転生して主人公の姉になりました。SAO編 (フリーメア)
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番外編
三周年記念 ※台本形式


WARNING!WARNING!

 1.この話はただ作者とウチの子『和葉』が会話しているだけのものです。
 2.記念話だからと言って特に何かしているわけではありません。
 3.タイトル通り台本形式です。
 4.最新話までの若干のネタバレあり。先に本編を全て読んでいることがオススメです。
 5.いつもより雑です!!

 以上の事が駄目な方、「番外編とかどうでもいいんじゃボケェ!!」という方はブラウザバック推奨です。

 では始めます。スタート!!!


ナナシ猫(以下、ナ)「というわけで始まりました。作者である『ナナシ猫』です」

 

和葉(以下、和)「主人公である和葉です」

 

ナ「注意書き通り、本日はこの二人の台本形式で進めていきます。数日前にもう少しで三周年だということに気付くも、「あれ?記念話っていったって何書けばいいんだ?」となり、小話をすることにしました。いつもより雑になっておりますのでご了承下さい。

 見たくない人はもう既にブラウザバックしてると信じて、もう始めようか」

 

和「で、どんな内容なのですか?」

 

ナ「つってもまぁさっきも言った通り、ちょっとした小話をする程度だけどね。元々思い描いていた主人公とか、想定してた話と違くなってるとか、レギュラーキャラ増えてるとか」

 

和「ん?という事は、元々の主人公は僕ではなかったということですか?」

 

ナ「んじゃまぁそっから行こうか。てなわけでドン!!」

 

 

『最初に思いついた主人公と違う件について』

 

 

和「まぁさっきのセリフで何となくわかっていましたが。タイトルどうにかならなかったんですか?」

 

ナ「まま、それは置いといて。

 最初に考えていたのは男だったから、性別から変わっちゃったんだよねぇ。共通してるのは転生者ってことくらい」

 

和「で、どんな人物だったんですか?」

 

ナ「ごく普通の男子高校生。転生特典としてとあるキャラになる予定だった。

 あ、因みに世界は今作と同じ『SAO』だよ。設定は違うけどね」

 

和「ふむ」

 

ナ「性別転換と姉弟になるのは同じ。でもそれ以外は原作と同じで、桐ヶ谷家も普通の一般人。勿論、明日加と幼馴染でも無い」

 

和「あぁ、弟に転生するんですね。他には?」

 

ナ「メインヒロインとしてシノンを予定してて、登場も原作より早くしてSAO編からだった。

 まぁ正直、和葉で良かったと思ってるけど」

 

和「何故です?」

 

ナ「そのキャラさぁ─関西弁なんだよね」

 

和「はい?」

 

ナ「なろうとしてたキャラは『MÄR』っていう漫画の『ナナシ』だったんだ」

 

和「君の名前にもありますね」

 

ナ「それくらい気に入ってるんだよ。ただそうすると、埼玉生まれなのに何で関西弁?って話になるから、面倒臭いんだよねぇ。ご都合主義で気にしないようにするっていう手もあったけど、当時の俺でも流石にそれは…っなってたみたい」

 

和「ふむ。それで、どうやって僕を考えついたのですか?」

 

ナ「どっかの感想でサラッと書いてあるけど、二次創作でとあるキャラの性転換ssを見て僕っ娘+敬語を考えつき、同じキャラの性格改変で口調を変えること思いついた。なんのキャラかここでは言わないでおく。

 で、容姿に関しては…ぶっちゃけると適当に決めた」

 

和「斬りますよ?」

 

ナ「いや、オリジナルキャラとか初めて考えたからさ、なんかないかなぁって思ってたら『キリコ』がいたからそれにした。丸々一緒ってどうよ、って思ったから片目見えなくした。因みに名前決めたのもその時ね。おかげで、原作キリト(女)の名前どうしようってなったけど」

 

和「そんなしょうもない理由で僕の片目潰したんですか君は。一回斬ります」

 

ナ「あ、ちょっまっ」

 

 

─しばらくお待ちください─

 

 

ナ「てんめ、いくら俺は死なないからっていっても痛てぇもんは痛てぇんだぞ」

 

和「君が悪いでしょう」

 

作「ぐぅの根も出ねぇ…。

 まぁ、主人公に関してこれくらいかな。他にも知りたい事があれば、活動報告に質問用のモノを載せておくので、そこにコメント下さい」

 

和「次はこれです」

 

 

『月夜の黒猫団が生存した件について』

 

 

和「タイトルはこんな感じで進めていくんですね…。彼らは原作通りに全滅する予定だったのですか?」

 

ナ「正確に言えば、サチ以外が死ぬ予定だった。ラフコフによってね」

 

和「かなり早い段階で出てくる予定だったのですね」

 

ナ「原作と違って正体隠す気ゼロだからね。そうするとトラップでは死なないんだ。言うこと聞くから。だからラフコフを出す予定だったんだけど…」

 

和「書いていたら全員生存していた、と」

 

ナ「うん。投稿して何日かしてから気付いた。あれ?これ最初に思ってた展開と違うぞ?って」

 

和「遅くないですか?」

 

ナ「しゃーない。今でもだけど、あん時の俺かなり間抜けだったから。

 ホント、今でも不思議に思うわ。まぁ原作キャラを殺したくなかったんでしょ。多分」

 

和「ただキャラが増えた分、動かしにくくもなってますよね?」

 

ナ「まぁねぇ、気を付けないと存在忘れそうになる。本来ならいないから。まぁこれからも出すんだけどね」

 

和「それ、本当に気を付けないと黒猫団の男性陣に後ろから刺されますよ」

 

ナ「だから気を付けてるんだよ。

 黒猫団についてはこれでお終い。時間があればサチ以外全滅ルートを活動報告で書きたいと思います。多分、書かない」

 

和「なら言わないでください」

 

ナ「一応ね。次はこれ」

 

 

『佳奈と明日加の関係がヤンデレになってしまった件について』

 

 

ナ「ホント、いつのまにかヤンデレになっててビックリしてる。ここまで狂わせるつもりはなかった。後悔も反省もしてないけど」

 

和「反省はしなさい。最初は普通だったと」

 

ナ「そうそう。で、ついでに原因も分かってるんだ」

 

和「一応聞いておきましょう」

 

ナ「そうして。じゃないと話進まないから。つってもまぁ単純な話で、読みに走ってる時に好きなキャラのヤンデレを不意打ちで見てしまいハマった。以上」

 

和「予想以上に単純な事でしたね。不意打ちとは?」

 

ナ「ふっつうの恋愛系だと思ったら、いきなりヤンデレ入って来た。それにゾクリとして、いつのまにかヤンデレにハマってた。まぁ、個人的に無理なタイプもあるけど」

 

和「聞かなきゃ駄目です?」

 

ナ「ん?お望みなら話すけど?俺の好きなヤンデレのタイプも一緒に」

 

和「遠慮します」

 

ナ「そりゃあ残念。とまぁ、二人についてはこれくらい。他に初期との変更点は無いかなぁ」

 

和「…まぁどんなに狂っていようと態度が変わる事は無いので、これからも二人を見守るだけですが」

 

ナ「二人に害が及ぼうとしたら?」

 

和「全力で排除します」

 

ナ「だろうね。んじゃ、次行ってみよう」

 

 

『結城浩一郎がレギュラー化した件について』

 

 

和「最初は浩一郎が出てくる予定は無かったんですよね?」

 

ナ「そうだよ。和葉は女だからCP作ろうとしてめっっっっちゃ考えた。『SAO』は女キャラの方が多いからね」

 

和「あぁ、確かにそうですね。オリキャラを考えないとすると一応フリーなのはクライン、ユージーン、レコン、くらいでしょうかねぇ」

 

ナ「エギルは既婚者だしね。レコンとユージーンに関しては今和葉に言われるまですっかり忘れてた。レコンにはスグがいるし、ユージーンは…存在すら出てこなかった」

 

和「流石にかわいそうです。クラインでない理由は?なんとなく予想出来ますが」

 

ナ「クラインの年齢は二年後の本編で二十四、その時和葉は高校に上がったばっかり。そこから導き出される答えは?」

 

和「…通報されますね、クラインが」

 

ナ「そゆこと。で、他に誰かいないかって探してみたら浩一郎を見つけたってわけ。明日加と兄弟だし、ちょうどいい奴見つけた!って思ったね」

 

和「それは良いんですが、そもそも僕は恋愛する予定は無かったですよね?」

 

ナ「そだよ?ただまぁ、あん時は丁度恋愛系にハマってしまっていた時だから魔がさした。後悔も反省もしてない」

 

和「二回目は言いませんよ…。というかこれから先、原作で浩一郎が出てきたらどうするつもりなんですか」

 

ナ「変えないよ?この作品ではこういうキャラで通していくから」

 

和「性格改変タグ、付けた方が良いのでは?」

 

ナ「あ〜…まぁ大丈夫でしょ。最悪、読者の方々が教えてくれると信じて」

 

和「…どうなっても知りませんよ。次行きましょう」

 

 

『レコンと直葉の関係が違う件について』

 

 

ナ「原作のままだとレコンが可哀想だったからつい…」

 

和「原作よりもかなり落ち着いていますね」

 

ナ「最初はレコンを成り代わり転生者にしようと思ってたんだけど、そうすると前世を考えなきゃいけなくなるからやめた。めんどくさいし」

 

和「で、レコンが落ち着いているからスグも邪険に扱わないと」

 

ナ「もちろんそれだけじゃなくて、直葉自身も原作より落ち着いているからね。この作品のレコンは好きな子のためなら頑張れる、ある意味普通の子だよ」

 

和「その割には、佳奈じゃなきゃ気づかない程度の殺気を放っていたのですが」

 

ナ「努力の賜物、と思っといて。

 裏話として、レコンは現実でも鍛えてます。現在の強さは同年代よりちょっと上程度だけど」

 

和「それ、ここで言っていいんですか?本編じゃなく」

 

ナ「載せるつもりない裏設定だから無問題。じゃ、ラスト行ってみよう」

 

 

『本編第一話を大幅変更した件について』

 

 

和「これ、一体どういう事だったんですか」

 

ナ「これもまた単純な話なんだけど、和葉の前世を大幅に変更したから。

 ていうか、書き始めた当初は前世の設定ろくに決めてなかったんだよね。本編に出す予定無かったし。普通の女子高生で片目の傷は不慮の事故ってことにしてた」

 

和「では、何故今更変更を?」

 

ナ「エンバを考えた友達がさ、「そういえば和葉の前世は何だったんだ?」って聞いてきて、「特に決めてない」っ返したら、じゃあ決めるか!って話になった。まぁ、かなり悲惨な前世になったけど」

 

和「その前世を歩んできた僕が言うのもなんですが、まぁ確かに心休まる日は無かったですね。辛い事もたくさんありましたし。でも幸せではなかったかと聞かれれば、少なくとも僕にとっては悪い人生ではありませんでしたよ」

 

ナ「そう言ってくれて嬉しいよ。詳しい和葉の前世はこれから先本編で語られるので、それまでは和葉がどんな人生を送ってきたのかを予想しながら待っていてください」

 

 

─フィナーレ─

 

 

ナ「短い間でしたが、これにて終了させていただきます」

 

和「ここで語られておらず皆様が疑問におもった点等は、活動報告に《質問コーナー》を設置してあるので、どうぞご遠慮なくお書き下さい」

 

ナ「そこに書いてくださった御質問は本編の前書きにてお答えしようと思っております。

 それでは、今後も『転生したら主人公の姉になりました。SAO編』を」

 

和&ナ「「どうぞ宜しくお願いします」」




 はい、ここまで観てくださり、ありがとうございます!

 上で言った通り、活動報告にて質問コーナーを設置しています。気になることがあればドシドシ送ってください。遠慮は無用ですので。

 それではまた本編で会いましょう


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プロローグ
転生 ※修正版


※2017/4/22
大幅に修正しました。是非目を通してみて下さい。


(ん、ここは?)

 

 真っ白な空間の中に一人の少女がいた。少女は腰まで届く黒髪で、左目が前髪で隠れていた。

 

(僕は死んだはずじゃ...)

 

 そう、この少女は死んだのだ。辛かった、死にたかった、でも死なせてもらえなかった。そして、ようやく死ねたのに─

 

(─なぜこんな所にいるのでしょう...)

 

 少女があたりを見回した。すると

 

「自分が死んだのが分かっててここまで冷静な奴は久し振りだな。いや、死にたかったのだから当然か?」

 

(!!)

 

 少女の後ろから声が聞こえた。少女が後ろを振り向くと、そこには白い服を着た青年がいた。

 

「...貴方は?」

 

 少女は警戒しながらそう問いかけた。

 

「そこまで警戒しなくてもいいだろう。まぁいい、俺はお前たちでいう神って所だな」

 

 青年は自分のことを神と言った。少女には青年の言葉が信じられなかった。

 

「信じられないって顔してるな」

 

「...それはそうでしょう?いきなり現れた人が自分のことを神だと言ったのをすぐに信じる方がどうかしてますよ」

 

「それもそうだな」

 

 青年は苦笑した。だが、少女が神を信じない理由はそれだけではない。

 

「それより、あなたは僕に何の用ですか?」

 

「お前を転生させに来た」

 

「...本当ですか?」

 

「本当だ」

 

 少女は考えた。

 この青年が神かどうかはどうでもいいとして、本当に転生させてもらえて、幸せな生活が手に入るなら是非お願いしたいところだ。

 

「分かりました。転生させてください」

 

「...お前口調が柔らかい割に失礼なこと考えてんな」

 

 さすがに心の中を読まれては、この青年が神ということを信じるしかないようだ。

 

「あはは、それは仕方ありませんよ」

 

 少女は苦笑しながら答えた。

 

「はぁ、まぁいい。それより転生させる世界だが、『ソードアート・オンライン』の世界で主人公キリトの姉として転生してもらう」

 

「?何ですかそれ」

 

 少女は首を傾げた。聞き覚えのない言葉だったからだ。創作物…ではあるのだろうが、全く見当がつかなかった。

 

「小説の…いや書物の一種だ。聞いたことないのも無理はない。お前がいた時代ではまだ出ていなかったからな」

 

「…貴方は僕の居た時代を知っているのですね」

 

「当たり前だろう」

 

 それもそうかと納得する。

 

「さて、転生特典を決めてもらうぞ。限度はあるが複数の特典を決めても構わん」

 

「あまり思いつきませんが…」

 

 取りあえず少女は考える。優先事項はやはり─

 

「─僕と関わった人達の中から僕という存在を消してください」

 

「ほう?何故だ?」

 

 青年の問いに、少女はなんてことのないように答える。

 

「僕なんかが、皆の中にいたところで枷にしかならないからですよ。僕の事情、知ってるんでしょう?」

 

 そう、自嘲気味に笑いながら言った。いや、少女自身はそれすら自覚が無かった。青年は何も言わない、言えるわけがなかった。少女はその沈黙を肯定と取った。

 少女は重い空気になる前に二つ目の願いを言った。

 

「もう一つは、僕の記憶を全て消してください」

 

 

「そうか…分かった」

 

 青年は当然だろう、と思った。何せ、少女の前世は、あまりにも悲痛すぎた。 

 

「そういえば、転生先での僕の名前や姿、性格はどうなるんですか?」

 

「苗字は変わり性格も住む環境によっては多少変わると思うが、基本的には前世と変わらん」

 

 そして、と少女の長い前髪で隠れた左目を指差す。

 

「お前の左目の傷もな」

 

「っ」

 

 咄嗟に少女は左目を抑えた。傷がついているだけではない。少女は、左目が見えていないのだ。

 

 

「...この傷は、転生しても消えないのですか…?」

 

 少女の問いに、青年は申し訳なさそうに答えた。

 

「…すまない。俺には転生したお前の姿を変える権限がない。それはつまり、その左目の傷を消すことも出来んのだ」

 

「...いえ、それならば仕方ありません」

 

 その場を沈黙が包んだ。しかし、青年はわざとその空気を吹き飛ばすように明るい声で口を開いた。

 

「そろそろ転生させんとな。あの扉を開け、中に入れば転生完了だ」

 

 神が指を指した方には先程は無かった扉があった。

 

「分かりました。それでは」

 

 少女はお辞儀をしてから扉に向かっていった。

 

「あぁ、転生する前にお前の名前を教えてくれんか?」

 

「...僕のことは全て知っているのではないのですか?」

 

「知ってはいるがやはり名前は本人から聞かんとな」

 

 神は笑顔でそう言った。少女はため息をつく。

 

「はぁ、分かりました。僕の名前は─和葉です。覚えなくていいですよ」

 

 少女─和葉─はそう答えた。青年はにっこりと笑った。

 

「お前だけに名乗らせるのは悪いな。俺の名前はリョウだ。俺の名前も覚えなくてもいいぞ?」

 

 青年は─リョウも自分の名前を和葉に教えた。和葉は言葉を返すことなく扉の前まで歩いて行く。

 

「それでは行ってきますよ。

リョウ」

 

「あぁ、存分に楽しんでこい。

和葉よ」

 

 そのまま和葉は扉に入っていった。次の人生は、幸せになると信じて─。




ここまで見ていただきありがとうございます!!
では、また次の話で!!
さようなら~


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人物設定+桐ヶ谷家と結城家設定☆ ※修正版

今回は設定です
ではどうぞ

※2017/4/22
修正しました。


設定

 

本名

桐ヶ谷(きりがや) 和葉(かずは)

 

プレイヤーネーム

キリハ《kiriha》

 

原作キリトの双子の姉として転生したが、自分が転生者という記憶がない。前世はかなり悲痛な人生を送っていたようだが…。

 

プロフィール

誕生日:10月7日

身長:160㎝

体重:45㎏

胸のサイズ:B

 

容姿&性格

一人称は「僕」で誰に対しても敬語。キレると敬語が抜ける。ブチギレると一人称「俺」になり言葉も荒くなる。

 

 腰まで届く黒い髪で左目を隠している(原作GGO編のキリトを想像してくれればいいです)

 左目には深い傷があり、これは生まれて間もない頃の交通事故にて、そのときについた傷である。目の傷が原因で虐められていたこともあり、和葉自身はこの傷がコンプレックスになっている。目の傷が小さい頃に出来たことは知っていたが、家族関係も含めて真相を知ったのは10歳のときである。

 

 自分が桐ヶ谷家とは血がつながってないこと、虐めなどが原因で一時期相当荒れていた(言葉が荒くなるのはこれが原因)。現在の口調になったのは、母である翠に直されたから(和葉曰く、その時の翠はめちゃくちゃ恐かったらしい)。現在は血がつながってなくても家族は家族と割り切り仲は良好。

 

 明日加とは家族ぐるみでの幼馴染みであり、妹の佳奈と恋人もとい婚約者であるため可愛がってる。

 ついでに茅場晶彦とは家族ぐるみの知り合いであり親しい。彼のことは明彦と呼んでいる。

 

 基本的には誰に対しても礼儀正しく優しい態度をとり、名前を呼び捨てにする。心を許した人物には態度がさらに柔らかくなる(厳しいときは厳しいが)。

 心を許していない、嫌いな人物にたいしては態度は同じだが、少し口調がきつくなり、相手のことをさん付け、もしくはフルネーム+さん付けで呼ぶ。

 

 自分が傷つくのはいいが家族や友人が傷つけられるとブチギレる(んでもって半殺し)。

 家族や友人が人を殺すぐらいなら自分が殺すという考えの持ち主。

 

 戦闘能力はかなり高い。刀が主な武器ではあるが、基本的にどんな武器でも並み程度には扱える。居合が得意でよく好む。

 

 強い奴と戦うのが大好きな自他ともに認める戦闘症(バトルジャンキー)であり、狂戦士(バーサーカー)である。そのせいか戦うのが楽しくなってくるとテンションが高くなる。ついでに料理は上手。

 

 

人殺しの経験、あり

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

原作キャラ

 

本名

桐ヶ谷(きりがや) 佳奈(かな)

 

プレイヤーネーム

キリト《kirito》

 

 原作でいうキリト。和葉が転生したことにより性別が逆になってしまい、明日加とは家族ぐるみの幼馴染みであり恋人もとい婚約者となる。

 

プロフィール

誕生日:10月7日

身長:160㎝

体重:(無言の殺気

胸のサイズ:B

 

容姿&性格

 和葉とは双子であるためか、かなり似ている。違う点は佳奈は前髪で目を隠していないという点のみ。

 性格は原作通りだが、原作より正義感と精神面が少し強い。

 

 桐ヶ谷家で鍛えられたため、リアルでもだいぶ強い(和葉には劣る)

 

 和葉に明日加との関係でよく弄られているが3人の仲は良好。

 和葉同様、強い奴と戦うのが大好きな自他ともに認める戦闘症(バトルジャンキー)である。

 

 明日加がいろいろと(無自覚に)フラグを立てるので苦労している。

 明日香に弁当を作ってあげるために和葉に教えてもらったので料理は上手。

 

 

人殺しの経験、あり

 

 

 

本名

結城(ゆうき) 明日加(あすか)

 

プレイヤーネーム

アスカ《asuka》

 

 原作でいうアスナ。和葉が転生したことにより性別が逆になってしまい佳奈とは家族ぐるみの幼馴染みであり恋人もとい婚約者となる。年齢も佳奈たちと同い年。桐ヶ谷家に関わっているので茅場とも知り合い。

 

プロフィール

誕生日:9月30日

身長:170㎝

体重:50㎏

 

容姿&性格

 容姿は原作アスナを男にしたバージョン。もちろん三つ編み。

 性格は原作通りだが、佳奈同様原作より正義感と精神面が少し強い

 

 佳奈同様桐ヶ谷家で鍛えられたため、リアルでもだいぶ強い(和葉には劣る)

 

 和葉に可愛がられており本人は嫌がっているが仲は良好。和葉と佳奈が二人そろって戦闘症であるため二人のストッパーである。

 和葉と佳奈が人を殺したことがあるというのを知っている。

 佳奈がいろいろと(無自覚に)フラグを立てるので苦労している。

 料理は原作通り上手。

 

 

以下は桐ヶ谷家と結城家

 

桐ヶ谷家

 

 表の世界だとあまり知られていないが裏の世界、つまり一般人が知らない所ではかなり有名である。一言で表すなら『チート』。

 例として、国がつくったセキュリティを『え?なにそれ美味しいの?』レベルで突破する(桐ヶ谷家全員+明日加の家族)。

 唯一止められるのは、茅場がつくったセキュリティぐらい(とはいえ、数十分あれば突破できるが)。

 

 桐ヶ谷家の戦闘力、最低レベルは素手で大の大人五人を一人で倒し、最高レベルは相手がプロの殺し屋だろうと一人でねじ伏せる。という化け物じみた戦闘力の持ち主たち。(前にどこかの裏グループが桐ヶ谷家に攻め込んで返り討ちにあい、壊滅したらしい)

 

 医療機関は国の最高レベル。というより、いくつかの病院を裏から経営している。

 

 などなど、かなりチートな一家である。何故こうなったかは聞くな。

 

 

 

結城家

 

 こちらは普通の家。ただし、明日加の家族と親戚は桐ヶ谷家と関係しているので、桐ヶ谷家ほどでは無いが化け物じみている。

 結城家は明日香と佳奈の仲を認めている。なお、一部の者は認めていないようである。

 

原作との相違点

 

キリトとアスナの性別逆転

キリトとアスナが幼馴染み+年齢一緒

茅場も知り合い

キリトとアスナはリアルでも強い

キリトと直葉の仲は良好




※12/4
和葉の姿絵を追加しました

和葉は友達に頼み描いて貰いました


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プロローグ ※修正版

ストックが三つほどありますので一日一回上げていこうと思います
ではどうぞ

※2017/4/22
少し修正しました


 ある研究施設のある一部屋。そこで三人の人物がパソコンに向かって作業をしていた。どうやら何かのプログラムを作っているようだ。

 

「終わった~。んじゃ、昌、姉さん、先帰るな~」

 

 一人の少女が立ち上がり、帰る支度をしながら残りの二人に言うと

 

「分かりました。明日加によろしく言っておいて下さいね」

 

「分かった。明日加君によろしく言っておいてくれ」

 

 残りの二人はいったん作業を止めて、少女に振り返りながら似たようなことを言った。

 

「んなっ!何でそこで明日加が出てくるんだよ!!」

 

 少女は顔を赤くしながら叫んだ。それに対して二人は、今度は全く同じ事を言う。

 

「「明日加(君)とデートしてくるん(でしょう/だろう)?」」

 

「うっ」

 

 二人の言葉は図星のようで、少女は言葉につまる。

 

「うぅ、姉さんはともかく、何で昌まで分かるんだよ...」

 

 少女─桐ヶ谷佳奈─は肩を落としながらそう言った。

 

「うむ、伊達に家族ぐるみの付き合いではないからな」

 

「と言っても知り合ったのは七年ほど前でしょう?」

 

 青年─茅場昌彦─の言葉にもう一人の少女─桐ヶ谷和葉─は軽くツッコミを入れる。

 

「はぁ、まぁいいや、んじゃ先帰るな~」

 

 そのまま佳奈は小走りで部屋を出て行った。

 

「楽しんできて下さいね」

 

「楽しんでくるのだぞ」

 

 部屋を出て行った佳奈に二人はそう言った。

 

「さて、残りの部分の設定を終わらせましょうか」

 

 そう言いながら和葉はパソコンに向かい、作業を再開する。

 

「悪いね、正式版『ソードアート・オンライン』の制作を手伝わしてしまって」

 

 昌彦は申し訳なさそうに作業をしながら言った。

 

「いえいえ、こっちも楽しんで作っているので気にしないでください。それよりも、βテスト受けさせてくれてありがとうございます」

 

 同じように作業をしながら、和葉は昌彦にお礼を言った。

 

「そうか、楽しんでもらえたかな?」

 

「えぇ、勿論。しかし、仕方ないと思うのですが水に入ったときに違和感がありすぎでしたね」

 

「ふむ、そこは仕方あるまい。水に入ったときの感覚は完全には再現出来ないからね。正式版では少しましになっているはずだ」

 

「それは良かったです」

 

「それと君達のおかげで『ソードスキル』が思ったより早く完成できた。礼を言う」

 

「それはいいんですが、僕達だけ他のプレーヤーよりも情報量が多いですね。ソードスキルもほとんど覚えてしまいましたし」

 

「君たちの記憶力は相変わらず異常だな」

 

 昌彦は呆れたように溜息をついた。しばらくして会話は途切れ、再びキーボードをたたく音のみが響く。

 

 

 

 数十分後

 

「終わりましたよ、昌彦」

 

 どうやら和葉は自分の作業を終わらしたようだ。

 

「ご苦労だったな。正式版、楽しみにしていてくれたまえ」

 

「えぇ、楽しみにしてますよ」

 

 和葉は帰り支度をしながら言い、それでは、と頭を下げてから部屋を出て行った。

 一人部屋に残った昌彦は

 

「君達なら、私の創った世界をクリアしてくれるか?」

 

 ポツリと、そんなことを呟いた。




はい、如何でしたでしょうか
茅場の口調ってこれであってましたっけ?
それではまた次回


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アインクラッド
リンクスタート ※修正版


2017/5/3
修正しました。


2022年11月6日

 今日は全国が騒がしい。なぜなら、今日が『ソードアートオンライン』、通称『SAO』の正式サービス開始の日だからだ。SAOは世界初のVRMMOPPGだ。このゲームは一万人限定販売のせいか、瞬時に完売したらしい。

 先ほど全国が騒がしいと言ったが、それは桐ヶ谷家も例外ではない。

 

「姉さん!先にログインしとくぜ!」

 

 和葉の部屋の前でそう言ったのは、和葉の双子の妹である佳奈だ。

 

「そんなに大きな声で言わなくても聞こえてますよ。それにしても、楽しみにしすぎでしょう」

 

「そう言う姉さんだって楽しみにしてたくせに」

 

「否定はしません」

 

 その証拠に和葉の顔は楽しみで笑みを浮かべていた。

 

「そろそろ自分の部屋に戻ったらどうですか?もうすぐで時間ですよ」

 

「え?うわ!やば!んじゃ、姉さん、また向こうで!」

 

「分かりました。あと、分かってると思いますが「向こうでは姉さんとは呼ばない!」よろしい」

 

 部屋の外からドタバタという音が聞こえた。おそらく、というか確実に、急いで自分の部屋に戻ったのだろう。

 

(さてと、そろそろ僕も準備しますか)

 

 準備というが、実際はナーブギアという物を頭にかぶりベットの上に寝転がるだけだ。あともう少しであの世界に戻れる、そう考えただけで心が高ぶった。

 

 時間まであと

 ─5─

 

 ─4─

 

 ─3─

 

 ─2─

 

 ─1─

 

 和葉はあの世界に行くための言葉を唱えた。

 

「リンクスタート!」

 

 瞬間和葉の視界が白く染まった。次に目の前には『βテストのデータがあります。使用しますか?』という文字が出て、次に『yes』と『no』の選択肢が出てきた。和葉は迷わず『yes』を押した。そのまま和葉の視界がクリアになっていき、次に目を開けたときには、どこかの街の中にいた。

 和葉─キリハ─は自分の手を見て握ったり離したりして感触を確かめた。

 

「戻ってきました。この世界に...!」

 

 

 

 ここでキリハの容姿を説明しておこう。

 身長は150センチほど、ショートにした赤い髪の毛、目も赤い。

 身長が低い理由として、和葉は「身長低いのに強いのって良くないですか?」というのが理由。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 キリハはしばらくしてから街を歩き目当ての武器屋を目指した。そこが佳奈─キリト─との待ち合わせ場所だからだ。キリハが武器屋に入ったらそこには青年が二人いた。そのうちの一人はこちらに気づいて声をかけてきた。

 

「よぉ、キリハ」

 

「早かったですね。キリト」

 

 そう、この黒髪の180センチほどある青年がキリトである。佳奈はこの世界では男としてプレイしているのだ。

 

「ところで、そちらの方は?」

 

 キリハはキリトの隣にいた青年について聞いた。

 

「あぁ、こいつは「ど、どどどーも!初めまして!自分クラインと言います!23歳どくしnぐはっ!!」何言ってんだ!てめーは!」

 

 クラインと名のった青年が変なことを言い始めた瞬間、キリトはクラインの顔面を見事な回し蹴りで吹き飛ばした。

 

「痛ってぇな、いきなりなにすんだ!」

 

「てめーが余計なことまで言うからだろ!」

 

 目の前で言い合いを始めた二人をキリハは苦笑しながら見ていた。

 

「初めまして、クラインさん。ぼ...私の名前はキリハと言います。よろしくお願いします」

 

 一瞬僕と言いそうになったのを慌てて修正した。ネカマと疑われて面倒なことになるのは避けたい。が、クラインはポカーンとしていて気づいていないようだった。ハッとして正常に戻ったあと、キリトに詰め寄った。

 

「おおい!キリト!おま、何でこんな礼儀正しくて可愛い女の人と知り合いなんだよ!」

 

「うるせぇよ!リアルで知り合いなんだよ!ていうか、本当に女の人かどうか分かんねぇだろうが!」

 

「お前、リアルでこの人知ってんだろ!?だったら本当の性別ぐらい教えてもらってもいいじゃねぇか!」

 

「何でこのゲーム内で知り合って物の数十分のお前にキリハの情報教えなきゃなんねぇんだよ!ぜってぇ断る!」

 

 またしても言い合いを始めた二人を、今度はキリハが二人の頭に向かって二人同時に回し蹴りをヒットさせ吹き飛ばした。

 

「「!?」」

 

 吹き飛んで壁に頭をぶつけ悶絶している二人に歩み寄り

 

「二人とも、ちょ~っと静かにしましょうか」

 

 顔は笑っているが目が笑っていない状態でそう言った。

 

「「はい...」」

 

 二人は顔を青くしながら返事をした。ここでクラインは悟る。キリハはただ礼儀正しいだけではないと。




如何でしたでしょうか?
今回はクラインを登場させました
誤字、脱字がありましたら、教えて下さい!
それではまた次回


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デスゲーム ※修正版

どうも、ナナシ猫です
ストックが終わり次第不定期更新となります

2017/5/3
※修正しました。


 あのあと各自武器を購入し、フィールドに出てキリハとキリトはモーションの確認、クラインはmobと戦う練習を始めた、のだが…。

 

「どりゃあ!うぉ!ぐはっ!」

 

 曲刀を振るが外し、イノシシ型のmob、『フレイジーボア』に突進され吹っ飛ばされた。それを見ていた二人の反応はというと

 

「あははは!クラインさいっこう!」

 

「大事なのはモーションですよ、クラインさん。あとキリト、笑いすぎです」

 

 キリトは腹を抑えて笑い、キリハはアドバイスを送っていた。

 

「いててて、モーションっつったって、あいつ動きやがるんだぜ?キリハ。あとキリト、後で覚えてろよ」

 

 そんなことを言ったクラインに対して

 

「「動くのは当たり前(だろ/でしょう)?

モンスターなんだから」」

 

 二人とも全く同じことを言った。

 

「まぁとりあえずモーションとってみろって」

 

「あのなぁ、お前ら二人はβテスターだけどよぉ、俺はニュービーだぜ?んな簡単にできっかよ」

 

 要するにクラインはどうやればいいか分からないらしい。

 

「んー、なんて言えばいいのかな。上手く伝えられるか分からないけど、構えをとって少し溜めてからドバーンと放つ感じか?」

 

 キリトはそう言いながら足下に落ちてあった石ころを持って投げる構えをとり、少しすると石が右腕ごと青く光り始めた。そのまま投球系ソードスキル《シングルシュート》を放ちフレイジーボアに当てた。

 クラインは今のを見て「モーション...溜める」など言いながら構えをとった。するとクラインの武器、曲刀がオレンジに光り始めた。

 

「どりゃあ!!」

 

 そのままクラインは曲刀のソードスキル《リーパー》をフレイジーボアに当て、少し硬直したかと思うと、爆散し青いポリゴンとなった。

 これがこの世界の死。

 

「いょっしゃー!」

 

「初撃破おめでとうございます、クラインさん。それでもあのmobは他のゲームで言うスライムクラスですけどね」

 

 初撃破して喜んでいたクラインはその言葉を聞いて驚愕した。

 

「んな、そうなのか!?俺はてっきり中ボスぐらいなのかと...」

 

「中ボスがこんな所にうろちょろしてるわけないだろ」

 

 アホなことを言ったクラインにキリトはツッコミを入れた。キリトの言うとおり始まりの街周辺に中ボスクラスのmobがいたら誰もクリア出来ない。クソゲーにも程がある。

 

 

 

 しばらく狩りは続き太陽が沈みかけてきた頃。

 クラインのレベルが一上がり戦闘もなれてきた頃、キリトとキリハはレベルが三上がっていた。

 

 ここでキリトとキリハの戦闘スタイルを教えておこう。

 まずキリトは片手剣を使った剣術と格闘術を合わせて使っている。片手剣で切り裂き、不意を突いてきたmobには回し蹴りがさく裂する。

 キリハはクラインと同じ曲刀だが、居合いと同じ要領で使っている(しかもソードスキルをほとんど使わない)。

 

「どうする?まだ狩り続けるか?」

 

 ある程度mobを葬ってから、キリトはクラインに聞いた。

 

「おう!まだまだ余裕度だぜ!と、言いてぇところだが、ピザの配達十八時に予約してるんだよな」

 

 クラインは腹を抑えながら言った。

 

「抜かりありませんね」

 

 キリハは少し苦笑している。

 

「まぁな、どうする?飯食い終わったあと俺の仲間達紹介するぜ?」

 

「え?あぁ、どうするか」

 

 キリトは(自称)コミュ障なのでクラインの仲間と会ったときもちゃんと喋れるか不安なのだ。それをクラインが察したのか

 

「いいって、無理に会わせようとしてるわけじゃねぇからな。このゲームをやってりゃあ、そのうち会えんだろ」

 

 それを聞いたキリトは少しバツが悪そうな顔をして謝る。

 

「悪いな、また今度紹介してくれよ」

 

「おうよ!んじゃまたな」

 

「クラインさん、また今度」

 

 三人は別れの挨拶をし、クラインはログアウトをしようとして──

 

「なんだ、こりゃあ。ログアウトボタンがねぇぞ」

 

──できなかった。

 

「「は(い)?」」

 

 二人は間抜けな声を出した。

 

「ログアウトボタンが無いわけないだろ。ちゃんと探したのか?」

 

「探したけどねぇんだよ。お前らも探してみろよ」

 

 クラインの言うとおり、キリハ達も探してみたが見つからなかった。

 

「...本当にありませんね」

 

「だろ?」

 

 しばらく三人で考えていると、大音量で鐘の音が鳴り響いた。

 

「「「!?」」」

 

 瞬間三人の体は青いひかりに包まれた。

 

「これは...強制転移!?」

 

 三人が目を開けるとそこは始まりの街の中央広場だった。ここに転移されたのはキリハ達だけでなく全プレーヤーが転移されてるようだ。周りからは「なんだ?」「何かのイベントがはじまるのか?」「くそぅ、いいところだったのに」などの会話が聞こえる。すると上空に『warning』の文字とともに赤いローブが浮かび上がった。

 

【諸君ようこそ、私の世界へ】

 

「私の世界?何をいってんだ?あいつは」

 

 そんな声が所々から聞こえたがローブは構わず続ける。

 

【私の名前は茅場昌彦、この世界の創造者の一人だ】

 

 ローブ─茅場─がそう言った瞬間、ざわめき始めた。

 

「昌彦!?」

 

「なにやってんだ、昌の奴は」

 

「諸君らにはログアウトボタンが無くなったと思うが、それはバグではない。このゲーム本来の仕様だ」

 

 ざわめきが大きくなった。

 

「この世界でプレーヤーが死んだ場合、現実世界の諸君らも死亡し、ナーブギアを外す、もしくは分解しようとした場合も同様だ」

 

 

 どこからか悲鳴が上がった。クラインは顔を青ざめながら叫ぶ。

 

「んなこと出来る分けねぇだろ!!な!?」

 

「…いえ、可能です」

 

 しかし、キリハが肯定したのは茅場の言葉だった。固まるクラインに、キリトが説明する。

 

「ナーブギアは強力な電磁パルスを出力させることが出来る。簡単な話、電子レンジになるんだよ。そんなもので脳が焼かれれば、どうなるかぐらい分かるだろ」

 

 キリトの説明にクラインは黙ってしまった。

 

「君たちのストレージにアイテムをプレゼントした」

 

「アイテム?」

 

 キリハ達は自分のストレージを見てみると『手鏡』というアイテムがあった。それをストレージから取り出し手にした瞬間、光に包まれた。光が収まり、自分の手鏡を見てみると、そこには現実の自分の姿があった。

 周りを見てみると他のプレーヤーの姿も変わっている。皆現実の姿に変わったのであろう。キリハは慌てて自分の左目を確認した。そこには傷も再現されていた。

 

「脱出方法はただ一つ、この城の最上階のボスを倒すこと。それでは、健闘を祈る」

 

 その言葉を最後に茅場は消えた。しばらくして怒号や悲鳴が辺りからから聞こえ始めた。

 

「「クライン!ちょっと(来て下さい/来い)!」」

 

 キリハとキリトはクラインの手をつかみ、横道に入っていった。まだ唖然としているクラインに

 

「クライン、俺達は次の街に行く」

 

「これはリソースの奪い合いです。僕達は貴方を見殺しにしたくない、着いてきて下さい」

 

 その言葉に対してクラインは苦笑いの様なものを浮かべた。

 

「二人の誘いは嬉しいけどよぉ、俺のダチは五人いるんだ。そいつらの誰かだけでも置いて行けねぇよ」

 

 キリハとキリトは唇を噛んだ。クラインを入れて三人までなら誰も死なせずに次の街に行ける自信があるが、六人となるとそれは難しい。

 

「心配すんなって。俺はこれでも他のゲームで五人を引っ張ってったリーダーだぜ?お前らもレクチャーしてくれたし大丈夫だって。それに、女子二人に守られるのも男として情けねぇしな」

 

 クラインは笑顔を浮かべながらそう言った。

 

「…そうですか。それではここでお別れですね」

 

「あぁ。お前ら気いつけろよ」

 

「そう言うクラインも気をつけろよ」

 

 キリハとキリトは街から出ようとした、その時

 

「キリハ!キリト!お前ら二人とも顔似てて結構可愛いな!好みだぜ!俺は!」

 

 そんなことを言ったクラインに二人は言い返す。

 

「お前こそ!その野武士面のほうが百倍似合ってるよ!」

 

「ナンパですか?ですが、ありがとうございます!」

 

 二人はそのまま街を出て行った。いつかまた生きて会えると信じて...。




はい、やっとデスゲームが始まりました
次回はやっとあいつを出します
それではまた次回


7/29
分かりにくい描写があったそうなので修正しました


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再会 ※修正版

2017/5/3
※修正しました。


 あれから二週間、およそ千人のプレーヤーがこの世界から退場したが、いまだに第一層にとどまったままだ。

 現在二人は女だとばれないようにするためにフードをかぶり(幸いにも二人は口調を変える必要がない)ダンジョン内でmobを狩りながら探索していた。

 

「そういえばキリト、聞きましたか?ボス部屋が発見されたそうですよ」

 

「あぁ、聞いたぜ。今日攻略会議をやるらしいな」

 

 二人がそんな会話をしていると、遠くから剣を打ち合う音が聞こえた。会話を止めダッシュで音のする方へ向かう。音の発生源では、一人の青年がゴブリンと戦っていた。二人は唖然とした。何故ならその青年はこの世界に来ているはずのない人物だったからだ。

 ゴブリンがポリゴンになり戦闘が終わり次第二人はその青年に向かって走った。

 足音が聞こえのか青年はこちらを振り向いた、瞬間キリトはその青年に飛びついた。

 

「うわっ!」

 

 青年はびっくりしながらも受け止めた。

 

「え?ちょっ、何?」

 

 青年は混乱しているようだ。それはそうであろう、振り向いた瞬間にフードをかぶった人物が飛びついて来たのだから。だが、その混乱はすぐに収まった。

 

「明日加...」

 

「え、佳奈?」

 

 青年─結城明日加─は飛びついて来た人物の声を聞いて自分の恋人兼嫁だと分かった。

 

「てことは」

 

 明日香はもう一人の人物に顔を向けた。キリハはフードを取る。

 

「やぁ、久しぶりです、明日加」

 

「和葉」

 

 予想通り、和葉であった。明日加─アスカ─は知っている人物、というか幼馴染みとの再会に喜んだが

 

「...んで...」

 

「ん?なんだって?」

 

 キリトがアスカの胸にうずくまった状態で何かを呟いた。その声を聞こうと顔を近づけ─

 

「何で、こんな所に居やがるんだーーー!!!」

 

「ぐはっ!!」

 

─ようとしたアスカだったが、キリトに殴り飛ばされた。壁にぶち当たり悶絶しているアスカに容赦なく蹴りを入れる。

 

「てめぇ、俺が誘ったら出来ないとか抜かしてたよな?ならなんで居るんだよ!」

 

「キリト、落ち着きなさい。それ以上蹴ったら明日香が死んでしまいます」

 

 倒れているアスカに蹴りを入れてるキリトをキリハは止めた。

 

 

 あえて言わせてもらおう。

 なにこれカオス・・・

 

 

 数分後、アスカが回復したので説明をしていた。

 

「いやまぁ、佳奈達を驚かせようと思って、SAOを買った兄さんに理由も説明して今日だけ貸してくれって頼んだんだよ。そしたらOKしてくれてさ。さて探そうとしたけど、入ってから気づいたんだよね。俺、佳奈達のアバターの姿知らないって」

 

「アホ(か/ですか)!?」

 

 まぁ要するにアスカはキリト達を驚かせようとしたらしいが、探せないことに気づいたらしい。なんともアホなことか。

 

「はぁ、それで?俺たちを探していたら、このデスゲームに巻き込まれたと」

 

「まぁそんな感じだな。で、どうせ佳奈達のことだから始まりの街にとどまらないで先に向かってるだろうなと思って武器を調達してここまで来たって訳」

 

「・・・一人でか?」

 

「いや、途中までは一緒に来た人たちがいたぜ?確か六人パーティーだったかな?街を出ようとしたら、そのパーティーのリーダーの人が街を出るのかって聞いてきたから、もちろんだって答えたら「頼む!俺たちも一緒に行かせてくれ!ある奴らに追いつかなきゃいけねぇんだ!」って言って来たからそれはこっちも願ったり叶ったりだから了承したんだ。で、ついさっきまで一緒だったんだ。今は街に戻ってるんじゃないか?」

 

 これで説明は終わりとアスカは言った。二人はそのパーティーリーダーに心当たりがあった。

 

「なぁ明日香、そのパーティーリーダーって野武士面だったか?」

 

「ん?あぁ確かそんな顔だったな。なに、知りあい?」

 

「まぁな、初日にそいつにちょっとレクチャーしたんだよ。まさか本当に来るなんてな」

 

 キリトは嬉しそうな顔をしていた。アスカはムスッとしている。

 

「それより明日香、これからどうするんだ?」

 

 アスカは顔を戻して。

 

「どうするって?」

 

「今日これから攻略会議を街でやるらしいんだけど、明日香も一緒n「もちろん行くさ!」お、おう、分かった...」

 

 基本的に佳奈が明日香を誘った場合、絶対に外せない用事がなければ着いてくる。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

「じゃあ、行きますか」

 

 キリハ達は街に向かいながら自分達のプレーヤーネームを教え合い、まわりに他人が居ない限り本名は呼ばないことにした。(これについてはアスカは抗議したが「「本名をプレーヤーネームにしたアスカが悪い」」と二人に一喝された。)

 三人はこの二週間にあったことを話し合いながら街に向かった。




やっと明日加を出せました
ではまた次回


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攻略会議

 三人は攻略会議をする街の広場に着いた。

 そこには三十人ほどの人たちがいた。

 

「思ったより多いですね」

 

「?そうなのか?」

 

「よく考えてみろよ。

このデスゲームはHPが全損すれば現実の自分も死ぬんだぜ?

ここに居る奴らを悪く言うようで悪いが死にに行くようなもんだろ」

 

 キリハの言った言葉にアスカは疑問だったが、キリトが言った言葉でなるほどと思った。

 キリハが広場にいるプレーヤーを見回していると野武士面のプレーヤーがいた。

 

「クライン!」

 

 野武士面のプレーヤー、もといクラインは自分の名前を呼ばれて振り向いた。

 

「ん?おお!キリハにキリトじゃねえか!

二週間ぶりだな!

アスカはさっきぶりだな!」

 

 クラインは三人の居るところまで歩いて行った。(というかフードをかぶっててよく分かるもんだ。)

 

「えぇ二週間ぶりですね。

元気そうで何よりです。

そちらの方々が前に言っていた人達ですか?」

 

 キリハはクラインに挨拶したあと後ろに居る人達については聞いた。

 

「あぁ、こいつらが俺のパーティーメンバーだ」

 

「リーダー、この二人がもしかして前に言っていた二人っすか?」

 

「そうだ、こっちがキリハであっちにいるのがキリトだ」

 

「初めまして、キリハと言います」

 

「キリトだ。

よろしく」

 

 各自の自己紹介が終わり、クラインが気になっていたことを聞いた。

 

「ところでよぉ、お前さんらとアスカはどういう関係なんだ?」

 

「あぁ、アスカは僕らの幼馴染みでキリトの恋b「アスカてめぇ!可愛い恋人居るじゃねぇか!」「俺は一回も恋人がいないなんて言ってないぞ!?」...二人とも静かにしましょう「「ぐふっ!」」」

 

 目の前で(クラインの一方的な)言い合いをし始めた二人をキリハは腹パンで(物理的に)黙らせた。

 

「はーい、それじゃあ会議を始めさしてもらいまーす。

そこの人達は静かにしてください」

 

 キリハ達は注意されたのでおとなしく座った。

 

「俺の名前はディアベル。

気持ち的にナイトやってます!」

 

 ディアベルと名のった人物に周りは「SAOにジョブはないだろう!」「本当は勇者って言いたいんじゃないのかー!」などとはやし立てた。

 ディアベルは真面目な顔に戻り

 

「昨日俺達のパーティーがボス部屋を発見した。

俺達は始まりの街に残っている皆のために上に進んで行かなきゃならない!そうだろ!皆!」 

 

 これを聞いて口笛を吹くもの、「その通りだ!」と賛同するものなどがいた。

 そこに

 

「ちょっといいでっか!」

 

 声のする方へ向くとサボテンみたいな頭をした男がいた。

 その男は階段を飛び降り、ディアベルの前まで行った。

 

「ワイの名前はキバオウや。

会議始める前にこの中にわび入れとかなきゃならん奴らがおるはずや」

 

「キバオウさん、その人たちはもしかして元βテスターの人達のことかい?」

 

「きまっとるやろがい!

βの奴らはニューピーほっぽって情報も公開せず自分らだけどんどん先行きよった。

そいつらの金と装備を置いてもらわなきゃ命を預かれんし預けるきもあらへん」

 

 この言葉を聞いてキリハはキレる寸前だった。

 確かに自分もニューピーを置いていったが、βテスターの中にはニューピーを見捨てなかったものもいたらしい。

 今は何とか抑えているが次キバオウが何か言ったら抑えられる自信が無い。

 現にアスカ達が何か言っているが聞こえない。

 すると

 

「発言いいか」

 

 200センチを超えるスキンヘッドの黒人が立ち上がりキバオウの前まで行った。

 

「な、なんや、われぇ」

 

「俺の名前はエギルだ。

キバオウさん、情報がないと先ほどいったが情報はあったと思うぞ」

 

 エギルと名のったプレーヤーは懐から手帳サイズの本を取り出した。

 

「ガイドブックだ。

あんたももらったろ?」

 

「もろたで、それがなんや!」

 

「この本を作ったのはβテスターだと言いたいんだが」

 

 エギルの発言に周囲がざわめき出した。

 

「いいか、情報はあった。

だが沢山の人が死んだ。

俺はそれが他のゲームと一緒の感覚でやったせいだと思っている。

そいつらの死も無駄にしないための攻略会議だと俺は思うんだがな」

 

 キバオウは何も言い返せず鼻をならし席に戻っていった。

 エギルがこっちを見た気がしたが気のせいだろうか?

 ディアベルはうなずき、自称コミュ障のキリハとキリトに取ってきついことを言った。

 

「よーし、それじゃあパーティーを組んでくれ!」

 

「「え」」

 

 クラインのパーティーに誘われたが、パーティーの上限は七人、全員でパーティーは組めない。

 結局キリハ、キリト、アスカの三人で組むことになった

 

「それじゃあ今日は一旦解散です!

明日は朝十時集合してください!」

 

 今日は解散となり、三人はクラインたちと別れ自分達の宿へ向かった。



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第一層攻略

どうも、皆さん、ナナシ猫です
今さらですが、お気に入り登録をしていただきありがとうございます!
ちなみにアルゴはキリハとキリトの性別を知っています
あと、今回は有名な海賊漫画の剣士さんが使う技が出てきます


 あれから宿へ戻り情報屋アルゴが来てキリトとアスカがからかわれたり(口止め料を払った。)キリハとキリトの武器が買収されそうになったりといろいろあったが、無事に朝を迎えた。

 朝十時、広場で最終確認をし、攻略隊はダンジョンへ向かった。(キリハとキリトはフードをかぶっている。)

 キリハ達は列の最後列に居る。

 理由としてはキリハ達のパーティーが三人しかいないのが理由だ。

 それからは何事もなくボス部屋に着いた。

 ディアベルは周りを見渡し

 

「皆、ここまで来たら言うことは一つだけだ

勝とうぜ!!」

 

「「「「おぉーーー!!!」」」」

 

 ボス部屋に入り、そこにはここの階層主『イルファング・ザ・コボルト・ロード』がいた。

 

「攻撃開始!」

 

 ディアベルの合図で戦いが始まった。

 キリハ達はボスの取り巻きの『ルインコボルトセンチネル』を担当していた。

 これに関してはアスカが「これじゃあ、ボスに攻撃出来ないじゃないか」等と愚痴を言っていたが、キリトが黙らした。(決して物理ではない。)

 

「ゲージ一本削ったぞ!

残り三本だ!」

 

 ボスには例外なくHPのゲージが複数存在する。

 今回のイルファング・ザ・コボルトロードは四本のゲージがある。

 

「順調ですね」

 

「あぁ、だけど最初が順調だと後が怖いけどな」

 

 キリハとキリトはセンチネルを葬りながら会話をしていた。

アスカもレイピアで葬っている。

 アスカがセンチネルを倒したとき、キリハとキリトにキバオウが何かを言っていた。

 キバオウが去ったあと、キリトは目に見えて不機嫌、キリハは一見普通に見えるが長い付き合いのアスカはキレてるとすぐに分かった。

 クラインはそんなことが分かるはずもないが

 

「どうした?」

 

と聞いたが(キリトがアスカの恋人なのは分かっているのでアスカに任せた)

 

「別に何でもない。

クライン」

 

と敬語ではないので一瞬キリトと間違えたと思ったがアスカの方にキリトがいるので間違ってはいない。(キリハはキレると敬語が消えるがこの時のクラインは知るよしもない。)

 先ほど何でもないとキリハは言ったが、明らかに先ほどよりもセンチネルに対して殺りすぎなほど切り刻んでいる。

 キリトも同様に苛立ちをぶつけるようにセンチネルを殺っている。

 これを見ていた周りのプレーヤーは引いていた。と

 

「ゲージ残り一本!」

 

 コボルトロードのゲージが残り一本にまで減っていた。

 コボルトロードは自分の持っていた武器と楯を捨てた。

 

「へ、情報通りみたいやな」

 

 ガイドブックには残り一本になると武器を曲刀に変えると書いてあった。

 

「下がれ!俺が出る!」

 

 ディアベルは一人でコボルトロードに突っ込んで行った。

 ディアベルがこちらを見て笑ったが、キリハはそれどころではなかった。

 明らかにコボルトロードの腰にある武器が曲刀より細いのだ。

 普段見慣れていない人からすればただの細い曲刀に見えなくもないが、普段から見慣れているキリハはすぐに分かった。

 

─あれは曲刀ではなく刀だ!─

 

 刹那、コボルトロードはソードスキルのモーションに入った。

 キリハはβテストで刀を使っていたし、キリトはキリハと常に行動していたから分かり、だからこそ叫んだ。

 

「「駄目(です/だ)!後ろに(飛びなさい/飛べ)!!」」

 

が間に合わず、ディアベルは刀ソードスキル《旋車》で吹き飛ばされた。

 

「ディアベルはん!」

 

「キリト!アスカ!クライン!あいつを押さえておいて下さい!」

 

「「「了解/おう!!」」」

 

 キリハはキリト達に指示を出し、ディアベルの方まで走った。

 

「ディアベルさん!どうしてあんな無茶を!」

 

 回復ポーションを飲ませながら理由を聞いた

 

「君も...βテスターなら...わかるだろ...」

 

 その言葉だけでキリハには分かった。

 

「ラストアタックボーナス...貴方もβテスターだったんですか...」

 

 その言葉にディアベルは頷いた。

 

「俺は、βテスターだからこそニューピーの皆を引っ張って行かなければならないと思った。

だが、そのためには力が必要だ...皆を引っ張っていく力が...」

 

 ディアベルは理由を話した。

 だから、同じβテスターだったキリハ達をボスから遠ざけたのだと。

 キリハは呆れてため息をついた。

 

「アホですか。

それで死んだら元も子もないでしょうに...。

そこで見てなさい、あいつを葬ってきます」

 

 キリハはディアベルを床に置き、ボスの方に走っていった。

 

「そこ!どきなさい!」

 

 キリハは走りながらキリト達に叫んだ。

 反射的に全員どき、出来た隙間に向かって更に速度を上げた。

 腰の曲刀に手を合わせ

 

「居合、獅子歌歌!」

 

と思ったときにはすでにキリハはコボルトロードの後ろにいて、コボルトロードは斬られていた。

 それを見ていた者は全員唖然とした。

 なにせコボルトロードに向かったと思ったらすでに後ろにいて斬っていたのだから。

 

(やはり刀じゃないとやりにくいですね)

 

「スタン状態です!今のうちに攻撃を!」

 

 キリハは叫んだ。

 その声で皆ハッとなり攻撃を再開した。

 

「相変わらず凄い居合だ、な!」

 

 キリハは現実でも先ほどの技が出来るのだ。

 コボルトロードの体力が赤になり、全員が油断してしまった。

 その隙をついてコボルトロードがソードスキルのモーションに入った。

 先ほどディアベルが吹き飛ばされたスキルだ。

 よけようとするがソードスキルを放った後は硬直時間があるから、よけられない。

 

「させるか!」

 

 キリトが走り、片手剣、突進系ソードスキル《レイジスパイク》を放った。

 

「とどけーーー!!!」

 

 コボルトロードのソードスキルがキバオウ達に当たる前に間に合い、逆に吹っ飛ばした。

 

「アスカ!キリハ!最後、合わせてくれ!」

 

「「了解!」」

 

 キリハ、キリト、アスカの三人は連携で攻撃していった。

 アスカが細剣ソードスキル《リニアー》を放ち、キリハが居合で斬り、キリトがソードスキルを一発たたき込んだ。が、コボルトロードの体力はあと数ドット残った。

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

 勝った気でいるのだろうが、キリトのソードスキルは終わっていない。

 左上からたたき込んだ剣を今度は右上に向かって切り裂く。

 相手をVの字に斬る片手剣二連続ソードスキル《バーチカルアーク》をくらったコボルトロードは体を硬直させ、次の瞬間爆散しポリゴンになった。




どうだったでしょうか?
おかしい所があれば指摘してください


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ビーター

あれ?いつの間にかお気に入り数が50を超えてる...

分かっている人もいらっしゃると思いですが、このssは予約投稿をしています

ではどうぞ


 コボルトロードを倒した後も皆あっけにとられていたが、視界にシステムメッセージと大量の経験値とコルが現れた瞬間、歓声が上がった。

 

「お疲れ様です。キリト、アスカ、クライン」

 

「あぁ、お疲れ」

 

 そこにエギルが近づいてきて

 

「Congratulation.この勝利はあんた達のものだ」

 

 滑らかな英語のあとにそう言った。

 

「いえ、僕たちだけでは無理でした

皆さんの協力があったから...」

 

 それ以上言葉は続かなかった。

 なぜなら

 

「何でだよ!!」

 

 一人のプレーヤーが叫んだからだ。

 そのプレーヤーの名はリンド、ディアベルの側近をしていた男だ。

 リンドはキリハ達、正確にはキリハとキリトを睨んでいた。

 

「何であんた達二人はボスのソードスキルを知っていたんだ!?」

 

 その言葉に周りのプレーヤーも「そういえば...」「ガイドブックに書いてなかったよな」等と言い始めた。

 

「あんたら元βテスターなんだろ!だから未知のソードスキルを知ってたんだろ!」

 

 リンドの近くにいたプレーヤーがそう叫んだ。

 キリハとキリトはこの流れはまずいと考えた。

 自分達だけならともかくこのままでは他の関係のないβテスターまで被害が及ぶ。

 キリハはある考えを思いついた。

 だがこの考えはキリトも危険におかすことになる。

 キリトの方を見ると、どうやら同じ考えをしていたらしい。

 

(相変わらず僕たちは思考が似ていますね)

 

 キリハは苦笑した。

 アスカ達が非難をしていたプレーヤーに何かを言おうとしたとき

 

「あははははははははははは!!」

 

 突然笑い声が聞こえた。

 今笑ったのはキリトだ。

 キリトは顔に手を置き上を見て笑っている。

 よく見るとキリハも口に手をあててクスクスと小さく笑っていた。

 

「元βテスター?俺達をあんな素人連中と一緒にしないで貰いたいね」

 

 キリトは笑いをやめ、口に笑みを浮かべながら言った。

 

「ど、どういうことだよ!」

 

「覚えていますか?二週間前、茅場は自分はこの世界の創造者の一人だと言ったのを...。

では、残りの人たちはどこにいるか?

それは、僕達二人が残りのこの世界の創造者なんですよ。

この世界は僕たち三人だけでつくったんですよ」

 

 クスクスと笑いながらそう言った。

 だから、他にも色んなことを知っている、情報屋なんか相手にならない程にとも二人は言った。

 

「何だよ、それ...。

そんなのチートだろ!?チーターだろ!?」

 

 周りは「そうだそうだ!」「チーターでβテスターだから、ビーターだ!」等と言い始めた。

 キリトはその言葉の中に気に入った言葉があったのか

 

「そうだ、俺達はビーターだ。

他のテスター達と一緒にしないでくれ」

 

 キリトはラストアタックボーナスで手に入れた黒いコートを顔を見られないように羽織りすぐにフードをかぶった。

 

「二層のアクティベートは僕たちがやってあげますよ」

 

「二層に上がったら初戦のモンスターに殺される覚悟をしとけよ」

 

 じゃあなと二人はその場のプレーヤー達に別れを告げ、二層に上がるための階段を上がっていった。

 

 

 

 アスカは少しキレていた。

キリト達を非難していたプレーヤーに....ではなくキリト達にだ(いや、もちろんそいつらに対してもキレていたが)。

 アスカはキリト達を説教するために階段を上がろうとしてエギルとクラインに呼び止められた。

 

「あいつらに言っておいてくれ。

次のボス戦も一緒にやろうってな」

 

「俺からは絶対に死ぬんじゃねぇぞって伝えてくれ」

 

 エギルとクラインに伝言を頼まれて、了承した。

 すると

 

「ワイからも言っておいて欲しいことがある」

 

「俺も頼んでいいかな」

 

 キバオウとディアベルも伝言を頼んできた。

 キバオウは、街の広場で元βテスターを非難していたプレーヤーだから、アスカは内容によると言った。

 

「今回は助けてもろたけど、ワイはワイのやり方で上を目指す、それだけや」

 

「助けてくれてありがとう、それとすまなかったと伝えてくれ」

 

 アスカはそれぐらいなら伝えておくと言った。

 

「じゃあ、気をつけろよ」

 

「エギル達も」

 

 アスカはそのまま階段を上がっていった。

 

 

 

 階段を上がりながら二人は会話をしていた。

 

「これ明日香に説教されるかな?」

 

「十中八苦されるでしょうね」

 

 二人はため息をつき、肩を落とした。

 その後二層に上がり景色を見ていたら明日香が追いつき予想通り二人そろって説教を受けた。

 明日香は二人を説教したあと、四人からの伝言を伝えた。

 

「エギルやクラインは予想してましたが、まさかキバオウとディアベルまでとは...」

 

「予想外だな」

 

 さすがに二人もキバオウとディアベルから伝言をされるとは思っていなかったらしい。

 

「伝言ありがとな、明日香。

じゃあ行こうか、姉さん」

 

「そうですね」

 

 明日香はムっとなった。

 

「これから先は二人だけで行くように聞こえたけど?」

 

「?当たり前だろ?俺達はビーターだ。

一緒にいるのを誰かに見られるとお前まで悪く思われる

俺にはそれが我慢出来ない」

 

「だからってなぁ、彼女一人を悪く言われるのを我慢出来る彼氏がいると思ってるのか?」

 

(あぁ、始まってしまいました)

 

 この二人は言い争いを始めると互いが納得する結果にならないとなかなか止まらないのだ。

 目の前で言い争いを始めた二人を見てため息をついた。

 その後もしばらく言い争いは続き、結局

 

「じゃあ分かった!俺がギルドに誘われるまで佳奈達と一緒にいる!これでどうだ!」

 

「うぅー...それなら...」

 

 どうやらお互いに納得出来る結果に落ち着いたようだ。

 

「終わりました?ていうかそれ、もしそういう状態になったら君、素直に行くんですか?」

 

「あぁ、その辺は大丈夫。

佳奈が女の子として俺と会えばOKだろ?」

 

「ちょっとまて!なんだそれ聞いてないぞ!?」

 

 どうやら今のは明日香が独断で決めたらしい。

 

「だってさ、毎日とはいかなくても一週間に数回は佳奈と恋人として会わないと俺死んじゃうしさ」

 

 佳奈はうめき声を出し、考えた。

 自分の本当の性別がばれる危険をおかすか、明日香と一週間に数回恋人として会うか、この二つを天平にかけたが

 

「分かった」

 

 天平にかけるまでもなくほぼ即決した。

 結局は明日香が佳奈に依存してるように佳奈も明日香に依存しているのだ。

 

 

 

 

 ちなみに余談だがこの後、甘い空気を出し始めた二人を見て和葉は心の底からブラックコーヒーか抹茶が飲みたいなと思ったとか。




はい、如何でしたでしょうか
これにてストックは終わりです
次の投稿はいつになるのやら...
それではまた次回


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月夜の黒猫団

どうも、次からは不定期更新だとか言っておきながら次の日に上げてしまったナナシ猫です
今回は黒猫編です
ではどうぞ



 あれからおよそ四カ月、現在の最前線は二十九層。

 今からおよそ二ヶ月前、アスカは『血盟騎士団』というギルドに入った。

 キリト達とはギルドに誘われるまでは一緒にいる約束だったためアスカは泣く泣く入った。

 

 

 

 現在キリハ達は素材集めのため第十一層に降りてきていた。

 

「んー、だいぶ集まったな。

どうする?そろそろ帰るか?」

 

「そうですね、帰りますか」

 

 帰ろうしたキリハ達だったが、遠くからモンスターの鳴き声と武器の打ち合う音が聞こえたためそちらに向かった。

 そこには、五人パーティーが大量のモンスターに襲われていた。

 キリハは更に速度を上げ刀に手を合わせ

 

「居合、獅子歌歌!」

 

 居合でパーティーの後ろから来ていたモンスターを斬った。

 

「え!?」

 

「後ろは僕たちがやります!君たちは前の敵だけを倒して下さい!」

 

「...分かりました!恩にきります!」

 

 キリハ達は今は非常事態だよなと思い普通に上位のソードスキルも使い、即行で全滅させた。

 

 

 

「ありがとうございました!おかげで助かりました!」

 

 モンスターを全滅したあと、このパーティーのリーダーであるケイタからそう言われた。

 どうやらこの五人はギルドメンバーらしい。

 ギルド名は『月夜の黒猫団』、メンバーはリーダーのケイタ、紅一点のサチ、ササマル、ダッカー、テツオ、全員リアルの友達らしい。

 こちらも自己紹介をしたら、(敬語は使わなくていいと言った。)ケイタがしばらく考え込み

 

「同じ黒のローブ、片方は刀使い、片方は楯なし片手剣、もしかしてあんた達が攻略組の最強コンビ、キリハとキリトか!?」

 

 どうやらキリハ達の噂は中層まで届いていたらしい。

 ということは二人がビーターだという噂も届いているだろう、これは批判されるかなと二人は思ったのだが...

 

「頼む!俺達を鍛えてくれ!」

 

「「...は?」」

 

 言葉を理解するまで少しフリーズした。

 

 

 

 その後、何とか回復した二人はケイタ達に自分達がビーターだというのを知っているかと聞いたら

 

「知ってるけど、噂で聞くほど悪い人達じゃなさそうだから」

 

 笑顔で言われ、二人は絶句した。

 まさかそんな理由で人を信じるとは...。

 

「...分かりました、引き受けます。

それで、大体どのくらい鍛えて欲しいですか?」

 

 この子達はお人好しなのだろう。

 まぁ、それだけで引き受けてしまう二人も大概のお人好しだが...。

 

「えっと、攻略組までとはいかないけど、最前線の一つ下の層はいけるぐらいまで、かな」

 

 なんともまぁ、かなりの無茶ぶりを言っているケイタである。

 二人が黙ったので、これは行き成りすぎたか、と思い今の発言を取り消すつもりだったのだが...

 

「OK、分かった。

だが俺らが鍛えるからには最前線に行っても死なないぐらいに鍛えるからな」

 

「ちなみに僕らの鍛え方は周りの人が言うにはスパルタらしいので、覚悟してくださいね」

 

 と二人は怖いぐらいの笑顔で言った。(フードで口以外は隠れているが)

 これを聞いた五人は(あ、これ絶対やばい...)と思い後悔したとか。

 

 

 

 キリトはアスカに〖二週間ほど攻略休む〗と理由もつけてメールを送った。

 アスカからは〖了解〗と来たので

 

「さて、さすがに長い期間は休めないから二週間で最前線でも死なないぐらいに鍛えるからな」

 

「「「「「...」」」」」

 

 五人は絶句した。理由は分かると思うが無理にも程がある。

 ちなみに五人の平均レベルはおよそ十三、安全マージンはその階層+十レベルはないと危険だ。

 つまりこれから二週間で五人のレベルを二十五はあげるということだ。

 

「まぁ、そこまでスパルタにはしないようにするので、頑張って下さい」

 

 キリハは苦笑しながら言った。

 五人はホッと胸をなで下ろしたが─

 

「それではこの階層でいいので、まずはモンスター五匹を一人で倒してみて下さい。

もちろん同時、ですよ?」

 

─すぐに絶望した顔になった

 

「もちろん危なくなったら助けるがな」

 

 それを聞いても安心できない。なぜなら先ほど襲われた時に一人頭五匹の数だったからだ。

 

─モンスターを同時に五匹とか絶対無理(だ)っ!!!!─

 

 とまぁ、当たり前のごとくそんなことを思ったのだが...

 

「やりますよね?」

 

「やるよな?」

 

 悪魔の笑みを浮かべた二人を前に首を縦に振るしかなかった...。

 

─やっぱこの人達、スパルタだ(よ)っ!!!!─

 

 

 

 あれから二週間、不慮の事故でササマルに胸を触られ二人の性別がばれたこと以外(ササマルは半殺しにされた)は何の問題もなく宣言通り二週間で最前線に行けるところまで月夜の黒猫団は強くなった。(後に黒猫団は語る、あの修行は本気で死ねると...)

 

「だいぶ強くなりましたねぇ。

まさか本当に二週間で最前線まで行けるようになるとは思いませんでした」

 

─そりゃあ、あのスパルタだから(な/ね)っ!!!!─

 

 五人はこの二週間で何度目か分からないが心がシンクロした。

 え?どんな内容かって?

 ...聞かないほうがいいこともあるんだよ...。

 

「さて、僕たちは攻略に戻りますね」

 

「お前達が攻略に参加するの待ってるぜ」

 

 二人はそのまま帰ろうとして

 

「本当に、ありがとうございました!!!!」

 

「「「「ありがとうございました!!!!」」」」

 

 五人に礼を言われ二人は返事の代わりに手を上げて答えた。

 

 

 

 その数日後、月夜の黒猫団というギルドが攻略組に参加した。




はい、月夜の黒猫団を生存させました
あんまり原作キャラ死んで欲しくないんですよね...
まぁ、クズには死んでもらいますが
それではまた次回

※8/9
一ヶ月は長いと思い二週間にしました


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ビーストテイマーの少女

またしても不定期更新だとか言っておきながら更新してしまったのナナシ猫です

シリカ編です、ではどうぞ


 ここは三十五層、迷いの森と言われてるダンジョン。

 今この迷いの森で五匹のモンスター─『ドランクエイプ』─に襲われてる青い小竜をつれた少女がいた。

 少女の名前はシリカ、SAO初のビーストテイマーだ。

 稀にアクティブなモンスターが友好的に接してくることがある。

 その際にモンスターにあった餌を与えることで仲間にする。これができた者をビーストテイマーという。

 本来ならシリカ一人でこのダンジョンは突破できない。

 なら何故一人でいるのか、シリカはパーティーでこのダンジョンに入ったがアイテムの分配についてパーティーメンバーの一人、ロザリアと喧嘩してしまったのだ。

 ロザリアは「あんたにはそのトカゲが回復してくれるから回復アイテムはいらないでしょ」といい、それにキレたシリカは「あなただって前衛に出ないから回復アイテムはいらないでしょう!?」と言ってしまった。

そこからも口論が続き、結果頭に血が上ったシリカはパーティーを抜けてしまった。

 

 

 シリカはドランクエイプと戦っているうちに回復アイテムがきれてしまった。

 その隙をつきドランクエイプはシリカを持っている棍棒で吹っ飛ばした。

 シリカの体力ゲージは赤に突入した。ドランクエイプはとどめをさすためにシリカに棍棒を振り下ろした。

 だがその攻撃はとどくことはなかった。何故ならシリカがテイムしたモンスター『フェザーリドラ』─ピナ─がアルゴリズムから離れた行動、主人を攻撃からかばったのだ。

 迷いの森では上位にはいる強さを持つ攻撃をくらえばステータスの低いテイムモンスターでは耐えられない。

 ピナは一枚の羽を残して死んだ。

 シリカはその羽を持ち、近づいてきた影を見上げた。そこには次こそはとどめをさすために棍棒を振り上げたドランクエイプがいた。

 だが、今度は振り下ろすことも出来なかった。五匹のうち三匹が細切りにされ、残りの二匹は首が斬られ、爆散した。

 シリカが唖然としているとドランクエイプを倒したのであろう二人がいた。

 二人は黒のコートでフードを被り、一人は片手剣を左右の手に一つずつ持ち、もう一人は大きな鎌を持っていた。

 

「すまない、君の友達を助けられなかった...」

 

 その言葉でピナが死んでしまったことを認識したシリカは泣き出してしまった。

 

「すいません、そのアイテムに名前はありますか?」

 

 黒のコートを着た人物(どちらかは分からない)はそう言ってきた。

 シリカは羽をタップした。アイテムの名前は『ピナの心』と書いてあり、またしても泣き出してしまった。

 

「ちょ、泣くな、そのアイテムが心のうちはまだ蘇生出来る可能性がある」

 

「ほんとですか!?」

 

 その言葉にシリカは飛びついた。

 いきなりのことに驚きつつも説明を始めた。

 

「えぇ、確か四十七層の思い出の丘にテイムしたモンスターを蘇生させるアイテムが見つかったようです」

 

 喜んだシリカだが、階層が分かった瞬間目に見えて落ち込んでしまった。

 

「依頼料金をもらえれば俺達が行ってきていいんだけど、そのアイテムはテイムして本人が行かないと入手出来ないらしいんだよなぁ...」

 

「...いえ、情報をくれてありがとうございます。

今は無理でもレベルを上げればいつかきっと...「残念ながら三日経つと心から形見に変化して蘇生出来なくなるらしいです」そんな...」

 

 シリカのレベルは三十九、三日では絶対に四十七層まで行けない。

 シリカがあきらめかけていると

 

「そうでした。キリト、確か僕らが装備しない武具がありましたよね?」

 

「...なるほどな」

 

 シリカの目の前にトレード画面が現れた。どれも見たことがない装備だ。

 

「これを装備して、レベルを底上げして俺らがついて行けば四十七層に行くことが出来るはずだ」

 

「...どうして、そこまでしてくれるんですか?...」

 

 シリカは警戒心をたてた。うまい話には裏がある、これはこのゲームの常識だ。

 キリトと呼ばれた人物は一度口を開きかけたが言いにくいのか、すぐに口を閉じた。

 

「...笑わないって約束するんだったら言う」

 

「笑いません」

 

「君が...妹に似てたから...」

 

 予想しなかった返答にシリカは一瞬ポカーンとしたが、その返答が面白くて笑ってしまった。

 もう一人もクックックッと笑っている。

 

「ああ、くそ、だから言いたくなかったんだよっ。

ぶっ飛ばすぞ、キリハっ」

 

「やれるものならやってみなさいよ」

 

 今度は目の前で喧嘩を始める二人をみてシリカは今度こそ毒気を抜かれた。

 

─悪い人達じゃないんだ─

 

 シリカは立ち上がり

 

「初めまして、シリカと言います。

助けてくれてありがとうございました」

 

 シリカは君があの?と言う反応を期待したが、二人は普通に挨拶をしてきた。

 

「キリハです、よろしくお願いしますね」

 

「キリトだ、よろしくな」




今回は二回に分けることになりました
ではまた次に


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死神兄弟

えー、今回の話を詰め込んだらいつもの二倍の長さになってしまいました
つまり長いです

ではどうぞ


「そういえば、お二人はなんで迷いの森にいたんですか?」

 

 街に戻りながらシリカは二人が迷いの森にいた理由を聞いた。

 

「ちょっとスキルのレベル上げを」

 

 そういえば、さっき助けてくれた時に見たことない武器を持っていた気がする。

 シリカがそれをきいたら、二人は周りを見渡し、「「秘密(ですよ/だぜ)?」」と言い

 

「俺はユニークスキルの《二刀流》だ」

 

「僕もユニークスキルの《大鎌》です」

 

 シリカは驚いた。

 ユニークスキルは普通のスキルと違い一つのスキルにつき、一人しか獲得出来ない。

 今確認されているユニークスキルは血盟騎士団団長、ヒースクリフの《神聖剣》のみだ。

 噂によればクォーターポイントの二十五層のボス戦で活躍したらしい。

 

 

 

 街に戻ったらキリハ達、正確にはシリカによってきたプレーヤーがいた。

 

「シリカちゃん、パーティー抜けたんだって?」

 

「今度は俺達と組もうよ」

 

と言ってきたがシリカは

 

「えぇっと、お誘いは嬉しいのですが...。

しばらくこの人達と組むことになったのでお断りします」

 

と言った、まぁ当然のごとくキリハ達を二人のプレーヤーはじと目を送った。

 

「おいあんたら、この子とは俺達が先に約束してたんだけど」

 

「そんなこと言われましても...成り行きですし...。

それなら貴方達も行きますか?四十七層」

 

 二人は四十七層と言う言葉に驚き、なにも言えなくなった。

 

「私が頼んだんです、ごめんなさいっ」

 

 三人はそのまま立ち去った。プレーヤーはなごり惜しいのか「また連絡するねぇ」と言っていた。

 

「すいません、迷惑かけちゃって」

 

「シリカは人気者なんだな」

 

「いえ、マスコット代わりにされてるだけですよ、きっと...。

それよりキリトはさん達はどこに泊まるんですか?」

 

 暗い雰囲気を変えるためかシリカは話題を変えてきた。

 それに気づかない二人ではないので

 

「僕たちは上層に拠点があるので今日はここに止まっていきましょうか」

 

「戻るの面倒くさいからな」

 

「本当ですか!ここのチーズケーキすごく美味しいんですよ」

 

と話していると前から一人の女プレーヤーが来た。

 

「あら、シリカじゃない」

 

「ロザリアさん...」

 

 前から来たプレーヤーの名前はロザリア、シリカと喧嘩したプレーヤーだ。

 

「無事で良かったわねぇ。

あら?あのトカゲはどうしたのかしら、もしかしてぇ」

 

 ロザリアはわざとらしく言う。

 テイムしたモンスターはどこにもしまうことは出来ない、常にそばにいる存在なのだ。

 そばにいないということの意味をロザリアが知らないはずがない。

 

「ピナは死にました。でも!必ず生き返らせます!」

 

「あんたの力で行けるのかしら」

 

「行けるさ。そこまで難易度の高いダンジョンじゃあないからな」

 

 さすがに黙ってるのが嫌になったのか、というよりも黙っていられなくなったのであろうキリトは、口をはさんできた。

 

「あんた達もたらし込まれた口?あんまり強そうに見えないけど」

 

 シリカを侮辱する言葉を放つロザリア、キリハ達が嫌いなタイプだ。

 まぁ、当然キレるわけで

 

「...人を見た目で判断しない方がいいよ、おばさん」

 

「んなっ!何を・・・っ!?」

 

 キレているキリハはロザリアに殺気を向けた。その殺気は周りのプレーヤーも体を固めた。

 キリハは殺気を沈ませながらシリカに

 

「行きましょうか」

 

「あ、はい」

 

 キリハ達は宿屋に向かった。後ろからの視線、否、周りからの視線を感じながら。

 

 

 

「なんで、あんな意地悪をするのかな」

 

 シリカは宿屋の中で先ほどのことを思い出しながら言った。

 

「君はMMOはSAOが初めてなのですか?」

 

 シリカは頷いた。

 

「どんなゲームにもキャラクターに心を移せばキャラが変わるプレーヤーはいる。そしてゲームの中なのだからと何でもしていいと思う奴もいる。

それも真実だが、このデスゲームになってもそう思う奴が多すぎるっ!殺していいなんてルールがあっていいはずがないんだっ!」

 

 いきなり立ち上がったキリトにシリカはビクッとした。

 それをキリハが落ち着かせ、キリトは「済まない」と言いながら座った。

 

「キリトさんはいい人です!私を助けてくれましたから!」

 

 キリトは一瞬ポカーンとして微笑んだ。

 

「慰められちゃったな、ありがとう、シリカ」

 

 その後、シリカに明日の予定を教えて各自部屋に戻り就寝した。

 

 

 

 四十七層『フローリア』別名フラワーガーデンと呼ばれている。

 そこのフィールドにキリハ達はいる。キリハ達二人はレベル的に問題なく、シリカもレベルが上がっており装備も強いので問題はないはずなのたが...

