コードギアス 反逆のルルーシュL.E.~贖罪のネームレス (餌屋)
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【ネタバレ注意】設定資料集1:世界関連

本編中に出てきた設定などを随時纏めていきます。
本編未読の方には完全ネタバレになるのでご注意ください。

こちらでは世界関連について纏めていきます。


○新日本

ゼロ・レクイエム後、黒の騎士団副司令である扇要を首相とし独立を果たした日本。

黒の騎士団は「新日本防衛軍」と名を変え継続している。

ホッカイドウ、トウホク、カントウ、チュウブ、カンサイ、キュウシュウ、オキナワと各ブロックに分かれ、各中央政庁の元運営されている。

 

 

○新日本防衛軍

黒の騎士団軍事総責任者であった藤堂鏡志朗将軍を総司令官に置き、新日本防衛を主任務として設立された。

各ブロックの各中央政庁が存在する地区にそれぞれ分散して駐留している。

旗艦は斑鳩級浮遊航空艦二番艦「高天原」。

主力KMFは第七世代KMF相当「暁」。

 

 

○ブリタニア連邦

ゼロ・レクイエム後、ナナリー・ヴィ・ブリタニアとその一派が中心となり国内と軍を再編し国名を変更した元神聖ブリタニア帝国。

平和路線を主軸としており、各国との友好関係を次々と築いていく事に成功している。

また率先して軍縮政策を実施し、それは今や世界的に広まりを見せ始めている。

特に新日本とは戦後直後から友好関係を築き、同盟関係まで進んでいる。

現在の国土は旧帝国本国(現実世界での北アメリカ大陸相当)のみ。

オーストラリア、南アメリカに関しては連邦の支援の元、普通選挙が行われ新政権が樹立。独立している。

 

 

○ブリタニア連邦軍

元ナイト・オブ・ラウンズ、ジノ・ヴァインベルグを司令本部長(総司令官相当)に置き国土防衛を主任務として発足。

帝国時代のイメージを払拭すべく大規模な軍縮政策を実施。

その為嘗てほどの戦力はない。

主力KMFはヴィンセント・ウォード。

改良され、各パイロットの希望に合わせた装備が施せるようにしている。

 

 

○超合衆国

ゼロにより提唱された連合国家。

戦後、新日本独立への援助を行った後解散。

現在は、全く別の枠組みである「国際連合構想」が練られている。

 

 

○新中華

旧中華連邦、合衆国中華で、超合衆国解散後、再独立を果たす。

国家代表は天子であり、彼女が選んだ側近達により意志を国家運営に反映させていっている。新日本とは現状友好国との立場を取っている。

また、天子の意向により約ゼロ・レクイエムの1年後から最側近とされる黎星刻の入院治療を各国の協力の下行っている。

主力KMFは量産型KMF鋼髏であるが、明らかに一国を守る物としては低く、新日本より贈られた暁を元に最新型を制作中。

 

 

○A.E.U.

 

※この項目は作者が「亡国のアキト」をまともに見ていない為独自設定となっています。

 

元E.U.である民主主義国家。

ルルーシュの世界掌握後、超合衆国検証を批准しE.U.は消滅したが超合衆国解散に伴い、改革派が全権を掌握。

A.E.U.(新ヨーロッパ共同体)として各州により協議制により政策が行われるようになる。

しかし一部の識者からは、自州の利益を優先している状態では旧E.U.の二の舞との指摘が既に出ている。

主力KMFはパンツァー・フンメル。決して低くは無い性能ではあるが現行のKMFを大きく下回っており新型の開発が計画された。

しかしその計画は世界的な軍縮の気運により現状凍結されている。

 




以上追加があれば更新します。


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【ネタバレ注意】設定資料集2:兵器関連

本編中に出てきた設定などを随時纏めていきます。
本編未読の方には完全ネタバレになるのでご注意ください。

こちらでは兵器関連について纏めていきます。


○影日向(かげひなた)

武装:ハドロンショット×2、拡散構造相転移砲

特殊装備:ドルイドシステム、絶対守護領域、光学迷彩機能

 

ガウェインと蜃気楼の良部分を組み合わせた最新型をコンセプトとし、ロイド達が研究している新技術を全て詰め込んだまさに規格外のナイトメア。まさに要塞級。

その分機体は巨大化、エナジー消費量も限界まで効率化されているがそれでも大きい。

ガウェイン開発当時の状況に似ているとはセシル談。

 

通信機能とフジサン決戦の場から回収したドルイドシステムの性能を上げ、インターネット接続やハッキング行為などが可能となった。また現時点で足がつかない程のスペックを誇る。

 

フォートレス形態への変形機構は勿論搭載。

更に蜃気楼専用飛翔滑走翼はエナジーウイングの技術を飛翔滑走翼に応用した物。これによって陸海空全てをフォートレス形態でスムーズに移動可能となっている。

 

ドルイドシステムを利用した最新技術である光学迷彩機能は発動中、機体を目視する事が出来なくなる物。

 

武装は蜃気楼を引き継ぎ、相転移砲とハドロンショット2門のみ。膝のスラッシュハーケンは蜃気楼時代使用しなかった事やエナジー効率の問題で不必要と判断し外された。

 

開発当初ハドロンショットを外してハドロン砲に変更し胸の相転移砲と両肩のハドロン砲で攻撃性能を極限まで高めようという案もあったが、エナジー消費量が莫大すぎる事や相転移砲の使い方次第でハドロン砲と同じような攻撃が出来る(所謂ゼロビーム)事もありその案は却下となった。

しかしロイドはナイトギガフォートレスなら実現可能ではないかと考えている。

 

 

○ヴィンセント・ウォード

基本装備:汎用型フロートユニット、新型ファクトスフィア、スラッシュハーケン

追加装備:別記

 

ブリタニア連邦軍制式量産型ナイトメア。

ゼロ・レクイエム以前のウォードとは異なり、汎用型フロートユニットと新型ファクトスフィア、スラッシュハーケンのみ基本装備とし、その他の武装は各パイロットの希望により追加装備される。

 

以下選択可能な武装。

MVS(ソードタイプ・ランスタイプ)、スタントンファ、

アサルトライフル、ロケットランチャー、スナイパーライフル、ライトヴァリス、ブレイズルミナス

 

ライトヴァリスはランスロットの基本装備であったヴァリスを量産化した物で、コスト面の関係上バーストモードを廃されている。

 

 

▽ジノ専用機

高機動戦用にチューンが施され、また武装も回収されたエクスカリバー、ライトヴァリス、ブレイズルミナスが装備されている。

かつての専用機であったトリスタンに搭載されていた可変機構は無い。

 

▽ジェレミア専用機

ロイド達によって製作された。

スタントンファ、レールガンを基本兵装とし、ミサイルコンテナ2機に大型フロートユニットを装備した物を背中に背負っている。

神経電位接続の技術は搭載していない為、サザーランド・ジーク程の性能は無いが元々のジェレミアの操縦技術と重なって当時に匹敵する程の性能を見せる。

 

▽アーニャ専用機

ロイド達によって製作された。

両腕に2門ずつ取り付けたハドロンバズーカと各部ブレイズルミナスを搭載し、モルドレッドのコンセプトを継承した重武装型となっている。

専用に開発されている訳では無いため、機動性はどうしても低い。

 

 

○高天原(たかまがはら)

斑鳩級浮遊航空艦二番艦。新日本防衛軍旗艦。

その名の通り、黒の騎士団旗艦斑鳩を元に建造された。

基本性能は変わっていない。

新日本防衛軍にはこの他、数機の小型可翔艦が配備されている。

 

 

○カインドワールド

新ログレス級浮遊航空艦一番艦。ブリタニア連邦軍旗艦。

戦後新造された物に全て「新」とつけられているだけであり基本性能は変わらない。

軍縮政策により多数配備されていた浮遊航空艦は全て廃棄され、新造されたものはごく少数となっている。

 

 

 

○伊邪那岐

武装:超電磁銃砲(レールガンライフル)×2、制動刃吶喊衝角刀(細身)×2、腰部飛燕爪牙×2

装備:飛翔滑走翼・乱舞、輻射障壁

 

紅蓮の稼働データを元に、影の兵団技術スタッフによって製作されたナイトメア。

外見はランスロットを模した物で基本色が黒色になっている。

武装も、ランスロットを元に決まっている。

 

紅蓮聖天八極式との戦闘を想定して作られており、非常に高スペックな機体として完成された為まともに動かせる人間が見つからなかったが、レムが初回で適合率75%を出したため、専用機となった。

しかし、それでも通常のレムの身体能力では伊邪那岐のスペックに完璧に追いつく事はできない。

 

超電磁銃砲は携行可能な小型レールガン。

カードリッジ式になっておりほぼ使い捨て。

制動刀は初期の藤堂専用月下で使用された細身の物を元にしている。

 

飛翔滑走翼・乱舞は紅蓮のエナジーウイングに対抗して作られた物。

元々はエナジーウイングの再現を目指していたが困難を極めた。その為、元の飛翔滑走翼を発展させることで対抗している。

 

ここまで限界のスペックを追求しているが、それでも紅蓮には一歩及んでいない。

しかし、デヴァイサーであるレムの戦闘技術によりその差が埋まっている。

が、その反面パイロットに掛かるGなどの負担は非常に重い物になっている。

 

 

○伊邪那美

武装:ハドロン砲×2、小型ミサイルタンク×4

装備:大型フロートシステム、輻射障壁

 

Cが搭乗する影の兵団オリジナルのKGF。

人型の上半身に蜘蛛のような下半身を持つ巨大な機体。

サザーランド・ジークとは違い、動きは鈍く高機動戦は不可能といって良いが腕に装備されたハドロン砲とミサイルタンクによる広域戦により敵を寄せ付けない。

 

 

○黄泉比良坂

影の兵団がトロモ機関と関わりのあった技術者も取り込み、長年の歳月をかけて完成させた超大型航空戦艦。

ダモクレスほどの大きさは無いが、高天原の数倍はありナイトメアをスペック上は数百機格納可能。

 

その形状はまさに戦艦に近く、甲板上には主砲として2連装ハドロン砲と対空ミサイルが多数設置されている。

また、大型の輻射障壁発生装置を各部に置いているため、全方位に対しての防御機能が搭載されている。

 

しかし、その全てが手動である事ととてつもないスペックの代償として莫大なエナジー消費量となっている。

その為一度本格的な戦闘行動に入れば、1時間も経たずにエナジー残量が切れて浮遊できなくなり、不時着しなければならない。

地上で起きた場合周辺への損害があまりにも大きすぎるため、基本的には海上での運用しか出来ない。

といったようにその圧倒的性能の反面以上のような大きな弱点が存在する。




追加があれば随時更新します。


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BIRTH01: 魔神が 蘇る 日

※2015/08/26加筆修正


 

ゼロ・レクイエム。

 

それが完遂されたのを俺は自らの胸に起こった激痛で理解した。

 

俺はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。第99代ブリタニア皇帝として世界を支配し、突如『正義の味方』英雄ゼロによって殺された悪逆皇帝。

しかしそれは全て計画。

世界の悪意を全て自分が担い、その自分が死ぬことによって世界を平和へ歩めるようにする。

 

それが、ゼロ・レクイエム。

 

それが今、完遂された。

 

俺は朦朧とする意識の中、自分を刺した仮面の男に最後の言葉(ギアス)をかけ崩れ落ち、最愛の妹の元へ滑り落ちた。

大量の血が流れている。俺は助からない。

 

目の前には驚愕に目を開くナナリーの姿。

 

大粒の涙を流し自分にかけられるは『愛してる』の言葉。

 

その言葉で心が落ち着いていく。

 

 

 

ああ、俺は、

 

世界を、壊し、

 

 

世界を、創る・・・

 

 

 

そして俺の意識は闇に落ちた。

 

 

***

 

 

「・・・ん?・・・はっ!」

 

目を覚ますとそこは豪華な寝室だった。

辺りを見渡しても誰もいない。

 

「まさか・・・死ねなかったのか?」

 

俺は自ら計画したゼロ・レクイエムによって命を落としたはずだ。

そうでなくてはならない。

 

しかし今自分はこうして生きている。

 

「ふふ・・・ふはははは・・・」

 

自然と力のない笑い声が零れる。

 

「一体何のために俺は・・・」

 

世界を騙し、そして自らの命をもって次へと託したはずが・・・

しかし落ち込んでばかりはいられない。

まずは状況を確かめる必要がある。

 

そう思っていると、部屋のドアが開かれた。

 

「お、ようやく目を覚ましたか」

 

現れたのは魔女であり共犯者C.C.と自分を殺したはずの仮面の男、ゼロだった。

 

「お前たち・・・!?」

 

驚きを隠せない。

それも当然だ。

この二人はゼロ・レクイエムの協力者。その二人がここにいる・・・そして今のC.C.の言葉・・・

 

「何故俺は生きている?俺はあの時死んだはずだ。いや待て・・・まさかお前は知っていたのか?俺が生き返ることを!」

 

その言葉にC.C.は呆れ笑いのような表情を浮かべる。

 

「相も変わらず頭の回転は早いな。確証があった訳じゃない。だがあの後・・・Cの世界から戻ってきてからお前の気、お前のギアスが徐々に変質していってる事には気づいていた」

 

「何?」

 

「おそらくお前はシャルルからコードを受け継いでいたんだ。知らない間に」

 

「俺が奴からコードを?一体どういう事だ?」

 

「ルルーシュ。お前はあの時、ギアスが完全覚醒し嘗てのシャルルと同じ存在となった。そして他人のコードを奪うことができるのは完全覚醒した者のみ」

 

「だがコードが受け継がれる方法は多彩だ。お前は無意識の内にシャルルからコードを奪っていたのだろう。その為通常では考えられないイレギュラーが起こり、コードを受け継いだ後もギアスがしばらく使えていたんだ・・・と思う」

 

「思う?」

 

「そう睨むな。はっきり言ってここまでは私の都合のいい推論に過ぎない。私にも訳が分からないんだ」

 

俺は頭を抱えたくなった。

C.C.は嘘なんて一つも付いていないと分かる。

だからこそ頭が痛い。こんなイレギュラー誰が予想していたか。

 

「結局真相は分からないか・・・まあいい、それであれから何年になるんだ」

 

「2日後にはちょうど3年になるな」

 

「3年だと・・・そうか、3年か」

 

それだけ長い時間眠っていたことに驚きを隠せない。

全く、イレギュラーにも程がある。

 

と今度はゼロの方に視線を移す。

 

「それで?お前も知っていたのかスザク」

 

俺の言葉にゼロはその仮面を取る。

その正体は俺の唯一無二の親友、枢木スザクだった。

元々は俺がゼロの正体だったが、ゼロ・レクイエムの為その仮面とその存在理由をスザクに託したのだ。

 

「C.C.から話は聞いてはいた。だけどこうして君と再び会うまで完全に信じることが出来なかった。でも・・・どんどん傷が治っていくのを目の当たりにすると・・・流石にね」

 

「そうか・・・」

 

「でも折角生き返ったルルーシュには悪いけど僕は君に死んで欲しかったと思っている」

 

「え・・・」

 

不意に放たれた言葉に俺は驚き顔を上げる。

予想していなかったわけじゃ無い。俺はこれまで多くの罪を犯し、スザクに対しても恨まれるような事を犯してしまった。

 

しかし顔をあげた俺の前には目に涙を浮かべた親友の姿があった。

 

「勿論ユフィの仇だとかそういうものじゃない。だって・・・死にたくても死ねないというのは、死ぬよりも壮絶な罰だから・・・君がそんな業を背負ってしまったことが・・・僕はっ・・・」

 

そうか。スザクは俺のせいで簡単には死ねないようになっている。

俺は改めてスザクの内心を理解できた気がした。

 

だからこそ正さなければならない。

 

「・・・違うな。間違っているぞ、スザク」

 

「え?」

 

「俺は数えきれない罪を犯した。必要だったものもあったし、必要のなかった罪もあった」

 

「確かに当初の目的とは違う。だが今なら思える。これは当然の報いだ」

 

「ルルーシュ、君は・・・」

 

「スザク。俺はもうルルーシュではない。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはあの時死んだ。俺に名前はない」

 

そう。たとえ思惑が通り世界が変わったとしても多くの人間の人生を狂わせた俺には相応しい罰だ。

スザクは呆然と、しかしどこか面白いような顔を見せる。

 

さて、話している内に俺の中でも整理はついた。

 

「俺はすぐにここを発つ。俺がいれば争いの種になるだけだ」

 

その言葉にスザクは顔を驚きに変える。

 

「どうした?」

 

「くくっ・・・だから言っただろう。坊やはこういう男だと」

 

「いや、まさかここまで行動を言い当てるとは・・・恐れ入ったよ、C.C.」

 

「なんだ?何の話をしている?」

 

一人困惑する俺を差し置いてC.C.とスザクは部屋を出ようとしだす。

 

「お、おい?」

 

「ついてこい坊や。今の時間なら人目を気にせず政庁を歩ける」

 

「C.C.の頼みでね。君のために用意していたものがあるんだ」

 




※加筆修正を行った為後書きを変更しました

初めまして、餌屋と申します。
今作が初投稿となります。どうぞよろしくお願いします。

さて如何でしたでしょうか?
生き返ったルルーシュ。彼の今後は一体?C.C.達が用意していた物とは?

次回「BIRTH02: 再会 と 謝罪 と」。ご期待ください。


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BIRTH02: 再会 と 謝罪 と

※2015/08/28加筆修正


 

俺、C.C.とスザクは長い廊下を歩いていた。

辺りは暗く、真夜中近くであることが見て取れた。

そして俺にはこの場所に見覚えがあった。

 

「ここは・・・旧ブリタニア政庁か」

 

暗い廊下を歩きながらスザクに問う。

 

「そうだよ、今はトウキョウ地区の管轄を担っているトウキョウ政庁さ」

 

「日本全体を動かす類いのものでは無いのか?」

 

「それは旧シンジュクゲットーに丁度1か月前建設されたよ」

 

「何でまたそんな所に・・・」

 

旧ゲットーはこれまでの戦闘で酷い状態のままな筈だ。

そこに国の中枢を置くとは新しい日本のトップはよほど酔狂な奴かもしくは・・・

 

「新日本初代総理大臣の扇さんが『戦争で散った多くの思いを忘れないようにしたい』って」

 

「やはり扇要か、奴なら考えそうな事だ」

 

「良く分かったな?」

 

驚いた様子でC.C.が会話に入る。

 

「別におかしな事ではない。日本が独立した時点で、その立役者たる黒の騎士団幹部の誰かが国の要職に就くのは至極当然だ。その中で適任なのは扇くらいのものだろう」

 

「坊やは扇の事をずいぶん評価していたようだな?」

 

「そうでなければ黒の騎士団の副司令など任せるものか」

 

「くくっ・・・確かに」

 

C.C.はこちらをからかうような笑みを浮かべる。

こんな顔を見るのも久しぶりだな。

なんだそこまで扇の力を買っているのが面白いのか。

 

「さて、ここだルルーシュ」

 

どうやら目的の部屋に着いたようだ。

俺は何が待っているのか内心緊張を覚えながら目の前の扉を開けた。

 

「あ~、ルルーシュさまぁ~。おはようございますぅ~」

 

「ちょっとロイドさん!折角お会いできたのにもう少し雰囲気を考えて話せないんですか!」

 

「あんた達・・・こういう時くらいじゃれ合いやめる事は出来ないのかい?」

 

そこにいたのは俺も良く知る3人だった。

 

「ロイド、セシル、それにラクシャータまで・・・」

 

「やあ、ルルーシュ。ゼロ・レクイエム以来じゃないか」

 

「元気そうで何よりですねぇ~」

 

「ああ、二人とも久しぶりだな・・・」

 

と相変わらずなラクシャータ、ロイドと挨拶をかわす。

 

「おかえりなさい、ルルーシュさん」

 

と、ロイドの副官でもあるセシルがいつにも増して真剣な顔で声をかけてきた。

 

「ルルーシュさん、いえ今だけ陛下と呼ばせてください」

 

『陛下』

 

その言葉は俺が神聖ブリタニア帝国の皇帝として計画を進めていた時の呼び名だ。

既に皇帝では無い俺にわざわざ『陛下』と呼ぶ事、そして彼女のただならぬ雰囲気に俺も身構える。

 

「・・・ああ、なんだセシル?」

 

と俺が返事をすると突然セシルは頭を深く下げだした。

 

「申し訳ありませんでした」

 

「「「「!!!」」」」

 

「私は陛下の計画を聞かされ、そしてそれに何か進言できたはずなのに、一緒に陛下の重荷を背負うことが出来たはずなのに・・・結局ただご命令の通り動くことしかしませんでした」

 

「セシル・・・?」

 

「私はあれからずっと、陛下が実は生きている事を聞かされてからも、心のどこかで悔み続けておりました。もっと何か方法はなかったのか。もっと何かできなかったのか。陛下を見殺しにせず済んだのではないか!」

 

「・・・セシル、それは違うんだ。」

 

「いいえ、違いません!たとえ陛下が気になさらなくても、私が陛下を見殺しにしたと思ったならそれはもう事実なのです!」

 

「・・・」

 

「ずっと、謝りたかった。申し訳ありません」

 

俺は周りの皆を見回す。その顔は一様に彼らも、ラクシャータでさえ、セシルと同じ気持ちだという事を示していた。

 

そう、彼らは悔やんでいるんだ。

 

独りで突っ走ってしまった俺を止められなかった事、助けることができなかった事、理解することができなかった事・・・

 

「お前の言いたいことは分かった。だとしても俺は別に謝って欲しくなんてない。分かってくれるな?」

 

「・・・はい」

 

 

 

俺は思う。自分はこんなにも多くの人間を悲しませていたのかと。

 

俺は思う。今だけは彼らの気持ちを受け止めるためルルーシュでいなければならないと。

 

そして俺は改めて気づく。

 

(ああ、俺はこんなにも思われていたのか)

 

それならば自分のした事は。

 

自分のしてきた事は。

 

俺には謝られる価値なんてない。

 

これは死ぬことだけでは到底購えないようだ。

 

だからこそまず言葉にしよう。

 

俺が以前は出来なかった事。

 

出来なかったがゆえに沢山のすれ違いを起こしてしまったからこそ今度は。

 

 

 

「こちらこそすまなかった。ありがとう、ただいま」

 

自分の気持ちをきちんと言葉に。

 

 

 




