サモンナイト4 妖精姫と呑気者 (なんなんな)
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第0話 いつもの朝〜Humming Days〜 ① (原作一話)

急に思いついたので発作的に書き始めました。
既に同じようなのが有っても退きません。


 同じ夢を見る。

 赤黒い空に、赤黒い地面。そして咆哮する異形の怪物と、それに対峙する銀色の少女。

 跪いた私は、いつも同じ言葉を口にする。

 

『我、一の界より出る者。四界の帝――ゼルゼノン、ミカヅチ、レヴァティーン、エイビスに奏す。逢合者の名に於いて楽園に来たれ。我が身を楚に、威をここに示せ――――』

 

 何かが身体に流れ込む感覚。視界が黒く染まってく。

 

 そして、再び光が戻ったとき、

 

「〜〜〜〜!!!!」

 

 私は布団の中で恥ずかしさに悶えるのだ。何だ『一の界』って! 何だ『四界の帝』って! 『ゼルゼノン、ミカヅチ、レヴァティーン、エイビス』って誰だ! しかも微妙なクオリティなのが余計に恥ずかしい!

 

「……私はもう17歳。そーゆーのはいい加減卒業してる」

 

でも、何回も夢に見るのは何かの暗示だったり……?

 

「…………いや、無い。そんなこと言ってる場合でもない」

 

そろそろ今日の仕事を始めないと。

 

 私はナオ。

一年前、稀によくある召喚事故によって『名も無き世界』から、ここ『リィンバウム』に飛ばされて来た。今は宿屋兼食堂『忘れじの面影亭』の手伝いをしている。

 本名は大歩危尚弥。

田舎のトップ校(笑)に通い、友人から『神の間違い』と揶揄されるような人間だった。平たく言えば残念な天才だ。とにかく努力が足りず、成績は中の中。しかし至るところで天才の片鱗を見せていたらしい。

……いや、別に私はめっちゃ凄いんだぞ的なことを言いたいわけではない。ガチの天才なら私のように授業全スルーしていてもトップぐらい取ってくるだろうし、そもそも何もしない天才というのは何もできない凡人と大差無い。

ただ、ちょっとは凄いってことを言いたかっただけだ。

 

「さて着替えも終わったし、いくか」

 

 元々客室だった自室を後にし、店主の部屋に向かう。いつもはこの時間まで寝ていれば店主が起こしに来る。でも、今日は来ていない。どうやら店主殿も寝坊らしい。

 

「おーい起きてるー?」

「わひゃっ……!?」

 

ノックと伴に声をかけると、扉の中から可愛らしい声が聞こえてきた。

半開きにした扉から店主が顔を出す。

 

「ちょ、ちょっと待ってて! すぐ支度するから」

 

そう言うとすぐ引っ込んでバタバタと準備を始めた。

 

「そんな急がんで良いけど……」

 

まぁ、そういう性格だし、仕方ないか。

 

 彼女の名はフェア。つい最近15歳になったばかりの少女で、この『忘れじの面影亭』の店主……いや、オーナーは別に居るから、正確には店長かな。

 小麦色の肌にサファイアの瞳、銀糸の髪という物凄い素質(?)の持ち主で、しかも明朗快活でありながら自制が効き、料理が上手く、武術の腕前も高い。

 ……そんなスーパーガールになってしまった理由はクズな父親にあるというから手放しでは喜べないけど。

 

 土間で軽く顔を洗い、ググっと伸びをする。気持ち悪い夢を見たが、そう悪くない朝だ。あとはコーヒーでも淹れたら完璧な―――

 

「おーいっ! 起っきろーっ!!」

 

はぁ……コレが有ったか………。

 

「起きろ、起きろーっ! フェア! ナオ! 朝だぞぉーっ!!」

 

尚も大声でまくし立てながら、声の主が近付いてくる。今頃フェアも苦笑いしてるだろうな。

 

 やって来たのは二人。フェアの幼馴染で、この辺りで一番の大家…召喚士ブロンクス家の姉弟。さっきから騒ぎ立てているのが姉のリシェル、隣で注意するも無視されているのが弟のルシアンだ。リシェルは典型的な高飛車お嬢様って感じ。ルシアンは可愛らしい見た目と性格をしているので街のお姉様お兄様から密かな人気を集めている。

 ちなみにこの世界に私を召喚(事故)したのはリシェルだ。『事故なんだから仕方ないじゃん!』とソッコーで開き直っていたのをよく覚えている。事故の影響かなにか知らないが私が元の世界に帰れないと分かったときもそれはそれは尊大な態度だった。べつにいいけど。

 

「あ、ナオ。起きてたんなら返事しなさいよね」

「してたしてた。心の中で」

「挨拶ってのは口に出してこそなのよ」

「そう。……おはようルシアン」

「おはよございますナオさん」

「あたしには!?」

「ヘイヨーグッツスッス」

「何語よそれ……。で、フェアは? あんただけ起きてるなんて珍しいじゃない」

「多分フェアはまだ支度してる」

 

髪が長いから時間がかかるんだろう。その点私はショートだから楽だ。たまに寝癖が気になることもあるけど、そういう時は水で濡らせばいい。すぐ乾く。

 

「あたしを待たせるなんて何考えてんのかしら、まったく」

「今日の献立ちがう?」

「あたしのことを第一に考えないなんて失格ね! ルシアン、フェアに早くするように言ってきて!」

「えぇっ!?」

「何よ」

「この前は『身嗜みを整えるのは女の子にとって恋の次に大切なのよ! 

急かすなんて度量の小さい証拠ね』って言ってたじゃないか」

「うっさい!」

ポコンッ

「あたっ!」

「その時はその時! 今は今! いちいち細かいこと気にしてたらモテないわよ」

「またそうやって自分勝手な理屈を……」

 

 見慣れた風景となった姉弟喧嘩。今回はルシアンもけっこう善戦してるな。どうせ押し切られるだろうけど。

 

「はいはいリシェル、もう支度済んだから」

「遅いわよフェア。いつまで寝てんのよ」

「ちょっと遅くなっただけでしょ! そりゃまぁ、今日は変な夢を見たせいで寝坊気味だけど……」

 

なんだフェアも変な夢を見たのか。どんな夢だろう。いやらしいやつかな。

 

「それでも、じゅうぶん早起きなことには変わりないでしょ?」

「だよねぇ……外も、やっと明るくなってきたばかりだし」

「ふふん、甘いわねあんたたち。世間一般にはそれで通っても、あたしを待たせてる時点で寝坊確定っ! 言語道断なのよ」

「うわぁ、また始まっちゃったよリシェル理論……」

「そもそも、幼馴染のよしみで、あたしが直々に起こしに来てあげてるのよ? 感謝の心を以てお出迎えするのがスジってもんでしょ」

「誰も、来てなんて頼んでないじゃん」

「何か言った??」

「だってホントのことじゃないの。ナオも言ってやってよ」

「ん? ごめん、濃過ぎるコーヒーをどうするか考えてて聞いてなかった」

「……お湯足せば?」

「うん」

「………」

「………」

「アチッ…」

「………」

「………」

「フフッ」

「ぷっ……あは、あははははっ!」

「えー、そんな笑う?」

「何か、バカらしくなっちゃったわ」

「そうね。……そろそろ仕入れ行こっか」

「そうそう。ちゃっちゃと行きましょ! あたしは多忙なんだから」

「とか言って、一仕事終わったらちゃっかり朝ご飯ここで食べていくんよなぁ」 

「し、しょうがないじゃないのよ! ウチのみんなが起き出す前に抜け出して来てるんだからっ!」

「ツンデレオツ」

「だから何語よそれ」

「それに、美味しいんだよねぇ、フェアさんの作ってくれるご飯」

「ふふっ……しょうがないなぁ。後で作ってあげるわよ」

「やたっ! そうこなくっちゃ♪」

「楽しみだなぁ♪」

「やれやれ……。とりあえず、今日の分の野菜を貰ってこないとね。さ、行きましょ」

「おーっ!」

「あっ、ちょと、飲み終わるまで待ってー」

 

 残りのコーヒーを流し込んで、三人に続いて玄関をくぐる。鮮やかな朝焼けの景色がひろがっている。

 今日もいい日になりそうだ。




フェアちゃんは幼妻かわいい。


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第0話 いつもの朝〜Humming Days〜 ② (原作一話)

何故か口調が定まらない主人公です。妙に書き辛いです。何故だ……。

台風の影響で近所のスーパーがごっつい値下げをしてました。せっかくなので和牛の肩ロースステーキとピザと瓶コーラでアメリカンな気分に浸りました。


 店から続く坂道を下り、街を囲む堀沿いの道を行き、溜池までやって来た。水源の山から近いだけあって、とても透き通った綺麗な水を湛えている。この溜池はかなり古くから有るものらしく、恐らく同年代に作られたのだろう水道橋なんかは途中で壊れてしまっていてる。

 だいたい店とブロンクス邸の中間ぐらいの所だ。そして、街の北からの唯一の入り口でもある。ここから街全体に水が送られており、メインストリートの終着点にもなっている。

 

 となれば、当然住民の憩いの場にもなる。まぁ、この朝早い時間では人はほとんど居ないが。

 

「ぃよう、悪ガキども! 今日も三人お揃いだな。ナオさんも、おはようございます」

 

たった一人、池の縁にいた青年が声をかけてきた。

 

「おはようございます」

「挨拶はいいけど、悪ガキだなんて酷い言いようじゃないの。グラッド兄ちゃん」

「それになんでナオだけ特別扱いなのよ! あたしのたった一歳年上なだけじゃない」

「歳のことは初耳だが……余計に評価を上げなきゃな。たった一歳年上なだけなのに何倍も落ち着いてる」

 

彼はグラッド。この街の駐在兵士……まあ、警官みたいなものだ。いわゆる好青年で、フェアたちの兄貴分。話したことは何度も有るが、本人の言うとおり私についてはほとんど知らない。だから少しよそよそしいところがある。

 というのも、私のちゃんとした情報を知っているのは五人しかいない。フェア、リシェル、ルシアンの三人と、姉弟の世話係のポムニットさん。そしてこれから野菜を貰いに行くミントさん。他の人たちには、私は元は旅人だったということで話を通している。『荷物を盗まれて途方に暮れていた所をフェアに拾われた』というストーリーだ。

 

「買い被りすぎでしょ。いつも眠そうにしてるだけじゃない」

「いつもはともかく、今は実際眠い」

 

こっちに来てからというもの、スローライフをとことん満喫してるからなぁ。そりゃ力の抜けた表情にもなるし、父親譲りのタレ目がそれをさらに際立たせるんだろう。

 

「はは……。朝早いですからね。これから仕入れか? フェア」

「うん。そう言う兄ちゃんは朝の見回りよね」

「おう。朝昼晩三度の見回りは駐在兵士の義務だからな」

「朝からご苦労さまです」

「ありがとうルシアン。まぁ、今は休憩中だけどな」

「それに仕事なんてほとんど見回りだけだもんね」

「その数少ない他の仕事の原因はたいていお前ら三人なんだからな」

「三人って、だいたい姉さんが暴s――」

「良かったじゃない、散歩するだけで給料もらってる詐欺師にならなくて済むんだから。あたしたちがいなかったら自分で自分を牢屋に入れなきゃならなかったわよ?」

「そういうことなら軍人なんて全員詐欺師になっちまうのが理想の世界だよ。それほど平和ってことだからな」

「そうだよリシェル。人生、平穏が一番! こつこつ働きながらまっとうに生きる! それが一番なのよ」

「こだわりだもんね。フェアさんの」

 

『まっとうに生きる』というのは、フェアが常々言っていることだ。これもやっぱりクズ親父の影響だという。フェアの父親は、リシェルと比べ物にならないほど重度のトラブルメーカーだったらしい。

 

「何言ってんのよあんたたち! 若いうちからそんな年より臭いこと言っててどうすんの。そんな小さく纏まってちゃ、ちっぽけな人間にしかなれないわよ!」

「リシェルは常にはみ出しまくりよな」

「周りの迷惑も考えてよね」

「むきぃーっ!」

「ははははっ。……まぁ、フェアたちの言うことはちょっと草臥れすぎてるけどな」

「ちょっ……」

「ほら見なさいっ!」

「けど、リシェルも、もう少し自分の立場ってものを考えなきゃダメだぞ。ポムニットさん、いつも謝ってばかりでかわいそうだろ?」

「……ふんっ! フェア、早く行きましょ!」

「ちょ……っ! 服引っ張らないでよぉ、リシェルっ!?」

「うはぁ……怒らせちまったか」

「すみません。姉さんも分かってはいるんだけど……」

「あの年頃の女の子は色々と難しいもんだからなぁ。俺んとこの妹もそうだったしな」

「男女関わらず、十代半ばってんは周りへの批判で自己を確立させるから。男の場合はその表現が分かりやすいことが多いってだけで。……あの二人はその"周り"が大きすぎるせいでちょっと極端なことになってると思う」

 

保健の教科書の受け売りだがな。

 

「……旅に出る前は学者とかしてました?」

「んー、どうだろう」

 

日本の学生はこっちで言う学者に入るのだろうか?

 

「ルシアン、ナオ! 早く来ないと置いてっちゃうわよーっ!!」

「じゃあ行くか」

「失礼します!」

「おう。またな」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 メインストリートを街の南端近くまでズンズンと進み、脇道をこれまた街の端まで進むと、今回の目的地であるミントさんの家に到着となる。色とりどりの花や野菜が植えられた庭と温室が目立つ、なかなか立派な家だ。

 

「おはよう! ミントお姉ちゃん。今日の分の野菜もらいにきたよ」

「おはよう。三人とも。ナオさんも」

「おはようございます」

「へへへ、オヤカタもおはよーっ♪」

「ムイッ♪」

 

 ミントさんは『蒼の派閥』という組織の召喚士で、専門は獣界メイトルパ…簡単に言えば自然属性っぽいモンスターがいっぱい居る世界だ。研究テーマは異界の植物。庭や温室はそのためのもので、フェアに渡しているのはその実験の成功作。彼女の容姿は、サラサラの金髪に碧眼、きめ細やかな白い肌、そして巨乳…と非常に優れており、街の若い男から半ば信仰に近い好意を寄せられていたりする。先程のグラッドさんもその一人だ。

『オヤカタ』はミントさんの召喚獣で、『テテ』という種類の小型幻獣。庭の番をしていて、『ムイ』という鳴き声で話す(?)が、ミントさんはその意味を完全に理解している。召喚の際に意思疎通の術も組み込んだらしい。フェアたちもオヤカタと軽い会話ならできるが、こっちは経験として学んだものだ。犬の尻尾みたいな感じで。ちなみに私は分からない。

 

「お野菜はいつものとこに置いてるからね」

「は〜い。行きましょリシェル」

「うん!行くわよルシアン」

 

 野菜はいつも裏の水場で冷やしてある。溜池からの水ではなく、わざわざ掘ったものだ。

 

「さて、じゃあ……『ボクス』」

 

ポーチから灰色の宝石…機界のサモナイト石を取り出し、召喚を行う。現れたのは箱型のロボット。元々は小型の自走砲みたいなものだが、改造の自由度が高く、搭載されている人工知能も実直で扱い易い。私の場合は元々四本の脚を六本に増やしている。ここ、トレイユの街は全体が緩やかな坂になっていて、店はその一番上にあるため、普段は輸送に重宝している。

 

「召喚も随分と上手になりましたねぇ。魔力の無駄が殆どないです」

「言っても存在[ユニット]召還ができるだけで、召喚魔法とか強制術はからっきしですけどね」

 

 召還術には三つの基本技のようなものが有る。

 一つはユニット召還。異界の住人をこの世界に迎え入れる技だ。これによってリィンバウムに来た存在は『召喚獣』と呼ばれ、私も"本来なら"そう呼ばれる。

 一つは召喚魔法。魔力によって、本来の力を発揮させる技。火事場の馬鹿力を安全かつ意図的に発生させるようなもの、と、私は解釈している。

 最後が強制術。名前のまま、強制的に何かをさせる技だ。これが厄介なもので、召喚獣はサモナイト石を通して強制術による絶対命令を受けるため、暗黙の差別階級にある。それが神獣だろうが大天使だろうが、だ。まぁ、そんな大物を召喚できる者は少ないので極端な例になるけど。

 私の場合は、リシェルが機界の召喚術を行おうとした時に事故で『名も無き世界(無属性とされる)』から来たため、正当なサモナイト石が存在せず、強制術も受けない。が、普通、召還術にはほぼ100%で強制術が使用されている。一般人は私の特殊性とかそんなことは知ったこっちゃない。だから私が召喚獣であることは隠している。

 

「やっぱり不思議ですねぇ。普通は、どれが得意とかは無いはずなんですけど」

「さぁ……でも私は名も無き世界の人間ですから。色々と変だって話でしょ?」

 

『名も無き世界』……無属性のサモナイト石とつながる世界。だが、一部の召還術研究家にしか知られていない世界。というのも、無属性サモナイト石によって召還されるのは、普通は非生物だけらしい。だから、よほど召喚術の歴史と事象に詳しい者でないと無属性サモナイト石は道具の召喚用と認識している。ミントさんも過去の文献を調べてから私の正体に気がついたそうだ。

 

「二人とも、何話してるの?」

 

と、三人が野菜を持って戻ってきた。

 

「私の召還術が変って話」

「ふーん、別にいいんじゃないの? 困ることないし」

「私もそう思ってる」

 

『名も無き世界』の住人は存在自体が召喚事故。そいつが使う召還術が変なのは当たり前だと思う。

 

「う〜ん、今日の分は特に美味しそうね!」

 

野菜のカゴをボクスの上に乗せながら、フェアが嬉しそうに言う。

 

「でしょでしょ? 自分でも大成功かもって思ってたんだ〜」

「今回は何を変えたの?」

「うーん、急に何か変えたってわけじゃなくて、土を研究した成果がジワジワ出てきたって感じかなぁ」

「ミントさんってほんとに土いじりがすきなんだね」

「そりゃそうでしょ。だってそれが仕事なんだし」

「そうねぇ、でも、やっぱり趣味の部分が大きいかな。召還術を勉強してる時から異界の植物には興味が有ったもの。私も、商店の売り子とかだったら続いてないだろうし…」

「いや、似合いそうだけど!?」

「あーあ、それにしても同じ召喚士なのにあたしのパパとは全然違うんだもんなぁ。口を開けばお金だ利益だって、ほんとサイテー! 夢の一つでも語ってみたらどうなのよ」

「私の場合は本部から研究費が出たりしてるから……比べるのはリシェルちゃんのパパが可愛そうじゃないかな」

「それにブロンクス氏は高い地位に有る人。その分しっかり財産を守らないと下の者が路頭に迷うことになる」

 

『蒼の派閥』が研究機関だとすれば、ブロンクス氏の所属する『金の派閥』は企業。しかも、ブロンクス氏の場合はこのトレイユの召還術事情を監視する役割を任されている。仮に夢追い人になりたくなったとしても、そうはいかない。

 

「あたしはキライだもん。お金の計算ばっかりしててさ……」

「リシェルちゃん……」

 

「何やってんのー? 帰るわよー!」

 

いつの間にかボクスを連れて帰路についていたフェアが呼ぶ。そう言えば朝飯もまだだし、急ぎたいよな。ちょっと今日は喋りすぎかな。

 

「もう! 分かってるわよーっ!」

「さようなら。オヤカタもバイバイっ」

「ムイムイッ」

「それじゃあまた…」

「ええ。宿の仕事、頑張ってくださいね」

「まぁ、フェアの手助けぐらいしかできませんけど」

 

 軽く手を振って、先程来た道を帰る。街はそろそろ目覚めようかという頃で、開かれている窓も増えてきた。やっぱりゆっくりしすぎたな。そろそろブロンクス家の人たちも起き出す頃だろうし。




早く竜の子拾うとこまでいきたいです。


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第0話 いつもの朝〜Humming Days〜 ③ (原作一話)

親として良いとこ見つけようと資料を漁る度にDQNちっくでフェアちゃんライくん一人負けな言動が目立つケンタロウさん マジ作者殺しです。
何で四人パーティー(チート二人)で、しかも水面鏡でケンタとメリアとエリカは団欒可能やねん……。ライくんなんかマトモな家族の思い出 餃子だけやぞ!?

関係ないですが昨日スーパーで買ったラム肉めっちゃ臭かったです。


 店に戻った私の仕事は席の掃除と花瓶や鉢植えの手入れだ。床や玄関の掃除はルシアンが。フェアはテキパキと朝食の準備こなし、リシェルはテーブルをトントンと叩いてその催促をする。

 

「ねぇ〜ご飯早く〜〜」

「はいはい、もうちょっとでできるから待ってて」

「マジ良い御身分だな。リシェルは」

「だって実際良い身分だしあたし〜」

「ぐぅの音も出ない」

「いや、そこはもう少し食い下がってよ。……はい、できたよ」

「待ってました!」

「いつも通り、やっぱり美味しそうだなぁ…!」

「ほら、ナオも一旦仕事置いt…ってもう座ってるし」

「もたもたしてるとリシェルに盗られるから」

「そこまで食い意地張ってないわよ!」

「三日前のおやつのあの蒸しパンは忘れない……」

「う……でもあの時はたまたま特にお腹がすいてたのよ!」

「八日前の朝のウィンナーも忘れない………」

「ちょっ……! 意外と細かいわねあんた…っていうかアレはちょっとしたおふざけみたいなもんでしょ!」

「はいはい! 下らない言い合いしてないで、さっさと食べよ。ほら、手、合わせて」

「……」

「いただきます」

「「いただきまーす」」

 

 今日のメニューは、自家製パンのトーストにスクランブルエッグと野菜スープ……と、牛乳(?)。どれも絶妙な仕上がりで私の舌鼓がボンゾ状態だが、特にトーストは外はサックリ中はふんわりの完璧な食感に、小麦の素朴な甘みと香りが広がるパン屋顔負けのクオリティーだ。おかげですっかり朝パン派になってしまった。

 

「美味し」

「ナオさん、いつもだけど食べるの速いね…」

「あんたも相当食い意地はってるわよね」

「否定はしない」

「フェアさんの料理美味しいもんね。街の人たちもワザワザここまで来るし。いつもお昼どきにはお客さんでいっぱいになってるんでしょ?」

「うんうん。それに、ただ味が良いだけじゃなくて、何か温かみも感じるし」

 

 本当に、この立地で商売できているのは奇跡と言ってもいい。このトレイユ、帝国旧街道の傍の山地の裾にへばりつくような立地をしている古い宿場町だ。街道は街から見て南東。当然、街の市がたつのも南東の門前とその付近で、経済的にも文化的にも人口的にも南側が中心だ。対して、この店は街の北端の更に外れ。不利どころの騒ぎじゃない。

 

「エヘヘ、煽てても何も出ないわよ?」

「えーっ! 何も出ないの!? 褒めて損した!」

「あんたねぇ……」

「ごちそうさま」

「ってもう食べ終わってるし」

「でも食器の音とか全然しないよね。パンのクズすら残ってないし」

「フェアは料理が得意で、私は食べるのが得意。……運命、感じない?」

「何言ってんだか…」

「でもそれ名案かも! フェアの旦那になれば毎日おいしい手料理食べ放題だもんね」

「逆に旦那ができれば、私らにこうしてご飯 作ってくれなくなるかも……?」

「それは由々しき問題ね。……そうだルシアン、あんたがフェアと結婚しちゃいなさい!」

「え……っ!? えええーっ!?!?」

 

ルシアンの顔が真っ赤に染まる。照れやすい性格というのもあるが、……どうやらフェアのことが好きなようだ。私は、リィンバウムに来て十日もすれば思い至ったのだが……肝心のフェアが全く気付いてないから哀れなものだ。

 

「どこの誰とも知れない奴に取られるより、あんたが旦那になればあたしもここに来やすいし」

「私も住み込み従業員続け易い。と言うか今と殆ど変わらずに暮らせそう。……あ、そういう時はちゃんと空気読んで出ていくから安心して?」

「……? …………!!!!」

「何言ってんのよ! ホント何言ってんのよ!」

 

だからこうして無茶振りするのは、実は二人の仲を応援しているからなのだ。……嘘だけど。

 

「何って、ねぇ?」

「夫婦といえb――」

「そこまでですっ!」

 

勢い良く玄関を開き、いまいち迫力の無い声で怒鳴り込んで来たのは、長い紫髪のメイドさん。

 

「おはようございますポムニットさん」

「おはよう」

「あ、おはようございますナオさん、フェアさん」

「朝から騒々しいわよポムニット」

「えう、申し訳ございませんお嬢様……じゃなくって!!」

「まぁそうイライラせんと。コーヒーでも飲んで落ち着いて」

「あ、ありがとうございます。……えうぅ、苦い………」

「ナオったら全然コーヒー入れるの上手くならないわねぇ」

「はい、お砂糖」

「ありがとうございます」

「ふふっ。ポムニットさんはかわいいなぁ」

「き、急に何言い出すんですかっ」

 

照れ隠しか、ぷいっと横を向いてティーカップを傾ける。

 

「アチッ……」

「ぷっ、ポムニット……」

「あはははっ」

「わ、笑わないでくださいまし…」

「ごめんなさい、フフ、いや、ナオさんと同じことしてたから」

「運命、感じますね」

「へぁっ!?」

「いや、あんたの運命安すぎでしょ! 何? その台詞気に入ったの?」

「あといちいちキメ顔で言うのが……クッふふ」

「笑わないでくださいまし」キリッ

「ブッファッ」

「それッ…フヒッ…反則………!!」

「ナオさん! からかわないでくださいましっ!」

「お許しくださいまし」

「もうっ! もうーー!!!」

「何をやっておるのだポムニット!!」

 

先程と同じく玄関が勢い良く開かれ、先程とは違ってなかなか迫力の有る声が響く。

 

「パパ!?」

「えうっ!?」

 

 テイラー・ブロンクス。リシェルとルシアンの父親で、金の派閥の召喚士。専門は機界。しかも街の相談役でこの店のオーナーでフェアの父親のこともよく知っているらしい。そして妻とは別居中。一部の意地汚い女性のみなさん、玉の輿を狙うなら今ですよ。

 

「リシェルとルシアンを連れ戻しもせず、自分も一緒になって馬鹿騒ぎしておるとは何事だ」

「はっ……! そうでした! …お嬢様、おぼっちゃま! 朝っぱらから勝手にお屋敷を抜け出した挙句に他所様の家で朝ごはんをいただいちゃって、あまつさえ旦那様に黙って婚約しようとするなんて言語道断ですよっ!」

「……お前は後で説教だ」

「ポムニットさんをあまり責ないであげてくださいまし」キリッ

「…………」

「アッハイスミマセン」

「ゴホン……それよりも、フェア、お前 何様のつもりだ?」

「………」

「雇われ店長の分際でうちの娘らに仕事を手伝わせるとは」

「それは違うわ!」

「そうだよ父さん! 僕たちが自分から手伝うって……」

「それに娘さんはほとんど仕事してないです!」

「……………」

「ホントスミマセン」

「…何を勘違いしているのか分からんが、当然お前たちにも後で説教だ。そして今は、こいつの店長としての心構えを問うているのだ。……フェア、お前とリシェルが幼馴染なのは不本意ながら認める。それに、リシェルがいい加減な性格をしているのも事実だ。だが、お前にもいくつか言わねばならんことが有る。私は、大人として毅然とした態度で生活するようにと、店を任せるときに言った。そして、それはお前も了承したはずだ」

 

要するにウチのバカ娘を甘やかさないでくれ、ってことか。

 

「……………すみません」

「…なんだ? その態度は。何か不満があるのか」

「……無いです」

「ふん、まったく……都合の悪いことを言われるとすぐ反抗的な態度をとるのは父親そっくりだな」

「わたしとアイツを一緒にしないで……!!」

「……っ」

「あんな、なにもかも放りだして他人に押し付けるような人間と……」

「………ふん、まぁ、よかろう。ならば働きによってそれを証明してもらうことにする。今日言ったこと、忘れんようにな。 帰るぞリシェル、ルシアン」

「はい……」

「……………」

「…早く行きなよ。また叱られちゃうよ?」

「……ごめん」

「気にしないで」

「フェア……」

「そう。リシェルらしくない」

「そうよね。……また昼にでも来るから」

 

いや、それは流石に自重しなさすぎだと思う。

 

「はぁ……急に来るからビックリしちゃった。テイラーさん」

「見事な八つ当りだった」

 