 

「キャアアアアっ!?」

 

 シリカはフィールドのモンスターを見て悲鳴を上げた。

 一言で言うと歩く花、正確には花の根が足になっており花の部分には口がある。

 正直に言えばキモチワルイ。

 このモンスターを初めて見たときはサチが悲鳴を上げていたので予想はしていたがシリカは関係ない方向にソードスキルを放っていた。

 

「落ち着け、シリカ。

そいつは根の白い部分を叩けば倒せる」

 

「は、はい!」

 

 その一言でシリカは落ち着き、言われたとおりにモンスターの弱点を攻撃した。

 短剣連続ソードスキル《ラビットバイト》で花のモンスターはポリゴンになった。

 そこからはシリカも慣れたのか普通に倒していた。(顔は引きつっているが。)

 

 

 そんなこんなで三人は思い出の丘に着いた。

 そこにはテイムモンスター蘇生アイテム《プネウマの花》があった。

 

「これでピナが生き返るんですね」

 

「えぇ、でもここだと危ないので街に戻りましょうか」

 

 三人は思い出の丘をさり、街への道を戻っていった。

 街が見え、石橋を渡っているなか、キリトはシリカの肩をもち止めさせた。

 

「キリトさん?」

 

「そこにいる奴ら、出て来い」

 

 キリトがそう言うと木から一人のプレーヤーが出て来た。

 その顔はよく知っている者だった。

 

「ロザリアさん!?」

 

「私のハイディングを見破るなんて索敵能力が高いのね、剣士さん。侮っていたかしら。

その様子だと首尾良くプネウマの花を入手出来たみたいね。おめでとう。

それじゃあ、その花を渡して貰いましょうか」

 

 ロザリアは途中から声色を変えて脅すように言ってきた。

 

「そうはいきませんね、ロザリアさん。

いえ、タイタンズハンドのリーダーさん、と言った方がいいですか」

 

 キリハがそう言った瞬間ロザリアの笑みが消えた。

 

「え、でもロザリアさんのカーソルはグリーンですよ...」

 

「オレンジギルドといっても全員のカーソルがオレンジな訳じゃない。

今回のようにギルドの何人かはグリーンのギルドもいる。

相手を安心させるために」

 

「じゃ、じゃあ、私達のパーティーにいたのもっ」

 

 ロザリアはもう隠す必要がないからか

 

「えぇ、そうよぉ。

あなたを選んでいたのだけど途中で抜けたからどうしようかと思ったわ。

でもプネウマの花をとりにいくって言うじゃない。

でも、あんた達もそこまで分かっててのこのこ行くなんて馬鹿なの?それとも本当にたらし込まれちゃった?」

 

 またしてもシリカを侮辱する言葉を放つロザリア。

 シリカが飛びだそうとするのを止めながらキリトは言った。

 

「いや、俺達もあんた達を探していたんだよ。

お前らが殺したギルドの生き残りのプレーヤーが依頼してきてね。

それとさっさと他の奴らも出したらどうだ」

 

 ロザリアは舌打ちをし、手を上げ指を鳴らし他のメンバーを呼んだ。その数ざっと十人。

 

「キリトさん、キリハさん、人が多すぎます。

逃げましょうよ」

 

「大丈夫だよ」

 

「キリト、僕がやるよ」

 

「キリハさんっ!」

 

 シリカは逃げようと提案するがキリハ達はオレンジギルドを潰すつもりだ。(それに、キリハがキレている。)

 シリカが言った名前が聞こえた瞬間、何人かがうろたえた。

 

「キリハ?それに、さっきキリトって...。

『神速』に『黒の剣士』?」

 

「やばいよロザリアさんっ。

こいつらビーターの攻略組で、死神兄弟だ!」

 

 シリカはビーターと死神兄弟という言葉を聞いたことがあった。

 ビーターは情報を独占するプレーヤー、死神兄弟はPK(プレーヤーキル)をするギルドを中心に犯罪ギルドを黒鉄宮送りにするプレーヤー二人のこと。

 

─それがまさかキリハさんとキリトさんだったなんて─

 

「攻略組がこんなとこにいるわけないじゃない!それにこの人数に勝てる訳ないわ!」

 

「そうだ!それに本当に攻略組だったらすげぇアイテム持ってるぜ!」

 

 攻略組に勝てるわけないという思考はもはやこいつらにはない。

 

「死ねやーー!!」

 

 一人のプレーヤーがソードスキルを出しながら飛び出し、他のプレーヤーも飛び出した。

 だがキリハは慌てず装備を刀から大鎌に変えた。

そして腕を横にふり─

 

「「えっ?」」

 

─容赦なく二人のプレーヤーの首を切り落とした。

 本来ならここでポリゴンに変わるはずだが、斬られたプレーヤーは転移した。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「これは僕のユニークスキルの特殊能力。

この能力をONにしていると斬られたプレーヤーは強制的に黒鉄宮送りにされる。

たとえ首を斬ろうともね」

 

 キリハは淡々と説明しているが声は冷たかった。

 先ほどまで余裕を見せていたのは相手がこちらを斬ることがないと思っていたからだ。

 だが相手はこちらを容赦なく斬る、それだけのことで敵は土気を失った。

 

「さて、ここには依頼者が全財産をはたいて買ったコリドー結晶がある。

お前達にはこれで黒鉄宮にとんで貰う」

 

 もうタイタンズハンドには戦意が失われている。

 コリドーで開いた道にメンバーは入っていく。

 一部の者は斬りかかってきたがすぐにキリハが斬り、黒鉄宮に送った。

 後はロザリアで最後だが、あがくつもりのようだ。

 

「やってみなよ、私を斬ればあんたがオレンジに...」

 

「残念だがこれでグリーンを斬っても僕はオレンジにはならない。

入りたくないんだったら僕が送ってやるよ。

じゃあな」

 

 キリハはロザリアを斬り、黒鉄宮に送った。

 

 

 しばらくは誰も口を開かなかったが

 

「すいませんシリカ、君を囮にするような真似をしてしまって...。

街まで送りますよ」

 

 

「いえっあの...腰が抜けちゃって...」

 

 その一言でキリハ達は笑い、シリカをおぶり街に戻っていった。

 途中シリカが

 

「あのぉ...とても言いにくいのですが、素顔を見せてもらえないでしょうか」

 

 二人は迷わず頷き、フードをとった。

 シリカの第一印象としては、二人とも顔が似ている、次にキリハは左目を隠している、最後に

 

「お、女の人ぉぉぉぉぉお!?」

 

 ...しまらない終わり方である。



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デート

今回はいつもより短いです
先に行っておきますがタイトル詐欺です

ではどうぞ


 これはまだ最前線が二十層の時であり、アスカが血盟騎士団に入ったばかりの時である。

 

 

 この日アスカとキリトはデートの約束をしていた。

 待ち合わせ時間は二人が忙しくない時間に合わせ、この時のために二人とも服はアインクラッド一の仕立屋プレーヤー『アシュリー』のオーダーメイドの服を仕入れてある。

 キリトは心を弾ませながら待ち合わせ場所に行ったが...

 

「...遅い」

 

 待ち合わせ時間を五分過ぎてもアスカが来ないのだ。

 明日香ぶっ飛ばす、と危ない思考をしていると。

 

「そこのねぇちゃん、俺達と遊ばない?」

 

 プレーヤー数人がナンパしてきた。

 今キリトは女物の服を着ており、いつもは下ろしている髪をポニーテールにしているため、誰も『黒の剣士』だとは思わないだろう。

 

「遠慮する、彼を待ってるんだ」

 

 こう言うのは適当にあしらうのが一番と思い自分には彼氏がいると言ったが、なにせキリトの容姿はかなり可愛い(美しいではない)部類に入るので男達が放っておくはずもなく

 

「いいじゃん、そんな奴より俺達と遊んだ方が楽しいって」

 

(ウゼェ)

 

 そして何より明日香をバカにしたこいつらをぶっ飛ばしたい、などと思っているが前もってキリハとアスカに「「目立つようなことは(するなよ/しないように)」」と言われてしまっているので物騒なことは出来ない。

 だからといって助けを呼ぼうにも周りのプレーヤーは見て見ぬふり、といきなり男がキリトの手をつかんだ。

 

「!さわんなっ!」

 

 現実での話、女性の場合普通の人と変わってる方が受けがいいときがある。

 この時みたいに...

 ついキリトは男口調で話してしまい、男達は「ヒュ~」と口笛を吹いた。

 

「なに?君のその男口調ってわざと?」

 

「その言葉づかいじゃあ、彼氏も別れちゃうよ~?」

 

 またしても手を男がつかんできたのでつい条件反射で体術ソードスキル《閃打》を放ってしまった。

 圏内ではダメージはくらわないが衝撃は発生する。これは威力が大きいほど吹っ飛ぶ。

 キリトのレベルは攻略組でも群を抜いている。

 そんな攻撃を食らえばどうなるか、もちろん言わずともだが吹っ飛ぶ、軽く十メートルぐらい。

 吹っ飛ばされた男を見て周りの男は唖然としていたが

 

「て、てめえ!いきなりなにすんだ!」

 

「そっちが勝手に手をつかむのが悪いんだろ?」

 

 雲行きが怪しくなってきた。

 そろそろこの男達は乱暴なことをしてくるだろう。

 まあ、そういうことになってもキリトは平気だが...

 男の一人がこちらに飛びかかってきた。

 キリトはその男に攻撃しようとした瞬間、その男が消えた、否吹っ飛んだ。

 

「「「!?」」」

 

「俺の彼女になにしてくれやがってるのかな~?」

 

 男を吹っ飛ばした人物はアスカ、キリトが待っていた人物だ。

 キリトはアスカに走りより

 

「おっせぇんだよ!」

 

「いったぁ!」

 

 そのままアスカに飛び蹴りした。

 

「で、閃光様はなにしてて遅れたのかなぁ?」

 

「ちょ、ちょっと待って!恐い!恐いって!ちょ、ジリジリ近づいてくんのやめて!悪かったって!ギルドのことで遅れちゃったんだって!団員が離してくれなかったんだよ!」

 

 どうやらアスカはギルドで何かしらの作業をしていて遅れたようだ。

 ...これは後で聞いた話だがアスカを離さなかった団員はどこからかアスカがデートに行くという情報を仕入れたらしい。

 

閑話休題(それはともかく)

 

「わかった!後で佳奈の好きな食べ物を作るから!」

 

 その一言でキリトは動きを止め

 

「本当か?」

 

 アスカは首を縦にふった。それはもう首がちぎれんばかりに...

 

「わかった、それで許す。

だけど次遅れたら、分かってるよなぁ?」

 

「りょ、了解...。

で、こいつらぶっ飛ばそうか」

 

 先ほどまで波長の外だった男達に向けてのいきなりのぶっ飛ばす発言。

 男達は「「え」」という反応をしたがすぐにぶっ飛ばされた。

 その後男達はボコボコにされ、アスカに「次俺の彼女に手出したら、分かってるよなぁ?」と脅しをかけられた。

 

 二人はその日、誰にも邪魔されずに楽しいデートをした。

 その日以降アインクラッドには『閃光の彼女に手を出したら殺される』という噂が流れたとか...

 

 

 ちなみに余談だが、次のデートからはアスカが合流するまでキリハがキリトをナンパから守ることになった。(必要なのかはわからないが...)




デート描写なんて自分に書けるわけないだろう!
はい、すいません、pixivのアスキリ小説を見ていたらキリトがナンパされるシーンがあったので書きたかっただけです


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五十層攻略

ボスの名前が他の小説の人とかぶっていると思いますが決してパクリではありません


 今攻略組は第二クオーターポイントの五十層を攻略に来ていた。

 第一クオーターポイントの二十五層では主に『軍』が大打撃を受け軍のほとんどのプレーヤーが攻略組から撤退したが中には残っているプレーヤーもいる。

 軍のギルドリーダーのシンカー、リーダー補佐のディアベル、副リーダーのキバオウ含めた十人ほどだ。

 ちなみにキバオウだがあれから考えが変わったのか普通にキリハ達に接してくるようになった。

 

 

 五十層のボスの名前は『The Gate keeper(ザ・ゲートキーパー)』、意味は『門番』。姿は、簡潔に言えば一つ目の巨人だ。

 大きさ的にはビル十階ぐらいだろうか。

 ここまで大きいと弱点の目に攻撃を当てるのは困難だと誰もが思うだろう。そして今回のボス戦は死者は多数出るだろうと予想が立てられた。

 理由としては第一クオーターの二十五層の時に死者を多数だしてしまったからだ。その時の死者は約十名。

 クオーターポイントのボスは他の層のボスよりも断然強いのだ。

 そして今回は第二クオーターポイント、かなりの苦戦がしいられるはずだった(・・・)...

 気づいただろうか?そう、だった(・・・)である。

 

 現在、攻略組はボス戦を始めているが苦戦しているのではなく、善戦しているのである。

 理由としてはある三人のプレーヤーがいるからだ。

 一人は一番最初にユニークスキルを手に入れた《神聖剣》の所持者『血盟騎士団』団長ヒースクリフ、一人はブラッキーの愛称で呼ばれておりユニークスキル《二刀流》所持者『黒の剣士』キリト、最後の一人は主にオレンジギルドから『死神』として恐れられているこれまたユニークスキル《大鎌》所持者『神速』キリハ。

 攻略組トップスリーのメンバー全員がユニークスキルを持っていると言うだけで攻略組の土気が上がった。

 だが、たかがそれだけでは善戦とまでは行かない。では何故善戦しているのか、それは...

 

「あっははははは!!ほらほらぁ!クオーターのボスともあろう者がそんなもんですか!?もっと僕を楽しませてくださいよぉ!!」

 

「おいおい、そんなもんかぁ?もっと俺を楽しませろぉ!!」

 

 戦闘症(バトルジャンキー)二人組が自身のユニークスキル《二刀流》と《大鎌》で暴れているせいだ。

 さらにキリハは戦闘症(バトルジャンキー)なだけでなく狂戦士(バーサーカー)であるせいか人格が変わっている。

 要するに「最高にハイってやつさぁ!」である。

 《大鎌》は名の通り鎌が仕えるようになるスキルである。

 鎌の利点はリーチも長く攻撃力こそ斧に近いが軽さが刀ぐらいなのでキリハには普通に振りまわせる。

 悪い点といえばリーチが長い分、片手剣ぐらいの間合いに入られると攻撃出来ないぐらいだ。

 周りは最初、だれおま状態であったがもはや慣れたことなので気にせずボスに攻撃していると

 

「ゲージあと一本!」

 

「侮るなぁ!攻撃パターンが変わるぞ!気を引き締めろ!」

 

 ボスの体力ゲージが残り一本になりボスの攻撃パターンが変わる。

 これは第一層から分かっていることだ。

 ボスは武器を素手から大剣に変えた、ボスの半分はある大剣だ。

 これには一部の者を除いて焦った。先ほどまではボスが素手であり攻撃範囲が狭いから何とかなったが、それが大剣になるとリーチが伸びよけるのは困難になるが、そんなの関係ねぇ!と言わんばかりに二人は突っ込む。

 二人の戦闘スタイルは『殺られるまえに殺れ』『当たらなければどうと言うことはない』という感じだ。

 実際二人はボス戦が始まってからほとんどダメージを受けていない。

 ちなみにアスカも活躍しているが二人が目立ちすぎて目立っていないだけである。

 

「グオォォォォオ!!」

 

「なぎ払い来るぞぉ!」

 

 他のプレーヤーは部屋の端によけているにも関わらず二人は突っ込む。

 なぎ払いのタイミングに合わせジャンプでよけ、そのまま大剣に乗っかりゲートキーパーの上を走る。

 顔の前まで行きそれぞれソードスキルを放つ。

 大鎌八連擊ソードスキル《デスサイス》

 二刀流十六連擊ソードスキル《スターバーストストリーム》

 ソードスキルが弱点である目に当たりHPを大幅に減らした。

 結果ゲートキーパーは暴れキリハ達を振り落とした。

 

「「うわっ!」」

 

 これにはさすがに周りのプレーヤーも焦ったが

 

「ほいっと」

 

「ほっ」

 

 振り落とされたのが壁の近くだったおかげで二人は体術ソードスキル《壁走り》を使い普通に降りてきた。

 とそこにアスカが近づいてきて

 

「危ないことすんなよ...」

 

「これ、全然危なくないんだけど...。

ならアスカもやってみろよ」

 

「...そうだな」

 

 副団長ぉ!?という団員の声はスルーされた。

 だってアスカだから、キリトとキリハ、主にキリトのためなら何だってしちゃうアスカだから仕方ない。

 ちなみに攻略組の半分はキリハ達の性別を知っているので、キリトとアスカの関わりは微笑ましい(一部殺気だつ)のだが事情を知らない者からすれば勘違いが生まれる。(今はそうでもないが。)

 

閑話休題(それはともかく)

 

 アスカはやるといったらやる。

 ゲートキーパーが再びなぎ払いをしてきた時に三人は大剣に跳び乗りボスの上を走って行った。有言実行である。

 そのまま三人は目にソードスキルを放った。

 もともとボスの体力ゲージは赤に突入していたからかボスはポリゴンになり、歓声が上がった。

 死者ゼロ名、ボス攻略にかかった時間一時間、速すぎやしないだろうか。

 いや、決してボスは弱くない。むしろ全然強い部類に入る。

 クオーターのボスが弱かったら苦労しない。キリハとキリトのユニークスキル(と個性)が強すぎるのである。

 こうして苦戦が予想された五十層のボス攻略戦は死者ゼロで終わった。




シリアスだと思った?残念シリアルでした~
...すいません調子に乗りました

圏内事件編書かなくていいですか?めんどくさ(殴
それよりも、早くALO編書きたい...


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圏内事件

遅れてしまい申し訳ございません!!
最近SAO見てないからなんて書けばいいのか分からなくて...

それでは圏内事件編です
どうぞ!


 最前線五十九層

 現在、攻略組は五十九層のフィールドボスの攻略会議をしていた。

 

「フィールドボスを村に追い込む!」

 

 その一言で周囲がざわついた。

 村にはNPCとはいえ人がいる。さすがにデータとはいえ人の形をしている物を囮には使えない。

 だが

 

「と言いたい所だけど、何人か、主にキリトとキリハが納得しないだろうし、俺ボコられるのやだしな」

 

「「さすがに分かって(るな/ますね)」」

 

 そんな理由でやめるんかい!?という言葉を言った者はいなかった。

 なぜなら前回それを言った奴がボコボコにされたからだ。誰だって自分の命は惜しい。

 ちなみに何人かのプレーヤーはホッとしていた。

 

「さて、どうするか。

安全なのはさっきの案だけど、それだと俺がボコられるから、それ以外で何か案がある者はいるか?」

 

 プレーヤーは考え込む。なかなかいい案が出てこないみたいだ。

 すると

 

「もういつもどうりでいいんじゃねぇか?」

 

 クラインが発言した。その案に反論する者はいなかったが皆が渋い顔をした。(一部の者は賛成のようだ。)

 クラインの言ったいつもどうりとは、戦闘症(バトルジャンキー)二人組が突っ込み他のプレーヤーが援護をする形だ。

 この案は被害は絶対出さないのだが、この案だと他のプレーヤーがラストアタックボーナスを手に入れられない。

 それが渋い顔をした理由だ。

 

「んー、まぁフィールドボス攻略はまだだから、それまでに他に案が出なかったらそれで行くか。

それじゃあ今日は解散!」

 

 

 

 

 会議が解散したあと、キリハ達は木の陰で昼寝をしていた。

 そこにアスカが来て

 

「お前らはまたこんなとこで寝てんな」

 

「ん?明日香か。

今日はアインクラッド一の昼寝日和だからな。

明日香も寝るか?」

 

「そうするか」

 

 即答である。

 バカップルめっ...!!

 

「それじゃあ、僕が見張っておくので二人は寝ていいですよ」

 

 キリハは苦笑しながら言った。

 

「お、まじで?サンキュー」

 

「その前に僕と佳奈は着替えましょうか。

変な誤解を生みたくないので」

 

「そうするか。

明日香、周りを見張っといてくれ」

 

「了解」

 

 二人は周りにアスカしかいないからということで普通に着替え始めた。

 着替え終わった姿は誰が見てもキリハとキリトとは分からないだろう。

 

「これでいいだろ。

んじゃ寝るか」

 

「OK、和葉見張りよろしく」

 

「了解です」

 

 そのまま二人(バカップル)は寝た。

 余談だが、偶然通りかかったプレーヤー達(攻略組含む)はキリハに許可を取り二人の寝顔を撮ったらしい。(キリハには「ばらまいたら特定して相応の罰を受けていただきます」と恐い笑顔で言われた。)

 

 

 

 キリトとアスカは夕暮れ時に起きた。

 

「おはようございます。

よく寝てましたね」

 

「ん~、おはよう、姉さん、明日香」

 

「おはよう、なぁ今からレストラン行かね?

たまには外食でいいだろ」

 

 ということで三人は街のレストランに行くことになった。

 

 

 三人はレストランで食事をしながら会話を弾ませていると

 

「きゃああああああああ!!」

 

 外から悲鳴が聞こえた。

 三人はすぐさま外に飛び出し悲鳴が聞こえた所に向かった。

 そこには信じられない光景があった。

 青いプレートアーマーを着た男が建物─教会だろうか?─の二階からロープで吊られている。さらに男の胸には鎧ごと貫通している剣があった。

 胸からは赤いエフェクトが出ていた。ダメージを受けている証拠だ。

 ここは圏内、ダメージを負うことはあり得ない。

 一瞬呆気にとられた三人だがすぐに我を取り戻し

 

「何してんだ!!早く剣を抜け!!」

 

 アスカが叫んだのが聞こえたのか男は剣を抜こうとしたが恐怖のあまりに力が入らないのか抜けない。

 

「二人とも!!僕がロープを切るので受け止めてください!!」

 

「「了解!!」」

 

 キリハは走りながらストレージを操作し、短剣を取り出した。

 そのまま建物の壁を走り男の目の前まで行った。

 男は目を見開いたがすぐに違うところに目を向けた。

 おそらく自分のHPバーを見ているのだろう。

 そして男は何かを口にし、爆散した。

 その場にいたプレーヤー全員が呆気にとられていたが

 

「皆!winner表示を探してくれ!」

 

 圏内で死ぬことはあり得ない。死んだ理由を取ればデュエルしかない。だからアスカはこの場にいるプレーヤー全員に指示をした。

 だが

 

「winner表示が、ない...?」

 

「姉さん!上からは見えるか!?」

 

 キリトは上からなら見えるだろうと思いキリハに聞いたが

 

「駄目です!こちらからも見えません!」

 

「なっ!くっ!」

 

「おい!佳奈!」

 

 キリトは建物の中に走っていった。

 だが中には誰もいなかった。

 

「駄目だ...三十秒たった...」

 

 winner表示が移されるのはデュエルが終わってから三十秒のみ、つまりそれを超えたら探せない。

 

 

 キリハ達はこの場にいたプレーヤー達に先ほどの騒動を最初から見ていた人はいないかと聞けば、一人の女性プレーヤーが出てきた。

 

「さっき悲鳴を上げた人は君か?」

 

「は、はい...私の名前はヨルコと言います」

 

「さっきの人と知りあいなのか?」

 

「はい...彼、カインズって名前何ですけど、元々同じギルドメンバーで、だからたまに一緒に出かけるんですけど、今日も一緒に食事に来て、そしたら...まさか、こんなっ、ことになるなんて...」

 

 途中までは平静を保っていたがカインズが死んだことを思い出して泣き出してしまった。

 

 

 

「...」

 

 そんな中、キリハは一人何かを考えていた。




変なところで切ってしまいました
おかしい所があれば教えて下さい、できるだけ訂正します


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捜査(実験)

皆さんお久しぶりです、ナナシ猫です
遅くなってしまい大変申し訳ございません<m(__)m>
おそらくこれからも一ヶ月に1回投稿出来ればいい方となると思います

それではどうぞ


 とりあえずヨルコは宿に送り後日また改めて聞くことになった。

 

「厄介なことになったな」

 

「あぁ、圏内でPKが出来ることになってるんだったら街の中まで安心出来なくなる」

 

「...本当にカインズは死んだんでしょうか」

 

「?どういうことだ?和葉。

彼は俺達の目の前で死んだじゃないか」

 

 キリハの言った言葉にアスカは疑問を持ち、先ほど起こったことを言った。

 

「いえ、死んだことは確認していません。

僕達が見たのは目の前でポリゴンになった、ということだけです」

 

「どういうことだ、姉さん」

 

「この世界でも人の動体視力は変わらないように設定しているので、彼がポリゴンになった時に一瞬ですが死んだときとは違うエフェクトがありました」

 

 なるほど、と二人は納得した。

 キリハの動体視力はアホみたいに高い。

 時速二百キロまでなら余裕で目で追えるレベルだ。ちなみに時速百八十キロぐらいまでならキリトも追える。

 先ほどキリトがエフェクトが見えなく、キリハが見えたのはキリハがカインズの目の前にいたからだろう。

 

「明日ヨルコさんから詳しいことを聞きに行くことにして、今日は少し実験をしましょうか」

 

「「実験?」」

 

「ええ」

 

 

 

 

 三人は圏外に来た。

 

「で?和葉、今から何をやろうとしてんだ?」

 

 アスカが何をするかを聞いた。

 

「まずは圏外で武器を刺し、そのまま圏内に入るとどうなるか、と言う実験です」

 

 ...少しばかり恐ろしいことをやるつもりのようだ。

 二人はなるほどと思ったが

 

「誰がやるんだ?まさか姉さんがやるつもりじゃないだろうな?」

 

とキリトが聞くとキリハが、何言ってるだこいつみたいな目で見てきた。

 

「え?何言ってるんですか?僕が言ったのですから僕がやるに決まっているでしょう」

 

 さも当然のように言った。が

 

「アホか!何で姉さんがやるんだよ!俺がやる!」

 

「佳奈こそアホか!そういう危険なのは男の俺がやるに決まってんだろ!」

 

とまぁ、言い合いが始まるわけで。

 これだとらちがあかないのでキリハは自分のピックを腕の甲に突き刺した。

 

「「!!」」

 

「早く入りますよ」

 

 キリハがさっさと圏内に入ったので二人も急いでキリハについて行った。

 圏内に入るとダメージエフェクトが消えた。念のため自身のHPゲージも見てみると減っていなかった。

 

「ふむ、やはりバグってはいませんでしたか」

 

「「(和葉/姉さん)!なんでいきなり刺すんだよ!」」

 

 二人は圏内に入った瞬間抗議をしてきた。

 キリハはため息をつきながら

 

「仕方ないでしょう。二人とも言い合いが長いんですから」

 

 その言葉に二人は「「うっ」」となる。

 

「それに僕としてはこれは実験というより確認ですね」

 

 それに二人は頭に?を浮かべた。

 キリハは呆れたような(実際呆れてる)顔をした。

 

「明日香はともかく佳奈まで忘れたんですか?

この世界を創ったのは僕達でもあるんですよ?」

 

「「あ」」

 

 キリハはまたも呆れてため息をついた。

 アスカはともかくキリトまでも忘れているとは思わなかったのだ。

 

「そういえば、圏内を設定したのって姉さんだったよな」

 

「なるほど、それでバグが起こってないかを確認したのか」

 

 ここでやっと二人は理解できた。

 

「まぁそういうことです。

次はこの武器と道具ですね」

 

 キリハがそう言って出したのはカインズを貫いていた剣とカインズを吊っていたロープだ。

 

「僕は鑑定スキルをとってないのでエギルに頼みましょうか」

 

「なんでエギルなんだ?

他にも鑑定スキルを持っている奴なんているだろ」

 

「「...」」

 

「分かったからそんな表情すんなよ...」

 

 

 

 というわけで三人は五十層のエギルの店に来た。

 

「よぉ、エギル」

 

「その格好で来るなんて珍しいな、二人とも。

アスカもいらっしゃい」

 

 基本的にキリハとキリトは男の格好でエギルの店に来る。

 極たまに女の格好で来ることもあるが。

 

「少しエギルに頼みたいことがありまして」

 

 そう言ってキリハは剣とロープを取り出した。

 

「これらを鑑定すればいいのか?」

 

「えぇ、話が早くて助かります」

 

「俺のとこにも五十九層の事件の情報が入ったからな。

それよりも本当なのか?圏内で人が死んだっていうのは」

 

「はい、少なくともwinner表示を見たのは俺達も含めて誰もいませんでした」

 

「そうか、それよりアスカ、そろそろ敬語外してくれねぇか?どうも仲良いやつに敬語で話されんのは慣れねぇ」

 

「年上に敬語使うのは癖になってるので無理です」

 

「エギル、それより早く鑑定してくださいよ」

 

 キリハに言われエギルはまずロープの鑑定を始めた。SAOの鑑定はアイテムをタップすればスキル値に応じた情報が出てくる。

 

「駄目だな。ただの市販のロープだ」

 

「まぁそうだろうな。カインズのHPが消えるまで持てばいいんだろうからな。本命はこっちだ」

 

 キリトはエギルに剣を差し出した。エギルは剣を鑑定した。すると

 

PC(プレイヤー)メイドだ」

 

「!作った奴の名前は?」

 

「名前はグリムロック、綴りは《Grimlock》。聞いたことねぇな。少なくとも一端の鍛冶屋じゃねえ。まぁ自分用の武器を作る奴もいない訳じゃねぇが...」

 

「分かりました。ありがとうございます。

で、俺達はグリムロックさんを探せばいいわけだな」

 

「そう簡単に見つかればいいですけどねぇ」

 

 キリハは深いため息をついた。

 

「っと、そうだエギル、その武器の名前はなんだ?」

 

「ちょっとまてよ...名前は《ギルティソーン》、罪のいばらって意味だな」

 

「罪のいばら、ですか」

 

 武器の名前はシステムが勝手に決める。だからあまり名前には意味が無いのだが、キリハ達は意味があるように思った。




和葉「皆さん、うちの駄作者のせいで投稿遅れてしまってすいません
皆様の代わりに細切りにしておくので」
∑ちょっとまていっ!!なぜにここにいる!?ダンまちに出てるからってこっちでも出てくんなよ!!
和葉「うるさいですねぇ、とりあえず斬られなさい」
ちょ、ギャァァァァァァア!!


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捜査 祖の弐

何とか10月以内に投稿できた...


 武器の鑑定が終わった後、四人は第一層《始まりの街》の《生命の碑》に来た。これにはSAOに入っている一万人すべてのプレイヤーの名前がのっている。さらに死亡者の確認もできる

 今回、生死を確認するプレイヤーは二人、グリムロックとカインズだ。カインズの綴りはあらかじめヨルコに聞いていた。綴りは《Kainz》。

 《生命の碑》にはSAOにログインしたプレイヤー全員の名前が記されている。死亡してしまったプレイヤーには名前の上に横線が刻まれており死亡した日にち、原因、死亡時刻も記されている。

 ここに来たのはグリムロックとカインズの生死の確認に来た。カインズはキリハ達の目の前で消えたのだがそんなことでキリハが納得出来るわけない。

 そういうことでまずは《G》の列でグリムロックの生死を確認すると

 

「...生きてるな」

 

「ああ」

 

 次はカインズの生死を確認するため《K》の列を探していると

 

「カインズは、死んでるな...。

日時も一緒だ」

 

「死亡日時は、四月の二十二日、十八時二十七分、原因は貫通ダメージ...か。

姉さん、これでもまだカインズは生きてるって言うのかよ?」

 

 キリトがキリハの方を見ると《生命の碑》を見ていて何かを探していた。

 

「和葉、誰を探しているんだ?」

 

「えぇ、カインズと読める他の綴りを探してました。もう見つけましたが」

 

 そう言ってキリハが指を指したのは《C》の列、そこには《Caynz》という名前があった。横線は無し、つまり死んでいない、だが二人には疑問に思うことがあった。

 

「なんで他のカインズを探したんだ?」

 

「ヨルコさんが嘘をついてる可能性もあるからですよ」

 

 キリハはヨルコを疑っているようだ。

 

「仮に姉さんの言っていることが本当だとして、どうしてそんなことをしたんだ?」

 

「さぁ、僕は当事者ではないので分かりません。

さて確認は終わりましたし、グリムロック氏は明日探すとして今日はいったん解散しましょうか」

 

「あのよぉキリハ、オレの本来の職業は戦士じゃなく商業でだなぁ...」

 

「分かってますよ、助手役は今日で解約です」

 

 別にエギルは事件の真相を探るのが面倒くさいわけではない。だが圏内でプレイヤーを殺したプレイヤーが怖いわけでもない、逆だ、今までモンスターに向けていた怒りが爆発しそうなのだ。そのプレイヤーにあった瞬間に...。

 

 

 エギルと別れ三人はキリトのホームに向かっていた。最初キリトはアスカについてこなくてもいいと言ったのだが「彼女を家まで送ってくのが彼氏の役目だろ?」と言ってきた。キリトは説得を諦めた。アスカはキリトを送った後キリハも送ってくつもりだ。(二人は別々の宿に泊まっている。)

 三人が雑談をしていると七人のプレイヤーに囲まれた。全員に共通点があり、青のプレートアーマーをつけている。元ギルド《ドラゴンナイツ・ブリゲード》、現《青竜連合》通称《DDA》、攻略組三大ギルドの一つだ。

アスカはメンバーのうち、顔見知りに話し掛けた。

 

「こんばんは、シュミットさん」

 

 シュミットと呼ばれたプレイヤーは眉間にしわを寄せ早口で言った。

 

「...聞きたいことがあってあんた達を待ってたんだ」

 

「へぇー、誕生日と血液型、じゃなさそうだな」

 

 そんな冗談を言ったアスカにキリトとキリハは蹴りを入れ、シュミットはさらにしわを寄せた。

 シュミットはキリハ達が女だということを知っているプレイヤーの一人だ。キリハ達が女だと知っているプレイヤーにはそのことを言わないという暗黙の了解が存在する。ちなみに破ったプレイヤーはミンチにされる。理由は、まぁおわかり頂けると思う、どうやらシュミットは守っているようだ。

 

閑話休題(それはともかく)

 

 今現在、壁を背にしているキリハ達は《DDA》のメンバーに半円に囲まれている。非マナー行為の一つである《ボックス》まではいかないが輪の外に出るには誰かしらの体に触れなければならず、これもまた非マナー行為の一つ《なんちゃってボックス》だ。

 キリハはため息を押し殺し、シュミットに聞いた。

 

「答えられる範囲なら教えます、何を聞きたいんですか?」

 

「...今日起きた圏内事件のことだ。

Winner表示が出なかったっていうのは本当なのか?」

 

 その問いにキリハは頷いた。

 

「少なくとも広場にいたプレイヤーは誰も見ていませんでした。まぁ見逃したという線もなくはないですが...」

 

 シュミットは口元をきつく結んだ。しばらく黙っていたシュミットは口を開いた

 

「...もう一つ聞きたいことがある。死んだプレイヤーはカインズと聞いたが...」

 

「それも本当です。《生命の碑》に確認しに行きましたが日にちと死因は一致してました」

 

 シュミットは息が詰まったような声を出した。と今度はキリハが質問をした。

 

「今度はこちらが質問をします。あなたはカインズ氏と関係あるのですか?」

 

「...あんた達にはかん「関係ないとは言わせませんよ」」

 

 キリハはシュミットの言葉を遮った。

 

「事件を目の前で見ている以上、僕達は関わっています」

 

 キリハの言葉にアスカは頷いた。

 

「あぁそうだな。それに俺達はなんとしても今回の事件の手口を調べないといけない。

じゃないと他の街も危険にさらされるからな」

 

「手口が分かれば対処策はうてる。アスカ達はどうか知らないがはっきり言って、俺は犯人が誰かなんてどうでもいい」

 

 見つけたら見つけたでぶっ飛ばすけどな、とキリトは言い、キリハとアスカは苦笑した。

 

「まぁ、そういうことですので、協力しませんか?」

 

 キリハの問いにシュミットは首を

 

 

縦に振った。




見ていただきありがとうございます!
おかしい所があったらご指摘ください


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捜査 祖の参

今回は月の始めに投稿出来たぜー
和葉「相変わらずの駄文ですけどね」
まぁね...


 とりあえず、もう時間も遅いので明日他の人(ヨルコのことだ)に話を聞いてからシュミットに話を聞く、ということになった。

 と突然アスカが口を開いた。

 

「なぁ佳奈、和葉、一応確認するがシュミットさんは犯人だと思うか?」

 

「「(ないな/ないですね)」」

 

 キリトとキリハは間髪入れず答えた。

 

「そう言うと思った、根拠は?」

 

「まず一つ目に犯人なら足をつくことを恐れて武器を回収にくることはない。回収するぐらいなら最初から残さないからな」

 

「次に二つ目、この世界の感情表現はかなりオーバーに設定してあります。シュミット氏のあの怯えた表情は僕が見た限りでは演技ではないですね」

 

「まぁそれもそうか」

 

 今度は誰にも絡まれずキリトとキリハのホームに着いた。

 

 

 

 翌日、時間通り十時ぴったりに宿屋から出て来たヨルコだがあまり眠れなかったのか瞬きを何度も繰り返しながら三人に一礼した、三人も同じく頭を下げた。(ちなみにキリトとキリハの二人は昨日と同じ服装だ。)

 

「悪いな、友達が亡くなったばかりなのに...」

 

「いえ、良いんです。私も早く犯人を見つけて欲しいですから...」

 

 四人は昨夜、キリト達が夕飯を食べ損ねたレストランに入った。盗み聞きを警戒するなら宿屋の方がいいのだが、それだと聞き耳スキルが高いプレイヤーに盗み聞きされてしまう。

 全員が朝食を済ませているようなのでお茶をオーダーし、本題に入る。

 

「まずは報告ですが、昨夜《生命の碑》に確認に行ったところ、カインズさんはあの時刻に亡くなっていました」

 

 アスカの言葉にヨルコは短く息を吸い込み、頷いた。

 

「そうですか...ありがとうごさいます。わざわざ確認しに行っていただいて...」

 

「いや、いいんだ。こっちでも確認したい名前があったからな」

 

 そしてキリハが質問を放った。

 

「ヨルコさん、この名前に聞き覚えがありますか?一人は《グリムロック》、もう一人は《シュミット》」

 

 俯いていたヨルコが一瞬震えた。そしてゆっくりと、縦に頷いた。

 

「はい、知っています。二人とも、昔、私とカインズが所属していたギルドのメンバーです」

 

(やはりそうですか)

 

 三人は視線を合わせ頷いた。となればもう一つの推測、昔そのギルドで今回の事件の原因となった《何か》があったのかも確認しなければならない。

 そしてキリハはさらに質問を重ねた。

 

「もう一つ質問があります。答えにくいことだと思いますが、事件解決のために本当のことを教えて下さい。

何か心当たりか何かはありますか?」

 

 今度はすぐに反応が返ってこなかった。ヨルコは顔をあげ、頷いた。

 

「はい、お話しします。あの事件のせいで私達のギルドはなくなりました」

 

 ヨルコ達が所属していたギルドの名前は黄金林檎、攻略が目的ではない八人の少数メンバーであり宿屋代と食事代のためだけに安全な狩りを行っていた。だが半年前、中層のダンジョンに潜っていたヨルコ達は今まで見たことないモンスターとエンカウントした。そのモンスターがレアモンスターだと一目で分かり大騒ぎになった。追いかけまわし誰かの投げたダガーが命中し、倒せた。ドロップしたアイテムは鑑定した結果、敏捷が二十も上がる指輪だった。

 その後はギルドで使おうという意見と売却しようと二つの意見に別れた。かなりケンカに近い言い合いのあと多数決で決めることになった、結果は五対三で売却。黄金林檎のリーダーが前線まで持っていって売りに行った。

 他のメンバーはカタログを見ながら、武器を買おう、服を買おうと言いあっていた。だが次の日になってもリーダーは帰ってこなかった。嫌な予感がしたメンバーは《生命の碑》を見に行き確認しに行った所、リーダーは死んでいた。

 

「死亡時刻はリーダーが指輪を売却しにいった日の夜、深夜一時でした。死亡理由は、貫通属性ダメージでした...」

 

「レアアイテムを持って圏外に出る筈はないよな...。

てことは《睡眠PK》か」

 

 キリトが呟くとアスカも頷いた。

 

「半年前なら手口が広がる直前だ。宿代を節約するために公共(パブリック)スペースを利用するプレイヤーも少なくなかった頃だ」

 

「前線近くは宿代も高いですしね。ただ偶然とは考えにくいですね。リーダーさんを狙ったのは指輪のことを知っていたプレイヤー、つまり...」

 

 瞑目したヨルコがこくりと頭を動かした。

 

「黄金林檎の残り七人の誰か...私達もそう考えました。

でもそのせいで皆が皆を疑う状況になってしまい、そこからギルドが崩壊するまで長い時間はかかりませんでした」

 

 再び重苦しい沈黙が場を這った。

 ヨルコの話してくれたことは、とても嫌な話とともに充分にあり得ることだ。

 キリハが質問をした。

 

「売却に反対した三人は誰ですか?」

 

「カインズ、シュミット...そして私です。

でも彼らと私とでは理由が違いました。カインズとシュミットは前衛戦士(フォワード)として使いたいから、私は当時カインズと付き合い始めたからです。バカですよね...ギルドの利益よりも彼氏への気兼ねを優先しちゃうなんて...」

 

「君はギルド解散後もカインズさんとつきあっていたのか?」

 

 アスカの質問に首を横に振った。

 

「解散と同時に自然消滅しちゃいました。たまに会って近況報告するくらいで...長く一緒にいるとどうしても指輪事件を思い出しちゃいますから。だから昨日も夕食だけのつもりだったんですけど、まさか...あんなことに...」

 

「そうか、でもショックなのは変わらないよな。すまない、辛いことを色々と訊いてしまって」

 

 ヨルコは再びかぶりを振った。

 

「いえ、いいんです。それでグリムロックさんなんですけど...彼は《黄金林檎》のサブリーダーと同時にリーダーの《旦那さん》でもありました。もちろんSAOでの、でしたけど...」

 

「リーダーさんは女の人だったのか...」

 

「ええ、とっても強い─と言っても中層レベルの話ですけど─片手剣士で、美人で、頭もよくて...私はすごく憧れていました。だから今でも信じられないんです。あのリーダーが《睡眠PK》なんて粗雑な手段で殺されるなんて...」

 

「それじゃあグリムロック氏もショックだったでしょうね。結婚するまで愛していた人が死んでしまうなんて...」

 

 キリハの言葉にヨルコは頷いた。

 

「はい、それまではいつもニコニコしている優しい鍛冶屋だったんですけど...事件後からはとても荒んだ感じになっちゃって...ギルドが解散してからは誰も連絡を取らなくなったので今はどこにいるかも判らないです」

 

「そうですか。色々辛いことを聞いてしまって申し訳ないのですが最後にもう一つだけ質問をさせてください。カインズ氏を貫いていた武器を作ったのを鑑定した結果、グリムロック氏でした。

カインズ氏を刺したのはグリムロック氏だと思いますか?」

 

 この問いは半年前の指輪事件の真犯人がカインズか、と訊ねているのと等しい。

 ヨルコは極小さな動きで首を縦に振った。

 

「...はい...その可能性はあると思います。でもカインズも私も、リーダーをPKして指輪を奪ったりなんかしてません。

もし昨日の事件の犯人がグリムロックさんなら...あの人は指輪売却に反対した三人、カインズ、シュミット、そして私を

 

 

 

全員殺すつもりなのかもしれません」




本当なら最初からシュミットとヨルコを話させようとしたんですけど
和葉「ちょっと作者的に無理があるということで結局、原作と同じ方向にもっていきました」
おかしい所がありましたら報告よろしくお願いします<m(__)m>


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捜査 祖の肆

早くSAOの方を完結させて下さいとの要望が出されたので、できるだけ早く投稿しようと思います。

ではどうぞ


「ヨルコさん、これからシュミットさんを連れてきてもよろしいですか?」

 

 ヨルコの言葉で沈黙したあと、キリハはそう切り出した。ヨルコはピクッと動いて、肯定した。

 「誰か部屋の前で待機しときますか?」と聞いたら「いえ、部屋の中なら大丈夫です」と断った。

 ということでヨルコを宿まで送り、シュミットに『これからそちらに行く』とメールを送った。すぐに『分かった。門番には話を通しておく』と返信してきた。ということはDKBの本部にいるのだろう。確かに自分の宿よりはギルド本部の方が安心できるだろう。

 キリハ達三人はDKBの本部に移動した。本部の前には恐らく門番の役割をしているプレーヤーがいた。ギルドの中にはギルドの者か、許可した者しか入れないので門番は実際必要ないのだが...。

 それはさておき、門番には話が通っており三人がプレーヤーの前まで行くと本人確認(アスカとキリハ達二人の特徴を聞いていたのだろう)をして、シュミットを呼んでもらった。シュミットはすぐに来た。場所を変え現在はレストランにいる。

 先に口を開いたのはシュミットだった。

 

「...あんた達には協力をすると言った。だから言える範囲なら言う」

 

 それならと質問をしたのはキリハだった。

 

「それでは、半年前に起きた指輪事件について知っていることがあったら教えて下さい」

 

 シュミットはギョッと目を見開いた。

 

「...誰から聞いた」

 

「ヨルコさんからです」

 

 シュミットは一瞬放心したように上を見上げ、次いで大きく息を吐いた。

 今のが見た目通りに《安堵》なら犯人の線はかなり薄くなる。が、ゼロと言うわけでもない。

 そう考えたキリハは直球な質問をした。

 

「昨日あなたが持っていった槍を作ったグリムロック氏がどこに居るか知っていますか?」

 

「し、知らん!!

ギルド解散後からは一度も連絡をとってないから生きてるかどうかも知らなかったんだ!」

 

 シュミットは早口でそう言って周りを見渡した。まるで槍が飛んでくるのを恐れるように...。

 と今まで黙っていたキリトが口を開いた。

 

「シュミットさん、昨日も言ったが俺達は今回の事件の手口を突き止めたいだけだ。圏内の安全をこれまで通り守るためにな」

 

 そして一層、真剣な表情になった。

 

「残念だが今のところ一番疑わしいのはグリムロックさんだ。もちろん、誰かがそう見せかけようとした可能性もあるが、それを判断するためにもグリムロックさんに直接話を聞く必要がある。だからもし、グリムロックさんについてあんたが知ってることがあるなら教えて欲しい」

 

 シュミットは口許をかたくなに引き結んでしまった、が直後。

 

「...居場所は本当に分からない。でも」

 

 シュミットはぼそぼそと話し始めた。

 

「当時、グリムロックが異常に気に入っていたNPCレストランがある。もしかしたら今も...」

 

「本当かっ。ならその店の名前を...」

 

 それを聞きながらキリハは二つ考え事をしていた。一つはグリムロックについて、ここSAOの中では食べることが唯一の娯楽も言ってもいい(無論他にもあるが)と同時に自分の好みの味がNPCレストランで見つかるのは稀だ。気に入っていたのなら今でも行っている可能性が大きい。そのレストランを当たるのはありだ。

 二つ目は、いつシュミットをヨルコのところに連れて行こうか、と言うことだ。しかし二つ目のことに関しては問題がなくなった。

 

「店の名前を教えるのは条件がある。

 

 

彼女と、ヨルコと話をさせてくれ」

 

 本当にタイミングがいい。

 

 

 

 場所は変わり、ヨルコの泊まっている宿、そこにキリハ達三人とヨルコ、シュミットはいた。

 

「二人とも分かっていると思いますが安全のために武器は装備しないこと、ウインドウを開かないこと、この二つを守ってください」

 

 キリハの言葉に二人は了承した。久しぶりに対面したはずの二人はしばし無言のまま視線を見交わしていた。レベルはシュミットが上の筈なのだが、キリハ達の目にはランス使いの方が緊張しているように見えた。事実先に口を開いたのはヨルコの方だった。

 

「...久しぶり、シュミット」

 

「...ああ、もう二度と会わないだろうと思ってたけどな」

 

 ヨルコは薄く微笑み、シュミットは掠れ声で答えた。二人はテーブルを挟みお互いに向き合っている。部屋の北はドア、西には寝室へ続くドア、東には壁、南は窓となっている。部屋の北側にはキリハが、東側と西側にはそれぞれアスカとキリトが立った。ドアはシュミット側、窓はヨルコ側にある。

 窓は空いていたがシステム的に窓から侵入はおろか、なにかを投げ入れることすら出来ない。

 次に口を開いたのはシュミットだった。

 

「...ヨルコ、カインズのことを訊いてもいいか」

 

 やはり声には緊張を含んでいた。ヨルコは頷く。

 

「何で、今さらカインズが殺されるんだ?指輪を奪ったのは...あいつだったのか?リーダーを殺したのもあいつだったのか!?」

 

 今のセリフはシュミット自身が指輪事件および今回の事件とは無関係と宣言したに等しい。

 シュミットの言葉にヨルコは微笑を消し睨み付けた。

 

「そんなわけない。私もカインズも、もちろん元《黄金林檎》のメンバーは全員リーダーのことを尊敬していたわ。売却に反対したのはお金(コル)に変えて無駄遣いするよりもギルドの戦力として有効活用すべきと思ったからよ。」

 

「それは、オレだってそうだったさ。オレも売却に反対したんだ。だいたい、指輪を奪う動機があるのはオレ達反対派だけじゃない。売却派のメンバーにも売り上げを独占したいと思った奴がいたかもしれないじゃないか!」

 

 シュミットは腕を振り上げ自分の膝にガツンと叩き、頭を抱えた。

 

「なのに...グリムロックはどうして今更カインズを...。売却に反対した三人を全員殺すつもりなのか...?オレやお前も狙われているのか!?」

 

 怯えるシュミットに対して平静を取り戻したヨルコが、ポツリと言葉を投げた。

 

「まだグリムロックさんがカインズを殺したと決まったわけじゃないわ。仮に槍を作ってもらった他のメンバーの仕業かもしれないし、もしかしたら...」

 

 虚ろな視線をテーブルに落とし

 

「リーダー自身の復讐かもしれないじゃない...圏内で人を殺すなんて普通のプレーヤーには出来るわけないんだし」

 

「なっ......だって、お前さっき、カインズは犯人じゃないって...」

 

 唖然とするシュミットとは対称的にヨルコは薄く微笑んでいた。そしてスッと立ち上がり体をシュミットに向けながら窓までゆっくり後ろ歩きしていった。

 

「私、ゆうべ、寝ないで考えた。結局のところリーダーを殺したのはメンバーの誰かであると同時に、メンバー全員でもあるのよ。指輪がドロップしたら投票なんかしないでリーダーの指示に任せればよかったんだわ。ううん、いっそリーダーに装備して貰えばよかったのよ。剣士として一番実力があったのはリーダーだし、指輪の能力を活かせたのも彼女だわ。なのに、私たちはみんな欲を捨てられずに、誰もそれを言い出さなかった。いつかギルドを攻略組に、なんて口で言っておきながら自分を強くしたいだけだったのよ」

 

 長い言葉が途切れるとヨルコの腰が窓枠にあたり、そこに腰掛けた。

 

「ただ一人、グリムロックさんだけは彼女に任せると言ったわ。あの人だけは自分の欲を捨ててギルド全体のことを考えた。だからあの人は、たぶん私欲を捨てられなかった私たち全員にリーダーの敵を討つ権利があるだわ...」

 

 しん、と落ちた沈黙の中、窓から入ってきた冷たい風が吹いた。そして、カチャカチャと小さな金属音がなった。その音源は細かく震えるシュミットのプレートアーマーだった。

 

「冗談じゃない...冗談じゃないぞ...半年も経ってから、何を今更...。

お前はそれでいいのかよ、ヨルコ!今まで頑張って生きてきたのに、こんな、わけも解らない方法で殺されていいのかよ!?」

 

 突然ガバッと顔を上げたシュミットは声を張り上げた。ヨルコは視線を彷徨わせ、口を開こうとした、瞬間。

 とん、と乾いた音が響いたと同時にヨルコの目と口がポカンと開いた。そしてヨルコの体がグラリと揺れ、よろめくように振り向き窓に手をついた。その時一際大きい風が吹き、ヨルコの背中に流れる髪をなびかせた。その背中には、なにか黒い棒のようなものが突き出ていた。その《なにか》をキリハ達三人は同時に認識した。それは、投げ短剣(スローイングダガー)の柄だった。そして刀身はヨルコの体に埋まっている。つまり、信じられないことだが窓の外から短剣が飛来し、ヨルコを貫いたのだ。前後に揺れていた体が、窓の奥へと傾いた。

 

「ッ!!」

 

 キリハは即座に窓へ移動し、ヨルコを掴もうとしたが、間に合わずそのままヨルコは落ちていった、と同時にキリハもヨルコを追うように窓から飛び降りた。

 

「「(姉さん/和葉)!!」」

 

 ヨルコは驚きに目を見開いた。そしてヨルコの体が地面につく寸前にキリハはヨルコを抱きしめ、自分が下になった。地面に墜落した瞬間、ヨルコは小さく、()()()()()()()()、ポリゴンとなった。

 《それ》を聞いたキリハはある確信をいだいた。

 

(なるほど、そういうことですか)

 

「姉さん、そっちは任せた!」

 

 キリトの声が聞こえたので上を向くと、キリトが窓から飛び出したところだった。アスカがキリトを呼び止めようと窓から身を乗り出したところでキリハはアスカに問うた。

 

「明日香!なにがあったのですか!」

 

「ダガーを投げたと思われるプレーヤーがいたんだ!キリトはそいつを追っている!」

 

「わかりました!僕も追います!方角は!」

 

「南だ!」

 

 キリハは方角を聞いた瞬間、そちらに走りだした。キリトもそのプレーヤーも屋根の上にいることは分かっているので、速度を上げできるだけ家と家の幅が小さいところを狙い、壁ジャンプを繰り返し屋根に登った。南の方を見るとキリトがローブを被ったプレーヤーにピックを投げたところだった。その手には転移結晶を持っていた。どうやら転移しようとしたので少しでもコマンドを遅らさせようとしたみたいだが、相手は憎たらしいほど落ち着いていた。

 キリハもそちらに全速力で向かい、せめて転移場所を聞こうとしたのだが、この街全体に大ボリュームで鐘の音が響きわたったのだ。そしてそのプレーヤーは姿を消した。




恐らく、次に投稿する話は短いと思われます


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カラクリ

今回で終わらせようとしたらかなり長くなってしまったので二つに分けることにしました。
和葉「前回の後書きに次は短いと言っていましたよね?」
うん、予想以上に長くなっちゃってね。予想では二千字位だったのに六千字を超えたって言うね...

ではどうぞ


 キリハとキリトは屋根ではなく道を通って宿屋に戻っていた。途中ヨルコが消えたところで立ち止まり、ダガーを拾った。

 

「アホか!無茶すんなよ!」

 

 部屋に入り即座に怒られた二人である。がこれぐらいでは二人が反省するはずもない。アスカはため息をつきながら先ほどのことを聞いた。

 

「で、どうなったんだ?」

 

 キリトは首を横にをふった。

 

「駄目だ、テレポートで逃げられた。顔も声も、男か女かもわからなかった。まぁ、あれがグリムロックなら男だろうけどな」

 

「違う」

 

 キリトの言葉を否定したのはシュミットだった。アスカはまゆを細めた。

 

「何が違うって言うんだよ」

 

 シュミットはいっそう深く顔を俯けながら、呻いた。

 

「グリムロックはもっと背が高かった。それに...あのフードつきローブは黄金林檎(GA)のリーダーのものだ。彼女は街を歩くときいつもあの地味な格好をしていた。そうだ、あの時指輪を売りに行くときだってあの格好だったんだ!

あれは...さっきのあれは彼女だ...あは、はははは、そうだよな、幽霊なら圏内とか関係なく殺せるよな。そうだ、いっそここのボスも倒してもらえばいいんだ。最初からHPが無きゃ死なないんだから」

 

 狂ったように笑うシュミットにキリハは先ほど拾った短剣を放り投げた。シュミットは一瞬黙り、短剣を見て小さく悲鳴を上げた。

 

「さて、薄情者だとか言われるのを承知で言います。約束通り、グリムロック氏が行っていたレストランの名前を教えて下さい」

 

 シュミットは目を見開く。今この状況で聞くのか、と思ったのだろう。

 

「今の状況だからこそ聞くんです。あなたが知っているその情報が今のところ唯一の手がかりですからね」

 

 そう言ってキリハはシュミットの前に紙とペンを置いた。

 

「ついでに他の《黄金林檎》のメンバーも教えて下さい。後で生死を確認しに行くので」

 

 

 

 羊皮紙に書き終わったシュミットは、「しばらくフィールドに出ることは出来そうに無い」「DDAの本部まで送ってくれ」と二つのことを言った。それを臆病者と笑うことを三人はしなかった。自分の知り合いが二人も圏内で殺されているのだ、無理もない。

 シュミットを本部まで送った後、いきなりキリハが爆弾発言をした。

 

「今回の圏内事件、誰も死んでいません」

 

「「は?」」

 

 その言葉に二人はフリーズした。そんな二人に構わずキリハは続ける。

 

「まずカインズ氏がポリゴンとなったとき、あれは死亡エフェクトではなく装備の耐久値がなくなったときのエフェクトです」

 

「え、いや、ちょっとまて。じゃあ、何でカインズさんは消えたんだ?装備の耐久値がなくなっただけじゃプレーヤーは消えないだろ」

 

 戸惑いながらもアスカはキリハにそう言った。

 

「カインズ氏自身が消えたのは、防具の耐久値がゼロになった瞬間に《転移》したんですよ。もちろん最低限の声で」

 

 もっとも、気づいたのはヨルコさんが消えてからですけどね、と付け加えた。キリハの言葉にキリトは納得の表情をした。

 

「なるほど、確かにそれなら限りなく死亡エフェクトに近いものになるな。てことはヨルコさんも同じトリックか。

でも昨日カインズの生死を確認しに行ったとき確かに死んでたじゃないか」

 

 キリハは首を横に振った。

 

「違います。死亡していたのは《Kains(カインズ)》であって《Caynz(カインズ)》ではないんです」

 

「ヨルコさんはカインズと読める他の綴りを俺達に教えていたのか。

ん?待てよ?まさかと思うがあの時に偶然このアインクラッドでそのカインズさんが死んだわけじゃないよな?」

 

「そんなわけないでしょう。確かにKの方のカインズさんが死んだ日時は四月の二十二日でしたが、それは去年のことです」

 

「そこが《計画》の出発点、てことか?」

 

 キリトの言葉にキリハは頷いた。

 

「恐らくヨルコさん達の目的は《指輪事件》の犯人を知ることでしょう。そしてヨルコさん達が疑っていた人物は、シュミット氏。

彼は《黄金林檎》の解散後、トップギルドである《青竜連合》に加入しました。二人は、シュミット氏が入れたのは指輪のコルで装備を強化したから、と思ったのでしょう」

 

「和葉がそう言ってるってことは、シュミットさんは犯人じゃないってことか?」

 

「姉さんの言うとおり、あいつは犯人じゃないと思う。あいつからは《レッド》の気配が微塵も感じられなかった。

なにかしら指輪事件と関わりはあると思うけどな」

 

 このゲーム内における殺人者、つまりレッドプレーヤーは一般のプレーヤーより逸脱した雰囲気を纏っている。それは当然と言えるだろう。何故ならレッドプレーヤー達は『このデスゲームが永続すればいい』『ここから出られなくてもいい』と思っている者が集まっている。プレーヤーを殺す、すなわち攻略の邪魔をしているのと同じだからだ。

 

「今シュミット氏の精神は極限まで追い詰められています。シュミット氏が行くとすれば...」

 

「グリセルダさんの墓、か?」

 

「だろうな。恐らくそこでヨルコさんとカインズさんがシュミットさんを待っているんだろうな...」

 

 アスカはセリフの途中で顔をしかめた。

 

「?どうした?」

 

「いや、墓が圏外にあった場合、ヨルコさんとカインズさんがシュミットさんを殺さないかと思ってな...」

 

「それはないだろう」

 

 アスカの言葉をキリトは否定した。

 

「俺はまだヨルコさんとフレンド登録している。今いる場所は十九層のフィールドだな。恐らくここがグリセルダさんの墓なんだろ」

 

「そうか。それじゃあもう俺達に出来ることはないな。後は彼らに─」

 

「ちょっと待って下さい」

 

 アスカの言葉を遮ったのはキリハだった。

 

「僕達もそこへ行った方がいいでしょう」

 

「何でだ?」

 

「このSAOで結婚するとストレージが共通化するのは知っていますよね?」

 

 その言葉に二人は頷く。

 

「グリセルダさんはグリムロック氏と結婚していました。そして、結婚相手と死別した場合アイテムは全てストレージに入ります。

ここで疑問が生じます。グリセルダさんが死亡したとき、彼女が持っていたはずの指輪はどこにいったんでしょうか?」

 

「「!!」」

 

 二人は目を見開いた。

 それもそうだ。グリセルダが死んだ場合、指輪はグリムロックのストレージに入らないとおかしいのだ。なのにヨルコの話からはそんなことは聞いていない。

 これには二つ考えられる。一つはグリセルダが装備していたか、もうすでに売っていて手元になかった可能性。(この場合はグリムロックには手に入れられないからだ)そして、もう一つは─

 

「急ぎましょう。彼らが殺される前に」

 

─彼がグリセルダを殺し、指輪を奪った可能性。




変なところでちぎったかもしれない...

次は長いです
和葉「本当に?」
本当本当


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真相

連続投稿成功~
それと、今回原作を読んでいない人には意味がわからなくなるかもしれませんが、ご了承下さい<(_ _)>

和葉「宣言通り長くなりましたね」
まぁね、これ前回のと合わせてしまったら七千字超えるんだけど...
和葉「分けて正解でしたね」

和&作「「ではどうぞ」」


 十九層の圏外グリセルダの墓、今シュミットは窮地に陥っていた。

 三人にDKBの本部まで送ってもらった後、シュミットはこの場に来た。そしてこの場には彼の他にそれぞれグリムロックとグリセルダの格好をしたカインズとヨルコがいた。キリハの予想通り二人はシュミットがグリセルダを殺害したのではと疑っていた。シュミットは彼女を殺してはいないが、彼女の泊まっている宿にメモ通り《コリドー》の転移場所を設置しただけらしい。そこまで話してからカインズとヨルコが生きていることを知り、肩の力が抜けた瞬間、()()がシュミットを襲った。

 彼らの前に現れたのは四人の殺人者(レッドプレーヤー)だった。毒ナイフ使い《ジョニー・ブラック》、エストック使い《赤眼のザザ》、片手斧使い《モルテ》、そして彼らを束ねる笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のリーダーにしてSAO最悪のプレーヤー、ダガー使い《PoH(プー)》。

 シュミットはジョニー・ブラックの毒ナイフで体の自由を奪われたのだ。そしてPoHが口を開いた。

 

「Wow、とんだ大物がつれたなぁ。Its show timeといきたいところだが、さてどうするか」

 

「あれ、あれやろうよ!『殺しあって生き残ったやつを逃がしてやるぜゲーム』、まぁこの三人だとハンデつけなきゃッスけど」

 

「そんなこと言ってジョニー先輩、この前それで生き残ったやつも殺したじゃないですかぁ」

 

「おいモルテ、それ言ったらゲームにならないだろ~」

 

 最初と最後に言ったのはジョニー・ブラック、途中で口をはさんだのはモルテ、ザザはシューシューと嗤っている。彼らはまるでどうやって遊ぶかを決めるかのように話している。彼らにとって殺人は、遊びのようなものなのだろう。

 そんな時に乾いた音が聞こえた。音のする方に向くと馬に乗っている人物がいた。その人物は馬から飛び降りた。その人物はいつもの黒いフード付きコートを纏い、大鎌を背負った攻略組トッププレーヤーのキリハだった。

 

「ここまでありがとうございます。馬代はDDAに請求しといてください」

 

 そんなことを言って馬の尻を叩き解約してキリハはPoH達に向き直った。そしてPoHに言った。

 

「よう、まだそんな悪趣味な格好をしていたのか?」

 

 ただしその口調は荒れていた。キリハはブチ切れたり、怒りの感情が高ぶると口調が荒くなるのだ。

 

「...貴様に言われたくねぇな、《死神》」

 

 PoHは殺意を隠さずに放った。直後、大きく一歩を踏み出してジョニー・ブラックは上づった声で喚いた。

 

「んの野郎、てめぇこの状況判ってんのか!?」

 

「ジョニーの言うとおりだぜ、キリハ。てめぇが攻略組だからといってオレ達四人にたった一人で戦う気か?」

 

「そうですよぉ、ここは大人しく殺されてくださいよぉ」

 

 キリハはその言葉を鼻で笑った。

 

「ハッ、大人しく殺されてくれ?んなこと言われて、はい良いですよなんて言うとでも思ってんのか?てめぇらは。

それによぉPoH、そのセリフそっくりそのまま返すぜ。攻略組三十人と戦う気か?ここに来る前に連絡はしておいたからなぁ、十分耐えるぐらい造作もねぇ。

回復結晶はありったけ持ってきたし、なによりオレのユニークスキル、知ってんだろ?」

 

 そう言って大鎌に手をかけるキリハ。軽く舌打ちをしたPoHは「Suck」といい、身を翻した。それを合図に残りの三人も撤退する体制をとる。立ち去る前にザザはこちらを向き

 

「次はオレが、馬に乗って、お前を、追い回してやる」

 

「やってみな。見たより難しいぜ?」

 

 四つの影が丘を下り、視界から消えてもキリハは索敵スキルを使って警戒を解かなかった。キリハが警戒を解いたのはスキルの範囲から四つのカーソルが消えたときだった。恐らく次に会うときはお互い本気で殺しあうときだろう。

 

(あの四人が来たのは予想外でしたが、まぁ何とかなりましたね)

 

 そしてキリハはウインドウを出し、こちらに向かってきているであろうクラインに〖ラフコフは逃げました。街で待機していてください〗とメールを送った。次にポーチから解毒ポーションを出しシュミットに飲ませてからヨルコ達の方へと向いた。ヨルコとカインズはポカンとしていた。二人とも、何故この場に攻略組のキリハが来たのか判らないのだろう。それにキリハは苦笑しながらフードをとった。

 

「また会えて嬉しいですよ、ヨルコさん。それに...初めましてと言うべきでしょうか、カインズさん」

 

 ヨルコは一瞬目を見開き、ついで納得したように頷いた。

 

「なるほど、和葉さんは攻略組だったんですか...それならあのステータスも納得です。

...キリハさんって、女の人だったんですね...」

 

 最後の方は小さく呟き、キリハはまたも苦笑した。

 あの、というのはキリハが落ちたヨルコを受け止めた時のことを言っているのだろう。次に口を開いたのはカインズだった。

 

「初めまして、ではないですよ、キリハさん。あの瞬間一度だけ眼が合いましたよ」

 

 カインズの言葉にキリハはその時のことを思い出した。

 

「そういえばそうですね。貴方の防具の破壊と同時に転移したときでしょう?」

 

「ええ。あの時、この人には偽装死のカラクリを見抜かれてしまうかもしれない、って何となく予感したんですよ」

 

「それは、運が良かった、と言うべきでしょうか。あの場にいたのが僕達じゃなければ、今頃貴方達は殺されていましたよ」

 

 最後の方は冗談っぽく言ったキリハにシュミットは問うた。

 

「...キリハさん。助けてくれた礼は言うが、何で判ったんだ?あの四人が襲ってくることが」

 

 キリハは少し言葉を濁しながら答えた。

 

「判った、って訳では無いんですがね。あり得るとは思いましたよ」

 

 そしてキリハは自分達の推測を言い始めた。この事件を演出した理由とグリムロックのことも含めて...。

 それを聞いたヨルコ達は唖然とした。

 

「グリムロックが...?あいつがメモの差出人...?」

 

「そんな...嘘です!グリムロックさんがそんなことをするわけありません!

それに、それなら何で私達の計画の協力をしたんですか?しなければ《指輪事件》が掘り返されることも無かったはずです」

 

 ひび割れた声でシュミットが呻き、ヨルコは反論した。

 そしてキリハはさらに言葉を重ねた。

 

「貴方達は彼に計画を手伝って貰うために全て話したのでしょう?それならこの《演出》の《ラスト》を知っていたはずです。ならそれを利用し《指輪事件》を闇に葬ることは可能です。

共犯者であるシュミット氏、解決を目指すヨルコさんとカインズ氏を、まとめて消してしまえば良いのですから」

 

 膝から崩れ落ちそうになったヨルコをカインズが支えた。ヨルコは艶の失せた声で囁いた。

 

「グリムロックさんが...私達を殺そうと...?でもなんで...?結婚相手を殺してまで指輪を奪わなきゃならなかったんですか...?」

 

「さすがに動機までは推測できませんが、それは本人から聞きましょうか。

ねぇ?グリムロックさん?」

 

 キリハが林の方を向くとまず目に入ったのは夜闇の中にも浮き上がる赤と白の騎士服を着ている《閃光》のアスカ。その隣にはよく見れば黒いフード付きコートを纏った《黒の剣士》キリト。そして二人に剣を突きつけられている革製の服を着込み、つばの広い帽子を被っている眼鏡をつけた男がいた。

 その男はシュミット、ヨルコ、カインズ、最後にちらりと墓標を見てから口を開いた。

 

「...やぁ、久し振りだね、皆。」

 

 ひどく落ち着いたその声に、数秒経ってからヨルコが応じた。

 

「なんで...なんでなの、グリムロックさん。リーダーを...奥さんを殺してまで指輪を奪ってお金にする必要があったの?」

 

「...金?金だって?」

 

 グリムロックはピクリと反応してから口を開き、ウインドウを開きやや大きめの革袋をオブジェクト化した。持ち上げたそれを無造作に地面に放り投げた。どすんというお重い響きと金属音が重なった。それだけで中身はコルだということがわかる。

 

「これは、あの指輪を処分した金の半分だ。金貨一枚だって減っちゃいない。

...金のためでは無い。私は...私は、どうしても彼女を殺さなければならなかった。彼女が私の妻でいるあいだに」

 

 視線を一瞬墓標に向け、独白を続けた。

 

「私達の頭文字が同じなのは偶然ではない。私と彼女はSAO以前のゲームでも常に同じ名前を使っていた。そして可能ならば結婚をしていた。なぜなら...彼女は現実世界でも私の妻だったからだ」

 

 これにはさすがのキリハも、この場にいる全員も驚かされた。

 

「私にとって一切の不満のない理想的な妻だった。だが...この世界に囚われてから、彼女は変わってしまった...。

このデスゲームに囚われて畏れていたのは私だけだった。彼女は...《ユウコ》は戦闘能力、状況判断力を大きく私を上回っていた。そして私の反対を押し切り、ギルドを結成し、仲間を募り、自分を鍛え上げた。その時の彼女は今まで見た中でも一番生き生きとしていた。それを側から見ていた私は認めざるを得なかった。私の愛した彼女は消えてしまったのだと。このゲームがクリアされても大人しく従順なユウコは戻ってこないのだと...」

 

 前あわせの肩が小刻みに震えた。それは自嘲の笑いなのか、喪失の悲嘆なのか、或いは両方か。囁くような声で更に続く。

 

「...私の畏れが君達に理解できるか?もし現実世界に戻った時...ユウコに離婚を切り出されたれでもしたら...そんな屈辱に、私は耐えることができない。ならば...まだ私が夫であるあいだに。ユウコを永遠の思い出に封じてしまいたいと願った私を誰が責められるであろう...?」

 

長く、おぞましい独白が途切れた数秒後、怒りを含んだ声がアスカの口から発せられた。

 

「たったそれだけの理由で...自分の妻を殺しただと...?」

 

「それだけ?私にとっては充分過ぎる─」

 

「ふざけるなっ!!」

 

 アスカはグリムロックの言葉を遮り、剣を更に突きつけた。

 

「あんたも、その人の夫なら、何故変わったところも含めて愛してやらないっ!?」

 

「...君にもいつか分かるときがくるさ、閃光君。愛情を手に入れ、それが失われようとしたときにね」

 

「いいや、間違ってるのはあんただ。グリムロックさん」

 

アスカが口を開くより先にキリトは言った。

 

「あんたがグリセルダさんに抱いていたのは愛情じゃない。ただの所有欲だ。それに、アスカはあんたみたいにならない」

 

「何故そう言いきれる?」

 

 キリトはフードをとり、腰まである髪をあらわにした。

 

「俺と明日香も、あんた達と同じように現実世界じゃあ婚約者だからな。明日香があんたと同じならとっくに殺されてる。

それと、あんたがグリセルダさんをまだ愛しているのならその左手の手袋をとれよ。指輪、はめてないんじゃないのか」

 

 グリムロックは右手で左手首を掴んだ、だが外そうとはしなかった。

訪れた静寂を今まで黙っていたシュミットが破った。

 

「...三人とも、この男の処遇は俺達に任せて貰えないか。もちろん死刑にかけたりしない。しかし罪は必ず償わせる」

 

 その声は数刻前までの怯えた響きではなかった。その言葉にキリハは頷いた。

 

「えぇ、もちろん」

 

 グリムロックをつれて立ち去ろうとした三人をキリハは呼び止めた。

 

「あぁそれと、僕達の性別ことは秘密でお願いしますね。いずれバレるでしょうが」

 

 その言葉に三人は頷いて、そして今度こそグリムロックをつれた三人は丘を下りていった。

 小丘には、青い月光と夜風だけが残され、そんな中キリトがアスカにポツリと呟いた。

 

「明日香、もし俺に、まだお前の知らない一面があったらどう思う?」

 

 アスカは一瞬キョトンとしたが、フッと笑ってキリトの頭を撫でながら言った。

 

「仮にまだ俺の知らない佳奈がいたとしても俺はそれでも愛し続けるよ」

 

「...ありがとな」

 

 その言葉でキリトは赤くした顔を見られないように俯きながら礼を言った。

 そして

 

「さて、帰ろうぜ。んでもって今日は久々に俺が作ってやる」

 

「お、マジか!やった!明日香の料理は旨いんだよな~」

 

「佳奈の料理も旨いよ」

 

 二人の会話にキリハは微笑みながら後を追った。ふと後ろに気配を感じて振り向いてみると、墓標の隣に一人の女性プレーヤーがいた。

 

「貴方の意思は僕達が受け継ぎます。そしてSAOを創った一人として、このデスゲームをクリアし必ず皆を解放します。だから、見守っていて下さい、グリセルダさん」

 

 グリセルダはキリハの言葉にニッコリと微笑み─

とキリハを呼ぶ声が聞こえた。

 

「お~い、姉さ~ん、今日は明日香が飯作ってくれるってよ」

 

「わかりましたよ」

 

 キリハはキリトに返事をして、もう一度振り向いたときには誰もいなかった。

 そして空を仰ぎキリハは再度誓った。

 

(ゲームは必ずクリアします。たとえ、僕が犠牲になっても)




やぁっと圏内事件編終わりました。
和葉「次回の話はラフコフ討伐戦です」
和葉と佳奈の過去の一部が明らかになります。

おかしいところがありましたら、報告よろしくお願いします。


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ラフコフ討伐戦 祖の一

あっぶねぇ...なんとか今月中に投稿できた...
和葉「今までサボってた癖によく言いますね」
うぐっ...なにも言えねぇ...
そしておそらく、これが今年最後の投稿になると言うね...
和葉「もう一つの方は投稿出来なさそうですね」
ちくしょー...

皆様大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。え?待ってないって?・・そうですか...


それはともかく、ではどうぞ


 圏内事件からおよそ一ヶ月、攻略組のメンバーは作戦会議をしており、場はピリピリとした緊張感が出ていた。それも無理はない。これから戦うことになるのはモンスターではないのだから。

 とその場に一人フードを被った小柄な人物が入ってきた。

 

「情報が入ったヨ」

 

「どんな情報だ?アルゴ」

 

()()の居場所が判明しタ」

 

 アルゴと呼ばれた特徴的な喋り方をしている人物はキリトの問いに答え、その一言に周りはざわめきだした。

 今回の会議はあるメンバーの壊滅をするためにたてたものだ。メンバー達の名前は、SAO最悪の殺人ギルド笑う棺桶(ラフィンコフィン)。少なくとも死者千五百人のうち、二百人のプレーヤーが彼らの手によってこの世を去った。

 

「...それは信用出来ますか?」

 

「...これだけはオレッチでも本当かどうかが分かってないんダ。ただラフコフの、もう殺人はしたくないって奴からの情報のようだゾ。十四階層の端にある洞窟が奴らのアジトらしイ」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 これにはこの場にいる全員が驚かされた。まさかそんな下層の、ダンジョンですらない所にいるとは思わなかったのだ。

 

「...なるほど、確かにそれなら今まで見つけられなかったのも納得です。僕達はずっと中層にいると思っていましたからね」

 

「それで、どうするんだ?キリハ。もう少し準備が出来てから行くか、このまま突撃するか」

 

 キリハは手を顎に当て、考えるそぶりをした。数秒時間が経ち

 

「一時間後に出発します。それまでに準備を終わらせて下さい。勿論、全員コリドーを持っていて下さい」

 

 と発言し、その決定に誰も反論しなかった。(一部、まだキリハ達を認めていないプレーヤーは不満げにしていたが)

 

 

 

 そして一時間が経ち、現在はラフコフのアジトの近くにある洞窟で最終確認を行っていた。

 

「基本的には皆さんでラフコフを抑えて貰い、僕のスキルで捕まえます。良いですね?ただ、僕が近くにいないこともあるので縄で縛ってコリドーを使うか、余裕があるのなら僕を待ってください」

 

 そして今回の作戦リーダーはキリハとキリトであった。攻略組で最高レベルを持ち、いくつものオレンジギルドを壊滅してきたからだ。

 と全員で確認を行っているとある話し声が聞こえてきた。

 

「ラフコフっていってもどうせHPが危険区域までいったらおとなしくなるにきまってるよなぁ?」

 

「当たり前だろ?」

 

「それなのに《神速》ときたら、ククク、チキッてんのかぁ?」

 

 この会話をしているのはキリハ達を認めていないプレーヤーであり、明らかにキリハ達を挑発している。この挑発にアスカ、《風林火山》、《月夜の黒猫団》等のプレーヤー達が殺気だった。

 が、その挑発は気にもとめずキリトは警告をした。

 

「俺からは一つだけ言っておく。ここにいる全員、覚悟を決めろ」

 

 この言葉を先ほどのプレーヤー達は笑い飛ばした。

 

「覚悟を決めろぉ?んなもん攻略組にいるときから出来てるに決まってんだろ?」

 

 このプレーヤーが言っている覚悟は『死ぬ覚悟』だ。それは攻略組の全員が持っている。しかしキリトが言っているのはそれではない。

 

「違えよ。そんなのはここにいる全員が持ってる。俺が言ってるのは『殺す覚悟』だよ」

 

「ハァ?殺す覚悟ぉ?そんなもん必要ねぇだろ。どうせ危険区域までいけば命乞いをするに決まってる」

 

 キリトは舌打ちをしそうになったが、なんとか抑えて「...警告はしたぞ」と言った。こういう人間は何を言っても無駄だと判断したのだ。キリハはキリトが喋り終わるのを待ってから再度全員に話し掛けた。

 

「...勿論、生きて確保することが前提ですが相手はラフコフです。自分や仲間の命が危なくなった場合、迷わず殺してください」

 

 キリハの言葉には説得力があった。これをキリトが言ったとしても説得力があるだろう。何故なら、二人はすでに人を()()()()()()()()()()()()...。

 

「そして最後に、死なないでください。これは願いではなく作戦リーダーとしての命令です」

 

 キリハの言葉に一部を除く全員が力強く頷いた。それを確認したキリハは出発の合図をした。

 

 

 

 

 ラフコフがいるアジトには列の先頭にキリト、後方にアスカ、中間には前後どちらから奇襲されてもすぐに対応出来るようにキリハ、その三人に挟まれるように他の攻略組が並び、奥に進んでいく。そして広場のような所まで()()()()()()に到着した。

 

(おかしい、ここまで誰にも会わないなんて...あの情報は間違いだったのか?アルゴも確信はないと言っていたからそれでも不思議じゃあ...まさかっ!?)

