灰色の少年 (橋場由由)
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第一話 序章にして終章

少年は、神に『嫌われ/愛され』ているかのように『不幸/幸運』だった。
そんなある日、彼は美しくも残酷な悪趣味な彼女と出会った。

そんな感じで始まります。
あと、今回の名言。

『勝ったッ!第3部完!』
by.ズィーズィー


―――回る回る。セカイは回る。

 

―――赤い赤い、真っ赤な世界でソレは回る。

 

―――踊るように、狂ったように、喜ぶように回る。

 

―――ああ、■■はなんて素晴らしんだ。

 

 

 

 

僕がこの世界に足を踏み入れたのも、こんな嫌に赤い夕焼の日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ネコー。居るなら出てこーい」

 

 工場の中を僕は猫を探し歩く。

 買い物の帰り、家で飼っている黒猫を見かけて追って来たのだが、途中で見失い猫が入って行った工場の中を歩いている。

 工場の中には人気はなく、錆び付いた工作機械と風化したドラム缶が置かれていた。

 天井の鉄骨には点々と蜘蛛の巣が張られ、窓からの夕差しに照らされた宙には埃が舞っており、良い感じの薄気味悪さを出している。

 さて、ここまで無駄に遠まわしに言ったが、一言で言うなら此処は廃工場である。

 

正直、早くここから立ち去りたい。

 

足元を見れば赤黒い染みが重なり合い、奥へ奥へと伸びている。その先には、またこれでもかと言うよな不気味な鉄で出来た扉があった。

そして、一番の問題は赤黒い染みの線の上に、今しがた塗られた新鮮な赤が半開きになった扉へと続いてることだ。

 

「よし、僕は何も見てないし、こんな場所に猫が居るわけないから帰ろうk」

 

ーーーリン

 

引き返そうとした僕の耳に、聴きなれた鈴の音が聴こえた。

 

「・・・・・・」

「・・・ニャア」

 

錆び付いたロボットのように音のした方向に首を回す。

そこには白く大きな蝶のようなリボンを首に着けた黒猫が居た。

猫はその場で毛繕いをし、例の扉の隙間へと入っていった。その顔は笑っているように見えた。

 

「おい、なんでそこに入る?普通入らないだろ、そんな怪しい扉の中に」

 

 さて、猫が入って行ったということは自分も飼い主として捕まえる為に入らなければならない訳だ。

 僕はもう一度扉を見る。

 扉は先ほどよりも一段と不気味さが増していた。自分の精神的なものが作用しているのだろう、決して悪臭が強くなっているわけではない。

ーーーそう、信じたい。

 

「・・・行きますか」

 

 僕は扉のドアノブに手をつけた。

 錆びた鉄の扉は酷く重いと感じた。

 

 

 

 

「で、やっぱりこうなってるわけですか」

 

 扉を開けた先には五六人からなる手足や胴体などの肉塊が散らばり、赤い血の池に寿命の切れかかった電球の光が反射し、この空間の異様さを際立たせていた。

 体に圧し掛かるような腐った肉の悪臭が包み込む。

 

 ああ、もう本当帰りたい。

 

 足下に落ちていた肉塊を避けながら僕は奥へと進む。

 そして、其処には…。

 

 

 

「なんだ、珍しいこともあるじゃないか。餌の方から来るとは」

 

 其処には巨大な獣がいた。

 首から上と足が狼で、首から腰までは人間の体であるが黒い体毛が生えており、両手の指先には鋭い爪が生えていた。

 

 怪物。十人中十人がそう答えるだろう異形の生物。

 ドスドスという重い音をたてながら自分へと近づいてきた。

 

「なんだ、思いのほか若いではないか?」

 

 怪物は大きな口を歪めながら、僕をまじまじと品定めするように見てそう言った。

 僕は怪物の言葉を気にせず、その腕に掴まれたモノを見ていた。

 掴まれていたのはグレーのスーツを着た女の頭だった。

 頭から下は繋がっており、胸に大きな穴が空いていることから死んでいる事は確定的だった。

 予想はしていたが、やはりこの怪物がこの惨状の犯人だった。

 だとすると、ここは怪物の住処なのだろう。

 

「どうした、恐くて声も出ないのか?この高貴なベルーガ様の前では失礼極まりないが許してやろうじゃないか。ガッハッハ」

 

 反応が返ってこない事に、僕が怖くて声が出ないと判断して何故かテンションを上げている自称好奇なベルーガ様。

 僕は周りを見回す。黒猫は何所にも見当たらない。

 

「聞いているのか人間!貴様はこの高貴なベルーガの血肉となるのだ。光栄に思えよ人間」

 

 反応が返ってこない事に苛立っているのか怪物は涎を撒き散らしながら叫ぶ。その声は工場内を軽く揺るがし響き渡った。

 

(よし、逃げよう。)

 

 正直、今まで冷静を保っていたがもう無理だ。つか何これ?SF映画ですか?

 何でこんな怪物と対峙して餌なんぞにならなくてはならないのか?

 そもそも、何故こんな確実にヤバイ場所にあの駄猫は入るのか?

 考えれば考えるほど愚痴が思い浮かび苛立ちが湧いてくるが、ぶつけたい相手は何処かに隠れて僕を見ているのだろう。実に腹立たしい事だ。

 

 だから、百八十度右回転してからのダッシュに躊躇しなかった自分は間違いじゃない。相手の話の内容を聞いてなかった自分は悪くないのだ。

 

 人の四肢や内臓を踏み潰しながら、さっき入ってきた扉まで全力で走る。

 怪物は何か叫んでいたが気にしている余裕がなく、何度も転びそうになりながら走り、あと二三歩という距離まできた。

 

「よしっ!……って、え?」

 

 扉に手が触れて開こうとした自分の耳に、ブッシュっという水風船の割れるような音がし、そのすぐ後にグサッっという音がした。

 体は急激に重くなり、まるで何かが体に加わったようだ。

 

「…あれ?」

 

 頭を下に向ければ、何かが胸から突き出し、扉に刺さっていた。

 それは赤く滴る液体に濡れた鋭角の物体。その反対側には長い棒が体から生えていた。

 後ろの怪物が気になり振り返って見れば、背中から長い棒が生えていた。怪物は一歩も動いておらず、何かを投げたフォームをとっていた。

 確かあれは槍投げのフォームだった筈だと、まだ冷静な思考が答えを出す。

 

