神様死すべし慈悲はない (トメィト)
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盛大に間違っているGODEATER2編
第一話


衝動的に書いた。今は反省している。


きっとそれは必然だったんだろう。

こんな世の中だから、奴らに襲われた結果なんてその辺にごろごろ転がっているという事を、その少年は分かっていた。

 

 

 

 

――――――アラガミ

 

 

 

 

 

それが今の世の中で絶対の王者として君臨している存在の総称だ。

その正体はすべての物質を捕食する性質を持つ『オラクル細胞』という細胞の群体であり、同じ『オラクル細胞』による攻撃しか受け付けないという性質を持っていた。

そのため、人類は当時の主力武器である重火器などをはじめとする兵器を用いてもアラガミに抵抗らしい抵抗もできずその数を減らしていった。

 

 

このまま絶滅の一途を辿ると思われた人類だったが、生化学企業「フェンリル」がアラガミに対抗できる唯一の手段である生物兵器「神機」とそれを操りアラガミを屠るものである「ゴッドイーター」の出現によって食い止められた。

こうして人類は強大な存在であるアラガミから生き残るために「神機」を操るものである「ゴッドイーター」とその「ゴッドイーター」の大元である「フェンリル」にすがって生きていくしかなくなったのだ。

 

 

さて、冒頭の話に戻ろう。

今、ある少年が住んでいた場所は普段より一層荒れている。なぜならば先程説明したアラガミによる襲撃を受けているからだ。

 

 

「うわぁぁぁ!!助けてくれえぇぇぇ!!」

 

 

少年の目の前で白い鬼の面をつけたような容姿のアラガミ、オウガテイルに下半身を喰われている中年の男性が叫ぶ。しかし、助けてくれる者はなどいない。

 

当たり前だ。助けに入ったところで何ができるわけでもない、逆にアラガミの餌となり今襲われている男性と一緒に腹の中に消えるのがオチである。

 

周囲の人々もそれが分かっている。故に彼らはオウガテイルが男性を喰らっている隙にできるだけ遠くに逃げるよう、すでにオウガテイルとは逆の方向に走り出していた。

 

 

だが、その必死の逃走も正面から現れたオウガテイル達によって無意味と化した。いち早く逃げようと先頭に立っていたものたちから真っ先に喰われ、喰われなかった人も目の前に存在する明確な「死」に錯乱しだした。

十人中九人は地獄と評するだろうこの惨状を見ても少年に恐怖はなかった。

 

こんな光景はアラガミが出現してから全世界で見ることのできる光景で、少年もそれなりの回数似たような経験があり、耐性ができてしまっていたからである。

 

アラガミがその猛威を振るい、人々が怯えて逃げ惑う様をしり目に少年は自分が生き残るための策を考える。

なぜなら、現在は建物の陰に隠れているため見つかっていないが、今喰われている人々がいなくなれば確実に臭いを辿り、自分に向かってくる。少年はそう確信していた。

 

 

自分の少ない知識を総動員して生き残るための策を練っていた少年だったが、顔を上げた時、視界に入ってきたそれに少年の視線は釘付けになってしまった。

少年の視線に入ってきたもの、それは、人が神に対抗するための唯一の手段。生体兵器「神機」であった。

 

 

「……」

 

 

そこから少年は自分が生き残るために考えた策の確認を頭の中で行う。

最も堅実な方法は、このまま逃げることである。今まで何百何千と繰り返してきたことだけあり、これが一番生存率が高いだろう。けれど、それは何時もの場合である。今回は逃げ道をオウガテイルに塞がれているだけに限らず、いつもは持ち歩いている拾い物のスタングレネードも切らしてしまっているため、生存ができる確率は激減する。

 

 

もう一つの策は、あの神機でオウガテイルの群れを殲滅しながら突破するというものだが、それは先程の案よりも多くの問題が発生する。

オウガテイルに突っ込む前に神機に喰われることや万が一に使えたとしても接近武器なんて生まれてこのかた使ったこともない少年ではすぐに返り討ちにされる等、問題を上げればきりがない。

 

 

確実に生き残る方法はゴッドイーターに助けてもらう事なのだが、ここはゴッドイーターが訪れるどころか物資の配給すらまともに来ない場所である。

例外として一度だけゴッドイーターが来て、今少年が見ている神機を残して逝ったこともあるがそれは例外なので除外する。

まぁ要するに、ゴッドイーターの助けは期待できない。

 

 

普通であれば、この状況でとる行動は逃一択である。後者の場合、何回命を掛ければいいのかわからない。それに比べ前者は慣れしたしんだ動作で、命の危機は逃げる時の一つだけだ。誰だってそうする。

しかし、いくら日常茶飯事だからと言って目の前で人が喰われているにもかかわらず、冷静に次の行動を考え始める少年が普通なはずがなかった。

 

 

少年はゆっくりと、オウガテイルには見つからないように神機に近づくと―――――

 

 

「……」

 

 

―――――何の躊躇いもなく、その神機を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、突然だが、俺の話を聞いてくれないか。

ある日学校から帰って布団に入り、眠りに就いたはずなんだが、起きた次の瞬間には見知らぬ天井が視界に入ってきた状態で目を覚ましたんだ。

正直、わけがわからない。一瞬誘拐にでもあったんじゃないかと思ったんだけどさ、家は一人暮らしでさらっても得るもんがないからその線は捨てた。苦学生なめんなっ!

っと、それはどうでもいい。

誘拐じゃなければなんだろうと思い、体を動かそうすると、どこからか本能に囁くような甘い女の声が聞こえてきた。

 

 

「気を楽になさい。あなたはすでに選ばれてここにいるのです……」

 

 

はっ?選ばれた?何に?宝くじにでもあたった?

つーか、なんか床から出てきたんですけど……何よこれ、武器?

 

 

「貴方には今から対アラガミ討伐部隊「ゴッドイーター」の適合試験を受けていただきます」

 

 

アラガミ?ゴッドイーター?何の話ですか、て言うかこの声の人誰よ?とてもいい声してますね!

やべぇ、意味不明な状況に置かれて精神が振り切れてる。

 

 

「試験と言っても不安に思う事はありませんよ」

 

 

床から出てきた武器っぽいものに何となく手を置いてみるとガシッと勢いよく黒色の腕輪が自分の腕にくっついた。もう次から次へとなんなんですかね?おじさんちょっとついていけないよ……。

ホント切実に、説明プリーズ。

 

 

「あなたはすでに……荒ぶる神々に「選ばれしもの」なのですから……もっとも、この試験はあなたには必要のないことですけどね……フフッ」

 

 

最後の最後まで意味深なことを言ってその女の人の声は聞こえなくなった。

まぁ、それはいいとして、話聞いてて気付かなかったけど、天井の赤い奴がぱっくり開いて結構な音を響かせながら右回転してるドリルがあるんですけど。

もしかして、あれが落ちてくるのか……俺のロックされている右腕に。

………左手あげたらやめてくれるかな?

そんなくだらないことを考えているうちに天井のドリルは俺の右腕に突き刺さった。

 

 

「グアぁぁぁぁぁぁ………って、あれ?見かけのわりに全然痛くない。どうなってんだこりゃ」

 

 

「おめでとう、これであなたは神を喰らう者……『ゴッドイーター』となりました。そしてあなたはさらに『血の力』に目覚めることでフェンリルの極致化技術開発局『ブラッド』に配属されることになります。まずは体力の回復に努めなさい。あなたには、期待していますよ」

 

 

……だからさぁ、詳しい説明はないわけ?あとこの腕輪取れないんだけど。

再び聞こえなくなった女の人の声に俺は愚痴る。

 

 

しかし、今までのことで一つだけわかったことがある。ついさっきまでの会話を思い出せばすぐにわかることだった。俺が生きていた世界にアラガミやそれを討伐するゴッドイーターなんてものはなかった。

 

 

 

つまり俺こと樫原仁慈(かしはらじんじ)は異世界かなんかに来てしまったということだ。

……ほんと、どうしてこうなったんだか……。

 

 

 

 

 




シリアスかと思った?残念!シリアルでした!


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第二話

短めですが、第二話投稿します。
フランさんが少しキャラ崩壊していますが、それでも良い方はどうぞ。


さて、前回知らない間に知らない世界へこんにちはを果たした俺であるが、結局あの後自分が異世界に来たという事以外は全く分からなかった。

周りにいる人に聞いてもその辺のこと全く教えてくれなかったし。話しかけには応じてくれるんだけど誰もかれもが少しおびえた目で俺を見てさっさと会話を打ち切ろうとするんだよね……。べ、別に悲しくねぇし。

 

 

それはともかく、誰ひとりとしてまともに会話してくれないので勝手に今自分がいる施設内を探索してみることにした。

しばらくこの施設内を探索していると何やらカウンターらしきものが見えてきて、そこでは金髪の女の人がカタカタと何かを打ち込んでいた。

彼女にもいろいろ聞いてみるか。

そうして彼女に近づこうとしたとき、向こうも俺に気が付いたようで何かを打ち込んでいた手を止めて綺麗なお辞儀をしてから口を開いた。

 

 

「『ゴッドイーター』並びに『ブラッド』の適合試験お疲れ様でした。私はオペレーターのフランと申します」

 

 

「え、あ、こ、これはご丁寧にどうも。樫原仁慈です」

 

 

うぉ、ビビった。今までにない反応だったから言葉が詰まっちまった。やらかした。

だってフランさん思いっきり肩を震わせてるし、これ絶対笑ってるだろ……。

 

 

「フフッ…まずは業務連絡からです。フフ、適合試験をクリアしたことにより『データベース』の使用権限が与えられmフフフ……」

 

 

「ちょっとばかし笑いすぎじゃありませんかねぇ!?」

 

 

もうやめて!俺の(心の)ライフはとっくにゼロよ!

 

 

「し、失礼しました。ゴホン……と、このように貴方のこれからの神殺しライフのサポートしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 

なにその物騒な生活、超怖い。

そしてそれをさらっと言えてしまうフランさんも怖い。どうなってんだ、この世界。

まぁ、いいや。この子はほかの人と違ってあんまり怯えているわけでもないし、神殺しライフのことも含めて色々聞いてみよう。

 

 

「すいません、いくつか質問していいでしょうか?」

 

 

「はい、構いませんよ」

 

 

「ではまず、ゴッドイーターってなんなんですか?」

 

 

「ゴッドイーター、通称『神機使い』は人類を脅かす敵、アラガミに対抗し得る唯一の存在のことです」

 

 

「なら、その人類を脅かす敵であるアラガミというのは一体どういう存在なんですか?」

 

 

「(アラガミを知らない……?いや、アラガミについて詳しく聞きたいだけでしょうか?)アラガミとは2050年ごろに現れたすべてを捕食する性質を持つ細胞である『オラクル細胞』が群体となって作り出す怪物たちの総称です。アラガミは『オラクル細胞』による攻撃しか受け付けないため、『オラクル細胞』を使用している神機を扱う『神機使い』たちが対抗できる唯一の存在といわれています」

 

 

「へぇー、ちなみにここどこですか?」

 

 

「ここは移動要塞フライアのロビーですね」

 

 

「これ移動してんの!?」

 

 

予想外すぎる。探索しているときに、迷子になってしまうんじゃないかと危惧するくらい大きくてしっかりとした内部構造だったのにこれが移動してるって?

どんだけ金を使ったんだか。

 

 

「はぁー……なんかもう色々とすごいですね」

 

 

「お気持ちは分かります。私も初めは驚きましたから」

 

 

くすくすと笑いながら同意してくれるフランさん。

良く笑う子だね、まったく。

 

 

「いろいろ教えていただきありがとうございました」

 

 

「いえ、これが私の仕事ですから。それと、今私が説明したことやほかの情報はここのすぐ左に行ったところにある『ターミナル』という機械の『データベース』でも閲覧することができます。わからないことがあればぜひとも活用してみてください」

 

 

「はい」

 

 

「最後に偏食因子が定着するまで、任務を発行することはできません。それまでは「フライア」のなか……そうですね、庭園でゆっくりされてはいかがでしょうか?」

 

 

「わかりました、それでは」

 

 

フランさんに別れを告げて、俺はすぐに『ターミナル』という機械のもとへ行った。

適合試験を受けたばかりという事は、俺は訓練兵辺りであろう。そんな権限で何処までの情報を見ることができるのかわからないが、できる限りの知識はつけておこう。

 

 

そう思い、俺は使ったことのない機械に向かい合った。

 

 

余談だが、使ったこともない機械が素人の俺に動かせないことは当然の結果であり近くにいたフライア職員に怯えられながら使い方を教わった。

心の中でカッコつけた結果がこれだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、私の言葉を聞いてフライア職員に怯えられながらターミナルの使い方を教わっている新しい神機使い、樫原仁慈さんの様子をチラリと視界に納める。

とてもじゃないが、このフライアで出回っている噂の人物のようには思えませんでした。

 

 

 

 

『樫原仁慈は化物である』

 

 

 

これが、彼が適合試験を受けた直後にフライアの中を駆け巡った噂を簡潔に表したものです。

その理由は彼が受けた適合試験。その時の反応があまりにも常軌を逸脱していたことにあります。

神機は確かにアラガミに対抗できる手段ですが、それはオラクル細胞を用いているためです。そうなれば当然、神機もありとあらゆる物質を捕食する性質を兼ね備えています。つまり、神機の適合試験は神機と試験者の喰らい合いとなるのです。

それがこの試験で試験者たちが苦しむ理由であり、外でほかの神機使いが待機している理由でもあります。神機との喰らい合いに負ければその場でアラガミになってしまいますからね。

 

 

けれども彼は、そんな様子は一切見せず何事もなかったかのように適合試験をクリアしました。

要するに、神機と喰らい合った様子が全く見られなかったのです。そのため彼は、フライア職員の間では『人の皮をかぶったアラガミ』と言われています。

 

 

なので、私に話しかけられた時の返事がとてもおかしく思えてしまいました。

事務的に言葉を掛けただけなのに目を丸くして、言葉に詰まっていましたし。私はそんな反応をする人が化物何て、どうしても思えないのです。

 

 

「説明、ありがとうございました」

 

 

「な、ななな何、気にすることはないよぉ!」

 

 

「いや、無理だろ」

 

 

早歩きで去っていくフライア職員の背中を傷ついた顔で見送る樫原さん。

その様子を見て、私はなるべく彼をフォローしてあげようかと、思いました。

 

 

 



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第三話

なかなか話が進まなくてすみません。


俺はフライア職員の露骨な対応にライフポイントを削られながらも、何とか必要な知識を詰め込んだ俺はそれらの知識を整理しようとフランさんから勧められた園庭に向かっていた。

 

 

俺に怯えて後ずさる職員を華麗にスルーし、エレベーターに乗り込む。園庭は確か二階だっけ?

2と書かれているボタンを押してエレベーターを動かすと、すぐにチンッと音が鳴りエレベーターの扉が開いた。

 

 

「おぉ、これは綺麗だな」

 

 

そこには園庭と呼ぶにふさわしい景色が広がっていた。

天井は透明なガラスのようなもので覆われていて青空がよく見え、地面は一面花で埋まっている。俺がもともと居た世界でもなかなか見ることのできない光景だ。

 

 

キョロキョロとはたから見たら何やってんだこいつと思われるくらいに周囲を見回しながら園庭を歩いていると、園庭で唯一生えている木の根にとんでもない金髪の美青年が座っていた。本当に居るんだ、あんな美青年。

 

 

「やあ、適合試験お疲れ様。まぁ楽にするといい」

 

 

「え、あ、はい」

 

呆然と美青年の方を見ていると、こちらに気が付いたのか何の気負いもなく話しかけてくる。

えぇい、フランさんと言いこの美青年と言い金髪のコミュ力は化物かッ!

少々戸惑い気味で俺は、美青年の隣に座りこむ。

いや、座ったのはいいけど何を話せばいいんだ?

すると俺の戸惑いを察知したのか再び美青年が話しかけてくれた。

 

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はジュリウス・ヴィスコンティ、君が配属されたフェンリル極致化技術開発局所属特殊部隊『ブラッド』の隊長をしている。以後、よろしく頼む」

 

 

まさかの上司だった。

こんなに若いのに隊長なんてすごいなぁ……って、言ってる場合か!

な、なにか返事をしなければ。

 

 

「わ、私は」

 

 

「あぁ。そんなに気を張らないでいい。」

 

 

気を使われてしまった。

何この人、外見も良くて気配りもできるとか完璧すぐる。

これが、真のイケメンの実力か…!

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

「フッ、気を張らなくていいといったんだがな」

 

 

と、言いながらもどこか寂しそうな顔で苦笑するジュリウスさん。

やめろ、そんな顔されたら俺の良心が高速でそぎ落とされてしまう。

 

 

「ジュリウスさんは、よくここに来るんですか?」

 

 

「そうだな」

 

 

反応早ッ!

しかも、心なしか超嬉しそうな表情をしていらっしゃる!?

もしかしてこの人、外見が良すぎて逆に人から避けられてしまうタイプなのだろうか?

だからこんなに嬉しそうな反応をしているとか……いや、よそう。俺の勝手な予想でジュリウスさんをボッチ認定するのは。次に会うとき絶対変な態度になりそうだから。

 

 

「ここはフライアの中でも特に気に入っている場所なんだ。暇があれば、一日中ここでぼーっとしている」

 

 

「あー、分かる気がします。なんかここ落ち着きますよねぇー」

 

 

ここで会話は途切れ、水の流れだけが耳に聞こえるようになる。しかし、この沈黙は決して不快なものではなくむしろ心地の良いものだった。そのため、いい年した男が二人木の下でひたすらにぼーっとする少々シュールな光景がジュリウスさんが出ていくまで続くのであった。

 

 

余談だが、園庭を出ていくときのジュリウスさんが妙に嬉しそうだったことについては考えないことにした。

 

 

 

 

さて、ジュリウスさんに引き続いて園庭を後にした俺は、あの場所を教えてくれたフランさんにお礼を言うために再び、ロビーに来ていた。

 

 

「フランさん、園庭のこと教えてくれて、ありがとうございます。おかげでいい気分転換ができました」

 

 

 

「それはよかったです。あ、そういえばもう偏食因子が定着している頃ですので任務を受注することができます」

 

 

「もう、定着したんですか。偏食因子」

 

 

「はい、しています」

 

 

なんか、インフルエンザの予防接種みたいだな。偏食因子の定着。

 

 

「任務って、戦闘訓練ですか?」

 

 

「そうですね、神機を使って戦場での動き方の基本やフェンリルが開発したダミーアラガミを使った戦闘訓練です。受注しますか?」

 

 

「お願いします」

 

 

「……受注が完了いたしました。すでにジュリウス隊長が訓練場に向かっていますので、今から向かっても大丈夫ですよ」

 

 

そうか、ジュリウスさんは隊長だから新人の訓練とかも見たりするのか。

大変そうだなあの人。

 

 

フランさんに見送られ、自分の神機が置いてある保管室に向かう。

……戦闘訓練かぁ。運動神経はいい方じゃないし、少し不安だなぁ。体育の成績もいっつも3だし。

自分の運動性を思い返し、重くなる足取りを感じ取りながら改めて保管室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやぁ、戦闘訓練は強敵でしたね……。

四方八方、鋼鉄に覆われた訓練場を出て自分の神機を保管室に預けてきた俺は再びフライアのロビーに帰ってきていた。

ん?訓練の様子?

一通り体を動かしたら、二時間耐久ダミーアラガミとのデスマッチをしましたが何か?

二十体同時相手なんて普通に死ねる。ジュリウスさん俺が訓練兵ってこと忘れてんじゃないの?

内心で愚痴をこぼしつつ、今日はもう休もうと自分に割り振られた自室に向かおうとするが、エレベーターに向かう途中唐突に誰かが声をかけてきた。

 

 

「あー、お疲れ様ー」

 

 

声の聞こえた方向に顔を移動してみれば、そこには大きな袋を隣に置き、頭から猫耳を生やした痴女がいた。

 

 

……いや、ね?初対面で痴女とはさすがにひどいと我ながら思うよ?

でも彼女の格好はそう表現するしかないよ。

服というより布だよ?あれ。

 

 

「お、お疲れ様……?」

 

 

彼女の格好に不意を突かれ、一瞬反応が遅れたが何とか返事をひねり出す。

少々不自然な返しになってしまったことに恐々とするが、彼女は気にならなかったようで、そのまま言葉を続ける。

 

 

「君もブラッドの新入生……じゃなくて新人さん?」

 

 

「一応、そういうことになっています」

 

 

起きたらいつの間にか試験を受けさせられてただけですけどねっ!

 

 

「やっぱりそうだ!私はナナ。同じくブラッドの新入りです!仲良くしてね!」

 

 

「樫原仁慈です。こちらこそ、よろしくお願いしますね。ナナさん」

 

 

「硬いなぁ~。歳も同じくらいだし、もっとフレンドリーに行こうよ」

 

 

「あはは…考えておきます」

 

 

 

 

その後、俺とナナさんは訓練のことや自分の趣味に関することなど、様々なことについて話をした。

そのなかで、様々なことを割とノーガードで話し合ったためか、ナナさんとは話をしていた三十分間で結構仲良くなった。

 

 

「あ、そうだ。お近づきの印に……じゃーん!お母さん直伝おでんパンをプレゼントしよう。ありがたく受け取るがいいっ!」

 

 

「ははぁー、ありがとうございます。ナナ様ー」

 

 

「うむうむ、よきにはからえー」

 

 

具体的には、人が良く通るフライアのロビーでこんなくだらないやり取りをするくらいには仲良くなりました。

ノリが良くておじさんびっくりだよ。

 

 

「あ、そろそろ訓練の時間だ。それじゃ、またね!」

 

 

言って、ナナさんはおでんパンが大量に入った袋をサンタのように担いでカウンターのフランさんのところまで、走って行った。

おでんパンは置いてこうよ、ナナさん……。

 

 

ま、いいや。今日はもうゆっくり休もう。

ナナさんと話していたことですっかり忘れていた当初の目的を思い出し、エレベーターに乗り込もうとすると、俺のことをひたすら避けるフライア職員の一人が体を震わせながらも俺に近づいてきた。

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

一体どういう風の吹き回しだと思い尋ねると、フライアの職員は早口でこういった。

 

 

「ふ、フランさんが樫原さん用の新しい任務が発行されたため、部屋に帰ってはいけませんとのことです」

 

 

oh……まだやるんですか、アレを。

思わずため息を吐きながらも伝言を伝え終わり、見惚れるほどきれいなスタートダッシュを決める職員の背中にお礼を投げかけ、俺はフランさんに任務のことの真偽を確かめるためにエレベーターから回れ右をし彼女がいるカウンターへと足を進めた。

 

 

 

 

 



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第四話

テストやレポート課題が多く出ているので更新が遅れるかもしれませんが、ご容赦ください。


あの後、伝言を聞きフランさんのもとへと向かった俺を待っていたのは、基本的な動きの簡単な復習とオウガテイルの形を模したと思われるダミーアラガミ百体とのサバイバルデスマッチだった。

 

 

ほんの数時間前より五倍ほど数を増したダミーアラガミを支給されたスタングレネードと俺が刀身に選んだ武器、ヴァリアントサイズの特徴である咬刃展開状態を駆使し纏めて薙ぎ払う事でその訓練を何とかクリアすることができた。

しかし、もう俺の心はズタボロで使い古された雑巾状態である。

心がかなり沈んでいるせいか、普段より重く感じる体を何とか引きずりながら俺がロビーまで戻ってくると先に訓練を終わらせていたナナさんが声をかけてきた。

 

 

「おぉ…?どうしたの仁慈君。元気ないね、おでんパン食べる?」

 

 

「いや、いらない」

 

 

「おー、口調に気が回らないくらいお疲れのようだねー」

 

 

「逆に何でナナさんはあの訓練内容でそんなに余裕あるのかわからないよ……」

 

 

見かけによらず、タフっすねナナさん。

それとも、この世界でアラガミ相手に戦う神機使いの間ではこれが普通なのかしら?

目に見える形で現れた神機使いとしての差に少しばかり絶望する。

同じ新人でこんなにも違うなんて思わなかった……こんなんじゃ俺、神機使いになりたくなくなっちゃうよ。

 

 

急に現実を突き付けられより一層落ち込む。しかし、

 

 

「えー、仁慈君。三体のダミーアラガミ相手にそうなっちゃうのはさすがにどうかと思うなー」

 

 

「え?」

 

 

「え?」

 

 

「なにそれこわい」

 

 

三体のダミーアラガミ?そんなのありませんでしたけど……?

何やらナナさんがした訓練と俺の訓練の内容に齟齬が出てきたので、こちらの訓練内容も彼女に伝えてみる。

 

 

「え?」

 

 

「え?」

 

 

「なにそれこわい」

 

 

さっきの俺と全く同じ反応を返される。

うん、その気持ちはよくわかる。

 

 

「き、きっと仁慈君は期待されてるんだよっ!だから一人だけなんかすっごく辛そうな訓練をしているんだ。うん、そうに違いない…よ?」

 

 

無理にフォローしようとしなくていいよ、ナナさん。自分でも苦しいなぁと思ってるでしょ?

段々と声に力がなくなってるよ。正直になっちゃえよ。

 

 

「そ、ソンナコトナイヨー」

 

 

「うわぁい、棒読みだー」

 

 

ナナさんにまで俺の疲労が伝染したのか心なしか彼女の返答にも疲れの色が見えてきた。なんかすいません。

二人してロビーで肩を落とすという醜態をさらしていると、俺たちの目の前をニット帽をかぶった金髪の少年が通りかかった。このフライア、金髪率高いな。

 

 

「……あれ?見ない顔だね、君ら」

 

 

「こんにちは」

 

 

この金髪の人も今までの例に漏れず自分からこちらに話しかけてくる。

ここまで来るともう慣れたよね。

ナナさんが返事を返すと同時に立ち上がったので、こちらもそれに続き立ち上がる。

 

 

「あっ、ひょっとして噂の新人さん?」

 

 

「はい、これからお世話になります、先輩!」

 

 

「先輩……いいね、なんかいい響き……!」

 

 

あ、こいつちょれぇ。

ナナさんの先輩発言を聞いた瞬間に表情を緩ませた金髪の少年……言いづらいな、ニット帽さんでいいや。

ニット帽さん(仮名)は近くにあった椅子に座りこんでこちらを向いてどこか自信に満ち溢れた表情で口を開いた。

 

 

「よし、俺はロミオっていうんだ!先輩が何でも教えてやるから、何でも聞いてくれ!」

 

 

「ただし、これだけは言っておく。ブラッドは甘くないぞ、覚悟しておけよ!」

 

 

どこかドヤ顔で言うニット帽(仮)改めロミオ先輩。

彼の言った言葉で自分の訓練の光景を思い出した俺は自分でも引くくらいに力のない声でロミオ先輩に言葉をかえす。

 

 

「ええ、えぇ。よくわかりましたよ、ホント甘くないですよね」

 

 

この時の俺の表情がよほどひどいものだったのかロミオ先輩は小声でナナさんへと話しかけていた。

 

 

「(なんかあの子表情死んでるけど大丈夫なの?)」

 

 

「(実は……かくかくしかじか)」

 

 

「(……なにそれこわい)」

 

 

「(ロミオ先輩までそんなこと言うんだ……)」

 

 

あーやばい、本気でだるくなってきた。

よくよく考えたら、今日一日だけで異世界トリップにザッと一般常識の勉強、ダミーアラガミとのデスマーチをこなしたんだもんな。

我ながらよく頑張った方だよ。

 

 

「ナナさーん、さすがに疲れたので部屋に戻りますねー」

 

 

とりあえず知らせましたよーという言葉だけを残して俺はさっさと自室へ向かった。

無駄にデザインの凝っているエレベータに乗り込み自分の部屋がある階のボタンを押す。

三十秒くらいで目的の階に着いたエレベーターを降りて、自分の名前が書いてある部屋に入ると着替えもせずに部屋の隅にあるベットにそのまま身を投げた。

 

 

こうして自分以外に誰もいない部屋にいると、急に俺は別の世界に来たんだと実感がわいてきた。

その実感がわいてくるとさまざまなことが不安になってきた。

ここでしっかり暮らしていけるのか?アラガミとしっかり戦えるのか?

そんな疑念が生まれては消えていく。だが、その考えがさらなる不安をあおる前に俺の体は限界を迎えたようで、急に進行してきた睡魔に意識を奪われ、寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、復活!」

 

 

「おー(むぐむぐ」

 

 

自室のベットに沈んでから数日後、俺は片手を勢いよく突き上げてあげて叫んでいた。

その隣にはおでんパンを齧りながら手を叩くナナさんがいる。

 

 

え?どうやって立ち直ったのかって?

毎日毎日1VS100の戦闘訓練をしていればそんなこと気にならなくなったよ。

さすがジュリウス隊長!部下のことをわかってるぅー!

 

 

「仁慈仁慈、やけくそになってるよ」

 

 

「おっと、いけないいけない。……ん?何で考えていることが分かったの?声に出てた?」

 

 

「今日仁慈が食べたおでんパンに教えてもらったんだー」

 

 

「おでんパンすげぇ!」

 

 

そして、すでに吸収されて栄養分となっているおでんパンの言葉を感じ取れるナナもハンパネェな!

自分の気持ちに一区切りつき、色々吹っ切れたためかどこかぶっ飛んだ会話をする俺とナナ。ちなみにこの数日頻繁に話していたせいかナナとはもう完全に打ち解けている。

 

 

「それにしてももう実地訓練か……早くない?」

 

 

現在俺たちがいるのはおなじみになりつつあるフライアのロビー……ではなく、黎明の亡都に向かうための道中である。

意外なことに今日任務を発行してくれたのはフランさんではなくジュリウス隊長だったのだ。

 

 

事の始めは、今日の朝俺が所属しているブラッドを作った人物であるラケル・クラウディウス博士にブラッドのことやブラッドになった者が発現させる特別な力の説明などを受けていたことである。

ぶっちゃけ、何を言っているのかは半分も理解できなかったため、右から左へ話を受け流していた。それが原因なのかラケル博士はちょくちょく俺の方を見て薄ら笑いを浮かべていた。めっちゃ怖かった。

あの人絶対ラスボスだよ、笑顔で外道なことを平気でしそうなラスボスのオーラを醸し出してたよ……。

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

ラケル博士の話を聞き終わり彼女の研究室を出ると外でジュリウス隊長が待っており、今回の実地訓練の事を聞かされた。

これが今、俺たちが黎明の亡都に向かっていることの真相である。

 

 

「アラガミも新種が増えてるって聞くし。できるだけ早く強い神機使いを増やしたいのかもねー……」

 

 

要するに全部アラガミの所為か。

俺が異世界に飛んで神機使いなんてものになったのも、1VS100の戦闘訓練なんてものを毎日するようになったのも、訓練を受けに行くたびにフランさんに笑われるのも全部アラガミの所為だったんだよッ!

 

 

と、言う風に緊張感の欠片も感じられないゆるい会話を続けていると黒い全体に所々金色のラインが入っている神機を持ったジュリウス隊長が見えてきた。

 

 

「きたか」

 

 

こちらの足音を感じ取ったのかジュリウスさんが耳に装着している無線から手を離し、クルリとこちらに振り向く。

 

 

「「フェンリル極致化技術開発局、ブラッド所属第二期候補生二名到着いたしました(あ!)」」

 

 

よし、言えた。昨日までフェンリル極致化技術開発局が全く言えなかったからな。

睡眠時間を30分削って練習した甲斐があったぜ。

 

 

「ようこそ、ブラッドへ。隊長のジュリウス・ヴィスコンティだ。……では、これより実地訓練を始める」

 

 

「見ろ……あれが人類を脅かす災い。駆逐すべき天敵……アラガミだ。手段は問わない、完膚なきまでにアラガミを叩きのめせ」

 

 

「任せてください」

 

 

 

要するに今までやってきたことをそのまま実際のアラガミにもすればいいだけだ。

 

 

「お前たちが実力を発揮できれば問題になるような相手じゃない、いいな?」

 

 

こちらに振り向き、俺たちに言い聞かせるようにジュリウス隊長は言った。まぁ、初めての実戦で緊張して動けなくなる人も多いと聞くしこの言葉は当たり前だな。

なんて考えいると、

 

 

「グアァァァッァァアア!!!」

 

 

という咆哮とともに鬼の面を被ったかのような容姿のアラガミ…オウガテイルがこちらに喰らいつこうと下から跳び上がってきた。

そのオウガテイルの先には予想外の出来事に固まっているナナがいる。このままだと頭をバックりと行かれてしまう。

 

 

<エリック上だ!

 

 

なんか変な電波を受信した気もするがそれをさっさと頭の片隅に追いやり、ナナをかばうように前に出る。そして、神機を素早く銃形態へと変えてこちらに喰らいつこうとするオウガテイルの口に神機を突き刺した。

 

 

「グボガッ!?」

 

 

口に刺さった神機の所為で苦しそうなオウガテイルを無視し俺は引き金を引く。

すると、オウガテイルの頭は綺麗に爆散し、残った胴体がぐしゃりと音を立てて地面に落ちた。

 

 

「ふっ、なかなかやるな。新入り」

 

 

「誰のおかげでこうなったと思っているんですか」

 

 

「訓練の賜物だな」

 

 

「ドヤ顔してんじゃねーよ」

 

 

ナナとここに来る前に話した内容とオウガテイルがこちらに襲ってきたせいで少々気が立っていたため思わず素で返してしまう。

しかし、今の俺にそんなん事を気にする余裕はなく口調を改めないまま、下に見えるオウガテイルを指さして言った。

 

 

「隊長、あれら駆逐してきていいですか?」

 

 

「本来なら、新人を一人で行かせることはNGなんだが……俺も、近くにいることだしより実践的な訓練になるか。……よし、許可しよう。徹底的に潰せ」

 

 

「了解しました」

 

 

許可をもらった俺はすでに下にたまっていた二匹のオウガテイルのうちの一匹に向かって跳び降りる。それと同時に神機を捕食モードに切り替え、オウガテイルと接触した瞬間に捕食する。捕食されたオウガテイルは丁度コアがあった場所を喰われたのかそのまま起き上がることはなく地面に溶けるように消えていった。

 

 

「グルアァァァァアアアアア!!」

 

 

最後に残ったオウガテイルが咆哮をすると同時にこの近くにいたらしいオウガテイルが集まってくる。

それを見て俺は自然と口の端っこが吊り上るのを感じた。そして、それに伴い体の芯から熱いものが込み上げてくる。

 

 

なんか自分が自分じゃなくなってきている気もするが、今はいいや。

とりあえず、こいつらはここで殺そう。

きっと、そうもう一人の僕が言っているんだろう、パズルとか完成させた覚えないけど。

 

 

 

 

最終的に、十体にまで膨れ上がったオウガテイルを視界に納めながら俺は自分でも信じられないほど生き生きとオウガテイル達に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 




あれ、主人公ってこんな奴だっけ?


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第五話

ナナちゃんのキャラ崩壊注意


仁慈がジュリウス隊長の許可をもらって勢いよく飛び出していく。そして、空中で神機をプレデターフォームにするとすぐ下にいたオウガテイルを一撃で倒しもう一体のオウガテイルに向き直っていた。一方、残ったオウガテイルは負けじと咆哮を放ち、近くにいる仲間を呼び寄せる。未だ、訓練を終わらせていない神機使いにとっては絶望と言っていいような状況に陥る仁慈。

それでも、彼は恐怖で動けなくなるどころか唇の端を吊り上げてどこか楽しそうな雰囲気すら放ちながらオウガテイルの群れに襲いかかった。

 

同じ新人でもオウガテイルに襲われて動けなくなる私とオウガテイルの群れに果敢に襲いかかる仁慈。何が違うのだろう?どうして私はあそこにいないのだろう?と自問自答をする。

 

 

「ナナ、あまり自分を責めるな。実戦経験のない神機使いならばその反応は正常だ」

 

 

するとジュリウス隊長が私の状態に気が付いたのか励ましの言葉をかけてくれた。

でも―――――

 

 

「なら、仁慈は?」

 

 

私と同じ新人であるにもかかわらずオウガテイル相手に無双している彼はいったいどういう事なのだろうか?

 

 

「俺が育てたからな」

 

 

そんな、ドヤ顔で言われても…。

仁慈の言ってること本当だったかもなー。ジュリウス隊長は確かに天然っぽい。

 

 

「それに、あいつはずっとこんな状況よりも厳しい訓練を積んできた。だから、自分自身とアイツを比べることはない」

 

 

厳しい訓練は自分の意志でしてるわけじゃないって愚痴ってたけどねー。なんか、認識の差が激しいよ。この二人。

でも、そのことを考えると少し体が軽くなった気がする。初めて実際の戦場にもかかわらず複数のオウガテイル相手に大立ち回りしている仁慈も、愚痴や不満を吐き出すちゃんとした人間なんだってそう思えたから。

 

 

「ありがとうございます、ジュリウス隊長!もう大丈夫です!」

 

 

地面に置いておいた神機を担いでそう言う。

仁慈があんなに頑張っているんだもの、私がこんなところでへこたれるわけにはいかないよね!

 

 

「フッ、そうか。…ナナ、俺たち人類の最大の武器は今お前が持っている『強い意志』と仲間との連携、そして戦略だ。それさえ忘れなければアラガミに負けはしない」

 

 

「はい!」

 

 

ジュリウス隊長の言葉を胸に秘めて、私たちは仁慈が戦っている場所に向けて、飛び込んだ。

ってなれば、いい話で終われたんだけど……

 

 

「飛び道具なんかに頼ってんじゃねぇぇ!!」

 

 

急に聞こえてきた仁慈の声に思わずこの方向を見る。するとそこには、オウガテイル達の攻撃を刀身をのばして複数のオウガテイルをまとめて薙ぎ払ったり、プレデターフォームの神機でオウガテイルを持ち上げて別のオウガテイルにぶつけ、銃形態でまとめて打ち抜いたりする仁慈がいた。

 

 

「ジュリウス隊長ー。あの光景にさっき言った人類の最大の武器が使われているようには見えないんですけど…」

 

 

「あいつ、この短期間であそこまでやるようになったか。これは負けていられないな」

 

 

対抗心を持ち始めたッ!?

あーもう、変なとこでかみ合ってるなぁ!この二人!

とりあえず、オウガテイルの方は心配なさそうなので私は仁慈のから逃げている二足歩行のカブトムシのようなアラガミ、ドレッドパイクに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オウガテイルの群れに襲いかかってから五分くらいして、すべてのオウガテイルを文字通り食い荒らした俺はいくらか冷静な状態に戻っていた。それと同時に自分の先程までの状態を思い出し、悶えた。

 

 

は、恥ずかしすぎる……!

声には出していないものの思ったことは中二特有の病気と何ら変わりないじゃないか!

思わず頭に手をついて天を仰ぐ。キョウモイイテンキダナー。

 

 

「おーい、仁慈ー」

 

 

おぉ、この声は最近俺の癒しとなりつつあるナナちゃんの声ではないか!

……まだ、ちょっとおかしいな。このままいったら確実に黒歴史が増えることになる。

何とか通常のテンションを保とうと気を引き締めてナナの声が聞こえる方を向くと、ブーストハンマーのブーストをふかしながらこちらに急接近するナナがいた。って、

 

 

「あぶねぇ!」

 

 

ナナのやつそのままハンマーを思いっきり俺の顔面に向かって振りぬきやがった。

いや、おかしいだろ。もし当たったら俺の顔つぶれたトマトみたいになるぞ。

 

 

「あーあ、外しちゃったか……」

 

 

「外しちゃったかじゃねーよ。いったい何が原因でこんな暴挙に出やがった」

 

 

なんかこの子黒くなってるんだけど。俺の所為じゃないよね?違うよね?

 

 

「仁慈が暴走するからー、何度かアラガミと一緒に切られそうになったんだよー」

 

 

「マジすいませんでした」

 

 

咬刃展開状態は仲間がいるときは使わないでおこう。アラガミと一緒に仲間も両断しましたなんてシャレにならない。

 

 

「そちらも無事に終わったようだな」

 

 

内心己の武器の意外な弊害が明らかになり、少し沈んでいるとナナより少し遅れてジュリウス隊長が神機を上げながら近づいてきた。

今更ながらあんな重そうな神機を片手で持ち上げるとか神機使いおかしいよな。

人のこと全く言えないけど。

 

 

「お疲れ様です。ジュリウス隊長」

 

 

「あぁ、そっちこそお疲れ様。初めての実地訓練とは思えないくらいの立ち回りだった。日ごろの訓練の成果……つまり、俺のおかげだな」

 

 

「それはもうわかりましたよ。どんだけ推してくるんですか」

 

 

「仁慈が戦っているときも言ってたねー」

 

 

マジか。

もしかして弟子的な人である俺の成長を嬉しく思いすぎてちょくちょく自慢げに言ってくるとかそういう理由か?

いや、これはさすがに自意識過剰か。まぁ、いいか。それよりも、

 

 

「これで任務完了ですかね?」

 

 

「あぁ、今回の任務はこれで―――――」

 

 

『連絡班より報告。周囲に新たなアラガミの反応が複数見られます』

 

 

これより帰還、という雰囲気が出てきたと思ったら急にフランさんからそのような報告が無線から聞こえてきた。

 

 

「種類は?」

 

 

『オウガテイルと思われます』

 

 

フランさんが種類を言うのとほぼ同時に目の前の空間に黒い煙のようなものが集まりやがてオウガテイルの形となった。オウガテイル先輩今日は大活躍っすね!

 

 

「ちょうどいいな。今からお前たちにこれから目覚めるであろう『血の力』を見せてやろう」

 

 

言って、神機を正眼に構えるジュリウス隊長。

すると俺とナナの体が一瞬だけ光り、その後アラガミを捕食した時のバースト状態に近い状態になった。

 

 

「今から対象に向けてブラッドアーツを放つ。少し下がっていろ」

 

 

「ブラッドアーツ?」

 

 

ナナと同じく首を捻る俺。

血の力は聞いた気がするけど、ブラッドアーツは初めて聞く気がする。

 

 

「戦況を覆す大いなる力……。戦いの中で進化し続ける、刻まれた血のなせる業……とまぁ、難しく言っているが簡単に言えばブラッドが使える必殺技だと思えばいい」

 

 

「一気にしょぼくなりましたね」

 

 

なんか簡単に必殺技って使うと逆に強くなく思えるんだよね。俺だけかな?

くだらないことに思考を割いているとジュリウス隊長は神機を居合のようにして構えた。そして、

 

 

「―――――――――――ハァアアア……ッ!」

 

 

キィン!と甲高い音とともにジュリウス隊長の体が一瞬だけ光る。すると、次の瞬間にはオウガテイルの群れを通り越しオウガテイル達の背後を取っていた。

オウガテイルには無数の切り傷が付いており、すぐに地面に沈んでいった。

な、何が起きたのかさっぱりわからなかった……なんなんだ、これは。ジュリウス隊長はイアイ・ジツの使い手だったというのか。

 

 

「これがブラッドアーツだ。俺たちの中に眠る血の力とブラッドアーツをどう使い、どう生かしていくかはすべてお前達の意思次第だ。いいな?」

 

 

中二病が加速しそうな能力だな。ブラッドアーツ。

ジュリウス隊長の言葉に神妙にうなずくナナの隣で、そんなことを考えている俺なのだった。

 

 




早くも話が迷走している気がする


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第六話

実はGOD EATER2のなかで一番好きだったのはラケル先生です。
しかし、彼女の心情がいまいち分からなかったので、第三者視点となっております。
そしていつもの如くキャラ崩壊注意。



「実地訓練お疲れ様でした。今回の件であなたは本格的な任務を受けることができるようになりました。おめでとうございます、私も自分のことのように嬉しいです」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

実地訓練を終えてフライアに戻った俺にフランさんが労りの言葉をかけてくる。

それがとてつもなく有難い。うちの隊長も見習ってほしいね。

……初めて会った時はあんな人じゃなかったんだけどなぁ。

 

 

「それと、ラケル博士が仁慈さんの事を呼んでいましたよ。後で研究室に来てほしいそうです」

 

 

「え゛!?」

 

 

思わず変な声が出てしまったがそんなことを気にしている場合じゃなかった。あのラケル博士が名指しで俺を呼んでいるだと?

あの人のこと苦手なんだけどなぁ…。あの、含みのある笑顔とか超怖い。美人なぶんより一層怖い。綺麗な花には棘があるっていうけどあの人の場合棘に致死量の毒と感染力が半端ない細菌とか塗ってありそう。

 

 

「それって俺だけですか?ブラッドの皆とかじゃなくて」

 

 

「はい、そうです」

 

 

oh…最後の望みは絶たれた。せめてレベル上げ位させてほしかったぜ…。

もう完全にラケル博士をラスボス扱いしている俺だが、本気で怖いんです。

 

 

「はは…は、分かりました。……行ってきます」

 

 

自分でもわかるくらいに暗い声でフランさんに別れを告げラケル博士の研究室がある三階に行くためにフライアの中にあるエレベーターに乗り込んだ。

 

 

エレベーターを降りるとなかなかにでかい扉が見えてきた。

此処こそが、我が天敵ラケル・クラウディウス博士の研究所である。

はぁ、辿り着いてしまった……。思わず気分が「がくっと さがった!」状態になってしまうものの、ここでずっと棒立ちしているわけにはいかないので、意を決して扉を叩く。

 

「ラケル博士。仁慈ですが、入ってもよろしいでしょうか?」

 

 

「どうぞ、入ってください」

 

 

失礼しますと一言入れてからラケル博士の研究室のドアを開ける。

俺が中に入ると巨大なモニターをいじっていたラケル博士が表示してあるデータや映像を消してこちらに振り向く。

思わず、向けられた視線に身震いした。

 

 

「よく来ましたね、仁慈。あなたのことはジュリウスから聞いています。よく頑張りましたね」

 

 

カラカラカラと車いすが移動する。すると当然それに乗っているラケル博士も一緒に移動してくるわけで……。

まぁ、何が言いたいのかと言うと、恐怖のあまり金縛りにあったかのように体が動かなくなってしまった。

我ながら情けないな。

 

 

「もしかしたら、貴方が『血の力』に目覚める時もそう遠くないのかもしれませんね」

 

 

ちかいちかいちかいちかい!

ラケル博士、これ以上ないくらいに近いんですけど!貴女の乗っている車いすが俺の脛にダイレクトアタックをかましているんですけど!?

 

 

内心大パニックだった俺だが何とかそれを表に出さないように一生懸命気を張る。

そのことがばれてしまったのかは定かではないが下から俺の顔を覗き込んでいるラケル博士はフフッと笑ってから口を開いた。

 

 

「貴方のこれからの成長を楽しみにしていますよ」

 

 

その直後、ラケル博士はもう用は済んだとばかりに車いすを回転させ再び巨大なモニターに何かを打ち込み始めた。

その様子を見て話しは終わったことを悟った俺は失礼しましたと言い残し、足早にラケル先生の研究室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仁慈が研究室から出て行ったあと、ラケルは仁慈がいた時よりもさらに速いスピードでモニターに向かって何かを打ち込み始める。

数十秒もしないうちにモニターには先程消した映像やデータが再びモニターに表示される。そこに表示されていたのは、主に樫原仁慈の情報であった。

 

 

「あぁ…いい、いいですよ。仁慈」

 

 

その中でラケルは彼が行った神機適合試験の様子を見つつ、その整った顔の頬に手を添える。俗にいう恍惚のヤンデレポーズである。

 

        

「やはりあなたはそうでなくてはいけません。そうでなくては貴方ではない。いったい今までどこに居たのかはわかりませんが……それはもういいでしょう。こうして何も変わらないまま私のもとに戻ってきてくれたのですから。……フフッ」

 

 

言うと、モニターの画面は切り替わり、ジュリウスが仁慈に対して行っていた1VS100の耐久マッチの映像が流れだす。

 

 

『ジュリウス隊長!後何匹残っているんですか!?』

 

 

『三十だ』

 

 

『よしっ!あともう少し!』

 

 

『しかし、このままやっては結果は見えてしまっている。だから、残りの三十匹をすべて出現させようと思う』

 

 

『正気ですかあーた!?こんなところで三十匹も出したら動けなくなるでしょう!?』

 

 

『壁際に追い詰められたという想定で行けばいいだろう。ちなみに、俺はできるぞ』

 

 

『新人とベテランを一緒にするなってんですよぉぉおぉおおおお!!!』

 

 

本当に自分の周囲いっぱいに現れたダミーアラガミを見て仁慈は殆ど悲鳴に近い叫びを上げながらヴァリアントサイズを咬刃展開状態に変化させ一振りする。

逃げ場がないくらいに密集しているため、結構な数のダミーアラガミがその形を崩していく。

 

 

神機を振り切り、咬刃展開によって変わった重心の変化により仁慈の態勢が少しだけ崩れてしまう。

それをチャンスだと思ったのか、仁慈の背後にいる一体のダミーアラガミが飛びかかる。しかし、すぐさま振り向き捕食状態で待機させられていた神機に頭を喰いちぎられた。

 

 

『はい次ぃぃぃいいいいいい!!』

 

 

こんな調子で次々と四方八方から襲い来るアラガミを薙ぎ払っている仁慈の映像を見てラケルはより一層笑みを深めるのであった。

 

 

 

 

 




うちのジュリウスさんがなんかすごくはじけている気がする


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第七話

テスト中なのに我ながら何をしているのだろうか…。


「おぉ、ここが嘆きの平原かぁー」

 

 

「フランさんの言ってた通りかなりでかい竜巻があるのな」

 

 

ラケル博士との対話と言う名のラスボス戦を乗り越えた俺は、凍る背筋をスルーして上機嫌でベットに入った。

 

 

で、現在。

実地訓練とその他もろもろの疲れを回復した俺はフランさんから来ていたと言われた任務に来ていた。

その内容は、嘆きの平原に現れた小型アラガミの殲滅。実地訓練を終えたばかりの新人には妥当と言える内容だ。

始めはヴァリアントサイズで任務を受けることを考えてソロで行こうと思ったらフランさんに止められた。

 

 

彼女曰く“実地訓練を終えたばかりで一人とか馬鹿ですか”とのこと。

正論過ぎて何も言い返せなかった。

仕方がないのでその時暇そうにしていたナナを誘い、神機の刀身を変えてこの嘆きの平原に来たのである。

 

 

「ねぇ、仁慈。倒すアラガミってなんだっけ?」

 

 

「コクーンメイデンを含めた小型アラガミ複数」

 

 

「つまり出てくる奴を全員ブッ倒せばいいんだね!」

 

 

「人の話聞いてた?」

 

 

間違ってないけどさ。その捉え方はどうよ。

眩しい笑顔が発言の物騒さと怖さをさらに引き立てるんですけど……。

 

どうしてこうなったのか。アラガミを前にすると性格が変わるのかしら?

 

 

「それだけは仁慈に言われたくないなー」

 

 

ぐぅ正論。

実地訓練であれだけの黒歴史を晒した俺が言えることじゃあなかったね。

ホントあの事を思い出すたびに後悔の念が押し寄せてくるぜ。

 

 

『各班配置につきました。いつでも始めてください』

 

 

お仕事を始める前からモチベーションを下げていると耳にある通信機からフランさんの声が聞こえてくる。

どうやら準備が整ったらしい。

俺はナナとお互いに頷き合ってから、座り込んでいた高台から跳び下りた。

 

 

お仕事始めましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『目標のアラガミの討伐を確認しました。新人とは思えない速さですね、さすがです』

 

 

フッ、たわいなし。

地獄の訓練を乗り越えてきた俺には、このだだっ広い場所で小型の討伐など鼻歌を歌いながらでもできるわ!

 

 

「で、ナナさんは一体全体どうしたんです?」

 

 

そう俺が問いかける方向には神機を杖の代わりにして体を震わせながら何とか立っているナナがいる。

ナナはハァハァと荒い息を吐きつつも何とか言葉を紡ぐ。

 

 

「仁慈が…頑張って、るから。負けて、られないと…思って。ブースト…ふかしまくったら、こうなった」

 

 

「バカだ」

 

 

一番初めの訓練でジュリウス隊長に言われなかったっけ?スタミナ切れは死を招くって。実際、やられかけてたし。

 

 

「フゥー……仁慈がおかしいんだよー。いや、本当に。神機を投げるなんて控えめに言って頭おかしいと思うなー」

 

 

続けて、「貫け、俺のグングニール!」って何さとナナが呟く。

 

 

全然控えてないんですがそれは…。

神機投擲については仕方ないと思うんだよね。銃形態にするには時間がなかったし、早くしないとやられてたんはナナの方なんだぜ?

 

 

「神機がすぐ隣に刺さった恐怖感を教えてあげてもいいんだよ?」

 

 

「ちょっと待てウェイト。わかった、俺が悪かった。フライアに戻ったらおでんパンの量産作業を手伝ってあげるからその振り上げた神機をゆっくりと下すんだ」

 

 

ゆっくりと神機を置くナナを見て一息つく。

最近乱暴性が増してきたな。あのであった当初の純粋だった頃のナナはどこに行ったのやら。

 

 

「仁慈に穢されたー」

 

 

「人聞きの悪いこと言わないでもらえます?」

 

 

最近フランさんに「貴方が来てからジュリウス隊長の様子が変なんですよね」って言われたんだぞ。シャレにならんからやめろ。

後、こいつの言っていることデタラメなんで、ナナだけ連れてフライアに帰らないでもらえませんか?

 

 

……おい、待て。本気でおいてこうとするな。

ねぇ、ちょっと。待って、マジで。

おい車出すな走り始めるな俺を置いていくな!冗談じゃねーぞ!?

俺の叫びも虚しく、走り去っていく車。

その後姿を呆然と見送る。

 

 

「ふ、フフフフウフフ」

 

 

思わず笑いがこみあげてくる。

久しぶりですよ……こんなに俺を怒らせた人は……。

 

 

「フランさん。少々、帰還が遅れることになりそうですが、構いませんよね」

 

 

『……事情はたった今、ナナさんから承りました。護送班にはこちらからよく言い聞かせます。申し訳ありませんが、代わりの迎えが到着するまでしばらくお待ちください』

 

 

「謝る必要はありませんよ」

 

 

ここで言葉を切ると周辺に再び現れたアラガミ達を一瞥する。

 

 

「実はさっきの任務だけじゃあこの新しい刀身であるチャージスピアの具合がいまいちよくわかんなかったんですよ。なので、新しく出てきたサンドバック(アラガミ)に八つ当たりと調整を兼ねて相手をしてもらうので、どうぞごゆっくり」

 

 

ブツンと通信機を切った俺は先程よりもさらに増えたアラガミ達に神機を向ける。

本当に神機使いになってからこんな展開ばっかだが、今日だけは許してやろう。

 

 

「ヒャッハー!自棄喰いじゃあ!!」

 

 

世紀末な奇声を上げながら俺はもはやお馴染みとなりつつあるアラガミ、オウガテイルの顔面にチャージスピアを突き刺しに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛ー……疲れた」

 

 

やっとフライアに帰ってくることができたため、その安心感からついつい声にだしてぐったりとしてしまう。ちなみに場所はロビー。

今更自分で言うのもなんだが、大分肝が据わってきたな。

 

 

「ねぇ、仁慈」

 

 

だらーんとロビーにあるソファーでたれていると、いつの間にか隣に座っていたナナがどこか不安げな表情を浮かべつつ、こちらの顔を覗き込んで話しかけてきた。

 

 

「なーにー」

 

 

「えーと……その、ごめん…ね?私が言った冗談のせいで仁慈を置いていくような事になっちゃって……」

 

 

「あーそのことかー」

 

 

別に怒ってないけどね。

フランさんが通信したとき、もうナナの方から状況は教えてもらったとか言ってたし別に気にしてないんだけどなぁ。

チラリとナナの表情を盗み見てみると、いつもの笑顔はなりを潜め、らしくもない暗い表情を浮かべていた。

 

まったく、何て表情(かお)してるんだか。

 

俺はたれていた姿勢を持ち上げて、普通に座るとナナの頭を軽く撫でながら言った。

 

 

「今回のことは別に気にしてないよ。フランさんからもナナが連絡したことを聞いたし、意図してやってないことはちゃんとわかってるから」

 

 

「………うん、ありがと」

 

 

するとナナは呟くように答えてからにぱっと笑った。

うん、やっぱナナは笑顔の方がいいよね。

 

 

「えへへ~仁慈撫でるの上手いねー」

 

 

「ちょ、おまっ、すり寄ってくんなよ。自分の服装考えろ」

 

 

「えー?そんなこと考えてるの?仁慈の変態ー」

 

 

「すげぇブーメラン投げるな、お前」

 

 

こんな感じでその日はずっとナナと一緒に話し合って終わってしまった。

途中になんか白いワンピース来た女の人が通りかかってロミオ先輩がうるさかったのだが、話に夢中で全く気が付いていなかった。

 




なんか、変なところでシリアスしてナナさんがヒロインのようになってしまった。
そして仁慈君にスルーされるユノェ……。


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第八話

誤って製作途中の物を上げてしまいました。申し訳ございません。



「うーん、やっぱりなんか違うんだよなぁ」

 

 

樫原仁慈のポイ捨事件(俺命名)からまたまた数日後、俺はフライアの訓練場でチャージスピアをダミーアラガミ相手に振るっていた。

ヴァリアントサイズが使えれば早いんだけど、新人の俺がソロで任務なんて許可してもらえるはずもない。と言うか実際されなかった。

そうなると自然と複数人で任務を受けるしかないわけで……こうして、任務じゃない時間を使って周りをなるべく巻き込まない刀身の使い方を練習している、んだけど。

結果はあまりよろしくない。

これでも、ショートやロングなどのほかの刀身に比べたら断然扱いやすいんだけどなぁ。だからこそ、この前置き去りにされた時もアラガミを倒せたんだし。

 

 

「ん?どうした、仁慈。浮かない顔をしているな」

 

 

「ジュリウス隊長?」

 

 

うんうんと悩みながら今日のノルマをこなしにロビーに向かっていると同じくロビーに向かおうとしているであろうジュリウス隊長と会った。

 

 

「何か困っていることがあれば言ってくれ。何でも答えてやろう」

 

 

おぉ、久しぶりにジュリウス隊長が頼もしく見える!

 

 

「実はヴァリアントサイズは仲間を巻き込むとナナに言われたので、巻き込まないような刀身を選んで振ってみたんですけど……ヴァリアントサイズに比べてなんかしっくりこないんですよね」

 

 

今日はしっかしとしたジュリウス隊長だったので自分が今悩んでいることを正直に話す。

 

 

「簡単なことだ。要するに刀身を使わなければいい」

 

 

「俺にずっと銃形態で戦えと!?」

 

 

新人に要求することじゃねぇ!

 

 

「あの……正気ですか?」

 

 

「フッ、冗談だ」

 

 

「真面目に答えてください」

 

 

アンタの冗談は顔に出ないからわかりにくいんだよ!?

 

 

「なら、実地訓練の時と同じように仲間が周囲にいないところまでアラガミを誘いだし、一網打尽にする。と言うのはどうだろうか」

 

 

「……それは盲点でした」

 

 

なるほど。仲間を巻き込みたくないならそもそも近くに居なければいい、という事か。

いや、しかし……

 

 

「それ、単独任務と何が違うんですか?」

 

 

「新人のお前でもとりあえず同行者がいれば任務を拒否されることはない。その後、自分だけどこかに行こうと現場の判断という事で特に問題視されることはないだろう。……多分」

 

 

「最後の最後で不安を煽る様なことを付け加えるのやめてもらえません?」

 

 

思わず実行したくなくなるじゃないか。

ま、まぁ。このことに関しては保留という事にしておこう。

下手に実行してフランさんから怒られたらいやだし。ナナにもブーストハンマー振るわれそうだし。

 

 

「やっぱり、しばらくはこの刀身で頑張ってみることにします」

 

 

「賢明だな」

 

 

俺の出した答えに頷くジュリウス隊長。

じゃあ、なんでさっきあんなこと言ったの?俺を貶めるつもりだったの?

 

 

「どうした?」

 

 

いや、違うな。

きっとさっきのもこの人なりの冗談だったんだろう。

今だってよくわからなさそうに首をかしげてるし。

しかし、この反応を見ると初めに会ったころ抱いたボッチ説が現実味を帯びてきたな。

 

 

ジュリウス隊長の青春時代の予想をしながら歩いているといつの間にやらフライアのロビーについていたようで、見覚えのあるカウンターが見えてくる……と、同時に見覚えのない帽子と見覚えのあるニット帽が何やらもめているようだった。

 

 

あ、ニット帽(ロミオ先輩)が吹っ飛ばされた。

 

 

「……状況を説明してほしいな」

 

 

「ちょっと……よくわかんなくて……」

 

 

ジュリウス隊長の簡潔な質問にナナも少し戸惑ったように答える。

 

 

「こいつの前居たところとか聞いただけだよ!そうしたら、急に殴りかかってきて……」

 

 

ロミオ先輩多分それですよ、原因。

人間何が地雷になるかわかったもんじゃないからね。仕方ないね。

 

 

「アンタが隊長か。俺はギルバート・マクレイン、ギルでいい。このクソガキがムカついたから殴った、それだけだ。懲罰房でも除隊でも好きにしてくれ」

 

 

そう言い残してどこかに行く見覚えのない帽子改めギルバートさん。その後ろ姿を見送っていると再びロミオ先輩が口を開いた。

 

 

「あいつ、短気すぎるよ。そりゃ…俺もちょっとしつこく聞きすぎたかもしれないけどさ」

 

 

「暴力はよくないよねー。先輩もちょっといじりすぎかもしれなかったけどさー」

 

 

「軽く言った方が早く打ち解けられるじゃん!」

 

 

「人にもよると思いますよ?実際、俺軽すぎるノリは嫌いですし。ロミオ先輩ってなんか思っている以上に軽いんですよね」

 

 

「……あれ?俺、さり気なくディスられてる?」

 

 

「あ、わかるわかる!なんていうかこう……チャラチャラしてるって感じ?」

 

 

「追撃入った!?」

 

 

立ち上がろうとしていたロミオ先輩が俺とナナの口撃をくらい再び地面に伏せる。

おぉロミオよ、死んでしまうとは情けない。

 

 

「……今回の件は不問とする。ただし、戦場に私情を挟まないよう関係を修復しておくように」

 

 

「えー無理無理絶対無理!」

 

 

「お前たちもサポートしてやってくれ」

 

 

駄々をこねるロミオ先輩を華麗にスルーして、ジュリウス隊長がこの場を離れていった。

あの人、意識しているかはわからないがさりげなく面倒事を押し付けていきやがった…。

 

 

「無理だってー!、あんな暴力ゴリラとなんかやってらんないよ……」

 

 

ポロリとロミオ先輩が呟く。

 

 

「正直こちらとしては、ロミオ先輩の心情とかどうでもいいんでさっさと謝ってきてください」

 

 

「いやいや、こういうことは時間を置いた方がいいんだよ」

 

 

「つべこべ言ってないで早く言ってきてくれません?じゃないとこれからロミオ先輩のことニット帽って呼びますよ?それが嫌なら早く謝ってきてくださいよニット帽」

 

 

「早速言ってんじゃん!」

 

 

「はよいけ」

 

 

「理不尽!?」

 

 

しっし、と手を払うとロミオ先輩は若干涙目ながらもギルバートさんを探しにロビーを走って出て行った。

すると近くで事の成り行きをずっと見ていたナナが話しかけてきた。

 

 

「大丈夫なの?ついさっき喧嘩したばっかりの二人をそのまま会わせてさ」

 

 

「任務に支障が出ないようにってジュリウス隊長も言ってたでしょ?神機使いの仕事なんて腐るほどあるんだから早めに仲直りしてもらわないと困る」

 

 

「でも、さらに拗れちゃうかもよ?」

 

 

「問題ないよ。殴った後のギルバートさんの顔を隠す前に見たんだけどいかにもやっちまったーって表情してたし、ロミオ先輩も自分の言い方なんかを反省してたしね」

 

 

「……そっか。じゃあ、二人が帰ってきたとき用のおでんパンを用意しようではないか仁慈君!」

 

 

「なんでさ」

 

 

「皆でおでんパンを食べて、仲良くなるんだよ。おでんパンには…その力があるっ!」

 

 

「おでんパンすげー」

 

 

ぐいぐいとナナに腕を引っ張られつつ俺はおでんパンの製造のためにロビーから出ていくのだった。

 

 

 

そして余談だがこの後帰ってきたロミオ先輩とギルバートさんにおでんパンを上げたらギルバートさんの表情も和らぎ、本当に仲良くなれた。

…侮りがたし、おでんパン。

 

 

 



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第九話

本当に話が進まない。
そろそろボスに出張してもらうしかないかな……。


さて、新たに加わったギルバートさんとおでんパンパーティーを繰り広げお互いに友情を深め合ったブラッド(ジュリウス隊長以外)。

本当はもっと親睦を深め合いたかったんだが、唯一アラガミを倒せる神機使いにそんな時間はなく、フランさんから直々に任務がありますと報告された。

 

 

今更ながらすげぇブラックだよな、フェンリル。

世界観が世紀末だからしかないのかもしれないけど。

 

 

で、フランさんの話を聞いて、ロビーに行ってみれば別の支部から援軍が来ていてそれと合流するための任務らしい。

援軍なんて必要なほど切羽詰まっていたかな?と疑問に思いつつも任務を受注し、ついさっき友情を深め合ったギルバートさんとロミオ先輩を引き連れて指定された場所へと向かう。

 

 

この内容だと何となく遊びの待ち合わせのような感じだが、神機使いの任務がそんな平和的なもので終わるわけもなく、案の定進路上に無数のアラガミが出現する。

 

 

「今日は珍しく戦わずに終わるかと思ったのに……」

 

 

「いや、それはないでしょ」

 

 

ロミオ先輩と軽口をたたきながら目の前に生えてきたナイトホロウの目玉を一突きにし、その後刺した状態のままで捕食をする。

捕食したことによりバースト状態となった俺は、即座に走り出し近くで固まっていたドレットパイクを纏めて薙ぎ払った。

 

 

「…なかなかやるじゃねえか。確かお前さん、つい最近神機使いになったんだろ?」

 

 

「そうですよ、大体一か月くらい前ですね。神機使いになったのは」

 

 

そう考えると頭おかしいと思う。

成人していない子どもをたったの一か月で戦場に出すなんて、正気の沙汰とは思えないよね。

慣れちゃった俺もあれだけどさ。

 

 

「そうなんだよね。こいつが神機使いになったのってホントに最近なんだけど……受けていた訓練がアレだったからさ。本人もこの短期間でアレな感じに……」

 

 

「解せぬ」

 

 

今さっき自分で認めたけどさぁ。

他人に言われるとこう、なんというか……心に来るよね。

 

 

「最近ではアラガミに神機とかブン投げたんでしょ?」

 

 

「……神機使い歴はそこそこ長いが、神機投げる奴は初めて聞いたな」

 

 

まぁ、普通だったらアラガミに唯一対抗できる武器である神機を投擲する奴なんていないだろう。しかし、あの時はナナを助けるために仕方なかったし、なによりロミオ先輩が言った通り受けた訓練が普通じゃなかったからなぁ。

こうでもしないと生き残ることができなかったんだよ……だから、俺は悪くねぇ!

 

 

「ま、まぁ。この話は一旦隅に置いておこう。ほら!今は一応戦闘中だからさ」

 

 

「もう終わりましたけど?」

 

 

「えっ」

 

 

「えっ」

 

 

「なにそれこわい」

 

 

グルンと頭だけでこちらの方を向いたロミオ先輩が言う。

俺的には先輩の方が怖いんですけど、ゾンビみたいで。

 

 

「いったい、いつの間に……」

 

 

「こう、話している途中銃形態でばーっと」

 

 

無意識のうちにアラガミを殺せるようにジュリウス隊長の訓練で仕込まれている俺に隙はなかった。

やっぱり、ジュリウス隊長は部下思いだぜ!(白目)

 

 

 

「……おいロミオ、こいつ本当に新人か?」

 

 

「そうだよ。……多分な」

 

 

「信じられないんだが……」

 

 

「言うな、言ってはダメだ。ギル」

 

 

俺が軽くトリップしている間にロミオ先輩とギルバートさんはこそこそと小声で話し合っていた。

仲が良くて何よりです。

 

 

と、色々とあったが無事に合流地点へとたどり着いた。

けれどもここで問題発生。

いくら周囲を見渡してみても援軍どころか人っ子一人いやしなかった。アラガミなら結構いたけど。

仕方ない、困ったときのフランさんだ。

 

 

「すいません。フランさん、合流地点に来ましたが援軍どころか人っ子一人見当たりません。……相も変わらずアラガミならその辺でお食事パーティーを繰り広げていますが」

 

 

『…それはおかしいですね。少々お待ちください』

 

 

左耳につけている通信機からカタカタとフランさんが、援軍について調べている音が聞こえ、何もつけていない右耳からはダッダッダとアラガミの足音が聞こえてきた。この音は……また、オウガテイルか。しかも二体分。

……空気読めよ。そこは普通に返事を聞くパターンでしょうが。

 

 

「ロミオ先輩、ギルさん。処理お願いできますか?」

 

 

「まかせろ」

 

 

「おっけー!」

 

 

神機を構え、オウガテイルに二人が向かった瞬間フランさんから通信が来た。

 

 

『……仁慈さん。どうやら援軍は先に護送班と合流したそうで、既にフライアに向かっているそうです』

 

 

「なんですと?」

 

 

それが事実なら俺らがここに来る意味が全くないじゃないか。

て言うか、先に護送班と合流してフライアに向かうなんて大丈夫なのか?援軍として。

 

 

「フランさん。その人援軍じゃなくて迷子とかじゃないんですか?」

 

 

『……それは私にはわかりかねますね。上の方からも詳しい話は伺ておりません。しかし、神機使いたちの最前線である極東支部からの援護とのことなので、実力は申し分ないと思われます。なんにせよ、もうその場にいる理由はなくなりました。軽く周囲のアラガミを駆逐したのち、フライアに帰還してください』

 

 

その言葉を最後にフランさんとの通信が切れる。

それと同時に、ロミオ先輩が相手をしているオウガテイルの尾から発射された棘が流れ弾としてなぜか俺の方に飛んできた。

なので、たまたま近くで捕食をしていたドレットパイクを捕食形態で捕まえ、飛来してきた棘の盾にする。

そして、仕上げに苦しんでいるドレットパイクのコアを捕食した。

 

 

「ロミオ先輩、ギルバートさん。援軍の方、先にフライアに行っちゃったみたいなのでさっさとこいつ等倒して帰りましょう」

 

 

「さっきのアクションに対して何の反応もないのか…」

 

 

「ギル、ついさっき学習しただろ。コイツに常識は通用しないんだよ」

 

 

ジュリウス隊長の訓練に常識は通用しねぇ。

まともに相手をしたらあっという間に圧死endを向かえるからな。

 

 

「まぁ、そんなことはどうだっていいんです。重要なことじゃない。今はさっさとアラガミを駆逐して、先にフライアへ行ってしまった援軍(仮)の顔を確認しに行きましょうよ」

 

 

「……そうだな」

 

 

「何事も諦めが肝心だよな!」

 

 

なんか変な妥協のされ方をされた気もするがそこは気にせず、この後無茶苦茶アラガミを駆逐した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライアよ、私は帰ってきた!

 

 

……はい、と言うわけで帰ってきました。

ロミオ先輩は何やら用事があるとのことなどで途中で別れ今はギルバートさんと歩いている最中です。

 

 

「ギルバートさん、今度チャージスピアの使い方教えてくれませんか?」

 

 

「ギルでいいぞ。別にかまわないが……お前はお前で独自の道を爆走してるからな……。教えるのは構わないが、参考程度にしろ。無理矢理使い方を変えるとかえって悪くなることがあるからな」

 

 

「やっぱり、そうなりますよねぇ」

 

 

普通であれば、一か月かそこらで戦闘スタイルの確立なんてできるわけがないからそのままギルさんの教えを元に戦闘スタイルを作っていけばいいんだけど……俺のは訓練が濃密すぎてすでに戦闘スタイルが確立しているんだよねぇ。

本来の刀身もヴァリアントサイズだし。

 

 

あーでもないこーでもないと色々話し合っていると、

 

 

「君たちが、噂のブラッドかな」

 

 

目の前に貴族のような恰好をした金髪の青年が現れた。

 

 

どうする?

 

 

 

>そっとしておこう

 

 

 

「まてまてまてまて待ちたまえ!君たちに言っているんだよ!」

 

 

しかし にげられなかった!

 

 

ちっ、なんかめんどくさそうだったからスルーしようと思ったんだがダメか。

仕方がないので、渋々と言った感じで反応を返す。

 

 

「はぁ、そうですか。……それで、貴方はいったいどちら様です?」

 

 

「おっと、これは失礼した。僕はエミール……栄えある極東支部第一部隊所属!エミール・フォン・シュトラスブルクだッ!!」

 

 

「お、おう」

 

 

「……そうか、よろしくな」

 

 

勢いのよい自己紹介に戸惑い気味と言うか、若干引いている様子のギルさん。

そうなる気持ちはよくわかる。

 

 

「このフライアは趣があっていい船だね。しかし――――――」

 

 

エミールさんは俺たちが返事を返した後、勝手に自分のことを話し始めた。

なんか、色々大袈裟だったけれど要約するなら、フライアの周りにアラガミが来たから助けに来たぜ!という事らしい。

本当かどうかは知らんが。

 

 

彼は最後に我々の勝利は約束されているー!と言い残し去っていった。

 

 

「……ややこしいのが増えたな」

 

 

帽子のつばをいじりながらぼそりと呟くギルさん。

確かに、あのキャラはいろいろ濃すぎる。変な問題を起こさなきゃいいけど。

もし、何かあったときはおでんパンでも突っ込んどけばいいか。

 



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第十話

今回はギルさんの視点が入ります。
つまり、キャラ崩壊注意です。


貴族のような恰好をした珍妙な神機使いであるエミールさんと会った翌日、俺はフライアのカウンターにてエミールさんのことについて聞いてみていた。相手はもちろんフランさんである。

 

 

昨日の通信ではわからないと言っていたけど、真面目な彼女の事だしどうして合流地点に来なかったのかと言う点を含めて色々調べたのではないかと予想したためである。

オペレーターの誤報は神機使いの命に関わることだし。

それに別のフライア職員は怯えて逃げるから話聞けないしねっ!

 

 

「フランさん、あの援軍の人についてなにかわかりました?」

 

 

「……何故それを私に訊くのですか?」

 

 

「もちろん俺が聞けるのはフランさんしかいないからですよ。それに、貴女は真面目だからしっかりと正しい情報を調べようとすると思ったので、こうして訊いています」

 

 

「……………エミールさんについては極東支部から来た援軍であることは間違いありません

。実際、フライアの進行する予定の場所は大量のアラガミが出現しています。合流場所にこれなかったことについてはおそらく迷ったのでしょう」

 

 

「あー……ありそう」

 

 

最初声を掛けられたときはとんでもなくうっとおしく感じたが、話していることは真っ当だった。

なんかアホっぽいし、さらに言うなら無駄な話と動きが多い。

だからこそ、迷子と言うのは納得したわ。いかにもやりそうだもの。

 

 

「じゃあ、一応しっかりとした援軍なんですね」

 

 

「はい。実力に関してはこの後に入っている任務で拝見できるかと」

 

 

「じゃあ、次の任務はエミールさんと同じなんですか?」

 

 

「そうです。仁慈さんだけでなくギルバートさんも同行することになっています。内容はフライアの進行予定の場所に現れたアラガミの殲滅です」

 

 

「わかりました。なら早めに準備しておくことにします」

 

 

フランさんに頭を下げてカウンターから離れて、ターミナルへと向かう。

やることはもちろん刀身の変更である。

援軍が必要なほど大量なアラガミがいるっていうんならこれはもうヴァリアントサイズを使うしかないじゃないか!(歓喜)

俺、わくわくすっぞ!

 

 

どういう原理はさっぱりわからないがターミナルで神機の刀身を変更した俺はそのまま軽い足取りでギルさんとエミールさんを呼びに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妙にテンションの高い仁慈に連れられて俺は今回アラガミを討伐する場所である鉄塔の森と呼ばれる場所に来ていた。

昔は発電所として動いていたらしいが今では地下水があふれてそこらへんが水浸しになってしまっていた。

 

 

「さて、仁慈。なんか作戦みたいなものはあるか?」

 

 

「サーチ&デストロイ。アラガミ死すべし慈悲はない」

 

 

「わかった。つまりノープランなわけだな。……エミールっていったか?アンタは何かあるか」

 

 

「フッ、何が来ようと僕の神機、ポラーシュターンが打ち砕いてくれる」

 

 

「ダメだこいつ等」

 

 

昨日合流したばかりのエミールは話を聞かないし、仁慈は戦闘中だけでなくすでにおかしくなり始めている。

真面目な奴が誰一人としていない、こんなことで大丈夫なのか?

耳に着けたオペレーターの合図を聞きながら俺はそう思った。

 

 

「行くぞ!ポラーシュターン!」

 

 

「ドーモ、アラガミ=サン。ゴッドイーターです。アラガミ死すべし、慈悲はない」

 

 

………やっぱりダメそうだな、これ。

仁慈に至っては変なものインストールしているだろ。

はぁ、と溜息一つ吐いてから神機を構え先行したバカ二人を追いかけようとして、やめた。

 

 

「せいやー!」

 

 

「グアーーー!!」

 

 

なぜなら、目の前でヴァリアントサイズを振り回している仁慈がいるからだ。

少しは仲間のことを考えてくれよ。

 

 

今もすごい笑顔でアラガミを屠っていく仁慈を眺めながら俺は考える。

ロミオやあいつは訓練であの動きを身に付けたと言っていたが……それはどう考えてもおかしい。

戦い方はもちろんのこと、何より戦闘に対する心構えだ。

ロミオから聞いた話では実地訓練の時、怯えていたナナを庇い攻撃をしてきたアラガミの口に神機を突っ込み倒したと言っていた。

初めての実戦でそこまでできる奴は早々いない。ジュリウスとの訓練は一週間とそこいらだと本人からも聞いているし、訓練で度胸まで鍛えたとは考えにくい。

 

 

よほどの才能があるのか、ただのあほなのか、それとも……

もう一度仁慈の方をチラリとみてみる。

 

 

「イヤーーー!!」

 

 

「グアーーー!!」

 

 

……やっぱただのあほだな。

珍妙な掛け声?雄叫び?とともにアラガミを切り捨てた仁慈を見て先程の思考を完全に頭の片隅へと追いやる。

 

 

さてと、余計なことを考えていた時間を取り戻すために俺も行くか。

 

 

仁慈にアラガミと一緒に切られないよう迂回して別の場所にいるであろうアラガミを狩りに行く。

 

 

「騎士道ぉおおおおおおおお!!!」

 

 

此処にはバカがいたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか意識が軽く飛んでた気がする。

ふと周りを見渡してみれば、そこには形が崩れかけているアラガミがそこらへんにごろごろいた。

ヴァリアントサイズを思いっきり振るったからかね。

 

 

『連絡!想定外の中型アラガミがそちらに侵入いたしました!』

 

 

通信機からフランさんの切羽詰まった声が聞こえてくる。

 

 

『種類は?』

 

 

ここでフランさんの言葉にいち早くギルさんが反応した。

さすが、経験が違うね。

 

 

『ウコンバサラです』

 

 

何だっけそいつ。

近年現れたワニみたいなアラガミだった気がする。

 

 

『フフフ、そいつならすでに僕が交戦中だ。故に安心したまえ!こいつは、僕のポラーシュターンの錆にしてくれる!』

 

 

無茶苦茶心配なんですけど。

ギルさんも同じことを考えたのだろう。

エミールさんの言葉にすぐさま言葉を返す。

 

 

『俺たちもそちらに向かう。余裕を見つけて発煙筒を使え』

 

 

ここで一旦通信が切れる。

しかし、何時までたっても発煙筒は上がることがなく、結局自分の力でエミールさんを探すこととなった。

 

 

で、それから十分後。

ギルさんと途中で合流した俺はついにエミールさんを見つけた。

ブッ飛ばされていたけど。

 

 

「グハッ!……な、なかなかやるな。だが今度はこちらの番だぁああああああ!?」

 

 

またぶっ飛ばされた……。

あの人すげぇ頑丈だな。さすが極東出身。

 

 

「グフッ……何という怪力…ッ!しかし、負けるわけにはいかない!必殺、エミールスーパーウルトラアタッ―――どぉあああああ!?……ブロスッ!?」

 

 

「…ったく、一人で突っ走りやがって」

 

 

あまりに見事なやられっぷりにギルさんが戦いに介入しようとするが、次に聞こえてきたエミールさんの言葉に思わず足を止めた。

 

 

「ゴ、ゴットイーターの…戦いは、ただの……戦いではない。絶望の世において、神機使いとは人々の希望の依り代だッ!」

 

 

言葉を発しながらエミールさんはしっかりとした足取りで立ち上がり、神機を構える。

 

 

「正義が勝つから、民は明日を信じッ!正義が負けぬから皆!前を向いて生きるッ!」

 

 

「故に僕は……騎士は……ッ!絶対に倒れるわけにはいかないのだッ!」

 

 

言い終わると同時にウコンバサラがグオォオオオ!と咆えて、エミールさんに向けて突進を繰り出す。

が、エミールさんはそれをジャンプすることで回避し、逆に落ちてくる力を利用し、ウコンバサラの顔に渾身の一撃を叩き込んだ。

ドスンと音をたててウコンバサラは倒れる。

 

 

「バカはバカなりに筋は通ったやつみたいだな」

 

 

「そうですね。バカだけど」

 

 

天に向けて腕を上げ、悔いなし状態のエミールさんを見て俺とギルさんは笑い合い、彼のもとに向かった。

 

 

 

 



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第十一話

今回は戦闘回となっておりますが、あまりうまくかけてはいないと思います。
戦闘難しいです。


 

 

 

 

 

 

「ぐはッ!?」

 

 

俺は腹に強い衝撃を受けたことで大きく後方に吹き飛ばされる。しかも、肺の空気が根こそぎ持っていかれるというおまけつきで。

このままでは確実に次の攻撃を避けれなくなり、死に至る。そう考えた瞬間俺は気合で体を動かし後方二回転して衝撃を弱め、地面に着地する。そしてすぐさま右にステップを踏んだ。

その直後、先程俺が着地した場所には巨大な火の玉が飛来し、爆発する。

 

 

「……あっぶねぇ。もう少し反応が遅れてたら爆発四散するところだった……。ったく、なんでこんな奴がここに居るんだよ」

 

 

今しがた俺のことをブッ飛ばしてくれた白い狼の風貌をしたアラガミに向かって悪態を吐きながら自分の神機を構えなおす。

が、正直戦況はこれ以上ないくらい悪い。

このアラガミその辺の奴とは格が違う。ぶっちゃけ俺のような新人が相手する奴じゃない。こんなの相手できんのはジュリウス隊長とギルさんくらいじゃないだろうか?

はやくきてーはやくきてー。

 

 

「……ッ!」

 

 

目の前の白いアラガミが跳躍し、ガントレットを装備したような腕で俺を潰しにかかる。

多少反応が遅れたがこちらもすぐさまバックステップで回避する。しかし、衝撃までは回避できずごろごろと無様に地面を転がることになった。

 

 

ぜ、絶体絶命すぎる……。

このままいくと真面目に死ねるぞ。

ゆっくりと恐怖を与えるように近づいてくる白い狼の風貌をしたアラガミを見ながら俺はどうしてこうなったと思い返した。

 

 

…これ走馬灯になったりしないよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウコンバサラを倒し、珍しくジュリウス隊長からゆっくり休め何て言われ、戸惑いつつもベットに倒れ込んだ日の翌日。

一人前の神機使いと認められる基準となるコンゴウの討伐任務に駆り出されていた。

しかも、一人につき二体だ。

その任務を出す時のフランさんの顔を見たことがあるか?お偉いさん。

いくらブラットとはいえ正気か?って表情しててすげぇ怖かったぜ。

 

 

まぁ、フランさんは一応経験豊富なジュリウス隊長やギルさんがフォローするという事で色々納得したらしい。

それはいいんだが……俺に付き添いが誰もいないっていう事はどういう事なんですかねぇ。

しかも全員満場一致で即決だったらしい。解せぬ。

 

 

そんなこんなで、一人でアラガミの掃討ポイントへ俺は足を運んだ。

 

 

「おー、あれがコンゴウか」

 

 

黎明の亡都にある高台からフィールドの全体を見渡し目標のアラガミを確認する。

ほかには三匹のオウガテイルに二匹のドレットパイク、四匹のナイトホロウか……。

これは少しばかり多いな。

 

 

このまま戦いに行くのはさすがにきついので神機を銃形態へと変化させ、高台からスナイパーでナイトホロウとドレットパイクを撃ち抜く。

全弾命中、ビューティフォー。

粗方の小型アラガミを仕留めると同時にオラクルも尽きて弾が撃てなくなる。

よし、このくらいなら大丈夫だろ。

 

 

神機の形態を通常形態に戻し、高台から跳び下りる。

コンゴウは耳がいいと言っていた通り、俺が跳び下りた音を感知し、こちらを向いて一声咆えた。

 

 

「…初見だけど大丈夫かな」

 

 

今更ながらに心配になりつつもこちらにどたどたと向かってくるコンゴウに立ち向かう。

 

 

って、いきなり転がってきたっ!?

何だこれ肉弾〇車!?

 

 

コンゴウに向けて一直線に走っていた体を強引に左へと向けて肉弾〇車の直撃を回避する。

セーフ、と一息ついていると肉弾〇車を止めたコンゴウが背中にあるパイプのようなものから圧縮した空気を放つ。

あの見かけで遠距離も出来るんだ、あいつ。

 

 

右、左、後ろと次々発射される空気の弾を回避しながら俺はどうやって攻めようかと思考する。しかし、あまりにも情報が少ないのでとりあえず一撃を決めてから考えることにした。

 

 

空気砲が無駄だと悟ったのかコンゴウは右腕を振り上げ、そのままこちらへと近づき殴りかかろうとする。

それに対して、俺はコンゴウの攻撃範囲にギリギリ入らない距離に移動し、咬刃展開状態にしたヴァリアントサイズを振るった。

 

 

「グガァアアアア!!??」

 

 

コンゴウは不意に攻撃を喰らったこともあり、思わずその場で蹲る。

当然俺はチャンスだと感じ止めを刺そうとコンゴウに接近するが、

 

 

「ゴァアアアア!!」

 

 

何時の間にやら出現していたもう一体のコンゴウが後ろから肉弾〇車を繰り出してくるのせいですぐさま攻撃を中断し、蹲っているコンゴウを踏み台にして跳びあがりもう一匹のコンゴウの攻撃を回避する。

 

 

「ゴァ!?」

 

 

「グアッ!?」

 

 

そうすると、コンゴウの肉弾〇車は必然的にもう一方のコンゴウにぶつかることとなり二体そろってぶっ飛んでいくという珍妙な光景が出来上がった。

バカだあいつら。

 

 

しかもさらにバカなことにコンゴウ同士で喧嘩を始めるという事態にまで発展し、最終的にはお互いにボロボロとなったコンゴウ達を咬刃形態の広範囲攻撃でまとめて殺すことで任務を終了とした。

いやーアラガミに考える頭がなくて助かった。

 

 

「フランさん。目標の討伐、完了しました」

 

 

『わかりました。丁度皆さんも終わったようなので、周囲の警戒をしつつ迎えを待っていてください』

 

 

「わかりました」

 

 

さてと、今日は初めてソロで中型を狩ったから疲れたわ。

 

 

「今日は早く寝ようかな」

 

 

周囲の警戒をしつつそんなことを呟く。

すると、後方からかなり大きな足音と聞き覚えのある声が聞こえてきた。

一体何事かと振り返ってみると、そこには白い狼のようなアラガミを引き連れて全力で逃げているエミールさんがいた。

 

 

「ぬぁあああああ!!何故だ、何故神機が動かないんだぁあああ!!」

 

 

神機が動かないなんてことあるのかと思いつつ、エミールさんを助けるためにポーチに入れておいたスタングレネードを取り出す。

しかし、それより早くエミールさんがアラガミに吹き飛ばされてしまった。

 

 

「ぐぉああああ!!……へぶっ!?」

 

 

「エミールさん!」

 

 

ズザザザザザーと顔面から地面を滑るエミールさん。

ウコンバサラの時に驚異の耐久力を見せつけた彼でもこれはまずいのではないかと思い駆け寄ってみるが、どうやら気絶しているだけのようで、しっかしと呼吸はしているようだった。

この人マジ頑丈だな。

 

 

ホッと安心できたのもつかの間、エミールさんが連れてきたアラガミがガントレットをつけたような腕で地面を叩き、そこから火の弾をこちらに放ってくる。

俺はすぐにエミールさんを左腕に抱え、その場から跳びあがって火の玉を回避。更に、先程出しておいたスタングレネードを使ってアラガミの目をくらませ一目散に逃げた。

 

 

「すいませんフランさん!緊急事態です!想定外の大型アラガミと遭遇、エミールさんが戦闘不能に陥りました!」

 

 

『それはまずいですね。すぐにほかの班の人達を増援に向かわせます。彼らが到着するまで何とか持ちこたえてください』

 

 

「それしかないよな……了解しました。やってみます」

 

 

通信を切り、俺はこれからどうするのかを考える。

スタングレネードを使って逃げたから場所は知られてないはず、腕輪の機能でジュリウス隊長たちに居場所を知らせるか。

気絶したエミールさんを横たえて、腕輪に触れようとしたその瞬間、

 

 

「クォオオオオオオン!!」

 

 

「なっ!?」

 

 

いつの間にか背後に居たアラガミに腕を振るわれ、壁際まで吹き飛ばされる。

 

 

「舐めるな!」

 

 

が、何とか空中で体勢を立て直した俺は壁を蹴り、アラガミに向けて跳躍しそのまま神機を振り下ろす。

その攻撃はむなしく空を切った。

 

 

まずい。ここには戦闘不能のエミールさんがいる。このまま戦えば確実に巻き込むこととなるし、スタングレネードはポーチから出す必要があり、それが致命的な隙となる。

……何とかして、おびき出すか。

 

次の行動を決め俺は神機を銃形態にして、ちまちまと撃ってアラガミの気を引きエミールさんからなるべく離れるように行動した。

それが功を奏し、アラガミを連れ出すことには成功した。

 

 

「ぐはッ!?」

 

 

しかし、その直後腹に衝撃が走り俺は後方へと吹き飛ばされた。ここで冒頭に戻る。

 

 

 

 

―――――やばい、詰んでる。

腕輪は結局使えなかったからジュリウス隊長たちには知らせは行ってない。一応フランさんから報告は行っているだろうけど到着にはもう少し時間が必要だろう。

既に死にそうな身としてはその”もう少し”が限りなく長い。

そんなことを考えていたせいで無防備な体にアラガミの攻撃をまともに受けてしまう。

 

 

ま、マズイ。何とかして立ち上がらないと……。

そう考えていても体の方はいう事を聞かず、だんだんと瞼が降りてくる。

もうだめかと諦めかけた―――――その時。

 

 

 

 

―――――力が欲しいか?

 

 

そんな声が心の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、目を開けてみればそこは何もない真っ白な空間だった。何が何だか全く分からないのだがそんな混乱気味な俺をよそに謎の声は言葉を続ける。

 

 

―――――お前はこのままだと確実に死ぬ。しかし、それでいいのか?知らないうちに知らない世界に飛ばされ、こんなところで朽ち果てることになってもいいのか?いや、よくないはずだ。ならどうするか?力だ。力を望めばお前は生き残ることができる。

 

 

―――――さぁ、力を……他のモノの追随をも許さない、圧倒的な力を望めッ!

 

 

その言葉は俺の心にすんなりと浸透し、まるで毒のように俺の思考を麻痺させる力を持っていた。

この声に従えばこの場を切り抜ける力を得られると確信も何故か抱けた、抱けさせるようなモノがあった……でもだからこそ、

 

 

「だが断る」

 

 

――――――えっ?

 

 

「えっ?じゃないよ。嫌だって言ってんの」

 

 

―――――――はっ、あ、えっ?な、なんで?

 

 

 

「いや、なんでって。これってあれでしょ?力望んだら闇堕ちとかそういうオチでしょう?」

 

 

―――――――そうだけど……。

 

 

「それが分かっててなんで力なんて望まきゃいけないのさ」

 

 

ふぅ、やれやれ。と肩を竦める俺。

その様子が気に入らなかったのか謎の声が言葉を強める。

 

 

―――――――このままだと死ぬんだぞ!?さっき自分で言ってただろうが!

 

 

「まぁ、言ったけどさ。よくよく考えてみたらジュリウス隊長が何とかしてくれる気がするんだよね。あの人ほら、あれだから」

 

 

―――――――言わんとすることは何となくわかるが……。

 

 

「それにさ、お前って俺の中に居るというか同化しているっていうようなテンプレートなタイプだろ?」

 

 

―――――――何で決めつけてるんだ……そうだけどさ。

 

 

「つまり、俺が死んだらお前も死ぬわけだ」

 

 

こういうタイプは大体そうだ。

ナ〇トにもそう書いてある。

 

 

―――――――………。

 

 

「……俺は望まないけどお前は力、貸してくれるよな?だって、死にたくないだろう?」

 

 

今の俺の顔を第三者が見たら思わずひくだろう。

多分新世界の神を目指そうとした奴のような顔をしているだろうからな。

 

―――――――…………汚いな、さすが仁慈きたない。俺はこれで仁慈が嫌いになったなあもりにもひきょう過ぎるでしょう?

 

 

いいから、力寄越すなら早くしろ。

本気で死ぬぞ、俺ら。

 

 

―――――――あァァァんまりだァァアァ!

 

 

謎の叫び声を最後に聞こえなくなる謎の声。

とっても嘆いていたようだが一応あいつも死にたくないらしく、ボロボロの体とは思えないくらいに絶好調な感じがする。

これならいけるかな。

 

 

「■ ■ ■ ■ ■ ■―――――ッ!」

 

 

気合を入れてゆっくりと俺に近づくアラガミに切りかかろうとした瞬間、なんか人間が出すようなものじゃない声が口から出てきた。

 

 

どう考えても、あの謎の声のせいです。本当にありがとうございます。

 

 

しかし、何やら効果はあったようであのアラガミはびくりと跳ねて、何やら怯えるようにしている。

よし、チャンス!

ここまでぼろ雑巾にされた恨み、晴らさないでおくべきかッ!

 

 

「はぁああああああ!」

 

 

咬刃展開状態にした神機を思いっきり引き絞り、渾身の力で振り切る。

 

 

「クゥアアアアアア!!??」

 

 

すると今まで傷つかなかったアラガミの目玉を切り裂いて大きく後退させた。

だが、それと同時にこちらの力も一気に抜け落ちる。

あれ?向こうが後退しただけなのに対して俺は力が入らない状態……。

つまり……もうだめだ、おしまいだぁ。

 

 

「クゥオオオオオオ!!」

 

 

目玉を切り裂かれ激おこなアラガミが襲いかかろうとしているのを見て今度こそだめだと目を閉じようとして、

 

 

無数の弾丸がアラガミの顔面に飛来した。

 

 

「ウグァア!?」

 

 

俺が相手をしていたコンゴウと同じく意識の外から急に来た攻撃にたまらず大きく飛びあがり、逃げていくアラガミ。

そうしてアラガミを追っ払ってくれたのは、ブラッドの皆だった。

助かったぁ。

 

 

「たいした奴だ、よくやった」

 

 

ジュリウス隊長の珍しい言葉に驚く間もなく、緊張の糸が切れた俺は完全に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、残念です。完全に呑み込めると思ったのですが……フフッ、予想以上にたくましくなっているようですね。素晴らしいです。もっと……もっと貴方という存在を私に見せてください。そうすれば私も何かを掴める気がするのです。私と同じ貴方の事を知れば、きっと…」

 

 



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第十二話

 

 

『―――――、いつまで寝ているの?早く起きなさい』

 

 

どこかで聞いたことのある女性の声が優しげに言う。

それに反応した声も、どこかなじみのある未成熟な懐かしい感じの声だった。

 

 

『嫌です、眠いです、寝かせてください、お休み』

 

 

『まったく……いいから起きなさい。早く起きないと解体(バラ)すわよ』

 

 

『貴方が言うと冗談に全く聞こえなんですがねぇ!!』

 

 

女性のマジトーンに急いで起きたと思われる未成熟な声。

 

 

『あら、やっと起きたのね。フフフ、残念。そのまま寝ていれば解体(バラ)していいと、神もおっしゃられていたのに』

 

 

『い い わ け あるかぁあぁああああ!!』

 

 

フフフと上品に笑いながら物騒なことを言う女性の声に思わず叫びを上げる未成熟な声。

 

 

なんか、妙に懐かしく感じるのと同時に、無性に誰かに切れたくなってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんだ、今の夢」

 

 

見覚えのない白い天井が見える部屋(まぁ、病室だよな)で俺が開口一番に呟いたのはそんな言葉だった。

他にも、あの白いアラガミを追っ払った後どうしたんだろうとか、エミールさんは大丈夫だろうかとかいろいろあるんだけど……見た夢があまりにも自分の何かに触れるものだったんだよね。

昔の記憶を夢で見た感じが一番近いんだけど、俺には全く覚えがない。

なのにどことなく懐かしいと思えるものがあった。

 

 

「不思議だねぇ」

 

 

「何が不思議なんだ?」

 

 

「あ、ジュリウス隊長」

 

 

何時の間にやら、病室に入っていたジュリウス隊長が俺の独り言に反応し首をかしげていた。

独り言を聞かれていたとは……滅茶苦茶恥ずかしいな。

 

 

「いえ、別に何でもありませんよ。それよりエミールさんは大丈夫でしたか?」

 

 

あの白い狼みたいなアラガミにやられたこともあるし、そもそも気絶した状態でその辺に放置はかなりまずかったのではと、いまさらになって思い至る。

…ひょっこりアラガミが出現したら確実に死んでいたんじゃなかろうか?

 

 

「あぁ。彼ならあのアラガミを追い払った後合流してな。その時にはすでに意識も回復しておりお前に大層感謝していたよ」

 

 

俺の疑問にジュリウス隊長は、傷ついた僕を庇いながら戦うなんて……まさしく騎士…ッ!とエミールさんの物まねをしながら無事を伝えてくれた。

地味に似てるな、物まね。色合いのせいかな?

 

 

「あははー……そうですか」

 

 

いくら不意に襲われたとはいえ、自分の対応がかなり危ないものだったことを自覚したのでエミールさんの感謝が俺の良心をすさまじい勢いで削っていく。

しかも、先ほども言った通り地味に似ているからさらに二割ぐらいましで。

 

 

えぇい、カットカット。

これ以上はちょっとまずそうなので、少々強引だけど別の話題を切り出すことにした。

 

 

「そういえば、俺が気を失ってからどのくらい経ちました?」

 

 

体の硬直具合からしてそこまで時間は経ってないとは思うけど、神機使いになったことで体の不具合に鈍くなっている可能性があるから念のために訊いておく。

何日単位で寝てたらその分の仕事もしなきゃいけないし。

 

 

俺が放った疑問にジュリウス隊長はフッと口の端を少しだけ吊り上げながら答えた。

 

 

「大丈夫だ、お前が気絶してからまだ一日と経っていない。だから休んだ分の仕事をこなそうなんてことも考えなくていい」

 

 

その言葉を聞いてホッと肩を落とす。

いくら世界観がアレと言っても絵具を全色混ぜ込んだ黒より禍々しきブラック企業フェンリルで何日単位で仕事をばっくれたら何させられるかわかったものじゃないからな。

実際にどうなのかは知らないけどさ、なんか本能が警告を鳴らしているんだよねぇ。

 

 

目が覚めてからどことなく感じている違和感に若干首を捻る。だが、今はお見舞いに来てくれたであろうジュリウス隊長と久しぶりに話をしようと意識を切り替えたその時、ドタドタドタと何かがすごい勢いで向かってきているような音が病室の外から聞こえてくる。

 

 

正直、嫌な予感しかしない。

なので、何が起こってもいいように座ったままの態勢ではあるもののある程度の状況には対応できるような態勢を取る。

よっしゃ、来い!

心の中でこうして気合いを入れた瞬間、病室の扉がバン!とすごい音を立てて開き、そこから何やら黒い影がこちらにかなりのスピードで突っ込んできた。

 

 

すぐさま俺は後転するように足を持ち上げ、後ろに転がる。そして、丁度頭と両腕が寝ていたベットに着いた瞬間、腕に思いっきり力を込めて自分の体を空中へ飛ばし黒い影との衝突を回避する。

 

 

目標(おれ)を目の前で見失った黒い影は、急に止まることができず俺が先ほどまで居たベットに激突した。

 

 

「いったー……もう仁慈!避けるなんてひどいよ!怪我人はおとなしくしてなくちゃいけないんだからね!」

 

 

「その怪我人に突撃かまそうとしてきたやつのセリフとは思えないんですがそれは…」

 

 

俺に突撃をかまそうとして回避され文句を言う黒い影改めナナ。

これは少しばかり理不尽すぎやしませんかね?

結構洒落にならない勢いだったんですが。

 

 

「むっ、私とっても心配したんだけどなー。急に仁慈が倒れたからおでんパンだって五つしか喉を通らなくなるくらいには心配したんだから、多少の衝撃くらいは受け止めてもらわないとっ!」

 

 

「その理屈はおかしい」

 

 

心配させたのは悪かったけどさぁ…もう少し状況を考慮してくれよ。あんなのと初見で戦って無傷はさすがに無理だと思うんですがね。

 

 

「分かってるけど、なんかこうやって発散しないと感情がウガーってなっちゃうの!ほんと本当に……心配したんだから……」

 

 

そういってびしっ!と俺を指さすナナ。

よく見れば目元に涙の跡が少しだけ残っており彼女の発言は本当の事だと思わされる。

 

 

「わかった、わかった。次からは気を付けるよ。だから今回は許してくれ」

 

 

「……うん」

 

 

ナナの頭を撫でて彼女の安定を図る。

軽く幼児退行している気もするし、過去に似たような状況で起きたトラウマなんかがあるのかもしれない。

 

 

「………そういえば仁慈。これからのことについて少し話しておこう。と言っても大したことではないがな」

 

 

 

 

ある程度状況が落ち着いた頃を見計らってからジュリウス隊長が口を開いた。

曰く、しばらくしたらラケル博士が俺に起こったことやあの俺を襲ったにくいあんちくしょうの事を教えてくれる。今日一日は念のため休みという事だった。

 

 

どうしよう。せっかくの休みなのにラケル博士うんぬんの下りで急激に仕事がしたくなったんだけど。

 

 

明らかにテンションが下がった俺にジュリウス隊長は全く気付かず、ゆっくりと休めとさわやかな笑顔と共に言って病室を出て行った。

そして、それと入れ違うように病室に入ってくるラケル博士。

 

 

アイエエエエ!ラケル博士!?ラケル博士ナンデ!?

 

 

確かに色々説明するために来るとは言ってたけどさぁ……全然しばらくしたらじゃなかったよ!ジュリウス隊長と入れ違いじゃないか!

ナナも空気読んで出て行ったし、また一対一かよ。

 

 

「体の調子はどう?仁慈」

 

 

「何も問題はありません。強いて言うなら多少疲労が残っているくらいですね」

 

 

俺の回答にそうですかと言ってフフフと笑うラケル博士。

相変わらず読めない人だなぁ、この人。

 

 

「さて、何から話しましょうか……」

 

 

「なら、ひとまずあのアラガミについて聞いて言いですか?」

 

 

「あのアラガミはマルドゥークと呼ばれていて、アラガミの中で感応種と呼ばれる種類に分類されています」

 

 

「感応種?」

 

 

「簡単に言えば感応現象と言われるものを使いほかのアラガミを支配しようとするアラガミの事です。神機もオラクル細胞を用いており一種のアラガミともいえます。エミールさんの神機が動かなくなったのもそれが原因ですね」

 

 

「へぇー。……なら俺やブラットの皆の神機が動いたのは?」

 

 

「貴方達が目覚める血の力、それも一種の感応現象なのです。それのおかげで感応種の支配をうけないと理論上言われていました。確認はまだされていなかったのですが……貴方が証明してくれましたね」

 

 

まったく狙ってませんけどね。

 

 

「じゃあ次に何で俺、あのアラガミに傷をつけることができたんですかね?攻撃を当ててないから真偽は定かではありませんが、どう考えても俺が傷つけられるような相手じゃなかったと思うんですけど」

 

 

「それは貴方が血の力に目覚めたことで使えるようになったブラッドアーツのおかげですね」

 

 

目覚めてたんだ、血の力。

謎の声のインパクトが強すぎて全く気が付かなかったわ。そういえばなんか体から赤いエフェクトとかキィン!っていう高い音とかがなっていた気がしなくもないな。

 

 

「貴方のブラッドアーツは面白いですね。自身の体力と引き換えに攻撃範囲を広め攻撃を強める効果があるようです」

 

 

「……え?じ、じゃあ俺が気を失ったのって……」

 

 

「ブラッドアーツが原因ですね」

 

 

おおぉ……とラケル博士の前で頭を抱えて蹲る。

つ、使い勝手が悪すぎる。

攻撃強化と攻撃範囲拡大はうれしいけど、回復錠が手放せなくなるし何より味方を巻き込む可能性がさらに上がりやがった……ッ!

 

 

「……あぁ、そういえばこちらからも一つ質問させてください」

 

 

「……なんですか」

 

 

ラケル博士の声に反応し抱えていた頭を上げ彼女の方を見る。

するとすぐ目の前に彼女の顔が近づいてきていた。近いって。

 

 

「貴方がマルドゥークに放った咆哮……アレは、なんですか?」

 

 

ついにツッコまれたか。

ブラッドアーツうんぬんでいつかはツッコまれるだろうとは思っていたけどさぁ。

どうしよう……正直に自分の内なる声に耳を傾けた結果ですと言うか?

やだ……中二くさい。

 

 

「火事場の馬鹿力ってやつじゃないですかね?俺死にかけでしたし」

 

 

「……………そうですか。では、そういうことにしておきます」

 

 

顔を離して車いすを反転させるラケル先生。

あの人話す時何であんなに近いんだよ。

 

 

「貴方も今日は早く休みたいでしょうし、お話はこのくらいにしておきましょう。今日はゆっくりと休んでくださいね」

 

 

最後にそういって退室していくラケル先生。

その背中を見送った俺は、彼女が出ていくと同時に病室のベットに倒れ込む。

 

 

新しいブラッドアーツ……どうやって使おうかなぁ。

更に使いどころが難しくなったヴァリアントサイズのことを考えながら俺は再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに、仁慈君が起きていると確信しているような行動をとったナナさんですが情報源は例のアレだったりします。


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第十三話

すいません。
実家に帰っていたので少し更新が遅れてしまいました。


 

「これからこのブラッドの副隊長はお前だ。仁慈」

 

 

「シエル・アランソンです。これからよろしくお願いします仁慈副隊長」

 

 

「ちょっと待てwait」

 

 

マルドゥークとの戦いから一日たちすっかり体調も良くなった俺が軽い運動がてらに任務をこなした後、ジュリウス隊長とフリフリが多くあしらってある洋服に身を包んだ少女が開口一番そんなことを言った。どういうことなの……。

っていうかそのこ誰よ。

 

 

「ん?何かわからないことでもあるのか?」

 

 

「わからないことしかないんですけど!何一つとして知り得ている情報がないんですけどぉ!」

 

 

若干自分でもうざいと思うテンションで叫びをあげる。

しかし、これは仕方のないことである。なんせつい最近……というか昨日その情報もなかったマルドゥークと戦って死にかけたからな。

つまり、ソースは俺である。

 

 

「ふむ、確かにお前には何の説明もなかったな。わかった、説明しよう。例えお前が朝早くから任務に出ていたことが原因だとしても隊長である俺には情報を正確に伝える義務があるからな」

 

 

「暗に自分のせいじゃないって言いたいんですかあーた」

 

 

ジュリウス隊長が時々見せるこのふてぶてしい対応はいったい何なのだろうか……。

もしかしてあの車イスが一枚噛んでいたりしないだろうな。

 

 

 

さて、ジュリウス隊長から聞かされた話を纏めるとこういうことだ。

シエル・アランソンはマグノリア・コンパス出身の最後のブラット候補生で今日入隊した。

俺が血の力に目覚めたことと戦場の状況を鑑みて副隊長にふさわしいと判断し、任命した。

 

 

入隊の話は聞いていなかったがこの際それはいい。

問題なのは俺が副隊長と言う役職に勝手に収まっていたことである。

 

 

「ジュリウス隊長。さすがに力が目覚めたからと言う理由で副隊長任命はないと思うんです。副隊長なら経験豊富なギルさんの方が向いているのではないかともいます」

 

 

一応俺も新兵と言うくらいにはなっただろうけど、いきなり副隊長は荷が重すぎる。

経験だって圧倒的に足りないし、自分の戦いをしつつ周囲に気を配る何てぶっちゃけ無理だ。

それに俺の動きは常識では考えられない動作を含んでいるらしいから指示しても誰も実行できないんじゃないだろうか?

 

 

「しかし、仁慈以外のブラッドメンバーは満場一致でお前を指名しているぞ」

 

 

なんでさ。

 

 

「ギルを副隊長にするとロミオが必ず反発するだろう。それに本人も自分は上に立つ人間ではないと言っている。ロミオとナナには荷が重いだろう。と言うわけでお前だ」

 

 

「俺も一応新人なんですけど?」

 

 

「この程度の荷でつぶれるほど軟ではないだろう」

 

 

「解せぬ」

 

 

ジュリウス隊長から送られてくるありがた迷惑な信頼にがっくりと肩を落とす。

シエルさんからも何か言ってくださいよ。

 

 

「隊長命令ならばこの方も受けざるを得ないのでは?」

 

 

「……なるほど。なら仁慈、隊長命令だ。なれ」

 

 

「おうふ」

 

 

まさかのシエルさん敵陣営だったでござる。

とっても真面目そうな人だったから、俺なんかが副隊長になるのは反対してくれると思っていたのに……。当てが外れた。

 

 

「それで、これからブラッドは戦術面でも強化を図るつもりだ。だから仁慈、ここに居るシエルとブラットの戦術について色々意見を交換しておいてくれ」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

なんかもう色々と諦めた俺は、去っていくジュリウス隊長の背中を若干恨めしく見送りながら新メンバーであるシエルさんと意見の交換を行う。

 

 

と、言っても。

つい最近になってゴットイーターとなった俺に出せる戦術案などほとんどなく、だいたいはシエルさんの質問に答えそれに対して彼女が案を出すといった形式をとってミーティングは終わりとなった。

 

 

今はシエルさんに渡されたブラッドの訓練メニューを確認している最中である。

シエルさん?彼女なら先にどっか行ったよ。

 

 

「二十四時間のうち睡眠八時間、食事その他の雑務に二時間、任務に四時間、残りの十時間を戦闘訓練と座学に4:6で配分、か……」

 

 

時間配分としては理想だけど……実践的ではないかなぁ。

俺たち神機使いは人間だからこんな正確に行動することはできない。

しかも休息は何も睡眠だけでいいわけじゃないし。

これだとおそらく、士気にも影響を及ぼしてくるだろうなぁ。

心にある程度の余裕を持ってないとそれが致命的な隙となり、アラガミにやられる……なんて事にもなりかねない。

 

 

軍隊とかでは普通だったりするかもしれないけど、こっちはいろいろと状況が違うからなぁ。

素人考えではあるけどさ。

しっかし、これを提案した本人は実行する気満々だった。……これはギルさんやエミールさんに続く波乱の予感がするぜぇ。

 

 

渡された電子機器の電源を落とし、ついでに肩も落とした俺はとりあえず難しい思考を取っ払い習得したブラッドアーツを調べるために訓練場へ向かった。

 

 

で、実際に使って。

……本当に使いづらいなぁ、このブラッドアーツ。

攻撃が強くなって攻撃範囲も広くなるのはいいんだけど、削られる体力がマジでヤバい。一回発動するとそれだけで膝が笑い出すし、一回咬刃展開状態を解いたらその代償を払って発動させたブラッドアーツも解ける。

……なんという鬼畜使用。

 

 

副隊長に任命されるし、新しい人はなんかかみ合わないし、マルドゥークに殺されかけるし、ブラッドアーツは使いづらいしで最近いいことがないよなぁ。

 

 

ダミーアラガミが地面に溶けるのを見送りつつ俺は小さくない溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、時間は飛んで翌日。

俺はエミールさんが自分の信念を見せつけた場所である鉄塔の森にギル、シエルさんと一緒に来ていた。目的は当然アラガミの討伐である。

 

 

何でも、手にロック〇スターつけたアラガミであるヤクシャが別々の場所に現れたため部隊を二つに分けてそれぞれ同時に討伐するらしい。

今回この部隊の指揮は不本意ながら副隊長になった俺が務めることとなっていた。

不安だぜ。

 

 

「今回は討伐対象であるヤクシャ以外にもオウガテイル堕天種が複数体出現しています。まずはオウガテイル堕天種を討伐し、戦いに集中できる環境を整えたのちヤクシャの討伐を行おうと考えています。どうでしょうか、副隊長」

 

 

「妥当だね。いいと思うよ」

 

 

シエルさんの出した案に同意する。

確かにヤクシャの周囲にオウガテイル堕天種が複数いるな。

 

 

ヤクシャは腕についているロック〇スターの通り遠距離の攻撃を放つ敵である。ほかのアラガミと一緒にいるときのうっとおしさは半端じゃない。

比較的に倒しやすいオウガテイル堕天種をさっさと倒し、ヤクシャに集中するシエルさんの作戦がベターだろう。

 

 

「オウガテイル堕天種を倒している途中、ヤクシャがこっちに気付いたらどうする?纏めて相手取るか?」

 

 

「いえ、そこは一度撤退し、また分離したところを狙います」

 

 

「……そうかい」

 

 

何か空気悪いなぁ。

まぁ、知識を中心に考えるシエルさんと実際の戦場で培われた戦術で考えるギルさんは正反対だからなぁ……衝突が多いのかも。

 

 

「ほら、お話はおしまいですよ。フランさんから通信が入りました。始めてくださいって」

 

 

「了解、さっさと片付けて帰ろうぜ。仁慈も病み上がりだしな」

 

 

「大丈夫ですよ……そういえばシエルさん。貴女の戦闘スタイルって至近距離中心だったりします?」

 

 

「いいえ、銃形態を使った遠距離攻撃を主な戦闘方法としています」

 

 

「わかった。それじゃあシエルさんは後方で援護、ギルさんは前衛でガンガン行ってください。俺は遊撃を担当します。いいですね?」

 

 

俺の問いかけに二人とも頷く。

 

 

「では、お仕事開始です」

 

 

言うと同時に俺たちはいっせいにアラガミ達に向けて駆け出し、ギルさんがチャージスピアの特性であるチャージグライドを使い目の前にいた堕天種を貫いた。

周囲にいた同種のアラガミ達は急な襲撃で一瞬だけ戸惑うようなしぐさをするも、すぐに持ち直し攻撃したままの態勢で固まっているギルさんに殺到する。

しかし、ギルさんを攻撃しようとしたアラガミはシエルさんの神機から発射された弾によって貫かれ、その動きを止める。

俺はその隙を逃さず止まったアラガミの首をヴァリアントサイズで切り落とし、即座に捕食する。

 

 

俺の攻撃方法か手際の良さに引いているのかはわからないが、とりあえず俺に向けてないわーと言う視線を投げかけてくる二人に泣きそうになりつつ、捕食のため逃げ出そうとしていた堕天種に向けて跳躍し、背後から首を狩る。

二人の視線がより一層引いていた。

 

 

ど、どんな手段を使ってもアラガミを叩き潰せってジュリウス隊長が言ってたから…俺は

悪くない(震え声)

 

 

このあたりの堕天種は狩りつくしたので次の場所に移動を開始する。

ある程度移動すると再びオウガテイル堕天種を発見した。

 

 

先程と変わらずギルさんが先に堕天種に攻撃を仕掛けようと槍を構え、チャージグライドした――――――瞬間。

 

 

向こうからヤクシャが現れた……しかも二匹。

 

 

「マジかよ……ッ!」

 

 

既に堕天種に向けて移動し始めているギルさんの声に若干焦りの色が出てくる。シエルさんは想定外の出来事で少しの間固まっていた。

ヤクシャはこちらに気付いたのかロックバ〇ターをこちらに向けて固定し、エネルギーを貯めていた。

……何でこう予定と違う事ばっかり起こるのかね……ッ!

 

 

「ギルさん!堕天種に攻撃したらすぐに目と耳ふさいでください!シエルさんもですよ!」

 

 

俺の意図を即座に理解したギルさんは堕天種を倒すと同時に目と耳をふさぐ。シエルさんも俺の声で我に返ったのかギルさんと同じようにする。

それらを確認し俺はスタングレネードを投げた。突然の光と音に攻撃を中断するダブルヤクシャ。よし、この隙に、

 

 

「シエルさん、銃形態で援護!ギルさん右の方お願いしますね!」

 

 

しっかりと指示が行くように通信越しに指示をだし、一直線に左側のヤクシャに向かって駆ける。

すると、スタングレネードの効果が切れたのかヤクシャがこちらを補足し、腕から光の弾を三発発射してきた。

俺はそれを身を屈めたり、ステップを踏むことで避け一気にヤクシャへと肉薄する。

 

 

ヤクシャはそれに危機感を抱いたのか自分の真下に光の弾を放ち脱出と同時に攻撃しようとするがシエルさんの銃弾が不意に頭に命中したため行動を中断する。

そしてその間にヤクシャの目の前に来ていた俺は跳びあがり、

 

 

「死ね」

 

 

ヤクシャの首に向けて思い切りサイズを振り切った。

 

 

ドスンと大きな音を立てて倒れるヤクシャを確認しすぐさまギルさんに任せたもう一体のヤクシャの方を向く。

が、そこには体中穴だらけになったヤクシャが地面に横たわっているだけだった。

……さすがベテラン。

 

 

俺はヤクシャの捕食を終えると、帽子の位置を直していたギルさんに近づく。

 

 

「お疲れ様です、ギルさん」

 

 

「あぁ、お疲れ様」

 

 

お互いに軽く労わりあい、少し離れたところで銃形態の神機を構えていたシエルさんのもとに向かい、ギルさんと同じく労わる。

 

 

「お疲れ様です、シエルさん」

 

 

「…………はい、お疲れ様です」

 

 

「?」

 

 

若干反応が遅かったことが気になったがそこはあまり突っ込まず、フランさんに迎えを頼むのだった。

 

 

 



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第十四話

 

 

 

 

ブラッド最後のメンバーであるシエルさんが入隊してから少し経ったが、俺が彼女の入隊当初不安に思っていたブラッド内の空気、もしくは雰囲気の悪化はさほどひどいものではなかった。

 

 

実戦経験が豊富故に感覚を元として戦闘を行うギルさんや考えることが得意そうとは思えないロミオ先輩&ナナと知識中心のシエルさんでは何かしらの亀裂が生まれると思っていたのだが、意外や意外、みんなそれぞれ自分を納得させているからかそこまでひどい亀裂は生まれていなかった。いや、ないわけじゃあないんだけどね。

 

 

さて、そんな状況にあるフライアにある日救援要請が入った。

何でもサテライトの建設予定地に感応種が現れたらしい。

エミールさんのことで普通の神機使いは感応種と戦う事ができないという事が分かっており、感応種が居ても問題なく神機を扱えるブラッドにお鉢が回ってきたという。

 

 

今回討伐に向かうメンバーはジュリウス隊長に俺、シエルさんとナナの四人である。

……ジュリウス隊長以外は経験に難があり、感応種とも苦戦が予想される気がしなくもないが、これも経験ということなのかね。

 

 

「そういえば、今回の感応種ってどんなのなんですか?俺が遭遇したマルドゥークですか?」

 

 

フランさんにそこのところが気になったので聞いてみる。

情報アドは重要である。それによっては完封負けもあり得るのだ。

俺のライトロードがそれで何体除外され、完封負けしたことか……。

 

 

「今回の敵はイェン・ツィーと呼ばれる感応種です。この敵は目撃例が少なく詳細については未だ謎の部分が多いため、感応種という事しかわかっていません」

 

 

「また未知なる敵か……ここ最近多いですね」

 

 

今まで目撃例の少なかった感応種がここ数日で立て続けに出現していることに違和感を感じざるを得ないな。

俺がそう呟くと、ジュリウス隊長を始めとするブラッドの皆とフランさんが一斉にこちらを向く。

何だよ。

 

 

「そうだな……俺もフライアで生活し始めてここまで色々なアラガミと戦うのは仁慈が来てからだな」

 

 

「えぇ。仁慈さんが来てから自然と想定外のアラガミの乱入が増えていますね」

 

 

皆が俺に向ける目がジト目となり、視線がさらに鋭くなる。

 

 

「なるほど。つまり犯人は仁慈だったってことか。すごいな、仁慈!アラガミを操るなんて……感応種みたいだなっ!」

 

 

「ンなわけないでしょうがニット帽先輩。今度一緒に任務行った時に後ろから狙いますよ」

 

 

「前々から気になってたんだけど、お前俺にだけ当たり強いよね」

 

 

一体なぜなんだ…と両手をがっくり床について落ち込むロミオ先輩。

すいません、特に理由はないんです。でも、なんか反射的にこう返してしまうんです。嫌いなわけではないんです、多分。口には出さないけど。

 

 

「ほーら、そんなこと言ってないで今はイェン・ツィーの討伐でしょう」

 

 

パンパンと両手を叩いて仕切りなおす。

周りの皆もしょうがないなと言う雰囲気でイェン・ツィー討伐の準備に取り掛かった。

そのみんなの中にシエルさんが混ざっていて少しばかりビビった。誰だ、この子を汚染した奴。

 

 

「現地の神機使いがイェン・ツィーを孤立させることに成功したようなので、早めに向かった方がよろしいかと」

 

 

そういうことはもう少し早く言ってほしかったなぁ。

 

 

フランさんの言葉を聞いてイェン・ツィーの討伐に向かうブラッドメンバーは急いで任務の準備を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、やってまいりました。

ブラットによる初の感応種討伐!場所はここ、かつては繁栄し多くの人がにぎわっていたであろう贖罪の街です!

 

 

「急にどうしたのさ、仁慈」

 

 

「若干感応種がトラウマになっててね……無理矢理テンションあげて気分を一転しようかと」

 

 

思えば初めて感じた命の危機だったからなぁ。

あの時はアドレナリンと謎の情けない声のおかげで考えずに気にならなかったのかもしれないけどさ。

冷静に考えたらトラウマものじゃないかな。

 

 

「へぇー。仁慈にも恐怖やトラウマを持つことがあるんだねぇー」

 

 

「どういう意味だコラ」

 

 

俺たち同期だよね?

死にかけてトラウマ何てなにもおかしくないよね?

 

 

「仁慈にも普通の感性が残っていたんだなぁ……って」

 

 

「ケンカ売ってんのか?売ってんだな?よし、買ってやる」

 

 

確かに内なる声とか聞こえたし、自分でも少しおかしいと過去にも思ったことはあるが、感性はマトモであると思っていたのにっ!

まさかこんなにも俺とナナの認識が違うとは思ってもみなかった。こんなんじゃ俺アラガミと戦う気が無くなっちまうよ……。

 

 

俺とナナがこそこそとふざけ合っている(?)一方で、シエルさんとジュリウス隊長の金銀コンビは今回の討伐対象である感応種、イェン・ツィーの姿をシエルさんのスナイパーで確認している最中である。

温度差酷いなー。俺たちのせいなんだけどね。

 

 

「どうだ、シエル。見えたか?」

 

 

「はい、目標捕捉しました。あらかじめ与えられていた情報通り、孤立しているようです」

 

 

シエルさんがイェン・ツィーを捕捉したらしい。

丁度俺も彼女と同じスナイパーを取り付けているため、自分でも確認してみる。

 

 

アラガミとは自分が捕食したものの特性をコピーするような特性のようなものがあるのだが、今回の目標であるイェン・ツィーはシユウと呼ばれるアラガミに近いが通常のモノとは違い女性的なシルエットに鳥のような羽、アゲハチョウにも似たカラーリングをしたものであった。

なんだあれ、何喰ったらああなるんだ?サリエルでも喰らったか?

 

 

「さて、これからどうしようか……このまま四人で囲み集中砲火でもいいんだが」

 

 

「私と副隊長はスナイパーで連射が難しいですし、ナナさんのショットガンは弾が分散してこちらにも被害が来る可能性があります。あまり得策とは言えないかと」

 

 

「そうだろうな」

 

 

「……シユウに形状が似ていますし、とりあえず頭部にスナイパー撃っておきます?」

 

 

何となくこのまま考えて動かなくなりそうなので適当に提案してみる。

 

 

「それで行こう」

 

 

「マジか」

 

 

採用されてしまった。

 

 

「初めからダメージを与えられればそれに越したことはない。できるか、仁慈?」

 

 

「大丈夫です。問題ありません」

 

 

そのためのスナイパーです。

……なんかフラグを立てた気がしないでもない。

 

 

「私も撃ちます。よろしいですか?隊長」

 

 

きた!スナイパーきた!メインスナイパーきた!これで勝つる!

これなら俺が万が一外しても安心だな。

 

 

「ちゃんとあてなよー。外したら罰ゲームね」

 

 

「なんでさ」

 

 

「そこ、話さない」

 

 

「「ごめんなさい」」

 

 

当たり前だけどシエルさんに怒られました。

しかし、いい感じに気持ちもほぐれたので、自分のスイッチを切り替える。

 

 

「準備はいいですか副隊長」

 

 

「ステンバーイ……ステンバーイ」

 

 

「……よさそうですね。それではいきます!」

 

 

「GO!」

 

 

俺とシエルさんは同時に引き金を引いた。

戦闘開始だ。

 

 

 

 

 



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第十五話

投稿が遅れて本当に申し訳ありません。
理由についてはすでに活動報告に書いてありますのでそちらをご覧ください。
案外早くにパソコン使用の許可を親からいただいたので早速書き上げました。
それではVSイェン・ツィー戦、スタートです。


 

 

 

「ビューティフォー」

 

 

「初弾、二発ともに命中。頭部の部位破壊に成功しました。しかし、さすがに向こうも気づいたようで、こちらに向けて接近中です」

 

 

シエルさんが俺達の狙撃の内容と敵の行動をみんなに伝える。

すると、それを聞いたジュリウス隊長がすぐさまイェン・ツィー討伐のポジションを考え、発表した。

 

 

「シエルは後方でサポート、ナナは前衛。俺と仁慈はそれぞれ後方支援と前衛を交互に受け持つと同時に奴のタゲ取りをするぞ」

 

 

「「「了解!」」」

 

 

ジュリウス隊長の指示が終わり、みんなが返事をした後、狙撃の場所として使っていた高台から跳び下りイェン・ツィーを待ち伏せる。

高台に居たままだったら狭すぎるからね。

 

 

待ち伏せてからしばらくしないうちにイェン・ツィーが俺たちの目の前に現れた。走って。

 

 

「羽使わないんだ……」

 

 

「そんなのシユウだって一緒でしょー?」

 

 

「いや、あいつの羽って思ってた以上に羽してるじゃん?だからてっきり飛んでくるのかと……」

 

 

「何わけのわからないこと言ってるんですか!来ますよ!」

 

 

シエルさんが言うのと同時に、イェン・ツィーは左の羽を曲げて腰と思わしき部分に当てる。

そしてもう片方の羽でこちらを指した。

 

 

唐突に行ったイェン・ツィーの☆意☆味☆不明☆な行動にそろって首を傾げる俺を含めたブラッドメンバー。

それがいけなかったんだろう。次の瞬間に状況は急変した。

 

 

『周囲の偏食場パルスに異常事態発生!何故か仁慈さんに偏食場集中しています!』

 

 

さっき俺を指したのはそれかっ!

しかし、

 

 

「偏食場パルスが集中するとどうなるんです?」

 

 

分からないので聞いてみた。

 

 

『簡単に言うとアラガミに狙われやすくなります。仁慈さんしか眼中にないレベルで』

 

 

「マジか」

 

 

言葉だけ聞けばなんか素敵っぽいけどアラガミだからなぁ。

にしても、俺はいっつもこんな役割だぜ。もうアラガミホイホイに名前改名しようかな…。

ま、まぁ、さすがにこれ以上は何もないだろう。そう考えていたのだが……世間ではそれをフラグと言う。実際、

 

 

ボッ、ボッボッ。

イェン・ツィーの周囲からイェン・ツィーと同じような色鮮やかな色彩を持つアラガミが何の前触れも出現するという非常に面倒くさい状況になってしまったのだ。

そして、その形は、最近やられ役として親しまれているオウガテイルのような形状だった。オウガテイルさん仕事しすぎぃ!

 

 

「何急にポップしてるわけ?」

 

 

いや、ホントマジで。

さっき俺に偏食場パルスが集中してるってフランさんが言ってたじゃないか。このままだと確実に袋叩きにされるんだけど?

確かに?作戦的には大助かりなんだけどさ、攻撃の集中化。でも複数体は聞いてないわ。

こんなんだったら俺よりジュリウス隊長にしてほしかったんだけど。

 

 

「フラン、イェン・ツィーの周囲から小型アラガミが急に出現した。そちらで感知できたか?」

 

 

『少々お待ちください………わかりました。そのアラガミ達が出現する少し前、周囲のオラクル濃度が急激に上昇していました。おそらく、あのアラガミがやったのではないかと』

 

 

「自らアラガミを生み出すことができるのか……偏食場を集めた能力といい非常に強力かつ厄介だな」

 

 

「考察もいいんですけど早く助けてくれません!?」

 

 

ジュリウス隊長が呑気に考え込んでいるからまだ戦ってないかと思ったか?

残念!現在フランさんに言われた通り俺が全ての攻撃を襲ってきているので頑張ってさばいているのでした!

ガチで助けてよ……。

 

 

「だーっ、もう!いい加減うっとおしいっつーの!」

 

 

左右から跳びかかってくるオウガテイルモドキに対し、一度バックステップを踏む。

そして、オウガテイルモドキの跳びかかりを回避すると同時に、一気に始末できる距離にまで誘い出すことに成功した。

その隙を逃さず攻撃を外して戸惑っている二匹を纏めて薙ぎ払う事で屠った。

 

 

「ふーっ、まず二匹っと……。まだいるんだよなぁ」

 

 

俺の必死の様が伝わったみたいで、イェン・ツィーにはさっき決めたポジション通りジュリウス隊長やナナ、シエルさんが相手をしていた。向こうは俺を狙っているみたいだが。ジュリウス隊長がいい感じでこっちに来ないように立ち回っていた。さすがです。

で、ここで俺の仕事はわいてくる奴らの引いつけと始末なわけである。

さっさと片付けて援護しにいかないとね。

 

 

未だにポンポンわき続けているオウガテイルモドキの群れに俺は咬刃展開状態に神機を変化させ突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり、初の感応種戦にはいろいろとアクシデントが発生するようですね。

ジュリウス隊長とナナさんがイェン・ツィーの相手をしているのを見て思わずそう考えます。

……ちゃんと私も仕事してますよ?

 

 

原種であると推測されるシユウとは細かな攻撃方法や、空中にいるときの滞空時間などに差があるのでさすがのジュリウス隊長も攻めあぐねているといったところでしょうか?あ、ナナさんが危ない。

気付いた私はすぐに回復レーザーを撃ちました。

放たれた回復レーザーはナナさんに向けて湾曲を描きながら進み、しっかりと命中します。

 

 

「シエルちゃん、ありがとー!」

 

 

「どういたしまして」

 

 

 

私にお礼を言ってナナさんは再びブーストをふかせながらイェン・ツィーに急接近し、神機で殴打し始めました。

……こういう時は確か、まっくのうち!まっくのうち!というのが通例だとラケル先生に教わったことがありますね。

 

 

標準を合わせ、イェン・ツィーに向けて何発目かもわからない弾を撃ちだす。

それで次の行動を崩されたイェン・ツィーはジュリウス隊長に左の羽を切られていた。

 

 

……本当にブラッドは不思議だ。

確かな戦術を立てたわけでもないのに、毎回毎回普通に予想以上の戦果を挙げてしまう。逆に私が理論を中心とした戦術を組み立て、実行するとその能率はぐんと下がってしまうのだ。

 

 

こんなのは教えてもらっていなかった。

しかし、どんなに調べても答えが見えてこなかったので一度だけ副隊長に訊いたことがある。「どうして精密な戦術もないのにあんなに戦果をあげられるのか?」と。

そう聞くと副隊長は苦笑しながらこう返したのだ。「みんな考えること苦手の脳筋だから」と。

 

 

正直意味がさらに解らなくなったが、このブラッドで過ごしていくうちに何となくわかった気がする。

みんな私よりも早く実戦の中で生きていた。

彼らの動きはすべてそれらから持ち得た情報を元に構成された戦術だったのだと。

それは、当時知識だけだった私とそりが合わないわけだ。

 

 

しかし、それは逆に個人の能力に大きく依存していることになる。

一部隊としてそれが正しいとも思えないのだが……

 

 

色々とごちゃごちゃな頭で、何となく偏食場のせいで多くの小型アラガミを一人でさばいている副隊長に目を向ける。

すると、

 

 

「………やべぇ、神機抜けねぇ」

 

 

地面に刺さった神機を必死に抜こうとしている副隊長の姿があった。

って何やってんですかぁ!あの人!

 

 

「グォアアアア!」

 

 

ほら、背後からアラガミが襲いかかってきていますよ!

咆えているのにも気づいていないのか未だ神機をどうにかしようとする副隊長。

このままだと本当にやられてしまうと思い咄嗟に銃を向けるが、このタイミングでは間に合わなかった。

マズイ、と思ったその瞬間

 

 

「……なーんちゃって」

 

 

ニヤリと副隊長が笑うと刺さっている神機の持ち手の部分を思いっきり蹴り上げた後すぐさま右に転がり出しました。

何事かと首を傾げるもすぐに意味が分かりました。

 

 

なんと、地面に刺さっていた神機が土を抉りながら回転して副隊長に襲いかかろうとしていたアラガミの頭を切り裂きながら上に飛んで行ってしまったのです。

 

 

この時点で色々おかしいのですが副隊長はさらに、近くにいたアラガミを踏み台にすると跳びあがり、自分で蹴り上げた神機を空中でつかみました。そしてそのまま捕食形態に移行し踏み台にしたアラガミを丸呑みにしてしまったのでです。

 

 

「よし。これで粗方片付いたかな……ジュリウス隊長の方はー……攻めあぐねている感じかね。俺も加勢するか」

 

 

肩に担いだ神機を再び構え、そう呟いた副隊長はイェン・ツィーに突っ込み、すれ違いざまにイェン・ツィーの足を部位破壊していきました。

 

 

……やはり、副隊長はどこかおかしいですよ。

伝説の極東人なんじゃないんですかね?

 

 

ハァと溜息一つついた後私もイェン・ツィーに向けて銃を放つのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モテモテ状態(アラガミ限定)が解除される頃にはイェン・ツィーはすでに虫の息だった。

隊長が羽を丁寧にそぎ落とすからなんかもう見るも無残な姿になってしまっている。

さすが、あらゆる手段を使って完膚なきまでに叩き潰せと言ったお方は違うでぇ(震え声)

 

 

その後も頑張って生き残ろうとあがくイェン・ツィーだったが無駄無駄、ジュリウス隊長が居る時点でもう死ぬしかない。

が、止めを刺したのは何とナナの渾身のフルスイングである。

 

 

それを受けて力尽きたイェン・ツィーはボールに用に地面を数回バウンドする羽目になった。ナナ強ぇ。

 

 

何にせよ、感応種であるイェン・ツィーを討伐したことに雰囲気が緩和した時、俺たちに向けて話しかける声があった。

 

 

「あのー……貴方達は?」

 

 

その人は正気かと思えるくらいの意味不明な服を着た綺麗な女の人だった。

また痴女かよ。それはナナでやったよ。もうおなかいっぱいだよ。

俺はげんなりしてその女の人から視線を外した。これ以上疲れたくないしな。

 

 

「失礼。フェンリル極致化技術開発局所属、ブラッド隊隊長ジュリウス・ヴィスコンティです。オープンチャンネルに救援要請が入ったため、こちらに参りました」

 

 

「フェンリル極東支部、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。救援要請へのご対応ありがとうございます」

 

 

「いえ」

 

 

そこで隊長とイリーニチナさん?アミエーラさんか。アミエーラさんとの会話が途切れる。

 

 

「おーわったー」

 

 

「あー……疲れた」

 

 

「お疲れ様です、副隊長。後、ちょっと話があります」

 

 

「ファ!?な、何をそんなに怒っていらっしゃるんですか、シエルさん」

 

 

「貴方の戦い方は無茶苦茶すぎます、見てるこっちの方がドキドキしますよ」

 

 

唐突に始まった説教に驚愕を隠しきれないぜ。

ナナはナナでこっち見てケラケラ笑ってやがるし、畜生。

こんな様子だったからか、あちらでジュリウス隊長とアミエーラさんが何を話しているのかは全く聞こえてこなかった。

 

 

 



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第十六話

本当にうちの小説は全く進まないな。
皆さんにそろそろ飽きられつつあるのではないかと若干不安に思いつつ、投稿します。


 

 

感応種であるイェン・ツィーを討伐した俺たちブラッド。

それで何か変化があったかと言われればぶっちゃけほとんど何も変わってない。

相も変わらず毎日毎日アラガミを殺して喰らって討伐して虐殺して屠る、そんなことばかりしている。

アラガミがこの世に存在する限り、神機使いに休日などないのだ!

 

 

……いや、さすがに冗談ですけどね?

けれど、ほぼ連日稼働中と言っても過言ではない。フライアの進路上にはまだまだ多くのアラガミがのさばっているからである。

唯一変わったことは、またシエルさんが隊で浮き始めたことくらいだろうか。

 

 

少し前までは完全に染まっていたのにいつの間にか脱色を行っていたらしく、入隊当時の真面目すぎるシエルさんに退化?していた。

 

 

何でも彼女、ラケル博士が運営している施設「マグノリア・コンパス」にて高度な軍事訓練を叩き込まれてきたらしく、そのために普通のことをあまり経験せずに育ってきてしまったらしい。

不器用な子だけど友達になってあげてねとはラケル博士の姉、レア博士の言葉である。

 

 

しかし、おかげで俺の仕事が増える増える。ジュリウス隊長にチーム内のことシエルのことを丸投げされたせいで、ほかのチームの人との摩擦をできるだけ少なくするようにチーム分けを行ったり、彼女の精密すぎる作戦や訓練方法にテコ入れしたりと割かし多忙である。

 

 

信じられるか?俺、一か月と少し前まで普通の学生やってたんだぜ?

それが今では化物を毎日ぶっ殺す社畜モドキになってるんだぜ。本当にどうしてこうなったのやら。

 

 

まぁ、シエルさんもシエルさんなりにわからないながらも色々考えてはいるようだったのでもう少ししたら大丈夫だとは思うんだけど……なるべく早くしてほしいかなぁ。

 

 

さて、愚痴はここまでにしておこう。

溜まった鬱憤はそこら辺のアラガミをデストロイすることで解消すればいい。幸い、イェン・ツィーと戦った以降の任務は雑魚ばかりだから今回もいい感じでストレスを発散させてくれることだろう。

油断はしないけどね。

 

 

<エリック、上だ!

 

 

なんてシャレにならんし。

まぁ、上田はすでに実地訓練で乗り越えてるから平気かな。

 

 

くだらないことに思考リソースを使っているといつの間にやら目的の場所である。

今回の任務は緊急のものが複数来ていたため少数で、それぞれの任務にあたることとなっていた。ジュリウス隊長とロミオ先輩、ギルさんとナナ、俺とシエルさんと言う組み合わせである。

 

 

シエルをよろしくなと言って俺の肩に手を置いたジュリウス隊長の顔がとても憎らしかった。あの人少しは隊員のために働こうよ。

 

 

「今回の相手は誰でしたっけ?」

 

 

「コンゴウとオウガテイル堕天種ですよ、副隊長。このくらい把握しておいてください」

 

 

「すいません」

 

 

反射的に謝ってしまった。

しかし、情報の把握は上に立つものとしては当然のことだから怒られても仕方ないね。

例えその暇がなくとも。

 

 

「なら、バレットは炎系に統一しておきましょう。オラクルの消費は激しいけど今回は二人だし、その都度カバーしていけば問題ないでしょう」

 

 

シエルさんだって銃で撃つだけしかできないわけではない。接近戦でも結構な腕前である。それで敵からオラクルを略奪し、適当に距離を取って弾を撃ち込めばいい。

 

 

「それについて異議はありません。しかし、副隊長の戦い方で援護するのは正直かなり厳しいです」

 

 

「マジか」

 

 

俺の戦い方そこまで変則的だったかなぁ?

ここで少しだけ自分の戦い方を振り返ってみた。

 

 

他のアラガミをプレデターフォームで捕まえ、攻撃の盾やそのまま攻撃したりする。

アラガミを踏み台に跳びあがり、そのまま重力に従ってアラガミを切り殺す。

跳びかかってきたアラガミに銃を突きつけ、汚い花火だ。

その他もろもろ。

 

 

………俺以外にこんな戦い方してるやつ見たことねぇな。そういえば。

確かに、これは援護しにくいだろう。主に何をしでかすかわからないから。

 

 

「了解。なら今回は二人で前衛をしましょう。それで何かあったらお互いにカバーし合うってことで」

 

 

「はい、それが良いと思います」

 

 

『各種バイタルに異常なし。いつでも始めてください』

 

 

通信機からフランさんの声が聞こえてくる。

もうお約束だね。

 

 

「じゃあ、始めましょうか。シエルさん」

 

 

「はい、これから任務を開始します」

 

 

じゃ、お仕事始めましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……やはりすさまじい。

副隊長と近くで戦っていて、私が感じた感想はこの一言に尽きました。

目の前のアラガミを相手取りながらも決して周囲にいるアラガミをおろそかにしたりしない。むしろ、四方八方に目が付いているのか?と疑いたくなるくらい正確に周囲のアラガミを倒していきました。

それだけでなく、私のフォローまで完璧にこなしていました。一か月と少し前に神機使いとなったにもかかわらずここまでの実力とは……。

こういってはなんですが、経歴から考えるに化物ですね。

 

 

「ん?どうかしました?」

 

 

片手間にオウガテイル堕天種を切り裂きながら笑顔を向けてくる副隊長。

それ、やめてください。とっても怖いんですけど……。

 

 

「いえ、何でもありません」

 

 

思わず、副隊長から目をそらす。

今の副隊長が怖かったという事もあるが、その前に先程考えた思考が少し失礼かと思いどこか後ろめたく感じたのかもしれない。

ダメだ、こんなことを考えていては……チーム、いい連携なんてできるわけが……。

 

 

「ま、何もないならいいんですけどね―――――」

 

 

ザシュ

 

 

私の背後で何かが切れ、液体が飛び散るような音がする。

そちらに目を向けてみると、今私に襲いかかろうとしたオウガテイル堕天種が切り伏せられ、力なく地面に倒れていた。

 

 

「―――――――あんま考え事しすぎると、死んじゃいますよ?だから、もう少し頭空っぽにしてみたらどうですか?案外、そっちの方がいいことあるかもしれませんよ」

 

 

にっこりと、年相応の笑みを見せて副隊長はそう言った。

またすぐに背後のアラガミに切りかかりに行ってしまったけど。

 

 

正直、副隊長の言ったことを今すぐに実行はできないでしょう。

私は長年、こういう風に教育を受け、育ってきたのですから。この理詰めの考え方は早々変わらないと思います。

 

 

しかし、今もオウガテイル堕天種を笑顔で屠り続けている副隊長を見ていると、何となく……本当に何となくですがチームとして機能して行くような気がします。

 

 

「シエルさんどうかしました?」

 

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

私は副隊長にそう返し、たった今現れた中型アラガミコンゴウに向けて銃を構えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何やらシエルさんの機嫌が滅茶苦茶いい件について。

笑顔で照準を合わせ、ぶっぱしまくる姿は恐怖しか感じさせない。しかも、オラクルを回復させるOアンプルをがぶ飲みするという徹底ぶりである。

思わず俺の表情も引き攣ってしまっても仕方ないと思う。

 

 

見ろ、コンゴウが転がろうとして何回も失敗している。

ここまで何もできないと何となく可哀そうに思えてくるから不思議である。

しかしその様を見てもシエルさんの表情は変わらない。むしろ、より一層笑みが深くなっているまである。

怖すぎて思わず、コンゴウに攻撃するのを忘れてしまっている。

 

 

けど、このままシエルさんに任せてサボるわけにもいかない。

神機を構え、コンゴウに向けて駈け出そうとしたところで、

 

 

「グォオオオオ………」

 

 

コンゴウは最後に力なく咆え、その体を地面に沈めた。

が、ハイなテンションのシエルさん。コンゴウが倒れたにも関わらず、いまだに神機から弾を撃ち続けております。

 

 

もうやめて、シエル!コンゴウのライフはとっくにゼロよ!

 

 

「おや、本当ですね」

 

 

「マジで気付いてなかったんか……」

 

 

私(わたくし)戦慄せざるを得ませんことよ。

 

 

『対象の討伐を確認。素晴らしい戦果です。この調子なら、もうちょっと難しい任務でもこなせるんじゃないですか?』

 

 

「そんなことより休日が欲しいです」

 

 

『私だって欲しいですよ』

 

 

「ですよねー」

 

 

ホントフェンリルってばブラック企業ねっ!

思わずフランさんと愚痴り合う。

 

 

「副隊長、帰投準備ができました」

 

 

「了解です」

 

 

フランさんとの通信を切ってシエルさんの言葉に返事をする。

 

 

「それと、フライアに戻った後少々時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

「別にかまわないけど…」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

そう言い残し、すたすたとシエルさんは帰っていった。

頭に疑問符を浮かべながらも、何時ぞやのようにおいていかれないよう、急いでシエルさんの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言うわけで、何事もなく帰投を果たした俺はシエルさんに呼び出された庭園に足を運んでいた。

そこにはすでにシエルさんが居り、それはいったいいつの間に…と考える早さである。

 

 

「副隊長。お忙しい中、お呼び立てして申し訳ありません。ですが、どうしてもお伝えしたいことがあるんです」

 

 

「別に大丈夫だけど……どうしたの?そんな改まって」

 

 

「ブラッドは皆、私が考えていた以上の高い汎用性と戦闘能力を、兼ね備えた部隊です」

 

 

無視か。

黙って私の話を聞けという事ですね、分かります。

 

 

「更に驚いたのは、決して戦術理解度が高いわけでもなく、規律正しい連携をしているわけでもない点です」

 

 

皆脳筋だからね、仕方ないね。

 

 

「私の理解をはるかに超えて、ブラッドというチームは高度に有機的に機能している、それはおそらく……副隊長、きっと、貴方がみんなを繋いでいるからなんです」

 

 

「……へ?」

 

 

俺がみんなを繋いでいる……?

HAHAHA!ないわー。

 

 

「シエルさん、何かの間違えじゃない?俺がみんなを繋いでいるなんて……」

 

 

むしろ、みんなを繋ぐどころか引かれているまである。

 

 

「いえ。みんななんだかんだ言っても副隊長のこと好きだと思いますよ。私も嫌いではありませんし」

 

 

「お、おう」

 

 

真正面からそういわれると照れるな。

思わず、シエルさんの顔を直視することができず視線をそらす。

そんな俺の様子を気にすることなく、シエルさんは話を続けた。貴女も結構ゴーウイングマイウェイだよね……。

 

 

「私は戸惑っています……正直、今まで蓄積してきたものをすべて否定されている気分です」

 

 

俺は今、貴女のせいで大いに戸惑っていますけどね。

しっかし、すべて否定されてる気持ちか……。

そんなことを思っていたのかと苦い顔をしているのが分かったのかシエルさんは慌てて次の言葉を紡ぐ。

 

 

「あ、誤解しないでください!嫌な気持ちではないんです……それどころか……なんというか……」

 

 

「ええと、どう説明すればいいのか……ううん……少々お待ちください……」

 

 

そういって考え込むシエルさん。

レア博士から言われていた通り、だいぶ不器用なようだ。まぁ、ずっと任務や行動を共にしていればわかるけど。

 

 

やがて、言葉が見つかったのかキリッとした表情で俺の顔を正面から射抜く。

 

 

「折り入って………お願いがあります………私と、友達になってください!」

 

 

綺麗なお辞儀と共に出される手、俺はそれをぽかんと眺めていた。いったいどうしたというのだろうか……。

 

 

そうやって考えていると、シエルさんは不安になったのか、不安そうな表情で顔を上げて、

 

 

「……あの、どうでしょう?」

 

 

「……えーっと」

 

 

あまりの急展開に正直ついていけていない。

なので、ついつい反応が適当になってしまった。

その俺の反応をNOと受け取ったのか、シエルさんは残念そうに声のトーンを下げた。

 

 

「そうですよね……。すいません、昔から訓練ばかりで…あまりこういうことに慣れてなくて……」

 

 

「いやいやいや、大丈夫です!友達になりましょう!」

 

 

「ありがとう……ございます……。憧れてたんです……仲間とか、信頼とか……命令じゃない、みんなを思いやる関係を……」

 

 

「……そっか」

 

 

レア博士から彼女の辿ってきた歩みを聞いているのでその言葉がどれほどの重みを持っているのか、少しでも理解できるため、思わず微笑んでしまう。

成長したんだなぁ。

 

 

「それと、もう一つ……不躾なお願いがあるんですけど……」

 

 

「なに?」

 

 

「貴方を呼ぶとき……『君』って呼んでいいですか?」

 

 

「……ん?」

 

 

「あ、すいません……いきなり『君』って、呼ぶのは……いくらなんでも早すぎますよね……」

 

 

いや、ツッコミたいところはそこじゃないんだけど。

君って……なんか前時代的だなぁ。しかも、親しい間柄で呼ぶような呼び名じゃないし。

誰だ、こんなこと教えたやつ。

 

 

「ちなみに、なんで『君』なの?」

 

 

「親しい間柄の人は相手のことを『君』と呼ぶと……ラケル先生が……」

 

 

ま た あ い つ か!

ホントもうろくなこと教えないなあの人!

