
「なら、やってみろよ三下。格の違いってやつを教えてやるよォ。その貧相なカラダになァッッッ!!!」
 あえて挑発に乗った形で一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴に向けて両手を前に突き出したまま突っ込んでいった。獣のようにただまっすぐと御坂美琴に肉薄した。






「勝てる」
 一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴の言葉を本気にとらえていなかったようだが御坂美琴は本気で勝てると思っていた。
 勝てる。勝てる。勝てる。勝てる。勝てる。勝てる。
 この方法ならきっと一方通行(アクセラレータ)に勝てる。もちろん、確実に勝てるとは言い切れない。だが、少なくとも手も足も出ないということにはならない。なぜなら確認できたからだ。一方通行(アクセラレータ)が『ベクトル操作』なんて絶対の能力を持っていたとしてもあくまで一方通行(アクセラレータ)は人間であるということを。大出血すれば死に、呼吸できなければ死ぬ人間であるということを。
 だから勝てると思った。『白衣の男』らの策を使わなくてもうまくいけば勝てると。
「勝てる」
 一方通行(アクセラレータ)は無敵じゃない。一方通行(アクセラレータ)は無敗じゃない。暴力では最強であるが故に、知力では最高であるが故に、きっと一方通行(アクセラレータ)は自分があくまで人であることを忘れている。
「勝てるッッッッッッッ!!!!」
 鼓舞する、自分自身を。精一杯鼓舞する。
 そして、一方通行(アクセラレータ)が御坂美琴に突っ込んできた。音速の壁すら超えて、もはや身体能力を限界まで強化している御坂美琴の動体視力ですら見きれぬ速度で突っ込んできた。
 右の手と左の手をまっすぐ前に出して獰猛に笑いながら、その手で御坂美琴の生体電気を、血流を逆流させようと突っ込んできた。
 だが、あらかじめ電磁レーダーでその動きを感知していた御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)の両手ではとらえられない。強化した身体能力で右に進み音速の壁を突破した一方通行(アクセラレータ)の魔の手から辛くも逃れる。
 電磁レーダー。
 ありとあらゆるベクトルを操りすべての攻撃を『反射』する一方通行(アクセラレータ)でも御坂美琴の電磁レーダーによる探知だけは逃れられない。
 御坂美琴の電磁レーダーというのは、超能力者(レベルファイブ)電撃使い(エレクトロマスター)特有の常に発せられている微弱な電磁波を用いいるもので、その電磁波が物体に当たった時の反射波を御坂美琴自身が察知することで行われているモノだ。それによって一種のレーダーのように空間把握ができているわけだ。
 そして一方通行(アクセラレータ)は自身のベクトル操作能力を通常は『反射』に設定している。この偶然によって御坂美琴のあらゆる技の中で電磁レーダーだけは一方通行(アクセラレータ)に無効化されないのだ。万が一この電磁レーダーすらも無効化されていたら御坂美琴はおそらく一方通行(アクセラレータ)に5分で殺されているだろう。
「チッ、ウネウネウネウネ逃げやがってウナギかよオマエは!」
 右に、左に移動し時に後ろにバックステップをする、さらに一時的に停止したりしゃがんだりする御坂美琴の変則的な動きに一方通行(アクセラレータ)はついていくことが出来ていなかった。この理由はひどく簡単なものだ。経験の差、ただこれだけ。
 一方通行(アクセラレータ)は最強だ。ただ一方通行(アクセラレータ)は最強ゆえに勝つための努力というものをしたことが無い。触れれば勝てる、そして敵の攻撃はすべて『反射』によって無効化できる。ならば、勝利のための努力をしなくても問題はないだろう。
 対して御坂美琴は最強ではない。御坂美琴は自分では勝てない存在がいることをちゃんと把握している。だから頭を使うし搦め手も使う。そして、勝利のための努力もする。
 二人は同じ超能力者(レベルファイブ)という地位にいながら対極なのだ。二人を分ける最たる要素は戦闘において経験を得られるかどうかということ。
 一方通行(アクセラレータ)は戦闘において経験をほとんど得られない。実際絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)において一万人もの妹達(シスターズ)を殺しておきながら一方通行(アクセラレータ)はほとんど成長していなかった。
 当然と言えば当然のことだ。一方通行(アクセラレータ)妹達(シスターズ)との戦いにおいてピンチに陥ったことが無い。ピンチが無ければ新しい対応ができない、だから新たな経験が得られない。それ以前の戦いでも同様だ。ピンチに陥らないのだから経験が得られない。
 御坂美琴は戦闘することで経験を得られる。一方通行(アクセラレータ)のように能力のごり押しで勝てない敵とも戦ってきたからだ。その最たる例は暗部組織『アイテム』のリーダー麦野沈利との戦闘だろう。麦野沈利との戦闘において御坂美琴はフレンダ=セイヴェルンの残した人形爆弾を使用した。この工夫こそが御坂美琴の得た経験だ。
 敵との戦闘において能力のみで勝ててしまう一方通行(アクセラレータ)はこの貴重な『経験』が得られない。これが御坂美琴が一方通行(アクセラレータ)に勝っている点だ。
 だが、その『経験の差』も一方通行(アクセラレータ)の前では無に帰す。
「メンドッ、クセェナァッッッッッッッ!!!!」
 両手の攻撃を、砂利の散弾を器用に避け続ける御坂美琴に対して一方通行(アクセラレータ)は苛立ちを隠せなかった。二十回以上御坂美琴に向けて攻撃をしているのに一度も御坂美琴に当たらない。紙一重のところで避けられてしまう。攻撃を避ける、防御するという考えが存在しない一方通行(アクセラレータ)には御坂美琴がどんな風に避けるのかという考えがわからなかったのだ。
「チッ―――。くだらねェ」
 攻撃をかわされ続けた一方通行(アクセラレータ)は一度大きく下がって御坂美琴との距離をとった。
 そして、さっきと同じように御坂美琴に超速で突っ込んでいく。
 だが、当然さっきと同じように御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)の動きをとらえている。
 振り下ろされる右腕の一撃―――――――――身をかがめたことで躱される。
 真横からフルスイングされる左腕の一撃――――――――――バックステップで躱される。
 そして、着地の衝撃を利用した砂利の散弾――――――――――――砂鉄の壁で防がれる。
 しばらく前のやり取りと完全に同じやり取りだった。だから無意識のうちに御坂美琴の次の行動も同じになってしまった。
 大きく、大きく距離をとる。一方通行(アクセラレータ)との戦闘における安全域まで磁力を利用しながら距離をとる。



次の更新は5日後です。


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御坂美琴と一方通行⑥ 二度目の爆音

エセ科学理論注意!!!
しばらくは戦闘回です。


 振り下ろされる右腕の一撃―――――――――身をかがめたことで躱される。
 真横からフルスイングされる左腕の一撃――――――――――バックステップで躱される。
 そして、着地の衝撃を利用した砂利の散弾――――――――――――砂鉄の壁で防がれる。
 しばらく前のやり取りと完全に同じやり取りだった。だから無意識のうちに御坂美琴の次の行動も同じになってしまった。
 大きく、大きく距離をとる。一方通行(アクセラレータ)との戦闘における安全域まで磁力を利用しながら距離をとる。


 ()()()()一方通行(アクセラレータ)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なッッッッッッッ!!!!??」
 思考の誘導。
 例えばじゃんけんにおいていつもパーを出している人間は次も必ずパーをだすと無意識のうちに考えてしまうようなもの。
 今回一方通行(アクセラレータ)が行ったのはそれと同じことだ。
 あえて御坂美琴から一度距離をとり、一方通行(アクセラレータ)が初めて御坂美琴に突っ込んだ時と同じ状況を作る。
 同じように御坂美琴に突っ込んでいき、同じように右腕を振り下ろし、同じように左腕をスイングし、同じように砂利の散弾を放つ。
 御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)に触れれば死ぬという極限の緊張感がある。
 そのせいで全く同じ状況を再現したことにより御坂美琴は軽率にも過去と同じ行動をとってしまった。
 最初の時と同じように右腕の攻撃をしゃがんで回避し、同じように左腕の攻撃をバックステップで避け、同じように砂利の散弾を砂鉄の壁で防いだ。
 そして、一方通行(アクセラレータ)から離れようとした。
 それが、一方通行(アクセラレータ)に誘導されたものだと気付けずに。
「ヒャハ!」
 一度目に一方通行(アクセラレータ)が御坂美琴との距離をとられてしまったのは砂利の散弾を防いだ砂鉄によって一方通行(アクセラレータ)の視界が遮られたからだ。だが、二度目となる今回は最初から御坂美琴の行動が予測できたので砂鉄の壁をぶち破って来た。
(ま……ずい……ッッッ!!!)
 一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作による移動と御坂美琴の磁力による移動、速度が上なのはどちらだろうか。
 残念なことに一方通行(アクセラレータ)の方が速度が上だ。だから御坂美琴はこのままでは追いつかれてしまう。ほんの少しでも一方通行(アクセラレータ)の手が御坂美琴に触れてしまえばそれだけで死んでしまう。何とか回避しなければ御坂美琴は死んでしまう。
 だが、回避など決してできない。もしも今御坂美琴が大地に立っていたら地を蹴ることで一方通行(アクセラレータ)の攻撃を避けることが可能かもしれない。しかし、残念なことに今御坂美琴は空中にいる。磁力による移動のため地に触れていない。
 ならばその磁力による移動の対象を左右どちらかにしてみればどうか。
 これもダメだ。一方通行(アクセラレータ)は今御坂美琴に手が届く領域にいる。それこそ距離はわずか十センチくらいしかない。左右どちらに逃げてもその両手がたやすく御坂美琴に触れるだろう。
 だから結局御坂美琴に出来るのは『死の両手』が触れるのを待つことだけだった。
 そして、
「がっ、ぁ!!!!!!!?????ああああああああああああああああぁぁああぁあぁああああぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁああぁぁああァァァッッッッッッッ!!!!!!??」
 ほんの少し、たった少し触れただけなのに、それにもかかわらず御坂美琴の体はまるでサッカーボールのように地面を転がっていった。
 ベクトル操作。一方通行(アクセラレータ)の持つ最強の力。御坂美琴はその身をもってその最強の力を体感した。
「がっ、ッッッ!!!ゲホッゴホッガ、ぐッッッ!!」
 口の中から血の味がした。どうやら一方通行(アクセラレータ)にぶっ飛ばされた時に口の中を切ってしまったらしい。近くにあるコンテナに手を当てて寄りかかるようにして立ち上がる。肉体的なダメージはそこそこのものだったが戦闘不能になるというほどではない。
 そして御坂美琴は再確認した。やはり一方通行(アクセラレータ)に触れられてしまったらダメだと。今回は吹っ飛ばされただけだったが次は生体電気を逆流されてしまうかもしれない。
 だけど、と御坂美琴は笑った。
 だけどこれで準備は整った、と。
「オイオイオイオイ、ちょっと撫でてやっただけだろうがよォ。もしかして、もうくたばっちまったかァ」
 御坂美琴を吹っ飛ばした一方通行(アクセラレータ)はじゃり、じゃりと歩きながらコンテナの方に近づいてきた。今の一撃で御坂美琴を殺さなかったのは別に慈悲をかけたとかそういう理由ではない。ただ単にまだ楽しめそうだと思ったからだ。
「おあいにくさまね。今からくたばるのはアンタの方よッッッ!!!」
 かく乱のために御坂美琴は雷撃の槍を十発以上連続で一方通行(アクセラレータ)に放った。そしてその間に周囲の砂鉄をかき集めてチェーンソー状の砂鉄剣を作り出し後ろにあるコンテナを叩っ切る。
 ザガン、と音が鳴りコンテナの中に入っていた小麦粉が飛び散った。御坂美琴と一方通行(アクセラレータ)を巻き込む形で周囲にばらまかれる小麦粉、それを見て一方通行(アクセラレータ)はあきれたように言った。
「三下ァ。オマエもしかして学習能力ってもンがねェのかァ。さっきのやりとりもう忘れたのかよォ。粉塵爆発なんて攻撃俺には効かねェンだッつうのォ」
 例え百度繰り返そうが一方通行(アクセラレータ)が粉塵爆発によって体にダメージを負うことはない。それはもう分かっている。分かりきっている。
だが、一方通行(アクセラレータ)は初め超電磁砲(レールガン)を撃ってきた御坂美琴に対してこう思わなかっただろうか。
 御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)を直接的攻撃ではなく間接的な攻撃で御坂美琴は一方通行アクセラレータを殺そうとしている――――――と。
 そして、
 御坂美琴から放たれた電流が空気を切り裂き、
 二度目の爆音が操車場に響いた。





 粉塵爆発の影響で周囲が炎に包まれまたもや御坂美琴の位置がわからなくなってしまった一方通行(アクセラレータ)は相も変わらず無傷で佇んでいた。
「チッ、何考えてンだァ。あの三下ァ」
 この粉塵爆発が一方通行(アクセラレータ)に御坂美琴の位置をつかませないためのものだ、というのならば納得ができる。一方通行(アクセラレータ)と戦ううえで大事なことは一方通行(アクセラレータ)に触れられないことだ。接触があれば一方通行(アクセラレータ)は自由にベクトルを操れる、つまり接触さえしなければ一方通行(アクセラレータ)は何もできない。
 だが、それだと御坂美琴の言葉と行動が矛盾する。『くたばるのはアンタの方よ』この言葉を言う意味がない。
 大量の小麦粉を周囲にばらまいたのか、いまだに続く爆発にさらされながら一方通行(アクセラレータ)は思考する。御坂美琴の行動の意味を思考する。
(粉塵爆発がこの俺に位置をつかませないもンだと考えるとその意図はなんだァ?…………準備か?粉塵爆発で俺の視界をふさいでその間になンか俺を倒すための準備をしようってのかァ。ハッ、面白れェ)
 一方通行(アクセラレータ)は動かなかった。爆発の最初にいた地点から一歩も動かなかった。御坂美琴の策を真っ向から叩き潰しさらなる絶望へ御坂美琴を突き落すために余裕をもってその場に佇んでいた。
 そして、一方通行(アクセラレータ)は粉塵爆発が終わるのを待って、
 はたと大きな違和感に気付いた。

 ()()()()()()()()

 粉塵爆発が始まってからもうすでに15秒近くたっているのにもかかわらず粉塵爆発が終わらない。
「まさか……………………」
 気付く。気付く。気付く。気付く。気付く。気付く。
 ようやく気付く。気付いた。
「まさか、あの三下……………ッッッッッッッ!!!!」








 さて、復習の時間だ。
 一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作について復習をしよう。
 今回は一方通行(アクセラレータ)の『反射』はどこまでを有害とし、どこまでを無害と判断しているのかについてだ。
 『反射』。一方通行(アクセラレータ)を守っている絶対の防御。だが、この『反射』は万物を『反射』しいているわけでは無く生活に必要最低限の物以外全て反射しているだけだ。
 だから、普通の爆発にさらされても爆発の熱、衝撃、破片物などは『反射』されるが空気等は『反射』されず一方通行(アクセラレータ)は普通に呼吸が出来るわけなのだが。
 はてさて、ではこの爆発が普通の爆発ではなく()()()()であったのならばどうだろうか。
 粉塵爆発と普通の爆発の違いは何か。それは燃料だ。
 粉塵爆発は酸素を燃料にしているため、爆発は一瞬で周りの酸素を奪いとりその場所の気圧を急激に下げてしまう。それに対して普通の爆発は爆発物自身、例えばメタンガスやダイナマイト、を燃料にするため爆発に酸素は必要になるが気圧を下げるというほどではない。
 ここで重要なのは粉塵爆発は気圧を下げるということではない。
 重要なのは粉塵爆発は周囲の酸素を燃料として行われる、周囲の酸素を根こそぎ消費してしまうということだ。




 現在、御坂美琴が一方通行(アクセラレータ)に二回目の粉塵爆発を行ってから一分が経過していた。そしてこの一分間粉塵爆発はただの一瞬とてとぎれることなく()()()()()()いた。
 これが御坂美琴の策だ。御坂美琴はあらかじめ刹威との会話によってこの操車場にあるものすべてについて詳細なデータをもらっていた。その中にはコンテナの中身についてもあった。
 この操車場にあるコンテナは意図的か偶然かはわからないがそのほとんどが小麦粉の保管庫らしい。そして保管されている小麦粉の量はざっと見積もって10000(トン)の量だ。重さだけで言えば成体のオス象2000頭分。ばかばかしいほどの量の小麦粉がかのこの空間にはあった。
 これを有効活用しない手はないと御坂美琴は考えた。そして、この粉塵爆発による攻撃が行われたのだ。
 この粉塵爆発の狙いは一方通行(アクセラレータ)を直接害することでは無ければ、御坂美琴が一方通行(アクセラレータ)の目を盗んで何らかの準備を行うためのモノでもない。
 一方通行(アクセラレータ)の呼吸の阻害。それこそがこの粉塵爆発の目的だ。人間が呼吸をせずに生きていられる時間はおよそ一分から二分と言われている。それ以上呼吸をしないと血中の二酸化炭素濃度の上昇が起き、意識の消失や昏睡状態になり、筋肉の弛緩が始まり、最悪の場合呼吸中枢の機能停止し死に至る。
 そして、粉塵爆発は周囲の酸素を根こそぎ奪っていくきわめて危険な爆発だ。
 一方通行(アクセラレータ)は粉塵爆発自体には耐えられるだろう、粉塵爆発によっておこる気圧の低下にも耐えられるだろう、爆発の高熱にも耐えられるだろう。だが、いくら一方通行(アクセラレータ)といえども粉塵爆発によって周囲の酸素が焼失した状態で呼吸をすることは出来ない。一方通行(アクセラレータ)はあくまで人間でしかないからだ。
 そして呼吸が出来なければいずれ死に至る。人間として当然のことだ。
(いくら一方通行(アクセラレータ)がベクトル操作なんて馬鹿げた力を持っていても呼吸できなきゃどうしようもないでしょ!!!)
 この瞬間も粉塵爆発は続いている。撒いた小麦粉に電気で着火した後、磁力で周りのコンテナを集めて砂鉄のチェーンソーや電撃等を駆使して中の小麦粉を外に出しているためだ。   
 しかも一方通行(アクセラレータ)が粉塵爆発から逃れられないように粉塵爆発の範囲は極大だ。一方通行(アクセラレータ)を中心として一辺100メートル規模の立方体の形で粉塵爆発が行われている。さらに御坂美琴はこの爆発の中でも電磁レーダーを使って一方通行(アクセラレータ)の位置を確実にとらえている。
 この状況から一方通行(アクセラレータ)が脱出するにはそれこそどうにかして粉塵爆発自体を止めるか、御坂美琴を殺傷するかしかない。
 だが御坂美琴は殺傷するには御坂美琴の位置をつかまなければならない。これは視界が爆発でふさがられた一方通行(アクセラレータ)にはできないことだ。そして、現状の一方通行(アクセラレータ)には粉塵爆発を止める手段はない。例え衝撃を操って多少の風を起こし小麦粉を散らしたところで爆発自体は止まらないからだ。
 だから、一方通行(アクセラレータ)は爆発から逃れようと懸命に移動していた。足のベクトルを操って小麦粉の波から逃れようとしていた。
「させるわけないでしょ、一方通行(アクセラレータ)!」
 だが、御坂美琴はそれを許さない。一方通行(アクセラレータ)が移動するなら移動先に小麦粉を展開し粉塵爆発を起こす。
 逃さない。ここで終わらせないと御坂美琴では一方通行(アクセラレータ)には勝てないかもしれないと思ったから絶対に逃がさない。御坂美琴は極限の集中をして一方通行(アクセラレータ)を粉塵爆発の中に閉じ込めつづけた。
 そして、二度目の粉塵爆発から3分が経過した。
「これで…………いくらなんでもやったわよね」



粉塵爆発が連続で続くことなど現実においてはありません。
今回粉塵爆発が連続で起こっているのは御坂美琴の能力の緻密な制御、無風状態という条件、努力による偶然など様々な物事が重なったからです。


次の更新は4日後です。




ちなみに最後の文章はフラグです。


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御坂美琴と一方通行⑦ 死の左腕

展開が無理やりな上にえせ科学です。
寛容な心で読みましょう。


 ゼェゼェと息をつきながら御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)のいる方向を見た。粉塵爆発が起こってから75秒後に電磁レーダーで感知していた一方通行(アクセラレータ)はその場から動かなくなっていた。死んだのか?と御坂美琴は思った。そしてさらに一分以上念のため粉塵爆発を起こした。その間も一方通行(アクセラレータ)は全くその場から動かなかった。
 死んだ、と今度こそ確信をもって思った。これだけの間呼吸を封じられて生きていることのできる人間なんているはずがない。
 勝った、
 死んだ、
 倒した、
 殺した。
 これで妹達(シスターズ)は救われる。これで妹達(シスターズ)は助けられる。
 『白衣の男』らが用意した策を用いることなく倒したことは御坂美琴にとってはプラス材料だ。暗部に堕ちた後、闇の中で戦うときにもこのことは有利に働くだろう。
 そして、煙が晴れる。粉塵爆発によって発生した炎の中には一方通行(アクセラレータ)の死体があるはずだ。
 御坂美琴は暗い笑みを浮かべながら顔をあげた。晴れた煙の先には一方通行(アクセラレータ)の死体が弁慶のように立ったままの状態であるはずだ。それを確認しようと顔をあげて、

 ぬっ、と煙の中から飛び出てきた左腕が御坂美琴の首をつかんだ。

「ギャハ」
「アッ、ぐッッッ。ぎィ」
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!本当に死ぬかと思ってぜェ。なァ!!!三下アアアァァァァ!!!!!」
 一方通行(アクセラレータ)が御坂美琴の首をつかんでいた。楽しくて仕方がないというような笑みを浮かべながら一方通行(アクセラレータ)が嗤っていた。
 そんなバカな、と御坂美琴は思った。あの粉塵爆発の中、酸素が三分間も途切れた状態で生きていられずはずがない。例えそれが一方通行(アクセラレータ)であってもだ。だが、現実問題として一方通行(アクセラレータ)は生存して御坂美琴の首をつかんでいる。
 なぜ、どうして、どうやって。御坂美琴が考え付く方法ではどうやったって生存は不可能だった。
「よくやるじゃねェか三下ァ。いや、マジで驚いたぜ。粉塵爆発をダミーじゃなくて俺を窒息させるために使うとはなァ」
「どうやったのよ…………」
「アァン」
「どうやって窒息から逃れったっていうのよ。あの状況じゃどうやったって呼吸なんて出来ない。それともアンタは酸素なんてなくても生きていけるっていうの?」
 そんなわけはないと思いながらも御坂美琴にはもはや一方通行(アクセラレータ)が異次元の化物としか思えなかった。完璧だと思っていた攻撃は理由もわからず突破されたのだ。しかも一方通行(アクセラレータ)は目に見える傷も消耗も感じられない。レベルが違うと思った。
「オイオイ。オマエ俺を化物だとでも思ってンのかよ。くはっ。まぁ、オマエみたいな雑魚からしたら俺は化物みてェなもンかァ。さすがに俺も呼吸できなきゃ死んじまうぜえ。そういう意味じゃァ、オマエがやった粉塵爆発は俺を殺しうる方法だったのかもなァ」
「ならどうして生きてるのよ」
「ある意味じゃオマエのおかげだぜェ。この俺が生きてンのはよォ」
「???」
 御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)のために何かをした覚えはない。というかそんなことするわけがない。にっくき敵相手にどうして助けるようなまねをするのか。
「あの雑魚どもを狩ってもたいした経験を得られてる実感がいまいちなかったンだがよォ。あの研究者どもが言ってたのはマジみたいだなぁ。(つえ)ぇ奴と戦うのがレベルアップへの近道だったかァ。くく、いやマジで感謝だぜ。オマエと戦ったことで俺はまた一つ強くなれたンだからなァ!!!」
 まさかそんなことってありうるのかと御坂美琴は絶望した。御坂美琴と戦ったことで一方通行(アクセラレータ)が成長してしまった。すでにあり得ないレベルで強かった最強の敵をさらに上の領域まで押し上げてしまった。
(はは……何それ)
 方法論が浮かばない。御坂美琴の頭じゃ一方通行(アクセラレータ)を倒すための方法がわからない。常識の埒外にいる化物相手にどう戦えというのか。
 仮にこの時御坂美琴ではなく上条当麻が一方通行(アクセラレータ)と戦っていたなら一方通行(アクセラレータ)の成長はなかった。なぜなら上条当麻はあくまで一方通行(アクセラレータ)を肉弾戦で圧倒できるからだ。さすがの一方通行(アクセラレータ)も努力なしに肉弾戦でいきなり強くはなれない。
 それに対して御坂美琴は創意工夫で一方通行(アクセラレータ)と戦った。それがまずかった。粉塵爆発なんて小手先の技を使ったことで一方通行(アクセラレータ)に成長の余地を与えてしまった。思考によってもたらされた策は同じく思考することによって打ち破れる。一方通行(アクセラレータ)ならなおさらに。
「こいつは楽しませてくれた礼だぜェ」
 そして一方通行(アクセラレータ)はボウリングの球を投げるようにして御坂美琴を放った。
 ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリィと御坂美琴は砂利を引きずりながら地面を転がる。そして、粉塵爆発用に使っていなかったコンテナにぶつかってその動きを止めた。
「う……あ……」
 御坂美琴を追いかけるようにして一方通行()が近づいてきた。痛みに打ちひしがれながらもなんとか立ち上がる。そして睨みつける。
 もう結論は出た。
 もう勝負はついた。
 御坂美琴では一方通行(アクセラレータ)には勝てない。呼吸を阻害しても問題なしで戦う一方通行(アクセラレータ)にはもうどうしたって勝てない。
 だからここから先は一方的な虐殺だ。一方通行(アクセラレータ)が飽きるまで御坂美琴を追い立てる狩りだ。
 でも、それを認めたくないから、受け入れたくないから御坂美琴はまだあきらめていなかった。
 妹達(シスターズ)を自分の手で守るためにまだ戦う意思を持っていた。


 それがすぐに打ち砕かれてしまうとも知らずに。


 一歩一歩ゆっくりと一方通行(アクセラレータ)が御坂美琴に迫ってくる。視線は逸らさない。瞬きもしない。とにかくここから先、生き延びるためには一方通行(アクセラレータ)の攻撃を避け続けるしかない。時間さえ稼げればまだ何か対応が浮かぶかもしれない。
 御坂美琴は電磁レーダーでいまだに一方通行(アクセラレータ)の動きをとらえている。もはや電磁レーダー(これ)だけが頼りだった。万が一電磁レーダーさえも信用できない状況に追い込まれれば御坂美琴には死しかないだろう。
 そして一方通行(アクセラレータ)が両手を前に突き出し、
 もはや人類の限界を軽く超えた速度で御坂美琴に迫ってきた。
「はやッッッ!!!」
 人類限界反応速度という言葉をご存じだろうか。文字通り『人類』が『反応』できる『限界』の『速度』を表しているわけだが、これはオリンピックの100メートル走金メダリストでも約0.16秒程度だと言われている。彼ら100メートル走の選手がスタートの笛の音が吹かれてから実際に走り出すまで0.16秒の間があるということなのだが、この時信じられないことに一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴との間にあった距離80メートルをちょうど0.16秒で詰めてきた。
 つまり秒速500メートルの速度で一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴に迫ってきたことになるが、これは実におかしなことだ。一方通行(アクセラレータ)の前回御坂美琴に接近するときの速度は音速つまり秒速340メートルだった。この時一方通行(アクセラレータ)は手加減なんてせず自分の出せる限界の速度を出していた。
 ならばどうして急に1.5倍も速度が上がったのだろうか。
「ギャハ!」
 前述したように人類限界反応速度は0.16秒。そして一方通行(アクセラレータ)が御坂美琴に接近した間の時間は0.16秒。これにのっとるのならば御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)の攻撃を避けることは出来ない。御坂美琴が動き始めた瞬間に一方通行(アクセラレータ)の腕が御坂美琴に触れてしまう。
 そして、一方通行(アクセラレータ)の右腕が御坂美琴に向かって伸び、

 しかし、スッと御坂美琴が半身をそらしたことによってそれは避けられた。

 御坂美琴に攻撃が避けられてしまったことにより一方通行(アクセラレータ)はその勢いのまま直線上にあったコンテナに突っ込んだ。もちろんこの程度で一方通行(アクセラレータ)が傷を負うはずがない。すぐにコンテナの中から出てくるだろう。
「ッッッ……ァァァアア!!!」
 御坂美琴が今の一撃を避けることが出来たのはひとえに彼女が電撃使い(エレクトロマスター)だったからだ。御坂美琴が最初から行っていた身体能力の強化、及び電気信号の伝達速度の操作この二つが一方通行(アクセラレータ)の攻撃から御坂美琴を救った。
 速度を上昇させた電気信号によって御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)が動き始めた0.05秒後に動き始めることが可能になり、強化された身体能力によってあり得ないスピードで動くことが可能になった。その結果わずか0.07秒という速度で半身をそらすことが可能になったのだ。
 ただその代償は甚大だった。
 本来なら人間が出来ない、やってはいけない挙動を無理やり行ったのだ。御坂美琴の筋肉が、神経が、全身が悲鳴を上げていた。
「……どういうこと?」
 だけど、その痛みを御坂美琴は無理やり遮断した。痛みとは発痛物質が電気信号に変換され、その電気信号が体性感覚野と呼ばれる場所に伝達されることによって発生するものだ。そこで御坂美琴は体内の電気信号を制御することによって体性感覚野に電気信号が届かないようにしたのだ。
 いわば一種の無痛症状態を意図的に作り上げたのだ。
一方通行(アクセラレータ)の運動能力が……上がってる?」
 その一連の流れを行った御坂美琴はしかしそんなことをかまってられないほど困惑していた。二回目の突進と今の突進とで明らかに一方通行(アクセラレータ)の速度に変化が見られたのだ。
 二回目の突進を御坂美琴は比較的余裕を持って避けることが出来た。それこそ一方通行(アクセラレータ)の三連撃を目視で避けることが出来た。
 だが、今の突進はちがう。避けるのが限界だったどころではなく電気信号を操らなければ絶対に避けられなった。つまり、それほどの速度差があったのだ。
(前回は本気の速度じゃなかったってこと?……それじゃあの苛立ちの説明がつかない)
 あの時の突進は確かに一方通行(アクセラレータ)の本気の速度だったはずだ。それは間違いない。
 だったらどうして急に一方通行(アクセラレータ)は速くなったのか。
 前にも言ったが運動能力というのはそんなに簡単に上がるものではない。アスリートは0.1秒の差を縮めるために一年の時をかけるという。それくらい運動能力をあげるのは根気がいるのだ。御坂美琴と一方通行(アクセラレータ)が戦闘している20分程度の時間で上がるものではない。それこそ、御坂美琴のように体内の電気信号を直接操らない限り。
「いや待って…………電気信号?電気信号を操る?操作する?」
 と、そこで御坂美琴はとてつもない考えに襲われた。
「嘘。そんなことって……」
 一方通行(アクセラレータ)の能力は『ありとあらゆるモノのベクトルを操る』もの、正確にいうなら『皮膚上の体表面に触れているあらゆるモノのベクトルを操る』ものだ。だから、距離を離している御坂美琴に対しては接近して触れなければそのベクトルを操れないわけだ。
 外界のモノに対しては接触しなければ操れないというのは唯一といってもいい弱点でもある。
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



突っ込みどころが多すぎると言いたい人たち。分かってます分かってます。
わかってますけど、このまま進めます。修正もできません。だって、作者のあたまじゃこれが限界なんですもん……。

次の更新は四日後です。




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御坂美琴と一方通行⑧ 最悪の成長

前回に続きえせ科学です。突っ込み厳禁。

最初に回想入ります。


「くそッたれがあああああァァァアアァぁぁアアッッッ!!!」
 一方通行(アクセラレータ)は粉塵爆発の中を走っていた。粉塵爆発は一方通行(アクセラレータ)にダメージを与えることはない。だが、粉塵爆発が始まって30秒がたちかなり呼吸が苦しくなっていた。
「くそがァ。あの三下、絶対に殺してやる」
 人間が呼吸をせずにいられる時間は2分程度。このまま時間がたってしまえばもう一方通行(アクセラレータ)は二度と起き上がれなくなってしまう。
 一方通行(アクセラレータ)は見誤っていた。御坂美琴の狂気と覚悟を見誤っていた。まさか、こんな馬鹿げた手段に出るとは思わなかった。粉塵爆発を絶え間なく続けて一方通行(アクセラレータ)を窒息させる?こんな手段で一方通行(アクセラレータ)を殺そうだなんて人間今まで一人として存在しなかった。一万人の妹達(シスターズ)との戦闘でもこんな手段をとるやつはいなかった。
 だがら、対抗手段も思いつかなかった。いや、思いつかなかったというのは語弊がある。有効な対策手段を思いつかなかったというのが正しい。一方通行(アクセラレータ)は粉塵爆発の範囲から逃れるように移動していたがまるで一方通行(アクセラレータ)の行動を先読みするかのように粉塵爆発は展開されて一方通行(アクセラレータ)は粉塵爆発から逃れることは出来なかった。
 ほかにも、地面を蹴って衝撃を起こしその衝撃によって起きた風で小麦粉を蹴散らそうとしたが、それも無意味だった。爆風に紛れてしまって小規模の風など意味がなかったのだ。
 どうする、と一方通行(アクセラレータ)は自問自答する。どうすればこの状況を変えられる。このままでは死ぬ。確実に死ぬ。一方通行(アクセラレータ)は最強だがそれは決して無敵であるということではない。酸素が無ければ死んでしまうか弱い人間にすぎない。一方通行(アクセラレータ)はその事実を今更のように思いだした。
 外部から何らかの手段で空気を取り入れなければならない。今自分の内側にある酸素がなくなってしまえばそれは『死』に直結する。だからどうにかして呼吸をしなければッ。
(どうする。いくらこの俺が最強の力を持ってるっつっても呼吸しなけりゃ死ンじまう人間ってことは変わらねェし、ましてや無から酸素を生成できるわけでもねェ。この能力(チカラ)で出来ることっつったら人殺し位だ。それも他人の皮膚に触れて血液や生体電流を逆流させて体を爆砕させることしか―――――――――)
 そこまで思考して、一方通行(アクセラレータ)は喉の奥に小骨が引っかかったような小さな違和感を覚えた。自分の思考をもう一度洗いなおす。
 生き残るための手掛かりがある気がした。
(現在の状況、粉塵爆発で窒息状態になる寸前。窒息までの時間はあと75秒程度。都合よく助けなンてこねェ。使えるモノは周りにある馬鹿みてェな量の小麦粉、俺自身の能力(チカラ)。ベクトル操作で出来ることは皮膚上の体表面に触れたあらゆるものの向き(ベクトル)の操作、運動量、熱量、電気量、光量、音声波長、重力、気圧等のベクトルを操ること。この状況から逃れるには粉塵爆発を止めるか、新しい酸素を手にいれる必要がある。……いや、(チゲ)ェ。根本的に言えば体内の酸素量がいじできりゃいいンだ。何も粉塵爆発を止める必要はねェ。この粉塵爆発だって永遠と続けられるわけじゃねェしなァ)
 一方通行(アクセラレータ)の思考速度がバッと上がっていく。現実時間では十秒もたっていないのにもかかわらず一方通行(アクセラレータ)の脳内では数分もの時間がたっていると思えるほどに、一方通行(アクセラレータ)は集中していた。
 情報の洪水を整理して、意味のある、生き残るための情報を取捨選択していく。
 学園都市最高の頭脳を駆使して生き残る方法を模索していく。
 周囲の爆発音すら聞こえないほどに一方通行(アクセラレータ)は集中していた。
(あっ……)
 そして、ついに一方通行(アクセラレータ)は辿り着いた。ビクンッと一方通行(アクセラレータ)の体が震える。恐怖でない、歓喜によってだ。
 生き残るための方法、この状況を逃れるための方法。
 それに、辿り着いた。
(くはっ。考えてみりゃァ簡単なことだったンじゃねェか)
 それは発想の転換だった。コペルニクス的転回が一方通行(アクセラレータ)の中で起こっていた。
 そう、考えてみれば簡単なことだったのだ。
 一方通行(アクセラレータ)は今までベクトル操作能力を使って様々なことをしてきた。妹達(シスターズ)が撃ってきた銃弾を『反射』したり、御坂美琴の電撃や超電磁砲(レールガン)を『反射』したり、足元の砂利のベクトルを操作して散弾にしたり、鉄骨を投げたりといろいろなことをしてきた。
 だが、一方通行(アクセラレータ)がしてきたことはすべてある特徴が存在する。

 それは、一方通行(アクセラレータ)が行っていたのは外界でのベクトル操作だということだ。

 一方通行(アクセラレータ)は今まで内界、つまり自分の内側、体内の操作を行ったことが無い。
 もしも、それが出来るとしたらこの状況も余裕で切り抜けられると思わないだろうか。
 そう、例えば、
 自分の体内の酸素の消費量を調節、呼吸器官のガス交換の速度をいじり、筋肉、電子信号、細胞の動きの一つ一つまで制御すれば楽々生きのこることが可能にならないだろうか。
(ハッ…………面白ェじゃねェか。)
 新しいことに挑戦するのはいつ以来だろうか、と一方通行(アクセラレータ)は思った。
 ほんの少しだけ昔のことを思い出す。まだ一方通行(アクセラレータ)一方通行(アクセラレータ)などと呼ばれず、能力(チカラ)も何も持っていなかった時のこと。
 ×××××なんてどこにでもいる平凡な名前で呼ばれていた時のことを。
「始めるかァッッッ!!!」
 誰に言うまでもなくそう言った。
 そして、周囲を埋め尽くす爆音の中で一方通行(アクセラレータ)は演算を始めた。
 成功するかどうかもわからない、自分の内側を完全に制御するための、演算を始めた。






