神様死すべし慈悲はない (トメィト)
しおりを挟む

盛大に間違っているGODEATER2編 第一話

衝動的に書いた。今は反省している。


きっとそれは必然だったんだろう。
こんな世の中だから、奴らに襲われた結果なんてその辺にごろごろ転がっているという事を、その少年は分かっていた。




――――――アラガミ





それが今の世の中で絶対の王者として君臨している存在の総称だ。
その正体はすべての物質を捕食する性質を持つ『オラクル細胞』という細胞の群体であり、同じ『オラクル細胞』による攻撃しか受け付けないという性質を持っていた。
そのため、人類は当時の主力武器である重火器などをはじめとする兵器を用いてもアラガミに抵抗らしい抵抗もできずその数を減らしていった。


このまま絶滅の一途を辿ると思われた人類だったが、生化学企業「フェンリル」がアラガミに対抗できる唯一の手段である生物兵器「神機」とそれを操りアラガミを屠るものである「ゴッドイーター」の出現によって食い止められた。
こうして人類は強大な存在であるアラガミから生き残るために「神機」を操るものである「ゴッドイーター」とその「ゴッドイーター」の大元である「フェンリル」にすがって生きていくしかなくなったのだ。


さて、冒頭の話に戻ろう。
今、ある少年が住んでいた場所は普段より一層荒れている。なぜならば先程説明したアラガミによる襲撃を受けているからだ。


「うわぁぁぁ!!助けてくれえぇぇぇ!!」


少年の目の前で白い鬼の面をつけたような容姿のアラガミ、オウガテイルに下半身を喰われている中年の男性が叫ぶ。しかし、助けてくれる者はなどいない。

当たり前だ。助けに入ったところで何ができるわけでもない、逆にアラガミの餌となり今襲われている男性と一緒に腹の中に消えるのがオチである。

周囲の人々もそれが分かっている。故に彼らはオウガテイルが男性を喰らっている隙にできるだけ遠くに逃げるよう、すでにオウガテイルとは逆の方向に走り出していた。


だが、その必死の逃走も正面から現れたオウガテイル達によって無意味と化した。いち早く逃げようと先頭に立っていたものたちから真っ先に喰われ、喰われなかった人も目の前に存在する明確な「死」に錯乱しだした。
十人中九人は地獄と評するだろうこの惨状を見ても少年に恐怖はなかった。

こんな光景はアラガミが出現してから全世界で見ることのできる光景で、少年もそれなりの回数似たような経験があり、耐性ができてしまっていたからである。

アラガミがその猛威を振るい、人々が怯えて逃げ惑う様をしり目に少年は自分が生き残るための策を考える。
なぜなら、現在は建物の陰に隠れているため見つかっていないが、今喰われている人々がいなくなれば確実に臭いを辿り、自分に向かってくる。少年はそう確信していた。


自分の少ない知識を総動員して生き残るための策を練っていた少年だったが、顔を上げた時、視界に入ってきたそれに少年の視線は釘付けになってしまった。
少年の視線に入ってきたもの、それは、人が神に対抗するための唯一の手段。生体兵器「神機」であった。


「……」


そこから少年は自分が生き残るために考えた策の確認を頭の中で行う。
最も堅実な方法は、このまま逃げることである。今まで何百何千と繰り返してきたことだけあり、これが一番生存率が高いだろう。けれど、それは何時もの場合である。今回は逃げ道をオウガテイルに塞がれているだけに限らず、いつもは持ち歩いている拾い物のスタングレネードも切らしてしまっているため、生存ができる確率は激減する。


もう一つの策は、あの神機でオウガテイルの群れを殲滅しながら突破するというものだが、それは先程の案よりも多くの問題が発生する。
オウガテイルに突っ込む前に神機に喰われることや万が一に使えたとしても接近武器なんて生まれてこのかた使ったこともない少年ではすぐに返り討ちにされる等、問題を上げればきりがない。


確実に生き残る方法はゴッドイーターに助けてもらう事なのだが、ここはゴッドイーターが訪れるどころか物資の配給すらまともに来ない場所である。
例外として一度だけゴッドイーターが来て、今少年が見ている神機を残して逝ったこともあるがそれは例外なので除外する。
まぁ要するに、ゴッドイーターの助けは期待できない。


普通であれば、この状況でとる行動は逃一択である。後者の場合、何回命を掛ければいいのかわからない。それに比べ前者は慣れしたしんだ動作で、命の危機は逃げる時の一つだけだ。誰だってそうする。
しかし、いくら日常茶飯事だからと言って目の前で人が喰われているにもかかわらず、冷静に次の行動を考え始める少年が普通なはずがなかった。


少年はゆっくりと、オウガテイルには見つからないように神機に近づくと―――――


「……」


―――――何の躊躇いもなく、その神機を手に取った。


















さて、突然だが、俺の話を聞いてくれないか。
ある日学校から帰って布団に入り、眠りに就いたはずなんだが、起きた次の瞬間には見知らぬ天井が視界に入ってきた状態で目を覚ましたんだ。
正直、わけがわからない。一瞬誘拐にでもあったんじゃないかと思ったんだけどさ、家は一人暮らしでさらっても得るもんがないからその線は捨てた。苦学生なめんなっ!
っと、それはどうでもいい。
誘拐じゃなければなんだろうと思い、体を動かそうすると、どこからか本能に囁くような甘い女の声が聞こえてきた。


「気を楽になさい。あなたはすでに選ばれてここにいるのです……」


はっ?選ばれた?何に?宝くじにでもあたった?
つーか、なんか床から出てきたんですけど……何よこれ、武器?


「貴方には今から対アラガミ討伐部隊「ゴッドイーター」の適合試験を受けていただきます」


アラガミ?ゴッドイーター?何の話ですか、て言うかこの声の人誰よ?とてもいい声してますね!
やべぇ、意味不明な状況に置かれて精神が振り切れてる。


「試験と言っても不安に思う事はありませんよ」


床から出てきた武器っぽいものに何となく手を置いてみるとガシッと勢いよく黒色の腕輪が自分の腕にくっついた。もう次から次へとなんなんですかね?おじさんちょっとついていけないよ……。
ホント切実に、説明プリーズ。


「あなたはすでに……荒ぶる神々に「選ばれしもの」なのですから……もっとも、この試験はあなたには必要のないことですけどね……フフッ」


最後の最後まで意味深なことを言ってその女の人の声は聞こえなくなった。
まぁ、それはいいとして、話聞いてて気付かなかったけど、天井の赤い奴がぱっくり開いて結構な音を響かせながら右回転してるドリルがあるんですけど。
もしかして、あれが落ちてくるのか……俺のロックされている右腕に。
………左手あげたらやめてくれるかな?
そんなくだらないことを考えているうちに天井のドリルは俺の右腕に突き刺さった。


「グアぁぁぁぁぁぁ………って、あれ?見かけのわりに全然痛くない。どうなってんだこりゃ」


「おめでとう、これであなたは神を喰らう者……『ゴッドイーター』となりました。そしてあなたはさらに『血の力』に目覚めることでフェンリルの極致化技術開発局『ブラッド』に配属されることになります。まずは体力の回復に努めなさい。あなたには、期待していますよ」


……だからさぁ、詳しい説明はないわけ?あとこの腕輪取れないんだけど。
再び聞こえなくなった女の人の声に俺は愚痴る。


しかし、今までのことで一つだけわかったことがある。ついさっきまでの会話を思い出せばすぐにわかることだった。俺が生きていた世界にアラガミやそれを討伐するゴッドイーターなんてものはなかった。



つまり俺こと樫原仁慈(かしはらじんじ)は異世界かなんかに来てしまったということだ。
……ほんと、どうしてこうなったんだか……。







シリアスかと思った?残念!シリアルでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

短めですが、第二話投稿します。
フランさんが少しキャラ崩壊していますが、それでも良い方はどうぞ。


さて、前回知らない間に知らない世界へこんにちはを果たした俺であるが、結局あの後自分が異世界に来たという事以外は全く分からなかった。
周りにいる人に聞いてもその辺のこと全く教えてくれなかったし。話しかけには応じてくれるんだけど誰もかれもが少しおびえた目で俺を見てさっさと会話を打ち切ろうとするんだよね……。べ、別に悲しくねぇし。


それはともかく、誰ひとりとしてまともに会話してくれないので勝手に今自分がいる施設内を探索してみることにした。
しばらくこの施設内を探索していると何やらカウンターらしきものが見えてきて、そこでは金髪の女の人がカタカタと何かを打ち込んでいた。
彼女にもいろいろ聞いてみるか。
そうして彼女に近づこうとしたとき、向こうも俺に気が付いたようで何かを打ち込んでいた手を止めて綺麗なお辞儀をしてから口を開いた。


「『ゴッドイーター』並びに『ブラッド』の適合試験お疲れ様でした。私はオペレーターのフランと申します」


「え、あ、こ、これはご丁寧にどうも。樫原仁慈です」


うぉ、ビビった。今までにない反応だったから言葉が詰まっちまった。やらかした。
だってフランさん思いっきり肩を震わせてるし、これ絶対笑ってるだろ……。


「フフッ…まずは業務連絡からです。フフ、適合試験をクリアしたことにより『データベース』の使用権限が与えられmフフフ……」


「ちょっとばかし笑いすぎじゃありませんかねぇ!?」


もうやめて!俺の(心の)ライフはとっくにゼロよ!


「し、失礼しました。ゴホン……と、このように貴方のこれからの神殺しライフのサポートしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」


なにその物騒な生活、超怖い。
そしてそれをさらっと言えてしまうフランさんも怖い。どうなってんだ、この世界。
まぁ、いいや。この子はほかの人と違ってあんまり怯えているわけでもないし、神殺しライフのことも含めて色々聞いてみよう。


「すいません、いくつか質問していいでしょうか?」


「はい、構いませんよ」


「ではまず、ゴッドイーターってなんなんですか?」


「ゴッドイーター、通称『神機使い』は人類を脅かす敵、アラガミに対抗し得る唯一の存在のことです」


「なら、その人類を脅かす敵であるアラガミというのは一体どういう存在なんですか?」


「(アラガミを知らない……?いや、アラガミについて詳しく聞きたいだけでしょうか?)アラガミとは2050年ごろに現れたすべてを捕食する性質を持つ細胞である『オラクル細胞』が群体となって作り出す怪物たちの総称です。アラガミは『オラクル細胞』による攻撃しか受け付けないため、『オラクル細胞』を使用している神機を扱う『神機使い』たちが対抗できる唯一の存在といわれています」


「へぇー、ちなみにここどこですか?」


「ここは移動要塞フライアのロビーですね」


「これ移動してんの!?」


予想外すぎる。探索しているときに、迷子になってしまうんじゃないかと危惧するくらい大きくてしっかりとした内部構造だったのにこれが移動してるって?
どんだけ金を使ったんだか。


「はぁー……なんかもう色々とすごいですね」


「お気持ちは分かります。私も初めは驚きましたから」


くすくすと笑いながら同意してくれるフランさん。
良く笑う子だね、まったく。


「いろいろ教えていただきありがとうございました」


「いえ、これが私の仕事ですから。それと、今私が説明したことやほかの情報はここのすぐ左に行ったところにある『ターミナル』という機械の『データベース』でも閲覧することができます。わからないことがあればぜひとも活用してみてください」


「はい」


「最後に偏食因子が定着するまで、任務を発行することはできません。それまでは「フライア」のなか……そうですね、庭園でゆっくりされてはいかがでしょうか?」


「わかりました、それでは」


フランさんに別れを告げて、俺はすぐに『ターミナル』という機械のもとへ行った。
適合試験を受けたばかりという事は、俺は訓練兵辺りであろう。そんな権限で何処までの情報を見ることができるのかわからないが、できる限りの知識はつけておこう。


そう思い、俺は使ったことのない機械に向かい合った。


余談だが、使ったこともない機械が素人の俺に動かせないことは当然の結果であり近くにいたフライア職員に怯えられながら使い方を教わった。
心の中でカッコつけた結果がこれだよ!















私は、私の言葉を聞いてフライア職員に怯えられながらターミナルの使い方を教わっている新しい神機使い、樫原仁慈さんの様子をチラリと視界に納める。
とてもじゃないが、このフライアで出回っている噂の人物のようには思えませんでした。




『樫原仁慈は化物である』



これが、彼が適合試験を受けた直後にフライアの中を駆け巡った噂を簡潔に表したものです。
その理由は彼が受けた適合試験。その時の反応があまりにも常軌を逸脱していたことにあります。
神機は確かにアラガミに対抗できる手段ですが、それはオラクル細胞を用いているためです。そうなれば当然、神機もありとあらゆる物質を捕食する性質を兼ね備えています。つまり、神機の適合試験は神機と試験者の喰らい合いとなるのです。
それがこの試験で試験者たちが苦しむ理由であり、外でほかの神機使いが待機している理由でもあります。神機との喰らい合いに負ければその場でアラガミになってしまいますからね。


けれども彼は、そんな様子は一切見せず何事もなかったかのように適合試験をクリアしました。
要するに、神機と喰らい合った様子が全く見られなかったのです。そのため彼は、フライア職員の間では『人の皮をかぶったアラガミ』と言われています。


なので、私に話しかけられた時の返事がとてもおかしく思えてしまいました。
事務的に言葉を掛けただけなのに目を丸くして、言葉に詰まっていましたし。私はそんな反応をする人が化物何て、どうしても思えないのです。


「説明、ありがとうございました」


「な、ななな何、気にすることはないよぉ!」


「いや、無理だろ」


早歩きで去っていくフライア職員の背中を傷ついた顔で見送る樫原さん。
その様子を見て、私はなるべく彼をフォローしてあげようかと、思いました。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

なかなか話が進まなくてすみません。


俺はフライア職員の露骨な対応にライフポイントを削られながらも、何とか必要な知識を詰め込んだ俺はそれらの知識を整理しようとフランさんから勧められた園庭に向かっていた。


俺に怯えて後ずさる職員を華麗にスルーし、エレベーターに乗り込む。園庭は確か二階だっけ?
2と書かれているボタンを押してエレベーターを動かすと、すぐにチンッと音が鳴りエレベーターの扉が開いた。


「おぉ、これは綺麗だな」


そこには園庭と呼ぶにふさわしい景色が広がっていた。
天井は透明なガラスのようなもので覆われていて青空がよく見え、地面は一面花で埋まっている。俺がもともと居た世界でもなかなか見ることのできない光景だ。


キョロキョロとはたから見たら何やってんだこいつと思われるくらいに周囲を見回しながら園庭を歩いていると、園庭で唯一生えている木の根にとんでもない金髪の美青年が座っていた。本当に居るんだ、あんな美青年。


「やあ、適合試験お疲れ様。まぁ楽にするといい」


「え、あ、はい」

呆然と美青年の方を見ていると、こちらに気が付いたのか何の気負いもなく話しかけてくる。
えぇい、フランさんと言いこの美青年と言い金髪のコミュ力は化物かッ!
少々戸惑い気味で俺は、美青年の隣に座りこむ。
いや、座ったのはいいけど何を話せばいいんだ?
すると俺の戸惑いを察知したのか再び美青年が話しかけてくれた。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はジュリウス・ヴィスコンティ、君が配属されたフェンリル極致化技術開発局所属特殊部隊『ブラッド』の隊長をしている。以後、よろしく頼む」


まさかの上司だった。
こんなに若いのに隊長なんてすごいなぁ……って、言ってる場合か!
な、なにか返事をしなければ。


「わ、私は」


「あぁ。そんなに気を張らないでいい。」


気を使われてしまった。
何この人、外見も良くて気配りもできるとか完璧すぐる。
これが、真のイケメンの実力か…!


「あ、ありがとうございます」


「フッ、気を張らなくていいといったんだがな」


と、言いながらもどこか寂しそうな顔で苦笑するジュリウスさん。
やめろ、そんな顔されたら俺の良心が高速でそぎ落とされてしまう。


「ジュリウスさんは、よくここに来るんですか?」


「そうだな」


反応早ッ!
しかも、心なしか超嬉しそうな表情をしていらっしゃる!?
もしかしてこの人、外見が良すぎて逆に人から避けられてしまうタイプなのだろうか?
だからこんなに嬉しそうな反応をしているとか……いや、よそう。俺の勝手な予想でジュリウスさんをボッチ認定するのは。次に会うとき絶対変な態度になりそうだから。


「ここはフライアの中でも特に気に入っている場所なんだ。暇があれば、一日中ここでぼーっとしている」


「あー、分かる気がします。なんかここ落ち着きますよねぇー」


ここで会話は途切れ、水の流れだけが耳に聞こえるようになる。しかし、この沈黙は決して不快なものではなくむしろ心地の良いものだった。そのため、いい年した男が二人木の下でひたすらにぼーっとする少々シュールな光景がジュリウスさんが出ていくまで続くのであった。


余談だが、園庭を出ていくときのジュリウスさんが妙に嬉しそうだったことについては考えないことにした。




さて、ジュリウスさんに引き続いて園庭を後にした俺は、あの場所を教えてくれたフランさんにお礼を言うために再び、ロビーに来ていた。


「フランさん、園庭のこと教えてくれて、ありがとうございます。おかげでいい気分転換ができました」



「それはよかったです。あ、そういえばもう偏食因子が定着している頃ですので任務を受注することができます」


「もう、定着したんですか。偏食因子」


「はい、しています」


なんか、インフルエンザの予防接種みたいだな。偏食因子の定着。


「任務って、戦闘訓練ですか?」


「そうですね、神機を使って戦場での動き方の基本やフェンリルが開発したダミーアラガミを使った戦闘訓練です。受注しますか?」


「お願いします」


「……受注が完了いたしました。すでにジュリウス隊長が訓練場に向かっていますので、今から向かっても大丈夫ですよ」


そうか、ジュリウスさんは隊長だから新人の訓練とかも見たりするのか。
大変そうだなあの人。


フランさんに見送られ、自分の神機が置いてある保管室に向かう。
……戦闘訓練かぁ。運動神経はいい方じゃないし、少し不安だなぁ。体育の成績もいっつも3だし。
自分の運動性を思い返し、重くなる足取りを感じ取りながら改めて保管室に向かった。


















いやぁ、戦闘訓練は強敵でしたね……。
四方八方、鋼鉄に覆われた訓練場を出て自分の神機を保管室に預けてきた俺は再びフライアのロビーに帰ってきていた。
ん?訓練の様子?
一通り体を動かしたら、二時間耐久ダミーアラガミとのデスマッチをしましたが何か?
二十体同時相手なんて普通に死ねる。ジュリウスさん俺が訓練兵ってこと忘れてんじゃないの?
内心で愚痴をこぼしつつ、今日はもう休もうと自分に割り振られた自室に向かおうとするが、エレベーターに向かう途中唐突に誰かが声をかけてきた。


「あー、お疲れ様ー」


声の聞こえた方向に顔を移動してみれば、そこには大きな袋を隣に置き、頭から猫耳を生やした痴女がいた。


……いや、ね?初対面で痴女とはさすがにひどいと我ながら思うよ?
でも彼女の格好はそう表現するしかないよ。
服というより布だよ?あれ。


「お、お疲れ様……?」


彼女の格好に不意を突かれ、一瞬反応が遅れたが何とか返事をひねり出す。
少々不自然な返しになってしまったことに恐々とするが、彼女は気にならなかったようで、そのまま言葉を続ける。


「君もブラッドの新入生……じゃなくて新人さん?」


「一応、そういうことになっています」


起きたらいつの間にか試験を受けさせられてただけですけどねっ!


「やっぱりそうだ!私はナナ。同じくブラッドの新入りです!仲良くしてね!」


「樫原仁慈です。こちらこそ、よろしくお願いしますね。ナナさん」


「硬いなぁ~。歳も同じくらいだし、もっとフレンドリーに行こうよ」


「あはは…考えておきます」




その後、俺とナナさんは訓練のことや自分の趣味に関することなど、様々なことについて話をした。
そのなかで、様々なことを割とノーガードで話し合ったためか、ナナさんとは話をしていた三十分間で結構仲良くなった。


「あ、そうだ。お近づきの印に……じゃーん!お母さん直伝おでんパンをプレゼントしよう。ありがたく受け取るがいいっ!」


「ははぁー、ありがとうございます。ナナ様ー」


「うむうむ、よきにはからえー」


具体的には、人が良く通るフライアのロビーでこんなくだらないやり取りをするくらいには仲良くなりました。
ノリが良くておじさんびっくりだよ。


「あ、そろそろ訓練の時間だ。それじゃ、またね!」


言って、ナナさんはおでんパンが大量に入った袋をサンタのように担いでカウンターのフランさんのところまで、走って行った。
おでんパンは置いてこうよ、ナナさん……。


ま、いいや。今日はもうゆっくり休もう。
ナナさんと話していたことですっかり忘れていた当初の目的を思い出し、エレベーターに乗り込もうとすると、俺のことをひたすら避けるフライア職員の一人が体を震わせながらも俺に近づいてきた。


「どうかしましたか?」


一体どういう風の吹き回しだと思い尋ねると、フライアの職員は早口でこういった。


「ふ、フランさんが樫原さん用の新しい任務が発行されたため、部屋に帰ってはいけませんとのことです」


oh……まだやるんですか、アレを。
思わずため息を吐きながらも伝言を伝え終わり、見惚れるほどきれいなスタートダッシュを決める職員の背中にお礼を投げかけ、俺はフランさんに任務のことの真偽を確かめるためにエレベーターから回れ右をし彼女がいるカウンターへと足を進めた。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話

テストやレポート課題が多く出ているので更新が遅れるかもしれませんが、ご容赦ください。


あの後、伝言を聞きフランさんのもとへと向かった俺を待っていたのは、基本的な動きの簡単な復習とオウガテイルの形を模したと思われるダミーアラガミ百体とのサバイバルデスマッチだった。


ほんの数時間前より五倍ほど数を増したダミーアラガミを支給されたスタングレネードと俺が刀身に選んだ武器、ヴァリアントサイズの特徴である咬刃展開状態を駆使し纏めて薙ぎ払う事でその訓練を何とかクリアすることができた。
しかし、もう俺の心はズタボロで使い古された雑巾状態である。
心がかなり沈んでいるせいか、普段より重く感じる体を何とか引きずりながら俺がロビーまで戻ってくると先に訓練を終わらせていたナナさんが声をかけてきた。


「おぉ…?どうしたの仁慈君。元気ないね、おでんパン食べる?」


「いや、いらない」


「おー、口調に気が回らないくらいお疲れのようだねー」


「逆に何でナナさんはあの訓練内容でそんなに余裕あるのかわからないよ……」


見かけによらず、タフっすねナナさん。
それとも、この世界でアラガミ相手に戦う神機使いの間ではこれが普通なのかしら?
目に見える形で現れた神機使いとしての差に少しばかり絶望する。
同じ新人でこんなにも違うなんて思わなかった……こんなんじゃ俺、神機使いになりたくなくなっちゃうよ。


急に現実を突き付けられより一層落ち込む。しかし、


「えー、仁慈君。三体のダミーアラガミ相手にそうなっちゃうのはさすがにどうかと思うなー」


「え?」


「え?」


「なにそれこわい」


三体のダミーアラガミ?そんなのありませんでしたけど……?
何やらナナさんがした訓練と俺の訓練の内容に齟齬が出てきたので、こちらの訓練内容も彼女に伝えてみる。


「え?」


「え?」


「なにそれこわい」


さっきの俺と全く同じ反応を返される。
うん、その気持ちはよくわかる。


「き、きっと仁慈君は期待されてるんだよっ!だから一人だけなんかすっごく辛そうな訓練をしているんだ。うん、そうに違いない…よ?」


無理にフォローしようとしなくていいよ、ナナさん。自分でも苦しいなぁと思ってるでしょ?
段々と声に力がなくなってるよ。正直になっちゃえよ。


「そ、ソンナコトナイヨー」


「うわぁい、棒読みだー」


ナナさんにまで俺の疲労が伝染したのか心なしか彼女の返答にも疲れの色が見えてきた。なんかすいません。
二人してロビーで肩を落とすという醜態をさらしていると、俺たちの目の前をニット帽をかぶった金髪の少年が通りかかった。このフライア、金髪率高いな。


「……あれ?見ない顔だね、君ら」


「こんにちは」


この金髪の人も今までの例に漏れず自分からこちらに話しかけてくる。
ここまで来るともう慣れたよね。
ナナさんが返事を返すと同時に立ち上がったので、こちらもそれに続き立ち上がる。


「あっ、ひょっとして噂の新人さん?」


「はい、これからお世話になります、先輩!」


「先輩……いいね、なんかいい響き……!」


あ、こいつちょれぇ。
ナナさんの先輩発言を聞いた瞬間に表情を緩ませた金髪の少年……言いづらいな、ニット帽さんでいいや。
ニット帽さん(仮名)は近くにあった椅子に座りこんでこちらを向いてどこか自信に満ち溢れた表情で口を開いた。


「よし、俺はロミオっていうんだ!先輩が何でも教えてやるから、何でも聞いてくれ!」


「ただし、これだけは言っておく。ブラッドは甘くないぞ、覚悟しておけよ!」


どこかドヤ顔で言うニット帽(仮)改めロミオ先輩。
彼の言った言葉で自分の訓練の光景を思い出した俺は自分でも引くくらいに力のない声でロミオ先輩に言葉をかえす。


「ええ、えぇ。よくわかりましたよ、ホント甘くないですよね」


この時の俺の表情がよほどひどいものだったのかロミオ先輩は小声でナナさんへと話しかけていた。


「(なんかあの子表情死んでるけど大丈夫なの?)」


「(実は……かくかくしかじか)」


「(……なにそれこわい)」


「(ロミオ先輩までそんなこと言うんだ……)」


あーやばい、本気でだるくなってきた。
よくよく考えたら、今日一日だけで異世界トリップにザッと一般常識の勉強、ダミーアラガミとのデスマーチをこなしたんだもんな。
我ながらよく頑張った方だよ。


「ナナさーん、さすがに疲れたので部屋に戻りますねー」


とりあえず知らせましたよーという言葉だけを残して俺はさっさと自室へ向かった。
無駄にデザインの凝っているエレベータに乗り込み自分の部屋がある階のボタンを押す。
三十秒くらいで目的の階に着いたエレベーターを降りて、自分の名前が書いてある部屋に入ると着替えもせずに部屋の隅にあるベットにそのまま身を投げた。


こうして自分以外に誰もいない部屋にいると、急に俺は別の世界に来たんだと実感がわいてきた。
その実感がわいてくるとさまざまなことが不安になってきた。
ここでしっかり暮らしていけるのか?アラガミとしっかり戦えるのか?
そんな疑念が生まれては消えていく。だが、その考えがさらなる不安をあおる前に俺の体は限界を迎えたようで、急に進行してきた睡魔に意識を奪われ、寝てしまった。

















「俺、復活!」


「おー(むぐむぐ」


自室のベットに沈んでから数日後、俺は片手を勢いよく突き上げてあげて叫んでいた。
その隣にはおでんパンを齧りながら手を叩くナナさんがいる。


え?どうやって立ち直ったのかって?
毎日毎日1VS100の戦闘訓練をしていればそんなこと気にならなくなったよ。
さすがジュリウス隊長!部下のことをわかってるぅー!


「仁慈仁慈、やけくそになってるよ」


「おっと、いけないいけない。……ん?何で考えていることが分かったの?声に出てた?」


「今日仁慈が食べたおでんパンに教えてもらったんだー」


「おでんパンすげぇ!」


そして、すでに吸収されて栄養分となっているおでんパンの言葉を感じ取れるナナもハンパネェな!
自分の気持ちに一区切りつき、色々吹っ切れたためかどこかぶっ飛んだ会話をする俺とナナ。ちなみにこの数日頻繁に話していたせいかナナとはもう完全に打ち解けている。


「それにしてももう実地訓練か……早くない?」


現在俺たちがいるのはおなじみになりつつあるフライアのロビー……ではなく、黎明の亡都に向かうための道中である。
意外なことに今日任務を発行してくれたのはフランさんではなくジュリウス隊長だったのだ。


事の始めは、今日の朝俺が所属しているブラッドを作った人物であるラケル・クラウディウス博士にブラッドのことやブラッドになった者が発現させる特別な力の説明などを受けていたことである。
ぶっちゃけ、何を言っているのかは半分も理解できなかったため、右から左へ話を受け流していた。それが原因なのかラケル博士はちょくちょく俺の方を見て薄ら笑いを浮かべていた。めっちゃ怖かった。
あの人絶対ラスボスだよ、笑顔で外道なことを平気でしそうなラスボスのオーラを醸し出してたよ……。


閑話休題(それはともかく)


ラケル博士の話を聞き終わり彼女の研究室を出ると外でジュリウス隊長が待っており、今回の実地訓練の事を聞かされた。
これが今、俺たちが黎明の亡都に向かっていることの真相である。


「アラガミも新種が増えてるって聞くし。できるだけ早く強い神機使いを増やしたいのかもねー……」


要するに全部アラガミの所為か。
俺が異世界に飛んで神機使いなんてものになったのも、1VS100の戦闘訓練なんてものを毎日するようになったのも、訓練を受けに行くたびにフランさんに笑われるのも全部アラガミの所為だったんだよッ!


と、言う風に緊張感の欠片も感じられないゆるい会話を続けていると黒い全体に所々金色のラインが入っている神機を持ったジュリウス隊長が見えてきた。


「きたか」


こちらの足音を感じ取ったのかジュリウスさんが耳に装着している無線から手を離し、クルリとこちらに振り向く。


「「フェンリル極致化技術開発局、ブラッド所属第二期候補生二名到着いたしました(あ!)」」


よし、言えた。昨日までフェンリル極致化技術開発局が全く言えなかったからな。
睡眠時間を30分削って練習した甲斐があったぜ。


「ようこそ、ブラッドへ。隊長のジュリウス・ヴィスコンティだ。……では、これより実地訓練を始める」


「見ろ……あれが人類を脅かす災い。駆逐すべき天敵……アラガミだ。手段は問わない、完膚なきまでにアラガミを叩きのめせ」


「任せてください」



要するに今までやってきたことをそのまま実際のアラガミにもすればいいだけだ。


「お前たちが実力を発揮できれば問題になるような相手じゃない、いいな?」


こちらに振り向き、俺たちに言い聞かせるようにジュリウス隊長は言った。まぁ、初めての実戦で緊張して動けなくなる人も多いと聞くしこの言葉は当たり前だな。
なんて考えいると、


「グアァァァッァァアア!!!」


という咆哮とともに鬼の面を被ったかのような容姿のアラガミ…オウガテイルがこちらに喰らいつこうとしたから跳びあがってきた。
そのオウガテイルの先には予想外の出来事に固まっているナナがいる。このままだと頭をバックりと行かれてしまう。


<エリック上だ!


なんか変な電波を受信した気もするがそれをさっさと頭の片隅に追いやり、ナナをかばうように前に出る。そして、神機を素早く銃形態へと変えてこちらに喰らいつこうとするオウガテイルの口に神機を突き刺した。


「グボガッ!?」


口に刺さった神機の所為で苦しそうなオウガテイルを無視し俺は引き金を引く。
すると、オウガテイルの頭は綺麗に爆散し、残った胴体がぐしゃりと音を立てて地面に落ちた。


「ふっ、なかなかやるな。新入り」


「誰のおかげでこうなったと思っているんですか」


「訓練の賜物だな」


「ドヤ顔してんじゃねーよ」


ナナとここに来る前に話した内容とオウガテイルがこちらに襲ってきたせいで少々気が立っていたため思わず素で返してしまう。
しかし、今の俺にそんなん事を気にする余裕はなく口調を改めないまま、下に見えるオウガテイルを指さして言った。


「隊長、あれら駆逐してきていいですか?」


「本来なら、新人を一人で行かせることはNGなんだが……俺も、近くにいることだしより実践的な訓練になるか。……よし、許可しよう。徹底的に潰せ」


「了解しました」


許可をもらった俺はすでに下にたまっていた二匹のオウガテイルのうちの一匹に向かって跳び降りる。それと同時に神機を捕食モードに切り替え、オウガテイルと接触した瞬間に捕食する。捕食されたオウガテイルは丁度コアがあった場所を喰われたのかそのまま起き上がることはなく地面に溶けるように消えていった。


「グルアァァァァアアアアア!!」


最後に残ったオウガテイルが咆哮をすると同時にこの近くにいたらしいオウガテイルが集まってくる。
それを見て俺は自然と口の端っこが吊り上るのを感じた。そして、それに伴い体の芯から熱いものが込み上げてくる。


なんか自分が自分じゃなくなってきている気もするが、今はいいや。
とりあえず、こいつらはここで殺そう。
きっと、そうもう一人の僕が言っているんだろう、パズルとか完成させた覚えないけど。




最終的に、十体にまで膨れ上がったオウガテイルを視界に納めながら俺は自分でも信じられないほど生き生きとオウガテイル達に突っ込んだ。








あれ、主人公ってこんな奴だっけ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話

ナナちゃんのキャラ崩壊注意


仁慈がジュリウス隊長の許可をもらって勢いよく飛び出していく。そして、空中で神機をプレデターフォームにするとすぐ下にいたオウガテイルを一撃で倒しもう一体のオウガテイルに向き直っていた。一方、残ったオウガテイルは負けじと咆哮を放ち、近くにいる仲間を呼び寄せる。未だ、訓練を終わらせていない神機使いにとっては絶望と言っていいような状況に陥る仁慈。
それでも、彼は恐怖で動けなくなるどころか唇の端を吊り上げてどこか楽しそうな雰囲気すら放ちながらオウガテイルの群れに襲いかかった。

同じ新人でもオウガテイルに襲われて動けなくなる私とオウガテイルの群れに果敢に襲いかかる仁慈。何が違うのだろう?どうして私はあそこにいないのだろう?と自問自答をする。


「ナナ、あまり自分を責めるな。実戦経験のない神機使いならばその反応は正常だ」


するとジュリウス隊長が私の状態に気が付いたのか励ましの言葉をかけてくれた。
でも―――――


「なら、仁慈は?」


私と同じ新人であるにもかかわらずオウガテイル相手に無双している彼はいったいどういう事なのだろうか?


「俺が育てたからな」


そんな、ドヤ顔で言われても…。
仁慈の言ってること本当だったかもなー。ジュリウス隊長は確かに天然っぽい。


「それに、あいつはずっとこんな状況よりも厳しい訓練を積んできた。だから、自分自身とアイツを比べることはない」


厳しい訓練は自分の意志でしてるわけじゃないって愚痴ってたけどねー。なんか、認識の差が激しいよ。この二人。
でも、そのことを考えると少し体が軽くなった気がする。初めて実際の戦場にもかかわらず複数のオウガテイル相手に大立ち回りしている仁慈も、愚痴や不満を吐き出すちゃんとした人間なんだってそう思えたから。


「ありがとうございます、ジュリウス隊長!もう大丈夫です!」


地面に置いておいた神機を担いでそう言う。
仁慈があんなに頑張っているんだもの、私がこんなところでへこたれるわけにはいかないよね!


「フッ、そうか。…ナナ、俺たち人類の最大の武器は今お前が持っている『強い意志』と仲間との連携、そして戦略だ。それさえ忘れなければアラガミに負けはしない」


「はい!」


ジュリウス隊長の言葉を胸に秘めて、私たちは仁慈が戦っている場所に向けて、飛び込んだ。
ってなれば、いい話で終われたんだけど……


「飛び道具なんかに頼ってんじゃねぇぇ!!」


急に聞こえてきた仁慈の声に思わずこの方向を見る。するとそこには、オウガテイル達の攻撃を刀身をのばして複数のオウガテイルをまとめて薙ぎ払ったり、プレデターフォームの神機でオウガテイルを持ち上げて別のオウガテイルにぶつけ、銃形態でまとめて打ち抜いたりする仁慈がいた。


「ジュリウス隊長ー。あの光景にさっき言った人類の最大の武器が使われているようには見えないんですけど…」


「あいつ、この短期間であそこまでやるようになったか。これは負けていられないな」


対抗心を持ち始めたッ!?
あーもう、変なとこでかみ合ってるなぁ!この二人!
とりあえず、オウガテイルの方は心配なさそうなので私は仁慈のから逃げている二足歩行のカブトムシのようなアラガミ、ドレッドパイクに走り出した。


















オウガテイルの群れに襲いかかってから五分くらいして、すべてのオウガテイルを文字通り食い荒らした俺はいくらか冷静な状態に戻っていた。それと同時に自分の先程までの状態を思い出し、悶えた。


は、恥ずかしすぎる……!
声には出していないものの思ったことは中二特有の病気と何ら変わりないじゃないか!
思わず頭に手をついて天を仰ぐ。キョウモイイテンキダナー。


「おーい、仁慈ー」


おぉ、この声は最近俺の癒しとなりつつあるナナちゃんの声ではないか!
……まだ、ちょっとおかしいな。このままいったら確実に黒歴史が増えることになる。
何とか通常のテンションを保とうと気を引き締めてナナの声が聞こえる方を向くと、ブーストハンマーのブーストをふかしながらこちらに急接近するナナがいた。って、


「あぶねぇ!」


ナナのやつそのままハンマーを思いっきり俺の顔面に向かって振りぬきやがった。
いや、おかしいだろ。もし当たったら俺の顔つぶれたトマトみたいになるぞ。


「あーあ、外しちゃったか……」


「外しちゃったかじゃねーよ。いったい何が原因でこんな暴挙に出やがった」


なんかこの子黒くなってるんだけど。俺の所為じゃないよね?違うよね?


「仁慈が暴走するからー、何度かアラガミと一緒に切られそうになったんだよー」


「マジすいませんでした」


咬刃展開状態は仲間がいるときは使わないでおこう。アラガミと一緒に仲間も両断しましたなんてシャレにならない。


「そちらも無事に終わったようだな」


内心己の武器の意外な弊害が明らかになり、少し沈んでいるとナナより少し遅れてジュリウス隊長が神機を上げながら近づいてきた。
今更ながらあんな重そうな神機を片手で持ち上げるとか神機使いおかしいよな。
人のこと全く言えないけど。


「お疲れ様です。ジュリウス隊長」


「あぁ、そっちこそお疲れ様。初めての実地訓練とは思えないくらいの立ち回りだった。日ごろの訓練の成果……つまり、俺のおかげだな」


「それはもうわかりましたよ。どんだけ推してくるんですか」


「仁慈が戦っているときも言ってたねー」


マジか。
もしかして弟子的な人である俺の成長を嬉しく思いすぎてちょくちょく自慢げに言ってくるとかそういう理由か?
いや、これはさすがに自意識過剰か。まぁ、いいか。それよりも、


「これで任務完了ですかね?」


「あぁ、今回の任務はこれで―――――」


『連絡班より報告。周囲に新たなアラガミの反応が複数見られます』


これより帰還、という雰囲気が出てきたと思ったら急にフランさんからそのような報告が無線から聞こえてきた。


「種類は?」


『オウガテイルと思われます』


フランさんが種類を言うのとほぼ同時に目の前の空間に黒い煙のようなものが集まりやがてオウガテイルの形となった。オウガテイル先輩今日は大活躍っすね!


「ちょうどいいな。今からお前たちにこれから目覚めるであろう『血の力』を見せてやろう」


言って、神機を正眼に構えるジュリウス隊長。
すると俺とナナの体が一瞬だけ光り、その後アラガミを捕食した時のバースト状態に近い状態になった。


「今から対象に向けてブラッドアーツを放つ。少し下がっていろ」


「ブラッドアーツ?」


ナナと同じく首を捻る俺。
血の力は聞いた気がするけど、ブラッドアーツは初めて聞く気がする。


「戦況を覆す大いなる力……。戦いの中で進化し続ける、刻まれた血のなせる業……とまぁ、難しく言っているが簡単に言えばブラッドが使える必殺技だと思えばいい」


「一気にしょぼくなりましたね」


なんか簡単に必殺技って使うと逆に強くなく思えるんだよね。俺だけかな?
くだらないことに思考を割いているとジュリウス隊長は神機を居合のようにして構えた。そして、


「―――――――――――ハァアアア……ッ!」


キィン!と甲高い音とともにジュリウス隊長の体が一瞬だけ光る。すると、次の瞬間にはオウガテイルの群れを通り越しオウガテイル達の背後を取っていた。
オウガテイルには無数の切り傷が付いており、すぐに地面に沈んでいった。
な、何が起きたのかさっぱりわからなかった……なんなんだ、これは。ジュリウス隊長はイアイ・ジツの使い手だったというのか。


「これがブラッドアーツだ。俺たちの中に眠る血の力とブラッドアーツをどう使い、どう生かしていくかはすべてお前達の意思次第だ。いいな?」


中二病が加速しそうな能力だな。ブラッドアーツ。
ジュリウス隊長の言葉に神妙にうなずくナナの隣で、そんなことを考えている俺なのだった。




早くも話が迷走している気がする


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話

実はGOD EATER2のなかで一番好きだったのはラケル先生です。
しかし、彼女の心情がいまいち分からなかったので、第三者視点となっております。
そしていつもの如くキャラ崩壊注意。



「実地訓練お疲れ様でした。今回の件であなたは本格的な任務を受けることができるようになりました。おめでとうございます、私も自分のことのように嬉しいです」


「ありがとうございます」


実地訓練を終えてフライアに戻った俺にフランさんが労りの言葉をかけてくる。
それがとてつもなく有難い。うちの隊長も見習ってほしいね。
……初めて会った時はあんな人じゃなかったんだけどなぁ。


「それと、ラケル博士が仁慈さんの事を呼んでいましたよ。後で研究室に来てほしいそうです」


「え゛!?」


思わず変な声が出てしまったがそんなことを気にしている場合じゃなかった。あのラケル博士が名指しで俺を呼んでいるだと?
あの人のこと苦手なんだけどなぁ…。あの、含みのある笑顔とか超怖い。美人なぶんより一層怖い。綺麗な花には棘があるっていうけどあの人の場合棘に致死量の毒と感染力が半端ない細菌とか塗ってありそう。


「それって俺だけですか?ブラッドの皆とかじゃなくて」


「はい、そうです」


oh…最後の望みは絶たれた。せめてレベル上げ位させてほしかったぜ…。
もう完全にラケル博士をラスボス扱いしている俺だが、本気で怖いんです。


「はは…は、分かりました。……行ってきます」


自分でもわかるくらいに暗い声でフランさんに別れを告げラケル博士の研究室がある三階に行くためにフライアの中にあるエレベーターに乗り込んだ。


エレベーターを降りるとなかなかにでかい扉が見えてきた。
此処こそが、我が天敵ラケル・クラウディウス博士の研究所である。
はぁ、辿り着いてしまった……。思わず気分が「がくっと さがった!」状態になってしまうものの、ここでずっと棒立ちしているわけにはいかないので、意を決して扉を叩く。

「ラケル博士。仁慈ですが、入ってもよろしいでしょうか?」


「どうぞ、入ってください」


失礼しますと一言入れてからラケル博士の研究室のドアを開ける。
俺が中に入ると巨大なモニターをいじっていたラケル博士が表示してあるデータや映像を消してこちらに振り向く。
思わず、向けられた視線に身震いした。


「よく来ましたね、仁慈。あなたのことはジュリウスから聞いています。よく頑張りましたね」


カラカラカラと車いすが移動する。すると当然それに乗っているラケル博士も一緒に移動してくるわけで……。
まぁ、何が言いたいのかと言うと、恐怖のあまり金縛りにあったかのように体が動かなくなってしまった。
我ながら情けないな。


「もしかしたら、貴方が『血の力』に目覚める時もそう遠くないのかもしれませんね」


ちかいちかいちかいちかい!
ラケル博士、これ以上ないくらいに近いんですけど!貴女の乗っている車いすが俺の脛にダイレクトアタックをかましているんですけど!?


内心大パニックだった俺だが何とかそれを表に出さないように一生懸命気を張る。
そのことがばれてしまったのかは定かではないが下から俺の顔を覗き込んでいるラケル博士はフフッと笑ってから口を開いた。


「貴方のこれからの成長を楽しみにしていますよ」


その直後、ラケル博士はもう用は済んだとばかりに車いすを回転させ再び巨大なモニターに何かを打ち込み始めた。
その様子を見て話しは終わったことを悟った俺は失礼しましたと言い残し、足早にラケル先生の研究室を後にした。






















仁慈が研究室から出て行ったあと、ラケルは仁慈がいた時よりもさらに速いスピードでモニターに向かって何かを打ち込み始める。
数十秒もしないうちにモニターには先程消した映像やデータが再びモニターに表示される。そこに表示されていたのは、主に樫原仁慈の情報であった。


「あぁ…いい、いいですよ。仁慈」


その中でラケルは彼が行った神機適合試験の様子を見つつ、その整った顔の頬に手を添える。俗にいう恍惚のヤンデレポーズである。

        
「やはりあなたはそうでなくてはいけません。そうでなくては貴方ではない。いったい今までどこに居たのかはわかりませんが……それはもういいでしょう。こうして何も変わらないまま私のもとに戻ってきてくれたのですから。……フフッ」


言うと、モニターの画面は切り替わり、ジュリウスが仁慈に対して行っていた1VS100の耐久マッチの映像が流れだす。


『ジュリウス隊長!後何匹残っているんですか!?』


『三十だ』


『よしっ!あともう少し!』


『しかし、このままやっては結果は見えてしまっている。だから、残りの三十匹をすべて出現させようと思う』


『正気ですかあーた!?こんなところで三十匹も出したら動けなくなるでしょう!?』


『壁際に追い詰められたという想定で行けばいいだろう。ちなみに、俺はできるぞ』


『新人とベテランを一緒にするなってんですよぉぉおぉおおおお!!!』


本当に自分の周囲いっぱいに現れたダミーアラガミを見て仁慈は殆ど悲鳴に近い叫びを上げながらヴァリアントサイズを咬刃展開状態に変化させ一振りする。
逃げ場がないくらいに密集しているため、結構な数のダミーアラガミがその形を崩していく。


神機を振り切り、咬刃展開によって変わった重心の変化により仁慈の態勢が少しだけ崩れてしまう。
それをチャンスだと思ったのか、仁慈の背後にいる一体のダミーアラガミが飛びかかる。しかし、すぐさま振り向き捕食状態で待機させられていた神機に頭を喰いちぎられた。


『はい次ぃぃぃいいいいいい!!』


こんな調子で次々と四方八方から襲い来るアラガミを薙ぎ払っている仁慈の映像を見てラケルはより一層笑みを深めるのであった。







うちのジュリウスさんがなんかすごくはじけている気がする


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話

テスト中なのに我ながら何をしているのだろうか…。


「おぉ、ここが嘆きの平原かぁー」


「フランさんの言ってた通りかなりでかい竜巻があるのな」


ラケル博士との対話と言う名のラスボス戦を乗り越えた俺は、凍る背筋をスルーして上機嫌でベットに入った。


で、現在。
実地訓練とその他もろもろの疲れを回復した俺はフランさんから来ていたと言われた任務に来ていた。
その内容は、嘆きの平原に現れた小型アラガミの殲滅。実地訓練を終えたばかりの新人には妥当と言える内容だ。
始めはヴァリアントサイズで任務を受けることを考えてソロで行こうと思ったらフランさんに止められた。


彼女曰く“実地訓練を終えたばかりで一人とか馬鹿ですか”とのこと。
正論過ぎて何も言い返せなかった。
仕方がないのでその時暇そうにしていたナナを誘い、神機の刀身を変えてこの嘆きの平原に来たのである。


「ねぇ、仁慈。倒すアラガミってなんだっけ?」


「コクーンメイデンを含めた小型アラガミ複数」


「つまり出てくる奴を全員ブッ倒せばいいんだね!」


「人の話聞いてた?」


間違ってないけどさ。その捉え方はどうよ。
眩しい笑顔が発言の物騒さと怖さをさらに引き立てるんですけど……。

どうしてこうなったのか。アラガミを前にすると性格が変わるのかしら?


「それだけは仁慈に言われたくないなー」


ぐぅ正論。
実地訓練であれだけの黒歴史を晒した俺が言えることじゃあなかったね。
ホントあの事を思い出すたびに後悔の念が押し寄せてくるぜ。


『各班配置につきました。いつでも始めてください』


お仕事を始める前からモチベーションを下げていると耳にある通信機からフランさんの声が聞こえてくる。
どうやら準備が整ったらしい。
俺はナナとお互いに頷き合ってから、座り込んでいた高台から跳び下りた。


お仕事始めましょうか。














『目標のアラガミの討伐を確認しました。新人とは思えない速さですね、さすがです』


フッ、たわいなし。
地獄の訓練を乗り越えてきた俺には、このだだっ広い場所で小型の討伐など鼻歌を歌いながらでもできるわ!


「で、ナナさんは一体全体どうしたんです?」


そう俺が問いかける方向には神機を杖の代わりにして体を震わせながら何とか立っているナナがいる。
ナナはハァハァと荒い息を吐きつつも何とか言葉を紡ぐ。


「仁慈が…頑張って、るから。負けて、られないと…思って。ブースト…ふかしまくったら、こうなった」


「バカだ」


一番初めの訓練でジュリウス隊長に言われなかったっけ?スタミナ切れは死を招くって。実際、やられかけてたし。


「フゥー……仁慈がおかしいんだよー。いや、本当に。神機を投げるなんて控えめに言って頭おかしいと思うなー」


続けて、「貫け、俺のグングニール!」って何さとナナが呟く。


全然控えてないんですがそれは…。
神機投擲については仕方ないと思うんだよね。銃形態にするには時間がなかったし、早くしないとやられてたんはナナの方なんだぜ?


「神機がすぐ隣に刺さった恐怖感を教えてあげてもいいんだよ?」


「ちょっと待てウェイト。わかった、俺が悪かった。フライアに戻ったらおでんパンの量産作業を手伝ってあげるからその振り上げた神機をゆっくりと下すんだ」


ゆっくりと神機を置くナナを見て一息つく。
最近乱暴性が増してきたな。あのであった当初の純粋だった頃のナナはどこに行ったのやら。


「仁慈に穢されたー」


「人聞きの悪いこと言わないでもらえます?」


最近フランさんに「貴方が来てからジュリウス隊長の様子が変なんですよね」って言われたんだぞ。シャレにならんからやめろ。
後、こいつの言っていることデタラメなんで、ナナだけ連れてフライアに帰らないでもらえませんか?


……おい、待て。本気でおいてこうとするな。
ねぇ、ちょっと。待って、マジで。
おい車出すな走り始めるな俺を置いていくな!冗談じゃねーぞ!?
俺の叫びも虚しく、走り去っていく車。
その後姿を呆然と見送る。


「ふ、フフフフウフフ」


思わず笑いがこみあげてくる。
久しぶりですよ……こんなに俺を怒らせた人は……。


「フランさん。少々、帰還が遅れることになりそうですが、構いませんよね」


『……事情はたった今、ナナさんから承りました。護送班にはこちらからよく言い聞かせます。申し訳ありませんが、代わりの迎えが到着するまでしばらくお待ちください』


「謝る必要はありませんよ」


ここで言葉を切ると周辺に再び現れたアラガミ達を一瞥する。


「実はさっきの任務だけじゃあこの新しい刀身であるチャージスピアの具合がいまいちよくわかんなかったんですよ。なので、新しく出てきたサンドバック(アラガミ)に八つ当たりと調整を兼ねて相手をしてもらうので、どうぞごゆっくり」


ブツンと通信機を切った俺は先程よりもさらに増えたアラガミ達に神機を向ける。
本当に神機使いになってからこんな展開ばっかだが、今日だけは許してやろう。


「ヒャッハー!自棄喰いじゃあ!!」


世紀末な奇声を上げながら俺はもはやお馴染みとなりつつあるアラガミ、オウガテイルの顔面にチャージスピアを突き刺しに行くのであった。





















「あ゛ー……疲れた」


やっとフライアに帰ってくることができたため、その安心感からついつい声にだしてぐったりとしてしまう。ちなみに場所はロビー。
今更自分で言うのもなんだが、大分肝が据わってきたな。


「ねぇ、仁慈」


だらーんとロビーにあるソファーでたれていると、いつの間にか隣に座っていたナナがどこか不安げな表情を浮かべつつ、こちらの顔を覗き込んで話しかけてきた。


「なーにー」


「えーと……その、ごめん…ね?私が言った冗談のせいで仁慈を置いていくような事になっちゃって……」


「あーそのことかー」


別に怒ってないけどね。
フランさんが通信したとき、もうナナの方から状況は教えてもらったとか言ってたし別に気にしてないんだけどなぁ。
チラリとナナの表情を盗み見てみると、いつもの笑顔はなりを潜め、らしくもない暗い表情を浮かべていた。

まったく、何て表情(かお)してるんだか。

俺はたれていた姿勢を持ち上げて、普通に座るとナナの頭を軽く撫でながら言った。


「今回のことは別に気にしてないよ。フランさんからもナナが連絡したことを聞いたし、意図してやってないことはちゃんとわかってるから」


「………うん、ありがと」


するとナナは呟くように答えてからにぱっと笑った。
うん、やっぱナナは笑顔の方がいいよね。


「えへへ~仁慈撫でるの上手いねー」


「ちょ、おまっ、すり寄ってくんなよ。自分の服装考えろ」


「えー?そんなこと考えてるの?仁慈の変態ー」


「すげぇブーメラン投げるな、お前」


こんな感じでその日はずっとナナと一緒に話し合って終わってしまった。
途中になんか白いワンピース来た女の人が通りかかってロミオ先輩がうるさかったのだが、話に夢中で全く気が付いていなかった。



なんか、変なところでシリアスしてナナさんがヒロインのようになってしまった。
そして仁慈君にスルーされるユノェ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話

誤って製作途中の物を上げてしまいました。申し訳ございません。



「うーん、やっぱりなんか違うんだよなぁ」


樫原仁慈のポイ捨事件(俺命名)からまたまた数日後、俺はフライアの訓練場でチャージスピアをダミーアラガミ相手に振るっていた。
ヴァリアントサイズが使えれば早いんだけど、新人の俺がソロで任務なんて許可してもらえるはずもない。と言うか実際されなかった。
そうなると自然と複数人で任務を受けるしかないわけで……こうして、任務じゃない時間を使って周りをなるべく巻き込まない刀身の使い方を練習している、んだけど。
結果はあまりよろしくない。
これでも、ショートやロングなどのほかの刀身に比べたら断然扱いやすいんだけどなぁ。だからこそ、この前置き去りにされた時もアラガミを倒せたんだし。


「ん?どうした、仁慈。浮かない顔をしているな」


「ジュリウス隊長?」


うんうんと悩みながら今日のノルマをこなしにロビーに向かっていると同じくロビーに向かおうとしているであろうジュリウス隊長と会った。


「何か困っていることがあれば言ってくれ。何でも答えてやろう」


おぉ、久しぶりにジュリウス隊長が頼もしく見える!


「実はヴァリアントサイズは仲間を巻き込むとナナに言われたので、巻き込まないような刀身を選んで振ってみたんですけど……ヴァリアントサイズに比べてなんかしっくりこないんですよね」


今日はしっかしとしたジュリウス隊長だったので自分が今悩んでいることを正直に話す。


「簡単なことだ。要するに刀身を使わなければいい」


「俺にずっと銃形態で戦えと!?」


新人に要求することじゃねぇ!


「あの……正気ですか?」


「フッ、冗談だ」


「真面目に答えてください」


アンタの冗談は顔に出ないからわかりにくいんだよ!?


「なら、実地訓練の時と同じように仲間が周囲にいないところまでアラガミを誘いだし、一網打尽にする。と言うのはどうだろうか」


「……それは盲点でした」


なるほど。仲間を巻き込みたくないならそもそも近くに居なければいい、という事か。
いや、しかし……


「それ、単独任務と何が違うんですか?」


「新人のお前でもとりあえず同行者がいれば任務を拒否されることはない。その後、自分だけどこかに行こうと現場の判断という事で特に問題視されることはないだろう。……多分」


「最後の最後で不安を煽る様なことを付け加えるのやめてもらえません?」


思わず実行したくなくなるじゃないか。
ま、まぁ。このことに関しては保留という事にしておこう。
下手に実行してフランさんから怒られたらいやだし。ナナにもブーストハンマー振るわれそうだし。


「やっぱり、しばらくはこの刀身で頑張ってみることにします」


「賢明だな」


俺の出した答えに頷くジュリウス隊長。
じゃあ、なんでさっきあんなこと言ったの?俺を貶めるつもりだったの?


「どうした?」


いや、違うな。
きっとさっきのもこの人なりの冗談だったんだろう。
今だってよくわからなさそうに首をかしげてるし。
しかし、この反応を見ると初めに会ったころ抱いたボッチ説が現実味を帯びてきたな。


ジュリウス隊長の青春時代の予想をしながら歩いているといつの間にやらフライアのロビーについていたようで、見覚えのあるカウンターが見えてくる……と、同時に見覚えのない帽子と見覚えのあるニット帽が何やらもめているようだった。


あ、ニット帽(ロミオ先輩)が吹っ飛ばされた。


「……状況を説明してほしいな」


「ちょっと……よくわかんなくて……」


ジュリウス隊長の簡潔な質問にナナも少し戸惑ったように答える。


「こいつの前居たところとか聞いただけだよ!そうしたら、急に殴りかかってきて……」


ロミオ先輩多分それですよ、原因。
人間何が地雷になるかわかったもんじゃないからね。仕方ないね。


「アンタが隊長か。俺はギルバート・マクレイン、ギルでいい。このクソガキがムカついたから殴った、それだけだ。懲罰房でも除隊でも好きにしてくれ」


そう言い残してどこかに行く見覚えのない帽子改めギルバートさん。その後ろ姿を見送っていると再びロミオ先輩が口を開いた。


「あいつ、短気すぎるよ。そりゃ…俺もちょっとしつこく聞きすぎたかもしれないけどさ」


「暴力はよくないよねー。先輩もちょっといじりすぎかもしれなかったけどさー」


「軽く言った方が早く打ち解けられるじゃん!」


「人にもよると思いますよ?実際、俺軽すぎるノリは嫌いですし。ロミオ先輩ってなんか思っている以上に軽いんですよね」


「……あれ?俺、さり気なくディスられてる?」


「あ、わかるわかる!なんていうかこう……チャラチャラしてるって感じ?」


「追撃入った!?」


立ち上がろうとしていたロミオ先輩が俺とナナの口撃をくらい再び地面に伏せる。
おぉロミオよ、死んでしまうとは情けない。


「……今回の件は不問とする。ただし、戦場に私情を挟まないよう関係を修復しておくように」


「えー無理無理絶対無理!」


「お前たちもサポートしてやってくれ」


駄々をこねるロミオ先輩を華麗にスルーして、ジュリウス隊長がこの場を離れていった。
あの人、意識しているかはわからないがさりげなく面倒事を押し付けていきやがった…。


「無理だってー!、あんな暴力ゴリラとなんかやってらんないよ……」


ポロリとロミオ先輩が呟く。


「正直こちらとしては、ロミオ先輩の心情とかどうでもいいんでさっさと謝ってきてください」


「いやいや、こういうことは時間を置いた方がいいんだよ」


「つべこべ言ってないで早く言ってきてくれません?じゃないとこれからロミオ先輩のことニット帽って呼びますよ?それが嫌なら早く謝ってきてくださいよニット帽」


「早速言ってんじゃん!」


「はよいけ」


「理不尽!?」


しっし、と手を払うとロミオ先輩は若干涙目ながらもギルバートさんを探しにロビーを走って出て行った。
すると近くで事の成り行きをずっと見ていたナナが話しかけてきた。


「大丈夫なの?ついさっき喧嘩したばっかりの二人をそのまま会わせてさ」


「任務に支障が出ないようにってジュリウス隊長も言ってたでしょ?神機使いの仕事なんて腐るほどあるんだから早めに仲直りしてもらわないと困る」


「でも、さらに拗れちゃうかもよ?」


「問題ないよ。殴った後のギルバートさんの顔を隠す前に見たんだけどいかにもやっちまったーって表情してたし、ロミオ先輩も自分の言い方なんかを反省してたしね」


「……そっか。じゃあ、二人が帰ってきたとき用のおでんパンを用意しようではないか仁慈君!」


「なんでさ」


「皆でおでんパンを食べて、仲良くなるんだよ。おでんパンには…その力があるっ!」


「おでんパンすげー」


ぐいぐいとナナに腕を引っ張られつつ俺はおでんパンの製造のためにロビーから出ていくのだった。



そして余談だがこの後帰ってきたロミオ先輩とギルバートさんにおでんパンを上げたらギルバートさんの表情も和らぎ、本当に仲良くなれた。
…侮りがたし、おでんパン。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話

本当に話が進まない。
そろそろボスに出張してもらうしかないかな……。


さて、新たに加わったギルバートさんとおでんパンパーティーを繰り広げお互いに友情を深め合ったブラッド(ジュリウス隊長以外)。
本当はもっと親睦を深め合いたかったんだが、唯一アラガミを倒せる神機使いにそんな時間はなく、フランさんから直々に任務がありますと報告された。


今更ながらすげぇブラックだよな、フェンリル。
世界観が世紀末だからしかないのかもしれないけど。


で、フランさんの話を聞いて、ロビーに行ってみれば別の支部から援軍が来ていてそれと合流するための任務らしい。
援軍なんて必要なほど切羽詰まっていたかな?と疑問に思いつつも任務を受注し、ついさっき友情を深め合ったギルバートさんとロミオ先輩を引き連れて指定された場所へと向かう。


この内容だと何となく遊びの待ち合わせのような感じだが、神機使いの任務がそんな平和的なもので終わるわけもなく、案の定進路上に無数のアラガミが出現する。


「今日は珍しく戦わずに終わるかと思ったのに……」


「いや、それはないでしょ」


ロミオ先輩と軽口をたたきながら目の前に生えてきたナイトホロウの目玉を一突きにし、その後刺した状態のままで捕食をする。
捕食したことによりバースト状態となった俺は、即座に走り出し近くで固まっていたドレットパイクを纏めて薙ぎ払った。


「…なかなかやるじゃねえか。確かお前さん、つい最近神機使いになったんだろ?」


「そうですよ、大体一か月くらい前ですね。神機使いになったのは」


そう考えると頭おかしいと思う。
成人していない子どもをたったの一か月で戦場に出すなんて、正気の沙汰とは思えないよね。
慣れちゃった俺もあれだけどさ。


「そうなんだよね。こいつが神機使いになったのってホントに最近なんだけど……受けていた訓練がアレだったからさ。本人もこの短期間でアレな感じに……」


「解せぬ」


今さっき自分で認めたけどさぁ。
他人に言われるとこう、なんというか……心に来るよね。


「最近ではアラガミに神機とかブン投げたんでしょ?」


「……神機使い歴はそこそこ長いが、神機投げる奴は初めて聞いたな」


まぁ、普通だったらアラガミに唯一対抗できる武器である神機を投擲する奴なんていないだろう。しかし、あの時はナナを助けるために仕方なかったし、なによりロミオ先輩が言った通り受けた訓練が普通じゃなかったからなぁ。
こうでもしないと生き残ることができなかったんだよ……だから、俺は悪くねぇ!


「ま、まぁ。この話は一旦隅に置いておこう。ほら!今は一応戦闘中だからさ」


「もう終わりましたけど?」


「えっ」


「えっ」


「なにそれこわい」


グルンと頭だけでこちらの方を向いたロミオ先輩が言う。
俺的には先輩の方が怖いんですけど、ゾンビみたいで。


「いったい、いつの間に……」


「こう、話している途中銃形態でばーっと」


無意識のうちにアラガミを殺せるようにジュリウス隊長の訓練で仕込まれている俺に隙はなかった。
やっぱり、ジュリウス隊長は部下思いだぜ!(白目)



「……おいロミオ、こいつ本当に新人か?」


「そうだよ。……多分な」


「信じられないんだが……」


「言うな、言ってはダメだ。ギル」


俺が軽くトリップしている間にロミオ先輩とギルバートさんはこそこそと小声で話し合っていた。
仲が良くて何よりです。


と、色々とあったが無事に合流地点へとたどり着いた。
けれどもここで問題発生。
いくら周囲を見渡してみても援軍どころか人っ子一人いやしなかった。アラガミなら結構いたけど。
仕方ない、困ったときのフランさんだ。


「すいません。フランさん、合流地点に来ましたが援軍どころか人っ子一人見当たりません。……相も変わらずアラガミならその辺でお食事パーティーを繰り広げていますが」


『…それはおかしいですね。少々お待ちください』


左耳につけている通信機からカタカタとフランさんが、援軍について調べている音が聞こえ、何もつけていない右耳からはダッダッダとアラガミの足音が聞こえてきた。この音は……また、オウガテイルか。しかも二体分。
……空気読めよ。そこは普通に返事を聞くパターンでしょうが。


「ロミオ先輩、ギルさん。処理お願いできますか?」


「まかせろ」


「おっけー!」


神機を構え、オウガテイルに二人が向かった瞬間フランさんから通信が来た。


『……仁慈さん。どうやら援軍は先に護送班と合流したそうで、既にフライアに向かっているそうです』


「なんですと?」


それが事実なら俺らがここに来る意味が全くないじゃないか。
て言うか、先に護送班と合流してフライアに向かうなんて大丈夫なのか?援軍として。


「フランさん。その人援軍じゃなくて迷子とかじゃないんですか?」


『……それは私にはわかりかねますね。上の方からも詳しい話は伺ておりません。しかし、神機使いたちの最前線である極東支部からの援護とのことなので、実力は申し分ないと思われます。なんにせよ、もうその場にいる理由はなくなりました。軽く周囲のアラガミを駆逐したのち、フライアに帰還してください』


その言葉を最後にフランさんとの通信が切れる。
それと同時に、ロミオ先輩が相手をしているオウガテイルの尾から発射された棘が流れ弾としてなぜか俺の方に飛んできた。
なので、たまたま近くで捕食をしていたドレットパイクを捕食形態で捕まえ、飛来してきた棘の盾にする。
そして、仕上げに苦しんでいるドレットパイクのコアを捕食した。


「ロミオ先輩、ギルバートさん。援軍の方、先にフライアに行っちゃったみたいなのでさっさとこいつ等倒して帰りましょう」


「さっきのアクションに対して何の反応もないのか…」


「ギル、ついさっき学習しただろ。コイツに常識は通用しないんだよ」


ジュリウス隊長の訓練に常識は通用しねぇ。
まともに相手をしたらあっという間に圧死endを向かえるからな。


「まぁ、そんなことはどうだっていいんです。重要なことじゃない。今はさっさとアラガミを駆逐して、先にフライアへ行ってしまった援軍(仮)の顔を確認しに行きましょうよ」


「……そうだな」


「何事も諦めが肝心だよな!」


なんか変な妥協のされ方をされた気もするがそこは気にせず、この後無茶苦茶アラガミを駆逐した。























フライアよ、私は帰ってきた!


……はい、と言うわけで帰ってきました。
ロミオ先輩は何やら用事があるとのことなどで途中で別れ今はギルバートさんと歩いている最中です。


「ギルバートさん、今度チャージスピアの使い方教えてくれませんか?」


「ギルでいいぞ。別にかまわないが……お前はお前で独自の道を爆走してるからな……。教えるのは構わないが、参考程度にしろ。無理矢理使い方を変えるとかえって悪くなることがあるからな」


「やっぱり、そうなりますよねぇ」


普通であれば、一か月かそこらで戦闘スタイルの確立なんてできるわけがないからそのままギルさんの教えを元に戦闘スタイルを作っていけばいいんだけど……俺のは訓練が濃密すぎてすでに戦闘スタイルが確立しているんだよねぇ。
本来の刀身もヴァリアントサイズだし。


あーでもないこーでもないと色々話し合っていると、


「君たちが、噂のブラッドかな」


目の前に貴族のような恰好をした金髪の青年が現れた。


どうする?



>そっとしておこう



「まてまてまてまて待ちたまえ!君たちに言っているんだよ!」


しかし にげられなかった!


ちっ、なんかめんどくさそうだったからスルーしようと思ったんだがダメか。
仕方がないので、渋々と言った感じで反応を返す。


「はぁ、そうですか。……それで、貴方はいったいどちら様です?」


「おっと、これは失礼した。僕はエミール……栄えある極東支部第一部隊所属!エミール・フォン・シュトラスブルクだッ!!」


「お、おう」


「……そうか、よろしくな」


勢いのよい自己紹介に戸惑い気味と言うか、若干引いている様子のギルさん。
そうなる気持ちはよくわかる。


「このフライアは趣があっていい船だね。しかし――――――」


エミールさんは俺たちが返事を返した後、勝手に自分のことを話し始めた。
なんか、色々大袈裟だったけれど要約するなら、フライアの周りにアラガミが来たから助けに来たぜ!という事らしい。
本当かどうかは知らんが。


彼は最後に我々の勝利は約束されているー!と言い残し去っていった。


「……ややこしいのが増えたな」


帽子のつばをいじりながらぼそりと呟くギルさん。
確かに、あのキャラはいろいろ濃すぎる。変な問題を起こさなきゃいいけど。
もし、何かあったときはおでんパンでも突っ込んどけばいいか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話

今回はギルさんの視点が入ります。
つまり、キャラ崩壊注意です。


貴族のような恰好をした珍妙な神機使いであるエミールさんと会った翌日、俺はフライアのカウンターにてエミールさんのことについて聞いてみていた。相手はもちろんフランさんである。


昨日の通信ではわからないと言っていたけど、真面目な彼女の事だしどうして合流地点に来なかったのかと言う点を含めて色々調べたのではないかと予想したためである。
オペレーターの誤報は神機使いの命に関わることだし。
それに別のフライア職員は怯えて逃げるから話聞けないしねっ!


「フランさん、あの援軍の人についてなにかわかりました?」


「……何故それを私に訊くのですか?」


「もちろん俺が聞けるのはフランさんしかいないからですよ。それに、貴女は真面目だからしっかりと正しい情報を調べようとすると思ったので、こうして訊いています」


「……………エミールさんについては極東支部から来た援軍であることは間違いありません
。実際、フライアの進行する予定の場所は大量のアラガミが出現しています。合流場所にこれなかったことについてはおそらく迷ったのでしょう」


「あー……ありそう」


最初声を掛けられたときはとんでもなくうっとおしく感じたが、話していることは真っ当だった。
なんかアホっぽいし、さらに言うなら無駄な話と動きが多い。
だからこそ、迷子と言うのは納得したわ。いかにもやりそうだもの。


「じゃあ、一応しっかりとした援軍なんですね」


「はい。実力に関してはこの後に入っている任務で拝見できるかと」


「じゃあ、次の任務はエミールさんと同じなんですか?」


「そうです。仁慈さんだけでなくギルバートさんも同行することになっています。内容はフライアの進行予定の場所に現れたアラガミの殲滅です」


「わかりました。なら早めに準備しておくことにします」


フランさんに頭を下げてカウンターから離れて、ターミナルへと向かう。
やることはもちろん刀身の変更である。
援軍が必要なほど大量なアラガミがいるっていうんならこれはもうヴァリアントサイズを使うしかないじゃないか!(歓喜)
俺、わくわくすっぞ!


どういう原理はさっぱりわからないがターミナルで神機の刀身を変更した俺はそのまま軽い足取りでギルさんとエミールさんを呼びに行った。












妙にテンションの高い仁慈に連れられて俺は今回アラガミを討伐する場所である鉄塔の森と呼ばれる場所に来ていた。
昔は発電所として動いていたらしいが今では地下水があふれてそこらへんが水浸しになってしまっていた。


「さて、仁慈。なんか作戦みたいなものはあるか?」


「サーチ&デストロイ。アラガミ死すべし慈悲はない」


「わかった。つまりノープランなわけだな。……エミールっていったか?アンタは何かあるか」


「フッ、何が来ようと僕の神機、ポラーシュターンが打ち砕いてくれる」


「ダメだこいつ等」


昨日合流したばかりのエミールは話を聞かないし、仁慈は戦闘中だけでなくすでにおかしくなり始めている。
真面目な奴が誰一人としていない、こんなことで大丈夫なのか?
耳に着けたオペレーターの合図を聞きながら俺はそう思った。


「行くぞ!ポラーシュターン!」


「ドーモ、アラガミ=サン。ゴッドイーターです。アラガミ死すべし、慈悲はない」


………やっぱりダメそうだな、これ。
仁慈に至っては変なものインストールしているだろ。
はぁ、と溜息一つ吐いてから神機を構え先行したバカ二人を追いかけようとして、やめた。


「せいやー!」


「グアーーー!!」


なぜなら、目の前でヴァリアントサイズを振り回している仁慈がいるからだ。
少しは仲間のことを考えてくれよ。


今もすごい笑顔でアラガミを屠っていく仁慈を眺めながら俺は考える。
ロミオやあいつは訓練であの動きを身に付けたと言っていたが……それはどう考えてもおかしい。
戦い方はもちろんのこと、何より戦闘に対する心構えだ。
ロミオから聞いた話では実地訓練の時、怯えていたナナを庇い攻撃をしてきたアラガミの口に神機を突っ込み倒したと言っていた。
初めての実戦でそこまでできる奴は早々いない。ジュリウスとの訓練は一週間とそこいらだと本人からも聞いているし、訓練で度胸まで鍛えたとは考えにくい。


よほどの才能があるのか、ただのあほなのか、それとも……
もう一度仁慈の方をチラリとみてみる。


「イヤーーー!!」


「グアーーー!!」


……やっぱただのあほだな。
珍妙な掛け声?雄叫び?とともにアラガミを切り捨てた仁慈を見て先程の思考を完全に頭の片隅へと追いやる。


さてと、余計なことを考えていた時間を取り戻すために俺も行くか。


仁慈にアラガミと一緒に切られないよう迂回して別の場所にいるであろうアラガミを狩りに行く。


「騎士道ぉおおおおおおおお!!!」


此処にはバカがいたよ。























なんか意識が軽く飛んでた気がする。
ふと周りを見渡してみれば、そこには形が崩れかけているアラガミがそこらへんにごろごろいた。
ヴァリアントサイズを思いっきり振るったからかね。


『連絡!想定外の中型アラガミがそちらに侵入いたしました!』


通信機からフランさんの切羽詰まった声が聞こえてくる。


『種類は?』


ここでフランさんの言葉にいち早くギルさんが反応した。
さすが、経験が違うね。


『ウコンバサラです』


何だっけそいつ。
近年現れたワニみたいなアラガミだった気がする。


『フフフ、そいつならすでに僕が交戦中だ。故に安心したまえ!こいつは、僕のポラーシュターンの錆にしてくれる!』


無茶苦茶心配なんですけど。
ギルさんも同じことを考えたのだろう。
エミールさんの言葉にすぐさま言葉を返す。


『俺たちもそちらに向かう。余裕を見つけて発煙筒を使え』


ここで一旦通信が切れる。
しかし、何時までたっても発煙筒は上がることがなく、結局自分の力でエミールさんを探すこととなった。


で、それから十分後。
ギルさんと途中で合流した俺はついにエミールさんを見つけた。
ブッ飛ばされていたけど。


「グハッ!……な、なかなかやるな。だが今度はこちらの番だぁああああああ!?」


またぶっ飛ばされた……。
あの人すげぇ頑丈だな。さすが極東出身。


「グフッ……何という怪力…ッ!しかし、負けるわけにはいかない!必殺、エミールスーパーウルトラアタッ―――どぉあああああ!?……ブロスッ!?」


「…ったく、一人で突っ走りやがって」


あまりに見事なやられっぷりにギルさんが戦いに介入しようとするが、次に聞こえてきたエミールさんの言葉に思わず足を止めた。


「ゴ、ゴットイーターの…戦いは、ただの……戦いではない。絶望の世において、神機使いとは人々の希望の依り代だッ!」


言葉を発しながらエミールさんはしっかりとした足取りで立ち上がり、神機を構える。


「正義が勝つから、民は明日を信じッ!正義が負けぬから皆!前を向いて生きるッ!」


「故に僕は……騎士は……ッ!絶対に倒れるわけにはいかないのだッ!」


言い終わると同時にウコンバサラがグオォオオオ!と咆えて、エミールさんに向けて突進を繰り出す。
が、エミールさんはそれをジャンプすることで回避し、逆に落ちてくる力を利用し、ウコンバサラの顔に渾身の一撃を叩き込んだ。
ドスンと音をたててウコンバサラは倒れる。


「バカはバカなりに筋は通ったやつみたいだな」


「そうですね。バカだけど」


天に向けて腕を上げ、悔いなし状態のエミールさんを見て俺とギルさんは笑い合い、彼のもとに向かった。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話

今回は戦闘回となっておりますが、あまりうまくかけてはいないと思います。
戦闘難しいです。








「ぐはッ!?」


俺は腹に強い衝撃を受けたことで大きく後方に吹き飛ばされる。しかも、肺の空気が根こそぎ持っていかれるというおまけつきで。
このままでは確実に次の攻撃を避けれなくなり、死に至る。そう考えた瞬間俺は気合で体を動かし後方二回転して衝撃を弱め、地面に着地する。そしてすぐさま右にステップを踏んだ。
その直後、先程俺が着地した場所には巨大な火の玉が飛来し、爆発する。


「……あっぶねぇ。もう少し反応が遅れてたら爆発四散するところだった……。ったく、なんでこんな奴がここに居るんだよ」


今しがた俺のことをブッ飛ばしてくれた白い狼の風貌をしたアラガミに向かって悪態を吐きながら自分の神機を構えなおす。
が、正直戦況はこれ以上ないくらい悪い。
このアラガミその辺の奴とは格が違う。ぶっちゃけ俺のような新人が相手する奴じゃない。こんなの相手できんのはジュリウス隊長とギルさんくらいじゃないだろうか?
はやくきてーはやくきてー。


「……ッ!」


目の前の白いアラガミが跳躍し、ガントレットを装備したような腕で俺を潰しにかかる。
多少反応が遅れたがこちらもすぐさまバックステップで回避する。しかし、衝撃までは回避できずごろごろと無様に地面を転がることになった。


ぜ、絶体絶命すぎる……。
このままいくと真面目に死ねるぞ。
ゆっくりと恐怖を与えるように近づいてくる白い狼の風貌をしたアラガミを見ながら俺はどうしてこうなったと思い返した。


…これ走馬灯になったりしないよね?



















ウコンバサラを倒し、珍しくジュリウス隊長からゆっくり休め何て言われ、戸惑いつつもベットに倒れ込んだ日の翌日。
一人前の神機使いと認められる基準となるコンゴウの討伐任務に駆り出されていた。
しかも、一人につき二体だ。
その任務を出す時のフランさんの顔を見たことがあるか?お偉いさん。
いくらブラットとはいえ正気か?って表情しててすげぇ怖かったぜ。


まぁ、フランさんは一応経験豊富なジュリウス隊長やギルさんがフォローするという事で色々納得したらしい。
それはいいんだが……俺に付き添いが誰もいないっていう事はどういう事なんですかねぇ。
しかも全員満場一致で即決だったらしい。解せぬ。


そんなこんなで、一人でアラガミの掃討ポイントへ俺は足を運んだ。


「おー、あれがコンゴウか」


黎明の亡都にある高台からフィールドの全体を見渡し目標のアラガミを確認する。
ほかには三匹のオウガテイルに二匹のドレットパイク、四匹のナイトホロウか……。
これは少しばかり多いな。


このまま戦いに行くのはさすがにきついので神機を銃形態へと変化させ、高台からスナイパーでナイトホロウとドレットパイクを撃ち抜く。
全弾命中、ビューティフォー。
粗方の小型アラガミを仕留めると同時にオラクルも尽きて弾が撃てなくなる。
よし、このくらいなら大丈夫だろ。


神機の形態を通常形態に戻し、高台から跳び下りる。
コンゴウは耳がいいと言っていた通り、俺が跳び下りた音を感知し、こちらを向いて一声咆えた。


「…初見だけど大丈夫かな」


今更ながらに心配になりつつもこちらにどたどたと向かってくるコンゴウに立ち向かう。


って、いきなり転がってきたっ!?
何だこれ肉弾〇車!?


コンゴウに向けて一直線に走っていた体を強引に左へと向けて肉弾〇車の直撃を回避する。
セーフ、と一息ついていると肉弾〇車を止めたコンゴウが背中にあるパイプのようなものから圧縮した空気を放つ。
あの見かけで遠距離も出来るんだ、あいつ。


右、左、後ろと次々発射される空気の弾を回避しながら俺はどうやって攻めようかと思考する。しかし、あまりにも情報が少ないのでとりあえず一撃を決めてから考えることにした。


空気砲が無駄だと悟ったのかコンゴウは右腕を振り上げ、そのままこちらへと近づき殴りかかろうとする。
それに対して、俺はコンゴウの攻撃範囲にギリギリ入らない距離に移動し、咬刃展開状態にしたヴァリアントサイズを振るった。


「グガァアアアア!!??」


コンゴウは不意に攻撃を喰らったこともあり、思わずその場で蹲る。
当然俺はチャンスだと感じ止めを刺そうとコンゴウに接近するが、


「ゴァアアアア!!」


何時の間にやら出現していたもう一体のコンゴウが後ろから肉弾〇車を繰り出してくるのせいですぐさま攻撃を中断し、蹲っているコンゴウを踏み台にして跳びあがりもう一匹のコンゴウの攻撃を回避する。


「ゴァ!?」


「グアッ!?」


そうすると、コンゴウの肉弾〇車は必然的にもう一方のコンゴウにぶつかることとなり二体そろってぶっ飛んでいくという珍妙な光景が出来上がった。
バカだあいつら。


しかもさらにバカなことにコンゴウ同士で喧嘩を始めるという事態にまで発展し、最終的にはお互いにボロボロとなったコンゴウ達を咬刃形態の広範囲攻撃でまとめて殺すことで任務を終了とした。
いやーアラガミに考える頭がなくて助かった。


「フランさん。目標の討伐、完了しました」


『わかりました。丁度皆さんも終わったようなので、周囲の警戒をしつつ迎えを待っていてください』


「わかりました」


さてと、今日は初めてソロで中型を狩ったから疲れたわ。


「今日は早く寝ようかな」


周囲の警戒をしつつそんなことを呟く。
すると、後方からかなり大きな足音と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
一体何事かと振り返ってみると、そこには白い狼のようなアラガミを引き連れて全力で逃げているエミールさんがいた。


「ぬぁあああああ!!何故だ、何故神機が動かないんだぁあああ!!」


神機が動かないなんてことあるのかと思いつつ、エミールさんを助けるためにポーチに入れておいたスタングレネードを取り出す。
しかし、それより早くエミールさんがアラガミに吹き飛ばされてしまった。


「ぐぉああああ!!……へぶっ!?」


「エミールさん!」


ズザザザザザーと顔面から地面を滑るエミールさん。
ウコンバサラの時に驚異の耐久力を見せつけた彼でもこれはまずいのではないかと思い駆け寄ってみるが、どうやら気絶しているだけのようで、しっかしと呼吸はしているようだった。
この人マジ頑丈だな。


ホッと安心できたのもつかの間、エミールさんが連れてきたアラガミがガントレットをつけたような腕で地面を叩き、そこから火の弾をこちらに放ってくる。
俺はすぐにエミールさんを左腕に抱え、その場から跳びあがって火の玉を回避。更に、先程出しておいたスタングレネードを使ってアラガミの目をくらませ一目散に逃げた。


「すいませんフランさん!緊急事態です!想定外の大型アラガミと遭遇、エミールさんが戦闘不能に陥りました!」


『それはまずいですね。すぐにほかの班の人達を増援に向かわせます。彼らが到着するまで何とか持ちこたえてください』


「それしかないよな……了解しました。やってみます」


通信を切り、俺はこれからどうするのかを考える。
スタングレネードを使って逃げたから場所は知られてないはず、腕輪の機能でジュリウス隊長たちに居場所を知らせるか。
気絶したエミールさんを横たえて、腕輪に触れようとしたその瞬間、


「クォオオオオオオン!!」


「なっ!?」


いつの間にか背後に居たアラガミに腕を振るわれ、壁際まで吹き飛ばされる。


「舐めるな!」


が、何とか空中で体勢を立て直した俺は壁を蹴り、アラガミに向けて跳躍しそのまま神機を振り下ろす。
その攻撃はむなしく空を切った。


まずい。ここには戦闘不能のエミールさんがいる。このまま戦えば確実に巻き込むこととなるし、スタングレネードはポーチから出す必要があり、それが致命的な隙となる。
……何とかして、おびき出すか。

次の行動を決め俺は神機を銃形態にして、ちまちまと撃ってアラガミの気を引きエミールさんからなるべく離れるように行動した。
それが功を奏し、アラガミを連れ出すことには成功した。


「ぐはッ!?」


しかし、その直後腹に衝撃が走り俺は後方へと吹き飛ばされた。ここで冒頭に戻る。




―――――やばい、詰んでる。
腕輪は結局使えなかったからジュリウス隊長たちには知らせは行ってない。一応フランさんから報告は行っているだろうけど到着にはもう少し時間が必要だろう。
既に死にそうな身としてはその”もう少し”が限りなく長い。
そんなことを考えていたせいで無防備な体にアラガミの攻撃をまともに受けてしまう。


ま、マズイ。何とかして立ち上がらないと……。
そう考えていても体の方はいう事を聞かず、だんだんと瞼が降りてくる。
もうだめかと諦めかけた―――――その時。




―――――力が欲しいか?


そんな声が心の中に響き渡った。



















ふと、目を開けてみればそこは何もない真っ白な空間だった。何が何だか全く分からないのだがそんな混乱気味な俺をよそに謎の声は言葉を続ける。


―――――お前はこのままだと確実に死ぬ。しかし、それでいいのか?知らないうちに知らない世界に飛ばされ、こんなところで朽ち果てることになってもいいのか?いや、よくないはずだ。ならどうするか?力だ。力を望めばお前は生き残ることができる。


―――――さぁ、力を……他のモノの追随をも許さない、圧倒的な力を望めッ!


その言葉は俺の心にすんなりと浸透し、まるで毒のように俺の思考を麻痺させる力を持っていた。
この声に従えばこの場を切り抜ける力を得られると確信も何故か抱けた、抱けさせるようなモノがあった……でもだからこそ、


「だが断る」


――――――えっ?


「えっ?じゃないよ。嫌だって言ってんの」


―――――――はっ、あ、えっ?な、なんで?



「いや、なんでって。これってあれでしょ?力望んだら闇堕ちとかそういうオチでしょう?」


―――――――そうだけど……。


「それが分かっててなんで力なんて望まきゃいけないのさ」


ふぅ、やれやれ。と肩を竦める俺。
その様子が気に入らなかったのか謎の声が言葉を強める。


―――――――このままだと死ぬんだぞ!?さっき自分で言ってただろうが!


「まぁ、言ったけどさ。よくよく考えてみたらジュリウス隊長が何とかしてくれる気がするんだよね。あの人ほら、あれだから」


―――――――言わんとすることは何となくわかるが……。


「それにさ、お前って俺の中に居るというか同化しているっていうようなテンプレートなタイプだろ?」


―――――――何で決めつけてるんだ……そうだけどさ。


「つまり、俺が死んだらお前も死ぬわけだ」


こういうタイプは大体そうだ。
ナ〇トにもそう書いてある。


―――――――………。


「……俺は望まないけどお前は力、貸してくれるよな?だって、死にたくないだろう?」


今の俺の顔を第三者が見たら思わずひくだろう。
多分新世界の神を目指そうとした奴のような顔をしているだろうからな。

―――――――…………汚いな、さすが仁慈きたない。俺はこれで仁慈が嫌いになったなあもりにもひきょう過ぎるでしょう?


いいから、力寄越すなら早くしろ。
本気で死ぬぞ、俺ら。


―――――――あァァァんまりだァァアァ!


謎の叫び声を最後に聞こえなくなる謎の声。
とっても嘆いていたようだが一応あいつも死にたくないらしく、ボロボロの体とは思えないくらいに絶好調な感じがする。
これならいけるかな。


「■ ■ ■ ■ ■ ■―――――ッ!」


気合を入れてゆっくりと俺に近づくアラガミに切りかかろうとした瞬間、なんか人間が出すようなものじゃない声が口から出てきた。


どう考えても、あの謎の声のせいです。本当にありがとうございます。


しかし、何やら効果はあったようであのアラガミはびくりと跳ねて、何やら怯えるようにしている。
よし、チャンス!
ここまでぼろ雑巾にされた恨み、晴らさないでおくべきかッ!


「はぁああああああ!」


咬刃展開状態にした神機を思いっきり引き絞り、渾身の力で振り切る。


「クゥアアアアアア!!??」


すると今まで傷つかなかったアラガミの目玉を切り裂いて大きく後退させた。
だが、それと同時にこちらの力も一気に抜け落ちる。
あれ?向こうが後退しただけなのに対して俺は力が入らない状態……。
つまり……もうだめだ、おしまいだぁ。


「クゥオオオオオオ!!」


目玉を切り裂かれ激おこなアラガミが襲いかかろうとしているのを見て今度こそだめだと目を閉じようとして、


無数の弾丸がアラガミの顔面に飛来した。


「ウグァア!?」


俺が相手をしていたコンゴウと同じく意識の外から急に来た攻撃にたまらず大きく飛びあがり、逃げていくアラガミ。
そうしてアラガミを追っ払ってくれたのは、ブラッドの皆だった。
助かったぁ。


「たいした奴だ、よくやった」


ジュリウス隊長の珍しい言葉に驚く間もなく、緊張の糸が切れた俺は完全に意識を失った。



































「おや、残念です。完全に呑み込めると思ったのですが……フフッ、予想以上にたくましくなっているようですね。素晴らしいです。もっと……もっと貴方という存在を私に見せてください。そうすれば私も何かを掴める気がするのです。私と同じ貴方の事を知れば、きっと…」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話



『―――――、いつまで寝ているの?早く起きなさい』


どこかで聞いたことのある女性の声が優しげに言う。
それに反応した声も、どこかなじみのある未成熟な懐かしい感じの声だった。


『嫌です、眠いです、寝かせてください、お休み』


『まったく……いいから起きなさい。早く起きないと解体(バラ)すわよ』


『貴方が言うと冗談に全く聞こえなんですがねぇ!!』


女性のマジトーンに急いで起きたと思われる未成熟な声。


『あら、やっと起きたのね。フフフ、残念。そのまま寝ていれば解体(バラ)していいと、神もおっしゃられていたのに』


『い い わ け あるかぁあぁああああ!!』


フフフと上品に笑いながら物騒なことを言う女性の声に思わず叫びを上げる未成熟な声。


なんか、妙に懐かしく感じるのと同時に、無性に誰かに切れたくなってきたのだった。

































「………なんだ、今の夢」


見覚えのない白い天井が見える部屋(まぁ、病室だよな)で俺が開口一番に呟いたのはそんな言葉だった。
他にも、あの白いアラガミを追っ払った後どうしたんだろうとか、エミールさんは大丈夫だろうかとかいろいろあるんだけど……見た夢があまりにも自分の何かに触れるものだったんだよね。
昔の記憶を夢で見た感じが一番近いんだけど、俺には全く覚えがない。
なのにどことなく懐かしいと思えるものがあった。


「不思議だねぇ」


「何が不思議なんだ?」


「あ、ジュリウス隊長」


何時の間にやら、病室に入っていたジュリウス隊長が俺の独り言に反応し首をかしげていた。
独り言を聞かれていたとは……滅茶苦茶恥ずかしいな。


「いえ、別に何でもありませんよ。それよりエミールさんは大丈夫でしたか?」


あの白い狼みたいなアラガミにやられたこともあるし、そもそも気絶した状態でその辺に放置はかなりまずかったのではと、いまさらになって思い至る。
…ひょっこりアラガミが出現したら確実に死んでいたんじゃなかろうか?


「あぁ。彼ならあのアラガミを追い払った後合流してな。その時にはすでに意識も回復しておりお前に大層感謝していたよ」


俺の疑問にジュリウス隊長は、傷ついた僕を庇いながら戦うなんて……まさしく騎士…ッ!とエミールさんの物まねをしながら無事を伝えてくれた。
地味に似てるな、物まね。色合いのせいかな?


「あははー……そうですか」


いくら不意に襲われたとはいえ、自分の対応がかなり危ないものだったことを自覚したのでエミールさんの感謝が俺の良心をすさまじい勢いで削っていく。
しかも、先ほども言った通り地味に似ているからさらに二割ぐらいましで。


えぇい、カットカット。
これ以上はちょっとまずそうなので、少々強引だけど別の話題を切り出すことにした。


「そういえば、俺が気を失ってからどのくらい経ちました?」


体の硬直具合からしてそこまで時間は経ってないとは思うけど、神機使いになったことで体の不具合に鈍くなっている可能性があるから念のために訊いておく。
何日単位で寝てたらその分の仕事もしなきゃいけないし。


俺が放った疑問にジュリウス隊長はフッと口の端を少しだけ吊り上げながら答えた。


「大丈夫だ、お前が気絶してからまだ一日と経っていない。だから休んだ分の仕事をこなそうなんてことも考えなくていい」


その言葉を聞いてホッと肩を落とす。
いくら世界観がアレと言っても絵具を全色混ぜ込んだ黒より禍々しきブラック企業フェンリルで何日単位で仕事をばっくれたら何させられるかわかったものじゃないからな。
実際にどうなのかは知らないけどさ、なんか本能が警告を鳴らしているんだよねぇ。


目が覚めてからどことなく感じている違和感に若干首を捻る。だが、今はお見舞いに来てくれたであろうジュリウス隊長と久しぶりに話をしようと意識を切り替えたその時、ドタドタドタと何かがすごい勢いで向かってきているような音が病室の外から聞こえてくる。


正直、嫌な予感しかしない。
なので、何が起こってもいいように座ったままの態勢ではあるもののある程度の状況には対応できるような態勢を取る。
よっしゃ、来い!
心の中でこうして気合いを入れた瞬間、病室の扉がバン!とすごい音を立てて開き、そこから何やら黒い影がこちらにかなりのスピードで突っ込んできた。


すぐさま俺は後転するように足を持ち上げ、後ろに転がる。そして、丁度頭と両腕が寝ていたベットに着いた瞬間、腕に思いっきり力を込めて自分の体を空中へ飛ばし黒い影との衝突を回避する。


目標(おれ)を目の前で見失った黒い影は、急に止まることができず俺が先ほどまで居たベットに激突した。


「いったー……もう仁慈!避けるなんてひどいよ!怪我人はおとなしくしてなくちゃいけないんだからね!」


「その怪我人に突撃かまそうとしてきたやつのセリフとは思えないんですがそれは…」


俺に突撃をかまそうとして回避され文句を言う黒い影改めナナ。
これは少しばかり理不尽すぎやしませんかね?
結構洒落にならない勢いだったんですが。


「むっ、私とっても心配したんだけどなー。急に仁慈が倒れたからおでんパンだって五つしか喉を通らなくなるくらいには心配したんだから、多少の衝撃くらいは受け止めてもらわないとっ!」


「その理屈はおかしい」


心配させたのは悪かったけどさぁ…もう少し状況を考慮してくれよ。あんなのと初見で戦って無傷はさすがに無理だと思うんですがね。


「分かってるけど、なんかこうやって発散しないと感情がウガーってなっちゃうの!ほんと本当に……心配したんだから……」


そういってびしっ!と俺を指さすナナ。
よく見れば目元に涙の跡が少しだけ残っており彼女の発言は本当の事だと思わされる。


「わかった、わかった。次からは気を付けるよ。だから今回は許してくれ」


「……うん」


ナナの頭を撫でて彼女の安定を図る。
軽く幼児退行している気もするし、過去に似たような状況で起きたトラウマなんかがあるのかもしれない。


「………そういえば仁慈。これからのことについて少し話しておこう。と言っても大したことではないがな」




ある程度状況が落ち着いた頃を見計らってからジュリウス隊長が口を開いた。
曰く、しばらくしたらラケル博士が俺に起こったことやあの俺を襲ったにくいあんちくしょうの事を教えてくれる。今日一日は念のため休みという事だった。


どうしよう。せっかくの休みなのにラケル博士うんぬんの下りで急激に仕事がしたくなったんだけど。


明らかにテンションが下がった俺にジュリウス隊長は全く気付かず、ゆっくりと休めとさわやかな笑顔と共に言って病室を出て行った。
そして、それと入れ違うように病室に入ってくるラケル博士。


アイエエエエ!ラケル博士!?ラケル博士ナンデ!?