 そもそも、フェアの歳がこっちの世界では『一人前』とされる年齢だからと言っても、店を任せるという発想はおかしい。だいたい、この歳になったら働き出しはすれど、それは手伝いや弟子入りのようなものなのが普通だ。対してこの店では、年端も行かない若造が仕入れから調理から接客から何から何まで全部やらなきゃならない。私がいなかったら完全に一人だ。

 その上 他所の娘の素行にも配慮しろなんて無茶振りにも程がある。

 

「…でも、いままでなんだかんだで面倒見てくれたのはテイラーさんなんだよね。そりゃ、お金持ちなんだからわたし一人くらい余分に養ってくれてもいいじゃん、って思ったことは有るけど。……あの人もバカ親父に相当迷惑かけられたみたいだし、わたしのこと良く思ってないのも仕方ないかな………」

 

 バカ親父……度々話に出したが、主に反面教師としてフェアに大きな影響を与えている人物。フェアの逆鱗。冒険者(?)だったらしく、各方面に敵を作っては大暴れしていたという。

 フェアが五歳のとき、フェアの双子の妹であるエリカの病気の治療法を探すため、彼女を連れて旅に出た。そして、フェアはここに一人で取り残された。…私としては『病気の治療のために双子の片方だけ連れて旅に出る』というのが意味不明なのだが、ここは異世界……私の理解を超えた事情も有るのかもしれない。

 だが、問題なのは手紙もよこさないということ。よっぽどのクズか死んでるかのどっちかだろうけど、バカ強かったらしいからクズ説が濃厚。

 そしてそのクズっぷりは一人残されたフェアにも存分に作用した。まず、引き取り手が無かったこと。親が普通に人付き合いしていたなら、この平和な街のこと、引き取り手ならいくらでも出るはずだ。それが、ブロンクス氏が嫌々引き受けるしか無かったというのはどう考えても異常。次に、父親に恨みを持つ輩が仕返しに来たのが一度や二度じゃないということ。重大な事になる前にブロンクス氏が対処してきたそうだが、幼いフェアに与えられたストレスは計り知れないだろう。

 これらは全て聞いた話でしかないが、聞いた話の全てが汚点だというのは、フェアの父親がクズであると言う根拠とするには十分な事実だろう。

 これで実はいい人で、クズっぽい行動には深いワケが有ったとかだったら……それは、小説にでも書き起こして売ったらベストセラーになるんじゃないかな。

 

「……まぁ、だからってそのイライラをフェアにぶつけるのはお門違い」

「ナオがそう言ってくれるのは有り難いんだけどね。……はぁ。ちょっと気分転換して来るよ」

「あー、じゃ、芋の皮むきはやっておく」

「ありがと」

 

まだ朝だというのに疲れた足取りで、フェアは勝手口から出ていった。

 

 全く、バカ親父やリシェルほど奔放じゃ困るけど、もう少し開き直ってもいいのに。良い奴ほど苦労するってのはどの世界でも同じらしい。




説明に字数使い過ぎ感が有りますが、主人公が周りをどう捉えてるかを定めるのは重要なことだと思うのでこんな形に。それに、盛り上がってきてから『召喚術とは…』とか基礎的な説明しだしたらテンポ悪いですしね。


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第0話 いつもの朝〜Humming Days〜 ④ (原作一話)

今回で舞台説明が終わりました。原作一話の前半ですね。ちょっと説明がクドすぎる気がしますが。

次回から話が動き出します。竜の子誰にしようか。


 ワンランク上の朝食を求めてやって来た暇な老人やらちょいセレブやらで店が賑わう頃。私は裏庭で配達の準備をしていた。ボクスに連結されたリヤカーに積まれる大量の荷物。察しは付くかもしれないが、中身は弁当。こっちに来てしばらく経った頃に私が提案したものだ。種類は具沢山ホットドッグと牛丼モドキの二つ。

 仕事が忙しいとか身体がわるいとかで店まで来れない人向けの商品…という体の主力商品である。石工組合さんとかすごくオイシイです。

 

「ふぅ。量が増えるのは、売上的には良いんだけど……。さて、ルニア、おねがい」

 

日陰でアリを眺めていた少女が顔を上げ、トコトコとリアカーの前までやってくる。

 

「……ぇぃ」

 

そして、小さな声とともに両手を広げた。すると一瞬だけだが弁当箱が淡く光る。……これで防腐もバッチリだ。

 

「ありがと」

「……ぃぃょ…」

 

 ルニア…霊界サプレスから私が喚んだ、半天使半悪魔の子。無口だけど、私にはそこそこ懐いてくれている…はず。

 天使の祝福によって、風邪なんかの軽い病気の治療から今みたいな防腐まで万能に活躍してくれるかわいい相棒だ。そして、私よりもねぼすけ。どれくらいねぼすけかというと――

 

「………」シパッ

「うグッ」

 

仕事が終った瞬間 霊体化して私の中で二度寝するくらいだ。これで夕方ごろにやっと起きて、私が寝る頃にはまた眠る。

 サプレスの住人は、リィンバウムに存在するだけで結構な魔力を消費するらしい。だから、墓場や森の奥などの魔力が溜まりやすい場所に屯していたり、物や人間に取り憑いたりする。

 じゃあ、今私はルニアに憑かれてるのかと言えば、そういうわけでもないらしい。『私の中』と表現したように、精神世界(?)の中に入っているそうだ。よく分からないんだが、ルニア自身もなんとなくの感覚でやってることらしいし、霊界召還術専門の召喚士の知り合いもいないからどうしようもない。

 この入られる瞬間が、また独特な痛みを伴う。水面に体を打ち付けたときみたいな。……まぁ、仕事を手伝わせるだけ手伝わせて何の礼もしないのは心苦しい。どんなにルニアがおとなしいといっても、ギブアンドテイクは大切だと思う。だからこうして大人しく寝床になっている。

 

「行こ、ボクス」

 

眠たがりな私たちとは対照的に、不動で待機していたボクスに軽く声を賭け、出発する。

 …ボクスへのお礼としては できる範囲で手入れと改良をしている。喜怒哀楽が分からない…というより、感情が有るのか不明だから、ちゃんとお礼になってるか少し不安だけど。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「サンライトと秋風二つ」

「はい。サンライトエッグ一つに、秋風のパスタ二つですね」

「あ、クリーンと安らぎも」

「サンライトエッグ一つ、秋風のパスタ二つ、クリーンサラダ一つ、安らぎポタージュ一つですね。承りました」

「店員さーん、お水おかわり」

「はい。失礼します。……どうぞ」

「こっちの料理まだですか?」

「申し訳ありません。もうしばらくお待ちください」

 

 配達から戻ればそこから昼過ぎまではあっという間だ。朝食ラッシュの後片付けが終わったらすぐ昼の準備。準備が終わったら昼食ラッシュ本番。

 席数はそんなに多い方じゃないけど、とにかくメニューが豊富でその上 一人が多種の料理を注文することに繋がりやすい小皿系が充実しているせいでオーダー確認がかなり辛い。

しかも、アットホーム…と言えば聞こえは良いけど、端的に言ってしまえば客に遠慮がない。『○○の××抜き』とか、量の増減は当たり前。しまいにはメニューに無い料理を要求してくることもある。

 そして、フェアはそれら全てに出来る限り応じるスタンスだ。膨大な種類のメニューはそうして産まれたものでもある。そして、そういうサービス精神が、このふざけた立地で店をやっていける理由でもある。私はこのハードワークを甘んじて受けるより無いのだ。

『飲食系のバイトするくらいなら親に媚びる方がマシ』あっちの世界の知り合いが度々言ってたことだが、今更ながら共感できた。

 

 

「クッソお疲れ様でしたァ〜〜」

「ご苦労様」

 

 そんなワケで、朝食を食べてからここまでずっと働きっぱなし。朝と対照的に昼食は仕事の合間合間にサンドウィッチを摘むだけ。……いや、そのサンドウィッチもかなり美味しいから別に良いんだけど。

 

「そもそもなんで皆して真昼に昼ご飯食べるのん。別にもっとバラついても良いはず」

「仕方ないでしょ。そういうものなんだから」

「もっと朝起きてすぐくらいに昼ご飯食べても誰も文句言わない」

「とりあえず私が言うわ。…それ朝ごはんじゃない」

「朝ご飯は別に食べる」

「じゃあ朝ご飯と一緒に昼ご飯も食べるってこと? 朝からどれだけ食べるつもりよ」

「パンの切れ端とキャベツの芯」

「質素すぎでしょ。ちなみにどっちがお昼ご飯よ?」

「キャベツ。あ、でも今日のキャベツの芯はちゃんと貰ってきたもの」

「『今日の』って何よ『今日の』って」

「いつもはゴミ捨て場から拾ってくる」

「いや、益々おかしい。……と言うか、ちょっとした冗談を実話みたいに話すのやめない? なんか聞いててお腹痛くなってきた」

「うん。私もフェアが思ったより乗っかってきてちょっと戸惑った。しかもややこしい割にそんなに面白くない話だったから言ってて恥ずかしくなった」

「だったらやめとけばいいのに…」

 

 そして、逆に昼を過ぎてしまえば暇なものだ。夕食は家でゆっくり食べるという習慣があるようで、客も疎らになる。外で夕食をとるのはちょっと特別というか、気取ったことらしい。……飲み会は別だというが、あいにくこの店では酒は扱っていない。

 ウチでもお酒呑めるようにしたらもっと儲かるか…いや、仕事終わりにワザワザ坂登ってたら呑む気も失せるか。

 

 

「――しばらくお客さん来ないかなー…」

「だいたいそうだと思う。…いつもの?」

「うん。じゃあ……」

「店番は私がする。お客が来たら呼ぶ」

「お願いね」

 

フェアはぴょんと跳ねるように立ち上がって、店の裏に行った。

 この場合の『いつもの』というのは稽古のことだ。具体的に何の稽古かといえば…武術の色々だ。基本は剣術と体術だが、何と言ってもフェアはどの武器でもだいたい人並み以上に扱える。最近では、近くに潜伏していた盗賊団にリシェルがちょっかいをかけてしまって乱闘騒ぎになったときに活躍した。

 そして、ストレス発散の手段にもなっている。マナーの悪い客や悪質なクレーマーが来た後なんかは丸太をバルディッシュで叩き斬る姿を見ることができる。

 今 裏か聞こえてくる音は軽くてリズミカルだ。これは……双剣で吊り木でも叩いているのかな。だとしたら、今日は結構機嫌いいんだな。さっきもバルディッシュのことを言ったが、フェアは機嫌が悪いときほど重くて大きい武器の稽古をする。朝からブロンクス氏に小言を言われてたからちょっと心配だったんだけど、このぶんなら、あまり気にしてないみたいだ。

 

 客の居なくなったテラス席に座り、不味いコーヒーを飲みながらぼんやりと景色を眺める。中々リッチな気分になれるのだ。散々立地条件にケチをつけてきたけど、景色だけは良い。何と言っても坂の町の一番上の更に一段上だからな!

 

「だから客が来るのも早く分かるんよなぁ」

 

 昼なんか坂道を登ってくる人の流れが見えて、『いらっしゃいませ』も言わないうちからうんざりさせられる。

 今だってそうだ。坂を登ってくる三人の人影が目に入ってしまった。やれやれ。ヒトがせっかくゆっくりしてるっていうのに。

 リシェルなんて来ちゃったら何かしら忙しくなるに決まってるじゃないか。




この作品の方向性が決まりました。
『立地厨主人公』の『ほのぼのファタジー』で、テーマは『親愛』


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第1話 流れ星拾っちゃいました〜Welcome The Shootingstar〜 ① (原作一話)

二ヶ月も投稿が空いてしまって申し訳ないです。
竜の子はミルリーフに決定しました。恐らく次話で登場です。


「おっすーアタシが来たわよー」

 

 無駄に威勢の良い挨拶の主はやはりリシェルだった。親に怒られようが何だろうがこうしてやって来るのは、よっぽどフェアのことが好きだからなんだろうなぁ、と、微笑ましい気分になる。

 騒がしい奴が来た、という気分と大体プラマイ0だ。

 

「あぁ、来たなぁ」

「何よそのうっすい反応。もっと喜びなさいよ」

「お嬢様ぁ……朝もご迷惑をおかけしたのですから、もう少しぐらいしおらしくなさっても……」

「うるさいわねぇ。アタシは悪くないんだから反省なんて必要ないの。それより、フェアはどこ?」

「いつもの通り」

 

視線で裏庭の方を指す。

 

「まったく、店ほったらかして遊んでるなんて呆れるわね〜」

「リシェルに呆れられるなんて私もそろそろダメかもしれないわね」

「あ、フェアさん」

 

 裏庭の方からではなく店の中から現れた。どうやら、土間で軽く顔を洗ってきたみたいだ。

 

「お客さんが来ない時間だからやってただけよ。それにナオにも店番してもらってたし」

「バッチリ」

「バッチリお茶してたわね」

「コーヒーだが?」

「言葉の綾よ」

「『言葉の綾』って便利な言葉よな」

「だけど、すごいよねぇフェアさんは。どんな武器だってすいすいってキレイに操っちゃうんだもん」

 

私とリシェルの揚げ足取り合戦をルシアンが遮る。当事者の私が言うのも何だが、気苦労の絶えない子だなぁ。

 

「そ、そぉ……?」

 

そしてフェアは嬉しそう。全体の意味は無視して『キレイに』という言葉に反応してるっぽい。

 

「ホントよねぇ。大鉞もモーニングスターもぶんぶん力強く振り回しちゃって。剣に振り回されちゃうアンタとは正反対だわねぇ」

「う……」

「…………」

「力強いですねぇ」

 

リシェルお得意の余計な一言にポムニットさんの無意識の追撃。ルシアン君のフォローは見事に別の火種を産んでしまった。

 

「……言っとくけど、クソ親父に子供の頃から有無を言わせず叩き込まれたせいだからね。みんながお人形を抱っこしてる間、私は剣握らされてたんだから」

「自分の意思じゃなかった割には今でも続けてるじゃん。もっと女の子らしいことしてもいいのに。実は結構好きなんじゃないの?」

「しゅ、習慣だよ! やらないと何か調子が悪くなっちゃうの」

 

調教されてるなぁ……。

 

「それに気晴らしにもなるし。……あと、ちゃんと女の子らしいこともしてるからね! お裁縫とか、お料理とか」

「じゃあ最近何縫った?」

「……布団の端の解れ直し」

「得意料理は?」

「パイ包みシチュー」

「…お母さん」

「お母さん!」

「……」

「痛っ」

「ちょっと、叩くことないでしょ」

「あるわよ。これでもちょっと気にしてるんだからね!」

「だ、大丈夫ですよ。ステキなお母さんになれますよ」

 

ポムニットさん……それフォローのつもりなのか?

 

「あはは……。あ、そう言えばフェアさんって召喚術も使えるんでしょ?」

 

そしてまたルシアンの唐突な話題転換。このメンバーで話すと大体このパターンだ。何かもう様式美のように感じる程だ。

 

「まぁ、そこそこ…」

「そこそこも何も素質無いじゃん」

「無いことないわよ。四属性の召喚術全部使えるんだからね」

「そのかわりどれもしょぼいでしょ。……まぁ、呼び出すしかできなくて召喚魔術使えないナオよりマシだけど」

「いや、でも私も四属性全部使えるし契約の儀式もできるから素質は…」

「使える属性の数イコール素質じゃないのよ! 契約の儀式も術式さえ覚えてれば難しくないし。あーあ。どうしてこうアタシの弟子はダメダメなの」

「弟子だったんだ、私たち」

「そりゃそうよ。アンタたちに召還術教えたのはアタシなんだから」

「だからダメダメ」

「納得ね」

「………」

「で、でもでも! フェアさんもナオさんも、もっと練習すればきっと強い召喚獣も呼べるようになるんじゃない?」

 

本日三度目ということでルシアンは私の脳内ハットトリック達成だ。

 

「うーん、それはべつにいいかな」

「えー、どうして?」

「強いの呼んでもすること無い」

「別に研究者でもないしねぇ」

 

店の手伝いならそれこそルニアやボクスくらいの能力があれば十分だ。

 

「便利じゃん」

「便利って言っても多分、強い召喚獣ほど付き合いが難しいもの。やっぱりその辺は専門の召喚師の仕事だよ。エルゴで服従なんてのも性に合わないし」

「ホントはこれ以上強くなったらただでさえ縁のない男ドモが余計に引いちゃうからでしょ?」

「リシェル、サモナイト石に魔力を貯めて詠唱して召喚獣を出すのと拳を振り抜くの、どっちが速いと思う?」

「ごめん」

「まったくもぅ。わざわざ煽りに来たの?」

 

勢いのせいかフェアの言葉に少々刺が有るが……リシェルは淀みなく答える。

 

「違うわよ。アンタたちにはこれからちょっと付き合ってもらおうと思ってたの」

「別に良いけど、どこに?」

「散歩よ、散歩。町の外まで星を見に行くの。ナオも良いわよね」

「どっちでも良いけど、何でワザワザ外まで?」

 

ここから眺める夜空と仄かな街の灯りも中々趣のあるものだと思うのだが。それに、町の外ともなるとちょっと危ないかもしれないし。

 

「何か姉さん、そういう気分なんだってさ」

「気分ねぇ……」

「年頃の女の子にはそういう時間も必要なのよ」

「そういうものなの?」

「私には分からない」

 

星を眺める若者なんて天文部と中二病患者ぐらいじゃないのか?

 

「あのねぇ……朝にも言ったけど、仕事に稽古、仕事に稽古の繰り返しばっかりで何の刺激も感度も無く過ごしてたらあっという間におばちゃんっぽくなっちゃうわよ。ナオなんかおばちゃん通り越しておばあちゃんっぽいじゃない。すぐ眠くなるし反応薄いし」

「何でリシェルは息吐くように毒吐くのん?」

「……確かに、そう言われるとちょっとは刺激も必要かも」

「突然の友軍攻撃で私の心はボロボロ」

「ナオもさっき私のこと『お母さん』って言ったでしょ」

「じゃあさっさと準備して出発するわよ!」

「うぇ〜い」

「はいはい、分かったわよ」

 

 その準備というものがなかなか物騒で…。

 ここまで触れなかったがルシアンは片手剣と盾を装備しているし、リシェルはロッドと…恐らくいくつかのサモナイト石を持っている。それも私が喚ぶような小型のモノではなく、レーザーや回転刃くらい付いてるそこそこの危険度のモノ。そしてフェアも使い慣れた剣を腰に提げて来るだろうし、私もフットマンズフレイルを担いで行く。

 これらは盗賊とかならず者を撃退するためという意味も有るが、そもそも寄せ付けないための威嚇でもある。

 

「お留守番は私めにお任せくださいまし」

「よろしく。ポムニットさん」

 

 程なくして私たちは店を後にしたのだが……『名も無き世界』の常識を持つ私には、若者の気分転換というより武装集団の遠征のように見える。やっぱり日本ってすごい国だったんだなぁ、と、改めて実感した。




主人公の口調忘れてて大変でした。


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第1話 流れ星拾っちゃいました〜Welcome The Shootingstar〜 ②  (原作一話)

お嬢様実況スレ楽しいです。お嬢様たちがスポーツ観戦してるのを想像しながら見てると微笑ましいです。中の人はやきう民だけど。

三日以内に投稿しようと思っていたのにまた妙に時間かかりました。そしてセリフがくどくなり過ぎ感が。反省。


「いい風が吹いてるね」

「うん。気持ちいいね」

 

 町の南端の門を潜って街道に出たとき、ちょうど日が沈んで星が現れ始めた頃だった。遮るものの無い一面の草原を吹く風は、おかしな表現かもしれないけどいかにも風らしい感じがした。ルニアも嬉しそうにフワフワと飛んでいる。

 

「やっぱり、違う世界」

「……」

 

ふと呟いた一言なんだけど、フェアは申し訳なさそうな顔をする。気を使わせてしまったか。

 

「ふーん…ナオの元いた世界ってこういうの無いの? 何か暮らしにくそうなところね」

「……無いことはないけど」

 

日本だと富良野とかに行けば似たような景色が見られるだろうか。

 

「何か前々から聞いてる話だとロレイラルみたいだね。名も無き世界って」

「そこまで機械化されてないけど。……確かに、私に馴染み深い"夜"は星よりも電灯」

 

虫だらけになった自販機とか。

 

「電灯ねぇ……なら夜でも外で遊び放題よね」

 

そうでもないけど…たしかにこっちの世界じゃ野球のナイトゲームなんかできないよな。アレは遊びじゃないけど。

 

「あーあ。ちっちゃかった頃はこの時分でも平気で遊び回ってたのに。むしろ少し暗くなった方がワクワクするくらいでさ」

「それでホントにすっかり暗くなっちゃって誰かさんが泣きべそかいたりね」

「う、うるさいわね! あのときはもっとうんと小さかったから仕方ないのよ!」

「何その話詳しく」

「その日は何故か丿っちゃって町全体を範囲にしたかくれんぼしてたんだけど、調子に乗って外に――」

「あーーー!! あーー!」

「リシェルうるさい」

「で、でもスゴイよねぇ。その時もフェアさん凄く落ち着いてたもん」

 

おお、さすがルシアン。下手に話題を変えずにフェアを褒めることでリシェルの恥を晒す流を変えようとしてる。

 

「まぁ、どーせ家に帰っても真っ暗で一人だしね。リシェルたちといる分マシだったのよ」

 

そして特大の地雷を踏み抜いていく。

 

「だからパパが大嫌いなのよ。フェアが夜中一人ぼっちって知ってて放ってたんだもん。家に連れていったら露骨に鬱陶しそうな雰囲気出してたし」

「しょうがないよ。こればっかりは」

「何がよ」

 

フェアの言葉にリシェルが噛み付いた。リシェルは普段高飛車で我侭だけど、こうやって他人のために熱くなれる良い奴でもある。度々迷惑をかけられ、うるさい奴だと思っている私だが、なぜか根本的にリシェルを嫌いになれないのはこういう理由かもしれない。

 

「うちのダメ親父がテイラーさんや町の人たちに迷惑かけてたからだよ。それだけじゃない。ぜーんぶダメ親父のせい。あんな辺鄙なところじゃなくて町の中に住んでたら店ももっと楽だったはずだし、貯金や家畜の少しでも残してくれてれば良かったんだよ。それなのに残ってたのは色んな人からの恨みだけ。やることなすこと私のためになった試しが無いんだもん。この腕輪を見る度つくづくそう思うわ」

 

そこまで続けざまに言ったフェアは、軽く右腕を上げて言葉を切った。

 

「親父のこと思い出すんなら外せば良いじゃん」

「そう言えばその腕輪ずっと着けてる」

 

記憶を辿れば、寝起きでも風呂上りでも腕輪を着けている姿が思い浮かんだ。

 

「好きで着けてるワケじゃありません。…外れないのよ。コレ」

「へぇ……って、ええー!?」

 

突然ルシアンが出した声にルニアがビクッと数センチ飛び上がった。…、元から飛んでたけど。

 

「え、そんな驚くこと?」

 

腕輪とかが外れなくなるとか、たまに聞く話だと思うのだが。テレビとかだと興味本位で局部にナット嵌めたら抜けなくなったとかいうファンキーな事故も紹介されている。確かに、ここにはテレビやラジオは無いが、その分腕輪とか足輪とか、ファンタジックなアクセサリが身近だ。となればそのアクセサリに関するトラブルも当然頻繁になるはずで、そんなに大声をあげることでもない気がするんだけど。

 

「ナオは知らないでしょうけど、あの腕輪ってフェアのパパが旅に出るときにくれたものなのよ。……それで、そのときからずっとなんでしょ?」

「うん。一度も取れてない。ま、ゆとりが有るから服とか着るのにも邪魔にはなってないけど」

「そういうことよ」

「あぁ……納得」

「ちょっと待ってよ!? それ、おかしいよ!? だって、小さい頃から身につけてたんでしょ? 成長したら大きさが絶対合わなくなるはずなのに……」

「しかも、ゆとりは残しつつ手首は抜けない絶妙のサイズ」

「にも関わらず、なぜか常にぴったりの大きさのままなのよ…。壊して外そうにも鋸くらいじゃ傷もつかないし」

「不気味ね…」

「お守りとかなんとか言ってた気がするから、ショボいなりにも何かの魔力が有るのかもね。夜でも微妙に光ってて寝るときとか鬱陶しいし」

「おかしな呪いとかだったりして」

「言わないでよ……真剣にそう考えたこと有るんだから」

「……なぁ」

「ん?」

「腕切り落として腕輪抜いた後回復魔法でくっつけたらどう? それか手首から先ちょっと潰して―とか」

「ええ……」

「何か、アンタが魔天使喚べた理由が分かったわ」

 

発言の意味は分からないが、何だか引かれた気がする。良い案だと思ったんだけど……と、私とルニアは首をかしげるのだった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「うわぁ……すごい星………」

「こういう場所で見ると迫力が全然違って見えるね」

「これは……」

 

 頭上だけではなく真横にも星が広がり、夜空に包まれているような気さえする。最新式のプラネタリウムでもここまで見事な星空は作れないだろう。そして、それがホンモノの世界にあるという事実が人を感動させる。

 星見の丘……その名の通り星を見るには絶好の場所だ。

 

「ふふん。どう? 来て良かったでしょ」

「うん……」

 

どうやらこの星空は"現代人"の私だけではなくフェアも魅了したようで、すっかり上の空だ。

 

「ねぇ、ナオ」

 

と、リシェルが悪戯っぽい笑みを浮かべながら耳打ちする。

……そして私は一瞬で理解した。

 

「ん、何? あれ」

「どうしたの? ナオ」

 

ちなみに別に何もない。ただの演技だ。

 

「いや、何か……ちょっと見てくる」

「え、なになに? アタシも行く」

「あんまり遠くにいったらダメだよ」

「分かってるー」

 

ルニアもついてきて、ルシアンとフェア二人を残してその場から少し離れるかたちになった。

 

「いやー、理解が早くて助かるわ」

「その辺は自信アリ」

「まったく、弟がああもヘタレだと苦労するわ」

 

どの口が苦労とか言うのか、とは思うがここでは口に出さないでおく。

 

「今回だって、フェアを元気付けるために星を見に行こうって言い出したのはホントはルシアンなのよ。なのに『恥ずかしいから絶対言わないで』なんて」

「自分が自分が――ってのも良くないけど、主張が無いのも」

「アレよねぇ。コレで気の利いた一言でも言えれば良いんだけど」

 

二人の様子を見てみたが……

 

「ダメダナ(・✕・)」

「はぁ……そわそわもじもじしちゃってまぁ。乙女か」

「フェアの方は全然意識してないのがまた……」

「フェアもああ見えて守られたい願望持っちゃってるからねぇ。良くてかわいい弟分にしかならないか。こりゃチャンス作ってあげるよりそもそもイチから鍛えなおさなきゃいけないわね」

「結婚させるって本気か」

「そりゃ見ず知らずの男連れて来られて『結婚する』なんて言われるの、ちょっと想像できないもの」

「へぇ」

 

……何かリシェルも友情とは別の何か抱いてないか? これ。

 

「まぁ、今のところは祈るしかないわねぇ。……あ、いいところに流れ星!」

「ん? って、え、多くない?」

「流星雨よ! キレイねぇ……」

 

綺麗は綺麗だが……ちょっと何かヤバい雰囲気を感じるのは私だけ?

ほら、何か空気揺れてるし、スッと消えないし、どんどん近付いてるし………!!

