ライメイジャパンの挑戦!〜青き炎・アナザーストーリー〜 (支倉貢)
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結成!ライメイジャパン!

青き炎が完結してないのに書いちゃいました。未熟な私を許して下さい……泣
これは、イナズマイレブンシリーズ全てに出てくる選手と戦う予定です。エイリア大丈夫かな……?またあれやるの!?って泣かれたらどうしよwww
まあいいや。それではどうぞ!


円堂たちと共に青木穂乃緒が世界を制してから2ヶ月後。青木は円堂たちと別れ、一人静かだが幸せな時間を過ごしていた。

そんな彼女に、一本の電話がかかってきた。電話の相手は、響木だ。

 

「響木さん……?あの、私に何か御用ですか?」

『おう、青木か。久しぶりだな。実は、お前に用があるんだ』

「用がないのに電話をかけますか普通……」

『まあいいだろう。明日、学校に来てくれ』

「はい。分かりました」

 

円堂たちと別れてから、響木に会うのは久しぶりだ。

青木は円堂たちに会えるかもしれないという淡い期待を胸に、ベッドに体を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。青木は学校への道を歩いていた。

今、青木は雷門中とは別の中学に通っている。その名も雷帝学園。大層な名前だが、そもそもこの地にはかつて雷帝と呼ばれた男が治めていたという伝説があり、この地域に住む人たちは今も雷帝伝説を信仰している。

青木にとってはどうでもいい話だったが、雷帝伝説を語る近所のおばあさんの目がキラキラと輝いているのが好きだった。

雷帝学園の門を潜ると、すぐそこにはグラウンドがある。そこに、全員で15人の少女たちがいた。

彼女らは思い思いの場所に立ち、中には初対面の人に話しかけたりする者もいた。

 

(一体、何の集まりかしら……?)

「ねぇ、あのっ!」

 

声をかけられて振り向くと、そこには黄色の髪に澄んだ青い目を持った少女がいた。大きな目を青木に向け、口元には屈託のない笑顔を浮かべていた。

 

「あんたも響木さんに呼ばれたのか?」

「はい……。あの、響木さんをご存知なのですか?」

「ご存知も何も、あのイナズマジャパンを率いた名監督じゃねーか!知ってるに決まってるよ。あ、俺、光輝怜!よろしくな、青木穂乃緒!」

「……!?」

 

名乗られた、と思うとすぐに自分の名前を呼ばれ、青木は一歩下がる。警戒しつつ、相手の出方を伺っていた。

しかし、当の光輝はどこ吹く風だ。

 

「……何故、私の名を?」

「あんた、あのイナズマジャパンの選手だったんだろ?すっげーじゃねーか!そんなすごい選手とサッカーできるなんて、俺、チョー幸せだ!」

 

にしし、と悪戯っ子のように笑う光輝は、まるで円堂そっくりだった。青木は彼女の笑顔に、自然と円堂を重ねた。

 

「……そうですか。それは光栄です。こちらこそ、よろしくお願いします、光輝さん」

「おう!よろしくな、青木!」

 

2人はがっちりと握手を交わし、笑い合った。

 

「なるほど、青木は円堂がそんなに好きだったのか」

 

ハッハッハッと笑いながら、響木がやってきた。青木は響木に笑われ、すぐに反論する。

 

「なっ……そんなのじゃありません!」

「ハッハッハッ。可愛くなったもんだな、青木」

 

響木にからかわれ、青木は俯く他なかった。その様子を、光輝にも笑われた。響木は青木たちを見渡し、言い放った。

 

「お前たちをここに呼んだのは他でもない。あるプロジェクトが始動したからだ」

「あるプロジェクト?」

 

鸚鵡返しに聞いたのは、光輝だ。青木も響木の意図が分からず、首を傾げる。

 

「ここにいるお前たちは、将来の女子サッカー界を担う選手たちだと俺は思っている。そこで、だ。お前たちには更にレベルアップをしてもらう」

「レベルアップぅ?」

「……つまり、どういうことでしょうか」

 

さらに混乱する光輝たちを諌めるため、青木は響木に詰め寄る。

何が言いたいのか。用件を早く言え。意外と青木は短気だった。

響木は青木のプレッシャーを感じ取り、口を開いた。

 

「お前たちには、今からこのメンバーでチームを組み、全国、世界を巡ってそこの選手たちと戦うのだ!」

「え……」

「………………」

「「「「えぇええぇえ!?!?」」」」

 

雷帝学園のグラウンドに、大きな声が響き渡った。

 

 

その声が静まっても、全員のショックはなかなか消えない。

それもそうだ。ここにいる全員は初対面が殆どであり、しかもそのメンバーでチームを結成し、男子選手と戦えというのだ。

 

「そ、そそそそんなのムリです!まともな試合になるどころじゃありません!」

 

オロオロと泣き出す、黄緑色の髪の少女。彼女を宥めながら、光輝は言った。

 

「でもさ、でもさ!あの円堂たちと戦えるってことだろ!?こんなに最高なことなんて、他にねーよ!」

「そんなの、貴女だけです!」

 

やけにキラキラしだした光輝に、先ほどの少女が泣きながらもツッコんだ。

青木はしばらく黙っていたものの、響木に歩み寄った。

 

「私は参加します。やらせて下さい!」

「青木……!」

 

青木は響木が頷いたのを見て取ると、クルッと全員を振り返って言った。

 