 

 そこまで考えてキリトは即座に索敵スキルを発動し、目を見開いた。そして叫んだ。

 

「全員武器を取れっ!!囲まれてるぞっ!!」

 

「シャアッ!!」

 

「「「「「「「っ!!?」」」」」」」

 

 キリトが叫んだ瞬間、何人ものレッドが攻略組に襲いかかった。がキリトの警告の方が一瞬早かったのですぐさま武器を取り、反撃を始めた。

 場は混乱に陥った。奇襲を仕掛けるつもりだった攻略組が逆に奇襲を仕掛けられ思考が働かない者も多かった。そういう者は、いち早く思考を働かせた者がフォローをした。

 だが混乱に陥ったのは少しだけだった。確かに奇襲を仕掛けられたが、攻略組には優秀な者が多く、自分が何をするべきか考え、行動に移したのだ。更にキリハも、キリトが叫んだ瞬間に大鎌を構え突撃したおかげでレッドをどんどん確保しているが、死者は一人として出していない。

 キリトは二刀流で敵の手足を斬り無力化していくと、先ほどキリト達を挑発していたプレーヤー達の焦った声が聞こえた。

 

「お、おいっ!もう投降しろっ!お前のHPはもう危険区域だろっ!?」

 

 だがそんなことはお構いなしにレッドは自身の得物を構えプレーヤー達に襲いかかった。

 

「ひいっ!?」

 

 レッドは浮かれていた。今日は誰一人として殺していない。ようやく殺せると思ってしまった。そのレッドはここに《死神》もいることを忘れていた。

 悲鳴の後、刃物が体を貫く音が聞こえた。だが自身の刃はなにも貫いていない。ふとレッドは胸に違和感を感じそこを見て、驚愕した。水色の刃が胸から生えていたからだ。自分が貫かれたことを認識した瞬間、首をはね飛ばされた。ポリゴンになる前にそのプレーヤーを発見した。黒いフード付きコートを纏った《死神》の一人、キリトだった。フードが取れて素顔が露わになっている。キリトの目からはなにも感じない。本当になにも感じていないのか、感情を抑え込んでいるだけなのか、それは分からない。だが、レッドはなにも感じないその目を見て恐怖しながらこの世を去った。

 キリトは、唖然としているプレーヤー達に言った。

 

「だから言ったろ。殺す覚悟を決めろって」

 

 キリトはそう言って他のプレーヤーを助けに行った。

 そしてキリトは、昔人を殺したことを思い出していた。

 

 

 

 

「ヒャアアっ!!」

 

「甘い」

 

 一方のキリハは大鎌を持って最前線で一人、また一人とレッドを斬って黒鉄宮に送っていた。まだ一人も殺せてないせいかレッド達は気が立っており、闇雲にキリハに突撃していっては斬り伏せられていた。

 

(順調ですね。奇襲されたのは予想外でしたがこれなら...)

 

 そこでキリハは気づいた。あの四人がいないことに。

 

(どういうことですか?奇襲されたということはラフコフにこちらの情報が流れていたということです。だというのにあの四人が見当たらないのは...っ!!)

 

 思考の途中、風を切る音が聞こえた。キリハは即座に回避行動をした。回避をしながらキリハが見た物は、毒が塗られてあるナイフだった。それを認識した瞬間、キリハは武器を大鎌から刀に変え迎撃態勢をとる。ナイフの飛んできた方向にはあの四人がいた。

 

「あれー?外した?」

 

「ジョニー先輩が下手なんじゃないんですかぁ?」

 

「んだとてめぇっ!!」

 

「それぐらいに、しておけ。いつ、攻撃してくるか、わからないぞ」

 

 ジョニー・ブラック、モルテ、ザザ、そして

 

「久しぶりだなぁ、キリハ」

 

「PoH...」

 

 リーダーのPoHがいた。キリハは四人を確認した瞬間、殺気を放つが、そんなことはものともせずPoHが口を開いた。

 

「やっとお前を殺せるなぁ、キリハ。よくもあの時はハッタリをかましてくれたなぁ」

 

 最後の方はPoHも殺気を滲ませていたが、無論キリハにも効かない。この殺気の応酬はほんの挨拶代わりだ。

 

「御託はいいからさっさとかかってこい。全員ぶった切ってやるからよ」

 

 そう言った瞬間、四人は笑い出した。

 

「キリハさんそれ、本気で言ってるんですかぁ?貴方一人で僕達四人を一度に相手できるわけないですよぉ」

 

 そうモルテに言われたキリハは、ニッと口の端を吊り上げた。

 

「じゃあ、やってみるか?」

 

「上等だコラァァア!!」

 

 そう言って真っ先に飛び出したのはジョニーだった。少し遅れてザザとモルテも飛び出す。ジョニーはナイフを振るうがキリハはバックステップで避ける。避けた所にはモルテとザザが待ち構えており、自分の得物を振るう。だがキリハはなにもしない、する必要がない。代わりに口を開いた。

 

「ああそれと─

 

 

 

 

 

─誰が一人だって?」

 

 その答えはすぐに分かった。モルテとザザの得物が弾かれたからだ。弾いたのは、先ほどまでいなかったキリトとアスカだった。

 

「全く、キリハは無茶をしすぎだ」

 

「それはキリトもだろ?」

 

 PoH達四人は、キリトとアスカがここに来れた理由がすぐに分かった。自分達以外のラフコフがほとんど捕らえられたのだ。PoHは舌打ちをした。足止めにすら役立たねぇと。

 

「キリトはザザを、アスカはモルテをそれぞれ頼む」

 

「「了解」」

 

 二人はキリハの頼みを了承した瞬間、それぞれの相手に斬りかかった。それをザザとモルテは受け止める。

 

「「ちょっと俺と付き合って貰うぜ?」」

 

 そのまま四人は、キリハ、PoH、ジョニーの三人から離れた。

 

「さて、始めようか」

 

「の野郎っ、なめた真似してんじゃねぇぞ!」

 

 ジョニーの言葉はもっもとだ。人数を減らしたとはいえ殺人鬼二人を同時に相手取るのは難しい、()()()()...

 

「キリハよぉ、俺ら二人を相手取るなら殺されても文句はないよなぁ?」

 

「ハッ、その心配はいらねぇよ。俺がてめぇらを黒鉄宮にぶち込むからな」

 

「言ってくれるぜ」

 

 そこでお互い言葉を切り、そして同時に言葉を発し地を蹴った。

 

「「Its show time!!」」




今回で終わらなかったと言うね
和葉「何で僕もPoHの言葉を言っているのですか」
んー?なんとなくだよ
和葉に一回でいいから言わせたかったんだよね


おかしい所がありましたら報告よろしくお願いします<(_ _)>


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ラフコフ討伐戦 祖の弐 キリト・アスカside

どーも皆さん、ナナシ猫です

最初に言っておきます。今回意味分かりません。作者である自分ですら何故こんなこと書いたのか分かりません
和葉「…今までもそうでは?」
グハッ

んでもって今回区切りました。そんな予定じゃなかったけど…
和葉「ではなぜ?」
区切らないと長くなりそうだったんで
まぁ区切ったら区切ったで短くなったけどね!!
和葉「自業自得です」

作&和「「ではどうぞ」」


キリトVSザザ side

 

 

(何故だっ...)

 

 キリハ達が戦いの火蓋を切った時、こちらは既に戦いを始めていた。

 ここで突然だが、ザザのレベルなら攻略組を殺すことも可能だ。ザザの得物はエストックなので、アスカと同じくAGI(スピード)よりのプレイヤー。故に、多少のレベル差なら、特にSTR(パワー)よりの相手なら速さで翻弄することができ、隙をつき相手の喉元を得物で突き刺せば殺せる。

 だからこそ、ザザは焦り始めていた。それは仕方ないことであろう。何故なら─

 

(何故、当たらないっ...!)

 

─戦いを始め、今までの攻撃が全て()()()()()()()()()のだから。

 キリトがSTRよりの剣士なら自分の速さにはついてこれないと高をくくっていた、戦いを始めるまでは。

 そもそもSTRよりの剣士だからといって速さが無いとどうして言える?キリトはあくまで『どちらかと言えばSTRより』の域に過ぎない。更に現実世界(リアル)で鍛えた動体視力と反射神経は一般人のそれと比べものにならない。そしてキリトの隣にはアスカがいる。彼のレベルは攻略組トップレベル(キリトとキリハは更にその上を行くが)、そして7:3でAGIよりだ。ザザより速いのは分かっていただけただろう。

 キリハを含めた三人は、暇を見つけては模擬戦を始める。現実の体は動かないが、感覚が鈍らないようにするためだ。

 そんな日々鍛えているキリトに、せいぜい攻略組の平均レベル程度(それでもかなり高いが)しかないザザの攻撃が当たらないのは当然だろう。逆にキリトの攻撃を受けるだけだ。

 それから攻防を五分程つづけ、これまで避け続けていた攻撃を弾いたキリトは口を開いた。

 

「あ~、そろそろいいか?」

 

「……?」

 

「あそこを離れてからおよそ七分

...うん、俺にしては待ったほうだ」

 

「何を、言っている…?」

 

 ザザには意味が分からなかった。距離が離れたとたん、ひとりごとのように喋っているキリトが首を捻ってたり、腕をくんで頷いたりしているのだから。

 ザザの疑問の声が聞こえたのかキリトは顔を上げた。

 

「ん?あぁ気にしなくていいぜ?どうせ

 

 

 

 

俺に負けるんだから」

 

「っ!?」

 

 瞬間、キリトがザザの目の前からかき消えた。正確にはザザの目で追えない速さで動いた。キリトは今まで本気の五割も出していなかったのだ。

 嫌な予感がしたザザは直感に従い横に飛ぶ。その一秒後、ザザがいた場所に剣が振り落とされた。

 

「へぇ、今のを避けられるとは思わなかったな」

 

 ザザは冷や汗を流した。キリトの実力は予想のはるか上をいっている。今の実力では到底かなわない。

 

(ここは、撤退をっ...!)

 

 ザザはポーチに手を突っ込み、あるアイテムを取り出そうとしたが─

 

「逃がさねぇよ」

 

─後ろにまわっていたキリトに両手足を切り落とされてしまった。もう、ザザにはなにもできない。

 

「さて、後はロープで縛って黒鉄宮に送るか

ん?ロープで縛る意味あるか?」

 

「待てっ...!何故っ...殺さないっ…!」

 

 ザザの問いにキリトは即座に答えた。

 

「あくまで俺達の目的はお前らレッドを捕らえることだ。殺すことじゃない。それに─」

 

 そこで一旦止め、キリトは言い放った。

 

「─俺が勝ったんだから生かすも殺すも自由だろ。というか俺に勝てるわけないよな。お前より速いアスカ()がいるし、そいつと何十回と模擬戦してるんだから」

 

 

キリトVSザザ

 

勝者キリト

 

 

 

 

アスカVSモルテ side

 

 

「ハァッ...ハァッ...」

 

 ちょうど、キリトがザザを捕らえた時、モルテは既に満身創痍だった。武器は折られ体力は黄色、更に左手を切り落とされている。

 モルテのレベルも攻略組の平均はあるが、アスカは更にその上をいき、先ほど説明をしたがAGIよりだ。当たるはずもない。

 

「なぁ、もう分かったろ?俺にはお前の攻撃が当たらないって。投降してくれよ。大人しくしてくれれば俺としては楽だし」

 

 モルテは息を整えてから鼻で笑った。

 

「アスカさんそれ、本気で言ってるんですかぁ?

自分はレッドですよぉ?死ぬまで止まりませんよぉ」

 

 モルテの返答を聞いたアスカは、左手で頭を抱えため息をついた。

 

「はぁ、そう言うと思った...。これじゃあ残った手足を切り落とすしかないな」

 

と、アスカの言葉を聞いたモルテは笑い出した。

 

「...何がおかしい?」

 

「ハハハハ、ハァ。アスカさんが勝った気でいるのがおかしいんですよぉ。自分だってプレーヤーの一人ですよぉ?」

 

 そう言ってモルテは持っていた折れた武器を捨て、右手でポーチに手を突っ込み最前線のプレーヤーなら誰もが持っている『回復結晶』を取り出した。回復結晶はコマンドを言えば、回復ポーションが徐々に回復するのに対し、即座に体力が回復する。更に部位欠損も直す。つまりモルテがコマンドを言えれば仕切り直しになる。

 まぁ、()()()()、の話だが。

 

「ヒー─」

 

 モルテの言葉はそこで途切れた。何故なら

 

 

 

アスカに結晶を持っていた右手首を切り落とされたからだ。

 そしてモルテの胴体に回し蹴りを当てる。

 

「がっ!?」

 

 モルテの体は吹き飛び、壁に衝突した。アスカはモルテに近づきながら口を開いた。

 

「お前らが回復アイテムを持っているのは想定内だ。というか、プレーヤーが回復アイテムを持つのは当たり前だろ?想定してない方がおかしいって」

 

 モルテの目の前で止まったアスカは彼の首にレイピアを突きつけた。

 

「まぁ想定してなくても、目の前でやすやすと回復させるわけないだろ?」

 

 モルテは悔しそうに顔を歪め、ついでニヤリと口角を上げた。

 

「手を切り落としたからといって、油断はしない方が─」

 

「ん?もしかして気づいていないのか?なら自分の足を見てみろよ」

 

「─は?

なっ!」

 

 モルテは自身の足を見て驚愕した。両足とも、少し大きめの短剣で地面に縫い付けられていたからだ。

 アスカはモルテに近づきながら短剣を二本出していたのだ。

 

「俺はさ、現実(リアル)で鍛えられてるんだ。普通の鍛え方じゃないけどな。相手をどうやって確実に捕らえるか、っていう感じだ

そん時に習ったんだよ。相手を確実に捕らえるには、手足を縫い付けるのが一番確実だってな。万が一にも反撃されないとは限らないってことだ。

まぁ現実(リアル)でそんなことやったらアウトだけど、ここは問題ないからな」

 

 アスカは言葉を続けた。

 

「相手が俺でよかったな。キリトかキリハだったら殺されてたかもしれないぜ?」

 

 まぁ、冗談だけどな、と付け足した。

 

 

 

アスカVSモルテ

 

勝者アスカ




今回、和葉と佳奈が明日香に言いたいことがあるとのことなので呼んでおきました
和葉「ありがとうございます。それで明日香?君、僕達のこと、そんな風に思ってたんですか?」
明日香「いやだから!冗談だけどなって言ったじゃん!」
佳奈「冗談でも言って良いことと悪いことがあるよな?」
明日香「ごめんって!!」
和&佳「「(許しません/許さない)けど?」なにか言い残すことはありますか?」
明日香「え、俺殺されんの?じゃあそうだなぁ…

ここは逃げるが勝ちってね!!」
和&佳「「(待ちなさい/待ちやがれ)!!」」
…え、自分はどうすれば良いの?

補足説明です
キリトが「俺にしては待ったほうだ」と言ったのは、アスカとキリトの役目が足止め兼捕獲だからです。二人はザザとモルテをキリハのところに行かせないようにすることが最優先でした。

他にも意味不明なところがありましたらご報告よろしくお願いします<(_ _)>


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ラフコフ討伐戦 祖の参 キリハVSジョニー&PoH

先月は投稿出来ずまことに申し訳御座いませんでしたぁぁぁぁあ!!!(スライディング土下座)
和葉「死になさい」
ちょっ!!せめて言い訳だけでもギャァァァァア!!!?


キリハVSジョニー&PoH side

 

 

 

 時は少しさかのぼり

 

「「Its show time!!」」

 

 キリハもPoHは同時に同じことを叫び、互いの距離を縮めた。そして距離がゼロになった瞬間、得物をぶつけ合う。キリハは刀で、PoHは短剣で、つばぜり合いになる、が

 

「俺を忘れんじゃねぇ!」

 

 そこにジョニーが毒ナイフでキリハを狙う。それをキリハはバックステップで回避。回避されるのを予測していたのかジョニーはナイフを投げる。それに対し、キリハは腰からピックを出しナイフへ投げつけ弾く。普通に考えたらサイズの問題で弾くのは不可能に近いが、攻略組最強クラスのステータスが可能にしていた。その間にジョニーは新しいナイフを取り出す。勿論、毒ナイフだ。

 お互いの距離が開いた時、PoHが口を開いた。

 

「おいジョニー、俺の楽しみを邪魔してんじゃねえよ」

 

「ヘッドは俺のこと忘れてたっしょ。これでお相子ッスよ」

 

「チッ」

 

 PoH達が会話している間に、キリハは今まで被っていたフードをとり、素顔をあらわにした。

 

「なぁ!?」

 

「やっぱりな。BoyではなくGirlだったか。それで?キリハ、何故今更フードを外した?」

 

 見たジョニーはキリハが女だったことに驚愕し、PoHは口元に笑みを浮かべながら何故フードを外したのかを問うた。キリハは対照的に無表情で答える。

 

「フードは視界を遮るんでな、邪魔だったから外しただけだが?

それと、準備運動は終わりだ。ここからは─」

 

 キリハは腰を落とし左手で持った鞘を左腰に構え、右手を刀に添えた。

 

「─本気で相手してやる」

 

 瞬間、キリハから今までと比べものにならない殺気が放出される。ジョニーは圧倒的な殺気に硬直し、PoHも呆気にとられた、が

 

「ククク、アッハハハハハハ!!!アッハハハハハ!!!?」

 

 突然PoHは嗤いだした。その顔にあふれているのは、“歓喜”。まるで、やっと強敵との殺し合いを楽しめるかのように...。

 否、ように、ではない。PoHは何よりも、強敵との殺し合いを楽しむ。相手が自分より強かろうと関係ない。それでPoH自身が死んでも本望と思うだけだろう。

 

「ハァ...。なるほど、本気じゃあなかったか。だがキリハよぉ、本気出してないのがお前だけだと思わねぇ方がいいぜ?」

 

 PoHがそう言った直後、彼からも今までと比べものにならない殺気が放出された。だが、その程度の殺気ではキリハはおろかアスカにすら通じないだろう。何故なら現実世界(リアル)にて毎日のように殺気を()()()()()()()()()()()のだから。

 自身の殺気に微動だにしないキリハを見てPoHは更に笑みを深める。そしてジョニーに指示を出した。

 

「ジョニー、行ってこい」

 

「え?俺が行くんスか?てっきりヘッドが行くと思ってただけど…」

 

 ジョニーは軽く驚いた。PoHが強者との殺し合いを好んでいることはラフコフ全員が知っている。だから本気で来るキリハと真っ先に戦い出すと思ったのだ。

 

「あいつが本気で来ると言っても俺が楽しめなきゃあ意味がねぇ。だからジョニー、お前であいつの実力を測るんだよ」

 

「なぁるほど」

 

 自分が楽しむためにジョニーを捨て駒にする、言外にそう言っているPoHに対しジョニーはなにも反論することなく納得し、ニィっと嗤う。

 

「じゃあ俺が殺しても文句はないっスよね?」

 

「そうなったら所詮それまでの奴だったって話だ」

 

「─話は終わったか?」

 

 これまでずっと黙っていたキリハが話しかけ、PoHが応えた。

 

「あぁ、終わったぜ?」

 

「テメェを殺すのは俺だって話がなぁ!!」

 

 PoHが応えた直後、ジョニーが飛び出した。先ほどよりも速い。どうやらジョニーも本気ではなかったようだ。

 キリハは構えを解かずその場から動かない。それをジョニーは好機と睨み更に速度を上げ、キリハの周りを跳び回る。自分を目で追っていないことを確認したジョニーはキリハの死角から接近する。あと一歩でナイフが届く距離まで来たジョニーは─後ろへと飛んだ、手を前に交差しながら。PoHはその行動に怪訝な表情をし、ジョニー自身は驚いていた。自分の意思とは関係なく後ろへ飛んだのだから。しかし、その意思とは関係ない行動は、正解だ。

 直後、いつの間にか自身の目の前にいたキリハの体が─正確には右腕が─ぶれた。そして、ジョニーの両腕を同時に切り落とす。

 

「ッ!?ぐぁ─」

 

「うるせぇよ」

 

 ジョニーが悲鳴を上げる前に、キリハは自身で持っていた毒ナイフで刺した。毒レベルは5、二十分は動けない。キリハは、動けなくしたジョニーに興味を失い、自分の中からジョニーという存在を意識から─視覚や聴覚、五感からの情報から─外し、PoHに向き直る。

 

「Wao、ジョニーは弱いわけじゃあないんだが、お前にとってはeasyすぎたか?

だが、それでこそ楽しめるってもんだよなぁ!!」

 

 キリハはなにも言わず、代わりに居合いの構えをとる。そして、キリハは最終目的を達成するための作戦を考えようとしたが、やめた。無駄だからである。いくら考えたところでPoHがそれ以上の動きをしてくれば無意味なのだから。

 キリハの最終目的は二通りある。一つ目はPoHの捕縛、そしてもう一つが

 

─PoHの殺害─

 

 和葉(キリハ)は、大事な者達にとっての脅威が少しでも無くなるなら、殺人すらも犯す危うい一面を持つ。自己犠牲が強すぎるのだ。それこそ、自分一人の命で皆が救えるのなら喜んで命を投げ出すほどに…。

 

 先に仕掛けたのはPoHだ。両手に一本ずつ短剣を持っている。対してキリハは、自分から、動いた。真正面からPoHに向かい横に一閃、がPoHは上に跳び回避、キリハの後ろに着地し、振り向きざまに武器を振るう。キリハは刀を逆手に持ち前を向いたままガード、刀を逆手に持ちながら反時計回りに回転しながら斬る。PoHはバックステップをしてこれを回避、両者の距離が開いた、瞬間、キリハが刀を鞘に収めPoHに迫り開いた距離を縮める。PoHは焦らず左手に持っている短剣を投げる。キリハは顔をそらし短剣の柄をつかみすぐに投げかえした。PoHはそれに少し驚きながらも体を伏せ回避、次には加速する。そして再びつばぜり合いが起こる。金属の擦れる音と火花が飛び散る。そして互いを弾き合った瞬間、激しい攻防戦が始まった。キリハが刀を振るえば、PoHは短剣で防ぎ、PoHが短剣を振るえばキリハは鞘で防ぐ。リーチはキリハの方が長いが、PoHは攻撃を防ぎながら近づき得物を振るおうとする。が近づかれる前にキリハは蹴りを入れ短剣の間合いに入らない。お互いが一歩間違えれば即座に攻撃を食らうぎりぎりの戦いをしている。だが、その中でPoHは違和感がした。少しずつ、だが確実にキリハに()()()()()()()()()()()()()。これはPoHのスピードが落ちているわけではない。ここはゲームの世界だから実際に体を動かしているわけでは無いが、これだけぎりぎりの戦いをしていれば精神に疲れが出てくるはずだ。しかし彼は疲れを見せない、否、疲れていないのだ。それだけ彼の精神力が高い事を示す。そんな精神力を持っているPoHがキリハに追いつけなくなっている理由は一つしか無い。キリハのスピードが時間が経つごとに()()()()()()()()

 キリハは別に手を抜いていた訳では無い。常に最初から本気だった。キリハからしたらの話だが。キリハは、数年前に自身の“技”で人を殺めてしまったことから同じ過ちを繰り返さないように、無自覚の内に、“技”を使うときに手を抜くようになったのだ。しかしキリハとPoHの実力はほぼ互角、そのためキリハの体が本気になっただけのこと。

 キリハは徐々に、しかし確実にPoHを追い詰めている。そして

 

「ちぃっ!!」

 

 短剣を持っていたPoHの右手を切り落とした。同時に、武器を拾われることがないように短剣を破壊する(拾わせるつもりもないが)。キリハはPoHの首に刀を突きつけた。PoHは諦めたように呟く。

 

「Fuck…これでfinishか…」

 

「あぁそうだ。ここでお前を殺す」

 

 キリハはPoHにトドメをさすために刀を上に上げる。

 

「お前に遺言は必要ない。さよなら」

 

 そして振り下ろす、瞬間、()()が入った。

 

「「「ヒャァァアっ!!!」」」

 

 三人のラフコフが物陰からキリハを奇襲した。キリハは索敵スキルを常に使っていた、にも関わらず奇襲を仕掛けられたのは隠密スキルがカンストしているからだろう。

 PoHが強い者との殺し合いを望み、それを邪魔した者は直接死刑になる。そんなことはラフコフ全員が知っている。ならば何故か?単純に殺される恐怖より殺したい気持ちが(まさ)っていただけだろう。

 キリハが上を向くと既に目の前には自分を狩る凶器が迫っていた。全てがスローに見える。その中でキリハ(和葉)は、四年前に交わしたある青年との約束を思い出していた。

 

─和葉、約束してくれ。もう君の“技”で人を殺めないと。君のその顔を、僕はもう見たくないんだ─

 

(…すいません浩一郎、約束は守れそうにありません)

 

 凶器がキリハに当たった、正確には当たる寸前、目の前からキリハが消えた。それにラフコフは目を見開く、と同時に体が切り刻まれたのを自覚した。いや、自覚せざるを得なかった、と言うべきか。何故なら、自分以外の二人の体がバラバラになっており、体の感覚が全て消えたのだから。三人は恐怖を感じる前にポリゴンとなり、死んだ。それをキリハは無感情に見つめた。だがキリハの表情は見る人が見れば苦痛に満ちているように見えるだろう。

 

「雑魚が乱入してくれたことに感謝したのは初めてだな…」

 

 キリハがPoHに向き直ると、左手に何か黒い玉を持っていた。一瞬怪訝に思ったがすぐにまさかと目を見開いた。

 

「察しがいい、なっ!」

 

 PoHが黒い玉を下に投げつけ地面についた瞬間、黒い煙が充満した。これではPoHに逃げられると思ったキリハは索敵スキルを使おうとしたが

 

「索敵をしようとしてるんだろうが無駄だ。この煙は中にいる全てのプレーヤーの索敵を妨害する機能があるんでな」

 

 どこからか反響する声でPoHは喋り続ける。

 

「俺をここまで追い詰めたのはテメェが初めてだ。いつか必ずテメェに復讐しにいくからなっ…!俺に殺されるまで死ぬんじゃねぇぞ」

 

「待てっ!!」

 

 キリハはその場で独楽のように回り煙を吹き飛ばした。しかしPoHの姿はどこにも見当たらない。その場にはキリハと、身動きが出来ないジョニーだけが取り残された。

 キリハは歯ぎしりをして、勢いよく刀を地面に突き刺す。

 

「ちくしょうっ…!」




はい、ここまで見ていただきありがとうございます。今回でラフコフ討伐戦は終わりです。次回は和葉達へ過去編へ行きます。といっても一話で終わりにするつもりですが

和葉「浩一郎って、原作アスナの兄でしたよね?」
うんまぁね、出すつもりは全くなかったんだけど、ちょっと面白い展開(作者にとって)を思いついたんだよね。だからおっと、ここから先はネタバレになる


誤字脱字がありましたらご報告よろしくお願いします<(_ _)>


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あの日の出来事 ※修正


和葉「遺言はありますか?」
先月も投稿出来ず誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁあ!!!!?…チーーーン

和葉「ではどうぞ」


 キリハはジョニーを黒鉄宮に送り他の全員と合流した。そこには顔を明るくしている者が大半であった。キリハとキリトが女だったことに驚いている者もいる。人数を確認した結果、こちらに死者はいないようだ。どうやら話を聞くかぎりキリトも一人殺しらしい。キリハが殺した三人と合わせて四人ラフコフに死者を出してしまった。もちろん、いざとなれば殺す覚悟はあった。自分は良い、がキリトにまたしても人殺しをさせたことにキリハは胸を痛めた。一部の者、《風林火山》《月夜の黒猫団》はキリハの顔を見て何かを察したのか心配して声をかけてきた。それに大丈夫と答え、キリハはその場を去った。

 

 

 現在キリハは十四階層にある小さな泉のそばに立っている木に寄りかかり、立て膝で座っている。今、キリハの胸の中は後悔で埋め尽くされていた。何故左手を切り落としてそのまま奴を斬らなかった?何故最後に奴と言葉を交えて斬らなかった?何故何故何故何故何故。

 しかしそれと同時に、PoHを殺さなかったことに安心している自分がいることに気付く。そして、何度もチャンスがあったにも関わらずPoHを斬らなかった理由も分かった。キリハ(和葉)はこれ以上、人を殺したくなかったのだ。フッと、自嘲気味に笑う。

 

(滑稽ですね…。家族の為なら戸惑い無く人を殺せる僕が、今更戸惑うなど…)

 

 そして瞑目しキリハ(和葉)は、自分とキリト(佳奈)が初めて人を殺してしまった“あの日”を思い出した。

 

 

 

四年前

 

 和葉と佳奈がまだ11歳の時の話だ。この時には既に自分達と桐ヶ谷家は本当の家族ではないと知っているが、家族は家族と割り切り仲は良好だ。

 この日は和葉、佳奈、それに妹(実際は従姉妹)の直葉とで三人は仲良く(しかし本気で)剣道をしていた(因みに和葉が圧勝した)。三人が休憩している時に母の桐ヶ谷(みどり)が剣道場に顔を出した。

 

「三人とも~、私ちょっと仕事で忙しくて手が離せないから、代わりに郵便局にこれ出してきてくれない?」

 

と言って何かの(十中八九仕事の物の)資料を手渡してきた。それを三人は了承し出かける準備を始める。汗だらけになっていたので三人で風呂に入り着替えをして、翠から渡された資料を持ち家を出た。

 

「「「行ってきます」」」

 

「行ってらっしゃ~い、気をつけてね~」

 

 そうして三人は銀行に出かけていった。家から郵便局までそこそこ距離があるので自転車だ。

 事故にも遭わず無事に郵便局に着いた。人がそこそこいるので少しばかり待つことになりそうだ。翠にお遣いを頼まれることは今までもあった。だから今日もいつも通りに終わると思っていた。三人の男が入ってくるまでは…。

 黒い帽子黒い服に身を包んだ三人は入ってくるなり、懐から拳銃を取り出し上に向かって発砲した。

 

「動くなっ!!指示したこと以外で動いたら撃つ!!」

 

 どうやら彼らは強盗犯のようだ。

 和葉と佳奈は11歳とは思えない冷静さで反撃の隙をうかがっていた。まだ子供ではあるが日頃から鍛えられてる二人は信じられないほど戦闘力が高い。和葉と佳奈の二人でなら一般の成人男性三人程度、向こうが油断をしていれば気絶させることが出来る。直葉も鍛えられてはいるが和葉達より幼い為、恐怖している。それが普通だ。では和葉達に恐怖心が無いのかと聞かれれば、答えはNOだ。和葉達とて恐怖心はある。しかしそれ以上に、家族を守る、という気持ちが強いだけだ。

 男性の職員が少しずつ動き始めた。緊急用のボタンを押すようだ。しかし、それに気付いた強盗犯の一人は容赦なく発砲した。

 

「動くなと言ったろうが!!次動いた奴は頭を撃ち抜くぞ!!」

 

「あのやろっ…!!」

 

「待ちなさい」

 

 突撃しようとした佳奈を和葉が肩を掴んで止めた。

 

「あの三人が使っているのは銃ですよ…?今突撃するのは危険です」

 

「でも「僕だって佳奈と同じ気持ちなんですっ…。だから、チャンスが来るまで待ってくださいっ…」…」

 

 そこで佳奈は気付いた。和葉の腕が怒りで震えていることに。和葉は男性の撃たれた箇所を見て、急いで応急処置をしなくても助かる、と判断した。だからと言って安心は出来ない。出来ることなら今すぐ応急処置をした方がいい。だが、今それを行えば強盗犯に警戒される可能性がある。

 

─何故こんな子供が応急処置が出来る?─

 

 だから出来ない。今ここで突撃するか、来るか分からないチャンスを待つか、和葉は天秤にかけ後者を選んだ。

 佳奈は大きく息を強盗犯に聞こえないように吐き、自身を落ち着かせた。落ち着いたことが分かった和葉は、佳奈の肩から手を離す。

 不意に和葉の袖がクイッと引っ張られた。そちらを見ると直葉が不安げにこちらを見ていた。和葉は薄く笑いながら頭を撫でる。

 

「大丈夫ですよ、直葉。君に怪我はさせません」

 

 その言葉に直葉は「違う」と首を横に振った。

 

「和ねぇと佳奈ねぇは、危ないことしないよね…?」

 

 頭を撫でる手がほんの一瞬止まる。そんなことはしない、とは言えなかった。恐らく、いやほぼ確実に二人は危険なことをするだろう。

 どう答えるか迷っている時、佳奈が口を開いた。

 

「言っておくけど、あの三人が隙を見せたら姉さんが止めても突撃するからな」

 

「…それなら構いません」

 

 心の中で和葉は、少しだけ佳奈に感謝した。おかげで直葉の問いに答えなくてすんだのだから。

 

 

 

 その頃、桐ヶ谷家と郵便局の道のりを二人の少年が自転車で走っていた。一人は結城明日加。もう一人は明日加の兄である結城浩一郎。二人は焦っていた。和葉達が強盗に巻き込まれたことを知ったからだ。

 二人が桐ヶ谷家に来たとき、翠が焦りながら暗器などの武器を仕込んでいるのだ。ただごとじゃないことを察した二人は翠に声をかけた。

 

「「翠さん!!」」

 

 明日加の声に翠はバッと振り向いた。

 

「明日加君、浩一郎君…」

 

 声をかけられようやく翠は二人に気付いた。いつもの彼女では考えられないことだ。彼女がそれだけ焦るということは、和葉達になにかあったとしか考えられない。

 

「佳奈達になにかあったんですか!?」

 

 一瞬言葉に詰まった翠だったが、今さら明日加達に隠し事をしても意味ないと判断し、何があったのかを話す。

 

「和葉、佳奈、直葉の三人が強盗に巻き込まれたのよ」

 

「「!?」」

 

 二人は目を見開き驚愕した。が、すぐに身を翻し自転車に乗り、郵便局まで走り出す。

 

「あ!二人とも、待ちなさい!!」

 

 翠の制止は二人に聞こえなかった。いや、聞こえたとしても止まらないだろう。二人はそれぞれ、最愛の少女を頭に浮かべていた。

 

 

 二人が郵便局に着いたとき、そこは人だかりが出来ていた。二人はまだ小さな体を利用して最前線まで躍り出る。すると、見えてきたのは郵便局を囲む警察官の人達。盾を構えている者もいることから機動隊もいるようだ。

 

「二人とも、待ちなさいって言ったでしょ」

 

 二人に追いついた翠は木刀を持っており、そのまま何の戸惑い無く黄色のテープの中に入り、警察官をギョッとさせた。

 

「こ、困ります、一般の方はテープの中に入らないでもらわないと…」

 

「─おぉ!桐ヶ谷さん!お待ちしておりました」

 

 翠を止めようと一人の警察官が前に出たとき、違う警察官が翠のことを呼んだ。そのことにまたしても警察官はギョッとする。

 

「連絡ありがとうございます、警部さん」

 

「いえいえ、こちらこそ毎度毎度すいません。本来なら()()()一般人の貴方方に事件の解決を協力してもらうのはマズイのですが…。我々も人質の安全を最優先にしているので」

 

 二人が親しげに話しているのを見て、周囲の警察官は唖然としており、表向き、と言う言葉は耳に入ってこなかった。

 翠、というより桐ヶ谷家は()()仕事柄、権力を持っている人物とのコネを持っている。警察を例にするなら、警部だけでなく警視総監ともコネを持っている、ということだ。

 

「いえ、構いません。どちらにしろ来るつもりでしたので」

 

 翠の言葉に警部は眉をピクリと吊り上げる。

 

「…どういうことですか?」

 

「私の娘達が郵便局の中にいるんです。警部さん、知っている限りでいいので情報を教えて下さい」

 

「分かりました」

 

 警部は防犯カメラの映像から強盗犯は三人、使っている拳銃は黒星(ヘイシン)、人質の一人が撃たれてしまったこと、和葉達はまだ無事なことを話した。

 

「ありがとうございます、では─」

 

 翠がこれからどうするかを言おうとした時、発砲音が一回、遅れてもう一回聞こえた。瞬間、明日加と浩一郎の二人はテープをくぐり抜け郵便局の中に入ろうとした。鍵がかかっていて入れないのだ。少し遅れて翠と警部が追いついた時、更にもう一回銃声が聞こえ、次いで悲鳴が上がる。

 

「全員退いてください!!」

 

 そう叫んだ翠の手には木刀が握られていた。いや、翠が持っているのは仕込み杖だ。

 その場の全員が退避したのを確認した翠は扉に向かって一閃、斬った。そして扉を蹴り破り中に入った。そこで目にしたのは、血を流して倒れている黒い服に身を包んだ男性三人、血で濡れて震えている少女、そして─

 

「佳奈…」

 

「和葉…」

 

─倒れている二人の男の側で拳銃を持ち肩で息をしている佳奈と、ナイフを持ち血塗れになり無表情の和葉の姿があった。

 

 

 

数分前

 

 

 思ったよりも早く、チャンスは訪れた。強盗犯の一人がある女性に拳銃を向けたとき、女性の近くに居た和葉達と同じくらいの少女が強盗犯に突進したのだ。いくら体格差があっても不意打ち、しかも腹への衝撃は来るものがある。

 強盗犯は拳銃を落とし、その拳銃を少女が拾い上げ、強盗犯に向ける。その男は拳銃を取り返そうと少女に向かっていく。少女は恐怖のあまり引き金を引いてしまった。撃たれた弾は男の腹に当たる。だが男は血を吐きながらも拳銃を取り返そうと少女に向かっていく。少女は「ひっ」と悲鳴を小さく上げ、また引き金を引いた。今度は男の額に当たってしまい、男は死んだ。場が静寂に包まれる。

 

「このガキっ!」

 

 最初に動いたのは男達だった。二人の強盗犯はその少女に拳銃を向ける。今がチャンスと思い和葉の佳奈は突撃を開始する。和葉と佳奈はそれぞれ男の手首の内側、つまり血管があるところを跳んで蹴り上げた。蹴り上げられた男達は拳銃を落とし、間髪入れず今度は二人の顎を思い切り殴る。脳を揺さぶられたことにより男達は床に沈んだ。

 

「ふぅ、なんとかなりましたか」

 

「注意がこっちに向いてたらヤバかったけどな」

 

 和葉は大きく息を吐き撃たれた職員のもとに向かう。応急処置をするためだ。

 一方の佳奈は少女のもとに向かった。佳奈が近付いてきたことに少女は体をビクつかせる。佳奈は少女と同じ目線までしゃがんで言葉をかけようとした、その時─

 

「和ねぇ佳奈ねぇ、後ろ!!」

 

─直葉の叫びが聞こえた。二人は後ろに振り向くと先ほどの男達がナイフを持ち襲いかかってきていた。佳奈は反射的に少女から拳銃を奪い取り男の額へ向けて撃った。

 和葉は、先よりも速く、強く、正確に、手の血管を突く。男はナイフを離し、そのナイフを和葉が取り、そして、そのまま、男の頸動脈を切り裂いた。

 この時、和葉と佳奈は焦ってしまった。的確に顎に攻撃し、脳を揺らしたはずなのに男達が起き上がるのが早かったからだ。冷静のままでさえいれば、殺さずにすんだ。

 咄嗟にとはいえ、人を殺してしまえば多少は恐怖があるはずだ。実際、佳奈の手の震えは恐怖から来ている。だが、和葉は一切恐怖心を抱かなかった。それは何故か、和葉自身は分かっていた。

 

─家族を守れた─

 

 この感情が和葉に恐怖心を抱かせなかった。

 何かが壊れる音が聞こえた。二人がそちらを向くと母の翠、明日加、浩一郎、青年二人がいた。いや、目に映ったのは佳奈は明日加、和葉は浩一郎だけだった。そして、二人は糸が切れたように倒れる。皆が名前を呼ぶが二人には聞こえなかった。

 

 

 

 

 和葉が目を覚まし視界に映ったのは自身の部屋の天井だった。

 

(緊張の糸が切れて気絶、というところでしょうか…)

 

 恐怖心はなかったが、緊張はしていたようだ。体を起こそうとすると重みを感じる。体を起こして腰当たりを見てみると、そこには浩一郎がいた。恐らく付きっきりで看病してくれたのだろう、寝てしまっている。だが、和葉が起きたときの振動で目を覚ましたようだ。ゆっくりと体を起こし、和葉の顔をボーッと見る。数秒経つと完全に覚醒し心配の声をかける。

 

「和葉!大丈夫?怪我はない?どこか痛むところは?」

 

「どこも痛いところはありませんから、少し落ち着いて下さい浩一郎」

 

「あぁごめん、起きたばかりなのに煩かったね」

 

 和葉がそう言うと浩一郎はすぐに落ち着いた。

 

「そうだ、佳奈達に和葉が目覚めたこと伝えてくるよ」

 

 浩一郎が部屋から出て行くのを黙って見送った。どうやら佳奈のほうが早く目を覚ましたようだ。

 和葉は先程の浩一郎の態度が嬉しかった。浩一郎が自分のことを心配してくれていることが分かったからだ。

 和葉にとって浩一郎は兄のような人物であり、そして─

 

(…?)

 

 今、何を思った?

 

(僕が、浩一郎のことが好き…?)

 

 ありえなくはないが、それはない、と和葉は断言する。この好きも家族に対しての好きと同じだ。絶対に、そうだ。そもそも、自分は桐ヶ谷家の次期当主になる。相手は自由に選べないだろう。誰に聞かされたわけでもないがここの家は一般の家庭と違う。だから和葉は、その感情に気づかないフリをした。

 

 

 しばらくして、浩一郎が佳奈達を連れてきた。直葉は扉を開き和葉が起きてることを認識した瞬間、飛び込んできてそのまま泣き始めてしまった。直葉をあやしながら、あの後どうなったかを翠に聞く。

 

「撃たれた男性はなんとか命を落とさずにすんだわ。強盗犯の三人は全員死亡、これに関して貴方達は正当防衛として扱われたわ」

 

「…あの女の子は?」

 

「あの子はうちの管理下にある病院に行かせたわよ。そこでメディカルチェックを受けさして、特に問題なかったからお母さんと一緒に帰らせたわ」

 

「そうですか」

 

 明日加が何かを思いついたような顔をして、言った。

 

「和葉が目覚めたことを確認したことだし、俺らは退室するよ」

 

「それもそうだな、姉さんゆっくり休んでろよ。一番無茶したのは姉さんだからな」

 

「佳奈ねぇも無茶してたからね?自分のことを棚に上げないの」

 

「うぐっ…それを言われるとキツい…。しかもスグに…」

 

「佳奈ねぇ?それどういう意味?」

 

「まぁまぁ、貴方達喧嘩しないの。でも和葉、佳奈の言うとおりゆっくり休んでなさいよ。回復したらまた鍛えるから」

 

 明日加の発言をこの場にいる全員(浩一郎と和葉を除く)が酌みそれぞれ一言言ってから退室していった。

 

「変な気をつかせてしまいましたね」

 

「うん、そうだね」

 

 沈黙が流れる。そして唐突に和葉はこう言った。

 

「君は、僕を軽蔑しますか?」

 

「え?」

 

 浩一郎は和葉の顔を見ようとしたが、顔を俯かせていて表情は見えなかった。

 

「僕は家族を守るために人を殺してしまいました。そのことを後悔はしています。恐らく捕まえることも出来たでしょうから」

 

 ですが、と和葉はつなげる。

 

「恐怖心、罪悪感、そういうものが一切出てこなかったんです。異常、ですよねやっぱり」

 

 和葉が苦笑する気配がした。だから、浩一郎が自分から離れていくのかを聞きたい、と和葉は言った。和葉からしたら、離れてくれた方がいい。殺人を犯したという噂が広がれば和葉は、いや、佳奈も虐められるだろう。佳奈の方は心配していない。明日加がいるからだ。もうすでに二人は婚約者だ。二人が離れることはありえない。だが、浩一郎はどうだろうか。自分と彼はただの幼馴染み。だが和葉は浩一郎の事を兄のように慕っている。だから和葉は浩一郎に離れて欲しいのだ、迷惑をかける前に。

 だが浩一郎は和葉の顔を両手で包み自分に向かせ、こう言った。

 

「僕は離れないよ、絶対に。ありえないことだけど、和葉が道を間違えたら僕が戻す。君が独りになりたいと思ってても、独りにしない。約束するよ、僕は絶対に和葉から離れていかない」

 

 浩一郎は知っているのだろうか。その言葉で、和葉がどれだけ救われたのかを。

 だから、と続けて浩一郎は言った。

 

「和葉、約束してくれ。もう君の“技”で人を殺めないと。君のその顔を、僕はもう見たくないんだ」

 

 そこで和葉は、自分が泣きそうな顔をしていることに気づく。しかし和葉は、そのまま軽く笑みを浮かべ「善処します」と言った。

 

 

 

(あ~、あの言葉を思い出したら顔が熱くなってきました)

 

 キリハは浩一郎の言葉を思い出し顔が若干赤くなった所で回想をやめた。

 

(まったく、我ながら子供ですね。今更あの時の言葉を思い出しただけで赤くなるなど)

 

 溜息をつき、立ち上がったところで声をかけた。

 

「キリト、アスカ、いるんでしょう?出てきなさい」

 

 すると近くにある草むらから二人出てきた。キリトとアスカだ。因みに、近くに他人がいるかもしれないのでPLN(プレーヤーネーム)呼びにしている。

 

「やっぱバレたか」

 

「まぁ当たり前だよなぁ」

 

 覗き見していたことを全く反省していない様子の二人にキリハは苦笑する。

 

「それで?なにか用があって来たんですよね?」

 

「あぁ、これから《風林火山》と《月夜の黒猫団》と一緒に打ち上げやるから呼びに来たんだよ」

 

「向こうに死者を出しちまったけど、暗いままだとこの先思いやられる、ってクラインがな」

 

「納得です」

 

 あわよくば、サチと仲良くなろうという魂胆だろう。二人と一緒に歩き始める。

 後で聞いた話だが、桐ヶ谷家の結婚相手は自由にきめていいそうだ。そのかわり、相手にも鍛えてもらうが。だから、キリハ(和葉)は思った。

 

(このゲームを無事にクリアしたら、浩一郎にこの気持ちを伝えましょう)

 

─たとえ自分に気持ちが向いていなくとも、構わない。伝えよう、好きだと─

 

 

 

余談、草むらにて

 

「なぁ明日加、姉さんの顔が赤くなってんだけど、何を思いだしてると思う?」

 

「ん~、なんだろう。多分兄さんのことじゃないかな?」

 

「やっぱそうだよな。あの二人早くくっつけばいいのに」

 

「それ、家族全員が思ってるよ。どっからどうみても相思相愛なのに焦れったい、って」

 

「姉さんからしたら、妹のような扱いをされてると思っていて」

 

「兄さんからしたら、兄のような扱いをされてると思っていて」

 

「「ホント、早くくっつけばいいのに」」




幼い頃の和葉の頭が良すぎますが、これは桐ヶ谷家の次期当主として知識を叩き込まれてるからです。不自然だろうがなんだろうがそういうことで納得してください。
(※2021/1/28、拳銃の知識を消しました)

因みに、浩一郎の年齢は和葉達の三つ上、ということにしています。

※以下は5/21に追加した後書きです

和葉「君が面白い展開が思いついたって、このことですか」
正解~、和葉と浩一郎をくっつける展開を思いついたんだ♪最初は誰ともくっつけるつもり無かったんだけどね~


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鍛冶屋の少女

うっっっしゃぁぁぁぁあ!!月の始めの方で投稿出来たぜぇぇぇえい!!
和葉「うるさいです黙りなさい」ザシュ
グハッ


ラフコフ討伐戦から二日後

 

 四十八層『リンダース』、そこで営業しているある鍛冶屋の中にキリハとキリトにアスカ、そしてもう一人、赤いワンピースに白いドレスをきたピンク色の髪の女性プレーヤーがいた。

 

「全く、三日前に来たと思ったらまぁたすぐに来てびっくりしたわよ。まぁそれでこっちも儲かるからいいんだけど」

 

 彼女の名前はリズベット、愛称はリズ、この鍛冶屋『リズベット武具店』を経営している鍛冶師である。因みに熟練したメイスの使い手、マスターメイサーでもある。ブチ切れたらメイスで叩いてくる、本気で。後は、キリハとキリトが女だと知ってる数少ない(?)プレーヤーの一人でもある。だから二人は今フードをとっている。

 

「すいませんねぇリズ、まさか討伐戦でここまで武器の耐久値が削られるとは思わなかったので…」

 

「儲かるからいいって言ってんでしょ?気にしない気にしない。それに耐久値ギリギリで来られるよりはマシよ」

 

 と、バツの悪そうな顔でキリトがリズに謝る。

 

「あ~、リズ、その、ホントに悪い…」

 

「なに謝ってんのよ?あたしの作ったダークリパルサーでラフコフを殺しちゃったこと?それも気にしてないって言ったじゃない。それにそのおかげで死者は出なかったんでしょ?むしろ、もしキリトが刺せなくてその人が死んじゃったら許さなかったかもね」

 

「相変わらず男前なセリフを言うなぁ、リズは」

 

「ぶっ飛ばすわよアスカ」

 

「すいませんでした!」

 

 笑顔でメイスを取り出すリズに反射的に謝るアスカ。それとサラリと言っていたが、ラフコフを刺した水色の剣、ダークリパルサーを作ったのは何を隠そうリズである。その説明をするために、まずはキリハとキリトがリズと出会った頃の話をしよう。

 

 

 

 時は遡り圏内事件から一週間後、ここ『リズベット武具店』にアスカだけがいた。武器を研いでもらいに来たのだ。

 

「はい、お待たせアスカ」

 

「いつもありがとうな、リズ」

 

「こっちだって商売でやってんだから当然よ」

 

 そんな会話をしながらアスカはリズから自分のレイピアを貰い、金を払う。

 ここまで来れば分かると思うが、アスカはキリハ達がリズに出会う前から会っていたのだ。が、別にそれは問題ではない。キリトとアスカは婚約者、そして小さい頃から一緒にいたせいかお互いに依存してしまっているのだ。片方が死ぬなら自分も死ぬレベルで。

 では、何が問題かというと…、以前リズは頬を染めながらアスカにこう言ったのだ。「あたしをあんたの専属スミスにして欲しいの」と。おわかりだろうか。セリフ事態はおかしなことでは無いだろうが、頬を染めながら言っているのだ。つまり、リズはアスカに恋してしまっている。それも失恋確定の…。

 そして、リズはもう一度その言葉を言う。

 

「アスカ、前も言ったと思うけど、あたしを専属スミスにしてほしいの。もちろんあんたの」

 

 アスカは苦情して返事をする。

 

「前にも言ったけど俺以上に武器の消費激しい奴がいるから、そいつの専属スミスになってやってくれ」

 

 リズは頬をプクーッと膨らませた。

 

「そんなこと言って、まだ一度も紹介されてないじゃない。それにあたしはアスカがいいの」

 

「あぁ~、分かった分かった。明日紹介するよ。…ていうかそろそろ紹介しないと俺殺されるかもだし…」

 

 最後の方は何を言っているのか分からなかったが、明日ようやく会えるとのことで、少しだけテンションが上がったのは内緒だ。客が増えるし、何よりアスカのお墨付きだ。

 

(でもまぁ、多分移ることはないと思うけどね)

 

 

 

翌日

 

「あの、起きてください」

 

 今日も客を捌いたリズは、もう今日の予約がなく今は客がいないので少し昼寝をしていた。すると突然起こされたのだ。パチッと目を開けるとそこには黒いフードを被った人物が二人いた。

 

「わぁっ!?あ、あんた達、何者!?」

 

「いやあの、怪しい者じゃあないんだが」

 

「見た目が充分怪しいでしょうがっ!!」

 

 ビックリしたリズはかなり失礼なことを言っている。だがしかし悲しいかな、リズの言っていることは大体合っている。全身を黒づくめのフード付きコートで隠していれば、怪しいと表す以外どう表せばいいのだろうか。

 

「あぁすいません、自己紹介がまだでしたね。僕はキリハ、こちらはキリトです」

 

「アスカから聞いてないか?」

 

「リズベットよ。ってことは、あんた達がアスカが言っていた人達?アスカはどうしたのよ」

 

 アスカが来ないことに若干ムッとしながらそう聞いた。リズの表情を見て理由を悟ったキリトは、内心アスカに対してイラッとした。

 

(あいつ、またフラグを立てやがって)

 

「(あ、これヤバイですね)アスカなら、ギルドの仕事があるので来れないと言っていました」

 

 キリトのご機嫌が斜めになったことを悟ったキリハがリズの質問に答えた。

 

「ふーん、なら仕方ないか。それで?何をご希望かしら?」

 

「オーダーメイドを希望したいんだが」

 

「オーダーメイドねぇ、具体的にプロパティほ目標値とかを出して貰わないと無理よ」

 

「じゃあ、これと同じくらいで」

 

 そう言ってキリトは背に仕舞っていた剣、エリュシデータをリズに手渡した。リズがそれを手に持つ直前にキリハが「あ」と声を上げそれに反応しようとした瞬間、リズはエリュシデータを落としそうになった。

 

「うわっ!おっも…!」

 

 そう、重いのだ。念の為言っておくが、リズは鍛治氏として重い武器も扱わなければならないためSTR(筋力値)はある方だ。そのリズが持てなかった、片手剣をだ。リズはエリュシデータをキリトに手伝って貰いながら何とかテーブルの上に置き、鑑定した。そして、驚愕する。

 

「これ…、《魔剣》じゃない…」

 

 この世界の武器には二種類ある。一つは鍛治氏が作った《プレーヤーメイド》、こちらは鑑定すれば製作者が誰か分かる。もう一つは《モンスタードロップ》だ。こちらは鑑定したとしても、当たり前だが製作者は出ない。キリトの渡したエリュシデータは後者のモンスタードロップだ。通常、プレーヤーメイドとモンスタードロップの品質は前者に軍配が上がる。しかし希にエリュシデータのように《魔剣》と呼ばれる程に品質が高い物が出てくることがある。そこでリズに火がついた。鍛治師としてドロップ品に負けるものかと。こらそこ、やめときゃあいいのにとか言わない。

 とにかく、火がついたリズは店の壁に掛けてあった一本の片手剣を外しキリトに渡した。

 

「これが今うちにある武器の中で最高の剣よ。多分その剣に劣ることはないと思うけど」

 

 剣を持ったキリトは二、三回軽く降り首を傾げた。

 

「少し軽いな」

 

「当たり前じゃない。使った金属がスピード系だもの」

 

「それはキリトに向いていますね」

 

 キリハがクスクスと口を抑えて笑った。キリトはそんなキリハを睨む(といってもフードを被っているのでリズからは見えないが)。

 

「キリハ、分かって言ってんだろ」

 

「えぇ勿論」

 

「…どういうこと?」

 

 リズは自分の作った武器がお気に召さないと思ったのかムッとする。それにキリハが説明をした。

 

「あぁ、違いますよ。キリトは、というか僕達は基本的に『殺られる前に殺れ』をモットーにしているので軽い方が攻撃回数が増えるのですが、キリトは重い武器を好むんですよ。手数より一撃の重さですね。あ、因みに僕はどちらでも構いません。ですからリズベットさんの武器に不満があるわけではないので安心してください」

 

 それを聞いてリズは機嫌を直したようだ。しかし問題が一つ。

 

「残念だけど、今キリトが望んでいるような武器はないわね。さっきも言ったけど、その剣が今うちにある中で最高の剣なのよ」

 

 そう、キリトが望んでいる重い剣がないのだ。鍛治師として客の要望に答えたい。どうするかと悩んでいると

 

「そういえば、五十五層で未だ誰も手に入れられていない金属がありませんでしたっけ?それを使えばもしかしたらキリトの望む武器が作れるかもしれませんよ」

 

 キリハの言葉にキリトとリズがポカーンとしたが

 

「「それだ!!」」

 

と言った。となるとやることは一つだ。二人は向き直り

 

「「(俺達が金属を持ってくるからリズベットは待っててくれ/金属を取りに行くのを手伝って)」」

 

 

と別々のことを同時に言った。しばらく固まったが、言い合いが始まる。

 

「待て待て、リズベットは鍛治師だろ?金属があるのは五十五層だから危ないだろ」

 

「舐めないで欲しいわね。これでも鍛治氏(スミス)戦槌使い(メイサー)なんだからね。それに持ってきて貰うだけじゃ嫌なのよ」

 

「そういう意地は捨てろ。それで死んだら元も子もない」

 

「い~や~で~す~、そういうあんただって何かしらの意地は持ってるでしょ?」

 

「ぐっ…、それはそうだが…」

 

 そんな言い合いを続けていると、キリハがあっと何かを思い出し

 

「言い忘れてたんですが、金属を手に入れるのに『マスタースミスがいないと無理なのでは』という噂がありましたね」

 

 キリハのその一言で二人はピタッと言い合いをやめ、キリハの方を向く。

 

「…それホントか?姉さん」

 

 どうやらキリハを姉さん呼びにするぐらい衝撃的だったらしい。それにキリハは笑顔で肯定する。

 

「こう言うときに冗談は言いませんよ?」

 

「だよなぁ…」

 

 キリトが肩を落とした。どうしてもリズを連れて行きたくなかったらしい。単純にリズの身を案じてだ。当のリズはというと

 

「なら連れてって貰えるわよね?」

 

 勝ち誇った顔をしていた。キリトは溜息をつき、両手を上げた。

 

「あ~、分かった分かった、降参だ」

 

 ということで一同は五十五層に向かうことになった。




原作と違い、剣が折れるなかったようですね~。まぁそうしたのは自分ですが


誤字脱字がありましたらご報告よろしくお願いします


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VS白龍

和葉「皆さんお久しぶりです。和葉です
今回も投稿が遅れてしまい誠に申し訳ございません。これからもこのようなことが多々ありますのでよろしくお願いします

作者はどうしたかって?足元でバラバラになっていますが、それがなにか?」ニッコリ←(血で濡れた刀を持ち笑顔の和葉の足元でモザイクがかかっているのを想像してみてください。それが今の状況です)


「まさか、フラグ立てでこんなに時間食うとは思わなかったぞ…」

 

「ホントよね…」

 

 五十五層に移動してきた三人は噂の金属を落とすと言われるドラゴンの山に行くために村の村長から話を聞いたのだが、予想以上に話が長く朝から来たはずなのにもうすぐで日が沈む。キリトとリズがへとへとになっているのに対し、キリハはいつも通りだった。まるで話が長いことを知っていたかのように。キリトがギロリとキリハを睨む。

 

「キリハ、まさかと思うが話が長いことを知っていたんじゃないだろうな?」

 

 それに対し、キリハは口元に笑みを浮かべ

 

「ん?えぇまぁ、知っていましたよ?やはり情報収集は大切ですよねぇ」

 

と言い切りやがった。ニヤニヤと笑いながらこっちを見ている様はまるで、事前に情報収集をしない君達が悪いんですよと言われているようで、というか実際キリハはそう思っている。それが分からないはずがないキリトは、当たり前のごとくブチ切れた。ついでにリズもブチ切れた。

 

「「分かってたんなら先に言えぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」」

 

 得物を持って襲いかかる二人、それを笑いながら山の方へ逃げるキリハ。この時、キリトとリズの二人は本気でキリハをぶった斬る、ぶっ叩くつもりだった。それを分かっていたキリハは笑いながらも本気(と書いてガチと読む)で逃げていた。

 

 

 さて言い忘れていたが、ここ五十五層は氷雪地帯である。そうなるとドラゴンのいる山は必然的に雪山となる。つまり、何が言いたいかというと─

 

「びぇっくし!!」

 

─とてつもなく寒い。どのくらいかと言えば、真冬の東北地方並だろうか。因みに今くしゃみをしたのはリズだ。キリトとキリハは一度この階層に来ているので寒さに慣れているが、リズはそうでもないらしい。

 

「毛布とか持ってきてないのか?」

 

 キリトの問いにリズは首を横に振る。この層が氷雪地帯だということを失念していたので防寒アイテムを持ってきてないのだ。キリトは軽く溜息をつき、アイテム欄から毛布を出しリズに渡した。有難く頂戴して二人に問いかける。

 

「あんた達は大丈夫なの?」

 

「「(慣れているので/精神力の問題だ)」」

 

 キリハとキリトは別々の答えを出した。どちらも間違えではないが、リズ的にはキリトの答えに若干イラッときた。

 そういえば、とリズは気になったことを聞いた。

 

「そういえば、あたしの店を出るときキリトがキリハのこと『姉さん』って呼んでたけど、キリハって女の子なの?」

 

 顔を見合わせるキリトとキリハ。一秒程で結論が出たのかキリハが答える。

 

「えぇ、そうですよ。一応男と偽っているので誰にも言わないでくださいね」

 

「と言っても攻略組の半分近くとアスカは知ってるんだがな」

 

 リズは「へぇ~」と納得しながらも「ん?」と疑問に思ったことがあった。

 

「じゃあ隠してるならなんでそんな簡単に答えてくれたの?」

 

「「アスカが信頼してるから(です)」」

 

 即答する二人。リズは「お、おう…」としか反応できなかった。

 

 

 道中、リズの強さはこの階層で充分に通用することが確認できた以外は特に何事もなく、山頂まで着いた。そこにある水晶に歓声を上げているリズにキリトが声をかける。

 

「リズ、転移結晶を用意しておけ」

 

 突然の言葉に驚くも、当たり前のことだと思いリズは大人しくエプロンのポケットに転移結晶を入れた。

 

「後、ここから先は僕とキリトだけでやります。リズベットさんは水晶の陰に隠れていてください」

 

 しかし、それに対しては自分の実力が信用されてないのかと思い反論する。

 

「なによ、あんた達も見てたでしょうけどね、あたしだって戦え─」

 

「─駄目だ」

 

 否、反論しようとしてキリトに遮られた。その声があまりにも真剣だった為、リズは首を縦に振るしかなかった。キリトはニッと口元に笑みを浮かべ「じゃ、行くか」と言った。

 

「念の為に言っておきますが、別にリズベットさんが足手まといになるなんて思ってませんよ。ただ僕達は、アスカが信頼している貴女に死んで欲しくないだけです」

 

 補足としてキリハが言った。だがそんなこと言われなくともリズには分かった。そして、二人と自分の認識の違いにも気づかされる。リズはどちらかと言えば遊び感覚でこの階層に来て、命の危険など考えていなかった。しかし二人は違う。常に死と隣り合わせの最前線で戦っている。故に、二人は命の重みを知っている。

 リズは混乱した気持ちを抱えたまましばらく歩くと、すぐに山頂に到達した。周りを見回してもまだドラゴンはまだいないようだった。そのかわり、水晶に囲まれた空間に巨大な穴を見つけた。

 

「うわぁ…」

 

「こりゃあ深いな」

 

 直径はおよそ十メートル程、下は闇に覆われていて底が見えない。キリハが水晶を穴に投げ入れる。それは一瞬だけ光ったと思ったらすぐに見えなくなり、何の音も帰ってこなかった。

 

「「…」」

 

「これ落ちたら底に雪が積もってないかぎりほぼ確実に死にますね」

 

 二人が思ってても言わなかったことを、さらりとキリハが言った。その直後、猛禽を思わせる高い雄叫びが空気を切り裂き山頂に響き渡る。と同時にキリトとキリハの二人は臨戦態勢をとり、リズは指示されずとも水晶の陰に入る。攻撃パターンは言わない。二人とも分かっているはずだからだ。

 二人はリズが物陰に隠れたのを確認できたとほぼ同時に、前方の空間が揺らぎポリゴンが集まり始める。それらが全て集まり巨大な体が完成した─ところで再度雄叫びを放つ。姿を現したのは、氷のように輝く鱗を持つ白龍。巨大な翼をはためかせホバリングしながら、その紅玉のような瞳で三人を見ている。

 キリトは背中にかけてある漆黒の剣─エリュシデータ─を抜き放ち、キリハは腰に差してある刀を鞘ごと抜き左腰に構える。それが合図だったかのように白龍は大きく口を開き、白いブレスを放つ。

 

「ブレスよ!!避けて!!」

 

 リズは思わずそう叫ぶ。しかし、キリハがキリトの後ろに移動しただけでキリトはそこから動こうとせず、ただ右手の剣を前に構えた。何をするつもりなのか、その答えはすぐに分かった。剣が薄緑に光りキリトの手を中心に風車のごとく回転を始める。片手剣ソードスキル《スピニングシールド》、剣を回転させ防御するソードスキルだ。白龍のブレスを見事に防ぎきり、ブレスが途切れた瞬間キリハが飛び出し白龍へと突撃する。通常、飛行している敵に対してはポールアーム系や投擲系などのリーチが長い武器で地面におろし、それから叩く。しかしキリハは、相手が飛んでるのがなんだと言わんばかりに白龍の目の前まで飛翔、そして空中で六連激刀ソードスキル《窮寄》を放った。空中で連続ソードスキルを使った場合、終わるまで地上に降りることはない。ソードスキルは全て白龍の顔にあたり、HPの三割を削る。ソードスキル後の硬直があり、キリハは自由落下している。それを白龍は逃さず爪を振るう。しかし、キリトはそれを許さない。キリハを踏み台にして更に飛翔するキリト。踏み台にされたキリハはその勢いで下に行き、爪があたることはなく綺麗に着地する。そして跳び上がったキリトは四連激片手剣ソードスキル《バーチカル・スクエア》を放つ。硬直が終わったキリハはまた跳び上がりソードスキルを放つ。これをひたすら繰り返す。

 白龍を倒すのは時間の問題だ。そう考えたリズは物陰から出る。するとキリトがまるで後ろに目が付いてるかのように叫ぶ。

 

「バカヤロー!まだ出てくるな!」

 

「なによ!もう終わりじゃない!」

 

 二人が言い合いをしてる最中、一瞬の隙をつき白龍が飛翔、ついでその巨大な翼をおもいきりはためかせ風を起こす。突風攻撃、それ自体にダメージはないが人を吹き飛ばすには充分な威力を持っている。

 

「あ…」

 

 結果リズは吹き飛ばされ、穴に落ちる。何かを掴もうと手を伸ばすが届かない。死、リズの脳裏にその言葉が浮かんだ。

 

「リズ!」

 

「キリト!待ちなさい!」

 

 キリハの静止を無視し、リズの名前を叫んだキリトは穴に飛び込み、自身が下になるようにリズを抱え二人は穴の底へ落ちていった。キリハは穴を見るがもう既に二人の姿は見えない。せめて生死だけでも確認しようとフレンド一覧からキリトを探そうとするが、その前に白龍がブレスを吐き邪魔をする。

 

「邪魔をしないで欲しいんですが…ね!!」

 

 ブレスを避けたキリハは、いつの間にか変えていた大鎌のソードスキル《デスサイス》で白龍にトドメをさした。

 

(よかった…。死んでないようですね)

 

 フレンド一覧のキリトの名前に横線が入っていないことでキリハは安心した。しかし名前の色はグレー、つまりメッセージを送信することが出来ず、キリトからこちらに送信することも出来ない。となると、キリト達が脱出してくるのを待つしかない。

 

(…しばらく待ってみましょう)

 

 

 

三十分後

 

 あれから全く連絡が来ない。ということは

 

(結晶無効化空間ですかねぇ)

 

 結晶無効化空間とは、その名の通り結晶が使えないフィールドを表す。つまり転移結晶も使えない、ということだ。

 

(さて、どうしましょうか)

 

 このままここで待つか、キリト達を向かいに行くか。

 何故向かいに行くという選択肢が出たのか、それはこの世界を創った茅場明彦を信頼しているからだ。一件脱出不可能な場所だとしても、何かしらの方法がある。レベルが高くてクリア出来ないというのは合っても、脱出不可能などの確実にプレイヤーを殺すステージは創らない。それがキリハ達の知っている茅場明彦という人物だ。

 

(行きますか)

 

 結果、キリハは下に行くことにした。明彦を信頼してるほかに、今回目当ての金属が手に入らなかったからだ。白龍を倒しても出てこない。ならば少しでも可能性がある穴に落ちてみよう、キリハはそう考えた。戸惑いなく穴に飛び込んだキリハは、ある程度下降した時点で壁に鎌を突き刺して落下の勢いを消し、そのまま下降を続ける。七十メートル程下に行くとやっと底が見えた。見えたのはリズと、フードを外しているキリトだった。

 

「キリト、リズベットさん」

 

「あ、姉さん。来たんだ」

 

「ちょっキリハ、何であんたまで落ちてきてんのよ!?」

 

 着地したキリハが二人に声をかけるとリズが突っかかってきた。それをキリトが、まぁまぁと落ち着かせる。リズが落ち着いたところで先程の質問に答える。

 

「白龍を倒しても手に入らなかったので、少しでも可能性のある穴に落ちただけですが?」

 

「それで出られなかったら元も子もないでしょうが!!」

 

「そりゃあそうだろうけど、あいつの事だから何かしらの脱出方法があるだろ」

 

 キリトが言ったあいつという言葉にリズが反応した。

 

「あいつ?」

 

「茅場明彦ですよ、この世界の創造主の」

 

「!?茅場明彦って…って事は、あんた達が噂のビーター!?」

 

「気づいてなかったのか?」

 

「気づくわけないでしょ!?」

 

 普通は気づく。黒ずくめで刀と片手剣を使っているのなんて二人しかいない。しかしリズの場合、アスカからの紹介ということだけが頭にあったので、ビーターが来ることは可能性から除外していたのだ。だがリズにとっては希望になった。リズは口を開こうとして─

 

「先に言っておくが、ここからの脱出方法は知らないぞ」

 

「えっ!?何でよ!?」

 

─先回りされた。キリハが肩をすくめながら説明する。

 

「僕達は主にソードスキルや圏内などの攻略とは直接関係ない事を設定しました。ですから明彦がこのフィールドを創ったことも、あの白龍を配置したことも知らなかったんですよ」

 

「何より、攻略法を最初から知ってるゲームなんてつまらない。そういう理由で俺達は攻略に関することは知らない。…まぁデスゲームになるって知ってたら別だったが」

 

「…」

 

 リズは落ち込んだ。唯一の希望だと思ってたものが違ったのだから当然だろう。

 

「それよりキリト、フード外しているということはばれたんですか?この数十分で」

 

「ここに落ちた時フードが外れたんだよ」

 

「なるほど」

 

 すると先程までの落ち込みはどこへやら。リズが思いっきり食いついた。

 

「そうよ!!どういうことよ!?キリハだけじゃなくてキリトも女の子だなんて!!」

 

「SAOをやる前からネナベでやってたんだよ。で、ホントだったらSAOでも男キャラでやるつもりだったんだよなぁ。…まぁ手鏡のせいで出来なくなったが

…アキの野郎ぶっ飛ばす…」

 

 最後の発言はスルーした。

 

「って事はキリハも?」

 

「いえ、僕は女キャラでやるつもりでした。ただ、元から最前線で戦うつもりでしたから、女だと目立つと思ったので男装してました」

 

「ふ~ん?じゃあ口調は?男装するためにその口調にしたの?」

 

「元々この口調ですよ」

 

「…へ?」

 

「まっ、そんなことはいいだろう。ほらリズも飲むか?」

 

 そう言ってキリトが差し出したのは、いつの間にか作っていたホットミルクだった。因みにキリハは既に飲んでいる。

 

「…頂くわ」

 

 本当は何故そんな口調なのかとか、ホットミルクを作る時間がどこにあったのかとか、ツッコみたい所がいろいろあったがリズは考えるのを放置した。




和葉「誤字脱字、またおかしな所がありましたらご報告お願いします

あぁそれと、僕の刀の名前がないのは駄作者が考えられなかったからです」


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心の温度

言い訳言わせてください
和葉「なんですか」
実は8月あたりからFGOをやってまして、はまってしまったんです!!
和葉「そうですか死になさい」
ギャッ


 あれから脱出方法を考えまくり、実行出そうなものは片っ端から実行していった。結論から言うと、全て失敗した。一部だけ紹介しよう

 

 

脱出方法その一、壁を走るbyキリト。

 

「…バカじゃないの?」

 

「かどうか、試してみる…ぜっ!!」

 

 そう言ってキリトは助走をたっぷりつけてから壁に向かって走りジャンプ、壁に着地、上に向かって加速する。

 

「うっそぉ…」

 

「ん~、僕の記憶が正しければ上の方の壁って氷が張ってあったような…」

 

 キリハがそう言った瞬間、キリトがツルッと足を滑らし─

 

「「あ」」

 

「うわぁぁぁぁぁぁあっ!!?」

 

─受け身も取れずにそのまま雪にダイブした。

 

 

脱出方法その二、ロッククライミングbyキリハ。

 

「さっきよりは現実的だと思うけど…」

 

「ですが問題が一つあります」

 

「ん?何かあるか?」

 

「登り方です。素手は論外ですし、武器を刺して登ろうにも上まで耐えてくれるかどうか」

 

「…途中でポッキリ折れる可能性がデカいなぁ」

 

「素手はさっきのキリトみたいに滑るだろうし…」

 

「「…ダメじゃん!!」」

 

「知ってます」

 

「「えっ!?じゃあ何で言ったの!?」」

 

「一応ですよ」

 

 実行する前に終了。

 

 

脱出方法その三、壁を掘るbyリズ。

 

「どう?」

 

「ドヤ顔にならなくていいですよ」

 

「確かに壁を掘ることは出来るだろうけど…道具はどうすんだ?」

 

「あ」

 

「上まで登り切るのにどのくらいかかるんでしょうねぇ」

 

「あ!?」

 

 これも実行する前に終了。

 とまぁこのように、基本的に実行する前に断念する回数が多かった。

 

 

 

 この穴はモンスターが出ないようだ。時間的に遅くなり野営するしかないということでキリトとキリハは寝袋を三人分取り出した。

 

「…あんた達いつもこのセット持ってるの?」

 

「まぁ、ダンジョンで野宿なんて日常茶飯事だからなぁ」

 

 因みにダンジョンでの野宿は攻略組の大半が経験している。とは言っても週に五日も潜っているのはこの二人ぐらいだが。

 寝袋に包まりそのまま寝る…ことは出来なかった。

 

「ねぇ、寝られないから今までの事を聞かせてよ」

 

「ガキか」

 

「いえ、仕方ないと思いますよ?」

 

 リズとてダンジョンに潜るのは初めてではない。が野宿は初めての事なので緊張して寝られないだけだ。

 ということで二人はこれまでの事を話すことにした。第一層で一人のプレイヤーが死にかけた事(無論ディアベルの事だ。因みにこれ、本人も笑い話として周囲に話しているとか)。攻撃力は低いのに異常に堅すぎるボス相手に攻略組全員でローテーションしながら三日三晩戦い続けた事。レアアイテムの分配をするために百人近くのプレイヤー全員でサイコロ転がし(ダイスロール)大会をした事。MPK(モンスタープレイヤーキラー)─アクティブモンスターをわざと他プレイヤーになすりつけ殺すこと─をされかけたが、逆に黒鉄宮送りにした事。

 リズはこれまでダンジョンに潜ったことはあっても、それは金属集めが目的であり、どんなに強いプレイヤーが誘ってきても自分のレベルにあったダンジョンにしか行ったことがない。だから、最前線で命がけでこのゲーム(世界)をクリアしようとしている二人の話はどれも刺激的だった。そして─

 

「─んで、って…」

 

「おやおや。寝てしまいましたね」

 

 リズは手を毛布の外に出したまま寝てしまった。恐らく、二人の話を聞いているうちに緊張がとれたのだろう。毛布の中に手を戻してやろうと、キリハがリズの手を取ると握られてしまった。起こすわけにいかないので目線だけで、どうしましょうと聞くキリハに同じく目線だけで、そのまま寝るしかないだろと返す。安心した顔で寝てる女子の手を誰が振り払えるのか。苦笑を一つしてキリトに毛布を持ってくるよう頼み、持ってきてくれた毛布をリズの隣に起き中に入った。

 

「お休みなさい。リズ」

 

 キリハが人を呼び捨て、又は愛称で呼ぶ、それはその人物を信頼したことにほかならない。だからかどうかは分からないが、リズは更に強く手を握りほんの少しだけ残っていた意識を落とした。

 

─温かい─

 

 そう思いながら…。

 

 

 

 

次の日

 

 目を覚ましたリズは視界に入った雪や壁に一瞬驚くもダンジョンで寝たことを思い出した。体を起こし周囲を見回してみると隣に黒いコートを纏い、黒い長髪の少女の横顔が見えた。リズはその少女に声をかける

 

「おはよう、キリト」

 

「えぇ、おはようございます。ですが僕はキリハですよ?」

 

「…あれ?」

 

 キリハは苦笑しながらそう言う。まぁ、リズが間違えたのは仕方ない。昨日、キリトはフードをとっていたがキリハはとっていなかったからだ。唖然としているリズを見て、そういえば自分とキリトの関係を教えてなかったなと今更ながらに思い出し説明する。

 

「あんた達双子の姉妹だったのね…。どうりで顔が瓜二つなわけか。ところでキリトはどこにいるの?」

 

「呼んだか?」

 

 そう言ってヒョッコリと顔を出したのはキリトだ。

 

「うわっ!?ビックリしたぁ…」

 

「ありました?」

 

「あぁ、姉さんの予想通りな」

 

 キリトは右手に持っていた物を見せる。それは水晶のような金属だった。アイテム名は『クリスタルライト・インゴット』、今回お目当ての金属だ。

 

「ちょっ、それどこにあったのよ!?」

 

「あそこに埋もれてたぞ」

 

「壁を掘って出てきたならともかく、何で雪に埋もれてたのよ!?」

 

「ここが白龍の巣だからですよ」

 

 余計頭に疑問符が浮かぶリズに出来るだけわかりやすいように説明する。

 

「いいか?この金属は白龍の体内で生成されるんだ、白龍の食った餌を材料にしてな。で、その生成した金属を巣で体外に出すわけだ」

 

 ヒクッとリズの顔が引きつった。今の説明を聞いて分かってしまったのだろう。

 

「つまり、その金属は白龍の排泄物というわけです」

 

 そういうわけである。

 

「……よく持てるわね…キリトは…」

 

 気絶しかけた意識をなんとか耐えたリズの問いに、キリトはキョトンとした顔で答えた。

 

「だってここ、ゲームの中だし?」

 

「だとしても、女子としてそれはどうかと思うわよ!?」

 

「流石に現実(リアル)では無理ですよ?」

 

「当たり前よねぇ!?」

 

 ツッコミ疲れたリズは、ふと思った。

 

「ねぇ、ここは白龍の巣って言ったわよね?」

 

「言いましたね」

 

「で白龍は夜行性よね?」

 

「そうだな」

 

「今の時間は?」

 

「「朝(ですね/だな)…あっ」」

 

 ここで二人はリズの言いたいことを察した。白龍は夜行性でここはその白龍の巣、んでもって今は朝、これがどういう意味かと言うと─とここまで考えて三人そろって見上げると、ちょうど白龍が巣に入ってくるところだった。

 

「「来たーーーーーっ!!!?」」

 

「嫌な予感ほど当たるんですよねぇ…」

 

 白龍が視界に映った瞬間、三人は物陰に隠れた。白龍は地面に降りると三人を探す素振りも見せず寝に入ろうとしていた。どうやら見つかってないようだ。ひとまずは安心、だが

 

「ねぇ、どうやって脱出するのよ…?」

 

 そこが問題だ。ただでさえ脱出方法が見つかってない中白龍まで来た、これではどうしようもない。

 

「姉さん、白龍(あいつ)使えるんじゃないか?」

 

「流石ですね。僕もちょうど同じことを考えていた所です」

 

 しかしそんなことを考えていたのはリズだけのようで、二人はというとそれはもう楽しそう~な顔でそんなことを言っていた。

 

「えと、あの、二人とも?」

 

 嫌な予感がしたリズは二人を止めようと声をかけるも時既に遅し。ガシッと腕をキリトに掴まれ、ついで二人は走り出した。

 

「キャーーーーーー!!?」

 

 あまりにも突然だったので悲鳴をあげてしまったリズ。その悲鳴を聞いて辺りを見回す白龍。自分達と反対方向へ向いた瞬間、キリハとリズを掴んでいるキリトは白龍の背中へと跳び乗った。そしてキリハがピックを取り出し白龍の尻尾へと投げつける。

 

「しっかり捕まってろよ!!」

 

「え、ちょ、なn─キャーーーーーーー!!!!?」

 

 本日二回目の悲鳴。白龍が甲高い声をあげながら凄い勢いで飛んだのだから、心の準備が出来ていないリズが悲鳴を上げるのは仕方ないと思う。というか誰でも上げると思う。

 白龍が飛んだと認識した瞬間には、既に穴から出ていた。

 三人の視界に映り込んだのは五十五層のフロア全景。円錐形の雪山、昨日話を聞いていた村、広大な雪原に深い森、そしてこの層の主街区、それら全てが朝日の光を反射させ光り輝いていた。

 

「うわぁ…」

 

「これは…」

 

「ほう…」

 

 それぞれ歓声をあげ、キリハとキリトは白龍から手を離し自由落下を始める。ものの数秒だっただろう。しかしその短い時間の中で、三人はその絶景を目に焼き付けた。

 

 

 

 『リズベッド武具店』に戻り、早速手に入れた『クリスタルライト・インゴット』をリズに加工してもらう。製作もらうのは片手剣だ。現在リズは金属をハンマーで叩いており、キリハとキリトはそれを見ている。

 二百五十回ほど金属を叩いた所でようやく金属に変化が現れた。金属が白い光に包まれ、その形を片手剣へと変えた。その剣は水色をしていた。リズはその剣を鑑定する。

 

「名前は『ダークリパルサー』、あたしが聞いたことないって事は今のところ情報屋の名鑑には載ってないと思うわ。はい」

 

「ありがとな、リズ」

 

「鍛治氏として客の要望に応えただけよ。で値段なんだけど」

 

 そこまで言った所で来客のベル、というかバンッ!!とドアが開き、入ってきたのは─

 

「三人とも!!大丈夫だったか!?」

 

─アスカだった。

 

「うわっ!アスカ!?」

 

 突然アスカが来たことにリズは驚いているようだ。

 

「「(よう/やあ)アスカ」僕達が一緒なんですから大丈夫に決まってるでしょう?」

 

「だとしても万が一ってことがあるだろ。例えばイレギュラーなんかがあったかもしれなかっただろ?」

 

「お前は心配性なんだよ」

 

「自分の彼女心配してなにが悪いんだよ」

 

「えっ?」

 

(明日香はバカですか!?あぁ、君は鈍感でしたね…!)