 

 

「もう、シエルさんがそれでいいならいいよ」

 

 

なんかどっと疲れてしまった俺は殆ど投げやりに近い対応をしてしまう。だが、シエルさんは特別気にはしていないようで。

 

 

「ありがとう。君が……私にとっての、初めての……友達です……」

 

 

胸の前で手を組み、満面の笑みでそういってくれた。

おおぅ、胸に来るな。この笑顔。

シエルさんマジ天使と思わず言ってしまいそうだぜ。

 

 

「少しだけ、みんなと仲良くなる自信がついた気がします」

 

 

「それはよかったよ」

 

 

俺の負担も結果的に軽くなるし、彼女には、ぜひとも友達作りをがんばってもらいたいね。

 

 

「あ、何度もすいません。これで最後のお願いなんですけど……聞いてくれます?」

 

 

「……いいですよ。ここまで来たら何でも言ってください」

 

 

満面の笑みを見せてくれたお礼だ。

出血大サービスで俺にできることなら何でもしてあげよう。

 

 

一体どんなのが来るのかと、のほほんと次の言葉を待つ。

すると、彼女はこう言った。

 

 

「敬語……なくしてくれませんか?もう、私たち友達なんですから」

 

 

「……そうか、ならそうさせてもらうよ。改めてよろしくね。シエル」

 

 

「はいっ!」

 

 

敬語に関しては完全にブーメランだが、そこはツッコまないでおこう。

とりあえず、彼女が真にブラットのメンバーとなるのも遠くはないだろうと思い俺は気の抜けた笑みを浮かべた。

 

 

……これで少しは仕事が減るだろうと考えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにこの後、シエルちゃんはブラッドメンバーと無茶苦茶おでんパンパーティーした。


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第十七話

今まで影も形もなかった神機兵がやっと話題に上がったよ。
そんな感じの第十七話。


 

さて、その後の事を少しだけ語ろう。

俺と友達になったことで色々吹っ切れたのか、ナナ主催の第二回ブラッドメンバーおでんパンパーティーにおいて彼女は今までのキャラを崩壊させるレベルで騒いだ。

決闘者風に言えば、奴ははじけた。

 

 

その甲斐あってか、ギルさんとの関係も修復されつつあるしロミオ先輩もシエルの雰囲気が明るくなっていることを喜んでいた。

ナナはもうおでんパンを交わしたので、ソウルメイトみたいに考えているだろうし初めから彼女の事を心配していたジュリウス隊長は今更上げるまでもない。

 

 

こんな感じでシエルは真にブラッドの一員となることができたのである。

いやーめでたい。

 

 

「これまでご苦労だったな。仁慈。お前のおかげでシエルもようやく真の意味でブラッドになじむことができたようだ」

 

 

「別に俺は何もしていません……とは言いませんけど、頑張ったのはシエル自身ですよ」

 

 

おでんパンを両手に装備したナナからの質問に右往左往しながらも頑張って答えようとしているシエルを視界の端に納めつつジュリウス隊長の方を向く。

 

 

「フッ、正直な奴め」

 

 

どこかの誰かが俺に丸投げするせいでそうせざるを得なかったことを少しは自覚してほしいんですけどね。

 

 

俺の言った皮肉は生憎とジュリウス隊長には通じなかったらしく、クスリと笑って右手に持っていたおでんパンを齧った。

……ジュリウス隊長がおでんパン齧るのってなんかシュールだな。

なんて、くだらないことを考えつつ俺もおでんパンを齧る。しばらくブラッドの皆の行動をつまみにおでんパンを齧る時間が続くが、となりにいるジュリウス隊長がふと口を開いた。

 

 

「そういえば仁慈。俺、一回目のパーティー呼ばれていないんだが」

 

 

「ジュリウス隊長が勝手に居なくなったんでしょう」

 

 

俺にロミオ先輩とギルさんの問題を押し付けて。

この人戦場でアラガミに対しては無敵なのに、人間関係になるとたんに役立たずになるからなぁ。

 

 

「次ある時は必ず呼べよ」

 

 

「わかりましたよ。だから、離れてください」

 

 

どんだけガチなんだ。この隊長。

 

 

「お前には分かるまい。少しの間、仕事でいなかっただけで俺以外の隊員がみんな仲良くしている光景と、それをはたから見る虚しさを」

 

 

「なんかすいません」

 

 

あまりに空虚な瞳で語るジュリウス隊長に俺は心の底から謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……図らずともジュリウス隊長が抱える闇の一端を目撃してしまった日から一日たち、休日なき俺達神機使いは今日も今日とてアラガミを狩る作業に入ろうとしていた。

ちなみに、今日の任務のお供である愉快な仲間たちはシエルとロミオ先輩である。

 

 

「今回の任務は民間人の避難誘導及びその進路の確保です。民間人の保護にはジュリウス隊長が率いるチームが向かいますので、仁慈さんのチームは進路の確保。すなわち、周囲にいる小型アラガミの掃討をお願いします」

 

 

「わかりました」

 

 

「注意事項としましては、付近に不確かなアラガミの反応があるとの情報が入っております。このアラガミからの奇襲に警戒しつつ戦ってください」

 

 

「まーた、そういう系ですか」

 

 

「もう慣れたものでしょう?」

 

 

想定外のアラガミの乱入を予感させる前情報に思わずため息を吐く。

それに対しフランさんはからかうように言った。

確かに、慣れ始めてはいますけどあまり体験するような事じゃないと思うんですよね。

想定外のアラガミの乱入は。

だがまぁ、前情報があるだけ今回はましだと思える。いつもは目標を倒した後のほんの少し油断したタイミングで入ってくるからな。

もう完全に殺しに来ているとしか思えん。

 

 

「確かに普通ならそうなんですけど……仁慈さんですから……。大丈夫です。このフライアではあなたのことは殺しても死ななさそうな奴として取り上げられていますから」

 

 

「それのどこに安心する要素を見出せと……」

 

 

何一つとして安心できる要素がないんですけど?

しかも、死ぬところが想像できないから危ない任務を回しても大丈夫ってか?ふざけろ。

 

 

「心配いりませんよ。頼りになる仲間もいますし、私も精一杯バックアップさせていただきますので」

 

 

「……ホントお願いしますよ」

 

 

ビィ!と音が鳴り、任務がしっかり受注されたことを確認した俺は、フランさんとの会話を打ち切り、ターミナルの方へと足を運んだ。

 

 

 

ちなみに余談だが。

結局刀身についてはヴァリアントサイズで固定することに決めた。

別に常に咬刃展開状態にしているわけでもないし、いたずらに刀身を変えるのも良くないという結論に達したからである。

ちなみに、最終的にはシエルと二人でこの結論を出しました。

……最近シエルが俺の後ろをずっとキープしてきて微妙に生活しにくいんだよなぁ。

初めての友達ができて嬉しいのは分かるけどさ、一歩間違えたらストーカーだから気をつけようね、シエル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言うわけで、今回の場所は嘆きの平原です。

 

 

「相も変わらずすごい竜巻だこと…」

 

 

「これの原因はいまだ不明なんですよね」

 

 

「これその内外に出てきたりとかしないよね?」

 

 

何時もと変わらず物凄い勢いで渦巻いている竜巻を見て三者三様の反応を見せる。

本当にこれ、なんなんだろうねぇ。

 

 

「……さて、今回の任務内容ですが民間人避難の経路を確保するために、周囲の小型アラガミの掃討です」

 

 

「うじゃうじゃいるもんな、パッと見でも」

 

 

シエルの言った任務の内容にロミオ先輩が反応する。

実際、彼が言った通り俺たちの視界には多くの小型アラガミがその辺をてくてく歩いている。

んー、オウガテイルにドレットパイク、その辺の建物の壁から生えているコクーンメイデンが三体にザイゴートが五匹か……。

 

 

「全部合わせて大体三十ってところかな。結構多めだね」

 

 

「はい、確かに多めですがブラッドの戦闘力を見れば問題ないでしょう。実際、貫通に弱いドレットパイクとザイゴートはここから仕留めるつもりですし」

 

 

まぁ、全員をバカ正直に相手する必要はどこにもないからな。

シエルの言い分に頷いて神機を銃形態へと移行する。

 

 

「ロミオ先輩、少しの間暇ですけど我慢してくださいね」

 

 

「俺は子どもか。そんなこと言われなくたって飛び出して行ったりなんてしないよ」

 

 

「念のためですよ。念のため」

 

 

軽口をたたきつつも俺はてくてく一生懸命歩いて進んでいるドレットパイクに照準を合わせる。

そして、そのまま容赦なく引き金を引いた。

俺が放った弾は正確に飛んで行き、見事にドレットパイクの体を貫通、その命を刈り取った。

 

 

横をチラリとみてみるとシエルは面倒くさいことで有名なザイゴートを集中して狙っているようだった。

わぉ、効率的。

ザイゴートは任せても平気そうだったので俺はまた、ちまちまとドレットパイクを撃ちぬく作業に戻った。

 

 

 

 

前回の任務でシエルをバーサーカーソウル状態にしたOアンプルを飲みつつひたすらに弾を撃ちだす作業を繰り返していると、何という事でしょう。三十匹はいた多くのアラガミ達が、たったの半分以下にこれぞ匠の技ですね。

 

 

「うわぁ……。俺の仕事が殆どなくなった……」

 

 

「どうしたんです?先輩。そこまで働きたいんだったら、残りの奴ら全員殺ってもいいんですよ?」

 

 

「……いや、遠慮しとく」

 

 

「そうですか。それでは、」

 

 

「お仕事を始めましょう」

 

 

とっくに始まっているとか言うツッコミはこの際なしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエルが仕事開始宣言をしてからわずか五分後、俺たちの目の前に広がっているのは先程まで元気にその辺を捕食していたアラガミがドロドロと地面に溶けていく光景だった。

 

 

「……やっぱり、こんなの絶対におかしいよ……」

 

 

思わずそう呟いてしまった俺をいったい誰が責められるというのか。責められるとか言ったやつは今すぐ俺の前に来るんだ。拳をくれてやる。

 

 

通常、いくら小型アラガミとはいえ数十匹もいれば神機使いにも脅威となる。神機使いになって日が浅い人ならなおさらそうだと思う。実際、俺も怖い。

しかも今回は想定外の中型アラガミまで出現したんだ。怖くないわけがない。

しかし、目の前にいる新人二人はどうやら例外のようで、

 

 

「あー……暇だったなー、手応えないなー」

 

 

入隊してそれほど日も経ってないはずなのに、ブラッドアーツが使えたり、副隊長やっていたり、アラガミ絶対殺すマンだったりする樫原仁慈はそんなことを言って戦場のど真ん中で垂れていた。

 

 

一方もう一人の新人であるシエルは、帰投の準備をしたり、通信を聞いてどのタイミングで迎えが到着するかと言ったことを確認していた。

 

 

……二人とも色々な意味で新人じゃないだろ。

 

 

全体的に黒いが所々にオレンジ色のラインが入っている自分の神機を担ぎながらそう思う。

仁慈は発言や行動がもうキチってるし、最近ずっと一緒にいるためかシエルにまで微妙に伝染している気がする。

今日だって「神機を振ってその慣性を利用し、素早く動くことができるのです」とか若干ドヤ顔で変態軌道を見せられたし。

何かこいつらといると自分の中にある常識がどんどん剥がれ落ちていくんだよなー。

 

 

「……どうやら帰投準備が整ったようです。帰りましょう」

 

 

「はーい」

 

 

「仁慈さん、ちょっとたれすぎやしませんかね」

 

 

そんなにあのアラガミのバーゲンセールがお気に召さなかったか。

 

 

ガタゴトガタゴトと揺れる帰投用の車の中で仁慈やシエルと特に中身のない会話をして時間を潰す。

……こういう時、しっかりとシエルが返事を返してくれるとこの子は変わったなぁと改めて実感する。

そして、俺の隣で笑っているコイツ(仁慈)が変えたんだと思うと、やはり副隊長にしたジュリウスの判断は間違っていなかったのだと感じる。

 

 

……本当にすげぇよな、仁慈。俺より遅くにブラッドに入隊したのにブラッドアーツが使えて、副隊長と言う役職についても頑張って成果を残している。普通、ここまでされると一応先輩の身としては面白くなく感じるし、嫉妬したりするんだろうけど……。

 

 

「ねぇ、君。今回の任務はすごかったですね!どうやったらあんな変態的軌道をたどってアラガミを倒せるのか、ぜひ教えてほしいです!」

 

 

「それ褒めてるんだよね?まったくそんな気がしないけど褒めてくれているんだよね?」

 

 

「もちろんです!あんな動き、君以外はアラガミくらいしかできないでしょう!」

 

 

「言外に『お前は人間じゃねぇ!』って言ってるよね。それ」

 

 

純粋無垢な笑顔と共に放たれる、無自覚の刃が仁慈の精神を切り裂く。

こうかは ばつぐんだ!

 

 

……多分、色々と苦労しているのを知っているからそこまで気にしないでいられるんだろうなぁ。

ジュリウスの訓練とか副隊長の仕事とか少し聞いたことあるけど、俺には絶対無理だと思ったし。

シエルと仁慈のコントじみた会話を聞きながら俺はそう思った。

 

 

「やっぱり仁慈は人外。はっきりわかんだね」

 

 

「解せぬ」

 

 

 

さて、そんなこんなでフライアに帰ってきた俺達だが、帰ってきた俺たちにかけられたのは労いの言葉ではなく、今すぐ局長室に召集せよという業務連絡だった。

 

 

局長室かぁ……。ってことはつまり、グレム局長からの招集だよな。

ユノさんの時の件があるからあんまり会いたくないなぁ……。

何の迷いもなく局長室に向かう仁慈とシエルの後ろで俺はそんなことを考えていた。

 

 

「失礼します、ブラッドの隊員三名、到着いたしました」

 

 

仁慈が俺たちを代表して、扉に向けて言う。

しばらくすると中にいるのであろうラケル先生から許可が下り、俺たち三人は中に入った。

中に居たのは、ラケル先生にレア博士の姉妹にジュリウス、ナナ、ギル……つまり俺たち以外のすべてのメンバーがそろっていた。

しかし、グレム局長が来ていないからか話は始まらず、手持無沙汰になってしまった。

あまりに暇だったので隣りに立っている仁慈に小声で話しかけた。

 

 

「なぁ、仁慈。あの二人、本当に姉妹なのかな。あんま似てないけど………」

 

 

「ロミオ先輩。家庭にはそれぞれ事情というものがあります。ラケル博士の格好から見るにあの二人の家は結構なお金持ちと見て間違いないでしょう。そう言った貴族じみた家庭では愛人などを作ることが稀によくあるそうですよ?」

 

 

「稀なのか、よくあるのかどっちだよ……。ってまさか…!ラケル先生とレア博士は……腹違いの姉妹……っ!」

 

 

まさか、そんな真実が隠されていたなんて……っ!

戦慄する俺をよそに仁慈はクスリと笑って、

 

 

「冗談ですよ」

 

 

「無駄にリアリティのある嘘やめてもらえませんかねぇ!」

 

 

思わず叫んで、みんなの注目を集めてしまったが、そんなこと今は気にしていられなかった。

仁慈のせいでこれからあの姉妹を見かけるたびに今回の話が頭をよぎり、微妙な対応しかできなくなる未来が見えてしまったからである。

俺が仁慈に向かい抗議しようとしたところで、扉の外から聞き覚えのある嫌な声が聞こえてきた。

 

 

「一括で請けるからこそ、利ザヤが取れるんだろうが!そんな弱気でどうする、競合なんぞ潰してしまえ!」

 

 

そんなことを怒鳴りながら局長室へと入ってきた人物がグレム局長である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一括で請けるからこそ、利ザヤが取れるんだろうが!そんな弱気でどうする、競合なんぞ潰してしまえ!」

 

 

ロミオ先輩をからかって遊んでいたら高そうな装飾品で小奇麗に着飾った顔面が汚いハンプティ―ダンプティーといかにも研究一筋、三食毎回ウィダで済ませていますっといった今にも死にそうな風貌の研究員……っぽい人が現れた。

 

 

その汚い顔面のハンプティ―ダンプティーは部屋の状況を見て研究員っぽい人との会話を打ち切り、手に持った葉巻?を吸った。

 

 

「えっほ、えほ……」

 

 

煙の近くに居たナナはそれで咳き込んでしまう。

分かるわ。

たばこの煙って吸うと咳がよく出るんだよね。

 

 

「ご足労いただき、感謝します。グレム局長」

 

 

「お忙しいところ時間を取らせて、申し訳ありません」

 

 

クラウディウス姉妹が汚いハンプティ―ダンプティー改めグレム局長にそういう。

あ、ヤバい。葉巻の煙のせいで咳でそう。

 

 

「挨拶はいい、とっとと理由をk「ゲッホ、ゲホ!」………」

 

 

自分の言葉を遮られたからか、咳き込んだ俺の方を睨みつけるグレム局長。

 

 

「失礼しました。ハンプtじゃなかった、グレム局長の持っている葉巻の煙に少々むせてしまいまして……」

 

 

「……そうか。では、気を取り直して。何故このフライアを最前線の極t「ゲッッホ、ゲッホ、えほ…」……君ィ、いい加減にしたまえ……」

 

 

さすがに二回も会話を遮られて激おこ寸前のグレム局長。

わざとじゃないんですよ。

 

 

「一度ならず二度までも申し訳ありません。葉巻が……」

 

 

「もう、これでいいだろう!」

 

 

グレム局長はその豊満な腹から携帯用灰皿を取り出し、葉巻をぐりぐりと潰した。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「フン……で、このフライアを最前線の極東地域に向かわせる理由はなんだね?」

 

 

ようやっと話が進んだな(他人事)。

……にしても極東に向かう?そんな話聞いたことないんだが。

俺以外の人も初耳だったのかナナやロミオ先輩、ギルさんまでも顔を見合わせて驚いている。

グレム局長に問われた本人であるラケル博士は彼の会話をぶった切り、こちらを向いて口を開いた。こっち見ないでくれませんか?

 

 

「こちらは、フェンリル本部特別顧問であり、このフライアを総括する、グレム局長です」

 

 

「相変わらず話を聞かない……少しは君のお姉さんを見習いたまえ」

 

 

額に手を当ててラケル博士に言うグレム局長。

いっても無駄だと思いますよ?その人、究極のゴーイングマイウェイですから。

ここからの会話は長かったので簡単に纏めよう。

 

 

アラガミの動物園とも言われている最前線の極東に行く理由はブラッドと神機兵の運用実績が欲しいのだとラケル博士は言った。

しかし、グレム局長はこれに反対。理由は実績ならその辺のアラガミで十分だろうとのこと。

これに対しラケル博士はさまざまなアラガミのデータがなければ本部も認めてくれないだろうといった。

それでもなお渋るグレム局長にレア博士からの追撃が入った。

何でも、極東には本部に対して強い発言力を持つ葦原ユノと言う人がいるらしい。彼女へ助力すれば見返りも大きいのでは?と進言した。

これが決め手となり、フライアは極東に向かう事となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー……極東かぁ……やだなぁ」

 

 

「どうしたんですか、ロミオ先輩」

 

 

局長室から追い出され、フライアの通路を歩いているとロミオ先輩が腕を組みながら急にそんな事を言い出した。

 

 

「だって極東って、同じアラガミでもほかのとこよりはるかに強いし、想定外の大型種の乱入も当たり前なんだぜ?」

 

 

「へぇー」

 

 

「雑っ!?」

 

 

別にそんなこと今考えてたってしょうがないし。

と言うより俺には別に気になることがあるんだよなぁ。

 

 

「ねぇ、シエル。神機兵って何?」

 

 

「神機兵とはラケル博士やレア博士のお父様であるジェフサ・クラウディウス博士によって考案された人型機動兵器です。そのポテンシャルは大型アラガミにも匹敵するもので、一撃の強さは平均的な神機使いの上を行きます。また、神機を扱う事の出来ない人でもアラガミに対抗できる手段として注目されています。一方で神機兵に搭乗する人の負担が大きいために批判されている部分も多々あります。今は、先程グレム局長と一緒にいらしたクジョウ博士が神機兵の無人化を試みているようです」

 

 

「さすがシエル」

 

 

「ありがとうございます。画像もありますけど……見ます?」

 

 

「うん、見せて」

 

 

言うと、シエルは端末を取り出すとパッパッパと端末を操作し、神機兵の画像を見せてきた。

搭乗できるロボットとか胸熱。

きっとガン〇ムみたいなやつだったりするのだろうか?

なんて、期待したのがいけなかったんだろう、俺は視界に入ってきた画像に思いっきり落胆した。

 

 

「……なんだこれ」

 

 

そこに映っていたのはごつくて丸っこい何かだった。

 

 

「神機兵ですよ?」

 

 

「……マジかー」

 

 

期待した分だけ余計にダメージを喰らったぜ。

けど、なんかこれを見ると嫌な予感がするんだよなぁ。

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「いや、無人機化した途端にこっちに反逆してきたりするんじゃないかなって考えてた」

 

 

「フフ、心配性ですね君は。これを作っているのはラケル博士やレア博士ですよ?そんなこと起きませんよ」

 

 

それが一番心配なんだけどね……。

心の中でそう返しつつ、俺は部屋に戻った。

 

 

 

神機兵のデザイン、もう少し何とかならなかったのかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十八話

シエル覚醒イベントを期待していた方はすいません。
それは次回に持ち越しになりそうです……。


 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻った俺は現在、今日自分が知り得た情報の整理をしていた。

 

 

いつの間にかアラガミの動物園と呼ばれている極東地域に向かう事になっていた。

色々あったがとりあえずは、これだろう。

別に極東に向かう事に文句はないけどさ。

俺たちを置いてけぼりにして勝手に決めるのはどうかと思うのです。

 

 

もう一つは神機兵の件だ。

シエルから話を聞いた後、自分でも神機兵について調べてみた。自室に備えてあるターミナルを使ってだ。

……最近ターミナルが俺にとってのグーグ〇先生のような感じになってきているような気がする。

 

 

まぁ、それはいい。

神機兵を調べた結果、賛否両論だったな。シエルの言ったようなメリットもそうだし赤い雨にさらされても平気だからより安全にアラガミを倒すことができると記載されていた。

シエルの情報にはなかった批判でデザインに対する批判があったのには笑ったな。

 

 

「しっかし、赤い雨ってなんだ?」

 

 

初めて聞く言葉に思わず首を傾げる。

分からないなら調べる。これ基本。と言うわけで助けてターミナル先生!

 

 

カタカタカタとターミナルを操作し、赤い雨についての情報を集める。

 

 

赤い雨

 

 

2074年から極東地域で観測されるようになった異常気象、およびそれによって降下する赤い色をした水滴のことを指す。

人間はこの雨に触れること高確率で「黒蛛病」を発症する。降下後しばらくすると赤みが抜け、通常の雨と同じ性質になることが確認されている。

現在、その根本的な発生要因は判明していない。

 

 

なるほど。

人体にはという事はこの赤い雨の中でもアラガミは問題なく行動できるわけだ。

これは確かに厄介だな。これを防ぎ、アラガミと戦うことが出来るのは大きなメリットかもしれないな。

赤い雨と神機兵に関しての考察をしながら、赤い雨の内容で黒蛛病についても調べる。

 

 

黒蛛病

 

 

赤い雨に触れると高確率で発症する病気。

相手は死ぬ。

 

 

雑っ!?説明雑っ!?

なんだよ、相手は死ぬって。相手って誰だよ。説明がエターナルなブリザードじゃねえか。

ツッコミどころは多大にあったが、とりあえず情報として頭の中に入れておく。

 

 

「こうして考えると今俺が何言ったところで全く意味をなさないよな」

 

 

あの話の後、既にフライアは極東に向けて進路を変更しているし、神機兵についてはすでに開発が終わって世に出回っている。

つまり、俺にできることは今まで通りにアラガミを片っ端からぶっ殺すことなのだが…

 

 

どうにも嫌な予感がする。

シエルの言葉に不安を感じた時と同じような感覚を覚える。

ラケル博士も手を加えているというのが末恐ろしい。彼女ならチョイチョイっと改造し自分も遠隔操作できるようにしていてもおかしくないように感じる。

 

 

「……いや、やっぱ考えても仕方ないな。寝よ寝よ」

 

 

再び思考の海に落ちそうになった意識を何とかサルベージし、俺は睡眠によってその意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライアが極東地域に向かいだしてから少し経った。

それだけなのに、アラガミが微妙に強くなったり、今までよりも多くのアラガミが現れたりするんだけどどういうことなの……。

 

 

ま、まぁ。

任務の成功が多少面倒になったがおおむねいつも通りの生活を俺たちは送っていた。

 

 

……ゴメン、嘘ついたわ。

シエルが殆ど俺の任務に付いてきたり、最近構ってなかったのがいけないのかナナも対抗するように任務について来たり、そのことを聞きつけたロミオ先輩が「両手に花じゃん!うらやましいな、このこの!」と言って来たのを作画崩壊パンチ(ただの腹パン)で沈めたりしてました。

してましたというか、しました。

と、いうわけで俺の目の前にはお腹を押さえて地面にうずくまるロミオ先輩がいます。

一体誰がこんなひどいことをッ!

 

 

「お前だよ!お前!」

 

 

予想以上に復活早かったですね、ロミオ先輩。

もう少し沈めるつもりで放ったんですが。しっかりと腰もいれましたし。

 

 

「ガチだなお前。全く、伝言を伝えに来た先輩に対して何て対応なんだ」

 

 

「用事があるならはじめっからそういえばいいのに。余計なこと言うからですよ。昔から言うでしょう?口は災いの元って」

 

 

「だからって急に腹パンが来るとは思わないだろ……って、そうじゃない。このままだと話が脱線してしまう」

 

 

「初めから正しいレールに乗ってませんけどね」

 

 

「そういうこと言うなよ……。伝言っていうのはだな、また局長室に集まってほしいんだと」

 

 

「またですか……前回話題に上がった神機兵の事ですかね?」

 

 

「さぁ?そこまでは聞いてないからわからないけど。グレム局長だからな。いいことではなさそうだぞ」

 

 

「何でちょっと他人事なんですか」

 

 

「だって今回呼ばれたのはジュリウスにシエル、あと仁慈だけだぞ」

 

 

「うわぁい」

 

 

メンツ的に見ればブラッドの隊長に副隊長、最近入隊したばかりとはいえ参謀ともいえる位置に属するシエルが呼ばれるのは分かるけど。

 

 

「まったく嬉しくねぇ」

 

 

あの部屋タバコというか葉巻臭いからあんまり行きたくないんだよな。

今回も吸ってたら絶対に咳き込むわ。

 

 

「ま、頑張れ副隊長。応援してるぜ!」

 

 

「いい笑顔で送り出してくれますねコンチクショウ」

 

 

しかも親指を立てるサービスまで付いてきている有様。

覚えてろよ……。

爽やかな笑顔で送り出すロミオ先輩に恨めしい視線を向けてから、俺は局長室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

局長室に向かう途中で同じく呼び出されていたジュリウス隊長とシエルに会った。

目的地が一緒だから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

 

 

「ジュリウス隊長。今回呼び出されたのって前回話題に上がっていた神機兵と関係あったりします?」

 

 

「なんだ?ラケル先生から聞いていないのか?今回の任務は無人制御された神機兵の護衛だ」

 

 

聞いてないんですけど……。

また俺だけか?それともラケル博士を避けている俺の自業自得か?判断しずらいな。

 

 

「へぇー。実戦で実験できるくらいには完成してるんですね」

 

 

俺たちが護衛っていうのは自分の心情的にはいまいち納得できないけど。

だが、今後の事を考えれば必要だという事もまた事実。

 

 

「そのあたりは微妙なところだと思います。どうやら有人制御の神機兵が非人道的だという方たちが多く、このままでは神機兵生産の目処が立たなくなる可能性が出てきているようです。なので、今回の実験は多少の無理があっても実行しなくてはいけないのです」

 

 

俺の言ったことにそうシエルは答えた。

……なるほどねぇ。このまま成果が出なかったら計画自体が凍結もしくは消滅、多少の無理をしてでも有用なデータを取っておきたいわけか。

色々面倒だなぁ、大人の世界は。

 

 

こんな感じで三人で話しているとすぐに局長室に到着する。

俺たちの代表としてジュリウス隊長が一言かけてから局長室に入ろうとしたところで、ひとりでに扉が開く。

一体どうしたのかと体をずらし、見てみれば浮かない顔をしたレア博士が局長室から出るところであった。

 

 

彼女がこちらにお辞儀をしたので俺達もお辞儀で返す。

しかし、彼女はこちらの反応など確認せずにさっさと立ち去って行った。

……なんぞ?

 

 

「ジュリウス・ヴィスコンティ以下2名入ります」

 

 

もうすでに入ってますけどね。

レア博士が開けたときにズカズカとね。

声に出したら話が進まないので言いませんけどね。

 

 

部屋の中にはエラそうに踏ん反りかえって椅子に座っているグレム局長と相も変わらず死にそうな顔をしているクジョウ博士の二人がいた。

やっぱ、神機兵絡みの話か。

 

 

「君たちもラケル博士から聞いていると思うが、今回の任務は無人運用される神機兵の護衛だ。詳しい内容は……あー、クジョウ君」

 

 

「はい、無人運用された神機兵が現在の段階でどこまで戦えるのか……これを知りたいのでできれば皆さんには神機兵がアラガミと一対一で戦う状況を作ってほしいのです」

 

 

「…………露払いをしろ。という事ですか?」

 

 

おや?珍しくジュリウス隊長の声音が低いぞ。

機嫌でも悪いのか?

 

 

「そうだ。今回の主役はあくまでも神機兵だ。そのことを肝に銘じておけ」

 

 

「………失礼します」

 

 

ジュリウス隊長はそのままくるりと後ろを向き、退室しようとする。

俺とシエルはそれに慌ててついて行った。

 

 

 

 

「珍しいですね。ジュリウス隊長があんな対応をするなんて」

 

 

局長室を退室した後、多少の距離を取ったところで先程気になっていたことを本人に向けて話してみる。

すると、彼は何時もの真顔のままこう言った。

 

 

「いくら有用だからと言って、我々が機械のお膳立てをするのが少々納得できないだけだ。俺達神機使いを含めたすべての人が安全を確保できるように作られた機械を俺たちが危険を冒して守るっということがな」

 

 

「へぇー。本音は?」

 

 

「あんなのより俺の方がよっぽど強い」

 

 

だから納得いかないんですねわかります。

 

 

「……さすがに冗談だぞ?」

 

 

「分かってますよ」

 

 

貴方はなんだかんだいってしっかり隊長してますものね。

なんか大変な状況に陥っているときと、戦闘中に限りますけど。

さて、こんな経緯で入ってきた今回の任務だが絶対順調に進まない気がするんだよなー。

ソースは俺。

 

 

何となく、嫌な予感を感じつつも俺はジュリウス隊長やシエルと一緒にロビーへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十九話

初の一万文字越えだー。
それはともかく今回は色々と突っ込みどころがあると思いますができるだけスルーでお願いします。
どうしても見逃せないのがあればお知らせください。


 

ロビーに着いた俺たちはフランさんから今回の任務の詳細を聞いていた。

 

 

「今回の任務は仁慈さんたちはすでに聞いていると思いますが、無人運用される神機兵三体の護衛となっています。神機兵αの護衛をジュリウス隊長、βをシエルさんγをほかのブラッドメンバーで護衛することとなります」

 

 

「ちょっと待ってください」

 

 

フランさんが言った内容に驚愕せざるを得ない。

なんだその人数配分、おかしいだろ。明らかに。

ジュリウス隊長が一人なのはよくわかる。あの人の強さは本当に人間か疑うレベルだからな。

しかし、シエルが一人とはいったいどういう事なのか?

 

 

「それについては仁慈さんたちの実験位置に多くの中型種を含めた多くのアラガミの反応が確認されたため、神機兵の護衛が一番困難だと判断し人数を固めたようです。シエルさんが一人で護衛を行う件についてはグレム局長からの指示なのです。正直、私の権限でどうこうできるものではありません」

 

 

少々苦しそうな表情で答えるフランさん。

……グレム局長の指示か。

古来から安全地帯でふんぞり返っているお偉いさんの指示は基本的に失敗もしくは死亡フラグなんだが……それを今言ったところで無駄だよなぁ。

なんならいつ言っても無駄ということもある。

 

 

「私なら問題ありませんよ。見たところ私が護衛をする場所は神機兵の相手である中型アラガミと少しの小型アラガミだけですから」

 

 

「……まぁ、本人がそういうなら」

 

 

ここ最近の戦い方を見るに確かにこの程度なら問題ないだろう。

いまだ言いようのない不安感があるものの、本人が心配ないと言って、実績も伴っているなら無理に任務内容を変更させることはできない。

しょうがないので俺は渋々引き下がった。

 

 

「仁慈。俺が一人のことについては何も言わなくていいのか?」

 

 

「アンタは一人で十分でしょうよ」

 

 

むしろ過剰戦力と言えるまである。

俺の即答にジュリウス隊長以外のメンバーも勢いよく頷く。

しかし、当の本人は納得いかなかったようで「解せぬ」と呟いていた。

 

 

「ジュリウス隊長。もう少し自分の実力を正確に把握しましょうね」

 

 

『お前が言うな』

 

 

解せぬ。

あまりに早いツッコミに思わずジュリウス隊長と同じ言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュリウス隊長と同じ言葉を呟いてから一時間後、俺たちブラッドは任務の場所になっている蒼氷の峡谷という壊れかけのダムのような場所に来ていた。

何とここ、年がら年中雪やら氷やらがある摩訶不思議な場所である。

 

 

今回の目的である神機兵はデータ取りのために中型のアラガミであるコンゴウと一対一で戦うらしく、ほかにうじゃうじゃいる小型アラガミやもう一匹いるコンゴウ、何故かそこらを歩いていたシユウの相手は俺たちがやらなければならないらしい。

 

 

「今回は一対一の状況を作るために各アラガミの担当を言いますよー。まず、面倒なコンゴウは俺とギルさんで分断し、ギルさんに一匹の足止めもう一匹は俺が神機兵のところに誘導します。シユウはコンゴウ達とは真逆に居るので今は放置、ロミオ先輩とナナはそこらにうじゃうじゃいる小型アラガミの掃討してください。……なにか質問は?」

 

 

「異議なーし」

 

 

「俺もなーし」

 

 

子どものように語尾をのばしつつ返事をするナナとロミオ先輩。

己ら子どもか。

二人とも俺より年上なはずなのにどうしてこう年下を相手しているような感覚に陥るのか……。

 

 

「これ俺いらないだろ」

 

 

今まで一言も話さないと思ったら開口一番になんてこというんだギルさん。

 

 

「コンゴウくらいお前一人で十分なはずだ」

 

 

「確かに普通に戦う分にはそれでいいんですが、今回はコンゴウを分断し尚且つほぼ無傷の状態で神機兵のところにおびき出す必要があるので、どうしてももう一人必要なんですよ」

 

 

俺の言い分を聞くとそういえばそうだったなという表情を浮かべるギルさん。

……この人やっぱり神機兵のこと忘れてたな。

ギルさんは神機兵の話を聞いた時から好意的な態度ではなかった。それはおそらく長年前線で戦ってきたからこその態度なのだろう。

きっと彼は戦っているときに様々な場面でお金が必要な事柄を見てきたのだ。だからこそ大金をつぎ込んでいる神機兵にあまりいい感情が抱けないのだろう。例えこれが最終的に人類のためになったとしても。

 

 

「そうか、そうだな。悪かった。俺もお前の案に賛成だ」

 

 

「別にいいですよ。ギルさんも何か思うところがあったのでしょう?」

 

 

どこか気まずそうに顔をそむけるギルさんにそう言葉を返す。

ぶっちゃけ、神機使いになってそこまで日が経っていない俺が言えることではないのだが今回はこれでいいだろう。

 

 

「仁慈ー、その辺からいっぱいアラガミがわいてきたよー」

 

 

ギルさんとの話も一区切りついたところでナナの言葉が耳に届く。

彼女が言うように軽く周囲を見渡してみればその辺からコクーンメイデンとナイトホロウがうじゃうじゃ生えて来ていた。

 

 

「うわぁ、いっぱいいるよ……」

 

 

「ロミオ先輩の武器は相性いいんですからしっかりと頼みますよ」

 

 

「わかってるよ。ただ、この光景は少し遠慮したいわ」

 

 

言いたいことは分かる。

見渡せばどこもかしこもコクーンメイデンとナイトホロウが視界に入ってくるもんな。

にしても、想像以上に密度が高いな。

これはコンゴウのところに行くとなったら結構大変だ。

 

 

「ギルさん。作戦変更します。ここでコンゴウが釣れる様な音を出しつつ、小型アラガミを殲滅します」

 

 

「つまり派手にやっていいんだよねー?」

 

 

ギルさんに話しかけたのになぜかナナが反応しおった……。

しかも、返事をしようとしたときにはすでに一番近い位置に居たコクーンメイデンに攻撃を仕掛けようとしている。

話聞けよ。

 

 

「やっはー!!」

 

 

珍妙な掛け声とともに彼女がとったのは、ゴルフをするかのような姿勢でブーストハンマーを構えることだった。そして、そのまま振り切る。

ナナが全力で振り切ったブーストハンマーは加速し、その威力を確実に大きくしながらコクーンメイデンに接触する。

かつてイェン・ツィーを吹き飛ばしたこともあるナナの攻撃に耐えられるはずもなく、コクーンメイデンは生えていた地面ごと吹き飛び、一番アラガミが密集しているところに吹き飛ばされた。

 

 

さしずめ、ボール(コクーンメイデン)を相手のゴール(アラガミの密集地帯)にシュゥゥゥゥーー!超エキサイティン!ってところか。

ナナが行った行動に驚きを隠せないのだが次の瞬間俺はさらに驚愕した。なんとナナのシュゥゥゥゥーー!したコクーンメイデンが爆発し、さらに多くのアラガミを巻き添えにしたのだ。

一体どうしたんだと思いつつ周囲を見渡すと、ロミオ先輩が神機を銃形態にしてドヤ顔をかましていた。

 

 

「ロミオ先輩……いつの間に爆発系のバレットを……」

 

 

「すり替えておいたのさ!」

 

 

某クモ男のように胸を張って言うロミオ先輩。衝撃の真実である。

ていうかいつの間にくっ付けたんだ。

「いえーい」と声を上げながらハイタッチするロミオ先輩とナナに思わず溜息を吐く。

 

 

「これもお前の影響か?」

 

 

「何でもかんでも俺の所為にするのやめませんかね?……っと、今の爆発でコンゴウ達が気付いたようです。ギルさん、作戦通り一匹の注意を引き付けておいてください」

 

 

爆発で綺麗になった方角から仲良くこちらに向かってくるコンゴウ。その姿から目を離さずにギルさんに言葉をかける。

彼も「おう」と短く答えて神機を構え、お互いがお互いのコンゴウに向かって一気に肉薄する。

ギルさんのコンゴウは別にぶっ殺しても問題ないため、ギルさんも初めから神機を使っているが俺の場合は違う。

このまま何とかして俺たちの背後にいる神機兵の元に誘導したいのだが……神機で気を引くのはダメージが入るからな……。

 

 

神機以外の攻撃は効果がほぼないアラガミだが多少の衝撃くらいは受けてくれるかもしれない。知らないけど。

たまには考えなしに行動するのもいいだろう。うん。

方針が決まったため、俺はギルさんに向かおうとしているもう一匹のコンゴウの注意を引くために渾身の跳び蹴りを放つ。

 

 

「イィィヤッホォォォオォォ!!」

 

 

なんか奇声を上げてしまったがこれはあれだ。気合入れてるからだ。

 

 

「ゴァァアアア!?!?」

 

そのおかげか「おーっとコンゴウ君吹っ飛ばされたー!」と言えるくらいに見事にコンゴウが吹き飛んで行った。って、えっ?

 

 

『えっ?』「ゴァ!?」

 

 

時が止まった。

コクーンメイデンを次々シュゥゥゥーー!してたナナもすり替えておいたロミオ先輩もコンゴウを串刺しにしようとしていたギルさんも串刺しにされそうなコンゴウも、皆固まってこちらを見ていた。

かく言う俺も蹴った後の状態で固まってるけど。

唯一動いていたのは都合よくぶっ飛んできたコンゴウに反応して攻撃を仕掛ける神機兵くらいである。

 

 

「えっと………ま、まぁ結果的には予定した通りになったな」

 

 

咄嗟に言葉をひねり出したものの、今だ俺に向けられる視線は途切れない。

ブラッドの皆はともかくコンゴウまでこっち見てんだけど……こっちみんな。

とりあえず、固まっている連中に攻撃を仕掛けようとしているコクーンメイデンやらナイトホロウを片っ端から潰すことでみんなが復活する時間を稼ごうと考え、近くにいる奴からバラバラに切り刻んでいった。

 

 

その後、そこらにコケの如く生えてきたアラガミを排除し、惚けていたコンゴウを四人で滅多打ちにし、遠くを歩いていたシユウを俺とギルさんの銃形態でハメ殺しにした後、俺たちはコンゴウと戦いを繰り広げる神機兵γの応援を行っていた。

 

 

「いけー!そこだー!」

 

 

「あぁ!攻撃が来るぞ……よっし、避けた!」

 

 

主にロミオ先輩とナナだが。

ギルさんは帽子のつばをいじりながら神機兵を睨みつけているといってもいいくらいの鋭い目つきで見ている。俺はそんなギルさんの隣でぼんやりと神機兵の戦いを見学していた。

 

 

「一撃が強いって言っても、全然当たりませんね」

 

 

「動きも硬いし攻撃が大振りすぎる。何とか敵の攻撃は避けているもののこのままじゃきりがないな」

 

 

「確かに………おっ、ようやく当てたか」

 

 

神機兵が横一文字に振るった剣がコンゴウに直撃する。その衝撃でコンゴウが少し体制を崩した。

さすがにこのようなわかりやすい隙は逃さないらしく、そこから怒涛の連続攻撃を浴びせコンゴウを撃破した。

ちなみに俺たちが周囲のアラガミをすべて倒し終えてから20分後の事である。

時間かかりすぎィ!

 

 

「こちら仁慈、神機兵γの戦闘が終了しました」

 

 

『了解しました。神機兵αの護衛をしていたジュリウス隊長もすでにフライアに向かっているので皆さんも帰投準備をお願いします』

 

 

フランさんに任務完了の旨を伝え、みんなに帰投準備をするように指示する。

さてと、俺も準備しようかな。

 

 

肩を回して解しつつ、帰投準備をしようとした時。

切り忘れていた通信機からジュリウス隊長の切羽詰まった声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仁慈さんからの報告を受け、後はシエルさんからの連絡を待つのみとなり、ふぅと軽く息を吐く。

このままだと、問題もなく終わりそうですね。

そんなことを思っていたところで、たった今フライアに帰還したジュリウス隊長が珍しく焦った様子で私がいるカウンターへ来た。

一体どうしたのでしょうか?

 

 

「ブラッドはまだ現場か!?」

 

 

「はい、神機兵γは先程終わったと仁慈さんから報告がありましたが神機兵βがまだ戦闘中です」

 

 

ジュリウス隊長に答えながら神機兵βのデータおよびシエルさんの通信機の回線を開く。

それを行ったと同時にシエルさんからの通信が届いた。

 

 

『神機兵β!背部に大きな損傷!フライア、判断願います!』

 

 

あまり状況はよろしくないようですね……。

とにかくシエルさんの言われた通り指示を出すため、クジョウ博士に視線で判断を仰ぐ。

 

 

「背部だと!?回避制御の調整が甘かったか!いや、空間把握処理の問題か?くそぉ!何でだ!?」

 

 

知りませんよ。

今聞いてんのはそういう事ではありません。

そんな思いを込めて睨みつける勢いでクジョウ博士を見るも本人は頭を抱えてこちらを見ていません。

判断を仰ぐのは不可能だと即座に考え、シエルさんに指示を伝える。

 

 

「神機兵βを停止します。アラガミを撃退し、神機兵を護衛してください」

 

 

しかし、私の出した指示にジュリウス隊長が慌てて待ったをかけた。

 

 

「待て!帰還の途中で赤い雲を見かけた!あれは、おそらく……」

 

 

「まさか……赤乱雲?」

 

 

赤乱雲。

高い致死率を誇る黒蛛病を引き起こす、赤い雨を降らす雲のことである。

ジュリウス隊長の言っていることが本当ならば、正直神機兵の護衛なんてしている場合ではない。

 

 

『こちらギル……ここからも、赤い雲を確認した』

 

 

今まで通信を聞いていたであろうギルバートさんから報告が入る。

これで赤乱雲があることは確定した。つまりは赤い雨が降るのも時間の問題という事になる。

 

 

「全員即時撤退だ、一刻を争うぞ」

 

 

ジュリウス隊長が慌てて指示を出す。

しかし、その声に反応したシエルさんの言葉は衝撃的なものだった。

 

 

「すでに赤い雨が降り始めました。ここからの移動は困難です」

 

 

まずい。このままではシエルさんが赤い雨に触れてしまう。

 

 

「くっ……フラン、輸送部隊の状況は?」

 

 

ジュリウス隊長に尋ねられ私は過去最高と言ってもいいくらいの速さで機械を操作し輸送部隊の状況を確認する。

 

 

「周囲にアラガミの反応が多数みられます。輸送部隊単体での救出はできません」

 

 

私の報告を聞くとジュリウス隊長は自分の通信機を押さえつけながらすぐに次の指示を出す。こういう時、本人も前線に立っているだけあり的確な指示を素早く行えるのはかなりの強みだと感じた。

 

 

「ブラッド各員、防護服を着用、及び携行しシエルの救援に向かえ!戦闘時に防護服が破損する可能性が高い。なるべく交戦を避けるように心がけろ。シエルはその場で雨をしのぎつつ、救援を待て!神機兵なんていくらでも量産がきく鉄屑のことは構うな、自分の安全を最優先にしろ」

 

 

「えっ」

 

 

ジュリウス隊長、心の声が出てますよ。この状況においてはおおむね同感ですが。

がっくりと手をついて俯いているクジョウ博士をスルーしつつ、何とか輸送部隊がアラガミに接触しないルートがないか調べようとして、野太い声が辺りに響いた。

 

 

「待て、勝手な命令を出すな」

 

 

「グレム局長……」

 

 

思わず声の主の名前が口からこぼれる。

この状況でグレム局長とは……正直歓迎できませんね。

普通の状況でもお断りですが。

 

 

「神機兵が最優先だろ。おい、アラガミに傷つけられないように守り続けろ」

 

 

グレム局長が言ったあまりにありえない指示にジュリウス隊長もいつもより強い口調で言葉を返す。

 

 

「ばかなっ……というかバカか、赤い雨の中では戦いようがない!」

 

 

ジュリウス隊長、また本音が出てます。

気持ちはよくわかりますけど。

 

 

「さりげなく罵倒された気がするが、俺がここの最高責任者だ。いいから、命令を守れ!神機兵を守れ!」

 

 

全く意見を変えないグレム局長にジュリウス隊長もイラついたのかカウンターをドンと叩き、ヒビを入れつつ荒く口を開いた。

 

 

「人命軽視も甚だしい!あの雨の恐ろしさは、お前も知っているはずだ!」

 

 

頭に血が上っているのか立場が上のグレム局長をお前呼ばわりしているジュリウス隊長。相当来てますね。

まぁ、私だって来てますけど。

……今度、フライア局員にあることないこと言いふらしてやろうかしら。

 

 

このままグレム局長とジュリウス隊長の口論が続くかと思われたが、シエルさんが彼らの会話に割って入ってきた。

 

 

『隊長……隊長の命令には従えません。救援は不要です。不十分な装備での救援は高確率で赤い雨の二次被害を招きます。よって、上官であるグレム局長の命令を優先し、各部隊その場で待機するべきだと考えます。……更新された任務を遂行します』

 

 

それだけ言うとシエルさんの声が聞こえなくなる。

ジュリウス隊長が必死に呼びかけるものの応答が全くなく、私が通信機の状況をすぐさま調べ上げる。

 

 

「電源から切られています。これでは繋がりようがありません」

 

 

「くそっ!」

 

 

私とジュリウス隊長が俯く中、グレム局長はフンと鼻で笑ってから口を開く。

 

 

「なかなか良く躾けてあるじゃないか。結構、結構」

 

 

殴りたい。

あの汚い顔面をさらに凹凸の大きい顔面に整形してやりたい。

 

 

『あのー、隊長……』

 

 

「どうした、ナナ!」

 

 

『仁慈がねー……神機兵に乗って行っちゃった……』

 

 

「なに?」

 

 

「な、何だと……!?」

 

 

汚らしい顔面をさらに歪に歪めて笑っていたグレム局長が一転して驚愕の表情を浮かべる。ナナさんが言う事が本当なのか神機兵の現在位置を確認する。

 

 

「神機兵γ、神機兵βに向かって接近中!」

 

 

ナナさんが言う事はどうやら本当だったらしく仁慈さんたちが担当していた神機兵γがシエルさんが担当している神機兵βに向けて急速接近していることが画面に映し出されていた。

 

 

「クジョウ君!神機兵γに通信を繋げ、今すぐだ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

何時の間にか後悔の海から復活していたクジョウ博士にグレム局長が言う。それに戸惑いつつもクジョウ博士はすぐに神機兵γの通信回線を開いた。

 

 

「貴様どういうつもりだ!神機兵に何かあったらどうする!」

 

 

『おや、ハンプtじゃなかった、グレム局長じゃあないですか。ご機嫌麗しゅう』

 

 

「言っている場合か!今すぐ引き返せ!お前が今乗っている神機兵にどれだけの金がかかっていると思う!?」

 

 

グレム局長の言い分に眉間にしわが寄っていることを自覚する。

この状況において人命よりお金優先ですか……。

そろそろ本気で呆れてきましたよ。私も我慢の限界が近くいい加減文句の一つでも行ってやろうかと口を開きかけたところで、普段の仁慈さんからは想像できないくらいに低い声が通信越しに聞こえてきた。

 

 

『黙っていろゴミ屑。俺の行いが理解できない無能はその場でおとなしくしておけ』

 

一瞬、誰が話しているのかわからなくなるくらい、普段の彼からはかけ離れた言葉と声音に皆が皆、言葉を失う。

しかし、グレム局長は仁慈さんのただならぬ雰囲気に押されながらも何とか言葉を返した。

 

 

「な、何だと!?貴様上官に向かって……!この後どうなるのかわかっているんだろうなぁ!」

 

 

『ギャンギャン咆えるな、うっとおしい。いいか、よく聞け?脳内まで無駄な脂肪で埋め尽くされたゴミみたいな脳みそを持つお前にもわかりやすく説明してやる』

 

 

『いいか?今無人制御の神機兵というコンゴウ一匹に一時間近く時間をかける鉄屑を護衛しているのは、ブラッドの隊員であるシエル・アランソンだ。彼女の事を良く考えてみろ。彼女はこの鉄屑とは違いきわめて優秀な人材だ。状況把握能力はブラッドの中でも高いし、本人の戦闘能力も同じだ』

 

 

『そして何より、俺たちブラッドしか適合できない特別な偏食因子を持っているという事になる。これにより俺達だけが唯一感応種と戦うことができる。その戦力の一人であるシエルをここで使い潰すのはこの後感応種の討伐で入るであろう多額の金をどぶにし捨てることと同義だぞ?』

 

 

仁慈さんが言った言葉にグレム局長が考え出す。

本気でこの人を嫌いになりそうだ。

 

 

「貴様の態度は気にくわんが、確かにそうだ。しかし、ここで実績を上げなければ神機兵は……」

 

 

『貴重な神機使いを犠牲にしなければいけない兵器なんてどっちにしろ認められるわけないだろが。もう少し考えたらどうだ?それに、データだけならα、γのを使い、本部に出せばいい。今回スクラップになりかけたβは回収だけして後で調べて次に生かせばいい。フライアには神機兵のエキスパートたちがいるんだ、そのくらい余裕だろ』

 

 

「…………」

 

 

『ついでに言えば金はかかるが量産が可能な鉄屑と特別な何かを持った代えのきかない人間どちらを取るかなんて考えるまでもないだろう』

 

 

 

「……………」

 

 

『話が終わったなら通信、切っていいか?これ以上お前と話すのは俺のストレスがマッハなんだが』

 

 

「仁慈、シエル用の防護服は?」

 

 

『持ってる』

 

 

「なら、そのまま行け。ほかの隊員には退避するように言っておく」

 

 

『お願いします』

 

 

ブツンと切れる通信。

最後の方で聞いた声は私たちの知る何時もの仁慈さんだった。

そのことにホッとしつつ、先程までぼろくそに言われていたグレム局長の方を見る。

放心状態のようでずっと同じ態勢で立っていた。

 

 

 

「フフッ……シエルと仁慈以外のブラッド各員に告ぐ、今すぐ退避しろ。あの二人はどうせすぐに戻るだろうからな」

 

 

放心状態のグレム局長を一目見て笑ってからブラッドの隊員に通信を入れるジュリウス隊長。なかなかイイ性格してますね。

そう思いつつ、私は自分の仕事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……どうやら通信の内容はシエルをどうやって助けるかという事らしい。ジュリウス隊長の指示で自分の分の防護服とシエルの分の防護服を持って準備万端の状態とする。

何時でも助けに行けるぜ!と意気込んでいると、ジュリウス隊長の指示にケチをつける奴が現れた。

汚いハンプティーダンプティーことグレム局長である。

金の事しか頭にない彼はシエルの身よりも神機兵を優先するらしい。彼の言い分に俺を含めたブラッドメンバーの怒りは有頂天である。

 

 

結果、シエル自身が救援を拒否するというまさかの事態に陥ってしまった。グレム局長はその結果に満足そうな声音で結構、結構と言っていた。

それを聞いたとき、ギルさんは急に神機の様子を確かめ始め、ロミオ先輩はオラクルリザーブをしまくり、ナナはフルスイングで素振りをし出した。

やだ……物騒……。

 

 

なんて言っている場合ではない。

早くしないとマジで手遅れになる。

なんかないかなんかないかと某猫型ロボットのように呟きながら辺りを見回せばそこには先程残念な戦闘を見せてくれた神機兵が視界に入った。

 

 

「………!」

 

 

その時俺に電流が走る。

これを使えば赤い雨が降っても大丈夫だったはずだ。確かターミナル先生にそんなようなことが記載されていた気がする。

そうと決まれば早速乗り込もう。

 

 

あらかじめ用意しておいた防護服を片手に神機兵へと走る。

何処からかはいるのかいまいちよくわからなかったので、適当に胸をぶっ叩いたらプシューと煙を出しながら胸部が開く。

中に乗り込んでみると、胸部が閉まり一瞬だけ暗くなる。しかし次の瞬間には中の機械が作動し、周囲が見えるようになった。

これはいったいどうやって操作すればいいんだろうか……。

今更ながら操作方法がわからず、もうだめだ、おしまいだぁ状態になっていると目の前にある大きな画面にメッセージが表示された。

 

 

『イメージするのは常に最強の自分だ』

 

 

なんのこっちゃ。

操作の説明かと思って期待させよって。

とりあえず俺は動けーと念じながらその辺の機械をポチポチいじる。すると、何という事でしょう。うんともすんとも言わなかった神機兵が急に動き出したのだ。

 

 

……なるほど、イメージか。

イメージで動くんか、これ。わかりづらいな。若干説明について愚痴りながらも操作方法が分かればこっちのものだ、と俺は頭の中で走るイメージを思い浮かべる。

その直後神機兵は結構なスピードで走りだした。点々と光るマーカーの位置に向けて。

 

 

走り始めてからすぐに目の前の画面に通信が来ていますというメッセージが現れた。

やってることがやってることだしいい内容じゃないよなーと考えていると強制的に通信を繋げられたようで、グレム局長のうるさい声が響いた。

 

 

……正直、俺はシエルの件でグレム局長には激オコなので今はしっかりと話せる自信がなかったりする。

頑張って言葉を返すと、出てきた言葉は案外普通の内容であった。よかったぜ。

しかし、一言交し合っただけで会話が終わるわけもなく再びグレム局長が怒鳴り散らす。

ま、まぁ俺はもう16歳ですしぃ、自分の感情を抑えることなんて余裕だから先程と同様に俺は冷静に言葉を返した。

 

 

「黙っていろゴミ屑。俺の行いが理解できない無能はその場でおとなしくしておけ」

 

 

あ、だめだこれ。

俺は自分で思っている以上に大人ではなかったらしく、グレム局長への暴言がとどまるところを知らなかった。

何とか止めようと頑張ってみるが、怒りが有頂天で暴言が止められない!止めにくい!状態だったので結局最後まで言い切ってしまった。

 

 

帰ったら俺首になるんじゃないかな?

と不安になりつつも通信が切れたので神機兵の操作に専念する。

点滅しているマーカーまで後少しと言う距離に来たところで、ビー、ビーと何やら危険を知らせるような音が鳴る。

 

 

『神機兵βの周辺にアラガミの反応があります』

 

 

どうやらアラガミがいるという警告だったらしい。

意外と便利でびっくりである。

だが、驚いてばかりもいられない。先程の警告が本当ならばシエルが絶賛大ピンチという事になる。

俺は今までよりさらに加速するイメージを思い浮かべ、全力で神機兵βの元へと向かう。

よっし、見えたぁ!

 

 

神機兵の画面が映し出す光景には膝を付いて座り込む神機兵を屋根としているシエルの姿と今まさに襲いかかろうとするシユウの姿があった。

 

 

「チェストー!」

 

 

神機兵にジャンプしてからそのまま剣を振り下ろすイメージを送る。

そうすると神機兵は俺の想像通りの軌道を描き剣を振り下ろした。憐れシユウは神機兵のマシンパワーの前に爆発四散した。

当たれば強いな。

 

 

シユウの始末を終えた俺はシエルの方に近づき、シエルが屋根にしている神機兵に覆いかぶさる様な体制を取った。そして、胸部を開いて持ってきた防護服をシエルに投げつける。

 

 

「念のため着てな。それの方がこれより安心でしょう?」

 

 

覆い被さる状態で固定している神機兵を指さしながら笑いかけるとシエルは泣きそうで笑いそうで嬉しそうで悲しそうな、そんな複雑な表情を浮かべていた。

 

 

しばらくすれば、赤い雨を降らす赤乱雲もどこかに行き俺たちは無事に帰投を果たすことができた。

ちなみに帰ってきたシエルを迎えたのはフランさんやブラッドメンバーで俺を迎え入れたのは屈強なフライア職員と懲罰房であった。

なんでも今回の命令違反とグレム局長に対する暴言で1週間懲罰房で謹慎が罰なんだと。

まぁ、1週間の休みが取れたと考えれば悪くないかな。

それに首にならなかっただけましだろう。

そう考えて、自分の部屋よりはるかに硬いベットにもぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、二人で帰投した後、私を助けてくれた君に待っていたのは1週間の懲罰房行と言う罰でした。

……私を助けようとしたばっかりにと落ち込んでいると、それを察してくれたフランさんがそれはあまり関係ないと言ってくださいました。

ですが、それでは何故懲罰房に入ることになってしまったのかと言うと、私を助けに向かっている時通信してきたグレム局長に多くの暴言を吐いたらしいです。

なんでも私の事を全く考えていなかったグレム局長に怒りが湧いてついつい口から出てしまったと本人が言っていたと聞かされました。

 

 

不謹慎ですが少し、あの場に残ってよかったと思ってしまいました。私のために怒ってくれて、私のために危険を冒してまで助けに来てくれたことが嬉しいんだと思います。

その話を聞いて私は余計に君にお礼をしたくなりました。

なのでさっそく向かう事にしました。

 

 

 

 

私が懲罰房に行くと君はベットに座ってぼーっとしていました。その様子がとてもおかしくてついつい笑ってしまいました。

その笑い声で私に気が付いたのか君は少し恥ずかしげにしながら扉の近くに寄ってきました。

 

 

「もしかして、見てた?」

 

 

「ぬぼーっとしてましたね」

 

 

「oh……」

 

 

からかう様に答えると副隊長は手を額に当てて天を仰ぎました。

私が悪いのですが、このままだと話が先に進まないので少々強引に話題を切り替えます。

 

 

「そういえば、君はこうなることが分かっていて、あんな無茶をしたんですか?」

 

 

「いや、論破してなんとかやり込めようと思ったんだけど、自分の暴言のせいでこうなった。ぶっちゃけ自業自得」

 

 

「フフ……でもそれは私の為に怒ってくれていたんですよね?」

 

 

「……し、知りませんな」

 

 

「声が裏返ってますよ」

 

 

「オウフ」

 

 

胸を押さえてよろめく姿を見て再び笑ってしまう。

ほんと、君といると楽しいです。

 

 

「別に俺だけじゃないよ。ギルさんは神機構えてたし、ナナは全力で素振りしてたし、ロミオ先輩はオラクルリザーブを狂ったようにしてたからね。あのままシエルが死んじゃったりしたらグレム局長も死んだんじゃないかな?」

 

「皆シエルのことが大事だからね。それこそ上官であるグレム局長をぶっ殺しそうな勢いでね」っと付け足す君。

急に飛び出てきた物騒な話題に苦笑しつつ、そんな反応をしてくれたブラッドの皆を思い胸が熱くなる。

それと同時に、あの時どうして自分がジュリウス隊長の命令に従わなかったのか、何となくつかめた気がする。

それはきっとブラッドの皆が私にとって、命令よりも自分よりも大切なものだったのでしょう。

 

 

「……私も、見つけたかもしれません。命令よりも自分よりも大切なものを」

 

 

「そっか……それはよかったよ」

 

 

「君、少しだけ手を出してくれませんか?」

 

 

「へ?別にいいけど……」

 

 

私の急なお願いに不審に思いつつも君は懲罰房の扉にある隙間に手を近づける。それを私はぎゅっと握った。

 

 

「ねぇ、君」

 

 

「んー?」

 

 

「とっても、温かいですね」

 

 

漠然と自分が思ったことだけを口にした。

これだけだったら、多分何のことかわからないでしょう。しかし、不思議と今だけはお互いがお互いの事を分かっている……。

懲罰房の扉の向こうで微笑んでいる君を見て、私はそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 



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第二十話

今回の話について
全く話が進んでいないよ!すいません!
そんな感じですが、二十話どうぞ。



 

 

 

 

 

 

あー……一週間の懲罰房行と言う名の休日が終わりを迎えてしまった……。

これから再び毎日アラガミと戦わなければならないと考えるととても憂鬱とした気分になる。

まとまった休日もらったりすると、次仕事や学校行くのがとてつもなく面倒に感じるよね。

屈強な懲罰房の監視担当と思われるフライア職員に何故か敬礼されながら俺は懲罰房を後にした。

 

 

懲罰房は色々とやらかした人が入る場所なので普段フライアで使っているロビーなどからは結構離れていたりする。多分人が来にくくするためだろうけど。

で、その関係上今の俺の目的地であるロビーがとても遠い。つまり何が言いたいのかと言うとロビーまで行くのが面倒くさいです。

懲罰房でぬくぬくとしていた所為なのか完全に腑抜け切っているなぁと自分でも思いつつ、ジュリウス隊長に簡単なリハビリを兼ねた訓練でもやってもらおうかと考える。

 

 

……やめよう。

あの人がそんなことするわけがない。訓練と言いつつ殺意しか感じないようなメニューを出してくるに違いない。ソースは俺。

 

 

ならばどうやって自分の根性や戦いの勘などを取り戻そうかと考えていると、前の方からフライアの職員が歩いてきた。

フライア職員は何故か俺を見ると怯えだすという摩訶不思議な性質を持っている。

そのたびに俺の心にダイレクトアタックするのだがいったい彼らは気づいているのだろうか。

まぁ、むやみに怯えられるのは相手的にも俺のメンタル的な意味でもよろしくないのでなるべくフライア職員と距離を取りすれ違おうとした。しかし、

 

 

「やぁ。仁慈君。懲罰房から出てこれたんだね、おめでとう!」

 

 

「!?」

 

 

誰だこいつ。

こんな爽やかな奴知らないんですけどっ!?

最近フライアに勤め始めた新人さんですかね?

声を掛けられた衝撃が大きすぎて、その後彼が何を言っていたのかは全く分からなかったが、去っていくときも爽やかな笑顔と共に手を振られたことだけは記憶に残った。

 

 

……なんかどっと疲れた。

普段慣れないことをすると疲れがたまるのはよくあることであるが、まさか人に普通に話しかけられたことがこれほどの疲労をかんじさせるとは。

っていうか今の理論で行くと俺が人と会話することが慣れていない人という事に……うん、これ以上考えるのはやめよう。なんていうか……よくない。うん。

 

 

これ以上考えてもいい結果は出なさそうなので完全に思考を放棄する。

さて、さっきの職員は俺が見た幻という事にしてとっととロビーに向かおう。

 

 

「仁慈君!懲罰房からでることができたのかい!?」

 

 

またかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

正直、超展開すぎて全くついていけていない。

割と真面目に説明が欲しい。

今現在、なんとかしてロビーの前に来ている俺だがここに来るまでに五人のフライア職員に絡まれていた。

このフライアに来たころには考えられない現象である。しかし、彼らに絡まれているうちにだんだんと俺に話しかけてくる原因が分かった。

 

 

俺に話しかけてきたフライア職員は総じてグレム局長にいい感情を抱いていたわけではないらしく、シエルに命令を下したとき彼らの怒りも有頂天だったらしい。

そんな時、俺が色々と暴言を交えつつグレム局長を言いくるめたために、俺に話しかけてきたんだと。

どんだけ人望がないんだ、グレム局長。上に立つものとしては致命的だぞ。

 

 

で、ついでに話しかけてくれるようになったついでにどうして俺を避けていたのか聞いてみたところ、適合試験での俺の態度がそうさせたらしい。

曰く、適合試験は神機と人間の喰い合いで、結構な痛みを伴うそうだ。

それに対して俺は痛みを感じた風ではなかったため、元から化物やら一瞬で神機を手なずけた化物、実はアラガミと言った風な噂が立ったらしい。

 

 

最近、ブラッドメンバーに人外と言われ、一週間前にコンゴウを蹴り飛ばした俺としては何とも否定しづらい噂であった。

っていうか初めの噂も割と自業自得だったでござる。

 

 

なんでだ。

俺にたまっている疲労が任務でも感じたことのないくらいに膨れ上がっている。実は精神が貧弱なのかもしれない。

そう、自己分析しつつ俺はロビーに入った―――――――瞬間、結構な速度で飛んできた何かが俺の鳩尾に攻撃を入れてくれやがった。

 

 

「おぐっ!?」

 

 

当然、意識外から与えられた痛みは通常より大きな痛みとして俺にフィードバックする。何が言いたいかと言うと超痛い。

具体的には家の中でタンスの角に足の小指ぶつけたくらい痛い。思わず涙が出てきちゃうレベル。

一体誰だ、精神的に弱っている俺を肉体的にも殺そうとしてくる奴は……。

未だに鳩尾にぐりぐりと何かを押し付けるような事をしているものの正体を暴こうとそこに視線を向けると、

 

 

とても満足そう……と言うか若干トリップしている感じのシエルがぐりぐりと自分の頭を俺の鳩尾にこすり付けていた。

……何故だろう、シエルから犬の耳としっぽが生えているように見える……。

幻術かな?

だがしかし、なんというか女の子特有のいいにおいがするんだよなぁ。

 

 

「し、シエルザン!?ナンデトツゲキヂテキタンディスカ!?」

 

 

やべぇ、ちょっと動揺して変な言葉が出た。

それにしても……一体この1週間の間にシエルに何があったというのだろうか。

声をかけたにもかかわらず一向に離れる気がないシエルに耐えかねて、ロビーにいるほかのブラッドメンバーに助けを求めてみる。

 

 

ジュリウス隊長……じゃれ合っていると判断していい笑顔をこちらに向けている、次。

ナナ……イイ笑顔でこちらを見ている。動く気配ゼロ、次。

ロミオ先輩……ニヤニヤしている。後で腹パンな「なんで!?」……次。

ギルさん……帽子を深くかぶってそっぽを向いた。完全に見捨てたようだ、次。

フランさん……カタカタ機械をいじってこちらに気付いてすらない。

結論、助けはない、現実は非情である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺がぐりぐり地獄?天国?から解放されたのはまさかの1時間後であった。

しかも今はぐりぐりしていないとはいえ、ぴったりと俺の隣についてきている。

 

 

「あのー、シエルさん?少々距離が近すぎやしませんこと?」

 

 

「そうですか?久しぶりに会ったのですし、このくらい普通でしょう」

 

 

「久しぶりって……3日前にも会いに来たでしょ」

 

 

「いいえ。73時間45分24秒ぶりです」

 

 

「お、おう」

 

 

怖い。この子怖いよ。

本当に俺がいなかった1週間で何があったの!?

少なくとも1週間前まではこんな子ではなかったのにっ!いったい誰だ、あんなに純粋だったシエルをこんなにしたのは!

ちょっと病んでるように感じるんですけどぉ!

 

 

「どうしてそんな正確に把握しているんだ?」

 

 

「仲間のことは随時知っておいた方がいいっとラケル先生が……」

 

 

ちっくしょう。

またラケル博士かよ。あの人マジで精神が病んでそうだから、他人をそっちの道に引きずり込むなんてどうってことないように感じる。

もう、何か変なことが起きたら大体ラケル博士の所為なんじゃないかなぁ?

 

 

「ハハハ……はぁ……」

 

 

乾いた笑いが思わず口からこぼれる。

もう自分の部屋に帰って寝たいよ。

俺は何とかしてシエルに離れてもらい、俺たちの方を見てニヤニヤしていたロミオ先輩に通りすがりに腹パンをかまし、いい笑顔でおでんパンを差し出してきたナナにそれを彼女の口にツッコミ、ギルさんに軽く挨拶をして、俺の心境を全く察してくれなかったジュリウス隊長に話しかける。

 

 

「こんにちは、ジュリウス隊長。俺のことで何か言いがかりとかされました?」

 

 

「いや、大丈夫だ。どうやらお前の説得……と言うか暴言に近い理論が効いたようでな。あからさまに暴言を吐いたお前にしか処罰を下せなかったらしい」

 

 

それを聞いて少し安心。

俺の暴言のせいでジュリウス隊長に責任やら何やらが行ったらさすがに申し訳がないからね。

……そう言えば、処罰で思い出したけど、

 

 

「あの……ジュリウス隊長。どうして俺が1週間の懲罰房行で済んだかわかりますか?」

 

 

よくよく考えてみれば、俺は命令違反だの暴言だの結構なことをやらかしている。いくらある程度理論の通ったことを言ってもあの局長の性格なら何とかして査問会くらいにはかけそうなものだが……。

 

 

「あぁ、そのことか。それならフランのおかげだ」

 

 

「えっ?フランさんの?」

 

 

予想外の名前が出たので少々戸惑う俺。

そんな様子を知ってか知らずか、ジュリウス隊長はそのまま言葉を紡ぐ。

 

 

「なんでも、フライア職員にグレム局長の悪い噂(あることないこと色々あるよ)を流し、フライア職員の仁慈に対する悪印象を消しつつ、グレム局長が好き勝手にできないようにしたらしい」

 

 

え、えげつねぇ……。

今何気ない普段通りの顔で仕事をこなしているフランさんがそんなことをしたのか……。

しかし、変な噂が流れている(自業自得)ときに恐れないで話しかけてくれたり、今回のように陰ながら助けてくれるなんてフランさんマジ天使。

天使!女神!フラン!

 

 

真実を知った俺はとりあえずフランさんを拝むことにした。

その場面を見られたのか、フランさんが何やらおかしな人を見るような冷たい視線を送ってきた。

今日懲罰房を出てからそれが一番ダメージがでかかった。

 

 



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第二十一話

ジュリウス無双。
何となくそんな感じの二十一話です。


 

 

 

「仁慈さん先程は私を拝んでいたようですが………どうかしたんですか?」

 

 

「そのことはできるだけ触れないでください……」

 

 

ジュリウス隊長の話を聞いて、お礼を言おうと話しかけた結果がこれである。見事に追い打ちをかけられることとなった。

いや、元々は本人を前に拝むという愚行を犯した俺が悪いんですけどね?

 

 

「今回のことで結構……いや、かなりお世話になったのでそのお礼を言いに来たんですよ。ありがとうございます、フランさん」

 

 

ゴホンと一度仕切りなおしてからお礼を言う。

それを聞いたフランさんは一瞬だけ目を見開くが、先程までジュリウス隊長と話しているところを見ていたのかすぐに納得したような表情を浮かべ、最後に溜息を吐いた。

なして?

 

 

「はぁ……別にお礼を言われるためにやったわけではないのですが………しかし感謝してくれているならそのお礼、受け取らせていただきます。どういたしまして」

 

 

そういってにっこりと笑うフランさん。

それに対して少しだけ固まってしまう俺。

……こういう彼女の表情はなかなか見ないので見惚れて固まっていたというのは内緒だ。

なんか気まずくなってきた俺は、無理矢理話題を転換した。

 

 

「そ、そういえばフランさん。なんか任務入ってたりしますか?」

 

 

「はい。初の大型アラガミ、ヴァジュラの討伐任務がジュリウス隊長、仁慈さん、シエルさんに出ています」

 

 

一週間小型アラガミすら狩っていない俺に大型ぶつけるとか俺に死ねと言っているのだろうか?

……でもよくよく思い返してみたら大体の任務がこんな感じだった気もするな。情報にないアラガミがしょっちゅう乱入してくるし。

 

 

「このヴァジュラと言うアラガミは、新人の間では鬼門として扱われています。ちなみに普通の支部では必ず四人以上で討伐するヴァジュラですが、私たちが向かう極東ではヴァジュラを一人で倒せて一人前扱いらしいですよ」

 

 

頭おかしいんじゃねえの、極東。

思わずそう思った俺をいったい誰が責められようか。

 

 

単純に考えて、最低限極東の神機使い一人はほかの神機使いの四人分の戦闘力を保持している。

そして、何故か極東のアラガミはほかの場所に出現するより数段強いアラガミが生まれる。その力はもはや別物と言っても過言ではない。

 

 

それを一人で仕留められる極東の神機使いの実力は……もはや言うまでもないだろう。

ロミオ先輩とは別の意味で極東に行きたくなくなってきたぜ。アラガミより神機使いの方が化物じみているってどういうことなの……。

 

 

「まぁ、リハビリの相手には少々厄介そうだけどジュリウス隊長が居れば平気かな?」

 

 

「おそらくは大丈夫だと思われます。ジュリウス隊長も仁慈さんに負けないくらいにオカシイですから」

 

 

「フランさんも俺のことそう思っているんですね……」

 

 

最近慣れてもきたし、諦めもついたけどさぁ。

傷つかないわけではないんですよ?

 

 

「……もうそれについてツッコムのはやめにします。で、俺はその任務を受注すればいいんですよね」

 

 

「はい。しかし、その前にラケル博士からメディカルチェックの結果が出たそうなので研究室の方に来るようにと言われております」

 

 

「了解です」

 

 

「おや?珍しいですね。仁慈さんはラケル博士を苦手としていて、こういう事は決まって渋るものだと思っていたのですが?」

 

 

「今回は素直に行きますよ………シエルのことで言いたいこともあるし」

 

 

いい加減、あの純粋な子をあらぬ道に陥れようとする電波博士とも決着をつけなければなるまいよ。シエルの健全な未来と俺の平穏の為にも。

アラガミと戦う時以上に覚悟を決めて、俺はラケル博士の研究室へ向かう。

 

 

「ラケル博士!いい加減シエルに変なこと教えるのやめてください!」

 

 

「ノックもなしに入ってきた第一声がそれなの?」

 

 

気合を入れてラケル博士に文句を言おうとした結果がこれである。

緊張のあまり、ラケル博士に呆れられるという屈辱を体験することとなった。一生の不覚……。

 

 

「そこまで思われているとさすがにショックなのだけれど……」

 

 

「普段の振る舞いを思い返してから言ってください。そのセリフ」

 

 

この前ハンプティ局長に注意されたばかりじゃないですか!俺は懲罰房にぶち込まれたが。

……あれ?普段の振る舞いうんぬんは俺も言われたことあるし……もしかしたら俺とラケル博士って案外似たもの同士……。

いや、考えるのをやめよう。まだ俺には良識が残っている。常識は死にかけてるけど。

 

 

「それより、シエルに変なこと教えるにやめてくださいよ!ただでさえ最近前とは別の意味でずれ始めてきたのに」

 

 

「それは貴方の所為ではないのですか?……しかし、話は分かりました。私もあの子の親として、しっかりとした知識を教えることを約束しましょう」

 

 

「ちゃんとしっかりとした常識を教えて下さいよ。世間一般で広く認知されているものですよ?あなたの中の常識とか教えないでくださいよ?」

 

 

「……………」

 

 

「何で黙ってんだコラ」

 

 

もしかして図星だったか?

そうだとしたら俺は俺のことを全力で褒めてやりたいね。これでスルーしてたら大変なことになっていた。シエルとその周りが特に。

 

 

「……今日貴方をここに呼んだのは、聞いているかもしれませんが貴方のメディカルチェックの結果を知らせることです」

 

 

ラケル博士が露骨に話題をすり替える。

内心で勝った!俺は自分の恐怖を克服し、見事勝利をもぎ取った!と自分でも後々思い返してみれば頭おかしいんじゃねえのという感想を持つこと間違いないことを考えながらラケル博士の言葉に耳を傾ける。

 

 

「メディカルチェックの結果から、神機兵に乗った弊害などは見られませんでした。しかし、もっと別の重要なことが分かりました。貴方の血の力の事です」

 

 

「あー……そういえば詳しくは知りませんでしたね。俺の血の力について」

 

 

ブラッドアーツの事なら色々試したり、実戦で使ったりしたので割とわかることは多いのだが血の力のことについては何一つとして知らなかった。

つーかぶっちゃけ思いっきり忘れていた。

 

 

「貴方の血の力は『喚起』。心を通わせた者の真の力を呼び醒ます……ブラッドの皆の血の力を目覚めさせることのできる能力を持っています。実際、シエルが貴方の様子を見に行ったあと血の力に目覚めました」

 

 

「シエルって血の力に目覚めたんだ……」

 

 

初耳なんですけど……シエルもあの時言ってくれればよかったのに……。いやまぁ、それはそれとして、いまいちパッとしない能力だな。

ブラッドとしては両手を上げて喜ぶくらいの能力ってのはわかるんだが……俺本人としてはちょっと……。

 

 

「今はまだ実感がないのかもしれませんが、この『喚起』の力でみんなの目覚めを助けてあげてくださいね」

 

 

「アッハイ」

 

 

本心を知られるわけにもいかないのでとりあえず返事を返しておく。そのせいで若干変な感じになったがラケル博士は気づいていないらしい。

ラケル博士が車いすを反転させるのを見て会話が終わったことを悟った俺はいつも通り失礼しましたと言って研究室を後にした。

 

 

 

 

 

  ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

さて、ラケル博士の研究室を後にした俺は再びロビーに戻り、サクサクと任務の受注を済ませた。

現在は輸送班の車の中で、贖罪の街に向かっている最中である。

ここで俺は自分の能力である喚起に何か引っかかりを覚えていた。心を通わせた者の真の力を呼び醒ますらしいが……これは他人だけに作用するのだろうか?

 

 

もしもの話、真の力の覚醒がジュリウス隊長の血の力のように偏食因子もしくはオラクル細胞に作用して血の力を発現させると仮定すれば基本的に性能を抑えてある神機の真の力を発揮できたり、ブラッドアーツを新たに発現させたりできるのではないか?

 

 

……うーん、今の段階では何とも言えないかなぁ。

この任務が終わったら訓練場にでも行って、色々試して見るかな。

 

 

「どうした仁慈、着いたぞ」

 

 

「あぁ、はい。すぐに行きます」

 

 

どうやら考察している間に贖罪の街についていたらしい。考えるのは後だな。

俺は頭を切り替え、輸送班の車に乗せていた自分の神機を担ぐ。そうして、ジュリウス隊長の方に近づくとシエルがどこか遠くの方を真剣に見ていた。

 

 

「ジュリウス隊長。シエルは何をしているんですか?」

 

 

「ん?あぁ……シエルは目覚めた血の力である『直覚』で遠くにいるアラガミの位置と状態を確認することができるんだ」

 

 

「何それ超便利」

 

 

位置も分かって状態もわかるなんて利点しかない。

俺もそういうのが良かったなぁ。

 

 

「わかりました。ここから200メートル先にあるビルの穴にいるようです」

 

 

すげぇ。本当にわかるんだ……。

 

 

「よし、なら今からそこに向かおう」

 

 

ジュリウス隊長の言葉に俺とシエルが頷き、行動を開始する。シエルが言った場所に行ってみれば向こうもこちらに気が付いたのかビルの穴から虎(?)のような風貌のアラガミが跳び出して来て咆哮を放つ。

 

 

「あれがヴァジュラか……虎?でも鬣っぽいものがるし……ライオンか?」

 

 

「そんなことはどうでもいいでしょう。まったく……君は大型アラガミの前だろうと変わりませんね」

 

 

「普段通りなのはいいことだ。緊張しすぎては逆に体が固くなってしまうからな。さて、向こうもやる気のようだし、行くぞ!」

 

 

「「了解」」

 

 

ジュリウス隊長の声と共に俺とシエルはそれぞれの配置に着く。

それじゃ、お仕事始めましょうかね。

 

 

 

       ―――――――――――――――――――――

 

 

 

「チッ、あのエレキボール(仮)地味なホーミング性能がうぜえな……!」

 

 

自分を中心にして電撃放つし、ピカチ〇ウかよ。

どうも、格好つけて切りかかってみたはいいものの、刃の通りが悪く尚且つ敵の攻撃が広範囲なため結構苦戦を強いられている俺です。

シエルのスナイパーの方が怯む回数が多くてそっちで攻撃すればよかったと軽く後悔しています。

 

 

「ジュリウス隊長。あのエレキボール(仮)どうすればいいですか?」

 

 

あまりにうざいので隣りで余裕の表情を浮かべるジュリウス隊長に問い掛ける。

 

 

「エレキボール……?あぁ、あの電気の球の事か。アレの対処は簡単だ、切り捨てればいい」

 

 

「できるか」

 

 

思わず敬語も使わずにそう返した俺をいったい誰が責められようか。

しかし、ジュリウス隊長は首を捻った後、何か納得したようにポンと手を叩く。

 

 

「なるほど、やり方がわからないと……」

 

 

「違う、そうじゃない」

 

 

何をどう解釈すればそうなるんだ……!

俺が頭を抱えていると丁度ヴァジュラがエレキボールモドキを発射した。それを見本を見せるためのいい機会だと考えたのか、ジュリウス隊長がわざわざエレキボール(仮)の射線上に入り、

 

 

「せや!」

 

 

左下から右上にかけての切り上げで見事にエレキボール(仮)を両断して見せた。

 

 

「こうするんだ」

 

 

「いや、そういわれても……」

 

 

どうもこうもないでしょう。ンなことでできるのはジュリウス隊長くらいですって。

やっぱり、この人が一番化物なんじゃなかろーか。

 

 

「グゥアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

向こうでヴァジュラが咆える。その咆哮はどこか怒気を含んでいるように感じられた。

多分間違ってない。ヴァジュラもジュリウス隊長の理不尽さに怒ってるいるに違いない。

ヴァジュラは一瞬だけ態勢を低くすると、そのまま突撃しようと地面を蹴りあげる。

しかし、地面を蹴り加速しようとしたところで一発の弾丸が後ろ脚を貫き、

ヴァジュラは態勢を崩した。

 

 

「命中確認」

 

 

「お見事」

 

 

俺たちの背後でスナイパーを構えているシエルに軽い称賛を送り、ジュリウス隊長と共に切りかかる。狙うは刃が比較的に通りやすいしっぽだ。

ジュリウス隊長?あの人なら多少効きづらくても行けるらしく、前足と顔面を目にもとまらぬ速さで切りつけまくっていた。

もうあの人だけでいいんじゃないかな。

あ、コア見っけた。

 

 

しっぽを結合崩壊させ、後ろ脚に狙いを変えて切りつけているとアラガミを形作る物であるコアが出てきたので、速攻で捕食する。

すると、伏せたままもがいていたヴァジュラが動きを止めて、その体がグズグズと崩れ始めた。

 

 

『目標の討伐を確認しました。早い……全く、サポートのしがいがないですね』

 

 

「ジュリウス隊長が居ましたからね」

 

 

居なかったらもっと時間がかかっていただろうよ。

やっぱり、最近感応種を倒して調子に乗っていたのかもしれないな。

1週間のブランクがあるとはいえ、話にならん。

 

 

「任務完了ですね」

 

 

「お疲れ、シエル」

 

 

神機を持って近づいてきたシエルにいたわりの言葉をかける。すると、彼女は嬉しそうに微笑みながらお疲れさまと返してくれた。癒される。

 

 

「フッ、まるでピクニックだな」

 

 

「こんな物騒なピクニックがあってたまるかってんですよ」

 

 

パンパンと服の埃を叩きながらそう言うジュリウス隊長にツッコミを入れる。

……さて、任務は完了したしジュリウス隊長のおかげで時間も余った。フライアに帰ったら車の中での考察の件も含めて、訓練場に篭るか。

 

 

 

 

 

 



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第二十二話

シエルさんとデート回(任務)です。多分。


 

大型アラガミであるヴァジュラとの戦いで、自分に足りない物とジュリウス隊長のありえん(笑)強さを自覚した俺は車の中で考えていた通りフライアの訓練場で色々と試しながらダミーアラガミと戦っていた。

設定としては自分のブランクも考慮し、元々フライアの方で考えられていた難易度で訓練を行っている。具体的にはアラガミの出現数は十体で、強度はその辺の個体で最も強いものだ。

ちなみにジュリウス隊長が俺の訓練で使った難易度はあの人が自分用に作ってもらった鬼畜難易度なので普通の人はまず使わない代物である。

 

 

やっぱりあの人おかしいと思いつつ正面から来るダミーアラガミを捕食し、振り回して自分を囲っているほかのダミーアラガミを吹き飛ばして分断させると、一番近くにいるダミーアラガミから各個撃破する。

それを繰り返していくと、数分後にはすべてのダミーアラガミが地面に力なく伏せている状態になった。

 

 

「……なんか足りないな」

 

 

一度神機を訓練場に刺して、両手を組んでそう呟く。

そう感じてしまうのは主に二つの原因がある。一つは今までがジュリウス隊長の鬼畜難易度でやっていたために感じるものであるという事。もう一つは自分が考え付いた神機の解放とブラッドアーツの開拓の兆しが全く見られないからだ。

 

 

いや、まだ理論的に正しいと結論が出たわけではないし兆しが見えないことが当たり前なんだが……外れているとは思えないんだよなぁ。

なんでそんなに自信満々なんだと言われても答えようがないけど……なんかこうビビっと来たんだよね。

その時、仁慈に電流走る(CVヤ〇チャ)

 

 

確か血の力やブラッドアーツは自分の意志がどうたらこうたらっていつかジュリウス隊長が言っていたような気もする。

意志……意志かぁ……。

うんうんと頭を捻りながらしばらく考え、俺はある結論を出した。

 

 

―――――――――ジュリウス隊長考案、鬼畜難易度訓練をすれば生きたいという意思によりブラッドアーツが目覚めるのではないかと。

 

 

我ながら頭がおかしい、常識の欠片もない某野菜人の思考に近い結論を出したと思う。

だがしかし、ジュリウス隊長を見てほしい。エレキボール(仮)を気負いもせず切って捨てたあの人に常識なんてあっただろうか?いやない(反語)

 

 

つまり、「俺は常識を捨てるぞーーーーッ!」することにより自分の限界を超えることができるのだ。

 

 

実際にそれが正しいのかは全く分からないし、むしろ正しくない確率の方がはるかに高いが、手探り状態もいいところな現状ではこれくらいしか打つ手がない。

仮に効果がなかったとしても確実に戦闘時の戦い方や勘は取り戻せるだろうから、少なくともマイナスにはならないだろう。

 

 

ピコピコと訓練場の設定を弄繰り回し鬼畜難易度に設定した俺は、地面から一気に飛び出してくる三十体のダミーアラガミと向き合った。

 

 

―――――――――――この後無茶苦茶後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

「もう少し……段階を……踏むべき…だった……」

 

 

一週間ぶりの自室にあるフカフカベットで絶賛後悔中の俺です。

三十体のダミーアラガミに向き合ったはいいものの、ヴァジュラと戦った後と言う事をすっかり忘れていた俺は物凄い手こずった。ゴメン見栄張ったわ。ぶっちゃけ死にかけた。

一応、その甲斐あってか最後の方のダミーアラガミを相手にするときには一週間前の動きに近いものができるようになってきたが体力的に力尽きているのが現状である。

やっぱり常識は必要だったよ……。

 

 

しかし、収穫はあった。

死にかけて必死に生きたいと思ったからか新たなブラッドアーツが使えるようになったし、戦闘技能の方も本来のモノを取り戻した。

これで今日のような無様は早々さらさないであろう。そんな、安堵からか俺はすぐに眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

    ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「……痛ぇ」

 

 

朝、目覚めて俺が最初に感じたのは痛みだった。しかし、怪我などの痛みではない。これは俺にとって最もなじみ深い痛みだった。

そう、筋肉痛である。

 

 

この世界に来る前に散々経験してきたあの痛みだ。偏食因子を投与され、半分が人間でなくなったと言っても過言ではない神機使いの身体も、一週間ぶりの戦闘行為はさすがに堪えたらしい。

特に神機をぶんぶん振り回していた右手が致命的だ。もう腕が上がらないレベル。

 

 

ぶっちゃけ、この状態の俺が戦闘で役に立つかと言えば微妙なラインである。微妙なラインではあるが、残念なことに超ブラック企業フェンリルで働く神機使いに休日なんてものはなく今日もお仕事である。

 

 

正直本当に命に関わるレベルなら休ませてもらえそうだが、理由が筋肉痛っていうのは俺的にもどうかと思うので布団からズルズル這い出て身支度を済ませ、俺はいつも通りロビーに向かう事にした。

 

 

「今日は仁慈さんに任務はありませんよ?」

 

 

「えっ」

 

 

なにそれこわい。

ま、まままままま待て。れれれ冷静になれ。これは孔明の罠だ。はわわ軍師の所為だ。

 

 

「随分動揺してますね……」

 

 

「だって神機使いって休日ないでしょう?」

 

 

「……確かに、今までの働きからしてそう感じても不思議ではありませんが……一応神機使いにも休日はありますよ?その支部の神機使いの数にもよりますが」

 

 

「なん……だと……」

 

 

全開に目を見開きふらつきながらも二歩ほど後ずさる。

その反応を見たフランさんが呆れた声で、

 

 

「仁慈さんはいったいフェンリルをなんだと思っていたんですか……」

 

 

「ブラック企業」

 

 

ついでに内部事情もかなり黒そうだよね。この世界で唯一まともに機能しているし。やりたい放題でしょ。

 

 

「なら神機使いは?」

 

 

「社畜」

 

 

即答した俺についにフランさんは頭を抱えた。

だってさ、父さんがよく言ってたんだよ。

「やってもやってもへらないものなーんだ」って。

それで俺が「わかんない」と答えると死んだ表情で「仕事」って言うんだぜ?

幼いながらもいたたまれなくなり、全力で慰めたのはいい思い出である。

 

 

企業に勤めていた父さんがそう言ったんだ。企業に勤めていて、一向に減らないアラガミ討伐の仕事を請け負っている神機使いが社畜じゃないわけがない。

 

 

「仁慈さんは常人にはたどり着けないような境地に居ますよね」

 

 

「それ褒めてないよね」

 

 

「褒めてますよ。おんりーわんですよ」

 

 

「無表情+棒読みで言われても……」

 

 

がっくりと肩を落とす。

何と言うか中途半端に庇われる方が逆にダメージが増す。

 

 

まぁ、仕事がないならそれでいい。どちらにせよこの状態じゃ大したことはできないだろうしたまには自室でのんびり「そういえば、先程シエルさんが仁慈さんを探していましたよ」……できなさそうだな。

 

 

フランさんにお礼を告げて、くるりと周囲を見渡すとターミナルのある場所にこちらを見ているシエルを発見した。

フランさんと会話中だったから待ってたのかね?

向こうも俺がこっちを見たことで会話が終わったことを悟ったのか、少し嬉しそうな顔でトコトコ近づいてきた。かわいい。

 

 

「あの、少しお話があるのですが……」

 

 

「いいですとも!」

 

 

女の子の頼み(上目使い)を断れるわけがない……!

気が付けば返事をしていたのがその証拠だ。考えるよりも先に口が動いてしまったぜ。

場所を変えてほしいとのことで、庭園にやってきた俺は早速彼女の話を聞いた。

 

 

どうやら、シエルはブラッドの皆が銃形態をあまり使用しないことを銃形態時の扱いが苦手だからではないかと考えいるらしい。

確かに間違ってはない。実際ナナがそうだけど、みんながみんな苦手と言うわけではない。俺もそこそこ銃形態は使用するしロミオ先輩はむしろ銃形態を使う方が多い、ジュリウス隊長やギルさんはアサルトで乱射してナンボな武器なため苦手という事もないだろう。

ならどうして使わないのかと言えば……ぶっちゃけ寄って切った方が早いからである。

ヴァジュラのように相手取るアラガミにもよるが、ギルさんは経験豊富でジュリウス隊長は多少の不利くらいはひっくり返すから……ね?

 

 

そのことを彼女に伝えるとなるほどと納得した。納得するんだ……。自分で言っといてなんだけど。

 

 

「では銃の扱いは私がナナさんに教えるとして……実はもう一つお願いがあるんです」

 

 

ナナは犠牲となったのだ……。

そんなくだらないことを考えつつ、シエルに話の続きを促す。

 

 

「私が作ったバレッドがどれくらい実用的か実験をするので、それについてきてほしいんです」

 

 

「んー?でもそのくらいなら自分でもできるんじゃ?」

 

 

「その、ほかの視点から見ることでわかることもあります。挙動や構え、反動の受け流しかたなどを見てほしいのです。ダメ……でしょうか?」

 

 

実験なら、そんなたいした奴は討伐しにいかないだろうし。今の状態でも行けるかな。

何より前述した通り、女の子の頼みは断れない。断ったらクラスでつるし上げあられることになるからだ。ソースは俺。

小学校の時掃除当番を変わるように言われ、断ったら向こうが泣きだし何故か俺が怒られて結局掃除を一人でやることとなった。

何なの?男尊女卑とか男女平等とか言ってるけど、あれ嘘なんじゃないの?

 

 

おっと話がそれたな。とりあえず俺に断るのコマンドはないので、頷くと嬉しそうにありがとうございますと言ってくれたかわいい。

さっそく行きましょうと、シエルは俺の手を引っ張りロビーにあるカウンターへと向かった。

 

 

 

 

 

 

    ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「シエル、よく見つけてきたな。こんなミッション」

 

 

今回の任務の場所である嘆きの平原で俺は彼女に言う。

なぜこんなことを言ったのかというと、今回のターゲットがドレットパイクとザイゴートと言う見事にスナイパーの貫通が弱点のアラガミだけで構成されていたからだ。

おまけでヤクシャもいるが今回は任務外なので無視しても構わないらしい。

 

 

「たまたまですよ」

 

 

神機にバレットを入れながら言葉を返してきた。

しかし、

 

 

「ヤクシャはどうするよ。絶対こっちに来ると思うけど」

 

 

そう、俺たちが無視しても向こうから来られたらどうしようもない。その場合はコロコロ確定なんだが……今は右手が動かしづらいからなぁ。

両手で持つか。そんで右は軽く添える程度でいいだろ。きっと。

 

 

「ヤクシャも狙います。今回は実験なので相手が多いに越したことはありません」

 

 

バレットの装填が終わったのか銃形態の神機を持って立ち上がる。

 

 

「それでは、行きましょう」

 

 

シエルの言葉にうなずいて俺たちは高台から跳び下りる。地面に着地した音を感知したのか近くに居たザイゴート三体がこちらにふよふよと向かってくるが、

 

 

「フッ!」

 

 

パァンという音が三回周囲に響き渡り、こちらに向かってきたザイゴートはすべて地面に墜落していた。

一息で三発全部命中させるとは……さすがシエル。銃形態の扱いなら他の追随を許さないね。

挙動や反動制御もとくに問題点はないし、俺いらなかったんじゃないかな。

相も変わらずてくてくと妙にかわいい足取りでこちらに接近してくるドレットパイクをシエルがぶち抜くのを眺めながらそう考える。

あ、ヤクシャ来た。

 

 

「発射」

 

 

あ、ヤクシャの顔面にシエルの弾がヒットした。

痛い。ヤクシャはこちらに向かって走ってきていたのでその分の勢いも加算されてなお痛そう。

 

 

「よく見えたねシエル。さっきまで真逆向いてなかった?」

 

 

「直覚です」

 

 

「ホントマジで便利だな……」

 

 

この子に死角なんてもうないんじゃないかしら。

何処にでも目があるスナイパーとかマジ震えてきやがった。怖いです。

 

 

「……とりあえず今日持ってきた分のバレットはすべて検証しました。後は私たちの丁度反対側にいるドレットパイクを倒せば終わりですが……君も暇だったでしょう、そこのヤクシャ倒してもいいですよ?」

 

 

「そう?じゃあ遠慮なく」

 

 

一応、このシエルの付き添いでも受注した以上は報酬が出る。このまま何もしないというのもなんか、なんというかうん……悪いよね。

と言うわけで、両手で神機を構え地面を思いっきり蹴って加速する。

ヤクシャは未だに左手でシエルに撃たれた顔面を抑えている状態だ。なんというか某大佐を思い出す。目↑がぁ~目がぁ~↓。

 

 

全然復活する兆候が見られないので地面に膝を付けている足を踏み台にして一気に頭の高さまで跳びあがり何時ものように首を刈り取る。

ゴトリと首が地面に落ちると同時にヤクシャの身体も地面に力なく倒れた。

いくらいくつもの細胞が集まってできたアラガミでも、首を落とした場合その動きを一時的に停止させる。その隙にこちらがコアを捕食してしまえばそれで終わりだ。

効率的なんだけど皆はなんか微妙な顔をするんだけどね。この倒し方。

 

 

ヤクシャのコアを神機にモグモグ捕食させていると、耳に当てた通信機から任務完了とのフランさんの声が。

どうやらシエル、俺がヤクシャの相手をしているうちに最後のドレットパイクを倒したらしい。

フランさんにシエルの位置を聞いてから通信を切って彼女のもとに向かう。

そこでは神機からバレットを取り出して、首を傾げているシエルの姿があった。

どうした。

 

 

「いくつかのバレットが今までとは違う挙動になっているんです。それも、悪くない方向に」

 

 

「自分でいじってて忘れたとかは?」

 

 

「フフッ、そこまで私は抜けてませんよ?」

 

 

「ですよねー。別に悪くない方向に進んでるならいいんじゃない?」

 

 

「えぇ、多少反動制御に修正を加えないといけませんが、決して悪いことではありません。ただ……」

 

 

「そんなに何か引っかかるなら整備班の人に相談してみたら?」

 

 

「……そうですね、そうします。今日はありがとうございました。また、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「構わないけど……俺いりましたかねぇ」

 

 

よくよく考えたら弱っているヤクシャの首を刈り取ったくらいしかしていない。

 

 

「はい。君といると私が楽しいし、嬉しいのです。なのでまたお願いします」

 

 

「………」

 

 

不意打ちはずるいと思わないかね諸君。

そんなこと言われたら、行かざるを得ないじゃないか。

 

 

「わかったよ。また今度ね」

 

 

「はい!」

 

 

……やっぱり男尊女卑とか男女平等とか嘘でしょ。

目の前で純粋に笑顔を振りまくシエルを見て俺は改めてそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十三話

今回はアリサさん視点が入っております。そしてお約束のキャラ崩壊注意。
文章の形式を少し変えてみました。何か意見がありましたら活動報告の方に挙げておきますのでそちらに書いてください。
何もなかった場合はこのままでいきます。


  

 

 

 

 

 

 

 

 「フランさん……!」

 

 

 「聞きません」

 

 

 「即答!?まだ何も言ってないんですけど……」

 

 

 「予想はできます。おそらく私も仁慈さんの立場であったらそうするでしょう。しかし、私に言われても困ります。」

 

 

 「分かってますけど……だったら、このやり場のない怒りをどうすればいいんですかね?」

 

 

 「グレム局長にでもぶつけてきたらいかがですか?物理で」

 

 

 妙に様になっているシャドーパンチを見せながらフランさんが言う。

 

 

 「ただの暴力じゃないですかーやだー」

 

 

 あんなことがあったとはいえ、さすがにそこまではしないよ。

結局いい案が思いつかず俺はこの怒りを飲み込むことにした。

 

 

 さて、なぜ俺が開幕早々にこんなにわめいているかと言うと、それは今日受けた任務に関することである。

 

 

 シエルからの頼みを受けてから三日ほどたち、筋肉痛もブランクもすっかりと無くなりバンバン任務を受けていた。

 そして、今日も同じように任務を受けたのだ。

 目標はコンゴウとウコンバサラの計二体の討伐だった。特に苦戦することもないだろうと思って一人でその任務を受けた俺はすぐに現場へと向かい、討伐しようと思ったのだが……。

 

 

 現場に向かった俺を待っていたのは何故かヴァジュラであった。思わず「アイエエエ!?ヴァジュラ!?ヴァジュラナンデ!?」と叫んだ俺は悪くない。

 すぐに周囲を見渡し、状況を確認してみると体のいたるところを喰いちぎられたコンゴウとウコンバサラが居た。

 あまりにイレギュラーすぎる事態にすぐさま通信機を使いフランさんに俺の置かれている状況を報告する。彼女もあまりに想定外だったため上に簡単に報告すると、討伐せよとのお達しが来たらしい。

 こうして、俺は大型アラガミヴァジュラとの一対一対決が実現してしまい、今に至る。要するに、俺の時だけ任務内容がひどすぎませんかねという愚痴を聞いてもらおうと話しかけた結果、冒頭の部分につながる。

 

 

 「ホント、なんで俺の時ばっかり予定通りにいかないんですかね?」

 

 

 「アラガミの生存本能が全力で仲間を呼び寄せているんじゃないですか?」

 

 

 「俺は魔王か何かかよ……」

 

 

 一応人類のために戦っているんですがね……。

 なに?最終的に俺寝返っちゃうの?世界の半分とか渡しちゃうの?こんな荒廃しきった世界なんて誰も欲しがらねえよ。

 

 

 「……もういいや。接触禁止種や感応種が出てこなければ」

 

 

 「フラグ乙、です」

 

 

 やめようよ。そういうこと言うの。マジで出てきたらどうするのさ。

 横目でフランさんを睨みつつ今現在の時間を確認する。んー、12時かいい時間だな。お腹も減ってきたことだし、食堂にでも行こうか。

 

 

 「そういえば、先程極東支部のアリサさんがお見えになっていましたよ。救援要請だそうです」

 

 

 「それって今すぐじゃないとだめです?」

 

 

 「です」

 

 

 ですよねー。アリサさんっていうのはこの前、イェン・ツィーの討伐要請を送ってきた服がありえん人だったな。確か。

 

 

 「ハァ、分かりました。アミエーラさんは今どこに?」

 

 

 「すぐ下で、ジュリウス隊長と軽い打ち合わせをしてますよ」

 

 

 「了解です。……さっさと終わらせてご飯にするか」

 

 

 救援要請が来るってことは十中八九感応種だろう。おのれ、フランさん。少々違いはあるが、早くもフラグを回収させやがって……!

 そして感応種も俺のお食事タイムを邪魔するとはゆ”る”さ”ん”八つ裂きにしてくれる。

 

 

 「なんだったら、私が何か作って差し上げましょうか?」

 

 

 どうやら最後の呟きが聞こえていたらしく、フランさんが冗談めかして言う。しかし、今の俺は飯に飢えている。彼女の言った言葉に考えて言葉を返すのではなく、反射的に答えてしまった。

 

 

 「是非お願いします」

 

 

 「フフッ、即答ですか。わかりました、用意しておくので早めに帰ってきてくださいね」

 

 

 そういわれては仕方がない。飯の為にも仕方がない。いままでに解放したブラッドアーツすべてを解禁せざるを得ない。

 フランさんの言葉に強く頷いて階段を下りていく。さっさと話してさくっと倒して早くご飯を食べよう。見慣れた金髪とドン引きの洋服(?)を来た人を見つけて近づきながらそう考えた。

 

 

 ちなみに、この時の会話の所為でフランさんと俺が結婚するという意味不明な噂が流れだし、元凶をフランさんと共に折檻したのは完全に余談である。

 というかどうしていきなり結婚なんだ……色々とぶっ飛びすぎだろ……。

 

 

 

 

 

       ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 「来たか」

 

 

 「遅れて申し訳ありませんね」

 

 

 「いや、事情は知っている。どうだったヴァジュラは。切れたか?あの電気玉」

 

 

 「できるわけないでしょう。回避安定ですよ」

 

 

 もしくはその辺を歩いていた小型アラガミ(主にオウガテイル)を盾にしたりしてました。

 

 

 「えっと……」

 

 

 「あぁ、すいません。こちらで話し込んでしまって。お久しぶり……と言うほどでもありませんがこんにちは、アミエーラさん」

 

 

 「あ、はい!こんにちは!」

 

 

 ご飯のことがあったにもかかわらずジュリウス隊長と何時ものように会話してしまったため、アミエーラさんが会話に入れずどうしようかと頭を悩ませていたようなのでとりあえず話を振っておく。振っておくとか言っておきながら原因は俺なんだけどね。

 ごめんなさい。アミエーラさん。

 

 

 「以前は救援に駆けつけていただき、ありがとうございました」

 

 

 「いえいえ、それがブラッドのウリですから」

 

 

 「そうだな。感応種と戦わなければブラッドはただ必殺技っぽいのが出せるだけのただの神機使いだ」

 

 

 ただの神機使いは必殺技出しませんけどね。

 

 

 「じつは、イェン・ツィーを追っているのですが、討伐にはブラッド隊の力が必要と判断し、協力を依頼しに来たんです」

 

 

 さすが極東出身。適応能力は高いな。もうジュリウス隊長に対するスルースキルを身に着けている。

 それにしても、またイェン・ツィーかよ。

 

 

 「わかりました。相手が感応種とならば協力しないわけにはいきません。我々ブラッドも協力します」

 

 

 何の違和感もなく話してるけど、これ本来ならジュリウス隊長が言う事じゃないの? ご飯が遠くなるから今はツッコまないけどさ。

 

 

 「ありがとうございます!我々のような一般の神機使いでも、貴方の『喚起』の力の影響下であれば、感応種に対抗できる……とお伺いしました」

 

 

 何それ初耳。喚起にはそんな便利な能力があったというのか……。

 ジュリウス隊長に目でこのこと知ってました?と尋ねてみると、コクリと頷いた。

 まぁ、分かってた(諦め)。

 

 

 「なので、今回は私も同行します。一緒にイェン・ツィーを倒しましょう!」

   

 

 「アッハイ」

 

 

 こうして、ブラッドが交戦する2体目の感応種もイェン・ツィーとなりました。

 アミエーラさんは俺より神機使い歴も長いし、急に入ってきても大丈夫だろ。

 

 

 

 

          ―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 感応種相手でも神機を動かすことができる部隊ブラッド。その副隊長、樫原仁慈さんが目覚めたというブラッド特有の力である血の力は、私たち一般の神機使いでも感応種と戦うことができるらしい。そこで、今回は私も感応種討伐に組み込んでもらった。

 

  

 彼のような存在がいるという事は、いつか私たち一般的な神機使いも感応種と戦うことができるようになるかもしれないからである。もしそうなったときのために、実際に自分で経験しておいた方がいい。そう考えたからだ。

 

 

 今回、イェン・ツィーの討伐に向かうメンバーは隊長のジュリウスさん。副隊長の仁慈さん、過去イェン・ツィーをボールの如く飛ばしたというナナさんに私という何があっても対応できるような人達がそろっている。一応、私も感応種と戦ったことがあるから足手まといにはならない。神機動いてなかったけど。

 

 

 しかし、戦場はなにがあっても不思議ではない。敵の前での慢心や放心は命に関わる。適度な緊張感で挑まなくてはっ!

 

 

 「そうやって意気込んでいる時点で適度とは言えないのでは……」

 

 

 「ハッ!」

 

 

 た、確かに……!これでは逆に意識してしまいさらに緊張してしまう……。

 うぅ…こんな気持ちは久しぶりです……。普通の任務は慣れっこなんですけど。

 

 

 チラリとブラッドの皆さんの方を見てみる。

 まず、ナナさん。ナナさんはパンにおでんを挟んだものを物凄い勢いで食べている。 あれがアラガミが生まれる前に開発されたダイソンなんでしょうか……。

 次にジュリウスさんと仁慈さんは……何やらたくさんのマスが書いてある紙に丸を交互に書いていた。なんでしょう?

 

 

 「五目並べというゲームです。簡単に言うと縦、横、斜めに自分の丸を五つ先に並べた方が勝ちです。本当は囲碁の道具を使うんですけどね」

 

 

 へぇ。そんなゲームもあるんですね。

 というか、皆さんリラックスしすぎなんじゃないですかね?ジュリウスさんは分かるんですけど、仁慈さんやナナさんは神機使いになって二か月たっていないと聞いたんですけど……。

 

 

 「フッ、どうだ仁慈。あと一つ並べば俺の勝ちだ」

 

 

 「そうですか。それは大変です。俺はここに丸を書いて勝ちです」

 

 

 「なにっ!?」

 

 

 「おでんパンおいしー」

 

 

 ……これで本当に大丈夫なのでしょうか。若干不安になってきました。

 

 

 結局、適度な緊張なんて持てないままに現場に到着。各々が自分の神機を担ぎ、イェン・ツィーがいる鉄塔の森の中を歩いていく。しかし、なかなか見つからない。そんなとき耳にある通信機からフライアのオペレーターであるフランさんの声が聞こえてきた。

 

 

 『みなさん、どうやら想定外の中型種がそちらに向かっているそうです』

 

 

 「フラン。種類は?」

 

 

 『ウコンバサラです』

 

 

 ウコンバサラですか……。単体だとそこまで脅威ではないのですが突進に頭上から電撃を落とすなど、意識を割いていないと避けにくい攻撃があるためイェン・ツィーと同時となると少し厳しいでしょうか。イェン・ツィー自体も自分でアラガミを作る能力があるみたいですし。

 

 

 「……見つけた」

 

 

 突然、仁慈さんが聞こえるか聞こえないかギリギリの声量でそう言った。

 彼の目線を追っていくとそこには女性的で鳥のような腕のアラガミが居た。間違いない、イェン・ツィーだ。

 

 

 「ジュリウス隊長。ここはまたスナイパー撃っときます?多分、偏食場は俺に集中しますし武器のことを考えても俺に集中させた方がいいと思うんですけど」

 

 

 「そうだな。やれ」

 

 

 「了解」

 

 

 一度交戦したからか、さっさとやることを決めて銃形態の神機をイェン・ツィーに向ける仁慈さん。

 

 

 「ステンバーイ……」

 

 

 「それはもういいよー」

 

 

 「あ、そう?じゃあ、はい」

 

 

 何とも気の抜ける声と共に放たれた弾は、声とは裏腹に高速でイェン・ツィーの頭部に命中し、少しだけ結合崩壊を起こす。その衝撃でイェン・ツィーは少しだけよろけるもすぐに立ち直り、こちらを向いた。

 

 

それと同時にイェン・ツィーの周囲に色違いのオウガテイルのようなアラガミ、チョウワンが複数体現れた。さらにイェン・ツィーは左の羽を曲げて腰と思わしき部分に当てる。

そしてもう片方の羽で仁慈さんを指した。

 

 

 「ジュリウス隊長。釣れましたよ」

 

 

 「あぁ、そのようだな」

 

 

 確かあのイェン・ツィーの行動は偏食場パルスを集中させることにより、アラガミの攻撃をそこへ誘導させるものだと、報告されていた。今の会話から見るに狙ってやっていたようだけど……。何故、経験豊富なジュリウスさんではなく仁慈さんが?

 

 

『周囲のオラクル濃度が上昇、アラガミが形成されます。ついでに偏食場パルスが仁慈さんに集中しています』

 

 

 「ついでって……」

 

 

 『狙ってやったのでしょう?何か文句でも?』

 

 

 「ありません」

 

 

 しょんぼりする仁慈さん。なんだかタツミさんとヒバリさんのやり取りに微妙に似ている気がする。

 

 

 「仁慈。早く行け」

 

 

 「分かってますよ」

 

 

 言って、態勢を低くし仁慈さんが思いっきり地面を蹴る。すると彼は目にもとまらぬ速さでイェン・ツィーの方へ向かっていった。

 

 

 「ジュリウスさん、何故仁慈さんに偏食場を集中させたんですか?」

 

 

 「あいつの神機を見ていればわかりますよ」

 

 

 ジュリウスさんがそういうので、私は神機を銃形態へと移行させ、イェン・ツィーやチョウワンに向けて弾を放出しながら仁慈さんの様子を見る。彼の振っている神機は先程見たものより大きくなっており、イェン・ツィーが作りだしたチョウワンを纏めて切り捨てていた。

 なるほど、彼の神機は複数の敵を一人で相手取るときにその真価を発揮させるようですね。

 

 

 しばらくの間、仁慈さんがチョウワンを蹴散らしながらイェン・ツィーにもダメージを与えるという事をしていたが、ついに乱入してきたアラガミ、ウコンバサラが私たちの前に現れてしまった。それに気づいた私は丁度弾が切れそうだという事もあり、ウコンバサラを倒しに行こうとするがジュリウスさんに止められる。

 

 

 「感応種と直接戦う機会は現段階では貴重でしょう。貴女の目的ももともとそれだったはずです。なので、これは私が処理しておきます。貴女にはあそこの二人のフォローをお願いします」

 

 

 「……そうですね。そうします」

 

 

 私の言葉を聞いてすぐにウコンバサラに接近するジュリウスさん。そして神機を右上に構えて神機の切っ先をウコンバサラに向ける。ジュリウスさんに気付いたウコンバサラが突進を繰り出すと同時にジュリウスさんも地面を蹴り、すれ違いざまに神機を振りぬく。振った回数は一回のはずなのに何発もの斬撃をお見舞いしていた。

 あれが、ブラッドアーツですか。強力ですね。ウコンバサラがもう虫の息です。

 あちらは大丈夫そうなので私はイェン・ツィーの討伐に集中しましょう。

 

 

 そうして、ウコンバサラから視線をはずし、イェン・ツィーの方を見てみると、そこには神機の機能を最大限に活用し、高速で動き回るナナさんとほぼ素の身体能力でナナさんよりも早く動いている仁慈さんの姿が。

 一方のイェン・ツィーはどことなく危機迫るような雰囲気を出しながら、狂ったようにチョウワンを生み出し続けていた。その数なんと十三体。しかし、刀身が大きくなった仁慈さんの神機に半数以上が纏めて薙ぎ払われる。

 ……あの理不尽なまでの強さと動きはあの人やリンドウさんに通じるところがありますね。

 そんなことを考えつつ、私も神機を銃形態から元の状態へと戻し、イェン・ツィーに上段から切りかかる。イェン・ツィーは恐怖(?)のあまり仁慈さんしか見えていなかったようであっさりと私の神機はイェン・ツィーの頭を完全に結合崩壊させた。

 

 

 さすがにこれはマズイと思ったのかイェン・ツィーは両手の羽をはばたかせ空高く舞い上がった。そして、そのまま背を向けて飛び去ろうとする。

 マズイ、このままでは逃げられてしまう……!

 

 

 「どこへ行こうというのかね」

 

 

 が、仁慈さんが放った弾がイェン・ツィーの両羽を見事に貫き落下する。その落下地点にすぐさま移動した私とナナさんは各々の神機を地面に倒れているイェン・ツィーに勢いよく振り下ろす。すると、イェン・ツィーはビクッと痙攣した後、動かなくなった。

 

 

 『目標アラガミのオラクル反応消失、討伐を確認しました。相変わらず早いですね』

 

 

 確かに早い。持ってきた端末機器をみて時間を確認すると、イェン・ツィーと交戦してからわずか五分しかたっていなかった。前回の戦いでは、少なくとも二十分はかかったと言われていたのに……。一度交戦しただけでここまで時間を短縮するとは……。

 なんというか本物のエリートと言うものを見た気がします。

 私が見てきたエリートって大体が自称だったり、それを自ら誇ったりする人達なんですよね……過去の私も含めて。

 そしてそんな人から戦場で死んでいく、ぶっちゃけエリート(笑)という印象しかなかったのですが……この部隊は本物だ。ジュリウスさんはもちろんのこと、入隊して間もないナナさんや仁慈さんもかなりの実力を誇っている。

 これは私たちもうかうかしてられないな。もっと頑張らなくては……!

 イェン・ツィーのコアを捕食しながら私はそう考えた。

 

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局新しく開放したブラッドアーツは使わなかった件について。ちょっと、残念。

 だが、それも納得できる。ジュリウス隊長と経験豊富で極東支部にいたアミエーラさんが居たんだからそんな新技をお披露目する必要なんて全くなかったわけだ。

 

 

 本当に極東の人は化物かね。アミエーラさん。なんか色々考え事していたようだけど体はしっかりと動いていて、何気に俺やナナが背後を取られた時はアサルトでフォローしてくれたし、自分の方に接近していたチョウワンを銃形態でぶん殴って距離を離してから撃って倒すし……マジぱねぇ。銃形態が鈍器になるなんて知らなかったわ。

 

 

 任務からフライアへと帰ってきて、アミエーラさんと少し話したが彼女は極東では普通の方らしい。

 ……侮りがたし極東。あんな動きを無意識レベルでできる連中がごろごろいるとはなんという魔境。

 若干、アミエーラさんに恐怖を覚えつつ何とかそれを表に出さないで彼女と別れた俺は現在フランさんの手料理を満喫中である。うまうま。

 

 

 「仁慈さんにだけは言われたくないでしょうね。極東の人達も」

 

 

 「自然に心を読まないでもらえませんかね」

 

 

 「仁慈さんの考えていることなんてすぐにわかりますよ」

 

 

 案外顔に出やすいですしねと言葉を続けるフランさん。むむむ、どうやら俺は腹芸には向かないらしい。交渉の場とか絶対出ないようにしよう。多分ないだろうけど。

 

 

 「何はともあれ今日はお疲れ様でした。午前にヴァジュラを一人で討伐。午後には感応種との戦となかなかハードな一日でしたね」

 

 

 「確かにそうですね。あー、休日が欲しい」

 

 

 「この前休んだばかりじゃないですか……贅沢な……」

 

 

 「長い休みはダメですね。アレはヒトをダメにします。一日だけ休みが欲しいです」

 

 

 「そうですか。今の言葉がかなりムカついたので、今度一日に三つくらい仕事入れておきますね」

 

 

 「やめてくださいそんなことになったら本当に死んでしまいます」

 

 

 「仁慈さんが……死ぬ……?……フッ」

 

 

 「オイ、なんで今鼻で笑ったんだ?ん?」

 

 

 しばらくそんな感じでくだらない会話をつづけた後、俺は自室に戻って布団の中に潜り込んだ。

 できれば明日は変な任務が来ませんように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十四話

 ようやく極東支部に着きました。まぁ着いただけなんですけどね!そういうわけで今回は少し短いです。
 後、GODEATERを初めにやったときサカキ博士がラスボスだと思ったのは私だけではないはず。


 

 

 

 どことなくデジャヴっていた感応種討伐依頼を無事に終わらせた俺たちブラッドは、時々進路上に現れるアラガミを掃除しながら順調に極東へと向かっていた。

 もちろん、今日も今日とてフライアの進路上にたむろっていたアラガミを蹴散らしてきたところだ。相手ヴァジュラだったけど。この世界、一回遭遇したアラガミが出る頻度、おかしくないですかね。明らかに増えてるんですけど……。この世界では仕様なのか。

 

 

 現在は赤い雨が降っているので、外に出ることができずブラッドの皆さんフライアのロビーで待機中です。

 

 

 「……赤い雨が続くな」

 

 

 「極東の範囲に入りましたからね。やがて極東支部に到着するのでは……」

 

 

 シエルの言葉から考えると極東は赤い雨が降りやすいのか?だとするならすげぇな極東。神機使いといいアラガミといい赤い雨といい、話題に事欠かなさすぎだろ。

 極東の話題の豊富さに若干戦慄していると、赤い雨というキーワードで何か思い出したのかロミオ先輩が急に口を開く。

 

 

 「赤い雨ってあれでしょ?この前の神機兵護衛任務のときに降ったやつ。あの雨に濡れたらマジやばいんだよね?」

 

 

 「何だっけ、あれでしょ。コクシャ……コクシェ……」

 

 

 「……黒蛛病。赤い雨に触れることにより、高確率で発症する病です。現段階で治療不法は未だ確立されておらず、発症した場合の致死率は100%とされています」

 

 

 シエルの説明にいつぞやターミナルで調べた内容か思い浮かぶ。

 

 

 黒蛛病

 

 相手は死ぬ

 

 

 ……大体あってたよ。あってたけど、なんか釈然としない。

 

 

 「ぬ、濡れなきゃ……平気なんだよな」

 

 若干震え声でそういうロミオ先輩。気持ちはよく分かる。致死率100%相手は必ず死ぬ。そんなことを聞いてしまえば怖がるのは生き物として当然である。

 

 

 「病気はやだよねー。食欲なくなっちゃう」

 

 

 「お前食欲そればっかだな」

 

 

 ここまでぶれないと感心するな。一方俺にそう言われたナナは「そんなことないよ!」と俺に反論しつつおでんパンが入っている袋に手をかけていた。お前、それでいいのか……。

 

 

 『現在フライアは赤い雨を抜け、極東地域を南下中です』

 

 

 ナナのあまりに早すぎて手首がぼろぼろになるレベルの手のひら返しに呆れ、ため息を吐いていると、フライアに放送が流れ出した。

 どうやら赤い雨を抜けたらしい。

 俺は組んでいた腕を解いてエレベーターへと向かう。

 

 

 「仁慈ーどこ行くのさー」

 

 

 「ちょっと外に出てくる」

 

 

 

 ナナの問いに返事を返してからエレベーターに乗り込む。ここフライアには一応、外を見ることができる場所がある。俺が向かっているのはそこだ。理由としてはこれからしばらく滞在するであろう極東支部とその周辺の様子や状況を大まかに知っておきたいというものだ。

 まぁ、極東支部についてからもできなくはないが……暇つぶしもかねてね。

 

 

 「これが極東ね」

 

 

 今、俺の目の前には仮設住宅……いや、それよりも少しお粗末な建物が多く建っている町並みと、それらを囲うように存在している分厚い壁、そしてその一番奥に鎮座する巨大な建物だった。

 

 

 贖罪の町や鉄塔の森などの様子から予想はできたが、ずいぶんと荒廃していた。極東は激戦地にして最前線。これでもかなりましなほうなのかもしれないけど。

 

 

 「それにしても、」

 

 

 俺は改めてグルリとあたりを見渡す。

 

 

 

 「これはあまり歓迎されそうにないなぁ」

 

 

 

 俺たちの乗っているフライアはぶっちゃけかなり大きい。割かし何でもそろっているし、今こうしているように移動することもできる。何がいいたいのかといえば、かなりの金がかかっている。局長があれだしそのことはもはや言うまでもない。

 そんな連中を、このご時勢で歓迎するところなんて早々ない。極東の神機使いたちは戦力として考えて気にしないかもしれないが、周囲の神機使いではない人たちは絶対に気にする。そんなもの作る余裕があったらもっと俺たちに金を回せってな。

 ……考えなければよかった。

 沈んでしまった気持ちを何とか戻しつつ、極東支部に到着したという放送を聴いて俺はフライアの室内に戻り、ジュリウス隊長たちと合流した後、極東支部の中に入っていった。

 

 

 

 

 

          ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 極東支部に入ってみたものの、特に絡まれるといったことはなく無事に極東支部の支部長の部屋にたどり着くことができた。散々見られはしたけどね。特に腕輪を。

 どうやらブラッド以外の神機使いは腕輪の色が黒ではなく赤らしい。これは見分けがつきやすいね。ついでに因縁もね!……さすがにマイナス思考が過ぎたな、カットカット。今は極東支部の支部長のことに集中しなくては。

 思考に埋もれかけた意識を何とか引っ張りあげて椅子に座っている極東支部支部長を見る。なんというか……色々と失礼なんだけど……支部長より研究者という第一印象を抱いた。どことなくラケル博士に通ずるものがある。

 

 

 「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ以下隊員各位、到着しました」

 

 

 「ようこそ極東支部へ!私がここの支部長、ペイラー・サカキだ。エミールがお世話になったそうだね。できれば直接会いたいと思っていたんだ」

 

 

 ……そういえばいつの間にかいなくなってたよな、エミールさん。今の今まで完全に忘れていた。あんなにキャラ濃いのに。

 

 

 「あれでしょ、マルドゥーク!撃退したのこいつですよ、こいつ!」

 

  

 「ハハハ、こやつめ。……余計なことを抜かすなニット帽……ッ!」

 

 

 「辛辣っ!?」

 

 

 「なるほど、君が!私からも礼を言うよ」

 

 

 ほら見ろ、ニット帽。礼を言うとか言っているがサカキ支部長がきらきらとした目で俺を観察しだしたじゃないか。糸目だから実際はわかんないけど、雰囲気がそんな感じだ。こういうタイプは興味をもたれると面倒なことになる。研究者に向いていると漠然と思ったのはこういう一面があると感じ取ったかもしれない。

 

 

 「さて、すぐにでも調s……任務に入ってもらいたいところだけど……まずは改めて極東支部が置かれている状況を説明するよ?」

 

 

 この人さらっと調査って言いかけたぞ。こっちに視線がきてたけど、一体全体何を調査するつもりだったんですかねぇ……。

  

 

 「今極東支部は、いくつかの大きな問題に直面している。ひとつは黒蛛病。赤い雨を浴びることによって発症する未知の病だね。そして、もうひとつが……」

 

 

 「感応種、ですね」

 

 

 「そう、いわゆる接触禁忌種と呼ばれている新種のアラガミだね。……君たちブラッドは交戦経験があるんだよね?」

 

 

 「はい、二回ほど」 

 

 

 「なら知っていると思うけど。感応種は『偏食場』、つまり強力な感応波を用いて周囲のアラガミを従わせる、特異な能力を持っている。神機もオラクル細胞の塊、すなわちアラガミの一種だ。普通なら感応種の影響で、機能停止してしまうのだけれど……」

 

 

 「俺たちはそれを無視し、感応種と戦うことができる」 

 

 

 「その通り!とても心強いよ。特に、樫原仁慈君。君の能力は特にね」

 

 

 怖い、怖いよ。何で俺が発言したときだけそんなに食いつくんだよ。表情変わらないし考えていることがまったく分からない……。

 

 

 「話を戻そうか。……『赤い雨』と『感応種』この二つの問題の解決を君たちにも協力してほしい、というわけさ。どうだろう?」

 

 

 「承りました。最善を尽くしましょう」

 

 

 「ありがとう、こちらも惜しみないサポートをしよう。ここを自分の家だと思って、くつろいでくれれば幸いだ」

 

 

 ここで話は終わりなのか、部屋の雰囲気が心なしか少し軽くなった気がした。色々と緊張していた俺は思わず両手を上に上げて体をほぐす。すると、急に背後にあった扉が開き、オレンジ色の髪の青年が入ってきた。赤い腕輪をしていることから彼が神機使いだということが分かる。

 その青年は俺たちがいることに気づいていないのか、端末を見ながらサカキ支部長に話しかけた。

 

 

 「博士ー! 歓迎会のスケジュール、みんなに聞いてきましたよー……ってあれ? もしかしてブラッドの人たち?」

 

 

 「ありがとうコウタ君。そうだよ、彼らがブラッドだ」

 

 

 「極東支部第一部隊隊長藤木コウタです。これから、よろしくね」

 

 

 「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 隊長だったのか、藤木さん。ジュリウス隊長と藤木さんが自己紹介をしている間俺はあることが気になっていた。藤木さんの声である。どっかで聞いたことあるんだよなぁ……何だっけ?

 

 

 歓迎会の準備やら、飯はうまいか?やら色々周囲が盛り上がっている中で俺はじっと考え込む、考え込む、考え込む……あ、思い出した。あれだ。

 

 

 「眼鏡が本体の人だ」

 

 

 「誰が眼鏡が本体っ!?」

 

 

 やべっ、声に出てたしガッツリ指差してた。おかげで、会話が終わり、部屋を出て行こうとしていた藤木さんが勢いよくこちらを向いて叫んだ。

 ま、まずい……何とかしてごまかさなくては……ッ!

 

 

 「すいません。藤木さんの声が昔の友人に似てまして……つい……」

 

 

 「コウタでいいよ。……友人から眼鏡が本体と呼ばれる君の友人とはいったい……」

 

 

 「彼は常に眼鏡が本体、人間をかけた眼鏡と呼ばれていました……」

 

 

 「なぜだろう。俺にはまったく関係ないはずなのにとても胸に刺さる……」

 

 

 「眼鏡かけてないのに…」と呟いて退室していった藤木さんに俺の罪悪感がマッハである。今度あったら、とっておきの三回転DO☆GE☆ZAを披露するしかない。

 なんとなく変な空気になってしまったが、話は終わったので次々とサカキ支部長にお辞儀して退室していくブラッド。その流れに乗って俺も支部長室から退室した。

 




UA20000越えました。ありがとうございます。これからもがんばっていきたいと思います。どうかよろしくお願いします。


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第二十五話

マモレナカッタ……(投稿周期)
相も変わらず、話があまり進んでいませんが、どうぞ。



エミールさんの台詞考えるの超楽しい。



 

 

 

 

 

 

 「いやー。サカキ支部長案外いい人だったなー。俺、グレム局長みたいな人だったらどうしようかと思ったぜ」

 

 

 支部長室から出て、エレベーターへと向かう道のりで頭の後ろで腕を組んで歩くロミオ先輩が言う。その隣を歩いているナナも「だねー」と同調していた。だが、俺にはわかる。アイツ、歓迎会で出される料理のことしか頭にない。実際、小声で俺が話しかけてみたら「だねー」と帰ってきた。それ、そこまで万能じゃないからね?

 

 

 「そうか?俺はあの手のタイプは苦手だ。考えてることがまったく分からん」

 

 

 ナナの残念さに頭を抱えているとギルさんがサカキ博士に対する印象を口にする。俺もそうだな。人間知らないことが一番怖い。だからこそ昔から分からないものの代名詞である幽霊や妖怪は恐れられてきた。サカキ支部長に関しても大体同じで、何を考えているか分からないからこその恐怖がある。俺の場合は自分の力のこともあって解剖やら実験やらをされるのではという恐怖もあるが。

 

 

 「仁慈、お前はこれからどうする?」

 

 

 後ろのほうを歩いているジュリウス隊長が問いかける。どうするといわれても極東支部に着たばかりだし、

 

 

 「とりあえず、この極東支部の様子を見て回ることにしますよ」

 

 

 「そうか。では、ブラッド各員何かあるまでそれぞれ自由に過ごしていいぞ。ただし、はしゃぎすぎて極東の人たちに迷惑をかけるなよ」

 

 

 子どもじゃないんだからそんなといわなくても平気なんじゃないんですかね?ギルさんもシエルもそんなことするわけがないって顔してますよ。

 

 

 『はーい』

 

 

 居たよ、子どもが。

 元気に返事をする17歳児と19歳児に俺は冷たい視線を送りつつ、みんなと別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 さて、エレベーターを経由し極東支部のエントランスへとやってきた俺は現在、いつの間にやらフライアからいなくなっていたエミールさんに捕まっていた。しかし、その場にいるのはエミールさんだけではない。大体中学生くらいの年齢と思われる女の子も何故か一緒にいる。これまた何故か俺のことを睨みつけてるけど。

 

 

 「やあ!我が友よ、元気そうで何よりだ」

 

 

 「エミールさんこそ、大丈夫だったんですか?マルドゥークにやられた傷は」

 

 

 「あぁ。君のおかげで大事には至っていないよ。それにしても、すまなかった。本当は直接会って君にお礼を言うべきだったのだが……あの時はフライアを去らなければならない用事ができてしまったのだ」

 

 

 「別に気にしていませんよ」

 

 

 「おぉ……なんと寛大な対応だ……ッ!これは僕もそれ相応の対応で返さなければならない……。我が友よ!何か困ったことがあればぜひともこの僕に相談してくれたまえ。このエミール・フォン・シュトラスブルクが全身全霊を持って解決に当たろうじゃないかッ!」

 

 

 「お、おう」

 

 

 この人相変わらずすごいなぁ、色々な意味で。言っていることはとてもまともなのに言い方が仰々しい上にうっとおしいから聞く気にならないんだよね。いい人なのは分かるんだけど、会話してて疲れるわ。

 

 

 ハハハハと笑っているエミールさんとそれに対して苦笑で返す俺の様子を見て、会話が終わったのかと思ったのか、先ほどから口を開かなかった女の子がこちらを向いて言葉を紡ぐ。

 

 

 「初めまして。私はエリナ、エリナ・デア・フォーデルヴァイデといいます。あなたがブラッドの副隊長ですか?」

 

 

 なんだ、自己紹介か。俺のことずっと睨みつけてるからてっきり何か暴言でも吐かれるのかと思ったぜ。

 

 

 「はい。ブラッド隊副隊長樫原仁慈といいます」

 

 

 「私達h「極東はどうだい?フライアも優雅だが、ここはここで趣があるだろう」…

 

 

 俺に何かを言おうとしたフォーデルヴァイデさんの言葉をさえぎり、エミールさんが話しかける。他人が話そうとしているにもかかわらず、何の躊躇もなく自分の会話をぶち込んでくるとは……流石エミールさん。俺たちにできないことを平然とやってのける。そこにしびれぬ、憧れぬ。

 

 

 会話を切られたフォーデルヴァイデさんは当然、隣にいるエミールさんを睨みつけるが、エミールさんは気づいてないのかそのまま話を続けた。この人、体だけでなくメンタルも強すぎでしょう……?

 

 

 「土と油の匂い、それは決して不快ではない。むしろ懸命に生きる人々の活力が伝わってくる。さらにその中で一杯の紅茶を飲む……それら全ての匂いが混ぜ合わさったときに感じるんだ。……ああ、僕は彼らを護り、また僕も彼らに護られているんだと!」

 

 

 いつものように、両手を広げて語りだすエミールさん。うん、言ってることは本当にいいことなんだけど……感銘より苛立ちを感じるのは本当になぜだろう?

 

 

 「エミールうるさい!」

 

 

 

 「む、どうしたエリナよ新しい極東の仲間同士親睦を深めるべく……」

 

 

 「私が話してるでしょ!」 

 

 

 自分の会話を遮られたフォーデルヴァイデさんが切れる。

 

 

 「そう!ここにいるのはエリナ。我が盟友、エリック・デア=フォーデルヴァイデの妹、すなわち……このエミール・フォン・シュトラスブルクの妹だと思ってくれればいい」

 

 

 「誰がアンタの妹よ!」

 

 

 しかし、エミールさんには効果がないようだ。

 怒りをスルーされ、勝手に妹にされたフォーデルヴァイデさんは今にもエミールさんにつかみかかりそうな勢いでツッコミを入れる。

 ……なんか一周回って面白いな。このコンビ。

 関わると絶対に面倒なことになると悟った俺は、完全に傍観者に徹することにしたが、そう決めた直後、俺がDO☆GE☆ZAしなければならない藤木さんがエントランスに入ってきた。

 

 

 「ああ、いたいた。エミール、エリナ、任務だ………げ、早速もめてやがる……」

 

 

 どうやら藤木さんはエミールさんとフォーデルヴァイデさんに任務を持ってきたらしい。しかし、そんなことはどうだっていいんだ。重要なことじゃない。

 エミールさんとフォーデルヴァイデさんの喧嘩(?)を仲裁しようとこちらに近付く藤木さんに向かって、

 

 

 「どうもすいませんでした!」

 

 

 支部長室で決めた通り、三回転DO☆GE☆ZAを決めた。

 

 

 話を聞かないエミールさん。そんなエミールさんに突っかかるフォーデルヴァイデさん。いきなりDO☆GE☆ZAをし始める俺。

 そんな混沌とした中、唯一まともだった藤木さんは、

 

 

 「え、なにこのカオス」

 

 

 呆然とそう呟くしかなかったと語った。藤木さんごめんなさい、もっとタイミング計れば良かったですね。

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「ホントごめん!あの二人の相手、大変だっただろ?」

 

 

 DO☆GE……もう面倒だから土下座でいいや。土下座をした相手に何故か俺が謝られている。どういうことなの……。

 詳しく話を聞いてみると、この二人が俺の目の前で言い合い(一方通行)をしているので俺に迷惑がかかったんじゃないかと思ったらしい。

 

 

 「いえ、なかなか楽しかったですよ」

 

 

 実際、そこまで迷惑に思っていない。というか普通に楽しんでいました。

 

 

 「そうか?そういってくれると助かる。もう自己紹介は済ませてあるのか?」

 

 

 「一応は」

 

 

 「そうか。エリナとエミールは俺が率いてる第一部隊の隊員でな。筋は悪くないんだが……ちょっとまあ、ご覧の通りアレでな……」

 

 

 どことなく疲れたように言う藤木さん。まぁ、分かる。エミールさんがアレなのはもはや周知の事であり絶対普遍の事実だが、フォーデルヴァイデさんはフォーデルヴァイデさんで気が強いというか、負けず嫌いというか、子どもっぽいというか……なんにしても手がかかる。

 そんな二人をいつも率いているのだからこの表情も評価も納得できるものだ。

 

 

 「む、改善すべき点があればどんどんご指導願いたい」

 

 

 「ちょっと、私をこいつと一緒にしないでくださいよ!」

 

 

 「あー、わかったわかった。とりあえずこれから仲良くしてやってくれ」

 

 

 「はい。これからよろしくお願いします」

 

 

 「もちろんだ!これから共に、弱き人々を苦しめる闇の眷属たちと戦おうではないかッ!」

 

 

 「……よろしく」

 

 

 二人はそれぞれそういって藤木さんの後をついていった。多分、さっき藤木さんが持ってきた任務をこなしに言ったのだろう。

 第一部隊の愉快なコンビを見送った後、俺はエントランス内を何気なく見回っていた。ずらりと並ぶターミナル。任務を受注する場所であろうカウンター。その隣にある階段の近くに座る怪しいおじさん。その間反対には大きなモニターが設置してある。

 

 

 最前線にしてはどこもかしこもなかなかにきれいだ。極東の前情報から、もっと切羽詰っているようなものだと思っていたがそうでもないらしい。だからといって余裕があるわけではないだろうが。

 そんな感じで時々真面目に考察しつつ、歩いていると、背中に衝撃が走る。ちょうど、何かにぶつかられたような、そんな感覚だった。

 いったいなんぞや?と振り返ってみると、そこには目をキラキラさせ、頬にオイルっぽいものをつけた女の人が。

 この目は、先程支部長室で見た目だ……。

 そう悟った時点で、いい予感がまったくしない。しかし、逃げようとしてもこの人、俺にぶつかったときにしっかり腕を腹に回しており、逃げることができない。近い。

 

 

 「……なにか御用でも?」

 

 

 防御力の低い服のせいで背中に割りとダイレクトに感じる柔らかい感触から全力で意識をはずしつつ、問いかけてみる。

 すると女の人は待ってましたといわんばかりに超笑顔で口を開く。

 

 

 「君、噂のブラッドでしょ?樫原仁慈って子知らない?」

 

 

 いやな予感が加速する。ブラッドに興味があるというのであればまだ安心できたが、俺個人となると心当たりがありすぎてヤバイ。ここは誤魔化すか?……どうせすぐばれるしいいか。

 

 

 「自分がそうですが……」

 

 

 「おぉ、君が!さっそくで悪いんだけど、今度君が使っている神機の刀身、ヴァリアントサイズのデータを取らせてくれないかな?」

 

 

 ……よかった。この人研究者というより技術者だ。しかし、なんで俺にそんなこというんだ?他にもいないのかね?

 俺の考えていることが表情に出ていたのか、女の人はさらに言葉を紡ぐ。

 

 

 「君も分かっていると思うけどヴァリアントサイズの最大の特徴は、咬刃展開状態による広範囲攻撃なんだ。けれど……」

 

 

 「どう考えても仲間を巻き添えにしますよね」

 

 

 「そう。いつも一人で戦える規格外な人ならともかく普通は2~4人でチームを組んでアラガミと対峙する。そうなるとどうやっても、ヴァリアントサイズは本来の力を出し切ることができない。こんな感じで、この刀身を使う人がいなくて、実践でのデータが圧倒的に不足してるんだ」

 

 

 「なるほど」

 

 

 そういえば、俺も一番最初にやった訓練で「どうしてその刀身を選んだ」と呆れられながらジュリウス隊長に尋ねられた気がする。

 

 

 「それに君たちが持使えるブラッドアーツのことも調べられるし、一石二鳥だね!」

 

 

 「それ言っちゃっていいんですかね……」

 

 

 この人オープンすぎるでしょう?今までにないタイプの人なので若干戸惑いつつも、データの件についてはOKを出す。すると彼女は「ありがとう!」とだけ言ってエントランスから飛び出していった。

 ……そういえば名前すら聞いていなかった。

 

 

 「リッカのやつ名前も言わないで行っちまいやがったか……まぁ、悪気はないんだ。許してやってくれ」

 

 

 あまりの速さに彼女が出て行ったところをボケっとながめていると、聞いたことのある声が耳に届く。この声は……!

 

 

 「ダイアーさん!」

 

 

 「ダミアンな。何時も言ってるけど俺は波紋出せないぞ」

 

 

 何時も思うんだけどこのネタ通じるんだね。恒例となりつつあるやり取りをしてお互いに笑顔で近付く………とでも思っていたのか?

 

 

 「じゃ、俺はこれから自分の部屋を見に行きますのでさようなら」

 

 

 「は?おい、ちょっと待てよ!俺の出番これだけかよ!?」

 

 

 後ろから聞こえてくる野太い叫びを遮断し、俺はエレベーターへと乗り込む。そして、ブラッドに割り振られた階層のボタンを押して少し待つ。チンという音が鳴り、扉が開く。エレベーターから出て、あらかじめ教えてもらったほうへ進んでいくと、自分の部屋があった。しかし、その周囲いにロミオ先輩とギルさん、そして見知らぬ誰かさんがいた。

 

 

 「よう、仁慈。お前、今まで何してたんだ?」

 

 

 「何って……普通に極東支部の様子を見て回っただけですが?」

 

 

 「そうかそうか。それなら分かっただろう?」

 

 

 「何がです?」

 

 

 いつになく態度が大きいロミオ先輩に面倒だと思いつつ、先を促す。

 

 

 「この極東には、美人が多い!」

 

 

 聞かなければ良かった。こぶしまで握り締めているロミオ先輩の横を通り抜け俺は自分に割り当てられた部屋に入る。

 そこにはベッドやテーブル、ソファなどおおよそ日常で使うような家具に、コーヒーを入れる機器、なつかしのCDラジカセ……極め付けにはターミナルまで置いてあった。

 予想以上に整った空間に思わずため息を吐いた。

 これはフライアからきたブラッドだけじゃなく、極東の神機使いたちまで周囲の人の反感が行っているのではないかと思ったからである。

 

 

 極東支部の設備は予想よりもいいものだ。むしろフライアよりも優れている部分が多々ある。このことをあの仮設住宅擬きに住んでいる人たち、もしくはそこにも入れない人たちが知ったらどうなるだろうか?考えるまでもない。

 

 

 ……できれば人がいるところで狩りはやりたくないなぁ。

 割と切実にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十六話

一回だらけるとなかなかやる気がおきない……そんなこともあるよね。
……すいません唯の言い訳です。二日周期に戻せなくてごめんなさい。





 

 

 

 

 

 部屋の場所と様子をある程度把握した俺は、部屋の前に居たロミオ先輩と白いワンピースを着た女の子に関わらないようにしつつ、再びエントランスへと戻ってきた。先程無視した件についてダイアーさん……ダミアンさんから文句を言われたものの、時に右から左へと受け流し、時に相槌をうってやり過ごした俺は無事にカウンターへとたどり着く。

 

 

 「その腕輪……ブラッドの方ですね。初めまして、ここ極東支部でオペレーターを勤めさせていた居ています。竹田ヒバリです。これからよろしくお願いします」

 

 そういえば、さっきは適当に見回っていただけだったから、ここのオペレーターさんとは話してなかったな。

 

 

 「初めまして。樫原仁慈です。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 簡単に自己紹介を終わらせて、任務の話をする。サカキ博士も今すぐ任務について欲しいと言っていたし、任務は入っていると思うんだけど。

 

 

 「確かにブラッド宛に任務が発行されていますが……そこに仁慈さんの名前はありませんね」

 

 

 「何故だ」

 

 

 俺はブラッドにカウントされていないのかという馬鹿なことを一瞬思い浮かべるものの、詳しく調べてみると第一部隊の受ける任務に俺の名前が載っていた。それこそなんで?

 

 

 「どうやらサカキ支部長が組んだようですね。おそらく、感応種と対峙するときのために、極東の神機使いとの連携を強固にするためだと思います」

 

 

 なるほど。

 ここは極東。アラガミとの戦いの最前線にして何が起こるかわからない……何が起きても不思議ではない場所になっている。赤い雨の事もあるしね。

 当然、感応種が複数体別々の場所に出現するというシチュエーションも充分に考えられる。俺が一緒に居る場合は一般の神機使いも接触禁忌種である感応種と戦うことができる。それはアミエーラさんの件ですでに証明されていることだ。ブラッドは普通に対峙できるもののそれでも数が足りない場合は、俺が一般の神機使いに混ざり、感応種と戦うことになるだろう。

 そのときのために、この極東の神機使いとの連携をしっかり取れるようにしておけということなのだろう。

 

 

 でも、アレ?第一部隊って藤木さんが隊長やってるあの部隊だよな。さっき任務にむかって行かなかった?

 

 

 「確かに向かおうとしてましたけど……任務の内容を見直して今は仁慈さんを探し回っているそうです」

 

 

 藤木さんェ……。

 いやきっとエミールさんとフォーデルヴァイデさん、ついでに俺の土下座のことで頭がいっぱいになってたんだろう。……あれ?これって俺の所為じゃね?

 

 

 「ちょっと、藤木さん探してきますね」

 

 

 「分かりました。任務自体はコウタさんがもう受けているので、合流したら任務に出てしまって結構ですよ」

 

 

 「分かりました」

 

 

 俺が謝った所為でこんなことになったかもしれないということで、俺の中にある良心が再び削られる。今日一日だけで俺の心削られすぎィ!

 なんにせよ、今度は普通に謝ろうと思いつつ、藤木さんを探し回るが、結局合流したのは三十分後だった。迷子のときはむやみやたらに動き回っちゃいけないのと同じだね。

 

 

 

 

 

               ―――――――――――

 

 

 

 

 

 多少のアクシデントはあったものの無事に合流を果たした第一部隊+αは現在目標のアラガミと対峙しているところである。

 今回の目標はよくよく見てみると普通に美人なサリエルちゃんである。しかし、このサリエルちゃん外見とは裏腹に、硬いし浮いてるしで相手するのは超面倒くさい。

 一生懸命ジャンプして神機振っても硬くて効果が薄い上に、バリア的な何かを張られるし、遠距離から狙い撃っていると向こうもビームで応戦してくる。正直、新人にはつらい相手なのだ。なのだが……

 

 

 「あ、サリエルのビームはこっちで処理するからみんな好きに攻撃しちゃって。ただしバリアには気をつけろよ」

 

 

 ビームを神機の弾で相殺している藤木さんの存在がその不利をほとんど軽減している。

 マジで、なんなのあの人。常識人かと思ったらぜんぜん違ったんだけど。普通に異常(あっち側)だったんですけど……。

 フォーデルヴァイデさんとエミールさんのほうをチラリと盗み見てみれば特に動揺した態度も見せずに普通にサリエルに攻撃を仕掛けていた。

 これが極東のスタンダードだとでも言うのだろうか?

 えぇい!極東の神機使いは化け物か!?

 

 

 「っと、呆けて居る場合じゃない。俺も攻撃に参加しないと」

 

 

 今日、極東支部で見てきた印象と違いが大きすぎて少しの間固まってしまったがここは戦場、油断は死を招く。そのことを思い出し、気持ちを切り替え俺はサリエルに襲い掛かる。

 

 

 しかし、唯単純にジャンプして切りかかるのはぶっちゃた話効率がかなり悪い。一回だけだが、交戦経験があるのでこれは良く分かっている。実際そのときは接近はあきらめて銃形態で倒したし。

 ならば、どうするか。

 相手を地面に叩き落すという手段もあるが、それは手間がかかる。そうなると自分で足場を作ってそこから攻撃するしかないな!

 そうと決まればすぐに行動しよう。

 

 

 自分の行動を決めた俺はいつもの通り、体勢を低くした後、全力で地面を蹴って一気に加速する。そして藤木さんの斜線上に入らないようにサリエルに向かっていく。銃形態の神機を構えているフォーデルヴァイデさんの横を抜け、一番近くでサリエルと戦っているエミールさんに接近する。

 

 

 「エミールさん!少しだけ肩借りますよ!」

 

 

 「了解したぞ、我が友よ!」

 

 

 具体的に何をするか言っていないのに迷わずそう答えられるエミールさんはかっこいいと思います(小並感)

 エミールさんが下から上へとブーストハンマーをブーストを噴かしながら振りぬく。急に今まで感じていた衝撃より強い衝撃を受けたサリエルは一瞬だけその身体をふらつかせた。チャンス。

 

 

 「行きますよ」

 

 

 一声かけてエミールさんの肩に飛び乗り、そこから跳躍する。普通なら肩が外れるが俺たちは神機使いだし、エミールさんはサリエルの体勢を崩したときに神機を支えとして衝撃に備えていたから大丈夫だ。

 跳躍した俺が向かう先は、体勢を立て直したサリエル。そのサリエルに飛び移り、人間とほとんど変わらない細っこい首に神機を当てて思いっきり後ろに引いた。しかし、

 

 

 ガキンッ!

 

 

 「硬っ!?」 

 

 

 金属と金属がぶつかり合ったような、不快な音を立てて神機が弾き返される。嘘でしょ!?サリエルのこの部位はそんなに硬くなかったと思うんですけど!?極東か?極東という世紀末的環境がアラガミをここまで強くするのか!?

 

 

 「――――――――――――ッ!」

 

 

 サリエルが俺を振り落とそうとしているのか激しく舞い始める。

 ……いや、違う。これは範囲が広いバリアを使う準備だ。このままでは攻撃をそのまま受けることになる。でもせっかくエミールさんに手伝ってもらって引っ付いたんだから降りたくないよなぁ。そうすると……上だな。

 

 

 「I CAN FLY!」

 

 

 などと口に出してみるも実際に飛ぶわけではなくただの跳躍です。サリエルがバリアを展開する直前にエミールさんと同じようにサリエルを踏み台にして跳びあがる。自分でもなかなかの高さまで跳んだと思うが、バリアを避ける分には割とギリギリで思わず冷や汗が流れた。少し後悔した。

 

 

 範囲の広いバリアは展開が速い変わりに消えるのも早い。俺がちょうど重力に従って落ちていくのとサリエルのバリアが消えたのはほぼ同時だった。俺の武器では致命傷を与えることはできない。ならばいっそ重力を加味した踵落しでも見舞って、地面にたたきつけようか。

 普通であればそんなことは不可能だが、過去にコンゴウを蹴飛ばしてしまった(不本意)実績があるため試してみる価値はある。ぶっつけで不安なところはあるが、大丈夫だ。俺には魔法の言葉がある。

 

 

 できるできる絶対にできるどうしてあきらめるんだそこで駄目だ駄目だあきらめちゃ駄目だできるってもっと

 

 

 「熱くなれよぉぉおおおお!」

 

 

 大きな声を出すことで、身体のリミッターを外しつつ全力で踵落しをサリエルの頭に叩き込む。

 

 

 「――――――!?」

 

 

 どうやら俺の異常な胆力は今も健在らしい。踵落しを食らったサリエルはなかなかの速度で地面へと落下した。

 敵がダウンした!総攻撃のチャンスだ!眼鏡とかもう一人の自分とかないけど。

 サリエルを文字通り蹴落とした光景が信じられなかったのか少しだけ固まっていた第一部隊の人達だったが、すぐに気を取り直しダウンしているサリエルを袋叩きにし、そのまま倒した。

 

 

 

 いやぁ、極東のサリエルは強敵でしたね。

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 こんなの絶対におかしいよ……。

 コウタ隊長がアレなのはもう分かってる。今も鼻歌交じりにサリエルのビームを相殺しているがそれはいつもの光景だ。神機使いになって間もないけれどそれは分かっている。というか、極東の神機使いは大体こんな感じだし。

 でも、ブラッドまでこんな感じとか聞いてないよ……。

 極東支部にやってきたブラッド隊の副隊長がサリエルに踵落しを食らわせ、地面に叩きつけている光景を視界に捉えつつ、思う。

 普通アラガミは、神機以外での攻撃は無意味である。銃火器なんかを受けても無傷ですむアラガミに踵落しで地面に叩きつけるなんてどう考えてもおかしい。

 それに、踵落しをする前にした跳躍もおかしい。神機使いの身体能力を加味してもあんな不安定な足場であの跳躍は無理だ。

 アレはいったい何?極東に伝わるKARATE?ブラッド隊ってニンジャ?

 

 

 私はブラッドが極東に来ると聞いていい思いを抱いてなかった。エリートって聞いてたし、私の中のエリートのイメージは相手を見下したり必要以上に自分の戦果を誇ったりするやつだと思っていたから。実際、神機使いになる前に出席した家関係のパーティーとかではそういうやつが腐るほど居たのもそう思わせる一員なのかもしれない。

 

 

 だから、勝手に敵対意識を持ってきつく当たっていた。見下していた。

 温室育ちのエリートなんかに、この最善戦線で戦ってきた私たちは負けないって。どうせすぐに弱音を吐くだろうって。

 

 

 そう思った結果が目の前のこれ。私は思い違いをしていた。ブラッドは温室育ちではない。YAMA育ちだ。

 

 

 「いやぁ、極東のサリエルは強敵でしたね」

 

 

 地面に叩き落したサリエルを袋叩きにして倒し、しっかりとコアを捕食した後にブラッドの副隊長がそういった。

 どの口がいうか。サリエル地面に叩きつけるような人が強敵とか思うわけないでしょ!?