「皆さん。皆さんは……中学女子サッカー界最強メンバーだとお聞きしました。私は……今まで円堂さんたちとサッカーをしてきて……でも、本当は円堂さんたちと戦えるのは、特別ケースだからだと聞いて、とても悲しかったです。本当は……私は、女だから……円堂さんたちと肩を並べて戦えない。それがとても悔しかった。でも……この機会なら、円堂さんたちと戦える……!今までのように仲間としてではなく、敵として……!私はとても嬉しいです。あの円堂さんたちに挑戦できるなんて!私たちには、それができます。力があるから。そう認められたから、ここにいるんです」

 

青木の言葉を聞いた光輝は、昔のことを思い出していた。

光輝は本当は、男子に混じってサッカーがしたかった。そこに、男も女も関係ない。そう思って、中学校に入学した時にサッカー部に入部した。

しかし、公式大会には出られなかった。いや、許されなかったのだ。自分が、女だったから。

一生懸命練習しても、それを披露する場所もない。何のためにサッカーをしているのか分からないまま過ごしていたその矢先、響木に呼ばれたのだった。

 

「……俺、分かるよ。青木の気持ち。俺も女だからって、試合に出してもらえなかった」

「公式大会以外じゃないと、私たちには試合する術なんて殆どないもんね……」

「見返してやりましょう、皆さん」

 

青木の言葉に頷いた面々に、青木はまた言葉を投げかけた。

 

「私たちをなめたらどうなるか、思い知らせてやるんです」

 

そう言って、青木はニヤリと笑みを浮かべた。

それに、泣いていた少女もこくりと頷いた。

 

「わ……私も出ます!私も……彼らを見返したいです!」

「俺ももちろん出るぜ!ここで辞めたら、女が廃るってもんだ!」

「私もやろう」

「私も」

「あたしも!」

 

次々と青木に賛同し、遂には全員が参加表明をした。響木はこの様子を見て満足そうに頷き、全員に言い渡した。

 

「お前たちはこれからライメイジャパンとして、戦ってもらう。これからどんな戦いになるか、誰にも分からんが……覚悟は出来ているだろうな?」

「もちろんっすよ、響木さん!」

 

光輝はバチンとウインクし、拳を高く振り上げた。

 

「よぉし!行くぞ、ライメイジャパン!!」

「「「「おぉっ!!!」」」」




ライメイジャパン、結成しました!
これからオリキャラ沢山出ると思いますが、その都度整理していきたいと思います。全員の名前は次回かな?
これからよろしくお願いします!


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全員紹介!

ライメイジャパンのユニフォームに着替えた青木たちは、まず全員自己紹介をしようとグラウンドに集った。

そもそも、全員ほぼ初対面だ。相手を知らない限り、サッカーなどできない。

グラウンドには、青木たちの他に年上の女性と同い年くらいの少女が立っていた。

 

「……来たわね」

「ん?誰だあんた」

 

年上に向かっていきなりあんた呼ばわりなのは、もちろん光輝だ。彼女はあまり年を気にしない。

それはそれでどうかと思うが。と、青木は光輝を横目に溜息をつく。

 

「私は、貴女たちの監督を務める吉良瞳子(きらひとみこ)よ」

「監督!?監督なんて、いたんだ!」

「かなり失礼ですね、貴女」

 

もはや青木は光輝のツッコミ役として立場が固まったらしい。青木は瞳子を見て、頭を下げた。

 

「お久しぶりです、瞳子監督。またよろしくお願いします」

「……久しぶりね、青木さん。良かったわ、貴女が自然に笑えるようになって」

「いえ……瞳子監督も、お元気そうで何よりです」

 

瞳子も微笑みを浮かべて青木を見た。その視線の先には、笑顔の青木が立っていた。

 

「では、まずはお互いを知ってもらうために自己紹介をするわよ。光輝さん、貴女から。順番に簡単に自己紹介して」

「はい!」

 

元気な返事をした光輝は、一歩踏み出した。

 

「俺、光輝怜(こうきれい)!千葉に住んでる。ポジションはGKだ。よろしくな!」

 

笑顔を見せるのは、彼女にとってコミュニケーションの一つなのか、光輝はいつものように笑顔を浮かべる。

 

涼野雪(すずのゆき)。静岡から来ました。ポジションはGKです……よろしくお願いします」

 

銀髪を風に靡かせたような髪に、青い瞳。あれ?彼女、誰かに似てるような……。青木が一人考えていると、次に順番が回っていた。

 

好瀬遥華(このせはるか)です……と、東京から来ました。ポジションはDFです。よ、よろしくお願いします!」

 

人慣れしてないのか、好瀬はぺこりと勢いよく頭を下げた。黄緑色のセミロングを揺らし、頭には黄色いカチューシャを付けて、開かれた大きな黒い眼をふるふる震わせている。

 

吹野花(ふきのはな)です!奈良から来ました〜。ポジションはDF!よろしく!」

 

ピンク色の髪をお下げにして、肩に流している。えへへ〜と人懐っこい笑顔を見せた吹野は、軽く手を挙げた。よろしく、という意味だろう。

 

三月蘭(みづきらん)です。静岡出身で、ポジションはDF。よろしくお願いします」

 

礼儀よく頭を下げた三月は、赤髪のポニーテールだ。挑戦的な赤い目を光らせ、ニコリと笑う。袖から見える腕は筋肉質に見え、かなり鍛えられていることが分かった。

 

神童結衣(しんどうゆい)といいます。ポジションはDF。東京から来ました。どうぞよろしく」

 