「全く、我の話を聞かずに逃げるとは、これだから下級な人間は困るのだ」

 

 怪物は左手に持った大きな槍を軽く振りながら、僕へとゆっくり歩いて来る。

 どうやら、自分は怪物が投げた槍に刺されたらしい。

 その事を認識すると、激痛が走り悲鳴を上げそうになったが、声が出せず血と唾液が代わりとばかり出た。

 

「では、いただこうか…」

 

 怪物は僕の胴体を握り、力任せに扉に刺さった槍から抜き取った。一緒に腸や胃などの臓器も抜け落ちるが、そんな事を気にせず怪物は僕を大きな口に運び、凶悪な牙で咀嚼した。

 あぁ〜、ヤバい。スゲェ食われてる。

 あまりの激痛に痛覚は麻痺していたことが幸いしたのか、生きながらに咀嚼される痛みは感じなかったが、唾液に溶かせていく不快感に嘔吐しそうなった。

 

「…ああ、クッソ…、恨むぞ、駄猫」

 

 今まで保っていた微かな意識を落としそうになりながら、最後の力で吐いた言葉は何とも陳腐な言葉だった

 

 そして、僕は意識を落とした。

 

 

●●●●

 

 グシャグシャと人間大の獣が汚らしい音を立てながら、床に散乱した彼の胴体の部位を拾い、一心に貪る。

 その姿はおぞましく、獣の凶暴さを物語っていた。

 

―――リィン

 

「ニャーン」

 

 そんな獣の背後に、一匹の白黒の縞模様の猫が何時の間にか佇んでいた。猫の首には、黒いリボンが蝶のように結ばれており、その中心には自身の瞳と同じ金色の鈴をつけていた。

 猫は人間の胴体に喰らい付く獣を目の前にしながら、恐怖や警戒もせず、毛繕いする余裕すら見せながら佇んでいた。

 猫は、人間の肉を食らう獣の姿を退屈そうに眺めていた。

 

―――リィン

 

 猫は獣を見るのに飽きたのか、床に散らばった彼の頭へと歩く。

 猫が歩く度、鈴の音がリィンリィンと鳴るが、獣はまるで聴こえていないのかのように気付かない。

 そして、猫は彼の頭の前で立ち止った。

 彼の頭は、後頭部の一部が欠け、前頭葉近くは陥没していた。首の断面は捩じ切られたからなのか、断面に近付くにつれて細くなっていた。

 猫は半開きになった彼の片目を舐め、愛しそうに頬を擦りつけて鳴く。まるで、飼い主の哀れな姿を悲しみ嘆くように。

 

 そして、猫は唐突にその口を三日月の様に歪ませ笑った。

 

 その笑みはとても不快で、見ている者を不安にさせるような笑みだ。おおよそ、猫には出来る筈の無い明らかな表情の変化。

 それと同じくして、彼の頭や手足は溶け、黒く混沌とした液体に変化し、獣へとゆっくりと集まっていく。

 

「な、なんだっ!これは…なっ!?」

 

 獣はそれに気付き、黒い液体のあまりの不気味さに危険を感じ取り、距離を取ろうとし、何かに片足を掴まれた。

 獣が下を見ると、地面から生えた黒くて丸い大きな何かが片足に絡まっていた。よく見ると、それには五本の太く丸々とした指らしきものが生えており、それが手だと分かった。

 

「放せ、放せっ!クソ、何故だ何故外れないっ!?」

 

 獣は黒い液体から早く逃げようと、半狂乱になりながら黒い手を必死に己が爪牙で斬りつけるが、手は足を放さない。更に手は何度も斬られているというのに、傷一つ付いていなかった。

 そして、液体は黒い手の根元に集まり、黒い池のように獣を囲むように広がった。

 

「糞っ、来るな来るな来るな来るなぁあ!!俺は主殺しのベルーガだぞ!?こんな…こんな所で死ぬかぁああああ!!!」

 

 獣は叫び、手に向けて己の自慢の一槍を手に召喚し突き刺した。

そして、手は一度大きく膨らみ、水風船のように黒い液体を散らしながら破裂し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破裂した手の中から、大小様々な大きさや形の手の群れが獣の体へと殺到した。

 

 

「な、何ぃいいいい!?」

 

 

 手の群れは獣の手足をムカデのような動きで這い上がり、獣の体を埋め尽くし黒い池に引き吊り入れようとする。

 

「止めろっ!!放せっ放せぇええええっ!!」

 

 獣は激しくもがき苦しむが、爪を食い込ませんと体のいたるところを掴む手は一つとして放れない。

 そして、獣の体は黒い池に飲み込まれていき、五分後には黒い池だけがそこに残った。

 

 こうして、呆気なくはぐれ悪魔ベルーガはこの世から去った。

 

 

 

 

 




主人公「おい、作者」
橋場「はい」
主人公「僕、死んだんだけど、一話目で」
橋場「死んじゃいましたね。呆気なく」
主人公「・・・どうすんのコレ?」
橋場「・・・・・・どうしようか?」
主人公「おい!?」
橋場「次回、我が家に帰ってきた彼を待ち受けていたのは謎の銀髪美少女。可憐にして儚い雰囲気の少女の瞳に映る悲劇とは!?
次回、Eの少女/隠された悲劇!!」

主人公「無視すんな!しかも、嘘予告!?」
謎の美少女「次回は僕も出るから、数少ない読者はこう御期待だね」


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第二話 愛さえあれば働けるよね!

