ファンタシースターオンライン2 if  (ラル・ノベル)
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~Phantasy Star~
壊れた少年の壊れた世界



PSO2の世界を小説ど素人がオリジナル要素込で書いた妄想小説もどきです。

Phantasy Starの世界が好きな方はオリジナル展開・要素が多いためお勧めしません。

原作のpso2に興味がある方は参考にはならないと思います。

更新は不定期なうえに、視点はよく変わり、読むのに苦労する、理解できない文章・展開も多いと思います。

そんな自己満足な妄想小説もどきですが読んでいただければ幸いです。


暗い部屋に薄く光る空中ディスプレイ。

 

そこに映る光景は悲惨なものだった。

 

星の光りが明るく照らす宇宙空間。

 

しかしその宙域を照らすのは星の光だけではない。

 

数隻の巨大な船とその周りを漂う大量の機器の残骸。

 

船からは周囲に向けて絶えず光線が撃ち出されていた。

 

漂う機器の残骸は未だその役目を果たそうと光を発したままである。

 

そんな宙域を所々で起こる爆発がよりはっきりとその光景を映しつつディスプレイを明滅させる。

 

 

そしてそんな光量では足りないと言わんばかりに赤黒い強烈な閃光がディスプレイを埋め尽くす。

 

つづいて起こる鼓膜を打ち破らんとするほどの爆音。

 

その音とともにディスプレイの映像が途切れた。

 

しばらく続く砂嵐のようなノイズと映像。

 

映像が戻るころには・・・一つの船が沈んでいた。

 

 

 

全長70kmはある巨大な戦艦のような船。

 

つい数分前には10隻はあった船。

 

それが今では5隻しかない。

 

その一隻が今の閃光によって一瞬で宇宙を漂うゴミになる。

 

一体どれほどの人が乗っていたのだろう。

 

どれほどの人が、犠牲となったのだろう。

 

視界の狭いディスプレイに映るのはつい先ほどまで船だったものの残骸のみだった。

 

 

否、残骸だけではなかった。

 

大小大量の残骸が漂う中を大小複数の”影”が、漆黒の(もや)を吐き出しつつ宇宙を駆ける。

 

数多の黒い害虫を操り船の半分を覆いつくしてしまう不気味な”影”。

 

笑っている。

 

影に向かって抵抗を続ける人達を壁に叩き付け、腕を引きちぎり、おもちゃのように投げ飛ばす二つの小さな”影”。

 

笑っている。

 

影に向かって光を纏う巨大な砲艦を向ける戦艦に対し、形の歪な錫杖(しゃくじょう)を向けその光を消失させる長い長い靄を纏う”影”。

 

笑っている。

 

砲撃を停止させた戦艦に向かって漆黒のフォルムと紫の刃を伴う武器を手に持ち接近する三つの”影”。

 

一つは仮面をしている。

 

一つは機械のようだった。

 

一つは顔に大きな火傷を負っていた。

 

その”影”達の表情はわからない。

 

三つの”影”は船を蹂躙する。

 

抵抗する人々を圧倒する。

 

一撃で人を斬り払い、一撃で機器を叩き潰し、一撃で建造物を消失させる。

 

 

 

小さな”影”達が一つの船を襲う中。

 

戦艦さえも覆い隠す”巨大な影”が動き出す。

 

”巨大な影”は山のような巨体の腹部と額に紅い水晶を埋め込んでいた。

 

そして身体の側面から腕を8本左右対称に生やしていた。

 

否、身体を震わせるとさらに2本の腕を生やす。

 

そのまま腕を額の前に突き出した。

 

すると水晶を中心に赤黒い靄が集まりだす。

 

ほどなくしてその靄は額の水晶から腕を伝い、胸の水晶へと赤黒い光となって収縮されていく。

 

胸の水晶の色が紅から黒に変わると同時に。

 

腕を大きく広げ、その黒い水晶を船に向かって突き出す。

 

刹那、水晶からは赤黒い光線がほとばしる。

 

 

高笑いとともに撃ち出された赤黒い閃光が。

 

またもディスプレイの映像を打ち消す。

 

 

そんな凄惨な光景を映し続ける空中ディスプレイの前には一人の少年。

 

かつて歴史そのものを変える”力”を持った少年。

 

その少年はディスプレイに映る光景をその瞳に映し続ける。

 

その手にはもう歴史を変える”力”はない。

 

その相貌には精気が感じられない。

 

死んだ様な瞳。まるでこの世には絶望しかないと悟ったかのような無表情な顔。

 

それでも彼はその映像を見つめ続ける。

 

ただただディスプレイの光をその瞳に映しながら。

 

 

 

 

また人が死んだ。

 

なんで逃げないんだろう?

 

勝てる相手じゃないのに。

 

あぁ、俺が指示したからか。

 

六芒均衡(ろくぼうきんこう)は?

 

あぁ、マザーシップを護るんだっけ。

 

 

 

なんで俺はここにいるんだっけ?

 

あの人達と一緒に戦うんじゃなかったっけ?

 

あぁ、怪我を理由に離脱したんだっけ。

 

俺がいれば必ず勝てるから。

 

俺が全快で戦えるば勝てるから。

 

だから皆が離脱を認めてくれたんだ。

 

 

俺がいれば必ず勝てるんだっけ?

 

あんな化け物の群れを相手に?

 

人が100万人は入るような船をいくつも墜とす怪物に?

 

あぁ、誰かに言われたんだ。

 

君には不思議な力があるって。

 

君ならできるって。

 

 

だから俺は戦うんだ・・・だから僕は戦うのか?

 

 

違う。あの娘が言ったんだ。

 

君とならできるって。

 

一緒にならなんだってできるって。

 

だから僕は頑張っていたんだ。

 

 

 

 

ここはどこだっけ。

 

あぁ、あの娘の部屋だ。

 

あの娘はどこだっけ。

 

あぁ、病院だ。

 

なんで病院にいるんだっけ。

 

あぁ、僕のせいだ。

 

僕があの時間違えたから。

 

あんなことをしなければ。

 

頑張らなければ・・・

 

こんなことにはならなかった。

 

 

・・・苦しい・・・。

 

頭が痛い。呼吸がしづらい。

 

もういいじゃないか・・・。

 

不思議な力を持った少年はいない。

 

少年を導く少女も、いない。

 

一緒に笑い合う仲間なんて、いない。

 

 

 

じゃぁ僕は何をしてるんだろう。

 

そうだ。ゲームだ。

 

ここはパソコンの中のゲームだったんだ。

 

適当にバイトして、ほどほどの給料をもらい、気まぐれでパソコンを買って。

 

偶然ネットで見つけた無料オンラインゲームを気まぐれで始めて。

 

面白い、こんなゲームの中に行きたい、と虚言を吐き。

 

ゲームしながら寝落ちしたんだろう。

 

その時から夢を見続けているだけだ。

 

いや起きてるのかもしれない。

 

起きてゲームの続きをしているのだ。

 

目の前に映っているのはいつものモニターの映像だ。

 

敵を倒し損ねてゲームオーバー。

 

そして画面の向こうの知らない相手と笑い合うのだ。

 

こんなのもクリアできないのかと草を生やすのだ。

 

運営が悪い、と騒ぎたてるのだ。

 

 

 

その時ディスプレイに映った映像に、無表情のまま意味のない思考を巡らせていた少年はその身体を震わせる。

 

画面に映ったのは一つの船。その瞳に映ったのは未だ破壊されず健在な船。

 

普段なら真っ先に安全圏へ逃げているはずだった。

 

こんな危険な場所に残っているはずないと高を括っていた。

 

 

その船は他の船の4分の1ほどの大きさだった。

 

そして船の側面には目立つように巨大なロゴが光っている。

 

ロゴのデザインに端にはアークスの文字で”医療艦《メディウス》”と書かれていた。

 

「あ・・・あぁぁ・・・」

 

彼の口からうめき声が零れ落ちる。

 

その表情は先ほどまで絶望の無表情とは違い、これから起こり得ることを想像し、焦燥に顔をゆがめていた。

 

「逃げてくれ・・・速、く・・・速くっ!!」

 

少年は声を荒げながらディスプレイに怒鳴りつける。

 

意味がないと知りながらも怒鳴らずにはいられなかった。

 

その船には彼女が乗っている。

 

《メディウス》は医療を目的としているため戦闘機能は一切ない。

 

変わりにその速度は速く、ワープホール高速渡航だけでなく空間を直接移動する”テレポート”も使える。

 

しかしいつまでも”テレポート”を使わない。

 

「な、なんでっ・・・っ!?」

 

答えはディスプレイの端に映っていた。

 

長い靄を纏う影が持つ歪な形の錫杖。

 

”メディウス”の光が失われていくのに変わり錫杖の端々が光を灯す。

 

”メディウス”に向けられた錫杖がそのエネルギーを奪っていることが予想できた。

 

 

もはや完全に動きを止めた”メディウス”に接近する二つの小さな影。

 

「やめろ・・・やめてくれ・・・」

 

二つの影は片方が船の先端へ。片方が船の後部へ。

 

「ダメだ・・・嫌だ・・・」

 

影同士が呼応するように赤黒い光を点滅させている。

 

徐々に大きくなる光。

 

徐々に点滅する光の感覚が速くなる。

 

そして二つ光の点滅が大きく速くタイミングが重なった時。

 

「やめろおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

影は船を貫通し、互いの場所へと駆ける。

 

出来上がったのは赤い閃光の道筋。

 

その道筋を小さく連続した爆弾がなぞる。

 

小さな爆発はやがて船の全体へと広まっていく。

 

 

そして船は轟音とともに崩壊した。

 

 

彼の瞳から一筋の涙が流れ落ちる。

 

「・・・・・・っ!・・・・・・」

 

喉元まで出かかる叫びを押し殺した。

 

(僕は・・・何も・・・してない・・・彼女のために泣く資格も・・・ない・・・なにもできない・・・)

 

(こんなことになるなら・・・来るんじゃなかった。)

 

(もう・・・いやだ・・・こんな世界・・・・・・)

 

少年は黙り続ける。

 

行き場のない憤りを拳を握りつぶして耐える。

 

大切な人を失った悲しみを歯を食いしばり耐える。

 

それでも留まることなくあふれ出る負の感情に耐え切れなかったのか。

 

「誰か助けて…」

 

一言、他人頼りの言葉を漏らした。

 

 

 

 

どれぐらい時間がたっだろうか。

 

ディスプレイからは時折爆発音が響き続ける。

 

少年はもはやディスプレイすら見えていない。

 

気づけば表情からは悲しみも憤りも消え失せていた。

 

表情は消えていた。

 

この世に希望を失ったかのように。

 

そして少年はディスプレイをなぞり消す。

 

部屋にあった唯一の光源は消える。

 

真っ暗闇の部屋で少年はただひたすら自身の無力さを呪い続ける。

 

 

 

 

部屋を薄く漂う気配に気づかないまま。

 

 

 

 

 




ありがとうございました。



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序章 出会い ~惑星ナベリウス~
1、マヤ 「死神の願い」


PSO2の世界を小説ど素人がオリジナル要素込で書いた妄想小説もどきです。
Phantasy Starの世界が好きな方はオリジナル展開・要素が多いためお勧めしません。
原作のpso2に興味がある方は参考にはならないと思います。
ゲームのネタバレも多いです。ご注意ください。
そんな自己満足な妄想小説もどきですが読んでいただければ幸いです。



「…というわけで、キミに彼を救ってほしいんだ」

 

「…」

 

「だってキミ、いつまでも泣き止まないじゃない? ここもいつまでもつかわからないし早いとこ本題に入りたかったしね」

 

「…」

 

「勝手は承知さ、自分の好き勝手にできなきゃ神様なんて務まらないよ」

 

「…」

 

「神様ならあれくらいなんとかしろって? バカ言っちゃいけないよ、神様にだってできることとできないことぐらいある」

 

「…」

 

「神様なのに、だよ」

 

「…」

 

「まぁそのとおりだね、キミの魂は僕の手中だ。…僕はさしずめ、キミの魂を操ろうとする死神ってとこかな」

 

「…」

 

「なにさ? 死神だって神様だろ? 急に何もできなくて納得だなんて」

 

「…」

 

「何? 死神は生物を殺すことしかできない? そういうこと言う? キミがまだまだ生きられるのも僕のおかげなんだよ?」

 

「…」

 

「そりゃ望んでいないかもねぇ、あんな終わり方じゃ」

 

「…!」

 

「ん? あぁ、知っているとも。キミの魂を見て、キミの世界を知った」

 

「…」

 

「悪趣味だろうが、趣味は趣味。人の趣味に難癖つける人こそ悪趣味だね」

 

「…」

 

「国語? 死神に国語なんてわかりゃしないよ。それに死神なんて人の記憶覗かなきゃ殺していいかダメかの判断つけられないって」

 

「…」

 

「ん? ならキミは死ぬべきだって? キミはバカなこというのが好きだねぇ」

 

「…」

 

「いやいや、キミは死ぬべき人間じゃないよ、私が保証する」

 

「…」

 

「あんなことって…残念ながら今の僕にはキミの魂全てを覗けるわけじゃないんだ」

 

「…」

 

「何? それじゃ保障にならない? まぁキミの全てを知っているじゃない奴の言葉なんて信じられないだろうね」

 

「…」

 

「じゃぁ」

 

「?」

 

「キミの全てを知っていたら私の保障に納得するのかい?」

 

「…」

 

「そら見ろ、納得できないじゃないか。結局誰の保障があろうがなかろうがキミにはどうでもいいのさ」

 

「…!」

 

「保障の理由? キミの魂が純粋で綺麗だった。それだけさ」

 

「…」

 

「残念ながら理解(わか)るようには言えないよ。キミに死神語がわかるわけないだろ?」

 

「…」

 

「聞いてみなきゃわからない、ね。無駄に頑固だね。保障が納得できないのに理由は理解できるって?」

 

「…」

 

「そいつは理解じゃない。知ったかぶりっていうんだよ」

 

「…」

 

「まぁキミには繋がらないよ。私だって繋がってくれるかすらわからない」

 

「…」

 

「そりゃお願いしたいよ。お願いする態度じゃないのもわかる」

 

「…」

 

「でも、キミは私の願いを聞ける状態じゃないだろう」

 

「…」

 

「だってそうだろう? 今のキミの心はもう立ち直れないほど折れてしまってるのさ」

 

「…」

 

「ああ、そうだね、そうだった。勝手に期待して勝手に連れてきたのは私だ」

 

「…」

 

「ああ、そうだよ、君の自由さ、好き勝手やればいいさ、死神泣かせて好き勝手に残りの時間を塞ぎ込めよ、ざまぁみろ」

 

「…」

 

「ハッ! ただのやつあたりだよ! 命をかけてやっとこ引っ張れた異界の魂がこんな頑固でナヨナヨした奴だと思わなかったんだ! やつあたりもしたくなるさ!」

 

「…?」

 

「ああ、そうだよ! 私も死ぬ! キミが還るのと一緒にな!」

 

「…」

 

「言ったろ? 言ってないか? 死神様だろうがなんだろうが運命を覆すには命を懸けなきゃならないんだよ!」

 

「…」

 

「あん? 答えになってないって? 異界の魂引っ張りあげるのにめっちゃ疲れて過労死んじゃっただけですが何ですかコラァ?」

 

「…」

 

「ブラック企業も何も死神は全身ブラックに白い顔って決まってる」

 

「…」

 

「そんな簡単なぬりえがあってたまるか! ってぬりえじゃねえ!」

 

「…」

 

「…はっ、少しは笑えるじゃん。だいぶひきつった同情の苦笑ぽいっけど。終わりまでそんな辛気臭い顔でいる必要ないよ」

 

「…」

 

「あー、似てるから? そうかもしれないし、違うかもしれない。私にだってちゃんとはわからないよ、キミを選んだ理由なんて」

 

「…」

 

「私も、彼と同じで他力本願でしか生きていけないのさ。偶然の奇跡で現れたキミにすがるしかないんだよ。

 私はキミにお願いするしかないんだ。って好き放題騒いでおいておこがましいか…」

 

「…」

 

「…こんなはずじゃなかった。彼を追い詰めるつもりなんて…もう後の祭りだけどね。ホント、こんな私に彼を救う資格…なんて」

 

「…」

 

「…ないん…だろうなぁ…くそっ…」

 

「…」

 

「あぁ…まあ、聞かなかったことにしていいよ。

 あーそだ、ゆっくりのんびり待ってれば還るべき場所に還れるよ」

 

「…」

 

「ああ………ごめんね、勝手に連れてきて、勝手にお願いして、勝手にキレて八つ当たりして。ホント意味わかんないよね…」

 

「…」

 

「うん、うん、ごめんね…」

 

「…」

 

「…ホントに…ごめんなさい」

 

「…」

 

 ------

 

 たぶん、同情だ。

 

 死神とやらの話はよくわからない。

 駄々をこねる子どものようだった。

 

 よくわからない映像だったけど、そいつは頑張ってた。

 それはそいつが撒いた種なのかもしれない。

 それは誰かが捨てた種なのかもしれない。

 そいつは彼のためだけに戦っていたのかもしれない。

 そいつは世界を守るために立ち向かっていたのかもしれない。

 

 これは、同情だ。

 断じて俺に似てるからなんかじゃない。

 

 戦う姿が、抗う姿が。

 その悲しみが、嘆きが。

 上手くいかない。結果を伴わない。

 悲しく悔しい現実にそれでも立ち向かい、絶望した様が。

 似ているなんて…。

 

 もう一度やり直したいというありえない妄想。

 

 そんな夢物語に、俺は今、手が届く。

 そいつらの懸けた命の力で。

 そいつらの願った心の力で。

 そいつらの流した涙の力で。

 

 俺は。

 そいつらの力を借りようと思う。

 最後の最後い好き勝手にやったそいつらに。

 好き勝手にやって答えてやるさ。

 

 もう一度、生きる。

 

 好き勝手に自由気ままに生きてやる。

 そのついでに、彼とやらも救ってやる。

 

 これは俺の好き勝手やる物語だ。

 

 

 

 

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 の、はずなのにな。

 いきなり真っ暗な部屋でロード画面に突入してるんだけど。

 何これ? どここれ? ゲームなの? 俺がこれから生きる世界はゲームン中なの?

 ハッキングしつつ剣で彩る地平線なの? やばい、怒られる? セーフ?

 

 ていうか何これ?

 正面のロードの文字以外真っ暗なんだけど。

 俺の身体も見えないんだけど手とか脚とか感覚ないんだけど。

 どうせロードするなら最近のSNSゲームっぽく超絶美少女、美女にタッチでイタズラできるようなのがいいんだけど?

 もしかしてずっと待ってなきゃいけないんですか~?

 そんなんじゃすぐ飽きられちゃいますよ~?

 最近の消費者は企業に厳しいんですよ~?

 

 うぉ!?

 お、おおう、なんだ、やればできるじゃん。

 目の前 に 美少女 が 現れた !

 身体のラインをしっかり出しつつ露出の少なく仕事のできる女性を見事に演出するナビゲータードレス。

 赤いショートヘヤーの見目麗しき大人な女性のアークスが説明しながら…っておいっ!

 確かに美少女出せとは言ったよ?

 それがPSO2esの看板的アークスのセラフィさんなのもまあ許容できるよ?

 PSO2もPSO2esもまぁまぁ遊ばせてもらいましたし?

 セラフィさんも可愛いし?

 

 でもなんで見た目がリニューアル前なんだよ!

 別に昔の姿が可愛くないとは言わないよ?

 でも新しいセラフィさんの立ち絵のほうが好みなんだよ!

 そっちならいつまでも眺めて待てるし!

 あ、でも最近出てきたスーパーボインのニューヒロイン、ジェネちゃんがいてくれれば…

 あああああ、待ってごめんなさいセラフィさんで、いえ、セラフィさんがいいですううううう!!

 あああ!! ポリゴン化して消えていかないで!!

 あ、ああ…またロード画面に…。

 セラフィさんカムバックうううう!!!

 ええい、この程度で諦めると思うなよ!?

 わざわざ生き返ったんだ! 俺は彼女を取り戻して見せる!!!

 

 ハァ、どうにもなんねぇ…身体ないから喚くだけだしな…

 何かできると思って色々呻ったり騒いだり復活の呪文唱えてみたけど何も起こりゃしない。

 んで、ロードは…やっと23%か…長いな。

 結局ここはどこで何の世界なんだ?

 某ラノベのVRMMOのメイキング画面に近いっちゃ近いけど。

 もっとアニメも見るべきだったか。いや、アニメはどうでもいいな。

 

 死神は別の世界だって言っていてたし、やっぱ異世界なのか?

 もしくは俺の想像が出てくる世界? さっき美女がでてきたし。

 それだったら最高だ! 18禁!! 俺のハーレム世界にしよう!

 あ、でもスプラッタでホラーなゲーム実況も結構見てたし、そっちの想像して死にかけるかも。

 ゾンビはやだなぁ。

 

 さてどうしたもんか…どんな世界かわからなきゃ好き勝手できないしな。

 ついでにあいつの夢に出た少年を助けるんだっけ?

 名前くらい教えてくれれば協力しやすいのになぁ。

 いやまて。こう言うゲームのプロローグには伏線というかヒントがあることがたまにある!

 探せばなんかしらのヒントがあるかもしれない。

 んじゃまぁ、夢のおさらいでもしとこうか。

 

 死神に魅せられた夢では、確かアークスとダーカーの最終戦争みたいな感じになってたな。

 6人(?)くらいのダークファルスに何隻かのシップが追い詰められる状況。

 まー、ダークファルスって言えば、幾億はいるであろうダーカー達のボスだもんな。

 他のゲームで言えば四天王っぽい奴らだ。

 まぁどのゲームの四天王も最後には楽々倒されてるんだけど。 

 

 ダークファルスも最初はラスボス集団なのかと思ってたけど、ゲームの感覚じゃ四天王レベルだな。

 度重なるアップデートで強くなり続けてるアークス達にボコられまくってるな。

 と、言ってもソロじゃ勝てないな。

 勝てるのは一部の熱心なアークスくらいで俺もソロじゃ…そ、装備整えればいけるかな?

 今度試そっかな。あ、死んでるから無理だ。

 

 ま、ゲームのPSO2はマルチプレイ…最大12人でボスに挑めるし、大抵はクリアできるようになってるからな。

 超強いラスボスでも数の暴力には勝てない。ボスの強さを出す間もなくやられるのも仕方ないか。

 日にちおけば何度も挑戦できるし、情報集められて攻略法を立てられちゃったら、そりゃあっけなくおわるよ、うん。

 でも夢の中じゃダークファルスが圧倒してたな…やっぱゲームの中でもストーリーよりな強さなのか?

 

 おっと脱線してた。

 強さはまぁヒントにならないだろ。

 ダークファルスと戦うことが目的じゃないからな。

 例の彼を助けることが目的だ。間違っちゃいけない。

 ダークファルスと戦う時になったら…そんときは、そんときかな。

 

 しかし、他にヒントになるりそうなものもなぁ。

 六芒均衡に、医療艦《メディウス》だっけか? 少年の心の語りで出てきた奴。

 六芒均衡は、まあ関係ないだろ。

 アークスを纏めるめっちゃ強い奴ら。

 出てきてないし、語りだけじゃ何とも言えないな。

 

 メディウスって言うのは初めて聞いた。

 ゲームん中じゃ出てきたこともないし。

 そもそもゲームだと、ムーンアトマイザーっていうアイテム投げればあら不思議、瀕死のアークスも余裕で生き返るゲームだったし。

 仲間に投げてもらわなきゃ生き返れないけど。

 あー、って言ってもストーリーじゃ死人も出たし、ケガが治らないやつとかもいたな。

 んじゃ裏設定か、アップデートで出るかもな。

 って結局何もわからないか。

 やっぱり実際にその世界歩いて情報集めてみないと。

 

 あれ? これどう考えてもPSO2の世界じゃん。

 じゃあ俺はこれからPSO2の世界へ行くのか!

 おー、結構楽しそうじゃん!

 SFとかファンタジー世界とか行ってみたかったんだよね!

 PSO2はSFファンタジーってところかな。

 広大な宇宙を武器とフォトンを操り旅をする!

 テクニック使って敵を倒すのなんか、魔法っぽくて最高だね!

 フォトンと共にあれ! 立派なアークスの騎士になるぜ!

 なんてな。騎士なんてないか。輝士ならあったかもしれないけど。

 

 あぁ、あと…少年も俺と同じ世界、地球から来たのかもな。

 なんかゲームのことよく知ってそうだったし。

 確かPSO2の中でゲームとかの娯楽なりなんなりが出てくるのはストーリーが結構進んでから…エピソード2だか3だかのアップデートがされた時だ。

 アークスの技術は俺らの地球かそれ以上は進んでいたが…娯楽ゲームがあるとは考えづらい。

 少年のいる時期がいつだかわからないけど、ゲームだ、運営だ、なんてぼやいてるってことは地球から来たと考えてもいいはずだ。

 実はゲームがあったり、似た世界で地味に違うとか、裏設定だったりしても…まあ関係ないか。

 どうせ適当なおさらいだし、違ったときはそん時だ。

 

 お…50%か…やっと半分か。

 …後半からロード遅くなるとかないよな? そういうパソコンデータ事情みたいなのは勘弁してくれよ?