結衣の茶色の髪はふんわりとウェーブがかかっていて、お嬢様のような風格をたたえていた。

 

篠原(しのはら)ミナリ。ポジションはDFで、神奈川から来たの。よろしく」

 

素っ気ない感じであるが、ちゃんと挨拶をしたミナリ。茶色の髪を後ろでお下げにして束ね、緑色の目が特徴だった。

 

野々宮(ののみや)ルチア。MFです。群馬から来ました」

 

金髪をさらりと払い除け、黒縁眼鏡を上げてルチアは言った。あぁ、こんなヤツ雷門にもいたな……と青木は遠い目をしていた。

 

灰藤亜美花(はいどうあみか)。静岡から来ました。ポジションはMFです」

 

肩から前に出ている(くす)んだ緑色の髪を揺らしながら、灰藤は頭を下げた。

 

滝原美香穂(たきはらみかほ)。京都から来ました。ポジションはMF。よろしくお願いします」

 

優しげな微笑みを浮かべながら、滝原は挨拶する。こういうヤツが一番腹黒いんだよな……。青木は頭の中で勝手に推測を立てていた。

 

「……青木穂乃緒(あおきほのお)。東京から来ました。ポジションは一応MFです」

 

淡々と述べてから、青木は小さく礼をした。自分のペースは、どこに行っても貫く。それが彼女だ。

 

沖野(おきの)カナ。静岡に住んでる。ポジションはFWだ。よろしくな」

 

赤髪を黄色いバンダナで(まと)め、翡翠色の目を向ける。青木はふと、沖野にある人物を重ねていた。

 

「アタシの名前は神谷杏(かみやあん)!大阪に住んでたヨ!ポジションはFW!よろしくネ!」

 

どうやら彼女も光輝と同じ部類らしい。敬礼のようなポーズをし、悪戯っ子のような笑顔を見せた。

 

春野(はるの)テル。ポジションはFWで、カナと幼なじみです。よろしくお願いします」

 

茶色のショートカットに、ピンク色の目。どちらかといえばちゃらんぽらんに見える沖野とは違い、冷静な雰囲気だった。

 

陽山(ひやま)フレア。沖縄から来ました。ポジションはFWです」

 

オレンジ色のウェーブがかかった長髪に、優しげな赤い目。

あのハイテンションな大海原中イレブンとは全く違う雰囲気に、青木は面食らってしまった。

彼らのせいで、自身の中の沖縄県民のイメージが固着してしまったことを反省する。

 

月星(つきほし)ルナ!北海道から来ました。ポジションはFW!よろしくね!」

 

もうこの際住んでるところがどーのこーのがめんどくさくなってきた青木。県民性がよく分からなくなってきたので放置することにした。

メンバー総16人。女子中学サッカー界最強メンバーが揃った。

瞳子監督はこくりと頷き、最後にマネージャーの少女を紹介した。

 

「今回マネージャーをしてもらう、倉石昴よ」

倉石昴(くらいしすばる)です。皆さんのマネージャーを務めさせて頂きます。どうぞよろしくお願いします」

 

緑色の髪に上下に跳ねた特徴的な前髪が揺れた。

これからこのメンバーでやっていくのか。青木は小さく溜息をつく。

正直言って、不安だった。自分を貫くと言っても、この初対面だらけのメンバーでやっていけるのか。

不意に、光輝が拳を振り上げた。

 

「よぉし!みんなの名前が分かったところで、ミニゲームしようぜ!俺たちはもうチームメイトだろ?まだまだ知らないことばかりだけど、まずはミニゲームだ!いいっすよね、瞳子監督!」

「そうね。お互いを知るためにも、8対8に分かれてミニゲームを行ってもらうわ」

 

何だか勝手に始まったミニゲームに巻き込まれ、青木は再び溜息をついた。




原作キャラとの関係のあるオリキャラ
・神童結衣…神童拓人の姉
・涼野雪…涼野風介(ガゼル)の妹
・好瀬遥華…佐久間次郎の従妹
・三月蘭…南雲晴矢(バーン)の従姉
・沖野カナ…基山ヒロトの幼馴染。ハイソルジャー計画には加わらなかった

絵は出来次第また貼ります。


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ミニゲーム開始!

その後、光輝たちはくじ引きをし、8対8のチームを組むことになった。

まず、Aチームのメンバーは光輝、神童、三月、篠原、滝原、灰藤、神谷、陽山。キャプテンは、光輝だ。

次に、Bチームのメンバーは青木、吹野、好瀬、涼野、野々宮、春野、沖野、月星。キャプテンは、青木が務めることとなった。

 

Aチーム、光輝はメンバーを見渡して言った。

 

「よーし、みんな!いっちょやってやろうぜ!」

「「「「おおっ!!」」」」

 

全員が拳を握りしめ、神谷はジャンプする。みんなの気合いを見て取った光輝は、満面の笑顔を浮かべた。

 

一方、Bチーム。青木はキャプテンマークを腕に付けながら、苦い心境だった。これからどうなるのか。果たしてこのメンバーで勝てるのか。青木は不安だった。

いや、そんなことばかり気にしていてはいけない。先のことをずっと考えていては、今のことに集中できない。

やってやる。覚悟を決めた青木は、メンバーに喝を入れた。

 

「行きますよ。ミニゲームとはいえ、この試合、本気を出すつもりで!」

「「「「おお!」」」」

「面白い。久々だ、こんなにゾクゾクするのは」

 