 

 

 「仁慈、お前……リンドウさんみたいなことするな」

 

 

 「リンドウさんもこんなことできるんですか!?」

 

 

 「できるよ。ていうかあの人できないことのほうが少ないんじゃないかな?」

 

 

 

 「……さすが極東。この程度はまだまだ序の口と……そういうことか」

 

 

 「そうだな友よ!これから僕たちもその境地を目指し、共に高めあおうではないか!」

 

 

 待って!勘違いしないで!極東支部の神機使いみんながそんなことできるとは思わないで!あと、エミールは勝手に煽らない、ブラッドの副隊長も納得がいったように頷かない……!

 ツッコミ所が多すぎる……。もう私の手には負えないよ。

 

 

 「どうしたエリナ。元気なさそうだな?もしかして、今ので疲れたのか?」

 

 

 顔を覗き込んで、声をかけてきたコウタ隊長に私は思わず……キレた。

 

 

 

 「あんたらの所為でしょうがぁああああ!!」

 

 

 この所為で私はブラッドの副隊長から危ない人を見るような目でしばらく見られた。ブラッドの副隊長とまた溝が深まった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十七話

だんだんと投稿が遅くなって申し訳ない。
今回は歓迎会とシエルさんの頼みごとパート2です。


 

 

 歓迎会 

 

  

 それは来賓や新メンバーを歓迎する意を込められて開かれるものである。しかし、大体はその後の人間関係などを円滑にするために用いられるものである。いきなり仕事関係ではなくこういった催しで接触したほうが有効なこともあるため、新しいメンバーが来た場合に歓迎会をするのは実に合理的である。あるのだが、

 

 

 「何だこの突き刺さる視線は……」

 

 

 現在、第一部隊との任務を終え歓迎会の会場であるラウンジに来ている俺だったが、周囲の視線がいたい。なんというかつい最近までフライア職員に向けられていた視線に似たものが四方八方から俺の体を貫いてくる。

 

 

 ―――おかしいぞ、歓迎会のはずなのに全然歓迎されている気がしない。いったいなんでなんですかねぇ……。

 

 

 時々ヒソヒソ声に混ざって自分の名前が聞こえてくる。これは陰口ですね(確信)

 ハァと落ち込んだ気持ちをため息と共に外へ出し気分を切り替えた俺は、テーブルの上においてあるさまざまな料理に向かっていく。

 藤木さんの言った通り、極東の料理はどれもこれもおいしそうな見た目をしており、実際に持っていた皿に盛り付け口に運んでみれば、この世界に来てから食べた料理の中でもかなり美味しかった。

 しばらく自分に向けられている視線を忘れる意味も込めて料理を口へ次々入れていると誰かがこちらに近付いているような気配がした。が……そこはスルー。

 視線の件も含めて考えるといい要件だとは思えない。

 再び意識を料理に向ける。うまうま。

 

 

 俺の目の前で十歳前後の女の子が笑った。俺の食べっぷりがそんなにおかしかったのだろうか?少々ショックだ。思わず箸を置いてしまったぜ……。

 

 

 「あの……」

 

 

 近くで声がかかる。高さからして女性のようだ。けれどナナやシエルの声ではないので俺には関係ないと無視する。こういう場合って反応したら大体違う人に向けて話しかけてたりするんだよね。いったいそれでなんど変な目で見られたことか。確認、大事。

 

 

 「あの……!」

 

 

 再び近くで声がする。心なしか先程より声音が強い。これはおこですわ。呼ばれてる人早く返事してあげてー。

 

 

 「あの!」

 

 

 もう何なんだよ。いい加減反応してやれよ。

 俺は軽く頭を上げてクルリとあたりを一通り見渡す。すると比較的近くに居た女の子と目が合った。……なんかどっかで見たことある気がする。どこだっけな?

 

 

 「やっと反応したね」

 

 

 どうやらこの女の子が呼びかけていたのは俺だったらしい。ごめんね。過去の経験と現在進行形で突き刺さる視線の所為で反応しようなんて思ってなかったんだ。

 

 

 「……どちら様?」

 

 

 本当、どっかで見たことある気がするんだよ。それもつい最近。多少記憶を引っ張り出して探してみたけど心当たりがなかったので素直に聞いてみることにした。

 聞かれた本人はピシッと一瞬固まったが、すぐに気を取り直して口を開いた。

 

 

 

 「そういえば二回とも私が一方的に見てただけだったっけ……初めまして、私は葦原ユノと申します」

 

 

 

 葦原……ユノ……随分変わった苗字だな。しかも書きづらそう。書類とか書くとき大変そうだな。

 ん?葦原……あっ、思い出した。いつぞやロミオ先輩が熱くキモく語ってた歌手だ。それにこの人、俺が部屋から出たときにロミオ先輩と話していた子か!

 よくよく考えたらつい数時間前のことだったか……。それは見覚えありますわ。というかすぐに思いつかなかったのが心配になるレベル。

 

 

 「どうも、樫原仁慈です」

 

 

 自己紹介をされたのでとりあえず俺も返しておく。

 それにしても、ロミオ先輩が御執心の歌手さんがいったい何の用だ?特に用がないなら正直早くどこかに行ってほしい。

 嫌いとかではないんだけど、俺に向けられる視線が強くなったし、よく知るニット帽まで俺に恨みを載せた視線をぶつけるようになってるから。

 いつの間にかできていた亀裂がさらに広がる音が聞こえてくるぜぇ……。

 

 

 「よろしくお願いします仁慈さん。私、こうして同じくらいの年の人とあまり話したことがなくて……フライアで見かけたときぜひ話がしてみたいと思ったんです!」

 

 

 「そ、そうですか……」

 

 

 同い年くらいの子ならこのラウンジにゴロゴロ居るじゃないか。もうすでに話したって言うなら何もいえないけど。

 これ以上俺の人間関係が致命的に成らないように何とか早々に離れてもらうための策を練るがこの人まったく離れない。この人一回話し出したらなかなかとまらないんですよ。だからこう適当に返事を返しつつ並行して考え事ができるんだけどさ。しかし、この流れはどこかで見たことがある。ちょうど俺がブラッドに入ったばかりのときに会ったジュリウス隊長みたいな雰囲気g……あ(察し)

 

 

 「それでですね……?何ですか、そのわが子を見守る母親のような目は?」

 

 

 「……なんでもありませんよ」

 

 

 ばれたか。さすがに視線が露骨過ぎたか。

 ジトーとこちらを見つめる葦原さんから視線をそらす。すると、たまたま向いた方向にマイクテストをしている藤木さんが居た。

 

 

 「あー、あー、テステス……うっし、オッケー。はい、皆さんご注目ー!本日は足元の悪い中極東支部にお越しくださいまして誠にありがとうございます」

 

 

 藤木さんが演説を始めたことにより、葦原さんの意識が藤木さんへと移る。おかげで葦原さんのことを『ぼ』で始まり『ち』で終わり、真ん中に『っ』が入る人だと思っていたことをごまかすことができた。

 

 

 「そしてブラッドの皆さん!改めて、極東支部へようこそ!これから一緒に戦う仲間として、ジュリウスさん!これから一言ご挨拶いただきたいと思う次第です!」

 

 

 藤木さんの腕がシエルと話していていたジュリウスさんのほうを指す。急に話を振られたからだろう。ジュリウスさんの表情が一瞬固まる。そして、

 

 

( ゚д゚)(ジュリウス)      ( ゚д゚ )(ジュリウス)

 

 

 

 こっちみんな。

 急に話を振られて戸惑うのは分かるし、ついつい周囲の人の顔色を確認したくなるのも分かる。だがその顔は駄目だ。

 俺は首を振ることで自分の意思を伝える。無理です。俺にはどうすることもできません。

 何とか正しく伝わったのか、ジュリウス隊長はあきらめたような表情をした後、藤木さんのところに向かい口を開いた。

 

 

 「ご紹介に預かりました、極地化技術開発局所属ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。極東支部を守り抜いてきた先輩方に恥じぬよう懸命に、任務を努めさせていただきます。ご指導、ご鞭撻のほど……何卒、よろしくお願いします」

 

 

 「すごーい、隊長っぽーい……コウタ先輩も見習ってほしいなー」

 

 

 「エリナ、うるさいよ!はぁいっ、ジュリウスさん、ありがとうございました!えー、続きまして!ユノさん、お帰りなさい。どうぞ、ユノさんも何か一言!」

 

 

 「えっ」

 

 

 なんで貴女までこっち見るんですかね。

 ジュリウス隊長と違って距離が近いので、なにか言われる前に拍手をして、無理やり彼女を押し出す。

 俺の拍手に続いて周りからも拍手が上がる。そうなると、前に出ないわけには行かないので葦原さんから恨めしい目で見られた。フッ、計画通り……!

 この後は彼女が歌を歌い、歓迎会に出席していた全員に癒しを与えて終了した。この日は歌を聴いたからかいつもより良く眠れました。

 

 

 

 

      

 

               ――――――――――――

 

 

 

 

 「今日仁慈さんに任務は入っていませんよ」

 

 

 「休日キタコレ」

 

 

 歓迎会の翌日。極東支部のオペレーター、竹田ヒバリさんから告げられた言葉に俺は歓喜した。神機使いの貴重な休日。どう使おうか、普段より頭を働かせて模索する。

 いつぞやみたいに自堕落に過ごすのもいいし、今後のことを考えてターミナルでこの世界についてさらに詳しく調べてみるのもひとつの手だろう。

 

 

 「あ!でも、シエルさんが仁慈さんに何か頼みごとがあるそうですよ?」

 

 

 デジャヴった。

 いつぞやに経験したことと同じ状況だ。このままでは再び休日がつぶれてしまう。しかし、シエルの頼みごとを自分勝手な都合で無視していいのか?否、断じて否である。

 美少女の表情を暗くすることは万死に値するのだ。古事記にもそう書いてある。

 

 

 極東支部で一番人が集まるラウンジに足を運んでみるとシエルをあっさりと発見することができた。俺のことを探しているかと思ったが、どうやら彼女はこの極東で飼われているカピバラに御執心のようだった。それでいいのか。

 

 

 「シエル」

 

 

 「あ、どうも」

 

 

 「どうもじゃないよ。俺に用があったんじゃないの?」

 

 

 「………そういえばそうでした」

 

 

 おい。忘れる程度の用事だったら俺は部屋に帰るぞ。

 

 

 「いや、まってください。前回のバレットのことで新たな事実が発覚したんです」

 

 

 「結構重要だよね」

 

 

 何故そんなことを真面目なシエルが忘れたのか。カピバラさんぱわーだろうか。

 

 

 「それで、何が分かったの?」

 

 

 「あのバレット、リッカさんに調べてもらったところ回復弾のオラクル細胞の結合が変異していたそうです」

 

 

 リッカさん……あぁ、ヴァリアントサイズのデータを欲しがってた人か。ダイアーさんが彼女のことをそう呼んでた気がする。

 

 

 「どんな感じに?」

 

 

 「細胞同士が固着して、エディットができなくなり他の銃身タイプは使えなくなった代わりに進化した、と……その結果として、従来の体力回復に加え、状態異常回復効果が発揮されるバレットになったようです」

 

 

 「へぇ、便利になったもんだね」

 

 

 体力回復と状態異常回復が同時に行えるのはかなりお得だ。今までは回復錠と解毒効果のあるものを別々に服用しなくちゃいけなかったからな。手間が省ける。

 

 

 「その分、改良もできず私が使っている銃身でしか使用することができませんがね。そして、どうしてこうなったのかというと、ブラッド同士の『血の力』による感応波の相互作用ではという予想が立てられているようです」

 

 

 「ブラッドアーツのバレット版ってことか」

 

 

 「そうですね。意志の力によってブラッドアーツのようにバレットが進化したというのが今のところ有力です。名付けるならブラッドバレットといったところでしょうか」

 

 

 「まんまだな」

 

 

 「下手にいじって変な名前になったら目も当てられませんよ?」

 

 

 確かに。なんだったら中学二年生くらいに患った病がぶり返す可能性がある。そんなことは俺もいやなので、名前に関してはこれ以上考えないことにする。

 

 

 「まぁ、なんにせよ。大発明だな」

 

 

 「はい。みんなの役に立ててとても嬉しいです。それで、頼みの件なのですが、このバレットを試験運用しようと思ってまして……君には何らかの状態異常にかかって欲しいのですが……」

 

 

 「可愛い顔しながら中々エグイこと言うね」

 

 

 それと同時に良くそれで俺が同意すると思ったな。おじさんびっくりだよ。

 

 

 「……?君なら多少の状態異常くらいはどうってことないですよね」

 

 

 「語尾にクエスチョンマーク付けろよ。何で断定なんだよ」

 

 

 これは一度某魔王式お話をするしかないか?

 ……やめとこう。人外疑惑が加速する。

 

 

 「それで、一緒に来てくれますか?」

 

 

 「状態異常云々がなければ普通に着いていったかな」

 

 

 「むぅ……なら、私も君が困ったときには力になります。私にできることなら何でも手伝いましょう」

 

 

 まぁ、それでいいか。さっきから「美人さんとイチャイチャしやがって……!」という視線が俺に突き刺さっているからな。さっさと了承して、この場を離れたい。

 

 

 『仕事をする』『部下の頼みを聞く』『両方』やらなくっちゃあならないってのが『副隊長』のつらいところだな。

 (休日を返上する)覚悟はいいか?オレはできてる。

 

 

 

 

 

           ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「で、何でまたザイゴートなのさ」

 

 

 「毒も吐く、私の銃身に弱い。最高の相手です」

 

 

 もうザイゴートがシエル専用のサンドバックにしか見えなくなってきたわ。

 ふよふよ。こちらに気付いて近付いてくるザイゴートに思わず哀れみの視線を送る。

 俺たちの近くに到着したサイゴートは早速、卵みたいな体を膨らませ、口から紫色のいかにも毒ですという液体を吐き出す。

 

 

 「チャンスです!突撃!」

 

 

 「やかましい」

 

 

 バックステップを踏みながら俺に突撃命令をだすシエル。……たまにこの子のテンションについていけないときがある。

 自ら毒々しい液体に突っ込むというほかから見れば狂ったような行動をとった俺は案の定毒が体中に回り激しい吐き気に襲われる。それを隙と見たのか一体のザイゴートがこちらに来るが神機を一振りして真っ二つに切り捨てる。

 

 

 「うぉえ、頭ガンガンするし気持ち悪い。シエル、回復はよ」

 

 

 「普通はそんな程度じゃすまないはずなんですけどね。ザイゴートも倒してますし」

 

 

 バンッ!とシエルの神機から緑色のレーザーが発射され、俺の体を見事に貫く。今では慣れたものの、神機使いに本当になったばかりの頃は、このレーザーが怖くて回復弾まで避けていたのは俺だけの秘密である。

 レーザーが俺の体を通過してから数秒後、自分の体から毒素が抜け落ちていくような感覚を覚えた。これで、シエルのバレットが異常状態回復効果を持っていることが実証できた。

 

 

 「シエル。治ったぞ」

 

 

 「そのようですね。目的は達成したので、後は殲滅するだけです」

 

 

 神機を銃形態から通常の形態に戻しつつ言う。彼女にしては珍しく刀身を使って戦うようだ。曰く、「今日はそんな気分」とのこと。左様ですか。

 それにしても、ショートってすげぇよな。もう殆ど飛んでるようなものだもん。

 明らかに常軌を逸脱した起動でザイゴートを切りつけていくシエルを視界の端に収めつつそんなことを思う。

 俺のやることといえば、シエルが倒し損ねて、地面に落ちてくるザイゴートを刈り取るくらいなので前述したようなくだらないことを考えていても何ら支障はない。ないのだが……最近、神機の切れ味が悪いのだ。あのやわらかいことに定評のあるザイゴートでさえ、結構な力を入れて神機を振らなければ切れない。サリエルなんかはじかれたし。これは俺だけなんだろうかと、ザイゴートを全て狩り終えたシエルにたずねる。

 

 

 「神機がザイゴートにはじかれる……ですか?」

 

 

 「一瞬だけなんだけどね」

 

 

 「……私はそんなことはありませんね」

 

 

 うーん、神機の使い方が悪いのだろうか?

 

 

 「確かに君の神機の扱い方は異常ですがおそらくは違います。単純に武器の所為のではないですか?あのクロガネ、精鋭部隊にのみ配備されるとうたっていますが実はそこまでたいした武器ではないんですよ」

 

 

 今明かされる衝撃の真実ゥ!俺の配られた神機はたいしたことがなかった!

 今度グレムに会ったらマジで一発ブン殴ってやろうか。

 

 

 淡々と帰還の準備をしながら俺は考える。そして、ある一人の人物が思い浮かんだ。

 そうだ、リッカさんとやらにデータの対価として神機の強化でも頼もう。神機のことで希望が見えた俺は上機嫌でシエルの手伝いをし、極東に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十八話

ヒバリさんの口調がなんか違うかもしれない。



 

 

 

 

 「いやー、良くこんな装備で生きてこれたねー。さすが血の怪物(bloody freaks)と呼ばれ、早くも極東の神機使いから恐れられている仁慈君。私たちにできないことを平然とやってのける。そこに痺れる憧れるゥ!」

 

 

「何それ聞いてない」

 

 

 一体誰だ。俺にそんな痛々しい二つ名もどきをつけたやつは。ちょっとかっこいいと思っちゃったじゃねーか。病気再発したらどうするつもりだ。

 顔も名も知らない誰かさんに心中で文句を呟いていると、やることがすんだのかリッカさんがまばゆい光を放っているかと錯覚しそうな笑顔でこっちに来た。

 

 

 「いいね、この神機!ところどころ傷がついてるのは少し思うところがあるけど、この傷つき方は今まで見たことがないや。一体全体どんな扱い方をしているんだろうね?」

 

 

 「どんなって……普通ですよ普通」

 

 

 「アッハッハ……まさか」

 

 

 おう、急に真顔になるのやめーや。

 ついさっきまで明るい笑顔だった分ギャップがすごいんです。怖いんです。

 

 

 「というか、どうして普通じゃないなんて言えるんですか?」

 

 

 この極東に来たのはつい昨日。任務は未だ一回しか受けておらず、その唯一受けた任務では特に変な神機の扱いをした覚えはなかった。神機じゃないなら、飛び乗ったり蹴落としたりしたけど。それは神機関係ないから(震え声)

 

 

 「だって、同じブラッドの子達が君の武勇伝を言って回ってるよ」

 

 

 「…………」

 

 

 こ、心当たりが多すぎる!というか、ギルさんを除くブラッド全員が容疑者足りうるぞ。

 

 

 「あー……この話はやめようか」

 

 

 「そうですね」

 

 

 身から出た錆と己に言い聞かせ、気分を一転させる。そして、俺はここに来た本来の目的を達成するために口を開く。

 

 

 「それで、これらの装備……どうにかなりませんか?」

 

 

 中二病真っ盛りの二つ名とか極東支部中に広まる武勇伝とかの所為で忘れていたが、俺がここに来た目的は神機のパーツ強化である。

 いやね、さすがにザイゴートもさっくり切れない武器は俺でもちょっと遠慮したいんですよね。

 ほら、俺基本的に生物共通の弱点である首を狙うんだよ。妖怪首おいてけなんですよ。アラガミが生物の枠に入るか微妙だけど。

 で、首切りを狙うということは当然アラガミとの距離はゼロ距離なわけで……神機がはじかれたりすると致命的な致命傷を負って病院で栄養食を食べるはめになる。

 

 

 「うーん、このクロガネ装備も改良の余地はあるんだけど……具体的な方針なんかがないと改良できないし。素材もあるか分からない……仮に改良しようとしても、その期間君が使ってる刀身であるヴァリアントサイズの代えがね……」

 

 

 誰も使わないからないんですね分かります。

 

 

 「困りましたねぇ」

 

 

 「一応ヴァリアントサイズ以外の刀身はあるけど……使える?」

 

 

 「一通り使えますけど……」

 

 

 人並みに使いこなせる自信は一応ある。ヴァリアントサイズの使用を制限されたときに一通り使ってみたし、ダミーアラガミも相手に戦ってみたりもした。

 けれど、訓練と実践はわけが違う。特に俺は想定外のアラガミが良く乱入してきたりするのだ。ヴァリアントサイズ以外での実践はそういった想定外の事態の対応に不安が残る。しかし、今の状態のヴァリアントサイズを使ってもそれは同じこと。状況としてはほぼ詰んでる。いや、スタングレネードとか使えばワンチャンあるか?うーん、実際に遭遇してみないと分からないかな。

 

 

 「リッカさん。とりあえず改良して欲しいところを言ってもいいですか?もしかしたら素材があるかもしれないし」

 

 

 「そうだね。じゃあ言ってみて!」

 

 

 「切れ味と軽さが欲しいですね」

 

 

 「日本刀でも握ってれば?」

 

 

 「それだとアラガミ倒せませんよ」

 

 

 「冗談だよ冗談……んー、その要望だと……ギリギリ足りないな」

 

 

 「足りないんだ」

 

 

 現実は非常であった。こういうのはギリギリ足りて、新たなる力を手に入れるフラグでしょうがぁ。

 

 

 「何が足りないんですか?」

 

 

 「このクロガネを形成している鋼鉄かな」

 

 

 「……俺のシールドをばらして改良に使うというのは?」

 

 

 「………その発想はなかった」

 

 

 素材がないなら作ればいいじゃない。

 神機使いになってからシールドを使った回数は片手で足りる。それに足りないのはヴァリアントサイズだけなので、俺が装備しているバックラーの変わりはさすがにあるだろ。

 

 

 「いけそうですか?」

 

 

 「素材としては充分だね。けど、大丈夫?次に任務行ったときポックリ逝ったりしない?」

 

 

 「大丈夫だ、問題ない」

 

 

 「どうしよう。さらに不安になったんだけど……」

 

 

 「まぁ冗談はこれまでにして、本当に大丈夫ですよ」

 

 

 想定外のアラガミが乱入し、そいつが明らかに手に負えないやつであればスタングレネードぶん投げて全力で逃げれば大丈夫だろう。

 

 

 「それで刀身の改良ですが……どのくらいかかります?」

 

 

 「フフン、私をなめてもらっては困るよ。刀身の改良なんて私にかかれば一日で終わるね!」

 

 

 「リッカさんすげぇ!」

 

 

 極東の常識はずれな神機使いをサポートする彼女もまた常識はずれだった。装備の改造とか普通、一日じゃあ終わんないだろ……。

 

 

 「ま、今回は特別。普通はもっとかかるんだけどね。君には戦闘データを取らせてもらうっていう約束をしてたからその代金だと思ってくれていいよ」

 

 

 「ありがとうございます」

 

 

 「いいっていいって。さてと、私は早速改良に行ってくるね。明日、楽しみにしといてよ!」

 

 

 リッカさんはそういった後、俺の刀身とバックラーを持って部屋の奥に消えていった。取り敢えず俺も、神機にクロガネのチャージスピアと適当なバックラーを取り付け整備室を後にした。

 

 

 

 刀身強化の件がとりあえず落ち着いた俺は、現代に居たら通報待ったなしと思えるくらい怪しいおっさんのところに居る。この人、この身形で万屋らしく結構便利なものが売っているとは藤木さんの弁。

 俺がここに来たのは当然想定外の事態に備えるためである。毒とか、今まで神機振ってその風圧で防いだりしたけど、チャージスピアだときついかもしれないからな。解毒効果のあるやつと、回復錠、後はスタングレネードの素材かな。

 

 

 「というわけで、今言ったものある?」

 

 

 「あるよ」

 

 

 おぉ、さすがだ。藤木さんが推すだけの事はある。ちょっとばかり高いが命と比べれば安いもんだろ。パッパと買ったものを受け取っていくが、その途中で気になるものを見つけた。

 

 

 「武器?……おっさん、このカタログ……なに?」

 

 

 「見ての通り、神機のパーツのカタログだ」

 

 

 神機のパーツって売ってるものなんだ……。ぱらぱらとカタログを流し読みしてみる。パーツの特徴や実際の写真などが付属されていてとても見やすい。

 

 

 「ん?」

 

 

 そんな中で気になる名称のパーツがあった。クロガネである。これ普通に売ってんのかよ。精鋭部隊にのみ配備(笑)される鋼鉄の武器(爆笑)

 しかもお値段なんと500fcこれは(笑)付けられても文句は言えませんわ……。

 待てよ。ということは俺は今まで合計1500fcで戦っていたのか……よく生きてたな。質問に答えてくれたおっさんにお礼を言ってその場を去る。そして次にすぐ近くにあるカウンターへ向かう。仕事の有無を確認しないと今日一日どうやって過ごそうか決められないし。

 

 

 「というわけで、今日は任務ありますか?」

 

 

 「どういうわけかは分かりませんが、任務はありますよ?新しく開発された、リンクサポートデバイスの臨床試験らしいです。詳しいことはダミアンさんから伺ってください」

 

 

 

 チラリと竹田さんの視線が俺から外れる。彼女の視線の先を追ってみればそこには額に青筋を立てて、手まねきをするダミアンさんの姿が。

 おぉう、これは激おこですね(確信)

 やっぱり無視がいけなかったか。数秒行こうか行くまいか葛藤するが自業自得ということでおとなしくいくことにした。

 

 

 「サンダースプリットアタック!」

 

 

 「ぐぼぁ!?」

 

 

 おとなしく近付いた結果がこれだよ!

 サンダースプリットアタックとは名ばかりの唯のアッパーカットだったが、むしろこっちのほうがつらい。脳が揺さぶられ、体を動かすのが困難だったが何とか気合で命令を出し空中で体勢を立て直し地面に着地する。

 

 

 「この、アッパーカットで人体を吹っ飛ばすとかどれだけ力入れたんだよダイアーさん」

 

 

 「ダミアンな。これは俺を無視してくれた仕返しだ」

 

 

 「まさか全力のアッパーカットが飛んでくるとは予想外だった」

 

 

 脳が揺れたことによる弊害もなくなったのでよいしょと立ち上がり、再びダミアンに接近。

 

 

 「今回はおとなしく食らったが、調子に乗って二発目とかやったらカウンターぶち込むから」

 

 

 「やんねーよ」

 

 

 「ならいいや。それで?リンクサポートデバイスって言うのは一体何なんだ?」

 

 

 「リンクサポートデバイスは、フィールドに設置した機材に神機を連結し、偏食場パルスによる支援効果を発生させる装置だな。元々は余った神機の活用法として考案されたもので各個体の特性次第で、違った効果を発揮するシロモノだ。わかったか?」

 

 

 「すまねぇ、専門用語はさっぱりなんだ」

 

 

 「聴く気あんのかてめぇ。……ま、簡単に言っちまえば攻撃力上がったり早く動けるようになったり敵の動きを止められるといった効果を発揮できるんだよ。今回はそれが本当に起動するかの実験だ」

 

 

 「ま た じ っ け ん か」

 

 

 「そう悲観するなよ。みんながお前を信頼している証拠じゃないか。そう簡単にくたばるとは思われてないんだよ」

 

 

 「だからって危ない橋渡らしていい訳じゃないでしょうよ……」

 

 

 一方通行の信頼ほど厄介なものはないと思いました。

 

 

 「神機使い(俺達)は基本的に仕事を選べない、あきらめろ」

 

 

 「はいはい、それではお仕事に行ってきますよー」

 

 

 やる気のそがれることを言うダミアンに適当な言葉を返し、俺は彼から受け取った任務の標的や周囲のアラガミの状況などを読みながら、神機をとりにむかった。

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――

 

 

 

 

 「へぇ、これがリンクサポートデバイスの効果か」

 

 

 

 今俺の目の前にはホールド状態になり、動くことができない無数のアラガミが居る。

ダミアンが持ってきた任務の現場に向かい、さぁアラガミ狩りだ!と意気込んだ瞬間にこれである。どういうことだと首を傾げていると付けている通信機から竹田さんが俺の疑問について答えてくれた。リンクサポートデバイスの効果ですと。

 

 

 「ホールドは便利でいいね」

 

 

 フッと一息吐き出すと共に持っている神機でアラガミを突き刺す。続けて同じ動作を近くで固まっているアラガミにも行い、その息の根を止めていく。

 

 

 「よーし、この辺の奴は一掃できたな」

 

 

 いつものごとくコアをモグモグさせて次のアラガミを探しに行く。見つけたら神機で突き刺す。またアラガミを探す。突き刺す。探す。突き刺す。探す。突き刺す。

 

 

 「ちょっと竹田さん?アラガミ多すぎじゃありませんこと?」

 

 

 たった今、倒したグボロ・グボロの死体をグシャリと踏みつけながら通信機を通してオペレーターである竹田さんに尋ねる。

 

 

 『なぜか周囲のアラガミたちが仁慈さんのほうに向かっていますのでそう感じるのも無理はないですね』

 

 

 「なん……だと……」

 

 

 あまりの衝撃に思わずどこかにイェン・ツィーが居ないか探してしまった。居なかったけど。

 

 

 

 『さらに仁慈さん。残念なお知らせがあります』

 

 

 「すいません。いいお知らせしか聴きたくありません」

 

 

 『なら言い換えます。とても素敵なお知らせです。仁慈さんお仕事追加だそうです』

 

 

 「どこが素敵なのさ……」

 

 

 唯の残業報告じゃないですかーやだー。

 こういうのは本人通してから承諾して欲しいよね。連戦って思っている以上に疲れるんですよ?

 

 

 「はぁ……それで、その任務の内容は?」

 

 

 最近ため息ばっかり付いている気がする。もしかしてこれの所為で幸せが逃げてこうなっていたりするのだろうか。

 

 

 『内容はボルグ・カムランの討伐。目標の到達予想時間は―――』

 

 

 ガシャン!

 

 

 何か大きく金属めいたものが地面に落ちたような音がする。

 

 

 「■ ■ ■ ■ ■----ッ!」

 

 

 人間では決してでないような音が空気を震わせながら俺の耳に届く。

 ステイステイ、これは俺の幻聴だろう。いくらなんでも早すぎる。まだ到達予想時間すら聞いてないぞ?

 ゆっくりと、音の発生源へと視線を向ける。それと同時に通信機から竹田さんの声が聞こえてきた。

 

 

 

 『――――――今です』

 

 

 彼女が言い終わるのと同時に俺の視界には、蠍が騎士の格好をしているような風貌をしたアラガミが俺の目の前に現れた。ふぁっく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十九話

夏休みが終わり、学校が始まってしまったので更新スピードが落ちると思います。その影響で今回はかなり短めになっております。内容はボルグ・カムラン戦です。
あと評価を付けてくださった方、本当にありがとうございます。これからも失踪しないように頑張っていきたいと思います。


 ゾクリ。

 背筋に寒気が走る。そう感じると同時に俺の体は無意識に後ろへと下がっていた。どうやら咄嗟に生存本能が働いたようだ。その証拠に、数秒前に俺が居た場所にはボルグ・カムランが持っている鋭く巨大な尻尾(?)が突き刺さっていたからだ。

 あのまま居たら串焼きみたいになってたな。

 

 

 地面に深く突き刺さった己の尻尾(?)を引き抜こうと必死に頑張っているボルグ・カムランには悪いが、この隙を逃すのはさすがにない。

 突き刺さっている尻尾(?)に跳び乗り、その上を走り抜ける。そしてある程度上ったところで跳び下り、落下の勢いも上乗せして神機をボルグ・カムランに突き刺した。

 

 

 「■ ■ ■ ■――――――――――ッ!?」

 

 

 

 肉を切ったときのような感覚が神機を通して伝わる。ボルグ・カムランも苦しんでいるようで効果はあったようだ。しかし、

 

 

 「チッ、外した……!」

 

 

 俺が狙ってたのはアラガミを形成するコアだ。苦しんではいるもののまだまだ元気いっぱいな様子を見る限り、狙いはそれたっぽい。

 まずいな。苦労はしなかったもののそれなりに体力は消費している。長期戦になれば間違いなく俺がやられる。

 

 

 たった今ブチ空けた傷をえぐる様に蹴りながらボルグ・カムランから距離をとる。狙うとするなら今攻撃したようなところかな。他はいかにも頑丈そうだし。

 痛みがある程度収まったのか、尻尾をこちらに突き出し、威嚇するような行動をとるボルグ・カムランに対して神機を構える。そして、すぐに地面を蹴り上げチャージスピアの特性であるチャージグライドを使ってボルグ・カムランに肉薄する。狙うは口の部分。神機ぶち込んで体内でプレデターフォームにして喰らい尽くしてくれる。

 しかし懐に入れてやるかといわんばかりにボルグ・カムランは両腕をあわせ、盾にして前に出す。カキンと甲高い音を立てて、突進をはじき返される。盾硬すぎワロタ。まぁ柔らかかったら意味ないだろうけどさ。

 

 

 さって、どう攻めようか。盾があるとするなら正面突破はまず無理だ。武器によっては奴の盾ごと攻撃できるかも知れないが、チャージスピアじゃあ相性が悪い。となるとさっきみたいに上から攻撃するのが一番効果的か。

 

 

 「いよっと」

 

 

 自分がとる行動を決め、ボルグ・カムランに向かって跳躍。いつでもチャージグライドが使えるようにエネルギーをためておきながら奴の上をとる。しかし、さっきの攻撃が効いているのかボルグ・カムランも俺と同じく跳躍してきた。

 その細い足で跳べんのかよ……!

 

 

 このまま行ったら当然正面衝突。俺の何倍も大きいボルグ・カムランとぶつかり、踏み潰されたりしたらもちろんのこと唯ではすまない。チャージが完了した神機を後ろに向けてためていたエネルギーを放出させ、後方に飛んだ。

 

 

 「あっぶねぇ」

 

 

 念のため 溜めてて良かった エネルギー。

 ボルグ・カムランと俺がほぼ同時に着地する。だが、ボルグ・カムランは着地すると体を捻り己の尻尾を振り回した。ボルグ・カムラン!アイアンテールだ!

 おっと、こんなくだらないこと考えている場合じゃない。

 咄嗟に地面に伏せることでアイアンテールを回避。相手が大きくて助かったわ。ちょっと髪の毛もっていかれたけど体吹っ飛ばされるよりはマシだろ。

 腕立て伏せをするかのように両腕で地面を押し、体を起こす。そして再びエネルギーのチャージを開始する。色々使えるし、溜めてたほうが先程のように予想外の事態が起きた時に対応できる。

 

 

 「そろそろ決着付けないと……」

 

 

 先程までの雑魚戦と現在のボルグ・カムランで大体一時間くらいぶっ続けで戦っているのに加え、ボルグ・カムランは初見でいきなりソロだ。体力、精神力共に消費がマッハなのである。

 

 

 次々と繰り出される尻尾を使った刺突を回避したり、神機を横からぶつけて軌道を逸らしたりしつつ隙を伺う。伺っているんだけど……

 

 

――――攻撃を緩める気配が一切ない!

 

 

 ボルグ・カムランはこれでもかといわんばかりにひたすら尻尾による刺突を繰り返していた。仕方ない。隙ができないなら別の方法に変更だ。プランBだ。

 

 

 頭、鳩尾、肺、心臓、股間といった喰らえば色々と致命傷なこと間違いなしの所を必要以上に狙ってくる攻撃を回避し、再び頭に向けられた攻撃に対してこちらも今まで溜めていたエネルギーを上乗せした攻撃を真正面からぶつける。唐突にぶつけられた攻撃にボルグ・カムランの体勢が一瞬崩れる。その隙を縫って後方に大きくバックステップしつつこの短期間でおなじみとなったエネルギーチャージを行った。すぐにチャージが終了したことを確認すると俺はチャージスピアのエネルギーを放出させながら軽く前方に神機を投げる。

 

 

 軽く投げた神機は、放出されるエネルギーによって加速しながらボルグ・カムランへと一直線に向かっていく。自分のほうへと向かってくる神機に対して先程俺の突進を防いだ両腕の盾を構えることで応戦するらしく、ボルグ・カムランは両腕をあわせ攻撃に備えている。

 しかし残念。それは悪手だ。

 俺は神機を前方に投げると同時に駆け出し、ボルグ・カムランが正面に盾を構えたときにはすでにボルグ・カムランの体を支える足の一本にいち早く接近するために付けていた勢いをプラスした回し蹴りを叩き込む。すると、ボルグ・カムランを支える足の一本が不意に地面を離れたことにより、バランスを保てなくなったボルグ・カムランは構えていた盾を崩しながら自分も地面に倒れこんだ。

 さらにそんな無防備な姿をさらしたボルグ・カムランの口と思われる箇所に先程投げた神機が突き刺さる。

 俺は、刺さっている神機をすぐにつかんでさらにねじ込むように奥へと押しやる。ボルグ・カムランが苦しむように甲高い声を上げているが、化け物に慈悲はないので無視して続行。俺の任務を連戦にしてくれた恨みをたっぷりと込めつつ刀身が全てボルグ・カムランの体内に入るくらい突き刺す。とどめにその状態で神機をプレデターフォームへと変化させる。

 

 

 四方八方がオラクル細胞という経験がないのか、心なしか神機が歓喜に震えているように感じる。実際神機がひとりでにがたがたいっているのだ。そんなに早く喰いたいか。

 

 

 「喰らい尽くせ」

 

 

 お望み(思い込み)通りに許可を出すとボルグ・カムランの体内からとてつもなく生々しい肉を咀嚼する音が響き渡る。結構精神的にクるものがある。少なくとも今日は肉を食えそうにないわ……。

 しばらく、苦しみもがいていたボルグ・カムランだったが、コアを捕食したかダメージが一定を超えたかですぐに動かなくなった。それと同時に耳に付けている通信機からも竹田さんのオペレートが聞こえる。

 

 

 『目標の討伐を確認。急に入った任務をこなすとは、さすがですね』

 

 

 「今度からはきちんと本人通してからお願いしますよ」

 

 

 ホント頼むね。マジで死ぬから。

 未だボルグ・カムランの形状が残っている部分をむしゃむしゃしている神機を引っこ抜いておとなしくさせてから、帰りのヘリが待っている場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十話

製作途中のものを誤って投稿してしまい申し訳ありませんでした。

さて、なんだかんだで三十話目になりましたこの作品。これからも頑張って続けていきますのでよろしくお願いします。


 

 

 

 

 

 

 うぉえ、酔った。

 初めてヘリを使って帰還したんだけど、連戦の疲れに加えヘリの揺れに慣れていないこともあり胃の中のものがリバースしてしまいそう。

 フラフラとした足取りで何とか極東支部のエントランスにまでたどり着く。もう、今日はこのまま寝てしまいたい。

 竹田さんと事後処理について軽く話し合った後、自室へと行くためにエレベータに向かう。

 覚束ない足取りで進んでゾンビのように進んでいるため、俺の周りにいる人たちが引いているがそれを気にせずに歩みを進める。

 そんなだえ下が近づきたくないと思い実際に近づかない状態の俺の前に、いかにも一仕事終えましたといった表情のリッカさんが現れる。嫌な予感しかしない。彼女に失礼だと思いつつ、視線を合わせないように横を通り抜けようとするが、

 

 

 「どこに行くのかな?」

 

 

 ガッと肩を掴まれ、その場を立ち去ることはかなわなかった。

 魔王からは逃げられない!

 疲労で崩れそうになる体に鞭をうち、リッカさんに向き直る。俺が彼女に向ける視線が若干冷たいのは勘弁してほしい。

 

 

 「何か用でしょうか?ぶっちゃけすごい疲れているんですが……」

 

 主に連戦やらヘリコプター酔いやらで。今自室にあるベットに潜ったら一瞬で夢の中に行ける自信があるね。

 

 

 「そう露骨に嫌そうな顔しないでよ。さすがに傷つくよ」

 

 

 ぶぅと頬を膨らませて不機嫌アピールを始めたリッカさん。あざとい。だが悲しいかな、疲労でドボドボな俺はそんなのより休養なのである。

 

 

 「おぉう。表情を見るに割とマジにやばそうだね。だったら簡単に話を済ませちゃおうか。まずはリンクサポートデバイスの臨床試験ありがとうね、おかげでいいデータが取れたよ。神機のほうは順調で明日の朝には確実に仕上がっているからね」

 

 

 「分かりました。ありがとうございます」

 

 

 最低限の言葉だけを残し、エレベータへと乗り込む。背後からリッカさんの声が聞こえるが完全にスルー。

 ブラッドの部屋が割り振られている区に到着すると、一直線に自室へと向かい直でベッドへダイブ。わずか数秒後に俺の意識は沈んでいった。

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 復活ッ!復活ッ!!

 

 

 ゾンビのように自室に戻り、泥のように寝た日の翌朝。ベッドから這い出た俺は片手を天井に向かってあげながらそんな事を叫んでいた。はたから見れば完全に不審者である。

 しかし、前日アレだけの疲労を感じていたにも関わらず一晩ぐっすり眠るだけで体調が全快するというのは便利だな。某ハンターを思い出す。その代わりに何事もなく毎日アラガミ討伐に繰り出されるのだが。それなんて社蓄?

 

 

 神機使いの社蓄性能の高さはともかく最低限の身だしなみを整えた俺は神機の整備、保管を行う部屋を訪れていた。目的はもちろん改良された刀身の回収である。やっぱり自分に一番合った刀身を装備していたいのだ。

 

 

 「お、来たね。刀身の改良は昨日言った通り終わってるよ。もう装備する?」

 

 

 部屋の奥からひょっこり顔を出して訪ねるリッカさん。どのくらい早くここに来ているのだろうかと疑問に思いながら彼女の言葉に頷くと、出していた顔を引っ込めて改良が済んだ刀身を探しこっちに持ってきた。

 

 

 「どうよ」

 

 

 「刀身単体で持ってこられても困るんですけど……」

 

 

 渾身のドヤ顔を披露しながら改良された刀身を見せ付ける。しかし、そこにあるのは本当に刀身だけで神機本体に繋がっていない。振り心地、使い心地が分からない上に外見は改良前の物と変わりがないためなんていっていいのやら分からない。

 

 

 「あはは、そうだよね。ならさ、これから訓練場を借りてこれの使い心地を確かめてみたらどうだい?私も君の戦闘データとヴァリアントサイズのデータを取れるから一石二鳥だよ!」

 

 

 「確かに。朝も早いし誰も使っていないでしょうし、行きましょうか」

 

 

 というわけで使い心地を確認するために訓練場へと向かった。……最近訓練場に入り浸っている気がするなぁ。

 

 

 ささっと訓練場にたどり着いた俺は新しい刀身が装備してある神機を担いで訓練場の中へ、リッカさんは訓練場に出てくるダミーアラガミの制御を担う部屋にて俺が相手をすることになるアラガミの設定をしている。

 

 

 『今回のダミーアラガミは私がお遊びでtゲフンゲフン……私とサカキ博士が共同で製作したダミーアラガミの相手をしてもらうよ。』

 

 

 「今お遊びって言いかけましたね」

 

 

 言いかけるというかガッツリ口に出てたけどね。

 

 

 『気にしない気にしない。それでね、そのダミーアラガミの強さなんだけどかつてこの極東に居たもっとも強い神機使いたちがクリアできるくらいの強さだね。後は隊長をやっている人達かな』

 

 

 「それ以下の実力の神機使いはどうしたんですか?」

 

 

 『実はつい最近出てきた新種のアラガミのダミーでね。強さはさっき言ったとおりだから油断しないようにね』

 

 

 「聞いてよ」

 

 

 どうしてこの世界の人達はこうやって人の話を聞かないのか……。ここ極東でしょ?名称こそは違うものの日本でしょ?事なかれの日和見主義で自分を表に出すことが苦手な日本人はアラガミの出現と共に絶滅したというのだろうか。

 しかも極東でもほんの一部、上位の強さを持った人達しかクリアできないものをぶつけてくるとか……リッカさんが俺に抱いている印象が良く分かるな。

 

 

 『それじゃ始めるよ』

 

 

 スピーカーを通して聞こえるリッカさんの声が途絶えた瞬間、ダミーアラガミが地面から精製される。難易度が高いのでこちらも瞬時に戦闘用の意識に切り替え、神機を構える。

 地面から精製されたダミーアラガミは珍しく人型であった。

 しかし、頭上では天使の輪のようなものが光輝きながら浮いていており、その体を構成しているものも機械に使われるコードに似たようなもので構成されていた。

 

 

 「これが……アラガミ?」

 

 

 あまりにも異質。もともとアラガミは異質なものだが、このアラガミはその中でも群を抜いて異質に思えた。

 

 

 『そう。これがここ数年で現れたアラガミ。ツクヨミだよ。本物に比べて大分劣化してるけどそこらの神機使いじゃ苦戦間違いなしの相手だからね』

 

 

 サスケェ……。いや、違うなアレはイザナミだったか。

 しかし、あのツクヨミというダミーアラガミは一向にこちらを攻撃する気配がない。くだらない想像をしているときなんて絶好の隙であったにも関わらず、精製された場所から微動だにしなかった。

 それが逆に不気味すぎる。いつものごとく一気に近付いてもいいのだが、初見の相手で強さも折り紙つきとなれば話は別だ。ここは自分の武器の性能を存分に使うとしよう。

 俺はヴァリアントサイズを咬刃展開状態へと変え、攻撃が届くギリギリの距離で神機を振る。え?戦法がセコイ?馬鹿め、勝てばよかろうなのだ。

 

 

 俺が振るった神機はしっかりとツクヨミというダミー……面倒だな、纏めてダミーツクヨミに当たった。もう腕と思わしき部分に食い込んでいるくらいは当たった。しかし、未だにダミーツクヨミは動かない。

 なにこれ?壊れてんじゃないの?

 

 

 「リッカさんこれ壊れてるんじゃないですか?」

 

 

 『ちゃんと正常に起動してるよ。これはもともとそういう仕様なの。多分そろそろ動き出すと思うから、油断しないようにね』

 

 

 彼女がそう言い終わるのと同時にダミーツクヨミの頭上に浮いていた天使の輪のようなものが光りだし、下を向いたままだと思われた頭部が動き、こちらを捕捉したような動作を行った。頭部の中心にある丸い円もなんか光ってるし、間違ってないと思う。

 ダミーツクヨミが戦闘態勢に入ったことを確信した俺は今まで以上に気を引き締める。

 ダミーツクヨミは右腕のようなものを伸ばし俺の頭を貫かんとする。さっき気を引き締めて警戒していたがノーモーションから繰り出されたその攻撃にはさすがに反応が遅れ、とっさに神機をふるって右腕を弾く。あ、右腕が半分くらい切れた。

 思った以上の脆さに動揺するが、切られた本人であるダミーツクヨミはブラブラ揺れている右腕には何のリアクションを取らず、頭上にある天使の輪のようなものからマシンガンのごとく光弾を打ち出した。

 その量は、俺の視界を光弾で埋め尽くすくらいの密度であった。

 

 

 「撃ち過ぎだろ!?」

 

 

 弾幕ゲーでももう少し隙間あるぞ!?

 あまりにも予想外な光景に思わず叫びながらも、神機をプロペラのように回して自分に当たるであろう光弾をすべて弾く。神機が何やら赤いエフェクトが走っている気もするが、気のせいだと思うことにする。自分に降り注ぐ無数の光弾をすべて防ぎ切り、回していた神機を再び構えると、足の筋肉をばねのように使い一気にダミーツクヨミとの距離を縮める。

 一方ダミーツクヨミはブラブラしている両腕を上にあげるとゆっくりとその高度を上げていく。切れかかっている腕がだらーんとしているのがとってもシュール。一体何事だと思い浮かんでいくダミーツクヨミを目で追うと、俺の頭上から光の柱が降ってきた。

 

 

 「ウェイ!?」

 

 

 慌ててバックステップを踏むが避けきるには反応が遅すぎたため、直撃こそ回避できたものの服の端は焦げ、光の柱の衝撃波により無様に地面を転がることとなった。

 ダミーツクヨミ強すぎワロタ。体は脆いものの、攻撃一つ一つが確実に命を刈り取りにかかってきている。ダミーでこれほどの強さを持っているんだったら、本家はどのくらい強いんだろうね。

 まだ見ぬ本家に戦慄しつつ、体を起こした俺は再びダミーツクヨミに切りかかった。

 

 

――――――ちなみにこの後手持ちの道具全てを使い、自分の持てる全てを出し切って何とか俺は勝利をもぎ取った。

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――

 

 

 

 

 新たな刀身の性能と命の危機を充分に堪能した俺は、軽くシャワーを浴びた後、リッカさんと合流し、エントランスへと向かっている。

 

 

 「アレは新武装の実験なんてものではなかった……」

 

 

 そこいらの大型アラガミを相手にするときよりもよっぽど危険だよ。

 

 

 「ふふん、私とサカキ博士が合同で作り上げた傑作だからね!」

 

 

 「褒めてねぇよ」

 

 

 訓練用ダミーアラガミとはなんだったのか……。いや、アレは強い人向けの奴だからいいのかな?少なくとも武装実験の相手としてふさわしくはないな。

 えっへんと胸を張るリッカさんを尻目に溜息を吐く。結構露骨に吐いたつもりだったが、自分が望んでいたデータを取れて、ご満悦なリッカさんには効果がないようだ。

 

 

 「そういえば、今日は私が作った試作品のリンクサポートデバイスの実験に付き合ってね」

 

 

 「ここ数日ゴッドイーターしてないなー」

 

 

 アラガミは倒しているけど、純粋にアラガミを討伐するというのはこの数日していない気がする。

 

 

 「気にしない気にしない。神機使いだってどこか何でも屋に近いところあるし」

 

 

 そういうこと言うのやめようよ。

 

 

 「それはともかく。具体的にやって欲しいことだけど、試作品がしっかり起動するかというのはもちろんとして、他にはデータの摘出や必要な素材の確保とかもやって欲しいな」

 

 

 「もうこの際俺で実験することに対しては何も言いませんけど……昨日リンクサポートデバイスの臨床試験をやったばかりですよ?」

 

 

 「それはね、今回試すリンクサポートデバイスがまったく新しいタイプのものだからだよ」

 

 

 へぇ、そんな物まで作ってたのかこの人。やっぱり極東の人は優秀な人が多いな。内面はともかく。

 

 

 「いま運用されているリンクサポートデバイスは、神機の機能とは排他関係にあるから、戦闘か、支援かのどっちかしかできないんだ。でも、仁慈君に渡す試作品は、普通の神機としての機能を殺さずにリンクサポートデバイスの機能を発揮してくれる!……理論上は」

 

 

 「それはすごいですね。でも、もし試作品がうまくいっていない場合はどうなるんですか?」

 

 

 「リンクサポートデバイスの効果が発動しないよ」

 

 

 「俺の神機が止まる可能性は?」

 

 

 「……………仁慈君なら、神機がなくてもアラガミと戦えるよね」

 

 

 「おい」

 

 

 ちょっと、この人無茶苦茶過ぎるんですけど?本気で言っているのだとしたら今後どのように付き合っていくべきか真剣に考えるレベル。

 

 

 「さすがにしないよ、そんな事。もし、神機が動かなくなった場合はすぐに帰ってきて。今回の目的はあくまでも実験。アラガミ討伐は二の次だよ」

 

 

 「それは安心した。リッカさんにもまだ人の心が残っていたんんだな……」

 

 

 「どういう意味かな?」

 

 

 しまった、声に出てたか。

 俺は先の発言についてひたすら問い詰めてくるリッカさんを今朝の仕返しもかねてスルーし、極東が誇るシェフ(?)のムツミちゃんの料理に舌鼓を打ち、その後リンクサポートデバイスの実験のためにフェンリル印の車に乗り込んだ。

 最後のほうにリッカさんが微妙に涙目になっていて可愛かったです(小並感)

 

 

 

           ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 現場に着いた俺は早速、神機にリンクサポートデバイスを接続する。そしてその状態で神機の形態変更を行った。これは神機がしっかりと機能しているかどうかの確認である。神機はしっかりと銃形態に変化したので少なくとも神機は正常に動いているらしい。

 神機の状態の確認が終わると同時に、今回の実験をモニターしているリッカさんの声が通信機越しに耳に届く。少しだけ泣きが混ざっているのはスルーで。

 

 

 『……うん。神機、リンクサポートデバイス共に正常に機能してるね。この場合、仁慈君には普段よりも強い力を発揮できる効果が現れるはずだよ。』

 

 

 確かに言われてみれば、いつもより神機が軽く感じるし体にも力がわいてくるような感覚がある。

 

 

 『ためしに近くに居るアラガミを相手してみて。面白いデータが取れると思うから』

 

 

 「了解」

 

 

 プツンと通信を切断し、高台から地面に生えているコクーンメイデン三兄弟を見下ろす。それでは早速やってみましょうか。

 乗っていた高台からいつものごとくジャンプして降りると地面に着地すると同時に蹴って加速する。何時もこればっかりでごめんね!でもこんなことしかできないんだ!

 

 

 誰に言っているのかもわからない言い訳をこぼしつつ、三兄弟に肉薄する。そして咬刃展開状態にして纏めて薙ぎ払った。

 リッカさんの言っていたリンクサポートデバイスの効果なのか三体纏めて薙ぎ払ったのにまったく手ごたえがなかった。その後も、その場にひょっこりと現れたシユウさんもついでに狩ってリンクサポートデバイスの性能を確かめ終え俺は極東へと帰還した。

 

 

          

 

               ――――――――――――――

 

 

 

 帰還した俺はリッカさんからあの試作品の話を聞いて驚いた。実はアレ、今まで他の人でも試してみたらしいのだが一度も起動した例がなかったらしい。

 では何故俺が動かせたのかといえば、俺の謎多き力である喚起が何らかの触媒となった可能性が高いとの事らしい。

 まぁ、俺だけが使える要因といえばそれぐらいだもんな。

 

 

 「だから今後は君を通してリンクサポートデバイスの改良を行っていきたいんだけど……協力してくれる?」

 

 

 今までにない、真剣な声音でリッカさんが俺に問いかける。

 急に真面目になられるとこちらも困るのだが……誠意には誠意で返さなければなるまいよ。

 

 

 「いいですよ。ただ、また神機のことで何かあったら少しばかり優先的に取り組んでくれませんか?」

 

 

 「ばれない程度にならね」

 

 

 「充分です」

 

 

 「よっし、契約成立だね!改めてこれからよろしく!」

 

 

 「はい」

 

 

 さて、綺麗に纏まった所で俺は部屋に帰ろうかな。今日はなぜかアラガミの出現率が低く俺に仕事は入っていなかったはずだし。

 

 

 

 「あ、仁慈さん。あなた宛に任務が届いていますよ。三つほど」

 

 

 

 ――――俺の視界から仕事の内容を記した書類が逆流する……!うわぁぁぁぁああああ!

 

 

 

 

 

 結局その日は合計四つの任務を終わらせた。

 

 

 

 




UAが30000越えました。ありがとうございます。


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第三十一話

最近、早くもスランプに陥っている気がする。内容も毎回同じようなものに感じるし。
これが見切り発車の弊害か……。
今回は短めです。一応リザレクションの体験版は一通り終わったので次回は今回のより早くあがると思います。多分ね。


 

 

 

 

 

 

 

 Q.片付けても片付けてもまったく片付かないものなーんだ?

 

 

 A.仕事

 

 

 

 「やめろ」

 

 

 ある晴れた日の朝、ラウンジの中央にある席に座って料理を待っていると、隣に居るギルさんから静止の声がかかった。急にどうしたんだろうか?

 

 

 「ごまかすな。さっきの思考、外に出てたぞ。ここには小さい子どもが居るんだ。そういうアラガミとは別の絶望を振りまくのはやめろ」

 

 

 その小さい子どもに料理作らせてるけどね、俺等。アレも立派な仕事じゃないかな?本人も好きでやっているみたいだからいいんだけどさ。

 

 

 つーか、そうやって言ってみたくもなるさ。極東支部に来てからなんだかんだで十日間くらいたったけどさ、俺はこの十日間一日平均四つの任務をこなす日々だったんだぜ?しかも、それとは別に個人の頼みごとも回ってくる始末だ。

 

 

 「そんなにか」

 

 

 「うん。朝起きて支度して、自分宛に届いた任務をやって、その途中で追加の任務が入って、終わらせて、また入って……それを永遠と」

 

 

 もうホントこれに関しては言ったかもしれないけど、どうせ任務することになるなら初めから言って欲しい。終わったーとか喜んでいるところに追加の仕事をぶち込むとかマジ勘弁。

 それプラス、シエルのバレット実験、エミールの相談、リッカさんのリンクサポートデバイスの実験と素材集めが加わっているんだ。まぁ、このことに関しては自分の意思でやってるからしょうがないけど。

 

 

 「……そういえばお前への任務は主にサカキ支部長とラケルだったはずだが」

 

 

 「ちっくしょう」

 

 

 あの二人が俺の任務を管理してるなんて絶望しかない。人が持てる最終兵器神に祈るも、そもそもアラガミが闊歩しているこの世の中で役に立つとは思えない。神と名のついているものを殺して回っているからこうなったのかな?

 どうでもいいことを考えて、ダブルマッド博士が俺の受ける任務を決めているという事実から必死に意識を逸らす。そうこうしているうちに極東支部の若すぎるお母さん、ムツミちゃんが無邪気な笑顔と共に料理を運んできた。ささくれ立った心が癒されていくのが分かる。

 あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~

 ムツミちゃんマジ天使!

 

 

 

 「…………」

 

 

 「何さ」

 

 

 ムツミちゃんの笑顔に癒され、料理をパクつこうとしたとき隣のおギルさんからまるで質量があるのではと思うほどの視線を受けた。どうしたし。

 

 

 「……その視線……まさか仁慈、ロリコンなのか?」

 

 

 「いきなりなんて事を言い出すんだ」

 

 

 そういうこと、ラウンジみたいな大勢の人が来るとこで言うのやめてね?なんか知らないけどこの極東。噂とか情報とかが出回るのすっごい早いんだから。次の日からロリコンとか呼ばれたらさすがに泣くぞ、俺も。

 

 

 「別にロリコンじゃありませんよ。いい子を見ていると癒されるじゃないですか。毎日毎日大型アラガミ数体を刈り倒して回る物騒な日常の唯一の癒しですよ」

 

 

 ここ最近俺にまわされる任務は殆ど大型アラガミの討伐だ。ヴァジュラを筆頭にボルグ・カムランや現代兵器をブチかましてくるクアトリガというアラガミとも戦ったな。それが一日に最低三回だ。癒しを求めても罰はあたるまいよ。

 

 

 「一応俺からも口添えをしておく」

 

 

 「ありがとう……!」

 

 

 ギルさんマジ頼れる兄貴。彼に深々と頭を下げてよろしくお願いしますといってから食事を再開。大天使ムツミエルの料理を次々放り込む。その様子を見ていたギルさんも自分の目の前に置かれた料理を食べ始めた。モグモグ。

 十数分かけて、料理を完食。大天使(ムツミちゃん)においしかったよと伝え、任務に行く準備をしようと席を立ったところで、

 

 

 「あ、仁慈!こっちこっち!」

 

 

 ラウンジの壁に取り付けられているテレビの前に居たロミオ先輩になぜか手招きされた。

 

 

 「何ですか?」

 

 

 とりあえずロミオ先輩に近付く。彼の言葉に反応してしまったため気付かないフリをしてスルーのジツは使えないのだ。一応任務があるから長くなる用なら切り上げるけど。

 

 

 「ほら、見ろ見ろ!シプレの新曲だぞ!」

 

 

 俺を呼び止めたロミオ先輩は何時も以上の高いテンションで、ラウンジの壁に取り付けられているテレビを指す。

 どうしたんだこの人。葦原さんと会って話していたとき並にハイテンションだ。よく見たら藤木さんもテレビの前でスタンバイしているし……。

 何がなんだかいまいちよく分からないがとりあえず俺もテレビに視線を向ける。するとテレビには明るい黄色に近い金髪をツインテールにして、浮かぶ円盤の上に乗り、歌って踊る女の子の姿があった。何あれ?ボーカ〇イド?

 

 

 ロミオ先輩が言ったシプレ(?)の外見も違和感を感じるが、彼女が歌っている歌詞の「女の子は恋の計算が苦手」みたいのものにも違和感を感じざるを得ない。むしろ女の子ほど、さまざまな思惑や計算をして恋をする連中は居ないと思う。ラケル博士のことを考えてみろ。あの人絶対全ての物事を計算して行動してるぞ。近い将来男をたぶらかしてとんでもないことをさせそうだ。

 ……いや待てよ。

 ラケル博士はもう女の子という歳でもないし、ノーカウントかn―――――――殺気ッ!?

 

 

 突然、自分の背筋に冷たいものを感じた。それに対してここ最近の任務でさらに鍛え上げられた身体が反射的に警戒態勢をとった。最小限の動きで周りの様子を観察する。そうしてすぐにその原因を見つけた。

 たった今、ラウンジに入ってきたのかラケル博士が笑顔でこちらを見ていたのだ。当然のごとく笑っているのは表情だけで、彼女の目には冷たいナニカが渦巻いていた。

 うん。見なかったことにした。

 静かに視線を戻すと、移動を始めた円盤の上で電気を周囲にばら撒きながら踊るシプレ(おそらく)とその電気の影響か、神機兵が彼女に忠誠を誓うように剣を構えている。ボーカ〇ロイドじゃなくて常盤台のお嬢様のほうだったか。

 

 

 『神機兵、シルブプレ?』

 

 

 その言葉を最後に多くの疑問を残してシプレ(ほぼ確定)が画面から消える。そして次の瞬間には神機兵の搭乗者を募集するお知らせが流れ始めた。いいのか?神機兵に乗ってたらエ〇ヤ出てきたけど。

 

 

 というか、結局ロミオ先輩は俺を呼び止めてどうしたかったんだ?いや、このシプレとやらの新曲を聞かせようとしたのは俺を呼び止めた際にも言っていたから分かるんだけど、その後が分からない。聞かせてどうしようとしたのか……?

 考えても一向に分かる気配がないので、直接本人に尋ねてみる。しかし、ロミオ先輩は俺の呼びかけに反応せず、同じくテレビを見ていた藤木さんと一緒に仲良く固まっていた。

 ロミオ先輩だけならともかく藤木さんまでどうしたっていうんですかねぇ……。

 

 

 「シプレの新曲……すげぇ、いい……」

 

 

 「分かってますね、コウタさん……シプレの魅力……ガチで全開でしたね……!」

 

 

 「俺さ……大きくなったら、神機兵に乗るんだ……」

 

 

 「マジっすか……、やばいっすね……」

 

 

 ヤバイのはお前らの頭の中だよ。この脳内お花畑ども。というよりも、藤木さんまさか貴方もロミオ先輩サイドですか……。

 興奮しているのかだんだんと大きな声でシプレについて語り合う二人を見て、そう思う。しかもこの二人俺を呼び止めておいて完全に無視してるよ。俺これもう行っていいんじゃないかな?

 

 

 はぁ……とここ最近圧倒的に多くなった溜息を吐いてその場を離れる。ついでにラウンジからも出た。ラケル博士?全力でスルーしました。

 

 

 ラウンジを出て、結局ロミオ先輩は何で俺にシプレの新曲を聞かせようとしたのかを考えながら神機をとりにいく。まぁ、考えていてもまったく分からないので、最終的にいつものようにノリだろうと結論を付けて本格的に任務の準備を始めた。

 

 

 

 

 

         

 

 

 

 他愛なし。

 任務は特に問題もなく終わった。

 俺も順調に極東支部色に染まってきたと思うよ、うん。今回だってターゲットであるクアトリガを倒した後にその色違いが来たり、二体のヴァジュラを相手取っていたら外国にある像っぽい顔面を持ち全体的に青と白で構成されたヴァジュラの別固体っぽいものが乱入してきて、合計三対同時に相手取ったりしたけども……まぁ、ここ最近の日常だし。人間っていうのは慣れる生き物なんだということが良く分かりました(小並感)

 最近酔うこともなくなったヘリで極東に帰還して、竹田さんに任務の報告を済ませリッカさんに試作品リンクサポートデバイス改良のための素材を渡す。

 

 

 一連の行動を終えた俺は首をぐるりとほぐしてから、今日一日で体に蓄積された疲労を癒すためにラウンジへ向かう。

 そうして中に入ると、テレビの前で未だにシプレについて語り合う二人のあほの姿があった。ちゃんと仕事した後ですよね?まさか一日中そこで語り合ってたとか言いませんよね?もしそうだったらどうしてくれようか……。

 

 

 語りあう雰囲気似てるなコンビに向かって怨念を送ってると、服の袖をくいっと引かれる。一体何事かと思い、後ろを振り返ってみると、

 

 

 「この後、時間あるかしら?」

 

 

 なんということでしょう。そこには黒光りする笑顔を放つ、外見だけ病弱系清楚女性のラケル博士が……。

 

 

 「いや、それはちょっとアレなんで」

 

 

 何とか煙に巻こうと口を開くが出てくる言葉はいまいち要領の得ない言葉ばかり。そんなものでラケル博士をごまかせるわけもなく俺はそのまま彼女に連行された。

 

 

 「……そういえばシプレってラケル博士に似ているような……」

 

 

 「!?」

 

 

 「……ないか。胸部の装甲が桁違いだっ―――ガッ!?」

 

 

 「フフ、ウフフフフフフフ」

 

 

 その途中、余計なことを口走って、説教擬きプラス車椅子で脛を攻撃され続けたのはいい思い出でもなんでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十二話

遅くなって申し訳ありません。


 

 

 

 「ウボァー」

 

 

 ま、まさかラケル博士から一時間も説教を食らうとは夢にも思わなかった……しかも正座。身体的なことを言われてもいつもの笑顔で受け流すと思っていたんだが、彼女にもそういう普通の感性があったらしい。

 

 

 「うわぁ、ゴキゴキ鳴ってるよ」

 

 

 ずっと同じ体勢で居たので首や肩、腰を軽く捻って体を解す。動かすたびに音が鳴って若干怖い。戦々恐々としながらも早歩きでエントランスまで戻ってくる。さっきはラケル博士に拉致された所為で大天使ムツミエルのご飯食べれなかったからな。ムツミちゃんも小さいから急がないとご飯抜きになる。

 

 

 「……仁慈」

 

 

 「あれ、どうしたんですかギルさん?」

 

 

 エレベータからラウンジの入り口までの最短ルートを早歩きで移動していると、おかしな連中しか居ないブラッド隊でもっともまともな兄貴分であるギルさんに呼び止められる。

 実はギルさんから話しかけられるのは結構レアだったりする。なんというかこっちが話しかければしっかり反応してくれるが自ら会話はしないタイプなのだ。今朝話しかけられたばっかりだけど。本当ですよ?心中で無駄なことを考えていると、ギルさんが今までに聞いたことのないような声音で言った。

 

 

 「未だにラウンジで語り合っている馬鹿二人を何とかしてくれないか?」

 

 

 「知りません。管轄外です」

 

 

 そんな事言われても困るんですけど……。それに、俺が言わなくてもギルさんが少し睨みを利かせればあの二人、喜んで首を縦に振ると思うんだよ。本人には失礼だけどギルさんは怖い顔してるし。

 そう、ストレートに告げるとギルさんはギロリと目の端を吊り上げてこちらを睨む。

 

 

 「うん。その表情ですよ、ギルさん。というわけでそのままラウンジに行きましょうねー」

 

 

 彼の無言の抗議を華麗に受け流し、その背中に回ってぐいぐい押しながらラウンジを目指す。こんなところで足止めを食らっているわけには行かないんだ。ご飯のためにも。

 

 

 「よぉ、ギル。久しぶりだな」

 

 

 「ハ、ハル……さん……?」

 

 

 どうやらとことん俺に飯を食わせたくないらしいな。世界の修正力かナニカが働いてるんじゃないの?

 どことなく完治した病気の症状に似たようなことを考えつつ、ギルさんを呼んだ男性に視線を向ける。

 第一印象は外見はチャラ男っぽいのに内面は普通に二枚目のお兄さんと言った感じだろうか。内面のことはギルさんにかける声音と表情で判断させてもらった。多分そんな外れてないだろ。

 あ、あと専用BGMも持ってそう。\ッターン!/

 

 

 それにしてもギルさんの反応から言って昔の知り合い……それも結構近しい仲で尊敬もしくはそれに順する感情を持ってそうだ。さっきまで浮かべていた恐ろしい表情がすっかり鳴りを潜め、何時も通りの無愛想な表情に戻っている。

 

 

 「ハルさんも極東に来ていたんですね」

 

 

 「あぁ。一応ここは俺の故郷だからな。……それにしても、言ってなかったか?」

 

 

 「聞いてませんよ」

 

 

 呆れたように言うギルさんだったがその声音にはどこか歓喜の色が読み取れた。まぁ、さっきも言ったとおりそれなり以上の信頼関係を築いていたみたいだし、その反応も自然なものかな。

 せっかくの会話を邪魔しては悪いと周りの空気に自分の気配を同化させて自分の存在感を限りなくゼロに近づける。フフフ……どこからも現れるコンゴウに気付かれまいと磨いたアサシンスキルが役に立ったぜ。

 べ、別に早くラウンジでご飯が食べたいとか思ってないんだからねっ!

 ……うぉえ、余計なことしなけりゃよかった。

 

 

 何はともあれ、気配を消すことに成功した俺は足音を立てないようにスゥーっと彼らの後ろに回りこんで、反対側の階段へ向かおうとするが俺のこの行動は肩に乗せられたギルさんの腕によって阻止される。

 

 

 「(お前のことを紹介するからまだ行くな。あと、久しぶりに会って距離感がつかめないから、とりあえず居てくれ)」

 

 

 「(こいつ直接脳内に……!)」

 

 

 だんだんと異物が肉の中に入っていく感覚を味わいながら、戦慄する。って言うか、絶対最後に付け足したのが本音だろ。いい年なんですから一人で頑張ってくださいよ。

 

 

 「ハルさん。コイツは今俺が所属している部隊の副隊長で樫原仁慈。仁慈、この人は俺がグラスゴー支部に居たときにお世話になった真壁ハルオミさんだ」

 

 

 逃げられる前に紹介し退路を無くしたか……。仕方ない、もしもの場合ご飯はあきらめよう。

 

 

 「初めまして。一応フェンリル極地化技術開発局所属ブラッド隊の副隊長をやらせて頂いております樫原仁慈です」

 

 

 「おう、お前さんが噂のブラッド隊の副隊長さんか。思っていたより若いな……。俺は真壁ハルオミ、さっきギルが言っていた通りこいつとはグラスゴー支部に居たときからの知り合いだ。ギルがなにかやらかしたら遠慮せずに言ってくれ。こいつの扱いに関してはプロ級だ」

 

 

 「ハルさん……」

 

 

 カラカラと笑う真壁さんに対してギルさんは肩落としている。どれもこれもあまり見ない反応で新鮮だなぁ。

 

 

 「あ、そうだ言い忘れてた。俺も一応極東の第四部隊の隊長をしてるんだ。ナニカの任務で一緒になったときはよろしくな。ま、隊長といっても俺を含めて二人しか居ない部隊だけどな」

 

 

 そう言った直後、真壁さんの背後にある階段の上から女の人の声が聞こえて来る。なんかファミレスでいつも皿を割ってそうな声だ。

 

 

 

 「ハルさーん。サカキ博士への報告、先に行ってますよー」

 

 

 「へいよー。……あれが第四部隊の唯一の隊員、台場カノンちゃんだ。神機使いとしての腕前はちょっとアレだが、胸が大きいからいいかなって思ってる」

 

 

 「……ハルさん。また査問会に呼び出されたいんですか」

 

 

 "また”ということは過去に呼ばれたことがあるのか……。内容はセクハラといったところかね?

 

 

 「大丈夫だ、問題ない。……さて、あまり引き止めてもあれだし何よりカノンちゃんが先に行っているしな。そろそろ行くわ。………ギル、今度一緒に一杯やろうぜ」

 

 

 ギルさんにそういい残して真壁さんは、階段を登って行ってしまった。一方残された側のギルさんはなにやら複雑そうな顔で階段を登っていった真壁さんを見送っていた。

 多分、ブラッドに来たときに荒れてた理由は真壁さんにも関係あるんだろう。

 

 

 まぁ、本人がなにか言わない限りは関わらないけどね。何も知らない奴がなにかいっても効果は見込めないし、逆に火に油を注ぐようなことになりかねない。

 下手に聞いていつぞやのロミオ先輩のようになったら目も当てられない。こういう場合は助けを求められたら助けるというスタンスが一番いいのさ。

 

 

 

 

           ――――――――――――――――――

 

 

 

 「死ぬがよい」

 

 

 咬刃展開状態のヴァリアントサイズを振り上げた後、目の前に居るボルグ・カムランに向かって全体重を乗せて振り下ろす。ボルグ・カムランも急いで両腕を合わせて盾を作り俺の攻撃を防ごうとするが、残念ながら俺のほうが早かった。ボルグ・カムランが盾を作る前にヴァリアントサイズはその頭上に突き刺さった。その光景が真剣白刃取りを失敗したみたいで少し笑えた。「キッシャァァァア!!」と声を上げながら苦しむボルグ・カムランを楽にしてやろうと咬刃展開状態の神機を元の形に戻す。その際元の形に戻ろうと蠢く刃がボルグ・カムランの頭を削りながら戻ってくるのは仕方のないことである。え?楽にしてやるんじゃないかって?アレは嘘だ。

 

 

 神機が元の形に戻るころにはボルグ・カムランの体は真っ二つに切断されていて子どもが見たらトラウマになること間違いなしのスプラッタな状態になっていた。

 いつぞやに手こずらせてくれたお返しと張り切った結果なのだが、どうやらやりすぎてしまったらしい。

 

 

 「竹田さん終わりましたよ」

 

 

 『はい。こちらでも確認しました。珍しいことに今回は乱入してくるアラガミが居ませんでしたね。おかげで私も安心してサポートできました』

 

 

 「なんかごめんなさい」

 

 

 オペレーターの皆様には何時も感謝しております。何故だか分からないけど俺が任務を受けると十中八九他のアラガミが乱入してくる。そんな環境下でも死なないで生き残れたのはオペレーターのサポートのおかげである。一応俺もアラガミについては勉強しているが、まだまだ足りないことが多いからなぁ。

 

 

 「それで次の任務は何でしたっけ?」

 

 

 『エイジス島に出現したアラガミの掃討です。第一部隊と合同の任務になりますね』

 

 

 

 「分かりました。今から向かいます」

 

 

 

          ―――――――――――――――

 

 

 

 

 「ということでやってきました。よろしくお願いしますね、藤木さん」

 

 

 「なかなかすさまじいな、お前」

 

 

 平気な顔をして、エイジスにやってきた仁慈に思わずそう言ってしまう。こいつの姿が俺の友人兼同期にどうしても重なるんだよなぁ。実際、神機使いになってまだそこまで時間が経過していないにも関わらずブラッドの副隊長なんて役職についてるし。極東の神機使いから見ても戦い方があいつやリンドウさん並のキチ〇イ戦術だし。今だって、

 

 

 『ガアァァァアア!!』

 

 

 「海へ帰れ」

 

 

 『仁慈さんが海から現れたグボロ・グボロを神機で弾き返しました!グボロ・グボロは撤退した模様です!』

 

 

 「あの人が使ってんのヴァリアントサイズじゃないの!?」

 

 

 「フッ、我が友がそこまでするのなら僕も黙ってみているわけにはいかない。行くぞポラーシュターン!エミールスーパーウルトラシャイニンググレート騎士道ぉぉぉぉおおおお!!」

 

 

 「あぁ……もう!こうなったら私もやってやるんだからっ!」

 

 

 あーあ、仁慈に影響されてエミールは突っ込んで行くし、エリナはエリナで限界点振り切って行っちゃったし……もう駄目かもわからんね。

 でも、それで何とかうまくいっているのもあいつとそっくりだな。……まるで本当にあいつと一緒に仕事してるみたいだ。

 

 

 「これで粗方片付きましたね」

 

 

 ダン!と音を立てて今しがた自分が倒したアラガミの死体を踏みつける仁慈。ナチュラルにひどいな。

 

 

 『――――!?ここから南方約1kmの地点に大型アラガミの反応あり!ものすごい速度でエイジス島に向かっています!接触予測時間はおよそ二十秒!』

 

 

 「はいはい。いつものこといつものこと」

 

 

 切羽詰ったヒバリさんの声に投げやり気味に仁慈が呟く。その様子に若干同情しつつ俺はみんなに指示を出す。

 

 

「げっ!?マジかよ、ついてないなぁ……。陣形を整える!仁慈は前方その後ろにエリナ、エミール後方に俺が配置し、アラガミが来たらみんなで袋叩きにしてやれ!」

 

 

 そうして全員が配置についたところでヒバリさんが言っていたアラガミがエイジスに侵入を果たした瞬間俺は目を見開いた。

 

 

 「カリ……ギュラ……ッ!?」

 

 

 そう。エイジスに進入してきたアラガミは近年報告されるようになったハンニバルという竜のような風貌を持ったアラガミの神属接触禁忌種であるカリギュラであった。接触禁忌種と銘打っているだけあり、その戦闘力は非常に高く未だ新人の域を出ないエリナとエミールではかなり厳しい相手だ。

 

 

 しかも、普通のカリギュラが青色であるのに対しこのカリギュラは赤色をしている。ここに来て新種とかマジで勘弁して欲しいね……!

 

 

 「やだ、かっこいい……」

 

 

 「言ってる場合!?さっきといい今の反応といいアンタおかしいんじゃないの!?あのアラガミは接触禁忌種なのよ!?普通の神機使いじゃ相手にならないんだから」

 

 

 「もうすでに何体か狩ってるからへいきへいき」

 

 

 「しまった。コイツ普通の神機使いじゃなかった……」

 

 

 あまりにも場違いな仁慈の反応にすぐ食いついたエリナだったが、仁慈の言葉を聞いて呆れ天を仰いだ。

 俺も驚いた。まさかもう接触禁忌種とも戦っているのか……。あれ?あいつよりおかしいんじゃないか?

 

 

 「それにコイツ、すでにいくつもの傷を負っています。おそらくは体の回復のためにここに来たんでしょう。回復しに現れたのに戦闘を行うなんて本末転倒なことはさすがにしないと思いますよ」

 

 

 確かに、よくよく見てみれば赤いカリギュラの片方の腕にある篭手は破損しているし、首元には誰かの神機が刺さったままである。背中にある翼状のブースターも欠けているし軽くない傷を負っていることが確認できた。

 赤いカリギュラは低い声でうなりながらこちらを向いていて、仁慈は笑顔でそれと真正面から向き合っていた。数十秒お互いに見合った後、赤いカリギュラはクルリと体を翻し、エイジスの穴から外へ出て行った。……逃げたのか?

 

 

 「はぁ~~~……よかった、生きてた……」

 

 

 「くっ!騎士でありながら……動けなかったとは……不覚……ッ!」

 

 

 がしゃん

 

 

 自分の持っていた神機を落とすと同時にその場にへたり込んだ二人。まぁ、新人にはつらいよな。

 それにしても……

 

 

 「これはしばらく荒れるぞ」

 

 

 「そうですね」

 

 

 今回は見逃してもらったが、どこかで傷を回復させているに違いない。極東地域で行う任務にあいつが乱入してくるという想定を常にして行動をしないと駄目だな。まったくどうしてこうポンポン厄介ごとが舞い込んでくるのか。

 ホント極東は地獄だぜ!フゥハハハーハアー!……はぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十三話

どうして何時も何時もイベント直前で終わってしまうのだろうか……。
今回もシエルのときと同じで、ルフス・カリギュラ戦には入りません。それは次回となります。


 

 

 

 

ドクンドクンと心臓が大きな音を立てて脈を打つ。その大きさは周囲の人にまで聞こえているのではないかと思えるほどだ。現在俺は目の前の人物に壁際まで追い詰められている。顔の横には腕がありいわゆる壁ドンと呼ばれる体勢だ。

 

 

 目の前の人物もなにやら興奮しているのかその息は荒く、目は鋭くぎらついている。俺はその目を見るたびに心臓が早くなるのを感じていた。だんだんと距離が縮まっていく。気がつけば目の前には俺に壁ドンをしている人物の顔があった。

 

 

 あぁ。認めよう。今俺が抱いている感情を。目の前の人物のことを見ていると胸の鼓動が早くなる。その目を見ていると身体が石になったように動かなくなる。そう、俺が抱いている感情は――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――恐怖だ。

 

 

 

 「仁慈お前、エイジスで赤いカリギュラを見たって本当か!?そいつはどこに行った!?さっさと答えろ!!」

 

 

 「答える、答えますから!ちょっと離れてくれませんかねぇ!?」

 

 

 唇が接触しそうなくらい近いので色々と危ないんですけどっ!?

 

 

 グイっとさらに顔を近づけてくる目の前の人物―――ギルさんを何とか引き剥がして距離をとり息を整える。深く深呼吸をしながら俺は周囲で顔を赤くし、俺とギルさんをちらちら見ていた連中を睨みつける。てめぇら黙ってみてないで助けろや。あ、ちなみに妙に興奮した様子でこちらを見ていたラケル博士は全力でスルーの方向で。今のあの人はいつもとはまた別のベクトルで怖い。なんていうか、腐のオーラが半端ない。 

 さて、どうしてこうもラウンジがカオスな状況に陥っているのかというと、俺があの赤いカリギュラ?と出会って追い返し、無事に極東支部に帰還したときのことだ。

 

 

 

 

            ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 いつものごとくラウンジで食事を取っていると、つい最近に会ったギルさんがお世話になったという真壁ハルオミさんが話しかけてきたのだ。内容はギルさんの過去。おそらく彼が今も抱え込んでいるもいるものについてである。

 

 

 「俺たちが居たグラスゴー支部は、俺とギルを含めて神機使いが三人しか居ないちゃっちい場所だったんだ。で、そのもう一人の神機使いが俺たちのチームの隊長を務めていた。名前はケイト……ケイト・ロウリー。ま……俺の嫁だったんだけどね」

 

 

 「………」

 

 

 「なんでそんな疑わしそうな目で見るんだよ」

 

 

 「だって真壁さん。いかにも三枚目って感じじゃないですか」

 

 

 「お前三枚目男子なめんなよ?いまどき顔だけの二枚目より女性を楽しませたりすることができる三枚目のほうがモテるんだぜ?……って違う違う。そんな事を話したいわけじゃない。話を戻すぞ」

 

 

 真壁さんが咳払いをして変な方向に行きかけた雰囲気を直し、再び語りだす。

 

 

 「さっきも言ったように俺たちの支部は三人しか神機使いが居なかったわけだが、極東みたいにわんさかアラガミは沸かないし、大型アラガミだって数ヶ月に一回現れるか現れないかくらいのものだったから、何とかなってたんだ」

 

 

 「その日も小型アラガミ数体の掃討っていう簡単な任務でな。ちっとばかしアラガミ同士の距離があるから二手に分かれてさっさと終わらせようって別々にアラガミを狩った。俺のほうはすぐに終わったさ。たかがオウガテイル三体だからな。でも、ケイトたちのほうはそう行かなかったらしい。通信がかかって来てケイトの切羽詰った声が聞こえてきた。なんでも今までに見たことのない新種だったらしい」

 

 

 「俺はすぐにケイトたちに合流しようとした。だが、距離が離れていたために二手に分かれたんだ。そう簡単に合流できるはずもなく、俺が到着したころにはもうケイトの姿はなかった。あるのはケイトの服の一部を地面に縫い付けているギルの神機と赤い腕輪を抱いてただただ泣いているギルだけだった……」

 

 

 真壁さんの握っているグラスがピキっと嫌な音を立てる。おそらく真壁さんはそのときのことを思い出し、自然と腕に力が入っているのだろう。

 

 

 「……あいつは俺に気付くとひたすらに謝ってきたよ。ケイトは新種のアラガミとの戦闘で神機使いの命綱である腕輪をやられて、アラガミになるまで時間がなくギルに自分を殺すように頼んだらしい。それでギルも苦しい葛藤の末にケイトの頼みを受けた。多分ギルが無愛想な態度をとるのは怖いからなんだろうな。一度、大事なものを自分で壊したからこそもう二度とそんなものは作らないとしているのかもしれない」

 

 

 なるほど。これが一番最初に会ったころ、ロミオ先輩を殴り飛ばした理由か。大事な人を殺すという体験したグラスゴー支部のころのことを聞かれてつい反射的にやってしまったんだろう。真壁さんが言うには、マスコミがギルさんのことについて好き勝手聞いて、言いふらしたらしいからな。そうやって自分の記憶を探って考えている俺の姿を思い話で沈ませてしまったと思ったらしい真壁さんは声音を先程までの重苦しいものではなく、初めて会ったときのような明るい声音に変え言葉を紡ぐ。

 

 

 「いや、悪かったな。こんな思い話をしちゃって」

 

 

 「別に大丈夫ですよ。……ただ、どうして俺にこの話をしたんですか?」

 

 

 真壁さんとは昨日会ったばかりで、しかも軽く自己紹介をした程度の仲である。そんな人に自分の大切な仲間であるギルさんの抱えているものを話したのはいささか不自然に思う。

 

 

 「……あぁ、それはな。お前がケイトに似てるからだよ。実力の話じゃないぞ?俺のケイトはお前みたいな化け物じゃない」

 

 

 「今の言葉いりましたかねぇ……」

 

 

 「念のためだよ念のため。でだ、何が似てるかって言うと雰囲気だな」

 

 

 「雰囲気ですか?」

 

 

 「そうだ。何とて言うかこう、その場に居るだけで活力が沸いてくる存在というか『コイツと一緒なら何でもできる』と思わせてくれる……そんな雰囲気だ」

 

 

 「へぇー自分のことだからかあんまりそうは思いませんけどね。どちらかといえば『コイツまた何かやらかしてくれるんじゃないだろうな』と思われてそうですけどね」

 

 

 「それは……あー、確かに」

 

 

 「ですよね」

 

 

 俺なりに今までの噂を考慮して考えた結果である。正解だという自信ははあった。同時に悲しくもなったが。

 普通にすればいいじゃないと思われるかもしれないが、ぶっちゃけ相手の意表を突くということで俺の行動も割かし有効だったりするのだ。アラガミだって俺の今までにない動作に動揺し、自身の動きを止めていたこともある。つまり、今まで俺は好き勝手に動いていたのではなく、あえてそうしていたのだッ!

 

 

 「それは結果的にそうなっただけだろ……ったく、真面目な話をしていたはずなのにそんな空気じゃなくなっちまったな」

 

 

 「シリアスなんてくだらねぇ!俺の話を聞けー!」

 

 

 「色々混ざってんな……ま、いいや今日は話を聞いてくれてありがとうな。また一杯やろうぜ。今度は楽しい話をつまみにしてな」

 

 

 持っているグラスを一気に傾けて中身を空にすると、そういい残して席を立とうとする。……あ、そういえば。

 

 

 「すいません。今更聞くのも何なんですが……ギルさんたちと交戦したアラガミってどんなのなんですか?」

 

 

 「ホント今更だな……空気入れ替えてから聞くか?普通……ギルが言うには相手は『赤いカリギュラ』だったらしい」

 

 

 赤い……カリギュラ……?ま、まさか。こんなことがありえるのか?でも首元に神機刺さってたし、いくらか傷も負っていたし……。というか、先の出来事は何年前の話だ?

 

 

 「そうですか。ちなみにその出来事が起こったのはいつですか?」

 

 

 「2071年。今から三年前のことだ」

 

 

 「なら……ケイトさんが持ってた神機、全体的に淡いピンク色で刀身はロングブレード、銃身はアサルトじゃありませんか?」

 

 

 「――――――――――っ!?どうしてお前さんがそれを知ってる。話を聞いていた様子からすると知り合いってわけではなさそうだが……」

 

 

 俺の質問に息を呑む真壁さん。その反応を見れば俺の言ったことが正解だということが分かった。これは確定かな。

 あの、赤いカリギュラの件はかなり危険なので、サカキ博士をはじめとする極東の偉い人達にはすでに伝えてある。おそらくは明日にでも情報が回ってくるだろう。なら、本人に言ってもいいかな。特に隠すほどのことじゃないし万が一、一人で倒しに行こうとしたらとめればいいだけだ。

 

 

 「……落ち着いて聞いてください、真壁さん。実は今日の任務で首に先程言った神機が刺さった赤いカリギュラと接触しました」

 

 

 「――――――――本当か?」

 

 

 急に与えられた怨敵の情報に今まで浮かべていた表情を全て消し、能面のような顔で確認を取る真壁さん。

 

 

 「はい。サカキ支部長並びにそれに近しい役職の人にオペレーターのヒバリさんにはすでに報告してあります。多分、明日にでも正式に情報が出回ることになるでしょう」

 

 

 「そうか………ようやくだ。ようやく、過去に決着をつけるときが来た……。仁慈、ありがとうな。そのこと教えてくれて」

 

 

 「いえ、どうせ明日にでも知れ渡る情報ですから。……先程も言った通り、明日には極東支部にいる人にはこのことが伝わり、討伐任務が行われるでしょう。急ぐ気持ちも分かりますが、今日のところはゆっくり休んだほうがいいと思いますよ」

 

 

 「ハハッ、さすがに今から行こうとは思わねぇよ。まぁ、心配してくれてありがとうな。俺は大丈夫だが、万が一ギルがこのことを知ったらお前さんのほうで止めといてくれ。あいつ絶対に一人で行こうとするぞ」

 

 

 「アハハ、そうですね。もしそうなったらそうしておきます」

 

 

 その後、お互いに笑いあって真壁さんはラウンジを出て行った。彼を見送り、まだ少しばかり残っていたご飯を完食しようと再び料理に向き直ろうとしたとき、ものすっごい形相で近付いてくるギルさんを見たのであった。

 

 

 

 

 

         ――――――――――――――

 

 

 

 

 まさかもうすでに情報が出回っているとは思いもしなかった。サカキ博士仕事はっやーい。

 

 

 

 「で、俺の答えですけどあの赤いカリギュラがどこに行ったのかはわかりません」

 

 

 あっという間にどこかに行ってしまったしな。方向だけはかろうじてわかったが、詳しくどこに行ったのかなんて分かるわけがない。おそらくその辺はすでに極東支部が動いているはずだ。

 

 

 「そうか……つかみかかって悪かったな」

 

 

 それだけ言い残して、どこかに――――おそらく赤いカリギュラを探しに行こうとする――――ギルさんの腕をつかむ。

 唐突に腕をつかまれたギルさんは今までで一番怖い顔で振り向いた。完全に堅気じゃない顔をしていらっしゃるぜぇ……。

 

 

 「何のまねだ」

 

 

 「もうすでに観測班による捜索が始まっています。大まかな場所も搾り出せているので明日にはあの赤いカリギュラの居場所も分かるはずです。なので、今日はゆっくり休んで英気を養いましょう」

 

 

 「いや、でも……俺は……」

 

 

 「今日はもう日が沈みかけていますし、ギルさんだって今日の任務の疲れが残っているでしょう?そんな状態で勝てると思ってるんですか?」

 

 

 ジトーという視線をギルさんに送る。俺が言っていることを正論だと考えているのか、ぐっとたじろいだ。このままいけるか?

 

 

 「だけど……っ!」

 

 

 やっぱり駄目か。まぁ、こっちが無理を言っている側だということは分かっている。三年間も、自分の無力さを嘆いていたであろうギルさんにとってはこの「待つ」という選択肢は非常に酷だ。彼からすればもう充分待ったのだから。

 けど、こっちだってハイ、そうですかといって見送るわけにはいかない。俺は気で戦闘力を測るなんてZ戦士みたいなことはできないが、あのにらみ合いであのカリギュラの実力は分かっている。少なくとも疲労の色が見えるギルさんでかなう相手ではない。

 うーん、こうなっては仕方がない。少々強引だけど……。

 

 「仁慈、いいから離せ!これは俺の問d」

 「ATEMI」

 

 

 ドサッ

 

 

 ギルさんの体がラウンジの床に落ちる。

 いっても聞かないならこうするしかないな。すみません、ギルさん。明日になれば真壁さんも居るし、堂々と戦えますから今はゆっくりと寝てください。

 よっこいしょと、ギルさんの体を肩に担いで運びながら俺はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十四話

期間をあけた割にはたいした物がかけなくてすいません。
今回は視点および場面がコロコロ変わって見づらいかもしれません。


 

 

 

 

 最終奥義ATEMIによって、なかなか休もうとせずあまつさえ赤いカリギュラに単独で挑もうとするギルさんを無理矢r―――げふんげふん安らかな眠りに誘った後、本人のベットまで米俵スタイルで運ぶ。そのままベットに寝かせて軽く身体を解してあげる。これは明日のカリギュラ戦に万全の状態で望むための処置だ。大丈夫、整体の心得はある。通信教育で受けただけだけど。

 さて、ギルさんが眠ったところで俺も早めに寝ましょうねと自室へ直行。お風呂と着替えを手早く済ませたところで「ビビィー!」なんて音と共に自室に設置してあるターミナルがメールの受信を知らせてきた。一体誰よ。

 無視してもよかったんだが、読むだけ読んでおこうということで半分ベットに埋まった体を外に出してターミナルを操作する。メールの送り主はサカキ支部長。

 

 

 見なければよかった……。

 

 

 早くも自分の行動に後悔しこのままそっとターミナルの電源を落としたいのだが、こういう場合見ないほうがよっぽどひどい目に会うため勇気をもってメールを開く。

 

 

 『やぁ。赤いカリギュラとの件はすでにコウタ君とヒバリくんから聞いているよ。手負いとは言えアラガミと視線を交わすだけで追い返すとは実に興味深いよ。時間が合えば一度じっくり君の体を調べてみたいね』

 

 

 削除削除削除削除ぉ!!こんなものを夜中に送ってくるなんて何考えてんだあの糸目。寝れなくなったらどうしてくれるんだ……。

 未だ文の前半部分なのにすでに俺の精神ポイントは底をつきそうだ。本人に直接言われるよりはマシだと己に言い聞かせ画面をスクロールしていく。

 

 

 『おっと話がずれてしまったね。……君も予想していると思うが、私たちはこの赤いカリギュラに対抗するために討伐任務を発行した。このアラガミはただでさえ接触禁忌種であるカリギュラがさらに変異を起こした個体であり、かなりの力を有しているだろう。だから可及的速やかに倒す必要がある。こんなものがすぐ近くに居たらどれほどに犠牲が出るか分からないからね。そしてその討伐に向かう人も決めてある。君にハルオミ君、ギルバート君だ。彼らはあの赤いカリギュラとは少々因縁があるらしく、おそらく単独で倒そうとするはずだ。だったらはじめから討伐の任務に組み込もうというわけだね』

 

 

 まぁ、予想通りだな。俺がギルさんにああいった手前、討伐任務に就けなかったら意地でも挑みにいくだろうしその判断は非常に助かる。

 けれど、俺まで組み込まれているのは一体どういうことだ?ジュリウス隊長とか藤木さんとか居るだろうに。

 

 

 『ジュリウス君とコウタ君には別の任務が入っているんだ。どちらも外せないもので、どうやっても赤いカリギュラの任務には入れない。だから君が入ることになったんだ』

 

 

 メールで俺の心を読むなよ。

 

 

 『まぁ、実際今の理由は後付で初めから君は組み込むつもりだったけどね』

 

 

 なら、今の文章要りましたかねぇ?

 

 

 『一応報告しておこうと思っただけさ。それに、君を組み込む理由はしっかり正当性があるものだ。赤いカリギュラというとびっきりのイレギュラーに対抗するためにはこちらも樫原仁慈というとびっきりのイレギュラーで対応するしかないと思ってね』

 

 

 まぁ、分かってた(諦め)。

 

 

 『君に伝えておきたいのはこのくらいかな。では仁慈君。健闘を祈るよ』

 

 

 最後までスクロールし終え手紙の内容を全て読みきった俺はふぅーと息をゆっくり吐いた。

 よし。手紙も見終わったことだしさっさと寝よう。

 

 

 

――――――この日の睡眠はいつもより眠りが深かったです。

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 「仁慈……話したいことがある」

 

 

 主に昨日の当身と今までにないくらいに調子がいい俺の体に関しての話をなぁ……!

 

 

 「どうかしましたか?ギルさん」

 

 

 

 なんて白々しい返答だ。意識を失う寸前に背後に回りこんだお前を見たんだぞ俺は。

 

 

 

 「けど、あのまま話し合いを続けてたら絶対一人で行こうとしましたよね?むしろ行く寸前でしたよね。俺のこと強引に押しのけて」

 

 

 「ぐっ……!」

 

 

 

 「昨日も言いましたけど、絶対返り討ちにあいますよ?この三年間で強くなったのは何もギルさんだけではありません。向こうも手負いの状態で三年間生き残ってきているのですから相応のコンディションで挑まないと」

 

 

 次々と仁慈の口から繰り出される正論に思わず押し黙ってしまう。実際、仁慈のいっていることは正しい。確かに俺はこの三年間であの時とは比べ物にならないくらいに強くなった。そうなるように努力した。しかし、それは向こうも同じことだ。大型アラガミであるヴァジュラもオウガテイルに食われているという事実から考えてみればあの赤いカリギュラも多くのアラガミから狙われたに違いない。それを手負いの状態で退けていたということは、向こうも三年間の間に強くn―――ってまてまて。何でコイツがそのことを知っている?

 

 

 「おい仁慈。何でお前がそのことを知ってる?」

 

 

 「………あっ」

 

 

 分かりやすい反応だなおい。だからといって容赦はまったくしないがな。

 

 

 「誰から聞いた?」

 

 

 「あー……えーっと……」

 

 

 右へ左へせわしなく視線を動かす仁慈。ま、コイツの三年前のことを教えた人は大体見当がついている。このことの根幹に関わる部分を知っているのは俺とあの人しか居ないしな。

 

 

 「おーいギルー。そんな怖い顔で聞いてやんな。コイツにあのこと教えたの俺だからさ、あんま責めないでやってくれよ」

 

 

 「ハルさん……こいつは関係ないんですから巻き込まないでくださいよ……」

 

 

 「ばっかお前分かってねぇな。イレギュラーにはイレギュラーで対抗するって昔っから決まってんだよ」

 

 

 「真壁さんまでそれを言うのか。何?流行ってんの?最先端なの?」

 

 

 「確かに仁慈なら何しても死ななさそうですけど」

 

 

 だからってほぼ関係ない奴を危険な目に合わせるのはいまいち納得がいかない。何割か位はおれ自身の手で奴を倒したいという考えだが、まだ若いコイツに無理をしてほしくないという思いもある。

 

 

 「だろ?それにこれは正式な任務だ。メンバーはここに居る三人。サカキ博士がどうやら手を回してくれたらしい。まったくあの人はどこで情報を拾って来るんだかねー」

 

 

 プライバシーも何もあったものじゃないよなとハルさんは呟き、一通り笑うと今までの雰囲気をがらりと変えて真剣なトーンで話し始める。

 

 

 「なんにせよ、サカキ博士は俺たちにこの機会を与えてくれたんだ。無駄にすることはできない。分かってるな?」

 

 

 コクリと仁慈と共に首を縦に振る。

 そうして、各々がそれぞれの準備を済ませ、出撃ゲートをくぐっていった。

 

 

 

 

 

 

                ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 『観測機器およびその他のものも正常に作動しています。これより、変異したカリギュラの名称をルフス・カリギュラとし、その討伐を開始します。あのルフス・カリギュラについてはほぼ何も分かっていないため、慎重に戦ってください』

 

 

 まぁ、そうなるよな。

 何も分かっていない敵が相手となると、戦いながらそいつの戦闘パターンを把握して対応するしかないし。

 

 

 通信機を通して聞こえる竹田さんの声にそう思考しながらも、運送用のヘリコプターから跳び下りて愚者の空母の上に着地する。ちょっと足痛めたわ……。

 

 

 「おい、そこの馬鹿。これからルフス・カリギュラと戦うってんのに何やってんだ」

 

 

 「調子乗ってヘリから跳び下りて足くじきますた;;」

 

 

 「アホ」

 

 

 一言で切られたでござる。全面的に俺が悪いから何も言い返せないけど。

 

 

 「おいおい、大丈夫か?少しでも違和感があったら言えよ?今すぐ送り返してもらうからな」

 

 

 「大丈夫です」

 

 

 このまま極東支部に帰りましたーとかさすがにあほ過ぎるわ。幸い、特にこれといった支障はないためその旨を真壁さんに伝える。こちらが嘘を言っていないことが分かったのか彼は俺から視線を外し、愚者の空母で何かを捕食しているルフス・カリギュラに視線を向けた。

 

 

 「さて、これからアレをどう倒すかだが……ギル。この中で唯一交戦経験のあるお前からなんか良い案ないか?」

 

 

 「そう……ですね。俺が戦ったときは通常のカリギュラと殆ど変わらない動きをしていました。ただ、攻撃を正確に防御したりタイミングを見計らった回避行動をとっていました。それもずっとこちらに視線を向けたままで」

 

 

 ギルさんの言葉を聞いたとたんに真壁さんが顔を顰めた。多分俺も同じような表情をしていると思う。

 

 

 「本能に従っての防御、回避ならいいんだけどなぁ……」

 

 

 「タイミングを計る。ずっとこちらに注目している……カウンター叩き込む気満々ですよね」

 

 

 これはかなり厄介だぞ。うかつに攻撃すると返り討ちに遭いかねない。最もリスクが少ない…というか有効だと思われるのはルフス・カリギュラが反応できないくらいの速度で攻撃を仕掛けるか、超変態的な機動で撹乱するといったところだろう。でもアラガミが反応できない速度って自分で言ってて現実的じゃないよなぁ。

 一応、対抗策ということで真壁さんにこの考えを伝えてみる。俺の言葉を聞いた真壁さんは少しだけ考えた後、スッと人差し指をこちらに向けた。

 

 

 「お前なら変態的機動、できるんじゃないか?」

 

 

 「あー……」

 

 

 できる……だろうか?身体能力から考えれば、神機使いになって飛躍的にあがっているからある程度の動きならアニメとかの模倣ができると思う。

 

 

 「なに、迷うことはないぞ仁慈。俺は実際に見たことはないが、他の人の話を聞いている限りいつも通りの動きをしてくれれば良い。それが変態的機動だ」

 

 

 「どういう意味だ」

 

 

 「確かに」

 

 

 「ギルさん!?」

 

 

 俺に味方はいなかった!

 いや、もう俺の動きが普通じゃないのは自覚しているけどさ。変態的はないと思うんだ……。

 

 

 「よし、それじゃ決めることも決めたし行くか!」

 

 

 「はい」

 

 

 「よかろう。そこまで言うならやってやる……!」

 

 

 なんとなくグダグダな感じだがこんな感じでルフス・カリギュラ戦が始まった。緊張感に欠けるけど、恨み辛みを抱え込み気張って戦うよりは良いと思う。

 

 

 

 

             ――――――――――――――――

 

 

 

 

 ―――――あんなこと言わなければよかったと若干後悔している。

 

 

 銃形態にしている神機からオラクル細胞を圧縮した弾をルフス・カリギュラに叩き込みながら俺はそう思った。

 今、俺の目の前にはチャージスピアを引き、ルフス・カリギュラを攻撃しようとするギルとその意識を自分に向けるために変態機動を行っている仁慈が映っている。

 

 

 「ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエ………」

 

 

 「はぁぁあああああ!!」

 

 

 

 あの絵づらやばいわ。超シュール。

 真面目な顔でチャージスピアを構えているギルが近くにいるからさらにそう思える。これがケイトの弔い合戦だって言うんだからなぁ……。

  

 

 とにかく、仁慈に気をとられていたルフス・カリギュラはギルの攻撃に反応でできずに右肩にギルの神機が突き刺さった。苦しげな声を上げたルフス・カリギュラは右腕を振り回し、肩に乗っているギルを刺さっていた神機ごと振り払った。

 それにより宙に投げ出され、無防備となったギルにルフス・カリギュラは口に溜めた蒼いエネルギーをぶつけようとする。

 

 

 だがそれは、仁慈があご下を蹴り上げて無理やり口を閉じさせたことにより不発に終わった。自分が溜めたエネルギーが口内で爆発したことによりよろける、ルフス・カリギュラに俺も神機を元の形に戻して切りかかる。向こうもほぼ無意識で俺の攻撃を翻すが、反応がわずかに遅く顔を結合崩壊させた。

 

 

 「■ ■ ■ ■ ■ ■ ■――――――!!!」

 

 

 顔面の結合崩壊で怒り状態になったのか咆哮をひとつあげると、そのまま両腕を広げて俺のほうへ突進してきた。

 足に力を入れて跳躍して回避しようとするが、横から銃形態の神機を構えた仁慈がルフス・カリギュラの顔面に弾を2、3発撃ち込み動きを鈍らせた。

 なので急遽変更。跳躍しようとした力を前方に向けて一気に肉薄しすでに部位破壊されていた右腕にバスターを振り切った。

 これにはルフス・カリギュラもたまらず腕を抱えて地面にうずくまる。

 これをチャンスと捉えたのか、ギルはひたすらに顔面にチャージスピアを突き立て、仁慈はドゥエドゥエ言いながらヴァリアントサイズを振るっていた。どこからどう見ても袋叩きだが生憎と化け物に容赦してやるような精神は持ち合わせちゃいない。俺やギルはもちろん仁慈もこれでもかというくらいに、ルフス・カリギュラを攻撃した。その甲斐あってか、しばらくうめき声を出していたルフス・カリギュラは完全に沈黙し、わずかにしていた痙攣もしなくなった。

 

 

 「ふぅ、これで終わったかな?」

 

 

 今の今までドゥエっていた仁慈が神機を担ぎ上げて言う。ギルもしばらくルフス・カリギュラを睨んでいたようだが動かないと思うとフッと体から力を抜いた。どこかあっけなかったが、実際はこんなものなのかね。………ケイトお前の敵は―――――

 

 

 「■ ■ ■ ■ ■ ■―――――!!!!」

 

 

 突如、周囲を揺るがす咆哮が響き渡った。気を緩めていた俺やギル、仁慈はいっせいにその方向を向く。

 原因はさっき倒したと思ったルフス・カリギュラだ。

 

 

 「おいおいマジかよ……こいつはしつこい奴だぜ」

 

 

 バックステップを踏みながら思わず呟く。

 

 

 「しまった。フラグだったか……」

 

 

 仁慈も何かを呟きながら後ろに下がった。しかし、ギルがいない。

 そのことに気付いた俺はすぐにルフス・カリギュラのほうに視線を向けると

そこにはルフス・カリギュラの右腕に吹っ飛ばされるギルの姿があった。

 

 

 

               

              ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「ぐっ……!油断した……!」

 

 

 ルフス・カリギュラに紙くずのようにぶっ飛ばされ、壁に激突した俺は思わず自分が情けなくなった。

 仁慈の変態機動のおかげで、精神面はいつもとそう変わりないものになっていると思ったがそうではなかったらしい。ルフス・カリギュラが動かなくなったあの瞬間俺は思わず敵を取れたんだと感傷に浸ってしまった。その所為でこのざまだ。幸い、骨が折れたということはなく、体のいたるところは軋むが動けないというほどではなかった。

 すぐに起き上がり、ハルさんたちに加勢しようとしたとき、俺の目の前で仁慈の神機が吹き飛ばされルフス・カリギュラが両腕を大きく広げ仁慈に向けて突進をしようとしていた。このままでは仁慈は死ぬだろう。

 

 

 

 まただ。また俺はこうして大切な人を失うのか?

 

 

 

―――――――――――否!断じて否である!

 

 

 

 俺はこの三年間で強くなった!俺はあの時とは違う!あの時と同じことを繰り返さないためにこうしてここまで生きてきたんだ!

 

 

 軋む体を無理矢理動かしチャージスピアにエネルギーを溜める。もうすでにルフス・カリギュラは仁慈のすぐ近くまで来ていた。さすがの仁慈も神機がないと対抗できないのであろう、ずっと固まっている。

 

 

 このままだと確実に間に合わない。

 

 

 今の俺に足りないものは何だ?

 

 

 力か?

 

 

 ――――――否、力があってもあたらなければ意味がない。

 

 

 技術か?

 

 

 ――――――否、今この場にあっても仁慈を助けることはできない。

 

 

 ならば、何が足りない?

 

 

 ―――――決まっている。………速さだ。

 

 

 

 そう思い浮かんだときに自分の中の何かがはじけたような気がし、神機の先端から赤いエフェクトが発生し、俺の周りを包み込んでいき周囲の風景が先程よりも早く流れているように感じられた。

 

 

 これならいける!

 

 

 理論などといった小難しいことではなく、本能でそのことを理解する。そして俺はその本能のままにチャージが完了したチャージスピアを構え、地面を強く蹴り上げると同時にそのエネルギーを開放した。

 

 

 

 「届けぇぇぇえええ!!!」

 

 

 

 そう思いを込めた突撃は音を置き去りにし、俺はいつの間にか倒れ付していたルフス・カリギュラの背後に立っていた。

 一体何があったんだ?

 

 

 

 

 

                ――――――――――――――――― 

 

 

 

 

 ギルさんがいきなり赤いエフェクトを纏い始め、チャージグライドをしたとたんに消え、気がついたらルフス・カリギュラの背後に立っていた。

 何アレ?ギルさんの台詞を「アァクセルシンクロォォォォォ!!」に変えてもまったく違和感がなかったんだが。

 とりあえず、吹き飛ばされた神機を拾い上げて力を使い果たしたのかしりもちをついているギルさんに近付く。ついでにルフス・カリギュラのコアも捕食しておく。さっきみたいにゲリョスされたら困るからな。徐々に形が崩れ始めたルフス・カリギュラを見ながら、その首に刺さっている淡いピンクの神機に目を向ける。三年間、コイツに刺さってダメージを与え続けてきたんだよな。

 ねぎらいの意味も込めて刺さっていた神機を掴んで引き抜き近くの地面に刺し(・・・・・・・・・・・・・・・)てからギルさんに話しかけた。神機の方は後で回収専門の部隊が回収してくれるって言うから大丈夫でしょう。

 

 

 「大丈夫ですか?なんか光の速さを越えてそうなチャージグライドでしたけど」

 

 

 「ん?あぁ……問題ない。というかそんな感じだったのか……俺……」

 

 

 「はい。ようこそ異常側(こちら側)へ。歓迎しよう、盛大にな」

 

 

 「一緒にするな」

 

 

 「何言ってるんですか。少なくとも音速は超えましたよ?充分異常者です」

 

 

 「そうだな。……俺が知っているギルは……もう、いないんだなぁ」

 

 

 念のために持っていたスタングレネードをポーチの中にしまい、しばらく遠い目でこちらを見ていた真壁さんがしみじみと呟きながらこちらに近付いてきた。

 

 

 「ハルさん……」

 

 

 「お疲れ様です。真壁さん」

 

 

 「おう、仁慈。お疲れさん。……ギルも本当に長い間、よく頑張ったな……」

 

 

 「いえ……俺は……」

 

 

 「こういうときの言葉は素直に受け取っておくもんだぞ」

 

 

 まるで自分の子どもに言い聞かせるような、優しい声音と表情で言われたギルさんは帽子のツバを掴んで下ろし顔を隠した。

 その様子を見て真壁さんがクスリと笑った後、俺たちの肩を抱きかかえ、

 

 

 「よーし、帰って一緒に飯でも食うか!」

 

 

 そう言って俺たちに笑いかけた。そのときの真壁さんの表情はどこかつき物が落ちたようなすっきりした表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十五話

第三十五話という番外編に近いナニカ。
とんでもないキャラ崩壊が含まれているのでご注意ください。


 「よう、仁慈」

 

 

 「あれ?真壁さん?」

 

 

 ルフス・カリギュラを倒し、忙しかった極東が落ち着きを取り戻したある日。珍しく仕事も頼まれ事もないので久しぶりにゆっくり一日を過ごせるとわくわくしていた俺に真壁さんが話しかけてきた。

 

 

 「まったく……以前から思ってたがお前は固いなぁ。もっとフランクにいこうぜ。呼び方とか話し方とかさ」

 

 

 「は、はぁ……。分かりました。……それでハルオミさん。何か用ですか?」

 

 

 「殆ど何も変わってねぇじゃねーか。ったく……いや何、この間のルフス・カリギュラの件で色々世話になったからな。お返しに食事でもおごってやろうと思ってさ。どうだ?」

 

 

 「そうですね。ちょうど朝ごはんを食べるところだったので、お願いします」

 

 

 こういうときの好意は素直に受け取っとけってばあちゃんも言ってた。

 

 

 「よっし、じゃあ行くか!」

 

 

 「すぐ後ろにあるんですからそんなわざわざ言わなくても……」

 

 

 ウィーンとラウンジの扉を開き、真っ先にムツミちゃんが料理を作っている中央に向かう。いつも座っている真ん中の席から右に三つずれたところにすわり、オムライスを頼んだ。

 

 

 「結構可愛い注文するのな」

 

 

 「いけませんか?」

 

 

 いいじゃないオムライス。おいしいじゃない。特にムツミちゃんが作るオムライスは卵がふわっふわしているのでなおうまい。

 目の前に出されたふわふわオムライスにパクつきながら、ハルオミさんの様子を伺う。

 こちらの視線に気付いたのか、ハルオミさんはムツミちゃんに出されたお酒から目を外してこちらを向いた。

 と、言うか朝っぱらから酒ですか……。

 

 

 「どうした?何か言いたそうな顔だな」

 

 

 「朝から酒はいかがなものかと」

 

 

 「ったく、お前は本当に固いなぁ。仕事がない今日くらいはいいだろ」

 

 

 お酒の入ったグラスを傾けながらハルオミさんはどこか懐かしそうに俺を見ながら言った。……もしかしたら、奥さんであるケイトさんとこのようなやり取りをし、そのことを思い出しているのかもしれない。

 

 

 「あ、そういえば。お前に聞きたいことがあったんだ」

 

 

 「いったいなんですか?」

 

 

 やはり仇をとったからといってそんな簡単に折り合いなんてつかないよな。

 ハルオミさんの表情を見ていると何か悪いことをした気分になったので、彼の話に乗っかる。

 俺が聞き返すとハルオミさんはルフス・カリギュラを倒しに行く時と同じくらいに真剣な表情で口を開いた。

 

 

 「お前は女性を見るとき……まず、どこを見る?」

 「は?」

 

 

 彼の言葉を聞いてほぼノータイムで俺の口から間の抜けた声が漏れる。しかし、それは仕方ないことだと思う。今までで見てきた中で最上級の真面目な表情で放たれた問いがこれだぞ?

 ルフス・カリギュラの時のことを知っているからこそ、さらにギャップが大変なことになり、俺の頭の中を混乱させる。

 

 

 「えーっと……何言ってるんですか?」

 

 

 認めたくない。奥さんのことを思い出してしんみりしていたと思った人が、こんなくそまじめな表情で女性のどこを見るか、と尋ねているなんて。

 唯一の希望を込めて、ハルオミさんに向かって聞き直すも、

 

 

 「だから、町行く人でも、このアナグラの中にいる職員でも、俺たちと同じ神機使いでも、女性を見るときはまず……どこを見る?」

 

 

 聞き間違いじゃなかった。俺の耳は残念なことに正常に機能していたらしい。いや、ハルオミさんの頭がおかしくなったんじゃないのこれ?

 混乱を極め、思わず黙り込む俺にハルオミさんは何を思ったのか呆れた様な顔をすると、

 

 

 「もしかして恥ずかしくて言えないのか?……フッ、青いな」

 

 

 などと言いやがった。超ブッ飛ばしたい。

 ルフス・カリギュラ戦および、その前のギルさんへの対応などで上がっていたハルオミさんの株が大暴落である。つーかこの人死んだとは言え、奥さんいたんじゃないの?仇とったからってはっちゃちゃけるの早くない?

 これは査問会行きも納得ですわ……。

 

 

 「まぁ、そんな恥ずかしがりやなお前に教えてやろう。世間一般の男性は女性を見るときは顔か胸を見るが…………俺は、脚だ」

 

 

 チャラーチャラララーデッデッデッデデデッデッデッデデデデッデッデッデデデデッツターン!

 

 

 キメ顔で何言っちゃってるんですかねこの人。

 俺が向けている絶対零度の視線を知ってか知らずか、ハルオミさんはそのまま語りだす。

 

 

 「最近の俺のブームはな、脚……それもニーハイだ。本来はオーバーニーと呼ぶべきだが、日本語におけるニーハイとはひざまでの丈のソックスの略称だ。ニーハイの要諦は、ソックスのロゴムとボトムスの間にできる領域、その太ももの……わずかな輝き……」

 

 

 「たとえるなら、朝、山の端から顔を出した陽光のような……それが、今、俺が求める女性の美だ。……いいだろ?」

 

 

 はい、いいですね。はてしなくどうでもいいです。いつの間にやら周囲に集まっていたハルオミさんをまるで崇める様な視線で見ている極東の男性神機使いたちを眺めながらそんなことを思う。

 前三枚目はモテるとか言ってましたけど、これは無理でしょう。見てくださいよ、周囲にいる女性たちの目を。まるで虫けらを見るかのような冷たい視線を送ってきてますよ。

 まぁ、しかしそのままそのことを伝えるのはさすがにあれなので、適当なことを言ってお茶を濁そうとするが、ハルオミさんのほうが早く口を開いた。

 

 

 「どうした、仁慈?ニーハイだぞ。いいと思わないか?」

 

 

 「人それぞれだと思います」

 

 

 実際俺はうなじが好きだ。そこにさらに浴衣を着ていればなおよし。

 ま、ここでそれを言ったらさらに収集がつかないから言わないけどな。

 

 

 「その通りだ仁慈。俺は外見など見ずに内面で女性を選ぶ」

 

 

 至極真面目な顔でそう言いながら俺の背後から顔を出すジュリウス隊長。

 急に話に割り込んでこないでもらえませんかねぇ……。しかし、よくこの会話に入ってこようとしたな。ジュリウス隊長。

 

 

 「内面……だと……?」

 

 

 突然乱入したジュリウス隊長の言葉にオサレな反応をするハルオミさん。え?何事もなかったかのように始めるんですか?

 

 

 「そうだ。まるで母親のように全てを包み込み、受け入れてくれる温かさと包容力を兼ね備えている女性が好ましい」

 

 

 やだ……言っていることは唯のマザコンとも呼べる内容なのに、ジュリウス隊長が孤児院出身という経歴がその発言を重いものに変えている……。

 見みろ。ハルオミさんの表情が引きつっているじゃないか。しかも、最初と論点が微妙にずれてるし。

 

 

 「え、なになに?好きな女の人の部分の話!?俺は当然胸だなー」

 

 

 「えぇい!また乱入者か!?」

 

 

 微妙に重くなった空気が漂う中、明るいというかここまでくればもう唯の馬鹿じゃね?という声音の声がその重たい空気を吹き飛ばした。これをしたのはブラッドが誇る自称ムードメーカーであるロミオ先輩だ。

 またブラッドか。こいつら本当にエリート部隊なの?思春期真っ盛りの男子高校生かなんかの間違いじゃない?

 

 

 「胸か……。それは男ならば誰しもが通る道だ。しかし、そのまま停滞しているものと、ありとあらゆる探索を乗り越えその場所へたどり着いたかによって男の価値が変わってくる部分だ……まさか、コイツは……」

 

 

 「真面目に考察を始めなくてよろしい。それに、ハルオミさん。ロミオ先輩の顔をよく見てください。そこまで考えて発言しているようには思えませんよ。きっと思春期で精神年齢が止まっているんでしょう」

 

 

 「ぐっはぁ!!」

 

 

 

 『ロミオが死んだ!』 『この人でなし!!』

 

 

 誰だ今の。

 ロミオ先輩が入ってきたあたりでハルオミさんの話を聞いていたらしい、ラウンジに居た男性神機使いたちも騒ぎ出す。つーかこの人達、さっきハルさんのこと崇めたような視線で見てた人達だ。

 あぁ……なんか取り返しのつかないことになってしまっている……。

 誰かー!へループ!

 

 

 「………一体何がどうなってるんだ?」

 

 

 カオスになったラウンジを鎮めようと右往左往する俺の耳にそんな声が届く。

 これはもしや、と声が聞こえたラウンジの入り口のほうを見てみればそこには期待していたこのカオスを鎮める可能性を秘めた人物。ブラッドの兄貴分であるギルさんの姿があった。

 

 

 ――――きた!ギルさんきた!メイン兄貴きた!これで治まる!

 

 

 と、大歓迎状態だった俺はすぐさまギルさんのほうへ向かい事情を説明する。かくかくしかじか。

 

 

 俺から話を聞き終えたギルさんは、うんうんと頷くと俺に一言「任せておけ」と言い、好き勝手に暴れまくっている極東の男性神機使いたちに向けて口を開いた。

 

 

 「お前ら!女性で一番いいところは人それぞれだ!自分の意見を相手に押し付けるんじゃない!」

 

 

 あれ!?思ってたのとなんか違うぞ!?予想ではもっと冷ややかな言葉を浴びせるのかと思っていたのに……。

 

 

 『おぉ……そうだ。確かにその通りだ……』 『どうしてそんな簡単なことに気付かなかったんだ……』

 

 

 治まるんだ!?あの一言でこの事態収束しちゃうんだ!?あの人もハルオミさんと同じで、仇をとってから随分とはっちゃけてますねぇ……!

 いつもとは明らかに違うギルさんに尊敬の眼差しを送る男性神機使い達(馬鹿共)たちを視界の端っこに納めつつ、今回の騒動の主犯格となったものたちを見てみる。

 

 

 「……そうか、そんな簡単な話だったんだな……。それに気付かないとは……フッ、俺もまだまだということか」

 

 

 「なんて懐のでかさだ。……俺も負けてられないぜ!」

 

 

 「ギル……こんなに立派になって……もう、俺が教えられることは何もないな……!」

 

 

 分かってはいたがどいつもこいつもろくな反応をしていなかった。ギルさんのほうもさっきまで確実に沈静化されつつあったのに、現在では困惑の表情を浮かべたギルさんを男性神機使い達が崇めて騒ぎ立てているため事態は悪化した。

 

 

 「もうやだ……」

 

 

 思わずゴンッ!と机に額をぶつけつつ突っ伏す。もう知らない。勝手にすればいいよ。そう思い俺はこの事態の収束を他の人に押し付けることにした。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――結果。この事態はラケル博士の冷たい微笑みによってすぐさま終結することとなった。

 今回ばかりはラケル先生に心の底から感謝した。

 

 

 

 

 

 ちなみに。どうしてあの時ギルさんがあんな発言をしたのか聞いてみると。

 

 

 「いや、ようやく肩の荷が下りたからな。今までみたいに一人を気取らず、積極的に仲間を作ろうと思ってな。とりあえずあの場では周囲に乗っかってみたんだが……失敗したみたいだ」

 

 

 などと言っていた。

 ……うん、タイミングが悪かったね。その日、俺はギルさんに一杯お酒を奢りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十六話

今回はギャグ少なめ、ついでに文章も少なめです。



 

 

 ラウンジで男性神機使い達がこぞってはじけだし、自身の評判をどん底に落とした事件から一夜明けた今日。なにやら黒蛛病患者を収容しているサテライト拠点にアラガミが接近しているために、可及的速やかにこのアラガミを討伐して欲しいとの任務が入った。それとこのアラガミたち地味に数が多く、ブラッド隊を二つに分けて対処せよとのことである。

 アラガミってたまにこうして狙ってんのかと思いたい感じで攻めてくることがあるよね。

 

 

 「ちなみにチームは俺にお前、ナナでひとつ。もうひとつのチームにはギル、ロミオ、シエルだ」

 

 

 「なんでだ」

 

 

 「過剰戦力だよねー」

 

 

 任務の内容を教えてくれたジュリウス隊長がどこか嬉しそうに言うと、俺とナナがすかさず返す。

 自分で言うのも自意識過剰みたいで嫌なんだけどさ。俺とジュリウス隊長は普通、分けるんじゃないかな。こう、戦力的に。

 いやまぁ、ギルさんも血の力に目覚めてから光速の壁を軽々乗り越えるし、シエルはショートブレード振り回して飛ぶしで割とバランス取れてるのか?

 

 

 「というか、血の力に目覚めたらみんな吹っ切れすぎじゃないですかね?」

 

 

 改めて考えるとすげぇぞ、ブラッド。エリート部隊とは名ばかりで実際は頭のおかしい(キチ〇イ)集団に成りつつある。

 血の力……なんて恐ろしいんだ……!

 

 

 「でも、仁慈は目覚める前からおかしかったよね?」

 

 

 「おでんパン齧りながらさらっと人の思考読むのやめてくれません?」

 

 

 あまりに自然すぎてて背中に薄ら寒いものを感じたよ。

 

 

 「別にいいでしょー。……真面目に言うと、ジュリウス隊長と仁慈が一緒のチームにいるのは、私たちが護る黒蛛病患者を収容しているサテライト拠点の中にユノさんがいるかららしいよ。偉い人達もユノさんに何かあったらマズイとか感じてるんじゃないかなー」

 

 

 下心たっぷりだねーと笑いながらおでんパンをひとつ食べ終わり、左手に持っている大きな袋から二つ目を齧りだす。

 ナナが頭の良さそうなこと言ってるよ……。

 それにしてもサテライト拠点……ねぇ。確か、アナグラにも入れない人達が住んでいる場所だっけ?

 そのことを考え、ここに来た当初の懸念が今、頭の中にもう一度浮かんでくる。変なトラブルに巻き込まれなければいいだけどね。

 

 

 「……そろそろ時間だ。敵は今のところガルムだけだ。あまり気を張らずに気楽に行くぞ。もうお前たちの実力では相手にならない奴だからな」

 

 

 絶対何でも切り捨てるマン(ジュリウス隊長)に何でもブッ飛ばすおでんパンジャンキー(ナナ)、ついでにドゥエリスト(俺)だもんなぁ。通常種(まとも)なガルムじゃどう頑張っても勝ち目はないな。

 でも、ジュリウス隊長が"今のところは”って言ったんだよな。原因俺だけど。

 どうせまた何か乱入してくるんだろ?的な思いがひしひしと感じ取れる言葉である。本人超嬉しそうだけどな。

 

 

 まぁ、なんにせよ。今のところは楽なお仕事っぽいし、気楽に行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

               ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 さっきの発言フラグかと思った?

 

 

 ―――――――大正解だよ。

 

 

 

 黒蛛病患者が集うアナグラをアラガミから守るために駆り出された俺たちの目の前に現れたのはガルム三体にサリエル、ヴァジュラという何の統一感もない連中だった。でもまとめてこられると結構ヤバイ。どのくらいヤバイかといえば、こいつらが他の支部に現れたら十分ぐらいでその支部が壊滅するくらいにはヤバイ。これを対処できる極東はやっぱり魔窟だな(確信)。

 

 

 で、僅かな時間とはいえその極東に身をおいていた俺たちは元々持っていたそれぞれの異常性(アレっぷり)を遺憾なく発揮し先程あげたアラガミたちを全て撃退したのでした。

 

 

 え、戦闘描写?ないよ。やってることはいつもと大して変わらんもの。

 ナナがザイゴートの堕天種をシュゥウウウウウして他のアラガミにぶつけて撹乱したり、俺がその隙を突いて首置いてけした後コア回収したり、ジュリウス隊長は時折俺たちのフォローをしながら自分に向かってくるアラガミと攻撃を全て真正面から切り捨てていた。終始笑顔で。

 ほら、いつも通りでしょ(震え声)。

 

 

 現在は別の場所でアラガミと戦っていたギルさん達と合流し、葦原……さん?のマネージャー兼ジャーナリストであるというサツキ(という名前だった気がする、多分)さんに黒蛛病患者の搬送先に案内してもらっている。何で案内されているのかは分からないけどね。本当に。

 

 

 「ここがサテライト拠点、アナグラにこもれない人々が寄り添ってやっと生きてる、辺境の地」

 

 

 「俺、こういうとこはじめて来た……ニュースとかテレビとかで、存在は知ってたけど」

 

 

 そう周りを見回しながら言うのはロミオ先輩。当然、神機使いとなって未だ半年を経過してない俺やナナ、シエルも同様である。俺たちの仕事は基本的にアラガミの殲滅だから、こういった場所にはアラガミが入ってこない限り来る機会はないよな。

 

 

 「世界中の人口は確かに少しずつ増えてるんですよね。それは間違いなくフェンリルのおかげ……でも、役に立たない人間は切り捨てる、と言わんばかりにここにいる人達を放置しているのもまた、フェンリルなんですよ」

 

 

 「外壁の対アラガミ装甲……フェンリルマークの備蓄食料……この施設を提供し、維持しているのはフェンリルなのでは?」

 

 

 サツキさんの言い分にジュリウス隊長が思ったことをそのまま口にする。すると彼女は今の発言が気に障ったのか、歩みを止めてこちら―――正確にはジュリウス隊長のほうに振り返り、不機嫌な様子で口を開いた。

 

 

 「貴方がブラッドの隊長さんでしたっけ、フライア所属の。ちょっと聞いてみたいことがあるんですけど……。あの玩具の戦車みたいな、移動要塞を作るコストでここみたいなサテライト拠点が、いくつ作れると思います?」

 

 

 「それに、ここの人達に手を差し伸べてくれたのはユノのお父さんと極東の神機使いの人達だけなんですよー。そもそも本部からの支援が少ない、極東支部が一生懸命血を流している一方で、本部はどうして黙ってみているんでしょうね?」

 

 

 「そんなの実働部隊である神機使いたち(俺たち)がわかるわけないじゃないですか。そういう文句は本部に直接どうぞ」

 

 

 気付けばそんな言葉が俺の口からぽろっとこぼれていた。

 しまった……!神機使いになってから半年たってない俺が言えることじゃなかった……。あわてて口をふさいでみても、吐いたツバは飲み込むことができず、サツキさんとブラッドの面々はみんな俺のほうを見ていた。

 

 

 気まずい。気まずいが、別に間違ったこと言ってない気もする。そんな事を言われても末端である俺たちにはどうすることもできないし。

 

 

 

 「………そうですね。すいませんねー、なんか八つ当たりみたいなことをしてしまって」

 

 

 「いえ……こちらこそ」

 

 

 会話が途切れる。

 しばらくどうすればいいか考えるがたいした対応策は見つからず、結局再び歩き出したサツキさんについていくしかなかった。今回のはマジで反省しなければ。

 己を戒めているうちに、黒蛛病の収容施設についていたようでそこらにベッドやそれを仕切るためのカーテンなどが設置されている場所に来ていた。よく見ると何人かの人がベットに寝ていて、腕の部分などに黒い蜘蛛の刺青のようなものがあった。アレが名前の由来である黒い蜘蛛の模様か。思ってたより大きいな。

 その模様をよく見てみようと顔を近づけたとき、ふとサツキさんがふと思い出したように、

 

 

 「あ、そういえば。黒蛛病は空気感染こそないものの接触感染で、強い感染力を持っています。むやみやたらに触ったりとかしないでくださいね」

 

 

 もっと早く言ってよ。

 近づけていた顔をあわてて戻す。あの距離は患者さんがなにかの拍子に動いたら接触しちゃう位置だったから危なかったわ。

 サツキさんの方に若干非難の視線を送るものの彼女はすでに黒蛛病患者の女の子に本を読み聞かせていた葦原さんとの会話に夢中で気付いていないようだった。こっち見ろや。

 

 

 「ユノは後で合流するみたいなのでもう行きましょうか」

 

 

 こっち見た結果がこれである。

 結局何のために来たのか分からなかったわ。俺がアホだからか?

 いや、黒蛛病患者の問題が深刻なものという認識を持って欲しかったのかな?確かに深刻な問題なのは分かった。けど、そういうのってさっき俺がこぼしてしまったのと同様に、偉い人に伝えないと駄目なんじゃね。

 

 

 

 

 

              ――――――――――――

 

 

 

 

 そうでもなかった。

 あの後、極東支部に帰ってきたブラッド―――というかジュリウス隊長は、黒蛛病患者をこの極東支部に収容し、ケアを行うことを計画しているらしい。サカキ支部長への根回しやラケル博士の説得などは全てこちらに任せてくださいと、合流した葦原さんに言っていた。ジュリウス隊長の容姿も相俟って超かっこいい。

 何でも、サテライト拠点や黒蛛病患者の問題に直接関わった結果、何とかしなければならない問題だと感じ、自分にできることをしようと思ったんだとか。今のジュリウス隊長は完全に"できる隊長モード”だ。これでもう何も怖くない……!

 ブラッドのみんなもジュリウス隊長に賛同し、それぞれができることを頑張って奴といっていた。

 

 

 ただ、ひとつ疑問に思うことがある。

 他ならない自分自身のことだ。こういう話を聞いたとき、実行するかしないかの違いはあれど「何とかしなければ」と思うのが普通だ。実際、俺も冷たい台の上でドリルをブッ刺されるまではそうだった。しかし、今はどうだ?ブラッドのみんなのように何かしなければという意思がまったく沸かない。急に神機使いになった影響だったりするのかな?こう、精神的なやつ。

 

 

 みんなが自分たちのできることをやろうとしている傍らで俺はずっとそのことについて考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十七話

すまない。投稿がこんなに遅くなってしまってすまない。
そしていつものごとく、そこまで話が進んでいないんだ。すまない。
いい加減イベントじゃないところは一話二話日常回はさむだけでいい気がしてきた。


 

 

 

 

 

 前回シリアスっぽく終わっておいてなんだけどさ。俺は考えるのをやめた。

 正直今すぐに支障が出るというわけでもないし、いきなり異世界にぶっこまれて、化け物とはいえバンバン生物殺してたら何らかの異常は出るよね。普通。

 

 

 考え事で微妙に溜まったフラストレーションを任務のターゲットになっている第二接触禁忌種、プリティヴィ・マータをボロボロにすることで解消する。おかげでサンドバック代わりになったマータ=サンは無残な姿をさらしていた。具体的には尻尾ちぎれてたり、マントズタズタだったり、顔面の半分が破損してたりである。

 ごめんね。でもこれ一応仕事なんだ。ここまで傷つけたのはストレス解消のためだけど。

 心の中でマータに謝りつつ、自分がつけた傷口にプレデターフォームの神機を捻じ込み、コアを捕食する。これが一番安定してるんだよねー。

 モグモグモグモグ

 こうして捕食シーンを見ていると神機が生態兵器だってことがよく分かるよなー。心なしかおいしそうに食ってる気がするし。

 

 

 『あ、仁慈さん。ちょうど目標の討伐が終わったんですね。すぐに迎えのヘリが到着すると思うのでもうしばらくお待ちください。それとサカキ博士とジュリウス隊長が仁慈さんのことを呼んでいましたので、極東支部に到着したら支部長室に向かうようにお願いします』

 

 

 「はーい」

 

 

 このタイミングでの呼び出しとなると……黒蛛病患者の収容について何かしらの決着がついたんだろう。もし違っていたら説得のための増援とかかな。

 後ろから不意打ちをかますドレットパイクを神機で適当にあしらってから、俺はヘリが来るのを待っていた。

 

 

 

 

 

           ―――――――――――――

 

 

 

 コンコン

 

 

 「フェンリル極地化技術開発局ブラッド隊副隊長、樫原仁慈参りました」

 

 

 『あぁ、来たね。入っていいよ』

 

 

 「失礼します」

 

 

 扉越しに少しぐぐもった声で返答があったので一言断りを入れてから入室する。ここに来た当初も思ったんだけど、支部長室に地球儀やカルネアデスの板の絵はいるのだろうか?

 

 

 「来たか」

 

 

 「えぇ、来ました。その様子だと許可もらえたみたいですね」

 

 

 いつもより二割り増しで輝いていますもの。

 

 

 「あぁ」

 

 

 「その黒蛛病患者収容については私も考えてはいたんだよ。ただ……予算もないうえに、本部に知られると厄介でね……。でも今回、『フライアからの』黒蛛病研究への支援策としてジュリウス君が計画を打ち立ててくれたおかげで、実現しそうだよ」

 

 

 なんというか、お疲れ様です。

 やっぱり大きな組織に属する以上色々しがらみがあるんだろうな(他人事)。

 

 

 「しかし、その計画を実行する前に俺たちにはサテライト拠点での任務がある。アラガミ装甲壁の全面改修のため、ブラッドがアラガミを引き離す作戦だ。改修工事の期間中、連戦し続けることになる。詳細はシエルに伝達してあるから、情報を共有しておいてくれ」

 

 

 ふーん。連戦ね。いつも似た様なことしてるけど……それとはきっと違うんだろ。ジュリウス隊長がわざわざ言うくらいだし。

 というわけで、教えてシエルちゃーん。

 

 

 

 「なんか今日はウザイくらいにテンション高いですね。君」

 

 

 「多分ストレス発散でマータ=サンをカイシャクした所為じゃないかな」

 

 

 今にして思えばアレも異世界で神機使いになった弊害かもしれないけど。少なくとも少し前まではアラガミをストレス発散で狩るようなことはなかったとおm……いや、あったな。

 

 

 「……今は気にしないでおきますね。では、気を取り直して今回の任務について説明します」

 

 

 彼女いわく。今回の任務で言う連戦とは、向かった先でキャンプのような慣用的な拠点を作り、その場所から改修中のアラガミ装甲壁に向かってくるアラガミと戦うらしい。要は一回一回極東支部に戻ってこないということだ。

 本来であれば俺たち神機使いは常に偏食因子を投与し続けなければならないためにこんなことは不可能なんだが、何でも偏食因子を投与できる携帯機器ができたらしい。便利な世の中になったものだ。それにしても、

 

 

 「なかなかハードな任務だな、今回のやつ」

 

 

 内容からして気が休まるところ皆無じゃねーか。キャンプ擬きを拠点にしたって安全対策ばっちりなんてことはないだろう。これは交代で見回り必須ですわ……。

 

 

 「はい。誰がどう見ても負担の大きい任務です。それは肉体的にも精神的にもです。だからこそブラッドに鉢が回ってきたともいえますが……」

 

 

 それまたどうしてだ?

 いや、ブラッドの面々が色々オカシイのは百も承知だ。今更言うまでもない事実である。あるが……だからといってその実力がどんな場面でも発揮されるとは限らない。

 ましてやエリート部隊とかキチ〇イ部隊とか色々言われたい放題のブラッドだが、その構成メンバーの半分は神機使いになってそこまで日がたっていないのだ。これは少々過信のし過ぎではないか?

 

 

 「そこはジュリウス隊長と君がいればどうとでもなるだろうと思ったからだそうです」

 

 

 随分と便利に扱われてるなぁ、俺とジュリウス隊長。俺に回ってくる任務の量といい、今回の件といい、某猫型ロボットよろしく酷使されている気がする。……さすがにそれは言いすぎか。

 

 

 「まぁ、できる限りのことはしてみるよ」

 

 

 そうは言うものの、俺も日がたっていない組に属しているんだが、それについてはもはや何も言うまい。そういう扱いをされないのはすでに分かりきっていることだし。

 一応ジュリウス隊長やギルさんに相談しておこうか。

 

 

 「お願いしますね。私も自分のもてる全ての知識を総動員してこの任務に貢献して見せます」

 

 

 といって、年齢の割にはかなり育っているモノの前で両手をぐっと握り締めるシエル。是非とも頑張っていただきたいものだが、それより先にその無防備さをどうにかしようね。立派な胸部装甲が踊ってるから。

 フイっと彼女から視線を逸らしつつ、俺も俺でこれから行われる初の試みを含んだ任務に対して、色々思考を廻らせるのであった。

 ……後でロミオ先輩に謝っておかないとな。

 

 

 

 

           ―――――――――――――――

 

 

 

 「うわ……右も左も上もアラガミだらけだ。アラガミ装甲壁の改修をしようってタイミングでこんなに沸いてくるとは……マジで狙ってるんじゃないか?」

 

 

 心の底からうんざりしたような声音でアラガミの群れに向けて言葉を放つ君こと仁慈。私も激しく同意します。さすがにあの量は引きます。

 他のブラッドメンバーの様子を盗み見てみれば誰も彼もが仁慈と同じ若干影のある表情を浮かべていました。ジュリウス以外ですが。表情を暗くするどころか、どこかキラキラと輝いていますよ。

 

 

 「それでは皆の衆、あの不躾な獣どもに我々人類の強さを存分に思い知らせてやろうではないか」

 

 

 「テンション振り切れてんな。ジュリウスの奴」

 

 

 「いつものことだろ」

 

 

 「今日のテンションはいつも以上だと思うけどねー。何かあったのかな?」

 

 

 「一緒にお泊りが嬉しいんじゃねーの?」

 

 

 いや、さすがにそれはないと思いますよ、仁慈。ジュリウスだってもう子どもじゃないんですから。何気にもうお酒飲める歳ですし。

 ですよね、と確認の意も込めて視線を送ってみれば冷や汗をたらしているジュリウスの姿が。

 ……子どもですか。

 

 

 「……仮設される拠点のほうは俺とギル、ナナで守っておく。仁慈とシエル、ロミオは好きに暴れていいぞ」

 

 

 あ、誤魔化しましたよこの人。

 ほら見てくださいよ。さっきまでアラガミの群れを見て暗い顔をしていたブラッドメンバーがみんな揃ってジュリウスにしとーっとした視線を送っています。

 

 

 「……ジュリウスをいじるのはこのくらいにして、そろそろ仕事をしますか」

 

 

 パンパンと意識を切り替えるように手を叩いた仁慈は、先ほどまでの緩んだ表情を引き締めて、真っ直ぐ射抜くような眼光でアラガミの群れを見る。

 そんな彼の雰囲気に感化されたのか、私を含めたブラッドメンバー全員が戦闘態勢に入った。

 

 

 拠点付近のアラガミはジュリウスたちに任せ、私たちは向かってくるアラガミの群れに一直線に突っ込んでいく。

 私はいつものように神機を銃形態に変えると、こちらに走って向かってくるアラガミの足にオラクルが凝縮された弾を撃ち込む。

 撃ち込まれたアラガミは急に感じた衝撃に耐えることができず、無様に地面へと転がった。周囲のアラガミも巻き込んで。

 そして、その態勢を崩したアラガミに近づく影がいた。それはここ最近前線に出て戦うようになったロミオだ。ロミオは態勢を崩したアラガミとその付近のアラガミをまとめて自身の刀身であるバスターブレードを振り切り、全員まとめて肉片に変えてしまった。

 バスターブレードの特性上仕方のないことだとは分かっていますが、なんというか見ていてアレな光景ですね。

 しかし、こうしてロミオが積極的に前に出て戦うなんてことは私がブラッドに入隊した当初からは考えられないことですね。……こうしてロミオが変わったことといい、先程のメンバーの雰囲気を一新させたことといい、やはり―――

 

 

 ここまで思考して、私たちに多大な影響を及ぼしている彼に目を向ける。

 彼は相変わらず尋常ならざる動きでアラガミを翻弄していた。

 時に同士討ちをさせ、時に自ら倒し、時にボルグ・カムランから切り取った尻尾などで別のアラガミに攻撃したりともうやりたい放題やってますといった感じだった。

 

 

 ―――ブラッドのメンバーが変わったのは彼の所為というかおかげと言えるのでしょう。それが良い方に向かっている変化なのかは、この際置いておくとして、ですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 夜である。

 結局あの後なんやかんやでアラガミの進行を止めた俺たちは、フェンリルの謎技術で作られた拠点(テント)にてレーションを初めとした携帯食料とナナがいつも持ち歩いているおでんパンで腹を膨らませた俺とロミオ先輩以外のブラッドメンバーはそこらで雑魚寝をしていた。

 起きている俺とロミオ先輩は今夜の見張り番である。ただ今、拠点が建っているところの近くにある一番大きく地形が盛り上がっているところにて絶賛警戒中である。今のところは影も形もないけどね。アラガミって寝るのかしら?

 

 

 「なぁ、仁慈。ちょっといいかな」

 

 

 どうでもいいことに思考を割いて時間をつぶしていると、俺と反対側を警戒しているロミオ先輩が急に話しかけてきた。

 

 

 「どうしました?まさかハルオミさんみたいに女性の好きな部位について語り合おうとか言い出しませんよね?」

 

 

 「ばっか、真面目な話だよ」

 

 

 声のトーンからして真面目な話だったようだ。戦闘時のように意識を切り替え、ロミオ先輩の話を聞き逃さないようにする。

 ロミオ先輩は何やら言いにくいことなのか何回か口を震わせては空気のみを吐き出す行動を繰り返していたのだが、意を決したのか俺に向けてはっきりと言葉を放った。

 

 

 「仁慈。俺のことを鍛えてくれないか?」

 

 

 「………はい?」

 

 

 どういうことなの……?

 真剣な表情で打ち明けてくれたロミオ先輩には悪いのだが、正直意味が分からない。 神機使いが強くなるにはジュリウス隊長が言っていたのだが慣れが必要だという。

 

 

 自分の数倍でかい化け物を相手取るには、誰しも感じるであろう恐怖心を抑え込んで行動しないといけない。ただでさえ自殺じみたことをしているんだし、黙って突っ立ってるだけならわざわざ殺してくださいと言っているようなものだ。

 そこで必要になってくるのが慣れ。いい感じに言えば適応。悪く言えば麻痺のことである。

 どんな状況でも動けるように慣れておくことが強くなる一番の近道とはジュリウス隊長の言葉である。

 だからこそ、俺の初期の訓練はあのような形になったんだと。

 

 

 そのことを知っているため、俺はロミオ先輩にそのことをはっきりと告げる。すると彼は首を横に振った。

 あれ?違った?

 

 

 「言い方が悪かったな。俺が言っているのは、俺の血の力を目覚めさせるのを手伝ってほしいんだ」

 

 

 「なるほど」

 

 

 今ではブラッドで血の力に目覚めていないのはナナとロミオ先輩だ。おそらく彼は自分よりも後に入ってきたはずの俺やシエル、ギルさんが血の力に目覚めたことにより焦りを感じているのだろう。

 

 

 「大体合ってるけど、お前が血の力に目覚めたことには納得だわ」

 

 

 左様で。

 

 

 「実はな、このまま血の力に目覚めないと死にそうな予感がしたんだ……」

 

 

 おいやめろ。

 ロミオ先輩が言うと冗談に全く聞こえないんですけど!?

 

 

 「その表情はお前も感じているようだな……。冗談には全く聞こえないと」

 

 

 妙に気取った語りをしているが、シャレにならない。

 

 

 「だからこそ、血の力に目覚める必要があるんだ!頼む!」

 

 

 「確かに死亡フラグが立っているんじゃないかと思えるくらいには確信できてしまうので当然手伝います」

 

 

 そういうとありがとうと言って喜ぶロミオ先輩。しかし、喜んでいるところ悪いのだが、血の力の目覚めるには感情を爆発、もしくはそれに近しい状態に持っていかなくてはならない。

 

 

 「か、感情の爆発?うーん……それって難しくないか?」

 

 

 「いえ、そうでもありません。ロミオ先輩俺がどうやって血の力に目覚めたのか思い返してみてください」

 

 

 「え?あー……確か、マルドゥークに襲われて、死にかけて……死にたくないって思って……あっ(察し)」

 

 

 そう。俺が血の力に目覚めたのは今現在影も形もない謎の声の可能性もあるが、おそらくは死にたくないという本能にも近しい感情の爆発によっておきたものであると考えている。つまり―――――

 

 

 「大丈夫です。幸い、相手には事欠きません」

 

 

 俺が指差す先には、さっきまで影も形もなかったアラガミたちの姿が!

 ほんと、タイミングいいな。

 

 

 「………今日はちょっと遠慮しておこうかなーなんて……」

 

 

 「慈悲はない」

 

 

 「アッーーー!」

 

 

 いやだいやだと駄々をこね始めるロミオ先輩を引きずって俺は今朝と同じようにアラガミの群れに突っ込むのであった。

 ロミオ先輩の血の力が覚醒すると信じてッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここでロミオが血の力に目覚めたらラケル博士(の中の荒ぶる神?)が涙目不可避。


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第三十八話

いつものごとく話が進まない。
そして、久しぶりのキャラ崩壊注意。


ゴッドイーターリザレクションに現を抜かして更新が遅れるかもしれません。
いや、ちゃんと書きますけどね?ほら……ゲームって時間を忘れちゃうから……。


 

 

 

 

 前回のあらすじ。

 死亡フラグが現在進行形で立っていることを予想したロミオ先輩は、俺に血の力の目覚め方を教わりに来た。そこで俺が取った手段は死ぬ一歩手前まで追い詰め、生存本能により血の力を目覚めさせる方法だった!

 果たして、ロミオ先輩に無事明日は来るのか!?自らの死亡フラグを打ち破ることができるのか!?乞うご期待!

 

 

 

 

 

 で、その結果。

 目覚めた。

 終わり。

 

 

 

 「おう、ちょっと待てよ仁慈。ほら、もっとこう……あったじゃん?語るべきことがさぁ。俺一晩中アラガミと戦ってその殆どの時間死と隣りあわせだったんだぜ?」

 

 

 「神機使いなんてやってればそのくらい普通普通」

 

 

 「そりゃそうなんだけどさ……」

 

 

 それに永遠とロミオ先輩が死に掛ける光景を語ったって何の面白みもないでしょ。ドラマチックのかけらもない。あったのは生物の本能にモノを言わせた泥仕合だったし。

いや、本来戦いはこういうものですけどね?

 

 

 「俺は自分が今この瞬間に生きていることがどれほどの奇跡の上に成り立っているのかを学んだけどな。っていうか原因であるお前がよくもぬけぬけと……」

 

 

 「いいじゃないですか。そのおかげか、凶悪な血の力に目覚めたんですから。何ですかアレ、アラガミが殆ど動かなくなったんですけど」

 

 

 そう。実はつい先程目覚めたばかりのロミオ先輩の血の力。例のごとく命の危機で目覚めたものなのだが、その命の危機というのがヴァジュラ四体にロミオ先輩が囲まれるという他の支部では壊滅必至、極東では日常茶飯事という状況だったのだ。

 

 

 さすがにまずいと思い、俺も神機片手にスタンバッていたんだがここで生存本能からくる強い意志が実を結びロミオ先輩から紅い色の風が吹きでた。

 そして、その吹き出た紅い風が周囲に居たヴァジュラたちの行動を完全に止めた。俺たちがヴァジュラたちに止めを刺すそのときまで。

 これを見た時、俺とロミオ先輩は同時に思った。

 

 

 ―――――なぁにこれぇ?

 

 

 アラガミの動きを強制的に止めるとか控えめに言ってもチートである。この能力を研究、利用すればアラガミ根絶やしも夢ではないし、アラガミ装甲壁に利用することができるならば完全に安全な地域を作り出すこともできる。ついでにあのサカキ支部長とラケル博士(あのマッドたち)の興味も逸らs―――ゲフンゲフン。

 

 

 「名前をつけるとしたらどんなのがいいでしょう圧殺?」

 

 

 「怖っ!?なんか俺のだけ感じちがくない?」

 

 

 えーっと……統制、喚起、直覚、鼓吹が今ある血の力でしょ。それに圧殺……やだ、すっごく浮いてる……。

 

 

 「こ、これでロミオ先輩もアラガミ絶対殺すマンの仲間入りですね!」

 

 

 「そのフォローの仕方はどうなんだよ……。そもそもその物騒な奴らは一体誰のことをいってるのさ。仁慈以外見たことも聞いたこともないんだけど?」

 

 

 「他のブラッドと極東の皆さん」

 

 

 「見たこと、聞いたことしかなかった人達!?」

 

 

 つーか知り合いしかいねぇ!と叫びを上げるロミオ先輩。

 そんなくだらないやり取りをしているうちに自分たちの周囲が明るくなっていることに気付く。軽く見渡してみると、いつの間にやら太陽がひょっこりと顔を出していた。どうやらこんなくだらないやり取りを俺たちは朝になるまでやっていたようだ。

 

 

 「まぁ、何はともあれ血の力に目覚めてよかったじゃないですか。正直、自分でやっておいてなんですけど……あれで血の力が目覚めるなんてそんなに思っていませんでした。しかもたった一晩で」

 

 

 「今聞き捨てならない台詞が聞こえた気がしたけど、まぁ確かにそうだな。正直今まで俺が悩んできたのはなんだったのかと思うくらいにあっさり覚醒したし……」

 

 

 なにやら落ち込んでいるロミオ先輩だが、覚醒方法が感情の爆発という漠然としたものだからなぁ。目覚めるときは案外簡単に目覚めるのかもしれない。このことに関しては考えないことが一番いい気がする。

 

 

 「……ま、いっか。結果として仁慈の言うとおり血の力に目覚めたんだし。感じていた死亡フラグの気配も完全に消え去ったしな。……みんなが起きたら自慢しよっと!」

 

 

 ロミオ先輩のほうも一応落としどころを見つけたのか、先程の彼本来の歳に見える真面目な表情を消し、いつものニタニタ顔でなにかを呟いていた。

 俺は俺で、今日もアラガミの大群が改修中のアラガミ装甲壁に近付かせないようにお掃除する仕事が始まるのかと溜息をついた。

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――

 

 

 

           

 

 

 「先程極東支部から連絡が来てな。アラガミ装甲壁の改修、終わったそうだ」

 

 

 「マジかよ」

 

 

 アラガミ装甲壁ってアナグラとか外部居住区とかを囲ってるんでしょ?結構な範囲のはずなのにそれを僅か一日で終わらせるなんておかしいんじゃありませんこと?