※加筆修正を行った為後書きを変更

如何でしたでしょうか?
生前気づくことの出来なかった想い・・・
これからルルーシュはどれだけの想いに向き合うことになるのでしょうか。

次回「BIRTH03: 旅立ちの ネームレス」ご期待ください。


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BIRTH03: 旅立ちの ネームレス

※2015/08/28加筆修正


それから、ひとしきり自分の現状、俺のギアスの事について、そして今の世界情勢を聞き終えた俺はC.C.の用意した食事を取りながらロイドたちが何やら作業をするのを眺めていた。

 

「そういえば、俺に用意していた物とはなんなんだスザク」

 

「ああ、今ロイドさんたちが準備しているものがそうだよ。といっても薄々感づいているだろうけど」

 

確かに見当はついている。というかつかなければおかしいくらいだ。

この部屋には大量のKMF、ナイトメアフレームがある。

なら必然的に用紙していたものとはKMFの事だろう。

しかし何故・・・

 

「何故俺にナイトメアを用意していたんだ?」

 

「C.C.がね、『坊やが目を覚ませば贖罪だーとかいって旅に出ようとするだろうからその時のために専用の脚を用意してやりたいって」

 

「C.C.が・・・」

 

なるほど、だからスザクが驚いていた訳か。

というかC.C.よ、何故そこまで読むことが出来た。

何か妙に悔しい・・・

 

「別に坊やが目覚めなかったら私が貰っていたんだがな」

 

「その言葉で色々台無しになったぞ!」

 

全くこの魔女は初めて会ったときからこんな調子だ。

 

「お待たせしましたぁ~」

 

そんな事をしている間にロイド達がKMFを運んできた。

 

「これが君の為に用意した専用KMF、『影日向』だ」

 

「これが・・・」

 

そこにあったのはどことなく蜃気楼に似てはいるが大きさはガウェイン並かそれ以上のナイトメアだった。

 

「見てわかると思うけど蜃気楼のデータを元にしてるわぁ」

 

ラクシャータがファイルを俺に手渡してくる。

見たところこのナイトメアの仕様書のようだ・・・おいちょっと待て。

このスペックは・・・

 

「コンセプトとしてはガウェインと蜃気楼のイイトコ取りって感じよぉ。通信機能と回収したドルイドシステムの性能を上げたおかげで足をつけずにインターネット接続が出来るようになったし、大体の事は出来るわぁ」

 

とラクシャータは何でも無いことのように言っているがこの性能ならハッキングも楽に可能だぞ・・・何故ゼロや皇帝時代にこれが無かったのかと思ってしまう位には。

 

「フォートレス形態への変形機構と蜃気楼専用フロートシステムにエナジーウイングの技術を応用した改良型によって陸海空全てで移動する事を可能にしています。

またドルイドシステムを利用した絶対守護領域は勿論、我々最新技術である光学迷彩機能を搭載させました。発動中は目視する事は出来ずに移動する事が可能になります。」

 

そう、なんといってもこの光学迷彩という技術が凄まじい。

これが軍事面で実用化されれば非常に驚異となるだろう。

今の情勢的にはあり得ないがもし他国と戦争状態に突入すれば敵地偵察など使い道はいくらでも思いつく。

 

「そして武装は相転移砲とハドロンショットですねぇ~。ただこれだけの性能を発揮するにはいくら効率化してもかなりのエナジーを必要としたので必然的にフィラーは巨大化して大きさもこぉ~んなにでかくなっちゃいましたぁ~。でも大きさの分居住性は蜃気楼以上になったと思いますよぉ~?」

 

「連続稼働時間は?エナジーが少なくなったらどうする?」

 

「通常の移動だけだと約3日間、フルスペックで稼働すれば1日持てば良い方ですねぇ~」

 

「補給に関してはどこか拠点を用意して頂ければ必要な設備を送らせて頂きます。」

 

「まさか一生宿無しなんてするつもりないだろうねぇ?」

 

すまん、ラクシャータ。

 

図星だ。

 

「如何ですかぁ~?僕たち頑張ったんですよぉ~。」

 

 

・・・

 

 

頑張りすぎだ!!

 

ハッキリ言おう、今の俺に何てモノを用意しているんだこのマッドサイエンティスト達は!!

どれも明らかに規格外すぎる性能、量産化するにはほど遠いワンオフ物。

この要塞級のナイトメアなら小国くらい簡単に落とせるぞ!!

しないけども!

忘れていた。こいつらは常にナイトメア技術において世界平均の遙か先を作り出すんだ。

始めてランスロットを見た時、勿論スザクの操縦センスもあるが化け物かと思うくらいだったしな。

俺は明らかな震え声でロイドに感想を伝える。

 

「・・・ハハ、すごいな」

 

いかん棒読みになっていないかが心配だ。

 

「あんたに借り作りっぱなしじゃ目覚め悪いからねぇ」

 

「借り・・・?」

 

「世界を変えてくれた借りよぉ」

 

「・・・そうか、ありがたく受け取ろう」

 

そう言って俺とラクシャータは顔を合わせ笑みを交わす。

 

 

早速起動準備を始めた。

影日向はまるで長年乗っているかのような違和感の無さをもたらしてくれる。調整は完璧のようだ。

 

「もう、いくんだね」

 

スザクが寂しげに話しかけてくる。

 

「ああ、善は急げともいうだろう?動くのは早い方が良い」

 

「ぷっ・・・それはちょっと意味が違うんじゃないかな」

 

「む・・・」

 

良かった。どうせなら笑って見送って貰いたい。

それくらいの我が儘は許して欲しいものだ。

 

「さてルルーシュよ、最後に聞きたい。さっきお前は名前を捨てると言ってたな?」

 

C.C.が至って真剣な顔で聞いてきた。

 

「ああ」

 

そう。俺は名前を捨て世捨て人として生きていく。その覚悟は既についた。

 

「ならこれからお前はなんと名乗るんだ?まさかゼロを名乗るわけではあるまい」

 

「当たり前だ。・・・そうだな、名前が無いのだから適当に『ネームレス』で良いんじゃないか?」

 

「なんだそのまんまではないか。もっと気の利いた名前はないのか?」

 

「別に良いだろう。それともなんだ?L.L.とでも名乗れば良いのか?」

 

「・・・違和感がありすぎるな」

 

「だろう?」

 

昔のような冗談を交わしていると自然と場に笑いが生まれた。

うん、やはり悪くない。

 

「じゃあ、一旦さようならだ。とはいえ拠点の事もあるしまた連絡する。世話になるな・・・」

 

「気にするな、またな坊や」

 

「それじゃあお気をつけてぇ~」

 

「達者でねぇ」

 

「お元気で・・・」

 

「またどこかで。親友」

 

ああ・・・ありがとう。

 

 

そうして俺は影日向を駆り政庁から飛び去ったのだった。

 




※加筆修正を行った為後書きを変更

以上第3話でした。

次回はあの原作キャラが登場します。
それでは「BIRTH04: ソレゾレの 後悔」、ご期待ください。

<追記>オリジナル機体「影日向」の機体設定を活動報告にて公開しています。気になる!という方はそちらも是非。


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BIRTH04: ソレゾレの 後悔

※2015/08/29加筆修正


光がカーテンの部屋に差し込む。

 

「ん・・・もう朝かぁ」

 

私は目を覚ますと素早く体を起こしキッチンへ向かう。

さて朝ご飯の用意だ。今日は得意のベーコンエッグ。

二人分を作り終える頃にはお母さんも起きてきて一緒に食事をする。

これが私、紅月カレンの平和な朝の日常だ。

 

窓の外から登校途中だろうか、小学生の笑い声が聞こえてくる。

日本人にとってこんな風景はずっと夢物語だった。

 

ここ新日本は長い間戦争状態だった。

日本と神聖ブリタニア帝国の戦争、敗北し日本を占領したブリタニアへ反旗を翻すレジスタンス活動、仮面の男『ゼロ』率いる武装組織『黒の騎士団』とブリタニアの戦争、そして世界を手に入れようとした皇帝ルルーシュとの戦争・・・

その終わりはちょうど3年前、世界征服を果たしたルルーシュがゼロにより殺される事によって訪れた。

 

そして今、世界は目に見えて変わり始めている。

 

戦争は無くなり世界は『優しい世界』になろうとしている。

 

そう、彼の望んだ通りに・・・

 

 

 

 

 

「どうかしたの?カレン」

 

お母さんに心配そうな声をかけられようやく私は現実に戻ってくる。

節目の時期だからだろうか。

最近当時の事を良く考えるようになった。

そしてその度胸が締め付けられる。

どうやらそれが顔にも出ていたようだ。

 

「ごめん、何でも無い」

 

そういってお母さんに笑顔を向ける。

 

「なら良いのだけど・・・そういえば今日は予定があったんじゃないの?」

 

「え・・・ああ、そうだった!やっばい!」

 

そうだ今日は待ち合わせだったんだ。

忙しい所を時間作ってくれたらしいし遅れたら申し訳ない。

 

「ごめんお母さん、行ってくる!帰りは遅くなるから!」

 

そういって家を飛び出す。

行き先は、旧シンジュクゲットー。

 

 

***

 

 

『本日はあの悪逆皇帝ルルーシュがゼロにより討たれ世界が平和を取り戻して丁度3年目の解放記念日!各地では午後より順次記念の催し物が開かれる予定です!そして新日本で行われる記念式典にはブリタニアより・・・』

 

街頭ビジョンでニュースキャスターが喋っている。

その顔を私はにらみつける。

笑顔を浮かべた顔、さも当然の如くルルーシュを貶める口、えらく嬉しそうな声色・・・

 

その全てが気にくわない。

 

「何も知らないで・・・」

 

そこまで言いかけて止める。

 

 

『私』は『絶対に』言ってはいけない。

 

『私』には彼らを非難する『資格なんて無い』。

 

 

そう彼の事情、彼の本当の思いを一番気づけたはずなのに気づいてあげられなかった私に彼らを非難する資格なんて・・・

 

「・・・っ!」

 

そうして私は目的地に向かって走り出した。

そこから逃げ出すようにして。

 

 

***

 

 

「ふぅ・・・ようやく書類が片付いたな・・・」

 

そう呟くと俺は一息入れようと立ち上がり部屋に備え付けのコーヒーメーカーに向かう。

この部屋は新日本首相である俺、扇要の執務室だ。

 

今から丁度3年前、俺達の盟友であり最大の敵だった男が死んだ。

その名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、またの名をゼロ。

そう。世界を支配した悪逆皇帝ルルーシュはその前に仮面の男ゼロとして俺達と共に戦っていた。

彼は他人を意のままに操る異能の力『ギアス』を使っていたとして俺達から信用を失い、袂を分かった。

そして彼はブリタニア皇帝となり世界を支配するため俺達と戦い、勝利。

しかしその後、突如現れた『今の』ゼロによって殺されてしまう。

それが丁度3年前。

 

そしてその後、新日本として独立したこの国のトップとして黒の騎士団副司令だった俺が就任する事になった。

 

大変な3年間だった。

 

独立したての新日本を復興させる為にトップとして様々な重荷を背負った。

色んな国に飛び、外交を行った。

慣れない駆け引きも何度やった事か。

勿論サポートは付いていた。

だがそれでも俺は気の休まる事が殆どなかった。

 

彼はこんな苦労をし続けていたのか。そう気づいたのは随分経ってからだった。

 

彼、ルルーシュの思惑・・・彼が計画したゼロ・レクイエムの意味は彼が死んだ後黒の騎士団の主要メンバー全員に『今の』ゼロから教えられた。

俺達は驚き、そして悔やんだ。

 

 

彼を追い出した事を。

 

彼を理解してあげられなかった事を。

 

気づくのが遅すぎた事を。

 

 

少し考えれば分かった事だったのに俺達は目先の感情を優先してしまった。

特に俺は自分の事を棚に上げて彼を真っ先に見捨てた。

 

何度悔やんだ事か。

 

無意識に拳を握りしめる。

『彼が望んだ世界をずっと続かせる。』

それが俺の贖罪だと言い聞かせここまで生きてきた。

だが・・・

 

ピーッ

 

机の上の電話から電子音が鳴る。内線が入ったようだ。

俺は急いで取りに向かう。

 

「扇だ」

 

『首相、面会予定の紅月カレンさんがお越しになりました』

 

「分かった、そのまま通してくれ」

 

会う約束をしていたカレンがやってきた。

 

俺は急いでコーヒーメーカーの前へ戻り古い友人をもてなす準備を始めた。

 

その顔は・・・酷い有様だった。

 




如何でしたでしょうか?
いかんせん序盤は説明口調が多くなるのが目下の悩みです。

さて遂にカレンと扇の登場です。
予想通りな方もいらっしゃるかと思いますが本作での扇は今回のような感じになっております。
めっちゃ扇、悔やんでます。
さて今後彼らはどう動くのか。

次回、「BIRTH05: 出会う 二人」ご期待ください。


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BIRTH05: 出会う 二人

※2015/08/29加筆修正


コンコン

 

扉をノックする。自由に出入りしていいと言われているが最低限の常識は私にだってあるし。

 

「入ってくれ」

 

そう中から返事が返ってきたのを確認し、扉を開く。

 

「扇さん・・・久しぶり」

 

「ああ、カレン。ちょうど1年ぶりだな」

 

扇要さん・・・私のお兄ちゃんの親友でずっと一緒だった。黒の騎士団に参加していた間も。

 

「・・・酷い顔ね」

 

「・・・お互いな」

 

やっぱり。私の顔も相当酷いものらしい。

 

 

***

 

 

その後私と扇さんは、扇さんが入れてくれたお茶を片手にソファーで世間話に興じていた。

 

 

 

しばらくして、扇さんがおもむろに話し始めた。

 

 

「しかしなんだ。ここでこうして毎年話すのも3回目か・・・」

 

「私とお喋りするためにわざわざ時間空けてくれてありがとね」

 

「何、古い仲なんだ。たまにはゆっくり良いだろう」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

しばらく私たちの間に沈黙が訪れる。

扇さんが何を考えているか、分かるような気がした。

・・・多分私も同じ事を考えているから。

 

 

「・・・もう3年か」

 

「そうね」

 

「早かったな・・・」

 

「・・・そうね」

 

「・・・」

 

「扇さん・・・」

 

「・・・俺はな、カレン」

 

扇さんは顔を・・・苦しげに歪ませながら話し出す。

 

「この3年間ずっと悩んできた。あの日、『今の』ゼロにルルーシュの真意を教えてもらった時、今までの自分を後悔した。そして『彼が望んだ世界を必ず守り抜く』。そう誓った」

 

私は口を挟まない。

この人のこんなにも苦しげな表情を見たのは生まれて初めてかもしれない。

そう考えると挟んではいけない気がした。

今は最後まで話を聞くべきだ、そう思えた。

 

「だがな、やっぱり思うんだ。俺にそんな資格があるのかって。彼に恨まれているだろう俺が、そんな都合の良い事続けて良い道理なんてないんじゃないかって・・・そう思うんだ」

 

「扇さん・・・」

 

「やっぱり俺は近いうちに、首相を降りた方が良いって思ってる」

 

「なっ・・・!」

 

「その方が良い。元々柄じゃなかったし、彼も望んでいないだろう」

 

「・・・本気でそう思っているの?」

 

「・・・ああ。後任も探し始めた所だ」

 

ああ・・・駄目だ、我慢できる訳がない。

 

「・・・ばっかじゃないの!?」

 

「カレン・・・」

 

私は怒りのままに立ち上がる。

 

「あんた本当にルルーシュが恨んでいるとでも思ってるの!?だとしたら扇さん、あんたは大馬鹿よ!!」

 

「だがカレン・・・」

 

「あいつはね!皆から見放されて殺されそうな時でも、嘘をついて私を生かそうとするそんな奴よ!?」

 

「・・・」

 

「本当に憎んでいるならあの決戦の時か終わった後すぐに殺されてる!なんで『何故生かされたか』考えないの!?」

 

目から涙が溢れ出てくる。

でも構うもんか。

だって今扇さんに伝えなきゃ、あいつのやった事が無駄になる、そんな気がしたから。

 

「ルルーシュは言ってたわ。『確かに扇は戦略家向きではない。だがそれ以上に部下から慕われ、支えられる『優しい』心を持っている。それは俺には無い一つのカリスマ性だ。そしてそれはリーダーに重要な素質だ。』って」

 

「彼がそんな事を・・・?」

 

「それにね、万が一恨まれるなら私の方がよっぽど恨まれるような事をしたわ・・・絶対に許されない裏切りを・・・」

 

「カレン・・・」

 

「何でもない・・・ごめん。言い過ぎた」

 

「・・・いや俺の方こそすまなかった。考え直すよ。ちゃんと」

 

「うん・・・」

 

 

沈黙

 

 

ピーッ

 

 

と、気まずい空気を内線の音が断ち切った。

 

扇さんは内心ホッとした様子で急いで内線を取りに行く。

私もこの雰囲気が続くのは本意ではなかったから丁度良かった。

 

「扇だ」

 

『首相、そろそろ空港に出発のお時間です』

 

「分かった、すぐ用意する」

 

扇さんは内線を切ると、急いで荷物をまとめ始めた。

 

「すまないなカレン。今からナナリー代表を迎えに行かないと」

 

「そっか、今日の式典はナナリーも来るんだったね」

 

「ああ・・・気が引けるが彼女の希望、いや決意でもあるからな」

 

「そうね・・・さて、私も帰るね」

 

「今年も式典前のパレードは・・・」

 

「見に行くよ。前も言ったでしょ?見届けなきゃいけない気がするんだ。」

 

「・・・無理はするなよ」

 

そう言って扇さんは足早に部屋を出ていった。

 

「さて・・・私も行くとするかな」

 

 

***

 

 

あれから少しして、私は記念祭に沸くトウキョウの町中を歩いていた。

辺りは屋台なども出ていてその名の通りお祭りムードだ。

・・・その全てがルルーシュが死んだことを祝うもの。

 

「こんな光景ルルーシュが見たら何て思うかな・・・」

 

怒るかな。

意外としょげたりして。あいつメンタル面は弱目だし。

 

そんな事を考えると前から来た人と肩が思いきりぶつかってしまう。

 

「いたっ」

 

「いっつ・・・あぁ、ごめん大丈夫!?」

 

「いや・・・こちらこそすまない。前をしっかり見ていなかったか・・・ら・・・」

 

「私の方こそ考え事していてホントごめ・・・ん・・・」

 

私はぶつかった相手の顔を見た瞬間、驚きのあまり声を失う。

相手の方も驚いているのか私をずっと見つめている。

 

しばらくしてやっとの思いでお互い言葉を吐き出す。

 

 

 

 

 

「カレン・・・?」

「ルルーシュ・・・!?」

 




※加筆修正により後書きを変更

ルルーシュこんな所で何やってんだよ。
そう思うのも無理は無いと思います。
そんな次回はルルーシュ視点をお届け。

それでは次回「BIRTH06: 再会する 二人」をご期待ください。


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BIRTH06: 再会する 二人

※2015/08/29加筆修正


 

   時はルルーシュ政庁出発直後まで遡る

 

 

***

 

 

俺は影日向で政庁を出発後、トウキョウ地区の手頃な森林エリアに一度機体を下ろした。

 

「さて・・・出発したは良いもののこれからどうするか・・・」

 

今後の予定を考える。

初めに宣言した通り世界を見て回るのも悪くないだろう。

しかしまだ目覚めて数時間しか経っていない状態の俺は知らないことが多い。

基本的な世界情勢をスザクから教えては貰ったが十分とはいえない。

それに・・・この日本には少なからず愛着はある。

 

「よし、まずは新日本を見て回るとするか・・・」

 

俺は影日向のコンソールを展開しネット通信を開始、インターネットで情報収集を開始する。

というのも今はまだ午前4時、日も昇っていない。

今外を活動しても何もする事がない俺はとにかく空白の3年分の知識を得ようと考えたのだ。

C.C.達から聞いた知識だけではやはり足りない。

自ら調べ、自ら知ろうとする。これが大事なのだ。

 

「・・・本当良くこんな代物を俺に用意したな」

 

改めてこの影日向の性能には目を疑うものがある。

・・・あいつら本当に分かってやっているのだろうか?