 

 キリハは珍しく(心の中とは言え)叫び、頭を抱えた。自分に惚れている女子の前で彼女がいる宣言をしたら固まるに決まってるだろう。現にリズが唖然として固まってしまった。鈍感にもほどがある。とはいえ、キリトが女だとバレたときにアスカとの関係を説明しなかったこちらにも比はある。…とは思うがアスカもリズに自分には彼女がいると言ってくれれば…いやないな。

 

「リズ、少しいいですか」

 

 唖然としたままのリズを、キリハは返事を待たずに手を掴んで外に連れて行く。店を出て行く際にチラッと見てみると、出て行く二人に気づかずに未だに言い合いをしていた。言い合いを始めると周りが見えなくなるのは欠点だが─

 

(─その方が二人らしいですよね)

 

 

 

 しばらく歩き続け、キリハは石橋の上で止まった。そしてリズに振り向き問う。

 

「君は、アスカに惚れてますね?」

 

「…うん」

 

 予想はしていた。でなければアスカが来ない事に対してああいう反応はしない。

 

「ショックでしたか?」

 

「そりゃあ、ね…」

 

(でしょうね)

 

 軽く息を吐きながらそう思った。今のリズの表情は失恋した時の表情だ。さて、問題はここからだ。

 

「それで?どうするんですか?」

 

「え?」

 

「このまま諦めるも良し、アスカに惚れ続けるも良し。どうします?」

 

 リズはそれを意味が分からないような顔で言う。

 

「なんで?普通ここは姉として妹の邪魔をするなとか、釘を刺すんじゃないの?」

 

「まさか」

 

 キリハは鼻で笑う勢いで返す。

 

「君がアスカに惚れ続けようが諦めようが、それは全て君の自由です。それと同じくアスカの恋路に口を出す気もありません。まぁ妹を泣かしたら絞めますけどね。あり得ませんけど」

 

「なにそれ」

 

 最後の方は冗談めかして笑いながら言い、それにつられてリズも少しだけ笑う。

 

「ですが─」

 

そして、次には声を低くしてこう言う。

 

「─妹に手を出そうとしているなら、僕は君を潰します」

 

 …そう、キリハにとってリズが恋を続けようが問題ではない。問題なのは、過去に何度もあった嫉妬から来る妹への被害だ。特に酷いものでは誘拐されかけた(無論、相応の仕返しはしたが)。

 

「するわけないじゃない」

 

 そんなことは知らないリズはキョトンとした顔で当たり前のように答える。

 そんなことを言うだろうと予想はしていた。明日香(アスカ)は警戒心が強い。だというのに二人にはリズの事を話さなかった。それはアスカが信頼しているということだ。故にキリハは、ほんの少し声を低くするだけにした。

 

「それと、あたしは負け戦はやらないわよ。スッパリ諦めるわ」

 

 それをキリハは意外そうに目を見開くが、口元を緩め「そうですか」と言う。一瞬、告白はしないのかと聞こうとしたがやめた。リズがそう決めたならそれでいい。何より、リズの顔に迷いがない。

 

「それでは戻りましょうか」

 

余談だが、二人が工房に戻ったらまだ言い合いをしているキリトとアスカがいた。

 

 

 

 そして現在に戻る。結局リズはキリト、キリハの二人だけで無くアスカも含めた3人の専属スミスになったのだ。

 

「はい!耐久値全快にしたわよ」

 

「「サンキュー、リズ」」

 

「はい、これ代金です」

 

「毎度~」

 

 キリハの弾いたコインをキャッチしたリズ。別に金を手渡さなくともいいのだが、そこは気分だろう。

 4人で雑談をしていると、メールの届いた音がなった。どうやらアスカにきたようで確認すると、突然慌て始めた。

 

「ヤベッ、悪い、俺ギルドに戻るわ」

 

「どうしたの?」

 

「書類その他諸々やってないの忘れてたっ」

 

「やってから来なさいよ…」

 

「キリトと一緒にいたかったから」

 

 さらりとそんなことを言ってアスカは出て行ってしまった。

 

「やってからの方がもっといられただろうが…」

 

 若干の怒りを込めて呟くキリト。ムスッとしている。もう少し一緒にいたかったのだろう。

 

「普通あんなことをさらりと言われたら照れたりするもんじゃないの?逆にこっちが恥ずかしいわ」

 

「小さい頃からああでしたので慣れたのでしょう。見てる方としては慣れましたが」

 

「…慣れるしかないかぁ」

 

「毎日見てれば最短三日、最長一週間で慣れますよ?」

 

「胸やけするからやめて」

 

 真顔でそう言うリズであった。

 

 

 

「さて、そろそろ帰りますか」

 

 そう言って二人は立ち上がり出口に向かう。

 

「いつでも来なさいよ。あ、後」

 

 リズは一度そこで区切り、キリハ達がこちらに向くのを待った。

 

「あたしが作った武器を持ってて死んだら承知しないから」

 

 ニヤリと笑みを作るリズ。その言葉に含まれた意味を察しない二人ではなく

 

「死ぬつもりは毛頭ありませんよ」

 

「当たり前だ。この世界をクリアするまで死ねるかっての」

 

 同じく笑みを浮かべながらそう言って二人は今度こそ店から出て行った。




和葉「誤字脱字がありましたらご報告よろしくお願いします」


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ラグー・ラビット

先月投稿出来なかった分を頑張りました


ではどうぞ


 迷宮区に金属と金属がぶつかり合う音が響く。音の発信源は黒のフード付きコートを着こんだプレイヤー、キリハとトカゲ型亜人モンスター、『リザードマンロード』の武器が打ち合う音だ。

 

『ガァァァア!!』

 

「ふっ」

 

 リザードマンロードが曲刀を振るうが、それをキリハは大鎌をクルクルと回しながら躍るように弾き返す。今回大鎌で戦っているのに対した理由はない。ふとそういや最近大鎌使ってないな、と思っただけだ。

 ロードが大振りに切り落としてくるのを弾き返し、そのまま追撃を行うことなく後ろに下がり距離をあける。武器を持っているモンスターは距離をあけた場合、ほとんどの確率で突進系ソードスキルを使ってくる。

 

『ゴァァ!』

 

 曲刀突進系ソードスキル『リーパー』で距離を縮めるロード、キリハはそれを誘うために距離を開けたのだ。

 キリハはロードの懐に入り込み大鎌二連激ソードスキル『クロスサイス』で十字に切り裂きHPを全損させる。ウィンドウを開きドロップアイテムを確認したキリハは一言。

 

「帰りますか」

 

 

 

 

 デスゲームが始まって早二年。最前線は七十四層まで進み、残り二十六層となった。死者は約三千、思ってたより少ないというのがキリハの本音だった。まぁ死者は少ないにこしたことはない。それよりも、攻略スピードが落ちてきている方が問題だ。死ぬのが怖くなったのではない。慣れてきてしまったのだ、この世界に。

 迷宮区から出てそこまで考えていると、物音がした。すぐに索敵スキルを使って周囲を警戒し、背の大鎌に手をかける。そして草むらから出てきたのは、ウサギ型のモンスターだった。

 

「ラグー・ラビット…」

 

 『ラグー・ラビット』、それがこのモンスターの名前だ。キリハは鎌から手を離し、代わりに投球用ピックを取り出した。出現率が低く、更に敏捷は全モンスター随一という噂だ。わざわざ近付いて逃げられるリスクを負う必要は無い。そもそも何故倒そうとしているのか。特に経験値が高いわけでもレア素材を落とすわけではないのだが…。

 キリハは投球系ソードスキル『シングルシュート』を放つ。初期ソードスキルだからと侮るなかれ。キリハのステータスで放つ『シングルシュート』は目視することすら難しい速度で飛んでゆく。攻撃速度が高ければ威力は増す。そんなものを敏捷以外は低いステータスしかないモンスターが受ければどうなるか。ピギッと鳴き声を上げたラグー・ラビットはHPバーをどんどん減らしていき、ポリゴンとなった。ウインドウを開きアイテムを確認する。取得順にしてる一番上にそのアイテムはあった。『ラグー・ラビットの肉』、S級食材だ。この食材はモンスターのレア度もあり市場では一つ数十万単位で取引され、味も最高だそうだ。件も、キリハ達─というか攻略組のほとんど─は食べたことがないが。レア度の高い食材はそれだけ高い『料理スキル』が必要だがキリハもキリトもアスカもつい最近コンプリートしたので問題ない。

 

(これ、どうしましょう)

 

 皆(三人+風林火山、黒猫団、エギル)で食べるか、三人だけで食べるか。

 

(僕達だけで食べると皆に悪いですよねぇ)

 

 SAOの世界では食べ物が唯一の娯楽と言ってもいい。黙っていれば良いだろうが、バレた時に(特にクラインに)恨まれそうだ。かと言って、皆で食べるにもこの量だと一人一口くらいになってしまう。せめてもう一つ手に入れば…。

 まぁ無理だなと考えているとメールが来た。キリトからだ。迷宮区から出てきたようだ。メールを見てみると次のようなことが書いてあった。

 

『from キリト

 姉さん聞いてくれよ!迷宮区から出たら運良くラグー・ラビットがいたから倒して食材ゲットした!皆で食おうぜ!とりあえずエギルの店に行ってるな!

                to キリハ』

 

「……わぉ」

 

 メールを読んだキリハは辛うじてそう発した。無理だと思っていた矢先にこのメールが来たのだ。それ以外にどう言えと。とりあえず『わかりました』と短くメールを返す。キリハも肉を手に入れてるが、メールで言う必要はないだろう。

 

(さてと、待たせるわけにはいきませんね)

 

 キリハはポーチから転移結晶を取り出す。金には余裕があるので、また買えばいいだろう。そしてキリハは自身のホームがある場所を言った。

 

「転移、アルゲード」

 

 

 

 アルゲードは第五十層の主街区だ。場所によっては迷路のように入り組んでおり、迷って帰って来れなかった、という噂が流れるほどだ。キリハ自身、ここにホームがあるが街の全容を把握仕切れていない。まぁ、利用する場所は把握出来ているので問題ないのだが。

 鎌からいつもの刀に変えたキリハはエギルの店まで迷うことなく向かっていく。店に着いたので中に入ると、フードを外したキリトとエギルが話していた。念の為、他に客がいないことを確認してからフードを外す。こちらに気づいたキリトが近づいてきて興奮気味に話しかけてきた。

 

「姉さん!ラグーの肉をゲットした!凄くないか!?」

 

「さっきメールで送ってきたでしょう。何回話すつもりですか」

 

 なんか目がキラキラと輝いている。興奮しているキリトは置いといて、取りあえずエギルに挨拶する。

 

「やぁエギル、先程肩を落としているプレイヤーとすれ違ったのですが、また安く仕入れたのですか?」

 

「ようキリハ、安く仕入れて安く売る、それがこの店のモットーなんでね」

 

 ニッと笑いながら挨拶をする黒人スキンヘッドのプレイヤー、エギル。ご存じだろうがエギルとは第一層からの付き合いであり、キリハ達が信頼するプレイヤーの一人だ。故にフードは外している。

 

「安く買われましたが、安く売られた記憶はありませんよ。因みに何をいくらで買いました?」

 

「『ダスク・リザードの革』二十枚で五百コル」

 

「…それ安すぎません?」

 

 『ダスク・リザードの革』は優秀な武具になる素材だ。それが二十枚で五百コルは安すぎる。

 

「向こうが納得したんだ。それでいいだろ」

 

「納得させたの間違いじゃないか?大方、その悪人面で睨み付けたんだろ?」

 

 否定も肯定もせず肩を竦めるエギル。そもそも、エギルがこんな商売をしているのに理由があるので、そのことを知っているキリハ達は咎めることはしない。

 

「そういえば、アスカにもメールしたんですか?」

 

「ん?あぁ勿論、だから多分そろそろ…」

 

 ドアの開く音が聞こえ咄嗟にフードを被る二人。入ってきたのは─

 

「ようキリト、キリハ。エギルさんも」

 

─勿論アスカだ。後ろには二人の護衛がついている。

 

「「「(よう/やあ)アスカ」」メールを見て急いできました?」

 

「当たり前だろ。S級食材なんて中々食えるものじゃないからな」

 

 笑いながら問うキリハに即答するアスカ。確かにS級食材は中々手に入らないのでアスカの言っていることに間違いはないのだが、これに本音を足すと

 

「当たり前だろ。S級食材なんて中々食えるものじゃないからな(佳奈が誘ってくれたんだから来ないわけないだろというかS級食材なら佳奈の為ならいくらでも獲ってきてやるし確率とかそんなの問題ないし狩り続ければ出てくるだろうし─)」

 

 こうなる。因みにアスカのこれは平常運転だ。キリトも大体こんな感じ。ただ、普段隠している分、二人きりになった時の反動は凄い。もし目撃したら、その瞬間に砂糖を吐くか精神的に死ぬか温かい目で見るかのどれかになる(キリハは温かい目で見る)。

 

「それだったら二人で食べたらどうですか?二人だったら食べられる量も増えるでしょう?」

 

 そういえば最近二人きりにさせてあげられてないなと思ったキリハはそんなことを言った。二人にさせる口実としては少し苦しい気がするが。

 

「キリハはいいのか?折角キリトがS級食材をゲットしたのに」

 

「…僕もゲットしたのでいいですよ」

 

 二人きりにしてあげようとした気遣いを無駄にしようとしたアスカを殴りたくなったがなんとかこらえ、そう言う。

 

「「「なに!?」」」

 

 そんなことを言ったら勿論驚くわけで。そしてキリトとアスカはこう言いやがった。

 

「「だったら余計に一緒に食べれば良くないか?」」

 

 …あ、ヤバいキレそう。

 アスカだけでなくキリトもそう言ってくるので一瞬ブチ切れモードに入りそうになったのを、ホントに、ギリギリで、こらえる。そして出来るだけニッコリと笑いながら二人を手招きする。それが逆に怖い。ここでようやくキリハがキレそうなことに気が付いた二人は青ざめながら近づく。キリハは二人の肩に手を置き顔を近づけ、周りに聞こえないようにこう言った。

 

「折角僕が気を遣ってんのにそれを無駄にする気か?君らは。

 

 

 

分 か っ た ら さ っ さ と 行 け」

 

「「は、はい…」」

 

 訂正、キレそう、ではなくキレている。敬語がログアウトしていた。あまりの怖さに二人は返事をし、店を出て行った。護衛の二人は(うち一人はこちらを睨んでから)アスカに着いていった。

 

「な、なぁキリハよぉ、俺にも味見ぐらいさせてくれるよな?な?」

 

 色々と鈍感な二人にため息をついたキリハにエギルが怖ず怖ずと聞いた。

 

「普通に食べさせてあげますよ。他にクライン達も呼ぶので一人一口ぐらいになってしまうと思いますが」

 

 エギルは小さくガッツポーズをとった。一口食べられるだけでも嬉しいらしい。それを横目で見ながら風林火山、黒猫団の皆に下記の内容のメールを送った。

 

『ラグーの肉を手に入れたので皆で食べましょう。大勢いるので一人一口になってしまうと思いますので、他にも料理を作っておきます。場所は僕のホームにしましょう。十五人くらいなら普通に入れるので』

 

 

 

 一時間後、キリハのホームに集まった皆はラグーの肉とキリハの作った料理に舌鼓を打ち、その場にいた独身男性全員に「嫁に来てください!」と言われ、それを手伝ってくれると言ってくれたサチと共にぶっ飛ばしたのは余談だ。




誤字脱字、又おかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします


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デュエル

先に言っておきます。自分はクラディールが嫌いです。ですので、タグについている『キャラ改善』、『原作キャラ生存あり』に含まれていません。というか含みたくない。
和葉「どんだけ嫌いなんですか…」
殺したいくらい(即答)
和葉「あぁ、そうですか…」

ではどうぞ


 翌日

 

 七十四層主街区の転移門の前にキリハはいた。というのも先日、パーティーを終えたキリハは皆を見送り、就寝しようとしたところでキリトからメールが来たのだ。見れば『明日、明日香と迷宮区行くことになったから姉さんも行くか?』と来ていたので『勿論』と返した。その後は集合時間を決め、キリトは今日アスカの所に泊まってるだろうなぁと思いながら寝た。そして今朝準備をして転移門の前で待ってるわけだが…。

 

(遅いですねぇ)

 

 待ち合わせ時間から十分経っても二人が来ない。片方だけならともかく、二人そろって遅刻とは珍しいものだ。寝坊などは考えにくいので恐らく、というか十中八九面倒な事に巻き込まれたのだろう。

 すると、転移門が青白く光り始めた。もう何度見たか分からない転移してくるエフェクトだ。これが二人じゃなければ連絡を取ろうと思っていたが─

 

「「キリハ!!そこ退いてくれ!!」」

 

「はい?」

 

─声に反応して振り返ると、目の前には跳んでいる二人がいた。まさかそう来るとは思わなかったので一瞬硬直はしたが、咄嗟に体が動き横に回避した。二人はキリハが先程までいた場所に着地する。

 …危なかった。回避が遅れていたら潰されていた。

 

「…あまり聞きたくないのですが一応聞きます。何があったのですか?」

 

「「それよりも早く逃げる!」」

 

「は?えっちょっ」

 

 キリトが珍しく現状把握出来ていないキリハの手を引いてこの場から去ろうとする。が、それより早く転移門から一人の男性プレーヤーが出てきた。その男を見た瞬間、アスカとキリトはキリハの後ろに隠れた。

 

「アスカ様、本部に行きましょう」

 

「嫌だよ!つか、何で俺のホームの前にいたんだよ!!」

 

 おっと問題発言。キリハは冷たい目で男を見る。(フードを被っているので相手には分からないが。)よくよく見れば、昨日エギルの店から出るときにキリハを睨んだアスカの護衛だった。

 アスカの問いに男は答える。

 

「それは勿論、私がアスカ様の護衛だからです」

 

 心なしか、胸を張って答える男。

 

「護衛だからってホームの前にいる必要ないだろ!!」

 

 アスカのもっともな言葉にキリト達はおろか、周囲にいたプレーヤー達も頷く。しかし、それはこの男に見えてないようだ。

 

「さぁアスカ様、本部に戻りましょう」

 

「断る!!俺はこれからキリト達と迷宮区に行くんだから帰れ!!」

 

「我が儘を言わないでください。それに迷宮区に行くなら、そんな頼りない小僧達ではなくギルドのメンバーで充分でしょう」

 

「…あ?」

 

(おや)

 

(((((((あ、あの人地雷踏み抜いた…)))))))

 

 アスカの出した低い声を聞いて、キリハは男がアスカの地雷を踏み抜いた事を把握し、周囲のプレーヤー達は震え上がった。今のアスカは誰がどう見てもマジギレ五秒前にしか見えない。

 今にも細剣(レイピア)を抜きそうなアスカの肩をキリトが抑え、前に出る。

 

「んじゃ、頼りないかどうか試してみるか?」

 

 先程の怯えが嘘のように不敵な笑みを浮かべるキリト。まぁ、恋人の家の前に不審者がいたら怯えるのが普通だと思うが。

 男は眉をひそめただけで、相手にしなかった。

 

「ふん、手合わせしなくとも貴様達など「あぁなるほど、負けるのが怖いのか」なんだとっ…!?」

 

 しかし、キリトの挑発には耐えられなかったようだ。男は憤怒の表情に染めた。

 

「わ、私は栄光ある血盟騎士団のっ…」

 

「んなこと関係ないだろ。それに、少なくともあんたよりはマシな護衛が出来るぜ?」

 

 不敵な笑みはそのままに、挑発に挑発を重ねるキリト。男は先程よりも顔を赤くしていく。勿論怒りによって。

 キリハは、未だに少しだけ不機嫌なアスカに話し掛けた。

 

「アスカ」

 

「なに」

 

「あれ、いいんですか?KOBの副団長とs「知るか。キリトを馬鹿にしたことを後悔すればいいんだよ」…ですよね」

 

 知ってた、という風に溜息をついた。

 キリトの方へと視線を戻すと、既にデュエルのカウントダウンが始まっていた。どうやら最初に攻撃を当てるか体力が半分になったら決着がつく《初撃決着モード》のようだ。周囲を見ると先程よりもプレイヤーが増えている。当たり前だろう。何せ攻略組で名を知られているキリトと、名のあるギルドメンバーがデュエルをするのだ。ここに至るまでの経緯を知らない者達は盛り上がっていた。

 男の名前は…後でアスカに教えて貰えば良いのでキリトの立ち姿を見る。愛剣、エリュシデータを右手に持ち、手をぶら下げ下段受け身の構えを取っている。どうやら、二刀流を使う気はないらしい。次いで男に視線を送る。武器は装飾を施した両手剣、上半身を前に少し倒し中段担ぎ気味に構えている。明らかに突進系のソードスキルを使ってくるだろう。勿論、フェイクの可能性もある。だからキリトは突進系で来るのを半ば確信しながらも他の手も考えておく。

 そして、カウントがゼロになった瞬間、キリトは地面を蹴り数瞬遅れて男も飛び出した。男は顔を驚愕に染める。キリトが受け身の構えを取っていたのに飛び出した事に驚いたのだ。男はキリハ達の予想通り、両手剣突進系ソードスキル『アバランシュ』を繰り出した。『アバランシュ』はその突進力から繰り出される一撃は、生半可なガードなら技の衝撃によって相手に反撃をさせず、重さで武器を弾き飛ばし、回避されても突進によって距離が出来るためにプレイヤーが体勢を立て直しやすい非常に便利なスキルだ。あくまで()()()()()()()なら、の話だが。対するキリトは片手剣突進系ソードスキル『ソニックリープ』を繰り出した。

 男は勝利を確信した笑みを顔に浮かべた。通常、武器同士が衝突した場合、より重い武器が勝つ。勿論のこと武器が弾かれれば大きな隙になる。しかし、キリトの狙いはつばぜり合いではない。両手剣と片手剣でのつばぜり合いなど結果が見えるものを、何故わざわざやらなければならない。それにもう一つ、武器同士の衝突による結果がある。

 キリトのエリュシデータと男の両手剣が衝突した瞬間、金属の折れる甲高い音が聞こえ二人はすれ違い、最初とは逆の立ち位置になった。二人の間、丁度中央に上空から何かが落ち、地面に刺さる。それは、男の持っている両手剣の半分から上だけの物だった。そして男の持っていた両手剣はポリゴンとなった。

 これがもう一つの結果、《武器破壊》だ。普通、これを狙うのは至難の業だ。なにせ武器の最も弱い箇所、方向にソードスキル等を使った強い衝撃を与えなければ起こらない。しかしキリトには折れるという確信があった。装飾を施した装備は総じて耐久値が低い。無論、それだけで折ることは出来ない。

 ソードスキルはどう動くのか決まっている。決められている動きを無理矢理変えようとすると不発に終わり、それに加え硬直もしてしまう。それをキリトはソードスキルがキャンセルされない程度に動きを調整して武器の弱い箇所に当てたのだ。

 

「武器を変えてやり直すなら付き合うが、もう良いんじゃないか」

 

 両手を地面につき呆然としている男にキリトは声をかける。男は肩を震わせて「アイ、リザイン…」と呟いた。わざわざ英語で言わなくとも良いのだが。

 

「私がっ…栄光ある血盟騎士団の一員である、この私がぁぁぁあっ!!!」

 

 しかし男は短剣を新たに装備し直し、そう叫びながらキリトへと飛びかかった─と周囲のプレイヤー達が認識した瞬間には既にアスカによって短剣が吹き飛ばされていた。

 

(相変わらず佳奈への危険に対しては反応速度がおかしいですね…)

 

 そう思いながらキリハは刀から手を離す。キリハも飛びだそうとしていたのだが、それより早くアスカが飛び出していった。正直な所、アスカよりキリハの方が敏捷値は高いはずなのだが気にするだけ無駄だろうと思いキリト達へ近づく。

 

「クラディール、別命があるまで本部で待機。副団長として命令する」

 

 クラディールというらしい男は顔を歪ませながらも転移結晶で消えていった。こちらへ、特にキリトに殺気立った視線を送りながら。

 

「あのクラディールというプレイヤー、気をつけた方がいいですね」

 

「あぁ、分かってる」

 

「そんなことより早く迷宮区行こうぜ」

 

 キリトがそう言いながら歩き始めそれについていきながら、まぁ二人に何かしでかしたら殺すけど、とキリハは危ない思考をしていた。




誤字脱字、おかしい所がありましたらご報告お願いします。


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青眼の悪魔

どうも皆さん、ナナシ猫です。もう年末ですね。皆さんはどうお過ごしになりますでしょうか。自分は家族と友人と過ごします。
恋人?いませんよそんな人…。
和葉「工業生の悲しい性という奴ですね」
まぁいるけどね!!彼女持ちの奴!!


ではどうぞ


『─ッッッ!!』

 

「キリト!」

 

「はいよ!」

 

 現在迷宮区にてキリトとアスカは骨型モンスター『デモニッシュ・サーバント』三体と戦っており二人は互いの名前を呼ぶだけで意思疎通をしていた。そんなことが出来るのはSAOの中ではこの二人だけだろう。

 

『ガァァァアッ!!』

 

 対してキリハは三体のリザードマンロードと戦っていた。三方向から囲まれている状況だというのに全く苦戦していない。というより遊んでる。キリハ自身は全く攻撃せずにリザードマンロードの攻撃を受け流して別のリザードマンロードに当てていた。しかし、ここはゲームの中だとはいえ敵は学習する。受け流させたとしても仲間に当たらないように上から振り下ろす。

 

「せいっ」

 

『『ギャッ!?』』

 

 が、キリハに対してはまだ甘い。キリハは振り下ろされた腕を掴み背負い投げの要領で別のロードに投げ飛ばした。

 

「キリハ-、こっちは終わったからそっちも遊んでないで終わらせろー」

 

 アスカの声に視線だけ送ると既にデモニッシュ・サーバントの姿がない。キリハは「了解」と言い三体のロードへと突っ込む。繰り出すのは、刀三連撃ソードスキル『朧月夜』。

 

『ギッ!?』

 

 一撃目、正面にいるロードの顔へ突きを繰り出す。

 

『─ァ?』

 

 二撃目、横斬りで右隣の唖然としているロードの首をはねる。

 

『ゴッ!?』

 

 三撃目、縦斬りで最後のロードを真っ二つにする。

 先程までキリハに遊ばれていてHPが減っていたロード達は全員ポリゴンへと変わった。キリハは刀を鞘に納め、二人と合流する。

 

「珍しいな。キリハがソードスキルを使うなんて」

 

「さっさと終わらせたかったので」

 

「なら何で遊んでたし」

 

「楽しめるかなと思ったんですけど…、思ったより楽しめませんでした」

 

「「あっそう…」」

 

 そんなこんなで出現(ポップ)するモンスターを倒しながら奥へと進んでいくと、高さ五メートル程の門を見つけた。

 

「これ…ボス部屋…だよな…?」

 

「もうそんなに潜ってたのか…」

 

 アスカが確認をし、キリトはもうボス部屋まで来たことに軽く驚いていた。七十四層に入ってからまだ二週間経ってないからだ。

 

「開けてみます?」

 

 キリハの提案にアスカが難色を示す。

 

「ううん…確認だけなら大丈夫…か?でも俺達三人しかいないし…」

 

「大丈夫だろ。フロアボスは部屋から出られないんだからさ」

 

 心配性だなぁ、とキリトは言わない。アスカが自分のことを想って言っていることがわかっているからだ。

 キリハはキリトの言葉に頷く。

 

「キリトの言うとおりです。ですが一応、転移結晶は準備しておきましょう」

 

「「了解」」

 

 キリトとアスカが結晶を用意したのを確認したキリハは門をぐっと押した。開いた門の先に見えたのは薄暗い空間。顔を見合わせた三人は一つ頷き、ボス部屋に一歩踏み出した。途端、青白い炎が奥から壁に沿って部屋の中を照らし出す。そして部屋の中央でポリゴンが集まり形を成していった。

 人の様に四肢があり、手には大剣を持っている。ここまでは今までの人型モンスターと同じだ。違うのは、腰から蛇が生えており、顔はヤギ。その姿は悪魔を連想させられる。いや、それは確かに悪魔型モンスターだった。

 名前は『The Gleam Eyes(ザ・グリームアイズ)』、意味は『輝く目』。

 グリームアイズは顔をゆっくりと上げこちらを確認した─瞬間

 

『グォォォォォォォォォォォオ!!!!』

 

 咆哮を上げながらこちらへ直進してきた。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!?」」

 

 あまりにも突然のことにキリトとアスカは悲鳴を上げながらダッシュで来た道を逆走、ちゃっかりとキリハの腕を掴んで。

 

「ちょっ、二人とも!?」

 

 キリハが「止まってください!!」と叫んでも二人は止まらず─この時の二人の頭からは、原則ボスは部屋から出られないということはない─安全エリアまで逃走した。

 

 

 

「「すいませんでしたっ!!!」」

 

 現在、迷宮区内にある安全エリアにてキリトとアスカの二人は土下座していた。無論、相手はキリハだ。経緯は以下の通り。

 あの後、安全エリアに入って二人はホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、二人は後頭部を(キリトはフード越しに)ガッと掴まれた。あっ、と思いギギギと錆びた機械の様に後ろを向けば、そこにはニッコリと、それはもうすんばらしい笑顔(ただし口だけ)をした悪魔(キリハ)がいた。二人が顔を青ざめたのを確認したキリハは一つ頷くと二人の頭をぶつけた。頭を抑え悶絶している二人の前で腕を組んで仁王立ちをしたキリハは一言、「何か言うことありますか?」と言った。そして先程の土下座へつながる。

 何度も止まれと意思表示をしているのに止まらなかったのだから流石のキリハも怒る。これは二人が悪い。

 と、そこで安全エリアに複数のプレーヤーが入ってきた。

 

「ふぅ、やぁっと安全エリアかぁ。お前ら少し休んで─ってキリハ達じゃねぇか」

 

「やぁ、クライン」

 

 入ってきたのは六人の小規模ギルド《風林火山》。こちらに気付いたのは皆さんご存じ、野武士面の侍ことクライン。

 クラインに気づいたキリハは顔を向けて挨拶をし、クラインは片手を上げながらこちらへ歩いてきた。

 

「ようキリハ。んで、何でこの二人は土下座してんだ?」

 

「僕が止まれと言っていたのに止まらなかったので説教をしようとしたら土下座を」

 

 クラインはなるほどと思うが、同時にキリハの説教はそんなに怖いものなのかとも思った。それを二人に聞くと

 

「…お前は姉さんの説教を食らったことないからそんなこと言えんだよ」

 

「クラインさんも食らってみれば分かりますよ…」

 

 と返ってきた、かなりガチのトーンで。クラインはおぉう…と反応するしかなく、他の風林火山のメンバーも似たような反応をした。おかげでその場に変な沈黙が流れた。

 

「まぁ二人とも反省しているようなので説教はやめにしましょう。まだ昼食も食べていませんし」

 

 その変な沈黙はキリハが破った。その言葉でようやく二人は土下座を直す。因みに今の時刻は十五時、とっくに昼を過ぎている。

 

 

 三人+風林火山のメンバーで遅めの昼食を食べていると、全員が重装甲を身に纏った十二人のパーティーが入ってきた。

 

「全員休め!」

 

 その中で一人だけ、ほんの少し装飾を施したパーティーのリーダーと思わしき男のその合図で他の十一人は倒れるように座り込んだ。男はチラリとそれらを見てからこちらに歩み寄ってきた。そしてキリハ達の前で止まり、兜を外し名乗った。

 

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツだ」

 

 因みに元のギルド名は《ギルドMTD》で、《軍》というのは周囲の者が揶揄的につけた呼称だ。

 

「キリト、ソロだ」

 

「キリハ、同じくソロです」

 

「KOB所属、アスカだ」

 

「風林火山所属、クラインだ」

 

 相手が名乗ったならこちらも名乗る。キリハ達にとって常識だ。コーバッツは一つ頷き、こう聞いてきた。

 

「君達はこの先を攻略しているのか?」

 

「えぇ、ボス部屋の前まではマッピングしてあります」

 

 それを聞いたコーバッツは

 

「出来ればそのマップデータを提供してはいただけないか」

 

 と片手を差し出して言ってきた。返事は勿論─

 

「構いませんよ」

 

─yes、だ。その返事に驚いたのはクライン達風林火山のメンバーだけだった。キリトとアスカは、キリハの返事が分かっていたので軽くため息をついた。

 

「お、おい、いいのかよキリハ」

 

「街に戻ったら公開しようとしてましたし、そもそもマップデータで商売する気はありません」

 

 そう言ってキリハはウインドウを開きコーバッツにマップデータを渡す。コーバッツは受信したのを確認すると「協力感謝する」とだけ言って後ろを向いた。

 

「ボスに手を出すのはやめといた方が良いぜ」

 

 しかしその背にキリトが声をかけ、コーバッツは顔だけを僅かに向けた。

 

「…それを判断するのはリーダーである私だ」

 

「さっきちょっと覗いたけど、あれは生半可な人数でどうにかなるボスじゃない。あんたの仲間も消耗してるみたいじゃないか。少しは休んだ方がいい」

 

「…警告は感謝する。しかし我々は進まなければならない」

 

 KOB副団長の言葉に声を荒げることも無く、そう言ってコーバッツはパーティーの元へ戻っていき全員を立たせ、先へ進んでいった。

 いくら見かけ上のHPが満タンでも目に見えぬ疲労は出てくる。キリハの見た限り、コーバッツと()()()()以外のプレーヤーは慣れない最前線の戦闘でかなり疲労しているようだ。

 

「大丈夫なのかよ…あの連中…」

 

「あんなに疲労困憊なんすよ?。流石にぶっつけ本番でボスに挑むことはないと思いますが…」

 

 軍のプレーヤーがいなくなった空間にクラインと風林火山のメンバーの一人が気遣わしげな声を出した。普通に考えれば、そんなことはないと言い切れる。だが─

 

「─追いかけた方がいいでしょう」

 

 キリハの言葉にその場の全員が頷いた。ここで自分達だけ脱出して軍のプレーヤー達が全員未帰還、などと聞いたら寝覚めが悪い。

 そしてキリハ達は軍を追うため、迷宮区の奥へと向かっていった。




誤字脱字がありましたらご報告お願いします


因みにこれを友達に試し読みして貰うまで、自分はコーバッツの名前を『ユ』ーバッツと勘違いしてました…。ハズい…
あ、後、コーバッツはタグの『キャラ改善』に入っています。セリフを見れば、原作より言葉が柔らかいです。…少なくとも自分的には柔らかく書いているつもりです。


それでは皆様、年明けにまたお会いしましょう。よいお年を~(*^^*)ノシ
和葉「それでは、僕は浩一郎と年越ししてきますね~」
あ、裏切り者!!


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露見

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします


 途中、運悪くロードの集団に遭遇してしまい、安全エリアから出てから既に三十分が経ってしまった。しかし軍のパーティーに追いつくことはなかった。

 

「ひょっとしてもうアイテムで帰っちまったんじゃねぇ?」

 

 おどけたようにクラインが言ったが、その場の全員はそんなことはないだろうと思っていた。

 

(…嫌な予感がしますねぇ)

 

 嫌な予感というのは当たってしまうものだ。今回もその予感が当たってしまった。

 

─あぁぁぁぁぁ……─

 

 聞こえてきたそれは、間違いなく人の悲鳴だった。悲鳴を聞いたキリハ達は一斉に駆け出す。敏捷で勝るキリハ達三人が風林火山を置いてってしまうが、今は気にしていられない。

 やがて、ボス部屋が見えた。既に門が左右に大きく開いている。遅かったかと舌打ちしたい所だがその時間すらも惜しい。更に加速する。

 そして扉の内部が見えてきた。そこは─正に地獄絵図だった。床には青白い炎が吹き上げ、中央でこちらに背を向けている巨体。グリームアイズだ。

 悪魔は右手に持っている斬馬刀を縦横に振り回していた。体力はまだ一本目の三割も削っていない。その奥に見える逃げまどう影、軍だ。咄嗟に数を確認するが二人足りなかった。もう、そこまで確認したら止まれるはずもなかった。

 キリハ達三人はブレーキをかけることなく中に入り、後ろから攻撃した。三人同時に攻撃したのにHPはろくに減らなかった。だがそれでいい。目的はこちらに注意を向けることなのだから。

 悪魔はこちらを認識し、威嚇の雄叫びを上げる。それを確認してからキリトが軍に向かって声を上げた。

 

「今の内に転移で逃げろ!!」

 

 しかし、その言葉に一人のプレーヤーが絶望の表情でこう叫び返した。

 

「駄目だっ…!ク…クリスタルが使えない!!」

 

「「「な……!?」」」

 

 絶句する三人。その隙を逃さず、グリームアイズは斬馬刀を振るう。が、三人ともそれを回避した。

 絶句したのも無理はない。男の言葉が真実ならここは《結晶無効化空間》、そしていなくなった二人は死んでしまったことになる。

 

「キリト!!俺とキリハが注意を引かしてる間にそいつらを避難させろ!!」

 

 そう言ってアスカは、キリトの返事を聞く間もなくキリハとグリームアイズへ向かっていった。確かに、三人の中ではキリトが一番STR値が大きい。キリトが連れた方が早いだろう。

 

「お、おいおい…!どうなってんだこりゃあ!」

 

 そこでタイミング良くクライン達が到着、キリトは声を上げた。

 

「クライン!こいつら運ぶの手伝ってくれ!」

 

 一瞬だけ目を見開くが、すぐに「あいよ!」と返事をした。キリトはコーバッツの所へ向かう。

 

「おいあんた!今すぐ部下を撤退させろ!」

 

「っ…だが、我々に撤退は許されないっ!」

 

 キリトの発言を、コーバッツは拒否した。冷や汗を垂らしながらそう言っている(さま)は、どこか必死いだった。そしてコーバッツはヨロヨロと立ち上がりながら命令を下す。

 

「全軍…突─」

 

「─バカヤロウ!!」

 

 しかしコーバッツの突撃命令を、キリトは彼の胸ぐらを掴みながら遮った。

 

「今更何言ってやがる!!あんたの部下が二人死んだんだぞ!!今の状況を分かってんのか!!」

 

 基本的にボス攻略で死者を出すことはあってはならない。故に、死者を出来る限り減らすため、ボス部屋を発見したら偵察隊を派遣しボスの攻撃パターンを把握する。それをこの連中は、死者を出したばかりか攻撃パターンの把握すらしようとせずただ闇雲に突撃していくだけだと?

 

─巫山戯るな─

 

「何をそんなに必死になっているか知らねぇがあんたはパーティーのリーダーなんだろ!?だったらこれ以上部下を死なすんじゃねぇ!!」

 

 悪魔の雄叫びと金属のぶつかり合う音が鳴り響く中、キリトはコーバッツへ怒声を浴びせる。命の価値を知っているが故に…。

 

「生き残る為の最善策を考えろ!!それが、部下の命を預かるリーダーの仕事だろうが!!」

 

 そう言い切ったキリトは息を整えた後、「クライン、後は任せた」と言いキリハ達の方へ向かった。

 

「スゲぇよな、あいつら」

 

 キリトの言葉に唖然としているコーバッツにクラインは話しかけた。

 

「まだまだガキだってぇのに、あぁやって俺ら大人に混じって命張ってんだぜ。あいつらを見てると、俺らも怖じ気づいていられねぇと思うよな」

 

 そう言ったクラインはコーバッツに肩を貸し、「ようしお前ら!こいつら運び出すぞ!」と言い、風林火山のメンバーは「押忍!」と返事をした。

 コーバッツはクラインに運ばれながら、部屋の中央で戦っているキリト達を見ることしか出来なかった。

 

 

 

「あっぶな!?」

 

 アスカの頭上を斬馬刀が通り過ぎる。

 グリームアイズの注意を引きつけているキリハ達は苦戦、とまでは行かなくとも攻めきれないでいた。理由としては単純に人数不足、武器のリーチ、特殊攻撃として青白い炎を吐く、背後からの攻撃を腰から生えている蛇が防ぐ事が上げられる。

 どうやらあの蛇はグリームアイズとは別の頭脳(のようなもの)を持っているらしい。だからグリームアイズが気づいていなくとも蛇が気づいていれば背後からの攻撃を防御される。だが蛇を攻撃すればHPは減っているので体力は共有しているのだと思われる。

 まぁ軍の方へ行かせないのが目的なので攻撃を与えられなくともいいのだが。

 

「チッ、あの蛇やっかいですねぇ。蛇の分際で」

 

「おーいキリハー、気持ちは分かるが口調が崩れてるぞー。

まぁ俺ら二人しか今んとこいないし、キリトが来れば変わるだろ」

 

「アスカ!キリハ!」

 

 だが、注意を引きつけるのが目的なのだから仕方ないとはいえ、攻撃が当たらないことにキリハが苛ついてきた。ストレス溜まってたのかなぁ、なんてアスカが思っている所でキリトが合流した。

 

「おや、お早いお戻りで。軍の皆さんをもう避難させたんですか?」

 

「クライン達に任せてきた」

 

「それなら安心です…ね!!」

 

 キリトが戻り軍の安全を確認した瞬間、キリハはグリームアイズへ向かって疾走した。グリームアイズは斬馬刀を縦に振り下ろすがそれをギリギリで回避、(ふところ)に入り込み一閃、そのまま追撃を叩き込む。しかしやられてばかりのグリームアイズではない。武器を持っていない左手でキリハを攻撃する。が、それをバックステップで回避、入れ替わる形でで二刀流のキリトと細剣(レイピア)のアスカが懐に入り込んだ。

 

「「はぁぁぁぁぁあ!!」」

 

 二刀流二十七連撃、最高位ソードスキル《ジ・イクリプス》、細剣(レイピア)八連撃、最高位ソードスキル《スター・スプラッシュ》をお見舞いする。ソードスキルを止めようと二人に攻撃を浴びせるが無駄な抵抗で、HPバーがグングン減っていき、残り一本の半分で止まった。

 

『グォォォォォォォオ!!!』

 

 ソードスキル後の硬直は大きな隙となる。グリームアイズはそれを見逃さず斬馬刀を下からすくい上げる。狙われたのは─

 

「がっ」

 

─キリトだった。二刀流が危険だと判断したのだ。

 

「キリト!!」

 

 アスカはすくい上げられたキリトに悲痛な叫び声を上げた。グリームアイズは硬直しているアスカに構わずキリトに追撃をかけようと跳躍した。助けに行こうにもスキル後の硬直で動けない。倒れたキリトが顔を上げると既に斬馬刀が目の前にあった。防ごうにも片手では無理だろう。それでもやらないよりはマシと考えダークリパルサーを出そうとしたが─それより早くキリトの前に立ち斬馬刀を弾いた者がいた。

 

「まさかと思いますけど、僕のこと忘れてませんでした?」

 

 無論キリハだ。刀より攻撃力の高い大鎌に持ち替えている。そもそも刀では斬馬刀をそらすことは出来ても弾くことは無理だろう。

 

 

「キリト、フードとれてますよ。いいんですか?」

 

 グリームアイズを警戒しながらもそう言うキリハ。当のキリトは、どうりで視界が広くなったわけだ、と納得していた。素顔が見られたことに関してはどうでもいい、というより正直面倒くさくなってた所なので丁度良いだろう。

 キリトの反応からそれを読み取ったキリハは、ため息をついた後自身もフードをとることにした。

 

「ん?キリハもいいのか?」

 

「どうせ騒ぎになるなら一度の方が楽でしょう?」

 

「それもそうか」

 

「キリト!大丈夫か!」

 

 そこへアスカが来た。大丈夫、と言おうとしたがHPを見てみると半分まで減っていた。そのことを言った瞬間アスカが回復ポーションをキリトの口へ突っ込んだ。そのせいで思いっきりむせたが。

 

「ゲホッゲホッ。いきなり突っ込むな!むせただろうが!」

 

「あ、いや悪い。つい」

 

「テメェコノヤロウ。覚えとけよ」

 

「─アスカ、キリトを頼みますよ?」

 

 は?と呟く間もなく、キリハは鎌を構え直し─疾走した。グリームアイズは一瞬目を見開き、キリハを返り討ちにするべく雄叫びを上げた。

 近づけさせまいと斬馬刀を横に振るう、それを跳躍して回避、した瞬間に蛇が襲いかかってきた。がキリハは蛇を踏み台にして更に跳躍、そして頭に向かって振り下ろす。しかし斬ることは叶わず斬馬刀に防がれた。つばぜり合いはせずにいったん武器を引いて着地、と同時に近づきソードスキルを放つ。

 大鎌九連撃、最高位ソードスキル《ヘル・サイス》。斬る、斬る、斬る、斬る、ただ斬り続ける。地獄へと誘う技が、グリームアイズへ迫る。拳や斬馬刀が叩き込まれるが、そんなことでは止まらない。

 

「シッ!」

 

 短い言葉と同時に出された最後の一閃はグリームアイズを両断し、ポリゴンへと変えた。

 それを見届けたキリハは鎌を左右に軽く振ってから背にかけ、キリト達の方を向いた。するとそこには、ムスッとしてるキリトがいた。なんとなくキリトの言いたいことを察したキリハは苦笑した。

 

「…なんかいいとこ取りされたみたいでムカつく」

 

「それはすみませんね」

 

「これでも一応さっきよりはおさまってるんだよ」

 

 思った通りの回答だった。というかこれでも先よりはマシなのか。

 

「お疲れさん。ほのぼのとしてるところで悪いが、おめぇら明日から大変だぜ?」

 

 クラインがそう言いながらこちらに近づき、入口を親指で指した。そちらを見ると、キリハとキリトが女だったことに軍がざわついていた。…二名ほど記録結晶を構えているのが見えるが。

 

「いつかこうなることは分かっていたのでそれが今になっただけですよ。どちらにしろ、いつまでも隠し通すことは出来なかったでしょうし」

 

「だよなぁ」

 

「つか、今までよくバレなかったな」

 

 アスカの言うとおり、全体的に見ればキリハ達の性別を知っているのは少数とはいえよく今まで隠し通せてきたと思う。攻略組が広めなかったことも不思議だが、何より気になるのはPoHだ。ラフコフ討伐戦の時に彼は、少なくともキリハの性別は知った。それを広めなかったのは単純に得はないと考えたのか、それとも別の考えがあったのか。それは分からないが、考えるだけ無駄だろう。

 

「まぁ騒ぎになるだろうけどホームまでは来ないだろ。俺のホーム知ってるのあんまいないし」

 

「「「キリト、それはフラグ(だ/ですよ)」」」

 

 キリトの言葉に三人はそう返した。そのフラグは翌日、見事に回収される。




誤字脱字、又おかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします


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ヒースクリフ

皆さんこんにちは、ナナシ猫でっす

最近、FGO、シャドバに続き艦これも始めてしまった…。まぁ時雨が可愛いから、いっか。
和葉「友達からロリコン扱いされてましたよね」
しょうがない…、と思う…。友達曰く駆逐艦は中学生位までの女子しかいないらしいし。だが初月は中学生に見えないのは俺だけなのか
和葉「知りませんよ」


ではどうぞ


「『死神兄弟は死神姉妹だった』『血盟騎士団副団長アスカとの関係は?』その他もろもろ…。おいおい顔写真まで載っかってるじゃねぇか。大変なことになったな、キリハ」

 

 そう言ってエギルはアインクラッド新聞から、目の前で苦笑しているキリハへと視線を移した。

 

 

 

 

 先日のあの後、七十五層の門をアクティベートしてからホームへ帰宅したキリハは予想以上に疲れたのかそのままベッドに身を投げ入れ就寝してしまった(因みに生存した軍のメンバーはそれぞれお礼を言ってから帰って行った)。

 翌日、起床して窓から外を見てみると、キリトの言葉が見事にフラグ回収されたのか、記録結晶を構えたプレーヤーが何人もいたのだ。親しい人物にしか教えていないはずだがどうやってかぎつけたのだろうか。

 とりあえず、このまま外に出るのはまずいと考えたキリハは迷わず転移結晶を使いエギルの店まで逃げてきたのだ。現在は二階にいる。

 

「本当にどうやってホームの場所がわかったのでしょうか。あれですか、今までホームを出入りするときは女の格好をしてたのでバレませんでしたが、キリハ=女というのがバレたからですか」

 

「それが一番納得できるな。つーか、現実(リアル)だろうと仮想世界(ここ)だろうと記者っていうのは怖ぇな。主に情報収集のことで。バレたの昨日だろ?」

 

「えぇ昨日ですよ。それ以前は攻略組にしかバレていなかったはずです」

 

 言ってて自信がなくなってきたが、これ以上は考えるのをやめた。

 因みにキリトとアスカはKOB本部に行っている。昨日の報告をしにいっている。そろそろ帰ってくるだろう。ほら、階段を駆け上ってくる音が聞こえ…。

 

(…?駆け上ってくる?)

 

「「(キリハ/姉さん)!一緒にKOB本部まで来てくれ!!」」

 

 音がするほど勢いよくドアを開けたキリトとアスカは、開口一番そう言った。

 キリハは頭痛を抑えるかのような仕草をした。

 

「…二人が厄介事を持ってきたようですが、何がありました?」

 

「「厄介事を持ってきた前提!?いやそうなんだけど!!」」

 

 二人の言葉をまとめると、先日の報告をしたまではよかったそうだ。だが、アスカがこれからはキリハ達(というよりキリト)と一緒にいると言ったあたりから空気がおかしくなったそう。で、そこからは互いが言いたい放題言いまくったらしい。収拾がつかなくなりそうな所でKOB団長ヒースクリフがキリハを呼んでくるよう伝えた、と。

 自分が巻き込まれたことに関して何も言うことはない。いつものことだからだ。ただ一つ言いたいことがあるとすれば。

 

「アスカ…君、一応は副団長なんですからそう余計なことは言わないでくださいよ。お互いに攻略組なんですから嫌でも一緒にいるでしょう」

 

「そのことについて反省してるが言ったことに後悔はしていない」

 

「でしょうね」

 

 キリハは一つため息をついてから立ち上がった。

 

「とりあえず行きましょうか。僕もヒースクリフさんに言いたいことがあるので」

 

 

 

 

 

 そう言うことで現在五十五層の主街区、グランザムにあるKOB本部に来ている。一つ言っておくと、キリハとヒースクリフはそこまで親しいわけではない、どころか攻略関係以外で話したことすらない。なので

 

「やぁキリハ君、わざわざ来てくれて感謝する」

 

「そう思うならここまで呼ばずに貴方がこちらに来ればよかったのでは?それと、人を呼ぶならメールでも何でも貴方が自分で呼ぶのが当然だと思うのですけどねぇ」

 

 と若干…、若干?喧嘩腰になるのは仕方ない…と思う。因みにこれ、ヒースクリフのいる部屋に入ってから十秒も経たずに起きたことだ。キリハの言いたいこととはこれのことである。

 キリハの言葉でこの場にいるKOB幹部達が立ち上がったが、ヒースクリフが片手を上げて制した。

 

「その点については謝罪しよう。しかし、私にも立場というものがある」

 

「その立場を考えない人が横にいるのですが…」

 

 チラリと横を見ると、立場を考えない人物(アスカ)がすまし顔で立っていた。

 

「話がそれてしまったな。君をここに呼んだのはこれからのことを話し合いたかったからだ」

 

「これからのこと…ですか」

 

 ヒースクリフは頷く。

 

「そうだ。先程アスカ君はこれからは君達と一緒にいると言った。それは、血盟騎士団を抜けるという解釈であっているかな?」

 

「はい?」

 

 何故そうなるのか。その疑問はすぐに解消された。

 

「アスカ君のことだ、君達とは四六時中いることにするだろう。だがそうするとこちらに手が回らなくなる」

 

 なるほど。確かにそれだと、たとえKOBを抜けなくともそちらに手が回らなくなればそれは抜けた事とあまり変わらないだろう。

 

「しかし、アスカ君が抜けなくとも君達と一緒にいることは出来る方法がある」

 

 その言葉で幹部達がまさかとざわめきだした。

 

「それはつまり、僕とキリトにKOBに入れ、と?」

 

 キリハの言葉にヒースクリフは、そうだと頷いた。

 つまり、ここにキリハを呼んだ理由はこれを聞くためだったということだ。

 

「お、良いじゃんそれ。入ってよキリト」

 

「えぇ…事務処理とか面倒くさそうじゃん」

 

「黙りなさい二人とも」

 

「「アッハイ」」

 

 睨みながら一言で二人を黙らせたキリハはヒースクリフへ視線を向ける。何故かこちらを微笑ましそうに見ていたヒースクリフはすぐに表情を改めた。

 

「どうする?キリハ君」

 

「そうですねぇ…」

 

 手を顎に当てて考える仕草をするキリハ。やがてその仕草をやめたキリハはニッコリと笑ってこう言った。

 

「お断りします」

 

 ピシッと空気が凍った気がした、と言っても凍ったのは幹部達のみなのだが。恐らく、まさかSAO最大ギルドの誘いを断るわけないだろう、と思っていたのだろう。

 

「ふむ、理由を聞かせて貰えるかな?」

 

 しかしヒースクリフは、まるでそう言われるのが分かっていたかのようにそう返す。それに少し疑問を感じたが今は置いておく。

 

「そもそもギルドに入ったところで僕にメリットはありませんからね」

 

 「あと僕が入るとしたら風林火山か月夜の黒猫団ですね」と言いながら肩をすくめた。

 

「そうか、それは残念だ。それでは、キリト君はどうだ?」

 

 少しも残念な様子を見せずにキリトに顔を向けるヒースクリフ。

 

「俺も入らないかなぁ。ギルドとか性に合わないし、規律とか面倒くさいし」

 

 実際KOBの規律は少々厳しいらしい。アスカが愚痴ってたので多分間違いない。アスカと四六時中いれるなら入ってもいいと思うが恐らく無理なので断る。

 

「キリト…入ってくれないのか…?」

 

 が、キリトの返事を聞いたアスカがあからさまにシュンとしてしまった。何故だろうか、アスカの頭と腰に犬の耳と尻尾が見える。まるで主人に会えなくて寂しがってる犬のようだ。

 うっ、と言葉に詰まる。なにせキリトはアスカのこの表情(仕草?)に弱い。これがわざとなら逆にぶっ飛ばせるのだが、今のこれは無意識でやっている。

 

「ではキリト君、私とデュエルしないか?」

 

 遂には顎に手を当て悩み始めたキリトにヒースクリフは提案した。疑問符を浮かべるキリト達に説明する。

 

「簡単な話だ。デュエルをして君が勝ったらアスカ君はそちらに行って構わない。無論、抜けるかどうかも自由だ」

 

 キリトとアスカは目を軽く見開き、幹部達は驚愕の声を上げた。何人かが立ち上がろうとしたが、それをヒースクリフは手で制す。

 

「逆に私が勝ったら、君には血盟騎士団に入ってもらう。どうかな?」

 

 ヒースクリフは笑みを浮かべ、キリトはアスカに目を向ける。その瞳は、お前はそれでいいか?と聞いていた。アスカは勿論頷いた、満面の笑みで。アスカとしてはギルドだろうがなんだろうが、キリトといられればそれでいい。キリトはため息をつきながら後頭部をかき、それを承諾した─

 

「いいぜヒースクリフ、その勝負乗った」

 

─強者と戦えることに笑みを浮かべながら。

 

 

 

「ほぼ勢いでデュエルを受けちまったなぁ」

 

「いいんじゃない?どちらにしろ一緒にいられるんだから」

 

「まぁな」

 

 デュエルの日日はまた後日という話になったのでKOB本部から出た三人は帰宅路についていた。二人が楽しく会話しているのに対し、キリハは考え事をしていた。

 

(ヒースクリフさんは、何故佳奈にだけデュエルを申し込んだのでしょう。それも佳奈にとってデメリットがない条件で)

 

 それだけ負けない自信があるのか、それとも他に狙いがあるのか。ただ、気になるのはヒースクリフが浮かべたあの笑み。

 

(まるで、あの条件なら佳奈は勝負を受けるだろうと()()()()()()()のような…)

 

 そこまで考え、それはないとかぶりを振る。このゲームが始まったときから常に二人は一緒にいた、そのことを知っていればもしかしたらとは思うかもしれない。だが確信までは持てないだろう。ただソロプレイヤーがくっついていただけとも考えられるのだから。もし確信を持っていたのだとしたら、現実(リアル)で自分達のことを知っていなければ─待てよ?

 

(もし()()()()()()()()()()()…?)

 

 もしヒースクリフが手鏡を使っておらず、あの顔が現実(リアル)の顔ではなかったとしたら?そしてヒースクリフの正体が自分達の知っている人物だとしたら?それならあの笑みの意味に納得がいく。

 

(もしこの考察が合っているとしたら、あの人は─)

 

「おーいキリハー、なぁにしてんだよ置いてくぞー」

 

 キリトの言葉に顔を上げると、二人と相当離れていた。どうやら足が止まってしまっていたらしい。

 キリトに返事をしてまた思考を始めようとしたが、やめる。これ以上考えても結局は予想でしかない。

 

(まぁ、佳奈とのデュエルを観察すれば何かわかるかもしれません)

 

 キリハはそう気楽に考えた。




ここまで見ていただきありがとうございます。誤字脱字また、おかしな所がありましたらご報告お願いします。


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二刀流VS神聖剣☆

危ない…
和葉「活動報告で今月は投稿出来ますと言っておいて、あと少しで遅れていたじゃないですか」
うん、本当にスマンと思っている
和葉「君、スマホにゲームを入れすぎなんですよ。だから投稿するのが遅れそうになるんです」
うっ…返す言葉もねぇ…

あ、因みにこの下の絵は以前描いて貰った友達とは違う友達に描いて貰った和葉です。良ければ見てください。

【挿絵表示】



それではどうぞ


 そんなこんなでデュエル当日、キリハ達三人は第七十五層の主街区『コリニア』のコロシアムの前で唖然としていた。別に現実(リアル)でも見たことがない本物のコロシアムに驚愕しているわけではない。理由は簡単なことだ。

 

「何で人が沢山いるんだよーーー!!!」

 

 今キリトが叫んだ通り、プレイヤーが沢山いるのだ。まるで祭りがあるかのように。聞いてないぞ、とアスカを睨むキリト。アスカは慌てて記憶を探った。

 

「アスカ、この事ヒースクリフさんから聞いてました?」

 

「…いいや聞いてない。というか団長はこんなことしないよ。多分、ダイゼンさんあたりだと思うんだけど…」

 

 と会話をしていると人混みの中からKOBの鎧を着たふくよかな男プレイヤーが現れた。

 

「おおきに~、あんたらがキリハさんとキリトさんかいな。いやぁ写真で見たよりべっぴんさんやなぁ」

 

 関西弁で話しかけてきた目の前の人物が、先程アスカが言ったダイゼンだ。

 

「ダイゼンさん?こいつ俺の嫁なんで口説くのやめてもらえません?」

 

 アスカがキリトの前に出ながらそう言う。その目つきは若干鋭かった。

 

「そう睨まんで下さい副団長。自分は口説いたんやなくて正直な感想を言っただけです」

 

 カラカラと笑いながらダイゼンはそう言った。お堅い人物が多いKOBには珍しく柔らかい態度だ。なんだかこの人物とは良い関係になれそうだ、とキリハは思いつつ自己紹介をする。俺の嫁と言われて恥ずかしくなりアスカをどついたキリトもそれに続いた。

 

「初めまして、キリハです」

 

「キリトだ」

 

「どうも、自分はダイゼン言います。よろしゅうお願いします。ただ、あれですなぁ。今後も一ヶ月に一回はこうやってデュエルしてくれるとありがたいんですけどなぁ」

 

「誰がするか!!!」

 

 スパーンとダイゼンの差しだした手をキリトは叩いた。キリハは正直な人だなと思いながら苦笑、アスカは未だに悶絶、ダイゼンはハッハッハと笑っていた。

 

 

 

 

 所変わってコロシアムの控え室。ここに来る前に風林火山、月夜の黒猫団、シリカ、リズ、エギル、アルゴから応援の言葉を受けた。自分達は友人に恵まれてるなぁと思った。

 現在キリトは精神統一をしている。時間がまだあるからだ。そしてキリハとアスカはキリトの邪魔をしないように部屋の外で会話していた。

 

「明日香、正直どう思います?」

 

「佳奈が団長に勝てるかって話か?技術面で言えば確実に佳奈の方が上だ。でも団長には《神聖剣》がある。あれは堅すぎる。なにせ、誰も団長のHPがイエローまでいってるのを見たことがないんだ」

 

「イエローまでいっているのを見たことがない、ですか?誰も?」

 

 アスカは頷いた。キリハは今までボス戦でのヒースクリフを出来るだけ思い出す。毎回ヒースクリフを見ていたわけではないが思い出す限り、イエローまでいっているのを見たことがなかった。いずれもイエロー一歩手前で止まっていた。異常にも程がある。レッドならともかく、イエローにまでいったことないだと。

 ますます疑いが深くなってきた。もしヒースクリフが()だとしたら問い詰めなければならない。何故この世界を創ったのかを。

 と控え室の扉が開きキリトが出てきた。

 

「準備完了、だ」

 

 ニッと獰猛な笑みを浮かべる。それほどキリトにとって楽しみなのだ、ヒースクリフと闘うことが。

 

「佳奈、団長は手強いぞ。勝てるか?」

 

「明日香、分かってて聞いてるだろ。俺にとって勝ち負けは二の次だぜ?」

 

「だろうな」

 

 ふぅとアスカはため息をついた。

 

 

 

 

 そして闘技場、そこにキリトとヒースクリフはいた。

 

「ようヒースクリフ、まさかあんたと闘える機会が来るとはなぁ」

 

「私も君と闘う時が来るとは思わなかったよ」

 

 笑みを浮かべながらそう会話をする二人。

 

「まぁ折角の機会だ。会話はこれぐらいにして─」

 

 キリトは背中から『エリュシデータ』と『ダークリパルサー』を抜く。

 

「─さっさと始めようぜ?」

 

 瞬間、キリトから殺気が溢れ出た(勿論、殺意があるわけではない)。そのことに気づいたのは攻略組の一部の者達のみ。大半は感じることすら出来ていない。

 どうやらヒースクリフは前者のようだ。

 

「そう早まらないでくれたまえ。まだデュエルは始まってないぞ」

 

 ヒースクリフはそう言いながらキリトにデュエルの申込みメッセージを送る。形式は勿論《初撃決着モード》だ。それを承認、カウントダウンが始まる。それを確認したヒースクリフは片手剣を巨大な盾から抜き、構える。

 

(《神聖剣》…攻防一体のユニークスキル…か)

 

 攻防一体、意味はそのままにあの巨大な盾は当然防御に使え、更に攻撃用の武器でもある。ある意味、キリトの《二刀流》と似ているかもしれない。《二刀流》も攻撃、防御どっちもこなせる。二つのスキルの違いは攻撃に特化しているか、防御に特化しているかのみ。キリトは笑みを深めた。

 デュエル開始まで、後三秒。

 

─2─

 

─1─

 

─スタート─

 

 瞬間、キリトは正面からヒースクリフへ疾走、右の剣で斬りかかる。ヒースクリフはそれを盾でガード、弾き返し間髪入れず剣を振るった。が、キリトは弾かれた勢いでその場で回転し、左の剣で叩き落として右足で後ろ回し蹴りを放つ。ヒースクリフは叩き落とされた剣を即座に引き戻しガード。キリトは剣を蹴って一旦離脱、距離を空けた。ここまでの時間、およそ五秒。

 闘技場が静寂に包まれ、次の瞬間には歓声が爆発した。

 

『『『『『『『おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!』』』』』』』

 

「「(やっちまえ/やっちゃえ)キリトーー!!」」

「キリトさん頑張って下さい!!」

「「「「「頑張れキリトーー!」」」」」

「…アルゴ、何やってんだ?」

「賭けだヨ。やっぱり皆ヒースクリフに賭けてるナ。エギルもやるカ?」

「…いや、俺は遠慮する」

 

 しかしキリトには、その歓声も応援の声も聞こえていない(一部、余分なものが聞こえた気がするが)。勝負に関係ない情報を意図的にシャットアウトしているからだ。

 

「おいおい、それホントにただの盾かよ。壁を斬ってるみたいだぞ」

 

「腕利きの鍛冶師に造ってもらった特注品だよ。そこらの盾では《神聖剣》に耐えられないからね」

 

「なるほどなぁ」

 

 その気持ちがキリトには分かった。《二刀流》もそこらの片手剣では耐えられず壊れてしまっていたからだ。だからアスカに腕利きの鍛治氏を紹介してもらった。

 

(にしてもどうするか…)

 

 正面から行ったとはいえ、キリトの速度に危なげなく反応出来るとはたいしたものだ。攻略組でも難しいだろう。よってヒースクリフの動体視力、反射神経は一般人のそれより高い、と推測できる。ならばどうするか。決まっている。

 

(あいつが反応出来ない速度で攻撃すればいいだけだ!!)

 

 キリトは腰を低く落とし先程よりも速く疾走した。ヒースクリフはカウンターを狙い盾を前に構える。が、両者の距離がニメートルを切った所で、ヒースクリフの視界からキリトが消えた。

 

「っ!!」

 

 だがヒースクリフは即座に背後に盾を構えた。そこには目を見開いたキリトが剣を振りかぶっていた。その攻撃は当然、防がれてしまう。キリトが驚愕している内に盾で押し返し、剣を振るった。それをキリトはサイドステップで回避、斬りかかりる。それを剣で防ぎつばぜり合いとなった。そんな中、キリトは思考していた。

 

(こいつ…俺が移動した直後に後ろ向いたな…。何でわかったんだ?)

 

 反射神経が高いから?関係ない。ならば動体視力?いや、あの動きはこちらの動きを視てから動いたのではなくどちらかと言えば、背後に来る事が()()()()()()ような動きだった。もし分かっていたなら知り合いと言うことになるが…。

 

(つっても見覚えないんだよなぁ)

 

 ということは直感で振り向かれたか。この世界で生き残るためには技量は勿論だが、第六感、つまり直感も必要となるところもある。実際、キリトも直感に助けられたことも多々ある。まぁ、正直な話─

 

「─関係ないことだけどなぁ!!」

 

 叫ぶと同時に思い切り押し返した。ヒースクリフは後ずさり下を向いてしまった顔を上げると、目の前には既に剣を振りかぶっているキリトがいた。盾を構え防いだが、先程より衝撃が重かった。

 

「ぐっ!?」

 

「しっ!」

 

 続けて攻撃を繰り出す。右から左、左から右、上から下、下から上、躍るように不規則な斬撃を繰り出しヒースクリフを崩しにかかる。それにヒースクリフは辛うじて対処出来ている、ように見える。確かに対処は出来ているが、それは長く続かないだろうということはヒースクリフ自身が分かっていた。徐々にキリトのスピードが速くなっているからだ。ヒースクリフの表情に浮かぶのは、焦り。それを負けることに対しての焦りと判断したキリトは続けてソードスキルを放つ。

 

「らぁっ!!」

 

 二刀流十六連撃ソードスキル《スターバースト・ストリーム》。それを何とか防いでいたが十五撃目で盾を弾かれてしまった。唯でさえ、通常攻撃で崩れかけていたのだ。そこにソードスキルを叩き込まれたのだから当然だろう。

 

(貰った!!)

 

 ラスト、十六撃目、左手の盾は弾いた。右手の剣では防ぎきれない。キリトは自身の勝利を確信した。それはアスカもキリハも同じだった。

 そして、最後の一撃がヒースクリフに当たる、瞬間─世界が止まった。

 

(!?)

 

 視界の全てが赤く染まり、歓声が止まり、体の動きが静止した。いや、正確には全てが遅くなっていて、その中で思考だけが正常に動いていた。まるで脳だけが加速しているような感覚だ。そして、その遅くなっている世界で、ヒースクリフの盾を持った左手だけが剣の当たる位置に戻されていく。攻撃を防がれたキリトはスキル硬直してしまう。それを逃すはずもなく、ヒースクリフはシールドバニッシュを放ちキリトを吹き飛ばした。それと同時に空中に【Heathcliff Winner】と表示され、一瞬静寂に包まれるも、次には歓声が鳴り響いた。。

 

(負けた…のか…?)

 

 キリトがヒースクリフを見ると、何故だかバツが悪そうな顔をしていた。まるで、使ってはいけないものを使ってしまったような…。

 そこまで考えたところで肩が掴まれた。掴んだのはアスカだ。近くにキリハもいる。

 

「キリト、大丈夫か?」

 

「ん、あぁ。大丈夫だ」

 

 とりあえず、心配はさせまいとアスカの手を取って立ち上がる。

 

「キリト」

 

 立ち上がった所でキリハが声をかけてきた。

 

「なんだ姉さん」

 

「最後、何が起こりました?」

 

「…よく分からない」

 

「そう…ですか…。わかりました」

 

 キリハは目を細め立ち去っていくヒースクリフを見ていた、いや睨んでいた、と言った方が正しいか。

 

「「?」」

 

 キリトもアスカもヒースクリフへ視線を送るが、キリハが睨んでいる意味は分からなかった。




さぁて!ようやくあの話を書けるぜ!!
和葉「そんなに楽しみですか」
まぁね!フフフ、展開は考えてあるからねぇ…。俺の伝え方が試されるぜぇ…
和葉「気持ち悪い笑みですよ」


誤字脱字、おかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします。


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紅の殺意

狂愛って、いいですよね(挨拶)
和葉「突然どうしたんですか」
いやね、最近気づいたんだ。純愛も好きだけどそれと同じくらい狂った愛が好きなんだとね。
和葉「…そうですか(ドン引き)」
(その反応は)知ってる。ヤンデレメンヘラバッチ来い。ただし二次元に限る。
和葉「それはそうですよ」


※人によっては不快感を感じる場所があるかもしれません。それでも良いって人はどうぞ。


 翌日、約束通りKOBに所属することになったキリトは本部へと来ていた。勿論、アスカとキリハも同行している。理由として、まずはメンバー全員にキリトが所属したことを伝えること、キリトに手を出させないようにアスカが自分の嫁と伝えること(無論キリトにぶっ飛ばされた)。それだけならキリハが同行することはない。では何故キリハもここに来ているのかというと、キリトのKOB衣装の姿を見るためだった。

 

「…俺、地味なので良いって言ったよな?」

 

「それが一番地味なんだよ。うん、やっぱ似合ってる」

 

 今までの黒ずくめから一変、白を基準とし所々に赤いラインが彩られた(キリトとキリハからすれば)派手な姿になっていた。

 

「…何笑ってんだよ…姉さん」

 

「い、いえ…何でもありません…似合ってますよ」

 

 と言いつつキリトを見ようとせず肩が震えていた。明らかに笑いを堪えている。

 

「笑いたきゃ笑えよ…」

 

 言った瞬間、小さく笑い始めた。笑えよとは言っても、やはり笑われたら笑われたでムカつくので回し蹴りを放つ。まぁ難なく避けられたが。それでも諦めずに一発かましてやろうと攻撃を続けた。あははと笑いながらキリハは避け続ける。それを苦笑しながらアスカは眺めた。

 

「あ、そうだキリト。団長が呼んでたぞ」

 

 剣を抜こうとしてピタリと止め、アスカへ振り向いた。

 

「ヒースクリフが?」

 

 

 

 

「納得出来るかぁ!!!」

 

「まだ言ってるんですか。いい加減黙らせますよ?」

 

 岩に座っていたアスカが突然叫びだしたが、笑顔で刀をちらつかせるキリハに流石に口を閉じる。

 

「はぁ…佳奈がKOBに入ったからこれからずっと二人でいられると思ったのに…」

 

 ガックリとアスカはこうたれる。イラッとするがアスカがこうなるのは仕方ないと思うので放置する。

 アスカがこう言ってる理由はキリトがここにいないからである。現在キリトはKOBのメンバー三人とともに、迷宮区近くの狩り場へ向かっている。というのも、何故かキリトの実力を証明しなければならなくなったからだ。「実力なら既に証明されてるだろうが!!」とはアスカの言葉だ。

 キリハは、恐らくキリトがアスカに相応しいかどうかを見たいんだろうなぁと思ってる。なにせメンバーの中に女性プレイヤーが一人いて、明らかにアスカに好意を抱いていたからだ(確かエリーと言ったか)。だから取られたくないのだろう。この表現は適切ではないが。

 訓練場所として選ばれたのは五十五層の迷宮区前、キリトが遅れをとるなど万が一にもあり得ないし、一応キリハとアスカも同じ階層にいる、とはいえ

 

(嫌な予感がするんですよねぇ)

 

 メンバーにクラディールがいることが不安だ。一応先程、キリトに対して謝罪はしたがあれはどちらかというと形だけの謝罪だった。

 

(何事もなければ良いのですが)

 

 そういえば、とふと思ったことを口にする。

 

「明日加、佳奈と結婚はしないんですか?」

 

 結婚とはいってもあくまでシステム上の、だ。相手に『プロポーズメッセージ』を送り、それを承諾すれば結婚完了。なんとも味気ない。

 結婚をすると互いのステータス、持ち物が共有されるらしい。持ち物はともかく、ステータスを見せると言うことは自分が出来ることは相手に筒抜けであり、命綱を預けるようなものだ。メリットよりデメリットが大きい故に、恋仲までは行っても結婚まで行かないプレイヤーが多数だ。

 まぁこの二人はそんなこと気にしない、どころか相手に自分の全てを知ってほしいという感じなので問題ない。

 

「ん?あぁ、したよ」

 

 アスカはあっけらかんと答えた。特に驚くことでもないので、いつ結婚したのかと更に問いかけた。

 

「ラグーを狩ってきてくれたとき。俺の家に行って二人で食った後さ、そういえばまだ結婚してないことに気づいて勢いで」

 

「アホですか」

 

 結婚とは勢いでしていいものだったか。だがまぁ、二人が結婚しているならキリトに何かあればすぐに気づける。アスカが常にキリトをマップで追っているので場所も心配ない。と、アスカは突然立ち上がり、キリト達が向かった狩り場へと走って行った。突然の事ではあったがキリハは慌てず後を着いていく。

 

「佳奈に何がありました?」

 

「麻痺の状態異常を食らった」

 

 アスカは無表情のまま淡々と答えた。それを聞いたキリハも無表情になり殺気を放ち始めた。

 この階層に麻痺状態にしてくるモンスターはいない。考えられる可能性は一つ。キリトは嵌められたのだ。プレイヤーによって。

 

 

 

 

(クソっ…!油断した…!)

 

 恐らくキリト自身、アスカといられると思っていて今の現状なのだから気落ちしていたのだろう。普段なら警戒心のもと絶対に口にしない他人から渡された水を口に含んでしまった。その時、視界に映った笑みを見た瞬間、マズイと思い水を投げ捨てたが時既に遅く麻痺にかかってしまった。それは他のメンバーも同じだった。その中でクラディールだけが嗤いながら立ち上がる。そこで全員がこの水に麻痺毒を盛ったのがクラディールだと気づいた。

 

「ヒャッハハハ!!」

 

 クラディールの振り下ろした大剣がパーティーリーダーのゴドフリーを貫きポリゴンへ変えた。クラディールは地面に突き刺さった大剣を抜いてゆらりと立ち上がり、エリーに向かう。今度こそ死なせてたまるかと、ようやく取り出せたピックを唯一少しだけ動かせる左手首のスナップだけで投げつける。しかし狙いは外れ、顔にかすっただけとなった。クラディールはエリーを殺さず、しかし毒ナイフを一度突き刺してからキリトへ向かった。

 

「まさか、黒の剣士様が女だったとはなぁ」

 

「ハッ、その女にデュエルで負けた気分はどうだったよ」

 

 キリトは冷や汗をたらしながらもそう言う。クラディールは目をつり上げ手に持っていた毒ナイフを勢いよくキリトの右肩へ突き刺した。痛みをほとんど遮断されてるとはいえ、突然襲ってきた痺れにうめき声を上げる。

 

「ぐっ…」

 

「今の状況分かってんのか、あぁ?」

 

 分かっていない訳がない。クラディールはやろうと思えばいつでもこちらを殺せる。だから、これは時間稼ぎだ。

 

「にしても…殺すのは勿体ねぇなぁ…」

 

 クラディールはキリトの全身を舐め回すように見てこう呟いた。

 

「殺す前に愉しんだ方が得だよなぁ」

 

 エリーの方を向いて口を三日月のように吊り上げる。エリーは「ひっ」と悲鳴をあげ震えだした。当たり前だ、これからされることを考えれば恐怖するに決まってる。

 クラディールは今からのことを考えると愉しくて仕方なかった。まずはどうしようかと思い、嗤う─

 

「─アハッ」

 

 一瞬、その声を出したのが誰なのか、分からなかった。クラディール、ではない。勿論エリーでもない。ならば…。

 バッとクラディールが振り向きキリトを見た。声を出したのはキリトだ。その表情に恐怖は浮かんでいない。そのかわりに、笑みを浮かべて嗤っていた。

 

「アハハッ」

 

「な…何笑ってやがる…」

 

 この状況で嗤っていることに気味が悪くなったクラディールは無意識のうちにそう呟いていた。それにキリトは口元に笑みを浮かべたまま答える。

 

「いや、悪いなぁ。可笑しくなったんだよ。お前が俺らのことで愉しむって言ったのがさぁ」

 

「何が可笑しいっ…?」

 

 クラディールは気づいた、気づいてしまった。今キリトの浮かべてる笑みは、相手を嘲る笑みだということに。

 

「可笑しくもなるぜ。だってお前─

 

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 瞬間、クラディールは吹き飛んだ。壁に激突し、自分を吹き飛ばした人物を確認した。クラディールを吹き飛ばしたのは─

 

「覚悟はいいな?クラディール」

 

─アスカだ。後ろにはキリハもいた。

 

「では僕はエリーさんを回収してくるので」

 

 本当は僕が殺したかったのですが、とは言わずにキリハはクラディールの横を通り抜ける。クラディールは反応することが出来なかった。何故アスカ達がここにいるのか理解出来なかったからだ。

 訓練場所を知っているのは知っていた。アスカが攻略組トップクラスの速さを持つのも知っていた。だが、だからといって

 

(何故、こんなにも早くここに来れた!?)