 結果的に言えば一方通行(アクセラレータ)は生き残った。新たな技術、自分自身の体の完全制御を行い一段階上のステージに上ることが出来た。
 成長したのだ。一方通行(アクセラレータ)はすでに学園都市最強の身でありながらさらに上の位階にいったのだ。そして、成長した一方通行(アクセラレータ)にとってはもはや粉塵爆発の中で生き残ることなど簡単なことだった。
「コイツは予想以上だなァ」
 とりあえず一方通行(アクセラレータ)は粉塵爆発が終わるまでの間その場で立ち止まってじっくりと自分の内側を操った。すると本来の目的としていた酸素量の調節はもちろんのこと、電気信号、筋肉、神経、血流、細胞分裂速度等様々なモノを制御することが出来た。
 新しく手に入れた力を確かめるかのように一方通行(アクセラレータ)は右手を握る。そして開く。その動作を数回繰り返して、自らの力を実感する。
 今までにない気分だった。最高に高揚していた。一方通行(アクセラレータ)は壊れたような笑みを浮かべた。これから虐殺する御坂美琴のさまを思い浮かべて凄惨に笑っていた。
 そしてついに粉塵爆発が終わる。
 煙が晴れる。
 一方通行(アクセラレータ)は視線を動かして御坂美琴を探した。手に入れた力を御坂美琴で確かめるためだ。電気信号を操って自らの運動能力をあげることが今の一方通行(アクセラレータ)にはできた。非力な一方通行(アクセラレータ)はもういない。今まで以上の力が、速度が、重さが、強さが一方通行(アクセラレータ)にはやどっていた。
 だから、一方通行(アクセラレータ)は自分自身の速度に御坂美琴が反応できるわけがないと高を括っていた。
「見ィつけたァ」
 一方通行(アクセラレータ)の視線が御坂美琴をとらえた。足に力を込める。両腕を前に出す。
 そして、バガンッとものすごい音が鳴り
 まさに一瞬で一方通行(アクセラレータ)の左腕は御坂美琴の首をとらえていた。
「ギャハ」
「アッ、ぐッッッ。ぎィ」
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!本当に死ぬかと思ってぜェ。なァ!!!三下アアアァァァァ!!!!!」
 笑って、嗤って、哂って、嘲笑(わら)って一方通行(アクセラレータ)はそういった。なけなしの感謝と絶対の万能感に包まれながら圧倒的上位者の風格をかもしだし、まるで神様のように御坂美琴を見下しながらそういった。
 そして、ここから一方的な戦いが始まった。




 

 まず、ぞっとした。次に絶望した。そして最後に覚悟した。
 御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)の運動能力が上昇した理由に思い当った。一方通行(アクセラレータ)は自分の体内のベクトルを操作したんだ。そう考えるとすべてに納得がいった。粉塵爆発による窒息の攻撃も、急すぎる運動能力の上昇もすべてそれで説明できる。
「まずいッッッ!!!」
 だからこそ、一方通行(アクセラレータ)の一撃を避けた後急いでその場から離れた。コンテナに突っ込んだ一方通行(アクセラレータ)はすぐに出てくるだろう。そして、さっきの一方通行(アクセラレータ)の速度が最高速であるという保証はない。
 人間の脳には常にリミッターがかけられていて通常人は人体の20パーセント程度の力しか出せない。御坂美琴や一方通行(アクセラレータ)が行っている運動能力の上昇や電気信号の操作はそのリミッターを意図的に外す行為のようなものなのだが、仮に一方通行(アクセラレータ)が完全にリミッターを外してあの速度なら御坂美琴はまだ対応できる。
 しかし、もしもあれが全力でなかったのなら対応できるかは相当怪しい。一手が死へとつながる一方通行(アクセラレータ)との戦闘において石橋を叩きすぎて損をするということはない。
「とにかくこの場から離れないと」
 だが、御坂美琴の行動は遅すぎた。無意識のうちに粉塵爆発を生き残った一方通行(アクセラレータ)に対する恐怖心、あるいは畏怖の思いがあったのだろう。どうしても初動が鈍かった。
 ベギュガアアアァァァアアァァアァアアアンンン、とコンテナが殴り飛ばされる音がした。
 そして、大質量のコンテナが御坂美琴を押しつぶすようにやってきた。
「くッッッ!!!」
 慌てて御坂美琴は磁力を操作した。コンテナの主成分は鋼鉄だ。どれほどの速度で向かってきたとしても磁力で干渉すれば恐れるに足らない。コンテナ自体は簡単にそらせる。だからこそ御坂美琴はその後のことに意識をやった。
 すなわち一方通行(アクセラレータ)のことを。
 コンテナを殴り飛ばしたのは間違いなく一方通行(アクセラレータ)だ。ベクトル操作をして御坂美琴の方にコンテナを飛ばしたのだろう。では、一方通行(アクセラレータ)はなぜわざわざそんなことをしたのか?御坂美琴はその理由に三つのことを考えた。
 可能性①コンテナに注意を向けた御坂美琴に対して別方向から攻撃をかけること。磁力による大質量の操作には意外と神経を使う。だから電磁レーダーに対する意識を向けることもあまり出来ない。一方通行(アクセラレータ)はそのことを利用して左右あるいは後ろから御坂美琴に奇襲をかけるつもりなのだ。
 可能性②コンテナの後ろに隠れて御坂美琴に奇襲をかけること。向かってきているコンテナの後ろに人が隠れているなんてふつうは考えない。その心理を利用してあえて一方通行(アクセラレータ)はコンテナに追走するようにして御坂美琴に攻撃しようとしている。
 可能性③コンテナを複数飛ばして御坂美琴の能力の消費を狙う。御坂美琴は超能力者(レベルファイブ)だが、何も永遠に能力を使い続けられるわけでは無い。よって一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴に能力を無駄打ちさせ体力を消耗させようとしている。
(これは可能性①か②ね。一方通行(アクセラレータ)には私を体力的に追い込む理由はない。だって一方通行(アクセラレータ)の方が能力面で私より上だから。だから③はないと断言できる。問題は①と②どっちかってことだけど……)
 御坂美琴はどちらの可能性にも対応できるように行動した。磁力をもって干渉したコンテナをその勢いのまま自分の横に()()()のではなく、直進方向とは反対方向に、つまり可能性②におけるコンテナの後ろの一方通行(アクセラレータ)が隠れている場所にコンテナを飛ばしたのだ。可能性②を潰すために。
 もしも、一方通行(アクセラレータ)がコンテナの後ろに隠れているならコンテナは『反射』されるはずだ。その場合は一方通行(アクセラレータ)の場所が判明したので対応は出来ることになる。
 一方通行(アクセラレータ)がコンテナの後ろに隠れていなかった場合はコンテナはそのまま直進してどこかにぶつかる。その場合は可能性①を考えて身構える。
(どうなるッ!)
 磁力で操作したコンテナは元の場所に戻るように反対方向に向かっていき、
 地面にぶつかった。



一方通行ならこのくらいのことは出来ると思うんだよなぁ。


次の更新は4日後です。

後、お気に入りがいつの間にか50件を超えていました!ありがとうございます!


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御坂美琴と一方通行⑨ 痛みと死

鬱展開………なのか?


「どこッッッ!!!」
 地面にぶつかったということはコンテナの後ろに一方通行(アクセラレータ)はいないということだ。警戒する。どこから一方通行(アクセラレータ)が襲ってきても大丈夫なように360度全範囲に意識を巡らせる。
「っ!どこからくるの…………」
 一瞬先にも一方通行(アクセラレータ)が襲ってくる緊張感に御坂美琴はさらされた。電磁レーダーは今一時的に使えない状態になっている。突発的な磁力の操作の影響と与えられたダメージのせいだ。姿の見えない敵がここまでおそろしいとは思わなかった。警戒する。神経を張りつめて警戒する。
 そして数秒がたち、
 一方通行(アクセラレータ)はまだ襲ってこなかった。
 視線を周囲に巡らせる。360度どの方向にも一方通行(アクセラレータ)の姿は見えない。ならばどこにいるのかと御坂美琴は考える。考える。考える。考えて、
 だから、『その場所』に考えがいった。
「上かッッッ!!!」
「遅ェッッッッッッッ!!!!」
 一方通行(アクセラレータ)がコンテナを飛ばした後移動したのは、御坂美琴の前でも後ろでも右でも左でもなく、上だった。盲点と言ってもいいだろう。今まで御坂美琴は地上で戦っていた。そしてコンテナが飛んできたことでいやでも思考は地上に固定されてしまった。だから、上空、『上』という場所にギリギリまで考えがいかなかった。
 そして、

 ズガアアァァァアアァァアァアアアアアァァアアアアアアァァァアアンンンンン!!!!!!!!!!

 と御坂美琴の体が地面に叩きつけられ、めり込んだ。
「ッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!???」
 全身がバラバラに砕けたと錯覚してしまうような衝撃が御坂美琴の体に走った。
 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
 痛い―――というよりも熱い。
 熱い―――というよりも寒い。
 そして、痛い。何よりも痛い。
 一方通行(アクセラレータ)による全力のベクトル操作の一撃が御坂美琴の脳天に叩きつけられた結果は散々なモノだった。頭蓋骨には亀裂がはしり、全身の皮膚が裂け、内臓のいくつかは傷つき、脳に一撃を叩きつけられたせいで口の中がぐじゅぐじゅになり、両手の爪のうち八本の爪が剥がれ、視界がチカチカして、左耳も機能しなくなっていた。
 もはや、どんなに近しい人間が見ても御坂美琴だと判別できないほど御坂美琴の身体はボロボロだった。
 ボロボロでグチャグチャでヌチュヌチュでバラバラでグチョグチョでベチョベチョで、
 ただ一撃受けただけなのにまるで数千発も殴れら蹴られたような姿に御坂美琴はなっていた。
「ぁ―――――――」
 喉が潰れたのかまともに声が出ない。それでも電磁レーダーによって一方通行(アクセラレータ)が自分のすぐそばにいるのは分かった。だから逃げる。逃げないと、死ぬ。
「ッ!」
 這うような姿勢から膝をまげ、腕を使って立ち上がろうとする。そんな御坂美琴の姿を一方通行(アクセラレータ)は黙ってみていた。
 御坂美琴の無様な姿に呆れていたわけでは無い。
 御坂美琴の醜い行動に仰天していたのだ。
 腕を前に出して、這うようにして立ち上がろうとする動作を御坂美琴はしていた。立ち上がって一方通行(アクセラレータ)から離れようとしていた。一方通行(アクセラレータ)から離れるということは逃げるということ。ここまでされて、全身の血管が破裂したかのように体を朱に染めて、それでも逃げようとしている。
 そして逃げるということはその後また一方通行(アクセラレータ)と戦うということだ。今、上空からの一撃で五体をボロボロにしてやったのにそれでもまだ戦闘意欲があることに一方通行(アクセラレータ)は驚く。
 驚いて、
 そして、
「くひ」
 哄笑が上がる。
「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひひひひひひひひひひ!!!!!」
 だって、無理だ。無理に決まってる。立ち上がれるはずがない。戦えるはずがない。今の御坂美琴が立ち上がれるはずがないのだ。格好を見ればわかる、その姿を見れば一目瞭然。
「?」
 その笑い声を横に聞きながら。御坂美琴は立ち上がるために膝を曲げようとして、
 
 ()()()()()()()()()()()()()()()

「え…………………………?」
 視線を後方に下げる。御坂美琴自身の左足を見てみる。
 すると、
 そこは、
 そこには、
「嘘………………よ……」
 御坂美琴の左足は折れていた。一方通行(アクセラレータ)の一撃によって折れていた。皮膚がベリベリと剥がれ、真っ赤に染まり、そして何か白いモノが足の中から飛び出していた。
 骨だった。
 骨が足から飛び出していた。
「ひひひひひ!!!オマエ自分の足がカンッペキに折れてるってことに気づいてねェのかァ。そンなカラダで立ちあがれるわけねェだろうがァ!!!」
 ドゴッ、と一方通行(アクセラレータ)が御坂美琴の左足を蹴った。だけど、まるで痛みを感じない。痛くない。
 一方通行(アクセラレータ)と接触した時には全身がバラバラに砕けたと錯覚してしまうような衝撃が御坂美琴の体に走ったはずなのに、今はまるで痛みを感じない。
 ()()()()()
 御坂美琴は電撃使い(エレクトロマスター)だ。その力によって体内の電気信号を制御し痛みのメカニズムを遮断することが出来る。
 だが、本来痛みというものは遮断したりしてはいけないものなのだ。『痛い』ということは体に何らかの異常が発生しているサインだ。無理やり抑え込んだり、無視したりしてはいけない。許容量を超えた痛みを感じると人は気絶することすらあり得る。
 御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)の突進を避けた時無茶な行動をしたせいで強い痛みがはしり、それを抑えるために痛覚を遮断していた。だが、今回の一撃で『痛み』は電気信号の制御能力を上回るレベルで供給されて、それが原因となり御坂美琴の全身に莫大な痛みがはしったのだ。
 前述したように許容量を超えた痛みを感じると人は気絶する。御坂美琴はそれを避けるために無意識のうちに膨大な演算を完成させ、痛覚を完全に遮断したのだ。
 だから、自分の傷に気付けなかった。というかもしも痛覚がきちんと存在していたのなら、立ち上がろうなどと思わないはずだ。思考は痛みでいっぱいだろうから。
「あ………………………」
 これじゃ立ち上がれない。動けない。逃げられない。御坂美琴は顔だけを動かして、周囲を見た。何か、何か役に立つものはないか。この状況から抜け出すための道具はないか。どんな些細なモノでもいい。普段なら役に立たないゴミのようなものでもいい。何か……。
 視線を巡らせる。目に入ったモノと言えば、砕け散ったコンテナ、哂う一方通行(アクセラレータ)、血濡れの体、流れ出た血液が地面を赤く染める光景、無造作に置いてある鉄骨、無数の砂利、積み重なった砂鉄、
 そして、人形のように動かないミサカ10032号と目があった。




 そもそも、御坂美琴は何のためにこの操車場に来たのだろうか。
 決まっている。妹達(シスターズ)を助けるためだ。
 そのために、そのためだけに来た。
 なのに、なんだこの状況は。いったい何なんだ。
 どうして、ミサカ10032号が御坂美琴のことを見つめている?
 いったいいつの間にミサカ10032号を覆っていた砂鉄の壁が解かれたのか。これでは戦闘の余波からミサカ10032号を守れない。
 いくら一方通行(アクセラレータ)に与えられた一撃のダメージが大きいからといって『それ』はやっちゃいけないことだろう?
 『それ』だけはやっちゃいけないことのはずだろう?
 助けるために来たのに、守るために来たのに、救うために来たのに、
 彼女(ミサカ10032号)を傷つけてしまっては本末転倒だろう?
 だから、
(何やってるのよ……私はッッッ!!!)
 助けたいと思ったのはなぜだ?
 守ると誓ったのは誰だ?
 救いたいと願ったのはどうしてだ?
 ………………そんなものは決まっている。
 御坂美琴は妹達(シスターズ)がこれ以上殺されることに我慢できなかったからだ。
(守るんだ…………………)
 御坂美琴はそれを、もう一度強く自覚した。
(救うんだ……………)
 内臓が潰れた?全身の皮膚が裂けた?左耳が潰れた?左足が折れてる?このままじゃ立てない?もうこれ以上は動けない?出血多量で死ぬかもしれない?

 ()()()()()()()!!!

 そんなものは戦わない理由にはならない。
 そんなものは立ち向かわない理由にはならない。
 そんなものは、
 助けられない理由にはならない。
 だからッッッ!!!
(私がッッッ!!!絶対にッッッ!!!)
 全身にはしる痛みを完全に制御したうえで、御坂美琴は体内の電気信号を操った。そして、無理やり立ち上がる。
「っ…………ァァァァアアアアああああああ!!!!」
 御坂美琴の左足は確かに折れている。だが、それは電気信号を操る彼女にとっては立ち上がれない理由にはならない。
 御坂美琴は無理やり立ち上がろうとしていた。どんな後遺症が残ってもいい。この後一生歩けない体になってもいい。だから、今は、今だけは私を立たせてくれと。そう思いながら。
「くはっ」
 状況を確認してみよう。御坂美琴が重傷を負い左足が折れていてもなんとか立とうとしているのは分かった。
 だが、忘れてはいないだろうか?
 今、御坂美琴の隣には御坂美琴をこんな風にした張本人、一方通行(アクセラレータ)が立っていることを。
 だから、こんな展開になるのも当然のことだった。
「オラオラ、無様だなァオイ。そンなに俺から逃げてェンなら手伝ってやるぜえ」
 傍らでまるで赤ん坊が初めて立ちあがあるシーンを見守る母親のような目で御坂美琴を見ていた一方通行(アクセラレータ)は失笑しながらそういった。
 そして、
 バゴン、と立ち上がりかけていた御坂美琴の体を蹴った。
「ごっ、があああああああああああああああああああああああああああ!!!??」
 御坂美琴の体がくの字に折れ曲がり、そのまま20メートルほどの距離をノーバウンドで舞って直線上にあった鋼鉄のコンテナに突っ込んだ。
 御坂美琴の口の中に血の味が広がり、赤黒い液体がベチョっと吐き出される。
 そして、一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴に一秒の休憩を与えることもなく襲いかかってきた。
「ギャハッ、無様な格好でケツ見せやがって誘ってんのかァ、三下ァ!?」
 コンテナにへばりつくような格好で何とか立っている御坂美琴に一方通行(アクセラレータ)は超速で襲いかかる。ヒュアッ、と空気を切り裂くような音がしてコンマ一秒未満の時間で一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴のいる場所に辿り着いた。
 その光景を電磁レーダーで確認しながら、しかし御坂美琴は動けなかった。
 恐怖に震えていたわけでは無い。純粋に負ったダメージが限界を超えていたのだ。ただでさえ今まで負ったダメージで御坂美琴の体はボロボロだったのに、ここでコンテナに叩きつけられるなんてダメージを負ったせいですぐには動くことが出来なかった。
「アハ、ギャハ!!!」
 ベギン、ドゴン、バゴンと一方通行(アクセラレータ)の拳が御坂美琴の背中に叩きつけられる。
 痛覚を極限まで封じた御坂美琴はその行為をどこか他人事のように感じていた。
 殴られても、蹴られても、痛くない。
 それが、痛覚を封じるということだ。
 一方でそれには欠点もある。痛覚がないということは体の異常を感じられないということだ。骨を折っても痛くないから気付かない。体を切られても痛くないから気付かない。身体機能が異常をきたしても気づかない。
 御坂美琴の体は傷ついているのに、壊れていくのに御坂美琴はそれに気付けない。痛みがないから、感じられないから。
「はぁーっ!?はぁーっ!?」
 十発、二十発と御坂美琴を殴り続けた一方通行(アクセラレータ)は一度御坂美琴から手を離して息を吐いた。テンションが上がりすぎて何十発も殴ってしまったが一方通行(アクセラレータ)は貧弱なカラダの人間なのだ。つまり、あまり体力がない。体内のベクトルを操作するという行為も初めて行ったものなので以外に一方通行(アクセラレータ)は体力を消費していた。
 一方通行(アクセラレータ)が手を離したことにより御坂美琴の体はズルズルと下がっていく。そして、コンテナに寄りかかるようにして倒れた。背をコンテナに預け、足を投げ出した格好で御坂美琴は人形のように倒れた。
「あぁ?」
 そう、人形のように倒れた。生きていない、人形のように。
 死んでいる人間のように、倒れた。
「ン。オイオイ嘘だろ。まさか、こンな簡単に死んじまったのかァ?」
 一方通行(アクセラレータ)としてはもっと自分の成長に付き合ってもらうためにもまだ、生きていてもらいたかったのだが……。
「もしもーし、まだ生きてまぁーすかぁーーー」
 バギュバギュと御坂美琴の腹を蹴りながら一方通行(アクセラレータ)は問いかけた。が、当然返事がない。
 御坂美琴の瞼は閉じていて、呼吸をしていなく、全身がだらんとたれ下がっていて、顔がコクンと下を向き、

 そして、

 御坂美琴の心臓が停止した。




ひょ、評価に色がついた………?
黄色だけど評価に色がついたぞ!!!
評価をつけてくれた人ありがとう!励みになります!!

次の更新は5日後です。


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御坂美琴と一方通行⑩ 二人の違い

メリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぼっちマス!!!!!!!!!
カップルは撲滅!!!カップルは撲滅!!!



本編は超シリアスですからね。


「チッ、もう死ンじまったのかよ。これだからクソ弱い雑魚は嫌いなんだっつうの。あーあ、もう少しくらいは楽しめるかと思ったンだがよォ。たかだか数十発本気で殴った程度で死ンじまいやがって」
 イライラしながら一方通行(アクセラレータ)はその場を離れた。もはや死体となった御坂美琴に一方通行(アクセラレータ)は興味を抱くことはない。自分の成長のかなめになってくれたことは感謝しているが、その感謝も明日になれば忘れてしまうだろう。
 多少苦戦しようが一方通行(アクセラレータ)にとって御坂美琴などその程度の存在でしかなかった。
「さーてっとォ、そンじゃぁ次はそこに転がってる人形(ミサカ10032号)でも(ころ)しにいきますかァ」
 その言葉を一方通行(アクセラレータ)が言ったのはたいした意図というものがあったわけではなかった。ただ、御坂美琴という極上の獲物を狩った後に人形(ミサカ10032号)を狩るのにつまらなさを感じてのことだった。

 だが、その声は御坂美琴に届いていた。

(………………………………………………………………………………………――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――)
 人は心臓が停止したらその瞬間に『死』が確定してしまうのだろうか。
 違う、そんなことはない。心臓が停止したからと言ってタイムラグゼロで死んでしまうわけでは無い。心臓が停止してからおよそ3~5分間で脳の機能は停止すると言われている。つまり、まだその間は生きているのだ。意識がなくとも、動いていなくとも、まだ。
 そして、聴覚もきちんと存在している。だから、御坂美琴は外の声が聞こえていた。
 一方通行(アクセラレータ)人形(ミサカ10032号)でも(ころ)しにいくという声が聞こえていた。
 だから、
 だから、
 だから、
(―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――)
 その行為を行ったのは完全に無意識のモノだったといっていい。今まで考えもしなかったその行為を行ったのは御坂美琴に『生きる意志』があったからだろう。
 まだ御坂が、生きたいと、死ぬわけにはいかないと思っていたから。
 御坂美琴は電気を放出させて、その電気を自分自身に向けて放った。
 自分自身の体に電撃使い(エレクトロマスター)としての力を放った。

 DC。

 すなわち直流電流(direct current)式除細動器というものがある。自動体外式除細動器(automated external defibrillator)とは違い医療関係者のみが使うことが出来るマニュアル式の電気ショックを与える機械のことだ。
 御坂美琴が今行ったのはそれと同じ行為だ。自分自身の体に手動で電流を流して身体の機能を刺激した。
 人は例え心臓が止まったとしても、まだ生きたいと願う意思が、死ぬわけにはいかないという意思があればその心臓は再び鼓動を刻むことが出来る。
 そう、御坂美琴は思っていた。想っていた。
 強く、強く、強く、強く、何よりも強く願っていた。
 『助けたい』と。強烈に。
 そして、
 ドクンと御坂美琴の心臓は再び鼓動を刻み始めた。







 一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴を殺した後、例えようもない全能感に包まれながらミサカ10032号のもとに向かっていた。圧倒的な格の違いがあるとはいえ一方通行(アクセラレータ)を相手にほんの少しだけ対抗した御坂美琴のことはもうほとんど頭の中にはなかった。いちいち殺した相手のことなど一方通行(アクセラレータ)は気に留めない。
 今、一方通行(アクセラレータ)の頭の中にあるのは自分の手に入れた新たな力、『内面のベクトル操作』という力を試したいという思いだけだった。
 この力で何ができるのか、この力はどこまでできるのか、何ができないのか、何をしてはいけないのか、これらを知りたいという欲求だけだった。
 だから、まだ生きているであろうミサカ10032号を相手にこの力を試そうとしていた。強能力者(レベルスリー)以下の力しか持たない妹達(シスターズ)では御坂美琴ほどの期待はできないだろうが、このさい的になってくれさえすればいいと思ってミサカ10032号のもとに向かっていた。
 そして、一方通行(アクセラレータ)はまた一歩ミサカ10032号のもとへ近づき、

 ビリッ、と空気を裂く音がして一方通行(アクセラレータ)の『反射』の膜に電撃が当たった。

「………………………な」
 ガバッと全身で一方通行(アクセラレータ)は振り返った。電撃が『反射』の膜に当たった。ただそれだけのモノなのに一方通行(アクセラレータ)な悪寒を感じた。
 今、この場には一方通行(アクセラレータ)と御坂美琴とミサカ10032号の三人しかいない。そして、そのうち電撃を放つことの出来る能力者は電撃使い(エレクトロマスター)であるミサカ10032号と御坂美琴の二人だけ。目の前に横たわっているミサカ10032号は電撃を放っていない。御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)によって既に死亡しているはずだ。
 ならば、いったい誰が一方通行(アクセラレータ)に電撃を放ったのか。
 あり得ない、と内心で否定しながら一方通行(アクセラレータ)は振り返った。一方通行(アクセラレータ)はもう一万人以上の人間を殺している。どうすれば人間が死ぬかなんてわかりすぎるほどわかりきっている。ベクトル操作をした上で数十発も殴られた人間が、脳天を全力で攻撃された人間が生きていられるはずがない。例え超能力者(レベルファイブ)であってもだ。
 だが、
 そこには、
 御坂美琴がいた。
 御坂美琴が目を開けて、左腕をポケットに入れて、一方通行(アクセラレータ)に向けて右腕を構えていた。
「―――――――ッッッ!!!」
 思わず、本当に思わず一歩だけ下がった。血塗れになりながら、苦痛に顔を歪ませながら、それでも一方通行(アクセラレータ)に対抗しようとしている御坂美琴を見て一方通行(アクセラレータ)は胸の中に得体のしれない感情が渦巻くのを感じていた。
 もしも、一方通行(アクセラレータ)が通常の感性を持っていたならその感情は『恐れ』だと分かっただろう。
 一方通行(アクセラレータ)には理解が出来なかった。どうしてそこまでして御坂美琴が人形(ミサカ10032号)を守るのかわからなかった。
 だから、直接問いかけてみた。
「意味が、分からねェなァ」
 声を、かける。
「オマエ、なんでこの人形(ミサカ10032号)なンかを守る?コイツにそんな価値あンのかァ。いくらでも乱造できる量産品にすぎねェコイツに、オマエが命をかける意味があんのか?」
「…………いでしょね」
「オマエがしぶとく生き残ってンならわざわざこの俺に立ち向かうことなんかしねェで、しっぽ撒いて逃げりゃよかったじゃねェか。なのに、効かねェと分かってる電撃をオレに放ってわざわざ注目させるとか、自殺志願者かなンかですかァ」
「アンタには分からないでしょうね。一方通行(アクセラレータ)
 達観したような、奇妙なほど静かな口調で御坂美琴は言った。
「私だって命は惜しいし、できれば死にたくない、まだ十数年しか生きてないのにこんなところで人生を終えるなんてまっぴらごめんよ」
「だったら」
「でも!」
 御坂美琴は大きな声で自分の思いを叫んだ。その思いは決して一方通行(アクセラレータ)には理解できないと思いながら。
「でもね、仕方がないのよね。私はお姉ちゃんだから」
「…………………………………」
 そんな、そんな一言を言って御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)に向かって右腕をあげた。
 熱い瞳を、燃えるように赤い、鮮血に染まった瞳を向けて。
 なぜ、血の繋がっていないただの量産品(クローン)相手にそんなことが言える。
 どうして、いくらでも造れる出来損ない(ニンギョウ)相手にそんなことが言える。
 人形を守るために死んでもいいというのか?
 妹達(シスターズ)のためなら死んでもいいというのか?
 なんだ、それは。
 なんなんだ、それは。
 なんなんだそれは!?
 狂ってる。
 狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。狂ってる。
 頭がおかしいとしか思えない。
 生きるつもりがないとしか思えない。
 愛情というには、それは醜悪すぎる。
 信頼というのは、それは凶悪すぎる。
 百億歩譲って妹達(シスターズ)を人間としてみるとしよう、それでも一方通行(アクセラレータ)には御坂美琴が狂っているとしか思えなかった。
 ほんの数日前に会った人間相手に命をかけるだなんて、
 敗北が決まっている勝負に挑むだなんて、
 命が惜しくないのか?死が怖くないのか?
 そうじゃない。分かってる。一方通行(アクセラレータ)と御坂美琴では何もかもが違うのだ。
 価値観が違う。人生観が違う。守りたいものが違う。欲しいものが違う。生きたい理由が違う。戦う理由が違う。守る理由が違う。ここに来た理由が違う。生きてきた道のりが違う。妹達(シスターズ)の見方が違う。関わってきた闇が違う。生きてきた場所が違う。持っている能力が違う。強さの質が違う。想っていることが違う。思っていることが違う。願っていることが違う。強さの理由が違う。抱いているものが違う。頼れるものが違う。人間関係が違う。好きな食べ物が違う。嫌いな食べ物が違う。好きな飲み物が違う。嫌いな飲み物が違う。好きな音楽が違う。嫌いな音楽が違う。住んでいる場所が違う。通っている学校が違う。関わった研究が違う。傷つけた人が違う。実験に関わった動機が違う。バックに付いている組織が違う。覚悟が違う。保有戦力が違う。過去が違う。未来が違う。居場所が違う。寿命が違う。尊敬する人が違う。嫌いな人が違う。友人の有無が違う。学んできたことが違う。教わったものが違う。世界が違う。在り方が違う。持っているものが違う。生まれた場所が違う。育った場所が違う。今に至る状況が違う。与えられた愛情が違う。歩んできた毎日が違う。心の在りようが違う。体の鍛え方が違う。頭の出来が違う。目の色が違う。感受性の強さが違う。気の持ちようが違う。肌の色が違う。髪型が違う。住所が違う。学園都市での立場が違う。他人からの評価が違う。信じているものが違う。趣味が違う。感じているものが違う。欲しいものが違う。相談できる人が違う。持っている権力が違う。蓄えている財力が違う。患ったことのある病気が違う。好きなキャラクターが違う。安らげる場所が違う。敵とする生物が違う。好きなスポーツが違う。好きなテレビ番組が違う。犯した罪が違う。殺した人の数が違う。性格が違う。浴びてきた血の量が違う。折った骨の数が違う。刳り貫いた眼球の数が違う。
 何もかもが違う。違い過ぎるほどに、違う。
「あはァ」
 だからもういいだろう。目の前の存在は『敵』だ。一方通行(アクセラレータ)の邪魔をする『敵』だ。
 理由なんてどうでもいい。意味なんてなくていい。
 終わらせよう、ここで。
 すべて、何もかも、今。
 この戦いに終焉をもたらそう。
「…………………………………………」
「――――――――――――――――」
 この時一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴のことを戦闘が始まってからはじめて『敵』と認識した。
 合図などなかった。木の葉が落ちたとか、風が吹いたとか、爆発音が聞こえたとか、誰かが声をかけてきたとかそんなこともなかった。
 だが、この時一方通行(アクセラレータ)と御坂美琴の息は不思議なほど合った。
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
 一方通行(アクセラレータ)は足のベクトルを操ってロケットのように御坂美琴に突進した。
 御坂美琴は全身から電気を出しながらその右手で超電磁砲(レールガン)を放った。
 そして、超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)にせまり、
 一方通行(アクセラレータ)超電磁砲(レールガン)との距離をつめ、
 それを見て一方通行(アクセラレータ)は、御坂美琴は、笑って
 そして、

 キイイィィィイイィィイィイィィィイイィイイィイイィ

 と操車場に音が響いた。



一方通行が御坂美琴を『敵』と認定しました(白目)。

年末なのでちょっと休憩します。
よって、次の更新は7日後です。


まだ第一部のプロットの5割も終わってないんだよなぁ……どうしよ


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木葉桜十五夜① 1VS100 罪罰贖と波並波狂濤① 2キロ狙撃

ハッピイイイィィィィニュゥゥゥゥゥゥイヤァァァァァァァァ!!!!

新年あけましておめでとう!!!

UAがついに20000を超えました!これも読んでくれている読者様のおかげです!
ありがとう!!!

