閃の日常 (堕人間(21))
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第1話 おひるね

もしかしたら覚えていらっしゃる方がいるかもしれません
りゅうー(本物)だった者です
諸事情で前のを消してリメイクさせていただきました

暖かく見守っていてください


リィン・シュヴァルツァーは中庭にあるベンチに座って悩んでいた。

 

「......んっ...」

 

膝の上、俗に言う膝枕の状態で気持ち良さそうに寝ている猫のような少女、フィー・クラウゼル。

 

「...すぅ...すぅ...」

 

フィーがいる逆側に座ってリィンの肩に寄りかかり、寝ていながらもどこか凛とした雰囲気を漂わせている少女、ラウラ・S・アルゼイド。

 

太陽の朗らかな陽気が気持ち良く、すこしだけベンチで休んでいたら寝てしまい、目を覚ましたらこのような状況になっていた。

 

(さて、どうしたものか...)

 

2人を起こしてどいてもらおうと思わないのがこの男の良いところなのだろうか。

リィンは気持ち良さそうに寝ている少女達を起こさないように注意しながらため息を1つ吐いた。

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

エレボニア帝国はトリスタにあるトールズ士官学院。

ここは帝国中興の祖「ドライケルス大帝」によって創設された、貴族・平民を問わない優秀な人材育成を目指す帝国屈指の名門校である。

白の制服を見に纏うは貴族出身の生徒、一方で緑の制服が平民出身の生徒。

両者は学業成績や武術訓練、クラブ活動などで競い合っていた。

貴族と平民という身分の差はあるが、まだ学生だからなのか大人達ほど確執があるわけではないので両者の間にはそれほど大きな隔たりはない。

しかし、近年エレボニア帝国における”貴族派"と"革新派"の水面下での対立が激化しており、”貴族派"と"革新派"両方の理事をもつトールズ士官学院の生徒たちにも影響を与えていた。

それを受けて、貴族と平民が同じ学び舎にいる以上いつその隔たりが大きくなるか分からない。

そこで学院は1つの特別クラスを作った。

 

その名も特科クラス《Ⅶ組》

 

新型オーブメント《ARCUS》の性能を試すという名目のもと、貴族平民関係なく集められたクラスであり、冒頭の少年少女──リィン、フィー、ラウラ達もそのクラスの一員である。

始めこそ貴族と平民が差別なく同じ教室で学ぶことに戸惑いはしたが、彼らは他の生徒とは違ったカリキュラムを受けたり特別実習をこなしていくに連れて、仲が深まって行っていった。

リィンもまた、己の出自や身分、内に秘めるものを皆に話し、時には仲間内のいざこざを仲介し、事件や問題を率先して解決していった。

まぁ、その結果色々と新しい問題(落としてきた女性達のいざこざ)も出てきたのだが...

 

 

それはさておき、話は冒頭に戻るがその前に。

トールズ士官学院の中庭は丁度三方向を「コ」の字型に建物で囲まれており、冬は風に吹かれないため暖かく、夏は木陰ができて涼しい。そのおかげか、どの季節でもお昼時になると生徒達がベンチに座り談笑などをしているのがよく見られる。

 

そんな場所で、2人に体を預けられ身動きが取れない状況、しかもその2人ともが美少女で、校内では色々な意味で有名なのだ。

 

正直ものすごく恥ずかしい。誰かに見られでもしたら根も葉もない噂が飛び交うことだろう。美少女を2人も侍らしているということでリィンの悪い噂を主にして。

出来ることなら問題が起こる前に2人を起こしたい。が、リィンは思う。こんなにも気持ち良さそうに、自分に身を任せて寝ている2人を起こすことなど出来るだろうか?

 

(いや、無理だろう...)

 

というわけで、リィンは現状維持を選んだ。せめて、2人が早く起きてくれるか誰かが来るのを祈りながら...

 

 

さてさて、ここでⅦ組の制服について話しておこう。

実は、特科クラス《Ⅶ組》の制服は他の2種類のどちらにも当て嵌まらない。

では何色なのだろうか?

 

『赤』なのだ

 

白、緑の中に赤である。

はっきり言って目立つ。

そのため、誰でも制服を見るだけで"Ⅶ組の誰か"とまでは分かるのである。

さらに、リィンは自由行動日に生徒会の手伝いとして学生や街の人たちからきた依頼などをこなしており、トリスタに住んでいるほとんどの人たちと面識がある。

それに加え、良く女の子と一緒にいるのを目撃されており、さらにさらに、見かけるたびに前とは違う女の子を連れているので皆リィンの事を早い段階で覚えてしまった。

女誑しと言う情報と共に。

まぁ、あまり悪い方向で広がってないのはリィンの人徳が成せるものなのかもしれないが...