確かに色々説明するために来るとは言ってたけどさぁ……全然しばらくしたらじゃなかったよ!ジュリウス隊長と入れ違いじゃないか!
ナナも空気読んで出て行ったし、また一対一かよ。


「体の調子はどう?仁慈」


「何も問題はありません。強いて言うなら多少疲労が残っているくらいですね」


俺の回答にそうですかと言ってフフフと笑うラケル博士。
相変わらず読めない人だなぁ、この人。


「さて、何から話しましょうか……」


「なら、ひとまずあのアラガミについて聞いて言いですか?」


「あのアラガミはマルドゥークと呼ばれていて、アラガミの中で感応種と呼ばれる種類に分類されています」


「感応種?」


「簡単に言えば感応現象と言われるものを使いほかのアラガミを支配しようとするアラガミの事です。神機もオラクル細胞を用いており一種のアラガミともいえます。エミールさんの神機が動かなくなったのもそれが原因ですね」


「へぇー。……なら俺やブラットの皆の神機が動いたのは?」


「貴方達が目覚める血の力、それも一種の感応現象なのです。それのおかげで感応種の支配をうけないと理論上言われていました。確認はまだされていなかったのですが……貴方が証明してくれましたね」


まったく狙ってませんけどね。


「じゃあ次に何で俺、あのアラガミに傷をつけることができたんですかね?攻撃を当ててないから真偽は定かではありませんが、どう考えても俺が傷つけられるような相手じゃなかったと思うんですけど」


「それは貴方が血の力に目覚めたことで使えるようになったブラッドアーツのおかげですね」


目覚めてたんだ、血の力。
謎の声のインパクトが強すぎて全く気が付かなかったわ。そういえばなんか体から赤いエフェクトとかキィン!っていう高い音とかがなっていた気がしなくもないな。


「貴方のブラッドアーツは面白いですね。自身の体力と引き換えに攻撃範囲を広め攻撃を強める効果があるようです」


「……え?じ、じゃあ俺が気を失ったのって……」


「ブラッドアーツが原因ですね」


おおぉ……とラケル博士の前で頭を抱えて蹲る。
つ、使い勝手が悪すぎる。
攻撃強化と攻撃範囲拡大はうれしいけど、回復錠が手放せなくなるし何より味方を巻き込む可能性がさらに上がりやがった……ッ!


「……あぁ、そういえばこちらからも一つ質問させてください」


「……なんですか」


ラケル博士の声に反応し抱えていた頭を上げ彼女の方を見る。
するとすぐ目の前に彼女の顔が近づいてきていた。近いって。


「貴方がマルドゥークに放った咆哮……アレは、なんですか?」


ついにツッコまれたか。
ブラッドアーツうんぬんでいつかはツッコまれるだろうとは思っていたけどさぁ。
どうしよう……正直に自分の内なる声に耳を傾けた結果ですと言うか?
やだ……中二くさい。


「火事場の馬鹿力ってやつじゃないですかね?俺死にかけでしたし」


「……………そうですか。では、そういうことにしておきます」


顔を離して車いすを反転させるラケル先生。
あの人話す時何であんなに近いんだよ。


「貴方も今日は早く休みたいでしょうし、お話はこのくらいにしておきましょう。今日はゆっくりと休んでくださいね」


最後にそういって退室していくラケル先生。
その背中を見送った俺は、彼女が出ていくと同時に病室のベットに倒れ込む。


新しいブラッドアーツ……どうやって使おうかなぁ。
更に使いどころが難しくなったヴァリアントサイズのことを考えながら俺は再び眠りについた。









ちなみに、仁慈君が起きていると確信しているような行動をとったナナさんですが情報源は例のアレだったりします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話

すいません。
実家に帰っていたので少し更新が遅れてしまいました。



「これからこのブラッドの副隊長はお前だ。仁慈」


「シエル・アランソンです。これからよろしくお願いします仁慈副隊長」


「ちょっと待てwait」


マルドゥークとの戦いから一日たちすっかり体調も良くなった俺が軽い運動がてらに任務をこなした後、ジュリウス隊長とフリフリが多くあしらってある洋服に身を包んだ少女が開口一番そんなことを言った。どういうことなの……。
っていうかそのこ誰よ。


「ん?何かわからないことでもあるのか?」


「わからないことしかないんですけど!何一つとして知り得ている情報がないんですけどぉ!」


若干自分でもうざいと思うテンションで叫びをあげる。
しかし、これは仕方のないことである。なんせつい最近……というか昨日その情報もなかったマルドゥークと戦って死にかけたからな。
つまり、ソースは俺である。


「ふむ、確かにお前には何の説明もなかったな。わかった、説明しよう。例えお前が朝早くから任務に出ていたことが原因だとしても隊長である俺には情報を正確に伝える義務があるからな」


「暗に自分のせいじゃないって言いたいんですかあーた」


ジュリウス隊長が時々見せるこのふてぶてしい対応はいったい何なのだろうか……。
もしかしてあの車イスが一枚噛んでいたりしないだろうな。



さて、ジュリウス隊長から聞かされた話を纏めるとこういうことだ。
シエル・アランソンはマグノリア・コンパス出身の最後のブラット候補生で今日入隊した。
俺が血の力に目覚めたことと戦場の状況を鑑みて副隊長にふさわしいと判断し、任命した。


入隊の話は聞いていなかったがこの際それはいい。
問題なのは俺が副隊長と言う役職に勝手に収まっていたことである。


「ジュリウス隊長。さすがに力が目覚めたからと言う理由で副隊長任命はないと思うんです。副隊長なら経験豊富なギルさんの方が向いているのではないかともいます」


一応俺も新兵と言うくらいにはなっただろうけど、いきなり副隊長は荷が重すぎる。
経験だって圧倒的に足りないし、自分の戦いをしつつ周囲に気を配る何てぶっちゃけ無理だ。
それに俺の動きは常識では考えられない動作を含んでいるらしいから指示しても誰も実行できないんじゃないだろうか?


「しかし、仁慈以外のブラッドメンバーは満場一致でお前を指名しているぞ」


なんでさ。


「ギルを副隊長にするとロミオが必ず反発するだろう。それに本人も自分は上に立つ人間ではないと言っている。ロミオとナナには荷が重いだろう。と言うわけでお前だ」


「俺も一応新人なんですけど?」


「この程度の荷でつぶれるほど軟ではないだろう」


「解せぬ」


ジュリウス隊長から送られてくるありがた迷惑な信頼にがっくりと肩を落とす。
シエルさんからも何か言ってくださいよ。


「隊長命令ならばこの方も受けざるを得ないのでは?」


「……なるほど。なら仁慈、隊長命令だ。なれ」


「おうふ」


まさかのシエルさん敵陣営だったでござる。
とっても真面目そうな人だったから、俺なんかが副隊長になるのは反対してくれると思っていたのに……。当てが外れた。


「それで、これからブラッドは戦術面でも強化を図るつもりだ。だから仁慈、ここに居るシエルとブラットの戦術について色々意見を交換しておいてくれ」


「よろしくお願いします」


なんかもう色々と諦めた俺は、去っていくジュリウス隊長の背中を若干恨めしく見送りながら新メンバーであるシエルさんと意見の交換を行う。


と、言っても。
つい最近になってゴットイーターとなった俺に出せる戦術案などほとんどなく、だいたいはシエルさんの質問に答えそれに対して彼女が案を出すといった形式をとってミーティングは終わりとなった。


今はシエルさんに渡されたブラッドの訓練メニューを確認している最中である。
シエルさん?彼女なら先にどっか行ったよ。


「二十四時間のうち睡眠八時間、食事その他の雑務に二時間、任務に四時間、残りの十時間を戦闘訓練と座学に4:6で配分、か……」


時間配分としては理想だけど……実践的ではないかなぁ。
俺たち神機使いは人間だからこんな正確に行動することはできない。
しかも休息は何も睡眠だけでいいわけじゃないし。
これだとおそらく、士気にも影響を及ぼしてくるだろうなぁ。
心にある程度の余裕を持ってないとそれが致命的な隙となり、アラガミにやられる……なんて事にもなりかねない。


軍隊とかでは普通だったりするかもしれないけど、こっちはいろいろと状況が違うからなぁ。
素人考えではあるけどさ。
しっかし、これを提案した本人は実行する気満々だった。……これはギルさんやエミールさんに続く波乱の予感がするぜぇ。


渡された電子機器の電源を落とし、ついでに肩も落とした俺はとりあえず難しい思考を取っ払い習得したブラッドアーツを調べるために訓練場へ向かった。


で、実際に使って。
……本当に使いづらいなぁ、このブラッドアーツ。
攻撃が強くなって攻撃範囲も広くなるのはいいんだけど、削られる体力がマジでヤバい。一回発動するとそれだけで膝が笑い出すし、一回咬刃展開状態を解いたらその代償を払って発動させたブラッドアーツも解ける。
……なんという鬼畜使用。


副隊長に任命されるし、新しい人はなんかかみ合わないし、マルドゥークに殺されかけるし、ブラッドアーツは使いづらいしで最近いいことがないよなぁ。


ダミーアラガミが地面に溶けるのを見送りつつ俺は小さくない溜息を吐いた。























さて、時間は飛んで翌日。
俺はエミールさんが自分の信念を見せつけた場所である鉄塔の森にギル、シエルさんと一緒に来ていた。目的は当然アラガミの討伐である。


何でも、手にロック〇スターつけたアラガミであるヤクシャが別々の場所に現れたため部隊を二つに分けてそれぞれ同時に討伐するらしい。
今回この部隊の指揮は不本意ながら副隊長になった俺が務めることとなっていた。
不安だぜ。


「今回は討伐対象であるヤクシャ以外にもオウガテイル堕天種が複数体出現しています。まずはオウガテイル堕天種を討伐し、戦いに集中できる環境を整えたのちヤクシャの討伐を行おうと考えています。どうでしょうか、副隊長」


「妥当だね。いいと思うよ」


シエルさんの出した案に同意する。
確かにヤクシャの周囲にオウガテイル堕天種が複数いるな。


ヤクシャは腕についているロック〇スターの通り遠距離の攻撃を放つ敵である。ほかのアラガミと一緒にいるときのうっとおしさは半端じゃない。
比較的に倒しやすいオウガテイル堕天種をさっさと倒し、ヤクシャに集中するシエルさんの作戦がベターだろう。


「オウガテイル堕天種を倒している途中、ヤクシャがこっちに気付いたらどうする?纏めて相手取るか?」


「いえ、そこは一度撤退し、また分離したところを狙います」


「……そうかい」


何か空気悪いなぁ。
まぁ、知識を中心に考えるシエルさんと実際の戦場で培われた戦術で考えるギルさんは正反対だからなぁ……衝突が多いのかも。


「ほら、お話はおしまいですよ。フランさんから通信が入りました。始めてくださいって」


「了解、さっさと片付けて帰ろうぜ。仁慈も病み上がりだしな」


「大丈夫ですよ……そういえばシエルさん。貴女の戦闘スタイルって至近距離中心だったりします?」


「いいえ、銃形態を使った遠距離攻撃を主な戦闘方法としています」


「わかった。それじゃあシエルさんは後方で援護、ギルさんは前衛でガンガン行ってください。俺は遊撃を担当します。いいですね?」


俺の問いかけに二人とも頷く。


「では、お仕事開始です」


言うと同時に俺たちはいっせいにアラガミ達に向けて駆け出し、ギルさんがチャージスピアの特性であるチャージグライドを使い目の前にいた堕天種を貫いた。
周囲にいた同種のアラガミ達は急な襲撃で一瞬だけ戸惑うようなしぐさをするも、すぐに持ち直し攻撃したままの態勢で固まっているギルさんに殺到する。
しかし、ギルさんを攻撃しようとしたアラガミはシエルさんの神機から発射された弾によって貫かれ、その動きを止める。
俺はその隙を逃さず止まったアラガミの首をヴァリアントサイズで切り落とし、即座に捕食する。


俺の攻撃方法か手際の良さに引いているのかはわからないが、とりあえず俺に向けてないわーと言う視線を投げかけてくる二人に泣きそうになりつつ、捕食のため逃げ出そうとしていた堕天種に向けて跳躍し、背後から首を狩る。
二人の視線がより一層引いていた。


ど、どんな手段を使ってもアラガミを叩き潰せってジュリウス隊長が言ってたから…俺は
悪くない(震え声)


このあたりの堕天種は狩りつくしたので次の場所に移動を開始する。
ある程度移動すると再びオウガテイル堕天種を発見した。


先程と変わらずギルさんが先に堕天種に攻撃を仕掛けようと槍を構え、チャージグライドした――――――瞬間。


向こうからヤクシャが現れた……しかも二匹。


「マジかよ……ッ!」


既に堕天種に向けて移動し始めているギルさんの声に若干焦りの色が出てくる。シエルさんは想定外の出来事で少しの間固まっていた。
ヤクシャはこちらに気付いたのかロックバ〇ターをこちらに向けて固定し、エネルギーを貯めていた。
……何でこう予定と違う事ばっかり起こるのかね……ッ!


「ギルさん!堕天種に攻撃したらすぐに目と耳ふさいでください!シエルさんもですよ!」


俺の意図を即座に理解したギルさんは堕天種を倒すと同時に目と耳をふさぐ。シエルさんも俺の声で我に返ったのかギルさんと同じようにする。
それらを確認し俺はスタングレネードを投げた。突然の光と音に攻撃を中断するダブルヤクシャ。よし、この隙に、


「シエルさん、銃形態で援護!ギルさん右の方お願いしますね!」


しっかりと指示が行くように通信越しに指示をだし、一直線に左側のヤクシャに向かって駆ける。
すると、スタングレネードの効果が切れたのかヤクシャがこちらを補足し、腕から光の弾を三発発射してきた。
俺はそれを身を屈めたり、ステップを踏むことで避け一気にヤクシャへと肉薄する。


ヤクシャはそれに危機感を抱いたのか自分の真下に光の弾を放ち脱出と同時に攻撃しようとするがシエルさんの銃弾が不意に頭に命中したため行動を中断する。
そしてその間にヤクシャの目の前に来ていた俺は跳びあがり、


「死ね」


ヤクシャの首に向けて思い切りサイズを振り切った。


ドスンと大きな音を立てて倒れるヤクシャを確認しすぐさまギルさんに任せたもう一体のヤクシャの方を向く。
が、そこには体中穴だらけになったヤクシャが地面に横たわっているだけだった。
……さすがベテラン。


俺はヤクシャの捕食を終えると、帽子の位置を直していたギルさんに近づく。


「お疲れ様です、ギルさん」


「あぁ、お疲れ様」


お互いに軽く労わりあい、少し離れたところで銃形態の神機を構えていたシエルさんのもとに向かい、ギルさんと同じく労わる。


「お疲れ様です、シエルさん」


「…………はい、お疲れ様です」


「?」


若干反応が遅かったことが気になったがそこはあまり突っ込まず、フランさんに迎えを頼むのだった。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話





ブラッド最後のメンバーであるシエルさんが入隊してから少し経ったが、俺が彼女の入隊当初不安に思っていたブラッド内の空気、もしくは雰囲気の悪化はさほどひどいものではなかった。


実戦経験が豊富故に感覚を元として戦闘を行うギルさんや考えることが得意そうとは思えないロミオ先輩&ナナと知識中心のシエルさんでは何かしらの亀裂が生まれると思っていたのだが、意外や意外、みんなそれぞれ自分を納得させているからかそこまでひどい亀裂は生まれていなかった。いや、ないわけじゃあないんだけどね。


さて、そんな状況にあるフライアにある日救援要請が入った。
何でもサテライトの建設予定地に感応種が現れたらしい。
エミールさんのことで普通の神機使いは感応種と戦う事ができないという事が分かっており、感応種が居ても問題なく神機を扱えるブラッドにお鉢が回ってきたという。


今回討伐に向かうメンバーはジュリウス隊長に俺、シエルさんとナナの四人である。
……ジュリウス隊長以外は経験に難があり、感応種とも苦戦が予想される気がしなくもないが、これも経験ということなのかね。


「そういえば、今回の感応種ってどんなのなんですか?俺が遭遇したマルドゥークですか?」


フランさんにそこのところが気になったので聞いてみる。
情報アドは重要である。それによっては完封負けもあり得るのだ。
俺のライトロードがそれで何体除外され、完封負けしたことか……。


「今回の敵はイェン・ツィーと呼ばれる感応種です。この敵は目撃例が少なく詳細については未だ謎の部分が多いため、感応種という事しかわかっていません」


「また未知なる敵か……ここ最近多いですね」


今まで目撃例の少なかった感応種がここ数日で立て続けに出現していることに違和感を感じざるを得ないな。
俺がそう呟くと、ジュリウス隊長を始めとするブラッドの皆とフランさんが一斉にこちらを向く。
何だよ。


「そうだな……俺もフライアで生活し始めてここまで色々なアラガミと戦うのは仁慈が来てからだな」


「えぇ。仁慈さんが来てから自然と想定外のアラガミの乱入が増えていますね」


皆が俺に向ける目がジト目となり、視線がさらに鋭くなる。


「なるほど。つまり犯人は仁慈だったってことか。すごいな、仁慈!アラガミを操るなんて……感応種みたいだなっ!」


「ンなわけないでしょうがニット帽先輩。今度一緒に任務行った時に後ろから狙いますよ」


「前々から気になってたんだけど、お前俺にだけ当たり強いよね」


一体なぜなんだ…と両手をがっくり床について落ち込むロミオ先輩。
すいません、特に理由はないんです。でも、なんか反射的にこう返してしまうんです。嫌いなわけではないんです、多分。口には出さないけど。


「ほーら、そんなこと言ってないで今はイェン・ツィーの討伐でしょう」


パンパンと両手を叩いて仕切りなおす。
周りの皆もしょうがないなと言う雰囲気でイェン・ツィー討伐の準備に取り掛かった。
そのみんなの中にシエルさんが混ざっていて少しばかりビビった。誰だ、この子を汚染した奴。


「現地の神機使いがイェン・ツィーを孤立させることに成功したようなので、早めに向かった方がよろしいかと」


そういうことはもう少し早く言ってほしかったなぁ。


フランさんの言葉を聞いてイェン・ツィーの討伐に向かうブラッドメンバーは急いで任務の準備を行うのだった。















さあ、やってまいりました。
ブラットによる初の感応種討伐!場所はここ、かつては繁栄し多くの人がにぎわっていたであろう贖罪の街です!


「急にどうしたのさ、仁慈」


「若干感応種がトラウマになっててね……無理矢理テンションあげて気分を一転しようかと」


思えば初めて感じた命の危機だったからなぁ。
あの時はアドレナリンと謎の情けない声のおかげで考えずに気にならなかったのかもしれないけどさ。
冷静に考えたらトラウマものじゃないかな。


「へぇー。仁慈にも恐怖やトラウマを持つことがあるんだねぇー」


「どういう意味だコラ」


俺たち同期だよね?
死にかけてトラウマ何てなにもおかしくないよね?


「仁慈にも普通の感性が残っていたんだなぁ……って」


「ケンカ売ってんのか?売ってんだな?よし、買ってやる」


確かに内なる声とか聞こえたし、自分でも少しおかしいと過去にも思ったことはあるが、感性はマトモであると思っていたのにっ!
まさかこんなにも俺とナナの認識が違うとは思ってもみなかった。こんなんじゃ俺アラガミと戦う気が無くなっちまうよ……。


俺とナナがこそこそとふざけ合っている(?)一方で、シエルさんとジュリウス隊長の金銀コンビは今回の討伐対象である感応種、イェン・ツィーの姿をシエルさんのスナイパーで確認している最中である。
温度差酷いなー。俺たちのせいなんだけどね。


「どうだ、シエル。見えたか?」


「はい、目標捕捉しました。あらかじめ与えられていた情報通り、孤立しているようです」


シエルさんがイェン・ツィーを捕捉したらしい。
丁度俺も彼女と同じスナイパーを取り付けているため、自分でも確認してみる。


アラガミとは自分が捕食したものの特性をコピーするような特性のようなものがあるのだが、今回の目標であるイェン・ツィーはシユウと呼ばれるアラガミに近いが通常のモノとは違い女性的なシルエットに鳥のような羽、アゲハチョウにも似たカラーリングをしたものであった。
なんだあれ、何喰ったらああなるんだ?サリエルでも喰らったか?


「さて、これからどうしようか……このまま四人で囲み集中砲火でもいいんだが」


「私と副隊長はスナイパーで連射が難しいですし、ナナさんのショットガンは弾が分散してこちらにも被害が来る可能性があります。あまり得策とは言えないかと」


「そうだろうな」


「……シユウに形状が似ていますし、とりあえず頭部にスナイパー撃っておきます?」


何となくこのまま考えて動かなくなりそうなので適当に提案してみる。


「それで行こう」


「マジか」


採用されてしまった。


「初めからダメージを与えられればそれに越したことはない。できるか、仁慈?」


「大丈夫です。問題ありません」


そのためのスナイパーです。
……なんかフラグを立てた気がしないでもない。


「私も撃ちます。よろしいですか?隊長」


きた!スナイパーきた!メインスナイパーきた!これで勝つる!
これなら俺が万が一外しても安心だな。


「ちゃんとあてなよー。外したら罰ゲームね」


「なんでさ」


「そこ、話さない」


「「ごめんなさい」」


当たり前だけどシエルさんに怒られました。
しかし、いい感じに気持ちもほぐれたので、自分のスイッチを切り替える。


「準備はいいですか副隊長」


「ステンバーイ……ステンバーイ」


「……よさそうですね。それではいきます!」


「GO!」


俺とシエルさんは同時に引き金を引いた。
戦闘開始だ。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話

投稿が遅れて本当に申し訳ありません。
理由についてはすでに活動報告に書いてありますのでそちらをご覧ください。
案外早くにパソコン使用の許可を親からいただいたので早速書き上げました。
それではVSイェン・ツィー戦、スタートです。





「ビューティフォー」


「初弾、二発ともに命中。頭部の部位破壊に成功しました。しかし、さすがに向こうも気づいたようで、こちらに向けて接近中です」


シエルさんが俺達の狙撃の内容と敵の行動をみんなに伝える。
すると、それを聞いたジュリウス隊長がすぐさまイェン・ツィー討伐のポジションを考え、発表した。


「シエルは後方でサポート、ナナは前衛。俺と仁慈はそれぞれ後方支援と前衛を交互に受け持つと同時に奴のタゲ取りをするぞ」


「「「了解!」」」


ジュリウス隊長の指示が終わり、みんなが返事をした後、狙撃の場所として使っていた高台から跳び下りイェン・ツィーを待ち伏せる。
高台に居たままだったら狭すぎるからね。


待ち伏せてからしばらくしないうちにイェン・ツィーが俺たちの目の前に現れた。走って。


「羽使わないんだ……」


「そんなのシユウだって一緒でしょー?」


「いや、あいつの羽って思ってた以上に羽してるじゃん?だからてっきり飛んでくるのかと……」


「何わけのわからないこと言ってるんですか!来ますよ!」


シエルさんが言うのと同時に、イェン・ツィーは左の羽を曲げて腰と思わしき部分に当てる。
そしてもう片方の羽でこちらを指した。


唐突に行ったイェン・ツィーの☆意☆味☆不明☆な行動にそろって首を傾げる俺を含めたブラッドメンバー。
それがいけなかったんだろう。次の瞬間に状況は急変した。


『周囲の偏食場パルスに異常事態発生!何故か仁慈さんに偏食場集中しています!』


さっき俺を指したのはそれかっ!
しかし、


「偏食場パルスが集中するとどうなるんです?」


分からないので聞いてみた。


『簡単に言うとアラガミに狙われやすくなります。仁慈さんしか眼中にないレベルで』


「マジか」


言葉だけ聞けばなんか素敵っぽいけどアラガミだからなぁ。
にしても、俺はいっつもこんな役割だぜ。もうアラガミホイホイに名前改名しようかな…。
ま、まぁ、さすがにこれ以上は何もないだろう。そう考えていたのだが……世間ではそれをフラグと言う。実際、


ボッ、ボッボッ。
イェン・ツィーの周囲からイェン・ツィーと同じような色鮮やかな色彩を持つアラガミが何の前触れも出現するという非常に面倒くさい状況になってしまったのだ。
そして、その形は、最近やられ役として親しまれているオウガテイルのような形状だった。オウガテイルさん仕事しすぎぃ!


「何急にポップしてるわけ?」


いや、ホントマジで。
さっき俺に偏食場パルスが集中してるってフランさんが言ってたじゃないか。このままだと確実に袋叩きにされるんだけど?
確かに?作戦的には大助かりなんだけどさ、攻撃の集中化。でも複数体は聞いてないわ。
こんなんだったら俺よりジュリウス隊長にしてほしかったんだけど。


「フラン、イェン・ツィーの周囲から小型アラガミが急に出現した。そちらで感知できたか?」


『少々お待ちください………わかりました。そのアラガミ達が出現する少し前、周囲のオラクル濃度が急激に上昇していました。おそらく、あのアラガミがやったのではないかと』


「自らアラガミを生み出すことができるのか……偏食場を集めた能力といい非常に強力かつ厄介だな」


「考察もいいんですけど早く助けてくれません!?」


ジュリウス隊長が呑気に考え込んでいるからまだ戦ってないかと思ったか?
残念!現在フランさんに言われた通り俺が全ての攻撃を襲ってきているので頑張ってさばいているのでした!
ガチで助けてよ……。


「だーっ、もう!いい加減うっとおしいっつーの!」


左右から跳びかかってくるオウガテイルモドキに対し、一度バックステップを踏む。
そして、オウガテイルモドキの跳びかかりを回避すると同時に、一気に始末できる距離にまで誘い出すことに成功した。
その隙を逃さず攻撃を外して戸惑っている二匹を纏めて薙ぎ払う事で屠った。


「ふーっ、まず二匹っと……。まだいるんだよなぁ」


俺の必死の様が伝わったみたいで、イェン・ツィーにはさっき決めたポジション通りジュリウス隊長やナナ、シエルさんが相手をしていた。向こうは俺を狙っているみたいだが。ジュリウス隊長がいい感じでこっちに来ないように立ち回っていた。さすがです。
で、ここで俺の仕事はわいてくる奴らの引いつけと始末なわけである。
さっさと片付けて援護しにいかないとね。


未だにポンポンわき続けているオウガテイルモドキの群れに俺は咬刃展開状態に神機を変化させ突っ込んだ。
























やはり、初の感応種戦にはいろいろとアクシデントが発生するようですね。
ジュリウス隊長とナナさんがイェン・ツィーの相手をしているのを見て思わずそう考えます。
……ちゃんと私も仕事してますよ?


原種であると推測されるシユウとは細かな攻撃方法や、空中にいるときの滞空時間などに差があるのでさすがのジュリウス隊長も攻めあぐねているといったところでしょうか?あ、ナナさんが危ない。
気付いた私はすぐに回復レーザーを撃ちました。
放たれた回復レーザーはナナさんに向けて湾曲を描きながら進み、しっかりと命中します。


「シエルちゃん、ありがとー!」


「どういたしまして」



私にお礼を言ってナナさんは再びブーストをふかせながらイェン・ツィーに急接近し、神機で殴打し始めました。
……こういう時は確か、まっくのうち!まっくのうち!というのが通例だとラケル先生に教わったことがありますね。


標準を合わせ、イェン・ツィーに向けて何発目かもわからない弾を撃ちだす。
それで次の行動を崩されたイェン・ツィーはジュリウス隊長に左の羽を切られていた。


……本当にブラッドは不思議だ。
確かな戦術を立てたわけでもないのに、毎回毎回普通に予想以上の戦果を挙げてしまう。逆に私が理論を中心とした戦術を組み立て、実行するとその能率はぐんと下がってしまうのだ。


こんなのは教えてもらっていなかった。
しかし、どんなに調べても答えが見えてこなかったので一度だけ副隊長に訊いたことがある。「どうして精密な戦術もないのにあんなに戦果をあげられるのか?」と。
そう聞くと副隊長は苦笑しながらこう返したのだ。「みんな考えること苦手の脳筋だから」と。


正直意味がさらに解らなくなったが、このブラッドで過ごしていくうちに何となくわかった気がする。
みんな私よりも早く実戦の中で生きていた。
彼らの動きはすべてそれらから持ち得た情報を元に構成された戦術だったのだと。
それは、当時知識だけだった私とそりが合わないわけだ。


しかし、それは逆に個人の能力に大きく依存していることになる。
一部隊としてそれが正しいとも思えないのだが……


色々とごちゃごちゃな頭で、何となく偏食場のせいで多くの小型アラガミを一人でさばいている副隊長に目を向ける。
すると、


「………やべぇ、神機抜けねぇ」


地面に刺さった神機を必死に抜こうとしている副隊長の姿があった。
って何やってんですかぁ!あの人!


「グォアアアア!」


ほら、背後からアラガミが襲いかかってきていますよ!
咆えているのにも気づいていないのか未だ神機をどうにかしようとする副隊長。
このままだと本当にやられてしまうと思い咄嗟に銃を向けるが、このタイミングでは間に合わなかった。
マズイ、と思ったその瞬間


「……なーんちゃって」


ニヤリと副隊長が笑うと刺さっている神機の持ち手の部分を思いっきり蹴り上げた後すぐさま右に転がり出しました。
何事かと首を傾げるもすぐに意味が分かりました。


なんと、地面に刺さっていた神機が土を抉りながら回転して副隊長に襲いかかろうとしていたアラガミの頭を切り裂きながら上に飛んで行ってしまったのです。


この時点で色々おかしいのですが副隊長はさらに、近くにいたアラガミを踏み台にすると跳びあがり、自分で蹴り上げた神機を空中でつかみました。そしてそのまま捕食形態に移行し踏み台にしたアラガミを丸呑みにしてしまったのでです。


「よし。これで粗方片付いたかな……ジュリウス隊長の方はー……攻めあぐねている感じかね。俺も加勢するか」


肩に担いだ神機を再び構え、そう呟いた副隊長はイェン・ツィーに突っ込み、すれ違いざまにイェン・ツィーの足を部位破壊していきました。


……やはり、副隊長はどこかおかしいですよ。
伝説の極東人なんじゃないんですかね?


ハァと溜息一つついた後私もイェン・ツィーに向けて銃を放つのでした。

































モテモテ状態(アラガミ限定)が解除される頃にはイェン・ツィーはすでに虫の息だった。
隊長が羽を丁寧にそぎ落とすからなんかもう見るも無残な姿になってしまっている。
さすが、あらゆる手段を使って完膚なきまでに叩き潰せと言ったお方は違うでぇ(震え声)


その後も頑張って生き残ろうとあがくイェン・ツィーだったが無駄無駄、ジュリウス隊長が居る時点でもう死ぬしかない。
が、止めを刺したのは何とナナの渾身のフルスイングである。


それを受けて力尽きたイェン・ツィーはボールに用に地面を数回バウンドする羽目になった。ナナ強ぇ。


何にせよ、感応種であるイェン・ツィーを討伐したことに雰囲気が緩和した時、俺たちに向けて話しかける声があった。


「あのー……貴方達は?」


その人は正気かと思えるくらいの意味不明な服を着た綺麗な女の人だった。
また痴女かよ。それはナナでやったよ。もうおなかいっぱいだよ。
俺はげんなりしてその女の人から視線を外した。これ以上疲れたくないしな。


「失礼。フェンリル極致化技術開発局所属、ブラッド隊隊長ジュリウス・ヴィスコンティです。オープンチャンネルに救援要請が入ったため、こちらに参りました」


「フェンリル極東支部、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。救援要請へのご対応ありがとうございます」


「いえ」


そこで隊長とイリーニチナさん?アミエーラさんか。アミエーラさんとの会話が途切れる。


「おーわったー」


「あー……疲れた」


「お疲れ様です、副隊長。後、ちょっと話があります」


「ファ!?な、何をそんなに怒っていらっしゃるんですか、シエルさん」


「貴方の戦い方は無茶苦茶すぎます、見てるこっちの方がドキドキしますよ」


唐突に始まった説教に驚愕を隠しきれないぜ。
ナナはナナでこっち見てケラケラ笑ってやがるし、畜生。
こんな様子だったからか、あちらでジュリウス隊長とアミエーラさんが何を話しているのかは全く聞こえてこなかった。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話

本当にうちの小説は全く進まないな。
皆さんにそろそろ飽きられつつあるのではないかと若干不安に思いつつ、投稿します。




感応種であるイェン・ツィーを討伐した俺たちブラッド。
それで何か変化があったかと言われればぶっちゃけほとんど何も変わってない。
相も変わらず毎日毎日アラガミを殺して喰らって討伐して虐殺して屠る、そんなことばかりしている。
アラガミがこの世に存在する限り、神機使いに休日などないのだ!


……いや、さすがに冗談ですけどね?
けれど、ほぼ連日稼働中と言っても過言ではない。フライアの進路上にはまだまだ多くのアラガミがのさばっているからである。
唯一変わったことは、またシエルさんが隊で浮き始めたことくらいだろうか。


少し前までは完全に染まっていたのにいつの間にか脱色を行っていたらしく、入隊当時の真面目すぎるシエルさんに退化?していた。


何でも彼女、ラケル博士が運営している施設「マグノリア・コンパス」にて高度な軍事訓練を叩き込まれてきたらしく、そのために普通のことをあまり経験せずに育ってきてしまったらしい。
不器用な子だけど友達になってあげてねとはラケル博士の姉、レア博士の言葉である。


しかし、おかげで俺の仕事が増える増える。ジュリウス隊長にチーム内のことシエルのことを丸投げされたせいで、ほかのチームの人との摩擦をできるだけ少なくするようにチーム分けを行ったり、彼女の精密すぎる作戦や訓練方法にテコ入れしたりと割かし多忙である。


信じられるか?俺、一か月と少し前まで普通の学生やってたんだぜ?
それが今では化物を毎日ぶっ殺す社畜モドキになってるんだぜ。本当にどうしてこうなったのやら。


まぁ、シエルさんもシエルさんなりにわからないながらも色々考えてはいるようだったのでもう少ししたら大丈夫だとは思うんだけど……なるべく早くしてほしいかなぁ。


さて、愚痴はここまでにしておこう。
溜まった鬱憤はそこら辺のアラガミをデストロイすることで解消すればいい。幸い、イェン・ツィーと戦った以降の任務は雑魚ばかりだから今回もいい感じでストレスを発散させてくれることだろう。
油断はしないけどね。


<エリック、上だ!


なんてシャレにならんし。
まぁ、上田はすでに実地訓練で乗り越えてるから平気かな。


くだらないことに思考リソースを使っているといつの間にやら目的の場所である。
今回の任務は緊急のものが複数来ていたため少数で、それぞれの任務にあたることとなっていた。ジュリウス隊長とロミオ先輩、ギルさんとナナ、俺とシエルさんと言う組み合わせである。


シエルをよろしくなと言って俺の肩に手を置いたジュリウス隊長の顔がとても憎らしかった。あの人少しは隊員のために働こうよ。


「今回の相手は誰でしたっけ?」


「コンゴウとオウガテイル堕天種ですよ、副隊長。このくらい把握しておいてください」


「すいません」


反射的に謝ってしまった。
しかし、情報の把握は上に立つものとしては当然のことだから怒られても仕方ないね。
例えその暇がなくとも。


「なら、バレットは炎系に統一しておきましょう。オラクルの消費は激しいけど今回は二人だし、その都度カバーしていけば問題ないでしょう」


シエルさんだって銃で撃つだけしかできないわけではない。接近戦でも結構な腕前である。それで敵からオラクルを略奪し、適当に距離を取って弾を撃ち込めばいい。


「それについて異議はありません。しかし、副隊長の戦い方で援護するのは正直かなり厳しいです」


「マジか」


俺の戦い方そこまで変則的だったかなぁ?
ここで少しだけ自分の戦い方を振り返ってみた。


他のアラガミをプレデターフォームで捕まえ、攻撃の盾やそのまま攻撃したりする。
アラガミを踏み台に跳びあがり、そのまま重力に従ってアラガミを切り殺す。
跳びかかってきたアラガミに銃を突きつけ、汚い花火だ。
その他もろもろ。


………俺以外にこんな戦い方してるやつ見たことねぇな。そういえば。
確かに、これは援護しにくいだろう。主に何をしでかすかわからないから。


「了解。なら今回は二人で前衛をしましょう。それで何かあったらお互いにカバーし合うってことで」


「はい、それが良いと思います」


『各種バイタルに異常なし。いつでも始めてください』


通信機からフランさんの声が聞こえてくる。
もうお約束だね。


「じゃあ、始めましょうか。シエルさん」


「はい、これから任務を開始します」


じゃ、お仕事始めましょうか。





















……やはりすさまじい。
副隊長と近くで戦っていて、私が感じた感想はこの一言に尽きました。
目の前のアラガミを相手取りながらも決して周囲にいるアラガミをおろそかにしたりしない。むしろ、四方八方に目が付いているのか?と疑いたくなるくらい正確に周囲のアラガミを倒していきました。
それだけでなく、私のフォローまで完璧にこなしていました。一か月と少し前に神機使いとなったにもかかわらずここまでの実力とは……。
こういってはなんですが、経歴から考えるに化物ですね。


「ん?どうかしました?」


片手間にオウガテイル堕天種を切り裂きながら笑顔を向けてくる副隊長。
それ、やめてください。とっても怖いんですけど……。


「いえ、何でもありません」


思わず、副隊長から目をそらす。
今の副隊長が怖かったという事もあるが、その前に先程考えた思考が少し失礼かと思いどこか後ろめたく感じたのかもしれない。
ダメだ、こんなことを考えていては……チーム、いい連携なんてできるわけが……。


「ま、何もないならいいんですけどね―――――」


ザシュ


私の背後で何かが切れ、液体が飛び散るような音がする。
そちらに目を向けてみると、今私に襲いかかろうとしたオウガテイル堕天種が切り伏せられ、力なく地面に倒れていた。


「―――――――あんま考え事しすぎると、死んじゃいますよ?だから、もう少し頭空っぽにしてみたらどうですか?案外、そっちの方がいいことあるかもしれませんよ」


にっこりと、年相応の笑みを見せて副隊長はそう言った。
またすぐに背後のアラガミに切りかかりに行ってしまったけど。


正直、副隊長の言ったことを今すぐに実行はできないでしょう。
私は長年、こういう風に教育を受け、育ってきたのですから。この理詰めの考え方は早々変わらないと思います。


しかし、今もオウガテイル堕天種を笑顔で屠り続けている副隊長を見ていると、何となく……本当に何となくですがチームとして機能して行くような気がします。


「シエルさんどうかしました?」


「いえ、なんでもありません」


私は副隊長にそう返し、たった今現れた中型アラガミコンゴウに向けて銃を構えました。
























何やらシエルさんの機嫌が滅茶苦茶いい件について。
笑顔で照準を合わせ、ぶっぱしまくる姿は恐怖しか感じさせない。しかも、オラクルを回復させるOアンプルをがぶ飲みするという徹底ぶりである。
思わず俺の表情も引き攣ってしまっても仕方ないと思う。


見ろ、コンゴウが転がろうとして何回も失敗している。
ここまで何もできないと何となく可哀そうに思えてくるから不思議である。
しかしその様を見てもシエルさんの表情は変わらない。むしろ、より一層笑みが深くなっているまである。
怖すぎて思わず、コンゴウに攻撃するのを忘れてしまっている。


けど、このままシエルさんに任せてサボるわけにもいかない。
神機を構え、コンゴウに向けて駈け出そうとしたところで、


「グォオオオオ………」


コンゴウは最後に力なく咆え、その体を地面に沈めた。
が、ハイなテンションのシエルさん。コンゴウが倒れたにも関わらず、いまだに神機から弾を撃ち続けております。


もうやめて、シエル!コンゴウのライフはとっくにゼロよ!


「おや、本当ですね」


「マジで気付いてなかったんか……」


私(わたくし)戦慄せざるを得ませんことよ。


『対象の討伐を確認。素晴らしい戦果です。この調子なら、もうちょっと難しい任務でもこなせるんじゃないですか?』


「そんなことより休日が欲しいです」


『私だって欲しいですよ』


「ですよねー」


ホントフェンリルってばブラック企業ねっ!
思わずフランさんと愚痴り合う。


「副隊長、帰投準備ができました」


「了解です」


フランさんとの通信を切ってシエルさんの言葉に返事をする。


「それと、フライアに戻った後少々時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「別にかまわないけど…」


「ありがとうございます」


そう言い残し、すたすたとシエルさんは帰っていった。
頭に疑問符を浮かべながらも、何時ぞやのようにおいていかれないよう、急いでシエルさんの後を追った。




















と言うわけで、何事もなく帰投を果たした俺はシエルさんに呼び出された庭園に足を運んでいた。
そこにはすでにシエルさんが居り、それはいったいいつの間に…と考える早さである。


「副隊長。お忙しい中、お呼び立てして申し訳ありません。ですが、どうしてもお伝えしたいことがあるんです」


「別に大丈夫だけど……どうしたの?そんな改まって」


「ブラッドは皆、私が考えていた以上の高い汎用性と戦闘能力を、兼ね備えた部隊です」


無視か。
黙って私の話を聞けという事ですね、分かります。


「更に驚いたのは、決して戦術理解度が高いわけでもなく、規律正しい連携をしているわけでもない点です」


皆脳筋だからね、仕方ないね。


「私の理解をはるかに超えて、ブラッドというチームは高度に有機的に機能している、それはおそらく……副隊長、きっと、貴方がみんなを繋いでいるからなんです」


「……へ?」


俺がみんなを繋いでいる……?
HAHAHA!ないわー。


「シエルさん、何かの間違えじゃない?俺がみんなを繋いでいるなんて……」


むしろ、みんなを繋ぐどころか引かれているまである。


「いえ。みんななんだかんだ言っても副隊長のこと好きだと思いますよ。私も嫌いではありませんし」


「お、おう」


真正面からそういわれると照れるな。
思わず、シエルさんの顔を直視することができず視線をそらす。
そんな俺の様子を気にすることなく、シエルさんは話を続けた。貴女も結構ゴーウイングマイウェイだよね……。


「私は戸惑っています……正直、今まで蓄積してきたものをすべて否定されている気分です」


俺は今、貴女のせいで大いに戸惑っていますけどね。
しっかし、すべて否定されてる気持ちか……。
そんなことを思っていたのかと苦い顔をしているのが分かったのかシエルさんは慌てて次の言葉を紡ぐ。


「あ、誤解しないでください!嫌な気持ちではないんです……それどころか……なんというか……」


「ええと、どう説明すればいいのか……ううん……少々お待ちください……」


そういって考え込むシエルさん。
レア博士から言われていた通り、だいぶ不器用なようだ。まぁ、ずっと任務や行動を共にしていればわかるけど。


やがて、言葉が見つかったのかキリッとした表情で俺の顔を正面から射抜く。


「折り入って………お願いがあります………私と、友達になってください!」


綺麗なお辞儀と共に出される手、俺はそれをぽかんと眺めていた。いったいどうしたというのだろうか……。


そうやって考えていると、シエルさんは不安になったのか、不安そうな表情で顔を上げて、


「……あの、どうでしょう?」


「……えーっと」


あまりの急展開に正直ついていけていない。
なので、ついつい反応が適当になってしまった。
その俺の反応をNOと受け取ったのか、シエルさんは残念そうに声のトーンを下げた。


「そうですよね……。すいません、昔から訓練ばかりで…あまりこういうことに慣れてなくて……」


「いやいやいや、大丈夫です!友達になりましょう!」


「ありがとう……ございます……。憧れてたんです……仲間とか、信頼とか……命令じゃない、みんなを思いやる関係を……」


「……そっか」


レア博士から彼女の辿ってきた歩みを聞いているのでその言葉がどれほどの重みを持っているのか、少しでも理解できるため、思わず微笑んでしまう。
成長したんだなぁ。


「それと、もう一つ……不躾なお願いがあるんですけど……」


「なに?」


「貴方を呼ぶとき……『君』って呼んでいいですか?」


「……ん?」


「あ、すいません……いきなり『君』って、呼ぶのは……いくらなんでも早すぎますよね……」


いや、ツッコミたいところはそこじゃないんだけど。
君って……なんか前時代的だなぁ。しかも、親しい間柄で呼ぶような呼び名じゃないし。
誰だ、こんなこと教えたやつ。


「ちなみに、なんで『君』なの?」


「親しい間柄の人は相手のことを『君』と呼ぶと……ラケル先生が……」


ま た あ い つ か!
ホントもうろくなこと教えないなあの人!


「もう、シエルさんがそれでいいならいいよ」


なんかどっと疲れてしまった俺は殆ど投げやりに近い対応をしてしまう。だが、シエルさんは特別気にはしていないようで。


「ありがとう。君が……私にとっての、初めての……友達です……」


胸の前で手を組み、満面の笑みでそういってくれた。
おおぅ、胸に来るな。この笑顔。
シエルさんマジ天使と思わず言ってしまいそうだぜ。


「少しだけ、みんなと仲良くなる自信がついた気がします」


「それはよかったよ」


俺の負担も結果的に軽くなるし、彼女には、ぜひとも友達作りをがんばってもらいたいね。


「あ、何度もすいません。これで最後のお願いなんですけど……聞いてくれます?」


「……いいですよ。ここまで来たら何でも言ってください」


満面の笑みを見せてくれたお礼だ。
出血大サービスで俺にできることなら何でもしてあげよう。


一体どんなのが来るのかと、のほほんと次の言葉を待つ。
すると、彼女はこう言った。


「敬語……なくしてくれませんか?もう、私たち友達なんですから」


「……そうか、ならそうさせてもらうよ。改めてよろしくね。シエル」


「はいっ!」


敬語に関しては完全にブーメランだが、そこはツッコまないでおこう。
とりあえず、彼女が真にブラットのメンバーとなるのも遠くはないだろうと思い俺は気の抜けた笑みを浮かべた。


……これで少しは仕事が減るだろうと考えて。


















ちなみにこの後、シエルちゃんはブラッドメンバーと無茶苦茶おでんパンパーティーした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話

今まで影も形もなかった神機兵がやっと話題に上がったよ。
そんな感じの第十七話。



さて、その後の事を少しだけ語ろう。
俺と友達になったことで色々吹っ切れたのか、ナナ主催の第二回ブラッドメンバーおでんパンパーティーにおいて彼女は今までのキャラを崩壊させるレベルで騒いだ。
決闘者風に言えば、奴ははじけた。


その甲斐あってか、ギルさんとの関係も修復されつつあるしロミオ先輩もシエルの雰囲気が明るくなっていることを喜んでいた。
ナナはもうおでんパンを交わしたので、ソウルメイトみたいに考えているだろうし初めから彼女の事を心配していたジュリウス隊長は今更上げるまでもない。


こんな感じでシエルは真にブラッドの一員となることができたのである。
いやーめでたい。


「これまでご苦労だったな。仁慈。お前のおかげでシエルもようやく真の意味でブラッドになじむことができたようだ」


「別に俺は何もしていません……とは言いませんけど、頑張ったのはシエル自身ですよ」


おでんパンを両手に装備したナナからの質問に右往左往しながらも頑張って答えようとしているシエルを視界の端に納めつつジュリウス隊長の方を向く。


「フッ、正直な奴め」


どこかの誰かが俺に丸投げするせいでそうせざるを得なかったことを少しは自覚してほしいんですけどね。


俺の言った皮肉は生憎とジュリウス隊長には通じなかったらしく、クスリと笑って右手に持っていたおでんパンを齧った。
……ジュリウス隊長がおでんパン齧るのってなんかシュールだな。
なんて、くだらないことを考えつつ俺もおでんパンを齧る。しばらくブラッドの皆の行動をつまみにおでんパンを齧る時間が続くが、となりにいるジュリウス隊長がふと口を開いた。


「そういえば仁慈。俺、一回目のパーティー呼ばれていないんだが」


「ジュリウス隊長が勝手に居なくなったんでしょう」


俺にロミオ先輩とギルさんの問題を押し付けて。
この人戦場でアラガミに対しては無敵なのに、人間関係になるとたんに役立たずになるからなぁ。


「次ある時は必ず呼べよ」


「わかりましたよ。だから、離れてください」


どんだけガチなんだ。この隊長。


「お前には分かるまい。少しの間、仕事でいなかっただけで俺以外の隊員がみんな仲良くしている光景と、それをはたから見る虚しさを」


「なんかすいません」


あまりに空虚な瞳で語るジュリウス隊長に俺は心の底から謝った。




























……図らずともジュリウス隊長が抱える闇の一端を目撃してしまった日から一日たち、休日なき俺達神機使いは今日も今日とてアラガミを狩る作業に入ろうとしていた。
ちなみに、今日の任務のお供である愉快な仲間たちはシエルとロミオ先輩である。


「今回の任務は民間人の避難誘導及びその進路の確保です。民間人の保護にはジュリウス隊長が率いるチームが向かいますので、仁慈さんのチームは進路の確保。すなわち、周囲にいる小型アラガミの掃討をお願いします」


「わかりました」


「注意事項としましては、付近に不確かなアラガミの反応があるとの情報が入っております。このアラガミからの奇襲に警戒しつつ戦ってください」


「まーた、そういう系ですか」


「もう慣れたものでしょう?」


想定外のアラガミの乱入を予感させる前情報に思わずため息を吐く。
それに対しフランさんはからかうように言った。
確かに、慣れ始めてはいますけどあまり体験するような事じゃないと思うんですよね。
想定外のアラガミの乱入は。
だがまぁ、前情報があるだけ今回はましだと思える。いつもは目標を倒した後のほんの少し油断したタイミングで入ってくるからな。
もう完全に殺しに来ているとしか思えん。


「確かに普通ならそうなんですけど……仁慈さんですから……。大丈夫です。このフライアではあなたのことは殺しても死ななさそうな奴として取り上げられていますから」


「それのどこに安心する要素を見出せと……」


何一つとして安心できる要素がないんですけど?
しかも、死ぬところが想像できないから危ない任務を回しても大丈夫ってか?ふざけろ。


「心配いりませんよ。頼りになる仲間もいますし、私も精一杯バックアップさせていただきますので」


「……ホントお願いしますよ」


ビィ!と音が鳴り、任務がしっかり受注されたことを確認した俺は、フランさんとの会話を打ち切り、ターミナルの方へと足を運んだ。



ちなみに余談だが。
結局刀身についてはヴァリアントサイズで固定することに決めた。
別に常に咬刃展開状態にしているわけでもないし、いたずらに刀身を変えるのも良くないという結論に達したからである。
ちなみに、最終的にはシエルと二人でこの結論を出しました。
……最近シエルが俺の後ろをずっとキープしてきて微妙に生活しにくいんだよなぁ。
初めての友達ができて嬉しいのは分かるけどさ、一歩間違えたらストーカーだから気をつけようね、シエル。




















と言うわけで、今回の場所は嘆きの平原です。


「相も変わらずすごい竜巻だこと…」


「これの原因はいまだ不明なんですよね」


「これその内外に出てきたりとかしないよね?」


何時もと変わらず物凄い勢いで渦巻いている竜巻を見て三者三様の反応を見せる。
本当にこれ、なんなんだろうねぇ。


「……さて、今回の任務内容ですが民間人避難の経路を確保するために、周囲の小型アラガミの掃討です」


「うじゃうじゃいるもんな、パッと見でも」


シエルの言った任務の内容にロミオ先輩が反応する。
実際、彼が言った通り俺たちの視界には多くの小型アラガミがその辺をてくてく歩いている。
んー、オウガテイルにドレットパイク、その辺の建物の壁から生えているコクーンメイデンが三体にザイゴートが五匹か……。


「全部合わせて大体三十ってところかな。結構多めだね」


「はい、確かに多めですがブラッドの戦闘力を見れば問題ないでしょう。実際、貫通に弱いドレットパイクとザイゴートはここから仕留めるつもりですし」


まぁ、全員をバカ正直に相手する必要はどこにもないからな。
シエルの言い分に頷いて神機を銃形態へと移行する。


「ロミオ先輩、少しの間暇ですけど我慢してくださいね」


「俺は子どもか。そんなこと言われなくたって飛び出して行ったりなんてしないよ」


「念のためですよ。念のため」


軽口をたたきつつも俺はてくてく一生懸命歩いて進んでいるドレットパイクに照準を合わせる。
そして、そのまま容赦なく引き金を引いた。
俺が放った弾は正確に飛んで行き、見事にドレットパイクの体を貫通、その命を刈り取った。


横をチラリとみてみるとシエルは面倒くさいことで有名なザイゴートを集中して狙っているようだった。
わぉ、効率的。
ザイゴートは任せても平気そうだったので俺はまた、ちまちまとドレットパイクを撃ちぬく作業に戻った。




前回の任務でシエルをバーサーカーソウル状態にしたOアンプルを飲みつつひたすらに弾を撃ちだす作業を繰り返していると、何という事でしょう。三十匹はいた多くのアラガミ達が、たったの半分以下にこれぞ匠の技ですね。


「うわぁ……。俺の仕事が殆どなくなった……」


「どうしたんです?先輩。そこまで働きたいんだったら、残りの奴ら全員殺ってもいいんですよ?」


「……いや、遠慮しとく」


「そうですか。それでは、」


「お仕事を始めましょう」


とっくに始まっているとか言うツッコミはこの際なしね。






















シエルが仕事開始宣言をしてからわずか五分後、俺たちの目の前に広がっているのは先程まで元気にその辺を捕食していたアラガミがドロドロと地面に溶けていく光景だった。


「……やっぱり、こんなの絶対におかしいよ……」


思わずそう呟いてしまった俺をいったい誰が責められるというのか。責められるとか言ったやつは今すぐ俺の前に来るんだ。拳をくれてやる。


通常、いくら小型アラガミとはいえ数十匹もいれば神機使いにも脅威となる。神機使いになって日が浅い人ならなおさらそうだと思う。実際、俺も怖い。
しかも今回は想定外の中型アラガミまで出現したんだ。怖くないわけがない。
しかし、目の前にいる新人二人はどうやら例外のようで、


「あー……暇だったなー、手応えないなー」


入隊してそれほど日も経ってないはずなのに、ブラッドアーツが使えたり、副隊長やっていたり、アラガミ絶対殺すマンだったりする樫原仁慈はそんなことを言って戦場のど真ん中で垂れていた。


一方もう一人の新人であるシエルは、帰投の準備をしたり、通信を聞いてどのタイミングで迎えが到着するかと言ったことを確認していた。


……二人とも色々な意味で新人じゃないだろ。


全体的に黒いが所々にオレンジ色のラインが入っている自分の神機を担ぎながらそう思う。
仁慈は発言や行動がもうキチってるし、最近ずっと一緒にいるためかシエルにまで微妙に伝染している気がする。
今日だって「神機を振ってその慣性を利用し、素早く動くことができるのです」とか若干ドヤ顔で変態軌道を見せられたし。
何かこいつらといると自分の中にある常識がどんどん剥がれ落ちていくんだよなー。


「……どうやら帰投準備が整ったようです。帰りましょう」


「はーい」


「仁慈さん、ちょっとたれすぎやしませんかね」


そんなにあのアラガミのバーゲンセールがお気に召さなかったか。


ガタゴトガタゴトと揺れる帰投用の車の中で仁慈やシエルと特に中身のない会話をして時間を潰す。
……こういう時、しっかりとシエルが返事を返してくれるとこの子は変わったなぁと改めて実感する。
そして、俺の隣で笑っているコイツ(仁慈)が変えたんだと思うと、やはり副隊長にしたジュリウスの判断は間違っていなかったのだと感じる。


……本当にすげぇよな、仁慈。俺より遅くにブラッドに入隊したのにブラッドアーツが使えて、副隊長と言う役職についても頑張って成果を残している。普通、ここまでされると一応先輩の身としては面白くなく感じるし、嫉妬したりするんだろうけど……。


「ねぇ、君。今回の任務はすごかったですね!どうやったらあんな変態的軌道をたどってアラガミを倒せるのか、ぜひ教えてほしいです!」


「それ褒めてるんだよね?まったくそんな気がしないけど褒めてくれているんだよね?」


「もちろんです!あんな動き、君以外はアラガミくらいしかできないでしょう!」


「言外に『お前は人間じゃねぇ!』って言ってるよね。それ」


純粋無垢な笑顔と共に放たれる、無自覚の刃が仁慈の精神を切り裂く。
こうかは ばつぐんだ!


……多分、色々と苦労しているのを知っているからそこまで気にしないでいられるんだろうなぁ。
ジュリウスの訓練とか副隊長の仕事とか少し聞いたことあるけど、俺には絶対無理だと思ったし。
シエルと仁慈のコントじみた会話を聞きながら俺はそう思った。


「やっぱり仁慈は人外。はっきりわかんだね」


「解せぬ」



さて、そんなこんなでフライアに帰ってきた俺達だが、帰ってきた俺たちにかけられたのは労いの言葉ではなく、今すぐ局長室に召集せよという業務連絡だった。


局長室かぁ……。ってことはつまり、グレム局長からの招集だよな。
ユノさんの時の件があるからあんまり会いたくないなぁ……。
何の迷いもなく局長室に向かう仁慈とシエルの後ろで俺はそんなことを考えていた。


「失礼します、ブラッドの隊員三名、到着いたしました」


仁慈が俺たちを代表して、扉に向けて言う。
しばらくすると中にいるのであろうラケル先生から許可が下り、俺たち三人は中に入った。
中に居たのは、ラケル先生にレア博士の姉妹にジュリウス、ナナ、ギル……つまり俺たち以外のすべてのメンバーがそろっていた。
しかし、グレム局長が来ていないからか話は始まらず、手持無沙汰になってしまった。
あまりに暇だったので隣りに立っている仁慈に小声で話しかけた。


「なぁ、仁慈。あの二人、本当に姉妹なのかな。あんま似てないけど………」


「ロミオ先輩。家庭にはそれぞれ事情というものがあります。ラケル博士の格好から見るにあの二人の家は結構なお金持ちと見て間違いないでしょう。そう言った貴族じみた家庭では愛人などを作ることが稀によくあるそうですよ?」


「稀なのか、よくあるのかどっちだよ……。ってまさか…!ラケル先生とレア博士は……腹違いの姉妹……っ!」


まさか、そんな真実が隠されていたなんて……っ!
戦慄する俺をよそに仁慈はクスリと笑って、


「冗談ですよ」


「無駄にリアリティのある嘘やめてもらえませんかねぇ!」


思わず叫んで、みんなの注目を集めてしまったが、そんなこと今は気にしていられなかった。
仁慈のせいでこれからあの姉妹を見かけるたびに今回の話が頭をよぎり、微妙な対応しかできなくなる未来が見えてしまったからである。
俺が仁慈に向かい抗議しようとしたところで、扉の外から聞き覚えのある嫌な声が聞こえてきた。


「一括で請けるからこそ、利ザヤが取れるんだろうが!そんな弱気でどうする、競合なんぞ潰してしまえ!」


そんなことを怒鳴りながら局長室へと入ってきた人物がグレム局長である。























「一括で請けるからこそ、利ザヤが取れるんだろうが!そんな弱気でどうする、競合なんぞ潰してしまえ!」


ロミオ先輩をからかって遊んでいたら高そうな装飾品で小奇麗に着飾った顔面が汚いハンプティ―ダンプティーといかにも研究一筋、三食毎回ウィダで済ませていますっといった今にも死にそうな風貌の研究員……っぽい人が現れた。


その汚い顔面のハンプティ―ダンプティーは部屋の状況を見て研究員っぽい人との会話を打ち切り、手に持った葉巻?を吸った。


「えっほ、えほ……」


煙の近くに居たナナはそれで咳き込んでしまう。
分かるわ。
たばこの煙って吸うと咳がよく出るんだよね。


「ご足労いただき、感謝します。グレム局長」


「お忙しいところ時間を取らせて、申し訳ありません」


クラウディウス姉妹が汚いハンプティ―ダンプティー改めグレム局長にそういう。
あ、ヤバい。葉巻の煙のせいで咳でそう。


「挨拶はいい、とっとと理由をk「ゲッホ、ゲホ!」………」


自分の言葉を遮られたからか、咳き込んだ俺の方を睨みつけるグレム局長。


「失礼しました。ハンプtじゃなかった、グレム局長の持っている葉巻の煙に少々むせてしまいまして……」


「……そうか。では、気を取り直して。何故このフライアを最前線の極t「ゲッッホ、ゲッホ、えほ…」……君ィ、いい加減にしたまえ……」


さすがに二回も会話を遮られて激おこ寸前のグレム局長。
わざとじゃないんですよ。


「一度ならず二度までも申し訳ありません。葉巻が……」


「もう、これでいいだろう!」


グレム局長はその豊満な腹から携帯用灰皿を取り出し、葉巻をぐりぐりと潰した。


「ありがとうございます」


「フン……で、このフライアを最前線の極東地域に向かわせる理由はなんだね?」


ようやっと話が進んだな(他人事)。
……にしても極東に向かう?そんな話聞いたことないんだが。
俺以外の人も初耳だったのかナナやロミオ先輩、ギルさんまでも顔を見合わせて驚いている。
グレム局長に問われた本人であるラケル博士は彼の会話をぶった切り、こちらを向いて口を開いた。こっち見ないでくれませんか?


「こちらは、フェンリル本部特別顧問であり、このフライアを総括する、グレム局長です」


「相変わらず話を聞かない……少しは君のお姉さんを見習いたまえ」


額に手を当ててラケル博士に言うグレム局長。
いっても無駄だと思いますよ?その人、究極のゴーイングマイウェイですから。
ここからの会話は長かったので簡単に纏めよう。


アラガミの動物園とも言われている最前線の極東に行く理由はブラッドと神機兵の運用実績が欲しいのだとラケル博士は言った。
しかし、グレム局長はこれに反対。理由は実績ならその辺のアラガミで十分だろうとのこと。
これに対しラケル博士はさまざまなアラガミのデータがなければ本部も認めてくれないだろうといった。
それでもなお渋るグレム局長にレア博士からの追撃が入った。
何でも、極東には本部に対して強い発言力を持つ葦原ユノと言う人がいるらしい。彼女へ助力すれば見返りも大きいのでは?と進言した。
これが決め手となり、フライアは極東に向かう事となったのである。










「はぁー……極東かぁ……やだなぁ」


「どうしたんですか、ロミオ先輩」


局長室から追い出され、フライアの通路を歩いているとロミオ先輩が腕を組みながら急にそんな事を言い出した。


「だって極東って、同じアラガミでもほかのとこよりはるかに強いし、想定外の大型種の乱入も当たり前なんだぜ?」


「へぇー」


「雑っ!?」


別にそんなこと今考えてたってしょうがないし。
と言うより俺には別に気になることがあるんだよなぁ。


「ねぇ、シエル。神機兵って何?」


「神機兵とはラケル博士やレア博士のお父様であるジェフサ・クラウディウス博士によって考案された人型機動兵器です。そのポテンシャルは大型アラガミにも匹敵するもので、一撃の強さは平均的な神機使いの上を行きます。また、神機を扱う事の出来ない人でもアラガミに対抗できる手段として注目されています。一方で神機兵に搭乗する人の負担が大きいために批判されている部分も多々あります。今は、先程グレム局長と一緒にいらしたクジョウ博士が神機兵の無人化を試みているようです」


「さすがシエル」


「ありがとうございます。画像もありますけど……見ます?」


「うん、見せて」


言うと、シエルは端末を取り出すとパッパッパと端末を操作し、神機兵の画像を見せてきた。
搭乗できるロボットとか胸熱。
きっとガン〇ムみたいなやつだったりするのだろうか?
なんて、期待したのがいけなかったんだろう、俺は視界に入ってきた画像に思いっきり落胆した。


「……なんだこれ」


そこに映っていたのはごつくて丸っこい何かだった。


「神機兵ですよ?」


「……マジかー」


期待した分だけ余計にダメージを喰らったぜ。
けど、なんかこれを見ると嫌な予感がするんだよなぁ。


「どうかしましたか?」


「いや、無人機化した途端にこっちに反逆してきたりするんじゃないかなって考えてた」


「フフ、心配性ですね君は。これを作っているのはラケル博士やレア博士ですよ?そんなこと起きませんよ」


それが一番心配なんだけどね……。
心の中でそう返しつつ、俺は部屋に戻った。



神機兵のデザイン、もう少し何とかならなかったのかなぁ……。




















目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話

シエル覚醒イベントを期待していた方はすいません。
それは次回に持ち越しになりそうです……。









部屋に戻った俺は現在、今日自分が知り得た情報の整理をしていた。


いつの間にかアラガミの動物園と呼ばれている極東地域に向かう事になっていた。
色々あったがとりあえずは、これだろう。
別に極東に向かう事に文句はないけどさ。
俺たちを置いてけぼりにして勝手に決めるのはどうかと思うのです。


もう一つは神機兵の件だ。
シエルから話を聞いた後、自分でも神機兵について調べてみた。自室に備えてあるターミナルを使ってだ。
……最近ターミナルが俺にとってのグーグ〇先生のような感じになってきているような気がする。


まぁ、それはいい。
神機兵を調べた結果、賛否両論だったな。シエルの言ったようなメリットもそうだし赤い雨にさらされても平気だからより安全にアラガミを倒すことができると記載されていた。
シエルの情報にはなかった批判でデザインに対する批判があったのには笑ったな。


「しっかし、赤い雨ってなんだ?」


初めて聞く言葉に思わず首を傾げる。
分からないなら調べる。これ基本。と言うわけで助けてターミナル先生!


カタカタカタとターミナルを操作し、赤い雨についての情報を集める。


赤い雨


2074年から極東地域で観測されるようになった異常気象、およびそれによって降下する赤い色をした水滴のことを指す。
人間はこの雨に触れること高確率で「黒蛛病」を発症する。降下後しばらくすると赤みが抜け、通常の雨と同じ性質になることが確認されている。
現在、その根本的な発生要因は判明していない。


なるほど。
人体にはという事はこの赤い雨の中でもアラガミは問題なく行動できるわけだ。
これは確かに厄介だな。これを防ぎ、アラガミと戦うことが出来るのは大きなメリットかもしれないな。
赤い雨と神機兵に関しての考察をしながら、赤い雨の内容で黒蛛病についても調べる。


黒蛛病


赤い雨に触れると高確率で発症する病気。
相手は死ぬ。


雑っ!?説明雑っ!?
なんだよ、相手は死ぬって。相手って誰だよ。説明がエターナルなブリザードじゃねえか。
ツッコミどころは多大にあったが、とりあえず情報として頭の中に入れておく。


「こうして考えると今俺が何言ったところで全く意味をなさないよな」


あの話の後、既にフライアは極東に向けて進路を変更しているし、神機兵についてはすでに開発が終わって世に出回っている。
つまり、俺にできることは今まで通りにアラガミを片っ端からぶっ殺すことなのだが…


どうにも嫌な予感がする。
シエルの言葉に不安を感じた時と同じような感覚を覚える。
ラケル博士も手を加えているというのが末恐ろしい。彼女ならチョイチョイっと改造し自分も遠隔操作できるようにしていてもおかしくないように感じる。


「……いや、やっぱ考えても仕方ないな。寝よ寝よ」


再び思考の海に落ちそうになった意識を何とかサルベージし、俺は睡眠によってその意識を落とした。

























フライアが極東地域に向かいだしてから少し経った。
それだけなのに、アラガミが微妙に強くなったり、今までよりも多くのアラガミが現れたりするんだけどどういうことなの……。


ま、まぁ。
任務の成功が多少面倒になったがおおむねいつも通りの生活を俺たちは送っていた。


……ゴメン、嘘ついたわ。
シエルが殆ど俺の任務に付いてきたり、最近構ってなかったのがいけないのかナナも対抗するように任務について来たり、そのことを聞きつけたロミオ先輩が「両手に花じゃん!うらやましいな、このこの!」と言って来たのを作画崩壊パンチ(ただの腹パン)で沈めたりしてました。
してましたというか、しました。
と、いうわけで俺の目の前にはお腹を押さえて地面にうずくまるロミオ先輩がいます。
一体誰がこんなひどいことをッ!


「お前だよ!お前!」


予想以上に復活早かったですね、ロミオ先輩。
もう少し沈めるつもりで放ったんですが。しっかりと腰もいれましたし。


「ガチだなお前。全く、伝言を伝えに来た先輩に対して何て対応なんだ」


「用事があるならはじめっからそういえばいいのに。余計なこと言うからですよ。昔から言うでしょう?口は災いの元って」


「だからって急に腹パンが来るとは思わないだろ……って、そうじゃない。このままだと話が脱線してしまう」


「初めから正しいレールに乗ってませんけどね」


「そういうこと言うなよ……。伝言っていうのはだな、また局長室に集まってほしいんだと」


「またですか……前回話題に上がった神機兵の事ですかね?」


「さぁ?そこまでは聞いてないからわからないけど。グレム局長だからな。いいことではなさそうだぞ」


「何でちょっと他人事なんですか」


「だって今回呼ばれたのはジュリウスにシエル、あと仁慈だけだぞ」


「うわぁい」


メンツ的に見ればブラッドの隊長に副隊長、最近入隊したばかりとはいえ参謀ともいえる位置に属するシエルが呼ばれるのは分かるけど。


「まったく嬉しくねぇ」


あの部屋タバコというか葉巻臭いからあんまり行きたくないんだよな。
今回も吸ってたら絶対に咳き込むわ。


「ま、頑張れ副隊長。応援してるぜ!」


「いい笑顔で送り出してくれますねコンチクショウ」


しかも親指を立てるサービスまで付いてきている有様。
覚えてろよ……。
爽やかな笑顔で送り出すロミオ先輩に恨めしい視線を向けてから、俺は局長室に向かった。


























局長室に向かう途中で同じく呼び出されていたジュリウス隊長とシエルに会った。
目的地が一緒だから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。


「ジュリウス隊長。今回呼び出されたのって前回話題に上がっていた神機兵と関係あったりします?」


「なんだ?ラケル先生から聞いていないのか?今回の任務は無人制御された神機兵の護衛だ」


聞いてないんですけど……。
また俺だけか?それともラケル博士を避けている俺の自業自得か?判断しずらいな。


「へぇー。実戦で実験できるくらいには完成してるんですね」


俺たちが護衛っていうのは自分の心情的にはいまいち納得できないけど。
だが、今後の事を考えれば必要だという事もまた事実。


「そのあたりは微妙なところだと思います。どうやら有人制御の神機兵が非人道的だという方たちが多く、このままでは神機兵生産の目処が立たなくなる可能性が出てきているようです。なので、今回の実験は多少の無理があっても実行しなくてはいけないのです」


俺の言ったことにそうシエルは答えた。
……なるほどねぇ。このまま成果が出なかったら計画自体が凍結もしくは消滅、多少の無理をしてでも有用なデータを取っておきたいわけか。
色々面倒だなぁ、大人の世界は。


こんな感じで三人で話しているとすぐに局長室に到着する。
俺たちの代表としてジュリウス隊長が一言かけてから局長室に入ろうとしたところで、ひとりでに扉が開く。
一体どうしたのかと体をずらし、見てみれば浮かない顔をしたレア博士が局長室から出るところであった。


彼女がこちらにお辞儀をしたので俺達もお辞儀で返す。
しかし、彼女はこちらの反応など確認せずにさっさと立ち去って行った。
……なんぞ?


「ジュリウス・ヴィスコンティ以下2名入ります」


もうすでに入ってますけどね。
レア博士が開けたときにズカズカとね。
声に出したら話が進まないので言いませんけどね。


部屋の中にはエラそうに踏ん反りかえって椅子に座っているグレム局長と相も変わらず死にそうな顔をしているクジョウ博士の二人がいた。
やっぱ、神機兵絡みの話か。


「君たちもラケル博士から聞いていると思うが、今回の任務は無人運用される神機兵の護衛だ。詳しい内容は……あー、クジョウ君」


「はい、無人運用された神機兵が現在の段階でどこまで戦えるのか……これを知りたいのでできれば皆さんには神機兵がアラガミと一対一で戦う状況を作ってほしいのです」


「…………露払いをしろ。という事ですか?」


おや?珍しくジュリウス隊長の声音が低いぞ。
機嫌でも悪いのか?


「そうだ。今回の主役はあくまでも神機兵だ。そのことを肝に銘じておけ」


「………失礼します」


ジュリウス隊長はそのままくるりと後ろを向き、退室しようとする。
俺とシエルはそれに慌ててついて行った。




「珍しいですね。ジュリウス隊長があんな対応をするなんて」


局長室を退室した後、多少の距離を取ったところで先程気になっていたことを本人に向けて話してみる。
すると、彼は何時もの真顔のままこう言った。


「いくら有用だからと言って、我々が機械のお膳立てをするのが少々納得できないだけだ。俺達神機使いを含めたすべての人が安全を確保できるように作られた機械を俺たちが危険を冒して守るっということがな」


「へぇー。本音は?」


「あんなのより俺の方がよっぽど強い」


だから納得いかないんですねわかります。


「……さすがに冗談だぞ?」


「分かってますよ」


貴方はなんだかんだいってしっかり隊長してますものね。
なんか大変な状況に陥っているときと、戦闘中に限りますけど。
さて、こんな経緯で入ってきた今回の任務だが絶対順調に進まない気がするんだよなー。
ソースは俺。


何となく、嫌な予感を感じつつも俺はジュリウス隊長やシエルと一緒にロビーへと向かった。









目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話

初の一万文字越えだー。
それはともかく今回は色々と突っ込みどころがあると思いますができるだけスルーでお願いします。
どうしても見逃せないのがあればお知らせください。



ロビーに着いた俺たちはフランさんから今回の任務の詳細を聞いていた。


「今回の任務は仁慈さんたちはすでに聞いていると思いますが、無人運用される神機兵三体の護衛となっています。神機兵αの護衛をジュリウス隊長、βをシエルさんγをほかのブラッドメンバーで護衛することとなります」


「ちょっと待ってください」


フランさんが言った内容に驚愕せざるを得ない。
なんだその人数配分、おかしいだろ。明らかに。
ジュリウス隊長が一人なのはよくわかる。あの人の強さは本当に人間か疑うレベルだからな。
しかし、シエルが一人とはいったいどういう事なのか?


「それについては仁慈さんたちの実験位置に多くの中型種を含めた多くのアラガミの反応が確認されたため、神機兵の護衛が一番困難だと判断し人数を固めたようです。シエルさんが一人で護衛を行う件についてはグレム局長からの指示なのです。正直、私の権限でどうこうできるものではありません」


少々苦しそうな表情で答えるフランさん。
……グレム局長の指示か。
古来から安全地帯でふんぞり返っているお偉いさんの指示は基本的に失敗もしくは死亡フラグなんだが……それを今言ったところで無駄だよなぁ。
なんならいつ言っても無駄ということもある。


「私なら問題ありませんよ。見たところ私が護衛をする場所は神機兵の相手である中型アラガミと少しの小型アラガミだけですから」


「……まぁ、本人がそういうなら」


ここ最近の戦い方を見るに確かにこの程度なら問題ないだろう。
いまだ言いようのない不安感があるものの、本人が心配ないと言って、実績も伴っているなら無理に任務内容を変更させることはできない。
しょうがないので俺は渋々引き下がった。


「仁慈。俺が一人のことについては何も言わなくていいのか?」


「アンタは一人で十分でしょうよ」


むしろ過剰戦力と言えるまである。
俺の即答にジュリウス隊長以外のメンバーも勢いよく頷く。
しかし、当の本人は納得いかなかったようで「解せぬ」と呟いていた。


「ジュリウス隊長。もう少し自分の実力を正確に把握しましょうね」


『お前が言うな』


解せぬ。
あまりに早いツッコミに思わずジュリウス隊長と同じ言葉を呟いた。


























ジュリウス隊長と同じ言葉を呟いてから一時間後、俺たちブラッドは任務の場所になっている蒼氷の峡谷という壊れかけのダムのような場所に来ていた。
何とここ、年がら年中雪やら氷やらがある摩訶不思議な場所である。


今回の目的である神機兵はデータ取りのために中型のアラガミであるコンゴウと一対一で戦うらしく、ほかにうじゃうじゃいる小型アラガミやもう一匹いるコンゴウ、何故かそこらを歩いていたシユウの相手は俺たちがやらなければならないらしい。


「今回は一対一の状況を作るために各アラガミの担当を言いますよー。まず、面倒なコンゴウは俺とギルさんで分断し、ギルさんに一匹の足止めもう一匹は俺が神機兵のところに誘導します。シユウはコンゴウ達とは真逆に居るので今は放置、ロミオ先輩とナナはそこらにうじゃうじゃいる小型アラガミの掃討してください。……なにか質問は?」


「異議なーし」


「俺もなーし」


子どものように語尾をのばしつつ返事をするナナとロミオ先輩。
己ら子どもか。
二人とも俺より年上なはずなのにどうしてこう年下を相手しているような感覚に陥るのか……。


「これ俺いらないだろ」


今まで一言も話さないと思ったら開口一番になんてこというんだギルさん。


「コンゴウくらいお前一人で十分なはずだ」


「確かに普通に戦う分にはそれでいいんですが、今回はコンゴウを分断し尚且つほぼ無傷の状態で神機兵のところにおびき出す必要があるので、どうしてももう一人必要なんですよ」


俺の言い分を聞くとそういえばそうだったなという表情を浮かべるギルさん。
……この人やっぱり神機兵のこと忘れてたな。
ギルさんは神機兵の話を聞いた時から好意的な態度ではなかった。それはおそらく長年前線で戦ってきたからこその態度なのだろう。
きっと彼は戦っているときに様々な場面でお金が必要な事柄を見てきたのだ。だからこそ大金をつぎ込んでいる神機兵にあまりいい感情が抱けないのだろう。例えこれが最終的に人類のためになったとしても。


「そうか、そうだな。悪かった。俺もお前の案に賛成だ」


「別にいいですよ。ギルさんも何か思うところがあったのでしょう?」


どこか気まずそうに顔をそむけるギルさんにそう言葉を返す。
ぶっちゃけ、神機使いになってそこまで日が経っていない俺が言えることではないのだが今回はこれでいいだろう。


「仁慈ー、その辺からいっぱいアラガミがわいてきたよー」


ギルさんとの話も一区切りついたところでナナの言葉が耳に届く。
彼女が言うように軽く周囲を見渡してみればその辺からコクーンメイデンとナイトホロウがうじゃうじゃ生えて来ていた。


「うわぁ、いっぱいいるよ……」


「ロミオ先輩の武器は相性いいんですからしっかりと頼みますよ」


「わかってるよ。ただ、この光景は少し遠慮したいわ」


言いたいことは分かる。
見渡せばどこもかしこもコクーンメイデンとナイトホロウが視界に入ってくるもんな。
にしても、想像以上に密度が高いな。
これはコンゴウのところに行くとなったら結構大変だ。


「ギルさん。作戦変更します。ここでコンゴウが釣れる様な音を出しつつ、小型アラガミを殲滅します」


「つまり派手にやっていいんだよねー?」


ギルさんに話しかけたのになぜかナナが反応しおった……。
しかも、返事をしようとしたときにはすでに一番近い位置に居たコクーンメイデンに攻撃を仕掛けようとしている。
話聞けよ。


「やっはー!!」


珍妙な掛け声とともに彼女がとったのは、ゴルフをするかのような姿勢でブーストハンマーを構えることだった。そして、そのまま振り切る。
ナナが全力で振り切ったブーストハンマーは加速し、その威力を確実に大きくしながらコクーンメイデンに接触する。
かつてイェン・ツィーを吹き飛ばしたこともあるナナの攻撃に耐えられるはずもなく、コクーンメイデンは生えていた地面ごと吹き飛び、一番アラガミが密集しているところに吹き飛ばされた。


さしずめ、ボール(コクーンメイデン)を相手のゴール(アラガミの密集地帯)にシュゥゥゥゥーー!超エキサイティン!ってところか。
ナナが行った行動に驚きを隠せないのだが次の瞬間俺はさらに驚愕した。なんとナナのシュゥゥゥゥーー!したコクーンメイデンが爆発し、さらに多くのアラガミを巻き添えにしたのだ。
一体どうしたんだと思いつつ周囲を見渡すと、ロミオ先輩が神機を銃形態にしてドヤ顔をかましていた。


「ロミオ先輩……いつの間に爆発系のバレットを……」


「すり替えておいたのさ!」


某クモ男のように胸を張って言うロミオ先輩。衝撃の真実である。
ていうかいつの間にくっ付けたんだ。
「いえーい」と声を上げながらハイタッチするロミオ先輩とナナに思わず溜息を吐く。


「これもお前の影響か?」


「何でもかんでも俺の所為にするのやめませんかね?……っと、今の爆発でコンゴウ達が気付いたようです。ギルさん、作戦通り一匹の注意を引き付けておいてください」


爆発で綺麗になった方角から仲良くこちらに向かってくるコンゴウ。その姿から目を離さずにギルさんに言葉をかける。
彼も「おう」と短く答えて神機を構え、お互いがお互いのコンゴウに向かって一気に肉薄する。
ギルさんのコンゴウは別にぶっ殺しても問題ないため、ギルさんも初めから神機を使っているが俺の場合は違う。
このまま何とかして俺たちの背後にいる神機兵の元に誘導したいのだが……神機で気を引くのはダメージが入るからな……。


神機以外の攻撃は効果がほぼないアラガミだが多少の衝撃くらいは受けてくれるかもしれない。知らないけど。
たまには考えなしに行動するのもいいだろう。うん。
方針が決まったため、俺はギルさんに向かおうとしているもう一匹のコンゴウの注意を引くために渾身の跳び蹴りを放つ。


「イィィヤッホォォォオォォ!!」


なんか奇声を上げてしまったがこれはあれだ。気合入れてるからだ。


「ゴァァアアア!?!?」

そのおかげか「おーっとコンゴウ君吹っ飛ばされたー!」と言えるくらいに見事にコンゴウが吹き飛んで行った。って、えっ?


『えっ?』「ゴァ!?」


時が止まった。
コクーンメイデンを次々シュゥゥゥーー!してたナナもすり替えておいたロミオ先輩もコンゴウを串刺しにしようとしていたギルさんも串刺しにされそうなコンゴウも、皆固まってこちらを見ていた。
かく言う俺も蹴った後の状態で固まってるけど。
唯一動いていたのは都合よくぶっ飛んできたコンゴウに反応して攻撃を仕掛ける神機兵くらいである。


「えっと………ま、まぁ結果的には予定した通りになったな」


咄嗟に言葉をひねり出したものの、今だ俺に向けられる視線は途切れない。
ブラッドの皆はともかくコンゴウまでこっち見てんだけど……こっちみんな。
とりあえず、固まっている連中に攻撃を仕掛けようとしているコクーンメイデンやらナイトホロウを片っ端から潰すことでみんなが復活する時間を稼ごうと考え、近くにいる奴からバラバラに切り刻んでいった。


その後、そこらにコケの如く生えてきたアラガミを排除し、惚けていたコンゴウを四人で滅多打ちにし、遠くを歩いていたシユウを俺とギルさんの銃形態でハメ殺しにした後、俺たちはコンゴウと戦いを繰り広げる神機兵γの応援を行っていた。


「いけー!そこだー!」


「あぁ!攻撃が来るぞ……よっし、避けた!」


主にロミオ先輩とナナだが。
ギルさんは帽子のつばをいじりながら神機兵を睨みつけているといってもいいくらいの鋭い目つきで見ている。俺はそんなギルさんの隣でぼんやりと神機兵の戦いを見学していた。


「一撃が強いって言っても、全然当たりませんね」


「動きも硬いし攻撃が大振りすぎる。何とか敵の攻撃は避けているもののこのままじゃきりがないな」


「確かに………おっ、ようやく当てたか」


神機兵が横一文字に振るった剣がコンゴウに直撃する。その衝撃でコンゴウが少し体制を崩した。
さすがにこのようなわかりやすい隙は逃さないらしく、そこから怒涛の連続攻撃を浴びせコンゴウを撃破した。
ちなみに俺たちが周囲のアラガミをすべて倒し終えてから20分後の事である。
時間かかりすぎィ!


「こちら仁慈、神機兵γの戦闘が終了しました」


『了解しました。神機兵αの護衛をしていたジュリウス隊長もすでにフライアに向かっているので皆さんも帰投準備をお願いします』


フランさんに任務完了の旨を伝え、みんなに帰投準備をするように指示する。
さてと、俺も準備しようかな。


肩を回して解しつつ、帰投準備をしようとした時。
切り忘れていた通信機からジュリウス隊長の切羽詰まった声が聞こえてきた。




















仁慈さんからの報告を受け、後はシエルさんからの連絡を待つのみとなり、ふぅと軽く息を吐く。
このままだと、問題もなく終わりそうですね。
そんなことを思っていたところで、たった今フライアに帰還したジュリウス隊長が珍しく焦った様子で私がいるカウンターへ来た。
一体どうしたのでしょうか?


「ブラッドはまだ現場か!?」


「はい、神機兵γは先程終わったと仁慈さんから報告がありましたが神機兵βがまだ戦闘中です」


ジュリウス隊長に答えながら神機兵βのデータおよびシエルさんの通信機の回線を開く。
それを行ったと同時にシエルさんからの通信が届いた。


『神機兵β!背部に大きな損傷!フライア、判断願います!』


あまり状況はよろしくないようですね……。
とにかくシエルさんの言われた通り指示を出すため、クジョウ博士に視線で判断を仰ぐ。


「背部だと!?回避制御の調整が甘かったか!いや、空間把握処理の問題か?くそぉ!何でだ!?」


知りませんよ。
今聞いてんのはそういう事ではありません。
そんな思いを込めて睨みつける勢いでクジョウ博士を見るも本人は頭を抱えてこちらを見ていません。
判断を仰ぐのは不可能だと即座に考え、シエルさんに指示を伝える。


「神機兵βを停止します。アラガミを撃退し、神機兵を護衛してください」


しかし、私の出した指示にジュリウス隊長が慌てて待ったをかけた。


「待て!帰還の途中で赤い雲を見かけた!あれは、おそらく……」


「まさか……赤乱雲?」


赤乱雲。
高い致死率を誇る黒蛛病を引き起こす、赤い雨を降らす雲のことである。
ジュリウス隊長の言っていることが本当ならば、正直神機兵の護衛なんてしている場合ではない。


『こちらギル……ここからも、赤い雲を確認した』


今まで通信を聞いていたであろうギルバートさんから報告が入る。
これで赤乱雲があることは確定した。つまりは赤い雨が降るのも時間の問題という事になる。


「全員即時撤退だ、一刻を争うぞ」


ジュリウス隊長が慌てて指示を出す。
しかし、その声に反応したシエルさんの言葉は衝撃的なものだった。


「すでに赤い雨が降り始めました。ここからの移動は困難です」


まずい。このままではシエルさんが赤い雨に触れてしまう。


「くっ……フラン、輸送部隊の状況は?」


ジュリウス隊長に尋ねられ私は過去最高と言ってもいいくらいの速さで機械を操作し輸送部隊の状況を確認する。


「周囲にアラガミの反応が多数みられます。輸送部隊単体での救出はできません」


私の報告を聞くとジュリウス隊長は自分の通信機を押さえつけながらすぐに次の指示を出す。こういう時、本人も前線に立っているだけあり的確な指示を素早く行えるのはかなりの強みだと感じた。


「ブラッド各員、防護服を着用、及び携行しシエルの救援に向かえ!戦闘時に防護服が破損する可能性が高い。なるべく交戦を避けるように心がけろ。シエルはその場で雨をしのぎつつ、救援を待て!神機兵なんていくらでも量産がきく鉄屑のことは構うな、自分の安全を最優先にしろ」


「えっ」


ジュリウス隊長、心の声が出てますよ。この状況においてはおおむね同感ですが。
がっくりと手をついて俯いているクジョウ博士をスルーしつつ、何とか輸送部隊がアラガミに接触しないルートがないか調べようとして、野太い声が辺りに響いた。


「待て、勝手な命令を出すな」


「グレム局長……」


思わず声の主の名前が口からこぼれる。
この状況でグレム局長とは……正直歓迎できませんね。
普通の状況でもお断りですが。


「神機兵が最優先だろ。おい、アラガミに傷つけられないように守り続けろ」


グレム局長が言ったあまりにありえない指示にジュリウス隊長もいつもより強い口調で言葉を返す。


「ばかなっ……というかバカか、赤い雨の中では戦いようがない!」


ジュリウス隊長、また本音が出てます。
気持ちはよくわかりますけど。


「さりげなく罵倒された気がするが、俺がここの最高責任者だ。いいから、命令を守れ!神機兵を守れ!」


全く意見を変えないグレム局長にジュリウス隊長もイラついたのかカウンターをドンと叩き、ヒビを入れつつ荒く口を開いた。


「人命軽視も甚だしい!あの雨の恐ろしさは、お前も知っているはずだ!」


頭に血が上っているのか立場が上のグレム局長をお前呼ばわりしているジュリウス隊長。相当来てますね。
まぁ、私だって来てますけど。
……今度、フライア局員にあることないこと言いふらしてやろうかしら。


このままグレム局長とジュリウス隊長の口論が続くかと思われたが、シエルさんが彼らの会話に割って入ってきた。


『隊長……隊長の命令には従えません。救援は不要です。不十分な装備での救援は高確率で赤い雨の二次被害を招きます。よって、上官であるグレム局長の命令を優先し、各部隊その場で待機するべきだと考えます。……更新された任務を遂行します』


それだけ言うとシエルさんの声が聞こえなくなる。
ジュリウス隊長が必死に呼びかけるものの応答が全くなく、私が通信機の状況をすぐさま調べ上げる。


「電源から切られています。これでは繋がりようがありません」


「くそっ!」


私とジュリウス隊長が俯く中、グレム局長はフンと鼻で笑ってから口を開く。


「なかなか良く躾けてあるじゃないか。結構、結構」


殴りたい。
あの汚い顔面をさらに凹凸の大きい顔面に整形してやりたい。


『あのー、隊長……』


「どうした、ナナ!」


『仁慈がねー……神機兵に乗って行っちゃった……』


「なに?」


「な、何だと……!?」


汚らしい顔面をさらに歪に歪めて笑っていたグレム局長が一転して驚愕の表情を浮かべる。ナナさんが言う事が本当なのか神機兵の現在位置を確認する。


「神機兵γ、神機兵βに向かって接近中!」


ナナさんが言う事はどうやら本当だったらしく仁慈さんたちが担当していた神機兵γがシエルさんが担当している神機兵βに向けて急速接近していることが画面に映し出されていた。


「クジョウ君!神機兵γに通信を繋げ、今すぐだ!」


「は、はい!」


何時の間にか後悔の海から復活していたクジョウ博士にグレム局長が言う。それに戸惑いつつもクジョウ博士はすぐに神機兵γの通信回線を開いた。


「貴様どういうつもりだ!神機兵に何かあったらどうする!」


『おや、ハンプtじゃなかった、グレム局長じゃあないですか。ご機嫌麗しゅう』


「言っている場合か!今すぐ引き返せ!お前が今乗っている神機兵にどれだけの金がかかっていると思う!?」


グレム局長の言い分に眉間にしわが寄っていることを自覚する。
この状況において人命よりお金優先ですか……。
そろそろ本気で呆れてきましたよ。私も我慢の限界が近くいい加減文句の一つでも行ってやろうかと口を開きかけたところで、普段の仁慈さんからは想像できないくらいに低い声が通信越しに聞こえてきた。


『黙っていろゴミ屑。俺の行いが理解できない無能はその場でおとなしくしておけ』

一瞬、誰が話しているのかわからなくなるくらい、普段の彼からはかけ離れた言葉と声音に皆が皆、言葉を失う。
しかし、グレム局長は仁慈さんのただならぬ雰囲気に押されながらも何とか言葉を返した。


「な、何だと!?貴様上官に向かって……!この後どうなるのかわかっているんだろうなぁ!」


『ギャンギャン咆えるな、うっとおしい。いいか、よく聞け?脳内まで無駄な脂肪で埋め尽くされたゴミみたいな脳みそを持つお前にもわかりやすく説明してやる』


『いいか?今無人制御の神機兵というコンゴウ一匹に一時間近く時間をかける鉄屑を護衛しているのは、ブラッドの隊員であるシエル・アランソンだ。彼女の事を良く考えてみろ。彼女はこの鉄屑とは違いきわめて優秀な人材だ。状況把握能力はブラッドの中でも高いし、本人の戦闘能力も同じだ』


『そして何より、俺たちブラッドしか適合できない特別な偏食因子を持っているという事になる。これにより俺達だけが唯一感応種と戦うことができる。その戦力の一人であるシエルをここで使い潰すのはこの後感応種の討伐で入るであろう多額の金をどぶにし捨てることと同義だぞ?』


仁慈さんが言った言葉にグレム局長が考え出す。
本気でこの人を嫌いになりそうだ。


「貴様の態度は気にくわんが、確かにそうだ。しかし、ここで実績を上げなければ神機兵は……」


『貴重な神機使いを犠牲にしなければいけない兵器なんてどっちにしろ認められるわけないだろが。もう少し考えたらどうだ?それに、データだけならα、γのを使い、本部に出せばいい。今回スクラップになりかけたβは回収だけして後で調べて次に生かせばいい。フライアには神機兵のエキスパートたちがいるんだ、そのくらい余裕だろ』


「…………」


『ついでに言えば金はかかるが量産が可能な鉄屑と特別な何かを持った代えのきかない人間どちらを取るかなんて考えるまでもないだろう』



「……………」


『話が終わったなら通信、切っていいか?これ以上お前と話すのは俺のストレスがマッハなんだが』


「仁慈、シエル用の防護服は?」


『持ってる』


「なら、そのまま行け。ほかの隊員には退避するように言っておく」


『お願いします』


ブツンと切れる通信。
最後の方で聞いた声は私たちの知る何時もの仁慈さんだった。
そのことにホッとしつつ、先程までぼろくそに言われていたグレム局長の方を見る。
放心状態のようでずっと同じ態勢で立っていた。



「フフッ……シエルと仁慈以外のブラッド各員に告ぐ、今すぐ退避しろ。あの二人はどうせすぐに戻るだろうからな」


放心状態のグレム局長を一目見て笑ってからブラッドの隊員に通信を入れるジュリウス隊長。なかなかイイ性格してますね。
そう思いつつ、私は自分の仕事に戻った。

























……どうやら通信の内容はシエルをどうやって助けるかという事らしい。ジュリウス隊長の指示で自分の分の防護服とシエルの分の防護服を持って準備万端の状態とする。
何時でも助けに行けるぜ!と意気込んでいると、ジュリウス隊長の指示にケチをつける奴が現れた。
汚いハンプティーダンプティーことグレム局長である。
金の事しか頭にない彼はシエルの身よりも神機兵を優先するらしい。彼の言い分に俺を含めたブラッドメンバーの怒りは有頂天である。


結果、シエル自身が救援を拒否するというまさかの事態に陥ってしまった。グレム局長はその結果に満足そうな声音で結構、結構と言っていた。
それを聞いたとき、ギルさんは急に神機の様子を確かめ始め、ロミオ先輩はオラクルリザーブをしまくり、ナナはフルスイングで素振りをし出した。
やだ……物騒……。


なんて言っている場合ではない。
早くしないとマジで手遅れになる。
なんかないかなんかないかと某猫型ロボットのように呟きながら辺りを見回せばそこには先程残念な戦闘を見せてくれた神機兵が視界に入った。


「………!」


その時俺に電流が走る。
これを使えば赤い雨が降っても大丈夫だったはずだ。確かターミナル先生にそんなようなことが記載されていた気がする。
そうと決まれば早速乗り込もう。


あらかじめ用意しておいた防護服を片手に神機兵へと走る。
何処からかはいるのかいまいちよくわからなかったので、適当に胸をぶっ叩いたらプシューと煙を出しながら胸部が開く。
中に乗り込んでみると、胸部が閉まり一瞬だけ暗くなる。しかし次の瞬間には中の機械が作動し、周囲が見えるようになった。
これはいったいどうやって操作すればいいんだろうか……。
今更ながら操作方法がわからず、もうだめだ、おしまいだぁ状態になっていると目の前にある大きな画面にメッセージが表示された。


『イメージするのは常に最強の自分だ』


なんのこっちゃ。
操作の説明かと思って期待させよって。
とりあえず俺は動けーと念じながらその辺の機械をポチポチいじる。すると、何という事でしょう。うんともすんとも言わなかった神機兵が急に動き出したのだ。


……なるほど、イメージか。
イメージで動くんか、これ。わかりづらいな。若干説明について愚痴りながらも操作方法が分かればこっちのものだ、と俺は頭の中で走るイメージを思い浮かべる。
その直後神機兵は結構なスピードで走りだした。点々と光るマーカーの位置に向けて。


走り始めてからすぐに目の前の画面に通信が来ていますというメッセージが現れた。
やってることがやってることだしいい内容じゃないよなーと考えていると強制的に通信を繋げられたようで、グレム局長のうるさい声が響いた。


……正直、俺はシエルの件でグレム局長には激オコなので今はしっかりと話せる自信がなかったりする。
頑張って言葉を返すと、出てきた言葉は案外普通の内容であった。よかったぜ。
しかし、一言交し合っただけで会話が終わるわけもなく再びグレム局長が怒鳴り散らす。
ま、まぁ俺はもう16歳ですしぃ、自分の感情を抑えることなんて余裕だから先程と同様に俺は冷静に言葉を返した。


「黙っていろゴミ屑。俺の行いが理解できない無能はその場でおとなしくしておけ」


あ、だめだこれ。
俺は自分で思っている以上に大人ではなかったらしく、グレム局長への暴言がとどまるところを知らなかった。
何とか止めようと頑張ってみるが、怒りが有頂天で暴言が止められない!止めにくい!状態だったので結局最後まで言い切ってしまった。


帰ったら俺首になるんじゃないかな?
と不安になりつつも通信が切れたので神機兵の操作に専念する。
点滅しているマーカーまで後少しと言う距離に来たところで、ビー、ビーと何やら危険を知らせるような音が鳴る。


『神機兵βの周辺にアラガミの反応があります』


どうやらアラガミがいるという警告だったらしい。
意外と便利でびっくりである。
だが、驚いてばかりもいられない。先程の警告が本当ならばシエルが絶賛大ピンチという事になる。
俺は今までよりさらに加速するイメージを思い浮かべ、全力で神機兵βの元へと向かう。
よっし、見えたぁ!