さて今話から三話はオリ組織の話です。ごめんね。


 8月21日午後8時52分 学園都市第8学区 高層ビル群付近にて

 ヒュイン、という空間転移(テレポート)独特の音を響かせて十五夜は風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の60階から学園都市第八学区にある超高層ビルの屋上に転移していた。
「さすがに拘束(リミッター)をかけられている状態ではここまでの改竄が限界ですか」
 本来ならば一気に第十七学区の操車場付近まで行くつもりだったのだが、さすがに拘束(リミッター)を何重にもかけられている今の十五夜ではここまでの距離を飛ぶことが限界だった。しかし、それでも少なくとも3キロの距離を十五夜は一瞬で移動している。白井黒子が空間移動(テレポート)によって移動できる距離の限界が81.5メートルであることを考えれば、3キロを一回で転移できる十五夜はどれだけ規格外かわかるだろう。
 ただ、十五夜の原石は空間転移(テレポート)などではないのだが。
「さすが天秤の間から視認できただけはありますね。案外、この場所は高い」
 ビュンッとすさまじい風切り音を鳴らしながら十五夜は一気にビルの屋上の端に移動した。十五夜の原石は高速移動(ハイスペードメーター)でもない。もっと単純で、世界最高位の存在にも部分的に対抗できる能力だ。
 屋上のふちは高さ5メートル以上もあるフェンスで覆われていた。子供が屋上で遊ぶ時などに間違ってもふちから落ちないようにというビルの管理者からの配慮だろう。ある程度の高さがフェンスにあるうえにフェンス上部には有刺鉄線まである。有刺鉄線に電気は通っていないようだが、これなら確実に子供が落ちることはないだろう。
 十五夜は目を開いたままフェンスの方に向かっていった。操車場に向かうにはこのビルから降りなければならない。だが、十五夜がビルから降りるのにわざわざ階段やエレベータを使う必要はない。
 一歩また一歩十五夜はフェンスに近づく。そして、十五夜がフェンスとぶつかる、その刹那に
 スゥ、と十五夜はフェンスをすり抜けた。
 その光景を客観的に表現するのならば、まるで十五夜が幽霊のようになったといった表現が適切だろう。フェンスと接する間際に十五夜は半透明の状態になった。そしてそのままフェンスをすり抜けたのだ。
「さて」
 フェンスをすり抜けた十五夜は屋上のふちに立ち、200メートル近いビルの屋上から下を見下ろした。
「これはなかなか……」
 高い。さすがに200メートルは高い。風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の60階目は250メートルほどの高さにあるが、暗殺対策のために窓が一切ないため高さが感じられないのだ。
 そして、十五夜はもう一度下を見て、胸ポケットに忍ばせていた『シスラウの時計』を起動させた後、
 ビルの屋上から飛び降りた。
「相変わらず、大人気ですね。私たちは」
 十五夜がいたビルの真下のあたりにはおよそ100人の人間がいた。言うまでもなく、風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の敵対勢力の、死縁鬼苦罠と天埜郭夜の仕業だろう。100人は全員が全員傭兵集団彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)所属の証である月の紋章を身に付けていた。彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)は現在、死縁鬼苦罠と長期独占契約を結んでいるはずだ。だから十五夜にはこの人間たちは死縁鬼苦罠たちがよこした戦力だと簡単に想像できた。
 200メートルの距離を簡単に飛び降りた十五夜の顔には特に焦りの色はなかった。十五夜は世界最強の『原石』だ。彼女の原石の能力(チカラ)を考えればたかだか200メートルの距離を自由落下したところで怪我をすることなどあり得ない。
 そして十五夜は轟ッ!と音を響かせてあたりに衝撃をまき散らしながら地面に着地した。
 高所から降り立った十五夜に、十五夜を待ち構えていた彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)の100人の戦闘員の視線が、200の目がグルンッと向けられる。
 そして、あるものは剣を、あるものは槍を、あるものは斧を、あるものは三節棍を、あるものは弓を、あるものは銃を、あるものは鎌を、あるものはハンマーを、あるものは鞭を、あるものはモーニングスターを、あるものは釵を、あるものはハルバードを、あるものは薙刀を、あるものはスリングショットを、あるものは篭手を、十五夜に向けて構えた。
 傭兵団彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)に所属するものはおよそ9割が無能力者(レベルゼロ)又は低能力者(レベルワン)だ。これは単純に彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)のような傭兵団に入る高位能力者などめったにいないからだ。高位能力者ならもっといい場所に行けるし、まっとうな研究所に協力していれば生きるのに困らない金はもらえるだろう。
 だから、結局彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)に入るのは闇に廃棄された者達や武装無能力集団(スキルアウト)からも外れた(アウトロー)どもだけだ。もちろん、例外は存在するが。
 そしてこの場にいる100人は全員武装無能力集団(スキルアウト)上がりの人間だ。十五夜がそれを判断できるのは彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)の所属者の証、月の紋章によるものだ。
 傭兵集団彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)には明確な序列がある。団長をトップに置きその下に大隊長、部隊長、隊長、班長、そして無数の隊員といった形だ。そして団長の月の紋章は『スーパームーン』の形で、大隊長の月の紋章は『満月』、隊長の月の紋章は『上弦の月』といったように位が紋章で分かる形になっている。
 この場にいる100人の月の紋章はすべて『新月』だった。つまり彼らは全員彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)に入ったばかりの新人だということになる。さらに彼らからは闇特有の濁った雰囲気が感じられない。むしろ能力者、自分よりも上位の存在に対するうらやましさのようなものが見て取れる。だから、十五夜は彼らを武装無能力集団(スキルアウト)上がりの人間と判断した。
 さらに言えばあの彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)の団長がこんな捨て駒のような場所に主力を置くわけがないという考えもあった。
 そして、十五夜姿を確認した『新月』達はいっせいに十五夜に襲いかかった。
 あるものは雄たけびを上げ、あるものは静かに、あるものは遠距離から、あるものは近距離から、あるものはすばやく距離をつめ、あるものは姿を消して、皆が皆工夫しながら襲いかかってきた。
 そんな彼らの視線の先の十五夜はピクリとも動かない。武器を構える様子も、戦闘行動をとる様子も、全く見られなかった。
 その様子を見て戦闘経験の浅い『新月』達は無謀にも勝てると思った。思ってしまった。明確な実力差があるにもかかわらず『新月』達はそれを自覚できない。
 武装無能力集団(スキルアウト)上がりの人間でしかない彼らにはその実力差が感じられないのだ。
 そして、 

 何の前触れもなくバタバタバタッ!と十五夜に襲いかかろうとしていた『新月』達全員が地面に倒れた。

 折り重なって、積み重なって、乱雑に倒れている彼らの姿はだからこそ何らかの外からの要因によってそうなったのだ、ということを表していた。
 そんな彼ら(雑魚共)の様子を目撃することもなく十五夜はその場所から一瞬で消えていた。
 ビルの周辺に残ったのはもう、100人以上の人間の死体だけだった。






 そんな十五夜の戦闘ともいえない光景を遠方から眺めている人が二人いた。
「うん、まぁ予想通りっていうところですねぇ。たかだか、武装無能力集団(スキルアウト)上がり風情が十三人しかいない学園都市特記戦力に勝てるわけがありません」
 一人目は罪罰贖(つみばつあがない)。麦わら帽子をかぶり、眼鏡をかけ、ワイシャツに半ズボンというごく普通の恰好をした人間。
「…………新月では十五夜には勝てない」
 二人目は波並波狂濤(なみなみなみきょうとう)。首輪を首に着け、防弾チョッキと、防刃チョッキを身に着け、ノースリーブの黒い服を着て、長ズボンを履いたこちらもごく普通の恰好の人間。
 この二人も当然彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)所属の存在だ。
 ただし、その位は大隊長という彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)の中でも上から二番目に位置する存在だが。
「それじゃあ、一発ぶちかましちゃいましょう!準備はオーケーですか、狂濤?」
「…………問題ナッシング」
 今二人がいる場所は十五夜が戦闘を行っていたビルから2キロ離れた場所にある40階建てのビルの屋上だ。そこから狂濤はうつ伏せの状態で空気狙撃銃(エアライフル)を構えていた。
 狂濤が構えている空気狙撃銃(エアライフル)の名前はHsSR-04。通常の弾丸ではなく空気中に80パーセントの割合で存在する気体状態の窒素を、内部の急速冷却機構を用いて-220度までを下げることによって窒素弾丸を作り出し、その弾丸を装填、発射する狙撃銃(ライフル)だ。
 発射された窒素弾丸は空気中をはしる際の摩擦熱と常温の空気にさらされたことで徐々に小さくなっていき2キロもすればその姿は完全に消える。だが、空気を切り裂いて進む窒素弾丸はその性質によって『押し出された空気』を作り出す。
 車のレースF1において一番前を走る車は数百キロのスピードで走るが故にとんでもない空気抵抗を受ける。空気自体が壁となって車の進行を妨げるわけだ。だが、車はその壁を突破して動く。その際には車を起点にハの字型に空気の流れができるわけだ。
 HsSR-04から発射された窒素弾丸はF1の車のように空気の壁を突破しながら動く。その際に弾丸が弾丸自身の前にある空気を前方に押し出すようにして動く。その『押し出された空気』はまるで槍のような形となってしばらくの間進んでいく。もちろん1キロも『押し出された空気』は進むわけでは無いが、それでも100メートルは殺傷能力を有したまま進む。
 つまりHsSR -04は2キロ以上2.1キロ以下の距離から放てば弾丸の存在しない狙撃銃たりえるのだ。ただ、『押し出された空気』が当たった際の傷はかなり特徴的なので分かる人には分かってしまうのだが。
「じゃあ、おさらいですね。……現在風速南南西に3メートル。対象との距離2.024581キロメートル。距離1.20423キロの場所にビル風あり。気温26度。湿度62パーセント。――」
 そう、この二人は十五夜を狙撃しようとしているのだ。狂濤が狙撃手(スナイパー)で贖が観測手(スポッター)。2キロメートルというかなりの長距離から狙撃しようとしているのだ。
 贖がデータを上げていく。それを狂濤は黙って聞いて頭の中に入れていた。情報を反芻する、もう狂濤の意識はどのタイミング狙撃するかということに移っていた。
 空間を渡り歩くように移動している十五夜を狙撃するためには空間移動が終わり、次の空間移動をするまでの一瞬を狙うしかない。
 呼吸、心音、筋肉の動き、生体反応、それらすべてを一定の間隔にする。狂濤は狙撃をするとき必ず自分の体の動きを規則的にしていた。昔からずっと狂濤が行ってきた行為。この行為は狙撃前の一種の儀式のようなものだ。
 その様子を贖は横目に見ながら自分たちがここに来た痕跡、そしている痕跡を消していた。観測手はあくまで狙撃手に正しい情報を伝え、狙撃手を導く存在。基本的に狙撃手の邪魔をしてはならないという考えが贖の根底にはある。もちろん、何か予想外の事態が起きたときのために常にかけている眼鏡の望遠機能を使って周囲の様子は観察しているが。
「…………………………………………………………………………………………………………」
 一流の狙撃手ともなれば2キロくらいの距離が離れていても必ずその弾丸を対象にあてる。そして、狂濤は超一流の狙撃手だ。2キロの距離を当てるなんて朝飯前だ。
 狂濤の耳からビュウビュウという風の音が掻き消える。意識が完全に集中状態に入ったのだ。自らの呼吸音も心音も、もはや狂濤には聞こえていない。銃と自身が一体化する、そんな感覚に襲われてさえいた。
 そして、ついに十五夜が贖が予測した空間移動出現場所(テレポートポイント)に現れ、

 その1.78秒前に狂濤はHsSR-04の引き金を引いた。

 HsSR -04が出せる弾丸の限界速度は秒速にして1000メートル。つまりどんなに速くとも二キロ先の対象に当てるには2秒の時間がかかるということだ。そして、事前に調べることのできた情報によれば十五夜の連続転移のタイムラグは約0.68秒。
 視認してから引き金を引いたのでは遅い。当たらない。最低でも十五夜が現れる1.32秒前には引き金を引き、窒素弾丸を発射しなければならない。
 視認する前に引き金を引く。狂濤がこれを出来た理由は至極単純。ただ、そう思ったから。今、引き金を引けば、引かなければ当たらないと思ったから。長年の狙撃経験によって磨かれた第六感、超直感。それが狂濤に引き金を引かせた。
 パン、という軽い音とともに窒素弾丸が発射され、十五夜が現れるであろう場所へ向かっていく。そして発射から1.78秒後に十五夜は弾丸の到着地点に現れた。そのことを狂濤ではなく贖が確認する。
 狙撃してから0.92秒後にはすでに狂濤はHsSR -04の照準器から目を離していた。わずかな殺気でも漏れていれば、十五夜はそれを感知して何らかの対策をとりかねないからだ。その点、贖は安心だ。贖は視線に殺気を交えない。狙撃のサポートを生きがいとする贖はそれ以外に関心を持たないからだ。
 そして、贖は『押し出された空気の槍』が十五夜に当たったのを視認した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

「いやぁ、ほんとに予想通りですねぇ」
「…………無傷?」
「えぇ、完全に無傷です。まぁ、たかだか空気の槍ごときで傷つけられないのは分かってましたけッッッ!!!」
 いきなり驚愕した顔を浮かべた贖に狂濤は不思議そうに尋ねた。
「…………どうした?」
「わーはっは。ほんとまいっちゃいますねぇ。……目、合いました」
「……………………………………………………………………………………………………撤収する」
 降参するように両手を上げてそういった贖に狂濤はほんの少しだけ悔しそうに言った。
「賛成賛成大賛成です。さすがに第三級装備(サードアーム)じゃ対抗すらできません。本気で殺す(やる)つもりなら第零級装備(ゼロアーム)は必須でしょう」
 パッパと撤収準備を済ませて狂濤と贖の二人は屋上から姿を消した。
 彼らに与えられていた指示は『木葉桜十五夜に一撃を入れろ』というもので傷を負わせろとは命令されていない。もしも、傷を負わせることが目的なら彼らの上司に当たる彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)団長は第三級装備(サードアーム)なんて低レベルの装備で二人を送り出さないだろう。
 この二人は彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)の大隊長なのだから。
 だから、二人に『木葉桜十五夜に一撃を入れろ』をなんて命令を出したのはおそらく本命が他にいるから。
 きかないと分かっている攻撃をさせて二人の実力を上げるのと共に、十五夜の意識をわずかにでもずらすことが目的なのだろう、と贖は考えていた。
「団長ももう少しわかりやすくいってほしんですけどねぇ」
「…………同感」
 自分たちがおとりということは本命は十五夜の至近距離に隠れているはずだ。狙撃という遠距離攻撃に意識を向けさせ、超近距離から攻撃する。これは兵法の常とう手段でもあるのだから。
 贖はこれから十五夜を至近距離の戦闘で相手にしなければならないことになる存在、おそらく隊長級の存在に対して同情の念を隠せなかった。十中八九捨て駒扱いの上に確実に死んでしまうのだから。
「まぁ、頑張ってくださいね、誰かさん。無事帰ってきたら優遇してあげますよ」
 そんな独り言を言って二人はビルの中から消えた。



窒素弾丸とかでたらめだからね!信じないでね!

次の更新は3日後です。


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木葉桜十五夜② 宣告される死の三分

うーん。オリキャラを動かすのは難しいな。


「逃げましたか」
 狙撃ポイントと目される場所を目視で睨んでいた十五夜はそこからの視線が消えたことで周りの気配を探査する方向に切り替えた。十五夜レベルの人間なら殺気などこもっていなくても『見られている』という視線だけで相手がどこにいるか察知することが出来る。
「このレベルの狙撃……あの二人の仕業ですね」
 十五夜は自分を狙撃したのは狂濤と贖のペアであると断定した。学園都市広しといえども連続空間転移のタイムラグを狙って狙撃できる存在は数組しかいない。現状況なら十五夜を狙撃する可能性があるのは彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)所属の狂濤と贖だけだ。
 目的はおそらく足止め。十五夜が実験場につくのを遅らせるか止めたいのだろう。
「それで、次はあなたたちが私の相手をするのですか?」
 30メートル周囲を探査した結果十五夜は二人の人間を見つけた。一人目は十五夜から15メートルの距離で、二人目は十五夜から3メートルという近距離で。ただし、双方ともに目視はできなかった。
「ふぅ。やはりばれますか」
「もしかしたら殺せ(やれ)るかなぁ、なんて思ったけど、そこまで甘くはないですよ、ね!!!」
 比較的近距離にいたほうの人間が十五夜に攻撃をしてきた。その存在を目視できないが故に十五夜は気配のみで対応する。
 ガッギイイィィイィィィィィィン、と金属同士のぶつかり合う音がした。
 襲撃をしてきた人間の武器と()()()()()がぶつかり合った結果だ。
「はああぁぁアアアァァァァアァアァアアアァァァァ」
 一合、二合、三合とぶつかり合う互いの凶器。だが、それは襲撃したほうが大きく距離をとり、もう一人の襲撃者の隣に移動したことでいったん取りやめとなった。
「そろそろ姿を見せてもいいのではないですか?何を考えているか知りませんが、目視できない程度で私に対して有利に立つことが出来るとでも」
 圧倒的強者としての台詞を聞いて襲撃者二人はかすかな息を漏らす。
「確かに、そうですね」
「聞いた通りの化物っぷり、まさか皮膚の下に金属板を埋め込んでいるなんて」
 そして、襲撃者はその姿を現した。二人が十五夜の視覚にとらえられることが無かったのは周囲同化服(カメレオンスーツ)によるものだ。当然周囲同化服(カメレオンスーツ)では気配は消せないので十五夜には気付かれる結果となったが。
「なるほど、部隊長級ですか」
 姿を現した二人も彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)所属証である月の紋章を付けていた。
 ただ、十五夜が先ほど『シスラウの時計』で蹴散らした新月の紋章を付けた100人とは違い、二人の月の紋章は『上弦の月』だった。つまりこの二人は彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)の中でも上から三番目の位である部隊長級。さっき蹴散らした雑魚とはレベルが違う敵。
矛盾矛盾(ほこたてむじゅん)彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)第三級部隊長です」
鳳仙花蝶々(ほうせんかてふてふ)。同じく彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)第三級部隊長」
 彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)の階級は一番上から団長、大隊長と続いていくが、その位の中でも団長以外の位は細かく分かれている。第一級大隊長なら大隊長の中でも一番偉い位で、第三級部隊長といえば部隊長の中でも三番目に偉い位だ。この位からも二人が実力者であることがわかる。
 だが、それでも十五夜とは絶対的力の差があるのだが。
「三分です」
「何を……?」
 矛盾と蝶々の眼前に映る十五夜は右手の指を三本、人差し指、中指、薬指と立て静かに宣言した。
「三分以内にあなたたちを殺して先に行くと宣言します」
「……………へぇ」
 矛盾は静かに怒った。確かに矛盾達と十五夜の間には隔絶した力の差がある。どれほど矛盾達に有利な条件で戦ったとしても十中八九、いや100パーセントの確率で矛盾達が負けるだろう。
 そのことは、理解している。
 勝てるとは全く思っていない。
 だが、それでも矛盾達にだってプライドはあった。安っぽいかもしれないがプライドは確かにあった。
 少なくとも五分は足止めして見せると、矛盾達は決めていた。対抗できなくとも邪魔してやろうと、勝てなくとも足止めしてやろうと、事前に二人で決めていた。だから、十五夜の発言は二人の気に障った。
 ああ、こいつは自分たちのことをゴミ以下にしか思ってないんだな、と。
 三分以内に殺すという発言はそのままの好意的な意味で受け取るなら『お前らは三分ぐらいなら私を足止めできる実力はある』という意味だ。だが、十五夜はそんなことは思っていない、視線が真実を物語っている。十五夜の視線はこういっていた。『私の足止めなんて5秒も出来るわけないだろ。でもまぁ、かわいそうだから三分位なら足止めされてやるよ』と。
 圧倒的上から目線。絶対的高座からの視線。だが、だからこそ矛盾達の心に火がついた。
(絶対に一泡吹かせてやる!!!)
 この時、二人の心はシンクロした。蟻でもライオンに一矢報いることを見せてやると、二人は同時に思った。
 それぞれの武器を構える。
 矛盾は先ほど狂濤が使った狙撃銃HsSR-04の機構をそのままにした拳銃。つまり、急速冷却機構を用いて空気中から窒素弾丸を作り出し、それを装填、発射する拳銃『HsP-07』を。
 蝶々は先ほど十五夜と打ち合った、チェーンソーのように小刻みに振動することで相手の武器を傷つけ破壊する剣『高速振動剣(チェーンソード)』を。
 それぞれ目の前の十五夜に向けて構えた。
 それに対するように二人の前にたたずむ十五夜は胸ポケットに入れていた『シスラウの時計』を取り出した。そしてそれを右手に持つ。構える。
 一挙手一投足を見逃さないように矛盾達は目を凝らした。格上の相手と戦ううえでは先に動くのはまずいと矛盾達は考える。先に動くということは先に攻撃を仕掛けるということ。格上に先制攻撃をするのは愚策だ。その攻撃を受け止められ、なおかつ反撃までされてしまったらなすすべがない。
 だから、狙うべきはカウンター。相手が何らかの動きをしたところ、この場合は矛盾達に攻撃を仕掛けてきたり、この場から逃走する動きをするところ、その動きに対応するように動く。そうすることで、少なくとも何らかの成果は出るはずだ。攻撃が当たるかどうかは別として、相手の動きは分かるはずだ。
 彼らの視線は交錯していた。その交錯する視線の中でほんの一瞬だけ矛盾達は十五夜が右手に持つ『シスラウの時計』に目を移したのを見た。
 矛盾達は『シスラウの時計』がどういうものか知らない。『シスラウの時計』の効果や性質も何も知らない。情報がないのだ。ここに矛盾達を送り出した彼者誰時に輝く月(シャイニングムーン)の団長は『シスラウの時計』の情報を何もくれなかった。だから、矛盾達は十五夜の持っている懐中時計が『シスラウの時計』という名前であることも知らない。
 だが、仮に名前を知っていたとしてもおそらく矛盾達では『シスラウの時計』がどういうものなのか推測することも出来なかっただろう。
 なぜなら、十五夜の持つ『シスラウの時計』は科学の総本山学園都市に本来あってはならないもの。学園都市所属の人間が本来使ってはいけないもの。
 世界を二分する勢力図。
 ()()()()()と対をなす、もう一つの異常な力をつかさどる()()()()()に属するものなのだから。
 だが、十五夜が視線を『シスラウの時計』にうつした、というワンアクションをとったということを矛盾達認識した。その視線が『シスラウの時計』に移っている間がおそらく最初で最後のチャンス。ここで仕掛けなければ勝利はない。ここで仕掛けられなければ破滅しか先はない。ここで動けないのならば可能性は絶無に帰する。
 ただの直感でしかないが二人は同時にそう思った。
 視線を交わすことも、互いに口をきくこともない。だが、それでもシンクロした心と鍛え上げられた直感で二人は同時に動き始めた。目標は木葉桜十五夜。目的は木葉桜十五夜の打倒。
 右から矛盾が拳銃で、左から蝶々が高速振動剣(チェーンソード)で同時に攻撃を仕掛ける。暗黙のうちにそう決まった。
 今しかないというタイミング。わずかな勝機に賭け、生き残る可能性に賭け、二人は同時に動き出す。
 十五夜との距離はおよそ15メートル。この二人ならば詰めるのに1秒とかからない距離だ。
 まず、一歩踏み出す。心を猛らせ、震わせ、一歩踏み出す。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

「ばッッッ!!!!!!???」
 死ぬ。
 最初に感じたのはそれだった。
 思考が死一色に染まった。
 十五夜がいつの間にか持っていた拳銃の引き金を引こうとしているのが見えた。
 なぜ。どうして。いったいいつの間に。そんな疑問が頭を埋め尽くす。
 速いとか遅いとかそんなレベルの話じゃない。空間移動(テレポート)高速移動(ハイスペードメーター)、そのどちらでもないのが感覚で分かる。ならば、どういう理屈だ。どういう理屈で十五夜がここに現れた。
 いや、違う。そもそもそんなことが問題なんじゃない。最大の問題は、十五夜がいつの間にか矛盾の左側に出現したということではなく。
 今現在も、十五夜は元と同じ位置にいるということ。
 視界の先には、十五夜の姿がある。矛盾の左目は確かに矛盾の左側にいる十五夜の姿をとらえているというのに、真っ直ぐ見る先にも十五夜の姿がある。
(どういうことだ!!!)
 意味不明。理解不能。一瞬先にある死のために一切の行動を起こせない身でありながら、矛盾の脳が思考するのはこの明確な矛盾。
 同一人物がこの現実世界で二人存在するなんてことはあり得ない。絶対にありえない。世界の摂理(ルール)がそんなことを許さない。だが、事実その現実は矛盾の瞳にある。
(考えろ!何が起こってるか思考しろ!団長もいってたじゃないか、思考を止める奴は死ぬ。死ぬんだ!二重存在(ドッペルゲンガー)か、それとも重々残身(オーバートラップ)か、それとも、それとも)
 矛盾はその現象を起こせるであろう能力をいくつか頭に浮かべる。もしも、十五夜の能力を突き止めることが出来れば、自分が死んだことにもきっと意味があると思った。
 十五夜の持っている拳銃の引き金が引かれた。ということは必然、銃弾が放たれるということ。誰に?当然矛盾に向かって放たれる。銃弾と矛盾の距離はわずか80センチメートル。刹那の間に銃弾は矛盾に辿り着く。辿り着いて、その命を刈り取ってしまう。
 だが、矛盾は思考をやめない。というかもう矛盾には思考することしかできない。だから考える。その果てに何もつかめないとしても。
(考えろ!生き残る方法はもういい。それは諦めろ。だから、考えるのは。思考すべきなのは、そもそも、どうして、どうして、どうして、いったいどうして十五夜は俺のことを拳銃で殺そうとしているんだ?人を殺すなら剣や、拳の方が確定的に確実のはずなのに)
 銃弾との距離残り20センチメートル。
(銃弾なんて人を確実に殺せるものじゃない。脳天に一発ぶちあてたり、心臓に放たない限り死亡しない可能性があるのに。どうして)
 思考するが、が、だが、所詮そこまで。その思考は隠された事実には届かない。
 もしも、矛盾がその事実に届いていればいくらでもこの状況は改善されるというのに。
 そして、銃弾が矛盾の脳天にのめりこみ、
 左目に映っていた十五夜の姿が霞のように消え去った。
(消え)
 思考は最後まで繋がらなかった。
 なぜか?その答えは簡単だ。
 つまるところ、それが矛盾矛盾の16年の生涯の終わりだった。



次の更新は3日後です。


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木葉桜十五夜③ 毒と傷

 ドサッと右側から人が倒れる音がした。
 蝶々は思わず、十五夜に向かって走り出していた足を止めた。構えていた高速振動剣(チェーンソード)が動揺のあまり下を向いてしまった。それほどまでの衝撃、それほどまでの異常が自分の右側で起こっていたのだ。
「……………………は?」
 自分たちは十五夜に向かって走り出していたはずだ。蝶々の視線の先には変わらず十五夜がいる。特に何かをしたという挙動はない。十五夜がしたことといえばよくわからない懐中時計を取り出しそれにわずかに視線を移したということだけ。
 なのに、どうして、急に矛盾が倒れたんだ!!!
「どう…………いう……………………?」
 理解不能。方法不明。意味不明。十五夜は一歩も動いていないのにも関わらず矛盾は死んだ。
「来ないのですか?なら、こちらから行きますよ!」
 だが、矛盾が死んだ理由についていつまでも考えている時間はない。今は命を懸けた戦闘の途中なのだ。しかも相手はこの学園都市でも間違えなく十指に入るほど実力を持った、蝶々なんかとは隔絶した強者。一瞬でも気を抜けば、刹那でも意識を逸らせば、間違いなくその瞬間死ぬ。
(集中。集中。集中。集中。集中。集中。集中。集中。集中。集中)
 初動を見逃すな。十五夜ほどの実力者の動きは蝶々では絶対についていけない。気配を読むにしても、隔絶した実力差がある中では偽の気配をつかまされる危険性がある。第六感(シックスセンス)は役に立たない。
 頼るべきは五感のみ。それ以外はただの(ゴミ)だ。
 そして、十五夜が蝶々に向かって一歩を踏み出し、
 その一歩は既に十五夜と蝶々の間にある距離をゼロにしていた。
(くッッッ!!!)
 気付いたら目の前に十五夜がいた。初動なんて完全に見えなかった。これが二人の間にある実力の差。次元の違う実力差。
 そして、十五夜の腕が蝶々に向かって突き出される。もしも、その腕が蝶々に到達してしまえば、蝶々はたやすく貫かれ絶命するだろう。だから、どうにかしなければならない。
 突き出される腕に対してとることのできる行動は3つ。すなわち、避ける、逸らす、迎撃する。この三つだ。
 まず、迎撃する。これは不可能だ。ただでさえ隔絶した力の差がある存在の攻撃を立ち向かってどうにかするなんて阿片をやってる人間でも愚策とわかるだろう。
 では、避けるのはどうか。これも難しい。そもそもが蝶々は十五夜の移動速度を目で捉えられなかったのだ。これは十五夜が蝶々よりもはるかに速いということを示している。つまり、仮に蝶々がおのれの限界を超える速度で動いたとしても十五夜はそれを上回る速度で動けるということだ。ならば避けるという選択肢は却下せざるおえない。
 三番目、逸らすという選択肢は?前二つよりもまだましに思えた。十五夜の移動速度は目で捉えられないほど速かったが、腕を突き出す速度はまだ目で捉えれる。ソニックブームも起こっていないから音速にも届いていない。これぐらいの速度なら蝶々は対応できる。
 つまりとるべき選択肢は三番、迫ってくる腕を、拳を、強引に逸らす!!!
「ふっ!」
 高速の剣技をもって蝶々は十五夜の拳の進路上に自らの剣を置いた。これで十五夜は蝶々の剣に触れずに蝶々の肉体を貫くことは出来ない。蝶々の剣は鉄よりもはるかに硬く重いものだ。故に拳程度では音速以上の速さでなければ砕けない。進路上に置かれた剣は十五夜の一撃を減衰させ蝶々を守ってくれるだろう。
 仮に十五夜が剣を避けるように拳の進路を変更させたのならばそれでもいい。進路を変更させた分、十五夜の拳が蝶々に届くまでの猶予時間が生まれる。それならそれで強引に避けることが可能になるはずだ。
 蝶々の主観では立てた作戦は完璧だった。対応も完璧だった。
 だから、不完全だったのは目の前に迫っている十五夜への認識。自らの目に映るもののみを信じてしまったが故の怠慢。
 もっと、疑うべきだった。もっと、確かめるべきだった。
 そうすれば、分かったはずだ。
 そうすれば、気付けたはずだ。
 少なくとも、この事実には、
 目の前にいる十五夜にはあるはずのものが、すなわち地面にうつされる影がないということが。
 ああ、でも残念なことに蝶々はそこまで頭が回らない。だから気付けない。この重大な事実に気付けない。
 そして、十五夜の拳が蝶々の構えた剣に触れて、
 そのまま剣をすり抜けた。
「ゴ……………………ア…………」
 十五夜の腕は蝶々の構えた剣をすり抜けた、まるで幽霊のように簡単に。故にたどる結末は蝶々の死。不可避の現実が甘い予想ごと蝶々のことを貫く。
 ガシュッと十五夜の腕が蝶々の胸を貫いた。
 どす黒い鮮血が舞いどうしようもないくらいの絶望が蝶々の胸を覆う。
 これは、もう、どうしようもない。
 ほんとうに、もう、どうしようもない。
 そんなあきらめを胸に抱いて、蝶々の意識は漆黒の闇の中へ堕ちていった。







 現状を整理してみよう。矛盾矛盾は死亡した。鳳仙花蝶々も死亡した。だが、そもそもどうしてこの二人は死亡したのか。
 十五夜に殺された?もちろんそうだ。だが、問題は死因。矛盾は弾丸で頭を貫かれて死亡した。蝶々は胸を腕で貫かれて死亡した。
 少なくとも、殺された本人たちの認識ではそうなっている。
 だが、第八学区の道端に転がっている二人の死体を、二つの死体を検死した人間はこういうだろう。死因は何らかの毒物によるものだ、と。
 つまりどういうことなのか?
 つまりこういうことだ。十五夜によって殺された二人に外傷はない、そういうことだ。
 なぜ?どうして?ならば矛盾と蝶々が見た自分たちの死はなんだったのか。その答えはもう示されている。
 矛盾が見た『木葉桜十五夜が二人いる』という光景。
 蝶々が気付けなかった『影のない木葉桜十五夜』という光景。
 そして、『シスラウの時計』。
 ほら、もう答えは出た。








 シュンシュンシュンシュンと空間を高速で移動する音が夜の第八学区に響く。無論、十五夜が超高速移動をしている音だ。
「まともに相手なんて、するわけないじゃないですか」
 高速移動をしながらつぶやかれるのは嘲りの言葉。すなわち、浮かべられるのは嘲笑の表情。十五夜が殺した矛盾と蝶々の二人の目的は十五夜の足止めだった。つまり、一分でも一秒でも長く十五夜をあの場につなぎとめることが目的なわけだ。
 仮に、戦闘が開始されてしまえば十五夜とて5秒くらいはあの場に停滞せざる負えなかっただろう。十五夜からしたら道端に転がる塵屑以下の存在にすぎないが、その塵屑とて数秒位は十五夜の意識をとどめることは出来る。
 だが、十五夜は今そんな雑事にかまけている暇はない。頼まれたのだから。白に、風紀委員長に、上から目線で頼まれたのだから。
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()
 なぜとは問わない。理由なんてどうでもいい。木葉桜十五夜は白白白に命令されることを至上の喜びとしているのだから。白のために生き、白のために死に、白に尽くし、白を愛し、白を讃え、白に奉仕し、白を敬い、白を守り、白の目となり、白の耳となり、白の感覚となり、白のために傷を負い、白のすべてを受け入れ、白の盾となり、白の武器となり、白のために罪を犯し、白の罪をかぶり、白の人形となり、白の奴隷となる。ただ、そのためだけに存在するのだから。
 十五夜が普通の女の子になることのできたあの時から。
 だから、それ以外は心底どうでもいい。
 ここまで言えばわかるだろう。つまり、十五夜は塵屑二人に一瞬でも自分の行動を妨害されることが我慢できない。
 つまり、だ。

 結局十五夜はただの一秒たりとも矛盾と蝶々の姿を見ていないし、ただの一言たりとも二人と言葉を交わしていない。
 矛盾と蝶々がその瞳で見て、その口で会話した十五夜は、
 ただの幻覚だ。

 いつから幻覚だったのか、と疑問に思う人もいるだろう。その問いに答えるならば最初からという答えが正しい。十五夜が『シスラウの時計』に視線を移す姿も、蝶々の高速振動剣(チェーンソード)と打ち合う姿も、周囲同化服(カメレオンスーツ)で姿を隠した二人に気付いた様子の十五夜もすべては幻覚にすぎない。
 そして、それより前の100人の『新月』達が見た十五夜も当然幻覚だ。真に十五夜の姿を見ていたのは超長距離狙撃を成し遂げた二人しかいない。
 超長距離狙撃の一撃を防いだ後、周囲を探査した十五夜は自分の近くに接近している矛盾と蝶々の姿に気付いた時点ですぐにその場から移動したのだ。だから、二人は本物の十五夜とは一瞬も会っていない。
 そして、彼らが幻覚を見た理由。それこそが、風紀委員本部開発部隊総隊長魅隠罠明(みかくれみんみん)が作り、十五夜に渡した禁断の兵器『シスラウの時計』だ。
 『シスラウの時計』の効果は使い手の想像する毒を周囲にばらまくというものだ。広域に使い手の作る毒を散布する殲滅型の毒殺兵器。それが『シスラウの時計』。
 今回、十五夜が彼らを殺した手段は『シスラウの時計』による毒の散布だ。散布した毒の種類は自己自殺幻覚型。つまり、範囲内にいる生物にたいして『自分が殺される幻覚』を見せるタイプの毒だ。
 彼らはその毒を無意識のうちに吸ってしまったため、幻によって殺されることになったのだ。まぁ、十五夜が『シスラウの時計』でつくりだした毒は無味無臭かつ無色透明なのでよほど感がいいか、それでも毒があるとわかる目がなければ判別しようもないのだが。
 ともかくとして、そんな手段で彼らは死んでしまったのだ。
 だが、疑問に思う人がいるのではないのだろうか。すなわち、『幻によって人は死ぬのか』ということについての疑問だ。
 その疑問はごもっともで普通よほどの恐怖でもない限り幻によって人は死なない。そんなに人は弱くない。生存欲求が人にはちゃんとあるのだ。
 だから、彼らの死因は毒物によるものなのだ。確かに二人は『自分が殺される幻覚』を見て倒れた。そして、死んだ。ただし、それは精神のみの話だ。
 二人の肉体は、魂はまだ倒れても活動を続けていた。意識(ココロ)はとっくに活動をやめていたが。ある意味では完全な『死』までのタイムラグがあったともいえる。もちろん、精神が死んだ時点で矛盾と蝶々の二人が復活できる可能性は那由他の涯にしかないのだが。
 そして、二人は復活できなかった。そんなにあの二人は強くなかったのだ。精神が死んだ状態から立ち上がれる人間なんて10人もいればいい方だろう。そして、二人はその10人の枠には入れない。故に、体の中に入った自己自殺幻覚型の毒によって身体を蝕まれ、貪られ、死亡した。
 これが、あの数分の戦闘の真実だ。
 そして、そんな幻覚を見せておき十五夜は矛盾と蝶々の二人を放って実験場に向けて走っていた。空間移動ではなく、自らの足で走っているのは狙撃等の遠距離攻撃を警戒してのことだった。
もちろん、よほどの攻撃でなければ十五夜は防げる。自動防御機能のようなものが十五夜にはあるからだ。ただし、その自動防御機能のようなものには残念ながらダメージの許容量というものがある。つまり、防御機能の許容量の限界を超えた力ならば十五夜に届くということだ。
 故に走る。超長距離狙撃による一撃を許したのは、空間移動後の周囲把握にかける一瞬以下の時間を突かれたからだ。幸いにしてその一撃は十五夜の体には届かなかったが次の一撃も届かないとは限らない。まして、拘束(リミッター)をかけられた状態ではなおさらに。
 だが、走るという動作をとれば不意を突かれることはない。十五夜の現在の索敵範囲は半径にして1キロメートル。透明化をほどこされていようが、高速移動をしていようが、普通の空間とは違う『異物』が索敵範囲内に入った時点で十五夜はそれを察知できる。
 だから、もう十五夜が攻撃を食らうことはない。例え10キロメートル先から放たれた銃弾であろうと、索敵範囲の1キロメートルに入った時点で察知できれば十五夜の身体能力なら対応可能だ。
 そして、十五夜は実験場に向けて走って、走って、奔って、
「天下無双流剣術奥義之弐。数多散逝刹那愛(あまたちりゆくせつなのあい)

 瞬間、十五夜の左腕に裂傷がはしった。

「ッッッ!!!」
 防御が抜かれた。再生もしない。索敵にもひっかからなかった。
 故に十五夜は光速の思考でこう結論付ける。
 コイツハワタシヲコロシウルソンザイダ。
「…………………………………………………」
 全身を必要以上に活性化させて自らを中心とした索敵範囲を拡大させる。一キロメートルから、二キロメートル、三キロメートルと徐々に拡大させる。十五夜は自分がどういう理屈で傷ついたのかは分からなかった。そして、わかる必要もないと思っていた。
 今必要なのは敵がどこにいるかということの把握。
 今必要なのは敵の正体の把握。
 死ぬわけにはいかない。
 死ぬことは出来ない。
 死が怖いわけでは無い。
 死が恐ろしいということでもない。
 ただ、怖いのは。唯一胸に巣食う恐怖は、
 白白白の頼みを遂行できないということ。
 それのみ。それだけ。それだけが怖い。怖い。怖い。たまらなく怖い。
 それが十五夜の抱くただ唯一の恐怖。絶望。
「…………………………………」
 集中する。集中する。集中する。極限まで集中する。
 次の一撃はどこから来るのかを探る。全身全霊で探る。
 この瞬間も十五夜は索敵範囲を増やしている。だが、索敵範囲を五キロメートルまで広げても正体不明の『敵』は索敵に引っかからなかった。
 つまり、この『敵』はいくら何重もの拘束(リミッター)をかけられているとはいえ、本来絶対万能のはずの十五夜の『原石』による索敵をすり抜けられる実力を持っているということになる。
(………………………………………………)
 正体不明の敵というのは十分に警戒に値する。十五夜の『原石』が通用しないのなら特に。だから、十五夜はうかつにその場を動けなかった。負けるとは思っていないし、十五夜は自分自身が最強であり、白以外に敗れることはあり得ないと盲信し、信仰している。だが、だからといって警戒しないわけにはいかない、『敵』は本来自分自身と白以外で傷つけることのできないはずの十五夜を傷つけられる存在なのだから。
 そして、警戒状態のまま、一分がたち、二分がたち、三分がたち、四分がたち、五分がたち…………
「くッッッ!!!」
 その違和感に気付いた十五夜は悔しげな表情を浮かべて再び走りだした。



風紀委員本部の最上位メンバーは全員狂ってますし、狂ってる風に書いているつもりです。

ストロビラについては新訳の11巻を読もう!