 

┣"ゴゥンッッ

 

「ぬっ!?」

「きゃぁっ!?」

「姉さん! さっきの……!」

「間違いなく落ちたよね、今のは……」

 

流れ星は私たちの頭上を通り越して、丘の外れに落ちたようだ。薄く煙? ……土埃? がたっている。

 

「行ってみましょ!」

「ちょっと、リシェル!」

 

 じっとしていられないと言わんばかりに駆け出したリシェルの後を追って走ると、それはすぐに目に入った。

 

「うっひゃあ……派手に落ちたもんねぇ」

 

その辺の家程度ならすっぽり収まりそうなクレーターが出来ていた。周りの草も放射状に倒れていて、その衝撃が窺い知れる。

 

「町に落ちてたら大惨事」

「って言うかもう少しズレてたら私たちがぺしゃんこだったね…」

 

縁起でもないことだけど、事実だ。

 

「結果的に私たちには落ちなかったんだから、どっちでもいいのよ。今はこの状況を楽しみましょ! ……て、早速面白いことが!」

「ちょっ、姉さん、危ないってば!?」

 

またも駆け出すリシェル。今度はクレーターの縁までなんの迷いもなく近付いてしまった。

 

「ほら、見てよあれ!」

「あれって……? ……!!」

「えぇ……」

「流れ星、だよね?」

「でも、どう見ても卵よね」

 

 クレーターの中心にあったソレ。……リシェルの言うとおり、確かにいわゆる卵形の、人の頭程度の大きさの何か。卵と言い切れないのは……

 

「七色に光る卵って有り得るの? あんな光見たことないよ……」

 

脈打つように明滅しながらオーロラのような光を放っていること、

 

「それよりあの衝撃で割れてないのは……」

 

砕けた岩に半ばめり込むように鎮座しているその姿が原因だ。

 卵というより何か危険な鉱物を含んだ魔術的なアレっぽい。若しくは卵にしても侵略的な宇宙怪獣辺りの。

 

「フェア、アンタちょっと行って見てきなさいよ」

「ええっ!? ……気になるんだったら自分で確かめれば良いじゃない」

「何言ってんのよ。自分で行くのがイヤだからアンタに言ってるんじゃない」

「ぐう聖リシェルネキ、失踪。ぐう畜リシェカス発見される」

「何語よ」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

「何よルシアン……って、ええ!?」

「う、動き出した!?」

「さっきより光が……!」

「ぁゎゎゎゎゎ」

「と、とりあえず伏せろぉっ」

 

どんどん光が強く大きく膨らんでいく。これはもうダメかもわからんね。

 と、思ったが、私が予想していたようないわゆる爆発とかそんなことは無く。急にしゅんと縮んで消えてしまった。

 

「なによ、びっくりさせないでよね」

「ねぇ、見てアレ」

「ん? …これは……」

 

そして、クレーターの中心にはさっきまでとは別のモノが。

 

「もしかして、竜?」




そう言えばセブンスドラゴンの2次を書こうと思ってハーメルンに来たのになんで書いてないんでしょう。


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第1話 流れ星拾っちゃいました〜Welcome The Shootingstar〜 ③ (原作一話)

この時期まだ蚊が居るんですねぇ。今朝起きたら足の裏とか四箇所ほど噛まれてました。

投稿速度倍にしようとしたら内容量が半分になってしまいました。キリが良かったから仕方ない……?


 卵型の謎物体に代わってクレーターの中心に現れたのは、これまた謎の生物だった。身体から光を放っていて、細かいところはあやふやだが、トカゲっぽい全体に角や翼?が有って、フェアの言うように竜の子どもに見えないこともない。

 

「竜って……あの、すっごく強い召喚獣の?」

「そう考えればこの派手な演出(?)も納得」

「確かに、魔力は十分だけど……」

「その辺はなんだっていいわよ。ほら、チチチ……っ。おいでおいでーっ♪」

「えっ」

 

またこの娘は考え無しなことを……。

 

「ピギィッ♪」

「お……」

 

それまで不思議そうにぼんやりと周りを見回していた竜の子は、リシェルの声に振り向いて嬉しそうに一声鳴いた。

 

「飛んだ!」

 

……と言うより、浮いた?

 

「ピギャ、ピギャ♪」

「あははっ、かわいーっ! 甘えてきてるよ」

「ヵヮィィ…」

「確かにかわいいけどさぁ……」

「あ、光消えた」

 

 体表から発せられていた光が収まり、形がハッキリする。思ったより鱗っぽくない、どちらかと言うとスベスベとした質感をしていることを除いては、なるほど、確かに竜の子だ。

 

「ピィ」

「うん、こうして見るとますます竜の子ってカンジよね」

「そうかなぁ、何か、ピンク色だし女の子っぽい感じ」

「じゃあメスの竜なんじゃないの? 良かったじゃん。オスの竜より大人しいかもよ」

「え、飼うのん?」

「え、当たり前じゃない?」

 

理解できないことが理解できないという表情。

 

「あのねぇ……このコは竜なんだよ? 犬や猫と同じように飼ったりなんてできっこないって!」

「そんなのやってみなくちゃ分かんないじゃないのよ!」

「やってみてダメだったら?」

「えっと…」

「それに、捨てられて行き場が無いとかだったらしかたないけど、このコはそうじゃないんだよ。どういう事情かは分からないけど、卵で落ちてきたんだよ。今頃親が捜してるかもしれないわよ」

「でも結局今居ないじゃん。それに…じゃあ、アンタたちはこんな生まれたばっかの赤ちゃん放っぽって帰るワケ?」

「ぬ……」

 

リシェルらしからぬド正論に思わず言葉が詰まる。ここで『見捨てる』と宣言できるほど私は冷血じゃない。

 

「それは――」

「ピギイィッ!!」

「何!?」

 

 さっきまでの大人しさとは打って変わってフェアの言葉を遮り突然けたたましく鳴いた竜の子。その視線の先を見ると、暗がりに何やら動く影が複数人。

 

「…この場から離れた方が良さそう」

「……そうだね」

 

不穏な空気を感じ取った私たちはすぐさま町へ引き返そうとしたんだけど……

 

「………」

 

まぁ、すんなり帰してくれるってことも無く。

 

「あなたたち、誰?」

 

現れたのはやはり複数人の男たち。それも、変に整った装備をした怪しげな一団。いや、こうして少年少女の前を通せんぼして取り囲んでいるんだから『怪しげ』じゃなくてストレートにアウトな一団だ。

 

「その竜の子をこちらに渡してもらおうか。それは、我らのものだ」

「ちょっとちょっと、いきなりやってきて何言ってんの!?」

「……さすがに何言ってるのかは理解できるけど――」

「アンタはこんな時でも揚げ足を……」

「――ちょっと喧嘩腰過ぎやしませんかねぇ?」

「そうだよ。そんなそこらの野盗より剣呑な雰囲気出されてちゃ信用できるものもできないじゃない。あなたたちがこのコの保護者だって言うなら、まずは挨拶の一つや説明が有っても良いと思うんだけど?」

「何で『我らのもの』と言い切れるのか、ならどうして空から降ってくるようなことになったのか。……帝国軍人でもない人間が何でそうデカい顔してご立派な武装してるのか」

 

 野盗は普通、いわゆる一般人より小汚い格好をしているものだ。偶に小金持ちで装備を整えているゴロツキも居るが、それはそれで自分の好きなようにカスタマイズするため、上半身に比べ貧弱すぎる下半身装備だったりと歪な武装になる。ましてや仲間同士で装備を揃えるなんて有り得ない。

 だが、コイツらは違う。皆、頭の天辺からつま先まで同じ暗い灰色と曲線のパターンで統一された明らかに上等な鎧を身に着けている。よく見れば、剣や斧なんかの武器も同じだ。どう考えても何かロクでもない団体さんだ。

 

「………」

「わわっ!?」

「け、剣なんか抜いて、なんのつもりよっ!?」

「もう一度だけ言う。その竜の子をこちらに渡せ!」

「それしか言えんのん? アホなん?」

「こっちはまず事情を説明してって言ってるじゃないの!」

「そうですよ!」

「…………」

 

男は尚もこちらの言葉に応えず、脅すようにジリジリと近付いてくる。

 

「ふーん……話すつもりは無いってことなんだ?」

「フェア」

「うん。とりあえず、コイツらには渡さない」

「それが良い。話もマトモにできんヤツらが竜なんか手に入れたらどうせロクなことにならない」

「……よこせっ!!」

 

どうやら本当に話にならないバカだったらしい。

苛立った男は竜の子を抱いているリシェルに襲い掛かる。

 

「きゃあああっ!」

「ッ……!」

「な……っ!?」

 

力任せに振り降ろされた剣だったが、リシェルに届くことは無く。割って入ったフェアにしっかりと防がれていた。

 

「今、殺そうとしたわよね……??」

「ぐ……っ」

「どんな理由があるか知らないけどね……ここまでされちゃ、じっとしてられないわ……ッッ!!」

 

剣を止めた姿勢からの強烈なショルダーチャージ! しかも身長差のせいで男の鳩尾を抉るカタチになる。うわぁ……コレはエゲツない。大の大人が吹っ飛んで尻もちをついた。

良いぞ。もっとやれ。

 

「く…っ! ……始末しろっ!!」

 

そして相手はその情けない姿勢のまま仲間に指図する。それでもしっかり従うのだからこの軍団は侮れない。

 

「…畜生以下には変わりないけど」

「絶対好きにさせるもんですか!」

 

 かくして私たちは怪しげな集団と真っ向からドンパチすることになったのだが……そこで私はとりあえず目の男が立ち上がる前に脚を殴り潰しておいた。相手は殺す気で来てるから残当。




竜の子の服ってどういう仕組みなんでしょう……


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第1話 流れ星拾っちゃいました〜Welcome The Shootingstar〜 ④ (原作一話)

文章量を増やしたら執筆時間が長くなりました。くそう。時間当たりの文章量は変わらないようです。
バトルシーンをテンポよく描写する方法誰か教えてくれませんか。


 突如として変な集団と対峙することになった私たち。相手はジリジリとこちらを囲むように展開していく。

 

「リシェル、戦力は?」

「家からこっそり持ち出した召喚石が二つ!」

「威力は」

「ガードの上からでも十分よ」

「ならソレを軸に――ッ!?」

「召喚なんぞさせるかよッ!」

「く……っ」

 

最速で突っ込んで来た大斧兵の攻撃を、フェアが何とか受け止める。だが、予想外の俊敏な動きに少し体制が崩れた。

 

「ルニア!」

「……!」

 

私の声に反応し、ルニアは瞬間的に宙に消える。

 

「……ふはっ?」

 

それと同時に男は膝から崩れ落ちる。気を失ったのではない。脚の『霊体』をルニアが弾き飛ばしたのだ。

 この技の原理は簡単なもので、単に霊体化したルニアが男に体当たりしただけ。その結果精神とか気とかそういうスピリチュアルな力だけが普通に体当たりされた時のようにノックバックし、体当たりされた部分が無意識状態になる……というものだ。頭や手先など意識が集中しているところとか内蔵機能や反射など元々無意識な動作とかを止めることはできないが、今のように中々役に立つもので何かあったらとりあえず出すようにしている。

 

「らッ!」

 

そしてフェアが隙を逃さず押し返した。

さらにもう一丁、リシェルの一撃!

 

「ドリルブロー!!」

「ぐぎゃっ!!!」

 

トンネルでも掘る気かと言いたくなるようなドリルを装備した召喚獣が真正面から撥ね飛ばした。

……うん。地面に押し付けてすり潰したりしない辺りすごく有情。

 

「ふふん。ざまぁ無いわね」

「あと5人だね……!」

「……やっぱり普通のゴロツキじゃない」

「うん……。基本がしっかりしてる。こっちも気を引き締めて行くわよ」

「う、うん!」

「ルシアン、援護よろしくね」

 

今度はこっちの番だと言わんばかりにフェアが駆け出し、ルシアンが続く。

 

「リシェルは敵が射程に入ったら召喚魔法で仕留めて。私が突っ込むからナオは全体の補助を!」

「任せて!」

「ボクス」

 

隊と離れて回り込むように布陣してきた一人に差し向けるのは安心と信頼のボクス先生。普段の優秀さは戦場でも発揮され、呼び出した次の瞬間には男たちを敵と認識し上部の蓋を開いて銃口を露出させた。

 

「クソっ! 召喚士二人とは厄介な…」

「一斉突撃だ! 前衛二人を速やかに突破し召喚士を仕留める」

「させないっ!!」

「ぐおっ! ぐ……このガキ!?」

 

今度はフェアが相手をたじろがせる。

……そう。フェアは油断さえしてなければ真正面から大の男を押さえ込めるんだ。

 

「せいハッ!!」

「ガ………ッ」

 

横薙ぎの剣の一瞬後にさらに外側から捩じ込む上段回し蹴が、剣裁を受け両手が塞がった相手の顎を刈り取った。男は敢え無く撃沈。残り四人。

 

「くぅっ…!」

 

一方ルシアンは残念ながら突破されたようで…。

 

「オォォオォッ!!」

「ちょ、」

 

リシェルが召喚魔法で迎え撃とうとするも微妙に間に合わない。ここでも私のフォローが光れ(願望)。

 

「んっ」

「……」

 

再びルニアが向かっていく。だけど『走る』という小さな頃から身体に染み付いた行動を止めるのはルニアだけでは荷が重い。

 

「スワンプ!」

「ぬあっ!?」

 

『喚び出すだけ』なら召喚魔法より数段速い。

取り出したのは獣界の緑の召喚石。卓袱台程もある六本足の亀の召喚獣『スワンプ』が相手の足下に現れた。

 コレにはさすがに相手も脚がもつれて地面に倒れ伏す。準備の整ったリシェルがそこに止めの一撃。

 

「チェンボル――っ!?」

「……フンッ!」

「!?」

 

リシェルの声を遮って男の野太い声がしたと同時に視界が黒く遮られる。

 

「何??」

 

煙玉か……?

ただでさえ夜で光量が少なかったのを、煙でさらに遮られて完全に周りが見えなくなってしまった。

 

「グッ…退却! 退却だ!」

 

そのまま散り散りの方向に逃げる足音が聞こえ、煙が晴れた頃には私たちしか居なかった。脚を潰したヤツとか気絶したヤツとかはどうしたんだろうか? 仲間が担いで一緒に逃げたんだろうか。

 

「ケホっケホっ! か、勝ったの……?」

「そうみたいね……」

「煙幕に毒が仕込んである可能性も」

「何でアンタはそう縁起でもないこと言うかなぁ」

「と、とくに気分悪くなったりしてないし、大丈夫よ。……多分」

「当たり前よ」

 

何が当たり前なのかは私には分からないけど、とにかくリシェル的には大丈夫なようだ。

 

「それよりもルシアン、アンタ何あっさり突破されてんのよ」

「うぅ……ごめんなさい」

「しかたないよ……向こうの方が随分と身体が大きかったし」

「アンタはそんな奴相手に鮮やかに一本とってたけどね」

「………」

「………」

「それにしても何だったのアイツら? 妙にキッチリしてたけど」

 

爆弾を投下していくスタイルは例え謎の集団に襲撃された後でも変わらないらしい。頼もしいんだかそうでもないんだか。

 

「分かんないよ……。でも、一つ二つ向こうの町かそれよりも遠くから来たんでしょうね。あんな連中の噂、聞いたこと無いもの」

「何にせよロクでもない」

「そうだね……。この子を任せていい相手じゃなかったよね」

「ピギィ……」

 

竜の子がリシェルの腕を抜け出してフワフワと浮かび上がる。

 

「え、なに? この子、私にすりよってきたりして……」

「フェアさんが守ってくれるって分かってるんだよ」

「ピィッ!」

「この中から迷わずフェアを選ぶとは…意外と抜け目ないわね」

「確かに」

「何言ってんのよ」

 

単純な刷り込み現象ならリシェルに懐くはずだ。だけど、この竜の子はフェアに懐いた。…ということはこの中で一番強くて面倒見の良い人物を正確に見抜いたということだ。

 

「…ちょうどいいわ。その子はアンタが面倒見なさいよ」

「えぇっ!?」

「連れ帰るまでは予想できたけど、こうも丸投げとは」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。こんなにかわいいの、アタシだって自分で飼いたいわ」

「でも、ウチじゃ父さんが…」

「竜の子なんか見たら絶対『ほぅ……』とか言って汚い笑顔浮かべて次の日には出荷してるんだから!」

 

それはブロンクス氏の人柄を改悪しすぎでは……。

 

「それに、フェアさんと居る方がこの子も安心できると思うし……」

「そぉそ。こんなにアンタになついてるのよ…?」

「ピイィ」

「う……っ」

 

あぁ…あの上目遣いはフェアじゃ耐えられないだろう。

 

「おねがいっ!」

「っ……はぁ。…手放すときになって駄々捏ねないでね?」

「……ってことは?」

「しょうがないから私が面倒見るわよ。でも、あくまでもこの子の親が探しに来るまでだからね!」

「やったぁーっ♪」

「ま、それ以上も無茶言えないか」

「リシェルが自重した…」

「うるさいわねぇ……」

「はいはい、騒いでないでもう帰るわよ」

「ピギャァっ♪」

 

  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 リシェルたちといつもの溜池で別れ、家についたのは月がもう空の真ん中を通り過ぎた頃だった。道理でナオがやたらあくびをするワケだよ。

 腕の中で眠っちゃってた竜の子をとりあえず私のベッドに寝かせてから、明日の朝の仕込みもあるからすぐに台所に向かう。明日も仕事だ。私にどんな変わったことがあってもお客さんには関係ないのよねぇ。

 

「お疲れフェア。竜の子は?」

「うん。ベッドに寝かせといた」

「…はぁ、コレは明日は寝坊確定?」

「あーあ、今日もちょっと遅かったのに…。……それにしてもナオ、やっぱり戦いのとき落ち着いてるね」

「いや、うーん…落ち着いてはないけど。割と心臓ドキドキしてるし。でも慣れて…慣れてはないけど見慣れてると言うか……」

「……?」

「名も無き世界に『ゲーム』ってのが有るん。この場合は『テレビゲーム』かな」

「げーむ…」

「そ、簡単に言えば、ルールがキッチリしたゴッコ遊びで物語を体験する機械」

「ゴッコ遊びねぇ…」

「名も無き世界に魔法は無いけど名も無き世界のゲームの世界には魔法も妖怪も大戦争も有るから。私くらいの年の子なら魔法で戦うとか戦略立てるとかは寧ろこっちの人より経験豊富だと思う。何日も不眠不休で戦い続ける人も居るらしいし。私も五.六回は世界救ってる」

「でもさ、ゴッコ遊びはゴッコ遊びでしょ? 実際に経験するのとじゃ感覚が違うでしょ」

「確かにその辺は。『ゲームと現実の区別』はよく言われること。……ただ、最近はFPSというものが有りましてね、体力さえ付いてくれば……ね。特に私のジョブは筋力が要らないサモナー」

「へ、へぇ……」

(もしかしてナオって実はかなり尖った人なんじゃ……?)

「あぁ、そう、ゲーム的には今日みたいなのはたいてい大波乱の幕開け」

「えっ」

「そんでフェアがもし男の子だったら竜の子が可愛い女の子に変身して更に二.三人の女の子がやって来てモテモテになる」

「何よそれ……」

 

 こうして私は竜の子と暮らすことになった。悪いヤツらを倒した高揚感も有ったし、何よりひとりぼっちの竜の子をほっとけなかったから。それに今までも面倒なことはたくさん経験してきたから。

 ナオの意味深な言葉もその時は冗談だと軽く流したんだけど……結局は言った通り大騒動になっちゃったんだから私の人生はとことん普通と縁遠いのかもしれない。




スワンプとボクスはサモ2をプレイしてるときに特にお世話になった召喚獣です。


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第2話 この子どこの子、迷子の子?〜You Little Dickends〜 ① (原作二話)

お久しぶりです。失踪なんてしてませんよ?
しかし久しぶりに書いたせいか主人公のキャラがまたブレた気がします。おちゃめになり過ぎた感。
まぁ良いですかね。主人公がかわいいに越したことはないですし。


「いったぁあああああぁぁぁぁぁいっ!?!?」

 

「んぬぁっ!?」

 

 乱闘から一夜開けて。疲れもあって夢も見ないほど深く眠っていた私だったが、フェアの素っ頓狂な絶叫で飛び起きることになった。

 

「うゎ……ヨダレ」

 

うつ伏せに寝ていた口元があった部分には小さなシミが。疲れて寝た日は顔の筋肉が緩んでいるのかこういうことがあるから嫌だ。

 

「枕カバー洗わな……んぉ」

 

起き上がろうとした私を筋肉痛が襲う。ちくしょう……慣れない草原なんか歩くから――

 

「ナオっ! ナオー!」

 

ドアの外から大声。

あぁ、そうだった。フェアが珍しく騒いでるんだった。

 

「どうしたー?」

 

緊急の用みたいだからスポブラの上に軽く羽織りものを着て出る。

 

「ナオっ! なんかわたしの部屋に女の子が寝てて!」

「え、ん? ……へー………?」

「思いっきり噛み付いてきて……ほら、歯形が」

「その子はかわいかった?」

「えっ? うーん、まぁ、かわいかった……わよ?」

「じゃあそれは夢」

「………何それ?」

「ある日突然可愛い女の子が……って、ね」

「いや妄想とか冗談じゃなくて、本気なんだって」

「まぁ見てみないと」

 

 私もお約束的な感覚で茶化したけど、まるっきり信じていないのかといえばそうではない。可愛いかどうかは別として、私自身突然異世界に来た身だし、召喚獣には可愛い女の子の姿のモノも当然居る。そしてルニアもそうだが霊体化して壁抜けとかもザラにあるだろう。

 私とフェアの温度差はどちらかと言うと『そんなに驚くことなのか?』という疑問に起因する。

 

「え、そ、そうだね。来てっ」

 

とはいえこっちの世界の住人であるフェアがこう慌ててるんだ。このようなことは珍しいことなんだろう。許容範囲の広がり過ぎた私の中の常識を一度引き締めなきゃいけないかな。

 なんて考えてるうちにフェアの部屋の前。

 

「じゃ、開けるよ」

 

 何かを覚悟するように一呼吸置いて扉を開け、中に入る。

うん。拍子抜けするくらい平和な普通の部屋だ。

 

「………」

 

しかし当のフェアは緊張したようにベッドに近づいて……布団をバサリと取り払った。

 

「……うん」

「…………」

「……かわいい子だね」

「…………」

「かわいい竜の子」

「…………」

「いい時間だし顔洗って仕事始めよ」

「……うん」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「よっし、行こう」

「うん……」

 

 結論から言えば、フェアは寝ぼけていただけだった。フェアの部屋にいたフェア以外の存在は竜の子だけで、歯形はねてる間に自分でつけたものと決着した。

 

「おーい、フェア」

 

と、玄関から出て少しのところで手を振る影。

 

「グラッド兄ちゃん」

「グラッドさん、おはようございます」

「おはようございますナオさん」

「わざわざ店の前まで来るなんて珍しい」

「いえ、何か騒いでる声が聞こえたもんですから」

「あぁ、さっきの大声で」

「それで見にきてくれたの?」

「ちょうど溜池のとこまできてたしな。それにここは町の外れで男手もないし、何かあったら大変だろう。見回りのときはなるべく気をつけるようにしているのさ」

「なるほど」

「そうだったんだ……。……って、それ、わたしの声が溜池まで聞こえてたってこと!?」

「溜池どころか街中に届いたんじゃないか?」

「この時間は静かだし、ここは町のてっぺんだし」

「うえぇ……サイアク………」

「ドンマイとしか言いようがない」

「あはは……。ま、慌てて来たけどどうも俺が出る幕じゃなさそうでしたんでこうして外で待ってたんですけど。……一応話だけでも聞こうと思って。フェア、何があったんだ?」

「……言いたくない」

「?」

 

こちらに向けられたグラッドさんの目が『どういうことですか?』と語りかける。

 

「フェア……私が代わりに有ること無いこと事細かに面白おかしく話そうか?」

「優しげな仕草と声でろくでもないこと言わないでよ」

 

不服そうに私が肩においた手をはらう。

 

「……話すけど、笑わないでよ?」

 

――――

―――

――

 

「うん。じゃ、俺は見回りの続き行ってくるから」

「喋らせておいてそれは酷くない?」

「そうだな……一つ言うとすれば………フェア、それはただの夢だったって分かってるんだよな?」

「う、うん」

「なら、いいんだ……」

 

うわ、すっごい爽やかスマイル。

 

「ヒドい」

「ナオさん、コイツも色々苦労してるんで、悩み事とか相談に乗ってやってくださいね」

「はい。私にできることは」

「今まさに心にキズができてるんだけど?」

「はははっ……まぁ、切り替えて今日も頑張れよ。じゃあな」

 

グラッドさんは軽く手を振りながら爽やかに去っていった。いやぁ、爽やかな好青年だ。爽やかすぎて逆にモテなさそう。

 ……さて、ソレは置いておいて。そろそろ本当にいい時間になってきてしまった気がする。

 

「……私らも行こ」

「………」

 

……いい時間だけど機嫌は最悪だな。

 

「拗ねてる?」

「別に」

 

ぷいっと顔を背けられてしまった。かわいい。……じゃなくて、ちょっとイジり過ぎたかなぁ。

 仕方ない。

 

「……見て見て、面白い顔」

「アンタねぇ――……ブフゥッ!? うははははっ! ちょっと! 本気で面白い顔はやめてよっ」

 

良かった。どうやらツボにハマったらしい。

 

「自信作」

「自信作って言うか……フフッ………子供が見たら泣くけどね 多分」

「そしてお嫁にも行けない」

「分かってるならやめなさいよっ!」

「機嫌直してくれた?」

「分かった、分かっ↑たから」

「直してくれた?」

「あー、もう! 直したから変な顔で近付かないで!」

「『変な顔』とか……傷つく」

「えぇっ!? そっちから面白い顔したんでしょ!?」

「でもさっきの言い方は傷ついたな」

「えっ、えー、じゃあ、ごめん……? ……ってなんでわたしが謝る流れになってるのよ。おかしいでしょ」

「バレたか」

「『バレたか』って……はぁ、フッ………もう良いわ。さっさと野菜貰いに行きましょ」

「うん」

「…………ぶふっ」

「え、何?」

「い、いや、思い出し笑――アハハハッッ! ちょっとその顔で待ち構えてるのホント無理ッ!!」

「え? なになに?」

「回り込まないでっ! もう! その顔禁止だからっ」

「ええー」

「えー、じゃないわよ。……もぅ、ふふ、無駄に疲れたわ」

 

 フェアも機嫌を直してくれて、平和な一日が始まる。

昨日は『事件の始まりかも』なんて言ったけど、これからもこうしてバカな話をしながら暮らせれば良いな。




ナオの変顔の再現方法
①顎をしゃくれさせる
②片腕を後頭部から廻し、人差し指と薬指をそれぞれ上瞼に引っ掛ける
③もう片方の手の人差し指と中指を口の両端にそれぞれ引っ掛ける
④両手で顔を上下に開くように引っ張る(この時口も下顎を突き出すように開く)

レッツトライ!


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第2話 この子どこの子、迷子の子?〜You Little Dickends〜 ② (原作二話)

早い!けど短い!
何かオチがついてしまったので投稿です。
何か同じことの繰り返ししてる感が強いです。
まぁ、読者のみなさんから苦情がきたらもっとサクサク進むようにしましょうかね。


 朝の騒動そのままのテンションで喋りながら歩いていたらいつの間にかミントさんの家に着いていた。

 

「あれ、ミントお姉ちゃんいないね」

 

たしかに、いつもならこの時間は作物の世話をしているはずのミントさんの姿が見えない

 

「あ、向こうにいた」

「ん?」

「ほら、納屋」

「あぁ」

 

フェアが指さす先の小屋の戸が半開きになっていて、中からゴソゴソと音がする。

 

「おはよー」

「おはようございます」

 

私たちの声の少し後、肥料か何かの袋を抱えたミントさんが顔を出す。

 

「ふぅ…、おはようフェアちゃん、ナオさん。リシェルちゃんたちもおはよう」

「え? 私とナオの二人しかいないよ?」

「あ、そうだったんだ? 賑やかな話し声が聞こえてたからリシェルちゃんもいるんだと思ってた」

「ふーん……」

 

フェアが珍しくなにやら意地悪な笑みを浮かべた。

 

「つまりリシェルは騒がしい、と」

「あー……そういう………」

「え!? 違うよ!? ナオさん、違いますよ! そういう意味で言ったんじゃないですから」

 

人のいいミントさんのことだから、からかったら良い反応をするんだろうとはなんとなく思ってたけど――

 

「いいのよお姉ちゃん。リシェルがうるさいのは事実なんだから」

「何か理解したみたいな雰囲気を出すのはやめてぇ〜」

 

こうまで反応が良いとは。自制していかないと無意識に弄ってしまいたくなりそうなほどだ。

 ホント、良い人って大変だな。

 

「ふふっ……分かってますよ」

「だから、違うんですっ」

「そっちの意味じゃなくて、お姉ちゃんがリシェルのことバカにしたわけじゃないって分かってるってことだよ」

「え? そうなの?」

「すみません。少しからかいました」

「実は朝イチでグラッド兄ちゃんにからかわれちゃってさ。なんかわたしもやってみたくなっちゃって。……ナオが瞬時に便乗してきたのは予想外だけど」

「『ふーん』でもうピーンときた」

「もぅ……びっくりさせないでください。……あっ。……はぁ…フェアちゃんもナオさんもそんな人だとは思わなかったです。失望しました」

「………」

「………」

 

さっきのは……下手くそ過ぎて一瞬分からなかったけど、私達を引っ掛けようとした……のか?