沖野がニヤリと口元に笑みを浮かべる。青木も、気を引き締め直し、キャプテンマークを握った。

 

 

 

 

グラウンドで両チーム並ぶと、青木と光輝は握手を交わした。

 

「いい試合にしような!」

「どうぞ、お手柔らかに」

 

お互い、挑発的な視線を送る。勝負は何事も本気で。それが、彼女らの自分自身のルールだ。

 

 

 

「それでは、始めるわよ!」

 

瞳子監督の声の後に、ホイッスルが鳴る。ボールは、Aチームからだ。陽山が神谷にボールを流すと、神谷はボールをキープしたまま走り出し、それを見た両チームの選手が、ほぼ同時に動き出した。

神谷は小柄な体格を活かし、月星を抜くとすぐに沖野や春野を抜かしていく。小さな隙間なら、どんなところにも入りに行く。

 

(やりづらいわね……。さすがにちょこまか動かれると、難しいわ。なら……)

 

青木はすぐに、行動に出ていた。神谷に向かって走り出すと、彼女の隣を横切った。

 

「What!?」

 

神谷の驚きの声が上がる。なんと、青木は神谷とすれ違った瞬間に、ボールを奪っていったのだ。まるでスリのような素早さだ。青木はボールを足元で一旦落ち着かせると、ボールを奪いに挑んでくる神谷をターンでかわし、パスを出す。その先には、野々宮だ。

 

「カナ、テル!走って!」

 

沖野と春野はその声に頷き、駆け出す。

 

「行かせない!」

 

ドリブルで上がる野々宮を、神童と三月がスライディングして止めに入る。野々宮は空中で1回転して、ボールを3つに増やした!

 

「イリュージョンボール!!」

 

ボールの幻影に惑わされ、神童と三月は抜かれてしまった。野々宮はすかさず、前線を走る沖野と春野にパスを出した。

 

「行くぞ、テル!」

「おっけー!」

 

2人はボールを宙に上げ、まるで第三の目を開眼させるかのように、オーラを解放した。そのオーラは銀河にも似た無限のもので、ゴール前で構える光輝も、ボールをキッと見据える。2人は同時にジャンプし、体を回転させる勢いで、2人同時にボールを蹴った。

 

「「ギャラクシーブレイク!!」」

 

どこまでも広がる銀河のようなエネルギーを(まと)い、ゴールを強襲するシュートに、光輝を気圧されかけた。

 

「すっげえ……なんてパワーだ!でも、俺だって負けねーぞ!!」

 

光輝は片足を後ろに下げ、その足に力を込めた。右手は拳を作り、強く握りしめる。そして、その拳を思いっきりボールに叩きつけた!

 

「正拳一閃!!」

 

拳はシュートを貫くように弾かれ、ボールはBチーム陣まで戻っていた。

 

「なっ……!何て力なの!?」

「はははっ!!やるじゃあないか、光輝!」

 

シュートを跳ね返され、驚愕する春野に対し、沖野は悔しがることなく笑顔だ。

ボールは神谷の足元に吸い付き、それを見て取った陽山も走り出す。神谷のマークに、吹野がついた。

 

「ボルケイノカット!!」

「きゃあ!」

 

跳ね飛ばされ、ボールは一瞬フリーになる。吹野が奪い取ろうとしたその瞬間、駆け込んだ陽山がすかさずボールをキープした。そして、ゴールで構える涼野に目を向ける。

 

「アトミックフレア!!」

「っ!あれは……」

 

南雲晴矢の必殺技。青木は瞬時に悟った。彼と戦った時、特にカオス戦は苦戦したと思い返す。

涼野も黙ってゴールを奪われるつもりはなく、人差し指で簡単な氷の結晶を描き、右手の手のひらを勢いよく突き出した。

 

「ブリザードガード!!」

 

氷の結晶から次々と大吹雪が吹き荒れ、炎のシュートは勢いを失い、最終的には涼野の手のひらに収まった。

 

「やりますね」

「負けるわけにはいきませんからね。お願いします、好瀬さん!」

「は、はいっ!」

 

ボールを託された好瀬は、吹野にパスを出す。吹野から野々宮、青木へと渡った。攻めようと、青木が前を向くと、そこにはとんでもない光景が広がっていた。

 

「おおおお!!」

「!?」

 

なんと、光輝がキーパーゾーンから上がってきて、スライディングで青木からボールを奪おうとしたのだ。間一髪青木はかわしたが、光輝は立ち上がってボールを奪おうと仕掛けてくる。

 

「くっ……貴女、一体何を考えているのですか!?」

「何って……ボールを奪うことしか、考えてねーよ!」

「そういう意味ではありません!」

 

ダメだ。会話にならない。ここまでする人物を、青木は円堂以外に初めて見た気がした。内心呆れていると、光輝がダン!とフィールドを蹴りつけた。すると、彼女の足に稲妻が宿った。

 

「!!」

「行くぞっ!うおおおおお!!」

 

まさか、ここからシュートを放つつもりか。悟った青木も、必殺技の体勢に入った。

 

「エレクトリカルバーストッ!!」

「ブレストフェンリルッ!!」

 

2人同時に、必殺技をボールに叩き込んだ。お互いのオーラに負けじと、2人はひたすらボールに力を込めた。

しかし。

 

パァアアン!!