 

そんな事を考えつつ調べを進めていると、『明後日は世界解放記念日!』という特集記事が目に入った。

どうやらゼロ・レクイエムの日が全世界共通の休日となり、各地で悪逆皇帝ルルーシュが死んで世界が自由になった事を祝う記念祭が開かれるようだ。

 

「・・・」

 

複雑だ。

覚悟はしていたがやはり憎しみという重荷は中々辛い物がある。

 

もやもやとした気持ちを抱えながら記事を読み進めていくと気になる一文を見つけた。

 

「何・・・『新日本旧シンジュクゲットー特設会場にて記念式典開催。今年もナナリー代表来日予定』だと」

 

ナナリーが民主化したブリタニア連邦の代表になった事は聞いていたが、日本に来るだと・・・

しかもこの文面だと毎年の記念式典に来ているようだ。

まあ、何かナナリーにも思う所があるのだろう。

 

「ナナリー・・・」

 

無性に最愛の妹であるナナリーに会いたくなる自分がいる。

しかしもはや俺には会うことは許されない。

 

「まあ一目見るくらいは良いか・・・元々街は見て回るつもりだし」

 

芯が全く通っていない事を情けなく思う気持ちを色んな言い訳でごまかしつつ、俺は行動を開始した。

 

 

***

 

 

2日後。

めでたく世界解放記念祭がここ新日本トウキョウ地区でもスタートした。

 

俺は祭りに沸く街中を歩き回りながら、人々から真の笑顔が溢れているのを感じていた。

その笑顔が自分が死んだことを喜ぶ笑顔というのが本当に複雑ではあるが。

いや理屈では分かっているんだ。

理屈では・・・な。

 

さて今俺はキャップにサングラスをかけて最低限怪しまれない程度の変装をしている。

万が一バレてしまっては大変な騒ぎになることは目に見えているからな。

変装道具は記念祭当日までに適当に購入しておいた物を使用している。

ヒヤヒヤ物だったが何とかバレずに済んだ。

 

ちなみにギアスは使っていない。

というか使えない。

コードを持つ者はギアスの能力を失うとC.C.から教えて貰った。

 

屋台のジュースを片手に街を散策していると一際大きい街頭ビジョンが見えてきた。

 

街頭ビジョンでは空港からの中継でナナリーが到着するのを今か今かと待ち続けている。

アナウンサーが新日本首相の扇がまもなく空港に到着するという知らせを伝えている。

 

それを眺めながら歩いていると前から歩いてきた女性と肩がぶつかってしまった。

 

「いたっ」

 

「いっつ・・・あぁ、ごめん大丈夫!?」

 

「いや・・・こちらこそすまない。前をしっかり見ていなかったか・・・ら・・・」

 

「私の方こそ考え事していてホントごめ・・・ん・・・」

 

俺はぶつかった相手の顔を見る・・・と見覚えのある顔で思わず声を失ってしまう。

すぐにしまったと思ったが相手の様子を見る限りもう遅い。

 

しばらくしてやっとの思いでお互い言葉を吐き出す。

 

 

 

 

 

「カレン・・・?」

「ルルーシュ・・・!?」

 




※加筆修正により後書きを変更

如何でしたでしょうか。
今作のルルーシュはギアスを失っています。
ギアス無しのルルーシュですが特に問題はないんじゃないかって思ったりします。

それでは次回、「BIRTH07: 動き出す 異変」ご期待ください。


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BIRTH07: 動き出す 異変

お久しぶりです餌屋です。
本当に・・・大変お待たせしました。




メインストリートから外れた裏路地。

そこに一組の男女がいた。

間に流れるは気まずげな沈黙。

 

「「・・・」」

 

その沈黙を破ったのは男の方だった。

 

「ひ・・・久しぶりだな、カレン」

 

「・・・ええ、そうね」

 

 

***

 

 

「「・・・」」

 

(は、話が続かない・・・ど、どうする・・・)

 

俺、ルルーシュは焦っていた。

 

まさか出発して早々自分の事を知っている相手に出くわすとは思っていなかった。

うっかりにも程がある。以前では考えられないような失態・・・いや前は前で良く大ポカをやらかしていた気がする。

 

いやそんな事はどうでも良い、取りあえずどうやってこの場を切り抜ける・・・

少しでも不用意な発言をすれば・・・想像もしたくない。

 

「・・・それで?」

 

「ひっ!」

 

突然カレンに話しかけられた俺は思わず悲鳴を上げてしまった。

 

「・・・何?突然悲鳴あげて」

 

いわゆるジト目で俺を睨むカレン。

 

「いや!何でもない!そ、それで?」

 

「どういう事か説明してくれるんでしょうね・・・」

 

まずい、誤魔化しは絶対許さないとも言わんばかりの顔だ。

 

ふと、以前の癖でギアスを使おうかと考えたが今の俺はギアスを使えない。

これはC.C.曰くコードを手に入れた代償との事。

まあ、ギアスが使えたとしても俺は一切使わないようにしているだろうが。

・・・まずカレンには一度かけているから無理か。

 

「・・・話すと長くなるぞ」

 

「今更何言ってんの。上等じゃない」

 

 

***

 

 

「つまり・・・あんたはC.C.と同じ不老・・・不死?みたいな物になっちゃったと」

 

「まあ簡単にいうとそうだな」

 

「はぁ~・・・」

 

頭を抱えるカレン。

 

「・・・まあ想定外だったらしいし信じてあげるわ」

 

「すまんな、色々・・・」

 

「・・・謝らないといけないのはこっちよ」

 

「ん?」

 

「なんでもない!それで?あんたこれからどうするの?」

 

「あ、ああ。元々記念式典の中継とその後のパレードを見物しようかと思っていたんだが」

 

「そっか、ナナリーが来ているんだもんね」

 

「ああ。直接会うことはしないが、旅に出る前に一目・・・な」

 

「ふーん・・・じゃあ早速見に行きますか」

 

「なんだその意味ありげな視線は・・・おい無視して行くな!」

 

 

***

 

 

こうして今俺とカレンはメインストリート中央の巨大スクリーンを眺めている。

画面には式典の中継が流れており、扇やナナリー、スザク扮するゼロが映し出されていた。

今は丁度ナナリーが新しくなったブリタニアの代表としてスピーチをしている所だ。

 

(立派になったな、ナナリー・・・)

 

そう感慨にふけっていると。

 

 

 

 

突然、異変が起きた。

 

ドゴーンという爆発音が起き、煙が会場内に舞う。

銃声が鳴り響き、多くの悲鳴が上がる。

煙の中から人型の巨人やライフルを持った黒ずくめの男達が現れ暴虐の限りを尽くす。

ゼロが大勢の男達に取り囲まれる。

 

そんな映像がスクリーンに映し出されたのだ。

 

「何だと!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

俺とカレンはお互い驚きを隠せない。

周りの観衆の殆どが未だ何が起きたか理解しておらず、ドッキリの類いかと言う者もいる。

しかし俺やカレン、戦場を知っている者は否応無しに理解させられた。

 

そう。

 

式典が何者かに襲撃された。

 

 

見たところ、歩兵にナイトメアまで揃っている。

 

「い、一体どうなってるのよ!しかもナイトメアまで!どういう事!?」

 

「くそっ、映像だけでは状況が・・・っ!そんな・・・」

 

 

しばらくして中継映像は途切れた。

 

最後に俺の目に入った映像は・・・

 

 

「ナナリー・・・!?」

 

ナナリーが武装集団に拉致される瞬間だった。




如何でしたでしょうか?
結構無理矢理な気がしないでもない。
ようやく本格始動できます。

次回は式典会場sideをお送りする予定です。
執筆進度などは活動報告でもお知らせしますのでよろしければそちらもどうぞ。


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BIRTH08: 世界解放 記念 式典

私の乗る新ログレス級浮遊航空艦一番艦「カインドワールド」がゆっくりと高度を下げ、空港へ着陸する。

それまで手をつけていた書類類を一つに纏め、側にいる補佐官に預けて私は出口へと車椅子を走らせる。

 

一年ぶりに私は多くの時を過ごし、そして兄が亡くなったこの国へ戻ってきた。

 

神聖ブリタニア・・・いやブリタニア連邦代表、ナナリー・ヴィ・ブリタニアとして。

 

 

***

 

 

私が艦から姿を出すと多くのマスコミの方々、新日本の皆さんが歓迎の声を上げてくださる。

それに手を振りながら地上へ降りると、新日本首相の扇さんとゼロ・・・スザクさんが近づいてきた。

 

「お久しぶりです、ナナリー代表」

 

「ご無沙汰しております。一年ぶりですね、扇首相。といっても何度かテレビ会談は行っておりますが」

 

「ははっ、確かにそうでした。それではこちらへ」

 

そうして扇さんは私を先導し用意してくださった車へ案内してくれる。

それに従い進む私の側にスザクさんが寄り添う形になる。

今年で3回目となる一般市民の皆さんには見慣れた光景がそこにあった。

 

 

***

 

 

車に乗り込んだ私、スザクさん、扇さんは目的地に着くまでの少ない時間近況報告など雑談にふけっていた。

国の状況、日々の公務の愚痴、これからの事・・・

話題は尽きず直ぐに目的地、記念式典の特設会場に到着した。

 

会場内はフジサン決戦などで亡くなった分かっている範囲の方々の鎮魂を目的として多くの花と名前が飾られている。

 

私は指定された参列者席の一番前に陣取り、式が始まるまで思いにふける。

 

3年前起こった悲しい戦いの中で命を落とした多くの方々の覚悟や無念に完全に理解することなど出来ないと察しながらもそれが私の責務と考え、想いを巡らせていく。

 

そして最後に思い浮かぶのは、自分にとって最愛の兄の顔。

 

兄はいつでも私のことを第一に考えていた。

しかしいつからか想いがすれ違い、思惑が交差し、最後には永遠に別れることになってしまった。

 

あの日、あの場所、兄が自分の前で死んでしまった時。

 

私は兄がどれほど苦悩し、どれほど辛い思いをし、どれほど自分を愛してくれていたかを知った。

 

普通なら絶望し、心が壊れていただろう。

 

でも私は最後に兄の想いを全て理解できたからこそここにいる。

 

 

 

全ての罪を背負い。悪逆皇帝の妹として。自分の全てを賭けて。

 

私は・・・

 

『それではただいまより第3回世界解放記念式典をはじめさせて頂きます』

 

そこで私は現実に戻ってきた。

 

『まずはブリタニア連邦、ナナリー・ヴィ・ブリタニア代表よりスピーチを頂きたいと思います。ナナリー代表、どうぞ壇上へ』

 

「はい」

 

私は司会の方の言葉を合図に、壇上へあがり数百人にも及ぶ参列者の方々と中継を見ている全ての人へ向かい合う。

 

 

「ただいまご紹介にあずかりました、ブリタニア連邦代表ナナリー・ヴィ・ブリタニアです。この式典も今年で3回目となりました。様々な悪意が消え、世界が平和になった記念すべき日です」

 

多くの視線が私を貫く。

昔の私なら気圧されてしまっていたかもしれない。でも今の私は、全てを背負うと決意した私には・・・

 

(お兄様が付いてくださっている私には何てことない。)

 

「私達は平和な世界を創る為に命を賭していった多くの方々に感謝し、この平和を末永く続けていかなければならない事を今日、再度心に留めなければなりません。それは長く、困難な道のりでしょう。実際未だ我々の間には懸念事項がいくつか残っています。しかし」

 

「少なくとも今日この日に限っては、世界中の心は一つになっているはずです。ならば末永く世界が分かり合い、皆が皆を思いやる、優しい世界は夢ではないはずです」

 

「そして私は自分の兄ルルーシュの犯した罪を全て背負い、優しい世界を実現する為この身を捧げる事を改めて誓いましょう」

 

そう。善悪はどうであれ兄の道は決して正解ではない。

 

もしかしたら正解などないのかも知れない。

 

でも、残念だが兄は過ちを犯したと言わざるを得ない。

 

ならば私はその罪を全て背負ってでも、私が望み兄が目指した優しい世界を実現しよう。

 

「全世界の皆さん、どうか少しでも、今以上に相手の事を、大切な周囲の人達の事を想ってあげてください。それだけで世界は私達の望む物へ・・・」

 

そう締めくくろうとした時、本当に微かではあるが、聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。

 

『優しい世界・・・?そんな物ただの理想、ただの夢物語・・・やはり貴方は陛下の妹君として相応しくないようだ』

 

その声を認識した頃には。

 

 

 

会場を異変が襲った。

 

 

突如起こる轟音と揺れ。

現れる武装した黒装束の男達。

一部崩れ落ちた天井からはナイトメア、暁可翔式が数機舞い降りてくる。

煙が舞う会場内には銃声と悲鳴が木霊する。

 

「ナナリー!」

 

聞き慣れた声が私を呼ぶ。

それは仮面を被ったスザクさんの焦った声。

そんなスザクさんも大量の男達に囲まれてしまう。

 

そこでようやく意識が戻り、事の異常性を理解した。

 

「そんな・・・何なのですか!?」

 

誰も答えを返してはくれないと理解していながらも叫ばずにはいられない。

まさか式典が襲撃されるなんて異常事態ある訳がなかった。

あって良いはずがなかった。

 

そして遂に。驚愕に支配される私に声がかけられる。

 

「ブリタニア連邦ナナリー・ヴィ・ブリタニア代表とお見受けする」

 

突然かけられた声に振り向いた私の前には、黒いマントとフードを被り、口元をマスクで覆った男がいた。

男の横に控える他の襲撃者とは明らかに雰囲気が違う。

故に私は理解できた。

 

(この男が、この襲撃を企てた元凶でリーダー・・・)

 

「ナナリー代表、我々に付いてきて貰おう。安心すると良い、貴方が大人しくしてくれればこの殺戮はすぐ終わる」

 

その言葉に私の頭は今までで経験したことがないくらい沸騰しかける。

今の一言でこの男は私を相手にこの会場全ての方々を人質に取ったのだ。

その卑劣さも腹立たしいし何よりも。

この男は私達が目指し作り始めた世界を壊し、お兄様の想いを踏みにじったのだ。

 

 

(悔しい・・・)

 

悔しいし腹立たしいが、他に選択肢はない。

 

「・・・分かりました。あなた方に従います」

 

その言葉に私の目の前の男はマスクで覆い隠した口をニヤリと歪めた。

 

そんな気がした。

 

 

 

***

 

 

『続報です。とんでもない事件が起こりました。本日12時頃、世界解放記念式典特設会場がナイトメアを擁する武装集団に襲撃され、現時点で死者35名、負傷者247名にも及ぶ大惨事が発生しました。そして更に信じられない事に式典に出席されていたブリタニア連邦、ナナリー・ヴィ・ブリタニア代表が武装集団に拉致されるという事態にまで発展しました。

現在新日本防衛軍、ブリタニア連邦軍が共同で捜索活動に当たっていますが現時点でナナリー代表の行方はまだ分かっていないとの事です。

扇首相は先ほど記者団に対し、「我々新日本にとって今のブリタニア連邦、そしてナナリー代表は何物にも代えがたい友好の相手であり、全力を持ってナナリー代表の行方を捜し必ず救出する」と力強く語ったという事です。しかし未だ全容が分からず武装集団からのアクションも無い状態であり、何らかの進展が期待されます。繰り返します・・・』

 




如何でしたでしょうか?
実は投稿時点今までで一番文字数の多い文字数だったりします。
次回はこの続きから。
緩くお待ち頂ければと思います。


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BIRTH09: 目覚めの 鼓動

 

 

『ナナリー代表拉致事件の続報が入ってきました。先ほどインターネットの動画サイト上に犯行勢力と思われるテロ集団が声明動画を公開、扇首相との1対1の電話会談を要求しました。詳しい取引の内容に関してはその場で伝えるという彼らの初めての要求。政府がどのような対応を取るか注目が集まります。繰り返します・・・』

 

 

***

 

 

俺は路地裏の小さな喫茶店でコーヒーを飲みながら待ち合わせをしていた。

その間タブレット端末で調べ物をしながら時間をつぶす。

 

あの後。

 

ナナリーが拉致された瞬間を街頭ビジョンで目撃した後、完全に動揺していた俺は会場に向かうというカレンに「しばらく経ったら連絡をして」と連絡先を渡されて別れたは良いもののどうしたものかと途方にくれていた。

 

数時間経って未だ呆然としながらもそういえばとカレンに連絡を取ると、場所を指定されそこで話がしたいと持ちかけられた。

こうして断る理由もなかった俺は今指定の喫茶店でカレンを待っている。

 

端末で様々なニュースに片っ端から目を通しているが、多くが式典会場襲撃に関係する物だった。

 

影日向の能力も駆使して何とか理解した事件の概要はこうだ。

 

 

ナナリーがスピーチをしている間に突然襲撃。

あらかじめ要人の位置や防衛戦力を把握していたかの如く、速やかな作戦でナナリーを拉致した。

敵戦力は確認されているだけで全身黒ずくめの戦闘員数十名、暁可翔式3機、更に会場外の防衛戦力相手にサザーランド13機と未確認のナイトメアが1機が当たっていた。

未確認と会場内に入った暁3機、他戦闘員10数名は取り逃したが残りは破壊、捕縛、戦闘不能となった。

しかし捕縛した戦闘員が全員歯に仕込んでいた毒を飲み全員死亡しているという状況。

その後行方が分からなくなっていたが、先日動画サイトに犯行声明がアップされ日本国首相扇要に要求が出された・・・

 

 

「はぁ・・・頭が痛くなるな」

 

思わずため息がこぼれる。

推測ではあるがこのテロ集団は用意周到で綿密な計画の元、今回の暴挙に及んでいる。

また未確認の高性能ナイトメアや量産型を所有している所からみてバックにはある程度の規模を持つ技術チームがいるだろう。

普通に見れば初期の黒の騎士団並の勢力であるといえる。

 

優しい世界を願ってゼロ・レクイエムを実行したが、やはりそれだけでは上手くいかないという事だろうか。

世界には未だ歪みがあるということか。

だとすれば俺は・・・

 

カランカラン

 

ドア鈴が鳴り、入り口の方へ目を向ける。

辺りを見回し、俺を見つけるとこちらへやってくる。

カレンだ。

 

「ごめん、待った?」

 

「いや待ち合わせの時間にはまだ早い。俺が早く来すぎただけだ」

 

「そ、ありがと」

 

カレンは適当に飲み物を注文しそれが運ばれてくるまでずっと黙ったままだった。

しかし注文したカフェオレが届いて店員が去ったのを確認すると真剣な目つきで話し出した。

 

「それで、どうせあんたの方でも調べてみたんでしょ?」

 

「いきなりだな。まあある程度の事は調べてみたがかなり厳しく情報規制が引かれているみたいでな。あまり深い所まで潜るのも気が引けたしある程度国の仕事に就いていれば分かる程度までだ」

 

「そ、なら丁度良いわ。とっておきの内部情報、聞きたい?」

 

「何?」

 

思わず驚きの声を上げるとカレンは久しぶりに見た満面の笑みであるIDカードを見せてきた。

 

「紅月カレン・・・一級特尉?」

 

「そ、これでも防衛軍の重要ポスト」

 

「特尉とは始めて聞いたな」

 

「基本的に軍事任務には就かないんだけど上層部から要請があった時に手助けをするのよ。まあ出る機会は今までなかったんだけどね。本当は私も防衛軍に参加すると言いたかったんだけど学校があるだろって皆から言われてこんな感じに」

 

「なるほどな・・・それで?そんな重要情報を重要ポストの人間が俺なんかに話しても良いのか?」

 

そう言って俺はこれまた久しぶりのあくどいニヤケ顔を見せる。

しかしカレンはため息を一つつくだけだった。

 

「やめなよ、別に素直になったって良いんだから。今はあんたの事信用できる」

 

・・・まったく適わないな。

 

「・・・悪かった。すまん今の俺にそんな資格はないのかも知れない。だが・・・」

 

 

見ているだけなんて出来ない。

 

 

そう言うとカレンはとても優しい笑顔で俺の知らない事を教え始めてくれた。

 

 

***

 

 

「なるほどな。大体わかった」

 

カレンから内部情報を教えて貰った俺は頭の中で整理しながら推理を組み立てていく。

その中で俺は胸にどこか熱い物を感じだしていた。

 

何故テロ組織が機体を持っていたかの謎は解決した。

 

黒の騎士団時代に協力関係を気づいていたインド軍区の開発チームがバックにつき、テロ組織に対して戦力の援助をしていた。

ラクシャータとは殆ど関係のないチームだった事もあり、戦後連絡がつかなくなっても放っておいてしまっていた為察知が遅れたようだ。

どうやらそのチーム、元々ブリタニア帝国の壊滅を夢見て黒の騎士団に参加したようで恐らく今の友好関係に嫌気が刺したのだろう、という事だった。

 

 

「それで?その未確認のナイトメアというのは?」

 

「目撃した兵士の証言を照らし合わせるとどうやらランスロットのコピーを作ったみたい。ただ・・・問題は性能、腕前共にラウンズ級だったそうよ」

 

「そんな奴が・・・しかしラウンズはほぼ死亡している筈だし、あの時の生存しているエース達は全員アリバイがあったんだよな?」

 

「ええ、そんな腕前の人間中々いないって事で確認を取ったけど全員アリバイがあったわ」

 

「埋もれた才覚か・・・厄介だな」

 

「ええ・・・潜伏先もまだ分かってないし動画に出てた主犯も分からないままだし・・・」

 

主犯・・・潜伏先・・・

 

「・・・なあ、カレン。結局扇は奴らとの電話会談は?」

 

「やるしかないって事でもうすぐ会談の要求を受けるって声明を報道各局に発表するわ。直ぐにでも日程が組まれるでしょうね」

 

「なるほど・・・決まりだな」

 

「あー、その顔は何か企んでる顔ね」

 

「ふっ、その企みを行う材料をくれたのは誰だったかな?」

 

「さあ?誰かしら?」

 

カレンが如何にも面白そうな顔を浮かべる。

それに同じ顔で返す俺。

 

「あんた、今にも怒りでおかしくなりそうって顔ね」

 

・・・

 

「私もそう。絶対・・・後悔させてやる」

 

怒りでおかしくなりそう?

 

そんなの当たり前だろう。

 

ナナリーを危険な目に遭わせた奴らを。

 

ナナリーや皆が望んだ世界を壊した奴らを。

 

何より何も出来なかった俺を。

 

俺は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして生きていた過去がある限り許せるわけが無い。

 

捨てようと思った、全て捨て去って新しく生きようと最初は考えた。

 

だがまだ駄目だ。

 

俺は責任を取らなければならない。

 

 

俺は自分とカレンの分の会計をおいて立ち去ろうとする。

カレンは笑みを浮かべたまま止めない。

 

「何か必要があったら連絡して」

 

「覚えておこう」

 

そして俺は今の自分の家でもある影日向へ帰ろうと・・・いやその前に。

 

「そうだカレン、一つ教えてくれ」

 

俺の問いにカレンは振り返り首をかしげる。

 

 

「事件直後に行方不明になった政府要職の人間はいるか?」

 

 




今回もお待たせしました。
さあルルーシュの本領発揮間近です。
感想、評価など是非お願いいたします。

次回ルルーシュの活躍、ご期待ください。


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BIRTH10: その名は NAME LESS

 

最初の声明が公開されてから1週間が経った。

俺は今自分の執務室に独りでテロ組織からの連絡を待っている。

念のため外には会話が聞こえるようにしており、また逆探知の用意もしてある。

だが成果があるかどうかは怪しい。

声明動画をアップロードした際も奴らは自分達の足跡をなるべく残さないよう巧妙に偽装していた。

ロイドやラクシャータ達に協力をお願いしたが難航しているらしい。

 

「こんな時に彼がいれば・・・」

 

彼はその天才的頭脳で多くの奇跡を成し遂げた。

奴らのしっぽを掴むのも造作も無いことだろうし、会談においても非常に助けになるだろう。

 

そこまで考えて頭を振る。

駄目だ。都合の良いことを考えてはいけない。

俺、扇要には責任がある。

その責任を全うしなければ・・・

 

「こんなんじゃまたカレンに叱られるな・・・」

 

胸の重さにため息をつく。

すると突然、映像通信がかかってきた。

奴らだ。

 

気を引き締め電話を取る。

 

「扇だ。」

 

『初めまして、新日本初代首相にして元黒の騎士団副司令、現新日本防衛軍総指揮官、扇要殿』

 

「君が、組織のトップか?」

 

『その通り、私が軍事組織『影の兵団』リーダーの<<C>>だ』

 

「『影の兵団』、<<C>>・・・」

 

自らを<<C>>と名乗ったその男は黒いフードを目深に被り、口元をこれも黒いマスクで隠していた。

話し口調といい、黒色といい、どうしても彼を思い出す。

 

『今回は貴重な場を用意して頂けて感謝する』

 

「ナナリー代表は無事なのか?」

 

『勿論、目立った抵抗も無いので丁重に軟禁させて頂いている。あなたの今後の行動次第では無傷で彼女を解放することをお約束しよう』

 

「・・・それで?要求はなんだ」

 

『いくつかあるのだが、まあ折角の機会だ。世間話でもしながらどうかな?』

 

「貴様・・・」

 

この日を小馬鹿にしたような口調・・・

そうだ、彼も良く敵に対してこんな喋り方をしていた。

 

『そんな怖い顔をするな。さて何から話したものか・・・そうだな。我々がナナリー代表を貰い受けた日は彼の命日だったな』

 

「!?」

 

彼の、命日?