 

─キリトのことが心配でマップで確認してたとしても、麻痺したかどうかはわからないはずだ!異変を確認できたのもゴドフリーを殺したときのはずだ!何故だ!?─

 

「─何で俺達が早く来れたのか理解出来ない(分からない)って顔してるな。簡単なことだろう?俺とキリトが結婚してるっていうだけだ」

 

 クラディールが失敗したのは、今朝のアスカが言った「キリトは俺の嫁」という発言を無視したことだ。いや、無視というより冗談だと思った、と言ったほうが正しいか。

 

「ま、待ってくださいアスカ様…。これは訓練…。そう、訓練中の事故で…」

 

「黙れ」

 

 クラディールの言い訳を一括したアスカは、急接近し細剣(レイピア)でクラディールの右手を切り落とした。

 

「ヒィッ!?」

 

 それから、肩、頬、二の腕、脇腹、アスカは突きを全て()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お、俺が悪かった!!助けてくれっ!!」

 

 ピタリと引いた腕を止める。

 

「ふーん、そうか。助けてほしいか。ならお前にいくつかの選択肢をやるよ」

 

 そう言ってアスカは指を立て始めた。

 

「一つ目、首をはねられる。

二つ目、MPK(モンスタープレイヤーキル)をされる。

三つ目、転移結晶で逃げる」

 

「に、逃げていいのか…?」

 

「あぁいいぜ」

 

 三つ目の選択肢を聞いたクラディールは希望を見つけた、と思いこんだ。

 切り落とされていない左手でポーチから転移結晶を取り出し、コマンドを言った─

 

「─かひゅ」

 

 が、口から出たのは空気の抜けたような声と血のエフェクトのみ、コマンドを言えなかった。それは何故か。

 

「四つ目、喉を貫かれる」

 

 アスカがクラディールの喉を、いつの間にか左手に持っていた細剣(レイピア)で貫いたのだ。

 

「かっ…な、何故…」

 

 そんなクラディールの疑問をアスカは淡々と無表情で、首を傾げて答える。

 

「なに言ってるんだ?俺は逃げてもいいとは言ったが、()()()()()()()()()()()()()()()()ぞ?」

 

 クラディールは目を見開いた。ついで呪詛を吐く。

 

「この…悪魔がっ…」

 

 それに対してアスカは、だから?と答えた。

 

「俺は佳奈(キリト)の為なら悪魔だろうがなんだろうが、なんにだってなってやるさ。で、お前、疑問に思ってないのか?」

 

 何が、と思ったがすぐにアスカが何のことを言っているか分かった。喉を貫かれるという明らかな致命傷を受けているにも関わらず、未だに死んでいないのだ。

 

「ようやく気づいたか。ま、これも簡単なことだ。今お前を貫いてる細剣(レイピア)、最低ランクの奴だからな」

 

 何故そんなことをする?意味が分からない。理解出来ない。いや、したくないだけかもしれない。

 

「何で最低ランクの武器で貫いてるか、理由を教えてやろうか。それはな─

 

 

 

─お前の顔を恐怖で染め上げたかったんだよ」

 

 ゾクリと悪寒が走り、今まで気にしていなかった自身のHPを気にしてしまった。かなりの時間が経っているはずなのに未だに半分までしか減っていなかった。そこから少しずつ、一ドットずつ減っている。クラディールのレベルは攻略組とまでは行かずとも、そこそこ高く大剣を使っているためSTRも高い。故に、楽に死ぬことが出来ない。

 その事を認識した瞬間、クラディールは絶望し表情を恐怖に歪んだ。

 

「そう、その顔を見たかったんだ。佳奈(キリト)に手を出した奴にはそれ相応の罰を与えなきゃなぁ。お前への罰は、死だ」

 

 ニタリと口を吊り上げ、右手の細剣(レイピア)を引き絞る。

 

─狂ってる─

 

 クラディールはそう思った。アスカが、だけではない。キリトもだ。何故あの時、キリトが「お前死ぬのにな」と言ったのか。それは、アスカがクラディールを殺すことが分かっていたことに他ならない。

 

「このっ…狂人共がっ…」

 

「知ってるさ、そんなこと。だって」

 

 アスカは細剣(レイピア)をクラディールの顔に突き立てた。苦しめるように少しずつ、だが。

 

「ぎっ、あが…」

 

「こういうことが出来るんだからさぁ」

 

 五センチ程突き立てた後、捻りを加えて更に突き立てていく。

 

「痛みは遮断されている、だからショック死することが出来ない。自分が死んでいくっていうことを実感しながら死ね」

 

 死にたいのに死ねない。その恐怖をアスカは知らない。だけど、それが想像をはるかに超える恐怖だろうと予想はしている。

 

「ん?」

 

 半分程まで突き刺してから、ようやくクラディールが気を失っていることに気づいた。恐怖に耐えかねたのだろう。舌打ちを一つして思い切り突き刺し、ポリゴンへ変える。

 振り向いたアスカに、キリトは飛び込んだ。それを危なげもなく支える。

 

「ありがとな明日加。俺の為にあいつを()()()()()()

 

「俺が出来ることなら何でもやってやるさ。佳奈が望むことならな」

 

 そう言ってアスカはキリトへ軽く口づけをする。んっ、とキリトは受け入れる。更にもう一度口づけをしようとして─目の前を刀が通り過ぎた。

 

「「あっぶな!?」」

 

「別にいいんですけどね?場所を考えてください」

 

 すっかりキリハのことを忘れていた。

 

「あれ?エリーは?」

 

「君があいつを殺す前に帰って貰いました」

 

 アスカの疑問に答えてキリハは身を翻す。

 

「ヒースクリフさんには僕から報告するので、君達はホームで続きを楽しんでくださいね」

 

 ヒラヒラと手を振りながら本部へと向かう。後ろから何か聞こえたが、無視をした。

 

 

 

キリハ視点

 

 

(はぁ…明日加に人を殺させてしまいましたねぇ…)

 

 そう思いため息をつく。ラフコフ討伐戦で明日加が誰も殺していないと聞いてせめてあの子だけは、と思っていたのですが…。まぁ佳奈に危害を加えて、今まで無事ですました子なんていないので仕方ありませんか。

 ただ、明日加と佳奈があそこまで歪んでいるとは思いませんでした。まさか、明日加はクラディールを殺すと佳奈が信じていたなんて誰が予想できますか。

 確かに現実世界(リアル)でも似たようなことはありました。佳奈が虐められ、僕と明日加がそれに気づき、佳奈は明日加に迷うことなく自分が虐められていることを話しました。そして佳奈から許可が貰えれば、明日加は慈悲も容赦もなく報復を始めました。あらゆる手を使い、二度と佳奈に出だしが出来ないようにしてきました。対象が男だろうと女だろうと先輩だろうと後輩だろうと、明日加には関係ありませんでした。佳奈に危害を加えたのなら罰を与える、明日加にとってただそれだけのことでしかないのですから。そして逆もしかり、明日加に危害を加えたのなら佳奈が動き出しました。勿論のこと、殺人まではいきませんでしたけどね。

 考えてみれば、あの二人があそこまで歪んでいたのは当然かもしれませんね。

 

(ですが)

 

 二人が歪んでいようと、僕のあの子達に対する態度は変わりません、変わるはずがない。二人が道を踏み外したのなら引きずってでも連れ戻す。決して手を離すことはしない。どこまでいこうと、佳奈は僕の妹で、明日加は未来の弟なのですから…。

 さて、気持ちを入れ替えてヒースクリフさんに報告をしにいきましょうか。ちょっと問い詰めたいことがあったのですが、やめにしましょう。

 …いや、本当は問い詰めたいんですけどね?




ここまで読んでいただきありがとうございました。誤字脱字、又はおかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします。





 明日加と佳奈がホームで何をしているか、知りたい人は僕の予想で良ければお話しましょう。知らなくていいと言う人は戻ってくださいね。無駄話もあるかもしれませんし。
 あぁそうそう、これからする話は相当歪んでいて狂っていると思うので気を付けてくださいね。







 では始めますよ。





 恐らく、というか確実に佳奈が刺された場所に噛みついているでしょうね。痛みを遮断しているシステム、ペインアブソーバーレベルを0に、つまり現実と同じ痛みにして。
 あの二人はお互いを大事に思っていますが、同時に相手を傷つけて良いのは自分だけとも思ってます。だから、自分以外の誰かに付けられた傷があった場合、それを塗りつぶすかのように傷のある場所に強く、それこそ歯型が残るほど強く噛みつきます。そして、同じ傷を相手につけてほしい、そういう思考からお互いに噛みつきあいます。だから現実世界では、二人の体を比べると全く同じ場所に同じ歯型がついています。高校に入るまでは『そういうこと』をしないよう言われてますから、恐らくその代わりでしょうね。あぁ勿論、稽古などでついた打撲傷などはバラバラですけどね。因みに、この事を桐ヶ谷家は知っていました。でも止めることはしませんでした。恐らく、僕ら含めて桐ヶ谷全員が多少なりとも歪んでいたのでしょうね。明日加の家族が知っているかどうかは知りませんが。
 ん?誰かに付けられた傷ではない、事故などでついた傷はどうするのか、ですか?その場合は噛みつきはせず、相手と同じ傷をつけるだけです。例えば、相手が刃物で誤って切ってしまった場合、自分の同じ場所に同じ刃物で傷つける。火傷してしまったら同じ物で火傷をつける。ね?狂ってるでしょう?
 たちが悪いのは二人とも、自分達の感性が他人とかなり違っていることを自覚しながらも直す気がないということです。一応、基本的な感性は一般の人と大差ないので普通に生活しているだけなら、二人の異常性を垣間見ることはないでしょう。二人に危害を加えなければ、ですがね。
 そろそろ終わりにしましょう。二人の異常性を伝えることが出来ましたかね?聞いてくれた方はありがとうございました。では、またお会いしましょう。


 え?僕はどのくらい歪んでいるかって?
 さぁ、どうでしょう?皆さんのご想像におまかせします


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辻斬り☆

今月二回目の投稿ですよっと
和葉「珍しく早いですね」
まぁ、今回は友達が、ね


※今回は友達の考えたオリキャラが出て来ます。それが苦手な方はブラウザバックです。
友達のオリキャラが出る関係で一回の話で終わらせようとした結果、いつもよりだいぶ長いです
想像しやすいように、先にオリキャラの姿貼っておきます。

【挿絵表示】




後、今回は和葉の歪んだ感性が出て来ます。ご注意ください。


「というわけで、二人に休暇を与えてください」

 

 ヒースクリフに報告をした直後、キリハはそう言った。因みに、ここにいるのはキリハとヒースクリフだけであり、幹部達はいない。

 

「何がというわけなのか分からないのだが…」

 

 珍しく困惑している様子を見せたヒースクリフ。キリハは訓練場所で何があったのかを説明しただけで、理由を説明していないのだから困惑するのも当然と言える。

 

「いえ、二人とも今まで働きづめだったので長期休暇を与えてもいいのではと思ったので」

 

 それに、と付け加える。

 

「今回はそちらに非があるので、頼むには丁度良いかと」

 

 と言った。つまりキリハは、キリトが殺されそうになったのだからこっちの要件を聞け、と言っているのだ。ふむ、とヒースクリフは顔の前で手を組む。

 

「良いだろう、君の要求を受けよう。あの二人にはしばらくの休暇を命じる。そうだな、ボスの討伐戦には戻ってきて貰うとしよう。それでいいかね?」

 

「いいもなにも、反対する理由がありませんね。あぁそれと、二人がいない間は僕が代わりを務めましょう」

 

 僕達三人とも抜けるのは辛いでしょう、と目だけで伝える。ヒースクリフは否定はせず苦笑をした。否定出来るわけないのだ。アスカとキリト、二人が抜けるだけでも攻略スピードが目に見えて落ちるだろう。それに加え、キリハまでもが抜けてしまったら大変なことになる。

 

「では、僕はこれで」

 

「あぁキリハ君、一ついいかね」

 

 背中を向け出て行こうとしたキリハを呼び止める。キリハは顔だけをヒースクリフへ向けた。それを了承ととったヒースクリフはそのまま言葉を続けた。

 

「君は、『辻斬り』と呼ばれるプレイヤーを知っているかね?」

 

 

 

 

 

 あの後、二人に休暇が与えられたことをメールで報告し、キリハは現在、七十五層迷宮区前にある森を歩いていた。

 

(『辻斬り』、ですか…)

 

 『辻斬り』、そう呼ばれているプレイヤーがいるのは知っていた。会ったことはないが。そもそも『辻斬り』は中層プレイヤーだったはずなので会えるわけがないのだ。だがヒースクリフ曰く、最近は最前線でも出没しているとのこと。攻略組の何人かが出会ったらしい。

 『辻斬り』と言われている由縁は、誰これ構わず斬りかかっていくことから。噂では、プレイヤーの前に突然現れ襲撃をするらしい。最初はレッドプレイヤーかと思われたが、誰も殺されていないことからその線は消えた。今ではただの戦闘症だと言われている。だが、何人かのプレイヤーは「殺されそうになった」と言ったらしい。命乞いをしたら、まるで興味がなくなったかのように去って行った、とも。

 突然、ピタリとキリハは足を止めた。索敵範囲にプレイヤー反応があったのだ。しかもキリハの後ろに、だ。近づいてきてはいない。噂の『辻斬り』が現れたか。

 

「そこに隠れている人、出て来たらどうですか?」

 

 後ろを振り返りながら声をかける。いつ襲われてもいいように刀に手をかけながら。しばらく動く気配がなかったが、木の陰から一人の人物が出て来た。

 その人物は、陸軍のような服を着ており左腰に刀をさしている。顔は帽子で隠れて見えず、僅かに見える口元はニヤケていた。

 

「おぉ、まさか抜く前に(さと)られるとは。ふむ、あまりいい気はしませぬな」

 

「貴方が最近噂の『辻斬り』ですか?」

 

 相手の台詞を無視してキリハはそう問いかけた。目の前の人物は首を傾げて答える。

 

「何のことでありますか?」

 

 どうやら心当たりがないらしい。

 

「最初は中層で、最近は最前線で、誰これ構わず斬りかかっているプレイヤーのことです」

 

「あぁなるほど、そのことでありますか。確かにそれは自分であります」

 

 目の前の人物、『辻斬り』は「自分、そんな風に言われてるでありますかぁ」と、どこか嬉しそうに、ニヤケながら言っていた。

 

「貴方が僕の後ろにいたのは、僕に斬りかかるためで合っていますか?」

 

「御明察。かなり察しが良い童でありますな。非常によろしい。しかし後ろが通じぬとなれば─」

 

 その言葉を聞いた直後、目の前に『辻斬り』の顔があった。

 

「─前しか有りませぬな」

 

 居合いを放つ。スパッと何か軽い物が切れる音が聞こえた。

 

「(今のを避けるか…。この童、自分より使える)

御見事。全く以て宜しい。今までの烏合共とは違うようだ」

 

 『辻斬り』はキリハを見る。キリハは五メートル程離れたところにいた。両者の間に斬られた髪の毛が舞う。キリハはチラッと右手を見る。そこには微かなダメージ痕があった。

 

(避けきれませんでしたか)

 

 キリハは目の前に『辻斬り』の顔が現れた瞬間、後ろに回避をした、にも関わらず少しとはいえ斬られた。『辻斬り』が目の前に現れ、突然のことで反応が多少なり遅れたが、それ以上に居合いが疾かったのがあるだろう。

 

(恐らくは何かしらの武術を─っ!!)

 

 背後から聞こえた風切り音に反応してしゃがみこんで即座に前転し、そのまま確認する。

 

「余所見はいけませぬな」

 

 そこには、先程まで前方にいたはずの『辻斬り』が刀を横に振った状態でいた。意識をそらしたのは一瞬だったはずだ。だが『辻斬り』はその一瞬の隙をつき、キリハに気付かれず背後をとった。

 厄介な相手だ、とキリハは思った。突然目の前に現れた移動方法、何より、相手が隙を見せたことを見逃さない観察眼。恐らく、モンスター相手より対人戦が得意か。

 口に笑みが浮かんだのを自覚しながら、意識を入れ替え居合いの構えを取る。

 

─あぁ、楽しい闘いになりそうだ─

 

 

 

(確実に背後を取ったと思ったが…)

 

 一方の『辻斬り』は二度も攻撃が避けられたことにニヤケながらも驚愕していた。『辻斬り』は、自身の技を一般人がさばくのは難しいことを理解していた。実際、今まで戦ってきた烏合共のほとんどが最初の一撃で倒せた。数人は一撃目は耐えられたが、二撃三撃と続けていくと命乞いを始めた。

 が、目の前の少女はどうだろうか。命乞いをするわけではなく、怯えを見せたわけでもない。逆に戦闘態勢を取り始めたではないか。

 ゾクゾクッ、と身体が歓喜に震え、元々ニヤついている笑みが更に歪むのを自覚した。『辻斬り』は探していたのだ、老若男女関係なく自分と殺し合い(戦い)が出来る強者を。『辻斬り』は腰を低くし、刀を顔の右横に縦に構える八双の構えを取った。

 

(さぁ、最後まで殺り合おうではないかっ…!!)

 

 基本的に居合いはカウンター狙いの防御の構えだ。故に相手が居合いの構えを取った以上、こちらから仕掛けることは危険だ。

 

(さぁ、どう来る?)

 

「名前…」

 

「はっ?」

 

 ポツリと呟かれた言葉にあっけにとられる。仕掛けてくるなら刀を抜いて攻撃してくるかと思っていたからだ。

 

「いえ、そう言えば貴方の名前を聞いていなかったな、と。これから闘い合うんですから名前くらいは知っておいた方が良いでしょう?」

 

 キリハは構えを解かずにそう言う。ついで「あ、僕の名前はキリハです」と付け加えた。何を考えているか分からないが、相手が名乗った以上こちらも名乗らなければならないだろう。

 

「自分はエンバであります」

 

 『辻斬り』改め、エンバが名乗るとキリハはニコリと笑った。

 

「そうですか。ではエンバさん、今から─」

 

 突如、視界からキリハが消えた。次に声が聞こえたのは

 

「─楽しく闘いましょう」

 

「っ!」

 

 下からだった。即座に刀を斜めに振り下ろしながら視線を下に向ける。そこには姿勢を低くし、ちょうど居合いを放っているキリハがいた。ガキンッ、と刀同士の打ち合う音が響く。

 

「くっ…。」

 

「先程の仕返しです」

 

(今のは自分の『跳歩(とんぼ)』と同じ…。いや違う、全くの別物…)

 

 エンバはキリハを弾き飛ばしながらそう思考する。

 エンバの考えは合っていた。エンバの使う『跳歩』は、極限まで動きをそぎ落とし、低く、速く、滑るように跳び“そのまま前に行く”移動方法だ。これは人の視覚が二次元的にしか捉えられないことを利用した移動方法であり、結果、相手から見たら先程のキリハのように“突然目の前に現れた”かのようにしか見えない。

 それに対して今キリハが行った移動方法は単純明快、ただ“速く動いた”だけ。そんなことは理解した。だが問題なのは、何故速く動いただけの行動に自分が反応出来なかったか、だ。

 

(この童…キリハと言ったか…。先の問答は自分の名を聞く以外に、自分の思考を戦闘から僅かでも逸らすことが目的だったのでありますな…)

 

 少し冷や汗を垂らしてなおニヤケながらそう考えた。この考えも概ね正解だ。ただ一つだけ、キリハが今のように動くときに相手の思考を逸らすのは()()()に行っていることだ。ただし、それを行うのは相手と初対面である事が大半であり、既に闘った相手、キリトやアスカなどには行わない。行えない、と言った方が正しいか。理由は単純であり、思考を逸らす話題がないのだ。

 厄介な相手だ、とエンバは思った。この世界にいる烏合共は皆、モンスターとばかり戦っており対人戦には慣れていないと思っていたが…。

 

(キリハ殿は対人戦にも慣れている…)

 

 キリハは既に刀を鞘にしまっており、再び居合いの構えを取っていた。そこで相手の戦闘スタイルが把握出来た。自分と違い、キリハは最初の一手のみ居合いを行うのではなく、純粋な居合い使いなのだろうと。

 

(いや、まだ決めつけるのは早い)

 

 もしかしたらフェイクの可能性もある。もしかしたら、そもそも刀だけを使うのではないのかもしれない。もしかしたら卑怯な手も使うかもしれない─。

 エンバは、相手が()()()()()()()()()()()()()()()()として考え続ける。自分より弱ければ、それはそれで良し。いくつもの策を考えておいて損はないのだから。

 

 

 

(常にニヤケていますねぇ)

 

 癖なのだろうか、とキリハは内心首を傾げた。まぁ、そんなことは関係ない。久し振りに闘いを楽しめそうな相手が現れたのだ。余計なことは考えず、楽しく戦うことのみを考えよう─。

 キリハは殺し合いが嫌いだ。昔誤って強盗犯を殺してしまった時も、ラフコフのメンバーを殺した時も良い気はしなかった。当たり前だ、どちらも相手を殺すつもりで殺したのではないのだから。

 最初から殺すつもりで行くのならそこには何もいらない。喜怒哀楽の感情も、殺してしまったという後悔も、何も。和葉(キリハ)佳奈(キリト)はそうやって教えられ、鍛えられてきた。

 あぁそうだ。和葉(キリハ)は殺し合いが嫌いだ、大嫌いだ。けれど─闘いは別だ。戦闘、決闘、どちらも決着をつけるのに相手を殺す必要はない。どのような結果であれ相手を戦闘不能にさえすればいいのだ。ならば

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?─

 

 ニィッと口角が歪んだのを自覚した。キリハはこういう感性が、一般のそれと比べかなり歪んでいた。殺すつもりはなかった、が結果的に死んでしまったのなら仕方ない。常にそう考えてきた。今まではデュエルをしていてたから死ななかった。だけど今回はデュエルではない。なら死んでしまっても仕方ない。何故なら、絶対に死なない保障なんてどこにもないのだから。

 キリハは体勢を低くして正面から疾走した。

 

(疾いっ…が)

 

 捉えられない程ではない。エンバは冷静に自身の間合いに入るまで待つ。そして、あと一歩で間合いに入る、瞬間、再びエンバの視界からキリハが消えた。エンバはそれを目で追い右へ刀を振るう。それをキリハは特に驚くこともなく顔を左に反らして躱し、一閃。がしかし、エンバは跳躍をして回避、そのまま上から振り下ろす。キリハは左腕を引いて逆手に持った鞘で弾き、その勢いで回転し後ろ回し蹴りを放つ。エンバは弾かれた勢いを利用して回避し、両者の距離が空いた。

 

(ステータスは僕の方が上…技術は同等…ですか…。ふふふ、本当に楽しいですねぇ)

 

(予想以上に強い…。ステータスで劣ってる分技術で補うしかないが…。()()を使うしかないか…)

 

 スッとエンバは刀を左腰に居合いのように構えた。表情は変わらずニヤケたままだが、雰囲気ががらりと変わったのがキリハには分かった。何か仕掛けてくる。恐らく、奥の手に近い何かを。

 

(本来ならそのような手は使わせないに限るのですが…)

 

 受けてみたいと、相手の技術を、未知の技を見てみたいと、思ってしまう。警戒心よりも好奇心が勝ってしまった。とは言っても警戒心がなくなったわけではない。油断は禁物、故にキリハは確実に防げるように、刀を鞘から抜き防御の構えを取る。

 

(迎え撃つつもりか…面白い…。防げるものなら防いでみよ!!)

 

 エンバは跳歩を使いキリハに近付く。直後、刀を持った右手を振るう。跳歩は視覚では捉えきれない。ならばと、跳歩を視覚以外で見切ったキリハは正確に防御した。そしてキリハが目にしたのは、計画通りと言わんばかりに嗤ったエンバと、キリハの刀を()()()()()()()()()()()()だった。

 

鬼蜻蛉(おにやんま)

 

「なっ!?」

 

 普通なら有り得ない出来事に驚愕の声を上げながらも顔を無理矢理後ろに反らした。それを逃さずエンバは足払いをかける。避けることも出来ず体制を崩し、宙に浮いたキリハに刀を振り下ろした。宙に浮いているキリハは体を捻って回避して片手で着地、地面を押して後方へと逃げる。ここが仮想世界だからこそ出来る力技である。

 

(逃がさん!)

 

(逃がして…もらえませんよねぇ)

 

 がしかし、エンバは即座に追撃に入り距離を空けさせない。エンバが刀を持つ腕を振るう。それを今度は防御するのではなく弾き返す。

 

「っ!(もう対処してくるか!!)」

 

 刀を弾いたキリハはあえて突っ込み刀を振るった。エンバはそれを受け止め、つばぜり合いとなる。そのまま、キリハはエンバに話しかけた。

 

「貴方のそれ、エクストラスキルですね。しかもユニークスキル」

 

「…御明察。やはりキリハ殿はかなり察しがよろしいようだ。名前は《蜻蛉切(とんぼぎり)》、自分の任意のタイミングで武器をしならせるスキルであります」

 

「おや?スキル名だけでなく効果まで教えてくれるとは、親切ですね」

 

「ははっ、キリハ殿ならこれが如何な代物か解っていると思った故」

 

「正解です。しなる所までは分かりましたが、そういう武器なのか、しならせるスキルなのかまでは分かりませんでしたけどね」

 

 ふふふ、ははは、と二人は笑い合う。分かっているとは思うがこれ、つばぜり合いをやりながらの会話である。

 

「僕だけ知っているのはフェアではありませんね。僕のユニークスキルは《大鎌》、効果は鎌を扱えることと、斬った相手を問答無用で黒鉄宮送りにするスキルです」

 

「ほぉ…願わくばそれとも一合打ち合いたいでありますな」

 

 ニヤニヤと嗤いながらそういうエンバに、キリハは困ったように笑った。

 

「そうしたい所ではありますが…困ったことにこれ、後者の効果はオンオフの切り替えが効かないんですよ。ですのでこういう闘いには向かないんですよねぇ」

 

「ソレの『斬る』とは如何なるモノでありますか?」

 

「かすってもアウト、です」

 

「…流石に全ての攻撃を回避する自信はありませぬなぁ」

 

「ですよね…。

さて、雑談はこれで終わりにして─」

 

「─仕斬り直しと相成ろう」

 

 先程までの雰囲気から一転し互いが互いを弾き返した。距離が空くがすぐさまゼロになり金属特有の甲高い音と火花が散る。押し返して、刀をしならせて、弾いて、蹴りを放って、投げ飛ばして。二人は防御という手段を捨て、あらゆる動作を全て攻撃につなげた。

 キリハが左下から中斬りを放ち、エンバはそれを弾こうと刀を振るった。しかしエンバの刀は空を切る。キリハの右手を見ると何も握ってなく、刀は左手に持ち替えられていた。

 

─五月雨─

 

「っ!?」

 

 ギリギリで腹をへこませながら後ろに下がり、そのまま後転する。足が地面に着いた瞬間、体を低くしながら接近、ついで鬼蜻蛉を放つ。避けられる、がすぐに刀を持ち替え間髪入れずもう一度鬼蜻蛉を放った。躱されるが連続で放ち続ける。

 

鬼殺蜻蛉(おにごろしやんま)

 

 唐竹、袈裟斬り、逆袈裟、反撃の隙を与えない。現実でこの技を使おうものなら腕に負担がかかるが、ここは仮想世界、故にいつまでも放ち続ける。

 流石に全てを弾き躱すことは不可能に近く、いくつかかすってしまった。ずっとこの技を続けていれば勝てるか─んなわけあるか。

 キリハは左腰にさしてある鞘を逆手で抜きながら弾いた。

 

「このスタイルはあまり好きではないのですが」

 

 エンバの不規則な斬撃を右の刀と左の鞘で踊るように弾き続ける。これ以上は無駄うちと踏んだエンバは後ろへ下がる。が、それをキリハは許さない。鞘に刀を収め距離を詰め、一閃。エンバは後ろに跳躍して躱し、更に後ろへ跳び続ける。いつまで下がり続けるのか、キリハは追撃をやめた。十メートルほど下がった所でエンバは口を開いた。

 

「やめであります」

 

「…はい?」

 

 聞き間違いだろうか。居合いの構えのまま間抜けな声をあげてしまった。

 

「やめ、と言ったであります。これ以上続けても決着がつかない、あるいは自分が負けてしまう」

 

 聞き間違いではなかった。証拠に先程までの戦意が嘘のように消えている。

 キリハには、何故エンバがやめと言ったのか分からない。同時に思う、これからもっと楽しくなるはずなのに、と。

 

「負けることだけは勘弁であります。自分が負けるとしたら、ソレは我が最期也。……今はその時では無し!故に!いざさらば!」

 

「え、あ、ちょっと!?」

 

 早口で捲したてたと思ったら、あっという間に行ってしまった。止める間も無く、その場には片手を伸ばしたキリハだけが残ることとなった。

 しばらくその体制のまま固まっていたキリハであったが、やがてポツリと呟いた。

 

「…行きますか」

 

 当然、迷宮区へと向かう。この場に他の誰かがいたらこう言っただろう。“お前、疲れてないの?”と。

 迷宮区へ向かっていると遠くから

 

─はーはっはっはっ!!此度は自分の読み勝ちでありますなぁ!!お主の名、覚えたでありますぞキリハ殿ー!─

 

 また殺りにくると、そう彼の叫び声がした。

 

 

 迷宮区にて、先の戦闘が不完全燃焼で終わったことに腹が立ったのか、キリハが必要以上にモンスターを攻撃していたのは余談だろう。




エンバ…この子の口調ホンットムズい…
和葉「友達に確認して貰いながらでしたねぇ」
大変だったぁ…
和葉「というか、僕が使った《五月雨》って」
あ、うん。そうだよ。『家庭○師ヒッ○マンRE○ORN』からの技だよ。




ここからはエンバの設定です


基本設定

  流浪人。SAO内での通り名は『辻斬り』。自分が何処に居るかも把握しておらず、気に入った者に喧嘩をふっかける日々を送っている。タダ飯が好き。好き嫌いはないが、肉が特に好物。
  戦闘方針は基本的に守備重視。故に隙を作り一撃で決めるか、搦め手を執りなぶり殺すか、初撃必殺を行う。中でも搦め手が好き。AGIがん振りのスピード型。
  勝つためなら卑怯な手(唾かけ、砂かけ、急所への攻め、負傷箇所への執拗な攻め等)も辞さないが、事前工作は嫌う。戦うときはその場に有るもののみを使用することを誓っている。
  負けるときは逃げる。ただし、彼は決着が付かずに逃げたときは勝つまで追い続ける。良い迷惑だ。「負けたら殺されずとも自ら腹を切りましょう」とは本人の談。
  容姿はそこそこ整っている。常にニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるが、殺意を込めた一撃を放つ際に笑いがふっと消える癖がある。この癖を見た者は居るが、皆エンバに殺されているので、エンバ自身気付いていない。今回、その癖は出なかった模様。なお、エンバは殺したい時に殺すのではなく、殺す価値がある者、又は気に入った者にのみ殺意を込める。因みに和葉はエンバのお気に入りに認定された、頑張れ。
  目の下には常にクマがあり、光がない。一目見ただけでは不気味な容姿である。
  服装は日本帝國陸軍冬制服のような着物。丸きり軍人の装いである。左に刀を差しているが、彼自身はどちらの手でも刀を振れる。
  口調は語尾に「~であります」が付き基本的に軍式敬語。ただし、人を小馬鹿にしたような話し方なので(本人もそう思っているが直す気はない)よく絡まれる。彼的には本望なので、むしろ歓迎している。
 現実での愛刀は「秋津(あきつ)」。いわゆる日本刀だが、その剛性としなやかさは天下一と言っても過言ではない。その名の通りとんぼの羽のように非常に軽く、エンバの斬撃の速さの基となっている。


跳歩(とんぼ)
 人の視覚が二次元的にしか捉えられないことを利用した歩法。極限まで動きを削ぎ落とし、低く速く滑るように跳ぶことで「そのまま前に行く」。奥行きの三次元を突いた歩法であり、受けた者は「いきなりエンバが目の前に来た」としか知覚出来ない。突破するには立体機動装置の訓練でも受けておくか、視覚以外で察知するしかない。今回、エンバが始めに使った技。
赤跳歩(あかとんぼ)
 跳歩で敵の不意を突いた後、ノンタイムで側面に移動する歩法。跳歩自体、一切体勢を崩さず移動する代物なのですぐに側面に回りこめる。故に突破は難しく、死角に移動されること必至である。今回は出番がなかった。
空通(あきつ)
 これまた体勢を崩さず高速で摺り足を行いながら、時折跳歩の要領で跳ぶことでさらに素早く、滑らかに移動する歩法。まるでとんぼが空を跳ぶように速く、方向を変えることも自在である故、「空を通る」と名付けた。こちらも出番はなかった。
・とんぼ返り
 柄の先に手のひらをあて、まるで柄を小さな棒のように使い、斬撃の方向転換を自在にする技。正直ダサい。こちら(ry
・とんぼ落とし
 思い切り足払いをし、相手が宙に浮いたところを鋭く斬りつける技。エンバはこれを必殺として最も多用する。跳歩や赤跳歩の直後にこれを使うと効果的。名前は出なかったが、和葉が驚愕した後に使用した。
鬼蜻蛉(おにやんま)
 脱力し腕をムチのように激しく振るうことで刀身を歪ませ、不規則な斬撃の形を作り斬りつける。防御の上からでも刀がしなるので当たる。エンバの間合いにいる場合、完璧に防御することは難しいだろう。突破法はエンバの間合いから抜けることだが、エンバの歩法は体勢を一切崩さず移動するものばかりなので、間合いの詰め直しも追撃も得意である。よって、どちらにせよ回避は難しい。エンバの愛刀「秋津」のしなやかさがあって初めて形を成す技である。今回はスキルの効果でしならせ使用した。
鬼殺蜻蛉(おにごろしやんま)
 鬼蜻蛉を連続して行い、更に速く、鋭く、形を複雑にして斬りつけるエンバの奥義。腕を振るう度に速く、鋭く、形が複雑になるので、初期段階で破らねばならないが、エンバは両手を巧みに使い絶え間無く繰り出すので突破は難しい。ただし、これを限界まで行うとあまりの負担により腕の肉が爆ぜ、使いものにならなくなる。よってエンバは腕に痛みを感じた時点でこれを止める。実例は彼の剣の師がその剣士生命と引き換えに伝授した時。まさしく奥の手である。ただし、今回は仮想世界だった故、和葉が疑似二刀で弾かなかった場合ずっと続けていた可能性がある。

エクストラスキル
ユニークスキル『蜻蛉切(とんぼぎり)
 習得条件は不明。効果は手に持っている武器を任意のタイミングでしならせる事が出来るスキル。ソードスキルの最中には使えない。
 しならせる事しか出来ないスキルだが、SAOにはしなる武器がそもそも存在しないので初見殺しのスキルとも言える。
 “手に持った武器”が効果の対象に入るので、装備せずとも拾った武器あるいは奪った武器でもしならせる事が可能。


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朝露の少女

和葉「言い訳はありますか?」チャキ
え、えぇとですね…。定期考査がありまして…
和葉「終わったの二週間前ですよね」
か、艦これのイベントが…
和葉「それも同じ時期に終わってますよね」

和葉「で、本当は?」
…読みに走ってましたぁぁぁぁぁぁ!!すいまs「さよなら」ギャ



ではどうぞ


「ん…」

 

 カーテンの隙間から差し込んでくる光に眩しそうに目を開けたキリハは、眠たげに上体をベッドから起こし昨日の記憶を遡った。

 

(えっと…確か昨日─)

 

 

 

 

 

─『辻斬り』もとい、エンバと斬り合って数日経ったある日のこと、キリハはヒースクリフに呼び出されていた。特に何かしでかしたわけではないので、呼び出される理由が思いつかないままKOB団長室をノックする。

 

「入りたまえ」

 

 許可が出たので部屋に入る。そこには相も変わらず机の上で手を組んでいるヒースクリフがいた。

 

「僕に何の用でしょうか」

 

「いやなに、君にも休暇を与えようと思ってね」

 

 それを聞いたキリハは、自分が抜けても大丈夫なのかと心配する。唯でさえ二人が抜けて攻略スピードが落ちているというのに。

 

「なに、心配は無用だ。君が頑張ってくれているおかげで迷宮区の七十%がマッピングされているはずだ。キリハ君が抜けても問題はない」

 

 それに、とヒースクリフが続ける。

 

「風林火山や黒猫団を筆頭に、攻略組の者達が君にも休暇を与えろと言ってきてね。働きすぎだと」

 

 優しげな笑みを向けられ、キリハは溜息をついた。こうまで善意を向けられると、断る方が悪いみたいではないか。

 

「はぁ…分かりました。ありがたく休暇を受け取りますよ」

 

「そうしたまえ。といっても、一週間あるかないかの短い休暇だろうがね」

 

「僕には充分すぎます」

 

 それにしても、と。他の皆は休暇を取っているのだろうかと思い始める。もし取っていないのなら、自分達だけが休暇を貰うのは流石に悪い。が、その心配は杞憂だった。

 

「安心したまえ。他の者は時折、休暇を取っている。君のように全く休みを取らない者はいないさ」

 

 キリハは肩をすくめた。

 ヒースクリフの言うとおり、キリハは全くと言っていいほど休みを取らない。精々、ワンフロア攻略出来たら一日休みを取る程度だ。しかも、その休日は武具を見たり、攻略情報を整理したりと、前者はともかく後者は本当に休めているのかと首を傾げそうになる。

 

「では、僕はこれで失礼しますよ」

 

「あぁ、休暇を楽しみたまえ」

 

 

 

(─あぁそうでした。休暇を言い渡されたんでしたね)

 

 正直、休暇を出されたところで何をすればいいのか全く思いつかない。現実での休日の過ごし方といえば、小説を読むか家族と鍛練するかだった。後は、家族全員が休みの時に外出したくらいか。

 

(さて、何をしましょうか)

 

 自分で垂れたコーヒーを飲みながら考える。一瞬、キリト達の所へ行こうかと思ったが、せっかく二人きりの生活(新婚生活ともいう)を手に入れたのだから、それは気が引ける。久々にアシュリーの服を見に行こうかと考えた所で、メールが来た。キリトからだ。

 

『from キリト

 明日加が面白い場所に心当たりがあるって言ってるから姉さんも来ないか?どうせ暇なんだろ。休暇を貰ったってヒースクリフから聞いたぞ

               to キリハ』

 

 ヒースクリフは何故、二人に自分が休暇を貰ったことを話しているのだろうか。

 だがまぁ、何もやることが思いつかなかったので丁度いいと思い、了承の返事を送った。ただ…。

 

(なぁんか嫌な予感がするんですよねぇ…)

 

 具体的には、自分が苦手としている物を用意してその反応を二人が楽しもうとしてるような予感。…考えすぎか。

 取りあえず行けば分かるかと思い、パジャマから外出用へ着がえる。黒いデニムに黒いシャツ、黒いジップパーカーと黒一色で、髪が長くなければ男と間違えられるかもしれない格好だ。ファッションに全く興味が無いわけではないが興味が薄いことは確実だ。そのくせ、アシュリーの服を見に行こうとしていたのだから意味が分からない。

 

閑話休題(それはともかく)

 

 そんな黒一色の服装に着替えたキリハはホームを出て転移門へ向かい、キリト達のホームがある層の名前を言う。

 

「転移、コラルの村」

 

 

 

 コラルの村があるのは二十二層。ここは森林と水に囲まれた層であり、迷宮区以外でモンスターが全く出現しない珍しい層だ。迷宮区のモンスター及びボスもそこまで強くはなく、僅か三日で突破された。攻略組の記憶に残ってるかどうか怪しく、ここにいるのは田舎が好きなプレイヤーか、キリト達のようにゆっくりしたいプレイヤーくらいだ。

 二人のホームがあるのは南西エリアの南岸、だったか。そこまで歩いて行きながらキリハは景色を楽しむことにした。

 

(静かですねぇ…)

 

 時折、小鳥の鳴き声が聞こえる程度で、それ以外では木の葉が揺れた音くらいだ。だが、この静けさは心地いい。なるほど、確かにゆっくりしたいプレイヤーはここに集まるのは当然だな、と納得した。

 

(あ、あれですね)

 

 そんなこんなで森を歩いていくと、一つのログハウスが見えた。その家の前に人影が見える、キリトとアスカだ。ただ、何故キリトはアスカに肩車されているのだろうか。

 

「お、来た来た」

 

 その状態のままアスカがこちらに気付いた。キリトもこちらに気付き、ついで顔をボンッと真っ赤に染めた。

 

「今すぐ降ろせ!姉さんが来るまでって話だっただろ!?」

 

「ん~?何のことか分からなゴメンホントゴメン俺が悪かったから首絞めるのやめて」

 

「じゃあ今すぐ降ろせ」

 

「あ、でもこれはこれで役t「…」ぐえっ!?」

 

 恋人…訂正、嫁が器用に足を使って首を絞めて、それを役得と言いかけた旦那の首を今度は()りに行った。グキッと嫌な音が聞こえた気がして、アスカが地面で痙攣しているが、まぁ心配ないだろう。若干のダメージが入っているだろうが。

 因みにキリトの服装はショートパンツにダボダボの白いシャツだ。何故アスカが役得と言いかけたのか、お分かりいただけただろう。

 

 

 

「で?明日加が面白いと言っていた場所とはどんな所です?」

 

 数分して復活したアスカにキリハは尋ねる。因みに場所はホームの中、テーブルを挟んでキリハの前にアスカがおり、その隣にキリトが座っている。キリトも聞いていないのか聞く体制になった。するとアスカはマップである座標を指しながら口を開いた。

 

「村で小耳に挟んだだけなんだけどな?この層のここら辺、出るらしいんだ」

 

「出る?なにがだ?」

 

 疑問符を浮かべたキリトに、アスカはニヤァと悪い笑みを浮かべながらこう言った。

 

「幽霊だよ」

 

「「は?」」

 

 予想だにしない答えに二人そろって間抜けな声を出した。

 

「幽霊って…ゴースト系モンスターのことですか?」

 

「違う違う。本物だよ。プレイヤー…人間の、幽霊。女の子だってさ」

 

 ヒクッと頬が引き攣ったのを自覚した。それはキリトも同じらしく、少し顔が青ざめてる。

 実はこの二人、ホラー系統の話が大の苦手だった。かといってゴースト系モンスターが苦手というわけではなく、ホラー系フロアでは普通にしていた。…時折聞こえてくる物音に二人してビクッとしていたが。

 曰く、モンスターは索敵で発見出来るし倒せるから問題ないけど、現実の幽霊は気配もないし見えないし、見えたとしても攻撃が通じなそうだから苦手、とのこと。お化け屋敷もスタッフが脅かしてくるタイプは平気だが、機械で脅かしてくるタイプは気配がないから無理。

 

「いやいやいや、ないだろう本物の幽霊なんて。ここは仮想世界、デジタル世界だぜ?」

 

 頬を引き攣りながらキリトはそう反論した。それにキリハも同意する。が、二人がそういう話が苦手な事を当たり前に知っているアスカはやめない。

 

「ないとは言い切れないんじゃないか?例えば、恨みや後悔を持ったプレイヤーが死んで、その思いがナーブギアに移ってそれが電子の世界に影響を及ぼしているとか…」

 

「「っ」」

 

 キリハとキリトは同時に息を飲んだ。アスカは先程までの笑みをやめ、苦笑した。

 

「ま、俺も本当に出るだなんて思ってないけどな。でもさ、どうせどっか行くなら何か起きそうなところがいいじゃん」

 

「…それ、僕を呼ぶ必要ありました?」

 

 ホームを出る前に感じた嫌な予感は的中したわけだ。ただし、二人が、ではなく、アスカが、だったが。

 

「別に二人だけでも良かったんだけどさ、和葉も休みだって言うじゃん?」

 

「じゃあ姉さんも呼ぼうかってなったんだけど…まさかこういう話だとは思わなかったぞコノヤロウ…」

 

 悪い悪いと言いながらキリトの頭を撫でる。撫でられているキリトは拒むことはせず、逆にもっと撫でろと言わんばかりに擦り寄った。まるで猫のようだ。

 

「ま、まぁ、取りあえずその場所へ行ってみましょう。正直怖いですが、本当に幽霊が出るならそれはそれで興味深いですし」

 

「幽霊なんていないって事、証明してやる…」

 

「みつかんなかったら、次は夜行こうぜ」

 

「「それは絶対に嫌(です/だ!!)」」

 

 

 

 

 そんなこんなで森の中。アスカが真ん中で右側にキリト、反対側にキリハが並んでいる。

 

「それで?噂ってどんなのだ?」

 

 聞きたくはなかったが、聞かないのも不安なのでキリトは問いかけた。アスカは記憶を遡るように、確かと呟いた。

 

「一週間くらい前、木工職人(ウッドクラフト)プレイヤーがこの辺の丸太を採取しに来たんだと。ここで採取出来る木材は結構質が良いらしくてな、夢中で集めていたら暗くなっちまったから、急いで帰ろうと歩き始めた所で…少し離れた木の陰に、白いものが見えたそうだ」

 

「「…」」

 

 まだ大丈夫だ。既に限界の半分までは来てるけども。

 

「モンスターかと思ったけどそうじゃない。小さい女の子だったそうだ。プレイヤーかNPCだと思って視線を頭上に動かしたら…カーソルが出ない」

 

「「ヒッ…」」

 

「そんなはずないと、やめときゃあ良いのに近づいてオマケに声もかけた。その子はこっちを振り向こうとして…そこでそいつは気づいた。女の子の白い服を月明かりが照らして、その向こう側の木が─透けて見えた」

 

「あ、明日加っ…もうやめ…」

 

 キリトが止めようと声をかけるが、アスカはやめない。

 

「その子が振り向いたら終わりだ、そう思った男は無我夢中でその場から逃げた。そして、街まで逃げた男が後ろを振り向くと…」

 

「「──っ!?」」

 

「何もいなかったとさ、めでたしめでtグフォ!!」

 

「あ、わ、悪い明日加…つい…」

 

 ボディブローを食らい崩れ落ちたアスカにキリトは謝った。どうやらあまりに怖くて咄嗟に手が出てしまったらしい。それに苦笑していたキリハだが、視界にチラリと何かが見えたのでそちらを向いた瞬間、硬直した。

 

「ん?姉さんどうし…」

 

 それを不思議に思ったキリトもそちらを向き、同じく硬直した。視界の先で、白いワンピースを着た少女がこちらを見ていたからだ。さっきアスカの話に出てきた女の子と特徴が一致している。

 

「あ、明日加っ、起きっ」

 

「んあ?どう…嘘だろおい…」

 

 キリトに起こされたアスカも、やはり硬直する。ただの噂話だと思っていたのだから、当然だろう。だが、女の子の体がグラリと傾いた瞬間、キリハはその子に向かって駆け出した。

 

「っ!」

 

 なんとか地面に倒れる前に受け止めることが出来た。

 

「「(姉さん/和葉)!」」

 

 数秒遅れて二人は少女のもとに到着した。

 

「和葉、その子…」

 

「えぇ、幽霊ではありません。ですが…」

 

「何でカーソルが出ないんだ?」

 

 キリトの言うとおり、少女の頭上にカーソルが見えない。通常ならプレイヤーだろうとNPCだろうとカーソルが見えるはずだ。

 

「ひとまずうちに連れて行こう。いいだろ?佳奈」

 

 アスカの言葉にキリトは頷き、それを確認したキリハは少女を横抱きに抱え、二人のホームまで駆け出した。

 

 

 

 ホームに着き少女をベッドに寝かせたが、少女は目を覚まさなかった。

 

「十…はいってないよな…。七、八くらいか」

 

「だろうな…。俺が見た中では最年少だ」

 

「シリカが十三くらいでしたね」

 

「誰?」

 

「ビーストテイマーの子に会ったって前言ったろ」

 

「あぁ」

 

 二人がそう話し合ってる中、キリハは立ち上がり外に出ようとした。

 

「姉さん、どこ行くんだ?」

 

「新聞を買いに行って来ます。その子を探している人がいるかもしれません」

 

「じゃあその間に簡単な夕食を作っておくよ」

 

 

 

 

 キリハが帰宅し、三人でパンとレタス風スープだけのの簡単な夕食を済ませてキリハの買ってきた新聞をあさる。新聞には攻略情報から訊ね人コーナーまである。キリハは訊ね人コーナーの枠に少女を探している人物がいるかもしれないと思ったのだが…。

 

「…」

 

 新聞から目を離したキリハは二人へ視線を向けた、が二人とも首を横に振る。三人の反応で分かると思うが少女を探している人物は見つからなかった。後は少女が目を醒ますのを待つしかない。

 もう夜も遅く、少女の事もあるのでキリハは泊まらせて貰うことにしたが、ここで問題が発生、寝る場所だ。ベッドは一つ、少女を寝かせているがダブルサイズなので後二人は寝られる。よって一人はソファで寝ることになる。勿論、キリハはソファで寝るつもりなのだが二人が良しとしなかった。がキリハの

 

「君達が別れて寝るのでしたらベッドで寝させて貰いますが?」

 

 の一言で二人を黙らせた。

 キリハはソファに向かう前に少女の頭を優しく撫でた。明日、目覚めて欲しいと思いながら。




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ユイ

危な…。遅れるとこだった…


「明日加!起きて!早く!」

 

 ソファで気持ちよく寝ていたキリハは、自分が呼ばれたわけではないが突然の大声に驚き危うく落ちそうになった。

 

「どうしたんですか?」

 

 キリハは寝室へ向かいドアを開けた。そこには勿論キリトとアスカ、そして、二人の真ん中で目を開けている少女。

 

「自分がどうなったか、分かる?」

 

 少女の体をゆっくりと起こしたキリトは優しく声をかける。その問いに少女はぎこちなく首を横に振った。

 

「そっか…。じゃあ、自分の名前は分かる?」

 

「な…まえ…わたしの…なまえ…」

 

 少女は思い出すように目を伏せてそう呟いた。

 

「ゆ…い…。ユイ…それが…なまえ…」

 

「ユイちゃんだね。俺はキリト、こっちの男の人がアスカ、こっちの女の人がキリハ」

 

 まずキリトが自分の名前を教え、次にいつの間にか自分の隣にいたアスカを、最後に自分達の後ろにいるキリハを紹介した。

 

「き…と……あ…うか……きいは…」

 

 見た感じ少女の外見は八歳前後、そう考えると今は十歳前後となる。だが、たどたどしく言葉を発する姿は、まるで物心ついたばかりの幼児のようだ。

 

「ユイちゃん。君はどうして二十二層にいたの?どこかに、お母さんかお父さんはいないかな?」

 

 キリトの言葉に少女は少し目を伏せ、首を横に振った。

 

「わか…んない……なんにも…わかんない…」

 

 

 

 ユイ、と名乗った少女にホットミルクをすすめると、カップを両手で持ちゆっくりと飲み始めた。それを横目で確認して、少女から離れた位置で三人は会議を始める。

 

「どう思います?」

 

「…記憶を失ってる様子だし…。もしかしたら、精神にダメージを負っているかもしれない…」

 

「クソッ…」

 

 キリトの顔が泣きそうな程に歪み、拳を震わせた。

 

「今までだって…酷い現状は見てきたけど……こんなの…あんまりだろ…」

 

「佳奈…」

 

 アスカはキリトを両手で包み込み、落ち着かせるように背中を撫でながら言葉をかける。

 

「大丈夫…。必ず何か、俺達に出来ることがあるさ」

 

「明日加の言うとおりですよ。小さなことでも、僕達が彼女に出来ることを見つけましょう」

 

「…そうだな」

 

 キリトが落ち着いたことを確認し、アスカは少女の隣の椅子に座って話しかけた。

 

「やぁユイちゃん。俺はアスカって言うんだ」

 

 ユイはカップから顔を口を離し、アスカを見上げた。そして舌足らずに口を開く。

 

「……あ…うか…」

 

「アスカだよ、あ、す、か」

 

 難しそうな顔をして、黙り込んでしまった。アスカは笑みを浮かべながらユイの頭を撫でる。

 

「ちょっと難しかったかな。じゃあユイちゃんの好きなように呼んで良いよ」

 

 ユイは下を向いて考え込む。数分してアスカを見上げ口を開いた。

 

「パパ…」

 

「えっ?」

 

 ついで、キリトに顔を向けた。

 

「きいとは、ママ…」

 

 瞬間、キリトの中に言いようのない気持ちが芽生えた。本当の親と勘違いしているのか、それとも─この世界にいない親を求めているのかは分からないが、キリトは笑みを浮かべ両手を広げた。

 

「あぁ…そうだよ。ママだよ」

 

 初めてユイの表情に笑顔が浮かび、ユイもまた、両手を広げキリトに飛び込んだ。

 

「ママ!」

 

 キリトは飛び込んで来たユイを抱きかかえ、涙を見せないようにニッと笑う。

 

「さて、ご飯にしよっか!パパが美味しいものを作ってくれるぞ!」

 

「ごはん!」

 

「ははは、分かった。すぐ作るよ」

 

 キリトの言葉にユイは、今度は目を輝かせてアスカの方を向いた。アスカもまた、笑みを浮かべ了承する。

 

 

 

 アスカが激辛サンドウィッチと、フルーツを挟んだものをそれぞれ二つ出した。激辛がキリトとアスカ、フルーツ入りがキリハとユイなのだが、二人が激辛を美味しそうに食べてるのを見て、ユイも激辛ソース入りを食べてみたいと言い出して二人を慌てさせ、キリハはサンドウィッチを食べながら笑った。

 

「二人が親となると、僕はその子の伯母さんになってしまいますね」

 

 そういえばと、キリハはふとそんなことを言った。流石にこの歳で伯母さん呼ばわりされるのは抵抗があるようだ。それに二人は苦笑した。

 

「きいはは、ねぇね」

 

 口元にソースをつけながら、ユイはそう言う。キリハは軽く目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべユイの頭を撫でた。姉と呼ばれるのは構わないが、そうすると別の問題が発生する。

 

「姉さんがユイの姉となると、俺らの娘になっちまうな」

 

「こんなに大きい子供はまだいらないぞ」

 

「だよな「あははは!」」

 

「ほう?二人とも、一回逝っときます?」

 

「「ごめんなさい!」」

 

 茶番をしている中、ユイだけは黙々とサンドウィッチ(激辛)を食べていた。

 

 

 

 

 朝食を食べ終わり、これからどうするかを話し合った結果、取りあえず『始まりの街』 に行くことにした。そのためにユイを着替えさせようとしたのだが、問題、というか、本来ならGMを呼ぶべき案件が二つ発生した。

 

「どうなってんだこれ?」

 

「ん~。ウィンドウが左手で開くなんて聞いたことも無いし、ウィンドウの配置もおかしいし…。GMがいないのがここで響くとはなぁ…」

 

「…」

 

 一つ、ユイがウィンドウを開くときに使ったのは左手であり、右手では開けなかったこと。二つ、ウィンドウの配置が普通のプレーヤーと明らかに違っていること。

 ウィンドウは三つのエリアに分かれている。最上部に英語表記の名前、HPバー、EXPバーが、その下の右半分に装備フィギュア、左半分にコマンド一覧という配置だ。それに対しユイのものは、最上部にあるのは《Yui-MHCP001》という奇怪な名前のみがあり、装備フィギュアはあるもののコマンドは《アイテム》と《オプション》のそれがあるのみ。

 元々はキリトがユイのウィンドウをいじっていたのだが、この奇妙な配置を見て驚愕の声と共に手が止まった。それを不思議に思ったアスカとキリハもユイのものを見た、という経緯だ。

 二人がこの現象について話し合っている中、キリハだけは何かを考えている。

 

(MHCP…?確か昌彦がそんなことを言っていたような…。昌彦の関係者だとするなら、この子は何者ですか…?演技をしているようには見えませんし…)

 

 そこまで考えたキリハは頭を振って思考を放棄した。怪しい事があると疑ってしまうのは自分の悪い癖だ。それにこんな子供を疑うとは何をしているのだろうか。

 ユイの方を向くと白いワンピースから一転、淡いピンク色のセーターとスカートに黒いタイツと、すっかり装いを改めていた。キリハが思考している間に準備が完了していたようだ。

 

「よし、じゃあ出かけようか」

 

「うん。パパだっこ!」

 

 手を広げ満面の笑みのユイがアスカにそう言う。アスカは苦笑するが、ユイを抱き抱えた。そしてキリトとキリハに言う。

 

「一応、武装の準備はしていこう。最近《軍》の過激派の行動が目立ってきてるらしいから」

 

 二人は頷き、アイテムを確認する。

 

(そういえば、最近シンカーから連絡がありませんねぇ…。何かあったのでしょうか…)

 

 第一層の治安維持の為に攻略組を抜けたシンカーを案ずるキリハ。何もなければ良いのだが。

 

 

 

 第一層『始まりの街』、そこを三人(ユイはアスカに肩車)は歩いている、のだが。

 

「…人、いなくね?」

 

「あれ?ここには何人くらいいるんだったっけ?」

 

「生存者が約七千人、《軍》を含めたおよそ三割、二千人くらいのはずですよ」

 

 その割には人がいなさすぎる。『始まりの街』に来てから一時間は経っているが、一人にも会わないとはどういうことなのだろう。

 ほんの数人のプレーヤーと会うことが出来ると、とある情報が手に入った。教会で子供を保護しているプレーヤーがいるらしい。

 ということで、教会に到着した四人は声をかけてから扉を開けた。返事は返ってこず、明かりもついていない。

 

「留守か?」

 

「いや、いくつか反応があるな」

 

「二階にも何人かいますね」

 

「…索敵スキルって便利だな」

 

 俺も上げようかなぁ、などと言っているアスカを無視してキリトは中に再度声をかけた。

 

「すいません!人を探してるんですが!」

 

 返事は返ってこなかったが、部屋から黒縁眼鏡をかけた女性が出てきた。女性は体を半分ドアに隠しながら問いかけてくる。

 

「…軍の方ではないんですか?」

 

「違いますよ。人を探すために、今日上の層から降りてきたばかりなんです」

 

 アスカがそう言った途端─

 

「上!?って事は本物の剣士かよ!?」

 

─何人もの子供がドアを開けて飛び出してきた。三人が呆気にとられている間に子供達に囲まれてしまい、みな興味津々という体でこちらを眺め回している。

 「部屋に隠れてなさいって言ったでしょ!」と言って女性が子供達を部屋に押し戻そうとしていたが、誰一人として聞いていない。

 

「なんだよ。剣の一本も持ってないじゃん。上から来たんだろ?武器持ってないのかよ」

 

 最初に飛び出してきた少年が失望したようにそう言った。一足早く復活したキリハが笑みを浮かべながら「持っていますよ」と言い、ストレージから使っていない武器を複数取り出した。取り出したそれらを床に置くと子供達は群がり、手に持っては「重~い」やら「かっこいい~」などと言っている。

 

「なんかすいません…」

 

「いえ。使っていない武器なので問題ないですよ」

 

 

 

 互いに自己紹介を終え、こちらの目的を伝える。が

 

「…その子は見たことがないので、ここにいた子ではないと思います」

 

 女性─サーシャ─からは有力な情報を得ることは出来なかった。

 それからは身の上話になった。サーシャが何故、子供プレーヤーを保護しているのか。ここの資金はどうしているのか、など。

 

「私も最初はゲームクリアを目指してレベル上げをしていました。でも、路地裏で子供が泣いているのを見たら放っておけなくなって…。それからは子供を見かけたらここで保護しているんです。私はここを離れられませんので、お金はシンカーさんを初めとした軍の人達や冒険者の人達頼みになってしまってるんですが…。ですから上の層で頑張ってる方達に申し訳なくて…」

 

「そんなことはありませんよ、サーシャさん。貴方は立派に戦っています」

 

 そう言ったキリハに、サーシャは「ありがとうございます」と返した。

 

「でも義務感があってやってるわけじゃないんです。子供達と暮らすのはとても楽しいんですよ。ただ…最近目を付けられちゃって…」

 

「目を付けられた?誰に?」

 

 サーシャの穏やか顔が一瞬厳しくなり、キリトの疑問に答えようと口を開いた、瞬間、ドアがバン!と音を立てて開き数人の子供達が雪崩れ込んできた。

 

「サーシャ先生!大変だ!ギン兄ぃ達が軍の奴らに捕まったよ!!」

 

「っ!場所は!?」

 

 注意をしようとしたサーシャは、少年の言葉に雰囲気を変えて立ち上がった。少年から場所を聞き出したサーシャはキリハ達に頭を下げる。

 

「すいません。私は子供達を助けに行きますので、お話はまた後ほど…」

 

「いえ、僕達も手伝いましょう」

 

 サーシャの言葉を遮って立ち上がったキリハは、キリトとアスカに目線を送った。それに頷き立ち上がる。

 

「人数は多いに越したことはないしな。大丈夫、こう見えても俺達は結構強いんだぜ?」

 

 前半はサーシャに、後半は心配そうにこちらを見ている子供達にキリトはそう言った。

 サーシャは礼を言って走りだした。それをキリハ達も追う。アスカが後ろをチラッと見ると子供達も追ってきていたが、サーシャは追い返す気は無いようだった。

 しばらく走ると、狭い通路を塞いでいる一団を見つけた。灰緑と黒鉄色の装備は間違いなく軍のもので、最低でも十人はいる。どうやら《ボックス》で子供達を囲んでいるようだ。

 足音に気づいた一人がこちらを向き、サーシャを見た瞬間ニヤニヤと笑い出した。

 

「子供達を返してください」

 

 硬い声でサーシャは言った。それに対して軍は「社会常識を教えてるだけ」「市民には納税の義務がある」と笑い声を上げる。サーシャは拳を震わせ、囲まれている子供達に叫んだ。

 

「ギン!ケイン!ミナ!そこにいるの!?」

 

「せ、先生…助けて…」

 

 男達の向こうから返ってきた声は恐怖で震えていた。「お金はいいから渡してしまいなさい!」とサーシャが言ったが、それだけでは駄目だと男達は言う。

 

「あんたらずいぶん税金を滞納してるからなぁ。だから金だけじゃあなく、装備も含めて全部置いてって貰わないとなぁ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、殺気が膨れ上がった。しかしそれは一瞬のことで、感じ取れた者は何人いたか。

 

「納税の義務は、まぁギリギリ納得出来るが、身ぐるみ全部置いてけは納得出来ないな」

 

((あっ、キレてるなこれ))

 

 そう言いながらキリハは男達の前まで歩いて行った。キリトとアスカはサーシャと子供達に下がるように言う。

 

「なんだお前!?軍の任務を妨害すんのか!!」

 

「まぁ待て。あんたら見ない顔だが、軍に楯突く意味わかってんだろうなぁ?なんなら本部でじっくり話を聞いても良いんだぜ」

 

 他の男達よりひときわ重武装の男が大ぶりのブロードソードを抜きながら歩み寄ってきた。キリハの前まで来ると見下しながら、言ってはいけないことを言ってしまう。

 

「それとも《圏外》行くか?おぉ!?」

 

─パキン─

 

 その言葉の後に響いたその音が何の音か、誰も分からなかった。しかし男が手元を見ると、剣の半分から先がなくなっていた。

 

「えっと、なんだったか。圏外、だっけ?もう一度言ってくれるか?」

 

 男が視線を戻すと、キリハが折れた剣先を手に持っていた。

 

「あぁでも、わざわざ圏外に行く必要ないよな」

 

「え、なん─」

 

─瞬間、男の視界が黒く染まった。続いて、顔に走る衝撃、浮遊感、今度は背中に走る衝撃。キリハが全力で回し蹴りを叩き込み壁まで吹き飛ばしたのだ。キリトとアスカがため息をつき、他全員が唖然としている。

 

「そんなに戦いたいんだったら《圏内戦闘》ってものがあるぞ?」

 

「い、行けぇぇぇぇぇ!!」

 

 その一声で、周りの男達も武器を構えた。キリハはキリトとアスカに子供達を救出するよう指示を出す。

 

「テメェらに一つ教えてやろうか。武器を構えたら、覚悟を決めとけ?」

 

 

 

 そこからは一方的だった。キリハは武器を出さずに拳と蹴りのみで男達を蹴散らす。キリハが消えたと思ったときには、剣が折られ吹き飛ばされた。

 ただ組織の名前を借りただけのプレーヤーと、最前線で文字通り命懸けの戦いをしてきたプレーヤー、どちらに軍配が上がるか、考えるまでもない。

 二分後、路地裏には剣を折られ地に伏した男達が広がっていた。キリハが振り返ると、サーシャと子供達が絶句して見ていた。

 

(あ~…ちょっとマズかったでしょうか…)

 

 先程のキリハの姿は、子供達にとって恐怖に映ったかもしれない。しかし、それはいらぬ心配だった。

 

「す、すげぇよお姉ちゃん達!あんなの初めて見たよ!」

 

「達?」

 

「な?強いって言ったろ?」

 

 キリトを見ると剣を肩に担いでおり、アスカも両手にそれぞれユイとレイピアを持っている。良く見れば二人の足下にも何人か転がっていた。どうやらキリトとアスカも何人か相手したらしい。

 子供達がキリハ達に群がり、サーシャも泣き笑いのような表情をした。その時だ。

 

「みんなの…こころが…」

 

「ユイちゃん?」

 

 ユイが手を虚空に伸ばした。慌ててキリトが近づく。

 

「ユイ、どうしたんだ?何か、思い出したのか?」

 

「あたし…あたし…」

 

 ユイの目は震えていた。何かを思い出すかのように頭を抱える。

 

「あたし…ここには…いなかった…ずっとひとりで…くらいとこに…あ、ああ…あぁぁぁあ!!」

 

 突然、ユイの口から悲鳴が迸った。そして─

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

─ザザっとノイズのような音が響くのを全員が感じた。直後、ユイの体が振動する。

 

「「(ユイ/ユイちゃん)!!」」

 

「こわいよ…パパ…ママ…こわい…ひとりは…やだよ…!」

 

 キリトとアスカがユイを抱き込み、ユイもまた何かを恐れるように抱き付く。数秒後、怪奇現象が収まると同時にユイの体から力が抜けた。

 残ったのは呆然と立ち尽くすサーシャと子供達、ユイを抱き込むキリトとアスカ、そしてやはりと言うべきか、考え込んでいるキリハだった。




誤字脱字、またはおかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします


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MHCP 前編

遅れてホンットすいません!!
後分けるつもりなかったけどあまりにも長すぎて二つに分けましたすいません!!