 

「…………」

 

やっぱりそうみたいだ。『スベった……』って顔してる。

 

「……だってもう『あっ』って言っちゃてますもの」

「お姉ちゃん顔真っ赤……」

「言わないで……」

 

 あざとい……あざといけどそれ以上に

 

「かわいいです」

「かわいいよ」

 

 これが女子力か。

おっぱいデカくてパツキンで色白な上にリアクションも可愛いんだもんなぁ。ホント会うたびにモテる要素を見せつけられるな。

 

「あ、あぁそうだ! フェアちゃんはどうやってグラッドさんにからかわれたの?」

「げ」

「それはですね――」

「そ、そうだ! わたしお姉ちゃんに訊きたいことあったんだ! 竜の子供ってなに食べるの?」

 

そしてこの話題転換合戦。

 

「え? 竜の子供? 確か雑食のはずだったから特別なエサじゃなくても、それこそ私たちの食べるものと同じもので構わないと思うけど」

「へー、肉食とかじゃないんですね」

「竜というのは特別な生物なので……食物連鎖の絶対王者とも言われていて、むしろ竜か否かの分類に、好む食物は有れど『雑食性か』が含まれてるんです。……でも、どうして急にそんなことを?」

「……実は昨日の夜、リシェルたちと星見の丘に行ったとき 竜の子を拾っちゃって」

「……うーん」

 

困惑した……いや、どうやって否定の意を伝えようかと思案する表情。

 

「そんなに珍しいんですか?」

「獣界の上級、機,鬼,霊の三界の最難の研究分野ですから、さすがに」

 

 何かよく分からないがかなり凄いものだってことは分かった。

その辺で拾えるなら苦労しないってことか。

 

「なにか別の……メイトルパのトカゲ型召喚獣とかの可能性が高いと思うんだけど……」

「でも飛んだり光ったりしたよ?」

「そうだとしたら竜かもしれないね。……うーん、やっぱり自分の目で確かめてみないことには何とも言えないわ。リシェルちゃんたちと相談して、一度ここに連れてきてくれる? 竜の研究は専門じゃないけど、分かることも有ると思うから」

「うん、わかった。……じゃあ、お野菜とってくるね」

「私はちょっと資料を引っ張り出さなきゃだから……これで」

「うん。迷惑かけちゃってごめんね」

「ううん、全然迷惑なんかじゃないよ。私も興味あるもの」

「ありがと」

 

 ミントさんと別れてさらに庭の奥へ。

いつも通り水場で野菜が冷やしてある。

 

「ムイムイッ」

「おはよー。オヤカタ」

 

 フェアとオヤカタか何か話し始めた(?)ので私の方はその内にボクスを召喚しておく。私には二人……うん、面倒だから二人でいいや。とにかく、オヤカタの言葉(?)が分からないから話に入っていけない。

 

「今日の野菜も立派なもんだ……」

 

しかも個数もたくさん。ちょっとこれを積む作業は一人では面倒くさそうだ。話してるとこ悪いけどフェアにも手伝って――

 

 振り返ると、オヤカタといっしょにちょうちょを追いかけているフェアの姿が目に入った。

見なかったことにした。




女キャラでは
一番女子力高いと思うのはミントさん
一番付き合いたいのはアカネ
一番愛でたいのはアプセット
一番可愛がりたいのはミルリーフ
一番見た目がエロいのはアロエリ
一番雰囲気がエロいのはポムニットさん
一番結婚したいのはフェアちゃん


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第2話 この子どこの子、迷子の子?〜You Little Dickends〜 ③ (原作二話)

一人でやるスマブラは楽しいです(真顔)

サモ4二次は話しの辻褄合わせが最大の難関だと思います。
そして相変わらず安定しない主人公。もう安定しないキャラで良いですかね……?人は変わるものって言いますし(白目)。


 ミントさんの家で話が出たせいか、今更ながら竜の子の様子が気になってきた。坂を登る足も自然と速くなる。

 

「おっそーい! まったく、どれだけ人を待たせるつもり?」

「来てるのはリシェルの勝手でしょ」

「しかも冷静に考えればリシェルの方がいつもより遅い」

 

 店の前で待ち構えていたリシェルの開幕理不尽をいなしながら土間に野菜を運び込む。

 このとき使うのは玄関ではなく土間直通の出入り口。この店に六ケ所ある出入り口の一つだ。

 

「ぶつぶつ言わないの。ほら、さっさともどってあの子のゴハン作ってあげなくっちゃ!」

「はいはい……」

「ルシアンは?」

「中で先に掃除始めてるわ」

「ふーん……」

 

姉と違ってよく働く弟だ。

 

「あ、おかえりなさい」

 

なんて思っていたら本人登場。

 しかしフロア側からではなく勝手口入ってすぐ右の戸……つまりフェアの部屋から出てきたのは少々問題だった。

 

「………」

「………」

「えっと、どうかしたの?」

「……なんでフェアの部屋から?」

「え? ……! ち、違うよ!? 竜の子を見てただけで何も変なことは……っ!!」

 

私とリシェルの、訝しむというか…蔑むような目で状況に気付いたらしい。手の動きとか表情とか、いろんなところがワチャワチャと忙しなく動いて本人の動揺っぷりを表す。

 

「ホントかしら……」

「……竜の子はフェアのベッドの布団の中で寝てた………つまり竜の子を見るということは必然的に――」

「えっ、いや! たしかにそうだけどでも……っ」

「グラッドさん呼ばなきゃ……」

「悲しいなぁ……」

「ちょっともう……二人ともやめたげなよ。ルシアンがそんなことするわけないでしょ」

 

 ここでフェアの制止が入る。

 するわけないにって断言されるのも男として辛いところがあるんではないか、とは思うけど。

 

「私は気にしてないから、ね?」

「う、うん……」

 

 リシェルは少々残念そうな顔。不思議に思って後で訊いたら『多少強引でもルシアンのオトコの部分を意識させようと思ったのに』と言っていた。しかしルシアンがそういうことを意識してフェアの部屋に入れるとは思えないから、ルシアンが戸から顔を出した瞬間に思いついたリシェルの完全なアドリブだったんだろう。その演技力には感心するけど、その本気さに若干引きもした。

 

「ピィ…ピァァ……」

 

 ちょっとしたことが片付いたところで丁度よく竜の子の欠伸のような鳴き声が。

 

「さて、あの子も起きたみたいだしさっさと支度してごはん作っちゃいましょ」

 

――――

―――

――

 

「…ケプッ!」

「お腹いっぱいになったかしら」

 

 まず私たちの食事の縮小版みたいなものをペロリと平らげた竜の子はその後私の目玉焼きを強奪し、ルシアンのパンを噛み千切り、フェアが急いで持ってきたウィンナーを次々消費した。全くもって素晴らしい食い意地だった。

 

「ピィッ♪」

「うーん、ちいさいのにたくさん食べるよねぇ。自分の体重くらいは食べたんじゃないの?」

「これお腹ギュッてしたらどうなるん」

「怖いこと言わないでよ」

「でも、たしかにこれだけおなかパンパンになるまで食べるなんてすごいよ」

「育ち盛りなんだよ」

 

 自分も被害に遭ったにも関わらず優しく竜の子を撫でるルシアン。……これがおぼっちゃま特有の余裕か………。

 

「いっぱい食べて早く大きくならないとね」

「そうね、広場にある門くらいの大きさは欲しいところだわ」

「欲しいところって……そんなに大きくしてどうするのよ」

「どうするもこうするも大きい方がカッコイイじゃない」

「あのねぇ……そんなに大きくなったら面倒見きれないって」

「極端な話、こっちの面倒だけ考えれば今の大きさがちょうどいい」

 

 まず食料。今でも一人前以上は軽く食べるんだ。それが大きくなれば……あまり考えたくはないが一日につき大型動物一匹くらいは覚悟しなければならないだろう。像なんかは一日に何キロの食事だったっけか……。

 いや、食事の問題はある程度大きくなれば自立してくれるかもしれないけど……そもそもデカい竜が中や周りをうろついてる料理屋なんて閑古鳥どころの騒ぎじゃないだろうな。もし賑わっているとすればそれは昨日みたいないざこざだろう。

 

「てゆーか、真面目な話 この子のこと、この先どうしようか?」

「どうするって……」

「面倒みるのがイヤって言ってるんじゃないよ。ただ、もしリシェルの言うように大きくなっちゃったら、本当の親が探しに来なかったら……。先のことまで私たちがちゃんと考えてあげないと」

「ピィ?」

「だったら……あんたは、どうすればいいって思うのよ?」

「それがはっきりしてたら苦労しないよ」

「とりあえず、ミントさんには明日の早朝にでも見てもらうことになってる」

「今日の昼とかじゃダメなの?」

「昨日の夜のことも有るし、下手に見せびらかさない方が良いだろうから」

 

 下衆な話だが売るもよし研究するもよし…バラして何か薬の材料にするというのもあるかもしれない。軽く罪を犯してでも欲しい輩は多いだろう。

 

「専門じゃないらしいから安泰とはいかないだろうけど、方針は立てられると思う」

「ピイィ……」

 

 心なしか竜の子の鳴き声が申し訳なさそうに聞こえた。

 

「……でも、一番不安なのはこの子だもんね。どうするにせよこの子がしあわ――」

「おじゃまいたしまーす!」

 

 話をぶった切ってポムニットさんの元気な挨拶。

将来を考えるのもいいが…直近のことを忘れていた。何の案も無いうちからあの臆病で気の弱いメイドさんに竜の子の存在がバレてしまえば出荷ルート直行だ。

 

「やばっ!」

「ルシアンっ! あんた、その子を隠しなさいっ!!」

「ええっ!?」

 

 心優しいが鈍くさいルシアンくんの性質はここでも発揮され、リシェルから受け取った竜の子のやり場に困っていつものようにワタワタしている。

 

「私に」

「ピっ♪」

 

 それに痺れを切らした私は竜の子を半ばひったくるように受け取って――

 

「ああ、やっぱりここにいましたか」

 

急いでスカートの中に隠した。

 

「お、おはようっ! ポムニットさん!」

「おはようございます。……? どうしたんですか? なにやらぎこちない感じがしますけど」

 

……失敗した。脚の根本…はっきり言ってしまえば股のところに猫くらいの生き物を入れているんだ。ものすっごい違和感が……。

 

「昨日に引き続きリシェルがこの二人の縁談を進めようとしてて」

 

受け取った瞬間にはもう戸が半分開いてたから仕方ないとはいえ……。スペースを確保するために座面から太腿を浮かせてるのも地味にキツいし……。

 

「!?」

「ええっ!?」

「まぁ嘘だけど」

「あ、あぁ! 嘘ですかぁ。……ふぅ、驚かせないでくださいまし」

 

 鳴き声を上げたりすることなくおとなしくしてくれてるのは助かるけど、モゾモゾしたりスースー空気が………ちょっと待ってコレ臭い嗅がれてる……っ!!?

 

「……? どうしました? ナオさん」

「眠い」

「……そういう感じには――」

「それで! ポムニットさん、リシェルを探してたみたいだけど……?」

「あ! そうですそうです! お嬢様――」

「分かってるわよ。お屋敷に戻れって言うんでしょ?」

 

 うあぁぁぁあぁぁぁ噛むな噛むな噛むな舐めるなっ! ソレは食べ物じゃないっ!

 

「分かっているのなら最初からおとなしくなさっていてくださいましっ」

「そんなの無理ね! ポムニットだって知ってるでしょ?」

「開き直らないでくださいっ!! えうぅ……っ」

「悪かったから、ね? ポムニットさん、ほら、もう帰るから」

「えう………っグスッ………それと、もう一つ要件が」

「何?」

 

 吸 う な ッッ!!!

 

「!? どうしたんですかナオさん!? 急に机に頭突きなんてっ」

「眠い」

「えぇぇぇ???」

「ナオがよくやる眠気覚ましだよ。気にしないで、ポムニットさん。それより……」

「え、ええ。……フェアさん、実は、旦那様がお呼びなのですよ」

「わたしを?」

「はい。お昼のお仕事の後で、お屋敷までおいでくださいまし」

「どうせまた利益がどーとかこーとかケチつけるつもりね」

「……はぁ。でも、実際ケチの付けどころがあるんだから仕方ないのよねぇ」

「が、頑張ってね……」

 

 私にも労いの言葉をください………。

 

「さ、お嬢様、ぼっちゃま」

「じゃ、また来るから」

「朝ごはんごちそうさまでした!」

「それでは、ごきげんよう」

 

 遠ざかる足音の後、バタンと戸の閉まる音。

危機は去った……か。

 

「ピィッ♪」

 

 スカートから出た竜の子は何事も無かったかのように機嫌良く鳴いた。

この子が悪いわけじゃないことは分かっているけどやっぱちょっと腹立つな……。

 

「大丈夫? なんかグッタリしてるけど……」

「訊かないで」

「えっ?」

「訊かないで」

 

 古典的な言い回しだが、犬に噛まれたとでも思ってさっさと忘れたい。




竜に噛まれて犬に噛まれたと思うと言う矛盾。


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第2話 この子どこの子、迷子の子?〜You Little Dickends〜 ④ (原作二話)

先生トイレ(小学生並みの主張)

サモンナイト6、コケそう。

さて、今回は朝〜昼をさっくりカットで迷子へ直行です。


 リシェルたちが帰ってからはいつも通り大忙しで働き通し。その間竜の子はフェアの部屋に居てもらった。タイミングを見てお昼もあげたし、スワンプとボクスが相手をしてやるように計らったけど……仕事が終わって戸を開けた瞬間私たちに飛びついたのを見る限り、不満はあっただろうな。

 

「ピィッ」

「よしよし。…って言ってもわたしはまたすぐ出なきゃいけないんだけどね……」

「あぁ、ブロンクス氏の……。その間私が面倒見とく」

「ん。お願い。あと、おやつ作っといたから。台所に置いてる」

「それはこの子に? それとも私に?」

「ふふっ……両方ともに、よ」

 

 そう言うと竜の子から手をはなし、サッとエプロンを外した。

 

「さーて、覚悟決めて行こ…うっ!?」

 

そしてテラスから出かけようとしたフェアだったが、思わぬ妨害が入る。竜の子が足にまとわりついているのだ。

 

「ピィィ………」

「靴に噛み付いたりなんかして……行くなってこと?」

「若しくは『連れてけ』か。好かれてるねぇ」

「それは良いんだけど、行かないわけにはいかないし、連れてくのもちょっと……」

「ピィッ! ピッ」

「そんなに騒いでも…珍しい見た目してるんだから、下手に連れ歩くと危ないの。また昨日の夜のやつらみたいなのに狙われたくないでしょ?」

「せめてミントさんに相談するまではなー……」

「そうよね……」

 

あくまで何かしら分かる前提で、だけど。

 

「ピィィっ」

「むぅ……ナオ、お願いねっ」

「んー。……ほら、私が相手するから」

「ピ……」

 

 私が抱き上げたら大人しくはなったけど、手足をダラーんと垂らしてなんとも残念そうな顔をしている。

 

「じゃ、いってきます」

「いってらー」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 かくして私と竜の子は留守番をすることになったんだけど…竜の子のテンションは依然として低かった。おやつを食べている間は機嫌良くしていたが、他はどうも……なんかちょっと凹む。フェアほど頼りがいがあるわけじゃないけど、私もちゃんとお世話してあげるつもりだったのになぁ。何回か軽く脱走を試みたあとは拗ねたように眠ってしまった。

 暇になってしまったが、かと言ってこの子をおいて離れると…もしその間に起きたときに大変だ。しかたないからなるだけ急いでと何冊かの本を持ってきた。もちろん…と言うべきかは微妙だけどこっちの文字で書いてある本だ。主に言葉の勉強のため、分からない単語や慣用句のメモを取りながら読んでいる。話す分にはほぼ完璧に分かるから、英語や中国語なんかの外国語より漢字とかの国語の勉強に近いかもしれない。

 ……『話す分にはほぼ完璧に分かる』………不思議なことだ。召喚の術に翻訳は有る。だけどそれでは腑に落ちないことも多々あった。

 例えば『ハイテク』という言葉。大分前の話になるが、私が初めてリシェルの機界召喚術を見て『意外とハイテク』と言うと『ハイテク、って……?』と返された。『ハイテク』とは文明(技術)が高度なこと。意訳的には『機械技術が高度(効果的)に利用されている』ことだ。だから、もし翻訳の術が施されていたならそのときの私のセリフは『意外と機械的』とでも聞こえた(?)はず。でも、相手には意味不明な『ハイテク』という"音"がそのまま伝わった。

 それに文章も……あくまで日本語の理論で説明できる範囲だ。文字を入れ替え、単語を並べ替えただけような。

 不思議なことだ。名も無き世界とリィンバウムの言語については他にも気味が悪くなるような疑問点がいくつもある。たまたま似た世界なのか……。もしかしたら、私のようにトばされてきた人がたくさんいるのかもしれない。それとか、時間まで超えて過去のリィンバウムにトんだ日本人がここの人類の始祖だったり。

 そんなことを考えながら読んでいるからリシェルに無理やり貸し付けられた小説の内容はあまり頭に入っていない。内容は入っているけど全然感情移入してない、の方が正しいか。何か女の子が恋を叶えるために頑張っている話だけど……うん。軽い言葉で書かれていて日常生活に直に使える言葉を学べる点では良い本だ。

 

「ただいまー」

「おかえり」

 

 四分の一ほど読み進めたところでフェアが帰ってきた。両手には荷物が抱えられてる。ついでに買い物も済ませてきたみたいだ。

 

「こんにちは」

「さー、おチビちゃんはどこ?」

 

そして手伝いで荷物を持っているルシアンと手ブラのリシェル。うん、いつも通りだな。いつも通りのあつかましさ。

 

「そこで寝てる」

 

 本を片付けながら視線で隣の机の上の竜の子を指す。一応こっちの注意もしていたのだ。……そのせいで余計に本に集中できなかったけど。

 

「ふーん…丸まっててかわいいわね」

「起こしたらかわいそうだし、あまり触っちゃだめよ」

「分ーかってるって」

 

なんて言いつつしっかり触りにいってるんだから。

 

「ナオ、それ読み終わったの?」

「いや、まだ途中」

 

そう言えばフェアもこの本を読んだこと有ったんだっけ。

 

「ふーん、どこまで?」

「列車事件のところまで」

「あー、あそこかぁ。わたしそこで飽きちゃったんだよね」

「あんまり分からないけど結構盛り上――」

「えっ」

 

急にリシェルの素っ頓狂な声がして振り返ると、リシェルが何か変な姿勢で固まっている。

 

「どうしたの? 姉さん」

「……なんか」

「『なんか』?」

「なんか触ろうとしたら竜の子消えた……」

 

何言ってんだこいつ。




言葉の問題についてはUXで考察があったかもしれませんがスルーしていきます。


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第2話 この子どこの子、迷子の子?〜You Little Dickends〜 ⑤ (原作二話)

午後の紅茶、紅茶と思わなければ意外と美味しいです。

さて、今回はけっこう難航しました。難航した結果短い上に文章の纏まりもないので後々書き直すと思います。
竜の子を探しに出て主人公はあまり役に立たなかったという内容だけ理解していただければ十分です。


「『消えた』……?」

「う、うん……」

「消えた…………『消えた』って何よ!?」

「何って言われたってそのまんまよ! 触ろうとしたら蝋燭の火みたいに消えちゃったのっ!」

「なんでよ!?」

「あたしにわかるわけないじゃない!!?」

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いてっ!」

 

言い合いになった二人をルシアンが止めようとするも、そのルシアン自身の声にも狼狽が滲み出ている。

 

「落ち着いて、一旦座ろう? ね?」

「落ち着いてる場合じゃないでしょっ!」

「……………怒鳴り合ってる場合でもないわ。大きい声出して悪かったわねリシェル」

「…っ……う、うん」

 

 リシェルは拍子抜けした様子で口を数度パクパクさせた後、いかにも不完全燃焼という態度ながらもとりあえず席についた。

 

「……うーん、落着いたところで何か分かるでもないんだけどね」

「そりゃ、消えるとか意味分かんないもん」

 

 ルニアとかもよく消えたりしてると思うんだけど……アレは魔天使だからノーカン…? それとも消え方の違いか? とにかくこの世界の常識と非常識の境が分からないからこの辺の議論には参加できないな。

 

「――嘘じゃないわよ! ホントに消えちゃったんだからっ」

 

それにしても、何かと騒ぎを起こしてくれるなぁ……あの竜の子は。

 

「別に嘘だなんてもう言って――ってどうしたの? ナオ」

「いや……」

 

 なんとなく手持ち無沙汰になって竜の子がいたはずの机に向かう。

 現場を調べないことには何も始まらないしな。……何の仕掛けもその跡も無い、本当に何の変哲もない机だけど。

 

「冷たい…」

 

仕掛けどころか竜の子がいた痕跡すら無かった。

 

「え?」

「竜の子の体温で温もってない」

 

 竜の子は小型動物の例に漏れずけっこう体温が高かった。この世界の、このケースでどれだけ通用する理論かは自信がないけど……温もってないってことは、ずっと前にその場を離れていたってことになるんじゃないか?

 

「じゃあ、そこに居なかったってこと?」

「『居なかった』って、ナオさんもずっと見てて、姉さんもついさっき触ろうとしたんでしょ?」

「幻、とか?」

 

もしくは分身? どちらにしても術者が離れても消えないなんてかなり高度なんじゃないだろうか。……あくまでゲームとかでのイメージだけど。

 

「竜ってそんなこともできるの?」

「知らないけど……。それより、じゃああの子、どこ行ったんだろう」

「フェアのあと……とか?」

「私の……」

「フェアが出かけた後も何度か…脱走未遂というか何というか。私がとめたんだけど」

「それでそのままじゃ出られないと思って幻を?」

「寝たフリまでして」

「抜け目ないわねぇ〜……」

 

ホントにな。

 

「ってことは、あの子は外に…町に出たの?」

「それは分からない。……色々探しに出ないと」

 

 ちゃんとフェアの後を追えていたならまだ簡単なんだが……そこが不確かだ。もしかしたらブロンクス氏の屋敷の方に居るかもしれないし、真逆の北の森に行ったかもしれない。町に居たとしても、町の中のどこかも分からない。

 

「もしかしたら迷子になって……攫われちゃってるかもしれない」

「そんならないように早く手分けして探すのよ!」

「一人はここに残った方がいいわよね。戻ってくるかもしれないし」

「ルシアンお願い。私たちで探してくるからっ」

「う、うん!」

「リシェル、ナオ! 行くわよ!」

「言われなくてもっ!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 さて、町まで出てきたものの……

 

「どう探したものか」

 

 とりあえず私は町の中央通りから西、フェアは中央通り付近、リシェルは東と別れたけど、そこからどう探すかが問題だ。

 

「手がかりが無いものな……」

 

 モノがモノなだけに、聴き込みなんかはなるだけしたくないし。いや……『桃色のトカゲみたいな召喚獣』って言えば良いか? 竜は非常識で俄には存在を信じられないものみたいだし、これなら竜のことが広まらずに情報を集められるかも……。ヘタしたら"竜の"目撃者を減らせるかもしれない。

 

「お! 弁当のネェちゃんじゃん。何やってんの?」

 

と、いいところに何人かの子供のグループが。

 そうか…そう言えばここは私塾の近くだったな。

 

「ちょっと探しものを。この辺でトカゲみたいな召喚獣見なかった?」

 

 私塾というのは個人が開いている教育機関で、公的な学校に比べてフットワークが軽いのが特長だ。日本でも江戸後期から明治時代なんかはかなり盛んで、当時の世界的に見ても高度な平均学力を作り上げるのに一役買っていたらしい。ちなみに、その時代の教育機関として有名な寺子屋と微妙に違うらしいけど、私はその違いを知らない。

 ここ、トレイユの私塾の塾主はセクターという元軍人の男性だ。足が不自由らしく、杖をついて歩いている。まぁ、この国では軍人はほとんどの場合 軍学校で教育を受けるエリート職らしいし、そのツブシとして教育者というのはよくある話だそうだ。その中でもセクター先生は物腰が柔らかく丁寧な指導が評判……らしい。

 私はこの前話しかけたら露骨に会話を切られたからそうは思っていない。嫌われてるだけかもしれないけど(身に覚えは無いが)。

 

「見てねー」

「さっき授業終わったばっかりだから……」

「……そう」

 

……さて、本題の方はソッコーでアテが外れた。

 

「じゃあ何かのついででいいから探してみてくれる? 猫くらいの大きさの、桃色のトカゲみたいなカタチしてるから」

「うん!」

「分かったー」

 

 とりあえず協力だけ頼んでその場を離れる。ハズレだと分かった以上、今はさっさと次に行かないと損だ。

 

 その後も会う人会う人に聞き込みをしたが全然情報が挙がらない。これは……もしかして店のときと同じように幻使ってたりするのか?

 

「そんなに逃げたいか……」

 

 もう、そこまでして見つかりたくないなら探してやらない方が良い気がしてきた……。

 

「でもそうも言ってられない……」

 

 諦めてたらリシェルにドヤされるのはもちろんだが、フェアも頑張ってるだろうし。……フェアが頑張ってるからって私も頑張らなきゃならない決まりも無いけど。

 

「探しもの……捜索………あっ」

 

捜索と言えば警察犬投入だ。匂いからのアプローチは良い手かもしれない。

 

「でも犬……」

 

 犬がいない。

召喚獣……は……天使と箱と亀か………。亀って鼻良かったか? まぁ、一か八かだ。

 

「スワンプ」

 

魔法陣が輝き、本日二度目の登場。

 

「昼間相手したあの竜の匂いを辿ってくれる?」

「………」

 

私の話を聞いた後、のっそり向き直って歩き始める。

…一応翻訳の術は掛かってるはずなんだが……ぼわ〜っとしているから不安だ。

 

「………」

「………」

 

…………しかも歩くの遅い……!!

 

 ごめんフェア……私は戦力になれそうにない。




一般的にペットとして親しまれている亀の嗅覚は割と鋭いようです。


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第2話 この子どこの子、迷子の子?〜You Little Dickends〜 ⑥ (原作二話)

バレンタインデーですね。手作りチョコを用意するのは面倒なので体をプレゼントしてきます。

さて、話の方は竜の子発見まで進みます。ナオは表裏のある娘。


「……どうだい?」

 

 肉屋のおばちゃんが期待と少しの不安を込めて見つめるなか、ソーセージをゆっくりと味わって咀嚼する。……パリッと張り詰めた厚めのケーシングから、しっかりした旨みと仄かな甘みを感じさせる肉汁が弾け、そして複雑に組み合わされた香草がそれを引き立てる。

 

「んー、美味しい」

 

 スワンプがのっそりのっそりと案内してくれた先は肉屋だった。やっぱりあの子何も分かってなかったよ。

 そしてうっかりおばちゃんと目を合わせて……その瞬間マシンガントーク。世間話が始まったと思ったらいつの間にか口の中にソーセージをつっこまれていた。

以前からたまに試食を(強引に)頼まれているが、まぁ、こういうアタリを引いたときは確かに役得だ。ハズレのときは酷いけど。

 

「いやー、そうかいそうかい! ダンナともコレはいい出来だって言ってたのさ!」

「ただ、一つ言うなら……これ単体ではかなり美味しいですけど、この酸っぱい風味の香草――」

「ンギアだね」

「ギア?」

「ンギア」

「……まぁ、それのクセが強いので使いどころの幅は狭いと思います。気に入った人が定期的に買う感じ」

「うーん、確かにそうかもしれないねぇ。たくさん売れるわけじゃないってワケだ。じゃあしばらくは少なめに作って様子を見ることにするかねぇ」

「私の言うことがどこまでアテになるか分かりませんけど」

「それがアテになるんだよねぇ。じゃ、次はコレ」

 

 そう言っておばちゃんは新しい一本を出してきた。

この臭い……それに色。ハズレのやつだ。半分おふざけの勢いでいろんなものをぶち込んだやつに違いない。

 

「あのー、ちょっと、もうお腹いっぱいな感じですんで」

「まーこの娘は! このくらいでお腹いっぱいだなんて胃の小さい。最近の子はこれだからダメだよ! 全く、もっとお肉付けとかないといざって時に力が出ないよ!」

 

そう言って次から次へ食べてるとおばちゃんみたいな『ザ・エネルギータンク』って体型になっちゃうんだよなぁ。

 

「いや、まぁそれもあるんですけど、何本も食べた後にまただと正確な判断ができないと言うか……」

「この際それはもういいからお食べ! アタシゃ心配になってきたよ」

「えぇ……」

 

ぶっとくてズズ黒くて臭くてヌトッとしてるものを押し付けないでください! セクハラで訴えますよ!