次の更新は4日後です。


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天埜郭夜と一本線点々① 天下無双流 上条当麻と白井黒子② KEEPOUT

そろそろ上条たちを動かします。


 十五夜が全力で走り去った数瞬後、十五夜が先ほどまでいた第八学区の通りに、まるで空気から溶け出すかのように一人の人間が現れた。
 そして、その人物は空中に向かって言葉を投げかけた。ともすれば独り言と思われかねないが、彼は必ず自分の会話をひろえる位置に依頼主がいると知っていた。何故なら、空気中に観測器の気配を感じたから。
「これで、あなたからの依頼(オーダー)は完了したということでいいですか?天埜郭夜」
 すると、どこからともなく返答の声が聞こえてきた。
「構わないよ。予想以上の結果が出たしね。まさか、あの化物を5分も足止めすることが出来るなんて思ってもみなかった。やはり、君に依頼(オーダー)を出して正解だったようだね。ねぇ、個人傭兵『三千世界武神』一本線点々(いっぽんせんてんてん)
 その名を告げられた瞬間、学園都市に三人しかいな個人傭兵の一人にして、二つ名『三千世界武神』を持つ学園都市特記戦力の一人一本線点々(いっぽんせんてんてん)はわずかに顔をしかめた。
「五分も、ではないです。五分しか、ですよ。本来なら十分は足止めするつもりでした」
「それはそれは。実現しなかったのが残念でならないね。だが、たった一撃であの十五夜を5分もその場に押しとどめたんだ。これは誇るべき偉業だぜ」
「本格的な戦闘の依頼(オーダー)でしたら、十分どころか殺すことだって出来たんですけど」
「いやいや、それは勘弁してほしいね。何せここで十五夜と戦うのはあまりに時期尚早すぎる。私の計画(プロジェクト)も、私の敵の計画(スケジュール)も、この街の頂点(トップ)計画(プラン)も、すべてがすべて狂ってしまうよ。自覚してほしいな、アンタはこの街の最強の一角だっていうことを」
 最強の一角。その言葉をつまらなそうに聞いた点々は右手に持っていた一振りの剣を腰につけている鞘にしまった。点々の受けた依頼(オーダー)は十五夜の足止め。故にそれ以上の戦闘はできない。
 十五夜に一撃を与えたとき点々は確かに十五夜のそばにいた。だが、点々の一撃を受けて十五夜が索敵範囲を広げると同時に、点々はその索敵範囲にひっかから無いようにその場から離れたのだ。
 一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)
 一撃を与えてすぐにその場から離脱する戦法。それを使ったから十五夜は点々を見つけられなかったのだ。
 そして、そのことに気付き足止めされていることに気付いたからこそ、十五夜はすぐにその場から立ち去った。
 別に、本来なら点々は郭夜の依頼(オーダー)なんて無視して、全力でそれこそ地を割り、海を蒸発させ、空を裂き、次元すら断ち切る勢いで、点々の全力をふるい十五夜と勝負してもよかったのだが今回はそれを見送った。
 今じゃなくてもその機会はいずれ訪れるだろうという予感はあったし、何より事前にもたらされた情報で現在の十五夜が幾重もの拘束(リミッター)をかけられ本来の戦力の数十分の一まで実力を封じられていることを認識していたからだ。
 戦闘狂(バトルジャンキー)である点々は『本当に本気で全力全開全身全霊』の十五夜と戦いたいのだ。どうしようもなく強者との戦いを求めているのだ。
 その戦いのための世界を滅ぼしても構わないという狂気こそが点々の異常性。
 点々の原初の狂気。
「最強の一角じゃ無くて名実ともに最強になりたいんですけど」
「ははは、一両日中は勘弁してほしいね。なんせアンタが本気で戦えば学園都市どころか東京が地図から消えかねない」
「………………………………………………………………………………………」
 返答がないことが怖すぎる。というのが天埜郭夜の率直な感想だった。なんせ会話の相手ときたら学園都市特記戦力の中でも戦闘力に重きをおいた、頭のおかしい戦闘狂(バトルジャンキー)だ。
 かつて、北欧神話の全能神トールと同じ名前を持つ、埒外の実力を持つ魔術師『全能のトール』を相手に三日三晩寝ずの戦闘を行い、その結果スウェーデン最大にして世界28番目の大きさを持つ湖ヴェーネルン湖の八割を干上がらせた、という聞くも語るも馬鹿馬鹿しくなる実話を作り上げた前代未聞の実力者。
 そんな存在が本気で暴れればどうなるか、想像したくもない。
「……………まぁ、今回は了承しました。俺はもう失礼します。依頼金は現金でおねがいますね」
「もちろん、指定口座に振り込んでおこう」
 点々は金にはあまり興味はない。だが、戦闘を行ううえで、全力を出すにはそれなりの金がかかる。最高の武器を集め、最高の防具を集め、最高の補助器具を集めれば数億円なんて楽に飛んでしまう。故に金に興味はないが、金は必要としていた。
 ちなみに、彼は参謀とかではないので直接金銭を要求してしまう。本来なら金銭の価値はたやすく暴落、高騰するものなので安定的な金を得たいのならば黄金や宝石、希少素材などのモノを報酬として要求するべきなのだが、さすがにそこまで点々の頭は回らなかった。基本点々は戦闘行為のみを思考して生きているのだ。
 そして、会話を終わらせた点々は第八学区の裏路地に向かって一歩を踏み出した。すると、真に驚くべき現象が起こる。
 闇に向かって歩き出した点々の体がまるで空気に溶けるように消失していったのだ。それこそ、幻か何かのように。
 透明化ではない、空間移動(テレポート)でも、幻覚でもない、この現象の名前は……








 宇宙空間に存在する人工衛星『ひこぼしⅡ号』の中の一施設、無重力生体影響実験室のなかで『忌まわしきブレイン』の一人、天埜郭夜は人心地していた。
「同質化…………ね。相も変わらず馬鹿げた力だ」
 先ほど点々が空気に溶けるように消失した現象は、点々が作ったオリジナルの流派『天下無双流』の体術の技の一つだ。
 正式名称を空溶同質化(エリマステータス)といったはずで通称同質化。自分自身の気配、いや存在を空気と同様のものにするという気配消失の究極系。この体術を使えば存在が空気と同じになるので異常を感知する索敵網には引っかからず、またうまくいけば視覚からも察知できなくなる。
 これは、存在を空気と同質にすることで点々の体を『空気』として認識させるというものだ。意味が分からないだろか?安心してほしい、それがごく普通の認識だ。存在を空気と同質にするということは分かるだろう。だが、同質化しても視覚にその存在は写るに決まっている。それが、ごく普通の認識。
 だが、そんな常識は点々には通用しない。彼は『三千世界武神』とまで呼ばれるほどの『武』を極めた存在だ。彼にとってはこれが常識であり、空気と同質になることで視覚に映らなくなるのはごくごく当然のことだ。
 例え我々のようなごく普通の一般人が理解できなくとも、彼にとっては当たり前のこと。故に我々が理解できなくとも何ら問題はない。
「しかしさすがは『三千世界武神』。まさかただの一撃で十五夜を足止めするなんてね」
 そこについては郭夜はひどく感心していた。白直属の人間である十五夜のことはそこそこ知っている。彼女は強い。本来なら彼女に傷がつくはずがないのだ。それこそ、郭夜の保有戦力では伏せ札まで出さないと彼女の防御は抜けないだろう。
 だが、点々はたやすくその防御を破って見せた。これは一つの成果だ。なにせ敵にまわるかもしれない存在の実力の一端を測れたのだから。
 数多散逝刹那愛(あまたちりゆくせつなのあい)という技の詳細は分からなかったが、それでもかなりの収穫があったと郭夜は感じていた。よって、次の行動に動く。
「……………ああ、屑爬(くずのは)かな。うん。そうだね。出てもらうよ。…………何、心配ならいらないよ。アンタのところの団長の許可はとってあるからね。だから、安心して働いてほしい。間違っても負けないように頼むよ」
 部屋の中の機械に向かって話した郭夜はそこでひとまず息を大きくはいた。緊張状態から通常の精神状態に体をうつす。彼女の予測通りならばこれでもう今日のところは郭夜がやるべきことはすべて終わったはずだ。
 だから、後はもう見るだけ。今まで郭夜がまいた種がどのように芽吹き、育ち、動くのかを宇宙(そら)から観察するだけだ。
「さて、どうなるか」
 楽しそうな笑みを浮かべて郭夜は画面を見た。これから地上で起こる絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)中止計画をめぐることの顛末を見守るために。









 8月21日午後9時8分 絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)第10032次実験 実験場所前にて

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇぜぇ」
 上条は白井と別れた常盤台学生寮から初春に調べてもらった実験場まで主に走ってきた。ただ、尋常じゃ無いほどの距離があったのでさすがにずっと走っていたわけでは無い。使える場所ではバスを使って移動した。そのかいあって何とか早い時間で実験場に辿り着けたようだ。
「ッッ!ハァ、ハァ、ハァ」
 膝に手を当てて呼吸を整える。息がつらい。全力で走っただけあって呼吸が安定しない。それなりに体力のある上条だが十数キロの道のりを、いくらバスも使ったとはいえ、全力疾走したらさすがに疲れる。
「御坂のヤツは…………」
 グルリと視線を回して実験場の周囲を見る。だが、上条の視界に御坂美琴の姿は映らない。視界に映るのは大量のコンテナばかりだ。後は、おそらくコンテナの移動のために使うであろうフォークリフトや、周囲の砂利をどうにかするためのブルドーザーなどの大型機械のみ。
「くそっ!」
 御坂美琴の姿が見当たらないのならもっと操車場の奥の方にいるかもしれないと思い、上条は尽きかけた体力を振り絞って奥に向けて走り出す。ただ一つ、御坂美琴にあって何が起こっているのか聞き出すために。
 そして、しばらく走って入り口から50メートルほど離れた場所に来た上条の視界に妙なものが入った。
 そう、KEEPOUTと書かれたよく警備員(アンチスキル)が使っているテープが上条の目に入った。
(KEEPOUT?なんでこんなものが…………)
 よく二時間ドラマの殺人事件で警察が現場の保全を示すために貼る立ち入り禁止を示すテープ。なぜそんなものがここにあるのか。
(おかしい……確かに実験場の場所はここであってるはずだ)
 KEEPOUTのテープが上条をこれ以上進ませるのをためらわせる。これ以上は立ち入ってはいけないという警告。警備員(アンチスキル)がこのテープを張ったのならばこの場所では何らかの事件が起きているのだろうか。そんな考えがわずかに上条をその場に押しとどめた。
 だが、その時もう一つの考えが上条の頭に浮かんだ。浮かんでしまった。
 このKEEPOUTというテープは誰かを中に入れないためのモノ、つまりこの奥には何か見られてはいけないものが、不都合なものが隠されているのではないか、という考えが。
 何か得体のしれない焦燥が上条を襲った。ビリっとした緊張した空気感が周囲を満たす。そして、上条は奥へ行く覚悟を決めて一歩を踏み出した。
 だが次の瞬間、グイッと上条は誰かに腕を引かれた。
「ッッッ!!!」
 誰かに見つかってしまったのか!?という焦りが心を満たす。ここでつかまるわけにはいかない。だから上条は腕を引かれた反動を利用して相手との距離を近づけた。それと同時に態勢を反転させる。腕を引っ張った人物の正体を確かめるために。
 知らず右の拳を握る。幻想殺し(イマジンブレイカー)、それが異能の力であればどんなものでも打ち消す究極のカウンター。その魔術でも超能力でも原石でもない、ましてやそれ以上の特別、『魔神』共の力である位相操作やオッレルスや削板軍覇の『説明できない力』にすら当てはまらない『世界の深奥』に位置するこの世で二つと無い特別な力。
 それを宿した右腕を握る。相手がどんな奴であろうともすぐに対応できるように。
 そして、上条は右腕を構えながら振り返った。
「…………………………ほっ」
 結論を言えば上条の腕を引っ張った人間は敵ではなかった。
 というか白井黒子だった。
 警戒していたのが馬鹿らしくなった。
「大丈夫ですの、上条さん?尋常ではない量の汗をかいていますが」
「別に大丈夫だ。ちょっとここまで来るのに走って疲れただけだから」
「はっ、走って!?走ってここまで来たんですの!?」
「そうだけど」
 思わず白井は掌をおでこに当てて天を仰いだ。目の前にいる男は馬鹿なのだろうか。常盤台中学の学生寮からこの操車場までいったい何キロあると思っているのだ。ゆうに10キロはある。その距離を走ってきた?自転車を使えよ能無しかこの猿人類は。などと脳内で口汚くののしった。
「上条さん、言ってくれれば自転車の一台でも貸しましたのよ…………それを走ってなどと、あなたはマラソン選手か何かですの?」
 あきれ果てながら白井は上条の暴挙をたしなめた。まがりにもこれからともに御坂美琴のいるであろう場所に行くためのにこんなことではあまりに頼りない。主に体力の面で。
「…………確かに」
 納得顔で上条はうなずいた。概算で5キロぐらいは全力で走ってきたので上条の足はもうパンパンだった。白井に言われてどこかで自転車借りてくればよかったなぁと思った。最近の自転車は曲芸まがいの動きができるものもあるようだし。
「まぁ、それはいいですの。ところで上条さん、ここから奥にはいきましたの?」
「いや……それがなんかKEEPOUTとかいうテープが張ってあってまだ行ってないんだ」
「ならいいですの。上条さん、よく聞いてくださいですの。どうやら、正攻法ではここから奥に入ることは出来ない用ですのよ」
「なんだって!」
 今この場所より奥の場所はKEEPOUTと書かれたテープで封鎖されているがただそれだけだ。仮にこれがテープなどではなく壁であったり、見張りがいたり、センサーがあればここから奥に行くのは諦めざるおえない。
 だが、テープだけならそんなものは簡単に乗り越えることが出来る。だから上条はテープのある場所を通り抜けて奥に行こうと画策していたのだが、白井の言ったことを信じるならどうやらそれは不可能のようだ。



途中で出てきた『同質化』正式名称空溶同質化《エリマステータス》は超能力とかではありません。体術です。
あれです、マンガでよくある『気配を消したのかっ!』の超強化版だと思ってください。

次の更新は5日後です。


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上条当麻と白井黒子③ 囮役の適性

上条が他人に怒るのってこんなかんじでいいのかな?


「まさか、誰か見張りがいるのか?」
「えぇ、私がここに来たのは上条さんが来るよりも10分ほど速かったので、失礼だとは思いましたが先にあのテープの奥へ行って偵察してみましたの。そうしたら」
 空間移動能力者(テレポーター)である白井はその能力故に先行しての潜入調査に優れている。壁も、センサーも、重厚な鍵も、白井の前では全く意味をなさないからだ。
 だが、空間移動能力者(テレポーター)は気配を消せるわけでは無い。つまり、侵入を阻むモノは無視できても、人の目は無視できないのだ。
「少なく見積もって100人の警備員(アンチスキル)がいましたわ」
「100人の…………警備員(アンチスキル)!?」
 上条は驚愕した。仮に奥に見張りがいたとしてもそれは数人だと考えていたからだ。だがその実、奥にいた人数は100人以上、さらにその人たちは警備員(アンチスキル)だという。
 奥にいるのが警備員(アンチスキル)ならば、連鎖的にあのKEEPOUTというテープは誰かがいたずらで張ったモノではなく、本当に警備員(アンチスキル)が張ったモノだということだ。
 そして、それは同時にこの奥には100人の警備員(アンチスキル)が警備するほどの何かがあるということを示している。御坂美琴がいるであろう奥を警備員(アンチスキル)が全力で警備していることになる。
警備員(アンチスキル)に見つかるまえに即座に撤退しましたので、何を目的としているのかはわかりませんが、パッと見た限り警備員(アンチスキル)の装備はA級装備、つまり凶悪犯に対する完全戦闘装備でしたわ。真正面から行くのは空間移動能力者(テレポーター)である私でも不可能ですわ!ましてや、上条さんならおそらくあの奥に入っただけで即刻捕捉されますわ」
「………………………」
 一瞬だけ無理やりにでも正面から侵入するかという考えが上条の頭に浮かぶが即座にその考えを却下する。そもそも現在時刻は完全下校時間をオーバーしているのだ。警備員(アンチスキル)見つかったら追い返される可能性が高いし、そうでなくても封鎖されている場所に侵入したら最悪逮捕されても文句は言えない。
 もどかしさが、上条と白井の中を満たす。この奥に御坂美琴はいるかもしれないのだ。なのに、ここから奥には侵入できない。もう少しで御坂美琴に会えるかもしれないのに。
「……そもそもどうしてこの奥は封鎖されているんだ?」
 封鎖されているという事実に対して疑問を抱く。初春からもらった情報が正しいと仮定しての話だが、この奥は多くのコンテナを保管してある操車場のはずだ。客観的に考えて警備員(アンチスキル)がこの場所を封鎖する理由がない。
 なぜならばこの奥にあるのは操車場だけで警備員(アンチスキル)が出動すべきものは何もないからだ。
 普通に考えればそうなる。
「初春の調べてくれた情報ではお姉様がこの奥にいるということでしたわ。でも、これより奥は警備員(アンチスキル)が警備している……まるで何か見られてはいけないものがあるかのように…………」
 まるで、何かを隠すかのように、見られてはいけないものがあるかのように、警備員(アンチスキル)がこの奥を警備しているという事実を二人はおのれの中で反芻する。最悪の想像が思いついた。ついてしまった。
 奥にいるはずの御坂美琴。A級装備の警備員(アンチスキル)。侵入禁止を意味するKEEPOUTのテープ。
 この三つの要素が一つの最悪を思い浮かべさせた。すなわち
「「警備員(アンチスキル)と御坂の奴(お姉様)が敵対している……?」」
 その時、上条当麻の脳裏によぎったのは補習帰りに交わした御坂美琴との会話だった。『機械が決めた政策に人間が従ってるからよ』。何か腹の奥底にたまったどうしようもない怒りを吐き出すかのような口調で言われたその言葉を上条は瞬間的に思い出していた。
 その時、白井黒子の脳裏によぎったのは昨日の夜に部屋の中で交わした御坂美琴の会話だった。『もし私が学園都市に災難をもたらすような事をしたら……どうする?』。仮に今の予想があたっていたのだとしたら昨日の御坂美琴との会話に合致してしまう。
 学園都市に災難をもたらすことをした御坂はA級装備の警備員(アンチスキル)に追われている。そう考えれば今の状況のすべてに説明がついてしまった。
「上条さん、一度情報を整理してみませんこと。今回の出来事の一番初めは上条さんがお姉様の妹を見たということですわよね。その時のことをもう一度始めから私に詳しく教えてくれませんの」
「分かった。……あれは昨日ことだったんだけどな」
 直感的にここあたりで情報をもう一度整理する必要があると白井は思った。風紀委員(ジャッジメント)として活動する中で事件について対応するためには何よりも正確で確実な情報が必要だということを白井は学んでいた。白井が最前線で比較的自由に行動できるのは後方支援(バックアップ)をしてくれる初春の情報収集能力あってのことだと白井は自覚しているのだ。
 故に今求めるべきは情報。状況が切迫している今だからこそ一度落ち着いて思考を巡らせるべきだと思った。
「ってことがあって御坂の住んでいるっていう寮に向かうことになったんだ」
「……上条さん、お姉様の妹の死体の幻覚を見た時の情報をもう少し詳しく教えてくださいですの」
「?分かったけど、ただの疲れてみた幻覚だぞ?警備員(アンチスキル)が来た時には死体があった証拠なんて何一つなかったんだから」
「いえ、私の考えが正しければおそらく……ともかく教えてくださいですの。なるべく詳しく!」
 御坂美琴の妹の死体を上条は幻覚と断じているようだが白井は全くそうは思えなかった。そして、上条の口から詳しくその時の状況が語られるにつれてその確信が強まる。
 30分というごく短時間で死体が見当たらなくなったことから上条は幻覚と判断したようだが、風紀委員(ジャッジメント)の研修を受けている白井は知っている。この学園都市には30分もあれば簡単に殺人の証拠を隠滅できるものが多々ある。ましてや血痕を消すなんて酸性浄化(アシッドスプレー)と呼ばれる酸を用いれば簡単にできるのだ。
 それにおそらく上条が幻覚と判断したのにはもう一つ理由があると白井は思った。
 おそらく上条は御坂美琴の妹の死体を『幻覚だと思いたかった』のだ。
 要するにショックから逃れるために都合のいい思考をとった。だが、それも仕方がないことだ。警備員(アンチスキル)でも風紀委員(ジャッジメント)でもないただの一般人が死体なんてものを見て正気でいられるはずがない。もちろん警備員(アンチスキル)でも風紀委員(ジャッジメント)でも正気でいられる人間はごく少数だろうが。
 そして、上条から話を聞き終わった白井はほんの少しだけ黙って自分の考えを整理した。そして、一つのとんでもない推論を考え付いた。
「いいですか上条さん。これはあくまで推論ですの。確かな証拠はありませんし、間違っていてほしいと心から思いますの。ですが、おそらく今まで得た情報からしてこれがお姉様の関わっていることですわ」
 そう前置きして白井は自分の推論を語り始めた。
「時間もありませんし、簡潔にまとめますわよ。おそらく10日ほど前のことですわ。お姉様は10日前に絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)なる計画のことを知って、その計画を阻止しようと研究施設に対する破壊活動を行った。その理由はおそらく妹達(シスターズ)と言われる存在、上条さんがあったお姉様の妹のことですが、お姉様と瓜二つのいでたちの人のことが関わっているはずですわ。でなければお姉様が私たちに妹の存在を隠したり、妹に怒鳴ったりするはずがありませんもの。そして、同じく何らかの理由により研究施設の破壊活動をより活発化させたお姉様は警備員(アンチスキル)に目を付けられて、今現在交戦状態の一歩手前の状態にある。簡潔に言えばこういうことだと思いますの」
「なら余計に早く御坂に会いにいかないと!」
 白井の確信を持った推論を聞いて上条の焦りは余計に強くなった。今の推論を聞いて御坂に会いに行きたいという思いが強くなった。警備員(アンチスキル)に目を付けられたのが研究施設の破壊活動を行ったからだとしても、御坂が理由なしにそんなことをする奴じゃないことは短い付き合いながら上条は知っている。
 だから、御坂がそんな破壊活動を行った詳細を知って助けたいと思った。客観的に見て誰が悪いのかと言われれば警備員(アンチスキル)が出張るほどの破壊活動をした御坂が悪いのだろう。どんな理由があれ破壊活動を行ったのならばそれは犯罪で逮捕されてしかるべきだ。
 だけど、何か理由があるはずなのだ。それだけのことをした理由が存在するはずなのだ。なにかとんでもないことを抱え込んで、一人でそれに抗って、もがいて、懸命に足掻いた御坂のことを知っていない人間がいないなんて悲しすぎるじゃないか。
 ただ一人孤独にそれを抱え込んだまま警備員(アンチスキル)につかまってしまうだなんてそんなのあんまりじゃないか。
 思いを吐露できるだけでずいぶん楽になるはずだし、事情を話してくれれば協力できるかもしれない。
 余計なお世話といつものように冗談めいて言われるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。上条は例え突き放されても自分から手を伸ばして突っ込んでいく人間だ。本当に余計なお世話なら事情位は話してくれてもいいだろう。
 だから、上条は何とか御坂に会いに行く。
 100人の警備員(アンチスキル)の包囲網を抜けて奥に行き御坂に会いに行く。
 そのためにまずは
「どうにか警備員(アンチスキル)の目を盗んで……!」
「それについては一つ」
 右手の人差し指を一本立てて白井は上条の前にそれを示した。
「一つ、思いついた案がありますの」
 この場所にきて警備員(アンチスキル)を見かけてから白井はずっと奥に侵入する方法を考えていた。だが、出されたのは白井では警備員(アンチスキル)の目を逃れられないという結論。白井単独では無理だという結論。故に上条と協力すれば警備員(アンチスキル)の目を盗むことが可能であると白井は考えた。
「私が囮になりますの」
「却下だ!」
 一秒の間もなく上条は即答した。即答してためらいなく白井の案を却下した。そのあまりの即答具合に白井は一瞬唖然とした。条件反射的に最善と思われる案が却下されたことにわずかな憤りを覚える。
「上条さん!私の身の心配なら無用ですわ!私は空間移動能力者(テレポーター)でしてよ。距離の制約も、障害物の足枷も無意味とすることができる私の心配など無用ですわ!」
 正直これ以外の最善など白井には思いつかない。上条が白井の心配をするというのはお門違いだと自覚してほしいと思った。いかに幻想殺し(イマジンブレイカー)などという特殊で特異で特別な力を所有していたとしても上条はただの高校生だ。風紀委員(ジャッジメント)として数多の修羅場をくぐってきた白井とは踏んできた場数が違う。
 だから、白井が囮となりその間に気付かれないように上条が操車場の奥に行く。空間移動能力者(テレポーター)は撹乱、囮にはもってこいの存在だし、上条は御坂と縁深いので会えさえすれば御坂の抱える事情を聞き出せるはずだ。
 だから、この役割が最適。
 ある事実に目を逸らしていることに気付かず白井はそう思っていた。
「そうじゃねぇよ!」
 だが、それを上条は否定する。上条とて白井が囮役として最適なのは分かっている。だが、自分よりも年下の女子を囮にして御坂のもとに行くなんて絶対にありえない。それに加えて、上条が御坂のもとに辿り着き、御坂と会話したところでたぶん意味がない。
「何がですの!」
 警備員(アンチスキル)がいるのでそこまでの大声は出せないがそれでも憤りを秘めた声で白井は上条を怒鳴る。この分からず屋、と白井は思っていた。
 だが、吐き出された上条の言葉に思わず呼吸が止まる。
「なら、アンタはいいのかよ!」
「だから何が……」
()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」
「ッッッッッッッ!!!!!」
 そう、白井が警備員(アンチスキル)の足止めをするということは白井は御坂と会話ができないということを示す。当たり前だ。上条が奥に行くために警備員(アンチスキル)を引き付けるというのならば白井は奥にはいけない。御坂のもとにはいけない。
「白井!御坂の奴が本当に誰にも相談できないほど追いつめられた事態にぶつかっているんなら、一人で孤独にそれを解決しようと骨身を削って体を酷使して駆けずり回ってるなら、今御坂のもとに行くべきなのはぽっと出の俺なんかじゃなくて、御坂の親友のアンタのはずだろ!!!なのに、自分は足止めするから俺に奥に行ってなんて、何でそんなこと言うんだよ!御坂の奴を支えるのはアンタじゃなきゃダメだろ!!!!!」
「あ……………………」
 そうだ。確かにその通りだ。いくら白井の方が囮役に適任だからといって、御坂美琴に会う役割を上条に渡すというのはおかしい。普段の白井ならたとえ強引に警備員(アンチスキル)の包囲網を突破することになったとしても御坂のもとに一直線に向かうはずだ。
 それだけの愛情を、親愛を、敬愛を白井は御坂に持っている。
 御坂のことを愛しているのだ。
 だけど、今回は今回の事件に限っては白井は積極的に御坂のもとへ行く気にはなれなかった。表面上は御坂のもとへ行きたいと言いながら、心の奥底では出来ることならばあまり行きたくないと思ってしまっていた。
 故に上条に奥へ行くように言ってしまったのだ。
 だから、白井は自分が囮役になると言ったのだ。
 だって、白井には、白井黒子には、自信がなかったから。
 御坂美琴の役に立てる、御坂美琴のに協力できる、自信がなかったから。




さぁて、そろそろ上条達を彼らに接触させないと………

次の更新は一週間後です。


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上条当麻と白井黒子④ ためらいを断て 無何有峠妃と五寸釘匕首① 監視者

自分で作ったキャラなのに、キャラぶれする。
なぜなんだっ!?


「でっですが上条さん。お姉様は私には何も言ってくれませんでしたの」
 今にも泣きそうな顔で白井は訴える。
 結局のところ白井をためらわせているのはただ一点『白井黒子は御坂美琴の助けになれるのか』ということだけだ。御坂は親友である白井にすら自分がまきこまれていることを言ってくれなかった。一方で上条と一緒にいる時は、白井視点では元気そうに見えた。
 だから思うのだ。白井が行くよりも上条が行った方が御坂の助けになるのではないかと。
「お姉様にとって私は『守るべき存在』でしかないのですわ……。そんなっ、そんな私がお姉様のもとへ行ったところで役に立てるかどうか」
 御坂美琴を助けたい。その思いは本物だ。
 だけど。
 助けたいと思うのと助けることを実行できることは違う。思いだけがあっても実力がなければだめなのだ。そして、白井はあくまで『守られる対象』。上条のように『対等』な存在ではない。
 だから無意識レベルでこう思ってしまっていた。
 白井黒子は御坂美琴の隣にたてる存在ではない、と。
 もしも、白井がもっと強ければ頼ってくれたはずなのだ。もっと白井に覚悟があれば踏み込めたはずなのだ。だけど待つことしかできなかった。支えることが出来なかった。
「お姉様の役に立てない私よりもあなたが行った方がきっとはるかにお姉様が救われ」
「そんなわけないだろ」
 一刀両断。
 上条はコンマ一秒の感覚もなく白井の泣き言を封殺した。
「御坂の役に立てない?御坂にとって『守るべき対象』でしかない?さっきから何言ってんだアンタは」
 やっと、上条は寮で別れた時の白井に感じた違和感の正体に気付いた。あの時のためらいは御坂のことを助けられるのかという白井の自信のなさのあらわれだったのだ。その自信のなさが白井に御坂のもとへ行くことをためらわせるのだろう。
「少なくとも昨日俺が見た時の御坂はアンタのことを俺なんかよりずっと信頼してたと思うぞ」
 昨日の御坂は上条に話しかけてきた白井に対してじゃれあうように電撃を放った。それだけ近しい間柄であり、信頼関係があるという証だ。
「それに、御坂が白井の前で弱い姿を見せるのは白井のことを信頼している証じゃないのか」
 少なくとも上条は御坂が沈んでいる姿なんて見たことが無い。記憶をなくして、御坂とは昨日はじめて会ったに過ぎないがあれだけ快活な少女が弱っている姿を見せるなんて上条には考えられなかった。
「今からでも全然間に合うだろ!御坂の奴が白井に何も言ってくれなかったっていうんなら、それこそ今からでも御坂に会いに行って聞き出せばいいじゃないか!まだ全然間に合うんだから!違うのかよ!!!」
 その言葉は強く白井に突き刺さった。
 だから、
「そうですわね……」
 言われてみればその通りだ、と白井は思った。勝手に後悔して、勝手に悩んで、勝手に決めつけて上条に役割を譲ってしまった。
 思い返してみれば白井は御坂に一言も『役に立たない存在だ』なんて言われたことはない。
 思い返してみれば白井は御坂に一言も『守るべき対象』でしかないなんて言われたことはない。
 白井は御坂よりもずっと弱いから御坂は頼ってくれないと下から目線で決めつけていただけだ。
 何を考えていたのだろう。責められるべきは白井であって御坂ではないのに。
 バシンッ、と両の掌で頬を思いっきり叩いた。
「目が覚めましたわ」
 責任転嫁をやめよう。責任逃れをやめよう。業を背負うべきは白井であって上条ではない。本当に心の底から御坂のことを親友と思うのならば、今行動しなくていつ動くのか。
「私がお姉様のもとに行きますの!」
「そうか……」
 その言葉を聞いて上条はほんの少しだけ笑みをこぼした。状況が改善したわけでも好転したわけでもないが、少なくとも自分と共にいる白井の精神は回復したらしい。そのことに安堵した。
「ですが、問題が一つ。私が囮になれないとするとどうやって警備員(アンチスキル)の包囲網を突破するればいいのか」
「………………一個だけ考えがある」
 ここから先が警備員(アンチスキル)によってふさがれているというのなら、ここから先を通らなければいい。真っ向から大人数の警備員(アンチスキル)を突破するなんて論外だし、隠れて行っても見つかる公算が高い。
 つまり、地上から奥に行くのは不可能。
「どうするつもりですの?」
「ああ、つまり警備員(アンチスキル)に見つからないように行動すればいいわけだろ。だったら」
 そこから先の言葉を上条が口にする前に、
 ドッッッガアアアァァアアァアアァァァアアアァアァアアァァアアンンンンン!!!!!!!!!!
 と、操車場の奥からとてつもなく大きな爆音が響いた。
「「ッッッッッ!!!」」
 緊張が二人の間に奔る。耳をつんざくような爆音、轟音。おそらくは大量の火薬が爆発したと思われるような大音量の爆発音が空間に響いた。その音に一瞬だけ遅れて熱い風が二人のもとに届く。空気が焼けるような熱さに思わず顔をしかめた。
「こっちだ!白井!」
 白井を置いて先に上条は全力で走り出した。今の耳をつんざくような爆音は操車場の奥から聞こえてきた。今、操車場の奥には御坂がいるはずだ。
 つまり、あの奥で何かが起こっている。上条では想像もつかないような何かが始まっている。
 超能力者(レベルファイブ)電撃使い(エレクトロマスター)超電磁砲(レールガン)の御坂美琴の身に何かが起きている。
「どこに行くつもりですの!?」
 上条が走り出したのに一瞬遅れて白井も上条に追随するように走り出した。空間移動(テレポート)を使わないのは単純に体力面が心配だからだ。学園都市の能力者はいつでも、永遠に能力が使えるわけでは無い。体力面、精神面ともに万全でなければ十全に能力を使うことは出来ない。長時間の能力連続使用は著しく集中力を必要とするため、今の白井は能力使用の休憩中だった。
 夜の闇の中二人は走る。
 すべては御坂美琴に会って話を聞く、ただそれだけのために。











 時に、上条はたった一つだけ勘違いしていることがあった。だが、その勘違いも仕方がないことだろう。まさか、まさかまさか、まさかまさかまさかのまさか、白井が上条相手に()を言っているだなんてそんなの考え付くはずがない。
 想像の埒外だ。妄想の範囲外ですらある。思考の果てにすら存在しない。
 この場面で白井が上条に対して嘘をつく理由はない。
 この場面で白井が上条に対して虚偽を言う意味がない。
 この場面で白井が上条を騙す理由がない。
 御坂を助けたいという白井の思いは本物で、何にも勝る強い意志だ。
 だが、実際白井は嘘をついた。たった一つの大きな嘘を。
 御坂美琴を助けることを遠ざけるための嘘を。
 『KEEPOUTのテープの先に100人の警備員(アンチスキル)がいる』なんて嘘を。
 いや、厳密に言えば嘘というのは語弊があるだろう。何故なら、白井自身は本気で『KEEPOUTのテープの先に100人の警備員(アンチスキル)がいる』と思っているのだから。
 実際に白井は『KEEPOUTのテープの先に100人の警備員(アンチスキル)がいる』光景をその目で見たし、その肌で感じたし、その耳で聞いた。だから、白井自身はその光景を信じ切っている。
 故に白井自身の認識では上条に嘘を言ったということはない。真実を告げたと本気で思っている。
 だが、だが、だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが。
 しかし、だ。
 その認識がゆがめられていたとしたらどうだろうか。その瞳で見た光景が、その肌で感じた光景が、その耳で聞いた音がすべてすべてすべて全部何もかも嘘だったとしたら、どうだろうか。
 人の認識を歪める能力(チカラ)
 洗脳、催眠、認識歪曲、記憶操作、常識改変、記憶消去、念話、感情操作、意志増幅等々を行うことのできる精神系能力の最高峰(ハイエンド)能力(チカラ)。それが白井に使われていたとしたらどうだろうか。
 いじられた認識。
 誘導された思考。
 支配された無意識領域。
 白井が上条がこの場に来るわずか10分間の間にその心を完膚なきまでに操られてしまっていたとしたら…………。
 そう、非常に残念なことに白井のいう言葉はすべて信用ならないということになる。
 …………………………実際にはKEEPOUTのテープの先に100人の警備員(アンチスキル)なんていなかったのだ。100どころかたった一人さえ警備員(アンチスキル)はいなかった。一般人も誰一人としていない。だから、上条が強引にKEEPOUTのテープの先に行こうとしたら、それは簡単に可能だった。
 もしも、上条が白井の言葉を信用せずにいたらもすぐにでも御坂に会うことが出来たはずだ。だけど、人を信じる上条にはそれができなかった。だから、騙されてしまった。
 それが上条の欠点。どうしようもない英雄の性質(ヒーローハート)
 そして、見事誘導されてKEEPOUTのテープを超えずに別の方向に走り去った上条たちを遠方から眺めている人が二人いた。
「委員長様。上条当麻と白井黒子がポイントA16から離れていきます。おそらくはポイントT32からルート11を通って御坂美琴のもとへ向かうものだと思われます」
埋娥(まいが)百目(ひゃくめ)をルート34を通してポイントT34へ向かわせろ。上条(ヒーロー)白井(ヒロイン)がポイントA18に辿り着く前に確実に潰す』
「了解しました。すぐに。五寸釘匕首(ごすんくぎあいくち)
 そのうちの一人無何有峠妃(むかいとおげきさき)は携帯電話を通じて風紀委員長白白白と会話をしていた。白と直通の携帯電話を持っていることからも無何有峠妃(むかいとおげきさき)風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の中でもかなり上の立場であると推察できる。
「指示内容はルート34を通してポイントT34に行くように、で構いませんか?(きさき)様」
 そんな彼女の隣にもう一人、同じく風紀委員本部に所属している少女がいた。彼女の名前は五寸釘匕首(ごすんくぎあいくち)。妃の秘書のような立ち位置の人間だ。
「構わない。だけど一応、ほとんど可能性がないとはいえ念話盗聴(テレパシーインターセプト)には注意するように」
 彼女たち二人の所属は風紀委員本部(セントラルジャッジメント)の諜報部隊であり、妃の立場は諜報部隊の総隊長、匕首の立場は諜報部隊第一部隊隊長だ。彼女たち二人は今までずっと、上条当麻と白井黒子の二人を監視していた。具体的には、上条が常盤台学生寮に入った後からの上条と白井の行動、言動はすべてこの二人に監視されていた。
 なぜそんなことをしたのかというと、それが白が二人に与えた命令だからだ。『上条当麻と白井黒子の二人を監視しろ』。その命令を二人は実直に遂行していただけだ。
 そして、妃からの支持を受けスッと顔を一瞬だけ伏せた匕首は自らの能力一方念話(ワンサイドテレパス)を使って待機しているであろう埋娥(まいが)百目(ひゃくめ)に向かって指示を送った。
 匕首の能力一方念話(ワンサイドテレパス)は一方通行の念話能力だ。匕首から特定の人間に対して一方的に念話をすることのできる能力。念話方向が一方通行なので匕首は念話を送るだけで受け取ることは出来ない。一方通行の電話のようなものだ。
 『妃、お前は匕首と共にもう撤収しておけ。上条(ヒーロー)白井(ヒロイン)の通るルートが確定した以上もう二人を監視する意味はない。他の組織に気付かれないようにすぐに撤収しろ』
「了解しました。委員長様」
 右耳から携帯電話を離して妃は通話を切った。だが、一つ。一つだけ妃は見逃していることがあった。これは本来は外界の観測にはあまり適さない能力を持つ妃が上条と白井の二人を監視していたということから起こったことなので、もしも外界観測に特化した人間が監視したのならおそらくは起こらなかった事態だ。
 すなわち、白井黒子が洗脳されているという事実を妃は気付かなかった。
 まぁ、気付いたところで特にどうというわけでは無いのだが。
「五寸釘匕首、二人に指示は?」
「すでに届けました」
「よろしい、なら撤収する」
 そうして、上条たちを監視していた場所、操車場から200メートルくらい離れた建物の屋上から二人は撤収した。もちろん、その場にいた、来た、帰った痕跡はすべて残さずに。
 これが風紀委員本部のやり方。
 彼ら彼女たちは信じる正義のためならなんだってする。
 信じる正義のためなら、なんだって正当化されてしまう。
 それが正義の組織、学園都市風紀委員本部のやり方だ。