神機兵の画面が映し出す光景には膝を付いて座り込む神機兵を屋根としているシエルの姿と今まさに襲いかかろうとするシユウの姿があった。


「チェストー!」


神機兵にジャンプしてからそのまま剣を振り下ろすイメージを送る。
そうすると神機兵は俺の想像通りの軌道を描き剣を振り下ろした。憐れシユウは神機兵のマシンパワーの前に爆発四散した。
当たれば強いな。


シユウの始末を終えた俺はシエルの方に近づき、シエルが屋根にしている神機兵に覆いかぶさる様な体制を取った。そして、胸部を開いて持ってきた防護服をシエルに投げつける。


「念のため着てな。それの方がこれより安心でしょう?」


覆い被さる状態で固定している神機兵を指さしながら笑いかけるとシエルは泣きそうで笑いそうで嬉しそうで悲しそうな、そんな複雑な表情を浮かべていた。


しばらくすれば、赤い雨を降らす赤乱雲もどこかに行き俺たちは無事に帰投を果たすことができた。
ちなみに帰ってきたシエルを迎えたのはフランさんやブラッドメンバーで俺を迎え入れたのは屈強なフライア職員と懲罰房であった。
なんでも今回の命令違反とグレム局長に対する暴言で1週間懲罰房で謹慎が罰なんだと。
まぁ、1週間の休みが取れたと考えれば悪くないかな。
それに首にならなかっただけましだろう。
そう考えて、自分の部屋よりはるかに硬いベットにもぐった。






















あの後、二人で帰投した後、私を助けてくれた君に待っていたのは1週間の懲罰房行と言う罰でした。
……私を助けようとしたばっかりにと落ち込んでいると、それを察してくれたフランさんがそれはあまり関係ないと言ってくださいました。
ですが、それでは何故懲罰房に入ることになってしまったのかと言うと、私を助けに向かっている時通信してきたグレム局長に多くの暴言を吐いたらしいです。
なんでも私の事を全く考えていなかったグレム局長に怒りが湧いてついつい口から出てしまったと本人が言っていたと聞かされました。


不謹慎ですが少し、あの場に残ってよかったと思ってしまいました。私のために怒ってくれて、私のために危険を冒してまで助けに来てくれたことが嬉しいんだと思います。
その話を聞いて私は余計に君にお礼をしたくなりました。
なのでさっそく向かう事にしました。




私が懲罰房に行くと君はベットに座ってぼーっとしていました。その様子がとてもおかしくてついつい笑ってしまいました。
その笑い声で私に気が付いたのか君は少し恥ずかしげにしながら扉の近くに寄ってきました。


「もしかして、見てた?」


「ぬぼーっとしてましたね」


「oh……」


からかう様に答えると副隊長は手を額に当てて天を仰ぎました。
私が悪いのですが、このままだと話が先に進まないので少々強引に話題を切り替えます。


「そういえば、君はこうなることが分かっていて、あんな無茶をしたんですか?」


「いや、論破してなんとかやり込めようと思ったんだけど、自分の暴言のせいでこうなった。ぶっちゃけ自業自得」


「フフ……でもそれは私の為に怒ってくれていたんですよね?」


「……し、知りませんな」


「声が裏返ってますよ」


「オウフ」


胸を押さえてよろめく姿を見て再び笑ってしまう。
ほんと、君といると楽しいです。


「別に俺だけじゃないよ。ギルさんは神機構えてたし、ナナは全力で素振りしてたし、ロミオ先輩はオラクルリザーブを狂ったようにしてたからね。あのままシエルが死んじゃったりしたらグレム局長も死んだんじゃないかな?」

「皆シエルのことが大事だからね。それこそ上官であるグレム局長をぶっ殺しそうな勢いでね」っと付け足す君。
急に飛び出てきた物騒な話題に苦笑しつつ、そんな反応をしてくれたブラッドの皆を思い胸が熱くなる。
それと同時に、あの時どうして自分がジュリウス隊長の命令に従わなかったのか、何となくつかめた気がする。
それはきっとブラッドの皆が私にとって、命令よりも自分よりも大切なものだったのでしょう。


「……私も、見つけたかもしれません。命令よりも自分よりも大切なものを」


「そっか……それはよかったよ」


「君、少しだけ手を出してくれませんか?」


「へ?別にいいけど……」


私の急なお願いに不審に思いつつも君は懲罰房の扉にある隙間に手を近づける。それを私はぎゅっと握った。


「ねぇ、君」


「んー?」


「とっても、温かいですね」


漠然と自分が思ったことだけを口にした。
これだけだったら、多分何のことかわからないでしょう。しかし、不思議と今だけはお互いがお互いの事を分かっている……。
懲罰房の扉の向こうで微笑んでいる君を見て、私はそんなことを思った。








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話

今回の話について
全く話が進んでいないよ!すいません!
そんな感じですが、二十話どうぞ。









あー……一週間の懲罰房行と言う名の休日が終わりを迎えてしまった……。
これから再び毎日アラガミと戦わなければならないと考えるととても憂鬱とした気分になる。
まとまった休日もらったりすると、次仕事や学校行くのがとてつもなく面倒に感じるよね。
屈強な懲罰房の監視担当と思われるフライア職員に何故か敬礼されながら俺は懲罰房を後にした。


懲罰房は色々とやらかした人が入る場所なので普段フライアで使っているロビーなどからは結構離れていたりする。多分人が来にくくするためだろうけど。
で、その関係上今の俺の目的地であるロビーがとても遠い。つまり何が言いたいのかと言うとロビーまで行くのが面倒くさいです。
懲罰房でぬくぬくとしていた所為なのか完全に腑抜け切っているなぁと自分でも思いつつ、ジュリウス隊長に簡単なリハビリを兼ねた訓練でもやってもらおうかと考える。


……やめよう。
あの人がそんなことするわけがない。訓練と言いつつ殺意しか感じないようなメニューを出してくるに違いない。ソースは俺。


ならばどうやって自分の根性や戦いの勘などを取り戻そうかと考えていると、前の方からフライアの職員が歩いてきた。
フライア職員は何故か俺を見ると怯えだすという摩訶不思議な性質を持っている。
そのたびに俺の心にダイレクトアタックするのだがいったい彼らは気づいているのだろうか。
まぁ、むやみに怯えられるのは相手的にも俺のメンタル的な意味でもよろしくないのでなるべくフライア職員と距離を取りすれ違おうとした。しかし、


「やぁ。仁慈君。懲罰房から出てこれたんだね、おめでとう!」


「!?」


誰だこいつ。
こんな爽やかな奴知らないんですけどっ!?
最近フライアに勤め始めた新人さんですかね?
声を掛けられた衝撃が大きすぎて、その後彼が何を言っていたのかは全く分からなかったが、去っていくときも爽やかな笑顔と共に手を振られたことだけは記憶に残った。


……なんかどっと疲れた。
普段慣れないことをすると疲れがたまるのはよくあることであるが、まさか人に普通に話しかけられたことがこれほどの疲労をかんじさせるとは。
っていうか今の理論で行くと俺が人と会話することが慣れていない人という事に……うん、これ以上考えるのはやめよう。なんていうか……よくない。うん。


これ以上考えてもいい結果は出なさそうなので完全に思考を放棄する。
さて、さっきの職員は俺が見た幻という事にしてとっととロビーに向かおう。


「仁慈君!懲罰房からでることができたのかい!?」


またかよ。








正直、超展開すぎて全くついていけていない。
割と真面目に説明が欲しい。
今現在、なんとかしてロビーの前に来ている俺だがここに来るまでに五人のフライア職員に絡まれていた。
このフライアに来たころには考えられない現象である。しかし、彼らに絡まれているうちにだんだんと俺に話しかけてくる原因が分かった。


俺に話しかけてきたフライア職員は総じてグレム局長にいい感情を抱いていたわけではないらしく、シエルに命令を下したとき彼らの怒りも有頂天だったらしい。
そんな時、俺が色々と暴言を交えつつグレム局長を言いくるめたために、俺に話しかけてきたんだと。
どんだけ人望がないんだ、グレム局長。上に立つものとしては致命的だぞ。


で、ついでに話しかけてくれるようになったついでにどうして俺を避けていたのか聞いてみたところ、適合試験での俺の態度がそうさせたらしい。
曰く、適合試験は神機と人間の喰い合いで、結構な痛みを伴うそうだ。
それに対して俺は痛みを感じた風ではなかったため、元から化物やら一瞬で神機を手なずけた化物、実はアラガミと言った風な噂が立ったらしい。


最近、ブラッドメンバーに人外と言われ、一週間前にコンゴウを蹴り飛ばした俺としては何とも否定しづらい噂であった。
っていうか初めの噂も割と自業自得だったでござる。


なんでだ。
俺にたまっている疲労が任務でも感じたことのないくらいに膨れ上がっている。実は精神が貧弱なのかもしれない。
そう、自己分析しつつ俺はロビーに入った―――――――瞬間、結構な速度で飛んできた何かが俺の鳩尾に攻撃を入れてくれやがった。


「おぐっ!?」


当然、意識外から与えられた痛みは通常より大きな痛みとして俺にフィードバックする。何が言いたいかと言うと超痛い。
具体的には家の中でタンスの角に足の小指ぶつけたくらい痛い。思わず涙が出てきちゃうレベル。
一体誰だ、精神的に弱っている俺を肉体的にも殺そうとしてくる奴は……。
未だに鳩尾にぐりぐりと何かを押し付けるような事をしているものの正体を暴こうとそこに視線を向けると、


とても満足そう……と言うか若干トリップしている感じのシエルがぐりぐりと自分の頭を俺の鳩尾にこすり付けていた。
……何故だろう、シエルから犬の耳としっぽが生えているように見える……。
幻術かな?
だがしかし、なんというか女の子特有のいいにおいがするんだよなぁ。


「し、シエルザン!?ナンデトツゲキヂテキタンディスカ!?」


やべぇ、ちょっと動揺して変な言葉が出た。
それにしても……一体この1週間の間にシエルに何があったというのだろうか。
声をかけたにもかかわらず一向に離れる気がないシエルに耐えかねて、ロビーにいるほかのブラッドメンバーに助けを求めてみる。


ジュリウス隊長……じゃれ合っていると判断していい笑顔をこちらに向けている、次。
ナナ……イイ笑顔でこちらを見ている。動く気配ゼロ、次。
ロミオ先輩……ニヤニヤしている。後で腹パンな「なんで!?」……次。
ギルさん……帽子を深くかぶってそっぽを向いた。完全に見捨てたようだ、次。
フランさん……カタカタ機械をいじってこちらに気付いてすらない。
結論、助けはない、現実は非情である。





































その後、俺がぐりぐり地獄?天国?から解放されたのはまさかの1時間後であった。
しかも今はぐりぐりしていないとはいえ、ぴったりと俺の隣についてきている。


「あのー、シエルさん?少々距離が近すぎやしませんこと?」


「そうですか?久しぶりに会ったのですし、このくらい普通でしょう」


「久しぶりって……3日前にも会いに来たでしょ」


「いいえ。73時間45分24秒ぶりです」


「お、おう」


怖い。この子怖いよ。
本当に俺がいなかった1週間で何があったの!?
少なくとも1週間前まではこんな子ではなかったのにっ!いったい誰だ、あんなに純粋だったシエルをこんなにしたのは!
ちょっと病んでるように感じるんですけどぉ!


「どうしてそんな正確に把握しているんだ?」


「仲間のことは随時知っておいた方がいいっとラケル先生が……」


ちっくしょう。
またラケル博士かよ。あの人マジで精神が病んでそうだから、他人をそっちの道に引きずり込むなんてどうってことないように感じる。
もう、何か変なことが起きたら大体ラケル博士の所為なんじゃないかなぁ?


「ハハハ……はぁ……」


乾いた笑いが思わず口からこぼれる。
もう自分の部屋に帰って寝たいよ。
俺は何とかしてシエルに離れてもらい、俺たちの方を見てニヤニヤしていたロミオ先輩に通りすがりに腹パンをかまし、いい笑顔でおでんパンを差し出してきたナナにそれを彼女の口にツッコミ、ギルさんに軽く挨拶をして、俺の心境を全く察してくれなかったジュリウス隊長に話しかける。


「こんにちは、ジュリウス隊長。俺のことで何か言いがかりとかされました?」


「いや、大丈夫だ。どうやらお前の説得……と言うか暴言に近い理論が効いたようでな。あからさまに暴言を吐いたお前にしか処罰を下せなかったらしい」


それを聞いて少し安心。
俺の暴言のせいでジュリウス隊長に責任やら何やらが行ったらさすがに申し訳がないからね。
……そう言えば、処罰で思い出したけど、


「あの……ジュリウス隊長。どうして俺が1週間の懲罰房行で済んだかわかりますか?」


よくよく考えてみれば、俺は命令違反だの暴言だの結構なことをやらかしている。いくらある程度理論の通ったことを言ってもあの局長の性格なら何とかして査問会くらいにはかけそうなものだが……。


「あぁ、そのことか。それならフランのおかげだ」


「えっ?フランさんの?」


予想外の名前が出たので少々戸惑う俺。
そんな様子を知ってか知らずか、ジュリウス隊長はそのまま言葉を紡ぐ。


「なんでも、フライア職員にグレム局長の悪い噂(あることないこと色々あるよ)を流し、フライア職員の仁慈に対する悪印象を消しつつ、グレム局長が好き勝手にできないようにしたらしい」


え、えげつねぇ……。
今何気ない普段通りの顔で仕事をこなしているフランさんがそんなことをしたのか……。
しかし、変な噂が流れている(自業自得)ときに恐れないで話しかけてくれたり、今回のように陰ながら助けてくれるなんてフランさんマジ天使。
天使!女神!フラン!


真実を知った俺はとりあえずフランさんを拝むことにした。
その場面を見られたのか、フランさんが何やらおかしな人を見るような冷たい視線を送ってきた。
今日懲罰房を出てからそれが一番ダメージがでかかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話

ジュリウス無双。
何となくそんな感じの二十一話です。





「仁慈さん先程は私を拝んでいたようですが………どうかしたんですか?」


「そのことはできるだけ触れないでください……」


ジュリウス隊長の話を聞いて、お礼を言おうと話しかけた結果がこれである。見事に追い打ちをかけられることとなった。
いや、元々は本人を前に拝むという愚行を犯した俺が悪いんですけどね?


「今回のことで結構……いや、かなりお世話になったのでそのお礼を言いに来たんですよ。ありがとうございます、フランさん」


ゴホンと一度仕切りなおしてからお礼を言う。
それを聞いたフランさんは一瞬だけ目を見開くが、先程までジュリウス隊長と話しているところを見ていたのかすぐに納得したような表情を浮かべ、最後に溜息を吐いた。
なして?


「はぁ……別にお礼を言われるためにやったわけではないのですが………しかし感謝してくれているならそのお礼、受け取らせていただきます。どういたしまして」


そういってにっこりと笑うフランさん。
それに対して少しだけ固まってしまう俺。
……こういう彼女の表情はなかなか見ないので見惚れて固まっていたというのは内緒だ。
なんか気まずくなってきた俺は、無理矢理話題を転換した。


「そ、そういえばフランさん。なんか任務入ってたりしますか?」


「はい。初の大型アラガミ、ヴァジュラの討伐任務がジュリウス隊長、仁慈さん、シエルさんに出ています」


一週間小型アラガミすら狩っていない俺に大型ぶつけるとか俺に死ねと言っているのだろうか?
……でもよくよく思い返してみたら大体の任務がこんな感じだった気もするな。情報にないアラガミがしょっちゅう乱入してくるし。


「このヴァジュラと言うアラガミは、新人の間では鬼門として扱われています。ちなみに普通の支部では必ず四人以上で討伐するヴァジュラですが、私たちが向かう極東ではヴァジュラを一人で倒せて一人前扱いらしいですよ」


頭おかしいんじゃねえの、極東。
思わずそう思った俺をいったい誰が責められようか。


単純に考えて、最低限極東の神機使い一人はほかの神機使いの四人分の戦闘力を保持している。
そして、何故か極東のアラガミはほかの場所に出現するより数段強いアラガミが生まれる。その力はもはや別物と言っても過言ではない。


それを一人で仕留められる極東の神機使いの実力は……もはや言うまでもないだろう。
ロミオ先輩とは別の意味で極東に行きたくなくなってきたぜ。アラガミより神機使いの方が化物じみているってどういうことなの……。


「まぁ、リハビリの相手には少々厄介そうだけどジュリウス隊長が居れば平気かな?」


「おそらくは大丈夫だと思われます。ジュリウス隊長も仁慈さんに負けないくらいにオカシイですから」


「フランさんも俺のことそう思っているんですね……」


最近慣れてもきたし、諦めもついたけどさぁ。
傷つかないわけではないんですよ?


「……もうそれについてツッコムのはやめにします。で、俺はその任務を受注すればいいんですよね」


「はい。しかし、その前にラケル博士からメディカルチェックの結果が出たそうなので研究室の方に来るようにと言われております」


「了解です」


「おや?珍しいですね。仁慈さんはラケル博士を苦手としていて、こういう事は決まって渋るものだと思っていたのですが?」


「今回は素直に行きますよ………シエルのことで言いたいこともあるし」


いい加減、あの純粋な子をあらぬ道に陥れようとする電波博士とも決着をつけなければなるまいよ。シエルの健全な未来と俺の平穏の為にも。
アラガミと戦う時以上に覚悟を決めて、俺はラケル博士の研究室へ向かう。


「ラケル博士!いい加減シエルに変なこと教えるのやめてください!」


「ノックもなしに入ってきた第一声がそれなの?」


気合を入れてラケル博士に文句を言おうとした結果がこれである。
緊張のあまり、ラケル博士に呆れられるという屈辱を体験することとなった。一生の不覚……。


「そこまで思われているとさすがにショックなのだけれど……」


「普段の振る舞いを思い返してから言ってください。そのセリフ」


この前ハンプティ局長に注意されたばかりじゃないですか!俺は懲罰房にぶち込まれたが。
……あれ?普段の振る舞いうんぬんは俺も言われたことあるし……もしかしたら俺とラケル博士って案外似たもの同士……。
いや、考えるのをやめよう。まだ俺には良識が残っている。常識は死にかけてるけど。


「それより、シエルに変なこと教えるにやめてくださいよ!ただでさえ最近前とは別の意味でずれ始めてきたのに」


「それは貴方の所為ではないのですか?……しかし、話は分かりました。私もあの子の親として、しっかりとした知識を教えることを約束しましょう」


「ちゃんとしっかりとした常識を教えて下さいよ。世間一般で広く認知されているものですよ?あなたの中の常識とか教えないでくださいよ?」


「……………」


「何で黙ってんだコラ」


もしかして図星だったか?
そうだとしたら俺は俺のことを全力で褒めてやりたいね。これでスルーしてたら大変なことになっていた。シエルとその周りが特に。


「……今日貴方をここに呼んだのは、聞いているかもしれませんが貴方のメディカルチェックの結果を知らせることです」


ラケル博士が露骨に話題をすり替える。
内心で勝った!俺は自分の恐怖を克服し、見事勝利をもぎ取った!と自分でも後々思い返してみれば頭おかしいんじゃねえのという感想を持つこと間違いないことを考えながらラケル博士の言葉に耳を傾ける。


「メディカルチェックの結果から、神機兵に乗った弊害などは見られませんでした。しかし、もっと別の重要なことが分かりました。貴方の血の力の事です」


「あー……そういえば詳しくは知りませんでしたね。俺の血の力について」


ブラッドアーツの事なら色々試したり、実戦で使ったりしたので割とわかることは多いのだが血の力のことについては何一つとして知らなかった。
つーかぶっちゃけ思いっきり忘れていた。


「貴方の血の力は『喚起』。心を通わせた者の真の力を呼び醒ます……ブラッドの皆の血の力を目覚めさせることのできる能力を持っています。実際、シエルが貴方の様子を見に行ったあと血の力に目覚めました」


「シエルって血の力に目覚めたんだ……」


初耳なんですけど……シエルもあの時言ってくれればよかったのに……。いやまぁ、それはそれとして、いまいちパッとしない能力だな。
ブラッドとしては両手を上げて喜ぶくらいの能力ってのはわかるんだが……俺本人としてはちょっと……。


「今はまだ実感がないのかもしれませんが、この『喚起』の力でみんなの目覚めを助けてあげてくださいね」


「アッハイ」


本心を知られるわけにもいかないのでとりあえず返事を返しておく。そのせいで若干変な感じになったがラケル博士は気づいていないらしい。
ラケル博士が車いすを反転させるのを見て会話が終わったことを悟った俺はいつも通り失礼しましたと言って研究室を後にした。





  ――――――――――――――――――――――





さて、ラケル博士の研究室を後にした俺は再びロビーに戻り、サクサクと任務の受注を済ませた。
現在は輸送班の車の中で、贖罪の街に向かっている最中である。
ここで俺は自分の能力である喚起に何か引っかかりを覚えていた。心を通わせた者の真の力を呼び醒ますらしいが……これは他人だけに作用するのだろうか?


もしもの話、真の力の覚醒がジュリウス隊長の血の力のように偏食因子もしくはオラクル細胞に作用して血の力を発現させると仮定すれば基本的に性能を抑えてある神機の真の力を発揮できたり、ブラッドアーツを新たに発現させたりできるのではないか?


……うーん、今の段階では何とも言えないかなぁ。
この任務が終わったら訓練場にでも行って、色々試して見るかな。


「どうした仁慈、着いたぞ」


「あぁ、はい。すぐに行きます」


どうやら考察している間に贖罪の街についていたらしい。考えるのは後だな。
俺は頭を切り替え、輸送班の車に乗せていた自分の神機を担ぐ。そうして、ジュリウス隊長の方に近づくとシエルがどこか遠くの方を真剣に見ていた。


「ジュリウス隊長。シエルは何をしているんですか?」


「ん?あぁ……シエルは目覚めた血の力である『直覚』で遠くにいるアラガミの位置と状態を確認することができるんだ」


「何それ超便利」


位置も分かって状態もわかるなんて利点しかない。
俺もそういうのが良かったなぁ。


「わかりました。ここから200メートル先にあるビルの穴にいるようです」


すげぇ。本当にわかるんだ……。


「よし、なら今からそこに向かおう」


ジュリウス隊長の言葉に俺とシエルが頷き、行動を開始する。シエルが言った場所に行ってみれば向こうもこちらに気が付いたのかビルの穴から虎(?)のような風貌のアラガミが跳び出して来て咆哮を放つ。


「あれがヴァジュラか……虎?でも鬣っぽいものがるし……ライオンか?」


「そんなことはどうでもいいでしょう。まったく……君は大型アラガミの前だろうと変わりませんね」


「普段通りなのはいいことだ。緊張しすぎては逆に体が固くなってしまうからな。さて、向こうもやる気のようだし、行くぞ!」


「「了解」」


ジュリウス隊長の声と共に俺とシエルはそれぞれの配置に着く。
それじゃ、お仕事始めましょうかね。



       ―――――――――――――――――――――



「チッ、あのエレキボール(仮)地味なホーミング性能がうぜえな……!」


自分を中心にして電撃放つし、ピカチ〇ウかよ。
どうも、格好つけて切りかかってみたはいいものの、刃の通りが悪く尚且つ敵の攻撃が広範囲なため結構苦戦を強いられている俺です。
シエルのスナイパーの方が怯む回数が多くてそっちで攻撃すればよかったと軽く後悔しています。


「ジュリウス隊長。あのエレキボール(仮)どうすればいいですか?」


あまりにうざいので隣りで余裕の表情を浮かべるジュリウス隊長に問い掛ける。


「エレキボール……?あぁ、あの電気の球の事か。アレの対処は簡単だ、切り捨てればいい」


「できるか」


思わず敬語も使わずにそう返した俺をいったい誰が責められようか。
しかし、ジュリウス隊長は首を捻った後、何か納得したようにポンと手を叩く。


「なるほど、やり方がわからないと……」


「違う、そうじゃない」


何をどう解釈すればそうなるんだ……!
俺が頭を抱えていると丁度ヴァジュラがエレキボールモドキを発射した。それを見本を見せるためのいい機会だと考えたのか、ジュリウス隊長がわざわざエレキボール(仮)の射線上に入り、


「せや!」


左下から右上にかけての切り上げで見事にエレキボール(仮)を両断して見せた。


「こうするんだ」


「いや、そういわれても……」


どうもこうもないでしょう。ンなことでできるのはジュリウス隊長くらいですって。
やっぱり、この人が一番化物なんじゃなかろーか。


「グゥアアアアアアアアアアアアア!!」


向こうでヴァジュラが咆える。その咆哮はどこか怒気を含んでいるように感じられた。
多分間違ってない。ヴァジュラもジュリウス隊長の理不尽さに怒ってるいるに違いない。
ヴァジュラは一瞬だけ態勢を低くすると、そのまま突撃しようと地面を蹴りあげる。
しかし、地面を蹴り加速しようとしたところで一発の弾丸が後ろ脚を貫き、
ヴァジュラは態勢を崩した。


「命中確認」


「お見事」


俺たちの背後でスナイパーを構えているシエルに軽い称賛を送り、ジュリウス隊長と共に切りかかる。狙うは刃が比較的に通りやすいしっぽだ。
ジュリウス隊長?あの人なら多少効きづらくても行けるらしく、前足と顔面を目にもとまらぬ速さで切りつけまくっていた。
もうあの人だけでいいんじゃないかな。
あ、コア見っけた。


しっぽを結合崩壊させ、後ろ脚に狙いを変えて切りつけているとアラガミを形作る物であるコアが出てきたので、速攻で捕食する。
すると、伏せたままもがいていたヴァジュラが動きを止めて、その体がグズグズと崩れ始めた。


『目標の討伐を確認しました。早い……全く、サポートのしがいがないですね』


「ジュリウス隊長が居ましたからね」


居なかったらもっと時間がかかっていただろうよ。
やっぱり、最近感応種を倒して調子に乗っていたのかもしれないな。
1週間のブランクがあるとはいえ、話にならん。


「任務完了ですね」


「お疲れ、シエル」


神機を持って近づいてきたシエルにいたわりの言葉をかける。すると、彼女は嬉しそうに微笑みながらお疲れさまと返してくれた。癒される。


「フッ、まるでピクニックだな」


「こんな物騒なピクニックがあってたまるかってんですよ」


パンパンと服の埃を叩きながらそう言うジュリウス隊長にツッコミを入れる。
……さて、任務は完了したしジュリウス隊長のおかげで時間も余った。フライアに帰ったら車の中での考察の件も含めて、訓練場に篭るか。







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話

シエルさんとデート回(任務)です。多分。



大型アラガミであるヴァジュラとの戦いで、自分に足りない物とジュリウス隊長のありえん(笑)強さを自覚した俺は車の中で考えていた通りフライアの訓練場で色々と試しながらダミーアラガミと戦っていた。
設定としては自分のブランクも考慮し、元々フライアの方で考えられていた難易度で訓練を行っている。具体的にはアラガミの出現数は十体で、強度はその辺の個体で最も強いものだ。
ちなみにジュリウス隊長が俺の訓練で使った難易度はあの人が自分用に作ってもらった鬼畜難易度なので普通の人はまず使わない代物である。


やっぱりあの人おかしいと思いつつ正面から来るダミーアラガミを捕食し、振り回して自分を囲っているほかのダミーアラガミを吹き飛ばして分断させると、一番近くにいるダミーアラガミから各個撃破する。
それを繰り返していくと、数分後にはすべてのダミーアラガミが地面に力なく伏せている状態になった。


「……なんか足りないな」


一度神機を訓練場に刺して、両手を組んでそう呟く。
そう感じてしまうのは主に二つの原因がある。一つは今までがジュリウス隊長の鬼畜難易度でやっていたために感じるものであるという事。もう一つは自分が考え付いた神機の解放とブラッドアーツの開拓の兆しが全く見られないからだ。


いや、まだ理論的に正しいと結論が出たわけではないし兆しが見えないことが当たり前なんだが……外れているとは思えないんだよなぁ。
なんでそんなに自信満々なんだと言われても答えようがないけど……なんかこうビビっと来たんだよね。
その時、仁慈に電流走る(CVヤ〇チャ)


確か血の力やブラッドアーツは自分の意志がどうたらこうたらっていつかジュリウス隊長が言っていたような気もする。
意志……意志かぁ……。
うんうんと頭を捻りながらしばらく考え、俺はある結論を出した。


―――――――――ジュリウス隊長考案、鬼畜難易度訓練をすれば生きたいという意思によりブラッドアーツが目覚めるのではないかと。


我ながら頭がおかしい、常識の欠片もない某野菜人の思考に近い結論を出したと思う。
だがしかし、ジュリウス隊長を見てほしい。エレキボール(仮)を気負いもせず切って捨てたあの人に常識なんてあっただろうか?いやない(反語)


つまり、「俺は常識を捨てるぞーーーーッ!」することにより自分の限界を超えることができるのだ。


実際にそれが正しいのかは全く分からないし、むしろ正しくない確率の方がはるかに高いが、手探り状態もいいところな現状ではこれくらいしか打つ手がない。
仮に効果がなかったとしても確実に戦闘時の戦い方や勘は取り戻せるだろうから、少なくともマイナスにはならないだろう。


ピコピコと訓練場の設定を弄繰り回し鬼畜難易度に設定した俺は、地面から一気に飛び出してくる三十体のダミーアラガミと向き合った。


―――――――――――この後無茶苦茶後悔した。







「もう少し……段階を……踏むべき…だった……」


一週間ぶりの自室にあるフカフカベットで絶賛後悔中の俺です。
三十体のダミーアラガミに向き合ったはいいものの、ヴァジュラと戦った後と言う事をすっかり忘れていた俺は物凄い手こずった。ゴメン見栄張ったわ。ぶっちゃけ死にかけた。
一応、その甲斐あってか最後の方のダミーアラガミを相手にするときには一週間前の動きに近いものができるようになってきたが体力的に力尽きているのが現状である。
やっぱり常識は必要だったよ……。


しかし、収穫はあった。
死にかけて必死に生きたいと思ったからか新たなブラッドアーツが使えるようになったし、戦闘技能の方も本来のモノを取り戻した。
これで今日のような無様は早々さらさないであろう。そんな、安堵からか俺はすぐに眠りに落ちた。





    ―――――――――――――――――――






「……痛ぇ」


朝、目覚めて俺が最初に感じたのは痛みだった。しかし、怪我などの痛みではない。これは俺にとって最もなじみ深い痛みだった。
そう、筋肉痛である。


この世界に来る前に散々経験してきたあの痛みだ。偏食因子を投与され、半分が人間でなくなったと言っても過言ではない神機使いの身体も、一週間ぶりの戦闘行為はさすがに堪えたらしい。
特に神機をぶんぶん振り回していた右手が致命的だ。もう腕が上がらないレベル。


ぶっちゃけ、この状態の俺が戦闘で役に立つかと言えば微妙なラインである。微妙なラインではあるが、残念なことに超ブラック企業フェンリルで働く神機使いに休日なんてものはなく今日もお仕事である。


正直本当に命に関わるレベルなら休ませてもらえそうだが、理由が筋肉痛っていうのは俺的にもどうかと思うので布団からズルズル這い出て身支度を済ませ、俺はいつも通りロビーに向かう事にした。


「今日は仁慈さんに任務はありませんよ?」


「えっ」


なにそれこわい。
ま、まままままま待て。れれれ冷静になれ。これは孔明の罠だ。はわわ軍師の所為だ。


「随分動揺してますね……」


「だって神機使いって休日ないでしょう?」


「……確かに、今までの働きからしてそう感じても不思議ではありませんが……一応神機使いにも休日はありますよ?その支部の神機使いの数にもよりますが」


「なん……だと……」


全開に目を見開きふらつきながらも二歩ほど後ずさる。
その反応を見たフランさんが呆れた声で、


「仁慈さんはいったいフェンリルをなんだと思っていたんですか……」


「ブラック企業」


ついでに内部事情もかなり黒そうだよね。この世界で唯一まともに機能しているし。やりたい放題でしょ。


「なら神機使いは?」


「社畜」


即答した俺についにフランさんは頭を抱えた。
だってさ、父さんがよく言ってたんだよ。
「やってもやってもへらないものなーんだ」って。
それで俺が「わかんない」と答えると死んだ表情で「仕事」って言うんだぜ?
幼いながらもいたたまれなくなり、全力で慰めたのはいい思い出である。


企業に勤めていた父さんがそう言ったんだ。企業に勤めていて、一向に減らないアラガミ討伐の仕事を請け負っている神機使いが社畜じゃないわけがない。


「仁慈さんは常人にはたどり着けないような境地に居ますよね」


「それ褒めてないよね」


「褒めてますよ。おんりーわんですよ」


「無表情+棒読みで言われても……」


がっくりと肩を落とす。
何と言うか中途半端に庇われる方が逆にダメージが増す。


まぁ、仕事がないならそれでいい。どちらにせよこの状態じゃ大したことはできないだろうしたまには自室でのんびり「そういえば、先程シエルさんが仁慈さんを探していましたよ」……できなさそうだな。


フランさんにお礼を告げて、くるりと周囲を見渡すとターミナルのある場所にこちらを見ているシエルを発見した。
フランさんと会話中だったから待ってたのかね?
向こうも俺がこっちを見たことで会話が終わったことを悟ったのか、少し嬉しそうな顔でトコトコ近づいてきた。かわいい。


「あの、少しお話があるのですが……」


「いいですとも!」


女の子の頼み(上目使い)を断れるわけがない……!
気が付けば返事をしていたのがその証拠だ。考えるよりも先に口が動いてしまったぜ。
場所を変えてほしいとのことで、庭園にやってきた俺は早速彼女の話を聞いた。


どうやら、シエルはブラッドの皆が銃形態をあまり使用しないことを銃形態時の扱いが苦手だからではないかと考えいるらしい。
確かに間違ってはない。実際ナナがそうだけど、みんながみんな苦手と言うわけではない。俺もそこそこ銃形態は使用するしロミオ先輩はむしろ銃形態を使う方が多い、ジュリウス隊長やギルさんはアサルトで乱射してナンボな武器なため苦手という事もないだろう。
ならどうして使わないのかと言えば……ぶっちゃけ寄って切った方が早いからである。
ヴァジュラのように相手取るアラガミにもよるが、ギルさんは経験豊富でジュリウス隊長は多少の不利くらいはひっくり返すから……ね?


そのことを彼女に伝えるとなるほどと納得した。納得するんだ……。自分で言っといてなんだけど。


「では銃の扱いは私がナナさんに教えるとして……実はもう一つお願いがあるんです」


ナナは犠牲となったのだ……。
そんなくだらないことを考えつつ、シエルに話の続きを促す。


「私が作ったバレッドがどれくらい実用的か実験をするので、それについてきてほしいんです」


「んー?でもそのくらいなら自分でもできるんじゃ?」


「その、ほかの視点から見ることでわかることもあります。挙動や構え、反動の受け流しかたなどを見てほしいのです。ダメ……でしょうか?」


実験なら、そんなたいした奴は討伐しにいかないだろうし。今の状態でも行けるかな。
何より前述した通り、女の子の頼みは断れない。断ったらクラスでつるし上げあられることになるからだ。ソースは俺。
小学校の時掃除当番を変わるように言われ、断ったら向こうが泣きだし何故か俺が怒られて結局掃除を一人でやることとなった。
何なの?男尊女卑とか男女平等とか言ってるけど、あれ嘘なんじゃないの?


おっと話がそれたな。とりあえず俺に断るのコマンドはないので、頷くと嬉しそうにありがとうございますと言ってくれたかわいい。
さっそく行きましょうと、シエルは俺の手を引っ張りロビーにあるカウンターへと向かった。






    ―――――――――――――――――――





「シエル、よく見つけてきたな。こんなミッション」


今回の任務の場所である嘆きの平原で俺は彼女に言う。
なぜこんなことを言ったのかというと、今回のターゲットがドレットパイクとザイゴートと言う見事にスナイパーの貫通が弱点のアラガミだけで構成されていたからだ。
おまけでヤクシャもいるが今回は任務外なので無視しても構わないらしい。


「たまたまですよ」


神機にバレットを入れながら言葉を返してきた。
しかし、


「ヤクシャはどうするよ。絶対こっちに来ると思うけど」


そう、俺たちが無視しても向こうから来られたらどうしようもない。その場合はコロコロ確定なんだが……今は右手が動かしづらいからなぁ。
両手で持つか。そんで右は軽く添える程度でいいだろ。きっと。


「ヤクシャも狙います。今回は実験なので相手が多いに越したことはありません」


バレットの装填が終わったのか銃形態の神機を持って立ち上がる。


「それでは、行きましょう」


シエルの言葉にうなずいて俺たちは高台から跳び下りる。地面に着地した音を感知したのか近くに居たザイゴート三体がこちらにふよふよと向かってくるが、


「フッ!」


パァンという音が三回周囲に響き渡り、こちらに向かってきたザイゴートはすべて地面に墜落していた。
一息で三発全部命中させるとは……さすがシエル。銃形態の扱いなら他の追随を許さないね。
挙動や反動制御もとくに問題点はないし、俺いらなかったんじゃないかな。
相も変わらずてくてくと妙にかわいい足取りでこちらに接近してくるドレットパイクをシエルがぶち抜くのを眺めながらそう考える。
あ、ヤクシャ来た。


「発射」


あ、ヤクシャの顔面にシエルの弾がヒットした。
痛い。ヤクシャはこちらに向かって走ってきていたのでその分の勢いも加算されてなお痛そう。


「よく見えたねシエル。さっきまで真逆向いてなかった?」


「直覚です」


「ホントマジで便利だな……」


この子に死角なんてもうないんじゃないかしら。
何処にでも目があるスナイパーとかマジ震えてきやがった。怖いです。


「……とりあえず今日持ってきた分のバレットはすべて検証しました。後は私たちの丁度反対側にいるドレットパイクを倒せば終わりですが……君も暇だったでしょう、そこのヤクシャ倒してもいいですよ?」


「そう?じゃあ遠慮なく」


一応、このシエルの付き添いでも受注した以上は報酬が出る。このまま何もしないというのもなんか、なんというかうん……悪いよね。
と言うわけで、両手で神機を構え地面を思いっきり蹴って加速する。
ヤクシャは未だに左手でシエルに撃たれた顔面を抑えている状態だ。なんというか某大佐を思い出す。目↑がぁ~目がぁ~↓。


全然復活する兆候が見られないので地面に膝を付けている足を踏み台にして一気に頭の高さまで跳びあがり何時ものように首を刈り取る。
ゴトリと首が地面に落ちると同時にヤクシャの身体も地面に力なく倒れた。
いくらいくつもの細胞が集まってできたアラガミでも、首を落とした場合その動きを一時的に停止させる。その隙にこちらがコアを捕食してしまえばそれで終わりだ。
効率的なんだけど皆はなんか微妙な顔をするんだけどね。この倒し方。


ヤクシャのコアを神機にモグモグ捕食させていると、耳に当てた通信機から任務完了とのフランさんの声が。
どうやらシエル、俺がヤクシャの相手をしているうちに最後のドレットパイクを倒したらしい。
フランさんにシエルの位置を聞いてから通信を切って彼女のもとに向かう。
そこでは神機からバレットを取り出して、首を傾げているシエルの姿があった。
どうした。


「いくつかのバレットが今までとは違う挙動になっているんです。それも、悪くない方向に」


「自分でいじってて忘れたとかは?」


「フフッ、そこまで私は抜けてませんよ?」


「ですよねー。別に悪くない方向に進んでるならいいんじゃない?」


「えぇ、多少反動制御に修正を加えないといけませんが、決して悪いことではありません。ただ……」


「そんなに何か引っかかるなら整備班の人に相談してみたら?」


「……そうですね、そうします。今日はありがとうございました。また、お願いしてもよろしいでしょうか?」


「構わないけど……俺いりましたかねぇ」


よくよく考えたら弱っているヤクシャの首を刈り取ったくらいしかしていない。


「はい。君といると私が楽しいし、嬉しいのです。なのでまたお願いします」


「………」


不意打ちはずるいと思わないかね諸君。
そんなこと言われたら、行かざるを得ないじゃないか。


「わかったよ。また今度ね」


「はい!」


……やっぱり男尊女卑とか男女平等とか嘘でしょ。
目の前で純粋に笑顔を振りまくシエルを見て俺は改めてそう思った。











目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話

今回はアリサさん視点が入っております。そしてお約束のキャラ崩壊注意。
文章の形式を少し変えてみました。何か意見がありましたら活動報告の方に挙げておきますのでそちらに書いてください。
何もなかった場合はこのままでいきます。


  







 「フランさん……!」


 「聞きません」


 「即答!?まだ何も言ってないんですけど……」


 「予想はできます。おそらく私も仁慈さんの立場であったらそうするでしょう。しかし、私に言われても困ります。」


 「分かってますけど……だったら、このやり場のない怒りをどうすればいいんですかね?」


 「グレム局長にでもぶつけてきたらいかがですか?物理で」


 妙に様になっているシャドーパンチを見せながらフランさんが言う。


 「ただの暴力じゃないですかーやだー」


 あんなことがあったとはいえ、さすがにそこまではしないよ。
結局いい案が思いつかず俺はこの怒りを飲み込むことにした。


 さて、なぜ俺が開幕早々にこんなにわめいているかと言うと、それは今日受けた任務に関することである。


 シエルからの頼みを受けてから三日ほどたち、筋肉痛もブランクもすっかりと無くなりバンバン任務を受けていた。
 そして、今日も同じように任務を受けたのだ。
 目標はコンゴウとウコンバサラの計二体の討伐だった。特に苦戦することもないだろうと思って一人でその任務を受けた俺はすぐに現場へと向かい、討伐しようと思ったのだが……。


 現場に向かった俺を待っていたのは何故かヴァジュラであった。思わず「アイエエエ!?ヴァジュラ!?ヴァジュラナンデ!?」と叫んだ俺は悪くない。
 すぐに周囲を見渡し、状況を確認してみると体のいたるところを喰いちぎられたコンゴウとウコンバサラが居た。
 あまりにイレギュラーすぎる事態にすぐさま通信機を使いフランさんに俺の置かれている状況を報告する。彼女もあまりに想定外だったため上に簡単に報告すると、討伐せよとのお達しが来たらしい。
 こうして、俺は大型アラガミヴァジュラとの一対一対決が実現してしまい、今に至る。要するに、俺の時だけ任務内容がひどすぎませんかねという愚痴を聞いてもらおうと話しかけた結果、冒頭の部分につながる。


 「ホント、なんで俺の時ばっかり予定通りにいかないんですかね?」


 「アラガミの生存本能が全力で仲間を呼び寄せているんじゃないですか?」


 「俺は魔王か何かかよ……」


 一応人類のために戦っているんですがね……。
 なに?最終的に俺寝返っちゃうの?世界の半分とか渡しちゃうの?こんな荒廃しきった世界なんて誰も欲しがらねえよ。


 「……もういいや。接触禁止種や感応種が出てこなければ」


 「フラグ乙、です」


 やめようよ。そういうこと言うの。マジで出てきたらどうするのさ。
 横目でフランさんを睨みつつ今現在の時間を確認する。んー、12時かいい時間だな。お腹も減ってきたことだし、食堂にでも行こうか。


 「そういえば、先程極東支部のアリサさんがお見えになっていましたよ。救援要請だそうです」


 「それって今すぐじゃないとだめです?」


 「です」


 ですよねー。アリサさんっていうのはこの前、イェン・ツィーの討伐要請を送ってきた服がありえん人だったな。確か。


 「ハァ、分かりました。アミエーラさんは今どこに?」

 
 「すぐ下で、ジュリウス隊長と軽い打ち合わせをしてますよ」


 「了解です。……さっさと終わらせてご飯にするか」


 救援要請が来るってことは十中八九感応種だろう。おのれ、フランさん。少々違いはあるが、早くもフラグを回収させやがって……!
 そして感応種も俺のお食事タイムを邪魔するとはゆ”る”さ”ん”八つ裂きにしてくれる。

 
 「なんだったら、私が何か作って差し上げましょうか?」


 どうやら最後の呟きが聞こえていたらしく、フランさんが冗談めかして言う。しかし、今の俺は飯に飢えている。彼女の言った言葉に考えて言葉を返すのではなく、反射的に答えてしまった。

 
 「是非お願いします」


 「フフッ、即答ですか。わかりました、用意しておくので早めに帰ってきてくださいね」

 
 そういわれては仕方がない。飯の為にも仕方がない。いままでに解放したブラッドアーツすべてを解禁せざるを得ない。
 フランさんの言葉に強く頷いて階段を下りていく。さっさと話してさくっと倒して早くご飯を食べよう。見慣れた金髪とドン引きの洋服(?)を来た人を見つけて近づきながらそう考えた。


 ちなみに、この時の会話の所為でフランさんと俺が結婚するという意味不明な噂が流れだし、元凶をフランさんと共に折檻したのは完全に余談である。
 というかどうしていきなり結婚なんだ……色々とぶっ飛びすぎだろ……。

 



       ―――――――――――――――――




 「来たか」


 「遅れて申し訳ありませんね」


 「いや、事情は知っている。どうだったヴァジュラは。切れたか?あの電気玉」


 「できるわけないでしょう。回避安定ですよ」


 もしくはその辺を歩いていた小型アラガミ(主にオウガテイル)を盾にしたりしてました。
 
 
 「えっと……」

 
 「あぁ、すいません。こちらで話し込んでしまって。お久しぶり……と言うほどでもありませんがこんにちは、アミエーラさん」


 「あ、はい!こんにちは!」


 ご飯のことがあったにもかかわらずジュリウス隊長と何時ものように会話してしまったため、アミエーラさんが会話に入れずどうしようかと頭を悩ませていたようなのでとりあえず話を振っておく。振っておくとか言っておきながら原因は俺なんだけどね。
 ごめんなさい。アミエーラさん。


 「以前は救援に駆けつけていただき、ありがとうございました」


 「いえいえ、それがブラッドのウリですから」


 「そうだな。感応種と戦わなければブラッドはただ必殺技っぽいのが出せるだけのただの神機使いだ」


 ただの神機使いは必殺技出しませんけどね。


 「じつは、イェン・ツィーを追っているのですが、討伐にはブラッド隊の力が必要と判断し、協力を依頼しに来たんです」


 さすが極東出身。適応能力は高いな。もうジュリウス隊長に対するスルースキルを身に着けている。
 それにしても、またイェン・ツィーかよ。


 「わかりました。相手が感応種とならば協力しないわけにはいきません。我々ブラッドも協力します」


 何の違和感もなく話してるけど、これ本来ならジュリウス隊長が言う事じゃないの? ご飯が遠くなるから今はツッコまないけどさ。


 「ありがとうございます!我々のような一般の神機使いでも、貴方の『喚起』の力の影響下であれば、感応種に対抗できる……とお伺いしました」


 何それ初耳。喚起にはそんな便利な能力があったというのか……。
 ジュリウス隊長に目でこのこと知ってました?と尋ねてみると、コクリと頷いた。
 まぁ、分かってた(諦め)。


 「なので、今回は私も同行します。一緒にイェン・ツィーを倒しましょう!」
   

 「アッハイ」


 こうして、ブラッドが交戦する2体目の感応種もイェン・ツィーとなりました。
 アミエーラさんは俺より神機使い歴も長いし、急に入ってきても大丈夫だろ。




          ―――――――――――――――――――――――





 感応種相手でも神機を動かすことができる部隊ブラッド。その副隊長、樫原仁慈さんが目覚めたというブラッド特有の力である血の力は、私たち一般の神機使いでも感応種と戦うことができるらしい。そこで、今回は私も感応種討伐に組み込んでもらった。

  
 彼のような存在がいるという事は、いつか私たち一般的な神機使いも感応種と戦うことができるようになるかもしれないからである。もしそうなったときのために、実際に自分で経験しておいた方がいい。そう考えたからだ。


 今回、イェン・ツィーの討伐に向かうメンバーは隊長のジュリウスさん。副隊長の仁慈さん、過去イェン・ツィーをボールの如く飛ばしたというナナさんに私という何があっても対応できるような人達がそろっている。一応、私も感応種と戦ったことがあるから足手まといにはならない。神機動いてなかったけど。


 しかし、戦場はなにがあっても不思議ではない。敵の前での慢心や放心は命に関わる。適度な緊張感で挑まなくてはっ!


 「そうやって意気込んでいる時点で適度とは言えないのでは……」


 「ハッ!」


 た、確かに……!これでは逆に意識してしまいさらに緊張してしまう……。
 うぅ…こんな気持ちは久しぶりです……。普通の任務は慣れっこなんですけど。
 
 
 チラリとブラッドの皆さんの方を見てみる。
 まず、ナナさん。ナナさんはパンにおでんを挟んだものを物凄い勢いで食べている。 あれがアラガミが生まれる前に開発されたダイソンなんでしょうか……。
 次にジュリウスさんと仁慈さんは……何やらたくさんのマスが書いてある紙に丸を交互に書いていた。なんでしょう?

 
 「五目並べというゲームです。簡単に言うと縦、横、斜めに自分の丸を五つ先に並べた方が勝ちです。本当は囲碁の道具を使うんですけどね」

 
 へぇ。そんなゲームもあるんですね。
 というか、皆さんリラックスしすぎなんじゃないですかね?ジュリウスさんは分かるんですけど、仁慈さんやナナさんは神機使いになって二か月たっていないと聞いたんですけど……。


 「フッ、どうだ仁慈。あと一つ並べば俺の勝ちだ」


 「そうですか。それは大変です。俺はここに丸を書いて勝ちです」


 「なにっ!?」


 「おでんパンおいしー」


 ……これで本当に大丈夫なのでしょうか。若干不安になってきました。
 

 結局、適度な緊張なんて持てないままに現場に到着。各々が自分の神機を担ぎ、イェン・ツィーがいる鉄塔の森の中を歩いていく。しかし、なかなか見つからない。そんなとき耳にある通信機からフライアのオペレーターであるフランさんの声が聞こえてきた。


 『みなさん、どうやら想定外の中型種がそちらに向かっているそうです』


 「フラン。種類は?」


 『ウコンバサラです』


 ウコンバサラですか……。単体だとそこまで脅威ではないのですが突進に頭上から電撃を落とすなど、意識を割いていないと避けにくい攻撃があるためイェン・ツィーと同時となると少し厳しいでしょうか。イェン・ツィー自体も自分でアラガミを作る能力があるみたいですし。
 

 「……見つけた」


 突然、仁慈さんが聞こえるか聞こえないかギリギリの声量でそう言った。
 彼の目線を追っていくとそこには女性的で鳥のような腕のアラガミが居た。間違いない、イェン・ツィーだ。

 
 「ジュリウス隊長。ここはまたスナイパー撃っときます?多分、偏食場は俺に集中しますし武器のことを考えても俺に集中させた方がいいと思うんですけど」

 
 「そうだな。やれ」


 「了解」


 一度交戦したからか、さっさとやることを決めて銃形態の神機をイェン・ツィーに向ける仁慈さん。

 
 「ステンバーイ……」


 「それはもういいよー」


 「あ、そう?じゃあ、はい」


 何とも気の抜ける声と共に放たれた弾は、声とは裏腹に高速でイェン・ツィーの頭部に命中し、少しだけ結合崩壊を起こす。その衝撃でイェン・ツィーは少しだけよろけるもすぐに立ち直り、こちらを向いた。


それと同時にイェン・ツィーの周囲に色違いのオウガテイルのようなアラガミ、チョウワンが複数体現れた。さらにイェン・ツィーは左の羽を曲げて腰と思わしき部分に当てる。
そしてもう片方の羽で仁慈さんを指した。

 
 「ジュリウス隊長。釣れましたよ」


 「あぁ、そのようだな」


 確かあのイェン・ツィーの行動は偏食場パルスを集中させることにより、アラガミの攻撃をそこへ誘導させるものだと、報告されていた。今の会話から見るに狙ってやっていたようだけど……。何故、経験豊富なジュリウスさんではなく仁慈さんが?


『周囲のオラクル濃度が上昇、アラガミが形成されます。ついでに偏食場パルスが仁慈さんに集中しています』


 「ついでって……」


 『狙ってやったのでしょう?何か文句でも?』


 「ありません」


 しょんぼりする仁慈さん。なんだかタツミさんとヒバリさんのやり取りに微妙に似ている気がする。


 「仁慈。早く行け」


 「分かってますよ」


 言って、態勢を低くし仁慈さんが思いっきり地面を蹴る。すると彼は目にもとまらぬ速さでイェン・ツィーの方へ向かっていった。


 「ジュリウスさん、何故仁慈さんに偏食場を集中させたんですか?」


 「あいつの神機を見ていればわかりますよ」


 ジュリウスさんがそういうので、私は神機を銃形態へと移行させ、イェン・ツィーやチョウワンに向けて弾を放出しながら仁慈さんの様子を見る。彼の振っている神機は先程見たものより大きくなっており、イェン・ツィーが作りだしたチョウワンを纏めて切り捨てていた。
 なるほど、彼の神機は複数の敵を一人で相手取るときにその真価を発揮させるようですね。


 しばらくの間、仁慈さんがチョウワンを蹴散らしながらイェン・ツィーにもダメージを与えるという事をしていたが、ついに乱入してきたアラガミ、ウコンバサラが私たちの前に現れてしまった。それに気づいた私は丁度弾が切れそうだという事もあり、ウコンバサラを倒しに行こうとするがジュリウスさんに止められる。


 「感応種と直接戦う機会は現段階では貴重でしょう。貴女の目的ももともとそれだったはずです。なので、これは私が処理しておきます。貴女にはあそこの二人のフォローをお願いします」


 「……そうですね。そうします」


 私の言葉を聞いてすぐにウコンバサラに接近するジュリウスさん。そして神機を右上に構えて神機の切っ先をウコンバサラに向ける。ジュリウスさんに気付いたウコンバサラが突進を繰り出すと同時にジュリウスさんも地面を蹴り、すれ違いざまに神機を振りぬく。振った回数は一回のはずなのに何発もの斬撃をお見舞いしていた。
 あれが、ブラッドアーツですか。強力ですね。ウコンバサラがもう虫の息です。
 あちらは大丈夫そうなので私はイェン・ツィーの討伐に集中しましょう。


 そうして、ウコンバサラから視線をはずし、イェン・ツィーの方を見てみると、そこには神機の機能を最大限に活用し、高速で動き回るナナさんとほぼ素の身体能力でナナさんよりも早く動いている仁慈さんの姿が。
 一方のイェン・ツィーはどことなく危機迫るような雰囲気を出しながら、狂ったようにチョウワンを生み出し続けていた。その数なんと十三体。しかし、刀身が大きくなった仁慈さんの神機に半数以上が纏めて薙ぎ払われる。
 ……あの理不尽なまでの強さと動きはあの人やリンドウさんに通じるところがありますね。
 そんなことを考えつつ、私も神機を銃形態から元の状態へと戻し、イェン・ツィーに上段から切りかかる。イェン・ツィーは恐怖(?)のあまり仁慈さんしか見えていなかったようであっさりと私の神機はイェン・ツィーの頭を完全に結合崩壊させた。


 さすがにこれはマズイと思ったのかイェン・ツィーは両手の羽をはばたかせ空高く舞い上がった。そして、そのまま背を向けて飛び去ろうとする。
 マズイ、このままでは逃げられてしまう……!
 

 「どこへ行こうというのかね」


 が、仁慈さんが放った弾がイェン・ツィーの両羽を見事に貫き落下する。その落下地点にすぐさま移動した私とナナさんは各々の神機を地面に倒れているイェン・ツィーに勢いよく振り下ろす。すると、イェン・ツィーはビクッと痙攣した後、動かなくなった。

 
 『目標アラガミのオラクル反応消失、討伐を確認しました。相変わらず早いですね』


 確かに早い。持ってきた端末機器をみて時間を確認すると、イェン・ツィーと交戦してからわずか五分しかたっていなかった。前回の戦いでは、少なくとも二十分はかかったと言われていたのに……。一度交戦しただけでここまで時間を短縮するとは……。
 なんというか本物のエリートと言うものを見た気がします。
 私が見てきたエリートって大体が自称だったり、それを自ら誇ったりする人達なんですよね……過去の私も含めて。
 そしてそんな人から戦場で死んでいく、ぶっちゃけエリート(笑)という印象しかなかったのですが……この部隊は本物だ。ジュリウスさんはもちろんのこと、入隊して間もないナナさんや仁慈さんもかなりの実力を誇っている。
 これは私たちもうかうかしてられないな。もっと頑張らなくては……!
 イェン・ツィーのコアを捕食しながら私はそう考えた。






             ――――――――――――――――――――









 結局新しく開放したブラッドアーツは使わなかった件について。ちょっと、残念。
 だが、それも納得できる。ジュリウス隊長と経験豊富で極東支部にいたアミエーラさんが居たんだからそんな新技をお披露目する必要なんて全くなかったわけだ。


 本当に極東の人は化物かね。アミエーラさん。なんか色々考え事していたようだけど体はしっかりと動いていて、何気に俺やナナが背後を取られた時はアサルトでフォローしてくれたし、自分の方に接近していたチョウワンを銃形態でぶん殴って距離を離してから撃って倒すし……マジぱねぇ。銃形態が鈍器になるなんて知らなかったわ。


 任務からフライアへと帰ってきて、アミエーラさんと少し話したが彼女は極東では普通の方らしい。
 ……侮りがたし極東。あんな動きを無意識レベルでできる連中がごろごろいるとはなんという魔境。
 若干、アミエーラさんに恐怖を覚えつつ何とかそれを表に出さないで彼女と別れた俺は現在フランさんの手料理を満喫中である。うまうま。


 「仁慈さんにだけは言われたくないでしょうね。極東の人達も」


 「自然に心を読まないでもらえませんかね」


 「仁慈さんの考えていることなんてすぐにわかりますよ」


 案外顔に出やすいですしねと言葉を続けるフランさん。むむむ、どうやら俺は腹芸には向かないらしい。交渉の場とか絶対出ないようにしよう。多分ないだろうけど。


 「何はともあれ今日はお疲れ様でした。午前にヴァジュラを一人で討伐。午後には感応種との戦となかなかハードな一日でしたね」


 「確かにそうですね。あー、休日が欲しい」


 「この前休んだばかりじゃないですか……贅沢な……」


 「長い休みはダメですね。アレはヒトをダメにします。一日だけ休みが欲しいです」


 「そうですか。今の言葉がかなりムカついたので、今度一日に三つくらい仕事入れておきますね」

 
 「やめてくださいそんなことになったら本当に死んでしまいます」


 「仁慈さんが……死ぬ……?……フッ」


 「オイ、なんで今鼻で笑ったんだ?ん?」


 しばらくそんな感じでくだらない会話をつづけた後、俺は自室に戻って布団の中に潜り込んだ。
 できれば明日は変な任務が来ませんように。


 


 
 

 

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四話

 ようやく極東支部に着きました。まぁ着いただけなんですけどね!そういうわけで今回は少し短いです。
 後、GODEATERを初めにやったときサカキ博士がラスボスだと思ったのは私だけではないはず。




 
 どことなくデジャヴっていた感応種討伐依頼を無事に終わらせた俺たちブラッドは、時々進路上に現れるアラガミを掃除しながら順調に極東へと向かっていた。
 もちろん、今日も今日とてフライアの進路上にたむろっていたアラガミを蹴散らしてきたところだ。相手ヴァジュラだったけど。この世界、一回遭遇したアラガミが出る頻度、おかしくないですかね。明らかに増えてるんですけど……。この世界では仕様なのか。


 現在は赤い雨が降っているので、外に出ることができずブラッドの皆さんフライアのロビーで待機中です。


 「……赤い雨が続くな」


 「極東の範囲に入りましたからね。やがて極東支部に到着するのでは……」


 シエルの言葉から考えると極東は赤い雨が降りやすいのか?だとするならすげぇな極東。神機使いといいアラガミといい赤い雨といい、話題に事欠かなさすぎだろ。
 極東の話題の豊富さに若干戦慄していると、赤い雨というキーワードで何か思い出したのかロミオ先輩が急に口を開く。


 「赤い雨ってあれでしょ?この前の神機兵護衛任務のときに降ったやつ。あの雨に濡れたらマジやばいんだよね?」


 「何だっけ、あれでしょ。コクシャ……コクシェ……」


 「……黒蛛病。赤い雨に触れることにより、高確率で発症する病です。現段階で治療不法は未だ確立されておらず、発症した場合の致死率は100%とされています」

 
 シエルの説明にいつぞやターミナルで調べた内容か思い浮かぶ。


 黒蛛病

 相手は死ぬ


 ……大体あってたよ。あってたけど、なんか釈然としない。


 「ぬ、濡れなきゃ……平気なんだよな」
 
 若干震え声でそういうロミオ先輩。気持ちはよく分かる。致死率100%相手は必ず死ぬ。そんなことを聞いてしまえば怖がるのは生き物として当然である。


 「病気はやだよねー。食欲なくなっちゃう」


 「お前食欲そればっかだな」


 ここまでぶれないと感心するな。一方俺にそう言われたナナは「そんなことないよ!」と俺に反論しつつおでんパンが入っている袋に手をかけていた。お前、それでいいのか……。

 
 『現在フライアは赤い雨を抜け、極東地域を南下中です』


 ナナのあまりに早すぎて手首がぼろぼろになるレベルの手のひら返しに呆れ、ため息を吐いていると、フライアに放送が流れ出した。
 どうやら赤い雨を抜けたらしい。
 俺は組んでいた腕を解いてエレベーターへと向かう。


 「仁慈ーどこ行くのさー」


 「ちょっと外に出てくる」



 ナナの問いに返事を返してからエレベーターに乗り込む。ここフライアには一応、外を見ることができる場所がある。俺が向かっているのはそこだ。理由としてはこれからしばらく滞在するであろう極東支部とその周辺の様子や状況を大まかに知っておきたいというものだ。
 まぁ、極東支部についてからもできなくはないが……暇つぶしもかねてね。


 「これが極東ね」
 

 今、俺の目の前には仮設住宅……いや、それよりも少しお粗末な建物が多く建っている町並みと、それらを囲うように存在している分厚い壁、そしてその一番奥に鎮座する巨大な建物だった。


 贖罪の町や鉄塔の森などの様子から予想はできたが、ずいぶんと荒廃していた。極東は激戦地にして最前線。これでもかなりましなほうなのかもしれないけど。


 「それにしても、」


 俺は改めてグルリとあたりを見渡す。



 「これはあまり歓迎されそうにないなぁ」



 俺たちの乗っているフライアはぶっちゃけかなり大きい。割かし何でもそろっているし、今こうしているように移動することもできる。何がいいたいのかといえば、かなりの金がかかっている。局長があれだしそのことはもはや言うまでもない。
 そんな連中を、このご時勢で歓迎するところなんて早々ない。極東の神機使いたちは戦力として考えて気にしないかもしれないが、周囲の神機使いではない人たちは絶対に気にする。そんなもの作る余裕があったらもっと俺たちに金を回せってな。
 ……考えなければよかった。
 沈んでしまった気持ちを何とか戻しつつ、極東支部に到着したという放送を聴いて俺はフライアの室内に戻り、ジュリウス隊長たちと合流した後、極東支部の中に入っていった。





          ――――――――――――――――――――――――





 極東支部に入ってみたものの、特に絡まれるといったことはなく無事に極東支部の支部長の部屋にたどり着くことができた。散々見られはしたけどね。特に腕輪を。
 どうやらブラッド以外の神機使いは腕輪の色が黒ではなく赤らしい。これは見分けがつきやすいね。ついでに因縁もね!……さすがにマイナス思考が過ぎたな、カットカット。今は極東支部の支部長のことに集中しなくては。
 思考に埋もれかけた意識を何とか引っ張りあげて椅子に座っている極東支部支部長を見る。なんというか……色々と失礼なんだけど……支部長より研究者という第一印象を抱いた。どことなくラケル博士に通ずるものがある。


 「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ以下隊員各位、到着しました」


 「ようこそ極東支部へ!私がここの支部長、ペイラー・サカキだ。エミールがお世話になったそうだね。できれば直接会いたいと思っていたんだ」


 ……そういえばいつの間にかいなくなってたよな、エミールさん。今の今まで完全に忘れていた。あんなにキャラ濃いのに。
 

 「あれでしょ、マルドゥーク!撃退したのこいつですよ、こいつ!」

  
 「ハハハ、こやつめ。……余計なことを抜かすなニット帽……ッ!」


 「辛辣っ!?」


 「なるほど、君が!私からも礼を言うよ」


 ほら見ろ、ニット帽。礼を言うとか言っているがサカキ支部長がきらきらとした目で俺を観察しだしたじゃないか。糸目だから実際はわかんないけど、雰囲気がそんな感じだ。こういうタイプは興味をもたれると面倒なことになる。研究者に向いていると漠然と思ったのはこういう一面があると感じ取ったかもしれない。


 「さて、すぐにでも調s……任務に入ってもらいたいところだけど……まずは改めて極東支部が置かれている状況を説明するよ?」

 
 この人さらっと調査って言いかけたぞ。こっちに視線がきてたけど、一体全体何を調査するつもりだったんですかねぇ……。
  

 「今極東支部は、いくつかの大きな問題に直面している。ひとつは黒蛛病。赤い雨を浴びることによって発症する未知の病だね。そして、もうひとつが……」


 「感応種、ですね」


 「そう、いわゆる接触禁忌種と呼ばれている新種のアラガミだね。……君たちブラッドは交戦経験があるんだよね?」


 「はい、二回ほど」 
 
 
 「なら知っていると思うけど。感応種は『偏食場』、つまり強力な感応波を用いて周囲のアラガミを従わせる、特異な能力を持っている。神機もオラクル細胞の塊、すなわちアラガミの一種だ。普通なら感応種の影響で、機能停止してしまうのだけれど……」


 「俺たちはそれを無視し、感応種と戦うことができる」 


 「その通り!とても心強いよ。特に、樫原仁慈君。君の能力は特にね」


 怖い、怖いよ。何で俺が発言したときだけそんなに食いつくんだよ。表情変わらないし考えていることがまったく分からない……。


 「話を戻そうか。……『赤い雨』と『感応種』この二つの問題の解決を君たちにも協力してほしい、というわけさ。どうだろう?」


 「承りました。最善を尽くしましょう」


 「ありがとう、こちらも惜しみないサポートをしよう。ここを自分の家だと思って、くつろいでくれれば幸いだ」


 ここで話は終わりなのか、部屋の雰囲気が心なしか少し軽くなった気がした。色々と緊張していた俺は思わず両手を上に上げて体をほぐす。すると、急に背後にあった扉が開き、オレンジ色の髪の青年が入ってきた。赤い腕輪をしていることから彼が神機使いだということが分かる。
 その青年は俺たちがいることに気づいていないのか、端末を見ながらサカキ支部長に話しかけた。

 
 「博士ー! 歓迎会のスケジュール、みんなに聞いてきましたよー……ってあれ? もしかしてブラッドの人たち?」

 
 「ありがとうコウタ君。そうだよ、彼らがブラッドだ」


 「極東支部第一部隊隊長藤木コウタです。これから、よろしくね」


 「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。こちらこそよろしくお願いします」

 
 隊長だったのか、藤木さん。ジュリウス隊長と藤木さんが自己紹介をしている間俺はあることが気になっていた。藤木さんの声である。どっかで聞いたことあるんだよなぁ……何だっけ?

 
 歓迎会の準備やら、飯はうまいか?やら色々周囲が盛り上がっている中で俺はじっと考え込む、考え込む、考え込む……あ、思い出した。あれだ。


 「眼鏡が本体の人だ」


 「誰が眼鏡が本体っ!?」


 やべっ、声に出てたしガッツリ指差してた。おかげで、会話が終わり、部屋を出て行こうとしていた藤木さんが勢いよくこちらを向いて叫んだ。
 ま、まずい……何とかしてごまかさなくては……ッ!


 「すいません。藤木さんの声が昔の友人に似てまして……つい……」


 「コウタでいいよ。……友人から眼鏡が本体と呼ばれる君の友人とはいったい……」


 「彼は常に眼鏡が本体、人間をかけた眼鏡と呼ばれていました……」


 「なぜだろう。俺にはまったく関係ないはずなのにとても胸に刺さる……」


 「眼鏡かけてないのに…」と呟いて退室していった藤木さんに俺の罪悪感がマッハである。今度あったら、とっておきの三回転DO☆GE☆ZAを披露するしかない。
 なんとなく変な空気になってしまったが、話は終わったので次々とサカキ支部長にお辞儀して退室していくブラッド。その流れに乗って俺も支部長室から退室した。



UA20000越えました。ありがとうございます。これからもがんばっていきたいと思います。どうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話

マモレナカッタ……(投稿周期)
相も変わらず、話があまり進んでいませんが、どうぞ。



エミールさんの台詞考えるの超楽しい。









 「いやー。サカキ支部長案外いい人だったなー。俺、グレム局長みたいな人だったらどうしようかと思ったぜ」


 支部長室から出て、エレベーターへと向かう道のりで頭の後ろで腕を組んで歩くロミオ先輩が言う。その隣を歩いているナナも「だねー」と同調していた。だが、俺にはわかる。アイツ、歓迎会で出される料理のことしか頭にない。実際、小声で俺が話しかけてみたら「だねー」と帰ってきた。それ、そこまで万能じゃないからね?


 「そうか?俺はあの手のタイプは苦手だ。考えてることがまったく分からん」


 ナナの残念さに頭を抱えているとギルさんがサカキ博士に対する印象を口にする。俺もそうだな。人間知らないことが一番怖い。だからこそ昔から分からないものの代名詞である幽霊や妖怪は恐れられてきた。サカキ支部長に関しても大体同じで、何を考えているか分からないからこその恐怖がある。俺の場合は自分の力のこともあって解剖やら実験やらをされるのではという恐怖もあるが。


 「仁慈、お前はこれからどうする?」


 後ろのほうを歩いているジュリウス隊長が問いかける。どうするといわれても極東支部に着たばかりだし、

 
 「とりあえず、この極東支部の様子を見て回ることにしますよ」
 

 「そうか。では、ブラッド各員何かあるまでそれぞれ自由に過ごしていいぞ。ただし、はしゃぎすぎて極東の人たちに迷惑をかけるなよ」


 子どもじゃないんだからそんなといわなくても平気なんじゃないんですかね?ギルさんもシエルもそんなことするわけがないって顔してますよ。


 『はーい』

 
 居たよ、子どもが。
 元気に返事をする17歳児と19歳児に俺は冷たい視線を送りつつ、みんなと別れた。








            ――――――――――――――――







 さて、エレベーターを経由し極東支部のエントランスへとやってきた俺は現在、いつの間にやらフライアからいなくなっていたエミールさんに捕まっていた。しかし、その場にいるのはエミールさんだけではない。大体中学生くらいの年齢と思われる女の子も何故か一緒にいる。これまた何故か俺のことを睨みつけてるけど。


 「やあ!我が友よ、元気そうで何よりだ」


 「エミールさんこそ、大丈夫だったんですか?マルドゥークにやられた傷は」


 「あぁ。君のおかげで大事には至っていないよ。それにしても、すまなかった。本当は直接会って君にお礼を言うべきだったのだが……あの時はフライアを去らなければならない用事ができてしまったのだ」


 「別に気にしていませんよ」

 
 「おぉ……なんと寛大な対応だ……ッ!これは僕もそれ相応の対応で返さなければならない……。我が友よ!何か困ったことがあればぜひともこの僕に相談してくれたまえ。このエミール・フォン・シュトラスブルクが全身全霊を持って解決に当たろうじゃないかッ!」


 「お、おう」


 この人相変わらずすごいなぁ、色々な意味で。言っていることはとてもまともなのに言い方が仰々しい上にうっとおしいから聞く気にならないんだよね。いい人なのは分かるんだけど、会話してて疲れるわ。


 ハハハハと笑っているエミールさんとそれに対して苦笑で返す俺の様子を見て、会話が終わったのかと思ったのか、先ほどから口を開かなかった女の子がこちらを向いて言葉を紡ぐ。


 「初めまして。私はエリナ、エリナ・デア・フォーデルヴァイデといいます。あなたがブラッドの副隊長ですか?」


 なんだ、自己紹介か。俺のことずっと睨みつけてるからてっきり何か暴言でも吐かれるのかと思ったぜ。


 「はい。ブラッド隊副隊長樫原仁慈といいます」


 「私達h「極東はどうだい?フライアも優雅だが、ここはここで趣があるだろう」…


 俺に何かを言おうとしたフォーデルヴァイデさんの言葉をさえぎり、エミールさんが話しかける。他人が話そうとしているにもかかわらず、何の躊躇もなく自分の会話をぶち込んでくるとは……流石エミールさん。俺たちにできないことを平然とやってのける。そこにしびれぬ、憧れぬ。


 会話を切られたフォーデルヴァイデさんは当然、隣にいるエミールさんを睨みつけるが、エミールさんは気づいてないのかそのまま話を続けた。この人、体だけでなくメンタルも強すぎでしょう……?


 「土と油の匂い、それは決して不快ではない。むしろ懸命に生きる人々の活力が伝わってくる。さらにその中で一杯の紅茶を飲む……それら全ての匂いが混ぜ合わさったときに感じるんだ。……ああ、僕は彼らを護り、また僕も彼らに護られているんだと!」


 いつものように、両手を広げて語りだすエミールさん。うん、言ってることは本当にいいことなんだけど……感銘より苛立ちを感じるのは本当になぜだろう?

 
 「エミールうるさい!」

 
 
 「む、どうしたエリナよ新しい極東の仲間同士親睦を深めるべく……」


 「私が話してるでしょ!」 


 自分の会話を遮られたフォーデルヴァイデさんが切れる。


 「そう!ここにいるのはエリナ。我が盟友、エリック・デア=フォーデルヴァイデの妹、すなわち……このエミール・フォン・シュトラスブルクの妹だと思ってくれればいい」


 「誰がアンタの妹よ!」


 しかし、エミールさんには効果がないようだ。
 怒りをスルーされ、勝手に妹にされたフォーデルヴァイデさんは今にもエミールさんにつかみかかりそうな勢いでツッコミを入れる。
 ……なんか一周回って面白いな。このコンビ。
 関わると絶対に面倒なことになると悟った俺は、完全に傍観者に徹することにしたが、そう決めた直後、俺がDO☆GE☆ZAしなければならない藤木さんがエントランスに入ってきた。


 「ああ、いたいた。エミール、エリナ、任務だ………げ、早速もめてやがる……」


 どうやら藤木さんはエミールさんとフォーデルヴァイデさんに任務を持ってきたらしい。しかし、そんなことはどうだっていいんだ。重要なことじゃない。
 エミールさんとフォーデルヴァイデさんの喧嘩(?)を仲裁しようとこちらに近付く藤木さんに向かって、

 
 「どうもすいませんでした!」


 支部長室で決めた通り、三回転DO☆GE☆ZAを決めた。


 話を聞かないエミールさん。そんなエミールさんに突っかかるフォーデルヴァイデさん。いきなりDO☆GE☆ZAをし始める俺。
 そんな混沌とした中、唯一まともだった藤木さんは、


 「え、なにこのカオス」


 呆然とそう呟くしかなかったと語った。藤木さんごめんなさい、もっとタイミング計れば良かったですね。





             ――――――――――――――





 「ホントごめん!あの二人の相手、大変だっただろ?」


 DO☆GE……もう面倒だから土下座でいいや。土下座をした相手に何故か俺が謝られている。どういうことなの……。
 詳しく話を聞いてみると、この二人が俺の目の前で言い合い(一方通行)をしているので俺に迷惑がかかったんじゃないかと思ったらしい。


 「いえ、なかなか楽しかったですよ」


 実際、そこまで迷惑に思っていない。というか普通に楽しんでいました。


 「そうか?そういってくれると助かる。もう自己紹介は済ませてあるのか?」


 「一応は」


 「そうか。エリナとエミールは俺が率いてる第一部隊の隊員でな。筋は悪くないんだが……ちょっとまあ、ご覧の通りアレでな……」


 どことなく疲れたように言う藤木さん。まぁ、分かる。エミールさんがアレなのはもはや周知の事であり絶対普遍の事実だが、フォーデルヴァイデさんはフォーデルヴァイデさんで気が強いというか、負けず嫌いというか、子どもっぽいというか……なんにしても手がかかる。
 そんな二人をいつも率いているのだからこの表情も評価も納得できるものだ。


 「む、改善すべき点があればどんどんご指導願いたい」


 「ちょっと、私をこいつと一緒にしないでくださいよ!」


 「あー、わかったわかった。とりあえずこれから仲良くしてやってくれ」


 「はい。これからよろしくお願いします」


 「もちろんだ!これから共に、弱き人々を苦しめる闇の眷属たちと戦おうではないかッ!」

 
 「……よろしく」


 二人はそれぞれそういって藤木さんの後をついていった。多分、さっき藤木さんが持ってきた任務をこなしに言ったのだろう。
 第一部隊の愉快なコンビを見送った後、俺はエントランス内を何気なく見回っていた。ずらりと並ぶターミナル。任務を受注する場所であろうカウンター。その隣にある階段の近くに座る怪しいおじさん。その間反対には大きなモニターが設置してある。


 最前線にしてはどこもかしこもなかなかにきれいだ。極東の前情報から、もっと切羽詰っているようなものだと思っていたがそうでもないらしい。だからといって余裕があるわけではないだろうが。
 そんな感じで時々真面目に考察しつつ、歩いていると、背中に衝撃が走る。ちょうど、何かにぶつかられたような、そんな感覚だった。
 いったいなんぞや?と振り返ってみると、そこには目をキラキラさせ、頬にオイルっぽいものをつけた女の人が。
 この目は、先程支部長室で見た目だ……。
 そう悟った時点で、いい予感がまったくしない。しかし、逃げようとしてもこの人、俺にぶつかったときにしっかり腕を腹に回しており、逃げることができない。近い。
 

 「……なにか御用でも?」


 防御力の低い服のせいで背中に割りとダイレクトに感じる柔らかい感触から全力で意識をはずしつつ、問いかけてみる。
 すると女の人は待ってましたといわんばかりに超笑顔で口を開く。


 「君、噂のブラッドでしょ?樫原仁慈って子知らない?」


 いやな予感が加速する。ブラッドに興味があるというのであればまだ安心できたが、俺個人となると心当たりがありすぎてヤバイ。ここは誤魔化すか?……どうせすぐばれるしいいか。

 
 「自分がそうですが……」


 「おぉ、君が!さっそくで悪いんだけど、今度君が使っている神機の刀身、ヴァリアントサイズのデータを取らせてくれないかな?」


 ……よかった。この人研究者というより技術者だ。しかし、なんで俺にそんなこというんだ?他にもいないのかね?
 俺の考えていることが表情に出ていたのか、女の人はさらに言葉を紡ぐ。


 「君も分かっていると思うけどヴァリアントサイズの最大の特徴は、咬刃展開状態による広範囲攻撃なんだ。けれど……」


 「どう考えても仲間を巻き添えにしますよね」

 
 「そう。いつも一人で戦える規格外な人ならともかく普通は2~4人でチームを組んでアラガミと対峙する。そうなるとどうやっても、ヴァリアントサイズは本来の力を出し切ることができない。こんな感じで、この刀身を使う人がいなくて、実践でのデータが圧倒的に不足してるんだ」

 
 「なるほど」


 そういえば、俺も一番最初にやった訓練で「どうしてその刀身を選んだ」と呆れられながらジュリウス隊長に尋ねられた気がする。


 「それに君たちが持使えるブラッドアーツのことも調べられるし、一石二鳥だね!」


 「それ言っちゃっていいんですかね……」


 この人オープンすぎるでしょう?今までにないタイプの人なので若干戸惑いつつも、データの件についてはOKを出す。すると彼女は「ありがとう!」とだけ言ってエントランスから飛び出していった。
 ……そういえば名前すら聞いていなかった。


 「リッカのやつ名前も言わないで行っちまいやがったか……まぁ、悪気はないんだ。許してやってくれ」
 

 あまりの速さに彼女が出て行ったところをボケっとながめていると、聞いたことのある声が耳に届く。この声は……!


 「ダイアーさん!」


 「ダミアンな。何時も言ってるけど俺は波紋出せないぞ」


 何時も思うんだけどこのネタ通じるんだね。恒例となりつつあるやり取りをしてお互いに笑顔で近付く………とでも思っていたのか?


 「じゃ、俺はこれから自分の部屋を見に行きますのでさようなら」


 「は?おい、ちょっと待てよ!俺の出番これだけかよ!?」


 後ろから聞こえてくる野太い叫びを遮断し、俺はエレベーターへと乗り込む。そして、ブラッドに割り振られた階層のボタンを押して少し待つ。チンという音が鳴り、扉が開く。エレベーターから出て、あらかじめ教えてもらったほうへ進んでいくと、自分の部屋があった。しかし、その周囲いにロミオ先輩とギルさん、そして見知らぬ誰かさんがいた。


 「よう、仁慈。お前、今まで何してたんだ?」


 「何って……普通に極東支部の様子を見て回っただけですが?」


 「そうかそうか。それなら分かっただろう?」

 
 「何がです?」

 
 いつになく態度が大きいロミオ先輩に面倒だと思いつつ、先を促す。


 「この極東には、美人が多い!」


 聞かなければ良かった。こぶしまで握り締めているロミオ先輩の横を通り抜け俺は自分に割り当てられた部屋に入る。
 そこにはベッドやテーブル、ソファなどおおよそ日常で使うような家具に、コーヒーを入れる機器、なつかしのCDラジカセ……極め付けにはターミナルまで置いてあった。
 予想以上に整った空間に思わずため息を吐いた。
 これはフライアからきたブラッドだけじゃなく、極東の神機使いたちまで周囲の人の反感が行っているのではないかと思ったからである。

 
 極東支部の設備は予想よりもいいものだ。むしろフライアよりも優れている部分が多々ある。このことをあの仮設住宅擬きに住んでいる人たち、もしくはそこにも入れない人たちが知ったらどうなるだろうか?考えるまでもない。


 ……できれば人がいるところで狩りはやりたくないなぁ。
 割と切実にそう思った。





 






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話

一回だらけるとなかなかやる気がおきない……そんなこともあるよね。
……すいません唯の言い訳です。二日周期に戻せなくてごめんなさい。










 部屋の場所と様子をある程度把握した俺は、部屋の前に居たロミオ先輩と白いワンピースを着た女の子に関わらないようにしつつ、再びエントランスへと戻ってきた。先程無視した件についてダイアーさん……ダミアンさんから文句を言われたものの、時に右から左へと受け流し、時に相槌をうってやり過ごした俺は無事にカウンターへとたどり着く。
 

 「その腕輪……ブラッドの方ですね。初めまして、ここ極東支部でオペレーターを勤めさせていた居ています。竹田ヒバリです。これからよろしくお願いします」

 そういえば、さっきは適当に見回っていただけだったから、ここのオペレーターさんとは話してなかったな。


 「初めまして。樫原仁慈です。こちらこそよろしくお願いします」


 簡単に自己紹介を終わらせて、任務の話をする。サカキ博士も今すぐ任務について欲しいと言っていたし、任務は入っていると思うんだけど。


 「確かにブラッド宛に任務が発行されていますが……そこに仁慈さんの名前はありませんね」

 
 「何故だ」


 俺はブラッドにカウントされていないのかという馬鹿なことを一瞬思い浮かべるものの、詳しく調べてみると第一部隊の受ける任務に俺の名前が載っていた。それこそなんで?

 
 「どうやらサカキ支部長が組んだようですね。おそらく、感応種と対峙するときのために、極東の神機使いとの連携を強固にするためだと思います」

 
 なるほど。
 ここは極東。アラガミとの戦いの最前線にして何が起こるかわからない……何が起きても不思議ではない場所になっている。赤い雨の事もあるしね。
 当然、感応種が複数体別々の場所に出現するというシチュエーションも充分に考えられる。俺が一緒に居る場合は一般の神機使いも接触禁忌種である感応種と戦うことができる。それはアミエーラさんの件ですでに証明されていることだ。ブラッドは普通に対峙できるもののそれでも数が足りない場合は、俺が一般の神機使いに混ざり、感応種と戦うことになるだろう。
 そのときのために、この極東の神機使いとの連携をしっかり取れるようにしておけということなのだろう。
 

 でも、アレ?第一部隊って藤木さんが隊長やってるあの部隊だよな。さっき任務にむかって行かなかった?


 「確かに向かおうとしてましたけど……任務の内容を見直して今は仁慈さんを探し回っているそうです」


 藤木さんェ……。
 いやきっとエミールさんとフォーデルヴァイデさん、ついでに俺の土下座のことで頭がいっぱいになってたんだろう。……あれ?これって俺の所為じゃね?
 

 「ちょっと、藤木さん探してきますね」


 「分かりました。任務自体はコウタさんがもう受けているので、合流したら任務に出てしまって結構ですよ」


 「分かりました」
 

 俺が謝った所為でこんなことになったかもしれないということで、俺の中にある良心が再び削られる。今日一日だけで俺の心削られすぎィ!
 なんにせよ、今度は普通に謝ろうと思いつつ、藤木さんを探し回るが、結局合流したのは三十分後だった。迷子のときはむやみやたらに動き回っちゃいけないのと同じだね。





               ―――――――――――





 多少のアクシデントはあったものの無事に合流を果たした第一部隊+αは現在目標のアラガミと対峙しているところである。
 今回の目標はよくよく見てみると普通に美人なサリエルちゃんである。しかし、このサリエルちゃん外見とは裏腹に、硬いし浮いてるしで相手するのは超面倒くさい。
 一生懸命ジャンプして神機振っても硬くて効果が薄い上に、バリア的な何かを張られるし、遠距離から狙い撃っていると向こうもビームで応戦してくる。正直、新人にはつらい相手なのだ。なのだが……


 「あ、サリエルのビームはこっちで処理するからみんな好きに攻撃しちゃって。ただしバリアには気をつけろよ」


 ビームを神機の弾で相殺している藤木さんの存在がその不利をほとんど軽減している。
 マジで、なんなのあの人。常識人かと思ったらぜんぜん違ったんだけど。普通に異常(あっち側)だったんですけど……。
 フォーデルヴァイデさんとエミールさんのほうをチラリと盗み見てみれば特に動揺した態度も見せずに普通にサリエルに攻撃を仕掛けていた。
 これが極東のスタンダードだとでも言うのだろうか?
 えぇい!極東の神機使いは化け物か!?


 「っと、呆けて居る場合じゃない。俺も攻撃に参加しないと」


 今日、極東支部で見てきた印象と違いが大きすぎて少しの間固まってしまったがここは戦場、油断は死を招く。そのことを思い出し、気持ちを切り替え俺はサリエルに襲い掛かる。

 
 しかし、唯単純にジャンプして切りかかるのはぶっちゃた話効率がかなり悪い。一回だけだが、交戦経験があるのでこれは良く分かっている。実際そのときは接近はあきらめて銃形態で倒したし。
 ならば、どうするか。
 相手を地面に叩き落すという手段もあるが、それは手間がかかる。そうなると自分で足場を作ってそこから攻撃するしかないな!
 そうと決まればすぐに行動しよう。
 

 自分の行動を決めた俺はいつもの通り、体勢を低くした後、全力で地面を蹴って一気に加速する。そして藤木さんの斜線上に入らないようにサリエルに向かっていく。銃形態の神機を構えているフォーデルヴァイデさんの横を抜け、一番近くでサリエルと戦っているエミールさんに接近する。


 「エミールさん!少しだけ肩借りますよ!」


 「了解したぞ、我が友よ!」


 具体的に何をするか言っていないのに迷わずそう答えられるエミールさんはかっこいいと思います(小並感)
 エミールさんが下から上へとブーストハンマーをブーストを噴かしながら振りぬく。急に今まで感じていた衝撃より強い衝撃を受けたサリエルは一瞬だけその身体をふらつかせた。チャンス。


 「行きますよ」


 一声かけてエミールさんの肩に飛び乗り、そこから跳躍する。普通なら肩が外れるが俺たちは神機使いだし、エミールさんはサリエルの体勢を崩したときに神機を支えとして衝撃に備えていたから大丈夫だ。
 跳躍した俺が向かう先は、体勢を立て直したサリエル。そのサリエルに飛び移り、人間とほとんど変わらない細っこい首に神機を当てて思いっきり後ろに引いた。しかし、


 ガキンッ!


 「硬っ!?」 


 金属と金属がぶつかり合ったような、不快な音を立てて神機が弾き返される。嘘でしょ!?サリエルのこの部位はそんなに硬くなかったと思うんですけど!?極東か?極東という世紀末的環境がアラガミをここまで強くするのか!?


 「――――――――――――ッ!」


 サリエルが俺を振り落とそうとしているのか激しく舞い始める。
 ……いや、違う。これは範囲が広いバリアを使う準備だ。このままでは攻撃をそのまま受けることになる。でもせっかくエミールさんに手伝ってもらって引っ付いたんだから降りたくないよなぁ。そうすると……上だな。


 「I CAN FLY!」


 などと口に出してみるも実際に飛ぶわけではなくただの跳躍です。サリエルがバリアを展開する直前にエミールさんと同じようにサリエルを踏み台にして跳びあがる。自分でもなかなかの高さまで跳んだと思うが、バリアを避ける分には割とギリギリで思わず冷や汗が流れた。少し後悔した。


 範囲の広いバリアは展開が速い変わりに消えるのも早い。俺がちょうど重力に従って落ちていくのとサリエルのバリアが消えたのはほぼ同時だった。俺の武器では致命傷を与えることはできない。ならばいっそ重力を加味した踵落しでも見舞って、地面にたたきつけようか。
 普通であればそんなことは不可能だが、過去にコンゴウを蹴飛ばしてしまった(不本意)実績があるため試してみる価値はある。ぶっつけで不安なところはあるが、大丈夫だ。俺には魔法の言葉がある。
 

 できるできる絶対にできるどうしてあきらめるんだそこで駄目だ駄目だあきらめちゃ駄目だできるってもっと


 「熱くなれよぉぉおおおお!」


 大きな声を出すことで、身体のリミッターを外しつつ全力で踵落しをサリエルの頭に叩き込む。


 「――――――!?」


 どうやら俺の異常な胆力は今も健在らしい。踵落しを食らったサリエルはなかなかの速度で地面へと落下した。
 敵がダウンした!総攻撃のチャンスだ!眼鏡とかもう一人の自分とかないけど。
 サリエルを文字通り蹴落とした光景が信じられなかったのか少しだけ固まっていた第一部隊の人達だったが、すぐに気を取り直しダウンしているサリエルを袋叩きにし、そのまま倒した。
 


 いやぁ、極東のサリエルは強敵でしたね。




             ―――――――――――――――――




 こんなの絶対におかしいよ……。
 コウタ隊長がアレなのはもう分かってる。今も鼻歌交じりにサリエルのビームを相殺しているがそれはいつもの光景だ。神機使いになって間もないけれどそれは分かっている。というか、極東の神機使いは大体こんな感じだし。
 でも、ブラッドまでこんな感じとか聞いてないよ……。
 極東支部にやってきたブラッド隊の副隊長がサリエルに踵落しを食らわせ、地面に叩きつけている光景を視界に捉えつつ、思う。
 普通アラガミは、神機以外での攻撃は無意味である。銃火器なんかを受けても無傷ですむアラガミに踵落しで地面に叩きつけるなんてどう考えてもおかしい。
 それに、踵落しをする前にした跳躍もおかしい。神機使いの身体能力を加味してもあんな不安定な足場であの跳躍は無理だ。
 アレはいったい何?極東に伝わるKARATE?ブラッド隊ってニンジャ?