その言葉に俺の思考は最悪の方向に進んでいく。

 

『そう、貴様らが悪逆皇帝と不名誉なレッテルを貼ったルルーシュ・ヴィ・ブリタニア陛下の事さ』

 

何なんだ・・・?

 

『彼は非常に優秀で、この世界を率いていくのに相応しいお方だった。しかし、あの忌々しい仮面の男ゼロによって殺されてしまった』

 

こいつは一体・・・

 

『ルルーシュ様に任せておけばこの世界は力が支配する素晴らしい神聖ブリタニア帝国という一つの国家になっていただろう!それを!貴様らが!』

 

Cの口調が激しくなってくる。

俺は得体の知れない不安感に襲われる。

こいつはまさか・・・

そんな筈はない、そう思いながら俺は最悪の展開に身を震わせる。

 

もしこいつが彼なら。

 

もし彼が生きていたら。

 

もし彼が変化の遅い世界に怒りを感じていたら。

 

もし彼が俺達を憎んでいたら。

 

そんなifばかりが頭をよぎる。

 

 

 

『だから我々は立ち上がったのだ!ルルーシュ様が望んだ世界を!正しい世界を創る!』

 

・・・何?

 

『だがその前に一つ聞かないといけない。私の質問に嘘偽り無く答えることが最初の要求だ』

 

「・・・何だ?」

 

『ルルーシュ様が乗っていらした機体、蜃気楼。あれは確かゼロも乗っていたものだったはずだ』

 

「・・・それで?」

 

その質問で俺はCの聞きたいことを理解した。

そしてそれは一番聞かれたくない事だった。

 

『何故ゼロの機体にルルーシュ様が乗っていた?そして以前のゼロの正体は?今のゼロは一体何者だ?』

 

やはりその事か。

しかしこれでハッキリした。

Cは彼では無い。そしてあの戦いで生き残った仲間達では無い。

じゃなければこんな質問をわざわざしない。

するメリットが無い。

 

なら一体誰なんだ・・・?

 

『さあ!どうした!答えられないのか!!』

 

くそ・・・黙ったままでは駄目だ。しかし本当の事は話せない、かといって誤魔化すのも・・・

 

プープー

 

「え?」

 

その時、通信の音が鳴った。

 

『割り込み通信だと!?どこからだ!発信元・・・不明?』

 

「君たちの仕込みじゃ無いのか?」

 

『当たり前だ!一体誰が・・・ええい!』

 

とCが通信を取る。

 

画面に現れたのは白地に意匠を施された黒いNの文字。

 

 

 

『お話中失礼する。扇首相、そしてC。私の名前は、<<ネームレス>>。』

 




今回はちょっと短めでした。

次回「BIRTH11:反撃の 狼煙」ご期待ください。


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BIRTH11: 反撃の 狼煙

※誤植等一部修正しました


 

陛下が現れた時、まさにこの世の救世主だと思った。

 

この腐った世界を破壊してくれる。

 

よりよい世界に導いてくれる。

 

 

 

しかし、その想いは踏みにじられてしまった。

 

だから俺は許さない。

 

俺の想いを縛った馬鹿な奴らは制裁を与えた。

 

次は・・・こいつらだ。

 

 

***

 

 

「ネームレス?名前が無いという意味か・・・?」

 

突如俺とCの極秘通信に割り込んできた男。

この時俺は内心焦りを覚えていた。

ただでさえ影の兵団に悩まされている所に新しい不審人物。

しかも今度は映像さえ無いと来た。

これだけでも焦らない人間は中々いないだろう。

 

しかしこの声・・・

変声機で分からないようにしてはいるがこの独特の雰囲気・・・どこかで・・・

 

『・・・ネームレス、と言ったか?誰かは知らんが貴様は何をしているのか分かっているのか?状況を理解しているか?』

 

Cがネームレスに対して不快感を隠さず話しかける。

 

『どうやら扇首相の仕込みではないようだから良かったが、それでも我々の大事な話し合いをぶち壊しにしてもおかしくない行為なんだが?』

 

『それは申し訳ない。驚かせようと思って突然お邪魔させて貰ったがお気に召さなかったようだ』

 

『・・・まあ良い。それで?面白くも無いサプライズをわざわざ用意してくれたネームレス君は一体何の用で邪魔をしに来たのかな?』

 

『ああ・・・勝手とは思ったが、扇首相の助太刀にね』

 

『何?』

 

「助太刀?」

 

『そうだ扇首相。私は独自のルートで貴方が今日この時間Cと極秘会談を行う事を知り、状況的に貴方の旗色は悪いと考えた。そこで私が手に入れた情報を貴方に提供することでCの言う「話し合い」を円滑に進めようと思いお邪魔させて貰ったという訳だ』

 

「情報だと?君は俺達が知らない事を知っている・・・そう言いたいのか?」

 

『その通りだ。その情報は、知り得ることは非常に難しい、そして今後を左右する非常に重要な物だ。そう例えば・・・Cの正体』

 

「何!?」

 

俺とCに動揺が走る。

 

『貴様・・・一体どうやって俺の事を!』

 

『おや?一人称が変わっているが・・・大丈夫かな?』

 

からかうような発言にCが歯をギリギリと噛みしめているのが分かる。

 

ここで俺は気づいた。

ネームレスの声を聞いた時、聞いた覚えがあった訳を。

 

彼に似ているんだ。

 

 

ネームレスは更に続ける。

 

『影の兵団、前身は神聖ブリタニア帝国時代、各地を渡り歩いて反ブリタニア勢力に雇われ戦い続けていた傭兵団「鴉」・・・随分対ナイトメア戦が上手かったそうだな?烏丸慎司、いやクロウ・サーシェスと呼んだ方が良いか』

 

「烏丸・・・?その名前確か」

 

俺はその名前に覚えがあった。

 

『そうだ。Cの名前は烏丸慎司・・・新日本政府外交部主席外交官の一人。政府では襲撃事件で行方不明となっているが見つからないのも無理はない。何せ襲撃犯なんだからな。

 

そして本名は、クロウ・サーシェス。国籍は不明。傭兵団「鴉」の2代目リーダーで噂じゃ悪逆皇帝の崇拝者だったらしいが、その通りだったようだな』

 

『・・・ふふ、はっはっはっは!まさかそこまで俺の事を調べ上げているとは・・・全く驚きを通り越して笑えてくる』

 

Cは苦笑しながらフードとマスクを外す。

そこには確かに会議などで見覚えのあった男の姿があった。

 

「何故だ・・・どうしてこんな事を」

 

『どうして?それを貴様が言うか?ルルーシュ様を黒の騎士団から追い出し!その地位と名誉を奪い!挙げ句の果てに最後まで抗った貴様が!』

 

言葉が無かった。

顔見知りでもあったはずの目の前の男、この男の内面が全く理解できない。

 

『これは・・・もはや崇拝を通り越して狂信だな・・・』

 

どこかネームレスが複雑そうな声を出す。

 

狂信。

 

理解できそうにない。いやしたくないと言った方が正しいか。

 

『俺にはもう分かっている!初期のゼロ、その正体はルルーシュ様だ。初めは正義の味方気取りのいけ好かない男だと思っていたがそう考えると納得がいく。

ルルーシュ様は最初からブリタニア帝国による腐った世界を破壊しようと考えていた!しかし貴様らは陛下を疎んで追放した!それで別の方法でせざるを得なくなったんだ!』

 

Cは目を見開き怒りに任せてまくし立てる。

 

『だが貴様らはそれさえも邪魔をし、全くの別人をゼロに仕立て上げルルーシュ様を葬った!・・・許さん。陛下の崇高な理想を理解できない猿達め・・・』

 

そこまで叫び通し、ふと我に返ったようにCは落ち着きを取り戻した。

 

『・・・少し熱くなってしまったな。とにかく。俺はルルーシュ様の理想を実現させる。今回の件はその為の前段階といった所だ』

 

「・・・そのような事、させやしない!」

 

『口ではどうとでも言える。だが今の貴様に一体何が出来る?どうやって俺達を捕まえる?・・・さあ、話がそれてしまったが話し合いを再開しようか』

 

「・・・くっ」

 

Cの事は絶対に認められない。

第一ルルーシュの理想を勘違いしている時点で到底許容できるものではない。

しかも、それが悪い方向に曲がりきっている。

しかし・・・Cの正体が分かったところで如何することも・・・

 

 

 

 

 

 

 

『まだ話は終わっていないんだが?』

 

しばらく黙っていたネームレスが突然しゃべり出した。

Cがうんざりとした様子でネームレスに反応する。

 

『ネームレス・・・一体この上何があると言うんだ?』

 

どこか嘲笑を見せるC。

そして、次の一言でそれまでどこか持っていたCの余裕が完全に消し飛ぶことになる。

 

『海上を西へ進んでいるな・・・いやレーダーや観測隊に発見されていないということは海中を進んでいるのか?』

 

『!?』

 

「どういう事だ?」

 

『何故私が正体を暴き、ここまで貴様の話を黙って聞いていたと思う。時間は掛かったが、ようやく発信元を見つける事ができた。今は丁度ワカヤマ地区の南か』

 

『・・・そんな馬鹿な、海外の通信基地を多数経由し更に暗号通信までかけていたのに・・・それをクリアした?』

 

『私の手元には少々インチキな秘密道具があってね。素性もそのおかげで調べる事ができたよ。さて、扇首相』

 

「な、なんだ?」

 

『たった今貴方の端末に影の兵団の位置情報を送信した。すぐ防衛軍に追跡を開始させた方が良いだろう』

 

その言葉に端末を見ると丁度データが届いた所だった。

送り主の情報は・・・見るまでも無い。ネームレスの方は追えるとは思えなかった。

 

「わ、分かった。すぐに部隊を動かそう」

 

そうして部屋の外に待機していた側近に目線を送り指示を出す。

数時間もかからず補足する事が出来るだろう。

 

『・・・』

 

『C、これは我々にとって反撃の狼煙・・・まだ序の口だ。もう思い通りにはさせない』

 

『・・・』

 

Cはうつむき黙っている。

一瞬もはや諦めたか?とも思ったが、そんな筈はなかった。

 

『くくっ・・・くははは・・・』

 

Cが肩を震わせ笑い声をあげる。

 

『何がおかしい?』

 

『いやあ・・・反撃の狼煙だの、思い通りにさせないだの・・・簡単に言ってくれるなあと思ってねえ・・・』

 

ニンマリと邪悪な笑みを浮かべるC。

 

『・・・何を言ってる?何か企んでいるのか』

 

『すぐに分かるさ・・・貴様らが反撃の狼煙を上げるなら俺達は反抗の狼煙をあげてやる。そう、すぐにな・・・

 

扇首相、こうなってしまっては交渉は決裂だ。俺達はすぐ行動をおこさなければいけないのでな・・・また会おう。二人とも』

 

そう言い残し、Cは突然通信を切った。

 

「奴は・・・」

 

『通信が切られたか。まあ居場所は分かったから追跡は簡単に・・・ん?』

 

「どうしたんだ?」

 

『この進路・・・何故オオサカ湾に・・・待てよ。今までの速度から考えると・・・まさか!』

 

 

 

その時、執務室のドアが勢いよく開かれ補佐官が焦った様子で飛び込んできた。

 

「なんだ!?」

 

「お、オオサカが・・・」

 

 

 

「オオサカ地区が大規模武装集団に攻撃されていると連絡が入りました!!」

 




驚異の3000文字突破回、如何でしたでしょうか。
頭の中で整合性が取れていても文章にするとやっぱり中々難しいものですね。

それではまた次回、ご期待ください。


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BIRTH12: リソウの 限界

設定資料集と合わせて連続更新しています。ご注意ください。


扇さんが会談を終えてから、5時間後。

私、紅月カレンは混乱冷めやらぬ会議場の端で成り行きを見守っていた。

 

「今すぐオオサカ地区を奪還しに全軍を動かすべきだ!」

「折角世界的な軍縮の動きが軌道に乗っているというのに我々がそれに反するような事をしていいものなのでしょうか」

「そんな悠長な事を言っていて良いのか!これはもはやテロを超えた蛮行なんだぞ!」

 

議場では各地から選抜された新日本政府関係者が言い争いをしていた。

その内容は丁度一時間前オオサカ地区の防衛戦力を制圧し、一帯を完全占拠した影の兵団への対処について。

 

即刻軍を動かすべきだという武闘派とあくまで話し合いで解決するべきとする穏健派。

 

その二派で大論争が起こっていた。

 

 

「あなた方はただ戦争をしたいだけではないのか!」

「戦争をしたくないからこそ今の内に潰さなくてはいけないのだろう!」

「あくまで平和的解決を模索するべきだ!」

「既に軍事行動を起こしている相手に今更何が出来るというのだ!平和的解決!?国の一部を奴らにくれてやれとでも言うつもりか!」

「既に市民にも犠牲が出ているのだろう?悠長にして良いのかな?」

「ナナリー代表の安否はどうなっているのか!事によってはブリタニアとの国際問題に発展するぞ!それこそまた戦争になるではないか!」

「ブリタニアは現在連絡を取っている最中でして・・・」

 

 

いらいらしてきた。

 

もう何時間も続いている会議。

この会議を行っている間にオオサカが堕ちていることの重大性が分かっているのだろうか・・・

 

「平和ボケ・・・なのかな」

 

戦後3年が経ち、平和な世界に向けて上手くいっていた最中のイレギュラー。

動揺して正確な判断ができないでいるのだと思いたいが・・・

 

私は議長席に座って議論を黙って聞いている扇さんに目を向けた。

うつむき加減に黙ったままもう1時間以上じっとしている。

 

私は扇さんとCの会談を横の部屋で他の関係者と一緒に聞いていた。

ネームレス・・・あれは確実にルルーシュだろう・・・の乱入のおかげで最悪の展開、相手の要求を呑まされる展開は避ける事が出来たが・・・

この調子ではそのアシストも無駄に終わりかねない。

 

いい加減我慢の限界に来た私は未だ言い争いを続ける彼らに向かって怒鳴りつけてやろうと立ち上がった。

 

その時、議場の扉が突然開かれた。

入ってきたのは金髪に黒スーツの青年。

 

「あなたは・・・!」

「ジノ!」

 

元ナイトオブラウンズ、現ブリタニア連邦軍司令本部長、ジノ・ヴァインベルグだった。

 

「よっ、カレン。久しぶりだな」

「ジノ、どうしてここに・・・本国にいたんじゃ」

「オオサカが例の奴らにやられたって聞いてな」

 

ジノはそう言うと議場の中心に立ち、話をはじめた。

 

「新日本政府の皆さん。私はブリタニア連邦軍司令本部長、ジノ・ヴァインベルグと申します。今回私はブリタニア連邦の全権を担う臨時代表としてこちらに伺いました」

 

その言葉に辺りがざわつく。

 

「臨時代表だと・・・」

「元ラウンズがどうして・・・」

 

ジノはそんな雑音に耳もくれず扇さんへ顔を向ける。

 

「扇首相、ブリタニア連邦より正式にお願い申し上げます。我々連邦政府は先ほど、新日本防衛軍と協力してナナリー代表の救出、および影の兵団の壊滅を目標に動くと正式決定しました。オオサカ奪還に向け、是非我々と共同戦線を張って頂きたいと思います」

 

扇さんはジノを見据え口を開く。

その目には覚悟が宿っていた。

 

「連邦政府の協力に感謝します」

「首相!」

「また悲劇を繰り返すのですか!」

「所詮元テロ組織の副代表か・・・」

 

辺りから賛成反対両方の声が飛ぶ。

しかし一部看過できないヤジが飛んだ事に私が怒りをこみ上げると

 

 

「いい加減にしていただきたい!!」

 

突如扇さんから怒号が発せられ、議場が静まりかえった。

 

「民主主義の原則に従い然るべき流れに則って決断を下すべき、そう考えて皆さんを招集しましたが待てども待てども結論は出ず、挙げ句の果てに軍事行動反対派の皆さんはまともな対案も出さず理想論を盾に議論の邪魔をしているといっても良い始末!今は有事と言う事を理解しているのですか!トウキョウまで攻め込まれてもこの議論を言い続けるおつもりですか!

 

もはや一刻の猶予もありません。私の全責任において決定を下します。

独断と言われても構いません!全て終わってからその咎は受けましょう!

 

我々新日本はブリタニア連邦と協力体制を敷き、両軍の全戦力を持ってオオサカ奪還作戦を行います!

 

・・・勿論平和的解決が一番理想でしょう。できればそうしたかった。

だが彼らは初めから軍事行動を起こす事を決めていたとしか思えない!

 

理想には必ず限界がある。だが今理想に殉ずる必要性はない。

 

・・・もはや選択の余地はありません。以上で会議を終了します!」

 

こうして紛糾した場は収束に向かった。

扇さんの怒りにずっと反対していた穏健派もバツの悪そうな顔で諦めた様子を見せたからだ。

解散の流れが出来る中、私は必要になる私の愛機の様子を見に行こうとその場を後にした。

 

 

 




如何でしたでしょうか。
ちょっとは扇を良く見せることが出来ていれば幸いです。

さて、BIRTH12投稿直前に本作の設定を纏めた物を第1話の前に投稿しております。
ご興味のある方は是非そちらもご覧ください。

それでは次回、「BIRTH13:黒の 布石」ご期待ください。

感想、評価お待ちしています。


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BIRTH13: 黒の 布石

扇とCとの通信中、影の兵団の進行ルートを読んでオオサカが危ないと気づいた俺はすぐに通信を切りスザクへ連絡を取った。

そして今、俺は影日向の機内でスザクと秘密回線で話をしている。

 

「そうか・・・扇は決断したか」

「うん、流石に選択肢は無いだろうって事になってね。今急いで部隊を編成している所さ」

「ゼロはどうするんだ」

「乗艦して扇さんと指揮に当たるよ。状況によれば僕も戦場に出るかも知れないけど・・・」

「ランスロットが無い、か」

「フジサン決戦の時ダモクレス内部で大破した後ブリタニアの資料館に展示する事になってね。動かす事はできない」

「まあたとえ持ち出せても使うのは難しいだろうな」

「マイナスイメージが強すぎるし僕の正体がバレかねない。最悪ウォードを使うよ」

「確か今のブリタニアはウォードのカスタマイズ機をエース用にしていたんだったか?」

「うん、戦後新日本とブリタニア連邦主導で軍縮の動きになってから専用機開発の流れは滞っていてね・・・」

「ロイドが嘆いた姿が目に浮かぶようだ」

「1週間はふさぎ込んでいたよ・・・」

 

その時の光景を想像し思わず笑ってしまう。

影日向がオーバースペックなのはその辺りの鬱憤があったのではないかと思えてきた。

 

「それで、作戦開始はいつになるんだ?」

「各地から集結している部隊の編成と機体の整備に時間がかかりそうでね。パイロットの呼び出しもしていて最低でも1週間はかかるんじゃないかな」

「悠長にしていて良いのか?」

「急いで準備を始めて1週間かかるんだから仕方ないよ。議論がもう少し長引けば更にまずい事になってた。丁度兵団はオオサカ地区、旧オオサカ租界全体に部隊を配置して民間人の追い出しに追われているようだし向こうも戦力がかなり削られたみたいだから立て直しも必要だ。十分猶予はある」

「そうか・・・」

「ねえ、ルルーシュ。カレンから聞いてはいるけど・・・君はこれからどうするつもりだい?」

 

俺が状況を聞き思案にふけっているとスザクが暗い表情で尋ねてきた。

 

「俺があまり世界に関わるのは良くない。そう思っていた。」

 

だから俺は俺の新たな覚悟をハッキリと口にする。

 

「だが蓋を開けてみれば俺が起こした行動の余波が世界を危険にさらして・・・ナナリーを危険にさらした。だから俺は決めた。俺に名前はない。だが俺がルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであったという過去がある限り俺は自らの咎を背負い続け、責任を取る為、罪を償う為動き続ける」

「・・・」

「それに俺は所謂シスコンだそうなのでな。ナナリーを危ない目に遭わせた罰を奴らに受けて貰わないと気が済まん」

「ふふっ・・・困ったお兄さんだな。分かった、何かあれば連絡してきてくれ。できる限りの協力はするよ」

「取りあえずスザクはゼロとしてやるべき事を続けていてくれ。裏の仕込みは俺がしておく。ああ、後民間人は必ず作戦前までに危険が及ばないか確認しておいてくれ」

 

その指示にスザクが怪訝な表情を浮かべる。

長い付き合いだ。言葉の裏にある俺の意図に気づいたようだが・・・その顔はなんだスザクよ。

 

「ルルーシュ、まさか・・・」

「念のためだ。切れるカードは多い方が良い」

「はあ・・・本当に止めなくて良いのか?僕・・・」

 

失礼な奴だな。

 

「聞かなかった事にしとくよ・・・それじゃあ」

「ああ」

 

スザクとの通信を終え、俺はまた別の場所に通信をかける事にする。

既に連絡先はスザクから教えて貰った。

 

 

さあ、久しぶりに大きく策を弄するとするか。

本領発揮、といこう。

 

 

***

 

 

南米、農園地帯。

そこに3年前突然開かれ、今は地域住民に親しまれている「J印のオレンジ」を栽培するオレンジ農園があった。

 

作業服に身を包んだ緑髪の男がオレンジを大量に入れた籠を倉庫に入れている。

どうやら一段落ついたようだ。

男は倉庫から出て少し離れた場所で作業をしているピンク髪の少女に声をかけた。

 

「今の仕事が一段落したら休憩にするとしよう!」

「わかった・・・」

 

男は少女にそう言い残すと一人家に戻る。

ダイニングへ行き、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し一息つく。

ダイニングではラジオが流れていた。

事件発生からほぼずっとナナリー代表拉致事件関連のニュースが報じられている。

そのニュースを聞いて男は顔を悲しげに歪ませた。

 

「ナナリー様・・・」

 

血が出るのではないかと思うくらい拳を握りしめる男。

 

 

その時、電話が鳴った。

 

「はい、J印農園ですが・・・ん?なんだ貴様は・・・っ!まさか!」

 

 

***

 

 

場所は変わってトウキョウ政庁の研究室。

そこではロイド、セシル、ラクシャータの3人が端末を片手に紅蓮聖天八極式の調整を行っていた。

カレンも専属デヴァイサーとして調整に協力していた。

 

「ん~エナジーウイングの調子、良い感じだねぇ~」

「輻射波動機構の調整もバッチシよぉ。セシルどぉ?」

「はい、エナジーウイング、輻射波動機構、各部バランス、全てオールグリーン。エネルギー効率も従来より4%アップしています。完璧ですね」

「良かった・・・ありがとうございました!」

「オッケ~、これで僕たちの仕事おしま~い!」

「ロイドさん!今はそんな呑気な事を言える状況じゃ」

 

その時ロイドの端末に通信が入った。

 

「はぁいもしも~し、おやおやお久しぶりですぅ~元気してましたぁ~?