「ミナー、パン取ってー」

 

「こぼさないでね?」

 

「あ!今目玉焼き取ったろ!?」

 

「そのかわりニンジンやったろ!」

 

 わいわいがやがやと、十数人の子供達(主に男子)が騒がしく朝食を取っている。

 

「あはは、子供は朝から元気ですねぇ」

 

「元気すぎて、朝から叩き起こされたんだけど…」

 

「叩き、というかダイブされてたな」

 

 その様子を少し離れたテーブルからキリハ達とサーシャは見ていた。アスカは少し拗ねており、その頭をキリトとユイが撫でている。

 

 

 昨日、ユイが気を失っていたのは幸いにも数分だけだった。だが、長距離移動や転移ゲートを使う気にならず、サーシャの誘いもあったので教会の空き部屋を二部屋借りることにしたのだった。

 キリト、アスカ、ユイは川の字(ユイが真ん中)で寝ていたのだが、何故かアスカだけが子供にダイブされた。アスカの「グハァッ!!」という声で他の三人も起きたのだが、ピクピクしているアスカを見ると笑った。

 今朝からはユイの調子は良いようで、その証拠に子供にダイブされたアスカを見るとケラケラと笑っていた。その様子を見てひとまず安心したのだが、根本的な状況は変わっていない。それでも、キリトとアスカは心の底で気持ちを固めていた。

 

─ユイの記憶が戻る日まで一緒に暮らそう─

 

 そのことをお互い確認したわけではない。けれど、自分と同じ気持ちを持っている事を確信していた。キリハも薄々気づいており、それでも構わないと思っている。二人が攻略組から抜けるのならば自分が補えばいい。

 そう思いながら、カップを置いたキリハはサーシャに話しかけた。

 

「サーシャさん」

 

「はい?なんでしょう?」

 

「軍は治安維持の為に攻略組を抜けました。軍を率いていたシンカーは真面目な男です。昨日のような連中を放っておくと思えません。いつから、ああなんですか?」

 

「…徴税と称して恐喝まがいの行為が目立つようになったのは半年くらい前だったと思います。それを取り締まる人もいるようで、軍のメンバー同士で対立してる場面も何度か見ました。噂じゃ、上の方で権力争いか何かがあったみたいで…」

 

 そうですか、と返してキリハは思考を始めようとして何かに気づき、キリトと共に入り口を見た。

 

「どうした?」

 

「誰か来るぞ」

 

「え?」

 

 サーシャが入り口を見たと同時に、扉を勢いよく開けた音が響き、その数秒後に部屋のドアも開けられた。

 部屋に入ってきたのは銀色の長髪をポニーテールに束ねた女性プレーヤーだった。軍の鎧にショートソードと(ウィップ)を装備しており三人は警戒する。

 

「サーシャさん!子供達は無事ですか!?」

 

「ユリエールさん!?」

 

 しかし、その会話を聞いて警戒を解き、女性はサーシャの近くにいたキリハ達に気付いた。

 

「貴方達は…?」

 

「初めまして、僕はキリハといいます。こちらがキリトとアスカ。この子はユイです」

 

 キリハが自己紹介をすると、女性は慌てて「ユリエールです」と頭を下げた。そして、何かに気付いたように呟く。

 

「アスカ…?それに、キリハとキリトって…。もしかして貴方達は攻略組の!?」

 

 バッと顔を上げそう叫んだ。それに「えぇ」と返すと、ユリエールは納得したように頷く。

 

「なるほど…。奴らがボロボロになっていたわけだ」

 

 奴ら、と言う言葉が昨日の連中を指すことに気付いたキリトは目を細めた。

 

「まさかと思うが、そのことで抗議でもしにきたのか?」

 

「とんでもない!寧ろお礼を言いたいぐらいです」

 

 だろうな、と思う。もし本当に抗議しに来たのなら子供達の安否などしないだろう。ただの確認だ。

 取りあえずユリエールを椅子に座らせると、彼女は姿勢を正し言葉を発した。

 

「今日はお三方にお願いがあって来ました」

 

「お願い、ですか」

 

 キリハの返しのユリエールは頷く。

 

「はい。単刀直入に言います。シンカーとディアベルを、助けてください」

 

 そう言ってユリエールは頭を下げた。キリハ達は慌てることなく、頭を上げさせる。

 

「頭を上げてください。まずは、説明をお願いします」

 

「…はい、分かりました」

 

 元のギルドの名称は《ギルドMTD》。シンカーは資源を多くのプレーヤーで均等の分け合おうとギルドを作った。だが、組織としてあまりにも巨大すぎた軍は、アイテムの秘匿、粛清、反発が相次いだ。無論、シンカーとディアベル、キバオウは動き、首謀者(名前は教えてもらえなかった)をもう少しで追放出来る所までいった。しかし─

 

「─三日前、そのプレーヤーはシンカーとディアベルを罠にかけるという強硬策に出ました。出口をダンジョン奥深くに設定した回路結晶で二人を放逐してしまいました。丸腰で話し合おうという言葉を信じたせいで、現在二人はダンジョン最深部にいます」

 

 その言葉を最後に沈黙が降りた。

 シンカーがお人好しなのは分かっていたが、ディアベルまでもがその言葉を信じたとは思えない。キリトも疑問に思ったのか、ユリエールにそのことを聞いた。

 

「シンカーはともかく、ディアベルは元ベータテスターだぞ?あいつが他人の言葉を簡単に信じるとは思えないんだが」

 

「はい、ディアベルも最初はシンカーに言っていました。あいつは俺達を罠にかけるつもりだと。しかし、シンカーは、いざとなれば取り押さえれば大丈夫、こっちは二人だからと言ったそうです。それでディアベルは、彼を説得することは無理だと諦めたようで…」

 

 思わず三人は頭を抱えた。せめてディアベルだけでも武装を持って行けよと思ったからだ。わざわざシンカーに合わせる必要は無かっただろう…。

 

「シンカーの影響でも受けたんですかねぇ?」

 

「「ありえる」」

 

 キリハの言葉に二人は頷き、ユリエールを見る。

 

「それで、貴女がここに来たということは、二人がいるダンジョンが貴女では突破出来ないから。そして、軍のプレーヤーが信用できないから、ですか?」

 

 まだそこまで説明していないにもかかわらず、言い当てたキリハにユリエールは目を軽く見開き、頷いた。

 

「…そうです。本当はキバオウにも協力して貰いたかったのですが、過激派を取り押さえるのに必死でとても声をかけられる状態ではありませんでした…

─キリハさん、キリトさん、アスカさん」

 

 ユリエールは立ち上がり、深々と頭を下げ、言う。

 

「お会いしたばかりで何様だと思いになるでしょうが、どうか、私と一緒に二人を救出に行ってくれませんかっ…」

 

 ユリエールの声は震えていた。それだけシンカーとディアベルが大切なのだろう。

 彼女の話は嘘ではない─はずだ。少なくとも三人はそう思う。しかし、このゲーム(世界)ではそう簡単に人を信じられない。故に少しばかり返答に遅れてしまった。その時だ。

 

「─ママ、だいじょうぶだよ。この人、うそついてないよ」

 

 今まで静かにしていたユイが突然そう言った。全員が呆気にとられる中、キリトが顔を覗き込むようにしてユイに問いかける。

 

「ユイ、そんなこと、判るのか…?」

 

「うん…うまくいえないけど…わかる」

 

 アスカはユイに手を伸ばし、撫でながら言った。

 

「信じないで後悔するより、信じて後悔したほうが良いよな。どっちにしろ手伝うつもりだったんだろ?キリハ」

 

 キリハはアスカの言葉に肩をすくめた。図星だ。返答に遅れたのはキリトとアスカがいたから。キリハ一人なら迷わず受けていた。

 

「そういうことですので、お手伝いいたします」

 

 微笑みながらそう言ったキリハに、ユリエールは瞳に涙を溜めた。

 

「ありが」

 

「それを言うのは二人を救出してからで頼みます」

 

 ユリエールの言葉をキリトが遮ると、今まで成り行きを見守っていたサーシャが両手をパンと叩いた。

 

「そういうことなら沢山食べていってください!ユリエールさんも久しぶりですからね!腕がなります!」

 

 むん!となるサーシャに皆は笑い、アスカは料理の手伝いを申し出た。

 

 

 

 

 二人が閉じ込められたダンジョンは、驚くことにこの『始まりの街』の黒鉄宮の地下にあるという。ベータテストになかったことから、上層の進行具合によって解放されるダンジョンと予想した。強さ的には六十層相当らしい。

 で、そのダンジョンに潜った現在はというと─

 

「らぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

─およそ一週間ぶりに二刀流を持ったキリトが暴れまくっていた。一応キリハとアスカはいつでも援護出来るようにしているのだが、必要なさそうだ。巨大なカエル型やザリガニ型などのモンスターが出現するたびに突撃しては制圧していった。

 ユリエールは呆気にとられ、キリハとアスカは肩をすくめ、ほぼ無理やり着いてきたユイは「ママーがんばれー」と笑顔で応援していた。

 

「な、なんだかすいません…。任せっきりになってしまって…」

 

「いや、キリトも好きで暴れてるみたいなので気にしなくて良いですよ。…いつ交代してくれるかなぁ」

 

「…この子は僕に任せて行って来ます?」

 

「マジで?じゃあ頼もうかな。ユイちゃん、ちょっとママの所行ってくるからねぇねと待っててな」

 

「うん、わかった!パパもがんばって!」

 

 ニパっと笑ってそう言ったユイの頭を撫でてからアスカは飛び出していった。変わりにキリハがユイの手をつかむ。

 

「アスカ!?ユイはどうしたんだよ!?」

 

「キリハに任せてきた!」

 

「ならいいか…ってそいつ俺の獲物!」

 

「良いじゃんか。さっきまで暴れてただろ?」

 

「良くねぇ!!」

 

 ギャーギャーと言い争う二人を見て、ユリエールは耐えきれなかったように腹を抱えて笑った。途端、ユイがユリエールを指さして言う。

 

「お姉ちゃん、はじめてわらった!」

 

 ニパっとユイも嬉しそうに笑った。

 そういえば、とキリハは思う。先日、ユイが発作を起こしたのも子供達が笑顔になった時だった。周囲の笑顔に敏感なのだろう。それが少女の性格なのか、あるいは今まで辛い思いをしてきたからなのか。だが─

 

(…この子から目を離さないようにしましょう)

 

─これ以上、ユイを疑わないようにするためにも─

 

 キリハはユイの手を握り直した。




次でユイ編はラストです


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MHCP 後編

今回でユイ編は終わりです。
多分、SAO編は後二、三話で終わりです(池の主編はカット)。個人的には今年中に終わらしたいですね。


 ダンジョンに入り早2時間、ついに安全地帯のある十字路に出た。奥に光が灯り、かすかに二つの人影も見える。

 

「シンカー!ディアベル!」

 

 声に喜色を乗せユリエールは走りだし、キリハ達も走ってついていく。

 

「ユリエール!きちゃダメだ!!」

 

「その通路には、ボスが出る!!」

 

「「「っ!」」」

 

 しかし、シンカーとディアベルの叫びにキリハ達の足が止まる。その時、右の通路に黄色いカーソルが出現。ユリエールはシンカー達の叫びにも、モンスターにも気付いていないようだった。

 

「ユリエールさん!」

 

 キリハはユリエールに向かって爆走、そのまま腰を抱き十字路を超えた。瞬間、後ろを黒い何かが通路を横切る。キリハはユリエールをそのままに通路へ入ると、目に映ったのは、まさしく《死神》だった。

 フードの奥に見える血管の浮いた眼球、右手に握る巨大な鎌から垂れ落ちる赤い雫。名前は『The Fatal scythe(ザ・フェイタルサイス)』、意味は『運命の鎌』。

 ギョロリと、死神の眼球がキリハを見た。その途端、キリハの全身に悪寒が走る。正直、ここのボスも六十層並だと思っていた。だがこいつは─

 

(─識別スキルでデータが見えない…。九十層クラス、いえ、それ以上ですか)

 

 そう判断したキリハは鎌を構えた。防御に回らなければ、恐らく死ぬ。

 ザッと足音が二つ聞こえ、次いで息を呑む気配がした。二人の気配しかないことから、ユイは安全地帯にいるのだろう。

 

「二人とも、僕が時間を稼ぎます。あの子達を連れて先に逃げなさい」

 

「「断る!」」

 

 無駄だとは思っても一応言ってみたが、案の定拒否してきた。それぞれ武器を構えキリハの隣に立つ。その時、死神がユラリと鎌を振りかぶって突進してきた。アスカがキリトの前に立ち細剣(レイピア)を構え、キリトはアスカの後ろから二つの剣を細剣(レイピア)に重ねる。

 キリハは勢いを殺そうとソードスキルを放った。大鎌重撃単発ソードスキル『ボーパルサイス』。死神の振りかぶった鎌と衝突、勢いを殺すことが─出来なかった。

 衝突した瞬間に感じたのは、今まで味わった事の無い衝撃。気付いたときには壁に叩きつけられた。息が詰まる。あれを受けてはならない。直撃はしていないのに、HPが半分を切ってしまった。

 

「二人とも…逃げ─」

 

─キリハの言葉は間に合わず、死神は二人に鎌を振り下ろし吹き飛ばす。地面を跳ね天井に激突し、再び地面に叩きつけられた。死神がゆっくりと二人に近づいていく。助けに行こうにも体が動かない─その時、小さな足音が聞こえてきた。

 

「ユイ…?」

 

 視線を向けるとそこには、安全地帯にいたはずのユイが恐れを知らないように歩いていた。恐怖など微塵も映っていない目で死神を見据えている。

 

「早く逃げろ!」

 

 上体を必死に起こそうとしながらアスカが叫んだ。死神が再び鎌を振りかぶろうとしている。あれの攻撃を食らえば、ユイのHPなど確実に消し飛んでしまうだろう。

 しかし、ユイは逃げるどころか、キリト達を見て微笑んだ。

 

「大丈夫だよ。パパ、ママ」

 

 その言葉と共にフワリと、ユイが宙に()()()。跳んだのではない。まるで見えない翼をはためかしたかのように浮いたのだ。目を見開いた三人は、更なる驚愕を目にする。

 宙に浮いているユイに死神の鎌が襲う。本来ならユイを切り裂いただろうそれは、しかし─紫の障壁に阻まれ弾き返された。そして三人は表示されたメッセージに愕然とした。【Immortal Object(破壊不能オブジェクト)】、つまり不死の存在であり、プレーヤーが持つはずのない属性。

 戸惑うように死神の眼球が動き、ユイが小さな右手を前に伸ばした。すると、ユイの右手を中心に紅蓮の炎が巻き起こる。炎は一瞬広く拡散した後、すぐに凝縮、細長い形にまとまり始め、焔色に輝く巨大な刀剣が現れた。ユイの身長を優に超える大剣の輝きが通路を明るく照らす。大剣の纏う炎がユイの冬服を一瞬にして燃やし尽くし、その下から彼女が最初に着ていたワンピースが現れた。不思議の事にワンピースもユイの長い黒髪も、炎に撒かれながらも影響を受けていない。

 ユイは炎の大剣を死神に向かって振り降ろした。死神は、自身より遙かに小さな少女を恐れるかのように鎌を前方へと掲げ、防御の姿勢を取る。ユイの大剣と死神の鎌が衝突し、両者の動きが止まった─そう思うまもなく、大剣の纏っていた炎が死神を包んだ。そのあまりにも膨大な熱量に、思わず三人は顔を腕で庇う。

 

『■■■■■■──!!!??』

 

 炎に包まれた死神は悲鳴を上げる。ユイが大剣をもう一度振るうと、死神は通路の奥深くへと吹き飛び、やがて見えなくなった。後に残ったのは、通路のあちこちにある小さな残り火、炎の大剣を持って俯いているユイだった。

 

「ユイ…ちゃん…?」

 

「ユイ…?」

 

 掠れそうな声でキリトとアスカが呟いた。ユイは大剣を消滅させてこちらに振り向き、泣き出しそうな顔で笑う。

 

「パパ…ママ…ねぇね…、全部、思い出したよ」

 

 

 

 安全地帯の中は真っ白な正方形の空間に、黒い立方体の石机が設置されている。三人は、石机に腰掛けたユイを見つめていた。ユリエール達には先に脱出して貰ったので、今この場にいるのは四人だけだ。

 記憶が戻った、と言ってからユイは数分間沈黙し続けていた。ずっと俯いており言葉を掛けづらいが、このままでは話が進まないと思い、キリハは訪ねる。

 

「全部、思い出したのですか。今までのことを」

 

 ユイは顔を上げ、少し淋しそうな、泣き笑いのような顔をして頷いた。

 

「はい、全てお話しします。キリトさん、アスカさん、キリハさん」

 

 今までとは違う口調のユイに、キリトの胸が苦しくなった。何かが終わってしまうのでは、という思いに。

 部屋の中で、ユイの声だけが響き始める。

 

「キリトさんとキリハさんはご存じだと思いますが、この世界(『ソードアート・オンライン』)はある一つの巨大なシステムに管理されています」

 

「『カーディナル』、ですね?人間のメンテナンスを必要としないよう設計されたシステム」

 

「はい、カーディナル自身は二つのコアプログラムが相互にエラー修正を行い、無数にある下位プログラムにより、モンスターやNPCのAI、アイテムの出現率など、この世界の全てを調整、管理しています。しかし一つだけ、人間に委ねなければならないものがありました。人の精神性由来のトラブル…これだけは同じ人間でなければならない。そのため、数十人規模のスタッフが用意されるはずでした」

 

「でもそうはならなかった…」

 

 ユイはキリトの言葉に頷く。

 

「開発者達はプレーヤーのケアすらもシステムに委ねようとプログラムを試作しました。ナーブギアの特性を利用し、プレーヤーの感情を詳細にモニタリング、問題の抱えたプレーヤーのもとに訪れ話聞く…。《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》、MHCP試作一号、コードネーム《Yui》。それが、わたしです」

 

「…ユイちゃんは、AI…なのか…?」

 

 アスカの言葉に、ユイは目に涙を溜め答えた。

 

「わたしには、プレーヤーが違和感を覚えないよう感情プログラムが組み込まれています。だから、この涙も偽物なんです。ごめんなさい、アスカさん」

 

 そう、涙を流しながら申し訳なさそうに謝るユイの姿は、本当に感情を持っているように見えた。

 

「じ、じゃあ…なんで記憶を失ってたんだ…?」

 

「…サービス開始直前、カーディナルは突然わたしにプレーヤーへの接触を禁止しました。理由は分かりません。

 状況は最悪と言っていい状態でした。不安、恐怖、絶望、後悔、怒り…。本来ならわたしがその人達のもとへ行き話を聞かなければならないのに、命令された事には逆らえない…。義務だけがあり権利のない矛盾した行動がエラーを蓄積させていきました」

 

 その言葉を最後に沈黙が空間を包んだ。想像していたよりもユイの話は悲惨だった。なんて声を掛ければ良いのか分からない。

 しかし、ユイは「でも─」と続ける。

 

「─ある日、いつものようにモニタリングしていたら、今までとは違う感情を持つ二人を見つけたんです。不安や恐怖などといった感情ではない。喜び、安らぎ、それだけじゃない…暖かい…この感情はなんだろう、そう思ったんです。それからわたしは毎日その二人のモニターを続けました。二人の会話や行動に触れていると、わたしの中で不思議な欲求が生まれ始めました。触れたい、触れて欲しい、話したい、話を聞いて欲しい…。わたしは少しでも近くに居たくて、毎日二人のホームから一番近いシステムコンソールで実体化し彷徨っていました。

 …多分、その時のわたしはかなり壊れてたんだと思います…」

 

「それが…二十二層の噂…」

 

 コクリと、キリトの言葉に頷いた。

 

「はい…。わたし、ずっとお二人に会いたかった…。森の中で、見かけたときすごく嬉しかった…。おかしいですよね…。わたし、ただのプログラムなのに…」

 

 涙を目一杯に溜めてユイは口をつぐむ。キリトは思わずユイを抱きしめた。

 

「キリトさ─」

 

「─ユイはただのプログラムなんかじゃない。本当の、心を持ったAIだよ」

 

 アスカが笑みを浮かべ、ユイに近づく。

 

「ユイちゃんはもうシステムに縛られるだけのプログラムじゃないんだ。だから、ユイちゃんの思うことを言っていいんだよ。

 ユイちゃんの望みはなんだい?」

 

「わたし…わたしは─」

 

 

 

 

「─お二人と、パパとママと一緒に居たい…!ずっと一緒に…!」

 

 アスカはキリトごとユイを抱きしめた。

 

「ずっと一緒に暮らそう。な、佳奈」

 

「あぁ、ユイは俺達の子供だ。家に帰ろう」

 

 すると、最初に問うてから沈黙していたキリハが口を開いた。

 

「では、その子をカーディナルから切り離しますか」

 

「「「え?」」」

 

 唖然とする三人をよそに、キリハはユイへ問いかけた。

 

「君が座っているその石は、ただのオブジェクトですか?」

 

「え、あ、いいえ。これはGMがシステムに緊急アクセスする為のコンソールです」

 

「ということは、先程のあれはこれを守るためのものですか…。それなら問題ないですね。ちょっと退いてて下さい」

 

 よく分からないまま三人は言われたとおり石机から退いた。キリハが石机の前に行き、表面に触れるとブン…という起動音と共に青白いホロキーボードが浮かび上がる。それを素早く叩き始めた。

 

「そうか!」

 

 その意図を察したキリトも、キリハと同じ事を始める。

 

「二人とも、何してんだ?」

 

「今なら、GMアカウントを使ってユイを切り離せると思いまして」

 

 キリハがそう言いながらキーを乱打し続けると、再びブン…と音を立てて巨大なウィンドウが出現。更に二人がいくつかのプログラムを入力すると、今度はプログレスバー窓が現れ、横線が右端まで到達するかどうかの直前─コンソールが突然フラッシュし、破裂音と共に二人は弾き飛ばされた。

 

「佳奈!和葉!」

 

「ママ!ねぇね!」

 

 アスカとユイは二人へ駆け寄る。「いってぇ…」と言いながらキリトは上半身を起こし、キリハに聞いた。

 

「成功したのか?」

 

「…これで失敗したらカッコ悪いでしょう」

 

 言いながら、キリハは右手に持っていた物をキリトへ手渡す。それは涙の形をしたクリスタルだった。ユイがハッと呟く。

 

「それって…」

 

「えぇ、君のコアプログラム、『ユイの心』です」

 

「…本当に切り離したのか」

 

「こうでもしないとユイを守ることは無理でしょうから」

 

 キリハは上半身を起こして肩をすくめた。すると

 

「どうして…」

 

「はい?」

 

「どうして、ここまでしてくれるんですか…?だってキリハさんは、わたしを疑ってたじゃないですか…」

 

「…気付かれてましたか」

 

 涙を流しながらそう言うユイに、キリハは少々バツが悪そうな顔をした。図星だからだ。キリハは今まで、紹介する時以外ユイの名前を呼んでいなかった。

 ウィンドウを左手で開く、名前の欄にあった《MHCP》というワード、突然のノイズ、キリハがユイの事を疑うのは当然だった。それに気付いていたが故に、ユイは疑問に思う。何故、と。

 

「そうですねぇ。一番は、先程の君の言葉が心からのものに聞こえたから、ですかね。後は、疑っていた事への謝罪のようなものです」

 

─違う。謝らなければならないのはわたしのほうだ─

 

 だってキリハが疑うのは仕方のない事だから。だから謝らなければいけないのに、涙が溢れて言葉にならない。キリハは、言葉にするまで待ってくれている。

 ようやく出た言葉は、謝罪の言葉ではなかった。だがその言葉を聞いたキリハはユイの頭を撫で、キリトとアスカはユイを優しく抱きしめた。

 

─ありがとう…ございます─

 

 

 

 

「相変わらず、アスカの料理は美味しいね」

 

「ありがとうございます、ディアベルさん。ってキリト、ユイちゃん?そんなに急いで食べなくてもなくならないぞ?」

 

いいふぁはいは(いいじゃないか)おいひいんはから(美味しいんだから)

 

ふぁい(はい)ふぁふぁほほうひはおうひいへふ(パパの料理は美味しいです)!」

 

「食べてばかりじゃなくて手伝って欲しいんですけどねぇ。いえ、ユイは食べてて良いんですよ」

 

「キリハさんの料理初めて食べましたが、美味しいですね」

 

「…キリハさん、今度空いてる時で良いので料理教えて貰えませんか?」

 

 ダンジョンから脱出した翌日、教会の庭にてバーベキューが行われており、ワイワイガヤガヤと、子供達だけではなく大人組も料理に舌つづみを打っていた。料理を作っているのは主にアスカとキリハ、サーシャだ。

 サーシャとユリエールは口調の変わったユイに驚いていたが、記憶が戻ったと聞いて納得した。

 

「そういえば、軍の方はどうなりました?」

 

 自分のを焼きながらキリハはシンカーへ訪ねる。シンカーは口のものを飲み込んで答えた。

 

「私達を嵌めたプレーヤー含め、違反をしていた者は全員除名しました。…もっと早くそうしておくべきでした。私のせいでディアベルさんも、ユリエールも危険にさらしてしまいました。

─今回は本当に助かりました。貴方方がいなければどうなっていたか…」

 

「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう」

 

 シンカーとディアベルは頭を下げ、ユリエールもそれに合わせた。

 

「困った時はお互い様ですからね。今度、こちらが困っていたら助けてくださいね」

 

 そう言ってキリハは笑みを見せる。そのまま宴会は和やかな雰囲気のまま、終わりを迎えた。

 

 

 

 別れを惜しむサーシャ達に手を振り、転移ゲートで二十二層帰ってきた四人を森の冷たい風が迎えた。

 

「そういや、この世界をクリアしたらユイちゃんはどうなるんだ?」

 

「わたしも気になります」

 

 ユイと手を繋いだアスカの疑問に、キリトとも手を繋いでいたユイも乗っかった。そこには、そもそもクリア出来ないのではないかという考えも、ユイは消えてしまうのではないかという考えもない。

 

「容量的にギリギリだけど、俺のナーブギアに入ることになってるよ」

 

「向こうで展開させるには時間がかかりますが、まぁ頑張るしかないでしょう。明日加も手伝ってくださいよ?」

 

「当然」

 

 ニッとアスカは笑みを浮かべ、ユイも「楽しみです!」と言って笑った。




誤字脱字、おかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします


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七十五層

お久しぶりです。ラストスパート入ります。次でSAO編終わる予定。

後、前に出て来た友達のオリキャラ出て来ます。画像貼っときますね

【挿絵表示】

↑のキャラについて詳しく知りたい方は36話『辻斬り』をご覧ください。


 ユイの事から数日、現在キリハはヒースクリフに呼ばれ、KOB本部の団長室に来ている。因みに、休みは本当に一週間もなかった。

 

「来て貰って早々に本題に入るが、ボス部屋を見つけた」

 

「早くないですか?」

 

「休暇の前に言っただろう。君のお蔭でマップの七割は埋まっていたと」

 

 そう言えば、と休暇を貰う前にヒースクリフが言っていたのを思い出す。確かに、残り三割なら数日で埋まりきってもおかしくはないか。

 

「それで、僕が呼ばれた理由は偵察隊ですか」

 

「相変わらず理解が早くて助かるよ。君以外はKOBのメンバーだが、なに心配することはない。(みな)、君達に大なり小なり憧れを持っているからね」

 

 何故その事が分かるのか。確かに嫌われているわけではないことは分かるが。顔に疑問が出たのか、ヒースクリフは苦笑しながら答えた。

 

「君達とあまり亀裂のないメンバーで行こうと、手っ取り早くキリハ君と行きたい者はいるかと声をかけたんだ。そしたら思った以上に人が集まってね。デュエルで勝った者がメンバーだ」

 

 かなり盛り上がっていたよ、と語るヒースクリフの顔は少し疲れているように見える。苦労をかけたようで申し訳なく思った。

 

「いつ出発ですか?」

 

「午後からだ。まだ時間はあるから、今の内に顔合わせくらいはしておいた方が良いだろう」

 

 

 既に他のメンバーは集まってるらしいので、大部屋に向かう。部屋の扉を開けると、KOBのメンバーが和気藹々と会話をしていた。キリハの、というより一般プレーヤーのイメージしているKOBとは違う。

 予想外の事に少し面食らっていると、会話をしていたプレーヤーの一人が扉のそばに立っているキリハに気づき、目が合う。するとそのプレーヤーはこちらに歩いてきた。

 

「キリハさん、こうして話すのは初めてですね。ルークです。よろしくお願いします」

 

「こんにちは、キリハです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 言って互いに握手を交わす。

 キリハは挨拶をしながらも相手を観察していた。ヒースクリフの言葉を鵜呑みにしたわけではないが、彼の言った通り、どちらかと言えば好意を持たれているようだ。嫌われるならともかく、何故好意を持たれるのか分からない。

 そんなことをキリハが考えているなど知るよしもなく、KOBのメンバーの一部は若干興奮気味に名前を名乗っていった。それをルークが抑えている。どうやら、この中では彼がリーダーのようだ。

 全員と挨拶が終わり、それぞれの使用している武器や隊の組み方を確認することにした。盾持ち武器が六、タンクが四、両手武器が五、片手武器が五となっている。よって隊を二つに分け、前衛に盾持ちが三、タンクが二、両手が二、片手が三。後衛に盾持ちが三、タンクが二、両手が三、片手が二とした。キリハは前衛だ。

 

「さて、では行きましょうか」

 

 隊が決まった所でキリハがそう言う。後衛の指揮はルーク、全体の指揮をキリハが取ることとなった。キリハからしたら本当に自分でいいのかと思うが、

 

「キリハさんが指揮官で文句ある奴いるか?」

 

「「「「んなわけあるか!!」」」」

 

 とのこと。

 

 

 

 そんなこんなで現在、七十五層の迷宮区のボス部屋前に来ている。全員が攻略組なのもあり、ここまでさして苦労せず来ることが出来た。

 

「これから前衛部隊がボス部屋に入ります。後衛部隊は部屋の外から観察してください。僕達はあくまで偵察隊なので無理をする必要はありませんが、もし万が一、前衛の誰かが死ぬことになったとしても助けようとしないように。死者を増やす可能性があるので」

 

 それでは行きましょう、とキリハが扉を開け部屋に入ろうとしたとき、ルークがキリハの肩を持ち止めた。

 

「待ってください。部屋に入るのは俺達後衛に任せて下さい」

 

「何故です?」

 

 キリハは振り向いてルークに問う。

 

「万が一の場合を想定してのことです。確かにボスを相手にした場合、キリハさんがいた方が生き残る確率は高いでしょう。ですが、もし貴女が死んでしまったらこの先の攻略は辛くなります。貴女の代わりはいないんです」

 

 ルークの判断は正しい。キリハの実力は攻略組でも頭一つ抜き出ており、更にユニークスキルも持っている。もしルークの言うとおり、キリハが死んでしまったら攻略が大幅に遅れるだけでなく、犯罪者(オレンジ)殺人者(レッド)プレーヤーが今より活発に動き始めるだろう。

 

「…分かりました。ですが、貴男方の代わりもいないという事を忘れないでください」

 

 それが分かってるからキリハは反論しなかった。だが、先のルークの言葉は言外に自分達の代わりはいると聞こえたので、キリハはそう言う。ルークは軽く目を見開くが、口元に笑みを浮かべ頷いた。

 

「気をつけて下さいね」

 

「えぇ、もちろん」

 

 そう言ってルーク達後衛は扉を開けボス部屋へ入っていった。キリハ達前衛は念のため扉から一歩下がる。そして後衛の者達が全員入り、部屋の中央まで到達したその時─突然扉が閉まった。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「っ!」

 

 キリハは扉にソードスキルを放つ、が弾かれた。当たり前だ。ボス部屋の扉は【破壊不能オブジェクト】なのだから。

 

「【開錠スキル】を持つ方は!?」

 

「います!!」

 

 キリハの叫びに一人が答え、扉を開こうとしたが、無理だった。

 

(考えろ考えろ考えろ!!以前にも扉が閉じた部屋はあったじゃないですかっ!)

 

 あの時はボス部屋の外から開けるタイミングがあった。だが今回は?分からない。街のNPCからは何も情報は無かった。ギミックがあるなら情報がないとおかしい。ならば、これは仕様なのだろうか。例えば、一度部屋に入ると、ボスを倒さない限り出られない、などという。

 そんなことがあってたまるかと、キリハは思考を続け、考え得ることを全て試したが、扉を開くことは出来なかった。

 

 

 

 迷宮区から帰還したキリハは現在、ヒースクリフへ報告に来ていた。その表情は、暗い。

 

「以上が、報告です」

 

「ご苦労、しかし参ったものだな。一度入ってしまえば出られない、か」

 

 結論から言えば、ルーク達が入ってから十分後に扉は開いた。だが、そこには何も無かった。ルーク達の姿も、ボスの姿も、何も。

 もしかしたら転移結晶で脱出したのかもしれないと、フレンドリストを見るがメールは送れず、黒鉄宮の《生命の碑》も確認したが、無情にもルーク達の名前には横線が引かれていた。

 

「これから上は《結晶無効空間》なのかもしれないな。もう少し情報を集めてみよう。君は少し休みたまえ」

 

 ヒースクリフはそう言ってくれたが、キリハは首を横に振る。

 

「…いえ、僕の方でも集めてみます。休暇は既に貰いましたから」

 

 ヒースクリフは、少々心配げな表情をしたが「そうか」と頷く。何故、ヒースクリフがそんな表情をするのか、問い詰めたい所ではあるが今のキリハにそんな余裕は無い。キリハは「失礼しました」と頭を下げてから部屋を出て行った。

 キリハが出て行った後、背もたれに寄りかかり、彼は一人呟く。

 

「あれくらいで折れるような子ではないが…。やはり、少し心配だな…」

 

 

 ホームのベッドで仰向けに転がり顔を腕で隠すキリハは、普段の彼女からは考えられないほどに、自分を責めていた。

 

(彼らを殺したのは…僕だ…)

 

─やはり自分が行くべきだったのか。それでも自分以外に九人も道連れにしてしまっていた。それならば、自分だけで行くべきだったのだ。そうすれば彼らは死なず、死人は自分だけで済んだのだ。だが、今更それを考えたことでなんになる?もう彼らはいない、死んでしまったのだ。自分が彼らを殺した─

 

 

 

 

 

(─自惚れんじゃねぇっ!)

 

 拳で自分の顔を思い切り殴った。

 

─自分が彼らを殺した?自分のせいで彼らが死んだ?そんなことを考えて、一体誰に赦しを乞うつもりだ?いや違う、自分は楽になりたいだけだ、逃げてるだけだ。

 確かに、彼らが死んだのは自分の責任であり、それを取るのは隊長であった自分だ。だからこそ、部下の仇を取るのは自分の役目だ。

 自分を責めてる暇があんなら仇を取ることを考えろ!─

 

 自分の顔に拳を突き付けたまま、しばらく動かなかった。

 そのまま五分、時が止まったかのように停止していたキリハは、深く息を吐いて拳を顔から離した。

 

(久しぶりですね。ここまで自分を責めたのは)

 

 そう思うキリハの表情は、既にいつも通りとなっていた。自分に喝をいれたおかげか、スッキリしたようだ。情報集めに行こう、と立ち上がった時、家にノックが響いた。

 

「はい、今出ます」

 

 来客の予定はあったか?と内心首をかしげながら、ドアを開ける。そこにいたのは、よく知る新婚夫婦(キリト、アスカ)二人の子供(ユイ)だった。

 

「おや三人とも、どうしたんですか?」

 

「団長に呼ばれてな、今行ってきたところだったんだ」

 

「で、ついでだから姉さんのとこに寄ろうかってなって、近くまで来たときユイが、姉さんが自分を責めてるって言いはじめてさ」

 

「今のねぇねは落ち着いているみたいですが…」

 

 そう言えば、とキリハはユイがMHCPだということを思い出す。大元のシステムから切り離されてはいるが、近くのプレーヤーの感情なら分かるらしい。親しいプレーヤーなら特に。

 これは感情面の隠し事は出来ないな、と思いながらキリハは三人を中へ入れる。

 

「まぁ、玄関で話すのもなんですし、中へ入ってください」

 

 そう言って三人を中に入れ、コーヒー(とついでに砂糖、ミルク)とケーキを出す。全員が一口飲むのを確認してから、キリハは口を開いた。

 

「君達がここに来たのは、僕を励ますため、といったところですかね」

 

「正解、団長から話は聞いたよ。少し心配したけど、まぁ大丈夫そうで良かった」

 

「どうせ、十人が死んだのは自分のせいだって思ってたんだろ?」

 

 キリトの問いに、キリハは苦笑で答える。キリトは、やっぱりとでもいうように溜息をつきケーキを頬張った。

 

「そう言えば、君達がヒースクリフに呼ばれたということは、やはり次のボス戦に参加するのですね」

 

「当然だ。それに、今回はクオーターだからな。サボるわけにもいかねぇだろ」

 

「ユイちゃんはサーシャさんのとこで預かって貰うつもりだ」

 

「本当はついていきたいのですが、流石にこの容姿で攻略組を名乗るのは…」

 

 シュンとユイは落ち込んでしまい、慌ててキリトとアスカが慰める。

 もしユイがついて来たとして、攻撃が当たった瞬間にプレーヤーではないことがバレてしまうので、やはり来ないで正解だろう。

 そんなことを考えキリハがコーヒーを飲もうとしたとき、キリトがこんなことを言った。

 

「あ、そうそう。俺達、今日ここに泊まるから」

 

「…はい?」

 

 ピタッと、カップを口につける直前で止まった。聞き間違えだろうか。今、泊まると聞こえたが。

 改めてコーヒーを口に含みもう一度聞く。

 

「すいません、もう一度言ってくれませんか?」

 

「今日、俺達三人とも、和葉のホームので泊まるって言ったんだ」

 

「お泊まり会っていうんですよね!」

 

 思わず眉間を抑えた。

 聞き間違えではなかった。いや、別に泊まりに来るのは構わない。だが、こういうのは事前に連絡をするものだろう。

 それを三人に言うと

 

「そういうものなのですか?」

 

「「知らせない方が面白いと思ったから。反省も後悔もしない」」

 

「二人とも、ちょっと表出なさい」

 

 笑顔で親指を外に向ける。二人は顔を青ざめた。ユイは疑問符が浮かんだ。

 溜息を一つつき「それで」とキリハが口を開く。

 

「いつですか?」

 

「明日の午後だ」

 

「分かりました」

 

 明日の情報を持ってる限り纏めようと立ち上がろうとして、キリトに腕を掴まれた。

 

「待った待った、そんなことよりこれ、やろうぜ?」

 

「はい?」

 

 ニッと笑いながらキリトが取り出したのはトランプ等のカードだった。攻略は明日なのに何を呑気に…、と断ろうとしたが、ユイの目が輝いている。それはもうキラッキラと。目を輝かして楽しみにしてる少女を前に断れる者はいるだろうか、いやいない。

 ようやく二人の本当の狙いが分かった。無理矢理にでも、キリハをリフレッシュさせに来たのだ。

 キリハは両手を挙げ降参のポーズをとる。

 

「はいはい分かりました。トランプでも何でもやりますよ」

 

「「「いぇーい!」」」

 

 この後滅茶苦茶トランプした。因みに、ユイには手加減したがキリトとアスカはボコボコにした。

 

 

 

 

 翌日、ユイをサーシャに預け三人は七十五層『コリニア』のゲート広場に来ている。三人が転移門から歩み出ると、何やら騒がしい。何があったのだろうかと、騒ぎから離れてたクラインとエギルに事情を聞くことにした。

 

「クライン、エギル、何かあったのか?」

 

「ん?お前らか」

 

「いやな、『辻斬り』って呼ばれてる奴があそこにいるらしいぜ」

 

 「俺らは会ったことないけどな」とクラインは続ける。

 突然、ピクッとキリハが反応した。それにアスカが気づき尋ねる。

 

「キリハ?どうし─」

 

─ガギン─

 

 否、尋ねようとしたとき、重い金属音がした。

 

「久しぶりですね、エンバさん。ですが再開早々、このあいさつの仕方はないでしょう」

 

 音の発生源は、キリハの逆手に持った刀と─

 

「久しぶりであります、キリハ殿。いやなに、キリハ殿を見かけのでつい」

 

─『辻斬り(エンバ)』の振るった刀だった。

 刀を弾いて、鞘に収めながらキリハは尋ねる。

 

「何故ここに?」

 

 同じく、鞘に収めながらエンバは答える。

 

「街中をふらついていたら、こんな物を目にしたであります」

 

 そう答えてエンバが取り出したのは一枚の紙。それにはこう書かれていた。

 

『七十五層はこれまで以上に厳しくなることが予想される。よって、腕に覚えのある者は午後一時までに七十五層『コリニア』のゲート広場まで来て欲しい。

 血盟騎士団団長 ヒースクリフ』

 

 なるほど。だが、これが目についたからといってホイホイ来るような人物ではないと思っていたが。そのことを伝えると

 

「有象無象のデータ如きに自分の獲物(キリハ殿)を取られる訳にはいかないのであります」

 

 肩をすくめてニヤケながらそう言った。ここまで執着されていると考えると、正直怖い。

 

「姉さん、そろそろ俺達にも紹介してくれねぇかな」

 

 二人の会話が途切れたのを見計らって、キリトが話しかけてきた。

 

「あぁすいません。この人は『辻斬り』と噂されているエンバさんです。そしてこっちが妹のキリトと、その夫のアスカです」

 

「ほう、キリハ殿の妹?これは一度、手合わせ願いたいものであります」

 

 目を細め好戦的な気配を漂わせたエンバに、素早くアスカがキリトの前に立つ。同時に二人は、エンバがキリハに近い人物ということを感じた。

 

「はいはい、そういうのは今度にしてくださいね。エンバさん、こっちの野武士面はギルド『風林火山』のリーダー、クライン」

 

「何度目か分かんねぇけどよキリハ、その紹介やめてくれねぇか?」

 

「そして「無視かよ!」うるさいですクライン。こっちの黒人はエギル。ぼったくり商人ですので気を付けてください」

 

「おいまて、それじゃあ俺が詐欺師みたいじゃねぇか。安く買って安く売るがモットーなだけだ。今回だってえらい苦戦しそうだって聞いたから商売を投げ出して来たんじゃねぇか。この無私無欲の精神が理解できないたぁ」

 

「OK、その精神はよーく分かった。つまり、エギルは今回の戦利品はいらないってことで良いんだな?」

 

 そう笑顔でキリトが言うと、途端にエギルは口篭もる。

 

「い、いや…それはだなぁ…」

 

 それらのやりとりを見たエンバは一言呟く。

 

「…キリハ殿のお仲間は個性的なのが多いでありますなぁ」

 

「否定しません」

 

 それに苦笑と肩をすくめて答える。

 

 

 『月夜の黒猫団』も合流し雑談に花を咲かせていると、午後一時丁度、転移門からヒースクリフ率いるKOBが現れた。雑談をしていた面々は口を閉ざし、ヒースクリフの言葉を待つ。ヒースクリフは全員を見渡し頷いた。

 

(みな)よく集まってくれた。状況は知っていると思う。今日、初めてボスと対峙する者のいるだろう。だが我々は戦い続けなければならない─解放の日のために!!」

 

 ヒースクリフの力強い叫びに、プレーヤー達も力強い叫びで応える。そんな中、キリハだけはヒースクリフに懐疑的な視線を向けていた。それに気付いたのはエンバだ。彼だけが、今日この攻略戦で何かが起きることを予想し、楽しみにしていた。

 

「では出発しよう。ボス部屋手前までコリドーを開く」

 

 そう言ってヒースクリフが濃紺色の結晶を取り出す。

 ヒースクリフの取り出した結晶は《回路結晶(コリドークリスタル)》というアイテムで、通常の転移結晶と異なり大勢での転移を可能とする。だがその便利性に比例して希少度も高く、NPCショップでは買えず迷宮区のトレジャーボックスもしくは強力なモンスターからのドロップでしか入手出来ない。それ故、入手しても使おうとする者はそうはいない。

 ヒースクリフは結晶を高く掲げ「コリドー・オープン」と発する。すると、結晶は砕け散り彼の前に光の渦が出現した。

 

「ついてきてくれたまえ」

 

 全員を見回すと、ヒースクリフは紅衣の裾を翻し光の渦へ足を踏み入れる。それを合図に次々とプレーヤー達も続いていき、キリハ達も互いに頷き合い光へと体を踊らせた。

 

 

 目眩に似た感覚の後に目を開けると、そこはもうボス部屋前だった。キリハとKOB数名は二度目、他は初となる。

 

「いやぁ、これがボス部屋でありますか。禍々しい雰囲気でありますなぁ」

 

 エンバはボス部屋に来ること自体が初なのか、呑気にそんなことを言う。キリハ含め他の面々は、そんなエンバに構うことなく自分の装備やアイテムを確認していた。

 ヒースクリフが十字盾をオブジェクト化し、口を開く。

 

「皆、準備はいいか。今回はボスについての情報が全くない。基本的にはKOBが前衛に立ち攻撃を食い止める。その間に攻撃パターンを見切り、柔軟に攻撃してほしい。

 では─行こうか」

 

 あくまでもソフトな声音で言うと、扉の中央に手をかけた。

 

「全員、死なないでくださいね」

 

「へっ、あったりまえよ。おめぇらもくたばんなよ!」

 

「「「「「うす!」」」」」

 

「今日の戦利品で一儲けするまでくたばる気はないぜ」

 

「データ如きに殺される自分ではありませぬ」

 

「さーて、いっちょやるか」

 

「油断は禁物だぞ、キリト」

 

「お前ら!サチだけは何としてでも守るぞ!!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

「ちょっと!恥ずかしいからやめて!!」

 

 キリハ、クライン達『風林火山』、エギル、エンバ、キリト、アスカ、ケイタ達『月夜の黒猫団』。それぞれが自分に気合を入れるように声を響かせる。

 

「戦闘開始!!」

 

 そして、ヒースクリフの号令を合図にボス部屋へと足を踏み入れた。




誤字脱字、おかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします


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終焉

いつもより長いですよ~


 ボス部屋の中は広いドーム状だった。五十人程度なら部屋に入っても少し余裕がありそうだ。

 四十九人全員が部屋に入り、中央で陣形を整えたとき背後の扉が音をたてて閉まった。これでもう開くことはないだろう。ボスを倒すか、プレーヤーが全滅するまでは。

 全員が臨戦態勢を取り一秒、一秒と時が経っていく。時間的には数分も経ってないが、体感的にはもう何十分も経っている感覚になった。

 

「おい…」

 

 一人が堪えきれないという風に声を発する。その瞬間、キリトが叫んだ。

 

「上だ!」

 

 全員が天井を見上げる。そこに巨大な、十メートル程のモンスターが張り付いていた。

 長い胴体に大量の足を持つその姿は、一瞬百足を連想させた。ただし、身体全体が骨で出来ており、どちらかと言えば蛇の骨格に近い。目線を胴体から顔の方まで上らせていくと、恐らく腕に当たるであろう部分に鎌のように鋭い二本の刃があり、そしてその顔骨の形は蛇ではなかった。人間の頭蓋骨に近い、だが決して人間ではない。下顎から牙が見え目の数は四つ、瞳の中には青い炎が燃えている。

 名前は『The Skull Reaper(ザ・スカルリーパー)』、意味は『骸骨の狩り手』。

 

「散開!!」

 

 ヒースクリフの声で我に返った者達は、四方八方に散らばる。しかし三名のプレーヤーは唖然とボスを見上げたままだった。いずれも、ボスと対峙するのは今回が初めての者達だ。

 

「こっちです!早く!」

 

 キリハの叫びに、ようやく我に返った三人はキリハの方へ走る。その時、ボスが天井から降下、三人に向かって鎌を振るった。三人は空中に掬い上げられ、HPを緑から黄色、赤へと入り─ゼロへ。地に着く前に、そのアバター()をポリゴンへと変えた。

 

「なっ…」

 

「一撃…だと…」

 

 その事実に硬直する。今死んだ者達は、今回が初とはいえ攻略組並のレベルはあったはずだ。レベルが高いということはつまり、HPが高くその分死ににくいということ。それがたった一撃、出鱈目だ。

 

『■■■■■───!!』

 

 一撃で三人の命を奪ったスカルリーパーは上体を高く持ち上げ雄叫びを上げると、猛烈な勢いで新たなプレーヤー(獲物)目掛けて突進する。鎌を振り上げるスカルリーパーを、狙われた者達は迎え撃とうと武器を構え直した。振るわれた鎌は、そこへ飛び込んだ影によって防がれる。ヒースクリフだ。少し後退るが、完璧に止めた。しかし、もう一つの鎌が後ろのプレーヤーを襲う。いかにヒースクリフでも、同時に二つは防げない。

 

「アスカ!」

 

「おうっ!」

 

 それをキリトとアスカが二人で受け止める。先の攻撃を見て一人では止められないと判断したからだ。

 

「三人が止めてる間に全員で攻撃を!」

 

 キリハの声にいち早くエンバが疾走、そのままスカルリーパーを斬りつける。が、HPを数ドット削っただけだった。

 

(今まで斬ってきたモンスター(データ)なら半分近く削れるのだが…)

 

 これがボスか、とエンバは冷や汗を垂らす。だが、データ如きに殺られるわけにはいかない。刀を構え直し、再びボスへと斬りかかった。

 一方、キリハはエンバの斬撃を見て刀では思うように削れないと半分、大鎌に変え斬る。他の者達も側面から攻撃を加えていった。

 

「うわあああ!!」

 

 悲鳴の上がった方を見ると、プレーヤー達が鋭い尾で吹き飛ばされていた。ヒースクリフ、キリトアスカはそっちまで回る余力はない。なら、自分が行くしかない。鎌に気を取られすぎていたか、とキリハは側面からの攻撃を止め、尾を防ぐべく後ろに回り弾く。

 だが、と恐らく全て防ぎきることは不可能とキリハは考える。スカルリーパーは常に走り回り、しかも速い。常に着いていけるのは、アスカやエンバだけだろう。そのうち、また犠牲者が出る。

 

 

 

 

キリト視点

 

 

『■■■■■───!!??!』

 

 戦いは一時間にも及び、ボスが絶叫を上げその巨体を爆散させた。俺と明日加は互いに背中合わせで寄りかかり、他の皆も倒れるように壁に座り込む、あるいは倒れ込んで荒い息を繰り返している。歓声を上げる余裕のある者は、誰一人いなかった。

 …こんな時に思うことじゃないが、姉さんが疲れて座り込むのを見るのは久々だ。

 

「何人…死んだ…?」

 

 ガックリとしゃがみ込んでいたクラインが、顔を上げ掠れた声で言った。俺はマップを呼び出し、今生存しているプレーヤーを確認、集まっていた人数から逆算する。

 

「十人…だ…」

 

 自分で数えておきながら、その数字を信じることが出来なかった。全員、トップレベルのプレーヤーだったはずだ。生き残ることを優先していれば、そう簡単に死ぬことはないと、そう思っていたのに…。

 

「嘘だろ…」

 

 大の字で床に寝転んだエギルが、衝撃を受けたように呟いた。俺だってそうだ。

 後、まだ二十五層あるんだぞ。このペースで死人が出て行けば、たとえ人数を補充していったとしても、百層のボスは一人で挑む可能性がある。

 

(そうなったら、生き残るのはあいつだろうな…)

 

 俺はそう考えながら、唯一倒れ込んでいないヒースクリフを見た。部屋の中央で倒れ込んでるプレーヤー達を見ている。暖かい、慈しむような、その視線はまるで─

 

 

─まるで、実験中の鼠を見ているような…。

 

(っ!)

 

 俺はその考えに至った瞬間、ヒースクリフのHPに視線を合わせた。ぎりぎりグリーン、イエロー一歩手前で止まっている。

 いくら防御力が高いからって、グリーン止まりってのは流石におかしいだろ。俺の二刀流でイエロー一歩手前までいったんだぞ。さっきの戦いでイエローにいかないなんて…。

 

(待てよ…)

 

 あいつとデュエルしたとき、表情が険しくなったのは負けることに焦ったからではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうだとしても、今確認する術はない。いや、一つだけ方法はある。確証はないし、もし間違っていた場合取り返しのつかないことになる。だが─。

 

「…?佳奈?」

 

 ゆっくりと立ち上がった俺を明日加が不思議そうに呼んだが、今応える余裕はない。奴がこっちを見ていない今がチャンスだ。

 

「ッ!」

 

 俺は姿勢を低くし、ヒースクリフへ疾走した。奴は接近する俺に気付き目を見開いたが、遅い。俺は即座に背後へ回り込み、剣を奴の首目掛けて振るった。首を跳ね飛ばすはずだったそれは、しかし紫の障壁に弾かれる。【Immortal Object(破壊不能オブジェクト)】と表示されたメッセージと共に。

 後ろから足音が近付いてきたかと思うと、すぐに剣を抜く音が聞こえた。明日加が細剣(レイピア)を抜いた音だ。こういうとき、何も聞かずに俺の考えを汲み取ってくれるのはありがたい。

 周りは訳も分からず呆然としているだろうが、そんなことはお構いなしに俺は口を開いた。

 

「ずっと疑問だったんだ。この世界を創ったあいつは一流のプログラマーであり、一流のゲーマーでもあった。そんな奴が、自分で創ったこのゲーム(世界)をプレイしないなんてことがあるのかってな」

 

 そこで言葉を区切り、俺は奴を睨み付け、続ける。

 

「『他人のやってるゲームを横から見るほどつまらないものはない』。そうだろ?─茅場昌彦()

 

 ヒースクリフ─昌は諦めたように息を吐き、俺に問う。

 

「いつ気付いたのかね?」

 

「最初、疑問に思ったのはデュエルの時だ。あの時、お前はあまりにも速すぎた」

 

「あの時はすまなかった。使うつもりは無かったのだが、あそこでバレる訳にもいかなかったのでね」

 

「ハッ。つーことはだ、俺に負けると思わなかったってことだよな?」

 

「《不死属性》を切るのを忘れてただけなのだが」

 

 昌は苦笑を浮かべ、周囲に聞かせるように言う。

 

「確かに私は茅場昌彦だ。付け加えるなら、最上層で君達を待つはずだったこのゲーム(世界)のボスでもある」

 

 俺は舌打ちをし吐き捨てた。

 

「チッ、最強の味方が実は敵だとか。悪趣味だぜ」

 

「最高のシナリオではあるだろう?

─私が作った全十種のユニークスキルにはそれぞれ特別な習得条件と役目がある。《二刀流》は最も反応速度が優れた者に与えられ、魔王を倒す勇者の役目。《大鎌》は犯罪者(オレンジ)を最も多く狩った者に与えられ、勇者の汚れ役。《蜻蛉切》は最もソードスキルを使わなかった者に与えられ、パーティーに加わらない流浪人。

 まさか、今この場で三つものユニークスキルがそろうとは思っていなかったが…。まぁ予想外の事が起きるのもゲームの醍醐味ということだろう」

 

「─よくも」

 

 俺は突然割り込んできた声の方を向く。そこには顔を俯かせ肩を振るわせるKOBの幹部がいた。

 

「よくも、俺達の忠誠を裏切ったなぁぁぁあ!!」

 

 そいつは両手斧を握りしめ、叫びながら地を蹴った。しかし昌は焦ることなく、左手でウィンドウを出して何かを操作したかと思うとそいつは突然倒れ込む。いや、そいつだけじゃない。昌と俺以外のプレーヤー全員が倒れ込んだ。

 

「っ、キリト…!」

 

「アスカ!」

 

 当然、明日加もだ。俺は後ろで膝を着いた明日加へ駆け寄った。

 

(これは、麻痺か)

 

 つまり昌は俺らにはない権限、GM権限を使って全員を麻痺させた、ということだろう。

 昌は倒れたプレーヤーを見回し口を開く。

 

「こうなっては致し方ない。私は一足先に百層の《紅玉宮》にて待っているとしよう。しかし、その前にチャンスを与えなければな」

 

「…今この場でお前を倒すチャンスをか?」

 

 肯定するように昌は頷いた。

 俺は明日加と目を合わせる。答えは決まった。一度目を閉じ、息を吐いて言う。

 

「─良いぜ。やってやる」

 

 明日加の目に不安の色は、無かった。それは俺に任せるということ。

 本当なら昌と殺し合いなんてしたくはない。でも、俺にとっての優先順位は明日加だ。明日加が俺にとって全てなんだ。だから、俺は昌を─殺す。明日加と現実世界(向こう)に戻るために。

 周りから俺を止めようとする声が聞こえるが、返事はせずに昌へ歩いていく。俺に現実では親友と呼べる奴はいなかった。明日加と付き合ってるからという理由だけで虐められ、悪意ばかりを向けられてきた。だから、こうやって心配してくれるのは嬉しい。

 俺は昌を殺す覚悟を決め、二本の剣を抜こうとして─前のめりに倒れた。何が起きたか分からない。分かるのは、俺が麻痺してることと、これを起こしたのが昌ではないということ。

 

「決意を決めたところ悪いですが、君に昌彦を殺させる訳にはいきません」

 

 俺を麻痺させたそいつは、手に持った麻痺ナイフを回しながら、俺にそう言った。

 何で…あんたが立ってんだよ…。

 

「彼を殺すのは、僕がやります」

 

─姉さん…。

 

 

 

 

三人称 said

 

 

 危なかったと、あと少しでキリトにまた人殺しをさせる所だった。キリハは横目で周囲を見ながらヒースクリフへ言う。

 

「昌彦、君に言いたいことはいくつかありますが、取りあえず全員強制転移してくれませんか?」

 

 ヒースクリフ含む全員がキリハの言葉に目を見開くがヒースクリフはすぐに了承し、GMメニューを開いた。

 

「了解した」

 

「─転移()られる前に()れば宜しい」

 

 麻痺から回復したエンバがそれを阻止しようと、彼の背後から刀を振るう。がヒースクリフの方が一歩早い。エンバの刀が首に当たる直前、エンバが転移された。それを合図に次々とプレーヤーが転移されていく。

 

「キリ─」

 

「アスカ!

 姉さん!一体何を…っ!」

 

 キリトの叫びに、キリハは何も言わず、ただ笑みを向ける。それが転移される前にキリトが見た最後の光景だった。

 最後のプレーヤーが転移され、この場に残ったのはヒースクリフとキリハだけとなった。しばらくは両者共に口を閉ざしていたが、先にヒースクリフが開いた。

 

「何かしら行動してくると思っていたが、まさか全員を転移させられるとは思わなかった」

 

「すみませんね昌彦。誰にも邪魔させる訳にはいかないんですよ」

 

─何故なら、魔王を倒すのは勇者の役目ではあるが、勇者(佳奈)に人殺しをさせる訳にはいかない。それをするのは汚れ役(自分)でいい─

 

 そんなことを考えたキリハはまた少し口を閉ざし、続ける。

 

「…本当に君を殺さなければ、出られないんですか」

 

 ヒースクリフは肯定も否定もせず黙っているが、キリハは沈黙を肯定とみなし「そうですか」と下を向いた。しかし、すぐに顔を上げ続ける。

 

「それならば仕方ありません。昌彦、僕は君を─殺します」

 

 キリハは意識を入れ替え、刀を鞘から()()()。殺気は、あまり感じない。しかしそれを見てヒースクリフは、キリハが本当に自分を殺すつもりだと認識する。だがそれと同時に、当然のことだとも思った。自分は、この子達を裏切ったのだから。故にヒースクリフは、《不死設定》を解除し盾から剣を抜いた。

 キリハは誰かと戦う時、無意識の内に手を抜いている事を覚えているだろうか。それはキリハだけのことではなく、桐ヶ谷の血の特徴であり、自分と同格の強さを持つ相手だと徐々にギアを上げていく。それとは別に、それぞれが感情をトリガーとした()()()()を持っている。二人の父、桐ヶ谷峰高(みねたか)は喜び。二人の妹、桐ヶ谷直葉(すぐは)は無心。桐ヶ谷佳奈(キリト)は怒り。そして桐ヶ谷和葉(キリハ)は快楽。この内、峰高だけが自分の意思一つでスイッチを入れることが出来る。だがキリハだけは、感情によるものだけでなく、ある覚悟を持てばスイッチが入る。それは、相手を確実に殺すという覚悟。

 では何故、PoHの時はスイッチが入らなかったのか。答えは簡単、心のどこかでは殺さなくとも良いのではないかと思っていたからだ。それ故に殺すことが出来なかったと言える。

 だが今回は違う。ヒースクリフを殺さない限り、この世界から出るこりは出来ない。ここで逃がしても、いつかは殺すことになる。だから今、この場で─

 

「─死になさい」

 

 その言葉と共にキリハは疾走、正面から斬り掛かる。

 

「死ねと言われて死ぬわけにはいかないのだよ」

 

 ヒースクリフは盾で防ぎ、剣を振るう。それをキリハは後ろへ下がって回避しながらピックを取り出し投球。ヒースクリフは剣を振るって弾き、左へ盾を構える。と同時に衝撃、ピックを投げたと同時に移動したキリハが斬りつけたのだ。シールドバッシュをしようと盾を押し出すと跳躍して回避、そのまま上から突きを放つ。盾は間に合わないと判断、剣で弾いた。弾かれたキリハは体勢を整えて着地、疾走、左斜め下から斬る。防がれるが、続けて斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。ただひたすら斬り続ける。

 

(何を狙っている)

 

 冷静に斬撃を防ぎながらヒースクリフは思考する。キリハが斬り続けるだけであるはずがない。必ず策があるはず─。その時、何か空を切る音が()から聞こえた。キリハを盾で押し上を見上げれば、そこには無数のナイフが落ちてきていた。

 

「ぬぅっ…!!(斬りながら上にナイフを…っ!!)」

 

 回避は、間に合わない。盾を頭上に上げ降り掛かるナイフを防ぐ。キリハを細目で確認すると、いつでも追撃出来るようになっていた。タイミングは─ナイフが切れたとき。

 落ちるナイフが無くなった瞬間、キリハは姿勢を低くして疾走。盾を即座に下ろし迎撃の構えを取る。両者の距離が一メートルを切った時─キリハが視界から消えた。ヒースクリフは即座に左を向く。そこにキリハは、いない。剣が、肉を貫く音が響いた。

 

「君達は姿勢を低くして疾走した後、敵の背後か側面に回り込む癖がある」

 

 貫かれたのは、キリハ。確かに左を向いているが、剣を持った右手だけは先程、正面だった場所に添えられていた。

 

「それを私が知っているから、側面に回った後すぐに正面へ戻ったのだろうが─あまいな」

 

 ヒースクリフは勝利を確信、キリハに別れの言葉をかけようと─ガシッと、腕を掴まれた。目を見開くヒースクリフに対し、キリハは顔を上げ、ニヤリと嗤って呟く。

 

─捕まえた─

 

 ハッとキリハの手を見ると、そこには刀が握られていない。上を見れば、刀が落ちてきていた。だが焦る事は無い。先のナイフのように防げば良い─その時、胸に違和感を感じた。視線を下げ胸を見ると、刀がヒースクリフを貫いている。キリハが新しい刀を出した、ということの考え付くまで時間はかからなかった。

 

(私の…負けか…)

 

 だというのに、昌彦(ヒースクリフ)は口に笑みが浮かんだ事を自覚した。

 上から落ちてきた刀に貫かれヒースクリフはポリゴンへ変えた。キリハもまた、貫通ダメージによりHPが減っていく中、部屋の入口から入ってきたキリト達が叫んでいる姿を最後に、キリハは四散した─。

 無機質な声が、アインクラッドに鳴り響いた。

 

─ゲームはクリアされました──ゲームはクリアされました──ゲームはクリアされました─

 

 

 

 

 気付けばキリハは、不思議な場所に立っていた。水晶の床、その下には雲が連なり、正面には夕焼けに晒された円錐形の物が浮いている。アインクラッドだ。第一層から崩れていっている。

 続いて自分の姿を確認。装備は先までと変わらず黒いコートとレザーパンツ、刀はない。少し透けているようだ。右手を振ってウインドウを出す。しかし、そこに装備欄やHPバーなどは無く、ただ【最終フェーズ実行中、58%】と表示されるのみであった。

 ウインドウを閉じて、キリハは腰を下ろし崩れゆくアインクラッドへ目を向ける。

 

「綺麗な景色だろう?」

 

 すると、右から声が聞こえた。聞き慣れた、久しく聞いていなかった声。顔を右に向けると、そこに茅場昌彦がいた。ヒースクリフの姿ではなく現実の、キリハ(和葉)の見慣れた姿。彼も半透明のようだ。こちらに顔は向けていない。和葉も顔をアインクラッドに戻し、聞きたかった事を問いかける。

 

「君は何故、この世界を創ったのですか?」

 

 昌彦は白衣に手を突っ込んだまま、苦笑して答えた。

 

「何故、か。現実世界のあらゆる枠や法則を超越した世界を創り出す事が子供の頃からの夢だったから、では駄目かね?」

 

「それだけなら、デスゲームにする理由がないですよ」

 

「確かにな。正直、私自身も何故そのような仕様にしたのか分かっていない。もしかしたら、ただ見たかっただけかもしれないな。現実世界では絶対に見られないモノを」

 

 昌彦の言ってることは聞く人が聞けば、たかがそんなことで一万人を閉じ込めたのか、と激怒するかもしれない。だが和葉は、「そうですか」と返しただけだった。

 もし佳奈や明日加が死んでいたら、和葉は昌彦を恨んでいたかもしれない。けれど、そうはなっていないのだから恨む理由も激怒する理由もない。昌彦がこの世界を創造する事に、狂っている程執着してた事を知っているのもあるかもしれない。

 

「私はね、和葉君。この浮遊城が別の世界には必ずあると思っている。まぁ、いい大人が何を言っていると思われるかもしれないがね」

 

 肩をすくめながら昌彦はそう言うが、和葉は笑うことはしなかった。

 

「別に良いじゃないですか。無い物を無いと言い切るより、あると言った方が夢がありますし」

 

「…希に、君は本当の歳を誤魔化してるのではないかと疑うよ」

 

「家族によく言われます」

 

 そこからしばらく、二人は昔話に花を咲かせた。先程は殺し合った二人だがお互い、今はただ数少ない理解者(友人)として会話を楽しむ。時間がないことを分かっているから…。

 

「さて、私はそろそろ行くとしよう」

 

 どのくらい話しただろうか。キリの良いところで昌彦は後ろへ振り向き歩き出した。和葉は昌彦に声をかける。

 

「あそこに残ってた人達はどうなりましたか」

 

「安心したまえ。先程、生き残った六九七三人のプレーヤーは無事ログアウトを完了した」

 

「…これから、君はどうなるんですか」

 

「…私は死んだのだ。死者がどうなるか、分かっているだろう?」

 

 和葉は何も答えない。歩いていた昌彦は足を止め、和葉へ振り向いた。

 

「言い忘れていたな。ゲームクリアおめでとう、和葉君。それともう一つ、どうやらこの世界に干渉しようとしている者がいるようだ。気を付けたまえ」

 

 その言葉を最後に、昌彦の姿は風と共に消えた。和葉は一度後ろを振り向いたが、すぐに正面に戻す。アインクラッドの崩壊は、もう九十層辺りまで来ていた。

 もうすぐ消えるんだな、と。それなら、最後までこの景色を見ていようと思った。自分達(桐ヶ谷家)の良き理解者(友人)、茅場昌彦の創った、この素晴らしい世界を、いつまでも目に焼き付けようと─。




2年と5ヶ月…、長かった…。ようやく終わった…。
和葉「このペースじゃ、小説終わらせるのに何年掛かるのですかね」
…(目反らし)

これで『アインクラッド編』終了です。次からは『フェアリーダンス編』入ります。


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フェアリーダンス
未帰還者


 あけましておめでとうございます!
 今年もこの作品をよろしくお願いします!


 積雪の残る一月中旬早朝、埼玉県南部に建つ古い日本家屋から鋭い声が響き渡っていた─

 

「─てやぁぁぁぁあ!!」

 

「シッ!」

 

─より正確に言えばその家の道場から、だ。そこには木刀を打ち合ってる二人の少女と、道場の中心で正座をしてる一人の少年がいた。

 少女達はそれぞれ、剣道の型と自己流で打ち合っていた。木刀が折れかねない音を出しているが、当の本人達は気にしていない。

 

「腕上げたなぁ!スグ!」

 

「あったりまえだよ!佳奈ねぇ達が寝込んでから二年経ってるんだから!」

 

 本気で打ち合いながら二人の少女─佳奈とその妹、直葉は笑みを浮かべて語り合う。何せ久しぶりの手合わせであり、つい先日まで激しい運動を禁止されていた佳奈の気分が高ぶるのは当たり前だった。それを見ている少年─明日加は、佳奈の気持ちを察してるが故に苦笑するしかなかった。

 

「ふっ!!」

 

 直葉が鋭い突きを佳奈の喉元目がけて放つが、佳奈は横から思い切り弾き一閃。それを無理矢理戻した木刀で防御。そのまま巻き上げて飛ばし、面を狙う。佳奈は避けようとするが、突然膝からガクリと落ちてしまう。何とか倒れずにすんだが、顔を上げれば木刀が寸止めされていた。

 

「そこまで!」

 

 明日加が手を上げて勝負を止める。直葉は木刀を下げ大きく息を吐き、佳奈は大の字で後ろに倒れた。

 

「だぁくっそ!負けた!」

 

「仕方ないけど、やっぱり動き落ちてるね?前の佳奈ねぇならさっきの軽く避けるもん」

 

「二人共お疲れ」

 

 明日加が用意しておいたタオルを手渡す。二人はそれを受け取り、それぞれ首にかけた。

 

「ありがとな」

 

「ありがとう、明日にぃ」

 

「どういたしまして。さ、風呂入っておいで。朝食は作っておくから。この後病院だろ?」

 

 二人は明日加の言葉に素直に従う。実際汗をかいてるのは二人だけであり、何よりこれが一番大事な事だが、明日加がこの中で一番料理が上手い。

 明日加の作った昼食(因みに米、鮭、卵焼き、味噌汁の和食だった)を食べ終えた後、家を出てタクシーに乗る。行き先は家から南へ十五キロ、埼玉県所沢市─その郊外に建つ最新鋭の総合病院、桐ヶ谷家が()()()()()()()()()施設の一つだ。そこの一部屋に、三人の家族が入院している。

 

 二カ月前、SAOの舞台であった《浮遊城アインクラッド》は一人の少女が茅場昌彦を倒した事によって幕を閉じ、生き残ったプレーヤーは全員解放される─()()()()()。だが実際には、昌彦を倒した和葉(キリハ)を含めたおよそ三百人のプレーヤーが未だ眼を覚ましていない。その事を知ったのは、佳奈と明日加は見知らぬ部屋で眼を覚まし、お互いを同じ部屋で見つけるとすぐに抱擁を交わして、そこに現れたスーツを着た眼鏡の男から聞いた時だった。その男は、自分を《総務省SAO事件対策本部》の人間だと名乗った。

 それは一万人が閉じ込められてすぐに結成されたが、結局この二年間手出しが出来なかったそうだ。これらは二人がその男─菊岡誠二郎─から話を聞いた直後、桐ヶ谷家(峰高と翠)に裏を取って貰ったので、この話は全て真実だ(気になることがあったのでもう少し調べるそうだが。)

 最初、三百人が眼を覚まさないのはただのタイムラグと思われていた。しかし、何時間、何日と経っても三百人が目覚めたという報告はなかった。行方不明の茅場昌彦の陰謀が継続していると世間では騒がれたが、佳奈や明日加など、昌彦の事を知っている者達はそう思わなかった。彼は、自分で決めたルールは絶対に破らない事を知っているからだ。

 不慮の事故か、はたまた何者かの陰謀か、昌彦の死によって初期化されたはずのSAOメインサーバーは、今もなお不可侵のブラックボックスとして稼動し続けている。ナーブギアに一体何が起きているのか─。

 

 高級ホテルのロビーのような一階受付で三人は通行パスを受け取り、エレベーターに乗り込む。数秒で最上階の十八階に到着、その階の突き当たりに、和葉の部屋がある。部屋に入ると、眠っている和葉の横に先客がいた。扉の開く音を聞いたその人物はこちらに顔を向ける。

 

「あぁ三人とも。来たんだね」

 

「兄さんこそ」

 

 その人物は結城(ゆうき)浩一郎(こういちろう)、明日加の兄で現在十九、大学一年生だ。

 

「こんにちは、浩一さん。毎度ありがとう」

 

「前から疑問に思ってたんだけど、浩にぃ大学はどうしてるの?いつもこの時間にはいるけど」

 

「見舞いに行くって事で午前中に抜けてきてるんだ」

 

 浩一郎は笑顔でそう言った。それに三人は呆れたように溜息をつく。一見真面目な浩一郎だが、どうも昔から和葉の事となるといつもな何かしでかす傾向がある。そんなんで良いのかと聞くと、 単位を落とすことはないから大丈夫、とのこと。

 浩一郎と直葉、佳奈と明日加で和葉のベッドを挟んで座る。和葉は、頭のナーブギアさえ無ければただ眠っているようにしか見えない。やはり多少は痩せ細っているが、それほどに見た目が変わっていなかった。浩一郎は和葉の手を両手で握り、自分の額に持ってきてそのまま動かなくなる。それを三人は気にしない。浩一郎がどれだけ、和葉の事を想っているか知っているから…。時折聞こえる小さな嗚咽には、聞こえないふりをした。

 

 

 ベッドサイドに置かれた時計が控えめなアラーム音を鳴らし、浩一郎の意識を呼び起こした。いつの間にかこの場には浩一郎が一人、他の三人がいない。何も言わずに帰るわけないと首を傾げた時、扉の外から聞こえる声に気付いた。軽い言い争いをしているようだ。ちょっと出て来る、と心の中で和葉に挨拶をしてから浩一郎は部屋を出る。そこにいたのは─

 

「おや?やぁ浩一郎君、君も来てたんだね」

 

須郷(すごう)伸之(のぶゆき)、浩一郎達の父、結城彰三(しょうぞう)が経営している会社《レクト》の社員であり、浩一郎が毛嫌いしている男だ。いや、浩一郎だけではない。佳奈も明日加も直葉も、この場の全員がこの男を嫌っている。

 

「君からも何とか言ってくれないかい?僕はただ和葉さんに一目会いたいだけなんだ」

 

「だから、あんたには会わせないって言ってんだろ」

 

「今まで来てなかったクセに何を今更…」

 

「心外だな直葉ちゃん。今までも来ていたよ。たまたま君達と会わなかっただけで。それに会社が忙しいのは知っているだろう?」

 

 明日加は何も言っていないが、それは自分が口を出すと更にこの場に空気が悪化すると分かっているからだ。このままじゃ病院に迷惑がかかるな、と浩一郎は思い()()()()()口を開いた。

 

「まぁまぁ、一目会いに来ただけと言ってるんだから良いじゃないか」

 

 まだ何か言いたげだった佳奈と直葉は、浩一郎の言葉に渋々といった様子で口を閉じる。一方の須郷は上機嫌となった。

 

「流石浩一郎君、話が分かる」

 

「いえ。さぁどうぞ」

 

 浩一郎は病室のドアを開けて須郷を中へ入れ、舌打ちをしながら佳奈達も中へ入る。

 和葉を目にした須郷は笑みを浮かべて近づき、和葉の髪に触れようと─

 

「─何和葉に触れようとしてるんですか?」

 

─して浩一郎に腕を掴まれる。その顔には、笑みが浮かんだままだった。浩一郎は須郷に口を開く間も与えず続ける。

 

「貴男は先程、和葉に会いに来た"だけ"と言ってましたよね?何故、触れようと?」

 

 だけ、の部分を強調する浩一郎に、須郷は一瞬言葉につまった。

 

「それは…でもそれくらいいいじゃないか。だって、僕と和葉さんは()()()で─」

 

「─君と和葉の婚約は認めていないはずなんだがな?」

 

 須郷の台詞を遮った声は入口から聞こえてきた。全員がそちらに顔を向ける。

 

「「「(親父/お父さん/お義父さん)!?」」」

 

「よ」

 

 片手を上げて挨拶したこの男は桐ヶ谷峰高、佳奈達の父親だ。本日は仕事が入っており、見舞いに来られないと言っていたはずなのだが。

 

「こんにちは峰高さん。お仕事は片付いたんですか?」

 

「やぁ浩一郎君、いつもありがとう。

 どうしても和葉の顔を見たくなってね。即行で片づけてきた」

 

 あぁ、と四人は察した。誰が見ても分かるくらいに峰高は娘に甘い。所詮親バカというやつだ。

 四人への挨拶はそこそこに、峰高は須郷へ顔を向ける。

 

「こんにちは、須郷君」

 

「…こんにちは、峰高さん」

 

 須郷は苦虫をかみつぶしたような苦い表情で挨拶を返した。

 

「前にも言ったはずなんだが、私は基本的に娘達の恋愛に口出しするつもりはない。だが、勝手に婚約者を名乗られるのは止めて欲しい。和葉本人が君を好いていれば別だがな」

 

「…和葉さんが、僕に好意を示してくれれば良いんですね?」

 

 須郷の言葉に峰高は頷き、肯定する。須郷は俯き気味だった顔を上げた。

 

「分かりました。好意を持たれるように努力します。

 では僕はこれで」

 

 そう言って須郷は病室を出て行った。それからしばらく誰も喋らなかったが、足音が遠のいて聞こえなくなった所で佳奈が口を開く。

 

「親父、さっきの本気か?」

 

()が冗談で言うと思うか?」

 

 佳奈の問いに、本来の一人称に戻して逆に問う。佳奈は首を横に降った。峰高はああいう冗談を言わない。

 

「安心しろ。万が一、あいつが婿に来た場合、徹底的に鍛えて考え方を変えてやる。

 まぁ、俺的には浩一郎君に来てくれると嬉しいんだがな」

 

「僕、ですか?」

 

 そう言いながら峰高は浩一郎に顔を向け、浩一郎は少し困惑しながら聞き返した。

 

「あぁ、君はあいつと違って佳奈達と仲が良い」

 

 何より、と峰高は続ける。

 

「和葉は君のことを好いているからな」

 

 峰高の言葉に浩一郎は少し目を見開いた後、静かに呟く。

 

「そうだと…嬉しいですね…」

 

 

 

 

 

 五人は和葉にまた来る事を伝えてから病院を出た。

 

「お前らなにで来た?タクシーとかなら、この後横浜に行くからついでに車で送るぞ」

 

 浩一郎はバイクで来たそうなので遠慮する。残りの三人は峰高の好意に甘えようとした時、佳奈の電話が鳴った。メールだ。それを確認すると、佳奈は峰高に言う。

 

「親父、送って欲しい場所ができた。浩一さん、スグを送って貰ってもいいか?」

 

「良いよ」

 

「誰からのメールだ?」

 

 明日加の問に、佳奈はメールを見せながら答えた。

 

「─エギルからだ」

 

『from エギル

 例の物を手に入れたぞ。今すぐ来るか?

      to佳奈』

 

─行き先は、台東区御徒町にある喫茶店『ダイシー・カフェ』。




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新たな世界へ

 はい!ギリギリの投稿です!あっぶない・・・


 東京都台東区御徒町、喫茶店『ダイシー・カフェ』。そこに佳奈と明日加が入ると、スキンヘッドの黒人がカウンターに立っていた。二人を認識すると笑みを浮かべる。

 

「よう、待ってたぜ。お二人さん」

 

 この男はあの世界(SAO)で一緒に戦った攻略組の一人、エギル。本名、アンドリュー・ギルバート・ミルズ。

 

「こんにちは、エギルさん」

 

「相変わらず過疎ってるな」

 

「うるせぇ。夜は繁盛してんだよ」

 

 二人が現実に戻ってきて、初めに連絡をとったのがアンドリューだった。驚くことに彼には奥さんがいる。奥さんと結婚してこの喫茶店を開き、順風満帆な人生を歩もうとした矢先、SAOに囚われてしまった。現実に戻ってきた当初、店のことは諦めかけていたらしいが、アンドリューの帰還を信じていた奥さんがその細腕で守っていた。

 挨拶はそこそこに、アンドリューはカウンターの下からゲームパッケージを二つ取り出した。これが、佳奈がアンドリューに頼んでいた物だ。

 

「ほら、要望通り二つ揃えたぞ」

 

「助かる」

 

「ありがとうございます」

 

「大変だったぞ?これを(あいつ)に見られて、またあれを被るのかって泣きついてきてな。何とか慰めたが」

 

 そう言ってアンドリューは苦笑したが、満更ではなさそうだ。心配されてるということは、それだけ愛されているということ。

 佳奈と明日加はゲームパッケージを手に取る。タイトルは『ALfheim Online(アルブヘイム・オンライン)』、通称『ALO』。意味は『妖精の国』。SAOがデスゲームとなってから僅か一年後に発売されたVRMMORPGだ。

 

 そもそも佳奈達は、現実に戻ってきてから何もしなかったわけではない。戻ってきていないプレーヤーは誰か、共通点はあるのか、何故戻ってこないのか、ナーブギアに何が起こっているのか、あらゆる手段を用いて桐ヶ谷家は調べていた。

 そして一か月前、とある掲示板に貼られた画像を見つけた。それは巨大な太い枝のようなものに置かれた巨大な鳥籠。そして鳥籠の中に閉じ込められている一人の女性。妖精を思わせる尖った耳と羽があり、露出の多い黒いドレスを着ている。そこまでなら、この写真に興味など持たなかった。だがそれは出来なかった。何故なら、その顔は和葉と瓜二つだったからだ。その写真がどこで撮られたものか、調べはすぐについた。ALOにある世界樹、そこの上層部で撮られたものだった。

 ALOは飛行時間決められており、無制限に飛ぶ事が出来ず今まで世界樹の上に何があるのか分からなかったそうだ。それ故、写真を撮ったプレーヤーからしたら、世界樹の上を撮ることが出来た、という意味を込めて掲示板に貼ったのだろう。そしてその数時間後、世界樹の周辺()()飛行高度限界が決められた。ALOのプレーヤー達は何か重要な立ち位置のNPCだからだろうと結論付けた。しかし、佳奈達の考えは違う。世界樹周辺のみ飛行高度限界を決めたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この考えが合ってるかどうかは実際にログインし、世界樹を登るまで分からないが、恐らくこの考えは合っていると思っている。

 ALOを運営しているのは『レクト』。手に入れた情報によると、ALOのサーバーはSAOのサーバーをそっくりそのまま使っているらしく、須郷がそのサーバーを管理、運営しているそうだ。サーバーがまったく一緒ならば、SAOから解放されたプレーヤー達をALOに閉じ込めることは、理論上は可能だ。

 これらはあくまでも予想でしかないが、まぁ確かめに行けばいいだけだろうと思っている。その為に、アンドリューに頼んでいたのだから。

 

「必ず助けだせよ。それまでは俺達の戦いは終らねぇからな」

 

 そう言ってアンドリューは拳を佳奈達に突き出す。二人は笑みを浮かべ自身の子は突き合わせた。

 

「「当たり前(だ/です)」」

 

 

 

 帰宅した二人は、先に帰ってきてる直葉と浩一郎をリビングに呼んである事を確認し、佳奈の部屋に向かった。

 

「にしても、意外だったなぁ」

 

「何が」

 

 ALOは《アミュスフィア》と呼ばれるナーヴギアの後継機でプレイするのだが、ナーブギアでもログイン出来るらしいので準備していると、不意に明日加がそんな事を言った。佳奈も準備しながら、何の事か聞き返す。

 

「種族だよ。てっきり俺は影妖精(スプリガン)を選ぶと思ってたんだけど」

 

 「佳奈、黒好きだから」と明日加は付け加えた。そんな理由で種族を選ぶと思っていたのか、と少し不満に思うが明日加の言う通り、最初は色で選ぼうとしていたのでグッと堪える。

 

 ここでALOについて説明しよう。ALOはSAOには存在しなかった『魔法』があるが、逆にレベルが存在しないので強さはプレーヤー自身のスキルに左右される、更にPK(プレーヤー・キル)推奨とかなりハードな仕様だ。それでも人気があるのは、このゲームの最大の特徴であるフライト・エンジンシステムを用いて空を飛ぶ事が出来るからだ。

 もう一つの特徴として、『妖精の国』の名の通り九つの種族が存在する。

 

 風妖精、シルフ。緑のかかった髪が特徴で、風属性魔法を得意とし、飛行速度と聴力に優れる。

 火妖精、サラマンダー。赤のかかった髪が特徴で、火属性魔法を得意とし、戦闘力に優れる。

 影妖精、スプリガン。黒のかかった髪が特徴で、幻影魔法を得意とし、トレジャーハントに優れる。

 猫妖精、ケットシー。頭にある猫耳と尻尾が特徴で、モンスターの《テイミング》を得意とし、敏捷に優れる。

 水妖精、ウンディーネ。青のかかった髪が特徴で、水属性魔法を得意とし、回復魔法と水中活動に優れる。

 土妖精、ノーム。大柄な体格が特徴で、土属性魔法を得意とし、耐久と金属等の採掘に優れる。

 工匠妖精、レプラコーン。光沢のかかった髪が特徴で、武具生産や各種細工に優れ、全種族の中で唯一『エンシェントウェポン』を作ることが可能。

 闇妖精、インプ。藍色のかかった髪が特徴で、闇属性魔法を得意とし、短時間ながら暗闇でも飛翔が可能。

 音妖精、プーカ。銀のかかった髪が特徴で、魔法や戦闘が不得意だが代わりに『歌』を歌う事が可能。

 

 プレーヤーはこの九つの種族から一つ選び、プレイすることとなる。因みに佳奈はケットシー、明日加はウンディーネだ。何故、佳奈はスプリガンではなくケットシーにしたのか、明日加はそれが気になった。

 

「別に、どうでもいいだろ」

 

 その反応に、これは何か恥ずかしがってるな、と察した明日加はある事を思いつき実行に移す事にした。

 

「佳奈」

 

「今度は何だ・・・うわぁ!?」

 

 名前を呼び振り返った所で、明日加は佳奈をベッドに押し倒した。

 

「いっ、いきなりなにすんだよ!!」

 

「押し倒した」

 

「んなもん分かってるわ!!何で押し倒したかって事だよ!!」

 

 「はーなーせー!」と佳奈は暴れるが、両手を押さえ付けられており抜け出す事が出来ない。明日加は笑みを深め、佳奈の耳元に顔を近づける。

 

「何で、ケットシーにしたんだ?」

 

「っ。だっ、から、どうでもいいって言ってるだろ!」

 

 耳元で囁くように聞こえる明日加の声に、佳奈は顔を赤らめながらも話そうとはしなかった。

 

「ふーん?佳奈がそんな態度取るならこっちにも考えがある」

 

「なに・・・んあ!?」

 

 突然、明日加は佳奈の首筋に噛み付いた。佳奈は体をビクつかせる。

 

「佳奈が理由を話すまで止めないよ」

 

 そう言ってもう一度噛み付いた。佳奈は声を抑えようとするが、抑えきれず少しもれる。

 

「んぅっ。バ、バカヤロウっ、スグと浩一さんがいんだぞっ。見つかったらどうすんだっ」

 

「大丈夫だって。二人とも()()()()()()()()()?聞こえちゃいないさ。

 それに、佳奈が理由を話せば止めるよ?」

 

 別に噛まれるのは構わないのだが、家に人がいる状況で続けられるのは流石に恥ずかしい。そう思った佳奈は理由を話すことにした。

 

「分かった!分かったから止めろ!」

 

 「残念」と明日加が呟いたのを聞き逃さなかったが、佳奈もそう思っていたので何も言わない。

 

「・・い・・・・ら」

 

「ん?なんて言った?」

 

 ボソボソと、至近距離でも聞こえないくらい小さな声だったので聞き返すと、佳奈は顔を赤らめたままキッと睨みつけた。

 

「だからっ、可愛かったからだよ!!悪いか!!」

 

(俺の嫁可愛すぎかっ!)

 

 コンマ一秒も経たずにそう思った明日加は約束通り上から退き、顔を両手で覆い床に突っ伏した。そんな明日加に構わず、佳奈はナーヴギアを被りベッドに横になる。

 

「いつまでやってんだ。先に行ってるぞ」

 

「あ!ちょ、ちょっと待って!!」

 

 「早くしろ」と言いつつちゃんと待つあたり、本気で先に行くつもりはなかったようだ。ナーヴギアを被った明日加は、それが当たり前かのように佳奈の隣に寝転び抱きしめる。そして二人は、その体制のままALOの世界へ入っていった。

 

「「リンクスタート」」




 ここまで観ていただきありがとうございます。誤字脱字、またおかしな所がありましたらご報告お願いします。


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妖精の国

はい!先月は投稿出来ず申し訳ありません!今月は後もう一話投稿するつもりですので、許してください!


 無事ALOにログインした佳奈(キリト)は気が付くと、空を舞っていた。下にはケットシーのホームタウンが見える。

 

「へぇ・・・」

 

 ゲーム内時間が夜というのもあり、落下中ではあるがなかなかに絶景だ。そのままグングンと建物が近付いてきて─突然、世界がフリーズした。ついでノイズが走り、真っ黒に染まる。

 

「なっ、何が起こったんだぁぁぁぁあ!?」

 

 キリトは悲鳴を上げながら暗闇に落ちていった。

 

 

 暗闇を抜けると下に先程の街は無く、ただ森だけが広がっていた。バグが起きたのか。取り敢えず異常事態ということは分かった。

 確か空を飛ぶためのコントローラを出すことが出来たはず、そう思ったキリトはコントローラを出そうと─

 

「おぅわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」

 

─して上から男の悲鳴が聞こえた。聞き覚えのある声だと思いながら上を見ると、そこにいたのはウンディーネの男だった。

 

「明日加!?」

 

 ウンディーネ特有の青味のかかった髪色になっているが、キリトにはすぐに明日加(アスカ)だと分かった。

 アスカも下から聞こえてきた声に顔を向けると、黒い耳と尻尾を生やしているキリトを見つける。

 

「え?はっ、佳奈!?何で!?」

 

「知らねぇよこっちが聞きてぇよ!!」

 

 そんなことよりも、とアスカは自分より下にいるキリトの所まで加速、ついで頭を守るように抱きしめた。自分が少しでもクッションとなれれば良いのだが、と思っていたアスカだがいつまで経ってもぶつからない。というか、落下感覚は無くなり頭が上に向いているような・・・?