 私はブラッドが極東に来ると聞いていい思いを抱いてなかった。エリートって聞いてたし、私の中のエリートのイメージは相手を見下したり必要以上に自分の戦果を誇ったりするやつだと思っていたから。実際、神機使いになる前に出席した家関係のパーティーとかではそういうやつが腐るほど居たのもそう思わせる一員なのかもしれない。

 
 だから、勝手に敵対意識を持ってきつく当たっていた。見下していた。
 温室育ちのエリートなんかに、この最善戦線で戦ってきた私たちは負けないって。どうせすぐに弱音を吐くだろうって。
 

 そう思った結果が目の前のこれ。私は思い違いをしていた。ブラッドは温室育ちではない。YAMA育ちだ。


 「いやぁ、極東のサリエルは強敵でしたね」


 地面に叩き落したサリエルを袋叩きにして倒し、しっかりとコアを捕食した後にブラッドの副隊長がそういった。
 どの口がいうか。サリエル地面に叩きつけるような人が強敵とか思うわけないでしょ!?


 「仁慈、お前……リンドウさんみたいなことするな」


 「リンドウさんもこんなことできるんですか!?」


 「できるよ。ていうかあの人できないことのほうが少ないんじゃないかな?」
 


 「……さすが極東。この程度はまだまだ序の口と……そういうことか」


 「そうだな友よ!これから僕たちもその境地を目指し、共に高めあおうではないか!」


 待って!勘違いしないで!極東支部の神機使いみんながそんなことできるとは思わないで!あと、エミールは勝手に煽らない、ブラッドの副隊長も納得がいったように頷かない……!
 ツッコミ所が多すぎる……。もう私の手には負えないよ。


 「どうしたエリナ。元気なさそうだな?もしかして、今ので疲れたのか?」


 顔を覗き込んで、声をかけてきたコウタ隊長に私は思わず……キレた。



 「あんたらの所為でしょうがぁああああ!!」


 この所為で私はブラッドの副隊長から危ない人を見るような目でしばらく見られた。ブラッドの副隊長とまた溝が深まった気がした。
 


 
 


 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話

だんだんと投稿が遅くなって申し訳ない。
今回は歓迎会とシエルさんの頼みごとパート2です。




 歓迎会 

  
 それは来賓や新メンバーを歓迎する意を込められて開かれるものである。しかし、大体はその後の人間関係などを円滑にするために用いられるものである。いきなり仕事関係ではなくこういった催しで接触したほうが有効なこともあるため、新しいメンバーが来た場合に歓迎会をするのは実に合理的である。あるのだが、


 「何だこの突き刺さる視線は……」
 

 現在、第一部隊との任務を終え歓迎会の会場であるラウンジに来ている俺だったが、周囲の視線がいたい。なんというかつい最近までフライア職員に向けられていた視線に似たものが四方八方から俺の体を貫いてくる。
 

 ―――おかしいぞ、歓迎会のはずなのに全然歓迎されている気がしない。いったいなんでなんですかねぇ……。


 時々ヒソヒソ声に混ざって自分の名前が聞こえてくる。これは陰口ですね(確信)
 ハァと落ち込んだ気持ちをため息と共に外へ出し気分を切り替えた俺は、テーブルの上においてあるさまざまな料理に向かっていく。
 藤木さんの言った通り、極東の料理はどれもこれもおいしそうな見た目をしており、実際に持っていた皿に盛り付け口に運んでみれば、この世界に来てから食べた料理の中でもかなり美味しかった。
 しばらく自分に向けられている視線を忘れる意味も込めて料理を口へ次々入れていると誰かがこちらに近付いているような気配がした。が……そこはスルー。
 視線の件も含めて考えるといい要件だとは思えない。
 再び意識を料理に向ける。うまうま。
 

 俺の目の前で十歳前後の女の子が笑った。俺の食べっぷりがそんなにおかしかったのだろうか?少々ショックだ。思わず箸を置いてしまったぜ……。


 「あの……」


 近くで声がかかる。高さからして女性のようだ。けれどナナやシエルの声ではないので俺には関係ないと無視する。こういう場合って反応したら大体違う人に向けて話しかけてたりするんだよね。いったいそれでなんど変な目で見られたことか。確認、大事。


 「あの……!」


 再び近くで声がする。心なしか先程より声音が強い。これはおこですわ。呼ばれてる人早く返事してあげてー。

 
 「あの!」


 もう何なんだよ。いい加減反応してやれよ。
 俺は軽く頭を上げてクルリとあたりを一通り見渡す。すると比較的近くに居た女の子と目が合った。……なんかどっかで見たことある気がする。どこだっけな?


 「やっと反応したね」


 どうやらこの女の子が呼びかけていたのは俺だったらしい。ごめんね。過去の経験と現在進行形で突き刺さる視線の所為で反応しようなんて思ってなかったんだ。


 「……どちら様?」


 本当、どっかで見たことある気がするんだよ。それもつい最近。多少記憶を引っ張り出して探してみたけど心当たりがなかったので素直に聞いてみることにした。
 聞かれた本人はピシッと一瞬固まったが、すぐに気を取り直して口を開いた。



 「そういえば二回とも私が一方的に見てただけだったっけ……初めまして、私は葦原ユノと申します」
 
 

 葦原……ユノ……随分変わった苗字だな。しかも書きづらそう。書類とか書くとき大変そうだな。
 ん?葦原……あっ、思い出した。いつぞやロミオ先輩が熱くキモく語ってた歌手だ。それにこの人、俺が部屋から出たときにロミオ先輩と話していた子か!
 よくよく考えたらつい数時間前のことだったか……。それは見覚えありますわ。というかすぐに思いつかなかったのが心配になるレベル。


 「どうも、樫原仁慈です」


 自己紹介をされたのでとりあえず俺も返しておく。
 それにしても、ロミオ先輩が御執心の歌手さんがいったい何の用だ?特に用がないなら正直早くどこかに行ってほしい。
 嫌いとかではないんだけど、俺に向けられる視線が強くなったし、よく知るニット帽まで俺に恨みを載せた視線をぶつけるようになってるから。
 いつの間にかできていた亀裂がさらに広がる音が聞こえてくるぜぇ……。


 「よろしくお願いします仁慈さん。私、こうして同じくらいの年の人とあまり話したことがなくて……フライアで見かけたときぜひ話がしてみたいと思ったんです!」


 「そ、そうですか……」


 同い年くらいの子ならこのラウンジにゴロゴロ居るじゃないか。もうすでに話したって言うなら何もいえないけど。
 これ以上俺の人間関係が致命的に成らないように何とか早々に離れてもらうための策を練るがこの人まったく離れない。この人一回話し出したらなかなかとまらないんですよ。だからこう適当に返事を返しつつ並行して考え事ができるんだけどさ。しかし、この流れはどこかで見たことがある。ちょうど俺がブラッドに入ったばかりのときに会ったジュリウス隊長みたいな雰囲気g……あ(察し)

 
 「それでですね……?何ですか、そのわが子を見守る母親のような目は?」


 「……なんでもありませんよ」

 
 ばれたか。さすがに視線が露骨過ぎたか。
 ジトーとこちらを見つめる葦原さんから視線をそらす。すると、たまたま向いた方向にマイクテストをしている藤木さんが居た。


 「あー、あー、テステス……うっし、オッケー。はい、皆さんご注目ー!本日は足元の悪い中極東支部にお越しくださいまして誠にありがとうございます」


 藤木さんが演説を始めたことにより、葦原さんの意識が藤木さんへと移る。おかげで葦原さんのことを『ぼ』で始まり『ち』で終わり、真ん中に『っ』が入る人だと思っていたことをごまかすことができた。


 「そしてブラッドの皆さん!改めて、極東支部へようこそ!これから一緒に戦う仲間として、ジュリウスさん!これから一言ご挨拶いただきたいと思う次第です!」


 藤木さんの腕がシエルと話していていたジュリウスさんのほうを指す。急に話を振られたからだろう。ジュリウスさんの表情が一瞬固まる。そして、


( ゚д゚)(ジュリウス)      ( ゚д゚ )(ジュリウス)



 こっちみんな。
 急に話を振られて戸惑うのは分かるし、ついつい周囲の人の顔色を確認したくなるのも分かる。だがその顔は駄目だ。
 俺は首を振ることで自分の意思を伝える。無理です。俺にはどうすることもできません。
 何とか正しく伝わったのか、ジュリウス隊長はあきらめたような表情をした後、藤木さんのところに向かい口を開いた。


 「ご紹介に預かりました、極地化技術開発局所属ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。極東支部を守り抜いてきた先輩方に恥じぬよう懸命に、任務を努めさせていただきます。ご指導、ご鞭撻のほど……何卒、よろしくお願いします」


 「すごーい、隊長っぽーい……コウタ先輩も見習ってほしいなー」


 「エリナ、うるさいよ!はぁいっ、ジュリウスさん、ありがとうございました!えー、続きまして!ユノさん、お帰りなさい。どうぞ、ユノさんも何か一言!」


 「えっ」


 なんで貴女までこっち見るんですかね。
 ジュリウス隊長と違って距離が近いので、なにか言われる前に拍手をして、無理やり彼女を押し出す。
 俺の拍手に続いて周りからも拍手が上がる。そうなると、前に出ないわけには行かないので葦原さんから恨めしい目で見られた。フッ、計画通り……!
 この後は彼女が歌を歌い、歓迎会に出席していた全員に癒しを与えて終了した。この日は歌を聴いたからかいつもより良く眠れました。


 

      

               ――――――――――――




 「今日仁慈さんに任務は入っていませんよ」


 「休日キタコレ」

 
 歓迎会の翌日。極東支部のオペレーター、竹田ヒバリさんから告げられた言葉に俺は歓喜した。神機使いの貴重な休日。どう使おうか、普段より頭を働かせて模索する。
 いつぞやみたいに自堕落に過ごすのもいいし、今後のことを考えてターミナルでこの世界についてさらに詳しく調べてみるのもひとつの手だろう。


 「あ!でも、シエルさんが仁慈さんに何か頼みごとがあるそうですよ?」


 デジャヴった。
 いつぞやに経験したことと同じ状況だ。このままでは再び休日がつぶれてしまう。しかし、シエルの頼みごとを自分勝手な都合で無視していいのか?否、断じて否である。
 美少女の表情を暗くすることは万死に値するのだ。古事記にもそう書いてある。


 極東支部で一番人が集まるラウンジに足を運んでみるとシエルをあっさりと発見することができた。俺のことを探しているかと思ったが、どうやら彼女はこの極東で飼われているカピバラに御執心のようだった。それでいいのか。


 「シエル」


 「あ、どうも」


 「どうもじゃないよ。俺に用があったんじゃないの?」


 「………そういえばそうでした」


 おい。忘れる程度の用事だったら俺は部屋に帰るぞ。


 「いや、まってください。前回のバレットのことで新たな事実が発覚したんです」


 「結構重要だよね」


 何故そんなことを真面目なシエルが忘れたのか。カピバラさんぱわーだろうか。


 「それで、何が分かったの?」


 「あのバレット、リッカさんに調べてもらったところ回復弾のオラクル細胞の結合が変異していたそうです」


 リッカさん……あぁ、ヴァリアントサイズのデータを欲しがってた人か。ダイアーさんが彼女のことをそう呼んでた気がする。


 「どんな感じに?」


 「細胞同士が固着して、エディットができなくなり他の銃身タイプは使えなくなった代わりに進化した、と……その結果として、従来の体力回復に加え、状態異常回復効果が発揮されるバレットになったようです」


 「へぇ、便利になったもんだね」


 体力回復と状態異常回復が同時に行えるのはかなりお得だ。今までは回復錠と解毒効果のあるものを別々に服用しなくちゃいけなかったからな。手間が省ける。

 
 「その分、改良もできず私が使っている銃身でしか使用することができませんがね。そして、どうしてこうなったのかというと、ブラッド同士の『血の力』による感応波の相互作用ではという予想が立てられているようです」


 「ブラッドアーツのバレット版ってことか」


 「そうですね。意志の力によってブラッドアーツのようにバレットが進化したというのが今のところ有力です。名付けるならブラッドバレットといったところでしょうか」


 「まんまだな」


 「下手にいじって変な名前になったら目も当てられませんよ?」


 確かに。なんだったら中学二年生くらいに患った病がぶり返す可能性がある。そんなことは俺もいやなので、名前に関してはこれ以上考えないことにする。


 「まぁ、なんにせよ。大発明だな」


 「はい。みんなの役に立ててとても嬉しいです。それで、頼みの件なのですが、このバレットを試験運用しようと思ってまして……君には何らかの状態異常にかかって欲しいのですが……」


 「可愛い顔しながら中々エグイこと言うね」


 それと同時に良くそれで俺が同意すると思ったな。おじさんびっくりだよ。


 「……?君なら多少の状態異常くらいはどうってことないですよね」


 「語尾にクエスチョンマーク付けろよ。何で断定なんだよ」


 これは一度某魔王式お話をするしかないか?
 ……やめとこう。人外疑惑が加速する。


 「それで、一緒に来てくれますか?」


 「状態異常云々がなければ普通に着いていったかな」


 「むぅ……なら、私も君が困ったときには力になります。私にできることなら何でも手伝いましょう」


 まぁ、それでいいか。さっきから「美人さんとイチャイチャしやがって……!」という視線が俺に突き刺さっているからな。さっさと了承して、この場を離れたい。


 『仕事をする』『部下の頼みを聞く』『両方』やらなくっちゃあならないってのが『副隊長』のつらいところだな。
 (休日を返上する)覚悟はいいか?オレはできてる。





           ――――――――――――――――――




 「で、何でまたザイゴートなのさ」


 「毒も吐く、私の銃身に弱い。最高の相手です」


 もうザイゴートがシエル専用のサンドバックにしか見えなくなってきたわ。
 ふよふよ。こちらに気付いて近付いてくるザイゴートに思わず哀れみの視線を送る。
 俺たちの近くに到着したサイゴートは早速、卵みたいな体を膨らませ、口から紫色のいかにも毒ですという液体を吐き出す。


 「チャンスです!突撃!」


 「やかましい」


 バックステップを踏みながら俺に突撃命令をだすシエル。……たまにこの子のテンションについていけないときがある。
 自ら毒々しい液体に突っ込むというほかから見れば狂ったような行動をとった俺は案の定毒が体中に回り激しい吐き気に襲われる。それを隙と見たのか一体のザイゴートがこちらに来るが神機を一振りして真っ二つに切り捨てる。


 「うぉえ、頭ガンガンするし気持ち悪い。シエル、回復はよ」


 「普通はそんな程度じゃすまないはずなんですけどね。ザイゴートも倒してますし」


 バンッ!とシエルの神機から緑色のレーザーが発射され、俺の体を見事に貫く。今では慣れたものの、神機使いに本当になったばかりの頃は、このレーザーが怖くて回復弾まで避けていたのは俺だけの秘密である。
 レーザーが俺の体を通過してから数秒後、自分の体から毒素が抜け落ちていくような感覚を覚えた。これで、シエルのバレットが異常状態回復効果を持っていることが実証できた。

 
 「シエル。治ったぞ」


 「そのようですね。目的は達成したので、後は殲滅するだけです」


 神機を銃形態から通常の形態に戻しつつ言う。彼女にしては珍しく刀身を使って戦うようだ。曰く、「今日はそんな気分」とのこと。左様ですか。
 それにしても、ショートってすげぇよな。もう殆ど飛んでるようなものだもん。
 明らかに常軌を逸脱した起動でザイゴートを切りつけていくシエルを視界の端に収めつつそんなことを思う。
 俺のやることといえば、シエルが倒し損ねて、地面に落ちてくるザイゴートを刈り取るくらいなので前述したようなくだらないことを考えていても何ら支障はない。ないのだが……最近、神機の切れ味が悪いのだ。あのやわらかいことに定評のあるザイゴートでさえ、結構な力を入れて神機を振らなければ切れない。サリエルなんかはじかれたし。これは俺だけなんだろうかと、ザイゴートを全て狩り終えたシエルにたずねる。


 「神機がザイゴートにはじかれる……ですか?」


 「一瞬だけなんだけどね」


 「……私はそんなことはありませんね」


 うーん、神機の使い方が悪いのだろうか?


 「確かに君の神機の扱い方は異常ですがおそらくは違います。単純に武器の所為のではないですか?あのクロガネ、精鋭部隊にのみ配備されるとうたっていますが実はそこまでたいした武器ではないんですよ」


 今明かされる衝撃の真実ゥ!俺の配られた神機はたいしたことがなかった!
 今度グレムに会ったらマジで一発ブン殴ってやろうか。


 淡々と帰還の準備をしながら俺は考える。そして、ある一人の人物が思い浮かんだ。
 そうだ、リッカさんとやらにデータの対価として神機の強化でも頼もう。神機のことで希望が見えた俺は上機嫌でシエルの手伝いをし、極東に帰還した。





 









目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話

ヒバリさんの口調がなんか違うかもしれない。







 「いやー、良くこんな装備で生きてこれたねー。さすが血の怪物(bloody freaks)と呼ばれ、早くも極東の神機使いから恐れられている仁慈君。私たちにできないことを平然とやってのける。そこに痺れる憧れるゥ!」


「何それ聞いてない」


 一体誰だ。俺にそんな痛々しい二つ名もどきをつけたやつは。ちょっとかっこいいと思っちゃったじゃねーか。病気再発したらどうするつもりだ。
 顔も名も知らない誰かさんに心中で文句を呟いていると、やることがすんだのかリッカさんがまばゆい光を放っているかと錯覚しそうな笑顔でこっちに来た。


 「いいね、この神機!ところどころ傷がついてるのは少し思うところがあるけど、この傷つき方は今まで見たことがないや。一体全体どんな扱い方をしているんだろうね?」


 「どんなって……普通ですよ普通」


 「アッハッハ……まさか」


 おう、急に真顔になるのやめーや。
 ついさっきまで明るい笑顔だった分ギャップがすごいんです。怖いんです。


 「というか、どうして普通じゃないなんて言えるんですか?」


 この極東に来たのはつい昨日。任務は未だ一回しか受けておらず、その唯一受けた任務では特に変な神機の扱いをした覚えはなかった。神機じゃないなら、飛び乗ったり蹴落としたりしたけど。それは神機関係ないから(震え声)


 「だって、同じブラッドの子達が君の武勇伝を言って回ってるよ」


 「…………」


 こ、心当たりが多すぎる!というか、ギルさんを除くブラッド全員が容疑者足りうるぞ。
 
 
 「あー……この話はやめようか」


 「そうですね」


 身から出た錆と己に言い聞かせ、気分を一転させる。そして、俺はここに来た本来の目的を達成するために口を開く。

 
 「それで、これらの装備……どうにかなりませんか?」


 中二病真っ盛りの二つ名とか極東支部中に広まる武勇伝とかの所為で忘れていたが、俺がここに来た目的は神機のパーツ強化である。
 いやね、さすがにザイゴートもさっくり切れない武器は俺でもちょっと遠慮したいんですよね。
 ほら、俺基本的に生物共通の弱点である首を狙うんだよ。妖怪首おいてけなんですよ。アラガミが生物の枠に入るか微妙だけど。
 で、首切りを狙うということは当然アラガミとの距離はゼロ距離なわけで……神機がはじかれたりすると致命的な致命傷を負って病院で栄養食を食べるはめになる。


 「うーん、このクロガネ装備も改良の余地はあるんだけど……具体的な方針なんかがないと改良できないし。素材もあるか分からない……仮に改良しようとしても、その期間君が使ってる刀身であるヴァリアントサイズの代えがね……」


 誰も使わないからないんですね分かります。
 

 「困りましたねぇ」


 「一応ヴァリアントサイズ以外の刀身はあるけど……使える?」


 「一通り使えますけど……」


 人並みに使いこなせる自信は一応ある。ヴァリアントサイズの使用を制限されたときに一通り使ってみたし、ダミーアラガミも相手に戦ってみたりもした。
 けれど、訓練と実践はわけが違う。特に俺は想定外のアラガミが良く乱入してきたりするのだ。ヴァリアントサイズ以外での実践はそういった想定外の事態の対応に不安が残る。しかし、今の状態のヴァリアントサイズを使ってもそれは同じこと。状況としてはほぼ詰んでる。いや、スタングレネードとか使えばワンチャンあるか?うーん、実際に遭遇してみないと分からないかな。


 「リッカさん。とりあえず改良して欲しいところを言ってもいいですか?もしかしたら素材があるかもしれないし」


 「そうだね。じゃあ言ってみて!」


 「切れ味と軽さが欲しいですね」


 「日本刀でも握ってれば?」


 「それだとアラガミ倒せませんよ」


 「冗談だよ冗談……んー、その要望だと……ギリギリ足りないな」


 「足りないんだ」


 現実は非常であった。こういうのはギリギリ足りて、新たなる力を手に入れるフラグでしょうがぁ。

 
 「何が足りないんですか?」


 「このクロガネを形成している鋼鉄かな」


 「……俺のシールドをばらして改良に使うというのは?」


 「………その発想はなかった」


 素材がないなら作ればいいじゃない。
 神機使いになってからシールドを使った回数は片手で足りる。それに足りないのはヴァリアントサイズだけなので、俺が装備しているバックラーの変わりはさすがにあるだろ。


 「いけそうですか?」


 「素材としては充分だね。けど、大丈夫?次に任務行ったときポックリ逝ったりしない?」


 「大丈夫だ、問題ない」


 「どうしよう。さらに不安になったんだけど……」


 「まぁ冗談はこれまでにして、本当に大丈夫ですよ」


 想定外のアラガミが乱入し、そいつが明らかに手に負えないやつであればスタングレネードぶん投げて全力で逃げれば大丈夫だろう。


 「それで刀身の改良ですが……どのくらいかかります?」

 
 「フフン、私をなめてもらっては困るよ。刀身の改良なんて私にかかれば一日で終わるね!」


 「リッカさんすげぇ!」


 極東の常識はずれな神機使いをサポートする彼女もまた常識はずれだった。装備の改造とか普通、一日じゃあ終わんないだろ……。


 「ま、今回は特別。普通はもっとかかるんだけどね。君には戦闘データを取らせてもらうっていう約束をしてたからその代金だと思ってくれていいよ」


 「ありがとうございます」


 「いいっていいって。さてと、私は早速改良に行ってくるね。明日、楽しみにしといてよ!」


 リッカさんはそういった後、俺の刀身とバックラーを持って部屋の奥に消えていった。取り敢えず俺も、神機にクロガネのチャージスピアと適当なバックラーを取り付け整備室を後にした。



 刀身強化の件がとりあえず落ち着いた俺は、現代に居たら通報待ったなしと思えるくらい怪しいおっさんのところに居る。この人、この身形で万屋らしく結構便利なものが売っているとは藤木さんの弁。
 俺がここに来たのは当然想定外の事態に備えるためである。毒とか、今まで神機振ってその風圧で防いだりしたけど、チャージスピアだときついかもしれないからな。解毒効果のあるやつと、回復錠、後はスタングレネードの素材かな。


 「というわけで、今言ったものある?」


 「あるよ」


 おぉ、さすがだ。藤木さんが推すだけの事はある。ちょっとばかり高いが命と比べれば安いもんだろ。パッパと買ったものを受け取っていくが、その途中で気になるものを見つけた。


 「武器?……おっさん、このカタログ……なに?」


 「見ての通り、神機のパーツのカタログだ」


 神機のパーツって売ってるものなんだ……。ぱらぱらとカタログを流し読みしてみる。パーツの特徴や実際の写真などが付属されていてとても見やすい。

 
 「ん?」


 そんな中で気になる名称のパーツがあった。クロガネである。これ普通に売ってんのかよ。精鋭部隊にのみ配備(笑)される鋼鉄の武器(爆笑)
 しかもお値段なんと500fcこれは(笑)付けられても文句は言えませんわ……。
 待てよ。ということは俺は今まで合計1500fcで戦っていたのか……よく生きてたな。質問に答えてくれたおっさんにお礼を言ってその場を去る。そして次にすぐ近くにあるカウンターへ向かう。仕事の有無を確認しないと今日一日どうやって過ごそうか決められないし。


 「というわけで、今日は任務ありますか?」


 「どういうわけかは分かりませんが、任務はありますよ?新しく開発された、リンクサポートデバイスの臨床試験らしいです。詳しいことはダミアンさんから伺ってください」
 


 チラリと竹田さんの視線が俺から外れる。彼女の視線の先を追ってみればそこには額に青筋を立てて、手まねきをするダミアンさんの姿が。
 おぉう、これは激おこですね(確信)
 やっぱり無視がいけなかったか。数秒行こうか行くまいか葛藤するが自業自得ということでおとなしくいくことにした。

 
 「サンダースプリットアタック!」


 「ぐぼぁ!?」


 おとなしく近付いた結果がこれだよ!
 サンダースプリットアタックとは名ばかりの唯のアッパーカットだったが、むしろこっちのほうがつらい。脳が揺さぶられ、体を動かすのが困難だったが何とか気合で命令を出し空中で体勢を立て直し地面に着地する。


 「この、アッパーカットで人体を吹っ飛ばすとかどれだけ力入れたんだよダイアーさん」


 「ダミアンな。これは俺を無視してくれた仕返しだ」


 「まさか全力のアッパーカットが飛んでくるとは予想外だった」


 脳が揺れたことによる弊害もなくなったのでよいしょと立ち上がり、再びダミアンに接近。


 「今回はおとなしく食らったが、調子に乗って二発目とかやったらカウンターぶち込むから」


 「やんねーよ」


 「ならいいや。それで?リンクサポートデバイスって言うのは一体何なんだ?」


 「リンクサポートデバイスは、フィールドに設置した機材に神機を連結し、偏食場パルスによる支援効果を発生させる装置だな。元々は余った神機の活用法として考案されたもので各個体の特性次第で、違った効果を発揮するシロモノだ。わかったか?」


 「すまねぇ、専門用語はさっぱりなんだ」


 「聴く気あんのかてめぇ。……ま、簡単に言っちまえば攻撃力上がったり早く動けるようになったり敵の動きを止められるといった効果を発揮できるんだよ。今回はそれが本当に起動するかの実験だ」


 「ま た じ っ け ん か」


 「そう悲観するなよ。みんながお前を信頼している証拠じゃないか。そう簡単にくたばるとは思われてないんだよ」


 「だからって危ない橋渡らしていい訳じゃないでしょうよ……」


 一方通行の信頼ほど厄介なものはないと思いました。


 「神機使い(俺達)は基本的に仕事を選べない、あきらめろ」

 
 「はいはい、それではお仕事に行ってきますよー」


 やる気のそがれることを言うダミアンに適当な言葉を返し、俺は彼から受け取った任務の標的や周囲のアラガミの状況などを読みながら、神機をとりにむかった。






            ―――――――――――――――




 「へぇ、これがリンクサポートデバイスの効果か」



 今俺の目の前にはホールド状態になり、動くことができない無数のアラガミが居る。
ダミアンが持ってきた任務の現場に向かい、さぁアラガミ狩りだ!と意気込んだ瞬間にこれである。どういうことだと首を傾げていると付けている通信機から竹田さんが俺の疑問について答えてくれた。リンクサポートデバイスの効果ですと。


 「ホールドは便利でいいね」

 
 フッと一息吐き出すと共に持っている神機でアラガミを突き刺す。続けて同じ動作を近くで固まっているアラガミにも行い、その息の根を止めていく。


 「よーし、この辺の奴は一掃できたな」


 いつものごとくコアをモグモグさせて次のアラガミを探しに行く。見つけたら神機で突き刺す。またアラガミを探す。突き刺す。探す。突き刺す。探す。突き刺す。


 「ちょっと竹田さん?アラガミ多すぎじゃありませんこと?」


 たった今、倒したグボロ・グボロの死体をグシャリと踏みつけながら通信機を通してオペレーターである竹田さんに尋ねる。


 『なぜか周囲のアラガミたちが仁慈さんのほうに向かっていますのでそう感じるのも無理はないですね』


 「なん……だと……」


 あまりの衝撃に思わずどこかにイェン・ツィーが居ないか探してしまった。居なかったけど。

 

 『さらに仁慈さん。残念なお知らせがあります』


 「すいません。いいお知らせしか聴きたくありません」


 『なら言い換えます。とても素敵なお知らせです。仁慈さんお仕事追加だそうです』


 「どこが素敵なのさ……」


 唯の残業報告じゃないですかーやだー。
 こういうのは本人通してから承諾して欲しいよね。連戦って思っている以上に疲れるんですよ?


 「はぁ……それで、その任務の内容は?」

 
 最近ため息ばっかり付いている気がする。もしかしてこれの所為で幸せが逃げてこうなっていたりするのだろうか。


 『内容はボルグ・カムランの討伐。目標の到達予想時間は―――』


 ガシャン!


 何か大きく金属めいたものが地面に落ちたような音がする。


 「■ ■ ■ ■ ■----ッ!」


 人間では決してでないような音が空気を震わせながら俺の耳に届く。
 ステイステイ、これは俺の幻聴だろう。いくらなんでも早すぎる。まだ到達予想時間すら聞いてないぞ?
 ゆっくりと、音の発生源へと視線を向ける。それと同時に通信機から竹田さんの声が聞こえてきた。



 『――――――今です』


 彼女が言い終わるのと同時に俺の視界には、蠍が騎士の格好をしているような風貌をしたアラガミが俺の目の前に現れた。ふぁっく。

 


 








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話

夏休みが終わり、学校が始まってしまったので更新スピードが落ちると思います。その影響で今回はかなり短めになっております。内容はボルグ・カムラン戦です。
あと評価を付けてくださった方、本当にありがとうございます。これからも失踪しないように頑張っていきたいと思います。


 ゾクリ。
 背筋に寒気が走る。そう感じると同時に俺の体は無意識に後ろへと下がっていた。どうやら咄嗟に生存本能が働いたようだ。その証拠に、数秒前に俺が居た場所にはボルグ・カムランが持っている鋭く巨大な尻尾(?)が突き刺さっていたからだ。
 あのまま居たら串焼きみたいになってたな。


 地面に深く突き刺さった己の尻尾(?)を引き抜こうと必死に頑張っているボルグ・カムランには悪いが、この隙を逃すのはさすがにない。
 突き刺さっている尻尾(?)に跳び乗り、その上を走り抜ける。そしてある程度上ったところで跳び下り、落下の勢いも上乗せして神機をボルグ・カムランに突き刺した。


 「■ ■ ■ ■――――――――――ッ!?」



 肉を切ったときのような感覚が神機を通して伝わる。ボルグ・カムランも苦しんでいるようで効果はあったようだ。しかし、


 「チッ、外した……!」


 俺が狙ってたのはアラガミを形成するコアだ。苦しんではいるもののまだまだ元気いっぱいな様子を見る限り、狙いはそれたっぽい。
 まずいな。苦労はしなかったもののそれなりに体力は消費している。長期戦になれば間違いなく俺がやられる。


 たった今ブチ空けた傷をえぐる様に蹴りながらボルグ・カムランから距離をとる。狙うとするなら今攻撃したようなところかな。他はいかにも頑丈そうだし。
 痛みがある程度収まったのか、尻尾をこちらに突き出し、威嚇するような行動をとるボルグ・カムランに対して神機を構える。そして、すぐに地面を蹴り上げチャージスピアの特性であるチャージグライドを使ってボルグ・カムランに肉薄する。狙うは口の部分。神機ぶち込んで体内でプレデターフォームにして喰らい尽くしてくれる。
 しかし懐に入れてやるかといわんばかりにボルグ・カムランは両腕をあわせ、盾にして前に出す。カキンと甲高い音を立てて、突進をはじき返される。盾硬すぎワロタ。まぁ柔らかかったら意味ないだろうけどさ。

 
 さって、どう攻めようか。盾があるとするなら正面突破はまず無理だ。武器によっては奴の盾ごと攻撃できるかも知れないが、チャージスピアじゃあ相性が悪い。となるとさっきみたいに上から攻撃するのが一番効果的か。


 「いよっと」


 自分がとる行動を決め、ボルグ・カムランに向かって跳躍。いつでもチャージグライドが使えるようにエネルギーをためておきながら奴の上をとる。しかし、さっきの攻撃が聞いているのかボルグ・カムランも俺と同じく跳躍してきた。
 その細い足で跳べんのかよ……!


 このまま行ったら当然正面衝突。俺の何倍も大きいボルグ・カムランとぶつかり、踏み潰されたりしたらもちろんのこと唯ではすまない。チャージが完了した神機を後ろに向けてためていたエネルギーを放出させ、後方に飛んだ。


 「あっぶねぇ」


 念のため 溜めてて良かった エネルギー。
 ボルグ・カムランと俺がほぼ同時に着地する。だが、ボルグ・カムランは着地すると体を捻り己の尻尾を振り回した。ボルグ・カムラン!アイアンテールだ!
 おっと、こんなくだらないこと考えている場合じゃない。
 咄嗟に地面に伏せることでアイアンテールを回避。相手が大きくて助かったわ。ちょっと髪の毛もっていかれたけど体吹っ飛ばされるよりはマシだろ。
 腕立て伏せをするかのように両腕で地面を押し、体を起こす。そして再びエネルギーのチャージを開始する。色々使えるし、溜めてたほうが先程のように予想外の事態が起きた時に対応できる。


 「そろそろ決着付けないと……」


 先程までの雑魚戦と現在のボルグ・カムランで大体一時間くらいぶっ続けで戦っているのに加え、ボルグ・カムランは初見でいきなりソロだ。体力、精神力共に消費がマッハなのである。


 次々と繰り出される尻尾を使った刺突を回避したり、神機を横からぶつけて軌道を逸らしたりしつつ隙を伺う。伺っているんだけど……


――――攻撃を緩める気配が一切ない!


 ボルグ・カムランはこれでもかといわんばかりにひたすら尻尾による刺突を繰り返していた。仕方ない。隙ができないなら別の方法に変更だ。プランBだ。


 頭、鳩尾、肺、心臓、股間といった喰らえば色々と致命傷なこと間違いなしの所を必要以上に狙ってくる攻撃を回避し、再び頭に向けられた攻撃に対してこちらも今まで溜めていたエネルギーを上乗せした攻撃を真正面からぶつける。唐突にぶつけられた攻撃にボルグ・カムランの体勢が一瞬崩れる。その隙を縫って後方に大きくバックステップしつつこの短期間でおなじみとなったエネルギーチャージを行った。すぐにチャージが終了したことを確認すると俺はチャージスピアのエネルギーを放出させながら軽く前方に神機を投げる。

 
 軽く投げた神機は、放出されるエネルギーによって加速しながらボルグ・カムランへと一直線に向かっていく。自分のほうへと向かってくる神機に対して先程俺の突進を防いだ両腕の盾を構えることで応戦するらしく、ボルグ・カムランは両腕をあわせ攻撃に備えている。
 しかし残念。それは悪手だ。
 俺は神機を前方に投げると同時に駆け出し、ボルグ・カムランが正面に盾を構えたときにはすでにボルグ・カムランの体を支える足の一本にいち早く接近するために付けていた勢いをプラスした回し蹴りを叩き込む。すると、ボルグ・カムランを支える足の一本が不意に地面を離れたことにより、バランスを保てなくなったボルグ・カムランは構えていた盾を崩しながら自分も地面に倒れこんだ。
 さらにそんな無防備な姿をさらしたボルグ・カムランの口と思われる箇所に先程投げた神機が突き刺さる。
 俺は、刺さっている神機をすぐにつかんでさらにねじ込むように奥へと押しやる。ボルグ・カムランが苦しむように甲高い声を上げているが、化け物に慈悲はないので無視して続行。俺の任務を連戦にしてくれた恨みをたっぷりと込めつつ刀身が全てボルグ・カムランの体内に入るくらい突き刺す。とどめにその状態で神機をプレデターフォームへと変化させる。


 四方八方がオラクル細胞という経験がないのか、心なしか神機が歓喜に震えているように感じる。実際神機がひとりでにがたがたいっているのだ。そんなに早く喰いたいか。


 「喰らい尽くせ」


 お望み(思い込み)通りに許可を出すとボルグ・カムランの体内からとてつもなく生々しい肉を咀嚼する音が響き渡る。結構精神的にクるものがある。少なくとも今日は肉を食えそうにないわ……。
 しばらく、苦しみもがいていたボルグ・カムランだったが、コアを捕食したかダメージが一定を超えたかですぐに動かなくなった。それと同時に耳に付けている通信機からも竹田さんのオペレートが聞こえる。


 『目標の討伐を確認。急に入った任務をこなすとは、さすがですね』


 「今度からはきちんと本人通してからお願いしますよ」


 ホント頼むね。マジで死ぬから。
 未だボルグ・カムランの形状が残っている部分をむしゃむしゃしている神機を引っこ抜いておとなしくさせてから、帰りのヘリが待っている場所へと向かった。

 


 






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話

製作途中のものを誤って投稿してしまい申し訳ありませんでした。

さて、なんだかんだで三十話目になりましたこの作品。これからも頑張って続けていきますのでよろしくお願いします。








 うぉえ、酔った。
 初めてヘリを使って帰還したんだけど、連戦の疲れに加えヘリの揺れに慣れていないこともあり胃の中のものがリバースしてしまいそう。
 フラフラとした足取りで何とか極東支部のエントランスにまでたどり着く。もう、今日はこのまま寝てしまいたい。
 竹田さんと事後処理について軽く話し合った後、自室へと行くためにエレベータに向かう。
 覚束ない足取りで進んでゾンビのように進んでいるため、俺の周りにいる人たちが引いているがそれを気にせずに歩みを進める。
 そんなだえ下が近づきたくないと思い実際に近づかない状態の俺の前に、いかにも一仕事終えましたといった表情のリッカさんが現れる。嫌な予感しかしない。彼女に失礼だと思いつつ、視線を合わせないように横を通り抜けようとするが、

 
 「どこに行くのかな?」

 
 ガッと肩を掴まれ、その場を立ち去ることはかなわなかった。
 魔王からは逃げられない!
 疲労で崩れそうになる体に鞭をうち、リッカさんに向き直る。俺が彼女に向ける視線が若干冷たいのは勘弁してほしい。


 「何か用でしょうか?ぶっちゃけすごい疲れているんですが……」

 主に連戦やらヘリコプター酔いやらで。今自室にあるベットに潜ったら一瞬で夢の中に行ける自信があるね。


 「そう露骨に嫌そうな顔しないでよ。さすがに傷つくよ」


 ぶぅと頬を膨らませて不機嫌アピールを始めたリッカさん。あざとい。だが悲しいかな、疲労でドボドボな俺はそんなのより休養なのである。
 

 「おぉう。表情を見るに割とマジにやばそうだね。だったら簡単に話を済ませちゃおうか。まずはリンクサポートデバイスの臨床試験ありがとうね、おかげでいいデータが取れたよ。神機のほうは順調で明日の朝には確実に仕上がっているからね」


 「分かりました。ありがとうございます」


 最低限の言葉だけを残し、エレベータへと乗り込む。背後からリッカさんの声が聞こえるが完全にスルー。
 ブラッドの部屋が割り振られている区に到着すると、一直線に自室へと向かい直でベッドへダイブ。わずか数秒後に俺の意識は沈んでいった。




            ―――――――――――――――――――――




 復活ッ!復活ッ!!
 

 ゾンビのように自室に戻り、泥のように寝た日の翌朝。ベッドから這い出た俺は片手を天井に向かってあげながらそんな事を叫んでいた。はたから見れば完全に不審者である。
 しかし、前日アレだけの疲労を感じていたにも関わらず一晩ぐっすり眠るだけで体調が全快するというのは便利だな。某ハンターを思い出す。その代わりに何事もなく毎日アラガミ討伐に繰り出されるのだが。それなんて社蓄?

 
 神機使いの社蓄性能の高さはともかく最低限の身だしなみを整えた俺は神機の整備、保管を行う部屋を訪れていた。目的はもちろん改良された刀身の回収である。やっぱり自分に一番合った刀身を装備していたいのだ。
 

 「お、来たね。刀身の改良は昨日言った通り終わってるよ。もう装備する?」


 部屋の奥からひょっこり顔を出して訪ねるリッカさん。どのくらい早くここに来ているのだろうかと疑問に思いながら彼女の言葉に頷くと、出していた顔を引っ込めて改良が済んだ刀身を探しこっちに持ってきた。


 「どうよ」


 「刀身単体で持ってこられても困るんですけど……」

 
 渾身のドヤ顔を披露しながら改良された刀身を見せ付ける。しかし、そこにあるのは本当に刀身だけで神機本体に繋がっていない。振り心地、使い心地が分からない上に外見は改良前の物と変わりがないためなんていっていいのやら分からない。


 「あはは、そうだよね。ならさ、これから訓練場を借りてこれの使い心地を確かめてみたらどうだい?私も君の戦闘データとヴァリアントサイズのデータを取れるから一石二鳥だよ!」


 「確かに。朝も早いし誰も使っていないでしょうし、行きましょうか」


 というわけで使い心地を確認するために訓練場へと向かった。……最近訓練場に入り浸っている気がするなぁ。
 

 ささっと訓練場にたどり着いた俺は新しい刀身が装備してある神機を担いで訓練場の中へ、リッカさんは訓練場に出てくるダミーアラガミの制御を担う部屋にて俺が相手をすることになるアラガミの設定をしている。


 『今回のダミーアラガミは私がお遊びでtゲフンゲフン……私とサカキ博士が共同で製作したダミーアラガミの相手をしてもらうよ。』


 「今お遊びって言いかけましたね」


 言いかけるというかガッツリ口に出てたけどね。


 『気にしない気にしない。それでね、そのダミーアラガミの強さなんだけどかつてこの極東に居たもっとも強い神機使いたちがクリアできるくらいの強さだね。後は隊長をやっている人達かな』


 「それ以下の実力の神機使いはどうしたんですか?」


 『実はつい最近出てきた新種のアラガミのダミーでね。強さはさっき言ったとおりだから油断しないようにね』


 「聞いてよ」


 どうしてこの世界の人達はこうやって人の話を聞かないのか……。ここ極東でしょ?名称こそは違うものの日本でしょ?事なかれの日和見主義で自分を表に出すことが苦手な日本人はアラガミの出現と共に絶滅したというのだろうか。
 しかも極東でもほんの一部、上位の強さを持った人達しかクリアできないものをぶつけてくるとか……リッカさんが俺に抱いている印象が良く分かるな。


 『それじゃ始めるよ』


 スピーカーを通して聞こえるリッカさんの声が途絶えた瞬間、ダミーアラガミが地面から精製される。難易度が高いのでこちらも瞬時に戦闘用の意識に切り替え、神機を構える。
 地面から精製されたダミーアラガミは珍しく人型であった。
 しかし、頭上では天使の輪のようなものが光輝きながら浮いていており、その体を構成しているものも機械に使われるコードに似たようなもので構成されていた。

 
 「これが……アラガミ?」


 あまりにも異質。もともとアラガミは異質なものだが、このアラガミはその中でも群を抜いて異質に思えた。


 『そう。これがここ数年で現れたアラガミ。ツクヨミだよ。本物に比べて大分劣化してるけどそこらの神機使いじゃ苦戦間違いなしの相手だからね』


 サスケェ……。いや、違うなアレはイザナミだったか。
 しかし、あのツクヨミというダミーアラガミは一向にこちらを攻撃する気配がない。くだらない想像をしているときなんて絶好の隙であったにも関わらず、精製された場所から微動だにしなかった。
 それが逆に不気味すぎる。いつものごとく一気に近付いてもいいのだが、初見の相手で強さも折り紙つきとなれば話は別だ。ここは自分の武器の性能を存分に使うとしよう。
 俺はヴァリアントサイズを咬刃展開状態へと変え、攻撃が届くギリギリの距離で神機を振る。え?戦法がセコイ?馬鹿め、勝てばよかろうなのだ。


 俺が振るった神機はしっかりとツクヨミというダミー……面倒だな、纏めてダミーツクヨミに当たった。もう腕と思わしき部分に食い込んでいるくらいは当たった。しかし、未だにダミーツクヨミは動かない。
 なにこれ?壊れてんじゃないの?


 「リッカさんこれ壊れてるんじゃないですか?」


 『ちゃんと正常に起動してるよ。これはもともとそういう仕様なの。多分そろそろ動き出すと思うから、油断しないようにね』


 彼女がそう言い終わるのと同時にダミーツクヨミの頭上に浮いていた天使の輪のようなものが光りだし、下を向いたままだと思われた頭部が動き、こちらを捕捉したような動作を行った。頭部の中心にある丸い円もなんか光ってるし、間違ってないと思う。
 ダミーツクヨミが戦闘態勢に入ったことを確信した俺は今まで以上に気を引き締める。
 ダミーツクヨミは右腕のようなものを伸ばし俺の頭を貫かんとする。さっき気を引き締めて警戒していたがノーモーションから繰り出されたその攻撃にはさすがに反応が遅れ、とっさに神機をふるって右腕を弾く。あ、右腕が半分くらい切れた。
 思った以上の脆さに動揺するが、切られた本人であるダミーツクヨミはブラブラ揺れている右腕には何のリアクションを取らず、頭上にある天使の輪のようなものからマシンガンのごとく光弾を打ち出した。
 その量は、俺の視界を光弾で埋め尽くすくらいの密度であった。


 「撃ち過ぎだろ!?」


 弾幕ゲーでももう少し隙間あるぞ!?
 あまりにも予想外な光景に思わず叫びながらも、神機をプロペラのように回して自分に当たるであろう光弾をすべて弾く。神機が何やら赤いエフェクトが走っている気もするが、気のせいだと思うことにする。自分に降り注ぐ無数の光弾をすべて防ぎ切り、回していた神機を再び構えると、足の筋肉をばねのように使い一気にダミーツクヨミとの距離を縮める。
 一方ダミーツクヨミはブラブラしている両腕を上にあげるとゆっくりとその高度を上げていく。切れかかっている腕がだらーんとしているのがとってもシュール。一体何事だと思い浮かんでいくダミーツクヨミを目で追うと、俺の頭上から光の柱が降ってきた。


 「ウェイ!?」


 慌ててバックステップを踏むが避けきるには反応が遅すぎたため、直撃こそ回避できたものの服の端は焦げ、光の柱の衝撃波により無様に地面を転がることとなった。
 ダミーツクヨミ強すぎワロタ。体は脆いものの、攻撃一つ一つが確実に命を刈り取りにかかってきている。ダミーでこれほどの強さを持っているんだったら、本家はどのくらい強いんだろうね。
 まだ見ぬ本家に戦慄しつつ、体を起こした俺は再びダミーツクヨミに切りかかった。


――――――ちなみにこの後手持ちの道具全てを使い、自分の持てる全てを出し切って何とか俺は勝利をもぎ取った。





             ――――――――――――――



 
 新たな刀身の性能と命の危機を充分に堪能した俺は、軽くシャワーを浴びた後、リッカさんと合流し、エントランスへと向かっている。


 「アレは新武装の実験なんてものではなかった……」


 そこいらの大型アラガミを相手にするときよりもよっぽど危険だよ。


 「ふふん、私とサカキ博士が合同で作り上げた傑作だからね!」


 「褒めてねぇよ」


 訓練用ダミーアラガミとはなんだったのか……。いや、アレは強い人向けの奴だからいいのかな?少なくとも武装実験の相手としてふさわしくはないな。
 えっへんと胸を張るリッカさんを尻目に溜息を吐く。結構露骨に吐いたつもりだったが、自分が望んでいたデータを取れて、ご満悦なリッカさんには効果がないようだ。


 「そういえば、今日は私が作った試作品のリンクサポートデバイスの実験に付き合ってね」


 「ここ数日ゴッドイーターしてないなー」


 アラガミは倒しているけど、純粋にアラガミを討伐するというのはこの数日していない気がする。


 「気にしない気にしない。神機使いだってどこか何でも屋に近いところあるし」


 そういうこと言うのやめようよ。


 「それはともかく。具体的にやって欲しいことだけど、試作品がしっかり起動するかというのはもちろんとして、他にはデータの摘出や必要な素材の確保とかもやって欲しいな」


 「もうこの際俺で実験することに対しては何も言いませんけど……昨日リンクサポートデバイスの臨床試験をやったばかりですよ?」


 「それはね、今回試すリンクサポートデバイスがまったく新しいタイプのものだからだよ」


 へぇ、そんな物まで作ってたのかこの人。やっぱり極東の人は優秀な人が多いな。内面はともかく。


 「いま運用されているリンクサポートデバイスは、神機の機能とは排他関係にあるから、戦闘か、支援かのどっちかしかできないんだ。でも、仁慈君に渡す試作品は、普通の神機としての機能を殺さずにリンクサポートデバイスの機能を発揮してくれる!……理論上は」


 「それはすごいですね。でも、もし試作品がうまくいっていない場合はどうなるんですか?」


 「リンクサポートデバイスの効果が発動しないよ」


 「俺の神機が止まる可能性は?」


 「……………仁慈君なら、神機がなくてもアラガミと戦えるよね」


 「おい」


 ちょっと、この人無茶苦茶過ぎるんですけど?本気で言っているのだとしたら今後どのように付き合っていくべきか真剣に考えるレベル。


 「さすがにしないよ、そんな事。もし、神機が動かなくなった場合はすぐに帰ってきて。今回の目的はあくまでも実験。アラガミ討伐は二の次だよ」


 「それは安心した。リッカさんにもまだ人の心が残っていたんんだな……」


 「どういう意味かな?」


 しまった、声に出てたか。
 俺は先の発言についてひたすら問い詰めてくるリッカさんを今朝の仕返しもかねてスルーし、極東が誇るシェフ(?)のムツミちゃんの料理に舌鼓を打ち、その後リンクサポートデバイスの実験のためにフェンリル印の車に乗り込んだ。
 最後のほうにリッカさんが微妙に涙目になっていて可愛かったです(小並感)



           ―――――――――――――――――――




 現場に着いた俺は早速、神機にリンクサポートデバイスを接続する。そしてその状態で神機の形態変更を行った。これは神機がしっかりと機能しているかどうかの確認である。神機はしっかりと銃形態に変化したので少なくとも神機は正常に動いているらしい。
 神機の状態の確認が終わると同時に、今回の実験をモニターしているリッカさんの声が通信機越しに耳に届く。少しだけ泣きが混ざっているのはスルーで。


 『……うん。神機、リンクサポートデバイス共に正常に機能してるね。この場合、仁慈君には普段よりも強い力を発揮できる効果が現れるはずだよ。』

 
 確かに言われてみれば、いつもより神機が軽く感じるし体にも力がわいてくるような感覚がある。


 『ためしに近くに居るアラガミを相手してみて。面白いデータが取れると思うから』


 「了解」


 プツンと通信を切断し、高台から地面に生えているコクーンメイデン三兄弟を見下ろす。それでは早速やってみましょうか。
 乗っていた高台からいつものごとくジャンプして降りると地面に着地すると同時に蹴って加速する。何時もこればっかりでごめんね!でもこんなことしかできないんだ!

 
 誰に言っているのかもわからない言い訳をこぼしつつ、三兄弟に肉薄する。そして咬刃展開状態にして纏めて薙ぎ払った。
 リッカさんの言っていたリンクサポートデバイスの効果なのか三体纏めて薙ぎ払ったのにまったく手ごたえがなかった。その後も、その場にひょっこりと現れたシユウさんもついでに狩ってリンクサポートデバイスの性能を確かめ終え俺は極東へと帰還した。


          
 
               ――――――――――――――



 帰還した俺はリッカさんからあの試作品の話を聞いて驚いた。実はアレ、今まで他の人でも試してみたらしいのだが一度も起動した例がなかったらしい。
 では何故俺が動かせたのかといえば、俺の謎多き力である喚起が何らかの触媒となった可能性が高いとの事らしい。
 まぁ、俺だけが使える要因といえばそれぐらいだもんな。


 「だから今後は君を通してリンクサポートデバイスの改良を行っていきたいんだけど……協力してくれる?」


 今までにない、真剣な声音でリッカさんが俺に問いかける。
 急に真面目になられるとこちらも困るのだが……誠意には誠意で返さなければなるまいよ。


 「いいですよ。ただ、また神機のことで何かあったら少しばかり優先的に取り組んでくれませんか?」


 「ばれない程度にならね」


 「充分です」


 「よっし、契約成立だね!改めてこれからよろしく!」


 「はい」


 さて、綺麗に纏まった所で俺は部屋に帰ろうかな。今日はなぜかアラガミの出現率が低く俺に仕事は入っていなかったはずだし。
 


 「あ、仁慈さん。あなた宛に任務が届いていますよ。三つほど」



 ――――俺の視界から仕事の内容を記した書類が逆流する……!うわぁぁぁぁああああ!
 




 結局その日は合計四つの任務を終わらせた。






UAが30000越えました。ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話

最近、早くもスランプに陥っている気がする。内容も毎回同じようなものに感じるし。
これが見切り発車の弊害か……。
今回は短めです。一応リザレクションの体験版は一通り終わったので次回は今回のより早くあがると思います。多分ね。









 Q.片付けても片付けてもまったく片付かないものなーんだ?


 A.仕事



 「やめろ」


 ある晴れた日の朝、ラウンジの中央にある席に座って料理を待っていると、隣に居るギルさんから静止の声がかかった。急にどうしたんだろうか?


 「ごまかすな。さっきの思考、外に出てたぞ。ここには小さい子どもが居るんだ。そういうアラガミとは別の絶望を振りまくのはやめろ」


 その小さい子どもに料理作らせてるけどね、俺等。アレも立派な仕事じゃないかな?本人も好きでやっているみたいだからいいんだけどさ。


 つーか、そうやって言ってみたくもなるさ。極東支部に来てからなんだかんだで十日間くらいたったけどさ、俺はこの十日間一日平均四つの任務をこなす日々だったんだぜ?しかも、それとは別に個人の頼みごとも回ってくる始末だ。


 「そんなにか」


 「うん。朝起きて支度して、自分宛に届いた任務をやって、その途中で追加の任務が入って、終わらせて、また入って……それを永遠と」


 もうホントこれに関しては言ったかもしれないけど、どうせ任務することになるなら初めから言って欲しい。終わったーとか喜んでいるところに追加の仕事をぶち込むとかマジ勘弁。
 それプラス、シエルのバレット実験、エミールの相談、リッカさんのリンクサポートデバイスの実験と素材集めが加わっているんだ。まぁ、このことに関しては自分の意思でやってるからしょうがないけど。


 「……そういえばお前への任務は主にサカキ支部長とラケルだったはずだが」


 「ちっくしょう」


 あの二人が俺の任務を管理してるなんて絶望しかない。人が持てる最終兵器神に祈るも、そもそもアラガミが闊歩しているこの世の中で役に立つとは思えない。神と名のついているものを殺して回っているからこうなったのかな?
 どうでもいいことを考えて、ダブルマッド博士が俺の受ける任務を決めているという事実から必死に意識を逸らす。そうこうしているうちに極東支部の若すぎるお母さん、ムツミちゃんが無邪気な笑顔と共に料理を運んできた。ささくれ立った心が癒されていくのが分かる。
 あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~
 ムツミちゃんマジ天使!
 


 「…………」


 「何さ」


 ムツミちゃんの笑顔に癒され、料理をパクつこうとしたとき隣のおギルさんからまるで質量があるのではと思うほどの視線を受けた。どうしたし。


 「……その視線……まさか仁慈、ロリコンなのか?」


 「いきなりなんて事を言い出すんだ」


 そういうこと、ラウンジみたいな大勢の人が来るとこで言うのやめてね?なんか知らないけどこの極東。噂とか情報とかが出回るのすっごい早いんだから。次の日からロリコンとか呼ばれたらさすがに泣くぞ、俺も。


 「別にロリコンじゃありませんよ。いい子を見ていると癒されるじゃないですか。毎日毎日大型アラガミ数体を刈り倒して回る物騒な日常の唯一の癒しですよ」


 ここ最近俺にまわされる任務は殆ど大型アラガミの討伐だ。ヴァジュラを筆頭にボルグ・カムランや現代兵器をブチかましてくるクアトリガというアラガミとも戦ったな。それが一日に最低三回だ。癒しを求めても罰はあたるまいよ。


 「一応俺からも口添えをしておく」


 「ありがとう……!」


 ギルさんマジ頼れる兄貴。彼に深々と頭を下げてよろしくお願いしますといってから食事を再開。大天使ムツミエルの料理を次々放り込む。その様子を見ていたギルさんも自分の目の前に置かれた料理を食べ始めた。モグモグ。
 十数分かけて、料理を完食。大天使(ムツミちゃん)においしかったよと伝え、任務に行く準備をしようと席を立ったところで、


 「あ、仁慈!こっちこっち!」


 ラウンジの壁に取り付けられているテレビの前に居たロミオ先輩になぜか手招きされた。

 
 「何ですか?」


 とりあえずロミオ先輩に近付く。彼の言葉に反応してしまったため気付かないフリをしてスルーのジツは使えないのだ。一応任務があるから長くなる用なら切り上げるけど。
 
 
 「ほら、見ろ見ろ!シプレの新曲だぞ!」


 俺を呼び止めたロミオ先輩は何時も以上の高いテンションで、ラウンジの壁に取り付けられているテレビを指す。
 どうしたんだこの人。葦原さんと会って話していたとき並にハイテンションだ。よく見たら藤木さんもテレビの前でスタンバイしているし……。
 何がなんだかいまいちよく分からないがとりあえず俺もテレビに視線を向ける。するとテレビには明るい黄色に近い金髪をツインテールにして、浮かぶ円盤の上に乗り、歌って踊る女の子の姿があった。何あれ?ボーカ〇イド?
 

 ロミオ先輩が言ったシプレ(?)の外見も違和感を感じるが、彼女が歌っている歌詞の「女の子は恋の計算が苦手」みたいのものにも違和感を感じざるを得ない。むしろ女の子ほど、さまざまな思惑や計算をして恋をする連中は居ないと思う。ラケル博士のことを考えてみろ。あの人絶対全ての物事を計算して行動してるぞ。近い将来男をたぶらかしてとんでもないことをさせそうだ。
 ……いや待てよ。
 ラケル博士はもう女の子という歳でもないし、ノーカウントかn―――――――殺気ッ!?

 
 突然、自分の背筋に冷たいものを感じた。それに対してここ最近の任務でさらに鍛え上げられた身体が反射的に警戒態勢をとった。最小限の動きで周りの様子を観察する。そうしてすぐにその原因を見つけた。
 たった今、ラウンジに入ってきたのかラケル博士が笑顔でこちらを見ていたのだ。当然のごとく笑っているのは表情だけで、彼女の目には冷たいナニカが渦巻いていた。
 うん。見なかったことにした。
 静かに視線を戻すと、移動を始めた円盤の上で電気を周囲にばら撒きながら踊るシプレ(おそらく)とその電気の影響か、神機兵が彼女に忠誠を誓うように剣を構えている。ボーカ〇ロイドじゃなくて常盤台のお嬢様のほうだったか。


 『神機兵、シルブプレ?』


 その言葉を最後に多くの疑問を残してシプレ(ほぼ確定)が画面から消える。そして次の瞬間には神機兵の搭乗者を募集するお知らせが流れ始めた。いいのか?神機兵に乗ってたらエ〇ヤ出てきたけど。


 というか、結局ロミオ先輩は俺を呼び止めてどうしたかったんだ?いや、このシプレとやらの新曲を聞かせようとしたのは俺を呼び止めた際にも言っていたから分かるんだけど、その後が分からない。聞かせてどうしようとしたのか……?
 考えても一向に分かる気配がないので、直接本人に尋ねてみる。しかし、ロミオ先輩は俺の呼びかけに反応せず、同じくテレビを見ていた藤木さんと一緒に仲良く固まっていた。
 ロミオ先輩だけならともかく藤木さんまでどうしたっていうんですかねぇ……。


 「シプレの新曲……すげぇ、いい……」


 「分かってますね、コウタさん……シプレの魅力……ガチで全開でしたね……!」


 「俺さ……大きくなったら、神機兵に乗るんだ……」


 「マジっすか……、やばいっすね……」


 ヤバイのはお前らの頭の中だよ。この脳内お花畑ども。というよりも、藤木さんまさか貴方もロミオ先輩サイドですか……。
 興奮しているのかだんだんと大きな声でシプレについて語り合う二人を見て、そう思う。しかもこの二人俺を呼び止めておいて完全に無視してるよ。俺これもう行っていいんじゃないかな?


 はぁ……とここ最近圧倒的に多くなった溜息を吐いてその場を離れる。ついでにラウンジからも出た。ラケル博士?全力でスルーしました。
 

 ラウンジを出て、結局ロミオ先輩は何で俺にシプレの新曲を聞かせようとしたのかを考えながら神機をとりにいく。まぁ、考えていてもまったく分からないので、最終的にいつものようにノリだろうと結論を付けて本格的に任務の準備を始めた。





         



 他愛なし。
 任務は特に問題もなく終わった。
 俺も順調に極東支部色に染まってきたと思うよ、うん。今回だってターゲットであるクアトリガを倒した後にその色違いが来たり、二体のヴァジュラを相手取っていたら外国にある像っぽい顔面を持ち全体的に青と白で構成されたヴァジュラの別固体っぽいものが乱入してきて、合計三対同時に相手取ったりしたけども……まぁ、ここ最近の日常だし。人間っていうのは慣れる生き物なんだということが良く分かりました(小並感)
 最近酔うこともなくなったヘリで極東に帰還して、竹田さんに任務の報告を済ませリッカさんに試作品リンクサポートデバイス改良のための素材を渡す。


 一連の行動を終えた俺は首をぐるりとほぐしてから、今日一日で体に蓄積された疲労を癒すためにラウンジへ向かう。
 そうして中に入ると、テレビの前で未だにシプレについて語り合う二人のあほの姿があった。ちゃんと仕事した後ですよね?まさか一日中そこで語り合ってたとか言いませんよね?もしそうだったらどうしてくれようか……。


 語りあう雰囲気似てるなコンビに向かって怨念を送ってると、服の袖をくいっと引かれる。一体何事かと思い、後ろを振り返ってみると、


 「この後、時間あるかしら?」


 なんということでしょう。そこには黒光りする笑顔を放つ、外見だけ病弱系清楚女性のラケル博士が……。


 「いや、それはちょっとアレなんで」


 何とか煙に巻こうと口を開くが出てくる言葉はいまいち要領の得ない言葉ばかり。そんなものでラケル博士をごまかせるわけもなく俺はそのまま彼女に連行された。


 「……そういえばシプレってラケル博士に似ているような……」


 「!?」

 
 「……ないか。胸部の装甲が桁違いだっ―――ガッ!?」


 「フフ、ウフフフフフフフ」


 その途中、余計なことを口走って、説教擬きプラス車椅子で脛を攻撃され続けたのはいい思い出でもなんでもない。


 



 






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話

遅くなって申し訳ありません。





 「ウボァー」

 
 ま、まさかラケル博士から一時間も説教を食らうとは夢にも思わなかった……しかも正座。身体的なことを言われてもいつもの笑顔で受け流すと思っていたんだが、彼女にもそういう普通の感性があったらしい。
 

 「うわぁ、ゴキゴキ鳴ってるよ」


 ずっと同じ体勢で居たので首や肩、腰を軽く捻って体を解す。動かすたびに音が鳴って若干怖い。戦々恐々としながらも早歩きでエントランスまで戻ってくる。さっきはラケル博士に拉致された所為で大天使ムツミエルのご飯食べれなかったからな。ムツミちゃんも小さいから急がないとご飯抜きになる。


 「……仁慈」


 「あれ、どうしたんですかギルさん?」


 エレベータからラウンジの入り口までの最短ルートを早歩きで移動していると、おかしな連中しか居ないブラッド隊でもっともまともな兄貴分であるギルさんに呼び止められる。
 実はギルさんから話しかけられるのは結構レアだったりする。なんというかこっちが話しかければしっかり反応してくれるが自ら会話はしないタイプなのだ。今朝話しかけられたばっかりだけど。本当ですよ?心中で無駄なことを考えていると、ギルさんが今までに聞いたことのないような声音で言った。


 「未だにラウンジで語り合っている馬鹿二人を何とかしてくれないか?」


 「知りません。管轄外です」


 そんな事言われても困るんですけど……。それに、俺が言わなくてもギルさんが少し睨みを利かせればあの二人、喜んで首を縦に振ると思うんだよ。本人には失礼だけどギルさんは怖い顔してるし。
 そう、ストレートに告げるとギルさんはギロリと目の端を吊り上げてこちらを睨む。

 
 「うん。その表情ですよ、ギルさん。というわけでそのままラウンジに行きましょうねー」


 彼の無言の抗議を華麗に受け流し、その背中に回ってぐいぐい押しながらラウンジを目指す。こんなところで足止めを食らっているわけには行かないんだ。ご飯のためにも。
 

 「よぉ、ギル。久しぶりだな」


 「ハ、ハル……さん……?」

 
 どうやらとことん俺に飯を食わせたくないらしいな。世界の修正力かナニカが働いてるんじゃないの?
 どことなく完治した病気の症状に似たようなことを考えつつ、ギルさんを呼んだ男性に視線を向ける。
 第一印象は外見はチャラ男っぽいのに内面は普通に二枚目のお兄さんと言った感じだろうか。内面のことはギルさんにかける声音と表情で判断させてもらった。多分そんな外れてないだろ。
 あ、あと専用BGMも持ってそう。\ッターン!/
 

 それにしてもギルさんの反応から言って昔の知り合い……それも結構近しい仲で尊敬もしくはそれに順する感情を持ってそうだ。さっきまで浮かべていた恐ろしい表情がすっかり鳴りを潜め、何時も通りの無愛想な表情に戻っている。

 
 「ハルさんも極東に来ていたんですね」


 「あぁ。一応ここは俺の故郷だからな。……それにしても、言ってなかったか?」


 「聞いてませんよ」


 呆れたように言うギルさんだったがその声音にはどこか歓喜の色が読み取れた。まぁ、さっきも言ったとおりそれなり以上の信頼関係を築いていたみたいだし、その反応も自然なものかな。
 せっかくの会話を邪魔しては悪いと周りの空気に自分の気配を同化させて自分の存在感を限りなくゼロに近づける。フフフ……どこからも現れるコンゴウに気付かれまいと磨いたアサシンスキルが役に立ったぜ。
 べ、別に早くラウンジでご飯が食べたいとか思ってないんだからねっ!
 ……うぉえ、余計なことしなけりゃよかった。


 何はともあれ、気配を消すことに成功した俺は足音を立てないようにスゥーっと彼らの後ろに回りこんで、反対側の階段へ向かおうとするが俺のこの行動は肩に乗せられたギルさんの腕によって阻止される。


 「(お前のことを紹介するからまだ行くな。あと、久しぶりに会って距離感がつかめないから、とりあえず居てくれ)」


 「(こいつ直接脳内に……!)」

 
 だんだんと異物が肉の中に入っていく感覚を味わいながら、戦慄する。って言うか、絶対最後に付け足したのが本音だろ。いい年なんですから一人で頑張ってくださいよ。


 「ハルさん。コイツは今俺が所属している部隊の副隊長で樫原仁慈。仁慈、この人は俺がグラスゴー支部に居たときにお世話になった真壁ハルオミさんだ」


 逃げられる前に紹介し退路を無くしたか……。仕方ない、もしもの場合ご飯はあきらめよう。


 「初めまして。一応フェンリル極地化技術開発局所属ブラッド隊の副隊長をやらせて頂いております樫原仁慈です」


 「おう、お前さんが噂のブラッド隊の副隊長さんか。思っていたより若いな……。俺は真壁ハルオミ、さっきギルが言っていた通りこいつとはグラスゴー支部に居たときからの知り合いだ。ギルがなにかやらかしたら遠慮せずに言ってくれ。こいつの扱いに関してはプロ級だ」


 「ハルさん……」


 カラカラと笑う真壁さんに対してギルさんは肩落としている。どれもこれもあまり見ない反応で新鮮だなぁ。


 「あ、そうだ言い忘れてた。俺も一応極東の第四部隊の隊長をしてるんだ。ナニカの任務で一緒になったときはよろしくな。ま、隊長といっても俺を含めて二人しか居ない部隊だけどな」


 そう言った直後、真壁さんの背後にある階段の上から女の人の声が聞こえて来る。なんかファミレスでいつも皿を割ってそうな声だ。



 「ハルさーん。サカキ博士への報告、先に行ってますよー」


 「へいよー。……あれが第四部隊の唯一の隊員、台場カノンちゃんだ。神機使いとしての腕前はちょっとアレだが、胸が大きいからいいかなって思ってる」


 「……ハルさん。また査問会に呼び出されたいんですか」


 "また”ということは過去に呼ばれたことがあるのか……。内容はセクハラといったところかね?


 「大丈夫だ、問題ない。……さて、あまり引き止めてもあれだし何よりカノンちゃんが先に行っているしな。そろそろ行くわ。………ギル、今度一緒に一杯やろうぜ」


 ギルさんにそういい残して真壁さんは、階段を登って行ってしまった。一方残された側のギルさんはなにやら複雑そうな顔で階段を登っていった真壁さんを見送っていた。
 多分、ブラッドに来たときに荒れてた理由は真壁さんにも関係あるんだろう。
 

 まぁ、本人がなにか言わない限りは関わらないけどね。何も知らない奴がなにかいっても効果は見込めないし、逆に火に油を注ぐようなことになりかねない。
 下手に聞いていつぞやのロミオ先輩のようになったら目も当てられない。こういう場合は助けを求められたら助けるというスタンスが一番いいのさ。




           ――――――――――――――――――



 「死ぬがよい」


 咬刃展開状態のヴァリアントサイズを振り上げた後、目の前に居るボルグ・カムランに向かって全体重を乗せて振り下ろす。ボルグ・カムランも急いで両腕を合わせて盾を作り俺の攻撃を防ごうとするが、残念ながら俺のほうが早かった。ボルグ・カムランが盾を作る前にヴァリアントサイズはその頭上に突き刺さった。その光景が真剣白刃取りを失敗したみたいで少し笑えた。「キッシャァァァア!!」と声を上げながら苦しむボルグ・カムランを楽にしてやろうと咬刃展開状態の神機を元の形に戻す。その際元の形に戻ろうと蠢く刃がボルグ・カムランの頭を削りながら戻ってくるのは仕方のないことである。え?楽にしてやるんじゃないかって?アレは嘘だ。


 神機が元の形に戻るころにはボルグ・カムランの体は真っ二つに切断されていて子どもが見たらトラウマになること間違いなしのスプラッタな状態になっていた。
 いつぞやに手こずらせてくれたお返しと張り切った結果なのだが、どうやらやりすぎてしまったらしい。


 「竹田さん終わりましたよ」


 『はい。こちらでも確認しました。珍しいことに今回は乱入してくるアラガミが居ませんでしたね。おかげで私も安心してサポートできました』


 「なんかごめんなさい」


 オペレーターの皆様には何時も感謝しております。何故だか分からないけど俺が任務を受けると十中八九他のアラガミが乱入してくる。そんな環境下でも死なないで生き残れたのはオペレーターのサポートのおかげである。一応俺もアラガミについては勉強しているが、まだまだ足りないことが多いからなぁ。


 「それで次の任務は何でしたっけ?」


 『エイジス島に出現したアラガミの掃討です。第一部隊と合同の任務になりますね』



 「分かりました。今から向かいます」


 
          ―――――――――――――――




 「ということでやってきました。よろしくお願いしますね、藤木さん」


 「なかなかすさまじいな、お前」


 平気な顔をして、エイジスにやってきた仁慈に思わずそう言ってしまう。こいつの姿が俺の友人兼同期にどうしても重なるんだよなぁ。実際、神機使いになってまだそこまで時間が経過していないにも関わらずブラッドの副隊長なんて役職についてるし。極東の神機使いから見ても戦い方があいつやリンドウさん並のキチ〇イ戦術だし。今だって、


 『ガアァァァアア!!』


 「海へ帰れ」


 『仁慈さんが海から現れたグボロ・グボロを神機で弾き返しました!グボロ・グボロは撤退した模様です!』


 「あの人が使ってんのヴァリアントサイズじゃないの!?」


 「フッ、我が友がそこまでするのなら僕も黙ってみているわけにはいかない。行くぞポラーシュターン!エミールスーパーウルトラシャイニンググレート騎士道ぉぉぉぉおおおお!!」


 「あぁ……もう!こうなったら私もやってやるんだからっ!」


 あーあ、仁慈に影響されてエミールは突っ込んで行くし、エリナはエリナで限界点振り切って行っちゃったし……もう駄目かもわからんね。
 でも、それで何とかうまくいっているのもあいつとそっくりだな。……まるで本当にあいつと一緒に仕事してるみたいだ。


 「これで粗方片付きましたね」


 ダン!と音を立てて今しがた自分が倒したアラガミの死体を踏みつける仁慈。ナチュラルにひどいな。


 『――――!?ここから南方約1kmの地点に大型アラガミの反応あり!ものすごい速度でエイジス島に向かっています!接触予測時間はおよそ二十秒!』


 「はいはい。いつものこといつものこと」


 切羽詰ったヒバリさんの声に投げやり気味に仁慈が呟く。その様子に若干同情しつつ俺はみんなに指示を出す。

 
「げっ!?マジかよ、ついてないなぁ……。陣形を整える!仁慈は前方その後ろにエリナ、エミール後方に俺が配置し、アラガミが来たらみんなで袋叩きにしてやれ!」


 そうして全員が配置についたところでヒバリさんが言っていたアラガミがエイジスに侵入を果たした瞬間俺は目を見開いた。


 「カリ……ギュラ……ッ!?」


 そう。エイジスに進入してきたアラガミは近年報告されるようになったハンニバルという竜のような風貌を持ったアラガミの神属接触禁忌種であるカリギュラであった。接触禁忌種と銘打っているだけあり、その戦闘力は非常に高く未だ新人の域を出ないエリナとエミールではかなり厳しい相手だ。

 
 しかも、普通のカリギュラが青色であるのに対しこのカリギュラは赤色をしている。ここに来て新種とかマジで勘弁して欲しいね……!


 「やだ、かっこいい……」


 「言ってる場合!?さっきといい今の反応といいアンタおかしいんじゃないの!?あのアラガミは接触禁忌種なのよ!?普通の神機使いじゃ相手にならないんだから」


 「もうすでに何体か狩ってるからへいきへいき」


 「しまった。コイツ普通の神機使いじゃなかった……」


 あまりにも場違いな仁慈の反応にすぐ食いついたエリナだったが、仁慈の言葉を聞いて呆れ天を仰いだ。
 俺も驚いた。まさかもう接触禁忌種とも戦っているのか……。あれ?あいつよりおかしいんじゃないか?

 
 「それにコイツ、すでにいくつもの傷を負っています。おそらくは体の回復のためにここに来たんでしょう。回復しに現れたのに戦闘を行うなんて本末転倒なことはさすがにしないと思いますよ」


 確かに、よくよく見てみれば赤いカリギュラの片方の腕にある篭手は破損しているし、首元には誰かの神機が刺さったままである。背中にある翼状のブースターも欠けているし軽くない傷を負っていることが確認できた。
 赤いカリギュラは低い声でうなりながらこちらを向いていて、仁慈は笑顔でそれと真正面から向き合っていた。数十秒お互いに見合った後、赤いカリギュラはクルリと体を翻し、エイジスの穴から外へ出て行った。……逃げたのか?


 「はぁ~~~……よかった、生きてた……」


 「くっ!騎士でありながら……動けなかったとは……不覚……ッ!」


 がしゃん


 自分の持っていた神機を落とすと同時にその場にへたり込んだ二人。まぁ、新人にはつらいよな。
 それにしても……


 「これはしばらく荒れるぞ」


 「そうですね」


 今回は見逃してもらったが、どこかで傷を回復させているに違いない。極東地域で行う任務にあいつが乱入してくるという想定を常にして行動をしないと駄目だな。まったくどうしてこうポンポン厄介ごとが舞い込んでくるのか。
 ホント極東は地獄だぜ!フゥハハハーハアー!……はぁ。

 


 


 

 





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三話

どうして何時も何時もイベント直前で終わってしまうのだろうか……。
今回もシエルのときと同じで、ルフス・カリギュラ戦には入りません。それは次回となります。






ドクンドクンと心臓が大きな音を立てて脈を打つ。その大きさは周囲の人にまで聞こえているのではないかと思えるほどだ。現在俺は目の前の人物に壁際まで追い詰められている。顔の横には腕がありいわゆる壁ドンと呼ばれる体勢だ。


 目の前の人物もなにやら興奮しているのかその息は荒く、目は鋭くぎらついている。俺はその目を見るたびに心臓が早くなるのを感じていた。だんだんと距離が縮まっていく。気がつけば目の前には俺に壁ドンをしている人物の顔があった。


 あぁ。認めよう。今俺が抱いている感情を。目の前の人物のことを見ていると胸の鼓動が早くなる。その目を見ていると身体が石になったように動かなくなる。そう、俺が抱いている感情は――――――――








































 ――――――――――――――恐怖だ。



 「仁慈お前、エイジスで赤いカリギュラを見たって本当か!?そいつはどこに行った!?さっさと答えろ!!」


 「答える、答えますから!ちょっと離れてくれませんかねぇ!?」

 
 唇が接触しそうなくらい近いので色々と危ないんですけどっ!?
 
 
 グイっとさらに顔を近づけてくる目の前の人物―――ギルさんを何とか引き剥がして距離をとり息を整える。深く深呼吸をしながら俺は周囲で顔を赤くし、俺とギルさんをちらちら見ていた連中を睨みつける。てめぇら黙ってみてないで助けろや。あ、ちなみに妙に興奮した様子でこちらを見ていたラケル博士は全力でスルーの方向で。今のあの人はいつもとはまた別のベクトルで怖い。なんていうか、腐のオーラが半端ない。 
 さて、どうしてこうもラウンジがカオスな状況に陥っているのかというと、俺があの赤いカリギュラ?と出会って追い返し、無事に極東支部に帰還したときのことだ。

 


            ――――――――――――――――――――――


 
 いつものごとくラウンジで食事を取っていると、つい最近に会ったギルさんがお世話になったという真壁ハルオミさんが話しかけてきたのだ。内容はギルさんの過去。おそらく彼が今も抱え込んでいるもいるものについてである。
 

 「俺たちが居たグラスゴー支部は、俺とギルを含めて神機使いが三人しか居ないちゃっちい場所だったんだ。で、そのもう一人の神機使いが俺たちのチームの隊長を務めていた。名前はケイト……ケイト・ロウリー。ま……俺の嫁だったんだけどね」
 

 「………」


 「なんでそんな疑わしそうな目で見るんだよ」


 「だって真壁さん。いかにも三枚目って感じじゃないですか」


 「お前三枚目男子なめんなよ?いまどき顔だけの二枚目より女性を楽しませたりすることができる三枚目のほうがモテるんだぜ?……って違う違う。そんな事を話したいわけじゃない。話を戻すぞ」


 真壁さんが咳払いをして変な方向に行きかけた雰囲気を直し、再び語りだす。


 「さっきも言ったように俺たちの支部は三人しか神機使いが居なかったわけだが、極東みたいにわんさかアラガミは沸かないし、大型アラガミだって数ヶ月に一回現れるか現れないかくらいのものだったから、何とかなってたんだ」


 「その日も小型アラガミ数体の掃討っていう簡単な任務でな。ちっとばかしアラガミ同士の距離があるから二手に分かれてさっさと終わらせようって別々にアラガミを狩った。俺のほうはすぐに終わったさ。たかがオウガテイル三体だからな。でも、ケイトたちのほうはそう行かなかったらしい。通信がかかって来てケイトの切羽詰った声が聞こえてきた。なんでも今までに見たことのない新種だったらしい」


 「俺はすぐにケイトたちに合流しようとした。だが、距離が離れていたために二手に分かれたんだ。そう簡単に合流できるはずもなく、俺が到着したころにはもうケイトの姿はなかった。あるのはケイトの服の一部を地面に縫い付けているギルの神機と赤い腕輪を抱いてただただ泣いているギルだけだった……」


 真壁さんの握っているグラスがピキっと嫌な音を立てる。おそらく真壁さんはそのときのことを思い出し、自然と腕に力が入っているのだろう。


 「……あいつは俺に気付くとひたすらに謝ってきたよ。ケイトは新種のアラガミとの戦闘で神機使いの命綱である腕輪をやられて、アラガミになるまで時間がなくギルに自分を殺すように頼んだらしい。それでギルも苦しい葛藤の末にケイトの頼みを受けた。多分ギルが無愛想な態度をとるのは怖いからなんだろうな。一度、大事なものを自分で壊したからこそもう二度とそんなものは作らないとしているのかもしれない」


 なるほど。これが一番最初に会ったころ、ロミオ先輩を殴り飛ばした理由か。大事な人を殺すという体験したグラスゴー支部のころのことを聞かれてつい反射的にやってしまったんだろう。真壁さんが言うには、マスコミがギルさんのことについて好き勝手聞いて、言いふらしたらしいからな。そうやって自分の記憶を探って考えている俺の姿を思い話で沈ませてしまったと思ったらしい真壁さんは声音を先程までの重苦しいものではなく、初めて会ったときのような明るい声音に変え言葉を紡ぐ。


 「いや、悪かったな。こんな思い話をしちゃって」


 「別に大丈夫ですよ。……ただ、どうして俺にこの話をしたんですか?」


 真壁さんとは昨日会ったばかりで、しかも軽く自己紹介をした程度の仲である。そんな人に自分の大切な仲間であるギルさんの抱えているものを話したのはいささか不自然に思う。
 

 「……あぁ、それはな。お前がケイトに似てるからだよ。実力の話じゃないぞ?俺のケイトはお前みたいな化け物じゃない」


 「今の言葉いりましたかねぇ……」


 「念のためだよ念のため。でだ、何が似てるかって言うと雰囲気だな」


 「雰囲気ですか?」


 「そうだ。何とて言うかこう、その場に居るだけで活力が沸いてくる存在というか『コイツと一緒なら何でもできる』と思わせてくれる……そんな雰囲気だ」


 「へぇー自分のことだからかあんまりそうは思いませんけどね。どちらかといえば『コイツまた何かやらかしてくれるんじゃないだろうな』と思われてそうですけどね」


 「それは……あー、確かに」


 「ですよね」


 俺なりに今までの噂を考慮して考えた結果である。正解だという自信ははあった。同時に悲しくもなったが。
 普通にすればいいじゃないと思われるかもしれないが、ぶっちゃけ相手の意表を突くということで俺の行動も割かし有効だったりするのだ。アラガミだって俺の今までにない動作に動揺し、自身の動きを止めていたこともある。つまり、今まで俺は好き勝手に動いていたのではなく、あえてそうしていたのだッ!


 「それは結果的にそうなっただけだろ……ったく、真面目な話をしていたはずなのにそんな空気じゃなくなっちまったな」


 「シリアスなんてくだらねぇ!俺の話を聞けー!」


 「色々混ざってんな……ま、いいや今日は話を聞いてくれてありがとうな。また一杯やろうぜ。今度は楽しい話をつまみにしてな」


 持っているグラスを一気に傾けて中身を空にすると、そういい残して席を立とうとする。……あ、そういえば。


 「すいません。今更聞くのも何なんですが……ギルさんたちと交戦したアラガミってどんなのなんですか?」


 「ホント今更だな……空気入れ替えてから聞くか?普通……ギルが言うには相手は『赤いカリギュラ』だったらしい」


 赤い……カリギュラ……?ま、まさか。こんなことがありえるのか?でも首元に神機刺さってたし、いくらか傷も負っていたし……。というか、先の出来事は何年前の話だ?


 「そうですか。ちなみにその出来事が起こったのはいつですか?」


 「2071年。今から三年前のことだ」


 「なら……ケイトさんが持ってた神機、全体的に淡いピンク色で刀身はロングブレード、銃身はアサルトじゃありませんか?」


 「――――――――――っ!?どうしてお前さんがそれを知ってる。話を聞いていた様子からすると知り合いってわけではなさそうだが……」


 俺の質問に息を呑む真壁さん。その反応を見れば俺の言ったことが正解だということが分かった。これは確定かな。
 あの、赤いカリギュラの件はかなり危険なので、サカキ博士をはじめとする極東の偉い人達にはすでに伝えてある。おそらくは明日にでも情報が回ってくるだろう。なら、本人に言ってもいいかな。特に隠すほどのことじゃないし万が一、一人で倒しに行こうとしたらとめればいいだけだ。


 「……落ち着いて聞いてください、真壁さん。実は今日の任務で首に先程言った神機が刺さった赤いカリギュラと接触しました」


 「――――――――本当か?」


 急に与えられた怨敵の情報に今まで浮かべていた表情を全て消し、能面のような顔で確認を取る真壁さん。


 「はい。サカキ支部長並びにそれに近しい役職の人にオペレーターのヒバリさんにはすでに報告してあります。多分、明日にでも正式に情報が出回ることになるでしょう」


 「そうか………ようやくだ。ようやく、過去に決着をつけるときが来た……。仁慈、ありがとうな。そのこと教えてくれて」


 「いえ、どうせ明日にでも知れ渡る情報ですから。……先程も言った通り、明日には極東支部にいる人にはこのことが伝わり、討伐任務が行われるでしょう。急ぐ気持ちも分かりますが、今日のところはゆっくり休んだほうがいいと思いますよ」


 「ハハッ、さすがに今から行こうとは思わねぇよ。まぁ、心配してくれてありがとうな。俺は大丈夫だが、万が一ギルがこのことを知ったらお前さんのほうで止めといてくれ。あいつ絶対に一人で行こうとするぞ」


 「アハハ、そうですね。もしそうなったらそうしておきます」


 その後、お互いに笑いあって真壁さんはラウンジを出て行った。彼を見送り、まだ少しばかり残っていたご飯を完食しようと再び料理に向き直ろうとしたとき、ものすっごい形相で近付いてくるギルさんを見たのであった。





         ――――――――――――――




 まさかもうすでに情報が出回っているとは思いもしなかった。サカキ博士仕事はっやーい。
 


 「で、俺の答えですけどあの赤いカリギュラがどこに行ったのかはわかりません」


 あっという間にどこかに行ってしまったしな。方向だけはかろうじてわかったが、詳しくどこに行ったのかなんて分かるわけがない。おそらくその辺はすでに極東支部が動いているはずだ。

 
 「そうか……つかみかかって悪かったな」


 それだけ言い残して、どこかに――――おそらく赤いカリギュラを探しに行こうとする――――ギルさんの腕をつかむ。
 唐突に腕をつかまれたギルさんは今までで一番怖い顔で振り向いた。完全に堅気じゃない顔をしていらっしゃるぜぇ……。


 「何のまねだ」


 「もうすでに観測班による捜索が始まっています。大まかな場所も搾り出せているので明日にはあの赤いカリギュラの居場所も分かるはずです。なので、今日はゆっくり休んで英気を養いましょう」


 「いや、でも……俺は……」


 「今日はもう日が沈みかけていますし、ギルさんだって今日の任務の疲れが残っているでしょう?そんな状態で勝てると思ってるんですか?」


 ジトーという視線をギルさんに送る。俺が言っていることを正論だと考えているのか、ぐっとたじろいだ。このままいけるか?


 「だけど……っ!」


 やっぱり駄目か。まぁ、こっちが無理を言っている側だということは分かっている。三年間も、自分の無力さを嘆いていたであろうギルさんにとってはこの「待つ」という選択肢は非常に酷だ。彼からすればもう充分待ったのだから。
 けど、こっちだってハイ、そうですかといって見送るわけにはいかない。俺は気で戦闘力を測るなんてZ戦士みたいなことはできないが、あのにらみ合いであのカリギュラの実力は分かっている。少なくとも疲労の色が見えるギルさんでかなう相手ではない。
 うーん、こうなっては仕方がない。少々強引だけど……。

 「仁慈、いいから離せ!これは俺の問d」
 「ATEMI」


 ドサッ


 ギルさんの体がラウンジの床に落ちる。
 いっても聞かないならこうするしかないな。すみません、ギルさん。明日になれば真壁さんも居るし、堂々と戦えますから今はゆっくりと寝てください。
 よっこいしょと、ギルさんの体を肩に担いで運びながら俺はそう思った。
















目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四話

期間をあけた割にはたいした物がかけなくてすいません。
今回は視点および場面がコロコロ変わって見づらいかもしれません。






 最終奥義ATEMIによって、なかなか休もうとせずあまつさえ赤いカリギュラに単独で挑もうとするギルさんを無理矢r―――げふんげふん安らかな眠りに誘った後、本人のベットまで米俵スタイルで運ぶ。そのままベットに寝かせて軽く身体を解してあげる。これは明日のカリギュラ戦に万全の状態で望むための処置だ。大丈夫、整体の心得はある。通信教育で受けただけだけど。
 さて、ギルさんが眠ったところで俺も早めに寝ましょうねと自室へ直行。お風呂と着替えを手早く済ませたところで「ビビィー!」なんて音と共に自室に設置してあるターミナルがメールの受信を知らせてきた。一体誰よ。
 無視してもよかったんだが、読むだけ読んでおこうということで半分ベットに埋まった体を外に出してターミナルを操作する。メールの送り主はサカキ支部長。


 見なければよかった……。


 早くも自分の行動に後悔しこのままそっとターミナルの電源を落としたいのだが、こういう場合見ないほうがよっぽどひどい目に会うため勇気をもってメールを開く。


 『やぁ。赤いカリギュラとの件はすでにコウタ君とヒバリくんから聞いているよ。手負いとは言えアラガミと視線を交わすだけで追い返すとは実に興味深いよ。時間が合えば一度じっくり君の体を調べてみたいね』


 削除削除削除削除ぉ!!こんなものを夜中に送ってくるなんて何考えてんだあの糸目。寝れなくなったらどうしてくれるんだ……。
 未だ文の前半部分なのにすでに俺の精神ポイントは底をつきそうだ。本人に直接言われるよりはマシだと己に言い聞かせ画面をスクロールしていく。


 『おっと話がずれてしまったね。……君も予想していると思うが、私たちはこの赤いカリギュラに対抗するために討伐任務を発行した。このアラガミはただでさえ接触禁忌種であるカリギュラがさらに変異を起こした個体であり、かなりの力を有しているだろう。だから可及的速やかに倒す必要がある。こんなものがすぐ近くに居たらどれほどに犠牲が出るか分からないからね。そしてその討伐に向かう人も決めてある。君にハルオミ君、ギルバート君だ。彼らはあの赤いカリギュラとは少々因縁があるらしく、おそらく単独で倒そうとするはずだ。だったらはじめから討伐の任務に組み込もうというわけだね』


 まぁ、予想通りだな。俺がギルさんにああいった手前、討伐任務に就けなかったら意地でも挑みにいくだろうしその判断は非常に助かる。
 けれど、俺まで組み込まれているのは一体どういうことだ?ジュリウス隊長とか藤木さんとか居るだろうに。


 『ジュリウス君とコウタ君には別の任務が入っているんだ。どちらも外せないもので、どうやっても赤いカリギュラの任務には入れない。だから君が入ることになったんだ』


 メールで俺の心を読むなよ。


 『まぁ、実際今の理由は後付で初めから君は組み込むつもりだったけどね』


 なら、今の文章要りましたかねぇ?


 『一応報告しておこうと思っただけさ。それに、君を組み込む理由はしっかり正当性があるものだ。赤いカリギュラというとびっきりのイレギュラーに対抗するためにはこちらも樫原仁慈というとびっきりのイレギュラーで対応するしかないと思ってね』


 まぁ、分かってた(諦め)。
 

 『君に伝えておきたいのはこのくらいかな。では仁慈君。健闘を祈るよ』


 最後までスクロールし終え手紙の内容を全て読みきった俺はふぅーと息をゆっくり吐いた。
 よし。手紙も見終わったことだしさっさと寝よう。



――――――この日の睡眠はいつもより眠りが深かったです。






             ―――――――――――――――――






 「仁慈……話したいことがある」


 主に昨日の当身と今までにないくらいに調子がいい俺の体に関しての話をなぁ……!
 

 「どうかしましたか?ギルさん」


 
 なんて白々しい返答だ。意識を失う寸前に背後に回りこんだお前を見たんだぞ俺は。


 
 「けど、あのまま話し合いを続けてたら絶対一人で行こうとしましたよね?むしろ行く寸前でしたよね。俺のこと強引に押しのけて」


 「ぐっ……!」


 
 「昨日も言いましたけど、絶対返り討ちにあいますよ?この三年間で強くなったのは何もギルさんだけではありません。向こうも手負いの状態で三年間生き残ってきているのですから相応のコンディションで挑まないと」


 次々と仁慈の口から繰り出される正論に思わず押し黙ってしまう。実際、仁慈のいっていることは正しい。確かに俺はこの三年間であの時とは比べ物にならないくらいに強くなった。そうなるように努力した。しかし、それは向こうも同じことだ。大型アラガミであるヴァジュラもオウガテイルに食われているという事実から考えてみればあの赤いカリギュラも多くのアラガミから狙われたに違いない。それを手負いの状態で退けていたということは、向こうも三年間の間に強くn―――ってまてまて。何でコイツがそのことを知っている?
 