ああ、もうこっちは大忙しで大変ですよぉ~・・・へぇ・・・」

 

「?」

「ロイドさん?」

「どうしたんだい?」

 

「面白そうですねぇ~詳しい話こっちでしましょうよぉ~。はぁ~い、待ってま~す」

 

三人の反応に答えを返さず通信を切るロイド。

そして突然、ロイドは満面の笑みで彼女たちに向き直った。

 

 

「んふふふ~まだまだ面白い事になりそうだよぉ~?」

 




如何でしたでしょうか。
一体J印のオレンジのJとは誰なのか!!
そしてロイドの満面の笑みの理由とは!!

それでは次回までご期待ください。

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BIRTH14: 決戦 前夜

明日にオオサカ地区への攻撃を控えた新日本・ブリタニア連合軍は、イコマ山麓に陣を構えた。

周りが慌ただしく深夜0時を前にしてもまだ明日へ向けての最終準備をしている中、私は新日本防衛軍旗艦「高天原(たかまがはら)」の一室を訪れていた。

 

「お久しぶりです、藤堂さん」

 

部屋に入り目の前に座っていた新日本防衛軍総司令官、藤堂将軍に挨拶する。

 

「久しぶりだな、紅月くん。君が参加してくれるとは心強い」

「一応軍所属なんで」

「ああ・・・そうだったな」

 

藤堂さんが苦い顔を浮かべる。

私の防衛軍入りを強固に反対していた一人だったから思う所があるのだろう。

 

「千葉さんもお久しぶりです」

 

気まずくなった私は話を変えようと藤堂さんの隣に座っていた元四聖剣、千葉さんに顔を向ける。

 

「ああ、家に遊びに来てくれて以来だったか」

「はい、士郎君元気ですか?」

「ああ、今は玉城の所に預けている・・・少し心配だが」

「あ、あはは・・・」

 

実は戦後、藤堂さんと千葉さんは結婚し子供を設けた。

可愛い男の子で何度か抱かせて貰った事もある。

 

そうか・・・玉城か・・・玉城、元気かな。自分でお店出したとは聞いたけど。

 

「さて、全員揃ったな」

 

と、私を呼び出した本人である扇さんが口を開いた。

 

「扇さん、突然呼び出してどうしたんですか?」

「何か問題でも起きたか?」

 

扇さんは私達の質問に真剣な、それでいてどこか迷いのある顔を見せた。

 

「実は・・・先ほどネームレスを名乗る男からまた通信があった」

 

その言葉に反応する私。

ルルーシュがこのタイミングで・・・という事はかなり重要な事なのだろうか。

 

「ネームレス・・・Cとの会談に突然割り込んできた男だったな」

「紅月はその時の話を聞いていたんだったか」

「え、ええ・・・それで、彼からはなんと?」

「・・・影の兵団とCに関する調査報告だ」

 

そうして扇さんはルルーシュから得た情報を教えてくれた。

 

影の兵団・・・前身は傭兵団「鴉」。

初代リーダーである日本人の烏丸 蓮太郎。

神聖ブリタニア帝国時代より、シャルル皇帝の強硬政策に反発し世界各地のレジスタンスグループに協力、対ナイトメア戦においてゲリラ手法を用いかなりの戦果を上げていた。

が、皇歴1992年烏丸蓮太郎がブリタニアに捕縛処刑、一部の幹部は逃げ切る事に成功したがその後目立った活動が見られなくなった。

 

しかし、ゼロ・レクイエム後すぐ旧ブリタニア系財団の生き残りが裏資金を持って接触、その後急速に規模を拡大した。

 

という裏の世界の情報だった。

 

「なるほど、それならばあれだけの軍事力を用意できたのも分かる」

「3年間、奴らはずっと準備をしていたんだ。そして『イレギュラーが起きる可能性は十分にあるので特に注意しろ』と言い残して行ったよ」

「他の情報は?」

「間に合わなかったそうだ。防衛軍兵士が目撃したという黒いランスロットについても調査していたそうだが、手がかりがつかめなかったらしい」

「黒いランスロット、か・・・」

 

その言葉に部屋の空気が重くなる。

私達にとってその名前は非常に重い物だ。いくら本物じゃなかったとしてもどうしても警戒してしまう。

 

「ただのコピー品という訳ではないのか?」

「映像解析した所、紅蓮や暁の意匠が見受けられたそうだ。恐らく性能的には紅蓮に匹敵しているだろう」

「そんな!」

「いや、あり得ない話では無い。現に兵団の技術チームは離反した元黒の騎士団の人間が多数いるのだろう?持ち出されたデータを元に作っていてもおかしくない」

「その辺りも含め『気をつけろ』と言ったんだろう・・・ところでカレン」

 

扇さんが突然私に鋭い目線を向けてきた。

 

「何?」

「ネームレスの正体・・・『彼』なのか?」

「っ!」

 

突然核心を突く質問に私は目に見えて動揺してしまった。

 

「扇、どういう事だ?『彼』とは一体・・・」

「カレン、どうなんだ?あれは俺達の知っている『彼』なのか?『今の』ゼロの中は一体誰だ?」

「おい、それって」

「まさか・・・!」

「どうなんだ」

 

私は一度深呼吸し頭の中を整理する。

大丈夫、きちんと約束している。

 

 

「答えられない」

 

私はそう、しっかりとした口調で扇さんをしっかりと見据え返答した。

 

「おい、紅月!」

「答えられない、か・・・」

「・・・」

 

三者三様の反応見せる皆。

 

「知ってるとも言わないし、知らないとも言えない。何も答える事はできない」

「そうか・・・」

 

扇さんは悲しげに目を伏せる。

その顔を見るとどうしても胸が痛んでしまう。

 

「ごめん・・・」

「・・・いや構わない。では質問を変えよう。『ネームレスは信用できると思うか?』」

「・・・うん。絶対に信用できる」

 

「分かった。ならこの話は終わりだ。二人もそれで良いですか?」

 

千葉さんは少し悩んだ顔を見せるが、藤堂さんは静かな笑み・・・いやこれは苦笑か、を浮かべて頷いた。

 

「それじゃ、三人とも明日はよろしく頼みます」

「「「承知」」」

 

 

***

 

 

カレン達が部屋を後にした後、俺は一人残り思案にふけっていた。

さっきのカレンの反応を見た所間違いないだろう。

 

ネームレスはルルーシュだ。

 

始めその可能性にたどり着いた時は信じられなかった・・・

 

何故あの時死んだ筈のルルーシュが生きているのか。

ギアスの力か。

何故カレンが知っているのか。

その辺りは考えても分からない。

 

だがカレンは絶対に信用できると言った。

 

なら、信用できるのだろう。

俺たちを騙していたわけではないのだろう。

それまでも彼は俺達の為になる有益な情報を提供してくれたりしている。

信じられない道理はない。

 

今度こそ、信じ抜いてみたい。

 

 

そう、思った。

 

 

***

 

 

オオサカ政庁、執務室。深夜0時前。

そこは今や影の兵団リーダーの部屋として使われていた。

そこで白衣に身を包んだ眼鏡の男達がリーダー、Cに報告をしていた。

 

「敵軍はイコマ山麓に陣を構え、明日からの攻勢に向けて準備を進めている模様です」

「敵ナイトメアは確認出来るだけで数百体、航空艦は新日本旗艦『高天原』とブリタニア連邦旗艦『カインドワールド』、更に新ログレス級、新カールレオン級が数機ずつ、更に新日本の小型可翔艦も数機確認されています」

「戦力差は明らか、まさに絶体絶命という訳か・・・ふっふっふ面白い。『アレ』の準備は?」

「全フロートシステムの製作が完了、各部武装も設置しました。ようやく完成です」

「そうか、間に合って良かった」

 

Cが椅子から立ち上がる。

 

「明日は俺も出撃して戦場から指揮をする。『アレ』は一番効果的なタイミングで浮上させるからそのつもりでいろ」

「了解しました!」

 

そうして白衣の男達は一礼し、部屋から出ていった。

一人になったCは窓辺に立ち遙か遠くの連合軍の光を眺め邪悪な笑みを浮かべる。

 

「さあ、ここが天下分け目の決戦だ。思い知らせてやる、俺の怒りを・・・力による支配の正しさを・・・」

 

 

 

決戦まで後、7時間 ―――

 




連日更新じゃー!!

遂にここまで来ました。
本作もいよいよ大詰めとなって参ります。
果たしてどうなるのでしょうか。
Cの言う『アレ』とは一体。

次回「BIRTH15:オオサカ 奪還 作戦」ご期待ください。

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BIRTH15: オオサカ 奪還 作戦

 

翌日。

 

新日本・ブリタニア連邦連合軍は広大なオオサカ地区を前にして物々しい雰囲気を漂わせていた。

 

新日本防衛軍旗艦「高天原」ブリッジ。

 

そこには扇とゼロがいた。

彼らはある報告を今か今かと待っていた。

 

その時、通信が入る。

 

『首相、ゼロ。偵察班より民間人の退去、全地域完了した模様との連絡あり。準備完了です』

 

民間人の退去。

 

兵団はオオサカ地区占拠した時から、地区内を隈無く捜索し民間人を全員地区外へ退去させていた。

何故そのような行動を取ったかは不明。

だが、それは連合軍側としても好都合だった。

 

ゼロが扇に顔を向ける。

 

「よし、扇」

「ああ」

 

それを聞いた扇は一つ深呼吸をし、決意の眼差しをもって静かに命令を下した。

 

 

 

「・・・全軍、作戦開始!」

 

その一言で、連合軍の全航空艦と全ナイトメアが侵攻を開始。

 

 

午前7時13分。オオサカ奪還作戦、開始。

 

 

***

 

 

同時刻、オオサカ政庁。

 

その司令室にCはいた。

周りのオペレーターらしき黒装束の男達が声を上げた。

 

「敵軍、我が陣へ進軍を開始!オオサカ地区内へ入りました!」

「よし・・・全隊、攻撃開始!ナイトメア部隊を出せ!地上部隊は敵航空部隊へ援護射撃開始!ここを奴らの墓場にしろ!」

「了解!」

 

Cの命令をもって兵団側もナイトメアを続々と出してくる。

兵団側の航空部隊は殆どが暁可翔式。

地上戦力はサザーランド、グロースターや対空砲台などだった。

 

同時刻、影の兵団戦闘行動開始。

両軍、激突。

 

***

 

 

午前7時28分。

 

オオサカ地区の東側から進軍を開始した連合軍は、徐々に前線を西へ押し上げていた。

しかし、予想より少し連合軍側の被害が大きかった。

 

それは、最前線のカレンも気づいていた。

 

 

***

 

 

「死にたくない奴はさっさとどきな!!」

 

私は自分の愛機、紅蓮聖天八極式に乗って最前線を戦っていた。

兵団のナイトメアは私にも馴染みのある暁が殆ど。

スペック上は紅蓮の方が上だし、いくら相手が元傭兵というプロ集団でも私の方が上だと思っている。

 

しかしそうはいっても、それでも相手はプロなんだと感じていた。

 

例えナイトメアに慣れてはいなくても、戦いに慣れている、というのだろうか。

とにかく戦い方が上手いのだ。

目敏く死角を狙ってきたり、エースと思われる相手には常に集団で相対してくる。

防衛線を引く敵ナイトメア達はどこにこれだけの資金と人材があったのかと思うほど数が予想以上に多く私達に得体の知れない恐ろしさを感じさせる。

更に地上の部隊の援護射撃も面倒だった。

航空部隊の隙を埋めるように的確に射撃をしてくる。

そのせいもあってこちらの損害は微々たる物だがそれでも予想以上のスピードだった。

 

正直、まずいかもしれない。

 

その考えは近くで斬月を駆って戦っている藤堂さんも同じようだった。

 

「紅月君!私達の部隊は元騎士団の精鋭メンバーが多い!何とかここを突破して道を開くぞ!」

「はい!」

「カレン!俺も一緒に行く!」

「ジノ!」

 

後方からジノが乗った高機動戦用のウォードが続いてくる。

兵団の暁がそれを阻もうとするが、ジノ専用装備のエクスカリバーの一太刀を受け爆散する。

 

「よし、行くぞ!」

 

藤堂さんの声で集まった部隊の皆が敵の防衛網に対し一点集中で突破をしかける。

私はその先頭に躍り出て道を示そうと考えた。

 

「政庁前まで一直線に・・・!お前ら・・・どきやがれえええええ!!!」

 

紅蓮の「右腕」を前に突き出し操縦桿のボタンを押し込む。

 

 

輻射波動。

 

紅蓮の特殊武装にして最大の武器である、マイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム。

その収束砲が敵軍を貫いた。

 

砲撃線上の敵機が爆散しロストしていく。

 

「行くぞ!我らに続けえええ!」

 

藤堂さんの一声に集まった皆で開きかけの道を突き進んでいった。

 

 

***

 

 

オオサカ政庁、司令室。

戦況報告をしていたオペレーターが焦った声を上げた。

 

「C!敵エース機の砲撃で防衛網の一部に重大な損害が発生!少数精鋭の部隊のみですが突破してきます!このままでは政庁前まで到達されます!」

 

その報告にCは動じず、むしろ不敵な笑みを浮かべた。

兵団と付き合いがあり変わる世界に馴染めなかった反政府組織や裏世界の組織は山ほどあって、また資金も三年間で潤沢に揃っていた為、機体の量産もスムーズに行きある程度の損害が出ても問題は無く、またC自身としても彼らは使い潰すつもりだったので気にはならなかったのだ。

 

Cの視線の先には、モニターに映る紅蓮の姿があった。

 

「あれが黒の騎士団のエース、紅蓮か・・・ふふっ相手にとって不足はない。そうだろう?」

『はい』

 

Cの声に通信で反応したのは、20歳前後の青年だった。

 

「出撃だ。どちらが強いのか、俺に見せてくれ」

『了解、伊邪那岐出撃します』

 

青年がそう言って通信を切ると同時に、政庁から猛スピードで黒色のナイトメアが飛び立っていった。

 

「俺も伊邪那美で出る!お前達は手筈通り政庁を放棄、移動を開始しろ!」

「了解しました!」

 

Cの号令にその場にいたスタッフ達は慌ただしく準備を始める。

 

Cはその場を後にするとエレベーターに乗り込み、格納庫へ向かった。

 

 

オオサカ政庁、地下格納庫。

そこには現在戦闘中の影の兵団本隊所属ナイトメア「およそ7割」中、Cが選抜した精鋭部隊が出撃を待っていた。

Cはそれらに向かって号令をかける。

 

「いいか!戦況は第二段階に突入した!第三段階に向け、俺達も出撃する!全機、出撃準備を完了させろ!」

 

そうしてCは一機のナイトメアの前に立った。

そのナイトメアは薄暗い紫色をし、蜘蛛のような足を持っていた。

 

 

***

 

 

午前7時34分。

 

私達は政庁前まで後数キロの地点まで辿り着いていた。

かなり防衛網が厚く、道中何度も足止めを食らったがそこまでエナジーを消費せずここまで来る事が出来た。

後方でも本隊が徐々に防衛線を突破していき、私達に辿り着く部隊も増え戦況は連合軍有利に傾いている。

これなら今後万が一エナジー切れしそうになっても、補給に戻る事が可能だろう。

 

このままいける!そう思った。

 

 

 

その時、紅蓮のセンサーが警告音を発した。

 

「高速で接近する機体・・・?まさか!」

『カレン!あれを!』

 

ジノが焦った様子で指さした先では連合側のナイトメアが続々と破壊されていた。

そして、それを行った敵のナイトメアが紅蓮の前で静止し、私達は相対する。

 

私の目の前に出てきた機体、それは

 

 

『報告にあった・・・』

 

 

 

 

黒いランスロットだった。

 




如何でしたでしょうか。
戦闘中はどうしても視点変更が増えたり、描写が難しくなりますね( ;´Д`)

感想、評価お待ちしています。

それでは次回、「BIRTH16:黒い ランスロット」ご期待ください。

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BIRTH16: 黒い ランスロット

 

私の目の前に現れたのは、黒色のランスロットだった。

 

「・・・あなた、誰?」

 

無駄だと思いながらも聞いてしまう。

すると予想に反し返事が返ってきた。

 

「僕はレム。そしてこの機体の名は伊邪那岐。あなた方が3年前、フジサンで対峙した物とは別ですよ」

 

その声は私と同じくらいから少し若いくらいな男の声だった。

 

「あなたも兵団の戦闘員って訳ね」

「ええ。その中でも僕はC様にお仕えし、C様の望む事を実現する為だけに存在しています」

「そう、それで?今度は何を望んでいるっていうの?」

 

辺りでは今まさに戦闘が続いているというのに、冷静に会話をする私達。

周りから見れば異質かも知れない。

でも当の私達の間では、相手の出方を見極めようと攻防が始まっていた。

 

「僕が今回命じられたのは」

 

その膠着状態が、

 

「紅蓮と伊邪那岐、どちらが上か。それを示す事です」

 

崩れた。

 

「!!」

 

話し終えると同時にレムと名乗った相手は腰のハーケンを打ち出してきた。

私はそれを難なく躱すがその先を読んだレムは回避した方向へライフルを向けてくる。

 

「その程度!」

 

私は銃弾を続けて躱し、相手へ肉薄する。

回し蹴りで右手のライフルを蹴り飛ばし、輻射波動で左手のライフルを爆散させる。

距離を取るレムに小型ミサイルを撃ち出し追撃するが輻射障壁で防がれた。

 

「なるほど・・・姿形はランスロットだけど中身は全部私達の技術って訳ね」

 

相手が両肩に装備していた刀を取り出した。

あれは藤堂さんが使っている制動刀を細身にした物だ。

エナジーウイングは恐らく紅蓮のデータを参考に作った物だろう。

 

「でも、負けるわけにはいかない!」

 

私は左手に特斬刀を構え、伊邪那岐へ向かっていった。

 

 

***

 

 

私、藤堂鏡志朗は視界の端で紅月君が伊邪那岐と呼ばれた敵のランスロットと戦っているのを捕らえながら、周りを囲む四機の暁とにらみ合っていた。

伊邪那岐が現れてから少しして、政庁から出てきた暁部隊。

その後に飛び出てきた大型ナイトメアを追おうとしたら、こいつらが私の足止めに回ってきたのだ。

既に何度か小手調べとばかりに切り結んでいるが、こいつらはこれまで我々が対峙した暁とは明らかに別格、エース部隊ともいえる腕前だった。

 

「貴様ら・・・」

 

ずっと日本で軍人として、黒の騎士団の一員として戦ってきた私には馴染みがないが、世界には以前から多くの反ブリタニア組織、そしてその戦いに利益も求めて介入する傭兵組織がいるというのは知識として知っていた。

しかし実際相対してみると中々に手強い。

 

「しかし!私にもプライドという物がある!」

 

私は制動刀を構え、全速力で目の前の一機に斬りかかる。

不意をつかれた形となった相手はろくに動けず爆散する。

 

「まずは一機!」

 

 

***

 

 

俺は高天原ブリッジで指揮に追われていた。

今この艦は敵重量級ナイトメアによるハドロン砲の砲撃に耐えながら部隊を攻撃に向かわせている所だった。

 

丁度カレンが敵ナイトメアと一騎打ちを始めた頃、政庁から出てきた大型ナイトメア。

いや、もはやナイトギガフォートレス級に近い。

その姿はまるで大蜘蛛の上に人間の上半身が乗っているような異質なものだった。

 

ブリッジに通信が入る。

 

『やあ、扇。私のナイトメア、伊邪那美の力はどうだ?』

「C!まさか、あの大型は!」

『私の専用機だよ。技術屋達が持ってきたハドロン砲のデータを見た時、すぐ思いついた・・・む、うるさいハエが来たな』

 

そう言ってCの操縦するナイトメア、伊邪那美が俺の指示で向かわせた暁部隊に対し誘導ミサイルを発射する。

部隊は散開し、何機かはハンドガンで撃ち落とすなどして対処したがその他は全機撃墜される。

その残った暁に伊邪那美は両手のハドロン砲を向け攻撃する。

 

たった2分ほどで10機以上いた攻撃部隊が全滅した。

 

「こうもあっさり・・・」

『ふふふ、ふはははは!何だこの程度か!紅蓮は伊邪那岐、藤堂や他のエース達は我が選抜部隊が押さえている!これは勝負の行方も見えてきたな!』

「くっ・・・」

 

当初は有利に進んでいたが、主力が出てきた途端このざまだ。

元々、こちらの軍は戦力が少し心許なかった。

騎士団メンバーもそのまま防衛軍に参加した者は半分ほどだったし、エース級は殆どが止めていった。

ブリタニアはラウンズやナイトメア適正の高い皇族がほぼ全員死亡している。

そこに軍縮政策が重なっており、こんな有事が起きるとは誰も思っていないが故の状態だった。

 

このままだと負ける。

 

 

 

「諦めるな!その程度で諦めるような者に一国の長が務まると思っているのか!扇!」

 

この声・・・まさか。

 

「私が道を切り開く!この戦域にいる全ての連合軍所属ナイトメアに告ぐ!その場を絶対動くな!」

 

その言葉を耳にした次の瞬間、高天原の後方から発射されたプリズム状の何かが戦場へ飛び、そこにビームが照射。辺りにいた敵機を計算されたようになぎ払った。

伊邪那美は大型の輻射障壁でその攻撃を凌いだが、パイロットの心中は穏やかではなかった。

 

『今の声・・・奴か!!』

「モニターに後方の映像を出せ!」

 