 

「えっ!?」

「なっ!」

 

2人の間にあったボールが、あまりの強力なシュートに耐えかね、破裂してしまった。バランスを崩した光輝を、すぐに体勢を整えた青木が受け止める。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。サンキュな!」

 

光輝をちゃんと立たせると、瞳子監督から制止の声が上がった。

 

「そこまでよ!」

「え!?もう終わりかよ!」

「結局、同点ですか……」

 

溜息をつく青木に、光輝は残念そうな表情をする。が、すぐに太陽のような眩しい笑顔を浮かべた。

 

「しっかしすっげえな、みんな!!俺、このチームならこれから先、勝っていけるって、確信した!みんな、やってやろうぜ!俺たちをなめたらどうなるか、思い知らせてやろうぜ!」

「完全に復讐目的ですか……」

「こんなキャプテンで、これから先が危ういわ……」

「なっ!?」

 

呆れる好瀬と青木に、光輝が食いつく。しかし吹野と野々宮も、彼女らと同じ意見だった。

 

「男子とどこまで張り合えるかは、まだわかんないでしょ?まったく、気が早いんだから」

「早とちりもいいかげんにしなさいよ?怜」

「何だよ2人まで〜!」

 

この状況を見た春野が、ふふ、と笑う。

 

「なんだか、楽しそうなチームね」

「はははっ!面白いチームになりそうだ!」

 

沖野も、彼女の言葉を受け、豪快に笑った。

 

青空の下、ライメイジャパンの心が一つになった瞬間だった。



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vs尾刈斗中!ユーレイに立ち向かえ!Part1

光輝たちは日々練習を重ね、ついにプロジェクト最初の試合の日となった。

 

「……私帰る!!」

 

野々宮が、クルッと踵を返して帰ろうとするのを、青木がユニフォームの背中を掴んで、引き止めた。

 

「何すんのよ!!」

「何故逃げるのですか?」

「だ、だって……!」

「?」

 

野々宮は言い切れず、フイと視線を逸らした。ただ野々宮は、幽霊が苦手なだけだ。

しかし、青木には得体の知れないものであろうが叩き潰すのみ。そのため、怖くもなんともない。言ってしまえば、青木がこの世で一番怖いかも……これ以上言ったら青木に殺されそうだから、やめておこう。

倉石が、膝の上に乗せたパソコンに、尾刈斗中のデータを出した。

 

「……出たよ。これだね」

「おっ!すっげえな〜倉石!」

「尾刈斗中は、敵の恐怖を煽る戦術を得意とするチーム。また、彼らは呪いをかけることができる……と、あるわ」

「の、呪い!?」

 

ヒィイ、と恐れおののく好瀬は泣き出し、沖野に抱きつく。野々宮は既に足が震えていた。

こいつら大丈夫なのか。

青木は呆れてものも言えなかった。

 

「落ち着いて下さい。呪いなど存在するはずがありません」

「そ、そんなことどうして断言できるのですか!!」

「そんなものが存在するなら、私は既に憎い人を呪ってますよ」

「青木は、憎い人がいるのか?」

「まあ、一応……まあ、そんなことは置いといて。呪いなど存在しません」

「ぅ……ぅうう……」

 

好瀬は泣きじゃくり、野々宮と抱き合う始末。

他のメンバーもそれなりに恐怖は抱いていたが、青木と光輝は、まったく怖くなかった。

青木は幽霊などいないと断言しているためだが、光輝の場合は違った。

 

「呪いか……面白え!どんなのか、見せてもらうぜ!」

 

ビシ!と尾刈斗中イレブンを指差す光輝。どうやら彼女には恐怖など毛頭無いらしい。

青木は彼女の能天気さに、またもや呆れている。初戦から厄介なことになりそうだ。

この状況の中、倉石はクスクスと1人笑っていた。

 

 

「いい試合にしようぜ!よろしくな!」

「ええ……よろしくお願いします。貴女もきっと信じますよ。呪いの存在をね……クックックッ」

 

尾刈斗中イレブンのキャプテン、幽谷博之が光輝と握手を交わす。

相変わらず、怪しい笑みを浮かべる尾刈斗中イレブン。光輝も、それに負けじと挑戦的な笑みを返した。

 

 

 

 

スタンディングメンバーが発表された。

FW:沖野 春野

MF:青木 野々宮 陽山 月星

DF:好瀬 吹野 神童 三月

GK:光輝

瞳子監督が、指示を出すべくライメイジャパンを見渡した。

 

「相手チームのフォーメーションは、守備的布陣よ。攻め込めば攻め込むほど、難しいものになるでしょう。青木さん、陽山さん、月星さんもチャンスがあればゴールを狙って」

「はい!」

「はーいっ!」

 

陽山と月星が返事をする横で、青木が静かに頷いた。

 

「よーし、みんな!気合い入れて行こうぜ!」

「「「「おお!!!」」」」

 

 

 

 

 

ホイッスルが鳴り、試合が開始される。

キックオフはライメイジャパンからだ。

沖野がボールを横に流し、春野は受けたボールをバックパスで野々宮にまわす。野々宮がボールを受け取ると、MF陣が動き出した。

 

「カナ!テル!上がって!フレアとルナはサイドに!穂乃緒は私と来て!」

「幽霊が怖いからですか?」

「そう……って違う!!」

 

並走してきた青木がボケれば、野々宮のツッコミが入る。それに、野々宮の本音が入っていたようなそうでもないような。

野々宮は青木にボールを託し、上げさせる。

 

「あんたのそのスピードなら、なんとかなるでしょ!?」

「……まあ、してみせましょうか」

 

野々宮が言うには、相手をとっとと抜き去り、前線にボールを運べ、ということだろう。

阻んできた敵FWが青木のチェックにまわるが、青木はクルッとターンして相手をかわし、時には文字通り吹っ飛ばしながら、どんどん攻め込む。

 

(……実力自体はそこそこってところね。でも……呪いって、一体どんなものなのかしら?)