 

「ちょっとナオー! 何やってんのよ!」

「良いところに」

 

リシェル、フェア…あとオヤカタ!

 

「あっ! アンタまたそんなお腹放り出して! 女の子がお腹冷やしちゃいかんでしょ! オバちゃんの腹巻き貸したげるから」

 

 私の食事情の次はリシェルのヘソ出しが気に入らないらしい。ベロンと服を捲り上げ、腹巻きを見せるおばちゃん。

 

「そんな古臭くて臭そうなの要らないわよ!」

「ちょっとリシェル!?」

「ま°ー↑ アンタまた憎まれ口ばっか言って! もう怒ったわよ! 意地でも着けさせてやるから」

「逃げるわよ! フェア! ナオ!」

「えっ、ちょっと……!」

「ムイっ」

 

二人と一匹はサッサと走り去っていってしまった。おばちゃんも追おうとしたけど……結果は見た目通りだ。

 

「全く、逃げ足の早い子だよ! あ、ナオちゃんこれリシェルちゃんに渡しといて!」

 

いつの間に脱いだのかベージュ色の腹巻きを手渡してきた。

が、私はほとんど無意識に後ずさって拒否した。

 

「いや、えーと」

「ん? どうしたんだい?」

「それ、確かに臭そうです」

「ま°ー↑」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「遅かったじゃない」

「いや、ちょっと捕まって。はい腹巻き。新品」

 

 くさそうって言ったら新品の腹巻きをくれた。おばちゃんの腹巻きへの執念は驚くべきものがある。

 

「要らないって!」

「まぁおばちゃんも意地悪したろぅと思ってやってるわけじゃないんだし」

「意地悪じゃなくても迷惑よ」

「リシェルが迷惑についてどうこう――」

「ムイムイ!」

 

オヤカタの若干威嚇するような鳴き声。『その話は置いておけ』と言ってるのか? これは。

 まさか小動物に叱られる日が来るとはなぁ。

 

「あぁ、ごめんオヤカタ」

「ムイ」

「……ごほん。それで、アンタは何か手掛かり見つかった?」

「いや……竜ってことは伏せて聞き込みとかもしてみたけど、それらしいのは全然。また幻とか使ってるかもしれない。フェアは?」

「わたしの方も全く。グラッド兄ちゃんにも頼んでみたんだけど……」

「二人して役に立たないわねー」

「それはリシェルもでしょ」

「そうよ!」

「そんな自信満々に返されても」

「――でも! そんなことも全部ひっくるめて解決する方法を思いついたわ!」

「ムーイッ!」

 

リシェルとオヤカタがシンクロして胸を張る。

 

「オヤカタは……やっぱり匂いで?」

「そうよ。いい考えでしょ!」

「リシェルにしてはなかなか」

 

ここは素直に褒めておこう。私も随分前に思いついたけど役に立たなかったからノーカンだ。

 

「一言余計だけど、まぁ良いわ。そんなワケでオヤカタの後をついて歩いてたらフェアと、あと呑気にソーセージの試食してた誰かさんと合流したってワケ」

「ほーん」

「『ほーん』ってアンタねぇ……」

「とにかく急ご? こうしてる間にもあの子、危ない目に合ってるかもしれないわ」

「一理ある。行こ」

「ちょっとナオ! ……あーもー分かったわよ!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「ちよっと!? なんでアンタの家に戻っちゃうのよ!?」

 

 そして急いだ結果がこれだ。

オヤカタの導いた先はフェアの店。振り出しだ。

 

「そんなこと、わたしに訊かれたって……」

「オヤカタぁ……」

「ムイムイ!」

「いや、まぁ戻ってきてるかも」

 

 どっちにしろ一旦落ち着くにはいい頃合いかもしれない。ため息を抑えながら扉に手をかけた……ら向こうから勝手に開いた。

 

「チビ竜さんは見つかりましたか?」

「うぇっ!? ポムニットさん!?」

「なんでそのことを? ……ルシアン?」

「ごめん……。でも協力してくれる人は多い方が良いと思ったんだ」

「どこまで話したの?」

「昨日の夜、星を見に行ったときに拾ったことと、何か不思議な力を持ってることとか」

「伏せてたことほとんど……」

 

隠してたことを全部言ってしまったと思わせるためのデタラメなセリフ。

 

「おぼっちゃまからおおよその事情は伺いましたが……なぜ、わたくしに最初から相談をしてくれなかったんです!? 存じてさえいればわたくしなりに配慮もできましたのに」

 

じゃあ具体的に何ができたのん? ……と喉元まで出かけた。

 

「迷惑をかけたくなかったんだよ。わたしたちいつもポムニットさんを振り回してばかりだから」

「……起こってしまったことは、遠慮なさらないでくださいまし。お嬢様とおぼっちゃま、そしてお二人の大切なご友人であるフェアさんとナオさんのお手伝いをすることがわたくしの仕事であり生きがいなのですから」

「ごめんなさい……あと、ありがとう」

 

 迷惑を掛けたくなかったって理由とは別に、結構シビアな理由で隠してることがまだあるんだけどな。ちょっと罪悪感が……。

 

「分かってくだされば良いんです。あと、それはそれとしてですね――」

「おお! 帰ってきたか」

 

 声とともに店の奥から現れたのはグラッドさん。何か妙に焦っているように見えるけど……まさかまた新しい厄介事?

 

「兄ちゃん、どうしたの?」

「あぁ、竜の子を探してたらな……竜の子は見つからなかったんだが、女の子が倒れてるのを見つけたんだ」

「案の定か」

「何が?」

「いや、何でもない」

「? …とりあえず客室のベッド借りてるが」

「うん! 全然良いよ。そんなことより、その子大丈夫なの?」

「それが……呼びかけても返事が有りませんし……」

「オレも軍で対症療法しか教わってないから、とりあえずナオさんに見せてみようってことで」

「えっ、私?」

「ナオさんって博識ですもの」

「買いかぶりすぎ」

「でも実際……」

「ちょっと、今そんな問答はいいから。とりあえず見てみないことには」

「あ、あぁ。こっちだ」

 

 店の廊下をいつになくドタバタと歩く。事情が事情なんでしかたない。『なんだか今日はよく誰かの後をついて歩く日だ』なんて呑気なことを考えてる私の方が変なわけで。

 

「んぅ………」

 

 案内された部屋で眠っていたのは、桃色の長い髪をした小学校低学年くらいの見た目の女の子。……コメカミあたりから角のようなものが生えているあたり……獣界の亜人だろうか。

 ギュッと寄せられた眉から、状態が良くないことが容易に想像できる。

 

「……」

「どうしたんだ? フェア……妙な顔して」

「この子だよ! ほら、わたしが今朝話してた子供!!」

「えぇ……!?」

「ムイムイィッ!」

 

 フェアの言葉に驚く暇もなく次の出来事。

 ベッドの女の子の周りが突然光に包まれる。

 

「……ぴ ピイィィ………っ」

「のわゎっ!?」

「……!」

 

この光は………

 

「ピギュウゥゥ……」

 

光が収まれば、そこには竜の子が。

 この感じ二度目だな。




おばちゃんは気に入ったのでこれからもちょくちょく出ます。


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第2話 この子どこの子、迷子の子?〜You Little Dickends〜 ⑦ (原作二話)

先日、フカヒレと骨髄の中華風スープを自作しました。かなり美味しかったのですが、フカヒレはケチったので空気でした。

さて、本文は連ドラ登場まで。
何か台本形式の方がスッキリする気がしてましたけど今更変えません(読者様方の意見次第ではかえます)。


「だけど、驚いたわ。まさか、あの子が人間に変身してたなんて……」

「ナオの言った通りだったわね」

「いや、私自身まさか本当に幻使ってるとは……そりゃ目撃者なんか居ない」

「見た目が変わっちゃってんだもんね……」

 

 人の姿から戻った竜の子は酷く弱った様子だった。人の病気すら微妙なのに召喚獣の病気なんて分かるはずもない。餅は餅屋、ということですぐにここ……ミントさんの家へ連れてきた。

 

「………」

 

 朝からあれ程やりたいほうだいしてたのが息も細くグッタリしてる姿を見て、フェアたち三人はかなり動揺している。もちろん、私も多少は。

 

「ふぅ……」

「ミントお姉ちゃん、あの子の具合は!?」

 

 奥の部屋から出てきたミントさんを見て、フェアがバッと立ち上がる。

 

「心配いらないよ。もう、大丈夫」

「よかったぁ……」

「さすがはミントさん! いつも頼りになります!」

 

調子の良いことを言う人だ。ちょっと前まで私に頼ろうとしてたくせに。……いや、別にそこまで酷い掌返しってわけしゃないけど、なんかこう、『最初からずっとミントさんを頼りにしてました』みたいな空気を感じたからちょっと不満に思ったんだ。

 

「グラッドさんってばおだてないでください。そんなに難しいことはしてませんから」

「あの子、いったいどんな病気なの?」

「病気じゃないわ。ちょっと、消耗しすぎただけ。だから栄養剤を飲ませて、寝かせてあげたら大丈夫なの」

「消耗……そらアレだけ幻術やら何やら使ってケロッとしてる方がおかしい」

「そうですね。本人が離れてもその場に残る身代わりに……グラッドさん、人間に化けていたときは実体もあったんでしたよね」

「はい! 自分がおぶって店まで運びましたから」

「そうですよね。……これってかなり高度なことなんだよ」

「ずっと無理して姿を変えてたんだね……でも、どうしてそこまでして?」

「わたしが余計なこと言ったからかな……」

「何言ったのよ?」

「その見た目じゃ危ないから連れて出れない、って。でも、まさか人間に化けるなんて思わないじゃない?」

 

 フェアがでかけてしまって、後をついていきたいけど私に止められる→大人しくしてる間は注意が逸れることをいつの間にか学習→寝たフリ&幻→フェアの言葉から、姿を変えて外に出る→フェアを見つけられず時間経過→術を解きたいが、襲われるのが怖いためギリギリまで術を解かなかった

 竜の子の思考を予想するとこんなところか。言葉がなんとなく伝わってること前提だけど。

 

「無理もないわね。そもそも、普通の竜は人の姿に変わったりしないもの」

「『普通の竜は』……?」

「竜という生き物にはものすごくたくさんの分類があるんだけど、大雑把に分けると『亜竜』と『至竜』の二つになるの」

「ありゅう? しりゅう?」

「『亜竜』というのは身体的……生物的に竜の特性を備えているもの。筋力や生命力の強さとか、火や冷気を吐いたりして、高い戦闘能力を持っている」

「朝言ってた食物連鎖の話も?」

「ええ。どういう理由か知りませんが、何というか……召喚師のあいだでの竜という分類って、他の生物みたいに骨格や血脈じゃなくて『最強の生物の定義』に基づいてるような」

 

『イヌ科』とか『爬虫類』とかそういう括りじゃなくて『肉食獣』とか『海獣』みたいな、生態を纏めた呼び方ってことか……?

 

「まぁ、ともかく、普通みんなが考える竜はそういう、いかにもって感じのやつだよね」

「そうねー。竜って言ったら角と鱗と翼と炎よね」

 

角と鱗と珠と水……は名も無き世界の日本特有の感性か。いや、鬼妖界なら或いは……。今はどうでもいいか。

 

「それじゃ『至竜』っていうのは?」

「亜竜の特性に加え、高い知能と魔力を備えているの。あらゆる"術"を修得し、しかも永い永い寿命によってその技術を失わない……年老いた至竜はどんな専門書よりも詳しく世界のことを記憶しているとされているわ」

「だから召喚師の最難課題……」

 

そんなスーパーな存在がホイホイ現れるワケもなし、現れたところで研究家の思う通りに動いてくれるかは別。研究がなかなか進まないってところか。

 

「召喚を拒否する技術も持っていておかしくないでしょうから」

「うわぁ………」

「じゃあ、あの子が幻を操ったのは……」

「うん、そうだね。きっと『至竜』の力の一部なんだと私は思う」

「あの子、そんなにもすごいんだ……」

「だけど、すごくてもまだ生まれたての子供。無理に力を使ったら体の方がついてこれなくなっちゃう」

「うん……」

「だから、お家でゆっくりと寝かせてあげて。疲労回復のお薬も用意したから、起きたら飲ませてあげてね」

「分かったよ。ありがと ミントお姉ちゃん」

「なにかあったら、また、すぐに連れていらっしゃい」

「うん。そうするよ」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「『至竜』か……。今更だけど、とんでもないもの拾っちゃったんだね」

 

 何やら話し込み始めたグラッドさんとミントさんを残し、家から出る。

 フェアの腕でスースーと眠るこの竜は、この絶妙に厄介な状況を分かっているんだろうか。

 

「後悔してるの?」

「そうじゃないよ。別にこの子が何であろうと、あんな状況じゃ放っておけなかったよ」

「……だよね♪」

 

フェアの力強い言葉に機嫌を良くするリシェル。私も、フェアのこういう真っ直ぐな性格は素直に好きだ。……そのせいで色々と抱えやすいのも、気になってるけど。

 

「でも、この子が狙われる理由、ちょっと分かった気がするな」

「ちょっとも何も、ねぇ?」

「昨日の一団が知ってたかどうかは分からないけど……至竜の価値は相当………」

「そのことなんだけど、昨日襲われたこと誰にも言ってないよね? ルシアン……は大丈夫そうたったけど、フェア」

「わたしも、そこは隠してる」

「話したら、きっとこの子のこと取り上げられちゃうよ」

「取り上げる、って言い方はアレ……でも、そうなるだろうねー」

「それは私も思ってる。……けど」

「けど?」

「黙っているままでいいのか、それも気になってる」

「………」

「みんなが言った通り、この子は色んな人が欲しがる存在だもん。……もしかしたら昨日の連中がまた来るかもしれないし、別のが嗅ぎつけて来るかもしれない」

「なら、あたしたちが守ってあげればいいじゃない!」

「わたしたちだけで守りきれる、って断言できるの?」

「……っ」

 

リシェルは言葉に詰まって何も言えない。

フェアの境遇を考えれば"いいかげん"なことは許せないと分かっているからか。

 

「昨日の規模と強さならまぁなんとかなるだろうけど、十人二十人ともなって、野党みたいなのじゃなくて本職のアレが来たら……フェアの言う通り………」

「そんなことくらい分かってるわっ!!」

「ピィィ……?」

「あぁ、ゴメンね? 大きな声がしたから驚いちゃったよね」

「ピギュゥ」

 

不安げに鳴いた竜の子をルシアンが撫でる。

もし親が現れなかった場合の然るべき処置……軍や召喚士の派閥に引き取られたとして、こうやって 優しく撫でてもらえるのだろうか。

 

「……リシェルの言いたいことも分かるけど……"そう"なってしまう場合もあるって、覚悟しとかないといけない」

「…………」

 

自分で言っといてなんだけど、どうも今までに無く重い流れになってきた。自分たちで守るのも辛い。けど、他に預けるのは心配。考えたくないことだけど、考えないわけにもいかない。

 気にしだすと色々と不安になってくる。今だって、何か畑の周囲が静かすぎる気がするし。小鳥やらがぴーちくやってる声がしないような……。

 

「…………でも――」

「ようやく見つけたぞ! 『守護竜の子』よ」

「!?」

 

 そして予想外に本当に現れた変なヤツ。和太鼓と雷を足して2で割ったような野太い声を響かせる、赤黒い甲冑の男。

 

「そして貴様らだな。昨日邪魔したガキどもというのは……」

「まさか、言ったそばから来るとは……」

「この子を狙って出てきた悪党ね」

「そんなの、一目で分かるじゃないの! トゲトゲの鎧に如何わしいヒゲ!」

 

いつものように暴言を炸裂させるリシェル。考えなしなようだ(実際本人は思ったまま言ってるんだろう)けど……この状況じゃどっちでも一緒だ。

……囲まれてる。それも結構な数に。さっき この男が出てきた瞬間に、あちこちで微かに動く気配がした……。どうせ見逃してはくれない。

だからいっそのこと煽りに煽ってこのリーダーと思しき男の平静を欠かせてほしい。

 

「いい年したオッサンがロン毛なびかせて……前髪ものっぺり 顔にかかってるし! どっからどう見たって不審人物そのものね。ワザワザ分かりやすい見た目にしてくれてありがたいくらいだわ」

「くぬぬぬ……っ! 口の達者な小娘が……目上のものをバカにするとは――教育的な指導が必要と見える」

 

しかし残念。いかにも現場の戦果だけでのし上がった汗臭い猪武者という風貌とは裏腹に、そこそこ冷静だったようで。

 怒気かスッと抑えられて低い号令がかかると同時に、私たちはまたしても屈強な男たちに取り囲まれるはめになった。




雑兵の十人や二十人なんかメインキャラの一撃でぶっ飛ぶし誤差の範囲やろ(恋姫二次作者並みの感想)。


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第2話 この子どこの子、迷子の子?〜You Little Dickends〜 ⑧ (原作二話)

先日買ったクラゲ入りキムチ、予想より生臭くてあまり好きじゃありませんでした。

さて、お話はバトル中盤まで。技量的に戦闘描写難しいです。話の組み立て的には、明らかに機界召喚魔法が強すぎることが悩みどころ。E,Fランクの技でも溶接とか掘削とか、普通に攻撃力高そうなやつばっかりなので。


「うそ……こんなにいっぱい、囲まれてる………!」

 

 槍に大剣、弓矢やら……丸腰の子供四人相手に大の大人たちが揃いも揃って武器を構える。鎧はこれまた一団で揃ったもの。黒地に朱いラインの入った、シンプルながら整ったデザイン。

 構えのキマりかた(なんとなく、我流じゃなくてちゃんと習った武術って感じがする)といい何といい、昨日の連中とは雰囲気が違うけど……あのリーダーは『邪魔したガキども』と言っていた。繋がりはあるんだろう。

 

「うははは! どうだ? ちびったか? おののいたか?」

「女子供取り囲んで高笑いとか……まさに野盗」

「この状況でまだ言ってくれるとはな。速やかに竜の子をこちらに渡しさえすれば騎士として貴様らの身の安全は保証してやるものを」

「そっちから脅かしといて『安全は保証』とか」

「そんな根性のヤツが言うことなんか信用できるわけないでしょ!」

「アンタたち、もういい大人なんだから下手な騎士ごっこなんか辞めて働き口を探すことね」

「くぬぬぬぬぬ……っ! どこかで聞いたような減らず口を……!! 吐いた言葉の責任は取ってもらうぞ!」

 

リーダーの怒気に同調して一人の兵が飛び出す。

 

「うおおぉーっ!!」

 

両刃のオーソドックスな剣を、体の正面に斜めにかかるように構え、突進。

 やっぱり、野盗系の剣術じゃない。相手に攻撃を加えることだけを意識していれば、もっと走り易い体制で接近するはず……。それに、剣の向きも。あのまま振ったら刀身の腹で殴ることになる。明らかな手加減(それでもまぁ大怪我するだろうが)。

 

「……っ」

 

こちらからはフェアが前に出てその進路を塞ぐ。

さらに一歩……コレはフェイント。相手の振りを誘発させる。一、二、三、バックステッ――コレもフェイント……浮いた!?

 

「くぉっ!?」

 

相手の手首を掴み、そこを中心に体を縮め……

 

「たァっ!」

 

顔面に蹴りッ!

 

「ぐあぁっ!!」

 

敵をふっ飛ばし、そのまま剣を奪って着地……。

 ……なんて動きだ………。

 

「ほう、その動き……見かけによらずなかなかできるらしいな?」

 

いやいや『なかなかできる』どころの話じゃない。絶対に。

 私が分かった範囲(結果から逆算も込み)でいまの駆け引きを纏めれば、

①相手の前に立ち、"場"を始める。

②次にさらに一歩踏み出し、間合いに入ったと見せかけて後に残った足でブレーキをかけ一度目の斬撃を避ける。

③少し後ろに下がる動きで返しの横薙ぎを躱す。

④三回目は直前から大きく後ろに下がる動きを見せ(実際にはかなり早いタイミングで重心が後に移りきってすぐに次の動作に移れる)、それによってそれまでコンパクトだった相手の振りがフェアを追いかけるように伸びて崩れる。

⑤その瞬間に脚を振り上げその勢いで浮き上がり、同時に手首を掴んで(これでガード不能)ドロップキック。

 文章にすれば何文字か……かなり長く、複雑になっているはずだ。ただ運動神経が良いとかじゃなくて『頭が良い』動きをしていた。

 

「悲しいことに、物心つくかつかないかの頃から身体に叩き込まれてるのよね」

 

叩き込まれたって、フェア……そんな、今みたいなガチ勢の格闘ゲームみたいな動きを逐一教わったワケじゃなかろうに。

 前々から思ってたけど確信した。クソ親父のことを言い訳にしてるけど、それ以上に、フェアは元々闘いの天才だ。

 

「……実践の機会にも不自由しなかったし」

「ふふん。見せてやりなさい、フェア!」

「………」

 

何か呆れ顔をするフェア。

 ……もしかしてさっきのは皮肉だったのか? 『リシェルが騒ぎを起こすから』って意味で……? そんなのこの状況でサッと気付けないだろう普通……。

 

「面白い……その生意気な鼻っ柱、叩き折ってやれ!!」

「応ッ!!」

 

ジリジリとプレッシャーが強まる。

 

「ルシアン!」

「わっ! う、うん!」

「ん」

「ありがと、ナオ」

 

フェアがルシアンにさっき奪った剣を渡し、私がフェアに落ちていた鍬を渡す。ルシアンには多少は扱いに慣れている剣を、何でも使えるフェアにはとりあえずその辺にあったものを。私とリシェルは召喚術での戦いになる。

 

「……あいつら、手堅く上を取ってきたわね」

 

 こっちが装備を整えて(全然整ってないが)いる間に向こうは陣形を固めていたらしい。ミントさんの家を背にし、坂の下手にいる私たちを尻目にしっかりと上をとってきた。リーダーの大男は奥に引っ込み、二人の剣使いが前へ。その後ろに槍兵が同じく二名。さっきフェアにやられた男はナイフを持ってそのさらに後ろに。その隣にはデカい剣を担いだ副将っぽいやつ。……そして、向かって左サイドの急斜面と段差の上には二人の弓兵が。

 くっそ……ドヤ顔まではしてないが何か得意げな雰囲気出しやがって……。

 

「(リシェル)」

「(ごめん! この前取り上げられて、弱い光線撃てるやつしかない)」

「(うそン……)」

「(しかたないでしょ!)」

 

うへぇ……大型機界召喚獣特有のあの硬さと威力はかなりアテにしてたのに……。

 

「(わたしが押さえるから、三人で弓を潰して)」

「(……分かった。リシェル、ルシアン、一気に全力で行こ)」

 

緩やかな斜面に立つ剣使いと槍使いはフェアが。急斜面の上の弓兵は私たちが。どちらにも干渉してきそうな奥の二人はとりあえず保留。

 二人が静かに頷いたら、それが開戦の合図になった。

 

「……っ」

 

弓兵めがけルシアンが一直線に急斜面を駆け上がり、私もそれに続く。

 

「おわっ!?」

 

その隙にリシェルは魔力を高め、召喚発動。

 

「ビットガンマー!」

 

 着脱式のレーザー装置(ビット)を備えた溶接作業用メカ。……召喚術のレクチャーを受けた時に何度か見たことがある。

 

「てぇぁぁぁぁっ!!」

「スタンピット」

「ぐぅッ!」

 

ルシアンの力任せな攻撃を躱した敵をビットガンマーが狙い撃つ。鎧に焦げ目がついた程度だが……かなりのプレッシャーにはなったはず。鎧に傷がつくってことは、生身が露出しているところで受ければ怪我するってことだからな。

 

「来い……!」

 

私もボクスとスワンプをもう一人の弓兵の近く……真正面と左側の二方向に召喚する。相手はとっさに矢を放つも、それはボクスの装甲に弾かれた。

 

「はァァァァ!!」

「このガキィっ」

 

 ルシアンも最初の勢いのまま果敢に攻めている。……半分パニックになってるような感じもするけど、まぁ、いい。リシェルは次の召喚魔法のための準備に入っている。フェアは……敵に切られたのか、二つに分かれた鍬を器用に……トンファーみたいに操って四人相手に無双状態だ。

ともかく、みんな頑張っているんだ。こっちも、頑張らないとな!

 

「フゥッ!!」

「ギャッ!?」

 

地面から引っペがした敷石がボクスたちに気を取られていた弓兵の顔にぶち当たる。

決まったッ! 小学生時代『メスゴリラボール』としてドッヂボールを嗜む男子たちに恐れられた必殺のサイドスロー!

 

「弓を壊して!」

「ィ゛ィィィィィ」

 

悶絶する相手の足下に落ちた弓を、ボクスが二本の脚と胴体で挟み込み、荒々しい駆動音をたてて圧し折った。これで一人は完了か。

 

「ギルビット!!」

「えァァァっっ!!」

「がフッ」

 

ほとんど同じタイミングでもう一人も決着がついたようだ。

 けど、奥から大剣兵が接近してきてる。

 

「下にっ」

「うん!」

 

アレの一撃を貰えばボクスの装甲やスワンプの甲羅でも厳しい。ルシアンはもちろん力負けするだろう。一旦下がるのがベストだ。

 

「ちィッ!」

 

いつもはのんびりなスワンプもこの時ばかりは素早く動き、フェアの周りに。

 戦況を見れば……敵は弓兵二人、槍兵、剣兵がそれぞれ一人ずつ戦闘不能でのこり五人。対するこちらはボクスにスワンプ……それに今密かにルニアを呼び出し七人(?)。数だけ見れば状況は覆ったけど……。

 

「ぐぬぬぬ……! ええいっ!! 貴様ら、我輩に恥をかかせる気か! 剣の軍団の恐ろしさをガキどもに思う存分見せつけてやれ!!」

「はっ!!」

「もう何人もやられてるのに、今更何が『恐ろしさ』よ!」

「……でも実際、雰囲気が変わった」

 

 ここまでは油断と手加減につけ込んだ戦いだった。まさか、私たちが弓兵に電撃戦を仕掛けるとは思ってなかっただろうし、個人の技量を見ても"素人向け"の態度だった。が、今はフェアの言う通り殺る気スイッチが入ったって感じの表情をしている。それに、リーダーと副リーダー……あいつらは、他より断然強い……そんな感じがする。

 

「(フェア、あとどれだけ戦える?)」

「(ごめん、ちょっと……最後まではキツいかも)」

 

……厳しいな。リシェルの召喚術が予想より低威力な今、結構……いや、かなりフェア頼みだからフェアがキツいってことは全面的にキツい。やっぱりネックはあのリーダーだろう……何かしらのハプニングで戦いをバッサリ終わらせたいところたが……。

 

「お前らッ! 子供相手にいったいなんのつもりだ!?」

「大丈夫!? みんな!」

「グラッド兄ちゃん! ミントお姉ちゃん!」

 

 ここで援軍登場。渡りに船とはこのことか。




  ┌― 鍬
   ↓
 ┌     ―
トンファー  棍


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第2話 この子どこの子、迷子の子?〜You Little Dickends〜 ⑨ (原作二話)

パイン飴おいしい(辞世の句)。

平日昼間投稿ですがニートではないです。

さて、内容は戦闘終盤〜夜会話まで。颯爽と登場した二人には活躍の場面を用意できませんでした。うっかり。


「騒ぎが聞こえたから駆けつけてきたの!」

「悪い! 裏を取るのに手間取っちまったんだ」

「ムイムーイ!!」

「ミントさん」

「ポックル……ブレイクナッツ!!」

 

ミントさんの家の裏口から出てきたのか、私たちとは別方向……さっき弓兵がいたさらに奥あたりから現れた二人。そしてその召喚魔法に敵の注意が一瞬逸れる。

 

「これで……っ!」

 

その一瞬を逃さず、フェアが駆ける。狙いはあの大剣兵か。……なら、手前の邪魔な奴らは私達でなんとかしないとな!