 

ともあれ、だからだろうか、中庭という人が集まりやすい場所にも関わらず、誰もリィン達のもとに行く者はいなかった。

桃色空間に入りたくなかったのである。

このことは本人が知る由も無かったが。

 

 

 

少したって陽が傾いて来た頃、膝の上で寝ていたフィーと目があった。

 

「...おはよう、リィン」

 

「おはよう、フィー。いきなりで悪いんだか、そろそろ膝から降りてくれないか?足がしびれてきたんだが...」

 

「ん、わかった...」

 

そう返事するとフィーは体を起こし、ふあぁというあくびと共に背筋を伸ばした。

 

同時に、人の動きを感じたのか、リィンに寄りかかって寝ていたラウラも目を覚ました。

 

「ん...」

 

「ラウラも起きたか。おはよ...」

 

そう言いながら左を向いたリィンは固まった。

 

(か、顔が近い...)

 

それもそうだ。ラウラは今までリィンの肩に頭を乗せて寝ていたのだから、横を向けばすぐそばに顔があるのは当たり前である。

 

「ん...?リィンか。おはよう...」

 

寝起きでまだ視界が悪いのか目をこすりながら言ってくるラウラ。

何も言えずに固まっているリィンを見て今だ思考がまとまっていなかったラウラだったが、意識がはっきりとして来たとたん彼女の顔は真っ赤に染まった。

 

「リ、リィン!?そなた、ち、近いぞ!?」

 

「すごい密着して寝てたからね。」

 

ジト目でリィンを見つめながら理由を述べるフィー。

そこでフィーがいることを思い出したラウラはさらに顔を赤く染める。

 

「あ、あはは...。とりあえず2人とも、体を伸ばしたいから離れてくれるか...?」

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

「ところで、2人ともどうしてここに?」

 

体を伸ばし、スッキリしたリィンは今だ顔が赤いラウラと若干不機嫌なフィーの2人に聞いた。

 

「ちょうど部活が終わってギムナジウムの前を通ったらラウラと会った。」

 

「う、うむ。そこで少し話をしていたら中庭のベンチで眠るリィンを見つけてな。」

 

「初めは起こそうと近づいたんだけど、気持ち良さそうに寝てるのを見てわたしも眠くなっちゃって。」

 

「フィーがリィンに近づいたと思ったらいきなり膝枕で寝始めたからびっくりしたぞ...」

 

「反省はしてる。後悔はしてない。」

 

「そ、そうだったのか...。あれ?じゃあ、どうしてラウラは俺の隣で寝ていたんだ?起こしてくれれば良かったのに」

 

「そ、それはだな...なんと言うか、その、ね、寝顔が...」

 

「?」

 

「それを聞くリィンはやっぱり唐変木。」

 

「な、なんでだ...?それとフィー、なんだか不機嫌じゃないか?」

 

「知らない」

 

プイッとそっぽを向くフィー

いきなり唐変木呼ばわりされたが、あまり意味の分かっていないリィンは「はぁ」とため息をついた後、何かを思い付いたのか空気を変えるために2人に向き直った。

 

「そうだ2人とも、これから暇か?」

 

「う、うむ。私は大丈夫だが...」

 

「わたしもオッケー」

 

「もしよかったらキルシェで夜ご飯でも一緒に食べようかと思ったんだが、どうだ?」

 

「ふむ、そういう誘いなら喜んで受けよう。」

 

「やった。リィンのおごり?」

 

「フィー、さすがにそれは...」

 

「あぁ。大丈夫だラウラ。こんな時間まで付き合わせてしまったからな。そのお詫びってことで。」

 

「そなたがそう言うのであればいいが...」

 

「それにこの3人で食べるってのもなかなか無いしな。」

 

「そういえばそうかも。」

 

「リィン、そなたに感謝を。ならばシャロン殿には私の方から連絡しておこう。」

 

「お願いするよ、ラウラ。」

 

「それじゃ、準備が出来次第出発だね。」

 

 

こうして3人は学校を後にし、夕日を背に、街にあるキルシェへと2人でリィンを挟み仲良く向かっていった。

 

キルシェ店長であるフレッドに美少女を2人も連れている事をからかわれたり、ご飯を食べ終えて寮に戻ったら、女性陣─特にアリサ─にいろいろ聞かれたがそれはまた別の話。

 

 

〜fin〜

 

ちなみに...