俺は映し出された映像を見る。

 

 

そこにはどことなく蜃気楼に似たナイトメアと、小型浮遊航空艦が映し出されていた。

 




さあ、遂にあいつが戦場に帰ってきました。
感想、評価お待ちしております。

次回「BIRTH17:ノーディ・ラビット」ご期待ください。


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BIRTH17: ノーディ ラビット

 

 

『来たか・・・ネームレス!』

 

そこにいたのは小型艦と蜃気楼に良く似たナイトメアだった。

 

「あれは・・・」

 

俺は後ろの小型艦に見覚えがあった。

 

ブリタニア連邦軍所属、小型特殊浮遊航空艦「ノーディ・ラビット」。

ブリタニアと新日本を行き来し、両国へ独自に開発・研究・支援を行っているチーム。

それを率いているのが・・・

 

「ロイドさん!まさかあなたが・・・」

「お久しぶりですぅ~扇首相~。ここまで来ちゃいましたぁ~」

「来ちゃいましたって・・・そのナイトメアはロイドさんが?」

「はい~大切な友人に頼まれましてねぇ~」

 

俺はこの状況でも様子の変わらないロイドさんに苦笑しながらも『聞きたい事を聞く』。

すると思った通りの返答が届いた。

なるほど・・・一枚噛んでたという訳か。

 

『・・・その機体、その武装。貴様が何故それを持っている!それはあの方だけの!ルルーシュ様だけの物!』

 

と、Cが怒りのまま吠える。

悪逆皇帝の信奉者なら、ルルーシュが使っていた機体と非常に良く似たものを使うのは我慢ならないのだろう。

それに対してネームレスは至って冷静に言葉を返す。

 

「C・・・何を勘違いしているのかは知らないが、特段この技術は彼の悪逆皇帝だけの物というわけではあるまい。ただ単に彼しか今まで使いこなせる者がいなかっただけのことだろう」

『ルルーシュ様を愚弄するかぁ!!』

 

Cは、突然伊邪那美のトリガーを引くとネームレスのナイトメアに向かってハドロン砲を照射する。

 

「やれやれ・・・まず話が通じないというのも困ったものだ」

 

ネームレスはそう言うとコンソールを操作する。

すると瞬く間に絶対守護領域が展開され、ハドロン砲は簡単に防がれた。

 

『何!』

「驚く事ほどでもないだろう。この影日向は蜃気楼の流れを汲むナイトメア。相転移砲があるなら守護領域だってあってもおかしくない。さて・・・今度はこちらの番だ」

 

ネームレスは再びコンソールを凄まじいスピードで操作し出す。

 

「うるさい地上のアリには巣に帰って貰おう」

 

ネームレスが最後にコンソールのエンターキーを押すと、轟音を立ててオオサカ地区が揺れはじめた。

 

『な!これは・・・』

 

Cの驚く声を尻目にオオサカ地区の地面が崩れていく。

これは・・・ブラックリベリオンの。

しかもネームレスは住居区画を避け、政庁周辺の軍事区画のみを崩落させている。

 

「そうか、住民が帰ってくる事も考えて!」

 

これで地味に面倒だった地上部隊の半分以上が沈黙した。

しかし残りに部隊を割かなければならない事に変わりは・・・

 

「残りは頼んだぞ」

「畏まりました!」

 

するとその残りの地上部隊にハドロン砲が照射され、辛くも回避した機体にはミサイルが発射される。

やったのは、突如現れた重装備のヴィンセント・ウォード2機。

 

「まさか・・・ジェレミアとアーニャか!?」

「久しいな・・・扇!」

 

俺達と何度もぶつかり、共闘した元ブリタニア騎士ジェレミア・ゴットバルトと、

 

「やっぱり・・・モルドレッドの方が使いやすい・・・」

 

元ナイトオブラウンズ、アーニャ・アールストレイムだった。

 

「どうして二人が!」

「いや何、あの方に協力を請われてな」

「折角・・・頼ってきたから・・・」

 

ふと思ったのだが、ネームレスといいジェレミア達といい、ルルーシュの正体を隠す気はないのだろうか。

事実、高天原ブリッジ内では小声ながらもネームレスの正体について疑問を抱いているスタッフが出てきているのだが・・・

 

 

これは後処理が面倒そうだ・・・

 

『ジェレミアぁ・・・貴様ルルーシュ様に忠誠を誓っていたのでは無いのか!!』

 

今まで混乱していたCが、ジェレミアに憎悪をむき出しで食ってかかる。

 

「狂犬よ・・・確かに私はルルーシュ様に忠誠を誓っている。それは今でも同じだ。」

『ならば!』

「だからこそ!貴様のような存在を野放しにはしておけない!・・・さあ我々は前線に向かうぞ、アーニャ」

「分かった・・・」

 

ジェレミアはそう言い切るとアーニャを連れて前線の戦闘に参加する。

重装備で鈍足かと思いきや、思った以上に最低限の機動力はあるようで少し驚いた。

 

『どいつもこいつも・・・何を馬鹿げた事を!』

 

Cの怒りはもはや頂点に達したようで、目を血走らせてコクピットの壁を殴りつけている。

そんなCに向けてネームレス・・・ルルーシュが宣告を下す。

 

「さぁ、戦力差は覆った。それにまだこちらには隠し球がある。丁度紅蓮の方に向かう所だ・・・ここまでだよ、C」

 

隠し球・・・そういえば彼はどこにいった?

 

そんなルルーシュの言葉にCは殴るのを止め、うつむく。

かと思いきや、突然肩を振るわせ大笑いを始めた。

 

『ひひゃはははははは!ネームレス!何を言うんだ!まだまだこれからだよ!』

「・・・遂に壊れたようだな」

 

 

 

『そちらにしか隠し球は無いと思ったか?』

 

 

 

 

そのCの言葉に反応する間もなく、突如海面が盛り上がった。

 

「何!」

「あれは・・・」

 

『ネームレス、扇・・・貴様らは裏の世界を少々甘く見すぎていたようだな・・・裏の世界は深く、広く、見えにくい。貴様らが見てきた物などあまりに極小さな側面に過ぎない。

 

 

表からはじき出される者はごく少数と思ったか?

 

この保有戦力におかしいと思わなかったか?

 

どこから金が出ているのだろうと思っていなかったのか?

 

 

 

どこまで技術者を取り込んでいると考えていた?』

 

海面からゆっくりと浮上してきたのは、途轍もなく巨大な浮遊航空艦だった。

 

「そうか・・・そういう事か・・・」

「一体あれは・・・」

 

ルルーシュは、悔しそうに声を出す。

 

「奴らの技術チームが元騎士団のメンバーだけと高をくくったのが間違いだったんだ・・・急に勢力を拡大したと考えた所からまず間違いだった!奴らは以前から、同じ世界の者達とのパイプが繋がっていた!元から奴らは巨大な勢力だったんだ!」

「なっ・・・じゃあまさか・・・」

 

「あぁ、その中には直接で無くとも繋がっていた奴がいただろうな・・・

 

 

トロモ機関の関係者と!」

 

 

 

『ご名答!これが長年の構想と開発を経て完成した裏社会の切り札・・・黄泉比良坂(よもつひらさか)だ!』

 




如何でしたでしょうか。
何とJ印のオレンジ農園の経営者はジェレミアでした!

そしてまさかのここでトロモ機関の名前が出てくるとは誰が予想したでしょうか。
そしてルルーシュの隠し球とは一体。
ヒントはいつの間にか見かけない人です。

次回「BIRTH18:黄泉 比良坂」にご期待ください。


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BIRTH18: 黄泉 比良坂

レムと対峙してどれくらい時間が経っただろうか。

恐らく体感ほど経過してはいないだろう。

だが、私は久しぶりの難敵に短時間であろうと疲労を感じずにはいられなかった。

 

レムが長刀で斬りかかるのを特斬刀で捌き、隙を狙って輻射波動を打ち込むのを読んだレムは避けて至近距離からの回し蹴りを狙う。それを防いだと思ったら目の前には長刀が迫っている。

何とかそれを避けて反撃をしある程度のダメージを与えることは出来ているのだろうが、中々捉えきることが出来ない。

とにかく動きがトリッキーなのだ。

これではパイロットにも相当な負担が掛かっているはず・・・

 

そう考えていた時、突如海面から巨大な航空艦が浮かび上がってきた。

 

「あれ何!?」

 

私は戦闘中であることを一瞬忘れ、驚愕の声を上げる。

そして、レムも動きを止め航空艦に視線を送る。

 

「そうか・・・黄泉比良坂を出すまでC様は追い詰められたか・・・」

 

ボソリと呟いたその言葉を境に、レムの雰囲気ががらりと変わる。

その冷たい雰囲気に身震いを感じるほどだ。

 

紅蓮のコクピットに映像通信がオープンチャンネルで入ってくる。

そこに映し出されたのは見た目私と年齢が変わらないくらいの色白い男の子だった。

 

「申し訳ありません。紅蓮のパイロット、紅月カレンさん。これ以上悠長にあなたと戦ってはいられないようです。」

 

そうして彼は取り出した注射器を自らの首に刺した。

 

すると。

 

それまで一見穏やかだった瞳が大きく開かれ、眉間に血管が浮かび上がり、明らかに常軌を逸した様子になる。

 

「あんた・・・何をしたの!!」

 

言葉とは裏腹に、私は大体の予想をつけていた。

 

 

薬物。それも非常に危険な部類の物。

 

私はこれから起こる苦難を想像し焦ると同時に、怒りがこみ上げてくるのを感じていた。

 

 

 

 

海面からせり上がるように浮上してきた超巨大浮遊航空艦・・・いやもはや戦艦と言って良いだろう。

・・・黄泉比良坂(よもつひらさか)。日本神話に描かれる伊邪那岐大神と伊邪那美大神にその縁が近い土地の名だ。

流石にダモクレス程の大きさは感じないが高天原の2倍か3倍はある。

そして甲板上には多数の砲門とナイトメアの発着口。

そこから丁度一個100機ほどのナイトメアが続々と出てきていた。

 

「まさか、ここに来て更に戦力を温存していたか・・・」

 

俺は影日向の相転移砲を前線の要所に打ち込みながら焦りを感じていた。

 

数的有利は作り出している。

黄泉比良坂が出てくるまでに殆どの敵ナイトメアは片付けた。

いくら相手が戦闘のプロであってもナイトメア同士の戦闘経験は少なかったようで、こちらの被害も予想より多いが許容範囲内。

またCの乗る専用機、伊邪那美は黄泉比良坂に後退していった。役目を終えたからだろうか。

敵艦から新たに出てきた数を入れてもこちらが勝っている。

 

しかし、イレギュラーが起きた。

 

専用機2機に加え、途轍もない戦闘能力を秘めているであろう黄泉比良坂。

更に新たなナイトメア部隊の練度は恐らくここまで温存していたことから考えてかなりの物と考えて良い。

 

 

今まで俺はブリタニアを倒す為に最適な方法を作るため、必要では無いその筋の知識は必要最低限まで除外してきた。

今まで見向きもしなかった側からの反撃。

・・・あの一番の難敵であった奴は知っていたのだろうか。

 

ばらばらの組織が一つになり、ここまでの力を蓄え襲いかかってくる・・・

この状況を作り出したのも、俺が・・・

 

 

 

 

「・・・ん?」

 

と、そこで一つの疑問と違和感が浮かんでくる。

 

裏社会がどれだけこちらが想像する以上に巨大で強大なものだったとしても、元はばらばらの組織としてそれぞれ活動していたはずだ。

そして影の兵団の母体は元々そこまで大きい物ではない。

つまり、今の奴らは影の兵団を中心に寄り集まった組織・・・

 

なら彼らが集まった理由は?

 

集まるメリットは?

 

 

Cはどこまで他と思想を共有している?

 

 

そこまで考えた時、一つの考えが頭に浮かんだ。

 

調べる価値は、ある。

 

 

 

 

俺は高天原ブリッジで必死に部隊指揮を行っていた。

彼がいない理由は既に把握し、了解している。

なら今自分に出来ることは、とにかく被害を少なくしつつ状況打破の糸口を見つけることだ。

 

「藤堂さん!後どれくらいで近くにいる部隊を再編できそうですか!」

『すまんな、元々相手取っていた奴らに少し手間取っている。もう直ぐ片付くから周りの兵を近くまで集めておいてくれ』

「分かりました。申し訳ありませんがそちらが片付いた後は出現した黄泉比良坂への攻撃に入ってください!十分用心を!」

『承知!』

 

「ジェレミア、アーニャ。近くの残存兵力を掃討したら、すぐに敵艦攻撃部隊に加わってくれ!新たに出てきた奴らはエース級のようだ。君達の力がいる!」

『了解した!』

『了解・・・』

 

 

「扇、聞こえるか。」

 

ネームレスから通信だ。

 

「何かあったのか!」

「今から少しの間、調べることが出来たので戦線から後退する。10分で良い。時間を稼いでくれ」

「調べる事って・・・あの巨大戦艦が出てきていつ戦線が崩壊するか分からないんだぞ!そんな悠長な」

「必要な事だ!俺の予想が正しければ奴らを崩す一手が手に入るかもしれない!」

「・・・分かった。10分だな」

「頼む。後、あいつを含めた黄泉比良坂突入部隊の編成をセシルに頼んでいる。それまでに手に入った情報は全て送ってくれ」

「了解した」

 

ネームレスとの通信が切れ、影日向は後退していく。

 

「扇首相、あんな奴信用して良いのですか?」

 

側にいたクルーが不信感を露わにぶつけてくる。

その疑念は当然だ。

 

だが、俺は迷い無しにこう返した。

 

「ああ。問題ない。万が一の時は俺が全て責任を取る」

 

 

 

 

黄泉比良坂、最深部。

 

そこには戦艦の中とは思えないような、草花に囲まれた庭園が作られていた。

見る者が見ればこう思っただろう。

 

ダモクレスの『あの』部屋に似ている、と。

 

そして少ないその内の一人であり、現在進行形でこの部屋に閉じ込められている彼女も、そう感じていた。

 

勿論全く一緒という訳では無いし、偶然にもダモクレスの真実を知らずにこの部屋は作られている。

だが彼女にとっては、何の嫌がらせなのかと言うようなものだ。

気分が落ち込まずにはいられない。

 

ここは、彼女・・・ナナリーの監禁部屋だった。

 

ナナリーは式典で拉致されて以来、ここへずっと閉じ込められていた。

 

 

そこに食事の時以外滅多に来ない来客がやってくる。

 

ドアを開けて入ってきたのは、明らかに不機嫌と分かる表情のCだった。

 

 

Cはナナリーの前に立ち、問いかける。

 

 

「答えろ、貴様とシュナイゼル以外に生きているブリタニアの皇族はいないのか」

 




お待たせして申し訳ありません!
最新話如何でしたでしょうか。
感想、評価お待ちしております。

次回、「BIRTH19:黒 と 白」ご期待ください。


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BIRTH19: 黒 と 白

最古の記憶。その時既に俺の世界は闇に覆われていた。

 

 

自分の名前も分からない。

 

何故こんなとこにいるのか分からない。

 

ここがどこかも分からない。

 

それでも俺は、生物の本能に従って生きるために残飯を探し、盗みを行い、食いつなぎ続けた。

 

 

そうして何年か経ちある程度成長した頃、次第に俺の中に一つの不満が出てきた。

 

何故、俺はこんなに苦労しなければならない?

 

明確な答えは誰も教えてはくれなかったが、道行く大人達の会話を聞いている内に何となく『ブリタニア』という奴が原因と気づいた。

 

 

その時からだろう。

『ブリタニア』という物に対して憎しみを抱くようになったのは。

 

 

 

 

「私達以外のブリタニア皇族・・・ですか?」

 

私は未だ記憶に残るあの庭園にとても良く似た場所で、目の前に立つテロリストCの質問に対し困惑を隠せないでいた。

 

「そうだ、ナナリー・ヴィ・ブリタニア。貴様と今本国にいるであろうシュナイゼル・エル・ブリタニア。その二人以外に生きている皇族はいるか」

「何故そんな質問をするのか理解に苦しみますが・・・私とシュナイゼルお兄様以外はルルーシュ皇帝の粛正活動と帝都消滅事件、そしてゼロ・レクイエムによって全員お亡くなりになられてたと聞いています」

「・・・嘘をついている訳ではなさそうだ」

 

とCは忌々しそうに舌打ちをする。

 

 

 

こうしてCと話すのもいつ以来だろうか。

確か最初は、捕まってから3日経った頃だった。

 

今とは打って変わってにこやかな笑みを顔に貼り付け、いくつか質問された事を覚えている。

 

『今のゼロの正体は一体誰だ?』

『何故敵対していたシュナイゼル派と黒の騎士団が手を組む事になった?』

 

私が答えないでいると、Cは一度舌打ちをした後興味を無くしたかのようにすぐ去って行った。

 

その後何度か機嫌を伺いにやってくる以外、食事が運ばれてくる時しか人と会うことはなかった。

 

 

 

外から轟音が聞こえてくる。

時折、この場所も揺れているように感じる。未だ戦闘は続いているようだ。

感覚的に恐らく空に浮かんでいる事から、この場所は航空艦の一室なのだろう。

そして私は、戦場のまっただ中にいる。

 

世間話程度に聞く所によると、この庭園とあの場所との類似性は全くの偶然のようだが・・・

 

どうしてもフジサン決戦を思い出す。

 

 

「仕方ないな・・・」

 

それまでイライラしつつ考え込んでいたCが突然顔を上げる。

 

「これから奴らに貴様がこの場所にいる事を知らせる。相手は甘ちゃん共だ。少しは動揺して攻撃を躊躇するようになるかもしれない。とにかく数的不利の今は敵の隙を作ることを考えなければ・・・」

 

・・・薄々感付いてはいたが私の居場所は皆に知られていなかったようだ。

だが、それならチャンスになるかも知れない。

 

 

 

 

ノーディ・ラビット発着口。

そこでは一体のナイトメアが発進準備を行っていた。

 

「各部正常に作動。エナジーウイング動作確認・・・完了。各部オールグリーン」

 

そのナイトメアは一見紅蓮に似た外見をしているが、全体的に丸みを帯びており何より。

 

『ユグドラシルドライブ正常動作確認。発信タイミングをデヴァイサーに譲渡』

 

澄み切った白銀の色をしていた。

 

『聞こえるか』

「どうしたんだい?後退したって聞いたけど」

『奴らを崩すための下準備中でな。後5分ほどで戦線復帰する』

「了解。それで、指示は?」

『今、扇から連絡があった。ナナリーが黄泉比良坂の最深部に捕らわれているらしい』

「っ!それで?」

『つまり勝利へのピースは残り2枚。現在カレンが相手をしている敵エースナイトメア、伊邪那岐の撃破。そして、黄泉比良坂最深部への突入だ』

「了解。なら先にカレンの所へ行く」

『頼んだ』

 

 

 

 

「きゃあっ!!」

 

私は死角外から襲いかかった伊邪那岐の強烈な蹴りを防ぐことが出来ず、体勢が崩されたまま飛ばされた。

 

「死ネエ!シねエ!皆シンでシマえエエエ!アハハハハハ!」

 

レムは薬物のような液体を首に注射してから、奇声を発しながらそれまでとは見違えるスピードと動きで猛攻を繰り出してきた。

何とか凌ごうとしても一瞬の隙を突かれて少しずつダメージを増やされる。

紅蓮のスペックの高さが無ければ、既に堕とされていたかも知れない。

 

恐らく彼が打ったのは、痛覚遮断と反射神経の向上、そして理性のストッパーを外す効果のある薬物だ。

それにより、今まで襲いかかるGを無意識化で軽減するために発揮しきれなかったスペックが完全に引き出せるようになっているのだろう。

 

しかし、その代償は大きいはず・・・

 

「こんな・・・こんな事までして・・・」

 

私は信じられなかった。

自らの命を削るような真似までして、戦い続けるこの男の子の事が。

 

だが、今は戦闘中。それも相手は理性を失った狂戦士。

 

 

心の動揺が生む隙を、見逃す相手ではない。

 

一瞬の動きの遅れを突かれ、左手に持っていた特斬刀がはじき飛ばされ懐を晒す体勢になる。

普段なら絶対にしないミス。

久しぶりの実戦と、理解しがたい現実が、私の動きを狂わせた。

 

「まずっ・・・」

 

しかしもう遅い。

目の前の伊邪那岐は制動刀を振り上げており、どこか勝利を確信したような雰囲気さえ感じられる。

 

(・・・お兄ちゃん、皆・・・ルルーシュっ!)

 

 

しかし死の刃は振り下ろされなかった。

 

突然伊邪那岐に襲いかかる銃弾。

 

「これ・・・ヴァリス?そうか、間に合ったのね!」

 

その瞬間、横から伊邪那岐に跳び蹴りを食らわせる白銀のナイトメア。

 

「大丈夫か、カレン!」

「何とかね・・・遅いご登場じゃない!」

 

私は、作戦準備があったためギリギリ完成に立ち会うことはできなかったロイドさん達特製、彼・・・スザクだけの為のナイトメア。

 

 

紅蓮と対をなす存在。

 

 

 

 

白銀の武士が鏡の黒騎士に相対する。

 

 




如何でしたでしょうか。
黒と白。それぞれの場所で激突していきます。

・・・やっと、やっとスザクとカレンを横に並ばせることが出来るぞおお!
これがしたかったんや!!