少女はいつもケーキを食べて暮らしている。
少女の食事は全てケーキや甘味で、それ以外は食べれないらしい。
少女の仕事は、とある物を作る事と探偵の二つらしい。

そんな少女の下で働くようになってから2年は経った。
彼女は今日も変わらずケーキを食べている。

そんな感じで始まります。
今回の名言。
『生きる事の辛苦を読者に伝えるのも、また主人公の役目』
by太公望


【前回のあらすじ】

「ああ、主人公よ。死んでしまうとは情けない(棒読)」

 

 夢を観ていたんだ。

 其処は不思議な空間だった。

 見渡す限りに広がる生物の体内を思わす薄い赤。

 壁や天井は無く地面は赤く、足元は自重で溶けた肉のように沈む。

 そして、空間は一定のリズムで胎動し、此処が生物の中であることを物語っていた。

 

 

 そんな空間にソレは居たのだ。

 ソレは自分の体より大きく、歪な楕円球のような形で、それの表面は黒く滑(ぬめ)りを持っているのか微かに光が反射していた。

 目を凝らせば、ソレの表面は不気味に脈動しその形は丸々とした人型だと理解できた。

 

―――クチャ、ペッチャ

 

 ソレから聞こえた水音は扇情的で、同時に嫌悪感を僕は抱いた。

 理由は分からない。ただ、あれをはっきりと認識してはいけないと脳が警告している。

 

―――ゥ、ァアゥ

 

 水音の後に続くように聞こえた弱弱しい呻き声はソレの手が握っているモノから断続的に聞こえる。

 握られているモノは大きな人型の怪物だった。

 狼の頭、指先から生えた鋭い爪、首から腰まで黒い体毛で覆われた獣。

 獣はソレの黒い手から逃げようと必死にもがいているが、ソレの力が上なのか、逃げれずにいる。

 

―――ベキッバキッ…ブッチン

 

「ッガアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 獣の足は手の中で握り潰されながら、ソレの口らしき空洞の中へと消える。

 怪物はその苦痛に耐えられず絶叫する。

 

―――クチャ、ペチャ

 

 そして聞こえる咀嚼音。

 ソレは菓子でも食べるように獣の手足を咀嚼していく。

 獣はもがくのを止めて、喉が潰れん程に絶叫を繰り返す。

 

―――■■■■?、■■■■■■■!

 

 生物ではおおよそ出せぬだろう鳴き声を上げてソレは喜ぶ。

 そして、ソレは痙攣している獣の頭を掴み…。

 

―――ブシャ

 

 木の実をもぎ取るように握りつぶした。

 水風船が潰れるような音を最後に獣は痙攣を止め、絶命した。

 首を無くした死体は地面に落ち、首から絶え間無く血を噴き出す。

 ソレの手の中には、潰れたザクロを彷彿させる赤と白の混じった■■。

 

―――ガリガリ、グッチペチャ

 

 ソレは■■を口の中に入れて咀嚼する。

 頭蓋ごと噛み砕きながら、それを平らげた。

 最後に舌で口の周りを舐め取り、獣の死体を拾い上げた。

 

―――キャッ■■■ハハ■■!!!

 

 ノイズの混じった金切り声のような笑い声がそこら中に鳴り響く。

 首の無くなった獣の手足を意味もなく千切りながら笑い続ける。

 そして、ソレの姿が一瞬だけはっきりと目に映り、僕は後悔した。

 

―――嗚呼、アレは…。

 

 そこで場面は暗転し夢は終わる。

 一体この夢が何なのか僕は知らないし覚えていない。

 目覚めればきっと忘れているんだろう。

 

 そして、長い眠りから目を覚ました。

 ぼやけた視界に映るのは一般的な部屋だ。

 家具が置かれ、棚には熊や兎の縫いぐるみが置かれ、机には食べ欠けのショートケーキと仄かに湯気を上げたカップが置いてある。

 何処にでもあるような家庭の一風景だろう。

 

チャキチャキ、カタン…。

 

「おや、目を覚ましたのかいサカツキ君?」

 

目の前にメスと鋏を両手に持ち、血の付いた白衣を着た少女と消毒液の独特の臭いがなければ。

それは非日常の光景だ。あっていい筈がない。

だから、僕はこの非現実を権化たる少女にこう言ってやったのさ。

 

「お願いですから…腹を開くのなら……、麻酔をしっかりしてください。……スゲェ痛いです」

「ああ、忘れていたよ」

 

悪いね。と少女は続けてメスを僕の腹へと入れた。

僕は痛みのあまり、もう一度失神し(眠っ)た。

 

 

 

 

第二話 愛さえあれば働けるよね!

 

 

 

 

―――シャァァァァ、ッキュゥ

 

「いや、悪いねサカツキ君。僕もつい麻酔を刺すのを何故か忘れてしまうんだよ。…何でだろうね?」

 

台所の洗い場で、手に着いた血を洗い流し終えて帰ってきた少女は、黒猫の描かれたマグカップと生クリームが過多に塗られたロールケーキの乗た皿を両手に持って、僕が座る向かい側のソファーに座り、それらを間に置かれた机の上に置いた。

 

「それは貴方が麻酔代をケチろうとして、僕の寝てる間に手術しようとするからです。あと素手で体を開かないでくだい」

「なに、君は眠っているから麻酔をしなくても大丈夫さ。それに僕は素手で君の内臓に触れても気にしないよ」

 

そういう問題じゃないだろう。

少女は僕の恨みの籠もった視線を気に留めず、机に置かれた砂糖入れから砂糖を一つ取りだし、カップに落としてティースプーンで掻き混ぜる。

その姿は高貴で、彼女の育ちの良さが窺える。

彼女の容姿は美しく、白い肌に腰まで伸びた流れるような黒髪、小柄な少女の体に反してその琥珀の双眸には賢者のような知的さがあり、そのアンバランス感が見事に彼女の魅力を引き立てていた。

しかし、残念な事に彼女の表情はその幼さの残る仏蘭西人形のような美しく整った顔にチェシャ猫のような人の悪い笑みを浮かべ…。もう、なんというか台無しだ。

服装は近くの高校の制服と、その上から無規則に赤い斑模様の着いた白衣を羽織っていた。

彼女の名は霧島(キリシマ)絵空(エゾラ)。

自分の保護者であり、この探偵事務所の所長であり、自分の上司だ。

 

「それはそうとサカツキ君。大分うなされていたようだけど、悪夢でも見ていたのかい?」

「え、マジですか?」

「ああ、本当さ。「苦しい、食うな、ヤメテくれ」なんて寝言で呟きながらベットでもがいていたよ?おかげで解剖に苦戦したよ」

 

ならするなよ。と思ったが言っても無駄なので溜息を一つ吐いた。

それにしても、自分はそれほどまでに魘されるような夢を見ていたのだろうか?