 

 あー、まあ多少違うかもしれねえけどPSO2の世界のおさらいでもしておくか。

 細かいとこは覚えてないけど備えあれば憂いなしだ。

 

 広い宇宙に《アークス》っていう名の流浪の民族(?)がいて。

 広い宇宙に何でも寄生しちゃうウィルスみたいな《ダーカー》っていう名の敵がいて。

 プレイヤーはアークスの一員になって広い宇宙や色んな惑星を探索して、その星の原生生物や文明などを保護しつつ、ダーカーを浄化していく話だ。

 

 アークスの歴史とかはしらん。

 原作っていうのか? 元のゲームじゃ何作かでてるし、そのたびに大なり小なり設定が変わってるからな~。

 PSO2と携帯用のをいくつかしかやってないし、まあ最近のならそのうち思い出すかもな。

 だからなんで宇宙を渡ってまでダーカーと倒すのか、とか、元いた星はどうした、とかわかんないわ。

 少しは気になるが、少ししか気にならなかったから調べなかったぜ…ま、どうでもいいか。

 

 アークスは《フォトン》とかいう不思議な力を使ってダーカーを浄化するんだ。

 ダーカーは普通に倒すだけじゃ浄化できないらしい。

 倒してもその場に目に見づらい微量のウィルスが残って、倒してきた相手なり周囲の物体なりにまた寄生しちゃうんだと。

 おかげで、いつまでたっても浄化しきれず、倒し倒されのイタチごっこ。

 ま、ダーカーの数は無限かもしれないが、アークスの数も結構いるしな。

 今んとこどっちが優勢とか劣勢とかはない、はずだ。

 ストーリーも休憩期間みたいになってるしな。

 

 あとは…探索している惑星が

 《戦地 ナベリウス》

 《砂漠のリリーパ》

 《龍の星 アムドゥスキア》

 《水の星 ウォパル》

 《和の星 ハルコタン》

 《異界の星 地球》ぐらいかな。

 ちなみに名前の前についてるのは俺のイメージだ。

 想像しやすいしカッコいいだろ? ダメ?

 その各惑星にいる原生生物だったり機械だったりと関わりながら探索する。

 地球は最近追加された星だからよくわからねえが…もしかしたら俺の…。

 もう死んでんだ、今更未練なんてねえよ。

 まあでももし行けるなら見るだけ見とくか。

 

 ふう、70%か、もうちょいだな。

 

 他におさらいしとくとこあったっけ?

 うーん。 あ、まだあった。

 

 アークスは種族と職業(クラス)がある。

 《ヒューマン》

 《キャスト》

 《ニューマン》

 《デューマン》

 各種族はそれぞれ能力値に差があったりなかったり。

 ゲームじゃそこまで差はなかったけどな。

 ヒューマンは平均的な能力値。器用貧乏かな?

 キャストは機械でできたボディで頑丈だが、フォトンの扱いが苦手。あとめっちゃ重い。

 ニューマンはフォトンの扱いに長けているが、ひ弱で短命。ロリショタが多い気がする。

 デューマンは力もフォトンも強いが、打たれ弱い。あと、オッドアイ。ここ重要。

 

 この特徴もゲームで正確にとらえられているか微妙だが、イメージはこんな感じだ。

 

 んで、職業(クラス)の方は戦い方だな。

 打撃職の《ハンター》、《ファイター》

 射撃職の《レンジャー》、《ガンナー》

 法撃職の《フォース》、《テクター》

 混合職の《ブレイバー》、《バウンサー》

 ペットを育て、使役して戦う《サモナー》

 それぞれ使えるスキルや武器が違って面白い…がこうしてみると多いな。

 まだまだ増えるって噂だしな。

 

 俺はどれになるんだろう?

 やっぱゲームで使ってたニュマ男のフォースがいいな。

 小さな体で敵を吹っ飛ばすテクニック使い!

 キャストもいいなあ、ロケットパンチができればキャスト推し! 残念ながらできないけどな。

 デューマンは見る専だ。オッドアイに角っこ。素晴らしい。

 ヒューマンは…地球で言う人間だしいいや。 

 まさか非戦闘アークスとかじゃないよな?

 異世界で料理作って生活していくみたいなのは俺には無理だよ?

 PSO2に地球の食材があるかわからないし。

 

 っと忘れてた主人公特性!

 マターボードってアイテムを介して時を渡る力!

 ゲームをやった感じだと、そのマターボードの開いてる穴を埋めることでマターボードの力が開花され、過去に戻って歴史を変えて、元いた時間に戻ることができるって感じだ。たぶん。

 何のために歴史を変えるかは説明が難しいな。

 主人公の周りで起こってる事件の謎を解くためだったり、友人を救うためだったり。

 ま、ハッピーエンドのためなんだろうな!

 未来には行けなかった気がするけど、どうだろう?

 これも考えておかなきゃな。試すこともいっぱいだ。

 

 お、90%か、あとちょっと!

 …メンテバーストしないよね? …ゲフン!

 さて、あとは…これが転生なのかそれ以外の何なのかだ。

 最初は召還かと思ったが、俺は一度死んでる。

 魂を呼び寄せたとか言っていたし、魂を召還したってことなんだろうけど、その後どうするかの説明は聞いていないしなぁ。

 ん? 魂だけってことは…まさか誰かに憑りつけってことか!?

 それはちょっと罪悪感が…いや待てよ…?

 アークス最強キャラ、六芒均衡の一、レギアスに憑りついて無双プレイってのもいいな。

 もしくは美少女に憑りついてプレイベート覗き放題とか…ムフフ。

 あー、でもPSO2に幽霊って概念あんのかな?

 妖怪に似た敵ならいたけど、幻術とか幽霊とかってのは見たことないしな。

 

 あとは転生の場合だったら…赤ん坊からのスタートだな。

 そうなると…少年を救うとか無理くね?

 赤ん坊のまま宇宙を飛び回るとか無理だろうし。

 俺が成長し終えるタイミングで少年に出会うイベントでもあんのかな~?

 そもそもタイムリープとかタイムスリップとかは複雑でよくわからん。

 歴史変えすぎちゃいけないんだっけ?

 っていってもストーリーじゃ好き放題変えてたしなぁ。

 いやまてだから赤ん坊のままじゃ何もできないって話で…。

 

 あれ、これ無理ゲーじゃね?

 

 ま、まぁ、少年がピンチになる頃までにイケメンで爽やかな青年になっていればいいし…。

 それまで修行の日々よ!! 記憶とか知識が残ってれば強く育つこともできるだろうしな!

 …記憶残っててくれよ…?

 

 お、98%!! もうすぐだ!

 色々不安も残ってるが、ま、いっか!

 せっかく貰った新しい人生だ!

 赤ん坊だろうが、じじいの数奇な人生だろうが、好き放題やって楽しく生きてついでに少年も救ってやるぜ!!

 

 

 

 …よく考えたら助ける相手が男ってのはやる気でないな…

 

 

 




これはひどい文章。

読んでいただきありがとうございました。


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2、クルス 「アークスになりたいです」

PSO2の世界を小説ど素人がオリジナル要素込で書いた妄想小説もどきです。
Phantasy Starの世界が好きな方はオリジナル展開・要素が多いためお勧めしません。
原作のpso2に興味がある方は参考にはならないと思います。
ゲームのネタバレも多いです。ご注意ください。
そんな自己満足な妄想小説もどきですが読んでいただければ幸いです。



~とある惑星、とある施設にて~

 

 

「あれ~? 何見てるの?」

 

「えっと……アークスの戦い方・初心者講座①」

 

「アークス? あなたアークスになるの?」

 

「アークスってなぁに?」

 

「知らないで見てたの?」

 

「博士がここにある本、好きなの読んでいいって」

 

「ふ~ん、アークスになりたいわけじゃないんだ?」

 

「キミはアークスになりたいの?」

 

「うん! アークス調査隊員になって、宇宙を冒険するの!」

 

「調査隊員?」

 

「そうよ、調査隊員! 他にもいっぱいあるけど調査隊が一番冒険できるの!」

 

「ふーん」

 

「あ、何よその反応!」

 

「だって、どうせ施設(ここ)から出れないもん。冒険なんてできっこないよ」

 

「いつか出れるわよ!」

 

「いたっ!」

 

「私はいつかここから出て絶対アークス調査隊員になるんだから!」

 

「わ、わかったよ」

 

「わかってない! あなたも来るのよ!」

 

「えー」

 

「えー、じゃない! くるのぉ!」

 

「うげ、お、重いよ、わかった! わかった行くよ!」

 

「じゃあ約束よ!」

 

「約束するからどいて…」

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 「お、重い~! ……あれ? ここどこですか?」

 

 僕は眠っていたようです。

 ここはどこでしょうか?

 太陽の光が顔に直接当たっているので、眩しくて周りがよくみえません。

 床は冷たくて気持ちいいですが、ちょっと固すぎますね。

 何かが背中にのしかかっていてなんだか息苦しいです。

 とにかく起きないと、このままだと眩しくて目が焦げちゃう!

 

 「よいしょっと。わわっ!? いてっ!!」

 

 気合いを入れて立ち上がろうとしたら重いものに引っ張られて尻もちをついちゃいました。

 後ろを見やると、見慣れない機械が紐にくくられて荷台にいくつか乗っかってます。

 背中に乗ってると思っていたものは、背負っていた荷物だったみたいです。

 

 「いてて………あれ~?」

 

 肩にかかった紐を外して立ち上がり、お尻をさすりながら周囲を見渡します。

 目に入ったのは見慣れない部屋でした。

 左右にあるのは一面灰色の壁。

 後ろには先ほどの荷物と、その奥に変な色した台座と真ん中の部分だけ赤くなった灰色の扉。

 天井にはちっちゃくて丸い何かがいくつかくっついていました。

 正面からは太陽の光が………あれ? 

 

 「いつもの太陽と違うような………?」

 

 窓から太陽の光が差し込んできていますが、

 いつものように目を焼き焦がすような光ではありませんでした。

 

 「ん? いつもの?」

 

 いつもってなんでしょう?

 僕はどの太陽のことを言って………

 

 「ん~~~? あ!」

 

 そうだ、思い出しました。

 ここは砂漠じゃなくて大きな宇宙船の中で、

 

 「ここは5番目のあーくすしっぷ!」

 

 そして…

 

 「ここは僕の新しい住み家!」

 

 今日から僕は………

 

 「僕は、アークス調査隊員になります!」

 

 

 ------

 

 

 叫ぶのもほどほどにして、僕は住み家の整理整頓を始めました。

 と、言っても来たばかりで何も整理するところなんてないのですが……。

 

 新しい住み家は広く、高さもそこそこあるので少しぐらい暴れても大丈夫そうです。

 これだけ広ければどこでも装備の整備ができるし、寝る所にも困りません。

 周囲に危険はなさそうです。

 でも窓横の扉の先、テラスのような場所は外部から侵入されそうなので、一応罠が必要かもしれません。

 

 そんなことを考えながら、銃の先輩にもらったいろんな機械を眺めていました。

 

 『生活に必要なものだから持っていきなさい!』

 

 って言われてたくさんもらったのはいいんですけど、僕にはどう使うかさっぱりです。

 とりあえず山積みにしたままじゃなんだか悪いし、適当に置きますか。

 

 「これは罠だね。外に置かなきゃ」

 「これは………訓練に使うのかな? あっちにおいとこ」

 「うーん、あ、これは知ってる! 冷蔵庫ですね! なんでも冷やせる最強の機械!」

 

 そんなこんなで最後の機械である冷蔵庫を置き終えた僕は、大変なことに気づきました。

 

 「ごはん食べてないッ!」

 

 いえ、そっちではありませんでした。

 

 「ごはんがないッ!!」

 

 これは一大事です。

 なにせ新しい住み家にはごはんが全然ありません。

 お腹が空きすぎると僕は死んでしまいます。

 

 大慌てでテラスへ移動します。

 勝手に開く扉に慣れず、少し驚きながらも急いで扉をくぐり空を見上げますが、獲物になりそうなものは見当たりません。

 見えるのは不自然なほど青い空に、砂漠より元気のない太陽と、空を駆ける金属の塊だけでした。

 

 「砂漠より植物が多いのに……」

 

 下に目を向けると、砂漠とは比べ物にならないくらい大量の水や植物が目に入ります。

 植物や水があるということは食べられそうな獲物がいる可能性が高いです。

 植物にはごはんがいっぱいついてるし、獲物は水辺の近くに集まりますからね。

 

 しかし、僕よりはるか下にある緑は飛び降りて取りに行ける高さではありません。

 どうやら僕の住み家はアークスシップの中でもかなり高所に造られているようです。

 獲物を奇襲するなら高いとこも納得できますが、ここまで高いと結構不便かもしれません。

 

 「うーん、なんとか下に降りる方法も考えなくちゃ。

 部屋にも何かないかな」

 

 外に獲物を取りに行くのは保留して、部屋の中に何かないか探すことにしました。

 でもやっぱりというか、部屋には今朝方見た変な色の台座や機械以外には何もありません。 

 どうしたものかと考えてると本格的にお腹が空いてきてしまいました。

 

 いっそ飛び降りようかと考えていると、突然灰色の扉の横の板が鳴り出しました。

 奇怪な音が鳴り続ける板にびっくりしつつも興味津々で近づいていくと、頭から顔を半分近く黒くした生首が空中に現れました。

 

 「わうっ!?」

 

 『わうって何よ? ルルよ、ここ開けて』

 

 僕の奇声も気にせず黒生首は話し続けます。生首でも喋れるんだ…アークスは凄い。

 でもルルってなんだろ? 最近聞いたような?

 

 「………えっと?」

 

 『なんで昨日の今日で忘れてるのかしら? って、ちゃんと自己紹介してなかったわね。まぁ時間なかったし、今もないから適当でいっかな』

 『あなたをここまで連れてきて、あなたに家具をあげた人よ、追加の荷物をもってきてあげたわ』

 

 どうやらここまで僕を案内してくれた、銃の先輩のようです。

 『検査のため』と言われて預けていた僕の荷物を持ってきてくれたようです。

 すぐにでも扉を開けたいところですが、開けて、と言われてもどうすればいいのか僕にはわかりません。

 そのことを伝えると銃の先輩の生首は一つため息をつくと、慣れているかのように僕に指示してきました。

 

 『扉の横についているデバイスをタッチして…そう、その板よ。それから………』

 

 言われたとおりに操作していると扉の赤く発光していた部分が青くなりました。

 すぐに扉が開き、黒い被り物をかぶった小さなアークスが現れました。

 

 「お邪魔します。ってあなた、部屋でもそんな汚いローブを着てるの?」

 

 そう言いながら入ってきた銃の先輩は、今度は首から下もちゃんとあり腰にはふたつの銃がささっています。

 僕と話すとやたらとため息が多い背が小さい銃の先輩ですが、銃の扱いが凄く上手で印象的なので銃の先輩と呼んでいます。

 顔の半分が黒くなっていた理由は、大きな黒い帽子だったようです。

 先輩の頭が目元まで隠れてしまうほど大きな帽子だったので、生首が先輩だとはすぐに気づかけなかったようです。

 名前はともかく顔と匂いは覚えていられる自信ありますからね。

 

 「このローブでいると落ち着くんですよ。それにしてもおっきいですね」

 

 僕が黒猫帽子を見つつそう言うと、銃の先輩は機嫌をよくしたようで嬉しそうに笑いながら話しかけてきます。

 

 「え!? ホント!? 遂に毎日牛乳5リットル長身法の成果が出た!? やった!!」

 「えっと、牛乳飲むと帽子がおっきくなるんですか?」

 「………帽子の話ね………」

 

 急に元気がなくなってうつむく銃の先輩。

 さっきまで元気だったのにどうしたんでしょうか?

 そのままおっきな帽子は頭からずり落ちてしまいました。

 綺麗な赤い髪がぱらぱらと垂れ下がります。

 

 「銃の先輩、もう僕の武器の検査は終わったのですか?」

 「銃の先輩って…もー、ロビーに出たら二丁銃を携帯してる奴なんてたくさんいるんだからいい加減名前で憶えてよね。あなたにクルスって名前があるように、私にもルルって名前があるのよ」

 

 そう言って銃…ルル先輩は顔を上げ髪を整えつつ、口を尖らせながら僕の住み家を見渡します。

 その顔は驚きの表情を見せた後、徐々に険しくなっていきました。

 

 「………置く場所むちゃくちゃね。なんで外にベッドがあるのよ」

 「ベッド? ああ! あれ寝床なんですね。てっきり獲物を捕らえる罠かと」

 「これをどう見たら罠になるのよ。………なんで洗濯機が逆さまに置いてあるのよ」

 「逆さまなんですか? こっちの方が乗るときしっくりきたので」

 「洗濯機は乗り物じゃないわよ。 なんで冷蔵庫に服が入ってるのかしら」

 「ふっふっふ。砂漠にいた時はずっと暑かったので、ここで服を冷やしておいて出かけるときに着ればひんやりして気持ちいいかと」

 

 僕の素晴らしいアイディアを聞いた先輩は、半眼になりながら長いため息をついています。

 

 「はぁ~………まぁいいわ。今は時間ないし、今度しっかり家具の使い方を教えてあげる」 

 

 そう言うと銃の…じゃなかった、ルル先輩はどこからか大きな箱を取り出してその場に置きました。

 箱の中からどこか懐かしい匂いと食べ物の匂いがしてきました。

 

 「ちゃんと検査終わったわよ。特に問題なし。

 あなたが持ってた装備とかは全部この中にあるわ」

 

 懐かしい匂いは僕の武器やお守りでした。

 剣にも銃にもなる片手武器と、小ぶりな二本の剣。

 どちらも僕の手に馴染んでいます。

 あまり触った記憶はありませんけどね。

 

 食べ物の匂いは砂漠で取ってきたものですね。

 オアシスの木々に生っていた木の実と、機甲塔にあったアークスの携行食が数個。

 食べ物に気づくと、空腹がまたよみがえってきました。

 

 「それじゃホント時間ないからもう失礼するけど、今度誰か訪ねてきても簡単にロックをはずしちゃだめだからね? そうやって押し入って悪いことする輩も増えてるからね。じゃ、またね!」

 「あ、待っ………」

 

 早口でそういったルル先輩は、僕が食べ物に気を取られてるうちに間に消えていました。

 

 「消えた!? あ………転移かな?」

 

 これも昨日知ったばかりの機能で、アークス・シップ内の主要エリアには自由に転移できるシステムらしいです。

 一瞬で移動できるなんて。アークス、凄い。

 あ、でも転移システムを使わないと大事なエリアに移動ができないそうなので、不便な気もします。

 

 それにしてもまだお礼も言ってないのに銃の先輩はすぐ消えてしまいました。 

 銃の先輩にあってまだ日が浅いですが、砂漠で会ってからこの住み家にくるまでずっとお世話になりっぱなしです。

 何かお礼をしたいのですが…獲物でも獲って、プレゼントしましょう。

 今度会いに来てくれるって言ってるからその時までに準備しなきゃ。

 

 そうと決まったら朝食を済まして用事を済ましてしまいましょう。

 と、箱の中を漁ろうとすると、視界の端に黒くおっきなものが置かれていることに気づきました。

 

 「………帽子忘れてる………」

 

------

 

 箱の中の食糧で朝食をとった後、僕は行動を開始しました。

 本当は新しく住むアークス・シップ(ナワバリ)全体の地形・地理を把握しておきたいところですが、今日はそれ以外に目的があります。

 

 それは『アークス調査隊員』になること。

 

 ずっと前からなりたかったような気がします。

 ずっと昔に誰かと約束したような気もします。

 でも、とりあえず僕はアークス調査隊員に興味があるので志望しました。 

 

 調査隊員になればいろんな星に冒険に行けるそうなんです!

 それを聞いたとき、僕は心が躍りました!

 僕の知らない世界。誰も知らない未知の世界。

 広大な宇宙にはまだまだたくさん冒険する場所がある!

 それだけでわくわくが止まりません!

 

 それに詳しいことはよくわかりませんが、調査隊員になると色々都合がいい、と黒メガネのお兄さんが言っていました。

 なので、僕はアークス調査隊員になるために今日は行動します。

 

 アークス調査隊員になるために必要なのは”試験”を受けて調査隊員の”証”を貰うことらしいです。

 そのためにはずっと前から書類データ?とか、健康診断?とか、色々準備が必要だったらしいです。

 でも細かいことは黒メガネのお兄さんが、なんとかします、と言ってました。

 

 『乗りかかった船ですしね。無理やり乗せられた、とも言えますが…とにかく、あなたを発見、保護した責任として最低限の援助はさせていただきますよ』

 

 そう言いつつ、お兄さんは小さなチップと手紙をくれました。

 推薦状と言うらしく、これを受付に出せば試験を受けられるらしいです。

 

 そんなこんなで僕は今、アークス・シップ《ゲートエリア》というところに向かっています。

 昨日、ルル先輩に案内してもらい転送装置を利用して降り立った《ゲートエリア》はとても広いホールでした。

 どれくらい広いかと言うと………すっごく広いです。横にもたてにも。

 船というのでもっと錆びついて歩きにくい所かと思っていましたが、砂漠の地下坑道のように丈夫な金属で覆われていたり、上階に移動するための転移エレベーター?というものを支柱にしていたり、ガラス張りで宇宙の様子が見えるようになっている窓などがたくさんあり、開いた口が塞がりませんでした。

 

 その場所はアークス達を各惑星に輸送する輸送機が出る所らしく、そのためか周囲には受付がたくさんあり、任務(クエスト)依頼(オーダー)をこなす際は必ずここを利用する必要が………あったような、なかったような。

 うむむ、いろんなことがあって細かいことを忘れてしまいました。

 また今度、銃の先輩に聞いておきましょう。

 

 『なんで昨日の今日なのに忘れるの?』

 

 と、言う先輩の姿が頭をよぎりました。 

 

 ------

 

 慣れない転移システムを利用して広い広いゲート・エリアにつきましたが、今日は先日とは様子が違っていました。

 

 「おお~!!!」

 

 到着した《ゲートエリア》思わず声をあげてしまいました。

 なぜって、とても広いホールにたっくさんのアークス達がいたからです。

 どうやら僕と同じで試験の受付確認のために集まってきたらようですが…

 

 (こ、こんなにいるの!?)

 

 その数、ざっと100人くらい………ここにいる人達ほぼ全員が僕と同じ試験を受けるようです。

 一緒に受ける人がいるとは聞いていましたが、ここまで多いとは思いませんでした。

 こんなにいるのにこんな所で試験なんてできるのでしょうか?

 地下坑道と同じ造りなら、足場や受付が壊れることはないと思いますが。 

 

 確か試験というものは調査隊員の証を与えるに相応しいかどうか、篩いにかけるものだと聞きました。

 だとすると調査隊員として実力を示すのが試験の内容になるでしょう。

 調査隊員に何が必要かはわかりませんが、この宇宙を生き残るためには戦闘力が必要なのではないでしょうか?

 つまりここにいる人みんなで組手をして、勝ち残った人が調査隊員を貰える、ということなんでしょうか?

 わからないことだらけですが、だとしたらここにいる人達がみんなライバルということになります。

 腕が鳴りますね…なんだか楽しくなりそうです!

 

 人数に圧倒されつつ、ワクワクしながら試験の受付を探してアークスの間を割って歩き続けると、そこに集まっていたアークス達は大体の人たちが同じ服装をしていることに気づきました。 

 アークス研修生服と言うらしいです。 

 なんか腰から足元まで足のラインに沿って布でしっかりと被った服と、足を露出し、腰回りから太ももくらいまでヒラヒラした布で隠したような服と二種類ありますが、なにか意味があるんでしょうか?

 

 ちなみに僕の恰好は砂漠で使っていたローブを纏い、フードで頭まですっぽり覆っています。

 全身を布で覆えて砂嵐を防ぐ時や、敵が多くどうしようもないときに砂に紛れて隠れるのに便利だったので砂漠で愛用していました。

 目覚めた時に僕の近くに会った数少ない装備です。

 

 砂漠でもないのにこの恰好をしているのには理由があります。

 まず、僕自身の普段の恰好がローブであること。

 愛用の装備ですからね。ひんやりしていて気持ちいいですし。

 そして、先日銃の先輩と共に僕のお世話をしてくれた黒メガネのお兄さんの指示によるものです。

 黒メガネのお兄さんがあんまり目立たないほうがいい、と言っていので目立たないようにローブのフードを目深まで被って、気配もできる限り消しているのですが…。

 最初に大声あげたのがまずかったのか、恰好が違いすぎるからか、砂漠じゃないからなのか、僕に視線が集中している気がします。

 

 (うう、いきなり目立ってる、早く受付に行って………あれ?)

 

 人混みを分け、どうにか受付とおぼしきところに目を向けた僕は、そこに並んでるアークスの列の長さに驚きました。

 ざっと見ても各列に30人近くのアークス達が並んでます。

 よく考えれば当然のことでした。

 ここにいる人たちはみんな僕と同じ試験を受けるんだから、同じように列に並んで確認というやつをするはずです。

 

 (これじゃいつになるか………どんどん視線が集まってるし)

 

 なぜか、周囲の視線はどんどん僕へと集まってきている気がします。

 

 (…なんか………気持ち悪い…)

 

 ただそこに立っているだけなのに、耳鳴りと眩暈がしてきました。

 砂漠でも数時間なら太陽の下に照らされ続けても大丈夫な僕ですが、ここではなぜか体調が悪くなっていきます。

 いままで感じたことのない体調の悪化具合に、僕はたまらずその場を撤退することに決めました。

 ロビーを見渡してアークスがいなさそうなところを探します。

 

 (列を見張れて、かつ、目立たない所………あそこだ!)