 え?いつものこと?ですよねー。

 

 

 「お前の言いたいことも分かる。俺だって、一週間は最低でもかかると思っていたが……これではまるでピクニックだな」

 

 

 「日をまたぐピクニックはちょっと……」

 

 

 あれはのどかなところを散歩感覚で歩くものだと思うんですよ。

 ジュリウス隊長とくだらない話をすることで徹夜の眠気をごまかしながら一日でお役ごめんとなった仮設拠点をてきぱきと片付ける。ついでに空中でふわふわ飛んでいるザイゴートも片付ける。シエルが。

 

 

 「ふむふむ……このバレットもいい感じですね。今度あげましょうか?」

 

 

 「それはとりあえずいいんで、片付け手伝ってもらえませんか?」

 

 

 何私関係ないですよーって顔でザイゴート撃ち落としてんだ。こっちは寝ずの番をした後なんですが。

 

 

 「………私はほら……周囲の警戒に当たっていますので、片付けはできないんです」

 

 

 「だったらしっかり警戒しろ」

 

 

 つい今しがたお前が撃ち落したものをよく思い出してみろ。ザイゴートだったろ。

 ここまで来させている時点で警戒の意味がまったくないじゃないですかーやだー。

 

 

 「仁慈ー!おでんパン一緒に食べよー!」

 

 

 「てめぇも手伝え」

 

 

 おでんパンを片手ではなく両手に持ってこちらに走ってくるナナに、寝不足も相俟ってかなり荒い口調でそう言った。このくらいは許して欲しい。というか完徹あけで眠気をこらえながら片付けをしているのに両手におでんパンを持つという明らかに手伝う気ゼロのスタイルで現れたんだからな。

 

 

 「おぉう。だいぶおこだね。カルシウム足りてn「―――――――ッ!」うわっ!冗談だよ、冗談!本当は仁慈を手伝うためにきたんだからっ!」

 

 

 ナナは両手に持っていたおでんパンを某ピンクの悪魔のように吸い込んで口の中に含むと俺の横でテキパキと片付けの作業に移った。無理矢理口の中に詰め込んだ所為で頬袋が大きく膨らんでかなり間の抜けた表情だ。

 まぁ、今更手伝われても殆ど終わっているんですがね。

 片付けを終え、手に持てるものを回収して左腕に抱え込む。すると隣におでんパンを食べ終わったのか普通の顔に戻ったナナがつく。

 

 

 「お疲れ様。後でおでんパンあげる」

 

 

 「いらない。睡眠プリーズ」

 

 

 「膝枕でもしてあげようか?」

 

 

 「ベットのほうが寝れそうだからいい」

 

 

 そういうと彼女は再び頬を膨らませてこちらにジト目を向けてきた。その視線から逃げるようにナナが居る場所とは逆のほうに目を向けてみればそこにはドヤ顔のロミオ先輩とぽかんとした顔をしているジュリウス隊長&ギルさんコンビが居た。なかなかにレアな光景である。

 よく見てみると、彼らの近くには今しがた倒したと思われるアラガミの死体があった。おそらく、ロミオ先輩が自分の血の力を彼らに披露したのだろう。

 初見は誰しもあんな表情になると思うし。

 

 

 「フフン、どうだ!これで俺もお前らと同じステージに立ったぞ!」

 

 

 「た、確かにそうだな。まさかここまでとは……」

 

 

 「そうだろう、そうだろう!……でも勝てる気はまったくしないんだよな。特にジュリウスと仁慈」

 

 

 「アレは神機使いとかアラガミとかそういう枠組み外のイレギュラーだからな。気にするだけ無駄だ」

 

 

 ギルさんがぽんと肩を叩く。

 なにやらロミオ先輩が天狗になったと思ったら勝手に落ち込んでいた。意味が分からない。

 まぁ、あのままだと余計な死亡フラグが立ちそうだったからよかったのかもしれないけど。

 

 

 上空から聞こえてくるヘリの駆動音に意識を割きながら漠然とそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フフ、最近ブラッド(あの子達)の様子はどうかしら。私の予想通りの成長を遂げてくれればいいのだけれど……」

 

 

 一人きりの部屋でそう呟き、ラケルは目の前にある巨大なディスプレイを起動し、ブラッドのさまざまな場面での映像が記録されているものを映し出した。

 何気なしにその操作を行っている彼女だが普通に犯罪である。犯罪ではあるが、そんな事は関係ないといわんばかりの迷わぬ手さばきであった。

 

 

 「ギルのほうは……しっかりと血の力に目覚めたようですね。……光速で動くとは思いませんでしたが」

 

 

 若干声が震えているものの、大まかな流れは変わっていないと一安心する。

 そこからしばらくは普通の日常が映し出されるが、つい最近行われたアラガミ装甲壁全改修のための防衛任務の映像を見たとき、彼女の表情ががらりと変化した。

 

 

 「え……えっ?」

 

 

 普段の様子とはかけ離れ、まるで普通の少女が驚いたかのごとき反応を見せるラケル。最初の頃に見せていた黒幕臭は休みを取ったのかと疑うくらいの変わりようだったた。

 彼女をそんなふうにした原因はもちろん自らが見ていた映像である。今、移っているのはロミオが血の力に覚醒した場面であった。

 

 

 「ロミオが血の力に目覚め……え?王のための贄は……?……えっ?」

 

 

 もう大混乱である。

 何とか考えをまとめようとしているもののまったく纏まっていない。むしろ今彼女の頭の中を埋め尽くしているであろう疑問の言葉がところどころ漏れ出していた。

 

 

 「………え?」

 

 

 

 この日彼女は唯ひたすらに自分の中から湧き出てくる疑問と戦いを繰り広げた。涙目で。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




決定的な原作崩壊フラグをおったてた仁慈君であった。 
これからどうしようか……。


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第三十九話

やぁ、またなんだ。すまない。
もうね、はじめの二日三日投稿が懐かしく思えてくるよね。
今回はナナ偏の導入みたいなものです。


 

 

 

 

 

 どうも。

 つい最近、神機使い初の試みを含んだ連続任務を無事に成功して帰還したにもかかわらず早々いつもより赤い目をしたラケル博士に「バーカ」と自分のキャラを忘れた罵倒をぶつけられた仁慈です。どういうことなの……。

 そのときは、いつもより早く車輪を回転させながら去っていくラケル博士の対応に色々と考えようとしたとき、反射的に俺の最終奥義現実逃避(リアルエスケープ)が発動。今まさに考えようとしていた事柄を頭の中から消し去った!

 困ったときはこの手に限る。正直、何をどう考えてもあの人のことを理解できそうにないからな。

 

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 

 気を取り直して、今日のお仕事をしにエントランスに向かう。

 なんというか、ここまでの行動が自分の体に染み付きすぎてて怖い。俺は真の社畜となってしまったのか……。まだ15歳なのに。 

 

 そんな事を考えながら通路を歩くと、途中にあった曲がり角から俺と同じく沈んだ雰囲気を纏ったロミオ先輩と遭遇した。

 どうしたんだこの人。数日前まではそれこそ極東支部に居る人全員に自慢するかのように自分の血の力について元気に触れ回っていたのに。

 

 

 「それが原因で極東の技術者たちに……」

 

 

 あっ(察し)。

 極東の技術者の訪問とかその時点で心中察しますわ。あれって超怖いよな。何故かサカキ支部長まで出てくるし。

 いやね、別に嫌いじゃないよ?いい人達だってことは普段の対応からして分かる。けど、技術者モードの彼らの相手は駄目だ。極東の代名詞……いや名物といっても過言ではない人格の突き抜けがモロに発揮されるからな。

 

 

 「それは本当にお疲れ様でした。次も頑張ってください」

 

 

 「おい!そこは俺のために口添えをするとか、そういうことはしないのか!?」

 

 

 やりませんよ、そんな事。

 もしそんな事をしてしまったら再び彼らの興味がこちらに来る可能性があるからな。俺の安息のためにしばし犠牲となってくれロミオ先輩。

 

 

 「こいついっそ清々しさを感じるくらいに自分のことしか考えてねぇ。仁慈俺がこのままで良いって言うのか!」

 

 

 「はい」

 

 

 「知ってた」

 

 

 相変らず対応がセメント過ぎる……と呟いているロミオ先輩だが、自分で言いふらしたんだから自業自得である。

 ま、仮に言いふらさなかったとしてもどこかしらでこの状況になると思うし、ぶっちゃけ早いか遅いかだけの違いだと思う。アラガミ……正確にはオラクル細胞かな?の活動を阻害する効果を持つ能力なんて人類の誰しもが「ころしてでもうばいとる」を実行するくらいには貴重だろうし。

 

 

 「正直に言うと、俺が口添えしたくらいでは止まりませんよ。ロミオ先輩だって自分の能力がどれだけ反則かわかるでしょう?」

 

 

 俺と一緒にAIBOのごとく反応した仲だし。

 

 

 「まぁな。その辺は俺でも理解してるよ。……だからおとなしくしてんだろ」

 

 

 既に妥協済みだったか。

 つまり今までのはただ単にこぼしたかった愚痴のようなものだろう。一夜にして人類すべての希望になってしまったのだからそれも当然といえる。

 え?だったらもう少し手心を加えてやれって?……ハハッ(目逸らし)。

 

 

 これからまたまた極東の技術者とのお話があるらしいロミオ先輩と別れた俺はひそかにその背中に合掌しつつエントランスに向かう。

 

 

 「今回の任務はウコンバサラの討伐になります」

 

 

 楽勝だな。

 

 

 

 この後、むちゃくちゃ滅茶苦茶にした。ウコンバサラを。

 

 

 

 

 

           ―――――――――――――――――――

 

 

 

 今日の任務楽勝すぎワロタ。

 高々ウコンバサラ十三体とかいつもに比べたら軽い軽い(白目)。

 

 

 そんなこんなでいつもより早く極東へ帰ってこれた俺はシエルと最近のブラッドの働き具合について色々意見を交し合っていた。

 簡潔にまとめれば頭おかしいで済むのだが、もっと具体的に話し合っているのである。基本的に脳筋な俺たちにはなかなか貴重な時間である。

 

 

 「ここ最近のブラッドの稼働状況ですが……」

 

 

 

 ふむふむとシエルの言葉に耳を傾けていると、後ろのほうから一応この話し合いに参加しているロミオ先輩とナナの話し声が聞こえてきた。何を言っているのかは声が小さすぎてよく聞こえないけど。

 ちょっとは真面目に聞こうよ……。

 後方の人達に若干呆れつつ、シエルの話に集中しようと意識を変えたその時、

 

 

 「ナナ?……おい、しっかりしろ!ナナ!!」

 

 

 先程のささやき声とはうって変わり、切羽詰まった声が俺の耳に届いた。シエルと共に即座に話を中断し、後方を振り返ってみればどう見ても気絶しているようにしか見えないナナをロミオ先輩が受け止めながら必死に呼びかけていた。

 おい、揺らすな。

 

 

 「シエル、俺は人を呼んでくるからそれまでナナの様子を見ていてくれ。一応救護の心得くらいはあるだろ」

 

 

 「はい。軍事訓練の一環として習いました」

 

 

 「じゃあ任せた。……とりあえずヤエさんを呼んでくるか」

 

 

 ヤエさんとはこの極東にいる看護師である。割と昔からいて、ここ極東の神機使いは一度必ずお世話になる相手らしい。

 ムツミちゃんに続いて極東で頭の上がらない人に名を連ねるお方である。

 

 

 「あ、そういえば今ここにラケル先生が来ているらしいぜ」

 

 

 「了解です。そっちも後で行きます」

 

 

 ナナのことはひとまず任せて俺はとりあえず助けを呼びに行った。

 というか、最近ラケル博士しょっちゅうここに来てるけど暇なのかね。

 

 

 

 

               ―――――――――――――――――――

 

 

 

 ヤエさんやラケル博士、他のその他もろもろの人達を呼びに言った後、ナナの代わりに任務に駆り出されました。

 俺って本当に都合のいい奴ね……。副隊長として当たり前の姿勢だけれどね。

 

 

 「それで、ナナの様子はどうだ?」

 

 

 現在、その任務をパッパと終わらせてナナの様子を見に来ました。

 え?早すぎだって?

 コンゴウ五匹同時なんて軽いk(ry。

 

 

 「ヤエさんの診断ではもうそろそろ目を覚ます頃らしいです。ラケル先生もこのようなことは初めてではないらしく、過去の経験から踏まえ、同じようなことを言っていました」

 

 

 ならひとまず安心だな。

 一安心だけど、何で俺の部屋でナナを寝かせているんだ。病室が開いてないのは分かる。黒蛛病患者を収容したばかりだからだ。

 でも、寝かせるのはナナの自室でよかったんじゃないんですかねぇ?

 

 

 「君の部屋のほうが近かったので」

 

 

 「そうだけどさ……」

 

 

 そんな感じの中身のない会話をしながらナナが起きるまでの時間をつぶしていると、今まで静かに寝ていたナナが急に上半身を起こして飛び起きた。

 若干体がビクリとはねてしまったのは内緒である。

 

 

 「あ、仁慈。……シエルちゃん……?」

 

 

 寝起きの所為なのか、どこか寝ぼけたような声で俺たちの名前を言ったナナ。

 呼ばれたほうの俺とシエルがコクリと頷くと、ナナは俺の部屋に居ることなんてまったく気にせずに自分の状況を冷静に把握し始めた。

 

 

 「そっか……また倒れちゃったのか、私」

 

 

 その口ぶりからすると過去に倒れたことがあるというのは本当のことだったようだ。 ナナは自分の現状を理解すると今度は普段の彼女からは想像もできないくらい悲痛な表情を浮かべて膝を抱えた。

 

 

 「……嫌な夢、見ちゃった……。お母さんが、血まみれで……!」

 

 

 「もう少し、横になっていたほうがいいですよ?」

 

 

 「うん、ありがと……シエルちゃん。そうするー」

 

 

 シエルに促され再びベットへ横になる。

 横になった彼女は、先程見た悪い夢に関係しているであろうお母さんのことについて話し始めた。人に話せば楽にもなるだろうから黙って聞くことにする。

 

 

 雪がよく降っていた山奥でお母さんと二人で暮らしてたこと。

 そのお母さんが神機使いだったこととその所為で一人で居る時間が長かったこと。

 けれど、お母さんとの約束でおでんパンをおなか一杯食べると寂しくなくなったり、お母さんがほめてくれたりしたこと。

 

 

 色々と話していると、ナナも落ち着いたのか今度は上半身だけでなく全身を起こして勢いよく立ち上がって俺たちにお礼を言ってきた。

 どうやら話を聞いていたことが功を奏したらしい。元気になったのはいいんだけど、そこ俺のベットだからあんまり激しく動かないでね?

 

 

 「んーよく寝た。その所為でおなかすいちゃった」

 

 

 「お前のそれは気絶に近いものであって睡眠じゃないから」

 

 

 「どっちも同じだよー。細かいことばっかり言ってると、おでんパンを口にくわえさせて黙らすよ」

 

 

 「そんな事したらお母さん泣くぞきっと」

 

 

 「ふっふっふ……何を言います仁慈さん。私はお母さんから直々におでんパンを継承したのです。つまり!私が当代のおでんパン将軍なのです!!」

 

 

 「何それ初耳」

 

 

 今まで影も形も存在してなかったぞおでんパン将軍。一体どんなものなんだおでんパン将軍。

 

 

 

 「馬鹿なこと言ってないでさっさとご飯食べてこい」

 

 

 そうすれば少しは本来の調子に戻るだろ。仕事の方は全て俺が片付けておいたし、ナナも充分にゆっくりできるだろう。

 

 

 「うん。それじゃ二人ともありがとね!」

 

 

 ぴょんとベットから跳び下りたナナはそのままこちらに手を振りながら退室していった。おい、俺のベットだって言ってんだろうが。

 

 

 「……そういえば、ナナの体調の件についてラケル先生が君の事を呼んでましたよ」

 

 

 「マジでか」

 

 

 ナナの状態を聞いたとしても、俺にできることなんて高が知れてると思うんだけどね。あ、でもカウンセリング的な話かもしれない。

 なんにせよ、行きますか。

 

 

 「ラケル先生は支部長室に居るらしいですよ」

 

 

 「ん、了解」

 

 

 そういえば、一日で二度もラケル博士に会うのは初めてな気がするぜ。

 

 

 

 

              ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 「サカキ支部長。こちらに居るラケル・クラウディウス博士に呼び出されてまいりました。仁慈です」

 

 

 「あぁ、仁慈君か。話は聞いているどうぞ入ってきたまえ。……後、前々から思っていたが、君は少々固すぎないかね?」

 

 

 「これが普通ですよ」

 

 

 むしろこれでも駄目駄目な部類に入る。元々居たところはフェンリルと同等のブラック企業あふれるところだったからなぁ。

 相変らず室長室にどこか合わないと感じさせるサカキ支部長にそう返した後、彼の近くに車椅子を止めているラケル博士の方向を向いた。

 こちらも変わらず背筋が凍るような薄ら笑いを浮かべているのだが、なんと言うかいつもより迫力がないのは気のせいなのだろうか。

 

 

 「久しぶりですね。仁慈」

 

 

 「いや、数時間前に会ったばかりでしょう?」

 

 

 ナナの様子を見てもらうように頼みに行ったのは俺なんですが。それを除いたとしても、数日前に俺を罵倒しに来ましたよね?もしかして、呆けましたか?

 

 

 「…………」

 

 

 「…………」

 

 

 俺とラケル博士の間にどこか気まずい雰囲気が流れる。

 どうやら彼女の反応を見るに、ラケル博士は先程の発言を本気で言っていたらしい。大丈夫かしらこの人。

 

 

 「……あ、貴方を呼んだのは他でもありません。た、倒れたナナについてです」

 

 

 「声震えてますけど」

 

 

 「問題ありません」

 

 

 斜め上に視線を逸らされながら言われても説得力皆無なんですがそれは……。

 ツッコミを入れるべき場所は多々あったものの、このままでは話が進まないので自分の中で渦巻く疑問を飲み込み彼女の話に耳を傾けることにした。

 

 

 「ゴホン……まず、仁慈。貴方はゴッドイーターチルドレンという言葉を聞いたことがありますか?」

 

 

 「神を喰らう子どもとか超強そうですね」

 「真面目に答えなさい」

 「hai!!」

 

 

 いつもの怖さではなく普通に女性的な恐ろしい雰囲気を放ってきたラケル博士に降伏し、俺は真面目に答える。

 

 

 「聞き覚えはありませんね。意味としては読んで字のごとく、神機使いの子どもですか?」

 

 

 「えぇ、そうです。最初からそう答えてください。……ゴッドイーターチルドレンの意味は大まかに言えば正解です。訂正するならば、神機使いを親に持つ……生まれながらにして体内に偏食因子を宿している子どもです」

 

 

 「それがナナですか」

 

 

 「その通りです。彼女の場合は生まれ持った力が大きすぎる子だったので、偏食因子を安定させるのに数年かかりました。過去に起きた気絶もそれが原因でした」 

 

 

 「つまり今回もその大きな力が原因だと?」

 

 

 「いいえ。今回の件は……おそらく彼女の中の血の力が目覚めようとしたのではないか、と」

 

 

 「根拠は?」

 

 

 なにやら自信があるようなのでその根拠となるものを聞いてみる。

 え?なんで自信があると分かるかって?この人微妙に胸を張っているからな。

 

 

 「勘です」

 

 

 「おい、博士だろ」

 

 

 最近から崩壊しすぎぃ!

 

 

 「そこで、仁慈にはナナのサポートして欲しいのです。貴方の喚起の力で、健やかな血の力の覚醒を」

 

 

 「え?何事もなかったかのように続けるの?」

 

 

 「貴方達は血を分けた家族です。その力でどうか彼女を導いてあげてください」

 

 

 「無視!?」

 

 

 言いたいことだけ言って彼女は支部長室を出て行った。

 えぇ……。

 

 

 あふれ出る打ち切り感に呆然として動けない俺を、最初から最後まで会話を聞いていたサカキ支部長が苦笑いで眺めていた。

 

 

 



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第四十話

もう五日周期でいいかな(諦め)。
今回はナナ偏の前編的なないようです。
本当はひとつにまとめたかったんですけど、リアルの都合で投稿が遅れそうなので報告もかねてあげることにしました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日は仁慈さん個人に任務を出されているわけではなく、ブラッドに任務が届いています」

 

 

 「内容は?」

 

 

 「シユウ三体の討伐です」

 

 

 「どうした極東」

 

 

 最近軽い任務しか発行してないけど何かあったんですかね?今までの殺しに来ているんじゃないかと錯覚するくらいの任務に比べればだいぶ軽いのが続いていて逆に怖いんですけど。

 

 

 「仁慈さんが疑問に思うのもわかります。極東の殺意を直接浴びていたといっても過言ではないくらいのアラガミと戦ってきましたからね。すでに討伐数なら極東でも上から数えたほうが早いくらいにはなっています」

 

 

 「自覚する機会なんてなかったけど、これは働かせすぎだろ………」

 

 

 極東に来てそこまで経過していない俺が討伐数上位に食い込んでくるとは……極東の闇は深い。

 

 

 「サカキ博士があなたのことを気に入っているみたいですからね……まぁ、仁慈さんに任務を与えているのは大体ラケル博士ですけど」

 

 

 もう突っ込まないわ。あの人が何をしていようと俺にできることはないんだと最近悟ったから。

 

 

 「ま、ラケル博士のことは置いといて……ナナもその任務に参加するんですか?」

 

 

 ナナは昨日ぶっ倒れたばかりだ。今朝会った時には特に変わったところは見られなかったものの、戦場では僅かな隙が命取りになる。

 前日倒れたナナを連れて行くのはあまり賢い選択とはいえない。

 

 

 「本人の希望もあり参加ということになっていますね。現在はラケル博士の下でメディカルチェックを受けている頃かと思われます」

 

 

 ラケル博士止めたりとかはしてくれないのね……。

 彼女がナナのことを止めてくれないかと少々期待してみるものの、なんだかんだでブラッドのメンバー(俺を除く)には甘いラケル博士のことだし、止められないんだろうなぁ……。そうして最後には俺に放り投げてくるんだろうなぁ。

 

 

 「………分かりました。なら俺はいつぞやのように、ベテラン二人組みともしものときの対処の仕方を確認してきますね」

 

 

 

 ありがとうございましたと、いつものごとく竹田さんにお礼を告げて、俺はエントラスを後にした。

 あ、その前に回復錠買っておかないと……。

 

 

 

 

 万屋さーん!相変わらず通報されてもおかしくない格好、外見ですねー!

 うちで喧嘩の買取はしてないよ。

 

 

 こんなやり取りしてたら、集合に遅れました。

 

 

 

 

 

              ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 「……前々から思ってたんだけどさ。ここ年がら年中雪降ってるよな。なんでだ?」

 

 

 「さぁ?アラガミの所為じゃないんですか?」

 

 

 俺が元々居た世界では何でもかんでも妖怪の所為になっていたらしい。朝から寝坊したのも顔が悪くないのにモテないのも全部妖怪の所為なんだそうだ。

 だから、この世界の異常の原因は全部アラガミの所為なのである(暴論)。

 というか、モテないのは普通に顔が悪いんじゃね?それか性格。

 

 

 「まぁ、そんな事はどうでもよくて。ナナは体調、大丈夫か?少しでもきつく感じているならあのヘリで待ってても良いんだぞ?」

 

 

 自分から話を振ってきたのにかなりおざなりな反応を示すロミオ先輩。ナナを心配するのは良いですけど、扱いがあんまりじゃありませんか?普段が普段なので俺に言い返す権利はないけどね!自業自得とはこのことか……。

 

 

 「へいきだよー。まったくロミオ先輩は心配性だなー」

 

 

 つい昨日、それも目の前で倒れたとなれば心配もすると思うぞ。

 さっきヘリに乗っている時だって、どこか顔色が悪そうだったし。

 

 

 「そうか……けど、何かあったらすぐに言えよ?きっとジュリウスか仁慈が何とかしてくれるから」

 「オイ」

 

 

 全力で他人に寄りかかってくるスタイルを取るロミオ先輩。違うな。寄りかかるどころかこちらにキラーパスしてきやがった。

 そこまで言ったら自分で何とかするとか言おうよ……。

 

 

 「うん!もし何かあったら仁慈を馬車馬のごとく使うねー」

 

 

 「え?マジで?」

 

 

 笑顔で肯定された。何この子、超たくましいんですけど。

 昨日もしくは今朝に見られた弱々しい彼女の姿はそこにはなかった。いや、この態度も強がりの可能性があるからまだ一概に良いとはいえないんだけどね。

 

 

 ロミオ先輩とナナが俺に対して好き勝手言っている中、会話に参加していなかったジュリウス隊長は同じく会話に参加していないものの、僅かに唇の端を吊り上げていたシエルに今回の目標であるシユウの捜索を頼んでいた。

 

 

 「とりあえずあいつらは放って置いて……シエル、今回の目標であるシユウがどの辺に居るのか分かるか?」

 

 

 「少々お待ちください」

 

 

 ジュリウス隊長の声に簡潔に反応した後、シエルは自分の神機を地面に突き刺してざっと辺りを見回す。

 

 

 「北側、東側、西側にそれぞれ大きなアラガミの反応があります。おそらくシユウでしょう。この距離ならば合流する可能性は低いと思われます」

 

 

 「つまり?」

 

 

 「ヤるなら今ですね」

 

 

 あらやだシエルさんたら物騒だわ。満面の笑みで言い切った彼女に対する恐怖は計り知れないと、戦々恐々としたものの、割と日常の範疇だったので気にしないことにする。

 それにしてもやっぱりシエルの力は便利だな。彼女の能力も活用できたらさらに生存率が上がるよね。

 

 

 「シエルその三体のうちどいつが一番近い?」

 

 

 「西側、東側共に同じくらいの距離です」

 

 

 んー……なら二手に分かれてそいつらを同時に倒すか。んで、最後に残った北側の一体をブラッド全員で袋叩きにすれば良いだろ。

 今しがた思いついたそれをジュリウス隊長に伝えると彼はパッパとブラッドを二つのチームに分けた。東の敵は俺、ナナ、ロミオ先輩。西はジュリウス隊長、ギルさん、シエルという構成だ。

 

 

 「よし、分かれたな。仁慈、そちらの指揮は任せる」

 

 

 「了解です」

 

 

 それじゃあ、アラガミを殲滅するだけの簡単なお仕事はっじまるよー。

 ジュリウス隊長に背を向けて俺が率いるβチームは死角から出てくる小型アラガミを相当しながらシエルが示した地点へと向かう。

 その途中でさりげなく背後にいる二人の様子を見てみるが特に変わった様子はなかった。いつも通りアラガミがかわいそうなことになっているだけだった。

 

 

 「仁慈。シユウ見つけたよ」

 

 

 「わかった」

 

 

 俺が背後の方に気を配っているとナナが先にシユウを見つけたらしく報告をしてくる。彼女の指差す方向を見てみれば、確かに入り組んだ道の端で、地面から何かを拾って捕食しているシユウを発見できた。

 毎回思うんだけどあれ、何を食べてんだろう?俺たちがたまに回収する素材を食べているんだろうか?

 

 

 そんなことを考えながらも、捕食に夢中になっているシユウに気づかれないように接近をする。

 普段は見た目通り人外的な視覚・聴覚でこちらを補足してくるのだが、このように捕食に集中している場合は割と簡単に近づけるのだ。さすがに神機をガシャガシャしたら気づかれるけど。

 

 

 「おぉー。相変わらずいい食べっぷりだね」

 

 

 「んなのんきなこと言ってる場合かよ……」

 

 

 「とりあえず、ロミオ先輩。そのバスターでこのシユウを一刀両断してください」

 

 

 「はいよ」

 

 

 俺の言葉に簡潔に反応し、ロミオ先輩は両足を程よく広げて重心が安定しやすい体勢を取ると、神機を担ぐよう構える。

 そして、神機が謎の黒いオーラに包まれると、その神機を垂直に振り下ろした。

 唐突に脳天から自身を両断する一撃を受けたシユウは何の反応もできずにそのままコアを切り裂かれ、絶命した。

 

 

 「コレデヨイ」

 

 

 「自分でやっといてなんだけどえげつないな……」

 

 

 「ロミオ先輩やるぅー」

 

 

 予想以上に早く倒してしまったので、とりあえずジュリウス隊長に連絡を入れる。

 

 

 「ジュリウス隊長。こっちはもう終わったんですけど、そっちはどうですか?」

 

 

 『こちらも終わった。だが、仁慈気を付けておけ。俺たちが請け負ったシユウ……すでに手負いだった』

 

 

 「共食いですか?」

 

 

 『おそらくそうだろう。しかし、アラガミの性質から言って残り一体のシユウである可能性は低い。近くにシユウを攻撃したほかのアラガミがいるはずだ』

 

 

 「わかりました。こちらも警戒しておきます」

 

 

 通信を切って今もたらされた情報を自分の中で整理する。

 シユウが傷を負っていたということは、ほぼ間違いなく中型、大型のアラガミが相手だろう。正直、無傷のシユウをオウガテイルなどの小型アラガミが倒したとは考えにくい。

 そもそも、生物をかたどっているからか自分より強そうな相手には基本的に向かっていかない。手負いでも少々渋るくらいだ。

 つまり、今このエリアの付近にはシユウを傷つけた中型もしくは大型アラガミが存在しているということだ。……さすが極東。

 今朝どうした極東とかナマいってすいませんでした。極東先輩マジぱねっす!

 

 

 ハァ……とにかく伝えておこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 ロミオ先輩とナナに警戒する旨を伝えた後、残り一体のシユウを倒すために階段を登り、一番奥にある寺へとやってきた。

 

 

 「ん?」

 

 

 「おぉ、タイミングばっちり」

 

 

 元々、合流する予定だったのだがその必要はなかったらしい。俺たちとジュリウス隊長はほぼ同時に最後のシユウが居る場所についてしまった。

 俺とジュリウス隊長はお互いに頷き合うとその身を影に隠しつつ、寺の中に居るであろうシユウの様子を伺う。

 すると中には、すでに絶命しているシユウの姿があった。

 

 

 「こいつは……」

 

 

 「先程のシユウよりもひどいですね。既にヤられた後のようです」

 

 

 ジュリウス隊長と共に手負いのシユウと戦ったギルさんとシエルが呟く。

 多少崩れつつも、形を保っているということはやられてから時間は殆どたっていないな。

 

 

 「皆周囲をよく警戒しろ。近くにこいつをやった奴が居る可能性がある」

 

 

 「必要ありませんよ。向こうから来ました」

 

 

 シエルがそういうのと同時に、寺の穴からヤクシャ・ラージャが五体侵入しこちらに向けてロックバスターを構えていた。

 この狭い空間でヤクシャ・ラージャ五体はさすがにきついぞ……!

 

 

 『ブラッド隊聞こえますか!半径100m内に大きなアラガミ反応。おそらくは全員ヤクシャ・ラージャです。数はおよそ10体!』

 

 

 「勘弁してくれよ……」

 

 

 同感だロミオ先輩。

 ここに来ておかわりとか勘弁して欲しいぜ。

 なんて嘆いているうちに俺たちが入ってきた方向からもヤクシャ・ラージャが優々と歩いてきた。

 普段と変わらない表情のはずなのにどこか愉しんでいるような雰囲気をかもし出していて実に不愉快である。

 まぁ、囲まれたとしても俺たちのやることはかわらない。目の前に出てきたアラガミは倒すだけである。慈悲はない。

 ぐっと足の筋肉に力を入れて、地面を蹴り、ヤクシャ・ラージャに接近を試みようとしたときに、

 

 

 「お、かあ……さん……」

 

 

 あ、なんか嫌な予感。

 

 

 

 

 

 

 

 

               ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなが、ブラッドのみんなが無数のヤクシャ・ラージャに囲まれている。

 こんな光景を前にも見たことがあるような……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――ナナ、貴女だけでも……逃げて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――大丈夫……君の事は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――なに!?く、くそぉぉおおおお!!

 

 

 

 

 

 

 

 思い……出した……。

 アレは私の所為だったんだ。

 私の所為でみんな死んじゃったんだ。

 わたしのせいでしんじゃった。

 

 

 このままだと、ぶらっどのみんなも死んじゃう?

 また、わたしのせいで?

 いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだいやだ。

 

 

 

 「いやぁぁぁぁああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

               ―――――――――――――――

 

 

 

 

 「ナナ!?」

 

 

 なんかすっごい紅い波動が出ているんですが大丈夫なんですかッ!?

 

 

 『これは……偏食場パルスの乱れが……!ブラッド隊聞こえますか!?強力な偏食場パルスの乱れを確認!周囲のアラガミがそこに向かって集まってきています!』

 

 

 

 全然大丈夫じゃなかった。

 強力な偏食場とかどう考えてもナナのことである。さっきナナからでた波動のことから考えて、血の力の暴走か?

 ナナの様子を伺っていたことが隙と見たのか、巨大な爪を振り上げるヤクシャ・ラージャに習得したは良いもののまったく使わなかった二つ目のブラッドアーツをぶつけて分解する。

 ちなみにこの血の力、俺が神機を振るうとその近くに無数の斬撃が現れて追撃してくれるというものだ。気分は某堕ちた英雄さんである。

 

 

 「仁慈!アラガミのほうは俺たちに任せてナナを落ち着かせろ!」

 

 

 「いきなり無茶言わないでくれません!?」

 

 

 お前ら俺に投げれば良いとか思ってないだろうな!?

 そんな事を考えつつ、昔我が家族の知恵袋であったおばあちゃんの言葉がよみがえる。

 曰く、泣き止まない子が居るならそのこを抱いて、心臓の音を聞かせつつ背中を叩いてやるのだと。

 男女間でこれをやるのはちょっと戸惑うが生憎とそんな事を言っている場合ではないので即実行。文句を言われたら後で土下座でもすればいいだろ。

 

 

 神機を地面にほっぽって、空に向けて嘆くナナの肩をなるべく優しく抱きこみ、頭を俺の心臓の辺りに当てるように軽く右手で誘導する。

 そして、余った左手で彼女の背中を一定のリズムで叩いた。

 よーしよーし、もう大丈夫ですよー。

 

 

 初めのうちはえんえん泣いていたナナも、三十秒たつころには落ち着いてきたようで、大きな声で鳴くのではなく少々ぐずる程度になった。

 おばあちゃんの知恵袋はさすがやでぇ……。

 ちなみに三十秒間どうしてそんなに無防備で居られたのかというと、ブラッドメンバーがきっちり守ってくれました。

 ラージャのほかにも大型アラガミが増えてたというのにすごいわ。

 

 

 

 『こちら極東支部第一部隊!ブラッド隊の状況を聞いて応援にきた!ある程度の数はこっちで請け負うから早く撤退するんだ!』

 

 

 「応援感謝する。仁慈、ナナをつれて先に離脱していろ。ここは俺たちが足止めしておく」

 

 

 この戦況でさらっといえる辺り、頼りになるし負ける気がしなくなるな。

 

 

 「よろしくお願いします。……ナナ、自分の神機は持てそう?」

 

 

 

 問いかけに、神機を強く握り返したことで返事をくれたナナを横抱きにして持ち上げて、その場を離れようとジュリウス隊長に背を向ける。そして、戦線を離脱しようと走り出そうとした俺の背にジュリウス隊長の言葉が届いた。

 

 

 「任せておけ。足止めなんてたいしたことはない。むしろ――――別にあれ等全てを片付けてしまってもかまわんのだろう?」

 

 

 やべぇ。一気に不安になったわ。

 大丈夫なのかと思わず振り返りそうになったが、何とか自制して俺は戦線を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――その日の夜。第一部隊およびブラッドは特に問題もなく極東支部に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




祝四十話(ボソッ
意外と早いものですね。


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第四十一話

ナナ偏の後半です。
今回なんか雑な部分が目立ちますが大目に見てくれると助かります。
我慢ならなければ指摘してくれてもかまいませんけどね。


 

 

  「よくもまぁ、あのアラガミの群れから逃げおおせましたね」

 

 

 俺がナナを抱えて逃げているときでも結構な数のアラガミに襲われたけど、あのときのジュリウス隊長たちの相手はそれをはるかに上回り、そしてその殆どが大型という状況だったはずだ。

 ヒバリさんも、俺が運び出す直前まで最大出力で暴走していたナナの力が原因で周囲に居る殆どのアラガミがあそこに向かっていたと証言してるし。あんな狭いところでどうやって逃げたんだろうか?

 

 

 「……?何か勘違いをしているようだな。俺たちは逃げてきたのではなく殲滅して帰還したんだ」

 

 

 「立てたはずの死亡フラグがストライキを起こした……だと……?」

 

 

 特に誇るわけでもない、まるで普段話をするような感じで己がやったことを口にするジュリウス隊長。

 もちろん。ジュリウス隊長に死んで欲しかったわけではない。この結果は俺が望んだものだ。望んだものなのだが、なんと言うかどこか納得できない……。まるで、優勝の人の反則が発覚して繰り上がりで一番になった……そんな感じだ。

 

 

 

 「と、そんなことよりナナの様子はどうだ?」

 

 

 「なんかサカキ支部長がナナの力が外に漏れださないような特別な部屋があるといってそこに連れて行きましたけど」

 

 

 極東に帰還した時はついついサカキ支部長に任せてしまったが、今にして思うとどうしてそんな部屋が既に用意されていたんだろう?

 そこまで考えたが、あのラケル博士と通ずるところがあるサカキ支部長のことだ。〝こんなこともあろうかと″の精神で用意したんだろ。きっと。たぶん。メイビー。

 

 

 「そうか。それならひとまずは安心といったところか。……今日はもう遅い。各員明日に備えてしっかり休んでおけ」

 

 

 どうやらジュリウス隊長はナナのことをサカキ支部長にまかせたようだ。まぁ、俺たちにできることなんてぶっちゃけほとんどないからなぁ。こればっかりは本人の心の持ちようだと思うし。

 ナナを心配しているのかどこか暗い表情のブラッドメンバーとアラガミ装甲用の素材が結構手に入ったと喜んでいる藤木さん、今にも死にそうな顔のフォーゲルヴァイデさんを見送り俺も部屋に戻ることにした。

 

 

 「ちょっといいかな?」

 

 

 したんだが、どうやら俺の仕事はまだ残っているらしい。

 いつの間にやら俺の背後にぬるっと忍び寄っていたサカキ支部長に話しかけられ、俺はもっと普通に話しかけなさいと注意したのち、ここではなんだからと言うサカキ支部長についていった。

 

 

 そんな感じでホイホイとサカキ支部長について行くと、連れて来られたのはいつもの支部長室ではなくその下の階層にある研究室であった。部屋の存在は病室に用があった際に知っていたが実際に入るのはこれが初めてである。

 初めて入る研究室に入室すると、床一面に張り巡らされた電線と部屋の中央に置かれていた四画面式のディスプレイが一番に目に付いた。

 何ここすっごい歩きにくいんだけど……。

 

 

 「少々ごちゃごちゃしているが気にしないでくれたまえ」

 

 

 「いや無理だろ」

 

 

 そんな事言うならどうして支部長室ではなくこっちに呼んだのか。

 

 

 「どうしてこんなごちゃごちゃして話の聞き辛いところにつれてきたのか、とでも言いたげな顔だね」

 

 

 何故ばれたし。

 

 

 「なに、唯の経験則だよ。それでだ。君が気になっているであろうここに来てわざわざ話をする理由だが……実はこの部屋の奥にある集中観察室にナナ君をかくまわせてもらっていてね。未だに精神が安定していないから、ここで様子を見ながら話をしたいというわけだ」

 

 

 「その集中観察室ってなんですか?」

 

 

 「昔ある事情で作ったものでね。ナナ君の血の力も外に影響を及ぼさないような構造になっているんだ」

 

 

 まったく俺の問いの答えになっていないんですがそれは……。まぁ、今は良いか。それよりここにナナが居るって言ったけど大丈夫なんですかね?

 その旨を四つのディスプレイを持つ機械をいじくっているサカキ支部長に尋ねる。

 

 

 「今からしっかりと説明させてもらうよ」

 

 

 彼はカタカタと打ち込んでいた手を休めて、椅子の背もたれに寄りかかるとゆっくりと口を開いた。

 

 

 「まずはどうしてあそこまでアラガミ達が集まったのかということから話そうか。君たちが血の力を発現させる時、その周囲に強力な偏食場パルスを発生させるんだけど……昨日の任務遂行時にアラガミの異常行動の原因となった強力な偏食場パルスはナナ君から発せられたものだと推測される」

 

 

 「でしょうね。何故あんなにヤクシャ・ラージャが来たのかは別として、その後に現れた大多数のアラガミがこっちに来たのは明らかにナナの血の力が原因でしょう」

 

 

 タイミングが完璧すぎたし、何より強力な偏食場パルスを発している所為か、血の力を出すとき特有の赤い波動がナナの体から吹き出していたのも確認しているしね。

 

 

 「やはり気付いていたようだね。正確には不完全な血の力の覚醒の効果だ。さて、あの不可思議なアラガミバーゲンセールの原因も解明に近しいようなことをしたことだし、ナナ君の様子について話そうか」

 

 

 「お願いします」

 

 

 「現在の彼女の状況だけど、きわめて精神が不安定な状態だよ。今は落ち着いているが、正直いつあのときのような状態になってもおかしくはないね。どうやら何かしらのトラウマを抱えているようでそれが全ての原因のようなんだけどね……」

 

 

 「こればっかりは本人次第ですからね」

 

 

 「その通りだ」

 

 

 心の問題とは大体そんな感じでしか対処できない。もしくは何かしらのイベントというか派手な出来事が起きれば荒治療になるものの回復の可能性が出てくる。

 え?なんでナナにトラウマがあるってわかるかって?

 あの錯乱のしようはそんな感じだろうとあたりをつけてるだけですよ?要は勘みたいなものである。多分間違ってないと思うけどね。

 

 

 「話も終わったし、もう部屋に戻ってもらって結構だよ。ナナ君との面会はもう少し精神が安定してからのほうがお互いに良いだろうしね」

 

 

 「そうですね」

 

 

 まぁ、精神が安定してきたらおでんパンでも作ってお見舞いの品として持っていこう。そのついでに彼女の話を聞けば多少は楽になるでしょう。

 もちろん無理強いする気はないけどね。

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 さて、翌日である。

 昨日の解散時と同様にみんながナナを心配しつつ任務に出る中、何故か俺はソロでアラガミ討伐の任務に当たっていた。毎回思うんですけど、どうして俺だけソロプレイなんですかね。

 おっと、愚痴はいいとして、今日の任務のターゲットはスサノオという外見がボルグ・カムランと似通っている第一種接触禁忌アラガミである。

 しかし、ボルグ・カムランでは盾となっている両腕の部分が口になっていて神機を好んで捕食するという変わった偏食因子を持っている。神機使いの天敵といってもいいだろう。一説ではアラガミ化した神機使いの成れの果てとも言われているが真相は定かではない。

 

 

 「GuAaaaaa………」

 

 

 もう倒したけど。

 ボルグ・カムランで言う尻尾の部分(スサノオでは剣というらしい)をぶっ壊し、右腕を切り落とされたスサノオは俺にコアを喰われ、その形状を崩しつつあった。

 そんなスサノオを踏みつけつつ竹田さんに任務終了の報告を入れる。ちなみになんでスサノオを踏みつけているのかと聞かれれば神機を喰われそうになったからである。

 

 

 「竹田さん。任務完了しました」

 

 

 『はい。こちらでも反応の消失を確認しました。第一種接触禁忌アラガミの単独撃破お疲れ様でした。任務が終わった直後で申し訳ありませんが、外部居住区に侵入したアラガミの討伐をお願いします』

 

 

 この前対アラガミ装甲壁全改装してなかったっけ?突破されんの早すぎない?

 

 

 「了解しました」

 

 

 『ありがとうございます。では今から迎えのヘリを―――――えっ!?それは本当ですか!?』

 

 

 「どうかしましたか?」

 

 

 声の感じからしてまた厄介ごとっぽいけど。

 

 

 『外部居住区に侵入したアラガミたちがフェンリルの運送車に群がっています。腕輪の反応や強力な偏食場パルスを発しているところからナナさんが乗っているものと思われます!』

 

 

 oh………。

 確かに昨日トラウマを克服するには派手な出来事とかイベントが起きれば回復の可能性はあるとは思ったけどさ。回収早すぎだろ。

 というか、ナナって車運転できたのか……。

 

 

 『仁慈さん!ヘリの準備ができましたのでそちらに向かわせます!』

 

 

 何時も以上に焦っている竹田さんの声に返事を返そうと口を開こうとしたとき。僅かに残っていたスサノオの死体を捕食しようとしているヴァジュラと目が合った。

 ……どこからこいつが現れたとか、何気に俺ピンチだったんじゃないかとか、そういうことは後で考えるとして……

 

 

 「竹田さんヘリは別の部隊に回してください」

 

 

 『えっ?』

 

 

 「いい足見つけました」

 

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――――

 

 

 

 走る走る走る。

 なんか勢いで脱走じみたことをして車をパクって走ってるけど、緊急事態だから少しは許して欲しい。

 外部居住区に侵入したアラガミを何とか全員釣り上げて、私は昨日自分が錯乱したお寺がある場所へと盗んだ車を走らせた。

 その辺で車を止めて、後ろに乗せてある神機を担いで外に出る。どうやら外部居住区のアラガミだけでなくここに来るまでにすれ違ったアラガミたちも付いてきてしまったようでその数は数十体にも及んでいた。

 

 

 「うわー」

 

 

 狙っておいてなんだけどこの数はさすがに予想外だったなー。

 自然と私を囲むような形で距離をつめてくるアラガミの群れを睨みつけながら両手に持っている神機をよりいっそう強く握り締める。

 いつもの調子ならこのくらいはいけるんだけど、今は自分でも分かるくらいに精神が不安定だからなぁ……。

 けれど、

 

 

 「やらないと、だね」

 

 

 もう自分だけが守られるなんて絶対に嫌だから。

 

 

 正面から襲い来るオウガテイル三匹の噛み付きを、頭にブーストハンマーを叩き込むことでやり過ごし、背後と両側から猛スピードで飛んでくるザイゴートをしゃがんで回避する。ザイゴートたちはお互いにぶつかり合ってふらついていた。

 その隙を突いて、脚に力を込めて地面を蹴り上げ、ふらついているザイゴートたちの上を取ると空中で一回転をして遠心力を上乗せした攻撃で地面に叩きつけた。

 

 

 死んだザイゴートたちの屍骸を踏みしめて着地し、今度は遠距離から雷を落とそうとしているヴァジュラテイルに向けてハンマーに内蔵されているブースターを吹かし急接近しそのまま加速した分のエネルギーを乗せて振り切る。

 それを喰らったヴァジュラテイルは背後にいた複数体のアラガミを巻き込んでお寺の壁に埋まった。

 

 

 

 「グルァ!!」

 

 

 「―――っ!」

 

 

 危なかったー。

 ちょっと力込めすぎてふらついているところにオウガテイル堕天種が飛び掛って来て、とっさにバックステップしてなければ頭食べられてたかも……。

 

 

 「やっぱり……きつかったかな……?」

 

 

 何時より切れるのが早い息を整えながらぼそりと呟く。

 多少は減ったもののまだまだ多くのアラガミが私を囲っていた。しかも、

 

 

 

 「GAAAAAAAAAAAAAAA――――――!!!」

 

 

 「くっ」

 

 

 すっごく強そうなのが来た。

 ヴァジュラのような体躯ではあるけど、全身が黒く顔は人間の顔のようになっている。周囲に紅い雷を撒き散らしながら向かってくる姿からは絶対に勝てないと思わせるオーラがあった。

 その黒いヴァジュラ擬きを呆然と見つめていると、急にその黒いヴァジュラ擬きが咆えこっちに向けて紅い雷の弾を放っていた。

 

 

 「ヤッバ……ッ!」

 

 

 呆然としていた時間が完全に隙となり、回避行動が遅れる。このままじゃあ直撃する!

 一か八かでジュリウスや仁慈がやっているように、紅い雷に神機を振るった。

 

 

 

 ――――その直後、想像を絶する衝撃に思わず神機を手放しそうになるが、歯を食いしばって無理矢理神機を振りぬいた。

 私を狙った雷はすぐ隣にある石垣に当たって霧散した。

 

 

 「はぁ……はぁ……なんとかなった……」

 

 

 けど、今の攻撃を防いだことで体に力が入らなくなってしまった。もう回避する力すら残ってない。

 対して黒いヴァジュラ擬きはまだまだ力が有り余っているようで既に次の攻撃に移っていた。

 

 

 私、ここで死ぬのかなぁ……。それはやだな。まだ食べたいものいっぱいあるし、ブラッドのみんなと一緒に過ごしたいなぁ……。

 

 

 紅い雷が再び放たれる。

 せめてもの抵抗として、絶対に目を逸らさないようにと自分に迫り来る雷を睨みつけて――――

 

 

 

 「――――ピカ〇ュウ十万ボルト!」

 

 

 ――――――そんな聞き覚えの有る声が耳に届いた。

 

 

 そして、その次の瞬間。

 私の目の前に青白い色の電撃が落ち、黒いヴァジュラ擬きが放った紅い雷を消し去った。

 

 

 「えっ?」

 

 

 唐突に起きた出来事に頭がまったくついてこない。何で上から電撃が?というか今の声完全に仁慈のだよね!?

 

 

 「おー、ギリギリセーフって所か?」

 

 

 何がなんだか分からずにおろおろしている私のすぐ隣からさらに私を混乱させた仁慈の声が聞こえてきた。

 こんな状況なんだけど、文句のひとつでも言ってやろうとそちらに視線を向ける。

 

 

 

 

 

 「よしよし。よく間に合ったな。えらいぞー」

 

 

 

 「グルル……♪」

 

 

 するとそこにはヴァジュラに乗って頭をなでている仁慈が居た。

 もうわけが分からないよ……。

 

 

 

 「ナナ無事か?」

 

 

 「精神的にはもう死に掛けてるよ……」

 

 

 「……?まぁ、いいや。ぱっと見、傷はなさそうだしね」

 

 

 その場を去っていく、ヴァジュラをじゃあねーと言って見送った仁慈は改めて私のほうに体を向ける。そして、軽く右手を握るとコンっと私の頭を軽く叩いた。

 

 

 「まったく……まだ本調子じゃないのに無茶して」

 

 

 「ごめんなさい」

 

 

 怒っているトーンではなく、どことなく安心したというトーンで言われる言葉だったので思っていた以上に罪悪感を感じてしまい、反射的に謝罪の言葉が出る。

 

 

 「いや、怒っているわけじゃないんだ。本当に無事でよかったよ」

 

 

 握っていた右手を解いて今度は優しく私の頭をなでる仁慈。

 ……そういえば、前にもこうしてなでられていたことがあったなー。なんか仁慈の手は安心する。なんて言うんだろ……こうされていると昔お母さんに撫でられてたときのことを思い出すなー。

 そんな事を思いながら、ほのぼのとした気持ちで仁慈のなでなでを享受していたら、横から大きな咆哮が飛んできた。

 

 

 「グゥォオオオオオオァアアアアア!!」

 

 

 「あ、そういえば今戦闘中だった……」

 

 

 すっかり忘れちゃってた……。

 

 

 「あ、まだ居たのかお前」

 

 

 仁慈のほうも完全に忘れていたっぽい。

 人間の言葉なんてアラガミは分かっていないはずだが、仁慈の言葉に反応するかのように背中から翼を生やし始めた。

 

 

 「うわ、変形した……」

 

 

 「おぉ、なんか強そう。ナナは今までの疲れがあるだろうし、後ろのほうに下がってな」

 

 

 神機を背中に担ぎつつ、一歩前に出る仁慈。そうは言うけど今は囲まれているはずなんだけど……。そう思い、チラリと後ろを見ると先程まで居たアラガミは居なくなっていた。いつの間に……。

 

 

 「ピカ〇ュウが喰ってった」

 

 

 そうなんだ。でもね。

 確かに今の私の体力はそこをつきかけている。でも、今仁慈と話していた時間で少しだけ戦える体力はある。それに、私はもう決めたから。

 

 

 一歩前に出た仁慈の隣に、神機を前に構えて並ぶ。

 私は決めた。前のように唯、守られているだけじゃない。私だって戦ってみんなを守るんだ。

 仁慈は、私を見て少しだけ驚いたような表情を浮かべたがすぐに顔を前に戻した。

 

 

 「下がってるのが嫌なら、一緒に戦うか」

 

 

 「うん」

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ヴァジュラとおっさんが合体したようなアラガミ強すぎワロエナイ。

 何だあの攻撃範囲と威力は。ガードしてもブッ飛ばされるし、どう頑張っても飛べそうにない翼ぶん回して攻撃しかけてくるし、どうしろって言うんだよ。

 

 

 ナナのほうも攻めあぐねているようで、ブースト吹かせて近付いてはバックステップを繰り返している。これはどうしたものか……。

 物凄い勢いの突進をジャンプで回避し迫り来る紅い雷は神機振ってお返しすることで対処しているがこのままだとジリ貧で負ける。どうにかして打開策をひねり出そうと頭をフル回転させるが、いい案がまったく浮かばない。

 もういっそのこと突撃でもかまそうかと、若干投げやりな思考になりかけたその時、おっさんヴァジュラの動きが止まった。

 もしや、この現象は……。

 

 

 思い当たる節がある俺はざっと周囲を見渡す。すると、いつの間にやらここに到着していたジュリウス隊長と共に群がっている小型アラガミを掃討しているロミオ先輩を発見した。

 

 

 「足止めしてやるから、さっさと止め刺しちゃえよ!」

 

 

 彼の言葉に頷くことで返事をすると、ちょうど隣にバックステップで帰ってきたナナとタイミングを合わせて一気におっさんヴァジュラに襲い掛かった。

 具体的にはナナがおっさんの部分に思いっきりハンマーを振り抜き、顔面を崩壊させ俺がその部分に神機を差し込む。

 鎌の形をしているから中に入れづらいが、無理矢理突っ込んでコアを直接捕食した。

 この一撃でおっさんヴァジュラを倒した俺たちは、すぐにジュリウス隊長とロミオ先輩に加勢し、十分後にはその場に居たほぼ全てのアラガミを殲滅した。

 その後、ナナがパクって来た車に乗って極東へと帰ってきたのだった。

 

 

 

 「ねぇ、仁慈」

 

 

 「なんぞ?」

 

 

 脱走擬き、独断専行、車の無断使用、神機の無断使用その他もろもろの罪状でお説教を受けていたナナと一緒に食堂へ向かう。

 その途中、彼女が急に話しかけてきた。

 

 

 「私さ。こんな感じで次々アラガミをおびき寄せちゃうんだけどさ……これからもブラッドとして仁慈と、みんなと一緒にいて……いいかな?」

 

 

 もしかしたらこれがナナのトラウマだったのかもしれないな。

 あの時もお母さんって呟いてたし。この体質、というか血の力の所為でお母さんが死んでしまった。だからこそ、あの状況でああなったと……そう見るべきか。

 

 

 どこかすがるようなナナの視線に俺は思わず苦笑する。

 

 

 「大丈夫だろ。ブラッドどころかこの極東の人達はアラガミに囲まれたくらいじゃあ死なないし。万が一駄目でも俺は一緒に居てやるよ」

 

 

 まぁ、ありえないけどなと最後に付け加え、少しだけ強く彼女の頭を撫でる。

 本来こういうボディータッチはセクハラっぽいから控えるべきなんだけれども、安心させるには有効な手段というのもまた事実。下心がないからゆるしてくだしあ。

 

 

 「うん!」

 

 

 満面の笑みを浮かべるナナ。

 うん、やっぱり彼女には笑顔や元気一番だな。

 

 

 おなかすいたぞーといいながらラウンジに爆走していくナナの背中を見送りながら俺はしみじみそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、そういえば仁慈。あのヴァジュラ、どうやって手なずけたの?」

 

 

 「神機突っ込んでコアの直前で止め、言うこと聞かなければ殺すと雰囲気で分からせた」

 

 

 こういったらナナにドン引きされた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――

  

 

 

 

 

 

 

 ナナと仁慈がラウンジでご飯を食べ、その時たまたま居合わせたサカキがナナの血の力が正しく覚醒したことに気付いて大騒ぎしている頃。

 いつぞやに仁慈を大画面で移していた部屋にラケルはいた。

 

 

 「………」

 

 

 しかし、その様子は前回のようなうろたえた態度ではなくどこか呆然としているような様子である。

 

 

 しばらく呆けていたが、何かの確信を得たのかゆっくりと頭を上げてぼそりと一言呟いた。

 

 

 

 「荒ぶる神々の霊圧が……消えた……?」

 

 

 

 もう、このひと駄目なんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 



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第四十二話

もはやだれてめぇな第四十二話。
今までにないくらいのキャラ崩壊(手遅れ)が含まれて居ますご注意ください。


 

 

 

 

 

 

 

 

 ナナが血の力に覚醒し、ブラッド全体が強化された日からしばらくして。俺の周りで二点ほど変わったことがある。

 

 

 まずは、ここ最近小型のアラガミはもちろんのこと普段は一緒に居るはずのない大型アラガミ同士が一緒にいたり、接触禁忌アラガミがまるで共存するかのように行動することが増えてきた。

 おかげで、いくらこの世紀末な世の中でも一番の激戦区で戦っている極東の神機使いたちも今までにないくらいに苦戦を強いられるようになってきた。ちなみに何故ここまでアラガミが固まって進行してくるかということは未だに分かっておらず、サカキ支部長が深刻そうな顔をしつつ生き生きと原因の解明に取り組んでいたりする。おい。支部長としての仕事はどうした。

 

 

 そして、次に変わった点だが……

 

 

 「ねぇ、仁慈?あのカピバラって触っても大丈夫かしら?どう思う?」

 

 

 「周りの人に聞いてみればいいんじゃないんですかね」

 

 

 俺の服の裾をちょんちょんと引っ張りながら極東のラウンジで飼われている(?)カピバラに触れてもいいかと質問をするのは。すっごい瞳をキラキラと輝かせながら聞いてくるラケル博士である。

 もう一度言う。ラ ケ ル 博 士 である。

 

 

 これにはラウンジに居た人達も驚きを隠せないようで俺とラケル博士を限界まで見開いた目で交互に見てくる。特にたまたま居合わせたブラッドメンバーは固まってまるで石造のように微動だにしない。

 うん。そうしたい気持ちは痛いほど分かる。誰だってそうする。俺だってそうする。

 どうしてラケル博士がこんな「だれてめぇ」な状態になったのかというと、それはナナが覚醒した時とアラガミが群れだした時のちょうど間に位置する期間のことであった。

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 ナナが血の力に覚醒すると、ブラッドの某バナナ隊長が「力の検証をしようぜ!」的なことを言っていたので、ちょうどいい感じに現れた感応種イェン・ツィー相手に試してみようと話し合っていたとき、フライアに来るようレア博士から連絡があった。俺だけに。

 理由を尋ねてみても「来れば分かる」としか言わないので、力の検証に張り切っているブラッドメンバーに断りを入れ、すごく残念そうにうつむくナナにかなりの罪悪感を抱いてからフライアへと向かった。これでくだらない用事だったら、今も造っているとか言われている神機兵をスクラップにしてやろうか……。

 

 

 などと、ナナの表情から受けた罪悪感を別の感情に変異させ八つ当たりにも等しいことを考えているうちに相変らず馬鹿でかいフライアの入り口にたどり着く。

 レア博士が既に話をつけているということだったので特に問題もなく中に入り、久しぶりに見た廊下を抜けて極東支部よりも近代的で整った感じのエントランスに来た。

 

 

 「……お久しぶりですね。仁慈さん」

 

 

 「久しぶりです。フランさん」

 

 

 そしてエントランスに来たということは大変お世話になったあのフランさんも居るわけで……ついつい軽い挨拶を交わした後、お互い何があったのかというおしゃべりに興じてしまった。

 その所為で、

 

 

 「ちょっと早く来てくれない?」

 

 

 階段の下からレア博士にすごい形相で睨まれてしまった。やっぱ美人が怒った表情ってすっごく怖い。

 用事が終わったらまた来ますという旨をフランさんに話して俺はレア博士の背中についていった。

 

 

 鬼の形相をしたレア博士に生まれたての雛のごとくトコトコついて行き、たどり着いた先はラケル博士の研究室であった。え?何で俺ここに連れてこられたの?

 

 

 「ラケルを頼むわ……」

 

 

 頭の中に大量のクエスチョンマークを浮かべている俺をがん無視して、レア博士はその場を去っていった。

 おい、ちょっと待て。結局なんで俺がここに連れてこられたのか説明を受けてないんですけど。ていうか頼むって何だよ。アンタの妹だろうが。どいつもこいつも俺に問題をブン投げすぎだろ。

 一発だけなら誤射かもしれないという言葉にあやかり、神機兵一体くらいなら誤差かもしれないということで一体愉快なオブジェクトに変えてやろうか。

 

 

 「ハァ……ラケル博士、仁慈です。入りますよ」

 

 

 まぁ、せっかく来たんだし。レア博士の様子も明らかにおかしな感じだったし、様子だけでも見てみようかと一声かけてから研究室の扉を開ける。

 

 

 ……研究室の中には特に変わりなく、ますます何がレア博士をあそこまであせらせていたのかが分からない。ラケル博士もいつものようにカタカタと機械をいじくっているし。

 

 

 「ラケル博士。一体今度は何をしているんですか?」

 

 

 レア博士のあのあわてようはこの人がよく分からないことをやらかした、もしくはやらかそうとしているから何とかして止めようとしているんだろうと勝手に解釈し、ラケル博士に話しかけてみる。

 

 

 普段であれば手を止め、薄ら寒い笑みを貼り付けながらこちらを向くラケル博士であるが今回はそうではなかった。

 まるで俺の言葉なんて聞こえていないようにカタカタと作業を続けるラケル博士に違和感を覚えた俺は、彼女の元まで歩いていき、その顔をチラリと覗き込んでみた。

 

 

 「―――――――――――っ!?」

 

 

 正直。このときほど自分の行いを後悔した日はない。ドラえもんにでも頼りたい気分だった。

 なぜなら―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――覗き込んだラケル博士の顔が、ぬとねの区別がつかないような表情を浮かべていたからである。

 

 

 思わず神機使いの身体能力をフルに使ってバックステップを踏んだ俺は悪くない。だってぬとねの区別がつかないような表情だぞ?具体的に言うと運命/零にでてくる殺人鬼が呼び出した某旦那のような表情だ。逃げないほうがおかしい。

 

 

 これはレア博士もああなりますわ……。さっきの神機兵破壊計画はなかったことにしてあげよう。この表情で永遠と機械いじってるだけなんて実際コワイ。

 これは早急に対処すべき問題だと思った。俺やギルさんならまだしも、彼女の施設で育ったブラッドメンバーにこの状態のラケル博士をみせるわけには行かない。

 

 

 今頃笑顔で血の力を振るい、イェン・ツィーをボコボコにしているであろうブラッドのことを考え俺は彼女を全力で元に戻すことを決意した。

 バックステップで取ってしまった距離を詰めて、彼女の肩をポンポンと叩く。とりあえず何らかの刺激を与えて元に戻ってもらう作戦だ。

 

 

 トントンと肩を叩き続けるがまったく持って反応がない。

 仕方がないので、徐々に叩く力を強くして無理矢理意識をこちらに向けてもらうように仕向けてみる。

 最初のトントンという音がバシバシに変わるくらいに強く叩いた辺りで、ラケル博士はあの恐ろしい表情をこちらに向けた。やべぇ、SAN値が埋葬されそう。生存本能に類似する力は働いているのか全力であさっての方向を向こうとしている顔を必死にラケル博士に向ける。

 その甲斐あってか、段々ラケル博士の表情が普通の人間がする表情に戻った。

 やっていることは人の顔をじっと見つめていただけなのだが達成感が尋常じゃない。もうこれだけでかなり疲れた。

 一刻も早くここから出たい。フランさんとお話して癒されたい。

 

 

 「ラケル博士一体何があったんですか?」

 

 

 とりあえず自分が考えていることは頭の片隅に追いやって、完全に彼女の表情が戻ったタイミングで話しかける。

 戻ってもしばらく焦点の合っていない瞳でこちらをボーっと見つめていたラケル博士だったが、すぐに意識を取り戻しこちらを見た。

 

 

 

 「……ぐす……ひっく…えぐっ………うわぁぁぁあああん!!」

 

 

 

 そんで泣き出した。俺の顔に焦点が合った瞬間に、である。もう俺のほうが泣きたいよ……。

 いつぞやのように自分のキャラを完全にかなぐり捨てて、子どものように泣き喚くラケル博士に俺は溜息をついて、自分ができうる限りを尽くして彼女をあやすのであった。

 ここが外だったら俺は肢体不自由の女性を泣かせて喜ぶ鬼畜として噂されてもおかしくなかった。もしそうなったら、単騎でアラガミの群れに突っ込むしかなくなってたな。

 

 

 

 

 

                ―――――――――――――

 

 

 

 ラケル博士が泣き止むまでにはなんと一時間かかった。一回落ち着いたと思ったらその直後にまた泣き出すのである。本気で大変だった。

 

 

 現在は、目を真っ赤にしてうつむくラケル博士と俺のためにコーヒーを注いでいるところだ。これでも飲みながら彼女が泣きまくっている原因を聞きだそうという算段だ。

 

 

 出来上がったコーヒーをラケル博士の前に差し出すと、ボソッとありがとうといって口をつけた。誰だてめぇ。

 コーヒーを半分ほど飲み、カップを目の前にある机に戻すとラケル博士はポツリポツリと自分がどうしてこうなってしまったのかを話してくれた。

 

 

 曰く。今の今までラケル博士のことを導いてくれた人生の先生と呼べる存在と連絡が取れなくなってしまい、精神が非常に不安定な状態になってしまったらしい。

 その話を聞いて俺は不謹慎ながらも安心してしまった。今までお世話になっていた人との連絡が取れなくなって不安定になるなんてまるで普通の人間みたいだったからだ。

 

 

 失礼なことを承知で言うが、俺は今の今まで心のどこかで彼女のことを人間だとは思っていなかった。初めて彼女が俺に向けた表情はまさしく実験動物に向けるそれだったからである。難しい任務俺にばかり回してくるし。

 けど、今話しているとその嫌な感じが根こそぎなくなっているのだ。俺的には非常に安心した。

 

 

 「……それで、今後自分がどうすればいいのか分からないと」

 

 

 「……えぇ」

 

 

 ここまで来ると完全に依存だな。

 話を聞いた限り、彼女の生き方にもその先生のごとき存在が大いに影響しているみたいだ。それは取り乱すよな。

 

 

 「本当に……これからどうしよう……」

 

 

 再三言ってるけど、誰この人。今俺の目の前に居る彼女は完全に守ってあげたくなる系美少女である。外見のイメージがそのまま内面に反映させたといってもいい。

 今まではなんちゃって病弱系美少女だったし。花にたとえるならラフレシア。

 

 

 「……難しいかも知れませんが、今後は自分で考えて好きなことをしてみてはどうでしょうか?なんだったら色々なものを見て回るのもいいかもしれませんよ。もし一人で不安ならば、レア博士やブラッドのメンバーに言ってくれれば協力してくれると思いますし」

 

 

 我ながら都合がいいとは思うのだが今の彼女はどうしても放って置けなかったのでとりあえず提案だけはしてみる。

 何をすればいいか分からないのであれば見つければいいじゃないという発想である。

 

 

 ラケル博士は俺の言葉を聞いて少しだけ考えるように瞳を閉じる。それからしばらくして考えが纏まったのか、ラケル博士はゆっくりと瞳を開き、

 

 

 「それも……いいかもしれませんね」

 

 

 と言った。

 その時彼女が浮かべていた笑みはいつものものではなく、可憐な少女のような……思わず見惚れるくらいの微笑だった。

 不意にその表情を向けられたためついつい照れてそっぽを向く。俺の知っているラケル博士がこんなに可愛いわけがない。もう偽者なんじゃなかろうか。

 

 

 「それと……」

 

 

 「なんですか?」

 

 

 「協力してくれるメンバーに貴方は入っているのかしら?」

 

 

 完全にいつも通りの口調と表情。ようやく戻ったかと、肩の力を抜く。

 

 

 「暇があったら」

 

 

 脱力した俺は、俺に回す任務を管理しているらしいラケル博士に向かってそう返した。少しは任務が少なくなることを期待して。

 

 

 

 

 期待した結果が、冒頭のアレだよ!

 

 

 

 任務を受けに行ったら竹田さんに任務はありませんといわれ、首を傾げつつゆっくり休もうと部屋に戻ろうとしたとき、俺に向けて手招きをしているラケル博士が居てあの状態になったのである。

 

 

 「仁慈。もふもふですよ。すごく」

 

 

 「分かりましたから」

 

 

 膝の上にカピバラを乗せてご満悦なラケル博士に思わず苦笑する。そしてその笑みが、能面のような顔で近付いてくる施設出身組のブラッドメンバーを見つけ凍りつくのはその僅か数秒後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャンガシャン。

 

 

 どこからか重い機械音が聞こえてくる。

 

 

 近くに居るアラガミがその音に気付いて、その機械音が下方向へ移動を開始する。

 

 

 ガシャンガシャン。

 

 

 音が段々と近くなった来た。アラガミは威嚇の意味を込め、咆哮を機械音がするほうに放つ。

 しかし、機械音は止まらない。むしろ先程よりも大きく聞こえてくる。

 

 

 アラガミは痺れを切らし、その機械音が聞こえる方向に走り出した。その巨体からは考えられないほどの速度で機械音の発生源に接近する。

 

 

 そして、そのアラガミはついに機械音の発生源にたどり着いた。

 機械音の正体を確認し、すぐさま飛び掛るアラガミであったが、グシャリという肉がブツ切りになるような音を聞いたかと思うと、地面に倒れ付し、そのまま動かなくなってしまった。

 

 

 機械音の発生源は、自らが殺したアラガミの元に行きその肉体を掻っ捌くと、アラガミの形状を保っているコアを捕食した。

 

 

 崩れ行くアラガミの形を気にも留めず、コアを捕食したソレはゆっくりと顔を上げて、極東支部の方を向くと、

 

 

 

 「―――――――――――――――――」

 

 

 

 すぐにその反対側に機械音を鳴らしながら移動して行った。

 

 

 

 

 

 

 

  



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第四十三話

休日だから頑張ってみた。
今回は割りと重要な話が合ったりするかも?


 

 

 

 

 

 前回の冒頭でもちょこっと言ったとおり、最近アラガミの活動が活発化しつつある。しかも本来なら喰らい合うことがある別種のアラガミ同士でもだ。

 この状況に深刻と思いつつも楽しんで研究をしていたサカキ支部長によると、イェン・ツィーのような感応種の仕業である可能性が高いという結論を出した。感応種は特殊な感応波で周囲のアラガミ……いや、オラクル細胞の活動を操る能力を持っている。この不可解なアラガミの結託にも一応の説明がつく。

 というわけで、現在俺たちブラッドは大忙しなのだ。なんせ感応種に対応できるのがブラッドしか居ないから。反応がある場所に片っ端から駆り出されている。

 ……でもこれも今のうちだけな気がするんだよなぁ。極東の人ならいつの間にか感応種と戦えるようになっていても不思議じゃない。

 

 

 「ジュリウス隊長ーなんかそれっぽいアラガミ居ましたかー?」

 

 

 俺のところにはイェン・ツィーしか居なかったんだが。

 

 

 『いや、こっちには出ていないな。一応、感応種が出たから倒しておいたが』

 

 

 「どんな奴ですか?」

 

 

 『グボロ・グボロの親戚みたいな奴だ。あいつが近くに居るとき、バースト状態にも似た感じになった』

 

 

 「新種じゃん」

 

 

 何さらっと討伐してくれちゃってんの?この人。俺たちが今探しているのはまさにそういう新種なんですけど……。

 前情報もなしに討伐してくるとかさすがすぎてもはや何もいえない。

 

 

 『安心しろ。コアは既に確保してある』

 

 

 「それはよかったです」

 

 

 これでコアがなかったら発狂してたな。極東支部に居るサカキ支部長が。そんな事にならなくてホントよかった。

 ジュリウス隊長はいつも通りっと……次は。

 

 

 『もしもし?』

 

 

 「あ、ギルさんですか?そっちの方はどうですか?」

 

 

 『ソレっぽい奴は見つかってないな。とうもろこしみたいなアラガミは見つけたが』

 

 

 「何ですかそれ」

 

 

 とうもろこしみたいなアラガミって……。まったく想像できないんでど……。

 頭の中で割り箸刺して四つんばいで周りのものを捕食していくとうもろこしという我ながらカオスな光景が思い浮かんだ。

 

 

 『なんか周囲のアラガミのオラクルを吸収して自分が強くなる、変わった能力を持っていたな』

 

 

 「新種じゃん」

 

 

 ギルさんまでさらっと何言ってるんですかねぇ?あの入隊当初の常識が残っていたギルさんは何処へ行ってしまったの?

 しかもちゃっかり過去形で、もう倒しちゃってるじゃないですかやだー。

 

 

 『ロミオがチートすぎるんだよ』

 

 

 「把握」

 

 

 『おい。最近俺血の力だけピックアップされてるけど、滅多に使ってないからな?今回のようにイレギュラーな事態にしか使ってないからな!?俺自身も強くなってるからな!?』

 

 

 焦った様子で俺とギルさんの通信に割り込んでくるロミオ先輩。どうやら俺たちの会話を聞いて、自分が血の力ありきの人間だと思われていると考えて割り込んできたのだろう。

 大丈夫大丈夫。俺たちはちゃんとわかってるから。

 

 

 『でも、血の力が強力すぎてそっちの方しか印象が……』

 

 

 「それ以上いけない」

 

 

 通信越しにロミオ先輩が泣いているのが分かる。しくしくって音が聞こえてくるし。

 とりあえずギルさんのほうも問題なし。

 最後は……。

 

 

 『はい。何か御用ですか?』

 

 

 「俺のところははずれだったから……そっちはどうかなと思って」

 

 

 『こちらはサリエル型のアラガミを一体発見し、討伐しました』

 

 

 「堕天種?それとも接触禁忌種?」

 

 

 『銃での攻撃しか通らなかったところを見ると、おそらく新種かと』

 

 

 「もう何なのこいつら?」

 

 

 どいつもこいつも打ち合わせでもしていたかのように新種に会いやがって。何で俺のとこだけイェン・ツィーなんだよ。あいつもう新種でない上に一人で相手するのすごく面倒くさいんだぞ。

 

 

 『ナナさんが居てくれてよかったです』

 

 

 『ショットガンってゼロ距離で撃つとすごいんだねー』

 

 

 「やめて差し上げろ」

 

 

 アレは真面目に駄目だ。下手すればロミオ先輩の能力並にヤバイ。前にナナと任務に行ったとき転ばしたコンゴウの顔面にぶち込んだところを見たことがあるのだが、コンゴウの顔はしめやかに爆発四散。ハガンコンゴウなんて可愛く見えるくらいの惨状だった。サツバツ。

 

 

 『コアの回収も済みましたのでこれから帰還しようと思います』

 

 

 『仁慈ー。また後でねー』

 

 

 ナナの言葉を最後に通信が切れる。

 このまま帰るのは俺だけ働いていないみたいでなんか嫌な感じだなぁ。

 どうしたものかと頭を抱えてみても、俺がここからアラガミを探し回るしか方法はない。一応、目標を討伐した扱いの今の俺には竹田さんも付いていないしな。

 もう諦めて帰ろうか。もし誰かがからかってきたらOHANASHIでもすればいいだろ。

 

 

 しかし、そう考えるときに限ってあっさり帰れなくなったりするものだ。特に神機使いを始めた俺にはそれが顕著に現れる。なんだったら一級フラグ建築士を名乗っていいレベル。

 

 

 唐突に背筋に寒気を感じて、本能のままにその場を飛退いてみれば先程まで居た地面に燃えた岩が飛来していた。

 あのまま居たら俺の体は爆発四散していたことだろう。……あれ?なんかデジャヴ?

 ほぼ確信に近い予感を抱きつつ背後を振り返ってみれば、案の定そこには以前いいようにボコボコにされた感応種マルドゥークの姿があった。顔には俺がつけた傷があり、同種の別固体ということではなく、正真正銘あの時のマルドゥークである。

 

 

 しかも今回は二体のガルムを引き連れてのご登場である。こいつは一応認可されているが、コアを持ち帰ったことは一度もなかったな。これはちょうどいい。これを倒せば俺は感応種の未確認コアを手に入れることができ、尚且ついつぞやの仕返しができるというわけだ。

 

 

 俺は無線を極東支部のオペレーター宛にすると、短くマルドゥークとの戦闘に入ると告げて返事も待たずに切る。いや、聞いているかどうかすら危ういけどね。形式的に、ね。

 

 

 「――――ォォォオオオオオオオオオオオオン!!」

 

 

 マルドゥークが天に向かって咆えると俺たちが血の力を使うときと同じように紅い波動がマルドゥークの周りに渦巻いた。それに呼応するかのようにガルムたちも俺に牙を見せる。 

 俺は戦闘態勢を整えたガルムとマルドゥークを見据え、ニィと唇の端っこを釣り上げた。

 

 

 「いつぞやの恨み晴らさないでおくべきか!」

 

 

 世紀末地域極東で接触禁忌アラガミをはじめとする様々なアラガミと戦ってきた俺の力を見るがいい、マルドゥーク!

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――

 

 

 

 

 人と化け物の勝負に始まりの合図なんてものは存在しない。

 仁慈はマルドゥークに向けて言葉をぶつけると同時に自らが引き出せる最大の力を持ってして地面を蹴り、加速する。

 五秒も経たずにトップスピードに到達すると、まずは一番近くに居たガルムの顔に自らが構えていた神機を目視できないほどの速さで振り切った。

 

 

 切られたガルムがその巨体を地面に横たえると、残りもう一匹のガルムがようやく動き出した。そう、仁慈の速さにガルムの体が反応することができなかったのだ。

 両前足に供えられているガントレットに焔を灯し、無防備な仁慈の背中に振り下ろす。

 仁慈はその攻撃を、たった今倒したガルムの死体を蹴り、まるで背面跳びのような格好でソレを回避する。そしてガルムが地面にガントレットを打ちつけた瞬間に脊椎の部分を自身の体を横回転させることで切り裂いた。

 立体機動でも使っているのかと突っ込みたくなる動きである。

 

 

 一瞬ともいえる時間でガルム二体を倒してしまった仁慈に一歩後ろに下がるマルドゥーク。その様子は何だこれ聞いてないぞ?と戸惑いの感情が浮かんでいるようだった。実際にアラガミに感情があるのかは分からないが。

 このままだとまずいと悟ったか、マルドゥークは先程よりも激しく紅い波動を周囲に撒き散らし、半径約五百メートル内に居た大中小全てのアラガミを集める。

 

 

 集まったアラガミはサッと見た限りでも50体は確実に居る。しかし、そんな状況の中でも仁慈は笑う。いや、笑うというより嗤うと表現したほうが適切かもしれない。

 まるで必死にアラガミを呼び寄せ、生き残ろうとするマルドゥークを馬鹿にするかのように。

 ケラケラと嗤いながら一歩一歩確実に距離を詰めてていく。

 

 

 「グッ……ゥォォォオオオオオオオオオオオン!!」

 

 

 恐怖を振り払うように咆えるマルドゥーク。集められたアラガミはその咆哮を突撃の命令と受け取りいっせいに仁慈へと殺到した。

 まず、一番槍として仁慈の元へとたどり着いたのはザイゴートやシユウと言った飛行が可能なアラガミである。彼らは滑空でついた勢いを上乗せして、突進を繰り出す。人間の倍以上ある質量に速度が加われば、例え仁慈でもひとたまりもない。

 

 

 しかし彼は回避行動をとらなかった。

 

 

 

 ―――――殺った!

 

 

 この時、ザイゴートとシユウはそう感じたであろう。だが、彼らが考えていたようにはならなかった。

 仁慈は自分に向かってくるザイゴートの勢いを利用し、神機をその場で構えるだけでザイゴートを切り裂き、次に襲ってきたシユウは地面にしゃがみ、仁慈の上を通るタイミングで頭を蹴り上げた。神機使いとはいえ人間のものとは思えない力を不意に受けたシユウはなすすべもなく無防備な状態で宙に投げ出される。最後には、下から銃形態にした神機で寸分の狂いもなくコアを撃ち抜かれ絶命した。

 

 

 空中で崩壊していくシユウの身体をチラリと視界の隅に収めて、今度はこちらから行くぞとアラガミの群れに突撃をかました。

 

 

 一番近くに居たコンゴウはその転がりを跳び越えることで回避されさらに空中で逆さになったタイミングで神機をプレデターフォームに切り替え、自分の下を転がっていこうとするコンゴウを捕まえる。

 地面に着地するために身体を戻すときの勢いを利用し、コンゴウをアラガミの群れに投げ飛ばす。それと同時に着地。咬刃展開状態にしたヴァリアントサイズを横薙ぎにして前方に固まっていたアラガミを真っ二つにした。

 

 

 それを見て、サリエルを含めた遠距離を得意とするアラガミ達が距離をとり攻撃しようとするも仁慈はヴァリアントサイズを音を置き去りにする速度で振るい、飛ぶ斬撃を作り出しそれに血の力を込めて飛ばした。もはや新たなブラッドアーツといってもいいくらいである。

 

 

 至近距離は駄目。遠距離に徹しても斬撃が飛んで来る。

 本能のみで生きているアラガミもとてつもなく逃げ出したかった。

 しかし、

 

 

 「………キヒヒッ」

 

 

 逃げれるわけがない。

 こちらを見てもはや狂っているとしかいえない表情を浮かべている元人間の姿を確認し本能がそう叫んでいた。

 標的となっているマルドゥークもそうである。どう考えても自分の顔に傷をつけた人物ではない。その人物の皮をかぶったおぞましいナニカだとしか考えられない。

 

 

 「―――――――ォォオオオアアアアアアアア!!!」

 

 

 『グォオオオオオオオオオ!!』

 

 

 もはや逃げることは不可能。

 生き残るには戦うしかない。某ライダーも言っていた。「戦わなければ生き残れない」と。

 

 

 マルドゥークは己にある全ての力を引き出し、自身の能力と集めたアラガミたちの力を最大限まで引き出す。

 そして、震える本能をねじ伏せて人の形をしたナニカに全速力でアラガミを率いて向かっていった。

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 マルドゥークの討伐は特に何の問題もなく終了した。

 いやー途中から、予想以上にマルドゥークが弱く感じちゃうものだから思わず笑いがこみ上げてきちゃった。

 

 

 そんで、マルドゥークのコアを捕食した後は速やかに極東に戻ってきてコアをリッカさんに渡した現在。俺は新種の感応種と戦ったブラッドメンバーの意見を纏めてサカキ支部長に報告しようとしている。何故かラケル博士を連れて。

 

 

 なんで付いて来るんですかね?

 

 

 「私もサカキ支部長とお話があるのよ」

 

 

 ラケル博士とサカキ支部長の組み合わせ?何それ一番やっちゃいけない組み合わせでしょ。変わったとはいえ、マッドの気は残っているみたいなんだからさ。

 

 

 「合体できる神機兵……ロマンがあふれるわね」

 

 

 「おい、今何て言った?」

 

 

 元が元だから合体しても空中分解しそうで怖いんだが……。あ、でも有人制御の神機兵だったら某弓兵出てきたし大丈夫か?

 そんな感じでラケル博士と話しながら歩いていると、目的地である支部長室から色黒のワイルド系イケメンが出てきた。

 誰だこのイケメン。見たことないけど……。

 イケメンのほうもこっちに気付いたのか、俺―――正確には俺の右手に付いている腕輪を見ている。

 

 

 「その黒い腕輪……なるほど。噂のキ〇ガイ集団ブラッドってやつか……」

 

 

 「第一声がそれかよ」

 

 

 まさか初対面の相手にキチ呼ばわりされるとは思わなかった。

 思わずツッコミを入れる。その直後に俺に押されているラケル博士が少し驚いたような声音で目の前のイケメンに話しかけた。

 

 

 「貴方……シックザール前支部長の……?」

 

 

 「ん?……ああ、ソーマ・シックザール。ヨハネス・フォン・シックザールの息子だ」

 

 

 あれ?お知り合いですか?

 そんな疑問を抱く俺だが、話は俺のことを置き去りにして進む。

 

 

 「やはり……。貴方のお父様に大変お世話になったラケル・クラウディウスと申します。ぜひ一度お会いして、直接お礼を申し上げたいと思っておりました」

 

 

 「そうか。一応受け取っておこう。壊れて混ざった成り損ないのよしみでな」

 

 

 「……フフ。そうですね。お互い大事なものに逃げられたもの同士……仲良くできそうですわ」

 

 

 何この会話?謎過ぎるんですけど。

 通じてるの?お互いに理解し合えてます?

 ……なんで頭のいい人の会話ってこう遠回しなんだろう。サカキ支部長もそんな感じだし。

 この感じだとさっき会話に出てきたこの人のお父さんも遠回しな会話してたのかなぁ。

 

 

 「それにしても」

 

 シックザールさんとラケル博士の異次元会話についていけないので、まったく関係ないことに思考能力を割り振っていると、急にシックザールさんがこちらを向いた。なんぞ?

 

 

 「お前は不思議なやつだな。俺たちと同じ感じがするが、俺のダチにも似た気配を感じる」

 

 

 俺がラケル博士やシックザールさんと似たような気配……だと……? 

 ……中二病かな?

 

 

 結局シックザールさんはそれ以上語らずに、いい神機使いになれと言って去っていった。

 

 

 本当に、頭のいい人の考えることは分からん。

 そうは考えるものの、彼の言ったことが妙に頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書き終えて思ったこと。

仁慈君主人公じゃないよね。
むしろ、マルドゥークが主人公だったよね。


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第四十四話

今回は難産でした。
というか、無理矢理ひねり出した内容なので色々と違和感があるかも知れませんが多めに見てください。


 

 

 

 

 

 

 シックザールさんの言っていた言葉が頭から離れない。いや、言っている内容自体はあまり理解できなかったんだが、あの時の彼の表情と声音がなにやらただ事ではないような雰囲気だった。

 なんか胸やけをしたときのような不快感を感じ眉を顰める。そして、あの場でシックザールさんとなにやら通じ合っていたラケル博士に何か分かることはないかと、サカキ支部長に新しい感応種のことについて報告したあと、彼女に聞こうと思ったのだが。

 

 

 「………空中合体………」

 

 

 「…ブレード……とっつき……コジマ……ソルディオス・オービット……」

 

 

 何あの二人。本当に神機兵についての話し合いなんだよね?経済戦争で狂った世界の兵器とか、宇宙をまたにかけて戦うロボットとか作ろうとしてないよね?……正直あの二人なら本当にやりそうで怖いんだけど。

 ……変態に技術を与えると取り返しがつかないって本当なんだなぁ。

 ラケル博士に聞きたいことはあったのだが、これ以上この二人と同じ空間に居るのは俺の精神上良くない為、聞こえていないと思いつつも失礼しましたと告げて部屋を出た。コジマは……まずい…。

 

 

 

 

 

               ――――――――――――――

 

 

 

 さて、不穏なことを呟き話し合っているマッドサイエンティストの巣窟から見事に脱出した俺は現在第一部隊……というか極東神機使いたちの癒し兼一番の常識人であるフォーゲルヴァイデさんに捕まっていた。内心戦々恐々としている。

 

 

 いや、だってさ。ぶっちゃけ俺はフォーゲルヴァイデさんによく思われていないということを分かっている。初めて会った時からこっちを睨むというにふさわしいほどの眼光を向けてきていたし、一緒に任務をしてからはお前もかという視線と共に私に関わるなオーラを出していた。

 そんな彼女が少々不機嫌そうな顔をしつつも俺に話しかけてきたのだ。怖がらないわけがない。

 たとえアラガミを虐殺できても怒っている女の子は怖いんだよ。

 

 

 「ねぇ………私に戦い方を教えてくれない?」

 

 

 「はい?」

 

 

 フォーゲルヴァイデさんの口から出た言葉が予想外だったので反射的に間の抜けた言葉で返してしまった。

 確かフォーゲルヴァイデさんの刀身はチャージスピアだったはずだ。それなら心情的にも教わりにくい俺ではなくギルさんに教えを乞うべきだろう。俺自身も神機使いになってから彼女とそう変わりないので、人に教える技能はお世辞にも優れているとはいえないし。

 なんてことを考えているのが表にでも出ていたのか俺がそのことに関して尋ねる前にフォーゲルヴァイデさんの口が開いた。

 

 

 「実は前々から基礎は教えてもらっていたんだけど……一通り基礎が終わった瞬間に『光の速さで私の後に続け』って言いながらアラガミに突撃していって……」

 

 

 何やってんですかギルさん!

 死んだ魚のような目で天井を見上げるフォーゲルヴァイデさんを見て俺はそう心の中で叫ばずにはられなかった。日を増すごとにどんどん壊れて行く彼を止める人は現れるのだろうか……。

 

 

 「さすがにそんな事できるわけがないでしょ?だからギルバートさんに直接そう言ったの。そうしたら『ここから先は仁慈に教えてもらった方がいいぞ』って言われて……サブだとしてもチャージスピアを扱うことができる貴方に戦い方を教えてもらおうと思ったの」

 

 

 さらっと俺に押し付けやがったぞあの人……ッ!

 

 

 「……私も、都合がいいというのはわかってる。今まで邪険に扱ってきたのにこんなことを頼むなんてね」

 

 

 「別にそんなこと思ってませんよ」

 

 

 ギルさんに対する文句というか憎しみというか、そんな感じの感情がまたまた表に出ていたようで勘違いをしたフォーゲルヴァイデさんがどこか自嘲しているような表情を浮かべる。

 大丈夫ですよ、俺が考えているのはあの擬似決闘者をどうしてやろうかということだけですから。

 

 

 「え?ならもしかして……?」

 

 

 「正直自分も神機使いになってからフォーゲルヴァイデさんとそう変わらないんですけど、できる限りのことはやってみますよ」

 

 

 俺の言葉を聞いた瞬間に、後ろのほうで小さくガッツポーズを決めながらもそれを表に出さずにありがとうといっているフォーゲルヴァイデさん。

 俺はこれが日々頭のおかしい極東人の相手をしている彼女の気分転換となりますようにと思いつつ、自分の神機の刀身の変更を行うために神機の整備室へと向かった。

 

 

 え?お前も彼女に苦労をかけているうちの一人だろって?

 

 

 お、俺は彼女とそんなに関わってなかったからセーフだし(震え声)。

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 「はい。今のがチャージスピアのエネルギーを小分けして使った擬似空中戦です」

 

 

 「やっぱり教わる相手を間違えたかもしれない」

 

 

 目の前で私が受注した任務のターゲットであるサリエル堕天種と一度も地面に足を着くことなく戦って勝利したブラッド隊副隊長、樫原仁慈の姿を見て私は常々そう感じた。

 一通りの動きを見てもらい特に問題がないことを確認し、何か新しい技能を教えてくださいとお願いした結果がこれである。そう思っても誰も私を責められない責めさせない。

 なんなんだあの変態的機動は。ギルバートさんみたいにブラッドアーツを使用した技術でないところが余計に質が悪い。何故なら理論上は誰でも可能なのだ、あの技能。だからできないのであればその神機使いの実力不足となる。

 

 

 「無理そうですか?」

 

 

 「……とりあえず、やるだけやってみます」

 

 

 だからと言って一方的に「できるか」と文句をつけるのは教わる身としていかがなものかと思うので、ちょうど戦闘音を聞きつけてやってきたヤクシャに向かって今しがた彼がやっていたことを真似てみる。

 

 

 えーっと……チャージを小出しにしつつ、敵を攻撃……あっ、できた。

 

 

 「おーできましたね。さすが極東人。筋が違う」

 

 

 私が彼のやっていたように空中でヤクシャを蹂躙している様子を見て感心したように声を上げるブラッドの副隊長。いや、私自身もできるとは思ってなかった。

 だって彼がやったことといえば、見本を見せた後、簡単に口頭で説明しただけである。それも「グッてやってパッ」みたいに擬音オンリーで。

 

 

 「やった……!できた……ッ!」

 

 

 自分でも無理だと思っていた技ができてしまったために、私はヤクシャを倒したあと、その場で嬉しさをかみ締めた。これであの人も私のことを認めてくれる。そう思って。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――そして、ソレが油断につながった。

 

 

 

 

 

 「グゥアアアアアアアアア!!」

 

 

 「――――えっ?」

 

 

 声のした方向に顔を向けてみれば、そこに居たのは大口を開けたオウガテイル。距離は目と鼻の先であり、神機で防ごうにも装甲の展開が苦手な私は咄嗟に神機を構えることができなかった。

 回避?……不可能、突然の事態に身体が硬直して動かない。もし動けたとしても、回避する前に頭をバクリといかれてしまう。

 

 

 オウガテイルの口が徐々に徐々に私の頭に近付いてくる。段々としかし、着実に死が近付いてくるのがわかった。

 あぁ、お兄ちゃんも死ぬときはこんな感じだったのかなとど心のどこかで考えたところで、

 

 

 「ちぇすとー!」

 

 

 耳に届いた男の人の声と共に目の前まで来ていたオウガテイルが突如視界から消えうせた。

 

 

 「……へ?」

 

 

 「おぉう、油断した。付近にヤクシャ以外のアラガミの気配はなかったと思うんだが、最近調子に乗ってたからなぁ……。やっぱ慢心はよくないな、うん」

 

 

 ポンポンと神機で肩を叩きつつ、ブッ飛ばしたオウガテイルのほうを向いていたブラッドの副隊長がそう呟いた。

 

 

 「大丈夫ですか?」

 

 

 「へ、平気よ」

 

 

 心配そうな声音にそう返すも、腰が抜けてしまってその場にしりもちをつく。

 顔から火が出そうなくらいに恥ずかしかった。しかし、ブラッドの副隊長はそれに笑うことなどせず先程と同じく真剣な表情だった。

 

 

 「大丈夫ですか?」

 

 

 「………手、貸して」

 

 

 おずおずと伸ばした手をしっかりと掴まれて引き上げられる。何とか立とうとするも、そう簡単に立てるはずもなく体が崩れそうになった。

 その様子を見て彼はしばらく考えると、耳につけてある通信機でヒバリさんに連絡をとる。

 

 

 『仁慈さん。何か問題でも発生しましたか?』

 

 

 「似たようなものです。実は少々負傷してしまいましてね。今俺がいるポイントにヘリを向かわせてくれませんか?」

 

 

 『え?仁慈さんって怪我するんですか!?』

 

 

 「どういう意味です?」

 

 

 そんな掛け合いをしつつも連絡するべきことと要請が終わったのか耳に当てていた手を離した。

 

 

 「すぐに迎えが来ると思うのでそれまで我慢してくださいね」

 

 

 「………」

 

 

 別にそこまでしなくてもよかったのではと思いはするものの、せっかくの好意なので素直に甘えることにする。

 そのまま何も話さずに私たちは、迎えのヘリに乗って極東支部へと帰還した。

 ……ただ、ヘリに乗り込む寸前にプロペラの音とはまた違う機械音が聞こえたのは気のせいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 危なかった。

 あの時少しでも反応が遅れてたら、フォーゲルヴァイデさんがマミったかも知れなかった。我ながらいい反応だったな。うん。

 

 

 ……やめろ。お前が気をつけていればそもそもこういうことにはなってないとか言ってはいけない。俺だって人間だもの。油断も慢心もする。

 

 

 「今日はありがとうね。付き合ってくれて」

 

 

 あんな目に遭ったのにそんな事が言えるなんて、いい子だなー。最初のほうとか怖がっててマジすいませんでした。

 

 

 「いえ。また何かあれば言ってください。できるだけ力になりますよ」

 

 

 今回のお詫びもかねてね。

 

 

 「んー……なら、今ひとつだけいい?」

 

 

 「実現可能な範囲でお願いします」

 

 

 あと、お金貸してという類のものもできればなしの方向で。

 

 

 「敬語とって」

 

 

 「……それでいいんですか?」

 

 

 「私のほうが年下なのに敬語って違和感があるんだ」

 

 

 「ソレでいいならそうするけど……」

 

 

 要望どおりにタメ口に変えるとフォーゲルヴァイデさんは満足そうに頷く。

 

 

 「そっちのほうが気が楽でいいね。……また、今日みたいなお願いするかもしれないからそのときはよろしくね」

 

 

 抜けた腰は治ったらしく手を振りながら去っていくフォーゲルヴァイデさんの背中をこちらも手を振りながら見送る。

 見送りながら、つい最近まで敵意をぶつけていた人と同一人物とは思えないねと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四十五話

投稿が遅れて申し訳ありません。
ちょいとばかし学校で出されたレポートをかたずけておりました。
それでが四十五話、どうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上田二世誕生(未遂)事件からしばらくして、俺はサカキ支部長とラケル博士の最狂マッドコンビに呼び出しを喰らっていた。

 話の内容はこの前俺たちが一気に持ち帰ってきた感応種のコアの解析が終わったので、俺も交えて話がしたいとのこと。ちなみに例のごとく呼び出されたのは俺だけである。ジュリウス隊長とかシエルとかは呼び出されていない。解せぬ。

 

 

 というか、向かった先でこの前みたいに危険な神機兵擬き談義してるとかだったらかなり嫌だ。あの話が実現したらアラガミ殲滅しても人類が滅ぶかもしれないし。今では周りからキチガイといわれる立派な神機使いとなったが、元々は唯の高校生だからね?現在十五歳でブラッドの中で最年少だからね?さすがに世界を滅ぼしかねない兵器建造の話は荷が重いんだなーこれが。

 

 

 ここまで想像した所為か、普段よりも重く感じるようになった身体を何とか動かしつつ呼び出された支部長室へ一歩一歩足を進める。そうしてたどり着いた支部長室の扉。ノックをしようと伸ばした手が自然と引っ込んでしまうのを無理矢理抑えて、コンコンコンと扉を叩く。

 部屋の中から返事が聞こえてきたので、これまた引っ込みそうになる手を押さえつけてドアノブに手をかけ、中に入った。

 視界に移るのは何時もの通り、フェンリルのマークに地球儀そしていつもの胡散臭い表情を貼り付けゲン〇ウポーズでこちらを見ているサカキ支部長である。

 

 

 あれ?おかしいな。確かに何時もここに来たとき目にする光景なのだが、今回に限っては俺を呼び出した片割れであるラケル博士が居ない。

 あの人は少々頭があれだが、呼び出しておいてすっぽかすような人ではない。気になった俺は、未だゲンド〇ポーズでこちらを見ているサカキ支部長に尋ねてみた。俺がラケル博士について尋ねるとサカキ支部長はゲ〇ドウポーズをやめて、彼にしては珍しく困惑した表情で口を開いた。

 

 

 「そのことについては私もさっぱりわからなくてね。これから君にしようと思っていた話を彼女に話したら急にこの部屋を飛び出して行ってしまったんだ。彼女が乗っている車椅子から風を切る音が聞こえるくらいの速度でね」

 

 

 なにそれ超見たい。

 車椅子が風を切る速度で走るという光景も見てみたいが何よりそれにラケル博士が乗っているというのが俺的にすっごい見たい。

 

 

 「……ひとまず彼女のことは置いておくとしよう。私が君を呼び出したのは、君たちが偶然倒したという新種のアラガミたちのコアを調べて分かったことについてだよ」

 

 

 あー……あの新種フェスティバルのときに確保しておいたコアのことね。

 サカキ支部長がそのようなことを言ったので俺もラケル博士のことはいったん置いておき彼の話に集中することにする。

 

 

 「コアを研究した結果、ここ最近に起きていたアラガミの結託は君が倒したアラガミであるマルドゥークが原因であると判明した。実際、君がマルドゥークを倒した翌日にはほぼ全てのアラガミの群れがなくなっていたらしい」

 

 

 「あらま。ならこれでアラガミが集団で移動する件は解決ですか?」

 

 

 「あぁ。アラガミが集団を作り行動する謎はこれで解けた。けど、これだけならばわざわざ君個人を呼び出したりはしないよ。……実はね、また別の問題が発生してしまったんだ」

 

 

 「別の問題ですか……?」

 

 

 本当にトラブルに事欠かないところだな極東。

 常に何かしらのトラブルもしくは異常現象に見舞われている気がするぜ……。

 

 

 「その問題とはここ最近、正確には一週間ほど前かな。君が任務を受けているときに決まって確認されるアラガミの反応についてなんだ」

 

 

 「なにそれこわい」

 

 

 それってストーカーじゃないですかやだー。

 アラガミにストーカーされるとか誰得なんですかねぇ……。あ、でもサリエルとかなら別にいいk―――――いや、やっぱないな。

 

 

 「何やらよくわからないようなことを考えている気配がするけど……これは割と深刻な事態だよ?」

 

 

 でしょうね。

 普通に考えれば個人を特定してなおかつ様子見をしているような行動を取っている……つまりはある程度の知能を持ち合わせたアラガミが常に俺の周囲をうろついているということである。

 任務で疲れたときに背後から上田!なんてこともあり得てしまうわけだ。

 

 

 「それにこのアラガミのコア反応も頭を悩ませる一要因でね……神機と同じ、人工的に作られたコア反応だったんだ。このことをラケル博士に話したら、何故か一目散に出て行ってしまってね」

 

 

 「サカキ支部長。わかってて言ってるでしょ」

 

 

 そこまで言われたら俺でも気づくことができるんだ。この極東が誇るキング・オブ・マッドのサカキ支部長が気づかないわけがない。

 

 

 神機のコアを利用した神機兵を開発しているのはラケル博士の姉であるレア博士、それとなんか死にそうな研究者。どちらもフライアの関係者である。その二人と同じくフライアの研究者のラケル博士だ。あのどこか抜けてそうな二人から神機兵のデータパクって変態的性能を誇る神機兵を作っていてもおかしくはない。

 

 

 正直に言おう。

 このストーカーアラガミ擬き。ぶっちゃけラケル博士が作ったか、手なずけた神機兵だと俺は考えた。

 だってストーカーアラガミ擬きが出現しだした時と、ラケル博士が別の意味で突き抜けた時期が重なっているんだもの。

 

 

 「さて、どうだろうね?私は科学者だから、確証のないことは断言しないんだ」

 

 

 「それは答えているようなものですよ」

 

 

 「おっといけない。ともかく、このアラガミが今後君に危害を加える可能性があるということだけ頭に入れておいてくれ。話はこれで終わりだよ」

 

 

 「はい。ありがとうございました」

 

 

 ある程度の知能を持ったアラガミか……。

 まぁ、アラガミの体を形作っているオラクル細胞一つ一つにどのように進化するかという思考擬きが備わっているんだ。知能を持つアラガミが生まれるくらいは予想がついていたけど……あんまり相手はしたくないよな。

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 一方、仁慈が見たがっていた風を切る車椅子に乗っているラケルは急いでフライアの中に戻っていた。

 しかし、今向かっているのは彼女の研究室ではなく未だ実用には程遠い、実験段階の神機兵たちが置かれている保管庫である。

 四角いカプセルに覆われている神機兵を素通りし、成人男性の三倍はありそうな壁に近づいて手をかざす。すると壁は左右に割れて一つの通路が現れた。

 ラケルはそれに何の反応も見せず、フライアに来る時と同じくらいの速度で駆け抜ける。車椅子で。

 

 

 50mくらい進むと先ほど割れた壁と同じくらいの大きさの扉にたどり着いた。ラケルは扉に近づき、取り付けられていたロックを手早く解除すると扉が開ききる前に中に飛び込んだ。

 

 

 彼女が飛び込んだ部屋は、家具などはなくただ大きな空間という感じなのだがその部屋の壁には大きな穴があけられていた。

 

 

 「………大変なことになったわね」

 

 

 ラケルは呆然とつぶやく。しかし、それは壁に大きな穴をあけて彼女が“先生”に言われて飼っていたモノが逃げ出した――――ことではない。

 ある世界線ではその逃げたものが脅威となるだろうが、樫原仁慈に感化されたもしくは元々持っていた素質を覚醒させた覚醒ブラッド隊には脅威とはならない。オウガテイルを倒しに行く時と同じくらい気楽に討伐を果たすだろう。

 

 

 ならば、彼女は何を見て呆然としているのか。

 それは無残にも食いちぎられた一つの箱であった。この箱は対アラガミ装甲壁と同じ原理で作られているもので、以前彼女が仁慈に“先生的存在”と表現したモノに言われて確保しておいた最終兵器が入っていた。

 

 

 その最終兵器とは―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――約3年前に月へと飛び去った終末捕食を起こすアラガミ、ノヴァの残骸である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “先生的な存在”が彼女の前から消え、当初の目的よりもロマンを求め始めているラケルにとってこれはものすごい致命的な問題である。

 もっと早くに自分のしたいことを見つけていれば……と場違いなようで強ち間違っていない自責の念にかられているラケルだったが、やがてふと顔を上げた。

 

 

 「……極東の人に、すべてを話して協力してもらいましょう」

 

 

 彼女の天才的な頭脳をもってして出した答えがこれである。

 過去にノヴァを退けた極東の神機使いたちとその神機使いたちでも引くくらいのことをやらかすブラッドがいれば何とかなるだろう。

 その過程で、自分が犯した罪や彼の事についても話すことがあるだろうが、自業自得だろう。

 

 

 そう結論をつけて彼女は来た道を今度はゆっくりと戻り始めた。

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 グチャグチャ

 

 

 

 

 

 肉を貪る音が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 ガシャガシャ

 

 

 

 

 

 機械音を伴いながら、それは自身が倒した獲物たちを喰らう。

 

 

 

 

 

 

 

 ゴクン

 

 

 

 

 

 アラガミをアラガミ足りうる存在にするコアを飲み込む。

 

 

 

 ブチ、ブチブチブチ。

 

 

 

 

 

 

 内側から肉を突き破り、骨格単位でその体を作り変えていく。

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 「GOAAAAAAAAAAAA!……ジ…ン・・・・・・・・・ジィィイイイイイイイ!!」

 

 

 

 

 

 

 継ぎ接ぎだらけの顔を上げ、それは月に向かって吠えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四十六話

前回同様投稿が微妙に遅れてしまって申し訳ありません。
この時期はレポート課題の提出が色々な科目で重なってしまっているのであまり時間がないのです。

なので、次回の投稿も遅れると思いますがご了承ください。


それでは第四十六話どうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「仁慈。俺はな、いい加減一人でするのも飽き飽きしてきたところだったんだ。どうだ?久しぶりに俺と一緒にやらないか?」

 

 

 「いいですけど。……任務の話ですよね?」

 

 

 「当たり前だろ。他になにがあるって言うんだ?」

 

 

 「別に何でもありませんよ」

 

 

 誘い方に違和感を感じたので念のため確認しただけです、という考えは心の内にとどめておき唐突に危ない感じの誘いをしてきたジュリウス隊長に言葉を返した。

 

 

 ラケル博士が風になって支部長室から出て行き、その後も帰ってくる様子がまったくなかったのでサカキ支部長に一言告げてから自室に戻り、そのまま寝た。多分ラケル博士も用事があったら何かしらの手段で俺のことを呼び出すだろうと考えていたからである。

 

 

 そんな感じで一晩空けて、エントランスに来たら急にジュリウス隊長が一緒に任務に行こうと言い出し、冒頭につながることとなる。誘い方が某ホモ疑惑がかけられているデュエリストのようであったことについては深く突っ込まないことにして。

 

 

 「では任務を発注してくる。仁慈は適当に準備でもして待っていてくれ」

 

 

 クルリと身体を回転させ、階段の下にあるカウンターへと向かっていくジュリウス隊長。その姿を一瞬だけ視界に納めると俺は俺で、すぐさま背後にあったターミナルへと突っ走った。そして、自分の腕輪をかざして手早くログインを済ませると、預けてあるアイテム欄からありったけのスタングレネードと回復錠を引き出す。

 

 

 あのジュリウス隊長が俺を誘って行う任務が簡単であるはずがない。きっと頭がおかしい内容に決まっている。本来なら支部全体で取り組まなければならない任務も平気な顔で受注してくるからな。

 なら断ればいいじゃないかって?あの人意外に根に持つタイプだから放置しすぎるとかなり面倒なんだよ。

 カタカタと必死にターミナルの機械を操作していると、俺が何故そのようなことをしているのかと気になったのであろうナナがひょっこりと横から顔をのぞかせた。ちょっと邪魔である。

 

 

 「ナナ邪魔だからちょっとどいて。割かし命に関わる事態なんだから」

 

 

 「なになに?この後何かするの?」

 

 

 「ジュリウス隊長と任務」

 

 

 「うわぁお」

 

 

 ササッと素早く身を引っ込めるナナ。さすがだな。ジュリウス隊長との任務に行くに当たって前準備がいかに大切なものかをよく理解しているからこその行動だ。

 ナナの理解に賞賛を送りつつ、普段もったいないからという理由で絶対に持ち歩くことがないホールドトラップも引き出しておく。

 

 

 「仁慈ー。私も一緒に行っていいと思う?」

 

 

 引き出そうとするものが間違ってないか、見落としなどはないかを確認しているとき未だに俺の後ろを陣取っていたらしいナナにそう唐突に尋ねられる。正直、任務を受けに行っているのはジュリウス隊長なので俺の独断では決められないかなぁ。

 

 

 「じゃあ聞いてくるね!」

 

 

 思ったことを素直に彼女に告げてみればナナはだったら本人に突撃じゃー!といいながら階段を駆け下りていった。そんなに距離はないはずだから、歩いてでもよかったと思うんだが……。

 張り切ってジュリウス隊長のほうへ向かっていったナナの背中を見送ると、すぐにアイテムの確認作業に戻り、引取りのもらしがないことを確認してターミナルの電源を落とした。

 

 

 「ジュリウス隊長との任務の準備ですか?」

 

 

 「うわっ!?」

 

 

 その直後、シエルが下から俺の顔を覗き込みながら話しかけてきた。……驚きのあまり三メートルくらい後ろに飛び退いたわ。

 

 

 「ちょっとシエルさん?サカキ支部長みたいにいきなり話しかけてくるのやめてね?もしかしたらあの人みたいに根性というか人間性というか、何かがひん曲がっちゃうよ?」

 

 

 『ん?今どこかでさりげなくディスられたような……?』

 

 

 どこかでサカキ支部長の呟きが聞こえてきたような気もするが気のせいということにしてシエルに注意する。人に話しかけるときにはしっかりと相手の正面から話しかけましょうね。

 

 

 「さすがにそれだけで人間性が歪んだりはしないと思いますが……分かりました」

 

 

 うん。素直でよろしい。

 ………あれ?そういえば俺はシエルにこれからジュリウス隊長と一緒の任務に行くなんて言ってないよな?ナナとの会話を聞いていたんだったら知っているのは納得できるが、あの時、会話が聞こえるくらいの距離には人の気配なかったぞ。

 

 

 「フフ……そんなの見れば分かりますよ。眉を3㎜吊り上げ、眉間にしわを寄せて真剣な表情でポーチを見ているときは、大体ジュリウス隊長と任務に出るときだけです」

 

 

 「お、おう」

 

 

 し、シエルは物知りだなー。

 聞かなければよかったと、若干後悔しつつ彼女の返答に何とか反応を返す。この子、時々言っていることが怖いんだよね。

 

 

 「その任務、私も参加して大丈夫でしょうか?」

 

 

 「下に居るジュリウス隊長に聞いてください」

 

 

 「わかりました」

 

 

 どうしたみんな。今日は何時も以上に働こうとするじゃないか。数分前に見送ったナナの背中同様にシエルも見送り、俺はとうとう暇になった。ジュリウス隊長がまだ登ってこないのはおそらく俺が送り込んだ女性陣の相手をしているからだろう。なんとなくジュリウス隊長には悪いことをした気がする。

 

 

 「……どうした仁慈。何処となく背中に哀愁が漂っているぞ?」

 

 

 「あ、ギルさん」

 

 

 ジュリウス隊長に謎の罪悪感を抱いていると、今度は我らがブラッド隊の元頼れる兄貴兼常識人、現在ではスピード狂いのギルさんが話しかけてきた。珍しいな。

 

 

 「どうしたんですか、ギルさん」

 

 

 「俺も任務に参加するぜ」

 

 

 聞いていたのかこの人。

 

 

 「多分参加してもいいんじゃないんですかね。ジュリウス隊長も喜ぶと思いますよ」

 

 

 こんだけ人数が居ればあの人も寂しくないだろ。

 さりげなくジュリウス隊長が寂しがりやということ前提で話を進めていたら、階段の下からナナとシエルを伴ったジュリウス隊長が上がってきた。彼女たちの表情を伺うにどうやら断られたりはしなかったようである。

 

 

 「なんだ、ギルも行くのか?」

 

 

 「あぁ」

 

 

 「割と難易度の高い任務を受注したと思ったが、このままだとピクニックになりそうだな」 

 

 

 ジュリウス隊長めっちゃ嬉しそうですね。普段通りに振舞おうとしているみたいだが、唇の端っこが微妙につりあがっている。本当にピクニック好きだよねジュリウス隊長。なんか特別な思い出でもあるんだろうか……。

 

 

 ま、ともあれ人数も決まったことだしジュリウス隊長が受けた任務に向かいますか。

 

 

 

 「あれ?みんなどうしたの?」

 

 

 「あ、ロミオ先輩。これからみんなで任務に――――いや、どうせ行くでしょう。ロミオ先輩、準備してください。任務に行きますよ」

 

 

 

 「俺に選択権はないんですか!?」

 

 

 ロミオ先輩が何か騒いでいるがそこは無視。どうせこの人も任務に出かけるに決まってる。ジュリウス隊長と同じようにおいて行かれるのはすごい嫌がるタイプの人だからね。

 

 

 とりあえず、騒いでいるロミオ先輩の首根っこを引っ張ってブラッドは久しぶりに全員そろって任務に出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 ジュリウス隊長が受けてきた任務は俺とナナが初めての実地訓練を行った場所であった。正直、アラガミにそこら辺を食い散らかされているのが当たり前だと思われている現代の中ではすごくきれいな場所だと俺は思っている。

 実はシエルとナナが来たあたりからピクニックする気満々なんじゃないか?

 そんな考えをよぎってしまい思わず楽しそうに前を歩くジュリウス隊長にジトーっとした目を向けてしまった。

 

 

 「さて、今回の任務で狩るのはハガンコンゴウ4体……任務の名前はピクニック2だ」

 

 

 「ピルグリム2でしょ」

 

 

 やっぱり初めからピクニック行く気だったんじゃないですかーやだー。

 任務の名称すらピクニックに変換するくらいになっているとは……。ここまで来るともはや病気だろ。ピクニックジャンキーだよピクニックジャンキー。

 

 

 「ピルグリムかぁ……数の暴力、その真髄を見せられた任務だったなぁ」

 

 

 そう呟いて視線を空に向けるのは俺が引っ張ってきたロミオ先輩である。彼の気持ちはよくわかる。

 神機使いになりたての頃、ジュリウス隊長監督の下で数多くのアラガミをいっぺんに相手したこともあったからな。まぁ、俺はそのうち物量も圧倒的な個の力で食い破ればいいじゃないという結論を下したけど。

 

 

 「しかしなんということでしょう。今のロミオは凶悪な血の力に目覚めておりソレを使えばアラガミが悲劇的ビフォーアフターを遂げることに……」

 

 

 「やめろぉ!」

 

 

 自重を大気圏に届くくらいの彼方へ投げ捨てたギルさんがロミオ先輩を弄り、彼は彼で律儀にそれに反応する。

 そんな精神年齢が低い男性二人をよそに女性陣と俺、ジュリウス隊長は既にこちらに寄ってきていたハガンコンゴウの相手をしていた。

 

 

 あの二人がぐだぐだ話しているから戦ってないと思った?残念、戦いながらの雑談なんて極東人にとってはデフォスキルですよ。

 

 

 「ひゃっはー!ハガンは虐殺だー」

 

 

 「GUBBBBBBB!?」

 

 

 いつぞやの悲劇再び。

 哀れ、ハガンコンゴウは唯でさえ脆い顔面で凶悪な散弾を全て受け止めることなり、変な叫びを上げて地面に倒れ付した。ショッギョ・ムッジョ。

 自分の仲間がやられたからか、自分の胸をドラミングして怒りを表し始めたハガンコンゴウの顔面にヴァリアントサイズを突き刺した。ビクビク痙攣を起こし始めたハガンコンゴウから視線を外して周りを見てみれば、残りの三人も同じようなことをしていた。

 

 

 「これにて任務完了ですね」

 

 

 「いやーハガンコンゴウは強敵でしたねー」

 

 

 「白々しすぎる……」

 

 

 「ロミオ!その辺の小型アラガミと遊んでないで、持って来たシートを敷け。作ってきたサンドイッチを食べようじゃないか」

 

 

 「俺は引きずられてきたんですがねぇ……ていうか、ギル!いつまでも遊んでないでこっち手伝ってくれよ!無駄にでかいんだよ、このシート」

 

 

 「また世界を縮めてしまt――――あぁ、今行く」

 

 

 

 崩れ行くハガンコンゴウの死体に囲まれてシートを敷き、持参したサンドイッチをほおばる。

 ジュリウス隊長曰く自作のサンドイッチをパクつきながら、ふと現在の自分たちの状態を振り返ってみた。

 ……今考えてみるととんでもなく奇妙というか、恐怖すら感じる集団と化している気がする。

 

 

 「ジュリウスにこんな特技があったなんて知らなかったなぁ」

 

 

 「他にも掃除や裁縫なども得意だ」

 

 

 「ブフッ!……ゲッホ……やめろジュリウス。いきなり笑わすな……ゲホ、危うくお茶噴出すところだったぜ」

 

 

 

 ―――――――――――――――――ガシャンガシャン

 

 

 

 「もうみんな!ジュリウスのサンドイッチだけじゃなくて私の特性レーションも食べてよ!味もちゃんと改良したんだから」

 

 

 

 ――――――――――――ガシャンガシャン

 

 

 

 「青紫色で、腐臭を放つ物体なんて食べれるわけないだろうが……何時ものおでんパンはどうしたんだよ」

 

 

 

 ――――――――――――ガシャンガシャン

 

 

 

 「ロミオ、さっきからゲームの音がうるさいですよ。ガシャンガシャンって」

 

 

 ――――――ガシャンガシャン

 

 

 

 「ゲームの音でこんな重そうな音が出るわけないだろ。そもそも任務に持ってくるなんていうこと、俺でもしないわ」

 

 

 ――――ガシャン

 

 

 「音が止まった……?」

 

 

 「………あー、なんか嫌な予感がする。私の中のおでんパン(ゴースト)がそう叫んでいる気がする」

 

 

 「ナナ。多分正解だ」

 

 

 俺がそう言った直後―――――――

 

 

 

  グォン!!

 

 

 

 ――――――巨大な何かが空を切り、俺たちの頭上に振り下ろされていることを空気の振動から察知した。

 

 

 

 俺たちはすぐ隣にあった神機を手にとり、その場から発射されたかのような勢いでそれぞれ散っていく。するとその数秒後には俺たちが先程まで居たシートに巨大な大剣のようなものが振り下ろされていた。

 そのときに発生した空気圧にバランスを崩しそうになるも、何とか体勢を立て直し地面を抉って勢いを殺し、無事に着地を果たす。

 大剣の出所を確認するために、根元を探して視線をずらしていくと三メートル……いや、その倍くらいはある距離に大剣を振り下ろした状態で固まっている顔が継ぎ接ぎのデミウルゴスみたいなアラガミ?の姿が。

 

 

 「何だアレ?アラガミか?」

 

 

 「デミウルゴスかクアトリガの親戚じゃないか?」

 

 

 緩慢な動きで顔を持ち上げこちらを見てくるアラガミ?を警戒しつつ、みんなで意見を交わす。

 そんな中、部隊用の回線が突然開き竹田さんの声が聞こえてきた。

 

 

 『ブラッド隊、聞こえますか!?今近くに巨大なアラガミ反応が現れました!直ちに周囲を警戒してください!』

 

 

 「すいません。さっき不意打ちくらいまして、現在対峙しています」

 

 

 『遅かったですか……え?わ、わかりました』

 

 

 大剣を振り下ろして以降まったく動かないアラガミ?に警戒していると、なにやら竹田さんのほうで何かあったらしい。

 

 

 『サカキ博士が仁慈さんにおっしゃりたいことがあるらしいので代わりますね』

 

 

 『―――やぁ、仁慈君。状況の方はどうだい?』

 

 

 「どうでしょう?正直分かりません。というかサカキ支部長。俺たちが今対峙しているアラガミ擬きはなんですか?」

 

 

 『そうだね……今まで君の事を監視していた例のアラガミといえば分かるかな?』

 

 

 「あれがですか」

 

 

 畜生。サリエルのほうがまだよかったじゃねえか。

 何でこんな気持ち悪いのが……と思いつつ、ラケル博士が作ったもしくは調教したアラガミ擬きを睨みつける。

 すると、目が合った。

 

 

 

 「AAAAAAAAAA!!ジ…ン……ジィ!!ジンジィイイイイイイイイ!!!」

 

 

 「キャァアアアアシャベッタァァァァアア!!」

 

 

 しかもこの気持ち悪いの、俺の名前を呼びやがった。

 

 

 「……なんだ、仁慈のお客さんだったのか」

 

 

 「びっくりしたぜ」

 

 

 「ならここは……」

 

 

 「ご指名が入った仁慈に任せて、私たちは帰ろうかー」

 

 

 「頑張れ仁慈。お前が……ナンバーワンだ!」

 

 

 「おい、ちょっと待て」

 

 

 俺がアラガミに名前を呼ばれた瞬間、他のブラッドメンバーはこれ幸いと俺に一言ずつ言葉を投げかけ、極東支部に帰ろうとし始めた。

 

 

 「この状況に仲間一人置いて帰るとかおかしいでしょ」

 

 

 「冗談だ。しかし、気をつけろよ仁慈。あのアラガミ……多分お前のことしか見てない」

 

 

 背後に居るアラガミ擬きを指しながらそういうギルさん。ソレはどういう意味かと聞こうとしたその瞬間、何時ものごとく第6感的な何かが発動し、反射的に神機を背後に振るった。

 振るった神機は俺の背中に飛来しようとしていたエネルギー弾を見事に切り裂く。しかし、それに続いて同じようなエネルギー弾が発射されてきたため、神機使いの身体能力をフル活用した超人的ジャンプで残りの攻撃を回避した。

 

 

 このとき、近くにギルさんたちがいたにも関わらずエネルギー弾は全て俺のほうに向かってきていた。どうやらギルさんの言っていることはあたっているらしい。

 

 

 足のバネを使って着地の衝撃を緩め地面に降り立つと、近くに先程まで俺を置いていこうとしていたブラッドメンバーの姿があった。どうやら俺をおいて帰るのはやめることにしたらしい。

 

 

 「さて、ふざけるのもここまでにするとして……みんな、相手は話すことのできるいわば知性を持ったアラガミである。決して油断せず仲間との連携を駆使して戦え。……では、行くぞ!」

 

 

 『了解!』

 

 

 ジュリウス隊長の掛け声と共に一気にアラガミ擬きに突貫する。

 そんな俺たちをアラガミ擬きは咆哮と共に向かい合うのだった。

 

 

 

 

 

 



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第四十七話

よっし!師匠来た!これで勝つる!
ゴホン、失礼しました。ついついFGOで念願の☆5を手に入れたのでつい。


そんな事は置いといて、四十七話どうぞ。


 「ちぃ……!堅い!」

 

 

 唐突に現れたストーカーアラガミ擬き(多分ラケル博士が関与している)を倒すために、ジュリウス隊長の号令と共にそのアラガミ擬きの下へ別々の場所から一斉に攻撃する。

 

 

 しかし、俺を含めたブラッドメンバーの攻撃は当たってはいるものの、異常に堅い表面に弾かれてしまった。アラガミ擬きの様子を見る限りでもあまり効いているようには見えなかった。まさかジュリウス隊長の攻撃すら弾くとは……最近アラガミはサンドバックかそれに類似するストレス発散器具かと思っていたが、随分骨のあるやつが居たもんだ。いや、ラケル博士が関与した疑いがある時点でこのくらいは想定しておくべきだったな。

 

 

 「なんか神機の効きがわるいな……」

 

 

 「速さが足りてないんじゃないの?」

 

 

 「俺が遅い!?俺がslowly!?冗談じゃねぇ!!野朗オブクラッシャー!」

 

 

 「混ざってる混ざってる」

 

 

 ロミオ先輩の言葉に過剰反応を示したギルさんが、唯でさえ壊れているキャラをさらに崩して敵に突貫しようとするので俺とロミオ先輩で何とか押さえつける。後ギルさん、それ本当は「野朗ぶっ殺してやるぁぁぁ!」って言ってるんですからね。

 

 

 「っと……!本当に効きが悪いな。……実にすばらしい。切り応えがあって最高だ」

 

 

 「おい、誰かジュリウス隊長(コイツ)も止めろ」

 

 

 獰猛な笑みを浮かべて再びアラガミ擬きに切りかかろうとしているジュリウス隊長にナナとシエルをストッパーとして送り出す。ナナがジュリウス隊長の目の前にハンマーを振り下ろしたことで彼は止まったようだ。冷や汗をダラダラと流しているが、今回はちょっと擁護できないのでスルー。まったくブラッドはキチガイの巣窟だぜぇ……。

 

 

 暴走した男性陣の鎮圧を達成したので、改めて現在の状況を整理することにする。

 相手であるあのアラガミ擬きの皮膚?装甲?どっちだか分からないが、あれは今まで相手して来たアラガミの中でも群を抜いて堅い。クアトリガもなかなかに堅かったがそれ以上だ。ブラッドメンバーで一斉に攻撃を行ったわけだが、傷ひとつ付いてない。まだまだ余裕綽々ってかんじだ。

 今現在も、こうして考え事をしている俺に対して熱烈なアプローチを仕掛けてくるくらいだしな。他の人達を完全に無視して。

 

 

 「GUUUUUUUAAAA!!ジン……ジィィイイイイ!!」

 

 

 「えぇい!しつこいな!お前みたいな化け物に迫られても嬉しくないわ!人型美少女になって出直して来い!!」

 

 

 俺の名前を呼びながら、胸部の装甲を開けてヴァジュラよろしく電撃を放とうとしているアラガミ擬きにそう叫ぶ。

 こちらに発射された電撃は自分に当たる分だけしっかりと切り払いつつ、必要ないかもしれないが俺に注意を向けさせるためにいくつかの電撃はしっかり返しておく。別に電撃を返したからというわけではないが、自分の周囲にいるブラッドメンバーを華麗に無視し、自分の右前足に巨大な剣を出現させて振り上げた。よくよく見てみるとその剣はバスターのチャージクラッシュ時の形態にも似ている。

 神機の技術が思いっきり流用してるじゃないですかー。

 

 

 帰ったらラケル博士に洗いざらい吐いてもらおう。ブラッドのみんなで押しかければさすがに話してくれるだろう。

 ん?お前ラケル博士のこと苦手に思ってなかったかって?知らんな。

 

 

 しかし、それは悪手だアラガミ擬き。

 四つん這いで移動しているお前が前足を上げて作り出した剣を振り上げるということは必然的に動けなくなるということだ。そして、お前の周りには散々無視されて若干青筋が浮かんでいるブラッドが居る。

 結局何が言いたいのかというと、それは致命的な隙となる。完全に剣を振り上げたタイミングを狙い、無視されていたブラッドメンバーは関節などの防御が薄いと思われる部分に自らの神機を突き立てる。

 

 

 意識外からの攻撃に加え自身の身体を動かすために使う関節を攻撃された所為か、アラガミ擬きはその巨体を支えていた足を折り無様に地面に倒れこんだ。

 

 

 「どんな感じだった?」

 

 

 「衝撃は届いたんだけどね……」

 

 

 「ダメージが入っているかといわれれば少々首を傾げますね」

 

 

 ちょうど俺の近くに下がってきたシエルとナナに話を聞いてみると、どうやら結果はあまりよろしいものではなかったらしい。

 アラガミ擬きのほうも既に立ち上がろうと、肢体に力を入れているようだった。

 

 

 くっそ……何でストーカーアラガミ擬きとか言う意味不明で気持ちの悪いやつに限ってこんなにしぶといんだ……泣けるぜ。

 

 

 「……なんか違和感を感じるんだよな。まるでロミオの血の力を食らったときみたいに神機の機能が制限されているような感覚が、あいつに神機を突き立てた瞬間に感じるんだよな」

 

 

 「俺はここ最近のギルさんの態度に違和感を感じまくっていますけど……」

 

 

 というか、ギルさん。ロミオ先輩から血の力使われるくらいのことをやらかしたんですか。

 

 

 「仁慈そのことは言っても無駄だぞ。本人はまるで気になってないから。まぁ、そのことは置いといて……確かにギルの言うことも分かるんだよなぁ。なんていうか、何時もなら神機から伝わってくる手ごたえがまったく感じられないんだよ」

 

 

 これはギルさんにワンテンポ遅れて下がってきたロミオ先輩の言葉。

 うーん……神機から手ごたえが感じられないか……。その感覚が誰か一人だけだったら神機の不備と言えるが、みんな思うところがあるらしい。ロミオ先輩の言葉を聞いた瞬間にどこか腑に落ちたような表情を浮かべた。

 

 

 何も解決していないのにどこかすっきりした気持ちで残りのジュリウス隊長を探すが、近くには彼の姿はなかった。もしやと思いアラガミ擬きのほうに視線を向けると、あの人は未だに一人で切りあっていた。わざわざ無視して俺に向かってこようとするアラガミ擬きの進路上に割り込んで。良くやるわ。

 

 

 俺も囮になるよりも直接殴りに行きたいので、アラガミ擬きに襲い掛かろうと下半身に力を込めるが、絶妙なタイミングでこちらを向いたジュリウス隊長に視線で窘められた。

 

 

 『この面白いの、俺にやらせろ』

 

 

 視線でそう語りかけてくるジュリウス隊長。

 俺がこの頼みに従う義理はまったくといっていいほどないのだが、無視して突っ込んだ暁には俺が初めにこま切れにされそうだったので直接手を出すことはやめることにする。代わりに、神機を銃形態にして顔面に弾をぶち込んでみた。全然効いてないけど。

 

 

 

 「GUAAAAA!ジンジィィイイイイ!」

 

 

 「オイオイつれないな……今は仁慈のことでなく俺の相手だけをしていろ……ッ!」

 

 

 いい加減しつこいとアラガミ擬きのほうも感じたのか、初めて俺から視線を逸らしジュリウス隊長に継ぎ接ぎだらけの不細工な面を向ける。

 そしてそれと同時に自分の前足を今度は両方とも上げて、一瞬だけ後ろ足だけで立ったかと思うと、自分の身体が前に倒れることを利用したのしかかりをしようとした。

 

 

 だが、ギルさんではないが速さが圧倒的に足りない。巨体を持ち上げたとき既にアラガミ擬きのやることを予測したジュリウス隊長はとっくに攻撃範囲外に離脱している。

 ズゥン……!と重量感漂う音と砂埃が周囲に響き渡るも、視界が悪くなるということ以外まったくもって効果を成していないという事実がどこか虚しさを感じさせた。

 

 

 当然その隙をジュリウス隊長が見逃すわけもなく、後退していた身体を半回転させアラガミ擬きに人間とは思えないスピードで接近を試みる。

 

 

 「AAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 

 「!?……チッ!」

 

 

 しかし、どうやらのしかかりのほうはジュリウス隊長をおびき寄せる餌であったらしくある程度まで接近していたジュリウス隊長にアラガミ擬きが練成した大剣が横薙ぎで襲い掛かる。

 

 

 彼はその攻撃を棒高跳びの背面とびの要領で回避すると、空中で足を腹のほうへ抱え込むようにして回転、地面に着地する。その後、大剣を振り切った状態のアラガミ擬きの顔面に一太刀お見舞いしていた。

 

 

 

 「フッ」

 

 

 「うわ、めっちゃドヤってる……」

 

 

 顔面に攻撃を入れた後、寸分のブレもなく地面に着地したジュリウス隊長はわざわざ背後に居る俺のほうを見てドヤ顔をかましてきた。ぶん殴りたい。

 このまま俺にドヤ顔を見せ付ける気か?と危惧したタイミングでジュリウス隊長の登場が曇りを見せる。

 何事だと思って彼が向けている視線の先を辿って見ると、継ぎ接ぎだらけの顔面に新しい切り傷が刻まれていた。ざっくりと深くまで。

 

 

 貫通力に優れたスナイパーで放った俺のバレッドも難なく弾き返すくらいの強度があるにも関わらず、急に目に見えて分かるほどの深い傷がついたのか、そのことについて考えているのか。あの表情は。

 

 

 そのことに気付くと確かにあの傷つき方は少々違和感を覚える。どうせやることもないし、このことに対して考察でもしようかと破損した顔面を観察しようとしたところで、

 

 

 「ん?」

 

 

 深い切り傷が入ったアラガミ擬きの顔面の内側から急に激しい光があふれ出した。何?自爆でもするのか?

 予想していなかった事態にさすがのジュリウス隊長も後退する事にしたらしく、アラガミ擬きに向かって背を向けて俺たちが居るところまで下がってきた。

 

 

 「ジュリウス……お前あの化け物に何したんだよ……」

 

 

 「顔面を神機で切り裂いただけだ。唯……おそらくそれは誘われたものだったのだろう。俺が切りつけた顔面は、仁慈の弾丸を弾いたとは思えないくらいに柔いものだったし、アレは俺が傷を付けた瞬間に嗤っていた」

 

 

 「うわぁ……あの顔面で嗤うとかないわぁ……。まぁ、今はいいか。それで切った結果がアレですか」

 

 

 顔の位置をジュリウス隊長からアラガミ擬きに戻すと、先程まで顔からあふれていた激しい光はアラガミ擬きの全身にまとわりつくようになっていた。しかもシルエットが若干変化している。まるで、ポケモ〇の進化のようである。Bボタン連打すればキャンセルとかされたりしないかな。

 

 

 『――――――――ッ!?仁慈君!今すぐその場を離れるんだ!』

 

 

 「え?サカキ支部長?」

 

 

 目の前の光景がどうあがいてもポケモ〇の進化シーンにしか見えなくなった俺は一週回ってどうなるのか気になってしまい、暢気に元アラガミ擬きを眺めていたのだが、その時部隊全体に知らせるための回線に普段の様子からは想像もつかないくらいに焦りを含んだサカキ支部長の声が乗せられてきた。

 この段階でただならぬ事態であると考えた俺たちは、進化を始めたアラガミ擬きからすぐさま距離をとり、そのまま離脱した。

 タイミングから考えるとサカキ支部長はあの現象に関して何か知っているようだし。

 

 

 「サカキ支部長あれはなんですか」

 

 

 『今は説明する時間がない。詳しいことはこっちに戻って来た時にするよ。唯一つ確実に言えることは、君のストーカーは我々が思っていたよりもさらに性質の悪いものだったということかな』

 

 

 「思ってる以上なのか……」

 

 

 唯でさえ、あの不細工な顔面で四速歩行で人じゃない化け物ストーカーというまったく嬉しくない属性盛りだくさんなのに……。

 

 

 『いや、そうではなくてね。あれは最悪の場合、全人類を滅ぼすことのできるものになることができるのさ』

 

 

 「それは思っている以上ですわ」

 

 

 俺の精神の問題ではなく、普通にとんでもないものだった。規模も人類と壮大なスケールである。これにはさすがのブラッドメンバーも驚愕の表情を浮かべていた。よかった。ここで笑ってたら本当にどうしようと思った。

 

 

 『とにかく、先程も言った通り早く極東支部に戻ってきて欲しい。一刻も早くこの状況に対する対応策を練らなければならないからね。帰還のためのヘリは既に飛ばしてあるし、合流ポイントも送ってあるから』

 

 

 「了解です………ラケル博士はどうですか?今そこに居ます?」

 

 

 『あぁ、彼女もなにやら決意を固めたようでね。君たちの帰還を待っている』

 

 

 「準備万端ですね。分かりました、全速力で帰還します」

 

 

 通信が切れた後に、送られてきたという合流ポイントを確認。それに向かってさらにペースを速める。

 

 

 「仁慈……今の話……なに?どうしてラケル先生の名前が出てくるの?」

 

 

 俺とサカキ支部長の会話内容を聞いていたナナがそう尋ねる。ナナはラケル博士が作った施設、マグノリア・コンパスの出身であり親代わりの彼女の名前があの会話の中で出てきたことに戸惑っているようだ。

 他の人の様子を伺っていると、ギルさん以外のメンバーはみんなナナと同じような疑問を抱いているようだ。そういえばみんな施設の出身だったな。

 

 

 「………とりあえず、極東支部に戻ってからな」

 

 

 

 現状はなんともいえないので、無難な言葉でその場をやり過ごし俺たちはさらにペースを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

              ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 「サカキ支部長。ブラッド隊全メンバー只今帰還いたしました」

 

 

 ヘリの操縦者さんに無理言って限界ギリギリの速度で送ってもらったため、ブラッドメンバー全員はサカキ支部長との通信を切った三十分後には極東支部へと帰還することができた。

 

 

 「待っていたよ。さぁ、入ってくれたまえ」

 

 

 サカキ支部長の許可が下りたと同時に扉を開ける。

 部屋の中には、サカキ支部長に極東の第一部隊隊長である藤木さんと俺に意味深な言葉を残したシックザールさん。そして最後に今回話し合うことについて、最も重要な情報を握っていると思われるラケル博士が居た。

 

 

 「さて、みんな色々と思うことがあると思うがまずは君たちが相手していたもののことを話そうと思う。ラケル博士、よろしく頼むよ」

 

 

 「えぇ。……貴方達ブラッドが対峙したアレは簡単に言ってしまえば神機兵のプロトタイプです」

 

 

 プロトタイプ。つまりは俺たちが相手していたあれはあの鉄屑の試作品のようなものだったということである。

 何でもあのプロトタイプはどのくらいならアラガミに対抗できるのかというコンセプトで作られたため強さの面で言えば今の神機兵をはるかに上回る性能らしい。

 上回りすぎてると思うんだけど。それに、あいつの動きは今必死に作ろうとしている無人神機兵もびっくりな身のこなしだったんだけど。

 そのことが気になったので、ラケル博士に直接尋ねてみると彼女は少し考えるような仕草をした後に口を開いた。

 

 

 「……それにはまず、私の話を聞いて頂かないといけません」

 

 

 そう前置きしてから語られた内容は信じられないことの連続であった。怪我を治すためにP73因子を取りいれていたこと、それにより荒ぶる神々の意思とか言うものの声が聞こえるようになったこと、それを利用してプロトタイプの神機兵……零號神機兵を自らの手駒としたこと、最終的に終末捕食を起こそうとしたことなどなど、そんなところまで言っていいの?とこっちが思ってしまうほどのネタバレのオンパレードだった。

 ついでにブラッドも終末捕食の根幹を成すジュリウス隊長を特異点というものにするための舞台装置にするためだったらしい。これには俺以外のブラッドメンバーもショックを隠しきれなかったようだ。

 

 

 「考えがえぐいですね」

 

 

 「あら、あまりショックを受けていないのね」

 

 

 「第一印象から知ってました」

 

 

 「解せないわ……」

 

 

 だって、一目見たときからそんな事を思ったんだもの。人間構えていれば割りとダメージ少ないからね。

 

 

 「……だったら貴方が度肝を抜くような、とっておきの情報を言ってあげる」

 

 

 「え゛?」

 

 

 やべ、余計な事言ったかも。

 

 

 「貴方、この世界のこと異世界だと思っているでしょう?」

 

 

 「……は?」

 

 

 ラケル博士の口から何気なく出てきた言葉に俺は驚きを隠せないで居た。

 何でこの人がそのことを知っている?

 

 

 今の彼女の発言で、沈んでいたブラッドメンバーが俺の方に視線を向けてくるが正直その辺に気を配っている余裕がない。

 

 

 「考えて見なさい。ジュリウスやギルが言っているネタは何処から仕入れてくるのかを、いったい今は何年なのかを」

 

 

 「……まさか」

 

 

 ラケル博士に言われて初めて年代のことを考慮して考えてみる。するとあるひとつの答えにたどり着くのだ。

 この世界は、俺が生きていた世界の未来の姿という結論に。

 

 

 

 「それだけじゃない。貴方、自分が別の世界から来たと思っていた割りには随分と戦うことに慣れるのが早かったわね。まるで、それが当たり前だといわんばかりに」

 

 

 確かに。

 いくら訓練で戦い方を身に着けたからといって、普通の生活を送っていた俺がいきなり命のやり取りを行えるのだろうか?

 

 

 「アラガミを素手で殴り飛ばすこともそう。神機使いとはいえ、そのことが本当にできると思う?人間の身で」

 

 

 考え出せば止まらない。違和感の数々。

 困惑の表情を浮かべているであろう俺の顔を見てラケル博士は真剣な表情をしていった。

 

 

 「教えてあげるわ、仁慈。貴方のことを貴方が知らない事まで、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、仁慈君の秘密が明らかに!……なるといいね。


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第四十八話

遅れて申し訳ありません。頭の中で考えていることを文章にすることに手こずりました。

今回はご都合主義、急展開、キャラ崩壊と注意事項の雨あられです。
よっぽどおかしいなと思うこと意外はなるべくスルーしてくれるとありがたいです。



 

 

「鼻☆塩☆塩。アレは今から36万……いや、1万4千年前だったかしら……まぁいいわ。彼にh――――」

 「俺に72通りの名前なんてありませんよ。そういうのはいいので、結論を簡潔に教えてください」

 

 

 何を言われると身構えていたらこれだよ。

 もう少し真面目な空気を持続できないんですかねぇ。どう考えてもネタをぶち込むタイミングじゃあなかったでしょう?

 

 

 「……なるほど。仁慈とは仮の名。本当は神機の変わりに爪楊枝を駆使する天界出身のイー〇ックだったわけか」

 

 

 「ちげぇよ」

 

 

 俺はジーパン鎧なんていう常人離れした服装はしないし、爪楊枝ではなくしっかり神機を駆使して戦ってる。いや、そもそもあの人は実際に爪楊枝を使って戦ったことはないし。そして何より、イ〇ノックはハルオミさんだろ。

 って違う違う。話が思いっきり脱線してやがる。

 

 

 「ほら見てください。少しネタを振っただけで話が脱線するんですから」

 

 

 「ジュリウスが着実に成長してくれてうれしいわ」

 

 

 「元凶お前か」

 

 

 おかげでジュリウス隊長がすごい残念な感じになっているじゃないか。外見がいいだけになおそれが目立つという仕様も搭載してるし……。

 あーまた話がずれた。

 

 

 「もういいです。ではラケル博士、結論をどうぞ」

 

 

 「えぇ。そろそろ真面目に話しましょう。残された時間も少ないことですしね。………仁慈、あなたは本来過去にも現在にも未来にも生まれるはずのない人間………いや、『人格』だったのよ」

 

 

 

 

 

 

              ――――――――――――――――

 

 

 

 

 私がP73偏食因子を移植してからしばらくして、荒ぶる神々の声が聞こえるようになったという電波バリバリな話は先ほどしたわね。

 

 

 「自分で言っちゃうんだ……」

 

 

 そこ、自分で話を逸らすようなことを言わない。

 

 

 ……あの時の私は今のようにロマンも自分のしたいこともなかったから荒ぶる神々の人形のような状態だったわ。そのことに薄々気付いていたのかお姉さまも私のことを時々不審な目で見ていたしね。

 

 

 そんなある日、荒ぶる神々の意思が私に語りかけてきたのよ。

 つまり「(荒ぶる)神(々)は言っている……〇〇に行きなさいと」状態ね。前述したように当時の私は人形同然。遠くから零號神機兵を護衛として付き添わせながら私は荒ぶる神々の意思の言われたとおりの場所に向かい、見つけたのが……。

 

 

 「……仁慈か」

 

 

 えぇ、そうよジュリウス。もっともそのときに見つけたのは今私たちの目の前に存在している『仁慈』ではないし、私が見つけたとき彼は肢体をアラガミに喰われ、瀕死の状態だったけれど。

 

 

 話を戻すわね。

 私が聞いた荒ぶる神々の声は、目の前で瀕死の状態になっている少年を助けろということだった。当時の私は、もうこの子どもは助からないと思いつつも、マグノリア=コンパスにつれて帰ったわ。零號神機兵に乗せて。

 

 

 「なんて嫌なタクシーなんだ……」

 

 

 「まさか零號神機兵はそのときに乗せた仁慈の感覚が忘れられなくて……」

 

 

 「あってたまるか。そんなこと」

 

 

 ロミオ余計なこと言わないの。

 

 

 それで、瀕死の状態にあったその少年をマグノリア=コンパスに連れて帰ったのだけど正直私は彼が生きているとは思わなかったわ。

 肢体を喰いちぎられ、出血量もかなりのものだった。その状態で応急処置もせずに運んだのだもの。

 けれどそんな私の考えを他所に荒ぶる神々の意思はこの少年に私と同じくP73偏食因子を投与しろという命令を下した。人形であった私は口答えすることなく瀕死の少年にP73偏食因子を投与して、当時開発されたばかりの対アラガミ装甲壁と同じ原理でできている部屋に隔離したの。さすがに何の準備もなしにアラガミ化されたら困ってしまいますからね。

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――― 

 

 

 

 

 それから三日たったある日、ラケルが拾った少年が目を覚ましたと抱えていた施設の従業員兼研究者から連絡があった。

 ラケルは荒ぶる神々の言われるがままに少年を隔離した部屋の様子を見に行き、絶句した。

 

 

 つい三日前までは無残にも肢体を喰いちぎられて、痛々しい姿だった少年が何処の欠損もなく五体満足でその部屋にいたからである。彼は退屈なのか、足をぶらぶらと遊ばせていた。

 急いでラケルは施設に居た従業員兼研究者たちを集めて彼の身体を徹底的に調べることにした。すると、復活した彼の肢体の殆どはオラクル細胞で構成されていることが判明したのである。

 

 

 「……ラケル博士、これは一体……」

 

 

 「……推測ですが、アラガミに喰われた際に付着したオラクル細胞が彼に注入したP73偏食因子により生存本能を学習した結果ではないかと」

 

 

 ラケルが言った言葉に皆信じられないという反応を返す。このことを口にしたラケル本人も自分の内から聞こえてくる荒ぶる神々の声を聞いていなければ絶対に信じていなかっただろうと思っていた。

 

 

 ラケルおよび研究員たちは少年の処遇についてかなり迷っていた。危険な芽は早めに潰しておいたほうがよいという意見と研究者として少年をこのまま観察し続け、偏食因子適合率増大に利用すべきという意見が出た。最終的には少年を拾ってきたこととこの施設の実質的な最高責任者であるラケルが少年の処遇について決めることとなった。

 

 

 彼女は自分の中にある荒ぶる神々の意思に従い彼をこのまま育てつつ、経過を観察する決断を下した。もちろん、アラガミ装甲壁で囲まれた部屋で軟禁に近い状態で育てることとなるのだが。

 

 

 「………お名前を教えてくれるかしら?」

 

 

 ラケルは自分が拾ってきた少年の名を聞くために、隔離された部屋の中に入り足をぶらぶらと遊ばせ退屈そうにしていた少年に話しかける。

 少年は声をかけてきたラケルのほうを向いて、ポツリと一言呟いた。

 

 

 「なまえ?それ……なに?」

 

 

 ここでラケルは少年を拾ってきたときの状況を思い出した。肢体を無くし、素人目でも助からないだろうと思うほど血を流して地面に倒れ付していた。そのショックで記憶に何かしらの障害が生じてもまったく不思議ではない。

 彼女はこれを好機と考えた。彼女の中に居る荒ぶる神々の意思が彼を拾ったことには何かしらの意味がある。後々使うのであれば自分の都合のいいように動かせるほうがいいだろう。そう瞬時に考えた彼女はこの日、名前を失った少年に『ジン』という名前をつけて育て始めた。

 

 

 

 彼女の考えた少年駒化計画は順調だった。元々親の愛情などを必要とする時期に拾ったためか、少年――――ジンはラケルによくなついていた。

 しかし、唯一彼女の思い通りにならないことがあった。それは、

 

 

 「おぉ、ジン君。元気にしとったかの?」

 

 

 「あ!おじいちゃん!」

 

 

 ジンがなついた人がラケルだけではなかったことだろう。

 部屋に入ってきた見掛け八十はあるであろう老人の胸に向かって笑顔でジンが飛び込んでいく。

 ジンに抱きつかれた老人はニコニコと厳格な表情をだらしなく緩ませてジンを受け入れた。

 

 

 ――――――彼の名前は樫原信慈。

 

 

 ラケルやその中の荒ぶる神々の意思も認めるほどの科学者である。その頭脳は彼女たちですら舌を巻くこともあるほどのもので、彼のことを認めると同時に目の上のたんこぶのようにも思っていた。

 

 

 そんな風に思われている樫原信慈がジンに構う背景には当然の如く理由がある。それはジンの身体のことについてだった。

 外見的には通常の人間と変わらないが、肢体はアラガミと同じオラクル細胞でできている。しかもジンの身体にはつい最近開発が進み安全性が向上している偏食因子ではなく、適応が難しく多くの犠牲を生み出したP73偏食因子を取り込んでいるのだ。そのため彼の様子を近くで観察し、兆候があったときにすぐさま対応できるようにしている。

 

 

 また、最大の理由は彼がたどり着いてしまったもしもの可能性だ。

 オラクル細胞、もしくは偏食因子は人間を含めた地球上の全ての生き物が行ってきた進化を比較にならない速度で行っている。

 

 

 なら、人間の中に入りその構造、思考回路をオラクル細胞が学習した場合はどうなるだろうか。

 その内意思を持ち、ジンの身体を乗っ取り知能を兼ね備えたアラガミが誕生するのではないか……それこそが樫原信慈の最大の懸念であった。

 実際、時々ジンは獣のように暴れ回ることがあった。もっとも相手はいまだ子どもで、対応を早期に行っているからこそ大事にはなっていないが長くは持たないだろうと考えている。

 

 

 「いい子にしてたかの?」

 

 

 「うん!」

 

 

 「そうかそうか。なら今日はいい子にしていたご褒美に絵本をたくさん持ってきたから、早速読もうじゃないか」

 

 

 「ほんと!?」

 

 

 キラキラと目を光らせて信慈を見るジン。

 その視線に確かな罪悪感を感じつつ、彼はそれを人生で培ってきた精神力で押さえ込んで柔和な笑みを浮かべると胡坐をかいてジンを上に乗せて絵本の読み聞かせを行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――ジンは知らない。

 

 

 彼が持ってくる絵本には、自分の記憶・人格を他人の脳内に移すことができる仕掛けが施してあることを。そしてそれが、もしアラガミが彼の精神を侵食した際に対抗できるようにする防衛装置だということを。

 

 

 

 それからジンは特に何の問題も起こすことなく、年を重ねていった。

 既に高齢だった樫原信慈は寿命で息を引き取ったがその時も大泣きこそすれ、感情の爆発による暴走などもなかった。

 このことにより、ある程度の自由がジンに認められ以前よりもまだ楽しく過ごしていた。

 

 

 しかし、ジンの年が二桁に差し掛かった時に事件が起きた。

 

 

 「………」

 

 

 『………』ガシャンガシャン

 

 

 十歳になりたてのジンの前に零號神機兵が現れたのだ。

 

 

 

 『――――――』ガシャンガシャン

 

 

 「うわぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 

 

 ジン、絶叫。

 トイレへと出かけた帰りに、ぱっと見化け物としか見えない……というか正真正銘の化け物を見てしまったジンはわき目も振らずにマグノリア=コンパスの外へと飛び出してしまった。

 本来ならば、子ども一人を捕まえることくらいは造作もない。だが彼の肢体はオラクル細胞でできている。ぶっちゃけ、下手な神機使いよりも身体能力が上だった。

 

 

 ラケルが気付いたときには既に遅かった。

 既に施設の計器で観測できる範囲にジンの反応はなく完全に見失ってしまった。

 しかし、彼女の中にある荒ぶる神々の意思は対して重大なこととは思っていなかった。なぜなら彼がアラガミ化すれば特異点になりうるかもしれないからである。手段は多いほうがよいと、ラケルにジンの捜索を打ち切るように言い渡した。

 

 

 

 

            

 

 

 

 「私が知っているのはここまでです。ここからは私の推論になりますが、聞きますか?」

 

 

 「……はい」

 

 

 「ジンはマグノリア=コンパスを逃げ出したあと、ストリートチルドレンと同じように生活していたと考えられます。知識は樫原信慈博士と私で十分なほどつけましたし、身体能力は折り紙つきですから。そして、ある日彼の身体能力を持ってしても逃げ切れない……そうですね、アラガミに囲まれたかそれに似たような状況に陥ってしまったのでしょう。貴方を発見したとき、既に神機を持っていたことから未だ回収されていない神機を握って道を切り開いてその状況から脱したからだと考えています」

 

 

 「……ラケル先生。そんな事が本当に可能なのでしょうか?」

 

 

 「えぇ。私たちの援助があったとはいえ、何年もアラガミ化せずに生活していたのですもの。今更、調整された神機程度に喰われる可能性は低いです」

 

 

 「……でも、俺はジンではなく樫原仁慈ですよ。まぁ、樫原信慈という人が出てきた辺りから大体予想はできますが」

 

 

 

 「えぇ、そう。ジンは神機を問題なく扱えた。しかし、神機を握ったことにより彼の中に眠っていたオラクル細胞が一気に活性化し、人格の侵食が始まったのでしょう。そして樫原信慈が仕込んでいた防御装置が発動。人格同士の喰いあいの結果、混ざり合ってしまった」

 

 

 「つまり?」

 

 

 「速攻魔法『超融合(精神の喰らいあい)』を発動!『(ジン)』と『お前(樫原信慈)』を超融合!と言ったところでしょう」

 

 

 「…………」

 

 

 仁慈の顔が地面に向けられる。

 ……まぁ、ショックでしょう。今まで自分の記憶だと思っていたものが他の誰かのもので尚且つ混ざりものであったのですから。

 記憶というのは、人格の根幹を成すもの。

 それが全て自分のものではなかったという事実は自身のアイデンティティーの喪失に他ならない。

 ジュリウスを初めとするブラッドメンバーやそのほかに居る人達も、仁慈に対して何の言葉もかけることはできなかった。当然、私も。

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 ラケル先生から話を聞いたが、正直だからなんだという感想しか抱かなかった。

 いや、この反応がおかしいことは分かるよ?でもさ、神機使いになってから俺が思い起こしたことって中学時代のつらい思い出とおばあちゃんの知恵袋くらいしかないぞ?