目を閉じ、さっき見た夢の内容を思い出そうとするが、夢の内容は全く思い出せなかった。まぁ、いいか。と思い出すのを止める。話を聞く限り寝言で悲鳴をあげるほどの悪夢なのだ。思い出せないならば無理に思い出す必要も無いだろう。

ふと、時間が気になり壁に付けられた時計を見る。短針はローマ数字の五を超えて六を指そうとしていた。確か寝る前に見た時は三時だったので二時間も眠っていたようだ。

 

「そういえば、エゾラさん。今日は学校から帰ってくるの早かったですね?」

「ああ、今日はこれといってやる事がなかったからね。早く帰って来たのさ」

 

彼女はケーキを食べながら退屈そうに答えた。何でも、いつもと変わらず美少女と美少年に生徒達は歓喜し、変態の三人が剣道部の女子更衣室を覗いたのがバレて部員達に竹刀でリンチされ。時々、旧校舎から悲鳴が聞こえるそんな日々だったらしい。後半二つはどう考えてもおかしいが、敢えて触れない。不用意に触れれば泥沼に嵌まるのは長い付き合いで嫌というほど肉体的にも精神的にも学んできたのだ。

不用意に触れれば、この前の廃工場みたいに…。

不意にバラバラの怪物の死体と赤い光景がフラッシュバックのように頭に過ぎ去り、黒い■■の笑い声が耳元で聴こえた。

 

「ウグッ、オッゲエェェェ」

 

僕は駆け込むように台所に入り、洗い場で情けなく吐いた。喉から流れる溶けかけた固形物と胃液が流れる不快感に身体が震える。

 

―――ああ、またか。

 

そう思いながら、酸っぱさの残る口を入れて吐き出した。そして、吐き切ったソレを視界に入れないようにして水で流した。

 

「ハァ…」

「ふふ、サカツキ君もいつになったら学ぶんだい?」

 

エゾラは僕が吐いたのを気にせず変わらずケーキを食べていた。その表情も変わらず笑みを浮かべている。

 

「君にとってアレの事を思い出せば、気分の一つや二つ悪くなって吐くのは自明の理だろ?」

「ええ、身を持って理解していますよ。ただ、その僕が何度も嘔吐しているみたいな言い方しないでください。若干傷付きます」

「ああ、悪かったね。まぁ、良いさ。僕は君が目の前で嘔吐しようが捨てたりはしないよ」

 

まぁ、僕に嘔吐物を付けたりしたら捨てるけどね。とエゾラは最後の一切れとなったケーキを口に入れた。彼女の言う通り本当に気に止めてないようだ。

 

「それそうとサカツキ君。君、僕の鞄を知らないかい?今日、学校から帰ってきて見ていないんだ」

「はい?そんなの今さっき起きた僕が知るわけないでしょう。最後に見たのは何時ですか?」

 

呆れながら答え、口直しにインスタントコーヒーを淹れ、それを飲みながら部屋に戻る。

 

「ああ、確か……」

 

エゾラは目を閉じ、空いた皿をホークで一定のリズムで叩く。

 

 カチン…カチン…カチン…カチン…カチン…。

 

何度かの皿を叩く音の後、彼女は目を開き僕を見る。

 

「思い出したよ。学校の帰りから机の横に提げたままだ。道理で今日の帰りは軽かったわけだ」

「持って帰ってくる段階から!?」

 

予想外過ぎる答えに呑んでいたコーヒーを噴き出した。

噴き出されたコーヒーを見て「行儀が悪いよ」とエゾラは自分に非難の目を向けてくるが、関係無い。自分の知る彼女ならば、この後の言葉はこうだ。

 

『そう言う事だから、持って帰って来てくれるかい?』

 

頭の中の彼女と現実の彼女の言葉が重なる。勿論、錯覚だ。

さて、彼女の理不尽な我儘はいつものことだし、それなりに長い付き合いだし慣れている。だから返す言葉はこれしかないだろう。

 

「嫌です。自分で行って下さい」

 

自分が出来る爽やかな笑顔を浮かべて僕は言った。

エゾラの下で働いてからというもの、雑用やらパシリに走らされる事が日常となっている。

彼女は上司と部下の関係を、飼い主とペットの主従関係と勘違いしているのではないだろうか?

 

「大体、何で僕が取りに行かなきゃならないんですか?」

「それは君が僕の助手だかさ?」

 

噴き出したコーヒーで汚れた床を拭きながら断る。

彼女の頼みに頷けばロクでもない事になると今までの経験が物語っているのだ。

 

「エゾラさん、今僕が気分を悪くして吐いたの見てましたよね?」

「ああ、見たよ。でも、それぐらい慣れているだろ?」

「……せ、生徒でもない人間が学校に入れますか?入れませんよね!」

 

しかし、エゾラは変わらず笑みを浮かべて紅茶を飲んでいた。

 

「君、こんな時間にか弱い女の子を学校に向かわせるのかい?もし、強姦魔に襲われたりしたらどうするんだい?」

「ッグゥ!」

 

見えない槍が心に刺さる。

確かにエゾラの言う通り外は夕日が落ち始めて、あともう少しで暗くなるだろう。遅い時間に女子高生を一人で学校に行かせるのは常識的に駄目であるだろう。

だが、まだだ。まだ、折れるのは早い。

 

「で、でも僕がエゾラさんの学校に入るのは」

「それにね、僕が出来ない事を君に頼むと思うかい?」

 

僕の言葉を遮り、そう言った。

そして、彼女はソファーから立ち上がり、物置と化した服の散乱した部屋に入り、服の山を掘り返し始めた。

 

「確か…。あ~これだよこれ」

 

帰ってきたエゾラの手には、所々に皺だらけのエゾラの通う高校の男子の制服があった。

 

「それって確か・・・」

「ああ、この前の仕事の時のだよ」

 

 それは三カ月前にあったとある依頼で、捜査のために貸してもらった制服だった。

 

「これを着ていけば問題ないだろう?」

ああ、やっぱりですか。と力無く答えて、僕は時計を見た。時間は丁度六を指している。確か此処からエゾラの通う高校までは電車で三駅程の距離だった筈だ。今から着替えて出たら六時四十分ほどには着くだろう。

僕はエゾラが持ってきた皺だらけの制服を貰い着替えた。財布をポケットに入れて僕は玄関に向かう。

 

「ああ、そうだサカツキ君」

「なんですか」

「君のために一つ助言をあげよう」

「はい?」

「木造の校舎とそこの関係者には気を付けた方が良い。あそこは一種の“たまり場”というものでね。君のような人間が行くと戻れなくなるんだ」

 

エゾラは謳うようにそう言って、ソファーに横になった。

 

「あと、もう一つあったよ」

「今度は何ですか?」

 

いい加減出たいと思いながら、僕は答えた。彼女はそれを敢えて気付きながら笑みを浮かべる。

 

「いや、なに。夜の公園は気を付けてね。要らぬ出会いがあるかもしれないよ?」

 

僕は返事をせず、今度こそ外に出た。

 

「ああ、でもサカツキ君の事だから関わってしまうだろうね。彼は運が悪(良)い」

 

 サカツキが居なくなった部屋で彼女は一人そう呟いた。

 




橋場「次回!夜の学校に向かうサカツキは、校内でポニテで胸の大きい女性と出会う」
絵空「彼女は初な少年を野獣のような本心を優しいそうな笑みで隠し、少年を人気もない場所へと誘導する」
橋場「二人は何故か体を密着させて、そのままの勢いでセ、グアアア」
絵空「作者が電撃で倒れた!?」
サカ「この人でなし!」

作者「次回、『夜の学校 おねs』」
サカ「それ以上はいけない!」


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第三話 学校へいこう!