 

「もう一度……ギルビット!」

「ィ゛ィィィィィィッッ!!!!」

「………!」

 

リシェルの召喚魔法と同時にボクスとルニアをけしかける。さっきと同じ、瞬間火力とインパクト任せの電撃戦だ。

 

「ぬぉっ!?」

 

対処が追いつかず浮足立つ敵兵。……イケる!

 

「っらァ!!」

 

畑から引き抜いた、丸々とした特大の大根を思いっきり振りかぶって顔面に叩きつける。これでまた一人。大根は持ち易さと重量が揃っている。一発の威力に関しては正規の武器に劣らない逸品だ。

 そうして私達が広げた隙をフェアが風のように抜けて行く。

 

「フッ」

 

敵の直前で体を大きく沈み込ませ、足払い、横薙ぎ、裏拳。全身をフルに使った三連攻撃。……しかし、どれも上手く防がれる。やはり、強い。

 

「子供騙しがッ」

「くっ!」

 

相手からの反撃を剣で受け止めるも、刃を返され押しこまれる。

しかし、一息に押しつぶそうと男が腰を入れたその瞬間――

 

「っアッッ!!」

「!!?」

 

まるで限界まで引っ張ったゴムが爆ぜるようにフェアの体が翻った。何が起こったのか見えなかったが……相手が膝から崩れ落ちているのを見れば、さっきのはフェアの攻撃だったことは分かる。

 

「ッ!!」

 

そうして無防備になった顔面にトドメの正拳。

 

「やったッ!!」

「勝てる……!」

「くっ……」

 

相手の大将の顔にも、流石に焦りが見える。

 

「まだやる気?」

「…………」

 

目を瞑り、唸り声ともため息ともとれる声を漏らす。

 ……そんな悩まなくていいからさっさと降参するか帰るかしてくれ………。

 

「ふふん、ちびってたじろいだのはそっンむぅ!?」

「(いらんこと言うな)」

「(むぅ……)」

 

もう相手『どう自分を納得させるか』みたいな顔してるんだから余計な一言で刺激したら大損だ。

 

「ふっ……ふはっ、ふははっ! ふはははははははは!!」

「(なんだこのおっさん!?)」

「(な、何急に笑ってんの!?)」

「っえりゃああぁっ!」

「ピィッッ!?」

「あぶないっ!!」

 

私めがけて放たれた大斧の一振りをフェアがなんとか受け止める。

なるほど、さっきの高笑いは奇襲のための作戦だったのか。しかもそのあとの踏み込み……一瞬で間合いまで入ってきた。見かけによらず素早さまであるようだ。

 ……てそんなこと考えてる場合じゃない。フェアが間に入ってくれなきゃ色々とぶっ飛んでたぞ……!

 

「くぅっ……!」

 

そしてそのフェアも辛そうで。……正面から力で抑え込まれたまま、さっきみたいに"抜け"られずにいる。

 

「そうか……やはり、そうなのか。こうして直に刃を交えて確信が持てたぞ……。貴様、あの冒険者の娘だなッ!!」

「え……っ!?」

「フンッ!!」

「きゃあぁっ!?」

「……!」

「甘いわッ」

「グっ……!」

「ナオっ!」

 

フェアが弾き飛ばされたと思ったら、私もやられていた……? さっきのは……キレて無意識のうちに掴みかかって、返り討ちにあった、のか?

 

「あなた……バカ親父のこと知ってるの?」

「知らいでか! 我らの計画が根本から崩れ去り、ワザワザこんな街にまで足を運ぶハメになった原因はその男……ケンタロウなのだからな!!」

「え………」

「あー………」

 

 この、私がこっちに来てからトップクラスでガチの騒動も結局は"それ"なのか……。

 

「我が名はレンドラー。『剣の軍団』を率いる『将軍』だ。小娘、貴様の名は?」

「……フェア」

「覚えておくぞ。フェアよ! あの男に与えられた耐え難き屈辱の数々、娘である貴様にも償わせる!!」

「……………」

 

いやそれは自称とはいえ騎士としてどうなんだ。

 

「退くぞ」

「は……はっ!」

 

 あるものは滴る鼻血を押さえながら、あるものは担ぎ上げられて大将のあとをついて去っていく。……これだけ見れば圧勝なのに、全く勝った気がしないっていうのはやっぱり、最後にあの『将軍』の強さを見せつけられたからだろうなぁ。

 

「いっちゃった……」

「やれやれ、なんとかなったか……」

「なんとかなってないでしょ! どうして捕まえてくれなかったのよ!?」

「む、無茶言うなよ。あれだけの数、俺一人でどうにかできないし……数が少なくても、あのオッサンがなぁ」

「なっさけないわねぇ!」

「情けないのは認めるが、それよりあのオッサンが強すぎるんだよ。見たか? あの足運び……あんなのその辺の兵士じゃ何人まとまってたって勝てる気しないぞ」

 

連戦で疲れてた&会話しながらだったとはいえあのフェアのインチキ殺法を余裕で封殺してたしなぁ。

 

「追い払えただけでも良しとしなくちゃ……。この子も無事に守れたんだし、ね?」

「ピィッ」

「………そうね……ま、しかたないか」

 

リシェルも実際にアレと対面した手前、大人しく納得せざるを得ないらしい。

 

「……………」

 

 が、今回は逆にフェアの方が何か不満顔で……。

 

「大丈夫? フェアちゃん、どこか怪我したの?」

「また、なんだ………」

「え……?」

「またしても……ことごとく……例によって……今回の敵の元凶もバカ親父だって言うの………!!!?」

「フェアちゃん? ちょ、ちょっと!?」

 

フツフツとヒートアップしていき、遂には怒鳴るような大声に。

 

「ダメ親父の……っ……どさんぴんーーっ!!」

 

  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 戦いが終わって。

 誤魔化してたこと、隠してたことも、グラッド兄ちゃんやミントお姉ちゃんと明日ちゃんと話し合うことになった。

色々と怒られるだろうし、これからどうするか……なんて難しい話もしなきゃいけない。

それはしかたないと思う。……実際、わたしたちだけじゃ解決できないことが起こっちゃったワケだし。

 でも、それとは別にもっと嫌な気分になることがある。

 

「また……ダメ親父の起こしたことの後始末………」

 

 このなんともいえない胃のムカムカは、きっとナオの淹れたマズいコーヒーだけのせいじゃない。

 

「………ふーむ……」

 

 そのナオは向かいの席でいつも通り眉間に皺を寄せながらコーヒーを飲んでる。……そんなに美味しくないならちゃんと淹れ方覚えるかわたしに頼むかすればいいのに、なぜか自分でテキトーに淹れるんだから………。

 

「しかも今回は相当の団体さんでしょ? ……もう、本当に嫌になっちゃうわよ………。もちろん、あの子が厄介とか、出会わなきゃ良かったとかそういうことじゃないんだけど」

「それは分かってる。(……むしろ思わない方が珍しいけど)」

「え?」

「いや、なんでも。うーん……でも、今回のことに関してはそのダメ親父のやったこともしかたないんじゃなかろか? あのレンドラーとかいうやつらの計画って、たぶん竜の子を使ってろくでもないことするって話……」

「……そうね。そういうところも含めて今まで通り、クソ親父なのよ」

「……あー」

「何言いたいか分かった?」

「いろんなことに首突っ込みすぎ、と?」

「そう。首を突っ込んで大暴れするだけしてそのあとすぐどこかに消えちゃうらしいわ。自分のこと『ヒーロー』とか言ってたし、"悪い"ことを見たら放っておけないんでしょ。あ、『ヒーロー』って分かる? 名も無き世界の言葉らしいんだけど」

「うん。正義の味方とか英雄とかそんな意味で使われてる。……しかし、ヒーローか……自分でそれを言うのは、ちょっと、な」

「だから……自己満足なのよ。何か出来事があって、それを力でねじ伏せたらそこで『ヒーロー』になったつもりで満足しちゃう。相手は壊滅も、ましてや反省もしてなくて『アイツに邪魔された!』としか思ってないから、親父がどこかに立ち去れば同じことをまた繰り返すし、……わたしが………娘が居るって分かれば」

「フェアに仕返しする、か……」

「そもそも、フラフラ旅してる親父がパッと見たときに『悪いこと』だと思ったとしても、それが本当に悪いことなのか分かったもんじゃないでしょうに」

「社会の仕組みとかな……。でも、それもどこまで考慮するかも難しい。実際に良くないことで、早くしないと手遅れになることもある」

「……そうだけど……。結局、極端すぎるって話なのよ。親父はその辺をどっちがいいか全く考えずに全部ソッコーで叩き伏せてんの。バカなんだよ」

「バッサリ言ったなぁ……」

「これでも言い足りないわよ」

 

 ダメ親父が関わった事件の相手の全員がわたしの居場所をつきとめるわけじゃない。ううん……むしろ割合で言えばほんの少しだと思う。

それでも今までけっこう沢山来たし、その中で完全に『余計なこと』をされたらしい人たちも少なくなかった。ということは、悪人も普通の人もひっくるめて、やっぱりダメ親父に迷惑をかけられた人は多いんだと思う。

 

「……なら、満足するまで言いな」

「え……」

「私も、愚痴くらいは聞いたげたいと思う。それでストレス……不満がちょっとでも軽くなれば良いし、もしかしたら……人に話すことで今まで見えてなかった面が見えてくるかもしれない」

「………」

「どう?」

「……長いわよ?」

「………まぁ、うん。途中で寝ないように頑張る」

「もうっ。……そうね、どれから話そうかしら?」

 

 ……せっかくだから満足するまで話そう。ナオも、自分から言ってきたんだしちょっと長過ぎても許してくれるよね。




きのこもたけのこもどっちも別に好きじゃないです(全ギレ)


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第3話 ドキドキ、はじめての御使い ~A Cutie Angel~ ① (原作三話)

多腕メカはロマン。それぞれの腕が多関節で伸び縮みするとなお良し。そんなMSを考えていると一週間経ってました(半ギレ)。

それにしてもこの主人公はよく喋る……いつか酷い目に遭わさなきゃ(カルマまみれ並みの思考)。


 剣の軍団との戦いの次の日。やはりと言うべきか、店にはグラッドさんとミントさん、ついでにポムニットさんがやってきて、洗いざらい喋ることになった。

 

「なるほどな。あの竜の子は、お前らが最初に見つけた時から得体の知れん連中に狙われていたっていうことなのか」

「………」

「そんな危険な騒ぎに巻き込まれてらしたなんて……。どうして、隠すようなことをなさったんですか!?」

 

珍しく噛んだり気の抜けたりしてないちゃんとした叱責。その真剣さに、フェアも姉弟も何も言い返せない様子。

 

「……ナオさんも………」

 

私もか!? ……うん、そりゃ、私もか。

 

「何かと手助けして頂いてるのは重々承知しておりますが、そもそも悪いことをする前に止めてくださってもいいのに……いつも傍でぼーっとしてるんじゃなくて」

 

えっナニそれは。

 

「 ………確かに、敢えて昨日襲われたことを隠してたのは、それだけ考えれば良いことじゃないです。でも、その時の私達の判断じゃ、自分たちで解決できそうな問題で むしろ大勢に話して大事にする方が余計なことに思えました」

「『自分たちで解決』って……現にとんでもない強さの敵が出てきてしまいましたのでしょう!?」

「だから、それは 昨 日 の 午 後 の話で、隠し事をしたのは 昨 日 の 朝 以前。隠してたのは 一 昨 日 の 夜 襲われたことでしょうに。一昨日の夜襲ってきた敵は妙には妙だったけどさして強くなかった。コトの重大さに気づいたのは隠した後です」

「ですが……もっと強い敵が現れるかも、なんてこともすぐ思い――」

「それももちろん可能性として考えてました。その結果としてコトをできるだけ広めずに、そもそもそういう輩が嗅ぎ付けてこないようにしようという結論になった。もっと言えばあの竜の子がそれほどまでに執拗に狙われる存在だって知ったんも、あのオッサンが襲ってくるほんの直前です。種類やら世話の方法やらも今日の朝に訊くつもりだった。……その上で、どうするかも詰めるはずだった」

「…………現に竜の子が外に出ちゃったり見つかっちゃったりしてるじゃありませんか」

「かわいそうな一人ぼっちの小動物見つけて『あ、これは実はもの凄い力を秘めた至竜の子で何か因縁を抱えてるせいで大軍団に追われてて家で大人しくさせようとしても幻術を使って抜け出しちゃうし相手もその少しの騒ぎを嗅ぎ付けて即座に攻めて来れるだろうから普段から利益至上主義でコトを知らせたら十中八九竜の子にとって厳しい結果になるだろう金の派閥の父親に直通のメイドさんに包み隠さず話そう』なんて考えられる人間がいたらぜひ連れてきて欲しいですが」

「………っ……そんな――」

「確かに、筋は通ってますし……ポムニットさん、ここは抑えて……」

「しかしですねぇ――」

「むしろ、竜の子を拾ったことに対する責任をとろうとして、よく考えてると思いますよ? ですから、ね?」

「むむむむむ………分 か りました。責めるようなことを言って申し訳ありませんでした」

「……いや、私もつい必要以上にキツい言い方しました。スミマセン」

「まぁどっちにしろ街の近辺に怪しい奴らがいたってんなら、竜のこと抜きにしても駐在騎士であるオレに一声かけといて欲しかったな」

「はい……」

「ごめんなさい」

「それは、素直に落ち度だと思ってます」

「……ええっと、それはそれとして」

 

何故か目をそらすグラッドさん。私達はマジにとっちゃったけど、さっきのは割と軽い冗談みたいなつもりだったんだろうか。

 

「さて、じゃあ、問題はこれから先どうするかってことだ」

「ですね」

「そもそも、いったいあの連中は何者なの? ヤケに強いしエラそうだし」

「ただのゴロツキや野盗の類いではないよなぁ。戦闘能力も装備も」

「特に、戦いかたの方は妙にしっかりしてたよ」

「『剣の軍団』の『将軍』……昨日の手下八人が最大戦力なんてことは、まず無い……?」

「あれだけのされてまだ次回以降来る気満々だったってことは、そうなんでしょうね……」

「っていうか、一昨日襲ってきた奴らと繋がってるんでしょ?」

「そう考えないと『昨日邪魔してきたガキ』だったっけ? ……その言葉がおかしくなるしね」

「でも、最初に戦った悪者たちとあのおじさんの軍団は鎧の形も雰囲気も全然違ってた気がするけど」

「まぁ、オッサンの方が、自分で言ってる通り騎士っぽかった」

 

 話にも全く応じず初っ端っから殺しにきた一昨日の……そうだな、仮に『畜生の軍団』としよう……それらと、一応話はできて手加減も見えた剣の軍団とではヘドロと泥水くらい違う。

 

「あくまで ぽい だけだけども」

 

しかし、結局やってることはどっちも悪党だ。

 

「……ともかく、仲間ってことは確定してるけど、それでもあの二つが同じ組織とは考え辛い」

「"縦並び"じゃなくて"横並び"……とかかしら? それぞれはそれぞれで動いてるけど、それらをまとめるもっと上の組織が居て……っていう」

「地理的にも経済的にも手広くやってる、けっこう大きい……」

 

 整った装備に人材はもちろん、オッサンの『ワザワザこんな街にまで足を伸ばす』という言葉。……それはつまり連中は元々別の、それもかなり遠い所にいた(もしくは移動を続けている)ということを表す。なら、それだけの旅費を出せる組織でなければならない。宿やら食糧やら……筋肉質の男の集団なんて金がかかって仕方ないはずだ。

 盗賊行為で賄っている可能性もあるけど……そっちはそっちで軍の監視やその地元の盗賊団なんかを相手に勝ちを重ねてることになるからかなり厄介。

 どっちにしろ――

 

「あのオッサン級のヤツがあと何人か居てもおかしくない……?」

「き、昨日のお話だけてもとんでもない組織なのにまた飛躍的に物騒になって……っ!!」

「そう取り乱さんで」

「これが取り乱さずにいられますかっ! すぐにでも旦那様に報告を――」

「報告してどうするのん? ブロンクス氏が一騎当千の戦いを見せて敵をみんな倒せるとでも?」

「……っ」

「だけど、確かにこの問題はもう俺たちの手にはあまるだろう。軍本部に報告して、然るべき処置を取るべきだと思う」

「そ、それです! 是非にそうしてくださいまし!」

 

『然るべき処置』……ねぇ………。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!? そんなことしたらあの子はいったいどうなるの!?」

「どうもこうも……当然、軍が保護することになるだろうな」

「そんな……」

「まさかリシェル、この期におよんで『竜の子〈珍しいペット〉を手放すのが気に喰わない』なんて、いつもの調子で思ってるんじゃないのんな?」

「違うわよ! 軍で、ちゃんと面倒を見て……ううん、子供として"かわいがって"もらえるか……って、それが心配なの」

「心配はいらないさ。マトモなやつじゃなきゃ面接で落とされてる。竜の子を物あつかいしたり、虐めて喜んだりするやつなんかいないって」

「ウソだっ!!」

「うぇっ!?」

 

急に大声出してどうしたんだいこの子はっ!?

 

「ぼっちゃま……?」

「僕は知ってる……本で読んだから知ってるんだ。帝国軍には、珍しい召喚獣を研究してる施設がある……。あの子は、きっとそこに連れて行かれちゃうんだ!!」

 

激しい口調でまくしたてる。ルシアンのこんな姿は初めて見たんじゃなかろうか……。

 

「それ、ホントなの? グラッド兄ちゃん?」

「まぁ、そりゃ……軍の宿舎やらその辺走り回らせてるわけにもいかないし、専門家が関わることにはなるだろうが………」

「ひどいじゃない!!」

「いや、研究所だからってべつに酷いことするつもりじゃ……」

「あたしには分かるわよ。『負荷に対する耐久』やら『極限状態を再現することによる最大魔力測定』やら………新しかったり珍しかったりする召喚獣の研究なんて………!!」

 

 そうか……召喚士の娘だもんな。どんなものなのか知ってるのも不思議じゃない。確かに、名も無き世界でも医学薬学の分野じゃ数え切れないくらいのネズミやカエルや微生物なんかが実験の下に死んでる。機械だって何万回もハンマーで叩きつけられたり限界までボタン連打されたり加熱と冷却を繰り返されたりだ。

 ……リシェルがマトモに父親に師事せずに道楽に召喚術を使っているのには、そういう理由もあるかもしれない。

 

「グラッドさんを責めないであげて。殆どの召喚士……ううん、他の分野も含めた全ての学者にとって『至竜』は貴重な研究の対象になるの。『金の派閥』だろうと、私の『蒼の派閥』だろうと……それは同じの――」

「だったらどこにも渡さないわっ!!」

「お嬢様………」

「善処はする! そうならないように俺がかけあう!!」

「かけあってどうにかなるの!?」

「…………」

 

まぁ、田舎の駐在さんがどうこう言ったところで本国の研究者様が耳を傾けるとは思い難い。

 

「それは……っ」

「そんなのイヤよ!! それじゃあ、アイツらに捕まるのと変わらないじゃないのよ!?」

「………っ」

「リシェル……言い過ぎよ」

 

 オーバーヒート気味になったリシェルをフェアがたしなめる。……確かに、恐らく皆の平和を守ろうと軍人になったグラッドさんの目の前で『悪党と変わらない』なんて言うのは酷なもんだ。私もさっきブロンクス氏をこき下ろした手前何も言えないが。

 

「なにがっ――そりゃ、でも……」

「お気持ちは分かります お嬢様。ですが……わたくしは、やはり軍に任せるべきだと思います」

「なんでよ……!」

「お嬢様があの竜の子のことを心配しているように、わたくしもまた、お二人とフェアさん、ナオさんのことを心配しているからです」

「……っ……ポムニット………」

「私も、まぁ、軍に保護してもらうんは……かなり客観的な判断をすれば……自分たちで拾って昨日今日と世話して、そうやって芽生えた愛着とか感情移入とかを全く抜きにして考えれば………そうなるべきだとは思う」

「………」

 

怒りとも悲しみともつかない視線が刺さる。

 

「少なくとも……その研究所か、グラッドさんの要請が聞き入れられてまた別のところに行くか……とりあえず、収まるところにおさまってしまえば他の誰の手に渡るより確実に皆が安全になる。フェアもリシェルもルシアンも私も、ポムニットさんもグラッドさんもミントさんも……この街や国全体のことを考えても」

「それは……そうだけど…………」

 

勢いを失い口ごもるリシェル。フェアも唇をキュッと結んで俯いている。ルシアンなんかは今にも泣き出しそうだ。

 

「俺ができる限りを尽くす! だから、辛いだろうけど――」

「とは言えじゃあ軍に連絡するのに賛成かって言えばそれには反対なんですけれどもね」

「「――は?」」




(でもBADENDの予定は)ないです。


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第3話 ドキドキ、はじめての御使い ~A Cutie Angel~ ② (原作三話)

サモンナイト6発売されましたね(超絶小声)。

さて、お話は話し合い終了まで。私はケータイ(予測変換が神性能)からサイトの機能を使って書いているのですが、何度も何度も書きかけの文章が消えて血涙で川を作りました。わざわざそうしてまで書く価値のある文章かと言われれば多分違うと思います。


「ちょ、ちょっとナオさん!? その流れで何で……!」

 

 さっきまでのセリフと180度逆のことを言い出した私に、皆それぞれに疑念や驚きなどを示す。

 

「確かに軍の研究施設に入ればその後は確実でしょうけれども、じゃあそこまで安全に送り届けられますか?」

「……? それは、自分たち帝国軍が頼りないということですか?」

「いいえ。実力を出せばあのよく分からない軍団も楽々……とはいかないでしょうが勝てると思います。でも、グラッドさんが『来てくれ』と言えば……例えば一軍を率いる大将とその部下百人や千人がサッと来てくれるワケじゃないですよね?」

「それは……しかし、………」

「非難じゃありませんよ? むしろ国を預かる軍としてはそうやすやすと動く方が問題でしょうからね。ただ、そうなれば……報告を受けた帝国軍はどんな動きをするか………」

「獣界召喚士一人に数人の護衛をつけた調査隊か……私が竜の子の調査書を書いて重要性を示せばもう少しは厳重な警備で来るかもしれませんけど………」

「でもそんな風に大人数で軍が動くのに、この街に着くまで気づかない敵じゃないわよね」

「そうなればきっと、あいつらもなりふり構わず本気で来るわ。あのヒゲ親父……悔しいけど私達が"素人"だからってかなり手加減してたもの」

「その旨も報告を……いや、結局それでどんな規模の戦いになるか分からないのか」

「相手が気付いてから、実際に相手を倒せる戦力が揃うまでに時間がかなり空きますよね……」

「軍があいつらをやっつける前に、道連れみたいなムチャするかもしれないってことね。わたし達はあいつらよりずっと弱いけど、逆にそのおかげで相手もその程度の戦力でしか攻めてこない……ナオが言いたかったのって、そういうこと?」

「あんまりハッキリとは考えてんかったけど。うん、そのへん。正規ルートで軍本部に知られた時点で、あっちもこっちもゲームオーバー……良い結果は出ない」

 

 相手はそのまま素直に、軍に動かれると厳しい。こっちは軍が動いたせいで相手が発狂モードに入るのが怖い。そして私達は軍が出てないおかげで相手が手加減してくれてると予想し、もしかしたら相手も、手加減しているうちは軍が出てこないと悟っているかもしれない。

奇妙な意思疎通が出来ているように思える。

 

「むむむ……しかし、それではどうなさるつもりなんです?」

「それが残念ながら無策なんよなぁ……」

「無責任ねー」

「私も責任持てるもんなら持ちたいけど。あいにくそこまで強くない」

「…………」

「フェアちゃん、あなたは、どうしたい?」

「え?」

「軍や派閥に任せた方が良いって思う? それとも、自分たちでなんとか面倒を見てあげたい?」

「………決められないよ。わたしには……」

「フェアさん……」

「なによそれ! 軍に連絡するのは結局絶対安全なわけじゃないし、実験されるかもしれないのよ!?」

「それはわたし達が世話するのも一緒よ。手加減してもらえるだろうけど、それって相手の気まぐれで崩れちゃうものだもん」

「う…………」

「どっちも危ないなら……ううん。そんなこと抜きにしても、まず、一番大切なのはあの子が、それを望んでいるのかどうかじゃないのかな?」

「…!」

「わたし達の都合より、まずどうすれば一番あの子が幸せなのか……そう考えるのが、拾ってきたわたしの責任なんじゃないかな。だから"わたしには"決められないっていうのが、答え」

「………うん、そうだね、フェアちゃん。私も、あなたの意見に賛成だよ」

 

ガタン

 

「――!」

「ピイィ………っ」

 

台所の方で鳴った物音に振り返れば、竜の子が不安げな表情で顔を覗かせていた。

 

「あ……」

「お昼寝してたんじゃないの……?」

「いつから……」

「ピギャッ! ピギイィッ!!」

 

そのままトテトテと走り寄ってきてフェアにしっかりと抱きついた竜の子。……少し、震えてる。

 

「わわっ、ちょっと!?」

「離れたくないんだよ……フェアさんと。きっと……」

 

頭が良いのは分かっていたけど、さっきまでのややこしい話も理解していたのか……それとも直感で感じ取ったのか。

 

「大丈夫だよ。よしよし……」

「ピィィ……ッ」

 

ともかくフェアと離れたくないという意思はありありと伝わってくる。

 

「どうやら、答えは最初から決まってたみたいだね」

「ズルいですよ……こんなの………。これじゃあ、まるでわたくしたちが悪者じゃないですか」

「それじゃあ………?」

「はぁ……仕方ありません」

「ありがとっ! ポムニットだぁーいすきっ♪」

「もぉ……もしかして、ホントに最初から狙ってらしたんじゃないんですか? その態度……」

「じゃあ、ポムニットさん嫌いです」

「真顔で言わないでくださいまし……。ナオさん、さきほどまでの会話が会話なだけに本気かもしれないと不安になってしまいます」

「嫌いじゃないけど好きじゃないです」

「」

「あんたこないだまで『運命感じますね』だのなんだの言ってたじゃないのよ」

「運命は感じてます」

「もうナオさんが解かりません〜……」

「あははっ! ……それじゃ、早速この子にきちんとした名前をつけてあげましょ!」

「うんうん! これから一緒に暮らすんだしね」

「フェア、あんたがつけてあげなさいよ」

「わたしが?」

「そりゃ、一番なついてるし」

「そうだよ。きっとこの子もそれが一番嬉しいはずだよ」

「ピッ!」

「そ、そうかな? じゃあ……よし、今日からあなたの名前は………『ミルリーフ』……『ミルリーフ』よ!」

「よろしくね? ミルリーフ」

「ピィッ♪」

 

嬉しそうに鳴き返す姿から察するに、新しい名前はどうやらお気に召したたらしい。

 

「あー、ゔん、お前ら、解決したみたいな空気だしてるとこ悪いが、帝国軍人としてだなぁ――」

「そこをなんとかお願いしますよ。グラッドさん」

「み、ミントさんがそこまでおっしゃるのならばっ!」

「あははは………」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「ああは言ったものの、やっぱり、わたくし心配です」

「とは言え、あいつらの喜びようをみたらなぁ」

「ですよねえ……」

「正直、問題が先延ばしになっただけな感がどうしてもひっかかるのは、有ります」

 

話が終わってそれぞれに解散する途中。店とブロンクス邸と街を繋ぐ溜池の広場に立ち止まったグラッドさんたちに話しかける。

 

「! ナオさん」

 

どうやら私のことは、いつも通りフェアたちと一緒にいると思っていたようで驚きの表情が返ってくる。

 実際、しばらくフェアたちと一緒に居て、後から小走りで追いかけてきたんだけど。いや、こんなに近くに居てくれるとは思わなかった。それぞれの家まで行く算段も立ててたからなぁ。

 

「フェアちゃんたちは?」

「これからどうするか話し合い中。自分たちで面倒見ることになって、それで具体的に何をどうするか……みたいな?」

「そうですか。……あいつらも、やっぱり真剣なんだな」

「フェアは初めっからずっと真剣な態度でしたよ。……それでうまく行くかはさておき」

「……ナオさんは、どう思ってるんですか?」

「………確かに、さっきは預けるのに文句言って、今は面倒見るのに文句言って、面倒臭いですね。すみません」

「い、いえ、そこまでは言ってませんけど……!」

「もちろん、フェアたちが面倒を見て、それで相手もずっと手をぬいたままなら良いんですけど………」

 

やっぱり少しずつエスカレートしていって、いずれは私達の手に負えなくなるだろう。

 