 

「アホだろお前。このゲーム飛べるんだぞ」

 

「あっ」

 

 キリトの左手にはコントローラのようなものが握られており、背中にはオレンジ色の透けている翅が生えていた。なんてことは無い。落下感覚がなくなったのも頭が上に向いたのも、キリトが飛んでいただけだ。

 キリトはアスカを抱えたままゆっくりと地上に降りる。

 

「取り敢えず、色々と確認してみるか。あ、ウィンドウを出すのは左手だぞ」

 

 「あいよー」とアスカは返事をし、二人はウィンドウを開いたのだが・・・なんか色々おかしかった。

 まず目に映ったのは所持金額、桁数がおかしかった。明らかに初心者(ニュービー)が持つ所持金額ではない。次にステータス。いくつか文字化けしているが、そこに映るスキルと熟練度は見覚えのあるものしかなかった。

 

「これ、SAOのスキル・・・だよな?」

 

 アスカが確認するように問うと、キリトは頷く。

 正直な所、キリトはこうなることを予想していた。サーバがSAOのものをそのまま使っているのなら、そのデータの一部くらいは受け継がれるのではないかと。まさか全てだとは思わなかったが。

 そんな事をキリトが思っているとアスカが突然アイテムウィンドウを開き、文字化けしている中から何かを探し始めた。何を探しているのか─

 

(─なんて、聞く必要ないか)

 

 SAOで持っていたアイテムも共有されているのなら、()()()がいるはずだ。やがて目的の物を見つけたアスカはそれを取り出した。その涙の形をしたクリスタルをタップすると光り輝き始める。しかし目を覆うほどではない。やがて光は人の形を取っていく。光が収まると、そこには白いワンピースを着た黒髪の少女がいた。

 その少女を、二人は良く知っている。

 

「ユイ・・・」

 

 キリトが小さく名前を呼ぶと、うっすらと目を開けた。ついで、アスカが声をかける。

 

「ユイちゃん・・・ママとパパだよ」

 

 視界に二人を映したユイは大きく見開き、目に涙を溜め微笑んだ。

 

「お久しぶりです…ママ、パパ」

 

「「ユイ(ちゃん)!!」」

 

 そして二人は勢い良くユイに抱きつき、しばらく三人は互いを抱き締めたまま離そうとはしなかった。互いの体温を確かめ合うように・・・。

 

 

 

 それから十分程してようやくユイから離れた二人はこの世界の事を伝えると、ユイは「ちょっと待ってください」と言って目を瞑った。因みに、ユイはキリトの膝の上に座っている。

 

「間違いないようですね。この世界はSAOのサーバをそっくりそのまま使っているようです」

 

 目を開けてそう言ったユイに、キリトは「そうか」と返して頭を撫でた。するとアスカ自身が気になった事を聞いてきた。

 

「そういえば、この熟練度とか大丈夫なのか?いやまぁ、好都合なんだけど」

 

「確かに、お二人のステータスはSAOのものです。プレイ時間と比較すればかなり不自然ではありますが、GMが直接確認しない限り大丈夫でしょう。

 あ、文字化けしてるアイテムは破棄した方が良いでしょう。元々この世界に存在しない物ですから、持っているとシステムエラーが発生する可能性が高いです」

 

 それもそうか、と納得した二人は戸惑い無くアイテムを全て破棄する。中にはあの世界での二人の思い出のアイテムも入っていたが、これから思い出を増やしていけばいいと判断した。

 

「先程、パパは好都合と言っていましたが何故ですか?」

 

 二人がアイテムを破棄したことを確認したユイは理由を聞く。ただゲームを楽しむだけなら先の言葉は出てこないのでは、と思ったからだ。隠す必要は無いので、この世界に来た目的を話す。

 和葉(キリハ)がまだ目覚めていない事、この世界でキリハらしき人物を見つけた事、そして─この世界に閉じ込められている可能性が高い事。

 全てを聞いたユイの目は悲しみの色を見せた─という事はなく、むしろヤル気に満ち溢れていた。

 

「お二人のサポートはお任せ下さい!ねぇねを助ける為なら、わたしの出来る範囲ならハッキングだろうと何だろうと何でもやります!」

 

 その心意気は嬉しいがハッキングはしなくて良い。その事を伝えると少しむくれた。この娘、少し親に似てきていないだろうか。

 ところで、とキリトが口を開く。

 

「ユイはこの世界だとどんな扱いなんだ?」

 

「わたしは《ナビゲーション・ピクシー》というものに分類されるようです」

 

 「ナビゲーション・ピクシー?」とオウム返しをしたアスカに、「はい」と返したユイは光に包まれた。いきなりの事に反応出来なかった二人は、光が収まりユイの姿が見えない事に焦った。

 

「「ユイ(ちゃん)!!」」

 

「下ですよ。ママ、パパ」

 

 下からユイの声が聞こえたので顔を向けると、そこに確かにユイがいた。ただし手の平サイズになっており、妖精の翅を付け耳も妖精の様にとんがっているが。

 

「これが、ナビゲーション・ピクシーとしてのわたしの姿のようです」

 

 少々唖然としながらも手の平にユイを乗せたキリトは、指で軽く突っついた。「くすぐったいですぅ」と抗議するが、その顔には笑みが浮かんでいる。その後もキリトはユイの頭を撫でたり、また突っついたりしていた。

 キリトがケットシーを選んだ理由もそうだが、こう見えてキリトは可愛いものに目がない。ただでさえ娘が可愛くて仕方ないのに、それが妖精の姿になれるときた。故に、キリトが少々(?)暴走するのは仕方ない事だ。

 

「おーいキリト〜、そろそろ戻ってこーい」

 

「はっ」

 

 しばらくそれを見て堪能したアスカはそろそろ戻そうと思い名前を呼び、それで戻ってきたキリトは撫でる手をやめた。夢中になっているのを見られて恥ずかしいのか、顔を赤くしている。

 

「わたしを撫でるママ、とっても可愛かったです!」

 

「だよなぁ。ユイちゃんなら分かってくれると思った」

 

「頼むからそれ以上言わないでくれ・・・。恥ずかしさで死にそう・・・」

 

 暫く弄られたキリトはコホンとわざとらしく咳払いをし、無理矢理に話題を変えた。

 

「と、ところでユイ、一番近い街はどこだ?」

 

 ユイはキリトが話題を変えた目的が分かったが、追求はせずに質問に答える。

 

「ここからはシルフ領の首都、『スイルベーン』が一番近いようです」

 

「シルフ領か。丁度いいな」

 

「何故ですか?」

 

「ん、あぁ、ある人達と待ち合わせしてるんだ。っていっても俺の兄さんとママの妹だけどね」

 

 なるほど、とユイは納得した。この娘には既に、あの世界で自分達の家族の事は話してある。

 最初は吃驚したものだ。あの人はともかく、あの子がゲームを始めるとは思わなかった。しかもその理由が自分達と楽しみを共有したいかららしい。

 

─うん、うちの妹可愛い─

 

 キリトは再認識した。

 

「さて、じゃあ行きますか」

 

 アスカの声で三人が立ち上がった時、ユイが何かに反応するように顔を後ろに回した。

 

「ユイ?どうした?」

 

「あちらで複数のプレーヤー反応があります。どうやら二人のプレーヤーが多数のプレーヤーに追いかけられているようです」

 

 索敵機能まで持っているとは、もうユイがいれば何も必要無いのではないだろうか。この娘、優秀すぎる気がする。

 

「お、PVPか?行ってみようぜ」

 

 キリトの言葉に、やれやれと肩を竦めながらもアスカは止めない。

 そして「こっちです」とユイに先導され、二人人は夜の森を飛び立って行った─。




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きょうだい

 今月2話目です!どうぞ!


(リーファちゃん達、無事かなぁ)

 

 ここはスイルベーン付近の森の中。そこの木の陰でスプリガンの青年─コウ─ばシルフ狩り゙を行っていたサラマンダーによって別行動になってしまった二人を案じていた(他にもパーティーメンバーはいるがどうでもいい。)

 

(いやまぁ、こっちの方が人数多いから危険度は二人よりも高いけど)

 

 そう思いながら苦笑すると、声が聞こえた。どうやら、サラマンダーの部隊がようやく追いついたようだ。数は十人程。舐められたものだ。たかが()()()()()()()で勝てると思われたのか。

 さてと、なんて呟きながらコウは小太刀を二本腰から抜いて、木の陰から飛び出した─。

 

 

 所変わって森の上空。二人のシルフが夜空を猛スピードで飛んでいた。

 

「ほらレコンもっと速く!!」

 

「無茶言わないでよ〜・・・」

 

 そう言う少女─リーファ─に泣き言を返す少年─レコン─。しかしそれでも、レコンはリーファに追いつこうと必死だ。そんな彼をリーファは好ましく思う。決して口には出さないが。

 

 リーファは、自分が世間一般の女子とは少しズレていると自覚している。恋愛よりも部活、ファッションに金を使うくらいなら剣道で使う。恋愛に全く興味が無いわけではないが、まぁ薄いだろうなと思っている。少女漫画なんか興味無いし、クラスメートのいうイケメンカッコイイ!がよく分からない。

 

─どう見たってうちの義兄(あに)達の方がカッコイイよねぇ─

 

 毎度そう思う。一応「この人カッコイイよね!」と聞かれたら「うん、そうだね〜」なんて答えているけど。

 恋愛しようにも、まずマトモな男子が少ない。自分に近づく男子は皆が皆胸目当て、下心丸出しだ。いや、下心あるのは構わないのだが(というか全く無い方が怪しい)簡単に攻略出来ると思われているのは心外だ。中には無理矢理迫ってくる者もいた。そんな奴らは心身共にボコボコにしたけども。

 その点、レコンは安心出来る。今までの男子同様下心は感じるが、純粋に自分と仲良くなりたいと思っているだけ、と判断した。というか、自分と話す時とか自分の名前を呼ぶ時とかにどもるのが新鮮で弄りたくなる。なんというか、初心で面白い。決して表には出さないが。

 後はまぁ、姉二人と楽しみを共有したいという相談をしてこの世界に誘ってくれたのはレコンであるし、褒めたりすると顔を真っ赤にして慌てるのを見ると、なんか守りたくなる。

 

─あれ?これ、そのうちヒモ男に引っかかるパターンじゃない?─

 

 そう思わなくはないが、自分が判断出来なければ家族がしてくれる。人を見る目は確かだから間違えることは無い。

 そういえば、とリーファはレコンを家に連れていった時を思い出す。その時点で両親と会っていて今の関係を口出しされていないという事は、レコンは大丈夫ということか。リーファとてレコンとの関係は悪くないと思っているし、義兄(あに)達以外で唯一気を許せる男子だ。変な事をしたらぶっ飛ばすけど。

 

「─リーファちゃん!!後ろ、もう追いつかれた!」

 

 レコンの一声で現実に戻ってきたリーファは、後ろを確認する。確かにレコンの言う通り、七人のサラマンダーが見えた。これはもう戦闘は避けられないな、と判断したリーファは腰から抜刀しながらレコンに指示を出す。

 

「レコン!戦うよ!何人落とせる?」

 

「っ!二人は絶対に落とすよ!」

 

 レコンは目を見開いた後、自分に喝を入れるようにそう叫んだ。

 レコンは変わった。最初の方こそリーファの勢いについて来れなかったが、最近は意地でもついて来るようになった。その変化にリーファは内心、微笑ましくなりながら気持ちを入れ替えるように叫ぶ。

 

「─行くよ!」

 

 先に動いたのは、当然だがリーファだった。急停止から急上昇、弧を描くように上からサラマンダーへ突撃する。それに一瞬驚いたサラマンダー達だったが、すぐに反撃の姿勢を取った。しかし─

 

「がっ!?」

 

─突然、最後尾にいたサラマンダーが断末魔をあげ、赤い命火(リメインライト)となった。サラマンダー達が振り向くと、そこにいたのはレコンだ。

 

「このガキ─」

 

 レコンに武器を振るおうとした一人を、今度はリーファが上から奇襲し縦に両断した。

 サラマンダー達がリーファに気を取られている間に、レコンが隠蔽スキルをフルに使い背後から仕留める。追撃をかけられるなら、リーファがかける。これが二人の戦い方だ。だが、これが通用するのは最初の一回きり、それ以降はそれぞれの実力が試される。

 あっという間に二人も倒されたサラマンダー達は、三人がリーファに、二人がレコンについた。リーファは正直、戦闘用ステータスではないレコンが心配だが、こっちが三人でよかったと思う。そんな事を考えている間に、サラマンダーが三人同時に攻撃を仕掛けてきた。

 

(三人同時とかっ!)

 

 こちとら女なんですけど!?と思いながら一人目のランスを刀で受け流し、二人目は弾き、三人目は急上昇で避ける。そのスキにレコンの様子を見ると挟み撃ちにされていて苦戦しているようだが、『随意飛行』を習得したおかげでなんとか耐えているようだ。それに安堵した瞬間、下から『詠唱()』が聞こえた。バッと振り向くと、既に魔法によって作られた炎の槍が三つ、リーファに向かって来た。

 

(しまったっ!あのサラマンダー、魔法剣士か!)

 

 幸い、追尾型ではないので旋回して回避する。恐らく魔法を放ったのは、サラマンダーの指揮官か。

 

(先にやるなら、魔法剣士からかな)

 

 そう考えながら、リーファは突撃しようとして─

 

「─リーファちゃん!!後ろ!!」

 

─レコンの先程よりも必死な声で咄嗟に振り向くとサラマンダーが一人、目の前まで来ていた。リーファはランスを上から刀の腹をぶつけて軌道を逸らし、そのままサラマンダーの胸を両断する。

 

(今の人、レコンの方に行ってた人じゃないっ!)

 

 まさかと思いながらレコンのいた方向を見る。そこにあったのは、赤と緑のリメンライトだった。相打ちか、それとも残っていたサラマンダーにやられたのか。どちらにせよ、レコンは宣言通りに二人倒してくれたようだ。欲を言えば、彼には生き残って欲しかったが。

 ふと、飛翔速度が落ちてきている事に気付いた。滞空制限が迫ってきている。リーファは舌打ちを一つ、サラマンダーに落とされる前にと森へ急降下した。何十もの枝を掻き分けて背を木に預けるように着地し、追ってきた上空のサラマンダーを睨みつける。

 三人のリーダー格と思われる男が一歩前に出て口を開く。

 

「悪いな、お嬢ちゃん。こっちも任務なんでね。有り金とアイテムを置いてってくれれば殺しはしない」

 

「何言ってんだよカゲムネさん!久しぶりの女プレーヤーじゃねぇか!殺そうぜ!」

 

 そう言いながらバイザーを上げた男の暴力的な視線に、リーファは嫌悪感に溢れるのを自覚した。この男の様に『女性プレーヤー狩り』を好んで行うプレーヤーは少なくない。中には「MMORPGの醍醐味は女プレーヤーを狩ることだ」という者もいる。

 リーファは深く息を吐き、刀を上段に構えた。

 

「後一人は道ずれにするわ。デスペナが惜しくない人からかかってきなさい」

 

「・・・頑固なお嬢ちゃんだ。仕方ない」

 

 肩を竦めたリーダーのカゲムネと呼ばれた男はランスを構え、助走をつけるために浮き上がる。両隣の男達も追随した。リーファは、たとえ三つの槍に同時に貫かれようとも全力の一撃を決めるつもりだ。

 三方向を囲まれ、サラマンダー達がリーファに突撃しようとした─その時。

 

「おぅわぁ!?」

 

 サラマンダーの後ろの枝が揺れたと認識したと同時に男の悲鳴が聞こえ、黒い影が地面に落ちた。

 

「いてて・・・着地が苦手だなぁ・・・」

 

「もっとゆっくり降りれば良いだろ」

 

 頭を擦りながらぼやくウンディーネの男性と、上からゆっくり下降してくるケットシーの女性。

 男性の方はウンディーネ特有の水色に染まった短髪で、全身が初期装備で包まれており腰に細剣(レイピア)を差している。

 女性の方は、パッと見は黒猫。黒い長髪にケットシー特有の黒い耳と尻尾が付いている。こちらも全身初期装備であり、片手剣が背中に装備されていた。

 リーファは咄嗟に逃げろと叫ぼうとした。どう見ても初心者(ニュービー)だったからだ。隣領のケットシーはともかく、何故離れた場所に領があるウンディーネが一緒にいるのか。疑問は残るが今はどうでもいい。

 だが、ふと思い出した。この世界に来ると言っていた二人の事を。

 基本的にALOでは例外を除き、他種族パーティーは組まない。目の前の二人は他種族であり、予め聞いていた種族がどちらも一致している。

 まさかと思いながらリーファは口を開いた。

 

「─もしかして、キリトさんとアスカさん?」




 中途半端な所で終わってしまったので、もう一話頑張ります!
和葉「無理だったら斬りますね」
作者「久しぶりの一言がそれかよ!?」

 誤字脱字またおかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします。


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スイルベーン

和葉「先月はもう一話投稿すると宣言しておいて、今月の最後に投稿したことはすいません。作者は切り刻んでおいたのでお許しください。


 ではどうぞ」


 アスカのリーファへの呼び方を変更しました。


「─もしかして、キリトさんとアスカさん?」

 

 まず最初に抱いたのは警戒心、何故プレーヤーネームを知っているのか。そしてすぐに自分達の名前を知っている、というより教えた人物達を思い出した。

 

「リーファか?」

 

 キリトがそう名前を呼んだ瞬間、リーファが嬉しそうに顔を輝かせた。あぁうん妹だな、とキリトは確信した。顔の輝き方が全く一緒だった。

 ふとキリトはおや?とリーファと一緒にいるはずの人物がいないことに気づき、リーファに問おうとした。

 

「なぁリーファ─」

 

「─無視してんじゃねぇ!!」

 

 キリトの声を遮り、一人のサラマンダーがランスを構え突っ込んできた。キリトは怠そうに顔を向けるだけで一歩も動かない。それを恐怖で動けないと勘違いしたサラマンダーは更に加速した。後数センチでキリトの顔に刺さるはずだったランスは、横から伸びてきた腕に掴まれ、ガードSE(サウンドエフェクト)が響く。サラマンダー達の目が驚愕に開かれた。掴んだのは、無論アスカだ。

 

「せっかく姉妹が楽しく会話しようとしてたんだから邪魔すんな─よっ」

 

 そう言いながらアスカは掴んだランスをサラマンダーごと振り回して、飛翔しているサラマンダー達の方へぶん投げた。

 

「っ」

 

「はっ?ちょっうわぁぁあ!」

 

 カゲムネは上昇して避けたが、もう一人は咄嗟のことで反応出来ずに飛んできたサラマンダーとぶつかり、鎧の音をたてながら地に落ちた。

 キリトは溜息を吐きながら片手剣を抜いた。

 

「はぁ。取り敢えずこの人ら倒してからにするか。倒して良いんだよな?」

 

 最後のはリーファに向けて言ったものだ。それに対してリーファは、とても良い笑顔でサムズアップをしてきた。まさかそんな反応が帰ってくるとは思わなかったので「お、おう」と戸惑った。

 

(リー(スグ)ちゃん、佳奈と一緒にプレイするの楽しみにしてたからなぁ)

 

 邪魔されて怒ってるんだろうなぁ、と思いながらアスカは細剣(レイピア)を抜いた。

 

「そんじゃまぁ、やりますか。キリトどっち行く?」

 

「右」

 

「了解」

 

 そう言いながらも二人は、律儀にサラマンダー達が立ち上がるのを待つ。立ち上がったサラマンダー達は、剣を構えながらも攻撃してこないキリト達に気づいて怒りが湧いた。舐めてるのかと。武器を構える暇を与えたことを後悔させてやる、と思いランスを構えた。

 それを確認したキリトはゆっくりと、それこそ普通に歩き始める様に一歩踏み出し─掻き消えた。

 

「─はっ?」

 

 重く空気を切り裂く音が鳴り響き、間抜けな声を上げたサラマンダーの体は斜めにずれた後、リメンライトと化した。当のキリトはサラマンダーを挟んで先程と反対側におり、剣を振り下ろした状態で止まっている。

 隣の仲間が突然リメンライトとなり動揺した男は、キリトを探しているのか見当違いの方を見ていた。今度は待つことはせず、アスカは腕を引き絞る。それに気づいて反撃体勢を取るが─遅い。

 今度は先程より軽い空気を切り裂く音が鳴り響き、サラマンダーの上半身が両断された。リメンライトになったと同時に、キリトの隣にアスカが着地する。

 

「どうする?あんたも戦う?」

 

 先程、一瞬でサラマンダーの一人を倒した人物とは思えないのんびりとした口調でキリトはそう言った。一連の流れに唖然としていたカゲムネは、キリトの言葉で我に返り苦笑する。

 

「いや勝てないな。もう少しで魔法スキルが九〇〇なんだ。死亡罰則(デスペナ)が惜しい」

 

「正直な人だな。リーファは?戦うなら止めないけど」

 

 相変わらずな姉につい笑ってしまった。こっちに聞いたのは、自分が戦わないといえば見逃すという事だ。

 

「遠慮する。でも─次は倒すから」

 

 リーファは挑戦的な笑みを浮かべた。他の二人が生き残っていたら迷わず切り捨てていたが、一応この人は常識があるのだろう。少なくとも女性狩りを趣味としている人物ではない。

 

「正直、君ともタイマンで勝てる気がしないな」

 

 肩を竦めながらそう言ったカゲムネは、羽を鳴らして飛んでいった。

 数十秒してサラマンダーのリメンライトが消え、リーファは今まで我慢していたようにキリトに抱き着いた。

 

「佳奈ねぇ〜!」

 

「どわ!?」

 

 突然の事だったが、キリトは持ち前のSTR値で飛びかかってきたリーファを支える。そのままリーファはキリトに甘えるように頬擦りした。

 

「おいおいリーファ。この中でリアルネームは禁止だし、さっきまで一緒にいたろ?」

 

「えー、せっかくこの世界で会えたんだから甘えても良いでしょ?名前に関してはゴメン。でもなんて呼べばいい?」

 

 明日にぃ達はそのままだし、キリねぇだと被るんでしょ、と言うリーファは少し困った表情になった。確かにその呼び方だとキリハと被ってしまう。

 キリトが悩んでいると、アスカが提案した。

 

「じゃあ『キリト』の後半をとって『リト』っていうのは?そうすればキリハの場合は『リハ』になるし」

 

 なるほど、それならどっちが呼ばれてるか分かる。『リハ』というのは少々変わった呼び方だがリーファは『リハねぇ』と呼ぶだろうから、まぁ問題ない。

 

「じゃあリトねぇって呼ぶね」

 

 リーファがそう言った直後、一人のプレーヤーが空から降りてきた。キリトとアスカは即座に臨戦態勢を取ろうとしたが、リーファはそのプレーヤーに気付くと名前を呼び近づく。

 

「あ、コウにぃ。お疲れ」

 

「お疲れさま。そっちの二人は、キリトちゃんとアスカかな?」

 

「あぁ、兄さんだったか」

 

 名前を呼ばれた二人は目の前の人物が(義)兄(コウ)だと分かり、武器を下ろした。そういえば、とキリトは先程リーファに聞きそびれた事を思い出す。

 

「コウさん、どこに行ってたんだ?」

 

「サラマンダーの部隊が他にいてね。別行動してたんだよ」

 

「コウにぃの事だから大丈夫だと思ってたけど、そっち十人くらいいたよね?」

 

「あぁ、そのくらいいたね。もっと来てくれても良かったんだけど」

 

「「「うわぁ…」」」

 

 苦笑気味にそう言うコウに少し引いてしまった。多対一が得意な(コウが一)コウが負けるとは微塵も思っていないが、十人来て足りないというのは流石に引く。あぁでもキリハも同じ事言いそう、と三人は思った。

 そんなことをしていると、キリトが何かを思い出したように慌てて胸ポケットに声をかける。

 

「ユイ、出てきて良いぞ」

 

 するとキリトの胸ポケットから小さな光が出てきた。それはキリトとアスカの顔の丁度真ん中あたりで止まる。

 

「むー、酷いですよ。パパもママもわたしのこと忘れてましたよね?」

 

 不機嫌そうに頬を膨らます愛娘に、二人は必死にご機嫌取りをする。その姿に残りの二人は、少し笑った。

 

 

「一応説明してあるけど、顔合わせるのは初めてだから改めて紹介するな。このナビゲーション・ピクシーが俺達の娘、ユイ。で、こっちがママの妹のリーファ。こっちがパパの兄のコウさん」

 

「ユイです。よろしくお願いします」

 

「リーファよ。よろしくね、ユイちゃん」

 

「コウだよ。よろしく、ユイちゃん」

 

 五分程でご機嫌取りに成功し、現在はキリトがそれぞれ三人を紹介した所だ。キリトの言った通り顔合わせは初めてだが、お互いに説明してある。勿論、ユイの事も全て話した。それでも二人は、目の前でじゃれあっているのを見る限り受け入れてくれたようだ。それを、キリトとアスカは嬉しく思う。

 ユイは人間ではないが、本当の娘であることに変わりはない。だから、ユイが自分達の家族に認められた事が嬉しいのだ。

 

「さて、スイルベーンに行こうか」

 

 一通り交流をした後、コウがそう言い、全員が頷いたのを確認してコウは飛び立つ。リーファ、キリトと続き、アスカも飛び立とうとした時に気付く。

 

「あれ?兄さんもリーちゃんもコントローラいらないんだ?」

 

「まぁね。アスカ達も『随意飛行』練習してみる?」

 

 『随意飛行』とはコントローラ無しで飛ぶ事だ。両手が空くので挑戦するものは多い。しかし『随意』とは呼ばれているもののイメージ力だけで飛ぶことは出来ず、本来、人間にはない翅を動かす器官と筋肉を動かすイメージをしなければならない。それ故、『随意飛行』を習得した者はALO上で一流の剣士とされる。

 

 

 

 結論から言えば、キリトとアスカは『随意飛行』をものの数分で習得した。仮想の骨と筋肉をイメージするのは大変だったが二人とも筋が良く、少しコツを教えればすぐに安定して飛べるようになった。

 四人はそのままスイルベーンへ向かう。途中、キリトとアスカがどのくらいリーファ達のスピードに付いてこられるかという疑問から何故かレースに変わったが、無事に四人はスイルベーンに到達する事は出来た。まぁ、到達してからが問題だったのだが。

 

「いてて…。二人とも見捨てなくたっていいじゃないか…」

 

「まぁまぁアスにぃ、回復してあげるから許してよ」

 

「お前がライディングの仕方を教わらなかったのが悪い」

 

「てっきりアスカもライディングの仕方をリーファちゃんから教わったと思ってたんだけど。キリトちゃんだけだったんだね」

 

「ママと一緒にいて良かったです」

 

 問題というか、着地(ライディング)の仕方を教わらなかったアスカがスイルベーンのシンボルである建物に激突し、落下しただけだ。結論、何も教わらなかったアスカが悪い。

 リーファが魔法でアスカを回復し、ようやくキリトとアスカの二人はスイルベーンの街並みを見る。綺麗な所だと、素直に思った。

 色合いの差こそあれ艶やかなジェイドグリーンに輝き、それらが夜闇の中に浮かび上がっている。《翡翠の街》と呼ばれる由縁を垣間見た気がした。

 

「リーファちゃーん!コウさーん!」

 

 街並みを眺めていると不意にリーファとコウを呼ぶ声が聞こえた。声のする方を向くと、少年がこちらに手を振りながら走ってきている。

 

「あ、レコン」

 

 四人の元まで走り寄ったレコンは少し息を整えてから口を開く。

 

「良かったぁ、二人共無事だったんだね。それで、えっと…こちらの二人は?」

 

 そう言うレコンの目には、疑問とほんの少し別のモノが見えた。それにキリトが関心していると、リーファが二人を紹介する。

 

「女の人がキリトさん。男の人がアスカさん。私のお姉ちゃんとコウにぃの弟さんだよ」

 

「えぇっ!?こ、この人達が!?」

 

 リーファの言葉にレコンは大袈裟な程に驚愕する。「まってまだ心の準備が…」などと呟いているがなんの準備だろうと、リーファは疑問に思いながらレコン事も紹介する。

 

「で、こっちがレコン。私の相談に乗ってくれた同級生だよ。リトねぇ達が来る前に殺られちゃったんだ」

 

「は、はじめまして!レコンです!妹さんとお兄さんにはいつもお世話になってます!」

 

 気合いの入った挨拶を貰ったキリトは笑みを浮かべて、普通に返そうとした。

 

「アスカだ。キリトは俺の嫁だから手を出さぁっ!?」

 

「キリトだ、妹の相談に乗ってくれてありがとうな。こいつの事は気にするな」

 

「えっと…?」

 

「気にしない方がいいわよ。二人のこれはいつも通りだから」

 

 アスカがキリトの拳を食らった箇所を抑え崩れ落ちるのを見てレコンは困惑したが、リーファの言葉に戸惑いつつも従う。

 するとレコンが「あっ」と用件を思い出した。

 

「二人ともアイテムの分配どうする?シグルド達はいつもの店で待ってるけど」

 

「「行かない」」

 

 スッパリと迷いなく答えたリーファとコウに、レコンは特に驚愕することは無かった。

 リーファとコウは特に欲しい物が無かったので持っていたアイテムを渡して、四人はレコンと別れる。「何か決まったら連絡してねー!」という声を背に、四人はリーファが贔屓にしている店に向かった。

 レコンが見えなくなってすぐ、キリトが口を開く。

 

「あのレコンって奴、面白いな」

 

「何が?」

 

「殺気の隠し方が上手い。普通じゃ気づかないくらいにな。俺達がリーファ達の家族じゃなかったら殺すつもりだったんじゃないか?つかアイツ、本当に一般人かよ」

 

「あ〜、確かにレコンのステータスって隠密に向いている…かな?私にもよく分からないや。後、レコンは一般人だよ。調べたから間違いない」

 

 因みにリーファはスピード剣士型だ。シルフの中では一、二を争う速さだと自他ともに認めており、コウにも単純なスピードなら勝てる。しかしコウは隠密スキルとAGIを上げた、いわゆる忍者型のステータスをしており、決闘をするなら負けるだろう。

 

 

 《すずらん亭》、酒場兼宿屋の店でデザート系が多いため、リーファが贔屓にしている店だ。そこで明日からの予定を話し合う。

 

「取り敢えず、僕とリーファで《世界樹》まで案内するよ」

 

「その前に明日で良いんだけど、武器を買いたいな」

 

「流石に初期武器じゃ心許無いしな」

 

「了解、私のオススメの武器屋に連れてくね」

 

 やはり家族だからか、話し合いはすぐに終わった。それからは少し雑談をして、それぞれ部屋に向かう。勿論、キリトとアスカは二人部屋だ。

 

「…また少しの間会えないですね」

 

 ベッドに横たわりログアウトしようとした時、ユイが少女の姿に戻り寂しそうにそう言った。顔を下に向け、何かを我慢しているように見える。

 

「おいでユイ、一緒に寝よう」

 

 それを察したキリトは隣を叩いた。ユイは笑顔を咲かせて二人の間に飛び込む。

 ALOでは普通にログアウトするよりも、寝ながらログアウトすることも可能なのだ。故に三人はそのまま就寝した─。

 

 

 

 コウはベッドで仰向けになっていた。そのまま上に手を伸ばす。

 

「和葉、必ず君を助け出す─」

 

─だから待っていてくれ─

 

 強くそう思いながら。



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囚われた者

─鮮血が舞った。銃を持った男が目を見開き倒れる。倒れた男は首がパックリと切り裂かれ、そこから血を吹き出していた。

 男を切り裂いた得物()を手にしているのは、黒髪の少女だ。腰まで伸びる長髪が風に靡き、黒い兵服に身を包んでいる。少女の周囲には切り裂かれ、撃ち抜かれた死体が十数人、転がっていた。ここに転がる死体は全て、少女が殺した者達だ。少女は十数人の兵士を相手に、一本の刀と一丁のライヒスリボルバーのみを使い皆殺しにした。

 少女は刀を鞘に入れようとして─一人の男が死体の中から立ち上がりフェドロフM1916(アサルトライフル)を乱射する。その瞬間に男は、殺ったと確信したのだろうか。冷や汗をかきながらも笑みを浮かべている。しかし─

 

「─?」

 

 男の体は縦に斬られた。男にとって幸いだったのは、自分に何が起きたのか理解出来ずに死んだことだろう。痛みも恐怖も、感じる事はなかったのだから。

 縦に別れた男の体が崩れ落ちたのを見届けた少女は、今度こそ刀を鞘に納めた。

 

「──!!」

 

 そこに、少女の名前を呼ぶ声が聞こえた。少女が顔をそちらに向けると、数十人の兵士が駆け寄っている。その兵士達は全員、黒い装いをしていた。

 

「──?」

 

「──」

 

 少女は何かを問いかけ、兵士の一人が答える。日本語、ではない。フランス語だ。

 少女は男の言葉に安心したように息を吐いた。その様子から殺られた者がいるか聞いたのだろう。

 

「──!」

 

 そしてリーダーと思わしき男の指示で少女達はどこかに歩いていく。和気藹々と笑顔で話し合う彼らの姿は、先程まで敵を殺していたとは思えない。

 すると突然、少女が顔を上に向け()()()()()()。そして、何かを伝える為に口を動かした─

 

【────】

 

 

 

─パチリと、和葉(キリハ)は目を開けた。目に映るのは細い格子(こうし)で作られた半球形に閉じた天井。キリハは上半身を起こし顔を左右に向ける。それぞれ格子の向こう側に見えるのは、どこまでも続く空ととてつもなく巨大な大樹。それらを認識して、キリハは自分が変わらず閉じ込められている事を確認する。ここは大樹の枝からぶら下がった巨大な鳥籠()だ。ただし、自分が(実に腹ただしい事ではあるが)()()()の王妃という扱いの影響か、高級感はある。格子には隙間がありキリハなら通り抜けられそうだが、システム的に不可能だ。

 壁に設置されている鏡に映る姿は、本来の自分と微妙に異なっている。顔と髪はそのままだが耳はエルフのようにとんがっており、服は黒いワンピースのみ。背中からは一組の翅が生えていた。靴も履いていないので大理石のタイルから冷気が直接伝わってくる。これに関しては、ここがVRの中で良かったというべきだろう。

 

(『まだ思い出さないか?』、と言ったのですかねぇ。あの(少女)は)

 

 そしてキリハは先程見た夢を思い返す。正直、あの夢は小さい頃から見続けているので今回で何回目か分からない。ただ、昔に比べてあの夢を見る頻度が多くなっている事は確かだ。最初は半年に一回程度だったが、一ヶ月に一回、そしてSAOをクリアした今では二週間に一回の頻度で見るようになった。

 夢の内容は、場所は違えど基本的には一緒だ。夢の中の少女(和葉)が仲間と一緒に敵を殺していく、それを上空から眺める、ただそれだけの夢。そして最後に必ず、少女はこちらに何かを伝えようとする。少女は、仲間と話す言語はフランス語なのに何故かこちらに何かを伝えようとする時は日本語なのだ、…多分。声が聞こえないので口の動きを見るしかなく、読唇術などまだ習っていないから合ってるか分からない。

 そもそも、何を思い出せば良いのか。生まれてこの方一度も日本を出たことが無いので、あの場所に見覚えは無い。ただ、何故だろうか。

 

─あの光景を懐かしいと思うのは─

 

 

「─今の表情が一番美しいよ、ティターニア」

 

 そこに男の声が聞こえる。キリハが、この世で最も嫌悪している男の声だ。

 

「遠くを見ているような、その表情がね。出来ることならその表情のまま凍らせておきたいくらいだよ」

 

「…」

 

 無言のままキリハは振り向く。

 この檻には《世界樹》と呼ばれる巨樹の方向に、一箇所だけドアがある。そこに、その男はいた。

 肩より下の金の長髪、上品な緑のコートと頭部に白い冠を被っている。顔はかなり整っているとキリハも思うが、中身があの男というだけで生理的に受け付けない。出来るなら半径5m以内に入らないで欲しい。不可能なのは分かっていてもそう思ってしまう。

 男─須卿 伸之(オベイロン)─は苦笑をしながら口を開く。

 

「いい加減、口をきいてくれても良いんじゃないかな?ティターニア」

 

 まぁ確かに、そろそろ何故ここに閉じ込めたのか理由を知りたくなってきた所だ。そう思いながらキリハは喋り出す。

 

「…貴方と喋ることは何もありませんし、その名前はやめてくれませんか。須卿伸之さん」

 

 まぁ、そう思ってることはおくびにも出さないが。

 オベイロンはなんであれ、会話出来た事が嬉しいのか少し上機嫌に口を開く。

 

「興ざめだなぁ。やっと口をきいてくれて嬉しいけど僕は妖精王オベイロン、君は女王ティターニア。僕達はアルブヘイム(この世界)の支配者、それでいいじゃないか。いつになったら僕の伴侶となるつもりだい?」

 

「僕が貴方に捧げる事が出来るのは嫌悪感のみです」

 

「気の強い子だ」

 

 言いながらオベイロンは肩をすくめ、まぁいいさとキリハの頬へ手を伸ばした。

 

「どうせ、君から僕を求めるようになる。それが早いか遅いかの違いでしかない」

 

「…ご冗談を」

 

 顔を顰めて言うキリハに、オベイロンは喉の奥を鳴らして芝居がかかったように喋り出す。

 曰く、脳の一部分に限定して照射している電子パルスの枷を取り払えば、脳の感覚処理以外の機能─思考、感情、記憶までも操作出来る可能性がある。だが、それには大量に人間の被験者が必要だ。人体実験に含まれる故においそれと実験を行こなう事は出来ず、研究は進まなかった。しかし─

 

「─ある日ニュースを見てたら、いるじゃないか!格好の研究素材が一万人もさ!!

 茅場先輩は天才だが大馬鹿者だよ。たかがゲームを創造しただけで満足するなんてね。SAOサーバー自体に直接介入は出来なかったけど、プレーヤーが解放された瞬間にその一部を僕の世界に来るよう細工するのはそう難しくなかった」

 

 そして三百人ものプレーヤーを手に入れたからこそ、たった二ヶ月で研究が大幅に進展したとオベイロンは締めくくった。

 

「そんなことを彰三さんが許す訳がありません」

 

「勿論、あのおじさんは何も知らない。研究は僕含めて極少数のチームで秘密裏に行っているからね。そうじゃなければ商品にならない」

 

「商品…ですって?」

 

「アメリカの某企業が涎を垂らして研究成果を待ってる。高値で売りつけるつもりさ。あぁ、君を商品にするつもりは無いよ。君は僕の伴侶にするからねぇ」

 

「…このクズが」

 

 声を低くしてそう言うキリハに、オベイロンは鼻で笑って返す。

 

「そう言えるのも今のうちさ。どうせ君はここから出る事は出来ないし、助けが来る事は無い。

桐ヶ谷家(君の家)は沢山のコネを持っているようだけど所詮は一般人、何も出来やしないよ」

 

 オベイロンがそう言うと、キリハは顔を俯かせる。その顔をオベイロンが覗き込もうとした時、不意に動きを止めて少し首を傾けた。左手でウィンドウを出し、「今行く」とだけ言ってウィンドウを閉じる。

 

「ま、そういうわけで君が僕に服従する日は近いという事が解ってくれたかな?本当は僕だって君の脳を弄りたくはないんだ。君だって嫌だろう?次に会う時はもう少し従順になっている事を願うよ、ティターニア」

 

 そう言ってオベイロンは、キリハの髪をひと撫でして身を翻した。そのままドアへ歩いていく。オベイロンはドアの前で立ち止まり、もう一度キリハを目に映してから出ていった。ドアの開閉音が鳴り響き、静寂が訪れる。

 しばらくキリハは微動だにしなかったが、オベイロンが完全に離れた事を確認すると顔を上げて口を開いた。

 

「だ、そうですよ?"昌彦"」

 

 キリハ一人しかいない鳥籠。返事が返ってくるはずが無いなのに、男の声が返ってきた。

 

「─ふむ、概ね予想道りかな?実験の内容までは予想出来なかったが」

 

「非人道的な実験を行っているなんて、普通は予想しませんよ」

 

 キリハが顔を少し上に向けると、そこにキリハが殺したはずの茅場昌彦が半透明となって浮いていた。

 

「君、後輩に悪口言われてましたが、それについて何かあります?」

 

「特に無いな。興味が無いとも言うか。赤の他人からどう思われていようとどうでも良いのだよ」

 

 まぁそう言うだろうな、とキリハは予想していた。親しくない者から何を言われようとも心には響かない。自分の事を何も知らないくせに、と思ってしまうからだ。逆に言えば、親しい者の声は届くのだが。

 

 さて、何故死んだはずの昌彦がここにいるのか説明しよう。

 茅場昌彦という人物は間違いなく死亡した。しかし彼は自分が死亡する際に大出力のスキャニングを脳にかけることにより、記憶と人格をデジタル信号として遺す言葉を試みた。その際、脳が破壊され肉体的には死亡してしまったが、結果的に記憶と人格を遺す事に成功した。

 簡単に言ってしまえばここにいる昌彦は、オリジナルに当たる"茅場昌彦"のクローンということだ。

 昌彦がキリハの元に現れたのが二週間程前。彼曰く、本当ならもう少し後に覚醒すると予想していたのだが、キリハ(和葉)の心からの声に応えて覚醒したのではないか、とのこと。

 

「覚醒して最初に聞いた声が、まさか『寂しい…』だとは思いもよらなかったがね。しかも君が言ったとは」

 

「うるさいです」

 

 実はキリハ、昔から一人は平気だが孤独は苦手なのだ。というよりは、いつでも会える場所に親しい者がいない事が辛い。今回で言えばあの男のせいで大好きな家族に二ヶ月間会えていないのだ。一人の時に弱音を吐いてしまった。そのおかげで昌彦が覚醒出来たのだが。

 それにしても、と昌彦が口を開いた。

 

「彼は桐ヶ谷家の事を一般人と()()()()()()()ようだな」

 

 普通はコネを持っている時点で解るはずなんだが、と昌彦は続ける。

 

「そこまで頭は回りませんよ。自分が一番だと思っているのですから。

─でもまさか、カードキーを奪われた事にすら気付かないとは」

 

 クスクスと嗤いながら、キリハは懐から黒いカードを取り出した。

 

「君の脱走は不可能と考えているからな。確認しに行くこともないのだろう」

 

「愚かですよねぇ」

 

 手の平でカードを回しながら、キリハは嗤い続ける。

 

 この檻のドアには十二のボタンがあり、それらを正しい順番で押せば開くようになっている。当然オベイロンは押しているボタンが分からないように遠近エフェクト─簡単にいえばモザイク─を使っている。しかしそれが働くのは直接見る場合に限り、他の物を介せば問題なく見ることが出来る─そう、例えば壁に設置されてある鏡とか。

 これらを考え付き、実行したのは一週間程前だ。チャンスはいくらでもあった。キリハはオベイロンと話したくないが故に、常に鏡の側にいた。鏡を使いボタンの押す順番を盗み見ると、丁度丸一日は戻らないという事をご丁寧に教えてくれたので心置き無く脱走した、という訳だ。昌彦は不可視の状態にもなれるようだったので、その特性を利用して誰かに見つかりそうになったらすぐに教えて貰った。

 そして見つけたのが、脳のホログラムが大量に映し出している部屋と、このカードキーがあった部屋だ。何か重要な物だとは分かったので拝借して部屋を出た。まぁ、その瞬間に彼の部下二人に見つかってしまったのだが。

 部下がいることは分かっていたが、まさかナメクジみたいなアバターだとは思わなかった。それに固まっている間に触手で捕まってしまい檻に戻された、という訳だ。

 

「それで?どうする。少し前にも言ったが()()G()M()()()()()()()使()()()()()()()()()()?」

 

 ALO(この世界)はSAOのサーバーをそのまま使っている。つまり、最上位のマスターアカウントである茅場昌彦(ヒースクリフ)のアカウントを使うことが出来るのだ。

 しかし、キリハは首を横に振った。

 

「その時にも言いましたが、今はまだ使いません。ここまで粘ったんです。もう少し情報が無いか探ってみましょう」

 

 それに、とキリハは笑みを口元に浮かべ続ける。

 

「一般人と侮っている桐ヶ谷家(僕の家族)に出し抜かされた時にどんな表情になるのか。それを見てみたいじゃないですか」

 

 家族が迎えに来る事を微塵も疑っていないキリハに、昌彦は溜息をついた。家族を侮辱されてだいぶ怒っているようだ。

 

「わかった。君の指示に従おう。しかし、君が危険だと私が判断したら使わせてもらうよ」

 

「勿論。あの男に脳を弄られるのはゴメンですから」

 

─嗚呼、楽しみだ─

 

 口元に手をあて、クスクスとキリハは嗤い続ける。あの男がどんな表情を見せてくれるのかを想像しながら。




現在、アンケートを実施しています。これからの投稿についてです。詳しい事は活動報告をご覧下さい。


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直葉

 かなーり中途半端で終わってしまっている気がするので、今月(多分)もう一話投稿します


 制服に着替えて剣道場から外に出ると、緩やかな風が直葉の頬を撫でる。

 時刻は一時半、五時間目の授業が始まっているので校内は静かだ。一、二年の生徒は勿論の事、自由登校の三年も高校受験の為に今頃必死になって勉強している頃だろう。

 本当なら直葉のような推薦組の者はもう来る必要がないのだが、剣道部の顧問が熱心な人物で強豪校に送り出す愛弟子達が気になって仕方ないらしい。一日おきに剣道場に顔を出して稽古を受けるよう言われていた。 正直、直葉としては助かっている。頼み込めば、かつて全国三位に入ったことがある男性顧問と打ち合えるからだ。

 無論、単純な強さでいってしまえば家族の方が断然上だ。しかしそれは『戦闘』の強さであり、『剣道』の強さではない。いざ剣道となると、父親である峰高の次に強いのは直葉なのだ。直葉が唯一、姉達に勝てているモノなのでこれだけは譲れない。姉二人が剣道を二年で辞めていなければ勝てなかっただろうが。

 

「リーファちゃん」

 

 そんなことを考えながら自転車置き場に歩いていると、声をかけてくる者がいた。その名前を学校で知っている者は一人しかいない。

 

PN(プレーヤーネーム)は禁止だって言ってるでしょ」

 

 直葉は振り返りながら返事を返す。そこにいたのは、お世辞にも体格が良いとは言えない眼鏡の男子生徒だった。長田 慎一(しんいち)、ALOではレコンと名乗っている。

 

「あ、ごめん。すぐ…桐ヶ谷さん」

 

 直葉は溜息をついた。もう二年の付き合いなのだから名前で呼んでも良いと言っているのに彼は女子の名前を呼ぶのが恥ずかしいらしく、半年経った今でも名前を呼ぼうとして苗字呼びになっている。

 

「どうしたの?慎一君」

 

「ちょっと話があるんだ」

 

「なら歩きながら聞くわ。どうせ途中まで一緒だし」

 

 ちょっと待っててと直葉は言って自転車を取りに行った。

 

(僕としては桐ヶ谷さんといれて嬉しいけどさぁ…。もう少し、こう…)

 

 男として見られていないんだろうなぁ、と慎一は溜息をついた。それでも、彼女といれるだけで幸せなので良いとしよう。高望みはしない。

 直葉と慎一が知り合ったのは中学一年の時だ。最初は慎一が一方的に直葉の事を知っているだけだった。入学式で偶々直葉を見かけて、目を奪われた。一目惚れだった。そして運良く同じクラスだったので名前も分かり、彼女が剣道に打ち込んでいる事も知れた。

 そもそも、最初はここまで親しくなれるとは微塵も思っていなかった。オタクの自分では彼女と接点を持つことは無いだろうと考えていたからだ。席は男女別の名前順で近いわけでもなかったので余計に。

 数ヶ月経ったある日の放課後、慎一は数人の男から体育館裏に呼び出された。嫌な予感がしながらも断る事が出来ず体育館裏に向かってしまった。嫌な予感は当たり、ボコられたくないんだったら金を持ってこいと脅された。慎一は恐怖に震えて返事を返す事も出来ず、それに苛立った男に殴り飛ばされた。その時だ、彼女があの場所に来たのは。

 

─ねぇ、そこで何してるの?─

 

 慎一が顔を上げると、そこに彼が一目惚れした桐ヶ谷直葉が剣道具を持って立っていた。誰かに見つかったと思った男達だったが、見つかった相手が女子だと知ると安堵した表情を見せた。女かよ、驚かすなよ、などと言った後、一人の男が彼女に近寄った。慎一は逃げてと叫ぼうとしたが、恐怖で声が出なかった。そして男が彼女に手を伸ばして─次の瞬間には地に叩き伏せられていた。何が起こったのか分からなかった。ただ、彼女の腕が男の袖を掴んでいたから、それを行なったのが彼女だという事だけは理解出来た。

 

─聞く必要なかったね。どう見たってその子が脅されているようにしか見えないもん─

 

 汚れを落とすように手をはたいて彼女はそう言った。男達は激怒し、彼女に一斉に襲いかかった。今度こそは、と慎一が叫ぼうとして、終わっていた。

 

─えっと、長田君…だっけ。大丈夫?─

 

 そして彼女は、一連の出来事に唖然としていた自分に手を伸ばした。

 これが、彼女との交流を始める最初の出来事だった。

 

「お待たせって、何ボーッとしてるのよ」

 

 ハッとして声のした方を向く。直葉が呆れたような顔をして自転車を持っていた。慌てて立ち上がって首を振る。

 

「ううん!何でもないよ!」

 

 直葉はフーン?と言った後、歩き出した。慎一は慌てて追いかける。

 慎一はまだ、何故直葉があそこに来たのか、何故助けてくれたのかを聞いてい機会を逃してしまったのだ。

 

(でもまぁ)

 

 自分が彼女に嫌われない限りいつでも聞く事が出来る、と考えた。それか、嫌われた時にでも最後の質問として聞こうと、慎一は思った。

 

「それで?話って?」

 

「あぁうん、結局どうなったのかなって。何か決まったら連絡してって言ったのにメールくれなかったから」

 

「あ、すっかり忘れてた」

 

 ごめんと謝ってくる直葉に、慎一は慌てて構わない事を伝える。ようやく姉との共通の趣味が出来たのだ。忘れる事だってある。

 慎一の慌てる姿につい笑みを浮かべてしまい、それを誤魔化すように直葉は喋り出す。

 

「パーティーは抜けてお姉ちゃん達を《世界樹》まで送って行く事になったよ」

 

「うん分かった。じゃあシグルド達には僕から言っておこうか?」

 

 慎一はそう言ってくれたが、直葉としては自分から伝えた方が良いと思っているので、それは断る。「桐ヶ谷さんらしいね」と慎一が苦笑したのが少し解せないが。

 慎一はどうするのかと聞くと、ついて行きたい所なんだけどちょっと調べたい事がある、と言って断って来た。その調べたい事が何なのか気になる所ではあるが、今聞く必要は無いと直葉は考えた。何か重要な事になったら即連絡してくるだろうし。

 

「ふーん、分かった。じゃ、また向こうでね」

 

 そう言って自転車に跨った直葉に、慎一が思い出したように声をかけた。

 

「あ、桐ヶ谷さん。パーティー抜ける時、シグルドには気を付けてね。多分、何か言ってくると思うから」

 

 こういう時、意外と言っては何だが、慎一の警告は結構当たる。まぁ、直葉本人も何か面倒ごとが起こりそうな事は分かっているので、その警告はありがたく貰っておく。

 

 

 家に帰ると、まだ佳奈と明日加の姿がなかった。どうやらまだ買い物(デート)から帰ってきていないようだ。剣道着とワイシャツを洗濯機に放り込んで、剣道でかいた汗を流そうと風呂に入る。

 直葉はシャワーをあびながら姉の事を考えていた。正直、恋人のいる佳奈が羨ましいと思ったことは何度もある。元々、明日加と一緒にいるだけで人生が楽しそうだったのが、恋人となってからは幸せそうだ。浩一郎の事を好いている和葉もまた、幸せそうな雰囲気を出していた。何故なのか分からなかった当時の直葉は、その疑問を直接二人に聞いた事がある。

 しかし返ってきた二人の答えは、『分からない』だった。それでも、好きな人がそばにいる、あるいはその人の事を考えるだけで胸が一杯になると言った。私にもそんな人が出来るかな、と直葉がきけば、必ず出来ると姉二人は言ってくれた。

 

(でも、本当に出来るかなぁ)

 

 直葉は自分でも分かるくらい男運が悪い。何故か周囲に集まる男子はまともじゃないのだ。義兄以外では慎一くらいしか知らない。かと言って、慎一を恋愛対象として見ているかというとそうではない。どちらかと言えば弟みたいだと思っている。

 ()()()()()()()()()()()、例え慎一が自分をそういう対象として見ているとしても、多分惚れる事は無いだろう。というか、そもそも自分の好みすら分かっていないのだが。

 風呂から上がり体を拭いていると、ドアの開閉音が聞こえた。

 

「「ただいま」」

 

 どうやら佳奈と明日加が帰ってきたようだ。風呂場から顔を出して「お帰り」と返す。浩一郎も学校が終わったらうちに来るとの事なので、浩一郎を待つ事にした。

 浩一郎が来たのは三時半頃、バイクの音が聞こえてきたのですぐに分かった。全員で軽く腹ごしらえをしてそ、れぞれの部屋へ向かう。直葉は勿論自分の部屋、佳奈と明日加は同じ部屋、浩一郎は来客用の部屋でアミュスフィアもしくはナーヴギアを被り、ALOへ入っていった。

 

「「「「リンクスタート」」」」




 本当はもっと書きたかったんですが、どこで区切ればいいか分からなくなりそう(長くなりそう)だったのでここで区切らせて貰いました。
 ここまで読んで下さりありがとうございます。

現在、活動報告でアンケートを実地しています。よろしくお願いします<(_ _)>


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出発

和葉「どうしました?今月は早いですね」
作者「ワイヤレスキーボードを手に入れたらテンションがあがっているのか、執筆が早くなった」


 今更ですが、この作品ではリーファのレコンへの態度が原作よりかなり優しくなっています。具体的には

原作
 リーファ←←←←レコン
今作
 リーファ→←←←←レコン

くらいには。レコンも少し落ち着きを持っています。


ではどうぞ


 昨日泊まった『すずらん亭』でログイン(目を覚ま)した四人は一階で合流し、店を出る。空は朝焼けの色に染まっていた。

 ALOは、毎日同じ時間にしかログイン出来ない者達(会社員等)の為に、ALO内では十六時間で一日が流れる。リーファもコウも最初は慣れなかったが、学校があり決まった時間からしかログイン出来ないので、今ではこのシステムが気に入っている。

 

 ユイも呼び、四人と一人は店を出てアイテムと武具を買いに行く。《世界樹》のある《アルン》までの道のりは長く、そこそこ強いモンスターもいる為、回復ポーションやマナポーション(魔法を使う為に消費するMPを回復するアイテム)、蘇生アイテム等を上限まで買った。

 続いて武具。キリトとアスカの分を買うだけなのでそこまで時間はかからないと思っていたのだが、全て揃え終わる頃には太陽が真上まで昇っていた。いや、防具は時間がかからなかったのだ。

 キリトは胸当てと短パン、アスカが「露出が高すぎる」と言ったのでコート、格闘戦用として篭手を購入。因みに全部黒い。

 アスカは白を強調として青いラインがある服に、防具らしいものは胸当てと軽さ重視のグローブのみ。

 アスカの武器選びはすぐに終わった。ただ攻撃力の高い細剣(レイピア)を選ぶだけだからだ。時間がかかったのはキリトだ。ご存知だとは思うが、キリトは重い片手剣を好む。故に、武器屋のプレーヤーから剣を渡される度に「もっと重いやつ」と言って交換しまくったのだ。最終的に、キリトの身の丈程もある剣に決定した。それとは別に、キリトは短剣を購入した。曰く、「他の武器も使えた方がいいだろ」とのこと。

 基本的に短剣や《(クロー)》を装備するケットシーが両手剣並の剣を装備していると目立つらしいので、キリトは短剣を装備しておく事にした。

 そしてそのまま一行は、スイルベーン中央にそびえ立つ《風の塔》に向かう。何故そこに行くのかというと、風の塔の屋上から翔べば飛翔距離が稼げるからだ。因みに、昨日アスカが衝突した塔でもある。

 ふとリーファは、風の塔の裏にある《領主の館》を見上げる。本来はそこにシルフの領主であり、リーファの親友であるサクヤがいるのだが、シルフの紋章旗が上がっていないので今日一日留守のようだ。挨拶してから出発しようと思っていたが、仕方ないと諦めた。

 

「どうした?リーファ」

 

 それに気付いたキリトが声をかけてきた。リーファは正直に答える。

 

「うん、ちょっと領主に挨拶してから行きたかったんだけど。留守みたいだから大丈夫」

 

「あれ、ホントだ。サクヤさんが一日留守なの珍しいね」

 

「二人は領主さんと親しいんだ?」

 

 まぁね、とアスカの問いにリーファは返す。

 同じ女性プレーヤーということもあり、レコンを除けばリーファが最初に親しくなったのはサクヤだ。以来、リーファは彼女の個人的な頼みを引き受けており、代わりにリーファに困った事があればサクヤが協力してくれる事になっている。

 風の塔に入ると、そこそこの人数のシルフのプレーヤーがおり、キリト達は周囲のプレーヤー達の視線を集めていた。これは、リーファとコウが有名だからだ。

 先も言ったが、リーファはシルフ内での実力が三本指に入る。それに加え、見た目も社交性も良い。リーファに憧れる女性プレーヤーもいる程だ。

 続いてコウ。彼は最初はスパイじゃないかと疑われていた。しかし、誰も見下さない態度や差別をしない(区別はする)事、リーファが彼を『コウにぃ』と呼んでいる事から彼女の兄妹と思い、その疑いは無くなった。実際は義理の兄妹なのだが、そこまで訂正する必要は無いと判断し、放置している。

 更にそこに、ケットシーのキリトとウンディーネのアスカが加わっているのだから、視線を集めるのは当然と言える。

 ある程度進むと、三人の男が正面から歩いてきた。その者達を見た瞬間、リーファの顔が一瞬歪む。その反応からキリトとアスカは、この者達がリーファとコウのパーティメンバーだということを察した。

 

「こんにちは、シグルド」

 

 なんとか笑顔を作って挨拶するリーファに、シグルドと呼ばれた男は挨拶を返す事無く問いかける。

 

「…二人ともパーティから抜けると聞いたが、本当なのか」

 

「あれ、リーファちゃんまだ言ってなかったの?」

 

 まだ彼に言ってない筈なのだが。多分、レコンがサラッと言ったのだろうとリーファはアタリをつける。しかもコウがついて行かないはずがないと思っているようだ。それにサラッと乗る彼も彼だが。まぁリーファ自身、シグルドに伝えるということをすっかり忘れていたので今回は良しとしよう。

 

「まぁね。これから伝えようとしてたとこ」

 

 そんな事を思っている事などおくびにも出さずに、肩を竦めながらリーファはそう言った。シグルドはそれに太い眉を吊り上げ低い声で言葉を発する。

 

「勝手だな。残りのメンバーが迷惑すると思わないのか」

 

 やはりそうきたか、とリーファは溜息をつきたくなった。

 そもそもパーティーにいるのは、前々回のデュエルイベントでリーファがシグルドに勝って優勝した後、彼がスカウトしに来たからだ。リーファはレコンと二人で狩り続けるよりは効率が良いと思い、それを承諾した。条件付きで、だ。

 

「リーファちゃんは『行動に参加するのは都合のつく時だけ』、『抜けたい時にいつでも抜けても良い』の二つの条件で入ったんじゃなかったっけ?」

 

 そうなのだ。コウの言った通りの条件で、遠回しに束縛するなと伝えたつもりなのだ。残念ながら、彼にその思いは伝わっていなかったようだが。因みにコウが入った理由は、そこにリーファがいたから。リーファが抜けるなら自分も抜けると、ハッキリと伝えた。

 

「だとしてもだ、お前達二人は既に俺のパーティーメンバーとして名が通っている。お前達が理由も無く抜け、他のパーティーに入ればこちらの顔に泥を塗られる事になる」

 

 流石にリーファは言葉を失った。というより、若干引いていた。先程シグルドは自分に勝手だと言ったが、自分勝手なのは彼ではないか。正直に言えば、彼の評価などどうでもいい。そんな事で自分達を縛ろうとするんじゃない、リーファはそう言おうとして。

 

「仲間はアイテムじゃないぞ」

 

 シグルドの物言いに我慢できなくなったキリトがそう言う。それにアスカはやれやれと肩を竦め、シグルドは唸り声をあげた。

 

「なんだと…?」

 

 前に出たキリトはリーファとシグルドの間に割って入り、下から睨みつけ言う。

 

「他のプレーヤーはアンタの大事な武具の様に、装備欄にロック出来ないって言ったんだよ」

 

「っ!貴様…!」

 

 キリトのストレートな言葉にシグルドは顔を真っ赤に染めた。そもそも、とキリトは続ける。

 

「リーファから入れてくれって言ったんじゃなく、アンタから頼んだんだろう?で、それをリーファは条件付きで承諾し、アンタもその条件を受け入れた」

 

 腕を組んで淡々と、キリトは話し続ける。背はシグルドの方が高いのに、周囲のプレーヤーはキリトの方が大きく見えた。

 

「だったら、自分勝手なのはアンタの方じゃないか。抜けられるのが嫌なら、最初から『抜けたい時にいつでも抜けて良い』なんて条件、受け入れるなよ」

 

 はぁ、とキリトは呆れた様に溜息を吐く。ついで、何故リーファはこんな男のパーティーに入ったのだろうか、とキリトは疑問に思った。組むならもっと他にもいただろうに。ただその考えは、シグルドの装備を見て納得に変わる。

 彼の装備はどう見てもレア装備で堅そうなのだ。プレーヤースキルがどの程度のものか知らないが、リーファが組んでいたのだから低くはないだろう。

 

「キッ…、貴様ッ!先程から黙っていれば好き勝手言いやがって!!」

 

 シグルドは顔を真っ赤にさせ今にも抜刀しそうな勢いで、ALOでの禁句を言ってしまう。

 

「どうせ領を追放された《レネゲイド》だろうが!!」

 

 瞬間、リーファとコウは怒りで支配されそうになった。それは、良識ある者なら絶対口にはしない蔑称なのだ。

 《脱領者(レネゲイド)》とは、所属する領から離れ《中立都市》を本拠地とするプレーヤーの事を指す。領から離れた理由は大きく分けて二つ。一つは、不祥事を起こし領主に追放された者。そしてもう一つが─せっかく空を飛ぶための翅があるのだからこの世界でくらい自由でいたいとし、自ら領を飛び出した者だ。ALOが始まった当初はその蔑称は誰もが口にしていた。

 基本的に同種族の勢力を拡大する事を目的としているALOでは、彼らは良い扱いを受けない。しかし、前者はともかく後者の考えは共感する者も多く、いつしか彼らの事を脱領者(レネゲイド)と呼ぶ者は少なくなっていた。

 

「レネゲイド、ねぇ…。今じゃあ良識あるプレーヤーは口にしないって聞いていたが」

 

 その事を予備知識として知っていたキリトは静かにそう言い、そしてアスカが引き継ぐように言葉を発する。

 

「リーちゃんは引き抜かせてもらうよ。アンタみたいなプレーヤーに任せておけないから」

 

 青筋をたてて、シグルドは腰にある長剣に手をかけた。

 

「貴様ら…、多種族の領に足を踏み入れるとは、斬られても文句は言わんだろうな…?」

 

 それに対してキリトとアスカは、肩を竦めて応じた。シグルドが抜刀しようとした時、彼の仲間が小声で囁く。

 

「シグさんマズイっすよ。こんな所で無抵抗の、しかもケットシーをキルしたら」

 

 領が隣同士と言うのもあり、シルフとケットシーは仲が良い。そんな相手を人目のあるこの場所で斬ってしまったら、シグルドの評価はどうなるか。そんな事分かりきったことだ。故にシグルドは剣から手を離そうとして─

 

「うっわ、自分の評価ばかり気にする男とかめんどくせぇ。アスカはこうなんなよ」

 

「なるわけないじゃん。評価とかどうでも良いし」

 

「貴様らぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

─二人の明らかな挑発発言に我慢が出来なかったシグルドは、仲間が言葉をかける間も無く斬りかかった。なるほど、リーファが組んでいただけあって疾い。だが、まだまだだ。

 キリトは迫ってくる剣に慌てる事なく左手を前に出し、手の甲に当たった瞬間、左に滑らす。そのまま長剣を踏みつけた。

 

「っ!?」

 

「おいおい、アンタが使ってんのは長刀だろう?だったら─」

 

 キリトは先程買った巨大な片手剣をオブジェクト可、右手で柄を持つ。そして、

 

「─このくらいの速度で振らないとな」

 

 その場で回転し右へ薙ぎ払う。目視出来ない程の速さで振るわれたそれはシグルドの首に命中、壁まで吹き飛ばした。唖然とする周囲と「やっちゃったよ…」とでも言いたげなリーファ達を無視して、剣を肩に担いだキリトはこう言った。

 

「もう二度と妹の前に出てくるなよ」

 

 と。

 

 

 

 エレベーターで塔の最上階まで上ると、そこから見える景色は中々に絶景だった。

 

「へぇ…、凄い眺めじゃないか」

 

「でしょ!リトねぇならそう言ってくれると思ったんだ!」

 

 キリトの言葉にリーファは胸を張ってそう答える。やはり自分の気に入ってる場所を褒められると嬉しいものだ。笑顔だったリーファはしかし、次には少し表情が暗くなる。

 

「リーちゃん、大丈夫?」

 

 アスカの声にリーファは「うん…」と弱々しく答える。

 

「どこにでもああやって縛ろうとする人がいるのはなんでかなぁって思って…。せっかく翅があって、自由に飛べるのに…」

 

 それに答えたのは三人ではなく、キリトの胸ポケットから出てきたユイだった。

 

「人間はフクザツですね。他者を求める心を、あんなややこしく表現する心理は理解出来ません。ママとパパはもっとシンプルに伝え合っているので余計にそう思います」

 

 ユイはキリトとアスカの間で止まり、首を傾げてそう言った。そして突然、ユイはキリトとアスカの頬にそれぞれ口付けをする。

 

「やはりこうした方が相手にも伝えやすいですし、分かりやすいです」

 

 それにキリトは苦笑して答える。

 

「俺達みたいな人間は少数派だよ、ユイ。人間ってのは、そんな単純に生きられないんだよ」

 

 難しいですね〜、とユイは呟いた。ユイは人間と触れ合ってまだ日が浅い。これからもっとたくさんの人と触れ合って欲しいと、キリトとアスカは願う。

 そこへ、新しい声が聞こえてくる。

 

「リーファちゃーん、コウさーん」

 

 四人が振り返ると、レコンがエレベーターから降りてこちらに走り寄っていた。

 

「レコン君、どうしたんだい?」

 

「見送りに来たんですよ」

 

「ん?てことは、君は行かないって事かい?」

 

「はい」

 

 コウは少し驚いた。レコンは付いてくるものだと思っていたからだ。

 そのコウの反応にレコンは、リーファがまだ説明してなかった事を察して苦笑した。

 

「リーファちゃんには言ったんですけど、少し調べたい事があるので残ります。

 キリトさん、アスカさん、二人の事よろしくお願いします」

 

 そう言ってレコンは頭を下げた。キリトとアスカは笑顔で「任された」と言ったが、正直コウに関しては心配することは無いと思う。

 

「それじゃ、行ってくるね。何か分かったら連絡ちょうだい。あんま無茶しないでよ?」

 

「うん分かった。そっちも気をつけてね。調べ終わったっら僕も向かうから」

 

 そうして四人はレコンに見送られ、空に飛び立った。向かうは《世界樹》のある街『アルン』。そこに和葉がいるはずだ。




 うーむ。最近終わり方が雑になって来た気がする…


活動報告にてアンケートを行なっています。期限は今月末までです。よろしければお答えください


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ルグルー回廊

 道中、《イビルグランサー》という単眼の飛行トカゲ型モンスターを腕試しがてらに狩って小休憩しながら飛んでいると、あっという間に洞窟まで到着した。

 巨大な入り口だ。幅も高さも六、七メートルはありそうだ。入り口の周囲には不気味な怪物の彫刻が飾られ、上部中央には一際大きな悪魔の首が突き出している。

 

「ここが《ルグルー回廊》、鉱山都市の名前が『ルグルー』だからこの名前がついてるんだと思う」

 

 さらっと説明してから四人は洞窟の中に入る。中はかなり暗い。リーファがコウに視線を送ると、コウが手を前にかざしスペルを唱えた。すると、先程まで暗かった視界がスッと明るくなる。スプリガンと闇妖精(インプ)のみ使える、パーティーメンバーに暗視能力を付与する魔法だ。一応、他の種族にも類似スル魔法はあるが、それは周囲を照らす魔法なのでモンスターが寄ってくる恐れがある。パーティーの実力が高ければ問題ないので、スプリガンが必ず必要というわけでもない。まぁ、そんな魔法しか持っていないから、あまりスプリガンは人気が無いのだが。

 

 

 洞窟に入っておよそ二時間、《オーク》と十回ほど戦闘を行なったが難なく切り抜け、スイルベーンで仕入れておいたマップのおかげで迷う事なく街まで向かう事も出来ている。

 ルグルーはノーム領の首都である地下大要塞程ではないが良質な鉱石が採掘でき、商人や鍛冶師のプレーヤーが多く暮らしている。それとルグルーは中立都市のため、領を離れたプレーヤーの取引場所にもなっているらしい。

 更に二十分程進むとリーファにメールが届いた。差出人はレコンだったのでメールを開く。リーファが内容を読み終わるのと、ユイが声をあげるのは同時だった。

 

「二十人程のプレーヤーが後方から近づいてきます!」

 

「走って!!」

 

 突然の事ではあったが、三人は迷わず走り出した。そして、キリトが理由を聞く。

 

「どうした?」

 

「レコンからのメールによると、サラマンダーが私達を尾行してるらしいの」

 

 内容は『サラマンダー、尾行、シグルド、裏切り』と単語が並べてあるだけだったが、それだけレコンは急いでメールをうったということだ。

 キリトはリーファの答えに納得したが、そうすると別の疑問が生まれる。いつから尾けられていたか、だ。その疑問は、更に深くなる。

 

「リーちゃん!後ろに赤いコウモリが見える!」

 

「コウさん!!」

 

 リーファの呼び掛けにコウは小振りのナイフを一本取り出し、振り向きざまにコウモリへ投げつける。それは見事に命中、コウモリはポリゴンとなった。

 

「コウさん!今のはなんだ!?」

 

「サーチャーとトレーサーを兼ね備えた上位の使い魔っぽいね。ホントにいつの間に尾けられていたんだか」

 

 最悪、領内から尾けられていた恐れがある。だが、サラマンダーはシルフの領に入れないようになっているはずで、入るためにはパスが必要だ。となると─

 

(シグルド…!)