 

青木は、ずっとこれが気がかりだった。

呪いを使うチーム。

それは、一体どんなものなのだろうか。

しかし、今はプレーに集中せねば。

気がかりを頭の片隅に置いて、青木は前線の沖野にパスを出した。

 

「お願いします!」

「おお、任せろ!」

 

沖野がグッと(かが)んで、空高く跳躍した。ボールを両足で挟み、グリンと強く捻る。そこから生まれた宇宙のエネルギーを宿したボールを、オーバーヘッドの体勢を取った。

 

「コズミックブラスト!!……?」

 

沖野がボールを叩く瞬間、尾刈斗のGK・鉈の手が不思議な動きをした。

沖野はそれを不気味に思いつつ、渾身の力でボールを蹴り飛ばした。

 

「歪む空間!!」

 

突如空間が歪み、沖野が放ったボールは吸い込まれるように鉈の手に収まってしまった。

沖野の眉が、シワを寄せる。

 

「何!?」

 

着地した沖野の横を掠め、ボールが尾刈斗の前線へ運ばれていく。野々宮がすぐにチェックにまわるも、かわされてしまう。

そこに、青木が立ち塞がった。

 

「デッドスパイク!!」

 

見事ボールを奪うことに成功した青木は、パスを出そうと周りを見渡す。

しかし、沖野も春野もマークされ、動くにも動けなかった。

 

(それなら……!)

 

こういう時の彼女の行動は、人一倍速い。

一気に加速し、相手陣営へ斬り込んでいった。

 

「なるほど……女子だけのチームと聞いていましたが、なかなかやるようですね……ククク……」

 

尾刈斗中サッカー部監督が、怪しく嗤う。

そして次の瞬間、彼の目付きが豹変した。

 

「本気出すぜ、てめえら!!」

 

来る。青木はボールをキープしつつ、身構えた。

一方、ゴール前で構える光輝は、さっきの発言にカチンときていた。

 

「なんだ!?今まで本気じゃなかったのかよ!俺たちが女だからって、なめてんじゃねーぞ!!」

 

しかし、これも彼らにとっては所詮負け犬の遠吠え。そう聞こえる。彼女たちには負けるはずがない。

彼らには秘策(・・)があった。

 

「ゴーストロック……!!」

 

フリーを狙い、攻め込む青木の体が、ふと止まった。

 

「くっ……!?」

 

必死に体を動かそうとしても、動けない。

そんな彼女に、野々宮の檄が飛ぶ。

 

「何してんのよ、あんた!」

「か、体が……動かない……!」

「はぁ!?何を言って……うっ!?」

 

青木と同じように、今度は野々宮の体も止まる。

沖野、春野、陽山、月星……ライメイジャパンDF陣にも、この謎の現象が起こった。

ただ一人、まだそれにかかっていない光輝は、目の前の不可解な現象を、ただ見ていることしかできなかった。

 

「一体、何がどうなってるんだ……!?……うぐっ!」

 

ついに、その魔の手が光輝にも襲いかかった。

ライメイジャパンは、誰も動くことができなくなった。

その間に、尾刈斗中はどんどん攻め込んでいく。DF陣も、一歩も動くことができない。光輝さえも。

 

「くそっ、どうなってんだよ!」

「無駄ですよ……貴女方には、我々が呪いをかけて差し上げました。金縛り(・・・)の呪いをね……」

「か、金縛り!?」

「バカな……!!」

 

幽谷にシュートを決められ、得点を告げるホイッスルが鳴った瞬間、光輝たちは金縛りから解放された。

 

「まさか……ほ、本当に彼らは、呪いを……!!!」

「そ、そんなはずないわ。だ、だって、だって……!」

「落ち着け、遥華、ルチア!」

 

震え出す好瀬と野々宮に、光輝が喝を入れる。

 

「いいか。呪いなんてモンは、俺たちの不安を煽る要素に過ぎない。怖がってちゃ、余計奴らの思うツボだ!さっきは引っかかったけど、次はこうはいかない!絶対、攻略してやる!やろうぜ、みんな!」

「「「おお!!」」」

 

士気が上がる中、青木はふと幽谷たちを見やった。金縛りに遭っていた間、青木には気になっていたことがあった。

 

「マーレーマーレー、マレトマレ……」

 

一体、これが何なのか。何か、この呪いを解く鍵になりそうなのだが……。

 

「青木、試合再開だ!ポジションにつけ!」

「ぁ……は、はい」

 

沖野に促され、青木はポジションへと向かった。



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vs尾刈斗中!ユーレイに立ち向かえ!Part2

あれから、結局ゴーストロックの手がかりを掴めぬまま、ライメイジャパンはさらに失点を重ねてしまった。

前半終了時、スコアは2対0。

これでは、ライメイジャパンの敗北は目に見えていた。

 

「あーっくっそ!!一体何がどーなってんだよ!」

「や、やっぱり呪いは存在したんですよぉおお!!」

 

光輝が苛立ちを隠せず、ヤケになったのか、仰向けに寝転がる横で、好瀬はブルブルッと震え上がった。

そんな状況の中、青木は溜息をつく。

このままではいけない。

何か、策を練らなくては。

あのゴーストロック……発動時と解除時とで、何か変化したところは……。

必死に頭を捻るも、何も思い当たらない。

同じことを、野々宮も考えていた。ユーレイなんて、信じたくない。いや、(むし)ろ信じられるはずがない。

どんなマジックにもタネや仕掛けがあるように、呪いにも何かトリックがあるはず……!