 

 

 ……どう反応すればいいってんだ。

 他に思うことと言えば、一番最初にマルドゥークと戦ったときに聞いた声はアラガミの意思だったとか、あの時の力はアラガミパゥワーなのかなぁということしかないぞ。

 

 

 「あー……仁慈」

 

 

 どう反応しようかと頭を悩ませている様を落ち込んでいるのかと勘違いしたのか、ブラッドに初めてきたときと同じようなまともな口調のギルさんが一歩前に出て俺に言葉を投げかけた。

 

 

 「お前の中にある記憶が誰のものであれ、このブラッドで過ごしてきたのは他でもないお前自身だ。あまり深刻に考えるなっていうのは無理な話だとは思うが、そのことだけは覚えておいてくれ」

 

 

 ギルさん……。

 

 

 

 「肢体がアラガミだってことについてもそうだ。元々お前は化け物みたいなものだったじゃねぇか。それが正真正銘の化け物になったってだけの話だ。対して変わらない」

 

 

 「確かにそうだな!」

 

 

 「うん!」

 

 

 「おい」

 

 

 対応が相変らずすぎやしませんかねぇ。

 でも、その対応がどれだけ難しいものか俺でもわかっている。だから、俺は彼らに向けて言った。

 

 

 「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アナグラ勢「(……完全に空気だな)」

すまない……複数のキャラを同時に描くことが致命的に下手な私ですまない。


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第四十九話

蛮族の心臓落ちなさすぎワロエナイ。
石とリンゴ溶かして一日中回ったのに、二個って……自害せよ庄司。

まぁ、それはともかく。今回は零號神機兵の対策&解説回なので文字が密集しております。読み難いと思いますがご了承ください。


 

 

 

 

 「……イイハナシダナーしているところ悪いのだが、そろそろ私も話をしていいかね?」

 

 

 「あ、はい」

 

 

 ゴホンと咳払いひとつして、俺たちの会話に入り込んできたサカキ支部長。そういえばこの話し合い元々は零號神機兵とは一体何なのかまたアレにどう対処すればいいのかという話し合いだった。すっかり忘れててすいませんでした。

 

 

 「気にしなくていい。今の話は私にとっても大変興味深いものだった。この騒動が終わったら君の身体を徹底的に調べさせてもらおう」

 

 

 「ヒッ」

 

 

 そういうこというのやめましょうよ。まったく冗談に聞こえないんですから。

 

 

 「冗談じゃないからね。まぁ、そのことについては後々話をするとして……今は零號神機兵のことについてだ」

 

 

 さりげなく俺の考えていることを当てながらサカキ支部長は何時もの糸目ではなく、しっかりと瞳を開いた状態でラケル博士の顔を見る。いや、あそこまで言ったらもはや睨むといっても過言じゃないな。

 

 

 「あの零號神機兵から我々がかつて倒した終末捕食を行うアラガミ……ノヴァと同じ偏食場が確認された。そのことについて納得のいく説明を求めるよ、ラケル博士」

 

 

 「私の目的が元々終末捕食の実行という話はしましたね。つまりはそういうことですよ。サカキ博士。終末捕食を起こしたいのなら、それを引き起こすノヴァの残骸くらい回収していたとしても不思議ではないでしょう?」

 

 

 「それはそうなんだがね。私が疑問に思っていることはそうじゃない。君は私が仁慈君に零號神機兵の話をする時とても焦っていただろう?つまり、零號神機兵が外に出たことは完全に予想外だったわけだ。このことからノヴァの残滓を予め零號神機兵に捕食させていたということはなくなる。何故なら、ノヴァの残滓を捕食してしまえば、終末捕食を引き起こすためにその辺のアラガミを捕食しに行くに決まっているからね」

 

 

 なるほど。

 あの時既にロマンに目覚めていて、終末捕食?知らない子ですね状態だったラケル博士が零號神機兵にノヴァの残滓を食わせていることはないし。予め食わせていたとするならば、自分の制御も振り切って勝手に終末捕食を起こすためにそこらでアラガミを捕食しまくることになる。自分のやろうとしていることがばれていない状態でそんな事すれば自ら自白しているようなものだ。だからその線はなくなるということか。

 頭の回転が速いなーさすがに。

 変人でも、マッドでも改めてサカキ支部長は天才なんだということを改めて自覚する。俺が感心している間もサカキ支部長とラケル博士の会話は続いていた。

 

 

 「これはまるで、あのアラガミ自身が意思を持って行動しているとしか思えない」

 

 

 サカキ支部長の言った言葉にラケル博士は押し黙ってしまう。

 

 

 「……サカキ支部長。あのアラガミにある程度の知能があることはこの前俺に言ったじゃないですか。今更そんな事言わなくても……」

 

 

 「確かに君にそう言ったね。けれど、あの零號神機兵の行動はある程度の知識で行動できる範囲をどう考えても超えているんだ」

 

 

 「……?」

 

 

 何がどう違うのか分からずに思わず首を傾げてしまう。俺以外の支部長室にいる面々もその大半は俺と同じようにサカキ支部長の言葉に疑問を抱いているようだった。

 首を傾げていないのは、いかにも頭が良さそうなシックザールさんとラケル博士だけである。

 

 

 「確かに、今まである程度の知能を有するアラガミは居たよ。自分よりも下位の固体を従えて群れを成していたアラガミ、ディアウス・ピターやマルドゥークなんてのがいい例だろう。でもそれは捕食し、進化の過程で取り込んだ性質の延長線にすぎないんだ。今話題にしている零號神機兵は元々神機兵、捕食なんてまずしないししたとしても自分をわざと傷つけさせ、ジュリウス君の性質を取り込むなんてピンポイントで性質を他の生物から取り込んだりはできないんだよ」

 

 

 ……その通りだ。

 その辺のアラガミを捕食してそんな性質を取り込めるわけがない。そもそも、攻撃をわざと受けるという行動自体がアラガミに備わっているわけがない。

 

 

 「ちょっと待ってください。ジュリウス隊長の性質を取り込んだとはどういうことでしょうか?」

 

 

 「簡単なことだよシエル君。終末捕食を起こすアラガミであるノヴァは、その名の通り世界の全てを捕食しなくてはならない。しかし、通常のアラガミにはそれぞれ自身が持っている偏食因子によってその捕食傾向が決められているんだ。町に残っている建物などはその食べ残しだね。ノヴァはその食べ残しも纏めて食べきるんだ。だったら、全ての偏食因子に適応することができるというジュリウス君を特異点とする性質を取り込みに行くのも自然なことだとは思わないかな?」

 

 

 「え?じゃあ、零號神機兵ってもしかして……」

 

 

 「ナナ君も気がついたようだね。……そう、あの零號神機兵はジュリウス君のことを特異点になる存在だと知っていたんだ。これはどう考えても『ある程度の知識』の範疇を超えている」

 

 

 

 サカキ支部長の口から出てくる言葉に俺を含めた理解していませんでした組はしきりに首を縦に振っていた。

 

 

 「………あの零號神機兵には元々私の中に居た荒ぶる神々の意思が取り付いているのだと思います。アラガミ装甲と同じ原理でできている金庫の中に入っていたノヴァの残滓を捕食したことと私の中に居た荒ぶる神々の意思を感じれなくなった時期からして、これが最も可能性のある予想です」

 

 

 俺は今日この部屋で何度驚けばいいんだ……。もう精神が疲弊してリアクションをとることすらできなくなってきたわ。

 ロミオ先輩は元気よく「な、なんだってー!」と言っているが。

 

 

 「なるほどそういうことか。それならば零號神機兵の行動全てに説明がつく。ノヴァの残滓を食べることができたのは、アラガミ装甲の性質を意思で無視したため、ジュリウス君のことを知っていたのはそもそも彼を特異点にしようとしていた元凶であったからか……」

 

 

 「ついでに言うと、零號神機兵が仁慈に並々ならぬ執着を見せているのもそうでしょう。色々仕掛けていたのにそれを全て真っ当じゃない方法で潰されましたから」

 

 

 「逆恨みじゃないですかーやだー」

 

 

 自分で拾って手駒にしようとしていたくせに……。10割自業自得じゃねーか。

 

 

 「ちょっと待って、話を整理すると……つまり俺たちがこれから相手するのは、三年前に戦ったアリウスと同じような性質を持って、ラケル博士並みの知識を兼ね備えた奴ってことだろ?………結構ピンチじゃね?どう思うよ、ソーマ」

 

 

 「言った通りだ」

 

 

 「つまり?」

 

 

 「大ピンチ」

 

 

 「oh……」

 

 

 あ、昔ノヴァと交戦経験のある藤木さんとシックザールさんが軽く悟りの表情を浮かべ始めた。

 確か昔相手したノヴァは色々な偏食因子を取り込んで神機の攻撃がかなり効きづらくなったんだっけ。……打つ手なくね?

 

 

 「サカキのおっさん、どうする?また超弩級アラガミのコアをぶち込もうにも、そんな存在はアリウスをぶっ倒した後全て倒しちまったぞ」

 

 

 「うーむ……あの時は残して置いたら第二第三のノヴァとなる可能性があったから根こそぎ刈り倒してもらったが………まさかその行動が裏目に出るとは……」

 

 

 過去に交戦した経験のある人とその状況に居合わせたシックザールさん、藤木さん、サカキ支部長が考えを巡らせるが前回使った手はどうやらもう使えないようだ。

 ……いや、待てよ。結局ノヴァもオラクル細胞、偏食因子の塊だろ?

 

 

 俺はみんなが頭を抱える中、ロミオ先輩に近付いて肩を軽くPON☆と叩く。

 

 

 「ロミオ先輩。貴方がナンバーワンだ」

 

 

 「え?何の話?」

 

 

 急に俺がそんな事を言うので困惑をあらわにするロミオ先輩。

 本人は困惑しているもののサカキ支部長、ラケル博士、シックザールさんは気付いたようで先程のようなくらい表情ではなく、驚きを含みつつも希望を見出した顔を見せていた。

 

 

 「ノヴァも結局はオラクル細胞だ。ロミオ君の血の力で活動停止、もしくはそれに近い状態にできるかもしれない」

 

 

 「……その手がありましたか。どうせ王の贄になるためだけの存在と思っていたのですが……まさかこんなところで希望に転じるとは……」

 

 

 「え?マジで?こういうのって普通、ジュリウスとか仁慈とか明らかに主人公しているやつらの役目じゃないの?ていうかやっぱり俺死亡フラグ立ってたのかよ……」

 

 

 ロミオ先輩怒涛のツッコミ。

 急に自分が超超重要な役割についてしまったためもうわけが分からなくなっているご様子。

 

 

 「そもそも、俺の血の力だけで抑え込めるのか?向こうは世界を喰い尽すほど強力なアラガミなんだろ?」

 

 

 その疑問はもっともである。ロミオ先輩の血の力は桁違いに強力だ。それはもう人類の想いが結晶化したのではと思うくらいに、対アラガミに特化されている。けれど、規模が違う。ロミオ先輩の最大レンジは4体だがあくまで普通のアラガミに対してのレンジであり、これから相手するのはいわば世界と同等の位をもつ化け物である。効くか聞かないかでいったら正直不安が残る。

 

 

 「それについては多分問題ない。シエル君の血の力『直覚』によって最も有効な場所を測り、ナナ君の『誘引』でその場所まで誘導、ロミオ君の血の力を仁慈君の『喚起』で限界まで引き出しギル君の『鼓吹』でそれをさらに強化、最後にジュリウス君の『統制』でブーストをかけてぶつければいけるかもしれない」

 

 

 

 「おぉーなんかすごいねー。でも……結局どういうこと?」

 

 

 「要するに、『パワーをロミオに!いいですとも!』ってこと」

 

 

 「なるほどー。まさに最終決戦!って感じだね」

 

 

 「みんなそれで納得していいのかよ!」

 

 

 

 ロミオ先輩がなんか騒いでいるが現状これしか取れる手段がないのである。致し方なし。

 

 

 「ロミオ、これくらいしか方法がないんだ。男ならドンと構えて任せろと言っておけ」

 

 

 「他人事だと思いやがって……」

 

 

 「心配するなロミオ。俺たちがそばに居る」

 

 

 「時々奇行に走る人の言葉はちょっと……」

 

 

 口ではそんな事言いつつも雰囲気は何時も通りになってきているので一応落ち着いてきたんだろうと一安心する。

 

 

 

 「……さて、方針は決まった。ぶっつけ本番な上に分の悪すぎる賭けだが、我々に残された手段はこれしかない。……零號神機兵は今ノヴァの完成系となるためのいわゆる蛹の状態になっている。これが孵化するのは、過去の経験からして三日だ。この三日間のうちに取れる手段は全て打つ。みんな協力してくれるね?」

 

 

 サカキ支部長の言葉に皆は先程までのふざけた雰囲気を霧散させて頷く。

 

 

 

 

 

 最終決戦は三日後だ。そのときにどちらが勝つかは、神ですら知らない。

 

 

 

 

 

 

 



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第五十話

五十話なのに内容がなんか中途半端に……これがおそらく今年最後の投稿となりますが、なるべく早く続きを投稿したしたいと思います。






 

 

 

 

 

 

 「すまないね仁慈君。時間がないとはいえ連日で呼び出してしまって」

 

 

 「別にこれに関しては気にしていませんよ。現状がアレなだけに仕方がないことだと思います」

 

 

 まぁ、極東に来たばかりの稼働率と比べればこのくらい軽いものですしということは言わない。

 

 

 場所は昨日と同じく支部長室。

 ここって会議室とかじゃないはずなのにとんでもない回数ここで集まって会議してるよな。

 

 

 それはいいとして。

 今回集められたのは俺と極東を代表する神機使い(キチガイ)の皆様。主に第一部隊とかそこらへんの人とクレイドル、そして最後に俺は良く知らないけど長いことこの極東の防衛を勤めている防衛班の人達である。ブラッドおよびラケル博士は居ない。ぶっちゃけ俺だけ仲間はずれといわなくもない面子であった。

 

 

 「今日みんなに集まってもらったのは他でもない。君たち全員にブラッドアーツ、もしくはブラッドバレットを習得してもらうために集まってもらった」

 

 

 サカキ支部長の発した言葉にみんながそれぞれ違った反応を見せる。防衛班の人はブラッドアーツってなんだ?とよく分かっていない様子だし、第一部隊の人はエリナがそれこのタイミングでやる必要あるのだろうか?と疑問を抱いているようだった。エミールさん?あぁ、あの人なら「騎士たるもの、必殺技の一つや二つ使えなくてどうする!」とか言ってた。ちなみにクレイドル組のシックザールさんとアミエーラさん、その二人と元々同じ部隊だった藤木さんはうんうん頷いて納得していた。

 

 

 「なぁ博士。俺たちがブラッドアーツ?を使えるようになることに意味はあるのか?こう、タイミング的に」

 

 

 防衛班の大森さんだったかな?

 その人がサカキ支部長に対してそんな質問を投げかけた。多分付け焼刃は危険だと思っているんじゃないかな?先程も言ったように防衛班は長くこの極東を守ってきた部隊。戦闘のノウハウを色々知っているだろうし、十分に考えられる話だ。いつぞやの神機兵に対するギルさんの反応と同じようにね。

 

 

 「確かに付け焼刃というのは一定の危険を孕んでいる。むしろ、いい方向に働く可能性はないに等しいといっていいだろう。けれど、今回のケースではそうも言ってられなくてね」

 

 

 どうやらサカキ支部長もこれは分の悪い賭けだと感じているらしく、眉間にしわを寄せている。

 

 

 「君たちに昨日話したとおり、敵は世界規模の捕食を行い、尚且つ優れた頭脳をもつアラガミなんだ。そのアラガミが自らの性質を十分に活用しないわけがないんだ」

 

 

 「……まさか、アレはマルドゥークを捕食して、あの能力を身に着けていたりするんですか?」

 

 

 「確認は取れていないがその可能性は大いにある。仁慈君に計画を根幹から壊されて、ラケル博士の体から居なくなる間際には大分慎重な性格になっていたのを感じたと彼女は言っていたよ」

 

 

 部屋に居る皆様にジト目で見られた。解せぬ。

 

 

 「もしも仁慈君が行っていた通り、マルドゥークを初めとする感応種を捕食していたとしたら対抗できるのはブラッドかもしくは仁慈君の近くに居る神機使いだけになる。しかし今回の作戦、ブラッドが他のアラガミと戦闘する余裕はおそらくない。仁慈君のほうも『喚起』をフルに活用して挑む作戦であるため、君たちにまで効果が行き届かないことも考えられるんだ」

 

 

 「うへぇあ……それはまた極東らしい世紀末な状況っすね」

 

 

 変な声を口から漏らしながら大森さんはそれ以上ツッコミを入れることはなかった。アレで納得するとは……さすが長く極東で神機使いをやっているだけあるな。余裕の対応です。場数が違いますよ。

 

 

 「それにしても、ブラッドアーツってその名の通りブラッドが使う技ですけど……ブラッドに使われている偏食因子じゃない神機使いたちでも使えるものなんですか?」

 

 

 というか俺たち以外に使えないからこそブラッドアーツだと思うんだが。

 

 

 「ラケル博士に確認を取ってみたところ、ブラッドアーツだけなら仁慈君の血の力を利用して誰でも使えるようにできるらしいよ」

 

 

 「ホント便利だな俺の能力」

 

 

 なんか過去に使えないとか言った気がしなくもないが、こうして考えてみるとロミオ先輩に並ぶ万能能力なんじゃなかろうか。

 

 

 そんな事を考えているうちにサカキ支部長はやることがあるといって、支部長室を退室していった。去り際に「ブラッドアーツ習得の方法は君に任せるよ。信頼しているからね」とささやいていたが、実態は唯の丸投げである。

 サカキ支部長もサカキ支部長でやることがあるだろうし、具体的なブラッドアーツの習得方法が分からない以上しょうがないのかもしれないけどさ。

 さすがにこのメンバーで一人残していくようなことはして欲しくなかったなー。

 

 

 

 「あー、お前が噂に名高いブラッドの副隊長だよな?俺は防衛班の大森タツミっていうんだ。よろしくな」

 

 

 知り合いはいるものの部屋の半分は初対面、それも年上ということもありどうやって話を切り出そうかと頭を抱えていた。しかし、それに気がついた大森さんが俺よりも早く話を振ってくれた。気遣いができる男というのはこの極東だと割と貴重な気がする。

 

 

 「よろしくお願いします。大森さん」

 

 

 「タツミでいいぜ。……それで本題だが、ブラッドアーツって言うのは一日二日で習得できるものなのか?ノヴァ擬きが目覚めるのは三日後って聞いているんだけど」

 

 

 当然の疑問である。

 いかにも必殺技的な技能をノヴァが目覚めるまでの三日間で修得できるのか。普通の人なら誰しもがそう思う。漫画でも三日間で必殺技を編み出すなんて展開ないんじゃないかな。

 

 

 「えー……ぶっちゃけ、ブラッドアーツの習得方法は確立されていません。右も左も分からない真っ暗闇の状態からスタートになります」

 

 

 「……それは大丈夫なのか?サカキ博士はいかにもブラッドアーツが習得できるような言い回しをしていたが……」

 

 

 そう不安気な声を漏らしたのは銀髪で体格のいい男性。腕とかに包帯のようなものを巻きつけており、一瞬だけ中二病と思ったのは内緒である。

 

 

 「……できるだけのことはやります」

 

 

 自分でも若干苦しいと思いつつ、何とか言葉をひねり出してみればもれなく部屋に居る皆さんから冷たい視線を返された。

 俺はいったいどうすればよかったんですかねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 さて、なんだかんだで渋る神機使いの皆さんをあの手この手で引っ張り出してきた俺は現在、零號神機兵が蛹になった影響でアラガミが大量発生していると思われる場所に来ております。具体的には嘆きの平原。何時もは中央を陣取っている竜巻が消えて、そこからアラガミがうようよ湧いていた。

 

 

 

 「では、その辺に湧いているアラガミ相手に練習してみましょう」

 

 

 「見る人が見たらこの世の終わりのような光景が広がっているのにこの対応……」

 

 

 「アナグラの下手な神機使いよりアナグラの神機使いしてるわね」

 

 

 バーデルさん(ブレンダンさんのことだよ)とディキンソンさんの銀髪防衛班コンビ――――ここに来る途中で自己紹介を済ませたため知っている――――からツッコミが入るけど無視無視。

 

 

 「現状、ブラッドアーツを習得するには強い感情の揺れが必要になります。ブラッドのメンバーは大体これで発現しました」

 

 

 「結構漠然としてんな。そんなんで本当にブラッドアーツなんて使えんのかよ」

 

 

 「知りません」

 

 

 「……俺は金にならないことはあまりしない主義なんだが」

 

 

 「これ習得できたら感応種でも問題なく戦えるようになりますので収入アップですよ」

 

 

 文句を口にするどこかでアラガミではなく巨人を駆逐しにいきそうな小川さんと第五十刃みたいな顔のシュナイダーさんを軽く流し、その後他にブラッドメンバーがブラッドアーツを習得して行く過程を話す。

 そして最後にそれぞれ俺が全力で喚起の力を発揮しつつやれるだけのことをやってみようとした。

 

 

 

 

 ――――――防衛班の場合。

 

 

 

 「強い感情の揺れっていってもなぁ……。今更大勢のアラガミに囲まれたくらいで揺れるような肝っ玉でもないしな」

 

 

 「確かにそうだな」

 

 

 タツミさんがぼそりとこぼした言葉に同意するバーデルさん。もちろんアラガミを倒しながらである。

 

 

 「んー……ここで習得できなければ全人類が滅ぶ……強いて言えば自分の好きな人が死んでしまったりするわけですが……」

 

 

 「それで覚醒できるのは物語の主人公だけだろう。そもそも、俺たちはその状況に三年前も遭遇したことがあるしな」

 

 バーデルさんのその言葉にハッとする。

 そういえばそうだった……この人達、既に世界の危機を経験済みなんだったわ……。

 

 

 「……ここでブラッドアーツを習得したら、世界の危機を防ぐ手伝いをしたとかで女の子からもてるようになるとか?」

 

 

 ……いや、ねぇな。自分で口にしておいてなんだけどこれで釣れるのは思春期真っ盛りの中学生くらいだわ。

 

 

 「ブラッドアーツを取得すれば、ヒバリちゃんが俺と付き合ってくれる……だと……?」

 

 

 そこまで言ってませんよ。

 というか、タツミさん。アンタそれでいいんですか。

 内心でツッコミを入れていると、タツミさんは何を考えたのか徐に雄叫びを上げると向かってきたアラガミに対して自身の神機を渾身の力を込めて振るった。

 すると、なんということでしょう。キィン……!という独特の甲高い音と共に赤いオーラを纏いながら斬撃を飛ばしてアラガミを切裂き、見事に倒して見せた。

 

 

 「お、でた」

 

 

 「マジか……」

 

 

 それで出せるのか……。

 一度出してコツを掴んだのかバンバンアラガミの群れに向かって斬撃を飛ばしているタツミさんを他所に俺はどこか納得できない気持ちを抱いた。

 

 

 だが、タツミさんが身をもってブラッドアーツの習得は可能だということを証明してくれたため他の皆さんもやる気になったようで積極的にアラガミの群れに埋もれていく姿が確認できるようになった。

 

 

 「俺はタツミのように意中の相手がいるわけでもないんだが……」

 

 

 「別にそれに限ったことではありませんよ。生存本能がフル活用されるような状況に放り込んで覚醒した人も居ますし」

 

 

 「………鬼だな」

 

 

 失礼な。

 死亡フラグを回避するためにちょっとばかり死に掛けてもらっただけだから。本人も納得してたから(震え声)。

 

 

 にしても、バーデルさんが悩んでいるところ悪いんだけど……俺もバーデルさんのことよく知らないからなぁ。どのようにして焚きつけたらいいのやら。

 

 

 「それ、俺がやってやろうか?」

 

 

 バーデルさんと一緒に頭を捻っていると、一通りエキサイトし終えて落ち着いた様子のタツミさんが会話に混ざってくる。

 何とかできるならお願いします。あまり残された時間もないので。

 

 

 「オーケーオーケー。ブレンダン、ちょっと耳を貸してみ」

 

 

 ちょいちょいと手招きするタツミさんにバーデルさんが近付き、耳を貸す。その後、大体一分くらいだろうか?タツミさんがバーデルさんの耳から顔を離すと、バーデルさんは徐に自身の髪の毛を後ろに追いやる。

 

 

 そして今までの優しそうな表情から一転、まるで日本刀を思わせる鋭い顔つきになったかと思うと神機をアラガミたちに向けてこう言い放った。

 

 

 「You're going down!」

 

 

 「ファッ!?」

 

 

 「よし」

 

 

 よしじゃねーよ。これバーデルじゃなくてバージルじゃねーか。確かに銀髪かそれに近い髪の色してたけどさぁ……。タツミさん。何吹き込んだのさ。

 

 

 「ちょっとばかりあいつのトラウマというか、心残りを突っついたのさ。本当ならこういうことはあんまりしたくないんだが……状況が切迫しているから致し方なし。あ、実力のほうなら問題ないぜ。あの状態のブレンダン、滅茶苦茶強いから」

 

 

 「でしょうね」

 

 

 神も悪魔も泣かせそうだし。弱いわけがない。

 

 

 「Be gone!」

 

 

 バージル……間違えたバーデルさんは、自身の神機の刀身がバスターにもかかわらずまるで日本刀を振るうかのごとき手さばきで迫り来るアラガミを両断する。近くに居るアラガミを両断し終えたバーデルさんは、周囲に紅く光る剣を作り出しアラガミの群れに飛ばした。

 キィン……!という効果音も確認できたし、多分ブラッドアーツだろう。

 

 

 「おー、ブレンダンもちゃんと出せたな」

 

 

 「そうですねー」

 

 

 アラガミを紙くずのように切裂き、最後の一匹を倒し終えたバーデルさんを見ながらタツミさんの言葉に適当な反応を返す。

 

 

 「This is the power of Sparda. 」

 

 

 「アンタはスパーダじゃないでしょ……」

 

 

 まだ、防衛班の人達だけでも三人残っているのに正直限界ですわ……。

 ガラリとアラガミが居なくなった空間で、ボソリと呟いているバーデルさんに力なくツッコミを入れつつ、俺は他の防衛班の人達のもとへ向かった。

 

 

 

 「アラガミを……一匹残らず駆逐してやる……ッ!」

 

 

 会って間もない俺でもキャラじゃないとわかるような台詞を吐きながらアラガミの周りをまるで瞬間移動するかのごとく動き回りながら切りつける小川さんに驚かされ、

 

 

 「この弾はいいわね……。アラガミが今までにないくらいに紅く、激しく咲き誇っているわ」

 

 

 恍惚とした笑みで内側から爆発四散するアラガミを眺めてうっとりとしているディキンソンさんにドン引きし、

 

 

 「…………」

 

 

 唯でさえ、表情が怖いシュナイダーさんが口の端を釣り上げた笑みを浮かべているのを見て心が完全に折れた。

 ……これでしっかりとブラッドアーツを習得したというからなおさら質が悪い。

 

 

 まだクレイドル組に第一部隊、第四部隊の人が残っているのに割と切実に帰りたいと思い始めた俺は悪くないと思うんだ。

 

 

 溜息一つ吐いて今度はクレイドル組が居る場所へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五十一話

なるべく早く投稿すると言ったな。アレは嘘になってしまった(土下座)。
本当にすいません。

謝罪もここまでにしてあけましておめでとうございます。今年もこの作品をよろしくお願いします。
多分あと二、三話で完結すると思いますけど。


 

 

 

 ―――――クレイドル組の場合

 

 

 防衛班の皆様による精神攻撃で見事にSAN値を減らした俺は、先程よりも覚悟が必要であろうクレイドル組が居る場所へと顔を出していた。

 ……遠目からでも小型中型はもちろん、大型ですら宙を舞っている姿が確認できた。これ、ブラッドアーツを習得できたんだったらブラッド(俺ら)完全に要らないよね。なんだかんだ言って、ゴリ押しで何とかなる気がする……というか何とかしそうな気がするし。もうあの人達だけでいいんじゃないかな?

 

 

 「あ、仁慈さん。タツミさんたちはちゃんとブラッドアーツを習得できたんですか?」

 

 

 「はい。文句の付けようもないくらい完全に自身の物にしていましたね」

 

 

 絶句はしましたけどね。

 バーデルさんのバージル化とか一体誰が予想できたんだよ。

 

 

 「タツミさんたちは私よりも長く極東で神機使いをやっていますからね。立ち回り、状況把握、そして自身のことを理解する能力は私よりも長けていると思いますよ」

 

 

 一級極東神機使いということですね分かります。

 感応種との戦闘で別のことを考えながらもしっかりと攻撃、回避をするというマルチタスク持ってんじゃないかなと思わせる行動をやってのけたアミエーラさんでもそう言うのか。

 まぁ、極東の神機使いの頭がおかしいこと何て今まで散々言ってたし今更な気がしないでもないけどね。

 

 

 「あいつらのことはいい。……おおよそ、俺が考え付く方法でブラッドアーツの習得を試みてみたが……やはりうまくはいかないな。どうやら俺たち普通の神機使いがブラッドアーツを習得するにはお前の『喚起』によるきっかけ作りが必要らしいな」

 

 

 「なんですかそれ、聞いてないんですけど」

 

 

 考え付く方法があるんだったらどうしてあの時言ってくれなかったんですかねぇ……。

 

 

 

 「……お前が防衛班の連中を相手しているときに思いついたからな」

 

 

 そんな見え透いた嘘つくんじゃない。

 本心ならば俺の目をしっかりと見て話しなさい。ほら、そんな天空に(わたくし)は居ませんことよ?

 

 

 「……ま、今回はそれで見逃してあげます。それで?シックザールさんが考えるブラッドアーツ習得方法は?」

 

 

 「お前は知っているか分からないが、本来神機に使われているオラクル細胞や俺たちに投与されている偏食因子は人間の手に負えないものだ。だからこそ、神機にはある程度のリミッターもかけてあるし投与されている偏食因子も予防接種並に弱めて使っている」

 

 

 俺やお前、ラケル・クラウディウスは違うがなと最後に付け加えるシックザールさん。

 神機にリミッターって付いていたんだ……。初めて知ったわ。

 

 

 「だがな、血の力を使えるブラッドに投与されたのはラケル・クラウディウスが開発したP66偏食因子。これはラケル・クラウディウス本人の中にある偏食因子を既存の偏食因子に混ぜ合わせて作ったもので、要するに多少だがかけられていたリミッターを外したシロモノだ。だからこそ、普通の神機使いにはできないようなことができる」

 

 

 なるほど。ブラッドが投与されたのは普通の偏食因子よりもアラガミが持っているものに近づけた状態のもの。だからこそ、あの能力だと。

 

 

 「お前の言う感情の揺れによってブラッドアーツや血の力が発現するというのもそうだ。感情の爆発は時に信じられない効果を生む。火事場の馬鹿力なんかがいい例で、それと同じことが偏食因子に現れているのだと考えられる。だからこそ、俺は他に比べて習得しやすいと思ったんだがな……」

 

 

 「なるほど……」

 

 

 先程自分で言ったとおり、ラケル博士とシックザールさんは限りなくアラガミが持っている偏食因子に近いものを摂取しているし、俺に関してはアラガミのまんまと来ている。彼の立てた仮説が正しいなら一番習得しやすい。

 

 

 「なにカッコつけてるんですか。別に最終的に習得できればいいんですよ」

 

 

 今まで会話に入ってこなかったアミエーラさんがシックザールさんに対してそう言った。一方言われた側であるシックザールさんは苦笑。

 このやり取りだけで二人の上下関係が分かった気がする。

 

 

 「何はともあれ、始めましょうか」

 

 

 先程シックザールさんが言ったように、自身の中にある偏食因子に対して鎖を解いていくようなイメージを浮かべる。すると、何時もよりスムーズに赤い波動が俺を中心に渦巻き出した。

 

 

 「おぉ、なんかやりやすい。シックザールさん、多分貴方の仮説合ってますよ」

 

 

 「そうか」

 

 

 そう短く返したシックザールさん。そのまま彼は目を閉じて自身の神機を正眼に構える。初めは特に変化もなく佇んでいるだけだったのだが、正眼に構えてから一分くらい経過したときだろう。彼の神機に赤い波動が集まっていく。

 そして、シックザールさんは閉じていた目を見開いて赤い波動を纏った神機をそのまま振り下ろした。

 神機に集まっていた赤い波動は神機から振り下ろされた地面へと伝わり、50mほど離れていたアラガミの集団の下をとり、深紅の棘となってアラガミの集団を突き刺した。

 

 

 「うわぁ……」

 

 

 「ドン引きです……」

 

 

 「何でだ」

 

 

 エグイ。唯ひたすらにエグイ。

 ぱっと見た感じホーミングらしき動きをしていたし、アラガミを突き刺したときの光景がなんというか磔刑みたいだった。

 

 

 「一体どんなこと考えたらこんなものになるんですか……」

 

 

 「別に特別なことは考えていない。多少ノヴァとは因縁があるが、それだけだ」

 

 

 「左様ですか」

 

 

 空を……具体的には緑化した月を見て言っていたことは見なかったことにしましょうか。さぁ、シックザールさんの次はアミエーラさんだ。この人はどうなっているかなっと。

 

 

 「全ッ然でない……。ソーマ、なんかアドバイスくださいよ」

 

 

 アミエーラさんもアミエーラさんで大分苦戦しているご様子。先程思いっきりドン引きしたシックザールさんにアドバイスを求めていた。俺じゃ、関わっている日数が少ないからね。仕方ないね。

 

 

 「アドバイスって言ってもな………そうだな、アリサちょっとこっち来い」

 

 

 唐突にアドバイスを求められ驚きながら俺のほうを見るシックザールさん。言わんとしていることは分かる。こういうことはお前の仕事だろといっているんだろう。でもね、俺は彼女の性格をシックザールさんほど把握していないんですよ。だから頼みます。

 

 

 そんな意味を込めて視線を返してみれば、彼もわかっていたのか溜息を一つ吐いた後にアミエーラさんに近付くように言った。……このパターンどこかで見たな。デジャヴかな?

 

 

 結果は案の定、防衛班で見た光景と同じだった。一体何を吹き込んだのか、アミエーラさんは顔を真っ赤にし、目のハイライトはストライキを起こすという一言で表現すると若干危ない表情を浮かべて狩りを開始した。

 この人達は必ず自分の中に殺る気スイッチを常備しているのだろうか。

 

 

 「……………」

 

 

 「……………まぁ、この調子なら大丈夫だろう。お前も他のところに行っていいぞ。ブ

ラッドアーツって今アリサの体から渦巻いて、あいつの身体能力を上げているあれの事だろうしな」

 

 

 シックザールさんの言うとおり、どうやらアミエーラさんのブラッドアーツは自分の身体能力を底上げするようなタイプのようで、ボルグ・カムランの尻尾攻撃を神機の先端にあてて相殺するという曲芸じみた真似を何の躊躇もなくやってのけた。

 

 

 すげぇ。今までのように必殺技とかではなく、自分の身体能力を底上げするようなブラッドアーツは初めてだなー(白目)。

 とりあえず、この後無茶苦茶全力で退散した。

 

 

 

 

 ―――――――第一部隊&第四部隊の場合。

 

 

 

 もう防衛班、クレイドルと続ていくとエミールさんやエリナが在籍している第一部隊が癒しのように感じるよね。

 いや、別に今あげた二人が弱いと言っているわけじゃない。俺たちの周りに居る神機使いが頭おかしいことになっているだけで二人とも十分に実力がある。エミールさんなんて初めて会ったときと比べれば天と地ほどの差があるといっていいくらいだ。

 

 

 「くっ!何故だ……何故出てこないんだブラッドアーツよ。我が友は感情の揺れこそがトリガーになるといっていた。ならば我が騎士道精神ですぐに習得できるはずなのに……ッ!まだまだ、覚悟が足りないということなのか!?」

 

 

 「えぇい!暑苦しいわね。少しは黙ってできないわけっ!?」

 

 

 なんて安心できるやり取りだろうか。失礼ながらそんな事を思わずにはいられない。

 

 

 

 「藤木さん。調子の方、どうですか?」

 

 

 「あ、じん…じ……?どうしたお前。これ以上ないくらいの笑顔浮かべながら近付いてきて」

 

 

 「あの二人の反応に対して妙に安心してしまいましてね」

 

 

 「あっ(察し)」

 

 

 俺の言いたいことがわかったのか同情的な視線を送ってくる藤木さん。この人もきっと苦労したんだろうな。

 

 

 「おぉ!来ていたのか我が友よ!だが、すまない。僕は君の期待に応えることができなかった……騎士として、男としてッ!どちらの面でも、情けなく思う」

 

 

 「そこまで責任感じなくていいですから」

 

 

 本当、何時も全力だよね。この人。

 

 

 「あれ、来てたの?」

 

 

 「お、お疲れさん。疲れただろ?あいつらの相手」

 

 

 「ここに教官先生が来たということは、タツミさんやブレンダンさん、ジーナさんも習得したんですよね……わ、私も頑張らないと……!」

 

 

 エミールさんの大きな声が近くに居た第四部隊の人達にも聞こえたようで、周辺のアラガミを駆逐した後にこちらに向かってやってきた。何はともあれ台場さんの切り替え速度はすさまじいな。さっきまで遠めでも分かるくらいにゲス顔でアラガミをミンチに変えてたのに、もう普段の性格に戻ってやがる。女の人ってコワイワー。

 

 

 

 まぁ、何はともあれみんなそろってブラッドアーツの習得を試みて見事に成功したわけです。

 え?適当すぎる?別に詳しく言い過ぎてもだれるだけだしいいでしょう。

 でだ、みんながブラッドアーツを習得した理由をダイジェストで紹介していこうと思う。

 

 

 まず、藤木さん。

 

 

 「仁慈に言われたことを実行したら、案外簡単にできるもんだな……」

 

 とか言いつつ、あっさり習得した。

 貫通、斬撃、破砕全ての属性を内蔵した凶悪弾をアラガミに撃ちまくる。ちなみにこのバレットはPO回復効果もあり、撃った分を即座に補給し再び放つことができる永久機関と化しているぶっ壊れバレットである。まぁ、藤木さんだし。クレイドル組と同じ部隊にいただけのことはあるよね。

 

 

 次にエミールさん。

 

 

 「騎士道……騎士道ォォォオオ!!」

 

 

 こちらは感情の揺さぶりによって目覚めた。

 普通ではダメなら普通じゃないくらい自分の感情を、騎士道精神を高めればいいじゃないと本人は語る。

 そんな根性で己の壁をぶち抜いた彼が習得したブラッドアーツは神機の刀身についているブーストハンマーの推進力を利用した一撃であった。ここだけ聞くとギルさんのブラッドアーツと似てるかもしれないが、彼の場合はしっかりと敵を捕捉し確実に一撃を決めるブラッドアーツのようだ。ギルさんのは制御が利かないからエミールさんのよりは使い勝手が悪い。

 

 

 エリナの場合は、

 

 

 「これを習得しないと、あの馬鹿共に余計振り回されることになるでしょっ!」

 

 

 まさかの身内に対する感情の高ぶりでの習得である。それほど極東での日常は彼女にとってストレスとなっているのだろう。俺は密かに零號神機兵との戦いが終わったらジュース一本でも奢ってあげようと心に誓った。

 そんなエリナが習得したブラッドアーツは彼女の放った突きに追随する赤い槍である。一突きで大体四つの赤い槍が出現し、中型でも一撃で穴ぼこだらけにしてしまうものである。

 ……このブラッドアーツで、複数の常識にとらわれないキチガイ(極東の神機使いたち)に一気にツッコミ(意味深)を決めてやる、という言葉は聞かないことにする。

 

 

 そして次はハルオミさん。

 

 

 彼も意外にあっさりとブラッドアーツを習得した。というか、俺がここに来る前に既に習得してしまったらしい。今更かもしれないが、ブラッド涙目の状況である。しかし彼があっさりとブラッドアーツを習得したのはわけがあった。

 

 

 「思い出してみろよ。ルフス・カリギュラとの戦いを。あの戦い、俺にとっては嫁の敵討ちなわけだ。あの時はギルのサポートに回っちゃあいたが、これでも感情はかなり高ぶってたんだぜ?条件だけならもう満たしてる。後は俺が意識するか否か、それだけだったのさ」

 

 

 あぁ、そうか。そうだよな。ルフス・カリギュラを倒したかったのは他の誰でもない、ハルオミさんだもんな。それは納得です。……聖なる探索なんてなかったんや。

 

 

 最後は台場さんであるが……ぶっちゃけ何もいうことはない。

 

 

 しかるべき結果になったという感じである。

 

 

 「アッハッハ!!この弾いいわ!最っ高よ!アラガミがどんどん巻き込まれて死んでいくわ!」

 

 

 彼女のブラッドバレットは、跳躍弾から始動する珍しいというか今までに類を見ないもので、アラガミに当てまくりそのあたった人数に比例して威力が上がるというなんとも彼女にしては扱いにくいものであった。

 あったのだが……そんなこと、戦場に出た台場さんが気にするわけもない。むしろ、味方の神機使いをあたった人数に入れてヒット数を稼ぐというとんでもないことまでやってのけている。

 みんなは、とどめの一撃を神機のシールドを使い巧みに防いでいるが、アラガミはそうは行かずしめやかに爆発四散している。

 

 

 ……これはひどい。

 初めからいい予感はしていなかったがこれほどとは……。

 穴ぼこを量産し、俺たちにもちゃっかり跳躍弾を当てて威力をまた挙げている彼女を見つつ俺は天を仰いだ。

 

 

 まぁ、全員無事に習得出来てよかったよ。

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 みんながブラッドアーツを習得してからはや二日が経過し、明日はいよいよ人類の存亡をかけた最終決戦を行う日である。

 緊張からか、まったく眠くならないので今は誰もいないラウンジの一席で眠くなるようにホットミルクを飲んでいた。うまうま。

 なんで今更緊張なんてしてるのかね?もしかしたら、やることがなくなって意識を割く事が出来るようになってしまったからかもしんないけど……。

 窓ガラス越しに見える、若干世紀末な町並みを眺めつつ今までのことを振り返る。

 

 

 目覚めて早々神機使いになり、よく分からない化け物と戦わされる。俺がアラガミに近いからか普通ではありえないくらい俺にアラガミが集中してきたりもした。新人のペーペーだったのにマルドゥークと遭遇して死に掛けたりもした。イェン・ツィー死すべし慈悲はない。ブラッドのみんなと困難と呼べるか微妙な事態もまさしく困難と呼べる事態も等しく乗り越えた。俺の正体が唯の偶然の産物だった。

 

 

 こうしてみると。濃すぎるな、色々。

 信じられるか?これでまだ一年たってないんだぜ?それなのに、世界の命運をかける戦いに狩りだされることになるなんて……。

 

 

 「ホント、おかしいよなぁ」

 

 

 「そうだね。仁慈はおかしいね」

 

 

 俺の呟きにあるはずもない返答が帰ってきた。

 あるはずのない返答が聞こえた方向に顔を向けてみれば、そこには寝巻き姿のナナが佇んでいた。……寝巻きのほうが普段よりも健全に見えるな。露出ないし。

 

 

 「隣、座っていい?」

 

 

 割かし失礼なことを考えていると、ナナがそういって俺の隣の席に腰を下ろした。まだ許可出してないんですがそれは……。

 

 

 「気にしなーい気にしなーい。って、仁慈ホットミルクなんて飲んでるのー?」

 

 

 「寝れないから、寝やすくするためにね」

 

 

 あと、ホットミルクを馬鹿にするんじゃない。安心する味だぞ、ホットミルク。

 

 

 「あはは。じゃあ私も入れてこよーっと」

 

 

 何が面白いのか、俺の顔を見てパッと笑った後ナナはラウンジにあるカウンターからコップと牛乳(擬き)を取り出して注ぎ、電子レンジにコップをシュゥゥゥーー!!した。そして、チン!という音がなったとたんにガバッとレンジを開けてホットになった牛乳を取り出すとさっきと同じように俺の隣に座った。

 

 

 「それで、仁慈君はどうして眠れないのかなー?何か不安なのかな?お姉さんに話して見なさい?」

 

 

 「…………似合わないなぁ、そのキャラ」

 

 

 「ストレート!?」

 

 

 年齢的にはナナのほうが二歳年上だし、何処もおかしいことはないんだけど……ねぇ?なんていうか、普段の態度を見直してみれば彼女は圧倒的に妹キャラだと思う。ぶっちゃけ、俺はナナとロミオ先輩を年上としてみてないし。

 

 

 『飛び火した!?』

 

 

 「ん?今何か聞こえたような……?」

 

 

 「幻聴だろ」

 

 

 俺の言葉にそうかなといって気持ちを切り替えたナナは、浮かべていた表情を何時ものものから真面目なものへと変えた。

 

 

 「むー……仁慈が何も話してくれないから勝手に言っちゃうけど、明日のことについてなら心配要らないよ」

 

 

 「それまたなんで?」

 

 

 「だって、明日の戦いに参加する人達を思い浮かべてみなよ。どう考えても負けるような人選じゃないじゃん」

 

 

 「…………」

 

 

 確かに。

 今日散々思ったことじゃないか。戦闘力はぴか一を通り越してキチガイ。考えるアラガミ殺戮マシーン。ドウモ、アラガミ=サン。神機使いです、アラガミ死すべし慈悲はないを地で行く神機使いたちだ。逆にこの人達を倒せる奴が居たら出てきて欲しいくらいの戦力じゃないか。

 

 

 「……うん。その顔だともう大丈夫みたいだね」

 

 

 「まぁね……ありがとうナナ。俺、はじめてナナが年上だと思えたよ」

 

 

 「その余計な一言がなければよかったかなー」

 

 

 といいながらもナナは笑っていた。つられて俺も笑う。

 

 

 一通り笑いあい、ホットミルクではなくぬるい牛乳という絶妙に微妙な飲み物へと変貌してしまったそれを一気に胃の中に流し込む。

 その後、使い終わったコップを洗おうと席を立つと、

 

 

 「大丈夫です。不安なら私が君を守ってあげます!」

 

 

 「ファッ!?」

 

 

 下から生えてきたシエルがそのようなことをほざきました。

 いつから居たんだシエルよ……。

 

 

 「うわっ!?シエルちゃん居たの!?」

 

 

 「はい。初めからずっとスタンバッてました」

 

 

 「「なにそれこわい」」

 

 

 「ちなみにピアノの後ろにはジュリウス隊長、ビリヤードの下にはギル、ソファーにはロミオが隠れています」

 

 

 シエルの言葉に観念したのか、彼女があげた人物がこれまた彼女の言ったとおりのところから出てきた。こいつら……全部聞いてたのか。

 

 

 「いやー仁慈も年相応のところがあるんだなー」

 

 

 「逆に安心だな」

 

 

 「仁慈、お前の心配しているようなことは起きない。何故なら、俺が居るからだ」

 

 

 「ジュリウス隊長、それ貴方の台詞じゃありません。某油女一族の人のです」

 

 

 ツッコミを入れつつ、今回こうして隠れていたことには目を瞑ろう。多分たまたま俺を見かけて、元気がなかったから心配になったんだろう。ナナにも気付かれるくらいだからな。

 

 

 「よし、これから飲み明かすか」「明日決戦だろうが馬鹿ジュリウス、はよ寝る準備しろ」という修学旅行の就寝直前に行われる会話を聞き流しつつ、俺は心の中で彼らに感謝すると同時に明日はなんとしてでも勝とうと改めて決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




就寝前の出来事



ジュリウス「別にアレを倒してしまってもかまわんのだろう?」
ロミオ「俺、帰ってきたらシプレに結婚を申し込むんだ」
ギル「ノヴァなんか怖かねぇ!野朗ぶっ殺してやるぅぁぁあ!」
シエル「私の計算に狂いはありません」
ナナ「仁慈、無事に帰ってきたら話したいことがあるんだ……」
仁慈「……みんなどうした」
全員『ありったけの死亡フラグ立てておけば大丈夫かなって』
仁慈「(……明日本当に大丈夫だろうか)」


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第五十二話

先に謝っておきます。ごめんなさい。
ノヴァ戦まで行きませんでした。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……諸君。いよいよ、今日の20時にノヴァとの決戦だ。詳しい作戦などを、ラケル博士の口から説明してもらおうと思う」

 

 

 普段と変わらず糸目だが、口元を引き締めて真剣な表情で自分の背後に居るラケル博士に語りかける。彼女のほうも普段の胡散臭い笑みを完全に引っ込めて滅多に見ない表情で前に出た。

 

 

 愛すべき馬鹿共(ブラッドメンバー)が死亡フラグをおっ立てまくり、無駄に不安に思った数時間後の話である。場所は支部長室ではなくその一回下、大きな機械やら配線やらでごちゃごちゃしていたあの部屋。朝一で呼び出されて向かってみればノヴァへの対策会議だった。決戦は今日だし、当たり前である。

 

 

 「私たちは今日戦うノヴァをアルマ・マータと名称し、これの排除に向かいます。具体的な方法としましてはアルマ・マータが目覚める前にブラッド全員で準備を整え、覚醒したと同時にロミオの血の力でアルマ・マータの弱体化を図ります。そこからは通常のアラガミを討伐するときと同様の動きになります。極東の方々はその他のアラガミたちを引き受けてもらいます」

 

 

 ノヴァじゃダメなのか……。まぁ、完全体じゃないからかもしれないし。以前に現れたノヴァもアリウスって言う名称だったらしいし気にすることじゃないと思うんだけど……若干、こうばしいと考えてしまう。

 そしてそんなくだらないことを考えられるように余裕を持たせてくれたブラッドにも感謝する。馬鹿だけど。

 

 

 「以上がアルマ・マータとの戦いの作戦内容となりますが、聞いていて分かる通り詳しいことは神機使いの皆さんにゆだねられています」

 

 

 今回は向こう側にも知能があったし、何より手が出しにくくなるほどにまで成長するのが早かったからなぁ。

そもそも今回のことは元凶ラケル博士、とどめブラッドと1から10までこちらの落ち度である。ぶっちゃけ責められたら文句も言えない立場だ。裁判とかあったら有罪判決から豚箱シュート待ったなしの状況だ。他の人よりもしっかりと戦わねばなるまい。

 え?さっきまでこうばしいとか考えていた奴の言葉とは思えない?知らん、管轄外だ。

 

 

 「私も、戦力増強にラケル博士と共同開発をしていた『神機兵Ver山猫』とか作っていたんだが……間に合わなくてね。三年前の同じく君たちを信じることしか出来ないんだ。すまないね」

 

 

 『(よかった……ラケル博士とサカキ支部長(サカキ博士)最悪マッドコンビの最狂傑作が誕生しなくてよかった……ッ!)』

 

 

  サカキ支部長が本当に申し訳なさそうにそう言ったとき、部屋に居るサカキ支部長とラケル博士以外の考えが一致したようにも感じた。

 コジマは……まずい……(二回目)。

 

 

 とまぁ、微妙にしまらない空気になりつつもアルマ・マータ対策会議は幕を閉じた。後は20時……正確には19時30分から行われる作戦を待つだけだ。

 

 

 

 

              ――――――――――――

 

 

 

 

 時刻は19時を指しており、作戦開始時刻が目の前まで迫っている。三十分もあるじゃないかと思うかもしれないが五分前行動ならぬ三十分前行動を心がけている身としては当然のことである。

 それにあくまでも20時という時間はサカキ支部長とラケル博士の予想であることを忘れてはならない。彼らなら日数や時間単位での誤差はないと思うが、分単位まで確実にあっているとは限らないのだ。だからこそ、本格的ではないにしろ俺たちブラッドは既にうっすらと血の力を発動し始めている。

 ちなみに配置はロミオ先輩を真ん中として、前に三人後ろに二人という感じ。前はジュリウス隊長、ギルさん、ナナ。後ろはシエルと俺である。

 

 

 「うっわ、間近で見るとなんかアレだな……」

 

 

 「覚醒が近いのか点滅していますね」

 

 

 「その光の所為で中が時々見えるのがまたなんともいえないよねー」

 

 

 「本当に蛹みたいだな」

 

 

 「というか、普通に気持ち悪いな」

 

 

 こいつら緊張感なさすぎぃ!

 後もう少ししたら人類……いや、世界の存亡をかけた戦いが始まるっていうのに小並感(小学生並みの感想)みたいなこと言いやがって……。

 

 

 「フランさんフランさん。みんなの緊張感のなさが半端じゃないんですけど、大丈夫なんですかね?」

 

 

 『知りませんよ。私には関係ないですし、失敗して責められるのは皆さんですし。現状を作り出したのは何処のどいつだとか言っておけばいいんじゃないんですか?』

 

 

 「やだ……辛辣……」

 

 

 なんというセメント対応。しかし……圧倒的ッ!圧倒的正論……ッ!!

 くやしい、でも言い返せない。

 

 

 と、色々な意味でビクンビクンしているとフランさんの声が再び通信機越しに聞こえてきた。

 

 

 『ラケル博士も仁慈さんたちも、私をフライアにおいていくからですよ。残ってるメンバーを考えてみてください。豚に骨に処女ビッチですよ?』

 

 

 「ねぇ、フランさん?酔ってないよね?直前にお酒飲んでたりしてないよね?」

 

 

 彼女の口から出てきたとは到底思えない言葉の数々に反射的にそう聞き返してしまった俺を一体誰が責められるだろうか。

 

 

 『皆さんが居ないからオペレーターとしての仕事はなくなるし、それが分かっていながら豚はネチネチ小言言って来てお尻凝視するし、骨は小声でラケル博士の名前を永遠と呟いてるし、処女ビッチは怯えてるし………』

 

 

 アカン(確信)。

 まるで蛇口を思いっきり捻ったときに出てくる水の如く、愚痴を吐き出すフランさん。どうやら彼女は彼女でかなり苦労していたらしい。

 

 

 『まぁ、この前退職届を豚に叩きつけてやりましたけどね。これでやっと私も皆さんと一緒に極東支部で働けるようになりました』

 

 

 「アグレッシブすぎる……」

 

 

 どうやら俺が知っているフランさんはどこかに行ってしまったらしい。というかこの人も結局ブラッドメンバーと雰囲気変わらないじゃないですかーやだー。

 

 

 『ヒバリさんが担当している極東組も似たような感じですし、むしろ仁慈さんのほうが場違いなのでは?』

 

 

 これが常識の違いによる弊害か……。

 非常識が蔓延している中で常識を語ってもこっちがおかしい人扱いされるアレだな。アニメとかでは見たことあったけど、俺も今更になって体験することになるとは。

 

 

 小声でぼそりと面妖な……なんて呟いてみれば、急にブラッドメンバーが黙り込んでしまう。

 何事?と首を傾げつつ視線を彼らに向けるとどうやらアルマ・マータの蛹のほうを見て固まっているらしかった。

 この時点でやな予感しかしないのだが、意を決して俺も蛹のほうに視線を動かす。

 

 

 ――――ピキッ……ピキピキ…パキン!

 

 

 そうして俺の視界に入ってきた光景は、先程よりも短い周期での点滅を繰り返しつつ小さな音を立てて蛹を破ろうとしているアルマ・マータの影であった。

 

 

 『周囲の偏食場が、過去に現れたノヴァと同じ反応になりつつあります!皆さん、血の力の準備をお願いします!』

 

 

 先程とは打って変わり、オペレーターとしてふさわしい雰囲気に変わったフランさんの声が耳を貫く。

 予想よりも若干大きかったフランさんの声にビビリつつ、俺は喚起の力を発動させて他のブラッドの血の力に眠っている潜在能力を全力で引っ張り出す。他のみんなも前もって知らされていた作戦通りに血の力を使い、ロミオ先輩の力を最大限に引き出せるように自分の力を操作する。

 

 

 

 「仁慈、ギル、シエル、ナナ。今だ!パワーをロミオに!」

 

 

 『いいですとも!』

 

 

 「お?おぉ……?なんかすげぇ力が沸いてきた……!よっしゃ!やってやるぜ!」

 

 

 あふれんばかりに赤いオーラを放ち始めるロミオ先輩。一瞬だけ界〇拳かな?と思ってしまった自分を戒めつつ、成り行きを見守ることとする。

 ここで余計なこと言ってアルマ・マータにロミオ先輩の血の力が外れてしまったりしたら取り返しが付かないからな。

 

 

 アルマ・マータは順調に蛹をブチ破っているようで、僅かに空いた隙間から茶色い木のような部分がチラチラと見えている。

 そんなチラリズムはいらないけど。

 

 

 『……偏食場が完全にノヴァのモノと一致しました!来ます!!』

 

 

 その通信と同時に、完全にアルマ・マータが蛹をブチ破って外へと出現した。

 

 

 出てきたのは、零號神機兵の面影をまったく残していなかった。四つん這いなのは変わらないもののその体は機械のようにごちゃごちゃしたものではなく、木のような材質に変化している。何より変化したのは、まさしくプロトタイプと思わせるような継ぎ接ぎだらけの顔である。あの継ぎ接ぎは完全になくなり、人間にしか思えない風貌になっていた。というか、どっかで見たことある風貌である。具体的には常に喪服着て、薄ら笑いを浮かべてそうな感じ。

 

 

 ここまで言えば分かるだろう。

 このアラガミは……アルマ・マータは、

 

 

 『フフフ……ようやく、まともに話が出来るわね。仁慈』

 

 

 ラケル先生をそのままアラガミにしたような奴だったのである。

 

 

 

 『あら?どうしたの?もしかして……ラケルに似てるから攻撃できないt』

 「ロミオ先輩やってしまえ」

 

 

 「おうよ!」

 

 

 アルマ・マータが何か言いかけていたがとりあえずスルーして、ロミオ先輩の血の力を発動させる。

 余裕というか、油断していたアルマ・マータはロミオ先輩の血の力を真正面から喰らった。

 

 

 『うぐっ!?普通話している途中に攻撃する!?しかも、自分たちの知り合いに似ている相手を!躊躇なく!!』

 

 

 「知らんわ」

 

 

 「そうだな」

 

 

 「そうですね」

 

 

 「そうだねー」

 

 

 「その通りだな」

 

 

 「そうだそうだ!特に俺なんか、ジュリウスのために殺されるところだったんだぞ!これくらいしたって許してもらえるに決まってんだろ!」

 

 

 『つらい』

 

 

 『あー……ラケル博士……残念ながら今回ばかりは擁護しかねます。私でもそう思いますし』

 

 

 俺たちの返答に本物のラケル博士がダメージを負っていた。ついでにフランさんが追撃も加えていた。

 

 

 『………くっ、せっかく仁慈に言われたとおりに美少女になったのにこの対応なのね』

 

 

 「俺が言ったのは人型美少女だし、そもそもラケル博士は少女じゃないだろいい加減にしろ!」

 

 

 『屋上』

 

 

 やっべ。

 

 

 『まぁ、そこはどうでもいいわ』

 

 

 自分で言ったくせにどうでもいいとは……俺はお前の所為でこの戦い乗り切った後でも、いやむしろ乗り切った後のほうが死ぬ確立高くなったんだぞ。

 

 

 『お遊びはここまでよ。貴方達はロミオの血の力で私を弱体化させたといっても多少攻撃が効く様になった程度……このくらいなら誤差の範囲よ』

 

 

 頭上に光の輪を出現させ、戦闘態勢をとるアルマ・マータ。

 その姿は天使のようにも見えたが体のサイズと、四つん這いの格好で台無しである。

 

 

 『今ここには半径百キロメートルに居るアラガミを全てここに向かわせるようにしてあるわ。さぁ、仁慈。私の計画を散々邪魔してくれた貴方に教えてあげるわ。本当の絶望を』

 

 

 紅い目を俺に合わせてそう宣言する。

 ならば、とこちらも対抗するようにアルマ・マータに視線を固定して、神機を突きつける。

 

 

 「やってみろ、その前にお前を今までのアラガミと同じようにしてやるけどな」

 

 

 宣言と共に、俺とアルマ・マータは同時に動き出した。俺の動きに追随するように後ろからギルさんとジュリウス、ナナが付いてくる。残りの二人は後ろから援護するようだ。

 

 

 

 

 ―――――――アルマ・マータ戦、開始。

 

 

 

 

 

 

 




最後の台詞

『今ここには半径百キロメートルに居るアラガミを全てここに向かわせるようにしてあるわ。さぁ、仁慈。私の計画を散々邪魔してくれた貴方に教えてあげるわ。本当の絶望を』

「やってみろ……この、仁慈に対してッ!」


て、いうのが一番初めに思い浮かびさすがに最後の台詞でネタはダメだろと思い新しいのを考えたのですが、DIO様に引っ張られすぎて三十分ずっと考えてました。




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Alma Mater

遅くなって申し訳ありません。
そして、次回の更新なのですが、今月末から来月の頭にかけて色々とやることが出来てしまいました。
ですので、二月の最初の週が終わるまでは投稿が出来ないことになります。
後もう少しで終わるのに何をしている等のご意見は尤もなのですが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『フフフ……』

 

 

 アルマ・マータはどこか見覚えのある笑みを浮かべつつ、人型の部分にある人間に近い形状の腕を自分に対して接近を試みようとしている仁慈達に向ける。

 すると、蝶の形をした光が一斉に仁慈たちへと殺到した。

 

 

 「これは……サリエルの攻撃方法に似ているな」

 

 

 仁慈の二歩後ろくらいを追随するジュリウスが自分たちに向かってきた攻撃を冷静に観察しながら呟く。

 先頭を切ってアルマ・マータに向かっている仁慈はジュリウスの口から漏れた言葉に同意するかの如く首を縦に振ると、自分の神機を前に向け、そのまま回転させた。

 アルマ・マータの攻撃は仁慈の神機に弾き返され彼らに届くことなく、霧散していく。しかし攻撃を完全に防がれたアルマ・マータも動揺などは見せず攻撃の量を先程の倍にして放った。

 

 

 ちなみに、どうしてアルマ・マータが動揺しなかったというと、仁慈が攻撃を理解できない、したくもない方法で防ぐことなんてラケルの中にいた時に散々見てきたためである。ブラッド隊と戦う以上、予めこういう事態は念頭に入れていたために動揺することなく追撃することが出来たのであった。

 

 

 追撃の量が多く、自分ひとりでは防ぎきれないと悟った仁慈はジュリウスに自分と同じく攻撃を防いで欲しい旨を伝える。

 

 

 「ジュリウス隊長、ちょっと辛くなってきたので手伝ってもらっていいですか」

 

 

 「まかせろ」

 

 

 仁慈の言葉に短くも自信に満ちた声音で答えたジュリウスは、今までよりも強く地面を蹴り、追随していた仁慈の横に出る。そして、自身の体から紅いオーラを振りまきつつ神機を左下から切り上げた。

 すると、彼の神機が沿った軌道上に幾つもの斬撃が現れ、アルマ・マータからの攻撃を切り捨てていく。本人曰くこのブラッドアーツは、ファ〇ナルファンタジー7をやって思いついたのだとか。元々似たような技を持っているだけあってすぐに習得できると思ったらしい。

 

 

 閑話休題

 

 

 仁慈だけでなく、ジュリウスも先頭に立ち攻撃を防いでいるおかげで彼らとアルマ・マータの距離は五メートルを切った。ここからならブラッドの攻撃も通る。

 アルマ・マータもそのことが分かっているのか、サリエルに似たビーム攻撃をやめて自分を支えている足のひとつを地面にたたきつけた。

 その直後、アルマ・マータの足から仁慈たちが居る場所にかけて地面が黒く染まり、そこから大量の棘が生え始める。

 

 

 「うぇ……!?」

 

 

 「やっかいな!」

 

 

 ビーム攻撃が止んだ為、前に出てアルマ・マータに神機を突き立てようとしていたギルバートとナナが声を上げる。

 棘の大きさは三メートルを超えておりどう考えても飛び越えられるものではない。ジュリウスを含めた三人はすぐさま横に飛び退いた。

 一人だけ横に飛び退かなかった仁慈は、オラクル細胞が作り出した足ということを利用した尋常ならざる脚力で、三メートルを越える棘を飛び越え、尚且つそれらに跳び乗りながらアルマ・マータの本体を目指した。

 

 

 これにはさすがのアルマ・マータも予想外だったのか、横に飛び退いていったジュリウスたちを意識から外して仁慈を見据え、人型部分の両手を使ってシユウのようなエネルギー弾を精製、そのまま彼に発射する。先程の攻撃とは比較にならないくらいの威力があると察した仁慈は神機で応戦することなく、空中で背面跳びのように体を浮かせ回避する。その後、両足を自分の胸の方へと持ち上げ宙返りを決めると、下から生えている棘に着地する。

 そして再びアルマ・マータへの接近を試みる。

 

 

 

 

 「あの接近の仕方はないな」

 

 

 「どう考えてもおかしいよね」

 

 

 「ギル、ナナ。奴が仁慈に気を取られているうちに俺たちも接近するぞ」

 

 

 仁慈の姿を見ていたギルバートとナナは呆れたような顔でそう言い放つ。ジュリウスは今の状況を冷静に見極め二人に声をかけて行動を開始した。

 

 

 

 一方、援護として残ったロミオとシエル。

 シエルは血の力で他のメンバーに状況を随時流し、ロミオは完全に意識を仁慈へと向けているアルマ・マータに向けて特性の爆破バレットを放っていた。爆破バレットは寸分の狂いもなくアルマ・マータへと着弾し、その巨体を僅かに揺らす。

 だが体を揺らしただけで、ダメージはないに等しいらしい。一瞬だけロミオの方を向くがすぐに仁慈へと視線を戻していた。

 

 

 「ビクともしねぇ……あれで本当に弱体化してんのかよ……」

 

 

 「アルマ・マータの言葉に偽りなしですね。確かに、あれくらいなら誤差の範囲と言っていいでしょう」

 

 

 「だよなぁ。すぐに仁慈に視線を戻したし……アイツ仁慈のこと好きすぎるでしょう?」

 

 

 なんて不憫なやつ……とげっそりした表情で呟くロミオ。

 

 

 「………誤射の可能性もありますし、遠距離の援護は有効とはいえませんね。ロミオ、貴方は突っ込んできたらどうです?どうせやることもないでしょうし」

 

 

 「あの集団に入って来いと申すか」

 

 

 仁慈、ジュリウス、ギルバートは言うまでもなく高い身体能力を持っており尚且つ身体の動かし方をよく分かっている。銃形態の性能上、前線で何時も戦っているナナもそれは同様だ。ロミオやシエルも決して弱いというわけではない。唯、ロミオとシエルは突っ込んでいく上記四人のフォローに回ることが多いためにそこまで前線に行くことがなかったのだ。その分の差があるための発言である。

 

 

 「少し近付いて血の力使っていればいいじゃないですか」

 

 

 「やめろー!俺は敵の動きを鈍くする装置じゃないー!」

 

 

 ブンブンと頭を―――正確には耳を抑えてシエルの言葉をシャットアウトするロミオ。そんな彼にシエルは豚を見るような冷ややかな視線を向けていた。

 ロミオもシエルの視線に気が付いたのか、頭が取れるのではないかという勢いで振っていた頭を止め、咳払いをして空気を変えようとした。手遅れだが。

 

 

 「おうぇ……頭振り過ぎた…………、よし復活。装置云々はこの際置いといて、確かに俺も前に出たほうがよさそうだな」

 

 

 爆破バレットを撃ったために銃形態となっていた神機を元の形に戻し、ロミオは駆け出す。シエルはロミオを送り出した後、時々嫌がらせ程度の狙撃を放ちつつ、今までどおり状況の把握に努めるのだった。

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――

 

 

 

 同時刻、サカキが予想していた通りアルマ・マータの能力で呼び寄せられたアラガミたちを極東の名だたる神機使いたちは食い止めていた。

 いや、むしろ―――――

 

 

 「グルァァアアアアア!!」

 

 

 「おっ、ヴァジュラだ(ズドン!)。コイツも昔はすっごく強く感じたんだよなぁ……」

 

 

 「コウタ隊長。そんな事ばっかり言ってると早く老けます……よッ!」

 

 

 「おい、そういうこと言うの止めろよ……おっとあぶね(ズドン!)俺まだ二十迎えてないんだからな」

 

 

 「騎士道ォオオオオオオオオ!!!」

 

 

 「エミールうっさい!」

 

 

 ――――――この光景は蹂躙という言葉が相応しいだろう。

 

 

 コウタとエリナは気安い会話をしつつも自身に向かってくるアラガミの攻撃をかわし、流れるような動作でカウンターを決める。騎士道狂い(ジャンキー)のエミールもお決まりの言葉と共にかつて苦しめられていたウコンバサラの顔面を粉砕する。それだけに留まらず、頭の潰れたウコンバサラの屍骸をゴルフよろしく吹っ飛ばして、小型アラガミの集団を押し潰した。

 数こそ圧倒的に劣っているものの実力差は歴然。これこそが、激戦区極東の神機使い。圧倒的な量を個人の質で対抗することが出来る神に仇名す者達だ。

 

 

 何も、コウタたちだけではない。

 

 

 別の場所では防衛班の神機使いたちが、アルマ・マータの居る場所へと殺到しようとするアラガミたちを殲滅していた。

 

 

 「サカキ博士の言った通りになったなぁ。小中大、それに堕天種をはじめとする亜種、挙句の果てには感応種まで混ざって突撃してきやがる。ブラッドアーツ習得してなかったら詰んでたなこりゃ」

 

 

 「確かに。他はともかく感応種には対応できなかっただろう」

 

 

 防衛班の班長であるタツミの言葉にブレンダンが同意の言葉を上げる。例の如くアラガミは殲滅しながらである。

 ブレンダンは武器の特性と己の胆力を最大限に活用した切り払いで大型アラガミと真っ向からぶつかり合い、押し返した後、体を回転させて振り切った勢いと遠心力を加えたなぎ払いで相手をしていたアラガミを両断し、タツミは自身のブラッドアーツで小型アラガミを処理していく。

 防衛班なのに守りに徹しないという暴挙を犯しながらもオウガテイル一匹逃がさない。もちろん、戦っているのは彼ら二人だけではない。

 

 

 「駆逐駆逐駆逐」

 

 

 シュンは次から次へアラガミの背中に現れては、全て首の―――正確にはうなじ位置する場所に神機を振るい、

 

 

 「サカキ博士から報酬ははずむと言われたし、やらないわけにはいかないよな」

 

 

 「こんなに沢山いるなんて……フフフ、やりがいがあって実にいいわ……」

 

 

 ジーナがシュンの隙を狙って攻撃を仕掛けようとするアラガミを正確に撃ち抜き、カレルがジーナを含めた自分達に襲い掛かってこようとするアラガミを倒しつつ、時々大物を狙い撃ちしていた。

 

 

 もちろん、クレイドル組と第四部隊のソーマ、アリサ、ハルオミ、カノンについても同じくアラガミがアルマ・マータの居る場所に行かないように戦っている。

 もっとも―――

 

 

 「アッハッハッハ!!そぉれ、それそれそれ!!早く逃げないと爆発四散しちゃうぞぉ~?ハッハッハッハ!!」

 

 

―――カノン(狂った固定砲台)が周囲のことなど度外視して敵を殲滅しているため、一番防衛しているかどうか首を傾げるが。先の防衛班といい、この元防衛班といい、本当に防衛していたのかと思うくらいの攻撃思考である。

 

 

 「ソーマ、そんなとこで空見上げてどうしたんですか」

 

 

 「いや……。こうしていれば、アイツが狂気の固定砲台(カノン)を止めにきてくれるんじゃないかと思ってな」

 

 

 「馬鹿なこと言ってないで私達も働きますよ。カノンさん、攻撃が豪快すぎて撃ち洩らしが結構ありますしね」

 

 

 「本当に、アレさえなければカノンちゃんは内面もいい、ムーブメントの塊なんだけどなぁ……」

 

 

 どこか諦めたように空を見上げるソーマ、そんなソーマに冷たい視線を向けるアリサ、どんなときでもぶれないハルオミ。

 彼らはアラガミからの攻撃よりも味方からの攻撃のほうが危険という、実に奇妙極まりない戦場で、縦横無尽に駆け巡り次々とアラガミを屠っていく。

 多少の無理はあるものの、戦場では全てが順調だった。

 しかし、皺寄せは必ず来るものである。

 

 

 『くっ、この人数を同時にオペレートとは……いつもいつも思いますけど極東は、非戦闘員(私達)にとっても地獄ですね……ッ!』

 

 

 極東の神機使いたちのオペレートを纏めて行っているベテランオペレーターのヒバリこそが、その皺寄せを受けている人物である。

 相変らず常識はずれな行動ばかりしでかす神機使い(馬鹿共)の面倒を見つつ、ぼそりと愚痴をこぼした。

 この作戦が終わったらオペレーターの増員をサカキに申し立てると彼女は密かに決意した。

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――――

 

 

 

 『相変らずの化け物っぷりね!仁慈!まさかあの攻撃をあんな風に回避してくるなんて思っても見なかったわ!!』

 

 

 「正真正銘の化け物が何を申すか。俳句を読め。カイシャクしてやる」

 

 

 

 場面は戻り、仁慈とアルマ・マータの戦い。

 仁慈はアルマ・マータが生み出した棘を利用して攻撃を回避しつつ、アルマ・マータの目の前まで距離を詰める事に成功していた。

 その様はアルマ・マータが自分自身のことを棚に上げて化け物といってしまうくらいのものであった。仁慈は失礼ながらも真っ当な台詞に、神機を振るいつつ応える。俳句なんてなかった。

 

 

 一直線に目の前のアルマ・マータ目掛けて振るわれた神機は阻まれることなく、相手の顔面に傷をつけた。

 しかし、アルマ・マータには痛覚がないのか付けられた傷には何の反応も見せず、自身の頭上に浮かぶ光の輪からレーザーを放つ。空中にいる為、自由に動くことの出来ない仁慈にとってそれは回避不能の攻撃であった。

 一か八か、装甲を展開しやり過ごそうとしたところで目の前のレーザーが唐突に爆発する。仁慈もその爆風に煽られ、飛ばされるが先程もやっていたように空中で体勢を立て直すと今度は地面に着地した。

 アルマ・マータが視線を動かすと、そこにはドヤ顔でふんぞり返っているシエルが立っていた。

 

 

 「どやぁ」

 

 

 「ありがとうシエル。助かった」

 

 

 「いえ、あの程度でしたら何の問題もありません。なので、君はもっと攻めても大丈夫ですよ」

 

 

 シエルの能力と狙撃の精度、なにより先程のドヤ顔……どれをとっても厄介だと認識したアルマ・マータはシエルに狙いを定め、今度はピンポイントでシエルの足元に棘を出現させようと自身の足を振り上げる。

 しかし、そんな決定的な隙を彼らが見逃すわけがない。

 

 

 「今だ!」

 

 

 棘の出現する攻撃をよけた際に完全にノーマークとなっていたジュリウスが掛け声を上げる。それに応えるは三人分の声。彼らはジュリウスと共にアルマ・マータの足に一斉攻撃を開始する。

 自身を支えている足を一本振り上げている状態で行われた三人による集中攻撃は、アルマ・マータの態勢を崩すには十分な威力であった。アルマ・マータはその巨体を地面に沈めることとなる。

 

 

 『グッ……!よくも、よくもやってくれたな……ッ!』

 

 

 体勢を崩され地面に倒された怒りから、アルマ・マータの意識はジュリウスたちのほうへと向かう。

 そこへ――――

 

 

 「……警戒するだけ損だったな。いくらラケル博士の中で彼女の知識を吸収したとしても、所詮は元アラガミ。扱いきれないのであれば捨てたほうがいんじゃねえの?宝の持ち腐れだ」

 

 

 ――――ハッ!と、気付いたときにはもう遅い。何故なら、アルマ・マータが最も警戒していた人物……樫原仁慈の声が自分の真横から聞こえてきたためだ。

 だが、アルマ・マータは内心でほくそ笑む。

 

 

 彼が先程顔面に向かって行った斬撃は到底自分を打倒し得る一撃ではなかったためだ。たった数分前の攻撃がそれなのだ。今しようとしている攻撃も自分に届きはしないとたかをくくっていた。それは自分自身の存在が、絶対のものだと思い込んでいるからである。しかし、その思考こそが仁慈のいう宝の持ち腐れなのだとアルマ・マータは気付けない。

 

 

 ―――ビュ!!

 

 

 再び跳びはね、重力をも加算して振るわれた神機は空を裂きながら吸い込まれるようにしてアルマ・マータの顔に向かい、見事に頭上で浮遊している輪ごと両断して見せた。

 このことに驚愕したのはもちろんアルマ・マータである。自身の視界が両断され、まともに周囲の様子を確認できないながらも、叫ぶ。

 

 

 『あ、あぁ……アアアアァァァァアアアアァァ!!??ワタシノわたしのカオがぁぁああァアアァアアアアAAAA!!??』

 

 

 「化けの皮剥がれるの早すぎる……」

 

 

 その叫びように、覚醒したばかりの余裕はなく、仁慈は思わず呆れたように呟いた。

 

 

 「さっきまでの余裕は何処に行ったんだか……」

 

 

 「小物の典型的な反応だな」

 

 

 「格好悪いね」

 

 

 「どうせなら最後まであの余裕を持っていて欲しかったですよね」

 

 

 「シエル……いつの間にこっちに……」

 

 

 「何だロミオ、いたのか」

 

 

 「(この反応が来ることは)知ってた」

 

 

 それにしてもこのブラッド隊余裕である。

 

 

 『ナァゼダァ!!ナゼオマエノ攻撃が効イたんんだァ!!!ジンジィィイイイ!!』

 

 

 「なんで何時も俺なんだよ……。まぁ、いいや。解説は死亡フラグだが、ネタ晴らししてやろう。答えは単純、ジュリウス隊長たちが攻撃したところにロミオ先輩が自分の血の力を込めた一撃を見舞い、お前の中にあるオラクル細胞の働きを緩慢、もしくは停止させたためだよ」

 

 

 外からは効き難くても、中からはさすがに防げないだろうと付け足す仁慈。そう、ジュリウスたちが攻撃を仕掛けるあの瞬間、ロミオも参加していたのだ。そして、ジュリウスたちが付けた傷に自身の血の力をぶつけ、内側から効果を発揮させようと試みたのである。

 

 

 『おの…レ、オノレ、オノレ、オノれ、おノレ、オノレェェエ!!』 

 

 

 「オ・ノーレ」

 

 

 「言ってる場合か!?なんかやばそうだぞ!!」

 

 

 アルマ・マータの叫びにシエルが煽るような言葉を放つ。そんな彼女にツッコミを入れつつロミオはアルマ・マータの変化を指摘した。

 ブラッド隊もアルマ・マータの様子を観察してみると、仁慈が両断した切り口から、樹液のようなものがあふれ出していたのだ。しかもこの樹液、触手のごとくうねうね自由に動き回っている。

 

 

 「……明らかにヤバイだろ、アレ」

 

 

 「そうだな。少なくともいい予感はしない」

 

 

 ジュリウスとギルバートが冷静に感想を述べる。そんな中、彼らの通信機からオペレーターであるフランの声が届いた。

 

 

 『皆さん。悪いニュースがありますが聞きますか?』

 

 

 「悪いニュースは聞きたくありません」

 

 

 『では言い換えましょう。皆さん素敵なニュースです。アルマ・マータの偏食場が変化しました。アレはもうノヴァではなく終末捕食そのものです』

 

 

 「それもうおしまいじゃね?」

 

 

 『えぇ、普通ならばそうでしょう。しかし、あの二人は対策を考えていたようですよ。所謂、プランBです』

 

 

 その言葉に嫌な予感しかしなかったブラッド一同だったが、先程からこちらに向かってくる触手の量が多くなってきたのでおとなしく聞くことにする。

 

 

 『ジュリウス隊長か仁慈さんのどちらかに特異点となってもらい、あれらを相殺する……それが、プランBです』

 

 

 

 

 



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終末捕食

どうも、試験が近いにも関わらず書き上げてしまいました。なにやってんでしょうね。

ま、それは置いといて久しぶりで忘れているかもしれませんがどうぞ。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも何時も思うんだけどさ。色々展開が速いよね………。

 そう考えつつ視界に収めるはついさっきまでアルマ・マータだったもの。

 余裕を見せるアルマ・マータの顔面に神機振るってやったらこの有様だよ。普通はそのまま倒して終末捕食を阻止!ハッピーエンド!第三部完!ってなりませんかねぇ……。ならない?左様ですか。

フランさんのいうプランBの内容を聞いた俺は心の中でそう呟いた。

 

 

 「プランBの内容については理解した。しかし、そんな簡単に特異点となれるものなのか?」

 

 

 ジュリウス隊長が当然の疑問を発する。終末捕食を生み出す中核……言わば世界崩壊の鍵といっても過言ではない。そんな存在をそうぽこじゃがと生み出せるものなのだろうか。

 というか、あの終末捕食っぽい樹液触手がしなりながらこちらに向かってきているんですが……。

 俺達を捕食しようと迫り来る終末捕食(予想)を神機で退けながら、ジュリウス隊長の疑問に答えるサカキ支部長とラケル博士の声に耳を傾ける。

 

 

 『本来ならば、到底不可能なことだろう。しかし、君達二人の場合は話が変わってくるんだ』

 

 

 『特異点とは、世界の全てを捕食しリセットするために発生する終末捕食の核となるものです。なので特異点になるモノの絶対的な条件は全てを喰らい尽くす力……すなわち“ありとあらゆる偏食因子を取り込むことが出来るか”という一点になります』

 

 

 『ラケル博士の話だと、ジュリウス君には既にその素質があることは分かってる。仁慈君のほうに関してもオラクル細胞で自らの肢体を修復し、自身の神機も手なずけている。可能性としては十分だ』

 

 

 「なら、ジュリウス隊長でいいんじゃないんですかね?」

 

 

 彼らの説明を聞き終え、俺は迫り来る終末捕食を両断しながらそう言った。当然理由はある。それは数日前にラケル博士が言ったあの言葉だ。

 

 

 ―――――ブラッドはジュリウスを特異点とするための部隊

 

 

 彼女は自身の事情を説明する際にブラッドのことをそう言った。つまり、彼女にはジュリウス隊長を特異点とする手段があったのだ。だからこそ、俺は確実に特異点になれるであろうジュリウス隊長を指名したのである。決して、決して!俺が面倒くさいからとかじゃナイヨ?

 

 

 「俺か?まぁ、元々ラケルの話では俺が特異点となる予定だったらしいからな。特異点になるための方法も考えているのだろう。当然の判断だな」

 

 

 『先生取られた……呼び捨てにされた……』

 

 

 ジュリウス隊長の口から唐突に発せられた一言がラケル博士の心を抉った。何故そう言ったし。

 サカキ支部長はサカキ支部長でラケル博士の反応にはまったく触れることなく俺達の考えを否定した。

 

 

 『いや残念ながら、ラケル博士が当初考えていた方法は使えなくなった。だから、君達のどちらかが特異点になるとしても確実な方法はない』

 

 

 崖っぷちじゃないですかーやだー。

 

 

 『私としてはね、仁慈君。君に特異点となって欲しいと思っている』

 

 

 「Why?」

 

 どちらも同じ条件であるならばわざわざ俺を指名する必要はないだろう。まさか俺が死んでもいいと思われているから選ばれた訳じゃあるまいし………え、ないよね?

 化け物擬きの俺と正真正銘の化け物に纏めて死んでもらうために指定したわけじゃないよね?その辺はサカキ支部長を信頼してますよ?

 ……これでだまして悪いが系だったら俺人類の天敵になる自信があるわ。

 

 

 『特異点になるには、多くの偏食因子を取り込む必要がある。これは先程話したね。では、特異点となっただけでアルマ・マータをを核とした終末捕食を相殺できるか……。答えは残念ながら否と言わせてもらうよ。コアそのものを捕食したアルマ・マータとは比べ、血の力で偏食因子のみを収集した特異点とではどうしても数段劣ってしまうんだ。私たちが行おうとしているのは最低限のことだけだからね。しかし、特異点となるのが君だと話は違ってくるんだ。君の血の力と尤もアラガミに近い身体……この二つを併せ持って初めて―――――』

 「サカキ支部長!話、長いっす!」

 

 

 個人への通信ではなかったためか、今までの会話が聞こえていたのであろうロミオ先輩がこちらに向かってそう叫ぶ。

 どうやら終末捕食の処理に大分手間取っているようだった。まぁ、俺とジュリウス隊長も一応、処理しているもののサカキ支部長の話を聞いて意味を飲み込みながらやってたからそろそろ限界なのであろう。

 

 

 『おっと、すまない。要するにこのままだと特異点になっても撃ち負けてしまう可能性があるから、自身の力を限界まで出せて尚且つ人間では到底たどり着けないようなポテンシャルを秘めた仁慈君に特異点となって欲しい……と、言う訳さ』

 

 

 「OK、把握」

 

 

 サカキ支部長の説明でおおよその見立てが出来たため、近くに居たジュリウス隊長とお互いに頷き合う。そして、俺は右側と正面から向かってくる終末捕食の内右側から向かってくる物を切裂いて後ろに大きく後退、それと入れ替わるようにしてジュリウス隊長が正面から来た終末捕食を切裂きつつ前に出た。

 終末捕食の範囲外に飛び出した俺は再びサカキ支部長に指示を仰ぐ。特異点になるのは決めたけどどうなるかは聞いてなかったし。

 

 

 「それでサカキ支部長。偏食因子を集めるといっても、具体的にどうすればいいんですかね」

 

 

 『今からナナ君の誘引の力を使ってもらい、極東の神機使い達の偏食因子を仁慈君に集めてもらう。シエル君はそのサポートだ』

 

 

 「と、いうわけで!」「よろしくお願いします」

 

 

 「うわっ!?」

 

 

 唐突に下から現れた二人に驚く。

 この二人、さっきまで終末捕食を必死に切り払っていたはずなんだけどな……。見間違いだったか?

 

 

 「あっちは、ほら……ジュリウス隊長が本腰を入れてきちゃったから……」

 

 

 「なるほど」

 

 

 あの人がやる気になったんなら仕方ないな。

 

 

 「ところでサカキ支部長。ナナの血の力で先程言ったことが本当に可能なんですか?」

 

 

 ナナとシエルの奇天烈な登場で忘れていたが、さっきの話の中で疑問に思ったことを素直に聞いてみる。

 

 

 『いいかい?仁慈君。出来るできないじゃなくて、やるんだよ(キリッ』

 

 

 「うわぁい、超不安」

 

 

 ちっくしょう。結局行き当たりばったりの出たとこ勝負かよ……。

 

 

 「今更気にしなーい、気にしなーい。ようは何時も通りってことでしょ?」

 

 

 「せやな」

 

 

 よくよく考えてみればその通りだったわ。

 ナナの言葉で冷静(?)になった俺は目をゆっくりと閉じて、一度深く深呼吸をして心を落ち着かせる。特異点になったらどうなるかまったくわからないからな。

 あまり時間もないので三十秒ほどそうした後にナナに声をかけた。

 

 

 「よし、覚悟完了」

 

 

 「なんかここ最近の仁慈弱気だねー。仁慈はもっと、こう……理不尽が服を着て歩いているような感じなのに」

 

 

 「だまらっしゃい」

 

 

 「はーい」

 

 

 普段と変わらないかのようなやり取りをしつつ、ナナは自身の持つ血の力を解放する。力が発現するときに発生する血の様な赤い波動が今まで見たことがないほどの範囲にまで広がっていく。というか終わりが見えない。その範囲の広さに驚いていると、俺の頭上に同じく赤い波動が集まり小さな球体を作り出していた。

 

 

 「今までの力とは規模が違いすぎる。どれだけ広範囲に展開してるんだ……?」

 

 

 「極東を含めた東アジア全域」

 

 

 「ファッ!?」

 

 

 東アジア!?東アジアナンデ!?

 

 

 「いやー、ほら。私の血の力ってさ……みんなのと違って使い勝手悪いでしょ?アラガミを誘導するといっても基本的に私の居る場所限定だし、使いどころを間違えると全滅必死だし。私自身、誘き寄せたアラガミによっては勝てないもん。だから、必死に使い方を考えて練習してたんだよ」

 

 

 「私もナナさんの能力に対応できるよう、直覚の範囲を広げました。360度どんな遠くも透視しつつ確認することが出来ます」

 

 

 「それなんて白眼ですか……」

 

 

 にっこりと柔らかく微笑むナナとドヤ顔で胸を張るシエル。お前最近ドヤ顔しかしてないな。

 まぁ、それは置いといて。回復錠という名の毒物を作成したり、ブラッドバレッドという名のアラガミ絶対殺す弾を作っている傍らでそんな事もしていたのか……。

 

 

 「……その結果がこれか。ナナもシエルも立派な人外の仲間入りだな」

 

 

 今更な気もするけど。

 

 

 「これでおそろいでだね!まぁ、まだ仁慈やジュリウスには敵わないだろうけどねぇ」

 

 

 「そうですね。君とジュリウスは別格ですから。英語で言うとフリークス」

 

 

 「やめろぉ!」

 

 

 俺は自称したことないんだぞ!その呼び名!

 世界の存亡がかかっているこの場面でまったく似つかわしくない雰囲気で話す俺とナナ、シエル。数分話していると俺の頭上に出来た球体がかなりの大きさになっていた。どっかで見たことあるなぁ、この光景。

 

 

 「ちなみにだけど、この血の力を作るときに何か参考にしたものとかない?」

 

 

 「元気〇」

 

 

 「把握」

 

 

 オラに偏食因子を分けてくれー!ってことか。どっちかと言えば俺自身は元気〇をもらってべジー〇に投げつけるクリ〇ンみたいな感じだけど。

 

 

 『では、仁慈君。君が無事に帰ってくることを祈っているよ』

 

 

 実は俺たちの会話を聞いていたらしいサカキ支部長から激励の言葉を送られる。そして、それと同時に俺の頭上を陣取っていた偏食因子の塊が身体へと流れ込んできた。

 体内に大量の何かが入り込み、身体を一気に書き換えられていく感覚を覚える。……あまりいい気分ではないな。胸焼けをしているような、なんかスッキリしないモヤモヤしている。

 少しの間顔を顰めていたが、しばらくするとそれは完全に納まっていた。もう大丈夫かなと考えた俺は、軽く腕を振るって回してみたり、神機を振ってみたりする。

 

 

 「うん。運動能力は大して変化なしか」

 

 

 下手に悪化しなくて良かったと思わなくもないが、こういう場合って高確率でインフレとも呼べる高い戦闘力を得ることになると思うんだけど……現実はそこまで甘いものではなかったらしい。ま、特異点は終末捕食の核になるだけだから戦闘力が上がらないのかもしれないけど。

 

 

 割とどうでもいいことを考えつつ、ナナとシエルのほうを向く。するとそこには目をぱちくりとさせてお互いに見合っている二人の姿があった。何事よ。

 

 

 「えーっと……仁慈……だよ、ね?」

 

 

 「一体それ以外の何に見えるんですかねぇ……」

 

 

 特異点になって外見が変わったとか?HAHAHAそんな事あるわけないジャマイカ。

 

 

 「だって……仁慈の髪の色が真っ赤になってるんだもん……」

 

 

 「清々しいくらいに赤いですね。目が痛いです」

 

 

 「oh………」

 

 

 おぃ……マジかよ……。

 

 

 

 

            ――――――――――――――――

 

 

 

 

 「ちっくしょう!うねうねうねうねうねうね、うざいったらないな!」

 

 

 何度切りつけても性懲りもなくこちらを捕食しようとする終末捕食に罵倒を浴びせつつ、肩に担いでいた神機を怒りの感情も交えて地面に叩きつける。

 地面に叩き付けた神機は下の地面にクレーターを作りながら俺に向かってきた終末捕食を粉砕した。そして、ラッキーなことに近くにあった別の奴も纏めて粉砕することが出来た。やったぜ。

 

 

 「仁慈のやつ……まだなのかよ。俺たち神機使いだって無限に戦い続けられるわけじゃないんだぞ。ターミネ〇ターじゃあるまいし」

 

 

 心のうちにわいてきた不満を溜息と共に溢す。仁慈だって頑張っているのは分かる。特異点のとして終末捕食を起こすなんてとても怖いだろう。しかも、あいつ俺たちの仲で最年少だし。あれ?そう考えると俺、愚痴なんてこぼしている場合じゃないんじゃないか?こう、形式上先輩と呼ばれている身としては。

 ……自分で形式上って言っちゃったよ。

 

 

 「っと、それはどうでもいいか。他にはいないかなー。……ここまで着たら10体も100体も変わらないだろ」

 

 

 若干、投げやりになっているがそれはしょうがないことだと割り切り、他にも終末捕食が向かって来ていないか探してみる。すると、まったく終末捕食抹消の手を衰えさせないジュリウスとギルの姿が見えた。

 あの二人、俺より広範囲をフォローしいてるし、無駄に終末捕食を攻撃するものだから体力の消耗もそれに比例するくらい激しいはずなんだけどな……。

 

 

 「あいつらはターミ〇ーターかもしれない……」

 

 

 むしろそうであってくれ。アレを俺たちと同じ神機使いとは思いたくない。

 

 

 「――――――ッ!?」

 

 

 ジュリウスたちの戦いっぷりに呆れていた俺は背後から唐突に感じた血の力に戦く。感覚はそのまんま血の力と同じものだったにも関わらず、力の濃度というかなんというか、その辺りが規格外な感じだったからだ。漠然としてて分かりにくいかもしれないけど俺もうまく言葉が見つからなかった。そしてその発生源と思わしきところに視線を向けてみると、シエルと同じ美しい銀髪を真っ赤な色に染めた仁慈がたっていた。

 

 

 「イメチェンか?」

 

 

 「んなわけないだろ!」

 

 

 わざわざ俺の隣にまで来てボケをかますジュリウスにツッコミを入れる。この隊長、初期の貫禄を完全にどこかにおいてきているようだ。

 

 

 「それにしてもアレが特異点になった仁慈か……思ってたのと違うな」

 

 

 「お前は何を期待していたんだ……」

 

 

 普段色々アレになってしまったギルも呆れている。言っておくけど、ギルもそっち側だからね?

 

 

 「…………」

 

 

 そんな俺たちを他所に仁慈は静かに神機を構える。その構えは何時も通りにも関わらずなんだろう、どこか嫌な予感がした。

 これは自身の死亡フラグを感じ取り、仁慈に血の力を覚醒させてくれと頼んだとき以来のものである。隣にいるアレコンビもそれを感じ取ったのかすぐさま仁慈と距離をとった。それと同時に、

 

 

 『皆さん、今すぐ仁慈さんから離れてください!彼を中心にして超強力な偏食場が形成されています!おそらく終末捕食です!』

 

 

 フランさんの大声が耳を貫いた。その音量に少し耳を押さえつつ、仁慈の様子を見る。

 すると、仁慈を中心により一層血の力と同質な赤い波動が渦巻き仁慈の神機の中に凝縮されていく。ブラッド(俺たち)という防波堤が居なくなったことで、アルマ・マータを基点とした終末捕食は仁慈に殺到する。

 自身の視界を埋め尽くすほどの勢いで迫る終末捕食(絶対的な死)を目の前にしても仁慈はうろたえることなく、構えていた神機を左斜め上へと切り上げる。

 

 

 その直後、辺りにすさまじい轟音が響き渡る。

 それと同時に、仁慈の神機から凝縮されていた赤が、彼に迫っていた終末捕食を喰らい尽くす。

 

 

 そのままアルマ・マータを基点とする終末捕食を全て喰らい尽くすかと思われたが、向こうも向こうでこのままだと危ういと思ったらしい。

 仁慈の居る方向以外にも向けていたエネルギーを全て仁慈が放つ終末捕食に向けてきた。すると、先程まで押していた仁慈の終末捕食はあっさりと押し返されてしまい仁慈の目の前まで再び迫ってきていた。

 

 

 「帰ってくるの早いなおい……っ!」

 

 

 何とか押し返そうともう一度神機を振るうも押し返すことは出来ず、それすらも飲み込まれる。

 俺たちだって唯見ているだけではない。それぞれがそれぞれの血の力を使って仁慈をサポートしたりアルマ・マータのほうの妨害を行ったりもした。しかし、それも虚しく無意味に終わった。

 

 

 そして、

 

 

 

 「ふん!はぁ!せぃあ!………ことごとく飲み込まれている……なにこれどうすればいいんだよ」

 

 

 仁慈は

 

 

 「こうなったらブラッドアーツだ!食らえッ!」

 

 

 俺たちの目の前で

 

 

 「あ、やばっ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終末捕食に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仁慈「終末捕食から、光が逆流する……!▂▅▇█▓▒░('ω')░▒▓█▇▅▂うわああああああああ!!」


大体こんな感じ。


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決着


投稿が遅くて申し訳ありません

後、終わる終わるといいつつ全然終わらなくて本当にすみません。もう残り一話だけなので最後までお付き合いしていただければ幸いです。

では、色々無理矢理かもしれませんがどうぞ。


 

――――樫原仁慈が死んだ。

 

 

 この言葉が起こす変化はかなり大きい。

 樫原仁慈はこの戦いにおいて間違いなく中心であった。絶望的な戦力差でも、彼をはじめとする飛びぬけた神機使いたちがいれば何とかなると思われていた。終末捕食が起きてしまっても特異点となる彼が何とかしてくれる。そんな思いに囚われていたがために。

 特に目の前で仁慈が終末捕食へと消えていく姿を見たブラッド隊の精神はかなり不安定になっていた。ナナはその場に泣き崩れ、シエルは呆然とし、ギルとロミオは今にも終末捕食の中に飛び込みそうだった。

 

 

 「フラン!仁慈のバイタル反応もしくは終末捕食の反応を確認できるか!?」

 

 

 そんな中ジュリウスはオペレーターであるフランに仁慈の安否を確認できる手段を思いつき実行に移していた。彼も彼で、目の前で終末捕食の中へと消えた仁慈の姿を見て動揺しているが上に立つものとしての振る舞いが分かっているためにここまで速やかに行動できるのだ。

 

 

 『仁慈さんの反応はアルマ・マータから成った終末捕食の強力な偏食場パルスで確認できませんが、彼が起こしていた終末捕食の反応は完全に消失しています!』

 

 

 しかし、冷静な行動を起こしたジュリウスに帰ってくる返答は望んでいたものとはかけ離れていた。特異点となった仁慈が起こした終末捕食の反応がなくなったということはすなわち核である仁慈が唯ならない事態に陥った証拠だからだ。

 

 

 「くっ………!」

 

 

 ジュリウスは仁慈を飲み込んだ終末捕食のほうを睨みつける。そこには今だ勢いを衰えさせず進行しようとしている終末捕食があった。

 

 

 「………俺が特異点になっていれば……いや、どちらにせよ結果は変わらないか……」

 

 

 こんなことになるなら自分が特異点になっていればよかったと後悔するジュリウスだが、仁慈が特異点になる理由を思い出し結局変わらないということに気付いた。

 もういっそのこと自分もあの中に入って特異点になれないか確かめてみようかと投げやりな思考で睨んでいると、ある違和感を感じた。

 

 

 「……何故、未だ一箇所に集まっている?」

 

 

 そう。普通なら仁慈を飲み込んだ終末捕食は、四方八方ばらばらに進行するはずだ。なぜならもう終末捕食の行く手を阻むものはないからである。分散したところで対抗できるものはいない。にも関わらず、未だに一箇所に集中している理由とは一体何か?決まっている。

 

 

 ――――終末捕食に唯一対抗できる特異点(仁慈)が健在であることの証明である。

 

 

 その結論に至ったジュリウスは動揺しているメンバーに自身が思ったことを話した。

 

 

 「……もう一度仁慈に偏食因子を集めるぞ。シエルはあの中から仁慈を探し出して俺らに伝えろ。ロミオは仁慈までの道程にある終末捕食を弱めろ。そうしたらギルの力で底上げした偏食因子を俺の能力で活性化状態にする。そして最後に、ナナが仁慈が居る位置に直接ブチ込め」

 

 

 「おう」

 

 

 「まかしとけ」

 

 

 「問題ありません」

 

 

 「うん、大丈夫。もう仁慈にばかり頼らないってこと、見せるんだからっ」

 

 

 ジュリウスの提案を聞いたブラッドメンバーは全員そろって力強く頷いた。今までは仁慈の力を妄信しすぎていて、それが今回の結果を招くことになった。

 ならば、これからは彼に頼り過ぎないようにしよう。支えられるようになろう。それが仲間というものだから。

 

 

 

 

 

 

               ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――あ、死んだ。

 

 

 これが自らに迫る光の壁を見たときに思ったことである。

 特異点となった俺はその力で終末捕食を起こし、アルマ・マータの終末捕食にぶつけた。何とか相殺に持っていけたらなーとか考えてたが結果は圧倒的敗北。アワレ俺は光の壁に飲み込まれたというわけである。

 

 

 まぁ、ぶっちゃけ油断というか慢心してた。なまじ今までどんな事態に陥っても何とかなってきたためそうなってしまった。

 そう、いつからか樫原仁慈は何とかするという根拠のないことを誰よりも何よりも自分が妄信してしまっていた。その結果がこれである。

 

 

 そんな状況で思い起こされるのは過去の出来事。わけも分からずドリルをブッ刺されたことから始まる神機使い樫原仁慈(おれ)の軌跡。完全に走馬灯である。ここまで着たら昇天まで秒読みと言ったところだろう。しかし、徐々に終末捕食に侵食されている俺の体はまったく動く気配もなく抵抗らしき行動は何も出来ない。

 

 

 あまりに何も出来ないもんだから逆に、今まで漠然と受け止めていたこの状況に反逆する意識が芽生えてきた。原理は普段仕事ばかりしてて休みが欲しいといいつつ、いざ休みになるとやることなくて結局休みになっていない人たちと一緒だ。多分。

 それによくよく考えてみると、ここで俺が死んだらかなりヤバイことになる。俺だけならまだ慢心の結果として受け入れられるど、俺だけじゃなくて近くで戦っているブラッドをはじめとして、俺たちの勝利を信じて足止めに徹している極東支部の神機使いたち、サカキ博士や極東の人たちだって死ぬことになる。いや、そのまま人類滅亡だ。こんなところでくたばっている場合じゃない。

 

 

 そうと決まれば即行動だと、身体を動かそうとしてみてもそういえば今は動かなかったなということに気付き思いっきり出鼻をくじかれる結果となった。

 

 

 「やべぇ……何も出来ない……」

 

 

 もうだめだぁ……おしまいだぁ……。

 

 

 ――――手こずっているようだな、手を貸そう。

 

 

 「結構です」

 

 

 ――――まただよ(諦め)

 

 

 なんか流れで断っちゃったけどこの声一体誰だったか……。どこかで聞いたことがある気もするんだよなぁ。

 今の状況は正直そんな事を考えられる余裕はないものの、不思議なくらい自分の中で引っかかっていたので直接聞いてみることにした。

 

 

 「誰だお前」

 

 

 ――――いつぞやの狼戦で力を貸してやっただろう。

 

 

 その言葉で思い起こされる場面はひとつしかない。神機使いになりたての頃、遭遇したマルドゥークに殺されかけたときに力を貸した声……それは……、

 

 

 「あの時の情けない声。多分仁と信慈と共に混ざり合ったアラガミの面か」

 

 

 ――――前に余計なものが付いたけどまぁ、そうだ。私こそお前を生かしてやったアラガミの意思である。

 

 

 「それがあんな情けないことにどうしてなった……」

 

 

 ――――1から10までお前のせいだ!

 

 

 解せぬ。

 でも、今はおいておこう。ここで気になるのはどうして今更になってこいつが出てきたかどうかだ。

 

 

 ――――私が出てくるのは命の危機に瀕しているときだけだが?

 

 

 「ですよねー」

 

 

 知ってたよこんちくしょう!

 

 

 「で、この死にかけに加えて体が動かせないというオプションも付いている状態の俺に何か出来ることはあるんですかね」

 

 

 一応こんな状況でも打開する案があったために俺に話しかけてきたんだと希望に近い予想を立てながら問いかける。俺の言葉を聞いて帰って来たアラガミの回答はしっかりと俺が望んだものだった。 

 

 

 ――――もちろんだ。そうでもなければ諦めてお前と共に死んでた。

 

 

 「そうだろうね。それで、この絶体絶命というか半分死んでいるような状況から抜け出せる方法は?」

 

 

 ――――極東支部に居るもじゃもじゃ眼鏡が言ってただろう。お前のほうがアラガミが多く混ざっている分だけポテンシャルがあると。先程までのお前はそれをかけらも引き出せていなかった。だから負けたのだ。

 

 

 もじゃもじゃ眼鏡って……もしかしなくてもサカキ支部長のことだよな。そういうこと言ってやるなよ。あの人だってきっとアレが気に入っててセットしているんだろうしさ。寝癖の可能性もあるけどな……っと話がそれた。

 

 「アラガミの力を使いこなせてないって……俺の身体能力は神機使いの中でも割と上位だぞ?」

 

 

 ――――そんなものオラクル細胞で出来た手足を使っているから当たり前だ。私が言っているのはあの狼戦で見せた咆哮のようなもののことを言っている。

 

 

 「マルドゥークの動きを止めたアレか」

 

 

 ――――そうだ。あれこそアラガミの力。他にも使い方は色々あるが……今はいいだろう。ここで本題だ。はじめに言った手を貸そうというのはお前にアラガミの力を扱えるようにするためだ。

 

 

 「嘘付け」

 

 

 ――――嘘ではない。本当は前回出てきたときにそれも与えようと思ったのだが、お前が問答無用に力だけ持っていってしまったからこんなことになったんだ。

 

 

 「その前回で言った発言思い出してみろよオラ」

 

 

 俺が身体を乗っ取るつもりだな的なこと言ったとき思いっきり頷いてただろうが。そのことを指摘すると明らかに動揺した声でアラガミが言った。

 

 

 ――――ななななんのここことやrrrrrrr。

 

 

 「もう何言ってるのかわっかんねぇな」

 

 

 ――――うおっほん。……さて、そろそろ時間もなくなってきた。今は私がアレをこうしてチャンチャラほいで形を保っていられるが、そろそろ終末捕食に飲み込まれてしまう。さぁ、手を前に差し出せ。

 

 

 「結局何をやったんだよ……」

 

 

 最後の最後まで締まらないアラガミの声にツッコミを入れつつ、俺は言われた通り手を差し出す。

 その直後、馴染みのある重さが差し出した手から感じた。それは今の今まで自分と共にいた相棒といっても過言ではないもの。神機使いが神機使いたる所以である、神機であった。

 

 

 「何故に神機……」

 

 

 確かに、これを持った瞬間自分の中にある枷のようなものが外れた感覚がした。清々しい気分ではある。しかしどうして今更神機を持ったくらいでこんなに変わるのだろうか。

 

 

 ――――私が認め、神機を持つことこそが重要なのだ。神機とは調整されているとはいえ、アラガミだ。それをお前の中で死に掛けていた私が乗っ取ったから今まで力が抑えられていたのだ。

 

 

 「お前の所為かよ!」

 

 

 今行われてるのはマッチポンプって言うんじゃないの?

 

 

 ――――………外のほうから偏食因子が集まってきている。どうやらお前の仲間が私たちを見つけたらしいな。もう時間だ。武運を祈っているよ。

 

 

 「おい、話逸らすの下手すぎだろ。っていうかちょっとm――――――」

 

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 アラガミの声に対するツッコミを強制キャンセルされ、目を開いた瞬間に視界に写った光景は―――――先程と寸分も変わらず、光の壁だった。

 

 

 

 「ぬぉおおおああああああ」

 

 

 このまま呆けていてはさっきの二の舞だ。一応、不思議空間で元自分の中のアラガミ現神機に言われた通り力は今までとは比較にならないくらい出ている。飲み込まれたはずの偏食因子たちもナナたちが再び集めてくれたのだろう、終末捕食に飲まれる前とまったく同じ状態に戻っていた。チラリと視線を向けてみればこっちを見てやりきった顔をしているブラッドメンバーの姿があるし、さっきまでの話にも出てたし間違いないだろう。

 

 

 「負けるかぁあああああ!!!」

 

 

 ここまでされたからには応えなくてはなるまいよと、自らを振るい立たせもてる全てを出し切る勢いで神機を振るう。

 神機から出た赤い終末捕食は光の壁を食い破っていく―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――ことはなく、俺が喰われないギリギリのところで踏ん張っていた。

 

 

 「なんでさ!」

 

 

 普通こういう展開ではそのまま逆転してハッピーエンドを迎えるんじゃないんですかねぇ!!あの野郎俺にホラ吹きやがったなっ!

 

 

 ――――私は力を引き出せると言っただけだ。確実に勝てるなんて一言も口にしてない。そもそもそんなご都合主義的な展開あるわけないだろう?常識的に考えて。

 

 

 「後で覚えとけよコンチクショウ!」

 

 

 なんかとんでもなく今更なことを言うアラガミに文句をたれつつ、さらに力を入れて神機を下から斜め上、その勢いを殺さずに回転してさらにもう一振りの合計二回振るう。この状況、完全に俺が飲み込まれる前と同じだがかといって他に取るべき手段がない。

 

 

 「このままやられたらさすがに格好つかないぞ……」

 

 

 

 どうするか……。

 いい加減何かしらの対策が思い浮かばないものかと、神機と同じく頭もフル稼働させていると、奇跡的に生き残っていた通信機から声が聞こえた。

 

 

 『……ねぇ、知ってる?』

 

 

 「なに?豆柴?」

 

 

 『違うよ。私だよ私、わかる?』

 

 

 「状況が状況なんで何か知らせることがあるなら速やかにお願いできませんかね?リッカさん」

 

 

 声の主はオペレーターのフランさんではなく、極東のマッド(神機限定)であるリッカさんであった。リンクサポートデバイスの実験体にするなど割と容赦がないことに定評がある」

 

 

 『その評価は不当なものだね。後で話があるから覚悟して置くように』

 

 

 「oh……」

 

 

 また声に出てたか。

 

 

 『それはともかく。なにやらピンチそうだね、仁慈君』

 

 

 「そういう貴方は大分余裕そうです……ねッ!」

 

 

 その余裕は何処から来るのか是非教えて欲しい。こっちは肉体的にも精神的にも今すぐに押しつぶされそうなのに。

 

 

 『ん?あぁ、私は君が何とかしてくれるって思っているからね。特に取り乱すことはないよ』

 

 

 「その信頼が痛い」

 

 

 絶体絶命のピンチに直面している身としてはさらに辛く感じる。

 

 

 『では痛くないようにしてあげよう。……神機って言うのは常にリミッターがかかっているんだよ。これは知ってるかな?』

 

 

 「普通の神機使いじゃ……扱いッ、きれないからッ、ですよね」

 

 

 ブラッドアーツを習得するときそんな事をシックザールさんが言っていたことを思い出す。俺やシックザールさんなんかは普通の神機使いより神機の規制を緩くしても大丈夫らしいけど。

 

 

 『そう。でも、今の君なら君自身の力で神機の限界を取っ払って扱うことが出来ると思うよ。特異点になってるから神機に捕食される心配もないし』

 

 

 「確かにッ、そうッ、ですけどッ!神機の開放なんてやり方知りませんよッ」

 

 

 『仕込みは既にしてあるから大丈夫。後は君が血の力を神機に対して使うだけ』

 

 

 仕込みって……そういうのは本人にしっかりと確認とってからにしてくれませんかねぇ。リッカさんのフリーダムさに思わず溜息をつく。

 

 

 「まぁ、やってみますよ」

 

 

 『うんうん。その意気だよ。それじゃ、さっさと片付けて帰ってきてね。まだまだ君にはやってもらわなくちゃいけない実k―――――実験があるんだからさ』

 

 

 「おい……言い換え、おい」

 

 

 『それじゃ!』

 

 

 ブツリッと音が鳴った直後、無音を突き通す通信機。

 

 

 「………とりあえず、行くぞッ!」

 

 

 色々リッカさんに言いたいことはあるが、その前に目の前の危機を何とかしないといけないわけで……。

 くだらないことで埋まりつつある思考を切り替えて、俺は自分の神機に向かって『喚起』の力を使った。

 

 

 

 

 

 

              ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちが見たのは赤い波動に混ざって現れた金色の光の流動だった。ちょうどブラッドみんなの力を合わせて偏食因子を流し込んだところからそれは浮き出てきた。その勢いは決して終末捕食にも負けていない。しかし、不思議なことにその金色の光と終末捕食である赤い波動はお互いにぶつかるはなかった。むしろ、お互いが絡み合いより強力なものへ変貌しているようにも感じられた。

 

 

 「なんだ……あれは……?」

 

 

 「金色の光……?」

 

 

 ギルとナナも呆然と赤と金の流動を眺めていた。かく言うジュリウス()も彼らと同じような感じとなっていただろう。それほどアレは圧倒的だった。

 誰もが仁慈が起こした変化だと思われる事態に目を奪われている中で、血の力を使って仁慈の様子を見ていたシエルが光の方を見てこう言った。仁慈と。

 彼女の言葉につられて全員が目を凝らして光の発生源を見る。すると確かにシエルが言った通り仁慈が居た。あの金色の光を背中から生やしながら。

 

 

 「なんじゃありゃ!?」

 

 

 「ついに正式に人間辞めましたっ!?」

 

 

 「タシロス!?」

 

 

 「落ち着けお前ら」

 

 

 メンバーの反応の大きさに仁慈の存在の重要さをしみじみと感じつつ混乱の極みに陥ったメンバーを一人一人正気に戻していく。主に首筋に手刀を入れる感じで。

 

 

 そんな事をしている間も状況は二転三転する。今の今まで押されてばかりだった仁慈側の終末捕食がアルマ・マータの作り出した終末捕食を押し返し始め、そのままそれぞれの位置からちょうど中間となる当たりまで進行したのである。

 

 

 だが、それだけで終わりではなかった。拮抗していた二つの終末捕食が突然混ざり合い、上へとその向きを変えていったのである。

 お互いがお互いを喰らい合いながら上へと登っていく様は二つの竜が喰らいあっていくような姿にも見えた。そして、そのぶつかり合いで生じた衝撃波と閃光がある程度離れていた俺たちも飲み込もうとしていた。

 

 

 「やべっ」

 

 

 「これは間に合わないな」

 

 

 「万事休すですね」

 

 

 「これは死んじゃうかもねー」

 

 

 「お前たち……もう少し緊張感を持たないか……」

 

 

仁慈の無事を確認できたからか何時もの調子が出てきた仲間たちとともに仲良く光の中へ飲み込まれる結果となった。

 

 

 

 

              

 

 

 

 

 

 「………ん?」

 

 

 私たちに向かってきた激しい閃光が収まり目を開けると、そこには今では見ることが難しくなった自然の木や花々が咲いている場所に立っていた。雰囲気としてはフライアにあった庭園に近いと思う。でもおかしい。私たちが立っていた場所は確かに他の地域に比べて綺麗な場所、黎明の亡都と呼ばれるところだったけど、ここまで自然豊かな場所ではなかったはず。

 

 

 「なんだ……ここは……」

 

 

 「すっげぇ綺麗なところ……」

 

 

 「どこか庭園に似ている気もしますね」

 

 

 私と同じく光に飲まれたシエルちゃんやギル、ロミオ先輩もこの光景に驚いているようだ。というかそこに居たんだね、みんな。

 

 

 「仁慈!」

 

 

 ジュリウスの叫び声に私を含めた全員が彼の向いている方向に視線を移す。するとそこには暢気にこっちに向かって手を振っている仁慈が居た。それを見た私は思わず彼に向かって走っていき―――――――ドロップキックを繰り出す。

 

 

 「仁慈の馬鹿ぁぁあ!いっぱい心配したんだからーーーっ!!」

 

 

 繰り出したドロップキックは寸分の狂いもなく仁慈がいるところへと向かい、後少しで激突となる瞬間。見えない壁のようなものに遮られた。

 当然、遮られたために仁慈に対してのダメージはなし。逆に私が大ダメージを受けて地面を転げまわる結果になった。うぅ……痛い……。ついでに仁慈から来る何だコイツ的な視線も痛い……。

 

 

 

 「あー……大丈夫か?その、色々」

 

 

 直接言われたっ!しかも、その他もろもろも心配された!

 

 

 「そんな事はいいのっ!それよりこの壁なに?」

 

 

 これ以上醜態をさらしてしまうのも割りとアレなので話題のすり替えを行う。幸い、見えない壁に関しての疑問はみんなが持ち合わせていたので特に手こずることもなくすんなりと話題のすり替えに成功した。

 

 

 「多分終末捕食の外と中を分ける奴じゃないの?俺は特異点で終末捕食を起こしている側だからこっちでナナたちを巻き込まれただけだからそっちってな感じで」

 

 

 「ふーん……それで仁慈。今の状況分かるか?」

 

 

 「質問しておいてこの対応………はぁ、現在はいい感じに二つの終末捕食が拮抗している状態ですね。これなら当初の予定通り終末捕食を無害なものに出来そうです」

 

 

 「ならもうすぐ一件落着か?」

 

 

 「一件落着です」

 

 

 私は仁慈のその言葉に思わず胸をなでおろした。正直私たちはあまり何もしてないかもしれないけど、それでもようやくこの危機が去っていくと考えるとそうならざるを得なかった。私だけじゃない。ジュリウス隊長だって目に見えるくらい安堵している。

 けれど、そんな雰囲気の中仁慈だけは気を緩めずにいつの間にか握っていた神機をもって私たちに背を向けた。

 ……その姿がなぜか無性に私の不安を煽ったため、つい問いかけてしまった。

 

 

 「仁慈、神機なんて持って何処に行くの?」

 

 

 「神機持ってやることは一つしかないでしょ」

 

 

 仁慈がそう口にした瞬間、仁慈が居るほうの空間に黒いアラガミ達が出現した。それも一体や二体ではなく、数十体もの大軍勢。とどめにどれもこれも大型以上のアラガミばかりだった。

 

 

 

 「仁慈!」

 

 

 ロミオ先輩が叫ぶ。さすがにこの状況はまずいと思っているのだろう。必死にこちらに来るように声を上げていた。しかし、仁慈は彼の言葉に反応を返すことなく淡々と歩みを進めていく。

 ギルがそれを止めようと向こう側に行こうと試みるけど、見えない壁はびくともせず、ただ小さな波紋を作り出すだけだった。

 

 

 「一件落着じゃなかったんですか!?どう考えてもそうは思えませんけど!?」

 

 

 「これから一件落着にしに行くんだよ、シエル。だからみんなは先に極東支部に帰っといて」

 

 

 「今すぐじゃないとダメなのか!?」

 

 

 「特異点になって終末捕食を起こしてますからね。勝手に出て行くと多分暴走しますよコレ」

 

 

 信じたくなかった。特異点である仁慈が消えると終末捕食が暴走を起こす。それが意味することは仁慈が一生ここで終末捕食の制御を行わなければならないということ。つまり、仁慈は帰れない。

 その結論にたどり着いたとき体の力が一気に抜けてその場に座り込んでしまう。嫌だ、仁慈が居なくなるのは嫌だ。

 

 

 「それは一件落着って言わないだろ……」

 

 

 「終末捕食が無力化できるんですから一件落着でしょう。それに俺は先に帰っておいてくださいと言っているんです。だからまるで今世の別れみたいな雰囲気だすのやめてくれません?」

 

 

 それは嘘だ。だってあの顔は、過去にお母さんを助けに来てくれた神機使いたちが見せた表情と同じだったから。自分の命に代えても何かを守る、何かを成し遂げる……そんな意思が乗った目をしてるから。

 だから行かないでと、必死に声を上げる。もう、仁慈が終末捕食に飲み込まれたときのような気持ちにさせないでと。

 

 

 仁慈は体を反転させて見えない壁のギリギリまで来ると、その場にしゃがみこんで私にすごく優しい声で語りかけた。

 

 

 「あのな。コレは必要なことなんだよ。それに、さっきから言っている通り俺はなにも死にに行くわけじゃないんだぜ?」

 

 

 「嘘だ!仁慈、今にも死にそうな顔してるよ!」

 

 

 「ちょっとそれは失礼すぎやしませんかね……まぁ、今はいいや。なぁ……そんなに俺が信じられないか?」

 

 

 「…………一回、終末捕食に飲み込まれたくせに」

 

 

 「やだ……心にすっごく突き刺さる……っ」

 

 

 あれは仕方がないし、私たちのせいでもあると自覚しているけど思わずそのことをくちにしてしまう。すると仁慈は地面に手を着いてうなだれていた。しかし、すぐさま立ち上がり私の目をしっかりと見て、宣言する。

 

 

 「確かに一回無様をさらしたけど、今度は大丈夫だから。もう一度、俺のことを信じてくれないか」

 

 

 「…………」

 

 

 分かってる。私が言っていることが唯の我がままで、仁慈の言葉が正しいのは。とても面倒くさいことを言って仁慈を困らせていることなんてとっくに分かりきってる。私だってそこまで子どもじゃない。けれど、万が一を考えると怖い。心臓が凍りつくような寒さを感じるのだ。

 

 

 「………」

 

 

 「………」

 

 

 「……………わかった、待ってる。ずっと」

 

 

 「……ん、ありがと」

 

 

 にこっと微笑んで彼は立ち上がる。

 あんな目で見られたら、断れるわけがなかった。私が何を言っても止まらない、そんな意思を宿していたから。

 

 

 「それじゃ」

 

 

 短く言い残して今度こそ仁慈は神機を振りかぶりながら、人外的な速度でアラガミに突撃していく。

 大型のアラガミを次々紙屑のように蹴散らす仁慈の姿を最後に私の意識は途切れていった。

 

 

 

 

 

 

 

               ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 あの後、目を覚ました私たちは光に飲み込まれる前にいた場所に立っていた。仁慈の言葉を信じ、ジュリウス隊長が通信機で帰りのヘリで無事に極東支部へと帰って来た。サカキ支部長から、終末捕食はお互いに喰らいあった結果ひとつの大木のようになったという旨を聞いた。

 

 

 今でも出来た白い大木の中で終末捕食がお互いに喰らいあっているらしい。偏食場はどちらも均衡していて現状は問題がないらしい。

 

 

 「君達には本当に感謝している。よくやってくれた、今日はゆっくりと休むといい」

 

 

 そう言われたけど、そんな事はどうでも良かった。サカキ支部長から労いの言葉をもらい自室へと向かう途中で聞いてしまったのだ。仁慈のバイタル反応が完全に消失したと。

 

 

 そこから先は良く覚えていない。

 きっと、自分の部屋で泣き叫びそのまま疲れて眠ってしまったのだろう。目が覚めたら私はベットの上で寝ていた。

 

 

 とにかく今日は起きる気にならない。仁慈が死んだという事実が重く心にのしかかっていた。

 

 

 「うそつき……」

 

 

 いっそ、夢の中にでも逃げてしまおうかと布団を被り直したところで外がとても騒がしいことに気付いた。

 少しくらいなら気にしないで寝れたけど、1人2人が騒いでいるわけではなく数十人単位で移動しているような騒がしさだった。さすがに気になり、碌に着替えもせずに部屋の外に出る。どうやらみんなエントランスに向かっているようだった。ふらふらと力のない足取りで私もエントランスに向かう。

 

 

 

 

 

 ――――そして、エントランスに入り人が集まっている原因を視界に納めた瞬間、出来ている人だかりを一気に飛び越えてその原因に思いっきり抱きついた。

 

 

 「うぉあ!?何だ、新手の奇襲か!?」

 

 

 驚いてこっちを見る人だかりの原因に色々言いたいことはあるけれど、所々ボロボロになってバイタル反応が消失したにもかかわらずしっかりと帰ってきてくれた彼にはまずこの言葉をかけよう。文句なら後でも言えるから。

 

 

 さっきまでこの世の終わりと言わんばかりに暗かったのにと自分でも調子がいいと思いつつ私は満面の笑みで彼にこう言った。

 

 

 「―――――おかえり、仁慈」

 

 

 「………ん、ただいま」

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 




急にヒロインしだしたナナさん。
一体どうしてこうなったんだ……。


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最終話

今回にてこの「神様死すべし慈悲はない」は完結となります。
皆様最後まで読んでいただき本当に感謝いたします。皆様の感想が励みとなり、無事完結させることが出来ました。
また、番外編や別の二次創作を書くかも知れません。そのときはまたよろしくお願いします。

最後に、本当にありがとうございました。

追伸

活動報告にて、次の作品や番外編についてアンケートを行っております。
気が向いたらでもいいので、覗いていってくれれば幸いです。


 

 

 

 

 

色々面倒だった終末捕食問題を何とか解決して極東に戻ってきた俺を迎えてくれたのは、ナナが満面の笑みで放ったお帰りという言葉と、それ以外のブラッドメンバーからのキックとパンチと竜巻アタックだった。解せぬ。一体俺が何をしたというのだろうか……。

 

 

 「うるせぇ、何食わぬ顔で帰ってきやがって……少しは心配したこっちの身にもなってみろ」

 

 

 「そうだそうだ!日ごろの恨みッ」

 

 

 「心配したんですからこのくらい許してください」

 

 

 「俺の目の前であんなに楽しそうな戦いを繰り広げるなんて喧嘩売っているとしか思えんな」

 

 

 「一斉にしゃべるな」

 

 

 聞き取りづらいんだよ。後、ジュリウス隊長とロミオ先輩は後で一緒に任務に行こうぜ。普通の任務では味わえないスリルをくれてやる。主にフレンドリーファイアでな。

 今もなお殴ろうとしてくる奴らを適当に裁いて地面に転がしつつ、俺は文句を垂れる。

 

 

 「せっかく帰って来たのにお帰りよりも先に手が出るなんてひどい人たちだなー」

 

 

 「俺を地面に転がすだけじゃなく踏みつけている奴が言える台詞かっ!?」

 

 

 先に仕掛けてきたのはそっちじゃナイデスカー。

 そもそも、心配したから殴ってくるとか意味不明ですしおすし。どうしてナナのようにお帰りの一言もくれなかったのか……。

 

 

 「肉体言語だ」

 

 

 「本当にぶっ飛ばしますよ?」

 

 

 反省どころか思いっきり開き直ったジュリウス隊長に「それは言葉ではない」とだけ言って腹パンを決めてロミオ先輩の隣に沈める。その流れを見たギルさんとシエル、ナナは戦慄したような表情で俺を見つめてきた。

 

 

 「だが、本当にどうやって帰って来たんだ?終末捕食は特異点がいないと暴走するんじゃなかったのか?」

 

 

 「それに昨日、仁慈のバイタル反応が消失したって聞いたんだけど……その辺も含めてしっかりと説明してくれるよね?」

 

 

 と仰ってるのは未だに抱きついて離れないナナ。状況だけ見れば恋人同士にも見えるかもしれないが、悲しいかなギチギチと首を澄めていることや目のハイライトがないことからどう考えても殺人を犯そうという人とその被害者にしか見えないと思う。しかし、そんな事を気にするような奴はこの場に居らずむしろナナの言ったバイタル反応消失の方が気になるようでそろいもそろって俺との距離をさらに縮めた。

 

 

 「みんな近い近い。ちゃんと話すからいったん離れて」

 

 

 「バイタル反応消失と聞いて落ち着けるわけないでしょ」

 

 

 「あ、エリナ居たんだ」

 

 

 「ちっちゃくないわよっ!」

 

 

 「何も言ってないでしょ……」

 

 

 「我が友よ!何があったのか一字一句洩らすことなく聞かせt「カット」」

 

 

 今から話そうとしているのに再び騒ぎ出す周囲を何とか収めてとりあえずラウンジへ向かう。話すにしても、出撃ゲートのまん前はさすがにアレだろう。

 ムツミちゃんに泣かれて俺の良心に多大なダメージを負いつつみんなが近くに座ったことを確認して、俺は何が起きたのか話し始めた。

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――― 

 

 

 

 

 

 ブラッドメンバーを終末捕食の中からはじき出した後、俺は当初の予定通りアラガミの群れに突撃をかます。カラーリングは黒一色だが、別に量産型というわけでもないらしく一体一体が普段任務で出てくる普通のアラガミ同じくらいの力量を持っていた。ここは終末捕食の中であいつらはおそらくアルマ・マータが終末捕食内から作り出したアラガミだろう。意識のある特異点ならばある程度の操作は可能だ。だからこそこのような滅茶苦茶なことが出来るのである。しかし、特異点であるのは何もアルマ・マータだけではない。もちろんのこと俺も特異点である。つまりここは相手のホームグラウンドでもあるが俺のホームグラウンドでもある。まぁ、何が言いたいのかというと……俺もこの場においては俺も普段の俺じゃないと言うことだ。

 

 

 「うぉぉおおおおりゃぁあああ!!」

 

 

 気合を入れて神機を一振りするだけで周囲のアラガミたちは根こそぎ空中へフライアウェイした。ここでは俺たち特異点が唯一にして絶対のルール、つまりここで意識することは常に最強の自分を思い描いていることである。

 

 

 振り切った勢いを一切殺さず、腕を、腰を、全体を使って次の攻撃への予備動作としきりつける。遠くから見たらさながら台風のような感じになっていたのではなかろうか。攻撃をいったん中断すれば、アラガミで出来た壁は食い破られ、俺が通ってきた場所が道のようになっていた。

 

 

 これはすごいと自画自賛しながら、それでも無数に沸いて出てくる黒いアラガミたちに対して溜息をついた。用があるのはこいつらではないというのに……。今度は連携を交えつつ遅い来るアラガミを片っ端から塵に変えつつ俺はもうひとつの特異点であるアルマ・マータの元へと向かう。それは何故か?当然この終末捕食の制御押し付けて俺が自由になるためである。

 

 

 現在の状況は二つの終末捕食が喰らいあっている状態であるものの根元の部分では融合が進んでで居るという摩訶不思議な状況になってしまっている。一体何がどうしてそうなってしまったのかは専門外だから分からないが、それにより特異点がひとつあれば二つの終末捕食を保つことが出来るという俺にとって都合が良すぎる状態なのだ。なので、俺はもうひとつの特異点であるアルマ・マータを探しているのである。

 

 

 宛てはないが、アラガミの出現率が高くなっていることからこの方向だろうと辺りをつけてこちらに襲い掛かってくるアラガミを全て通りすがりざまに草を刈り取るようにサクサク切裂いていく。攻撃を掻い潜ってカウンター気味に頭蓋に踵落しを喰らわせたり、倒したアラガミを踏み台にして別のアラガミを越えて振り向きざまに真っ二つにしながら。

 黒いアラガミたちを捌きつつ、十分ほど走るとようやくお目当てのものを見つけた。木の幹らしきものと融合しているアルマ・マータである。いや、今の奴はヴィーナスの人間部分にラケル博士を突っ込んだみたいになっているからアルマ・マータとはいえないかもしれない。

 

 

 『……ふふふ、何しに来たのかしら?退屈で私とお話でもしたいの?』

 

 

 「寝言は寝ていってくれませんかねえ……。お前と話するくらいなら1人で〇×ゲームやったほうがはるかにマシだ」

 

 

 アルマ・マータとして覚醒したばかりのように余裕を持ってこちらに話しかけてくる姿は暴走した後の姿も知っているこちらとしては必死に取り繕っているようでとても滑稽だった。あらあら残念と余裕をかましているアルマ・マータに気付かれないように俺の後ろに神機を作る。これは、アルマ・マータが終末捕食から黒いアラガミを作り出したことと同じ要領である。あれ?さっきから俺紅茶みたいな行動取りすぎじゃね?英霊にでもなるのかな?と思いつつも神機を作り続ける。そこは突っ込んではいけないところなのだ。

 

 

 『じゃあ一体何しにここに来たのかしら?』

 

 

 「お前に終末捕食の管理を押し付けに来た。お前は終末捕食を起こせて、俺はここから出れる。winwinじゃないか」

 

 

 『冗談。今の終末捕食は私が狙った効果を出さないわ。世界を飲み込む前に目の前の脅威を排除しようとしているもの。ここで言う目の前の脅威とはお互いにもうひとつの終末捕食……二つの力が均衡している中でこの状態では地球の生態系のリセットなんて無理だもの』

 

 

 じゃあなんでアラガミを俺に差し向けたんですかね……。そう考えるも向こうは応えず、やってくれたなといわんばかりの視線を向ける。まぁ、そんな事は関係ない。やってくれないのであれば力ずくと相場が決まっている。なので俺は今まで作っていた神機をアルマ・マータに向けて全て投げた。咄嗟のことだったからか全ては防ぐことは出来ず、何本か擬似神機がアルマ・マータの体を貫く。

 

 

 『ぐっ……な、なにを……』

 

 

 「いや、やってくれないっていうから無理矢理やってもらおうかと……」

 

 

 『そ、それが神機使いのやることなのっ!?』

 

 

 「何言ってんだ。何をしてもアラガミをぶっ殺すのが神機使いだろ」

 

 

 コイツおかしいんじゃねーの?という視線を向けてみればそこには信じられないものを見たという感じで驚くアルマ・マータの姿が。どうしてそんな事を思ったんだか。今時正々堂々なんてことを口にする奴は物語の主人公にも居ないぜ。

 とりあえず、自分から動き出さないように再び擬似神機を練成して動けないように刺しておく。ついでに俺の中にある偏食因子も流しておいたからこいつが特異点として君臨しつつ、アルマ・マータがもう終末捕食内で好き勝手できないようにする。要領としては上書き。アルマ・マータが終末捕食に働きかけようとしても磔にしている擬似特異点がそれをかき消す仕組みだ。

 

 

 「それじゃ」

 

 

 『えっ、ちょっ……えぇっ!?』

 

 

 混乱しているアルマ・マータを完全に無視して、俺はそこらの壁に穴を開けて脱出した。

 

 

 

 

            ――――――――――――――――

 

 

          

 

 

 

 「こんなもん」

 

 

 『…………』

 

 

 何この無言。俺何かした?

 まったくもって心当たりのない俺は首を傾げるしかなかったのだが、そんな俺を見かねたのかロミオ先輩が首を横に振った後に口を開く。

 

 

 「いや、ただ仁慈は仁慈なんだなぁ……ってことだよ」

 

 

 「???」

 

 

 まぁ、分からないなら分からないでいいだろう。無理に考える必要もないだろうし。

 

 

 「なら、バイタル反応が消失した件は一体どういったことですか?私とヒバリさん、それでかなり慌ててしまったのですが」

 

 

 「ん?簡単な話ですよフランさん。俺の右腕見てください」

 

 

 フランさんの疑問に答えるため、俺は右腕を見やすいように少し持ち上げる。すると全員気がついたのか、支部長室で話を聞いていない人たちは信じられないような目を向けてきた。

 

 

 「腕輪が……ない……?」

 

 

 「はい。事情があって、腕輪なくても神機使えるんですよ」

 

 

 驚くのも無理はない。普通だったらとっくにアラガミ化してその辺を喰い散らかしていることだろう。素で偏食因子に適応しあまつさえ利用している俺がとんでもないレアケースなんだ。このことが他のところにばれたら実験動物まったなしである。

 

 

 「なんで?」

 

 

 「詳しいことはラケル博士に聞いて。あの人が元凶だから」

 

 

 「ちょっ」

 

 

 戦っていた疲れもあってエリナの疑問に答えことも面倒だった俺は説明をジュースを飲んでいたラケル博士に投げた。すると、疑問に思った人がラケル博士の元に殺到していた。なにやら助けを求める声が聞こえた気もするがそこはスルーして俺は自室へと帰ろうとした。が、何故かブラッドメンバーが立ちはだかった。なんでさ。

 

 

 「すいません。もう寝たいんですけど……」

 

 

 「大丈夫だ、すぐ済む」

 

 

 ジュリウス隊長の言葉に首を傾げる。そんな俺を他所に、ブラッドメンバーはみんなで顔を合わせて笑みを作った。そして声をそろえて、

 

 

 『帰って来てくれてありがとう。これからもよろしく!』

 

 

 ……どうして、その言葉を俺を殴る前に言ってくれなかったのかとか何故このタイミングなのかというもろもろのツッコミは置いておこう。今俺がすべきことは、

 

 

 「こちらこそ、これからもよろしく」

 

 

 彼らの言葉にしっかりと答えることだと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――後日談。

 

 

 

 

 ジュリウス・ヴィスコンティ

 

 

 フェンリル所属極地化技術開発局所属ブラッドの元隊長。ブラッドが何故か正式に極東支部に配属することになったため極東の神機使いの一員として日々アラガミを刈り倒している。現在では隊長を仁慈に譲り、唯の一隊員として新隊長の仁慈の胃にダイレクトアタックをかましている。最近のマイブームは終末捕食で出来た大木近くに出現するようになった新種のアラガミを片っ端から刈り倒すこと。

 

 

 

 ロミオ・レオーニ

 

 

 自身に壮絶な死亡フラグが立っているという電波を受け、仁慈に血の力の覚醒を手伝ってもらい見事その死亡フラグをへし折って生き残り、最後まで戦うことが出来た。目覚めた血の力から大いに重宝されるが本人は納得いっていない模様。しかし、彼の能力は非常に便利で主に新人神機使いの付き添いとしての活動が続いている。最近、終末捕食で出来た大木を調べるために派遣されてきたヴァリアントサイズを使う神機使いリヴィと一緒に居ることが多く目撃されている。

 

 

 シエル・アランソン

 

 

 軍人として育てられてきたため初めは機械のような人間であったが、ある事件を通して人間味溢れる性格に変わる。たまたま開発した進化する銃弾であるブラッドバレッドの研究に日夜力を注いでいて、最近試し撃ちには仁慈のほかにジーナも呼んでいるらしい。二人してアラガミを一方的に狙撃していく姿を見て仁慈は「もう俺要らないんじゃないかな」とげっそりとした顔で言ったという。極東で飼っているカピバラがなかなかなついてくれないのが悩みの種らしい。

 

 

 ギルバート・マクレイン

 

 

 不幸な出来事によりフラッキング・ギルと呼ばれ、ブラッドに居た頃は大層荒れていた。本人にとってあの時の自分は黒歴史らしい。ハルオミと共に敵であるルフス・カリギュラを討伐した後は何をどう間違ったのかスピードキチとして目覚め、ひたすら速さを探求し続けている。最近、日常生活のほうでは落ち着いてきたため、極東でもいい兄貴分として慕われている。しかし、ひとたび任務になると暴走を始め、よく新人神機使いたちを肉体的にも精神的にも置いてけぼりにするらしい。終末捕食によって出来た大木を調査しに極東に訪れたフェルドマン局長とハルオミを交えて飲んでいる姿が近頃発見されている。

 

 

 香月ナナ

 

 

 ハンマーを好んで使い、見た目からは考えられない力任せな攻撃を得意とする。生まれたときから偏食因子をもっているゴッドイーターチルドレンというもので、血の力の制御に苦労した。しっかりと制御が出来た後は、様々なことに活用し、最終決戦では決して欠かすことの出来ない重要な役目を見事に完遂した。持ち前の明るさと接しやすさその他もろもろの所為で極東の男性陣をことごとくと勘違いに巻き込んだ。本人に自覚はなくそれで多くの男子が涙で枕を濡らしたらしい。最近では何の変化かよく仁慈の部屋に遊びに行ったり、劇薬を作成したり、任務に出たりしているらしい。はたから見ればどう考えても男女の関係であるが本人達に自覚はない。ただ、ナナはまんざらでもない様子。

 

 

 

 ラケル・クラウディウス

 

 

 全ての元凶。大体コイツのせい。ゲスイまど〇。シプレの中の人。様々な呼び名がある。元々終末捕食を行うために行動を開始していたが、仁慈があまりにも規格外というかキチガイ的な行動を取るため中にいる荒ぶる神々の意思がボイコットを起こし何もすることがなくなった。初めは情緒不安定気味だったが、極東のアニメ文化に触れ、ロボットに目覚める。サカキと組んで持ち前の優れた頭脳をくだらないことに活用しようとしては姉に全力で止められている。最近ではシプレの新曲を出そうと画策している。

 

 

 

 レア・クラウディウス

 

 

 ラケルに思いっきり利用されるかわいそうな人。ブラッドが極東に行ってからまったく出番がなかったが、ラケルも一緒に極東に行っていたため本編より気苦労はなかったらしい。終末捕食が零號神機兵の暴走が原因ということになったので、神機兵を作れなくなってしまい途方にくれていたところ、サカキに声をかけられ極東の技術者となる。ラケルの中の意思が消えたことにより不必要に怯えなくはなったものの、別の暴走癖がついたラケル相手に苦労している。しかし、本人は姉妹のコミュニケーションが取れて割りと嬉しそうである。時々、疲労がピークに達していると姉妹で暴走する。

 

 

 

 

 フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュ

 

 

 元フライアのオペレーター。若いながらも冷静なオペレートは神機使いを大いに安心させ任務成功に一役買っている。フライアに居た頃はグレム局長の態度といやらしい視線にイライラしていたようだが、極東に来てからそれは解消されているらしい。近頃は後輩が二入ほど出来たので極東のベテランオペレーターのヒバリと共にオペレーターのイロハを叩き込んでいる。最近ではハルオミがやたらと絡んできて査問会に突き出そうか真剣に悩んでいるらしい。

 

 

 

 

 樫原仁慈

 

 

 二つの人格とアラガミの意思が混ざり合ったことによってたまたま出来た人格。記憶としては主に樫原信慈がベースとなっているが肉体は仁と呼ばれる子のものであるため戦闘にも早くから適応した。持ち前のセンスと、人外スペックの肉体を使って迫り来るアラガミをことごとく刈り倒した。終末捕食から帰って来た彼の体は半分が人間で半分がアラガミというわけわかめな状態だったがまったく問題がなかったので今では放置している。その後、ブラッドの隊長としてさらに難しい任務を任されるがどれも息一つ乱さないで帰ってくるため最近では血の怪物ではなく理不尽の権化と呼ばれている。今では極東にこの人在りと言われた伝説的神機使いの元第一部隊隊長と同じくらいの知名度を誇っており、どちらが強いかよく議論されているらしい。仁慈本人は会ったことがあるらしく「あの人、人間じゃなくてアラガミだろ」という言葉を残し、お前が言うなとそうツッコミされたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これが今回の目標?」

 

 

 『そうです。このアラガミは独自の進化を遂げているらしく、もう既に三つの部隊を壊滅に追いやっています』

 

 

 場所は中心に大きな竜巻が発生している嘆きの平原。そこに、大きな刃を携えた鎌を刀身としている神機を担いだ男が1人立って通信越しに聞こえる女性の声に問いかけていた。そんな彼の目の前に居るのは背中にブースターのような翼を生やし、斧のごとき刃を両腕に携えた竜帝カリギュラ。それもカラーは黒である。色違いということも相俟って絶大な存在感を放つカリギュラは普通の神機使いはもちろんのこと大抵のアラガミでも振るえ、狩られる獲物にしかなりえない。そんな強者特有のプレッシャーを放っていた。

 

 

 「……ねぇ、そんな強い奴の相手を普通1人にさせる?」

 

 

 『問題ありません。切り札には切り札を、イレギュラーにはイレギュラーを、化け物の中の化け物には同じ位の化け物をぶつけるのが定石です』

 

 

 しかし、そんなカリギュラを前に男は普通だった。むしろ余裕さえ感じるたたずまいで通信越しの女性と会話している。そんな男にカリギュラは激怒し、その強靭な声帯から発生する咆哮を男に向けた。

 

 

 「おぉ……耳がぁ……」

 

 

 『お怒りのようですが、何かしました?』

 

 

 「帝の名に恥じず、傲慢なんだろう。俺が無視してるから怒りやがった……」

 

 

 『まぁ、頑張ってください』

 

 

 「適当だなぁ」

 

 

 咆哮を向けられた男はそれで通信を切ると、軽い掛け声を上げて自分が立っていた高台から飛び降り、黒いカリギュラの前に静かに着地した。

 黒いカリギュラは自らを無視する不届きな輩を排除しようと男が地面に着地した瞬間に自分の右腕を横薙ぎに振り切った。そこらに乱立したビルすらをも両断するその腕は男に吸い込まれるように近付いていき、

 

 

 ズガン!

 

 

 止まる。

 黒いカリギュラは一体何が起きたのか理解できなかった。いや、理解したくなかった。自分が腕を振り切った先を見てみれば、そこには片手に持っている神機で自身の腕を防いでいる男の姿があった。

 

 

 ありえない

 

 

 そう考えるも、目の前の光景がその考えを完全に否定する。

 混乱を極める黒いカリギュラ。しかし、目の前の男はそんな事関係なかった。彼の仕事はいつも一つ、人類に仇名す神々を、一切の慈悲もなく殺すこと。

 

 

 

 決着は一瞬だった。混乱した黒いカリギュラには何がなんだか分からなかったが、自身が最後に見た光景は首から先がなくなっている自分の体であった。

 

 

 

 黒いカリギュラを沈めた後、男は再び通信機に手を当てて、帰りのヘリを要求した。

 

 

 

 「フラン、帰りのヘリちょうだい」

 

 

 『……相変らず意味不明の早さですね。驚きを越えて気持ち悪いです』

 

 

 「仕事をしっかりと完遂したのにこの罵倒である」

 

 

 グズグズ崩れている黒カリギュラの肢体を捕食しながら男はがっくりと肩を落とす。

 

 

 『……仁慈さんたった今追加で任務が入りました。貴方が帰り用として呼んだヘリでそこに急行してください』

 

 

 「……はぁ、またか。分かりました、ブラッド隊隊長樫原仁慈、只今現場に急行させていただきますよ」

 

 

 

 ――――樫原仁慈、神機使いになってから早三年。今日も元気にアラガミを喰らっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




黒カリギュラ「グォオオオオオオ!!!(俺を無視するんじゃねぇええ!!)」

仁慈「あ゛?」

黒カリギュラ「(´;ω;`)」


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番外編
ついに出会う2人


本編完結した次の日に番外編をあげるという暴挙。


 終末捕食をなんだかんだで無力化してから一年程が経過した。

 未だにアラガミ達がその辺にはびこって好き勝手やって居るものの、終末捕食を作り出す期間と後日判明した黒蛛病および赤い雨はその役目を終え、綺麗さっぱりなくなるなどということもあったりした。他にも零號神機兵が終末捕食の原因となったために、神機兵開発を禁止されて行き場がなくなっていたレア博士が極東支部に配属されることになったりもした。

 そんな激動の一年を過ごしきり、ようやく落ち着き始めたかと思われた矢先、新たな問題が極東支部へと舞い込んできた。

 

 

 

 

 

 「ふぃーっ……本日のお仕事終了ー」

 

 

 何時もの如く、目標となるアラガミをコロコロした俺は神機をリッカさんの元に預けそのままエントランスをスルーしてラウンジに向かう。目的はもちろんムツミちゃんの料理である。ムツミちゃんの料理は心も体も満たしてくれるから本当にすばらしい。思わず心がぴょんぴょんするレベル。

 

 

 ウィーンと開く自動ドアを潜り抜けてラウンジに入ってみれば、ビリヤード台の近くに大きな人だかりが出来上がっている光景が俺の目に飛び込んできた。一体何事よ。

 入ってきたときには既にそうなっていたため、まったく状況がつかめない俺は、何時もの位置に居るけれどちょくちょく人だかりのほうをチラ見しているムツミちゃんに話しかけた。

 

 

 「ねぇ、ムツミちゃん。あの人だかりは一体何なの?」

 

 

 「わっ!?びっくりした……お帰りなさい、仁慈さん!気付かなくてごめんなさい」

 

 

 やだ、すっごくいい子……。天使や。

 

 

 「いや、別にいいよ。あと、ただいま」

 

 

 「はい!それで、あの人だかりですよね?実は極東支部で最も強いとされている、元第一部隊の隊長さんが帰って来たんです!」

 

 

 あぁ、噂に名高い元第一部隊の隊長さんか。確か、さまざまなキチガイ的な行動で周囲の人の胃(主にコウタさん)にダイレクトアタックをかますことに定評があるらしい。よくよく見てみれば人だかりの中心にいる元第一部隊隊長と思わしき人と話しているアリサさんやソーマさんの姿も確認できた。現状報告でもしているのだろう。

 

 

 「ムツミちゃん、悪いんだけどオムライスもらえる?」

 

 

 「はーい。本当にオムライス好きですねー」

 

 

 「おいしいからね」

 

 

 ムツミちゃんにオムライスを頼んだあと、空のコップに飲み物を入れて一気に半分ほど飲み干す。正直、元第一部隊隊長と言っても関わりないしあんな風にわざわざ近付いていかなくてもいいだろう。挨拶なら別のときにすればいいし、任務帰りであの人だかりに突撃していく気分にはなれない。

 この状況で俺と同じくここに座るのは一体誰なんだろうかと、ちょっとだけ隣に視線を向ける。するとそこには先程まで人だかりを作っていた張本人。元第一部隊隊長その人がニコニコと笑顔を振りまきながらこちらを眺めてきていた。髪の色は金に近い茶髪で瞳の色は綺麗な蒼色をしており、銀髪赤眼の自分とは対照的だなとふと思った。

 

 

 「…………あの、何か?」

 

 

 とりあえず、話しかけてみる。

 どうしてわざわざ俺の隣に座り、こちらをニコニコと眺めてくるのか分からない。何かやらかしてしまったのだろうか?あれか、新人なら挨拶しに来いやゴラァってことだろうか。

 

 

 「君が最近噂の神機使い?」

 

 

 「……どんな噂かにもよりますね」

 

 

 「どんな任務でも息一つ乱さずに完遂するとか、彼が通った後にはアラガミ一匹残らないとか、アラガミ絶対殺すマンとか、理不尽の権化とか」

 

 

 「…………」

 

 

 それ俺ですわ。

 

 

 いや、待ってくれ。何も俺は狙ってやったわけではないし、間違ってもかっこいいとか思っていない。コレは俺が任務を受けていると勝手に周りが言い出したんだ。俺は悪くねぇ。確かに、最近は慣れてきたのか大型アラガミボスラッシュ程度では動じなくなったし、向かってくる奴は片っ端から片付けたりしたけど……ねぇ?