 

リィン「それにしても、どうして中庭にいたのに誰も話しかけてくれなかったんだろう...」

 

夜、リィンは1人寝落ちするまで考えていた...




誤字脱字、キャラの違和感などがありましたら気兼ねなくお教えください

感想待ってます


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第2話 ふたご

ばんわ
どうも堕人間です
誰が出るかはタイトルで分かるかと

それではどうぞ


いきなりだが、トールズ士官学院の生徒にケネス・レイクロードという男子がいる。彼は帝国屈指の釣具企業"レイクロード社"の起業家であるレイクロード男爵家の次男にあたる生徒で、学院では彼の兄が作った"釣皇倶楽部"の唯一の部員兼部長を勤めている。

 

そんな彼からリィンに生徒会を通して依頼が出された。

その内容というのも、ここ最近トリスタを流れる川で釣った魚が、異様に沢山のセピスを吐き出すという異変が起きているので、その調査をして欲しいとのことだった。

 

トリスタを流れる川は一つしかなく、リィン自身もそこで釣りをよくするので馴染みの場所だった。

川のすぐ近くには民家も建っており仮に何か大きな問題に発展した場合被害を被る確率が高いので、出来れば直ぐにでも調査、ないし問題があった場合の早期解決が望ましい。

運良くも、今日の生徒会からの依頼は数が少なく、この依頼の他は短時間で終われそうなものばかりなのでリィンはまず他の依頼を素早くこなしてからケネスからの依頼を確認するため、件の川で釣りをすることに決めた。

 

 

釣糸を垂らし始めて数刻、依頼に書いてあった通り、釣れた魚のほとんどはセピスを多く吐き出した。

リィンもここまで魚がセピスを落とすとは思わず、事態は思いの外深刻になっている事を理解した。

 

(確かにこれはおかしすぎるな...)

 

そう思い、一旦釣り具などをしまい、川の近辺を調査し始めようとした時、川に架かっている橋から聞き覚えのある声が2つ聞こえた。

 

「あれ?あそこにいるのリィン君じゃない?おーい、リィンくーん!

 

「ちょっとヴィヴィ!いきなり走らないの!あ、ちょっと待ってよ~!」

 

橋の方に見えたのは、髪型以外はほとんど一緒の、双子と思われる女子生徒2人だった。

 

「やっほー、リィン君!何してるの?」

 

先に駆けて来たのは、髪をストレートに下ろしている女の子、ヴィヴィという子である。

 

「やぁ、ヴィヴィ。ちょっと生徒会の手伝いでね。」

 

そう挨拶を交わしていると、少し遅れて後ろ髪を左右に分けてそれぞれを首あたりで縛っている女の子、リンデが小走りにやってきた。

 

「ヴ、ヴィヴィったらいきなり走り出して...。あ、リィンさんこんにちは。」

 

「リンデもこんにちは。2人ともどうしたんだ?見た所街の方から来たみたいだけど。」

 

「はい。ヴィヴィと一緒にお花屋までちょっとお買い物に。」

 

「イタズラの材料をね♪」

 

「部活のでしょ...」

 

「はは...。」

 

会話や見た目からも分かる通りリンデとヴィヴィは双子である。

が、それぞれは美術部と園芸部に所属している。

 

ちなみに余談だが、同じⅦ組にもガイウスが美術部、フィーが園芸部に所属しており、2人+リンデはよくヴィヴィのイタズラに巻き込まれていたりする。

 

「そう言えば俺も、リンデに扮したヴィヴィに1回イタズラされたな...。」

 

「そう言えばそんなことありましたね。たしか、グランローズを使ったやつでしたね...。」

 

「あはは、やったやった!あの時のリンデの反応は面白かったな~♪ね?リィン君!」

 

「あははは...。確かに真っ赤だったな。」

 

「も、もう!あれは忘れてください!」

 

ヴィヴィのイタズラから2人とはそれなりに交流があり、幾度となくリィンもイタズラに巻き込まれている。リンデとヴィヴィに初めて会った時の事を思い出しつつ3人で仲睦まじく話をしていると、穏やかな空気を引き裂くように唸り声が聞こえた。