「そこで、です。ポムニットさん、グラッドさん、ミントさん……コネ、持ってませんか?」

「「コネ……?」」

「そうです。軍や派閥なんかの大きな組織の地位が有るとか、単純にめちゃくちゃ強いとか……相手が気づいたときにはもう諦めるしかないような行動が取れる人。そして、安心して竜の子を預けられる………そんな知り合いは居ませんか? 軍学校や召喚士の修行の間に知り合ったりしてませんか?」

「わたくしはずっとブロンクス家に仕えてますし……」

「ブロンクス氏が本部に要請すれば、まぁある程度大物が動くでしょうけど……」

「金の派閥は努めて召喚獣に肩入れしないようにしていますから」

 

 ブロンクス氏が実は優しい人で、本部にも召喚獣に同情的かつフットワークの軽い実力者の知り合いが居ればクリアなんだけど……。

あくまで資源や財産としての召喚獣の利用……それが金の派閥の基本理念だ。そして、その組織体系は大会社や軍隊に似て重く、定形を重視する。

求めるモノを得られる確率はかなり低いだろう。

 

「……最後の手段ですねぇ」

「……うーん………」

「あ、そうだ」

「グラッドさん、なにか心当たりが?」

「アズリア・レヴィノス将軍」

「おおっ、将軍! いかにも凄そうな」

「ああ。軍部の名門レヴィノス家の跡取りで、十年前の大戦で活躍……そりゃぁもう帝国の国境が守られたのはこの人のおかげってくらい活躍した、女性初の将軍職にして帝国一,二の精鋭部隊『紫電』の隊長です。しかも親召喚獣派らしい!」

 

 十年前の大戦といえば、私でも噂に知ってる程のメチャクチャ大きな戦いだ。なんでも、その戦域は帝国、聖王国、旧王国(首都壊滅)の三国に跨りあらゆる軍や派閥や秘密結社が動いた史上にも稀有な戦いだったとか。しかも敵は悪魔と悪鬼と魔獣の混合軍で、まるでゾンビのようにそれ以外の戦没者を操ったという。

 そんな戦いで大活躍したというのなら、それこそ人智を超えた何かを持っているのだろう。

 

「家柄、役職、実力、思想 全部完璧じゃないですか……」

「じゃあ、早速ことの顛末をなんかどうにかして連絡しておいてください。手紙とか!」

「…………」

 

これで解決かと思ったのに、なかなか『はい! 任せてください!』という返事が返ってこない。

 

「……どうしました?」

「……すみません。つい思いあたって言っちゃっただけで知り合いじゃないです………」

「さて、ミントさんは何か無いですか? 私はご存知の通りなので……」

 

グラッドさんと残りの二人では知ってる素性に違いがあるが……根無し草とはぐれ召喚獣。どっちでもコネがなさそうなことには変わりないだろう。

 

「……うーん、これ、言っても良いのかなぁ」

 

しばらくしてミントさんは何か思い当たったらしいけど、なぜか迷っているようで。……機密事項とかか? もしそうならむしろ望む通りだ。いかにも強力そうじゃないか。

 

「出来れば、言ってくれると」

「……十年前の戦いが悪魔によるリィンバウムへの侵攻だったというのは有名なことだと思うんですけど、その中心である悪魔王と正面から戦って倒した人……つまり『傀儡戦争』の『知られざる主力』が蒼の派閥に居るんです」

「あ、悪魔王に勝った人……!?」

「一応聞いておきますけど、それはミントさんの知り合いですか?」

「いえ――」

「ああ、この話は早くも終了ですね……私達も力不足かもしれませんが、フェアたちの決意を助けるため――」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! 私の先輩がその人の先輩でもあり対悪魔王戦にも参加してたんです! ですから先輩……ミモザ先輩経由できっと連絡もつきます! その人は人柄もとても親切で……それはもう悪魔王直々の誘惑にも打ち勝つ程の良い人具合で、聖王国の某所にはぐれ召喚獣のための村を作ろうとしてるらしいですから、竜の子にもきっと優しくしてくれますっ」

「なんですかそれ! 解決したじゃありませんか!」

「悪魔王とその軍勢に勝っちゃった人にすれば、竜の子を欲しがっている程度の組織なんて簡単ですもんね……。ただの旅人のふりをしてここまでいらして、ズバーンとやったら勝利です!」

「じゃあ、私達ではどうにもこうにも無理になりそうになったらその人のお世話になるということで」

「迷惑をかけるのは心苦しいですけど……」

「もちろん私もまず自分で全力を尽くすつもりですよ?」

「……はい。とりあえず、相談というカタチでお手紙を出しておきますね。国営の定期便には相手も手出ししてこないでしょうから、それで」

「いやー、さすがミントさん! 頼りになります!」

「いえいえ……私自身も、もう一度竜のことについて調べてみますね」

「ではわたくしは今後は連絡役としてがんばらせていただきます!」

「私は三人に助言を……今まで以上に慎重に」

「自分は、より一層注意深く巡回するということで!」

「がんばりましょう!」

「「おーっ!」」

 

 カリカリしながら話し合いしてたのが馬鹿らしいほどにあっさりと解決の糸口がみえた。いやぁ、やっぱり意外と何とかなるもんだ。当面の悩みがほぼ解決したおかげで非常に晴れ晴れとした気分だ。




まぁ、解決するワケないですけどね。


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第3話 ドキドキ、はじめての御使い ~A Cutie Angel~ ③ (原作 三話)

失踪したと思った?残念!他のを書いてただけでした!
どっちにしろ投稿期間が二〜三ヶ月空いた事実は変わりませんけどね。自責の念で筆を折りそう。

さて、内容は殆ど進まずミュランスの星うんぬんまで。文字数は結構行ってる(作者的に)んですが……。おかしいね。
あと誤字などミスが多そうなんで違和感が有れば報告を是非に。


「ただいま」

 

 ミントさんたちとの話でかなり明るい展望が見え、その軽い足取りのまま店の玄関をくぐる。

 フロアの中程のテーブルでは、フェアたちの方も話が一段落ついていたようだ。

 

「おかえり……っていうかナオ、外行ってたの?」

「トイレか何かかと思ってた。長かったから大きい方かとも思ったけど」

「姉さん……」

 

リシェルがド直球だからこっちもド直球で評す。品がない。

 

「話どのくらいすすんだ?」

「それが――」

「ミルリーフの親をこっちから探しに行くのよ!」

 

自信満々で声高らかにかなり難易度の高いことを言ってくれる。

 

「えーと……」

「もちろん、この街から離れて――みたいなことじゃないし、アイツらを刺激しないくらいのことしかできないけどね」

 

思わず言葉が淀んだ私に、フェアが補足した。結局私の微妙な表情は変わらないけど。

 

「それはそれで……じゃあ何するのん?」

「取り敢えずもう一度星見の丘に行ってみようと思うわ。何か手がかりがあるかもしれないし」

「もしかすると飛んできてるかもね。親が」

「手掛かりと言えば、アイツらの手掛かりもあるかも分からんな」

 

 ミルリーフを拾ったときの戦闘。あの時は私達の圧勝で、相手は夜で暗い視界を煙でさらに悪くして慌てて逃げて行った。もしかしたらアイツらの持ち物が何か落ちているかもしれない。もう回収とかされてるかもしれないけど、私としてはこっちが本命かな。

 

「いつ?」

「『善は急げ』明日よ」

 

今日って言い出さないのが意外。っていう表情を読み取ったのか、リシェルが言葉を続ける。

 

「この前、勝手に持ち出してた強い召喚石取り上げられちゃったから今度は自分で誓約しなきゃいけないしね」

「ああ、なるほど」

 

 戦力は大切だものな。……一応協力者の目処はついたけど、協力してもらえるとしても手紙が届いてこっちに来るまでの間はやっぱり自分たちで対処しなきゃならないワケだし。

 

「そ・れ・と」

 

たてどうしたものかと鼻でため息をついた私の頬を、リシェルの指がムニっとつつく。

 

「あんたは早いとこミルリーフと仲良くなること」

「えっ」

「ピィ?」

「この前もミルリーフがあんたに懐いてれば街に出ちゃうこともなかったでしょ?」

「いや、それは私とミルリーフの相性が悪いんじゃなくてフェアが懐かれれすぎてた結果」

 

だよな? とミルリーフを見遣る。

 

「ピッ」

 

返事は良いんだよなぁ。

 

「じゃあフェアと同じくらい懐かれなさい」

「えぇ……」

 

『そう言うリシェルが懐かれるように努力すれば?』といつもの調子で口に出しかけたけど、言わないでおいた。そういうふうに言ったらまるでミルリーフを厄介者として押し付け合ってるみたいだからな。

 

「ともかく、フェアさん以外にもミルリーフが安心してられる相手を増やすようにしようってことだね」

 

ルシアンめ、リシェルの要求を上手いことマイルドにしたなぁ。

 

「纏めると、これから戦力強化とミルリーフとの信頼関係の構築が肝ってこと?」

「ま、そういうことね」

 

 その後、明日出かける際の、より細かい内容が決められた。相手をあまり刺激しないよう"いつものメンバー"だけで行くつもりらしいが、一応グラッドさんとかにも伝えておこうと思う。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「――とは言っても」

 

 リシェルたちが帰った後。

 私は宅配弁当の空箱回収と買い出しへ行ってきて、戻ってきたら今度は言葉の勉強ををする。フェアは膝の上で眠るミルリーフが落ちないように気をつけながら帳簿とにらめっこだ。そんな中始めた雑談も、やはり割と頭の痛いことで……

 

「武術は『はい強くなります』って言って強くなれるものじゃないし」

「召喚も、前々から言ってるけど強いとその分扱いに困るもんね」

 

 召喚魔法で予想以上の火力が出てしまって自爆とか、特に私なんて強制術が使えないから超危険だ。敵に怯えて勝手に変なもの喚んで自爆なんて心底笑えない。

 

「またミントさんに訊いてみる? 丁度良さそうな召喚獣」

「それしかないでしょ。どっちにしても私たちだけじゃ召喚辞典が無いし」

 

 召還術はサモナイト石を介して行われる……では、サモナイト石が有れば誰でも喚べるか? 答えは否。

 まず呼ぶ際に魔力を消費する。よって、魔力の素質の低い人間は召還術を使えない。その消費魔力は召還獣の格が高いほど大きくなる。これで、世の中の7割くらいの人間は、せいぜいネズミ程度の力を持つモノが喚べれば上出来らしい。

 それに、強制術。コレも喚ぶときと同じように魔力を消費する。格によって効かなくなるのも同じ。あたかもコレが効くのが当たり前のように召喚獣が人間の下に位置付けられているが、意外とこの術の効力外に居る召喚獣は多い。まぁ、自分より格上の召喚獣を喚ぶバカはそう居ないし、召喚術使いから一般に売り出される時点で反乱防止首輪(デスゲーム漫画なんかによく出てくるアレみたいなもの)が付けられていたり調教済みだったりするから同じだけど。

 そしてそもそもの話。『サモナイト石でどの召喚獣を喚ぶか』を決めるのに専門的な術と知識が必要だ。それが『誓約の儀式』であり『召喚辞典』である。

『誓約の儀式』は軍学校の召還専攻(又はエリート向けの全積みコース)か、古くからの召喚師から学ぶことができる。私の場合は後者、ブロンクス家長子のリシェルさん(笑)からだ。

 そしてこの儀式はモノ(触媒と言う)の『縁』を利用する。『縁』は仮称で本当は『エルゴ』と言う。と言うより、何か召還関連の重要語句の正式名称は大体『エルゴ』だ。『誓約の儀式』は『触媒の縁を解析し、サモナイト石を通して界の意志(世界のシステムか神か何か、だと私は解釈した)へ接続、繋がりのある異界のモノを特定。さらにその真名を特定・利用し"召喚師に力を貸す"という契約を結ばせる』というものらしい(リシェル談)のだが、"ちゃんと言う"と『触媒のエルゴを解析し、サモナイト石を通してエルゴへ接続、エルゴのある異界のモノを特定、さらにそのエルゴを特定・利用し"召喚師に力を貸す"というエルゴを付与する』というエルゴまみれの意味不明文になる。バカじゃねえの?

さて、そこで問題になるのが『触媒の選定以降、召喚獣確定まで自動で行われる』のと『誓約の儀式完了時、リィンバウムに召喚獣が喚び出される』点だ。問題点の推理は簡単だろう。変な触媒を使って変なモノを呼び出したらヤバい。

 そこで使われるのが『召喚辞典』だ。つまるところ、触媒のレシピ本。何を使えば何が出てくるかが書かれている。

 ボクスはリシェルの召喚辞典(ブロンクス家秘伝のものを盗み見て写したもの)から青い首輪を、スワンプはミントさんの召喚辞典からローブ(ミントさんの家に有ったもの)をそれぞれ触媒に使った。

ルニアは……私が勝手に『自分を触媒にしたらどうなるん?』という好奇心で喚んだ。今思えばヤバいことをした。

 

「はー……やること山積みで目が回りそうだよ。これでミュランスの星も取らなくちゃならないんだから」

 

と、思考を宙に漂わせている内にもまた新しい単語がフェアの口から出る。

 

「ミュランス……?」

 

名前の響はアレと似ているが……。

 

「そう。有名な料理店紹介雑誌の評価なの」

 

まんまアレみたいだ。確かにフェアの店は質の高い料理を出しているけどアレに載る感じじゃない。いわゆる大衆店。……でも取る取らないの話になるってことは、アレとは違って高級店ばかりを扱っているわけじゃないんだろうか。

 

「昨日テイラーさんに言われたのよ。もー、どうしようかなー……これでも割と必死に頑張って経営してるんだけど」

「その辺は……。あと二〜三年もすれば『トレイユと言えばここ!』みたいな位置付けにはなると思うけど」

「ありがと。でも一年も待ってくれる雰囲気じゃないんだよ」

 

ひでぇ。

 

「んー、他の人に訊いてみるとか」

「そうね……そうするわ。そうするしかないし」

「ちなみに今の星は?」

「ひとっつも無し。と言うか、雑誌に載りさえしてない」

「じゃあ案外宣伝さえすればひょいっと取れたりしそう」

「だと良いんだけどね。それに、宣伝って言ったってどうすればいいかも分かんないし」

「ビラ……は、無理」

「そのビラを作るお金が無いからね」

 

 広告のレイアウト能力と紙代と印刷代を配る枚数数×回数分。紙は思っていた値段(文明が進んでない所じゃ高価って言うし)より安いんだけど、自宅ででも印刷できる日本と違ってこっちは印刷を印刷師に頼まなければならない。それがまぁ高い。どれだけ効果が有るかも分からないものにかけられる値段じゃない。

 

「リシェルの召喚で印刷機でも出ないかな」

「印刷の機械? 一応アテにしてみるけど望み薄でしょ」

 

ブロンクス家の召喚辞典にはひょっとしたら載っているかもしれないが、リシェルが持っているレシピはその中の面白そうなもの(リシェル基準)だけだ。印刷機は入ってないだろう。

 

「となると他……。うーん、やっぱり、そういう利益重視な方面ではあの弁当路線が強いと思う」

「って言うと?」

「まずさ、有名になるには立地が酷すぎる。ここは街の一番奥……ここに定住してる人しか来るきっかけが無い」

「評判を広めてくれる旅人が来てないってことね。じゃあ、街道近くに看板を立ててみるのは?」

「それはもちろん。今より大分マシになる。それでも『料理店:忘れじの面影亭』とだけの情報でワザワザ山を登ろうとはなかなか思わない」

 

と言うか名前が胡散臭い。何か精神的にあいまいな人が集いそう。どうにかして別の名前をつけられないだろうか。○○屋(正式名称:忘れじの面影亭)みたいな。

 

「どんな店……どの程度の味かを示さないと」

「なるほど。それで弁当ってワケね」

「そう。街道近くの商店に置いてもらう」

 

 今やっている宅配弁当と違って箱が回収できないからその分割高になるけど。……いや、そこも何とかなるか? 日本の竹皮、熱帯のバナナの葉みたいに安価で手に入る保存に適した包みが有るかもしれない。若しくはホットドッグやハンバーガーのように元々持ち運びやすいものにするとか。

 

「置いてもらえるかな……?」

「味を知れば、マトモな商人なら『コレは売れる』って分かるはず」

「そ、そうかな……?」

「こっちに来てからフェアの料理より美味しいものを食べたことない」

「え、えへへ……そう真剣に面と向かって言われると照れるわね。さっきから褒め過ぎじゃない?」

「いや、言い足りないくらい。フェアのことは尊敬してる」

「――っ」

「……まぁ、フェアの料理以外ほとんど食べたこと無いんだけど」

「オチをつけなきゃ話せない病気なの?」

「そうかも」

「……はぁ。もう、出してくれた案が良くなかったら晩御飯一品減らしてたとこだよ」

 

 そう言ってまた帳簿付けを始めた。私もさっさと一日のノルマ(自分で決めた)を済ませなきゃな。

 ちなみにさっきのはフェアの照れ顔のせいでなんか私も照れたから急遽取ってつけたオチだったりする。つまりフェアが悪い。




話の展開が緩やかなうちに説明を詰めておくスタイル。
4以前に発表されている設定との矛盾が有ればご報告を。


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第3話 ドキドキ、はじめての御使い ~A Cutie Angel~ ④ (原作三話)

おひさ


「ミントお姉ちゃんおはよー」

「おはようございます」

「おはよう。フェアちゃん。ナオさん」

 

 翌朝、私たちはいつもよりかなり早くミントさんの家を訪れていた。まぁ、せいぜい『早起きしたから早めに野菜貰いに来た日』くらいだけれども。……その早起きやら寝坊やらで普段から一時間くらい振れ幅があるが。

 ともかく、早く来ることによって今後のこと……特に召還術関連の相談をしに来たのだ。

 そして、相談をしに来ていたのは私達だけではなかった。

 

「あ、グラッド兄ちゃんもいたんだ」

 

リビングへ通された私たちの顔をみて、グラッドさんは微妙に気まずそうな顔をした。

 

「お、おう! フェアも、相談か?」

「召還術のこととか色々聞きにね」

「これからちょっと大変そうですから"丁度いい"モノがないか、と」

「あ、あぁ、居ると心強いですもんね、召喚獣」

 

 妙に動揺している。なるほど。グラッドさんは相談にのついでにミントさんと二人きりの状況を楽しんでいたワケだ。相談がついでだったかもしれないけど。

 

「グラッド兄ちゃんたちはさっきまで何話してたの?」

「……」

 

さっきとはまた別の真面目な顰め面。それにミントさんが目を合わせ、静かに頷いた。

 

「結構なヤバさな上、不確かな話だからあまり言いたくないんだがな……」

 

そして今度はグラッドさんが私たちに目を合わせる。

 

「召還術について色々と扱いが難しいってのは分かってるよな。多分、俺以上に。で、その『扱い辛い部分』を思いっきりやる連中が居るんだよ」

「……外道召還師、だったっけ?」

「そうだ。それで、そいつらも金の派閥や蒼の派閥みたいに組織を組んでたりするんだが、その中でも最大のやつ……『無色の派閥』があの敵の親玉かもしれない、って話になった」

「『最大』って……どのくらい?」

「国際規模……それこそ、金の派閥や蒼の派閥と同じくらいよ」

「外道ばっかりでそんなに大きな組織が作れるんですか」

「召還師自体はそれほど多くはないの。組織結成時から今まで、他の召還師たちや軍との戦いと交渉の中でどんどん抜けていったからなおさらね。でもその代わりに『紅き手袋』っていう手下の犯罪組織を強化していって……それを合わせて、国家規模の破壊活動を繰り返してるの」

「その残った召還師たちが、他所と争うことで余計に先鋭化してるらしくてなぁ。乱暴な言い方だが、本当に頭がおかしいやつばっかりなんだよ」

「それか、脅されて服従させられているか、ですね」

「どちらにしてもマトモな精神状態じゃないってことか」

 

 残虐な性格の者はもちろん恐ろしい。だが、そういう奴は最低限自分の身は守れるように立ち回る。そこから行動を読むこともできるだろう。対して、強制されてストレスに突き動かされている者は確かに前者に比べ小物だが……発狂して自も他も無く爆発しかねない。動きが読めない点でこっちもかなり厄介だ。

 

「そもそも『無色の派閥』は何が目的なの?」

「『召還師による支配』だな。あいつらにとっては召還師は『選ばれた人間』で、他の全ての存在より尊いらしい。残念ながら、世間には召喚獣を見下す風潮が有る。だが、無色の派閥はそれと比べ物にならない程もっと激しく召喚獣を見下しているし、召還術が使えない人のことも馬鹿にしてる。それこそ道具以下だな」

「そういうワケで、特に帝国を目の敵にしているの。帝国のように召還術やその成果を軍人や民間に普及させてしまっては自分たちが"特別"じゃなくなってしまうから」

「まぁ最近は、戦いの内に当初の目的も見失って単に破壊衝動と嗜虐趣味に走ってるみたいだけどな」

 

 小馬鹿にするように言ったグラッドさんだが……私はむしろ見失ったせいで余計に規模が大きくなったかもしれないと思う。目標が無くなったことで、逆に、特定の目標を共有しない者達が『破壊活動組織』という括りのみに集まることにもなるからだ。

 

「なるほど。じゃあ、私たちが戦った集団は下っ端の『紅き手袋』と」

 

と、言ってから疑問が。アイツらはそんな無目標のキチガイ集団っぽかったか?

 

「……うーん………?」

「あのおじさん、そういう雰囲気じゃないけど……」

「やっぱり、そこなんだよなぁ」

 

『将軍』は崩れてはいるが騎士らしい誇りやら意志やらを感じさせる佇まいだった。ただ単に他人に迷惑をかけたいだけには見えないし、金稼ぎのために動いているようでもない。

 

「うん……いや……でも、最初戦った方はたしかにそれっぽかった。……けどやっぱりちぐはぐですよね」

「ああ。それに、詰め所で資料を見てみても、無色が動く兆候っぽい情報は無かったしな」

「じゃあ違うんじゃないの? びっくりさせないでよ」

「って済めば良かったんだけどな」

「え゛、まだ何か有るの?」

「大戦の少し前に、最有力だった一族が壊滅してるんだ」

「? なおさら良いじゃない。……良いんじゃないの?」

 

『どういうことが分かる?』と、私の顔を見るフェア。

 

「纏りが無くなって面倒なことになってる……?」

 

なんとか答えをひねり出す。

 

「そう。それまで『無色の派閥』として動いていたのが、○○家、××家っていう単位で動き始めるようになって、半分独立したみたいになった紅き手袋がその手助けをする……っていう関係なんじゃないかな」

「そうなると……手広さ、素早さ、不可解さに説明がつくかな………」

「つくの?」

「……つけようと思えば」

 

 つまり、だ。

『無色の派閥』としては理想も無くなってほぼ瓦解した。しかし、それにより各召還師の一族の目的や思想が表面化し、それに沿って動くようになった。紅き手袋は紅き手袋で存続し、元 無色の派閥の召還師向けの暗殺者派遣会社のようになった、と。

 そして今回の敵。

初めに戦った奴らが紅き手袋の下っ端なのだろう。そして、おっさん率いる『鋼の軍団』は相手の一族の私兵だ。

 あくまで『無色の派閥が関連しているとするならば』の話だけど。

 

「もちろん、グラッドさんが最初に言った通り確かな話じゃないし、私の偏見も大きいんだけど。……なんでもかんでも『無色の派閥の仕業だ!』って言うのが帝国に住む召還師の悪癖と言いますし」

「いえいえ! ミントさんの推理は見事ですよ。それに相手を大きく想定しておいて損をすることはありません!」

 

ここぞとばかりにフォローするグラッドさん。

イキイキしてるなぁ。

 

「(調子良いんだから……)」

「(あれで隠してるつもりらしいのが笑える)」

「(それもそうだけどお姉ちゃんも気付かないものなのかなぁ……)」

「(物心ついた頃から皆ああいう扱いなんじゃない?)」

「(なるほど……)」

 

 昔っから当たり前に愛されて過ごしたのなら、今更ちやほやと太鼓持ちされたところで心に響こうはずもない。

 となると、このトレイユで密かに渦巻くミントさん争奪戦は誰が勝者となるのだろうか。仮定を適応するなら、争奪戦に参加している時点で勝ちは無いのだろう。美女に興味を示さない枯れた男に熱を上げるミントさんを見て血涙を流す様が頭に浮かんだ。哀れだ。

 

「どうしたんだ? 二人とも」

 

 そうとも知らずグラッドさんは呑気な顔をしている。いや、単に私が悲観的な予想をしているだけだからそれでかまわないんだけど。

 何かアドバイスをしてやった方が良いのだろうか。……いや、この好青年のことだ。上手く駆け引きなんて出来るわけがない。

 適当に話を逸らせておこう。

 

「いえ、やっぱりこっちもある程度備えとかないと、って」

「そう! それでなんだけど……ミントお姉ちゃん、また良さそうな召喚獣教えてくれないかな?」

 

……すっかり忘れていたけど、そう言えば私達の本題はそれだった。

 

「もちろん良いけど、戦って特別強いっていうような召喚獣は専門外だから、期待に応えられるか分からないよ?」

「むしろ丁度良いです。こっちがゴツいのを出したら向こうも構えるでしょうから」

「自滅も怖いしね」

「欲を言うと相手の動きを抑えるようなことができれば」

「うーん……ちょっと待っててね」

 

そう言い残して席を立つミントさん。その背をグラッドさんの目が追う。私も恋愛には疎いから偉そうなことは言えないが……童貞くさくておもしろいと思う。

 

「こういうのなんてどうかな」

 

 さて暇つぶしに何か話そうかと口を開きかけた丁度そのとき、ミントさんが二種類の召喚獣の資料を手に戻ってきた。

 

「スライムポット……タマヒポ……?」

「うん。スライムポットは敵に纏わりついて動きを鈍くできるし、普通のスライムと違って壺や鍋なんかに入りたがる性質が有るから持ち運びしやすくて乾燥にも強いの。戦いのときだけ呼ぶのなら、あまり関係ないことだけどね」

 

 スライムなら街の外で割とよく見る。小動物なんかを丸々取り込んで吸収する肉食の生物だ。色は有るものの基本的に透明だから消化途中のヤツに出くわすとそこそこのグロシーンを見せられることになる。纏わりつかれてしまうと厄介らしいが、その前に叩いてバラバラにすると呆気なく死ぬ。そして、リィンバウムにおけるゼリーの主な材料である。寒天とゼラチンとナタデココを足して割ったような食感。……ということから察するに、植物と動物の中間のような組成なのかもしれない。茶色や緑のものは光合成なんかもしているかも。身近でおもしろい生き物だ。

 

「なるほど」

 

 結論を言うと割と乗り気だ。もう一つの召喚獣にも期待が持てる。

 

「じゃあ、こっちは?」

 

『名も無き世界』には偶に流行っては一年ほどで忘れ去られる丸っこい動物のキャラクターグッズがよく有ったが、それを骸骨顔でやったような生き物。明らかにおもしろい。

 

「息が臭いの」

「え?」

「タマヒポは息が臭いことが最大の特徴よ」

 

採用決定。



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第3話 ドキドキ、はじめての御使い ~A Cutie Angel~ ⑤ (原作三話)

ただ自分の執念のために実質初投稿です。
誤字脱字、設定、言動の明らかなミスを見つけたら報告お願いします。


「さて、気を取り直して」

 

 召喚レシピを聞いて早速誓約してスキンシップを図ってみたタマヒポに息を吐きかけられ気絶するというハプニングを超えて昼。私たちは星見の丘近くまで来ていた。私たちというのは、フェアと私とルニア、ブロンクス姉弟とグラッドさんミントさん、ミルリーフにポムニットさんという大所帯だ。当事者と保護者はまぁ当たり前と言うかなんというか。ミルリーフはその嗅覚と本能で親の手掛かりを見つけてくれることを期待して、ポムニットさんは本人がどうしてもということで一緒に来ることになった。応援はもちろん(?)、ケガしたときには手当なんかもしてくれるらしい。

 

「早速竜の子の母親かその手掛かり探しましょう」

「おー!」

「何仕切ってんのよ。あんたがヘマしたせいで遅れてるんだからね」

「ごめん」

 

 召喚して、これからよろしくお願いしますのスキンシップを取りに行った瞬間ムワっと一発。下手な儀式のせいで気を立たせてしまったのかもしれないが、それ抜きにしてもタマヒポには正面から近付いてはいけない。敵意が無くても口が臭いのは元からだからだ。もちろん、敵意が有る時はさらに臭くなる。というか毒性や溶解力を持つようになる。威力から考えると今回は半ギレだったのだろう。