 

 

 「あっはっは。その反応、どうやら君が噂の神機使いのようだね。分かるよ、俺も覚えがある。普通に仕事してるだけなのに、勝手に二つ名が増えていくのは極東支部では良くあることさ」

 

 

 「どいつもこいつも拗らせ過ぎじゃありませんかね……」

 

 

 アッハッハと笑っている元第一部隊隊長さんの横で俺は溜息を吐く。これが慣れの差なのかね……。

 

 

 「そういえば、自己紹介がまだだったね。極東支部元第一部隊隊長、現フェンリル極東支部独立支援部隊クレイドルの神薙ユウだ。よろしく」

 

 

 「ここ最近極東支部に正式に所属することに成りました。ブラッド隊隊長、樫原仁慈です」

 

 

 「君もこれから色々言われるだろうし、面倒な仕事を押し付けられることもあると思う。俺もそうだった。だから、困ったときは頼ってくれ。こっちの事情でクレイドルはしばらく極東支部に滞在するからね」

 

 

 そう言って手を差し出す元第一部隊隊長改めユウさん。このとき俺は感動していた。俺と同じことに悩み、そして乗り越えてきた人が助けてくれる。コレはとてもすばらしいことだと知っているからである。

 俺は差し出された手を両手で掴み、

 

 

 「ぜひともお願いします!」

 

 

 と言ったのであった。

 

 

 

 

 

 ――――――このとき、ユウに集まってきていた極東の人たちは思った。あぁ、コレは絶対何か起こるなと。2人の化け物が手を組んでアラガミを抹消しに行くんだろうなぁと誰しもが思った。そして、予定調和の如くその予想は当たることとなる。

 

 

 

 

 

 彼らが出会ってから二日後。

 極東支部の半径50キロ圏内に一週間ほどアラガミが湧かなくなったという出来事が起きた。

 ちょうどその現象が起きる前にユウと仁慈がいい笑顔で極東支部に帰って来た光景が目撃されていた。

 

 

 

 

 

 この2人を知る、極東支部第一部隊隊長の藤木コウタは思った。

 

 

 お前らが、変な二つ名を付けられるのは当然だと。

 

 

 今日も彼は部屋に常備している胃薬を飲んで職場へと向かっていった。

 

 

 

 



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ナナの奮闘記

本日二度目の投稿。
どうして完結した後のほうが投稿はやいんですかねぇ(困惑)。

今回はナナのことについて書いてみました。
恋愛擬きがないように含まれますがツッコミ所満載だと思います。
しかし、恋愛経験のない作者が書いたものなのでこの程度かということで見逃してください(土下座)



 

 

 

 

 

 

 はっきりと彼のことが好きになったのはいつだろうか。正直、色々ありすぎて今ではまったくわからない。もしかしたらフライアで初めて会ったときかもしれないし、初の実地訓練で庇ってくれたときかもしれない。血の力がうまく使えなかったときに元気付けてくれたときかもしれない。実はそんな出来事が原因じゃなくて、普段一緒に過ごしているときに自然とそう思ったのかもしれない。

 

 

 結局、いつ好きになったかは分からないけれど、それを自覚したのは仁慈が終末捕食に飲み込まれたり、その中に残って一日帰ってこなかったときだと思う。彼が居なくなると分かった瞬間に心に穴が開いたような感じがした。もう何もしたくない。何もやる気が起きない。生きる意味を見失ったかのような感覚だった。

 

 

 このことが分かったとき、シエルちゃんに相談してみた。すると、まずはそれが家族に対するものか異性に対するものかを確かめようという意見をもらった。

 

 

 盲点だった。

 どうやら仁慈が男ということを意識しすぎていたらしい。よくよく考えてみるとジュリウス隊長やロミオ先輩、ギルももちろんシエルちゃんも好きだということに気付いた。けれど、すぐにこれは異性に対するものだということが分かった。

 だって、話しているとどきどきするのも、一挙一動が気になり注意深く見てしまうのも仁慈だけだった。

 そのことを自覚したらもう居ても立っても居られなかった。なるべく長く仁慈と一緒に過ごしたいと思った。だから、出来るだけ任務に付いて行ったし、新しい回復錠の開発とか道具の開発といって2人きりで素材集めにも行った。

 でも、仁慈はまったく意識してくれない。

 

 

 「どうしてなんでしょう?ラケル先生?」

 

 

 「どうしてそのことを私に聞くのかしら……」

 

 

 

 場所はラケル先生に与えられた研究室。昔サカキ支部長の友人が使っていたという部屋を丸々貸し与えられたらしい。

 そこで、またろくでもないものを作っているラケル先生に私はどうやったら仁慈との中が進展するか相談に来ていた。

 一方相談を受けたほうのラケル先生は眉間にしわを寄せてついでに指で押さえていた。

 

 

 「えーっとそれは……年の功?」

 

 

 「ちょっと表に出なさい」

 

 

 ぱっと思いついたことを言ったら大変なことになった。ラケル先生の顔が放送できないレベルで歪んでいらっしゃった。急いで発言を撤回するとハァと溜息一つ吐いた後に何時もの人形のような綺麗なラケル先生が帰ってきていた。

 

 

 「他にも聞くべき人が居たでしょう?お姉さまとか」

 

 

 「レア博士ですかー。んー……本人には悪いんですけど、多分アレは見た目だけだとおもうんですよね……」

 

 

 外見はすごく妖艶な美女なんだけど、初心っぽいんだよねー。この前ハルオミさんにお酒誘われてたとき、すっごくうろたえてたし。

 そのことを伝えるとラケル先生はやっぱりかと言った風な顔をした。さすがに姉妹であるラケル先生は知っていたらしい。

 

 

 「だったら、あの人はどうかしら?アリサさん」

 

 

 「アリサさんは止めとけってコウタさんに初めから釘を刺されました」

 

 

 シエルちゃんに相談し、自分の中で結論が出た後、比較的まともそうな女性であるアリサさんに話しをしようとしたんだけど何処で聞いていたのかコウタさんが真面目な顔をして「あいつに恋愛の相談をするのは止めておけ」といわれた。

 理由を尋ねても教えてくれなかったものの、アリサさんの想い人はそれで大いに苦労しているらしい。その時点で私は察した。アリサさんも結局のところ極東に染まった神機使いの1人だったのだと。

 

 

 「………」

 

 

 「他にも神機使い同士で結婚した人もいたみたいですけど、今は引退しているらしくって……」

 

 

 「ヒバリさんとかフランはどうなの?」

 

 

 「さりげなーく話をそらされました」

 

 

 シエルちゃんも軍人として育てられてきたからそういうことには疎い。仁慈に対して若干病みが入っているけどアレは家族愛とかそういうのに飢えているんだと思う。実際私の相談にはなんとも思っていなかったようだし。

 

 

 「……だからといって私も経験があるわけではありませんし……普段仁慈とはどんな感じなの?」

 

 

 「普段は……」

 

 

 

 

 

 

 ―――――ねぇねぇ、仁慈。また新しい道具のアイディアが思い浮かんだから一緒に素材取りに行こうよ!

 

 

 ―――――また、謎の物体Xシリーズを作り出すというのか……。まぁいいけど。とりあえず抱きつくな。自分の格好を考えなさい。

 

 

 ―――――当ててんだよー?

 

 

 ―――――はいはい。熱いから離れましょうねー。

 

 

 

 

 「こんな感じです」

 

 

 「そこまでしているのにどうしてそんな対応なのかしら……まさか、半アラガミ化によって性的欲求が消失したとか……?」

 

 

 ラケル先生がそう呟くが多分違う。

 よくよく思い返してみると、このようなことは割りと日常的に行っていたから仁慈のほうにも抗体が出来てしまったんだと思う。他にも仁慈はどこか私のことを娘のように見ている節がある。私のほうが年上なのに。

 この後も、なんだかんだで付き合ってくれたラケル先生と一緒に話し合ってみたものの結局いい案は一つも浮かんでこなかった。

 

 

 

 

 

 

 ラケル先生との話し合いで何の成果も得られなかった私は何時も通りを貫くことにした。よくよく考えてみれば、仁慈を狙っている人は居ない。どちらかといえばジュリウスのほうが人気なのでまったく焦る必要がなかった。うん。

 だから、今日も今日とて仁慈に絡むことにした。

 

 

 「仁慈ー、今日は何をしようか?」

 

 

 「自分の仕事をしろ。そして抱きつくな。最近スキンシップ激しすぎるぞ。誰かが誤解したらどうする」

 

 

 

 自室で隊長としての書類を書いている仁慈に突撃そのまま抱きつきまでが何時ものコンボ。

 最初は自室に突撃したことにすごく驚いていた仁慈も、今ではすっかりこの通り。見事なスルーっぷりを発揮している。もう少し新鮮な反応を見せてくれてもいいのに。

 

 

 「むぅ、それは心外。これは仁慈にしかやらないよ」

 

 

 「………そうですか」

 

 

 そう言った後、仁慈は何事もなかったかのように書類に向き合った。一応唯抱きついているだけなのもアレなので、一度仁慈から離れて書類の整理をする。一番最初にコレをしたときの仁慈の顔は「お前事務できたのか……」と如実に現れていてとても腹が立った。仁慈は私をアホの子扱いしすぎだと思う。

 

 

 書類整理が終わり、それを纏めて机の端っこに置くと仁慈が立ち上がってこちらを向いた。

 

 

 「いい時間だし、ご飯でも食べに行こうか?」

 

 

 「さんせーい」

 

 

 外に出て行こうとする仁慈の後に続き私も廊下に出る。そして、彼が歩き出したと同時に左腕を抱え込んだ。こういった小さなアピールが重要なのである。知らないけど。

 仁慈も私の行動に一瞬だけ顔を赤くするも、溜息を吐いて気持ちを切り替えたのかそのまま歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな2人を見た金髪ニット帽さんは、血涙を浮かべて爆発せよとの呪文を言い放ったらしい。

 

 

 

 

 

 



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キュウビさんの一生

こっちも投稿。



 

 

 

 

 我輩はアラガミである。名前はまだない。いつどのように生まれたのかは検討がつかぬ。ただ、今我輩がいるところでのうのうと育っていったことは覚えている。ついでに我輩がこの世に生を受けてから幾許の時が経過したことは自覚している。

 

 

 そんな何の変化もない退屈な時間の中で、我輩は一つの命令を地球(生みの親)から承った。何でもここ最近、極東と呼ばれる場所に我輩たちアラガミを完全に駆逐しえる神機使いという者たちがいるらしい。そのものは、三度にわたり終末捕食を阻止しているとか。

 どうやら地球(生みの親)はそのものたちが居る限り終末捕食の達成はなりえないと考えているようで、原初のアラガミである我輩に排除を頼んできたらしい。

 我輩としては、正直終末捕食が成功しようが失敗しようがどうでもいいのだ。成功すれば我輩も死んでしまう。それは少々いただけない。だが、我輩とて地球(生みの親)には逆らえぬ。

 仕方がないので、我はその生を受けてから初めて自身の故郷とも言える場所から外へと踏み出した。

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 最近我輩の周りを小さい人型がちょろちょろとうろついている。

 この生物は現在地球(生みの親)が目の敵にしている人間という生物だったか。会話を盗み聞く限りどうやら我輩のコアを狙っているらしいが……あまい、貴様ら程度の力ではどうにもならん。

 我輩は自身の尾からオラクルを放出し、こそこそと動き回っている人間達に向けて発射する。

 

 

 ………どうやら一掃出来たらしい。

 周辺に生き物の気配がしないことを確認した我輩は再び極東という場所に向けて歩みを進めた。

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――

 

 

 

 

 また、うっとおしいのが来た。前に追っ払った人間と同じマークがある服を着ていた。一応、この前片付けた奴とは違い武器を持っているようだが、甘い。武器を持った程度でどうにかできるほど我輩は弱いわけではない。

 軽く捻り潰してやろうぞ。

 

 

 

 

              ―――――――――――――

 

 

 

 

 やばかった。何だアレは。本当に人間なのか?アレこそ化け物だろう?地球(生みの親)が危険視するのも分かる。アレは人間とは完全に別の生き物だ。

 

 

 あの後、我輩は前回と同じように尾からオラクルを凝縮した攻撃を武器を持った人間に向けた。前の人間はそれで死んだのだが、奴は違った。自身が持っている武器を振るい我輩の攻撃を防ぎながら接近し、我輩の体に傷をつけた。そこで我輩はようやく思ったのだ、アレこそが地球(生みの親)が危険視していた神機使いだと。

 

 

 その思考に至ったとき我輩は今まで自分でも使ったことがなかった攻撃をも使用し、神機使いを撃退しようとしたが、奴は強かった次々と繰り出される攻撃の合間を潜り抜け、時に反撃して見せた。今回は神機使いが途中で撤退したからいいが、我輩のほうも危なかった。今は受けた傷を癒すためにある一箇所にとどまっている。しかし、これからもあやつのような神機使いを相手にするとすれば我輩も自身の戦い方を確立しなければならない。

 しばらくは寄り道をしつつ、自身の動かし方を体になじませてから極東に向かうとしよう。この借りは必ず返すぞ。金の篭手を持つ神機使い。

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 また神機使いが来た。しかし、今回のは金の篭手を持つ神機使いではなかった。弱かった。我輩が尾を一振りすれば勝手にしり込みをし、逃げていく弱者であった。

 むぅ……どうにも神機使いというのは個々でその強さにブレがある。我輩たちアラガミはその固体の種類によってある程度の強さが固定化されているために強さが測りやすいのだが……神機使いはそうもいかぬ。今のところ、我輩の脅威となる者は金の篭手を持つ神機使いのみではあるが……今後もそういった輩が現れるやもしれん。

 慢心はせず、確実に潰すようにしよう。

 

 

 

 

             ―――――――――――――――

 

 

 

 

 今日、我輩と対峙した神機使いが我輩のことを「キュウビ」と名称していた。どうやら人間や神機使いの中で我輩はキュウビと呼ばれているようだ。

 キュウビ、キュウビか……。良い名だ。我輩はこの呼び名が気に入った。やはり、それなりに長く生きている身としては名の一つや二つくらいは欲しいものだ。

 戦った神機使いは強くなかったが、キュウビという名を教えてくれたこともあり、そいつは見逃してやった。

 運が良かったな。そこまで強くない神機使い。

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 我輩はアラガミである。名はキュウビ。

 うむ、名があるというのはやはりいい。あの時聞けて幸いであった。

 

 

 そのことはいいとして、今回我輩の身に変化が起きた。

 なんと全身が黒く染まり、我輩を含めたアラガミの頭上に、球体を作り出すことが出来るようになった。

 その球体には偏食因子、もしくはオラクルの動きを阻害する物質が出ているらしく、その球体が出来ていないアラガミ達が次々とその場で倒れふせていた。しばらくすると元の状態に戻ったが、再び成ろうとすればその場で黒化できることが判明した。

 ふむ……強いといえば強いのだが、この状態はちとオラクルの消費が激しい。なるべくは成らないようにするとしよう。

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――

 

 

 

 ついに極東と呼ばれる場所に着いた。

 ここに地球(生みの親)が危険と危惧する神機使いがいるのであろう。よくよく気配を探ってみれば、あの金の篭手を持つ神機使いの気配も感じることが出来た。

 決戦の日は近い。待っていろ、神機使いたちよ。我輩が直々に葬ってくれる。

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 待って、待って。確かに地球(生みの親)が危惧した存在ということは知っていた。三度にもわたって終末捕食を防いでいることも知っている。でも、アレはないだろう?おかしいだろう?人間として、神機使いとして越えてはならない一線を越えているだろう?あれは。

 

 

 

 

 我輩は、我輩の事を感知し倒しに来たであろう神機使いたちと対峙した。人数は五人。1人は我輩も一度戦ったことのある金の篭手を持つ神機使い。ほか2人は我輩達アラガミと似たような気配を持つ神機使いと、残りの2人は普通の神機使いだった。

 

 

 我輩は開幕の合図の意味も込めた攻撃を尾から放つ。

 金の篭手を持つ神機使いはやはり、自分に当たる攻撃だけを手に持っている武器で切り払い防いでいる。女の神機使いと我輩達に近い気配を持つ神機使いの片割れは、武器に備え付けられている盾を使って我輩の攻撃をやり過ごしていた。ここまでは分かる。今まで見たことのある防ぎ方であったからだ。

 

 

 だが、普通の神機使いと思われた金髪の神機使いと我輩達に似た気配を持つ銀髪の神機使いはお互いがお互いの体を踏み台にしつつ、空中で回避を行っていた。しかも、踏み台にしたほうもされたほうも、お互いがしっかりと我輩が放った攻撃が当たらない場所に移動している。あの身のこなしはおかしいだろう。

 それだけではない。我輩達に気配が近い神機使いが金髪の神機使いを空中に放り投げたかと思うとアラガミである我輩にも捕らえられない速度で接近し、素手で我輩の首元を持つと地面に叩き付けた。神機使いが、片手で。

 我輩は信じられなかった。その神機使いに続いて金の篭手を持つ神機使いも我輩の事を地面に押さえつけた。まったく動けなかった。あの筋力はおかしい。

 その後、残りの神機使いたちが動けない我輩に好き勝手に攻撃し始めた。我輩は黒化をして何とか全員を吹き飛ばしたが、受けたダメージは少なくない。

 

 

 あれらは今まで戦ってきた神機使いとは桁が違う。神機使いとではなく同じアラガミを相手にすると考えて、自身の体に一切慢心せず戦わなければならない。

 

 

 

 

              ――――――――――――――――――

 

 

 

 無理だった。

 黒化し、我輩の頭上に黒い球体を作った。それで金の篭手を持つ神機使いと女の神機使い。我輩達と同じ気配のする神機使いの片割れは封じることが出来た。しかし、もう片方の銀髪の神機使いと金髪の神機使いはそれで止まらなかった。

 

 

 自身の中に存在する偏食因子の活動が限りなく消極的になっているにも関わらず。先程と変わらない身のこなしで我輩に襲い掛かってきた。

 我輩も唯黙ってやられるわけではない。因子をまとって突撃したり、尾から今までとは比較にならないくらいのオラクルを射出したり、周囲にバリアを作り周りを焼き払う凝縮した高濃度のオラクルを発射したりした。

 

 

 しかし、奴らは突撃を銀髪の神機使いが受け止めたり、尾から放ったオラクルを金髪の神機使いが全て正面から叩き斬り、挙句の果てに二人そろってバリアを突き破って攻撃してきたりした。

 

 

 勝てるわけがない。

 薄れ行く意識の中で、金の篭手を持つ神機使いがこういった。お前は運がなかったと。

 

 

 我輩は全身全霊で同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

             ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「仁慈君イェーイ!」

 

 

 「ユウさんイェーイ!」

 

 

 

 今俺の前では2人の神機使いがキュウビの前でハイタッチをしている。その場面だけ見れば強敵を協力して倒したためのハイタッチだと思うだろう。実際にキュウビは強敵だった。俺が戦ったときよりもはるかに強くなり、途中では黒化して俺たち神機使いの偏食因子の活動を制限しやがった。

 

 

 だけど、どう考えても相手が悪かった。よりにもよってこのキュウビ、ユウと仁慈が極東支部に滞在しているときに出現してしまったのである。

 後半俺、アリサ、ソーマは寝ているだけになってしまったが戦いはしっかりと見ていた。ユウと仁慈は実に息のあったコンビネーションでキュウビを追い詰め見事に倒していた。ぶっちゃけ途中でキュウビのことが不憫で不憫でたまらなかった。アリサとソーマも同じことを考えていたのか盛り上がっているユウと仁慈のほうを見てどこか微妙な表情を浮かべていた。

 

 

 

 まぁ、何だ。

 

 

 

 あの2人が居る限り、人類は安泰だろうなぁ。

 

 

 俺は懐から取り出したタバコに火をつけ、ボロボロに成ったキュウビの屍骸を視界に入れながらそんな事を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




地球「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」


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ラケル博士のお悩み相談所

久しぶりの番外編です。


 

 

 

 

 

 この部屋は極東支部の中でも指折りの立ち入り禁止区域に入る場所。この部屋に入ったものは無事に帰る事は叶わず、誰であろうとナニカサレタ様に変貌して帰ってくるのである。その変貌っぷりは恐怖を抱かせるほどである。

 ……そんな立ち入り禁止区域に指定されるくらいアレな場所であっても、部屋は部屋だ。当然その部屋の主が居る。

 その主の名前は、

 

 

 「………最近、面白いことないわね……」

 

 

 ラケル・クラウディウスと言う。

 彼女は元々、自分の中にある荒ぶる神々の意思によってこの地球の生態系をリセットしようと終末捕食を起こす計画を立てていた、歴とした危険人物である。別の世界線では数多の人間におのれラケルゆ゛る゛さ゛ん゛という感情を持たせた全ての元凶とも呼べる存在である。

 が、この世界での彼女はそうではない。幸か不幸か、彼女は今は樫原仁慈と名乗っているものたちに出会ってしまった。

 その結果、自分の計画通りにことが進むことはまったくなく、こうして新たな人生を歩んでいるのである。

 

 

 今日も今日とて嫌がらせとも言える量の仕事を仁慈に押し付け終えた彼女は最近行き詰まりぎみの研究に取り掛かろうとしたその時、彼女の部屋を叩くノックの音が聞こえた。

 その音を聞くとラケルは入ってどうぞ、という言葉と共にお茶菓子と紅茶を用意する。

 

 

 

 ――――ここ最近、研究で行き詰っているラケルはあることをやっている。

 

 

 それは元々自分が始めたものではないのだが、ある人物が頻繁に訪れる所為か、極東中の人々に伝わりこうしてたびたび人が訪れるのだ。ラケル本人も狙っていないにせよ、いい気分転換になっているのでこの訪問者達を歓迎している。

 では、彼女が何をしているのかというと、

 

 

 

 「ラケル先生。少々、俺の話を聞いてもらっていいでしょうか?」

 

 

 「あら、よく来たわね。ジュリウス。えぇ、聞いてあげますよ。何せここは『ラケルのお悩み相談所』らしいですからね」

 

 

 

 お悩み相談所をやっているのだった。

 

 

 仁慈が知れば迷わずこう叫びを上げることだろう。

 おいばかやめろ、と。

 

 

 

 

             ――――――――――――――

 

 

 

 

 J・Vさんの場合

 

 

 「実は最近、アラガミが段々と弱体化している気がしていて。あの仁慈が生み出した大木……螺旋の木の付近にいって新種を狩っても満たされないんです。どうしたらいいでしょうか?」

 

 

 「それは大変です。でも、大丈夫。逆に考えればいいのです。アラガミじゃなくて、神機使いと戦ってもいいや、と」

 

 

 「――――ッ!?」(そのときJに電流が走る)

 

 

 「この極東には、アラガミなんて足元にも及ばない化け物が沢山いるでしょう?」

 

 

 「その発想はありませんでした。ありがとうございます。………待ってろ仁慈」

 

 

 「フフフ、生き生きしているようで何よりです」

 

 

 その後、書類処理をしている仁慈の元に押しかけたJは訓練室に無理矢理引っ張り込み、ひたすら彼と白兵戦を繰り広げたという。そのおかげで仁慈は書類処理が出来ず、疲れた体に鞭を打ち、徹夜で書類を完成させたらしい。

 ちなみに、その翌日、仁慈によってボロボロにされたJが満足そうに訓練室でぶっ倒れていたのを誰かが発見したとかしてないとか。

 

 

 

 C・Aさんの場合。

 

 

 「最近、隊長が構ってくれません」

 

 

 「まぁ、それは大変です。しかし、もう大丈夫です。今からいう言葉を彼に向かって大声で叫べば問題ありません」

 

 

 「………ふむふむ、分かりました。ありがとうございます。ラケル先生」

 

 

 「私は、悩める者の味方です。このくらいならいつでもきてくださいね」

 

 

 その後、ラウンジにてCが仁慈にあの夜のこと(意味深)を大声で言い放ち、周囲に誤解の嵐を巻き起こした。

 当然事実無根な訳だが、もう既に拡散してしまった情報にどうすることも出来ず、言ったC本人がしっかりと否定することを条件に、何日間か連続で任務に付き合わされた。

 この間、例のおでんパン娘がハイライトを消し仁慈の背後をつけて廻っていたため、仁慈のストレスはマッハだったという。 

 

 

 

 ロミオ・レオーニの場合

 

 

 「何で俺のときだけ実名出てんの!?頭文字だけとってくれたりとかはしないわけ!?しかもさん付けすら無し!」

 

 

 「仕様です」

 

 

 「嘘付け」

 

 

 一通り言い合った後、お互いにクールダウンをして本題である相談ごとの話題を切り出す。

 

 

 「実は、リヴィと一緒に来たフェルドマン局長がずっとこっちを睨んでくるんですけど、どうすればいいんでしょうか?」

 

 

 「知りません」

 

 

 「おい、相談に乗れよ」

 

 

 「もう普通に娘さんを僕にくださいとか言えばいいんじゃないですか?」

 

 

 「フェルドマン局長別にリヴィのお父さんじゃないから!どちらかといえばラケル先生のほうが親でしょう!?」

 

 

 「でも、あの人リヴィの事、娘みたいに思っていると思うわ。その大事な娘に金髪ニット帽のちゃらちゃらしたバカっぽいやつがくっついてきたらそれはもう睨むしかないんじゃないかしら?」

 

 

 「オラ、金髪ニット帽がそんなに憎いかフォラ。どいつもこいつもそればっかりだよ!」

 

 

 結局この後、何の話も展開されずに相談は終了。

 ロミオはやけくそ気味にフェルドマンに娘さんを僕にくださいといい、見事に許可を貰った。

 リヴィは赤面しつつも嬉しそうに微笑んだという。

 どうやらフェルドマン、さっさと告白でも何でもしろという目で2人をみて思っていたそうで、即効で頷いたという。

 

 

 

 P・Sさんの場合

 

 

 「ラケル博士。実は、最近何を作っても面白いと感じなくなってしまったんだ。仁慈君を異世界に跳ばす機械を作っても、アラガミを一歩も入れないような防壁を作っても、製造を禁止されている神機兵を改造しても、だ」

 

 

 「我々研究者件技術者にとっては致命的ですね」

 

 

 色々おかしい相談内容だったが、それを突っ込むものはここにいない。

 ツッコミ不在の恐怖をマジマジと見せ付けられる光景がそこにはあった。

 

 

 「しかし、大丈夫です。こういうときこそ、この極東のアニメ文化に触れるべきです。見てくださいこれを」

 

 

 そこに映っていたのはドリルで敵を粉砕するだけでは飽き足らず、宇宙にまで繰り出すロボットとか戦艦とかの姿が。

 

 

 「こ、これは……!素晴らしい、なんてロマンに溢れたものなのだろう……」

 

 

 「そうでしょう。実は既に取り掛かってはいます。現段階では難航していますが……どうかお力を貸していただけないでしょうか?」

 

 

 「是非ともお願いするよ」

 

 

 笑顔で握手を交わす2人。

 今ここに碌でもない事態が発生することが決定した。

 

 

 L・Kさん

 

 

 「最近、妹が暴走ばかりしていて……苦労するので止めて欲しいんです」

 

 

 「それを本人の前で言うとは随分と肝っ玉が据わってきましたね。お姉さま」

 

 

 姉妹喧嘩に発展したためカット。

 

 

 

 A・Yさん

 

 

 「おかしいんです。この作品、ヒロインはもっと歌のうまい女の子だったはずなのに……もっと私の出番があってもおかしくないはずなんです」

 

 

 「シプレのことですか?」

 

 

 「違いますよ!もっとこう……動く要塞的なものであった2人がその後大きく色々な出来事に関わっていく、とか」

 

 

 「この世界ではそんな出会い方をしていないので……」

 

 

 「」

 

 

 相談者が気絶したためカット。

 

 

 

 J・γさん

 

 

 『私の出番がまったく無いようなのだが……』

 

 

 「それはそうですよ。貴方達、製造停止ですもの。というか、貴方のことなんて覚えている人いないと思います」

 

 

 『ふむ……これでも彼に的確な指示を出し、隊員救出に一役かったのだと、思ったのだがな』

 

 

 「あれ、あんまり意味がなかったといっていましたよ?」

 

 

 『なんだと……?』

 

 

 「しかし、出番が欲しいですか……。実は私、個人的に今作っているものがあるんです。宇宙でも活動できるスーツを」

 

 

 『それを私に?』

 

 

 「えぇ、貴方の体は余すことなく改造されるでしょうが……心配要りません。必ず宇宙にいけるようにして差し上げます。そう、無人戦士神機ガ〇ダムとして」

 

 

 『……面白い。もとより暇をもてあましていた身だ。そういうのも悪くはないのやもしれん』

 

 

 話を終えた2人(?)は部屋の奥へと消えて行った。

 

 

 この部屋は極東支部の中でも指折りの立ち入り禁止区域に入る場所。この部屋に入ったものは無事に帰る事は叶わず、誰であろうとナニカサレタ様に変貌して帰ってくるのである。その変貌っぷりは恐怖を抱かせるほどである。

 

 

 ――――仁慈にとって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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樫原仁慈が逝くGODEATER編
時をかける仁慈


リクエストにお答えして、仁慈が過去に行った話。



 

 

 「これは今までに無いパターンですわ………」

 

 

 状況は奇妙極まりないものだった。

 場所は嘆きの平原、目の前には俺が殺したヴァジュラの死体。コアを俺に抜かれてその形状は崩れつつある。これはまぁ、いい。何時も通りの光景だ。問題は………

 

 

 「………強い」

 

 

 「嘘……腕輪が無いのに、神機を扱っている……?」

 

 

 ヴァジュラを倒したくらいで驚きの表情を表す、俺の知っている姿より幾分か若いユウさんと、俺の腕を見てここ最近見ることが出来なかった反応を見せるリンドウさんの奥さんであるサクヤさんである。極東支部ではもう慣れられたもので、俺が腕輪なしで神機を扱っても「まぁ、仁慈だし」で済まされているから。

 

 

 さて、どうしてこうなったかといえば、答えは単純。嘆きの平原の中心に渦巻く竜巻に再びブッ飛ばされてしまったからである。

 ……何故、新しい神機使いの研修中にツクヨミなんて乱入してくるのだろうか。タイミング良すぎワロエナイ。

 

 

 「ちょっと貴方、私達と一緒に来て、話を聞かせてくれるわよね?」

 

 

 若かりし頃、現役バリバリのリンドウさんの奥さんに威圧されつつそう言われる。ここが過去だとして、俺が極東支部に行ったら実験動物待ったなしな気がする。ブラッドアーツもそうだし、体の半分が物理的にアラガミと一緒だし。かと言ってどこかに行くあてがあるわけでもないしなぁ……。

 サカキ支部長を抱き込めば何とかなるか……?

 

 

 「えぇ、もちろんです。同じ神機使い同士ですしね」

 

 

 まぁ、大まかだがこの世界は過去、それもあの伝説のスーパー極東人ユウさんが神機使いになった頃のことであると予想できる。この世界で俺の味方は誰一人いない状態といってもいいだろう。

 いつ頃帰れるのか、そもそも帰れないのか分からないがどちらにせよ拠点は必要となる。俺に選択肢なんて無いのだ。

 一応拘束だけはされないように極東支部へと帰還するサクヤさんとユウさんの後ろを付いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 極東支部の内装は、昔だけあって俺が知っているものとは違っていた。ラウンジは出来ていないし、俺の知っている神機使いも少ない。巨大なモニターもないし、オペレーターのヒバリさんも髪が短かった。

 ユウさんとはエントランスで別れ、俺はそのままあの床にコードが敷き詰められている部屋に連れて来られた。

 

 

 「サカキ博士、今よろしいでしょうか」

 

 

 「かまわないよ」

 

 

 サカキ支部長、そういえばこのときはまだ支部長ではなかったのか……。今支部長をやっているのはソーマさんのお父さんだっけ。……ソーマさん本人に聞いた話では、終末捕食を起こして一度地球の生態系のリセットを行おうとしたらしい。

 ……俺の存在がばれると割とヤバイな。特異点になった前科もあるし。ここらへんのことも含めて話をしたほうが良さそうだ。

 

 

 部屋に居たのは今ではソーマさんに譲った機械を弄り倒すサカキ支部長の姿。ヒバリさんと同じように髪型は微妙に違う。しかし、俺の知っているものと変わらない胡散臭い笑みを浮かべていた。

 

 

 「今回話があるのは彼のことについてかな?サクヤくん」

 

 

 「そうです。彼は腕輪をつけていないにも関わらず神機を使っていました。刀身も見たことのない形をしていて、何より……新型です」

 

 

 サクヤ(若)さんの言葉を聞いたサカキ支部長(若)―――面倒だな(若)はいいや―――が珍しく目を見開き瞳を見せながら体を前にずいっと押し出した。

 彼らが面倒なことを言う前にこちらの話を聞いてもらうべく俺は口を開く。

 

 

 「すみません。そのことも含めて話をしたいので、こちらの……サクヤさん、ですか?彼女に席を外してもらいたいのですが……」

 

 

 「それは出来ないわ。貴方のように素性もよく分からない相手を1人にすることは出来ない」

 

 

 「………いや、いいよサクヤ君。君は一回席を外してくれ。部屋の外に居るだけでいい」

 

 

 「危険すぎます!そもそも、話なら私がいながらでも出来るでしょう!」

 

 

 「…………別にこちらは構いません。しかし、そちらは困るのではないでしょうか?私は貴方達の事情を色々知っていますよ?例えば、カルネアデスの板……とかね」

 

 

 サカキ支部長……ではなくサカキ博士の表情が変わる。ソーマさんから粗方の話を聞いといてよかった。……まぁ、あの人が酒につぶれて勝手に話しただけだけど。

 

 

 

 「サクヤ君、やはり席をはずしてくれ。頼む」

 

 

 「……なんなんですか、一体……」

 

 

 サカキ博士が頭を下げる。そのあまりにもレアな声音と行動に観念したのか、俺に余計なことをするなよという忠告の意味もあるであろう睨みを効かせながら外へ出て行った。

 

 

 「さて、サクヤ君には悪いけど、邪魔者も居なくなったし……話をしようか?新型神機使い君」

 

 

 「えぇ、お互いにとってよい話し合いとなるでしょう」

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日から極東支部に配属されることとなった新型神機使いを紹介する」

 

 

 「どうも、今日から極東支部で働かせていただく樫原仁慈です。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

 

 

 現役を引退し、教官をしている雨宮ツバキからそのような一言が告げられる。彼女の言葉の後に銀髪赤眼の青年が名乗りを上げた。

 今まででは考えられなかった銃と剣の両方の機能を兼ね備えた新型神機使いの唐突な出現に皆、どこか釈然としない気持ちを抱きつつも一応皆が受け入れた。

 激戦区の極東に戦力が集中することはある程度納得できる理由だからであろう。彼の言葉からもここ最近神機使いになったのだということが予想できた。

 しかし、神薙ユウと橘サクヤだけは彼の実力を知っている。新人神機使いの難敵とも言えるヴァジュラを瞬殺したのだ。その技量は、ベテランにも劣らないものであった。ゆえに橘サクヤは特に仁慈を警戒していた。

 

 

 「早速、樫原と神薙には仕事が来ている。参加者はお前達含めて四人だ。既に後の2人は現地入りしている。お前達も今すぐに向かえ」

 

 

 「了解しました」

 

 

 「分かりました」

 

 

 ツバキの言葉に返事を返した2人は特に会話をするでもなく今回の仕事場である鉄塔の森に向かった。

 

 

 

 現地に到着した彼らを待っていたのはフード付きのコートを身に纏った褐色肌の青年と、赤い髪にサングラスと羽織る意味があるのかと思うジャケットだけを着込んだ派手な格好の青年だった。

 2人ともこちらに気付いたようだが、フードを被った褐色肌の青年はユウたちをスルーしたが、派手な格好をした青年は自身の髪をかきあげながらユウたちに近付いてきた。

 

 

 「やぁ、君が例の新型かい?なにやら増えているようだが……まぁ、いい。僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。君達も僕を見習って人類のために華麗に戦ってくれたまえよ」

 

 

 青年の言葉に頷く2人。そんな彼らを遠めで見ていたフードを被った褐色肌の青年が唐突に叫んだ。

 

 

 「エリック!上だ!」

 

 

 彼の言葉通りみんなが上を向くとそこには口をばっくり開けて飛び掛ってくるオウガテイルの姿があった。

 ユウはその姿を見た瞬間バックステップで回避するも、エリックは悲鳴を上げるだけで移動しようとしない。

 どうやら恐怖で体が固まっているらしい。このままではオウガテイルに頭をバックリいかれて逝ってしまう。

 誰もが、彼の死を予感した……その時、

 

 

 

 

 

 ――――エリックの頭上に何かが通り過ぎ、彼の頭上を陣取っていたオウガテイルが真っ二つに引き裂かれた。

 

 

 「へっ?」

 

 

 「えっ?」

 

 

 「何?」

 

 

 誰もが驚きの声をあげる中、唯1人それを為した男、樫原仁慈は振り切った神機を担ぎながらいう。

 

 

 「さっさと倒しちゃいましょう。こんなの」

 

 

 

 

 

 これは、世紀末に世紀末を重ねた世界から過去の極東にやってきた樫原仁慈(キチガイ)が、伝説のスーパー極東人と言われることとなる神薙ユウとなんか色々やっていく物語である。

 

 

 

     

 

             

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きません。


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二話目にしてサブタイトルが思い浮かばない事案発生

エリック大活躍。
特に話しに進展はありません。


 

 

 

 俺は今、猛烈に後悔をしている。

 先ほどこなした仕事、鉄の雨にて俺は1人の神機使いを助けた。そのこと自体に後悔は無い。目の前で失われそうになっていた命があり、それを救える手段があるとしたら、その人物をよほど恨んでいない限り助けると思う。実際俺はそうした。

 しかし、その助け方がいかんかった。俺の居た時代ではあのくらいの動きは普通も普通。このくらいで驚いていたら極東初心者の称号を送られるくらいの拙い動きだったのだが、彼らはそうではなかったらしい。

 若かりし頃の……本人曰くやさぐれて若干中二病的思考が入っているソーマさんとまだぶっ飛んでいないユウさんから熱烈な視線(いい意味とは限らない、特にソーマさん)を向けられている。

 これが結構辛い。しかも、極東に帰った後に俺が助けたエリックさん(エリナの死んだお兄さんだと後から気付いた)が俺の戦いを言いふらしたのだ。

 一応、新人として配属されたのにそのような戦い方が出来たら誰でも怪しむに決まっている。現に俺は針のむしろ状態だし。まぁ、彼は俺が新人という設定になっていることを知らないから仕方ないんだけど。

 

 

 「その時彼が、華麗に―――」

 

 

 やっぱり、黙ってて欲しいなぁ……。

 一応サカキ博士を抱きこんであるからある程度のごまかしは効く。しかし、終末捕食をたくらんでいるソーマさんのお父さんはサカキ博士が注意すべきと考えている人間だ。こんなことを言いふらされて何かやっかいな情報をつかまれなければいいんだけど……。

 

 

 チラリとエリックさんのほうを見る。

 すると彼はこちらの視線に気付いたのかこっちに体を向けると親指を立てて歯を見せながら微笑んだ。

 

 

 「(君の華麗な武勇伝を聞かせることで、馴染みやすくしておいたぞ!)」

 

 

 「(完全に逆効果です)」

 

 

 こちらの意思はまったく伝わっていないんだろうな、と考えつつ俺はひとつ溜息を付いた。

 サカキ博士からも、

 

 

 「こう、目立たれては色々厄介なので気をつけてくれないかな?今回のことは、君がいざとなった時の切り札のひとつとして機能することがわかったから見逃すけどね」

 

 

 と釘を刺された。

 ……どうやらあの程度でも実力を認められるようだ。どうしよう……しばらくは戦い方を自重したほうがいいかもしれない。

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――― 

 

 

 

 

 

 「樫原仁慈……か」

 

 

 極東支部支部長室にて、ここの支部長のヨハネス・フォン・シックザールはゲンドウスタイルで机に座りつつ一人呟いた。

 彼には目的がある。この喰らい尽くされた世界を再生し、選ばれた優秀な人間を再生した世界に残すという目的が。そのために彼は妻も、子どもも犠牲にしてきた。今更止めることなど出来ない。

 

 

 そのために、新型神機使いもこの支部に配属されるよう手配をしたのだ。今は新人の神薙ユウという新型神機使いもいずれは実力をつけ、特務を受けることが出来るレベルになるだろう。

 だが、ペイラー榊が見つけたといわれる神機使い樫原仁慈。

 そのプロフィールにおかしい点は見当たらないが、彼がこの支部に配属されるという話は支部長であるヨハネスも聞いたことが無かった。

 

 

 ―――――不確定要素を残しておくのは得策とは言えない。

 

 

 彼の優秀な頭脳は即座にその答えを割り出した。

 そして、ある場所に連絡を一本入れる。

 

 

 「……彼には、任務で名誉の死を遂げることにしてもらうとしよう」

 

 

 どちらにせよ、始末しなくてはならない人間は居る。彼もついでに始末すればいい、そう考えて彼は連絡のために手に取っていた電話を元の場所に戻した。

 

 

 

 

 

 

 ―――――一方サカキの研究所

 

 

 

 

 

 彼はカタカタと何時ものように機械を弄りつつ、その画面に映されているデータにひとつひとつしっかりと目を通す。

 

 

 「………やはり、我々が取れる手段は、これしかないようだね……」

 

 

 何度計算をしなおしてみても、何度データを確認してみても、導き出される答えは何時も同じだ。

 このまま有効な手段がなければ、ヨハネスの思惑通りにことが進んでしまう。しかし、こちらも切り札を手に入れた。

 それも、飛び切りの……それこそジョーカーとも呼べる存在を。

 

 

 

 ――――――人が神となるか……神が人となるか……この闘争において、そのどちらでもあり、どちらでもない樫原仁慈(おれ)が貴方の駒になってあげます。……そちらにとっても悪い話ではないと思いますが?

 

 

 

 まるで心臓を直接つかまれたかのような衝撃だといってもいいだろう。そのセリフは、彼が常日頃から思っていることだが、誰かに話したことは無いのだから。

 

 

 「勝つにせよ、負けるにせよ……面白く数奇な結末を辿ることになりそうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 「今回はエリックさんとの任務になります」

 

 

 「そうなんですか。俺と同じく新人の2人は今日コンゴウと戦うそうですが、同じようなものですか?」

 

 

 「いえ、ヴァジュラ種の討伐となっております」

 

 

 「えっ」

 

 

 「えっ」

 

 

 一応新人というくくりで入って来たはずなんだけど……。それとも、俺が一番初めにヴァジュラを屠ったことサクヤさんとユウさんが言ったのかな。

 

 

 「あの……エリックさんが同伴に指名していたので……本人から聞いていないんですか?」

 

 

 聞いてません(半ギレ)

 まぁ、発行されている以上バックれるわけにもいかないから、しっかりやりますけどね。 

 相変らず髪をかきあげながら登場したエリックさんの言葉を聞き流しつつ現場に直行、今回の戦いの場となる贖罪の街に到着した。

 

 

 「仁慈君」

 

 

 「なんです?」

 

 

 「昨日は本当にありがとう。君のおかげで、僕は妹を悲しませることも、親不孝者となることもなくなった……」

 

 

 「いえいえ、普通のことをしたまでですよ」

 

 

 「君のことはみんなから聞いたよ。……あれほどの実力を持ちつつ、新人としてきたのは何か理由があってのことだろう」

 

 

 ……流石、いいとこのお坊ちゃま。そういう裏事情には鋭いな。今回俺と2人の任務を発注したのも他の人に聞かれるのを防ぐと同時に、俺が逃げられないようにするためのものか……。

 エリナから話を聞いていたけど、身内贔屓が入っていると思ってまともに聞いていなかったけど、優秀だったんだ。

 

 

 「………」

 

 

 「詮索はしないよ、今回はほんのお礼だからね。君は僕の命を助けてくれた。妹と買い物をする約束を嘘にしないでくれた……。僕はそのことに本当に感謝しているんだ」

 

 

 「お礼……ですか……?」

 

 

 「あぁ。君になんの目的があるかは分からないが、お金は必要だろう?建前上新人の君には大した任務は回ってこない。だから、僕が割りのいい仕事を回す事にしたんだよ」

 

 

 「なるほど」

 

 

 「それに………君の実力を存分に振るってもある程度は誤魔化せる。昨日は情けない姿を見せたが、これでも僕もなかなかのものなんだよ」

 

 

 フフンと笑って髪を書き上げるエリックさん。

 そんな彼の言葉に俺はせっかくなので甘えることにした。ただでさえ、俺の味方が少ない状況だ。この好意を無下にする必要も無い。

 

 

 「さ、話はここまでにして、今日も華麗に人類のために戦おう!」

 

 

 「もう油断はしないでくださいね」

 

 

 そんな掛け合いをしながら俺たちは高台から飛び降りた。

 

 

 跳び下りた先にはオウガテイルが素材を捕食しており、俺達の着地姿をばっちりと見られてしまう。

 俺達を視界に入れたオウガテイルは一度咆えて威嚇するが、極東ではその習性が致命的な隙となる。

 威嚇なんてやっているうちに俺は接近、今までの勢いを上乗せし、左足を軸にして回転しながらオウガテイルに神機を振るう。勢いとか遠心力とかを上乗せした攻撃はオウガテイルの皮膚をバターのように軽々と切裂き、そのままコアまでざっくりと真っ二つにした。

 

 

 「わーお、華麗にして鮮烈な攻撃……実にエレガント!僕も負けてられないね!」

 

 

 言いつつ、エリックさんはオウガテイルの咆哮でこちらに向かっていた別固体のオウガテイルをブラストで正確にぶち抜き、体をバラバラに粉砕する。

 俺はポーチに入っていたOアンプルを彼に投げつつ、言葉を掛けた。

 

 

 「やりますね。エリックさん」

 

 

 「このくらいは当然。慢心を捨てた僕に隙は無い、この調子で華麗に狩っていこう!」

 

 

 このあとエリックさんと無茶苦茶虐殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コウタ「俺達最強のコンビだな!」
ユウ「そうだね」
エリック「まさか、ヴァジュラが二体居るとはね……」
仁慈「まぁ、余裕でしたけどね」
エリック&仁慈『HAHAHA』
コウタ&ユウ『』


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嵐の前の静けさ

仁慈の過去トリップ編。
英語で言うとセカンドシーズン(ブロント感)

というわけで、今までやったことの無かったヒロインアンケートなるものをやってみようと思います。

まぁ、皆さん分かっている通り、大した恋愛描写なんて私には書けませんがなんとなくやってみたかったんですよね。

活動報告にて募集します。


 

 

 

 

 

 

 

 時がたつのは速いもので、過去の極東に来てからはや二週間が経った。初めの一週間もっぱらエリックさんと任務に当たっていただけだったが、一週間を過ぎた頃、俺の実力の方もバレかかっているようで、個人を指名する任務が増えてきていた。ソロでボルグ・カムランとかシユウとか、今では絶対に回されることのないアラガミをなぎ倒してもう一週間を過ごした。

 結果的に同期に近い扱いとなってしまったユウさんのほうも、スーパー極東人ゆえか、その才能の片鱗を見せ始めて周囲から注目を集めているらしい。ちなみに俺は、サカキ博士により情報規制がされているため、一部の人しか本当の戦果を知らない。知っていたとしても俺の場合は注目を集めるどころか逆にドン引きされるレベルだそうだ。このドン引きレベルがその内極東の普通になるのにね。

 

 

 まぁ、それは置いておこうか。

 今回の仕事はリンドウさんと2人きり、標的はウロヴォロスらしい。

 ……どう考えてもおかしいよな。しかもこれを言って来たのはヒバリさんではなくリンドウさん本人だ。

 確か、現支部長ヨハネスは終末捕食を引き起こすアラガミ、ノヴァを作るために特務と称して貴重なアラガミのコアを回収したりするらしい。この時期リンドウさんはその特務を受けているはず……任務にかこつけて俺を殺す気か?リンドウさんがそんなことするとは思えないけれど、もしそうならそれ相応の対応をするとしよう。未来の極東式O☆HA☆NA☆SHIだ。

 

 

 「よう、新入り。ユウと同じくお前も新型らしいじゃないか。実力のほうはエリックから聞いている。期待してるぞ」

 

 

 「えぇ、お任せください」

 

 

 まぁ、あれこれ物騒なことを考えはしたが所詮はリンドウさんだ。大層な嘘なんて吐けないし、いざとなれば配給ビールでつればいい。……ムツミちゃんの料理が恋しいぜ。

 

 

 「お、見えたな」

 

 

 「大きいですね(相変らず図体だけでかいな)」

 

 

 「ん?あ、あぁ……お前は怖がらないのか……肝っ玉据わってるな」

 

 

 「自分、これでもなかなかの修羅場をくぐってますから」

 

 

 本当にね。

 ウロヴォロスを2人で狩るくらいどうってことない。世界滅亡の危機や異世界転移に比べたらインパクトが弱いにもほどがある。

 

 

 「神機使いになる前から苦労しているんだな……っと無駄話はここまでだ。連れて来ておいてなんだが、コイツはかなりの強敵でもある。ヤバイと思ったら最悪見てるだけでもいいぞ」

 

 

 「それ連れて来られた意味殆どありませんよね」

 

 

 こんな無駄話をしつつも、しっかりとウロヴォロスの背後を取っている。そして、リンドウさんがハンドサインを出した。戦闘開始の合図である。

 俺は了解と同じくハンドサインで返すと、音を立てないように走り、山のようなウロヴォロスの背中を一気に駆け上がっていく。コイツの皮膚は確かに硬いが、顔面は割と柔らかいほうだ。特に目のあるところは他の部位に比べて柔らかい上に、コアの近くでもある。

 足のような触手のような部分を切っていればその内倒せるが、時間もかかるし危険度も高いため、俺はこいつらと戦うときはこの戦法をよく取っている。

 リンドウさんは側面から攻撃をして、ダメージを与えていくらしく、ウロヴォロスもそちらのほうに気を取られていた。それが命取りとなることも知らずに。

 

 

 リンドウさんに気をとられ、前足の近くにある触手を全てリンドウさんに向ける。彼はそれを巧みな動きで受け流して時折反撃し、着実にダメージをあたえていた。

 流石ユウさんという化け物を作り出した要因のひとつ。

 自分の何倍もある質量をもつ攻撃をあそこまで完璧に受け流すことは俺には出来ない。基本的に、回避に重点を置いてるし、反撃なんてされないように一撃で倒すようにしているから。

 

 

 閑話休題。

 

 

 ウロヴォロスの頭まで上ると俺は戸惑うことなくそこから跳び下りる。そして空中で体を半回転させウロヴォロスの複数の目を持つ顔と正面から向き合う形になった。唐突に目の前に現れた俺に驚くようにその巨体を揺らすウロヴォロス。だが、もう遅い。

 俺は空中で神機を捕食形態へ移行する。何時ものとは違い、どこか鳥のくちばしを思わせるフォルムで捕食形態になった。そしてそのままウロヴォロスの顔面を捕食、いくつかの目を食い破る。

 

 

 

 『■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■―――――――ッ!!??』

 

 

 

 顔の中心に穴が開いたウロヴォロスは触手を振り回し、暴れだす。リンドウさんもその場にいたのでもう少し考えてから行動するべきだったかと、下に視線を移すと、彼は既に触手で捉えることが出来る範囲の外に移動していた。流石すぎる。

 巻き込む心配も無くなったため、俺は空けたウロヴォロスの穴から内部へと侵入。近くにあったコアをそのままバックリと捕食して、外へ飛び出した。

 

 

 ズザザ、と地面を若干抉りながらも何とか着地。

 ウロヴォロスのコアなんて俺が居たところの時代では特に貴重でも何でも無かったが、この世界では違うのだろう。現支部長が求めるくらいだし。

 地面にずぶずぶ消えているウロヴォロスの死体を一瞥しつつ、リンドウさんと合流を果たす。彼は懐から煙草を取り出して火をつけているところだった。

 

 

 

 「おう、お疲れさん。わりぃな、まったく役に立たなくて」

 

 

 「いえ、どちらも死なずに何よりです」

 

 

 「こうして疑うのもアレだが……お前さん、本当に新人か?資料にはそう書いてあったたが……あの身のこなしはどう考えても素人のものじゃない。ユウだって新人にしてはよくやっているほうだが、お前さんのアレは分不相応のものだ」

 

 

 「それをはっきりとするための任務でしょう?元々は支部長の特務らしいですが」

 

 

 俺がそう言及すると、リンドウさんは煙草をいったん口から話して煙を吐いた後、後頭部をガジガジと掻いた。

 

 

 「はっはっ……ばれてたか……」

 

 

 「形式上新人をこんな任務に引き連れて行くなんてありえませんよ」

 

 

 「形式上って言っちゃうのな。……まぁ、いい。サクヤから色々聞かされてたから、確かめようと思ったんだ。こうしてお前さんとこうして一対一で話してみて、悪いやつじゃないというのはよーく分かった。サカキのおっさんと何かしているらしいが、それも悪いことじゃないだろ」

 

 

 「いいんですか?確証もなしにそんな事言っちゃって」

 

 

 「勘ってやつだよ。今まで神機使いやってこれたのもこれの存在が大きい。だから、今回も(コイツ)を信じることにしたのさ」

 

 

 

 そう言ってリンドウさんはニカっと笑った。

 この人過去でも未来でも全然変わってないな。ソーマさんとかコウタさんは物凄い違うのに。

 

 

 それは今はいいか。

 なんにせよ、リンドウさんに実力を示すことができた。今はこれで十分だ。

 もしかしたら、現支部長のほうから特務の依頼が回ってくるかもしれない。たとえ来ないとしてもリンドウさんに敵意が無いこと、そして実力があることを知ってもらえた……つまり、今後何かあったときに頼られることがあるかもしれないのだから。ソーマさんから聞いた話ではリンドウさんはかなりのキーパーソンだと聞いていた。その彼とつながりが出来たのであればこれ以上のことは無いだろう。

 そう考えながら、リンドウさんの一服に付き合うのだった。

 

 

 別に吸ってないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンドウさんの付き添いで行ったウロヴォロス狩りから帰ると、リッカさんに呼び止められた。

 

 

 「ねぇ、君。なんか、シールド装甲の傷が全然無いんだけど……しっかりシールド使ってる?」

 

 

 「いえ、まったく」

 

 

 思い返してみれば、シールドを使ったのは最初の頃受けていたジュリウスからの訓練と、初めてマルドゥークに遭遇したときくらいではなかろうか。

 そもそも、圧倒的質量差があるアラガミの攻撃を受け止めること自体が、かなりの危険行為である。クアトリガの突進なんてガードしても死ぬ気しかしないし。基本は回避一択だな。

 

 

 「ダメだよ。しっかりガードも使わないと……いつか死んじゃうよ?」

 

 

 なんと優しいリッカさんなんだろうか。

 初対面に近い状態の俺に命に関わる実験をさらっとさせた人とは同じ人物だと思えない……。きっとアレだな。極東に染まった結果があれなんだろう多分。

 

 

 「申し訳ありません。次からは気をつけます」

 

 

 「うん。後ね……君の神機、他のとは全然違うんだけど……詳しく聞かせてもらえないかな!」

 

 

 やっぱり、同一人物だわ。これはまごうことなきリッカさんですわー。

 目を光らせてじわじわと俺との距離をつめてくるリッカさんを見つつ、俺は内心で自分の考えを訂正するのだった。

 

 

 

 数時間後、ようやくリッカさんの質問攻めから解放された俺はようやくサカキ博士が用意してくれた自室に帰ってきていた。

 しかし、扉を開けて中を見てみると俺が自室で使っていた荷物が根こそぎなくなっていることに気付く。なんでさ。

 手がかりが無いかと部屋を捜索する。すると、サカキ博士からの手紙があった。

 

 

 

 『今回、ヨハンが呼んだと思われる新しい新型神機使いがその部屋を使うらしいから君の荷物は僕の研究室に移して置いたよ。それと、その新しい神機使い、色々怪しいから監視しておいてくれたまえ』

 

 

 言いたいことだけ書いてあった。

 部屋の件は言いとして、新型神機使い……確かソーマさんの話では、アリサさんだったかな。この時期に来るのは。

 

 

 ………よかった。比較的、比較的まともな人がこれで増える。

 

 

 

 

 

 そう喜んでいた俺が絶望を抱いて水没することになるということを知るのは直ぐ後である。         

 

 

 

                                      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サクヤ(過去)「無理しないでね。神機使いはすごい人ほど、早死にするから……」
リンドウ(過去)「じゃあ、俺もまだまだってことか……」

             ―――回想終了――――

リンドウ「(とか言ってたけど、コイツは死ななさそうだな)」
仁慈「やっぱ、でかいだけだったな。ウロヴォロス」


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い つ も の

ヒロインアンケートは明日で締め切りたいと思います。
今のところはアリサがトップ。時点でリッカですね。


 「(えー……マジかぁ……そうくるか……そうだったのか……)」

 

 

 この場には第一部隊に所属しているユウさん、リンドウさん、コウタさん、ソーマさん、サクヤさんと俺が居る。

 そして、その人たちの視線を集めているのは十代半ばか後半に差し掛かるくらいの少女だった。服装については……もう、何も言うまい。たとえ、下に何も着ていない状態にも関わらず、チャックを下まで下ろし切っていないとしても、だ。

 問題は、彼女の態度である。

 

 

 俺の知っているアリサさんとは似ても似つかない感じだった。いや、外見とか服装のセンスを見れば間違いなく本人なんだけど……俺の知っているアリサさんは、もっとこう、寛大というか……おおらかな人だった。どんな意見でも聞き入れ、自分で考えて発展させる力があった。

 後半はまぁ、若くして身に付く技能じゃないし普通としても、性格がすっごいクールだった。

 

 

 ……まぁ、いいか。

 よくよく考えてみれば、十代半ばの人が同じ性格を維持しているほうがおかしいのだ。うん、未来の彼らは様々な困難に立ち向かい、打ち勝ったからこその性格なのだろう。これからは未来のことを基準に人の事を考えるのを止めることとする。

 

 

 心の中で、そう結論をつけたところで、既にアリサさんの件については話が終わったらしくみんなが持ち場に戻っていた。

 アリサさんはこれからリンドウさんが面倒を見るらしい。まぁ、現在の極東においてこの人を超える神機使いは居ないだろうし、妥当なところだろう。

 

 

 ただ……、

 

 

 「そんな考えでよく今まで生きて来れましたね」

 

 

 大丈夫かなぁ。

 未来に居るってことは死なないってことだし、ソーマさんから粗方の話は聞いている。でも、俺が居る時点であてにならない気がするんだよな。今更だけど。

 アリサさんは、演習で優秀な成績をたたき出した。それが今の自信に繋がっている……しかし、実戦経験が少ないともツバキさんは言っていた。これがつまりどういうことなのかというと、

 

 

 

 ―――――思いっきり死亡フラグです。

 

 

 

 この一言に限る。

 それに彼女が受けていた演習というのはおそらくロシアの支部でのものだ。この極東は他の地域に比べてアラガミが滅茶苦茶強い。

 前に実験の一環として、極東のアラガミを一体他の地域に放ち、厳重な監視下の元で観察したことがある(マッドコンビ発案)

 結果は圧勝。

 うちのオウガテイルは他の地域に居るオウガテイル50匹にも負けなかった。一匹で無双してた。極東は神機使いもアラガミも頭がおかしい地域だということが再確認できた実験だった。そのことを踏まえると、演習での結果は役に立たない。

 そのことを瞬時に考え、この場を離れようとしているリンドウさんに視線を送る。

 

 

 「(リンドウさん、ちょっとやばくないですか。この認識)」

 

 

 「(心配すんな。いざとなったら俺が何とかしてやる。唯、新型同士にしか分からないこともあるだろうし、出来る限りサポートしてやってくれ)」

 

 

 やだ、出来る上司だわ。リンドウさん。どっかの元ブラッド隊隊長(バカ)も見習って欲しい。心底。

 

 

 なんにせよ、今更ながら慢心することなく気を引き締めることにした。

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 翌日。

 今日はユウさんとリンドウさん、アリサさんと俺でシユウ2体を倒す任務に来ていた。まぁ、大した内容ではない。どちらかといえばアリサさんにこの極東での戦い方を教えるための任務だろう。後はユウさんの経過を見に来たのかな。

 

 

 「お、今日は新型三人との任務か……足を引っ張らないように頑張るわ」

 

 

 「何で俺を見ながら言うんですかねぇ……」

 

 

 この中で貴方のことを足手まといと思う人なんて居ないと思う。ユウさんだって思いっきり苦笑して、どんな反応を返せばいいのか分からないって感じだし。

 

 

 「旧型は、旧型なりの仕事をしてくれればいいと思います」

 

 

 やべぇ。過去のアリサさん超やべぇ。クールじゃなかった。やさぐれているだけだった。見ろ、あのユウさんが苦笑のまま石化したように固まったぞ。

 

 

 「はっは。まぁ、せいぜい頑張るさ」

 

 

 しかし、リンドウさん本人は気にしていないようで笑いながらアリサさんの肩に手を置いた。

 

 

 「きゃあ!」

 

 

 アリサさんが悲鳴と共に背後に飛び退く。

 

 

 「おっと、俺も嫌われたもんだ」

 

 

 「リンドウさん。年頃の女の子は難しいものなんですよ」

 

 

 「なるほど……悪かったな……」

 

 

 「い、いえ……すみません。大丈夫です」

 

 

 といいつつ、頭を抱える。

 全然大丈夫そうじゃないけど……。

 

 

 「はは、冗談だ。んー……そうだな……アリサ。混乱しちまったときはな、空を見上げるんだ。そんで動物の形をした雲を見つけるんだ。落ち着くぞ。それを見つけるまで、お前はここで待機だ。ちなみにこれは命令だからな」

 

 

 「な、何でそんなことを……」

 

 

 「いいから。あ、仁慈。お前さんはここでアリサと一緒に残ってろ。ついでだし、二つに分けて一匹ずつシユウを狩ったほうがいいだろう」

 

 

 「えっ」

 

 

 まさかの言葉だった。

 これには流石に驚き、リンドウさんに近付いて小声で語りかける。

 

 

 「なんで態々分けるんですか?リンドウさん、アリサさんの実地での教官のようなものなんでしょう?」

 

 

 「それはそうなんだけどな……さっきの反応を見る限り、それはちと難しい感じがする。今は別にいいが、戦闘中でああなられるのも逆に困るだろ。その点、お前さんなら実力も十分すぎるほどにあるし、安心して任せることが出来る」

 

 

 「それは丸投げって言うんじゃないですかね?」

 

 

 「適材適所さ」

 

 

 「ものは言いようですね、ホント」

 

 

 俺の言葉を聞いてもハッハッハと笑うだけで訂正はしてくれなかった。というか、ユウさんを引き連れて本当に先に行ってしまっていた。マジか。

これから数分間俺はアリサさんと一緒に動物の形をした雲を探すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 とっても適当な隊長に言われたとおり動物の形をした雲を見つけた私と、もう1人の新型神機使いは適当な隊長たちが相手をしていないもう一体のシユウの捜索をしていた。……こういう場合は素人2人だけで別行動は絶対にさせないのだが……あんな適当な采配でよく今まで生き残ってこれたものだと逆に感心してしまう。

 極東の人たちは最前線で戦っているという自覚が薄いのではないかと、この支部に配属されてから常に思っている。

 現に今も私の後ろを付いてきている、新型神機使い樫原仁慈に対してもそうだ。緊張感の欠片もない表情で当たりを見回している。何処に敵がいるのかもわからないのにあくびまでして……もう呆れるしかない。

 

 

 「オペレーター、周囲にアラガミの反応は?」

 

 

 『この近くには居ません。もっと奥の方ですね』

 

 

 「分かりました。そちらに向かいます」

 

 

 「………いや、その必要は無いみたいですよ」

 

 

 唐突に話しに割り込んできた樫原仁慈。

 彼が言った直後に、シユウがこちら目掛けて走ってきているのが確認できた。

 

 

 「アミエーラさん。好きに動いていいですよ。細かい援護はこちらで行いますから」

 

 

 「ふん。ちょっと早く実戦に出たから先輩気取りですか?別になったばかりの新人に援護なんて期待してませんから」

 

 

 「(それってすごいブーメランなんじゃ……いや、よそう。俺の勝手な推測で周囲を……)」

 

 

 なにやらぶつぶつ言っている樫原仁慈をスルーして、私はシユウと向き合う。シユウのことも当然私は知っている。攻撃力の高い叩きつけ攻撃に注意しつつ、ヒット&アウェイでダメージを稼ぐのが定石だ。ヒット&アウェイに関して言えば、全てのアラガミに言えることだが。

 早速シユウが両手に見える羽の部分を合わせてエネルギー弾を作り出して、こちらに放ってきた。

 私は横にステップを踏んで回避し、すぐさまシユウに接近する。そして、斬撃が有効な拳の部位に神機を振るった。両方は無理だったものの、私が切りつけた部分は結合崩壊を起こした。

 シユウが結合崩壊をしたことにより、よろけたためさらに追撃としてもう一方の拳も切裂く。

 両方の拳を結合崩壊させると、シユウは当然の如く活性化状態になった。だが、無駄である。どの攻撃モーションも頭に叩き込んだため、どんな形を取ればなんの攻撃が飛んで来るのかは一目で分かる。

 というか、あの樫原仁慈さっきから全然攻撃してない……やっぱり口だけの人だったのかと失望する。

 失望しつつもシユウに止めを刺そうと近付こうとしたその時、

 

 

 「■ ■ ■ ■ ■ ■ ―――――ッ!!」

 

 

 ロシアの資料には無かった攻撃をシユウが行ってきた。

 それはあとからわかったことだが、極東のシユウが行う固有の攻撃であった。本来なら放つしか出来ないはずのエネルギーを纏わせた回し蹴り。攻撃スピードが異常に早く極東においては注意すべき攻撃だった。

 直撃したら、まずい。

 

 

 咄嗟にそう判断した私はすぐにシールドを展開して来るべき衝撃に備える。

 しかし、シールドを展開する直前にシユウの頭に一発の弾丸が突き刺さった。見事に頭の結合を崩壊させたその一撃にシユウは回し蹴りを中断して、背後に下がった。私は思わず弾が飛んできた方向に視線を向ける。

 そこには先ほどまでやる気の欠片も感じられなかった樫原仁慈が銃形態の神機を構えたまま立っていた。

 

 

 「ビューティフォー」

 

 

 なんか言ってた。

 

 

 「アミエーラさん。早く止めを」

 

 

 その言葉にハッとなり、体をすぐさま反転。

 うずくまっているシユウを滅多刺しにする。それを十数秒続けるとシユウは力なく地面に倒れこんだ。

 

 

 『討伐対象のアラガミの撃破を確認。お見事です』

 

 

 「お疲れ様です。アミエーラさん」

 

 

 「貴方、結局殆ど動きませんでしたね」

 

 

 「いやー、援護なんて殆ど必要なさそうな感じでしたので……」

 

 

 私の言葉に苦笑で答える。

 

 

 「しかし、よく動けていた方だと思いますよ。身のこなしは完璧に近いですね」

 

 

 「よくもまぁ、偉そうな言葉がすらすらと出ますね」

 

 

 「これはすみません。今回全く働いていない俺が言えることではなかったですね……っと」

 

 

 私と話をしていた樫原仁慈は急に背後を振り替えて、ある一点を見つめ始める。だが、そこには壁しかなく何も見るようなところはなかった。

 

 

 「………ヒバリさん。周囲に大きなアラガミの反応、ありませんか?」

 

 

 『えっ?今のところは確認――――ッ!?いえ、大型のアラガミ反応がそちらに接近中です!到着予定時刻は……今ッ!』

 

 

 「だろうね」

 

 

 オペレーターの言葉に軽い感じで返した後に、それは現れた。

 キャタピラを縦にした感じで生える四本の足。明らかに堅そうな装甲に囲われた胴体。そして、かつて人類が使用していたといわれる兵器、ミサイルを打ち出すようなことが出来るポッド。

 どれを取っても見たことの無いアラガミだった。

 

 

 『さ、最近発見された新種のアラガミです!』

 

 

 「クアトリガ……か」

 

 

 『え?知っているんですか?』

 

 

 「サカキ博士から話を聞きましてね、少し」

 

 

 『今、リンドウさんに状況を伝えました。五分ほどで合流できると思われます!それまで何とか耐えてください!』

 

 

 「了解」

 

 

 樫原仁慈が通信を切る。するとその直後に今度はあの適当な隊長から部隊全員宛の通信が入ってきた。

 

 

 『よう。かなり重たいおかわりが来てるって話じゃないか』

 

 

 「超ド級の重さですよ。これを食べたら胃がもたれます」

 

 

 『そうか。食いきれないんだったら俺が到着するまで時間を稼いでろ。そうすれば何とかしてやる……と、言ってもお前には必要ないか?』

 

 

 「えぇ。時間を稼ぐのはいいですけど――――別に、あれを倒してしまっても構わないでしょう?」

 

 

 『ははっ、言うねぇ。やれるものならやってみな。もし、倒せたら俺の分の配給で欲しいもの譲ってやるよ』

 

 

 「それは頑張らないといけませんね」

 

 

 これから未知の敵に挑む前とは思えない、何時も通りの気の抜けたやり取り。

 相対するのは威圧感が尋常じゃない新種のアラガミ、立ち向かうのは最近神機使いになった新人2人。

 そんな絶望的な状況においても、樫原仁慈はシユウと戦うときから変わらない気の抜けた態度で、相手に神機を突きつける。

 

 

 「行くぞ、クアトリガ。―――――ミサイルの貯蔵は十分か?」

 

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 黒歴史ってこうやって出来ていくんだね。

 堅そうな装甲をボロボロにして、グズグズに崩れていくクアトリガだったものを見ながら俺は空を見上げた。

 なんか、前にもこんなようなことがあった気がする。まぁ、それはいいか。

 

 

 事の顛末を話そう。

 死亡フラグっぽく挑んでみたものの、ぶっちゃけ俺からすればクアトリガは既存のアラガミである。ここでは新種と言われていたけど、俺としては何度も交戦経験があるわけで……結論から言うと、負けるわけが無い。

 普通に倒して普通にリンドウさんの配給品を貰いました。

 そのことに対して当のリンドウさんは苦笑。ユウさんも苦笑。アリサさん絶句という結果になった。

 出たばかりというクアトリガのコアも完全に持って帰って来たのでボーナスが入るらしい。

 

 

 結局どうなったかといえば、俺の金が少し増えたことと、アリサさんが俺に対してどうして接していいのか分からないような雰囲気を醸し出していることくらいだろう。

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 「新種のアラガミのコア剥離に成功、か」

 

 

 下から上がってきた報告書を読み上げつつ、ヨハネスは呟く。

 それは樫原仁慈の戦跡だった。

 パッと見常軌を逸しているその戦跡を見て、彼は排除よりも利用すべきという考えを持ち始めた。

 確かに不確定要素はいらないが、彼は十分こちらの役に立ってくれそうだ。しかも、特務であれば接触禁忌種との戦闘もある。いっそのこと、それで死ぬまで特務を与え続けるのもいいかもしれない。

 そう考えるヨハネス。

 

 

 数分考えた後、彼は電話を手に取った。

 

 

 

 

 

               ――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 「君は、抑えるということは知らないのかね?」

 

 

 「いや、すみませんつい。………でも、これで特務とやらに就けるようになった方が、色々動きやすくありませんか?」

 

 

 「それについては否定しないよ。でも、彼が本腰を入れて君を排除する可能性だってある」

 

 

 「別に、アラガミの10や100来た位じゃ死にませんよ」

 

 

 「妙に説得力があるのは何故だろうね?言っていることは無茶苦茶もいいところなのに」

 

 

 

 ある博士の研究室でそんな会話が繰り広げられたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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蒼穹の月

本日二度目の投稿。



 

 

 

 

 

 

 

 やさぐれアリサさんと一緒にシユウとついでにクアトリガを殲滅した翌日。俺は支部長室の前で突っ立っていた。

 別に施設のものを壊して呼び出しを喰らったとか、そういう話ではない。おそらくだが、今回の話は俺に特務を受けさせるか否かという話だと俺は思っている。自分で言うのもなんだが、新種のアラガミのコアを初見で剥離するというのはかなりの技量が必要だ。

 普通、そんな余裕は無い。唯、必死に戦って勝つくらいしか出来ないからである。まぁ、未来での極東はコア剥離が一番手っ取り早い方法として定着しているので、コアは腐るほどあるんだけど。このときの極東ではそうではないのだろう。リンドウさんに言ったら物凄い驚かれた。

 ノヴァを作るために多くのアラガミのコアを必要としている現支部長が、俺という人材を無闇につぶすわけがないからな。

 

 

 「失礼します。樫原仁慈です」

 

 

 「入りたまえ」

 

 

 許可を貰いドアノブに手を掛ける。

 中に入れば、現支部長。ヨハネス・フォン・シックザールが御馴染みのゲンドウスタイルで机に座ってた。お偉いさんその座り方大好きだな。これがソーマさんのお父さんか………あんまりそんな感じはしないな。未来のソーマさんだったらなんとなく似ている感じはするけど、現代のソーマさんでは似ても似つかない。

 なんだろう。技術者やってないからか?

 

 

 「君の活躍は、私の耳にも届いているよ。何でも、新種のアラガミを1人で倒したそうだね」

 

 

 「1人は言いすぎです。あの場にはアミエーラさん、神薙さん、そしてリンドウ少尉が居りましたので」

 

 

 「なるほど。リンドウ君の力も大きかったということか。しかし、新種のアラガミのコア剥離には成功している。それは、並大抵の実力では行うことの出来ない所業だ。その手腕を見込んで君には私が出している、特務を受けてもらいたい」

 

 

 「特務ですか?」

 

 

 来たな。

 予想通りの言葉に内心微笑みを浮かべつつ、表面では驚きの表情を浮かべる。はじめは出来なかった腹芸も、ラケル博士とサカキ支部長相手に訓練(強制)済みだ。

 

 

 「……君は、エイジス計画を知っているかな」

 

 

 「アラガミ装甲を利用した超巨大なアーコロジーを作り、アラガミに脅かされる心配のない楽園を作り出すこと……ですよね?」

 

 

 「その通りだ。そのためには、より多くのアラガミのコアが必要となる。新しい偏食因子やどのように作用するのかということを知るためだ。この特務とは、普通の部隊では相手に出来ない高難易度の敵のコアを剥離してもらうことである。……人類の未来のために、この任務を受けてくれるか?」

 

 

 「………はい。もちろんです」

 

 

 「よかった。任務はこちらが出すまで通常の業務をこなしていてくれ。後、君以外に特務を受けているものはリンドウ君とソーマだ。何か困ったことがあれば、彼らに協力を仰ぐように。以上だ」

 

 

 「失礼します」

 

 

 

 ガチャリと扉を閉めて、そのままエレベータまで一直線に向かう。

 取り合えず、目標は達成できたといってもいいだろう。ここからが本番とも言うが、それについては気にしない方向で。

 

 

 肩の荷が折りたため、ふぅーと息を吐きながらエントランスに入る。何時、どのタイミングで特務が来るのかは分からないけれど、当日からいきなり出すことは無いだろう。そんな事を考えつつミッションカウンターに行くと、1人の少女が俺の目の前に立ちふさがる。

 その少女はなかなかよい素材の服を着ており、その服装から裕福な家の出だということがわかる。ついでにどっかで見たことある顔つきと髪型をしていた。

 

 

 「ねぇ、貴方が樫原仁慈?」

 

 

 「そうだけど……君は?」

 

 

 「やっぱり!初めまして!私はエリナ。エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。エリックを助けてくれてありがとう!」

 

 

 どっかで見たことあるはずだ……。この子あのエリナだったのか。

 

 

 「ねぇねぇ、貴方ってすごい神機使いなんでしょう!?強いアラガミをバッタバッタなぎ倒すことも出来るってエリック言ってたもん!百匹くらい余裕だって」

 

 

 子どもになんてこと教えているんだ。エリックさん。確かに、妹とか身内にいいカッコしたいのは分かるけど、言うことにも限度があるでしょう。まして、人の事を伝えるときはハードルを上げすぎることのないようにお願いしたい。

 出来るけどさ。大型アラガミ百匹と組み手擬きとかしたことあるけどさ。

 

 

 この後、無茶苦茶お話した。

 

 

 

 

 

              ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 私がこの極東に配属されてから5日がたった。はじめのうちは、この人たち自覚が足りないんじゃないかとか、もっとしっかりとした意識で望むべきだと考えていたけれど、それは初めの2日で終わった。残りの3日間はもっぱら1人の神機使いにずっと注目し続けていた。

 

 

 樫原仁慈。

 

 

 この極東に来て、2回目の任務で同行した新型神機使い。

 シユウとの戦いには殆ど手を出さない、口だけの人物かとも思ったけど……すぐ、それは間違いだったということに気付かされた。

 何故なら乱入してきた新種のアラガミの対応が完璧だったからである。

 

 

 攻撃方法も分からず、明らかに重量感のある相手だった。新人である自分達では太刀打ちできないと思ってしまったアラガミを、なんの気負いもせず戦闘し、勝って見せた。

 しかも、近くにいる私には決して注意が行かず、尚且つ流れ弾も飛んでこないような立ち回りで鼻歌交じりに狩り倒していた。

 

 

 あの強さは常軌を逸脱していると思いながらも、それを見て学び、自分に取り入れることが出来ればもっと強くなるのではと私は考えた。

 だから、樫原仁慈の任務に動向が出来れば同行した。常日ごろの行いも目を盗んでは監視していた。本人からはまたお前かという視線も貰ったりした。

 

 

 それだけのことをしても、強さの秘密は分からなかった。しかし、めげずにこれからも研究を続けようと思う。

 ただ、小さい女の子と長時間話していたのはドン引きした。

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ストーカーまがいのお前にはいわれたくない(電波受信)

 

 

 いきなりすいません。これを言わなければいけないような気がしたので。

 まぁ、それはいいとして、俺が特務を受けられるようになってからしばらくが経った。支部長から送られてくる特務はまぁ、簡単なものだった。スサノオやウロヴォロス、クアトリガの堕天種……どれもこれも複数で来るならまだしも一体だけでやってくるもんだから特に手こずることもなく終わっていった。

 

 

 そして、今日新たな特務が発行された。

 第二接触禁忌アラガミ、プリティヴィ・マータが贖罪の街で発見されたらしい。現在は一体だけでコア剥離のチャンスなので必ず成功させろとのお達しである。

 

 

 プリティヴィ・マータとはまた懐かしいものを……。

 接触禁忌アラガミの中でも最弱の部類に入るマータさんはもはや、俺達のいたところでは通常のアラガミと変わらない扱いだったなぁ。

 

 

 現支部長が用意した特別な運送用のヘリに乗りながらそんな事を考える。

 

 

 「目標の場所に到着しました」

 

 

 「了解です。ドア開けてください」

 

 

 ヘリの運転手にそういうと、ガラリとヘリのドアがスライドして動く。神機を片手に持って俺はそのままヘリから跳び下りた。

 着地時に受身を取ることで衝撃を逃がして着地する。上空数千メートル上からスカイダイビングかました身ならこの程度余裕である。

 

 

 着地と同時に俺は違和感を覚えた。

 

 

 

 ――――――感じる気配が多すぎる。

 

 

 プリティヴィ・マータかどうかは分からないが大型アラガミの気配はする。だが、それは複数だ。

 現支部長も仕事が粗いな。

 

 

 そうぼやきつつ、気配の感じるところに向かう。しばらくすると多くの大型アラガミの反応があるところから、戦闘音のような爆音が聞こえてきた。

 聴いた瞬間に俺は、その場所に向けて疾走する。

 

 

 誰かが戦っているとしたらかなりピンチだぞ。これは!

 

 

 所々喰われた建物の角を曲がると、そこにはプリティヴィ・マータが少なくとも5匹おり、ソーマさんとコウタさんが戦っていた。

 なんであの人たちがここにいるんだと疑問に思ったけれど、ひとまず思考を切り替える。

 そして、気配を限りなく殺しながら一気に接近し、コウタさんにねこぱんちをかまそうとしているプリティヴィ・マータを一太刀の元に切り伏せる。

 

 

 「お前……ッ!?」

 

 

 「え?仁慈?なんでここに!?」

 

 

 「話は後です!今はこの状況を切り抜けるのが先です!ここにいるのは貴方達だけですか!?」

 

 

 「ま、まだサクヤさんとアリサ、ユウとリンドウさんが中に!」

 

 

 「ここは俺が受け持ちます!コウタさんは中の人を出してきてください!」

 

 

 「わ、分かった!」

 

 

 コウタさんを中に行かせ、会話をしているふいをついて攻撃してきたプリティヴィ・マータの攻撃を回避する。

 その後、反撃として胴体に捕食形態の神機を突っ込みコアを引っこ抜く。

 力なく倒れるプリティヴィ・マータを視界の端に収めつつ、次のマータに切りかかる。

 

 

 バックステップと共に出した氷柱を正面から真っ二つにして切裂き、着地で僅かに隙のあるマータを咬刃展開状態にした神機で、コアごと真っ二つにした。

 

 

 「お前……なんだその強さ……」

 

 

 「慣れです」

 

 

 ソーマさんと2人でマータ相手に無双していると、中からユウさんに背負われたアリサさんと泣いているサクヤさん。それを支えるコウタさん出てきた。

 

 

 「それで全部ですか?」

 

 

 「いや、中にリンドウさんも居るけど……瓦礫でふさがれて……」

 

 

 それで撤退命令を出したのか……。

 とりあえず、このままだと全滅は必死だ。俺が庇うといっても、限度がある。撤退が現実的か……。

 

 

 「俺が殿を勤めます」

 

 

 「……わかった」

 

 

 俺の言葉にソーマさんが同意し、ソーマさんを先頭で俺が後方で間に動けない人、戦えない人を挟んで極東に撤退した。

 

 

 

 こうして、リンドウさんは行方不明となった。

 

 

 

 

 




ちなみに仁慈は大方の話を聞いては居ますが、所詮よっぱらったソーマの言葉なので詳細な情報はありません。
だからこそ、この結果です。


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その後

ヒロインアンケートで見事に一位になったのはアリサさんでした。次点でリッカさんです。作者的に一押しだったアネットには殆ど入ってませんでしたね……何故だ。

まぁ、それはともかくアリサさんはヒロイン確定ということで、今後増えるかわかりませんけど……私のことなので増えることは無いと思います多分。

何はともあれ、ここから一応アリサさんがヒロイン路線で進めて行きたいと思います。なのでユウ×アリこそ至高と言う方や仁慈とアリサとかないわーという方は閲覧しないことをお奨めします。




 

 

 

 

 

 昨日は散々だった。

 絶賛包囲中だったユウさんたちを守りながら何とか極東まで帰って来たものの、その姿は無事とはいえない様子であった。

 怪我などは殆ど無い。俺とソーマさんが頑張った結果、肉体的損傷はごくごく軽症のものしか付くことは無かった。だが、精神面では多大なダメージをソーマさん含めてあの場にいるみんなが受けていた。

 何があったのかは分からないが、アリサさんは面会謝絶状態、サクヤさんもリンドウさんがあの場に取り残されたことによって自室に引き篭もった。ユウさんもコウタさんもアレは大分堪えたようだし、ソーマさんは自分が死神なんて呼ばれているから自分の所為なのではないかと自責の念に駆られている。

 一応、未来から来た俺としてはリンドウさんが無事なことは分かっているのだが、それだって俺がここに居る時点でどれだけ信憑性があるのかわからなくなってきている。

 

 

 ………だからこそ、俺は覚悟を決めた。

 

 

 ソーマさんから聞かされた話に振り回されることなく、自分で現在の状況を見つめ考えてから行動することにした。

 もちろん、知識としては活用するがそれは参考程度……その結果を絶対のものとは思わず、自分が取れる最善の行動を取ることに決めた。

 

 

 そう。無駄に知識があって行動していたからこそいけなかったのだ。

 ラケル博士の計画を台無しにしたとき、俺が考え、狙ってやったかといえば否である。元々よくも無い頭だ。考えるだけ逆に事態を悪化させることだってある。

 

 

 つまり、なにが言いたいのかというと………俺は自重を捨てる。

 今までは色々ありえないからとかいいつつ、ナメプに近いことをしていたが、今後はそれをなくす。

 極東支部ブラッド隊隊長、樫原仁慈として、これから行動することにする。

 

 

 「すみません、ヒバリさん。贖罪の街での任務って今ありますか?」

 

 

 「は、はい。一応ありますが……どうして?」

 

 

 「いえ、ちょっと任務にかこつけてリンドウさんの捜索をしようと思いましてね。あ、このことは内緒でお願いします」

 

 

 「あはは……わかってます。……私も、リンドウさんが居ないのは寂しいですし、悲しいですから……」

 

 

 「ありがとうございます」

 

 

 任務を出してくれたヒバリさんにお礼をいいつつ、俺は昨日と同じく贖罪の街に向けて飛び立つのであった。

 もはや俺に自重という文字は無い。自分の出来ることは全力で遂行する。

 前回風に言うのであれば、

 

 

 いくぞ、現支部長―――――悪巧みの貯蔵は十分か。

 

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 1人、ソーマは廊下を歩く。

 考えることはリンドウがあの場に取り残されたときのこと。あの時、最近極東に配属されてきた自称新人の樫原仁慈が居なければ確実に全滅していた。 

 何故なら、あの場には接触禁忌アラガミがオウガテイルやザイゴート、コクーンメイデンのように沸いて出ていたからである。

 そして、それは―――――

 

 

 「クソッ!」

 

 

 

 ドン、とソーマは自販機の隣の壁を叩いた。

 

 

 何も悪くは無い。リンドウがああなったのは防ぎようが無かった。だが、あそこまでプリティヴィ・マータが集まらなければ、まだ手はあったかもしれない。

 考えても仕方ないと思いつつも、そう考えてしまっていた。

 

 

 「やぁ、ソーマ。随分荒れているじゃないか……いや、無理もないか」

 

 

 そう、耳に残る声で話しかけて来たのは、この前ソーマと一緒の任務で死に掛けたエリック・デア=フォーゲルヴァイデである。

 ソーマは、彼が近付いてきた瞬間壁から手を離すと、彼に対して背中を向ける。

 

 

 「なんのようだ」

 

 

 「そうつれない態度を取らないでくれたまえよ。僕と君の仲じゃないか」

 

 

 エリックはこの前死に掛けたことなんて気にしていないような風に笑いかけてきた。しかし、それがソーマにとっては何よりも辛いことであった。

 彼は他の神機使いとは少々異なる方法で神機使いになった。生まれたときから人類のために戦うことが約束された子。彼は、受精卵のときに偏食因子を投与された存在なのだ。そのため、通常の神機使いよりもアラガミに近く、多くのアラガミを呼び寄せることがあるのだ。

 そのことからソーマは極東内で死神と呼ばれ、恐れられている。ソーマによって誘き寄せられたアラガミに同行者が喰われてしまうからである。

 エリックもこの前その仲間入りになりそうだった。ソーマも彼のことは嫌いではない。自信過剰だが、妹想いのいい兄貴だった。だからこそ、自分なんかが一緒に居てはいけないと考えてしまう。

 

 

 「俺とお前の仲?フン、笑わせるな。別に俺はお前のことなどどうとも思っていない。むしろ、あの程度の雑魚に殺されそうになるなんて論外だ。お前も、自分の技量がわかっただろう。今後は俺に近付かないことだな」

 

 

 それだけ残して自室に戻ろうとするソーマ。しかし、エリックはそんなソーマの手を掴んで止めた。

 

 

 「まだ何か用か?」

 

 

 「……確かに、僕はあの時死に掛けた。君がどのように思われていて、そのことに君がどのような感情を持ち、どんな対応を取っているのか……そのことを知っていながら、無様をさらした」

 

 

 「…………」

 

 

 「だが、だからこそ、僕はあのような無様をさらすことは二度としない。我がフォーゲルヴァイデの名に懸けて、僕は必ず生き延びて見せる」

 

 

 「………そんなもの、なんの役に立つ。どれだけ強くても、死ぬときは死ぬんだ」

 

 

 「フッ、それでも足りないなら妹との買い物の約束だってかけてもいいよ!」

 

 

 自身満々にいうエリックにソーマは呆れてものが言えないくらいの表情を浮かべる。そんな彼を見てエリックは、

 

 

 「だから、君が僕を遠ざける必要は無いんだ。いいたいことがあれば素直に吐き出せばいい。どれだけ時間を共有したとしても、唐突な別れは訪れることはないのだから」

 

 

 「…………フン、勝手にしろ」

 

 

 「あぁ、そうさせてもらうよ。ついでに明日贖罪の街に行ってみようか」

 

 

 「1人で行け」

 

 

 そうエリックを振り払うソーマだったが、その表情はどこか嬉しそうであったと後にエリックは語り、ソーマにボコボコにされた。

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 贖罪の街に行ってみたが、昨日の今日だからかアリサさんが崩落させた壁はそのままの状態にされていった。でも、人も機材もあったのでおそらくこれから壁を取り除き調査……というか神機を回収しに行くのだろう。

 その調査隊に見つからないように、逆方向からちょうど教会のステンドグラスが割れているところに向かう。

 普通の神機使いの身体能力では届かない穴でも、肢体がアラガミと同じ俺には関係ない。神機を落とさないようにしっかりと握りながら両足に力を込めて、跳躍をした。

 軽々と穴の中に入り、あたりを見渡す。中にはアラガミの姿もリンドウさんの姿も彼の神機も何も無かった。

 

 

 まぁ、これは予想済みである。

 俺はもっと詳しく教会内を見回った。

 しばらくして分かったことだが、リンドウさんが死んでいる可能性が低いということだ。何故なら、教会内には血のあとが少ししか存在しないからである。その量は致死量には程遠かった。彼ほどの実力者であれば、丸呑みでやられる可能性は排除していい。彼の実力は、どんなアラガミでも一矢報生き残ることが出来るほどだ。

 どれだけ絶望的な状況になったって、丸呑みされる醜態はさらさないと断言できる。そもそも、アラガミは捕食を行うことが前提の生き物だ。丸呑みなんてしない。どうやっても対象を噛み砕く。この出血量は、それには到底届いていなかった。

 

 

 何処に行ったのか分からなくても、とりあえず死んでいないことが分かっただけでも十分な収穫だろう。

 壁を切り崩していく音が聞こえ始めたので、俺は早々に退散することにする。

 

 

 極東に帰ってから、俺はアリサさんの病室に行ってみることにした。

 どうやら、今は先生がいるためにギリギリ面会できるらしい。病室のドアを開き中に入る。すると、アリサさんの鎮静剤が切れたところだった。

 

 

 「……あ、あぁ……私、わた…し……。な、何を……?」

 

 

 しばらく自分の両手を見つめて放心していたが、すぐに何をしたのか思い出したのか、

 

 

 「あ、あぁ!ち、違う。違うの、そんなつもりじゃ……!あぁ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 目を限界まで見開き、頭をかきむしりながら絶叫する。彼女の絶叫を聞きつけてすぐに看護師が来て彼女をベットに押し付ける。

 しかし、アリサさんは止まらずベッドの上で暴れ続けていた。

 

 

 「パパ……ママ……違う…違うの!そんな……そんなつもりじゃなかったの!」

 

 

 看護師さんが叫び、急いで別の人が鎮静剤をうった。

 物凄く暴れていたアリサさんはそれで徐々におとなしくなっていき、落ち着いたように眠った。

 ……しかし、その表情は若干よろしくない。未だに苦しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 一瞬だけ安心させるように手を握り締める。すると、自分では見たことのないヴィジョンが頭の中に映し出された。

 そこには病室でアラガミの映像を見せられるアリサさんとそんな彼女に怪しげな呪文を教えながらリンドウさんの写真を見せている白衣だけをきた小汚いおっさんの姿。

 

 

 ―――――どう考えてもこいつが元凶です。本当にありがとうございます。

 

 

 確かこのおっさんはアリサさんと一緒にこの支部に来た主治医だったはずだ。で、彼らをこの支部に引き連れてきたのは現支部長のヨハネス………これは怪しいな。

 

 

 映像が途切れ、視界が元に戻る。

 アリサさんの表情を見てみると落ち着いているようなので、俺は看護師さんに挨拶をして病室を後にした。

 

 

 とりあえず、サカキ博士に報告からはじめるとしよう。

 

 

 

 サカキ博士の研究所に向かう途中で、ちょうどアリサさんの記憶と思わしきものに映っていたおっさんとすれ違ったのでありったけの殺気をすれ違いざまにぶつけておく。

 なんか、後ろで、六十キロくらいの荷物が地面に落ちたような音がしたが、気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 




アリサが感応現象で起きなかったのはレベルが違ったからです。一応、ブラッドは感応現象を利用した血の力を持っているので、そのあたりのことに関しては格が上かもしくはコントロールができるものだと考えています。
なので、情報は拾い上げることは出来ますけど、逆に仁慈から得る情報は少ないということにしています。今回の場合は、記憶などは見ずに、安心させるという感情のみを受けたために目覚めには至りませんでした。


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遭遇

仁慈「俺は自重を捨てたぞー!アラガミー!」


 

 

 

 

 

 

 「それは感応現象というものだよ」

 

 

 「感応現象……ですか……」

 

 

 アリサさんの記憶らしきものを見た状況をサカキ博士に話してみると彼は興味深そうに聞いた後、そう結論をつけた。

 感応現象というのは一応知ってはいる。ブラッドがブラッドたる所以の血の力もそもそもは感応現象を利用したものであるからである。しかし、新型同士が触れ合うことによって感応現象が起こり、お互いの記憶を覗き見ることができるという効果があるのは初めて知った。

 俺の居たところ……つまり、未来の極東支部において新型神機使いは第二世代とされており、そこまで珍しいものではなかった。もちろん、彼らと触れ合ったりしたこともある。しかし、感応現象なんてものは起こらなかった。何故、あのタイミングで発動したのかは謎である。おそらく、発動条件は新型同士ということ以外にもあるのだろう。普通に考えて触れるだけでそうなるなら日常生活に支障がでるし、ユウさんがアリサさんを背負っていたときも感応現象が起きていたようには思えなかった。

 

 

 「正直、感応現象についてはまだわからないことのほうが多い。どのような条件化で発生するのかも定かではないんだ。でも、君が見たのは間違いなく感応現象によるアリサ君の記憶であると断言しよう」

 

 

 「なら、アリサさんの主治医。オオグルマは警戒しておいてくれませんか?それで裏が取れたら俺に教えてください。……意地でも情報を引き出して見せますから」

 

 

 「……本当、君は一体何者なのかな」

 

 

 「前にもいったでしょう?それが答えですよ」

 

 

 それだけを口にして用が済んだサカキ博士の研究室を後にする。

 エントランスに来て見れば相変らずお通夜のような雰囲気が充満していた。リンドウさんの行方不明が与えた影響はやはり大きいようだ。

 俺はマジで不審者じゃないんだよね?と疑問に思うこと間違いなしの万屋にスタングレネードに必要な素材を注文し、それをパパッとスタングレネードに調合した後、自分の倉庫に突っ込み、自室に戻った。

 とりあえず、俺がこれからすることは任務と特務を受けつつ、オオグルマと彼とつながっていると思われる現支部長の尻尾を掴むことだな。万が一ばれて、命を狙われる結果になったとしてもそれはそれで堂々と支部長のところにいけるわけだし。

 

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――――

 

 

 

 

 今日の任務は仁慈が合流して行われた。

 アリサもサクヤさんも戦闘に参加できる状態ではないから取られた処置である。……確かに、今の精神面では簡単な任務すら達成することは難しいかもしれない。ソーマの表情もコウタの表情も優れていない。もちろん、俺だって未だ浅くないダメージを受けている。

 だからこそ、このなかで一番変わらない風に見える仁慈がいることはありがたかった。

 

 

 「………別に辛いならここで待っててもいいですよ?一人で片付けてきますから」

 

 

 何時もと変わらないのだろうか。

 これが何時も通りというのはそれはそれであれなのではないか。そう考えずにはいられなかった。

 

 

 「いや、そういうわけにもいかないでしょ。大丈夫だよ、切り替えはしっかりするさ。な?ユウ」

 

 

 「うん」

 

 

 「そもそも、新人のお前に心配されるほど落ちぶれてはいない」

 

 

 コウタ、俺、ソーマの順番で仁慈に言葉を返す。すると彼はフッと微笑んで失礼しましたと謝った。

 

 

 「無用の心配でしたね。では、はじめましょうか」

 

 

 そうして始まった任務。

 …………仁慈の言葉に嘘偽りなんてものは存在していないのだということを真正面から突きつけられた。

 

 

 今回の任務はコンゴウと小型アラガミの掃討というごくごく簡単なものだったはずなのだが、何故かアラガミの乱入が連続して行われた。まず一回目にシユウが四体現れた。それだけでも大分辛かった。ソーマが一体、コウタと俺で一体、仁慈が二体という不平等きわまりない分け方が行われたのだが、討伐した時間はほぼ同時だった。チラリ、と戦闘中に盗み見たけど捕食形態を利用しシユウをもう一体のシユウにぶつけてたりしていた。

 

 

 その発想は無かったと思わず考えてしまった。

 

 

 二回目の乱入はこの前倒したばかりのヴァジュラだった。新人神機使いの壁とも言われ、極東ではこれを1人で倒せるようになれば一人前として認められるらしい。しかし、今の自分にはみんなで協力して一体倒すことができた。

 それが二体同時に現れたのである。正直、リンドウさんのこともあって本調子とは言いがたい俺たち三人にとって最悪の相手である。そんな中仁慈は俺達のコンディションがついに戦闘できる状態ではないことを見抜いたのか、1人で相手をすると言い出した。ソーマも含めて全員で止めようとしたが、それをする前に2体のヴァジュラに向かっていってしまった。

 

 

 そして勝利を収めた。

 

 

 仁慈はアラガミのコアの位置をある程度把握しているのか、殆ど無駄な攻撃を行うことは無かった。

 ヴァジュラの電撃を避けるではなく神機で斬り裂くという離れ業をやってのけ、その後、前足を振り払うヴァジュラの頭上に位置を取り、空中で神機を捕食形態に移行して首元を捕食する。すると、捕食を喰らったヴァジュラは一瞬で動かなくなり、グズグズと地面に吸い込まれるように消えて行った。コアを捕食すると共にバーストモードになった仁慈はさらに強化された身体能力をフルに生かし、ヴァジュラの突進をすれ違うようにして避ける。何も唯避けるだけではない。死神を連想させる大鎌をヴァジュラのほうに向けてすれ違ったのだ。

 ヴァジュラの突進と仁慈の移動の力を乗せられたその大鎌はヴァジュラの体を見事にコアごと真っ二つにした。

 アラガミの突進と自分の推進力で物凄い負荷がかかった神機で表情を変えずにそのまま切裂いていくという異様な光景であった。そして何より、

 

 

 「あ、終わりましたよー」

 

 

 この笑顔である。

 一瞬で大型アラガミを葬り去ったにも関わらずこのさわやか笑顔。俺とコウタは思わず表情が引きつった。あのソーマですら冷や汗を流している。一応、この中では一番仁慈の実力を知っているつもりだった。出会ってすぐにヴァジュラを葬り去ったり、第二接触禁忌アラガミたちにも一歩も引かない立ち回り……どれをとっても驚愕に値したが、今回はなんというか、強い相手をどうこうしたとかではなく、手順とそれに対して慣れを感じる行動がなんともいえない気持ちを抱かせた。

 

 

 『え、えーと……迎えのヘリが付きましたよ』

 

 

 「わ、わかりました」

 

 

 ヒバリさんの通信に返事をすると俺たちは神機を担いでヘリが居るポイントに向かう。しかし、仁慈は一向に動く気配が無かった。

 

 

 「仁慈。どうしたー?」

 

 

 「先に帰ってて下さい。ちょっと用事を思い出しました」

 

 

 「えっ?」

 

 

 それだけ言い残すと彼は神機を担いだまま歩いていってしまった。

 

 

 「なんか、仁慈って時々ソーマよりわからないよな……」

 

 

 「聞こえてるぞ」

 

 

 「やべっ」

 

 ソーマとコウタのごたごたを聞きながら仁慈の背中を見つめる。確かに色々謎だらけな人物ではあるけど、悪人には見えないし何より………リンドウさんを置いて極東に帰って来たこととエリックさんが死に掛けたときの光景を鮮明に覚えている今だと、あの強さに憧れを抱いてしまう。

 

 

 あれほどの強さがアレば自分は何も失うことは無かったのではないかと、考えてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウさんたちに無理言って単独行動を取った俺は数分贖罪の街を歩く。

 ……ここに来たときからどこから監視されているような視線を感じている。先ほどまではアラガミが近くにいたからそいつらのものかと誤認していたが、どうやら違うようだ。そこらへんにいたアラガミを粗方片付けた今もその視線は俺に向かっている。

 

 

 「………さっきから見ているのは誰だ。隠れてないで出てこい。今なら殺さないでおいてやる」

 

 

 数分歩き回って、大体の居場所はつかめたので、その方向に向かって言葉を掛ける。数十秒間が出来たが観念したらしく、俺を見ていたものが姿を現した。

 

 

 「……………これは、マジか……」

 

 

 

 そして、出てきたものを見て俺は思わずそんな驚愕の声を洩らしてしまった。

 何故なら出てきた人物とは、服というか、適当に布を巻きつけたような格好をしている少女だったからである。その肌は色白というレベルを超越して白く、瞳の色は金色だった。

 

 

 何より、彼女の気配には覚えがあった。

 こうして正面から見てようやく思いだす。この気配は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――かつて俺が相手にしたアルマ・マータと同じもの、すなわち特異点と同じものだったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかのフライング出演


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感応現象

キャラ崩壊注意。
ついでにサブタイトル詐欺。


 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 

 「…………」

 

 

 いきなりの遭遇でなんというか……どうすればいいのか分からない。分からないが、ここで不確定要素は排除しておくべきか?

 彼女が特異点であることはまず間違いない。ならば、いずれにせよ終末捕食を起こす事態となりうるのだろう。ここで排除しておけばとりあえず赤い雨が降るまでの間、終末捕食が起きることはない。

 

 

 そんなことを考えながら彼女のことを見ていたからだろうか。彼女は唐突に体を震わせて、近くの物陰に隠れる。

 だが、俺から離れていくそぶりは見せず、じっと物陰に隠れつつ俺に視線を向けてきた。……一応、敵意にも該当する感情をぶつけていたはずなのに、あの対応はどう考えてもおかしいな。

 

 

 「ちょっといいかな?」

 

 

 「…………」

 

 

 とりあえず、言葉を使ってコンタクトを取ってみる。アラガミならアイサツより先にアンブッシュするが、特異点とはぶっちゃけ居ても居なくても不都合が生じるために唯排除すればいいというわけではないのだ(熱い手のひら返し)

 

 

 え?言ってることがさっきと違う?流石に、敵意の無い人型を殺すには俺も抵抗感があるんですよ……。まぁ、敵対関係と分かれば容赦なくヤるけど。

 

 

 「あー………もう敵意はない、よ?」

 

 

 「…………」

 

 

 神機をその場において両手を上げる。

 しかし、特異点の彼女は意味がわからないらしく壁から出した頭を傾けた。……そうか、いくら人型をしていたとしても彼女はアラガミかそれに限りなく近い存在。言語は通じないし、無防備サインを出したところで意味不明だろう。

 

 

 特異点の彼女はまったく反応しなかったのに、アラガミは無防備な俺に反応したらしい。俺の近くに姿を形成したアラガミ、コンゴウは神機を持っていない俺の姿を見てドスドスと突進してきた。

 

 

 そんなお馬鹿なコンゴウの突進にあわせて軽くその場で跳躍。ちょうど俺が居た位置にコンゴウが来たとき、その頭を掴んで地面に叩き付けた。

 重い音を響かせながら地面に陥没するコンゴウ。その背中に踵落しを食らわせて背中についている空気を出すパイプをぶっ壊す。結合崩壊で苦しむコンゴウの隣においてある神機をひょいと拾い上げて結合崩壊しているところに神機を捻り込むように入れる。そこからは何時も通り、体内で捕食形態にして中身を喰らい尽くす。ついでにコアも食べておく。

 

 

 アンブッシュをかまそうとした不埒者を倒し、再び特異点の彼女に視線を向けると、そこに彼女は居なかった。

 いつの間にか俺の隣まで来ていた。

 

 

 「うぉ!?」

 

 

 まったく気付かなかった。

 彼女に敵意が無かったからよかったもののアラガミだったら即喰われて死んでいた。

 若干冷や汗ものの体験をした俺とは違い特異点の彼女は暢気に俺の神機を覗き込んでいた。もしかして、特異点だから今喰らったコンゴウのコアが欲しかったりするのだろうか……。

 

 

 「………」

 

 

 「…………(クイクイ」

 

 

 あってるっぽい。

 俺の袖を引っ張り何かを訴えるように上目遣いで俺を見る。

 

 

 ……ここで、餌付けしておいたほうが後々よい結果を残すかもしれない。

 神機を捕食形態にして、先ほど捕食したコアを吐き出させる。

 すると特異点の彼女はそのコアをおいしそうに食べた。……特異点はその性質上アラガミのコアしか捕食しないのか。

 さて、そろそろ戻らなくてはユウさん達が俺を探しに来てしまうだろう。コアを食べ終わって満面の笑みを向ける特異点の彼女の頭に手を乗せて優しく撫でる。

 

 

 「じゃ、俺はもうそろそろ行くとするよ」

 

 

 その後、俺はそれだけ言うと迎えのヘリがいるところまで向かう。ちょっとだけ後ろを振り返ってみると、特異点の彼女が笑顔で手を振ってくれた。

 

 

 それを見て、俺も小さく振り返した。

 

 

 

 ………頭に手を触れたときに完全に彼女の気配を覚えた。これで次からはもっと接触しやすくなったはずだ。このことはサカキ博士に報告だけしておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 極東支部に帰ってから、サカキ博士に軽く特異点を見つけたとだけ報告した。

 

 

 「そ、それは本当かい!?」

 

 

 「まず間違いないでしょう」

 

 

 「で、その特異点は今一体何処にいるんだい!?」

 

 

 「さぁ?」

 

 

 俺の気の抜けた返事に珍しくサカキ博士はずっこけた。なんかすごい面白い。

 

 

 「あのね……この件はとても大事なことなんだよ?一歩間違えれば、人類の滅亡につながるんだ」

 

 

 「えぇ、身をもって知ってますよ。しかし、問題ありません。特異点の気配はしっかりと覚えています。近くに行けばどのあたりにいるのかわかりますし、一応餌付けもしておいたので、次に俺を見つけたときは向こうから来ると思いますよ」

 

 

 どうやら、向こうは同属意識を持っていたみたいだし。

 餌付けもしておいたから今回よりも好意的に来るだろう。

 

 

 「そ、そうかい?」

 

 

 「今確保しても、逆に支部長に確保される可能性のほうが高いですよ」

 

 

 「確かにその通りだね。まずはあの部屋を作ることが何よりの急務だ」

 

 

 あの部屋とは、中のものを完全にシャットアウトすることが出来る部屋のことである。それさえあれば俺達が特異点を確保して、かくまっても向こうからは見つけることが出来ないという仕組みだ。

 

 

 「出来たら教えてください。特異点の元に案内しますので」

 

 

 「あぁ、わかったよ。……そういえば、ロシア支部からヨハンが連れて来た新型君の主治医の身元がわかったよ。……君の予想通り、オオグルマダイゴという精神科医は存在しないらしい」

 

 

 「やっぱりですか」

 

 

 サカキ博士の予想通りの言葉に俺は軽く返事を返す。

 彼は現支部長ヨハネスが目をつけてアリサさんにつけたのだろう。ロシアにいたときから色々手を回していたのかね。

 

 

 「それにしても、よく彼が正規のものではないとわかったね。新型君の記憶から見たのかな?」

 

 

 「簡単なことですよ。白衣さえ無ければ浮浪者みたいな外見ですし、何より……患者の前でタバコを吸うやつが医療に携わっているわけがないですから」

 

 

 「なるほどね」

 

 

 「じゃ、今からアリサさんのお見舞いに行ってきます。単純に気になるし、もしかしたら感応現象を通して新たな情報を手に入れることが出来るかもしれませんから。あ、あとオオグルマの身柄確保しておいてください。後で聞くことがあるので」

 

 

 それだけを言い残し、アリサさんが眠っている病室を目指す。今は鎮静剤の効果で寝ているらしく前回のように暴れることなくおとなしく布団で眠っている。

 そういえば、アリサさんの評価は思いっきりがた落ちなんだよなぁ……。元々高圧的な態度だったし、リンドウさんの消息不明に一枚噛んでしまったし、これからどうなるんだろうか。何をどうやったらあんなにまともな人になるんだろうか……。

 

 

 そんな事を考えつつ、彼女の手に触れてみる。

 すると前回と同様に彼女の記憶が流れてきた。

 かくれんぼのようなものをする小さい頃のアリサさん。

 それを探しにきた彼女の両親。

 そして最後に、両親を目の前で食べたディアウス・ピター。

 

 

 彼女の嘆きを最後に場面が入れ替わる。

 今度は彼女がオオグルマに仕込みを受けているときの映像だった。

 

 

 ……なるほど、彼女がリンドウさんを狙ったのはこういう理由か。典型的な催眠術による刷り込みか。

 精神が不安定のときに受けたから余計に強力な効果を発揮したんだな。それを考慮すると、咄嗟にリンドウさんから弾を外したのはかなりすごいことだ。

 

 

 彼女の記憶を狙って盗み見るという若干……いや、十分外道といわれること間違いない行動をしつつ、そこから得た情報を吟味する。十中八九現支部長の差し金だろうなぁ。オオグルマを用意したのも彼だし。まず確定。

 アリサさんに直接殺させる気だったな。それで死体はあの場に集まったアラガミに実行犯共々食べてもらおうと思った、という感じか?

 ……でも、それなら特務として俺をあの場に突っ込む必要はない。もしかして、俺もついでに始末しようとしたか?

 

 

 もし、そうだとしたら今後も狙われる可能性がある。アリサさんのほうも彼らにとっては未だ利用価値のある人間だ。手綱は向こうが握っている以上、オオグルマはさっさとこちらで抑えておいたほうがいいかもしれない。

 

 

 そこまで考えていると、アリサさんがパチリと目を開けた。一瞬暴れるかと思ったが、彼女の瞳はしっかり焦点が定まっていた。普通に正気らしい。

 

 

 「あれ……私は……」

 

 

 「目が覚めましたか」

 

 

 声をかけると彼女がこっちのほうを向く。

 そして俺と認識したとたん何故か顔を赤くした。なんでや。

 

 

 「あ、あの……手」

 

 

 あぁ、手を握ってたのが恥ずかしかったのか。

 すぐさま手をはなして彼女に謝罪する。謝罪は鮮度が大事だ。後、完成度。

 

 

 「い、いえ。別に嫌ではありません。………私を心配していたという感情がちゃんと伝わってきましたので」

 

 

 情報収集も多少入っていた身としてはとても申し訳なくなるな。その表情は。

 

 

 「この前も、こうして手を握ってくれていたのは貴方だったんですね」

 

 

 「あれ、覚えているんですか?」

 

 

 「いえ、覚えてはいません。唯、まるで両親に抱きしめられているような……落ち着くような感情が流れてきたことは覚えています……今回と同じように」

 

 

 「そんなに老けてますかね……」

 

 

 確かにナナのときも、そんな感じだったけどさ。

 

 

 「でも今回はそれだけではありませんでした。貴方の昔の記憶も少しだけ流れてきました」

 

 

 マジか。

 それはものによってはかなり不味いぞ。

 もし、未来のこととか、そうじゃなくても俺が半アラガミとか特異点についさっき会いましたとかが知られたら物凄く厄介だ。

 

 

 「スタングレネードを片手にアラガミから逃げつつ、食料を確保する……そんなときの記憶……」

 

 

 なるほど、樫原仁慈の記憶(俺のほう)じゃなくて仁の記憶(そっちのほう)だったのか。それならギリギリセーフだな。

 

 

 「貴方も、そうなんですか?」

 

 

 アリサさんにそう聞かれたため俺は正直に見たものを話す。

 すると彼女は自身のトラウマについて教えてくれた。

 

 

 ちょっとした出来心で両親を困らせてやろうと、隠れたこと。

 両親が探しに来たときにアラガミが現れたこと。

 自分はそのアラガミに怯えて出ていけなかったこと。

 神機使いとなって両親の敵が討てると思ったこと。

 自分でもどうしてリンドウさんを狙ったのかわからないということ。

 それら全てを話してくれた。

 

 

 「あの時……あの時、もっと早く私が出ていれば、パパとママは……ッ!」

 

 

 「……厳しいことを言うようだけど。その時、アリサさんが出て行ったとしても両親と一緒に食べられていただけだと思う」

 

 

 「それでも……それでもよかったッ!1人ぼっちで残されるくらいなら、一緒に死んだほうがよかった!そうすれば、リンドウさんも……!」

 

 

 「そんなこと言わない。それを言っちゃったら、誰よりもアリサさんのお父さんとお母さんが悲しむ」

 

 

 俺の言葉にピクリと反応を示す。

 

 

 「確かに、1人残されたほうは辛い。悲しい。寂しい。……けど、それでも、アリサさんの両親は生きていて欲しかったと思う」

 

 

 「そんなのわからないじゃない!もしかしたら、私のことを恨んでいるかもしれない。憎んでいるかもしれない!」

 

 

 「なら、俺が言おう」

 

 

 ここで、言葉を切ってアリサさんの手を握りつつ、言葉を紡ぐ。

 

 

「………生きていてくれて、ありがとう。死なないでいてくれてありがとう。こうして俺と言葉を交わしてくれて、触れ合ってくれて……ありがとう」

 

 

 最後まで言い切ると、アリサさんの目には涙が浮かんでいた。

 

 

 「あ、あぁ……うわあああああああああああああああ」

 

 

 涙はすぐに零れ落ち、彼女は俺に抱きついてきた。

 俺は黙ってそれを受け入れて、抱き返す。

 

 

 きっと彼女には甘えられる人が居なかったんだろう。頼れる人、支えてくれる人がいなかったのだろう。今まで1人で頑張ってきたのだろう。だからこそ、そんな頑張ってきた彼女が今まで我慢した分の涙を出し切るまではこうして安心させてあげようと、背中をポンポンと叩きつつ思った。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――病室の外からこちらをのぞいているオオグルマに殺気をブチ当てながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まぁ、私が書ける物はこんなもんですよね。
あ、文句は受け付けませんので。


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これからが本当の地獄だ

アラガミが地獄を見る前準備……そんな感じの話です。


 

 

 

 アリサさんが落ち着き、再び眠りに入ったのを確認すると俺は外でぶっ倒れていたオオグルマを担ぎ上げてサカキ博士の研究所へ持ち帰る。そんな俺を見てサカキ博士は相変らず仕事が早いねとでもいいたげな表情を浮かべた。

 今回のは別に狙ってないんですけどね。

 

 

 「サカキ博士。ちょっと奥の部屋借りますね」

 

 

 「別に構わないけど……何をする気なんだい?」

 

 

 「ちょっとばかし、話を聞かせてもらおうかとおもっただけです」

 

 

 奥の部屋に入ると俺はオオグルマの肢体を拘束して、ぶら下げる。これで逃げようとしても逃げられない。

 後は尋問のための道具をいくつか用意した後、オオグルマの頬にビンタを一発かまして寝ているこいつを文字通り叩き起こす。

 

 

 「グブァ!?」

 

 

 オオグルマは汚い叫びを上げた後、ぐったりとした。どうやらビンタ一発では起きれなかったらしい。

 仕方がないのでさっきとは逆の頬を加減をしながら叩く。今度はうまく行ったようでオオグルマはしきりに周囲を見渡した後俺を睨みつけてきた。

 

 

 「こ、これは一体どういうつもりだ!?」

 

 

 「尋問」

 

 

 「即答だと!?………まぁ、いい。君、こんなことをして唯で済むとおもっているのかね?私は貴重な新型神機使いの主治医だ。私が居なければ、アリサは使い物にならなんだぞ」

 

 

 「仲間を攻撃させるようなカウンセリングを行う無能な主治医なんて、必要ないとおもいませんか?」

 

 

 ピクリと体が反応する。

 必死に隠そうとしているようだが、長年外面だけはいい車椅子のマッドと付き合っていた俺からすればお粗末なものだ。何故知っているという驚愕がありありと見ることが出来る。

 だが、それだけではないようだ。……どこか心当たりがあるようにも見える。サカキ博士も知っていたし、オオグルマも感応現象のことを知っていたとしても不思議ではないな。

 

 

 「な、何のことか、わからないな」

 

 

 「あ、別にそういうのは求めてないのでいいです。話さないなら直接体に聞くので」

 

 

 「な、何をする気だ!ハッ!まさか……私の体に乱暴する気か!エロ同人みたいに!」

 

 

 「(無言の腹パン)」

 

 

 「グボァ!?」

 

 

 何気持ちの悪いこと言ってんだこの汚っさん。

 むしろ、自分のほうこそそっち方面でよく出てきそうな顔の癖に。というか大活躍の癖に。

 ゲホゲホ咳き込んでいるオオグルマの顔をアッパーすることで上を向かせる。

 そして、彼の前にサカキ博士の部屋で余っていた鋼鉄を目の前にみせる。

 

 

 「おい、ここに鋼鉄があるじゃろ?」

 

 

 「ゲフ……ゴフ……?」

 

 

 「これを、こうじゃ(グシャ」

 

 

 目の前に出した鋼鉄を握り締めてバラバラにする。それを見てオオグルマは驚愕した。まぁ、普通の神機使いに出来ることじゃないからな。だが、驚くのはまだ早い。

 

 

 「これがお前が何も話さなかった場合の結末だ」

 

 

 「!?」

 

 

 自分の結末をありありと見せつけたのが効果的だったらしい。

 驚愕に染まっていた表情は、一気に真っ青になった。

 

 

 「さて……40秒だけ時間をあげよう。それ以上は、お前が鉄屑になるとおもえ」

 

 

 「こ、こんなことが許されるとお、思って……ッ!?」

 

 

 「別に処理の方法ならいくらでもある。このご時世、人を殺しても不思議じゃない化け物がうじゃうじゃいるからな」

 

 

 サカキ博士もこっち側だし。最悪、夜に縛り上げたコイツを外に放置すればそれで終了だ。元々、枠はないところに支部長が手を回して添えた人物だからフェンリル本部にはばれないし、オオグルマを知っている人たちには不慮の事故で死んだとでも伝えておけばいい。

 現支部長も、そこまでコイツに思い入れがあるわけじゃないから、庇って損する状況なら容赦なく切り捨てるだろう。どちらにせよコイツは終わりだ。

 

 

 「さぁ、どうする?このまま話して楽になるか、アラガミの餌になるか……二つに一つだ」

 

 

 「………わかった、分かった。私の知っていることを全て話す」

 

 

 「ついでに、情報を吐いたらこの支部から出て行け。お前の逝き先はこちらで用意してやる」

 

 

 「わ、わかった……」

 

 

 そうして俺はオオグルマからリンドウさん襲撃の真相を聞き、彼に細工をした後、彼を解放した。サカキ博士に借りた部屋から出つつ大きく体を解した。尋問なんて久しぶりにやったから疲れたわ。

 

 

 「……ところで仁慈君。君の言う手配というのは……」

 

 

 「もちろん、貴方が行うんですよ博士」

 

 

 「……私は星の観測者(スターゲイザー)だから、あまり手を出したくはないのだがね……」

 

 

 「星を観測するためにはそれ相応の準備が必要でしょう?今回もその一部ですよ」

 

 

 「本当に星を観測しに行くわけでは……」

 

 

 「いいから、やってください。サカキ博士だってあのおっさんは早く追い出したいでしょう?」

 

 

 「………仕方ないか。私が行うはずだった特異点の確保は既に目処が立っているし、いいだろう。しかし、あのまま普通に離してよかったのかね?普通なら、ヨハンに報告されそうなものだが」

 

 

 「大丈夫です。それをすれば、あいつの命はありませんから」

 

 

 「何……?」

 

 

 「これでも汚い仕事の経験はいくらかあるので」

 

 

 ニコリと微笑みながらサカキ博士に言う。

 俺やリンドウさんの体を調べて実験するために、他から送られてきた神機使いや研究員を秘密裏に処理したこともあるからね。

 

 

 「………今ほど、君が味方してくれてよかったと思った事はないよ」

 

 

 「お褒めに預かり光栄です」

 

 

 

 

 

 ――――このときサカキは、何があっても彼とは敵対しないと心に誓ったという。

 

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――――――

 

 

 

 サカキが用意した車の中、極東支部から無理矢理追い出される形となったオオグルマは懐から携帯を取り出した。

 自分がアリサから引き離されたことで、彼女はもう使い物にならなくなったことと自分を追い出した仁慈の存在をヨハネスに知らせるためだ。

 ヨハネスの番号を押し、電話を掛けようとしたとき、急に自分の体から激痛が走った。あまりの苦しさに車の中でのたうち回る。

 

 

 そう、これこそが仁慈が行った対策。

 彼はオオグルマを解放する際にもう一度だけ失神(物理)をさせて自分の血を一滴オオグルマの体内に送っていた。

 もちろんその血は彼の腕から出たもの……それすなわち、殆どオラクル細胞とも言っても過言ではない。一応、人間の部位の代わりとして機能しているため通常はこのようなことは起こりえない。しかし、仁慈は自身の血の力である喚起を使い、オオグルマの中にある自分のオラクル細胞を活性化させたのである。

 活性化したオラクル細胞はオオグルマの体内をどんどん捕食していく……それが、彼の感じている激痛の正体である。

 

 

 ここまでタイミングよく喚起を使ったのはオオグルマが使っている眼鏡にサカキ博士(未来)が作り出した小型盗聴器をつけたからである。

 サカキ博士(未来)はこれを使って人の弱みを握り時々自分の研究を手伝わせていた。これはその時仁慈が押収したものである。

 

 

 「ガッ……ア、……ア……」

 

 

 こうしてオオグルマダイゴという人物は、アラガミになることでその生涯を終えた。

 そして、それを感知した仁慈によって捕食され、彼がどうやって死んだのかは永久に分からなくなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石に俺の細胞は野放しに出来ないから仕方ないよね。

 元オオグルマ、現アラガミをさくっと丸々捕食した俺はそう考えつつ極東に帰って来た。サカキ博士はどん引きである。

 しかし、上に立つものであれば大体持っている技能だ。何を生かし何を切り捨てるか……それを判別し、実行に移すことはごく当たり前である。

 

 

 その翌日。

 アリサさんが復帰したらしい。

 先ほど、ユウさんとコウタさんに報告しているのを見た。アリサさんの影口を叩いていた神機使いもいるが、身から出た錆なので放置。

 彼らを見返すにはそれ相応のことをしたほうが一番早い。時には口で説明するより行動したほうがいいこともあるからね。

 

 

 出撃ゲート近くから聞こえてくる会話を聞きながらそんなことを考えつつ、階段を下りる。すると、俺の後ろからドタドタと何かが追ってきた。

 振り返るとそこには復帰したばかりのアリサさんが居た。病衣よりも露出度が高い格好に相変わらず痴女疑惑が俺の脳裏を掠めるが気にしないようにしつつ話しかけた。

 

 

 「えっと……どうかしました?」

 

 

 「……実は私。戦い方をまた1から学ぼうと考えていて……その指導をお願いしたいんです。今度こそ、本当に自分の力で大切な人を守りたいんです」

 

 

 彼女が言った言葉にちょっとばかりびっくりする。

 いくら俺が彼女を慰めたからといって、戦い方を教わるレベルにまでになるとは……。

 と、俺が考えていることを悪い意味に捉えたらしいアリサさんは不安そうな顔でこちらをのぞきこんできた。

 

 

 「もしかして、ご迷惑でしたか?貴方も、私みたいな人と一緒にいるのは……嫌ですか?」

 

 

 ヤバイ。彼女を不安がらせるのは得策とは言えない。俺は急いで彼女の言葉を否定した。

 

 

 「そんな事はありませんよ。少々驚いただけです」

 

 

 「でも……」

 

 

 えぇい、さっきの陰口を聞いて若干ナーバスになっているのか。

 

 

 「大丈夫です。それに言ったでしょう?生きていてくれてありがとう、と。アリサさんのことをいなくなって欲しいなんておもいませんよ」

 

 

 精神が不安定ならば安心させてあげなくてはならない。彼女の場合は過去の記憶とリンドウさんのことで自分が生きていていいのか疑問に思っている。それを解消するにはその人の事を必要だとしっかり伝えることが出来る人が必要だ。

 

 

 「……そうですか」

 

 

 「はい。それで、指導の件でしたね。もちろんいいですが……結構厳しいですよ?」

 

 

 

 安心して微笑むアリサさんにそういうと、彼女は表情を引き締めてコクリと頷いた。とりあえず、簡単なものをひとつ受けようかと移動する。

 すると今度はユウさんも俺のことを追いかけてきた。

 

 

 「ねぇ、仁慈。その指導に俺も参加していいかな?」

 

 

 「ユウさんもですか?」

 

 

 ぶっちゃけ、ユウさんは教えなくても十分に化け物になるとおもうんだけど。というか現在もめきめきとその片鱗を見せていると評判だけど。この前も、ボルグ・カムランとクアトリガを討伐したらしいし。

 

 

 「うん。やっぱり、行動の模倣だけでは限界があるからさ……」

 

 

 何このひとこわい。

 そこまで一緒に任務を受けたわけじゃないのに、それだけで俺の動きを模倣しただと?

 この人本当に唯の神機使いだよね?俺と同じく半分以上アラガミとかそんなんじゃないよね?

 まぁ、断る理由もないのでユウさんの同行を許可した。

 

 

 こうして、新型神機使い三人によるアラガミ殲滅方法を身につけるための特訓が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アリサ「(彼なら安心するし、強いしこれ以上ない人ですよね……)」
仁慈「(アレだけで俺の動きを模倣するとか流石すぎる……すぐに教えることなんてなくなるんじゃないかな)」
ユウ「(ダメだ……模倣じゃ彼にはたどり着けない……これを機に俺もみんなを守れる力をつけなければ……)」


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仁慈君のパーフェクト殲滅教室(対アラガミ編)

この設定はこの小説独自のものです。
公式と違っても見逃してください。
致命的に間違っているのであれば、ご報告ください。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、新型神機使い三人による特別訓練が開始した。

 生徒はユウさんやアリサさんといった期待の新人達、教官は畏れ多いことにこの俺、樫原仁慈である。

 未来を知っていればまったく考えることが出来ない配役である。というか、本来なら俺よりもすごくて年上の人に教えるんだよな……なんか色々違和感あるわー。

 

 

 喉に魚の小骨が引っかかっているような違和感を覚えつつ、嘆きの平原にやってきた。今回はアリサさんのリハビリもあるので比較的簡単な任務から受けようと考えたのでターゲットはシユウ一体である。アリサさんはシユウに一杯食わされたこともあるので丁度いいだろうしね。

 何時ものように高台から飛び降りると、コホンと咳き込みながらユウさんとアリサさんに向き直る。

 

 

 「それでは今から樫原仁慈のパーフェクト殲滅教室を始めます」

 

 

 「どっかで聞いたことあるようなタイトルですね」

 

 

 「なんかバカっぽいなぁ……」

 

 

 この叩かれようである。

 そんなにダメだったか……名前の感じはともかくゴロはよかったと思ったんだけどな。

 

 

 ユウさんとアリサさんのだめ出しに若干傷つきつつも何とか立ち直り、今回のターゲットであるシユウの捜索を開始する。

 三分ほど遮蔽物もない平原を歩くと、ビルの角に捕食を行っているシユウを見つけた。その姿を確認したユウさんはすぐに戦闘態勢を取り、アリサさんも久しぶりの実践で戸惑いつつも、シユウに視線を固定する。

 俺はここで戦闘術の第一を口にした。

 

 

 「はい、ではここで殲滅術の一番基本的なことです」

 

 

 俺の声にいったん戦闘態勢を崩し、耳を傾けてきた。彼らがしっかりと聞いていることを確認した俺は言葉を紡ごうとして……耳につけてる通信機から聞こえてきたヒバリさんの声が聞こえた。ん、丁度いいな。

 

 

 『大型アラガミがそちらに向かっています。目標の到着時刻は三分後です!』

 

 

 「……このように極東ではよくアラガミが乱入してくるので、迅速な討伐を心がけましょう」

 

 

 「………」

 

 

 「………」

 

 

 

 どうやら今までこのようなことは少なかったのだろう。リンドウさんと行った任務の二回くらいか、想定外のアラガミの乱入は。

 俺の場合、体の関係上割と仕方ないところもあるから心構えも出来てるけど、別に俺と一緒に居ないからといってアラガミが乱入しないわけではない。むしろ、ここが極東である以上乱入の可能性はかなり高い。心構えは結構重要である。

 

 

 

 「次に、固体ごとにコアの位置を把握しましょう。先ほどもいった通り、極東では迅速にアラガミを倒すことが最も好ましい戦い方です。その一番の手がコアを抜くことです。この辺の知識はサカキ博士から習っているでしょう?」

 

 

 ユウさんとアリサさんが頷く。

 アラガミにとってコアは心臓のようなものだ。一応、ダメージを与えまくれば形を維持できなくなって倒すことは出来る。しかし、それでは時間がかかるし、こちらの疲労も大きい。

 一撃で倒せる場所が存在するなら積極的にそこを狙うべきだ。

 

 

 「理論上はそうですが、コアの位置なんてわかるんですか?」

 

 

 「ある程度の予想をつけることは可能です。例えば、中型から大型はそれぞれ結合崩壊を起こす部分がありますよね?基本的にその近くにコアはありません。自身の弱点をそんな脆いところに隠すはずがありませんからね。例外として、今回相手するシユウの場合は、頭の結合は大して強固でもないのにかかわらず胴体の真ん中……人で言うところの鳩尾に位置しています。これはあえて頭の結合を脆くし、胴体の強度を上げているのでしょう。体が比較的に人に近く、その分特定の武部に受けるダメージ量が他のアラガミに比べて多いため、このように特化したのだと考えられます」

 

 

 俺の言葉を何処からか取り出したメモ帳にメモしていくアリサさん。ユウさんのほうもうんうんと頷いていた。

 さて、戦闘前の講義はこのくらいでいいだろう。

 知識も大事だが何よりそれらを実践できなければ宝の持ち腐れだから。

 

 

 「では、今いったことを踏まえてあのシユウを倒してください。あ、一撃で決めることが理想とは言いましたが、それに囚われて無駄に体力を消費するのは本末転倒なので、焦らずじっくりやってくれて結構ですよ」

 

 

 俺の声を聞いて二人が弓から放たれた矢のように素早くシユウへ接近する。戦闘方法は格闘の達人っぽいのに気配に疎いことと盲目に定評のあるシユウ=サンはまったく気付いておらず、アイサツ前のアンブッシュを見事に喰らうハメとなった。

 ユウさんとアリサさんがほぼ同時にシユウの背中に斬撃を放つ。クロスして放たれた攻撃はその重なった部分がシユウの背中に僅かな切れ目を作った。

 どうやら2人の攻撃が重なったところは強化した装甲でも防ぎきれなかったらしい。シユウはその衝撃でよろける。これで仕込みは十分だ。

 アリサさんは卓越したエイムで、切れ目の入った部分にピンポイントでオラクル弾を当ててその切れ目を大きくする。

 よろけから復帰したシユウは、先程から攻撃を行うアリサさんに狙いを定めて彼女に向かった走っていくが、ユウさんがそんな事を許すわけがない。

 自分が視界から外れたことをいいことにあっさりとシユウの背後を取ると、切れ目に神機を突き刺す。そこから、捕食形態に移行し中にあったコアを引きずり出した。

 

 

 ………もう習得しちゃったよ。俺の教えること殆どなくなったじゃないか。アリサさんに厳しいぞ(キリッとかやったのにこれである。

 ズジャァァァァと地面を滑りながらその形状を崩す愉快なシユウを見つめながら俺はそう考える。

 流石は元祖スーパー極東人。俺の動きを数回の任務だけで模倣したびっくり人間。単純な神機使いということを考慮すれば俺なんか足元にも及ばないくらいの化け物っぷりだ。アリサさんも、久しぶりの実践だというのに正確に、連続で傷に弾を当てるということをやってのけた。やはり、精神が安定した彼女は強い。芯がしっかりとしたことにより戦闘にもその影響が出てきたか。

 

 

 「なるほど」

 

 

 「確かにこれは早い……戦い方を少し変えるだけでこんなに早くなるものなんだ……」

 

 

 こんなに早く戦い方を変えてアラガミを倒せること自体がおかしいんだけどなぁ……少なくとも、自分のスタイルを体得しているであろう期間、実践で戦ってきたユウさんはなおさら難しいはずなんだけど……俺の模倣しているくらいだし今更か。

 

 

 そう考えていると、ヒバリさんが言っていた大型アラガミが姿を現す。

 お相手は今極東で旬のボルグ・カムランである。

 ……ふむ、ついでに未知の敵に対する戦い方も伝授しておこう。というかそれくらいしかもうない。第一回目の開催にしてこのザマである。

 

 

 

 「お2人は、ボルグ・カムランと戦ったことありますか?」

 

 

 「俺は一回だけ」

 

 

 「私はありません」

 

 

 「ふむふむ……では次に未知の敵に対する戦い方を教えますね。一番大切なのは観察です。既存の敵なら先程のように一撃で処理することが出来ますが、未知の敵の場合は止めましょう。まずは相手の出方を見て、どのような攻撃を行ってくるか……これを見るのです」

 

 

 「それは、先程の迅速な対処と矛盾しているのでは?」

 

 

 「未知の敵と対峙する場合、この観察を入れることが一番討伐できる確率が高く、早いのですよ。結果的にはね」

 

 

 そこまで、言うとボルグ・カムランが両手を合わせて盾をつくりそれを前に押し出しながらこちらに走ってきていた。

 俺たちは左右にステップを踏むことでそれを回避する。回避されたボルグ・カムランはその足を止めて、尻尾を下ろしてその場で一回転した。

 アリサさんはシールドでガード。対戦経験のある俺とユウさんは跳躍することでその攻撃を回避する。

 

 

 その後もしばらくは近付いたり遠ざかったり跳躍して上から攻めてみたりしながらボルグ・カムランの動きを観察していく。それが終われば今度はこちらの番である。結合崩壊も起こしやすい足を集中的に狙ってボルグ・カムランを転ばせると、無防備に空いた口の中に三人同時に神機を突っ込む。そして何時もの体内捕食。これしか攻撃方法がないのかといわれるかもしれないが、ぶっちゃけこれが一番有効である。

 どれだけ外壁が堅くとも、中身まで固いやつはそういないからな。

 

 

 無事、ボルグ・カムランを葬った俺たちはヒバリさんから連絡を受けて迎えのヘリを待つ。

 

 

 「まぁ、他にもいくつか小技がありますが、大体こんな所ですかね。どうでした?」

 

 

 「結構ためになったよ。自分では考え付かない戦いかたばかりだったけど……なんか、実践の元で最適化された戦い方って感じだ」

 

 

 「同感です。私も教えられてきたものとはまったく違いますが……なんかこちらのほうが体になじみます」

 

 

 「ためになったのならよかったです」

 

 

 満足げな2人を見て俺も胸をなでおろす。

 普通にアラガミ相手にするときより疲れたなぁ。でも、何かためになったのならよかった。ユウさんやアリサさんが強くなることは将来的にかなり大きな利益を生むしね。

 

 

 

 

 そんなことを考える俺だったが、後にこの2人がこのことを極東中に言いふらし、俺が後々極東の神機使いの殆どに仁慈君のパーフェクト殲滅教室を開くことになるとはこのとき欠片も考えていなかった。 

 

 

 

 

 

 

 

 




アリサ「そういえば、小型アラガミの場合は何処にあるんですか?」
仁慈「大体胴体の中心部ですね。他の場所では、多少深く入った瞬間に当たってしまうので」
ユウ「でも、仁慈はこのことをどうやって知ったの?」
仁慈「試しました」
ユウ&アリサ『全部自分で(ですか)!?』


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トラウマなんてなかった

ちょっと今回の話はごちゃごちゃしてますがお許しください。


 

 

 

 仁慈のパーフェクト殲滅教室から数日。生徒役を務めていたユウさんとアリサさんの評価はまた違うものとなっていた。

 ユウさんの場合は、唯でさえ化け物のような強さを持っていたのに、受ける任務を殆どが十分以内で済ませてくるという速さまで身に付け始めたため「ような」という言葉が消えて化け物となった。断言である。今ではリンドウさんに匹敵するくらいではないかと噂されていた。

 

 

 そして、もう1人のアリサさん。今は亡きオオグルマの所為でリンドウさんを行方不明にしたことと、着任当時の高圧的な態度で嫌われていた彼女もまた、恐れられていた。

 

 

 before

 

 

 「例の新型神機使い。実践で戦えなくなったんだってよ」

 

 

 「プッ、何それ!アレだけえらそうなこといっておきながら結局口だけかよ!」

 

 

 after

 

 

「仁慈さーん!今日の実地での訓練、うまくいきました!コンゴウ四体とかボルグ・カムランとか来ましたけど、普通に倒せましたよ!これも貴方のおかげです!」

 

 

 「やだ、何これ……」

 

 

 こんなもん。

 高圧的な態度がなくなっただけでも他の人たちにとっては衝撃ものなのに、それが自分たちをはるかに超える実力をつけて帰って来たのだ。

 数週間の入院というハンデがあってこれである。そりゃ恐れるだろう。

 

 

 2人の現状はこんな感じだが、実は俺のほうにも進展があった。どうやら現支部長は俺の働きを色々評価してくれているらしく、特務を積極的に回してきている。最近、特務の量が増えているのだ。

 対象は基本的に新種のアラガミやその堕天種たち……このことから考えるに、どうやらコアだけでなく俺にアラガミの攻撃方法や習性なども確認させるためということもあるのだろう。

 極東ではここ一ヶ月で今まで見たこともなかったアラガミ達が増えているから、当然の処置かもしれない。

 

 

 他にも進展したことがある。それは、その特務のとき時々あの特異点の女の子が俺に会いに来るのだ。どうやらこちらが彼女の位置をある程度把握できるのとは違い、向こうは俺の場所が正確にわかるらしい。正真正銘地球から生み出された特異点だからだろうか?疑問は尽きないものの彼女は俺に会いにくるとどこかでしとめたアラガミのコアを持ってきて俺に一個差し出してくるのだ。どうやら一緒に食べたいらしい。

 

 

 まぁ、特異点ってことは今まで自分の同族なんて居ないし、1人だったんだろう。そこに曲がりなりにも一度特異点を勤めた俺が現れた……仲間とみなして一緒にご飯を食べようとするのは納得できる。

 俺もこの時間が嫌いではない。彼女と親しくなるということはこちらである程度、終末捕食のコントロールが効くようになるということだ。

 サカキ博士の部屋もあとは仕上げだけだし、それに先駆けて信頼度を稼いでおくのも悪くない。………なんか、こんなことを考えるって良くも悪くも大人になっちゃったなー。この前久しぶりに人を「処分」したから引っ張られているのかしら……。

 

 

 パンパンと頬を叩いて思考を切り替える。

 今はそんな事を考えて沈んでいる場合ではない。いつか彼女を保護するときのために人間の言葉をある程度教えておかなければ……。

 

 

 「オナカスイター」

 

 

 「何でその言葉だけ速攻で覚えたし」

 

 

 にぱーと笑いながら片言の日本語でそういう彼女に呆れながら俺はそこらでしとめた中型アラガミのコアを分け与えるのだった。

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 で、再び数日後。

 第一部隊が極東の神機使いたちの鬼門、ヴァジュラの討伐任務に出るらしい。その時コウタさんがアリサさんの実践入りを進言した。一応ツバキさんもアリサさんの実践入りには賛成らしい。だが、トラウマであるディアウス・ピターと同系統のアラガミということでツバキさんはアリサさんのことを気遣っていた。

 

 

 「……いいのか、アリサ?」

 

 

 うつむいているアリサさんにそう尋ねる。

 そんな問いかけを聞き、アリサさんはうつむいていた顔を上げると、晴れ晴れとした笑顔で言った。

 

 

 「はい。ヴァジュラなら既に倒した経験があるので」

 

 

 トラウマなんてなかった。

 ここで第一部隊の人たち+ツバキさんは動揺しただろう。彼女の大まかな事情は既に知れ渡っている。にも関わらず、この返答である。精神が不安定になった原因といっても過言ではないヴァジュラ系統アラガミへのトラウマが完全に消えうせているとなれば動揺も納得ものだ。

 そして、彼女が何故こんなことになったかといえば、例の如く俺の所為である。自分で例の如くとか言っちゃったけど、事実だから仕方ない。

 

 

 

 

            ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 アリサさんの評価も徐々に回復してきた頃、一緒にトラウマとなっているヴァジュラ種の討伐に行ってくれないかと頼まれたのだ。返事はもちろんOK。彼女の本来の強さは既にこの前の殲滅教室で実証されている。これを機に完全に克服してくれればとおもったのだ。

 

 

 そんなわけで、戦ってみたのだが、はじめはトラウマで彼女は震えて動けなくなってしまった。それは想定内なので気にせず彼女を庇いながら戦っていたのだ。

 しかし、一瞬の隙を突かれアリサさんを狙われたため、片腕を囮に庇ったらアリサさんが覚醒したのである。

 やばかった。瞳孔は見開き、獣のような咆哮をあげながら、俺の教えた戦術なんてまったく使うことなく、じらすようにヴァジュラをスライスしていく戦い方に俺は震え上がった。だって、途中でヴァジュラがあげた咆哮がもう唯の泣き声にしか聞こえなかったもの。

 

 

 当初の目的であるヴァジュラの討伐を終えるとアリサさんは目にも留まらぬスピードで俺の元へとやってきて、傷に直接回復錠を擦り付けるという珍行動を起こしたりもしていた。傷口にすり込むので普通に痛かったです。

 

 

 そこからアリサさんが持っていたほかの回復錠を貰ってのみながらヘリを待っていたのだが、俺の所為か極東の所為か、このタイミングで大型アラガミが乱入してきた。それは、ヴァジュラ種の第二接触禁忌アラガミ、プリティヴィー・マータである。流石のアリサさんでもトラウマであるディアウス・ピターにさらに近いアラガミはきついだろうと、神機を杖に立ち上がる。俺の肢体はアラガミに近く、偏食因子系統で治癒力を高める回復錠の効果も相俟って既に傷がふさがりかけていた。だから、戦闘にも支障はないだろうと思っていたのだが、事情も何も知らないアリサさんから見ればこの上ない無理をしようとしている人物に見えるわけで……彼女に押しとどめられてしまった。

 

 

 「仁慈さんは怪我しているので無理しないでください」

 

 

 「いや、でも……」

 

 

 「大丈夫です。…もう、先程のような失態は犯しません。あの時、気付きましたから。トラウマになんて怯えていてはまた、失ってしまうと」

 

 

 その瞳は何処までも澄んでいて、真っ直ぐだった。澄みすぎてどこにも焦点があっていないのではないかという不安もあるが、引く気がないのは一目瞭然だったので渋々頷いた。

 

 

 その五分後、ヴァジュラと同じく惨殺されたプリティヴィー・マータの姿が!

 ………笑顔で向かってくるアリサさんが俺は本当に怖かった。いや、マジで。

 

 

 

 

 

 

           ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 時は戻りアリサさんが第一部隊+αを凍らせた場面へと戻る。

 アリサの大丈夫を信頼できなかったのかツバキさんは念のためということで俺も同行させるように言った。これにアリサさんは大歓喜。もうなんかピクニック気分のようだった。ユウさんもアリサさんが完全にトラウマを克服し、普段の実力を発揮できる状態だということが分かったのか、とたんに物足りなさそうな表情を浮かべた。

 逆に仁慈のパーフェクト殺戮教室を受講していないコウタさんとサクヤさんはぽかーんとしていた。

 

 

 結果。

 ヴァジュラの討伐任務は三分で終わった。カップめんも驚愕のスピードである。大型アラガミがさらっとやられてしまったことにコウタさんとサクヤさんはもう絶句である。

 

 

 「どうですか仁慈さん!私完全に克服しましたよ!」

 

 

 「お、おう……」

 

 

 本家ディアウスを倒すまで分からないと思うんだけど、なんか普通に大丈夫な気がしてきたわ。

 

 

 「仁慈どうだった?俺の戦い方」

 

 

 「もう俺より強いんじゃなんですかね?」

 

 

 どうして俺に尋ねてくるんですかね?普通に強すぎて逆になんて答えたらいいのか分からない。

 

 

 「何……あれ……」

 

 

 「え?ユウ……?え?」

 

 

 ヤバイこの場の雰囲気というか色々カオスだ。この雰囲気をリセットするために早く極東支部に帰りたい。というか、あそこで取り残されている2人が俺に食って掛かる様子が容易く想像できるからヘリよ、早く着てくれ。

 

 

 

 

 こうして、正式にアリサさんは極東人にランクアップし、それが公の下にさらされた。

 未来ほどアラガミの種類が多様化していないので、本当にアラガミ絶滅するんじゃないかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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もしかしたら詰んでいるのかもしれない

ここ最近似たような話ばかりやってますね……。
どうしたものか……。スランプかな。


 

 

 

 

 

 

 極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザールは現在大変困っていた。理由はリンドウの代わりに利用しているサカキが見つけた新型神機使い、樫原仁慈である。はじめは、何処の誰だか知らないやつに雇われ、自分達をかぎまわっているリンドウの代わりにコアを集めてくれる人材だと歓喜したヨハネスだったが、それも始めの一ヶ月ほどだけだった。

 彼は確かに数多くのコアを手に入れててくれた。おかげで予定よりも早く終末捕食を行うアラガミ……ノヴァが完成したのである。これはリンドウでは決して成し遂げることが出来ないことだっただろう。

 

 

 そして、ノヴァが完成したことで仁慈は不要のものとなった。あの力を完全に制御できるのであれば今後も利用していいと思っていた。しかし、報告を聞く限りとても自分に制御しきれるものではないと彼自身も考えていた。下手に反逆を許し、強大な力を持った彼が敵になる前に……彼が自分の味方であるうちに亡き者にしようと、無理難題を送りつけてみるも、結果は全て失敗に終わっている。

 何あの強さ聞いてない。接触禁忌アラガミの群れに突っ込ませたこともあった。まったく確認されていない未知のアラガミをぶつけたこともあった。しかし、すべて倒されてしまった。あまりに余裕過ぎて命を狙っていると気付かれなかったことは幸運といえるのか不幸といえるのか、彼にはわからなかった。

 

 

 それに加え、彼の協力者であるオオグルマの行方も分からなくなっている。調べた結果他の支部に移動することになり、その途中で死んだことになっていた。これは当初彼が考えていたことである。表向きに死んだことにして、裏からアリサを使って邪魔者を排除しようとしたのだが、ヨハネスはこのことに関して一切手を出していない。ぶっちゃけオオグルマは普通に死んだ可能性が高いのである。

 オオグルマは割とどうでもいいが、新型神機使いのアリサを使えなくなったのは彼にとって大きな損失だった。

 

 

 

 「………」

 

 

 かつて、サカキと共に技術者をやっていたとき並に頭を回転させてこの現状を切り抜ける方法を考える。しかし、何度考えても出てくる答えはひとつだけだ。それはすなわち、特異点を手に入れること。

 

 

 「だが……」

 

 

 仁慈に特異点の存在を知らせていいのか。彼がもし、自分の考えに賛同してくれず特異点の存在を知ったまま敵になったとしたら……。

 最悪である。そうなれば彼はヨハネスより早く特異点を捉えて保護するか殺すかするだろう。手を回して彼を極東支部の敵とすることは出来るが、信じないものもいるかもしれないし何より、極東の全勢力をぶつけても勝てる気がしない。ヨハネスはもう彼を神機使いの皮を被った化け物としか見てなかった。

 まぁ、その当の本人も認める神薙ユウ(化け物)も存在したりするが、ヨハネスがそのことを知らなかった。

 

 

 「…………」

 

 

 彼は支部長室に掛けてあるカルネアデスの板の絵画を見つめる。自分を犠牲にして他者を助けるか、他者を蹴落として自分が生き残るか……。

 ………仁慈ならそもそも船が沈まないようにするという前提を覆す方法を取るのではないかと、彼は漠然と思った。

 

 

 実はヨハネスが噂している仁慈は、特異点のこともヨハネスの大まかな目的を知っていてさらに特異点の保護に王手を掛けている状態なのを彼は知らない。

 ……ヨハネスの目的は、自身が思っている以上に達成が難しいものになってしまっていた。

 もしここに、人柱にされた某アラガミが居たらこういうだろう。

 ようこそ、計画を無残に潰された会(こちら側)へ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 一方ヨハネスに色々とんでもない想像をされている仁慈は、コウタとサクヤに全力で詰め寄られていた。

 きっかけは彼らが先程受けたヴァジュラ討伐任務での出来事である。錯乱してまともに生活することすら出来ないレベルのトラウマを抱えていたはずのアリサがそのトラウマであるヴァジュラ種を笑顔で生き生きと惨殺し、神機使いになった頃から信じられない強さを誇っていたユウが洒落にならないほどの実力をつけるにあたる経緯を元凶である仁慈から聞きだそうとしているためである。

 詰め寄られている仁慈は仁慈で特にたいしたこともしていないのでそのままあったことを話しているのだが、彼らはまったく信じてくれず、話が一向に進展していなかった。

 

 

 「だから、特に何もしていませんよ。普通に話をして、アラガミの倒し方を教えただけですって」

 

 

 「普通に接してあんな変貌の仕方をするわけがないでしょう!?」

 

 

 「こっちだって誰かに聞きたいですよ」

 

 

 アリサの進化は仁慈本人も出来れば誰かに問いかけたいほどであった。彼の元々いた未来でもあそこまで修羅って居なかったはずなのに……と仁慈は思っている。犯人は自分自身であるにも関わらず。

 

 

 「で、でも。俺も何かあったとしか思えないんだけど……ユウもすっごく強くなってる……というか人から外れた動きをしてたし」

 

 

 「え?元からあんな感じでしょう?」

 

 

 「………まぁ………うん」

 

 

 あまりにも当然といった風に言い切る仁慈につられコウタも頷いてしまう。まぁ、ユウがおかしいくらい強いというのは同期であるコウタが一番知っているからそのことも

あるのだろう。

 コウタは納得したが、サクヤははじめの出会い方がアレだったので仁慈の言うことなんてまったく信用していない。

 

 

 「ほら、白状しなさい」

 

 

 「どうせ何言っても信じてもらえないですから、直接本人たちに訊けばいいんじゃないんですか?」

 

 

 この手の相手には何を言っても無駄ということを仁慈は自身の経験から知っていた。なので変わった当の本人達に聞いてみればとサクヤに進言する。その言葉は彼女を動かすには十分な力を持っており、彼女は2人に詰め掛けた。

 ようやく尋問から開放された仁慈は肩をまわして深く息を吐いている。

 

 

 「いやー。色々疑って悪かったよ。御詫びにガム食べる?」

 

 

 「別にいいですよ。知らない人から見れば怪しいのは事実ですから。あと、ガム頂きます」

 

 

 コウタの御詫びの品を受けとって口に放りこみながら彼は答えた。そして、遠目から2人に話を聞いて何故か物凄い疲れた表情になっているサクヤを眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 アリサさんが完全復活を遂げた日から、しばらくして。俺に廻ってくる特務がようやく特務らしくなってきた。

 未だ発見されていない新種のアラガミたちの相手をさせられたのである。アイテールにとても似ているアラガミ、ゼウス。セクメトにとても似ているアラガミ、ヘラ。そして、テスカトリポカに似ているアラガミ、ポセイドン。彼らは示し合わせたかのように

三匹そろって俺の目の前に現れたのである。

 特務では一匹ずつ相手するような内容だったのだが、どうやらよくある伝達ミスらしい。まぁ、このくらいなら問題ない。だまして悪いが系の仕事に比べて、唯相手を倒すだけでいいからである。本当にもうね。だまして悪いが系の仕事は相手が人間だから余計片付けるのが面倒くさくていけn―――ゲフンゲフン。

 

 

 過去の愚痴はこのくらいにしておいて、彼らとの対決だ。

 俺のいたところには居なかったこの3体のアラガミ。名前が誰でも知っていそうな有名どころなことと、一度も戦ったことがないということから俺のテンションは割りと高かった。のだが……。

 

 

 しばらく3体と戦ってみて思ったのは、ベースのアラガミと攻撃手段が殆ど変わらないなということである。もちろん、破壊力はたいしたものだった。建物にぶつかれば砕け、地面に当たれば周囲を抉る。シールドを展開しても大きなダメージとなるだろう。

 

 

 だが、それも結局はあたればの話なのだ。

 3体もいて俺に攻撃をかすらせもできないなんて期待はずれにもほどがある。

 俺の居た時代にこいつらが居なかったのは弱すぎたからではなかろうか。ただ、攻撃力が高いだけのアラガミなんてそこらに転がってるし、というか基本的にアラガミの攻撃は俺達にとって一撃必殺ものだし。

 

 

 ゼウスのビームをよけて、ヘラの気弾擬きを斬って、ポセイドンのミサイルを送り返す。

 それらをやっているだけで、アラガミたちは俺から一歩、二歩と後ずさりしはじめた。こいつら度胸がなさ過ぎるでしょう……?