 

「……!」

 

まさか……そんなことが!?

野々宮の脳内で、一つの解答(こたえ)が導き出された。しかし、それはあまりにも実現が難しい。

だが、この仮定が正しければ、このゴーストロックのカラクリにも全て説明がつく。野々宮はニヤリと笑った。

だが……これがもし違ったとするならば、また新たな解答(こたえ)を導き出さなくてはならない。

まず、仮定が正しいことを証明しなければ。そのためには……。

 

「……ねえ、穂乃緒」

「?」

「お願いがあるんだけど……」

 

 

 

 

 

 

後半開始。キックオフは尾刈斗中からだ。

 

「ゴーストロック……!!」

 

開始早々、尾刈斗中イレブンはゴーストロックを仕掛けてきた。

瞬時に、ライメイジャパン選手の動きが、見えない何かで拘束される。

 

「くそっ……!これじゃ、前半と同じじゃねえか……!」

 

悔しげに光輝が尾刈斗を睨みつけるが、体が動かない今、彼女らに与えられた選択は、ゴールを決められるまで黙って見ているだけ。

もう終わりか……誰もがそう思ったその時。

 

「……ふふふ」

 

この状況の中、野々宮が一人笑っていた。

 

「ゴーストロック……ねえ……。単なる催眠術(・・・)に頼るなんて、なっさけない」

「え!?」

「何!?」

 

光輝と幽谷の驚きの声が、重なる。

しかし、幽谷はすぐにニタリ、と余裕の笑みを浮かべた。

 

「ほう……気付きましたか。ですが、この状況を一体どうやって(くつがえ)すつもりです?貴女は、そこから一歩も動けないでしょう……」

「……ゴーストロックを仕掛けている()を消せばいいのよ」

 

野々宮は青木に目配せをして合図を送り、頷いた。

受けた青木は深く体全体を使って、息を吸い込み始めた。

 

「……!?何をするつもりです……!」

 

青木は一瞬タメを作ってから、雄々しい雄叫びを上げた。

まるでそれは狼の遠吠え。

あまりのうるささに、ライメイジャパンと尾刈斗メンバーは耳を塞いだ。その瞬間に、隙が生まれた。

青木は風のように、キープしていた幽谷からボールを奪い去り、ゴールを決めた。

 

ピピィーッ!!!

 

「なっ……!?」

「あ、あれ!?俺たち、動けるぞ!!」

 

あまりに一瞬の出来事であったため、鉈も反応できず、ボールはラインの外を転がり、ネットに突き刺さっていた。誰もが驚愕の表情を浮かべる中、青木は涼しい顔で何事もなかったかのようにポジションへ戻り、野々宮は得意げに黒縁メガネを人差し指で押し上げていた。

 

「あんたたちのタネ……意外と簡単だったわ。もっとちゃんと練らないと、私に見破られちゃうよ?私の目に、見抜けない真実なんてないんだから……」

「……何カッコつけてんですか。点を取ったのは私ですけど」

「あら、でもゴーストロックの仕掛けを見抜いたのは私よ?」

 

ここぞとばかりに得意げになる野々宮に、青木は呆れ果てて溜息しか出なかった。

 

「で、でも、なんで青木さんが大声を上げた途端、私たちが動けるようになったんですか!?」

 

好瀬が驚きのあまり、あわあわと野々宮に詰め寄る。

野々宮はメガネをくいっと上げて説明し……ようとしたところを青木が変わって説明した。

 

「ゴーストロックは、あの尾刈斗の監督の『マーレー、マーレー、マレトマレ』とかいうワケの分からない呪文と彼らの動きによって、催眠術にかかっていたのですよ。私たちが暗示にかかればかかるほど、催眠術はかけやすくなる。私たちの不安を煽っていただけのことです。それを私の雄叫びが掻き消したことで、皆さんの暗示が解け、体が動くようになっただけのこと……」

「ちょっ……!それ私の説明!!」

「遅いのが悪いでしょう?」

 

ムキーッと怒る野々宮をあしらい、青木はポジションについた。

このまま怒られていても面倒なので、青木は彼女に軽く笑いかけた。

 

「ま、貴女のその洞察力は認めております。流石、名高いゲームメイカーですね」

 

そう。彼女こそ、その頭脳と(ひらめ)きは、あの天才ゲームメイカーと名高い鬼道有人に匹敵すると言われる、女子サッカー界屈指のゲームメイカー・野々宮ルチア!