 

 目標地点を定めたら速やかに移動すること。

 僕はゲート・エリアの左にある窓際にいたサングラスをかけた浅黒い肌のアークスの脇を通りぬけ、変な端末手前の坂を駆けあがり、支柱と同化した転送装置の屋根の部分を渡って高所へ移動しました。

 ちょうど受付の屋根に登り、看板の裏側へと移動し終え一息つきつつ下の様子を窺います。

 

 (ふぅ…ここなら目立たないし、全体を把握できる。人が減るまでここで待機かな)

 

 もちろん、受付の上に登る僕のことを見ている人はいましたが、さすがに追ってきたりはしません。

 列から抜け出してまで追ってくることはないだろう、と思っていたのですがあたりだったようです。

 もし誰か追ってきてたのなら、その人が謎の体調不良の原因かもしれませんし、迎撃すればいいだけですけどね。

 

 (さて人数の方は…そんなすぐには変わらないよね。

 あ、でも確認は割と早く終わって列自体は進んでるんだ、これならすぐ受付に並べるかも。

 それにしても研修服の人が多いなぁ…他の人もなんかゴツゴツして重そうな服ばかり…ローブを着てるのは僕だけだ。だから目立つのかな?)

 

 そんなことを考えつつ様子を窺っているうちに体調が落ち着いてきました。

 

 しかし、先ほどの眩暈は一体なんだったのでしょう?

 移動するときはスムーズに動けましたし、今も落ち着いているので大したことはないようですが…。

 耳鳴りは、機甲種の超音波を食らったときに収まらなくなったことは何度かありますが、眩暈なんてお腹が空きすぎてどうしようもないときぐらいしかならなかったはずなのに。

 ここには機甲種もいませんし、そんな音波も聞こえませんでした。

 朝ごはんも…量はちょっと少なかったですがちゃんと食べてきました。

 

 だとしたらあの体調不良は何が原因だったのでしょう?

 むむむ、自分の身体なのにわからないのことが多くて嫌になりますね。

 今後の活動に影響が出るかもしれませんし、少し確かめておいた方がいいかもしれません。

 試験は毎日やるわけじゃないとのことですし、試すなら同じ条件の今しかないですね。

 体調崩したまま内容のわからない試験に臨むのはよくないですが、人目を離れれば治まるようですし…とにかく降りてみますか。

 

 先ほど登ってきた所から降りようと振り向いたところで、一人のアークスが屋根に飛び上がってきました。

 

 獣の耳に鋭い眼光。

 僕より小柄な身体に研修服。

 その小柄なアークスの背には身の丈より長い(パルチザン)

 髪の間からちょっぴり出ている角をみるに僕と同じデューマンでしょうか。

  

 アークスの身体能力は高く、更にフォトンを使えば高い跳躍も可能ですが、そのアークスはフォトンを使った様子もなく屋根に飛び上がってきました。

 獣の耳のせいもあるのでしょうが、本物の獣のような印象のアークスでした。

 

 ふと、獣のアークスと目があいました。

 本当に獣に睨まれている気分です。見たことありませんが。

 

 「うげ、ばれた」

 

 獣のアークスはそう呟いたとたん臨戦態勢をとりました。

 背中の槍こそ構えていませんが、明らかに僕に敵意を向けているのが伝わってきます。

 

 (小柄なのに…まるでバルパリリーパを相手してる気分だ…)

 

 こんなに強そうな相手なのに武器は愚か構えすら取れてないのは失態です。

 体調は戻っているのに油断していました。

 いえ、反省は後です。

 どうやら他にも一名こちらに上がってくるようです。

 これ以上敵が増えたら厄介です。

 幸いにも敵はこちらの様子を窺っているようですし、相手が武器を抜かないうちに減らしておきましょう。

 

 そう思い武器をとりだそうとした瞬間、獣のアークスの後ろから声が聞こえてきました。

 

 「ミリアちゃん、話し合いは終わりましたか?」

 

 その柔らかい声を聴いたとたん、獣のアークスは先ほどまでの威圧感が嘘のように消えて両手を頭の後ろで組んで楽にしています。

 あれ、()らないんですかね? 拍子抜けです。

 そして、獣のアークスの後ろの屋根の縁から新たなアークスが渡ってきました。

 

 「げげ、もう来た。あー…まだだよ、丁度始めるとこだった」

 「始める?」

 「あ。は、話し合いだよ、話し合い~」

 

 そのままよそを向いて口笛を吹きだす獣のアークスを見て新たに来たアークスは腰に手をやり頬を膨らませています。

 

 「もー、また悪い癖が出たのね! 強そうな人を見るたびにケンカ売っちゃダメだっていつもいってるでしょ?」

 「はいはーい」

 「はいは一回!」

 

 そのまま話し続けるアークス達をしり目に僕は警戒を緩めます。

 どうやら戦う雰囲気ではなさそうですしね。油断はできませんが。

 一応すぐに武器に手を伸ばせるようにして…どうしましょう。

 なにやら僕に用がありそうですが、説教中のようですし。

 脇を通り抜けていけばいいかな?

 飛び降りて移動しちゃう手もありますね。

 

 なんて思いながら降りるかどうか下の様子を見ていると、新たに来たアークスが話しかけてきました。

 

 「あの! 友達がご迷惑をおかけしたようでごめんなさい!」

 

 そう言って一度頭を下げたアークスはすぐ顔を上げ、喋り続けます。

 

 「私はアメリア・メリルリートって言います!

 隣のこの子は友達のミリアちゃんです!」

 「…ふん」

 

 獣の人はそっぽを向いたまま不満げに息をもらしました。

 そんな獣の人を困ったように見つめる新しく来たアークスは背中に(ロッド)を装備し、研修服に身を包んでいます。

 綺麗な金髪に優しい眼をした、優しそうな人です。

 背丈は僕より少し大きいですね。

 控えめの尖った耳を見るに、たぶんニューマンのアークスです。

 

 ただ僕が注目したのは綺麗な金髪でも、尖った耳でも、背中のロッドでもなく、大きく盛り上がった胸部でした。

 そのアークスはなぜか服を押し上げるほど巨大な何かを胸部に入れているようです。

 (しかも二つも。

 非常食ならリュックとか、アークスに支給されているらしいアイテムパックとかにいれればいいはず。

 装備も同じく。でもどっちもすぐに取れだせないから胸に入れているのかな?

 あとは身を守るための防具(ユニット)かも…でもあんなに大きいと動くとき邪魔じゃないかな?

 何か護身用の特別な装備かも。

 それにあれだけ目立てば嫌でも目に入って相手の威嚇にもなりますし…むむむ)

 

 色々考えた末にでた答えは…

 

 「…爆弾?」

 「へ?」

 

 思わず口から洩れた言葉に爆弾のアークスは首を傾げています。

 しかし、獣のアークスは今の発言が気に入らなかったのか先ほどの威圧感を出しています。

 

 「おい、お前どこ見てる?」

 「もう、ケンカしかけちゃダメ!」

 「い、いや、今のは違うから!」

 

 またも言い合いが始まってしまいました。

 うかつに話しかけると獣の人に怒られそうですし、どうしましょう。

 そろそろ本気で飛び降りようかと考えていると、気になることをアークス達が言い出しました。

 

 「もう! これから試験で仲間になるかもしれないのに怪我させちゃったら大事なんだよ?」

 「ちょ、ちょっと試すだけだし仲間になるかなんてわからないもん。

 それにその程度の実力で試験を受けるつもりならやめておいた方がいいも~ん」

 「そういうことじゃないし、そんなのダメだよ! ミリアが試験受けれなくなっちゃうかもしれないよ?

 それに、みんな頑張って試験に臨んでるんだから私達の一存で大事な機会を奪っちゃダメ!」

 「そしたら兄ぃみたいに戦闘員になるからいいの。

 あと、(ウチ)の、ね。アメリアの問題じゃないから。すぐ背負い込むのやめてってば」

 「私達の問題だよ! 友達だもん!」

 

 うーん、なかなか話し合いが終わりませんね。

 また威圧されるかもしれませんが…話に割って入ることにしました。

 

 「えっと、あの、仲間になるかもしれないってどういうことですか?」

 

 言い合いをやめてこちらを見る二人。

 獣の人は今回は威圧感が出ませんでしたね。

 凄く睨まれてしまいましたが。

 爆弾の人が少し言いにくそうにしながらも答え始めました。

 

 「最近の調査隊員の試験内容にパーティを組むことが義務付けられてきているんです」

 「パーティ…ですか?」

 

 すると獣の人も答えてくれます。

 

 「そ。まぁ義務じゃなくて推奨だって話だけど…よくしらないけどね」

 「もう、知ってるでしょ! ちゃんと教えてあげなきゃ!」

 「て、敵にわざわざ情報をあたえてどうするの」

 「だから仲間になるかもでしょー!」

 

 また始まりました…これ以上聞けなさそうですし、移動しちゃいましょう。

 

 「えっと、ありがとうございました。失礼しますね」

 

 そう言い残し、脇を抜けようとした僕を獣の人が呼び止めまてきました。

 

 「おい…名前は?」

 

 人に名を聞くときはまず自分からって…誰かに言われたような言われなかったような。

 あ、でも爆弾の人が最初に言ってたのが名前なのかな? …覚えてないけど。

 

 「あ、そうです、聞いてなかったです!」

 

 爆弾の人も同調しだします。

 むむ、よく見たら人も減っちゃってるし、下に降りたいんですけど。

 自分の名前も普段呼ばれないので思い出すのに時間かかっちゃうんですよね。

 

 「えっと…あ、クルスです」

 「…そ」

 

 少し時間をかけて答えると獣の人は僕を一瞥して呟き、僕が先ほどまでいた看板の裏に移動しすわりこんでしまいました。

 

 「あ、もう! クルス…君ですね、試験であったらよろしくお願いします!」

 

 そう言って爆弾の人も看板の裏へいき、獣の人の隣に座りました。

 

 いったい何だったんでしょうか?

 襲い掛かってくるのかと思ったら、二人で話すだけ話して終わってしまいました。

 これがアークスの日常なんですかね?

 うーん、ちゃんとアークスになれるか心配です。

 ん? あれ? あれれ? 気づいたら人が凄く減っています!

 手続きが終わっちゃったんですかね…これじゃ体調不良の原因を調べられません。

 残念です、けど人が減ったってことは受付が空いてるってことです。

 元々試験をうけるために手続きをするのが目的でしたし、これはこれでよかったですね!

 

 そうして僕は一番空いてる列に並ぶことにしました。

 

 




「ミリアちゃんどうしたの? いつもなら相手の名前なんて気にしないのに」
「…あいつ」
「? クルス君のこと?」
「うん。あいつ強い」
「え? そう? 隙だらけだったと思うけど」
「そうなんだけど、たぶん当たらないと思う」
「よけられるってこと? ミリアちゃんのスピードでも?」
「うん」
「そう、ミリアちゃんの野生の勘がそういうなら、そうなのかもね」
「…負けない」
「そうね、でも」
「?」
「やっぱりケンカしようとしてたんでしょ!」
「あ、いや、そんなこと…」
「今更言い訳してもおそーい!」
「わ、わわ、ごめん、抱き着かないで!!」


ありがとうございました。



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3、リティア 「幼馴染とボロローブ」

PSO2の世界を小説ど素人がオリジナル要素込で書いた妄想小説もどきです。
Phantasy Starの世界が好きな方はオリジナル展開・要素が多いためお勧めしません。
原作のpso2に興味がある方は参考にはならないと思います。
ゲームのネタバレも多いです。ご注意ください。



 私は何をやっているんだろう。

 

 気づいたら砂漠に倒れていた。

 倒れた砂地は熱したフライパンのよう。

 とっくに顔の皮膚が火傷していると思ったけどもう感覚がなくてわからない。

 横向きになった視界に広がる景色に人はいない。

 人どころか生き物すら見当たらない。

 ……ダーカーすら見当たらない。

 

 慣れ親しんだビルや店、工場などどこにもない。

 砂に埋もれた機甲種の残骸が所々に見えるだけ。

 ついさっきまでいたテントもどこにあるかわからない。

 乗ってきた飛行艇の音ももう聞こえない。

 

 

 …もう疲れた。

 

 叫び疲れた。

 

 泣き疲れた。

 

 怒り疲れた。

 

 走り疲れた。

 

 ……生きるのも疲れた。

 

 元から死にに来たようなものだし。

 

 もうこのまま死んじゃおう。

 

 ……でも暑苦しいだけで全然死ねやしない。

 

 喉はカラカラ。視界もユラユラ。

 

 意識は朦朧としてるのにいつまで待っても死ねやしない。

 

 あ……眼をつむれば死ねるかな?

 

 そっか、眼を閉じればいいんだ。

 

 前のように、寝るように。

 

 全て無くなる前のように。

 

 私が安らかに眠れたあの頃のみたいに。

 

 眼を……瞑れば……。

 

 なんでだろう。

 

 泣き疲れたはずなのに。

 

 まだ涙がこぼれ落ちる。

 

 叫び足りなかったかな?

 

 怒り足りなかったかな?

 

 まあ、もうどうでもいいこと。

 

 早く寝よう。

 

 

 

 ふと、倒れた私の頭上で砂を踏みしめる音がした。

 何だろう? 何かが邪魔しにきた。

 やっとこの暑さも気にならなくなってきたのに。

 もう少しで眠れる気がしたのに。

 

 ダーカーかな?

 でも攻撃してこない。

 機甲種かな?

 でもうるさい機動音は聞こえない。

 おじさんかな?

 でもあの人は私が倒れていたら大騒ぎしているだろう。

 まさかあの女?

 私が文句を言う間もずっと黙ってたあの女だろうか?

 

 頭上を踏みしめた何かはそれから動かず何の反応もない。

 そうか、あの女だ。

 さっきのように何も言わずただ私を見つめているだけか。

 

 眼を開けず、音のした方にほんの少し顔を動かす。

 

 するとそいつは声をかけてきた。

 

 おじさんでも、あの女でもなかった。

 知ってる声ではなかった。

 そいつは変な口調で問いかけてきた。

 

 「……お腹空いた? の? ……ですか?」

 

 眼を開けてみたけど逆光でよく見えない。

 

 最初に見えたのは……

 

 