そして直ぐに、川から影が3つ、飛び出してきた。

 

「っ!」

 

「きゃっ!」

 

「ヴ、ヴィヴィ!きゃぁ!」

 

それに驚き腰を抜かすヴィヴィと足を縺れさせ倒れこんでしまうリンデ。

 

「大丈夫か2人とも!」

 

そんな2人にリィンは声をかけながら飛び出てきた影───魔獣と2人の間に盾になるように体を滑り込ませ戦闘態勢をとる。

 

「なんでこんなところに魔獣が!?いや、そんなことより───はっ!」

 

浮かんできた疑問は一旦頭の片隅によけ、気合と共に手を掛けていた太刀を抜き、そのまま飛びかかってきた魔獣の一匹目に斬りつける。所謂居合い切り、八葉一刀流では紅葉切りという技である。1体目を切り捨て、そのまま2、3体目も斬りかかり不意討ち気味に襲われたとはいえ難なく魔獣たちを討伐した。

 

その後川を方をしばらく見て、魔獣の気配がしないのを確認すると納刀をし、階段の方に避難したまま腰を抜かしている2人に駆け寄った。

 

「2人とも怪我はないか!? 」

 

見たところ、制服の破れや目立った外傷などが見当たらなかったため、リィンは安心したが、よく見るとリンデの髪が下ろされていることに気づいた。

 

「ってあれ?リンデ髪がほどけてるぞ?」

 

「だ、大丈夫です。ビックリして足を縺らせただけですから。髪の方はさっき転んだ拍子にゴムが切れてしまった見たいです...」

 

「わ、私も大丈夫だよ~。ちょっと腰抜かしただけだから。」

 

「それなら良かった、服とかも破れてる様子は無さそうだ。魔獣の方は撃退したし、再度襲ってくる気配もないからひとまずは安心かな。しかし、セピスの件はこれが原因か...。なぜトリスタ内の川に魔獣が...」

 

どうやら、どこからか侵入してきた魔獣が魚を食べ、食べられた魚が落としたセピスを他の魚が食べる、といった事が続いた結果セピスを多く吐き出す魚が完成したようだった。

 

リィン(だとすると、このままじゃ街に住んでる人達も危ないな。いつ魔獣が住宅街の方へ行くかわからない。サラ教官に話して魔獣の侵入経路をなくさなきゃ。)

 

そうリィンが思案していると、何やらじぃっと自分を見つめる視線に2つ気付いた。

もちろん、リンデとヴィヴィである。

 

「どうした2人とも。やっぱりどこか痛むのか?」

 

「い、いや何でもないです!」

 

「そ、そうそう!気にしないで!」

 

焦ったように言う2人。

 

「と言っても、なんだか2人とも顔が赤くないか?」

 

「い、いや!そんなことないから!」

 

「...っ。そ、そんなことより!どうして私の方がリンデだとわかったんですかっ?私達は髪型を一緒にするとほとんど見分けが付かないと思うんですけど...」

 

「あぁ、その事か。うーんと、俺なりの見分け方が見つかったというか...」

 

「見分け方?」

 

「ああ。2人ともよく見ると瞳の色が違うんだ。」

 

「リンデは何て言うか暖かみのある穏やかな色をいてるんだ。ヴィヴィ以外の人には同い年でも敬語を使うけど、それは決して距離を感じるものじゃなくて、話していてとても落ち着く敬語、みたいな。そんな誰にでも優しくしていて、ヴィヴィのことは誰よりも大切にしている。それを表したかのような瞳なんだ。」

 

「それで、ヴィヴィの方はと言うと、本人の性格通り明るく元気な瞳の色かな。誰とでもすぐに打ち解けられるし、俺だけじゃないと思うけどヴィヴィと話していると元気が出るんだ。いつも楽しそうで、皆に人気のヴィヴィをよく表してる色だと思うよ。」

 

「とまぁ、こんな感じかな?なんか2人とも途中瞳から離れちゃった気がするけど...。あれ、2人ともどうしたんだ?下なんか向いて。」

 

リィンが話終わって目を開けると、2人が顔を下に向けているのに気がついた。

 

ちなみに瞳の話をしている間リィンは、真剣な顔をしており、途中からは目をつむっていた。

 

話している本人(女誑し)は目をつむっていたため気付かなかったが、2人とも話を聞いている内に耳の先から首の根元に至るまで先程よりもさらに真っ赤になっていった。それこそあの赤いグランローズに勝るほどに。