 「おい仁慈。何でお前がそのことを知ってる?」


 「………あっ」


 分かりやすい反応だなおい。だからといって容赦はまったくしないがな。


 「誰から聞いた?」


 「あー……えーっと……」


 右へ左へせわしなく視線を動かす仁慈。ま、コイツの三年前のことを教えた人は大体見当がついている。このことの根幹に関わる部分を知っているのは俺とあの人しか居ないしな。


 「おーいギルー。そんな怖い顔で聞いてやんな。コイツにあのこと教えたの俺だからさ、あんま責めないでやってくれよ」


 「ハルさん……こいつは関係ないんですから巻き込まないでくださいよ……」


 「ばっかお前分かってねぇな。イレギュラーにはイレギュラーで対抗するって昔っから決まってんだよ」


 「真壁さんまでそれを言うのか。何?流行ってんの?最先端なの?」


 「確かに仁慈なら何しても死ななさそうですけど」


 だからってほぼ関係ない奴を危険な目に合わせるのはいまいち納得がいかない。何割か位はおれ自身の手で奴を倒したいという考えだが、まだ若いコイツに無理をしてほしくないという思いもある。


 「だろ?それにこれは正式な任務だ。メンバーはここに居る三人。サカキ博士がどうやら手を回してくれたらしい。まったくあの人はどこで情報を拾って来るんだかねー」


 プライバシーも何もあったものじゃないよなとハルさんは呟き、一通り笑うと今までの雰囲気をがらりと変えて真剣なトーンで話し始める。


 「なんにせよ、サカキ博士は俺たちにこの機会を与えてくれたんだ。無駄にすることはできない。分かってるな?」


 コクリと仁慈と共に首を縦に振る。
 そうして、各々がそれぞれの準備を済ませ、出撃ゲートをくぐっていった。






                ――――――――――――――





 『観測機器およびその他のものも正常に作動しています。これより、変異したカリギュラの名称をルフス・カリギュラとし、その討伐を開始します。あのルフス・カリギュラについてはほぼ何も分かっていないため、慎重に戦ってください』


 まぁ、そうなるよな。
 何も分かっていない敵が相手となると、戦いながらそいつの戦闘パターンを把握して対応するしかないし。


 通信機を通して聞こえる竹田さんの声にそう思考しながらも、運送用のヘリコプターから跳び下りて愚者の空母の上に着地する。ちょっと足痛めたわ……。


 「おい、そこの馬鹿。これからルフス・カリギュラと戦うってんのに何やってんだ」


 「調子乗ってヘリから跳び下りて足くじきますた;;」


 「アホ」


 一言で切られたでござる。全面的に俺が悪いから何も言い返せないけど。


 「おいおい、大丈夫か?少しでも違和感があったら言えよ?今すぐ送り返してもらうからな」


 「大丈夫です」


 このまま極東支部に帰りましたーとかさすがにあほ過ぎるわ。幸い、特にこれといった支障はないためその旨を真壁さんに伝える。こちらが嘘を言っていないことが分かったのか彼は俺から視線を外し、愚者の空母で何かを捕食しているルフス・カリギュラに視線を向けた。


 「さて、これからアレをどう倒すかだが……ギル。この中で唯一交戦経験のあるお前からなんか良い案ないか?」


 「そう……ですね。俺が戦ったときは通常のカリギュラと殆ど変わらない動きをしていました。ただ、攻撃を正確に防御したりタイミングを見計らった回避行動をとっていました。それもずっとこちらに視線を向けたままで」


 ギルさんの言葉を聞いたとたんに真壁さんが顔を顰めた。多分俺も同じような表情をしていると思う。


 「本能に従っての防御、回避ならいいんだけどなぁ……」

 
 「タイミングを計る。ずっとこちらに注目している……カウンター叩き込む気満々ですよね」


 これはかなり厄介だぞ。うかつに攻撃すると返り討ちに遭いかねない。最もリスクが少ない…というか有効だと思われるのはルフス・カリギュラが反応できないくらいの速度で攻撃を仕掛けるか、超変態的な機動で撹乱するといったところだろう。でもアラガミが反応できない速度って自分で言ってて現実的じゃないよなぁ。
 一応、対抗策ということで真壁さんにこの考えを伝えてみる。俺の言葉を聞いた真壁さんは少しだけ考えた後、スッと人差し指をこちらに向けた。


 「お前なら変態的機動、できるんじゃないか?」


 「あー……」


 できる……だろうか?身体能力から考えれば、神機使いになって飛躍的にあがっているからある程度の動きならアニメとかの模倣ができると思う。


 「なに、迷うことはないぞ仁慈。俺は実際に見たことはないが、他の人の話を聞いている限りいつも通りの動きをしてくれれば良い。それが変態的機動だ」


 「どういう意味だ」


 「確かに」


 「ギルさん!?」


 俺に味方はいなかった!
 いや、もう俺の動きが普通じゃないのは自覚しているけどさ。変態的はないと思うんだ……。


 「よし、それじゃ決めることも決めたし行くか!」


 「はい」


 「よかろう。そこまで言うならやってやる……!」


 なんとなくグダグダな感じだがこんな感じでルフス・カリギュラ戦が始まった。緊張感に欠けるけど、恨み辛みを抱え込み気張って戦うよりは良いと思う。




             ――――――――――――――――



 
 ―――――あんなこと言わなければよかったと若干後悔している。
 

 銃形態にしている神機からオラクル細胞を圧縮した弾をルフス・カリギュラに叩き込みながら俺はそう思った。
 今、俺の目の前にはチャージスピアを引き、ルフス・カリギュラを攻撃しようとするギルとその意識を自分に向けるために変態機動を行っている仁慈が映っている。


 「ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエ………」


 「はぁぁあああああ!!」



 あの絵づらやばいわ。超シュール。
 真面目な顔でチャージスピアを構えているギルが近くにいるからさらにそう思える。これがケイトの弔い合戦だって言うんだからなぁ……。
  
 
 とにかく、仁慈に気をとられていたルフス・カリギュラはギルの攻撃に反応でできずに右肩にギルの神機が突き刺さった。苦しげな声を上げたルフス・カリギュラは右腕を振り回し、肩に乗っているギルを刺さっていた神機ごと振り払った。
 それにより宙に投げ出され、無防備となったギルにルフス・カリギュラは口に溜めた蒼いエネルギーをぶつけようとする。
 

 だがそれは、仁慈があご下を蹴り上げて無理やり口を閉じさせたことにより不発に終わった。自分が溜めたエネルギーが口内で爆発したことによりよろける、ルフス・カリギュラに俺も神機を元の形に戻して切りかかる。向こうもほぼ無意識で俺の攻撃を翻すが、反応がわずかに遅く顔を結合崩壊させた。


 「■ ■ ■ ■ ■ ■ ■――――――!!!」


 顔面の結合崩壊で怒り状態になったのか咆哮をひとつあげると、そのまま両腕を広げて俺のほうへ突進してきた。
 足に力を入れて跳躍して回避しようとするが、横から銃形態の神機を構えた仁慈がルフス・カリギュラの顔面に弾を2、3発撃ち込み動きを鈍らせた。
 なので急遽変更。跳躍しようとした力を前方に向けて一気に肉薄しすでに部位破壊されていた右腕にバスターを振り切った。
 これにはルフス・カリギュラもたまらず腕を抱えて地面にうずくまる。
 これをチャンスと捉えたのか、ギルはひたすらに顔面にチャージスピアを突き立て、仁慈はドゥエドゥエ言いながらヴァリアントサイズを振るっていた。どこからどう見ても袋叩きだが生憎と化け物に容赦してやるような精神は持ち合わせちゃいない。俺やギルはもちろん仁慈もこれでもかというくらいに、ルフス・カリギュラを攻撃した。その甲斐あってか、しばらくうめき声を出していたルフス・カリギュラは完全に沈黙し、わずかにしていた痙攣もしなくなった。
 

 「ふぅ、これで終わったかな?」


 今の今までドゥエっていた仁慈が神機を担ぎ上げて言う。ギルもしばらくルフス・カリギュラを睨んでいたようだが動かないと思うとフッと体から力を抜いた。どこかあっけなかったが、実際はこんなものなのかね。………ケイトお前の敵は―――――


 「■ ■ ■ ■ ■ ■―――――!!!!」


 突如、周囲を揺るがす咆哮が響き渡った。気を緩めていた俺やギル、仁慈はいっせいにその方向を向く。
 原因はさっき倒したと思ったルフス・カリギュラだ。


 「おいおいマジかよ……こいつはしつこい奴だぜ」


 バックステップを踏みながら思わず呟く。


 「しまった。フラグだったか……」


 仁慈も何かを呟きながら後ろに下がった。しかし、ギルがいない。
 そのことに気付いた俺はすぐにルフス・カリギュラのほうに視線を向けると
そこにはルフス・カリギュラの右腕に吹っ飛ばされるギルの姿があった。



               
              ――――――――――――――――――




 「ぐっ……!油断した……!」


 ルフス・カリギュラに紙くずのようにぶっ飛ばされ、壁に激突した俺は思わず自分が情けなくなった。
 仁慈の変態機動のおかげで、精神面はいつもとそう変わりないものになっていると思ったがそうではなかったらしい。ルフス・カリギュラが動かなくなったあの瞬間俺は思わず敵を取れたんだと感傷に浸ってしまった。その所為でこのざまだ。幸い、骨が折れたということはなく、体のいたるところは軋むが動けないというほどではなかった。
 すぐに起き上がり、ハルさんたちに加勢しようとしたとき、俺の目の前で仁慈の神機が吹き飛ばされルフス・カリギュラが両腕を大きく広げ仁慈に向けて突進をしようとしていた。このままでは仁慈は死ぬだろう。



 まただ。また俺はこうして大切な人を失うのか?



―――――――――――否!断じて否である!



 俺はこの三年間で強くなった!俺はあの時とは違う!あの時と同じことを繰り返さないためにこうしてここまで生きてきたんだ!

 
 軋む体を無理矢理動かしチャージスピアにエネルギーを溜める。もうすでにルフス・カリギュラは仁慈のすぐ近くまで来ていた。さすがの仁慈も神機がないと対抗できないのであろう、ずっと固まっている。

 
 このままだと確実に間に合わない。


 今の俺に足りないものは何だ?


 力か?


 ――――――否、力があってもあたらなければ意味がない。

 
 技術か?


 ――――――否、今この場にあっても仁慈を助けることはできない。


 ならば、何が足りない?


 ―――――決まっている。………速さだ。



 そう思い浮かんだときに自分の中の何かがはじけたような気がし、神機の先端から赤いエフェクトが発生し、俺の周りを包み込んでいき周囲の風景が先程よりも早く流れているように感じられた。
 

 これならいける!


 理論などといった小難しいことではなく、本能でそのことを理解する。そして俺はその本能のままにチャージが完了したチャージスピアを構え、地面を強く蹴り上げると同時にそのエネルギーを開放した。



 「届けぇぇぇえええ!!!」


 
 そう思いを込めた突撃は音を置き去りにし、俺はいつの間にか倒れ付していたルフス・カリギュラの背後に立っていた。
 一体何があったんだ?





                ――――――――――――――――― 
 



 ギルさんがいきなり赤いエフェクトを纏い始め、チャージグライドをしたとたんに消え、気がついたらルフス・カリギュラの背後に立っていた。
 何アレ?ギルさんの台詞を「アァクセルシンクロォォォォォ!!」に変えてもまったく違和感がなかったんだが。
 とりあえず、吹き飛ばされた神機を拾い上げて力を使い果たしたのかしりもちをついているギルさんに近付く。ついでにルフス・カリギュラのコアも捕食しておく。さっきみたいにゲリョスされたら困るからな。徐々に形が崩れ始めたルフス・カリギュラを見ながら、その首に刺さっている淡いピンクの神機に目を向ける。三年間、コイツに刺さってダメージを与え続けてきたんだよな。
 ねぎらいの意味も込めて刺さっていた神機を掴んで引き抜き近くの地面に刺し(・・・・・・・・・・・・・・・)てからギルさんに話しかけた。神機の方は後で回収専門の部隊が回収してくれるって言うから大丈夫でしょう。


 「大丈夫ですか?なんか光の速さを越えてそうなチャージグライドでしたけど」


 「ん?あぁ……問題ない。というかそんな感じだったのか……俺……」


 「はい。ようこそ異常側(こちら側)へ。歓迎しよう、盛大にな」


 「一緒にするな」


 「何言ってるんですか。少なくとも音速は超えましたよ?充分異常者です」


 「そうだな。……俺が知っているギルは……もう、いないんだなぁ」

 
 念のために持っていたスタングレネードをポーチの中にしまい、しばらく遠い目でこちらを見ていた真壁さんがしみじみと呟きながらこちらに近付いてきた。
 

 「ハルさん……」


 「お疲れ様です。真壁さん」


 「おう、仁慈。お疲れさん。……ギルも本当に長い間、よく頑張ったな……」


 「いえ……俺は……」


 「こういうときの言葉は素直に受け取っておくもんだぞ」


 まるで自分の子どもに言い聞かせるような、優しい声音と表情で言われたギルさんは帽子のツバを掴んで下ろし顔を隠した。
 その様子を見て真壁さんがクスリと笑った後、俺たちの肩を抱きかかえ、


 「よーし、帰って一緒に飯でも食うか!」


 そう言って俺たちに笑いかけた。そのときの真壁さんの表情はどこかつき物が落ちたようなすっきりした表情だった。



 
 
 


 






















目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五話

第三十五話という番外編に近いナニカ。
とんでもないキャラ崩壊が含まれているのでご注意ください。


 「よう、仁慈」


 「あれ?真壁さん?」


 ルフス・カリギュラを倒し、忙しかった極東が落ち着きを取り戻したある日。珍しく仕事も頼まれ事もないので久しぶりにゆっくり一日を過ごせるとわくわくしていた俺に真壁さんが話しかけてきた。


 「まったく……以前から思ってたがお前は固いなぁ。もっとフランクにいこうぜ。呼び方とか話し方とかさ」


 「は、はぁ……。分かりました。……それでハルオミさん。何か用ですか?」


 「殆ど何も変わってねぇじゃねーか。ったく……いや何、この間のルフス・カリギュラの件で色々世話になったからな。お返しに食事でもおごってやろうと思ってさ。どうだ?」


 「そうですね。ちょうど朝ごはんを食べるところだったので、お願いします」


 こういうときの好意は素直に受け取っとけってばあちゃんも言ってた。


 「よっし、じゃあ行くか!」


 「すぐ後ろにあるんですからそんなわざわざ言わなくても……」


 ウィーンとラウンジの扉を開き、真っ先にムツミちゃんが料理を作っている中央に向かう。いつも座っている真ん中の席から右に三つずれたところにすわり、オムライスを頼んだ。


 「結構可愛い注文するのな」


 「いけませんか?」


 いいじゃないオムライス。おいしいじゃない。特にムツミちゃんが作るオムライスは卵がふわっふわしているのでなおうまい。
 目の前に出されたふわふわオムライスにパクつきながら、ハルオミさんの様子を伺う。
 こちらの視線に気付いたのか、ハルオミさんはムツミちゃんに出されたお酒から目を外してこちらを向いた。
 と、言うか朝っぱらから酒ですか……。


 「どうした?何か言いたそうな顔だな」


 「朝から酒はいかがなものかと」


 「ったく、お前は本当に固いなぁ。仕事がない今日くらいはいいだろ」

 
 お酒の入ったグラスを傾けながらハルオミさんはどこか懐かしそうに俺を見ながら言った。……もしかしたら、奥さんであるケイトさんとこのようなやり取りをし、そのことを思い出しているのかもしれない。


 「あ、そういえば。お前に聞きたいことがあったんだ」


 「いったいなんですか?」


 やはり仇をとったからといってそんな簡単に折り合いなんてつかないよな。
 ハルオミさんの表情を見ていると何か悪いことをした気分になったので、彼の話に乗っかる。
 俺が聞き返すとハルオミさんはルフス・カリギュラを倒しに行く時と同じくらいに真剣な表情で口を開いた。


 「お前は女性を見るとき……まず、どこを見る?」
 「は?」


 彼の言葉を聞いてほぼノータイムで俺の口から間の抜けた声が漏れる。しかし、それは仕方ないことだと思う。今までで見てきた中で最上級の真面目な表情で放たれた問いがこれだぞ?
 ルフス・カリギュラの時のことを知っているからこそ、さらにギャップが大変なことになり、俺の頭の中を混乱させる。


 「えーっと……何言ってるんですか?」

 
 認めたくない。奥さんのことを思い出してしんみりしていたと思った人が、こんなくそまじめな表情で女性のどこを見るか、と尋ねているなんて。
 唯一の希望を込めて、ハルオミさんに向かって聞き直すも、

 
 「だから、町行く人でも、このアナグラの中にいる職員でも、俺たちと同じ神機使いでも、女性を見るときはまず……どこを見る?」


 聞き間違いじゃなかった。俺の耳は残念なことに正常に機能していたらしい。いや、ハルオミさんの頭がおかしくなったんじゃないのこれ?
 混乱を極め、思わず黙り込む俺にハルオミさんは何を思ったのか呆れた様な顔をすると、


 「もしかして恥ずかしくて言えないのか?……フッ、青いな」


 などと言いやがった。超ブッ飛ばしたい。
 ルフス・カリギュラ戦および、その前のギルさんへの対応などで上がっていたハルオミさんの株が大暴落である。つーかこの人死んだとは言え、奥さんいたんじゃないの?仇とったからってはっちゃちゃけるの早くない?
 これは査問会行きも納得ですわ……。


 「まぁ、そんな恥ずかしがりやなお前に教えてやろう。世間一般の男性は女性を見るときは顔か胸を見るが…………俺は、脚だ」

 
 チャラーチャラララーデッデッデッデデデッデッデッデデデデッデッデッデデデデッツターン!
 

 キメ顔で何言っちゃってるんですかねこの人。
 俺が向けている絶対零度の視線を知ってか知らずか、ハルオミさんはそのまま語りだす。


 「最近の俺のブームはな、脚……それもニーハイだ。本来はオーバーニーと呼ぶべきだが、日本語におけるニーハイとはひざまでの丈のソックスの略称だ。ニーハイの要諦は、ソックスのロゴムとボトムスの間にできる領域、その太ももの……わずかな輝き……」


 「たとえるなら、朝、山の端から顔を出した陽光のような……それが、今、俺が求める女性の美だ。……いいだろ?」


 はい、いいですね。はてしなくどうでもいいです。いつの間にやら周囲に集まっていたハルオミさんをまるで崇める様な視線で見ている極東の男性神機使いたちを眺めながらそんなことを思う。
 前三枚目はモテるとか言ってましたけど、これは無理でしょう。見てくださいよ、周囲にいる女性たちの目を。まるで虫けらを見るかのような冷たい視線を送ってきてますよ。
 まぁ、しかしそのままそのことを伝えるのはさすがにあれなので、適当なことを言ってお茶を濁そうとするが、ハルオミさんのほうが早く口を開いた。


 「どうした、仁慈?ニーハイだぞ。いいと思わないか?」


 「人それぞれだと思います」


 実際俺はうなじが好きだ。そこにさらに浴衣を着ていればなおよし。
 ま、ここでそれを言ったらさらに収集がつかないから言わないけどな。
 
 
 「その通りだ仁慈。俺は外見など見ずに内面で女性を選ぶ」


 至極真面目な顔でそう言いながら俺の背後から顔を出すジュリウス隊長。
 急に話に割り込んでこないでもらえませんかねぇ……。しかし、よくこの会話に入ってこようとしたな。ジュリウス隊長。


 「内面……だと……?」


 突然乱入したジュリウス隊長の言葉にオサレな反応をするハルオミさん。え?何事もなかったかのように始めるんですか?
 

 「そうだ。まるで母親のように全てを包み込み、受け入れてくれる温かさと包容力を兼ね備えている女性が好ましい」


 やだ……言っていることは唯のマザコンとも呼べる内容なのに、ジュリウス隊長が孤児院出身という経歴がその発言を重いものに変えている……。
 見みろ。ハルオミさんの表情が引きつっているじゃないか。しかも、最初と論点が微妙にずれてるし。


 「え、なになに?好きな女の人の部分の話!?俺は当然胸だなー」


 「えぇい!また乱入者か!?」


 微妙に重くなった空気が漂う中、明るいというかここまでくればもう唯の馬鹿じゃね?という声音の声がその重たい空気を吹き飛ばした。これをしたのはブラッドが誇る自称ムードメーカーであるロミオ先輩だ。
 またブラッドか。こいつら本当にエリート部隊なの?思春期真っ盛りの男子高校生かなんかの間違いじゃない?


 「胸か……。それは男ならば誰しもが通る道だ。しかし、そのまま停滞しているものと、ありとあらゆる探索を乗り越えその場所へたどり着いたかによって男の価値が変わってくる部分だ……まさか、コイツは……」


 「真面目に考察を始めなくてよろしい。それに、ハルオミさん。ロミオ先輩の顔をよく見てください。そこまで考えて発言しているようには思えませんよ。きっと思春期で精神年齢が止まっているんでしょう」


 「ぐっはぁ!!」



 『ロミオが死んだ!』 『この人でなし!!』


 誰だ今の。
 ロミオ先輩が入ってきたあたりでハルオミさんの話を聞いていたらしい、ラウンジに居た男性神機使いたちも騒ぎ出す。つーかこの人達、さっきハルさんのこと崇めたような視線で見てた人達だ。
 あぁ……なんか取り返しのつかないことになってしまっている……。
 誰かー!へループ!


 「………一体何がどうなってるんだ?」


 カオスになったラウンジを鎮めようと右往左往する俺の耳にそんな声が届く。
 これはもしや、と声が聞こえたラウンジの入り口のほうを見てみればそこには期待していたこのカオスを鎮める可能性を秘めた人物。ブラッドの兄貴分であるギルさんの姿があった。

 
 ――――きた!ギルさんきた!メイン兄貴きた!これで治まる!


 と、大歓迎状態だった俺はすぐさまギルさんのほうへ向かい事情を説明する。かくかくしかじか。

 
 俺から話を聞き終えたギルさんは、うんうんと頷くと俺に一言「任せておけ」と言い、好き勝手に暴れまくっている極東の男性神機使いたちに向けて口を開いた。


 「お前ら!女性で一番いいところは人それぞれだ!自分の意見を相手に押し付けるんじゃない!」


 あれ!?思ってたのとなんか違うぞ!?予想ではもっと冷ややかな言葉を浴びせるのかと思っていたのに……。


 『おぉ……そうだ。確かにその通りだ……』 『どうしてそんな簡単なことに気付かなかったんだ……』


 治まるんだ!?あの一言でこの事態収束しちゃうんだ!?あの人もハルオミさんと同じで、仇をとってから随分とはっちゃけてますねぇ……!
 いつもとは明らかに違うギルさんに尊敬の眼差しを送る男性神機使い達(馬鹿共)たちを視界の端っこに納めつつ、今回の騒動の主犯格となったものたちを見てみる。


 「……そうか、そんな簡単な話だったんだな……。それに気付かないとは……フッ、俺もまだまだということか」


 「なんて懐のでかさだ。……俺も負けてられないぜ!」


 「ギル……こんなに立派になって……もう、俺が教えられることは何もないな……!」


 分かってはいたがどいつもこいつもろくな反応をしていなかった。ギルさんのほうもさっきまで確実に沈静化されつつあったのに、現在では困惑の表情を浮かべたギルさんを男性神機使い達が崇めて騒ぎ立てているため事態は悪化した。


 「もうやだ……」


 思わずゴンッ!と机に額をぶつけつつ突っ伏す。もう知らない。勝手にすればいいよ。そう思い俺はこの事態の収束を他の人に押し付けることにした。






 ――――――――結果。この事態はラケル博士の冷たい微笑みによってすぐさま終結することとなった。
 今回ばかりはラケル先生に心の底から感謝した。





 ちなみに。どうしてあの時ギルさんがあんな発言をしたのか聞いてみると。


 「いや、ようやく肩の荷が下りたからな。今までみたいに一人を気取らず、積極的に仲間を作ろうと思ってな。とりあえずあの場では周囲に乗っかってみたんだが……失敗したみたいだ」


 などと言っていた。
 ……うん、タイミングが悪かったね。その日、俺はギルさんに一杯お酒を奢りました。
 


 


 









目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六話

今回はギャグ少なめ、ついでに文章も少なめです。





 ラウンジで男性神機使い達がこぞってはじけだし、自身の評判をどん底に落とした事件から一夜明けた今日。なにやら黒蛛病患者を収容しているサテライト拠点にアラガミが接近しているために、可及的速やかにこのアラガミを討伐して欲しいとの任務が入った。それとこのアラガミたち地味に数が多く、ブラッド隊を二つに分けて対処せよとのことである。
 アラガミってたまにこうして狙ってんのかと思いたい感じで攻めてくることがあるよね。


 「ちなみにチームは俺にお前、ナナでひとつ。もうひとつのチームにはギル、ロミオ、シエルだ」


 「なんでだ」


 「過剰戦力だよねー」


 任務の内容を教えてくれたジュリウス隊長がどこか嬉しそうに言うと、俺とナナがすかさず返す。
 自分で言うのも自意識過剰みたいで嫌なんだけどさ。俺とジュリウス隊長は普通、分けるんじゃないかな。こう、戦力的に。
 いやまぁ、ギルさんも血の力に目覚めてから光速の壁を軽々乗り越えるし、シエルはショートブレード振り回して飛ぶしで割とバランス取れてるのか?


 「というか、血の力に目覚めたらみんな吹っ切れすぎじゃないですかね?」


 改めて考えるとすげぇぞ、ブラッド。エリート部隊とは名ばかりで実際は頭のおかしい(キチ〇イ)集団に成りつつある。
 血の力……なんて恐ろしいんだ……!


 「でも、仁慈は目覚める前からおかしかったよね?」


 「おでんパン齧りながらさらっと人の思考読むのやめてくれません?」


 あまりに自然すぎてて背中に薄ら寒いものを感じたよ。


 「別にいいでしょー。……真面目に言うと、ジュリウス隊長と仁慈が一緒のチームにいるのは、私たちが護る黒蛛病患者を収容しているサテライト拠点の中にユノさんがいるかららしいよ。偉い人達もユノさんに何かあったらマズイとか感じてるんじゃないかなー」


 下心たっぷりだねーと笑いながらおでんパンをひとつ食べ終わり、左手に持っている大きな袋から二つ目を齧りだす。
 ナナが頭の良さそうなこと言ってるよ……。
 それにしてもサテライト拠点……ねぇ。確か、アナグラにも入れない人達が住んでいる場所だっけ?
 そのことを考え、ここに来た当初の懸念が今、頭の中にもう一度浮かんでくる。変なトラブルに巻き込まれなければいいだけどね。


 「……そろそろ時間だ。敵は今のところガルムだけだ。あまり気を張らずに気楽に行くぞ。もうお前たちの実力では相手にならない奴だからな」


 絶対何でも切り捨てるマン(ジュリウス隊長)に何でもブッ飛ばすおでんパンジャンキー(ナナ)、ついでにドゥエリスト(俺)だもんなぁ。通常種(まとも)なガルムじゃどう頑張っても勝ち目はないな。
 でも、ジュリウス隊長が"今のところは”って言ったんだよな。原因俺だけど。
 どうせまた何か乱入してくるんだろ?的な思いがひしひしと感じ取れる言葉である。本人超嬉しそうだけどな。


 まぁ、なんにせよ。今のところは楽なお仕事っぽいし、気楽に行きますか。








               ――――――――――――――――



 


 さっきの発言フラグかと思った?


 ―――――――大正解だよ。


 
 黒蛛病患者が集うアナグラをアラガミから守るために駆り出された俺たちの目の前に現れたのはガルム三体にサリエル、ヴァジュラという何の統一感もない連中だった。でもまとめてこられると結構ヤバイ。どのくらいヤバイかといえば、こいつらが他の支部に現れたら十分ぐらいでその支部が壊滅するくらいにはヤバイ。これを対処できる極東はやっぱり魔窟だな(確信)。


 で、僅かな時間とはいえその極東に身をおいていた俺たちは元々持っていたそれぞれの異常性(アレっぷり)を遺憾なく発揮し先程あげたアラガミたちを全て撃退したのでした。


 え、戦闘描写?ないよ。やってることはいつもと大して変わらんもの。
 ナナがザイゴートの堕天種をシュゥウウウウウして他のアラガミにぶつけて撹乱したり、俺がその隙を突いて首置いてけした後コア回収したり、ジュリウス隊長は時折俺たちのフォローをしながら自分に向かってくるアラガミと攻撃を全て真正面から切り捨てていた。終始笑顔で。
 ほら、いつも通りでしょ(震え声)。
 

 現在は別の場所でアラガミと戦っていたギルさん達と合流し、葦原……さん?のマネージャー兼ジャーナリストであるというサツキ(という名前だった気がする、多分)さんに黒蛛病患者の搬送先に案内してもらっている。何で案内されているのかは分からないけどね。本当に。


 「ここがサテライト拠点、アナグラにこもれない人々が寄り添ってやっと生きてる、辺境の地」


 「俺、こういうとこはじめて来た……ニュースとかテレビとかで、存在は知ってたけど」


 そう周りを見回しながら言うのはロミオ先輩。当然、神機使いとなって未だ半年を経過してない俺やナナ、シエルも同様である。俺たちの仕事は基本的にアラガミの殲滅だから、こういった場所にはアラガミが入ってこない限り来る機会はないよな。


 「世界中の人口は確かに少しずつ増えてるんですよね。それは間違いなくフェンリルのおかげ……でも、役に立たない人間は切り捨てる、と言わんばかりにここにいる人達を放置しているのもまた、フェンリルなんですよ」


 「外壁の対アラガミ装甲……フェンリルマークの備蓄食料……この施設を提供し、維持しているのはフェンリルなのでは?」


 サツキさんの言い分にジュリウス隊長が思ったことをそのまま口にする。すると彼女は今の発言が気に障ったのか、歩みを止めてこちら―――正確にはジュリウス隊長のほうに振り返り、不機嫌な様子で口を開いた。


 「貴方がブラッドの隊長さんでしたっけ、フライア所属の。ちょっと聞いてみたいことがあるんですけど……。あの玩具の戦車みたいな、移動要塞を作るコストでここみたいなサテライト拠点が、いくつ作れると思います?」


 「それに、ここの人達に手を差し伸べてくれたのはユノのお父さんと極東の神機使いの人達だけなんですよー。そもそも本部からの支援が少ない、極東支部が一生懸命血を流している一方で、本部はどうして黙ってみているんでしょうね?」


 「そんなの実働部隊である神機使いたち(俺たち)がわかるわけないじゃないですか。そういう文句は本部に直接どうぞ」


 気付けばそんな言葉が俺の口からぽろっとこぼれていた。
 しまった……!神機使いになってから半年たってない俺が言えることじゃなかった……。あわてて口をふさいでみても、吐いたツバは飲み込むことができず、サツキさんとブラッドの面々はみんな俺のほうを見ていた。


 気まずい。気まずいが、別に間違ったこと言ってない気もする。そんな事を言われても末端である俺たちにはどうすることもできないし。



 「………そうですね。すいませんねー、なんか八つ当たりみたいなことをしてしまって」


 「いえ……こちらこそ」


 会話が途切れる。
 しばらくどうすればいいか考えるがたいした対応策は見つからず、結局再び歩き出したサツキさんについていくしかなかった。今回のはマジで反省しなければ。
 己を戒めているうちに、黒蛛病の収容施設についていたようでそこらにベッドやそれを仕切るためのカーテンなどが設置されている場所に来ていた。よく見ると何人かの人がベットに寝ていて、腕の部分などに黒い蜘蛛の刺青のようなものがあった。アレが名前の由来である黒い蜘蛛の模様か。思ってたより大きいな。
 その模様をよく見てみようと顔を近づけたとき、ふとサツキさんがふと思い出したように、


 「あ、そういえば。黒蛛病は空気感染こそないものの接触感染で、強い感染力を持っています。むやみやたらに触ったりとかしないでくださいね」


 もっと早く言ってよ。
 近づけていた顔をあわてて戻す。あの距離は患者さんがなにかの拍子に動いたら接触しちゃう位置だったから危なかったわ。
 サツキさんの方に若干非難の視線を送るものの彼女はすでに黒蛛病患者の女の子に本を読み聞かせていた葦原さんとの会話に夢中で気付いていないようだった。こっち見ろや。


 「ユノは後で合流するみたいなのでもう行きましょうか」


 こっち見た結果がこれである。
 結局何のために来たのか分からなかったわ。俺がアホだからか?
 いや、黒蛛病患者の問題が深刻なものという認識を持って欲しかったのかな?確かに深刻な問題なのは分かった。けど、そういうのってさっき俺がこぼしてしまったのと同様に、偉い人に伝えないと駄目なんじゃね。


 


              ――――――――――――




 そうでもなかった。
 あの後、極東支部に帰ってきたブラッド―――というかジュリウス隊長は、黒蛛病患者をこの極東支部に収容し、ケアを行うことを計画しているらしい。サカキ支部長への根回しやラケル博士の説得などは全てこちらに任せてくださいと、合流した葦原さんに言っていた。ジュリウス隊長の容姿も相俟って超かっこいい。
 何でも、サテライト拠点や黒蛛病患者の問題に直接関わった結果、何とかしなければならない問題だと感じ、自分にできることをしようと思ったんだとか。今のジュリウス隊長は完全に"できる隊長モード”だ。これでもう何も怖くない……!
 ブラッドのみんなもジュリウス隊長に賛同し、それぞれができることを頑張って奴といっていた。


 ただ、ひとつ疑問に思うことがある。
 他ならない自分自身のことだ。こういう話を聞いたとき、実行するかしないかの違いはあれど「何とかしなければ」と思うのが普通だ。実際、俺も冷たい台の上でドリルをブッ刺されるまではそうだった。しかし、今はどうだ?ブラッドのみんなのように何かしなければという意思がまったく沸かない。急に神機使いになった影響だったりするのかな?こう、精神的なやつ。


 みんなが自分たちのできることをやろうとしている傍らで俺はずっとそのことについて考えていた。

 
 



 


 
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七話

すまない。投稿がこんなに遅くなってしまってすまない。
そしていつものごとく、そこまで話が進んでいないんだ。すまない。
いい加減イベントじゃないところは一話二話日常回はさむだけでいい気がしてきた。







 前回シリアスっぽく終わっておいてなんだけどさ。俺は考えるのをやめた。
 正直今すぐに支障が出るというわけでもないし、いきなり異世界にぶっこまれて、化け物とはいえバンバン生物殺してたら何らかの異常は出るよね。普通。


 考え事で微妙に溜まったフラストレーションを任務のターゲットになっている第二接触禁忌種、プリティヴィ・マータをボロボロにすることで解消する。おかげでサンドバック代わりになったマータ=サンは無残な姿をさらしていた。具体的には尻尾ちぎれてたり、マントズタズタだったり、顔面の半分が破損してたりである。
 ごめんね。でもこれ一応仕事なんだ。ここまで傷つけたのはストレス解消のためだけど。
 心の中でマータに謝りつつ、自分がつけた傷口にプレデターフォームの神機を捻じ込み、コアを捕食する。これが一番安定してるんだよねー。
 モグモグモグモグ
 こうして捕食シーンを見ていると神機が生態兵器だってことがよく分かるよなー。心なしかおいしそうに食ってる気がするし。


 『あ、仁慈さん。ちょうど目標の討伐が終わったんですね。すぐに迎えのヘリが到着すると思うのでもうしばらくお待ちください。それとサカキ博士とジュリウス隊長が仁慈さんのことを呼んでいましたので、極東支部に到着したら支部長室に向かうようにお願いします』


 「はーい」


 このタイミングでの呼び出しとなると……黒蛛病患者の収容について何かしらの決着がついたんだろう。もし違っていたら説得のための増援とかかな。
 後ろから不意打ちをかますドレットパイクを神機で適当にあしらってから、俺はヘリが来るのを待っていた。


 


           ―――――――――――――



 コンコン


 「フェンリル極地化技術開発局ブラッド隊副隊長、樫原仁慈参りました」


 『あぁ、来たね。入っていいよ』


 「失礼します」


 扉越しに少しぐぐもった声で返答があったので一言断りを入れてから入室する。ここに来た当初も思ったんだけど、支部長室に地球儀やカルネアデスの板の絵はいるのだろうか?


 「来たか」


 「えぇ、来ました。その様子だと許可もらえたみたいですね」


 いつもより二割り増しで輝いていますもの。


 「あぁ」


 「その黒蛛病患者収容については私も考えてはいたんだよ。ただ……予算もないうえに、本部に知られると厄介でね……。でも今回、『フライアからの』黒蛛病研究への支援策としてジュリウス君が計画を打ち立ててくれたおかげで、実現しそうだよ」


 なんというか、お疲れ様です。
 やっぱり大きな組織に属する以上色々しがらみがあるんだろうな(他人事)。
 

 「しかし、その計画を実行する前に俺たちにはサテライト拠点での任務がある。アラガミ装甲壁の全面改修のため、ブラッドがアラガミを引き離す作戦だ。改修工事の期間中、連戦し続けることになる。詳細はシエルに伝達してあるから、情報を共有しておいてくれ」


 ふーん。連戦ね。いつも似た様なことしてるけど……それとはきっと違うんだろ。ジュリウス隊長がわざわざ言うくらいだし。
 というわけで、教えてシエルちゃーん。



 「なんか今日はウザイくらいにテンション高いですね。君」


 「多分ストレス発散でマータ=サンをカイシャクした所為じゃないかな」


 今にして思えばアレも異世界で神機使いになった弊害かもしれないけど。少なくとも少し前まではアラガミをストレス発散で狩るようなことはなかったとおm……いや、あったな。


 「……今は気にしないでおきますね。では、気を取り直して今回の任務について説明します」


 彼女いわく。今回の任務で言う連戦とは、向かった先でキャンプのような慣用的な拠点を作り、その場所から改修中のアラガミ装甲壁に向かってくるアラガミと戦うらしい。要は一回一回極東支部に戻ってこないということだ。
 本来であれば俺たち神機使いは常に偏食因子を投与し続けなければならないためにこんなことは不可能なんだが、何でも偏食因子を投与できる携帯機器ができたらしい。便利な世の中になったものだ。それにしても、


 「なかなかハードな任務だな、今回のやつ」


 内容からして気が休まるところ皆無じゃねーか。キャンプ擬きを拠点にしたって安全対策ばっちりなんてことはないだろう。これは交代で見回り必須ですわ……。


 「はい。誰がどう見ても負担の大きい任務です。それは肉体的にも精神的にもです。だからこそブラッドに鉢が回ってきたともいえますが……」


 それまたどうしてだ?
 いや、ブラッドの面々が色々オカシイのは百も承知だ。今更言うまでもない事実である。あるが……だからといってその実力がどんな場面でも発揮されるとは限らない。
 ましてやエリート部隊とかキチ〇イ部隊とか色々言われたい放題のブラッドだが、その構成メンバーの半分は神機使いになってそこまで日がたっていないのだ。これは少々過信のし過ぎではないか?


 「そこはジュリウス隊長と君がいればどうとでもなるだろうと思ったからだそうです」


 随分と便利に扱われてるなぁ、俺とジュリウス隊長。俺に回ってくる任務の量といい、今回の件といい、某猫型ロボットよろしく酷使されている気がする。……さすがにそれは言いすぎか。


 「まぁ、できる限りのことはしてみるよ」


 そうは言うものの、俺も日がたっていない組に属しているんだが、それについてはもはや何も言うまい。そういう扱いをされないのはすでに分かりきっていることだし。
 一応ジュリウス隊長やギルさんに相談しておこうか。


 「お願いしますね。私も自分のもてる全ての知識を総動員してこの任務に貢献して見せます」


 といって、年齢の割にはかなり育っているモノの前で両手をぐっと握り締めるシエル。是非とも頑張っていただきたいものだが、それより先にその無防備さをどうにかしようね。立派な胸部装甲が踊ってるから。
 フイっと彼女から視線を逸らしつつ、俺も俺でこれから行われる初の試みを含んだ任務に対して、色々思考を廻らせるのであった。
 ……後でロミオ先輩に謝っておかないとな。




           ―――――――――――――――



 「うわ……右も左も上もアラガミだらけだ。アラガミ装甲壁の改修をしようってタイミングでこんなに沸いてくるとは……マジで狙ってるんじゃないか?」


 心の底からうんざりしたような声音でアラガミの群れに向けて言葉を放つ君こと仁慈。私も激しく同意します。さすがにあの量は引きます。
 他のブラッドメンバーの様子を盗み見てみれば誰も彼もが仁慈と同じ若干影のある表情を浮かべていました。ジュリウス以外ですが。表情を暗くするどころか、どこかキラキラと輝いていますよ。


 「それでは皆の衆、あの不躾な獣どもに我々人類の強さを存分に思い知らせてやろうではないか」


 「テンション振り切れてんな。ジュリウスの奴」


 「いつものことだろ」


 「今日のテンションはいつも以上だと思うけどねー。何かあったのかな?」


 「一緒にお泊りが嬉しいんじゃねーの?」


 いや、さすがにそれはないと思いますよ、仁慈。ジュリウスだってもう子どもじゃないんですから。何気にもうお酒飲める歳ですし。
 ですよね、と確認の意も込めて視線を送ってみれば冷や汗をたらしているジュリウスの姿が。
 ……子どもですか。


 「……仮設される拠点のほうは俺とギル、ナナで守っておく。仁慈とシエル、ロミオは好きに暴れていいぞ」


 あ、誤魔化しましたよこの人。
 ほら見てくださいよ。さっきまでアラガミの群れを見て暗い顔をしていたブラッドメンバーがみんな揃ってジュリウスにしとーっとした視線を送っています。

 
 「……ジュリウスをいじるのはこのくらいにして、そろそろ仕事をしますか」


 パンパンと意識を切り替えるように手を叩いた仁慈は、先ほどまでの緩んだ表情を引き締めて、真っ直ぐ射抜くような眼光でアラガミの群れを見る。
 そんな彼の雰囲気に感化されたのか、私を含めたブラッドメンバー全員が戦闘態勢に入った。


 拠点付近のアラガミはジュリウスたちに任せ、私たちは向かってくるアラガミの群れに一直線に突っ込んでいく。
 私はいつものように神機を銃形態に変えると、こちらに走って向かってくるアラガミの足にオラクルが凝縮された弾を撃ち込む。
 撃ち込まれたアラガミは急に感じた衝撃に耐えることができず、無様に地面へと転がった。周囲のアラガミも巻き込んで。
 そして、その態勢を崩したアラガミに近づく影がいた。それはここ最近前線に出て戦うようになったロミオだ。ロミオは態勢を崩したアラガミとその付近のアラガミをまとめて自身の刀身であるバスターブレードを振り切り、全員まとめて肉片に変えてしまった。
 バスターブレードの特性上仕方のないことだとは分かっていますが、なんというか見ていてアレな光景ですね。
 しかし、こうしてロミオが積極的に前に出て戦うなんてことは私がブラッドに入隊した当初からは考えられないことですね。……こうしてロミオが変わったことといい、先程のメンバーの雰囲気を一新させたことといい、やはり―――


 ここまで思考して、私たちに多大な影響を及ぼしている彼に目を向ける。
 彼は相変わらず尋常ならざる動きでアラガミを翻弄していた。
 時に同士討ちをさせ、時に自ら倒し、時にボルグ・カムランから切り取った尻尾などで別のアラガミに攻撃したりともうやりたい放題やってますといった感じだった。


 ―――ブラッドのメンバーが変わったのは彼の所為というかおかげと言えるのでしょう。それが良い方に向かっている変化なのかは、この際置いておくとして、ですけどね。








             ―――――――――――――――――



 
 夜である。
 結局あの後なんやかんやでアラガミの進行を止めた俺たちは、フェンリルの謎技術で作られた拠点(テント)にてレーションを初めとした携帯食料とナナがいつも持ち歩いているおでんパンで腹を膨らませた俺とロミオ先輩以外のブラッドメンバーはそこらで雑魚寝をしていた。
 起きている俺とロミオ先輩は今夜の見張り番である。ただ今、拠点が建っているところの近くにある一番大きく地形が盛り上がっているところにて絶賛警戒中である。今のところは影も形もないけどね。アラガミって寝るのかしら?


 「なぁ、仁慈。ちょっといいかな」


 どうでもいいことに思考を割いて時間をつぶしていると、俺と反対側を警戒しているロミオ先輩が急に話しかけてきた。


 「どうしました?まさかハルオミさんみたいに女性の好きな部位について語り合おうとか言い出しませんよね?」


 「ばっか、真面目な話だよ」


 声のトーンからして真面目な話だったようだ。戦闘時のように意識を切り替え、ロミオ先輩の話を聞き逃さないようにする。
 ロミオ先輩は何やら言いにくいことなのか何回か口を震わせては空気のみを吐き出す行動を繰り返していたのだが、意を決したのか俺に向けてはっきりと言葉を放った。


 「仁慈。俺のことを鍛えてくれないか?」


 「………はい?」


 どういうことなの……?
 真剣な表情で打ち明けてくれたロミオ先輩には悪いのだが、正直意味が分からない。 神機使いが強くなるにはジュリウス隊長が言っていたのだが慣れが必要だという。


 自分の数倍でかい化け物を相手取るには、誰しも感じるであろう恐怖心を抑え込んで行動しないといけない。ただでさえ自殺じみたことをしているんだし、黙って突っ立ってるだけならわざわざ殺してくださいと言っているようなものだ。
 そこで必要になってくるのが慣れ。いい感じに言えば適応。悪く言えば麻痺のことである。
 どんな状況でも動けるように慣れておくことが強くなる一番の近道とはジュリウス隊長の言葉である。
 だからこそ、俺の初期の訓練はあのような形になったんだと。
 

 そのことを知っているため、俺はロミオ先輩にそのことをはっきりと告げる。すると彼は首を横に振った。
 あれ?違った?


 「言い方が悪かったな。俺が言っているのは、俺の血の力を目覚めさせるのを手伝ってほしいんだ」


 「なるほど」


 今ではブラッドで血の力に目覚めていないのはナナとロミオ先輩だ。おそらく彼は自分よりも後に入ってきたはずの俺やシエル、ギルさんが血の力に目覚めたことにより焦りを感じているのだろう。


 「大体合ってるけど、お前が血の力に目覚めたことには納得だわ」


 左様で。


 「実はな、このまま血の力に目覚めないと死にそうな予感がしたんだ……」


 おいやめろ。
 ロミオ先輩が言うと冗談に全く聞こえないんですけど!?


 「その表情はお前も感じているようだな……。冗談には全く聞こえないと」


 妙に気取った語りをしているが、シャレにならない。
 

 「だからこそ、血の力に目覚める必要があるんだ!頼む!」


 「確かに死亡フラグが立っているんじゃないかと思えるくらいには確信できてしまうので当然手伝います」


 そういうとありがとうと言って喜ぶロミオ先輩。しかし、喜んでいるところ悪いのだが、血の力の目覚めるには感情を爆発、もしくはそれに近しい状態に持っていかなくてはならない。


 「か、感情の爆発?うーん……それって難しくないか?」


 「いえ、そうでもありません。ロミオ先輩俺がどうやって血の力に目覚めたのか思い返してみてください」


 「え?あー……確か、マルドゥークに襲われて、死にかけて……死にたくないって思って……あっ(察し)」


 そう。俺が血の力に目覚めたのは今現在影も形もない謎の声の可能性もあるが、おそらくは死にたくないという本能にも近しい感情の爆発によっておきたものであると考えている。つまり―――――


 「大丈夫です。幸い、相手には事欠きません」

 
 俺が指差す先には、さっきまで影も形もなかったアラガミたちの姿が!
 ほんと、タイミングいいな。


 「………今日はちょっと遠慮しておこうかなーなんて……」


 「慈悲はない」


 「アッーーー!」


 いやだいやだと駄々をこね始めるロミオ先輩を引きずって俺は今朝と同じようにアラガミの群れに突っ込むのであった。
 ロミオ先輩の血の力が覚醒すると信じてッ!

 
 








ここでロミオが血の力に目覚めたらラケル博士(の中の荒ぶる神?)が涙目不可避。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十八話

いつものごとく話が進まない。
そして、久しぶりのキャラ崩壊注意。


ゴッドイーターリザレクションに現を抜かして更新が遅れるかもしれません。
いや、ちゃんと書きますけどね?ほら……ゲームって時間を忘れちゃうから……。






 前回のあらすじ。
 死亡フラグが現在進行形で立っていることを予想したロミオ先輩は、俺に血の力の目覚め方を教わりに来た。そこで俺が取った手段は死ぬ一歩手前まで追い詰め、生存本能により血の力を目覚めさせる方法だった!
 果たして、ロミオ先輩に無事明日は来るのか!?自らの死亡フラグを打ち破ることができるのか!?乞うご期待!





 で、その結果。
 目覚めた。
 終わり。



 「おう、ちょっと待てよ仁慈。ほら、もっとこう……あったじゃん?語るべきことがさぁ。俺一晩中アラガミと戦ってその殆どの時間死と隣りあわせだったんだぜ?」


 「神機使いなんてやってればそのくらい普通普通」

 
 「そりゃそうなんだけどさ……」


 それに永遠とロミオ先輩が死に掛ける光景を語ったって何の面白みもないでしょ。ドラマチックのかけらもない。あったのは生物の本能にモノを言わせた泥仕合だったし。
いや、本来戦いはこういうものですけどね?


 「俺は自分が今この瞬間に生きていることがどれほどの奇跡の上に成り立っているのかを学んだけどな。っていうか原因であるお前がよくもぬけぬけと……」


 「いいじゃないですか。そのおかげか、凶悪な血の力に目覚めたんですから。何ですかアレ、アラガミが殆ど動かなくなったんですけど」


 そう。実はつい先程目覚めたばかりのロミオ先輩の血の力。例のごとく命の危機で目覚めたものなのだが、その命の危機というのがヴァジュラ四体にロミオ先輩が囲まれるという他の支部では壊滅必至、極東では日常茶飯事という状況だったのだ。


 さすがにまずいと思い、俺も神機片手にスタンバッていたんだがここで生存本能からくる強い意志が実を結びロミオ先輩から紅い色の風が吹きでた。
 そして、その吹き出た紅い風が周囲に居たヴァジュラたちの行動を完全に止めた。俺たちがヴァジュラたちに止めを刺すそのときまで。
 これを見た時、俺とロミオ先輩は同時に思った。


 ―――――なぁにこれぇ?


 アラガミの動きを強制的に止めるとか控えめに言ってもチートである。この能力を研究、利用すればアラガミ根絶やしも夢ではないし、アラガミ装甲壁に利用することができるならば完全に安全な地域を作り出すこともできる。ついでにあのサカキ支部長とラケル博士(あのマッドたち)の興味も逸らs―――ゲフンゲフン。


 「名前をつけるとしたらどんなのがいいでしょう圧殺?」


 「怖っ!?なんか俺のだけ感じちがくない?」


 えーっと……統制、喚起、直覚、鼓吹が今ある血の力でしょ。それに圧殺……やだ、すっごく浮いてる……。

 
 「こ、これでロミオ先輩もアラガミ絶対殺すマンの仲間入りですね!」


 「そのフォローの仕方はどうなんだよ……。そもそもその物騒な奴らは一体誰のことをいってるのさ。仁慈以外見たことも聞いたこともないんだけど?」


 「他のブラッドと極東の皆さん」


 「見たこと、聞いたことしかなかった人達!?」


 つーか知り合いしかいねぇ!と叫びを上げるロミオ先輩。
 そんなくだらないやり取りをしているうちに自分たちの周囲が明るくなっていることに気付く。軽く見渡してみると、いつの間にやら太陽がひょっこりと顔を出していた。どうやらこんなくだらないやり取りを俺たちは朝になるまでやっていたようだ。


 「まぁ、何はともあれ血の力に目覚めてよかったじゃないですか。正直、自分でやっておいてなんですけど……あれで血の力が目覚めるなんてそんなに思っていませんでした。しかもたった一晩で」


 「今聞き捨てならない台詞が聞こえた気がしたけど、まぁ確かにそうだな。正直今まで俺が悩んできたのはなんだったのかと思うくらいにあっさり覚醒したし……」


 なにやら落ち込んでいるロミオ先輩だが、覚醒方法が感情の爆発という漠然としたものだからなぁ。目覚めるときは案外簡単に目覚めるのかもしれない。このことに関しては考えないことが一番いい気がする。


 「……ま、いっか。結果として仁慈の言うとおり血の力に目覚めたんだし。感じていた死亡フラグの気配も完全に消え去ったしな。……みんなが起きたら自慢しよっと!」


 ロミオ先輩のほうも一応落としどころを見つけたのか、先程の彼本来の歳に見える真面目な表情を消し、いつものニタニタ顔でなにかを呟いていた。
 俺は俺で、今日もアラガミの大群が改修中のアラガミ装甲壁に近付かせないようにお掃除する仕事が始まるのかと溜息をついた。





             ――――――――――――――



           


 「先程極東支部から連絡が来てな。アラガミ装甲壁の改修、終わったそうだ」


 「マジかよ」


 アラガミ装甲壁ってアナグラとか外部居住区とかを囲ってるんでしょ?結構な範囲のはずなのにそれを僅か一日で終わらせるなんておかしいんじゃありませんこと?
 え?いつものこと?ですよねー。


 「お前の言いたいことも分かる。俺だって、一週間は最低でもかかると思っていたが……これではまるでピクニックだな」


 「日をまたぐピクニックはちょっと……」


 あれはのどかなところを散歩感覚で歩くものだと思うんですよ。
 ジュリウス隊長とくだらない話をすることで徹夜の眠気をごまかしながら一日でお役ごめんとなった仮設拠点をてきぱきと片付ける。ついでに空中でふわふわ飛んでいるザイゴートも片付ける。シエルが。


 「ふむふむ……このバレットもいい感じですね。今度あげましょうか?」


 「それはとりあえずいいんで、片付け手伝ってもらえませんか?」


 何私関係ないですよーって顔でザイゴート撃ち落としてんだ。こっちは寝ずの番をした後なんですが。


 「………私はほら……周囲の警戒に当たっていますので、片付けはできないんです」


 「だったらしっかり警戒しろ」


 つい今しがたお前が撃ち落したものをよく思い出してみろ。ザイゴートだったろ。
 ここまで来させている時点で警戒の意味がまったくないじゃないですかーやだー。


 「仁慈ー!おでんパン一緒に食べよー!」


 「てめぇも手伝え」


 おでんパンを片手ではなく両手に持ってこちらに走ってくるナナに、寝不足も相俟ってかなり荒い口調でそう言った。このくらいは許して欲しい。というか完徹あけで眠気をこらえながら片付けをしているのに両手におでんパンを持つという明らかに手伝う気ゼロのスタイルで現れたんだからな。


 「おぉう。だいぶおこだね。カルシウム足りてn「―――――――ッ!」うわっ!冗談だよ、冗談!本当は仁慈を手伝うためにきたんだからっ!」


 ナナは両手に持っていたおでんパンを某ピンクの悪魔のように吸い込んで口の中に含むと俺の横でテキパキと片付けの作業に移った。無理矢理口の中に詰め込んだ所為で頬袋が大きく膨らんでかなり間の抜けた表情だ。
 まぁ、今更手伝われても殆ど終わっているんですがね。
 片付けを終え、手に持てるものを回収して左腕に抱え込む。すると隣におでんパンを食べ終わったのか普通の顔に戻ったナナがつく。


 「お疲れ様。後でおでんパンあげる」


 「いらない。睡眠プリーズ」


 「膝枕でもしてあげようか?」


 「ベットのほうが寝れそうだからいい」
 

 そういうと彼女は再び頬を膨らませてこちらにジト目を向けてきた。その視線から逃げるようにナナが居る場所とは逆のほうに目を向けてみればそこにはドヤ顔のロミオ先輩とぽかんとした顔をしているジュリウス隊長&ギルさんコンビが居た。なかなかにレアな光景である。
 よく見てみると、彼らの近くには今しがた倒したと思われるアラガミの死体があった。おそらく、ロミオ先輩が自分の血の力を彼らに披露したのだろう。
 初見は誰しもあんな表情になると思うし。


 「フフン、どうだ!これで俺もお前らと同じステージに立ったぞ!」


 「た、確かにそうだな。まさかここまでとは……」


 「そうだろう、そうだろう!……でも勝てる気はまったくしないんだよな。特にジュリウスと仁慈」


 「アレは神機使いとかアラガミとかそういう枠組み外のイレギュラーだからな。気にするだけ無駄だ」


 ギルさんがぽんと肩を叩く。
 なにやらロミオ先輩が天狗になったと思ったら勝手に落ち込んでいた。意味が分からない。
 まぁ、あのままだと余計な死亡フラグが立ちそうだったからよかったのかもしれないけど。


 上空から聞こえてくるヘリの駆動音に意識を割きながら漠然とそう思った。









 

            ――――――――――――――――



 






 「フフ、最近ブラッド(あの子達)の様子はどうかしら。私の予想通りの成長を遂げてくれればいいのだけれど……」


 一人きりの部屋でそう呟き、ラケルは目の前にある巨大なディスプレイを起動し、ブラッドのさまざまな場面での映像が記録されているものを映し出した。
 何気なしにその操作を行っている彼女だが普通に犯罪である。犯罪ではあるが、そんな事は関係ないといわんばかりの迷わぬ手さばきであった。


 「ギルのほうは……しっかりと血の力に目覚めたようですね。……光速で動くとは思いませんでしたが」


 若干声が震えているものの、大まかな流れは変わっていないと一安心する。
 そこからしばらくは普通の日常が映し出されるが、つい最近行われたアラガミ装甲壁全改修のための防衛任務の映像を見たとき、彼女の表情ががらりと変化した。


 「え……えっ?」


 普段の様子とはかけ離れ、まるで普通の少女が驚いたかのごとき反応を見せるラケル。最初の頃に見せていた黒幕臭は休みを取ったのかと疑うくらいの変わりようだったた。
 彼女をそんなふうにした原因はもちろん自らが見ていた映像である。今、移っているのはロミオが血の力に覚醒した場面であった。


 「ロミオが血の力に目覚め……え?王のための贄は……?……えっ?」


 もう大混乱である。
 何とか考えをまとめようとしているもののまったく纏まっていない。むしろ今彼女の頭の中を埋め尽くしているであろう疑問の言葉がところどころ漏れ出していた。


 「………え?」



 この日彼女は唯ひたすらに自分の中から湧き出てくる疑問と戦いを繰り広げた。涙目で。


 
  


 


 







決定的な原作崩壊フラグをおったてた仁慈君であった。 
これからどうしようか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十九話

やぁ、またなんだ。すまない。
もうね、はじめの二日三日投稿が懐かしく思えてくるよね。
今回はナナ偏の導入みたいなものです。







 どうも。
 つい最近、神機使い初の試みを含んだ連続任務を無事に成功して帰還したにもかかわらず早々いつもより赤い目をしたラケル博士に「バーカ」と自分のキャラを忘れた罵倒をぶつけられた仁慈です。どういうことなの……。
 そのときは、いつもより早く車輪を回転させながら去っていくラケル博士の対応に色々と考えようとしたとき、反射的に俺の最終奥義現実逃避(リアルエスケープ)が発動。今まさに考えようとしていた事柄を頭の中から消し去った!
 困ったときはこの手に限る。正直、何をどう考えてもあの人のことを理解できそうにないからな。



閑話休題(それはともかく)


 

 気を取り直して、今日のお仕事をしにエントランスに向かう。
 なんというか、ここまでの行動が自分の体に染み付きすぎてて怖い。俺は真の社畜となってしまったのか……。まだ15歳なのに。 

 そんな事を考えながら通路を歩くと、途中にあった曲がり角から俺と同じく沈んだ雰囲気を纏ったロミオ先輩と遭遇した。
 どうしたんだこの人。数日前まではそれこそ極東支部に居る人全員に自慢するかのように自分の血の力について元気に触れ回っていたのに。


 「それが原因で極東の技術者たちに……」


 あっ(察し)。
 極東の技術者の訪問とかその時点で心中察しますわ。あれって超怖いよな。何故かサカキ支部長まで出てくるし。
 いやね、別に嫌いじゃないよ?いい人達だってことは普段の対応からして分かる。けど、技術者モードの彼らの相手は駄目だ。極東の代名詞……いや名物といっても過言ではない人格の突き抜けがモロに発揮されるからな。


 「それは本当にお疲れ様でした。次も頑張ってください」


 「おい!そこは俺のために口添えをするとか、そういうことはしないのか!?」

 
 やりませんよ、そんな事。
 もしそんな事をしてしまったら再び彼らの興味がこちらに来る可能性があるからな。俺の安息のためにしばし犠牲となってくれロミオ先輩。


 「こいついっそ清々しさを感じるくらいに自分のことしか考えてねぇ。仁慈俺がこのままで良いって言うのか!」

 
 「はい」


 「知ってた」


 相変らず対応がセメント過ぎる……と呟いているロミオ先輩だが、自分で言いふらしたんだから自業自得である。
 ま、仮に言いふらさなかったとしてもどこかしらでこの状況になると思うし、ぶっちゃけ早いか遅いかだけの違いだと思う。アラガミ……正確にはオラクル細胞かな?の活動を阻害する効果を持つ能力なんて人類の誰しもが「ころしてでもうばいとる」を実行するくらいには貴重だろうし。


 「正直に言うと、俺が口添えしたくらいでは止まりませんよ。ロミオ先輩だって自分の能力がどれだけ反則かわかるでしょう?」


 俺と一緒にAIBOのごとく反応した仲だし。


 「まぁな。その辺は俺でも理解してるよ。……だからおとなしくしてんだろ」


 既に妥協済みだったか。
 つまり今までのはただ単にこぼしたかった愚痴のようなものだろう。一夜にして人類すべての希望になってしまったのだからそれも当然といえる。
 え?だったらもう少し手心を加えてやれって?……ハハッ(目逸らし)。


 これからまたまた極東の技術者とのお話があるらしいロミオ先輩と別れた俺はひそかにその背中に合掌しつつエントランスに向かう。


 「今回の任務はウコンバサラの討伐になります」


 楽勝だな。
 


 この後、むちゃくちゃ滅茶苦茶にした。ウコンバサラを。





           ―――――――――――――――――――



 今日の任務楽勝すぎワロタ。
 高々ウコンバサラ十三体とかいつもに比べたら軽い軽い(白目)。


 そんなこんなでいつもより早く極東へ帰ってこれた俺はシエルと最近のブラッドの働き具合について色々意見を交し合っていた。
 簡潔にまとめれば頭おかしいで済むのだが、もっと具体的に話し合っているのである。基本的に脳筋な俺たちにはなかなか貴重な時間である。


 「ここ最近のブラッドの稼働状況ですが……」

 

 ふむふむとシエルの言葉に耳を傾けていると、後ろのほうから一応この話し合いに参加しているロミオ先輩とナナの話し声が聞こえてきた。何を言っているのかは声が小さすぎてよく聞こえないけど。
 ちょっとは真面目に聞こうよ……。
 後方の人達に若干呆れつつ、シエルの話に集中しようと意識を変えたその時、


 「ナナ?……おい、しっかりしろ!ナナ!!」


 先程のささやき声とはうって変わり、切羽詰まった声が俺の耳に届いた。シエルと共に即座に話を中断し、後方を振り返ってみればどう見ても気絶しているようにしか見えないナナをロミオ先輩が受け止めながら必死に呼びかけていた。
 おい、揺らすな。


 「シエル、俺は人を呼んでくるからそれまでナナの様子を見ていてくれ。一応救護の心得くらいはあるだろ」


 「はい。軍事訓練の一環として習いました」


 「じゃあ任せた。……とりあえずヤエさんを呼んでくるか」


 ヤエさんとはこの極東にいる看護師である。割と昔からいて、ここ極東の神機使いは一度必ずお世話になる相手らしい。
 ムツミちゃんに続いて極東で頭の上がらない人に名を連ねるお方である。


 「あ、そういえば今ここにラケル先生が来ているらしいぜ」


 「了解です。そっちも後で行きます」


 ナナのことはひとまず任せて俺はとりあえず助けを呼びに行った。
 というか、最近ラケル博士しょっちゅうここに来てるけど暇なのかね。




               ―――――――――――――――――――



 ヤエさんやラケル博士、他のその他もろもろの人達を呼びに言った後、ナナの代わりに任務に駆り出されました。
 俺って本当に都合のいい奴ね……。副隊長として当たり前の姿勢だけれどね。


 「それで、ナナの様子はどうだ?」


 現在、その任務をパッパと終わらせてナナの様子を見に来ました。
 え?早すぎだって?
 コンゴウ五匹同時なんて軽いk(ry。


 「ヤエさんの診断ではもうそろそろ目を覚ます頃らしいです。ラケル先生もこのようなことは初めてではないらしく、過去の経験から踏まえ、同じようなことを言っていました」


 ならひとまず安心だな。
 一安心だけど、何で俺の部屋でナナを寝かせているんだ。病室が開いてないのは分かる。黒蛛病患者を収容したばかりだからだ。
 でも、寝かせるのはナナの自室でよかったんじゃないんですかねぇ?


 「君の部屋のほうが近かったので」


 「そうだけどさ……」


 そんな感じの中身のない会話をしながらナナが起きるまでの時間をつぶしていると、今まで静かに寝ていたナナが急に上半身を起こして飛び起きた。
 若干体がビクリとはねてしまったのは内緒である。


 「あ、仁慈。……シエルちゃん……?」


 寝起きの所為なのか、どこか寝ぼけたような声で俺たちの名前を言ったナナ。
 呼ばれたほうの俺とシエルがコクリと頷くと、ナナは俺の部屋に居ることなんてまったく気にせずに自分の状況を冷静に把握し始めた。


 「そっか……また倒れちゃったのか、私」

 
 その口ぶりからすると過去に倒れたことがあるというのは本当のことだったようだ。 ナナは自分の現状を理解すると今度は普段の彼女からは想像もできないくらい悲痛な表情を浮かべて膝を抱えた。


 「……嫌な夢、見ちゃった……。お母さんが、血まみれで……!」


 「もう少し、横になっていたほうがいいですよ?」


 「うん、ありがと……シエルちゃん。そうするー」


 シエルに促され再びベットへ横になる。
 横になった彼女は、先程見た悪い夢に関係しているであろうお母さんのことについて話し始めた。人に話せば楽にもなるだろうから黙って聞くことにする。
 

 雪がよく降っていた山奥でお母さんと二人で暮らしてたこと。
 そのお母さんが神機使いだったこととその所為で一人で居る時間が長かったこと。
 けれど、お母さんとの約束でおでんパンをおなか一杯食べると寂しくなくなったり、お母さんがほめてくれたりしたこと。
 

 色々と話していると、ナナも落ち着いたのか今度は上半身だけでなく全身を起こして勢いよく立ち上がって俺たちにお礼を言ってきた。
 どうやら話を聞いていたことが功を奏したらしい。元気になったのはいいんだけど、そこ俺のベットだからあんまり激しく動かないでね?


 「んーよく寝た。その所為でおなかすいちゃった」


 「お前のそれは気絶に近いものであって睡眠じゃないから」


 「どっちも同じだよー。細かいことばっかり言ってると、おでんパンを口にくわえさせて黙らすよ」


 「そんな事したらお母さん泣くぞきっと」


 「ふっふっふ……何を言います仁慈さん。私はお母さんから直々におでんパンを継承したのです。つまり!私が当代のおでんパン将軍なのです!!」


 「何それ初耳」


 今まで影も形も存在してなかったぞおでんパン将軍。一体どんなものなんだおでんパン将軍。
 


 「馬鹿なこと言ってないでさっさとご飯食べてこい」


 そうすれば少しは本来の調子に戻るだろ。仕事の方は全て俺が片付けておいたし、ナナも充分にゆっくりできるだろう。


 「うん。それじゃ二人ともありがとね!」


 ぴょんとベットから跳び下りたナナはそのままこちらに手を振りながら退室していった。おい、俺のベットだって言ってんだろうが。
 

 「……そういえば、ナナの体調の件についてラケル先生が君の事を呼んでましたよ」


 「マジでか」


 ナナの状態を聞いたとしても、俺にできることなんて高が知れてると思うんだけどね。あ、でもカウンセリング的な話かもしれない。
 なんにせよ、行きますか。


 「ラケル先生は支部長室に居るらしいですよ」

 
 「ん、了解」


 そういえば、一日で二度もラケル博士に会うのは初めてな気がするぜ。




              ――――――――――――――






 「サカキ支部長。こちらに居るラケル・クラウディウス博士に呼び出されてまいりました。仁慈です」


 「あぁ、仁慈君か。話は聞いているどうぞ入ってきたまえ。……後、前々から思っていたが、君は少々固すぎないかね?」


 「これが普通ですよ」


 むしろこれでも駄目駄目な部類に入る。元々居たところはフェンリルと同等のブラック企業あふれるところだったからなぁ。
 相変らず室長室にどこか合わないと感じさせるサカキ支部長にそう返した後、彼の近くに車椅子を止めているラケル博士の方向を向いた。
 こちらも変わらず背筋が凍るような薄ら笑いを浮かべているのだが、なんと言うかいつもより迫力がないのは気のせいなのだろうか。


 「久しぶりですね。仁慈」


 「いや、数時間前に会ったばかりでしょう?」


 ナナの様子を見てもらうように頼みに行ったのは俺なんですが。それを除いたとしても、数日前に俺を罵倒しに来ましたよね?もしかして、呆けましたか?


 「…………」


 「…………」


 俺とラケル博士の間にどこか気まずい雰囲気が流れる。
 どうやら彼女の反応を見るに、ラケル博士は先程の発言を本気で言っていたらしい。大丈夫かしらこの人。


 「……あ、貴方を呼んだのは他でもありません。た、倒れたナナについてです」

 
 「声震えてますけど」

 
 「問題ありません」


 斜め上に視線を逸らされながら言われても説得力皆無なんですがそれは……。
 ツッコミを入れるべき場所は多々あったものの、このままでは話が進まないので自分の中で渦巻く疑問を飲み込み彼女の話に耳を傾けることにした。


 「ゴホン……まず、仁慈。貴方はゴッドイーターチルドレンという言葉を聞いたことがありますか?」


 「神を喰らう子どもとか超強そうですね」
 「真面目に答えなさい」
 「hai!!」


 いつもの怖さではなく普通に女性的な恐ろしい雰囲気を放ってきたラケル博士に降伏し、俺は真面目に答える。


 「聞き覚えはありませんね。意味としては読んで字のごとく、神機使いの子どもですか?」


 「えぇ、そうです。最初からそう答えてください。……ゴッドイーターチルドレンの意味は大まかに言えば正解です。訂正するならば、神機使いを親に持つ……生まれながらにして体内に偏食因子を宿している子どもです」


 「それがナナですか」

 
 「その通りです。彼女の場合は生まれ持った力が大きすぎる子だったので、偏食因子を安定させるのに数年かかりました。過去に起きた気絶もそれが原因でした」 


 「つまり今回もその大きな力が原因だと?」


 「いいえ。今回の件は……おそらく彼女の中の血の力が目覚めようとしたのではないか、と」


 「根拠は?」


 なにやら自信があるようなのでその根拠となるものを聞いてみる。
 え?なんで自信があると分かるかって?この人微妙に胸を張っているからな。


 「勘です」


 「おい、博士だろ」


 最近から崩壊しすぎぃ!


 「そこで、仁慈にはナナのサポートして欲しいのです。貴方の喚起の力で、健やかな血の力の覚醒を」


 「え?何事もなかったかのように続けるの?」


 「貴方達は血を分けた家族です。その力でどうか彼女を導いてあげてください」


 「無視!?」


 言いたいことだけ言って彼女は支部長室を出て行った。
 えぇ……。

 
 あふれ出る打ち切り感に呆然として動けない俺を、最初から最後まで会話を聞いていたサカキ支部長が苦笑いで眺めていた。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十話

もう五日周期でいいかな(諦め)。
今回はナナ偏の前編的なないようです。
本当はひとつにまとめたかったんですけど、リアルの都合で投稿が遅れそうなので報告もかねてあげることにしました。














 「今日は仁慈さん個人に任務を出されているわけではなく、ブラッドに任務が届いています」


 「内容は?」


 「シユウ三体の討伐です」


 「どうした極東」


 最近軽い任務しか発行してないけど何かあったんですかね?今までの殺しに来ているんじゃないかと錯覚するくらいの任務に比べればだいぶ軽いのが続いていて逆に怖いんですけど。


 「仁慈さんが疑問に思うのもわかります。極東の殺意を直接浴びていたといっても過言ではないくらいのアラガミと戦ってきましたからね。すでに討伐数なら極東でも上から数えたほうが早いくらいにはなっています」


 「自覚する機会なんてなかったけど、これは働かせすぎだろ………」


 極東に来てそこまで経過していない俺が討伐数上位に食い込んでくるとは……極東の闇は深い。


 「サカキ博士があなたのことを気に入っているみたいですからね……まぁ、仁慈さんに任務を与えているのは大体ラケル博士ですけど」


 もう突っ込まないわ。あの人が何をしていようと俺にできることはないんだと最近悟ったから。


 「ま、ラケル博士のことは置いといて……ナナもその任務に参加するんですか?」


 ナナは昨日ぶっ倒れたばかりだ。今朝会った時には特に変わったところは見られなかったものの、戦場では僅かな隙が命取りになる。
 前日倒れたナナを連れて行くのはあまり賢い選択とはいえない。


 「本人の希望もあり参加ということになっていますね。現在はラケル博士の下でメディカルチェックを受けている頃かと思われます」


 ラケル博士止めたりとかはしてくれないのね……。
 彼女がナナのことを止めてくれないかと少々期待してみるものの、なんだかんだでブラッドのメンバー(俺を除く)には甘いラケル博士のことだし、止められないんだろうなぁ……。そうして最後には俺に放り投げてくるんだろうなぁ。


 「………分かりました。なら俺はいつぞやのように、ベテラン二人組みともしものときの対処の仕方を確認してきますね」



 ありがとうございましたと、いつものごとく竹田さんにお礼を告げて、俺はエントラスを後にした。
 あ、その前に回復錠買っておかないと……。




 万屋さーん!相変わらず通報されてもおかしくない格好、外見ですねー!
 うちで喧嘩の買取はしてないよ。


 こんなやり取りしてたら、集合に遅れました。





              ――――――――――――――――――






 「……前々から思ってたんだけどさ。ここ年がら年中雪降ってるよな。なんでだ?」


 「さぁ?アラガミの所為じゃないんですか?」


 俺が元々居た世界では何でもかんでも妖怪の所為になっていたらしい。朝から寝坊したのも顔が悪くないのにモテないのも全部妖怪の所為なんだそうだ。
 だから、この世界の異常の原因は全部アラガミの所為なのである(暴論)。
 というか、モテないのは普通に顔が悪いんじゃね?それか性格。
 

 「まぁ、そんな事はどうでもよくて。ナナは体調、大丈夫か?少しでもきつく感じているならあのヘリで待ってても良いんだぞ?」


 自分から話を振ってきたのにかなりおざなりな反応を示すロミオ先輩。ナナを心配するのは良いですけど、扱いがあんまりじゃありませんか?普段が普段なので俺に言い返す権利はないけどね!自業自得とはこのことか……。


 「へいきだよー。まったくロミオ先輩は心配性だなー」


 つい昨日、それも目の前で倒れたとなれば心配もすると思うぞ。
 さっきヘリに乗っている時だって、どこか顔色が悪そうだったし。


 「そうか……けど、何かあったらすぐに言えよ?きっとジュリウスか仁慈が何とかしてくれるから」
 「オイ」


 全力で他人に寄りかかってくるスタイルを取るロミオ先輩。違うな。寄りかかるどころかこちらにキラーパスしてきやがった。
 そこまで言ったら自分で何とかするとか言おうよ……。


 「うん!もし何かあったら仁慈を馬車馬のごとく使うねー」


 「え?マジで?」


 笑顔で肯定された。何この子、超たくましいんですけど。
 昨日もしくは今朝に見られた弱々しい彼女の姿はそこにはなかった。いや、この態度も強がりの可能性があるからまだ一概に良いとはいえないんだけどね。


 ロミオ先輩とナナが俺に対して好き勝手言っている中、会話に参加していなかったジュリウス隊長は同じく会話に参加していないものの、僅かに唇の端を吊り上げていたシエルに今回の目標であるシユウの捜索を頼んでいた。


 「とりあえずあいつらは放って置いて……シエル、今回の目標であるシユウがどの辺に居るのか分かるか?」


 「少々お待ちください」


 ジュリウス隊長の声に簡潔に反応した後、シエルは自分の神機を地面に突き刺してざっと辺りを見回す。


 「北側、東側、西側にそれぞれ大きなアラガミの反応があります。おそらくシユウでしょう。この距離ならば合流する可能性は低いと思われます」


 「つまり?」


 「ヤるなら今ですね」


 あらやだシエルさんたら物騒だわ。満面の笑みで言い切った彼女に対する恐怖は計り知れないと、戦々恐々としたものの、割と日常の範疇だったので気にしないことにする。
 それにしてもやっぱりシエルの力は便利だな。彼女の能力も活用できたらさらに生存率が上がるよね。


 「シエルその三体のうちどいつが一番近い?」


 「西側、東側共に同じくらいの距離です」


 んー……なら二手に分かれてそいつらを同時に倒すか。んで、最後に残った北側の一体をブラッド全員で袋叩きにすれば良いだろ。
 今しがた思いついたそれをジュリウス隊長に伝えると彼はパッパとブラッドを二つのチームに分けた。東の敵は俺、ナナ、ロミオ先輩。西はジュリウス隊長、ギルさん、シエルという構成だ。


 「よし、分かれたな。仁慈、そちらの指揮は任せる」
 

 「了解です」


 それじゃあ、アラガミを殲滅するだけの簡単なお仕事はっじまるよー。
 ジュリウス隊長に背を向けて俺が率いるβチームは死角から出てくる小型アラガミを相当しながらシエルが示した地点へと向かう。
 その途中でさりげなく背後にいる二人の様子を見てみるが特に変わった様子はなかった。いつも通りアラガミがかわいそうなことになっているだけだった。


 「仁慈。シユウ見つけたよ」

 
 「わかった」


 俺が背後の方に気を配っているとナナが先にシユウを見つけたらしく報告をしてくる。彼女の指差す方向を見てみれば、確かに入り組んだ道の端で、地面から何かを拾って捕食しているシユウを発見できた。
 毎回思うんだけどあれ、何を食べてんだろう?俺たちがたまに回収する素材を食べているんだろうか?


 そんなことを考えながらも、捕食に夢中になっているシユウに気づかれないように接近をする。
 普段は見た目通り人外的な視覚・聴覚でこちらを補足してくるのだが、このように捕食に集中している場合は割と簡単に近づけるのだ。さすがに神機をガシャガシャしたら気づかれるけど。


 「おぉー。相変わらずいい食べっぷりだね」


 「んなのんきなこと言ってる場合かよ……」


 「とりあえず、ロミオ先輩。そのバスターでこのシユウを一刀両断してください」


 「はいよ」


 俺の言葉に簡潔に反応し、ロミオ先輩は両足を程よく広げて重心が安定しやすい体勢を取ると、神機を担ぐよう構える。
 そして、神機が謎の黒いオーラに包まれると、その神機を垂直に振り下ろした。
 唐突に脳天から自身を両断する一撃を受けたシユウは何の反応もできずにそのままコアを切り裂かれ、絶命した。


 「コレデヨイ」


 「自分でやっといてなんだけどえげつないな……」

 
 「ロミオ先輩やるぅー」


 予想以上に早く倒してしまったので、とりあえずジュリウス隊長に連絡を入れる。


 「ジュリウス隊長。こっちはもう終わったんですけど、そっちはどうですか?」


 『こちらも終わった。だが、仁慈気を付けておけ。俺たちが請け負ったシユウ……すでに手負いだった』


 「共食いですか?」


 『おそらくそうだろう。しかし、アラガミの性質から言って残り一体のシユウである可能性は低い。近くにシユウを攻撃したほかのアラガミがいるはずだ』


 「わかりました。こちらも警戒しておきます」


 通信を切って今もたらされた情報を自分の中で整理する。
 シユウが傷を負っていたということは、ほぼ間違いなく中型、大型のアラガミが相手だろう。正直、無傷のシユウをオウガテイルなどの小型アラガミが倒したとは考えにくい。
 そもそも、生物をかたどっているからか自分より強そうな相手には基本的に向かっていかない。手負いでも少々渋るくらいだ。
 つまり、今このエリアの付近にはシユウを傷つけた中型もしくは大型アラガミが存在しているということだ。……さすが極東。
 今朝どうした極東とかナマいってすいませんでした。極東先輩マジぱねっす!


 ハァ……とにかく伝えておこうか。







 ロミオ先輩とナナに警戒する旨を伝えた後、残り一体のシユウを倒すために階段を登り、一番奥にある寺へとやってきた。


 「ん?」


 「おぉ、タイミングばっちり」


 元々、合流する予定だったのだがその必要はなかったらしい。俺たちとジュリウス隊長はほぼ同時に最後のシユウが居る場所についてしまった。
 俺とジュリウス隊長はお互いに頷き合うとその身を影に隠しつつ、寺の中に居るであろうシユウの様子を伺う。
 すると中には、すでに絶命しているシユウの姿があった。


 「こいつは……」


 「先程のシユウよりもひどいですね。既にヤられた後のようです」


 ジュリウス隊長と共に手負いのシユウと戦ったギルさんとシエルが呟く。
 多少崩れつつも、形を保っているということはやられてから時間は殆どたっていないな。


 「皆周囲をよく警戒しろ。近くにこいつをやった奴が居る可能性がある」


 「必要ありませんよ。向こうから来ました」


 シエルがそういうのと同時に、寺の穴からヤクシャ・ラージャが五体侵入しこちらに向けてロックバスターを構えていた。
 この狭い空間でヤクシャ・ラージャ五体はさすがにきついぞ……!


 『ブラッド隊聞こえますか!半径100m内に大きなアラガミ反応。おそらくは全員ヤクシャ・ラージャです。数はおよそ10体!』


 「勘弁してくれよ……」


 同感だロミオ先輩。
 ここに来ておかわりとか勘弁して欲しいぜ。
 なんて嘆いているうちに俺たちが入ってきた方向からもヤクシャ・ラージャが優々と歩いてきた。
 普段と変わらない表情のはずなのにどこか愉しんでいるような雰囲気をかもし出していて実に不愉快である。
 まぁ、囲まれたとしても俺たちのやることはかわらない。目の前に出てきたアラガミは倒すだけである。慈悲はない。
 ぐっと足の筋肉に力を入れて、地面を蹴り、ヤクシャ・ラージャに接近を試みようとしたときに、


 「お、かあ……さん……」


 あ、なんか嫌な予感。








               ―――――――――――――――――








 みんなが、ブラッドのみんなが無数のヤクシャ・ラージャに囲まれている。
 こんな光景を前にも見たことがあるような……?










 ―――――――――――ナナ、貴女だけでも……逃げて……。











 ―――――――――――大丈夫……君の事は……。










 ―――――――――――なに!?く、くそぉぉおおおお!!




 


 思い……出した……。
 アレは私の所為だったんだ。
 私の所為でみんな死んじゃったんだ。
 わたしのせいでしんじゃった。


 このままだと、ぶらっどのみんなも死んじゃう?
 また、わたしのせいで?
 いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだいやだ。



 「いやぁぁぁぁああああああ!!」


 
 


               ―――――――――――――――




 「ナナ!?」


 なんかすっごい紅い波動が出ているんですが大丈夫なんですかッ!?


 『これは……偏食場パルスの乱れが……!ブラッド隊聞こえますか!?強力な偏食場パルスの乱れを確認!周囲のアラガミがそこに向かって集まってきています!』



 全然大丈夫じゃなかった。
 強力な偏食場とかどう考えてもナナのことである。さっきナナからでた波動のことから考えて、血の力の暴走か?
 ナナの様子を伺っていたことが隙と見たのか、巨大な爪を振り上げるヤクシャ・ラージャに習得したは良いもののまったく使わなかった二つ目のブラッドアーツをぶつけて分解する。
 ちなみにこの血の力、俺が神機を振るうとその近くに無数の斬撃が現れて追撃してくれるというものだ。気分は某堕ちた英雄さんである。


 「仁慈!アラガミのほうは俺たちに任せてナナを落ち着かせろ!」


 「いきなり無茶言わないでくれません!?」


 お前ら俺に投げれば良いとか思ってないだろうな!?
 そんな事を考えつつ、昔我が家族の知恵袋であったおばあちゃんの言葉がよみがえる。
 曰く、泣き止まない子が居るならそのこを抱いて、心臓の音を聞かせつつ背中を叩いてやるのだと。
 男女間でこれをやるのはちょっと戸惑うが生憎とそんな事を言っている場合ではないので即実行。文句を言われたら後で土下座でもすればいいだろ。


 神機を地面にほっぽって、空に向けて嘆くナナの肩をなるべく優しく抱きこみ、頭を俺の心臓の辺りに当てるように軽く右手で誘導する。
 そして、余った左手で彼女の背中を一定のリズムで叩いた。
 よーしよーし、もう大丈夫ですよー。


 初めのうちはえんえん泣いていたナナも、三十秒たつころには落ち着いてきたようで、大きな声で鳴くのではなく少々ぐずる程度になった。
 おばあちゃんの知恵袋はさすがやでぇ……。
 ちなみに三十秒間どうしてそんなに無防備で居られたのかというと、ブラッドメンバーがきっちり守ってくれました。
 ラージャのほかにも大型アラガミが増えてたというのにすごいわ。



 『こちら極東支部第一部隊!ブラッド隊の状況を聞いて応援にきた!ある程度の数はこっちで請け負うから早く撤退するんだ!』


 「応援感謝する。仁慈、ナナをつれて先に離脱していろ。ここは俺たちが足止めしておく」


 この戦況でさらっといえる辺り、頼りになるし負ける気がしなくなるな。


 「よろしくお願いします。……ナナ、自分の神機は持てそう?」


 
 問いかけに、神機を強く握り返したことで返事をくれたナナを横抱きにして持ち上げて、その場を離れようとジュリウス隊長に背を向ける。そして、戦線を離脱しようと走り出そうとした俺の背にジュリウス隊長の言葉が届いた。


 「任せておけ。足止めなんてたいしたことはない。むしろ――――別にあれ等全てを片付けてしまってもかまわんのだろう?」


 やべぇ。一気に不安になったわ。
 大丈夫なのかと思わず振り返りそうになったが、何とか自制して俺は戦線を離脱した。
















 ―――――――――その日の夜。第一部隊およびブラッドは特に問題もなく極東支部に帰還した。

















祝四十話(ボソッ
意外と早いものですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十一話

ナナ偏の後半です。
今回なんか雑な部分が目立ちますが大目に見てくれると助かります。
我慢ならなければ指摘してくれてもかまいませんけどね。




  「よくもまぁ、あのアラガミの群れから逃げおおせましたね」


 俺がナナを抱えて逃げているときでも結構な数のアラガミに襲われたけど、あのときのジュリウス隊長たちの相手はそれをはるかに上回り、そしてその殆どが大型という状況だったはずだ。
 ヒバリさんも、俺が運び出す直前まで最大出力で暴走していたナナの力が原因で周囲に居る殆どのアラガミがあそこに向かっていたと証言してるし。あんな狭いところでどうやって逃げたんだろうか?


 「……?何か勘違いをしているようだな。俺たちは逃げてきたのではなく殲滅して帰還したんだ」


 「立てたはずの死亡フラグがストライキを起こした……だと……?」


 特に誇るわけでもない、まるで普段話をするような感じで己がやったことを口にするジュリウス隊長。
 もちろん。ジュリウス隊長に死んで欲しかったわけではない。この結果は俺が望んだものだ。望んだものなのだが、なんと言うかどこか納得できない……。まるで、優勝の人の反則が発覚して繰り上がりで一番になった……そんな感じだ。



 「と、そんなことよりナナの様子はどうだ?」


 「なんかサカキ支部長がナナの力が外に漏れださないような特別な部屋があるといってそこに連れて行きましたけど」


 極東に帰還した時はついついサカキ支部長に任せてしまったが、今にして思うとどうしてそんな部屋が既に用意されていたんだろう?
 そこまで考えたが、あのラケル博士と通ずるところがあるサカキ支部長のことだ。〝こんなこともあろうかと″の精神で用意したんだろ。きっと。たぶん。メイビー。


 「そうか。それならひとまずは安心といったところか。……今日はもう遅い。各員明日に備えてしっかり休んでおけ」


 どうやらジュリウス隊長はナナのことをサカキ支部長にまかせたようだ。まぁ、俺たちにできることなんてぶっちゃけほとんどないからなぁ。こればっかりは本人の心の持ちようだと思うし。
 ナナを心配しているのかどこか暗い表情のブラッドメンバーとアラガミ装甲用の素材が結構手に入ったと喜んでいる藤木さん、今にも死にそうな顔のフォーゲルヴァイデさんを見送り俺も部屋に戻ることにした。


 「ちょっといいかな?」


 したんだが、どうやら俺の仕事はまだ残っているらしい。
 いつの間にやら俺の背後にぬるっと忍び寄っていたサカキ支部長に話しかけられ、俺はもっと普通に話しかけなさいと注意したのち、ここではなんだからと言うサカキ支部長についていった。


 そんな感じでホイホイとサカキ支部長について行くと、連れて来られたのはいつもの支部長室ではなくその下の階層にある研究室であった。部屋の存在は病室に用があった際に知っていたが実際に入るのはこれが初めてである。
 初めて入る研究室に入室すると、床一面に張り巡らされた電線と部屋の中央に置かれていた四画面式のディスプレイが一番に目に付いた。
 何ここすっごい歩きにくいんだけど……。


 「少々ごちゃごちゃしているが気にしないでくれたまえ」


 「いや無理だろ」


 そんな事言うならどうして支部長室ではなくこっちに呼んだのか。


 「どうしてこんなごちゃごちゃして話の聞き辛いところにつれてきたのか、とでも言いたげな顔だね」


 何故ばれたし。


 「なに、唯の経験則だよ。それでだ。君が気になっているであろうここに来てわざわざ話をする理由だが……実はこの部屋の奥にある集中観察室にナナ君をかくまわせてもらっていてね。未だに精神が安定していないから、ここで様子を見ながら話をしたいというわけだ」


 「その集中観察室ってなんですか?」


 「昔ある事情で作ったものでね。ナナ君の血の力も外に影響を及ぼさないような構造になっているんだ」


 まったく俺の問いの答えになっていないんですがそれは……。まぁ、今は良いか。それよりここにナナが居るって言ったけど大丈夫なんですかね?
 その旨を四つのディスプレイを持つ機械をいじくっているサカキ支部長に尋ねる。


 「今からしっかりと説明させてもらうよ」


 彼はカタカタと打ち込んでいた手を休めて、椅子の背もたれに寄りかかるとゆっくりと口を開いた。


 「まずはどうしてあそこまでアラガミ達が集まったのかということから話そうか。君たちが血の力を発現させる時、その周囲に強力な偏食場パルスを発生させるんだけど……昨日の任務遂行時にアラガミの異常行動の原因となった強力な偏食場パルスはナナ君から発せられたものだと推測される」


 「でしょうね。何故あんなにヤクシャ・ラージャが来たのかは別として、その後に現れた大多数のアラガミがこっちに来たのは明らかにナナの血の力が原因でしょう」


 タイミングが完璧すぎたし、何より強力な偏食場パルスを発している所為か、血の力を出すとき特有の赤い波動がナナの体から吹き出していたのも確認しているしね。


 「やはり気付いていたようだね。正確には不完全な血の力の覚醒の効果だ。さて、あの不可思議なアラガミバーゲンセールの原因も解明に近しいようなことをしたことだし、ナナ君の様子について話そうか」


 「お願いします」


 「現在の彼女の状況だけど、きわめて精神が不安定な状態だよ。今は落ち着いているが、正直いつあのときのような状態になってもおかしくはないね。どうやら何かしらのトラウマを抱えているようでそれが全ての原因のようなんだけどね……」


 「こればっかりは本人次第ですからね」


 「その通りだ」


 心の問題とは大体そんな感じでしか対処できない。もしくは何かしらのイベントというか派手な出来事が起きれば荒治療になるものの回復の可能性が出てくる。
 え?なんでナナにトラウマがあるってわかるかって?
 あの錯乱のしようはそんな感じだろうとあたりをつけてるだけですよ?要は勘みたいなものである。多分間違ってないと思うけどね。


 「話も終わったし、もう部屋に戻ってもらって結構だよ。ナナ君との面会はもう少し精神が安定してからのほうがお互いに良いだろうしね」


 「そうですね」


 まぁ、精神が安定してきたらおでんパンでも作ってお見舞いの品として持っていこう。そのついでに彼女の話を聞けば多少は楽になるでしょう。
 もちろん無理強いする気はないけどね。





             ――――――――――――――――――――――



 さて、翌日である。
 昨日の解散時と同様にみんながナナを心配しつつ任務に出る中、何故か俺はソロでアラガミ討伐の任務に当たっていた。毎回思うんですけど、どうして俺だけソロプレイなんですかね。
 おっと、愚痴はいいとして、今日の任務のターゲットはスサノオという外見がボルグ・カムランと似通っている第一種接触禁忌アラガミである。
 しかし、ボルグ・カムランでは盾となっている両腕の部分が口になっていて神機を好んで捕食するという変わった偏食因子を持っている。神機使いの天敵といってもいいだろう。一説ではアラガミ化した神機使いの成れの果てとも言われているが真相は定かではない。


 「GuAaaaaa………」


 もう倒したけど。
 ボルグ・カムランで言う尻尾の部分(スサノオでは剣というらしい)をぶっ壊し、右腕を切り落とされたスサノオは俺にコアを喰われ、その形状を崩しつつあった。
 そんなスサノオを踏みつけつつ竹田さんに任務終了の報告を入れる。ちなみになんでスサノオを踏みつけているのかと聞かれれば神機を喰われそうになったからである。


 「竹田さん。任務完了しました」


 『はい。こちらでも反応の消失を確認しました。第一種接触禁忌アラガミの単独撃破お疲れ様でした。任務が終わった直後で申し訳ありませんが、外部居住区に侵入したアラガミの討伐をお願いします』


 この前対アラガミ装甲壁全改装してなかったっけ?突破されんの早すぎない?