日常はいつだって唐突にかつ簡単に崩壊する。
良いも悪いも関係無く、ただ、悪戯でもするかのように平穏を掻き乱し、自分を道化のように躍らせ続けるのだ。
ある者は其れを「ただ、運がなかった」と言って哀れんだ。
ある者は其れを「主の与えられた試練だ」と言って祈りを捧げた。

そして、彼女は笑みを浮かべ「其れこそ君の■■だ」と愉快げに僕に言った。

そんな感じで始まります。
 今回の一言。
『それは偶然ではなく必然では?』
byエジプトニーソ


【前回のあらすじ】

エゾラ「新メインヒロイン登場!その名も霧島☆エゾラちゃん!どんどんサカツキ君のフラグを立てちゃうぞー!」

サカツキ「ありえん(笑)」

 

 

 時刻は午後七時。

 周りはもう暗く、じきに完全に夜になるだろう。

 僕はあれから、どうにか家から走って駅に向かい電車に乗り、駅からここまで徒歩で来た。

 

「クソ、エゾラのせいで予定より遅くなった」

 

 エゾラとの会話のせいで予定していた時間を数十分も超えた。

 電車の中で、着いた時にはもう校門が閉められているのでは?と内心焦っていたが、目の前で開かれている校門があるという事はどうやら間に合ったらしい。

 僕は早歩きで校門を通過し、大きな校舎の入り口へと向かった。

 

 サカツキが通過した校門に取り付けられたプレートには『私立駒王学園』と書かれていた。

 

 

 

 

第三話 学校へいこう!

 

 

 

 

 学校に入った僕は、まず最初に職員室を探し、職員室に向かっていた先生を捕まえてエゾラのクラスの鍵を貸して欲しいと話したところ、制服を着ていたこともあり疑われずに職員室まで鍵を貸してもらい、エゾラの教室を開けて目当ての鞄を取った。そして、鍵を閉めて職員室に戻る途中、ふと窓に目が行った。

 

「木造の校舎……」

 

 窓の奥に見えるのは今居る校舎と違う木造の校舎。

 暗いせいか建物はここからだと不気味に見える。

 

『木造の校舎とそこの関係者には気を付けた方が良い。あそこは一種の“たまり場”というものでね。君のような人間が行くと戻れなくなるんだ』

 

 エゾラが行く間際に言った言葉が脳裏を過ぎる。多分、エゾラの言っていた建物はあそこで間違えないだろう。

 さてさて、物語の主人公なら我関せず入っていくのだろうが。残念、僕は脇役以下のエキストラの臆病者だ。

 そう、ぴょんぴょんと危険に突っ込むほど馬鹿じゃないつもりだ。

 僕は木造の校舎から目を離し、さっさと帰るために鍵を返しに職員室へと向かおうとして、

 

「あの校舎は今は使われていない旧校舎ですわ」

 

―――背後からした声に足を止められた。

 

 

 

 

 それは全くの偶然であった。

 彼女、姫島朱乃が校舎に訪れていたのはただの気紛れと気分転換であった。

 リアス・グレモリーの女王である彼女は、今日あった奇妙な出来事を考えていた。

 それは大公からのはぐれ悪魔の討伐の依頼で訪れた廃工場での事だった。

 つい最近、主とその眷属を殺したはぐれ悪魔ベルーガが町外れに建っている廃工場に逃げ込んだらしく、この駒王町で活動しているリアス・グレモリーの元に討伐の依頼が来たのだ。

 

 廃工場は所々の壁に穴が空いており、老朽化していた。

 外から臭う血と腐敗臭は中の光景が壮絶なものだと物語る。

 いつはぐれ悪魔が襲って来ても対応出来るように警戒をしながら、この工場の一番奥の扉まで辿り着いた。

 扉越しにでも臭う強烈な悪臭に戦車の小猫ちゃんは顔を歪めていた。

 

「部長、開きます」

「ええ、お願い」

 

 リアスに確認を取り、敵の奇襲を警戒して騎士の裕斗が扉を開いた。

 そして、廃工場の錆びた扉を開いた先に広がっていた光景は、はぐれ悪魔に襲われた被害者の哀れな死体の数々と、同じく獣に食い荒らされたかのようにバラバラになったはぐれ悪魔の骸であった。

 骨がはみ出た手首や膝は引き千切られて四方に広がり。食い残された肉塊に蛆と蠅が集り、地面を渇いた血が塗りつぶす。

 

「こ、これは!?」

「酷い、ですね…」

「……ッ!」

 

 同じ眷属の二人はその光景に驚愕し、主であるリアスは絶句していた。

 はぐれ悪魔ベルーガは騎士の駒二つで転生した転生悪魔だ。その実力は自身の主とその眷属達を同時に相手して勝つほどである。そんな強力なはぐれ悪魔が今や物言わぬ食い荒らされた肉塊に成り果てていた。

 

「…これをやったのは堕天使やエクソシストではなさそうね」

「えぇ、彼等でもこんな殺り方はありえないわ」

 

 近頃、町の外れに建つ教会で堕天使やはぐれエクソシストを目撃されたという知らせはあった。更にこの前、学園の生徒が神器を持っていたことで堕天使に殺されたのだ。

 その生徒は死ぬ間際、使い魔達が配っていたチラシでリアスを呼び、リアスが彼を悪魔の駒で眷属にしたのだ。その時、兵士の駒を全部使った事に驚き、彼にかなりの期待をしている。