それもそのはず、こんな真っ正面から褒め殺されたら誰だってこうなるに決まっている。しかもつい先程、自分達の事を身を挺して魔獣から守ってくれた人から、である。

 

リィンがどうしたのだろうと考えていると、数回深呼吸したリンデがスクッと立ち上がった。

 

「リ、リィンさん。先程は助けていただき、有難うございました。幸い私もヴィヴィも怪我は無いのでこのまま学院に戻ろうと思います。お礼はいつか必ずします。そ、それではっ。」

 

早口でそう捲し立てると足早に立ち去るリンデ。

 

「ち、ちょっとリンデ!えっと、リ、リィン君、私からもありがと!またねっ!」

 

そう言うとヴィヴィもリンデを追いかけるように小走りで学院の方へと駆けていった。

 

「えっと、俺も学院に戻るんだけどな...」

 

1人呟いたリィンは1つため息をつくとトワ会長とサラ教官に報告するため学院へ戻るのだった。

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

───その日の夜

 

第三学生寮で夕食を済まし、皆と食後の会話を楽しんでいる中、フィーがリィンに問いかけた。

 

「ねぇリィン、今日の部活でヴィヴィにリィンの事を沢山聞かれたんだけど、ヴィヴィに何かした?」

 

「そう言えば、リンデもリィンの事を聞いてきたな。」

 

フィーとガイウスの発言に皆の視線がリィンに集まる。

 

「いや実はさ...」

 

そう言ってリィンは昼間、トリスタの川で2人に会った事やその後に起きた出来事と魔獣の話をした。

 

「トリスタの川でそんなことが...」

 

「川から魔獣って、危ないね...。サラ教官にはもう話したの?」

 

「ああ。明日にでも教官が街道の方とかを見回って下さるみたいだ。」

 

「そういうことなら、とりあえずは安心だろう。」

 

「ふん。ちゃんと女子2人に怪我を負わせなかったことは誉めてやろう。」

 

「だからどうして君が上から目線で言うんだ...」

 

男性陣が川と魔獣の話をしている中、女性陣は今だ思案顔のフィーに気が付いた。

 

「あの、フィーちゃん?まだなにか気になることがあるんですか?」

 

「ん。実はリィンの事を聞いてる間、ヴィヴィの顔が凄く赤かった。」

 

「それは...」

 

フィーの発言に今度は訝しむ視線がリィンに向けられる。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

その視線に気付いたリィンは正面に座っているアリサに聞いた。

 

「リンデさんとヴィヴィさんを助けた後に何か言った?」

 

「えーと...リンデの髪が解けたんだけど、見分けがついて、どうしてか聞かれたから2人の瞳について話したな。」

 

「それ詳しく。」

 

フィーにせがまれリィンは思い出すように、リンデの髪が解けた所からから瞳の色について話したら2人が急いで学院に戻って行った所までを話した。

 

「...」

 

流石の内容に女子だけでなく、魔獣の話をしていた男子も黙りこんでしまう。

 

「ど、どうしたんだみんな?」

 

いきなりの沈黙に焦るリィン。

 

「はぁ...。まったくあなたという人は...」

 

「ふむ、聞いてるこちらが恥ずかしくなってきたぞ...」

 

「あはは...まぁ、リィンさんですし。」

 

「天然タラシ、ここに極まり、だね。」

 

「成る程、リンデのあれ(赤面)はこれが原因だったのか。」

 

「ははは、流石リィンだね。」

 

「なんと言うか、君というやつは...」

 

「流石の俺でもこればかりは真似出来んな。」

 

「あらあら。」

 

「??」

 

みな、思い思いの言葉を述べていく中、リィンだけは何故こんな風になっているのか分かっていなかった。

相変わらずの朴念仁である。

 

その後、リィンが女性陣に根掘り葉掘り聞かれたために寝るのが遅くなったのは別の話。

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

───同日夜、第二学生寮のリンデの部屋

 

「「はぁ...」」

 

リンデと彼女の部屋に来ていたヴィヴィは双子よろしく2人一緒にため息をついた。

もちろん原因は昼間自分達を助けてくれた唐変木の彼──リィンだった。

 

「リィン君、かっこ良かったね...」

 

「うん...」

 

夢心地にリィンの話をする2人のそれは完全に恋する乙女のものである。

 

「これからどう接すればいいんだろう...」

 

「ね...」

 

2人して頬を赤く染めてニマニマと緩んだ顔をしながらも、これからのことに頭を悩ませていた。

 

 

それかというもの、この日以降、リィンと会話している間、頬が赤く染まる双子が見られるようになった。

 

 

~fin~




いかがでしたでしょうか?