 

「嫌に素直ね」

「素直が売りだから」

「何言ってんだか」

「でも、おかげでグラッド兄ちゃんの都合に合ってこうしてついて来てもらえるんだからいいじゃない」

「良いかどうかは働き次第よ」

「おいおい、俺だって一応帝国から一街守るに相応しいと任命されて来てるんだぞ。特に捜査や調査は得意分野だ」

「私も調査はしますが、もっぱら植物のことばかりだったので……グラッドさん、期待しています」

「もちろんです! 任せてください!」

「こんな辺鄙な街で仕事と言えば落とし物探しくらいだったからでしょ」

「あとはお前たちの関わった騒ぎだな」

「嫌味な男は嫌われるわよ。ね? ミントさん」

「確かに、嫌味なのはちょっと……」

「なっ!?」

「え、もちろんグラッドさんがそうだとは言ってませんよ!?」

「そ、そうですか! あはは」

「はいはい。それで、現場が見えて来たけど、何か分かる?」

「何か、って………」

 

 一際高い丘を超え、その向こうが正に卵の衝突地点。風圧で倒れた草は強かにまた起き上がっているが、えぐれて砂と石が露出したクレーターはまだその姿を崩す様子は無かった。

 

「……な、なんじゃこりゃあ!?」

「ま、衝突の痕ってことはパッと見で分かるわよね」

 

 目を丸くするグラッドさんの横で、リシェルは何故か得意げだ。

 

「怪我は無かったのか!?」

「幸運なことに」

「これだけのことがあったのに、街に居ると気付かないものですね……」

「流れ星みたいに見えたんじゃないの?」

「そのとき空を見てたら見えたかもしれんが……。それにしても、噂にもならないなんてな。確かにここは街道からも少し離れてるし何も無いしでそれこそ星を見るくらいの用事しかないが」

「その数少ない用事を正にその日に思いついちゃったんだから、正に運命ってヤツよね。それより、さあ、捜査開始よ!」

 

 ビシッと腕を挙げて号令。私たちもおーっと掛け声で応えてそれぞれに散らばり手掛かりになりそうなものを探し始める。

 そして時間だけが過ぎ去った。

 

「何か有った~?」

「砂と石」

「あと雑草ね」

「フェアちゃん、雑草という名の草は無いのよ。これなんかはお腹の調子を整える薬にもなるし……」

「そうだぞフェア。何事も無関心では良さを見逃して損をする。お、これは揚げると美味しいぞ。軍で習った」

「はいはい」

「似てるけど大きく違う種類で、それは食べちゃダメです。グラッドさん。惜しいんですけど……」

「あ、そうですか」

 

 今日は一段と露骨なグラッドさんに思わず笑いそうになるが、リシェルは面白くなさそうだ。お疲れムードの私たちやデレデレとデート気分なグラッドさんに見切りをつけ、自分に従順な(はずの)メイドと弟の方へ向き直った。

 

「ポムニット!」

「はいお嬢様、お茶の用意ができましたよ」

 

 しかし残念。こっちはこっちでピクニック気分。草の丈の低いところに敷き布をひろげてティーポット片手にニコニコしている。善意100%だ。

 

「……ルシアン!!」

「ご、ごめん姉さん」

 

 その手伝いで皿を並べていたルシアンも一睨みし、ついにいつもの怒り声。

 

「も~~、みんな真面目に探してよね!」

「真面目にやって砂ばっかりだったからちょっと参ってる。別に有っても得にならないけど、この辺に落ちてそうな、ミルリーフの卵の殻やアイツらの欠けた歯も見つからない。……やっぱり、向こうがキレイに片付けたのかも」

「それにそういうリシェルは何か見つけたの?」

「無いから訊いたんじゃない」

「そんなことだろうと思った」

「まぁ、一旦休憩にしようじゃないか。せっかくポムニットさんが用意してくれたんだし」

「ちょうどいい」

 

 収穫無しの捜索で浸かれた体と心を癒し、この後何をするにしても良い影響が有るだろう。それぬきにしても、こういう景色の良いところでピクニックというのは贅沢なものだ。

 

「一杯ちょうだいポムニットさん」

「はいどうぞ。クッキーもありますよ」

「私も、いただきますね」

「ん~、美味しい! まだまだお菓子じゃ敵わないかも」

「そう? 私はフェアの作るお菓子もなかなか……互角だと思う」

「姉さんもおいでよ。これ、好きなやつだよね」

「そうだけど~、う~~、……ん? どしたのミルリーフ」

「ピィイ……」

 

 プライドと欲望の間で苦悩するリシェルの足元で、ミルリーフが遠くをじーっと見つめている。フェアと食べ物が大好きなはずが、すぐこっちに来ないのは珍しい。そう思っていると「ピッ、ピィッ」と何かを報せるように大きく鳴き始めた。

 

「……反応、ってやつ?」

「そうよ! ふふん、休憩中止!」

「見てるのは……向こうの繁みね」

「ピギャッ!! ピイ!」

 

 さすがに私たちもカップを置いて立ち上がり、ミルリーフの示す方へ注意を向けた。

 

「反応が有ったは良いけど……」

「あんまり楽天的ではいられないかな」

 

 ザワザワガサガサと木の葉が揺れ、たくさんの決して穏やかとは言えない気配が近付いて来る。ポムニットさんとミルリーフがクレーターから見て丘の反対側に隠れ、他それぞれが武器を手に取っていざという時の備えが終わってすぐ、気配の先頭の一つが茂みから飛びだしてきた。

 紫色の髪をした少女。ただし、普通の人間ではないようだ。

 

「あ、あれ……!?」

 

 しかしその特徴を頭の中でまとめて結論を出す前に残りがドッと押し寄せた。金属、モーター音、火薬の臭い。機界召喚獣の軍団だ。

 

「awedrfikol...」

 

 飛行しているモノ、機械の脚で走っているモノ、そして見慣れた種類のモノも居る。それらが容赦なく少女を追って、攻撃を加えている。しかし少女もただやられるだけではない。何か光の弾のようなものを撃ち出して迎撃している。

 

「ボクスに、他の機界召喚獣と……天使?」

 

 腰から生えた翼と二つに結んだ髪の先のほうに浮遊する光の環、それに光を操る戦い方。真偽はどうか分からないが、一旦そう結論付けた。

 

「嘘、こんなにたくさん……」

「それより、どうしましょう!?」

 

 私たちが驚いているうちにも天使は追いつめられる。元々の疲労も有るようだし、その上障害物が無い丘に出て来てしまった。数の有利を活かされて、囲まれ、ついに小さな手榴弾のようなものの爆発に吹き飛ばされてしまった。

 

「どうしましょうって、助けに――」

「待って、新しいのが出て来た」

「女の子……?」

 

 遅れて茂みから出て来たのは、天使より少し背が高いくらいの緑髪の少女——のように見えるが……。

 

「いや……」

 

 この世界では初めて見るつやつやしたエナメル生地の服(しかも緑色に光を放つラインが入っている)。ヘルメットのように整いすぎるほど整ったおかっぱ頭。それに、片腕が異様に大きく、腰からはコイルのような突起とコードが伸びている。人間離れした無機質な印象に、機界召喚獣を伴って現れたことを見ると……アンドロイドか何か?

 もう少しよく見ようと目を凝らしたところで、それまで天使と召喚獣たちの戦いに注意を向けていた少女もこちらの存在に気付いた。表情の無い透り抜けるような瞳が私たちを右から左へ撫でる。

 

「UNKNOWN視認...Lotus,機体反応無シ∴否定...龍の子,確定∵否定材料無シ...対処決定:FIRE」

「jdrvbhrfbv!!!」

「くっ……!」

「ひぇぇぇっ!?」

 

 アンドロイドの号令と共に弾丸がバラバラと撒き散らされ地面にめり込み、槍の刃先に火花を散らし、私の肩口に一本の傷を作った。小型なために、威力は絶望的なほどではないのが救いだ。

 

「いきなり撃って来た!?」

「これは迷ってる場合じゃない」

「反撃、行くわよ!」

「ルシアンはその子を!」

「うん!」

 

 フェアとグラッドさんが敵の攻撃を掻い潜って飛び出し、ルシアンが盾を構えてその後に続き、私はその援護。リシェルとミントさんは召喚魔法の詠唱。

 

「スラストファング!」

 

 その声に応え、巨大で鋭利な大剣のような牙を持つ猪のような召喚獣、ブレイドボアが現れる。ただでさえ力強い突進に魔力を上乗せした一撃で敵のボクス一体を跳ね飛ばし、装甲を凹ませた。その続けざまにリシェルの詠唱も完了する。球形の分厚い装甲を纏った本隊に、二本のアーム、その先に鉄球が付いた重機型召喚獣。しかもどういう原理か浮いている。

 

「ジオクェイク!!」

 

 リシェルの魔力を受けて排気口から炎が吹き上がり、アームが赤熱する。地面に叩き落とされた鉄球がクレーターの中に更に二つの小さなクレーターを作った。

 しかしその派手さに比べて効き目は薄く、一体も戦闘不能にできていない。

 

「くそっ、やっぱ同じ界じゃ効きにくいか……」

 

 ただ"喚ぶだけ"の召喚術に対して、召喚魔法は召喚獣を魔法陣に繋がれた存在の希薄な魔力体に近い形で喚び出し、召喚士の魔力をを上乗せすることによって威力の増強を図っている。しかしこれはそれぞれの界の理をこちらに持ち込む行為に他ならず、同界のモノならば攻撃対象でも瞬間的に強化してしまう。そのため同界の召喚獣に対して召喚魔法の効き目は薄く、こちらに存在を固定されているユニット召喚でも元の界に深く関わる魔力攻撃などを行った場合は異界の存在に対して放ったときより効き目が薄くなる……らしい。ミントさんから少し前に聞いた話だ。

 

「でも十分よ! 隙はできた!」

 

 ルシアンが天使を抱え上げミルリーフたちの方へ退くのと反対に、フェアがまだ湯気が上がっている爆心地を駆け抜け、リーダーらしいアンドロイドに襲い掛かる。

 

「ドリルブロー...」

 

 しかしその前に一発。相手も召喚魔法を放った。見覚えのあるドリル機。当たりはしなかったが、フェアの足が一瞬止まる。

 ……囲ませはしない。グラッドさんのカバーに続いて、誓約したばかりのサモナイト石を輝かせ、例の問題児が姿を現す。タマヒポは何を考えているのか分からない顔をしているが、どちらに従うべきかはすぐに分かったようだ。それとも途中で気絶したもののスキンシップで多少なりともなついてくれたか。低空を浮遊するメカに唸り声を上げた。

 

「ン゙ん゙アーーー」

「knbyvtjkjh..」

 

 黄色に曇った息が吐き出され、装甲の表面や関節から煙が上がる。ネタ性で選んだつもりだが、かなり戦力になってくれそうだ。

 そうして感心しているうちにフェアは態勢を立て直す……どころか一足飛びにアンドロイドの目の前まで迫る。

 

「はぁッ!!」

「緊急防御>>>一転攻勢」

「!?」

 

 やはり異様に大きな片腕は重要な武器だった。フェアの一閃をギンッと音を立てて受け止め、更に変形。うなりを上げるドリルが顔を出した。サイズこそドリトルのドリルブローより慎ましいが、こっちは一発で終わりではなく精密正確に武器として使用してくる。しかも、相手の動きの勢いや起こりを正確に読んでインファイトするタイプのフェアにとって、軽く触れるだけでも破壊力を発揮するドリルは(いつかは克服してしまうのだろうけど)今のところ弱点とも言える。

 

「……ルニア!!」

 

 弱点は補うのが仲間というモノ。ルニアの悪魔的部分が火を吹く。暗黒魔力弾。同界が効きにくいのと反対に、機界と霊界、鬼界と獣界の理は相反し互いに"こうかばつぐん"だ。

 さらにもう一つの新戦力、スライムポットも呼び出す。車輪や脚に絡みついて行動阻止。ついでにスワンプもボクスも出してしまえ。ミントさんもここぞとオヤカタを喚び出した。

 

「戦力誤算...帰還優先...Flash!!」

「うわっ!?」

 

 カッと目の前が真っ白になる。バタバタと音がして、目の調子が戻った頃には敵の最後の一機が茂みに逃げ込むところだった。

 

「ううう……チカチカする」

「………」

 

 ルニアがフェアの前でフワリと舞った。天使の力による祝福。浅い傷や目眩ならすぐに治る。

 

「ん、ありがと、ルニア」

「ちょっと、私もー」

「あんたは特に怪我してないでしょ」

「だってそれ気持ちいいんだもん」

「ルニア、てきとーにやっといて」

「テキトーって何よ」

「そりゃ特に必要無いもの。力を使うのだって疲れるみたいだし。それで、あの子は……」

「気を失ったみたいです」

 

 件の天使はルシアンが無事避難させ、ポムニットさんの膝元で眠っていた。目立った傷は無い。それとも治癒能力か何かで治ったのだろうか。

 

「それにしても、何だったんだあいつらは」

「あれだけたくさんの機械兵器に、機械人形……並みの召還師に扱える量じゃないわ」

「それに、龍の子に反応してた」

「やっぱりあいつらの仲間だよね」

「機界のモノで構成された、三番目の軍団か」

「とすると、それに攻撃されてたこの娘は……」

「この子も、……天使ってことで間違いないですかね?」

「恐らくは……昔霊界召還士の先輩に見せてもらった天使と翼や環の魔力の感じが似てるので、他の種類の召喚獣が形だけそうなったものじゃないと思います」

「天使がその辺をフラフラしてるなんてそうそう無いですよね?」

「あんたの相棒は魔天使だけどね」

「サプレスの召喚獣というだけで珍しいのに、特にこうしてはっきりとしたカタチを持っている存在は珍しいですね。ルニアちゃんも、この子も」

「じゃあ、何か特別な事情が……。もっと言えばミルリーフの関係者」

 

 攻撃的な軍団と敵対していたことからして、ミルリーフについて何か知っている味方と見るのが自然だが、ひょっとするとどちらも私たちにとっては敵で潰し合いをしているだけかもしれない。天使の正義が私たちに理解できる正義だとは限らない。最も、これは私の頭の中だけで留めておくべき低確率で無駄に不穏な考えだ。

 

「そうなると大きな収穫ね」

「目が覚めたら訊こう。今はとにかく手当して休ませなきゃ!」

 

 予定より大仕事になってしまったが、その分予定より大きな関係者という手掛かりを得た。また一仕事。グラッドさんが天使を負ぶって、私たちは店へと帰った。




読んでる人いるのかな


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第3話 ドキドキ、はじめての御使い ~A Cutie Angel~ ⑥ (原作三話)

お久しぶりです。
敵側に如何にもなオリキャラを入れて行きますが、良キャラにできるようがんばります。


「天使と機界軍団か……」

 

 天使の子を客室の一つに寝かせ、全員がひとまず食堂のテーブルに落ち着いた。そうして始まるのはもちろんさっきの戦闘の反省会だ。

 

「ますます大事ですね」

「でもあの司令官の機械人形は『将軍』ほどの強さじゃなかったから、少し気が楽かな。『剣の軍団』に来られるよりは……」

「な~に言ってるのよ!」

 

 自分でも自信が無かったのか、珍しく弱弱しい調子のフェアの発言は、案の定リシェルに一喝されてしまった。

 

「アレが頭じゃないわ。機界召喚獣の身体は、傷を負ったりすると自分で勝手に治ったりしないの。少しの例外を除いてはね」

 

 しかし今回は勢い任せの『リシェル理論』ではなく、少し神妙な表情だ。

 

「高い技術と知識を持った誰か……つまり機界召還士が居ないと、軍団はすぐにダメになっちゃうわ」

「うーむ、それがあの機界人形だって可能性は?」

「あの機械人形自身も改造されたものよ。あの腕、たぶん全然違う別の大型機界召喚獣から移植改造したものだと思う。規格も質感もあそこだけ、それこそ取って付けたみたいに違うもん。それができる存在が必要だわ」

「こっちに来た時からそうだった――かもしれないけど、機界周りでもう一人は同等かそれ以上の奴が居ると覚悟した方が良い……」

 

 リシェルに目を合わせると、深く静かな頷きが返ってきた。機界召還士、それもリシェルの反応から察するに、機械人形の扱いができるのはかなり高位の者。ミントさんは獣界でも穏やかな分野の若手研究員だし、最悪、ブロングス氏も戦闘となると頼れるかどうか。『傀儡戦争の知られざる主力』さんには、早急に相談ではなく救援要請を出すべきかもしれない。

 

「っはぁ~、やっぱり厳しくなってるか……」

「でも、あの天使の子を保護できたわ。今はそれを喜びましょう?」

「そうですね。ただ待っていたよりは確実に良かったはずです」

「それで、あの子の具合はどうなんだ?」

「寝てる、としか言えないわね」

「一応、目に入った怪我には薬を塗ってみたりしましたけれど……」

「意味が有るのか分からないんですよね」

「確かに息も落ち着いてるけど、そのままスっと消えちゃうかもしれないし。この中で一番サプレスについて経験が有るのがナオという実情よ。ナオ、何か分かる?」

「ルニアは普段実体化してないから……とりあえず何か有れば休養としか」

 

 強いていうなら月の光が良いとか、そんなことを言っていたような言っていなかったような。

 

「まぁ、こんなもんよ」

「こんなもんて」

「何にせよ、今はあの子が早く良くなることを祈るしかない、か」

「さあ、さっき飲みそびれたお茶を楽しみ直すくらいはできるかな」

「ふふ、すぐ用意しますね」

「私もちょっとしたおやつ作るよ」

 

 軽く冗談のつもりで言ったのにポムニットさんとフェアが素早く動き出したせいで、なんだか催促したようになってしまった。紅茶とホットケーキの穏やかな香りと甘みの前では些細なことだが。

 

 しばらく経って見回りの仕事のためにグラッドさんが席を外し、ミントさんもそろそろ帰ろうかと立ち上がったところで二階からドタンと物音がした。たぶん、あの天使が居る部屋のあたりだ。

 

「……起きたか」

「さっそく行ってみる?」

 

 あまりたくさん行って威圧してはいけないからと、私とフェアが向かう。扉の前までやってきた。シーンと静まって、警戒しているようだ。フェアは私をちらりと見てから、軽くノックしてドアを開けた。

 

「入るわね? 具合はど――」

「近づかないで!」

「!?」

「私とて御使いの端くれ……立派に散る覚悟くらいできていますわ」

 

 不穏な言葉の意味を問う間もなく天使の身体が強い光を放ち始める。漫画やアニメの爆発演出のようだが、おおかたそれで間違い無いんだろう。

 

「傲慢にも魔力拘束は愚か結界さえ怠った己を省みながら転生の環に還りなさい!」

 

 ともかく危険。フェアと私は大慌てし、姿勢を低くしつつ、さっき潜った扉から逃げ出した。そしてその頭上を飛び越えた小さな影が一つ。ミルリーフだ。

 

「ピギャ!!」

「……え」

 

 つられて振り返れば、光もおさまって何やら呆けた様子の天使。「御子様……」と、呟きながらミルリーフを見つめている。

 

「落ち着いた……んかな?」

「とりあえず、色々と訊きたいから下まで来てくれる?」

 

 フェアの問いにさっきと打って変わって天使は黙って頷いたが、その中により強い敵意が見えた気がする。どうにも天使というものは想像と違う生き物のようだ。

 

「はい、お茶をどうぞ。喉も乾いているでしょうし……」

「………」

 

 ポムニットさんが本日十数杯目の紅茶を置く。天使はそれを知らん顔。神妙な表情で食堂の席に座ってくれたは良いが、今度はそのままムッツリと黙り込んでしまった。

 

「それで、まず、貴女は何者……というかなんというか、名前は?」

「ふん、白々しい猿芝居もいい加減にしなさい」

「!?」

「私は誇り高き御使いにして智の天使リビエル。如何なる詰問にも屈しませんし、とりわけそんなアップルパイのチョコフォンデュのように甘々なお芝居にはひっかかりませんわ」

「ちょっと、何言ってるの?」

「だから通用しないと言っているんですの、おバカさん。埒が明きませんからあえて言ってあげますけど、あなた方が軍団の一味だということはお見通しですわ」

「な……」

 

 したり顔の天使の周りで、皆ポカンとしてしまう。この天使、リビエルは自らを智の天使と称したが、恩は知らないようだ。 

 

「軍団って、あの機械人形たちのことで良いんだよね?」

「他に何がありますの」

「私どもはそれと戦って、あなたを助けてここまで運んだんですよ」

「ええ。薄っすらと覚えていますわ。私を油断させて、秘密を訊き出そうという魂胆でしょう」

「そんな――」

「そ・し・て、たとえ軍団と関係無かったとしても、私は人間という種族自体を信用していませんので。御子様も捕らえられてしまった今、私には何も出来ません。しかし、あなた方の思惑通りになることも絶対にありませんので」

「あんたねぇ……」

 

 リシェルでさえ呆れて上手い言葉が出ないないほどの頭の固さである。仮に、本当に敵だったら全く余計な責め苦を招きかねない態度だ。

 しかしこの相手にも穏やかに言葉を選んで接することができる辺りはミントさんの凄さだろうか。

 

「……リビエルさん、私たちだって、偶然この子を拾って、あの軍団とも戦って、これからどうすればいいか困っているの。貴女がこの子の保護者——」

「『御使い』……御子様にお仕えする者ですわ」

「そう。その立場なら、喜んで協力したいと思ってる」

「その、なんと言うかさ、この子、ミルリーフに免じてちょっとは信用してくれないかな?」

「ピィ!」

「………」

 

 さっきもそうだったけど、ミルリーフが前に出たとたんスッと態度が変わった。ここで一押しできれば……。

 

「……『御子様』と崇めてるみたいだけど、じゃあ、その御子様は然るべき相手を見抜けないほどマヌケ?」

 

 虎の威を借るありきたりなセリフを言ってみる。ミルリーフに限っては、そういう力も本当に持っているようだが。

 

「………分かりました。あの軍団に対抗するため、手を組みましょう」

 

 リビエルは観念してため息をついた。フェアも同じく息を吐いたが、こっちは安心の意味だ。

 

「やれやれ。じゃあ、気を取り直して、色々と教えて欲しいことが有るんだけど……ってより、まずこっちのことを言っておくわ。私がこの店の主人のフェア。それにこっちのリシェルとルシアンは姉弟で、リシェルの方は機界の召還士よ。それで――」

「私はナオ。『名も無き世界』からの召喚獣」

 

 リビエルは少し驚いたようだった。どこからどう見ても普通の人間、というか実際普通の人間の私が召喚獣だとは思わなかったのだろう。フェアも私がそうやって白状したことに驚いたようだ。だけど、相手も異界の存在で、何より今は信頼を得たいところ。嘘をついていては始まらない。フェアもそう思い当たったようで、すぐに話を続けた。

 

「そう……それで、この四人が、あの丘でミルリーフと出会ったってワケ」

「そして、お嬢様とお坊ちゃまの世話役であるこのポムニットと」

「獣界召還士の私、ミント……今ここには居ませんけど駐在軍人のグラッドさんが協力してあの軍団と戦っていたんです」

 

 信用しているかはともかくリビエルは一通りこっちの話を静かに聞いていた。そして、その分は返すということか、少しだけためらった後話し始めた。

 

「……『御子』様は、『ラウスブルグ』を守護する偉大な竜の後継者。そして私たち『御使い』はその補佐としてラウスブルグの平穏を支える役目を仰せつかっている者です」

「ラウスブルグ……ってのは?」

「メイトルパの古い言葉で『呼吸する城』ですよね」

「そうです。召喚獣たちの集落と理解しておいてください」

「ふーん……、そのラウスブルグの次の王様が、なんだってこんなところに吹っ飛んで来たの?」

「それは……ちょっとした事故ですわ」

 

 リシェルのもっともな疑問に、リビエルは僅かながら明らかに同様した。ひょっとして彼女のミスが原因なんだろうか。御使いとして御子様の卵の世話を言い渡されていたのにちょっと目を離した隙に……とか。変身だってなんだってできる、このファンタジックな世界でもぶっ飛んでファンタジックな存在である至竜だ。卵が一人で動き出すなんて、どうしてその可能性を否定できるだろう。

 

「ともかく、つまりミルリーフの親や故郷がはっきりして、迎えも来たって状況ね」

「そういうことですわね」

 

 根本的な問題は解決したっぽいということだ。根本的な問題が解決、って普通なら凄い進歩なんだけど……

 

「ただ、やっぱりあの軍団が」

 

 目先の問題の方が大きすぎる。

 

「現にこの天使はやられちゃってたもんねー」

「ぐっ……それは………」

「私たちもできるだけ協力して送り届けるわ。だから、あの軍団について教えてくれる?」

「私も、詳しくは分かっていないのですけれど」

 

 フェアの真っすぐな瞳に、リビエルも少しは心を開いたようで、いや、そこまでは行かずとも少なくとも敵ではないと理解してくれたようで、さっきよりも柔らかい雰囲気で答えた。

 

「敵は首領とその直轄らしき集団、そして人間の軍団と、メイトルパの召喚獣の軍団と、サプレスとロレイラルの混成部隊で動いています」

「人間の軍団が、将軍。獣界はまだ見てないとして、霊界機界の一部が今日のアイツら……」

「そう。主に私を追っていたのはその軍勢で、ロレイラルの召還士である老人、『教授』とサプレスの召還士である『ロータス』が束ねているみたいですわ」

「ほらやっぱりあの機械人形が頭領じゃなかった!」

 

 リシェルはほら見なさいと鼻を鳴らした。

 

「喜べる話じゃないけどね」

「搦め手のサプレスと破壊力のロレイラルの合わせ技だもんね」

「幸い、教授と違って、ロータスは軍勢として召喚獣を周りに置くことは殆どしませんわ。悪魔はいつ何時裏切るか分かりませんから。それは使い手である彼女が一番よく分かっているのでしょうね。契約も時に詭弁で捻じ曲げますし」

 

 目的……は、訊くまでも無いか。力を持った竜の子供。それが何かの事故で親のもとから離れたとなれば、大きな力を手に入れるまたと無いチャンスだろう。

 

「迎えが来るまでなんとか耐えられますでしょうか……」

「将軍は手加減してくれるけど今日の機械人形は容赦無し、って感じだったわ。その分弱かったけど、それはまだ下っ端だからよね。『教授』の性格次第だね……」

「ロータスの方は?」

「敵意も、実際に追い詰めるつもりも殆ど無いようだけれど、悪魔使いらしく戦闘や混沌そのものを楽しむように大暴れしますの。一たび動き出すと大変ですわ」

 

 めんどくさいヤツか……。

 

「『御使い』って何人か居るんでしょ? それをアテにしても良いわよね」

「え、ええ……御使いの中で、私は一番弱いくらいですわ。他は武術の達人やラウスブルグ一の戦士など……」

「それなら心配無いよね。他のラウスブルグのひとたちも、ミルリーフのために戦ってくれるだろうし」

「そうね。少なくとも、際限もなくアイツらと我慢比べすることにはならなそうで良かったわ」

 

 一度やると決めたこと。困難を見つめるのも大切だが、可能性や進歩を口に出して自分や周りを鼓舞するのはもっと大切だ。適材適所、いざという時の備えは私やミントさんに任せてリシェルにはこれからも能天気でゐて欲しい。新しい面倒を持ち込むのは勘弁だけど。

 

「じゃあ今後は他の御使いが素通りしちゃわないように、今日みたいにちょっと探してまわればいいのね」

「そうだね。それを明日からがんばることにして、今日はもう解散してしっかり休もっか。戦いも有ったし」

 

 気付けばもう空の端が少し赤らんできている。そうではないことを祈るが明日も騒動が有るかもしれないし、無くても普段の仕事が有る。ミントさんの言う通り、ちょっと早めに寝支度をするのが良いだろう。

 

「フェア、コイツもここで泊めていいわよね」

 

 そうして席を立ち、思い出したようにリシェルが言った。

 

「コイツ、って、あなたねぇ……」

「あはは、まぁ、良いわよ。どうせ部屋は余ってるし」

 

 言葉遣いはともかく、元々それ以外に選択肢は無い。フェアはすぐに了承した。この天使から宿代や食事代を取れる期待は無さそうだけど、私もちょっとしたバイトくらいの働きで生活の面倒を見てもらっている身。このことについて意見はしなかった。できるなら良い隣人として関係を作っていきたいものだ。






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