 しかし、彼らならば悪魔の弱点である光や祓魔弾で殺す筈だ。間違ってもこんな殺し方はしない。

 そもそもこれは殺害ではなく捕食だ。餓えた獣が獲物を食らったような跡だ。

 自分と同じくその事に気付いたリアスは頭に手を当てた。

 

「どうやら、堕天使やはぐれエクソシスト以外にもこの町に来ているようね」

「はい、それもとても危険な“獣”ですわね……」

 

 その後、バラバラになった死体や血液を消してその場を後にしたのだ。

 

「一体、誰があんな惨い事をしたの・・・?」

 

 目蓋を閉じれば今でも思い出してしまう。どうにかそれを忘れたくてここに来たのだ。

しかし、忘れる事が出来ず、こうして一人夜の廊下を歩いていた。

 

「あれは…?」

 

 ふと、一人しか居ない筈の校舎の廊下の先に生徒の後ろ姿が見えた。

 他の眷属の誰かかと思ったが、ここに来る前に全員部室に居るのを見ているからありえない。しかし、生徒は既に帰宅して居ないはずだ。

 彼女は気付かれぬよう注意しながら人影へと近付く。

 そして、月明かりを背に立っていたのは灰色の髪の青年だった。

 背丈は高くなく、かと言って低くもない。後ろを向いているので自分の向きでは顔は見えなかった。

 今まで彼のような生徒を学校で見かけた事はなかった。

 そもそも、この学園には白い髪の少女は居ても灰色の髪の人間なんて居ない筈だ。

 青年は窓から旧校舎を物珍しそうに眺めていた。

 

「彼は?」

 

 彼女自身、何故彼が気になったのか分らなかった。

 そう、敢えて理由を挙げるならば『目が離せなかった』のだ。

 それが何を意味するのかを知る者は此処には居らず、彼女は彼に声を掛けた。

 

 

 

 

 若い女性の声に反射的に振り返ろうとする体を無理矢理止めて、そのまま声のした方向と反対に向く。

 駒王学園の制服を着てはいるが、自分がこの学園の生徒ではないとバレないとは限らない。仮にバレたとしても顔だけでも隠したかったからだ。

 

「…ああ、あの木造の校舎はそう言うのですか」

 

 如何にか言葉を返し、僕は振り返らずに一歩ずつゆっくりと足を進めて女性との距離を離す。

 

「はい、今は使われていないんです」

 

 まあ、とある部活が使っているのですが。と言って、彼女は同じように足を進めて自分との距離を元に戻す。僕はそれを見て顔を歪めそうになる。

 

「そう言えば、貴方はこんな時間に何で学校に?」

「あらあら、そういう貴方も何故こんな時間にここに来たのですか?」

「いや、これがまた間抜けな事に鞄を机に置き忘れて帰ってきたのですよ。しかも気が付いたのは家に帰って財布を持ってコンビニ行こうとした時なんですよ」

「あらあら、少し抜けているのですね」

「ええ、本当に困ったものですよ。アハハハ」

「ウフフフ」

 

 会話は滞りなく続く。しかし、自分と女性の距離は変わらない。寧ろ女性と自分との距離が縮まってすらいる。本来降りる筈だった階段を通り過ぎ僕は如何やって離すかを内心で必死に考える。

 

「つかぬ事を訊きますが…」

 

 そして、それが隙になったのか、彼女は歩みの速度を上げて自分の前に回り込んだ。

 窓から射す月明かりに照らされ彼女の姿がはっきりと見える。この学校の制服を着た女子生徒。艶のある長い黒髪をポニーテールにし、高校生とは思えない母性的な大きな乳房、大人びた雰囲気に笑みを浮かべた顔。大和撫子という言葉を表すような美女だ。

 

 

―――貴方は何処の誰ですか?

 

 

 彼女は変わらず笑みを浮かべながら自分を見る。その眼に映るのは疑いの色か、はたまた好奇の色か。

 

「そう言えば、自己紹介してませんでしたね。僕は駒王学園一年の逆月伊津(サカツキイツ)です」

「逆月君ですか。私は三年の姫島朱乃ですわ」

 

 僕はそれを笑みで返しながら姫島さんの横を通り過ぎる。が、それについて来るように、彼女は当たり前のように僕の右隣について来る。

 

「あらあら、あまり見ない顔なので転校生なのかと思いましたわ」

「いえいえ、ただのしがない存在感の薄い高校生ですよ」

 

 どうにか姫島さんを振りぬこうと早足で歩くが、彼女は苦も無く僕の横を歩く。思い込みの可能性もあるが、目の前の彼女は自分が侵入者であることに気が付いている。……かもしれない。いや、まだばれてない筈だ。きっと多分。

 

「それにしては、どこか挙動不審ですわね?」

「…気のせいですよ」

 

 あ、これ絶対バレてる。

 焦りを隠すように努めて、どうにか目の前の彼女から逃げようと逃げ道を探すが、いつのまにか行き止まりに着いており、引き返すにしても彼女が反対に立っていた。

 

「あらあら、こんな場所まで何の用事があったのですか?」

 

 彼女は先程よりも美しい見惚れるような笑みを浮かべながら僕に言った。

 ああ、成程。会話に集中させて行き止まりまで誘導されたのか。

 何所が優しそうな大和撫子だ。あれはドSの女王様の笑みじゃねぇか!

 僕は心の中で愚痴り、どうにか逃げられないかと模索する。

 しかし、目の前の彼女は待ってはくれず、『綺麗/嗜虐的』な笑みを湛えながら一歩一歩自分ににじり寄る。

 

「さぁ、其処は行き止まりですしこちらに来てくれますよね?貴方には少々、訊きたい事もありますのよ?」

「はは、それはそれは…、美女と二人でとは期待しちゃいそうですよ、僕?(ヤバイヤバイヤバイ!!?)」

 

ーーーPrrrr、Prrrr

 

 突然、あと一歩で手が届くというところで彼女の携帯が鳴った。

 

「あら、こんな時に誰で「今だ!ラディカルグッドスピィィィイドォ!!」しょう。って、え?」

 

 携帯に意識が移った隙に彼女の横を全力で走り抜けて、僕は廊下を曲がった。

 

「逃がしませんわって、え?」

 

 姫島朱乃は逃げた青年を追い、青年が曲がった先には誰も居なかった。

 

「逃げ足が速いですね・・・」

 