 

~~~~~~~~

 

 「あ、あの、あの! すみません!」

 

 困ったような女性の大きな声に、私の意識は現実に引き戻された。

 

 視界に入ったのはクエストカウンターの前に並ぶアークス達の列だった。

 来たときは私と同じアークス研修服に身を包むアークス達が長蛇の列を作っていたんだけど、考え事をしてる間にだいぶ進んでいたみたい。

 3つあるどの列も3,4人しか並んでないし。

 並び始めた時はいつ終わるのかと辟易してたけど……大して時間も取られなかったようで幸いね。

 

 でも声をかけてきた相手が見当たらない。

 私の前に並んでる人は進まない列にイライラしてる様子で爪先で地面を何度も叩いている。

 服装は研修服じゃなく、胸、肩や手足を白銀の鎧で包む……甲冑のような服装。

 名前は確かソロ、ソロプ……なんとかって服ね。

 正直服装なんてどうでもいいし、名前なんて覚えてないわ。

 そして困った声で話しかけてくるような相手ではないわね。

 ていうか身動きするたびにガチャガチャ煩いわねコイツ。

 

 右隣には見知った困り顔の幼なじみしかいないし。

 後ろには誰も並んでないし……。

 うーん、空耳かしら?

 

 「わざと気づかないフリしないでください!」 

 

 「ごめんごめん。久しぶりね、モニカ」

 

 改めて右隣を見るとふくれ顔の幼なじみがいた。

 彼女は武器ショップ店員のモニカ。

 昔は内気な性格で人前に出ることすらままならないほど人見知りだった。

 親の仕事の都合で会う機会が多かったがまともに会話出来るようになるまでどれだけ時間がかかったか。 

 

 「それまでぬいぐるみを通して話すことになるとは思わなかったわ」

 「こ、声に出して思い出さないでください~!」

 

 恥ずかしいのか顔赤くして懇願してくる。

 童顔で背のちっちゃい彼女が瞳を潤ましている様を見るとホントに年上なのかと疑わしい。

 

 「いいじゃない。今では立派にショップ店員やってるんだから、ね?」

 

 明るくそう言いつつ彼女の服装の袖を軽くつまむ。

 アークス調査隊をサポートする職員たちが着る見慣れたナビゲータードレスを着ていた。

 これを着て仕事をすることが、事務員を目指す女性の夢らしい。

 確かにこれを着こなし、キビキビと仕事をこなす大人の女性達の姿はカッコいい。

 でも、モニカにはまだ速いかも。

 似合ってるとは思うけど、大人の女性にはほど遠い気がする。

 

 「今何か失礼なこと考えてません?」

 「そんなことないわよ!?」

 

 慌てて否定しつつ思考をもどす。

 そう、先日、彼女は武器強化のプロであるドゥドゥ先生のお墨付きをもらい晴れて武器ショップの店員として働き出したのだ。  

 

 「ところでモニカ、こんなところで何やってるの? お店は?」

 

 武器ショップはアークス調査隊員達が自分達の武器の強化を依頼する場所だ。

 調査隊員のほぼ全員の武器を数人で強化・調整しているため、勤務し始めの新人が朝から店を離れることは難しいはず。

 私の記憶では今の時刻は開店しているし…試験日だし出張サービスでもしてるのかしら?

 

 「ち、ちょっといろいろありまして~……」

 

 なんかモニカの目が泳いでいる。 

 

 「……まさかもうクビになったんじゃないわよね?」

 「ち、ちがいますよ! 調査隊員認定試験で忙しくなる受付事務の応援です!」

 

 なるほどそれなら納得…しかけたけどふと疑問に思う。

 モニカにクエストカウンターの受付事務なんてできるのかしら?

 

 「えーと、その……人選ミスじゃない?」

 「自分でもそう思いますが、その、くじ引きでもジャンケンでも負けちゃいまして」

 

 苦笑しつつ彼女は説明してくれた。

 3回行ったくじ引きでも10回勝負のジャンケンでも全て負けて決まったらしい。

 運なさすぎじゃない……。

 

 つまり誰も応援に行きたがらなかったのね。

 あんな激務を日がな毎日続ける職場を離れたがらない人がいるとは信じられないわ。 

 まあ、あそこは武器の改造が大好きな変人が多く集まる場所だし、仕方ないわね。

 

 「……また失礼なこと考えてません?」

 「そ、そういうことなら何か用事があったんじゃないの? 今勤務中なんでしょう?」

 

 半眼で睨んでくる彼女の視線から逃れるようにそっぽを向きながら質問した。

 

 「あ! そ、そうでした! えっと、受付で少し問題が発生してしまったので大変申し訳ありませんが隣の2列に移動してください。です!」

 

 …私相手だから伝達内容棒読みなのよね? そうよね?

 そんな「無事伝達できました!」みたいな顔されても…それに… 

 

 「ん? それだけ?」

 「そ、それだけです」

 

 嬉しそうな顔から一変、モニカの頭上にハテナマークが浮かび首を傾げている。

 首を傾げたいのはこっちなんだけど…。

 それだけじゃ説明が足りないんじゃない?

 どおりで前にいる人も指示通り動かずイライラしているわけね。

 

 受付事務を総括してるのはおそらくコフィーさんのはず。

 オラクルで活動するほぼ全てのアークス戦闘隊員・調査隊員の顔を覚え、その人それぞれの実力を見抜き、獲得できるであろうライセンス任務を薦めるのが彼女の主な仕事。

 全ての調査隊員の顔を覚えるだけでも驚きなのにその実力を図る選定眼はもはや神の眼として有名ね。

 もちろん、通常業務の補佐や欠員の出たオペレーター作業の補助もこなすこともできる凄い人だ。

 そんな受付事務のエースが、説明もなくただ列を移動させるだけだなんて。

 コフィーさんらしくない気がする。

 

 …気になるわね。

 興味本位で聞いてみることにする。

 

 「ちなみに何があったの?」

 「…その、内緒ですよ? 先ほど照合しようとした受験者の方のデータ照合で不備が発生したんです。

 それで生体認証で本人確認しようとしたのですが……何故か生体認証を拒んでいまして」

 「何よそれ……何で私達が移動しなきゃいけないのよ」

 

 今回の試験の事前申請にはなんらかの生体データが必要不可欠なの。

 声紋認証、網膜認証、指紋認証、血液……DNA認証にフォトン認証。

 フォトン認証は絶対、他にどれかひとつ提出する必要がある。

 なんでこんなに厳重かというと、以前行われた試験で元から試験を受ける予定の人が、あろうことか代理人を立てて参加し、資格を手に入れようとしたからなの。

 そいつらはキャストの二人組で、あらかじめボディパーツを似通わせたものに変えておき登録。

 後日登録した人になりすました代理人が受付に赴き、データでの顔写真で本人確認をした。

 

 コフィーさんは驚くべき事にキャストの見た目すら判別できるのだけど、やはり普通の受付の人には二人の違いなど解らずそのまま試験参加許可を出してしまい、代理人はそこそこ強い隊員だったので試験はそのまま合格。

 まあ、隊員に認定された証を渡す時にコフィーさんが気づき、そいつの合格は取り消し。

 二人は厳重処分ということで一応は事なきを経たんだけど、そいつらのせいでキャストは試験申請にDNA認証と、最近装置が強化(アップデート)され精度が上がったフォトン認証を提出するのが、私達ヒューマンとかもなんらかの生体認証が義務付けられたってわけ。

 嫌になっちゃうわ。

 

 でも、いずれかの認証データを提出しておけば登録データに不備があってもその場ですぐ識別できるのは受付業務がスムーズに廻るようになったしいいことかもね。

 いちいち身元確認に時間とられることがなくなったわけだし、今も別の列はドンドン進んで人が減っていってるわ。

 その前段階の書類申請が大変になったけど。

 

 にしてもそういう輩は真面目に試験を受けに来てる人達に迷惑がかかる事を考えなかったのかしら。

 そいつらも、受付前で拒否してるやつも!

 

 「なら参加させなきゃいいのよ!」

 

 苛立ち任せに断じた。

 最近改正されたとはいえルールはルール。

 ルールを守れないのにアークス調査隊員になろうなんて間違ってるわ!

 その拒否してる奴は諦めて次回に回すべきだと思う。

 人見知りなモニカはともかく、コフィーさんならそれを伝えられるでしょ!

 コフィーさんも渋ってるなら私が変わりに伝えてくるわ!

 

 熱くなりつつもモニカにそういうと、非常に言いにくそうにしながらも小声で彼女は言った。

 

 「……それがその……六芒均衡(ろくぼうきんこう)の推薦らしくて……」

 「なんですって!? あの六ぼぅぐ!?」

 

 まったく予想できない人達の名を出され、思わず大声をあげてしまう。

 モニカが慌てて私の口を押さえるが開いた口は塞がらなかった。

 些細な怒りなど吹っ飛んでしまった。

 

 あの六芒均衡(ろくぼうきんこう)が。

 百隻以上あるアークス艦隊と生活宙域、すなわちオラクル全体をたったの6人で統括し。

 映像ニュース等にはよく現れるものの、人前に出ることなどまったくなく。

 アークスの大事件にしか現れない彼らが。

 

 「一個人のアークスを推薦!?」

 「お、お願いですから口に出さないでください~!」

 

 未だ私の口を塞ぐモニカの手を払いのけ、肩を掴み問い詰める。

 私にとって六芒均衡(ろくぼうきんこう)の情報は喉から手が出るほどほしかったものだ。

 

 「ど、ど、どいつよ!」

 「うぇ、え~っと、六芒の三のぉ~、カ~ス~ㇻ…」

 「そっちじゃない! 推薦されてる奴はどこのどいつよ!」

 

 更に彼女に詰め寄る。

 何故か彼女がガクガク揺れてるけど情報を前に気にかけてる暇ないわ!

 

 「ゆらさぁ~ないでぇ~! それぇ、ならぁ、ま、まだ、まま前にぃ~」

 

 それを聞き受付窓口のほうを向く。

 視界に映ったのは相変わらず苛立っている鎧の人だ。

 邪魔! と吹き飛ばしたい衝動を抑え、列横に顔を出して確認する。

 

 すると、鎧の人のさらに先。

 他にも指示を無視し、待ち続けるアークス達の隙間。

 受付前に一時的に設置されてるブースの仕切りの下から辛うじて見えたのは……

 

 (……えっ!?)

 

 並んでいる時に思い出した光景が再び蘇る。

 砂漠に伏した私に声をかけたのは。

 逆光の中、辛うじて見えたのは。

 

 辛うじて見えたのは……マントのようなボロローブだった。

 

 ------

 

 

 「嘘……まさか……」

 

 「あの~」

 

 「なんでここに……推薦……? 確かに"あいつ"の実力なら……」

 

 「もしもし~? もしも~し? リティアさ~ん?」

 

 「どうしよ……六芒均衡(ろくぼうきんこう)のことは聞きたいけど……よりによって"あいつ"だなんて……」

 

 「リティアさん! しっかりしてください!!」

 

 「ひゃッ!?」

 

 耳元で大声を上げられて情けない声をあげてしまう。

 そちらを見ると、モニカが心配そうな顔で見上げていた。

 気付かないうちに取り乱しちゃったみたい。

 さっきの記憶(おもいで)の姿にそっくりなんだもの。

 子どもの頃の記憶だし、あの後いろいろあったから顔までちゃんと覚えてないけど、あのボロボロのローブは忘れられないわ。

 アークスであんなみすぼらしく、地まで這うようなボロボロの格好した人は"あいつ"と、"あいつ"に付きまとっていた"あの女"以外見たことない。

 ……ああ、もしかしたら"あの女"かもしれない。

 

 何を浮き足立っていたのだろう?

 まだ目の前のボロローブの人が"あいつ"と決まったわけじゃないわ。

 "あの女"か、別のアークスの可能性もある。

 とにかく、六芒のことも聞きたいし話し掛けてみなきゃ。

 

 そう思いボロローブのほうへ足を踏み出すとモニカが行く手を遮ってきた。

 

 「モニカ、どいてくれる?」

 「い、嫌です! に、睨んでもダメですよ?」

 

 睨んでないわよ。

 

 「今受付の邪魔したらまた遅くなっちゃいます!

 それに、他の人に迷惑かけるのはダメなんじゃないんですか!?」

 

 うっ…それを言われると…。

 でもこの後試験がある以上、今を逃したら次に会えるのはいつになるかわからないわ。

 べ、別に”あいつ”かどうかの確認したいとかじゃなくて、六芒均衡の情報がほしいのよ。

 だから今しか……。

 モニカをどう説得しようか悩んでたら後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

 

 「リティア~! 久しぶり~!」

 

 振り向くとそこには学校のクラスメイトだったアメリアがいた。

 アメリア・メリルリート。医療機器業界大手の娘にして医術大家の孫娘でこの子も私の幼馴染よ。

 それに訓練校(アカデミー)のクラスメイトで校内成績優秀者の一人。

 誰にでも優しく、相談事も親身になって聞いてくれる、親しい人には話さなくても強引に聞きにいくちょこっとお節介焼きな私の親友。 

 

 《テクター》が得意クラスで、実践での支援能力は校内トップの実力者。

 彼女自身のフォトン親和性の高さに医療知識の組み合わせもあるらしく、彼女の回復法術(テクニック・レスタ)は簡単な生傷も治せるの。

 本来は術者周囲のフォトン吸収力を活性化させ、元気にするくらいのテクニックなのに。

 もはや彼女だけの才能ね。

 そんな彼女は性格も相まって周囲に『慈愛のアメリア』と呼ばれているわ。

 

 「アメリア! 久しぶりね! って言っても1週間ぶりだけどね」

 

 そのままアメリアにハグしようとした私の目の前に、鋭い槍の穂先が突きつけられる。

 

 「アメリアに近づくな」

 

 アメリアと私の間に割って入った少女は、犬歯を剥き出しにして明らかに敵意を向けている。

 誰にって…私以外いないわよ。

 

 

 邪魔してきたこの子はミリア・バズコット。

 アメリアと同じく訓練校のクラスメートで、彼女も校内成績優秀者の一人。

 口調はぶっきらぼうで一匹狼を気取ってたけど、アメリアのお節介が功を奏したようで意外と仲間思いで子どもっぽい子だっていうことがすぐに周囲に露呈したわ。

 ミリアは照れているのか否定してるけど。

 アメリアとはその時から仲良しでよく一緒にいるわね、ミリアは否定しているけど。

 

 小柄なその身を活かした機敏な動きで敵を屠る様は獣そのもの。戦闘に秀でた才を持つ同期の中ではトップを争う実力者よ。

 家族全員が傭兵として企業に雇われているためか、戦闘知識も連携も他の研修生より実践的で指示も的確、パーティを組んでるときは結構助けられたわ。

 …もうパーティを組むことはないだろうけど。

 

 まあそんなわけで実力も協調性もある彼女は『狩人(かりうど)ミリア』って名前が通っている。

 どちらかと言うと獣人とか甘え猫とかの方がしっくりくると思うけど本人に聞かれたら噛みつかれるので黙っておく。この子文字通り本当に噛んでくるからね。

 

 隣でモニカが息を呑むのが聞こえた。

 モニカは職員として日も浅く、アークス同士のケンカに慣れてない。

 ミリアの威圧感はそれこそ戦闘慣れしてない一般人を立ち竦ませるには十分なほどだし、モニカは臆病だからなおさら怯えちゃうわね。

 足りない試験管人員の応援できたとはいえ、職員のモニカがこの場を収めないといけなんだろうけど…あまりにも荷が重すぎると判断した私は、安心させるために場を収めることにする。

 ていうか私のせいだし。せめてこの槍ひっこめさせないと。

 

 「…ロビーでの抜剣は禁止なんだけど?」

 「これは槍」

 

 あ、ダメかも。この子槍納める気がない。

 

 「くだらないこと言ってないで槍納めなさいよ。試験資格剥奪されるわよ?」

 「まだ手続きおわってないし、それでも構わない。裏切り者に護衛対象を傷つけられるわけにはいかない」

 「…アンタの護衛対象はギルバートのやつでしょ。あの成金はどこいったのよ」

 「そのギルバートに頼まれた。今の私の護衛対象はアメリあ痛ッ!?」

 

 途中で言葉を切ったミリアの頭にはアメリアの拳が乗せられていた。

 そんなに強く叩いたようには見えなかったけど、親しいアメリアに叩かれたのが効いたのか、ミリアは信じられないという顔でアメリアを見ている。

 

 「アメリア、何するの!?」

 「もう! 友達に槍向けちゃダメでしょ!?」

 「でもこいつは裏切ったし!」

 「あれは事故なの! もー、何度言ったらわかるのかな? それに護衛なんていらないってば」

 「でもでも! あのことは絶対用心した方がいいってギルが言ってたもん!」

 

 必死なミリアは説得に夢中なのか槍を納めた。

 モニカと一緒に息をつく私。

 なんだかんだ言って私も怖かった。あの子、本気で怒ると怖いもん。

 本気じゃないし絶対に攻撃してこないと分かっていてもあの威圧感は脅威ね。

 にしてもアメリアに護衛が必要っていうのは気になるわね。

 

 「護衛ってどういうこと?」

 「ふん、裏切り者には関係な・・・」

 「それがねー、なんか脅迫状みたいなのがギル君の家に届いてね」

 「アメリアッ!?」

 

 ミリアの言葉を遮り、あっさり話してしまうアメリア。

 いつも通りの二人のやり取りに笑いそうになっちゃったけど、脅迫状というのが気になり聞き直す。

 

 「脅迫状()()()?」

 「そーなの。文字が大きかったり斜めになってたりでとにかく読みづらくて。

 内容は『試験の時に私がひどい目に遭う』って書いてあったの」

 「正確には『己が証を求めん時、汝が友、『慈愛』のもとに災いが降りかかるであろう』だよ」

 

 結局教えてくれるのを手伝うミリアに、思わず顔がほころんでしまう。

 なんだかんだ言って優しいのよね。

 そんな私を見てハッとした様子で照れ隠しにまた槍を掴もうとするもんだから、慌てて話し続ける。

 

 「何それ? わざわざ読みづらくしたあげく内容は何言ってるか意味わかんないじゃない。

 よくそんな文章で狙われているってわかるわね?」

 

 『慈愛』と言えばアメリア以外には心当たりがないが、己が証とか災いが降りかかるとか抽象的すぎてよくわからない。

 それにこれじゃ脅迫状と言うよりは警告みたい。

 

 「んー、まあ狙われる心当たりもあるにはあるし、ギルが熱くなっちゃってね」

 

 アメリアの両親や祖母が大手大家の医療術師のためか幼少の時から身代金目当ての輩に襲われることが多かったらしい。

 昔から交流のあったギルバート家のツテで、中立地帯で比較的安全なシップ5(ラグズ)に来たって言ってたわ。

 おかげでアメリアと会えて仲良くなれたけど、ひどいことする奴らもいるものね。

 

 シップ5でもアークス同士のいざこざがまったくないわけじゃないけど、人攫いが起こることはないわ。

 重要な建築物が多いから、アークスシップを守る《アークス衛士隊》の出入りも多いシップ5(ラグズ)でそんなバカな真似をするのはそうそういないはず。

 噂じゃ六芒均衡もよくシップ5(ラグズ)を経由しているらしいし。見たことないけど。

  

 そこまで考えてようやく試験の時に狙われる可能性が高いことを理解する。

 

 「ここでは狙えなくても試験時、惑星に降りてる時は危険、てことね?」

 「そういうこと。それに証っていうのは調査隊員ライセンスのこと。だと思うってギルが言ってた。」

 

 そういうことならギルもミリアも護衛をつけたがるのもわかる。

 アメリアが危険にさらされるのは黙っていられない二人。

 

 「それにアメリアは目立つから」

 「…そうね、目立つわね」

 

 そうやって二人で彼女の豊満な胸を見てしまう。

 うう、どうやったらそんなに大きくなるのよ。

 私にも少しくらい…。

 

 「そんなことないよ! 実力ならリティアとミリアちゃんの方があるじゃない!」

 「そういうこと言ってんじゃないわよ…いやそれもだけど」

 

 優秀で気立てのよく可愛い彼女は好かれることの方が多いが疎まれてしまうことも稀にある。

 そういう奴はミリアが威嚇してるから何もしてこないけど。

 

 「あ、でも護衛じゃなくて、頼りになる仲間はほしいかな~?」

 

 と、急にわざとらしく顎に一刺し指を当て思案しているふりをするアメリア。

 …このあと何を言うか手に取るようにわかる。

 

 「ね、リティア。今回の試験で、」

 「あー! ごめん、アメリア! 私、用事あったの思い出した!」

 

 ()()()()()があったのにいまだパーティに誘ってくれるアメリアに嬉しくも思うし、申し訳なくも思う。

 幼馴染の彼女を護りたい気持ちもある。

 だけど私はまだしばらくはパーティは組めない。

 組んじゃ、いけないんだ。

 私は、仲間を、傷つける。

 

 それに用事があるのも本当のことだ。

 ボロローブの人に話しかけなくちゃ…って…

 

 「いない!?」

 

 ついさっきまで一番前でトラブルを起こしてたのに!?

 ていうか列がすごい進んでる!?

 そこで今まで蚊帳の外だったモニカが説明してくれる。

 

 「つ、ついさっき問題が解決したようです。ローブの人はすぐに試験時移動用の大型輸送機に入っていきました」

 「そ、そんな…」

 

 せっかく六芒の情報を聞けるチャンスだったのに…。

 ”あいつ”かどうかの確認もしたかったのに…。

 私はその場にへたり込んでしまった。

 六芒の情報は本当に手に入りづらいのだ。

 

 「ねえ、モニカ…」

 「うう、ごめんなさい。守秘義務です」

 

 モニカは私の落ち込み具合を見て何を言おうとしたのか察したようで先に謝ってきた。

 わかってはいた。調査隊員にも戦闘隊員にも衛士隊員にもなっていないアークスの素性を、緊急時以外に職員から聞きだすことは難しい。

 でもモニカ、あなた結構守秘義務破ってるわよ?

 六芒の推薦とか…でもだからこそこれ以上喋らせてばれたりしたらモニカが大変ね。

 

 わかっていたから自分で接触しようとしたのに。

 自分でチャンスを潰しちゃった。

 せめて名前さえわかればどうにかなったのに…。

 

 「ローブの人? それってボロボロなローブでフード被ったアークスのこと?」

 

 へたり込み、うつむいた私の顔を覗き込むようにしてアメリアが聞いてきた。

 

 「知ってるの!?」

 「う、うん。さっき友達になったよ~」

 「なってない。あと近づくな」

 

 急に立ち上がって詰め寄ってくる私に若干引きながらもアメリアは答えてくれた。

 ミリアが呟き、槍に手をやっているのが見えたがそれどころじゃないわ。

 

 ボロローブの人がいなくなった今、彼女たちの情報こそが光明なの!

 っていうか友達ってどういうこと!?

 とにかく続きを聞かなくちゃ!

 でも聞かずともアメリアはボロローブの人のことを教えてくれた。

 

 「クルス君っていうんだって! ミリアちゃんも一目置いてる子だよ!」

 「置いてない。眼中にない」

 「もう、強がっちゃって~。一目惚れしちゃったって言ってたじゃない」

 「!? 言ってないもん!」

 

 二人が得意の漫才を続けても頭に入ってこなかった。

 

 そっか、クルスっていうんだ。

 名前が分かれば、相手もアークス調査隊員になればアークスサーチを利用して相手に連絡を取ることが可能になる。

 なんだか急に元気が出てきた。こんなところで落ち込んでいる場合じゃない!

 アークスサーチは相手だけじゃなく、私も調査隊員にならなくちゃ意味がないわ。

 私も絶対に調査隊員になるんだ!

 そうすれば”あいつ”のそばに…。

 じゃなかった! ”あいつ”かどうかはまだわからないんだってば!

 六芒の情報! それだけ! 目標に近づけるかもしれないんだししっかりしないと!

 で、でも”あいつ”か確認できるかも…いや、でも…。

 

 なんてことを考えているといつのまに漫才をやめたのか、アメリアがニヤニヤしながら近づいてくる。

 な、なんかミリアをからかう時の表情に似ている。

 

 「あ~、そっか~。クルス君とパーティ組むからか~」

 「な、なんのこと!?」

 「そういうことなら気にしない気にしない♪ クルス君と仲良くね~♪」

 「な!? 違うわよ! ちょ、ちょっとニヤニヤするのやめて!! ミリアまで!!」

 「末永く」

 「違うってば!!」

 

 この…ミリアにやられる覚悟で殴ろうかしら。

 と、そこでアメリアがニヤニヤするのをやめて優しく微笑みながら私に抱きついてきた。

 

 「!?」

 

 急に抱きつかれて硬直してしまった。

 これはまずい。ミリアに襲われる。

 そう思ってミリアの方を見るが、彼女は顔をそらし不満そうに鼻を鳴らすだけだ。

 『今回だけ』と態度で示しているかのようだった。

 

 耳元でアメリアが話し始める。

 まだ硬直が取れない私は、なすがまま彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 「いいんだよ、リティア。ゆっくりでいいから」

 

 「あなたが決めたなら誰とでもいいから」

 

 「ちゃんとパーティ組んで、相手と話して、失敗して、反省して、成功して」

 

 「もう一度、信頼できる相手を見つけて、ね?」

 

 「それでいつか、自分自身を許せたら…」

 

 「その時はもう一度私たちとパーティ組んでね」

 

 ゆっくり顔を離して、私の目を見て言うアメリアの目は潤んでいた。

 私はアメリアにいつも心配をかけてばかりいる。

 いつも迷惑ばかりかけている。傷つけてばかりいる。

 だからもう迷惑をかけないように、私は強くなるのだ。

 大事な親友をもう二度と傷つけないように。

 そんな自分勝手な私を、それでも心から心配して優しくいつものような微笑みを向けてくれるのだ。

 

 「…うん。ありがと」

 

 なんとか言葉を絞り出し彼女にそう言うと、聖母のような微笑みからまた一変してニヤニヤしだす。

 

 「それでちゃんとクルス君のこと紹介してよ~?」

 「だからそういうのじゃないってば!!」

 「末永く」

 「だから…もうっ! うるっさい!」

 

 そして私は逃げるように受付へと向かう。

 こんな私を許してくれる彼女の優しさに。

 なんだかんだ見ていてくれている彼女の優しさに。

 感謝しながら。




「なんで付いてくるのよ!」
「だって、私達もまだ試験確認終わってないし?」
「そゆこと」
「も、モニカは仕事残ってるでしょ!?」
「あう、でもリティアさんとクルスさんのこと気になります!」
「な、なんもないわよ! ていうかほら、職務怠慢よ! コフィーさんとこいきなさい!」
「そいえば挨拶してなかったね! 私はアメリア・メリルリート! 隣のこの子はミリアちゃん! よろしくね、モニカちゃん!」
「…ふん」
「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします~!」
「あー、もう、ほら! コフィーさんが睨んでるから! 今度一緒にカフェにでもいこ! 挨拶はその時!」
「! や、約束ですよ~!」
「ミリアちゃん聞いた? 今度リティアが奢ってくれるって!」
「…奢ってもらってやる」
「ちょ!? なんでそうなってるのよ!? っていうかミリア偉そう! 裏切者に奢ってもらうとかどうなのよ!?」
「食事は別腹」
「意味わかんないわよ!」





グダグダ。
ありがとうございました。


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4、リティア 「ライバル」

続けてリティアです。
読みづらさにご注意ください。


 

 受付で確認作業を終えた私は、すぐに移動用大型輸送機へと移動することにしたわ。

 試験時間開始までにはまだ余裕はあったけど、早急に解決しなくちゃいけない問題が二つできたからなの。

 

 一つ目の問題は、アメリア達。

 お人好しでお節介な幼馴染のアメリアは、私と、”謎のローブのアークス”こと”クルス”とやらの関係がどうしても気になるらしく、受付を離れた後もしつこく聞きだそうとしてきた。

 ミリアも一緒になって聞き込んでくるから、あまりのしつこさにたまらず逃げだしちゃった。

 

 ローブの奴とそんな深い関係じゃないのに…知ってるやつかと思っただけよ?