 上条と白井の二人はそんな組織の人間ともうすぐ邂逅することになる。



ちなみにですけど、白井を洗脳したのは皆さんも知っているであろう、上条とも関わり深い『あの少女』です。

次の更新は5日後です。


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上条当麻と白井黒子⑤ 奥へ行くための道

アンテナがぶっ飛んだのか家のテレビが映らなくなった………
テンション下がるわ


「確かこのあたりに……っ!!!」
 上条は爆発音が聞こえた後、白井と合流する前に見かけたある場所に行こうとしていた。警備員(アンチスキル)を避けて奥に行くために、行うべきことは一つ。警備員(アンチスキル)の目に届かない場所から操車場の奥に行けばいいのだ。
「上条さん!どこを目指してるんですの!?」
 後方から白井の声を聴きながらしかし上条は答えない。ある場所を探すために全力で疾走している上条は問いに答える余裕がない。
 そして、30秒程度走ってようやく上条はある場所に辿り着いた。
「ここなら……っ!」
「ちょっと、上条さん!いい加減に!」
 話しかけているにも関わらず無視され続けた白井は流石に声を荒げた。上条が必死に何かを探しているということは分かるのだが、それならそれで何を探しているのかいって白井にも協力を求めたらどうなのだろうか。どうにも上条は一人で突っ走ってしまう傾向があると白井は思えた。
 しばらく上条をおっていた白井は、探していたものを見つけたのだろう、急に立ち止まった上条に対して声をかける。
「それで、上条さん。あなたは何を探しているのですの。このあたりは特にさっきいた場所と変わらないと思うのですけど」
 上条が立ち止った場所のすぐ近くに立ってあたりを見回してみるが、何度見まわしても特にさっき白井と上条がいた場所との大きな違いがあるとは思えない。
 砂利の地面に、積み重なった多くのコンテナ、地面にとおっているレール。しいてさっきいた場所との違いをあげるとすればKEEPOUTのテープが無いということぐらいだろうか。
 それ以外の違いなど白井の目からは見当たらない。
「これだよ、白井」
 そういって上条は人差し指で下を指した。
「地面……?地面に何かありますの?見たところ、特筆するところは無いように思われますけれど」
「そっちからじゃ見えないと思うぞ。こっち来てみてくれ」
 周りの暗さもあって上条が指差している下には何も無いように思える。そして、ちょいちょいと手招きする上条に従って白井は上条のもとへ近づいた。上条の人差し指が指し示す方向に向かって視線を下げる。
「なるほど……確かにこれなら、警備員(アンチスキル)に気付かれずにお姉様のもとに行けるかもしれません!」
「だろ!」
 上条が目指していたもの。そして今二人の視線の先にあるもの。
 それは、
 ()()()()()だった。
「地上に警備員(アンチスキル)が展開していて正規のルートでこの奥に行けないんなら、地下から、つまりマンホールを通って下水道を伝っていけばいいんだ!」
「名案ですわ!確か学園都市の下水道は直接人が入って整備できるように幅数メートルの管で出来ているはずですの。学園都市全域に下水道が張り巡らせれているはずですのでこの奥につながる道もあるかもしれません!」
 地上からが無理なら地下から奥に行こう。意外にも上条が考え付いたのはひどくまっとうなアイディアだ。いつもの上条なら警備員(アンチスキル)の包囲網に突っ込んでいってもおかしくはない。だが、隣に白井がいるという状況が上条に危険な行動をとらせることを無意識にためらわせたのだ。
 だが下水道を伝って奥に行くためには問題点が一つある。下水道の内部の地図が無ければ正しいルートで奥に行けないかもしれないということだ。
 単調な景色で暗闇の中を歩けば人間はどうしても方向感覚が狂ってしまう。直進しているつもりがいつの間にか曲がっていたり、東に進んでいるはずが西に進んでいたりと迷ってしまう可能性があるのだ。
 上条はその問題点に気づいていない。そもそも、上条はいままで下水道なんか意識したことがないのでその問題に気付けないのは当たり前ではあるのだが。
「よし、じゃあさっそく」
 と、そこでマンホールのふたを開けようとした上条の動きが止まった。ギギギ、と固まってしまった上条。
「なぁ、白井……」
「なんですの?」
「マンホールのふたってどうやって開けるんだ?」
「……………………………はぁ」
 そう。まず下水道内に侵入した後どうするかという問題の前段階としてどうやってマンホールのふたを開けるのかという問題が上条の前に立ちふさがった。
 マンホールのふた。これはどうやって開けるのだろうか?
 学園都市のマンホールもやはり学園都市の外と同じように円形の形だ。そして外周にへこみがあるというよく見るマンホールの形と同じ形をしている。
 昔のマンホールならその外周の凹みに長い棒でも突っ込んで、てこの原理を利用するれば案外楽にマンホールが開いたりするのだが、残念なことに現代のマンホールはそんな風には開けられない。
 てこの原理を利用してマンホールを開け、マンホール自体を盗んだり、マンホールの中に落ちてしまって死亡したりする人間への対策として特殊な機器、マンホールオープナーなるものを使わなければマンホールのふたは開けられないようになってしまったのだ。
 そしてそれは学園都市も同じ。上条たちがマンホールを開けるためにはマンホールオープナーが必要だ。当然上条たちはマンホールオープナーなんてものを都合よく持っていたりはしない。というか都合よくマンホールオープナーを持ている人間なんて下水道工事の人でもない限りいないだろう。
「後で下水道関係者の方には謝っておきましょう」
 そういって白井は今までずっと肩に背負っていたバッグを地面に置いた。バッグのファスナーを開き中に入っているモノを取り出す。
「白井……?」
 白井が肩にかけていたバッグから取り出したのは長い一本の棒だった。円柱の長い棒。素材はプラスチックか何かだろか。ひどく軽そうに白井はそれを持ち上げていた。
 見た限りバッグの中には白井が今手に持っているものと同じ棒が10本くらい入っていた。そして白井はそれらすべてを右手にまとめて持った。
「一応、本当に念のためですがお姉様が関わっている出来事によっては戦闘になるかもしれないと思いまして、私の専用武器を支部から持ち出したんですの」
 空間移動能力者(テレポーター)は学園都市の中でも数が少ない希少な能力者だ。その中でも大能力者(レベルフォー)である白井は当然かなり強い。それゆえに白井は戦闘において武器に頼るということはあまりしてこなかった。自分の能力(チカラ)で事足りたからだ。
 だが、今回ばかりはそうもいっていられない。御坂が消耗するほどの何かが起きているのだ。準備は万全にしなければならない。そう思い白井は支部から特殊合金製の『槍』を持ってきたのだった。
「さて、下がっていてくださいまし」
 白井は上条にそう言うとしゃがんで下水道に侵入するためのマンホールに手を当てた。
 すると、1秒後にはきれいさっぱりマンホールのふたは消え去った。
「さぁ、行きますわよ。上条さん」
 空間移動(テレポート)能力というものはこういう時にものすごく便利だ。なにせただ触れるだけでマンホールのふたを転移させることが出来るのだから。
「その『槍』も持っていくのか?」
 内心白井が空間移動能力者(テレポーター)であることをちょっと忘れていた上条は、その力に驚いていた。マンホールのふたに触れただけでそれをどこかにやってしまった力はなるほど確かに先ほど囮になるといったのもわかるほどの強さだった。
「ええ、この後戦闘になるかもしれないので。万全の準備は必要でしょうから」
「戦闘になるっていうのは…………御坂のヤツと、か?」
 御坂が一人で何らかの事件に首を突っ込んでいるのは分かっている。だから、焦燥した御坂となんらかの原因で戦闘になるかもしれないことは上条にも予測できた。
「あるいは…………それ以外とも」
 しかし、白井が予測するのはもう一つの局面だ。もちろん、上条が言うように御坂と戦闘になる可能性は大いにある。だが、その前に『御坂美琴が戦っている『敵』と戦闘になる可能性』が存在する。
 客観的に見て白井たちの行っていることは御坂を助けようとしている行為だ。それを快く思わない何者かが白井たちの邪魔をする可能性が十二分にあり得る。その可能性を考慮のうちに入れるからこそ、白井は『槍』を持ってきたのだから。
「それ…………以外……」
 御坂を助ける前に、御坂のもとに辿り着く前に、遭遇するかもしれない『敵』。
 御坂美琴とも、上条当麻達とも違う立場。
 第三勢力。
 その勢力図を白井は暗に示す。三竦みのバトルロワイヤルを示す。
「故に槍を持ってきたのですわ。対機械でも、対兵器でもない、対人間用の殺傷武器を」
 殺傷兵器という言葉にほんの少しだけ覚悟が伴った気がした。今の白井はさっきまでの白井とは違う。覚悟が、決意が、自覚が違う。
「先に行きますわよ。上条さん」
 マンホールのふたを空間移動(テレポート)で移動させた白井は、上条に一言合図をして自分からマンホールの中に入っていった。マンホールにはきちんと足場があり、そこに足をかける形で一歩一歩中に入っていった。
 空間移動(テレポート)で一気に下まで転移しないのは短銃に危険だからだろう。白井が中に入った後、上条はマンホールの中をのぞいてみたが存外暗い。明かりが全くないので暗すぎる。さすがに視界の確保が出来ない中で空間移動(テレポート)することは出来ないのだろう。
 ちなみに、上条の思惑としては自分が先に入って白井に後から入らせるつもりだったのだが、白井が先行してしまったのでその思惑はおじゃんになった。……もっとも、どちらにせよスカートをはいている白井は上条が下に行くことになるその提案を却下したと思うが。
 そして白井に続いて上条もマンホールの中に入る足をしっかり足場にかけてしっかりと体を支えながら、下に、地下に下りていく。
 そして、2~3分ほどだろうか、少し白井と会話をしながら上条はマンホール内を降りていくと先に降りていた白井から合図があった。
「上条さん!もうすぐ下に付きますわ」
 学園都市の下水道は地下街が存在する関係でかなり地下深くに存在する。上条たちはだいたい100メートル前後ほど下って下水道に辿り着いた。
 白井の声に反応して上条が下を向いてみると淡いながらも光が見えた。どうやら下水道内には多少の明かりが存在するらしい。そのことに上条は安堵する。もしも完全な真っ暗闇だとすれば上条の持っている光源など携帯電話の明かりくらいしかないからだ。そして、それは白井も同様だった。二人とも下水道内に明かりが存在することに安堵していた。
「ふっ、と」
 そして白井は下水道内に足を着いた。マンホール内をくだっているときに見えた光は下水道の天井付近に存在するランプのような光源が理由のようだ。
「よっ、と」
 続けて上条も下水道内に足を着く。幅十数メートルもあるパイプで出来ている下水道は人間二人が並んで立っていてもなおありあまるほどの広さがあった。
 下水道内の風景は天井付近に光源となるランプがあり、下の中央には水が長れる水路が存在する。そして、その水路の両隣に高さ10メートル程度の通路が存在していた。上条と白井がたっているのはその通路の上だ。
「しかし匂いがすごいですわね」
「まぁ、下水道だからな。こっちだ、白井」
 KEEPOUTのテープが張られていた場所と上条たちが入ったマンホールの場所を地図上で考えて、左右に伸びている道からどちらに進めば奥に行けるのかを導いた上条は白井を先導して前に進んだ。
「こっちであってますの?」
「多分な」
「たぶんですのね」
 微妙にぬかるんだ道を歩きながら上条たちは下水道の中を進んだ。仮に下水道内の地図でもあれば確信をもって進めるのだがあいにくそんな都合のいいものは上条たちの手元にはない。よって、感で進むしかないのだ。
 ぽたぽたとどこからか水滴が垂れる音がする。ザァザァと水の流れる音もする。下水道内を歩くなんて稀有な体験をしながら二人は御坂のもとに向かっていた。
「そういえば上条さんはどうやってお姉様と出会ったんですの?」
「ん?」
「いえ、単純にどうやってお姉様と知り合ったのかと思いまして」
「ああ、それは」
 どうやら御坂は記憶喪失前の上条と会ったことがあるようだが、残念なことに記憶喪失の上条が御坂と会ったのは昨日のことでしかない。だから、出会いを聞かれても何とも言いようがない。上条は自身が記憶喪失であることを隠しているのだから。
 故に上条はどうにかごまかさないといけないと思いつつ、歩みは止めず顔だけふりかえって上条は白井の問いに答えようとする。

 そして、上条の視界を紅が埋め尽くした。

「白井ッッッ!!!」
 白井の前を歩いていた上条はとっさに白井にとびかかって白井のことを押し倒す。ぬちゃっ、と気持ちの悪い音が鳴り二人はぬかるんだ地面に倒れこんだ。
「ちょっ、上条さん!!!???」
 急に押し倒された白井は思わず赤面する。
 が、次の瞬間白井の顔は蒼白に染まった。
 単純な話上条が白井を押し倒した理由が分かってしまったからだ。
 ぬかるんだ道へと倒れこんだ二人の上を、紅い炎が過ぎ去った。
「右手を離しッ!!!」
 直感的にまずいと思った。上条の右手は幻想殺し(イマジンブレイカー)というすべての異能を無効化する力が宿っている。密着して上条の右手が白井に触れられている現在では白井は空間移動(テレポート)が出来ない。空間移動(テレポート)が出来ない白井など無力な女子中学生にすぎない。
 さっき見た紅い炎。もしも上条がそれに気づかず白井のことを押し倒してくれなかったら間違いなく白井は死んでいた。まるこげに焼却されて死亡していた。それを避けることが出来たのは上条のおかげだ。
 何者かの襲撃の初撃は避けることが出来た。だが、現実(リアル)戦闘(バトル)はターン制ではない。すばやく動けなければすぐに終わってしまう。だから、早く上条の右手を離さなければっ!
「ッッッ!!!」
 そのことに上条もすぐに気付いた。だから白井の言に超速で対応して右手を離した。
 だが、遅すぎる。
 あまりにも鈍すぎる。
 上条が右手を白井から離すよりも前に、
 白井が空間移動(テレポート)を発動させるよりも前に、
「うぁ」
 二人の視界を紅い炎が覆った。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!??」
 視界を埋め尽くす紅を前に、上条の口から絶叫が迸った。



上条当麻&白井黒子、ついにバトルスタートオオオオオォォォォォォ。
開始と同時に死亡しそうだけどね!

次の更新は4日後です。


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御坂美琴と神亡島刹威① 対一方通行の戦略

解説回です。
御坂美琴④ 第10032次実験実験場へ の続きになります。


 8月21日午後8時4分 学園都市上空 高速ステルスヘリ『HsAFH-18』内にて



「まず大前提としての話ですが御坂様、あなた様は正攻法では一方通行(アクセラレータ)に勝つことは出来ません。故に我々が御坂様に授ける策は一方通行(アクセラレータ)の裏をかくための、いわば邪道になります」
「邪道……ね。まぁ、別に正面から勝ちたいわけじゃないから全然かまわないけど」
「そういってもらって安心しました。中には正々堂々戦いたいなどという、馬鹿な人間もいるものなので」
 一つ前置きを置いてから、刹威は御坂に話を始める。
「さて、御坂様本格的に策を話す前にまずはこれをお飲みください」
 そういって刹威が懐から目薬のケースのようなものを取り出し、その中から薄い白色の錠剤を一つ取り出した。
(Abili……?)
 そのケースには刹威の手で隠れて見えなかったが何か単語のようなものが書かれていた。どのような効果があるのかは分からないが、今の状況で刹威が取り出したのだから碌な効果があるものではないのは確かだろう。
「その錠剤は?」
「簡単に言えば御坂様の戦闘を補助するためのものです。具体的に言うと恐怖心の麻痺と怪我の早期回復がこの錠剤の効能です。少なくともこの錠剤を飲めば素面で戦うよりもはるかに勝率が上がります」
「ふぅん」
 渡された白の錠剤をしげしげと眺める。御坂は風紀委員(ジャッジメント)に所属している白井から特別な対外傷キットがあるということはきいたことがあった。表側の技術でそうなのだから裏側の薬剤類がその手の効果を持っていても違和感はないのだろう。
「まぁ、飲まないっていう選択肢はないわよね」
 手渡された錠剤を、多少怪しむことはあったが、結局のところ御坂は飲んだ。ゴクンと喉を鳴らし錠剤を嚥下する。
 すると、すぐさま御坂は自分の中に違和感を感じ取った。体の中を侵されているような、書き換えられているような、奇妙な感覚が御坂の中を駆け巡る。
「多少の違和感はあるかと思われますがすぐになれるかと」
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。恐怖心の麻痺と怪我の早期回復。これが真実か否か、本当に錠剤の効能がそれだけなのかは今は分からないが、『白衣の男』が御坂に勝ってほしいと思っているのは確実だ。少なくとも一方通行(アクセラレータ)との戦闘においては錠剤を飲んだことがマイナスに働くことはないだろう。
 その後は分からないが。
 その後、すなわち暗部に堕ちてから影響がないとは言い切れないが。
 それでも、今は影響がないだろうと判断した。
「で、肝心の一方通行(アクセラレータ)を倒す策っていうのは?」
 錠剤の効果が出るまでおそらくは数分以上かかるだろう。この手の薬はたいてい即効性があるものではないのだ。
「はい、前置きは済んだので説明させていただきます」
 居住まいをただし、真っ直ぐな曇りなき目を向け、ケースを再び懐にしまいながら肝心かなめの『策』を刹威は話し始めた。
「策は全部で三段階に分かれます。まず一段階目ですが御坂様には持てるすべての力をもって一方通行(アクセラレータ)と対峙していただきます」
「……?私は最初から持てるすべての力で戦うつもりだけど?」
「言い方が悪かったですね。作戦の第一段階で我々は御坂様を一切バックアップしません。その状態で御坂様には一方通行(アクセラレータ)と戦っていただきます」
「それは……」
 どういうことなのだろうか。御坂が一方通行(アクセラレータ)と対峙するにおいて『白衣の男』らのバックアップ、というか策が無ければ御坂の敗北は確定だ。実力的に、否運命的に決定的だ。
 故に御坂は本心では嫌だったとしても『白衣の男』と協力する道を選んだのだが……。
 それなのにバックアップをしないというのはどういうことなのだろうか。
「はい。確実に御坂様は負けます。そして、それこそが作戦の第一段階です。」
 敗北することが作戦の第一段階だ、と刹威は言う。感情を感じさせない瞳で淡々と。
「繰り返しますが、御坂様にはまず一方通行(アクセラレータ)に負けてもらいます。全力全霊を振り絞り、全身全霊をかけて戦い、その力のすべてをもって戦い、その上でみじめに情けなく完膚なきまでに負けてもらいます」
「どうして、負ける必要があるわけ?」
 御坂には理解できなかった。刹威の口ぶりから察するにはじめ御坂は一方通行(アクセラレータ)に敗北しなければならないようだが、そんな必要があるのかというのが御坂の正直なところだった。
 一方通行(アクセラレータ)に会うまで常に相手より優位に立っていて、常に相手よりも強かった御坂には弱者の、というよりも強者に勝算を持って挑むという時の戦い方が分からないのだ。
 御坂の周りには御坂よりも強かった人間がいなかったが故に。
「そうですね。御坂様、我々の持つ『策』、切り札は一発逆転の兵器ですが、その効果はほんの一時、わずか数秒しかないのです。逆に言ってしまえば、その数秒を一方通行(アクセラレータ)に乗り切られてしまえばそれでおしまいです。ジ・エンドです」
「わずか数秒だけ……」
「はい。たったの数秒です。しかもその兵器を使えるのはただ一度のみ。一度のチャンスを逃せば、勝利はないと思ってください。さて、だからこそ御坂様にはその一度のチャンスで一方通行(アクセラレータ)を殺害していただく必要があるわけですが、ここで先ほどの話につながります」
 刹威の話を聞きながら御坂の脳裏にとある場面がよぎった。かつて、御坂が苦戦し、そして敗北したとある兵器の存在が御坂の脳裏をよぎった。
「一度のチャンスをものにするためには、一方通行(アクセラレータ)の油断が必要です。『こいつはもう反撃できない』、『ここまで徹底的に叩きのめされたのに反撃しないのだから、これ以上の切り札は存在しない』、『次の一撃で終わらせてやる』、『自分には勝利以外の結末はない』、そう思わせることが必要です」
「だから、まず負ける必要がある、と」
「ここで言う敗北は『死亡』ではありません。負けても絶対に死なないでください。無理を言うようですが、全力の本気で挑みつつも敗北しその上で死なない、という条件をどうにか達成してください。まぁ、もちろん本気で挑んで勝てくださるのならばそれに越したことはないのですが」
「まぁ勝てないでしょうね。仮に勝てるなら、私はこんな場所にいないし」
 高速で流れる窓の外の光景を見ながら御坂は一方通行(アクセラレータ)の強さを思い出す。書庫(バンク)にハッキングしてみた一方通行(アクセラレータ)の能力、実際に戦った経験、噂話、それらを統合して出る結論は『勝てない』ということだけだった。
「それにしても中々に無茶を言うわね。『本気で挑みつつも敗北しその上で死ぬな』だなんて」
「申し訳ないです。ですが一方通行(アクセラレータ)に一撃を与えるためにはその思考が必要なのです。限界ギリギリまで追い詰められ、真実体がボロボロになった状態になり、『これ以上反撃できない』と思わせる必要が」
 静かな口調で続けて語られる『策』の続き。それを御坂は聞いている。
「強者というものは総じて油断しています。この『策』は一方通行(アクセラレータ)の油断をつく策なのです。こちらをご覧ください」
 刹威は着ている服の裏側から大型のタブレット端末を取り出した。ボタンをいくつか操作し、ブォンという音が鳴って空中に画面が写しだされる。
「今投影されているものが、我々が向かっている場所です。御坂様と一方通行(アクセラレータ)の決戦場ですね」
「操車場……か」
「この場所の基礎データについては後で詳しく教えます。なんといっても御坂様には限界まで力を出してもらわなければなりませんので。そして、こちらをご覧ください」
 ヒュン、という音が鳴り空中に投影されている画面の中のいくつかのポイントが赤く染まった。それと同時に画面に御坂と一方通行(アクセラレータ)の姿が映し出される。
「今、画面の中で赤く染まっている32のポイントが先ほど私が口に出した『兵器』が埋まっている場所になります。この兵器は有効射程が半径1メートルととても小さく、なおかつ効果範囲内にいれば御坂様も影響を受けてしまいますので注意してください」
「つまり、私は作戦の第一段階が済んで瀕死の状態になったら、一方通行(アクセラレータ)をその32ポイントの位置のどこかに誘導しつつ、自分は一方通行(アクセラレータ)のいる場所から一メートル以上離れたところに退避すればいいわけね」
「理解が早くて助かります。兵器の詳細については後で教えますがとりあえずこれを渡しておきます」
「それは……?」
 差し出されたものは何かのスイッチだった。銀色の直方体に丸いでっぱりのスイッチがついた不思議な物体。
「先ほど言った兵器を起動させるためのスイッチになります。その丸いボタンを押すと兵器が起動し一方通行(アクセラレータ)の能力を数秒だけ無効化することが出来ます」
一方通行(アクセラレータ)の能力を無効化!!??」
「はい、無効化できます。仕組みについては後で詳しく説明しますが、とりあえずそれの側面を見てください」
 渡されたボタンの側面を見てみると上面と同じようにスイッチがあった。というか左側面と右側面にそれぞれ16個ずつ、計32のスイッチが側面に存在した。
「側面にある計32のボタンにはそれぞれ数字が割り振ってあるのが見えますか?その数字は今投影画面に書いてある赤いポイントと対応しています。4のボタンを押せば4のポイントの兵器が起動待機状態に、18のボタンを押せば1のポイントの兵器が起動待機状態になります」
「つまり、仮に6のボタンと12のボタンを二つ押しておけば6のポイントの兵器と12のポイントの兵器が二つとも起動待機状態になるわけね」
「その通りです。3つのボタンを押せば3つのポイントの兵器が、6つのボタンを押せば6つのポイントの兵器がそれぞれ起動待機状態になります。そして、上面についているボタンを押せば起動待機状態の兵器がすべて一度に起動状態となります。それと、もしも一度起動待機状態にした兵器を再び非使用状態にしたい場合は同じボタンをもう一度押してもらえれば非使用状態になります」
 刹威のことばを横に聞きながら御坂は投影されている画面に視線を走らせていた。刹威の言う兵器を使うための条件は、一方通行(アクセラレータ)が起動状態の兵器の半径一メートル以内にいること、そして御坂が起動状態の兵器から一メートル以上離れていることの二つだ。
 つまりこの兵器を使用するためには兵器が埋められている全32のポイントを把握し、それぞれの兵器の効果範囲を把握しなければならないのだ。
 でなければ、御坂自身も兵器の起動に巻き込まれてしまう。そのため御坂は全力で兵器の効果範囲を暗記していた。もっとも、この程度の暗記など御坂にとってはたやすい。学園都市の超能力者(レベルファイブ)という地位は単に能力が優れているというわけでは無く、その頭脳が学園都市の中でもトップレベルで優れているということなのだから。
「じゃあ、それそろ教えてもらってもいい。アンタの言う兵器、一方通行(アクセラレータ)の能力をわずか数秒とはいえ封じることのできる兵器っていうのはいったい何?」
「予想はついているのではありませんか、御坂様」
 静かな瞳で、何の考えも、意志も、感情もないような静寂の瞳で刹威は御坂を見つめている。吸い込まれるほどに静かな瞳で、ただ御坂を見ている。
「ということはやっぱり……」
「はい、かつて御坂様を苦しめ、一度は敗北させた禁断の兵器。我々の切り札はその改良版」
 思い起こされる記憶。かつて大切な仲間たちとともに挑み、戦い、そして撃破した対能力者特化型の兵器。
 その名は…………



ここまでくればアニメ超電磁砲を見ている多くの人は刹威のいう兵器の正体がわかるでしょう。
そうです、『あれ』です。

次の更新は5日後です。


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御坂美琴と一方通行⑪ 対一方通行用『兵器』起動

散々引っ張ってきた対一方通行用の兵器の正体が判明します。

ルビが多すぎて見にくいかもしれません、申し訳ない。


 8月21日午後9時22分 絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)第10032次実験 実験場所にて

 死の淵から奇跡的に復活し代名詞超電磁砲(レールガン)を放った御坂のことを真正面から見ながらも、一方通行(アクセラレータ)は負けるとは欠片も思っていなかった。
 なるほど、確かにまだ御坂が生きていることには驚いた。あれだけの攻撃を食らってもまだ生存していることには心臓を凍てつかせた。
 だが、それだけだ。ただそれだけのことで、一方通行(アクセラレータ)の勝利は揺るがない。そもそもの話として、何度でも言うが一方通行(アクセラレータ)の『反射』は御坂の超電磁砲(レールガン)では破れない。貫けない。
 だから何も心配することなどないのだ。恐怖を感じることも、何か特別な対処をする必要もない。
 いつも通り、いつも通りに『反射』すればいいだけだ。ベクトル操作能力の最も基本の力、『反射』を使って超電磁砲(レールガン)を弾き返すだけ。
 それだけ、それだけで終わる。この戦いは終わる。
 順当に一方通行(アクセラレータ)の勝利で終わる。
 そして、音速の三倍の速度で放たれた超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)に迫ってきて、『反射』の膜に接触しようとして

 その直前に、キイイィィィイイィィイィイィィィイイィイイィイイィという音が操車場に響き、

 がくんっ!!と一方通行(アクセラレータ)の体から唐突に力が抜けた。

(ぁぁぁぁぁァァァァあああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!?????)
 意味の分からない痛みがあまりにも突然一方通行(アクセラレータ)を襲った。そして、その瞬間一方通行(アクセラレータ)は自らの万能の力、ベクトル操作能力が機能しないことに気付いた。
(な……にがァァ…………)
 思考がさだまらないほどの莫大の痛みの中一方通行(アクセラレータ)は自らに迫ってくる超電磁砲(レールガン)がひどくゆっくりと見えた。
 走馬燈と呼ばれるものがある。いわゆる人が死ぬ間際に見る過去の風景のことなのだが、これは死の危険が迫った際に脳の処理速度が一時的に上がり、その死が迫る状況から脱出するための方法を今までの人生経験の中から探すためのものではないか、といわれている。
 一方通行(アクセラレータ)が今周囲の風景がゆっくり見えているのもそういう理屈だった。脳が死の危機によりその処理速度を著しく加速させた結果だった。
 だが、非常に残念なことに一方通行(アクセラレータ)の脳はこの状況を改善するための手段なんて思いつかなかった。何故ならば、一方通行(アクセラレータ)の人生は能力(チカラ)ありきのもので、一方通行(アクセラレータ)はありとあらゆる困難を能力(チカラ)を使うことで乗り切ってきたからだ。
 だから能力(チカラ)のない状況での困難の乗り越え方なんて一方通行(アクセラレータ)の人生の辞書には書いてなかった。
 だが、その代りに気付いたことがある。
 一方通行(アクセラレータ)は気付いたことがある。
 この状況に陥った理由。一方通行(アクセラレータ)の体から急に力が抜けた理由。そして、この脳が割れると錯覚するほどの痛みの理由。
 それに思い至った。
(くそ……ガァ、コの音は…………あのヘイキの……っっっ!!!)
 なぜ、あの時気付かなかったのだろうと一方通行(アクセラレータ)は後悔した。そうだ。一番最初の御坂との接触の時に使われたあの閃光弾(フラッシュ)。あれは思ってみればおかしかった。
 あの時一方通行(アクセラレータ)は自分自身に閃光弾(フラッシュ)が効いた理由をこう考察した、『動揺によって能力の制御をミスった』のだと。
 違う!今になってわかる。あれは『あの兵器』が内蔵されていたと考えれば納得がいく。思い返せばあの時も音が聞こえた。そうだ、キイイィィィイイィィイィイィィィイイィイイィイイィという音があの時も聞こえていた。
 あの時の閃光弾(フラッシュ)は今の前振りだったのだ。『あの兵器』がきちんと一方通行(アクセラレータ)に効くかどうかの実験だったのだ。
 見事に一方通行(アクセラレータ)はそれに引っかかった。
 傲慢に慢心していた一方通行(アクセラレータ)は、自らの力に溺れていた一方通行(アクセラレータ)は今この時に足元を掬われた。
 足元を掬われて、頭を痛めた。
 入念に練られた計画と十全に行われた行動で一方通行(アクセラレータ)は追い詰められた。
 ここからの逆転はもうない。
 御坂が放った超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)に当たるだろう。超電磁砲(レールガン)は直撃すれば五体を千の肉片に変える威力を、仮に直撃しなくともその生命を絶命させることのできる力は持っている。
 もう一方通行(アクセラレータ)超電磁砲(レールガン)を避けられない。避けられない。機能しない能力(チカラ)『反射』を使って弾き返すことも、もちろんその身体を動かして避けることもできない。
 だから、超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)に当たる。これが確定事項だ。
「クソッ!!!」
 呟いた罵声は、しかし周囲の轟音にかき消されて、
 そして、雷光をともなった超電磁砲(レールガン)が学園都市最強の能力者一方通行(アクセラレータ)にぶち当たった。














 御坂はボロボロの体になりながらも微笑んでいた。ここまではすべて予定通りだ。刹威たちが立てた計画の予定通り。御坂がボロボロの体になったのも、あらゆる攻撃が一方通行(アクセラレータ)にきかなかったのもあくまで予定通り。
 ただ、一つ予想外だったのは一方通行(アクセラレータ)が御坂の起こした粉塵爆発によって成長してしまったことだ。
 だが、おそらくは問題ないだろう。『あの兵器』を使うのに一方通行(アクセラレータ)が体内をいじれるようになったことはほとんど影響はしないと御坂は判断する。体内をいじれてもそれだけで『あの兵器』は防げない。体感した自分がそのことはよく知っている。
(三番、十二番、二十五番の兵器を起動待機状態に……)
 左ポケットに入れた手の中で御坂は刹威から渡されたボタンのスイッチを3つ入れた。三番と十二番と二十五番。一方通行(アクセラレータ)が御坂に向かってくるときの直線にある3つのポイントにある兵器を起動待機状態に設定した。
 あとは、タイミングだ。超電磁砲(レールガン)を放ったタイミングでボタンを押して『あの兵器』を起動待機状態から起動状態にする。そうすれば、一方通行(アクセラレータ)の能力は数秒だけ無効化されるはずだ。
 そこにタイミングよく超電磁砲(レールガン)が当たればそれだけで一方通行(アクセラレータ)を殺せる。それで終わらせることが出来る。
「あはァ」
 不気味な笑い声が静寂の中で響く。一方通行(アクセラレータ)の声だ。引裂いたように笑う一方通行(アクセラレータ)の声だ。
「…………………………………………」
「――――――――――――――――」
 一方通行(アクセラレータ)も御坂美琴も黙ったままだった。黙ったまま戦闘状態に移行した。
 その雰囲気を気配で感じる御坂はぐっと左手でポケットの中のボタンを握りしめた。
 失敗は許されない。
 チャンスは一度しかない。
 ここで決めなければもうほとんど勝ちはない。
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
 一方通行(アクセラレータ)は足のベクトルを操ってロケットのように御坂美琴に突進した。
 御坂美琴は全身から電気を出しながらその右手で超電磁砲(レールガン)を放った。そして同時にポケットの中のボタンを力強く押す。
 たった一度のチャンス。わずか数秒のチャンス。それを手の中に収めるんだ!、という強い意志と共に。

 そして、押されたボタンに対応して、地面の中に埋められた『兵器』が、

 音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)が起動した。






 音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)。それが、それこそが御坂美琴の『切り札』。
 『一方通行(アクセラレータ)を倒す策』の根底にある兵器。
 ここで音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)についての説明を入れよう。といっても音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)の説明は非常に簡単だ。一言で済む。
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それが音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)だ。
 二週間ほど前の乱雑解放(ポルターガイスト)事件においてテレスティーナ=木原=ライフラインが御坂達に使った対能力者用の音響兵器。低能力者(レベルワン)の初春飾利も大能力者(レベルフォー)の白井黒子も、そしてあろうことか超能力者(レベルファイブ)の御坂美琴までも苦しめた最悪の兵器。
 無能力者(レベルゼロ)以外の能力者を等しく苦しめ、発する音響によって能力の発動を阻害する絶望の兵器。
 この兵器は一方通行(アクセラレータ)にも有効なのだ。御坂はそれを一番最初の接触、閃光弾(フラッシュ)による攻撃で確認した。
 あの時御坂が使った閃光弾(フラッシュ)はただの閃光弾(フラッシュ)ではない。音響式能力演算妨害装置内蔵型閃光弾(フラッシュオブキャパシティダウン)と呼ばれる、死縁鬼苦罠の直属の兵器開発組織『第四産業革命』が作った音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)を内蔵した閃光弾(フラッシュ)なのだ。
 あの時、御坂が一方通行(アクセラレータ)音響式能力演算妨害装置内蔵型閃光弾(フラッシュオブキャパシティダウン)を投げたのは一方通行(アクセラレータ)にきちんと音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)が効くかを確認するためだ。
 音響式能力演算妨害装置内蔵型閃光弾(フラッシュオブキャパシティダウン)音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)の音を1秒ほど響かせた後続けて閃光をあたりに放つ兵器だ。この兵器によって御坂は一方通行(アクセラレータ)音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)が有効であることを確認した。
 そして、もちろん御坂が今使った音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)もただの音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)ではない。そもそも、テレスティーナ=木原=ライフラインが使った音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)は効果範囲が広すぎて一人の人間を制圧することは出来ないし、機械そのものがかなりの大きさだ。
 だから、御坂が使ったのはテレスティーナ=木原=ライフラインが使った音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)を『第四産業革命』が改良したモノ。
 改良版音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウンバージョンベータ)だ。
 改良版音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウンバージョンベータ)の改良点は三つある。一つ目は小型化。機能を上げるほど電力を大型にしなければならなかった音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)の小型化に成功したこと。
 二つ目は音を響かせる範囲の限定。従来の音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)は音響の範囲を指定することが出来なかったが、改良版音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウンバージョンベータ)は音響の範囲指定に成功した。
 三つ目にステルス化。周囲同化服(カメレオンスーツ)の技術を応用することで改良版音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウンバージョンベータ)自体を外から見えないようにした。
 この三つが改良点だ。
 そしてその改良点故に地面に埋めることが、効果範囲を指定することが、一方通行(アクセラレータ)に気付かれないことが出来た。
(これで終わり(フィナーレ)よ!一方通行(アクセラレータ)ッッッ!!!)
 当たる、と御坂は確信する。
 逆にこの状況で当たらない理由が見当たらない。
 視線の先にいる一方通行(アクセラレータ)はあきらかに態勢崩している。改良版音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウンバージョンベータ)が効いている証拠だ。
 つまり今一方通行(アクセラレータ)を最強たらしめている能力『ベクトル操作』は発動していないということ。
 『反射』は機能していないということ。
 そして、『反射』が機能していないのであれば当然超電磁砲(レールガン)は当たる。
 一撃を与え、直撃する。
 知らず御坂の顔に笑みが浮かぶ。絶対の勝利を確信した笑みが浮かぶ。
 この一撃は一方通行(アクセラレータ)には回避できない。
 この攻撃は一方通行(アクセラレータ)では対処できない。
 御坂の努力は、決意は、覚悟は、意志は、ここに報われた。


 そして、改良版音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウンバージョンベータ)によって『反射』を強制的に解除された一方通行(アクセラレータ)超電磁砲(レールガン)がぶち当たり、

 肉片と血飛沫があたりに飛び散った。



ついに御坂美琴が一方通行にダメージを与えました!!!