 「了解しました」


 『ありがとうございます。では今から迎えのヘリを―――――えっ!?それは本当ですか!?』


 「どうかしましたか?」


 声の感じからしてまた厄介ごとっぽいけど。


 『外部居住区に侵入したアラガミたちがフェンリルの運送車に群がっています。腕輪の反応や強力な偏食場パルスを発しているところからナナさんが乗っているものと思われます!』


 oh………。
 確かに昨日トラウマを克服するには派手な出来事とかイベントが起きれば回復の可能性はあるとは思ったけどさ。回収早すぎだろ。
 というか、ナナって車運転できたのか……。


 『仁慈さん!ヘリの準備ができましたのでそちらに向かわせます!』


 何時も以上に焦っている竹田さんの声に返事を返そうと口を開こうとしたとき。僅かに残っていたスサノオの死体を捕食しようとしているヴァジュラと目が合った。
 ……どこからこいつが現れたとか、何気に俺ピンチだったんじゃないかとか、そういうことは後で考えるとして……


 「竹田さんヘリは別の部隊に回してください」


 『えっ?』


 「いい足見つけました」







              ―――――――――――――――――――



 走る走る走る。
 なんか勢いで脱走じみたことをして車をパクって走ってるけど、緊急事態だから少しは許して欲しい。
 外部居住区に侵入したアラガミを何とか全員釣り上げて、私は昨日自分が錯乱したお寺がある場所へと盗んだ車を走らせた。
 その辺で車を止めて、後ろに乗せてある神機を担いで外に出る。どうやら外部居住区のアラガミだけでなくここに来るまでにすれ違ったアラガミたちも付いてきてしまったようでその数は数十体にも及んでいた。


 「うわー」


 狙っておいてなんだけどこの数はさすがに予想外だったなー。
 自然と私を囲むような形で距離をつめてくるアラガミの群れを睨みつけながら両手に持っている神機をよりいっそう強く握り締める。
 いつもの調子ならこのくらいはいけるんだけど、今は自分でも分かるくらいに精神が不安定だからなぁ……。
 けれど、


 「やらないと、だね」


 もう自分だけが守られるなんて絶対に嫌だから。


 正面から襲い来るオウガテイル三匹の噛み付きを、頭にブーストハンマーを叩き込むことでやり過ごし、背後と両側から猛スピードで飛んでくるザイゴートをしゃがんで回避する。ザイゴートたちはお互いにぶつかり合ってふらついていた。
 その隙を突いて、脚に力を込めて地面を蹴り上げ、ふらついているザイゴートたちの上を取ると空中で一回転をして遠心力を上乗せした攻撃で地面に叩きつけた。


 死んだザイゴートたちの屍骸を踏みしめて着地し、今度は遠距離から雷を落とそうとしているヴァジュラテイルに向けてハンマーに内蔵されているブースターを吹かし急接近しそのまま加速した分のエネルギーを乗せて振り切る。
 それを喰らったヴァジュラテイルは背後にいた複数体のアラガミを巻き込んでお寺の壁に埋まった。



 「グルァ!!」


 「―――っ!」


 危なかったー。
 ちょっと力込めすぎてふらついているところにオウガテイル堕天種が飛び掛って来て、とっさにバックステップしてなければ頭食べられてたかも……。


 「やっぱり……きつかったかな……?」


 何時より切れるのが早い息を整えながらぼそりと呟く。
 多少は減ったもののまだまだ多くのアラガミが私を囲っていた。しかも、



 「GAAAAAAAAAAAAAAA――――――!!!」


 「くっ」


 すっごく強そうなのが来た。
 ヴァジュラのような体躯ではあるけど、全身が黒く顔は人間の顔のようになっている。周囲に紅い雷を撒き散らしながら向かってくる姿からは絶対に勝てないと思わせるオーラがあった。
 その黒いヴァジュラ擬きを呆然と見つめていると、急にその黒いヴァジュラ擬きが咆えこっちに向けて紅い雷の弾を放っていた。


 「ヤッバ……ッ!」


 呆然としていた時間が完全に隙となり、回避行動が遅れる。このままじゃあ直撃する!
 一か八かでジュリウスや仁慈がやっているように、紅い雷に神機を振るった。



 ――――その直後、想像を絶する衝撃に思わず神機を手放しそうになるが、歯を食いしばって無理矢理神機を振りぬいた。
 私を狙った雷はすぐ隣にある石垣に当たって霧散した。


 「はぁ……はぁ……なんとかなった……」


 けど、今の攻撃を防いだことで体に力が入らなくなってしまった。もう回避する力すら残ってない。
 対して黒いヴァジュラ擬きはまだまだ力が有り余っているようで既に次の攻撃に移っていた。


 私、ここで死ぬのかなぁ……。それはやだな。まだ食べたいものいっぱいあるし、ブラッドのみんなと一緒に過ごしたいなぁ……。


 紅い雷が再び放たれる。
 せめてもの抵抗として、絶対に目を逸らさないようにと自分に迫り来る雷を睨みつけて――――



 「――――ピカ〇ュウ十万ボルト!」


 ――――――そんな聞き覚えの有る声が耳に届いた。
 

 そして、その次の瞬間。
 私の目の前に青白い色の電撃が落ち、黒いヴァジュラ擬きが放った紅い雷を消し去った。


 「えっ?」


 唐突に起きた出来事に頭がまったくついてこない。何で上から電撃が?というか今の声完全に仁慈のだよね!?
 

 「おー、ギリギリセーフって所か?」


 何がなんだか分からずにおろおろしている私のすぐ隣からさらに私を混乱させた仁慈の声が聞こえてきた。
 こんな状況なんだけど、文句のひとつでも言ってやろうとそちらに視線を向ける。





 「よしよし。よく間に合ったな。えらいぞー」



 「グルル……♪」


 するとそこにはヴァジュラに乗って頭をなでている仁慈が居た。
 もうわけが分からないよ……。



 「ナナ無事か?」


 「精神的にはもう死に掛けてるよ……」


 「……?まぁ、いいや。ぱっと見、傷はなさそうだしね」


 その場を去っていく、ヴァジュラをじゃあねーと言って見送った仁慈は改めて私のほうに体を向ける。そして、軽く右手を握るとコンっと私の頭を軽く叩いた。


 「まったく……まだ本調子じゃないのに無茶して」


 「ごめんなさい」


 怒っているトーンではなく、どことなく安心したというトーンで言われる言葉だったので思っていた以上に罪悪感を感じてしまい、反射的に謝罪の言葉が出る。
 

 「いや、怒っているわけじゃないんだ。本当に無事でよかったよ」


 握っていた右手を解いて今度は優しく私の頭をなでる仁慈。
 ……そういえば、前にもこうしてなでられていたことがあったなー。なんか仁慈の手は安心する。なんて言うんだろ……こうされていると昔お母さんに撫でられてたときのことを思い出すなー。
 そんな事を思いながら、ほのぼのとした気持ちで仁慈のなでなでを享受していたら、横から大きな咆哮が飛んできた。


 「グゥォオオオオオオァアアアアア!!」


 「あ、そういえば今戦闘中だった……」


 すっかり忘れちゃってた……。
 

 「あ、まだ居たのかお前」


 仁慈のほうも完全に忘れていたっぽい。
 人間の言葉なんてアラガミは分かっていないはずだが、仁慈の言葉に反応するかのように背中から翼を生やし始めた。
 

 「うわ、変形した……」


 「おぉ、なんか強そう。ナナは今までの疲れがあるだろうし、後ろのほうに下がってな」


 神機を背中に担ぎつつ、一歩前に出る仁慈。そうは言うけど今は囲まれているはずなんだけど……。そう思い、チラリと後ろを見ると先程まで居たアラガミは居なくなっていた。いつの間に……。


 「ピカ〇ュウが喰ってった」


 そうなんだ。でもね。
 確かに今の私の体力はそこをつきかけている。でも、今仁慈と話していた時間で少しだけ戦える体力はある。それに、私はもう決めたから。


 一歩前に出た仁慈の隣に、神機を前に構えて並ぶ。
 私は決めた。前のように唯、守られているだけじゃない。私だって戦ってみんなを守るんだ。
 仁慈は、私を見て少しだけ驚いたような表情を浮かべたがすぐに顔を前に戻した。


 「下がってるのが嫌なら、一緒に戦うか」


 「うん」


 


             ――――――――――――――






 ヴァジュラとおっさんが合体したようなアラガミ強すぎワロエナイ。
 何だあの攻撃範囲と威力は。ガードしてもブッ飛ばされるし、どう頑張っても飛べそうにない翼ぶん回して攻撃しかけてくるし、どうしろって言うんだよ。


 ナナのほうも攻めあぐねているようで、ブースト吹かせて近付いてはバックステップを繰り返している。これはどうしたものか……。
 物凄い勢いの突進をジャンプで回避し迫り来る紅い雷は神機振ってお返しすることで対処しているがこのままだとジリ貧で負ける。どうにかして打開策をひねり出そうと頭をフル回転させるが、いい案がまったく浮かばない。
 もういっそのこと突撃でもかまそうかと、若干投げやりな思考になりかけたその時、おっさんヴァジュラの動きが止まった。
 もしや、この現象は……。


 思い当たる節がある俺はざっと周囲を見渡す。すると、いつの間にやらここに到着していたジュリウス隊長と共に群がっている小型アラガミを掃討しているロミオ先輩を発見した。


 「足止めしてやるから、さっさと止め刺しちゃえよ!」


 彼の言葉に頷くことで返事をすると、ちょうど隣にバックステップで帰ってきたナナとタイミングを合わせて一気におっさんヴァジュラに襲い掛かった。
 具体的にはナナがおっさんの部分に思いっきりハンマーを振り抜き、顔面を崩壊させ俺がその部分に神機を差し込む。
 鎌の形をしているから中に入れづらいが、無理矢理突っ込んでコアを直接捕食した。
 この一撃でおっさんヴァジュラを倒した俺たちは、すぐにジュリウス隊長とロミオ先輩に加勢し、十分後にはその場に居たほぼ全てのアラガミを殲滅した。
 その後、ナナがパクって来た車に乗って極東へと帰ってきたのだった。



 「ねぇ、仁慈」


 「なんぞ?」


 脱走擬き、独断専行、車の無断使用、神機の無断使用その他もろもろの罪状でお説教を受けていたナナと一緒に食堂へ向かう。
 その途中、彼女が急に話しかけてきた。


 「私さ。こんな感じで次々アラガミをおびき寄せちゃうんだけどさ……これからもブラッドとして仁慈と、みんなと一緒にいて……いいかな?」


 もしかしたらこれがナナのトラウマだったのかもしれないな。
 あの時もお母さんって呟いてたし。この体質、というか血の力の所為でお母さんが死んでしまった。だからこそ、あの状況でああなったと……そう見るべきか。


 どこかすがるようなナナの視線に俺は思わず苦笑する。


 「大丈夫だろ。ブラッドどころかこの極東の人達はアラガミに囲まれたくらいじゃあ死なないし。万が一駄目でも俺は一緒に居てやるよ」


 まぁ、ありえないけどなと最後に付け加え、少しだけ強く彼女の頭を撫でる。
 本来こういうボディータッチはセクハラっぽいから控えるべきなんだけれども、安心させるには有効な手段というのもまた事実。下心がないからゆるしてくだしあ。


 「うん!」


 満面の笑みを浮かべるナナ。
 うん、やっぱり彼女には笑顔や元気一番だな。


 おなかすいたぞーといいながらラウンジに爆走していくナナの背中を見送りながら俺はしみじみそう思った。












 「あ、そういえば仁慈。あのヴァジュラ、どうやって手なずけたの?」


 「神機突っ込んでコアの直前で止め、言うこと聞かなければ殺すと雰囲気で分からせた」


 こういったらナナにドン引きされた。解せぬ。

















            ―――――――――――――――――――
  






 ナナと仁慈がラウンジでご飯を食べ、その時たまたま居合わせたサカキがナナの血の力が正しく覚醒したことに気付いて大騒ぎしている頃。
 いつぞやに仁慈を大画面で移していた部屋にラケルはいた。


 「………」


 しかし、その様子は前回のようなうろたえた態度ではなくどこか呆然としているような様子である。
 

 しばらく呆けていたが、何かの確信を得たのかゆっくりと頭を上げてぼそりと一言呟いた。



 「荒ぶる神々の霊圧が……消えた……?」



 もう、このひと駄目なんじゃないかな。



 




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十二話

もはやだれてめぇな第四十二話。
今までにないくらいのキャラ崩壊(手遅れ)が含まれて居ますご注意ください。










 ナナが血の力に覚醒し、ブラッド全体が強化された日からしばらくして。俺の周りで二点ほど変わったことがある。


 まずは、ここ最近小型のアラガミはもちろんのこと普段は一緒に居るはずのない大型アラガミ同士が一緒にいたり、接触禁忌アラガミがまるで共存するかのように行動することが増えてきた。
 おかげで、いくらこの世紀末な世の中でも一番の激戦区で戦っている極東の神機使いたちも今までにないくらいに苦戦を強いられるようになってきた。ちなみに何故ここまでアラガミが固まって進行してくるかということは未だに分かっておらず、サカキ支部長が深刻そうな顔をしつつ生き生きと原因の解明に取り組んでいたりする。おい。支部長としての仕事はどうした。


 そして、次に変わった点だが……


 「ねぇ、仁慈?あのカピバラって触っても大丈夫かしら?どう思う?」


 「周りの人に聞いてみればいいんじゃないんですかね」


 俺の服の裾をちょんちょんと引っ張りながら極東のラウンジで飼われている(?)カピバラに触れてもいいかと質問をするのは。すっごい瞳をキラキラと輝かせながら聞いてくるラケル博士である。
 もう一度言う。ラ ケ ル 博 士 である。


 これにはラウンジに居た人達も驚きを隠せないようで俺とラケル博士を限界まで見開いた目で交互に見てくる。特にたまたま居合わせたブラッドメンバーは固まってまるで石造のように微動だにしない。
 うん。そうしたい気持ちは痛いほど分かる。誰だってそうする。俺だってそうする。
 どうしてラケル博士がこんな「だれてめぇ」な状態になったのかというと、それはナナが覚醒した時とアラガミが群れだした時のちょうど間に位置する期間のことであった。



            ―――――――――――――――――――――




 ナナが血の力に覚醒すると、ブラッドの某バナナ隊長が「力の検証をしようぜ!」的なことを言っていたので、ちょうどいい感じに現れた感応種イェン・ツィー相手に試してみようと話し合っていたとき、フライアに来るようレア博士から連絡があった。俺だけに。
 理由を尋ねてみても「来れば分かる」としか言わないので、力の検証に張り切っているブラッドメンバーに断りを入れ、すごく残念そうにうつむくナナにかなりの罪悪感を抱いてからフライアへと向かった。これでくだらない用事だったら、今も造っているとか言われている神機兵をスクラップにしてやろうか……。


 などと、ナナの表情から受けた罪悪感を別の感情に変異させ八つ当たりにも等しいことを考えているうちに相変らず馬鹿でかいフライアの入り口にたどり着く。
 レア博士が既に話をつけているということだったので特に問題もなく中に入り、久しぶりに見た廊下を抜けて極東支部よりも近代的で整った感じのエントランスに来た。


 「……お久しぶりですね。仁慈さん」


 「久しぶりです。フランさん」


 そしてエントランスに来たということは大変お世話になったあのフランさんも居るわけで……ついつい軽い挨拶を交わした後、お互い何があったのかというおしゃべりに興じてしまった。
 その所為で、


 「ちょっと早く来てくれない?」


 階段の下からレア博士にすごい形相で睨まれてしまった。やっぱ美人が怒った表情ってすっごく怖い。
 用事が終わったらまた来ますという旨をフランさんに話して俺はレア博士の背中についていった。


 鬼の形相をしたレア博士に生まれたての雛のごとくトコトコついて行き、たどり着いた先はラケル博士の研究室であった。え?何で俺ここに連れてこられたの?


 「ラケルを頼むわ……」


 頭の中に大量のクエスチョンマークを浮かべている俺をがん無視して、レア博士はその場を去っていった。
 おい、ちょっと待て。結局なんで俺がここに連れてこられたのか説明を受けてないんですけど。ていうか頼むって何だよ。アンタの妹だろうが。どいつもこいつも俺に問題をブン投げすぎだろ。
 一発だけなら誤射かもしれないという言葉にあやかり、神機兵一体くらいなら誤差かもしれないということで一体愉快なオブジェクトに変えてやろうか。


 「ハァ……ラケル博士、仁慈です。入りますよ」


 まぁ、せっかく来たんだし。レア博士の様子も明らかにおかしな感じだったし、様子だけでも見てみようかと一声かけてから研究室の扉を開ける。
 

 ……研究室の中には特に変わりなく、ますます何がレア博士をあそこまであせらせていたのかが分からない。ラケル博士もいつものようにカタカタと機械をいじくっているし。
 

 「ラケル博士。一体今度は何をしているんですか?」


 レア博士のあのあわてようはこの人がよく分からないことをやらかした、もしくはやらかそうとしているから何とかして止めようとしているんだろうと勝手に解釈し、ラケル博士に話しかけてみる。

 
 普段であれば手を止め、薄ら寒い笑みを貼り付けながらこちらを向くラケル博士であるが今回はそうではなかった。
 まるで俺の言葉なんて聞こえていないようにカタカタと作業を続けるラケル博士に違和感を覚えた俺は、彼女の元まで歩いていき、その顔をチラリと覗き込んでみた。


 「―――――――――――っ!?」


 正直。このときほど自分の行いを後悔した日はない。ドラえもんにでも頼りたい気分だった。
 なぜなら―――――――――


















 ――――――――――――覗き込んだラケル博士の顔が、ぬとねの区別がつかないような表情を浮かべていたからである。


 思わず神機使いの身体能力をフルに使ってバックステップを踏んだ俺は悪くない。だってぬとねの区別がつかないような表情だぞ?具体的に言うと運命/零にでてくる殺人鬼が呼び出した某旦那のような表情だ。逃げないほうがおかしい。


 これはレア博士もああなりますわ……。さっきの神機兵破壊計画はなかったことにしてあげよう。この表情で永遠と機械いじってるだけなんて実際コワイ。
 これは早急に対処すべき問題だと思った。俺やギルさんならまだしも、彼女の施設で育ったブラッドメンバーにこの状態のラケル博士をみせるわけには行かない。


 今頃笑顔で血の力を振るい、イェン・ツィーをボコボコにしているであろうブラッドのことを考え俺は彼女を全力で元に戻すことを決意した。
 バックステップで取ってしまった距離を詰めて、彼女の肩をポンポンと叩く。とりあえず何らかの刺激を与えて元に戻ってもらう作戦だ。


 トントンと肩を叩き続けるがまったく持って反応がない。
 仕方がないので、徐々に叩く力を強くして無理矢理意識をこちらに向けてもらうように仕向けてみる。
 最初のトントンという音がバシバシに変わるくらいに強く叩いた辺りで、ラケル博士はあの恐ろしい表情をこちらに向けた。やべぇ、SAN値が埋葬されそう。生存本能に類似する力は働いているのか全力であさっての方向を向こうとしている顔を必死にラケル博士に向ける。
 その甲斐あってか、段々ラケル博士の表情が普通の人間がする表情に戻った。
 やっていることは人の顔をじっと見つめていただけなのだが達成感が尋常じゃない。もうこれだけでかなり疲れた。
 一刻も早くここから出たい。フランさんとお話して癒されたい。
 

 「ラケル博士一体何があったんですか?」


 とりあえず自分が考えていることは頭の片隅に追いやって、完全に彼女の表情が戻ったタイミングで話しかける。
 戻ってもしばらく焦点の合っていない瞳でこちらをボーっと見つめていたラケル博士だったが、すぐに意識を取り戻しこちらを見た。
 


 「……ぐす……ひっく…えぐっ………うわぁぁぁあああん!!」



 そんで泣き出した。俺の顔に焦点が合った瞬間に、である。もう俺のほうが泣きたいよ……。
 いつぞやのように自分のキャラを完全にかなぐり捨てて、子どものように泣き喚くラケル博士に俺は溜息をついて、自分ができうる限りを尽くして彼女をあやすのであった。
 ここが外だったら俺は肢体不自由の女性を泣かせて喜ぶ鬼畜として噂されてもおかしくなかった。もしそうなったら、単騎でアラガミの群れに突っ込むしかなくなってたな。


 


                ―――――――――――――



 ラケル博士が泣き止むまでにはなんと一時間かかった。一回落ち着いたと思ったらその直後にまた泣き出すのである。本気で大変だった。

 
 現在は、目を真っ赤にしてうつむくラケル博士と俺のためにコーヒーを注いでいるところだ。これでも飲みながら彼女が泣きまくっている原因を聞きだそうという算段だ。


 出来上がったコーヒーをラケル博士の前に差し出すと、ボソッとありがとうといって口をつけた。誰だてめぇ。
 コーヒーを半分ほど飲み、カップを目の前にある机に戻すとラケル博士はポツリポツリと自分がどうしてこうなってしまったのかを話してくれた。


 曰く。今の今までラケル博士のことを導いてくれた人生の先生と呼べる存在と連絡が取れなくなってしまい、精神が非常に不安定な状態になってしまったらしい。
 その話を聞いて俺は不謹慎ながらも安心してしまった。今までお世話になっていた人との連絡が取れなくなって不安定になるなんてまるで普通の人間みたいだったからだ。


 失礼なことを承知で言うが、俺は今の今まで心のどこかで彼女のことを人間だとは思っていなかった。初めて彼女が俺に向けた表情はまさしく実験動物に向けるそれだったからである。難しい任務俺にばかり回してくるし。
 けど、今話しているとその嫌な感じが根こそぎなくなっているのだ。俺的には非常に安心した。


 「……それで、今後自分がどうすればいいのか分からないと」


 「……えぇ」


 ここまで来ると完全に依存だな。
 話を聞いた限り、彼女の生き方にもその先生のごとき存在が大いに影響しているみたいだ。それは取り乱すよな。


 「本当に……これからどうしよう……」


 再三言ってるけど、誰この人。今俺の目の前に居る彼女は完全に守ってあげたくなる系美少女である。外見のイメージがそのまま内面に反映させたといってもいい。
 今まではなんちゃって病弱系美少女だったし。花にたとえるならラフレシア。


 「……難しいかも知れませんが、今後は自分で考えて好きなことをしてみてはどうでしょうか?なんだったら色々なものを見て回るのもいいかもしれませんよ。もし一人で不安ならば、レア博士やブラッドのメンバーに言ってくれれば協力してくれると思いますし」


 我ながら都合がいいとは思うのだが今の彼女はどうしても放って置けなかったのでとりあえず提案だけはしてみる。
 何をすればいいか分からないのであれば見つければいいじゃないという発想である。


 ラケル博士は俺の言葉を聞いて少しだけ考えるように瞳を閉じる。それからしばらくして考えが纏まったのか、ラケル博士はゆっくりと瞳を開き、
 

 「それも……いいかもしれませんね」


 と言った。
 その時彼女が浮かべていた笑みはいつものものではなく、可憐な少女のような……思わず見惚れるくらいの微笑だった。
 不意にその表情を向けられたためついつい照れてそっぽを向く。俺の知っているラケル博士がこんなに可愛いわけがない。もう偽者なんじゃなかろうか。


 「それと……」


 「なんですか?」


 「協力してくれるメンバーに貴方は入っているのかしら?」


 完全にいつも通りの口調と表情。ようやく戻ったかと、肩の力を抜く。
 

 「暇があったら」

 
 脱力した俺は、俺に回す任務を管理しているらしいラケル博士に向かってそう返した。少しは任務が少なくなることを期待して。




 期待した結果が、冒頭のアレだよ!



 任務を受けに行ったら竹田さんに任務はありませんといわれ、首を傾げつつゆっくり休もうと部屋に戻ろうとしたとき、俺に向けて手招きをしているラケル博士が居てあの状態になったのである。


 「仁慈。もふもふですよ。すごく」


 「分かりましたから」


 膝の上にカピバラを乗せてご満悦なラケル博士に思わず苦笑する。そしてその笑みが、能面のような顔で近付いてくる施設出身組のブラッドメンバーを見つけ凍りつくのはその僅か数秒後のことであった。




 



            ―――――――――――――――――――――――――










 ガシャンガシャン。


 どこからか重い機械音が聞こえてくる。


 近くに居るアラガミがその音に気付いて、その機械音が下方向へ移動を開始する。


 ガシャンガシャン。


 音が段々と近くなった来た。アラガミは威嚇の意味を込め、咆哮を機械音がするほうに放つ。
 しかし、機械音は止まらない。むしろ先程よりも大きく聞こえてくる。


 アラガミは痺れを切らし、その機械音が聞こえる方向に走り出した。その巨体からは考えられないほどの速度で機械音の発生源に接近する。


 そして、そのアラガミはついに機械音の発生源にたどり着いた。
 機械音の正体を確認し、すぐさま飛び掛るアラガミであったが、グシャリという肉がブツ切りになるような音を聞いたかと思うと、地面に倒れ付し、そのまま動かなくなってしまった。


 機械音の発生源は、自らが殺したアラガミの元に行きその肉体を掻っ捌くと、アラガミの形状を保っているコアを捕食した。


 崩れ行くアラガミの形を気にも留めず、コアを捕食したソレはゆっくりと顔を上げて、極東支部の方を向くと、



 「―――――――――――――――――」



 すぐにその反対側に機械音を鳴らしながら移動して行った。



 


 
  

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十三話

休日だから頑張ってみた。
今回は割りと重要な話が合ったりするかも?







 前回の冒頭でもちょこっと言ったとおり、最近アラガミの活動が活発化しつつある。しかも本来なら喰らい合うことがある別種のアラガミ同士でもだ。
 この状況に深刻と思いつつも楽しんで研究をしていたサカキ支部長によると、イェン・ツィーのような感応種の仕業である可能性が高いという結論を出した。感応種は特殊な感応波で周囲のアラガミ……いや、オラクル細胞の活動を操る能力を持っている。この不可解なアラガミの結託にも一応の説明がつく。
 というわけで、現在俺たちブラッドは大忙しなのだ。なんせ感応種に対応できるのがブラッドしか居ないから。反応がある場所に片っ端から駆り出されている。
 ……でもこれも今のうちだけな気がするんだよなぁ。極東の人ならいつの間にか感応種と戦えるようになっていても不思議じゃない。


 「ジュリウス隊長ーなんかそれっぽいアラガミ居ましたかー?」


 俺のところにはイェン・ツィーしか居なかったんだが。


 『いや、こっちには出ていないな。一応、感応種が出たから倒しておいたが』


 「どんな奴ですか?」


 『グボロ・グボロの親戚みたいな奴だ。あいつが近くに居るとき、バースト状態にも似た感じになった』


 「新種じゃん」


 何さらっと討伐してくれちゃってんの?この人。俺たちが今探しているのはまさにそういう新種なんですけど……。
 前情報もなしに討伐してくるとかさすがすぎてもはや何もいえない。


 『安心しろ。コアは既に確保してある』


 「それはよかったです」

 
 これでコアがなかったら発狂してたな。極東支部に居るサカキ支部長が。そんな事にならなくてホントよかった。
 ジュリウス隊長はいつも通りっと……次は。


 『もしもし?』


 「あ、ギルさんですか?そっちの方はどうですか?」


 『ソレっぽい奴は見つかってないな。とうもろこしみたいなアラガミは見つけたが』


 「何ですかそれ」


 とうもろこしみたいなアラガミって……。まったく想像できないんでど……。
 頭の中で割り箸刺して四つんばいで周りのものを捕食していくとうもろこしという我ながらカオスな光景が思い浮かんだ。


 『なんか周囲のアラガミのオラクルを吸収して自分が強くなる、変わった能力を持っていたな』


 「新種じゃん」


 ギルさんまでさらっと何言ってるんですかねぇ?あの入隊当初の常識が残っていたギルさんは何処へ行ってしまったの?
 しかもちゃっかり過去形で、もう倒しちゃってるじゃないですかやだー。


 『ロミオがチートすぎるんだよ』


 「把握」


 『おい。最近俺血の力だけピックアップされてるけど、滅多に使ってないからな?今回のようにイレギュラーな事態にしか使ってないからな!?俺自身も強くなってるからな!?』


 焦った様子で俺とギルさんの通信に割り込んでくるロミオ先輩。どうやら俺たちの会話を聞いて、自分が血の力ありきの人間だと思われていると考えて割り込んできたのだろう。
 大丈夫大丈夫。俺たちはちゃんとわかってるから。


 『でも、血の力が強力すぎてそっちの方しか印象が……』


 「それ以上いけない」


 通信越しにロミオ先輩が泣いているのが分かる。しくしくって音が聞こえてくるし。
 とりあえずギルさんのほうも問題なし。
 最後は……。


 『はい。何か御用ですか?』


 「俺のところははずれだったから……そっちはどうかなと思って」


 『こちらはサリエル型のアラガミを一体発見し、討伐しました』


 「堕天種?それとも接触禁忌種?」


 『銃での攻撃しか通らなかったところを見ると、おそらく新種かと』


 「もう何なのこいつら?」


 どいつもこいつも打ち合わせでもしていたかのように新種に会いやがって。何で俺のとこだけイェン・ツィーなんだよ。あいつもう新種でない上に一人で相手するのすごく面倒くさいんだぞ。
 

 『ナナさんが居てくれてよかったです』


 『ショットガンってゼロ距離で撃つとすごいんだねー』


 「やめて差し上げろ」


 アレは真面目に駄目だ。下手すればロミオ先輩の能力並にヤバイ。前にナナと任務に行ったとき転ばしたコンゴウの顔面にぶち込んだところを見たことがあるのだが、コンゴウの顔はしめやかに爆発四散。ハガンコンゴウなんて可愛く見えるくらいの惨状だった。サツバツ。


 『コアの回収も済みましたのでこれから帰還しようと思います』


 『仁慈ー。また後でねー』


 ナナの言葉を最後に通信が切れる。
 このまま帰るのは俺だけ働いていないみたいでなんか嫌な感じだなぁ。
 どうしたものかと頭を抱えてみても、俺がここからアラガミを探し回るしか方法はない。一応、目標を討伐した扱いの今の俺には竹田さんも付いていないしな。
 もう諦めて帰ろうか。もし誰かがからかってきたらOHANASHIでもすればいいだろ。


 しかし、そう考えるときに限ってあっさり帰れなくなったりするものだ。特に神機使いを始めた俺にはそれが顕著に現れる。なんだったら一級フラグ建築士を名乗っていいレベル。


 唐突に背筋に寒気を感じて、本能のままにその場を飛退いてみれば先程まで居た地面に燃えた岩が飛来していた。
 あのまま居たら俺の体は爆発四散していたことだろう。……あれ?なんかデジャヴ?
 ほぼ確信に近い予感を抱きつつ背後を振り返ってみれば、案の定そこには以前いいようにボコボコにされた感応種マルドゥークの姿があった。顔には俺がつけた傷があり、同種の別固体ということではなく、正真正銘あの時のマルドゥークである。


 しかも今回は二体のガルムを引き連れてのご登場である。こいつは一応認可されているが、コアを持ち帰ったことは一度もなかったな。これはちょうどいい。これを倒せば俺は感応種の未確認コアを手に入れることができ、尚且ついつぞやの仕返しができるというわけだ。


 俺は無線を極東支部のオペレーター宛にすると、短くマルドゥークとの戦闘に入ると告げて返事も待たずに切る。いや、聞いているかどうかすら危ういけどね。形式的に、ね。


 「――――ォォォオオオオオオオオオオオオン!!」


 マルドゥークが天に向かって咆えると俺たちが血の力を使うときと同じように紅い波動がマルドゥークの周りに渦巻いた。それに呼応するかのようにガルムたちも俺に牙を見せる。 
 俺は戦闘態勢を整えたガルムとマルドゥークを見据え、ニィと唇の端っこを釣り上げた。


 「いつぞやの恨み晴らさないでおくべきか!」


 世紀末地域極東で接触禁忌アラガミをはじめとする様々なアラガミと戦ってきた俺の力を見るがいい、マルドゥーク!






              ―――――――――――――――




 人と化け物の勝負に始まりの合図なんてものは存在しない。
 仁慈はマルドゥークに向けて言葉をぶつけると同時に自らが引き出せる最大の力を持ってして地面を蹴り、加速する。
 五秒も経たずにトップスピードに到達すると、まずは一番近くに居たガルムの顔に自らが構えていた神機を目視できないほどの速さで振り切った。
 

 切られたガルムがその巨体を地面に横たえると、残りもう一匹のガルムがようやく動き出した。そう、仁慈の速さにガルムの体が反応することができなかったのだ。
 両前足に供えられているガントレットに焔を灯し、無防備な仁慈の背中に振り下ろす。
 仁慈はその攻撃を、たった今倒したガルムの死体を蹴り、まるで背面跳びのような格好でソレを回避する。そしてガルムが地面にガントレットを打ちつけた瞬間に脊椎の部分を自身の体を横回転させることで切り裂いた。
 立体機動でも使っているのかと突っ込みたくなる動きである。


 一瞬ともいえる時間でガルム二体を倒してしまった仁慈に一歩後ろに下がるマルドゥーク。その様子は何だこれ聞いてないぞ?と戸惑いの感情が浮かんでいるようだった。実際にアラガミに感情があるのかは分からないが。
 このままだとまずいと悟ったか、マルドゥークは先程よりも激しく紅い波動を周囲に撒き散らし、半径約五百メートル内に居た大中小全てのアラガミを集める。


 集まったアラガミはサッと見た限りでも50体は確実に居る。しかし、そんな状況の中でも仁慈は笑う。いや、笑うというより嗤うと表現したほうが適切かもしれない。
 まるで必死にアラガミを呼び寄せ、生き残ろうとするマルドゥークを馬鹿にするかのように。
 ケラケラと嗤いながら一歩一歩確実に距離を詰めてていく。


 「グッ……ゥォォォオオオオオオオオオオオン!!」


 恐怖を振り払うように咆えるマルドゥーク。集められたアラガミはその咆哮を突撃の命令と受け取りいっせいに仁慈へと殺到した。
 まず、一番槍として仁慈の元へとたどり着いたのはザイゴートやシユウと言った飛行が可能なアラガミである。彼らは滑空でついた勢いを上乗せして、突進を繰り出す。人間の倍以上ある質量に速度が加われば、例え仁慈でもひとたまりもない。

 
 しかし彼は回避行動をとらなかった。
 


 ―――――殺った!


 この時、ザイゴートとシユウはそう感じたであろう。だが、彼らが考えていたようにはならなかった。
 仁慈は自分に向かってくるザイゴートの勢いを利用し、神機をその場で構えるだけでザイゴートを切り裂き、次に襲ってきたシユウは地面にしゃがみ、仁慈の上を通るタイミングで頭を蹴り上げた。神機使いとはいえ人間のものとは思えない力を不意に受けたシユウはなすすべもなく無防備な状態で宙に投げ出される。最後には、下から銃形態にした神機で寸分の狂いもなくコアを撃ち抜かれ絶命した。


 空中で崩壊していくシユウの身体をチラリと視界の隅に収めて、今度はこちらから行くぞとアラガミの群れに突撃をかました。


 一番近くに居たコンゴウはその転がりを跳び越えることで回避されさらに空中で逆さになったタイミングで神機をプレデターフォームに切り替え、自分の下を転がっていこうとするコンゴウを捕まえる。
 地面に着地するために身体を戻すときの勢いを利用し、コンゴウをアラガミの群れに投げ飛ばす。それと同時に着地。咬刃展開状態にしたヴァリアントサイズを横薙ぎにして前方に固まっていたアラガミを真っ二つにした。


 それを見て、サリエルを含めた遠距離を得意とするアラガミ達が距離をとり攻撃しようとするも仁慈はヴァリアントサイズを音を置き去りにする速度で振るい、飛ぶ斬撃を作り出しそれに血の力を込めて飛ばした。もはや新たなブラッドアーツといってもいいくらいである。


 至近距離は駄目。遠距離に徹しても斬撃が飛んで来る。
 本能のみで生きているアラガミもとてつもなく逃げ出したかった。
 しかし、


 「………キヒヒッ」


 逃げれるわけがない。
 こちらを見てもはや狂っているとしかいえない表情を浮かべている元人間の姿を確認し本能がそう叫んでいた。
 標的となっているマルドゥークもそうである。どう考えても自分の顔に傷をつけた人物ではない。その人物の皮をかぶったおぞましいナニカだとしか考えられない。


 「―――――――ォォオオオアアアアアアアア!!!」


 『グォオオオオオオオオオ!!』


 もはや逃げることは不可能。
 生き残るには戦うしかない。某ライダーも言っていた。「戦わなければ生き残れない」と。


 マルドゥークは己にある全ての力を引き出し、自身の能力と集めたアラガミたちの力を最大限まで引き出す。
 そして、震える本能をねじ伏せて人の形をしたナニカに全速力でアラガミを率いて向かっていった。





              ―――――――――――――――――――





 マルドゥークの討伐は特に何の問題もなく終了した。
 いやー途中から、予想以上にマルドゥークが弱く感じちゃうものだから思わず笑いがこみ上げてきちゃった。


 そんで、マルドゥークのコアを捕食した後は速やかに極東に戻ってきてコアをリッカさんに渡した現在。俺は新種の感応種と戦ったブラッドメンバーの意見を纏めてサカキ支部長に報告しようとしている。何故かラケル博士を連れて。


 なんで付いて来るんですかね?


 「私もサカキ支部長とお話があるのよ」


 ラケル博士とサカキ支部長の組み合わせ?何それ一番やっちゃいけない組み合わせでしょ。変わったとはいえ、マッドの気は残っているみたいなんだからさ。
 

 「合体できる神機兵……ロマンがあふれるわね」


 「おい、今何て言った?」

 
 元が元だから合体しても空中分解しそうで怖いんだが……。あ、でも有人制御の神機兵だったら某弓兵出てきたし大丈夫か?
 そんな感じでラケル博士と話しながら歩いていると、目的地である支部長室から色黒のワイルド系イケメンが出てきた。
 誰だこのイケメン。見たことないけど……。
 イケメンのほうもこっちに気付いたのか、俺―――正確には俺の右手に付いている腕輪を見ている。


 「その黒い腕輪……なるほど。噂のキ〇ガイ集団ブラッドってやつか……」


 「第一声がそれかよ」


 まさか初対面の相手にキチ呼ばわりされるとは思わなかった。
 思わずツッコミを入れる。その直後に俺に押されているラケル博士が少し驚いたような声音で目の前のイケメンに話しかけた。


 「貴方……シックザール前支部長の……?」


 「ん?……ああ、ソーマ・シックザール。ヨハネス・フォン・シックザールの息子だ」


 あれ?お知り合いですか?
 そんな疑問を抱く俺だが、話は俺のことを置き去りにして進む。


 「やはり……。貴方のお父様に大変お世話になったラケル・クラウディウスと申します。ぜひ一度お会いして、直接お礼を申し上げたいと思っておりました」


 「そうか。一応受け取っておこう。壊れて混ざった成り損ないのよしみでな」


 「……フフ。そうですね。お互い大事なものに逃げられたもの同士……仲良くできそうですわ」


 何この会話?謎過ぎるんですけど。
 通じてるの?お互いに理解し合えてます?
 ……なんで頭のいい人の会話ってこう遠回しなんだろう。サカキ支部長もそんな感じだし。
 この感じだとさっき会話に出てきたこの人のお父さんも遠回しな会話してたのかなぁ。


 「それにしても」

 シックザールさんとラケル博士の異次元会話についていけないので、まったく関係ないことに思考能力を割り振っていると、急にシックザールさんがこちらを向いた。なんぞ?


 「お前は不思議なやつだな。俺たちと同じ感じがするが、俺のダチにも似た気配を感じる」


 俺がラケル博士やシックザールさんと似たような気配……だと……? 
 ……中二病かな?


 結局シックザールさんはそれ以上語らずに、いい神機使いになれと言って去っていった。


 本当に、頭のいい人の考えることは分からん。
 そうは考えるものの、彼の言ったことが妙に頭から離れなかった。







 
 



書き終えて思ったこと。

仁慈君主人公じゃないよね。
むしろ、マルドゥークが主人公だったよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十四話

今回は難産でした。
というか、無理矢理ひねり出した内容なので色々と違和感があるかも知れませんが多めに見てください。








 シックザールさんの言っていた言葉が頭から離れない。いや、言っている内容自体はあまり理解できなかったんだが、あの時の彼の表情と声音がなにやらただ事ではないような雰囲気だった。
 なんか胸やけをしたときのような不快感を感じ眉を顰める。そして、あの場でシックザールさんとなにやら通じ合っていたラケル博士に何か分かることはないかと、サカキ支部長に新しい感応種のことについて報告したあと、彼女に聞こうと思ったのだが。


 「………空中合体………」


 「…ブレード……とっつき……コジマ……ソルディオス・オービット……」


 何あの二人。本当に神機兵についての話し合いなんだよね?経済戦争で狂った世界の兵器とか、宇宙をまたにかけて戦うロボットとか作ろうとしてないよね?……正直あの二人なら本当にやりそうで怖いんだけど。
 ……変態に技術を与えると取り返しがつかないって本当なんだなぁ。
 ラケル博士に聞きたいことはあったのだが、これ以上この二人と同じ空間に居るのは俺の精神上良くない為、聞こえていないと思いつつも失礼しましたと告げて部屋を出た。コジマは……まずい…。





               ――――――――――――――



 さて、不穏なことを呟き話し合っているマッドサイエンティストの巣窟から見事に脱出した俺は現在第一部隊……というか極東神機使いたちの癒し兼一番の常識人であるフォーゲルヴァイデさんに捕まっていた。内心戦々恐々としている。


 いや、だってさ。ぶっちゃけ俺はフォーゲルヴァイデさんによく思われていないということを分かっている。初めて会った時からこっちを睨むというにふさわしいほどの眼光を向けてきていたし、一緒に任務をしてからはお前もかという視線と共に私に関わるなオーラを出していた。
 そんな彼女が少々不機嫌そうな顔をしつつも俺に話しかけてきたのだ。怖がらないわけがない。
 たとえアラガミを虐殺できても怒っている女の子は怖いんだよ。


 「ねぇ………私に戦い方を教えてくれない?」


 「はい?」


 フォーゲルヴァイデさんの口から出た言葉が予想外だったので反射的に間の抜けた言葉で返してしまった。
 確かフォーゲルヴァイデさんの刀身はチャージスピアだったはずだ。それなら心情的にも教わりにくい俺ではなくギルさんに教えを乞うべきだろう。俺自身も神機使いになってから彼女とそう変わりないので、人に教える技能はお世辞にも優れているとはいえないし。
 なんてことを考えているのが表にでも出ていたのか俺がそのことに関して尋ねる前にフォーゲルヴァイデさんの口が開いた。


 「実は前々から基礎は教えてもらっていたんだけど……一通り基礎が終わった瞬間に『光の速さで私の後に続け』って言いながらアラガミに突撃していって……」


 何やってんですかギルさん!
 死んだ魚のような目で天井を見上げるフォーゲルヴァイデさんを見て俺はそう心の中で叫ばずにはられなかった。日を増すごとにどんどん壊れて行く彼を止める人は現れるのだろうか……。


 「さすがにそんな事できるわけがないでしょ?だからギルバートさんに直接そう言ったの。そうしたら『ここから先は仁慈に教えてもらった方がいいぞ』って言われて……サブだとしてもチャージスピアを扱うことができる貴方に戦い方を教えてもらおうと思ったの」


 さらっと俺に押し付けやがったぞあの人……ッ!
 

 「……私も、都合がいいというのはわかってる。今まで邪険に扱ってきたのにこんなことを頼むなんてね」


 「別にそんなこと思ってませんよ」


 ギルさんに対する文句というか憎しみというか、そんな感じの感情がまたまた表に出ていたようで勘違いをしたフォーゲルヴァイデさんがどこか自嘲しているような表情を浮かべる。
 大丈夫ですよ、俺が考えているのはあの擬似決闘者をどうしてやろうかということだけですから。


 「え?ならもしかして……?」


 「正直自分も神機使いになってからフォーゲルヴァイデさんとそう変わらないんですけど、できる限りのことはやってみますよ」


 俺の言葉を聞いた瞬間に、後ろのほうで小さくガッツポーズを決めながらもそれを表に出さずにありがとうといっているフォーゲルヴァイデさん。
 俺はこれが日々頭のおかしい極東人の相手をしている彼女の気分転換となりますようにと思いつつ、自分の神機の刀身の変更を行うために神機の整備室へと向かった。
 

 え?お前も彼女に苦労をかけているうちの一人だろって?


 お、俺は彼女とそんなに関わってなかったからセーフだし(震え声)。






              ―――――――――――――――――――







 「はい。今のがチャージスピアのエネルギーを小分けして使った擬似空中戦です」


 「やっぱり教わる相手を間違えたかもしれない」


 目の前で私が受注した任務のターゲットであるサリエル堕天種と一度も地面に足を着くことなく戦って勝利したブラッド隊副隊長、樫原仁慈の姿を見て私は常々そう感じた。
 一通りの動きを見てもらい特に問題がないことを確認し、何か新しい技能を教えてくださいとお願いした結果がこれである。そう思っても誰も私を責められない責めさせない。
 なんなんだあの変態的機動は。ギルバートさんみたいにブラッドアーツを使用した技術でないところが余計に質が悪い。何故なら理論上は誰でも可能なのだ、あの技能。だからできないのであればその神機使いの実力不足となる。


 「無理そうですか?」


 「……とりあえず、やるだけやってみます」


 だからと言って一方的に「できるか」と文句をつけるのは教わる身としていかがなものかと思うので、ちょうど戦闘音を聞きつけてやってきたヤクシャに向かって今しがた彼がやっていたことを真似てみる。


 えーっと……チャージを小出しにしつつ、敵を攻撃……あっ、できた。


 「おーできましたね。さすが極東人。筋が違う」


 私が彼のやっていたように空中でヤクシャを蹂躙している様子を見て感心したように声を上げるブラッドの副隊長。いや、私自身もできるとは思ってなかった。
 だって彼がやったことといえば、見本を見せた後、簡単に口頭で説明しただけである。それも「グッてやってパッ」みたいに擬音オンリーで。


 「やった……!できた……ッ!」
 

 自分でも無理だと思っていた技ができてしまったために、私はヤクシャを倒したあと、その場で嬉しさをかみ締めた。これであの人も私のことを認めてくれる。そう思って。







 ―――――そして、ソレが油断につながった。





 「グゥアアアアアアアアア!!」


 「――――えっ?」


 声のした方向に顔を向けてみれば、そこに居たのは大口を開けたオウガテイル。距離は目と鼻の先であり、神機で防ごうにも装甲の展開が苦手な私は咄嗟に神機を構えることができなかった。
 回避?……不可能、突然の事態に身体が硬直して動かない。もし動けたとしても、回避する前に頭をバクリといかれてしまう。


 オウガテイルの口が徐々に徐々に私の頭に近付いてくる。段々としかし、着実に死が近付いてくるのがわかった。
 あぁ、お兄ちゃんも死ぬときはこんな感じだったのかなとど心のどこかで考えたところで、
 

 「ちぇすとー!」


 耳に届いた男の人の声と共に目の前まで来ていたオウガテイルが突如視界から消えうせた。


 「……へ?」


 「おぉう、油断した。付近にヤクシャ以外のアラガミの気配はなかったと思うんだが、最近調子に乗ってたからなぁ……。やっぱ慢心はよくないな、うん」


 ポンポンと神機で肩を叩きつつ、ブッ飛ばしたオウガテイルのほうを向いていたブラッドの副隊長がそう呟いた。


 「大丈夫ですか?」


 「へ、平気よ」


 心配そうな声音にそう返すも、腰が抜けてしまってその場にしりもちをつく。
 顔から火が出そうなくらいに恥ずかしかった。しかし、ブラッドの副隊長はそれに笑うことなどせず先程と同じく真剣な表情だった。


 「大丈夫ですか?」


 「………手、貸して」


 おずおずと伸ばした手をしっかりと掴まれて引き上げられる。何とか立とうとするも、そう簡単に立てるはずもなく体が崩れそうになった。
 その様子を見て彼はしばらく考えると、耳につけてある通信機でヒバリさんに連絡をとる。


 『仁慈さん。何か問題でも発生しましたか?』


 「似たようなものです。実は少々負傷してしまいましてね。今俺がいるポイントにヘリを向かわせてくれませんか?」


 『え?仁慈さんって怪我するんですか!?』


 「どういう意味です?」


 そんな掛け合いをしつつも連絡するべきことと要請が終わったのか耳に当てていた手を離した。


 「すぐに迎えが来ると思うのでそれまで我慢してくださいね」


 「………」


 別にそこまでしなくてもよかったのではと思いはするものの、せっかくの好意なので素直に甘えることにする。
 そのまま何も話さずに私たちは、迎えのヘリに乗って極東支部へと帰還した。
 ……ただ、ヘリに乗り込む寸前にプロペラの音とはまた違う機械音が聞こえたのは気のせいかな?









               ―――――――――――――――――――





 危なかった。
 あの時少しでも反応が遅れてたら、フォーゲルヴァイデさんがマミったかも知れなかった。我ながらいい反応だったな。うん。


 ……やめろ。お前が気をつけていればそもそもこういうことにはなってないとか言ってはいけない。俺だって人間だもの。油断も慢心もする。


 「今日はありがとうね。付き合ってくれて」


 あんな目に遭ったのにそんな事が言えるなんて、いい子だなー。最初のほうとか怖がっててマジすいませんでした。


 「いえ。また何かあれば言ってください。できるだけ力になりますよ」


 今回のお詫びもかねてね。


 「んー……なら、今ひとつだけいい?」


 「実現可能な範囲でお願いします」


 あと、お金貸してという類のものもできればなしの方向で。

 
 「敬語とって」


 「……それでいいんですか?」

 
 「私のほうが年下なのに敬語って違和感があるんだ」


 「ソレでいいならそうするけど……」


 要望どおりにタメ口に変えるとフォーゲルヴァイデさんは満足そうに頷く。


 「そっちのほうが気が楽でいいね。……また、今日みたいなお願いするかもしれないからそのときはよろしくね」


 抜けた腰は治ったらしく手を振りながら去っていくフォーゲルヴァイデさんの背中をこちらも手を振りながら見送る。
 見送りながら、つい最近まで敵意をぶつけていた人と同一人物とは思えないねと考えていた。
 

 






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十五話

投稿が遅れて申し訳ありません。
ちょいとばかし学校で出されたレポートをかたずけておりました。
それでが四十五話、どうぞ。



















 上田二世誕生(未遂)事件からしばらくして、俺はサカキ支部長とラケル博士の最狂マッドコンビに呼び出しを喰らっていた。
 話の内容はこの前俺たちが一気に持ち帰ってきた感応種のコアの解析が終わったので、俺も交えて話がしたいとのこと。ちなみに例のごとく呼び出されたのは俺だけである。ジュリウス隊長とかシエルとかは呼び出されていない。解せぬ。

 
 というか、向かった先でこの前みたいに危険な神機兵擬き談義してるとかだったらかなり嫌だ。あの話が実現したらアラガミ殲滅しても人類が滅ぶかもしれないし。今では周りからキチガイといわれる立派な神機使いとなったが、元々は唯の高校生だからね?現在十五歳でブラッドの中で最年少だからね?さすがに世界を滅ぼしかねない兵器建造の話は荷が重いんだなーこれが。


 ここまで想像した所為か、普段よりも重く感じるようになった身体を何とか動かしつつ呼び出された支部長室へ一歩一歩足を進める。そうしてたどり着いた支部長室の扉。ノックをしようと伸ばした手が自然と引っ込んでしまうのを無理矢理抑えて、コンコンコンと扉を叩く。
 部屋の中から返事が聞こえてきたので、これまた引っ込みそうになる手を押さえつけてドアノブに手をかけ、中に入った。
 視界に移るのは何時もの通り、フェンリルのマークに地球儀そしていつもの胡散臭い表情を貼り付けゲン〇ウポーズでこちらを見ているサカキ支部長である。


 あれ?おかしいな。確かに何時もここに来たとき目にする光景なのだが、今回に限っては俺を呼び出した片割れであるラケル博士が居ない。
 あの人は少々頭があれだが、呼び出しておいてすっぽかすような人ではない。気になった俺は、未だゲンド〇ポーズでこちらを見ているサカキ支部長に尋ねてみた。俺がラケル博士について尋ねるとサカキ支部長はゲ〇ドウポーズをやめて、彼にしては珍しく困惑した表情で口を開いた。


 「そのことについては私もさっぱりわからなくてね。これから君にしようと思っていた話を彼女に話したら急にこの部屋を飛び出して行ってしまったんだ。彼女が乗っている車椅子から風を切る音が聞こえるくらいの速度でね」


 なにそれ超見たい。
 車椅子が風を切る速度で走るという光景も見てみたいが何よりそれにラケル博士が乗っているというのが俺的にすっごい見たい。


 「……ひとまず彼女のことは置いておくとしよう。私が君を呼び出したのは、君たちが偶然倒したという新種のアラガミたちのコアを調べて分かったことについてだよ」


 あー……あの新種フェスティバルのときに確保しておいたコアのことね。
 サカキ支部長がそのようなことを言ったので俺もラケル博士のことはいったん置いておき彼の話に集中することにする。


 「コアを研究した結果、ここ最近に起きていたアラガミの結託は君が倒したアラガミであるマルドゥークが原因であると判明した。実際、君がマルドゥークを倒した翌日にはほぼ全てのアラガミの群れがなくなっていたらしい」


 「あらま。ならこれでアラガミが集団で移動する件は解決ですか?」


 「あぁ。アラガミが集団を作り行動する謎はこれで解けた。けど、これだけならばわざわざ君個人を呼び出したりはしないよ。……実はね、また別の問題が発生してしまったんだ」


 「別の問題ですか……?」


 本当にトラブルに事欠かないところだな極東。
 常に何かしらのトラブルもしくは異常現象に見舞われている気がするぜ……。


 「その問題とはここ最近、正確には一週間ほど前かな。君が任務を受けているときに決まって確認されるアラガミの反応についてなんだ」

 
 「なにそれこわい」


 それってストーカーじゃないですかやだー。
 アラガミにストーカーされるとか誰得なんですかねぇ……。あ、でもサリエルとかなら別にいいk―――――いや、やっぱないな。


 「何やらよくわからないようなことを考えている気配がするけど……これは割と深刻な事態だよ?」


 でしょうね。
 普通に考えれば個人を特定してなおかつ様子見をしているような行動を取っている……つまりはある程度の知能を持ち合わせたアラガミが常に俺の周囲をうろついているということである。
 任務で疲れたときに背後から上田!なんてこともあり得てしまうわけだ。


 「それにこのアラガミのコア反応も頭を悩ませる一要因でね……神機と同じ、人工的に作られたコア反応だったんだ。このことをラケル博士に話したら、何故か一目散に出て行ってしまってね」


 「サカキ支部長。わかってて言ってるでしょ」


 そこまで言われたら俺でも気づくことができるんだ。この極東が誇るキング・オブ・マッドのサカキ支部長が気づかないわけがない。


 神機のコアを利用した神機兵を開発しているのはラケル博士の姉であるレア博士、それとなんか死にそうな研究者。どちらもフライアの関係者である。その二人と同じくフライアの研究者のラケル博士だ。あのどこか抜けてそうな二人から神機兵のデータパクって変態的性能を誇る神機兵を作っていてもおかしくはない。


 正直に言おう。
 このストーカーアラガミ擬き。ぶっちゃけラケル博士が作ったか、手なずけた神機兵だと俺は考えた。
 だってストーカーアラガミ擬きが出現しだした時と、ラケル博士が別の意味で突き抜けた時期が重なっているんだもの。

 
 「さて、どうだろうね?私は科学者だから、確証のないことは断言しないんだ」


 「それは答えているようなものですよ」


 「おっといけない。ともかく、このアラガミが今後君に危害を加える可能性があるということだけ頭に入れておいてくれ。話はこれで終わりだよ」


 「はい。ありがとうございました」


 ある程度の知能を持ったアラガミか……。
 まぁ、アラガミの体を形作っているオラクル細胞一つ一つにどのように進化するかという思考擬きが備わっているんだ。知能を持つアラガミが生まれるくらいは予想がついていたけど……あんまり相手はしたくないよな。





             ―――――――――――――――――――――




 一方、仁慈が見たがっていた風を切る車椅子に乗っているラケルは急いでフライアの中に戻っていた。
 しかし、今向かっているのは彼女の研究室ではなく未だ実用には程遠い、実験段階の神機兵たちが置かれている保管庫である。
 四角いカプセルに覆われている神機兵を素通りし、成人男性の三倍はありそうな壁に近づいて手をかざす。すると壁は左右に割れて一つの通路が現れた。
 ラケルはそれに何の反応も見せず、フライアに来る時と同じくらいの速度で駆け抜ける。車椅子で。


 50mくらい進むと先ほど割れた壁と同じくらいの大きさの扉にたどり着いた。ラケルは扉に近づき、取り付けられていたロックを手早く解除すると扉が開ききる前に中に飛び込んだ。
 

 彼女が飛び込んだ部屋は、家具などはなくただ大きな空間という感じなのだがその部屋の壁には大きな穴があけられていた。
 

 「………大変なことになったわね」


 ラケルは呆然とつぶやく。しかし、それは壁に大きな穴をあけて彼女が“先生”に言われて飼っていたモノが逃げ出した――――ことではない。
 ある世界線ではその逃げたものが脅威となるだろうが、樫原仁慈に感化されたもしくは元々持っていた素質を覚醒させた覚醒ブラッド隊には脅威とはならない。オウガテイルを倒しに行く時と同じくらい気楽に討伐を果たすだろう。


 ならば、彼女は何を見て呆然としているのか。
 それは無残にも食いちぎられた一つの箱であった。この箱は対アラガミ装甲壁と同じ原理で作られているもので、以前彼女が仁慈に“先生的存在”と表現したモノに言われて確保しておいた最終兵器が入っていた。


 その最終兵器とは―――――――――
































 ――――――――――約3年前に月へと飛び去った終末捕食を起こすアラガミ、ノヴァの残骸である。


















 “先生的な存在”が彼女の前から消え、当初の目的よりもロマンを求め始めているラケルにとってこれはものすごい致命的な問題である。
 もっと早くに自分のしたいことを見つけていれば……と場違いなようで強ち間違っていない自責の念にかられているラケルだったが、やがてふと顔を上げた。


 「……極東の人に、すべてを話して協力してもらいましょう」


 彼女の天才的な頭脳をもってして出した答えがこれである。
 過去にノヴァを退けた極東の神機使いたちとその神機使いたちでも引くくらいのことをやらかすブラッドがいれば何とかなるだろう。
 その過程で、自分が犯した罪や彼の事についても話すことがあるだろうが、自業自得だろう。


 そう結論をつけて彼女は来た道を今度はゆっくりと戻り始めた。






            ―――――――――――――――――――――――
 


 
 グチャグチャ





 肉を貪る音が聞こえてくる。






 ガシャガシャ

 
 


 機械音を伴いながら、それは自身が倒した獲物たちを喰らう。







 ゴクン





 アラガミをアラガミ足りうる存在にするコアを飲み込む。



 ブチ、ブチブチブチ。






 内側から肉を突き破り、骨格単位でその体を作り変えていく。






 そして、






 「GOAAAAAAAAAAAA!……ジ…ン・・・・・・・・・ジィィイイイイイイイ!!」






 継ぎ接ぎだらけの顔を上げ、それは月に向かって吠えた。














目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十六話

前回同様投稿が微妙に遅れてしまって申し訳ありません。
この時期はレポート課題の提出が色々な科目で重なってしまっているのであまり時間がないのです。

なので、次回の投稿も遅れると思いますがご了承ください。


それでは第四十六話どうぞ。











 「仁慈。俺はな、いい加減一人でするのも飽き飽きしてきたところだったんだ。どうだ?久しぶりに俺と一緒にやらないか?」


 「いいですけど。……任務の話ですよね?」


 「当たり前だろ。他になにがあるって言うんだ?」


 「別に何でもありませんよ」


 誘い方に違和感を感じたので念のため確認しただけです、という考えは心の内にとどめておき唐突に危ない感じの誘いをしてきたジュリウス隊長に言葉を返した。


 ラケル博士が風になって支部長室から出て行き、その後も帰ってくる様子がまったくなかったのでサカキ支部長に一言告げてから自室に戻り、そのまま寝た。多分ラケル博士も用事があったら何かしらの手段で俺のことを呼び出すだろうと考えていたからである。

 
 そんな感じで一晩空けて、エントランスに来たら急にジュリウス隊長が一緒に任務に行こうと言い出し、冒頭につながることとなる。誘い方が某ホモ疑惑がかけられているデュエリストのようであったことについては深く突っ込まないことにして。


 「では任務を発注してくる。仁慈は適当に準備でもして待っていてくれ」


 クルリと身体を回転させ、階段の下にあるカウンターへと向かっていくジュリウス隊長。その姿を一瞬だけ視界に納めると俺は俺で、すぐさま背後にあったターミナルへと突っ走った。そして、自分の腕輪をかざして手早くログインを済ませると、預けてあるアイテム欄からありったけのスタングレネードと回復錠を引き出す。

 
 あのジュリウス隊長が俺を誘って行う任務が簡単であるはずがない。きっと頭がおかしい内容に決まっている。本来なら支部全体で取り組まなければならない任務も平気な顔で受注してくるからな。
 なら断ればいいじゃないかって?あの人意外に根に持つタイプだから放置しすぎるとかなり面倒なんだよ。
 カタカタと必死にターミナルの機械を操作していると、俺が何故そのようなことをしているのかと気になったのであろうナナがひょっこりと横から顔をのぞかせた。ちょっと邪魔である。


 「ナナ邪魔だからちょっとどいて。割かし命に関わる事態なんだから」


 「なになに?この後何かするの?」


 「ジュリウス隊長と任務」


 「うわぁお」


 ササッと素早く身を引っ込めるナナ。さすがだな。ジュリウス隊長との任務に行くに当たって前準備がいかに大切なものかをよく理解しているからこその行動だ。
 ナナの理解に賞賛を送りつつ、普段もったいないからという理由で絶対に持ち歩くことがないホールドトラップも引き出しておく。


 「仁慈ー。私も一緒に行っていいと思う?」


 引き出そうとするものが間違ってないか、見落としなどはないかを確認しているとき未だに俺の後ろを陣取っていたらしいナナにそう唐突に尋ねられる。正直、任務を受けに行っているのはジュリウス隊長なので俺の独断では決められないかなぁ。


 「じゃあ聞いてくるね!」


 思ったことを素直に彼女に告げてみればナナはだったら本人に突撃じゃー!といいながら階段を駆け下りていった。そんなに距離はないはずだから、歩いてでもよかったと思うんだが……。
 張り切ってジュリウス隊長のほうへ向かっていったナナの背中を見送ると、すぐにアイテムの確認作業に戻り、引取りのもらしがないことを確認してターミナルの電源を落とした。


 「ジュリウス隊長との任務の準備ですか?」


 「うわっ!?」


 その直後、シエルが下から俺の顔を覗き込みながら話しかけてきた。……驚きのあまり三メートルくらい後ろに飛び退いたわ。


 「ちょっとシエルさん?サカキ支部長みたいにいきなり話しかけてくるのやめてね?もしかしたらあの人みたいに根性というか人間性というか、何かがひん曲がっちゃうよ?」


 『ん?今どこかでさりげなくディスられたような……?』


 どこかでサカキ支部長の呟きが聞こえてきたような気もするが気のせいということにしてシエルに注意する。人に話しかけるときにはしっかりと相手の正面から話しかけましょうね。


 「さすがにそれだけで人間性が歪んだりはしないと思いますが……分かりました」

 
 うん。素直でよろしい。
 ………あれ?そういえば俺はシエルにこれからジュリウス隊長と一緒の任務に行くなんて言ってないよな?ナナとの会話を聞いていたんだったら知っているのは納得できるが、あの時、会話が聞こえるくらいの距離には人の気配なかったぞ。


 「フフ……そんなの見れば分かりますよ。眉を3㎜吊り上げ、眉間にしわを寄せて真剣な表情でポーチを見ているときは、大体ジュリウス隊長と任務に出るときだけです」


 「お、おう」


 し、シエルは物知りだなー。
 聞かなければよかったと、若干後悔しつつ彼女の返答に何とか反応を返す。この子、時々言っていることが怖いんだよね。


 「その任務、私も参加して大丈夫でしょうか?」


 「下に居るジュリウス隊長に聞いてください」


 「わかりました」


 どうしたみんな。今日は何時も以上に働こうとするじゃないか。数分前に見送ったナナの背中同様にシエルも見送り、俺はとうとう暇になった。ジュリウス隊長がまだ登ってこないのはおそらく俺が送り込んだ女性陣の相手をしているからだろう。なんとなくジュリウス隊長には悪いことをした気がする。


 「……どうした仁慈。何処となく背中に哀愁が漂っているぞ?」


 「あ、ギルさん」


 ジュリウス隊長に謎の罪悪感を抱いていると、今度は我らがブラッド隊の元頼れる兄貴兼常識人、現在ではスピード狂いのギルさんが話しかけてきた。珍しいな。


 「どうしたんですか、ギルさん」


 「俺も任務に参加するぜ」


 聞いていたのかこの人。
 

 「多分参加してもいいんじゃないんですかね。ジュリウス隊長も喜ぶと思いますよ」

 
 こんだけ人数が居ればあの人も寂しくないだろ。
 さりげなくジュリウス隊長が寂しがりやということ前提で話を進めていたら、階段の下からナナとシエルを伴ったジュリウス隊長が上がってきた。彼女たちの表情を伺うにどうやら断られたりはしなかったようである。


 「なんだ、ギルも行くのか?」


 「あぁ」


 「割と難易度の高い任務を受注したと思ったが、このままだとピクニックになりそうだな」 


 ジュリウス隊長めっちゃ嬉しそうですね。普段通りに振舞おうとしているみたいだが、唇の端っこが微妙につりあがっている。本当にピクニック好きだよねジュリウス隊長。なんか特別な思い出でもあるんだろうか……。

 
 ま、ともあれ人数も決まったことだしジュリウス隊長が受けた任務に向かいますか。



 「あれ?みんなどうしたの?」


 「あ、ロミオ先輩。これからみんなで任務に――――いや、どうせ行くでしょう。ロミオ先輩、準備してください。任務に行きますよ」



 「俺に選択権はないんですか!?」


 ロミオ先輩が何か騒いでいるがそこは無視。どうせこの人も任務に出かけるに決まってる。ジュリウス隊長と同じようにおいて行かれるのはすごい嫌がるタイプの人だからね。

 
 とりあえず、騒いでいるロミオ先輩の首根っこを引っ張ってブラッドは久しぶりに全員そろって任務に出るのであった。







             ―――――――――――――――――――――――――




 ジュリウス隊長が受けてきた任務は俺とナナが初めての実地訓練を行った場所であった。正直、アラガミにそこら辺を食い散らかされているのが当たり前だと思われている現代の中ではすごくきれいな場所だと俺は思っている。
 実はシエルとナナが来たあたりからピクニックする気満々なんじゃないか?
 そんな考えをよぎってしまい思わず楽しそうに前を歩くジュリウス隊長にジトーっとした目を向けてしまった。


 「さて、今回の任務で狩るのはハガンコンゴウ4体……任務の名前はピクニック2だ」


 「ピルグリム2でしょ」


 やっぱり初めからピクニック行く気だったんじゃないですかーやだー。
 任務の名称すらピクニックに変換するくらいになっているとは……。ここまで来るともはや病気だろ。ピクニックジャンキーだよピクニックジャンキー。


 「ピルグリムかぁ……数の暴力、その真髄を見せられた任務だったなぁ」


 そう呟いて視線を空に向けるのは俺が引っ張ってきたロミオ先輩である。彼の気持ちはよくわかる。
 神機使いになりたての頃、ジュリウス隊長監督の下で数多くのアラガミをいっぺんに相手したこともあったからな。まぁ、俺はそのうち物量も圧倒的な個の力で食い破ればいいじゃないという結論を下したけど。


 「しかしなんということでしょう。今のロミオは凶悪な血の力に目覚めておりソレを使えばアラガミが悲劇的ビフォーアフターを遂げることに……」


 「やめろぉ!」


 自重を大気圏に届くくらいの彼方へ投げ捨てたギルさんがロミオ先輩を弄り、彼は彼で律儀にそれに反応する。
 そんな精神年齢が低い男性二人をよそに女性陣と俺、ジュリウス隊長は既にこちらに寄ってきていたハガンコンゴウの相手をしていた。


 あの二人がぐだぐだ話しているから戦ってないと思った?残念、戦いながらの雑談なんて極東人にとってはデフォスキルですよ。


 「ひゃっはー!ハガンは虐殺だー」


 「GUBBBBBBB!?」


 いつぞやの悲劇再び。
 哀れ、ハガンコンゴウは唯でさえ脆い顔面で凶悪な散弾を全て受け止めることなり、変な叫びを上げて地面に倒れ付した。ショッギョ・ムッジョ。
 自分の仲間がやられたからか、自分の胸をドラミングして怒りを表し始めたハガンコンゴウの顔面にヴァリアントサイズを突き刺した。ビクビク痙攣を起こし始めたハガンコンゴウから視線を外して周りを見てみれば、残りの三人も同じようなことをしていた。


 「これにて任務完了ですね」


 「いやーハガンコンゴウは強敵でしたねー」


 「白々しすぎる……」


 「ロミオ!その辺の小型アラガミと遊んでないで、持って来たシートを敷け。作ってきたサンドイッチを食べようじゃないか」


 「俺は引きずられてきたんですがねぇ……ていうか、ギル!いつまでも遊んでないでこっち手伝ってくれよ!無駄にでかいんだよ、このシート」


 「また世界を縮めてしまt――――あぁ、今行く」



 崩れ行くハガンコンゴウの死体に囲まれてシートを敷き、持参したサンドイッチをほおばる。
 ジュリウス隊長曰く自作のサンドイッチをパクつきながら、ふと現在の自分たちの状態を振り返ってみた。
 ……今考えてみるととんでもなく奇妙というか、恐怖すら感じる集団と化している気がする。


 「ジュリウスにこんな特技があったなんて知らなかったなぁ」


 「他にも掃除や裁縫なども得意だ」


 「ブフッ!……ゲッホ……やめろジュリウス。いきなり笑わすな……ゲホ、危うくお茶噴出すところだったぜ」



 ―――――――――――――――――ガシャンガシャン



 「もうみんな!ジュリウスのサンドイッチだけじゃなくて私の特性レーションも食べてよ!味もちゃんと改良したんだから」



 ――――――――――――ガシャンガシャン



 「青紫色で、腐臭を放つ物体なんて食べれるわけないだろうが……何時ものおでんパンはどうしたんだよ」



 ――――――――――――ガシャンガシャン



 「ロミオ、さっきからゲームの音がうるさいですよ。ガシャンガシャンって」


 ――――――ガシャンガシャン



 「ゲームの音でこんな重そうな音が出るわけないだろ。そもそも任務に持ってくるなんていうこと、俺でもしないわ」


 ――――ガシャン


 「音が止まった……?」


 「………あー、なんか嫌な予感がする。私の中のおでんパン(ゴースト)がそう叫んでいる気がする」


 「ナナ。多分正解だ」


 俺がそう言った直後―――――――



  グォン!!


 
 ――――――巨大な何かが空を切り、俺たちの頭上に振り下ろされていることを空気の振動から察知した。


 
 俺たちはすぐ隣にあった神機を手にとり、その場から発射されたかのような勢いでそれぞれ散っていく。するとその数秒後には俺たちが先程まで居たシートに巨大な大剣のようなものが振り下ろされていた。
 そのときに発生した空気圧にバランスを崩しそうになるも、何とか体勢を立て直し地面を抉って勢いを殺し、無事に着地を果たす。
 大剣の出所を確認するために、根元を探して視線をずらしていくと三メートル……いや、その倍くらいはある距離に大剣を振り下ろした状態で固まっている顔が継ぎ接ぎのデミウルゴスみたいなアラガミ?の姿が。


 「何だアレ?アラガミか?」


 「デミウルゴスかクアトリガの親戚じゃないか?」


 緩慢な動きで顔を持ち上げこちらを見てくるアラガミ?を警戒しつつ、みんなで意見を交わす。
 そんな中、部隊用の回線が突然開き竹田さんの声が聞こえてきた。


 『ブラッド隊、聞こえますか!?今近くに巨大なアラガミ反応が現れました!直ちに周囲を警戒してください!』


 「すいません。さっき不意打ちくらいまして、現在対峙しています」


 『遅かったですか……え?わ、わかりました』


 大剣を振り下ろして以降まったく動かないアラガミ?に警戒していると、なにやら竹田さんのほうで何かあったらしい。


 『サカキ博士が仁慈さんにおっしゃりたいことがあるらしいので代わりますね』


 『―――やぁ、仁慈君。状況の方はどうだい?』


 「どうでしょう?正直分かりません。というかサカキ支部長。俺たちが今対峙しているアラガミ擬きはなんですか?」


 『そうだね……今まで君の事を監視していた例のアラガミといえば分かるかな?』


 「あれがですか」


 畜生。サリエルのほうがまだよかったじゃねえか。
 何でこんな気持ち悪いのが……と思いつつ、ラケル博士が作ったもしくは調教したアラガミ擬きを睨みつける。
 すると、目が合った。



 「AAAAAAAAAA!!ジ…ン……ジィ!!ジンジィイイイイイイイイ!!!」


 「キャァアアアアシャベッタァァァァアア!!」


 しかもこの気持ち悪いの、俺の名前を呼びやがった。
 

 「……なんだ、仁慈のお客さんだったのか」


 「びっくりしたぜ」


 「ならここは……」


 「ご指名が入った仁慈に任せて、私たちは帰ろうかー」


 「頑張れ仁慈。お前が……ナンバーワンだ!」


 「おい、ちょっと待て」


 俺がアラガミに名前を呼ばれた瞬間、他のブラッドメンバーはこれ幸いと俺に一言ずつ言葉を投げかけ、極東支部に帰ろうとし始めた。


 「この状況に仲間一人置いて帰るとかおかしいでしょ」


 「冗談だ。しかし、気をつけろよ仁慈。あのアラガミ……多分お前のことしか見てない」


 背後に居るアラガミ擬きを指しながらそういうギルさん。ソレはどういう意味かと聞こうとしたその瞬間、何時ものごとく第6感的な何かが発動し、反射的に神機を背後に振るった。
 振るった神機は俺の背中に飛来しようとしていたエネルギー弾を見事に切り裂く。しかし、それに続いて同じようなエネルギー弾が発射されてきたため、神機使いの身体能力をフル活用した超人的ジャンプで残りの攻撃を回避した。


 このとき、近くにギルさんたちがいたにも関わらずエネルギー弾は全て俺のほうに向かってきていた。どうやらギルさんの言っていることはあたっているらしい。


 足のバネを使って着地の衝撃を緩め地面に降り立つと、近くに先程まで俺を置いていこうとしていたブラッドメンバーの姿があった。どうやら俺をおいて帰るのはやめることにしたらしい。


 「さて、ふざけるのもここまでにするとして……みんな、相手は話すことのできるいわば知性を持ったアラガミである。決して油断せず仲間との連携を駆使して戦え。……では、行くぞ!」


 『了解!』


 ジュリウス隊長の掛け声と共に一気にアラガミ擬きに突貫する。
 そんな俺たちをアラガミ擬きは咆哮と共に向かい合うのだった。


 




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十七話

よっし!師匠来た!これで勝つる!
ゴホン、失礼しました。ついついFGOで念願の☆5を手に入れたのでつい。


そんな事は置いといて、四十七話どうぞ。


 「ちぃ……!堅い!」


 唐突に現れたストーカーアラガミ擬き(多分ラケル博士が関与している)を倒すために、ジュリウス隊長の号令と共にそのアラガミ擬きの下へ別々の場所から一斉に攻撃する。


 しかし、俺を含めたブラッドメンバーの攻撃は当たってはいるものの、異常に堅い表面に弾かれてしまった。アラガミ擬きの様子を見る限りでもあまり効いているようには見えなかった。まさかジュリウス隊長の攻撃すら弾くとは……最近アラガミはサンドバックかそれに類似するストレス発散器具かと思っていたが、随分骨のあるやつが居たもんだ。いや、ラケル博士が関与した疑いがある時点でこのくらいは想定しておくべきだったな。


 「なんか神機の効きがわるいな……」


 「速さが足りてないんじゃないの?」


 「俺が遅い!?俺がslowly!?冗談じゃねぇ!!野朗オブクラッシャー!」


 「混ざってる混ざってる」


 ロミオ先輩の言葉に過剰反応を示したギルさんが、唯でさえ壊れているキャラをさらに崩して敵に突貫しようとするので俺とロミオ先輩で何とか押さえつける。後ギルさん、それ本当は「野朗ぶっ殺してやるぁぁぁ!」って言ってるんですからね。


 「っと……!本当に効きが悪いな。……実にすばらしい。切り応えがあって最高だ」


 「おい、誰かジュリウス隊長(コイツ)も止めろ」


 獰猛な笑みを浮かべて再びアラガミ擬きに切りかかろうとしているジュリウス隊長にナナとシエルをストッパーとして送り出す。ナナがジュリウス隊長の目の前にハンマーを振り下ろしたことで彼は止まったようだ。冷や汗をダラダラと流しているが、今回はちょっと擁護できないのでスルー。まったくブラッドはキチガイの巣窟だぜぇ……。


 暴走した男性陣の鎮圧を達成したので、改めて現在の状況を整理することにする。
 相手であるあのアラガミ擬きの皮膚?装甲?どっちだか分からないが、あれは今まで相手して来たアラガミの中でも群を抜いて堅い。クアトリガもなかなかに堅かったがそれ以上だ。ブラッドメンバーで一斉に攻撃を行ったわけだが、傷ひとつ付いてない。まだまだ余裕綽々ってかんじだ。
 今現在も、こうして考え事をしている俺に対して熱烈なアプローチを仕掛けてくるくらいだしな。他の人達を完全に無視して。


 「GUUUUUUUAAAA!!ジン……ジィィイイイイ!!」


 「えぇい!しつこいな!お前みたいな化け物に迫られても嬉しくないわ!人型美少女になって出直して来い!!」

 
 俺の名前を呼びながら、胸部の装甲を開けてヴァジュラよろしく電撃を放とうとしているアラガミ擬きにそう叫ぶ。
 こちらに発射された電撃は自分に当たる分だけしっかりと切り払いつつ、必要ないかもしれないが俺に注意を向けさせるためにいくつかの電撃はしっかり返しておく。別に電撃を返したからというわけではないが、自分の周囲にいるブラッドメンバーを華麗に無視し、自分の右前足に巨大な剣を出現させて振り上げた。よくよく見てみるとその剣はバスターのチャージクラッシュ時の形態にも似ている。
 神機の技術が思いっきり流用してるじゃないですかー。

 
 帰ったらラケル博士に洗いざらい吐いてもらおう。ブラッドのみんなで押しかければさすがに話してくれるだろう。
 ん?お前ラケル博士のこと苦手に思ってなかったかって?知らんな。


 しかし、それは悪手だアラガミ擬き。
 四つん這いで移動しているお前が前足を上げて作り出した剣を振り上げるということは必然的に動けなくなるということだ。そして、お前の周りには散々無視されて若干青筋が浮かんでいるブラッドが居る。
 結局何が言いたいのかというと、それは致命的な隙となる。完全に剣を振り上げたタイミングを狙い、無視されていたブラッドメンバーは関節などの防御が薄いと思われる部分に自らの神機を突き立てる。


 意識外からの攻撃に加え自身の身体を動かすために使う関節を攻撃された所為か、アラガミ擬きはその巨体を支えていた足を折り無様に地面に倒れこんだ。


 「どんな感じだった?」


 「衝撃は届いたんだけどね……」


 「ダメージが入っているかといわれれば少々首を傾げますね」


 ちょうど俺の近くに下がってきたシエルとナナに話を聞いてみると、どうやら結果はあまりよろしいものではなかったらしい。
 アラガミ擬きのほうも既に立ち上がろうと、肢体に力を入れているようだった。


 くっそ……何でストーカーアラガミ擬きとか言う意味不明で気持ちの悪いやつに限ってこんなにしぶといんだ……泣けるぜ。


 「……なんか違和感を感じるんだよな。まるでロミオの血の力を食らったときみたいに神機の機能が制限されているような感覚が、あいつに神機を突き立てた瞬間に感じるんだよな」

 
 「俺はここ最近のギルさんの態度に違和感を感じまくっていますけど……」


 というか、ギルさん。ロミオ先輩から血の力使われるくらいのことをやらかしたんですか。
 

 「仁慈そのことは言っても無駄だぞ。本人はまるで気になってないから。まぁ、そのことは置いといて……確かにギルの言うことも分かるんだよなぁ。なんていうか、何時もなら神機から伝わってくる手ごたえがまったく感じられないんだよ」


 これはギルさんにワンテンポ遅れて下がってきたロミオ先輩の言葉。
 うーん……神機から手ごたえが感じられないか……。その感覚が誰か一人だけだったら神機の不備と言えるが、みんな思うところがあるらしい。ロミオ先輩の言葉を聞いた瞬間にどこか腑に落ちたような表情を浮かべた。


 何も解決していないのにどこかすっきりした気持ちで残りのジュリウス隊長を探すが、近くには彼の姿はなかった。もしやと思いアラガミ擬きのほうに視線を向けると、あの人は未だに一人で切りあっていた。わざわざ無視して俺に向かってこようとするアラガミ擬きの進路上に割り込んで。良くやるわ。


 俺も囮になるよりも直接殴りに行きたいので、アラガミ擬きに襲い掛かろうと下半身に力を込めるが、絶妙なタイミングでこちらを向いたジュリウス隊長に視線で窘められた。


 『この面白いの、俺にやらせろ』


 視線でそう語りかけてくるジュリウス隊長。
 俺がこの頼みに従う義理はまったくといっていいほどないのだが、無視して突っ込んだ暁には俺が初めにこま切れにされそうだったので直接手を出すことはやめることにする。代わりに、神機を銃形態にして顔面に弾をぶち込んでみた。全然効いてないけど。



 「GUAAAAA!ジンジィィイイイイ!」


 「オイオイつれないな……今は仁慈のことでなく俺の相手だけをしていろ……ッ!」


 いい加減しつこいとアラガミ擬きのほうも感じたのか、初めて俺から視線を逸らしジュリウス隊長に継ぎ接ぎだらけの不細工な面を向ける。
 そしてそれと同時に自分の前足を今度は両方とも上げて、一瞬だけ後ろ足だけで立ったかと思うと、自分の身体が前に倒れることを利用したのしかかりをしようとした。


 だが、ギルさんではないが速さが圧倒的に足りない。巨体を持ち上げたとき既にアラガミ擬きのやることを予測したジュリウス隊長はとっくに攻撃範囲外に離脱している。
 ズゥン……!と重量感漂う音と砂埃が周囲に響き渡るも、視界が悪くなるということ以外まったくもって効果を成していないという事実がどこか虚しさを感じさせた。


 当然その隙をジュリウス隊長が見逃すわけもなく、後退していた身体を半回転させアラガミ擬きに人間とは思えないスピードで接近を試みる。
 

 「AAAAAAAAAAAAAAA!!」


 「!?……チッ!」


 しかし、どうやらのしかかりのほうはジュリウス隊長をおびき寄せる餌であったらしくある程度まで接近していたジュリウス隊長にアラガミ擬きが練成した大剣が横薙ぎで襲い掛かる。
 

 彼はその攻撃を棒高跳びの背面とびの要領で回避すると、空中で足を腹のほうへ抱え込むようにして回転、地面に着地する。その後、大剣を振り切った状態のアラガミ擬きの顔面に一太刀お見舞いしていた。
 


 「フッ」


 「うわ、めっちゃドヤってる……」


 顔面に攻撃を入れた後、寸分のブレもなく地面に着地したジュリウス隊長はわざわざ背後に居る俺のほうを見てドヤ顔をかましてきた。ぶん殴りたい。
 このまま俺にドヤ顔を見せ付ける気か?と危惧したタイミングでジュリウス隊長の登場が曇りを見せる。
 何事だと思って彼が向けている視線の先を辿って見ると、継ぎ接ぎだらけの顔面に新しい切り傷が刻まれていた。ざっくりと深くまで。


 貫通力に優れたスナイパーで放った俺のバレッドも難なく弾き返すくらいの強度があるにも関わらず、急に目に見えて分かるほどの深い傷がついたのか、そのことについて考えているのか。あの表情は。


 そのことに気付くと確かにあの傷つき方は少々違和感を覚える。どうせやることもないし、このことに対して考察でもしようかと破損した顔面を観察しようとしたところで、


 「ん?」


 深い切り傷が入ったアラガミ擬きの顔面の内側から急に激しい光があふれ出した。何?自爆でもするのか?
 予想していなかった事態にさすがのジュリウス隊長も後退する事にしたらしく、アラガミ擬きに向かって背を向けて俺たちが居るところまで下がってきた。


 「ジュリウス……お前あの化け物に何したんだよ……」


 「顔面を神機で切り裂いただけだ。唯……おそらくそれは誘われたものだったのだろう。俺が切りつけた顔面は、仁慈の弾丸を弾いたとは思えないくらいに柔いものだったし、アレは俺が傷を付けた瞬間に嗤っていた」


 「うわぁ……あの顔面で嗤うとかないわぁ……。まぁ、今はいいか。それで切った結果がアレですか」


 顔の位置をジュリウス隊長からアラガミ擬きに戻すと、先程まで顔からあふれていた激しい光はアラガミ擬きの全身にまとわりつくようになっていた。しかもシルエットが若干変化している。まるで、ポケモ〇の進化のようである。Bボタン連打すればキャンセルとかされたりしないかな。


 『――――――――ッ!?仁慈君!今すぐその場を離れるんだ!』


 「え?サカキ支部長?」


 目の前の光景がどうあがいてもポケモ〇の進化シーンにしか見えなくなった俺は一週回ってどうなるのか気になってしまい、暢気に元アラガミ擬きを眺めていたのだが、その時部隊全体に知らせるための回線に普段の様子からは想像もつかないくらいに焦りを含んだサカキ支部長の声が乗せられてきた。
 この段階でただならぬ事態であると考えた俺たちは、進化を始めたアラガミ擬きからすぐさま距離をとり、そのまま離脱した。
 タイミングから考えるとサカキ支部長はあの現象に関して何か知っているようだし。


 「サカキ支部長あれはなんですか」


 『今は説明する時間がない。詳しいことはこっちに戻って来た時にするよ。唯一つ確実に言えることは、君のストーカーは我々が思っていたよりもさらに性質の悪いものだったということかな』


 「思ってる以上なのか……」


 唯でさえ、あの不細工な顔面で四速歩行で人じゃない化け物ストーカーというまったく嬉しくない属性盛りだくさんなのに……。


 『いや、そうではなくてね。あれは最悪の場合、全人類を滅ぼすことのできるものになることができるのさ』


 「それは思っている以上ですわ」


 俺の精神の問題ではなく、普通にとんでもないものだった。規模も人類と壮大なスケールである。これにはさすがのブラッドメンバーも驚愕の表情を浮かべていた。よかった。ここで笑ってたら本当にどうしようと思った。


 『とにかく、先程も言った通り早く極東支部に戻ってきて欲しい。一刻も早くこの状況に対する対応策を練らなければならないからね。帰還のためのヘリは既に飛ばしてあるし、合流ポイントも送ってあるから』


 「了解です………ラケル博士はどうですか?今そこに居ます?」


 『あぁ、彼女もなにやら決意を固めたようでね。君たちの帰還を待っている』


 「準備万端ですね。分かりました、全速力で帰還します」


 通信が切れた後に、送られてきたという合流ポイントを確認。それに向かってさらにペースを速める。
 

 「仁慈……今の話……なに?どうしてラケル先生の名前が出てくるの?」


 俺とサカキ支部長の会話内容を聞いていたナナがそう尋ねる。ナナはラケル博士が作った施設、マグノリア・コンパスの出身であり親代わりの彼女の名前があの会話の中で出てきたことに戸惑っているようだ。
 他の人の様子を伺っていると、ギルさん以外のメンバーはみんなナナと同じような疑問を抱いているようだ。そういえばみんな施設の出身だったな。


 「………とりあえず、極東支部に戻ってからな」



 現状はなんともいえないので、無難な言葉でその場をやり過ごし俺たちはさらにペースを上げた。







              ――――――――――――――――――――







 「サカキ支部長。ブラッド隊全メンバー只今帰還いたしました」


 ヘリの操縦者さんに無理言って限界ギリギリの速度で送ってもらったため、ブラッドメンバー全員はサカキ支部長との通信を切った三十分後には極東支部へと帰還することができた。


 「待っていたよ。さぁ、入ってくれたまえ」


 サカキ支部長の許可が下りたと同時に扉を開ける。
 部屋の中には、サカキ支部長に極東の第一部隊隊長である藤木さんと俺に意味深な言葉を残したシックザールさん。そして最後に今回話し合うことについて、最も重要な情報を握っていると思われるラケル博士が居た。


 「さて、みんな色々と思うことがあると思うがまずは君たちが相手していたもののことを話そうと思う。ラケル博士、よろしく頼むよ」


 「えぇ。……貴方達ブラッドが対峙したアレは簡単に言ってしまえば神機兵のプロトタイプです」


 プロトタイプ。つまりは俺たちが相手していたあれはあの鉄屑の試作品のようなものだったということである。
 何でもあのプロトタイプはどのくらいならアラガミに対抗できるのかというコンセプトで作られたため強さの面で言えば今の神機兵をはるかに上回る性能らしい。
 上回りすぎてると思うんだけど。それに、あいつの動きは今必死に作ろうとしている無人神機兵もびっくりな身のこなしだったんだけど。
 そのことが気になったので、ラケル博士に直接尋ねてみると彼女は少し考えるような仕草をした後に口を開いた。


 「……それにはまず、私の話を聞いて頂かないといけません」


 そう前置きしてから語られた内容は信じられないことの連続であった。怪我を治すためにP73因子を取りいれていたこと、それにより荒ぶる神々の意思とか言うものの声が聞こえるようになったこと、それを利用してプロトタイプの神機兵……零號神機兵を自らの手駒としたこと、最終的に終末捕食を起こそうとしたことなどなど、そんなところまで言っていいの?とこっちが思ってしまうほどのネタバレのオンパレードだった。
 ついでにブラッドも終末捕食の根幹を成すジュリウス隊長を特異点というものにするための舞台装置にするためだったらしい。これには俺以外のブラッドメンバーもショックを隠しきれなかったようだ。


 「考えがえぐいですね」


 「あら、あまりショックを受けていないのね」


 「第一印象から知ってました」


 「解せないわ……」


 だって、一目見たときからそんな事を思ったんだもの。人間構えていれば割りとダメージ少ないからね。


 「……だったら貴方が度肝を抜くような、とっておきの情報を言ってあげる」


 「え゛?」


 やべ、余計な事言ったかも。


 「貴方、この世界のこと異世界だと思っているでしょう?」


 「……は?」


 ラケル博士の口から何気なく出てきた言葉に俺は驚きを隠せないで居た。
 何でこの人がそのことを知っている?
 

 今の彼女の発言で、沈んでいたブラッドメンバーが俺の方に視線を向けてくるが正直その辺に気を配っている余裕がない。


 「考えて見なさい。ジュリウスやギルが言っているネタは何処から仕入れてくるのかを、いったい今は何年なのかを」


 「……まさか」


 ラケル博士に言われて初めて年代のことを考慮して考えてみる。するとあるひとつの答えにたどり着くのだ。
 この世界は、俺が生きていた世界の未来の姿という結論に。



 「それだけじゃない。貴方、自分が別の世界から来たと思っていた割りには随分と戦うことに慣れるのが早かったわね。まるで、それが当たり前だといわんばかりに」


 確かに。
 いくら訓練で戦い方を身に着けたからといって、普通の生活を送っていた俺がいきなり命のやり取りを行えるのだろうか?


 「アラガミを素手で殴り飛ばすこともそう。神機使いとはいえ、そのことが本当にできると思う?人間の身で」


 考え出せば止まらない。違和感の数々。
 困惑の表情を浮かべているであろう俺の顔を見てラケル博士は真剣な表情をしていった。


 「教えてあげるわ、仁慈。貴方のことを貴方が知らない事まで、ね」



 


 

 



次回、仁慈君の秘密が明らかに!……なるといいね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十八話

遅れて申し訳ありません。頭の中で考えていることを文章にすることに手こずりました。

今回はご都合主義、急展開、キャラ崩壊と注意事項の雨あられです。
よっぽどおかしいなと思うこと意外はなるべくスルーしてくれるとありがたいです。





「鼻☆塩☆塩。アレは今から36万……いや、1万4千年前だったかしら……まぁいいわ。彼にh――――」
 「俺に72通りの名前なんてありませんよ。そういうのはいいので、結論を簡潔に教えてください」


 何を言われると身構えていたらこれだよ。
 もう少し真面目な空気を持続できないんですかねぇ。どう考えてもネタをぶち込むタイミングじゃあなかったでしょう?