 知り合いかもしれないけど、その確証はまだないわ。

 面と向かって話すチャンスは逃しちゃったしね。

 

 まあ、アメリア達のおかげで”謎のローブ”の名前が”クルス”だってわかったことで、その”クルス”と連絡が取れるかもしれないようになったんだけど。

 あ、連絡を取るのは、”クルス”って奴が持っているかもしれない六芒均衡(ろくぼうきんこう)の情報を聞き出すためであって、別に”クルス”って奴のことが気になるからじゃないからね!

 

 あれ、でもアメリア達はそのクルスとかいう奴と友達だって言ってたわよね。

 …どうやって友達になったんだろ?

 アメリア達と会うのは1週間ぶりだし、その間にローブの奴と何かあったかもしれない。

 友達ってことはもう遊びに言ったりしたのかな?

 もしかしてもうあのローブの住所とかも知ってるのかも!?

 い、今からでも戻って聞きに行こうかしら…?

 

 ああ、でも聞きに戻る時間がない。

 それは二つ目の問題が原因。

 

 「憂鬱だわ…」

 

 思わず口から出ちゃうほど私にとっては悩ましい問題。

 それは事前連絡もなく急に決まった《調査隊員資格試験》の受験条件。

 事前に貰っていたのとは違う、受付終了後に貰った試験内容案内データの真ん中辺りに新たに(こめじるし)で記載されていた内容。

 

 〈※試験は二人以上のパーティを組んで臨むこと〉

 

 左手首につけた小型端末から空中に映し出されるそのデータを再度確認するけど、改めて確認してみても見間違えじゃなかった。

 目をこすっても、端末を叩いてみても、左腕を振り回してみても、文字は変わらず記載されている。

 あ~、も~。 

 

 「先に、言いなさいよおおおぉぉぉ!!!!」

 

 人目もはばからず叫びながら、私は目的地である大型輸送機の中へと駆けこんだ。

 

 

 ------

 

 

 私は訓練校(アカデミー)で起こったとある事故以来、周囲と深く関わる事を、特にパーティーを組むことを拒絶している。

 元から人との付き合いが得意というわけじゃないけど、その事故以来私は人を信じることができなくなった。

 もちろん、アメリアとかミリアとか例外はいるわ。

 でも、その友達すらも心の底では信じきれていない。

 アークスは常に危険と隣り合わせ。

 なのに、信用できない相手と探索や戦闘をするなんて自殺行為よ。

 仲間を信用できないから私は一人を選ぶの。

 …アメリアは何か勘違いしているみたいだけどね。

 

 だから、今までと同じように今回の試験もパーティーは組まず、一人で受けて一人で合格するつもりだったの。

 事前にパーティーを組まなきゃいけないことを知っていたら…

 

 「調査隊員じゃなくて戦闘員志望にすればよかったかな…」

 「それじゃ君の言う『目標』とやらを達成するのが難しくなるんじゃないかな?」

 

 輸送機に入るなり一人ごちてしまった私に隣から聞きなれた声がかかった。

 

 「あら成金。久しぶり」

 「ふふ、相変わらずだね」

 

 そう言って目の前の金髪でそこそこのイケメンは全てお見通しとでも言うかの如く含んだ笑みを浮かべている。

 私の嫌味を軽く流し、長くもない髪を整えつつ。

 そんなんだから………いや、今のは私が悪い。

 

 「…ごめん。久しぶりね、ギル」

 「ああ、しばらくぶりだね、リティア」

 

 彼の名前はギルバート・グラムフィア。

 彼もアメリアと同じく幼馴染で、訓練校(アカデミー)のクラスメートよ。

 アークスの大手武器製造会社の一人息子。

 今は試験のためか訓練校の制服だけど、いつも最新の武器やら服やらでコーディネートしていて、知らない人が見ればイケメン金持ち、ちょっと知ってる人がみたら金持ち自慢の嫌味な奴ね。

 まあ、ギルは金持ちであることをひけらかしているわけじゃないけどね。

 

 ギルが常に新しい装備を身につけているのは訳があるの。

 最新試作装備のモニター試験を兼ねているんだって。

 コイツの父親の会社が作った製品を実践や日常で装備し、武器に異常がないか、服装を見る周囲のアークスの反応はどうか、細かくチェックしているらしい。

 

 『新しい装備が使えるといっても武器は暴発することもあるし、服がダサい時もある。

  報告書は書かなきゃならないし結構大変さ』

 

 『まあ、カッコいい服の方が多いし武器や服に興味をもったかわいい娘達とも仲良くなれるし最高だよ!』

 

 とは彼の談。

 そんな軽い感じだから周囲には自慢しているように見えるのよ。 

 

 

 「あんなに調査隊に入るんだって意気込んでいたのに、いったいどうしたんだい?」

 

 なんてとぼけながら聞いてくるギルに思わず舌打ちしそうになる。

 コイツのこういうところが嫌いだ。

 

 「…どうせわかってるんでしょ?」 

 「ふふ。パーティー組まなきゃいけないのが憂鬱なんだろう?」 

 「…チッ、そういうことよ」

 

 今度は舌打ちが出てしまった。

 予想通りとぼけていた。

 昔からそうだ。コイツは私の考えていることを読んでくる。

 それを自慢…しているわけじゃないんだろうけど、ドヤ顔して話してくるからイライラするのよ。

 

 モニター役もかねて周囲のアークスを日々見て観察眼を鍛えているからか、日に日に私の心を読む精度が上がっていき、徐々に私以外の人間の心も読み始めていった。

 

 『心を読むというよりはその人の態度や仕草、話し方とかを見聞きしてるとなんとなくわかる程度だよ』

 

 それでも十分すご…憎たらしい。

 今じゃ人に限らずエネミーの心まで読んでしまう、という噂だ。 

 訓練校でパーティーを組んだ時のコイツの指揮能力は、傭兵として経験豊富なミリアにも負けていなかった。

 ミリアは経験でエネミーの動きを読んで行動するが、エネミーにも想定外の行動をする固体がいる。

 そんなエネミーを早い段階で見つけ排除したり、逆に利用するなどして戦闘を終わらせる。

 本人は個人の能力が足りてないのが不服らしいが、ギル自身が別段弱いわけでもないしこれも自慢…じゃないんだろうけどムカつく。

 

 

 私の返事を聞いたギルは先ほどからわざとらしく腕を組み、思案顔で唸り(うな)続けている。

 なんだかすごいデジャヴ…ってさっき会ったアメリアと似たポーズよね、コレ。

 これから言いだすことが手に取るようにわかる。

 相手の気持ちが読めるのはアンタだけじゃないのよ!

 

 「言っておくけど気遣い無用よ。パーティーに入れてもらおうとは思ってないわ。

 自分で見つけるから気にしないで」

 

 くだらないことを言いださないようくぎを打っておく。

 アメリアならともかくコイツにこれ以上気遣われるのはたくさんだわ。

 

 「ん? ああ、それなら大丈夫。僕たちのパーティーはもう満員だからね」

 「!? そ、それならそう言いなさいよ!」

 

 私の早とちりだったらしい。

 恥ずかしさで顔まで熱くなる。

 っていうかコイツ私がなんていうかもわかってたんじゃないの!?

 わかった上で黙っているなんてズルい!

 

 「っておかしいじゃない! 何でもうパーティー組んでるのよ!?

  今回の試験がパーティー厳守だってことはさっき貰った新しい案内データの注意事項を読まなきゃわからないことじゃない!」

 「もちろん、読んでその場でアメリアとミリアに輸送機の番号を聞いたのさ。

  偶然にもみんな一緒の輸送機でラッキーだったよ。

  輸送機が同じで降ろす場所が違うなんてことはないはずだからパーティーも組んでしまったのさ」

 

 くっ、なんて無駄に手際のいい…。

 っていうかつまりアメリアもミリアももうすぐここにくるんじゃない!?

 また質問責めにされちゃう!

 もー! どれもこれも全部コイツのせいよ!!

 

 「じゃあなんなのよ!? そんなわざとらしく呻ったりして!」

 「いや、キミが戦闘隊員になるのならこちらもプランの修正が必要だからね。どうしたものかと…」

 

 頭に血が上った私にはその言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

 戦闘隊員? プラン?

 

 「は!? 戦闘隊員になんかならないわよ!? っていうかプランって何よ!?」

 「そうなんだ、安心したよ。同じ土俵でないとハッキリしないこともあるからね」

 「さっきから何言ってるの?」

 「それならもう話してもいいかな? できれば次の機会の方がいいんだけど…」

 「だから何のこと!? さっさと言いなさいよ」

 「ふふ。気になる?」

 

 うざい。

 一応こちらにもやんなくちゃなんないことがあるんだからさっさと話しなさいよ。

 これ以上ストレスが溜まる前に、コイツぶん殴って移動しようかしら?

 

 「ふふ…では聞いてもらおう」

 

 やはりというか、私が移動しようとしたのを察知したのか話し始めるギル。

 殴ろうとすればどうせ避けられるだろうし、適当に聞き流して移動しちゃおうかな?

 

 「リティア。どちらが優秀なアークス隊員になれるか、勝負しよう」

 「…はぁ?」

 

 意味がわからない。

 何を突然いいだすのかしらね。

 ”優秀なアークス隊員”なんて曖昧すぎるし、勝負ってどうするのよ。

 貰った勲章や称号の数? 討伐したエネミー数? 発見した惑星、文明の数?

 名声や知名度なんてのもあるわね。

 でもそんなものを得るために任務をこなすなんて”優秀なアークス隊員”とはかけ離れているしありえないわ。

 

 それにもう勝負はついてるようなものよ。 

 訓練校では学年毎に成績が順位として張り出されるの。

 近接、射撃、法撃に連携技術や武器、アイテムの扱いとかとか…多すぎて割愛するけど、それら全ての成績を総合的にみた優秀な訓練生は卒業する時に勲章とか少しランクの高い情報へのアクセス権とか色々な特典が貰えるの。

 …特典はどうでもいいわね。

 彼の順位は卒業時で学年9位。

 対して私は12位。

 今後優秀なアークス隊員になるかはわからないけど、実力なら結果が出ているんだから。

 

 「バカげてる。っていうかどっちが優秀かなんてもうわかってるでしょ?」

 「キミのほうかい? でも僕は負けないよ?」

 「なんでそうなるのよ! アカデミーの成績順位表! 私の3つは上にいたわよ!

  それにアンタ、張り紙どころか上位優秀者として壇上に上がってたじゃない!

  私は上がってないわよ? これだけでもうわかるじゃない」

 「キミは手を抜いていた」 

 「…ハアァァ!?」

 

 ハッキリと断言されたあまりにも馬鹿馬鹿しい言葉に、口を開くのが遅れた。

 私が? 手を抜く? ありえないわ!

 私は私の目的のために全力だった。

 そりゃあ途中で事故起こしたり、パーティー組まなくなったかもしれないけど、それでも誰にも負けないように必死に努力した。

 結果はダメだったけど、それを手抜き呼ばわりされるいわれはないわよ!

 

 「手なんか抜いてないわ!」

 「ふふ。まあそれでもいいけど、僕は納得してないよ。

  だから今後調査隊員としての活動で競い合うんだ」

 

 もうやだコイツ、めんどくさい。

 

 「それに、キミが今現在周囲に劣っている、と思っているなら間違いなく追い抜こうとするだろう?

 じゃなきゃキミの『目標』が嘘になる」

 

 …うざ。勝手に決めつけないでよ。

 そりゃ劣ってるとは思うけど…。

 それに目標じゃない。目的よ。

 

 コイツを相手にするのは疲れる。

 聞き流すつもりだったのに熱くなっちゃったし、もういいや。

 

 「…勝手にすれば?」

 「うん、勝手にしよう。一応、宣言しておこうと思っただけだからね。

  僕が毎回キミに、僕の成功した任務内容とか報告しに行くから覚悟しておいてね」

 

 もっとめんどくさくなりそうなんだけど。

 

 「本当は今日も競い合いたかったんだけどね…そういうわけにはいかないんだ」

 

 そう言って手元に銃剣(ガンスラッシュ)を換装し、そのまま素振りを始めた。

 武器の調子を確認してるってとこかしら。

 輸送機内部では武器やフォトンアーツ、テクニックの調子を確認するために内部にも障壁が展開されてるの。

 移動中や戦闘中に武器が壊れましたって言うんじゃ困るから、船で動作確認できるようにされたの。

 武器も輸送機もちょっとやそっとじゃ壊れない作りだから素振り程度じゃどうということはないし、テクニックも障壁に吸収されるからみんな平気で暴れているわ。

 

 にしてもただ振ったり構えたりしてるだけなのに様になっているというかなんというか。

 ギルがこういうカッコつけたことすると取り巻きの女子が騒がしいんだけど、生憎ここには取り巻かない私ぐらいしかいないし。

 でも取り巻かない私でも気づくいたことがある。

 ギルの得意武器は銃剣ではなく大剣(ソード)だったはず。

 にもかかわらず何でギルは銃剣を振り回してるのかしら?

 

 「何アンタ、大剣忘れたの?」

 「いやいや、装備できないのさ」

 

 は? いやいや、そんなはずないわよ。

 《ハンター》なら間違いなく装備できるわ。

 可能性としてはクラスが《ハンター》から変更しているってことだろうけど、ギルの得意クラスは《ハンター》。試験前に得意クラスを変更するバカはいないわね。

 

 と、なると…負傷でもしたのかしら?

 片腕が使えないというのなら両手持ちが安定する大剣ではなく、片手持ちで小回りの効く銃剣をメインに使うのもわかるわ。

 ケガしたまま試験に臨むのはいいこととは思えないけど、私ならケガを隠してでも参加するわね。

 アメリアに治してもらう手もあるけど…あの子に相談したらお説教もついてくるし、心配もかけたくない。

 

 「なに? 腕痛めたの?」

 「いや、いたって健康体だよ」

 

 しかし、ギルはケガでもないという。

 

 「…じゃあ装備できない理由って一体なんなのよ?」

 「ん? クラスを変えたんだよ??」

 「はぁ!?」

 

 バカがいた。

 そのバカは、それ以外どんな理由があるの? とでも言うかのようにキョトンとした顔でこっちを見てる。

 殴ってやろうかしら。避けられないように組み敷いて。

 って殴っている場合じゃないわ。

 

 「何考えているのよ!? アメリアの護衛もしなきゃいけないんでしょ!?」

 

 私が気にしているのは何も試験のことだけじゃない。

 ギルのもとに届いた”脅迫状”らしきもの。

 それに書かれた内容には私達の親友、アメリアに”災い”が降りかかるという内容だった。

 

 その”災い”が何かはわからないけど、家庭の事情から人攫いだと予想したわた…彼ら。

 けど、人攫いの強襲だと仮定して対策するにしても相手の規模は分からないわ。

 相手は1人? 3人? 10人? それ以上?

 ある程度実力があるのは間違いない。

 対してアメリアにはギルとミリアの2人だけよね。

 あ、パーティーは埋まっているっていうし誰かしら護衛でもつけているのかしら?

 でも、試験中に護衛するのは無理なはずよね。

 ってことは同じ受験者ってとこね。

 ギルもアメリアもミリアも上位成績者だし、もう一人のメンバーも強いのかもしれないけど、まだ不安が残るわね。

 …どうしよう。私も手伝いたいけど…。

 今度は私が(うな)る番だった

 

 「ああ、脅迫の件は知っているんだね? それなら話しは早い」

 

 まさか、やっぱりパーティーに入れって…?

 それとも試験を捨てて護衛してくれとか言うんじゃ…?

 

 「この銃剣の調子見てくれないか?」

 

 …なんか私がパーティーに入りたがってるみたいじゃない。

 コイツといると身構えちゃうのは癖だから仕方ないけど。 

 

 「まあいいわ」

 

 私はアメリアのことも気にかかるけど、試験になんとしても合格しなくちゃならない。

 そもそも”災い”が本当に起こるかわからないのに振り回されるのはごめんだわ。

 でもやっぱり心配だからせめて私にできることはやろうと思う。

 見るだけだから対して貢献できないけどね。

 

 私が承諾したのを驚いているのか今度はギルが固まっていた。

 とりあえずギルから銃剣をひったくり、武器の調子を観察する。

 

 外観は問題ないわね。使い終えた後もしっかりメンテしてるみたい。

 刃こぼれどころか全体見渡しても傷一つないし、持ち手(グリップ)も掃除してあるし、染みつきやすい手汗の匂いもないわね。

 …別に匂いフェチじゃないわ。職ぎょ…クセよ。

 メンテしてるといつも嫌なこと思い出すのよね。

 

 気分を変えるつもりで、作業を続けつつ、ギルに話しかける。

 

 「…まだ時間あるし《ハンター》に戻して来たら?」

 「いや、パーティーのバランスを考えると僕が《レンジャー》をやる方がいいと判断したのさ。

  もちろん、パーティーのみんなと相談してね。」

 「あっそ」

 

 それなら私がとやかくいうことじゃないわね。

 パーティーで話し合っているのなら今から変える方が迷惑だわ。

 まあ優秀なパーティーは5分足らずでブリーフィングも終えるし、コイツのパーティーは少なくとも3人は優秀だ。

 変更できないこともないんだろうけど。

 言うだけ野暮ね。

 

 …フォトンの通りは…少し過剰すぎるわね。

 刃が不安定になりそうだわ…ここを、こうして…うん、これなら大丈夫。

 

 「バカみたいにフォトン注ぎ込みすぎなのよ」

 「なるほど。気を付けるよ」

 

 射撃は…こっちは問題なし。

 フォトン吸収率も一定だし、弾速にも異変はないわね。

 たまに武器が過剰にフォトンを吸収してオーバーヒートすることあるのよね。

 でもこの感じなら長時間戦闘しても壊れることはないわ。

 

 そうして5分ほどでメンテを終え、銃剣をギルに返す。

 ついでに釘を打っておくのも忘れない。

 

 「ちゃんとアメリアを護るのよ」

 「もちろんさ」

 「ミリアとアンタ自身もよ」

 「僕はともかく、ミリアを護るなら衛士特務隊や六芒均衡くらいじゃないと務まらないんじゃないかい?」

 

 変わらず軽口を言ってくるコイツには気が抜けるけど…安心する。

 そして私は余計な一言をいってしまう。

 

 「私も負けないんだから」

 

 そう宣言し返す。

 私は誰にも負ける気はない。

 するとギルは少しの間私を見つめて…唐突に吹きだした。

 

 「な、何がおかしいのよ!」

 「いや…何でもないよ」

 

 何でもなくないわよ、笑いこらえてるじゃない!

 もう! やっぱりコイツは嫌い!

 

 「ふん! それよりアンタ、武器会社の息子ならいい加減武器のメンテぐらいできるようになりなさいよ!!」

 「ふふ…あ、いや、やろうとはしてるんだけどね。僕はリティアほど確かな目はもってないからね」

 

 う…褒めたって許さないわよ!

 

 「あの子に言われなきゃメンテは完璧だと思ったままだったし…」

 「? あの子って誰よ?」

 「ああ、僕より先に来ていたアークスさ」

 

 先にって…私達以外にアークスなんて見当たらないじゃない。

 

 「すみっこに座って武器の整備をしてたんだ。キミと同じで整備士の経験でもあるのかな?

  僕は最近使ってない銃剣のおさらいでもしておこうと思って素振りしてたんだけど、

  気づいたら真横にいたその子が”音がおかしい”って言ってくれてね」

 「音?」

 「ああ。言われた時は何のことかわからなかったけど、このことだったんだね」

 

 …音で武器の不調を確認するなんて聞いたことないわね。

 それに、ギルの銃剣は不調と言ってもほんの少しだけフォトン循環値が不安定になっていただけ。

 あのまま使っても少し切れ味が落ちるだけでそれ以外なら問題なく使えたはずよ。

 それを、素振りの音だけで?

 …武器ショップの変態達でも難しいんじゃないかしら。

 

 「どこよそいつ?」

 「え? ああ、ほら、ドリンクバーの影だよ。

  武器のこと指摘したあと”眠い”って言ってあそこに移動して、すぐ寝ちゃったよ」

 

 ギルはドリンクバーの方を指差す。

 大型輸送機は乗ろうと思えば50人近く乗ることができるからか、ドリンクバーやショップなども大きく作ってあるのよね…いつもの小型輸送機なら死角ができたりしないんだけど。

 って…アイツは…。

 

 「クルス…」

 「おや? 知っているのかい?」

 

 知らないわよ。でもよかった、同じ輸送機で。

 

 私が急いで解決しなきゃいけない問題その2はパーティーを組むこと。

 私はパーティーを組むのが嫌い。

 なのに組まなきゃ不合格になる。

 

 そこで最初に思いついたのは形だけパーティーを組むこと。

 形だけでも嫌だけど、これしかないと思ったわ。

 組んだ相手といちいち一緒に行動するなんてごめんだし、他の受験者達もソロで挑む人はいたはずよ。

 それならソロで受験しようと思ってたアークスと交渉して、パーティーは組んでいるけど別々に行動するようにしたらいいんだわ。

 こんな変な提案を飲む奴がいるかはわからないけど、合格条件にパーティーが必須な以上、何人かは乗ってくるだろう。

 私の実力が不安で落ちるかもしれない、とか言うならぶっ飛ばしてでもわからせてあげる。

 まあ私も学年で12位だし、どっかのバカが流した”二つ名”のおかげで少しは有名なはず。

 私のはムカつく”二つ名”だけど。

 まぁ相手が見つからないなら…弱そうなやつを脅せばいいのよ。

 ………本当に最終手段だけど。

 

 だから、この案を考え付いてからメンバーの選定やら交渉時間も鑑みて急いでいたの。

 

 

 でもそんなことを考える傍らで、アイツなら、と思った。

 

 

 無条件でいい。一瞬そう思った気がする。

 すぐ思い返したけどね。

 でもアイツほど丁度いい奴もいなかった。

 学年成績6位のミリアが一目置く実力者で。

 パーティーを組んでいる様子もなく。

 私がほしくて仕方ない情報を持ってるかも知れない。

 そんなアイツならパーティーを組みやすい。

 むしろ早いうちに交流しておけば六芒均衡の情報を聞き出しやすくなるわ!

 まあ断られるかもしれないけど…その時はぶっとば…交渉すればいいのよ!

 

 だから輸送機に入った時、ギル以外に人の姿がなくて落胆したんだけどね。

 私はまだついているみたい。

 

 「アイツはクルスって名前で…」

 

 まだ悩んでいるけど、またチャンスを潰すわけにはいかない。

 迷う気持ちを振り払うように、宣言するかのように、言った。

 

 「私のパーティーメンバーよ」 

 




「はやいね、ギルバート君」
「あ、先生。ご無沙汰してます」
「もう先生はよしてくれ。いまや君たちと同じ調査隊員になるための受験者さ」
「そうはいきませんよ。2年もアカデミーでお世話になりましたし、すっかり呼び慣れちゃったのもありますしね」
「まあそれもそうだな。
 しかし、誰にも言ってないはずなのに、よく私が試験を受けると知っていたな?
 おまけにパーティーを組んでくれとは…驚いたぞ?」
「そうですね…先生が試験を受けるのは父のツテで聞いてまして。
 パーティーの件は先ほど説明した通りです」
「そうか、まあ仕方がない。
 もう立場は同じとはいえ、愛する生徒の頼みだ。喜んで参加させてもらうよ」
「ありがとうございます!」
「しかし、私よりもリティア君を誘うべきではないのかな?
 あの事故以来、パーティーを組んでいないんだろう?
 アカデミーも卒業したし、良い機会じゃないか?」
「そうなんですけどね…アメリアがすでに断られたそうで」
「…そうか…まだ傷は言えていないのだな」
「心の傷を治すにはまだまだ時間がかかりそうです、が、いずれ彼女は帰ってきますよ。
 僕の道を…可能性を示してくれた彼女なら、ね」
「そうか…そうだな! ん? 噂をすれば、あれはリティア君じゃないかね?」
「ええ、そうですね」
「彼女はドリンクカウンターの前で何をモジモジとしているのかね?
 ドリンクの飲み過ぎでトイレでも我慢しているのか?」
「デリカシーにかけますよ、先生。
 彼女は今、意中の相手に告白しようかどうか悩んでいるのです」
「ほう?」
「しかもしかも~! その相手がミリアちゃんも一目惚れしちゃった相手なのです!」
「!? ち、ちがうもん!」
「おお、アメリア君にミリア君。相変わらず仲がよろしいようでなによりだな」
「先生! お久しぶりです!」
「どうも」
「アメリア、どういうことだい?」
「あ、聞いてよギル! 実はかくかくしかじかで」
「なるほど…それでミリアはクルス君とやらに敵…一目惚れしてしまったというわけか」
「なんで言い直す! 敵意で合ってる!」
「そしてリティアは今まさに告白しようとしている!
 ああ、これを見てミリアちゃんはどうするんでしょう?」
「どうするんだい?」
「どうするんだ?」
「どうもしない!!」
「そういうミリアちゃん。しかし、忘れてはいけません!
 彼女の二つ名は”狩人”!
 一度狙った獲物を逃がすはずもない!
 こうして謎のローブことクルス君とリティアとミリアちゃんの熱く燃える恋の三角関係が始まるのでした!」
「始まらないもん!
 リティアが誰に告白しようと知らないもん!」
「うーん、困ったね。リティアもミリアも友達だし、どっちを応援すればいいのか…」
「ウチは関係ないってば!」
「そうだな、映画化はいつかね?」
「先生まで何言ってる!!
 リティアがあのローブとイチャイチャしようとウチには関係ないもん!」


「アンタ達…」
「「「「あ」」」」
「うるっっっっさああああああああい!!!!!!!!」


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5、クルス 「"ぱーてぃー"ってなんですか?」

 

~とある惑星、とある砂漠~

 

「なぁクルス~」

 

「なに……ですか?"師匠"?」

 

「お前に修業をつける前にした話を覚えているか~?」

 

「……"約束"の事?……ですか?」

 

「そそ」

 

「たくさんあった……ました。"最後までやり通せ"とか、"むやみに力をふるうな"、とか」

 

「うんうん」

 

「あとから足されたのもあります…です?

""師匠"の言うことは絶対"とか"崇め敬え奉れ"とか」

 

「……私、そんなこと言ったっけ?」

 

「うん。じゃない、はい」

 

「アッハッハ! まぁ今はそれは置いといて。

いつかお前に仲間ができたらそいつらを守る、ってのも追加しといて」

 

「……前から思ってたけど……なんか雑……もう12個目の"約束"……」

 

「いいから! じゃないと修業つけてやらないぞ~?」

 

「ハァ……わからないけどわかった。"仲間を守る"だね」

 

「そうそう! 頼むよ!

あと敬語忘れてるよ! しっかり練習しとけ!」

 

「あ、ごめん……なさい。ところで"師匠"?」

 

「どした?」

 

「"仲間"って何? ですか?」

 

「アッハッハ!……そこから? あ~、なんだと思う?」

 

「……食べ物?」

 

「また腹減ってるのか? 違う」

 

「……飲み物?」

 

「飲食から離れて」

 

「……建物?」

 

「物縛りか」

 

「……機甲種?」

 

「近くにあるもの言ってるだけだろ? そうだろ?」

 

「……わからない、です」

 

「アッハッハ! ん~そうだなぁ……仲間は……面倒くさくて、無遠慮で、嫉妬深くて、暗いけど」

 

「……」

 

「嫌そうな顔するなよ。……明るくて、面白くて、暖かくて、優しい、そんな感じかな」

 

「えっと……よくわからない……です」

 

「アッハッハ! そうだろうな! まあいずれわかる!

とにかく仲間は守れ! 特にか弱い女の子! かっこよく守ればモテるぞ!」

 

「むちゃくちゃ……です。それと、か弱い……女の子?って何ですか?」

 

「マジか!? 男のくせに女もしらんとは……人生の半分は損してるぞ!」

 

「えっと……食べも「ちがう!!」」

 

「いいか、女ってのはな……」

 

「うん……じゃない、はい」

 

「私のことだ!」

 

「?……でも"師匠"強いから守る必要ない、です」

 

「いや、そうじゃなくてだな……」

 