さて、続きはどうなるでしょうか?


音響式能力演算妨害装置《キャパシティダウン》が一方通行に効くのか?という事実は各所で考察されていますが、少なくとも私の作品では『効きます』。



そろそろ原作キャラ死亡のタグが本領を発揮するかも……?


次の更新は3日後です。


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御坂美琴⑤ 死者への手向け

現在の目標は今年中に第一部を終わらせること。

今までの中で一番話が進んでいないかも……



 この世の何よりも美しい黄金の閃光が一筋の光となり一方通行(アクセラレータ)を貫いた。
 そして、数瞬遅れて
 
 バッッギャギがあああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!!!!!!

 という耳をつんざくような音が操車場に響く。その轟音に御坂は顔をしかめた。
 いつもとは違う『人を殺すための超電磁砲(レールガン)』をこの時御坂は放っていたのだ。
 普段の御坂は超電磁砲(レールガン)を放つときに威力を調節している。例えば上条当麻に超電磁砲(レールガン)を放つとき。この時は上条が防げると確信したうえで超電磁砲(レールガン)を放っている。もちろん、人に超電磁砲(レールガン)を放つのだからその威力は本来の三分の一以下に抑えている。
 例えば、テレスティーナ=木原=ライフラインが巨大な駆逐鎧(パワードスーツ)に乗って道路で襲撃をかけてきたとき。この時は駆逐鎧(パワードスーツ)に乗っているテレスティーナが死なないように乗車部分に超電磁砲(レールガン)を飛ばすのは意図的に避けている。
 だが、今回は違う。今回の超電磁砲(レールガン)は正真正銘御坂の本気の超電磁砲(レールガン)だった。混じり気なしの100パーセントの威力の超電磁砲(レールガン)
 故にその超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)に当たった後、一方通行(アクセラレータ)の背後にあった数十のコンテナをすべて貫いた。
 そして、貫かれ、砕け散り、バラバラになったコンテナからは当然中身の小麦粉が散乱する。
 散乱した小麦粉の中を一瞬だけ遅れて黄金の閃光が貫き、そして三度目の粉塵爆発が起こった。
「くっ!!!」
 コンテナに寄り掛かりながら御坂は粉塵爆発の爆音と爆風に顔を歪める。一方通行(アクセラレータ)に攻撃されたダメージと限界の体を酷使して使った超電磁砲(レールガン)の反動、そして今の粉塵爆発で本当に御坂の体は崩壊寸前になっていた。
 だが、まだ御坂にはやることが残っている。
一方通行(アクセラレータ)の死体を破壊しないと………………」
 あの完全ステルスヘリでの移動中に御坂は刹威から必ずあることをするように言われていた。
 そのあることとは、一方通行(アクセラレータ)の死体を完全に破壊すること。
 粉微塵に分解し、千の肉塊に分解し、生物としての区別がつかないほどに破壊しつくすことを約束させられていた。
 そうしないと復活する可能性があると、そうしないと学園都市の闇の技術によって生き返らせてしまう可能性があると忠告されていた。
 正直、御坂はそれを聞いたとき『まさか』と思う気持ちの方が強かった。
 死者をよみがえらせるなんてたわごとを、そんなくだらない戯言を本当に実現できる技術なんて学園都市が持っているとは思えなかった。例え、御坂達が属す『表』とは一線を画した技術を持つ『裏』の技術だとしてもだ。
 だが、刹威は御坂のその考えを否定した。
 『死者を蘇らせることはできなくても、死者を利用することはできる』そういって否定した。
 死者を利用する技術、その技術の名は『棺桶』というらしい。詳しいメカニズムは刹威にも分からないようだが、窮奇、渾沌、饕餮などと呼ばれる兵器を使って『DA(ディシプナリー・アクション)』なる組織が実用化を進めているようだ。
 おぞましいと率直に思う。人間の死体を利用し、死者を冒涜する兵器。私たち能力者は死んでも利用され続けるのか、と御坂は怒りに震えた。
 だからこそ御坂は一方通行(アクセラレータ)を殺す。殺して壊して分解する。二度と復活できないように、もう二度と蘇ることの無いように。
 これは一方通行(アクセラレータ)にとってもいいことだろう。超能力者(レベルファイブ)という連中は御坂も含めて総じてプライドが高い。死後も利用され続けるなんて、そんなこと許せるわけがない。
 それに、一方通行(アクセラレータ)が蘇ってしまえば、必ず再び絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)が再開される。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)がぶっ壊れても構わず研究者たちは絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を進めていた。さすがに一方通行(アクセラレータ)が死んでしまえばすすめられないだろうが、何らかの要因で復活してしまえばきっと実験は再開していまうだろう。
 だから、ここで確実に終わらせるために、もう二度と絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を行わせないために、御坂は一方通行(アクセラレータ)を壊さなければならない。
(そうだ。ここで終わらせるんだ)
 もう悲劇を起こさないように。もう、誰も傷つかないように。もう、妹達(シスターズ)が死ななくてもいいように。
 ここで終わらせる。
 絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)をここで終わらせて、御坂と一方通行(アクセラレータ)の戦いを、因縁を、決着させる。
 そのために、まずやらなくてはならないのは。
「……痛ッ!!!」
 どうやら限界を超越した全力の超電磁砲(レールガン)を放ったせいで筋肉や神経が痛んでいるらしい。御坂は一方通行(アクセラレータ)との戦闘当初から電気信号を操っていたのでこの程度の代償で済むのはむしろいい方だろう。
 だが、まだ無理をしなければならない。御坂は一方通行(アクセラレータ)を破壊しなければならないのだから。
「ぐ、ッッッああぁぁぁぁアアアアア!!!!!」
 痛みなんてとうの昔に限界を超えていた。願いと思いと覚悟と偽りの強さでただ自分をだましていただけだ。
 もう一度、これが最後と思いながら御坂は電気信号を操作して痛覚の遮断を行った。
 時に人の想いは身体(カラダ)の限界を超えさせる。御坂は血に濡れたボロボロの体を引き起こして立ちあがった。
 一歩一歩進んでいく。不安定な、しかし確かな歩みを地面にきざみ着実に一方通行(アクセラレータ)に近づいていく。
ボロボロの体を引きずりながら、爛々と輝いた瞳でその足を、腕を、体を、前に前に前にただひたすらに前に。
 一方通行(アクセラレータ)超電磁砲(レールガン)がその体にぶち当たった影響でさっきいた位置よりもはるか遠くに飛ばされていた。超電磁砲(レールガン)はその速度によって強風が巻き起こる。一方通行(アクセラレータ)はその影響もあって体をふきとばされたのだ。
 御坂の視界に映る一方通行(アクセラレータ)に起き上がる様子はない。当たり前だろう。超電磁砲(レールガン)をその身に受けて起き上がれる人間なんて、もはや人間ではない。
 そんなものは、ただの化物だ。
 いかに強力な能力(チカラ)を持っているとはいえ一方通行(アクセラレータ)は人間。そう人間なのだ。
 だから、一方通行(アクセラレータ)が体を起こさないのもひどく当然のことだった。
「はぁ、ッ……はぁっ……」
 体がだるい。息がつけない。御坂の体のありとあるゆるところが異常を訴えている。血流がおかしい。神経が傷ついている。筋肉が酷使され過ぎている。血が足りない。五感が正常に機能しない。
 そのすべての訴えを御坂は意図的に無視する。ねじ伏せる。
 そんなさじに構っている暇はないのだ。ここを我慢すれば今までの苦労が報われるのだ。ここさえ耐えればもうすべてが終わるのだから。
 安心して眠っていいのだ。
 助けることのできた妹達(シスターズ)と談笑することもできるだろう。
 『暗部』に堕ちてからのことは少し心配だが、新しい友人ができるかもしれないと考えるとわずかに笑顔も浮かぶ。
 もう少しで御坂は一方通行(アクセラレータ)のもとに辿り着く。二人の距離は10メートルもない。
「くぅ、……ッッッ!!!」
 唐突に御坂の脳裏にまるで走馬燈のように今までの光景が浮かび上がった。ここ数日の今までの人生の中でも最も密度の濃かった日々。
 マネーカードの騒ぎから始まり妹達(シスターズ)のことを知り、そして実際に妹達(シスターズ)に会って会話して、妹達(シスターズ)の一人が絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)なんてふざけた実験で一方通行(アクセラレータ)に殺されるのを見て、その実験を潰すことを決意したことを。
 そして、絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)を潰すために樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の破壊を決意して、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)がすでに破壊されていることを知って、そして『白衣の男』と接触し一方通行(アクセラレータ)を殺すことを決意したことを。
 思い出す。
 思えばあの操車場でミサカ9982号の殺害を目撃した時から御坂と一方通行(アクセラレータ)の因縁は始まっていた。
 同じ超能力者(レベルファイブ)という土俵にありながら対等の立場ではなかった御坂と一方通行(アクセラレータ)の二人。その二人の立場はもう逆転している。
 最強だった一方通行(アクセラレータ)は死体へと。
 敗者でしかなかった御坂美琴は勝者へと。
 その姿を変えた。
 その理由はやはり協力者の存在だろう。
 あくまで頂点にいる人間として己の力のみで戦った一方通行(アクセラレータ)と、小細工を駆使し協力者に策を授けれられ道具を使って戦った御坂美琴。
 これこそが両者の違い。
 そして、ついに御坂は一方通行(アクセラレータ)のいる場所に辿り着く。
 一方通行(アクセラレータ)の周りの地面は流れ出た血で真っ赤に染まっていた。紅く染まった白い髪。朱く染まった色白の肌。赤色の鮮血。
「さよならよ、一方通行(アクセラレータ)
 一方通行(アクセラレータ)の体を壊すのに超電磁砲(レールガン)を使うのは適さない。もちろん超電磁砲(レールガン)の威力からいって一方通行(アクセラレータ)の体を壊せないというわけでは無い。だが、一方通行(アクセラレータ)の体が本当に壊れたのか確認できないのだ。
 あまりに莫大な威力を持つ超電磁砲(レールガン)はそれゆえに人の体が壊れるのを確認することが困難だ。もしかしたら、その威力によってどこかにぶっ飛んだだけなのかもしれない。そう考えることも出来てしまう。
 細かく体を分解し、復活不可能なほどに壊すことに最適なのは御坂の技の中では超電磁砲(レールガン)ではない。
 そんな必殺技よりももっと単純な技、砂鉄の剣で十分だ
 ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!
 蟲が宙を這いずり回るような気色の悪い音が空間に奔る。その音は御坂が集める砂鉄によって生じたものだった。高速で振動させることでチェーンソーのように対象を切ることが可能になる、人体切断に適した狂気の凶器。
 まるで剣士のように御坂はそれを構えた。右腕に持った砂鉄の剣から超高速の微細な振動が伝わってくる。
 一陣の風が操車場に吹く。
 御坂の髪が揺れ、それに呼応するように御坂の心も揺れる。
 覚悟は決めたはずだった。決意はしたはずだった。分かっている……はずだった。
 今から行う行動の意味なんて、分かりすぎるほどに分かっているはずだった。
 妹達(シスターズ)を完全に救うために一方通行(アクセラレータ)分解(バラ)す。そう決意したはずなのに……。
「…………………………………アハハ」
 笑えてしまう。この期に及んでまだ、まだ、救いを求めているのだろうか。
(こんな体でいったい何を期待しているのよ)
 もうすでに御坂の体は汚れているというのに、血と臓物で穢れきっているのに、この後に及んでまだ誰かに助けてを求めているのだろうか。
 だが、仮に誰かが今この場に来たとして、いったいどういえばいいのだろうか。すでに御坂は一方通行(アクセラレータ)を殺してしまったのに。
 この血に汚れた赫き両手をいったい誰が握ってくれる?
 この罪に穢れた身体をいったい誰が抱いてくれる?
 この咎を背負った漆黒(クロ)の心をいったい誰が理解してくれる?
 もう、無理だろう。御坂の友人は誰もが、きっと全員が御坂のことを恐怖する。薄絹休味も湾内絹保も泡浮万彬も婚后光子も初春飾利も佐天涙子も、そして白井黒子も上条当麻も、きっと御坂美琴のことを恐怖する。
 人殺しは禁忌だ。殺人者を怖がらない人なんていない。まして御坂は超能力者(レベルファイブ)。怖いと思わないわけがない。
(それでも……)
 ああ、だがそれでも御坂は選んだのだ。そんなことは分かっていたのに、選択したのだ。
 妹達(シスターズ)を救うことを、妹の救済を、『白衣の男(かみ)』に願ったのだ。
 でも、だけど、しかし、それでも、なのに、けど、だけれども、が、けれど、だが、

 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ友ザザザザザザザザザザザザザザZiんザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ弐ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ綺羅ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザワザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザRえrうザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザのはザザザザザザザザザザザザザザザザザザザコザザザザザザザザYザザザザ??????ザザザザザザザザザザザザ?ザザザザ?????ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ???????ザザザザザザザザザザザ?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????



 だから、後悔するには遅すぎる。
 すべてを断ち切り妹達(シスターズ)のために生きる。そう決めたじゃないか。
「さよならよ、一方通行(アクセラレータ)
 砂鉄の剣を一方通行(アクセラレータ)の死体に向けて真っ直ぐに振り下ろす。頬を涙がつたうことも、顔が不自然に歪むこともない。
 御坂が見殺しにした妹達(シスターズ)が体験した痛みと比べてみれば、こんなものたいした痛みではない。
 そして、
 超高速の振動を放つ砂鉄の剣が見事なまでにその右腕を断ち切った。



進まねぇなぁ…………
もう少しで御坂美琴VS一方通行は終わる予定なんだが……

次の更新は4日後です。


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御坂美琴と一方通行⑫ 聞こえた声と幸運の持ち主

いよいよクライマックス。
二人の死闘をご覧あれ。


 それが起きた理由は七つほどあった。
 まず、一つ目として御坂美琴が非常に傷ついた状態にあったこと。外傷だけでも全身の皮膚の裂傷、折れた左足に血で紅く染まった目、さらに指の爪の内八本の爪は剥がれている。加えて内部においては頭蓋骨の亀裂、内臓のいくつかの損傷、口の中は血に満ち、左耳も機能しなくなっていた。その傷つき具合がほんのわずかに超電磁砲(レールガン)の照準をずらした。
 次に、二つ目として改良版音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウンバージョンベータ)によって能力を解除され、頭痛を覚えた一方通行(アクセラレータ)が態勢をわずかに崩したこと。それはほんのわずかなモノだっただろうが、確かに一方通行(アクセラレータ)は態勢を崩し、ほんの少しだけ左に体を傾けた。
 さらに、三つ目として超電磁砲(レールガン)が放たれた際に先行した衝撃波がこれまたわずかに一方通行(アクセラレータ)の態勢を崩したこと。衝撃波によって押された一方通行(アクセラレータ)は刹那の時間であったとしても超電磁砲(レールガン)から遠ざかった。
 そして、四つ目として連続した粉塵爆発を攻略した影響で一方通行(アクセラレータ)が自らの体内を制御する術を手に入れたこと。体内の制御をできるということは細胞分裂の速度、血流、心肺機能等のすべてをいじれるということ。それが一方通行(アクセラレータ)にとってのまたとないチャンスを演出した。
 加えて、五つ目としてほんの少しとはいえ御坂美琴が一方通行(アクセラレータ)とまともな戦闘を繰り広げてしまい、一方通行(アクセラレータ)に経験を積ませてしまったこと。自らの力を無秩序に使う今までの一方通行(アクセラレータ)とは違い、今の一方通行(アクセラレータ)は経験を得て成長していた。戦闘を経て学んでいた。対応を、対処方法を学習していた。
 それと、六つ目として御坂本人が思っているよりも御坂美琴は消耗していたということ。これだけの傷を体に負って、精神状態も万全とはいえない状態で超電磁砲(レールガン)を撃ったのだから、それは当然照準がずれる。ぶれる。
 最期に、七つ目として一方通行(アクセラレータ)が御坂美琴を『敵』として認識していたこと。そこら辺の十把ひとからげにできる名前も知らない雑魚的とは違い、きちんと一個人の『敵』として御坂のことを認識したこと。つまり、警戒し用心し注意していたこと。




 つまり、どういうことかというと




「………………………………………………………………………………………………………………………あ?」





 御坂の砂鉄の剣が切ったのは死体となったはずの一方通行(アクセラレータ)の左腕ではなく



「ギャハ」



 砂鉄の剣を持っていたはずの御坂美琴だったということだ。



 ぼとり、と音がした。断ち切られた御坂の右腕が地面に落ちる音だ。
 御坂の思考が完全に停止する。意味が分からない。理解できない。わけが分からない。眼前の光景を認めたくない。
 だが、そんな思考とは裏腹に御坂の体は神速の反応を見せた。
「ッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!??????」
「ぎゃはははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 ああ、何という悪夢だろうか。
 本当にどんな奇跡なのだろうか。
 神様のいたずらか、悪魔の呪いか、はたまた運命の残酷さか。
 とにもかくにも一方通行(アクセラレータ)は死んでいなかった。
 死んでなんていなかったのだ。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
 全力で下がる。爆走疾走大逃走。
(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでどうして!!!?)
 目の前の光景が理解できない。いや、したくない。
(超電磁砲(レールガン)を撃ったのよ!超電磁砲(レールガン)が当たったのよ!なんで倒れないの!死んでないの!?ありえないでしょ!!!)
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
 この時、御坂がとった行動は限りなく正解に近いものだったといっていい。混乱する思考の中で反射的に生きながらえていた一方通行(アクセラレータ)から離れようとしていた。その腕の届く範囲内から距離をとろうとしていた。
 一方通行(アクセラレータ)の能力はその腕で触れなければ効果を発揮しない。ならば、一方通行(アクセラレータ)から距離をとれば少なくとも安全は確保されるはずだ。
 そう、無意識内で思っての行動だった。

 ()()

「ハ!ハハ!!ハハハ!!!ハハハハ!!!!ハハハハハ!!!!!ハハハハハハ!!!!!!ハハハハハハ!!!!!!!ハハハハハハハハ!!!!!!!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!」
 ビュオオオォォォォッッッ!!!と御坂の背後から颶風が吹き、まるで一方通行(アクセラレータ)を中心とした引力が発生しているかのように御坂のことを一方通行(アクセラレータ)のいる場所へと引き戻した。
「ぐぅぅぅああああアアアアアアアアアアアア!!!」
 御坂は手あたり次第、持てる手段すべてを使ってその風に逆らおうとした。電撃使い(エレクトロマスター)としての力をフルに使って一方通行(アクセラレータ)から離れようとした。

 ()()()

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
 逃れられはしない。一方通行(アクセラレータ)の力からは決して逃れられない。絶望的な颶風が竜巻のように御坂のことを逃さず、一方通行(アクセラレータ)のもとへ導いていく。
 そして、
 そして、
 そして、
 ついに、御坂は一方通行(アクセラレータ)の手が届く範囲に辿り着いてしまって、一方通行(アクセラレータ)のその手が、色白の不健康気味の手が、死の左手が、御坂に、御坂美琴に、
 触れた。




 この世界は弱者が強者に勝てるようにはできてない。

 ジャイアントキリングなんて絵空事はそう簡単には起きない。

 この世の摂理(ルール)は残酷で無慈悲なのだから。






 何でも解決してくれるママはここにはいない――


 困った時だけ神頼みしても奇跡が起きる訳じゃない――


 泣き叫んでいたらそれを聞いて駆けつけてくれるヒーローなんて――





 ヒーローなんて―――











「御坂!!!」


「お姉様!!!」









「え」




 一瞬後には死んでしまうはずの御坂の左耳にここにはいないはずの大切な人の声が聞こえてきた。


















 一方通行(アクセラレータ)は眼前の出来事に対する対応をやめた。なぜならば、そんなことをしても無意味だと判断したからだ。
 能力の発動を妨害する音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)。これに対応することは現状不可能だ。
 この一撃はおそらく御坂の最強の一撃。思いのすべてを、自身のすべてを、その頭脳のすべてを使って放った最強の一撃。
 ここまで周到に準備されていたのだ避けることなんて出来ないだろう。
(はっ、なるほどなァ。なめすぎていたってことかよォ)
 敵を、御坂美琴の実力を下に見積もっていた。所詮は第三位にすぎないと、万能の防御『反射』を貫くことなんて出来るわけがないと高を括っていた。
 それがこのざまだ。
(だが、まだ終わンねぇぞォ!!!)
 確かにこの超電磁砲(レールガン)は避けられないだろう。音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)が発動している今防ぐこともできない。
 だが、その後ならばどうだ。
 その超電磁砲(レールガン)が過ぎ去った後ならばどうだ。
(ここからだ)
 一方通行(アクセラレータ)の体に超電磁砲(レールガン)が直撃し、一方通行(アクセラレータ)の体を破壊し突き抜けた後ならばどうだ。
 おそらくこの音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)の音はそこまで広範囲には響いていないと一方通行(アクセラレータ)は判断していた。仮に広範囲にこの音が広がっているのならば超電磁砲(レールガン)を放つ御坂も音の範囲内に含まれてしまう。そうしたら超電磁砲(レールガン)は撃てない。
 最低では一メートル、最高でも五メートル程度が音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)の効果範囲内のはずだ。そうでなければ状況に合わない。
(この超電磁砲(レールガン)を食らってからが、本当の勝負だッ!)
 おそらくまともに超電磁砲(レールガン)に当たった一方通行(アクセラレータ)はその衝撃でふっとばされる。もちろん当たり所が悪ければ一撃で死ぬことになるだろう。
 だが、そうならない可能性の方が高いとも一方通行(アクセラレータ)は思っていた。
 根拠として今まで一方通行(アクセラレータ)が御坂に与えたダメージが原因で超電磁砲(レールガン)の威力が減衰され、照準がぶれる可能性があげられる。
 超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)の体の重心、心臓や腹のあたりではなく肩や腕、ひざなどに当たってくれれば少なくとも即死はしない。反撃のチャンスはわずかでも残る。
 だったらその後が本当の勝負だ。
(体内のベクトルを――――操作ァァァ!!!)
 筋肉収縮速度、筋肉膨張速度、血流、血圧、細胞分裂速度、電気信号伝達速度、体内気体消費量、ガス交換速度、内臓機能、心拍数、ホルモン分泌量、造血機能、タンパク質消費量、体温、痛覚、神経、その他すべての内面ベクトルを操る。
 その前準備を意識する。
 超加速されていた思考が元の速度に戻る。
 そして、黄金の閃光が、一筋の尊き光が、一方通行(アクセラレータ)のその体を貫いた。
 バギベギボギグギャギャリグラジイィィィィィィィィ
 肉の砕ける音と、皮膚が焼ける音が聞こえ、一方通行(アクセラレータ)の体に生涯で最悪の痛みが奔った。







 
 意識が落ちていたのは数秒だろうか、それとも数分か、あるいはもっと数時間かもしれない。時間間隔があいまいになるほど一方通行(アクセラレータ)の意識は混濁していた。
(…………いき…………て…………………ンの……………か?俺…………………………は?)
 だが、ともかく生きている。生き残った。あの超電磁砲(レールガン)の一撃から。あの第三位(アクマ)の一撃から生き残った。
 即死しなかった。
 その理由は客観的に見れば様々な要素が重なったからだと言えるだろう。
 超電磁砲(レールガン)の照準がダメージによってぶれた、超電磁砲(レールガン)の威力が全力ではなかった、たまたま一方通行(アクセラレータ)の態勢が崩れた。
 いくらでもあげられるが、その理由はたった一言にまとめられる。

 ()()()()()()

 結局それだけなのだ。一方通行(アクセラレータ)はただ、本当にただ運が良かっただけなのだ。
 まるで神に選ばれた使徒のように。
 まるで悪魔に操られた人間のように。
 まるで世界に気に入られた英雄(ダークヒーロー)のように。
 まるで運命で決まっているかのように。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 運が良かった。
 まず初めにやったことは電気信号の操作だった。それによって一方通行(アクセラレータ)の感じる痛みを遮断する。
(血流を――――操作ァ)
 自らの生を確認した一方通行(アクセラレータ)は次に超電磁砲(レールガン)によってぶち切られた右腕から流れ出る血液を操作した。流れ出た血液はもうどうにもできないが、まだ流れ出る瞬間の血液ならギリギリ体内を循環させることが出来るはずだ。
 千切れた血管をつなぎ合わせることは難しくとも、皮膚を這わせるようにして血流を保つことは可能のはずだ。外界に無秩序に流れる風も操作して、血流の循環を手助けする。これ以上の失血は本当に命に係わるレベルのヤバさだと本能が叫んでいた。
(あぁ、案外軽症で済ンだなァ)
 正直一方通行(アクセラレータ)は左半身消失位の重傷具合は覚悟していた。あの超電磁砲(レールガン)はそれぐらいの危機感を一方通行(アクセラレータ)に抱かせる存在感があった。
 だが、結果は右腕の消失程度の軽症で済んだ。だから、一方通行(アクセラレータ)にはまだ余裕があった。超電磁砲(レールガン)が当たる前に超電磁砲(レールガン)が当たった後の想定もしていたから。
(細胞分裂速度を――操作ァ)
 引きちぎられた右腕の断面部分で急速に細胞分裂を起こして応急措置気味に傷をふさぐ。もちろんそれで完全に傷がふさがるわけでは無いし、血流を這わせている部分は当然細胞分裂を起こせないが。それでも流れ出る血のわずかな部分は防げるだろう。
 今一番危ないのはショック死ではなく、失血死なのだから。
(これで、しばらくは……)
 失血死を防ぎ、血流を操作し、細胞を分裂させた一方通行(アクセラレータ)は現状では死から逃れた。
 だが、
 ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!
 と、何か空中を蟲が囀りまわるような、不気味な音が一方通行(アクセラレータ)に届いた。
 閉じていた瞳をわずかに開ける。細目の状態で周囲を目線だけ動かして探る。
 すると、一方通行(アクセラレータ)視界にまるで何かに苦悩するような表情の御坂美琴とその右手で高速で振動しているチェーンソーのような砂鉄の剣が目に入った。



最強の存在とは『運』が良い人のことだと思っています。

この展開を予測できた人はいたかな?

次の更新は5日後です。


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御坂美琴と一方通行⑬ 勝者と敗者

(な――――――に―――ッッッ!!!)
 一方通行(アクセラレータ)の思考を驚愕が満たした。まさか、生きているのがばれたのか?と疑問に思った。だが、そんなはずはない。こんな血みどろの状態の一方通行(アクセラレータ)を見て生きていると判断できる人間がいったいどれだけいるのか。
 そもそも、御坂だってボロボロの体なのだ。そんな体のくせに死体となったはずの一方通行(アクセラレータ)相手に追い打ちをかけてくるなんていったいどんな畜生なのだ。
 なぜかは分からないが、御坂は死体に追い打ちをかけるつもりなのだろうと判断した。その理由はただ単に憂さ晴らしなのか、それとも何らかの慈悲なのかそれは分からない。
(いや、待てよ。コイツはチャンスじゃねぇか?)
 よくよく今の状況を考えてみよう。
 客観的に見てみれば今の状況は御坂が死体となっている一方通行(アクセラレータ)に追い打ちをかける図のはずだ。御坂だってきっと一方通行(アクセラレータ)のことをすでに死んでいると思っているはず。
 何故ならば、一方通行(アクセラレータ)は既に血みどろで、ピクリとも動かなくて、超電磁砲(レールガン)が当たったから。
 死体に追い打ちをかけようとする御坂と自分の状態を死体に偽っている一方通行(アクセラレータ)
 この意識の差を利用しない手はないだろう。
 一方通行(アクセラレータ)は自らの体の状態を確認した。
(全身の擦り傷、打撲、後は右腕の消失ぐらいかァ。はっ、これだけぶっ飛ばされて骨の一つも折れてねぇとかどれだけ運がいいンだっつうの)
 もちろん、ただ運がいいだけではない。意識的にしろ無意識的にしろその身に宿る能力をふんだんに使った結果だ。
 そして、この程度の怪我で済んだのだから一方通行(アクセラレータ)がやることは一つだ。
(全身に『反射』を適用―――ッッッ!!!)
 ベクトル操作能力の基礎中の基礎、『反射』をその身体に宿す。
 これにて一方通行(アクセラレータ)は復活した。万全とはいえないが『最強』へと復活した。
 御坂の操る砂鉄の剣の攻撃を『反射』して御坂の自滅を誘う。きっと意表を突かれるはずだ。御坂は一方通行(アクセラレータ)を殺したと思っているはずだから。
(さぁ来い!ギタギタに刻ンでやるぜぇ!!!)
 いまだ宙を這う蟲のような音は聞こえている。ならば数秒後にも御坂はその砂鉄の剣を一方通行(アクセラレータ)に向けて振り下ろすはずだ。その剣を『反射』する。
 一方通行(アクセラレータ)はここに至っても体をピクリとも動かさなかった。少しでも動けば御坂はきっと警戒する。まさか生きているのでは?という考えが脳裏をよぎる。それはだめだ。この先どんな奥の手を用意しているかわからない。一方通行(アクセラレータ)の『安全』のためにも御坂は確実にここで殺さなければならないのだ。
 もう、『余裕』は見せられない。
 もう、『油断』はできない。
 生き残るために、ここで、確実に、殺す!!!
「さよならよ、一方通行(アクセラレータ)
 何か徹底的に感情を排したような不自然な声が聞こえた。本来の御坂の声ではないようなあまりにも違う声色。
 だが、一方通行(アクセラレータ)はそのことについてはたいして気にも留めなかった。一方通行(アクセラレータ)にこの戦闘の最中意識の変化が起きたように、御坂にもこれまでの戦闘を介して意識の変化が起きたのだろう。
 そして、ついに御坂の右腕に持たれた砂鉄の剣が振り下ろされる。
 一方通行(アクセラレータ)に向かって振り下ろされる。
 そして、振り下ろされた砂鉄の剣が一方通行(アクセラレータ)の肌に、体表面に、『反射』の膜に当たって、『反射』が発動して、
 反射された砂鉄の剣が御坂の右腕をその肩の部分から断ち切った。








「………………………………………………………………………………………………………………………あ?」
 一方通行(アクセラレータ)思惑通り御坂は砂鉄の剣を振り下ろした。だから、一方通行(アクセラレータ)の思惑通り『反射』が発動して御坂の右腕が断ち切られた。そのことに驚愕の表情を浮かべる御坂を見て一方通行(アクセラレータ)は思わず嗤った。
「ぎゃはははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 哄笑嘲笑嗤笑冷笑。
 逃げろ逃げろオマエは俺から逃れられないと声の中で意志を示す。勝敗は覆らない。策を立てればいい、罠にかければいい、騙し討ちをすればいい、道具を使えばいい、多人数で立ち向かえばいい、不意打ちをすればいい、知恵を絞ればいい、手段を講ずればいい、仕掛けを打てばいい、方法を考えればいい、意表を突けばいい、
 そのすべてを真っ向勝負で受け止め、見下せるからこそ一方通行(アクセラレータ)一方通行(アクセラレータ)なのだ。だからこそ一方通行(アクセラレータ)は学園都市第一位の称号を背負っているのだ。
 これこそが最強の存在。
 学園都市で最強の能力者。
 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
 まるで化物を見るような目をしながら、悲鳴を上げて全力で後方に大逃走劇を繰り広げる御坂に向かって一方通行(アクセラレータ)は無事な方の左腕を伸ばした。
 といっても一方通行(アクセラレータ)の能力は触れなければ効果が発揮できない。だから、後方に下がる御坂に向かって直接どうこうできるということはない。
 だがしかし、一方通行(アクセラレータ)はこの戦いの中で成長している。急激に経験値を会得している。故に十数分前なら御坂を追ってその手を御坂に触れさせようとしていたであろう一方通行(アクセラレータ)はそんな行動をとらなかった。むしろ逆、一方通行(アクセラレータ)は御坂が逃げているのにもかかわらず、ただ立ち上がっただけでその場を一歩も動かなかった。
 伸ばした手を起点としてイメージする。さっきだって一方通行(アクセラレータ)は小規模ながらその行為を行った。だからできるはずだ。あらゆるベクトルを操る一方通行(アクセラレータ)にとって特に難しい行いではないはずだ。
 意識を数秒だけ集中させて膨大な演算を完成させる。
 すると、ビュオオオォォォォッッッ!!!と音を立てて、大気に満ちる風の流れが一方向にまとまった。御坂の後方から前方へ、まるで御坂を一方通行(アクセラレータ)のもとに引き寄せるかのように。
 風だ。一方通行(アクセラレータ)は今世界を満たす風を操ったのだ。バタフライ理論やカオス理論など複雑な演算が必要な故に世界すべての風を操ったわけでは無いが、それでも学園都市全域の風を完全に操って見せた。
 御坂を自分のもとに引き寄せる、ただそれだけのために一方通行(アクセラレータ)は風を操って見せたのだ。
 御坂はなんとかそれから逃れようと踏ん張っているようだがもはやそんな頑張りは無意味極まりない。磁力だろうが電力だろうが生身の身体能力だろうが風力10の暴風にあらがえるわけがない。
「ぐぅぅぅああああアアアアアアアアアアアア!!!」
 最悪の敵(御坂美琴)の顔が歪むのが見て取れる。その歪みの原因は恐怖からか、それとも情けなさからか、あるいは敗北への恐れか。
 おそらくそのどれでもあり、どれでもないのだろう。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
 響く声は御坂の敗北への道標。その声が近づくほどに御坂の『死』も近づく。
 一刻も早くここから離れたいのだろう。こんな現実なんてきっと認めたくないのだろう。後方から吹く風から逃れる手段がないと分かった御坂の表情は、今にも泣きそうな年相応の女の子のように揺らいでいた。
 本来なら、
 本来なら御坂は、いや御坂と一方通行(アクセラレータ)はこんな命がけの闘争を繰り広げるような年齢では無い。戦いに年齢は関係ないという人たちもいるだろう。アマゾン奥地で戦争を繰り広げる子供、自国のために政府軍と戦う子供、理不尽に抗うために銃を手に取る子供。そういう子供たちも確かにいる。
 だが、ここは日本だ。本来戦争などとは縁がなく、命を懸けた戦いなんてめったに起こらない平和ボケした平穏な国。きっと、この二人も学園都市にさえ来なければもっとまともな人生を歩めたに違いない。
 友と語らい、親と過ごし、仲間と笑い合う。平凡な幸せを得られたに違いない。
 こんな場所に来ないで、超能力なんて得ないで、超能力者(レベルファイブ)になんてならなければ……。
 だが、後悔するには遅すぎて、回想するには罪を負い過ぎた。
 そして、ついに、一方通行(アクセラレータ)の手が御坂美琴の体に触れた。







 
「御坂!!!」
「お姉様!!!」
「え」
 声が聞こえた。
 ここにはいないはずの人の声が聞こえた。
(嘘…………)
 御坂は時間の流れが遅くなった気がした。あまりにも危機的な状況に無意識に体の電気信号伝達速度が速まった結果、御坂は周囲の様子を確認することが出来た。
 声が、聞こえた。声が聞こえたのだ。
 上条当麻と白井黒子の、上条当麻(不思議な右手の持ち主)白井黒子(ルームメイト)の声が聞こえたのだ。
 視線を左にうつす。声は左の方から聞こえた。だから、目だけを動かして御坂は自分の左側を見た。

 すると、

 その場所には、




 


 ()()()()()()()