誤字脱字、キャラの違和感などがありましたらご指摘ください

ありがとうございました


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第3話 おとめ

|´-`)チラッ

|ω' ) スッつ第3話


「いらっしゃいませ」

 

お客が入店したのを知らせるベルを聞き、今日何回言ったのかわからないほど繰り返した言葉を、キルシェの制服に身を包んだ少年──リィンは言う。もちろん、爽やか笑顔を添えて。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

7月上旬、春も終わりを迎え、夏へと変わろうとしているのを知らせるためか太陽はその光を惜しみなくトリスタの街へと降り注がせている。時刻は正午を過ぎたあたりで、休日ということもあってか店内はそれなりに賑わっている。キルシェは軒先にパラソルを立てた席も用意しており、注文した物を店外でも食べれるようにしているが、直射日光は遮れても流石に熱気を持つ空気までは遮れないので今日は使う人がいない。やはり空調が効いている店内を使用する人の方が多いようだ。

 

さて、なぜリィンがキルシェで働いているのかというと、それは今日が自由行動日なのに関係がある。

いつもの如く早朝に起きて制服に身を包んだリィンは1階へと降りていき自分用のポストへと投函されている依頼書を確認した。

本日の依頼は3つあったのだが、その中の1つが"キルシェでのお手伝い"だったのだ。

どうも、今日シフトが入っていたスタッフの1人が体調不良で急に欠勤となってしまったらしい。

そこで急遽、生徒会へと依頼を出したのである。

キルシェへは11時前に来てくれればいいと書いてあったので、それまでに出来るだけ他の依頼をこなし指定時間の20分前にはキルシェへと向かった。

そこで仕事服を渡されたので着替えて、今ここにいるリィンver.キルシェスタッフが出来上がったのである。

 

そして話は冒頭に(説明終わり)

 

先程来店した、この街に住んでいる老夫婦が注文した珈琲2杯を入れるために足元に置いてある入れ物から焙煎済みの豆を計量し、カウンターの上に設置されているミルへと豆を入れ、大きさが不揃いにならないように規則正しくハンドルを回して豆を丁寧に挽いていく。

計量した分を全て挽き終わり、すでに芳醇な香りを漂わせているそれをフィルターをセットしたドリッパーへと移そうとした時、聞き覚えのある話し声と共にキルシェの扉が開かれた。

 

「そう言えばアンちゃん、今日は帝都の方に行かないの?」

 

「いや、実は昨日の放課後に後ろのバンダナ君と今日の昼飯を賭けて勝負をしてね。見事勝利を得たから奢ってもらうために帝都へは行かないんだ」

 

「くそっ…あそこで教頭のヤローに見つからなければ勝てたのに!なんでバレたんだよ…」

 

「ははは…そう言えば昨日の放課後、アンが教頭先生と話してるのを見たけど何か話してるところを見たけど何だったのかな」

 

「ジョルジュそれ分かって言ってるだろ!てか、やっぱり犯人はお前か!アンっ!」

 

賑やかに会話をしながら入店した、ライダースーツな麗人と小柄なほんわかした雰囲気を漂わせる女性、バンダナを身につけた見るからにお調子者っぽい男性と黄色いツナギを着た恰幅のよい男性、男女2人ずつの計4人の集団は空いてる席を見つけるとそこへと歩いて行き各々好きな所へ座りながら和気藹々と話し続けている。

 

入ってきた4人はリィンもよくお世話になる学院の先輩達だった。

ライダースーツの麗人をアンちゃんと呼ぶ小柄な女性の名はトワ・ハーシェル。トールズの生徒会長を務める彼女は自由行動日の日の朝にいつもリィンがいる寮へと依頼書を届けているお人好しである。

対してトワにアンちゃんと呼ばれた女性はアンゼリカ・ログナー。四大名門の1つであるログナー公爵家の息女であるにも関わらずバイクと女性が好きな自由放牧な麗人である。

肩を落としながら扉をくぐり会話途中で憤り始めたバンダナの男性はクロウ・アームブラスト。学園一のお調子者と言っても過言ではないほどイタズラやその他諸々を色々やっておりリィンも度々その被害を被っている。