「あと"師匠"は重くて僕じゃ持てな……うッ!?」

 

「だぁれが重いって??」

 

「"師匠"が、痛ッ!? 叩かないで!」

 

「重い言うからだ! 重くない! あとその"持てる"じゃない! "モテる"だ!」

 

「???」

 

「ぐ……重くない……よな? ……ゴホン、いいか? モテるっていうのは好かれるってこと! 女ってのはカワイイとか綺麗とか美人とかってやつだ! 私みたいにな!」

 

「は、はぁ、わかりづらい、です」

 

「くっ……あ! あとおっぱいがデカい! 私みたいになッ!!!」

 

「……なるほど」

 

「アッハッハ納得されちゃったよ」

 

「身体的特徴はわかりやすい……です」

 

「いやみんながみんな同じ特徴じゃないし……あと声が男より高いとか肌が柔らかくモチモチとか……何言ってるんだ私は……」

 

「ふむふむ。まとめるとつまり仲間とは」

 

「うんうん」

 

「人! ですね!」

 

「そこから!? ……あぁ、うん、そうだよ」

 

「?……そして、女の子? も、人で、"師匠"みたいなん、ですね?」

 

「……もうそれでいいや」

 

「わかっ……わかりました。えっと、女の子は"師匠"みたいに強くて」

 

「?」

 

「"師匠"みたいに可愛くて、綺麗で、美人で」

 

「お、おう、照れるなぁ」

 

「"師匠"みたいに胸が大きくて声が高くて」

 

「う、うん?」

 

「"師匠"みたいに肌がモチモチしてて重い。グェッ!?」

 

「……お前はモテないよ……」

 

「し、"師匠"! おもっ、重いです! "師匠"!? "師匠"!!」

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 「……ッ! ……ねぇ、ちょっと!

 ねぇってば! 起きなさいよッ!……あっ!?」

 「う!?」

 

 おでこに突然鈍い痛みが走りました。

 …ここはどこでしょう?

 なんか複数人の視線を感じますが…。

 

 僕はおでこをさすりつつ上半身を起こして周囲を窺います。

 新しい住み家のように周囲は銀色の金属壁に囲まれてます。

 でも新しい住み家ではありませんでした。

 まず、出入り口が見当たりません。

 テラスへ向かう自動扉もないです。

 一応部屋の左右には窓があり外の様子を見ることができそうです。

 ちょっと見てみましょう。

 しかし、僕が立ち上がって見に行こうと思ったときには窓の上から金属板が降りてきて、窓を封じてしまいました。

 うーん、もう少し早ければ…。

 

 一見すると閉じ込められたように見えますが、別段慌てることはありません。

 なぜって…なぜでしょう? 閉じ込められるのになれている…ような気がします。

 

 それに、周りには僕のほかにもたくさんアークスがいますから、きっとその人達が出入口を知っているはずです!

たぶん。

 

 新しい住み家よりも少し広いその部屋には何人かのアークスが集まっていました。

 数は18…いえ、19人です。受付の時よりは少ないですが、部屋が狭いのでなんだか息苦しいです。

 彼らはいくつかの小規模なグループに集まって何かを話し合っていました。

 「試験…」とか「編成…」とか聞こえます。何のことでしょうか?

 うーんうーん。

 

 あ! えっと、そうでした、ここは《大型輸送機》の中でした。

 部屋の中じゃないですね!

 これから行われる《調査隊員資格試験》の会場に移動するための乗り物の中です!

 最初に入ってきたときは誰もいなかったのに、いつの間にかたくさんアークスが乗り込んでいたみたいですね。

 それなら出入り口は…あ、ありました!

 部屋の…輸送機の真ん中あたりにアークスのすっごい移動手段、"テレポーター"がありました!

 あれを使えば外に出られるはずです。

 どういう仕組みかはわかりませんが…あ、またアークスが入ってきた!

 えーと、連続して降ってくる光の輪っかの中に入って行きたい場所を言ったり想像したりすれば、今入ってきた紫髪のアークスみたいに別の場所に移動しているんです!

 スゴイですよね! あれがあればご飯のあるところまで一瞬でいけます!

 

 

 それにしても、僕はいつの間にか眠っていたみたいです。

 

 足元には整備途中の《銃剣(ガンスラッシュ)》と《双小剣(ツインダガー)》が置いてあります。

 そういえば武器の点検をしていたんでした。

 なぜって…なんとなくですね。

 何かに挑む前には武器の点検をしっかりやらないといけなかった気がするので。

 何かの本にそう書いてあったような気がします。

 だから点検してたんですけど、僕はまだ起きたばかりだからか集中するとすぐ眠くなっちゃうんですよね。

 "黒メガネのお兄さん"は長期間の仮死化が原因だと言っていましたが…よくわかりません。

 

 えっと、そんなわけですごく眠くなっちゃって寝ちゃったんですね。

 でもあの夢はなんだったんでしょう?

凄く鮮明で、まるで一度体験したことあるような夢だった気がするのですが、内容が上手く思い出せません。

 

 ……懐かしい夢……約束?……何だっけ……

 …思い出せないことはしょうがないですね。

 また夢をみれますように。

 

 さて、途中で寝ちゃったけど点検は一応終わってたみたいですし、試験のためにも武器を装備しちゃいましょう。

 《双小剣》は両脚のももの外側に、《銃剣》は後ろ腰に差してっと。

 よし、準備完了!

 立ち上がった僕は大きく伸びをして、ふと先ほどの痛みを思い出しておでこをさすります。

 何か当たったんでしょうか?

 たいして痛かったわけじゃないけど何かが当たったのは確かです。

 

 「あ、あの、ご、ごめ……」

 

 横からかかる聞こえるか聞こえないかというほど細々とした小さい声。

 僕が顔を向けると同時に顔を伏せたアークス。

 何か言いたげに口をモゴモゴさせていました。

 先ほどから僕に視線を向けていたうちの一人のようです。

 

 背丈は僕よりちょっと大きく、容姿は顔を伏せているのでよくわかりませんが、ニューマンやデューマンのような特徴も見られませんし、ヒューマンでしょうか?

 明るい茶色の髪を後ろ手に縛っています。尻尾にも見えるし…僕と似た髪型ですね。

 服は何度も見た研修服で…あれ? 丸腰ですね。試験前なのに武器も持たずにどうしたんでしょう?

 あ、よく見たら僕の足元に武器らしき物が落ちてますね。

 これは…なんて名前でしたっけ?

 鋭い刃に長い紐がついてて、遠くの敵にもグニャグニャした軌道で攻撃できる変な武器です。

 敵は凄く避けづらそうですが、扱うのも難しそうです。

 面白そうなので遊んでみたかったのですが…メセタ? という物がたくさん必要らしいです。

 残念。

 

 これはこの人のかな?

 拾って差しだそうと思ったのですが、相手は顔を上げずに何かブツブツ呟いていますね。

 「パーティー…誘い方は…」?

 「まず謝らないと…でも嫌われたら…」??

 「だいたいアメリア達が急かすから…」???

 聞き取ることはできるんですけど…何を言ってるかわかりませんね。

 相手のアークスは視線を下に向けたままですが、どうやら僕に用があるようです。

 

 あれ? 今朝も似たようなことがあったような?

 

 そうだ、今朝会った二人のアークス。"獣のアークス"と"爆弾のアークス"も僕に用がある様子でした。 

 あの時も会話の前に何かしていたような…。

 目立つのも気にせず屋根への大ジャンプを披露したり、相手を威圧したり、二人で話し始めたり、爆弾を胸部に仕込んでみたり…むむむ。

 今考えるとそれらの行動も意味があったのかもしれないです。

 もしかしたらアークスは会話を始める前に何か特殊な行動をする必要があるのかもしれませんね。

 僕には爆弾もなければ話し続けるパートナーもいませんし…うーん。

 あ、相手と同じことをすればいいんじゃないでしょうか?

 獣は相手と同じことをして有効を深めたり強さを比べたりしますしね。

 そうと決まれば…

 

 「えっと、僕に何かご用ですか?」

 「あ、え? …なんで顔伏せてるのよ?」 

 「あなたが顔を伏せてるので」

 「え? あ…ふ、伏せてなんかないわよ」

 

 あれれ? 今さっき伏せてませんでしたっけ?

 僕には茶色の頭部と、黄色の羽がついた綺麗な髪留めしかみえなかったんですが…。

 そう思って顔を上げると確かに相手は僕のことを正面から見据えています。

 見据えていますけど…茶色い瞳が泳いでいるような…。

 

 「えっと、伏せてましたよね?」

 「伏せてない! ち、丁度目にゴミが入ったから取ってただけよ!」

 

 なるほど! それなら伏せていたのも目が泳いで見えるのも納得です!

 確かにこの人の視線はずっと感じていましたし、僕がこの人のことを見た時から伏せていたようですからきっとその時に大きいゴミが入って困ってたんですね。

 

 「そうだったんですか! 失礼しました!」

 「わ、わかればいいのよ」

 「目は大丈夫ですか?」

 「…大丈夫よ、気にしないで」

 

 "茶髪のアークス"はそう言って視線をそらします。

 心なしか居心地が悪そうな、苦い顔をしていますがどうしたんでしょう?

 何か言いづらいことでもあるんでしょうか?

 嘘の匂いが混じっている気もしますし…本当はまだ目が痛いのかもしれません。

 

 「無理しちゃダメですよ? 目が見えないと大変ですし…特に狩りの時は大変です!」

 「か、狩り? 大丈夫だってば!

 そ、それよりその…」

 

 ふたたび顔を伏せて呟き始める"茶髪のアークス"。

 また目に入っちゃったのかな?

 

 「武器をぶつけちゃったことを謝らないと。

 ぶつけちゃってごめんなさい?

 事故だった…って言ったらただの言い訳よね」 

 

 どうやらおでこの痛みの原因はこの人のようでした。

 たいして痛かったわけじゃないですし、悪気もなかったようなので気に病むことないんですが…。

 それにしても中々顔あげてくれませんね。

 ひょっとしたらゴミが大きすぎて目を怪我しちゃったのかも。

 ちょっと見てあげましょう。

 

 「起こしちゃってごめんなさい。

 お詫びにパーティー組みましょう。

 よし、これで行くわ!」

 「気にしていませんよ。それよりも目のほうは…」

 「!? キャアア!!」

 「あ痛っ!?」

 

 目の様子を確認しようとして真下にしゃがんで顔を覗いたのですが、すごい勢いで張り飛ばされてしまいました。

 なんで張り倒されたんでしょう?

 仰向けになったまま考えていると相手の声が降ってきます。 

 

 「な、な、ななな何急に近づいてるのよ!?」

 

 どうやら"茶髪のアークス"は急に近づいてきたのが嫌だったようです。

 確かに敵が目の前に現れたらビックリしますよね!

 僕は敵じゃないですけど。

 

 「失礼しました…あれ?」

 

 目覚めた時と同じように上半身を起こして相手に謝ったのですが、その相手の様子がおかしいです。

 目は大事ないようでよかったのですが、呼吸が荒く、顔が赤くなっています。

 体調も悪いのでしょうか?

 

 「えっと、本当に大丈夫ですか? 顔も赤いですし、熱でもあるのではないでしょうか?」

 「な、あ、赤くなんてないわよ!」

 「いえ、赤いですよ? メディ、メディ…治療所に行ったほうがいいのでは?」

 「メディカルセンターよ!

 顔が赤いのは気のせいよ! わかった!?」

 

 決して気のせいではないと思いますが…凄く睨んできますし、これだけ元気なら大丈夫なんでしょう。

 そしたら、この人の用事のほうに話を変えましょうか。

 えーと、確か蹴ったことを謝るのと…お詫びに"ぱーてぃー"を組むことでしたね。

 お詫びなんて気にしなくてもいいのですが…あれ?

 

 「ところで"ぱーてぃー"ってなんですか?」

 「…"パーティー"は"パーティー"よ」

 「えっと、ごめんなさい、知らないです」

 「はぁ!? 知らない!?

 あんた、アークスよね!?」

 「はい。昨日アークスになりました」

 「昨日!?」

 

 そんなに驚くことなんでしょうか?

 

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!

 昨日アークスになったってことはあんた、《オラクル》の生まれじゃないってこと?

 …あんたどこから来たのよ」

 「えっと、"砂漠の星"です」

 「砂漠の星って…"惑星リリーパ"!?」

 「あ、はい、その星です。

 気づいたら"黒メガネのお兄さん"に組み伏せられ………」

 

 あ、いけない。

 

 「これ、内緒でした」

 「は?」

 「"黒メガネのお兄さん"が面倒事になるかもしれないから黙っておきなさいって言われていたんでした。

 どうしましょう?」

 「はぁ!? どうしましょうって私に言われてもわかんないわよ! もう聞いちゃったし!」

 「むむむ…じゃあ内緒にしてください! お願いします!」

 「…」

 

 茶髪のアークスは口を開けたまま茫然としています。

 内緒にできないことなんでしょうか?

 僕自身、何がどう面倒なことになるかわからないのですが、"受付のお姉さん"にも口を滑らせたときに"試験"を受けられなくなるところだったので、今回もそのようなことになると困ります。

 なんとか"茶髪のアークス"を説得しないと!

 

 「だ、ダメですか?」

 「近いわよ! わ、わかったわよ、誰にも言わなければいいのね」

 

 おお、案外あっさり承諾してくれました。

 凄く助かります。

 

 「はい! ありがとうございます!」

 「だから近いってば! はぁ…もぅ…」

 

 そんなに近づかれるのが嫌なんでしょうか?

 僕は気になりませんが…。

 "茶髪のアークス"はため息をつき、また顔を伏せてブツブツ呟き始めました。

 

 「こんなのがなんで推薦…」

 「でもリリーパってことならもしかして…」

 「にしても一人でどうやって…」

 「コイツとパーティー組んで大丈夫なのかしら…」

 

 ひとりごとが多い人です。

 

 そういえば"ぱーてぃー"って結局なんなんでしょう?

 アークスに必要な知識なら覚えないと! 

 

 「あの、"パーティー"のことを教えてください」

 「…"パーティー"は"パーティー"よ」

 

 さっきと同じことを言って"茶髪のアークス"は人差し指を立てて説明を始めてくれました。

 

 「いい? アークスは任務をこなす時は一人でも複数人でもいいの。任務にも色々あるからね、簡単だったり難しかったり。

 で、一人でやるよりは複数人でやった方が楽でしょ?

 その複数人でやるときに組むのが"パーティー"よ」

 

 「"パーティー"のリーダーさえ決まっているなら、希望した者同士が同意すれば誰でも組むことができるの。

 事前申請も必要なし。必要な場合もあるけど。

 移動中の輸送機でも、現地で組むのも可能なの」

 

 「任務では命を落とすことだってある。

 原生生物もそうだけどダーカーがどこから襲ってくるかわからないからよ。

 そんな時一人よりも複数人でいれば生存率があがる。

 だからどこでもすぐ"パーティー"を組めるようになってるのってわけ」

  

 「しかも、近年制度が変わって報酬も任務に挑んだ人全員に同額支払われるようになったから今のところデメリットはほぼないわね。

 …システム上は、ね」

 

 「で、"パーティー"を組むメリットは生存率の向上以外に…。

 アークスが所持している端末(デバイス)のパーティーシステムを利用して簡単にお互いのフォトン情報を記録(インプット)しておくの。

 そうすれば惑星軌道上のレーダーや端末同士の通信システムを介して互いの位置情報から簡易の味方の体調、フォトン残量まで…って大丈夫?」

 

 「えっと、えーっと???」

 「全然わかってないみたいね…」

 

 知らない言葉ばかりです。

 それに覚えることが多すぎて頭が爆発しそうです。

 でも目の前のアークスは当然とばかりに話してますし…アークスの常識なんでしょうか?

 困りました…このままでは僕はアークスになれないのかもしれません。

 悩み困り果てている僕に見かねてか"茶髪のアークス"が説明を続けてくれました。

 

 「かみ砕いて言うと…仲間になるってことよ!」

 「パーティー組みます!!!」

 「…そ、そう? 今度は即答ね。意味がちゃんと伝わったか怪しいけど」

 

 仲間!

 それって一緒に冒険する仲間ってことじゃないですか!

 それだけ聞けば十分です!

 一人で冒険するのも楽しいですが、他の人と一緒に冒険するのも楽しいはずです!

 たしかアークス調査隊は仲間と冒険するはずでしたし!

 

 『"一緒にアークスに『"仲間を守れ"』"』

 

 (あれ、仲間? さっきの夢でも…あれれ?)

 

 一瞬、夢の内容を思い出したような気がしますが…。

 "仲間を守る"…もしかしたらアークスの決まりなのかもしれませんね。

 うん、そうときまれば僕はこの人をしっかり守りましょう!

 

 「ホントに大丈夫かしら…でも六芒均衡(ろくぼうきんこう)の情報のため!

 そ、それじゃ、パーティー組みましょう。

 《es(エス)》出して」

 

 えす? なんのことでしょう?

 

 「って昨日アークスになったのなら知らないわよね。

 さっき言ってたパーティーシステムを使うための最新端末のことよ。

 《es》っていうの」

 

 そう言って相手は左手についた機械を見せつけてきます。 

 少し大きめの腕輪みたいですね。

 腕の3分の1ほどを覆っていますね。こんなに大きくて戦闘の邪魔じゃないのかな?

 

 「…持ってないですよ?」

 「…ま、まぁ昨日アークスになったのなら支給されてるわけないか。

 でも、旧式端末(デバイス)くらい受付で支給されているはずだけど」

 「???」

 「まさか端末も持ってないとか言わないわよね?」

 「あ、ちょっと待ってください」

 

 僕には"でばいす"という物がどういったものかはわかりません。

 しかし、朝方"銃の先輩"に預かった荷物の中にいくつか僕の荷物じゃないものがあった気がします。

 いくつか持ってきたので、僕の荷物を茶髪のアークスに見てもらうことにしました。

 

 「この中にありますか?」

 

 ローブの裾から取り出した小さめのバックパックをひっくり返すと、緑の容器や手に収まる大きさの球状のカプセルが複数落ちました。これが"銃の先輩"に貰った道具ですね。

 あとは僕が持っていたグラインダーや武器の調整のための工具ぐらいです。

 非常食はローブの内側にありますが、さすがに"ではいす"とは間違えませんよ?

 

 「なにもこの場にばらまかなくても…えーっと…ないわね」

 「う…"でばいす"がないってことは僕は"ぱーてぃー"を組めないんでしょうか?」

 「そういうことになるけど…」

 「そんな!」

 

 せっかく仲間になれると思ったのに!

 冒険の楽しみが増えると思ったのに!

 簡単には諦めきれず、また詰め寄ってしまいます。

 

 「なんとかできないんですか!?」

 「ちょっと、だから、ち、近いってば! …でもおかしいわね」

 

 今度は頬に手を当て考え込む"茶髪のアークス"。

 さっきからいろんなポーズをとって、なんだか可愛らしい人です。

 目つきはちょっと怖いですけど。

 

 「端末(デバイス)無しで受付を通れるはずないわ。

 あなたを担当したのはコフィーさんのはずだから見逃してるとは思えないんだけど…。

 そもそも端末無しでアークスになれるはずもないし…。

 どっか腕とか…あ」

 

 何かに気づいた様子の"茶髪のアークス"は僕のほうにどんどん近づいてきます。

 最初は近づかないでって言ってたのに平気なんでしょうか?

 もう顔の前まできてますね。

 先ほどのしどろもどろとした様子とは打って変わって真剣な目で僕の首元を見ています。

 

 「その首についてるの…古いけど端末っぽいわね」

 「え、そうなんですか?」

 

 僕の首には白と黒で彩られた首輪のようなお守りがついています。

 起きた時からついていたらしいのですが、これもサッパリ覚えがありません。

 

 ただ、これがなかったら"斬撃のアークス"に首を落とされてたかもしれません。

 

 とても丈夫で付け心地もよく、何度も僕の首を守ってくれたのでお守りとして装備しています。

 なるほど、時々心地よい綺麗な音を出すと思ったら機械だったんですね。

 機械はよく音出しますからね。ギギギ、とか、ピピピ、とか。

 

 「フード被ってて見えづらいけど、それがあったからコフィーさんはあんたを通したのね。

  ほら、確かめるからそれ出して…って…」

 

 ふと"茶髪のアークス"と目が合います。

 相手の顔がどんどん赤くなっていき、呼吸も荒く、口からあわあわと言葉がこぼれています。

 もしかして息ができないんでしょうか?

 

 「あの、大丈…」

 「いやああああああああ!!!」

 「ぶっ!?」

 

 更に顔を近づけた僕に対して、"茶髪のアークス"は拳を突いてきました!

 あぁ、この人は急に近づかれるのが嫌いな人でした。

 さっき反省したつもりだったのに…後悔しても遅いですね。

 これは…避けれません。

 

 完全に不意をつかれた僕の顔に、咄嗟に出したとは思えない速く重いその一撃が突き刺さります。

 踏ん張って堪える暇もなかったので後ろに飛びますが拳の勢いは殺しきれず、僕は飲み物の置いてあるカウンターに向かって吹き飛ばされていきます。

 まもなくぶつかるであろう衝撃を予想し、身体を強張らせる僕。

 

 でも予想とは違いました。

 身体はカウンター手前の空中で何かにぶつかり止まりました。

 予想よりも早くきた衝撃に一瞬息が止まりそうになりますが、ぶつかったものが柔らかかったのでそこまで痛みはありません。

 殴られた顔は凄く痛いけど。

 

 「あっ! ご、ごめ、って…え?」

 

 謝ろうとして近づいてくる"茶髪のアークス"は僕の後ろを見て驚き足を止めました。

 頬をさすりながら後ろを確認しますが、飲み物のカウンター以外何もありません。

 おかしいです。確かに何かにぶつかったはずのに。

 

 ってあれ? 何もないその場所からフォトンと機械の匂いがしてくる。

 それに少しずつですが、目の前に何かの気配がにじみ出てきます。

 しばらくそこを見ていると空中が砂漠の陽炎のように揺らぎ、揺らいだ空間に沿って電撃が走ったと思ったらうっすらと何かが姿を現し始めました。

 

 黒く長い髪に生気を感じない肌。

 人か現れました! ヒューマン…ではなさそうです。

 あれは機械の…耳? 羽も生えて…あれ、消えた!?

 それ以外も足元に車輪のような物がついたり、肩に大きな銃がついたり消えたりを繰り返しています。

 一体何が起こっているのでしょう?

 

 不思議な現象が数秒間続き、僕はそれに見入っていました。

 ふと隣を見ると"茶髪のアークス"もこの現象に見入っているようで口を開けて呆然としています。

 この人でもわからない現象なんですね。

 そのまま周囲を見回してみると、他のアークスは異変に気付いた様子もなく話し合いを続けています。

 僕を見続けている人もいますが、空間の揺らぎには気づいてないですね。

 この現象に気付いているのは僕と"茶髪のアークス"だけのようです。

 

 

 

 姿を現した"何か"はどうやらアークスのようですが…隠れていたようですが姿も見えず気配も匂いもしないなんて凄い人です。

 どうやったんでしょう?

 

 「…この人、どこから…?」

 「わかりません。急に現れました。

 えっと…どうしましょう?」

 「え? どうするって…どうしよう?」

 

 "茶髪のアークス"は首を傾けて悩んでいます。

 

 「えっと、話しかけてみませんか?」

 「不用意に近づくのは危険だわ。目の前の現象を見なかったの?

 あんな完璧なステルススキルを持ったアークス見たことないわ。

 最新の人型機甲種かもしれないわ」

 「あんなアークスそっくりの機甲種がいるんですか!?」

 「…いないけど」

 「え? いないんですか?

 どっちにしても敵なら倒さなきゃいけませんし、アークスならお話しなくちゃいけませんよ?」

 「…そうだけど」

 

 渋る"茶髪のアークス"。

 すごく慎重な人のようです。

 話しかけること事態を嫌がってるようにも見えますが…。

 

 でもじっとしていても何も変わりません。

 もう声をかけちゃいましょう。

 改めて"何か"に目を向けると同時に"何か"から声が聞こえてきました。

 受付にいたアークスより事務的な…機械から聞こえる声です。

 確かに目の前のアークスから聞こえてくる声なのに…口も開かずにどうやって喋っているのでしょうか?

 

 『設定完了。起動』

 

 「んん!! 長かったあ~!」

 

 急に口を開いて伸びを始める"何か"に驚いて"茶髪のアークス"は後ろに上がってしまいました。

 僕の後ろに隠れる形です。そんなに怖がらなくてもいいのに。

 

 目の前の"何か"からは敵意が一切感じられませんし、どこにも武器らしきものがなく丸腰のようです。

 現象の中で見た機械の羽や銃もみあたりませんし。

 更に"何か"は僕の知ってる機甲種とは思えないほど精密な動きで不思議な踊りを始めました。

 

 えっと、どう見てもアークスですね。

 あ、でも僕も慎重にならなきゃ。

 朝会った"獣のアークス"のようにいきなり戦おうとする相手かもしれません。

 背後の"茶髪のアークス"もいつの間にか僕の横に移動し、武器を構えています。

 

 身構える僕と"茶髪のアークス"に不思議な踊りを終えた"謎のアークス"は。

 

 

 

 「んで、あんたらは誰で、ここはどこだ?」

 

 

 そう問いかけてきました。 





※ゲームでのパーティー設定はやや違います


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6、マヤ+α「種族」

例によって駄文です。
お気を付けください。


 

  "死神"とかいう奴に召還(?)されてから

 いったいどれくらいたっただろう。

 現世…俺がいた世界では俺は死んだらしい。

 死因はよく覚えていない。

 

 真っ暗な部屋でいい加減な説明と、

 "救ってほしい少年"の映画を見せられて、

 それが終わったと思ったら"死神"は消え、

 目の前には Now loading って白い文字が空中に輝いていた。

 いい加減な説明と今見た映画の内容から、

 俺がこれから行く世界は俺の世界にあったゲーム、"PSO2"じゃないかと推測して色々考えてたわけだが…

 

 おいおいおいおい…いつまで待たせるんだよ。

 ローディングが99%になったまま動かないぞ?

 フリーズか? フリーズなのか?

 せっかく『イオちゃんとお近づきになる』って目標たてたのに。

 NPCがいるかわからないが。

 

 メンテナンス延長とかロード時間延長って、

 新作ゲームが発売日数日前に発売延期になるくらい萎えるよなぁ。

 どうすっかな?

 時計ないからわからないけど30分ぐらいたってんじゃないか?

 アンインストールとか再起動が必要なのか?

 

「いらないよ。っていうかできないよ」

「お、死神…ってどこだ?」

 

 上からあの野郎…いや、あいつ女か?

 どっちともとれるような声だったからな…

 ま、野郎でいっか。

 ともかく、"死神"の声が上から響いてくる。

 エコーもかかってるし、まるで天の声だな。

 

「いやー、なんだかんだ引き受けてくれたし、

 ちゃんと最後まで調整しとこうと思ってね。

 そしたら思ったより時間かかっちゃってさ~」

 

 なんてのんびりした声が聞こえてくる。

 なんつーか、余裕できたみたいだな。

 さっきは感情が高ぶったのか意味わからないこと騒ぎ立ててたからな。

 思わずこっちがビビっちまった。

 って野郎の心配したってしょうがねえか。

 