 「……なるほど。仁慈とは仮の名。本当は神機の変わりに爪楊枝を駆使する天界出身のイー〇ックだったわけか」


 「ちげぇよ」


 俺はジーパン鎧なんていう常人離れした服装はしないし、爪楊枝ではなくしっかり神機を駆使して戦ってる。いや、そもそもあの人は実際に爪楊枝を使って戦ったことはないし。そして何より、イ〇ノックはハルオミさんだろ。
 って違う違う。話が思いっきり脱線してやがる。


 「ほら見てください。少しネタを振っただけで話が脱線するんですから」


 「ジュリウスが着実に成長してくれてうれしいわ」


 「元凶お前か」


 おかげでジュリウス隊長がすごい残念な感じになっているじゃないか。外見がいいだけになおそれが目立つという仕様も搭載してるし……。
 あーまた話がずれた。


 「もういいです。ではラケル博士、結論をどうぞ」


 「えぇ。そろそろ真面目に話しましょう。残された時間も少ないことですしね。………仁慈、あなたは本来過去にも現在にも未来にも生まれるはずのない人間………いや、『人格』だったのよ」






              ――――――――――――――――




 私がP73偏食因子を移植してからしばらくして、荒ぶる神々の声が聞こえるようになったという電波バリバリな話は先ほどしたわね。


 「自分で言っちゃうんだ……」


 そこ、自分で話を逸らすようなことを言わない。
 

 ……あの時の私は今のようにロマンも自分のしたいこともなかったから荒ぶる神々の人形のような状態だったわ。そのことに薄々気付いていたのかお姉さまも私のことを時々不審な目で見ていたしね。

 
 そんなある日、荒ぶる神々の意思が私に語りかけてきたのよ。
 つまり「(荒ぶる)神(々)は言っている……〇〇に行きなさいと」状態ね。前述したように当時の私は人形同然。遠くから零號神機兵を護衛として付き添わせながら私は荒ぶる神々の意思の言われたとおりの場所に向かい、見つけたのが……。


 「……仁慈か」


 えぇ、そうよジュリウス。もっともそのときに見つけたのは今私たちの目の前に存在している『仁慈』ではないし、私が見つけたとき彼は肢体をアラガミに喰われ、瀕死の状態だったけれど。


 話を戻すわね。
 私が聞いた荒ぶる神々の声は、目の前で瀕死の状態になっている少年を助けろということだった。当時の私は、もうこの子どもは助からないと思いつつも、マグノリア=コンパスにつれて帰ったわ。零號神機兵に乗せて。


 「なんて嫌なタクシーなんだ……」


 「まさか零號神機兵はそのときに乗せた仁慈の感覚が忘れられなくて……」


 「あってたまるか。そんなこと」


 ロミオ余計なこと言わないの。


 それで、瀕死の状態にあったその少年をマグノリア=コンパスに連れて帰ったのだけど正直私は彼が生きているとは思わなかったわ。
 肢体を喰いちぎられ、出血量もかなりのものだった。その状態で応急処置もせずに運んだのだもの。
 けれどそんな私の考えを他所に荒ぶる神々の意思はこの少年に私と同じくP73偏食因子を投与しろという命令を下した。人形であった私は口答えすることなく瀕死の少年にP73偏食因子を投与して、当時開発されたばかりの対アラガミ装甲壁と同じ原理でできている部屋に隔離したの。さすがに何の準備もなしにアラガミ化されたら困ってしまいますからね。



            ―――――――――――――――――――――― 




 それから三日たったある日、ラケルが拾った少年が目を覚ましたと抱えていた施設の従業員兼研究者から連絡があった。
 ラケルは荒ぶる神々の言われるがままに少年を隔離した部屋の様子を見に行き、絶句した。


 つい三日前までは無残にも肢体を喰いちぎられて、痛々しい姿だった少年が何処の欠損もなく五体満足でその部屋にいたからである。彼は退屈なのか、足をぶらぶらと遊ばせていた。
 急いでラケルは施設に居た従業員兼研究者たちを集めて彼の身体を徹底的に調べることにした。すると、復活した彼の肢体の殆どはオラクル細胞で構成されていることが判明したのである。


 「……ラケル博士、これは一体……」


 「……推測ですが、アラガミに喰われた際に付着したオラクル細胞が彼に注入したP73偏食因子により生存本能を学習した結果ではないかと」


 ラケルが言った言葉に皆信じられないという反応を返す。このことを口にしたラケル本人も自分の内から聞こえてくる荒ぶる神々の声を聞いていなければ絶対に信じていなかっただろうと思っていた。
 

 ラケルおよび研究員たちは少年の処遇についてかなり迷っていた。危険な芽は早めに潰しておいたほうがよいという意見と研究者として少年をこのまま観察し続け、偏食因子適合率増大に利用すべきという意見が出た。最終的には少年を拾ってきたこととこの施設の実質的な最高責任者であるラケルが少年の処遇について決めることとなった。


 彼女は自分の中にある荒ぶる神々の意思に従い彼をこのまま育てつつ、経過を観察する決断を下した。もちろん、アラガミ装甲壁で囲まれた部屋で軟禁に近い状態で育てることとなるのだが。


 「………お名前を教えてくれるかしら?」


 ラケルは自分が拾ってきた少年の名を聞くために、隔離された部屋の中に入り足をぶらぶらと遊ばせ退屈そうにしていた少年に話しかける。
 少年は声をかけてきたラケルのほうを向いて、ポツリと一言呟いた。


 「なまえ?それ……なに?」


 ここでラケルは少年を拾ってきたときの状況を思い出した。肢体を無くし、素人目でも助からないだろうと思うほど血を流して地面に倒れ付していた。そのショックで記憶に何かしらの障害が生じてもまったく不思議ではない。
 彼女はこれを好機と考えた。彼女の中に居る荒ぶる神々の意思が彼を拾ったことには何かしらの意味がある。後々使うのであれば自分の都合のいいように動かせるほうがいいだろう。そう瞬時に考えた彼女はこの日、名前を失った少年に『ジン』という名前をつけて育て始めた。



 彼女の考えた少年駒化計画は順調だった。元々親の愛情などを必要とする時期に拾ったためか、少年――――ジンはラケルによくなついていた。
 しかし、唯一彼女の思い通りにならないことがあった。それは、


 「おぉ、ジン君。元気にしとったかの?」


 「あ!おじいちゃん!」


 ジンがなついた人がラケルだけではなかったことだろう。
 部屋に入ってきた見掛け八十はあるであろう老人の胸に向かって笑顔でジンが飛び込んでいく。
 ジンに抱きつかれた老人はニコニコと厳格な表情をだらしなく緩ませてジンを受け入れた。


 ――――――彼の名前は樫原信慈。
 

 ラケルやその中の荒ぶる神々の意思も認めるほどの科学者である。その頭脳は彼女たちですら舌を巻くこともあるほどのもので、彼のことを認めると同時に目の上のたんこぶのようにも思っていた。


 そんな風に思われている樫原信慈がジンに構う背景には当然の如く理由がある。それはジンの身体のことについてだった。
 外見的には通常の人間と変わらないが、肢体はアラガミと同じオラクル細胞でできている。しかもジンの身体にはつい最近開発が進み安全性が向上している偏食因子ではなく、適応が難しく多くの犠牲を生み出したP73偏食因子を取り込んでいるのだ。そのため彼の様子を近くで観察し、兆候があったときにすぐさま対応できるようにしている。


 また、最大の理由は彼がたどり着いてしまったもしもの可能性だ。
 オラクル細胞、もしくは偏食因子は人間を含めた地球上の全ての生き物が行ってきた進化を比較にならない速度で行っている。

 
 なら、人間の中に入りその構造、思考回路をオラクル細胞が学習した場合はどうなるだろうか。
 その内意思を持ち、ジンの身体を乗っ取り知能を兼ね備えたアラガミが誕生するのではないか……それこそが樫原信慈の最大の懸念であった。
 実際、時々ジンは獣のように暴れ回ることがあった。もっとも相手はいまだ子どもで、対応を早期に行っているからこそ大事にはなっていないが長くは持たないだろうと考えている。


 「いい子にしてたかの?」


 「うん!」


 「そうかそうか。なら今日はいい子にしていたご褒美に絵本をたくさん持ってきたから、早速読もうじゃないか」


 「ほんと!?」


 キラキラと目を光らせて信慈を見るジン。
 その視線に確かな罪悪感を感じつつ、彼はそれを人生で培ってきた精神力で押さえ込んで柔和な笑みを浮かべると胡坐をかいてジンを上に乗せて絵本の読み聞かせを行った。




 


 ―――――ジンは知らない。


 彼が持ってくる絵本には、自分の記憶・人格を他人の脳内に移すことができる仕掛けが施してあることを。そしてそれが、もしアラガミが彼の精神を侵食した際に対抗できるようにする防衛装置だということを。



 それからジンは特に何の問題も起こすことなく、年を重ねていった。
 既に高齢だった樫原信慈は寿命で息を引き取ったがその時も大泣きこそすれ、感情の爆発による暴走などもなかった。
 このことにより、ある程度の自由がジンに認められ以前よりもまだ楽しく過ごしていた。


 しかし、ジンの年が二桁に差し掛かった時に事件が起きた。
 

 「………」


 『………』ガシャンガシャン


 十歳になりたてのジンの前に零號神機兵が現れたのだ。
 


 『――――――』ガシャンガシャン


 「うわぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」


 ジン、絶叫。
 トイレへと出かけた帰りに、ぱっと見化け物としか見えない……というか正真正銘の化け物を見てしまったジンはわき目も振らずにマグノリア=コンパスの外へと飛び出してしまった。
 本来ならば、子ども一人を捕まえることくらいは造作もない。だが彼の肢体はオラクル細胞でできている。ぶっちゃけ、下手な神機使いよりも身体能力が上だった。
 

 ラケルが気付いたときには既に遅かった。
 既に施設の計器で観測できる範囲にジンの反応はなく完全に見失ってしまった。
 しかし、彼女の中にある荒ぶる神々の意思は対して重大なこととは思っていなかった。なぜなら彼がアラガミ化すれば特異点になりうるかもしれないからである。手段は多いほうがよいと、ラケルにジンの捜索を打ち切るように言い渡した。




            


 
 「私が知っているのはここまでです。ここからは私の推論になりますが、聞きますか?」


 「……はい」


 「ジンはマグノリア=コンパスを逃げ出したあと、ストリートチルドレンと同じように生活していたと考えられます。知識は樫原信慈博士と私で十分なほどつけましたし、身体能力は折り紙つきですから。そして、ある日彼の身体能力を持ってしても逃げ切れない……そうですね、アラガミに囲まれたかそれに似たような状況に陥ってしまったのでしょう。貴方を発見したとき、既に神機を持っていたことから未だ回収されていない神機を握って道を切り開いてその状況から脱したからだと考えています」


 「……ラケル先生。そんな事が本当に可能なのでしょうか?」


 「えぇ。私たちの援助があったとはいえ、何年もアラガミ化せずに生活していたのですもの。今更、調整された神機程度に喰われる可能性は低いです」


 「……でも、俺はジンではなく樫原仁慈ですよ。まぁ、樫原信慈という人が出てきた辺りから大体予想はできますが」



 「えぇ、そう。ジンは神機を問題なく扱えた。しかし、神機を握ったことにより彼の中に眠っていたオラクル細胞が一気に活性化し、人格の侵食が始まったのでしょう。そして樫原信慈が仕込んでいた防御装置が発動。人格同士の喰いあいの結果、混ざり合ってしまった」


 「つまり?」


 「速攻魔法『超融合(精神の喰らいあい)』を発動!『(ジン)』と『お前(樫原信慈)』を超融合!と言ったところでしょう」


 「…………」


 仁慈の顔が地面に向けられる。
 ……まぁ、ショックでしょう。今まで自分の記憶だと思っていたものが他の誰かのもので尚且つ混ざりものであったのですから。
 記憶というのは、人格の根幹を成すもの。
 それが全て自分のものではなかったという事実は自身のアイデンティティーの喪失に他ならない。
 ジュリウスを初めとするブラッドメンバーやそのほかに居る人達も、仁慈に対して何の言葉もかけることはできなかった。当然、私も。






             ―――――――――――――――――



 
 ラケル先生から話を聞いたが、正直だからなんだという感想しか抱かなかった。
 いや、この反応がおかしいことは分かるよ?でもさ、神機使いになってから俺が思い起こしたことって中学時代のつらい思い出とおばあちゃんの知恵袋くらいしかないぞ?

 
 ……どう反応すればいいってんだ。
 他に思うことと言えば、一番最初にマルドゥークと戦ったときに聞いた声はアラガミの意思だったとか、あの時の力はアラガミパゥワーなのかなぁということしかないぞ。


 「あー……仁慈」


 どう反応しようかと頭を悩ませている様を落ち込んでいるのかと勘違いしたのか、ブラッドに初めてきたときと同じようなまともな口調のギルさんが一歩前に出て俺に言葉を投げかけた。


 「お前の中にある記憶が誰のものであれ、このブラッドで過ごしてきたのは他でもないお前自身だ。あまり深刻に考えるなっていうのは無理な話だとは思うが、そのことだけは覚えておいてくれ」


 ギルさん……。


 
 「肢体がアラガミだってことについてもそうだ。元々お前は化け物みたいなものだったじゃねぇか。それが正真正銘の化け物になったってだけの話だ。対して変わらない」


 「確かにそうだな!」


 「うん!」


 「おい」


 対応が相変らずすぎやしませんかねぇ。
 でも、その対応がどれだけ難しいものか俺でもわかっている。だから、俺は彼らに向けて言った。


 「ありがとう」


 


 
 




アナグラ勢「(……完全に空気だな)」

すまない……複数のキャラを同時に描くことが致命的に下手な私ですまない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十九話

蛮族の心臓落ちなさすぎワロエナイ。
石とリンゴ溶かして一日中回ったのに、二個って……自害せよ庄司。

まぁ、それはともかく。今回は零號神機兵の対策&解説回なので文字が密集しております。読み難いと思いますがご了承ください。






 「……イイハナシダナーしているところ悪いのだが、そろそろ私も話をしていいかね?」


 「あ、はい」


 ゴホンと咳払いひとつして、俺たちの会話に入り込んできたサカキ支部長。そういえばこの話し合い元々は零號神機兵とは一体何なのかまたアレにどう対処すればいいのかという話し合いだった。すっかり忘れててすいませんでした。


 「気にしなくていい。今の話は私にとっても大変興味深いものだった。この騒動が終わったら君の身体を徹底的に調べさせてもらおう」


 「ヒッ」


 そういうこというのやめましょうよ。まったく冗談に聞こえないんですから。


 「冗談じゃないからね。まぁ、そのことについては後々話をするとして……今は零號神機兵のことについてだ」


 さりげなく俺の考えていることを当てながらサカキ支部長は何時もの糸目ではなく、しっかりと瞳を開いた状態でラケル博士の顔を見る。いや、あそこまで言ったらもはや睨むといっても過言じゃないな。
 

 「あの零號神機兵から我々がかつて倒した終末捕食を行うアラガミ……ノヴァと同じ偏食場が確認された。そのことについて納得のいく説明を求めるよ、ラケル博士」


 「私の目的が元々終末捕食の実行という話はしましたね。つまりはそういうことですよ。サカキ博士。終末捕食を起こしたいのなら、それを引き起こすノヴァの残骸くらい回収していたとしても不思議ではないでしょう?」


 「それはそうなんだがね。私が疑問に思っていることはそうじゃない。君は私が仁慈君に零號神機兵の話をする時とても焦っていただろう?つまり、零號神機兵が外に出たことは完全に予想外だったわけだ。このことからノヴァの残滓を予め零號神機兵に捕食させていたということはなくなる。何故なら、ノヴァの残滓を捕食してしまえば、終末捕食を引き起こすためにその辺のアラガミを捕食しに行くに決まっているからね」


 なるほど。
 あの時既にロマンに目覚めていて、終末捕食?知らない子ですね状態だったラケル博士が零號神機兵にノヴァの残滓を食わせていることはないし。予め食わせていたとするならば、自分の制御も振り切って勝手に終末捕食を起こすためにそこらでアラガミを捕食しまくることになる。自分のやろうとしていることがばれていない状態でそんな事すれば自ら自白しているようなものだ。だからその線はなくなるということか。
 頭の回転が速いなーさすがに。
 変人でも、マッドでも改めてサカキ支部長は天才なんだということを改めて自覚する。俺が感心している間もサカキ支部長とラケル博士の会話は続いていた。


 「これはまるで、あのアラガミ自身が意思を持って行動しているとしか思えない」


 サカキ支部長の言った言葉にラケル博士は押し黙ってしまう。


 「……サカキ支部長。あのアラガミにある程度の知能があることはこの前俺に言ったじゃないですか。今更そんな事言わなくても……」


 「確かに君にそう言ったね。けれど、あの零號神機兵の行動はある程度の知識で行動できる範囲をどう考えても超えているんだ」


 「……?」


 何がどう違うのか分からずに思わず首を傾げてしまう。俺以外の支部長室にいる面々もその大半は俺と同じようにサカキ支部長の言葉に疑問を抱いているようだった。
 首を傾げていないのは、いかにも頭が良さそうなシックザールさんとラケル博士だけである。


 「確かに、今まである程度の知能を有するアラガミは居たよ。自分よりも下位の固体を従えて群れを成していたアラガミ、ディアウス・ピターやマルドゥークなんてのがいい例だろう。でもそれは捕食し、進化の過程で取り込んだ性質の延長線にすぎないんだ。今話題にしている零號神機兵は元々神機兵、捕食なんてまずしないししたとしても自分をわざと傷つけさせ、ジュリウス君の性質を取り込むなんてピンポイントで性質を他の生物から取り込んだりはできないんだよ」


 ……その通りだ。
 その辺のアラガミを捕食してそんな性質を取り込めるわけがない。そもそも、攻撃をわざと受けるという行動自体がアラガミに備わっているわけがない。


 「ちょっと待ってください。ジュリウス隊長の性質を取り込んだとはどういうことでしょうか?」


 「簡単なことだよシエル君。終末捕食を起こすアラガミであるノヴァは、その名の通り世界の全てを捕食しなくてはならない。しかし、通常のアラガミにはそれぞれ自身が持っている偏食因子によってその捕食傾向が決められているんだ。町に残っている建物などはその食べ残しだね。ノヴァはその食べ残しも纏めて食べきるんだ。だったら、全ての偏食因子に適応することができるというジュリウス君を特異点とする性質を取り込みに行くのも自然なことだとは思わないかな?」


 「え?じゃあ、零號神機兵ってもしかして……」


 「ナナ君も気がついたようだね。……そう、あの零號神機兵はジュリウス君のことを特異点になる存在だと知っていたんだ。これはどう考えても『ある程度の知識』の範疇を超えている」



 サカキ支部長の口から出てくる言葉に俺を含めた理解していませんでした組はしきりに首を縦に振っていた。


 「………あの零號神機兵には元々私の中に居た荒ぶる神々の意思が取り付いているのだと思います。アラガミ装甲と同じ原理でできている金庫の中に入っていたノヴァの残滓を捕食したことと私の中に居た荒ぶる神々の意思を感じれなくなった時期からして、これが最も可能性のある予想です」


 俺は今日この部屋で何度驚けばいいんだ……。もう精神が疲弊してリアクションをとることすらできなくなってきたわ。
 ロミオ先輩は元気よく「な、なんだってー!」と言っているが。


 「なるほどそういうことか。それならば零號神機兵の行動全てに説明がつく。ノヴァの残滓を食べることができたのは、アラガミ装甲の性質を意思で無視したため、ジュリウス君のことを知っていたのはそもそも彼を特異点にしようとしていた元凶であったからか……」


 「ついでに言うと、零號神機兵が仁慈に並々ならぬ執着を見せているのもそうでしょう。色々仕掛けていたのにそれを全て真っ当じゃない方法で潰されましたから」


 「逆恨みじゃないですかーやだー」


 自分で拾って手駒にしようとしていたくせに……。10割自業自得じゃねーか。


 「ちょっと待って、話を整理すると……つまり俺たちがこれから相手するのは、三年前に戦ったアリウスと同じような性質を持って、ラケル博士並みの知識を兼ね備えた奴ってことだろ?………結構ピンチじゃね?どう思うよ、ソーマ」


 「言った通りだ」


 「つまり?」


 「大ピンチ」


 「oh……」


 あ、昔ノヴァと交戦経験のある藤木さんとシックザールさんが軽く悟りの表情を浮かべ始めた。
 確か昔相手したノヴァは色々な偏食因子を取り込んで神機の攻撃がかなり効きづらくなったんだっけ。……打つ手なくね?


 「サカキのおっさん、どうする?また超弩級アラガミのコアをぶち込もうにも、そんな存在はアリウスをぶっ倒した後全て倒しちまったぞ」


 「うーむ……あの時は残して置いたら第二第三のノヴァとなる可能性があったから根こそぎ刈り倒してもらったが………まさかその行動が裏目に出るとは……」


 過去に交戦した経験のある人とその状況に居合わせたシックザールさん、藤木さん、サカキ支部長が考えを巡らせるが前回使った手はどうやらもう使えないようだ。
 ……いや、待てよ。結局ノヴァもオラクル細胞、偏食因子の塊だろ?


 俺はみんなが頭を抱える中、ロミオ先輩に近付いて肩を軽くPON☆と叩く。


 「ロミオ先輩。貴方がナンバーワンだ」


 「え?何の話?」


 急に俺がそんな事を言うので困惑をあらわにするロミオ先輩。
 本人は困惑しているもののサカキ支部長、ラケル博士、シックザールさんは気付いたようで先程のようなくらい表情ではなく、驚きを含みつつも希望を見出した顔を見せていた。


 「ノヴァも結局はオラクル細胞だ。ロミオ君の血の力で活動停止、もしくはそれに近い状態にできるかもしれない」


 「……その手がありましたか。どうせ王の贄になるためだけの存在と思っていたのですが……まさかこんなところで希望に転じるとは……」


 「え?マジで?こういうのって普通、ジュリウスとか仁慈とか明らかに主人公しているやつらの役目じゃないの?ていうかやっぱり俺死亡フラグ立ってたのかよ……」


 ロミオ先輩怒涛のツッコミ。
 急に自分が超超重要な役割についてしまったためもうわけが分からなくなっているご様子。


 「そもそも、俺の血の力だけで抑え込めるのか?向こうは世界を喰い尽すほど強力なアラガミなんだろ?」


 その疑問はもっともである。ロミオ先輩の血の力は桁違いに強力だ。それはもう人類の想いが結晶化したのではと思うくらいに、対アラガミに特化されている。けれど、規模が違う。ロミオ先輩の最大レンジは4体だがあくまで普通のアラガミに対してのレンジであり、これから相手するのはいわば世界と同等の位をもつ化け物である。効くか聞かないかでいったら正直不安が残る。


 「それについては多分問題ない。シエル君の血の力『直覚』によって最も有効な場所を測り、ナナ君の『誘引』でその場所まで誘導、ロミオ君の血の力を仁慈君の『喚起』で限界まで引き出しギル君の『鼓吹』でそれをさらに強化、最後にジュリウス君の『統制』でブーストをかけてぶつければいけるかもしれない」



 「おぉーなんかすごいねー。でも……結局どういうこと?」


 「要するに、『パワーをロミオに!いいですとも!』ってこと」


 「なるほどー。まさに最終決戦!って感じだね」


 「みんなそれで納得していいのかよ!」



 ロミオ先輩がなんか騒いでいるが現状これしか取れる手段がないのである。致し方なし。


 「ロミオ、これくらいしか方法がないんだ。男ならドンと構えて任せろと言っておけ」


 「他人事だと思いやがって……」


 「心配するなロミオ。俺たちがそばに居る」


 「時々奇行に走る人の言葉はちょっと……」


 口ではそんな事言いつつも雰囲気は何時も通りになってきているので一応落ち着いてきたんだろうと一安心する。



 「……さて、方針は決まった。ぶっつけ本番な上に分の悪すぎる賭けだが、我々に残された手段はこれしかない。……零號神機兵は今ノヴァの完成系となるためのいわゆる蛹の状態になっている。これが孵化するのは、過去の経験からして三日だ。この三日間のうちに取れる手段は全て打つ。みんな協力してくれるね?」


 サカキ支部長の言葉に皆は先程までのふざけた雰囲気を霧散させて頷く。





 最終決戦は三日後だ。そのときにどちらが勝つかは、神ですら知らない。


 


 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十話

五十話なのに内容がなんか中途半端に……これがおそらく今年最後の投稿となりますが、なるべく早く続きを投稿したしたいと思います。












 「すまないね仁慈君。時間がないとはいえ連日で呼び出してしまって」


 「別にこれに関しては気にしていませんよ。現状がアレなだけに仕方がないことだと思います」


 まぁ、極東に来たばかりの稼働率と比べればこのくらい軽いものですしということは言わない。
 

 場所は昨日と同じく支部長室。
 ここって会議室とかじゃないはずなのにとんでもない回数ここで集まって会議してるよな。


 それはいいとして。
 今回集められたのは俺と極東を代表する神機使い(キチガイ)の皆様。主に第一部隊とかそこらへんの人とクレイドル、そして最後に俺は良く知らないけど長いことこの極東の防衛を勤めている防衛班の人達である。ブラッドおよびラケル博士は居ない。ぶっちゃけ俺だけ仲間はずれといわなくもない面子であった。


 「今日みんなに集まってもらったのは他でもない。君たち全員にブラッドアーツ、もしくはブラッドバレットを習得してもらうために集まってもらった」


 サカキ支部長の発した言葉にみんながそれぞれ違った反応を見せる。防衛班の人はブラッドアーツってなんだ?とよく分かっていない様子だし、第一部隊の人はエリナがそれこのタイミングでやる必要あるのだろうか?と疑問を抱いているようだった。エミールさん?あぁ、あの人なら「騎士たるもの、必殺技の一つや二つ使えなくてどうする!」とか言ってた。ちなみにクレイドル組のシックザールさんとアミエーラさん、その二人と元々同じ部隊だった藤木さんはうんうん頷いて納得していた。


 「なぁ博士。俺たちがブラッドアーツ?を使えるようになることに意味はあるのか?こう、タイミング的に」


 防衛班の大森さんだったかな?
 その人がサカキ支部長に対してそんな質問を投げかけた。多分付け焼刃は危険だと思っているんじゃないかな?先程も言ったように防衛班は長くこの極東を守ってきた部隊。戦闘のノウハウを色々知っているだろうし、十分に考えられる話だ。いつぞやの神機兵に対するギルさんの反応と同じようにね。


 「確かに付け焼刃というのは一定の危険を孕んでいる。むしろ、いい方向に働く可能性はないに等しいといっていいだろう。けれど、今回のケースではそうも言ってられなくてね」


 どうやらサカキ支部長もこれは分の悪い賭けだと感じているらしく、眉間にしわを寄せている。


 「君たちに昨日話したとおり、敵は世界規模の捕食を行い、尚且つ優れた頭脳をもつアラガミなんだ。そのアラガミが自らの性質を十分に活用しないわけがないんだ」


 「……まさか、アレはマルドゥークを捕食して、あの能力を身に着けていたりするんですか?」


 「確認は取れていないがその可能性は大いにある。仁慈君に計画を根幹から壊されて、ラケル博士の体から居なくなる間際には大分慎重な性格になっていたのを感じたと彼女は言っていたよ」


 部屋に居る皆様にジト目で見られた。解せぬ。
 

 「もしも仁慈君が行っていた通り、マルドゥークを初めとする感応種を捕食していたとしたら対抗できるのはブラッドかもしくは仁慈君の近くに居る神機使いだけになる。しかし今回の作戦、ブラッドが他のアラガミと戦闘する余裕はおそらくない。仁慈君のほうも『喚起』をフルに活用して挑む作戦であるため、君たちにまで効果が行き届かないことも考えられるんだ」


 「うへぇあ……それはまた極東らしい世紀末な状況っすね」


 変な声を口から漏らしながら大森さんはそれ以上ツッコミを入れることはなかった。アレで納得するとは……さすが長く極東で神機使いをやっているだけあるな。余裕の対応です。場数が違いますよ。


 「それにしても、ブラッドアーツってその名の通りブラッドが使う技ですけど……ブラッドに使われている偏食因子じゃない神機使いたちでも使えるものなんですか?」


 というか俺たち以外に使えないからこそブラッドアーツだと思うんだが。


 「ラケル博士に確認を取ってみたところ、ブラッドアーツだけなら仁慈君の血の力を利用して誰でも使えるようにできるらしいよ」


 「ホント便利だな俺の能力」


 なんか過去に使えないとか言った気がしなくもないが、こうして考えてみるとロミオ先輩に並ぶ万能能力なんじゃなかろうか。


 そんな事を考えているうちにサカキ支部長はやることがあるといって、支部長室を退室していった。去り際に「ブラッドアーツ習得の方法は君に任せるよ。信頼しているからね」とささやいていたが、実態は唯の丸投げである。
 サカキ支部長もサカキ支部長でやることがあるだろうし、具体的なブラッドアーツの習得方法が分からない以上しょうがないのかもしれないけどさ。
 さすがにこのメンバーで一人残していくようなことはして欲しくなかったなー。



 「あー、お前が噂に名高いブラッドの副隊長だよな?俺は防衛班の大森タツミっていうんだ。よろしくな」


 知り合いはいるものの部屋の半分は初対面、それも年上ということもありどうやって話を切り出そうかと頭を抱えていた。しかし、それに気がついた大森さんが俺よりも早く話を振ってくれた。気遣いができる男というのはこの極東だと割と貴重な気がする。


 「よろしくお願いします。大森さん」


 「タツミでいいぜ。……それで本題だが、ブラッドアーツって言うのは一日二日で習得できるものなのか?ノヴァ擬きが目覚めるのは三日後って聞いているんだけど」


 当然の疑問である。
 いかにも必殺技的な技能をノヴァが目覚めるまでの三日間で修得できるのか。普通の人なら誰しもがそう思う。漫画でも三日間で必殺技を編み出すなんて展開ないんじゃないかな。


 「えー……ぶっちゃけ、ブラッドアーツの習得方法は確立されていません。右も左も分からない真っ暗闇の状態からスタートになります」


 「……それは大丈夫なのか?サカキ博士はいかにもブラッドアーツが習得できるような言い回しをしていたが……」


 そう不安気な声を漏らしたのは銀髪で体格のいい男性。腕とかに包帯のようなものを巻きつけており、一瞬だけ中二病と思ったのは内緒である。


 「……できるだけのことはやります」


 自分でも若干苦しいと思いつつ、何とか言葉をひねり出してみればもれなく部屋に居る皆さんから冷たい視線を返された。
 俺はいったいどうすればよかったんですかねぇ……。







            ―――――――――――――――――――――――







 さて、なんだかんだで渋る神機使いの皆さんをあの手この手で引っ張り出してきた俺は現在、零號神機兵が蛹になった影響でアラガミが大量発生していると思われる場所に来ております。具体的には嘆きの平原。何時もは中央を陣取っている竜巻が消えて、そこからアラガミがうようよ湧いていた。
 


 「では、その辺に湧いているアラガミ相手に練習してみましょう」


 「見る人が見たらこの世の終わりのような光景が広がっているのにこの対応……」


 「アナグラの下手な神機使いよりアナグラの神機使いしてるわね」


 バーデルさん(ブレンダンさんのことだよ)とディキンソンさんの銀髪防衛班コンビ――――ここに来る途中で自己紹介を済ませたため知っている――――からツッコミが入るけど無視無視。
 

 「現状、ブラッドアーツを習得するには強い感情の揺れが必要になります。ブラッドのメンバーは大体これで発現しました」


 「結構漠然としてんな。そんなんで本当にブラッドアーツなんて使えんのかよ」


 「知りません」


 「……俺は金にならないことはあまりしない主義なんだが」


 「これ習得できたら感応種でも問題なく戦えるようになりますので収入アップですよ」


 文句を口にするどこかでアラガミではなく巨人を駆逐しにいきそうな小川さんと第五十刃みたいな顔のシュナイダーさんを軽く流し、その後他にブラッドメンバーがブラッドアーツを習得して行く過程を話す。
 そして最後にそれぞれ俺が全力で喚起の力を発揮しつつやれるだけのことをやってみようとした。



 
 ――――――防衛班の場合。



 「強い感情の揺れっていってもなぁ……。今更大勢のアラガミに囲まれたくらいで揺れるような肝っ玉でもないしな」


 「確かにそうだな」


 タツミさんがぼそりとこぼした言葉に同意するバーデルさん。もちろんアラガミを倒しながらである。


 「んー……ここで習得できなければ全人類が滅ぶ……強いて言えば自分の好きな人が死んでしまったりするわけですが……」


 「それで覚醒できるのは物語の主人公だけだろう。そもそも、俺たちはその状況に三年前も遭遇したことがあるしな」

 バーデルさんのその言葉にハッとする。
 そういえばそうだった……この人達、既に世界の危機を経験済みなんだったわ……。
 

 「……ここでブラッドアーツを習得したら、世界の危機を防ぐ手伝いをしたとかで女の子からもてるようになるとか?」


 ……いや、ねぇな。自分で口にしておいてなんだけどこれで釣れるのは思春期真っ盛りの中学生くらいだわ。


 「ブラッドアーツを取得すれば、ヒバリちゃんが俺と付き合ってくれる……だと……?」


 そこまで言ってませんよ。
 というか、タツミさん。アンタそれでいいんですか。
 内心でツッコミを入れていると、タツミさんは何を考えたのか徐に雄叫びを上げると向かってきたアラガミに対して自身の神機を渾身の力を込めて振るった。
 すると、なんということでしょう。キィン……!という独特の甲高い音と共に赤いオーラを纏いながら斬撃を飛ばしてアラガミを切裂き、見事に倒して見せた。


 「お、でた」


 「マジか……」


 それで出せるのか……。
 一度出してコツを掴んだのかバンバンアラガミの群れに向かって斬撃を飛ばしているタツミさんを他所に俺はどこか納得できない気持ちを抱いた。


 だが、タツミさんが身をもってブラッドアーツの習得は可能だということを証明してくれたため他の皆さんもやる気になったようで積極的にアラガミの群れに埋もれていく姿が確認できるようになった。
 

 「俺はタツミのように意中の相手がいるわけでもないんだが……」


 「別にそれに限ったことではありませんよ。生存本能がフル活用されるような状況に放り込んで覚醒した人も居ますし」


 「………鬼だな」


 失礼な。
 死亡フラグを回避するためにちょっとばかり死に掛けてもらっただけだから。本人も納得してたから(震え声)。
 

 にしても、バーデルさんが悩んでいるところ悪いんだけど……俺もバーデルさんのことよく知らないからなぁ。どのようにして焚きつけたらいいのやら。


 「それ、俺がやってやろうか?」


 バーデルさんと一緒に頭を捻っていると、一通りエキサイトし終えて落ち着いた様子のタツミさんが会話に混ざってくる。
 何とかできるならお願いします。あまり残された時間もないので。


 「オーケーオーケー。ブレンダン、ちょっと耳を貸してみ」


 ちょいちょいと手招きするタツミさんにバーデルさんが近付き、耳を貸す。その後、大体一分くらいだろうか?タツミさんがバーデルさんの耳から顔を離すと、バーデルさんは徐に自身の髪の毛を後ろに追いやる。


 そして今までの優しそうな表情から一転、まるで日本刀を思わせる鋭い顔つきになったかと思うと神機をアラガミたちに向けてこう言い放った。


 「You're going down!」


 「ファッ!?」


 「よし」


 よしじゃねーよ。これバーデルじゃなくてバージルじゃねーか。確かに銀髪かそれに近い髪の色してたけどさぁ……。タツミさん。何吹き込んだのさ。


 「ちょっとばかりあいつのトラウマというか、心残りを突っついたのさ。本当ならこういうことはあんまりしたくないんだが……状況が切迫しているから致し方なし。あ、実力のほうなら問題ないぜ。あの状態のブレンダン、滅茶苦茶強いから」


 「でしょうね」


 神も悪魔も泣かせそうだし。弱いわけがない。


 「Be gone!」

 
 バージル……間違えたバーデルさんは、自身の神機の刀身がバスターにもかかわらずまるで日本刀を振るうかのごとき手さばきで迫り来るアラガミを両断する。近くに居るアラガミを両断し終えたバーデルさんは、周囲に紅く光る剣を作り出しアラガミの群れに飛ばした。
 キィン……!という効果音も確認できたし、多分ブラッドアーツだろう。


 「おー、ブレンダンもちゃんと出せたな」


 「そうですねー」


 アラガミを紙くずのように切裂き、最後の一匹を倒し終えたバーデルさんを見ながらタツミさんの言葉に適当な反応を返す。


 「This is the power of Sparda. 」


 「アンタはスパーダじゃないでしょ……」


 まだ、防衛班の人達だけでも三人残っているのに正直限界ですわ……。
 ガラリとアラガミが居なくなった空間で、ボソリと呟いているバーデルさんに力なくツッコミを入れつつ、俺は他の防衛班の人達のもとへ向かった。



 「アラガミを……一匹残らず駆逐してやる……ッ!」


 会って間もない俺でもキャラじゃないとわかるような台詞を吐きながらアラガミの周りをまるで瞬間移動するかのごとく動き回りながら切りつける小川さんに驚かされ、


 「この弾はいいわね……。アラガミが今までにないくらいに紅く、激しく咲き誇っているわ」


 恍惚とした笑みで内側から爆発四散するアラガミを眺めてうっとりとしているディキンソンさんにドン引きし、


 「…………」


 唯でさえ、表情が怖いシュナイダーさんが口の端を釣り上げた笑みを浮かべているのを見て心が完全に折れた。
 ……これでしっかりとブラッドアーツを習得したというからなおさら質が悪い。

 
 まだクレイドル組に第一部隊、第四部隊の人が残っているのに割と切実に帰りたいと思い始めた俺は悪くないと思うんだ。
 

 溜息一つ吐いて今度はクレイドル組が居る場所へと足を進めた。


 


 


 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十一話

なるべく早く投稿すると言ったな。アレは嘘になってしまった(土下座)。
本当にすいません。

謝罪もここまでにしてあけましておめでとうございます。今年もこの作品をよろしくお願いします。
多分あと二、三話で完結すると思いますけど。





 ―――――クレイドル組の場合


 防衛班の皆様による精神攻撃で見事にSAN値を減らした俺は、先程よりも覚悟が必要であろうクレイドル組が居る場所へと顔を出していた。
 ……遠目からでも小型中型はもちろん、大型ですら宙を舞っている姿が確認できた。これ、ブラッドアーツを習得できたんだったらブラッド(俺ら)完全に要らないよね。なんだかんだ言って、ゴリ押しで何とかなる気がする……というか何とかしそうな気がするし。もうあの人達だけでいいんじゃないかな?


 「あ、仁慈さん。タツミさんたちはちゃんとブラッドアーツを習得できたんですか?」


 「はい。文句の付けようもないくらい完全に自身の物にしていましたね」


 絶句はしましたけどね。
 バーデルさんのバージル化とか一体誰が予想できたんだよ。


 「タツミさんたちは私よりも長く極東で神機使いをやっていますからね。立ち回り、状況把握、そして自身のことを理解する能力は私よりも長けていると思いますよ」


 一級極東神機使いということですね分かります。
 感応種との戦闘で別のことを考えながらもしっかりと攻撃、回避をするというマルチタスク持ってんじゃないかなと思わせる行動をやってのけたアミエーラさんでもそう言うのか。
 まぁ、極東の神機使いの頭がおかしいこと何て今まで散々言ってたし今更な気がしないでもないけどね。


 「あいつらのことはいい。……おおよそ、俺が考え付く方法でブラッドアーツの習得を試みてみたが……やはりうまくはいかないな。どうやら俺たち普通の神機使いがブラッドアーツを習得するにはお前の『喚起』によるきっかけ作りが必要らしいな」


 「なんですかそれ、聞いてないんですけど」


 考え付く方法があるんだったらどうしてあの時言ってくれなかったんですかねぇ……。
 


 「……お前が防衛班の連中を相手しているときに思いついたからな」


 そんな見え透いた嘘つくんじゃない。
 本心ならば俺の目をしっかりと見て話しなさい。ほら、そんな天空に(わたくし)は居ませんことよ?


 「……ま、今回はそれで見逃してあげます。それで?シックザールさんが考えるブラッドアーツ習得方法は?」


 「お前は知っているか分からないが、本来神機に使われているオラクル細胞や俺たちに投与されている偏食因子は人間の手に負えないものだ。だからこそ、神機にはある程度のリミッターもかけてあるし投与されている偏食因子も予防接種並に弱めて使っている」


 俺やお前、ラケル・クラウディウスは違うがなと最後に付け加えるシックザールさん。
 神機にリミッターって付いていたんだ……。初めて知ったわ。


 「だがな、血の力を使えるブラッドに投与されたのはラケル・クラウディウスが開発したP66偏食因子。これはラケル・クラウディウス本人の中にある偏食因子を既存の偏食因子に混ぜ合わせて作ったもので、要するに多少だがかけられていたリミッターを外したシロモノだ。だからこそ、普通の神機使いにはできないようなことができる」


 なるほど。ブラッドが投与されたのは普通の偏食因子よりもアラガミが持っているものに近づけた状態のもの。だからこそ、あの能力だと。


 「お前の言う感情の揺れによってブラッドアーツや血の力が発現するというのもそうだ。感情の爆発は時に信じられない効果を生む。火事場の馬鹿力なんかがいい例で、それと同じことが偏食因子に現れているのだと考えられる。だからこそ、俺は他に比べて習得しやすいと思ったんだがな……」


 「なるほど……」


 先程自分で言ったとおり、ラケル博士とシックザールさんは限りなくアラガミが持っている偏食因子に近いものを摂取しているし、俺に関してはアラガミのまんまと来ている。彼の立てた仮説が正しいなら一番習得しやすい。


 「なにカッコつけてるんですか。別に最終的に習得できればいいんですよ」


 今まで会話に入ってこなかったアミエーラさんがシックザールさんに対してそう言った。一方言われた側であるシックザールさんは苦笑。
 このやり取りだけで二人の上下関係が分かった気がする。


 「何はともあれ、始めましょうか」

 
 先程シックザールさんが言ったように、自身の中にある偏食因子に対して鎖を解いていくようなイメージを浮かべる。すると、何時もよりスムーズに赤い波動が俺を中心に渦巻き出した。


 「おぉ、なんかやりやすい。シックザールさん、多分貴方の仮説合ってますよ」


 「そうか」


 そう短く返したシックザールさん。そのまま彼は目を閉じて自身の神機を正眼に構える。初めは特に変化もなく佇んでいるだけだったのだが、正眼に構えてから一分くらい経過したときだろう。彼の神機に赤い波動が集まっていく。
 そして、シックザールさんは閉じていた目を見開いて赤い波動を纏った神機をそのまま振り下ろした。
 神機に集まっていた赤い波動は神機から振り下ろされた地面へと伝わり、50mほど離れていたアラガミの集団の下をとり、深紅の棘となってアラガミの集団を突き刺した。

 
 「うわぁ……」


 「ドン引きです……」


 「何でだ」


 エグイ。唯ひたすらにエグイ。
 ぱっと見た感じホーミングらしき動きをしていたし、アラガミを突き刺したときの光景がなんというか磔刑みたいだった。


 「一体どんなこと考えたらこんなものになるんですか……」


 「別に特別なことは考えていない。多少ノヴァとは因縁があるが、それだけだ」


 「左様ですか」


 空を……具体的には緑化した月を見て言っていたことは見なかったことにしましょうか。さぁ、シックザールさんの次はアミエーラさんだ。この人はどうなっているかなっと。


 「全ッ然でない……。ソーマ、なんかアドバイスくださいよ」


 アミエーラさんもアミエーラさんで大分苦戦しているご様子。先程思いっきりドン引きしたシックザールさんにアドバイスを求めていた。俺じゃ、関わっている日数が少ないからね。仕方ないね。


 「アドバイスって言ってもな………そうだな、アリサちょっとこっち来い」


 唐突にアドバイスを求められ驚きながら俺のほうを見るシックザールさん。言わんとしていることは分かる。こういうことはお前の仕事だろといっているんだろう。でもね、俺は彼女の性格をシックザールさんほど把握していないんですよ。だから頼みます。


 そんな意味を込めて視線を返してみれば、彼もわかっていたのか溜息を一つ吐いた後にアミエーラさんに近付くように言った。……このパターンどこかで見たな。デジャヴかな?


 結果は案の定、防衛班で見た光景と同じだった。一体何を吹き込んだのか、アミエーラさんは顔を真っ赤にし、目のハイライトはストライキを起こすという一言で表現すると若干危ない表情を浮かべて狩りを開始した。
 この人達は必ず自分の中に殺る気スイッチを常備しているのだろうか。


 「……………」


 「……………まぁ、この調子なら大丈夫だろう。お前も他のところに行っていいぞ。ブ
ラッドアーツって今アリサの体から渦巻いて、あいつの身体能力を上げているあれの事だろうしな」
 

 シックザールさんの言うとおり、どうやらアミエーラさんのブラッドアーツは自分の身体能力を底上げするようなタイプのようで、ボルグ・カムランの尻尾攻撃を神機の先端にあてて相殺するという曲芸じみた真似を何の躊躇もなくやってのけた。
 

 すげぇ。今までのように必殺技とかではなく、自分の身体能力を底上げするようなブラッドアーツは初めてだなー(白目)。
 とりあえず、この後無茶苦茶全力で退散した。


 

 ―――――――第一部隊&第四部隊の場合。


 
 もう防衛班、クレイドルと続ていくとエミールさんやエリナが在籍している第一部隊が癒しのように感じるよね。
 いや、別に今あげた二人が弱いと言っているわけじゃない。俺たちの周りに居る神機使いが頭おかしいことになっているだけで二人とも十分に実力がある。エミールさんなんて初めて会ったときと比べれば天と地ほどの差があるといっていいくらいだ。


 「くっ!何故だ……何故出てこないんだブラッドアーツよ。我が友は感情の揺れこそがトリガーになるといっていた。ならば我が騎士道精神ですぐに習得できるはずなのに……ッ!まだまだ、覚悟が足りないということなのか!?」


 「えぇい!暑苦しいわね。少しは黙ってできないわけっ!?」


 なんて安心できるやり取りだろうか。失礼ながらそんな事を思わずにはいられない。
 


 「藤木さん。調子の方、どうですか?」


 「あ、じん…じ……?どうしたお前。これ以上ないくらいの笑顔浮かべながら近付いてきて」

 
 「あの二人の反応に対して妙に安心してしまいましてね」


 「あっ(察し)」


 俺の言いたいことがわかったのか同情的な視線を送ってくる藤木さん。この人もきっと苦労したんだろうな。


 「おぉ!来ていたのか我が友よ!だが、すまない。僕は君の期待に応えることができなかった……騎士として、男としてッ!どちらの面でも、情けなく思う」


 「そこまで責任感じなくていいですから」


 本当、何時も全力だよね。この人。


 「あれ、来てたの?」


 「お、お疲れさん。疲れただろ?あいつらの相手」


 「ここに教官先生が来たということは、タツミさんやブレンダンさん、ジーナさんも習得したんですよね……わ、私も頑張らないと……!」


 エミールさんの大きな声が近くに居た第四部隊の人達にも聞こえたようで、周辺のアラガミを駆逐した後にこちらに向かってやってきた。何はともあれ台場さんの切り替え速度はすさまじいな。さっきまで遠めでも分かるくらいにゲス顔でアラガミをミンチに変えてたのに、もう普段の性格に戻ってやがる。女の人ってコワイワー。



 まぁ、何はともあれみんなそろってブラッドアーツの習得を試みて見事に成功したわけです。
 え?適当すぎる?別に詳しく言い過ぎてもだれるだけだしいいでしょう。
 でだ、みんながブラッドアーツを習得した理由をダイジェストで紹介していこうと思う。


 まず、藤木さん。
 

 「仁慈に言われたことを実行したら、案外簡単にできるもんだな……」

 とか言いつつ、あっさり習得した。
 貫通、斬撃、破砕全ての属性を内蔵した凶悪弾をアラガミに撃ちまくる。ちなみにこのバレットはPO回復効果もあり、撃った分を即座に補給し再び放つことができる永久機関と化しているぶっ壊れバレットである。まぁ、藤木さんだし。クレイドル組と同じ部隊にいただけのことはあるよね。


 次にエミールさん。


 「騎士道……騎士道ォォォオオ!!」


 こちらは感情の揺さぶりによって目覚めた。
 普通ではダメなら普通じゃないくらい自分の感情を、騎士道精神を高めればいいじゃないと本人は語る。
 そんな根性で己の壁をぶち抜いた彼が習得したブラッドアーツは神機の刀身についているブーストハンマーの推進力を利用した一撃であった。ここだけ聞くとギルさんのブラッドアーツと似てるかもしれないが、彼の場合はしっかりと敵を捕捉し確実に一撃を決めるブラッドアーツのようだ。ギルさんのは制御が利かないからエミールさんのよりは使い勝手が悪い。


 エリナの場合は、


 「これを習得しないと、あの馬鹿共に余計振り回されることになるでしょっ!」


 まさかの身内に対する感情の高ぶりでの習得である。それほど極東での日常は彼女にとってストレスとなっているのだろう。俺は密かに零號神機兵との戦いが終わったらジュース一本でも奢ってあげようと心に誓った。
 そんなエリナが習得したブラッドアーツは彼女の放った突きに追随する赤い槍である。一突きで大体四つの赤い槍が出現し、中型でも一撃で穴ぼこだらけにしてしまうものである。
 ……このブラッドアーツで、複数の常識にとらわれないキチガイ(極東の神機使いたち)に一気にツッコミ(意味深)を決めてやる、という言葉は聞かないことにする。


 そして次はハルオミさん。


 彼も意外にあっさりとブラッドアーツを習得した。というか、俺がここに来る前に既に習得してしまったらしい。今更かもしれないが、ブラッド涙目の状況である。しかし彼があっさりとブラッドアーツを習得したのはわけがあった。


 「思い出してみろよ。ルフス・カリギュラとの戦いを。あの戦い、俺にとっては嫁の敵討ちなわけだ。あの時はギルのサポートに回っちゃあいたが、これでも感情はかなり高ぶってたんだぜ?条件だけならもう満たしてる。後は俺が意識するか否か、それだけだったのさ」


 あぁ、そうか。そうだよな。ルフス・カリギュラを倒したかったのは他の誰でもない、ハルオミさんだもんな。それは納得です。……聖なる探索なんてなかったんや。


 最後は台場さんであるが……ぶっちゃけ何もいうことはない。
 

 しかるべき結果になったという感じである。


 「アッハッハ!!この弾いいわ!最っ高よ!アラガミがどんどん巻き込まれて死んでいくわ!」


 彼女のブラッドバレットは、跳躍弾から始動する珍しいというか今までに類を見ないもので、アラガミに当てまくりそのあたった人数に比例して威力が上がるというなんとも彼女にしては扱いにくいものであった。
 あったのだが……そんなこと、戦場に出た台場さんが気にするわけもない。むしろ、味方の神機使いをあたった人数に入れてヒット数を稼ぐというとんでもないことまでやってのけている。
 みんなは、とどめの一撃を神機のシールドを使い巧みに防いでいるが、アラガミはそうは行かずしめやかに爆発四散している。


 ……これはひどい。
 初めからいい予感はしていなかったがこれほどとは……。
 穴ぼこを量産し、俺たちにもちゃっかり跳躍弾を当てて威力をまた挙げている彼女を見つつ俺は天を仰いだ。


 まぁ、全員無事に習得出来てよかったよ。




             ―――――――――――――――――




 みんながブラッドアーツを習得してからはや二日が経過し、明日はいよいよ人類の存亡をかけた最終決戦を行う日である。
 緊張からか、まったく眠くならないので今は誰もいないラウンジの一席で眠くなるようにホットミルクを飲んでいた。うまうま。
 なんで今更緊張なんてしてるのかね?もしかしたら、やることがなくなって意識を割く事が出来るようになってしまったからかもしんないけど……。
 窓ガラス越しに見える、若干世紀末な町並みを眺めつつ今までのことを振り返る。


 目覚めて早々神機使いになり、よく分からない化け物と戦わされる。俺がアラガミに近いからか普通ではありえないくらい俺にアラガミが集中してきたりもした。新人のペーペーだったのにマルドゥークと遭遇して死に掛けたりもした。イェン・ツィー死すべし慈悲はない。ブラッドのみんなと困難と呼べるか微妙な事態もまさしく困難と呼べる事態も等しく乗り越えた。俺の正体が唯の偶然の産物だった。


 こうしてみると。濃すぎるな、色々。
 信じられるか?これでまだ一年たってないんだぜ?それなのに、世界の命運をかける戦いに狩りだされることになるなんて……。


 「ホント、おかしいよなぁ」


 「そうだね。仁慈はおかしいね」


 俺の呟きにあるはずもない返答が帰ってきた。
 あるはずのない返答が聞こえた方向に顔を向けてみれば、そこには寝巻き姿のナナが佇んでいた。……寝巻きのほうが普段よりも健全に見えるな。露出ないし。


 「隣、座っていい?」


 割かし失礼なことを考えていると、ナナがそういって俺の隣の席に腰を下ろした。まだ許可出してないんですがそれは……。


 「気にしなーい気にしなーい。って、仁慈ホットミルクなんて飲んでるのー?」


 「寝れないから、寝やすくするためにね」


 あと、ホットミルクを馬鹿にするんじゃない。安心する味だぞ、ホットミルク。


 「あはは。じゃあ私も入れてこよーっと」

 
 何が面白いのか、俺の顔を見てパッと笑った後ナナはラウンジにあるカウンターからコップと牛乳(擬き)を取り出して注ぎ、電子レンジにコップをシュゥゥゥーー!!した。そして、チン!という音がなったとたんにガバッとレンジを開けてホットになった牛乳を取り出すとさっきと同じように俺の隣に座った。


 「それで、仁慈君はどうして眠れないのかなー?何か不安なのかな?お姉さんに話して見なさい?」


 「…………似合わないなぁ、そのキャラ」


 「ストレート!?」


 年齢的にはナナのほうが二歳年上だし、何処もおかしいことはないんだけど……ねぇ?なんていうか、普段の態度を見直してみれば彼女は圧倒的に妹キャラだと思う。ぶっちゃけ、俺はナナとロミオ先輩を年上としてみてないし。


 『飛び火した!?』


 「ん?今何か聞こえたような……?」


 「幻聴だろ」


 俺の言葉にそうかなといって気持ちを切り替えたナナは、浮かべていた表情を何時ものものから真面目なものへと変えた。


 「むー……仁慈が何も話してくれないから勝手に言っちゃうけど、明日のことについてなら心配要らないよ」


 「それまたなんで?」


 「だって、明日の戦いに参加する人達を思い浮かべてみなよ。どう考えても負けるような人選じゃないじゃん」


 「…………」


 確かに。
 今日散々思ったことじゃないか。戦闘力はぴか一を通り越してキチガイ。考えるアラガミ殺戮マシーン。ドウモ、アラガミ=サン。神機使いです、アラガミ死すべし慈悲はないを地で行く神機使いたちだ。逆にこの人達を倒せる奴が居たら出てきて欲しいくらいの戦力じゃないか。


 「……うん。その顔だともう大丈夫みたいだね」


 「まぁね……ありがとうナナ。俺、はじめてナナが年上だと思えたよ」


 「その余計な一言がなければよかったかなー」


 といいながらもナナは笑っていた。つられて俺も笑う。


 一通り笑いあい、ホットミルクではなくぬるい牛乳という絶妙に微妙な飲み物へと変貌してしまったそれを一気に胃の中に流し込む。
 その後、使い終わったコップを洗おうと席を立つと、


 「大丈夫です。不安なら私が君を守ってあげます!」


 「ファッ!?」


 下から生えてきたシエルがそのようなことをほざきました。
 いつから居たんだシエルよ……。


 「うわっ!?シエルちゃん居たの!?」


 「はい。初めからずっとスタンバッてました」


 「「なにそれこわい」」


 「ちなみにピアノの後ろにはジュリウス隊長、ビリヤードの下にはギル、ソファーにはロミオが隠れています」


 シエルの言葉に観念したのか、彼女があげた人物がこれまた彼女の言ったとおりのところから出てきた。こいつら……全部聞いてたのか。


 「いやー仁慈も年相応のところがあるんだなー」


 「逆に安心だな」


 「仁慈、お前の心配しているようなことは起きない。何故なら、俺が居るからだ」


 「ジュリウス隊長、それ貴方の台詞じゃありません。某油女一族の人のです」


 ツッコミを入れつつ、今回こうして隠れていたことには目を瞑ろう。多分たまたま俺を見かけて、元気がなかったから心配になったんだろう。ナナにも気付かれるくらいだからな。


 「よし、これから飲み明かすか」「明日決戦だろうが馬鹿ジュリウス、はよ寝る準備しろ」という修学旅行の就寝直前に行われる会話を聞き流しつつ、俺は心の中で彼らに感謝すると同時に明日はなんとしてでも勝とうと改めて決意した。
 








 




就寝前の出来事



ジュリウス「別にアレを倒してしまってもかまわんのだろう?」
ロミオ「俺、帰ってきたらシプレに結婚を申し込むんだ」
ギル「ノヴァなんか怖かねぇ!野朗ぶっ殺してやるぅぁぁあ!」
シエル「私の計算に狂いはありません」
ナナ「仁慈、無事に帰ってきたら話したいことがあるんだ……」
仁慈「……みんなどうした」
全員『ありったけの死亡フラグ立てておけば大丈夫かなって』
仁慈「(……明日本当に大丈夫だろうか)」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十二話

先に謝っておきます。ごめんなさい。
ノヴァ戦まで行きませんでした。












 「……諸君。いよいよ、今日の20時にノヴァとの決戦だ。詳しい作戦などを、ラケル博士の口から説明してもらおうと思う」


 普段と変わらず糸目だが、口元を引き締めて真剣な表情で自分の背後に居るラケル博士に語りかける。彼女のほうも普段の胡散臭い笑みを完全に引っ込めて滅多に見ない表情で前に出た。

 
 愛すべき馬鹿共(ブラッドメンバー)が死亡フラグをおっ立てまくり、無駄に不安に思った数時間後の話である。場所は支部長室ではなくその一回下、大きな機械やら配線やらでごちゃごちゃしていたあの部屋。朝一で呼び出されて向かってみればノヴァへの対策会議だった。決戦は今日だし、当たり前である。


 「私たちは今日戦うノヴァをアルマ・マータと名称し、これの排除に向かいます。具体的な方法としましてはアルマ・マータが目覚める前にブラッド全員で準備を整え、覚醒したと同時にロミオの血の力でアルマ・マータの弱体化を図ります。そこからは通常のアラガミを討伐するときと同様の動きになります。極東の方々はその他のアラガミたちを引き受けてもらいます」


 ノヴァじゃダメなのか……。まぁ、完全体じゃないからかもしれないし。以前に現れたノヴァもアリウスって言う名称だったらしいし気にすることじゃないと思うんだけど……若干、こうばしいと考えてしまう。
 そしてそんなくだらないことを考えられるように余裕を持たせてくれたブラッドにも感謝する。馬鹿だけど。


 「以上がアルマ・マータとの戦いの作戦内容となりますが、聞いていて分かる通り詳しいことは神機使いの皆さんにゆだねられています」


 今回は向こう側にも知能があったし、何より手が出しにくくなるほどにまで成長するのが早かったからなぁ。
そもそも今回のことは元凶ラケル博士、とどめブラッドと1から10までこちらの落ち度である。ぶっちゃけ責められたら文句も言えない立場だ。裁判とかあったら有罪判決から豚箱シュート待ったなしの状況だ。他の人よりもしっかりと戦わねばなるまい。
 え?さっきまでこうばしいとか考えていた奴の言葉とは思えない?知らん、管轄外だ。


 「私も、戦力増強にラケル博士と共同開発をしていた『神機兵Ver山猫』とか作っていたんだが……間に合わなくてね。三年前の同じく君たちを信じることしか出来ないんだ。すまないね」


 『(よかった……ラケル博士とサカキ支部長(サカキ博士)最悪マッドコンビの最狂傑作が誕生しなくてよかった……ッ!)』


  サカキ支部長が本当に申し訳なさそうにそう言ったとき、部屋に居るサカキ支部長とラケル博士以外の考えが一致したようにも感じた。
 コジマは……まずい……(二回目)。


 とまぁ、微妙にしまらない空気になりつつもアルマ・マータ対策会議は幕を閉じた。後は20時……正確には19時30分から行われる作戦を待つだけだ。




              ――――――――――――



 
 時刻は19時を指しており、作戦開始時刻が目の前まで迫っている。三十分もあるじゃないかと思うかもしれないが五分前行動ならぬ三十分前行動を心がけている身としては当然のことである。
 それにあくまでも20時という時間はサカキ支部長とラケル博士の予想であることを忘れてはならない。彼らなら日数や時間単位での誤差はないと思うが、分単位まで確実にあっているとは限らないのだ。だからこそ、本格的ではないにしろ俺たちブラッドは既にうっすらと血の力を発動し始めている。
 ちなみに配置はロミオ先輩を真ん中として、前に三人後ろに二人という感じ。前はジュリウス隊長、ギルさん、ナナ。後ろはシエルと俺である。


 「うっわ、間近で見るとなんかアレだな……」


 「覚醒が近いのか点滅していますね」


 「その光の所為で中が時々見えるのがまたなんともいえないよねー」


 「本当に蛹みたいだな」


 「というか、普通に気持ち悪いな」


 こいつら緊張感なさすぎぃ!
 後もう少ししたら人類……いや、世界の存亡をかけた戦いが始まるっていうのに小並感(小学生並みの感想)みたいなこと言いやがって……。


 「フランさんフランさん。みんなの緊張感のなさが半端じゃないんですけど、大丈夫なんですかね?」


 『知りませんよ。私には関係ないですし、失敗して責められるのは皆さんですし。現状を作り出したのは何処のどいつだとか言っておけばいいんじゃないんですか?』


 「やだ……辛辣……」


 なんというセメント対応。しかし……圧倒的ッ!圧倒的正論……ッ!!
 くやしい、でも言い返せない。

 
 と、色々な意味でビクンビクンしているとフランさんの声が再び通信機越しに聞こえてきた。


 『ラケル博士も仁慈さんたちも、私をフライアにおいていくからですよ。残ってるメンバーを考えてみてください。豚に骨に処女ビッチですよ?』


 「ねぇ、フランさん?酔ってないよね?直前にお酒飲んでたりしてないよね?」


 彼女の口から出てきたとは到底思えない言葉の数々に反射的にそう聞き返してしまった俺を一体誰が責められるだろうか。
 

 『皆さんが居ないからオペレーターとしての仕事はなくなるし、それが分かっていながら豚はネチネチ小言言って来てお尻凝視するし、骨は小声でラケル博士の名前を永遠と呟いてるし、処女ビッチは怯えてるし………』


 アカン(確信)。
 まるで蛇口を思いっきり捻ったときに出てくる水の如く、愚痴を吐き出すフランさん。どうやら彼女は彼女でかなり苦労していたらしい。


 『まぁ、この前退職届を豚に叩きつけてやりましたけどね。これでやっと私も皆さんと一緒に極東支部で働けるようになりました』


 「アグレッシブすぎる……」

 
 どうやら俺が知っているフランさんはどこかに行ってしまったらしい。というかこの人も結局ブラッドメンバーと雰囲気変わらないじゃないですかーやだー。


 『ヒバリさんが担当している極東組も似たような感じですし、むしろ仁慈さんのほうが場違いなのでは?』


 これが常識の違いによる弊害か……。
 非常識が蔓延している中で常識を語ってもこっちがおかしい人扱いされるアレだな。アニメとかでは見たことあったけど、俺も今更になって体験することになるとは。


 小声でぼそりと面妖な……なんて呟いてみれば、急にブラッドメンバーが黙り込んでしまう。
 何事?と首を傾げつつ視線を彼らに向けるとどうやらアルマ・マータの蛹のほうを見て固まっているらしかった。
 この時点でやな予感しかしないのだが、意を決して俺も蛹のほうに視線を動かす。


 ――――ピキッ……ピキピキ…パキン!


 そうして俺の視界に入ってきた光景は、先程よりも短い周期での点滅を繰り返しつつ小さな音を立てて蛹を破ろうとしているアルマ・マータの影であった。


 『周囲の偏食場が、過去に現れたノヴァと同じ反応になりつつあります!皆さん、血の力の準備をお願いします!』


 先程とは打って変わり、オペレーターとしてふさわしい雰囲気に変わったフランさんの声が耳を貫く。
 予想よりも若干大きかったフランさんの声にビビリつつ、俺は喚起の力を発動させて他のブラッドの血の力に眠っている潜在能力を全力で引っ張り出す。他のみんなも前もって知らされていた作戦通りに血の力を使い、ロミオ先輩の力を最大限に引き出せるように自分の力を操作する。
 
 

 「仁慈、ギル、シエル、ナナ。今だ!パワーをロミオに!」


 『いいですとも!』


 「お?おぉ……?なんかすげぇ力が沸いてきた……!よっしゃ!やってやるぜ!」


 あふれんばかりに赤いオーラを放ち始めるロミオ先輩。一瞬だけ界〇拳かな?と思ってしまった自分を戒めつつ、成り行きを見守ることとする。
 ここで余計なこと言ってアルマ・マータにロミオ先輩の血の力が外れてしまったりしたら取り返しが付かないからな。


 アルマ・マータは順調に蛹をブチ破っているようで、僅かに空いた隙間から茶色い木のような部分がチラチラと見えている。
 そんなチラリズムはいらないけど。


 『……偏食場が完全にノヴァのモノと一致しました!来ます!!』


 その通信と同時に、完全にアルマ・マータが蛹をブチ破って外へと出現した。


 出てきたのは、零號神機兵の面影をまったく残していなかった。四つん這いなのは変わらないもののその体は機械のようにごちゃごちゃしたものではなく、木のような材質に変化している。何より変化したのは、まさしくプロトタイプと思わせるような継ぎ接ぎだらけの顔である。あの継ぎ接ぎは完全になくなり、人間にしか思えない風貌になっていた。というか、どっかで見たことある風貌である。具体的には常に喪服着て、薄ら笑いを浮かべてそうな感じ。
 

 ここまで言えば分かるだろう。
 このアラガミは……アルマ・マータは、


 『フフフ……ようやく、まともに話が出来るわね。仁慈』


 ラケル先生をそのままアラガミにしたような奴だったのである。



 『あら?どうしたの?もしかして……ラケルに似てるから攻撃できないt』
 「ロミオ先輩やってしまえ」


 「おうよ!」


 アルマ・マータが何か言いかけていたがとりあえずスルーして、ロミオ先輩の血の力を発動させる。
 余裕というか、油断していたアルマ・マータはロミオ先輩の血の力を真正面から喰らった。


 『うぐっ!?普通話している途中に攻撃する!?しかも、自分たちの知り合いに似ている相手を!躊躇なく!!』


 「知らんわ」


 「そうだな」


 「そうですね」


 「そうだねー」

 
 「その通りだな」


 「そうだそうだ!特に俺なんか、ジュリウスのために殺されるところだったんだぞ!これくらいしたって許してもらえるに決まってんだろ!」


 『つらい』


 『あー……ラケル博士……残念ながら今回ばかりは擁護しかねます。私でもそう思いますし』


 俺たちの返答に本物のラケル博士がダメージを負っていた。ついでにフランさんが追撃も加えていた。


 『………くっ、せっかく仁慈に言われたとおりに美少女になったのにこの対応なのね』


 「俺が言ったのは人型美少女だし、そもそもラケル博士は少女じゃないだろいい加減にしろ!」


 『屋上』


 やっべ。


 『まぁ、そこはどうでもいいわ』


 自分で言ったくせにどうでもいいとは……俺はお前の所為でこの戦い乗り切った後でも、いやむしろ乗り切った後のほうが死ぬ確立高くなったんだぞ。


 『お遊びはここまでよ。貴方達はロミオの血の力で私を弱体化させたといっても多少攻撃が効く様になった程度……このくらいなら誤差の範囲よ』


 頭上に光の輪を出現させ、戦闘態勢をとるアルマ・マータ。
 その姿は天使のようにも見えたが体のサイズと、四つん這いの格好で台無しである。


 『今ここには半径百キロメートルに居るアラガミを全てここに向かわせるようにしてあるわ。さぁ、仁慈。私の計画を散々邪魔してくれた貴方に教えてあげるわ。本当の絶望を』


 紅い目を俺に合わせてそう宣言する。
 ならば、とこちらも対抗するようにアルマ・マータに視線を固定して、神機を突きつける。
 

 「やってみろ、その前にお前を今までのアラガミと同じようにしてやるけどな」


 宣言と共に、俺とアルマ・マータは同時に動き出した。俺の動きに追随するように後ろからギルさんとジュリウス、ナナが付いてくる。残りの二人は後ろから援護するようだ。




 ―――――――アルマ・マータ戦、開始。


 

 




最後の台詞

『今ここには半径百キロメートルに居るアラガミを全てここに向かわせるようにしてあるわ。さぁ、仁慈。私の計画を散々邪魔してくれた貴方に教えてあげるわ。本当の絶望を』

「やってみろ……この、仁慈に対してッ!」


て、いうのが一番初めに思い浮かびさすがに最後の台詞でネタはダメだろと思い新しいのを考えたのですが、DIO様に引っ張られすぎて三十分ずっと考えてました。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Alma Mater

遅くなって申し訳ありません。
そして、次回の更新なのですが、今月末から来月の頭にかけて色々とやることが出来てしまいました。
ですので、二月の最初の週が終わるまでは投稿が出来ないことになります。
後もう少しで終わるのに何をしている等のご意見は尤もなのですが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。











 『フフフ……』


 アルマ・マータはどこか見覚えのある笑みを浮かべつつ、人型の部分にある人間に近い形状の腕を自分に対して接近を試みようとしている仁慈達に向ける。
 すると、蝶の形をした光が一斉に仁慈たちへと殺到した。


 「これは……サリエルの攻撃方法に似ているな」


 仁慈の二歩後ろくらいを追随するジュリウスが自分たちに向かってきた攻撃を冷静に観察しながら呟く。
 先頭を切ってアルマ・マータに向かっている仁慈はジュリウスの口から漏れた言葉に同意するかの如く首を縦に振ると、自分の神機を前に向け、そのまま回転させた。
 アルマ・マータの攻撃は仁慈の神機に弾き返され彼らに届くことなく、霧散していく。しかし攻撃を完全に防がれたアルマ・マータも動揺などは見せず攻撃の量を先程の倍にして放った。


 ちなみに、どうしてアルマ・マータが動揺しなかったというと、仁慈が攻撃を理解できない、したくもない方法で防ぐことなんてラケルの中にいた時に散々見てきたためである。ブラッド隊と戦う以上、予めこういう事態は念頭に入れていたために動揺することなく追撃することが出来たのであった。


 追撃の量が多く、自分ひとりでは防ぎきれないと悟った仁慈はジュリウスに自分と同じく攻撃を防いで欲しい旨を伝える。


 「ジュリウス隊長、ちょっと辛くなってきたので手伝ってもらっていいですか」


 「まかせろ」


 仁慈の言葉に短くも自信に満ちた声音で答えたジュリウスは、今までよりも強く地面を蹴り、追随していた仁慈の横に出る。そして、自身の体から紅いオーラを振りまきつつ神機を左下から切り上げた。
 すると、彼の神機が沿った軌道上に幾つもの斬撃が現れ、アルマ・マータからの攻撃を切り捨てていく。本人曰くこのブラッドアーツは、ファ〇ナルファンタジー7をやって思いついたのだとか。元々似たような技を持っているだけあってすぐに習得できると思ったらしい。


 閑話休題


 仁慈だけでなく、ジュリウスも先頭に立ち攻撃を防いでいるおかげで彼らとアルマ・マータの距離は五メートルを切った。ここからならブラッドの攻撃も通る。
 アルマ・マータもそのことが分かっているのか、サリエルに似たビーム攻撃をやめて自分を支えている足のひとつを地面にたたきつけた。
 その直後、アルマ・マータの足から仁慈たちが居る場所にかけて地面が黒く染まり、そこから大量の棘が生え始める。


 「うぇ……!?」


 「やっかいな!」


 ビーム攻撃が止んだ為、前に出てアルマ・マータに神機を突き立てようとしていたギルバートとナナが声を上げる。
 棘の大きさは三メートルを超えておりどう考えても飛び越えられるものではない。ジュリウスを含めた三人はすぐさま横に飛び退いた。
 一人だけ横に飛び退かなかった仁慈は、オラクル細胞が作り出した足ということを利用した尋常ならざる脚力で、三メートルを越える棘を飛び越え、尚且つそれらに跳び乗りながらアルマ・マータの本体を目指した。


 これにはさすがのアルマ・マータも予想外だったのか、横に飛び退いていったジュリウスたちを意識から外して仁慈を見据え、人型部分の両手を使ってシユウのようなエネルギー弾を精製、そのまま彼に発射する。先程の攻撃とは比較にならないくらいの威力があると察した仁慈は神機で応戦することなく、空中で背面跳びのように体を浮かせ回避する。その後、両足を自分の胸の方へと持ち上げ宙返りを決めると、下から生えている棘に着地する。
 そして再びアルマ・マータへの接近を試みる。




 「あの接近の仕方はないな」


 「どう考えてもおかしいよね」


 「ギル、ナナ。奴が仁慈に気を取られているうちに俺たちも接近するぞ」


 仁慈の姿を見ていたギルバートとナナは呆れたような顔でそう言い放つ。ジュリウスは今の状況を冷静に見極め二人に声をかけて行動を開始した。



 一方、援護として残ったロミオとシエル。
 シエルは血の力で他のメンバーに状況を随時流し、ロミオは完全に意識を仁慈へと向けているアルマ・マータに向けて特性の爆破バレットを放っていた。爆破バレットは寸分の狂いもなくアルマ・マータへと着弾し、その巨体を僅かに揺らす。
 だが体を揺らしただけで、ダメージはないに等しいらしい。一瞬だけロミオの方を向くがすぐに仁慈へと視線を戻していた。


 「ビクともしねぇ……あれで本当に弱体化してんのかよ……」


 「アルマ・マータの言葉に偽りなしですね。確かに、あれくらいなら誤差の範囲と言っていいでしょう」


 「だよなぁ。すぐに仁慈に視線を戻したし……アイツ仁慈のこと好きすぎるでしょう?」


 なんて不憫なやつ……とげっそりした表情で呟くロミオ。
 

 「………誤射の可能性もありますし、遠距離の援護は有効とはいえませんね。ロミオ、貴方は突っ込んできたらどうです?どうせやることもないでしょうし」


 「あの集団に入って来いと申すか」


 仁慈、ジュリウス、ギルバートは言うまでもなく高い身体能力を持っており尚且つ身体の動かし方をよく分かっている。銃形態の性能上、前線で何時も戦っているナナもそれは同様だ。ロミオやシエルも決して弱いというわけではない。唯、ロミオとシエルは突っ込んでいく上記四人のフォローに回ることが多いためにそこまで前線に行くことがなかったのだ。その分の差があるための発言である。


 「少し近付いて血の力使っていればいいじゃないですか」


 「やめろー!俺は敵の動きを鈍くする装置じゃないー!」


 ブンブンと頭を―――正確には耳を抑えてシエルの言葉をシャットアウトするロミオ。そんな彼にシエルは豚を見るような冷ややかな視線を向けていた。
 ロミオもシエルの視線に気が付いたのか、頭が取れるのではないかという勢いで振っていた頭を止め、咳払いをして空気を変えようとした。手遅れだが。


 「おうぇ……頭振り過ぎた…………、よし復活。装置云々はこの際置いといて、確かに俺も前に出たほうがよさそうだな」


 爆破バレットを撃ったために銃形態となっていた神機を元の形に戻し、ロミオは駆け出す。シエルはロミオを送り出した後、時々嫌がらせ程度の狙撃を放ちつつ、今までどおり状況の把握に努めるのだった。






             ―――――――――――――――



 同時刻、サカキが予想していた通りアルマ・マータの能力で呼び寄せられたアラガミたちを極東の名だたる神機使いたちは食い止めていた。
 いや、むしろ―――――


 「グルァァアアアアア!!」


 「おっ、ヴァジュラだ(ズドン!)。コイツも昔はすっごく強く感じたんだよなぁ……」


 「コウタ隊長。そんな事ばっかり言ってると早く老けます……よッ!」


 「おい、そういうこと言うの止めろよ……おっとあぶね(ズドン!)俺まだ二十迎えてないんだからな」


 「騎士道ォオオオオオオオオ!!!」


 「エミールうっさい!」


 ――――――この光景は蹂躙という言葉が相応しいだろう。


 コウタとエリナは気安い会話をしつつも自身に向かってくるアラガミの攻撃をかわし、流れるような動作でカウンターを決める。騎士道狂い(ジャンキー)のエミールもお決まりの言葉と共にかつて苦しめられていたウコンバサラの顔面を粉砕する。それだけに留まらず、頭の潰れたウコンバサラの屍骸をゴルフよろしく吹っ飛ばして、小型アラガミの集団を押し潰した。
 数こそ圧倒的に劣っているものの実力差は歴然。これこそが、激戦区極東の神機使い。圧倒的な量を個人の質で対抗することが出来る神に仇名す者達だ。


 何も、コウタたちだけではない。


 別の場所では防衛班の神機使いたちが、アルマ・マータの居る場所へと殺到しようとするアラガミたちを殲滅していた。


 「サカキ博士の言った通りになったなぁ。小中大、それに堕天種をはじめとする亜種、挙句の果てには感応種まで混ざって突撃してきやがる。ブラッドアーツ習得してなかったら詰んでたなこりゃ」


 「確かに。他はともかく感応種には対応できなかっただろう」

 
 防衛班の班長であるタツミの言葉にブレンダンが同意の言葉を上げる。例の如くアラガミは殲滅しながらである。
 ブレンダンは武器の特性と己の胆力を最大限に活用した切り払いで大型アラガミと真っ向からぶつかり合い、押し返した後、体を回転させて振り切った勢いと遠心力を加えたなぎ払いで相手をしていたアラガミを両断し、タツミは自身のブラッドアーツで小型アラガミを処理していく。
 防衛班なのに守りに徹しないという暴挙を犯しながらもオウガテイル一匹逃がさない。もちろん、戦っているのは彼ら二人だけではない。


 「駆逐駆逐駆逐」


 シュンは次から次へアラガミの背中に現れては、全て首の―――正確にはうなじ位置する場所に神機を振るい、


 「サカキ博士から報酬ははずむと言われたし、やらないわけにはいかないよな」


 「こんなに沢山いるなんて……フフフ、やりがいがあって実にいいわ……」


 ジーナがシュンの隙を狙って攻撃を仕掛けようとするアラガミを正確に撃ち抜き、カレルがジーナを含めた自分達に襲い掛かってこようとするアラガミを倒しつつ、時々大物を狙い撃ちしていた。


 もちろん、クレイドル組と第四部隊のソーマ、アリサ、ハルオミ、カノンについても同じくアラガミがアルマ・マータの居る場所に行かないように戦っている。
 もっとも―――


 「アッハッハッハ!!そぉれ、それそれそれ!!早く逃げないと爆発四散しちゃうぞぉ~?ハッハッハッハ!!」


―――カノン(狂った固定砲台)が周囲のことなど度外視して敵を殲滅しているため、一番防衛しているかどうか首を傾げるが。先の防衛班といい、この元防衛班といい、本当に防衛していたのかと思うくらいの攻撃思考である。


 「ソーマ、そんなとこで空見上げてどうしたんですか」


 「いや……。こうしていれば、アイツが狂気の固定砲台(カノン)を止めにきてくれるんじゃないかと思ってな」


 「馬鹿なこと言ってないで私達も働きますよ。カノンさん、攻撃が豪快すぎて撃ち洩らしが結構ありますしね」


 「本当に、アレさえなければカノンちゃんは内面もいい、ムーブメントの塊なんだけどなぁ……」


 どこか諦めたように空を見上げるソーマ、そんなソーマに冷たい視線を向けるアリサ、どんなときでもぶれないハルオミ。
 彼らはアラガミからの攻撃よりも味方からの攻撃のほうが危険という、実に奇妙極まりない戦場で、縦横無尽に駆け巡り次々とアラガミを屠っていく。
 多少の無理はあるものの、戦場では全てが順調だった。
 しかし、皺寄せは必ず来るものである。
 

 『くっ、この人数を同時にオペレートとは……いつもいつも思いますけど極東は、非戦闘員(私達)にとっても地獄ですね……ッ!』

 
 極東の神機使いたちのオペレートを纏めて行っているベテランオペレーターのヒバリこそが、その皺寄せを受けている人物である。
 相変らず常識はずれな行動ばかりしでかす神機使い(馬鹿共)の面倒を見つつ、ぼそりと愚痴をこぼした。
 この作戦が終わったらオペレーターの増員をサカキに申し立てると彼女は密かに決意した。


 

              ―――――――――――――――――――



 『相変らずの化け物っぷりね!仁慈!まさかあの攻撃をあんな風に回避してくるなんて思っても見なかったわ!!』


 「正真正銘の化け物が何を申すか。俳句を読め。カイシャクしてやる」



 場面は戻り、仁慈とアルマ・マータの戦い。
 仁慈はアルマ・マータが生み出した棘を利用して攻撃を回避しつつ、アルマ・マータの目の前まで距離を詰める事に成功していた。
 その様はアルマ・マータが自分自身のことを棚に上げて化け物といってしまうくらいのものであった。仁慈は失礼ながらも真っ当な台詞に、神機を振るいつつ応える。俳句なんてなかった。


 一直線に目の前のアルマ・マータ目掛けて振るわれた神機は阻まれることなく、相手の顔面に傷をつけた。
 しかし、アルマ・マータには痛覚がないのか付けられた傷には何の反応も見せず、自身の頭上に浮かぶ光の輪からレーザーを放つ。空中にいる為、自由に動くことの出来ない仁慈にとってそれは回避不能の攻撃であった。
 一か八か、装甲を展開しやり過ごそうとしたところで目の前のレーザーが唐突に爆発する。仁慈もその爆風に煽られ、飛ばされるが先程もやっていたように空中で体勢を立て直すと今度は地面に着地した。
 アルマ・マータが視線を動かすと、そこにはドヤ顔でふんぞり返っているシエルが立っていた。


 「どやぁ」
 

 「ありがとうシエル。助かった」


 「いえ、あの程度でしたら何の問題もありません。なので、君はもっと攻めても大丈夫ですよ」


 シエルの能力と狙撃の精度、なにより先程のドヤ顔……どれをとっても厄介だと認識したアルマ・マータはシエルに狙いを定め、今度はピンポイントでシエルの足元に棘を出現させようと自身の足を振り上げる。
 しかし、そんな決定的な隙を彼らが見逃すわけがない。


 「今だ!」


 棘の出現する攻撃をよけた際に完全にノーマークとなっていたジュリウスが掛け声を上げる。それに応えるは三人分の声。彼らはジュリウスと共にアルマ・マータの足に一斉攻撃を開始する。
 自身を支えている足を一本振り上げている状態で行われた三人による集中攻撃は、アルマ・マータの態勢を崩すには十分な威力であった。アルマ・マータはその巨体を地面に沈めることとなる。


 『グッ……!よくも、よくもやってくれたな……ッ!』


 体勢を崩され地面に倒された怒りから、アルマ・マータの意識はジュリウスたちのほうへと向かう。
 そこへ――――


 「……警戒するだけ損だったな。いくらラケル博士の中で彼女の知識を吸収したとしても、所詮は元アラガミ。扱いきれないのであれば捨てたほうがいんじゃねえの?宝の持ち腐れだ」


 ――――ハッ!と、気付いたときにはもう遅い。何故なら、アルマ・マータが最も警戒していた人物……樫原仁慈の声が自分の真横から聞こえてきたためだ。
 だが、アルマ・マータは内心でほくそ笑む。

 
 彼が先程顔面に向かって行った斬撃は到底自分を打倒し得る一撃ではなかったためだ。たった数分前の攻撃がそれなのだ。今しようとしている攻撃も自分に届きはしないとたかをくくっていた。それは自分自身の存在が、絶対のものだと思い込んでいるからである。しかし、その思考こそが仁慈のいう宝の持ち腐れなのだとアルマ・マータは気付けない。


 ―――ビュ!!

 
 再び跳びはね、重力をも加算して振るわれた神機は空を裂きながら吸い込まれるようにしてアルマ・マータの顔に向かい、見事に頭上で浮遊している輪ごと両断して見せた。
 このことに驚愕したのはもちろんアルマ・マータである。自身の視界が両断され、まともに周囲の様子を確認できないながらも、叫ぶ。


 『あ、あぁ……アアアアァァァァアアアアァァ!!??ワタシノわたしのカオがぁぁああァアアァアアアアAAAA!!??』


 「化けの皮剥がれるの早すぎる……」


 その叫びように、覚醒したばかりの余裕はなく、仁慈は思わず呆れたように呟いた。


 「さっきまでの余裕は何処に行ったんだか……」


 「小物の典型的な反応だな」


 「格好悪いね」


 「どうせなら最後まであの余裕を持っていて欲しかったですよね」


 「シエル……いつの間にこっちに……」


 「何だロミオ、いたのか」


 「(この反応が来ることは)知ってた」


 それにしてもこのブラッド隊余裕である。


 『ナァゼダァ!!ナゼオマエノ攻撃が効イたんんだァ!!!ジンジィィイイイ!!』


 「なんで何時も俺なんだよ……。まぁ、いいや。解説は死亡フラグだが、ネタ晴らししてやろう。答えは単純、ジュリウス隊長たちが攻撃したところにロミオ先輩が自分の血の力を込めた一撃を見舞い、お前の中にあるオラクル細胞の働きを緩慢、もしくは停止させたためだよ」


 外からは効き難くても、中からはさすがに防げないだろうと付け足す仁慈。そう、ジュリウスたちが攻撃を仕掛けるあの瞬間、ロミオも参加していたのだ。そして、ジュリウスたちが付けた傷に自身の血の力をぶつけ、内側から効果を発揮させようと試みたのである。


 『おの…レ、オノレ、オノレ、オノれ、おノレ、オノレェェエ!!』 

 
 「オ・ノーレ」


 「言ってる場合か!?なんかやばそうだぞ!!」


 アルマ・マータの叫びにシエルが煽るような言葉を放つ。そんな彼女にツッコミを入れつつロミオはアルマ・マータの変化を指摘した。
 ブラッド隊もアルマ・マータの様子を観察してみると、仁慈が両断した切り口から、樹液のようなものがあふれ出していたのだ。しかもこの樹液、触手のごとくうねうね自由に動き回っている。


 「……明らかにヤバイだろ、アレ」


 「そうだな。少なくともいい予感はしない」


 ジュリウスとギルバートが冷静に感想を述べる。そんな中、彼らの通信機からオペレーターであるフランの声が届いた。


 『皆さん。悪いニュースがありますが聞きますか?』


 「悪いニュースは聞きたくありません」


 『では言い換えましょう。皆さん素敵なニュースです。アルマ・マータの偏食場が変化しました。アレはもうノヴァではなく終末捕食そのものです』


 「それもうおしまいじゃね?」


 『えぇ、普通ならばそうでしょう。しかし、あの二人は対策を考えていたようですよ。所謂、プランBです』


 その言葉に嫌な予感しかしなかったブラッド一同だったが、先程からこちらに向かってくる触手の量が多くなってきたのでおとなしく聞くことにする。

 
 『ジュリウス隊長か仁慈さんのどちらかに特異点となってもらい、あれらを相殺する……それが、プランBです』






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終末捕食

どうも、試験が近いにも関わらず書き上げてしまいました。なにやってんでしょうね。

ま、それは置いといて久しぶりで忘れているかもしれませんがどうぞ。













 いつも何時も思うんだけどさ。色々展開が速いよね………。
 そう考えつつ視界に収めるはついさっきまでアルマ・マータだったもの。
 余裕を見せるアルマ・マータの顔面に神機振るってやったらこの有様だよ。普通はそのまま倒して終末捕食を阻止!ハッピーエンド!第三部完!ってなりませんかねぇ……。ならない?左様ですか。
フランさんのいうプランBの内容を聞いた俺は心の中でそう呟いた。


 「プランBの内容については理解した。しかし、そんな簡単に特異点となれるものなのか?」


 ジュリウス隊長が当然の疑問を発する。終末捕食を生み出す中核……言わば世界崩壊の鍵といっても過言ではない。そんな存在をそうぽこじゃがと生み出せるものなのだろうか。
 というか、あの終末捕食っぽい樹液触手がしなりながらこちらに向かってきているんですが……。
 俺達を捕食しようと迫り来る終末捕食(予想)を神機で退けながら、ジュリウス隊長の疑問に答えるサカキ支部長とラケル博士の声に耳を傾ける。


 『本来ならば、到底不可能なことだろう。しかし、君達二人の場合は話が変わってくるんだ』

 
 『特異点とは、世界の全てを捕食しリセットするために発生する終末捕食の核となるものです。なので特異点になるモノの絶対的な条件は全てを喰らい尽くす力……すなわち“ありとあらゆる偏食因子を取り込むことが出来るか”という一点になります』


 『ラケル博士の話だと、ジュリウス君には既にその素質があることは分かってる。仁慈君のほうに関してもオラクル細胞で自らの肢体を修復し、自身の神機も手なずけている。可能性としては十分だ』


 「なら、ジュリウス隊長でいいんじゃないんですかね?」


 彼らの説明を聞き終え、俺は迫り来る終末捕食を両断しながらそう言った。当然理由はある。それは数日前にラケル博士が言ったあの言葉だ。


 ―――――ブラッドはジュリウスを特異点とするための部隊


 彼女は自身の事情を説明する際にブラッドのことをそう言った。つまり、彼女にはジュリウス隊長を特異点とする手段があったのだ。だからこそ、俺は確実に特異点になれるであろうジュリウス隊長を指名したのである。決して、決して!俺が面倒くさいからとかじゃナイヨ?


 「俺か?まぁ、元々ラケルの話では俺が特異点となる予定だったらしいからな。特異点になるための方法も考えているのだろう。当然の判断だな」


 『先生取られた……呼び捨てにされた……』


 ジュリウス隊長の口から唐突に発せられた一言がラケル博士の心を抉った。何故そう言ったし。
 サカキ支部長はサカキ支部長でラケル博士の反応にはまったく触れることなく俺達の考えを否定した。


 『いや残念ながら、ラケル博士が当初考えていた方法は使えなくなった。だから、君達のどちらかが特異点になるとしても確実な方法はない』


 崖っぷちじゃないですかーやだー。
 

 『私としてはね、仁慈君。君に特異点となって欲しいと思っている』


 「Why?」

 どちらも同じ条件であるならばわざわざ俺を指名する必要はないだろう。まさか俺が死んでもいいと思われているから選ばれた訳じゃあるまいし………え、ないよね?
 化け物擬きの俺と正真正銘の化け物に纏めて死んでもらうために指定したわけじゃないよね?その辺はサカキ支部長を信頼してますよ?
 ……これでだまして悪いが系だったら俺人類の天敵になる自信があるわ。


 『特異点になるには、多くの偏食因子を取り込む必要がある。これは先程話したね。では、特異点となっただけでアルマ・マータをを核とした終末捕食を相殺できるか……。答えは残念ながら否と言わせてもらうよ。コアそのものを捕食したアルマ・マータとは比べ、血の力で偏食因子のみを収集した特異点とではどうしても数段劣ってしまうんだ。私たちが行おうとしているのは最低限のことだけだからね。しかし、特異点となるのが君だと話は違ってくるんだ。君の血の力と尤もアラガミに近い身体……この二つを併せ持って初めて―――――』
 「サカキ支部長!話、長いっす!」


 個人への通信ではなかったためか、今までの会話が聞こえていたのであろうロミオ先輩がこちらに向かってそう叫ぶ。
 どうやら終末捕食の処理に大分手間取っているようだった。まぁ、俺とジュリウス隊長も一応、処理しているもののサカキ支部長の話を聞いて意味を飲み込みながらやってたからそろそろ限界なのであろう。


 『おっと、すまない。要するにこのままだと特異点になっても撃ち負けてしまう可能性があるから、自身の力を限界まで出せて尚且つ人間では到底たどり着けないようなポテンシャルを秘めた仁慈君に特異点となって欲しい……と、言う訳さ』


 「OK、把握」


 サカキ支部長の説明でおおよその見立てが出来たため、近くに居たジュリウス隊長とお互いに頷き合う。そして、俺は右側と正面から向かってくる終末捕食の内右側から向かってくる物を切裂いて後ろに大きく後退、それと入れ替わるようにしてジュリウス隊長が正面から来た終末捕食を切裂きつつ前に出た。
 終末捕食の範囲外に飛び出した俺は再びサカキ支部長に指示を仰ぐ。特異点になるのは決めたけどどうなるかは聞いてなかったし。

 
 「それでサカキ支部長。偏食因子を集めるといっても、具体的にどうすればいいんですかね」


 『今からナナ君の誘引の力を使ってもらい、極東の神機使い達の偏食因子を仁慈君に集めてもらう。シエル君はそのサポートだ』


 「と、いうわけで!」「よろしくお願いします」


 「うわっ!?」

 
 唐突に下から現れた二人に驚く。
 この二人、さっきまで終末捕食を必死に切り払っていたはずなんだけどな……。見間違いだったか?


 「あっちは、ほら……ジュリウス隊長が本腰を入れてきちゃったから……」


 「なるほど」


 あの人がやる気になったんなら仕方ないな。

 
 「ところでサカキ支部長。ナナの血の力で先程言ったことが本当に可能なんですか?」


 ナナとシエルの奇天烈な登場で忘れていたが、さっきの話の中で疑問に思ったことを素直に聞いてみる。


 『いいかい?仁慈君。出来るできないじゃなくて、やるんだよ(キリッ』


 「うわぁい、超不安」


 ちっくしょう。結局行き当たりばったりの出たとこ勝負かよ……。


 「今更気にしなーい、気にしなーい。ようは何時も通りってことでしょ?」


 「せやな」

 
 よくよく考えてみればその通りだったわ。
 ナナの言葉で冷静(?)になった俺は目をゆっくりと閉じて、一度深く深呼吸をして心を落ち着かせる。特異点になったらどうなるかまったくわからないからな。
 あまり時間もないので三十秒ほどそうした後にナナに声をかけた。


 「よし、覚悟完了」


 「なんかここ最近の仁慈弱気だねー。仁慈はもっと、こう……理不尽が服を着て歩いているような感じなのに」


 「だまらっしゃい」


 「はーい」


 普段と変わらないかのようなやり取りをしつつ、ナナは自身の持つ血の力を解放する。力が発現するときに発生する血の様な赤い波動が今まで見たことがないほどの範囲にまで広がっていく。というか終わりが見えない。その範囲の広さに驚いていると、俺の頭上に同じく赤い波動が集まり小さな球体を作り出していた。

 
 「今までの力とは規模が違いすぎる。どれだけ広範囲に展開してるんだ……?」


 「極東を含めた東アジア全域」


 「ファッ!?」


 東アジア!?東アジアナンデ!?


 「いやー、ほら。私の血の力ってさ……みんなのと違って使い勝手悪いでしょ?アラガミを誘導するといっても基本的に私の居る場所限定だし、使いどころを間違えると全滅必死だし。私自身、誘き寄せたアラガミによっては勝てないもん。だから、必死に使い方を考えて練習してたんだよ」


 「私もナナさんの能力に対応できるよう、直覚の範囲を広げました。360度どんな遠くも透視しつつ確認することが出来ます」


 「それなんて白眼ですか……」


 にっこりと柔らかく微笑むナナとドヤ顔で胸を張るシエル。お前最近ドヤ顔しかしてないな。
 まぁ、それは置いといて。回復錠という名の毒物を作成したり、ブラッドバレッドという名のアラガミ絶対殺す弾を作っている傍らでそんな事もしていたのか……。


 「……その結果がこれか。ナナもシエルも立派な人外の仲間入りだな」


 今更な気もするけど。


 「これでおそろいでだね!まぁ、まだ仁慈やジュリウスには敵わないだろうけどねぇ」


 「そうですね。君とジュリウスは別格ですから。英語で言うとフリークス」


 「やめろぉ!」


 俺は自称したことないんだぞ!その呼び名!
 世界の存亡がかかっているこの場面でまったく似つかわしくない雰囲気で話す俺とナナ、シエル。数分話していると俺の頭上に出来た球体がかなりの大きさになっていた。どっかで見たことあるなぁ、この光景。
 

 「ちなみにだけど、この血の力を作るときに何か参考にしたものとかない?」


 「元気〇」


 「把握」


 オラに偏食因子を分けてくれー!ってことか。どっちかと言えば俺自身は元気〇をもらってべジー〇に投げつけるクリ〇ンみたいな感じだけど。


 『では、仁慈君。君が無事に帰ってくることを祈っているよ』


 実は俺たちの会話を聞いていたらしいサカキ支部長から激励の言葉を送られる。そして、それと同時に俺の頭上を陣取っていた偏食因子の塊が身体へと流れ込んできた。
 体内に大量の何かが入り込み、身体を一気に書き換えられていく感覚を覚える。……あまりいい気分ではないな。胸焼けをしているような、なんかスッキリしないモヤモヤしている。
 少しの間顔を顰めていたが、しばらくするとそれは完全に納まっていた。もう大丈夫かなと考えた俺は、軽く腕を振るって回してみたり、神機を振ってみたりする。


 「うん。運動能力は大して変化なしか」


 下手に悪化しなくて良かったと思わなくもないが、こういう場合って高確率でインフレとも呼べる高い戦闘力を得ることになると思うんだけど……現実はそこまで甘いものではなかったらしい。ま、特異点は終末捕食の核になるだけだから戦闘力が上がらないのかもしれないけど。


 割とどうでもいいことを考えつつ、ナナとシエルのほうを向く。するとそこには目をぱちくりとさせてお互いに見合っている二人の姿があった。何事よ。


 「えーっと……仁慈……だよ、ね?」


 「一体それ以外の何に見えるんですかねぇ……」


 特異点になって外見が変わったとか?HAHAHAそんな事あるわけないジャマイカ。


 「だって……仁慈の髪の色が真っ赤になってるんだもん……」


 「清々しいくらいに赤いですね。目が痛いです」


 「oh………」


 おぃ……マジかよ……。




            ――――――――――――――――




 「ちっくしょう!うねうねうねうねうねうね、うざいったらないな!」


 何度切りつけても性懲りもなくこちらを捕食しようとする終末捕食に罵倒を浴びせつつ、肩に担いでいた神機を怒りの感情も交えて地面に叩きつける。
 地面に叩き付けた神機は下の地面にクレーターを作りながら俺に向かってきた終末捕食を粉砕した。そして、ラッキーなことに近くにあった別の奴も纏めて粉砕することが出来た。やったぜ。


 「仁慈のやつ……まだなのかよ。俺たち神機使いだって無限に戦い続けられるわけじゃないんだぞ。ターミネ〇ターじゃあるまいし」


 心のうちにわいてきた不満を溜息と共に溢す。仁慈だって頑張っているのは分かる。特異点のとして終末捕食を起こすなんてとても怖いだろう。しかも、あいつ俺たちの仲で最年少だし。あれ?そう考えると俺、愚痴なんてこぼしている場合じゃないんじゃないか?こう、形式上先輩と呼ばれている身としては。
 ……自分で形式上って言っちゃったよ。


 「っと、それはどうでもいいか。他にはいないかなー。……ここまで着たら10体も100体も変わらないだろ」


 若干、投げやりになっているがそれはしょうがないことだと割り切り、他にも終末捕食が向かって来ていないか探してみる。すると、まったく終末捕食抹消の手を衰えさせないジュリウスとギルの姿が見えた。
 あの二人、俺より広範囲をフォローしいてるし、無駄に終末捕食を攻撃するものだから体力の消耗もそれに比例するくらい激しいはずなんだけどな……。


 「あいつらはターミ〇ーターかもしれない……」


 むしろそうであってくれ。アレを俺たちと同じ神機使いとは思いたくない。


 「――――――ッ!?」


 ジュリウスたちの戦いっぷりに呆れていた俺は背後から唐突に感じた血の力に戦く。感覚はそのまんま血の力と同じものだったにも関わらず、力の濃度というかなんというか、その辺りが規格外な感じだったからだ。漠然としてて分かりにくいかもしれないけど俺もうまく言葉が見つからなかった。そしてその発生源と思わしきところに視線を向けてみると、シエルと同じ美しい銀髪を真っ赤な色に染めた仁慈がたっていた。


 「イメチェンか?」


 「んなわけないだろ!」


 わざわざ俺の隣にまで来てボケをかますジュリウスにツッコミを入れる。この隊長、初期の貫禄を完全にどこかにおいてきているようだ。


 「それにしてもアレが特異点になった仁慈か……思ってたのと違うな」


 「お前は何を期待していたんだ……」


 普段色々アレになってしまったギルも呆れている。言っておくけど、ギルもそっち側だからね?