 

 

 胸に沸き起こる残念感を押し殺しながら、まずはヘラの背後を取って首を刈り取る。それだけでは当然死なないので、すかさず首に神機をさして傷口を広げると上段から一気に神機を振り下ろす。

 そうするとヘラはコアごと真っ二つになった。その次に俺はゼウスのスカートと蟻のように膨らんでいる部分を刈り取る。

 急に体のバランスが崩れたゼウスは地面に落ち、その隙にサリエル系統の弱点である頭に神機を十数回振り下ろして絶命させる。

 俺がゼウスに構っているのをチャンスだと錯覚したポセイドンが撃ってきたミサイルを左手で掴んで方向を変えると先程と同じようにポセイドンに向けた。

 そしてミサイルにまぎれて俺自身も接近する。

 ミサイルの煙で視界を閉ざされたポセイドンは俺を見失う。その隙に空きっぱなしの前面装甲の部分に捕食形態の神機を突っ込み、何時もの体内捕食を行って絶命させる。

 

 

 3体の死体が崩れていくのを確認すると俺はヒバリさんに連絡を入れ、極東支部へと帰還した。

 

 

 帰還するとすぐにアリサさんの部屋に御呼ばれをした。何でも大切な話があるという。特に用事もなかったので彼女の部屋に向かった。

 若干ごちゃごちゃしている部屋のソファーに座ると、彼女はその大切な話を始めた。

 

 

 

 何でも、サクヤさんがリンドウさんに関係のあると思われるディスクがあって、それの中身を見てみたいらしいのだが、リンドウさんの腕輪認証がかかっていて中身を見ることが出来ないらしい。

 そこで、彼の腕輪を探すのを手伝って欲しいということだ。

 

 

 「そもそも、なんでそのディスクの中を見ようと?」

 

 

 「……仁慈さんも知っていると思いますが、基本的に二つのチームが現地で会うことはありません。そうならないように調整されています。しかし、あの日は私達とサクヤさんたちで鉢合わせしました。そこで私は錯乱し、タイミングよくプリティヴィー・マータの大群が襲ってきた……そして最後にサクヤさんが調べたことですが、あの日のミッション履歴が消されているらしくて……」

 

 

 「なるほど。あまりにもおかしな点が重なりすぎている。アレは誰かがリンドウさんを亡き者にするために仕組んだことだと」

 

 

 「はい。だから、そのディスクを見れば何かわかるんじゃないかって……。私がリンドウさんを殺したようなものだから、何か手伝いたくて」

 

 

 「ふむふむ……」

 

 

 「サクヤさんは私の主治医であるオオグルマ先生を疑っていたようでした。正直、今では私も、彼が怪しいと睨んでいます。ここ最近心に余裕が出来て、思い出したんです。彼が私にリンドウさんの写真を見せながら『これが君のパパとママを食べたアラガミだよ』と言ったことを。でも、もう彼は死んだことになっていて……」

 

 

 「大体事情は分かりました。そういうことなら手伝います」

 

 

 リンドウさんは死んでいないと思うが、腕輪の反応がないとツバキさんは言っていたはずだ。つまり、それはリンドウさんの腕から腕輪が外れてしまったことを意味する。そう考えれば彼が未来であの腕だったのも頷ける。ただ、どうしてそうなったのかが分からないからなぁ。

 

 

 とりあえず、片っ端から探していくしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一人称より三人称のほうが書きやすい気がする。


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DEAD OR ALIVE

待たせたな(二日間)



あ、別にまってないですね。すみません調子に乗りました。


 

 

 アリサさんの話を聞いてまたしばらくたった。ここ最近変わったことといえば、リンドウさんに代わりユウさんが第一部隊の隊長に就任したことである。新人がいきなり部隊長をやるという前代未聞のことだが、彼の今までの戦果と戦いに関する抜群のセンス、そして何より遠距離や至近距離と言った距離を含めた全ての状況に対応できるために選ばれたらしい。実に納得できる理由である。

 

 

 そのことはサカキ博士にも廻っているらしく、彼は自室でコンピュータを操作しながら難しい顔をしていた。

 

 

 「ふむ……ヨハンはソーマ君と彼を使って特異点を見つけ出す気か……」

 

 

 「何で俺にはその話が来なかったんですかね?」

 

 

 「君はヨハンが発掘した人材ではなく、私が発掘した人材……ヨハンにとってはイレギュラーな存在だからね。もし、万が一にでも裏切られたら対処が難しいからだろう。君が信じられないくらい強いことも関係しているとおもうがね」

 

 

 「手綱が握れない猟犬は要らないと」

 

 

 「君は猟犬というより、まさしくフェンリルに相応しい神機使いだと私は考えている。狼に首輪は付けられないさ。それは自分が育てた狼ではないのならなおさらね。まぁ、残念なことに実際は特異点のことも既に知っており、ついでに手なずけているのだけどね。……本当に君が味方でよかったよ」

 

 

 「まぁ、貴方に並ぶ人に色々調教されましたからね」

 

 

 狡猾で自分本位な狼なんですよ、と返しておく。俺をここまでにしたのは(サカキ支部長)女狐(ラケル博士)ですけどね。

 心中でそう考えながらサカキ博士はコンピュータの操作を終えたらしく、机から椅子を少しだけ放すと、体を弛緩させ背もたれに寄りかかった。

 

 

 「……よし。準備は完了だ。仁慈君、数日後に特異点をこちら招待する。第一部隊宛に任務を出しておくからその時、彼女を呼んでくれたまえ」

 

 

 「了解です。……でも、今呼んでいいんですか?十中八九支部長にばれますよ?」

 

 

 「それは、問題ない。ヨハンにはちょっとばかりヨーロッパに旅行に行ってもらうことになるからね」

 

 

 ニヤリと薄く笑うサカキ博士。どうやら何か秘策があるらしい。

 支部長のほうが問題ないとすれば障害は全て消えたことにも等しい。さて、特異点や終末捕食を廻って渦巻くこの一連の騒動、どうなるか……。また終末捕食がおきてそれに飲み込まれるっていうのは嫌だなぁ。

 

 

 

              

 

            ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「おや……?」

 

 

 「あれ?」

 

 

 サカキ博士の研究所を後にして、自室に帰ろうとするとエリックさんとばったり出会ってしまった。別に出会ったからなんだって話だけど。

 

 

 「やぁ、久しぶりだね。仁慈君」

 

 

 「毎回すれ違ったりはしてますけど、こうして話すのは確かに久しぶりですね」

 

 

 「今度時間があったらエリナと遊んでやってくれないかい?どうやら僕の語りがあまりにも華麗だったものだから、また君に会いたいと言い出してしまってね」

 

 

 「嘘や誇張は控えてくれませんかね?それを含めて何とか丸く治めるの誰だとおもっているんですか」

 

 

 何度注意してもまったく言うことを聴いてくれないエリックさんに向けて苦情を言い放つ。そんな俺に彼はハハハと笑うと、胸を張ってこう答えた。

 

 

 「大丈夫だ!最近では僕やソーマの話も交えている」

 

 

 「全然大丈夫じゃないんですけど。俺の話聞いてくれてました?」

 

 

 一体それで何が大丈夫だというのだろうか……。話す内容は何も改善されていないではないか……。

 まぁ、それは今はいいか。

 

 

 「それで、俺を呼びとめたのはなんですか?」

 

 

 「ん?あぁ、そうだ。これも僕にとっては重要なことだけど、本題は別だ」

 

 

 ここでいったん言葉を区切ると、何時も華麗華麗言っているときのような馬鹿な表情ではなく、フォーデルヴァイデ家次期当主としての真面目な表情を浮かべて言葉を紡ぐ。

 

 

 「……どうやら、この極東近くで行われている人類最後の楽園であるエイジスを作る計画がそろそろ佳境になってきているらしい。僕の家にも一応知らせが来たよ」

 

 

 「ふむふむ」

 

 

 エイジス計画が佳境……それは俺の知っている知識と掛け合わせて考えるのであれば、終末捕食を起こすアラガミ、ノヴァの皮の部分が出来上がったということを意味する。つまり、終末捕食に王手がかかったと言う事だ。……特異点の彼女の重要度がこれでかなり上がったな。

 

 

 「でもね、そこまで多くの人間には触れ回ってないみたいだ。ここの人たちに聞いても、誰もが首を傾げるばかりだったから……おそらくは、ある程度人々を選別しているんだろう。流石の楽園も、全ての人間を収容できなかったらしい」

 

 

 エリックさんはそう言うが、実際は違う。ロケットで次世代へと残る人を選別しているのだ。そしてそれは、神機使いたちにはまだ内緒にしてある。エリックさんがいち早く知ることが出来たのはお金持ちだからだろう。何かあった時、お金をすんなりと借りることが出来るように、近くの権力者や財力のある者にはある程度を話しているのだと思う。

 

 

 「ま、それか初めから楽園なんてないのかもね。もう既に終わっている計画を隠れ蓑にして別の計画を進めるなんて、よくある話しだしさ」

 

 

 鋭い。

 この人たまにこういうこと言うから本当に油断ならないよな。やましいことはあんまりなけど、こうも感が鋭いとピクリと来るわ。

 

 

 「そうかもしれません。……情報、助かりました。詳しくは言えませんが、助かりました」

 

 

 「いいさ。あの時、僕のほうから言い出したことだ。自分から言い出したことを破るのは華麗じゃない。もちろん、君のほうから助けを求めてもらっても構わないよ。出来る限りのことはやってみるさ。それが戦闘でも、それ以外でも」

 

 

 「本当にありがとうございます」

 

 

 やはりいい人だ。華麗華麗言っているけどいい人だ。本当に反射的に助けちゃったけど、助けてよかったと思う。

 

 

 「そうそう、最後に言うけど。ソーマのこと誤解しないでくれよ。彼は色々あったからあんな態度を取っているけど、いいやつだよ」

 

 

 「大丈夫です。分かってますから」

 

 

 それならいい、とだけ言い残してエリックさんは自室へと戻っていった。俺も寝るとしますかね。

 

 

 

 

 

           ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今、壮絶なピンチに襲われている。

 それは、神機使いになってから体験した中でも上位に入るくらいの状況だ。もし、同じ状況に立っているのがユウさんレベルの頭のおかしい人じゃなければ、恐怖に足を取られ、無様に許しを請う事しか出来なくなるくらいだ。

 

 

 「実は、ボルグ・カムランの堕天種が出たんですけど……わ、私と一緒に行ってくれませんか?」

 

 

 それは誤射姫、カノンさんとの任務。それも、2人きりである。

 なんでも彼女、ここ最近で実力を伸ばし続けるアリサさんに影響されて、積極的にアラガミ討伐に出ているらしい。その一環として、この前ユウさんと一緒にクアドリガの討伐に出たという。

 そこまでは別に普通だが、問題はここからだ。なんとその任務でカノンさんは誤射率0%という奇跡を起こしたらしい。それは彼女に大きな自信を付けさせた。だから、今度はよく知らない人とも組んでみようという無駄な冒険心を働かせて俺を誘ったらしい。

 ……うん。ぶっちゃけ、オチは見えている。どうせユウさんがカノンさんの誤射をよけつつクアドリガと戦ったに違いない。カノンさんと任務に出た日のユウさんは何時もの三割増しで疲れていたからまず間違いない。

 

 

 ヤバイ。正直断りたい。この前、極東の人はレベルが高いよなとユウさんに声高々と語っていたコウタさんに押し付けて、ウロヴォロスをいじめに行きたい。だが……

 

 

 「あの……だめ、ですか……?」

 

 

 通常時のカノンさんの頼みを断るという罪悪感が半端じゃない。戦闘時は、やくざもアラガミも泣いて逃げ出すような人格に変貌するというのに、日常生活時のいい人ぶりがとんでもなく俺の良心に響く。

 

 

 俺の知っているカノンさんより三年若いカノンさんだぞ?俺が関わり始めた頃のカノンさんは神機使いになってからそれなりの年月を重ねていた。しかし、このカノンさんは違う。威力は俺の知るカノンさんより低いだろうが、頻度は絶対こっちのほうが高い。もうどっちに集中すればいいのか分からない状況になるのはもはや、水が高いところから低いところへと流れていくことと同じくらい当然のことだ。

 

 

 ……どうする、俺。どうする!? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ところで、いきなりなんですけど仁慈のプロフィールって必要ですかね?
見切り発車で書いている(進行形)なのでそういうのあまり考えたことなかったんですけど……別にいらないならいらないでいいですけどね。


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ピンチとは往々にして連続して訪れるものである

 

 

 結局俺に選択肢なんてなかったわですよ。パッと見小動物系の美少女に上目遣いを喰らったら罪悪感とか、その他もろもろで許可するしかあるまいよ。例えその相手が、戦闘になったとたんに仲間も構わず打ち抜く冷酷非情な女王様に変身するやつでも例外ではない。

 鼻歌交じりにボルグ・カムランの討伐へと向かうカノンさんの背後で肩を落としながらそう思う。いざとなったらボルグ・カムランの大きな盾を引きちぎって俺が使うとしよう。

 

 

 『計器のチェック、完了しました。いつでもはじめられます』

 

 

 「そ、それではよろしくお願いします」

 

 

 「はい。こちらこそよろしくお願いします(特に誤射しないようにお願いします。切実に)」

 

 

 内なる想いが伝わることはないだろうが、一応懇願しておく。彼女は自信満々に大丈夫ですといって拳を握り締めていた。これは駄目なパターンだ。未来で同行したとき同じようなことがあったし、他の先輩神機使いもそう言ってた。

 

 

 何時もより背後に気を使いつつ、ターゲットのボルグ・カムランを捜索する。すると、非討伐対象の小型アラガミと遭遇した。俺は小型アラガミを見つけて瞬間、何時ものように急接近して敵を両断――――することはせずに、素早く横にステップを踏んだ。そのすぐ後に俺の背後から火炎放射器から発射されたような焔が通り過ぎる。結構な至近距離から放たれたそれは小型アラガミを丸焼けにして倒してしまった。

 犯人?そんなの分かってる。

 先ほどとは似ても似つかない凶悪な表情を浮かべて銃口を向けてるカノンさんが犯人である。

 

 「あれ?もう終わりなの?」

 

 何故ここまで人格が変わるのだろうか。

 疑問に思いつつも口に出すようなおろかなまねは絶対にしない。何故なら、今の状態の彼女に余計なことを言ったらどうなるかまったく予想できないからである。最悪、ことあるごとに背後から狙われるなんて事になりかねない。

 

 そうして無駄に精神的疲労を抱えつつ捜索をすること数分、ようやくお目当てのアラガミを発見した。

 こちらに向かって威嚇する姿に思う事は、極東が世界とアラガミに誇るクレイジープリンセスの餌食になってかわいそうだという哀れみしかない。

 

 

 ガシャガシャと鎧が擦れ合っているような音を鳴らしながらこちらに接近してくるボルグ・カムランに向かって行うことは、先程の小型アラガミのときと同じく真横に飛ぶことで後ろの誤射姫の斜線から離脱することである。すると先程と同じように俺の横を通り抜けていく電撃。本当に敵味方関係なくぶっ放すよね。

 誤射姫の一撃にぼボルグ・カムランは両手を合わせてガード。多少のダメージは喰らっただろうが、直接攻撃を受けるよりは抑えられたことだろう。敵ながらなかなかの反応速度だった。そのシールド貰うわ。

 

 

 カノンさんの第二撃が来る前に素早くボルグ・カムランの前を通り過ぎる。その際に辻斬りよろしく片腕を引きちぎり、俺のシールドを確保する。そして体を反転させて奪い取ったボルグ・カムランのシールドを前に出した。俺が奪い取ったシールドは見事にカノンさんのもモルターを防いでくれた。ちなみに、ボルグ・カムラン本体は片腕のシールドを俺が引きちぎって防ぐことが出来ないため直撃である。あまりのダメージにその巨体をのけぞらせていた。合掌。

 

 

 「アッハッハ!もっともっと耐えてよね!すぐに死んだらつまらないから!」

 

 

 楽に死なせて上げなさいよ……。

 そんな事を思いつつも、ボルグ・カムランの肢体を壊して、体勢を崩させる。そうして出来た隙にカノンさんが大きく開いた口の中にモルターを突っ込むのだ。エグイ……唯ひたすらエグイ。

 というか、足を壊すときに三回くらい弾が飛んできたんですけど。本当に狙ってませんよね?俺が狙ってたのは後ろ足のほうなんですけど、狙ってないんですよね?大丈夫なんですよね?

 

 

 内なる問いかけはノリノリでボルグ・カムランを攻撃するカノンさんに届くことはなかった。というか、またあたりかけた。

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 し、死ぬかと思った………。

 何度、何度黒焦げにされそうになったことか……。俺がさくっとしとめられたらよかったんだけど、最初に行った盾の両断以降、素晴らしいタイミングで俺の髪の毛を燃やしてくるから時間もかかったし命の危険も多数あった。

 後半なんて、某暗殺一族もびっくりの戦い方になったからな。今なら分身くらい出来る気がするぜ。

 

 

 「じ、仁慈さん!私の予想は間違ってませんでした!今日、一回も誤射しませんでしたし!」

 

 

 「せやな」

 

 

 やる気のない返事になってもカノンさんは気にせず、笑顔で去っていった。彼女がエレベータに入りその場から完全に居なくなったことを確認したら大きな溜息を吐いた。周囲の人は今の雰囲気で大体の事情を察したのか、遠巻きにとても同情的な視線を送ってきてくれた。

 見たか皆の衆。これが台場カノンと共に任務に向かうということだ。

 

 

 「あ、仁慈さん。サカキ博士が呼んでましたよ?研究室で待っているとのことです」

 

 

 任務の後始末を行っているとヒバリさんがそう教えてくれた。

 彼女にお礼を言うと、サカキ博士の部屋に向かって入室する。

 

 

 「サカキ博士、着ましたよ。何の御用ですか?」

 

 

 「……いや、仕込が終わったからね。そろそろ、特異点とあわせてもらおうかと思ってね」

 

 

 「支部長は?」

 

 

 「昨日、旧イングランド地域に行ってもらったよ。これでしばらくは帰ってこないだろう」

 

 

 「……分かりました。それでは近いうちに会いに行くとしましょうか」

 

 

 でも、サカキ博士はどうやって外に出るんだ?彼は極東に限らず世界的にみても最高峰の頭脳を有している。そんな彼をむざむざ外に出すことは可能なのだろうか?

 気になったのでその辺りのことを聞いてみる。

 

 

 「あぁ、そのことは心配要らない。彼女が居る場所を割り出してもらったら、その場所に偽装した任務を発注して第一部隊のみんなに一時周辺のアラガミを殲滅してもらうからね」

 

 

 「……巻き込む気ですか。彼らを」

 

 

 「ユウ君に関しては、部隊長に任命したことからヨハンも欲しがっている。彼が敵に廻ったら厄介だと思わないかい?」

 

 

 厄介なんてレベルじゃない。

 ユウさんが敵に廻る=終末捕食が二個に増える、というくらいにはヤバイぞ。あの人メキメキ勝手に強くなってるから、正直俺でも抑えられるかわからない。ぶっちゃけあの人の相手をするくらいならもう一度終末捕食と正面から喰い合ったほうがましだ。

 

 

 「……こちらについてくれますかね?」

 

 

 「不安かい?」

 

 

 「えぇ。ぶっちゃけ、サカキ博士がかなり胡散臭いので、下手に警戒されて敵対関係になってしまいそうで……」

 

 

 「そ、そんなに怪しいかな……」

 

 

 「はい。格好、表情、声、雰囲気……100人中100人は怪しい、もしくはお前がラスボスだろ、という感じだと思います」

 

 

 「そ、そうかい……」

 

 

 なにやら落ち込んでいるようだが、そこは華麗にスルーだ。どう頑張っても繕うとのできない純然たる事実だから。

 

 

 「……ま、まぁ。私が怪しいかどうかはともかく、三日後に特異点と接触を図る。そのときは私のほうから声をかけるよ」

 

 

 「分かりました」

 

 

 さて、ここからが踏ん張りどころかな。

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 サカキ博士から第一部隊宛にアラガミの掃討任務が入った。鎮魂の廃寺に居るアラガミの殲滅任務である。なかなかに強いアラガミもいるので第一部隊にお鉢が廻ってきたのだろうとオペレーターのヒバリさんは言っていた。ソーマはいないけど。

 実際、確かに強いアラガミは少なかった。まぁ、率先して戦っているのがリーダーのユウさんということもあるかもしてないけど。

 

 

 「……これで粗方片付けたかな?」

 

 

 「そうね……。周囲で物音もないし、平気じゃないからしら」

 

 

 「リーダーのほうはどうですか?」

 

 

 「………アラガミじゃないけど、後方から来る気配が二つ。足音、歩幅、息遣いからソーマとサカキ博士……?何でここに居るんだろう?」

 

 

 何でそんな事が分かるんだろう。

 ここにいるはずのないサカキ博士の気配を感じて疑問に考えているリーダーだけど、私はどうしてソーマたちに気付けたのか問い詰めたい。

 もはや人の感知能力を超えている気がする。

 

 

 「やぁ、みんなご苦労様。おかげでここに来るまでアラガミに一回も合わずに住んだよ。念のためソーマについてもらっていたんだけど……必要なかったね」

 

 

 「ほ、本当にきた……」

 

 

 「ユウ、すげぇな……」

 

 

 「仁慈に教わった」

 

 

 何それ知らない。

 リーダーの人間離れした技術の出所に私は思わず驚く。今度私も教えてもらおう。一対一で、じっくりと。

 

 

 「そんな事はどうでもいい。俺達にこんなことをさせた理由は何だ?」

 

 

 話がずれかかっているとき、ソーマの問いかけでみんなが本来の疑問を思い出す。今だけはソーマが空気を読めないで助かりました。

 彼の問いかけで、みんなの視線を一点に受けたサカキ博士は何時も通りの表情で眼鏡のつるを指でクイッと上げて、口を開いた。

 

 

 「もうすぐ分かるよ」

 

 

 その言葉と同時に上から2人の人影が降りてきた。

 一人目は私がよく知っている人物。ここ最近話す機会がなくなってしまった樫原仁慈さん。問題はもう1人のほうだ。

 フェンリルの紋章が入ったボロボロの布を身に纏っていて、それから除く手足は雪のように白い。白人とかそういうレベルではないくらいに白い。色白の私でも叶わないくらいに。

 瞳の色は金色で、髪の毛も肌と変わらない白色だった。

 

 

 「やぁ、仁慈君。いいタイミングだ」

 

 

 「この子が素直に来てくれましたから」

 

 

 「おー?えらいかー?」

 

 

 「えらいえらい」

 

 

 どこかしたったらずに問う白い少女に仁慈さんは微笑みながらその頭を撫でた。白い少女はそれを気持ち良さそうに受け入れる。なんてうらやまs―――ゲフンゲフン、うらやましいことを……。

 

 

 「で、結局なんなんですか?」

 

 

 「今回君達に周囲を殲滅するように頼んだのは、私が彼女に直接会うためだよ」

 

 

 リーダーの問いに簡潔に答えたサカキ博士はそのまま白い少女の前まで歩いていき、彼女に視線を合わせるようにしゃがみこんだ。

 

 

 「ちょっと、一緒に来てくれないかい?」

 

 

 「んー?いいよ」

 

 

 白い少女の肯定を聞いたサカキ博士はとても満足そうに頷いて彼女と仁慈さんを連れて、その体を翻した。

 

 

 正直、私達には何がなんだかまったく分からなかった。

 

 

 

 

 

           ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 『えぇえええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!??』

 

 

 サカキ博士の研究所に四人分の絶叫がこだまする。それを至近距離で喰らったのに、特異点の少女はピンピンして、周囲を隈無く見渡していた。暢気なもんだな。

 

 

 「ちょ……えっ?」

 

 

 「今、なんて?」

 

 

 「何度でも言おう。彼女はアラガミだよ」

 

 

 サカキ博士が口にした言葉に第一部隊の皆さんはとても信じられないような幹事であった。まぁ、気持ちはわかる。

 限りなく人間に近い進化を辿るアラガミは今まで発見されたことはない。驚くのも無理はないことである。彼女の場合は、話すことが出来るし、余計にね。

 

 

 その後も、色々あった。サクヤさんがサカキ支部長に言いくるめられたり、ソーマさんがおこだったりということがあったのだが、三十分もすれば落ち着いてきた。

 このまま、今日はこれで解散となった時、ユウさんが問うた。

 

 

 「ねぇ。君はどうして仁慈と居たの?」

 

 

 その質問に特異点の彼女は、

 

 

 「んー?仁慈とは、仲間、だからな!」

 

 

 と答えた。

 

 

 

 空気が凍った。

 

 

 

 まさか、ここでぶっこんで来るとは思わなかったぜ……。

 サカキ博士ですら固まるその言葉に俺は天を仰ぐのだった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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正直なのはいいことである(場合による)

今回はちょっとキャラ崩壊&シリアスです。本当にちょっとです。


 

 

 れれれれれれ冷静になれ。

 特異点の彼女は具体的にどういう感じの仲間かということまでは明言していない。普通に任務の途中で仲良くなった結果仲間として認められたということも十二分にありえる。何も焦る必要などない。

 頼むから、それ以上余計なことを話さないでくれよ。話をそらしてもいいんだけど、そうすると絶対にサカキ博士からの追撃が来る。この状況でサカキ博士を誤魔化すのは確実に不可能だ。

 本当に頼むぜ、神様アラガミ様、特異点様。

 

 

 「えーっと、仲間って言うのは……?」

 

 

 「?そのままの意味だぞ?仁慈は一緒、他の人たちより、私に近い。だから仲間だ!」

 

 

 「ち、近い?」

 

 

 「それってつまり……」

 

 

 「………」

 

 

 特異点の少女が放った言葉はほぼ決定的な言葉である。

 おかげで、第一部隊の人はみんな信じられないような視線を俺にぶつけてきている。この過去の世界において、超クールキャラのソーマさんですらぽかんと口を開けてこちらを見ている。サカキ博士は未来で何度も見た怪しい表情だ。

 

 

 誰もが、真実にたどり着きそうな中、ユウさんが最後の確認を込めた決定的な質問を投げかける。

 

 

 「近いっていうのは……つまり……アラガミ?」

 

 ユウさんの言葉にコクコクと頷いた特異点の彼女はこちらにトテトテと近付いてきた。

 

 

 「仁慈ー。私正直に答えたぞ。嘘つかなかったぞ!えらいか!?」

 

 

 「………うん。えらいえらい」

 

 

 あまりにいい子過ぎて涙が止まらないくらいにはね。

 

 

 まぁ、いい。今まで散々神様を殺し、平行世界で本物の神様も葬った気がする俺が神に頼みごとをした時点でこうなることはなんとなく予想できてた。幸い、この部屋はシステムが独立していて、ここにいる人たち以外に誰かが話を聞いている可能性はゼロだ。ヨハネス支部長も居ないし、彼らだけにばれたことを喜ぶべきだろう。うまくいけば今よりもよっぽど動きやすくなるかもしれない。

 

 

 「事情……説明してくれますよ、ね?(私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事……)」

 

 

 やべぇ。

 下手に隠すと俺の命が危ない。

 

 

 アリサさんの全身からあふれ出る負のオーラに気おされる。

 これがキチガイ地区極東を作り出した第一部隊隊員の実力だというのか。まぁ、アリサさんの迫力に他の人も戦慄して一歩引き始めてるけど。

 さて、1から10まで全部話すのはダメだ。アラガミなんて化け物が闊歩するこの世の中でも未来から着ましたなんて奇奇怪怪な話は受け入れられないし、受け入れられてもまずい。

 ここは常套手段である事実に嘘を交えつつ話す方向で行こうか。

 

 

 

            

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 仁慈さんの口から告げられた言葉はとても信じがたいものだった。小さい頃、アラガミに襲われて重体になったところをフェンリルの人間に助けられた。ここまでだったらフェンリルの美談で終わるのだけど、問題はここからだった。

 

 

 助けられた仁慈さんは生きてこそいたものの、肢体欠損で意識も不明、いつ死んでもおかしくない状態だったらしい。しかも身内はなし。

 どうせ死ぬならと、フェンリルの職員たちは彼の体に直接オラクル細胞を移植したり、偏食因子を入れたりと好き放題やったらしい。

 通常であれば、そこでアラガミになって死んでしまうのだけれど、彼はそうならず、奇跡的に生き返ったらしい。しかも、欠損した肢体をオラクル細胞で再現するということを実現して。

 そこから仁慈さんは、フェンリルのモルモットと神機使いを平行して行っていたらしい。で、つい最近そこを自力で脱出して、サクヤさんに会ったと話した。

 

 

 話を聞いた感想としては正直信じることは出来ない。けれど、新人というにはあまりにも強すぎる戦闘力と私達をはるかにしのぐ身体能力は彼の体が半分オラクル細胞で構成されているというのであれば全て説明が付く。

 サクヤさんの話では初めて会ったときの仁慈さんは神機使いには必須のものである腕輪をしていなかったらしいし……。

 

 

 「じゃあ腕輪をしていなかったのは……」

 

 

 「腕輪をしなくても、自分の中の偏食因子を支配できるからですよ。出すことも消すことも自由自在です。通常の神機使いは腕輪から偏食因子を注入していますけど、俺はそこらへんの機能はすでに作ってあるらしいです。俺をいじくった研究者が言っていました」

 

 

 仁慈さんの回答に特異点の少女以外の人のテンションが急降下する。そんな重いことさらりといわないでくださいよ……。

 でも、彼はそんな事を経験しながらも、私を心配してくれたんですよね……。

 やはり、彼は強い人です。

 

 

 「俺がアラガミに近いのはそういう理由です。………はい、これで俺の話は終わりです。心配しなくても、俺が急にアラガミ化して襲うことはありませんよ。アラガミ要素は完全完璧に叩きのめしましたので」

 

 

 にっこりと微笑を浮かべながら仁慈さんは言った。

 彼の言葉を最後に今日は解散の流れとなった。正直、今日はこれ以上居ても話は進まないと感じていたのでみんなは素直に従った。

 

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 さて、真実(七割)と虚実(三割)を交えた俺の過去(笑)話を話したわけだけど……失敗したかもしれない。あのマッドサイエンティストのサカキ博士ですら、俺の話に顔を顰めていた。てっきりいい実験対象だとか言ってノリノリで体を調べに来るのかとおもった。そのことを本人に直接言うと、彼は「態々他人のトラウマを呼び起こしにいくほど外道ではないつもりだよ」と優しい笑顔で答えてくれた。俺はこれがどうして未来ああなるのか分からなくなった。

 

 

 過去のサカキ博士は意外と人道的な人だと分かったところで、自室に帰ろうとすると、扉の前ではソーマさんが待機していた。

 どうしたのだろうか?サカキ博士に用だろうか?とおもいつつ話しかけてみる。

 

 

 「ソーマさんどうかしましたか?」

 

 

 「話がある」

 

 

 このソーマさんは本当に言葉数が少ないな。本人曰く黒歴史らしいが……。

 そんな事を考えながら俺は彼の後ろについていく。

 やがて彼の部屋に着いた。

 

 

 「入れ」

 

 

 「お邪魔します」

 

 

 おもったよりは綺麗な部屋だと我ながらひどい感想を抱きつつ、ソファーに座る。ソーマさんは葡萄ジュースを冷蔵庫から二つ取り出して、机に置くと、俺の対面側に座った。

 

 

 「……お前は、自分が生まれたことを後悔したことはないか?」

 

 

 そこからソーマさんが自分のことを色々話してくれた。自分が生まれながら偏食因子を持っていること。ちなみにこれはナナのような親が神機使いだからというわけではなく、受精卵の時点で偏食因子を投与されたらしい。だからどちらかといえば俺よりの存在なんだと。……彼がある意味神機使いの生みの親というわけか。確か、そのソーマさんをベースに色々して今の神機使いたちが居るんだとうことを本人から聴いた気がする。

 話がそれた。自分の所為で母親が死んだこと。アラガミが自分に釣られて来る所為で同行者が死んだこと。……そのほか色々と。

 

 

 彼も、アリサさんと同じなのだろう。

 支部長からはアラガミを殲滅するための存在と言われ、神機使いたちからはアラガミを呼び込む死神として扱われてきた……。胸のうちを打ち明ける相手が居なかった。

 そこで、自分と限りなく近い存在が現れたとあって、話を聞きたがったのだろう。ソーマさんの話を最後まで聞き終わると、俺のほうも口を開く。

 

 

 「では、ソーマさんの問いに対する答えですけど……俺は後悔したことはありません」

 

 

 俺自身は三年前に生まれた存在ではあるが、この三年間、色々なことがあった。最初の一年目で世界の崩壊を阻止したり、次の二年目でアラガミフェスティバルを乗り切ったり、二年と三年の狭間でフェンリルの黒い部分と戦ったり、三年目で事務作業に殺されそうになったり……色々、あった。

 

 

 でも、生まれてきたことを後悔するときはない。もちろん、嫌なことなんてこのご時世腐るほどあるし、気の迷いで死にたくなったこともあったし、ジュリウスは毎日毎日勝負を仕掛けてくるし、勝つまで止めないし、他のブラッドも自由気ままで後処理しないし、フランさんは毒舌だし、クラウディウス博士×2は節度を守らなかった。

 

 

 ―――――――だけど

 

 

 「後悔だけは、しませんでした」

 

 

 さっきは散々酷評した人たちも、なんだかんだで力になってくれた。相談に乗ってくれた。

 そんな人たちがいたからこそ、たとえまともな人間でなくても、この体元々俺のものでなくても、生きていけたんだ。

 それに俺が死んだら、元々の体の持ち主ににも悪いしね。

 

 

 「………そうか」

 

 

 「ソーマさんだって居るでしょ?そういう人」

 

 

 「何を根拠に」

 

 

 「エリックさんが言ってましたよ」

 

 

 あの人俺に会ったらエリナの話かソーマさんの話か自慢話しかしないからね。

 エリックさんの話を降った瞬間、ソーマさんは視線を逸らし始めた。その顔は若干赤い。よかったですね、エリックさん。貴方、そこまで嫌われていないようですよ。

 

 

 「だから、そんなに1人で抱え込まなくてもいいんですよ。なんだったら、同族の俺に色々吐き出して見ますか?」

 

 

 「……フッ、今は言い。……悪かったな。くだらない話に付き合わせて」

 

 

 「いえ。悩みは戦場において死を招きますから」

 

 

 「そうだな。……一応、礼は言っておく」

 

 

 薄く微笑んだソーマさんを背に俺は彼の部屋を出たのであった。

 

 

 この日から、ソーマさんと話すことが増えた。

 

 

 

 

 

 




ソーマの部屋を退出後

アリサ「仁慈さん」
仁慈「?」
アリサ「私とも話をしましょう」
仁慈「えっ」
アリサ「隠しごとの無いように、ね?」
仁慈「え」


その後、仁慈の姿を見たものは居ない。
















嘘ですよ?もちろん。


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名付け

今回はとっても短いです。
はじめに謝っておきます。ごめんなさい。


 

 

 

 「沈め……!」

 

 

 「これで……終わりッ!」

 

 

 「はいさようならー」

 

 

 三者三様の言葉と共に、自分が相対しているアラガミに止めをさす。今回はなかなか珍しいメンツでの任務であった。ソーマさん、ユウさん、俺の三人である。

 何でも、特異点の少女用の食事であるアラガミのコアが必要だということで、普通の任務に偽装してアラガミのコアを集めているのである。俺たちは比較的強いアラガミのコアを回収する組だ。

 相手にするのは主に堕天種や接触禁忌アラガミ達だ。ここ最近、ヨハネス支部長が作ったノヴァに惹かれてかそういった連中が増えているのでそれの掃討もかねていると思うけど。

 

 

 今俺達が倒したのは、プリティヴィー・マータ、セクメト、ゼウスの第二接触禁忌アラガミ三人集だ。

 流石に突き抜ける前のソーマさんではきついかと思われたそのメンツは普通に余裕で驚いたことは記憶に新しい。

 ユウさんが初見のはずのセクメトをボコボコにするのはまぁ何時も通りなのでまったく驚くことなかったが、ソーマさんまで初見のはずのゼウスをボッコボコにしてた。本人曰く、俺との話で多少吹っ切れたらしい。ついでに大事なねじも飛んで言ってしまったと見える。

 お前のおかげだといってくれるソーマさんには悪いのだけど、俺には何処かでまたお前の所為かという幻聴が聞こえてしまったよ。

 

 

 何はともあれ、俺たちはこうして特異点の少女の高級料理を手に入れたわけだ。

 

 

 「ふぅ、終わった終わった……」

 

 

 「初見だけど、割と何とかなったね」

 

 

 「(こいつら見てると、死神とかいわれて気にしていた自分が馬鹿みたいだ……)」

 

 

 「どうかしたんですか?ソーマさん?」

 

 

 「いや、なんでもない」

 

 

 なにやら元気がないソーマさんに話しかけてみると溜息と共にそんな答えをいただいた。解せぬ。

 

 

 「それにしても、今日だけで結構なやつを相手したよね」

 

 

 「ボルグ・カムラン堕天種(荷電)クアトリガとその堕天種。シユウの堕天種にその系統で接触禁忌アラガミのセクメト、同じく接触禁忌アラガミのプリティヴィー・マータとゼウスか………そこらの支部なら全滅は免れない相手だな」

 

 

 「要するに、極東の神機使いはそこらの支部にも匹敵すると……」

 

 

 「まぁ、そんな感じだな」

 

 

 「へぇ……そうだったのか……」

 

 

 ユウさんが他人事のように言ってるけど、あなたは1人で支部三個分くらいの力がありますからね?俺達の中で最も人に近い神機使いなのに最もオカシイ神機使いですからね?ホントどうなってんのこの人。マジ怖い。

 

 

 『皆さん!大型のアラガミがそちらに急速接近中です!数は五体!』

 

 

 「今日はなんか入れ食いですね」

 

 

 「俺やお前が居るからだろう。おそらくな」

 

 

 「まぁ、多いに越したことはないでしょ。あのこがどの程度食べるか分からないし。多すぎて困ることはないだろうし」

 

 

 確かに。

 ユウさんの言葉に俺は頷き、ソーマさんは鼻を鳴らす。

 ちょうど、俺達を囲むように乱入してきたアラガミたちに向かって俺は神機をブンブンと振り回しながら斬りかかった。

 俺達の食料集めはこれからだ!

 

 

 

             ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 「名前……ですか?」

 

 

 「そうだよ。いつまでも名前がないんじゃか可哀想だし、何かと不便だからね」

 

 

 特異点の少女用のご飯と、ついでにほかを欺くためのコアを回収してから三日後、サカキ博士はそのようなことを言った。確かに、俺も心中とは言え、いつまでも特異点の少女じゃ呼び難いし。それには賛成である。

 第一部隊のメンバー達も肯定的な雰囲気を出している。

 

 

 「実はネーミングセンスには自信がなくてね。彼女の存在を知っている君達に協力を仰ごうというわけさ」

 

 

 下手な名前はつけられないな。

 信慈の記憶に刻まれたDQNネームを付けられて悲しみを背負っていた男のことを思い出す。あれはひどかった。この子はあまり多くの人と関わることはないだろうけど、だからといって適当につけるということはありえないからな。

 

 

 「フッ、俺……ネーミングセンスは結構自信があるんだよね」

 

 

 「嫌な予感しかしないんですけど……」

 

 

 自信満々のコウタさんに引き気味に答えるアリサさん。そんな彼女にお構いなくコウタさんは目を閉じてうんうんと唸り出す。しかし、それもほんの数秒だけだ。すぐにカッ!っと目を見開くと、特異点の少女に向かってその名前を口にした。

 

 

 「んーそうだな……ノラミとか!!」

 

 

 「………………」

 

 

 『……………』

 

 

 研究所内の空気が凍りつく。

 何時もニコニコ俺とソーマさんの近くに這い寄る特異点の少女もこれには真顔である。あの子が笑顔を消すとはそうとうな事態だぞ……コウタさん……。

 

 

 「………………どん引きです」

 

 

 「それはちょっと……」

 

 

 「なんだよー。そんな事言うなら、アリサか仁慈が言ってみろよ」

 

 

 「んー?シロとか?」

 

 

 「そのまんまだね」

 

 

 「犬、猫じゃないのよ」

 

 

 俺の意見はユウさんとサクヤさんに否定された。やはり安直過ぎたか……。

 「ねぇ?ノラミは?」と諦めずに主張を続けるコウタさんを華麗にスルーしながらみんなで考える。

 

 

 「というか、この子のことだし本人に聞いてみればいいんじゃないの?」

 

 

 ユウさんの一言でみんながハッと特異点の少女のほうを見た。

 彼女は俺や彼らといろいろ話した結果もう普通の人間と比べても劣らない知性を持っている。なら本人に決めてもらうのはいいかもしれない。

 

 

 「名前?んー……みんなが決めていいよー」

 

 

 本人はそこまで重要視していないようだ。ノラミは嫌らしいけど。特異点の少女の許可(?)も取れたので、再びみんなで考える。

 

 

 「レンっていうのはどうかしら?」

 

 

 「「それはダメだサクヤさん。なんか早い気がする。いろいろと」」

 

 

 「белый цвет(ビェールゥイ ツヴェート)というのはどうですか?ロシア語で白という意味ですけど」

 

 

 「長いし発音がきつ過ぎると思う……」

 

 

 「ノラミ」

 

 

 「コウタさんシャラップ」

 

 

 「………シオ」

 

 

 こんな感じでカオスになってきた名づけ大会に今まで一言も言葉を発さず、壁に寄りかかっていたソーマさんがポツリとそう言った。小さい声だったが、通常より強化された聴力を持つ神機使いである俺たちは当然の如く聞こえているわけで、誰もがソーマさんの方に注目した。

 ソーマさんは急に注目されたからか、フードを何時もより深く被りそっぽを向く。お手本のようなテレ仕草である。

 

 

 「シ、オ……?シオ……シオ………シオ!ソーマ、その名前気に入った!ありがとう!」

 

 

 ソーマさんが言ったシオという名前を何回か呟いた後、特異点の少女改めシオはそっぽ向いているソーマさんに近付いてお礼を言った。ソーマさんは返事をしなかったが、フード越しに見えた表情はそこまで悪いものではなかった。

 周りに居る人はその様子をニヤニヤと見ている。

 

 

 「どうやら、決まったようだね」

 

 

 「そのようです。よろしくシオ」

 

 

 「おー、仁慈!よろしくな!」

 

 

 「よろしくシオちゃん」

 

 

 「よろしくね。シオ」

 

 

 「よろしく、シオ」

 

 

 「みんなも!よろしく!」

 

 

 「………ねぇねぇ、やっぱりノラミの方がいいんじゃない?」

 「やだ」

 

 

 「んだよチクショー!」

 

 

 どんなけノラミを押すんだコウタさん……。

 自分のネーミングセンスのなさを認められないのかかなり無理矢理ノラミを押すコウタさん。その後彼はユウさんに「彼女はノラミではない」と腹パンを食らっていた。

 その光景でいつぞやロミオ先輩に腹パンしているときの事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近原作をなぞるだけになってしまっている……。
これでは原作崩壊のタグに反することになるな……(仁慈とユウが起こす惨状から目を逸らしつつ)


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大体アイツ(仁慈)の所為

大体仁慈の所為


 

 

ここは極東のベテラン地区。そのなかの一室である自室でサクヤはターミナルにリンドウが残したとおもわれるデータを再び閲覧していた。

 このディスクを発見してしばらくがたった。新人だった新型神機使いは第一部隊の部隊長となったし、アラガミが人間に近しい進化をとったシオという存在にも遭遇した。極東支部には新しい風が入りつつあるが、彼女が行っているデータの解析はまったく進んで居らず、どこかイライラしていた。

 

 

 「……やっぱりダメね。重要な部分にはリンドウの腕輪認証がかかってる……」

 

 

 ハァ、と溜息を吐いてディスクを取り出す。

 すると、コンコンとドアが叩かれたアリサかと思いサクヤはどうぞと声をかけるが、その声と共にドアを開いて入ってきたのはアリサではなく仁慈であった。

 

 

 「あれ、貴方だったの?」

 

 

 「一体誰だとおもって許可出したんですか……」

 

 

 「ここに来るのはアリサくらいだし」

 

 

 「微妙に悲しい言葉を聞いてしまった……」

 

 

 ぼそりと呟かれた一言に仁慈はなんともいえない気持ちになりつつも、自分の用件を告げるために口を開いた。

 

 

 「っと、そんな事言っている場合じゃなかった。サクヤさん。ひとつお話してもよろしいでしょうか?」

 

 

 仁慈は既にアリサの話からサクヤがリンドウの腕輪を探していることを知っている。そして、彼女はそれがあの時自分達を取り囲んだプリティヴィー・マータだとおもっているのだ。

 が、この男。極東きっての人外のユウと神機使いのプロトタイプであり、仁慈を除いた全ての神機使いの中で最もアラガミに近い神機使いのソーマを引き連れてリンドウの仇(仮)のプリティヴィー・マータをもう絶滅させる勢いで狩りつくしていたのである。そのことをサクヤに伝えにきたのだ。

 

 

 「そう……腕輪は出てないの?」

 

 

 「えぇ、一日五体のペースで一週間ほど狩りに行きましたが、腕輪はありませんでした。別の場所に逃げたという可能性もありますが……いくら閉じ込められたとはいえ、リンドウさんがプリティヴィー・マータ如きに負けないとおもうんですよね」

 

 

 「(接触禁忌アラガミを如きって………)」

 

 

 さらりと仁慈が告げた言葉に戦慄しつつ、彼女は考える。

 あの状況でプリティヴィー・マータがリンドウを殺していないのすれば、一体リンドウは何にやられたのかというのか。

 

 

 「そのあたりは流石にわかりません。あそこ、アラガミなら誰でも入れますし」

 

 

 ついでに俺も入れますという声は幸運なことにサクヤに届くことはなかった。

 サクヤは仁慈が持ってきた情報にさらに頭を悩ませた。

 

 

 「……腕輪はあきらめたほうがいいかしら……」

 

 

 「サカキ博士に解析してもらうのはどうでしょう?」

 

 

 スターゲイザー……傍観者を気取っている彼でも、この案件は流石に看過できない問題だ。なにせ、観測するものがまとめてなくなってしまう終末捕食に関係することがらだからである。だからこそ、今も彼は自身の研究と平行して特異点であるシオをかくまっても居るのだ。

 そして、何より彼は初めてアラガミ装甲壁を作り出した天才中の天才である。腕輪認証をどうにかすることだってなんとかなるかもしれない。

 

 

 

 「……でも、サカキ博士は今一信用できないのよね……。あの、何を考えているのか分からない雰囲気がちょっと」

 

 

 「あっ(察し)」

 

 

 心当たりがありすぎて、思わず納得してしまった仁慈。彼を責めることは出来ない。何故なら今サクヤが考えたことはこの極東にいる神機使いなら誰もがおもったことだからである。

 

 

 「で、でも大丈夫ですよ。今回だけは確実に俺達の味方ですから」

 

 

 「どうしてそんな事が言えるの?」

 

 

 「今、サカキ博士が行っている研究・観察の対象が俺達だからですよ」

 

 

 サクヤはその耳に入ってきた言葉をすんなりと信じることが出来た。なんというか仁慈の言葉には物凄い実感がこもっているのを感じ取ったのだ。確実に自分のほうが極東で働いてきた時間が長いと断言できるのに、この妙な説得力はなんなのだろうと疑問に思いつつ、

 

 

 「そうね。相談してみるわ」

 

 

 「そのほうがいいですよ。大体こういう案件を1人で抱え込むと失敗するので」

 

 

 どこか先ほどよりも明るい表情でサクヤはさっそくサカキの元へと向かっていった。主が居ない部屋にとどまるわけにも行かないので、仁慈もサクヤと共に部屋を出る。今日は珍しく仕事が入っていないため、自室でゆっくりしようかと考えならが廊下を歩く。

 が、それは叶うことが難しい願いだと仁慈は考えていた。何故ならその思考がフラグということを過去の経験から理解しているからである。

 今回も例に漏れることなく、彼の平穏は手の届かないところまでいってしまった。

 

 

 『第一部隊所属、樫原仁慈さん。至急、エントランスに来てください!繰り返します!第一部隊所属、樫原仁慈さん。至急、エントランスに来てください!緊急任務です!』

 

 

 切羽詰った声が極東の放送から聞こえてくる。

 仁慈もそれを聞くと全速力でエントランスへと向かった。

 

 

 「仁慈さん。緊急任務です。先程、第一部隊のアリサさんとコウタさんが新種のアラガミと遭遇しました」

 

 

 「そのアラガミの特徴は?」

 

 

 「女性の上半身のようなものをくっつけた巨大なアラガミらしいです!」

 

 

 「……ヴィーナスか」

 

 

 仁慈の居た世界で居たアラガミである。一説にはサリエルが美しさを求めて多くの捕食を行った結果といわれている。上半身の人間部分はその追求の成果かとても美しい女性の姿だが、それ以外は肥大化してみるに耐えない醜悪な姿のアンバランスなアラガミだ。

 しかし、仁慈は解せなかった。

 いくら新種のアラガミでも、仁慈とユウと共に戦って成長したアリサが追い詰められるとはどうしても思えなかったのである。コウタのほうもそうだ。直接教えてなどいないが、異能生存体とも呼べるフラグブレイカーっぷりを知っている。そんな2人がピンチになるにはヴィーナス程度では足りないと考えている。

 

 

 「他にも居ますか?」

 

 

 「実は、近くに強力なアラガミの反応があります。しかも、それが今までにない反応を繰り返していて……それがアリサさんとコウタさんの偏食因子の活動を弱めているんです。効果は神機の攻撃力が下がっているくらいのものですが……それが新種の相手ということと重なってかなり不利な状況に……」

 

 

 「マジか……」

 

 

 ヒバリがいう現象を起こすアラガミたちを仁慈は知っている。

 彼が思っていることが本当ならば今すぐ自分が助けに入らないとまずいということだ。

 

 

 「分かりました。ヘリの用意をしてください。今から出ます」

 

 

 「ヘリは既に準備してあります!どうか、アリサさんとコウタさんと共に、無事帰ってきてください!」

 

 

 「了解」

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 まさか、ヴィーナスと感応種擬きが現れるとは思わなかったわ……。なんだろう。ここ最近強さのそこが見えない極東人を殺すために地球が殺意の波動に目覚めたのだろうか?

 

 

 「未確認のアラガミのところに着きました」

 

 

 「了解」

 

 

 ヘリの操縦士の言葉に返事をすると、ヘリの扉を横にスライドする。

 肉眼でも確認できる奇抜なカラーリングのアラガミを真下に捉えることが出来た。パッと見た感じ、カバラ・カバラのようだ。

 

 

 ……出てきたのが、カバラ・カバラでよかった。

 コイツは偏食因子を活性化させたりと、何かと俺達の役に立つことが多いからな。予想だけど、自分の性質で押さえ込んだ偏食因子をこれまた自分の性質で活性化させているからアリサさんとコウタさんは神機の威力が少し下がったくらいですんでいるのだろう。

 これが他のやつらだったら最悪だったぞ。

 

 

 カバラ・カバラの真上を陣取り、空中で神機を捕食形態にする。そして、重力を加算した勢いをもってして無理矢理カバラ・カバラの体を食い破る。

 これぞ、俺の得意技アンブッシュである。相手は死ぬ。

 

 

 「よし、完了。後は……」

 

 

 カバラ・カバラを軽く食いつぶした後、ヴィーナスが居るところに向かって跳躍をする。そこには、丁度ヴィーナスにひき逃げされそうなアリサさんとコウタさんが居た。絶賛大ピンチ中らしい。

 

 

 地面を抉るような勢いで蹴り上げて、一気に体を加速させる。まるでジェットコースターに乗っているかのように変わっていく風景の中、しっかりと目標である2人を見逃さないようにし、轢かれるか轢かれないかのギリギリのところで抱え込み、ヴィーナスの車線上から外れる。

 俺が通り過ぎた後、ヴィーナスは気味悪い笑い声と共に通り過ぎていく。あっぶねぇ。

 

 

 「うぉ!?仁慈か!?」

 

 

 「助けに来てくれたんですね」

 

 

 「はい。緊急用のヘリを使って普通ならまだ着かない時間で急遽駆けつけました」

 

 

 「おいィ?言ってる場合じゃないんだが?このままでは俺の寿命がストレスでマッハ。はやく何とかしてくだふぁい」

 

 

 「どうしたんですか、コウタ」

 

 

 黄金の鉄の塊の魂が乗り移ったんだよ(震え声)

 

 

 冗談を交えつつ彼らを地面に下ろすと、脇に抱えていた神機を構えてヴィーナスと向き直る。

 下ろされた二人も気を取り直して神機を構えた。

 

 

 「仁慈、気をつけろよ。アイツ、別のアラガミの攻撃も使ってくるぞ」

 

 

 「クアトリガのミサイルに、謎の毒触手。グボロ・グボロの水鉄砲とバリエーション豊かです。これが噂の一粒で二度おいしいというものなのでしょうか」

 

 

 「全然違います。まぁ、あれとは戦ったこともあるので、俺の指示に従って行動してください」

 

 

 頷く2人を見て、声を張り上げヴィーナスに向かっていく俺達。

 

 

 こんな化け物を相手している間、ソーマさんとユウさんはシオちゃんとディナーしていると想像すると物凄くイラつくわ。

 

 

 自分でも理不尽と思われる感情を神機に乗せながら俺たちはヴィーナスに襲い掛かった。

 

 

 

 

    

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 なんか強敵に向かっていく的な雰囲気を出しましたが、普通に倒しました。

 だってヴィーナスとは戦ったことあるし、アリサさんやコウタさんが手こずっていた原因であるカバラ・カバラも葬った後の戦闘だったから終始こっちが有利ですよ。今更複数の攻撃を出来るくらいで勝てると思ってもらっては困る。

 

 

 まぁ、それは別に問題ないんだ。

 問題はこんなに早く感応種が現れたことだ。未来ではまだこの時期感応種は出ていなかったはずだ。

 いろいろ陰謀はびこっているこの状況で感応種まで出てこられたらかなりまずい。

 ………これも含めてサカキ博士に相談したほうがいいかもしれない。

 

 

 あの人も、新しいアラガミの出現だとか言って喜ぶだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やってしまった感応種の出現。
まぁ、頻度はそこまで高くありませんけどね。これからもちょくちょく出てくると思います。




FGOで、エレナ・ブラヴァツキーさんが欲しくて10連引いたらアルジュナとナイチンゲールさんが出ました。

複雑ですが、すごく嬉しいです(ゲス顔)


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全ての世界で通ずる最終兵器

今日で春休みが終わるので、投稿が不定期になります。
……できれば、投稿が早くなくても見てください(土下座)


 

 

 

 

 喜ぶかともおもったけど、そういうわけではなかったようだ。

 どうやらサカキ博士の興味は今シオに集中しているらしく、感応種のことに対してはそこまでくいついてくることはなかった。しかし、感応種の能力はいろいろ厄介だし、シオと平行して研究をしてくれるということ。

 なので、その研究の助けとして俺がアンブッシュしたカバラ・カバラのコアを提供してきた。

 

 

 「仁慈さん今日は助けていただき、ありがとうございます」

 

 

 「あ、アリサさん。別に当然のことをしたまでですよ」

 

 

 コアを提供し終えた後、アリサさんとたまたま出会った。先程のことでお礼を言われたので言葉を返す。

 仲間を助けるのは当然だし、しかもあれどちらかといえば俺の所為っぽいし……感応種の処理は今でこそブラッドの専売特許じゃなくなったもののこの時代で処理できるのは俺だけだしね。

 やだ、なんかこうして整理してみるとマッチポンプに見える!不思議!

 

 

 「いえ……本当に仁慈さんには助けてもらってばかりで……申し訳なくおもってしまいます」

 

 

 「別にいいですよ」

 

 

 どうして今日はここまで卑屈なのだろうか。

 いつにないネガティブアリサさんに困惑を隠しきれない。

 

 

 「なので!」

 

 

 「おうっ!?」

 

 

 かと思いきや急に声を張り上げて顔をずずいっと近づけてきた。ちょこっと前に顔を出すだけでキスできてしまう距離感まで一気に近付かれたため、思わず情けない声を上げながら体をそらした。

 躁鬱激しいよ。どうしたの一体……情緒不安定な昔のアリサさんが帰ってきてしまったのだろうか。

 

 

 「せめてものお返しということで、カノンさん監修のもと、私の故郷の料理であるボルシチを作ってきました」

 

 

 ………ん?

 

 

 「ん?」

 

 

 聞き間違いかな。

 せめてものお返しとして、アリサさんが俺に料理を作ってくれたというセリフが神機使いの強化された聴力を通して頭に入ってきたんだけど……。

 

 

 「すみません。もう一度お願いします」

 

 

 「日ごろの感謝を込めて、料理を作ったんです。よ、喜んでもらえると嬉しいんですけど……」

 

 

 聞き間違いじゃなかったか……。もしかして、お返しのところを仕返しと聞き間違えた可能性も考えたが……俺に向けている眩しい笑顔がその可能性を否定している。いや、このいい笑顔で仕返しに来たかもしれないけど、その可能性はひとまず置いておこう。少なくとも嫌われるようなことをしたわけじゃないし。

 

 

 それに、お返しだろうと仕返しだろうとアリサさんが俺に料理を作ってくれたことには変わりない。

 ………俺は覚えている。俺は知っている。かつてクリスマスで浮き足立っていた極東を恐怖のどん底に陥れたバイオ兵器の存在を。それが巷ではアリサさんの手料理と呼ばれていることも。あれを食したコウタさんとロミオ先輩は三日三晩寝込んだのを知っているんだよ。

 

 

 要するにだ。善意であれ悪意であれ、今は下手なアラガミと対峙するとき以上に命の危機ということである。

 

 

 「えーっと……」

 

 

 「………もしかして、ご迷惑でしたか?」

 

 

 くっ!美人というのはこういうときに便利だな。不安そうな顔をすればこちらはいやでも罪悪感が沸き、怒れば普段とのギャップの所為で死ぬほど怖い。ソースは俺。ナナとかがまさにそうだった。

 

 

 「いえ、嬉しいです。この後仕事もないので、自室でゆっくり食べさせてもらいますね」

 

 

 そういうと、アリサさんはパアァァと明るい表情を浮かべて料理を手渡し、ルンルンとスキップを踏みそうな上機嫌で自室へと帰っていった。

 彼女が完全に自室に入ったことを確認すると、俺の表情は消えていた。完全に無の状態である。途中ですれ違った人たちがこぞって俺のほうに振り返ったりしているが、そこは気にしてはいけない。今から死地に向かうのだから。

 

 

 自室の扉を開けて、アリサさんの料理を一分半ほど電子レンジに突っ込む。その間に俺は棚からある箱を取り出し、その後、精神を研ぎ澄ませるために二、三深呼吸を行う。

 俺が挑むのは、数多の神機使い(つわもの)を倒したこの世全ての毒(アリサさんの料理)

 

 

 

 

 

 

 

 ――――逝くぞ、俺。胃薬の貯蔵は十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 症状、腹痛に頭痛、関節の痛み。

 まるでインフルエンザにかかったかのような症状だが、残念ながら俺はウイルスなんかに感染しているわけではない。この身の半分はオラクル細胞で出来ているため、そう言ったものには耐性があるからだ。しかし、その人外ボディーを貫通するアリサさんの料理である。マジバイオテロ。

 

 

 ぶっちゃけ、今すぐにでも布団に潜って体力の回復に努めたい、努めなければならないわが身であるが残念ながらそうも言っていられないのが世界で指折りの世紀末激戦区極東である。

 昨日感応種のコアを提供したばかりにも関わらず、サカキ博士が感応種の特殊な偏食因子に反応するレーダーを開発したのだ。

 曰く、対応できるのが俺だけなので早めに探知機は作っておいたとのこと。流石サカキ博士。略してさすさか。

 

 

 関心ばかりもしていられない。先程も言ったとおり、対応できるのが俺だけなので、必然的に感応種が出れば俺が借り出されることとなるのだ。

 ここまで言えばもうお分かりだろう。そう、この最悪のコンディションで感応種が出たのだ。今まで以上に俺に対する殺意が見える。

 

 

 そんな完全アウェーな状態でこの極東に出現してくれやがった感応種はなんとスパルタカスだった。

 あの「えっ?コイツ感応種なの?トウモロコシじゃね?」で有名なスパルタカスである。ジュリウスは、カラーリングが被るといって毛嫌いしていたスパルタカスである。ナナが名前を訳してカスと呼んでいたスパルタカスである。散々な扱いに定評のあるスパルタカスである。

 

 

 コイツは周囲に居るアラガミのオラクル細胞を吸収してパワーアップする能力があるのだが、ぶっちゃけ、吸収中はめっさ無防備なのである。つまり、吸収しているところを正面から切りかかり、そのまま内部をズタズタに引き裂いたのだ。その中にコアも入っており、スパルタカスはあっさりとお亡くなりになられた。

 

 

 相手がコイツで本当によかった。今の俺だと、下手すると負ける可能性がある。ホッと一息つくが、いつぞやのタイトルでも言ったとおり、嫌な事は往々にして連続して訪れるのもなのだ。

 続けて入る、感応種の出現報告。場所はここ。数は3体。全員同じ反応から同固体だとおもわれる。

 

 

 ヒバリさんが一生懸命くれる情報を痛い頭に叩き込みながら、敵の方を見る。

 俺の前に現れた感応種はイェン・ツィーだった。しかも、3体。彼らが俺を発見して何時もの謎ポーズを取りつつ、チョウワンンを出現させた光景を視界に納めると俺は、

 

 

 「何でこんなときにお前が来るんだ!!」

 

 

 キレた。

 この世全ての毒(アリサさんの料理)の所為(確定)で俺の体調は最悪なのだ。正直今すぐベットに寝転がりたいのだ。

 そんな状況で出てきたのは面倒くさいことに定評のあるイェン・ツィー。無造作に味方を作り、そして1人に集中攻撃をしてくるから性質が悪い。それも3体。

 万全の状態ならなんともおもわなかっただろうが、散々いっているとおりコンディションは最悪だ。そんな中、上記のような理由のやつらが出てきたらキレたくもなる。

 

 

 「Arrrrrrrrrrr!!!!」

 

 

 

 結果、俺は言語能力の一時期使用不可と引き換えに怨念とか恨みとか憎しみとか悲しさとか愛しさとか切なさとか心強さで肉体を強化して、チョウワンもイェン・ツィーも纏めて平等に葬った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、極東支部に帰ってきた俺を、ソーマさんとユウさんとのディナーから帰って来たシオが撫でて励ましてくれた。泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回仁慈を倒せるものはないと言ったな。あれは嘘だ。

全ての世界に通じる最終兵器(メシマズ)には勝てなかったよ……。


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仁慈飛ばされる

投稿が遅くなってしまってすみません。
これには理由がありまして、実は自宅のパソコンがぶっ壊れました。そのため、この作品の投稿が極端に遅くなる、もしくは半ば凍結という形になります。この話も別のパソコンから書いてます。

しかし、必ず完結させますので今後ともお願いします。


今回の話はこの報告もかねてのものなので短いですが、ご了承ください。



 

 

 

 「……one more time please」

 

 

 「だからね。君に本部のほうから出頭命令が来ているんだよ」

 

 

 「………なんでですか」

 

 

 おかしいでしょう?

 アリサさんの毒に一週間苦しめられつつも、何とか全快し元気よく通常種も堕天種も接触禁忌種も感応種も刈り倒していると、ある日サカキ博士から呼び出しを受けた。

 何かやらかしたか?と思いつつ、彼に話を聞いてみれば、上記のようなことを聴いたのである。何で俺がお偉いさんのところに行かなくちゃいけないんですかねぇ……。もしかして、俺の体のことばれたか?

 

 

 「いや、そのことについて報告はしていないよ。というかしていたら、今すぐ全世界に君の束縛命令が出ると思うけどね」

 

 

 「まぁ、ユウさんが居なければ全員蹴散らせますけどね」

 

 

 あの人も俺の過去話(捏造あり)を聴いて俺を捕獲しないと思う。つまり、俺のことを捕獲することは叶わないということだ。

 まぁ、本気で俺を解剖するなら俺がフェンリル本部を解体するけど。物理的に。

 

 

 「それは是非ともやめてくれた前。君が言うと洒落にならない。………君のデータは改ざんをしているが、討伐数までは手を加えていないんだ」

 

 

 「それって……」

 

 

 「つまり、君は本部にも一日二桁の様々なアラガミを刈り倒す化け物として認識されているんだよ」

 

 

 「何故そこを誤魔化さなかったし」

 

 

 ユウさんと違って一応自覚しているんですよ?俺の討伐数がおかしいということは。そんなのそのまま他のところに送ったら呼び出されるに決まっているじゃないですかーやだー。

 

 

 「実力を疑われているわけじゃない。大きな企業のお偉いさんにはよくある、ありふれた理由で君は呼び出されたんだ」

 

 

 「それって?」

 

 

 「人は権力や、金を持てば持つほどそれと自分の命に執着を持つということさ」

 

 

 つまり、頭のおかしいほど強いんだから自分達のそばに俺を置いて、自分達の身の安全を確保しようということか。

 

 

 「それっていつですか?」

 

 

 「ちょうど、ヨハンが帰ってくる時期と重なるね。五日後だよ」

 

 

 「…………」

 

 

 なんか作為的なものを感じるな。俺の移動と同時にヨハネス支部長が帰ってくるというのは。

 

 

 「………君もそう思うかい?おそらくそれは正解だよ。おそらく、ヨハンは君の事を一番恐れている。君の常軌を逸脱した力は、どんな奇跡でも起こせうるものだろうしね。それを排除するために本部にも彼が手を回したんだろう。彼なら、本部にコネの一つや二つ持っているだろうし。本部のお偉いさん方も君の力が本物だと分かれば早々手放そうとはしないだろう。誰しも、自分の命はおしいからね」

 

 

 「ふーむ……一応バックれてもいいんですけど……」

 

 

 「それは勘弁してくれないかい?流石に指名手配されてしまっては僕も庇いきれない」

 

 

 「この話断ったら指名手配されるのか……」

 

 

 「向こうさんも一応体裁を保つために、君を呼び出すことを『極東の神機使いによる強化合宿』と銘打っているようだよ」

 

 

 「ついでに世界の神機使いを強化しようということですか」

 

 

 「特に、最近入ったばかりの新型神機使いを世界から集めているらしい」

 

 

 「どちらにせよ。俺の苦労は免れないのか……」

 

 

 ニヨニヨ笑顔を浮かべるサカキ博士と違い俺の表情は物凄く沈んでいる。お偉いさん相手とか絶対やりたくない。あのハンプティダンプティみたいな人が乱立していると思うとね。

 

 

 「まぁ、そんなにへこまないでくれ。こちらも一応手はうってある。これはチャンスでもあるんだ」

 

 

 確かに、俺が居なくなればヨハネス支部長の警戒も多少弱まるかもしれないけどさ。それは事態の悪化にイコールだと思うんだけど?

 

 

 「だからこその手だよ。君を送るヘリは常に君のそばに居るように、支部長代理の権力をフルに使って言ってあるし、君専用の通信機も送るよ。本部の方にも、極東支部がピンチに陥った場合はただちに君の帰還とそれを拒むことを禁止するよう契約しておいたしね」

 

 

 「しかし……」

 

 

 「それにこの支部にはユウくんが……」

 

 

 「これは行けますわぁ……バリバリ本部に迎えられますわ。……心配事なんてなかった」

 

 

 名前が出るだけでこの安心感よ。

 問題は感応種なんだよな。これが俺の居ない間に出たら流石にユウさんでもキツイ気

がする……キツイよね?偏食因子なしでも普通に神機振り回して戦ったりしないよね?

 

 

 「それに関しては安心してくれ。倒せはしないものの、追い払うくらいなら問題ないものが出来上がっているからね」

 

 

 「本当に、ハンパじゃないですね。サカキ博士」

 

 

 もうこの人だけでいいんじゃないかな。

 

 

 「これもアラガミ装甲壁と同じ原理だ。今の感応種を追い払うことしか出来ないよ。向こうもすぐ進化できるだろうし、使い捨てのものさ。でも、君の不在期間くらいは何とかなると思うよ。僕の予想では、君がいなくなった後からヨハンは動き始めるだろうからね」

 

 

 「……そうですか。ちなみに期間はどの程度ですか?」

 

 

 「一か月。これくらいあれば、ヨハンは動き出すよ」

 

 「了解です」

 

 

 

 こうして俺の一か月にわたる移転が決定した。

 マジ憂鬱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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一匹キチガ◯がいたら、あと三十匹いると思いましょう

ま た せ た な !

というわけで、お久しぶりです。
パソコンは治っていませんが、なぜか今まで入れなかったはずの携帯で、ハーメルンにアクセスできたので携帯で書いています。なので、行がおかしかったり、変なところで言葉が切れているかもしれませんがご了承ください。

このサブタイトルの適当さよ…弁明はない。あるがままに文句を受け入れようじゃないか。


 

 

時はあっと言う間に過ぎ去り、俺がフェンリル本部に向かう日になった。今から憂鬱である。だって本部ってことはお偉いさんがいっぱいいるんだろう。その立場だけは立派な人たちがいるであろう。だいたいお偉いさん方は内面が腐っていると相場が決まっているのだ。例外もいるだろうけど、この世紀末伝説もかくやという世界では多くいるだろう。はぁ……マジ行きたくねぇ。

 

「そこまで露骨にため息をつかないでくれないかい?君の態度では色々面倒なことになってしまうんだけどね」

 

「愚痴くらい言わせてくださいよ」

 

絶対ろくな扱いを受けないって確信してるから、この弱気も仕方がないと割り切ってほしい。正直、俺みたいな若造に戦い方なんて教わりたくねぇ!って人もいるだろうしさ。

 

「否定はしないけどね」

 

「まぁ、我慢しますとも」

 

俺たちの目的……ヨハネス支部長にも動いてもらわないといけないしね。

 

「本当に行ってしまうんですか?」

 

「もう会えないのかー?」

 

「いや、別にそんなことはないよ」

 

どうしてそこまで深刻そうな感じの反応をしているのだろうか。

涙目ですがるような感じで話しかけてくるシオとアリサさんにそう考えざるをえない。というか、彼女たちの視線が明らかに今から死地に向かう人を見送るような雰囲気なんだが……。アリサさんはともかくシオがそんなことを考えるのはおかしいと思い、周囲をぐるりとと見渡してみれば、第一部隊の男性陣が打ち合わせいていたかのごとく一斉に視線を逸らした。おまえらか。

ゲンコツを男性陣にかましつつ、俺は準備を終わらせる。そして荷物を持ってサカキ博士が用意してくれたヘリによ乗り込みフェンリル本部へと向かう。

 

「旦那、また任務ですか?」

 

「…………えっ?」

 

誰?と思いつつ、声のした方に視線を向けてみれば、話しかけてきたのはまさかの操縦士だった。彼は俺を知っているような口ぶりで話しかけてにたが、まっこと残念なことに見覚えがなかった。困惑している俺に気がついたのか、操縦士はニコリと笑って自己紹介をした。

 

「あぁ、すみませんね。こうして話すのは初めてのことでしたな。実は、今まで旦那のことを送り迎えしていた者です」

 

操縦士が言ったことに俺は驚愕した。だって俺の知っている操縦士はこんなに爽やか系なイケボではなかったからだ。俺の知っている操縦士はもっとこう、篭っている低い声の持ち主だったはず。

 

「あっ、自分は普段このマスクをかぶっているんですよ」

 

その言葉とともに投げつけられたのは、ものすごく見覚えのあるマスクだった。それはもう、世界で一番有名なあんこくめんである。あのシュコーシュコー言うやつだ。

 

「普段からこんなのかぶって操縦していたのかよ」

 

「自分、操縦には自信があるんです」

 

だからなんだというのだろうか。どう考えても胸張って言えることじゃあない。というか、普通に危ないだろ。今度からこのヘリに乗る時は暗黒面の有無を確認しようと固く決意した。

 

「ちなみに、今日この暗黒面をつけていない理由は?」

 

「こんなものかぶって本部に行けるわけないじゃないですか」

 

だろうね。

こんなのかぶって行ったら無礼なんてレベルではない。不審者として拘束されても文句は言えないレベルだ。

 

――――こんな感じでフェンリル本部までの道程はなかなかに愉快で楽しいものだった。

 

ちなみに余談だが、彼の操縦に自信があるという言葉は本当だった。まさか、サリエル二体と空中戦を繰り広げることになり、勝利を収めることになるとは思ってもいなかったぜ……。

 

 

―――――

 

 

「」

 

つ、疲れた。

お偉いさん方となんて、サカキ博士とかラケル博士、グレム元所長くらいしか話したことなかったけど……まさかここまで疲れるものだったとは……。

サカキ博士やラケル博士みたいに完全に自分の本心を隠してこちらを利用しようというわけでもなく、グレム元所長のように露骨にわかりやすく言うでもない、言うなればその中間くらいの感じだった。

そして、それこそがここまで疲弊した原因である。中途半端に思惑が読めるから、対応にものすごく困った。どんな感じで言葉を返せばいいのやら全くわからなかったしな。

とりあえず、当たり障りのない回答を適当に答えてお偉いさん方との邂逅をやり過ごした俺は、現在このフェンリル本部で寝泊まりすることになる部屋へと案内された。

フェンリル本部と名乗っているだけあり、部屋の広さと綺麗さは極東支部とは比べ物にならないくらいのものだが、そんな事に金を使うくらいならもっと別な事に回せと思いましだ(小並感)

 

「樫原さんも極東から来たばかりでお疲れでしょう。今日のところはゆっくりとお休みください」

 

それだけ言って案内人は部屋を退出して行った。だがしかし、どうやらやっこさんは俺を休ませる気はないらしい。俺がこの部屋に入った時からその存在感をアピールしている書類がそれを許さないと言わんばかりに積み重なっている。試しにパラパラとめくってみるとそれは俺がこの一ヶ月で戦い方を教える神機使いたちの情報だった。

どうやらこれに目を通して効果的な指導を行えということらしい。あの案内人はゆっくり休めとのたまわっていたが、これは無理だろう。どう考えても三十分とか一時間で終わる量じゃない。

結局、どこに行っても俺を苦しめるのは事務作業らしい。無駄にきれいで設備の整った部屋からコーヒーメイカーを取り出してコーヒーを淹れつつ、書類の束に向き直った。

 

 

―――一方そのころ極東は

 

 

おかしい、おかしいわ。今私たちが挑んでいるのはリンドウの命を奪ったと思われる黒いヴァジュラ――ディアウス・ピターと対峙している。

このアラガミは目撃例が少なく、情報もそれに比例して少ない。そのため、万全の状態で立ち向かわなければいけない相手であったはずだ。それなのに……。

 

 

「アリサ、次あの黒爺が翼を生やしたとき、同時にその付け根を狙って切り落とすよ」

 

「任せてください。仁慈さんから教わった技能をすべて使って完璧にこなして見せましょう」

 

「コウタはなるべく怒らせるように、目玉をひたすらに狙いまくって」

 

「任せな。『仁慈のパーフェクト殲滅教室(アサルト編)』を読んで実習してきたから楽勝だぜ」

 

GJ(グッジョブ)。じゃあリンドウさんの仇を取りに行こう!」

 

「おう!」「はい!」

 

これはいったいどういうことなのかしら。

私よりも経験が少ないはずの新人三人組が、率先してディアウス・ピターと対峙している。普通の新人であれば、この大きさと強さを兼ね備えたアラガミ相手には怯えて動けなくなるっていうのに。

あの子たちは全然違う。怯えるどころかむしろ積極的に戦いに行っている。ユウとアリサはタイミングを計っているのか今は回避に徹していて、攻撃しているのはコウタ君のみだ。だけど、彼は攻撃が飛んでくるぎりぎりまでピンポイントでディアウスの目玉に弾を撃ち込んでいた。

ディアウスはそれに耐えることができずにその場によろめいた。コウタはその隙を逃すことなくひたすら必要以上に目玉を狙ってディアウスを苦しめていた。

どうしてそこまで必要以上に目玉を狙うのだろうか?

 

「師(仁慈)曰く。『敵の弱点は徹底的に突くべし。特に目玉とかおすすめ』らしいですよ」

 

ディアウスの猫パンチや電撃攻撃をさばきながら私の疑問に答えたコウタ。なんてことを教えているのかしら………。大体あってるし、とても効果的だから何も言えないのだけれど。

 

「GUUUOOAAAAAAaaaaaa――――――!!!!!」

 

ここでディアウスはちまちまと弱点を攻撃する自分たちにをうっとおしく思ったのか、先ほどと同じように赤い落雷を周囲に落としながら、自身の背中からどうやって収納していたのかわからないくらい大きな翼を広げて威嚇を始めた。

けれど―――――この状況でそれはやってはいけない一手よ。

さっきからその翼をもいでやろうとずっとスタンバイしている人たちがいるからね。

 

「今だ!」

 

「はぁぁぁぁあああ!!!」

 

頭上から降り注ぐ赤い雷を光る地面を目印にするすると避けながらディアウスに肉薄して行く。そのままディアウスの前で交差しつつ、2人はディアウスに生えた翼をきっちり両方とも根元から両断した。

両方の翼を両断されたディアウスは痛みからか苦しげな声を上げる。

……そういえば、今回私何もしてないじゃない。

 

慌てて正気に戻った私は、コウタの銃撃の間を縫うようにオラクルを発射した。

コウタの攻撃は、すでに結合崩壊を始めている目に直撃し、私の放った攻撃はちぎれた翼の傷口に直撃した。そして、止めにユウがディアウスの大きな頭を両断し、その生を終わらせる結果となった。

 

「やったね」

 

「仁慈さん、ついに私はトラウマを超える事ができましたよ……」

 

「トラ……ウマ……?」

 

トラウマとはなんだったのか。

あれだけ堂々と殺しに行っていたのに……。

今更トラウマアピールを始めるアリサに若干冷たい視線を送りつつ、ユウにディアウスの死体の捕食を頼む。

彼は頷くと、神機を捕食形態に移行し、喰らい付かせた。しばらくすると、中からリンドウの腕輪と神機が発見されたのだった。

 

 

--------

 

「…………………」

 

「…………………チッ」

 

みんな反応が露骨だなぁ。

1日しっかり休んで(資料地獄なんてなかった。いいね?)指定された部屋の壇上に上がってみれば、他の支部から呼び出されたであろう人機使いの皆様から早速熱烈な視線と態度で俺を迎え入れてくれた。嬉しすぎて今すぐ極東に帰りたくなったぜ、マジで。

とまぁ、早くも弱音を吐きつつ俺は言葉発した。

 

「えー……これから一ヶ月ほど皆さんの戦闘に対する指導を行う樫原仁慈と言います。早速ですが、私が今回行う指導は自由参加です。強制はしません。受けなかったからといってなんらかのペナルティが発生する事もありません。もし、参加するのであれば、1時間後に再びここに来てください。以上です」

 

最後の最後まで全身に熱烈な視線を受けつつ、壇上から降りた。

……さて、反応は大体予想通りだな。特に神機使いになってから年月が長い人ほど俺に敵意をむけていた。昨日頭に叩き込んだ資料からも間違いない。

気持ちはわかる。長い年月と仲間の死を乗り越えた先に築き上げた戦い方を神機使いになって間もない子供から矯正させられるなんて、かなりの屈辱だろう。だからこそ、この提案なのだ。俺にも本来の目的があり、完全に動けない状態になるのはまずい。このように言っておけば、受講しに来る人だって減るだろう。そもそも、強制したところで反発され、余計効率が悪くなるだけだと思うけど。

 

さて、これから一ヶ月……どうなることやら。少なくとも、結構な苦労は確実だろうなぁ。

 

そんなことを考えつつ、細かな癖等を見極める為にもう一度だけ、資料に目を通し始めた。

 

 




ここから怒涛の急展開?
覚悟はいいか?俺はできてる。


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神機使いとして

誰得回の完全オリジナル始めるよー。

あ、イスカンダルさん出てくれました。


 

 

 

 

資料に目を通して、情報を確かなものとしているとすぐに時は過ぎ去り、いつの間にか指定していた1時間後がやってきた。はてさて、一体何人がいなくなっているのやら。

我ながら割と酷いことを考えつつ、先程と同じ部屋に行き、壇上に上がった。

するとなんということでしょう。半数以上は消えると思われた各支部のエリート様方は誰1人としてかけることなくその場に立っていたのです。

これには流石の俺も予想外だった。何人かは確実に反発して出て行くと思ったんだけどな。一応自分たちは選ばれたという意識があるのか、参加したほうが妨害しやすいことに気がついたのかはわからないけど。

まぁ、そこは気にしないでおこう。なにがあろうと俺のやることは変わらないし。

 

「全員きたんですね。よろしい、それでは指導を始めます。と言ってもここでタラタラと言葉を弄して指導をしても全く持って意味がないので、既に任務を1つ受けています。なのでこれからその場に向かいましょう。そこで実際に身体を動かしながら指導を行います」

 

ここに居る神機使いはその半数以上が新人だが、資料によると全員実地訓練を終えて、初陣を果たしていたらしいので批判的な意見はなかった。逆に知識だけ教えられてもそんなのもう聞いているし、としかおもわないだろう。

 

そんなことを考えつつ、俺は結局暗黒面を被ってヘリの操縦を行おうとしている人のヘリに乗り込んだ。

……はい後から首筋をアンブッシュして強制的にマスクを外させたけど。

 

–––––––––

 

 

私たちの教官になるという極東から来たという神機使いは思ったより若い人だった。予想では勝手ながらいかにも百戦錬磨といった感じなおじさまが来るのかと思ってけど……いや、かっこいい人ではあると思うけどね。銀髪赤目なんてなかなか見ないし。

 

閑話休題(それはともかく)

 

その意外にもかっこいい彼は他の神機使いからとんでもなく否定的な視線をぶつけられていた。もし私があの人と同じ状況にあったら、なにも喋れないで逃げ出すかもしれない……そんな感じの中にいるのに、彼は予想はできていたと言わんばかりの表情で口を開いた。

 

「えー……これから一ヶ月ほど皆さんの戦闘に対する指導を行う樫原仁慈と言います。早速ですが、私が今回行う指導は自由参加です。強制はしません。受けなかったからといってなんらかのペナルティが発生する事もありません。もし、参加するのであれば、1時間後に再びここに来てください。以上です」

 

絶句である。言葉も出ないということはまさにこのことだと思った。この時ばかりは彼を批判していた神機使いたちもなにも言えないといわんばかりに固まっている。彼はそんな私たちを物の見事にスルーして部屋から出て行ってしまった。

途端、周りがザワザワと騒ぎ出した。

 

「なに、あれ?」

 

「あんなのに教わって本当に強くなれるのか?」

 

「でも、アラガミの討伐数は圧倒的らしいぜ?一ヶ月で百匹近くの大型を葬ったとか」

 

「ハッ、あいつは神機使いになってからまだ一年も経ってないんだぜ?どうせ、どこかの裕福な家の出で、コネ使って改竄したんだろーぜ」

 

「まじかよ。あいつ最低だな」

 

話が人を通して行く度に、どんどん膨れ上がっていく様を見せつけられた私は本当にそうなのだろうかと考えていた。

素人の私でもあの人は普通の神機使いとは違うと感じることができた。なんだろうか、外見は自分たちと同じだけど、内から溢れ出る力の桁が違うという感じだ。

そのようなことを考えていると、周囲のざわめきは収まっていた。どうやら、みんなで彼に教えをこうふりをして陥れることで自分たちを騙した彼に仕返しを行うらしい。私はその話を聞いた時とその後でも呆れた。

それではまるで子供ではないか。ベテランの神機使いもその集団の中に混ざっていることを確認した私はもう考えるのをやめて、唯彼の行う指導を受けようと思った。

 

––––––––

 

「戦いにおいて、最も重要なことは観察です。相手の様子をこと細かく観察し、行動パターンを発見しましょう。それが被弾しない一番の近道と言っていいですね」

 

「だからと言って、完璧に覚えすぎると、予想外の攻撃が飛んできた時対応できないんじゃなのー?」

 

「そんなこといつも通りでしょう?それに、誰も完璧に覚えろと入っていません。大体の攻撃のタイミングがわかればいいのです。それさえ分かっていれば、すぐに回避行動に移ることができますから」

 

「それは無茶ぶりだと思いまーす」

 

「この程度もできないなら神機使いやめたらどうですか?近いうちに死にますよ。まぁ、あなたが死のうが関係ありませんが」

 

「なっ………ッ!」

 

うわぁ……バッサリいった……。

 

場所は彼が用意しておいた任務先である開けた場所。今回の任務はコンゴウの討伐となっていたらしいけど、コンゴウの姿が見当たらないので、彼が戦闘にとってなにが大切かということについて説いていた。まぁ、それの邪魔をしようという人もいたけど、あのようにバッサリと切り捨てられていた。ちなみに今ので三人目である。全く懲りてない。いい加減諦めればいいのに。

 

生徒役の私達の反応には全く興味がないのか、バッサリと切られた神機使いのことなど気にするそぶりも見せず、そのまま話を続ける。

 

「では、この観察から戦闘までをやってみましょう」

 

「……ふざけんなこのガキ。どうして俺がそんなことをやらなきゃいけねーんだよ。こっちはお前より長く神機使いやってんだよ、テメェみたいなガキに教わることなんかなにもねぇ」

 

「じゃあなんでここにいるんですか」

 

至極当然の疑問を彼は発した。確かに、この行事?に強制参加の義務はない。嫌ならばこなければいい話だ。というか、やる気のない人は正直さっさと帰ってほしい。邪魔だし。私はこの人の教えで強くなって、「ドイツの蒼い縞々」なんて不名誉なあだ名をつけた奴らを見返すって決めたんだから。

 

「うちの支部のやつから言われたんだよ。配給ビールをくれるって言ってたし、そのためだ。それでよぉ〜教官サマ。これで俺が完璧に対処できたら、お前は自分の支部へ帰ってもらおうか」

 

「何故?」

 

「俺たちの実力を正確に測れない奴なんて教官として信じることができないだろォ?」

 

「一理ありますね。では、お願いします。相手はそこにいるオウガテイルでいいですよ」

 

彼はそう言って数百メートル離れているアラガミのオウガテイルを指差しながら、自分に話しかけてきた神機使いに言った。一方、オウガテイルの討伐をお願いされた神機使いはニヤリと不気味に唇を歪ませると、楽勝だと言いながらオウガテイルに向けて一気に肉薄した。

オウガテイルの方も自分に接近する神機使いの存在に気がついたのか、咆哮を放った後、尾からトゲを射出する。しかし、それは神機使いのとった最小限の動きで回避された。

棘を放った後のわずかな硬直の隙を利用し、神機使いは神機を振りかぶってオウガテイルに向けて振り下ろす。その攻撃は見事にオウガテイルの胴体を斬り伏せた。体の損傷が大きく、再生できないオウガテイルに神機使いは捕食形態に神機を変形させると、今倒したオウガテイルのコアを飲み込んだ。

 

「ふっ、どうだこのガキ。たかがオウガテイルくらい余裕だって––––」

 

「……!?サメロ、上だッ!!」

 

「なに……?」

 

オウガテイルを倒し、彼に自信満々に向き直った神機使いは胸を張る。

ドヤ顔を浮かべつつとるその格好は大変イライラしたが、別の人の切羽詰まった言葉を聞いた瞬間、そんなことを思っていられなくなった。

何故なら、ドヤ顔でとてもムカつく仁王立ちをかましている神機使いの上から、卵のような部分を開けたザイゴートがドヤ顔をかましている神機使いにかぶりつこうとしたからである。いや、そんな生易しいものではない、おそらくあの神機使いは数秒後にはマミってしまうことだろう。誰もが想像できるくらいに無残な死を遂げることとなる彼に対してみんながみんな一斉に背を背けた。あの神機使いも自分の末路が見えたのか、諦めの表情をしていだ。

 

––––そう、樫原仁慈さん以外は

 

今回、私たちの教官と言っても過言ではない彼は、自分の神機を銃形態へと移行させた後、ろくに照準をつける間もなく、引き金を引いた。すると、その弾は見事なにザイゴートのど真ん中に突き刺さる。 どうやらちょうどコアもあったらしく、ザイゴートはぐずぐずに崩れながら地面に不時着した。

 

そこから神機を通常形態にすぐさま移行すると、自分が庇った方向とは反対側から神機使い(サメロ)のことを襲おうとしているオウガテイルの側面に一瞬で回り込んだ。そのまま、そこに移動するまでの力を殺さないように空中で体を横回転させながら神機を振るった。

一太刀にてオウガテイルの首を切り落とした彼は、首の切れ目から露出しているコアを素早く摘出する。それから数秒、周囲を警戒していた彼だが、もう敵はいないと判断したのか神機を下ろした。

 

その後、彼はおもむろに神機を担ぐと、そのままたった今殺されそうになった神機使いの元へと向かった。

私は正直慰めに行くのだろうと思っていた。だが、現実は違った。

 

「無様だな」

 

「なん……だと…?」

 

「無様だといっているのだ。サメロ・サッザーハ」

 

その場にいる全員の動きが一斉に止まった。今のでの雰囲気とは明らかに違う。先程まで表面上だけとはいえ、丁寧で優しそうな顔をしていたとは思えない。

そこにいるのはもはや、己に仇なす神々を次々と屠る、神機使いとしての樫原仁慈だった。

 

「俺の言うことを疎かにし、慢心した結果が今お前が晒している姿だ。お前が馬鹿にした基礎の基礎、それすらできていないお前が神機使いを名乗るなど、全神機使いに死んで詫びてほしい事態だ」

 

はぁ、と溜息を吐きつつ道端のゴミを見るようかの視線を向ける彼。今の雰囲気とは相俟って、サメロと呼ばれた神機使いは下を向いていた。

 

「サメロだけではない。お前とそこのお前、その周囲にいる奴らも、同じだ」

彼が口にしたのは、彼のことを馬鹿にしていた神機使いたちだった。突然、自分に話が回ってきて、なおかつ自分だがなにを思っていたのかが暴露た彼らはそれはもう見事なうろたえっぷりだった。

そのことを気にせず、彼はことばを続ける。

 

「この程度で怯えているのならば、お前らはさっさと自分たちの支部に帰るんだな。まぁ、今のお前たちならすぐに死ぬだろうけどな」

 

否定はできない。

ここにいる神機使いは何度も言うが新人。サメロと言う神機使いよりも弱い人が大半を占めているのだ。自分たちよりも強いサメロでもああなってしまうと自分たちはもっと早く死ぬだろうと簡単に推測できてしまう。

 

「………しかし、これだけは覚えておけ。弱いと死ぬことになるのはお前たちだけではない。同じ任務を受けていた仲間、自分の家族や恋人を含めた愛するものまで死なすことになる」

 

その言葉にその場にいた神機使いたちは一斉に顔を上げ、真剣に彼の言葉に耳を傾け始めた。

 

「耐えられるか?自分のせいで、愛するものが死ぬこという事態を」

 

全員が黙る。

それは彼の言葉を真剣に捉えて、考えているからだ。

 

「––––––––もし、それが嫌でそのために自分が抱いた恐怖すら捩伏せる覚悟があるなら、ここに残れ。決して後悔させないようにしてやる」

 

と言って、獰猛な笑みを浮かべながらこちらを振り向いた。

そんな彼に私たちは知らず知らずのうちに首をたてに振っていた。

 

 

 

 

 




神機使いたちがあまりにもなってないので、ついつい本気になった仁慈の図。
近々黒歴史に入る模様。


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アーク計画、始動。ついでに第一部隊も始動。

キングクリムゾン!


 

 

 

 

 

いや、まずい。これは思ったよりまずいな。

 

仁慈君にフェンリル本部へと行ってもらい、ヨハンの動きを見ようと計画していた私たち。

その目論見は見事に成功した。仁慈君がいなくなったことにより心なしか表情に余裕が出てきたヨハンは自分が秘密裏に行っていた計画、アーク計画を極東支部の全員に話したのである。

これにより、今のフェンリル本部は誰も彼もが特異点を見つけ出すことに精を出していた。

 

いや、それだけならどれほどよかったか。さらに深刻な問題が1つある。それは、コウタ君がヨハン側についてしまったことだ。シオのことを報告していない件を見るに完全に向こう側についてはいないようだが、それも時間の問題といえる。

だから言って私たちが彼を責めることはできない。研究さえあれば何もいらない私とヨハンを敵視しているソーマ、天涯孤独というユウ君と仁慈君さえいれば他はなにもいらないととんでもなく極まったことを曰うアリサ君、リンドウ君を陥れたヨハンに恨みを抱いているサクヤ君とは違い、コウタ君には守るべき家族がいる。ヨハンのいう、アラガミが完全に消滅した大地を踏みしめることができるチケットを貰えば、自分の守りたい家族を安全な世界へと連れて行ってあげたいと思うのは当然のことだ。

 

さて、この状況……どうすることが最善かね。

現在われわれの状況はほぼ詰みと同義だ。最近、エイジスから何らかの装置(おそらく特異点をおびき寄せるものだと推測される)が起動していることも確認できている。この前、ソーマとユウくんがシオとデート(狩り)に出かけた時、エイジスに向かって不自然に歩いていこうとしたそうだからなね。一応、ギリギリでユウくんが止めに入ったらしいけどねその反応からしてエイジスには特異点を引き寄せる機械が設置されていると考えるのが妥当だろう。このことからシオも迂闊に外に出せない状況だ。今は何とか私が作った部屋に匿いしのいでいるが、それも問題の先送りに過ぎない。

ぶっちゃけ、この部屋の電源が落ちたら一瞬でばれてしまう。ヨハンもヨーロッパ行きの件で私に疑いの目を向けているようだしね。

 

そんなことを考えていると、急に研究所全体が揺れ始め、部屋の電源が落ちてしまった。

………ふむ、これは確かに俗に言うフラグというものかな。

 

「あっはっはっは、いやーまいったまいった」

 

「………ついにおかしくなったか?」

 

「どうしたんですか、博士?」

 

「おー?博士、あたまおかしくなったか?」

 

唐突に笑い出した私に対して、今は同じ部屋の中にいるソーマとユウくん、シオがさらりと毒をぶつけてくる。

 

「ひどい言われようだね。いや、そうじゃない。私たちは今、とってもまずい状況にあるんだ」

 

「まずい状況……?」

 

『やはりそこだったか。博士』

 

「……っ!?今の声は」

 

「親父か……ッ!おい、おっさん。どうなってやがる!?」

 

「前にも言ったと思うけど、非常用の電源はここじゃない、もっと極東支部の中核を担う機関が担っているんだ。当然、復旧作業を行う際にはこっちのデータをごっそりと持って行かれる」

 

「つまり、バレました?」

 

「あぁ、完全にばれたね。それはもう見事にばれたね。言い逃れできないレベルでばれたね」

 

「何度も繰り返さなくていい……!それで、どうする!?」

 

「とりあえず、彼女を匿わないと。流石のヨハンもそこまで手荒な真似はできないし、私たちの元に来るのは時間がかかると思うからね」

 

ドバン!

 

「ヨハネス支部長からの命令だ。特異点を渡してもらおうか」

 

「………対応が何だって?」

 

「はっはっはっは、準備万端過ぎだね。流石ヨハン」

 

「機関銃まで装備してる……こりゃ完全に読まれてましたね」

 

この後無茶苦茶牢獄に入れられた。

 

 

––––––––

 

 

「イィィィッヤッ!!」

 

「アバー!?」

 

「南無三!」

 

「アイエェェェェ!!??」

 

「イヤー!」

 

「サヨナラ!」

 

………何で、ニンジャが湧いているんですかねぇ(困惑)

目の前で繰り広げられるニンジャバトル(偽)を視界の端に納めつつそんなことを考える。

 

俺が学習もせずに新たな黒歴史を作り上げた後、本部にやってきた神機使いたちはもはや誰だお前というレベルで改心して俺の訓練に参加するようになった。返事をする時は必ず敬礼をしだすし、経歴関係なく敬語を使われる。特に一番ひどいのが、サメロだ。なぜか俺のことを兄貴と呼びだし、出会った頃とはまた違う小物感を身につけてしまった。ついでに結構な戦闘力も身につけているからタチが悪い。迂闊に注意できない。

驚くべきことはそこだけではない。何とこの新人神機使いたちの中にアネットさんもいたのである。バスターとは名ばかりの、もはやそれハンマーじゃねーの?という武器を振り回すことに定評のあるアネットさんだ。極東(未来)にいた時に数回だけ一緒に任務に出たことあるけどあれはすごかった。豪快という言葉がよく似合っている戦い方だった。俺も数発巻き込まれそうになった。

まぁ、それは今いいとして、さすがに未来で極東に染まるだけあってスジがよかった。なので彼女には少ししかアドバイスはしていない。正直、ベテランの神機使いの方が苦戦している。彼等は今まで戦場で培ってきた自分なりの戦い方があるから苦戦を強いられている。だから彼女に関わっている時間はすごく少なかったはずなんだけど……。

 

「先輩!新しい立ち回り方を押してえてください!」

 

何でこっち来るんですかねぇ……。

まるで子犬のように駆け寄ってきたアネットさんに戸惑いを隠しきれない。

先ほども言った通り、俺は彼女に少ししかアドバイスをしていない。そのアドバイスの内容も、ガードが苦手でよく怒られるんですと言ったごく普通のものに対してのことを教えただけだ。

え?俺の答えは何かって?当たらなければどうということはない精神を教えてあげた。

 

「んー……そうですね。捕食形態を複数操ることはできますか?」

 

「はい。できます。と言っても、3つだけですけど」

 

「なら、その3つを利用した立ち回りを教えますね」

 

彼女が習得したと言われる捕食形態を見せてもらったのち、俺がちょうどその辺に湧いて出てきたシユウを実験台として立ち回りを見せる。

 

「基本はこんなところです」

 

「わかりました!ありがとうございます!……ところで先輩。今日の指導が終わったらご飯食べに行きませんか?」

 

アネットさんと食事かー。

この人、意外と酒癖が悪くて一緒に飲みに行く時、結構疲れるんだよな。昔からそうなのかな?と思いつつ、どう返事を返したものかと考えていると、右につけている通信機から一通の通信が伝え入った。

 

『やぁ、仁慈君。久しぶりだね』

 

「あれ?サカキ博士?」

 

てっきり、本部の方からさっさと任務を終わらせろという催促の通信かと思っていたので思わず疑問がそのまま口から零れ落ちる。

 

『そう、みんな大好きサカキ博士だ』

 

「みんなって誰っすか………。まぁ、そのみんなについては置いておくとして、どうしました?もしかしてヨハネス支部長が動き出しましたか?」

 

本部からの連絡じゃないということで、先程は思いつかなかったが、彼が俺に通信をよこしてくるなんて俺たちがぶら下げた餌に獲物がかかったということ他ならない。この場合は、ヨハネス支部長が動きを見せたというわけだ。

 

『ヨハンは私たちの狙いどうりに動き出してくれたよ。ただ、その後が問題でね。シオを連れ去られた』

 

「えっ……ユウさんという名の最強ガードがあったのにですか?正直、あの人を超えて特異点たるシオを確保とか想像できないんですけど」

 

もう、ユウさんが相手という時点でやる気がなくなるまである。

 

『実は、私の研究室に匿っていることがバレてしまってね。こちらが手を出せない状態にされたんだ』

 

確かに。

周囲から見れば、人類の敵であるアラガミを人類最後の砦であるフェンリルの施設内に入れて、匿ったんだからよくて牢獄行き、悪くて処刑並みのことだろうな。

 

『その通りだ。実際、僕らは牢獄に入れられているしね』

 

「どうやって俺に連絡飛ばしているんですか」

 

『私のことをあまりなめないほうがいい』

 

「やだ、超頼もしい……」

 

「あっ!先輩、危ない!」

 

唐突にかけられたアネットさんの声。意識を通信機から少しずらしてみると、俺の頭上に一匹、背後にもう一匹の計二体のアラガミが俺に襲いかかって来ていた。

通信機に気を取られたかと反省しつつ、背後から襲い来る敵の攻撃をバック宙の要領で回避、ついでに上から襲い来るアラガミにサマーソルトキックをぶちかます。

 

俺に攻撃を回避されたアラガミにサマーソルトキックをぶち込んだアラガミをぶつけて動いを阻害すると、二体まとめて神機でスライスした。

 

「失礼、邪魔が入りました。それで結局、俺はどうすれば?」

 

『至急、こちらに戻ってきてほしい。もうそろそろ、最終局面だから、こちらも全力で挑まないと』

 

「了解です。遅くても明日には行けるようにします」

 

『頼んだよ』

 

ぷつん、と通信が伝え切れたことを確認した俺は、スレイヤーしている馬鹿どもを呼び寄せる。

声をかけるとこの二週間の成果か、すぐさま俺に向かってダッシュし、一糸乱れぬ整列をした。

 

「少々急用が入ったので、特別訓練に関してはこれで終了となります。もう皆さんと会うこともないでしょうが、これだけは言わせてください。……あなた達は、本当に強くなりました。今なら、自分が後悔しないように戦い続けることができるでしょう。これからも、決して油断せずに一戦一戦全力を持って戦ってください」

 

『はいっ!!』

 

「では、アラガミは?」

 

『死すべし、慈悲はない!!』

 

「よろしい」

 

極東支部でもギリギリ戦えそうになった彼かに背を向けると、世界一有名な暗黒面をかぶった操縦士が操縦するヘリが俺の目の前に止まった。

タイミングばっちりだな、と考えつつ、俺はそれに乗り込んだ。

 

さぁ、いよいよ最終局面……どうなるかな。




そろそろ終わりが近づいてきました。
まぁ、バーストやるんだったらまだ続くんですけど。

果たして、ヨハネス支部長はどうなってしまうのか。シオの運命は!?



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その理由は………

最終決戦……にぎりぎり行きません。
なんかじらしちゃってすみません。でも、もうすこしで終わりますので是非最後までお付き合いください。

今回は若干シリアル風味。
いや、いつものことか。

あ、そういえばバイトを始めたので今まで以上に更新が不定期になるかもしれませんがご了承ください。




 

 

 ブブブブブ、と駆動音を鳴らしつつ、降下してくるヘリコプターに飛び乗ると、もう本部だろうと関係なしに暗黒面を被っている彼にこれからの行き先を告げた。

 

 「エイジス島に向かってください」

 

 「あれ?極東じゃなくていいんですか?旦那」

 

 「サカキ博士から通信が入りましてね。彼らはシオを匿っているいたことがばれて見事に牢屋行きになったそうです。今俺たちが極東に行っても同じ末路を辿ることになると思います。俺だったら、第一部隊全員が匿ったものとして処理しますから」

 

 そうすれば、ヨハネス支部長にとっての邪魔者である第一部隊をまとめて無効化できる。しかも、正当な理由付きでだ。俺たちは現在人類最後の砦たるフェンリル支部にアラガミという人類の敵を匿った裏切り者の烙印を押されている。そんなのがさらに闘争すれば待っているのはそこら辺の凶悪犯よりも難易度の高いリアル鬼ごっこが開催されることになるからな。だからこそ、俺は直接エイジスに乗り込む。表でエイジスは人類が安全で過ごすためのゆりかごとなっているが、実際はヨハネス支部長が秘密裏に作ってい終末捕食を起こすアラガミ・ノヴァを作り出すために確保したものだ。

 そのため、彼の真意を知っている人間しか入れない。それ以外の人間を入れるということは今の自分の地位を陥れることになるからな。一応、極東にいる一部の人には真実が伝わっているようだが、それでも大部分の人が知らない。地球の環境リセットなんて知られれば絶対的に批判されるようなことを明かすような失態は絶対に起こさないだろう。

 

 「………旦那、旦那。ものすごい数のお客様がこちらに向かってきていますぜ。大中小、そろい踏みです。やったね旦那。より取り見取りだよ!」

 

 「おいやめろ。というか、いい加減キャラを安定させてくれませんかねぇ……シュコシュコいう暗黒面をかぶりながらそのテンションとかマッチしなさ過ぎてもはや気持ちの悪いレベルなんですが……」

 

 なんて、軽口をたたきつつ、ヘリの扉をスライドさせる。なかなかの高度でヘリの出せる最大の速度でエイジスへと向かっているため、まるで吸引力の変わらないただ一つの掃除機のような感じで外に吸い出されそうになる。いや、実際ダイソンに吸われたことなんてないから知らないけどさ。

 外に吸われそうになるのをヘリの扉をつかんで耐え忍びながら近くに置いてあった神機を手に取る。そして、俺はそのまま外に出てヘリの足の部分に膝をひっかけて蝙蝠のように逆さにぶら下がった。

 

 「ちょっ……!旦那、何しているんですか!?」

 

 「今回は本部に行く時とはわけが違う。敵はかなりの数でやってくる方向は四方八方だ。こうしたほうが狙いやすい」

 

 「いや、上からの奇襲は避けれないんじゃ……」

 

 「…………せやな」

 

 「考えてなかった!?」

 

 暗黒面の操縦士から呆れの色を多分に含んだ叫び声があがる。えぇい、俺だってこの状況のせいで結構パニック状態なんだよ。地面に足つけれいれば問題ないけど、ここは空中だ。人間は空中で自由に活動できるようにはできてないんだっての。

 

 「くっ、せめて足場があれば……旦那の人外っぷりを発揮できるというのに……!」

 

 「おい、今なんつっt—————それだ」

 

 「………えっ」

 

 「それだ。”足場”だ!」

 

暗黒面操縦士の発言からある発想が浮かんだ俺は、ヘリにもしもの時ように入っていたサカキ博士とリッカさん作、超頑丈なロープを取り出す。どうにもあの二人、極東の過去の資料からヘリコプターは往々にして墜落するものと考えていたそうで、いろいろ詰め込んでいたらしい。このロープもその一つで、アラガミに切られないようにアラガミ装甲壁と同じ原理でできているのだ。

 ちなみに、本来の用途はこれをつけてヘリの壊れたところを直すための命綱の代わりとするはずだったらしい。普通に考えて、無理だと思う。

 まぁ、それはともかく、そのロープを体に固定し、しっかりとヘリの内装にと釣り家と俺はそのままヘリの近くまで接近していたザイゴートにとびかかった。それと同時にザイゴートのコア部分を切り付け、結合崩壊で消滅する前にそいつを足場としてほかのアラガミにとびかかる。これなら、空中戦が可能だ。やったぜ。

 

 「さすが旦那。常人には思いつかないし、実行しないようなことを平然とやってのける………そこに呆れる、唖然する」

 

 何やら失礼なことを言われている気がするが無視無視。正直これ結構きつい。少しでも集中力を切らすと大変なことになるだろう。だから気にしている余裕なんてないのだ。さぁ、集中しろ、今の俺は源義経だ!受けてみよ、我が八艘飛びをっ!

 

 

 

  ———————————————

 

 

 

 ここは極東の牢獄……正確には懲罰房だが、今の使い方は牢獄と何ら変わりない。普段ならば誰も入らないはずのこの懲罰房には現在、極東支部の主力ともいえる第一部隊の一部と、人類の中でも指折りの頭脳を持つペイラー榊が入れられていた。

 

 「くそっ……!こんなとこに入っている時間はねぇっていうのに……」

 

 「ソーマ、少しは落ち着こう。ここで文句言ってても状況は好転しない」

 

 第一部隊の中でも上位の強さを誇るソーマと人類とは別枠の強さを誇るユウがそんな会話をしている間、サカキは仁慈とは別の人物に通信を行っていた。その相手とは、現在タイミングよく任務に出ていた第一部隊のメンバーであるサクヤとアリサである。

 

 「お、繋がった繋がった。もしもし、アリサ君聞こえるかな?」

 

 『……あれ?サカキ博士ですか?珍しいですね。私に直接通信をよこすなんて』

 

 「まぁ、こちらにもいろいろ事情があってね。早速だけど、極東に戻ってくるときに馬鹿正直に戻ってきてはいけないよ」

 

 『何でですか?』

 

 「シオのことがばれた。私たち捕まった。第一部隊全員がグルだと考えられている可能性が高い。というか確実に思われている」

 

 『………なにやってんですか』

 

 アリサのあきれた声に対してサカキは苦笑する。

 確かに、傍から聞いたら今まで散々隠し通してきたのになぜ今さら見つかっているのかと思うことだろう。しかし、サカキにも言い分はある。いくらなんでも、極東支部に侵入してきたアラガミがピンポイントで研究室の電気を担っているところを壊してくるなんて、考えてもいなかったのだ。電脳的な妨害工作なら片手間でなんとかなるが、物理となると少々面倒くさくなる。だから、自分の責任は少ししかないと内心で言い訳をした。

 

「ともかく、今正面から帰って来れば、君達も拘束されてしまう可能性がある。だから、見つからないように頼む。ついでに我々を助けてくださいお願いします」

 

「博士ェ……」

 

ユウの方からものすごく憐れまれた声がかけられるが、そんなことを気にしている場合ではない。サカキには急ぐ理由があるのだ。それは早くしないと終末捕食を食い止めることができなくなる———というのが約4割の理由。残りの6割はきっと仁慈がこの事態に対して面白おかしい方法で解決してくれるに違いないと彼は考えており、その方法を直接見れなくなってしまうからという理由だった。やはり、マッドはマッドなのである。

 

 『…………はぁ。分かりましたよ。どちらにしてもシオが捕まってしまったのなら直接支部長のところに行くしかありませんからね。戦力も必要になるでしょうし、寄りましょう』

 

 「ありがとう。ところで、一つ気になったんだけどね。アリサ君、どうしてそこまで冷静なんだい?こう言っては失礼かもしれないが、思いっきり取り乱すと思っていたのだけれど」

 

 『いいですか、博士。この極東で神機使いをやっていれば大体のことを動揺することなく受け止めることができるようになるんですよ。主に、ユウさんと仁慈さんの所為(おかげ)で』

 

 「そうだったのか………」

 

 あの二人の名前を出されては納得せざるを得ないとサカキは通信を切断する。そして、内容をほかの二人にも伝えると、見張りに感づかれないようにしようと声をかけるのであった。

 

 しかし、彼らは知らない。

 既にこの極東支部にいる人たちはヨハネスの誘いを断り、自ら残った者たちしかいないことを。このまま普通に脱走してもまったくもって問題なかったということを。

 

 

 

——————————一方。

 

 

 極東支部に帰還するぎりぎりのところでサカキから通信をもらったアリサとサクヤはどのようにして極東支部に帰還すればいいのかと頭を悩ませていた。というか、乗っているヘリが既に極東支部に到着しているので、ここから隠密行動は無理だとうと考えていた。

 

 「で、どうしましょうか。サクヤさん」

 

 「どうしようも何もないと思うのだけど………でも、大丈夫じゃないかしら。ヘリで来たんだし、支部長側の人たちが気づかないわけはないと思うわ」

 

 「ですよね。……うん、ならこのまま行きましょう」

 

 「そんなあっさりと決めていいものなの?」

 

 「問題ありません。私の啓示スキルもこのまま進めと告げています」

 

 「何からの啓示なのよ………」

 

 どこか自信満々のアリサとそんな彼女を見つつ大丈夫かと考えるサクヤ。結局彼女たちは普通に極東支部に入ることにした。哀れサカキ。彼の忠告は全く生かされることがなかった。今回はそれで正解であるが。

 

 通り慣れた通路を堂々と歩く。だが、ヨハネスの息がかかった人間が捕まえに来るどころか、従業員の一人とすらすれ違うことはなかった。

 

 「これ、かなりやばいんじゃないんですか?」

 

 「そうね。その通りだと思うわ。……多分、支部長から支給されたチケットを使って今頃宇宙旅行でも楽しんでいるじゃないかしら。みんな」

 

 支部内の様子を見てそう結論を出した二人は、同時に床を蹴り、第一部隊の一部+αが閉じ込められているであろう懲罰房へと向かう。階段を下がり、めったに使わないがために見慣れない通路を全力で駆け抜けて、ユウたちが捕まっていると思われる懲罰房の扉を蹴り破った。

 

 「ぐぼぁ!?」

 

 そして、聞こえる叫び声。

 視線を懲罰房の中に向けてみれば、そこには唖然とした様子でアリサのことを見つめる捕まった男3人と、固く冷たい床に熱いヴェーゼをしているコウタの姿が。

 

 「ドン引きです」

 

 「……おばえのぜいだがら(お前の所為だから)……」

 

 ………いろいろ閉まらないが、今ここに極東きってのキチガイ集団、第一部隊が集結した。

 なお、仁慈は当然のごとくはぶられる模様。

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 ここに来る途中にアリサたちがいたった結論を第一部隊は聞き、もはや一刻の猶予もないということがわかった。

 そのため、彼らは急いで自分たちの武器を持ってエイジスに殴り込みに行くために無駄に長い階段を全力で駆け上っていた。

 そして、いつもの場所。任務を受けたり、出たりする極東で最も多く利用する場所……エントランスにまでたどりついた。するとそこには誰もいない————ということはなく、見覚えのある影がいくつか立っていた。

 

 「やぁ、みんな。遅かったね。てっきり僕が残ったのは無駄だったかもしれないと思ったけど……杞憂で済んで何よりだよ」

 

 「おー、遅かったな。どうした、そんなハトが豆鉄砲食らったような顔をして」

 

 「大方、全員あのロケットに乗っていったのだとでも思ったんじゃないの?」

 

 「あははー……私、ロケットは苦手なんですよねー。乗ったことありませんけど」

 

 「私は神機のない世界には興味がないからね。仕方ないね」

 

 「はぁ………どうしてここはこうも癖のあるやつが多いんだ………」

 

 どの人影も彼らには見覚えのあるものだった。

 

 極東の第二部隊隊長であり防衛班班長、ヒバリちゃん命の大森タツミ。

 

 同じく防衛班所属のトリガーハッピー、ジーナ・ディキンソン。

 

 頭のおかしい極東の神機使いの動きを把握し、的確なオペレートを行う隠れ人外、竹田ヒバリ。

 

 神機のことならお任せ、むしろそれ以外はお断り、橘リッカ。

 

 旧型でありながら今まで生き延びてきた元歴戦の神機使いで現在では鬼教官、雨宮ツバキ。

 

 極東随一の華麗な男、グラサンかけててもその狙いは正確、エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。

 

 この6人である。

 どうして居るのだろうと第一部隊の誰もが疑問に思ったことを代表してユウが問いかけた。

 

 「あれ、どうして……?」

 

 「おいおい、もしかして俺がロケットに乗って行っちまったと思ってたのか?そいつは心外だな。防衛班の班長たる俺が、自ら率先して逃げ出すわけにいかないだろ?」

 

 ニカっと現在ロケットに乗り込んでいるであろう某ブレンダンさんの良心をズタズタに引き裂くようなことをサラッと告げるタツミ。だが、

 

 「で、本心は?」

 

 「ヒバリちゃんが残っているのに俺が逃げるわけないだろいい加減にしろ!!」

 

 ジーナの言葉に先ほどと比べるのもおこがましい強い言葉で言い放った。これにはさすがのヒバリも苦笑い。

 

 「……私も、そこまでして生き残ろうとは思わん」

 

 「そうですね。正直、何もなくなった地球に降り立っても生きていける気がしないからね」

 

 どこか遠い目をして答えるツバキ。そのあとに続いたのは屈託のない笑顔でそういったリッカだ。

 そんな彼女たちの後にエリックが口を開く。

 

 「僕が、逃げる?ありえない。そんなのは全く華麗じゃない。僕はフォーゲルヴァイデの名をかけて神機使いの任についている。それを捨てて、逃げ出すことは今まで僕が築きあげてきたものを壊すことに等しい行いだ。それに、友達を捨てて逃げ出すことはフォーゲルヴァイデ以前に男として恥ずべきことだと思っているからね」

 

 彼らの言葉に唖然とするしかない。

 ユウをはじめとする第一部隊の人たちは言葉が出なかった。その中で、唯一平然としているサカキ博士が、いまだ口を開いていないジーナに問いかける。

 

 「それで、君はどうして残ったのかな?」

 

 「あら、私が残った理由が気になるのかしら?別にいつも通りよ。私の存在意義はアラガミに赤い花を咲かすことだけだもの。それに……」

 

 彼女はここで一度言葉を切ると、思わず背筋が凍るような笑みを浮かべて、続きの言葉を紡いだ。

 

 「アラガミのない世界に次の世代の元となる優秀な人間を残すのでしょう?だったら神機使い(私たち)がそれに乗ったら意味がないじゃない」

 

 その言葉はサカキ以外の人物の表情を固めるには十分な言葉だった。

 

 「ふむ、確かにその通りだ。アラガミのいない世界というのは、当然のごとくオラクル細胞や偏食因子がない世界のことだ。大雑把に行ってしまえばアラガミとも呼べる君たちを連れて行ったら、いつまたアラガミが繁殖してもおかしくはないね」

 

 「だったら………どうして………?」

 

 サクヤが思わずこぼした言葉に、ジーナは反応する。

 

 「さぁ?でも、あの支部長なら私でも考えつくようなことに気づいていないということはないでしょう。考えられる理由とすれば……何なのかしらね?」

 

 言葉を濁したジーナであったがその視線はただ一点、ヨハネスの息子であるソーマに向いている。それだけで、その場にいた誰もが彼女の言いたいことを理解した。当然、ソーマもだ。

 

 「…………」

 

 「………まぁ、気になるのなら本人に直接聞いてみればいい。どうせ、行くんだろう?」

 

 エリックが場の雰囲気を変えるようにそう切り出すと、すぐさまユウがのっかった。

 

 「はい。でもエイジスに通じる道って何かありましたっけ?多分、正規のルートは全部封鎖されていると思うんですけど……」

 

 「それなら地下にあるよ」

 

 「ほう、よく知っているな。コウタ」

 

 「エイジスにかかわることは軒並み勉強しましたから」

 

 「素晴らしい情熱だな。お前はそれをもっと別の方面でも発揮できれば……」

 

 「この状況で小言っすか……」

 

 げっそりとするコウタとツバキ。

 普段ならこのまま正座からの説教コースだが、今回は状況が状況なのでツバキはそれ以上突っ込むことはなく、いつもと同じく凛とした表情を作り出した。

 

 「第一部隊諸君に告ぐ。これより、緊急任務を発令する。依頼者は私、任務達成の条件は終末捕食の阻止および全員が無事に帰ってくることだ。……わかったな?」

 

 『はい!』

 

 「よし、では行け!!」

 

 ツバキの号令とともにリッカが用意していた各々の神機をつかんで一斉に地下へと向かう。

 ほかの人たちはここで、アラガミが襲ってきたように待機するため、エイジスへと向かうのは第一部隊だけだ。

 彼らを見送った後、ツバキは歩いて彼らの後を追うサカキに話しかけた。

 

 「…………ところで、樫原仁慈はどうしました?」

 

 「彼なら後から来るよ」

 

 「はぁ………どうしてこうあいつはいつもいつもタイミングが合わんのか……」

 

 こういう時ぐらい、全員でそろっていってほしかったと、彼女は小さくつぶやいたのだった。

 

 

 

————————————

 

 

 

 「ところでコウタ。どうして急に私たちの側についたんですか?」

 

 「かーちゃんとノゾミに言われたんだよ。どんな楽園よりも、みんなと一緒に過ごすほうがいいってね。兄貴ってのはかわいい妹の頼みは断れないものなんだよ」

 

 「へー………コウタってロリコンですか。ドン引きです」

 

 「おい、何でそこ(ロリ)を強調したんだ。ここは普通シスコンっていうべきところじゃないの?」

 

 「そんなことはどうでもいい。………ついたぞ」

 

 「どうでもよくないんだけど。俺にとっては死活問題なんだけどっ!?」

 

 「コウタ。空気を読みましょう?」

 

 「ちっくしょう!俺の周りはいつも敵だらけだよ!」

 

 「あ、ガム食べる?……やべっ、そもそも持ってなかった」

 

 「唐突!懐かし!そしてまだ根に持っていやがった!!」

 

 

 

 

 

 こんな感じで、いまいちシリアスになり切れない雰囲気のまま、彼らはエイジスへと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁ、神が人を喰いつくすか……人が神を喰いつくすか……決着の時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




GOD EATER編を終えたら何をしましょうかね。


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神を喰らう者

まだ戦いません(無慈悲)



しっかりとしたつくりではない、網状の通路を駆け抜けていく第一部隊。彼らが見た内装はどう考えても人類の楽園として作られているものとは思えないものであった。そのことから改めて、エイジス計画はただの隠れ蓑であったのだと考えさせられた。どこか複雑な思いを抱きながらも突き進んでいくと、外の海が見える円状の空間にたどり着いた。

 

 ———―――――そこで見たものは、彼らの体を硬直させるには十分なものであった。

 

 なぜなら、彼らの目に映ったものは、彼らがたどり着いた空間の天井を覆いつくすほどの巨大な何かだったからだ。知識や理論などではなく、本能で理解した。できてしまった。

 これこそが、世界を飲み込むアラガミ………「ノヴァ」であると。

 

 「これが……ノヴァ……」

 

 「でけぇ……!」

 

 「…………」

 

 「………ふーん」

 

 呆然と、しかしどこか畏怖するように天井を覆うノヴァを見つめる第一部隊の面々。すると彼らの上空から聞き覚えのある声が響き渡る。

 

 「………全く、君たちが素直に宇宙船に乗る人間だとは思ってもいなかったが、まさかここまで来るとはな……」

 

 工事現場で使うような台に乗りつつ、いつもの白く厚めのコートを身にまとっている。それでいて腕は後ろで組むといういつものポージング。そう、第一部隊の頭上から聞こえてきた声は、極東支部の支部長、ヨハネス・フォン・シックザールのものであった。

 

 「ようこそ、終焉の中心地へ。歓迎はしないがね」

 

 普段と変わらない言葉遣いで話しかけてくるヨハネスだったが、その表情にはかすかな苛立ちが浮かび上がっていた。

 そこで彼らは気が付いた。ヨハネスが元々いたであろうノヴァの中心、女性の顔のような部分の額にシオがいることを。

 

 「シオ!」

 

 ソーマが叫び、わき目も振らず走り出した。

 神機使いの元である自身の身体能力をフル活用して駆け出したソーマはまるで弾丸のような速度で疾走し、すぐさまノヴァに埋まって言うシオの近くまで跳び上がる。無理矢理ノヴァからシオの体を引きはがそうと、空中で神機を振りかぶった……その瞬間。

 

 唐突にソーマの横っ腹に大きな衝撃が走る。

 意識外から来たその衝撃に彼は耐えることができず、まるで紙屑のように吹き飛んでしまった。だが、ユウや仁慈の所為でかすんではいるものの彼もれっきとしたキチガイである。自身の横っ腹に走る痛みを無視して空中で横回転を繰り返して衝撃を緩和すると、地面に接触する直前で神機を下に向けてブレーキにする。

 ガリガリガリと火花と煩わしい金属音を響かせながらも、神機はその勢いを殺し切り、ソーマは無事に着地を果たした。

 

 だが、そんなことは彼にとってどうでもいい。自分の邪魔をする奴はどこのどいつだと、エリックでも顔が引きつること間違いなしの鋭い目つきで自分が先ほどまでいた場所をにらみつける。

 そこには、全身の色が赤黒く染まったシユウがいた。

 

 「セクメト……!」

 

ソーマの呟きにどこか嘲笑うかのようにセクメトがノヴァの前に降り立つ。それだけはない。セクメト以外のアラガミも次々とノヴァを守るかのように現れた。それも、接触禁忌に指定されているアラガミばかり。

 

 「テスカトリポカですって……!?」

 

 「ゲッ、プリティヴィ・マータ……」

 

 「猫爺まで出てきましたか………」

 

 「アイテール、ハガンコンゴウ、スサノオ……随分な大御所が集まってきたもんだね………面白い」

 

 驚愕の表情を表すサクヤ、自分と相性の悪い相手に顔をしかめるコウタ。自身の因縁の相手にまっすぐ神機を突きつけるアリサ、そして数々の接触禁忌アラガミを前にしてにやりと口の端を吊り上げるユウ。

 それぞれが別々の反応を示す中ヨハネスは高らかに言葉を紡ぐ。

 

 「それらは、ノヴァの製作で余ったコアを元にして作り出したものだ。どこかの誰かが無駄に接触禁忌のアラガミと接触し、一体と残らず駆り尽くしてきたたおかげでね」

 

 

 『(あいつか………)』

 

 今もどこかで常識をかなぐり捨てながら戦っているであろう、一番のイレギュラーの存在を思い浮かべる第一部隊の面々。

 若干空気が緩むも、ノヴァを守ろうと構えたアラガミたちに再び意識を戦闘時のものへと切り替えていく。

 

 「長い……実に長い道のりだった………。ノヴァの捕食管理を行いつつ母体を育成し、世界中を飛び回って使用に耐えることができる宇宙船を掻き集め、選ばれた千人を次世代へと送る計画が、今!成就しようとしている!」

 

 ヨハネスの独白がソーマをはじめとする第一部隊の神機使いたちの耳に響く。両手を

広げ、力ずよくその言葉を口にするヨハネスの瞳には、彼らでは測れないほどのナニカが朗々と燃え盛っていた。

 

 「……もうじき、ノヴァが完全に目覚める。それまで、そこのアラガミどもと遊んでいてくれ」

 

 彼の言葉とともに、接触禁忌アラガミたちが一斉にかける。

 彼らも、それを倒し、ヨハネスの計画を止めるために、一斉に自分たちに向かってくるアラガミを迎え撃った。

 

 

 ――――――――――――—

 

 

 「くっそ……!狭い、多い、めんどくさい!こういう時旧型の銃型神機使いはつらいものがあるよな……!俺も新型がよかったぜコンチクショウ」

 

 そう、文句を垂れつつ、鋼鉄網目の地面を転がって攻撃を回避しているのはコウタである。今だけは、ファッションとかのたまって生地の少ない服を着ていたことを後悔している。だって痛いもの。

 そんな彼が今相手しているのは相性最悪のプリティヴィ・マータである。コウタの神機はアサルトであり、貫通の属性を持っていない。ヴァジュラ種の特徴であるマントも相まって全くダメージを与えられていないのだ。

 

 「誰か変わってくれないかなぁ……(チラッ」

 

 あまりよろしくない状況に誰か変わってくれないかと、戦場に視線を移す。

 だが、コウタはすぐさまその行動を後悔した。

 

 「あっはっは!喝采を!われらの憎悪に喝采を!!」

 

 別の人をインストールしすぎじゃないですかね……と色々おかしいアリサを見ながらコウタはため息をついた。心なしか、体から黒いものを発しながら猫爺……ディアウス・ピターを伏せさせてフルボッコにしているアリサを視界から完全に消し去り、別の人へとむける。

 

 次にコウタの視線に入ってきたのは極東の誇る、超大型新人ユウである。彼はアイテールとスサノオ、ハガンコンゴウの三体をまとめて相手取り、大立ち回りをしていた。背後から振るわれるスサノオの尾をまるで背中に目でもついているのかの如く完璧に回避し、転がってきたハガンコンゴウにぶつける。宙に漂い、遠距離からビームを出しているアイテールも、捕食形態を駆使して遠距離から捕まえると地面に引きずり下ろし、脆い頭部にまくのうちを決めていた。

 あれは無理だ。あれと変わったら自分が死ぬ。コウタはそう思った。

 

 だったらという思いで、ソーマのほうを見ると、そこには修羅がいた。

 もはや、極東の仲間たちとか、仁慈とか、シオとかに見せられる表情じゃない。極東の神機使いは誰もが修羅ってるが、あれはその中でも群を抜いている。その修羅が、先ほど自分の目の前に立ちふさがったセクメトとテスカトリポカをぼこぼこにしていた。セクメトなんてもうすでに死にかけている。

 というわけで、残っているのは一人しかいない。めっちゃ暴れている三人のフォローに回っている苦労人のサクヤだ。

 

 「サクヤさんヘルプ!俺の神機とプリティヴィ・マータは致命的に相性が悪いっす!」

 

 「そうね。ほかの三人は特にフォローの必要がなさそうだものね。分かったわ」

 

 その言葉とともに、プリティヴィ・マータの胴体にサクヤの放った弾丸が貫通する。前アラガミを通しても脆い胴体はその一撃で結合崩壊を起こした。するとプリティヴィ・マータの動きが止まり、致命的なスキができた。

 コウタは今までやられていた仕返しだ、と言わんばかりに接近し、叫び声をあげているために空いている口に神機をぶち込む。

 これぞ今極東ではやっている戦法。仁慈という約束された勝利のキチガイが生み出した通称「中からなら装甲の硬さなんて関係ないよねっ!」である。

 

 口の中から黒い煙を出すプリティヴィ・マータだったが、アラガミも日々進化を繰り返しているのか、それだけでは倒れなかった。

 プルプルと肢体を震わせながら、何とか立ち上がるプリティヴィ・マータだったが、コウタとサクヤがその無防備な姿を見逃すわけがない。頑張って立ったところにサクヤの凶弾とコウタのゼロ距離砲弾が火を噴き、頭部をを胴体から吹っ飛ばした。それだけでとどまらず、中にあったコアも貫く。

 

 「本当に助かりました。サクヤさん」

 

 「別にいいのよ。というか、これくらいしか私たちにできることはないわ」

 

 遠い目で今も蹂躙を繰り広げる三人を見る。コウタはそうっすねー……と死んだ目で同意するしかなかった。

 

 

 

 

 「………」

 

 アイテールのビームを翻し、ハガンコンゴウの落雷を切り裂き、スサノオの両手と剣を叩き壊しながら、ユウただただ神機を振るっていた。しかし、その表情には戦いを始める前に浮かべていた笑みはない。無表情で、何も価値のないごみを見るかのような視線を向けている。

 

 それを受けた三体のアラガミは知性を持たない存在であるにもかかわらず一歩、また一歩と後ろに下がる。

 

 「………はぁ」

 

 その溜息に込められた感情は何だったのか。それが分かるのはユウだけだが、今誰にでもわかる事柄はただ一つ……この三体のアラガミはもう終わりということだ。

 

 「―――――――—!」

 

 神機を半身で隠すような恰好から一気に神機を引き抜くと同時に、地面を蹴る。

 その速度は到底人間ではとらえることはできない。人ならざるアラガミですら知覚できない速度で抜き放たれた斬撃は間違うことなく、接触禁忌アラガミの三体をその本体であるコアごと切り裂いた。

 

 「はぁ……いけないこととは分かっているけど……物足りないよなぁ」

 

 ビッと神機についた血を払うと小さくそうこぼした。

 

 

 

 「無様ね。本当に無様……どうして昔の私はこんなものに恐怖を抱いていたのかしら」

 

 もはや、傷がついていないところを探すほうが難しい有様になったディアウス・ピターを見下しながら邪ンn―――—じゃなかったアリサは言う。

 ディアウス・ピターもヴァジュラ種の王として、せめて一矢報いようと結合崩壊をおこしてボロボロになった足を支えにして立ち上がろうとする。しかし、それは先ほどコウタとサクヤに倒されたプリティヴィ・マータと同じ行動だ、つまりは隙だらけなのである。

 アリサはもう壊すところがない前足に神機を突き刺して、顔面をヒールで踏みつける。ダメージなんてないのだが、心なしかディアウス・ピターの表情がゆがんだ。

 ———もはや、どちらが化け物で悪なのか分かったものではない。本当に彼らは人類の味方なのだろうか。人の皮をかぶった化け物の間違いじゃないのか。

 

 「もういいわ。……死になさい」

 

 前足を指していた神機を引き抜き、仁慈から教わったコアの位置に攻撃を繰り出す。その後、ディアウス・ピターはあっさりとその体を崩壊させた。

 

 

 

 アリサとユウの勝負もついたとき、ソーマの戦いも佳境に入っていた……というか、完全に終盤だった。

 先ほど、シオを助けようとしたソーマを余裕たっぷりに邪魔したセクメトの姿はすでになく、恐ろしい火力が取柄のテスカトリポカも、自身の持ち味であるミサイルの発射口をすべてゆがまされていた。もうあのテスカトリポカに残されているのは巨大な体を使った突進のみである。

 

 「██████▅▅▅▃▄▄▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▃▃▄▅▅▅━━━━――――!!」

 

 テスカトリポカが最後の力を振り絞ってその巨体に速度を上乗せする。そこから生み出される力で目の前にいる標的に疾駆する。

 だが、いまテスカトリポカが相手しているのはソーマではなく修羅と形容するにふさわしいものだ。彼は自身の何倍もの質量を持つテスカトリポカの突進をよけることなく神機を横なぎに振るう。

 振るわれた神機はテスカトリポカの衝撃に負けることなくその場にあり続けた。そのせいで、テスカトリポカは自身の攻撃のために乗せた速度をそのまま敵に利用される形でその巨体を割られることになった。

 

 「………フン」

 

 たった今テスカトリポカを切り裂いた神機を型に担ぐと、すでに自分たちの分を倒していたほかの面々と合流する。

 

 

 「…………私が言うのもなんだが、君たちは本当におかしいな。だが、十分な時間は稼げた」

 

 ヨハネスの宣言とともに、あまたもの宇宙船が宙へと飛び上がっていく。

 

 「今回は私の勝ちだよ、博士。……そこにいるんだろう?ペイラー」

 

 「やはり遅かったみたいだね」

 

 「我々は今この一瞬ですら、存亡の危機に立たされている。日々世界中で報告されているアラガミによる被害などほんの一部だ。星を喰らうアラガミ、ノヴァが表れてしまえば、その時点で世界は消え去るのだ!それは何百年後か!それとも数時間後か!?それはそのときになってないと分からない。分からなければ、対策の立てようもない……。それならば!我々が管理し、純然たる準備を整えた後に人為的にノヴァを生み出すしかない!それこそが、我々人類が生き残る確実な方法なのだ!」

 

 彼の口から出る言葉には彼の人生が乗っていた。

 妻を失い、自身の子どもを人類の未来に捧げてから―――――いや、それよりも前から人類のことを憂いてきた男のすべてが、その言葉には込められていた。

 

 「ペイラー。君が特異点を利用してなそうとしてきたことも、結局は終末を遅らせることでしかない」

 

 「どうかな。シオの存在を見る限り、不可能だとは思わないがね」

 

 「ど、どういうことですか!?博士!?」

 

 「簡単なことさ。捕食欲求を抑え、アラガミを限りなく人間に近づけることで、共存しようという考えだ。そのためのサンプルとしいてシオと君たちのかかわりを記録していたのさ。今まで利用してきてすまなかったね」

 

 「そんなこったろうとは思ったぜ」

 

 サカキの言葉に第一部隊の面々はまぁわかってたという反応を返す。

 

 「アラガミとの共存、か。ペイラー、君は昔からそうだった。科学者を名乗るには君は少々ロマンチストすぎる。人類史を紐解いてみればわかる。今まで自分の欲望を完全にコントロールした人間など、誰一人として存在していなかったことを」

 

 「研究とはロマンを追い求めるものだよ、ヨハン。君こそ、人間というものに対してペシミストすぎやしないかい?」

 

 「少し違うな。私は、既に人間という生物に絶望している。しかし、私は知っているのだ。それでも人間は賢しく生きようとすることを。アラガミやノヴァと何ら変わりない。その果てなき欲望の先にこそ、未来を拓く力があるのだ」

 

 ……その言葉は果たして誰に向けられたものだったのだろうか。

 自身と対峙しているサカキや第一部隊の神機使いたちか、それとも……家族を捨ててきた自分自身か。

 

 「これ以上は平行線だね。とはいえシオの……特異点のコアを摘出されてしまってはもう私に打つ手はない」

 

 「私を欧州にまで向かわせて時間を稼ごうとしたようだが、その時既に勝敗は決していたのだ」

 

 「フッ……やはり気づいていたのか……どうやら時は君に味方したようだね」

 

 「そう悲観することはない。この終末は新たな世界への道標となるだろう。いわばこれこそが、神のつくりたもうた摂理だ。だが、それだけではいけない。いかなる世界においても、その頂点は『人間』でなければならない……そう神の作り出した摂理に抗い、頂点に君臨する……つまり我々が、我々人間こそが『神を喰らう者』なのだ!」

 

 したから生えてきたのは花のつぼみのようなものだった。

 それはすぐさま花開き、中からフェンリルの紋章をしたものと、女性の体を模した機械のようなものが現れた。

 ヨハネスはそれに戸惑うことなく飛び込む、すると彼はつぼみの中からでたものに取り込まれていった。

 

 「神が人となるか、人が神となるか……この勝負、実に興味深かったけど……もう私にはどうすることもできない。ヨハン、君はもうアラガミと変わらない存在になってしまったけれど、それも承知の上なんだろうね。……自分がやってきたことを人に任せるのは気が引けるけど、あとは任せるよ。『神を喰らう者』達よ」

 

 サカキは、自分が邪魔にならないようにその場を離れた。

 

 「……確かに、支部長の言う通りかもしれない。だけど、私はそれじゃ納得できないし、何よりリンドウが望まないもの……だから絶対に止めて見せる」

 

 「こんな私でも、必要としてくれる人(主に仁慈)がいる……それだけで、戦うには十分すぎます」

 

 「ぶれないなぁ……アリサ。……俺も今の居場所を守るって愛する家族に約束してきちゃったからねー……勝たせてもらおうじゃないの」

 

 「最終決戦ってやつだな……燃えてきた」

 

 「とりあえず、シオを返せ。話はそれからだ馬鹿親父」

 

 それぞれの決意を示し、ヨハネスの入った人工アラガミと思わしきものと戦おうとしたその時、上空からものすごい勢いで何かが降ってきた。

 

 ここで、全員が思い出す。ここに第一部隊で唯一いない人間がいることを。その人物がこちらに向かってきたこと。

 

 「おや、ようやく到着か」

 

 戦闘に巻き込まれない位置に避難したサカキがそうつぶやいた。

 

 

 ————その上空から降ってきた人物は、どこかシオを思わせる白に近い銀髪を携えていて、瞳は血のように赤い。服はフェンリルのマークがあしらってあるジャケットに支給されているフェンリルのズボン。手に持たれているは、彼しか持っていない鎌の形をした神機。

 

 ――――――そう、彼こそ、現極東でユウと並ぶキチガイ。これまでの常識を無残に踏み倒し、我が道を行きすぎてアラガミと地球にすら避けられ始めた、生粋の人外。ノヴァが起動してなお、負けと言わなかったサカキの自信の根源。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ま た せ た な」

 

 

 

 

 

 樫原仁慈、ここに参戦。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.はやどちらが悪役かわからない件について。

A.仕様です。

ようやく仁慈が合流。
というか、セリフが一言だけとかこいつ本当に主人公か?


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物語はあっけなく……

続きです。
頭を空っぽにして読んでネ☆


 樫原仁慈の登場により、一触即発の雰囲気が霧散する。というか、ヨハネスと融合した人工アラガミ、アルダノーヴァがその場から一歩だけ引いたようだった。気持ちはわからなくもない。人工アラガミだとしても中にはヨハネスがいる。彼がどれだけ理不尽で無茶苦茶な実力を持っているのは数多くの難題を突き付けたヨハネスが一番よく知っていたからである。

 

 「間に合った?」

 

 「……そうね。これ以上なくらい、いいタイミングだわ」

 

 「むしろ狙ってるんじゃないのか?」

 

 「仁慈さんキタ、これで勝つる」

 

 「約束された勝利のキチガイ(樫原仁慈)さん、遅かったですね」

 

 「いいところに来た。ちょっと親父殴るのを手伝え」

 

 「おぉう。なんだこいつら」

 

 帰ってきた反応の混沌さに動揺する仁慈。アルダーノヴァはその隙をつき、女性体の細い腕からオラクルの弾を連続で射出した。

 不意打ちとは世間一般には卑劣な行為として認識されている。しかし、こと戦いにおいて、人に嫌われ、さげすまれる行為は軒並み有効的なのである。その行いを誰も責めることはできない。

 最も、今言ったことは一般論であり、常識の外にいる第一部隊の面々には全く関係のないことだ。不意打ちにしたって同じことがいえる。

 軽く談笑タイムに入っていた彼らは一瞬で意識を切り替え、先ほどの流れからは想像もできないくらい鋭い目つきで己が獲物を振るう。ユウ、アリサ、ソーマ、仁慈は自分に向かってくるオラクル弾を切り裂き、銃型の神機使いであるコウタとサクヤはほかのすべてのものを打ち落として逆に反撃に出ていた。ヨハネスノーヴァ涙目である。

 

 『クッ……君たちが常識の外側に存在していることは既に理解していたつもりだったが……まさか、ここまでとは……。これでもこの人工アラガミ、アルダノーヴァはその名のとおりノヴァのオラクル細胞を使用したものだというのに……』

 

 アルダノーヴァと同化したが故に、電子音を通したような言葉でそういうヨハネス。彼は完全に測り損ねていた。彼らの実力を、世界の中でも指折りの激戦区で戦ってきた彼らのポテンシャルと、さらに拍車をかけた未来からやってきた仁慈の技術を吸収して身に着けた強さを。

 特に、仁慈に至っては既にノヴァと一戦交えており、真正面から終末捕食を無力化した経歴も持っている。

 ぶっちゃけ、ヨハネスに万が一の勝ち目もなかった。

 

 

 ―――――――だが、そんなことはわかっている。自分の不意打ちを受ける前に接触禁忌アラガミを倒した姿と不意打ちの対処で自分がかなう相手ではないとヨハネスの優秀な頭脳は結論をたたき出している。それでも、あきらめるわけにはいかないのだ。例えそれが、レベル1の勇者にラスボスとその幹部を連れてきて戦うような戦力差があろうとも。人類の未来と、何より自分たちの都合で今までの生を犠牲にしてきたソーマのためにも、彼は勝たなければならなかった。

 

 それこそが、彼自身と今は亡き妻に誓ったことだからだ。

 

 『だが、そんなことであきらめるくらいなら、私は今ここにこの姿で立ちはだかってはいない。すべてを飲み込む濁流を、小石の防波堤で防げるとは微塵も思ってはいないが、せめて時間くらいは稼いで見せよう―――ッ!』

 

 自身の持てる覚悟をすべて載せて、ラスボス(ヨハネス)勇者(キチガイ)達に、立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、残念なことに、奇跡はめったに起こらないから奇跡なのである。

 一対一ですら厳しい人が数人いるのに、それらを含めたすべてを相手取るのはさすがに無理だった。

 

 こうして、ヨハネスは3分と経過することなく倒されることとなってしまった。

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 『うっ……グッ……今、私の勇姿、が……丸々カットされた、気が……』

 

 「気にするな」

 

 「おら、そんなことどうでもいいからさっさとシオをあれから引きはがせ」

 

 『………うちの息子がシオキチ過ぎて妻に顔向けできない』

 

 「ソーマェ……」

 

 「ドン引きです」

 

 「ま、まぁ、妹みたいな子が心配で仕方ないとすれば……ね?」

 

 「ソーマ……惜しいやつを亡くした……」

 

 シリアスとは何だったのか。

 支部長の決意とか、世界の崩壊を止めるための熱い戦いとか、そんなものはなかったといわんばかりの会話が繰り広げられる。

 ただ一人、実の息子であるソーマだけは動かなくなったヨハネスノーヴァに蹴りをゲシゲシ蹴とばしている。しっかりと男神の方のみを。それに対してヨハネスは『うちの息子が反抗期過ぎて辛い……』とこぼした。だが、今まで自分が行ってきた所業を思い返し、それも必然と悟った。

 

 『ぐふっ……ソーマ、我が……息子よ……いい加減蹴り入れるのやめて(切実)』

 

 「いいからさっさと引きはがせオラァ!」

 

 『ぐっは……!?……………(チーン』

 

 「ヨハネス支部長が死んだ!?」

 

 『この人でなし!』

 

 ここまでテンプレ。

 最後までやり切って妙に満足した第一部隊の面々。だがしかし、ヨハネスは割とマジで限界だった。

 ただでさえ、人工アラガミとの融合という無茶をやらかしたのにその上、人類でも指折りの実力者(キチガイ)達にぼこぼこにされたのだ。当然と言えば当然……むしろ、彼らと一緒に悪ふざけしている方が異常なのである。本人は大真面目だが。

 いつの間にか、安全地帯からこちらに戻ってきていたサカキがヨハネスに問いかけた。

 

 「君の体もそろそろ限界なんじゃないかね?」

 

 『………そう、だな。唯でさえ、己の限界を超えたことをやらかしたのだ。それに加えてあそこまで徹底してボコボコにされては、こうなるのも道理だろう』

 

 「なら引きはがしますわ」

 

 『えっ?』

 

 ここから、長年の友人たちによる最後の語りが始まるかと思いきや、全員の度肝を抜くようなことを仁慈が言い出す。

 周囲の反応なんてなんのその。マイペースに歩みを進めた仁慈は、動けなくなっているアルダノーヴァの男神に近づき、いつもと同じ動作で神機を捕食形態に移行させる。しかし、いつもとは違う部分が一つだけあった。捕食形態の時に出てくる、神機の本体ともいえる黒い口が、今回に限っては赤く染まっていたのである。まさかの色違いに全員が言葉を失う。

 さっきから驚きすぎて全くついてきていない周囲を完全に置き去りにしつつ、仁慈はその赤く染まった口を男神に突っ込んだ。それからしばらく彼は神機の持ち手のところにあるアイテム判別機とにらめっこをしたのち、思いっきり男神から神機を引っこ抜く。

 するとどうだろう。アルダノーヴァと完全に融合したはずのヨハネスが、アルダノーヴァと融合する前と何ら変わらない状態で引っ張り出されたのである。

 

 「なん……だと……?どうやって……?」

 

 「おぉ……!」

 

 「融合解除です」

 

 呆然とする博士×2。

 そんな二人に対して仁慈はどや顔で速攻魔法は偉大と言いながら返した。

 

 ここの人たちは知らないが、彼はかつて特異点として終末捕食を疑似的にではあるが起こしたことがある。その際、終末捕食の中に入って当時の敵であったアルマ・マータを自分の代わりに特異点を制御するための礎にしたことがあった。

 終末捕食の中とはそれすなわち、数多くの偏食因子とオラクル細胞の中だ。それを自由自在に操った彼は、自分の中のオラクル細胞や偏食因子だけでなく、他者のものにまで干渉できるようになったのである。もちろん、それを行うためには並々ならない集中力と様々な条件が重なり合わなければならない……だが、今回はその条件が見事に満たされているのだ。だからこそ、アルダノーヴァとヨハネスを引きはがすということができたのである。

 

 「は、はは、はははは!仁慈君、君は本当に私の予想を軽々と超えてくれるね!!私にとっては実にうれしい存在だよ!最高だ!!」

 

 「サカキ博士のテンションが極まってる……」

 

 狂ったように歓喜の笑い声をあげるサカキにドン引きのコウタ。ほかの面々も、顔の表情がわずかに引きつっている。

 

 「………おい、仁慈。お前のそれならシオを引きはがせるんじゃないか?」

 

 「待て、息子よ。さすがの彼でもそれはないだろう。彼はドラ〇もんではないのだk」

 

 「できるよ。多分」

 

 ソーマの言った言葉をヨハネスが否定しきる前に仁慈が肯定する。その直後、仁慈は軽く自身の両足に力を入れると軽々とノヴァの頭部らしき場所まで跳び上がる。そのまま空中で神機を引き絞ると、戦闘時でも見せないような鋭い目つきでシオの体がくっついている部分を視る。そして―――

 

 「――――――速攻魔法発動!融合解除!」

 

 再び現れた赤い口がシオの体をノヴァから引き抜いた。それと同時に、ノヴァの体についている穴のような部分からあふれ出す金の光がなりを潜める。

 仁慈はそのまま地球の重力によって地面に引きずられていき、ストンと軽々と着地を果たす。

 神機の中からシオの体を取り出し、地面に横たえると、彼女はまるで何事もなかったかのようにぱちりと目を覚ました。

 

 「ジンジ、久しぶりー」

 

 「2週間ぶりだな。シオ」

 

 

 

 ――――――奇跡とは、めったに起こり得ないがために奇跡と呼ばれる。しかし、人類の中ではそれらを狙ったかのように引き当てる人間がいる。十回中一回しか勝てなければ、その一回を本番でたたき出し、偶然にもとった行動が、やがて大きな意味を持って自身に帰ってくる。……そのようなことをなすものを、人々は皆、口をそろえてこういうのだ。

 

 

 ―――――英雄、と。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 

 

 目を覚ましたシオに第一部隊の神機使いたちはこぞって集まった。ソーマはあれだけ心配していたにも関わらず、ただ近くにいて微笑んでいるだけだったが、それでも彼は十分に幸せそうだった。

 シオも、自分の身に起きていたことが分かっていたのか、現在の状況を受け入れるとみんなととてもうれしそうに抱き合っていた。主に、アリサやサクヤと。男性陣はこういう時でもハグは許されないのだ。だって絵面がひどいから。

 

 そんな彼らを、ヨハネスとサカキは遠巻きに眺めていた。

 

 「…………」

 

 「どうだいヨハン。僕の研究もなかなかのものだろう?」

 

 「……やっと、やっと君に勝てたと思ったんだがね。どうやら、この分野ではとことんかなわないらしい。やはり、手を引いておいてよかったよ」

 

 悔しそうで、しかしどこか嬉しそうにヨハネスは言う。ヨハネス・フォン・シックザールは人類の存命を願い続けてこれまで歩んできた。そこに自身の感情が入る余地はなく、ここに用意していた宇宙船も自身が使おうとは思っていなかった。それは、こんな計画を実行した自分には次世代へと行く価値はないと考えていたと、同時にソーマだけはという彼唯一の親心でもあった。

 

 しかし、彼の計画が成功していれば、こんなソーマが自然に笑いあっている姿を確認することは決してなかっただろう。

 皮肉にも、人類を憂いていた男は、その生涯にわたって培ってきたものを失って、親としての幸せに巡り合ったのである。

 

 「(アイーシャ。私たちの息子は、私たちが願った通りに人類に光をもたらす存在になってくれた。……それだけではなく、しっかり人としての幸せもつかみ取れる、強い子に育ってくれたよ……)」

 

 今は亡き妻にそのことを伝えようと、ヨハネスは天を仰ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――そこで、彼は気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――特異点たるシオを抜かれ、光を失っていたノヴァに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――再び、光が宿っていたということを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タイトルの「……」の後には「終わらないんじゃよ」と続きます。

ここで仁慈の行った支部長&シオの融合解除の条件に付いて。
ぶっちゃけ、仁慈がこれを行えたのはアルダノーヴァと戦闘を行ったからです。この作品ではアルダノーヴァはノヴァのオラクルを使って作り出されたということになっています。当然、それに比例して数多くの偏食因子を含んでいます。

今回仁慈はこれを神機で捕食しながら戦っていたため、意図しない形で大量の偏食因子を吸収しました。その結果、GE2編で特異点となった状態と限りなく似た状態になったのです。
で、特異点となったことに加え、終末捕食で中のオラクルやら偏食因子やらを自由に操った経験から、彼らだけを取り出すことができました。

シオが合体しているノヴァはいわゆる終末捕食と同じ存在ですし、それから作られたアルダーノヴァも同様です。一度、操作も成功しているため、こういう反則技がつかえました。



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神機使いとは

今回の話は途中から携帯で書き上げたので、少々見にくくなっているかもしれまぜんがご了承ください。

後、活動報告でアンケートもどきやってます。


 

「な、何だと!?どうなっている!?」

 

 特異点たるシオを摘出されたにも関わらず、ノヴァはその動きを止めていなかった。先ほどまで確かに消えていた光は現在、特異点をそのうちに宿していた時と変わらくなっていた。

 

 「どうした、親父」

 

 「ソーマが話しかけてくれた……だと……?い、いや、今はいい。あれを見ろ!」

 

 ヨハネスが指さした方向にその場にいた全員が視線を向ける。当然そこにあるのは今も元気に活動を続けるノヴァの姿である。

 これにはさすがに度肝を抜かれた。

 

 「アイエェェェェエエ!?ノヴァ!?ノヴァウゴイテルナンデ!?」

 

 「えっ?だって特異点のシオはここにいるのよね?」

 

 「何が起こっているんでしょう?」

 

 「うわー……やっぱりヨハネス支部長を集団でボコっただけじゃ終わらないかー……」

 

 「どういうことだ!?答えてみろヨハネス!」

 

 「私知らない。というか、呼び捨て!?えぇい、こういう時はペイラー!」

 

 「そんなキラーパスは求めてなかったよ。……仁慈君、君なら何か知っているんじゃないかね?