「調整ってのはどーいうことだ?」

「あー、こっちの話。気にしないで」

 

 チッ、話す気ねぇなこいつ。

 だったら俺のことはいいから調整とやらを終わらせてくれよ。

 

「だって君、このまま待たされるの嫌だろ?」

 

 心を読むんじゃねえ…ん? 待てよ?

 

「あー、あーあーあー」

「お、気づいた?」

 

 声出るじゃん! 顔ができてるのか!?

 そう思って顔を触ろうとするが手はなかった。

 んじゃ身体もできて…ないな。どういうことだ?

 

「まだ声だけだよ~。

 "PSO2"だっけ? キミが想像していたゲーム」

「そうだけど…やっぱ"PSO2"の中なのか?」

「んー、なんとも説明しづらいかな。ほら、僕国語下手だし?」

 

 声が若干ふてくされているように聞こえる。

 さっきのこと根に持ってるのか?

 

「いやね? キミが使う身体はもう決まっているから変えられないんだけど、

 せっかくだから声とか髪の色とか装飾とか、

 変えさせてあげようと思ってね。

 キミのゲームの言葉を借りるなら、

 キャラクリっていうのかな?」

 

 キャラクリ…キャラクタークリエイトか。

 え、マジ!? それってつまり…

 俺の好きな声で喋れるってことか!?

 イケボもお姉さんホイホイのショタボイスも自由ってことか!? 

 

「…キミ、気持ち悪いよ」

 

 うっせえ! そうと決まれば声優カタログを…

 ってあああここにはパソコンも資料集もないんだった!

 いや、有名どころなら覚えてるしいけるか!

 つかどうやって変えるんだ!?

 

「セリフ言えばいいのか!?」

「いや、えっと…」

「汝に救いあらずッ!」

「待って。それじゃ無理だって…」

「シェイハッ!」

「ていうかそのチョイスでいいの?」

「ドュル…」

「一回落ち着きなよ」

「これが落ち着いて…あん?」

 

 嬉しさはまだ残っているが、うちから湧き上がる衝動が消え失せていく。

 なんだ? こんな機会滅多にないってのにたった一言で落ち着いちまったぞ?

 

「なんだ? なんか変だぞ?」

「んー? …まあ、キミが馴染みやすいように調整してるからね。今は少し違和感がでちゃうんだろう」

「そういうもんなのか?」

「今だけ、ね。それにキミは元々変だろう?]

 

 別に変じゃねえ。

 

「さて、落ち着いたところで声の変更はこっちでやるから、どんな声がいいかイメージして」

 

 変じゃねえからな?

 さてどうすっか。やっぱイケメンボイスで可愛い子へのナンパ成功率をあげたい。

 確かモテやすい声があるって記事を前世で見た気がする。

 どんな声かは忘れたけど。

 

 ふと元の世界の頃を想像する。

 イメージするなら前世で聞いたことのある声がいい。

 やっぱ俳優とか声優とかの…。

 

 そこまで考えて、元の世界とは身体が変わっている可能性に気づいた。

 

「なあ、髪と声って言ったけど俺の身体ってどうなってるんだ?」

「どうなってるって?」

「種族とか身長とかだよ」

 

 身体がどの年齢になるかもわからないのに声を決めちまったら後々残念な人になるかもしれない。

 おっさんなのにショタ声とか、ギャップ萌えって言える範囲を超えている。

 どうせなら身体に合うイケメンボイスにしたい。

 

「………秘密~」

「あん?」

「秘密だよん」

 

 ちょっと待てコラ。

 それじゃ声も髪も変えようがねえじゃねえか!

 そんなランダムで決めて悲惨な姿だったらどうするんだ。

 

 「あっは~、そうだったそうだった。

 だからごめん、この話は無しね!」

 

 なんだコイツ。散々待たせて期待させておいてやっぱ無理だと?

 今までの件は何だったんだよ。俺のストレス溜める以外何の意味もねえぞ。

 

「まぁまぁ落ち着きなよ! こっちでうまいことやっておくから!

 そうだ、アンケートだったんだよ! できるだけイケボね! 了解了解♪」

 

 おいおい、勝手に終わらすなよ!

 まだまともに文句すら言ってねえぞ!

 と、心で思ってたのにもう気持ちは落ち着いてやがる。

 いつもだったら納得いくまで怒鳴り散らすくらいのこと…は、しないな。

 ったくどうなってんだ、情緒不安定すぎるぞ俺。

 

「さっきもいったけど調整の影響さ。

 新しい世界に降りればじきに治るよ。

 それでー、髪の色はどうする? 金髪とか?」

「…黒でいいよ」

「え~? さっきはイケボとかショタボとかで騒いでたのに?」

 

 自分の容姿がどうなってるのかわからないのに、奇抜な色でミスマッチしたくないだけだ。

 別に色のセンスがないとかじゃないぞ?

 

「そんな確認しなくても。黒ね、了解。

 それじゃアクセサリーは?

 今ならフォトンウィングとか60口径フォトン砲とかつけられるよ」

「んなもんつけてどうすんだよ。

 ってかそんなのあんのかよ。

 アクセサリーならいつでも変えられるんだろうし、

 勝手にやっとくからそのままでいい」

 

 できるだけ平静であるように努めて喋る。

 じゃないとまた気分が乱れるだろうしな。

 乱れてもここなら何も問題ないだろうが、

 なんか、疲れる。

 

 「ふーん。おもしろくなーい」

 

 …コイツの相手も疲れる。

 終わりならさっさと行こうぜ。

 

 「僕はいけないよ? もうすぐ死んじゃうし」

 

 …死んだ俺を召還()ぶのに力を使い果たしたんだっけか?

 後味悪いぜ。勝手に引き込んで、

 勝手にくたばるっつったって、

 いわば俺の身代わりに死ぬようなものだからな。

 

 悪いが俺は自分勝手に生きるぞ?

 嫌なことからは逃げるし、辛くて痛いのはもう前世でこりごりだ。

 できるだけ楽して自分が辛くなったら…

 お前が救ってほしい"少年"すら見捨てるだろう。

 お前が希望を託した相手は、そんな奴だぞ?

 

「そんな無理に悪ぶって言わなくてもわかってるよ。

 上手くいかなかった時、申し訳ないんだろ?

 キミが気にすることないんだよ~?」

 

「キミの言う通り僕が勝手にやったことだからね。

『僕と契約して…』とか言って騙す気もないし、呪いで縛ってるわけじゃない。

 キミの自由に生きるといいよ」

 

「最低限でもやってくれるみたいだしね。

 もし失敗したり投げ出しても憎んだり、

 化けて出たりなんてしないさ! 約束する!」

 

「それともやっぱりやめとくかい?」

 

 "死神"はそう問いかけてくる。

 死神が化けるってのも変な話だな。

 つーか声が震えてるし。

 お前こそ俺を巻き込んだこと気にしてるんじゃねえか。

 今更やめてもいいなんて言うなよ。

 半端者なりに覚悟は決めてんだからさ。

 

 肝心な降りる世界の説明が半端だったり言いたいことはあるけど。

 

「やるさ。最善を尽くすよ」

 

 やれることをやる。

 そう決めたんだ。

 

「ん、それが聞きたかった! これで僕も安心していけるよ!」

「ああ、"あの世"で見ててくれ」

 

 こんな奴でも誰かが死ぬときは悲しくなるな。調整のせいか?

 いや、これは違う。俺の心は確かに"死神"との別れを悲しんでいる。

 ほんの数時間しか言葉を交わさなかったけど、

 "死神"のことを気にいってたらしい。

 あ、涙がでてきた。

 待ってろ。俺はあんたができなかったことは叶えてやるからな。

 

 感傷に浸ってる俺の心をのんびりした声が打ち破る。

 

「ん? 何言ってるんだい? 僕も一緒に行くのさ。

 キミがこれから行く世界に!」

 

 は? なんて言った今?

 

「よし! 決意も新たにしたことだし、そろそろいこっか!」

 

 おい。

 

「あ、行くといっても僕は身体がないから、

 キミのことを遠くで見てるぐらいしかできないからね!

 助けてもらおうなんて思わないでよ~?」

 

 まてまて。

 

「口があるんだから喋らないとわからないよ~!」

「嘘つけ心読めるだろ!!

 …お前、さっき死ぬって」

「いったっけ?」

 

 こ、この野郎。

 

「さあさあ、チュートリアルは終わりだ!

 新しい世界でも頑張ってね! 

 あ、身体に意識が繋がったら動作確認しておくこと!

 スキルは…まあそのうち気づくでしょ!」

 

 これチュートリアルだったの?

 ってか動作確認って何? スキル?

 おい、やっぱちゃんと説明して…

 

 そんなツッコミをいれようとしたとき、ロードは100%に達した。

 白い文字が光りだし、空間に亀裂が入る。

 そして光が部屋全体を侵食して…俺も飲み込まれた。

 

 

-----

 《惑星ナベリウス森林地帯上空》

 

なんでなんでなんで。

 

この惑星は安全だっていってたのに。

 

"獣の王"が守ってくれるっていってたのに。

 

全然守ってなんてくれない。

 

それになんで仲間同士で戦わなきゃいけないの。

 

「お前は仲間などでは、ない!!」

 

「ッ!」

 

悔しい。

 

"ヴェル"と"シロ"は外から来たかもしれないけど、同じ龍なのに。

 

「貴様を同族とは認めない! そんな紛い物の力、断じて認めない! ここで死ねェ!!」

 

なんでいつも"ヴェル"と"シロ"ばっかり仲間外れに…。

 

ごめん、心配しないで"シロ"。

 

ちゃんと逃げ切るから。

 

-----

 

 『心身結合。完了』

 『結合完了。異常無し』

 『潜在技能(スキルツリー)。異常無し』

 『記憶保護(メモリープロテクト)。異常なし』

 『容姿設定。…変更なし』

 

 

 

 『設定完了。起動』

 

 女性の声が頭の中で響く。

 と、同時に俺の意識は覚醒した。

 どうやらロードは終わったらしい。

 夢から覚めた気分だ。

 

「んん!!! 長かったあ~!」

 

 ったく"死神"の野郎散々おちょくっておいて放り出すときは一瞬なんだもんな。

 いきなり目の前が真っ白になって、爆発でもするのかと思ったじゃねえか。

 転生? 召喚? されて早々に死にました、じゃ、笑い話にもならないだろうに。

 

 にしてもここはどこだ? 

 ゲームの中でも見たことない場所だが。

 いや、よくみると所々がクエストを始める前に入る"キャンプシップ"に似てるけど…。

 にしては広いなあ。それにアークスもめっちゃいるし。

 

 ちょっと歩いて確認…する前に身体がちゃんと動くか確認だっけ?

 屈伸屈伸っと。うん、ちゃんと動くぞ。痛みもないし。

 違和感も全然ないな。

 むしろ前世より調子がいいんじゃないか?

 

 いやでも胸のあたりがきつい気がする。

 身体は軽いけど太ってるのか?

 デブの身体か…はずれだな。

 いや、文句は言うまい。

 もう一度人生をやり直せるんだ。

 

 (太ってるくらいなら自分の意志次第で痩せられるだろうしな)

 

 にしてもなんかずっとこっち見てる二人がいるんだが…。

 

 一人は明るめの茶髪をポニーテールにしてる…女の子だ!

 結構可愛いじゃん!

 でも気が強そうな子だな。

 目つきは鋭いし、警戒心全開で俺のこと睨んでて超怖い。

 あれ? でもこの子女の子か?

 身長はまあまあ高いけど、身体の凹凸少ないし…

 もしかして=男の娘?

 

 ラノベでは定番だし、ありえるだろう。

 あ、ポニーテールにしてるだけじゃ男の娘とは言えないか。

 スカートはいてるし…女装趣味か?

 …めっちゃこっち睨んでるし、

 失礼なこと考えてるのがバレてそう。

 

 決して睨まれた恐怖によって目を背けたわけじゃない。

 そんな言い訳を心の中でして、屈伸から伸脚(しんきゃく)に変えながら隣の子に視線をずらす。

 

 (ん、脚もちょっと太いな…なんかプニプニだし、これはダイエットも視野に入れる必要があるか?)

 

 足の具合も気にしつつ視線をその子向ける。

 こっちも性別がわかんねえな。

 まず、見た目が意味わからん。

 やたらでかいローブを羽織ってやがる。

 あれじゃ身長がちょっと低いってことぐらいしかわからない。

 ローブにはフードもついてて、それを被ってるもんだから顔も見づらい。

 フードから灰色の髪が垂れてるのが見えるが…

 精々首元ぐらいまでだし、性別の判断材料には足りないな。

 ま、女の子だろうな!

 だって女の子だと思ってた方がやる気が出るし。

 

 ん、目が合ったな。

 な、なんか目が輝いてないか?

 もしかして一目惚れされたか!?

 

 …なわけないか。

 ローブの影で瞳の色まではわからないが、

 その瞳はしっかり俺のことを捉えて興味深げに俺の行動を見続けている。

 あ、屈伸とか伸脚がこの世界にはないのか?

 屈伸くらいありそうなものだけどなぁ。

 ゲームに習ってダンスの方がよかったか?

 難しいのは無理だけど、ドジョウ掬いのダンスならできるし。

 

 つか、ゲームにあんな服あったか?

 肩から半身を隠す程度のマントはあったが、

 性別不詳の子がきてるのは全身を覆う薄汚れたローブだ。

 地面に近い裾の方は所々擦り切れているのがわかる。

 

 ちなみにポニーテールの子は"アークス研修生女制服"だ。

 こっちは間違いなくゲームの中にあった。

 あ、男は着れない服だし、あの子は女の子だな。

 

 全身ローブはゲームの中にはなかったはずだ。

 …バグ…じゃないだろう。

 

 

 そもそもこの世界の(ルール)が現世に近いのかゲームのシステムの流用なのかまだわからない。

 

 ルールってのは…

 例えばダイエットだ。

 現世のルールなら太っているのなら痩せるためにそれ相応の努力をしなきゃならない。

 適度な運動、カロリーを抑えた食事、生活リズムの改善。

 膨大な時間が…少なくとも1,2ヶ月はかかるだろう。

 

 だがゲームのシステムならそんな努力はいらないだろう。

 "PSO2"の世界なら《エステ》という施設を利用すれば好きなように体型や容姿を変えられるからだ。

 その時間は人にもよるが痩せるためだけなら2分とかからないだろう。

 

 他にもゲームの中ならアイテムさえあればダンスが踊れるとかあるけど…。

 とにかくどちらのルールであるかは知っておきたいな。

 もう少し判断材料がほしい。

 

 そうだ、ゲームだろうが現実だろうが、情報収集は大事だ。 

 まずは話しかけることにしよう。

 俺自身の現状もよくわかってないしな。なんでこんなとこにいるのかもそれとなく聞こう。

 それとなくだ。

 

 

 「んで、あんたらは誰で、ここはどこだ?」

 

 

 …ちょっとぶっきらぼうな感じになっちまった。

 だってこれがこの世界初めての会話だし。

 相手は女の子かもしれないし?

 き、緊張してるなんてことはないぞ?

 

 にしてもリアクションないな。

 顔を見合わせてないでせめて返事をくれ。

 なんだか悲しくなってくる。

 もしかして言葉が通じてないのか?

 いや、今のは言葉が失礼だったんだろう。たぶん。

 敬語に変えて話してみるか。

 

 そう思って改めて喋りだそうとした時、ローブの子が一歩進みでて答えようとしてくれる。

 

「えっと、僕は…」

 

 しかし、その子の口をポニーテールの子が後ろから塞いでしまった。

 なんだよ、邪魔しないでくれよ。

 

「人に名乗らせる前に、まずあんたから名乗りなさいよ!」

 

 おお、アニメとかでよく聞くセリフだな。

 まさか自分に言われると思ってなかったぜ。

 もしかしたらもっとカッコいいセリフを聞くことに?

 

 おっと、今はどうでもいいか。

 ポニーテールの子は警戒心が強いなぁ。

 あ、でもいきなり太った男に話しかけられれば、女の子だし警戒もするか。

 

 それに俺は今までどこにいたんだ?

 パッとみ、周囲には隠れられるほどのスペースもない。

 "死神"の性格だと…俺をここにいきなり転移させたのかもなぁ。

 

 となると、目の前にいきなりデブが現れたことになる…。 

 そう考えると…なるほど確かに俺は怪しいな!

 ちゃんと名乗って少しでも警戒心を和らげたほうがよさそうだ。

 

「俺の名前は………ちょっとタイム!」

 

 名前を言いかけて、ストップをかけた。

 問題発生だ。

 

 俺が唐突に静止したためかポニーテールの子が更に眦を釣り上げている。

 あぁ、今にも舌打ちが聞こえてきそうだ。

 フードの子も首を傾げている。

 

 さらに怪しまれたか?

 ポニーテールの子には怪しまれただろう。

 より剣呑な気配がにじみ出ている。

 しかし、フードの子の反応は予想と違っていた。

 

「"チョット・タイム"さんって名前の方なんですかね?」

 

 どうやらフードの子はチョット・オバカさんって名前のようだ。

 

「バカね! そんなわけないでしょ!」

「え? 違うんですか!?

 じゃあ"チョ・トタイム"さん?」

「そうじゃないわよ!

 ちょっと待ってくれ、ってことよ!」

「なるほどー! 名前じゃないんですね!

 あなたは本当に物知りなんですね」

「物知りって…こんなの常識よ!」

 

 まぁ、常識だろう。

 フードの子は箱入り娘か何かなのか?

 タイムって単語くらい知ってるだろう?

 

 そのまま話をずらして時間を稼ごうとしたが、

 彼女らの話はそこで終わらなかった。

 怒ってばかりのポニーテールの子だが、

 腰に手を当てフードの子に視線を合わせて訴える。

 

「っていうかさっきからあなたあなたって、名前で呼びなさいよ!」

「あ! ごめんなさい!

 あれ? 僕、あなたの名前教えてもらいましたっけ?」

「…あ…」

 

 ん? この子達も自己紹介が済んでなかったのか?

 姉妹じゃなかったのか。

 

 …どうせ今は名乗れないし、

 少し様子を見るか。 

 

「あ、名前が知りたいときは自分から名乗るんでしたっけ?

 僕の名前は…えっと、なんでしたっけ?」

 

 自分の名前を忘れるってどういうことだよ。

 カナリ・オバカさんか?

 いや、人のことは言えないか…俺の場合はちょっと違うが。

 

「はあ!? あんた"クルス"じゃないの!?」

 

 こらこら人を指差すんじゃありません。

 この子リアクション激しいな。

 

「あ、そうでした!

 僕の名前は"クルス"です!」

 

 名前もポニーテールの子がフォローしていた。

 本当にこの子達は知り合いじゃないのか?

 

 ふとポニーテールの子と目が合ったが、

 下唇を噛みしめ、悔しげに視線をそらされた。

 少しの間そうして口を開閉している。

 まるで何か言おうとしているような。

 っていうかブツブツ言ってるな。

 何言ってるか聞こえないが。

 

 あぁ、あんなセリフを言いながら自分から名乗ることになったのが悔しいのか。

 プライド高い子なのかな?

 

「…"リティア・アルラディーノ"よ」

 

 数秒のち彼女はぶっきらぼうにそう言った。

 

 あん? 苗字があるのか?

 "PSO2"に苗字があるNPCなんていたか…?

 それともそれで一つの名前なのか…

 

「私達も名乗ったんだからあんたも早く名乗りなさいよ」

 

 リティア・アルラディーノが急かしてくる。

 そう、今は苗字なんて気にしている暇はない。

 いい時間稼ぎになると思ったんだが、

 先ほどからの問題は解決していない。

 

 さっき俺は前世の名前を名乗ろうとしたんだが、

 名前がすぐにはでてこなかった。

 ガキの頃から言いなれているであろう名前がすぐに出ない。

 

 ラノベの主人公特有の記憶喪失か?

 そんな設定いらねえぞ?

 思い出せ、俺の前世は…

 

『この記憶(メモリー)(ロック)がかかっています』

 

 必死に思い出そうとしていると突然、

 頭の中に事務的な女の声が響いてきた。

 俺が起きる前にも聞こえた声だ。

 さっきからこれの繰り返し。

 なんだか聞いたことあるような声だが…いやそれよりも。

 

 …ロック?

 なんでそんなもんが?

 いや、記憶に鍵ってどういうことだよ!

 どこぞの愛玩用天使型ロボじゃあるまいし…

 …ロボ?

 

 そこまで考えて気づく。

 俺はどの"種族"はなんだ?

 ちょっと白い肌に前世と変わらない身体の動きと転生or召還という単語から、

 俺は前世に似た《ヒューマン》なのだと思っていたが…

 

「おい! 俺はどうなって…どの種族に見える!?」

 

 焦った俺は自分の名前のことなど忘れて、

 目の前の2人に声を荒げて聞く。

 

 あぁ、変な質問だろう。

 リティア・アルラディーノは腕を組み、

 "自分の種族もわからないのか?"

 口で語らず、そう言う顔で訝し気に俺をいている。

 いや、この子は無視しとこう。

 先ほどからちゃんと答えてくれてるクルスの言葉を待つ。

 その子はまたも首を傾げながらもはっきりと言った。

 

「えっと…《キャスト》に見えます」

 

 

 

 …フードの子の言葉を理解するのにかなり時間がかかったと思う。

 

「…俺が…キャスト?」

 

 そんなバカな。

 そう思う傍ら、納得している自分もいる。

 "死神"に連れてこられた空間ではその可能性も予想していたことだ。

 確かに機械の身体を持つ《キャスト》なら、

 俺の想像していた身体の問題はクリアできる。

 

 これが《転生》か《召還》か。

 《転生》なら赤ん坊から育っていかなきゃいけない。

 《召還》なら肉体が死んでいる俺は魂だけで行動しなければならない。

 

 だけど、機械である《キャスト》なら。

 

 赤ん坊から始める必要がなく、

 最初から強い身体を持つことができる。

 映画のシーンに間に合わせるように、

 身体を鍛えたりする必要がないってことだ。

 

(つまり俺は新たな肉体に《転生》させられたんじゃなくて、

 魂だけ《召還》されて機械に憑りついたのか)

 

 それが分かったところで何かが変わるわけじゃないが、

 この世界で初めて分かったことでもある。

 わからないことだらけなんだ!

 小さなことでも一歩進んだってことにしないとやっていけないわ!

 

 でもそうか、《キャスト》なのか。

 なんだかテンション上がるな~!

 そりゃ、大型ロボットに搭乗して暴れまわるわけじゃないけど、

 機械の身体ってだけで夢が広がる。

 ブースターで地を滑るように移動したり、

 ゲームでは乗物に変形(トランスフォーム)できたな。

 移動はできなかったけど。

 でもこの世界なら案外移動したりできるんじゃないか?

 色々試したいことが増えたな。

 

 科学(きかい)魔術(たましい)が交差し、

 俺の物語が始まるのだ。

 

 …いやまぁ機械にどう憑りつくのかとか、

 色々と無理があるが、

 《召還》って意味では納得できる。

 

 

 だが、やっぱおかしいぞ?

 何がって…

 

「でも、ほら、肉体があるぜ?」

 

 そう言って両手を広げて自分の身体を見てもらう。

 

 広げた色白の腕、太った体に、プニプニの脚。

 これのどこが機械の身体だっていうんだ?

 ちゃんと皮膚があるじゃないか。

 

 "PSO2"なら男の《キャスト》は全身が機械でできている。

 皮膚や脂肪なんてない。

 みんなカッコいいボディパーツでできているのだ。

 この皮膚を見たから俺は自分が《キャスト》以外の種族で、フードの子の言葉が予想外だったわけだが…

 

「そりゃあるでしょ」

 

 しかし、リティア・アルラディーノが俺の思考を遮って発した言葉は完全に予想外だった。

 

「あなた《ガイノイド》じゃない」

 

 が、がい…ノイド? ってなんだっけ?

 

「がいのいど? ってなんですか?」

 

 クルスが変わりに質問してくれた。

 リティア・アルラディーノがため息交じりに答える。

 

「女性のキャストよ」

 

 女性…じょ…女!?

 俺、お、俺が…

 

 

 俺が、男の娘!?

 

 

 




うひひ駄文ですごめんなさい。

5/7 最後に少し文章足しました。
本当はこちらに元々乗せようとしてたのが、誤って次上げる予定の話の方にメモしちゃってたので。




ありがとうございました。


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7、マヤ+α 「光輝の技」

 《惑星ナベリウス森林地帯上空》

 

 

おかしい!

 

逃げきれない!

 

無理して《昌竜の力》を使っているのに!

 

"炎龍"じゃ"昌龍"には追いつけないはずなのに!

 

やっぱり"ヴェル"の力が偽物だから?

 

違うッ! そんなことない!

 

あの"炎龍"がおかしいんだ!

 

 

時間がない。

 

身体が持たない。

 

逃げ切れないなら急いで隠れなきゃ。

 

でもどこへ?

 

"獣の星"には今は降りられない。

 

濃くて邪悪な霧が立ち込めている。

 

降りるのは危険すぎる。

 

でも空中じゃもう逃げ場が…

 

ここで死んじゃうなら下に…あ!?

 

「喰らえェ!!!」

 

よそ見しすぎた…炎球…避けられない!

 

!? "シロ"、ダメ!!

 

"シロ"! "シロ"ッ!!

 

-----

 

 俺が女!?

 

 俺は驚愕の声を上げようとした時、

 機体に何かがぶつかる音がした。

 

 ガキンッ! という音と共に機体が揺れ、足元がふら付く。

 大した揺れじゃないが、飛行中の乗物が揺れたのだ。

 周囲のアークス達も慌ただしくなる。

 

 何かぶつかったのか?

 いやでもここ空だろ?

 故障か? バードストライクか?

 

 どちらでもなかった。

 

「グオオオオオオォォォォ!!」

 

 怪物の大声と共に大きく機体が揺れ、

 俺はその場に転倒した。

 

非常事態(エマージェンシー)非常事態(エマージェンシー)

 

 周囲が赤く点滅し、警鐘(サイレン)とアナウンスが鳴り響く。

 え、なにごと? Eトラ?

 

「何が起こった!?」

「何かが外で機体を攻撃してます!」

(エネミー)か!? でもこんな上空で襲い掛かれる(エネミー)なんて《ナベリウス》には…」

「窓のシェルターを開け! 無理ならモニターだ!」

「今、出ます………!?

 "ヴォル・ドラゴン"ですッ!!」

「バカな!? 《アムドゥスキア》にしかいないはずだぞ!?」

「ですが現に…ッ!? ブレス、きます!!」

 

 シェルターがゆっくり開くとすぐ近くにそいつはいた。

 ヴォル・ドラゴン。

 《惑星アムドゥスキア》に出てくる大型の龍でボスキャラだ。

 岩肌のようなゴツゴツした巨体を大きく揺さぶり、巨大な翼で羽ばたきながら空中に静止し、

 こちらに大きな口を向け、ブレスを撃つための準備をしている。

 

 アニメじゃ小学生に倒されてたり、

 主人公に真っ二つにされてたりと散々だったが、実際見るとそんな弱そうにはとても見えない。

 

 それに今はちょっとまずい。

 何がまずいって、このままじゃこの戦闘機(?)が墜とされる。

 アークスの戦闘機は空中戦が苦手なのだ。

 戦闘機なのに。

 

 っていうか、ブレスきます、って、避けられなくね!?

 

 巨大な口から灼熱が迸る。

 炎ブレスが機体を包み込んだ。

 またも機体が大きく揺れた。

 気のせいか機内の温度が上がっている気がする。

 あ、気のせいじゃない。超熱い。

 

 だが炎が機内に入ることはなく、

 墜ちることはなかった。

 警鐘は相変わらずうるさいが。

 

 警鐘だけじゃない。周囲のアークス達も騒ぎ出した。 

 

「おい、これは試験なのか!?」

「いきなりヴォル・ドラゴンが相手なんてありえねえだろ!」

「逃げようぜ! このままじゃ丸焦げだ!」

「空の上だぞ!? どうやって逃げるんだよ」

「テレポーターの座標指定はまだなのか!?」

 

 全員パニックだな。

 よくみりゃ若いのばっかりだし、

 試験とか言ってる当たり、場慣れしてない新人アークスが多いのか?

 