 

「おおっ!すげーぞ、ルチア!穂乃緒!よぉし、みんな!この調子で逆転だぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは呆気なかったもので、尾刈斗イレブンはあっさりと逆転されてしまった。

スコアは2対3。初戦からライメイジャパンの快勝となった。




☆追記☆

あけましておめでとうございますm(_ _)m


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オマケ


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vs野生中!野獣のパワーを迎え撃て!Part1

「次の相手は、野生中よ」

 

移動中の車内でパソコンを開いた倉石は、画面上に出して説明をした。

 

「野生的なパワーが特徴で、その身体能力は高いらしいわ。特に、縦の力がすごいんですって」

「縦の力?どういうことだそれ」

 

光輝が意味がわからないとでも言うように、首を傾げる。倉石は言い方が悪かったか……と溜息をつき、説明を続けた。

 

「ジャンプ力ってこと」

「あ、なるほど!高さか、そうか……って、マジかよ!」

「俺のコズミックブラストも使えねえな。アレ、ジャンプするから」

 

ようやく意味がわかって愕然とする光輝の隣に座る沖野が、肩を竦めた。と、ここで篠原が重要なことを思い出す。

 

「ふあ!?そういえばジャ◯プ買うの忘れてた!!」

「篠原、それで思い出すな。おい、そして降りようとするな後にしろ」

 

沖野が飛び降りようとする篠原のジャージを掴み、阻止する。もちろん、光輝は彼女らの話は聞いていない。

ここで簡単に諦めないのが光輝の性格の良いところである。すぐに青木を振り向いた。

 

「ジャンプ力なら、青木がすっげえよな!青木なら行けんじゃね?……ってあれ?青木は?」

 

振り向いた座席に、青木はいなかった。光輝はすぐに、隣が空席の好瀬に声をかける。

 

「遥華ー!青木は?」

「あ……青木さんなら、今日はご家族とのっぴきならない用事があるって言ってました」

「えええ!?ウソだろ!」

「早く終われたら、戻るって言ってましたけど……」

「それは絶対帰ってこないパターンだな」

 

はははっ!と豪快に笑う沖野。チームメイトとして共に戦っていく中で、ライメイジャパンはお互いの性格や性質(タチ)というものがなんとなくわかってきた。

 

例えば篠原は度が過ぎるほどの隠れオタクで、ある日春野が彼女を呼ぼうとして扉を開けた際、ポスターを見てニマニマしてる篠原に出くわし、ものすごく気まずい状況になったのだという。

その他にも、青木が普通に歩いていると、三月と光輝と沖野が何故か廊下で三つ巴の大合戦を繰り広げており、あまりにも苛立った彼女が3人まとめて拳で成敗したとか。

何故戦っていたかと後で問いただすと、光輝の空手道、三月の合気道、沖野の剣道のどれが最強かを決めていたのだとか。青木は呆れて、後でまた3人に文字通り怒りの鉄槌を下したらしい。

 

こうしてお互いをなんとなく理解し合ったライメイジャパンは、青木のこの行動に驚きはしたものの、怒りを覚える者は誰一人いなかった。まあ、仕方ないか。と、全員が肩を竦める。

……こんな状況が普通と化しているライメイジャパンもどうかと思うが。

 

「着いたわ。ここが野生中よ」

 

瞳子監督の声に、光輝は一目散にバスから降りた。降りてみると、そこにあるのは森、森、森……辺り一面、森だった。

 

「………………森じゃねーか!!」

 

呆然としていた光輝の第一声が、野生中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だぁ?ここは。まさか、本当に野獣と試合するっつーのかよ?」

「まさかぁ。そんなことないでしょ」

 

沖野が森を見渡しながら言えば、春野はあははと軽く笑って流す。

 

「みんな、バスから降りたわ……ね……」

 

瞳子監督が全員を見渡し、バスの方を振り向くと、思わず言葉を失った。いつも冷静で、クールな瞳子監督が、絶句するなど珍しい。光輝たちは、瞳子監督の視線の先を追った。

そこには、バスに緑色のユニフォームを着たーーおそらく野生中の選手たちが、バスにべったりと張り付いていたからだ。ある者はボンネットの上に乗り、またある者は窓をペタペタと触り指紋を付け、またまたある者はバスの上に乗ってまるでトランポリンに乗っているかのように跳ね……。

この光景に、今度はライメイジャパンの面々も唖然とした。

 

「……イヤイヤイヤ!ちょっとあんたら何やってんのよ!?そんなことしたら帰りのあたしらのバスが汚れるじゃない!」

「いや、ツッコむところそこ!?もっと大事なとこあるよ!?壊れるとか!バスは後で洗浄すりゃいいでしょーが!」

 

野々宮の的はずれなツッコミに、三月が重ねてツッコミを入れる。2人の声を聞いたのか、ニワトリ頭の少年が顔を上げた。少年の腕には、キャプテンマークが巻かれていた。ニワトリ頭の少年に、神童が強く反応したのには、誰も気が付かなかった。

 

「ん?おお、すまんコケ。こんな大きなバスを初めて見たから、つい興奮したコケ」

「そうだったのか?じゃ、お前らが俺たちの対戦相手の野生中なんだな!」

 

光輝がニカッと笑いかけ、握手を求めて手を差し出す。だが、降りて来た野生中の面々は、そんな光輝を鼻で笑う。

 

「ふん。お前らみたいな女が俺たちに敵うなんて、勘違いするなコケ」

「軽く捻って、潰してやるよ」

「なっ!!」

 

野生中の見下した言動は、光輝の怒りを刺激した。掴みかかろうとする光輝を、滝原が抑える。

 

「やめなよ。伝えたいことは、ボールで伝えるべきさ」

「っ……そうだよな。よーし、みんなっ!俺たちのサッカー、見せてやろうぜ!」

「「おおっ!!」」

 

光輝の声に呼応し、ライメイジャパンが太陽に向かって拳を突き上げた。



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