次回ではBIRTH13と14の間の一週間についてもお届けできればと思います。

それでは、次回「BIRTH20:影の ギセイ者」ご期待ください。


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BIRTH20: 影の ギセイ者

 

 

時は一週間前にさかのぼる。

 

 

ロイド達の研究室。

 

「んふふふ~またまた面白い事になりそうだよぉ~?」

 

電話を切った後、そう言って満面の笑みをセシル達に向けるロイド。

電話の相手はルルーシュからだった。

 

その後、しばらくして訪れたルルーシュからロイドチームと偶然その場にいた為同席する事になったC.C.、カレンに提案されたのは、新型ランスロットと協力者専用機の製作計画についてだった。

 

 

 

 

「ん~ジェレミア達用の専用機はほぼウォードのカスタマイズだし何とかなるけどねぇ」

 

ジェレミアとアーニャ用の専用機プランについて説明をした所でラクシャータが微妙そうな声を上げた。

 

「何か問題か?」

「ランスロットは流石に間に合わないんじゃないかぃ?それに・・・あれはねぇ?」

 

とラクシャータはセシルに顔を向ける。

 

「そうですね・・・戦力が必要というお気持ちはわかりますがランスロットを新規製作するのは時間的な都合とイメージ的な問題が・・・」

 

セシルもラクシャータと同じようにランスロット製作に否定的なようだ。

だが・・・どうやら勘違いをさせてしまったようだな。

 

「いや、何もランスロットそのものを作り直すわけじゃない」

 

その言葉にその場のほぼ全員が意味が分からないといった顔を見せる。

 

「基本は紅蓮聖天八極式のデータを使う」

「へ?紅蓮の?」

 

それまでついていけてなかったのか目を白黒させていたカレンが気の抜けた声を上げた。

 

 

俺のプランはこうだ。

 

イメージは騎士ではなく武士。

外見、基本スペック共に紅蓮聖天八極式を元とし、外見は紅蓮をもう少しスリムかつ各所の鋭利な意匠を丸みを帯びたものにする。

武装はMVSは日本刀型に、スーパーヴァリスは配色と細かい意匠の変更を行う。

 

簡単に言えば、白銀色で輻射波動を持たない紅蓮を作るという訳だ。

 

 

名づけるなら、紅蓮と対になる存在。白い紅蓮・・・白蓮(びゃくれん)といったところか。

 

 

「これならイメージ的な問題はほぼ解決するし、紅蓮のデータをそのまま使うことが出来る。元々八極式はスザク専用機にする予定だったはずだし問題はないだろう」

「確かに・・・それなら急ピッチで進めれば何とか間に合いそうですね!」

「仕方ないねぇ・・・あたしの子のデータ使わせてあげるわよ」

「・・・」

 

セシルとラクシャータが賛成の意を現す中、ロイドは一人押し黙ったままだった。

 

「どうしたロイド。何か不備があるか?」

 

どうしたものか、不安になってきた。

一定以上の知識があるとはいえ、実際のナイトメア製作経験は殆ど無い。

何か問題があったのではと内心冷や汗をかいていると・・・

 

「・・・んふふ、んふふふふふふ!」

 

突然ロイドが笑い出した。

 

「・・・あぁ、なるほどねぇ」

「・・・ロイドさん」

「んふふふふふ!楽しみになってきたよぉ~!久しぶりにランスロットを作れるなんてねぇ~!」

「いやだからそのままランスロットを作る訳じゃなくてだな・・・」

 

駄目だこのマッドサイエンティスト。

喜びのあまりトリップしかかっている。

 

「よぉ~し!そうと決まれば早速始めるよぉ~!」

「ちょ!ロイドさん!?」

 

とロイドは飛び跳ねるように作業へ向かい、慌てたセシルとあきれたラクシャータが後を追っていったのだった。

 

 

 

それまで全く発言のなかったC.C.が俺の隣に来て声をかけてくる。

 

「てっきり世捨て人になったと思っていたんだが?坊や。名前は捨てたというのは出鱈目だったのか?」

 

相変わらず痛いところをついてくる。

 

「本気さ。だが・・・」

「だが?」

「簡単にそう言って逃げるわけにはいかなくなった。奴・・・Cと話してみて一つ分かった事がある。あれは俺の罪だ」

 

自分でもわかる。今俺は酷い顔をしているだろう。

 

「坊やの?」

「ああ。俺は今でもゼロ・レクイエムは間違いだったと思っていない。考慮していた混乱などのデメリットを差し引いてもあれが最善だったと思っている。しかし、それでもCが俺の行動の結果の一つなら・・・奴は俺の被害者なのだだろう」

「・・・」

「そしてその罪は更に大きな混乱を引き起こした。勿論だからと言って奴に情けをかけるつもりはない。しかしルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであった以上その責任から目を背けることは今の俺にはできない」

 

C.C.は悲しそうな表情で俺の方に視線を向けている。

 

「・・・ルルーシュ。お前が歩こうとするその道は果てしなく長いぞ・・・」

 

そうだろう。例え今分かっている歪みがCだけだとしてもこれから沢山溢れ出てくるだろう。

初めは俺は死んだのだから関わってはならないと思っていた。

だが・・・それは一番やってはいけない愚かな行為だ。

だからこそ。

 

「ふっ・・・ならば歩き続けるだけだ・・・」

 

それが俺の・・・なのだから・・・

 

「そうだ、C.C.。お前に頼みたいことがある」

「なんだ?」

「影の兵団に関係する事について出来る限り調査をしてもらえないか」

「調査?」

「ああ、俺がスザクに残した資料の中にシュナイゼルの元側近、カノンが管理していた裏社会の要人達に関する連絡先や情報があったはずだ。そこから辿れば何か見えてくるものがあるかもしれない」

「分かった」

「ただし、影の兵団中枢に直接関わるのはやめておけ。流石に危険すぎるからな」

「・・・嫌な予感がするな」

「俺もだ・・・」

 

それから、俺は泊まり込みで開発を手伝うことになった。

期限は長くても一週間。

急がなくては。

 

 

そして奇しくも一週間後、その嫌な予感は的中することになる。

 

 

 

 

場は戻って、オオサカ地区上空。

 

今、伊邪那岐と紅蓮、そして白銀の武士・・・白蓮が相対していた。

 

 

 

「白イ紅蓮・・・だとォ!?」

「報告通り・・・姿形は本当ランスロットに似ているな・・・」

 

プライベートチャンネルでゼロの仮面を被ったスザクが私に話しかけてくる。

 

「スザク、こいつ薬を投与したみたい・・・気を付けて」

「分かった。初めから全力で行こう」

 

そう言って、スザクは一瞬のうちにレムへ肉薄し右手の刀で袈裟切りを繰り出した。

 

「っ!チィッ!」

 

反応が遅れたレムだったが体を捻り間一髪で避けると回し蹴りで牽制し距離を取ろうとする。

でもそれを見逃す私じゃない。

距離を取った先を読んで伸ばしておいた右腕から輻射波動砲を打ち込む。

レムは何とか収束砲を躱すが体勢を崩してしまう。

 

それが狙い。

その隙を狙って更に距離を詰めたスザクが逆袈裟切りからの連撃を浴びせる。

止めに回し蹴りを伊邪那岐の横腹に叩き込み、吹き飛ばす。

 

「グガああああアア!!??」

 

レムが苦悶の声をあげる。

元々薬物による副作用で体が悲鳴をあげている所、更に幾度もの過度なGがかかり非常に重い負担となっているのだ。

 

「マダ・・・倒れル訳には・・・あの方を・・・!」

 

レムは最後の力を振り絞るように急停止し両手の剣を構え猛スピードで白蓮に突っ込む。

肉薄したレムはそのまま剣を振り上げ必殺の一撃を叩き込もうとする。

突然の突進は普通なら完全に対処できない攻撃。

 

しかし生憎ながら白蓮を駆るスザクは普通ではなかった。

 

決まったと思われたレムの一撃は二振りの刀によって受け止められる。

 

スザクは通信をオープンチャンネルにし口を開く。

 

「許しは請わん・・・もう良いんだ。ゆっくり眠れ・・・」

「ア・・・」

 

 

スザクは受け止めていた剣を弾き、がら空きとなった胴体に刀を突きさした。

動力部分に損害を受けた伊邪那岐は各部から火花を上げ出す。

スザクがゆっくりと刀を抜くと、レムは動きを止めた伊邪那岐と共に地上へ落下していき爆散した。

 

 

「スザク・・・」

 

私は繋ぎなおしたプライベートチャンネルでスザクに声をかける。

 

「Cが僕らの生み出した被害者なら、彼もまた被害者、いや犠牲者と言っても良いね・・・」

「でもそれは・・・」

「勿論、だからといって彼らの行為は許される事じゃない。ただ、彼らと決着をつけるのは僕らにとってやらなければならないだけだ」

「うん・・・」

「さあ急ごう。このまま黄泉比良坂突入部隊に加わる。長い間待たせちゃった・・・ナナリーを迎えに行かないと」

「・・・了解!」

 

 

 

 

地上へ落ちていく感覚の中、辛うじて残っている青年の正常な意識は駆け巡る走馬灯に思いを馳せていた。

 

 

拾われたのはスラム街の一角。

 

その時の青年は幼少の頃戦争で家と家族を亡くしてから、ずっとスラム街で生き抜いてきたものの限界を迎えていた。

食べ物も体力もとうに尽き、間もなく死んでいくのだろうなと思っていた。

 

そこに手を差し伸べた男がいたのだ。

 

男は彼を連れて帰り、食べるものと住むところを与えた。

 

男は言った。

 

ここが嫌になったら出て行ってもらって構わない。ある程度の金はやる。それまで自由に居てくれて構わない、と。

 

 

男は傭兵団のリーダーだった。

かなり名もあったのだろう。良く他組織の重鎮らしき人物とも話をしていた。

 

青年は男に大きな恩を感じていた。

自分はこの人に命を救われた。居場所をくれた。なら恩返しをしたい。

それから青年は傭兵団に入った。

元々素養があったのかどうかは分からないが、メキメキと実力をあげ、男の側近まで上り詰めた。

 

 

ある時から男の様子が変わりだした。

 

それから男は自分に刃向う部下全てを粛清し、多くの他組織を言いくるめ仲間にし、決起の準備を進めていった。

それまでの男は傭兵稼業ながらも優しい心を持つ良きリーダーだった。

 

だが、ある時期から男は何かに力を求めだし遂には暴走を始めた。

 

 

それでも青年は止められなかった。

 

男が、今にも泣きだしそうな子供に見えたのだ。

 

だが青年は、たとえこの身が外道に落ちようと、彼だけは救うことに決めたのだった。

 

 

 

こんな馬鹿げた争いを早く終わらせ、彼の憑き物を落とすために。

 

何処かに必ず、優しい心が残っていることを信じながら。

 

 

 

 

 

 

 

「頼む・・・クロウを・・・」

 

 

そうして彼は爆炎に消えていった。

 




お待たせしました。
書き直しに書き直しを重ねようやくの更新です。
今後ともよろしくお願いします。
色んな話は活動報告の方にて。ご興味のある方は是非どうぞ。

次回「BIRTH21:コワレタ 仮面」(仮題)をご期待ください。


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BIRTH21: コワレタ 仮面

今回とても長文です。
※一部誤植修正しました


 

 

オオサカ上空。

前方には悠々と浮かびお供のナイトメアと戦闘を行う黄泉比良坂がいる。

そこには急遽編成された突入部隊が集結していた。

 

先頭にいる藤堂がオープンチャンネルで全員に呼びかける。

 

「お前達!これが最後の決戦だ!必ず敵艦内部に突入しナナリー代表を救い出す!恐れず立ち向かえ!周りを信じろ!」

「「「応!」」」

 

先頭には他にルルーシュ、スザク、カレン。

最大戦力であるこの3人が最深部に到達できれば作戦はほぼ成功する。

 

「全軍・・・」

 

そして最後の作戦が

 

「突撃!」

 

始まる。

 

 

藤堂の号令と共に突入部隊の隊員達が敵艦に向けて飛び出した。

それに呼応するかのように周りで戦闘を続けていた他の仲間達が突入部隊の道を空けるように動いていく。

 

「ナナリー様の為に!今一度!我が魂の猛攻を受けよ!」

 

ジェレミアが残ったミサイルを全弾、道中の邪魔な敵に撃ち、

 

「・・・お前達、邪魔」

 

アーニャが両手のハドロン砲でなぎ払い、

 

 

道が完成する。

 

「行くぞ!」

 

もはや彼らの前に敵はいなかった。

 

 

内部に侵入後も抵抗は受けたが、難なく突破。

他の仲間を艦の制圧と退路の確保に回し、ルルーシュとスザク、カレンは最深部へ急行した。

 

 

 

 

遠くで轟音が鳴り響く。

いや、それが段々近くなってきた。

 

「な、なんだ!?」

 

私の側にいたCが目に見えてうろたえている。

それに比べて私は落ち着いていた。

何てことは無い。皆が来てくれた。

 

と、庭園の出入り口が爆風で倒れ、そこから3機のナイトメアが突入してくる。

紅蓮と、それに良く似た白銀の機体、そして黒を纏ったナイトメア。

 

吹き抜ける突風に少し動揺したが、すぐに落ち着きを取り戻した。

 

「ナナリー、無事!?」

「ナナリー代表、ご無事ですか!」

 

カレンさんとゼロ・・・スザクさんの良く知った声が聞こえてきた。

 

「はい!私は無事です!」

「すぐ降りる!」

 

そうしてお二人がナイトメアから飛び降りて私に駆け寄ろうとする。

 

「動くな!」

 

しかし、爆風から立ち直ったCが私に拳銃を突きつけた。

 

「くっ・・・」

「卑怯な真似を・・・」

「ひゃーはっはっは!ここまで辿り着いたことは褒めてやる。しかし残念だったなぁ!」

 

Cは立ち止まり悔しげな顔を見せる2人に下品な嘲笑を浴びせる。

 

「さあ、ネームレス!引きこもっていないでお前も降りてこい!さもなくばこのメスガキの命はねえぞぉ!!」

 

その脅しに応えるように黒いナイトメアは跪いた体勢になり、コクピットから黒髪で顔上半分をオペラ座の怪人が付けているようなマスクで隠した・・・

 

 

 

 

「・・・嘘」

 

 

***

 

 

俺はCの要求通り影日向から降り、両手をあげる。

ふとナナリーに視線をやると俺の顔を見て驚きの顔を浮かべたまま固まっていた。

 

・・・まあ、気づくよな。

 

だが、今はナナリーに説明する時間は無い。

俺は気持ちを切り替え、Cに相対する。

 

「直接では初めましてだな、C」

「ネームレス・・・何度も何度も邪魔をした男・・・貴様がっ!!」

「それはC、貴様が間違った行いをしていると考えたからだ」

 

さあ・・・ここからが本番だ。

 

「間違い?俺のやった事のどこに間違いがある?ルルーシュ様の理想通り、平和という理想にまみれた甘い考えに浸った世界を変え、力による支配を俺が代わりに実現してやろうとしているんだぞ?」

「それは違うだろう。貴様はそんな事で動いちゃいない。いや、正確にはそれ以外の理由が大半を占めている。そうだろう?」

「・・・」

「大体、初めて話をした時扇相手に口走っていたじゃないか。皇帝ルルーシュを葬ったお前達を許さないって。その時から察しはついている。だが分からないんだ」

「・・・何かな?」

 

食いついた。

 

「貴様は悪逆皇帝を打ち倒したここにいるゼロ、そして黒の騎士団達を許せないのだろう。しかし他の仲間、他の協力している組織はどうなんだ?皆が皆ルルーシュの信奉者なのか?私にはそのようには思えないのだが」

「・・・そう思う理由は?」

「力による支配が実現する平和。

 

そうなれば世界から紛争は無くなり傭兵や裏社会の組織にとって生きづらい世の中が出来かねない。信奉者じゃ無い限り、力による平和よりかは争いが絶えない世の中を選ぶはずだ。

それに、ルルーシュは旧貴族達を弾圧している。調べた所裏社会に存在する多くの組織は、密かに貴族達を大口の客として扱っていたという。

 

つまり君の考えではそういった者達の賛同は得られない。一体どうやって言いくるめた?」

 

 

 

 

Cは俺の言葉を最後まで聞き終わったのを合図に、肩を振るわせ何度目かの大きな笑い声を上げた。

 

「っひ、ひひゃははは、はーっはっは!そうさ!お前の言ったとおり!奴らには新日本とブリタニアの二大国家を崩し、そこから全世界に余波を広げ奴らに都合の良い紛争社会を実現させる、そういう名目で呼び寄せたんだよ!」

「・・・騙した、という事か」

「俺の目的を果たすにはどうしても駒が必要だったからなぁ!運良く知り合いは多かったしなあ!馬鹿みたいに信じて金や兵を融通してくれたよ!捨て駒としか見てねえのになあ!!」

「捨て駒、ね」

「ルルーシュ様が如何に素晴らしい考えを持っていたか理解させるのも時間がかかりそうだったし、理解されなきゃ敵に回るだけ・・・なら騙して協力させるのが手っ取り早い!」

「お前の目的が叶った後はどうするつもりだった」

「そりゃあ奴らのリーダー格をぶっ殺して残りを全部頂くさ!ルルーシュ様の後継者は俺だけで良い!いやもはやルルーシュ様を超えるかも知れんなあ!力を振るうのは俺だけで良いのさ!俺が世界を支配するんだよぉ!くはは・・・あーっはっはっは!」

「・・・そうか。なあ」

「あ?なんだ?」

 

そして俺はCに最後の問いを投げかける。

 

 

 

「お前、馬鹿だろ」

 

 

その言葉にCの目つきが怒りに変わる。

 

「おい、誰が俺様にそんな口聞いて良いと言った?」

「何、思ったままを言っただけだ。何故少しはおかしいと思わない?」

「あ?」

「ナナリー代表に銃が突きつけられ、手出しが出来ない状態。いくらこちらの戦力が充実していてもいつまでも戦闘を続けられる訳では無い。大体、こんな話この状況下で普通する事か?」

「お前何を言って」

「お前は馬鹿だ。だからこんな罠にも気づかない。いや・・・気づくわけが無いと思っていたがな」

 

その瞬間、庭園内のディスプレイが突然映像を映し出す。

 

『話は聞かせて貰った。クロウ』

 

そこには3名の男が映っている。

 

「お、お前ら!」

『そうよ、今お前が言っていた『捨て駒』組織の嘘を見破れなかった哀れなジジイ達じゃ』

『てめえ、良くも俺を騙くらかしやがったな!』

『残念ですよ・・・』

「な、なんでお前達が・・・まさか!」

 

動揺しきったCがハッと何かに気づき俺の方を向く。

 

「そうだ、私の仕込みだよ」

 

彼らは影の兵団に協力していた傭兵組織やマフィアなどのリーダーだった。

 

戦線を一旦離脱した際、俺はC.C.に連絡を取り情報を共有。

兵団の協力者で話を聞きそうな相手を選び、コンタクトを取っていた。

俺がスザク達と同時に降りず、しばらくコクピットの中にいたのは最高のタイミングでCと彼らを対面させる為、この部屋のディスプレイにハッキングをかけていたからだった。

 

『突然この白仮面の若造から連絡が来てお主の本性を教えられた時はまさかと思ったが・・・ワシも見る目が無かったということかのう』

『爺さん!そんな事よりこいつを今すぐぶち殺すぞ!』

『待て待て、我々とネームレスの契約を忘れたか。今すぐ戦闘行為を辞め投降する代わりに、クロウと影の兵団の処理を担い、我々の身柄の保証をするという約束だろう』

『・・・ちぃっ!』

 

Cは俺と彼らの間で落ち着き無く視線を行ったり来たりさせている。

 

『というわけじゃ、ネームレスよ。契約通り我々の指揮下の者には投降するよう伝える。お主もきっちり守って貰うぞ』

「分かっていますとも・・・ですが、次何かあれば容赦はしませんよ?」

『ほっほっほ・・・』

 

そうして通信がきれ、静寂が訪れた。

 

「最初から思っていた」

 

俺はCに対して口を開く。

 

「確かにお前は用意周到だ。しっかり計画を経て作戦を成功させた。だが、俺からしてみれば詰めが甘いと言わざるを得ない。想定外の事にも対処しようとしない。お前がやった事はただ当初の予定通りナナリーを連れ去り、オオサカを攻めた。それだけだ。」

「・・・」

「本来お前は滞りなく目的を達成する為なら不確定要素を確実に廃するべきだった。俺の行方を捜そうともしない。連合軍の最大戦力達を先に排除して置こうともしていない」

「・・・しょう」

「C・・・いや、クロウ。お前は自分の信じる者を失ったショックで未来を見失い、歪んだ理想を追い求めようとして狂ってしまった。だから察しが良ければ簡単に気づける罠に引っかかる」

 

実際、今回俺が仕込んだ罠など少し慎重になれば怪しいと思える箇所は沢山あったはずだ。

それが分からなかったのは・・・クロウ自身、既に周りが見えなくなっていたという事に他ならない。

 

「これでお前が被っていた偽りの仮面は外れた。もうこれ以上の争いは無意味だ。銃を下ろせ、投降しろ」

「・・・くしょう」

「何だ・・・?」

「・・・っ!待て!危ない!」

 

スザクが焦って大声を上げる。

しかし。

 

 

 

「ちくしょおおおおおおおお!」

 

絶望の声を上げながら、クロウは容赦なく俺に向けて銃の引き金を引いた。

 

 

***

 

 

「・・・嘘だ」

 

・・・なんだ、何が起こっている。

 

俺は目の前の仮面の男、憎きネームレスに向けて引き金を引いたはずだ。

 

感情のままに動いたせいで全く狙いが当たらず、奴のこめかみ付近をかすっただけはまだ分かる。

 

その時仮面を付けるための紐が千切れて、仮面が外れ地面に落ちたのも分かる。

 

 

だがそこにあった顔は・・・

 

 

見たことが無いはずの憎い顔は・・・

 

 

 

 

「・・・嘘だ・・・嘘だ」

 

いや、本当は分かっている。

 

見間違えるはずが無い。

 

どれだけテレビや写真でお姿を目に焼き付けていたか。

 

 

 

 

 

「嘘だああああああああああああああああああああああ!!!」

 

そこにあったのは、あれだけ慕っていたはずのルルーシュ陛下の顔だった。

 




如何でしたでしょうか。
まさかの4000文字突破。
色々と混乱しているクロウの事については今後のお話で詳しく。

それでは次回「BIRTH22:終演の ナミダ」ご期待ください。


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BIRTH22: 終演の ナミダ

これは昔の話だ。

 

クロウ・サーシェスは元々孤児だった。

そんな彼を拾ったのが当時影の兵団と名乗る前、傭兵団「鴉」のリーダーであるジャック・レイブンだった。

ジャックは世界各地を飛び回っていたが、偶然クロウが住むスラム街を通りかかった際、噂を聞きつけたクロウに仲間にしてくれと頼み込まれたのだった。

 

元々孤児などを拾っては施設に預け、毎月幾ばくか名前を名乗らず支援金を送るといった事をしていたジャックに取って、最初は孤児を引き取る位にしか考えていなかった。

ましてや傭兵団の後継者などにするつもりは毛頭無かった。

 

考えを変え、本当に後継者にしようとし出したのはクロウを拾って3年目。

 

それまでクロウはどれだけしごかれ、どれだけ辛い思いをしても自分を高めることを辞めずどんどん団の中で中心的な存在になっていくクロウを見てある疑問が浮かんだ。

 

ジャックは尋ねた。

 

どうしてそこまで強くなろうとしているんだ?