最後のツナギの男性はジョルジュ・ノーム。学生ながら学院の技術棟を任されておりARCUSの整備やクオーツの精製などあらゆる面でリィン達をサポートしているⅦ組の面々にとっては足を向けては眠れない先輩である。

 

そんな4人を見たリィンは少しの間手を止めてしまったがすぐに自分がおしごとやるべき事を思い出し珈琲を淹れるべく作業を再開した。

ドリッパーへと挽いた豆を入れたら沸かしたばかりのお湯を優しく円を描くように粉が膨らむまで注ぐ。これを数回繰り返す。

以前同街にある『ケインズ書房』で買った『俺の料理・珈琲』を寮で読みながら練習していたところを珈琲好きな友人であるマキアスが見つけ"美味しい珈琲の淹れ方"を享受してくれたのだ。リィンはその際に身につけたテクニックを遺憾無く発揮していた。

余談だが、果たして珈琲は料理に含まれるのか否かと疑問に思ったリィンがその旨をマキアスに聞くと、熱く、珈琲の歴史や種類、豆の保管方法に至るまで、それはフィーが作ったマグマグラタン並みに熱く語ってくれたのは苦い記憶だ。本当に余談だが。

 

そんな事を思い出しつつも淹れた珈琲の出来は店長であるフレッドにも賞賛され心の中でマキアスへと感謝を述べながら、注文をした老夫婦に出してそのまま先程入店してきた先輩集団へと注文を取りに行った。

 

「いらっしゃいませ、大変お待たせいたしました。ご注文の方はお決まりでしょうか?」

 

出来るだけ普段とは違う声音で接客の定型文を言うリィン。

しかし、4人は注文を決めるため、席に座ってから少ししてメニューを見ながら会話をしていたため未だ注文を取りに来た店員がリィンだとは気付いていないようだ。

その中で1番初めに顔を上げたのはトワだった。注文をしようと開けた口をそのままに、リィンを見て驚いたのか固まってしまった。

そんなトワの声が聞こえない事を訝しんだのか残りの3人も顔を上げ、そこに佇んでいる苦笑いのリィンを見るとそんなにではないが3者とも驚いたのだった。

 

「聞き覚えのある声だと思ったらリィン君だったのか。びっくりして少し固まっちゃったよ。」

 

先に固まったトワより早く反応をしたのはジョルジュだった。何を考えているのか分からないがフムフムと腕を組みながら頷いている。

 

「なんだなんだぁ?面白いことやってるなぁ、リィン!意外にキルシェの制服が似合ってるじゃねぇか!」

 

次に反応を示したのはクロウで、その顔に浮かんだ意地悪そうな表情とからかう気満々の声音を隠そうともしない。

 

「ふむ、一瞬誰だか分からいぐらい板についているな。君が学生じゃなかったら個人でも雇いたいぐらいだよ。」

 

アンゼリカはいつも通りだった。

 

「して、未だに固まっている私のトワはいつ再稼動するのかな?」

 

アンゼリカのその言葉でリィンを含むトワ以外の視線が彼女へと向けられるが、件の彼女はリィンへと目を向けたまま動く気配がない。

少ししてからやっと周りの視線に気付いたのか彼女はようやく反応を見せた。

しかしそれは彼女が喋り出したとか動き出したという反応ではなく別なものだが。

朴念仁(リィン)以外はそれに気付いた。

仄かに紅く染まった頬に。

 

「えっと…トワ会長?注文を取りに来たんですけど…」

 

そんな反応に気付かない唐h...んんっ、リィンはトワに近づき言葉をかける。

 

「ふぇっ…!えっ、あぅ、あっ、リリリリィン君!?……っ!」

 

リィンからの声かけによって硬直状態から抜け出したトワはどもりながら──すぐにまた固まった。

何故か。

言わずもがなリィンのせいである。

 

(近い、近い、近い近い近い近い近い近い近い近いよ…っ!?)