 侵入者だろう青年を逃がした事は後で部長に伝える事にして、携帯に視線を移す。

 そこには、着信番号不明の表示。青年が逃げるまで鳴っていたが、今は切られている。

 あまりにもタイミングの合った着信。

 その事に悩みながら彼女はその場を後にしたのだ。

 

 そして、彼女の去った事を確認し、廊下の窓の縁からよじ登る。

 

「行ったか・・・」

 

僕は曲がった直後、開いている事を予め覚えていた窓に身を乗り出し、縁に捕まる形で隠れたのだ。

咄嗟とはいえこの隠れ方はもうやりたくない。

彼女が少しでも冷静ならば開いている窓から逃げたと気付かれただろう。

「もう、嫌だ。早く帰って寝よう」

 

 僕は姫島さんがいないかとビクビクしながら早々と学園を出たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、これで今回の話は無事終わるのだが。

如何せん、世の中とはどうも上手くいかない。

何故なら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、結界の中にただの人間が入って来るとは」

「グッ、ガァ⁉︎」

 

腹から大量の血を出しながら地面に悶える茶髪の青年と、見るからに怪しいコートを着た男が公園にいた。

男の背には、これまたカラスの黒い羽が生えていた。

 

「ああ、うん。今日は厄日だ」

 

どうやら、僕の1日はまだ続くらしい。

 

 

 

 

 




橋場「次回予告!」
絵空「遂に原作主人公と出会った我等がオリ主、サカツキ君。彼はまたもやピンチ!」
橋場「ダンディで強力な堕天使ドナーシーク(操作説明の為の敵)に殺されかける!?」
絵空「でも、大丈夫!平気へっちゃら!だって彼はホームズさんのバリツを習っているから!」
橋場「なら、大丈夫だ!次回、『バリツは架空の日本武術!』です」
絵空「尚、サカツキ君は柔道や空手なんてできないよ」


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第三話 僕の体はボドボドだ!

最初の始まりは7年前の冬の夜。
アイという名の喰い合い。
そして、悪趣味な少女に雇われて多くの人を見た。
そして、彼女の仕事にも慣れて、僕の日常は四年前に戻ってきた。

そして、今日この瞬間、停まった非日常が確かに動き始めた。

そんな感じで始まります。今回の一言。
『ここから先は、R指定だ』
byダンテ


 物語を始める前にとある青年の話をしよう。

 何、その青年の出生から話すわけじゃないさ。だから、安心しなよ。

 

 その青年、名を兵藤一誠。年は十六で私立駒王学園に通う高校二年生。

 彼とその友達の二人は学校では有名だった。悪い意味で。

 『エロ坊主三人組』と言う大変不名誉な二つ名を持ち、猥談は勿論のこと、更衣室への覗きや教室でのエロ本エロDVDなどを机の上に広げるなど。

 正直、警察のお世話になってないのが不思議なくらい変態行為をして全女子生徒を敵に回していた。

 そんな彼だが、つい最近彼女が出来たのだ。

 その名は天野夕麻、他校の生徒で長い黒髪で美少女だった。

 そして、彼のその噂は瞬く学校中に広がり、驚愕と嫉妬、憎悪などその他諸々の負の感情を抱かれた。

 そして、日曜日に彼女との初デートをしたのだ。

 洋服店やファミレスなど初々しいながらも彼は初めてのデートに満足していた。

 そして、最後に公園でーーー彼は彼女に殺された。

訳が分からなかった。

彼女は突然、「自分の為に死んで」と言って光りできた槍で自分を刺したのだ。

 彼女の背中からは黒いカラスの羽が生えていた。

 そして、兵藤一誠は死んで目を閉じ、目を開ければいつも通りの自身の部屋で朝を迎えていた。

 最初は悪い夢でも見たのかと思い携帯を見れば、あの日から一日経っていた。

 更にケータイに入っていた筈の彼女の連絡先やメールアドレスは消え。待受け画面の彼女と一緒に撮った写真は消え、それ以前の物になっていた。

 そして、友人や親は自分に彼女がいたことを知らず、妄想と一蹴する始末だった。

 彼女の通っていた高校に行き、そこの生徒に天野夕麻の事を聞けば、そんな生徒は在籍していないと言われた。

 そう、それはまるで天野夕麻という名の少女の存在だけが、この世界から消えたようだった。

 そして、異変はもう一つあった。

 朝から昼にかけて体がだるく、夜になるとそれが嘘だったかのように調子がすこぶる良くなるのだ。

 そして、暗闇の中ではっきりと物が見えたり、周囲の民家の話し声や五メートルほど離れた他人の声がはっきりと聞こえるのだ。

 

 それはまるで、自分が作り変えられたようだ。

 

これが兵藤一誠に数日で起こった不可思議な出来事だ。

そして、現在。彼は、夢を再現するかのように、同じ公園で彼女と同じカラスの羽根を背中から生えた男に光の槍で刺されて殺されようとしていた。

 

 しかし、そこに現れた灰色の少年はあの日の記憶(シナリオ)と違った。

 

弟三話 僕の体はボドボドだ!

 

 

 現在、自分は駒王学園をダッシュで抜け出し、学園から少し離れた公園に来た。

全力で走ったせいで疲れ、公園で少し休もうと立ち寄ったのだが。

 

「まさか、結界の中にただの人間が入って来るとは」

「グッ、ガァ⁉︎」

 

腹から大量の血を出しながら地面に悶える茶髪の青年と見るからに怪しいコートを着た男が公園にいた。

男の背には、これまた不思議な事にカラスの黒い羽が生えていた。

 

「ほう、しかもこの“はぐれ”と同じ学校の生徒か?」

 

 男は自分の着ている制服を見てそう言い、その手に光を集め槍を形成した。

 

「まあいい、見られたからにはしかたない。死ね」

「に、逃げろ!?」

 

 茶髪の青年は僕に向かって大声で叫ぶが、それよりも早く男の持った槍は放たれた。

 槍は暗闇に1直線を描き、僕の頬に赤い線を残して地面に刺さり消えた。

 

「チッ、外したか」

「いや、かなり直撃コースですけど?」

 

 血が流れる頬を触れるとべっとりと手の平に血がついた。

 男はまた手から光の槍を作り、その姿を唐突に消した。

 

―――グッシャ

 

「あ…」

 

 気の抜けた声を出したのは誰だったか。

 いつの間にか僕の目の前に男が立ち、手に持った槍を僕の腹に深々と刺していた。

 槍は光で出来ているからだろうか。とても熱く、腹の中に焼きごてを入れられているような高熱と痛みがする。

 