 

その問いにクロウは真剣な目で宣言した。

 

 

ブリタニアという国を倒して、俺のような子供を生まないようにするんだ!

 

 

 

 

 

それから時が経ち、何故ルルーシュに心酔し、何故思い違い、何故妄執に捕らわれ、何故このような愚行に及んだのか。

 

 

気づくことのできる者はクロウ、ただ独りだけ。

 

 

 

 

 

 

クロウの銃撃がこめかみ辺りをかすり、鋭い痛みが走るのを感じた。

そして俺が付けていた仮面が取れる。

 

「・・・嘘だ」

 

クロウが信じられない、といった目で俺を見ている。

 

「嘘だああああああああああああああああああああああ!!!」

「嘘じゃない。正真正銘、俺は本物のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」

「何故・・・何故生きて・・・!」

「死に損なった、という所だな。秘密裏に治療が施され、俺はこうして生き残っている」

 

勿論真っ赤な嘘だ。だが、こればかりはそう簡単に教えることができない。

 

「・・・どうして!何故!あなたは一体何を考えて!」

 

悲痛な声で俺に問いかけるクロウ。

もはやそこに影の兵団、Cの面影はない。

 

「・・・俺は力による支配など元から目指してはいない」

「そんな・・・」

「俺が目指したのは、皆が他者に対し優しくあれる世界。それを実現する為、自ら悪役を買って出た」

「優しい、世界・・・」

「それまでの世界は至る所に悪意が満ちていて、弱者が強者に理不尽に虐げられる世界だった」

「・・・」

「そんな世界を変えるためには、シャルルを打ち倒すだけでは変わらない。変えられない。世界の悪意を一つに纏め、消さなければならない。そうすることで悪意から解放された世界は話し合いというテーブルにつくことができる」

「・・・」

「・・・だが、そう簡単に事は運ばなかった。まさか本気で悪役に味方する物が出てくるとは思っていなかった。人を歪ませるとは思わなかった」

 

クロウはもはや何も言葉を発しない。

ただただ俺の言葉を聞いている。

 

「俺がわざわざ生きていることがバレる危険を犯してまでお前と敵対したのは、そんな俺の罪を購い、自らの手で幕を降ろすためだ」

 

そうして俺は頭を下げる。

 

「・・・すまなかった。お前を狂わせたのは俺だ。もう、辞めよう」

 

 

 

 

そうして頭を下げ続けていると、クロウは未だ取り乱しつつ少しずつ口を開く。

 

「・・・俺は、俺は一体・・・今まで何を・・・」

「クロウ・・・」

「俺は何をして・・・そうだ・・・新しいゼロ、ルルーシュ様側近のその後・・・そしてあの扇の反応・・・少し考えれば・・・あぁ・・・ああああ・・・」

 

ポツポツと呟く声が言葉にならなくなってくると、クロウは絶望した声を上げながらその場に崩れ落ちる。

 

「っ・・・ナナリー!」

 

それに素早くスザクとカレンが反応しナナリーに駆け寄り車椅子のまま急いでクロウから距離を取る。

 

「怪我はないかい・・・?」

「ええ・・・殆ど手荒な事はされませんでしたから・・・」

 

ナナリーはスザクに微笑みを返しながらも、俺の方にちらちらと目線を送っている。

やはり俺の事で未だ動揺しているのだろう・・・いずれきちんと話さなければな・・・

 

「・・・はは、ははは」

 

そんな事を考えていると、クロウが力の無い乾いた笑い声をこぼした。

 

「・・・申し訳ありませんでした、ルルーシュ様。私はどうかしていた・・・こうなってはもはや・・・」

 

どこか自嘲めいた笑みを浮かべながらクロウは自分の頭に拳銃を突きつける。

 

「!?おい!待て!待つんだ!そんな事をしても・・・!」

 

俺は焦って思いとどまらせようと声をかけるが、クロウはそれに対し静かに首を振った。

 

「いいえ・・・私に生きる資格はない・・・生きて罪を償い切ることなど出来やしない・・・」

「おい!やめろ!」

「待つんだ、C!」

「この・・・どこまでも勝手な!」

 

俺に続きスザク、カレンもクロウを止めようとする。

 

だが。

 

「あぁ・・・」

 

 

 

もはや遅かった。

 

 

 

 

 

 

「・・・どこで間違えたかなあ」

 

 

そして、その場に再び乾いた銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

オオサカ奪還作戦は、作戦開始から2時間24分後に終了を確認。

同時刻より、連合軍は本隊の撤退行動に移行。

残存部隊は本件の事後処理任務を開始。

 

・・・

 

連合軍の損害は当初の予想を超えてはいたが許容範囲内である。

対して敵軍の損害は極めて甚大となった。

合計して死者は数百名に昇ると推定。

 

また、本件の主犯Cは突入部隊に追い詰められ自殺。

遺体は幾つかの証拠物件と共に回収され、現在新日本・トウキョウ地区総合病院にて保管中。

 

・・・

 

敵巨大航空戦艦「黄泉比良坂」は突入部隊の活躍により、その機能を停止。

投降した技術員の協力により安全に着水を成功させ、現在解析作業中。

後日解体される予定。

 

・・・

 

以下、補足事項。

 

新日本・ブリタニア連邦共同技術チーム「ノーディ・ラビット」(責任者:ロイド・アスプルンド)所属、民間協力員、通称ネームレスは、作戦終了後チームの名を冠する艦、「ノーディ・ラビット」へ帰投せず行方をくらませている。

 

新日本防衛軍第三師団主導で捜索を行うが、足取りを掴む事が出来ず打ち切る事が決定。

 

 

 

その後、現在に至るまでネームレスが現れたという情報は入ってきていない。

 

 

  ―「オオサカ奪還作戦に関しての最終報告書」より抜粋―

 

 

 




通算UA36500突破、お気に入り登録数300突破ありがとうございます。

さてこれにて事件の幕は下り、そしてこの物語の幕ももうすぐ下ろす事となります。

完結まで、残り2話。

次回、「BIRTH23:紅の 想い」ご期待ください。


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BIRTH23: 紅の 想い

俺、ルルーシュはトウキョウ空港の待合ターミナル屋上で人を待っていた。

 

 

既にオオサカでの戦いから一週間経っている。

 

あの後、クロウが自殺を遂げた後・・・俺は頭の中で自問していた。

 

殺すつもりなんて毛頭なかった。

しかもまさか自殺を選ばせるなんて考えてもいない。

生前では考えられないが、俺はクロウに生きて罪を償わせようとしていた。

・・・あの男が聞いたら大笑いするかも知れないが。

 

もしかしたら、死んだ方がクロウにとって幸せだったかもしれない。

だが・・・俺の犠牲者でもあった奴には・・・

 

話を戻そう。

 

しかしその時の俺たちにはそんな事をいつまでも悩んでいる暇は無かった。

これから黄泉比良坂の完全制圧が待っている。その時兵に出会ってしまえば、事情を知らない者から追求を受けたり余計な衝突を招く可能性がある。なるべくそれらを避ける為、ナナリーを2人に託しステルス迷彩を施して一足先に戦線を離脱した。

 

その後トウキョウ地区まで帰ってきてすぐ、エナジー切れを起こし不時着。

・・・この時俺は迷彩能力があるのだから何故一度ロイド達の元へ戻らなかったのか後悔したのは言うまでもない。

 

恐らく、動揺していたのだろう。

だから正常な判断ができなかった。そう考えることにした。

 

・・・その後数日様子を見てからロイド達へ連絡を取り、影日向と俺を回収して貰った。

 

そして補給と調整を任せる間、C.C.と合流しある人物へ面会しに行くため、俺は民間機で秘密裏にブリタニア連邦へ飛ぶことになったのだ。

 

本当はロイド達に送って貰えるはずだったが、彼らが主導で黄泉比良坂の解析作業を行う事になり、急遽航空券を用意して貰った次第だった。

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

飛行機の搭乗開始時間までまだ30分はある。

辺りには誰もいない。

いや、丁度待ち合わせをしていた相手がやってきた。

 

「お待たせ」

 

俺はその声に振り向く。

 

「ああ、カレン。まだ時間もあるし問題ない」

 

 

 

 

「・・・ってな訳で、復興作業も大分進んでる。追い出されていたオオサカ地区の人達も徐々に戻ってこれてるよ」

「そうか、良かった」

 

私はあの後すぐにオオサカを離れたルルーシュに作戦後の大体の流れと経緯、結果を伝えていた。

 

「扇さんが感謝してた。あんたがいなかったら最悪の事態になっていたかもしれないって」

「・・・そう、だな」

「・・・もしかして、まだ気にしてる?Cの事」

「・・・」

 

浮かない顔をするルルーシュにもしやと思い問いかける。

図星のようだ。

 

「あんたが気にすること無いでしょ・・・それとも何?あいつが自殺したのは自分のせいだと思ってるの?」

「それは・・・」

「はぁ・・・馬っ鹿じゃないの!?確かに後味は悪いわよ?でもあいつは自分でその選択をしたの!最後まで自分勝手にね!それを勝手に自分の枷にしてんじゃないわよ!」

「カレン・・・」

 

私は頭にきていた。

こいつは自分独りで何でもかんでも背負い込もうとする。

ずっとそうだった。

 

「・・・例えあんたに責任があったとしても、独りで抱え込むなんて許さない」

「カレン・・・?」

 

私は立ち上がり、ルルーシュに向かい合う。

 

今日、私がルルーシュに会いに来たのはただ報告をする為だけじゃ無かった。

 

 

「この際だからはっきり言うわ」

「お、おう」

 

すぅと息を吸い込み、ゆっくり長めに吐く。

 

「私はね、ルルーシュ・・・あなたの事がずっと好きだった」

 

私の告白に驚き目を開くルルーシュ。

 

「いつからかは分からない。でも気づいた時にはあなたを好きになっていた。愛していた。」

「カレン・・・」

「でも、あなたが黒の騎士団を利用していたって知って、とても悩んで苦しんだ。それでも、学園であなたと決別して、その時に全部気持ちを捨て去ったつもりだった。でも・・・あなたは私を騙していた」

「それは・・・」

「待って。謝るのは私の方・・・あの時、ナナリーが特区宣言をした時。落ち込んで薬に手を出そうとしていたあなたに『最後まで騙し通してよ』って言ったのはあたし・・・あなたは約束通り、最後まで騙し通しただけ・・・」

 

そして私はようやく彼に頭を下げる事ができた。

 

「ごめんなさい。辛い思いをさせて。独りにさせて・・・苦しい選択をさせて」

「・・・そんな、謝ってもらう事なんて」

「・・・だから!」

 

私はルルーシュの言葉を遮り、想いを伝えきる。

 

「だから今度こそ私はあなたを独りにさせない!たとえルルーシュじゃ無くなっても!名前が無いままでも!必ず愛するあなたの側に立ってみせる!辛い事も、悲しい事も全部一緒に背負ってみせる!」

「カレン・・・」

「だから・・・今すぐじゃなくて良い。いつか・・・さっきの告白の返事、聞かせて」

「・・・ああ、分かった」

 

突然の告白に最後笑顔を見せたルルーシュに突然、正面から抱きつく。

ルルーシュはまた少し驚いた顔を見せるが、微笑みを浮かべ優しく抱きしめてくる。

 

 

「また、会おう」

「・・・うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約1時間後。

 

ルルーシュを乗せた飛行機は空へ飛び立っていった。

 

ルルーシュにとって一番大切な人と話をする為に。

 

 




如何でしたでしょうか。

カレンとの関係の行方は決して遠くない未来へ持ち越しとしました。
変に決め打つよりこっちの方が良いかなと思った結果です。

さて、遂にこの物語も終わりを迎えます。
ルルーシュが話をしに行った相手、もうおわかりですね。

次回、最終話「BIRTH24:C.S.」11月20日金曜日、午前0時更新。
どうぞお楽しみに。


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BIRTH24: C. S.

 

ブリタニア連邦・・・久しぶりにこの地へ俺は帰ってきた。

 

懐かしい想いに浸りながら空港の通路を歩いていると、前方にスーツに身を包み眼鏡をかけたC.C.の姿を見つけた。

 

「ふっ。お疲れ様、だな」

「C.C.も良くやってくれた。お前がいなきゃ俺達は今こうしていない」

「だな・・・さ、まずはホテルに向かうぞ」

「約束の時間は?」

「なるべく怪しまれずに人払いをする必要があってな。夜11時にブリタニア本庁だ」

 

 

 

 

時間は瞬く間に過ぎていき、夜11時。

 

夕食を簡単に済ませ、俺とC.C.は裏口から本庁に入っていく。

入り口の警備員は、ジノが上手く話を通しておいてくれたらしい。

・・・ブリタニア連邦政府でも最上級の地位を持つジノに言われれば万が一怪しいと思っても逆らうことは出来ないだろう。

 

とにかく俺とC.C.は何の障害も無く、最上階の執務室に到着した。

 

俺は、いつかの如く緊張を覚えながら目の前の重厚な扉を開く。

 

そこで待っていたのは・・・

 

「お久しぶりです・・・お兄様」

 

俺の最愛の妹、ナナリーだった。

 

 

 

 

「ああ・・・久しぶりだな、ナナリー」

 

私は最愛の兄が入ってくるのをブリタニアに戻ってきてからずっとここで待っていた。

 

「元気そうで何よりだ・・・もう仕事に復帰したんだな」

「ええ・・・元々怪我は全くありませんでしたし、やらなければならない事が山のようにありましたから・・・」

 

ぎこちない会話。

お互いに相手の様子をうかがいながら喋るため、中々話は弾まない。

私は意を決してお兄様に更に声をかける。

 

「あの!」

「そのだな!」

 

・・・

 

全く同時に話しかけた私達。

しばらく呆然とお互い顔を見合わせ、どちらからとなく私達は思わずぶっと吹き出してしまった。

 

「ふっ、あっはははは」

「ふふ、うふふふ・・・」

 

私は笑いながらも涙を溢れさせながら話を続ける。

 

「本当に・・・お久しぶりです・・・!」

「ああ・・・色々すまなかった」

 

私は車椅子を動かし、お兄様はゆっくり私に近づき、果たしていつぶりか私達は抱擁し合う。

 

「全部、C.C.さんから聞きました・・・お辛かったでしょう・・・」

「いや、お前に味合わせた苦しみに比べれば・・・」

「そんな事・・・」

「・・・もっと、早く気づけば良かった。分かり合うこと、話し合うこと、相手を理解すること・・・」

「・・・駄目ですよ、お兄様。それはたらればの話・・・私は今こうしてお兄様にまたお会いできた事がとても幸せなのです・・・」

 

離れた所からC.C.さんに優しい笑顔で見守られながら、私達はしばらく抱き合っていた。

 

 

 

 

そして。

 

「お、お恥ずかしい所をお見せしました・・・」

「いや、こちらこそ・・・」

 

しばらく経って我に返った俺達はお互いに照れ合う事になった。

コントの如く流れるような展開だった。

 

「全く・・・2人ともいつまで恥ずかしがっているんだ?」

 

C.C.が呆れた様子で俺達を更に引き戻す。

 

「そ、そうでした!お兄様にお話したい事が・・・」

「俺に?」

「実は、これからの事についてなのです」

「・・・もしや軍縮政策の事か?」

「ええ。実は今回の事を受けて各国から軍縮政策は考え直した方が良いのでは無いかという意見が次々と出ていまして」

「なるほど、今回の二の舞にはなりたくないと」

「・・・私は、軍縮は間違いではないと思います。勿論治安維持の観点では必要な武力かも知れませんが、過ぎた武力は必ず戦争の発生を手助けします。ですが、私は甘かったのではと」

「難しい問題だな・・・戦争を無くしたい理不尽な武力を否定したい、が為に武力を持つしかない。世界がずっと直面している問題だ」

 

この時俺は、ナナリーは俺にアドバイスや意見を求めてくるのだろうと一瞬考えた。

しかし、そんな事はありえ無い。

 

「ですから、一つ考えたのです。世界全体で武力を一つに集めようと」

「それは・・・」

「はい、旧超合衆国における黒の騎士団の立ち位置とほぼ同じです。一つの軍を世界各国が合同で運営し、有事の際の力とする。世界が一つとなり国際連合を組むのです」

 

ナナリーはずっと前から一人で歩ける位に成長した。

勿論不安もあるだろう。

だが一人で考える事を放棄したりはしない。

 

「しかし、それは一歩間違えば独裁を生むぞ」

 

そう、世界を一つにするとは容易な事ではない。

平和的に行こうとすれば必ず離反する国が出てくる。

それを止めるには・・・過ぎた武力を使うしかない。

 

「ええ、ですがそうはさせません。根気よく、平和を求め続けます」

「・・・本当立派になったものだ」

 

ナナリーなら心配ない。

 

優秀な仲間が側で支えている。

自身もとても立派で強い。

 

これなら、大丈夫だ。

 

「・・・頑張れ」

「ええ!」

 

 

 

 

それからしばらくナナリーと久し振りの雑談をしていた。

 

その最中、突然ナナリーが暗くなりうつむき黙ってしまった。

 

「ん?どうした?な、何か機嫌を損ねてしまったか?」

「・・・お兄様は、これから自分の名前を捨て名無しとして生きていく。そう仰っていたそうですね?」

「っ!・・・ああ、そうだ」

 

・・・遂にその話が来てしまったか。

 

「・・・失礼を承知で言わせていただきますが、それは間違いだと思います」

「・・・」

「お兄様のことです。既にお分かりかと思いますけれども・・・改めて言わせてください」

「・・・ああ」

 

名前を捨てるというのは自分の責任から逃れること・・・

そんな事は認められない。

 

そのようにナナリーからも言われる。そう思った。

 

「私はあなたの妹です」

 

・・・は?

 

「いや、それは当然のことで」

「いえ、お兄様は分かっていらっしゃいません」

 

訳が分からない。

一体何が分かっていないというのか。

混乱する俺にナナリーは優しく、だが真剣に言葉を続ける。

 

「お兄様が並ならぬ想いで名前を捨てる決意をされたのは分かります。ですが、名前を捨てるということは私達が兄妹であった事を捨てる・・・という事になりませんか?」

「・・・っ!」

「私は嫌です。いくらお兄様が悪逆皇帝として世に名が刻まれようと、いくらお兄様が不老不死の身体になったとしても、いくらお兄様がご自分の存在を疎ましく思われても・・・それでも私はお兄様の妹であり続けたいのです」

「・・・」

「お願いです・・・どうか、私の最愛の、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを捨てないでください」

 

言葉が、なかった。

こんな俺の事をここまで想っていてくれていたとは・・・

 

いや、気づこうとしなかっただけだ。

 

スザクも、カレンも、ロイドも、セシルも、ラクシャータも、扇も、ジェレミアも、アーニャも、他の元仲間達も・・・

 

俺を信じてくれて、俺に協力してくれた・・・

 

 

「全く・・・どいつもこいつも、簡単に言う・・・」

「お兄様・・・」

 

ナナリーが俺のつぶやきに何を思ったか、更に顔を暗くする。

 

「残念だがナナリー、俺はもうネームレスという新しい名前で世界に姿を見せた。いくら仮面を被った姿だとしても・・・今の俺は、ネームレスという存在だ」

「ええ・・・そうですね」

「・・・だが」

「え・・・?」

「だが、俺を信じてくれる者の前だけ位ルルーシュとしていなければ・・・折角の想いに応えることなんて出来ない、よな?」

 

俺は少しぎこちなくだが、ナナリーに微笑みを返す。

その言葉にナナリーは、うれしさに顔を綻ばせて大きく頷いた。

 

「ルルーシュ、そろそろ警備との約束時間が経つ」

「・・・分かった」

 

そして俺は改めてナナリーを柔らかく抱きしめる。

 

「よっぽどの事が無い限り、中々会うことは出来ないだろう。ナナリーには仕事もあるしな。だが、いつかまた」

「・・・ええ、あの時のようにまた折り鶴を一緒に作りましょう」

「ああ・・・必ず」

 

俺は名残惜しさを心の奥へ押し込むと、ナナリーから離れC.C.と共に本庁を後にした。

 

 

 

その後、ロイドから連絡が来るまで俺とC.C.は姿を隠し生活していた。

 

 

 

連絡があったのは一週間後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広がる草原地帯。

 

そこを馬車が藁山を乗せて丘を登ろうとしている。

荷台の上には緑の髪の女が寝そべっている。

 

穏やかな日差しが彼らを刺す。

心なしか彼らを祝福してくれているような雰囲気を醸し出す。

 

 

 

 

 

しばらく馬車を進めていくと、丘の向こうに人がいた。

 

彼らのために調整を終えた影日向を持ってきたスザク、ロイド。

 

 

そして彼らに手を振る、孤独を生きてきた青年を愛していると、側にいると宣言したカレン。

 

 

 

 

 

「お~い!」

 

そんなカレンの声に青年は微笑みを浮かべると頭上から楽しそうな声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「ギアスという名の王の力は、人を孤独にする・・・

 

少しだけ違っていたか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なあ、ルルーシュ。」

 

 

「ふっ・・・」

 

 

 

 

 

ああ・・・

 

 

 

 

 

俺は、独りじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コードギアス 反逆のルルーシュLast Episode ~ 贖罪のネームレス

 

 

 

 

 

and

 

 

Continued Story...

 




以上で本作「コードギアス 反逆のルルーシュL.E.~贖罪のネームレス」は完結となります。

これからもルルーシュ達の物語は続いていきますが、それは皆さんのご想像次第・・・という事で。
ラストの流れはどうしてもやりたかった。
ちなみに文中に出てきた国際連合は現実世界の物より、良くガン◯ム作品で出てくる地球連邦に近い物を想像して頂ければ分かりやすいと思います。
・・・ナナリー達なら多分大丈夫です。きっと。



最後に、この場をお借りして謝辞を。

拙い文章、あやふやな設定、無理矢理な展開・・・
反省点をあげていったらキリがないでしょう。
処女作という事で何度も躓き、何度も挫けそうになりましたが、こうして完結させる事が出来たのは皆様のおかげです。

また日刊ランキングにも入る事が叶いました。
感想を書いてくださった方々、評価を付けてくださった方々・・・そして何よりこれまで閲覧して頂いた多くの皆様に最大級の感謝を。


今後についてはまた活動報告などでお伝えしていきます。
次回作も確定していますので。
それでは、またどこかでお会いできることを願って・・・

約4ヶ月、本当にありがとうございました!


餌屋


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