 

彼の顔が目の前にあるのである。

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

トワ・ハーシェルが知る限り、リィン・シュバルツァーは生徒会の活動から私生活の一部に至るまで、頼みごとをしても嫌な顔をせずに笑顔で助けてくれる。

時には、なにか困ってるんですか?と心配をしてくれて、別な時には、もっと休んでください!と優しく叱ってくれる。それが続いていくうちに他の人達ではそうはならないのに何故か彼の前だけでは心の弱い部分を出してしまい、甘えるような行動をしてしまう。その度々に頬が熱くなり鼓動が速くなってしまう。

彼と話していると胸の奥がぽかぽかと暖まり、逆に彼が女性と話をしているのを見かけると少し寒くなってしまう。

自分でも何故こうなるのか分からず、以前に親友であるアンゼリカに相談もしにいった。

しかしながら彼女は優しい視線を向けながら微笑むばかりで詳しくは教えてくれなかったし、ならばと他の友達に聞いても同じ様な反応で、中には何故か頑張れと応援してくれる人までいた。敵は多いぞ!と謎の助言をくれる人もいたが。

結局のところ自分が陥る症状が何なのか、皆が何故あの様な反応をするのかトワが理解することはまだ出来なかった。

 

そんな親しい者から見れば異性として意識していることがバレバレの──本人に自覚はないが──恋愛初心者な少女には目の前に自分の心を度々惑わせる男の子の顔があるというのは些か刺激が強すぎたらしい。

そんな恋する乙女な反応を間近で見た3人はご馳走様と言わんばかりの表情をしながらも彼女へ向けるそれは暖かいものであった。

 

「見ての通りトワは固まってしまったので此方で勝手に決めさせてもらおうか。」

 

流石にリィンを長らく引き留めるのはいけないと思ったのか、そう言ったアンゼリカは視線をトワからメニューへと戻し、自分の分といつもトワが頼んでいる飲み物を頼みそれに続くようにクロウ、ジョルジュも各々が飲み物やつまむ物を頼んだ。

リィンが固まって動かないトワを気にしながらも受けた注文をフレッドへと伝えに戻ろうと踵を返した時、つんつんと袖の肘辺りを引っ張られたので振り返ってみると再々稼働したらしいトワがリィンを見上げていた。

 

「え、えっとね?その…リ、リィン君の格好凄くかっこいいよ!そ、それだけ!」

 

彼女は若干早口で言うやいなや直ぐに顔を俯かせ、そのまま黙り込んでしまった。

よくよく見れば顔や耳などは触れば火傷をしそうなくらいには赤く染まり、太ももの上に置いた握りこぶしもプルプルと震えていた。

 

 

 

クロウ達3人は今しがた親友が魅せた恋する少女の力にやられたのか

 

「リィン君、注文変更を頼む。私の飲み物を珈琲に変更してくれ。」

 

「俺のもだ。」

 

「僕もお願いするよ。」

 

無表情に近い顔で言ってきた。

あの他人(オモチャ)を弄るのが生きがいと言っても過言ではないクロウですら、だ。

リィンは「分か、りました」と少し詰まりながらも紙を書き直してぼぅっとしたままカウンターへと戻って行った。

 

トワには運が良いのか悪いのか分からないが、リィンの依頼にあった働く時間は残り10分を切ろうとしていたため、出来上がった商品をトワ達へと届けることは無かったが、その残りの時間でのリィンは何かを必死に耐える様に振舞っていたと後にフレッドは語った。

 

小柄で可愛らしい先輩の強烈な仕草と言葉。

流石の鈍感少年にも今のはクるものがあったらしい。

 

その後アンゼリカ、クロウ、ジョルジュは合計珈琲を4杯は飲み、その原因(トワ)はキルシェにいる間はリィンが帰る時にぎこちなく挨拶をしに来る前も、してる間も頑なに顔を上げようとはしなかった。

リィンが去った後もしばらく俯いていたが3人からの優しい視線が未だ向いていることに気付き一度戻った顔色を再び赤く染めながら腕を振って弁解してアンゼリカに血を吹かせた。

3人からの見守る視線は寮の自室へと戻るまで続いた。

彼女は暫くの間、3人にこの事でいじられること間違いないだろう。

 

もちろんキルシェにトールズ学生が他にいない理由もなく、一連の流れを観ていた人たちがあらあらと微笑ましそうに見ていたり、あの野郎また…っ、とカメラ片手に悔しそうに血涙を流していたり、これはアリサに教えなきゃいけませんわ!と使命感に燃えていたりと様々な反応をしていたが、本人達には知らぬが仏である。

 

 

後日、Ⅶ組女性陣に詰め寄られる男がいても知らないと言ったら知らないのである。




( ゚д゚)
前回更新からもう2年…

お恥ずかしながら第3話を投稿させていただきました


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