 

 「知るわけないじゃないですか。基本脳筋ですよ?というか、ついさっきまでノヴァと同化していたシオなら知っているんじゃないですか?」

 

 仁慈の言葉に皆一瞬言葉を失った。だが、それはないだろうと誰もが考え直した。特異点となっているときの彼女の意識は極めて薄く、自身の身に起きていたことなどは覚えていないだろうと考えたからである。

 

 「知ってるよ」

 

 『えぇぇぇえええええ!!??』

 

 シオまさかの知ってます宣言。

 それに対して仁慈以外の面々は自分のキャラをかなぐり捨てて驚きをあらわにした。一斉にシオの方に駆け寄り、体を触ったり頭を軽く叩いてみたりした。あまりに失礼な所業ではあるが、第一部隊にとって共通の妹(少々馬鹿っぽい)が唐突にこんなことを言い出したので、ノヴァに取り込まれていた影響ではないのかと心配になっているだけなのだ。多分。

 

 「みんなして何だその反応ー。シオちょっと傷ついた……」

 

 頬を膨らませてジト目を向けてくるシオに思わず駆け寄った第一部隊の面々+αはバツが悪そうに視線を逸らす。

 一方、彼らとは違ってシオに聞こうと言い出した本人である仁慈は、彼らを無視してシオの近くにしゃがんで口を開いた。

 

 「で、どうしてノヴァが動いていると思う?」

 

 「んー……私が中に入っている間に、特異点の性質をコピーされたんだと思うぞ?」

 

 元特異点同士の会話を聞いていた野外の反応は、

 

 「シオが、ものすごく頭よさそうに話している」

 

 「……もうすでにコウタより頭よさそうですよね」

 

 「うるさいよ!」

 

 「成長しやがって……」

 

 「ソーマ、それでいいのか……?」

 

 「素晴らしい。彼女の成長がここまで早いとは思わなかった!!」

 

 「博士ちょっと静かに」

 

 世界の危機が目の前に迫っているにも関わらず、この反応である。ほんとに緊張感がないな、こいつら。

 

 「特異点の特性コピ……か……。オラクル細胞の性質を見る限り、無理ではなさそうだけど、本当にそんなことがあり得ると思うか?」

 

 「シオ、ノヴァと一緒になったときに、いろいろ掠めてきた。その中に特異点は本来一個だけって、あった」

 

 「それはそうだろうね。終末捕食を起こすことができる要因をそれこそ複数おいてしまうと、いずれは終末捕食同士で激突するようなことになることが考えられてしまうからね」

 

 急に話に入り込んできたサカキがいう。

 どうやら野外のくだらない話し合いは終わったらしく、頭がいろいろな意味でおかしい方々も一緒に考察をしてくれるようだった。

 

 「その通りだ。だからこそ、私は彼女を見つけるのにかなり苦労した。本当、君たちが極東に来る前に捕まえていれば計画は確実に成就していたのに……」

 

 「でも、ノヴァの母体を作ったコアを集めたのって主に仁慈さんとユウさんですよね」

 

 「………」

 

 「おい、こっち見ろよ」

 

 視線を逸らすヨハネスに実の息子であるソーマの鋭いツッコミが突き刺さる。しかし、その雰囲気はどこか前よりも柔らかい感じである。

 

 「だったらどうして、そうなったんだシオ?」

 

 「なんていうんだろー……私が引きはがされることが分かっていたかのような感じだったぞー。ばっくあっぷ?とかそんな感じ。多分原因はジンジ」

 

 「ファッ!?」

 

 「なるほど。アラガミでも到底かなわない存在である仁慈君を抹消するために保険をかけていたということか。……これは、アラガミこそ地球の意思という仮説が現実味を帯びてきたね」

 

 「終末捕食が地球環境のリセットの役目を担っているということを突き止めた時点でそのようなことだとは思っていたさ。……さすがに人ひとり葬るために、もう一つ特異点を作り出してそれを直接ノヴァにシュゥゥゥー!!するとは思ってもいなかったがね」

 

 発言はなかなかあれだが、その内容はもともと技術屋としてサカキと肩を並べていた人物にふさわしいものだ。ほかの人も彼の言葉に大きな驚きと、少なからずの尊敬を込めていた。

 しかし、そんな雰囲気も長くは続かない。なぜなら、彼らが現在いるエイジスが大きな音を立てて揺れ始めたからだ。

 

 

 「しまった!呑気に話している場合じゃなかった!」

 

 「そういえばノヴァはさっきからずっと動きッパだったね」

 

 「そんなのほほんと言っている場合じゃないわよ!?」

 

 そう、エイジスが揺れているということはそれすなわちエイジスに絡みついているといっても過言ではない状態のノヴァが動き出そうととしているということである。簡単に言うと、今から終末捕食が起こりそうでマジやばい。

 

 「くっ、皆私が用意しておいた宇宙船に早く乗り込むんだ!」

 

 エイジスの通路の一つを指さしながらヨハネスは叫ぶ。だが、仁慈とユウは自身の得物である神機を担ぎ上げるとノヴァの中心である女性の頭のような部分に歩き出した。そんな彼らに続いてソーマとアリサも歩き始める。

 

 「何を考えている!?早く宇宙船に……っ!」

 

 「まぁまぁ、落ち着いてくださいヨハネス支部長」

 

 「これが落ち着いていられるわけがないだろう!?相手は終末捕食、発動はそれ自体が世界の崩壊と同義なのだぞ!?」

 

 「大丈夫だ、問題ない。どこかの刺し穿つ死翔の槍だって放った時点で心臓に突き刺さるように決定づけされるらしいが、全然当たらないし」

 

「なんの話だ!?」

 

想定外の事態、未来に希望を見出した瞬間に発動する終末捕食。とことんタイミングが悪い自分の運命を呪いつつ、何としても仁慈を止めようとする。

彼は次世代に必要な人材だ。それはソーマの友人であるということもあるし、彼ならどうにかしてくれるという盲信にも似た確信を抱かせる男だからだ。だからこそ、初めから勝てないような勝負に行かせるわけにはいかないと彼は考えていた。

 

ヨハネスの考えと言葉はまさに正論。言った本人がこの事態を引き起こしたことをか差し引けば、100人中100人彼と同じ言葉をかけるだろう。

だが、仁慈はそんなヨハネスの言葉に穏やかな微笑みで口を開くのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ヨハネス支部長が焦りすぎてもはや誰これ状態な件について……あ、いつも通りですね。それはともかく、まぁ彼の言い分はわかる。というか、ノヴァに正面切って喧嘩売ろうとしている俺たちが異常なのだ。

ノヴァとは、それ自体は嵐や地震といった現象と同じに過ぎない。唯、規模が世界規模なだけである。だからこそ、これを止めるというのは並大抵のことではない。人類は自然現象の予知予測はできても未然に防ぐことなど出来はしないのだ。本来であれば。

 

だが、ここで思い出して欲しい。

ノヴァは確かに現象だが、他の現象とは違う点がひとつだけある。そう、特異点だ。ノヴァという強力な現象を引き起こすには特異点という膨大な偏食因子を制御する特異点という核が必要なのだ。つまり、逆に考えれば特異点さえなければ終末捕食は形を失う(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のである。核失えば、倒せて尚且つ人類を滅ぼす存在……そう、それはアラガミと同じなのだ。

 

ノヴァとはアラガミがお互いに喰らい合った末に生まれるアラガミとされている。ということは当然ノヴァもアラガミなのだ。だからこそ倒せる(・・・・・・・・)。第一部隊の神機使いはそういう奴らの集まりだからだ。人に仇なすアラガミは喰らい尽くす、例外はない。

 

「だから支部長は、信じていてください。俺たちを……神機使い達(あなたの子ども達)を」

 

俺の言葉にヨハネス支部長は普段からは考えられないくらいに間抜けな顔を晒す。しかし、だんだんと意味を理解してきたのか、暫くしてからフッと微笑んだ。

 

「……そうだな。今まで、親らしいことを何1つとして出来なかった私だが、ここで1つとらしいことをしようじゃないか。……行ってきたまえ、神機使い達(私の子ども達)

 

その言葉に、全員が頷いて一気にノヴァの方へと駆けていく。そこには、満面の笑みを浮かべて、自身の体の一部を神機に変形させたシオもヤケクソ気味になっているコウタさんとサクヤさんも一緒だ。あの2人も覚悟を決めたらしい。正直助かる。人では多いほうがいいからな。取り敢えず、

 

「うおおおおおおりゃぁぁあああ!!」

 

特異点よこせ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ヨハンは彼らを見送った後、とても嬉しそうな顔を浮かべだ。きっと彼にとって今の仁慈の言葉はこれ以上ないくらいの救いになったはずだ。

人類の存続を願い、ひたすら行動を続けてきた彼にとって、神機使いを作り出すマーナガルム計画は成功でもあり失敗でもあった。自身の大切なものを一気に失って作り出した神機使いという存在は人類の滅亡を遅らせるためだけの効果しか持たなかったからである。

だからこそ彼は一度人為的なリセットを計画したのだ。

が、今はどうだろう。大切なものを失い、得た神機使いは今や人類の希望と言えるものまでになった。彼らがいれば、この世からアラガミが消え、平和な世界が訪れるかもしれない……そう思わせるまでになった。人生最大の過ちとヨハンが思っていたであろう出来事が、十数年の時を経てついに成就したのだ。

 

「私は、この一点においては負けを認めるよ、ヨハン。確かに君のやり方は納得できなかったが、成果は認めざるをえない」

 

「………あぁ、そうだな」

 

彼の回答を聞いた後、自分たちは彼らの邪魔にならないよう進言する。

間髪入れずに頷かれると思っていたが、ヨハンは私の予想を超えた回答を出した。

 

「……いや、私も戦う」

 

「な、なんだって!?」

 

我が耳を疑った。まさか、ヨハンがそんなことを言うなんて考えてもいなかった。

バカなことはよせ、と急いで私は止めに入る。しかしヨハンは無駄に胸を張りながらドヤ顔で口を開いた。

 

「ペイラー、私がなんの準備もなしにアルダノーヴァを機動せたと思っているのかね?」

 

「ま、まさか……」

 

「実はあのアルダノーヴァは……遠隔操作が可能なのだよ」

 

自身満々に言い切った彼を見てやはり、ヨハネスも極東の支部長なのだなと、仁慈君のような感想を抱いた。




ヨハネスも伊達に極東にいないってことです。


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オールスター

はっはっは!これもうわけわかんねぇな。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノヴァがついに動きはじめ、今までエイジスの天井を覆っていた木の幹のような部分が俺たちに振り下ろされる。傍から見ても巨大なそれは質量から考えて強大な破壊力を持っていることは想像に難くない。動き出した俺たちはその超巨大な部分をギリギリで回避しながらノヴァの本体――――女性像の場所まで駆け抜ける。

 

 「みんな、油断するなよ」

 

 「言われるまでもねぇよ、ソーマ」

 

 俺とユウさんの背後から追いついてきたソーマとコウタが両サイドより迫りくる触手を斬りつけ、撃ち抜きながら言う。その言葉に俺とユウさんは首を僅かに上下させることで返事をした。

 

 ノヴァとはそれだけで世界を滅ぼす厄災。顕現した時点でそれは破滅を約束する現象だ。そんなものに油断なんてした日にはあっという間にのみこれまれ、速攻でゲームオーバーである。

 

 「それにしても、特異点をあれから抜き出すなんてちょっとムリゲーしすぎやしませんか?」

 

 「確かにそうね。だって、あのノヴァ浮いてるし」

 

 「そこら辺は俺かユウさんにお任せしていただければなんとかしますよ?」

 

 「そうだね。断言しようサクヤさん。何とかします」

 

 「……なるほど、これが実家のような安心感というやつですか」

 

 「シオのこと忘れてないか?」

 

 俺とユウさんに一任するという結論が出たところで普通に神機を出現させたシオが会話に割り込んできた。

 

 「シオ!どうしてここに!?まさか自力で移動を!?」

 

 「ソーマはちょっと黙ってようねー」

 

 ソーマのキャラ崩壊が異常なことになっている件について、思うことがないわけでもないが、とりあえずコウタに抑えを頼んでシオの話を聞く態勢に入る。ちなみに、ほかの人は露払いをしてくれているため安心して会話に集中できるのだ。

 

 「で、シオ。どうしたんだ?」

 

 「特異点の場所を教えておこうかと思って」

 

 「超助かるわ」

 

 さすがシオ。さっきまで特異点をやっていただけのことはあり、ノヴァの情報がこちらまで筒井抜けだぜ。冗談抜きでマジ助かる。こういう情報がなければ正直やってられないし。

 

 「特異点は、さっきまでシオが貼り付けにされてた所……つまり、あの顔のおでこにある場所に、ある」

 

 「……あそこか」

 

 そうして、俺は自身の視線を先ほどまでシオの体が張り付いていたところに向ける。変に入り組んだところじゃなくてよかったと思う反面、絶対に守りが硬いんだろうなと確信にもにた予感があった。

 弱点をさらしているということは、守る必要がないか絶対にやられないという自信があるかのどちらかだ。終末捕食は基本的に防がれることはないので、前者の可能性も否定できない。しかし、サカキ博士とヨハネス支部長の会話から、あれは地球の意思が関与している可能性があるといっていた。

 その可能性がある以上、前者として切って捨てるのは下策中の下策だといえる。

 

 「ユウさん。特異点の場所はさっきまでシオがいた場所だそうです。さっさと行って終わらせちゃいましょう」

 

 「了解」

 

 自分の体の何倍もある大きさの触手を神機で切り裂きつつ、俺の近くに来てくれた。本人は何気なく行っているのだろうが、その力量は本当にすさまじい。なにをどうやったら普通の神機使いの身体能力であのぶっとい触手を両断できるのだろうか。ジュリウスの時も思ったけど、新型でロングブレードを使うやつらは化け物か。俺?俺は別だよ。半分くらいアラガミと同じ感じだし、ぶっちゃけある程度の技能があれば後は力でごり押しできる。できる限りそうしないようにはしているけどね。

 

 「なら、俺は道を開くか」

 

 「シオも!」

 

 「バックアップは任せてよ!」

 

 「そうね。今までいいところなかったけど、先輩の意地を見せようかしら」

 

 「えぇ、えぇ。私にお任せください。仁慈さん。あなたの道を拒む下劣なものは一切私が排除しましょう」

 

 約一名とても恐ろしいものがいた気がするが、今は無視。というかスルー。後々怖いが気にしない。してはいけない。

 とりあえず、やるべきことは決まった。あとなすべきことはそれを成功させるためにこの神機を振るうことのみ。

 

 「終末捕食だろうと、ノヴァだろうと、アラガミなら死ね!!」

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 仁慈は一度、肩の力を抜くようにして短く息を吐くと、一気に全身に力を巡らせる。瞬間的に送られた力のおかげで、いつも以上の出力を出すことが可能なのである。爆発が起きたのではと思われるくらいの轟音をまき散らしながら、その人外に近しい身体能力で一気にトップスピードまで上り詰める。その背後には極東始まって以来の麒麟児。新人でありながら、あっという間に隊長格まで上り詰め、数多くの人が恐れおののくアラガミを大も小も、堕天種も接触禁忌も関係なしに屠っていく生粋の神喰らい。

 

 極東どころか世界でも三本の指に入るだろう強さを誇る。その二人が今、協力してノヴァに向かって行っている……もし、アラガミに知能があったのならば思わず卒倒し、本能から勝てないと悟って逃げ出すだろう。だが、相手はノヴァ。そのような機能は持ち合わせておらず、あるのは世界の環境をリセットさせることのみ。ノヴァはプログラミングされたように、自分に仇名す不届き物を排除するために触手をぶつける。しかし、それは先ほどまでのものとはまるで違うものだった。

 触手は彼らに向かう途中にその形を変えて、いくつにも分岐してユウと仁慈に襲い掛かる。逃げ場をなくし、飽和攻撃で彼らをしとめることにしたのだ。実に合理的な攻撃だ。

 

 その、この状況において確実に致命傷となるであろう攻撃に対して、仁慈とユウは特に行動を起こすことはなかった。いや、むしろ先ほどよりも進むペースを上げている。……一見すればそれは自分からやられに行ったと見えるだろう。普通ならば絶望するこの状況において、やけを起こし、死に走ったのだと。

 

 が、極東が世界に誇る二大キチガイがそんなことで自ら命を絶ちに行くわけがない。彼らが信じているがゆえに、そのスピードを上げたのだ。その証拠に、彼らを狙っていた触手が、彼らに触れる前に、紫色の光弾に当たりことごとく霧散する。

 

 『圧倒的な力……!』

 

 「仁慈君、ユウ君。ここは私たちに任せたまえ!」

 

 「ちょ、ペイラー……!勝手に男神の方の制御権奪うんじゃない!」

 

 「ハハハハ!いいじゃないか。君だって一人で二つを完全に操るのは難しいだろう?」

 

 「……致し方あるまい」

 

 「子どもか!?」

 

 かっこよく助けに入ってきたにも関わらず、こどものようなやり取りを行うサカキとヨハネス。仁慈は全力でツッコミを入れつつ、再び周囲を包囲される前に前へと進む。

 ノヴァも、触手だけでは彼らを止められないと思ったらしい、時間稼ぎとして触手と自分の中から余った偏食因子とコアを再錬成し、複数のアラガミ生み出して襲わせる。ノヴァの目的は自身が終末捕食を起こすまで、彼らを近づかせないこと。触手とアラガミの人海戦術はとても有効的な攻撃だった。

 

 だが、仁慈たちの側にも、一騎当千の神機使いたちがいる。仁慈とユウの背後からソーマとシオが飛び出し、二人に襲い来るアラガミを一太刀のもとに叩き切る。さらにその背後から、コウタとサクヤの凶弾が第二陣としてこちらに向かっていたアラガミたちのコアを見事に撃ち抜いた。そして、第三陣は……

 

 「■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ――――――!!吼え立てよ、我〇憤怒!(ラ・グロンドメ〇ト・デュ・ヘイン)

 

 「アリサ!それ以上はいけない!」

 

 完全に黒化(オルタ化)したアリサに再び仁慈はツッコミを入れる。いろいろなものを犠牲にして放たれたその攻撃は、まさにどこかの誰かが思い描いた憤怒の顕現。アリサは、銃形態にしている神機から炎のバレットをまき散らしてアラガミと触手をまとめて焼き払うと間髪入れずに通常状態に戻す。アリサが今まで行ってきた努力が一瞬の形態変化を可能にした。そうして、形態変化をさせた神機を燃えたアラガミと触手に突き立て、完全にとどめを刺す。

 

 あまりのエグさに仁慈は未来でソーマが見せたブラッドアーツを思い浮かべた。

 

 

 さて、そんなことがありつつも、彼らはノヴァの目の前まで来た。自身を襲い来る触手を二人して足場として、一気にノヴァの眉間にある部分へ行く。

 

 

 ノヴァに王手がかかった瞬間、わずかな油断がピンチを招くことになる。

 

 

 みんなのフォローに回っていたサクヤの背後から触手が迫り来ていたのだ。この場面において、サクヤに自分のことを気にしている余裕なんてなかったのだ。なぜならエイジスはノヴァの腹の中といっても過言ではなかったからである。

 皆のフォローに回っていたサクヤが少し、ノヴァから離れた自分攻撃……しかも背後からのものが来るとは思ってもいなかったのだろう。

 

 気づいた時にはもう遅い、サクヤがハッと振り返ったときには既に触手は彼女の目の前まで来ていた。

 

 「……あぁ、リンドウ。私も、今そっちへ行くわ」

 

 死を覚悟したサクヤは脳裏に愛しい男のことを思い浮かべながら目を閉じた。ソーマとシオは間に合わない。サカキとヨハネスは攻撃範囲が広い攻撃が多すぎるため、サクヤを巻き添えにしかねない。コウタは地面を転がって触手をさばいているため狙いを定めることができない。アリサは狂化で正確さに欠ける。

 

 まさに絶体絶命。

 

 サクヤだけでなく、ほかの人たちもこの後の光景を思い浮かべて、一気に青ざめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――だがそんな時、サクヤの耳に聞き覚えのある声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいおい、せっかく会いに来たのにどこに行くっていうんだよ、サクヤ。俺まだ配給ビールもらってないんだぜ?」

 

 「……え?」

 

 

 

 

 

 

―――――――――その声はサクヤが一番聞きたかったもので

 

 

 

 

 

 

 「往々、なんとなく来てみたけど、すげぇことになってんな。来てよかったわ」

 

 「あ、あぁ……あぁぁ……」

 

 

 

 

 

―――――――――一番会いたかった人のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 その風貌は、この数か月で伸びきった髪の毛を風に遊ばせ、腕輪をなくしてアラガミにに侵食された腕は黒く染まっていて、チェーンがまかれている。

 髪と同じく全く手入れができなかった服はぼろぼろで、もはや服の意味をなしていなかった。

 そして、右手には侵食された腕と同じ色の神機のようなものが握られており、人間の腕をしている左手には、彼の代名詞たる神機が握られている。

 

 

 

 

 一見すれば放浪者のような格好のその男。しかし、第一部隊の人間はその人物が誰なのか、はっきりとわかっていた。

 

 

 

 元、第一部隊の隊長。

 様々な任務を一人でこなし、ソーマですらかなわなかった極東の神機使い最強の一角。

 今では頭がおかしいと、極東最強だと言われるユウの師匠。その名は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ま、後輩にばっかり良いかっこさせられないでしょ。だから、俺も混ぜてくれよ」

 

 「……リンドウ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――雨宮リンドウ、参戦。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まるでスマ〇ラのようだ。

何はともあれ、まさかのリンドウさん参戦。
侵食?シオのチェーンと気合で何とかしましたが?そして、その後、アーク計画でごたごたしている極東支部に侵入してレンくんをかっぱらってきました。

その後、レン君のゆゆじょうパワーで片腕の侵食を停止させ参戦しに来ました。

さすがリンドウさんだぜ!


……うん。好き勝手やりまくり、そしてこのご都合主義……ほんとごめんなさい。


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決着!終末捕食VS世紀末!

というわけで、ノヴァ戦決着です。
後は後日談を二話ほど上げて過去編完結になると思います。

タイトルが適当?
思い浮かばなかったんだ……非力な私を許してくれ……。


 

 

 

 

リンドウの参戦……それは、第一部隊をはじめとする極東勢にとって、これ以上ないほどの応援だった。特に、サクヤは自らが最も想っている最愛の人が生きていたことをきき、今までにないくらい絶好調だった。早撃なんてこれまでの比じゃないくらいの速度で撃っていて、残像が見えるくらいだ。連射が持ち味と言ってもいいコウタのアサルトの速度すら超えている。人海戦術をとって、大量の触手を展開しているノヴァが全く先に進めていない状態となっている。

 

「サクヤさんが覚醒した……。なんだあの発射速度……」

 

「サクヤ、はりきってるなー」

 

「最終決戦の時にする表情じゃないですよね。見てくださいよ、ものすごい緩みようです。あれはお茶の間で放送できない顔ですよ」

 

 「………お前も人のことは言えんだろ。ついさっきまでの自分の姿を思い出してみろ」

 

 サクヤがここ数か月全く吸収できていなかったリンドニウムを満タンまで吸収したことによる脅威の射撃技能で自分たちの役目がなくなった四人はサクヤの様子を見ながらそんなことをこぼす。

 しかも、サクヤの近くには復活したリンドウが居座っており、サクヤを攻撃しようとする触手は彼の持つ二つの神機によって瞬く間に切り裂かれてサクヤの近くにすら行くことができない状況になっていた。もちろん、自分に向かってくる触手を始末するのも忘れない。アラガミ化した右手の影響か、失踪前よりも身体能力が上がっているリンドウはまさに天下無双の強さを誇っていた。

 また、彼らのテリトリーにかぶらない程度の場所には、サカキとヨハネスのコンビだ。彼らは今までに連れ添っていた仲のため、完成度の高いコンビネーションを誇っていた。こちらもお互いがお互いの隙を埋めるように触手に対して広範囲の攻撃をぶつけて牽制している。自身の才能を遺憾なく発揮している二人と先ほど挙げた夫婦(暫定)コンビのおかげで仕事がなくなったソーマ、コウタ、アリサ、シオはお互いに顔を見合わせると先行してノヴァの本体へと駆けていった仁慈とユウの援護に向かうため彼らと同じ道を走っていった。

 

 一方、彼らにフォローをもらいながら先行した仁慈とユウは自分たちに向かってくる触手を逆に自分たちが進む道としてノヴァの本体を目指していた。このまま行けば、難なくノヴァの本体につくこととなるのだが、そんなことを相手が許すわけがない。

 

 彼らが本体に近づくにつれて、ノヴァも仁慈とユウに対する攻撃の手を一層強める。触手の数をさらに増やし、彼らが道にしている触手を攻撃する、揺らす。先ほどと同じように自分から新たなアラガミを作り出して向かわせるといったありとあらゆる手段をとった。

 

 「ノヴァも必至だね。ここまで濃いものを用意してくるとは」

 

 「そうですね。……二手に分かれますか。俺は右に行くんで、ユウさんは左の方をお願いします」

 

 「了解」

 

 短くするべきことを定め、その直後、二人は真逆の方向に跳躍する。右側にとんだ仁慈は先ほど、エイジスに来る直前までやっていた疑似空中戦の経験から、宙に浮いているアラガミを攻撃しつつ踏み台とすることで、空中を陣取っているアラガミを片っ端から撃墜している。もちろん、触手の処理も忘れることはない。まさに極東最凶のキチガイだけのことはある。だが、ユウも負けてはいない。リンドウやソーマ、仁慈のようにアラガミが混ざっているわけでもないユウは、常識はずれのスピードで触手上を駆け抜けることで、触手に張り付き尚且つ空中に浮いているアラガミを自分に引き寄せた。そして、ある程度アラガミが集まったところで体を反転させて今まで引き寄せてきたアラガミと向き直る。そして、神機を半身に隠すように構えると、まるで居合切りのように瞬間的に神機を振り切った。常識外れな速度で移動していたユウを追いかけるために速度を出していたアラガミたちは急に止まることができず、ユウの手によって細切れにされていった。

 

 だが、向かうところ敵なし、無双の強さを誇る彼ら二人でも、四方八方自分のことを狙うアラガミと触手に不安定な足場で戦うのは少々分が悪かった。これがもし、アラガミだけであるならば彼らもこのまま殲滅させていただろう。

 しかし、今回の場合は話が違った。ここは言わば敵の拠点である。四方八方あるものすべてが彼らの敵といっても過言ではない。そんな状況のなか、ほぼ無限にわき続けるアラガミを足場の悪い状況で相手にするのは難しかった。

 

 やがて、小さな隙から戦いの均衡は崩れ始め、その触手とアラガミたちが仁慈とユウを殺そうと迫りくる。それは狙われている本人も分かっていたものの対応ができないとできるだけ被害を最小限にとどめようと動き出す。

 唐突だが、ここで忘れてはならないのは先ほど暇になった四人の存在だ。ここまでわかりやすいピンチをただいま絶賛フリー状態の彼らが見逃すだろうか。……答えは否である。

 

 「ある意味、終末捕食よりも珍しいユウのピンチ!」

 

 「助太刀するぞー!」

 

 ユウの方にはアサルトを構えてどこか興奮した様子のコウタと、いつも通り天真爛漫な笑顔を浮かべたシオが助けに入り、

 

 「………お前でも、ピンチになったりするんだな。意外だ」

 

 「仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ仁慈さんのピンチ………死すべし!」

 

 もはやお前は誰だと思いたくなるような怨念を背負ってアラガミを駆逐しにかかるアリサとその彼女から必死に目を背けつつ仁慈に語り掛けるソーマが仁慈の方に助けに入った。

 

 彼らは仁慈やユウが真っ直ぐノヴァの方に向かえるように、仁慈やユウを襲うアラガミや触手の対処を行った。

 

 「いっやっふー!おいしいぞーおいしいぞー!」

 

 「ちょ、シオ!もう少し抑え気味で頼む!おい!聞いて!!」

 

 シオは人間と同じく思考能力を持ち、その姿こそ人型であるが正体はアラガミと何ら変わりない。人間にはない高い身体能力と自身の体から分離した神機を存分に利用し、神機を捕食形態にしたままアラガミからアラガミの間、アラガミから触手の間と縦横無尽に駆け回る。コウタはそんな彼女の片手に捕まり、無邪気に飛び回るシオの隙をアサルトで埋めていた。しかし、あまりにも自由に飛び回るものだからたまらずコウタは自重せよとの声をかけている。最もその状況に置かれてもなお、シオのフォローを的確にこなすあたりさすがは極東の環境化を旧型の神機で生き抜いてきただけはある。

 

 仁慈の助けに入ったアリサとソーマの方も同様だ。仁慈をつけ狙っていたアラガミや触手の相手を一心に引き受けていた。

 が、その状況はコウタ・シオペアとは一線を画する。愛が歪んで突き抜けたアリサが狂戦士のごとく暴れまわり、普通の神機使いとは比べ物にならないくらいの身体能力を持ったソーマが一生懸命彼女のフォローに回っている。というか、若干それでも追いついていない。

 

 「くっ!最近アリサのほうがよっぽど化け物なんじゃないかと思い始めたぞ……ッ!」

 

 彼女のなりふり構わない暴れっぷりを、アラガミと触手への強襲を繰り返しながらソーマが嘆く。

 そんな彼らの行動で生まれた隙を無駄にすることなく仁慈とユウはノヴァに向かう。このままではらちが明かないと考えた。二人はもはや小細工なしで正面から突っ込むことに決めた。何かしら困ったらとりあえず正面突破。古事記にもそう書いてある。

 

 ユウは仁慈の腕に捕まり、仁慈はユウを捕まえたまま一気に跳躍。ノヴァの女性体の額にある部分にまで接近した。そこで仁慈はユウの手を放すと二人そろって神機を捕食形態にさせ、捕食を試みる。が、そこが重要な場所であるということの証明なのか捕食形態の神機をはじき返した。唖然とする二人に、触手の攻撃が入る。致命傷は避けたものの二人ははるか後方まで吹き飛ばされてしまった。

 

 「なんだあれ堅っ!?」

 

 「でも、それに伴いあれは重要な部分であるという可能性が高い。次はこじ開けよう」

 

 「なら、ちょいとばかり俺も混ぜてくれよ」

 

 吹き飛ばされながら作戦会議を始める仁慈とユウ(キチガイ二人)。そんな彼らを受け止めながら会話に乱入してくる男がいた。――――そう、このたび緊急参戦したリンドウである。

 彼は失踪前と変わらないとっつきやすい笑みを浮かべながら自分も連れて行けと話しかける。

 

 「り、リンドウさん」

 

 「サクヤさんはいいんですか?」

 

 「ん?あぁ、大丈夫だ。サクヤは今までにないくらい絶好調らしいからな。ちょっと見てみるか?背中に目でもついてんのかってくらい正確な射撃を四方八方にばらまいてるぜ」

 

 「いえ、なんとなく想像ができるのでいいです」

 

 仁慈は先ほどちらりと見えたアリサの様子を見て顔を青くしながらリンドウの申し出を断った。

 

 「で、俺は仲間に入れてくれるのか?」

 

 「お願いします」

 

 「おう、お願いされた。……さて、今さらながら先輩の威厳を示すとするかね」

 

 どこまでも軽く、深刻さを思わせない口調でリンドウは言葉を紡ぐ。そんな彼の様子に無意識化で表情を緩めていた二人は彼に期待していますとだけ言って、再びノヴァの女性体に向かう。

 

 ――――――――この時を持って、極東最強のキチガイトライデントが誕生した。……地球は思わず声にならない悲鳴を上げたというが、定かではない。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「いやー!二人とも本当に強くなった……なッ!」

 

 「神機の二刀流なんてことやらかすリンドウさんにだけは言われたくないですわ」

 

 「とか言いつつ、ユウさんもできそうな気がするのは俺だけでしょうか」

 

 

 まるでエントランスでだべっているかの如く、軽快な会話を行う三人。言葉だけなら非常に和む状況なのだが、視覚情報が加わるとその印象は一変する。なぜなら誰もかれもが自分の身長よりも大きな武器を振り回して道をこじ開けているからだ。アラガミの血やら触手から出た緑色の液体やらを周囲にまき散らしつつ、彼らは再び女性像に向けて跳躍した。今度はリンドウが、額をこじ開ける役目である。

 

 「うぉぉおおおおおお!!開けぇぇぇえええええ!!!」

 

 右手に持っている、侵食された腕と同じような神機を突き立てて、少しの亀裂を入れる。そのすぐあと、左手に持っている本来の神機も同じように突き立てて、亀裂をさらに押し広げた。

 

 「今だ!」

 

 人が入れるくらいの大きさに穴をあけたリンドウは、すぐさまノヴァの女性像から離れる。そんな彼と入れ違いになるように二人はリンドウが空けた穴の中から内部へと侵入する。

 

 侵入した先には大きな空間がただぽつんとあるだけだった。唯一つを除いて何もないがらんどう。そんな中に唯一あることが許されているものがあった。アラガミには必ずこれがあり、彼らの心臓といっても過言ではないもの……ノヴァのコア、すなわち特異点だ。

 

 

 

 仁慈とユウは特異点の存在を認識した瞬間、神機を振りかぶる。

 

 

 

 「まだまだ、人類は頑張っていきますので――――」

 

 

 

 「――――終末捕食はおかえりくださいませぇぇぇ!!」

 

 

 

―――――――――本当にその叫び声でいいのかと思える言葉を口にしながら同時に、駆けだす。そして、寸分違うことなく特異点を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リンドウ「キー〇レード!」
ユウ「……ハハッ!(甲高い声)」
仁慈「やめろォ!」

自分で二刀流リンドウ出した時にふと思い立ったことです。キー〇レード。


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ただいま

はい。少々最後が駆け足気味でしたが、これにて過去編は完結となります。
一応ネタも尽きたので連載を再開したこの作品も再び完結ということになります。皆さま今までありがとうございました。

まぁ、完結して一日立たないうちに新しい話を投稿した私の完結報告なんて全くあてにならないでしょうけど、しばらくはFGOの方を進めていく形になると思います。もし、暇があればそちらもご覧ください。


 

 

 

 ユウ、仁慈、リンドウの極東キチガイトライデントによって行われたジェットストリームアタックが地球の環境をリセットする終末捕食に終末を送るというある意味の偉業を成し遂げたため、エイジスに絡みついていたノヴァがその体を崩壊させる。

 ノヴァが崩れたことにより、絡みつかれていたエイジスの方も、ところどころが崩れてきた。

 つまり何が言いたいかというと、このままいくと勝者である彼らはこのまま圧死だということだ。

 

 「皆、早く脱出するんだ!ノヴァと一緒にエイジスも崩れるぞ!」

 

 ヨハネスの言葉に全員がうなずいて次々と自分たちがここに来たときに使った通路に向かって行く。

 特に道がふさがれることもなく、全員が脱出し終えた直後、エイジスはノヴァと一緒に海の底へと沈んでいった。しばらくそのさまを眺めていた極東勢だったが、エイジスとノヴァが海底へ沈んでから数十秒が経過したのちに、コウタが口を開く。

 

 「終わった……のか……」

 

 「…………うん。ノヴァの反応は完全に消滅したから、もう安心してもいいぞ」

 

 特異点だったからか、ノヴァ消失の報告を入れてくるシオ。誰しもそれを聞いた直後は反応できなかったが、やがて彼女の言葉を飲み込めるようになると誰もかれもあが己のキャラを月に届く勢いで投げ捨てて喜びを共有しあった。

 

 『やったー!!』

 

 ユウと仁慈は年相応の笑顔でハイタッチをして、コウタはその場で力強くガッツポーズをとる。小声でお兄ちゃん頑張ったよと言っているあたり、なかなかに追い詰められていたことが分かる。ソーマも腕を組んで静かに微笑んでいたが、彼の隣で両手を上げてピョンピョンはねて喜んでいるさまを見て、組んでいた腕を解いて頭に手を置いていた。サクヤは号泣しながらリンドウに飛びつき、少女のような笑顔で「好き!結婚して!」と爆弾を投下してリンドウを呆然とさせていた。

 

 そんな第一部隊の様子をヨハネスとサカキは一歩離れたところから眺めていた。多分彼らの乗りについていけないのだろう。年齢的な意味で。

 

 「何やら失礼なことをどこかで言われた気がするよ」

 

 「全くだ。我々はまだまだ若い」

 

 大宇宙からの電波でも受信したのか、意味不明なことを言い出した二人。確かに見かけからでは実年齢は判別できないだろう。その分、思考回路はとかその他もろもろは年齢という概念を逸脱しているが。

 

 「……ペイラー。私は、今日このときのために様々なものを犠牲にし、準備をしてきた。だが、人間が災害にかなわないように。私が彼らかなわないことは当然だったのだと思う」

 

 「それは、彼らのことが災害と同じものと言っているようなものだと思うよ。まぁ、否定はしないがね。彼らはまさに災害のごとく対処法も見つからないし、どのような被害が出るかも未知数だ。だが、それだからこその彼らと言える。しかし……そんな彼らは君の願いが生み出したんだ。さっきも言ったけど、それだけは認めざるを得ない功績だね」

 

 「珍しいじゃないか、ペイラー。君がそこまで個人に肩入れするような発言をするのは。ノヴァのかけらでも食べたのかね?」

 

 「ヨハンこそ、そんなくだらない冗談を言える程度には余裕ができたみたいだね。今までの君は視野が狭すぎてあまり面白い会話ができなかったから、私にとっては実によかったよ。………ざまぁw」

 

 「どうやら本格的に壊れたようだな。私かかりつけの医者を紹介しようか?」

 

 「残念ながら間に合っているよ。君紹介の医者なんていつ洗脳されるかわかったものじゃない」

 

 遠慮のかけらも見当たらない言葉の殴り合い、表面上はそこまで変化がないため余計に怖さを感じられるそれだが、行っている二人はどこか楽しそうだ。現に今もくすくすと静かに二人で笑いあっていた。

 

 「そうだな。先ほどまでの私には余裕がなかった。妻を失い、最愛の息子すら道具として使った結果、後戻りができなくなった。……思えば、私が人間に絶望していたのは、何より私自身が自分のことを恨んでいたからかもしれない」

 

 ヨハネスは長年の友人にその心中を曝け出す。

 

 「その考えを改めはしない。人間はどうしようもない生き物だ。自身の欲望のためには他者を食いつぶすことをいとわず、自分だけは栄えようとする。そこに自然の連鎖が生み出したものはなく、人間という知性を持ってしまった人間が勝手に作り出した弱肉強食の世界だ」

 

 「………」

 

 「だが、そうだな……初めての親子喧嘩で負けた身としては、神機使い達(子どもたち)の意思を尊重しようと考えられるようにはなったな」

 

 「………随分と子だくさんになったことだね。アイーシャも喜んでいると思うよ。色々な意味でね」

 

 「ハハハ…………そこまでにしておけよペイラー」

 

 途中までとてもいい話風だったにも関わらず、アルダノーヴァを使ってまで喧嘩を始める二人。

 

 

 

―――――さて、こんなことがありつつも極東で密かに起こっていた終末捕食による人類の危機は回避された。

 

 だが、これで極東が平和になったのかと言われればそうではない。むしろ、アラガミの質はさらに上がっている。それはほかの支部が見たら速攻で泣き叫ぶくらいの状況と言えるだろう。しかし、そのほかの支部から見たら規格外のアラガミと日夜戦い、拮抗している神機使いもまた規格外なのだ。つまり何が言いたいかといえば、極東は今日も平和とは言えないがそのに住んでいる人は今日も元気だ。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 

 

 極東では終末捕食未遂事件、世間ではエイジス崩壊事件の数か月後。

 ヨハネス支部長はこの事件の責任を取って極東支部支部長を解任――――されることはなかった。なんでもエイジス計画は割と最初の方から色々無理がある計画だったらしい。だからこそ早くからノヴァの隠れ蓑として機能していたとのちにヨハネス支部長が語ってくれた。で、何が言いたいのかというと、あの人は自分の優秀な頭脳をフル回転させて、実現性の低い計画を早い段階で世間に発表したフェンリル本部の方に責任があるとしてまんまと被害者の地位を獲得したのである。

 この騒動の所為でフェンリル本部の何人かが職を失う結果となったとき、ヨハネス支部長がにやりと笑って「計画通り……!」と言っていた。この人やべぇわ。

 

 

 

 次にシオである。

 なんか月に行くことを運命づけられていそうな彼女だったのだが、そんなことはなかったぜと言わんばかりに極東に住み着いている。というか、もはや極東神機使いの一員としてみんなに受け入れられていた。やっぱり極東人の適応能力半端ない。火星に適応したゴキブリレベル。

 

 さて、そんな彼女だが気になる点が一つあって、どうやら特異点ではなくなってしまったらしい。このことにサカキ博士はものすごく興奮して、彼女のことをくまなく調べようとするという非常に犯罪チックな絵面になりかけた。そのときはソーマが光の速さでやってきて、サカキ博士に「つまり、殴ればいいんだな……!」と言いつつ疑似百裂拳を叩き込んでいた。その後、ヨハネス支部長が来てシオが特異点でなくなった推測を教えてくれた。

 

 「おそらく、アラガミを生み出した地球の意思が今回のことで彼女は使い物にならないと思ったのだろう。特異点とは一つ存在すればそれがなくなるまでは次の特異点が出来上がらない。だからこそ、シオの中にある特異点の性質を剥奪したのだろう」

 

 「でも、そうなったらシオも消えてしまうのでは?」

 

 「地球の意思も分かっているんじゃないかね?”あ、この子に手を出したらこのキチガイたちがどうにかして攻め込んでくるわ”と」

 

 「うわぁ……」

 

 否定できなかった。

 ソーマはとりあえず絶対にそうするだろうし、彼が動く以上目の前のヨハネス支部長も動くだろう。ユウさんも仲間に手を出されておとなしくしているような性格じゃないから動くだろうし、なんだかんだでシオのことを妹のように思っているコウタも動く。同じくシオをかわいがっていたサクヤさんとアリサも動くし、サクヤさんが動く以上リンドウさんもついてくる。ついでに俺も多分参戦する………あっ(察し)

 そんな周囲が過保護者しか居ないシオは今日もソーマと一緒に自分の食糧確保に奔走しています。

 

 

 次はサクヤさんとリンドウさん。

 彼らは普通に結婚しました。まぁ、当然だよね。

 リンドウさんは自分の腕が中途半端にアラガミ化したことや、公式には死亡扱いになっていることから結婚はやめとけとサクヤさんに言っていた。だが、一度死んだと思って人生で一番悲しみ、後悔したであろうサクヤさんにはそんなこと関係なかった。また失踪される前に結婚に持ち込んでやると、ツバキさんと手を組んであの手この手でリンドウさんの逃げ場をなくして、騒動解決からわずか二か月で結婚に持ち込んだ。

 

 その際、本部にリンドウさんの死亡認定を取り下げさせたり、彼のことを実験体にしようとするやつをアラガミの餌にしたりしていた。俺は怖くて近づけなかった。コウタさんやユウさんも震えていた。

 

 あと、リンドウさんの近くに一人の少年のような少女のような不思議な人が寄り添っているのが見えるようになった。最初に見たときは本気で驚いた。「リンドウさんが浮気した!」と思わず言ってしまったのだ。その時のサクヤさんの形相は思い出したくもないし、リンドウさんにもめっちゃ怒られた。

 そんなことがありつつも、リンドウさんの話を聞いてみると、彼?彼女?はリンドウさんの神機に宿っている意思らしい。名前はレンといって俺とリンドウさん、ユウさんにしか見えない存在だ。

 話を詳しく聞いてみると、リンドウさんのアラガミ化を抑えているのもこのレンという神機の意思らしい。

 

 「お二人とも、リンドウはこのように数も数えられない馬鹿野郎ですが、末永くよろしくお願いします」

 

 「ったく、お前は俺のかーちゃんかよ……」

 

 なんて言いつつも普通に仲がよさそうだった。まぁ、今までともに戦ってきた仲だろうしそれも納得するけど。

 

 

 次にソーマさん。

 死神という呼び名を連想させたソーマは既に過去の存在となり、今では極東のいいお兄さん分である。大体シオとエリックさんと一緒にいることが多く、彼らのフォローや世話に奔放していることからそう呼ばれることとなっている。

 かつてはアラガミに近いその体が、アラガミを呼び寄せることがあったが、今の彼はそんな奴らが来ても仲間をかばいつつ戦えるくらいにまで成長したため、むしろ経験が効率よく積めるとのことで大人気になった。

 本人はこのことに対して「都合のいい奴らだ」とあきれていたがまんざらでもないご様子。ヨハネス支部長の陰からにやにやとそのさまを眺めては腹パンを喰らっている。親子仲も改善されていいことだ。

 

 

 今度はアリサ。

 彼女はいったんロシア支部に戻ることとなった。なんだかものすごく抵抗し、ヨハネス支部長に恐喝すら行うというぶっ飛んだ行動を見せたが、どうやらロシアの方に強いアラガミが出たらしく、もともとロシア支部所属のアリサをしばらく応援として送ってほしいとのことだ。ヨハネス支部長も、結構無理してアリサを引き抜いたので逆らうのは難しいとのこと。

 そこで彼女はしぶしぶとロシアに向かい、その三日後何事もなかったかのように帰ってきた。帰っていた直後に抱き着かれたのはいまだによくわからない。しかし、どうしてそこまで早く帰ってきたのかが気になり彼女に尋ねてみると、

 

 「早く、早く……帰りたかったので………全滅させました!」

 

 と、超笑顔で答えてくれた。

 その証拠に支部長からロシアでのアラガミ報告が途絶えたとちょっとした騒ぎになったことを聞かされた。やだ、このひとつおい(確信)

 

 

 次はコウタさん。

 彼はキチガイが徘徊する極東において、比較的常識人として知られ、かなりの人の人数のフォローに回っている。そのおかげか、任務に行く際にはコウタを連れて行こうという暗黙の了解が出来上がってきていた。おかげで本人は死にかけている。だが、その分ヨハネス支部長が彼の家族に対しての支援をほかの人にばれない程度に行っているため、今日もお兄ちゃんは頑張るといっていた。

 なんというか、お兄ちゃんというより社畜のお父さんという感じがした。

 

 

 最後はユウさん。

 彼は今までの功績が認められ、積極的にほかの支部に応援として入るようになっていた。その強さはほかの支部でも当然健在で、行く先々に信者を増やして帰ってくる始末だ。強すぎる力は人を大いに引き寄せるものであると痛感した出来事である。

 その強さが世界に伝わり、最近では神狩人としてあがめられるまでに至っている。ついでに彼がその行く先々で「自分よりも樫原仁慈という人の方が強い」と風潮して俺の精神ポイントを殺しにかかっている。いくらユウさんでも許すまじ。

 何はともあれ、今では彼は世界で最も頼れる神機使いとなったのだ。

 

 

 さて、そんな人外たちが拠点としている極東の自室にて俺は一つだけ疑問に思っていた。今までずっと目をそらし続けてきた。いつかは向き合わないといけないと思っていた。その疑問とはすなわち、

 

 

 「俺はいつになったら未来に帰れるのか」

 

 

 この一点である。

 なんかこの極東に自分でもどうかと思うくらいに馴染んでいたが、もともと俺はここの時代の人間ではない。大まかなイベント……というにはいささかきつい内容だったが、それも終わった今俺はどうすれば帰れるのかという疑問にぶち当たっていた。

 

 

 ……いや、正確に心当たりはある。

 それは俺がここに来た原因。嘆きの平原にあるあの謎竜巻だ。前まではあそこに行ってみても何も起きなかったが、すべてが片付いた今ならいけるのではないかと思い始めた。

 

 「行ってみるか……」

 

 神機を持って、ヒバリさんから適当な任務を受けるといつもの覆面操縦士のが操るヘリで嘆きの平原へと向かう。

 ……誰にも伝えないで来ちゃったけど、未来人と言っても信じてもらえないだろうし、何より成功する補償はないからいいか。

 

 今さらなことを考えながらついた嘆きの平原。襲ってくるアラガミを適当に倒していきながら竜巻の目の前まで行くと、みるみるうちに俺の体が竜巻に吸い込まれて行ってしまった。

 

 「あ、やっべ」

 

 吸引力の変わらないただ一つの掃除機のごとく、強力な吸引力で竜巻の中に引きずり込まれそうになる俺。その割には近くにある草は全く動いていないということを不思議に思いつつ、持ってきていたメモ用紙とボールペンで手早く手紙を書くと全力でその辺に分投げた。その紙がどこかに行ったのかということを見届けることができない間に俺は竜巻の中に吸い込まれて行ってしまった。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「ん、んぅ……………」

 

 竜巻に飲み込まれた後、ふと目を覚ますと目の前にオウガテイルの口があった。反射的にオウガテイルを切り裂くと俺は周囲を見渡す。

 場所は先ほどと変わらない嘆きの平原だ。しかし、今までの嘆きの平原とは違うところが一つあった。そう、出現するアラガミの多彩さである。次々と襲いかかる接触禁忌種や感応種達……特にマルドゥークの出現が決定的だった。たしか過去の世界にはこのアラガミが出現したことはなかった。まぁ、極東なので急に湧いて出て来たという線もなきにしもあらずだが、恐らくは帰って来ているのだろう。風景も何処か年代が進んだように感じられるしね。

 

 そんなこんなで、帰ってきたという実感が湧いて出てきたため、この荒ぶる感情をその辺にいたアラガミにぶつけて発散した俺はとりあえず極東支部に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 「遠い……」

 

 神機使いの身体能力をフルに活用して何とか極東支部まで帰ってくることができた。なんだかんだいってこんな体でよかったと思う。もし、これが普通の神機使いだったら誰かが通りかかるまで待つか、何日もかけて向かうことになるからなぁ。

 

 いつものように正面から入って神機を置き、エントランスへと向かう。そういえば過去の極東は食糧事情が悲惨だったから久しぶりにムツミちゃんの料理が食べたくなってきたなぁ。

 エントランスに入ると俺は荷物整理や自室に行くことなくすぐさまラウンジへと向かった。食糧は神機使いにおいて何よりも優先されるものだとユウさんが言ってたからどこもおかしいことはない。

 久しぶりにくぐる自動ドアを超えていつもの席に座ってムツミちゃんにオムライスを頼み込む。しかし、ムツミちゃんは俺に視線を固定したまま全く動かなくなっていた。ほかの人も同様で、いつもはものすごく騒がしいラウンジがまるで水を打ったような静けさになっていた。

 

 ……ここで俺は思い出す。

 過去の極東で過ごしていた約半年とちょっと、俺は行方不明扱いだったのではないかと。多少の違いがあるものの普通に極東支部で暮らしていた俺としては気にならなかったが、事情を知らない彼らからすれば今の俺はちょっとした幽霊なんじゃなかろうか。

 

 ようやくこの状態がやばいことに気づいた俺はたった今座った席を立ち自室に逃げ込もうと踵を翻すが、

 

 「逃がすなー!!」

 

 エリナの叫び声で、ラウンジにいた全員が過去最高速度で俺の体を拘束しに来た。その速度はハンニバル神速種も目じゃないくらいの速さである。

 

 「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!わが友よ!!心配したのだぞ!?この半年間何をしていたんだぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 「そうですよ!いったいどこに行っていたんですか!?新人研修に行ったっきり帰ってこないって言われて……ぐすっ、しん、ぱい……したんだからぁ……!」

 

 「うわぁあああああん!!よかったです!仁慈さんが帰ってきてくれてよ゛がっだですぅぅうううう!!」

 

 「この、仁慈コノヤロー!心配かけさせやがって……!」

 

 うわ、なにこれ、罪悪感がやばい。ムツミちゃんやエリナはもちろんのこと普段ならうっとおしさしか感じないエミールとハルさんでも罪悪感がパない。失踪のことに関しては思いっきり不可抗力なのだが、半年間も心配させたという負い目から彼らのことを引きはがせなかった。

 

 「至急!極東の全員に告ぐ、ラウンジにて仁慈を確保した!全員ラウンジに集まれ!」

 

 「えっ、ちょっ……!」

 

 ここでハルさんまさかの通信を飛ばすの巻。おかげで、俺がいることは通信機をつけている全員と、ヒバリさんやフランさんにまで伝わることとなった。そして、フランさんヒバリさんに伝わるということは………

 

 『業務連絡、業務連絡。ブラッド隊隊長樫原仁慈が帰還しました。ただいまラウンジにて拘束しているそうです。関係者の方は急いで向かって、今まで心配かけた分のストレスをぶつけてください。繰り返します―――――』

 

 ちっくしょう、フランさんノリノリだな!?

 この放送の直後、まるで地震と間違えるかのような振動とともにラウンジに人がなだれ込んできた。そこには懐かしのブラッド隊の面々もいる。

 感動の再開と言いたいところだが、彼らの表情はどれもこれも目が笑っておらず俺はその場を逃げ出したかった。だが、先ほども言った通り拘束されて逃げられない状態なので…………………

 

 

 まぁ、何が言いたいのかと言えばだな、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このあと無茶苦茶殴られた。

 えるしってるか?人間は殴られて空を飛べるんだぜ……。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 「心配したんだよっ!」

 

 「ごめんなさい」

 

 「まともに食事がのどを通りませんでした」

 

 「ごめんなさい」

 

 「おかげで支部全体がお通やムードだぜ?新人二人もものすごい責任感じててさ」

 

 「ごめんなさい」

 

 「速さが足りなかった」

 

 「知りませんよ」

 

 「満足できなかった」

 

 「螺旋の木にでも潜れ」

 

 「ロミオと楽しく話せなかったぞ」

 

 「ロミオ先輩ともども死にさらせスク水」

 

 なんだこいつらは(驚愕)

 心配してくれているのは半数だけじゃないか。残りの半数はもはや現状報告と何も変わらないんだけど……。特にリヴィてめぇ後で屋上来いやゴラァ。

 

 と、くだらないやり取りをしつつ俺はしっかりと極東に帰ってきて来たことを実感した。やっぱり俺にとっての極東支部はこうでないといけない。

 

 戦闘キチが居て、スピードジャンキーがいて、おでんパン狂いがいて、ゴルゴもどきのスナイパーがいて、ニット帽が居て、空気の読めないスク水がいる。これこそが俺にとっての極東支部なのだ。

 なので、たとえ半数が心配を表に出していなくとも、心配をかけてしまったのだからこちらが謝るのが筋といえよう。

 

 

 今の今までやらされていた正座を解いて立ち上がると、皆に一度頭を下げてからできるだけ笑顔で口を開いた。

 

 

 「心配かけてすみませんでした。それと……ただいま」

 

 『おかえりっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――ついでの話。

 

 

 ブラッドにただいまと言って解放された後、俺は食べそこなったオムライスを食べるために再びラウンジに来ていた。俺が座ると隣には極東に出没する謎の神機使い、キグルミが腰を下ろした。

 こいつの正体は本当にわからない。前に頭を脱がしたら中から新しい頭が出てきてそれ以来正体を探るのをあきらめた存在である。そんなキグルミは継ぎ接ぎだらけの顔をしばらくこちらに向けていたが、唐突に、

 

 「久しぶり、だな」

 

 「キャアァァァァアシャベッタッァァッァアァァアア!!」

 

 話し出した。

 おかげで俺は某バーガーのCMの子供たちの用叫んでしまった。そんな俺の様子にキグルミは嬉しそうに頭を揺らす。そして、自らキグルミの頭に手をかけてそれを取り外した。

 急に自身の正体を明かすような行動に困惑しながらも、俺が見たものは……

 

 「…………マジ?」

 

 「久しぶりだなー。仁慈」

 

 過去にタイムスリップしてしまった俺が助け出した、元特異点にして純粋なアラガミ少女、シオだった。

 

 「なんで?」

 

 「ふっふっふ……どうやら無事に帰ってこれたようだなー。よかったよかった。これで正式に過去と未来は一本の道筋になった」

 

 「…………………………まさか」

 

 「実は………ずっとスタンバってました」

 

 誰か俺に説明してよ……。

 急展開に続く超展開にキャパオーバー気味の俺の頭脳。もう知恵熱かなんかで湯気が見えるレベル。

 

 「教えてあげようー」

 

 

 そこでシオが語ったことは信じられないことの連続だった。

 なんでも彼女は、俺が過去で消えた後キグルミとしてずっと極東にいたそうだ。なんでも、俺が消えたことにより地球からの遅すぎる修正力が働いて、記憶だけでも取っ払ってしまったらしい。大きな事実を変えることはできないが、小さな事象と記憶だけは正しい形にしたと。サカキ博士とヨハネス支部長はそのことを察知して急遽このキグルミというアルダノーヴァの技術を利用したスーツを作って彼女に着せたらしい。

 なぜ着せたかというのは定かではないがなんでも製作者いわく彼女だけでも記憶の修正を回避するためだそうだ。シオの記憶が万が一消されたら再び特異点として活動しまう危険性がある………というのはほとんど嘘で、本当は未来に戻った俺を驚かせるためにわざわざ作ったんだと。くだらねぇ。

 

 で、俺の部分の記憶だけをきれいさっぱり消されたが、今俺が過去から帰ってきたことで消えてきた記憶も復旧されることとなったらしい。正確に言えば過去が確定したからだろうか。俺が過去に行くことこそが正史と認められたらそうなるはずだとサカキ博士は言っていたそうだ。なんてざるな。そんなんだから二回も終末捕食を防がれるのではなかろうか。地球よ。

 

 

 「多分そろそろ、皆来ると思うぞ」

 

 シオがそう言った直後、ウィーンと背後の自動ドアが開く音が聞こえる。そちらの方に振り返ってみれば、見慣れた姿の彼らがいた。しかし、その浮かべている表情は過去に見てきたものと同じものだった。

 

 「まさか、君が未来人だったとはね。どうりで私のことを知っているわけだ」

 

 「未来人と来たか……ふっ、初めから万が一もなかったのだな」

 

 「あの強さの秘密がわかって納得したわ……いや、こっちでも大して変わらないな」

 

 「………久しぶり、というべきか?」

 

 「仁慈さん……!三年ぶりの仁慈さん……ッ!」

 

 「おひさー」

 

 「よっ」

 

 「久しぶりね」

 

 「お久しぶりです仁慈さん。あなたとはまた会いたいと思っていたんですよ」

 

 ごく普通にやってきた彼らに思わず大人だなぁと思ってしまう俺はいけない子だろうか……。そんなことを思いつつ、彼らにも言わなければならないことがあったと再び立ち上がる。

 

 「とりあえず、何も言わずに消えてしまってすみませんでした。実は成功するとは思いませんでした」

 

 「………まぁ、仕方がないですね。とっさに手紙を置いて行ったことでそれはチャラとしましょう」

 

 「ありがとうございます」

 

 よかった。

 メモ用紙とボールペン持っててマジでよかった。ありがとう、書類仕事!

 っと、感極まっている場合じゃないや。この人たちにも言っておかなきゃいけない言葉がまだ残っていた。

 

 ブラッドたちよりも短い間だったけれど、とんでもなく怪しい俺を受け入れてくれた彼らにもこの言葉を言っておかないとな。

 

 「みなさん、ただいま!」

 

 『おかえり』

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、なんだかんだあったけど、俺はまたこうして帰ってくることができたということです。

 

 

 樫原仁慈、十九歳。

 色々意味不明な人生を歩いてきましたが、今日も元気に神を喰らっています。

 

 

 アラガミたちよ、コアの貯蔵は十分か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   『おかえりください』by極東のアラガミ一同。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――もともと日本と呼ばれていて、現在では極東と呼ばれるこの地では、今日も又アラガミの悲鳴が響き渡るのだった。

 

 

 

 

                                                                   Fin

 

 

 

 

 

 

 

 



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番外編2
大惨事ヤンデレ大戦(前編)


すみません。
やはりフェイト勢は出しません。世界観が違いすぎるので。
その代わり、ある程度話が進んできましたら、マスター仁慈のほうでやろうと思っています。

私が書くヤンデレなんてこんなもんですよぉ!
あまり期待しないで見てくださいね。お兄さんとの約束だぞ☆


 いつものごとく、仁慈は常人なら過労で死んでしまう仕事量をこなして以下略。

 肉体面も精神面も並大抵の神機使いを凌駕する彼も、腹芸や書類仕事はいつまでたってもなれないらしい。特に今回の場合は諸事情というか過去に行っている間の半年間行方不明状態だったために、色々お偉いさんから腹の中を探られたため疲れは倍だろう。

 そんなこともあり、仁慈は自分がつくづく現場で神機片手にエキサイトしているべき、完全実践型の人間なのだと思いつつ、泥のように自分のベッドで眠りについた。彼にとって睡眠とは心のオアシスである。正直肉体面での疲労は大したことはないのだが、精神面的には大いにダメージを受けていた。それは上記に記したことからも明らかである。

 彼にとって、睡眠とは数少ない逃避場所なのだ。しかし、今回に限ってはその逃避が悲劇を招くことになる。

 

 

 

 

 

 

―――――――――さぁ、幕を上げよう。味方も敵も、平等に振り回す樫原仁慈が、彼女たち(バーサーカー)に振り回される……大惨事の物語を。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 ふと、違和感を覚えて俺は目を覚ました。近くにいつも置いてある置時計に視線を向けてみると、その置時計は6時30分を示していた。いつもより10分かそこら違うだけである。これだけの違いだと誤差の範囲だし、普通に起きだそうかと体に力を入れる。しかし、俺の考えるように体が動くことはなかった。唯、代わりにジャラリ……という鎖が動く音が耳に届いただけである。

 

 「えっ」

 

 えっ。

 なにこれこわい。両手足も同じように動かしてみるものの、肢体すべてに鎖がつけられているらしく、全く動けなかった。昨日寝たときはもちろんこんなに愉快な状態になってはいなかった。つまり考えられるのは、俺が寝た後に誰かが俺のことをこんな愉快な状態にしてくれたということだ。けれども、しっかりと自室に鍵はかけていたはずだ。おかしいな、と考えながらほかに何かないかと記憶を掘り返す。

 そうしている間に、隣から声がした。

 

 「あ、起きたんですね。おはようございます。仁慈さん」

 

 ぞくっとした。

 気配察知にはかなりの自信を持つ俺でも、声をかけられるまで気づくことができなかった。唯一拘束されていない首をさび付いたブリキの人形のごとくゆっくりと声が聞こえた方向に向ける。そこには、屈託のない笑顔を浮かべたアリサさんが隣に寝転がっていた。ご丁寧に掛布団までかぶって。

 

 「え、あ、はい。おはようございます?」

 

 朝起きたら当然のごとく俺の布団に居座っている同じ職場の先輩に対してなんて対応をしたら正解なのか、誰か俺に答えをくれ。大至急。というか、ここまで見事な拘束をされているというのに屈託のない笑顔を浮かべるアリサさんは何を隠そう俺をこうした犯人なのではないかと考え付く。状況証拠から可能性は十分だよな。

 

 「ちょっとアリサさん。俺、今見ての通りの状態なんですが……何か知りませんか?」

 

 「もう、仁慈さん。さん付けなんて水臭いですねぇー。昔みたいに呼び捨てでいいんですよ?」

 

 「聞いて」

 

 だめだ。会話がまるでつながっていない……ッ!そして今気づいたけど、アリサさんのハイライトが仕事していない……ッ!これはまずいぞ。俺の本能が全力で逃げろと信号を出している気がする!

 

 「………あぁー……。じゃあアリサ。これをやったの誰なのか知らない?」

 

 ハイライトなしというただ事ではない事態に直面しているため、彼女のリクエストをなるべく遂行しつつこの状況の犯人を尋ねてみる。

 すると、今までと変わらず彼女は花が咲いたような笑顔で口を開いた。

 

 「はいっ!」

 

 ノータイム返答。

 そこに詫びの気持ちは微塵も感じることができず、やって当たり前むしろどうしてそんなこと聞くんですかレベルの雰囲気を出していた。

 

 「それは、その……どうして?」

 

 「だって、仁慈さんは放っておいたらまた黙って何処かに行ってしまうじゃないですか」

 

 やっべ………。今の解答だけで、今の彼女がどの程度の進行度なのかわかってしまった。これは相手に害を及ぼすレベルのもの(病み)だ……!しかし、その原因が勝手に過去に帰ったものという完全に自業自得なものなので文句を言えない……!圧倒的ッ……圧倒的……自業自得……ッッ!

 

 「えぇ……えぇ……そうです、そうですとも。私に黙って勝手にどこかに行ってしまう仁慈さんは私が管理しておかないといけないんです」

 

 「うわぁお」

 

 どうしよう本格的に大変なことになっている気がする。

 そのうちこの部屋に誰かが来てくれる可能性もあるけれど、この状況に対応してくれる神機使いがいったい何人いるか……。極東において、アリサさんは一種のアンタッチャブルとなっているため、俺の味方をしてくれそうな人は根こそぎ回れ右すると思うんだ。

 なんにせよ、ただ待っているだけなのもあれなので、俺は一計案じることにした。

 

 「ねぇ、アリサ。俺、お腹が減ってきたんだけど……これ外してもらえない?」

 

 「だめです。食事なら私が持ってきます。ムツミちゃんにオムライスを作ってもらって持ってきますね」

 

 そう言って彼女は俺の布団から出ていき、エントランスに向かって行った。……このタイミングしかない。

 俺は今までよりももっと力を込めて鎖を動かしてみる。この状態ならアラガミに近しい力を発揮できる筈なのだが、相変わらず鎖はびくともしなかった。こんなものどっから持って来たんだと思いつつ、仕方がないので肢体の偏食因子を変化させて鎖を侵食する。いい感じにボロボロになった鎖を引きちぎる。

 そうして自由になった俺は普段着に着替えると、扉の真上にある天井に張り付いた。気分はニンジャ。そして、アリサさん――アリサが帰ってくるまでじっと息をひそめる。数分立つとアリサができたてのオムライスを持って帰って来た。

 

 「仁慈さん。持ってきましたよ」

 

 ガチャリと中にアリサが入り、ベッドに近づいた瞬間、天井から静かに着地すると扉を閉めて外にでる。そして外からドアノブをいい感じにぶっ壊し、鍵を捻じ曲げてアリサを閉じ込めた。

 

 「なっ!しまっ――――」

 

 部屋が暗いままで助かった。もし、明るくなんてしていたら扉を開けた瞬間にばれていたかもしれない。

 アリサを閉じ込めた後俺は全力でエントランスに向かった。これでしばらくは大丈夫だとしてもそこまで時間は稼ぐことはできないだろう。エントランスで任務(泊りがけ)のものを受けて、ムツミちゃんに簡単な料理を作ってもらい、移動しながら食べよう。そして今日はその任務を隠れ蓑にしよう。

 

 今後の方針をまとめ終わり、エントランスについた瞬間階段を下りず飛び降りてカウンターの前に着地する。今日オペレーター担当のフランさんは俺が急に上から降ってきたことに驚いたらしく短く悲鳴を上げた。ごめんなさい。でも急ぎなんです。

 

 「え、仁慈……さん?どうして上から?」

 

 「説明は後です。いきなりで悪いんですけど、数日つぶせる任務はありませんか?」

 

 動揺しつつもさすがは元フライア勤務のエリートオペレーター。すぐに俺の注文にあう任務を探し出してくれた。フランさんマジ天使。もう愛しているといっても過言ではないね。

 

 「ありますね。こちらになります。少々現場が遠いので二、三日はかかると思います」

 

 「ありがとうございます。ならそれを受けます」

 

 任務の手続きを終えた俺はすぐさまラウンジに行き、ムツミちゃんに簡単な料理で尚且つ持ち運びができるような料理を注文する。彼女はそんな奇妙な俺の注文に疑問を持たずまぶしい笑顔で了承してくれた。朝から荒んだ心が浄化されていくようだ。

 周囲に気づかれないように視線を向けながらムツミちゃんの料理を待つ。すると背後から近づく気配が一つあった。アリサではないため、ゆっくりとそちらを振り向く。するとここ最近は極東にいなかったアネットさんがニコニコと笑いながら近づいてきた。

 

 「お久しぶりです。先輩」

 

 「………その呼び方、こっちではどうなんでしょうね」

 

 アリサの方もそうだけど、本来なら俺が彼女たちの後輩なのである。過去に行って先輩のまねごとをしたものの、それは過去での話。現在ではそれが当てはまらない。しかし記憶が戻ったからか、第一部隊の人も過去と同じように話しかけてきているのでブラッドの連中がものすごく不思議そうに俺を見ていた。世界から何かしらの修正力がかかっているはずだけど、勘が鋭いやつらだ。相変わらず。

 まぁ、この人たちには関係なさそうだけどね。後輩とか先輩とか。人前で呼ぶのは勘弁してほしいけど。

 

 「相変わらず雑な対応ですね。私、あなたの教えをしっかりと守って来たんですけど?」

 

 「誰もそこまで強制してませんけど」

 

 アドバイスと言いたまえ。

 というか、基本的に俺は戦い方を強制しない。基礎は教え込むけど発展させて自分に最も合う形を見つけ出すのは本人だし。何より、俺の戦い方なんて教えても実行できるのはリンドウさんくらいだし。

 

 「………そうだ!先輩、私ご飯作って来たんですけど……よかったら食べます?」

 

 「露骨に話をそらしたな……」

 

 あまりにも下手すぎる逸らし方に苦笑しつつ、アネットさんが作ってきたという料理を見る。

 中身はサンドイッチですぐに食べられるお手軽サイズにカットされていた。早朝から作ったにしては色々不自然だが、くれるというのであればお言葉に甘えておこう。一ついただきますと言って彼女のサンドイッチを口に運ぶ。少々違和感を感じる味だったが、普通においしかった。

 

 「ありがとうございます。おいしかったです」

 

 「そうですか?よかったです!……常人なら死ぬほどの睡眠薬を混ぜたのに平然としているなんて……もう一つ食べてもらった方がいいかな(ボソッ」

 

 違和感の正体はそれか……!

 ちゃっかり致死量を超えた睡眠薬を投与とか言ってるし、こいつもアリサと同じ状態か……!何が原因でそうなっているのかはわからないが、このままいるのは危険すぎる。つーか俺の体が半分アラガミじゃなかったらそこで死んでるんじゃないか!?

 

 タイミングよく出てきたムツミちゃんの料理を片手に俺はダッシュでラウンジを後にする。すれ違いざまに見えたアネットさんの目にはアリサと同じくハイライトが入っていなかった。くっそ、どうなってやがる……!?

 任務に必要な神機を取りに行く傍ら、無線で手あたり次第連絡をかけていく。しかし、コウタさんやジュリウス、ロミオ先輩とギル、ユウさんソーマさんヨハネス支部長……誰もかれもが分からないと言って首を振っていた。そして声も震えていた。

 

 マズイ……ほかはともかく、キチガイバナナ(ジュリウス)対アラガミ用最終兵器(ユウさん)が震えるほどの事態ということは、どう考えても彼らに縁のある人物が病み病みモードと化しているからに違いない。アリサは既に手遅れ、この状況だとナナとシエルも警戒しておいた方がいいかもしれない。何の因果か、俺が世話をしたもしくはよく話していた相手があのような状況になってしまっているため、彼女たちがああなっている可能性は十分にあり得る。

 

 なにはともあれ、ここにいるのは危険だと結論をつけると今までより一層スピードを上げた。

 神機を保管している場所に到着し、さっさとお目当ての神機を持ち帰ろうとしたのだが、入り口の前には珍しい人影があった。

 いつも喪服のような恰好をしていかにも怪しい雰囲気を醸し出す年齢不明の女性、ラケル・クラウディウスである。どうして彼女がここにいるのかはわからないが、とりあえずかまっている暇はないので横を素通りするとする。しかし、彼女の横に来た瞬間声をかけられた。

 

 「あら、無視なんて酷いわ仁慈。私傷ついてしまいました」

 

 「…………あなたがそんなことで心に傷を負うわけないじゃないですか」

 

 文字通りの化け物メンタルの持ち主の癖に。どの口がほざくのか。

 

 「それは心外ですわ。私だって普通とは言えませんが、れっきとした女の子ですのに」

 

 くすくすと本当に少女のように微笑みながらカラカラと車いすで近づく彼女。そして、ゆっくりと俺の前まで来ると屈むように指示をしてきた。無視すると後が怖くなったので俺は彼女の言うとおりに屈む。すると、ラケル博士の白くて細い指が俺の両頬を固定した。

 

 「えっ―――――」

 

 気づいた時には遅かった。

 いつの間にやら、ラケル博士の顔が俺の目の前にあり、唇に至ってはゼロ距離である。端的に言えばキスである。

 

 「んっ……んぅ………ちゅっ……ぁ……」

 

 思考がうまく働かない。なにをされているのか、理解ができない。いわゆる完全にフリーズした状態となって、俺はラケル博士のキスを受け入れていた。

 そして、何分経ったのかはわからないが体感では数十分にも感じられた時間が終わりを告げる。ラケル博士は唇を静かに離すと再び微笑んだ。

 

 「女の子なら、意中の人の唇を奪うのも……その人の体を欲するのも、自然なことですよね?」

 

 キスの所為で思考が正常に働かないため、彼女がゆっくりと近づいているにも関わらず動くことができなかった。そして、アリサやアネットから逃げなければという考えも消えかかっている。

 ただいま頭の中にあるのは目の前の彼女のことだけ―――

 

 「フフッ……たっぷり愛し合いましょう?そして、私にあなたのすべてを見せて?体の中まで、全部」

 

 ―――――目が覚めたわ。

 今の発言、なんか乙女チックに言っているけど、ただの解剖させて宣言である。可愛くいっても許可なんてできるはずもない。

 

 ラケル博士のマッドぷりに助けられたが、ここにいるのは危険なため、もう任務に出ることにした。俺は彼女からバックステップで距離をとると即座に回れ右を決行し、出撃ゲートへと向かった。

 

 「ベーダー!今すぐヘリを出して!」

 

 『どうしたんですか旦那』

 

 「ちょっとアラガミよりやばいやつらに狙われてるから早くここを出る!」

 

 『過去でも未来でも旦那は厄介ごとに事欠かないっすね』

 

 「別に好きでやっているわけじゃないんですがねぇ!?」

 

 誰が自ら厄介ごとに首を突っ込むかよぉ!厄介ごとのほうから手を振ってやってくるんだからしょうがないじゃないか!

 全力でツッコミを入れつつ、もう飛び始めているヘリに飛乗る。ヘリのドアを開けてくれているとはさすがベーダーわかってるな。

 

 「で、旦那。神機はどうしたんですか?」

 

 「あっ」

 

 忘れたわ。 

 しかし、ぶっちゃけ神機を忘れたことより、あの人たちから逃げられたことの方が大きいわ……。とりあえず、これで二日間くらいは休めるな。

 

 「もはや素手でも問題ないと、旦那が考え始めている件について」

 

 「慣れろ。リンドウさんもやってたんだ。俺にもできるさ」

 

 「その理屈はおかしい」

 

 ヘリの中でこんなバカなやり取りとしながら俺は体をリラックスさせる。これでひとまずは安心だな。

 ……あれ、もしかしてフラグ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――あはっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラケル「初めての相手はナナではない……このラケルだァ……!」ズギューン!!
ナナ「―――――――」


――――――

ジュリウス「一番最初のアリサさんが一番ましだったんじゃないか?」
仁慈「どうせ みんな 悪化する。古事記(ヤンデレアニメ等)にも書いてある」
ギル「目が死んでる……」


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大惨事ヤンデレ対戦(後編)

大変お待たせいたしました。
ヤンデレ(笑)編の後編です。


 

 

 

 

 「旦那、一応ほとぼりが冷めたときあたりに迎えにきますわ」

 

 「よろしく」

 

 唯一の味方、ベーダーに見送られた俺は今回の仕事場である贖罪の街を歩き回る。この任務は一体一体は大したことのない小型アラガミの討伐であるが、大量にその小型アラガミが発生してしまったため、二日三日かけて駆除せよとのことである。いつもなら楽勝なこの任務だが、今は神機がないからなぁ……。

 

 「グゥルァ!」

 

 「うるさい」

 

 上田を決行してきたいつもの雑魚敵、オウガテイル先輩に昇龍拳張りのカウンターアッパーを顔面にぶつける。そして、すぐさま尻尾をつかんで地面にたたきつけて追い撃ち。止めに口の中から腕を突っ込んで中をひっかきまわしてコアを砕く。

 ……意外と何とかなるもんだけど、これだと一体にかける時間がかかりすぎるな。

 普通なら神機がアラガミの装甲を紙のごとく斬れてコアの破壊も容易なのだが、素手だと攻撃こそ一応できるものの破壊力はないし、コアを破壊しないと完全に殺しきれないというね。これでキュウビを抑えつけたリンドウさんは本当に頭おかしいわ。

 

 そんなことを考えつつ、いつもとは比べ物にならない遭遇頻度の小型アラガミたちを何とかさばいていく。というかこの絵面、どう考えても神機使いとは言えないものだよな。俺素手だし。傍から見たらオラクル細胞でしか倒すことのできない生物を素手で倒すキチガイだと思う。普通に考えて肢体がオラクル細胞でできているなんて考え付かないだろうし。

 

 ―――――体はオラクル細胞でできている―――――

 

 

 予想以上にきついので脳内で適当なことを考えることでそこら辺のつらいという感情をカットしつつひたすらアラガミを狩り続ける。波動拳とかあればものすごく便利だろうに……。

 

 

 倒した数が三十を超えたあたりだろうか、ここで俺の肢体がオラクル細胞でできていることの弊害が発生した。本来ならこの場にいないはずの大型アラガミが乱入してきたのだ。ソーマさんも言ってたけど、本当にこういう場合には不便だよなこれ。

 しかも乱入してきたのはイェン・ツィーというチョイス。神機持っていても面倒な相手なのに素手で戦うとか考えられない。こんなところにいられるか俺は帰らせてもらう!

 

 神機使いたる身体能力+オラクル細胞の肢体の力をフル活用してニンジャのごとく飛び回って何とか振り切ろうとする。だが、相手はアラガミ。身体能力は俺たちとは比べ物にならないしそもそもが短時間ながら飛べる個体であるイェン・ツィーである。まぁ、順当に追いつかれるよね。

 

 「――――――!!」

 

 「神機なしってこんなにつらいものなんだなぁ……!」

 

 なくなって初めてありがたみに気づくことってあるよね。

 イェン・ツィーの羽の攻撃を生み出されたチョウワンでガード&アタックをしつつ何とか突破口を見つけようとする。

 

 数分間粘ったのちに、もうチョウワンで殴りかかった方が早いんじゃないだろうかと思い始めたその時――――――――不意に、目の前でイェン・ツィーが爆発四散した。

 正確には、地面にたたきつけられて高所から落としたトマトみたいになっていた。いったい何が起こったのかと思い、イェン・ツィーだったものの後ろに視線を向けてみると眩いばかりの笑顔を浮かべたナナがハンマーを片手にたたずんでいた。この場面、普通はお礼を言うべき場所なのであるが………俺の本能というか第六感というか、その辺のところが全力で俺に警告を呼び掛けている……!

 

 「あっ、仁慈!奇遇だね!こんなところで神機も持たずに何やっているの……?」

 

 奇遇なんてありえないでしょう。任務を受ける人の記録はされるんだから。同時に受けない限り偶然なんてありえない。しかし……!嘘を言っているにも関わらずこの透明感のある笑顔……ッ!これはやばい。極東で狂人化していた彼女たちと同じ匂いがする……!

 

 このままではいろいろな意味でヤられると考え、一歩後ろに下がってしまう。けれども、恐怖で動きと思考が鈍くなっているため稼げた距離は微々たるものだった。その間にナナは初めからそこまで離れていなかった距離を一気に詰めて俺の顔を上目づかいで眺めてきた。

 そして、スンスンと俺の体のにおいを唐突にかぎ始める。

 

 「………アリサさんとラケル先生。アネットさんのにおいもする………どういうことなのか聞かせてほしいなぁ、仁慈?」

 

 なぜわかったし。

 猫耳か?猫耳の様な髪型をしているから嗅覚が鋭いというのか?猫の嗅覚がいいっていうのは聞いたことないけど。

 

 「しかも、唇のあたり……ラケル先生のにおいが強いなぁ……いったい何をしたのかな?」

 

 「………」

 

 思わず、あの時のことを思い出して思わず顔をそらしてしまう。それがいけなかった。この場面で視線をそらすということは、後ろめたいことがあると自分から自白しているようなものである。俺のこの行動で確信を持ったのか、ナナはすっと俺の体内に自分の体を滑り込ませてそのまま俺の唇を奪っていった。

 

 「ん~……ちゅっ……ずるっ」

 

 「――――――ッ!?」

 

 舌入れてきやがった!?耳に悪い水音を響かせながら舌を持っていかれそうになる。だが、俺は反撃ができずになすが儘になってしまっている。仕方ないだろ。俺という人格が生まれて十年たってないし、俺の持っている信慈の記憶の中に女の人と付き合ったということはない。こんなことに耐性がないから固まっても仕方がない。

 

 その後結局五分間たっぷりと唇を蹂躙された。戦場のど真ん中で何をやっているかと思うこともあるけれど、そんなことは考えられないくらいフリーズしているため五分間自分が自分でないような感覚を味わった。

 

 「―――――――っぷは。……んふふ、ごちそうさま」

 

 普段から浮かべる無邪気な笑顔ではない。大人の女性が浮かべるような妖艶な笑みを浮かべつつこちらに話しかけるナナ。本当にもう……何が起こっているのか俺に教えてください……。もうやめて!俺のキャパシティはとっくにゼロよ!

 

 「……ふふ、仁慈がイェン・ツィーと遊んでいる間にこの任務の討伐対象は全滅させておいたから……一緒に帰ろ?」

 

 そういって彼女は左手を差し出してくる。

 しかし――――――その腕ををがしりと掴む手があった。

 

 「ちょっと待ってもらえますか?」

 

 「……アリサさん………」

 

 ナナの手をつかんだのは俺の部屋に閉じ込めていたはずのアリサさん。彼女は表情こそ笑っているものの、目が笑ってない上にハイライトも仕事を放棄しているステキ使用である。なにが言いたいのかというと超怖い。

 

 「仁慈さんは私がしっかりと面倒を見ますので、別にあなたが連れて帰ることはありませんよ?しかし、私の仁慈さんを守っていただいたことには感謝します」

 

 「あはっ、何を言っているのアリサさん。………後から湧いて出てきたくせに出しゃばりすぎ……いい加減邪魔だよ?」

 

 「「フフフフフフ………!」」

 

 怖い、怖いよ。

 この二人もうすでにお互い神機に手をかけているんですけど。この場で殺し合いを始めそうな雰囲気なんですけど……!?

 さすがにこのままではまずいと思い止めに入ろうとするが、ぐいっと袖を引かれる感触がしたので思わずそこへ振り返る。すると、ラケル博士が俺の腕を見かけからは想像できないほどの力で引っ張って抑え込んでいた。アイエェェ!?ラケル!?ラケルナンデ!?

 

 「あの二人の中に神機なしで入るのは得策とは言えませんよ。ほら、見てごらんなさい」

 

 言われて視線を戻すと二人は既におっぱじめていた。アリサさんのアサルトから放たれるオラクル弾をバッターのごとく打ち返すナナ。逆にアリサさんにナナが反撃に出てそのハンマーでアリサさんのことを殴ろうとすれば、柄の部分を切り上げて攻撃の軌道をずらす。

 お互い、相手がアラガミでもないのに全力である。これはやばい。かなりやばい。

 

 「ね?」

 

 「いや、でも……」

 

 これでどちらかがけがをした、もしくは死んだという事態になったら本当にマズイので無理やりにでも止めに入ろうとするが、その前に彼女たちの間に乱入してきた人物がいた。そう、俺のことを致死量を超えた睡眠薬で拉致しようとしてきたアネットさんである。

 

 「お二人とも、そういうのは先輩の意思を聞いてからでないといけないと思いますよ?勝手に決めても先輩が拒否したら、何の意味もありません」

 

 正論だ。完全に常識ど真ん中の正論なのだが……一番俺の意思を無視した手段をとったお前が言うか。鏡を見ろ、鏡を。

 

 「それに、もう北半球、南半球は古いです。先輩はあなたたちの様な痴女には靡かないですよ?ねぇ、先輩?」

 

 「「パンツ丸見えの貴女が言わないでくれません!?」」

 

 止めに入るどころか火に油を注ぐ結果となったアネットさんの乱入。先ほどよりもより激しくなった戦いを眺めつつもう何をやっても無駄なんじゃないかなと思い始める。

 

 「本人に決めてもらえばいいんじゃないかしら」

 

―――その時、空気が凍った。

 

 

 今の今までこちらのこと度外視で争っていた三人が戦いをやめてワープしてんじゃねーの?と思うくらいの速度で俺の近くまでやってくる。

 そして、誰もが選ぶならば私よね?と言わんばかりのプレッシャーを放ってきた。おかげで俺の胃がきりきりと痛む。こんな状況にした本人もいつもの胡散臭い笑みを浮かべつつしっかりと圧力をかけてきていた。

 

 「仁慈さんはもちろん私のことを選んでくれますよねだってあそこまで優しくしてくれたし色々きついことを言っても根気よく手伝ってくれましたし馴染めなかった時一生懸命フォローしてくれましたしほかにも……(以下略)」

 

 怖い怖いよ。あと長い。

 そこまで言われると距離を取りたくなるんですけど!?

 

 「せーんぱい!手取り足取り色々教えてくタじゃないですかぁ?そのこと、この人たちに教えてあげてくださいよ」

 

 戦闘術を教えただけだけどね!含みのある言い方はやめようね!

 

 「フフフフフフフフフフフフフ」

 

 何か言って!笑っているだけじゃなくて、せめて何か言って!

 

 「仁慈。信じてるからね?」

 

 彼女たちから精神的に来る言葉を投げかけられる。正直もう精神的に限界だ。そう感じた瞬間俺の意識は一気にブラックアウトしてしまった。

 

 

――――――――――

 

 

 

 「ん……」

 

 ふと、目が覚めた。

 体を起こしてみると俺が寝ていたのはいつも場所ではなくサカキ博士の研究室のようだ。俺が目を覚ましたことに気が付いたのか、サカキ博士が俺に話しかけてきた。

 

 「やぁ、目が覚めたかな?」

 

 「ここは……」

 

 確か、俺はヤンデレと化した女性たちに言い寄られていたような気もしなくもないんだけど……おぼろげで正確な人物が思い出せない。

 

 「あれ?覚えていないのかい?私とラケル博士が共同開発した狙った夢を見れる機械の実験を手伝ってもらうために拉t―――ゲフンゲフン協力をしてもらっていたんだ」

 

 「おい」

 

 今拉致っつったろ?というか、見させられる夢があれってどういうことだ。人物こそ思い出せないものの何があったのかは大体覚えてんだぞ。しかも、実験に協力するなんて会話をしたことはないんだが。

 

 「気にしてはいけない。まぁ、実験は成功したし、もう帰ってもらっても結構だよ」

 

 「いつか覚えてろよ……」

 

 思わず素で返してしまったがそれも仕方ないことだと思う。パソコンの様な機械に向き直ったサカキ博士に恨みがましい視線を送りつつ、この場から離れようと立ち上がる。すると、いつの間に近くにいたラケル博士と目が合った。一瞬だけ鼓動が早くなる。どういうことだろうか?なんか改造されたのではという疑念を抱いてしまうからだろうか?

 

 「おはよう仁慈。いい夢は見れたかしら?」

 

 「いえ」

 

 「くすっ、そうなの」

 

 上品に笑いながら、彼女は俺に近づく。そしてその白い手を顔に当ててきた。

 思わず、夢の中の光景と被ってしまい、その手を優しく振りほどいて速攻でその場を立ち去る。

 人物は覚えてないけど、シチュエーションとやったことは覚えてるんですよ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仁慈が研究所を出て行ったあと、一人残されたラケルは、

 

 「ふふっ、とりあえず成功……かしらね」

 

 とつぶやいた。 




これにて神様死すべし慈悲はない完結です。
思い立ったらまた何か話を上げるかもしれませんが、かなり不定期になると思います。連載するのはこれが最後でしょう。

ここまで全91話見てくださった皆さん、本当にありがとうございました。
これからも別の作品やこの話の番外編を上げたときはよろしくお願いします。


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緊急ミッション

約五か月ぶりの更新。皆さま、こちらの方ではお久しぶりです。
もしかしたらキャラが違ったりもするかもしれませんが、きっと年齢を重ねた結果ですので気にしないようにお願いいたします。

……いやー、感想が欲しいナー(チラッチラッ
感想が来ればこの続き書く気が起きるかもしれないなー(チラッチラッ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、人類最後の砦……否、人類を逸脱した者たちが集う世界の最前線である極東に衝撃の噂が駆け巡った。その内容は、とっくの当に人間どころか並みの神機使い達すらも超越した極東支部の神機使いでも恐怖にその顔を引きつらせ、自室の端っこで頭を抱えてうずくまる始末である。

 さながら世界の滅亡を目の前にした人々の如く、あるいはとっくに忘れてしまったアラガミたちに対する恐怖を思い出したようであった。

 

 

 その噂の内容とは、以下の事である。

 

 

 

 

 近々、極東であるミッションが発注される。それはヨハネス支部長直々の命令であり、極東の神機使いでも彼が信頼を寄せたものにしか受けさせないというものである。別にこれだけであれば珍しいことはない。嘗ての極東支部第一部隊隊長の雨宮リンドウも似たようなミッションを受注していたのだから。しかし、今回はそうもいかなかった。それは何故か?……それは、支部長が指定した人物にあった。

 

 

 ――――このミッションを行うものは以下の人物である。クレイドル所属、雨宮リンドウ、神薙ユウ。極東支部所属ブラッド隊隊長樫原仁慈並びにその隊員であるジュリウス・ヴィスコンティの四名である。

 

 

 そう、極東支部に居ればその存在を知らない神機使いはいないと言われている極東七大キチガイたちの内上位四名がそのミッションに選ばれているのだ。彼らは一人でも付近の地区のアラガミを狩りつくすことができる生粋の狩人にして根っからのキチガイである。溢れんばかりの才能をアラガミ討伐に傾倒させ、人類が届かない―――むしろ届きたくもない領域に足どころか体全体でどっぷり浸かっているような連中なのだ。

 世界からの評価が総じて頭おかしいと表現される極東の神機使い達にここまで言わせるという段階でその評価は推して図るべきである。故に極東支部の神機使いは誰しもが例外なく嘗て何度もこの極東で起ころうとしていた終末捕食よりもやばいものが来たと半狂乱になってしまったのだ。

 

 今回の話はそんな絶望的な状況(少なくとも極東の神機使い達にとっては)からはじまる。

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

「仁慈。時間だ、行くぞ」

「はいはい行きます、行きます………なので書類をその辺に捨てないでください。後で片付けるの誰だと思ってるんですか?」

「……?仁慈に決まっているだろう?」

「ぶっ殺すぞ」

 

 全くもうこの元隊長はいつまでたっても空気が読めないんだから……。何を言っているんだと言わんばかりの表情を浮かべるジュリウスに手加減なしの鉄拳を撃ち出し、意識を素早く刈り取ってから空中にフライアウェイしそうになっていた書類を回収。俺の机の上に束ねておく。まだ半分くらい残ってるのに……。というか、フェンリルは事務員も雇うべきだと俺は思うよ。隊長格がこれを兼任とかおかしいでしょ。極東だけ?

 

 ジュリウスの首根っこを掴んでずるずる引きずりながら部屋をでて支部長室へと向かう。時々道を曲がるときにジュリウスの身体が角にぶつかったりしてしまうけれどもこれは不可抗力であり故意ではないのでノーカン。

 

「……あれ、仁慈。珍しいな、ジュリウスと一緒なんて」

 

 支部長室に向けて歩いている途中でコウタさんに会った。ここ最近―――正確に言えば俺達が今から支部長室へ行く理由となっているミッションが来てから異常に沈んだ極東支部の中で、普段通りを貫き通している数少ない神機使いの内の一人である。普段常識人枠に収まりがちな彼ではあるが比較対象がおかしいだけで十分この人もおかしいのだ。実際、傍から見ればジュリウスを引きずっているだけにしか見えない俺に向って一緒にいるだなんて言葉で片付けるところにも現れている。

 

「こんにちはコウタさん」

「……なんかお前に敬語を使われるのは変な感じだなぁ……」

「本来はこれが普通なんですよ」

 

 むしろ過去に行き、同期として神機使いやっていたこと自体が異常なのだ。元々俺はブラッド隊のメンバーであり極東支部第一部隊ではなかったのだから。

 

「うーん。まぁ無理強いするのもよくないよな。仁慈の好きな方で話せばいいと思うよ」

「アリサさんは許してくれないんですけどね」

「あ、うん」

 

 アリサさんの話を出すとあからさまに目線を逸らしたコウタさん。気持ちは痛いほどよくわかる。怖い話なんて進んでやるような人でも聞くような人でもないし。そんなことを思いつつ、少しだけコウタさんと談笑した後に再び目的地に向かって歩き始めた。途中、ジュリウスが起きそうになっていたので今度は首の後ろに手刀をぶつけて再び眠ってもらった。

 

 ノックを三回ならして、中からの許しを得るとそのまま中へと入る。どうやら俺とジュリウスが最後らしく既に支部長室にはリンドウさんとユウさんの姿があった。リンドウさんは相変わらず能天気な顔で金の籠手を着けた腕を上げて俺を呼びかけ、ユウさんも笑顔で迎えてくれた。

 

「おう、来たか仁慈」

「久しぶり、仁慈さん」

「さん付けはやめてくださいよ。……いや冗談抜きで」

 

 本来のこの世界では俺の方が後輩なのである。しかもユウさんは極東にこの人ありと言われたぶっちぎりでやばい神機使いなのだ。さん付けさせてるなんて知られたらユウさんのファンに殺される。

 

「……どうやら揃ったようだね。若干一名寝ているようだが」

「あ、直に起こします」

 

 支部長に指摘されたので意識を落としたジュリウスの頭を地面に叩きつける。そうすることによってジュリウスには快適な目覚めが約束された。死人すら目覚めると評判の起こし方法である。やってほしい人は限界まで俺のストレスを貯めて、その後止めに挑発行為を行うと条件が満たされ、発動する。

 

「ごはっ!?………仁慈、流石にこれはないんじゃないか?」

「次はないと思ってください。いや、次はない」

「これで軽い方なのか……」

 

 戦いなら大歓迎なんだがなぁと呟くジュリウスに白い視線を向けた後に支部長に向き直る。中身はともかく、これだけの面子を集めるにはそれ相応の理由があるのだろう。自分で言うのもなんだけど、誇張なしで一人一人がその辺にある支部と同等の戦力と言っても過言ではないだろう。それを四人も集めた……ということは新種のアラガミが現れたとか、既にそれがとんでもない数集まっているとか二つの終末捕食が極東に向っているとかそんな感じのものなんじゃないかな。

 

「―――今回諸君に集まってもらったのは他でもない。実力、人柄ともに信頼できる君たちにしか頼めない仕事を持ってきたのだ」

 

 まぁ、座り給えと俺達を席に案内しながら支部長はフェンリルのエンブレムの近くにある椅子に腰かける。俺は来客用のソファーに腰を下ろす。その正面にはユウさんとリンドウさんが、ジュリウスは近くの壁に寄りかかった。

 

「んで、俺達を集めた用件はなんだ支部長。フェンリル本部でも攻め落とそうってか?」

「それはリンドウさんの願望じゃないですかね……」

 

 どうやら自分たちの活動を支援してくれない本部に対して思うところがあるらしい。本部襲撃はやめて差し上げて。何時かエリックさんがその辺スッパリと変えてくれると思うから。多分。

 

「フェンリル本部の襲撃なんてくだらないことではない。もっと重要な案件だ」

 

 顔の前で手を組み、こちらを睨むような目線を送る。どうやらマジもマジモードらしい。ここまで真剣なのは嘗て対峙した時以来ではないだろうか。

 

「君たちを呼び出した件―――それは……ソーマと喧嘩したのだが、どうやって仲直りすればいいのか、意見を貰いたい」

「はい。解散です」

「お疲れさまでした」

「おう、お疲れー。さて返ってレンの様子を見に行くか」

「仁慈、余った時間俺と一緒に狩りに行かないか?」

「書類仕事があるのでギルさんでも誘ってください」

 

 みんな即決だった。

 それはそうだ。深刻そうな表情から繰り出されたのは息子とのかかわり方を若干間違えた親父の情けない泣き言だったのだから俺たちが協力する理由はない。むしろ、神機使いである俺達を何故呼んだのかとツッコミを入れたくなるレベルだ。もっとましな人はいなかったのだろうか。

 

「ちょっと待ちたまえ、いや待ってくださいお願いします。もちろんこの件は四分の一くらいは冗談だとも。本当の本題があるのだ」

「どうしてそっちを先に言わないんですか、支部長」

 

 ユウさんの言葉は全員の代弁だったと思う。

 その問いに対する答えはこちらもこちらで支部長にとっては同じくらい深刻な問題だったらしい。……リンドウさんだけ、何時か俺もああなるのか……みたいな視線を向けていたことが印象に残った。

 

「オホン……では改めて君たちを呼び出した理由を説明しよう。……問題は螺旋の木の付近で発生している。数日前、あの木を調査していた調査隊の行方が唐突に途絶えた。レーダーなどに反応はなく、アラガミに襲われたのかそれとも事故なのか……それすらも判別がつかないとのことだ」

「なら何故我々が行くことになるのですか?今の話からすれば、向かわせるべきは神機使いではなく捜索隊では?」

「言いたいことはもっともだ。しかし、場所は螺旋の木の近く。今も尚、終末捕食が喰らい合っている領域だ。レーダーにも気取られないアラガミが唐突に発生したとしても不思議ではない」

 

 言いたいことは分かる。アラガミの進化速度は異常の一言に尽きた。個体は同じでも性能だけは段違いに上がっていたり、短い期間の間に様々な種類のアラガミが発見されたりと上げれば上げるだけキリがない。そういった可能性を見て、どんな状況でも対応できそうな人たちを集めて言い方は悪いけど人柱にしてやろうということか。

 

「ヨハネス支部長。その話、少なくともジュリウスと仁慈は受けます」

「勝手に巻き込むな。了承を取れ。行きますけども」

 

 螺旋の木を作り出した張本人としてはあの付近のことには多少の責任を持つ。それにこのキチガイバナナは放っておいても絶対に行くだろう。なんて言ったって目が輝いているのだから。

 俺達の様子にユウさんとリンドウさんも苦笑しながら同行の旨を出した。……いや、リンドウさんは仕方ないなって表情だけどユウさんは若干笑ってる。そういえばあの人もジュリウスと同類の人類だった……。

 

「……とりあえず、変に暴走しないようにだけ見守ってましょうか」

「そうだな。……にしてもお前さん、随分苦労してんだな。確かブラッド隊では一番年下じゃなかったか?」

「まぁ……。けど、正直ここまで来れば年齢とかは関係ないですよ」

「……今日帰ったらおごってやるよ」

「どうも」

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「これはまた豪勢な面子ですね。流石です旦那」(シュコーシュコー

 

 久しぶりに見たベーダーは相変わらず変わっていなかった。あの時本部にすらつけていったマスクをつけて妙な三下口調でこちらの様子を見ている。彼の年齢が全く分からない。声にも何故か機械処理が入ってるしシルエットは基本的に後姿―――それも頭しか見えないから確認もできないし。マジで謎だ。

 

「……仁慈、知り合いか?」

「よくお世話になっている操縦士さん。腕は保証できますよ」

「そこまで言われたら気合を入れないわけにはいきませんね……あ、そろそろ目的地の上空っす」

「早いな、オイ」

 

 パーフェクトだベイダー。

 流れるような操縦と相変わらず時間を切り取ったかのような……キンクリでもしたかのような素早い操縦技術であった。

 そこから高度を下げ、神機使い達が飛び降りても問題ない高さまで行くことができた。俺達は顔を見合わせると一人ずつヘリから飛び降りていく。

 

「終わったらお知らせください。迎えに行きますから」

「よろしく」

 

 俺の僅か上から遠ざかっていくプロペラの駆動音を聞きながら地面に意識を向ける。何度も何度も繰り返してきたため特に問題もなく着地すると一先ず周囲を見渡した。どうやら割かし螺旋の木に近いところに来たらしく、木の根っこが幾重にも地面に絡みついていた。

 しかし、アラガミの気配はない。新種は疎か、小型アラガミの気配すら存在していなかった。どうやら他の人たちも同じらしく全員無警戒とまではいかないモノのそこまで張りつめてはいない。

 

「どーやらこの近くにはいないようだな」

「ですね。けど、今までの経験から言って新種は居そうな気がしますよリンドウさん」

「ユウもそう思うか?……極東は新種の宝庫だからなぁ」

「どうしますか?一先ず分かれますか?」

「一応ここは今も終末捕食が行われているところですし単独行動は得策じゃあないと思いますよ」

 

 ジュリウスの言いたいこともわかる。けれど、ユウさんが言った通りここは螺旋の木の近くであり何より極東支部なのだ。新種のアラガミの一匹や十匹余裕で出てくることだろう。

 

 そうして四人とも行動を共にして、探索行動に勤しんでいたのだが、三十分くらいしてもアラガミを見かけることはなかった。もちろんそれは新種に限った話ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 流石にこれはおかしい。ここは確かに終末捕食が行われている場所だが、アラガミは元々この終末捕食を起源としている節があると思われる。いわば産みの親とでもいえばいいのだろうか。サカキ博士もラケル博士も同じことを考えていたらしい。それを前提にすると、ここは母体となっておりアラガミがいつ出現してもおかしくはない状態なのだ。にも拘らず、小型アラガミの一匹も見ることができない。……つまりそれは―――

 

 そこまで思考を巡らせたところで、俺の生存本能に何かが触れ、そのまま反射的にその場から飛退いた。普段であれば首を傾げられるかもしれない行動だが、問題ない。此処に居るのは普通じゃないやつらばかりであるし、何より咄嗟に同じ行動を取っている。これはこの場に置いて正しい対応だった。

 俺の考えを肯定するように先程まで居た場所に大きな影が出現する。気配もなく現れたそれはまるで瞬間移動でもしてきたかのようであった。

 

「おい、支部長。アラガミの反応はあるか?」

『待ちたま―――これは!?』

 

 リンドウさんの問いかけに支部長は驚愕の声を上げる。あの支部長がここまで露骨に驚きを露にするのは意外に珍しいことだ。まして、今は完全なるシリアスモード。普段の逆モードならともかく、これで驚愕するということはただ事ではないということである。

 

 支部長からの返答を待っている間、俺は目の前に現れたアラガミを観察する。全長はマルドゥークと同じくらい、そのフォルムもマルドゥークに似ており、狼を模しているかのようにも思える。カラーリングも身体は銀色、瞳は赤い。予想として考えられるのはマルドゥークの新種とかかもしれない。要所要所似ているし。

 しかし、マルドゥークやガルムという系統に共通してみられるガントレッドの類は装着されていなかった。代わりに武器となるのだろうか、背中から触手のようなものが複数本生えており、その先端は鎌のようなフォルムを描いていた。

 

「―――――――」

『驚かないで聞いてほしい。目の前に居るそのアラガミは、』

 

 支部長の声が耳に届く。

 だが彼が言葉を言い切る前に目の前のアラガミは俺達に襲い掛かってくる。初速は素早く無駄のない動きだ。背中の触手は独立しているのかバラバラにうごめき俺達を襲う。それにどう対応しようかと考えを巡らせていると、ようやく支部長の返答がきた。

 

 

『―――()()()君たちの目の前に居るであろうアラガミ。……その反応は()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「……はっ?」」」」

 

 

 最後の最後でぶっこんで来たなオイ。

 




用語説明

極東七大キチガイ

極東支部に置いて、最もぶっちぎり人類から逸脱したとされる七人の神機使いの事。その基準は様々だが大体が満場一致で認める位には頭おかしい連中である。

一人目雨宮リンドウ
二人目神薙ユウ
三人目ソーマ・シックザール
四人目アリサ・イリーニチナ・アミエーラ
五人目藤木コウタ
六人目ジュリウス・ヴィスコンティ
七人目樫原仁慈


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お前に足りないもの、それは―――

ちなみに私に足りないものは更新速度と運(ガチャ)と執念(ガチャ)です。


 

 

 

 

 仁慈と全く同じ反応―――それを意味するのは少なくともレーダーなどの機械類は目の前のアラガミを樫原仁慈として認識しているということだ。すなわちそれはフェンリルのデータベースに登録されている仁慈の情報と同じものを所持しているということに他ならない。ここでいう情報として最も用いられるのは当然彼に投入されている偏食因子だろう。つまり、目の前のアラガミは樫原仁慈と全く同じ偏食因子を所持しており、それはある意味で《《樫原仁慈がアラガミ化した姿》》と言っても過言ではなかった。

 

 通信機越しに聞えて来た答えを受けた四人は正面から目の前に佇むアラガミを見据える。その姿はまさに威風堂々、ここら一体は己の縄張りであり仁慈達はその中に入って来た憐れな獲物として判断している。だが、その瞳に本能に忠実な獣のような獣欲は感じさせない。むしろ、彼らと同じく狩人としての理性ある瞳を携えていた。

 

「こいつ……唯のアラガミじゃねえな」

「仁慈と同じ反応という時点でそんなことは分かり切ってますけど……随分と理性的な印象を受けますね」

「これは絶対に強い……!いいぞ、俺はこういうのを待っていた!」

「勝手に突っ込むのはやめてくだs――――行った!?」

 

 警戒心を露にする三人に対してジュリウスのみは警戒を見せながらも我慢できなかったようである。一目散に地面を蹴り、初速からトップスピードへ移行する。仁慈と同じ反応を示すアラガミですら理性的判断から様子見を決行しようとしたにもかかわらずこの先制攻撃……余程満足できる戦いができていなかったのだろう。他の三人は呆れつつも情報収集の礎となってくれた彼の様子を観察する。

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

 ジュリウスの突撃に対して未確認のアラガミが取った行動は咆哮。遠吠えのような生易しいものではない。ジュリウスに狙いを定め、重圧な音による物理攻撃でジュリウスの身体を後方に吹き飛ばした。それはまるで仁慈が初めてマルドゥークに見せた咆哮のようだった。

 アラガミという化け物から放たれてた音波攻撃にその身体を返されながらもジュリウスに焦りの色は見られない。何故なら、彼はブラッド原初のキチガイ。むしろ彼の所為で仁慈が修羅の道に落ちたことを考えると全ての元凶のキチガイと言い換えることもできる。その師匠・オブ・キチガイであるバナナが吹き飛ばされたくらいで退場するわけがなかった。彼は空中で神機を銃形態に移行。そのまま背後に標準を合わせて連射。その反動で後ろに働きかけている衝撃を相殺する。そしてそのまま何事もなかったかのように仁慈達の元へと戻って来た。

 

「流石にあれでは届かなかったか……」

「元隊長にあるまじき浅はかな行動お疲れ様です。そろそろ自重してください。いや、マジで」

 

 キリッとした表情で宣うキチバナナに仁慈のツッコミが炸裂する。それも仕方のないことだろう。今の行動の所為で未確認のアラガミは完全に彼らを敵として判断した。背中から生えている触手染みた部位を全て伸ばして仁慈達を切り裂こうとうごめかす。それにいち早く反応したのは極東の例の人、神機使いの業界で知らないものは居ない元第一部隊隊長の神薙ユウだ。

 彼は手に持った神機を無造作に下段へと振り切った。傍から見ればたった一度の斬撃。しかし、結果は視覚したものとは程遠いものだった。四方八方から襲い来る触手に対してただの一度しか神機を振るわなかったわけだが、どういうわけか全ての触手を斬り倒していたのだから。そう、先の一撃。振るわれたのは一度ではない。視覚出来ない速度で振るわれた結果、唯の一度振るわれただけにしか見えなかったに過ぎないのだ。驚くべきことはこれがブラッドアーツによるものではなくユウの純粋な技量によってなされたものである事。これには流石のジュリウスも苦わら――――

 

「フッ、流石だ」

 

 ――――微笑んでいた。こいつらはやはり頭がおかしい。

 触手を一瞬に撃退されたにも拘わらず、未確認のアラガミに動揺の色は見えない。むしろこのくらいはして当然だろうという雰囲気的余裕すら見て取ることができた。故に未確認のアラガミはすぐに次の行動を取る。鋭い牙を一瞬だけ見せるように大きな口を吊り上げると、その場から姿を消した。

 

『―――!?』

 

 気配は、ない。音も聞こえない。だが、長年戦場で生きながらえて来た彼らの勘が未確認のアラガミは自分たちのことを狙っていることが理解できた。一番初めに動いたのは――元祖キチガイであるリンドウだ。彼は自分の直感に従い、自分の神機を振るう。

 

 振るった先には巨大な口を開けリンドウをマミらせようとしていたアラガミの姿があった。アラガミと正面からぶつかりあう胆力は流石、半分アラガミ化しているだけのことはある。

 

『―――!リンドウ、すぐに神機を放して!侵食されてる!』

「ちっ……!」

 

 神機に宿った意思―――レンの忠告にリンドウは舌打ちをすると、自分の偏食因子から変形してできた神機の形をしたオラクル細胞擬きを未確認アラガミに突き立てる。しかし、それは背中から生えた触手に防がれてしまった。ならばと思い、足を振り上げ顎を外そうと抵抗するが、それも前足で防がれてしまった。普通の神機使いであれば絶対にしない攻撃方法であるし、それ故に学習能力があるアラガミたちでも対応することができなかった攻撃方法。しかし、未確認のアラガミはまるで見て来たかのように迷うことなく対応を繰り返していた。

 

『うわ――!リンドウ、これはちょっとシャレにならない!このままいったら、黒いハンニバルになるよ!』

「んなこと言われてもよ……」

「任せてください」

 

 リンドウではどうにもできない状況ということで割り込んできたのは今もっともホットなキチガイ。未確認アラガミと同じ反応を示す元特異点。樫原仁慈である。彼は神機の形を変形させ、リーチを伸ばす。そして伸ばすために利用されたオラクル細胞を全て捕食形態に変形させた。

 普通であれば、自分が捕食されないように細心の注意を図って行う捕食形態。しかし、体内の偏食因子を手なずけ、神機を完全に支配下としている仁慈には全く以って関係がない。どんな状態で捕食形態にしようとも彼が神機に捕食されることなどはないのだから。

 

 流石にこれはマズイと判断したのだろう。未確認のアラガミは迷うことなくその場から飛退いた。

 捕食の本能に打ち克ち、自身の命を優先した。これはアラガミの中でも一部の者にしか見られない行動である。ルフス・カリギュラやハンニバルなどの上位に位置するアラガミなどがいい例だ。

 

「あの状況で引く行動ができる……尚且つこちらの戦術にも通じているとなるとかなり厄介な相手だね」

「少なくともジュリウスよりも理性的なのは確かですね」

「一々俺を引き合いに出すのはやめろ」

「こうでもしなきゃやめないでしょうが」

「漫才はそこまでだ二人とも。久しぶりの大物だ。こりゃ、全員で掛からないとこっちがやられるぞ」

 

 横一列にならび、神機を構える四人。同時にそれぞれの構えを取る。リンドウは長年連れ添ってきた相棒とも言える神機を肩に担いで。ユウはいつも通りの自然体で、ジュリウスはブラッドアーツを発動できる構えで、仁慈は神機を隠すように身体を半身にした。本気中の本気である。

 

『諸君、私はサカキ、ラケル女史等と話し合った結果あのアラガミをフェンリルと呼称することにした。できればコアを持ち帰ってもらいたいのだが……それは余裕がある時だけでいい。目的は新種アラガミ、フェンリルの殲滅だ。健闘を祈る』

 

 神機使いを生み出している大本、フェンリル。その名を冠するアラガミが現れるなんて人類にとって質の悪い冗談だろう。この話、極東であればいつものことで済むかもしれないがそれ以外の地域で出現するようなことがあれば大混乱間違いなし。故にここで絶対に食い止めなければならない。

 そう。誰も見て居なくても、ごく一部の人間にしか認識できなくとも確実にこれは人類に対して大ダメージを与える出来事であることには変わりない。それと対峙するということは疑似的に世界を背負うことと同義である。己が弱い人間であれば耐え切れないであろうプレッシャーをこの四人は平然と背負い込む。なんせ、極東にて世界の命運なんてしょっちゅうベットに上がってくるものであり、もう珍しい賭け金でもないのだ。世界なんて日常単位で救っている彼らからすればありふれた日常の一コマである。

 

「じゃあ、改めてアラガミ・フェンリルの討伐を開始するぞ!」

「フェンリル対神機使い(フェンリル)か、胸が熱くなるな……」

「どちらかと言えば、イレギュラー対イレギュラーって感じの方がしっくり来るけどね」

「一番手はいただこう―――――疾ッ……!」

 

 再び一番槍はジュリウス。ブラッドアーツを放てる構えのまま、地を蹴り神機を振るう。すると、先程ユウが放った斬撃のように一度の振りに対して複数の斬撃がフェンリルに襲い掛かる。だが、フェンリルはこれを触手で対応―――することはなく上に飛んで回避、そのまま触手を伸ばすと空中で縦回転を行いつつ降下してきた。

 しかしそれを赦す四人ではない。ユウとリンドウの元第一部隊コンビが攻撃が飛んできていない側面から接近、お互いの神機を振り切る。それも予想で来ていたのか、回転しながらでも横に触手を飛ばして来たフェンリル。リンドウの胆力を以てしてもその触手を振り払うことはできなかった。

 だがここまではすべて前座、本命は―――――

 

「―――――――!」

 

 フェンリルよりも遥か上空に位置を陣取っている奴が居た。仁慈と同じ反応ということは、仁慈がアラガミ化したと同義である。――――だが、それでも《《所詮は二番手。こちらには本家樫原仁慈がいるのだ》》

 上空から強襲する際にヴァリアント・サイズの長さを最大にして、先程と同じようにそれら全てのオラクル細胞を捕食形態に移行させる。ワンパターンと罵ることなかれ、捕食形態とはあらゆる装甲を貫通して喰らう防御無視の絶対攻撃―――それが捕食なのだから。

 

 ―――そもそも、仁慈が何故怖ろしいのか。それは並みはずれた身体能力……ではない。常軌を逸脱した発想とそれを即座に実行する行動力が何よりも恐ろしい能力なのだ。それは別の神機使い達にも言えることだ。極東においてどれだけキチガイかということが実力に直結している場合がある。極東七大キチガイなんて最たる例だろう。彼らはキチガイであると同時に人類最高峰の戦闘力を持っている神機使いなのだから。

 では、例え仁慈と同じ偏食因子を持ち、仁慈と同じような能力を有していてもそれは本人程の強大な壁となり得るのか。答えは否である。ましてやいくら知性があると言っても相手はアラガミ。生まれながらにして絶対の強者。捕食をするもの。そんな彼らに弱い立場から反逆し、アラガミを虐殺し始めた仁慈に近づけるはずがないのだ。

 

「喰らえ」

 

 直前でフェンリルが気付くがもう遅い。既に仁慈が構えた捕食形態の神機はフェンリルの身体を捕らえており脱出はほぼ不可能である。尤もフェンリルはそれでももがき、自分が背負っている触手を操る器官を犠牲に全体の捕食からは逃れたのであった。

 しかし、その姿は初めに見たときのような余裕は見られない。美しい銀色の毛並みは赤く染まり、身体を支えている足も震えている。

 

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

 

 それでも、己が不利と理解していてもフェンリルは鼓舞するかのように吼え、自分のオラクル細胞を狂う様に働かせた。無理な進化を行うが故に身体から血液が飛び出し、体格も歪んでいく。ここで思い出されるのは嘗ての終末捕食、アルマ・マータである。様々な形態変化を及ぼしたあれを思い出した仁慈とそれを察したリンドウは一目散に変形しようとしているフェンリルに襲い掛かった。ワンテンポ遅れてユウが飛び出し、ジュリウスがユウの後方へと続く。

 

 接近する四人のキチガイを前にしても、フェンリルはその巨体を動かすことはなかった。ただひたすらに己の変化に細胞をつぎ込んでいく。仁慈に食い散らかされたはずの触手も再生すると同時にむしろより強固に、より数を増やして再結合を行っていた。それは既存のアラガミから考えると驚異的な結合力だった。不死身のアラガミ、ハンニバルとはまた別のベクトルで驚異的な生命力を持っていると言ってもいい。並みの神機使いには脅威となるだろう。

 

 しかし、この時、仁慈達は気づいたのだ。反応は仁慈と同じ能力も既存のアラガミを大きく上回る高スペック。これを神機使いをアラガミに変えてみると確かに仁慈と瓜二つの存在と言ってもいいだろう。だが前述した通り、仁慈を相手に―――いや、極東支部の上位陣神機使いのを相手にする際に最も警戒するべきなのは常識から大きく逸脱した行動なのだ。それがあるからこそ、彼らはこの世界の絶望にも鼻歌交じりで戦う抜くことができる。

 フェンリルが仁慈達の行動を読めていようとも、彼らは分単位で己を更新しすることができるのだから。

 

 フェンリルは自身の身体を改造しているが故に動けないのか、自らの身体を動かさない攻撃方法を取った。再生したばかりの触手をウロヴォロスのように地面へと潜らせると、その位置を気取られないまま近づいてくる仁慈達を狙い撃つ。

 しかし、そんな攻撃アルマ・マータから似たようなものを既に受けているのだ。一度見たような攻撃に引っかかるキチガイ陣営ではない。ジャンプによる回避なんて容易なことをせず、むしろ地面を裂いて突き進んでくる僅かな音を聞き取り触手の速度と場所を割り出して回避を行っている。常識はずれ?そんなことは誰もが分かっている。常識として考えられない行動を連発するからこそのキチガイなのだ。

 ここでリンドウが何かに気づいたのか仁慈やユウ、ジュリウスを先に行かせ速度を落とす。そして自分を狙って地面から生えて来た触手を神機を地面に刺してフリーとなった腕で抱え込むようにして掴みあげる。

 

『え゛っ……リンドウ……?』

「俺、まだるっこしいのは苦手なんだよなぁ」

『それは知ってるけど……ちょっと待って。いくら君でもそんなことは……』

「そぉら!!」

『ほんとにやった―――ッ!?』

 

 一部の人間にしか聞こえないレンの声が木霊する。最早悲鳴としか言えないようなものであったが、残念彼の声は誰にも届かない。届いたとしても彼の感性に近しいものなどは居ないのだからこの驚愕も共有できないだろうが。……しかし、神機に宿った意思という異常極まりないものが一番常識的というのはどうなのだろうか。それに対してツッコミを入れる者は誰一人としていなかった。

 

 繋がっていた触手を急に強い力で引っ張られたことにより、フェンリルはその態勢を崩した。足を崩し、その動体を地へと接触させる。余りにも在り得ない力。胆力で越されることはないだろうと高を括ったが故の押し負けによってフェンリルは一瞬だけアラガミには過ぎたくらい高い知能を放棄する。 

 そして、それこそが彼最大の過ちなのだ。彼の優位性はアラガミには到底備わっていない知能と予測能力であり、それを捥がれてしまっては翼の捥がれた鳥のようなもの。それでも己が持つ偏食因子の名に懸けて。このままやられることは許されない。

 

 フェンリルは自分の触手でリンドウに拘束されている触手を断ち切ると、一つ咆哮を上げてその場から跳躍しようとする。だが、其れよりも先に彼の肢体を撃ち抜く影があった。音すらも置き去りにするような早打ち。それを行ったのは銃身にスナイパーを装着している仁慈である。彼はここ最近極東のゴルゴことシエルが開発した新たなブラッドバレッドを使い、肢体を撃ち抜きそれと同時に地面へと縫い付けたのだ。これは仁慈が偏食因子、オラクル細胞に対して絶対的な強制権がある故に可能となる現象である。

 自身の身体が動かせないことを悟ったフェンリルは触手をなんと神機の形に変形させ、仁慈達に殺到させた。いったいどこで何を捕食すればそんな状態になるのかというツッコミはさて置き、この集中飽和攻撃に対策を取ったのはジュリウス。彼は戦闘狂であり普段から真っ先に斬りかかる姿からバーサーカーと間違われることが多いのだが、実は遠距離での腕前も確かなものである。

 ユウが神機を振るい、作り出した道に身体を滑り込ませると、自分に殺到する神機型の触手をむしろ道としてフェンリルの本体に近づく。そして、射程圏内に捕らえたのだろう。一定の距離で神機を銃形態に変形させると寸分の狂いもなくフェンリルについている二つの目玉を撃ち抜いた。

 唐突に視界を奪われたフェンリルは触手の制御が甘くなる。その隙に合流したリンドウ。やる気満々のユウ。そして再び神機の形態を変化させた仁慈とジュリウスが一斉に懐に駆け出した。

 

 やるべきことは唯一つ、目の前のアラガミの駆除それだけである。神を喰らう者は二体も要らず、自分たちの役目であると示すように。二度とこのようなアラガミが現れないように、徹底的に喰らいつくす。

 

 そこから決着がつくまでそう時間はかからなかった。



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IF END  ~もし、○○と一緒になったなら~ 編
ラケル・クラウディウス


久しぶりに書いた結果仁慈のキャラが行方不明になった気がする……。

それはともかく唐突に始まったif編。
せっかく終わったんだから蛇足だろ、とか……むしろ過去編も蛇足だったのにまだ続けるのかとか色々あるかもしれませんが書きました。
第一回目はまさかのラケル先生である。しかし、イチャイチャは控えめ。というか私がイチャイチャ駆けないの忘れてた。

そんな感じですが、どうぞ。


 

 

 

 

 「……………て……」

 

 

 どこか遠いところから声が聞こえてくる。常日頃から耳にしているような、自分の頭に馴染んでいる声だった。その声のおかげというか所為と言うべきか、少しだけ意識が浮上したが、連日連夜の出勤で休憩を欲している我が体には無意味なようで引き上げられた意識はより一層深いところに潜って行ってしまう。

 

 「………き……て……」

 

 しかし、俺を呼ぶ声は未だ諦めていないらしく身体を揺するというオプションまでつけてまだまだ声をかけてくる。

 

 「………きて……く……ぃ……」

 

 いい加減しつこいな。

 意地でも起きないという意思が俺の身体を無意識に動かしたらしく、身体を揺らしてその手から逃れ、掛布団を深くかぶり完全に身体を覆う。外からの音を遮断した状態になる。これは静かに寝るときと冬場に重宝するスタイルである。それと同時に絶対に起きないという意思を伝えることもできるすぐれものだ。

 だが、相手はなおも諦めないらしい。俺が装備したアーマー(布団)を剥ぎ取り、耳元で小さい声で囁いた。

 

 「早く起きてください。そうしないと、解体してしまいますよ」

 

 艶やかな声で囁かれた声は、それと比べ物にならないくらいの内容。ここで聞いたことある声が誰のものか完全に把握し、急いで寝ていた身体を叩き起こした。背中の方では声の主である女性がその細腕をこちらの首に伸ばしている気配を感じ、上半身を起こし身体を反転させる。

 そこには俺が思い浮かべた声の主の姿があった。

 

 喪服のような全身黒い服に身を包み、車椅子に乗っている。腰のあたりまで伸びる美しい金髪は見る者を魅了し、顔を隠すようになっている黒のヴェールはミステリアスな雰囲気を醸し出し、まさに年齢不詳の美女という感じだ。

 

 ―――ここまで言えばわかるだろう。俺を起こしにきた女性が誰なのか。

 

 「早く起きてください仁慈。新しいアラガミの調査に行くのでしょう?」

 

 「デートプランが新種アラガミの捕獲とかどうかと思うんですけど?」

 

 彼女の名前はラケル・クラウディウス。

 俺達が元々所属していたフェンリル局地化技術開発局ブラッドの創設者であり、ここ最近起きた騒動の元々の元凶である人物だ。そして、ついでに俺の彼女でもある。

 

 「私たちにはちょうどいいでしょう?」

 

 そういってラケルは相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべた。

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 元々、俺は彼女のことが苦手だった。だってどう考えてもラスボスなんだもの。この風貌であの言葉遣い、そしてなんといっても研究者にも似たような立場の人間……どう考えてもラスボスである。

 と、そんな感じだったのだが。色々解決していくうちに思っていた人物像とは違うことが分かり……というより違う人物像になったため、また何やかんやあって平和をとりもどすことに成功したのである。まぁ、詳しいことは本編をどうぞ。

 

 それはともかく、その後は特に何もなく過ごしていたはずなのだが……ある時、ラケルに呼び出され、のこのことその場所に向かい………喰われた。

 

 当然言葉のとおり物理的に喰われたわけではない。性的にである。

 車いすはどうやら姉のレア博士に自身のことを気づかれないためのカモフラージュだったらしく普通に二足歩行でやって来たのだ。本人曰く「私くらいなら十年あれば脊髄回復なんて容易いですよ」ということらしい。思わず納得してしまった。

 で、そんなこともあり、なんだかんだで責任を取って付き合うこととなった。そうしてことあるごとに解剖されそうになること数百回。何とか今日まで生きてきたのである。

 ……この感想、彼女に使うようなものじゃないよな。いや、成り立ちから言って普通の恋人関係ということじゃないから比較しても意味ないんだけど。

 

 

 そんなことを思いつつ、今日の研究対象であるアラガミのところにやって来たのであった。

 

 「で、今回はどいつ?」

 

 「最近出現した新種のアラガミ、オロチ……の変異種です。通常なら金色の毛並みが赤毛になっていることから、紅蓮のオロチと個体名が付いています」

 

 「絶対強い奴やんけ」

 

 ラケルの言葉を聞いて改めて俺の視線の先に見える紅いオロチを観察する。外見は完全に色違いって感じなんだけど……この世界、色が変わるだけでもだいぶ違うので油断ならない。とりあえず、作戦は命を大事にということで。

 

 「まぁ、行ってくる」

 

 「はい行ってらっしゃい。ここで死んだら私のおもちゃ確定ですので、頑張ってくださいね」

 

 「もっとマシな応援の仕方はないのだろうか……」

 

 ある意味ではこれ以上ないくらいの激励だけどさ。死んだあとの死体をこいつにいじくられるとか死んでもごめんだからさ。

 

 

―――――――――――――

 

 

 「…………」

 

 カット。

 紅蓮のオロチのと戦いは熾烈を極めた。それはもうマジで極めた。

 相手の攻撃が一撃必殺なのはいつもと変わらない仕様なので別にいいのだが、攻撃範囲がめっさ広い。クロムガウェインみたいに口から剣の形をした炎を出してブンブン振り回してきた時なんて死を覚悟したね。

 というか、カス当たりでも一撃貰って左腕がお釈迦になったし。いくら俺の身体が半分アラガミだとしても、ここまで焼き切れていると再生まではかなり時間がかかりそうだった。完全にスパンと切れたわけではないけれどね。結構深かったからね。仕方ないね。

 

 まぁ、怪我をすることはどうでもいいんだ。固有名持ちの新種アラガミと戦う時は大体怪我して帰ってくるものだから。問題は、

 

 「…………………」

 

 ラケルが帰って来てから一度も言葉を発しないことである。いつもであれば、あのうさん臭い笑みと脳を蕩けさせる様な声で解剖したい、解体したい、合体したいと欲求を獣のごとくぶつけてくるのだがどういうわけかとてもおとなしい。

 正直、こっちは気が気じゃない。嵐の前の静けさなのだろうかと思わず身構えてしまう。

 

 

 結局お互い無言のままラケルの研究所に到着した。俺は彼女を送り届け、紅蓮のオロチでの疲れを癒そうと部屋に戻ろうとした時、体が硬直してしまった。

 思わず後ろを振り返ると俺の服の裾をちょこんと摘まんだラケルが居た。その姿は病弱そうな外見に非常にマッチしており、思わず庇護欲を掻き立てられてしまうものだった。しかし、今もなお部屋に戻ろうとしている俺からすれば、男を指二本だけでその場にとどめているということになり、やはり普通ではないのだと改めて認識することになった。

 

 そんな俺の思考なんて知らないだろうラケルは、本当にいつもとは違うしおらしい態度で口を開いた。

 

 「……部屋に寄っていってください」

 

 「……了解」

 

 無視をした場合後々の報復が恐ろしいことになるので、素直に部屋の中に入る。ラケルは俺が部屋の中に入ったことを確認すると研究室の扉を閉めて鍵をかける。そして、車いすから立ち上がると俺に思いっきり抱き着いてきた。どういうことなの。

 

 「………どゆこと」

 

 「すみません。調子に乗りました」

 

 俺の質問にそう答えるラケル。

 全く話の全貌が見えてこないので俺は詳しい説明を彼女に要求した。

 

 曰く、いつもいつも自分の無理難題に答えてくれることがうれしくてついついエスカレートしてしまい、紅蓮のオロチという不確定な強さを持つアラガミに一人で突っ込ませてケガさせたことを後悔しているらしい。初めての同類、初めて自分が心の底から寄りかかることができる人だから自重を忘れてしまったのだと。

 要するに加減が分からなかったということなのだろう。彼女の生い立ちを聞いた限りだととても他人に甘えられるようなもんじゃなかっただろうし。

 

 「無茶振りはいつものことだから別に気にしなくてもいい。怪我なんて尚更だ」

 

 人間の適応能力をなめてはいけない(確信)

 無茶振りも怪我の痛みも慣れてしまえばどうということはないという若干ながら危ない思考を持ちつつラケルの頭を軽くなでる。

 すると彼女は胡散臭い笑みを引っ込めて、まるで幼い少女のような柔らかい笑みを浮かべてより一層俺の身体に顔を埋めてきた。

 

 「………フフッ」

 

 「………」

 

 ぎ、ギャップがひどいことになってて素直にかわいいと思えない自分が居る……!けれど、安心しきっているこの表情を曇らせるわけにはいかず、何とか頭を撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フフッ、相変わらずあなたは甘いですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このあと、無茶苦茶襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 




樫原仁慈

唐突にラケルに襲われた被害者兼被験者兼恋人。
付き合い始めは完全に逆レなのだが、それでもと責任を感じて一緒になることを決める。
解剖されそうになることも慣れ始め、無意識に警戒することはなくなってきたが、イチャイチャまでの道のりは遠い。
ついでにナナをはじめとする人たちの襲撃から平穏も遠い。

ラケル・クラウディウス

言わずもがな俺たちのラスボス。
色々あって仁慈を手に入れようと強硬手段を取った。具体的には逆r(ry
今まで甘えられなかった分、抑え込んでいた自分の欲求を仁慈にぶつけているため、仁慈が大変なことになってしまっている。
今回は反省して、普通に甘えることを覚えた。しかしそれを行うタイミングは全く考えていないので、うっかり人前でそれをすることもあるらしい。負担は仁慈もち。


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フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュ

IF END第二弾はフランさん。
彼女はラケル先生と同じくらい好きです。

ラケル先生よりはまともな感じになっている……はず。


 

 

 

 『目標アラガミの討伐を確認しました。お疲れ様です仁慈さん。すぐに迎えを出しますので、そこら辺に落ちてる素材でも回収して待っていてください』

 

 「了解」

 

 通信越しに聞えるいかにもできる女という感じの声。なんだかんだで、結構長い付き合いになるフランさんの声である。

 もはやこれがデフォルトなのではないだろうかと言わんばかりに現れた新種のアラガミを倒してコアを回収した俺は、彼女からの指示に従いそこらに落ちている素材集めに勤しんでいた。

 

 それにしても、とりあえず新種が出たら俺をぶつけるのやめてほしいなぁ……本当に。別に今回のは大したことなかったからよかったけど、この前相手した奴は本気で死にかけたこともあったからなぁ。なんだよあれ。廃棄された神機兵が突然変異を起こしたアラガミが出たということで仕事を受けたはずなのに、実際に行ってみてばドヒャと移動する人型兵器だったんだけど。流石に体に悪そうな緑色の光こそは出さなかったものの、攻撃が当たらない。弾幕は張るわで酷かったわ。

 

 「というわけで、フランさん。そこのところどうにかなりません?」

 

 『私に言われても困ります。けど、そうですね………労りを込めて、今日は私が料理を作ってあげましょうか?』

 

 「是非ともお願いします」

 

 『くすっ、即答ですか。分かりました。帰ってくることにはできているようにしておきますので早く帰ってきてくださいね』

 

 「了解」

 

 先程とは打って変わり、どこか柔らかくなった声音に短く返事を返すと、丁度上空から聞こえてきたヘリコプターの駆動音に向かって跳躍し開けてあった部分から中に跳び乗った。

 そのせいでヘリの操縦士(ベーダーじゃないよ)がとんでもなく驚いて機体が若干斜めってしまった。

 ……うん。いくら楽しみにしていたからと言ってやりすぎた感はある。ほんとうにごめんなさい。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁー……疲れた」

 

 仕事からしばらくして、今回倒した新種のアラガミのコアに大して並々ならない興味を注ぐサカキ博士とこの前相手にした人型アラガミ兵器、AC擬きを模倣して作り出そうとするラケル博士を一生懸命止めた俺は心身ともにボロボロになりつつも自分に割り当てられている部屋に帰って来た。

 

 ウィーンという自動ドアの音を聞きつつ部屋の中に入るといつもの無人とはうって変わっていた。明かりはしっかりとついて、何より鼻腔を刺激するとてもいい匂いが漂っている。どうやら先ほどの通信で言っていたことを行ってくれていたようだ。

 

 「あ、おかえりなさいませ。遅かったですね。タイミングとしてはちょうどいいですけれど」

 

 「ラケル博士とサカキ博士が暴走して……」

 

 「あぁ、察しました。お疲れ様です。……さて、もうできているのでそこに座ってください。今よそいますから」

 

 「ありがとう、フラン」

 

 「気にしないでください」

 

 フランの言う通り引かれていた椅子に座る。

 すると彼女の方もさっさとご飯をさらに盛り付けて俺の正面に座った。お互いに手を合わせてから食事に手を付ける。

 しばらく無言で食事をしていたのだが、俺はどうしても視界の端っこでちらつくある存在が気になって仕方がないためついつい我慢できずに彼女に問いかけた。

 

 「ところで、フラン。そのボトルは?」

 

 「私が楽しみにしていた年代物のワインですが?今日、せっかくなのであなたと飲もうかと思いまして」

 

 「………えっ?誰が、誰と?」

 

 「私とあなたが」

 

 「まじで?」

 

 「はい」

 

 俺は戦慄した。

 ここでワインを飲むという選択を取った彼女の選択に自分の背筋にとんでもなく冷たいものが走っていることを自覚した。

 というか、何をどうしたらそんな選択肢を取ることができるのだろうか。こういっては何だけれど、彼女はアルコールに滅茶苦茶弱い。例えるなら、ラケル博士を相手にしているときのレア博士に匹敵するくらい弱い。一回二人で飲んだ時は色々大変だった。にもかかわらずこの暴挙。

 

 もしゃもしゃと咀嚼して口の中に入れていた料理を胃の中に流し込んだ後、再びフランに問いかける。

 

 「それは、ここで飲むの?」

 

 「もちろんです」

 

 「自分が酒に弱いってことわかってるよね?」

 

 「今回は大丈夫です。私には秘策があります。プランBです」

 

 「ねーよ」

 

 フラグビンビンじゃないですかーやだー。

 茶碗と箸を持ちつつどや顔を披露するフラン(かわいい)を見つつ、俺は胸の中でさらに大きくなった不安を紛らわすように料理を勢いよく腹の中に詰め込んでいった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 「まぁ、わかってた」

 

 「ちょっと、聞いているんですか。あなたに言っているんですよ!」

 

 

 食事の後。

 一緒に食器を片付けて、ひと段落したところでフランはワインをコップに注いでいき俺に差し出してきた。

 そこからはもはや流れるよな感じだった。乾杯をして、一杯飲んで目が座り、ノータイムで二杯目に突入、その二杯目を呑んだ後には顔を真っ赤にして俺に愚痴をぶつけてくるよっぱらフランちゃんの誕生である。

 

 いつものノースリーブの制服なので彼女の柔らかい部分が結構ダイレクトに体に触れてきてとっても落ち着かない。そして顔が近い。

 

 「何で神機使いの人は毎回、私の脇とかお尻とか見てくるんですか!どうして仕事中にナンパしてくるんですか!」

 

 「知らないよ」

 

 「な、何で興味なさげなんですか?私のことですよ?あなたのこ、恋人である私のことですよ?」

 

 しまった。簡潔に返しすぎた結果、フランさんの涙腺が結合崩壊を起こしそうだ。

 自分の失敗を即座に感じ取った俺は彼女の柔らかい肢体を壊れ物を扱うかのような力加減で抱きしめるとゆっくりと短いながらも美しい金髪を撫でた。

 

 「ごめん。今のは素っ気なかった」

 

 ここだけ見ると行動で女を丸め込むダメ男に見えるかもしれないがこれにはわけがある。よっぱ状態の彼女に基本言葉は通じないのだ。しかし、人のぬくもりなどは効果抜群なので、このような行動に出ているのである。俺は過去の経験から学べる男だ。

 

 「あっ、ふふっ………………って、そんなものじゃ誤魔化されませんよ」

 

 「思いっきり流されかけてたように見えたけど」

 

 今でもだらしなく弛緩させている顔が丸見えですよー。

 

 そんなことを言いながらフランのほっぺをムニムニしてみる。餅のような弾力と張りがあって大変気持良い。 

 だが、ムニムニされている本人はそれが気に入らなかったらしくぺしっと俺の手を払いのけた。

 

 「反省の色が見えませんね……。反省をしないのであればあなたに罰を与えます。これから一生あなたは私のそばにいないといけません。途中で死んだらあの世に行っても連れ戻しに行きます」

 

 「うわぁお」

 

 酒が入っているとは言え、すごい発言がフランの口から出てくる。普段はクールという言葉が擬人化したくらいの彼女でもアルコールには勝てなかったよ……ということだろうか。

 あとこれ罰じゃなくてご褒美だな。

 

 「わかった。その罰、謹んで受けいます」

 

 「よろしい。では、一杯注いでください」

 

 「それはいいけど、フラン。明日の仕事は大丈夫なの?」

 

 「溜まりにたまった有休を少しだけ使ってきました。ついでにあなたの分も」

 

 「ちゃっかりしてんな」

 

 「だから……んっ」

 

 「はいはい」

 

 また機嫌を損ねられたらたまらないのでフランの言う通りかの女が差し出したコップにワインを注いでいき、同じように自分の方にも入れた。

 

 

 

 ちなみに、俺は体の半分がアラガミなのでアルコールに飲まれるということはない。片っ端から捕食していくためそもそも酔わないのだ。便利な体だよ、ほんと。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 「~~~~~~~~~~~っ!!??」

 

 「おー……予想通りの反応」

 

 あ↑さ↓。

 

 結局四杯目でろれつが怪しくなったフランさんを何とか風呂に突っ込んで体をさっと洗った後、彼女の部屋に連れて行こうとしたのだが、抱き上げた際に捕まれた腕を全く離す気配がなかったため苦肉の策として一緒の布団で寝たのだ。

 で、現在。俺は正気に戻った!なフランは起きてすぐ隣の居た俺の存在と昨日のことを思い出して顔を真っ赤にさせている。フランは酒に飲まれても記憶は残るタイプなのだ。

 

 「おはよう。だからお酒はやめておけと言ったのに……」

 

 「おはようございます。それと、大きなお世話ですよ。たまには私だって羽目を外したくなります。というか、昨日さりげなく一緒にお風呂に入れたじゃないですか。この変態」

 

 「特に変なことしてないでしょ。そして俺が変態というのは否定しない」

 

 「くっ……!まさか素直に認めてくるとは……!」

 

 「男はみんな変態だってハルさんが言ってた。それはともかく。ほんと、どうして急にワインを飲もうって言ってきたのさ。こうなることは自分でも予想できたでしょ」

 

 「……………」

 

 俺の問いかけにフランは顔を真っ赤にして下を向いてしまう。だが、逃がさない。顔を下に潜り込ませフランの顔を下から覗き込む。そこで彼女は観念したのか、視線をそらしつつも小声でつぶやいた。

 

 「最近、あなたと過ごせてないから………甘えたくて……」

 

 「…………………」

 

 言葉が出なかった。

 なにこの可愛い生き物。

 

 フランの言葉を聞いた瞬間俺は彼女を後ろから抱きしめる。急に抱きしめられたことで動揺するフラン。俺はそれをスルーして彼女を抱きしめ続けた。フランもフランでそこまでいやそうな顔をしてなかったから多分いいってことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりにとることができた休暇。

 俺達はこうしてゆっくりと過ごした。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フランさんが酒を飲めないというのはこの小説での設定ですのであしからず。


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香月ナナ

メインヒロイン(三番手)

展開が停滞しだしたFGOの息抜きに久々更新。
今回のヒロイン別はナナですよー。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仁慈、はやくはやくー!」

 

「ちょ、待って。そんなに急がんでもいいだろ」

 

 ブンブンと身体全体を使って俺を呼ぶナナ。日々の激務をこなしている立派な極東人にも拘わらずどうしてここまで彼女は元気なのだろうか。やはり事務業の有無がネックとなっているのだろうか。……今度、元隊長のジュリウス(キチガイバナナ)でも召喚して事務処理を押し付けようと思う。隊長権限で。

 何?職権乱用?問題ない。今の今まであいつが巧みに放置してきた仕事も俺が片付けたんだからこれくらいは正当な権利と言えるだろう。

 

 

―――――それはともかく、どうして俺がここまでテンションの高いナナと一緒に居るのかということの説明に移ろうと思う。

 

 まぁ、そこまでもったいぶることでもない。簡潔に言ってしまえば、ナナと男女の関係になったために、デートに来たということである。……やだ、男女の関係ってなんか卑猥。ゴホン、えぇー。ことのはじめは俺がちゃっかり過去から帰って来た直後に遡る。

 一応前々からそんな感じの雰囲気というか、感情的なものは薄々感じ取っていたのではあるが、はっきり言われていない状況で踏み込んで間違いだった場合には俺のメンタルが捕食されてしまうためにいい方は悪いが放置していたことが災いし、半年間姿を消した俺がいきなり帰って来たということで感情が爆発した結果―――――襲われた(夜のアレ的に)ことが原因である。

 

 ………うん。言いたいことはわかる。ヘタレとか、女性に何させてんだとか、そういったことはわかるのだ。しかし、しかしである。あのナナだぞ?ぶっちゃけ、知り合った初めの方ですら妹(実は一歳年上)みたいな雰囲気を醸し出していたナナといきなりそのような関係になろうということは聊か厳しいと思うんだ(言い訳)

 と、こういうこともあり、正式にお付き合いすることになった。周囲からは祝福と怨念の両方を受け取りながらもなんとかやって来ている。

 

 このような経緯があり、今現在俺たちは恋人っぽいこと、いわゆるデートに来ているのである。当然、デート場所は戦場ということもない。神機も持ってない。普通に極東の街並みを歩いているだけである。というか、ここ最近俺たちが暴れすぎたせいで極東近くのアラガミは根こそぎ駆逐されているのでしばらく湧くことはないと思われる。

 

「あ、仁慈!これ食べよう!コクーンメイデンホットドック!」

 

「チョイスがおかしい。ついでにこれを売ろうとする店主もおかしい」

 

 アラガミに恨みを持っていないものが居ないと言っても過言ではないこの世界においてアラガミを模した食べ物を出すとかどういう神経しているんだろうか。しかも、売り文句が「――――神を、食らえ――――」だった。舐めてんのか。

 

「でも、並んでるしやめよっか」

 

 舐めてんのかと思っているのだが、これがすごい人気だった。ものすごい行列である。このご時世で出店を出してるのが珍しいというのを差し引いてもこの人気はすごかった。食べるわけではないが、どんな人がやっているのかということに興味があったために、ちょっとだけ横から中の様子を見てみた。するとそこには―――

 

「お待たせ。コクーンメイデンホットドック三つ。華麗に出来上がったよ。合計で150Fだね。ついでにオウガテイルマスクはどうだい?これを被れば君もマスク・ド・オウガに―――」

「要りません」

 

「……………そうか」

 

――――知り合いがいた。思いっきり知っている人だった。もう声というか発言を聞いただけでわかるレベルで知り合いだった。というかエリックさんだった。成程、この人の財力なら出店をしていても不思議じゃない。恐らく、自分にできることを考えた結果なんだろう。伝手は自分の家を頼っているが、料金は自分で払っているんだろうな。彼の性格から言って。

 

 オウガテイルをモチーフにしたマスクを勧めて断られ、目に見えてしょんぼりしているエリックさんを見つつ俺はそう考えた。

 

 

―――まぁ、今はデート中ですし、華麗にスルーさせていただきましたけど

 

 

 

 

 

 そんなことがありつつも、デートは特に変なことが起きることもなく終わった。普通に腕を組んで歩き、その辺にある店を冷やかした。世紀末な世界観故にそこまでこった店はなかったが、自分たちが普段守っている者を俺と一緒に見て回るだけでも楽しかったとナナは太陽のような笑顔を浮かべていった。やだ、なんていい子……。

 

 そうしてデートから帰って来た俺たちは現在、俺の自室にて夕飯の支度にとりかかっている。と言っても、ムツミちゃんが作ってくれた料理を運んできただけなんだけどね。……ほら、俺達二人とも家事スキルが全滅しているからさ。神機の装備で家事力アップなんて効果はないのだ。

 

「えー……私は作れるよ。なんなら今から作ってあげよっか?仁慈のためにねっ!」

「お願いだからやめろください」

 

 レーション、回復薬の悲劇を忘れたわけじゃねえぞ。お前が俺と同じような料理音痴なことはわかっている。だから大人しく座ってろください。

 

「……むー」

 

「あらら」

 

 どうやらはっきりと言いすぎたらしい。ナナは拗ねたように頬を膨らませて視線を逸らしてしまった。そして、やけ食い気味に自分が持ってきた料理に手を付け始めた。これは長くなる奴だな、と過去の経験から予測した俺も一先ず料理を食べようとして――――既に自分の分がなくなっていることに気づいた。視線をずらせば、ナナの頬袋がリスのように膨れ上がっている。………これは激おこですわ。

 

 

 結局、俺はもう一度ご飯を取ってくる羽目となったのだった。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「つーん」

 

「…………」

 

 これは困った。すごく困った。まさかナナがここまで怒るとは完全に予想外だった。まさか彼女がそこまで気にしていたなんて、流石に無神経すぎたか。

 非は完全にこちらにあるため、俺は意を決してツンツンモードのナナに頭を下げる。

 

「ごめん。ナナがそこまで気にしているとは知らずに……」

 

「………………」

 

 くっ、やはり唯の謝罪では意味がないのか……。ここで俺が取れる手段は奢るか、ご飯を御馳走するか、料理を持ってくることしか……!

 

「仁慈、今私の機嫌を取る手段はご飯しかないって考えてるでしょ」

 

「何故バレたし」

 

「わかるよ。………だって、ずっと見てきたもん」

 

「お、おう」

 

 ……ちょとシャレにならんしょこれは……?不意打ちとかあまりに卑怯すぎる……これで俺はナナを嫌いに………なれんわ。なんだこの子かわいいなおい。

 

「……ふぅ。もういいよ。許してあげる」

 

 ナナからの不意打ちに脳内が混乱していると、そんな俺の様子を見ていた彼女がふと、頬のふくらみをなくして仕方がないなという表情を浮かべながら笑顔を見せた。そしてそのまま俺の近くまでやってきて、そのままがばっと正面から抱き着いてきた。ジャンプしてきたこともあり、俺は支えきれず、座っていたベッドに押し倒されてしまう。

 正面から感じる柔らかい感触を頭の片隅に置きつつ、俺は機嫌を損ねないように彼女の髪を手ぐしでとかすようにしながら撫でる。するとナナは浮かべていた笑顔を更に破顔させ俺の胸にぐしぐしと顔をうずめて来た。耳のように見える髪型も相俟ってまるで猫のようだった。

 

 しばらく頭をなでながら静かな時間を過ごす。すると、ぽつりとナナが言葉を溢した。

 

「……別にね、怒ったわけじゃなかったんだよ」

 

「……?」

 

「私が料理できないのは自分だってわかってるもん。只、ね。不安に思ったの。私なんかより、もっと家事ができる人とか、女の子っぽい人の方が良かったんじゃないかって。仁慈とこうして過ごせるのは、私がその……襲ったからなんじゃないかって……」

 

 なるほど納得。

 彼女は自分が襲い掛かったという負い目、後は料理ができないという劣等感から来る不安を感じていたと。ははぁ……。

 

「……馬鹿だなぁ」

 

「な、なにおう!こっちは真面目に悩んでるんだからね!?仁慈には――――」

 

 何やら騒ぎ立てるナナを黙らせるために俺は空いていた左手を彼女の腰に回して抱きしめた。その所為か、ナナは一気に黙りこむ。

 

 全く馬鹿だなぁ。確かに、始まりこそ褒められたものではなかったものの、それは俺が煮え切らない態度をとっていたからであり、彼女だけに責任があるわけではない。それに、付き合ったのは他ならない自分の意思だ。俺は、情けない自覚の仕方だったのは否定しないけれども、それでも自分の意思で彼女を―――ナナを選んだのだから。

 

 

「心配しなくていい―――とは言わない。心配にさせることも、不安にさせることもあると思う。でも、これだけは信じてほしい。……俺は、ナナが好きだ」

 

「――――――――――――――――」

 

 ナナが大きな目を更に見開く。まさにお手本のような驚きの表情である。

 

「――――仁慈はずるいね。卑怯だね。………そういわれたら、私も答えるしかないじゃん」

 

「卑怯卑劣は褒め言葉ですから」

 

 そうして二人でくすくすと笑い合う。

 

 

 数分笑い合っていると、唐突にナナがその笑みを消し、代わりに別の種類の笑みを浮かべた。それはまるで、獲物を前にした猛獣のような、なんというかデンジャラスビースト的な雰囲気を纏わせた妖艶な笑みを浮かべだした。

 

 あ、これはやばい。

 

 

「じゃあ、今度は私が反撃するね?」

 

「………………手加減をしてください」

 

 

 このあと無茶苦茶(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




樫原仁慈

言わずと知れた極東のキチガイ。
その実力は世界各地に伝達されており、ユウにも並ぶ知名度を誇る。彼の言った先には一体としてアラガミが残らないとされている。
が、釣った魚に餌をやらなかった結果、その魚に捕食(意味深)をされた被捕食者でもある。
始まりこそあれだったものの、自覚した後は普通に付き合っている。余り表には出さないがナナのことはかなり好きな模様。

香月ナナ

メインヒロインと銘打っておきながらそこまでヒロインとして活躍はしていない。だいたい私(トメィトの所為)なので彼女を責めてはいけない(戒め)
割と病み病みだったのだが、仁慈と付き合い始めた結果安定したのか、元の純粋無垢な姿に戻った。ただし、仁慈に近づく女性を見ると時々封印が解かれる模様。
付き合い始めたきっかけを気にして少々自信を持てないでいたのだが、今回のことで完全に吹っ切れたらしく、更に輪をかけていちゃつくようになった。そのおかげで極東は今日も阿鼻叫喚の地獄と化している。


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