(…………………………………………………………………………………)
 つまり、さっき聞こえた上条当麻と白井黒子の声は、漆黒の絶望の中で理不尽な敗北を認めたくない御坂が生み出した幻聴。
 ただの幻聴(まぼろし)
(そう………………………………よね…………………………)
 知っていたはずだろう?分かっていたはずだろう?
 世界は残酷で、現実は非常で、もがき苦しんでも希望には手が届かない。
 だから、ここには誰も来ない。そんな都合のいい現実は存在しない。
 触れられた手を起点として一方通行(アクセラレータ)の力『ベクトル操作』が発動される。
 全身の血液が、電気信号が、細胞が、組織が、言うことを聞かなくなるのがわかった。
 この操車場には御坂と一方通行(アクセラレータ)とミサカ10032号以外には誰もいない。だから、助けなんて来ない。
「あ…………………」
 電撃使い(エレクトロマスター)としての力で操っていた電気信号の制御権が御坂から一方通行(アクセラレータ)へ移っていくのがわかる。つまり、それは今この瞬間一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作能力が御坂の電撃使い(エレクトロマスター)の能力を上回ってしまったということ。
「や――――――」
「褒めてやるぜ、御坂美琴ォ。オマエは間違いなく俺が戦ってきた中でも最強の敵だった」
 初めて一方通行(アクセラレータ)は御坂のことを名前で呼んだ。三下ではなく御坂美琴と、名前で。
「だからこそ最高に愉快な死体(オブジェ)に変えてやるよ」
 つまり、一方通行(アクセラレータ)は御坂のことを認めたということなのだ。名前で呼ぶに値する存在だと。
「なかなかに楽しかったぜぇ。この俺に危機感を抱かせたこと、この俺を死の寸前まで追い詰めたこと、両方ともなかなかできる事じゃねェ」
 どうにかして一方通行(アクセラレータ)の魔の手から逃れようともがき、あがき、抗うが御坂は一方通行(アクセラレータ)の手から逃れられなかった。理由は単純で御坂の周りには一方通行(アクセラレータ)が操ったと思われる風の渦が展開されていたからだ。
 きっとそれは一方通行(アクセラレータ)が操ったものなのだろうと御坂は真っ白な思考の中で考える。そして、打開策の見つからない現状に嘆き、絶望する。
 あたりを見回しても誰もいない。都合よく誰かが助けになんて来るわけがない。
「誇れ、そして地獄で自慢しろよ。この俺に一矢報いたことをなァ!!!」
 一方通行(アクセラレータ)の指先に力がこもる。
 もう、御坂は泣きそうだった。命乞いをして助かるなら助けられるなら命乞いをしてもいい、奴隷に身を落として助けられるなら奴隷になってもいい。
 でもきっとそんな展開にはならない。一方通行(アクセラレータ)はきっとここで御坂を確実に、完璧に殺しつくすつもりなのだろうと思った。
「じゃあな、御坂美琴。オマエは確かに最強の敵だった」
 そして、ついに一方通行(アクセラレータ)の力が発動した。
 御坂の全身の血液が、電気信号が逆流し、あらゆる細胞が組織が筋肉が壊れ、心臓も肺も食道も小腸も大腸も脳も血管も膀胱も膵臓も回腸も脾臓も腎臓も骨も胆嚢も副臓も肝臓も神経も靭帯も腱も皮膚も気管も破壊され、
 痛みを感じる暇もなかった、痛いと叫ぶ暇もなかった。
 暗転する意識、思考、戦いの果てに辿り着いたのは希望ではなく絶望で、奇跡なんて起きなくて、
 そして、御坂の体が地面に崩れ落ちた。
 流れ出る血が地面を紅く染める。
 砕け散った肉があたり一面に飛び散る。
 細断された骨が赤い色に混ざる。
 臓器が外に出て地面を汚く汚す。

 誰が勝者で誰が敗者かなんて、もう一目見ればわかった。



前話において御坂が聞いた上条と白井の声は極限状態で聞こえてしまった幻聴です。
そもそも御坂美琴と一方通行⑨ 痛みと死において御坂の左耳は機能しなくなっていますので。

次の更新は4日後です。


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御坂美琴と一方通行⑭ 死に際の暴走

ちょっと展開が無理やりな気がするかも

ちょっと遅れました



 血だまりに沈む体をどこか客観的に見ている自分がいた。
(死ぬんだ…………)
 死ぬんだ、そう思った。だって全身の血液が逆流して体の細胞のすべてが壊れてしまったのだ。今、意識があるのが一種の奇跡のようなものだ。
(何しに来たんだろ、私)
 別に無傷で勝てると思ったわけじゃない、油断していたわけでも、余裕でいたわけでもない。
 ちゃんと警戒していたし、一方通行(アクセラレータ)の実力も正確に把握していたし、御坂と一方通行(アクセラレータ)の間にある実力差だってきちんと分かっていた。
 その上で勝てると思って勝負を挑んだ。勝たないといけないと思って、そんな強迫観念に襲われて勝負を挑んだ。
 実際、勝てるはずの戦いだった。負けるわけがない戦闘だった。改良版音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウンバージョンベータ)を発動させたうえで超電磁砲(レールガン)をぶっ放す。これで勝てない方がおかしい。
 そして、放った超電磁砲(レールガン)一方通行(アクセラレータ)に当たった。当たったのに。
 まったくもって馬鹿馬鹿しい。超電磁砲(レールガン)が当たったのに生きてるなんてどういう理屈だ。いや、どんな超常生物なのだ。
(あーあ。負けちゃったか)
 もうさすがに動けない。
 もうさすがに立ち上がれない。
 もうさすがに、勝てない。
 ここからの逆転劇なんてない。電気信号を操ろうにも電気信号を伝達する回路自身がズタボロに破壊されてしまっているのだ。こんな状態でどうしろというのか。
 精一杯頑張ったのに届かなかった。最強には届かなかった。だからもう満足だ。出来ることは全部した。やれることは全部やった。手段は尽くした。手は尽くした。その上で負けたのだ。ならばもう納得するしかない。

 ここが御坂美琴の限界だと。

(……………………………………………………………………………)
 本当は、
 本当はあきらめたくなんてない。だって、妹達(シスターズ)を助けたいのだ。助けたいのに。
 あきらめるのは簡単だ。思考を手放すのはもっと簡単だ。ここで終わりだと、そう思うのはもっともっと簡単。
 御坂が死ぬまでおそらく後数十秒程度の時間があるだろう。その時間で最後の最後に妹達(シスターズ)に対して出来ることはあるだろうか。
(悔しいなぁ。悔しい)
 鼬の最後っ屁のようにとるに足らない一撃を放つことは今の御坂でもできる。出来るが、きっとそれは窮鼠が猫を噛むような大逆転劇にはならない。つまり最後の一撃はまったくの無駄だ。無駄の一撃。それをするくらいなら今からでも細い細い糸をたどって電気信号の支配権を確保したほうがいいのだろうか。
 否。断じて否だ。
 どうせ死ぬことは既に確定している。ならば、自分のために少しでも長く生き残ることを求めるのではなく、妹達(シスターズ)がコンマ一秒でも長く生き残れるような選択をとるべきだろう。
 そのために来たのだから。
「…………………………………………………………………………………………………………………………※※※※」
 小さな声で呟いた言葉は強風に掻き消されて現実には出力されなかった。
 悔しくて、悲しくて、寂しくて、痛くて、情けなくて、苦しくて、怖くて、哀れで、顔を冷たい雫がとめどなくつたる。

 この時、初めて御坂美琴は涙を流した。

(じゃあね。許してくれるなら、来世でもあなたたちのお姉ちゃんとして生まれたいかな)
 心の中で呟いた言葉を一つの決意として、御坂は最後の攻撃を行った。
 正真正銘御坂美琴生涯最後の一撃。
 その一撃は天から降り注ぎ、地から巻き起こり操車場という空間の中を満たしつくした。
 その結果がどうなったのかは御坂には確認できない。

 なぜならもう御坂美琴という一個体は既にその生命の灯を失う寸前だったから。






 御坂美琴の戦いはこれでおしまい。
 結局御坂美琴では一方通行(アクセラレータ)には勝てず、ミサカ10032号も救えなかった。
 厳然たる実力差と、どうしようもない絶望が御坂美琴を襲い、墨のような漆黒で心が満たされる。
 壊れた体と砕けた心、そして終わってしまった事態を俯瞰しながら御坂美琴はゆっくりと目を閉じた。
 後悔と無力さに身を浸し、絶望の果てに有ったどうしようもない敗北を受け入れて四肢から力を抜き、冷たい地面に横たわる。
 真っ白に染まっていく意識の中で御坂美琴が最期に聞いた声は、操車場に響く一方の雄たけびだった。






 8月21日午後9時43分27秒絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)第10032次実験実験場所である操車場の地にて御坂美琴は確実に死亡した。
 彼女はわずか十四年という短さで、その生涯の幕を閉じた。
























 ―――――こんなところであきらめるのか、と。
 泣きそうなしかし何よりも力強い声が、御坂美琴の魂に響いた。

























「……、ふン」
 一方通行(アクセラレータ)は全身の血管を破裂させたかのように血に染まった御坂が地面に向かって崩れ落ちるのを見た。さすがにこれではいかに超能力者(レベルファイブ)といえども助からないだろう。
 さっき一方通行(アクセラレータ)が助かったのは紛れもない『運』のためだ。遠方から放たれた超電磁砲(レールガン)がたまたま運よく逸れたからだ。だが今回、一方通行(アクセラレータ)の攻撃にはそんな『運』が介入する余地は一ミリたりとも存在しない。
 なにせ超密着状態から御坂の体内ベクトルを直接操作したのだ。もはや『運』がいいから助かったとかそんな奇跡が起きるはずもない。
 全身の血液を逆流させ、電気信号を逆流させ、細胞を破壊し、筋肉を破壊し、組織を破壊し、神経を破壊したのだ。一方通行(アクセラレータ)の感覚が操られてでもいない限り、御坂の死亡は確実だろう。
「まぁ、こンなもンだろうなァ」
 勘違いしてはいけないが一方通行(アクセラレータ)はきちんと御坂のことを評価している。戦闘当初は倒しても5分で忘れるレベルの敵でしかなかったが、すくなくともさっきまでの御坂との戦闘は一方通行(アクセラレータ)にとって五指に入るくらいの満足できる戦闘だった。一方通行(アクセラレータ)の記憶に一生残るだろう。
 でも、一方通行(アクセラレータ)は死体に興味はない。終わった戦闘になんて欠片も興味がない。
 だからもう振り返らないで一方通行(アクセラレータ)は操車場の出口へと歩んでいった。
(……別にあのゴミ人形(クローン)をぶっ殺してもいいが、どうせ今の戦いで樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の出した演算ルートからは外れちまっただろうからなァ。絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)も狂っちまっただろうし、一回家にでも帰るかァ)
 ……皮肉なことに御坂のあがきは瀕死の状態になって初めて報われていた。一方通行(アクセラレータ)は御坂との戦闘に非常に満足していた。その満足感は明日になれば忘れてしまうかもしれないが、少なくとも今一方通行(アクセラレータ)がミサカ10032号を殺そうとすることはなくなっていた。
 これ以上の戦いは一方通行(アクセラレータ)の体力的にも怪我の具合的にも悪いことにしかならない。いくら体内ベクトルを操作したといっても右腕を失った結果として大量の血液が流出してしまったし、体内ベクトルをずっと操作しているわけにもいかない。だから、一方通行(アクセラレータ)は一度かえって研究者達に連絡し体を治すつもりだった。
 この段階で、御坂が懸命に足掻いた結果が形として出ていた。ミサカ10032号が見逃されるという形で。

 御坂美琴が余計なことをしなければ、ここでは一方通行(アクセラレータ)はミサカ10032号を見逃していた。

(――――――アァ?)
 最初に気付いたのはほんの小さな音だった。カタカタと何か小さな音が一方通行(アクセラレータ)の耳に聞こえてきた。
 わずかに違和感を覚える。わずかな不安感を覚える。御坂との戦闘を介して培われた第六感(シックスセンス)超直感(ハイパーセンス)。そういったものが危険を一方通行(アクセラレータ)に発していた。
 耳を澄ませて音の出所を探る。地面からか?空からか?後ろからか?前からか?右からか?左からか?それとも……。
 カタカタカタカタ
「な…………ァ…………ッッッ!!!」
 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタン!!!!!
 否だった。地面からでも空からでも前後左右のどこからでもない。音の発生源は一方向に限定されていなかった。
 周囲すべてから音は発生していた。
 そう、音の発生源はこの操車場に整って置かれているコンテナだったのだ。その50はくだらない数のコンテナが一斉に振動していたのだ。
「ま…………さか……ッッッ!!!」
 心当たりがあった。
 先ほど御坂は一方通行(アクセラレータ)に対する攻撃の一手段として『コンテナを磁力で操って一方通行(アクセラレータ)にぶつける』ということをしてきた。もしも、仮にこのコンテナの振動が磁力によるものだとするのならば……。
 だが、いかに超能力者(レベルファイブ)といえども50以上のコンテナを一斉に操る力などないはずだ。しかも、100パーセント死亡が確定するような状態でそんな力など使えるはずがない。
 しかしやはり一方通行(アクセラレータ)にはそれを可能とする方法論に心当たりがあった。
 御坂単独ではこの数のコンテナを操るのは不可能だ。そう、あくまで御坂『単独』では不可能なのだ。御坂の背後に何らかの組織がいるのは既に分かっている。ならば、その組織から何らかのバックアップを受けているとしたら?
 一方通行(アクセラレータ)の知っているモノの中で能力を強化し、死亡一歩手前の人間でも莫大な力を使えるようになる薬品なんてたった一つしか存在しなかった。
 それは、
「アイツ、体晶使いやがったのかァッッッッッ!!!」
 能力体結晶、通称を体晶。そう呼ばれる薬品がある。
 あの悪名高き『木原一族』の一人にして神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM)研究の第一人者、木原幻生が作り出した意図的に能力を暴走させる『禁忌』にして『最悪』の薬品。
 暗部においてもそのあまりの危険さから存在自体を『禁忌』としている研究の産物。
 この惨状を起こすことが出来るものなどそれしか思いつかなかった。
「あのクソ屑がアアアァァァァ!!!!!」
 まずいなんてものではない。危険なんてレベルでは無い。
 いくら一方通行(アクセラレータ)に劣るからといって御坂はこの学園都市にわずか七人しかいない超能力者(レベルファイブ)の一人だ。そんな存在の能力が無秩序にして無作為に暴走してしまえばどうなるか分かったものではない。
(何考えてンだあの死にぞこないはッ!あいつの能力が暴走しちまえば、最悪この学園都市が消えかねねェンだぞ!!!)
 超能力者(レベルファイブ)の基準の一つに『一人で軍隊と戦えるほどの力を持っている』というものがある。もちろん超能力者(レベルファイブ)全員に当てはまるわけでは無いが、それでも超能力者(レベルファイブ)のトップスリーには当てはまる基準だ。
 ただでさえ一軍に匹敵するだけの能力が暴走などしてしまえばその被害は想像を絶する規模になるはずだ。
 この操車場だけで被害範囲が収まるとは一方通行(アクセラレータ)には思えなかった。超能力者(レベルファイブ)の能力が暴走すれば第十七学区を超え第九学区、第二十一学区、第二十学区、第八学区、第十五学区へと被害は広がっていくはずだ。そこまで被害が広がってしまえば、もはや学園都市はその機能を維持できないだろう。
 それはまずい。一方通行(アクセラレータ)は御坂の暴走で何人死のうが関係ないと思うが学園都市の機能停止は流石に見過ごせない。
 なんだかんだ言いつつも一方通行(アクセラレータ)はこの学園都市(まち)に住んでいるのだから。
「チッ、クソが。こンなの、俺の役割じゃねェンだがなァ」
 能力暴走までの猶予期間はどのくらいだろうか、十秒か、五秒か、あるいはこの瞬間にでも暴走するかもしれない。たまたまゆっくり暴走状態に移行しているようだが、本来すぐにでも暴走しなければおかしいはずなのだから。
「お、ぉぉぉぉぉおおおおオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」
 叫びをあげながら一方通行(アクセラレータ)は足のベクトルを操作して御坂美琴(死にぞこない)に近づいた。

 だが、一方通行(アクセラレータ)がミサカのもとへたどり着くその直前に、

 御坂の能力が暴走を始めた。



御坂美琴死亡。



勘違いしないでほしいのですが、私御坂美琴のことは大好きですよ。
はい、新約十三巻の御坂美琴とか読んでいて心震えましたもん。

本当ですよ。


次の更新は4日後です。


御坂が体晶をいつ使ったのかとかその他体晶に関する説明はまたしばらく後でやります。



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一方通行① 暴走の対処 ミサカ10032号① 変異

朗報です皆さま!
第一章の終わりが見えてきました。


「が、ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッ!!!!!!!」
 あまりの衝撃に一方通行(アクセラレータ)は何の抵抗も示せずにふっとばされた。
 ふっとばされる直前に、一方通行(アクセラレータ)は黄金に輝く閃光が自らの視界を埋め尽くすのを見た。つまり、一方通行(アクセラレータ)が御坂のもとに辿り着くよりも先に体晶による御坂の暴走が始まってしまったということだった。
(なンだァ!?何が起きたってンだ!?なンで俺がぶっ飛ばされてンだ!!!!??)
 『反射』は正常に機能している。ベクトル操作能力は正常に作動している。演算だって間違っていない。
 目の前で起きた電撃の拡散によって一方通行(アクセラレータ)がダメージを受けることなどあり得ないはずだった。
 だが、それでも可能性があるのだとすれば。
 バッと一方通行(アクセラレータ)は自らの右腕の断面を見る。そこは一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作能力によって血流をうまく操作され、引きちぎられた断面を沿うようにして血が流れている場所だった。
(まさか…………この血流を起点に……?)
 つまり、そこは現在の一方通行(アクセラレータ)の体で唯一『反射』が適用されていないかもしれない場所だった。
 一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作能力は『あらゆる種類のベクトルを皮膚上の体表面に触れただけで自在に操る能力』だ。
 そう、一方通行(アクセラレータ)がベクトルを操るにはその操るベクトルを()()()()()()()で触れなければならないのだ。
 体表面とはその名の通り『体の表面』のことだ。一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作能力は『体の表面』に触れていなければ効果を発揮できない。
 右腕を這うようにして体内へと循環させている血液は、風を操ることによって血管のような『道』を作り、そこに千切れた右腕の表面からベクトルを操作することで血液を体内へと循環させている。
 そして、外気にさらされている血液というのは『体表面』には含まれない。
 だから、まるでギリシャ神話の英雄アキレウスが、唯一スチュクスの水につからなかった踵を矢で射られて死んだように、一方通行(アクセラレータ)も今この時のみ右腕の血液が『反射』を適用できない弱点となっていた。
(……………クソがッ!!!)
 これではうかつに近づけない。万が一外気にさらされた血液を起点に電流が一方通行(アクセラレータ)の体内に入って、その電気によって体内機能が破壊されれば御坂の暴走に巻き込まれてしまう。
 それはいただけない。ここで終わるつもりは 一方通行(アクセラレータ)には毛頭なかった。
 一方通行(アクセラレータ)は暴走を始めた御坂に視線をやった。
 明らかに暴走状態が始まってしまっている。御坂の全身から電流が放出されているさまが一方通行(アクセラレータ)のいる場所からも見て取れた。あと数秒もすればこの場所も電流に飲まれてしまうだろう。
「ッッッ!!!」
 外気にさらされている血液をかばうようにして無事な方の左腕で右腕の表面を覆った。血液を介して電流が体内に侵入してくることを少しでも防ごうとしたのだ。
 そして、一方通行(アクセラレータ)はもう一度能力を暴走させた御坂の方に目をやった。
「……………………………」
 もはや眩いほどの電流に包まれている御坂の姿は一方通行(アクセラレータ)のいる場所からは全く見えなかった。操車場内にあるすべてのコンテナが縦横無尽に動き回り、地下にあった砂鉄が空中を這いずり回り、黄金の電流が虚空を駆けずり回る。
 そして、空を翔ける電流はついに一方通行(アクセラレータ)のいる場所をも飲み込んだ。
「ぐ、ううぅぅぅぅぅッッッ!!!ギ、ガ……ッッッ!!!」
 ビリリっ、とわずかに一方通行(アクセラレータ)の中に電流が入ってきた。いくら左腕で千切れた右腕の断面をカバーしているとはいえ所詮は人の腕、完全に断面を覆うことなどできない。
 そんなことは一方通行(アクセラレータ)とてわかっている。
 だから一方通行(アクセラレータ)は自分の中に入ってきた電流を体内ベクトルを操ることで制御した。
「っ、ハァ、ハァ、ハァ」
 あらかじめ体内ベクトルを操る準備をしていれば、侵入してくる電流に対して対処することは進化した一方通行(アクセラレータ)にとってはたやすいことだった。
 故に、地に満ちる電流に対する対処法を確立した一方通行(アクセラレータ)は今度こそ御坂を殺しつくすために黄金の閃光の中を走り出した。
「お、らあああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 走る、奔る、疾走(はし)る、爆走(はし)る。
 天から降ってくる落雷も、地から沸き起こる砂鉄の嵐も意に介さずにただひたすらに前に、御坂のもとへと一心不乱に走る。
 この暴走を止める。
 この破壊を止める。
 学園都市が壊れる前に、学園都市が終わる前に。
 一億ボルトの落雷を『反射』の壁で弾く。
 高速で振動する砂鉄を『反射』の壁で無効化する。
 荒れ狂うコンテナの嵐を腕を振り回してぶっ飛ばす。
 全方向から襲いかかる電流の壁を無理やり突破す
「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」
 絶叫と悲鳴が同時に上がった。
 『反射の壁』が突破されそうになったのだ。

 ()()()()()()()()()()

 すべてのベクトルを操る一方通行(アクセラレータ)の能力は当然のことながら学園都市で開発された超能力の一つだ。つまり、能力の使用には『演算』を必要とする。当然、『反射』するにしても演算は伴う。『反射』に関わる演算はベクトルを()()させるだけなので非常に簡単で基礎的ではあるが、それでも演算が必要である事実は変わらない。
 現在一方通行(アクセラレータ)は恒常的に複数のベクトルを操っている。
 一つ目に体内の電気信号のベクトル。これは痛みを制御するために必須だ。
 二つ目に右腕から流れ出る血液のベクトル。失血死を防ぐためにこれも必須だ。
 三つ目に先ほどと同じ右腕から流れ出る血液を循環させるための風のベクトル。外部で補助しなければとてもではないが血液の循環はできない。
 四つ目に体内に入ってくる電流のベクトル。地を満たす電流は右腕から流れる血液を起点に少量だが体内に侵入してくる。これに対する対処も必要。
 五つ目に体内の機能。筋肉、神経、内臓、その他すべての機能を現在も一方通行(アクセラレータ)は操っている。
 簡単にあげるだけでも一方通行(アクセラレータ)は五つのベクトルを操っている。
 それに加えて今も御坂の暴走は続いている。つまり、いまだに一方通行(アクセラレータ)の周囲は上下左右前後あらゆる方向が電流によって満たされているのだ。
 その電流のベクトルを完全に『反射』することはいくら一方通行(アクセラレータ)の演算能力を持っても困難だった。
 一瞬でも気を抜けば圧倒的物量によって『反射』の壁が突破されてしまう。だから、一刻も早くこの暴走を止めなければならない。
「ッア、なっめンなあああああアアアァァァァァァァァ!!!!!」
 一方通行(アクセラレータ)はもう一度いちから演算を組みなおした。最小の演算で体内のベクトルを制御できるように、最低限の操作で自分の体を守れるように、外部の現象も内部の崩壊も抑えられるように、意識して演算を組みなおした。
 その状態のままもう一度前進する。電流の海の中を突き進む。
 光量のベクトルも操作しているために目が潰れるという事態にはならないが、それでも視神経に奔る刺激はかなり強かった。その刺激すらも制御しながら御坂美琴がいるであろう場所に向かってひた走る。
 宇宙から御坂と一方通行(アクセラレータ)のいる操車場を見てみればきっとあまりの眩さにその場所だけ光って見えるだろう。暴走した御坂の放つ電流は今や操車場を飲み込み、御坂を中心として半径5キロ周囲に被害をもたらしてしまっていた。
 学園都市の中でも極端に人口の少ない第十七学区だから大した被害は出ていなかったが、これが万が一第七学区あたりで起きてしまっていたら数千人規模で死亡者が出ることは間違いないだろう。
 バチバチバチバチバチと音が響く世界の中で一方通行(アクセラレータ)は御坂まで1メートルの距離にまで近づいてきた。まがりなりにも学園都市最強だ。正直危ない場面もあったが何とか一方通行(アクセラレータ)は御坂美琴のもとに辿り着くことが出来た。
「はっ、中途半端に闇に関わるからこンなざまになるンだっつうの」
 一方通行(アクセラレータ)は御坂に同情なんてしない。確かにこの絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)は御坂に責任なんてない。善意から起こした行動が悪意によって悲劇に変えられただけだ。
 だが、この程度の悲劇なんて学園都市の『闇』じゃそれこそ星の数ほど起こっている。なにやら絶対能力進化実験(レべルシックスシフト)反対派を味方につけて戦っていたようだが、それだって御坂自身の選択の結果だ。
 追い詰められていて誘導されていたとしても、他の道だってきっとあったはずなのだから。
 血を流し、地に倒れている御坂を一方通行(アクセラレータ)は一瞥した。

 そして、一方通行(アクセラレータ)は自らの右足を御坂美琴の頭に対して振り下ろし、その頭蓋を木端微塵に砕いた。

 脳を破壊された御坂はその能力の暴走を停止し、第十七学区を飲み込むはずだった電流はその姿を消した。
















 ずっと、
 ずっと見ていた。
 彼女はずっとその戦いを見ていた。
 見ていたし、見ることしかできなかった。
 強度(レベル)が違ったし、位階(レベル)が違った。
 まるで、神様同士が戦っているような大戦争。
 個人の武力が戦争の域まで達してしまうあまりにも破格の力。
 それは彼女にとって神話ような戦いだった。
 荒れ狂う電撃。ぶつかり合うコンテナ。宙を翔る砂鉄の嵐。轟音を響かせる粉塵爆発。音速の三倍の速度の超電磁砲(レールガン)。そのすべてを真っ向から受けて無傷だった一方通行(アクセラレータ)
 そして、一方通行(アクセラレータ)超電磁砲(レールガン)によってはじめてダメージを受けた光景を彼女は見た。
(―――――――――――――――――――――あぁ)
 やはり、自分は出来損ないだ。そう彼女は思った。策を練り、罠にかけ、一万の経験を得ながら傷一つ与えられなかった自分とは違い、御坂は二度目の交戦で絶対の『反射』を打ち破って見せた。
 どうして、そんなに傷ついていながらも自分を助けようとするのか彼女には分からなかったけれど。
 どうして、ボタンを押せばいくらでも造れる単価十八万円の量産品(クローン)に御坂がそこまで執着するのか分からなかったけれど。
 だけど、何も感じなかったわけでは無い。心揺さぶられなかったわけでは無い。
(なぜ……………)
 生き残った先に何があるのだろうか?
 量産品(クローン)にすぎない自分にどんな人生があるのだろうか?
(なぜ…………お姉様は……………)
 その時だった。
「ぎゃはははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 一方通行(アクセラレータ)の笑い声が彼女の耳に届いた。
 そして、同時に
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
 御坂の悲鳴も彼女の耳に届いた。
 思考が疑問で満たされる。いや、疑問というよりも戸惑いか。
(なにが……………?)
 地に倒れたまま彼女は二人の方向を見た。目に映る光景は一方通行(アクセラレータ)が御坂の首をつかむさま。
 そして、ベクトル操作攻撃によって全身を真っ赤な色に染め地面に倒れ伏す御坂の様子。
 断絶する意識の中で、全身にはしる耐えがたい痛みの中で、その光景はなぜかはっきりと見えた。
(お姉…………様?)
 死んだ?
 死んだ?
 しんだ?
(お姉様が…………死んだ?)
 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
 
 どうして、
 この場所で死ぬのは自分のはずなのに。
 一方通行(アクセラレータ)に殺されるのは妹達(シスターズ)の役割なのに。
 唯一無二にして代替不可能の超能力者(レベルファイブ)が、オリジナルが死ぬなんて、そんな、そんな、そんな、そんなことがあっていいはずがないのに。
 どうして、
 どうして、
 どうしてッッッ!!!

 そして、ミサカ10032号の中で何かが、致命的までの何かが変わった。



あと40話もあれば確実に終わるはずです!
あと40話です!


………………………はい。あと40話くらいです。

次の更新は5日後です。


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第一部 第一章 第三節 絶対能力進化実験中止計画~誰かの正義と誰かの悪~ ミサカ10032号と一方通行① 譲れないモノ 地下を行く四人① 接触

先に謝ります。
後半のとあるオリキャラの台詞、めちゃくちゃ読みにくいと思います。
ごめんなさい。

前半が第二節。後半は第三節となります。


 頭を粉々にされ脳の中身を飛び散らせた御坂から一方通行(アクセラレータ)は視線を外した。周囲を見る。御坂の暴走によってまき散らされた災害があたり一面に与えた被害は莫大だった。どうでもいいことだが隠ぺいにはそれなりの手間がかかるだろう。
「しっかし、超能力者(レベルファイブ)の暴走ってのは初めて見たなァ」
 一方通行(アクセラレータ)は暗部に身を浸して長いがここまでの力は初めて見た。体晶が能力者に与える影響はここまで大きいものだったということをはじめて知ったのだ。
 故に一方通行(アクセラレータ)は徹底的に御坂の体を破壊することに決めた。
「まだ、なンか仕掛けがないとは限らねェしなァ」
 もう一度何らかの暴走が起きないとは限らない。御坂のバックに付いている組織がどれほどの力を持っているかはわからないが、体晶を超能力者(レベルファイブ)に投与するほどの組織だ。自爆装置とか、無差別破壊装置とか、その他もろもろが御坂の体の中に仕掛けられていないと断言はできない。
 ベクトル操作能力をもってすれば人体の破壊などたやすい。間近で爆破が起こっても『反射』があれば問題はない。何せもう一方通行(アクセラレータ)音響式能力演算妨害装置(キャパシティダウン)の音は『反射』のベクトル演算に再設定しているのだから。
 腹の中、足の中、胸の中ほかのどの場所に何が仕掛けられていても問題なく対処できる。
 もう一度足を振り上げる。
 そのまま御坂の体に振り下ろす。
 これで完全に終了。何もかも終わり。
 そして、長かった超能力者(レベルファイブ)同士の戦いは終焉を迎えた。

 バガンッ!という音がして砂煙が上がり、一方通行(アクセラレータ)の足が地面に接触した。

 ()()()一方通行(アクセラレータ)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……………オマエ、どういうつもりだァ」
 一方通行(アクセラレータ)によって痛めつけられたはずのミサカ10032号が、電撃使い(エレクトロマスター)としての力を使って電流を放ち、地面に電流を当てて御坂の体をずらしてきた。
 さすがの一方通行(アクセラレータ)も面食らった。その行動の意図が全く読めなかった。
 御坂美琴がその行動をとったならならまだわかる。
 そこら辺の武装無能力集団(スキルアウト)がその行動をとったとしてもギリギリ理解できる。
 武装無能力集団(スキルアウト)未満のチンピラがその行動をとっても面食らうことはないだろう。
 だが、一万回以上も殺されて『学習』しているはずのミサカ10032号がその行動をとる意味は分からなかった。
「お姉……様から、っぅ、離れ……てください、とミサカは……一方通行(アクセラレータ)に告げます」
「アァ?」
 本気で意味が分からない。目の前の量産品(クローン)は一体何を言っているのか。
 御坂美琴を守ろうとしているのか?
 オリジナルを救おうとしているのか?
 出来損ないのくせに、量産品のくせに、まさか御坂との戦闘で消耗している一方通行(アクセラレータ)になら対抗できるとでも思っているのか?
「もう一度だけ聞いてやる。オマエ、何のつもりだァ」
「ッッッ!!!」
 燃え盛るような紅蓮の赫い瞳に見つめられたミサカ10032号はその視線に震えた。
 怖い。どうしようもないほどの根源的な恐怖に襲われる。一万回以上殺害された記憶が心の奥底に刻まれた悪夢を呼び起こす。
 一回目は拳銃を使って弾丸を放ったが、その弾丸を『反射』されて死亡した。
 二回目は電撃を使って攻撃したが、その電流は逆に自分に襲いかかってきた。
 三回目は思い切って殴ってみたが、逆に自分の骨が折れた。
 四回目は行動を起こす間もなく死亡した。
 五回目は逃亡さえできず死亡した。
 六回目は、七回目は、八回目は、九回目は、十回目は、十一回目は……………………。
 そして、10031回目は全身の血液を逆流されて死亡した。
 一万回以上挑戦してその結果はすべて敗北。すなわち死。妹達(シスターズ)はただの一度だって一方通行(アクセラレータ)に勝ったことはない。
 怖い。震える。痛い。
 でもッッッ!!!
『私は、相手が勝てる相手だから戦いを挑むんじゃないわ!!!』
 こんなくだらない命を大事に思ってくれた人がいて、
『命を懸けても守りたい相手がいるから、戦うのよ!!!!!』
 勝率零パーセントの戦いに挑んだ人がいた。
 その人はもう死んでしまったけど、その人は一方通行(アクセラレータ)には勝てなかったけれど。
 ミサカ10032号は一方通行(アクセラレータ)がこれ以上御坂美琴(オリジナル)の体を破壊しようとしているのは絶対に看過できなかった。
 それだけは絶対に許せなかった。
 痛みを我慢して立ち上がれるほどに、一時的に恐怖を忘れられるほどに、計算も打算も放り投げて思わず電流を放ってしまったほどに。
 御坂美琴(オリジナル)が助けてくれた命を投げ出すことになったとしても、それだけは許容できなかった。
(ごめんなさい、お姉様。せっかく助けてくれたのに)
 きっと死ぬだろう。一方通行(アクセラレータ)が手加減する理由はないし、敵対した存在を殺さない理由もない。
(お姉様。ミサカ10032号も、すぐに、そちらに…………)
 馬鹿なことをしているなという自覚はあった。だけど、止めるつもりはなかった。
 そして、ミサカ10032号はその思いのたけを全力で叫んだ。
「お姉様から離れろおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」
 叫びながら一方通行(アクセラレータ)に向かって突進する。きっと電流を放っても、拳をふるっても、体ごとぶつかっても意味なんてないだろうがやらずにはいられなかった。
 きっとこの時、ミサカ10032号は人形から()()になったのだ。
 
 人間と人形の違いはなんだろうか?
 人間と化物の違いはなんだろうか?

 交錯は一瞬だった。
 勝敗は一目瞭然だった。
 暗闇の中で二つの影がぶつかり合い、そのうちの片方が血飛沫をまき散らしながら、地面を転がった。

 第十七学区の操車場に静寂が戻る。
 二つの戦いに連続で勝った勝者は、つまらなそうに向かってきた影に目をやりながら、目の前に転がっている死体をぐちゃぐちゃに破壊した。
















 8月21日午後9時22分 学園都市第十七学区 地下下水道内部にて


 上条が右手を白井から離すよりも前に、
 白井が空間移動テレポートを発動させるよりも前に、
「うぁ」
 二人の視界を紅い炎が覆った。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!??」
 視界を埋め尽くす紅を前に、上条の口から絶叫が迸った。
 避けられない。
 そう、上条が思った次の瞬間。
「がッ、ごぉ……ッッッ!!!」
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 呼吸が一瞬確実に詰まった。予想外の方向からの攻撃。味方だと思っていたはずの白井からの攻撃にさしもの上条も思考が止まった。
 だが、上条はすぐに白井の攻撃の意図を理解することになる。
 体が横に転がる。
 そして、
 ボチャンッ!と上条の体が下水道の水路に落ちた。
 前にも説明したと思うが上条たちがいる下水道内部は二つの場所に分かれている。
 一つは今まで上条たちが進んでいた下水道を整備するための通路。
 そして二つ目は下水道の本来の機能。下水を流すための()()だ。
 白井は視界に映る炎を空間移動(テレポート)で避けられないと判断した後、仰向けの姿勢から横向きに移動しながら上条の腹を殴って上条を水路に落とそうとしたのだ。そして当然、白井自身もその勢いのままコンクリート製の通路を転がって水路に落ちた。
 ゴオオオオォォォォォ!!!と標的を失った炎はその威力を発揮しながらも何も焼くことはなく、ただむなしげに通路の壁を焼いた。
どほるな(なるほど)
 炎の波が終わった後の空間で奇妙なつぶやきが空間に響いた。
かろことたっいとーローヒはがすさ(さすがはヒーローといったところか)なはとるれらけよを撃初かさま(まさか初撃をよけられるとはな)
 その人物はあからさまに異常な形相だった。
 顔に黒のサングラスをかけ、さらにそのサングラスの上からゴーグルをかぶっている。服装は全身黒のタイツな上に、手袋と靴下、帽子、ネックウォーマー等を身に着けている。もちろんそれらのものもすべて色は黒に統一されていた。
 黒。
 圧倒的なまでの黒。
 夜闇のような、鴉のような漆黒。
埋娥(まゐが)総隊長」
 その漆黒の姿をした人間に声をかける人がいた。
目百たしうど(どうした百目)
「ゐえ、彼らを追わなくてよろしゐのですか?」
 埋娥総隊長。圧倒的な黒の存在感を世界に示す人間はそう呼ばれているようだ。おそらく埋娥が名前で総隊長は役職なのだろう。
んろちも(もちろん)さう追にぐす(すぐに追うさ)もてっいはとるいてれさがなに路水下(下水路にながされているとはいっても)ならかうろだいないてっいはにく遠でまこそ(そこまで遠くにはいっていないだろうからな)
 そして、埋娥に話しかけた人間は埋娥とは正反対の服装だった。
 幾何学的な模様の書かれた、不自然なまでに体のラインが浮き出ないように細工を施された白色の服。その服には明度を変えた白色のインクで、x、y、z、α、ɤ、ε、ζ、Ⅴ、Ⅹ、Ⅽ、など様々な数字が書かれていた。
 そして、その服の中で何よりも特徴的なのは線だ。服の縦横奥行のそれぞれの中心に一歩の直線が引かれていた。もちろん、その線も明度を変えた白色で書かれていた。
 白。
 圧倒的なまでの白。
 雲のような、雪のような純白。
 黒い姿の埋娥とは対照的な白の姿。
ぞく行(行くぞ)目百(百目)
 白い服を着た少女の名は百目。埋娥の命令口調から判断するに埋娥の部下なのだろうと推察できる。
 そして、百目は黙ったままうなずいた。埋娥が先行して走り出す。下水の流れは一定的だ。ここから先の下水には分岐するようなルートはない。あくまで一本道。だから、水の流れを追っていけば流された上条たちに追いつけるはずだった。
 だが、学園都市の下水の流速は秒速にして4メートル。普通に走っていてはとてもではないが間に合わない。
 普通に走っていては、だが。
 ブォン!!という轟音が鳴った。そして、埋娥と百目は人間が出せるとは思えないような圧倒的な速度で移動を始めた。
 超能力を使っているわけではない、もちろん魔術でもない。二人は風紀委員本部製のとある道具を使っているのだ。
 撥条包帯(ソフトテーピング)
 超音波伸縮性の軍用特殊テーピング、発条包帯(ハードテーピング)の改良版。
 発条包帯(ハードテーピング)は人体の各所に貼り付けることで、運動能力飛躍的に上昇させる効果を持っている道具だ。しかし欠点として身体にかかる負荷がひどく甚大で長時間の使用を行えば体が崩壊する可能性がある。
 その欠点を克服した道具こそ撥条包帯(ソフトテーピング)だ。
 撥条包帯(ソフトテーピング)発条包帯(ハードテーピング)の欠点を張り付けた場所の筋組織により精密に電気信号を流すことで肉体を調整し、うまく克服した。ただし撥条包帯(ソフトテーピング)の欠点として、発条包帯(ハードテーピング)を付けることでえられる機能の7割ほどの力しか得られないというものがあるが。
 まぁ、それは許容範囲内だろう。なにせリスク零で通常の数倍の力を得られるのだから。
 目で追いきれないほどの速度で移動する彼らはすぐにでも上条たちのもとに辿り着くだろう。下水道は一本道だ。水の中を流れている上条たちを見つけることなんて簡単だ。
 彼らの目的から言って、上条たちを見逃すことはあり得ない。
 
 戦いの時が迫っていた。
 本当の意味での、殺し合いの時が上条たちに迫っていた。




一方通行強すぎィ!