 「…………」


 そんな俺たちを他所に仁慈は静かに神機を構える。その構えは何時も通りにも関わらずなんだろう、どこか嫌な予感がした。
 これは自身の死亡フラグを感じ取り、仁慈に血の力を覚醒させてくれと頼んだとき以来のものである。隣にいるアレコンビもそれを感じ取ったのかすぐさま仁慈と距離をとった。それと同時に、


 『皆さん、今すぐ仁慈さんから離れてください!彼を中心にして超強力な偏食場が形成されています!おそらく終末捕食です!』


 フランさんの大声が耳を貫いた。その音量に少し耳を押さえつつ、仁慈の様子を見る。
 すると、仁慈を中心により一層血の力と同質な赤い波動が渦巻き仁慈の神機の中に凝縮されていく。ブラッド(俺たち)という防波堤が居なくなったことで、アルマ・マータを基点とした終末捕食は仁慈に殺到する。
 自身の視界を埋め尽くすほどの勢いで迫る終末捕食(絶対的な死)を目の前にしても仁慈はうろたえることなく、構えていた神機を左斜め上へと切り上げる。


 その直後、辺りにすさまじい轟音が響き渡る。
 それと同時に、仁慈の神機から凝縮されていた赤が、彼に迫っていた終末捕食を喰らい尽くす。


 そのままアルマ・マータを基点とする終末捕食を全て喰らい尽くすかと思われたが、向こうも向こうでこのままだと危ういと思ったらしい。
 仁慈の居る方向以外にも向けていたエネルギーを全て仁慈が放つ終末捕食に向けてきた。すると、先程まで押していた仁慈の終末捕食はあっさりと押し返されてしまい仁慈の目の前まで再び迫ってきていた。


 「帰ってくるの早いなおい……っ!」


 何とか押し返そうともう一度神機を振るうも押し返すことは出来ず、それすらも飲み込まれる。
 俺たちだって唯見ているだけではない。それぞれがそれぞれの血の力を使って仁慈をサポートしたりアルマ・マータのほうの妨害を行ったりもした。しかし、それも虚しく無意味に終わった。


 そして、



 「ふん!はぁ!せぃあ!………ことごとく飲み込まれている……なにこれどうすればいいんだよ」


 仁慈は


 「こうなったらブラッドアーツだ!食らえッ!」


 俺たちの目の前で

 
 「あ、やばっ――――」






















 終末捕食に飲み込まれていった。





 


 


 




 



仁慈「終末捕食から、光が逆流する……!▂▅▇█▓▒░('ω')░▒▓█▇▅▂うわああああああああ!!」


大体こんな感じ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着


投稿が遅くて申し訳ありません

後、終わる終わるといいつつ全然終わらなくて本当にすみません。もう残り一話だけなので最後までお付き合いしていただければ幸いです。

では、色々無理矢理かもしれませんがどうぞ。



――――樫原仁慈が死んだ。


 この言葉が起こす変化はかなり大きい。
 樫原仁慈はこの戦いにおいて間違いなく中心であった。絶望的な戦力差でも、彼をはじめとする飛びぬけた神機使いたちがいれば何とかなると思われていた。終末捕食が起きてしまっても特異点となる彼が何とかしてくれる。そんな思いに囚われていたがために。
 特に目の前で仁慈が終末捕食へと消えていく姿を見たブラッド隊の精神はかなり不安定になっていた。ナナはその場に泣き崩れ、シエルは呆然とし、ギルとロミオは今にも終末捕食の中に飛び込みそうだった。
 

 「フラン!仁慈のバイタル反応もしくは終末捕食の反応を確認できるか!?」


 そんな中ジュリウスはオペレーターであるフランに仁慈の安否を確認できる手段を思いつき実行に移していた。彼も彼で、目の前で終末捕食の中へと消えた仁慈の姿を見て動揺しているが上に立つものとしての振る舞いが分かっているためにここまで速やかに行動できるのだ。


 『仁慈さんの反応はアルマ・マータから成った終末捕食の強力な偏食場パルスで確認できませんが、彼が起こしていた終末捕食の反応は完全に消失しています!』


 しかし、冷静な行動を起こしたジュリウスに帰ってくる返答は望んでいたものとはかけ離れていた。特異点となった仁慈が起こした終末捕食の反応がなくなったということはすなわち核である仁慈が唯ならない事態に陥った証拠だからだ。


 「くっ………!」


 ジュリウスは仁慈を飲み込んだ終末捕食のほうを睨みつける。そこには今だ勢いを衰えさせず進行しようとしている終末捕食があった。
 
 
 「………俺が特異点になっていれば……いや、どちらにせよ結果は変わらないか……」


 こんなことになるなら自分が特異点になっていればよかったと後悔するジュリウスだが、仁慈が特異点になる理由を思い出し結局変わらないということに気付いた。
 もういっそのこと自分もあの中に入って特異点になれないか確かめてみようかと投げやりな思考で睨んでいると、ある違和感を感じた。


 「……何故、未だ一箇所に集まっている?」


 そう。普通なら仁慈を飲み込んだ終末捕食は、四方八方ばらばらに進行するはずだ。なぜならもう終末捕食の行く手を阻むものはないからである。分散したところで対抗できるものはいない。にも関わらず、未だに一箇所に集中している理由とは一体何か?決まっている。


 ――――終末捕食に唯一対抗できる特異点(仁慈)が健在であることの証明である。


 その結論に至ったジュリウスは動揺しているメンバーに自身が思ったことを話した。


 「……もう一度仁慈に偏食因子を集めるぞ。シエルはあの中から仁慈を探し出して俺らに伝えろ。ロミオは仁慈までの道程にある終末捕食を弱めろ。そうしたらギルの力で底上げした偏食因子を俺の能力で活性化状態にする。そして最後に、ナナが仁慈が居る位置に直接ブチ込め」


 「おう」


 「まかしとけ」


 「問題ありません」


 「うん、大丈夫。もう仁慈にばかり頼らないってこと、見せるんだからっ」


 ジュリウスの提案を聞いたブラッドメンバーは全員そろって力強く頷いた。今までは仁慈の力を妄信しすぎていて、それが今回の結果を招くことになった。
 ならば、これからは彼に頼り過ぎないようにしよう。支えられるようになろう。それが仲間というものだから。






               ――――――――――――――










 ―――――あ、死んだ。


 これが自らに迫る光の壁を見たときに思ったことである。
 特異点となった俺はその力で終末捕食を起こし、アルマ・マータの終末捕食にぶつけた。何とか相殺に持っていけたらなーとか考えてたが結果は圧倒的敗北。アワレ俺は光の壁に飲み込まれたというわけである。


 まぁ、ぶっちゃけ油断というか慢心してた。なまじ今までどんな事態に陥っても何とかなってきたためそうなってしまった。
 そう、いつからか樫原仁慈は何とかするという根拠のないことを誰よりも何よりも自分が妄信してしまっていた。その結果がこれである。


 そんな状況で思い起こされるのは過去の出来事。わけも分からずドリルをブッ刺されたことから始まる神機使い樫原仁慈(おれ)の軌跡。完全に走馬灯である。ここまで着たら昇天まで秒読みと言ったところだろう。しかし、徐々に終末捕食に侵食されている俺の体はまったく動く気配もなく抵抗らしき行動は何も出来ない。
 

 あまりに何も出来ないもんだから逆に、今まで漠然と受け止めていたこの状況に反逆する意識が芽生えてきた。原理は普段仕事ばかりしてて休みが欲しいといいつつ、いざ休みになるとやることなくて結局休みになっていない人たちと一緒だ。多分。
 それによくよく考えてみると、ここで俺が死んだらかなりヤバイことになる。俺だけならまだ慢心の結果として受け入れられるど、俺だけじゃなくて近くで戦っているブラッドをはじめとして、俺たちの勝利を信じて足止めに徹している極東支部の神機使いたち、サカキ博士や極東の人たちだって死ぬことになる。いや、そのまま人類滅亡だ。こんなところでくたばっている場合じゃない。
 

 そうと決まれば即行動だと、身体を動かそうとしてみてもそういえば今は動かなかったなということに気付き思いっきり出鼻をくじかれる結果となった。


 「やべぇ……何も出来ない……」


 もうだめだぁ……おしまいだぁ……。


 ――――手こずっているようだな、手を貸そう。


 「結構です」

 
 ――――まただよ(諦め)


 なんか流れで断っちゃったけどこの声一体誰だったか……。どこかで聞いたことがある気もするんだよなぁ。
 今の状況は正直そんな事を考えられる余裕はないものの、不思議なくらい自分の中で引っかかっていたので直接聞いてみることにした。


 「誰だお前」


 ――――いつぞやの狼戦で力を貸してやっただろう。


 その言葉で思い起こされる場面はひとつしかない。神機使いになりたての頃、遭遇したマルドゥークに殺されかけたときに力を貸した声……それは……、


 「あの時の情けない声。多分仁と信慈と共に混ざり合ったアラガミの面か」


 ――――前に余計なものが付いたけどまぁ、そうだ。私こそお前を生かしてやったアラガミの意思である。


 「それがあんな情けないことにどうしてなった……」


 ――――1から10までお前のせいだ!


 解せぬ。
 でも、今はおいておこう。ここで気になるのはどうして今更になってこいつが出てきたかどうかだ。


 ――――私が出てくるのは命の危機に瀕しているときだけだが?


 「ですよねー」


 知ってたよこんちくしょう!


 「で、この死にかけに加えて体が動かせないというオプションも付いている状態の俺に何か出来ることはあるんですかね」


 一応こんな状況でも打開する案があったために俺に話しかけてきたんだと希望に近い予想を立てながら問いかける。俺の言葉を聞いて帰って来たアラガミの回答はしっかりと俺が望んだものだった。 


 ――――もちろんだ。そうでもなければ諦めてお前と共に死んでた。


 「そうだろうね。それで、この絶体絶命というか半分死んでいるような状況から抜け出せる方法は?」


 ――――極東支部に居るもじゃもじゃ眼鏡が言ってただろう。お前のほうがアラガミが多く混ざっている分だけポテンシャルがあると。先程までのお前はそれをかけらも引き出せていなかった。だから負けたのだ。


 もじゃもじゃ眼鏡って……もしかしなくてもサカキ支部長のことだよな。そういうこと言ってやるなよ。あの人だってきっとアレが気に入っててセットしているんだろうしさ。寝癖の可能性もあるけどな……っと話がそれた。

 「アラガミの力を使いこなせてないって……俺の身体能力は神機使いの中でも割と上位だぞ?」


 ――――そんなものオラクル細胞で出来た手足を使っているから当たり前だ。私が言っているのはあの狼戦で見せた咆哮のようなもののことを言っている。


 「マルドゥークの動きを止めたアレか」


 ――――そうだ。あれこそアラガミの力。他にも使い方は色々あるが……今はいいだろう。ここで本題だ。はじめに言った手を貸そうというのはお前にアラガミの力を扱えるようにするためだ。


 「嘘付け」


 ――――嘘ではない。本当は前回出てきたときにそれも与えようと思ったのだが、お前が問答無用に力だけ持っていってしまったからこんなことになったんだ。


 「その前回で言った発言思い出してみろよオラ」


 俺が身体を乗っ取るつもりだな的なこと言ったとき思いっきり頷いてただろうが。そのことを指摘すると明らかに動揺した声でアラガミが言った。


 ――――ななななんのここことやrrrrrrr。

 
 「もう何言ってるのかわっかんねぇな」


 ――――うおっほん。……さて、そろそろ時間もなくなってきた。今は私がアレをこうしてチャンチャラほいで形を保っていられるが、そろそろ終末捕食に飲み込まれてしまう。さぁ、手を前に差し出せ。


 「結局何をやったんだよ……」


 最後の最後まで締まらないアラガミの声にツッコミを入れつつ、俺は言われた通り手を差し出す。
 その直後、馴染みのある重さが差し出した手から感じた。それは今の今まで自分と共にいた相棒といっても過言ではないもの。神機使いが神機使いたる所以である、神機であった。


 「何故に神機……」


 確かに、これを持った瞬間自分の中にある枷のようなものが外れた感覚がした。清々しい気分ではある。しかしどうして今更神機を持ったくらいでこんなに変わるのだろうか。


 ――――私が認め、神機を持つことこそが重要なのだ。神機とは調整されているとはいえ、アラガミだ。それをお前の中で死に掛けていた私が乗っ取ったから今まで力が抑えられていたのだ。


 「お前の所為かよ!」


 今行われてるのはマッチポンプって言うんじゃないの?


 ――――………外のほうから偏食因子が集まってきている。どうやらお前の仲間が私たちを見つけたらしいな。もう時間だ。武運を祈っているよ。


 「おい、話逸らすの下手すぎだろ。っていうかちょっとm――――――」



 



              ―――――――――――――――――




 アラガミの声に対するツッコミを強制キャンセルされ、目を開いた瞬間に視界に写った光景は―――――先程と寸分も変わらず、光の壁だった。



 「ぬぉおおおああああああ」


 このまま呆けていてはさっきの二の舞だ。一応、不思議空間で元自分の中のアラガミ現神機に言われた通り力は今までとは比較にならないくらい出ている。飲み込まれたはずの偏食因子たちもナナたちが再び集めてくれたのだろう、終末捕食に飲まれる前とまったく同じ状態に戻っていた。チラリと視線を向けてみればこっちを見てやりきった顔をしているブラッドメンバーの姿があるし、さっきまでの話にも出てたし間違いないだろう。


 「負けるかぁあああああ!!!」


 ここまでされたからには応えなくてはなるまいよと、自らを振るい立たせもてる全てを出し切る勢いで神機を振るう。
 神機から出た赤い終末捕食は光の壁を食い破っていく―――――――



























 ――――――――ことはなく、俺が喰われないギリギリのところで踏ん張っていた。


 「なんでさ!」


 普通こういう展開ではそのまま逆転してハッピーエンドを迎えるんじゃないんですかねぇ!!あの野郎俺にホラ吹きやがったなっ!


 ――――私は力を引き出せると言っただけだ。確実に勝てるなんて一言も口にしてない。そもそもそんなご都合主義的な展開あるわけないだろう?常識的に考えて。


 「後で覚えとけよコンチクショウ!」


 なんかとんでもなく今更なことを言うアラガミに文句をたれつつ、さらに力を入れて神機を下から斜め上、その勢いを殺さずに回転してさらにもう一振りの合計二回振るう。この状況、完全に俺が飲み込まれる前と同じだがかといって他に取るべき手段がない。

 
 「このままやられたらさすがに格好つかないぞ……」



 どうするか……。
 いい加減何かしらの対策が思い浮かばないものかと、神機と同じく頭もフル稼働させていると、奇跡的に生き残っていた通信機から声が聞こえた。


 『……ねぇ、知ってる?』


 「なに?豆柴?」


 『違うよ。私だよ私、わかる?』


 「状況が状況なんで何か知らせることがあるなら速やかにお願いできませんかね?リッカさん」


 声の主はオペレーターのフランさんではなく、極東のマッド(神機限定)であるリッカさんであった。リンクサポートデバイスの実験体にするなど割と容赦がないことに定評がある」


 『その評価は不当なものだね。後で話があるから覚悟して置くように』


 「oh……」


 また声に出てたか。


 『それはともかく。なにやらピンチそうだね、仁慈君』


 「そういう貴方は大分余裕そうです……ねッ!」


 その余裕は何処から来るのか是非教えて欲しい。こっちは肉体的にも精神的にも今すぐに押しつぶされそうなのに。


 『ん?あぁ、私は君が何とかしてくれるって思っているからね。特に取り乱すことはないよ』


 「その信頼が痛い」


 絶体絶命のピンチに直面している身としてはさらに辛く感じる。


 『では痛くないようにしてあげよう。……神機って言うのは常にリミッターがかかっているんだよ。これは知ってるかな?』


 「普通の神機使いじゃ……扱いッ、きれないからッ、ですよね」


 ブラッドアーツを習得するときそんな事をシックザールさんが言っていたことを思い出す。俺やシックザールさんなんかは普通の神機使いより神機の規制を緩くしても大丈夫らしいけど。


 『そう。でも、今の君なら君自身の力で神機の限界を取っ払って扱うことが出来ると思うよ。特異点になってるから神機に捕食される心配もないし』


 「確かにッ、そうッ、ですけどッ!神機の開放なんてやり方知りませんよッ」


 『仕込みは既にしてあるから大丈夫。後は君が血の力を神機に対して使うだけ』


 仕込みって……そういうのは本人にしっかりと確認とってからにしてくれませんかねぇ。リッカさんのフリーダムさに思わず溜息をつく。


 「まぁ、やってみますよ」


 『うんうん。その意気だよ。それじゃ、さっさと片付けて帰ってきてね。まだまだ君にはやってもらわなくちゃいけない実k―――――実験があるんだからさ』


 「おい……言い換え、おい」


 『それじゃ!』


 ブツリッと音が鳴った直後、無音を突き通す通信機。
 

 「………とりあえず、行くぞッ!」


 色々リッカさんに言いたいことはあるが、その前に目の前の危機を何とかしないといけないわけで……。
 くだらないことで埋まりつつある思考を切り替えて、俺は自分の神機に向かって『喚起』の力を使った。






              ――――――――――――――――――







 俺たちが見たのは赤い波動に混ざって現れた金色の光の流動だった。ちょうどブラッドみんなの力を合わせて偏食因子を流し込んだところからそれは浮き出てきた。その勢いは決して終末捕食にも負けていない。しかし、不思議なことにその金色の光と終末捕食である赤い波動はお互いにぶつかるはなかった。むしろ、お互いが絡み合いより強力なものへ変貌しているようにも感じられた。


 「なんだ……あれは……?」


 「金色の光……?」


 ギルとナナも呆然と赤と金の流動を眺めていた。かく言うジュリウス()も彼らと同じような感じとなっていただろう。それほどアレは圧倒的だった。
 誰もが仁慈が起こした変化だと思われる事態に目を奪われている中で、血の力を使って仁慈の様子を見ていたシエルが光の方を見てこう言った。仁慈と。
 彼女の言葉につられて全員が目を凝らして光の発生源を見る。すると確かにシエルが言った通り仁慈が居た。あの金色の光を背中から生やしながら。


 「なんじゃありゃ!?」


 「ついに正式に人間辞めましたっ!?」


 「タシロス!?」


 「落ち着けお前ら」


 メンバーの反応の大きさに仁慈の存在の重要さをしみじみと感じつつ混乱の極みに陥ったメンバーを一人一人正気に戻していく。主に首筋に手刀を入れる感じで。
 

 そんな事をしている間も状況は二転三転する。今の今まで押されてばかりだった仁慈側の終末捕食がアルマ・マータの作り出した終末捕食を押し返し始め、そのままそれぞれの位置からちょうど中間となる当たりまで進行したのである。
 

 だが、それだけで終わりではなかった。拮抗していた二つの終末捕食が突然混ざり合い、上へとその向きを変えていったのである。
 お互いがお互いを喰らい合いながら上へと登っていく様は二つの竜が喰らいあっていくような姿にも見えた。そして、そのぶつかり合いで生じた衝撃波と閃光がある程度離れていた俺たちも飲み込もうとしていた。


 「やべっ」


 「これは間に合わないな」


 「万事休すですね」


 「これは死んじゃうかもねー」


 「お前たち……もう少し緊張感を持たないか……」


仁慈の無事を確認できたからか何時もの調子が出てきた仲間たちとともに仲良く光の中へ飲み込まれる結果となった。


 

              





 「………ん?」


 私たちに向かってきた激しい閃光が収まり目を開けると、そこには今では見ることが難しくなった自然の木や花々が咲いている場所に立っていた。雰囲気としてはフライアにあった庭園に近いと思う。でもおかしい。私たちが立っていた場所は確かに他の地域に比べて綺麗な場所、黎明の亡都と呼ばれるところだったけど、ここまで自然豊かな場所ではなかったはず。


 「なんだ……ここは……」


 「すっげぇ綺麗なところ……」


 「どこか庭園に似ている気もしますね」


 私と同じく光に飲まれたシエルちゃんやギル、ロミオ先輩もこの光景に驚いているようだ。というかそこに居たんだね、みんな。


 「仁慈!」


 ジュリウスの叫び声に私を含めた全員が彼の向いている方向に視線を移す。するとそこには暢気にこっちに向かって手を振っている仁慈が居た。それを見た私は思わず彼に向かって走っていき―――――――ドロップキックを繰り出す。


 「仁慈の馬鹿ぁぁあ!いっぱい心配したんだからーーーっ!!」


 繰り出したドロップキックは寸分の狂いもなく仁慈がいるところへと向かい、後少しで激突となる瞬間。見えない壁のようなものに遮られた。
 当然、遮られたために仁慈に対してのダメージはなし。逆に私が大ダメージを受けて地面を転げまわる結果になった。うぅ……痛い……。ついでに仁慈から来る何だコイツ的な視線も痛い……。



 「あー……大丈夫か?その、色々」


 直接言われたっ!しかも、その他もろもろも心配された!


 「そんな事はいいのっ!それよりこの壁なに?」


 これ以上醜態をさらしてしまうのも割りとアレなので話題のすり替えを行う。幸い、見えない壁に関しての疑問はみんなが持ち合わせていたので特に手こずることもなくすんなりと話題のすり替えに成功した。


 「多分終末捕食の外と中を分ける奴じゃないの?俺は特異点で終末捕食を起こしている側だからこっちでナナたちを巻き込まれただけだからそっちってな感じで」


 「ふーん……それで仁慈。今の状況分かるか?」


 「質問しておいてこの対応………はぁ、現在はいい感じに二つの終末捕食が拮抗している状態ですね。これなら当初の予定通り終末捕食を無害なものに出来そうです」


 「ならもうすぐ一件落着か?」


 「一件落着です」


 私は仁慈のその言葉に思わず胸をなでおろした。正直私たちはあまり何もしてないかもしれないけど、それでもようやくこの危機が去っていくと考えるとそうならざるを得なかった。私だけじゃない。ジュリウス隊長だって目に見えるくらい安堵している。
 けれど、そんな雰囲気の中仁慈だけは気を緩めずにいつの間にか握っていた神機をもって私たちに背を向けた。
 ……その姿がなぜか無性に私の不安を煽ったため、つい問いかけてしまった。


 「仁慈、神機なんて持って何処に行くの?」


 「神機持ってやることは一つしかないでしょ」


 仁慈がそう口にした瞬間、仁慈が居るほうの空間に黒いアラガミ達が出現した。それも一体や二体ではなく、数十体もの大軍勢。とどめにどれもこれも大型以上のアラガミばかりだった。
 


 「仁慈!」


 ロミオ先輩が叫ぶ。さすがにこの状況はまずいと思っているのだろう。必死にこちらに来るように声を上げていた。しかし、仁慈は彼の言葉に反応を返すことなく淡々と歩みを進めていく。
 ギルがそれを止めようと向こう側に行こうと試みるけど、見えない壁はびくともせず、ただ小さな波紋を作り出すだけだった。


 「一件落着じゃなかったんですか!?どう考えてもそうは思えませんけど!?」


 「これから一件落着にしに行くんだよ、シエル。だからみんなは先に極東支部に帰っといて」


 「今すぐじゃないとダメなのか!?」


 「特異点になって終末捕食を起こしてますからね。勝手に出て行くと多分暴走しますよコレ」


 信じたくなかった。特異点である仁慈が消えると終末捕食が暴走を起こす。それが意味することは仁慈が一生ここで終末捕食の制御を行わなければならないということ。つまり、仁慈は帰れない。
 その結論にたどり着いたとき体の力が一気に抜けてその場に座り込んでしまう。嫌だ、仁慈が居なくなるのは嫌だ。


 「それは一件落着って言わないだろ……」


 「終末捕食が無力化できるんですから一件落着でしょう。それに俺は先に帰っておいてくださいと言っているんです。だからまるで今世の別れみたいな雰囲気だすのやめてくれません?」


 それは嘘だ。だってあの顔は、過去にお母さんを助けに来てくれた神機使いたちが見せた表情と同じだったから。自分の命に代えても何かを守る、何かを成し遂げる……そんな意思が乗った目をしてるから。
 だから行かないでと、必死に声を上げる。もう、仁慈が終末捕食に飲み込まれたときのような気持ちにさせないでと。


 仁慈は体を反転させて見えない壁のギリギリまで来ると、その場にしゃがみこんで私にすごく優しい声で語りかけた。


 「あのな。コレは必要なことなんだよ。それに、さっきから言っている通り俺はなにも死にに行くわけじゃないんだぜ?」


 「嘘だ!仁慈、今にも死にそうな顔してるよ!」

 
 「ちょっとそれは失礼すぎやしませんかね……まぁ、今はいいや。なぁ……そんなに俺が信じられないか?」


 「…………一回、終末捕食に飲み込まれたくせに」


 「やだ……心にすっごく突き刺さる……っ」


 あれは仕方がないし、私たちのせいでもあると自覚しているけど思わずそのことをくちにしてしまう。すると仁慈は地面に手を着いてうなだれていた。しかし、すぐさま立ち上がり私の目をしっかりと見て、宣言する。


 「確かに一回無様をさらしたけど、今度は大丈夫だから。もう一度、俺のことを信じてくれないか」


 「…………」


 分かってる。私が言っていることが唯の我がままで、仁慈の言葉が正しいのは。とても面倒くさいことを言って仁慈を困らせていることなんてとっくに分かりきってる。私だってそこまで子どもじゃない。けれど、万が一を考えると怖い。心臓が凍りつくような寒さを感じるのだ。


 「………」


 「………」


 「……………わかった、待ってる。ずっと」


 「……ん、ありがと」


 にこっと微笑んで彼は立ち上がる。
 あんな目で見られたら、断れるわけがなかった。私が何を言っても止まらない、そんな意思を宿していたから。


 「それじゃ」


 短く言い残して今度こそ仁慈は神機を振りかぶりながら、人外的な速度でアラガミに突撃していく。
 大型のアラガミを次々紙屑のように蹴散らす仁慈の姿を最後に私の意識は途切れていった。







               ――――――――――――――



 


 あの後、目を覚ました私たちは光に飲み込まれる前にいた場所に立っていた。仁慈の言葉を信じ、ジュリウス隊長が通信機で帰りのヘリで無事に極東支部へと帰って来た。サカキ支部長から、終末捕食はお互いに喰らいあった結果ひとつの大木のようになったという旨を聞いた。


 今でも出来た白い大木の中で終末捕食がお互いに喰らいあっているらしい。偏食場はどちらも均衡していて現状は問題がないらしい。


 「君達には本当に感謝している。よくやってくれた、今日はゆっくりと休むといい」


 そう言われたけど、そんな事はどうでも良かった。サカキ支部長から労いの言葉をもらい自室へと向かう途中で聞いてしまったのだ。仁慈のバイタル反応が完全に消失したと。

 
 そこから先は良く覚えていない。
 きっと、自分の部屋で泣き叫びそのまま疲れて眠ってしまったのだろう。目が覚めたら私はベットの上で寝ていた。
 

 とにかく今日は起きる気にならない。仁慈が死んだという事実が重く心にのしかかっていた。


 「うそつき……」


 いっそ、夢の中にでも逃げてしまおうかと布団を被り直したところで外がとても騒がしいことに気付いた。
 少しくらいなら気にしないで寝れたけど、1人2人が騒いでいるわけではなく数十人単位で移動しているような騒がしさだった。さすがに気になり、碌に着替えもせずに部屋の外に出る。どうやらみんなエントランスに向かっているようだった。ふらふらと力のない足取りで私もエントランスに向かう。



 

 ――――そして、エントランスに入り人が集まっている原因を視界に納めた瞬間、出来ている人だかりを一気に飛び越えてその原因に思いっきり抱きついた。


 「うぉあ!?何だ、新手の奇襲か!?」


 驚いてこっちを見る人だかりの原因に色々言いたいことはあるけれど、所々ボロボロになってバイタル反応が消失したにもかかわらずしっかりと帰ってきてくれた彼にはまずこの言葉をかけよう。文句なら後でも言えるから。


 さっきまでこの世の終わりと言わんばかりに暗かったのにと自分でも調子がいいと思いつつ私は満面の笑みで彼にこう言った。


 「―――――おかえり、仁慈」


 「………ん、ただいま」



   


 
 
 





急にヒロインしだしたナナさん。
一体どうしてこうなったんだ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話

今回にてこの「神様死すべし慈悲はない」は完結となります。
皆様最後まで読んでいただき本当に感謝いたします。皆様の感想が励みとなり、無事完結させることが出来ました。
また、番外編や別の二次創作を書くかも知れません。そのときはまたよろしくお願いします。

最後に、本当にありがとうございました。

追伸

活動報告にて、次の作品や番外編についてアンケートを行っております。
気が向いたらでもいいので、覗いていってくれれば幸いです。







色々面倒だった終末捕食問題を何とか解決して極東に戻ってきた俺を迎えてくれたのは、ナナが満面の笑みで放ったお帰りという言葉と、それ以外のブラッドメンバーからのキックとパンチと竜巻アタックだった。解せぬ。一体俺が何をしたというのだろうか……。


 「うるせぇ、何食わぬ顔で帰ってきやがって……少しは心配したこっちの身にもなってみろ」


 「そうだそうだ!日ごろの恨みッ」


 「心配したんですからこのくらい許してください」


 「俺の目の前であんなに楽しそうな戦いを繰り広げるなんて喧嘩売っているとしか思えんな」


 「一斉にしゃべるな」


 聞き取りづらいんだよ。後、ジュリウス隊長とロミオ先輩は後で一緒に任務に行こうぜ。普通の任務では味わえないスリルをくれてやる。主にフレンドリーファイアでな。
 今もなお殴ろうとしてくる奴らを適当に裁いて地面に転がしつつ、俺は文句を垂れる。


 「せっかく帰って来たのにお帰りよりも先に手が出るなんてひどい人たちだなー」

 
 「俺を地面に転がすだけじゃなく踏みつけている奴が言える台詞かっ!?」


 先に仕掛けてきたのはそっちじゃナイデスカー。
 そもそも、心配したから殴ってくるとか意味不明ですしおすし。どうしてナナのようにお帰りの一言もくれなかったのか……。


 「肉体言語だ」


 「本当にぶっ飛ばしますよ?」


 反省どころか思いっきり開き直ったジュリウス隊長に「それは言葉ではない」とだけ言って腹パンを決めてロミオ先輩の隣に沈める。その流れを見たギルさんとシエル、ナナは戦慄したような表情で俺を見つめてきた。


 「だが、本当にどうやって帰って来たんだ?終末捕食は特異点がいないと暴走するんじゃなかったのか?」


 「それに昨日、仁慈のバイタル反応が消失したって聞いたんだけど……その辺も含めてしっかりと説明してくれるよね?」


 と仰ってるのは未だに抱きついて離れないナナ。状況だけ見れば恋人同士にも見えるかもしれないが、悲しいかなギチギチと首を澄めていることや目のハイライトがないことからどう考えても殺人を犯そうという人とその被害者にしか見えないと思う。しかし、そんな事を気にするような奴はこの場に居らずむしろナナの言ったバイタル反応消失の方が気になるようでそろいもそろって俺との距離をさらに縮めた。


 「みんな近い近い。ちゃんと話すからいったん離れて」


 「バイタル反応消失と聞いて落ち着けるわけないでしょ」


 「あ、エリナ居たんだ」


 「ちっちゃくないわよっ!」


 「何も言ってないでしょ……」


 「我が友よ!何があったのか一字一句洩らすことなく聞かせt「カット」」


 今から話そうとしているのに再び騒ぎ出す周囲を何とか収めてとりあえずラウンジへ向かう。話すにしても、出撃ゲートのまん前はさすがにアレだろう。
 ムツミちゃんに泣かれて俺の良心に多大なダメージを負いつつみんなが近くに座ったことを確認して、俺は何が起きたのか話し始めた。


 


            ―――――――――――――――――― 





 ブラッドメンバーを終末捕食の中からはじき出した後、俺は当初の予定通りアラガミの群れに突撃をかます。カラーリングは黒一色だが、別に量産型というわけでもないらしく一体一体が普段任務で出てくる普通のアラガミ同じくらいの力量を持っていた。ここは終末捕食の中であいつらはおそらくアルマ・マータが終末捕食内から作り出したアラガミだろう。意識のある特異点ならばある程度の操作は可能だ。だからこそこのような滅茶苦茶なことが出来るのである。しかし、特異点であるのは何もアルマ・マータだけではない。もちろんのこと俺も特異点である。つまりここは相手のホームグラウンドでもあるが俺のホームグラウンドでもある。まぁ、何が言いたいのかというと……俺もこの場においては俺も普段の俺じゃないと言うことだ。


 「うぉぉおおおおりゃぁあああ!!」


 気合を入れて神機を一振りするだけで周囲のアラガミたちは根こそぎ空中へフライアウェイした。ここでは俺たち特異点が唯一にして絶対のルール、つまりここで意識することは常に最強の自分を思い描いていることである。
 

 振り切った勢いを一切殺さず、腕を、腰を、全体を使って次の攻撃への予備動作としきりつける。遠くから見たらさながら台風のような感じになっていたのではなかろうか。攻撃をいったん中断すれば、アラガミで出来た壁は食い破られ、俺が通ってきた場所が道のようになっていた。
 

 これはすごいと自画自賛しながら、それでも無数に沸いて出てくる黒いアラガミたちに対して溜息をついた。用があるのはこいつらではないというのに……。今度は連携を交えつつ遅い来るアラガミを片っ端から塵に変えつつ俺はもうひとつの特異点であるアルマ・マータの元へと向かう。それは何故か?当然この終末捕食の制御押し付けて俺が自由になるためである。


 現在の状況は二つの終末捕食が喰らいあっている状態であるものの根元の部分では融合が進んでで居るという摩訶不思議な状況になってしまっている。一体何がどうしてそうなってしまったのかは専門外だから分からないが、それにより特異点がひとつあれば二つの終末捕食を保つことが出来るという俺にとって都合が良すぎる状態なのだ。なので、俺はもうひとつの特異点であるアルマ・マータを探しているのである。


 宛てはないが、アラガミの出現率が高くなっていることからこの方向だろうと辺りをつけてこちらに襲い掛かってくるアラガミを全て通りすがりざまに草を刈り取るようにサクサク切裂いていく。攻撃を掻い潜ってカウンター気味に頭蓋に踵落しを喰らわせたり、倒したアラガミを踏み台にして別のアラガミを越えて振り向きざまに真っ二つにしながら。
 黒いアラガミたちを捌きつつ、十分ほど走るとようやくお目当てのものを見つけた。木の幹らしきものと融合しているアルマ・マータである。いや、今の奴はヴィーナスの人間部分にラケル博士を突っ込んだみたいになっているからアルマ・マータとはいえないかもしれない。


 『……ふふふ、何しに来たのかしら?退屈で私とお話でもしたいの?』


 「寝言は寝ていってくれませんかねえ……。お前と話するくらいなら1人で〇×ゲームやったほうがはるかにマシだ」


 アルマ・マータとして覚醒したばかりのように余裕を持ってこちらに話しかけてくる姿は暴走した後の姿も知っているこちらとしては必死に取り繕っているようでとても滑稽だった。あらあら残念と余裕をかましているアルマ・マータに気付かれないように俺の後ろに神機を作る。これは、アルマ・マータが終末捕食から黒いアラガミを作り出したことと同じ要領である。あれ?さっきから俺紅茶みたいな行動取りすぎじゃね?英霊にでもなるのかな?と思いつつも神機を作り続ける。そこは突っ込んではいけないところなのだ。


 『じゃあ一体何しにここに来たのかしら?』


 「お前に終末捕食の管理を押し付けに来た。お前は終末捕食を起こせて、俺はここから出れる。winwinじゃないか」


 『冗談。今の終末捕食は私が狙った効果を出さないわ。世界を飲み込む前に目の前の脅威を排除しようとしているもの。ここで言う目の前の脅威とはお互いにもうひとつの終末捕食……二つの力が均衡している中でこの状態では地球の生態系のリセットなんて無理だもの』


 じゃあなんでアラガミを俺に差し向けたんですかね……。そう考えるも向こうは応えず、やってくれたなといわんばかりの視線を向ける。まぁ、そんな事は関係ない。やってくれないのであれば力ずくと相場が決まっている。なので俺は今まで作っていた神機をアルマ・マータに向けて全て投げた。咄嗟のことだったからか全ては防ぐことは出来ず、何本か擬似神機がアルマ・マータの体を貫く。


 『ぐっ……な、なにを……』


 「いや、やってくれないっていうから無理矢理やってもらおうかと……」


 『そ、それが神機使いのやることなのっ!?』


 「何言ってんだ。何をしてもアラガミをぶっ殺すのが神機使いだろ」


 コイツおかしいんじゃねーの?という視線を向けてみればそこには信じられないものを見たという感じで驚くアルマ・マータの姿が。どうしてそんな事を思ったんだか。今時正々堂々なんてことを口にする奴は物語の主人公にも居ないぜ。
 とりあえず、自分から動き出さないように再び擬似神機を練成して動けないように刺しておく。ついでに俺の中にある偏食因子も流しておいたからこいつが特異点として君臨しつつ、アルマ・マータがもう終末捕食内で好き勝手できないようにする。要領としては上書き。アルマ・マータが終末捕食に働きかけようとしても磔にしている擬似特異点がそれをかき消す仕組みだ。


 「それじゃ」


 『えっ、ちょっ……えぇっ!?』


 混乱しているアルマ・マータを完全に無視して、俺はそこらの壁に穴を開けて脱出した。




            ――――――――――――――――


          



 「こんなもん」


 『…………』


 何この無言。俺何かした?
 まったくもって心当たりのない俺は首を傾げるしかなかったのだが、そんな俺を見かねたのかロミオ先輩が首を横に振った後に口を開く。


 「いや、ただ仁慈は仁慈なんだなぁ……ってことだよ」


 「???」


 まぁ、分からないなら分からないでいいだろう。無理に考える必要もないだろうし。


 「なら、バイタル反応が消失した件は一体どういったことですか?私とヒバリさん、それでかなり慌ててしまったのですが」


 「ん?簡単な話ですよフランさん。俺の右腕見てください」


 フランさんの疑問に答えるため、俺は右腕を見やすいように少し持ち上げる。すると全員気がついたのか、支部長室で話を聞いていない人たちは信じられないような目を向けてきた。


 「腕輪が……ない……?」


 「はい。事情があって、腕輪なくても神機使えるんですよ」


 驚くのも無理はない。普通だったらとっくにアラガミ化してその辺を喰い散らかしていることだろう。素で偏食因子に適応しあまつさえ利用している俺がとんでもないレアケースなんだ。このことが他のところにばれたら実験動物まったなしである。


 「なんで?」


 「詳しいことはラケル博士に聞いて。あの人が元凶だから」


 「ちょっ」


 戦っていた疲れもあってエリナの疑問に答えことも面倒だった俺は説明をジュースを飲んでいたラケル博士に投げた。すると、疑問に思った人がラケル博士の元に殺到していた。なにやら助けを求める声が聞こえた気もするがそこはスルーして俺は自室へと帰ろうとした。が、何故かブラッドメンバーが立ちはだかった。なんでさ。


 「すいません。もう寝たいんですけど……」


 「大丈夫だ、すぐ済む」


 ジュリウス隊長の言葉に首を傾げる。そんな俺を他所に、ブラッドメンバーはみんなで顔を合わせて笑みを作った。そして声をそろえて、


 『帰って来てくれてありがとう。これからもよろしく!』


 ……どうして、その言葉を俺を殴る前に言ってくれなかったのかとか何故このタイミングなのかというもろもろのツッコミは置いておこう。今俺がすべきことは、


 「こちらこそ、これからもよろしく」


 彼らの言葉にしっかりと答えることだと思うから。



















































 ―――――後日談。




 ジュリウス・ヴィスコンティ

 
 フェンリル所属極地化技術開発局所属ブラッドの元隊長。ブラッドが何故か正式に極東支部に配属することになったため極東の神機使いの一員として日々アラガミを刈り倒している。現在では隊長を仁慈に譲り、唯の一隊員として新隊長の仁慈の胃にダイレクトアタックをかましている。最近のマイブームは終末捕食で出来た大木近くに出現するようになった新種のアラガミを片っ端から刈り倒すこと。



 ロミオ・レオーニ


 自身に壮絶な死亡フラグが立っているという電波を受け、仁慈に血の力の覚醒を手伝ってもらい見事その死亡フラグをへし折って生き残り、最後まで戦うことが出来た。目覚めた血の力から大いに重宝されるが本人は納得いっていない模様。しかし、彼の能力は非常に便利で主に新人神機使いの付き添いとしての活動が続いている。最近、終末捕食で出来た大木を調べるために派遣されてきたヴァリアントサイズを使う神機使いリヴィと一緒に居ることが多く目撃されている。


 シエル・アランソン


 軍人として育てられてきたため初めは機械のような人間であったが、ある事件を通して人間味溢れる性格に変わる。たまたま開発した進化する銃弾であるブラッドバレッドの研究に日夜力を注いでいて、最近試し撃ちには仁慈のほかにジーナも呼んでいるらしい。二人してアラガミを一方的に狙撃していく姿を見て仁慈は「もう俺要らないんじゃないかな」とげっそりとした顔で言ったという。極東で飼っているカピバラがなかなかなついてくれないのが悩みの種らしい。


 ギルバート・マクレイン


 不幸な出来事によりフラッキング・ギルと呼ばれ、ブラッドに居た頃は大層荒れていた。本人にとってあの時の自分は黒歴史らしい。ハルオミと共に敵であるルフス・カリギュラを討伐した後は何をどう間違ったのかスピードキチとして目覚め、ひたすら速さを探求し続けている。最近、日常生活のほうでは落ち着いてきたため、極東でもいい兄貴分として慕われている。しかし、ひとたび任務になると暴走を始め、よく新人神機使いたちを肉体的にも精神的にも置いてけぼりにするらしい。終末捕食によって出来た大木を調査しに極東に訪れたフェルドマン局長とハルオミを交えて飲んでいる姿が近頃発見されている。


 香月ナナ


 ハンマーを好んで使い、見た目からは考えられない力任せな攻撃を得意とする。生まれたときから偏食因子をもっているゴッドイーターチルドレンというもので、血の力の制御に苦労した。しっかりと制御が出来た後は、様々なことに活用し、最終決戦では決して欠かすことの出来ない重要な役目を見事に完遂した。持ち前の明るさと接しやすさその他もろもろの所為で極東の男性陣をことごとくと勘違いに巻き込んだ。本人に自覚はなくそれで多くの男子が涙で枕を濡らしたらしい。最近では何の変化かよく仁慈の部屋に遊びに行ったり、劇薬を作成したり、任務に出たりしているらしい。はたから見ればどう考えても男女の関係であるが本人達に自覚はない。ただ、ナナはまんざらでもない様子。


 
 ラケル・クラウディウス


 全ての元凶。大体コイツのせい。ゲスイまど〇。シプレの中の人。様々な呼び名がある。元々終末捕食を行うために行動を開始していたが、仁慈があまりにも規格外というかキチガイ的な行動を取るため中にいる荒ぶる神々の意思がボイコットを起こし何もすることがなくなった。初めは情緒不安定気味だったが、極東のアニメ文化に触れ、ロボットに目覚める。サカキと組んで持ち前の優れた頭脳をくだらないことに活用しようとしては姉に全力で止められている。最近ではシプレの新曲を出そうと画策している。


 
 レア・クラウディウス


 ラケルに思いっきり利用されるかわいそうな人。ブラッドが極東に行ってからまったく出番がなかったが、ラケルも一緒に極東に行っていたため本編より気苦労はなかったらしい。終末捕食が零號神機兵の暴走が原因ということになったので、神機兵を作れなくなってしまい途方にくれていたところ、サカキに声をかけられ極東の技術者となる。ラケルの中の意思が消えたことにより不必要に怯えなくはなったものの、別の暴走癖がついたラケル相手に苦労している。しかし、本人は姉妹のコミュニケーションが取れて割りと嬉しそうである。時々、疲労がピークに達していると姉妹で暴走する。




 フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュ


 元フライアのオペレーター。若いながらも冷静なオペレートは神機使いを大いに安心させ任務成功に一役買っている。フライアに居た頃はグレム局長の態度といやらしい視線にイライラしていたようだが、極東に来てからそれは解消されているらしい。近頃は後輩が二入ほど出来たので極東のベテランオペレーターのヒバリと共にオペレーターのイロハを叩き込んでいる。最近ではハルオミがやたらと絡んできて査問会に突き出そうか真剣に悩んでいるらしい。




 樫原仁慈


 二つの人格とアラガミの意思が混ざり合ったことによってたまたま出来た人格。記憶としては主に樫原信慈がベースとなっているが肉体は仁と呼ばれる子のものであるため戦闘にも早くから適応した。持ち前のセンスと、人外スペックの肉体を使って迫り来るアラガミをことごとく刈り倒した。終末捕食から帰って来た彼の体は半分が人間で半分がアラガミというわけわかめな状態だったがまったく問題がなかったので今では放置している。その後、ブラッドの隊長としてさらに難しい任務を任されるがどれも息一つ乱さないで帰ってくるため最近では血の怪物ではなく理不尽の権化と呼ばれている。今では極東にこの人在りと言われた伝説的神機使いの元第一部隊隊長と同じくらいの知名度を誇っており、どちらが強いかよく議論されているらしい。仁慈本人は会ったことがあるらしく「あの人、人間じゃなくてアラガミだろ」という言葉を残し、お前が言うなとそうツッコミされたらしい。



 













 











 「これが今回の目標?」


 『そうです。このアラガミは独自の進化を遂げているらしく、もう既に三つの部隊を壊滅に追いやっています』


 場所は中心に大きな竜巻が発生している嘆きの平原。そこに、大きな刃を携えた鎌を刀身としている神機を担いだ男が1人立って通信越しに聞こえる女性の声に問いかけていた。そんな彼の目の前に居るのは背中にブースターのような翼を生やし、斧のごとき刃を両腕に携えた竜帝カリギュラ。それもカラーは黒である。色違いということも相俟って絶大な存在感を放つカリギュラは普通の神機使いはもちろんのこと大抵のアラガミでも振るえ、狩られる獲物にしかなりえない。そんな強者特有のプレッシャーを放っていた。


 「……ねぇ、そんな強い奴の相手を普通1人にさせる?」


 『問題ありません。切り札には切り札を、イレギュラーにはイレギュラーを、化け物の中の化け物には同じ位の化け物をぶつけるのが定石です』


 しかし、そんなカリギュラを前に男は普通だった。むしろ余裕さえ感じるたたずまいで通信越しの女性と会話している。そんな男にカリギュラは激怒し、その強靭な声帯から発生する咆哮を男に向けた。
 

 「おぉ……耳がぁ……」


 『お怒りのようですが、何かしました?』


 「帝の名に恥じず、傲慢なんだろう。俺が無視してるから怒りやがった……」


 『まぁ、頑張ってください』


 「適当だなぁ」


 咆哮を向けられた男はそれで通信を切ると、軽い掛け声を上げて自分が立っていた高台から飛び降り、黒いカリギュラの前に静かに着地した。
 黒いカリギュラは自らを無視する不届きな輩を排除しようと男が地面に着地した瞬間に自分の右腕を横薙ぎに振り切った。そこらに乱立したビルすらをも両断するその腕は男に吸い込まれるように近付いていき、


 ズガン!


 止まる。
 黒いカリギュラは一体何が起きたのか理解できなかった。いや、理解したくなかった。自分が腕を振り切った先を見てみれば、そこには片手に持っている神機で自身の腕を防いでいる男の姿があった。


 ありえない


 そう考えるも、目の前の光景がその考えを完全に否定する。
 混乱を極める黒いカリギュラ。しかし、目の前の男はそんな事関係なかった。彼の仕事はいつも一つ、人類に仇名す神々を、一切の慈悲もなく殺すこと。



 決着は一瞬だった。混乱した黒いカリギュラには何がなんだか分からなかったが、自身が最後に見た光景は首から先がなくなっている自分の体であった。



 黒いカリギュラを沈めた後、男は再び通信機に手を当てて、帰りのヘリを要求した。



 「フラン、帰りのヘリちょうだい」


 『……相変らず意味不明の早さですね。驚きを越えて気持ち悪いです』


 「仕事をしっかりと完遂したのにこの罵倒である」


 グズグズ崩れている黒カリギュラの肢体を捕食しながら男はがっくりと肩を落とす。


 『……仁慈さんたった今追加で任務が入りました。貴方が帰り用として呼んだヘリでそこに急行してください』


 「……はぁ、またか。分かりました、ブラッド隊隊長樫原仁慈、只今現場に急行させていただきますよ」



 ――――樫原仁慈、神機使いになってから早三年。今日も元気にアラガミを喰らっています。



 

 
 




黒カリギュラ「グォオオオオオオ!!!(俺を無視するんじゃねぇええ!!)」

仁慈「あ゛?」

黒カリギュラ「(´;ω;`)」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 ついに出会う2人

本編完結した次の日に番外編をあげるという暴挙。


 終末捕食をなんだかんだで無力化してから一年程が経過した。
 未だにアラガミ達がその辺にはびこって好き勝手やって居るものの、終末捕食を作り出す期間と後日判明した黒蛛病および赤い雨はその役目を終え、綺麗さっぱりなくなるなどということもあったりした。他にも零號神機兵が終末捕食の原因となったために、神機兵開発を禁止されて行き場がなくなっていたレア博士が極東支部に配属されることになったりもした。
 そんな激動の一年を過ごしきり、ようやく落ち着き始めたかと思われた矢先、新たな問題が極東支部へと舞い込んできた。





 「ふぃーっ……本日のお仕事終了ー」


 何時もの如く、目標となるアラガミをコロコロした俺は神機をリッカさんの元に預けそのままエントランスをスルーしてラウンジに向かう。目的はもちろんムツミちゃんの料理である。ムツミちゃんの料理は心も体も満たしてくれるから本当にすばらしい。思わず心がぴょんぴょんするレベル。


 ウィーンと開く自動ドアを潜り抜けてラウンジに入ってみれば、ビリヤード台の近くに大きな人だかりが出来上がっている光景が俺の目に飛び込んできた。一体何事よ。
 入ってきたときには既にそうなっていたため、まったく状況がつかめない俺は、何時もの位置に居るけれどちょくちょく人だかりのほうをチラ見しているムツミちゃんに話しかけた。


 「ねぇ、ムツミちゃん。あの人だかりは一体何なの?」


 「わっ!?びっくりした……お帰りなさい、仁慈さん!気付かなくてごめんなさい」


 やだ、すっごくいい子……。天使や。


 「いや、別にいいよ。あと、ただいま」


 「はい!それで、あの人だかりですよね?実は極東支部で最も強いとされている、元第一部隊の隊長さんが帰って来たんです!」


 あぁ、噂に名高い元第一部隊の隊長さんか。確か、さまざまなキチガイ的な行動で周囲の人の胃(主にコウタさん)にダイレクトアタックをかますことに定評があるらしい。よくよく見てみれば人だかりの中心にいる元第一部隊隊長と思わしき人と話しているアリサさんやソーマさんの姿も確認できた。現状報告でもしているのだろう。


 「ムツミちゃん、悪いんだけどオムライスもらえる?」


 「はーい。本当にオムライス好きですねー」


 「おいしいからね」


 ムツミちゃんにオムライスを頼んだあと、空のコップに飲み物を入れて一気に半分ほど飲み干す。正直、元第一部隊隊長と言っても関わりないしあんな風にわざわざ近付いていかなくてもいいだろう。挨拶なら別のときにすればいいし、任務帰りであの人だかりに突撃していく気分にはなれない。
 この状況で俺と同じくここに座るのは一体誰なんだろうかと、ちょっとだけ隣に視線を向ける。するとそこには先程まで人だかりを作っていた張本人。元第一部隊隊長その人がニコニコと笑顔を振りまきながらこちらを眺めてきていた。髪の色は金に近い茶髪で瞳の色は綺麗な蒼色をしており、銀髪赤眼の自分とは対照的だなとふと思った。


 「…………あの、何か?」


 とりあえず、話しかけてみる。
 どうしてわざわざ俺の隣に座り、こちらをニコニコと眺めてくるのか分からない。何かやらかしてしまったのだろうか?あれか、新人なら挨拶しに来いやゴラァってことだろうか。


 「君が最近噂の神機使い?」


 「……どんな噂かにもよりますね」


 「どんな任務でも息一つ乱さずに完遂するとか、彼が通った後にはアラガミ一匹残らないとか、アラガミ絶対殺すマンとか、理不尽の権化とか」


 「…………」


 それ俺ですわ。
 

 いや、待ってくれ。何も俺は狙ってやったわけではないし、間違ってもかっこいいとか思っていない。コレは俺が任務を受けていると勝手に周りが言い出したんだ。俺は悪くねぇ。確かに、最近は慣れてきたのか大型アラガミボスラッシュ程度では動じなくなったし、向かってくる奴は片っ端から片付けたりしたけど……ねぇ?


 「あっはっは。その反応、どうやら君が噂の神機使いのようだね。分かるよ、俺も覚えがある。普通に仕事してるだけなのに、勝手に二つ名が増えていくのは極東支部では良くあることさ」


 「どいつもこいつも拗らせ過ぎじゃありませんかね……」


 アッハッハと笑っている元第一部隊隊長さんの横で俺は溜息を吐く。これが慣れの差なのかね……。


 「そういえば、自己紹介がまだだったね。極東支部元第一部隊隊長、現フェンリル極東支部独立支援部隊クレイドルの神薙ユウだ。よろしく」


 「ここ最近極東支部に正式に所属することに成りました。ブラッド隊隊長、樫原仁慈です」


 「君もこれから色々言われるだろうし、面倒な仕事を押し付けられることもあると思う。俺もそうだった。だから、困ったときは頼ってくれ。こっちの事情でクレイドルはしばらく極東支部に滞在するからね」

 
 そう言って手を差し出す元第一部隊隊長改めユウさん。このとき俺は感動していた。俺と同じことに悩み、そして乗り越えてきた人が助けてくれる。コレはとてもすばらしいことだと知っているからである。
 俺は差し出された手を両手で掴み、


 「ぜひともお願いします!」

 
 と言ったのであった。





 ――――――このとき、ユウに集まってきていた極東の人たちは思った。あぁ、コレは絶対何か起こるなと。2人の化け物が手を組んでアラガミを抹消しに行くんだろうなぁと誰しもが思った。そして、予定調和の如くその予想は当たることとなる。





 彼らが出会ってから二日後。
 極東支部の半径50キロ圏内に一週間ほどアラガミが湧かなくなったという出来事が起きた。
 ちょうどその現象が起きる前にユウと仁慈がいい笑顔で極東支部に帰って来た光景が目撃されていた。





 この2人を知る、極東支部第一部隊隊長の藤木コウタは思った。


 お前らが、変な二つ名を付けられるのは当然だと。


 今日も彼は部屋に常備している胃薬を飲んで職場へと向かっていった。
 


 

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ナナの奮闘記

本日二度目の投稿。
どうして完結した後のほうが投稿はやいんですかねぇ(困惑)。

今回はナナのことについて書いてみました。
恋愛擬きがないように含まれますがツッコミ所満載だと思います。
しかし、恋愛経験のない作者が書いたものなのでこの程度かということで見逃してください(土下座)







 

 はっきりと彼のことが好きになったのはいつだろうか。正直、色々ありすぎて今ではまったくわからない。もしかしたらフライアで初めて会ったときかもしれないし、初の実地訓練で庇ってくれたときかもしれない。血の力がうまく使えなかったときに元気付けてくれたときかもしれない。実はそんな出来事が原因じゃなくて、普段一緒に過ごしているときに自然とそう思ったのかもしれない。


 結局、いつ好きになったかは分からないけれど、それを自覚したのは仁慈が終末捕食に飲み込まれたり、その中に残って一日帰ってこなかったときだと思う。彼が居なくなると分かった瞬間に心に穴が開いたような感じがした。もう何もしたくない。何もやる気が起きない。生きる意味を見失ったかのような感覚だった。


 このことが分かったとき、シエルちゃんに相談してみた。すると、まずはそれが家族に対するものか異性に対するものかを確かめようという意見をもらった。


 盲点だった。
 どうやら仁慈が男ということを意識しすぎていたらしい。よくよく考えてみるとジュリウス隊長やロミオ先輩、ギルももちろんシエルちゃんも好きだということに気付いた。けれど、すぐにこれは異性に対するものだということが分かった。
 だって、話しているとどきどきするのも、一挙一動が気になり注意深く見てしまうのも仁慈だけだった。
 そのことを自覚したらもう居ても立っても居られなかった。なるべく長く仁慈と一緒に過ごしたいと思った。だから、出来るだけ任務に付いて行ったし、新しい回復錠の開発とか道具の開発といって2人きりで素材集めにも行った。
 でも、仁慈はまったく意識してくれない。


 「どうしてなんでしょう?ラケル先生?」


 「どうしてそのことを私に聞くのかしら……」



 場所はラケル先生に与えられた研究室。昔サカキ支部長の友人が使っていたという部屋を丸々貸し与えられたらしい。
 そこで、またろくでもないものを作っているラケル先生に私はどうやったら仁慈との中が進展するか相談に来ていた。
 一方相談を受けたほうのラケル先生は眉間にしわを寄せてついでに指で押さえていた。


 「えーっとそれは……年の功?」


 「ちょっと表に出なさい」


 ぱっと思いついたことを言ったら大変なことになった。ラケル先生の顔が放送できないレベルで歪んでいらっしゃった。急いで発言を撤回するとハァと溜息一つ吐いた後に何時もの人形のような綺麗なラケル先生が帰ってきていた。


 「他にも聞くべき人が居たでしょう?お姉さまとか」


 「レア博士ですかー。んー……本人には悪いんですけど、多分アレは見た目だけだとおもうんですよね……」


 外見はすごく妖艶な美女なんだけど、初心っぽいんだよねー。この前ハルオミさんにお酒誘われてたとき、すっごくうろたえてたし。
 そのことを伝えるとラケル先生はやっぱりかと言った風な顔をした。さすがに姉妹であるラケル先生は知っていたらしい。


 「だったら、あの人はどうかしら?アリサさん」


 「アリサさんは止めとけってコウタさんに初めから釘を刺されました」


 シエルちゃんに相談し、自分の中で結論が出た後、比較的まともそうな女性であるアリサさんに話しをしようとしたんだけど何処で聞いていたのかコウタさんが真面目な顔をして「あいつに恋愛の相談をするのは止めておけ」といわれた。
 理由を尋ねても教えてくれなかったものの、アリサさんの想い人はそれで大いに苦労しているらしい。その時点で私は察した。アリサさんも結局のところ極東に染まった神機使いの1人だったのだと。


 「………」


 「他にも神機使い同士で結婚した人もいたみたいですけど、今は引退しているらしくって……」


 「ヒバリさんとかフランはどうなの?」


 「さりげなーく話をそらされました」


 シエルちゃんも軍人として育てられてきたからそういうことには疎い。仁慈に対して若干病みが入っているけどアレは家族愛とかそういうのに飢えているんだと思う。実際私の相談にはなんとも思っていなかったようだし。


 「……だからといって私も経験があるわけではありませんし……普段仁慈とはどんな感じなの?」


 「普段は……」




 

 ―――――ねぇねぇ、仁慈。また新しい道具のアイディアが思い浮かんだから一緒に素材取りに行こうよ!


 ―――――また、謎の物体Xシリーズを作り出すというのか……。まぁいいけど。とりあえず抱きつくな。自分の格好を考えなさい。


 ―――――当ててんだよー?


 ―――――はいはい。熱いから離れましょうねー。


 

 「こんな感じです」


 「そこまでしているのにどうしてそんな対応なのかしら……まさか、半アラガミ化によって性的欲求が消失したとか……?」


 ラケル先生がそう呟くが多分違う。
 よくよく思い返してみると、このようなことは割りと日常的に行っていたから仁慈のほうにも抗体が出来てしまったんだと思う。他にも仁慈はどこか私のことを娘のように見ている節がある。私のほうが年上なのに。
 この後も、なんだかんだで付き合ってくれたラケル先生と一緒に話し合ってみたものの結局いい案は一つも浮かんでこなかった。






 ラケル先生との話し合いで何の成果も得られなかった私は何時も通りを貫くことにした。よくよく考えてみれば、仁慈を狙っている人は居ない。どちらかといえばジュリウスのほうが人気なのでまったく焦る必要がなかった。うん。
 だから、今日も今日とて仁慈に絡むことにした。


 「仁慈ー、今日は何をしようか?」


 「自分の仕事をしろ。そして抱きつくな。最近スキンシップ激しすぎるぞ。誰かが誤解したらどうする」


 
 自室で隊長としての書類を書いている仁慈に突撃そのまま抱きつきまでが何時ものコンボ。
 最初は自室に突撃したことにすごく驚いていた仁慈も、今ではすっかりこの通り。見事なスルーっぷりを発揮している。もう少し新鮮な反応を見せてくれてもいいのに。


 「むぅ、それは心外。これは仁慈にしかやらないよ」


 「………そうですか」


 そう言った後、仁慈は何事もなかったかのように書類に向き合った。一応唯抱きついているだけなのもアレなので、一度仁慈から離れて書類の整理をする。一番最初にコレをしたときの仁慈の顔は「お前事務できたのか……」と如実に現れていてとても腹が立った。仁慈は私をアホの子扱いしすぎだと思う。
 

 書類整理が終わり、それを纏めて机の端っこに置くと仁慈が立ち上がってこちらを向いた。


 「いい時間だし、ご飯でも食べに行こうか?」


 「さんせーい」


 外に出て行こうとする仁慈の後に続き私も廊下に出る。そして、彼が歩き出したと同時に左腕を抱え込んだ。こういった小さなアピールが重要なのである。知らないけど。
 仁慈も私の行動に一瞬だけ顔を赤くするも、溜息を吐いて気持ちを切り替えたのかそのまま歩き出した。








 





























 そんな2人を見た金髪ニット帽さんは、血涙を浮かべて爆発せよとの呪文を言い放ったらしい。




 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キュウビさんの一生

こっちも投稿。







 我輩はアラガミである。名前はまだない。いつどのように生まれたのかは検討がつかぬ。ただ、今我輩がいるところでのうのうと育っていったことは覚えている。ついでに我輩がこの世に生を受けてから幾許の時が経過したことは自覚している。
 

 そんな何の変化もない退屈な時間の中で、我輩は一つの命令を地球(生みの親)から承った。何でもここ最近、極東と呼ばれる場所に我輩たちアラガミを完全に駆逐しえる神機使いという者たちがいるらしい。そのものは、三度にわたり終末捕食を阻止しているとか。
 どうやら地球(生みの親)はそのものたちが居る限り終末捕食の達成はなりえないと考えているようで、原初のアラガミである我輩に排除を頼んできたらしい。
 我輩としては、正直終末捕食が成功しようが失敗しようがどうでもいいのだ。成功すれば我輩も死んでしまう。それは少々いただけない。だが、我輩とて地球(生みの親)には逆らえぬ。
 仕方がないので、我はその生を受けてから初めて自身の故郷とも言える場所から外へと踏み出した。



             ―――――――――――――――――
 


 

 最近我輩の周りを小さい人型がちょろちょろとうろついている。
 この生物は現在地球(生みの親)が目の敵にしている人間という生物だったか。会話を盗み聞く限りどうやら我輩のコアを狙っているらしいが……あまい、貴様ら程度の力ではどうにもならん。
 我輩は自身の尾からオラクルを放出し、こそこそと動き回っている人間達に向けて発射する。
 

 ………どうやら一掃出来たらしい。
 周辺に生き物の気配がしないことを確認した我輩は再び極東という場所に向けて歩みを進めた。



 

            ――――――――――――――




 また、うっとおしいのが来た。前に追っ払った人間と同じマークがある服を着ていた。一応、この前片付けた奴とは違い武器を持っているようだが、甘い。武器を持った程度でどうにかできるほど我輩は弱いわけではない。
 軽く捻り潰してやろうぞ。




              ―――――――――――――




 やばかった。何だアレは。本当に人間なのか?アレこそ化け物だろう?地球(生みの親)が危険視するのも分かる。アレは人間とは完全に別の生き物だ。


 あの後、我輩は前回と同じように尾からオラクルを凝縮した攻撃を武器を持った人間に向けた。前の人間はそれで死んだのだが、奴は違った。自身が持っている武器を振るい我輩の攻撃を防ぎながら接近し、我輩の体に傷をつけた。そこで我輩はようやく思ったのだ、アレこそが地球(生みの親)が危険視していた神機使いだと。


 その思考に至ったとき我輩は今まで自分でも使ったことがなかった攻撃をも使用し、神機使いを撃退しようとしたが、奴は強かった次々と繰り出される攻撃の合間を潜り抜け、時に反撃して見せた。今回は神機使いが途中で撤退したからいいが、我輩のほうも危なかった。今は受けた傷を癒すためにある一箇所にとどまっている。しかし、これからもあやつのような神機使いを相手にするとすれば我輩も自身の戦い方を確立しなければならない。
 しばらくは寄り道をしつつ、自身の動かし方を体になじませてから極東に向かうとしよう。この借りは必ず返すぞ。金の篭手を持つ神機使い。





             ―――――――――――――――





 また神機使いが来た。しかし、今回のは金の篭手を持つ神機使いではなかった。弱かった。我輩が尾を一振りすれば勝手にしり込みをし、逃げていく弱者であった。
 むぅ……どうにも神機使いというのは個々でその強さにブレがある。我輩たちアラガミはその固体の種類によってある程度の強さが固定化されているために強さが測りやすいのだが……神機使いはそうもいかぬ。今のところ、我輩の脅威となる者は金の篭手を持つ神機使いのみではあるが……今後もそういった輩が現れるやもしれん。
 慢心はせず、確実に潰すようにしよう。




             ―――――――――――――――




 今日、我輩と対峙した神機使いが我輩のことを「キュウビ」と名称していた。どうやら人間や神機使いの中で我輩はキュウビと呼ばれているようだ。
 キュウビ、キュウビか……。良い名だ。我輩はこの呼び名が気に入った。やはり、それなりに長く生きている身としては名の一つや二つくらいは欲しいものだ。
 戦った神機使いは強くなかったが、キュウビという名を教えてくれたこともあり、そいつは見逃してやった。
 運が良かったな。そこまで強くない神機使い。



 


             ―――――――――――――――――



 我輩はアラガミである。名はキュウビ。
 うむ、名があるというのはやはりいい。あの時聞けて幸いであった。


 そのことはいいとして、今回我輩の身に変化が起きた。
 なんと全身が黒く染まり、我輩を含めたアラガミの頭上に、球体を作り出すことが出来るようになった。
 その球体には偏食因子、もしくはオラクルの動きを阻害する物質が出ているらしく、その球体が出来ていないアラガミ達が次々とその場で倒れふせていた。しばらくすると元の状態に戻ったが、再び成ろうとすればその場で黒化できることが判明した。
 ふむ……強いといえば強いのだが、この状態はちとオラクルの消費が激しい。なるべくは成らないようにするとしよう。



 

              ―――――――――――――――――



 ついに極東と呼ばれる場所に着いた。
 ここに地球(生みの親)が危険と危惧する神機使いがいるのであろう。よくよく気配を探ってみれば、あの金の篭手を持つ神機使いの気配も感じることが出来た。
 決戦の日は近い。待っていろ、神機使いたちよ。我輩が直々に葬ってくれる。





             ――――――――――――――――――




 
 待って、待って。確かに地球(生みの親)が危惧した存在ということは知っていた。三度にもわたって終末捕食を防いでいることも知っている。でも、アレはないだろう?おかしいだろう?人間として、神機使いとして越えてはならない一線を越えているだろう?あれは。




 我輩は、我輩の事を感知し倒しに来たであろう神機使いたちと対峙した。人数は五人。1人は我輩も一度戦ったことのある金の篭手を持つ神機使い。ほか2人は我輩達アラガミと似たような気配を持つ神機使いと、残りの2人は普通の神機使いだった。


 我輩は開幕の合図の意味も込めた攻撃を尾から放つ。
 金の篭手を持つ神機使いはやはり、自分に当たる攻撃だけを手に持っている武器で切り払い防いでいる。女の神機使いと我輩達に近い気配を持つ神機使いの片割れは、武器に備え付けられている盾を使って我輩の攻撃をやり過ごしていた。ここまでは分かる。今まで見たことのある防ぎ方であったからだ。

 
 だが、普通の神機使いと思われた金髪の神機使いと我輩達に似た気配を持つ銀髪の神機使いはお互いがお互いの体を踏み台にしつつ、空中で回避を行っていた。しかも、踏み台にしたほうもされたほうも、お互いがしっかりと我輩が放った攻撃が当たらない場所に移動している。あの身のこなしはおかしいだろう。
 それだけではない。我輩達に気配が近い神機使いが金髪の神機使いを空中に放り投げたかと思うとアラガミである我輩にも捕らえられない速度で接近し、素手で我輩の首元を持つと地面に叩き付けた。神機使いが、片手で。
 我輩は信じられなかった。その神機使いに続いて金の篭手を持つ神機使いも我輩の事を地面に押さえつけた。まったく動けなかった。あの筋力はおかしい。
 その後、残りの神機使いたちが動けない我輩に好き勝手に攻撃し始めた。我輩は黒化をして何とか全員を吹き飛ばしたが、受けたダメージは少なくない。
 

 あれらは今まで戦ってきた神機使いとは桁が違う。神機使いとではなく同じアラガミを相手にすると考えて、自身の体に一切慢心せず戦わなければならない。




              ――――――――――――――――――



 無理だった。
 黒化し、我輩の頭上に黒い球体を作った。それで金の篭手を持つ神機使いと女の神機使い。我輩達と同じ気配のする神機使いの片割れは封じることが出来た。しかし、もう片方の銀髪の神機使いと金髪の神機使いはそれで止まらなかった。


 自身の中に存在する偏食因子の活動が限りなく消極的になっているにも関わらず。先程と変わらない身のこなしで我輩に襲い掛かってきた。
 我輩も唯黙ってやられるわけではない。因子をまとって突撃したり、尾から今までとは比較にならないくらいのオラクルを射出したり、周囲にバリアを作り周りを焼き払う凝縮した高濃度のオラクルを発射したりした。


 しかし、奴らは突撃を銀髪の神機使いが受け止めたり、尾から放ったオラクルを金髪の神機使いが全て正面から叩き斬り、挙句の果てに二人そろってバリアを突き破って攻撃してきたりした。


 勝てるわけがない。
 薄れ行く意識の中で、金の篭手を持つ神機使いがこういった。お前は運がなかったと。


 我輩は全身全霊で同意した。

















  
             ――――――――――――――――――




 「仁慈君イェーイ!」


 「ユウさんイェーイ!」



 今俺の前では2人の神機使いがキュウビの前でハイタッチをしている。その場面だけ見れば強敵を協力して倒したためのハイタッチだと思うだろう。実際にキュウビは強敵だった。俺が戦ったときよりもはるかに強くなり、途中では黒化して俺たち神機使いの偏食因子の活動を制限しやがった。


 だけど、どう考えても相手が悪かった。よりにもよってこのキュウビ、ユウと仁慈が極東支部に滞在しているときに出現してしまったのである。
 後半俺、アリサ、ソーマは寝ているだけになってしまったが戦いはしっかりと見ていた。ユウと仁慈は実に息のあったコンビネーションでキュウビを追い詰め見事に倒していた。ぶっちゃけ途中でキュウビのことが不憫で不憫でたまらなかった。アリサとソーマも同じことを考えていたのか盛り上がっているユウと仁慈のほうを見てどこか微妙な表情を浮かべていた。



 まぁ、何だ。



 あの2人が居る限り、人類は安泰だろうなぁ。


 俺は懐から取り出したタバコに火をつけ、ボロボロに成ったキュウビの屍骸を視界に入れながらそんな事を考えた。

















地球「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラケル博士のお悩み相談所

久しぶりの番外編です。







 この部屋は極東支部の中でも指折りの立ち入り禁止区域に入る場所。この部屋に入ったものは無事に帰る事は叶わず、誰であろうとナニカサレタ様に変貌して帰ってくるのである。その変貌っぷりは恐怖を抱かせるほどである。
 ……そんな立ち入り禁止区域に指定されるくらいアレな場所であっても、部屋は部屋だ。当然その部屋の主が居る。
 その主の名前は、


 「………最近、面白いことないわね……」


 ラケル・クラウディウスと言う。
 彼女は元々、自分の中にある荒ぶる神々の意思によってこの地球の生態系をリセットしようと終末捕食を起こす計画を立てていた、歴とした危険人物である。別の世界線では数多の人間におのれラケルゆ゛る゛さ゛ん゛という感情を持たせた全ての元凶とも呼べる存在である。
 が、この世界での彼女はそうではない。幸か不幸か、彼女は今は樫原仁慈と名乗っているものたちに出会ってしまった。
 その結果、自分の計画通りにことが進むことはまったくなく、こうして新たな人生を歩んでいるのである。


 今日も今日とて嫌がらせとも言える量の仕事を仁慈に押し付け終えた彼女は最近行き詰まりぎみの研究に取り掛かろうとしたその時、彼女の部屋を叩くノックの音が聞こえた。
 その音を聞くとラケルは入ってどうぞ、という言葉と共にお茶菓子と紅茶を用意する。



 ――――ここ最近、研究で行き詰っているラケルはあることをやっている。
 

 それは元々自分が始めたものではないのだが、ある人物が頻繁に訪れる所為か、極東中の人々に伝わりこうしてたびたび人が訪れるのだ。ラケル本人も狙っていないにせよ、いい気分転換になっているのでこの訪問者達を歓迎している。
 では、彼女が何をしているのかというと、



 「ラケル先生。少々、俺の話を聞いてもらっていいでしょうか?」


 「あら、よく来たわね。ジュリウス。えぇ、聞いてあげますよ。何せここは『ラケルのお悩み相談所』らしいですからね」



 お悩み相談所をやっているのだった。
 

 仁慈が知れば迷わずこう叫びを上げることだろう。
 おいばかやめろ、と。



 
             ――――――――――――――




 J・Vさんの場合


 「実は最近、アラガミが段々と弱体化している気がしていて。あの仁慈が生み出した大木……螺旋の木の付近にいって新種を狩っても満たされないんです。どうしたらいいでしょうか?」


 「それは大変です。でも、大丈夫。逆に考えればいいのです。アラガミじゃなくて、神機使いと戦ってもいいや、と」


 「――――ッ!?」(そのときJに電流が走る)


 「この極東には、アラガミなんて足元にも及ばない化け物が沢山いるでしょう?」


 「その発想はありませんでした。ありがとうございます。………待ってろ仁慈」


 「フフフ、生き生きしているようで何よりです」


 その後、書類処理をしている仁慈の元に押しかけたJは訓練室に無理矢理引っ張り込み、ひたすら彼と白兵戦を繰り広げたという。そのおかげで仁慈は書類処理が出来ず、疲れた体に鞭を打ち、徹夜で書類を完成させたらしい。
 ちなみに、その翌日、仁慈によってボロボロにされたJが満足そうに訓練室でぶっ倒れていたのを誰かが発見したとかしてないとか。



 C・Aさんの場合。


 「最近、隊長が構ってくれません」


 「まぁ、それは大変です。しかし、もう大丈夫です。今からいう言葉を彼に向かって大声で叫べば問題ありません」


 「………ふむふむ、分かりました。ありがとうございます。ラケル先生」


 「私は、悩める者の味方です。このくらいならいつでもきてくださいね」


 その後、ラウンジにてCが仁慈にあの夜のこと(意味深)を大声で言い放ち、周囲に誤解の嵐を巻き起こした。
 当然事実無根な訳だが、もう既に拡散してしまった情報にどうすることも出来ず、言ったC本人がしっかりと否定することを条件に、何日間か連続で任務に付き合わされた。
 この間、例のおでんパン娘がハイライトを消し仁慈の背後をつけて廻っていたため、仁慈のストレスはマッハだったという。 



 ロミオ・レオーニの場合


 「何で俺のときだけ実名出てんの!?頭文字だけとってくれたりとかはしないわけ!?しかもさん付けすら無し!」


 「仕様です」


 「嘘付け」


 一通り言い合った後、お互いにクールダウンをして本題である相談ごとの話題を切り出す。


 「実は、リヴィと一緒に来たフェルドマン局長がずっとこっちを睨んでくるんですけど、どうすればいいんでしょうか?」


 「知りません」


 「おい、相談に乗れよ」


 「もう普通に娘さんを僕にくださいとか言えばいいんじゃないですか?」


 「フェルドマン局長別にリヴィのお父さんじゃないから!どちらかといえばラケル先生のほうが親でしょう!?」


 「でも、あの人リヴィの事、娘みたいに思っていると思うわ。その大事な娘に金髪ニット帽のちゃらちゃらしたバカっぽいやつがくっついてきたらそれはもう睨むしかないんじゃないかしら?」


 「オラ、金髪ニット帽がそんなに憎いかフォラ。どいつもこいつもそればっかりだよ!」


 結局この後、何の話も展開されずに相談は終了。
 ロミオはやけくそ気味にフェルドマンに娘さんを僕にくださいといい、見事に許可を貰った。
 リヴィは赤面しつつも嬉しそうに微笑んだという。
 どうやらフェルドマン、さっさと告白でも何でもしろという目で2人をみて思っていたそうで、即効で頷いたという。



 P・Sさんの場合


 「ラケル博士。実は、最近何を作っても面白いと感じなくなってしまったんだ。仁慈君を異世界に跳ばす機械を作っても、アラガミを一歩も入れないような防壁を作っても、製造を禁止されている神機兵を改造しても、だ」


 「我々研究者件技術者にとっては致命的ですね」


 色々おかしい相談内容だったが、それを突っ込むものはここにいない。
 ツッコミ不在の恐怖をマジマジと見せ付けられる光景がそこにはあった。


 「しかし、大丈夫です。こういうときこそ、この極東のアニメ文化に触れるべきです。見てくださいこれを」


 そこに映っていたのはドリルで敵を粉砕するだけでは飽き足らず、宇宙にまで繰り出すロボットとか戦艦とかの姿が。


 「こ、これは……!素晴らしい、なんてロマンに溢れたものなのだろう……」


 「そうでしょう。実は既に取り掛かってはいます。現段階では難航していますが……どうかお力を貸していただけないでしょうか?」


 「是非ともお願いするよ」


 笑顔で握手を交わす2人。
 今ここに碌でもない事態が発生することが決定した。


 L・Kさん


 「最近、妹が暴走ばかりしていて……苦労するので止めて欲しいんです」


 「それを本人の前で言うとは随分と肝っ玉が据わってきましたね。お姉さま」


 姉妹喧嘩に発展したためカット。



 A・Yさん


 「おかしいんです。この作品、ヒロインはもっと歌のうまい女の子だったはずなのに……もっと私の出番があってもおかしくないはずなんです」


 「シプレのことですか?」


 「違いますよ!もっとこう……動く要塞的なものであった2人がその後大きく色々な出来事に関わっていく、とか」


 「この世界ではそんな出会い方をしていないので……」


 「」


 相談者が気絶したためカット。



 J・γさん


 『私の出番がまったく無いようなのだが……』


 「それはそうですよ。貴方達、製造停止ですもの。というか、貴方のことなんて覚えている人いないと思います」


 『ふむ……これでも彼に的確な指示を出し、隊員救出に一役かったのだと、思ったのだがな』


 「あれ、あんまり意味がなかったといっていましたよ?」


 『なんだと……?』


 「しかし、出番が欲しいですか……。実は私、個人的に今作っているものがあるんです。宇宙でも活動できるスーツを」


 『それを私に?』


 「えぇ、貴方の体は余すことなく改造されるでしょうが……心配要りません。必ず宇宙にいけるようにして差し上げます。そう、無人戦士神機ガ〇ダムとして」


 『……面白い。もとより暇をもてあましていた身だ。そういうのも悪くはないのやもしれん』


 話を終えた2人(?)は部屋の奥へと消えて行った。


 この部屋は極東支部の中でも指折りの立ち入り禁止区域に入る場所。この部屋に入ったものは無事に帰る事は叶わず、誰であろうとナニカサレタ様に変貌して帰ってくるのである。その変貌っぷりは恐怖を抱かせるほどである。


 ――――仁慈にとって。



 
 






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

樫原仁慈が逝くGODEATER編 時をかける仁慈

リクエストにお答えして、仁慈が過去に行った話。





 「これは今までに無いパターンですわ………」


 状況は奇妙極まりないものだった。
 場所は嘆きの平原、目の前には俺が殺したヴァジュラの死体。コアを俺に抜かれてその形状は崩れつつある。これはまぁ、いい。何時も通りの光景だ。問題は………


 「………強い」


 「嘘……腕輪が無いのに、神機を扱っている……?」


 ヴァジュラを倒したくらいで驚きの表情を表す、俺の知っている姿より幾分か若いユウさんと、俺の腕を見てここ最近見ることが出来なかった反応を見せるリンドウさんの奥さんであるサクヤさんである。極東支部ではもう慣れられたもので、俺が腕輪なしで神機を扱っても「まぁ、仁慈だし」で済まされているから。


 さて、どうしてこうなったかといえば、答えは単純。嘆きの平原の中心に渦巻く竜巻に再びブッ飛ばされてしまったからである。
 ……何故、新しい神機使いの研修中にツクヨミなんて乱入してくるのだろうか。タイミング良すぎワロエナイ。


 「ちょっと貴方、私達と一緒に来て、話を聞かせてくれるわよね?」


 若かりし頃、現役バリバリのリンドウさんの奥さんに威圧されつつそう言われる。ここが過去だとして、俺が極東支部に行ったら実験動物待ったなしな気がする。ブラッドアーツもそうだし、体の半分が物理的にアラガミと一緒だし。かと言ってどこかに行くあてがあるわけでもないしなぁ……。
 サカキ支部長を抱き込めば何とかなるか……?


 「えぇ、もちろんです。同じ神機使い同士ですしね」


 まぁ、大まかだがこの世界は過去、それもあの伝説のスーパー極東人ユウさんが神機使いになった頃のことであると予想できる。この世界で俺の味方は誰一人いない状態といってもいいだろう。
 いつ頃帰れるのか、そもそも帰れないのか分からないがどちらにせよ拠点は必要となる。俺に選択肢なんて無いのだ。
 一応拘束だけはされないように極東支部へと帰還するサクヤさんとユウさんの後ろを付いていくのであった。







             ―――――――――――――――――





 極東支部の内装は、昔だけあって俺が知っているものとは違っていた。ラウンジは出来ていないし、俺の知っている神機使いも少ない。巨大なモニターもないし、オペレーターのヒバリさんも髪が短かった。
 ユウさんとはエントランスで別れ、俺はそのままあの床にコードが敷き詰められている部屋に連れて来られた。


 「サカキ博士、今よろしいでしょうか」


 「かまわないよ」


 サカキ支部長、そういえばこのときはまだ支部長ではなかったのか……。今支部長をやっているのはソーマさんのお父さんだっけ。……ソーマさん本人に聞いた話では、終末捕食を起こして一度地球の生態系のリセットを行おうとしたらしい。
 ……俺の存在がばれると割とヤバイな。特異点になった前科もあるし。ここらへんのことも含めて話をしたほうが良さそうだ。
 

 部屋に居たのは今ではソーマさんに譲った機械を弄り倒すサカキ支部長の姿。ヒバリさんと同じように髪型は微妙に違う。しかし、俺の知っているものと変わらない胡散臭い笑みを浮かべていた。
 

 「今回話があるのは彼のことについてかな?サクヤくん」

 
 「そうです。彼は腕輪をつけていないにも関わらず神機を使っていました。刀身も見たことのない形をしていて、何より……新型です」


 サクヤ(若)さんの言葉を聞いたサカキ支部長(若)―――面倒だな(若)はいいや―――が珍しく目を見開き瞳を見せながら体を前にずいっと押し出した。
 彼らが面倒なことを言う前にこちらの話を聞いてもらうべく俺は口を開く。


 「すみません。そのことも含めて話をしたいので、こちらの……サクヤさん、ですか?彼女に席を外してもらいたいのですが……」


 「それは出来ないわ。貴方のように素性もよく分からない相手を1人にすることは出来ない」


 「………いや、いいよサクヤ君。君は一回席を外してくれ。部屋の外に居るだけでいい」


 「危険すぎます!そもそも、話なら私がいながらでも出来るでしょう!」


 「…………別にこちらは構いません。しかし、そちらは困るのではないでしょうか?私は貴方達の事情を色々知っていますよ?例えば、カルネアデスの板……とかね」


 サカキ支部長……ではなくサカキ博士の表情が変わる。ソーマさんから粗方の話を聞いといてよかった。……まぁ、あの人が酒につぶれて勝手に話しただけだけど。
 


 「サクヤ君、やはり席をはずしてくれ。頼む」


 「……なんなんですか、一体……」

 
 サカキ博士が頭を下げる。そのあまりにもレアな声音と行動に観念したのか、俺に余計なことをするなよという忠告の意味もあるであろう睨みを効かせながら外へ出て行った。


 「さて、サクヤ君には悪いけど、邪魔者も居なくなったし……話をしようか?新型神機使い君」


 「えぇ、お互いにとってよい話し合いとなるでしょう」





            ――――――――――――――――――――








 「今日から極東支部に配属されることとなった新型神機使いを紹介する」


 「どうも、今日から極東支部で働かせていただく樫原仁慈です。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」


 現役を引退し、教官をしている雨宮ツバキからそのような一言が告げられる。彼女の言葉の後に銀髪赤眼の青年が名乗りを上げた。
 今まででは考えられなかった銃と剣の両方の機能を兼ね備えた新型神機使いの唐突な出現に皆、どこか釈然としない気持ちを抱きつつも一応皆が受け入れた。
 激戦区の極東に戦力が集中することはある程度納得できる理由だからであろう。彼の言葉からもここ最近神機使いになったのだということが予想できた。
 しかし、神薙ユウと橘サクヤだけは彼の実力を知っている。新人神機使いの難敵とも言えるヴァジュラを瞬殺したのだ。その技量は、ベテランにも劣らないものであった。ゆえに橘サクヤは特に仁慈を警戒していた。


 「早速、樫原と神薙には仕事が来ている。参加者はお前達含めて四人だ。既に後の2人は現地入りしている。お前達も今すぐに向かえ」


 「了解しました」


 「分かりました」


 ツバキの言葉に返事を返した2人は特に会話をするでもなく今回の仕事場である鉄塔の森に向かった。



 現地に到着した彼らを待っていたのはフード付きのコートを身に纏った褐色肌の青年と、赤い髪にサングラスと羽織る意味があるのかと思うジャケットだけを着込んだ派手な格好の青年だった。
 2人ともこちらに気付いたようだが、フードを被った褐色肌の青年はユウたちをスルーしたが、派手な格好をした青年は自身の髪をかきあげながらユウたちに近付いてきた。


 「やぁ、君が例の新型かい?なにやら増えているようだが……まぁ、いい。僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。君達も僕を見習って人類のために華麗に戦ってくれたまえよ」


 青年の言葉に頷く2人。そんな彼らを遠めで見ていたフードを被った褐色肌の青年が唐突に叫んだ。


 「エリック!上だ!」


 彼の言葉通りみんなが上を向くとそこには口をばっくり開けて飛び掛ってくるオウガテイルの姿があった。
 ユウはその姿を見た瞬間バックステップで回避するも、エリックは悲鳴を上げるだけで移動しようとしない。
 どうやら恐怖で体が固まっているらしい。このままではオウガテイルに頭をバックリいかれて逝ってしまう。
 誰もが、彼の死を予感した……その時、





 ――――エリックの頭上に何かが通り過ぎ、彼の頭上を陣取っていたオウガテイルが真っ二つに引き裂かれた。


 「へっ?」


 「えっ?」


 「何?」


 誰もが驚きの声をあげる中、唯1人それを為した男、樫原仁慈は振り切った神機を担ぎながらいう。


 「さっさと倒しちゃいましょう。こんなの」


 


 これは、世紀末に世紀末を重ねた世界から過去の極東にやってきた樫原仁慈(キチガイ)が、伝説のスーパー極東人と言われることとなる神薙ユウとなんか色々やっていく物語である。

 

     

             




 






続きません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話目にしてサブタイトルが思い浮かばない事案発生

エリック大活躍。
特に話しに進展はありません。





 俺は今、猛烈に後悔をしている。
 先ほどこなした仕事、鉄の雨にて俺は1人の神機使いを助けた。そのこと自体に後悔は無い。目の前で失われそうになっていた命があり、それを救える手段があるとしたら、その人物をよほど恨んでいない限り助けると思う。実際俺はそうした。
 しかし、その助け方がいかんかった。俺の居た時代ではあのくらいの動きは普通も普通。このくらいで驚いていたら極東初心者の称号を送られるくらいの拙い動きだったのだが、彼らはそうではなかったらしい。
 若かりし頃の……本人曰くやさぐれて若干中二病的思考が入っているソーマさんとまだぶっ飛んでいないユウさんから熱烈な視線(いい意味とは限らない、特にソーマさん)を向けられている。
 これが結構辛い。しかも、極東に帰った後に俺が助けたエリックさん(エリナの死んだお兄さんだと後から気付いた)が俺の戦いを言いふらしたのだ。
 一応、新人として配属されたのにそのような戦い方が出来たら誰でも怪しむに決まっている。現に俺は針のむしろ状態だし。まぁ、彼は俺が新人という設定になっていることを知らないから仕方ないんだけど。


 「その時彼が、華麗に―――」

 
 やっぱり、黙ってて欲しいなぁ……。
 一応サカキ博士を抱きこんであるからある程度のごまかしは効く。しかし、終末捕食をたくらんでいるソーマさんのお父さんはサカキ博士が注意すべきと考えている人間だ。こんなことを言いふらされて何かやっかいな情報をつかまれなければいいんだけど……。


 チラリとエリックさんのほうを見る。
 すると彼はこちらの視線に気付いたのかこっちに体を向けると親指を立てて歯を見せながら微笑んだ。


 「(君の華麗な武勇伝を聞かせることで、馴染みやすくしておいたぞ!)」


 「(完全に逆効果です)」


 こちらの意思はまったく伝わっていないんだろうな、と考えつつ俺はひとつ溜息を付いた。
 サカキ博士からも、


 「こう、目立たれては色々厄介なので気をつけてくれないかな?今回のことは、君がいざとなった時の切り札のひとつとして機能することがわかったから見逃すけどね」


 と釘を刺された。
 ……どうやらあの程度でも実力を認められるようだ。どうしよう……しばらくは戦い方を自重したほうがいいかもしれない。





              ―――――――――――――――――― 





 「樫原仁慈……か」


 極東支部支部長室にて、ここの支部長のヨハネス・フォン・シックザールはゲンドウスタイルで机に座りつつ一人呟いた。
 彼には目的がある。この喰らい尽くされた世界を再生し、選ばれた優秀な人間を再生した世界に残すという目的が。そのために彼は妻も、子どもも犠牲にしてきた。今更止めることなど出来ない。
 

 そのために、新型神機使いもこの支部に配属されるよう手配をしたのだ。今は新人の神薙ユウという新型神機使いもいずれは実力をつけ、特務を受けることが出来るレベルになるだろう。
 だが、ペイラー榊が見つけたといわれる神機使い樫原仁慈。
 そのプロフィールにおかしい点は見当たらないが、彼がこの支部に配属されるという話は支部長であるヨハネスも聞いたことが無かった。
 

 ―――――不確定要素を残しておくのは得策とは言えない。


 彼の優秀な頭脳は即座にその答えを割り出した。
 そして、ある場所に連絡を一本入れる。


 「……彼には、任務で名誉の死を遂げることにしてもらうとしよう」


 どちらにせよ、始末しなくてはならない人間は居る。彼もついでに始末すればいい、そう考えて彼は連絡のために手に取っていた電話を元の場所に戻した。






 ―――――一方サカキの研究所





 彼はカタカタと何時ものように機械を弄りつつ、その画面に映されているデータにひとつひとつしっかりと目を通す。


 「………やはり、我々が取れる手段は、これしかないようだね……」


 何度計算をしなおしてみても、何度データを確認してみても、導き出される答えは何時も同じだ。
 このまま有効な手段がなければ、ヨハネスの思惑通りにことが進んでしまう。しかし、こちらも切り札を手に入れた。
 それも、飛び切りの……それこそジョーカーとも呼べる存在を。



 ――――――人が神となるか……神が人となるか……この闘争において、そのどちらでもあり、どちらでもない樫原仁慈(おれ)が貴方の駒になってあげます。……そちらにとっても悪い話ではないと思いますが?
 


 まるで心臓を直接つかまれたかのような衝撃だといってもいいだろう。そのセリフは、彼が常日頃から思っていることだが、誰かに話したことは無いのだから。
 

 「勝つにせよ、負けるにせよ……面白く数奇な結末を辿ることになりそうだね」


 





            ―――――――――――――――――――







 「今回はエリックさんとの任務になります」


 「そうなんですか。俺と同じく新人の2人は今日コンゴウと戦うそうですが、同じようなものですか?」


 「いえ、ヴァジュラ種の討伐となっております」


 「えっ」


 「えっ」


 一応新人というくくりで入って来たはずなんだけど……。それとも、俺が一番初めにヴァジュラを屠ったことサクヤさんとユウさんが言ったのかな。


 「あの……エリックさんが同伴に指名していたので……本人から聞いていないんですか?」


 聞いてません(半ギレ)
 まぁ、発行されている以上バックれるわけにもいかないから、しっかりやりますけどね。 
 相変らず髪をかきあげながら登場したエリックさんの言