「ぅあ、ぁ」

「やはり、下級な存在はこれだから困るのだ。あまりにも脆弱で脆い」

 

 男は詰まらないという目で地面に蹲った僕を見下ろして光の槍を抜く。

 光の槍が周りの肉や内臓を焼いていく感触と激痛に消えかかった意識が強制的に戻る。

 刺された場所はあまりの熱に溶けて融解し、綺麗な空洞が開いていた。

 

「ほう、お前も人間の割には丈夫じゃないか。人間ならば今頃死んでいるだろうに」

「痛い、ですよ…。えぇ、それはもう、死ぬぐらいに、ねぇ…」

 

 激痛で途切れ途切れになりながらも軽口で返す。足は痛みに震えて立ち上がる事が出来ない。

 そんな僕を気にせず、男は右手に新しく槍を作り僕の頭に切先を向けた。

 

「そうか、なら楽にしてやろう。人間」

 

 槍は吸い込まれるように頭へと切先を走らせ、

 

―――ヒュ

 

 風切り音を走らせながら飛んできた黒い何かに当たって消えた。

 

「その子達に触れないで」

 

 黒い何かが飛んできただろう場所には、紅い長髪の少女が右手を前に出して立っていた。

 

「紅い髪…。チッ、グレモリー家の者か」

「ええ、リアス・グレモリーよ。堕ちた天使さん」

 

 男は少女を見るなり舌打ちをし、憎々しげに少女を睨む。

 対する少女は、微笑を浮かべて余裕を見せていた。

 

 激痛を訴える体を無視して、どうにか少女を見上げる。

 目を引く紅い髪に翠色の瞳、駒王学園の制服を着ていると言う事から駒王学園の生徒だろう。

 どこか昨日出会った彼女と雰囲気が似ていた。

 

 二人は地面に蹲る僕と茶髪の少年を無視して、勝手に話が進んで、話が集結していた。

 

「グレモリー家の次期当主よ。我が名はドナーシーク。再び見えないことを願う」

 

 ドナーシークと名乗った男は自身の翼を広げて飛び去った。

 それを最後に僕の意識は闇へと堕ちた。

 

―――ニァーーン

 

 何所からか猫の鳴き声が僕を嗤うように聴こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス・グレモリーが公園に訪れたのは、つい最近、眷属にした兵頭一誠という少年を見張らせていた使い魔から堕天使に襲われているという報告によるものだった。

 そして、来た時には堕天使から光の槍を刺された彼と犯人である堕天使の男が居た。

 

「あら、気絶してしまうの?確かにこれは危険な傷ね。…あら、彼は?」

 

 そこに居たのは灰色の髪の少年。

 地面にうつ伏せになり、腹から出る血で作られた小池に服を赤黒く染めていた。

 誰がどう見ても致死の傷ではあるが、弱弱しいながらも息をしていた。

 

 

 

 

「彼は確か朱乃の報告にあった。サカツキ、イツだったかしら?」

 

 その少年は自身の眷属の女王の姫島朱乃がつい先程、夜の校舎に侵入していた不審人物を見つけ、逃したと報告にあった少年の見た目と一致していたのだ。

 

「へぇ、これは偶然なのかしら?」

 

 彼女は月を仰ぐ。

 その顔に笑みを浮かべていた。

 

「フフ、一体貴方が何者なのか教えてもらおうじゃない」

 

 そう呟いて、紅く怪しく光る魔方陣が一際強く発光し、そして三人の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス・グレモリーの立ち去り、誰もいなくなった公園は夜の静寂に包まれる。

 

―――パッキン

 

 しかし、ベンチから聞こえてきた、何かが割れる音が彼女の存在を浮き彫りにする。

 最初から居たのかのように彼女は一人、ベンチに座っていた。

 

「全く困った事になったね?彼が居ないと家が散らかるじゃないか」

 

 ベンチに優雅に立ち上がり、制服の上から白いパーカーを着た少女。彼女の右手には板チョコがあった。

 

―――パッキン

 

「それにしても、面白い事になってるじゃないか。君もそう思うだろう?」

「ニャァ」

 

 彼女の隣にはいつのまにか黒い猫が座っていた。

 猫は一鳴きしてベンチから跳び下りて黄金の瞳で少女を見る。

 彼女はチョコを一口齧り、面倒そうに腰を上げて歩く。猫は少女の後にトコトコとついていく。

 

 そして、ある場所で彼女は立ち止まった。

 そこには夥しい量の血で出来た小池があり、水面には紅い月が映っていた。

 猫は小池に顔を近づけてそれを舐めた。

 

「フフ、飼い主の血は美味しいかい?」

「ニャアァ」

 

 天使のように微笑みながら問いかける彼女に猫は鳴く。

 

 

 

 

 

 

―――その口を三日月のように歪めて。

 

 

 

 彼女は小さく笑い、制服のポケットから黒い棒状の何かを取り出した。

 

―――スゥ、パン。

 

 鋭い音を立てて黒い柄の白い扇子が開かれる。

 それを彼女はなんの躊躇もせず、紅い池に落とし、そして拾い上げた。

 扇子は何故か濡れておらず、白かった扇面は小池の水を吸い上げたかのように紅へと変色していた。

 それを気にも留めず、扇子を制服のポケットに入れた。

 

「それにしても面白いコンビじゃないか?」

 

 彼女は誰に言うでもなく呟いた。

 紅髪の滅殺姫の二つ名を持つ現魔王の妹、今までにない平凡な青年の今代の赤竜帝。

 そして…。

 

「フフ、全く君の周りは問題だらけで飽きないね」

 

―――サカツキ君。

 

 白い髪を揺らし、彼女と猫はその場を立ち去る。

 彼女の居なくなった場所には、紅い池が最初からなかったかのように消えていた。

 

 

 




作者「新年明けましておめでとうございます。新年明けての初投稿。気分が良いですね!」
逆月「年内には投稿するつもりが新年迎えてるんだが?」
作者「FGOのイベントが盛んだったから仕方ないね!さて、次回予告と行こうか」

絵空「次回、オカルト研究部にご招待される主人公」
作者「そこに待ち受けて居たのは世にも恐ろしい人外達だった!」
絵空「主人公の運命は如何に!」
絵空「次回、リアスの部屋へ」
逆月「というか、今回の後書き神(運営)に消されかねないんじゃないか?」


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