 それに対して俺の冷静なこと…まだ"死神"の影響が残ってるのか?

 いやまぁ自分の身体が女ってことのほうが、

 衝撃的すぎただけなんだが。

 

 女って…どうしよう。マジで予想外だ。

 ちょっとキツイ胸がデブってたわけじゃなく、伝説の"おっぱい"だとは思わなかった。

 ってか女の身体とかどうすればいいんだ?

 トイレとか…。

 キャストだし深く考えなくていいのか?

 …とりあえずこんな機会ないし、おっぱい触っておくか?

 

 なんて真剣に考えていたが、炎がやんだことで周りのアークスがまた騒ぎ出す。

 ブレスが収まり再びヴォル・ドラゴンの姿が見えたことで周囲の不安は爆発したらしい。

 こいつら本当にアークスなのか?

 いくらなんでも余裕なさすぎだろ。

 ゲームのNPCでももっとこう、ビビりながらも戦う構えぐらい見せてたぞ。 

 

「フォトン障壁、パワー減! このままじゃあと1回持つかどうか…」

「急いでこの空域を離脱しろ!」

「無理です! 先ほどの衝撃でエンジンが故障してます! 高度を維持するしか…」

「なら反撃しろよぉ!?」

「してますが、攻撃が通らないんです!」

 

 みると戦闘機からも光る銃弾を撃ち続けているが、ヴォル・ドラゴンの身体に当たる前に掻き消えている。

 似た現象を見たことあるな。あれは確か…

 

 

「監査官! いるんでしょ!?」

 

 隣でポニーテールの子…リティア・アルラディーノが大声を上げる。

 その声に反応したのは、

 紫髪のリーゼントをしたアークスだった。

 

「あ、あぁ、なんだよ?」

 

 こいつは確かゲームのNPCアークスで、

 名前は"レダ"だな。

 研修生からアークスになったばかりじゃなかったか?

 性格もお調子者というか、軽い奴だったし、

 監査役には向かないんじゃないか?

 あ。バイトか?

 前世の世界にもあったな~。

 模試試験会場の監視役のバイト。

 やったことないけど。

 

 だとしたらこんな異常事態(?)に対処できるとほ思えないな。

 なんとか自分の身を守る方法を探したほうがいいな。全然情報集まってないけど。

 

 俺が保身に思考を傾ける中、

 リティア・アルラディーノは周囲の連中とは違い、変わらず強気な態度で話し続ける。

 

「これは《試験》の一環じゃないんでしょ?」

「あ、あぁ、そうだよ、完全にイレギュラーだ」

「なら! 今すぐ《ナベリウス》に降りるべきじゃない!?

 攻撃は通らないし、このままじゃやられちゃうわ!」

 

 確かにこのまま空中にいればなすすべもなく墜とされるだろう。

 そうなるよりは地上を目指して、

 隠れるなり戦うなりしたほうがいい。

 だがそういうわけにもいかないらしい。

 

「ここはAランクエリア上空だぞ!?

 降りたら原生種の餌食になる、自殺行為だ!」

 

 Aランクエリア? はて、ゲームにない単語だ。

 

「それにダーカー反応の多い変な霧が発生してるんだよ!

 あんな現象見たことねえよ!

 下がどうなってるかもわからないのに降ろせるかよ!」

 

 レダも必死になって反論する。

 彼もちゃんと俺たちのことを考えているのだ。

 軽い奴なんて思ってごめん。

 監査官、大変そうだな。

 

 しかしリティア・アルラディーノは止まらなかった。

 

「このままやられて全員で墜ちて死ぬより、

 未知のエリアでも降りて生きようとする方がいいに決まってるわ!」

 

 急に向きを変えて機内の奥の方へとずんずん進んでいく。

 それについていくフードの子…クルスは、

 状況がよくわかってない様子。

 この子大丈夫か?

 ん? あっちはテレポーターがあるとこか。

 

「お、おいどこへ…ちょ、まてよ!」

 

 レダが某アイドルのような静止の声をかけるが彼女は止まらない。

 レダはそんな彼女を止めたいのだろうが、

 他のアークスが彼のもとに詰め寄り、

 それどころじゃなくなっている。

 

 動けない彼にリティア・アルラディーノ乱暴な声で返答する。

 

「私が下に降りて確認してくるわよ!」

 

 なんて逞しい子!

 やっぱり女装少年なんじゃ…?

 いや感心してる場合じゃない!

 

「一人じゃ危なくないか?」

 

 追いかけて声をかけるも彼女は振り向くことはせず、テレポーター横にある端末を操作し始める。

 クルスが横で興味深げに見ている。

 

「何よ、あんたも止める気?」

 

 操作しながらもちゃんと返答はしてくれるらしい。

 

「いや、このままだと墜ちて死ぬだけなのはわかる。

 下の調査が必要なのも納得だ。

 でも一人じゃ危ないし…」

 

 さてどう言うべきか。

 さっきのレダの話を聞く限り、下もかなりヤバイ。

 パーティーも組まず彼女…とクルスだけで行くのは危険すぎると思う。

 黒い霧なんてゲームでも見たことないしな。

 

 かと言って手伝おうにも俺自身がどれぐらい戦えるかもわからない。

 やはり機内で同意見の味方を探すべきじゃ…

 

 頭を悩ませていると、頭の中でピロリン♪と変な電子音が聞こえた。

 この音は…パーティー申請だな。

 パーティーを組みたい相手に申請すると、相手にはメッセージとこの音が届く仕組みになっている。

 俺もたまに聞いた音だ。

 思い出すぜ…パーティー申請が来て喜んでたら、『すみません、送る先間違えました!』って言われてパーティーから追い出されたこと。

 

 まあ俺はぼっ…ソロプレイが多かったし?

 別に気にしてなんかないけど?

 

 いや、今はそんなことどうでもいいか。

 この音が聞こえたってことは、

 誰かからパーティーに入るように申請されたのか?

 ま、どうせ今回も()()()だろうけど。

 

「…何あんた、パーティー組みたいの?」

 

 リティア・アルラディーノは作業の手を止め、

 俺に呻るように聞いてくる。

 え、どうゆうこと?

 

「なにキョトンとしてるのよ。あんた今パーティー申請したでしょ」

 

 し、してないぞ!?

 俺には身に覚えがない。

 話しかけただけでパーティー申請できるの、この世界!?

 いや俺も音が聞こえたんだから、俺も誰かから申請されたのか。

 まったく誰だ~? 俺のトラウマを刺激する奴は~?

 …あれ、パーティーの設定ってどうやって見るんだ?

 

「生憎だけど、私は私が認めた相手じゃないとパーティーを組む気なんて…」

 

 拒否しようとしているのだろうリティア・アルラディーノは、真隣から聞こえた電子音を聞き喋るのをやめた。

 

《クルスさんがパーティーに加入しました》

 

 俺の頭の中に女性のアナウンスが流れる。

 どうやら俺はクルスにもパーティー申請を送っていたらしい。

 身に覚えがまったくないが。

 っていうか俺がパーティーリーダーになってるのか!?

 

 みるとクルスは嬉しそうだ。

 しかしリティア・アルラディーノは怒りそうだ。

 

「なんであんたパーティー入ってるのよ!!」

 

 ほらやっぱり怒った。

 腰に手を当て前のめりになってクルスを睨んでいる。

 表情は読みやすいし(特に怒ってるとき)、リアクションはでかいし、わかりやすい子だな。

 

「え? えっと、何か出たのでボタンを押したら…」

「適当にボタン押しちゃダメ!!

 あんた私とパーティー組むんだから、

 他の人のパーティー入ってんじゃないわよ!」

 

 あ、そういうことだったのか。

 悪いことしちゃったかな。

 いや、わざとじゃないんだけど。

 なんだったら今すぐパーティー解散したいぐらいだ。

 

「えっと、リリアさんも同じパーティーに入るんですよね?」

「リティアよ! 私はこんな意味わかんない奴のパーティーなんて…」

 

 再度彼女の言葉が止まる。

 彼女の周囲にアークスが集まり始めた。

 

「何ちんたらやってるんだよ、降りるぞ!」

「座標設定できてないじゃん!」

「貸せ! 俺がやる!」

「なんでもいいから早くしやがれ!」

 

 先ほどまでレダが抑えていたアークス達が、

 リティア・アルラディーノの行動を見て、

 逃げ出すと勘違いしたらしい。

 我先にと端末に群がり、

 なんとか輸送機から脱出しようとしている。

 

「やめなさ、きゃっ!」

 

《リティアさんがパーティーに加入しました》

 

 リティア・アルラディーノがアークス達に押し出された拍子に、パーティー加入が認められたらしい。

 ゆるゆるだな、加入方法。

 クルスがすんごい嬉しそうな顔してる。

 パーティーメンバーが増えたのが嬉しいらしい。

 フード越しでもわかる満面の笑みだ。

 なんだろう。

 守りたい、その笑顔。

 でもなんか笑い方が少年っぽい。

 

 

 しかしそれだけで終わらなかった。

 かなり強く押されたらしいリティア・アルラディーノは、近くにいたクルスを弾き飛ばして転倒し、そのクルスは嬉しそうな顔のまま俺に突っ込んできた。

 腹のあたりに頭から。

 反応できずクルス・ヘッドをお腹に喰らい抱えたまま、

 

 俺の身体はテレポーターの光の池に向かって落ちていった。

 

「ゲフッ………へ?」

 

 光の奔流に身体が包まれる。

 包まれる寸前に見えたのは、倒れながらもこちらを見て顔面蒼白にし、茫然としているリティア・アルラディーノの顔だった。

 

-----

 

"シロ"が"ヴェル"をかばって落ちちゃった。

 

すぐ助けに行かなきゃ…。

 

でも"炎龍"が邪魔で…どうしたら!?

 

痛ッ!?

 

こ、これは"あーくす"の船!?

 

なんでこんな所に"あーくす"なんかが!?

 

邪魔…あ!? 炎の息が!?

 

…あれ、炎が避けていく?

 

この船の近くにいれば攻撃が効かないのかも。

 

でもこれじゃ"シロ"を助けにいけない。

 

…あれ…船から何か落ちて…?

 

-----

 

「ああああああああああああああ!!!」

 

 光の奔流から抜け出たと思ったら、

 そこは雲の横でした。

 空中でした。

 気づけば俺は。

 スカイダイビングをしていました。

 

「しぬううううううううう!!!」

 

 座標指定は終わってなかったらしい。

 予想していたものより大きめの輸送機の

 真下に転移したと思ったら

 すぐに落下が始まった。

 ジェットコースターに乗った時のような

 あの肝が冷える感覚。恐怖からの吐き気。

 それを一瞬で打ち消すほどの激しい風圧が全身を煽り続ける。

 

 テレビで見たスカイダイビングのように

 大の字の落下態勢を取る間もなかった。

 風に煽られバランスを崩し

 むちゃくちゃに回転しながら落ちていく。

 

 (このままだとあっという間に地面に叩き付けられるぞ!?)

 

 これは無理だ。

 こんな高い所から落ちて助かるはずがない。

 いきなり死ぬ。

 せっかく召還されたのに、

 もう死ぬ。

 "死神"ごめん。

 約束守れないわ。

 

 

 状況を悟り早くも諦めたが、

 お腹で何かがもぞもぞ動いていることに気づいた。

 

 

 見るとクルスがしがみ付いていた。

 でかいローブが凄い勢いではためいている。

 相変わらずフードをしており、

 顔を俺の腹に埋めているので表情はわからないが、掴んでいる腕の力は強張っていた。

 

 そうだ、この子も一緒に落ちたんだった。

 この子も死んじゃうのか?

 なんとかこの子だけでも守れないのか?

 

 完全にパニクっていた頭が、

 水をかけられたかのように冷えていく。

 

 ビビる気持ちを抑えて下を見ると、

 鬱蒼と茂る大森林が広がっていた。

 所々に見える青い所は湖だろうか。

 かなりの高度を飛んでいたようで、

 落ちるまでにまだ時間がある、と思う。

 なんとかあの湖に落ちれば助かる…か?

 

 どうする? 何か打開策は?

 

 回転を止め、少しでも空中を移動するには?

 速度を下げ、落下先を修正するには?

 

 (《キャスト》の脚についているブースターを使えばいけるか?)

 

 しかし、ブースターなど脚にはついてなかった。

 仮にあったとしても初めての身体じゃ

 使えたかどうかわからないが。

 

 (な、なら武器を使って滞空すればいい!)

 

 ゲームでは武器の種類によっては

 長時間滞空していられるものがあったはず。

 普通の武器でも使用するだけで一瞬空中に静止することができる。

 疲れるが武器を素振りし続ければいけるかもしれない。

 

 だが、武器もなかった。

 腰にも背中にも装備してないし

 アイテムパック…リュックのようなものすらもっていない。

 

 何もできない。

 

 (…くそっ! ならせめてクルスの盾に…)

 

 《キャスト》は他の種族より丈夫にできていたはずだ。

 機械だしな。

 高所から落ちてもあるいは。

 

 いやだめだ。

 この高さじゃ変わらない。

 クルスも一緒に地面に叩き付けられてぺちゃんこだ。

 冷静になった頭で考えてもこの程度だ。

 冷静な頭で死を悟るしかできなかった。

 

 (他に何かないのかよ!?)

 

 異世界に来たんだぞ!?

 主人公だけの特別な力はないのかよ!

 状況を一発逆転できるような魔法とか特殊技とか!!

 せっかく召還されたのに、

 何もできないまま終わるのかよ!

 

 (…魔法?)

 

 "PSO2"には《テクニック》という遠距離攻撃がある。

 ファンタジー世界で言うところの魔法にあたる技で、フォトンを使い環境を操って、

 火球や氷の散弾を作りだし敵に攻撃するんだ。

 

 これを利用すれば、落ちる速度を下げられるかもしれない。

 ゲームではテクニックを使ったところで、

 反動でプレイヤーが後ろに下がることはなかったが…。

 

 反作用がなければ空中で速度を変えたりできない。

 できても無意味。できるかもわからねえ。

 でも、できそうなことがこれしかない。

 時間もない。そうと決まれば…やってやる!

 

 なんとかバランスを取ろうとするが、

 クルスを抱えているからか軸がぶれ、

 下を狙うのも一苦労だった。

 

 (くそがっ! これぐらい…)

 

 四苦八苦しながらも無理やり下を向く。

 地面に手を向けて集中する。

 上手くいくかわからないが、

 頼む、成功してくれ!

 

 「…フォイエ!」

 

 魔法のように詠唱してみる。

 使ったのは炎の初級テクニック《フォイエ》 

 ボッ! という音と共に手元から巨大な炎弾が発射される。

 と、同時にほんの少し落下速度が落ちるのを感じた。

 

 (成功した!? 反動がある! これならいけるか? …いや!)

 

 しかし無理やり放ったためか、

 やはりバランスがとれず、

 せいぜい回転の方向が変わっただけだ。

 

 (でも、これしかないんだ!)

 

 諦めずにフォトンが枯れるまで

 テクニックを撃ち続けようとしたとき、

 

「グオオオオオオォォォォ!」

 

 猛々しい雄たけびが風圧をも切り裂き俺の耳に届く。

 ヴォル・ドラゴンがこちらに向かってきてる!?

 なんで!? フォイエに反応したのか!?

 

 (今度こそ本当に終わりか…)

 

 慣れてもいないテクニックを使って

 迫るヴォル・ドラゴンを躱すのなんて無理だ。

 空中じゃ飛べる奴のほうが有利だしな…終わった。

 

 (って諦めきれるかよッ!)

 

 がむしゃらにフォイエを唱えようとした時、

 急に俺の身体の回転が止まった。

 ヴォル・ドラゴンが俺たちの上方から迫ってくるのが見える。

 ちゃんと、見える。

 

 また回転が始まるかと思ったが

 そのままの姿勢で安定し続けている。

 更に落下速度がほんの少し減少するのを感じた。

 

 (なんだ?)

 

 違和感を感じた瞬間、腹部から声が聞こえる。

 

「すごい~! 僕達、飛んでますよ~!!」

 

 クルスが《ツインダガー》を持って笑っていた。

 飛んでいるからか声が間延びしているように聞こえる。

 

「落ちてるんだよ!!!!」

 

 思わずツッコんでしまったがクルスは満面の笑みだ。

 この子はぶっとんでる。

 状況がわかった上で笑っているのだ。

 この笑みは…

 

 (本気で楽しんでる!?)

 

 守りたくない、この笑顔。

 

「おい! わかってんのか!?」

 

 思わず怒鳴りつける。

 だってそうだろう。

 眼前にはヴォル・ドラゴンの咢が迫っている。

 それを躱せたとしても、

 地面に叩き付けられてジ・エンドだ。

 この状況でヘラヘラ…じゃないが、楽しそうにしてるなんてどうかしてる。

 

「このままだと、死ぬぞ!?」

 

 クルスは一瞬キョトンとした顔をしたが、

 すぐに俺に笑いかけた。

 

「大丈夫ですよ」

 

 笑顔を絶やさず、言った。

 

「僕が守りますから」

 

 どこからくるんだその自信は。

 ここは空中で、相手は龍。

 バランスもギリギリとってるってのに。

 守るだと?

 

 色々と言いたいことはあったが

 クルスは宣言したときには俺の腹の上で向きを変え、

 ヴォル・ドラゴンと相対していた。

 

「しっかり捕まっててください~!」

 

 どこにだよ!?

 ローブが邪魔で捕まりづれぇよ!

 あ、やばっ! はぐれちまう!!

 

 とっさに自分より小柄なクルスの腰回りにローブごと抱き着いた。

 さっきの俺たちとは逆の形だ。

 ていうか細いなコイツ。

 あ、でも筋肉は凄い。

 ってんなこと考えてる場合じゃない!!

 

「あはは、くすぐったいですよ~」

 

 クルスはそういいながらもバランスを崩さずに、頭上から迫るヴォル・ドラゴンを迎え撃つように右手を突き出している。

 

 右手に持っているのはいつのまにか

 《ツインダガー》ではなく、

 《ガンスラッシュ》になっていた。

 片手持ちの剣にも銃にもなる武器。

 状況によって臨機応変に立ち回れる便利な武器だが、

 一撃の火力は他の武器に劣る。

 倒すには力不足であろうその武器を、

 強く握りしめ、銃口を向けている。

 

 (正気かよ!? 効くわけがない!!) 

 

「よし、いきます!」

 

 そう言ってクルスは引き金を立て続けに3回引いた。

 

 "PSO2"には《PA(フォトンアーツ)》という技がある。

 普通に武器で斬ったり撃ったりする通常技と違い、高火力であり、自らが飛び上がったり武器を投げ飛ばしたり、(エネミー)に対し状態異常を与えるなど

 カッコよく、多彩で、強い。

 装備している武器ごとに使える《PA(フォトンアーツ)》が限られているが、習得してさえいればフォトンが続く限り使うことができる。

 戦うアークスの…必殺技だ。

 

 クルスがそれ(フォトンアーツ)を使った様子はない。

 普通の攻撃を3回行っただけだ。

 なのに、(ヴォル・ドラゴン)に向かう弾は。

 

 (でけぇ!?)

 

 巨大な光弾が3つヴォル・ドラゴンに向かっていく。

 それはまさに《ガンスラッシュ》専用の射撃《PA(フォトンアーツ)》。《エイミングショット》のそれだった。

 

 しかし、光弾はヴォル・ドラゴンの顔面に命中する寸前で掻き消えてしまう。

 

「あれ? ダメですか」

「みたいだな!?」

 

 マジかよ、完全に倒せる流れだったじゃねえか!

 確かにヴォル・ドラゴンはゲームの中でも

 《エイミングショット》3発で倒せるほど弱いボスじゃないが、足止めもできないなんて…。

 これじゃどうやっても…!?

 

 それにさっきの光弾が掻き消える現象。

 映画で見たDF(ダーク・ファルス)の力に似ていやがる。

 DFと違って長距離からフォトンを吸収しているわけじゃないが、

 あのヴォル・ドラゴンは超近距離のフォトンを即座に吸い取ってしまうらしい。

 アークスにとって最悪の能力だ。

 なんでヴォル・ドラゴンが…。

 あんなのに勝てっこない。

 

 しかしクルスは再度銃を構える。

 

「じゃあこれですね」

 

 そうは言うものの先ほどの構えと何も変わらない。

 違うこといえばいつまでたっても撃たないことだ。

 こんなことしてる場合じゃない。

 地面も迫ってきている。

 

「おい、聞け! あの(ヴォル・ドラゴン)はフォトンを吸い取る!

 攻撃しても無駄なんだ!

 それよりも《ツインダガー》で回避してなんとか…」

 

 しかしクルスは俺の言葉を遮る。

 

「数度回避できてもまた追いつかれますよ。

 地面に降りるまで回避するのは難しいですね」

 

 まるで諭すように話すクルス。

 話しながらもその視線はヴォル・ドラゴンから離さない。

 

「それなら何が何でも獲物を沈黙させないとダメです。

 現状は…たぶんそれが最善です」

 

 機内でのオバカ発言が嘘のようだ。 

 しっかり状況を見極めているようだった。

 クルスの言葉には説得力はあると思う。

 だが、敵に攻撃が通らないんじゃ意味が…

 

「それに今度はきっと大丈夫ですッ!」

 

 そう言い放ったクルスの右手のガンスラッシュは、

 気づけば直視できないほどの輝きを放っている。

 大量のフォトンが集束している!?

 

 (これって…チャージか?)

 

 銃剣用射撃PA(フォトンアーツ)《エイミングショット》。

 この技は普通に撃つだけでは

 大したダメージを与えられない。

 フォトンを溜めてから発射することで、

 大きなフォトン弾になって敵に大ダメージを与える。

 

 俺はてっきりさっきの3連発こそチャージした攻撃だとおもったが、

 

 (さっきのチャージ無しで撃ったってのかよ!?)

 

 俺が知っているPAと違いすぎる。

 クルスが撃つノンチャージ《エイミングショット》は、

 ゲームでのチャージ済みの《エイミングショット》と同サイズだった。

 

 じゃあクルスがチャージしたらどうなるか?

 もう比べ物にならないくらいでかく強いフォトン弾になるんじゃないか!?

 それならいけるかもしれない!

 

「もう一度しっかり捕まっててください!」

 

 そうか、高威力なら反動もすごいことになる。

 ここでクルスと引き離されたら生きて地面に降りることはできないかもしれない。

 

 どんな衝撃がきても大丈夫なように、

 クルスの腰にしっかり密着し、抱き着く。

 おっぱいが潰れ、『型崩れ』とかいう単語が頭に浮かんだ気がするが、男の俺にはわからん。

 

 クルスの右手は眩しすぎて直視できない。

 フォトンを溜めすぎた影響か甲高い音だけが彼の右手から聞こえる。

 構えた銃剣(ガンスラッシュ)にゆっくりと左手を添えて言った。

 

「"左手は添えるだけ"」

 

 ちょっと待てぇ!

 そのセリフは…!?

 

 思わぬセリフを聞き手の力を緩めて顔を上げてしまった俺は、全力で後悔した。

 

 セリフの直後に打ち出された《エイミングショット》はもはや弾丸とは呼べなかった。

 それは大砲。超高密度の砲弾。

 巨大なヴォル・ドラゴンと同サイズのフォトン弾がクルスの手の先から放出される。

 と、同時にクルスの右手で何かが破砕する音が聞こえた。

 しかし手の先が眩しすぎて見えない。

 

 砲弾はヴォル・ドラゴンに命中したのか?

 何が壊れたのか?

 俺は弾丸の行方を、音の原因を、追うことができなかった。

 《強エイミングショット》の反動で後退してきたクルスの背中に顔面を強打し、その拍子に、

 

 

 今度は一人で空中に投げ出された。

 

 

ーーーーー

 

何かが叫びながら落ちていく。

 

"あーくす"かな?

 

"あーくす"は船無しじゃ飛べない。

 

じゃああの"あーくす"達は死んじゃうな。

 

助けなきゃ! …いや。

 

…"あーくす"なんてどうでもいい。

 

速く"シロ"を助けにいかなきゃ!

 

こうなったら身体が壊れる覚悟で"炎龍"を倒す!

 

あれ? "炎龍"が"あーくす"の方に向かっていった!

 

やった! 今がチャンス!

 

…そうだよ、"あーくす"なんてどーでもいい!

 

あんな奴ら嫌いだ!!

 

嫌い、嫌い! 大嫌い!!

 

…速く行こう。見えなくなるくらい離れよう。

 

ッ!? 何の音!?

 

え、ええ!? あの"炎龍"を、気絶させた!?

 

あの"あーくす"達はいったい…!?

 

あ、別れて落ちていく!

 

片方は大丈夫そうだけど、片方は気絶してる!?

 

どうしよ、た、助けなきゃ!!

 

ま、間に合って!!!

 

 




機内にて
リティア、アメリア、ミリア、ギルバート、先生のおまけ

リ「…うそ」
ア「リティア!」
リ「うそ、うそよッ!」
ア「リティア、しっかりして!」
リ「ちが、私は、私じゃ…」
ア「リティアッ!」
リ「ごめ、ごめんなさ、痛っ!」
ア「ミリアちゃん!?」
ミ「…しっかりする。まだ死んでない」
ア「そ、そうだよ! 落ちたからって死ぬわけじゃ…」
リ「気休め言わないでよッ!!
  この高度から落ちたらいくらあいつでも…」
先「ふむ? それはどうかな?」
ア「先生! あっちのほうは?」
先「だいたい落ち着いたよ。ギルバート君もレダ君も手伝って説得してくれたからね。」
リ「…もっと速く説得してくれたらッ…」
先「だが独断で勝手に動いたのはキミだよリティア君」
リ「ッ!」
ア「先生、そんな言い方…」
ミ「アメリア、静かに」
先「リティア君、キミは優秀だ。現状を見極め、即断し、行動する。その速さも読みも素晴らしいといえるかもしれない。」
リ「…」
先「だが、前も言ったが、独断専行が過ぎるぞ。
  せめて、パーティーに。せめて友人にはどうするか言うべきだ。そうすれば今の事故は防げたかもな。
  キミの独断専行が他のアークスの暴走を招いたのも事実の一つだからな」
リ「…」
ア「リティア…」
先「とまぁ、たらればや過ぎたことはおいといて、このあととうするかだ」
リ「どう…する…?」
先「現状を切り抜け、彼らを探しに行くかどうかだ」
ア「先生、それは…」
リ「生きてるの!?」
ギ「モニターを見るんだ」
ミ「ギル、顔、酷いよ」
ア「殴られたの!? 『レスタ』!」
ギ「なぁに、友人のためだ、問題ない」
リ「…どうゆうこと?」
ギ「少し前の出来事さ、再生したまえ」
リ「………!?」
先「大したものだよ、彼らは」
リ「ヴォル・ドラゴンを吹き飛ばした!?」
ギ「倒すには至ってないが、おそらく気絶させたのだろう」
リ「それにクルス…飛んでる!?」
ギ「まさかあんな方法で飛ぶなんてね」
先「久しく見てないな」
リ「でもあの変なキャストが…え!?」
ギ「そう、そこだ。謎の生物が、その子を助けている」
リ「…これも飛んでいるけど…この姿は…アークス?」
先「その映像だけではなんとも言えない」
ギ「だけど二人共生きている可能性がある」
先「本来なら《試験》前のイレギュラーもあるし、新人未満のキミ達じゃ救出なんて無謀だ。戻って報告するべきだが…」
ギ「エンジンは不調で帰投するには不安が残り」
先「通信は何かの影響でまったく通じない」
ギ「このまま空中で待機してヴォル・ドラゴンに襲われたら間違いなく落ちる」
先「ならばせめてむかえ撃てる地上に降りよう、というわけだ」
リ「…」
ア「そして私達がクルス君を見つけてくるよ!」
リ「!? そんなの危険よ!」
ア「あれあれ~? 危険すぎるAランクエリアに一人で降りようとしたのは誰かな~?」
リ「う…なら私も!」
ミ「ダメ。邪魔」
リ「な!?」
先「パーティー組んで無いし仕方ないな」
リ「…う~…」
ギ「まあ、そういうわけだ。降りたキャンプ地をレダさんと共に守ってくれ。それとパーティー組んでいるんだろう? 通信で彼らの居場所を指示してくれ」
リ「………わかった」
ミ「おかしい、リティアが素直」
ア「リティア、内緒で探しに行ったりしたらダメだよ?」
リ「しないわよッ! 反省しただけ! …それと…」
全「??」
リ「…ありがとう…、二人をお願いします」
「「「「まかせて!」」」」



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