次の更新は4日後です。


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上条当麻と白井黒子⑥ 溺死の恐怖

プロット上では終わりは見えてるんだ……っ!


「ぜっ、ぜひゅ!バうァ!ヒュアッ、くひュゥ!!!」
 白井によって下水路に叩き落とされた上条は溺れそうになっていた。
「ヒュァ!ば、ばうっ!クハッ!!!」
 水の流れが速すぎてまともに泳ぐことが出来ず足と手をバタバタさせることしかできない。上条は水泳が出来ない、不得意だ、というわけでは無いのだが前準備も心の準備もなしにいきなり流れの速い水に叩き落とされて問題なしに対応できるほど水泳力に優れているわけでは無い。映画の海猿じゃないのだからそんな俊敏には動けない。
「上条さん!手を!」
 だが捨てる神あれば拾う神あり。炎を回避したのに危うく溺れそうになっていた上条に救いの手が差し伸べられる。
 白井黒子の手だ。
「っあ、しらッッ、いぃぃぁぁああああ!!!」
 手を伸ばす。必死に、決死に、限界まで伸ばす。
 流されそうになる体を足をばたつかせて抑え、少しでも一ミリでも白井の近くに行って手をつかもうと、蟻地獄のような水流から逃れるためにもっともっともっと手を腕を体を限界まで伸ばす。
 対する白井も上条と同じくらい必死に手を伸ばしていた。
「ぁあ、っくうゥッ!ぁ、ああアアアァァァァ!!!」 
 そもそもの話として上条をこの水路に突き落としたのは白井だ。あの絶体絶命の状況からのがれるための苦肉の策だからといって上条をこの状況に叩き落としたのは白井だ。
 故に、責任が存在する。白井には上条を救う責任が存在する。
 いくら状況が状況といっても一言も言わずに叩き落とした結果上条がおぼれ死ぬなんてことになったら一生後悔する。悪夢に苛まれる。こんなところでジ・エンドなんて笑い話にもならない。
 手を伸ばす。必死に、決死に、限界まで。
 上条の手をつかもうと、この水流に抗おうと、生き抜くために、そして御坂のもとに辿り着くために限界まで手を伸ばす。
(届けよッ!)
 思う。この場を逃れるために。
(届かせますのッ!)
 願う。この先へ行くために。
 立ち止まっている暇などない。今この時もきっと御坂は苦しんでいる。あの強く、脆く、儚く、寂しく、美しい少女は胸の内に澱んだ泥のような思いを抱えている。
 そんな苦しみは認めないし抱えさせない。でなければ、なんとための友人というのか。
((届けええぇぇッッッ!!!))
 そして、彼らの手はしっかりと届いた。
「「ッッッ!!!」」
 届いた手を絡ませる。一人の体ではこの水流の中では不安定になってしまうが、二人いれば安定できる。そして、絡ませた手を起点にして白井は上条の体を自分の側に引き寄せた。
 現在の位置関係から言って白井の方が上条よりも水路の淵に近い。水路の淵に近いということは、万が一カーブに差し掛かった場合水流の流れが速くなり溺れる危険性も高くなるということなのだが、それでも白井には淵に近づかなければならない理由があった。
「上条さん!もっと淵に寄りますわよ!」
「どうするつもりだ!!?」
 水流の音と焦りが二人の声を大きくさせる。実際、上条と白井は大変まずい状況にあった。なんといっても地下下水道の水路を流れているのだ。当然体力だって消費するし、精神力も同様に消費する。客観的に見て後5分ほどしか持たないだろう。
「どこかに昇降用の梯子があるはずですの!それに何とかつかまりますわっ!!!」
 下水道の水路は当然一度作ったらずっと放っておいていいものではない。整備は必要だ。だからこそこの学園都市の地下水路にもそういう昇降のためのものがあるはずだった。
 クロールのように手を前に出し、立ち泳ぎの要領で足をばたつかせながら上条と白井はふちに移動した。そこから手を伸ばして壁に触っておけばいずれは梯子か何かに触れられるはずだった。
 ただ、問題点が一つ。この水流の中でうまく梯子を掴めるのかという問題があった。
 速過ぎる水流はきっと梯子を掴むための手すらも流してしまう。そして、一度流されてしまえば次のチャンスはきっとない。二本目の梯子がないかもしれないという問題ではなく、単純に体力的な問題でチャンスがないと思うのだ。
 この荒れ狂う水の中溺れないようにするだけでも気を使うのに、梯子を掴みそして通路へと昇らなければならない。これを成すには並大抵ではない体力を消費するだろう。
 だから、チャンスは一度だけ。一つ目の梯子を掴めなければそれで死だ。
 もう一度、手を伸ばす。上条とつないで手を離さないようにしながら壁に向かって手を伸ばす。
「っあ、アアァァ!!!ぐゥッ!!!ッ……!」
 高速で移動する物体に向かって手を出すとどういうとこになるかご存じだろうか。例えば、新幹線の車体に向けて手を伸ばしてみよう。どうなるかなんて簡単に想像できるだろう。
 ザザザザザザザザザリィィィ!!!と水流に流されている白井の伸ばした指の表面が削られた。
 予想外の事態に思わず悲鳴が漏れそうになった。が、何とか抑える。悲鳴を上げてしまえば上条に心配をかけてしまう。白井としてはそれは避けたかった。
 幸いなことに我慢できないほどの痛みでは無い。これならばなんとかなるだろう。削られて皮膚もたいした量ではない。
 もう一度、手を伸ばす。今度は痛みがあるということをあらかじめ知っていたので、皮膚を削られながらもなんとか痛みを我慢できた。
 指先の感覚を集中させて白井はただ一度のチャンスの訪れを待つ。流される体も、流れる意識もすべてはただ一度のチャンスを逃さないために使う。
 まだ何も触れない。
 まだ何も触れない。
 まだ何も触れない。
 まだ。
 まだ。
 まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ今ッッッ!!!!!
 刹那の瞬間に白井の指先に何か鉄製の棒のようなものが触れた。
「つかまってッッッ!!!!!」
 奇跡的な反応速度で上条に声をかけ、白井はそれを掴んだ。そう、掴んだのだ。
 だから、
 ガクンッ!と急激な反動が白井と上条に襲いかかってきた。
「「がッッッ!!!」」
 急激な流れの中体を無理やりストップさせるように何かにつかまってしまえば、当然その体にはとてつもない負担がかかる。負荷がかかる。
 思わず握ってしまったものを離してしまうほどに。
 だけど、
(離すわけにはいかないんですのよッッッ!!!)
 ここで離してしまえば本当に終わってしまう。御坂のもとに辿り着けなくなってしまうし、ついでに白井たちの人生も終了してしまう。グッ!と梯子を強く握る。そして体を引き寄せる。通路に上がるために、上条の体を引っ張りながら引き寄せる。
 グイグイグイグイと引っ張って引き寄せる。腕を曲げて、つないだ手を離さないように梯子に引っ張る。
(あと、少しッッッ!!!)
 その時、白井と同じように梯子に向かって手を伸ばしていた上条の視界に奇妙なものが映りこんできた。
(なんだ、あれ?)
 自分たちが流れてきた方向から何かが流れてきている。そう、それは木の枝のような、長い棒のような、やり投げの槍のような……。
(……まさかッッッ!!!)
 見覚えがあった。
 それを上条はついさっき見た。
『私の専用武器を支部から持ち出したんですの』
 それは、その流されてきたモノは……。
「白井ッ!避けろおおぉォォ!!!!!!!」
「えっ?」

 ガツンッッッ!!!

「あ」
 その衝撃に思わず白井は梯子から手を離してしまった。
 水に乗って流れてきたモノ、そして白井にぶつかったモノ、それは白井が自分で持ってきた武器だった。
 円柱状の棒。戦闘の可能性を考慮したうえで持ってきた専用の武器。空間移動能力者(テレポーター)の能力を最大限使用できるように造られた『槍』。
 白井を助ける武器となるはずのそれが、不運にも白井を奈落へと突き落した。
(終わり……?)
 上条の横っ腹を殴って水路へと突き落し、白井自身も水路へと落ちたあの時。白井は右わきに抱えて持っていた10の『槍』を手放してしまっていた。さすがに水の中で『槍』など持っていても邪魔にしかならない。少しでも体への負担を減らすために『槍』を離した選択は間違っていなかった。
 ただ、運が悪かった。
 悪魔に魅入られたかのような不運な現実が白井に待ち受けていた。
(これで……終わり?)
 水の中で手放した『槍』は少し遅れて流れてきたのだ。まるで白井の体を追うかのように。そして白井が梯子を掴んだことにより体を静止させた、その瞬間を見計らったかのように『槍』は白井にぶつかってきた。
 梯子を掴んでいる手を直撃するという形でぶつかってきた。
 不運。
 一言で言えばそういうこと。
 人間ではどうしようもならない、神様の領域の出来事。
 今更手を伸ばしたところで再び梯子を掴むことなど不可能。それは自明の理だ。故に白井は流される。急な水の流れに翻弄され溺れる。
 死。
 その言葉が白井の脳内に浮かんだ。
 御坂のことも助けられずに、無意味に死ぬ。
(………………あ)
 でも梯子から手を離したその0.1秒後に白井の頭にあまりにも悪魔的な考えが浮かんだ。
 それは、畜生のように非道の考えだった。風紀委員(ジャッジメント)という以前に人間としてどうかと思うような考え。
 つまり、
(この手を離せばっ!)
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()空間移動(テレポート)()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 今白井が空間移動(テレポート)を使って水から上がらないのはひとえに上条がいるからだ。
 上条と二人で助かろうとしているからつないで手を離せないでいた。
 仮に、
 本当に仮に
 その手を離せば、離してしまえば。
 使える。
 能力(チカラ)を使える。
 大能力者(レベルフォー)空間移動(テレポート)能力(チカラ)を使える。
 上条の手を離せば。
 上条を見捨てれば。
(…………ッッッ!!!!!)
 迷う。逡巡する。躊躇し、躊躇い、惑う。
 白井はその考えを即座に否定できないでいた。卑怯外道悪魔非道非人道罪贖罰救済希望死絶望終焉人生。様々な言葉が脳裏を駆け巡り翔け回る。
 今ここで死ぬことは正しくない。助かることが出来るのにその手段を使わないのはきっとよくないことだ。
 何より結局大口叩いても御坂のもとに行けないのは最悪すぎる。
 が、だからといって上条をここで見捨てて白井だけ助かるのは正しいのか?
 否。断じて否。
 ならば、上条を見捨てずに二人溺れ死ぬのが正しいと?
 否。それも断じて否。
 ならどうするのがいい?
 白井はどうするのが正しい?
 どうすればいい?
(……………………………………………………………)
 何を守りたい?
 何を助けたい?
 何のために来た?
 何をしに来た?
 誰のために?
 なぜ?
(………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………)
 思考の時間は0.1秒に満たなかったはずだ。
 そして、白井は、決断した。
(それでも…………………それでも私はッッッ!!!!!)
 つないだ手を、白井は………………。

「っあああああああああああああアアアァァァァ!!!!!!!」

 グイッ!と体を引かれた。
 上条が白井の代わりに梯子を掴んだのだ。
 衝撃に手を離してしまった白井と違って上条には『槍』は当たらなかったから、上条はあらかじめ流れてくる『槍』を認識して梯子に向かって手を伸ばしていたから。
 対応できた。
 対処できた。
「絶対に離すなよッッッ!!!」
 そのままの勢いで上条は梯子に向かって足をかけて体を固定し、安定化させた。水の勢いに流されないように、そして白井と共に通路に上がる第一段階として。
「よしっ!」
 白井を腕力に物言わせて梯子へと引き寄せる。白井は確かに鍛えているがそれでも男子と女子の腕力の差は大きい。上条とてそれなりに体力はあるので楽に白井を引き寄せることが出来た。
 引き寄せられた白井は先ほどまでの思考を振り払って梯子を掴んだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
「先に上がれ!白井っ!!!」
 そう言って上条は白井が動きやすいように体を支えてきた。その言葉に押されて白井は梯子を一段上がる。上条がせっかくこう言っているのだ。少しでも早く上がって上条も通路にあげなければならない。
 そして、しばらく行ったところで白井は自身が流される原因にもなった『槍』を下水道の通路に向かって投げた。
 実は『槍』が白井にぶつかったあの時白井はとっさに『槍』を掴んでいたのだ。そこに、これといった理由は無かった。いうなれば反射だ。条件反射的にそばにあったモノを掴んだのだ。
 梯子を上るのに完全に邪魔になるので『槍』は大きく放って通路に向かって投げた。必要になるかは分からないが、掴んでしまったものは仕方がない。
 そして、しばらくして白井が十分に上ったことを確認した上条は自身も梯子を上り始めた。
 一段目、二段目、三段目、四、五、六……。
 さすがにそんなに何度もアクシデントは起こらなかった。『槍』がぶつかるような悲劇的アクシデントがそんなに何度も起こってはたまったものではない。
「っはぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……っ!!!」
「っあ、くはっ、ッッッ!くぅぅ、っ!!!」
 かくして、様々なアクシデントはありつつも上条と白井の二人はなんとか通路へとたどり着いた。濡れた身体はびちょびちょして気持ち悪いし、ぬかるんだ道はぬちょぬちょして最悪の心地だが命があっただけでも物種だろう。
「戻……るぞっ!白井!さっきいるところっ、まで戻らないと、御坂がどこにいるか分からない、ぃっ!」
「しかし、上条さん!さすがに体力を、消費しすぎですわ!あなたも私も、少し休憩しませんと、まともに動くことすらっ!」
 事実、二人とも疲労困憊していた。マンホールを下り、何者かの襲撃を避けるために水路に落ち、溺れそうになりながらもなんとか梯子につかまり、アクシデントを乗り越えて通路に戻った。
 これだけのことを経れば体力的にも精神的にも消耗するだろう。その消耗は気力や体力でどうにかなるものではない。
 さらに、白井にはもう一つ懸念があった。
「それに、先ほど私たちを襲撃してきた炎。あれをやった人間が待ち構えていないとも限りませんのよっ!今の状態で上条さんはまともに戦えるんですのッッッ!!?」
「それ……は……」
 確かに、その心配があった。あの炎を起こした襲撃者と戦いになる可能性はきっととてつもなく高い。ならば、体調を万全に整えなくてはならない。
 きっと今の状態では一方的に嬲られるだけだ。
「……分かった」
 はてしなく納得はできないが、白井の言うことは正論だ。ここで少し休憩して体力を回復すべきなのだろう。
「少し休もう。ただ、体力が回復したらすぐに戻るぞ」
「えぇ、それで構いませんの」
 白井としても異存はない。御坂のもとに行きたい気持ちは上条と同等、あるいはそれ以上に持っているのだから。
 だが、二人には一つ誤算があった。
 炎を使った人間を『襲撃者』と二人は認識している。ならば、その『襲撃者』が二人のことを追わないのはひどく不自然なことではないだろうか。
 白井と上条が休憩している、その時間が1分ほど経過したとき。

 カツン、と空間に音が響いた。

「「ッッッッッッ!!!!!」」

 自分たちが流れてきた道から足音が聞こえてきた。
 体が緊張状態を取り戻す。心が戦闘状態に移行する。
 上条は知らず、右の拳を深く握った。
 白井は知らず、通路に投げ込んだ『槍』を強く握りしめた。



 そして、夜闇のような漆黒と雪のような純白が水路を挟んで二人の前に姿を現した。



今回の話、水に流れて通路に上がって終わってしまったんだが……。

次の更新は3日後です。


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地下を行く四人② 会話の顛末

 漆黒の衣装に身をまとった男と純白の衣装に身をまとった女。上条たちの前に姿を現したのはそんな二人だった。
 水路を間に挟んで対峙する上条たちと襲撃者たち。上条たちがいるところと襲撃者たちのいるところは3メートルは離れているので、すぐに交戦することはないはずだ、そう上条は思った。
 そして、警戒態勢に入っている上条たちに襲撃者側から声がかけられる。
「上条当麻、そして白井黒子の二人で問題なゐですか?」
「…………………………………」
 意外にも襲撃者たちは対話の意思があるらしかった。問答無用で攻撃してきたわりにはこちらと話をしようとする気概が見られる。そしてそれは上条達二人にとっても好都合だった。
 わざわざ彼らと戦う必要はない。無論、攻撃してきたことに対してなにも感じていないとなればそれは嘘だが、先へ進むために必ずしも戦闘によって突破する必要はないのだ。
 故に、一瞬だけアイコンタクトを交わして意思疎通を行い、白井は襲撃者たちに答えを投げかけた。
「そうですけど。あなたたちは何者ですの?あいにく、私たちにはいきなり火炎放射器を使ってくるような知り合いはいませんのよ」
「それは申し訳なゐですね。しかし、我々も急ゐでゐたもので。そこにつゐては目をつぶってゐただきたゐ。何とゐってもあなたたち二人をここから先へ進ませるわけにはゐかなゐものですから」
 今の会話によって、白井は無視できないレベルの情報が三つ得られた。
 まず一つ。白井たちに攻撃してきた存在が会話を交わした彼女たちであるという確信。遠まわしな言い回しで『私たちに攻撃をしたのはお前らか』と問いかけてみると彼女はその前提を交えて答えた。ならば襲撃者の正体は彼女らで確定だ。
 次、襲撃者が彼女ならばその攻撃方法について。さっきまでの白井は彼女らの攻撃方法を火炎によるものとまでしか分かっていなかった。その炎が能力によるものか、自然現象によるものか、兵器によるものか特定できなかった。
 だから、わざとかまをかけてみた。『火炎放射器を使ってくるような知り合いはいませんのよ』と言うことで、お前たちが火炎放射器を使っていることは分かっているぞ、と暗に示したのだ。
 そして、それも襲撃者は暗に肯定した。この場面で否定しなかったということは十中八九あの炎は火炎放射器によるものだとみて間違いないだろう。
 そして、最後に襲撃者の目的について。これが得られたことが一番大きい。
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 それを目的とするのならば、白井たちにも対応のしようがある。
「なんだって?」
 上条は聞き間違いかと思い、もう一度問いかける。
「あなたたち二人をここから先へ進ませるわけにはゐかなゐ、と言ったのですよ」
「……それはなぜですの」
 明確な言葉で『足止め』の意思を口にした襲撃者に対して、上条は静かに憤る。苦しんでいる御坂を助けることを邪魔しようとする彼女たちの存在は、上条とは真っ向から対峙する存在だ。
 上条を正義のヒーローとしたなら彼女らは悪の手下。
 上条を光の救世主とするのなら彼女らは魔王軍の兵士。
 彼女の言葉を聞いて上条は睨みつける。なぜ邪魔をする。どうしてそこを通さない。少なくとも上条には彼女たちの想いが理解できなかった。
 だが、白井には理解できた。
 何故なら、白井は風紀委員(ジャッジメント)として、上下の関係というものを知っていたから。
「理由?理由を問ゐますか。…………私個人の理由などありませんが、そうですね、しゐて言うのならば『上』から命令されたから、とゐうのが理由でしょうかね。組織の人間として『上』の命令には絶対服従なモノですから」
「そんな理由で……っ!」
 上条は怒る。『上』から命令された、そんなわけのわから無い理由で御坂を助ける邪魔をするのかと。
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「まぁ、そんなことだとは思いましたわ」
 白井は嘆息する。言葉のニュアンス、目線、態度、そういった会話以外の場所から自らの意思でこの妨害行為を行っているのではないということは分かっていた。だからこそ、ここからの戦闘は避けられないのだ。
 自らの意志ではなく誰かの意思で行動する人間に説得は通じない、交渉も絶対に通じない。なぜなら、行動に自意識が介入しないから、思考が理由を求めないから。
 いうならば人形。『上の人間』の命令にそってのみ動く木偶人形。
「あなた方の事情は関係ありません。あなた方の戦力は関係ありません。あなた方の能力は関係ありません。あなた方の価値観は関係ありません。あなた方の過去は関係ありません。あなた方の命は関係ありません。あなた方の生存は関係ありません。あなた方の意識は関係ありません。あなた方の想いは関係ありません。あなた方の願いは関係ありません」
 彼女にとってその命令は絶対で、その『上』とやらは神にも等しい存在なのだ。だから、もしも彼女の行動を止めることができるとしたら、それこそ『上』と呼ばれる人間だけだろう。
「この場から動かなゐでもらゐませんか?こちらとしてもわざわざあなた方と戦闘したゐと思うほど、戦ゐに飢ゑてゐるわけでは無ゐんですよ?」
 お前らの事情など知ったことか。『上』の命令は絶対不変にして至高の事実だ。黙って従えよ。そして喜びをもってこの場から動くな。
 そう、厳然たる事実として彼女は言外に告げる。
 それでも、前に行くというのならば戦いをもって潰してやるぞと、態度が告げる。
「……………………………」
「別にゐゐじゃなゐですか。事情は知りませんし、知りたゐとも思ゐませんが、あなた方は私のように命令されて動ゐてゐるわけではなゐんでしょう?あくまで自分自身の意思で動ゐてゐる。そこに強制力はなゐ。違ゐますか?」
 そう、そうなのだ。上条と白井は己の意思で動いている。彼女の言うようにそこに強制力はない。極論、やっぱり帰ろう。その一言だけで今までの行動すべてをゼロに返すことは可能なのだ。
 そもそもの話として、上条と白井は御坂が何かに巻き込まれているという前提で動いてきたが、本当に御坂が何かに巻き込まれているかどうかは分からない。その確証はないのだ。何にも巻き込まれていないかもしれないし、自分たちの行動はおせっかいなのかもしれない。
 そこに、確信はないのだ。
「………………………」
「動かなゐでくださゐ。ここから先に進まなゐでくださゐ。地上に出ようと思わなゐでくださゐ。私たちと戦おうと思わなゐでくださゐ。勝とうと思わなゐでくださゐ。勝てると思わなゐでくださゐ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 上から目線の懇願。
 強者という立場からの切願。
 それを、二人ははっきりと認識する。
「確かにな……」
 ここにいたり、上条ははっきりと襲撃者を見た。どういう理由か分からないが、『上』とやらは上条たちをここから先に進ませたくないらしい。だからこそ、襲撃者たちをよこしたのだろう。
 そして、その事実が逆に上条にある確信を抱かせる。
「確かに、私たちはお姉様の事情とやらを知っているわけではありませんの」
 強者としての油断、余裕。そういったものが上条たちにある事実、余計な一言を伝えてしまっていた。
「「でも、御坂のヤツ(お姉様)が助けを求めているなら、助けに行かない理由はねぇんだよ(ありませんのよ)!!!!!」」
 『お願いですから御坂美琴を助けようとか考えないでください』。
 この言葉はつまり御坂美琴が助けを求めるような事態に陥ってしまっていることを示していた。いや、それ以前に、上条たちの行動を邪魔しようとしている襲撃者の存在自体が御坂が何かに巻き込まれている事実を明確に示していたのだ。
 だから、絶対に退かない。
 退くつもりは絶対にない。
 例え、その結果戦闘になったとしても、上条達はここから先に行くという決意を固めていた。
どほるな(なるほど)
「……それならば、仕方ありませんね」
 上条たちの意思を確認した襲撃者たちは、その固い意志に対応するようにして名乗りを上げた。 
属所隊部撃攻(学園都市)部本員委紀風(セントラルジャッジメント)市都園学(攻撃部隊所属)長隊総隊部撃攻(攻撃部隊総隊長)槍い無の数(ロストオブランス)娥埋淵ヶ扼(やくがぶちまいが)
「おなじく、学園都市風紀委員本部(セントラルジャッジメント)攻撃部隊所属。攻撃部隊第二班班長。風紀委員本部(セントラルジャッジメント)序列(ランキング)第10位。逆さまに狂う世界(オセロゲーム)千疋百目(せんひきひゃくめ)
 そして、上条は立ち上がり右の拳を深く握った。
りよれこ(これより)
「申し訳ありませんが、あなた方には」
 そして、白井は『槍』を構えて襲撃者を強く睨んだ。
るせさ滅死を者対敵(敵対者を死滅させる)
「ここで死んでもらゐます!!!!!」
 そして、四人以外誰もいない地下下水道にて、三人の監視者の目を受けながら、命を懸けた戦いが始まった。










 まず先手を取ったのは襲撃者の方だった。
ず先(先ず)だべ調手小(小手調べだ)
 男の方の襲撃者、娥埋淵ヶ扼(やくがぶちまいが)がその手を前に構える。すると、その腕から紅蓮の炎が現れ、上条たちに向かっていった。
「なんッ!!!」
 いきなり予想外の事態が起き白井は一瞬硬直した。おかしい、始めの襲撃は火炎放射器によるものでは無かったのか?それとも、さっきの問答はこちら側に嘘を伝えるためのブラフ?
 戦場においては例え刹那に満たない間の硬直ですら死に直結する。そういう意味では白井のこの行動は落第点ものだろう。戦いにおいては常に思考し、行動しなければならないのだから。
 だが、白井にはこの学園都市においても非常に稀有なアドバンテージを持っている存在だった。
「手に管が通ってるんだ!」
 上条は埋娥が手を前に構えたその時にはすでに行動を始めていた。グルンッ!と体を回し、その手の向きから逃げられる方向に全力で移動する。その途中、白井の疑念を晴らすことも忘れない。
 上条は学校の成績は並程度だが決して馬鹿では無い。むしろとっさの対応能力、戦闘感、第六感(シックスセンス)、そういったものを含めれば天才的な思考能力を発揮できるとも言える。
 故に、上条は先ほどの白井と百目の問答で白井が何を考えていたかも大体のところは推測できていた。だからこそ、白井は今、埋娥の腕から炎が出てきたことに驚愕したはずだ。強力な能力を持っているからこそ白井にはそういった『ある種の油断』みたいなものが存在するのだ。
「そういうことですのっ!」
 ヒュン!と音を鳴らして白井がその場から消えた。
 そう、これこそが白井の持つアドバンテージ。学園都市でもわずか58人しか存在しない超希少な能力。
 空間移動(テレポート)である。
 その能力がある故に白井は『ある種の油断』を抱え込んでしまっている。何せ、空間移動(テレポート)能力は文字通り瞬間的に空間を移動することができるのだ。人間が移動する際には必ず必要な手順、足を動かす、腕を振る、体を動かす、そういった手順が全く必要ない。
 空間移動(テレポート)するのに必要なのは、自分がどこにいるか、そして自分がどこに移動するか、さらに3次元上のベクトル座標を11次元上のベクトルに特殊変換できる演算能力、この三つだけなのだ。
 炎を避けられる位置に白井は出現する。そして、上条の言葉を確かめるために埋娥の手元見た。
(なるほど、腕を這わせるように管を通して、服の内側にタンクをしまっているんですのね)
 埋娥の攻撃手段である炎は当初白井が予測したとおりに火炎放射器によるものだったのだ。ただ、埋娥がこれ見よがしにタンクやホースを背負っているわけでは無い。そんな装備を付けていれば馬鹿でも火炎放射器を使うと分かってしまう。
 必要となるのは偽装だった。炎が能力によるものか、兵器によるものなのか掴ませないための偽装。
 だが、その偽装も上条の手によって暴かれた。
 埋娥の使う炎が火炎放射器によるものならば必然的に炎の方向は直線に限られる。しかも、巨大なタンク等を使っていないのならば射程も短いはずだ。おそらく4メートル。それが上条と白井の推測する火炎放射器射程だった。
 ゴオオオオォォォォォ!!!と攻撃対象を失った炎が下水道の壁を焼く。
 上条も白井もうまく炎を避けることが出来ていた。確かに炎の速度は速いが、方向が直線に限定され、射程も短いとなれば避けることは不可能ではない。その位の能力は二人にはあるのだ。
 ただし、炎を避けたことによる代償も当然あった。
「くっ!」
 先ほどの炎を回避するために上条は右に移動した。体を回転させ、攻撃を避けるのはそちらの方がたやすかったからだ。そして、白井は左に空間移動(テレポート)した。右の視界が炎によってさえぎられる形となったため安全性を考えれば、そちらに移動したほうがよかったのだ。
 そして、意図せずして白井は最良の選択をしていた。
 なにせ、もしも白井が前後のどちらかに移動していれば、その時点で白井は死んでいたのだから。
「埋娥総隊長。それでは、武運を祈ります」
なも前お(お前もな)
 埋娥は自らの左側を見た。その方向には上条が一人いた。
 百目は自らの右側を見た。その方向には白井が一人いた。
 そう、上条と白井は埋娥が放った炎によって分断されてしまっていたのだ。
 そして、いまだ壁を焼く炎が二人の合流を阻んでいた。
「上で合流するぞっ!!!」
 埋娥の掌の向きが自らの方向に向かうのを見て、上条は眼前の道をひたすらに走り出した。ここで無理に合流するのは得策ではない。白井の空間移動(テレポート)は上条と共に戦うのには向いていないのだ。
 空間移動(テレポート)は上条と一緒に使うことは出来ない。ならば、ここは相手の思惑に乗って一対一の構図が2つにした方が遥かに戦いやすいと上条は判断した。
「ちょっと待って…………なッッッ!!!???」
 背後でなにやら白井の静止の声が聞こえた気がしたが上条にはそれに構っている暇はなかった。
 ゴオオオオォォォォォ!!!と火炎放射器の炎の音が上条の方向に向かっていると認識できたからだ。
 振り返る暇はない。
 後ろから迫る炎に焼かれないように、懸命に走るしかない。
 
 学園都市の地下100メートルで、上条当麻と扼ヶ淵埋娥の生死をかけた鬼ごっこが始まった。



次回から怒涛の戦闘回です。

ちなみに捕捉ですが百目の口調はひらがなの『い』を『ゐ』に、『え』を『ゑ』にしたもので、埋娥の口調は文字を逆さまにしたものです。

次の更新は6日後です。


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白井黒子と千疋百目① 転移失敗

VS百目、開幕。


「上で合流するぞっ!!!」
 上条のその声に白井は思わず反論しようとした。
 確かに、上条の言いたいこともわかる。例え白井がこの炎を超えて上条と合流したところで戦闘が優位に進むとは思えない。何せ、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)は白井の空間移動(テレポート)を無効化するのだ。これでは、一緒に逃げるには足を使うしかない。
 それならば、別々に行動して単騎で敵を倒したほうがいい。そう考えるのはある意味では自然だ。幻想殺し(イマジンブレイカー)空間移動(テレポート)。この二つを最大限利用するには二人一緒にいることはマイナスになってしまう。
 だが、この考えはあくまで上条と白井が自発的に別れようとするときに限られる。
(今私たちは『敵によって無理やり分断させられている』。なら、私と上条さんが別れて一対一の構図に持ち込まれるのは『敵』の思惑通りのはず……)
 今回に限っては先の考えは全く当てはまらない。
 戦場において『敵』の思惑にはまるほど最悪なことはない。思惑にはまるというのは不利な立場に追い込まれるということ。そして、敗北の確率が高まるということ。
 今、埋娥によって分断させられた状態はすでに敵の思惑にはまってしまったということだ。ならば、単一同士で戦うのではなく二人で協力して立ち向かうべきだ。たとえそれで一見しては不利な状況に陥るとしても。
 だから、白井は上条の言葉に逆らって炎を超えて上条のそばに空間移動(テレポート)しようとした。
「ちょっと待って」
 空間移動(テレポート)は基本的に視界で捉えられない場所に転移することは避けられる傾向にある。
 例えば、全く未知の建物の中に侵入するために空間移動(テレポート)するとしよう。その場合扉、壁などを通り抜けて空間移動(テレポート)するわけだが、その時空間移動(テレポート)場所が壁の中になってしまう可能性はゼロなのだろうか。
 考えてみてほしい、そこが未知の場所ならば壁の厚さが空間移動能力者(テレポーター)の予想を超えている場合も考えられないだろうか。つまり、空間移動能力者(テレポーター)が壁の中に転移してしまう可能性が考えられるのだ。
 その場合、非常に大変なことが起きてしまう。
 ()()()()()()()()()
 そして、そのまま呼吸できずに死ぬ。いや、周りに圧迫されて圧迫死するかもしれない。それとも、皮膚がベリベリと剥がれ出血多量による出血死か、ショック死か。とにもかくにも体が埋まってしまえば死はまぬがれないだろう。
 そして、それは体全体ではなく一部がうまろうともおなじことだ。この場合は死ぬことはないだろうが、それでも相当の怪我は負うだろう。空間移動能力者(テレポーター)自身が空間移動(テレポート)に失敗するということはそういうことなのだ。
 だから、白井が炎の向こうに空間移動(テレポート)しようとするのもそれなりにリスクのある行為だった。なにせ、炎の幅が分からない。つまり、空間移動(テレポート)先で炎に焼かれる可能性が存在するのだ。
 だが、それでも白井は空間移動(テレポート)を決行した。
 このままでは『敵』の思惑に完全にはまってしまうと思ったから。
 ヒュンッ!と風切り音がして白井が空間移動(テレポート)を完了させる。

 だが、空間移動(テレポート)先に上条の姿は見えなかった。

「……………………なッッッ!!!???」
 いや、それどころか相も変わらず炎が見えたままだった。
 だけど、さっきまで見ていた景色と違うところもあった。
 遠いのだ。ひどく、遠いのだ。炎との距離が遠いのだ。
(転移場所を間違えた!?ありえませんわ!何度空間移動(テレポート)を行ってきたと思っているんですの。今更間違えるわけが……)
 白井は無意識のうちに空間移動(テレポート)を失敗した理由を考えてしまった。余裕、油断、驕り、準最強クラスの能力(チカラ)を持っているが故にどうしてもそういうものが存在してしまう。
 そして、優秀な戦士というのは総じて『敵』の隙を逃さないものだ。
「隙だらけですよッッッ!!!」
 わずかな硬直を見せた白井に対して百目は非常に素早く動いた。撥条包帯(ソフトテーピング)を使用している百目は通常の人間よりもはるかに高い身体能力を有している。その身体能力をフルに使用して、助走なしで水路を飛び越え白井に襲いかかって来たのだ。
「くっ!」
 だが、白井とて風紀委員(ジャッジメント)の人間。突発的な事態に対する対応は身についている。
 天上に当たる勢いでジャンプして飛びかかってきた百目に対して、白井はその手に持つ『槍』を振り回した。現在の白井の手持ちの武器は足に巻いた『金属矢』と手に持つ『槍』、そして自らの肉体と能力だけだ。
 『金属矢』は使えない。足に手を当てる時間さえも現状では惜しいのだ。『槍』を転移させるわけにもいかない。相手の攻撃手段が明確ではない以上リーチのある武器は手放せない。
 だからこそ、白井は『槍』を目の前で振り回した。本来槍は突くための武器だが、別に払うことも出来る。そして、振り回す槍に相手が当たってくれれば迎撃は可能だ。
 基本的に空