 

─レコンのメール通り、彼が裏切ったということ。彼ならばパスを発行する事が可能だ。次に顔を合わせたら絶対たたっ斬るとリーファが思っていると、狭い通路を抜け湖が現れた。湖の真ん中に街があり、そこへ向かうための石造りの橋がかかっている。

 

「なんとか逃げ切れそうだ」

 

「…どうだろうね」

 

 橋の中央まで来た時に呟いたアスカに、コウはそう言った。怪訝に思ったのも束の間、四人の頭上を二つの光球が通り過ぎる。それらは十メートル程先に落下、天井まで届く程の大きさの岩壁が出現した。

 

「物理攻撃じゃ破壊出来ないからね!」

 

 飛び掛かろうとしていたキリトとアスカは、リーファの声に踏みとどまる。

 

「これは土魔法だね。魔法を撃ち続ければ破壊できるけど…」

 

「その時間は無さそうだな。水中に逃げるのは?」

 

「無理。凄く強いモンスターがいるから、上位バフ魔法を持ってるウンディーネがいないと」

 

 言いながら後ろを振り向けば、赤い集団が橋のたもとに差し掛かったところだった。前の五人は鎧を、後ろにいる者達はローブを着ている。

 

「じゃ、まず俺から行くよ」

 

 そう言ってアスカは返事を待たずに、レイピアを抜いて疾走した。そのまま勢いを殺さず、引き絞ったレイピアを突き刺す。

 

「はっ!」

 

 それに対してサラマンダーは、両手で持つ壁盾を前に出し防御の構えを取る。アスカの勢い良く突き出したレイピアは盾に当たり、男達を後退させただけにとどまった。男達のHPが一割程減少したが、敵の後方から複数の詠唱音が鳴り響き、男達のHPが瞬時に回復した─直後、複数のオレンジ色に光る火球がアスカに襲いかかる。しかしアスカは間一髪、持ち前の速さで全て回避した。

 

「あっぶなかったぁ…」

 

「出たのがアスカで良かったなぁ…、俺じゃ回避出来ない」

 

「リーファちゃんは回避出来そう?」

 

「五分五分ってところかな、タイミングが難しいんだよねぇ」

 

 それはともかく、これで相手の意図が分かった。あの集団はこちらの対策を練ってきている。リーファやコウは勿論、昨日の森の出来事が向こうに伝わっているようだ。出なければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など組まないだろう。プレーヤーにこれはやりすぎだとリーファは思うが。

 さて、どう攻略するか。相手の作戦は理解した。対物理に特化しているのなら魔法で攻撃すれば良いが、生憎こちらの魔法剣士はリーファのみ。物量で負けてしまう。となると─

 

「─シンプルに正面突破。これに限る!!」

 

 叫びながらキリトが短剣を腰から抜き、走り出した。

 

「アスカ、リーファは回復(ヒール)で援護!コウさんは俺と一緒に来てくれ!」

 

 一緒に走り出そうとしたアスカはキリトからの指示で踏みとどまり、リーファの所まで下がった。コウは小太刀を二本、走りながら抜き取る。そして、敏捷に勝るコウはあっという間にキリトを追い抜いた。その際、何かを呟いたキリトの言葉にコウは頷く。

 

「ふっ!」

 

 壁盾の前まで辿りいたコウは、小太刀で交差するように斬る。ほんの少し後退させ、体制を整えさせる前にすかさず二撃目を叩き込んだ。そして、練撃を叩き込んで空いた数ミリの隙間に短剣を差し込み、なんと強引に抉じ開けようとする。

 それに対して、相手陣営に戸惑いの雰囲気が漂い始めた。対物理に特化した隊列を、物理で崩そうとするものなど見たことがないからだ。それでも、後方の魔法使い(メイジ)達は詠唱を開始する。確かに戸惑ったがあれでは時間がかかりすぎる、そう判断したからだ。しかしその時─タンっと、何か軽い音が聞こえた。

 

「──」

 

 メイジ達が見たのは、コウの背中を押して踏み台にして盾兵(シールダー)を飛び越えた黒い影(キリト)だった。敵の中央辺りに着地したキリトはニッと獰猛な笑みを浮かべ、メイジ達に襲いかかる。

 

「ゴボォっ!?」

 

 喉を掻っ切る。

 

「─あっ」

 

 額に突き刺し、そのまま切り裂く。

 ケットシーの俊敏さと小回りの効く短剣を合わせ、一人一人確実に屠っていく。この中に剣士が一人でもいたら多少は被害を抑えられたかもしれないが、今更遅い。シールダー達は後退しようとしたが、それを許すはずがなかった。

 空いている隙間から、コウは手首のスナップだけでいつのまにか取り出したナイフを投げつける。鎧に阻まれ碌なダメージは入らなかったが、体制を崩すのには充分だった。更に隙間が大きくなり侵入を果たしたコウは、鎧の隙間に小太刀を突き刺す。いくら鎧が堅かろうと、防げなければ意味がない。そうして一人倒したコウは、残りの者には目もくれずキリトの所へ行こうとする。それを阻止しようと、盾をしまい武器を取り出すが─それがいけなかった。

 突然、一番端にいた者が宙に吹き飛ばされそのまま湖に落下、断末魔が聞こえる。何事かと顔を向ければ、先まで壁際にいたはずのアスカがレイピアを突き出した体制でそこにいた。唖然としていると、今度は横に両断される。リーファだ。事前に作戦を決めていた訳では無い。ただ、敵に隙が出来たから前に出てきただけだ。

 一度崩れてしまえば組み直すのは難しい。更に言えば、この時点で既に半数以上がやられていた。後はただ、蹂躙されていくのみ。

 

「ひっ、ひぃぃぃっ…!」

 

 あっという間に敵の数は一人となった。その男に対してリーファは剣を喉元に突きつける。

 

「さて、残りはあなた一人。死にたくなかったらこっちの質問に答えなさい」

 

 相手に恐怖を与えるような笑みを浮かべるリーファに、キリトは若干引いた。あれ、妹はこんな笑みを浮かべるような子だったっけ、と。

 

「こ、殺すなら殺しやがれっ!」

 

 しかし、男は顔面蒼白になりながらも首を振った。素直に喋る事はないだろうとは思っていたので、気は進まないがコウに頼もうとする。すると、

 

「なぁ、物は相談なんだけどな?」

 

 キリトに何やら耳打ちされていたアスカが、男に話しかけた。警戒する男に構わずアイテムウィンドウを出し、男にそれらを見せる。

 

「これ、さっきの戦闘で俺が手に入れたアイテムと(ユルド)なんだが…、質問に答えてくれたら、全部アンタにあげようと思っているんだけどなぁ」

 

 唾を飲み込む声が聞こえた。周りをチラチラと見渡している。迷っているような表情に、もう一押しと思ったアスカは更にこう言った。

 

「OK分かった。んじゃ、残りの三人が戦闘で手に入れた物も追加でどうだ!」

 

 今度こそ男は、交渉成立と言わんばかりにアスカと握手を交わした。

 

 

 男の話を整理するとこうだ。

 今日の夕方頃、ジータクス─先程のメイジ隊のリーダー─から強制収集のメールが届いた。内容は四人を二十人で狩る作戦であり、イジメかよと思ったが理由を聞いて納得した。その理由が、シルフ狩りの名人であるカゲムネ─先日、リーファを追い詰めた男─を倒した者だから。

 更に聞けば、今回の作戦はジータクスより上の者からの命令だったらしい。自分みたいな下っ端には教えてくれないが、なんでもサラマンダーの上の方で何か大きな事を狙っているんじゃないか。実際、ログインした時に大軍で北へ向かっていくのを見た。領から北へ向かうとアルンがあるが、世界樹攻略ではない。目標金額の半分もいってないから、それはありえない─

 

「─とまぁ俺が知ってるのはこれくらいだ。

 …さっきの話、本当だろうな?」

 

「取引で嘘はつかないさ」

 

 そうして約束通りアイテムを貰った男は、ホクホク顔で元来た道を戻っていった。

 

「そういえば、リーファはコウさんに何させようとしてたんだ?」

 

 ルグルーに入ると、キリトがそう聞いた。それにコウは笑顔で答える。

 

「ん?ああ多分、拷問じゃないかなぁ?」

 

「「ゑ?」」

 

 予想だにしない答えに、二人は固まった。リーファは溜息をつきながら言う。

 

「コウにぃ、何でか知らないけど拷問めちゃくちゃ上手くて…。無理やり情報出させるの得意だよ」

 

 出来るだけ頼りたくないけど、こっちもキツイから、と死んだような目でそう付け加えた。同情的な視線を送るが、コウはそんな人物だったろうかと思っていると

 

「出来るだけソフトにやろうとするんだけどねぇ。相手が怯えてるのとか見ちゃうと、ね?」

 

 と、とんでもない事を笑顔で言う。そういえばこの人ドSだったわ、と全員で遠い目をした。それを分かっているのかいないのか、コウは笑顔のままだった。




 浩一郎をドSにしてしまったが、特に後悔も反省もしない。
和葉「しなさいよ。どうするんですかこれ、後々大変な事になる気がするんですが」
 気にしない気にしない

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アルン高原

 あっぶねえ…


 暗い部屋の中、直葉はナーヴギアを頭から取り外し上半身を起こす。スマホを手に取ると、慎一から『起きたら連絡して』とのメッセージが来ていた。こちらとしても好都合なので遠慮なく電話をかける。

 

「もしも─」

 

「─桐ヶ谷さんこのままだとサクヤさんが危ない!!」

 

 ワンコールで出た慎一は、何やら焦っている。いつもなら必ず挨拶を返してくるのだが、直葉の挨拶を遮るのは初めてだ。

 

「慎一君、落ち着いて。焦ってると何言ってるか分かんなくなる」

 

「あ、うん…。ゴメン」

 

 電話越しに落ち着こうとして深呼吸しているのが分かった。そして、慎一は話し始める。

 いつもなら誰かを囮にするシグルドが、最近は自らが囮になる事に疑問を持った事。そこから彼の動向を探ってた事。そして今日、彼の仲間含めた全員がサラマンダーと密会してたのを発見した事。

 

「よくそこまで突き止められたわね」

 

 それが報告を聞いて直葉が素直に思った事だった。他種族、それもシルフと仲の悪いサラマンダーとの密会をするなら、彼らも周囲に気を配っていたはずだ。

 

「途中から密会場所まで透明マントを被ってたんだけどさ。ほら、僕《看破スキル》あるから」

 

 見えちゃうんだよね、と慎一は言う。ホントに慎一(レコン)のステータスは謎だな、と思った。更に慎一は続ける。

 サラマンダーは《メダリオン・パス》─敵対している種族が領に入るためのアイテム─を持っていた事。直葉(リーファ)達にサーチャーを付けたと話していた事。そして─

 

「─あいつら、サクヤさん達を襲うつもりだよ」

 

 現在サクヤは、極秘にケットシーと同盟を結ぶべく中立域の《アルン高原》に出ているらしい。会談場所はそこのケットシー領に繋がる《蝶の谷》、サラマンダーはその調印式を襲撃するつもりだと、慎一は言った。

 

「ちょっ!サクヤには連絡したの!?」

 

 先程のサラマンダーが、大軍が北の方へ向かって行くのを見た、と言っていたの思い出した直葉は叫び気味にそう言った。あの時は何故北に向かったのか理解出来なかったが、その理由が今ようやく理解出来た。

 

「してないです…。それを聞いてすぐに連絡しようとしたんだけど、足元の石を蹴飛ばして気づかれちゃって…地下水道で麻痺させられて捕まってます…。取り敢えずリアルで連絡取れる桐ヶ谷さんにメールをしたんだ」

 

 今回はその判断が正しかっただろう。メッセージの途中でやられると思った慎一は、必要最低限の情報のみを直葉へ送ったのだ。それで直葉が理解してくれると信じ、詳細はリアルで伝えると決めて。

 少し焦りそうになった直葉は、落ち着いている慎一の声を聞いて、焦ってもしょうがないと考えた。

 

「それで、会談の時間は?」

 

「えぇっと、確か一時からって言ってたから…後四十分しかないよ!!」

 

 本当なら優先するべきは和葉の救出だ。故にサクヤを見捨てるのが、現状では最良の判断だろう。種族に思い入れの無い直葉は迷いなくその判断下せる。領主を討たれたところで痛くも痒くもないのだから。それに護衛も何人かいるだろう。自分達が行かなくても大丈夫かもしれない。しかし─

 

(─見捨てられるわけないじゃない)

 

 サクヤは、あの世界で出来た最初の友人だ。仮想世界で人との距離感が分からなかった自分達に、彼女は手を差し伸べてくれた。

 仮にサクヤを見捨てて姉を助けに行ったとしても、事情を話せば彼女は自分を許すだろう。その結果、シルフがサラマンダーに支配されたとしても、決して直葉を恨むことはない。そういう人なのだ、彼女は。

─故に、だからこそ、サクヤを見捨てることはしない。ここで見捨ててしまえば、もう彼女と顔を合わせることは出来なくなってしまう。

 

「私達がなんとかするから、慎一君はなるべく早めに抜け出してきて」

 

「え!?う、うん分かった!」

 

 返事を聞いてすぐに通話を切り、アミュスフィアを被ってALOに戻る。最悪、自分だけでもサクヤを助けに行く覚悟を決めて。

 

 

 目を開いたリーファは勢いよく立ち上がった。

 

「うわ!びっくりしたぁ…」

 

「おかえり、リーファちゃん」

 

 隣に座っていたキリトを驚かしてしまったが、そんなことは後回しだ。コウに返事を返す間も無く、リーファはキリトとアスカに頭を下げる。

 

「ゴメン皆、少し寄り道する」

 

 その様子に、何かあったなと三人はすぐに頷く。即座に四人はアルンに繋がる道を駆け出した。そしてリーファは先程、真一に聞いた話を三人に話す。

 

「なるほどな」

 

「リーちゃん、質問いいかな。シルフとケットシーの領主を襲う事でサラマンダーにはどんなメリットがあるんだ?」

 

 リーファの話にキリトは納得するように頷き、アスカは問いかける。

 

「まず、同盟の阻止が出来るよね。そしてシルフ側から漏れた情報で領主が討たれたとなると、ケットシー側が黙ってないよ。幸いな事に領主同士は物凄く仲が良いから抗争は避けられると思う。でも同盟を組む事は難しくなるし、中にはシルフを狙うケットシーも出てくると思うから、抗争より酷くなる可能性もあるよ。

 今の最大勢力はサラマンダーだけど、シルフとケットシーが組んだら多分サラマンダーより勢力は大きくなると思う。だからなんとしても阻止したいんだと思うよ」

 

 リーファの説明に付け足すようにコウも話し始める。

 

「それに加え、領主を討つ事自体に意味があるんだ。討たれた側の領主館に蓄積されている資金の三割を無条件に手に入れられるし、十日間の間、領内の街は占領状態になって自由に税金をかけられる。

 サラマンダーが最大勢力になったのは、初代シルフ領主を罠に嵌めて倒したから。中立域に領主が出る事は稀だから、領主が討たれたのはその一回だけらしいよ」

 

 たった一回、領主が討たれただけで勢力を大幅に強化出来る。二種族の領主が討たれてしまえば、サラマンダーに勝てるのはかなり難しくなるだろう。

 正直に言ってしまえば、そんなことは四人にとってどうでもいい事だ。ましてや、キリハを助けるためにこのゲームを始めた二人には。しかし─

 

「─ようするに、リーファは領主を助けたいんだな?」

 

 キリトの問いにリーファは頷く。なら話は簡単だ。リーファ(家族)がそれを願うなら手を貸す。それだけだ。

 

「オーケー、じゃ助けに行こうか。リーちゃんの友達を見捨てるのは後味が悪いしね」

 

「…ありがとう。佳奈ねぇ、明日にぃ」

 

 泣きそうな顔でリーファは立ち止まり、礼を言った。リーファとしてではなく、直葉の言葉として。それに全員が笑みを浮かべる。

 

「んじゃ、ちゃっちゃとこの洞窟を抜けちゃおうぜ。ユイ、ナビゲートよろしく」

 

「お任せください!」

 

 ユイが敬礼するのを確認したキリトは、「少し手を拝借」とリーファの手を掴んだ。リーファは疑問符を頭に浮かべる。

 

「アスカとコウさんはついてこれるよな」

 

「?」

 

(あぁ…)

 

 いまいち何をするか分かっていないのか首を傾げるコウ。反対に何をするか分かったアスカは苦笑した。そしてリーファに向かって、頑張ってと口だけを動かして伝える。

 

(嫌な予感がしてきたなぁ…)

 

 リーファがそんな事を思っているなど知るはずもないキリトは、行くかと言って笑みを浮かべ─猛烈な速さで駆け出した。

 

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!??」

 

 いきなりのことでリーファは悲鳴をあげる。無理もない。岩肌のテクスチャが放物線状に見える速さなのだ。心の準備が出来ていないのだから、悲鳴をあげるのは仕方ない。

 ちらりとキリトが背後を見れば、ちゃんと二人もついてきている。問題無いなと、キリトは前を向いた。

 

「前方にモンスター反応多数です!!」

 

 ユイがそう言うと、前方に多数の黄色いカーソルが出現した。この洞窟に出現する《オーク》の集団だ。この速度なら隙間を見つけて通り抜ける事も出来るが…。万が一、他のプレーヤーに遭遇(トレイン)して恨まれるのは避けたい。故に。

 

「アスカ!」

 

 名前を呼ばれたアスカは抜剣しながらキリトを追い抜き、オークの集団をすれ違いざまに切り裂いて行く。銀色の線が引かれるとオーク達は不自然な体制で固まり、次いでポリゴンとなって砕けたようだ。というのも砕けた時には既に通り過ぎてしまっていたので音で判断するしかなかったのだ。

 その後もオーク+その他の集団と遭遇したが途中からコウも加わり、二人がそれら全てを斬り裂いていていく。そうするうちに、前方に白い光が見えてきた。

 

「出口だな」

 

 キリトのその言葉と共にリーファの視界が真っ白になった。あまりの眩しさに目を閉じると、足元から地面が消える。浮遊感を感じてリーファが目を開けると、そこは既に空中だった。いつの間にか止めていた息を慌てて吐き出し、翅を展開する。

 

「はぁ…もうっ走るならそう言ってよ!」

 

「悪い悪い。でも時間が無いんだろ?」

 

 それはそうだが、走るぞの一言でも言ってくれれば絶叫せずにすんだ…かもしれなかった。蛇足ではあるが、この時の感覚にハマったのか、後にリーファはスピードジャンキーとなる)。

 リーファは溜息を一つ、顔をあげると遠くに巨大な木が見えた。《世界樹》、あそこに和葉(キリハ)が捕まっている。コウはそれを考えるとすぐに向かいたい衝動にかられたが、ぐっと我慢してリーファに付いて行く。。

 密会まで、後二十分。




 最後まで観ていただきありがとうございます。誤字脱字、又おかしな表現等がありましたら御報告お願いします。


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ユージーン将軍

先月は投稿出来ずすいません。今月もこれだけになるかもしれません。
和「作者は受験があるようなので、今回は許してあげて下さい」


ではどうぞ


「─前方にプレーヤー反応多数、数六十六。これがサラマンダーの強襲部隊と思われます。更に向こう側に十四人、シルフ及びケットシーの会談出席者と予想します。双方接触までおよそ五十秒です」

 

 洞窟を抜けてしばらく高度限界を飛んでいると、不意にユイがそう言った。その直後、下にある雲の隙間から赤い集団が目に入る。サラマンダーだ。その向こう側にある円型の台地にそれぞれ七人ずつ、シルフとケットシーが見えた。まだサラマンダーに気付いていないようだ。

 

「ん?あれ、ユージーンじゃないかな」

 

 サラマンダーを見ていたコウが一人装いの違う者を見つけ、そう言った。

 

「誰それ?」

 

「ALO最強プレーヤーって言われてる人だよ、アスにぃ」

 

 その言葉を聞いたキリトは考えるように顎に手を当て、「あれがねぇ…」と呟きユージーンをジッと見る。そして口を開いた。

 

「アスカは俺と来てくれ。リーファとコウさんは領主さん達の所へ」

 

 言うと同時にキリトは翅を震わせ急降下を始めた。あまりの速さにリーファは一瞬、キリトを見失う。慌てて下を見れば、既にユージーンの前で急停止し─短剣を振るっていた。それをユージーンは手に持っていた両手剣で防ぐ。

 

「よぉ、アンタが噂のユージーン将軍だな」

 

 ニィッと口端を吊り上げ、そう言った。

 

 

 

(なんだこのケットシーは)

 

 それが、ユージーンの心境だった。今回の作戦は極秘、外に漏れるはずがなく、会談中のケットシー達も先程まで気付いた様子は無かった。たとえ気付いていたとしても、あまりにも援軍が来るのが早すぎる。

 そう考えるユージーンをよそに、男のウンディーネが隣に来ると女のケットシーは口を開いた。

 

「俺の名前はキリト、こっちはアスカ。さて、単刀直入に言おうか。俺と決闘しろ」

 

 短剣を突きつけそう言うと、空気が固まった気がした。全員から冗談だろ?という雰囲気を感じる。(アスカ)が溜息をついたが、(キリト)は反応しなかった。

 

「ふん、何故貴様と決闘する必要がある。領主を助けに来たんだろうが、貴様に付き合う理由は無い」

 

 そうユージーンは言ったが、キリトは不敵な笑みを浮かべたままだった。

 

「いやいや、これはアンタ達のためでもあるんだぜ」

 

「…どういうことだ」

 

 意味が分からず、ユージーンは問いかける。領主を逃がすための時間稼ぎだとも思ったが、領主が逃げる動きは無い。何を狙ってるのか、全く分からなかった。

 

「確かに人数差は圧倒的にそっちが多い」

 

 でもな、と続ける。

 

「俺達の誰かがアンタさえ押さえておけば、領主を逃すだけの時間は稼げる」

 

 その場の全員がどよめいた。よく見れば、会談場所に落ちた二つの影の片方は、シルフ領に属するスプリガン(コウ)だ。毎回、というわけではないが、シルフ狩りの際にあの男に邪魔をされたと報告を受ける─

 

「でもそうなると、互いに被害が大きいだけだ。そうなるのは俺らも、そっちだって不本意だろ?」

 

─ということは目の前にいる二人は、(モーティマー)の言っていた『計画の邪魔になる者達』か。

 改めてユージーンは、目の前の笑みを浮かべたケットシーを見る。

 

(兄者は確か、追手を放ったと言っていたが─)

 

─しくじったか、とユージーンは結論づける。なるほど、大口を叩くだけの実力はあるようだ。フッとユージーンは笑みを浮かべた。

 

「貴様の言いたいことは分かった。もし俺が勝てば領主を差し出すと言うことで良いのだな?」

 

「それは断る」

 

 ノータイムで、キリトはそう言った。眉を吊り上げ、ユージーンは怒気を含んだ声で「何故だ」と問う。

 

「俺らは領主を討たせないために来てるんでね。アンタらは金が必要なんだろ?」

 

 そう言うと二人はウィンドウから一つずつ、大きな皮袋を取り出した。その中から青白いコインを手に取り、ユージーンに投げ渡す。それを受け取ったユージーンは目を見開き、驚愕した。

 

「十万ユルドミスリル賃だと…。それら全てがか?」

 

 正解だと言うように、キリトはニッと笑みを浮かべた。二人の持ってる袋の大きさからして、少なく見積っても、一等地に城は建つ金額はありそうだ。

 元々この任務は、十人程度の護衛を連れた領主を狩るだけの簡単なものだった。それがどうだ、四人とはいえ、強敵と思われる者が現れた。領主を討つ事は出来るかもしれないが、万が一逃げられた時のリスクが大きい。

 しかし向こうの提案を飲めば、当初よりも利益は少ないだろうが負けた時の被害も少ない。だが果たして本当に、その条件に見合う程強いのだろうか。ただのハッタリではないのか。

 

「ふっ、良いだろう。貴様が俺の剣を三十秒耐え切ったら、その条件を受けてやる」

 

 故にユージーンは、試してみる事にした。もし持ちこたえられなければ、即座に攻撃を仕掛ける。

 

「随分気前が良いな」

 

 笑みを浮かべたままキリトは短剣をしまい、代わりに身の丈程ある剣を取り出す。同時にアスカはリーファ達の所まで下がっていった。

 

(ユージーン、現ALO最強プレーヤー…)

 

 そして手に持っている両手剣が《魔剣グラム》。とあるエクストラ効果が付与された伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)の一つ─

 

「─相手にとって不足ねぇっ!!」

 

 獰猛な笑みを浮かべ、キリトが突貫をかけた。

 下から切り上げるように振るうが、難なく防がれる。次いでユージーンが上段から振りかぶった。それを受け流そうとキリトは剣を頭上に掲げる。そして二つの剣が衝突しようとした─その瞬間、赤い剣が黒い剣を()()()()直撃、キリトを吹き飛ばした。

 

「何今の!?」

 

 絶句するリーファに説明したのはコウだった。

 

「《エセリアルシフト》、剣や盾で防御しようとすると非実体化してすり抜ける、魔剣グラムに付与されてるエクストラ効果だよ。あれを初見で防ぐのはキツいなぁ」

 

「なんでそんな落ち着いていられるのかナ!?伝説級武器で一撃くらったんだヨ!?あの子死んじゃったんじゃ…」

 

 あまりにも落ち着きのあるコウにケットシーの領主、アリシャ・ルーがそう叫ぶ。確かにアリシャの言ってることは間違ってない─が。

 

「それは心配ないですよ」

 

 アスカがそう言った直後、土煙から黒い影(キリト)が飛び出しユージーンに斬りかかった。

 

「ほう、生きていたか」

 

 軽々と防ぎながらユージーンはそう呟く。

 

「おいおい、そっちが防ぐ時はすり抜けないとか卑怯じゃないか?」

 

「俺ではなく製作者に言え」

 

 互いに軽口を叩きあいながらも攻防は続いていた。切り上げ、切り下げ、薙ぎ払い、それら全てをユージーンは防ぎ、一瞬の隙をついて攻撃に転じる。右から振るわれた攻撃に、キリトは反射的に剣で防ごうとしたが再び非実体化、脇腹に叩き込まれた。

 

「がっ!」

 

 回転して吹き飛ばされたのを翅を広げて急停止、剣が食い込んだ箇所を左手でさする。

 

「いってぇ…クッソ()()()()()

 

 そう呟いたキリトに、ユージーンが上から声をかけてきた。

 

「三十秒耐えたか。中々やるな。では、このまま続けさせてもらうぞ!」

 

 ユージーンはそう言って急降下、剣を振り下ろした。それを半身ずらして躱し、そのまま回転して後ろから首を狙う。しかしユージーンは既に剣の範囲外、当たることはなかった。

 

「─まずいな」

 

 キリトとユージーンの攻防を見てシルフの領主、サクヤがそう呟いた。

 

「プレーヤースキルは互角と言えるが、武器の性能が違いすぎる。あの魔剣に対抗出来るのは、同じ伝説級武器の《聖剣エクスカリバー》だけと言われているが、それは入手方法すら不明だからな…」

 

 サクヤの解説に、シルフとケットシーから諦めの雰囲気が漂い始める。しかしそれでも、アスカ、リーファ、コウの三人は武器の性能差ごときでキリトが負けるとは、微塵も思っていなかった。

 

「流石ユージーンだね。武器の性能に頼ってない。最強プレーヤーの名は伊達じゃないか」

 

「アスにぃは勝てる?」

 

「うーん、どうだろう。正直キリトと()りあえる奴がいるとは思わなかったからなぁ。俺だったら負けるかも」

 

 少なくとも一回目は、とアスカは肩を竦めた。アスカは自分が油断しやすい性格と自覚している。その点、キリトは相手が誰であろうと油断はしない。

 領主含めた他の者達は、何故そんなに落ち着いていられるのか理解出来なかった。故にその理由を聞こうとして─音が聞こえてきた。通常の戦闘では聞こえるはずの、先程までは聞こえなかった音。すなわち、金属音。全員が顔を上げ目に映ったのは、グラムを()()()()キリトの姿。信じられないと、アスカ達三人を除いた全員が目を見張る。

 《エセリアルシフト》は剣や盾で防ぐこと事は出来ない。なるほど、聞いただけでは対処のしようが無いものだ。しかしゲームの世界において、対処出来ないものなど存在しない。必ず抜け道はある。

 剣や盾で防ぐ事が出来ない、ならば()()()()()()()()()()()()()()。そしてその考えは正解だった。後は相手の動きを覚えるだけ…と思っていたのだが。篭手で剣を受け流すなど初めての事だったので、二激目はくらってしまった。

 

(それでも、練習してた訳じゃないのによく順応出来るなぁ)

 

 そう思ったアスカの視線の先では、キリトが先程から変わらずグラムを受け流している。受け流すのは慣れたが、持っているのが巨剣のせいで攻撃に転じられないのだ。

 

(さて、キリトちゃんはどうするかな?)

 

 コウは、キリトがここからどうやって切り抜けるのか楽しみだった。あの世界ではどうやって危機をくぐり抜けてきたのか、どんな技術を身につけたのか─

 

(─僕に魅せてくれ)

 

「─アスカぁ!!」

 

 名を呼ばれたアスカは音高くレイピアを抜き、迷わず()()()()()()()()()()()()。それを見ずに左手で取ったキリトはグラムが黒剣をすり抜けた瞬間に、レイピアで弾く。

 

「!?」

 

「シッ!」

 

 剣で防がれたことに驚愕したユージーン、その隙を逃さずキリトは連撃を叩き込む。巨剣とレイピア、全く重さの違うはずのそれらを完璧に使いこなしていた。ユージーンも負けじとグラムを振るうが、連続での透過は出来ないらしく、二つ目の剣で弾かれる。

 空中に流星のような黒と白の光の線が無数に描かれる。先程と真逆、今度はユージーンが防戦一方となる番だった。

 

「うぉぉぉぉぉぉおお!!!」

 

 しかし、それは強者と自負しているユージーンにとって許されることではない。腹からの咆哮をユージーンが放つと何れかの防具の特殊効果か、薄い炎の膜が放射されキリトを僅かに押し戻す。その隙にグラムを上段に構え、思い切り振り下ろす─

 

「─遅せぇよ」

 

─より早くキリトがユージーンの手首を切り落とした。驚愕に目を見開くユージーンに、レイピアを胸に突き刺す。そのまま左上に切り上げ、即座に巨剣を右上から振り下ろすためにあげた。それを見たユージーンは自分の負けを悟り、笑みを浮かべ一言。

 

「─見事」

 

 その一言を最後に、ユージーンは左肩から右脇腹にかけて切り裂かれる。体が斜めにずれ、次いでリメンライトと化した。

 場が静寂に包まれる。そして一瞬後、敵味方問わず歓声が爆発した。口笛や拍手、果てには武器を旗のように振り回す者もいる。正直に言えば、ユージーンを倒した後にサラマンダーが突撃してくることも予想していたが、それは杞憂に終わったようだ。

 歓声の中心にいるキリトは巨剣を背中にしまい、右拳を上に挙げる。こうしてALOの最強プレーヤーとの決闘は、キリトの勝利で終わった。

 

 

 

 

 あの後、ユージーンを蘇生しサラマンダー部隊には約束通り帰ってもらった(その際、もう一度戦おうと言われてしまったが)。現在は領主達に状況を説明している所だ。

 

「─なるほどな」

 

 それがリーファから状況を聞いたサクヤの一言だった。曰く、最近シグルドの態度に苛立ちめいたものが潜んでいたのは感じていた。しかし、独裁者と見られるのを恐れて合議制に拘るあまり、彼を要職に置き続けていた。彼が苛立っていたのは、サラマンダーに勢力的に負けている現状が許せないのだろう、とサクヤは予想した。そしてスパイを受けたのは《アップデート五・Ø》で実装される《転生システム》、それを条件にモーティマーに乗せられたのだろう、と言った。

 

「くだらねぇなぁ」

 

 ため息を吐きながらそう呟いたのはキリトだった。口には出さないがアスカも同じ心境だ。

 ゲーム内で強さを求めるのも、負けて悔しいのも当たり前。けれど楽に強者になるより、自分で強さを手に入れる方が面白いのではないだろうか。自分より上にいる奴らを利用するならまだしも、そいつらの下に行って満足するのは違うと思うし、くだらない。

 そんな男に妹が利用されてたと思うと、怒りがぶり返してきた。次会った時は問答無用でぶった斬る、とキリトが物騒な事を考えているといつの間にか、そこにシグルドがいた。正確に言えば、そこにある鏡にシグルドが映っているのだが。

 闇属性魔法《月光鏡》。遠くにいるプレーヤーの姿を鏡に映し、会話する事が可能。どうやらサクヤは、直接シグルドに物申しているようだ。そして恐らくは、領主の権限を使って追放しようとしていた。

 何事かを喚こうとしたが、それよりも早く彼の姿が鏡の中から消えた。

 

「サクヤ…」

 

「…私の判断が正しかったかどうかは次の領主投票で分かるだろう。

─ともかく、礼を言わせてほしい。君達が来なければ私達はやられていた。ありがとう」

 

「ありがとネ!」

 

 そう言ってサクヤは右手を胸に当て上体を傾け、アリシャは頭を深々と下げてそれぞれ一礼をした。護衛の者達も例外なく感謝を述べる。

 

 

 

 そして今回の礼として、世界樹攻略を手伝ってもらうことになった。しかし目標金額までがかなり遠いそうで、すぐには無理とのこと。そこでキリトとアスカが全財産を領主に渡した。全員が絶句するほどに驚愕した時は流石に笑いそうになった。かなりの金額を持って中立域にいるのはゾッとしないらしく、領主達は会議の続きはケットシー領で行うと言って去っていった。

 

「さて、じゃあ行きますか」

 

 このままアルンへ向かいたいところだが、もう夜も遅い。明日(もう今日か)は休みとはいえ、どこかで宿を見つけなければ。まぁ、一文無しになってしまったので格安宿に泊まることになるが。コウとリーファはため息を軽く吐いて、足りなかったら自分達が払うと言った。

 ユイを呼んで近くの村を探してもらい、翅を広げ四人は飛んでいった─。




和「無理矢理終わらせた感じがするのですが」
それは思った。でもそれ以上にさっさと投稿しなければと思った。
和「それで雑になったら読者減りますよ?」
ぐぅ正論


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ヨツンヘイム

本当は一話で終わらせるつもりだったんですが、思った以上に長くなりそうだったので分けることに。


─なんでこんな事になってるんだろうなぁと、私は少し現実逃避したくなった。いやまぁ、私が原因ではあるんだけど。最初に斬りかかろうとしたの私だし。でもだからって─

 

(─明日にぃ、暴れすぎじゃない?)

 

 そう思いながら前を見ると、明日にぃがウンディーネのパーティーを持ち前の速さで蹂躙してた。今はメイジ達だけとは言ってもそれは凄いこと。だって邪神を狩ってる人達だよ?レア装備でガッチガチに固めてるし、バフも盛ってる。それなのに向こうの攻撃を全部避けて一方的に攻撃してるんだから、普通の人が見たら絶句する光景よね。

 私?明日にぃ達の無茶苦茶っぷりにはもう慣れたよ。昔から一緒にいるしね。

 あぁそうそう。言い忘れてたけど、ここに佳奈ねぇと浩にぃはいない。で、今いる場所は邪神モンスターしかいないALO最難関ダンジョン、《ヨツンヘイム》。別名《氷の国》。一ヶ月前くらいにアップデートで追加された場所だよ。じゃあ、なんで私達がここにいるか説明するね。

 …って私、誰に向かって語ってるんだろう?

 

 

 1時間くらい前、サクヤ達と別れた私達はログアウトしようと近くの宿を探した。そしたら森の中に小村が見えたから、これ幸いと降りたのが間違ってたんだよねぇ…。多分、全員眠過ぎて正常な思考ができてなかったんだと思う。

 まず、村にNPCがいない事に疑問を持ったけど、宿屋にはいるだろうって事でそこは無視。一番大きな家を見つけて入ろうとしたら突然、村にあった三つの建物が同時に泥みたいに崩れた。その瞬間に佳奈ねぇは翅を広げて「逃げろ!!」って叫んだんだけど、それに反応出来たのは浩にぃだけ。私と明日にぃは反応出来ず、口みたいに開いた地面に食べられた。後で分かったことなんだけど、この村自体が巨大モンスターの疑似餌だったんだ。今まで情報が無かったってことは多分、最近実装されたんだと思う。このアルン高原、通る人多いもん。勿論ユイちゃんの案内で降りたんだけど、あの疑似餌、マップにも表示される仕様だったのよ。初見殺しね。

 幸いだったのは、あれは捕食するためじゃなくてヨツンヘイムに強制的に移動させるためのトラップだったって事と、ユイちゃんがこっちにいてくれた事。最悪の事態に変わりないけど。

 で、私と明日にぃはどうしようか相談した結果、邪神狩りパーティーと合流して出口まで同行させて貰うことにしたの。出口はあるんだけどそこには扉を守護する邪神がいるし、私達だけじゃそこに行くまでに死んじゃう。まぁさっきも言った通り、ここは最近実装されたばっかだからパーティーに遭遇する可能性も低いし、どっちにしろ運任せなのよね。

 早速ユイちゃんに周囲にプレーヤーがいるか探してもらったけどいなくて、ただここにいるだけじゃ絶対に助からないから移動することにしたの。こっちには可愛くて優秀なユイちゃんがいるし、出口に近づけばパーティーと遭遇する可能性も高まるかもしれないからね。

 決まったら即行動ってことで移動しようとしたその時─すぐ近くから邪神の咆哮と地響きみたいな足音が聞こえてきたんだ。どう考えても邪神です、本当にありがとうございました。全然有難くないし、ここにいるのは邪神しかいないから当たり前なんだけど。

 で、急いでその場を離れようとしたら、もう一つ今すぐにでも消えそうな邪神の声も聞こえてきた。一匹でも危険なのに、二匹も遭遇したらただの絶望、でも様子がおかしかった。ユイちゃんが言うには、二匹の邪神はお互いを攻撃しあってるらしい。どうせだし、様子を見に行こうって話になって声のする方に向かった。そして私達が目にしたのは、ユイちゃんの言った通り大きさ二十mはありそうな邪神が二匹、争ってる姿だった。大きい方は、縦に三つ重なった顔に腕が四本生えて、それぞれに大剣を持ってた。まぁギリギリ人型だったかな。もう一匹の少し小柄な方はなんというか…水母(クラゲ)に象の頭がくっついたような姿をしてたんだよね。触手には鋭い鉤爪がついてた。

 しばらく様子を見てたんだけど、ずっと水母の邪神の方が劣勢だった。逃げようとしても逃げられなくて、ひたすら人型邪神の攻撃を浴び続けて、どんどん弱々しくなる声を聞いてたら助けたくなっちゃったんだ。正気かって疑われるかもしれないけど、思っちゃったから仕方ないよね。

 明日にぃはすぐに了承してくれたけど、問題はどうやって助けるか。下手に助けて、私達がやられたら意味がない。頭を抱えて考えてたら、明日にぃがユイちゃんに近くに水面があるかって聞いたの。ユイちゃんは疑問も持たずに周囲を探して、二百mくらい走れば凍った湖があるって。すると明日にぃが、湖まで走るよって。もうこの時点で私は嫌な予感がしてた。その予感は大当たり、明日にぃはピックを手に持って─三面邪神に思いっきり投げつけた。それが当たった瞬間、私達はユイちゃんの示す方に走り出した。何でかって?邪神が追いかけてくるからだよ。

 明日にぃがピックを投げつけたのはタゲをこっちに向けさせるため。後ろから怒りの咆哮と地響きが追いかけてくるのは生きた心地がしなかったね。ていうか明日にぃ速すぎ。私の腕を引っ張ってくれたのは嬉しいんだけど、佳奈ねぇより速くて目が回ったよ。

 それはともかく、私達は氷結した湖の真ん中当たりで立ち止まった。勿論、三面邪神も追いかけてきたけど、重みに耐えられずに氷が割れて水に落ちた。そのまま沈んでくれれば良かったけど、まぁそう上手くはいかないよね。二本の腕をオール代わりにして泳いできた。でも今度は逃げなかった。三面邪神の後ろから、水母邪神が来るのが見えたから。

 水母邪神は水の中に勢いよく飛び込むと、さっきまでは自分を支えるのに大半を使っていた二十本くらいある触手全てを、三面邪神に巻きつけた。三面邪神は剥がそうともがくけど、二本の腕は使えないから引き剥がせない。そう、水母邪神は水棲モンスターだったのよ。そりゃあ陸上じゃあ劣勢にもなるわよね。自分を支えるために触手の大半を使ってるんだから。でも水の中なら本領発揮出来るから、今度は一方的に攻撃できる。そこからは水母邪神が青いスパークを浴びせて、あっという間に終了。

 本来ならすぐにその場を離れるべきなんだろうけど、何故かその子は私達を襲わずに背中に乗っけてくれて、そのままどこかに移動し始めた。二十mの高さから落ちたら流石に死んじゃうから、私達は景色を楽しむ事にしたの。クエストが発生したわけじゃないし、何かのイベントかな。まぁ、邪神を助けるなんて私達くらいだろうから、今までこの情報が出なかったのは当たり前かな。

 あ、そうそう、その時にこの子の名前を付けたの。名前は『トンキー』、あんまり縁起は良くないけど可愛いからオッケー。トンキーっていうのは、ある絵本に出てくる象の名前。最後には餓死しちゃうからあんまり私は好きじゃなかったなぁ。あともう一つ、トンキーに乗ってる時にも邪神と遭遇したけど、一匹も襲ってこなかったのよ。何でかなって考えたら、その邪神達は一匹も人型じゃなかったんだよね。そこから考えると、邪神にも敵味方があるみたい。これは明日にぃも同意見。

 そのまましばらく歩いていたら、凄く大きな穴の前でトンキーが止まった。どうしたんだろうって思ってたら、突然その場で蹲ったんだ。見た目が完全に白くて大きい饅頭(まんじゅう)だったよ。柔らかかった体表は硬くなるし、でも死んだわけじゃないし、更にはウンディーネの邪神狩りパーティーが来るしで大変だったよ。

 向こうのリーダーさんは私達にトンキーを狩るのかどうか聞いてきた。勿論狩るわけない。でもこの人達に狩らせるわけもないから、見逃してもらおうと思ったんだけど。そんなことを向こうが認める筈もなくて。一応、私達にトンキーから離れる時間はくれた。本当は離れたくなかったけど、明日にぃが私の手を引っ張ってトンキーから無理矢理離した。明日にぃの事だから、さっき友達になったばっかりのトンキーより私を優先したんだろうってことくらい分かる。でも私は、そんな明日にぃの気持ちを無駄にしたんだ。

 重装備で攻撃されて、上位魔法で焼かれて。それだけで私は心を痛めたのに、そこにトンキーの小さな悲鳴が聞こえてくるんだよ?もう我慢できなかった。

 私は心の中で謝って、一番近いメイジに向かって走りだした。その人は足音に気付いてこっちを向いたけど、遅い。私は抜剣して斬りかかろうとしたら─私の横を風が通った。そのすぐ後に聞こえる斬撃音。メイジが少しだけ体を浮かした後に連撃を加えられて、その人は声を出す暇も無く消滅した。そこでようやく、明日にぃが私を追い越してメイジを葬った事に気付いた。

 明日にぃはそのまま他のメイジに走り寄って、並んでいたメイジの一人を吹き飛ばした。そこでようやく向こうの人達は異常に気付いたようで、何かを言おうとした。その前にその人も吹き飛ばしてたけど。メイジ達は長文の大型魔法から短文の高速魔法に切り替えたんだけど明日にぃの方が明らかに速くて、スペルを言い終わる前に斬られる人が多数。ホーミング型も混じってたけど、当たる直前に持ち前の速さで回避してた。ホーミングって言ったって直角で曲がるわけじゃないからね。まぁ、消えたように見えるレベルの速さが無いと出来ないけど。

 そういえば、明日にぃの通り名は『閃光』って言ってたっけ。目の前で見てる今なら分かる。レイピアの刺す動きが速すぎて、光が乱反射してるように見えた。

 

 ここまでがさっきまでに起きた出来事。さてと、私も見てるだけじゃなくて参戦しないと。向こうさんも気付いたみたいだし。

 二人とも死んじゃったら、三人に謝らないと。特に浩にぃ。私達の中で、一番和ねぇの事を想ってる人。あの須郷(いけ好かない男)よりもよっぽど任せられる。やっぱり、姉達には幸せになって欲しいからね。あの男の好きにさせてやるもんですか。




ただ明日加を活躍させたかっただけ


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覚醒

今年中に終わらせたかった…

因みに後、二話程で終わると思います。


「─やぁぁあ!!」

 

 声をあげ斜めに斬り下げ、その返しで横に斬る。よろけた所をアスカが速さを乗せたレイピアで貫き、HPを全損させた。

 これで二人目。向こうは既に全員気付いている。向こうのリーダーである斥候(スカウト)が次々と矢を放っているが、アスカには当たらない。スカウトの放つ矢はかなり早く、普通なら避けるのは困難だ。しかしSAO(あの世界)で随一の速さを誇っていたアスカにしてみれば、矢を放つ事を目視してから回避するのは容易い。しかしその為には、常にスカウトを視界に入れていなければならない。故に─

 

「アスにぃ!!」

 

─リーファの声でスカウトを視界に入れ、飛翔してきた矢を顔を逸らして回避する。そのまま近くにいた者にレイピアを突き立て、そこをリーファが追撃し葬った。

 スカウトを見ようとしたリーファだったが、スペルが聞こえたのでその場から回避、瞬間そこを光線の如き水流が足場を削った。相手方は攻撃の当たらないアスカよりも、先にリーファを倒すことに決めたようだ。実際、リーファがサポートに回っているからこそ、アスカに攻撃が当たっていない所もある。倒せそうな方から倒す、その考えは当たり前の事だ。

 アスカのサポートをしながら凌ぎ続けるのは不可能。中途半端なサポートは逆に危険だ。故にリーファはアスカのサポートをやめ、自分が生き残る為に索敵魔法を放ち、防御に回る。それを認識したアスカは出来るだけ魔法と矢を撃たせないように邪魔をし始めた。

 

(そろそろ重装備(タンク)のプレーヤーが戻ってくるからキツイけどね)

 

 もう後十数秒もすればタンクの者が来て、一方的にやられるだろう。ここまでは、相手がメイジとスカウト(軽装備)だから出来たことだ。とはいえ、大人しくやられるつもりもない。

 

(スグちゃんが防御に回って俺がメイジの邪魔をすれば、まぁそこそこ持つはず─)

 

─なにせ、完全な守の体制に入ったリーファ(直葉)を崩すのは困難なのだから。

 本人は姉達に勝てるのは剣道だけと言っているが、守りに関して言えば彼女に勝る者は(彼女らの親を除けば)いない。これは疑問ではあるのだが、何故かリーファは守りの時のみ反応速度が尋常ではないのだ。それ故、リーファの守りを崩すには完全な死角からの不意打ちしかない。尤も、それを行うのは一般人には不可能であろうが。

 更にいえば、ここはゲームの中。索敵魔法を先に放っておけば、死角などない。制限時間は五分、それを過ぎてしまえばやられてしまうかもしれない。しかし最後のその瞬間まで噛み付いてやると、トンキー(友達)のために、そう簡単にやられてたまるものかとリーファは意気込んでタンクを斬っていく。

 

 

 一方で、スカウトは畏怖の念を抱えていた。何故、たった二人にここまで苦戦させられるのかと。こちらは対邪神用の装備を揃えているのに。不意打ちを食らったといえ、人数も圧倒的にこちらが多いのに、何故この二人は全く怯まないのか。そもそもあのウンディーネは何故、我らと敵対している?

 

「おい!お前同種族(ウンディーネ)だろ!?なんで他種族に加担してんだよ!?」

 

 同じ事を思った仲間がそう叫んだ。それに対し、男はただ一言だけ。

 

「家族だから」

 

 それだけ言ってレイピアを連続で突き刺し、葬った。もう今ので十人近くやられてしまった。これほどの者がウンディーネにいたなら噂は立ったはず。何故今まで聞かなかったのか。

 

「タンク隊、メイジ隊を守れ!!メイジ隊は大型魔法を唱えろ!!」

 

 しかし、今はそんな事を考える暇などない。そう命令を下せば、タンクはすぐに生き残っているメイジにつき、武器をしまいタワーシールドを取り出す。これではスピード型の二人では突破できない。

 二人は、もうこれ以上抵抗しても無駄だということは分かっている。だが生憎(あいにく)、二人は諦めが悪い。アバターが砕け散るその瞬間まで敵を葬り続ける。二人がそう思い、地を蹴ろうとした─その瞬間、高らかな啼き声が響きわたった。その声はトンキーのものであるのだが、先程までの小さな悲鳴とは違う。

 いったいトンキーの身に何が起きたのか。例外なくその場にいる者達がトンキーの方を向いた。見えたのは、楕円形の胴体に刻まれた幾つものひび割れ。それらは徐々に長くなり、互いに繋がっていく。そのひび割れた隙間から邪神の黒い血が吹き出ると、誰もが予期した。だが─

 

『『『『っ!!!』』』』

 

─目にしたのは白い光だった。あまりの光量に全員が顔を覆う。同時に、その光はウンディーネ達を包み込み、彼らに付与されていた支援魔法や詠唱途中だった攻撃魔法が強制的に中断された。

範囲解呪能力(フィールド・ディスペル)。一部の高レベルモンスターのみが有する特殊スキル。効果は先程の通り、範囲内の魔法やアイテムによる効果を強制的に無効化させるものだ。それに加え詠唱途中の魔法を強制中断させることも可能。最下級のはぐれ邪神が持つには強力すぎる能力だ。何が起きたのか分からず、ウンディーネ達は凍り付いた。

 いくつもの視線を集める中、トンキーのひび割れたその胴体が音も無く四散した。正確にいえば、四散したのは殻だけ。未だ留まり続ける光の塊から、螺旋状のものが生える。それは回転してほどけ放射状に広がり、やがて四対八枚の白い翼となった。

 

─ひゅるるるぅ!─

 

 高らかな声をあげ、トンキーは八翼を大きく羽ばたかせ舞い上がった。丸かった胴体は細長い流線状に変化し、鉤爪の付いていた触手は植物の根のようになっている。しかし、顔だけは以前と変わっていなかった。残っていた体力がどれほどだったか分からないが、今は全回復している。

 十m程の高さでトンキーが止まると、何の前触れもなく白かった翼が青い輝きに染まった。さて問題だ、ゲームの中において青い輝きは何を示すか。

 その輝きを見たスカウトがそれに気づき、声をあげる。

 

「たっ、退─」

 

 しかしその声は、更なる大音量と共にトンキーの触手から放たれた青い雷撃によってかき消された。それらは一番近くにいたアスカとリーファを避け、ウンディーネ達に声をあげる間も与えず吹き飛ばす。タンク達は耐えたようだが、流石にメイジ達は耐えられなかったようだ。今の雷撃によって更に半数のメイジがアバターを四散させた。

 すぐさまスカウトが回復と支援魔法の指示を飛ばすが、再度トンキーから白い輝きが放たれる。それは詠唱途中だった魔法を全て中断させた。

 これ以上は危険だと踏んだのか、スカウトが手を真上に上げると弓使い(アーチャー)達が矢を飛ばす。それらは真っ黒な尾を引き、やがて部隊を隠した。

 

「撤退っ、撤退!」

 

 スカウトがそう言えば、ウンディーネ達は一目散に逃げていく。その速さは流石のものだが、飛行型になったトンキーならすぐに追いつけるだろう。しかしトンキーは勝利の声を響かせるだけにとどめ、こちらを向いた。そのままゆっくりと飛んできたかと思うとアスカ達の真上で止まり、六個ある目玉がギョロリと二人を見つめる。しばらく見つめ合っていると先までと同じように、象のような長い鼻で二人を巻き取り背中に乗せてくれた。

 二人はそれぞれ剣を納めて、リーファはトンキーの背中を撫でる。心なしか、毛が以前より長く柔らかくなっているような気がした。まぁとりあえず─

 

「…トンキーが生きててよかった」

 

 呟くようにそう言えば、アスカの胸ポケからユイが出てきて同意する。

 

「本当に良かったです!」

 

「うん、そうだな」

 

 

 

 それからは特に障害もなく、トンキーに乗せてもらったままヨツンヘイムの景色を楽しんだ。ここは飛行不可能な場所の為、高空から見下ろしたのは二人が始めてのはずだ。スクリーンショットを撮ってスレで自慢したい所だが、やめた。不正だ合成だ言われて炎上するのが目に見えてる。

 突然、視界に入ってきたものとの距離感を二人は一瞬把握出来なかった。青く透き通った逆ピラミッド型の氷塊と、それを網のように抱え込む世界樹の黒い根っこ。それはヨツンヘイム中心にある大穴の真上にあった。ダンジョン…なのだろうか。全長は恐らく二百m以上、その内部は幾つもの層に区切られている。

 

「ん?」

 

 リーファが声もなく目を見開いていると、アスカが何か遠くのものを見るように目を細めた。それに気付いたリーファは何を見ているか問う。

 

「明日にぃ、どうしたの?」

 

「あのピラミッドの先端に何かある。スグちゃん見える?」

 

 そう言われて最下層、ピラミッドの先端に目を向けると、確かに何か光っている。リーファは短いスペルを唱え、右手に水の塊を出現させた。それはすぐに氷結し、扁平な結晶へと変わる。

 

「それは?」

 

遠見結晶(アイススコープ)の魔法だよ。これであれが何か見え…」

 

 説明しながら結晶を覗き込んだリーファの言葉が、不自然に止まった。不思議に思ったアスカが結晶を横から覗き込むと、見えたのは、透き通るような黄金の刀身を持つ一振りの片手剣。その武器を知らないアスカでも、それがサーバーに一本しか存在しない武具、伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)に属するものだと気付いた。そして、その考えは正解だ。肩から覗き込んだユイが興奮したように声を上げた。

 

「あれは…《聖剣エクスキャリバー》です!あのサラマンダーの人が持っていた《魔剣グラム》を超える、ALO最強の剣と言われています!」

 

 更にリーファの補足を加えるなら、今までどこにあるのかヒントすら見つからなかったらしい。そういえば、そのようなことをシルフの領主であるサクヤが言っていたような気がする。

 剣の奥に細い螺旋階段が見える。それはダンジョン内部に続いているようだ。つまりあの氷のダンジョンを攻略すればエクスキャリバーを入手することが出来るというわけだ。

 トンキーは二人を乗せたまま上昇を始めた。リーファが聖剣から目を離すと、同時に二つのものが目に入る。一つは氷のダンジョンから突き出したバルコニー。トンキーの軌道はその端を掠めるように向かうようで、トンキーから飛び乗ることが出来る。もう一つは更に上空、ヨツンヘイムの天蓋から垂れ下がる、階段を刻まれた一本の根っこ。階段はそのまま天蓋を貫き更に上へ続いているようだ。間違いなく、地上への出口だろう。トンキーが向かうのはこっちだ。

 二つに一つ。トンキーから飛び降りダンジョンに向かうか、出口へ向かうか。しかし二人は微動だにせず、ただ氷のダンジョンが通り過ぎるのをただ見ていただけだった。聖剣を見ても、二人の心は全く動かなかったのだ。

 

「和葉を助けだしたら、皆で来よう」

 

「どっちにしろ、私達二人じゃ攻略出来ないよ」

 

 何故なら、二人の最優先事項は『和葉を助け出すこと』。ここで時間を消費するわけにはいかない。

 無事に天蓋から伸びる階段に辿り着いた二人は、トンキーから飛び降りて彼の方を振り向く。

 

「また来るね、トンキー。それまで元気でね」

 

「ここまでありがとう。次来るときは俺達の仲間を紹介するよ」

 

「またいっぱいお話ししましょう!」

 

 それぞれの言葉を聞いたトンキーは一声鳴いて下降を開始、あっという間に見えなくなった。ここでトンキーの名前を呼べば、また背中に乗せてくれるだろうか。そうだと良いなと、リーファは考えながら階段を登り始める。

 さぁ、ここを登れば目的地である《アルン》だ。恐らくキリト達はもう現実に戻っているだろう。かくいう自分達もかなり眠い。さっさと宿を見つけてログアウトしなければ。そして─

 

家族(和葉)を返して貰う。彼女を攫った者に、生まれたことを後悔させてやる─




ここまで見て頂きありがとうございます。誤字脱字、又はおかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします


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世界樹

─パチリと目を覚ますと、腕の中に就寝する前まではあった温もりが無かった。時計を見れば午前九時、ざっと六時間寝たことになる。部屋を出てリビングに行けば、沸騰している音と肉の焼ける匂いを感じた。キッチンに入ってそれを行なっている人物を確認すると、後ろから抱きつく。特に驚くこともなく呆れたように息を吐かれて、振り向かれてジト目で見られた。

 

「料理中にやめろって言っただろ。明日加」

 

「ん〜?そうだっけか?」

 

 再度、溜息をつかれた。それでも振り払おうとしないのは慣れているからか、それとも無駄だと思ったのか。どちらにしろ、そんな彼女が愛おしい。

 

「おはよ、佳奈」

 

「おはよ、明日加」

 

 甘えるように言えば、先程まで呆れてたとは思えない声で返してくれる。本当ならキスをしたい所ではあるが、流石にそれはしない。何故なら─

 

「二人とも終わったかい?」

 

「明日にぃじゃまー。ていうかお腹空いてるんだから手伝ってよ」

 

浩一郎()直葉(義妹)がいるからだ。浩一郎は苦笑するだけにとどめてくれるし、直葉もいつもならスルーしてくれるのだが、寝起きの彼女は何故か自分だけに少々対応が冷たい。心から慕ってくれるのは分かるが、やはり大好きな姉を取られたからだからだろうか。別に間違っていないし、少々冷たくされた所で義妹を嫌うことなんて無いので構わないが。

 名残惜しいが、佳奈の背中から離れて朝食の手伝いをする。今日の朝食はトーストに味噌汁、トマト等の生野菜のようだ。味噌汁はもうほとんど出来ているようなので、まだ切り終わっていなかったトマトを手際よく切っていく。食器は浩一郎と直葉が持って行ってくれたようなので、後は料理を持って行くだけだ。

 食事をしながら今日の予定を話し合う。

 

「今日はどうするの?」

 

「僕はこれから和葉のお見舞いに行こうと思ってるよ」

 

「まぁ午後三時までメンテ入ってるし、なんにしろログインするのはその後になるけど」

 

 三人が病院に行こうと言っている中、佳奈は牛乳を飲み込んで「俺は行かないぞ」と言った。直葉が何故かと問いかけると、やることがあると言う。明日加は何か納得したように頷いた。浩一郎と直葉には分からないが、追求はしない。恐らく、和葉奪還の為だろうと当たりをつけたからだ。しかし─

 

(─お父さんとお母さんにはもう事情を話してたけど、他にも?)

 

 まぁ、姉はこういう時に無駄なことはしない。故に直葉は考えるのをやめた。自分達に話さないということは、まだその段階ではないのだろう。

 浩一郎がご馳走さまと言って食器を流し台に持って行った。

 

「あ、食器は水に浸けとくだけでいいぞ。洗うのは俺達がやるから」

 

「じゃあ、お言葉に甘えようかな。直葉ちゃんは一緒に来る?」

 

「行く!」

 

 急いでトーストをかっこむ直葉に「ゆっくりで良いよ」と浩一郎は言った。確かに今すぐにでも和葉の所に行きたいが、一緒に行くと言った人を置いて行くつもりは毛頭ない。それでも、そんな自分の気持ちを汲み取ってくれるのはやはり嬉しい。

 ゆっくりで良いと言ったが待たせるのは悪いと思ったらしく、結局は口に含んだ物を牛乳で流し込んで顔を洗いに行った。食器はそのままになっているので、佳奈が自分のついでに流し台まで持っていく。

 

「昼飯どうするつもりだ?」

 

 佳奈の問いに浩一郎は少し悩んでから答える。

 

「うーん…出来ればギリギリまで和葉のそばに居たいから、直葉ちゃんさえ良ければ外で食べてこようかな」

 

 洗面所にいても浩一郎の言葉が聞こえたのか、「良いほー」と直葉の声がした。歯を磨いているのだろう。

 佳奈は頷き、お互いに何かあったら連絡することを約束した。

 

 

 

 『アルン』。そこはALOの中心部にある都市であり、 多種族が均等に入り混じっている場所でもある。巨大な戦斧を背負ったノーム、銀色の竪琴を携えたプーカ、黒いエナメルの革装備を纏ったインプ、ベンチで仲睦まじく寄り添うサラマンダーとウンディーネ、巨大な狼を従えたケットシー。そこに種族間の(しがらみ)など無く、誰もが楽しそうに談笑している。そしてアルンの中央にそびえ立つのが、世界樹だ。

 午後三時過ぎではあるが、ログインしているプレーヤーは多かった。かくいうコウ達も既にログインしているのだが。今は四人で世界樹の根元、アルンの中央市街に向かっているところだ。混成パーティーを縫うように数分歩けば、前方に大きな石段と、その上に口を開ける門が見えてきた。ここまで来ると、世界樹がただの巨大な壁にしか見えなくなってくる。

 石段を登り、門を潜ろうとした─その時、突如ユイがキリトのポケットから顔を出し、世界樹の上の方を睨みつけるように見上げた。

 

「ねぇねが、この上にいます」

 

 困惑していた四人はしかし、ユイのその言葉に顔を強張らせた。

 

「本当かい?ユイちゃん」

 

「間違いありません!このプレーヤーIDはねぇねのものです。場所はちょうどこの真上です!」

 

 聞き終わるやいなやコウは翅を広げ、空気が破裂したかのような音が響いたと思った時にはコウの姿が地上から消えていた。

 

「ちょ、コウにぃ!?」

 

 リーファが慌てて叫ぶが、コウが急上昇を止める気配は無い。ここで立ち止まってる訳にもいかないので、三人は翅を広げコウを追う。

 スプリガンは飛翔を得意とする種族では無いはずなのだが、コウに追いつける気配が全く無い。

 

「リーファ、全力でコウさんを止めてこい!!」

 

 キリトの指示でリーファは自分の出せる最高速度でコウを追う。それは先程の比ではなかった。流石、飛翔速度では誰にも負けないと言っていただけのことはある。

 塔のテラスで寛いでいたプレーヤー達が何事かと視線を向けてくるが、それらに構ってる暇は無い。コウから遅れること数秒、リーファも分厚い雲海に突入した。聞いた話では確か、雲を抜けてすぐが侵入不可能エリアに設定されていたはずだ。

 雲を突き抜ければ、そこはシミひとつ無いコバルトブルーの空が無限に続いていた。少し視線をずらせば、世界樹の葉が四方に広がっている。コウはそれらの枝の一本を目指して─突然、何かにぶつかったように彼の体が弾かれた。

 

「コウにぃ!!」

 

 力無く漂いかけたコウの体をリーファは支える。しかしすぐに意識を取り戻したコウはリーファを振りほどき、再び上昇を開始したがまたしても障壁に阻まれた。

 

「コウにぃ!コウにぃ!!無理だって!ここから上には行けないの知ってるでしょ!?」

 

 腕を掴んで引き止めようとするが、その顔を見て離しそうになる。普段は優しい彼の顔が、憤怒に染まっていた。確かにこのVR世界で表情を偽るのは難しい。それでも、彼がここまで怒りをあらわにするのは中々見ない。

 正直に言えば一度だけ、 (浩一郎)が激怒したところを見たことがある。あれは確か、長女()が片目の事で傷つけられた時だ。その時程では無いが、それくらい怒っていた。

 遅れて来たキリトとアスカも、その光景を見ていた。

 

(浩一さんが一番落ち着いてると思ってたんだけどなぁ)

 

 どうやら、この中で一番あの男に対して怒りを抱いていたようだ。それだけ、彼は姉を愛していると言うことか。とりあえず落ち着かせなければ。

 アスカが二人の所まで飛んでいき、コウに呼びかける。

 

「兄さん落ち着いて。そこから先は俺達じゃ行けない。ユイちゃん」

 

「はい」

 

 アスカの声に、ユイがキリトのポケットから出てきて上へ飛んで行こうとする。システムそのものと言えるユイなら障壁を超えられるとアスカは思ったのだが、無慈悲にも見えない障壁は冷酷に拒んだ。

 駄目か…と思ったが、ユイは必死な面持ちで障壁に手を着いた。

 

「警告モード音声なら届くかもしれません…!ねぇね!わたしです、ユイです!ねぇね!!」

 

 

 

─必死に自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 晶彦との会話を打ち切り、キリハは辺りを見渡す。しかし当然ながら、周囲には誰もいない。気のせいか、と思いながら晶彦に向き直る。

 

「どうしたのかね?」

 

「いえ、誰かに呼ばれているような気がしたので…」

 

 言いかけたその時、今度はハッキリと聞こえた。『ねぇね』と。自分の事をそのように呼ぶのは一人しか知らない。

 

「ユイ…?」

 

 疑問に思いながらキリハはその場から立ち上がり、格子の壁に歩み寄った。金属の棒を掴み、周囲を見渡す。その声は直接頭に響いてくるように聞こえ、どこから聞こえてくるかは分からなかった。それでも、何故だろう。この声は下から聞こえてくると分かるのだ。

 

(ユイ…MHCP試作一号…、佳奈君と明日加君の娘になったAI…か。にわかに信じ難い事だったが。全く、君達は私の想像を超えてくる)

 

 晶彦がそう思っていると知る由もなく、キリハは考える。

 ここから大声を出した所で向こうには聞こえないだろう。何か落とせるものは無いかと当たりを見渡すが、ここにあるものは全て位置情報がロックされており、動かすことが出来ないのは確認済みだ。ならばどうするか。簡単だ、ここになかったものを落とせばいい。

 キリハは懐からカードを取り出した。その手で格子の隙間から手を出し、躊躇なくカードを手放す。それは陽の光を反射させながら、雲海へ一直線に落下していった。

 

「これで気づいてくれるといいんですが…」

 

「心配ないだろう。彼らはそこまで鈍くない」

 

 

 

 コウは何かに取り憑かれたかのように、見えない障壁を叩き続ける。無駄だとは理解していても、何か行動していないとどうにかなってしまいそうだ。

 

(あと少し、あと少しで届くのにっ…!)

 

 ただでさえ、彼女がSAO(デスゲーム)に囚われたと聞いた時は心配で仕方なかったのだ。ようやくゲームが終わったと聞いたのに、彼女はゲームに囚われたまま。《ゲーム・システム》などという無機質なプログラムにすぎないモノが、彼女を捕らえている。その事を再認識した瞬間、コウは言い表せない感情に支配されそうになった。小太刀を抜こうとしたその時、上から何かが落ちてくるのを見つける。コウは手を伸ばし、落ちてきたそれを掴み取った。

 

「これは…カード?」

 

 落ちてきたそれは、黒いカード。コウはこんなものを見たことがなかった。全員が覗き込む中、ユイがカードを見て口を開く。

 

「それは…システム管理者のアクセス・コードです!」

 

「「「「っ!」」」」

 

 ユイの言葉に全員が息を呑んだ。それはつまり、GM権限が行使出来るということか。

 

「でも今のわたしでは、対応するコンソールが無いとアクセス出来ません…」

 

 しかし、ユイは首をふって四人の考えを否定する。ゲーム内からではシステムにアクセス出来ないのだと。だが、こんなものが理由もなく落ちてくるわけがない。おそらくは、ユイの声を聞いた和葉がこのカードを落としてくれたのだ。

 コウはカードを握りしめた。和葉もまた、この世界から脱出しようと抗っている。ならば、自分も出来ることをやるだけだ。コウは四人に「ごめん」と一言だけ言って世界樹の根元に向かって行く。後ろから呼び止める声が聞こえるが、コウはそれらを全て無視した。一度、この胸に溜まった思いを発散しないと発狂でもしてしまいそうだから。

 周囲の雑音全てを無視したコウは、故にポケットに何かが入り込んだ事には気付かなかった。

 

 

 巨大な石像を左右に携えた大扉を目にしたコウは体制を変え急制動をかけたが、それでも勢いを殺しきれずかなりの衝撃音が周囲に響き渡った。翅をしまい、コウは扉の前に立つ。途端、右側の像が動き出し、両眼に青白い光を灯してこちらを見下ろし、口を開いた。

 

『未だ天の高みを知らぬ者よ。王の城へと至らんと欲するか』

 

 コウの目の前にグランドクエストに挑戦するか否かのメニューが表示された。迷わずに『YES』を押す。すると今度は、左の石像が大音声を発した。

 

『さすればそなたが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい』

 

 大扉の中央がぴしりと割れた。地響きのような音を立てて、扉が左右に開いていく。一度目を閉じた。大きく息を吐き、拳を握りしめ、目を開ける。

 

(待っててくれ和葉。今助けに行く)

 

 コウは扉の内部へと、足を踏み入れた。

 




ここまで見ていただきありがとうございます。誤字脱字、又はおかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします


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グランドクエスト

\( 'ω')/ヘーイ
というわけで今月2回目の投稿となります。代わりに来月投稿しないかもしれませんが、そこはご了承くださいな。


 世界樹の内部は真っ暗だった。暗視魔法を使おうと右手を掲げようとすると、それよりも早く眩い光が内部を照らした。思わず両手で顔を覆う。

 光に目が慣れ内部を見渡すと、そこはとてつもなく広いドーム状空間だった。直径百m以上、高さはそれの倍以上はあるだろうか。壁には円形の窓が数え切れない程に施されている。どうやら光はそこからきているようだ。そして更に上に視線を向ければ、そこには円形の扉があった。それを十字に分かれた四枚の扉壁が閉ざしている。あれが、世界樹の上へと続く道の筈だ。

 コウは二本の小太刀を握りしめ─地を蹴った。その勢いを殺さぬまま扉を目指す。

 そのすぐ後、壁の窓に異変が現れた。窓の光が泡のように沸きだち、何かを生み出そうとしている。光は瞬く間に人型を取り、完成したそれは四枚の翅を広げ咆哮した。全身を白銀の鎧で包んだ、長大な剣を構えた巨躯の騎士。間違いなく、あれがグランドクエストのガーディアンだろう。ガーディアンは急上昇してくるコウに顔を向けて─

 

「邪魔だよ」

 

─目の前まで来ていたコウに斬り捨てられる。声もあげずに爆散した守護騎士に見向きもせず、上空を見上げた。そしてほんの一瞬、コウの動きが完全に停止する。そこには、数えるのも馬鹿らしくなるほどの守護騎士が生成されようとしていた。その数、数百はいくだろう。

 しかし、ここで止まるわけにはいかない。たとえ何匹、何十匹来ようとも、それら全てを斬り裂いていくのみ。

 自信を奮い立たせるように小太刀を握りしめ、急上昇を再開する。数体の守護騎士達がコウの進路を阻もうと舞い降りてきた。いくら一対多が得意とはいえ、あの数相手では流石にキツい─だからなんだというのだろうか。元より無茶なのは理解しているし、止まるつもりも無い。故に─

 

(─一度も止まること無く、全て斬り捨てる!!)

 

 先頭にいた守護騎士に狙いを定め、速度をあげる。守護騎士は例外なく巨剣を持っていた。ならな、懐に入り込んでしまえばこちらのものだ。故にコウは自身より大きな守護騎士に臆さず突っ込み、懐に入り込む。そして、相手の首筋を斬り落とした。まずは、一匹。爆散したエンドフレイムから飛び出し、目の前にいた守護騎士を二刀の小太刀で斬り裂く。背後から接近してくる気配を察知、振り向きざまに右手の小太刀を投球。背後にいた二匹のうち、片方の顔に突き刺さった。即座に接近し、突き刺さった小太刀を掴み右へ振るう。それはすぐ近くにいた守護騎士の首も跳ね飛ばした。

 周囲にいた守護騎士を殲滅し、コウは上を見上げる。上からは更に多くの守護騎士が降下して来ていた。

 

「─うおぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」

 

 それでも、雄叫びをあげその中に突っ込んでいく。怯む暇など無い、あの扉の向こうに彼女がいるのだ。それ以外に、進む理由は無い。

 自分の攻撃力では、胴体に一撃入れたところで殺しきれないだろう。故に、人体の急所のみを狙っていく。縦横無尽に動き回り、守護騎士の首を跳ねていった。挟むように狙って来た二本の剣を両手の小太刀でそれぞれ受け流し、片方に回し蹴りを叩き込む。体勢を崩した守護騎士の胸を貫き、そのまま上に斬り裂いた。その勢いで小太刀を振り下ろし、もう一匹の守護騎士を縦に裂く。

 上を見上げ、天井のゲートに視線を向ける。ゲートは意外なほど近くにあった。そこへ向かって上昇しようとして─飛来した何かがコウの右足を貫いた。そこへさらに三度の追撃が入る。貫かれた足を見ると、そこには光の矢。飛来して来た方には、弓矢を構えた守護騎士の姿。耳障りな声でスペルを詠唱し、第二波の光の矢が甲高い音とともに殺到してくる。回避は不可能、コウは小太刀でそれらを弾いていくが、全て弾く事は出来ず数本の矢が突き刺さった。HPがイエローゾーンへ突入する。

 

「邪魔を、するなぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 再度スペルを詠唱しようとした守護騎士に、ナイフをいくつも取り出し投げつけた。数体のは阻止したが守護騎士の方が圧倒的に多いため、先よりは少ないがそれでもかなりの数の矢が押し寄せる。今度はそれらを回避し、上昇を再開した。遠距離のエネミーを単騎で相手取るのは難しい。故に、強行突破を図った。後数十m、時間にして数秒の距離にゲートがある。そこまで行ければ勝ちなのだ。

 コウは歯を食いしばり上昇、ゲートに手を触れようとして─突如、背中に衝撃が走った。振り向くと、守護騎士が歪んだ笑みの気配を滲ませて剣を突き立てている。そして、完全に止まったコウに群がるように、守護騎士達は一斉にコウを剣で貫いていった。HPを確認することなく、視界に青い燐光を纏った黒い炎が映る。それが自身のエンドフレイムだとすぐに分かった。炎を背景に映し出される、【You are dead】。次いで、コウのアバターは呆気なく四散した。視界は彩度を失い、紫のモノトーンで染まる。それを背景に【蘇生猶予時間】の文字と、減少していくタイマー。意識はハッキリしているが、四肢の感覚は存在しなかった。

 この感覚は久しぶりだなと、コウは先程までの激昂が嘘のように落ち着いていた。元より、グランドクエストが一人で攻略出来るものとは思っていない。では何故、無謀にも一人で中に入ってきたのかと聞かれれば、そうでもしないと()()()()()()()()()()()。だがそれでも、やはり悔しいものだ。後ほんの少しで届いたというのに、届かなかったというのは。

 さて、後は回収されるのを待つだけなのだが。アスカはともかく、キリトとリーファは来てくれるだろうか。多分来てくれるだろう。嫌われているというわけでも無いのだから。

 その時、世界樹内部の入り口から三つの影が入ってくるのが見えた。アスカ達だ。こちらに向かってまっすぐに飛んでくる。守護騎士達が金切り声をあげ、侵入者達を排除すべく殺到していった。しかし先のコウとは違い、彼らは一人では無いため、接近してきた守護騎士をことごとく倒していく。

 

「リーファ!!」

 

 キリトの合図でリーファがコウに急接近、腕の中に抱き込んだ。そしてすぐさま急降下、入り口(出口)へと一直線に向かっていく。逃すかと言わんばかりに守護騎士はスペルを唱え、矢を放っていった。しかし、キリトとアスカがそれらを弾く。リーファが何者にも邪魔されずに門を出たのを確認すると、二人もすぐに出ていった。

 

 

 世界樹から脱出したリーファはすぐにアイテムウィンドウを開いた。蘇生魔法を取得できていないので、そこから《世界樹の雫》という蘇生アイテムを取り出し、抱えていたリメンライトに注ぎかける。蘇生スペルと同じような魔法陣が展開し、すぐにコウのアバターが実体化した。

 

「ありがとうリーファちゃん。二人も」

 

 蘇生したコウはそうやって三人に礼を言い、頭を下げた。迷惑をかけた自覚もあるからだ。

 

「びっくりしたぜ。浩一さんのあんな顔、久しぶりに見たからな」

 

「ね」

 

 二人は安心したようにホッと息を吐く。ここまで口を開いていないアスカが近づいてきたのを、コウは視界の端で捉えた。

 

「兄さん」

 

 次に起きる事が想像ついたコウは顔をあげ─瞬間に思い切り殴られる。吹っ飛びはしなかったが、それでも数mは後退させられた。目をパチクリさせる姉妹をよそに、頰を手の甲で擦るコウに、アスカはゆっくり近づき口を開く。

 

「これで迷惑をかけられた分はチャラな」

 

「分かったよ」

 

 呆れたように言ったアスカに、コウはそう言うしかなかった。

 兄弟喧嘩が始まったかと思った、と言ったキリトにアスカが謝りながら頭を撫でる。そういえば、キリト達の前で兄弟喧嘩をすることはあまり無かったな、と思った。まぁ、本気で喧嘩したのは一回だけだし、かなり凄まじい事になったので、見せない方がいいのだろうが。

 

「もう大丈夫ですか?」

 

 とそこで、いつのまにかキリトの肩に座っていたユイが口を開いた。四人は頷いて続きを促す。

 

「では先程、コウさんの戦闘で分かった事を報告します」

 

「ちょっと待って。ユイちゃんどこから僕の戦闘見てたの?」

 

「?コウさんのポケットに入り込んでいたので、そこからですが」

 

 何か問題でも?と首を傾げるユイに、コウは首を横に振った。この子は常識外の行動をしたことを自覚しているのだろうか。

 そんな事をコウが思ってるとは知らず、ユイは話を続ける。

 

「あのガーディアン・モンスター、ステータス的に言えばさほど高いものではありません。ですが、ポップ量が異常です。ゲートまでの距離に比例してポップ量が増加、最終的には秒間十二体にも達していました」

 

 キリトは顎に手を当て、「少ないな」と呟く。それはどういう事かとリーファが尋ねる。

 

「秒間十二体なら、頭数とある程度の装備さえあれば、最悪ゴリ押し出来る。なのに今までクリアされていないということは─」

 

「─距離だけじゃなく、挑戦する人数にも比例して増えていくか、ステータスが上がるか」

 

 引き継いだアスカにキリトは頷く。

 あくまでも仮説であるため、出来れば確認しに行きたい。この四人でも行けるだろうが、念の為もう一人はヒーラーが欲しいところだ。

 

「リーファちゃ〜ん、みなさ〜ん」

 

 うんうん悩んでいると、四人を呼ぶ声が聞こえる。その方向に顔を向けると、レコンがこちらに手を振りながら飛んできていた。

 

「レコン!?もう追いついてきたの!?」

 

 驚愕するリーファの側に着地したレコンは、翅をしまい話し始める。

 シグルドがいなくなったので、隙をみて見張りのサラマンダーを毒殺。彼にも毒を盛ろうとしたがいなかったので、仕方なくアルンを目指す事にした。そしてその際─

 

「─頼もしい人達のおかげで、ここまで難なく来れたんだ」

 

 ほら、と言ってレコンが示した方向を見ると─緑とオレンジの大群がこちらに飛んでくるのが見えた。五十はくだらないシルフのプレーヤーと十体ほどの飛竜。そして、その先頭を率いるのは─

 

「どうやら間に合ったようだな」

 

「先に入ってたらどうしようかと思ったヨ〜」

 

─シルフとケットシーの領主、サクヤとアリシャ・ルー。二人は領主の地位を失う危険を顧みず、リーファ達の個人的な頼みを聞いてくれたのだ。この時点での頭数は七十近い。更にシルフの装備はエンシェントウェポン級、そしてケットシーの切り札である竜騎士(ドラグーン)隊。

 それを見たキリトは時間を見て、予定を変更する事にした。

 

「急いで来てくれたところ悪いんだが、後もう少しだけ待ってくれないか」

 

『『『『?』』』』

 

 キリトとアスカ以外が疑問符をとばしたその時、キリトの近くに一人の男が空から飛来した。その瞬間、全員が戦闘態勢をとる。侍のような服装をしたその男は、サラマンダーだったのだ。ここは中立域、互いに攻撃出来る。いつでも反撃出来るように両種族は身構えていた。

 

「よう、キリトにアスカ。久しぶりだな」

 

 しかしその男は、警戒されているにも関わらず気軽に口を開いた。それに驚いたのはリーファとコウだ。二人には見覚えが無い、何故姉と弟を知っているのか。その疑問はすぐに解けることとなる。

 

「お久しぶりです。クラインさん」

 

「お前が一番乗りか」

 

「おうよ。つってもすぐに他の奴らも来るぜ」

 

 侍風の男─クラインが振り向けば、その方向から四十人程のプレーヤーが飛んで来ている。驚く事に、その集団は種族が統一されていなかった。何が起きているのか把握出来ていない者達とは違い、キリトとアスカにとってその者達は強力な助太刀であった。

 何故ならその者達は、全員があの世界で知り合ったSAO生還者(サバイバー)なのだから。

 サラマンダーの《風林火山》とキバオウ、ノームのエギル、レプラコーンのリズ、ケットシーのシリカとアルゴ、プーカの《月夜の黒猫団》、ウンディーネのシンカーとユリエールとディアベル。

 久々の再会だ、積もる話はあるが後だ。先に、両種族に説明しなければならない。リーファとコウは問題なさそうだ。クラインとの会話で察してくれたようだ。キリトが説明しようとしたその時、集団の中から一人の男が出てきた。その顔を見た瞬間、キリトとアスカは顔が引きつったのを自覚する。出来れば会いたく無かった相手故に。

 

「これはこれは。久しぶりにまたお会いしたというのに、まるで腫れ物を見るようでありますな?」

 

 ニヤけた顔でそういう男はあの世界で『辻斬り』と呼ばれていたプレーヤー、キリハと斬り合った危険人物─エンバ。種族はスプリガンのようだ。

 

「何しにきたんだよ」

 

「何しに、とは心外であります。友人が危機にあるとなれば、すなわち良心のままに行動するだけであります。それが人情というものであると存じておりますがなぁ。そも、助けを求めていたのはそちらであったと記憶しておりますが?」

 

 エンバの言葉に、キリトは反論出来ない。事実、キリト(佳奈)は姉の写真を見つけてすぐに掲示板、所謂スレッドを立ててSAO生還者に呼びかけた。無論、無関係者が閲覧出来ないようパスワードをかけて。まさか来るとは思わなかったなぁ、と遠い目でキリトは思った。

 とりあえず、この場の全員には協力な助っ人とだけ説明しておいた。まさか馬鹿正直にSAO生還者ですとは言えまい。特に、エンバと姉の関係(殺し(斬り)合った事)を話したら即座に殺し合いが始まる、絶対。少なくとも、姉の救出が終わるまでは絶対に話してはならない。

 シルフが五十、竜騎士隊が十、生還者が四十、そしてキリト達四人、戦力は十分。これなら、行ける…っ!

 

「行くぞ!」

 

『『『『『おおぉぉぉぉぉぉぉお!!!』』』』』

 

 キリトの号令で世界樹の内部へ入っていく。さぁ、攻略開始だ。




ここまで見ていただきありがとうございます。誤字脱字又はおかしな所がありましたらご報告よろしくお願いします。


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再戦

はい!2ヶ月間音沙汰無しですいませんでした!!習い事やら大学やらで忙しかったんです許してください!!


 世界樹内部へ入り、ヒーラー以外の者が急上昇を開始。それと同時に窓から守護騎士がポップしているのを確認した。

 

「!?モ、モンスターのポップ量、既に秒間十二体に達しています!?」

 

 キリトのポケットから顔を出したユイが困惑した声を出す。それを聞いてやはりか、とキリトは考えた。この勢いだと、秒間三十体までいきそうだ。なにせ、守護騎士が生まれる窓は無数にある。どこまでも増えていくだろう。それでも上限はあると思うが。

 

「全員気を付けろ!更に増えていくぞ!」

 

 キリトの警告と同時に守護騎士は侵入者を感知、耳障りな声を発しながら殺到してくる。真っ先に激突したのは、最前線にいるコウ。二刀の小太刀ですれ違いざまに切り裂く。それに続くのはキリトとアスカだ。キリトが両手剣と見間違う程の剣とリズから貰った片手剣の二刀流で複数の守護騎士を撃破し、アスカがキリトの穴を埋めるように一体一体確実に屠っていった。他の者も順調に倒していくが、それでも数は減らず、むしろ増えていく。こちらも数がいるとはいえ、流石に物理だけで切り抜けられるほど甘くはないか─

 

「準備オッケーだヨーーー!!!」

 

─まぁ、予想通りではあるのだが。

 可愛らしいが良く通る声でそういうのはアリシャ。ほんの少し視線を下に向けると、飛竜の口からはオレンジ色の光が、シルフ隊の剣先からはエメラルド色の雷光が発生していた。頷いたキリトは声をあげる。

 

「全員、散開しろ!!巻き込まれるぞ!」

 

 全員がキリトの声に反射的に従い、壁に寄った。射線上に味方がいないことを確認し、領主らは合図を出す。

 

「ファイアブレス、撃てーーー!!」

 

「フェンリルストーム、放て!!」

 

 飛龍の口からは炎が、シルフの剣先からは稲妻が放たれ、大量の守護騎士を撃墜する。全体数から見ればまだ数は多いが、今の攻撃は目に見えて守護騎士を減らした。

 

「シルフ隊、突撃!!」

 

「ドラグーン隊は援護を続けるヨ!!もう一回ブレス準備!」

 

 守護騎士が補充される前に、行ける所まで行かなければならない。シルフが雄叫びをあげ、前進を開始した。彼らの武具はエンシェント級、数の差など苦にもならない。一撃で葬っていく。生還者も進軍を再開した。

 

(ふむ…助っ人と聞いてどの程度かと思っていれば、期待以上じゃないか)

 

 自身も長刀で守護騎士を斬りながら、サクヤは考える。キリトが助っ人と呼んだ者達は、凄まじいと言う他なかった。見た所、特に強者と感じるのは、バンダナを巻いた男が率いるサラマンダー、両手斧を振り回し複数の守護騎士を粉砕するノーム、男女五人のプーカ、軍人風のスプリガン、と言った所か。この中にシルフがいないのは残念だが、全員が強者なのは間違いない。この戦いが終わったら勧誘をするか、とサクヤが考えていると、バンダナを巻いた男が叫んだ。

 

「悪りぃ!!何体かそっちいった!」

 

 背後を振り向けば、複数の守護騎士がヒーラーに向かって行っていた。慌てて助けに行こうにも、絶対に間に合わない。かといってスペルも間に合わないし、フェンリルストームやブレスでは巻き込んでしまう。サクヤが諦めかけたその時、彼女にとって驚愕する出来事が起こった。

 

「はっ!」

 

 ヒーラーに努めていた男のウンディーネが片手剣で守護騎士の攻撃を受け止めた。それを受け流し、そのまま首を跳ねる。

 

「接近してくれるならこっちも本望。さぁかかってこい。シンカー達には指一本触れさせはしない」

 

 ウンディーネの男─ディアベルは片手剣と円盾(ラウンドシールド)を装備し、構える。

 通常、ヒーラーが前線で戦う事は無い。ステータスのほとんどを魔防と付与回復量に当てているからだ。剣を持とうにも攻撃力が足りない。攻撃手段は、あるにはあるが、魔法しかないので自衛するにはキツイ。それ故、ヒーラーは後方でタンクに守ってもらうのだ。

 では何故、今回の攻略では後方にタンクがいないのか。答えは単純、今現状タンクになれる者が誰一人いないからだ。シルフ、ケットシー連合は元よりタンクを連れて来ていない。攻略組は、そもそもヒーラーの存在を忘れていた。あの世界には無かった存在だったので、仕方ない。まさか、攻略組から何人かヒーラーになっているとは思いもしなかった。まぁ、ヒーラーになっているのを分かった上で、誰も後方にいなかったのは信用していると言うべきか否か。実際、ディアベルと数人が防衛に回ったので問題無いのだが。

 

「ピナ、バブルブレス!」

 

 場所は変わり中間地点、シリカの指示でフェザードラゴン─ピナが泡状のブレスを吐き、怯んだ所を短剣で斬る。

 

「鍛治師を、舐めんなーー!!」

 

 そのすぐそばでメイスを振り回して守護騎士をぶっ飛ばしているのはリズベット。自慢の筋力値を存分に使っている。

 

「───」

 

 更に聞こえてくるのはスペル、では無く『歌』。プーカの一人であるサチが穏やかな、それでいて戦闘音に負けないように声を張って歌う。

 プーカの『歌』は、魔法と比べてデメリットが多い。歌声の届く範囲でしか効果が出ない、効果持続時間が短い、ヘイトが集まりやすい。それに加え、プーカ自体が戦闘に長けた種族ではない。故に、スプリガンに続いてユーザー数が少ない。とは言うものの、勿論メリットもある。その一つに─

 

「おっらぁあ!」

 

─魔法よりも効果倍率が遥かに高い事が挙げられる。まぁ、デメリットの方が多いのに変わりはないのだが。

 

「レコン行くよ!」

 

「うん!」

 

 リーファの掛け声にレコンは勢い良く答え、共にサクヤ達後衛のいる所から最前線まで飛翔、キリト達と共に守護騎士を斬り払っていく。天蓋まで後少し、だが─

 

(─多すぎるっ!!)

 

 斬っても斬っても数が減らない。むしろ増えていっている。それはつまり、駆逐速度よりも敵のポップ量が上回っているということ。下からは絶えずブレス攻撃で支援してくれているというのに。

 一体一体倒していくのではキリがない。高度な範囲魔法が必要だ。

 

(けど、どうする…?)

 

 リーファ自身、そんな魔法を習得していないし、そもそも風属性魔法にそんな魔法は無い。たとえ火属性の範囲魔法でも、全てを壊滅させることは不可能だろう。下からの支援攻撃に頼るのも無理だ。シルフ隊のフェンリルストームとドラグーン隊のブレス攻撃は《面》ではなく《点》を攻撃する。大量に殲滅するのには不向きだ。打つ手が無い。

 いや、実を言うと一つだけ、この場を打開の可能性のある魔法を知っている。そして、それを使える人物も。

 

(でも、あれは…)

 

 チラッと目線を向けると、その人物─レコンが丁度こちらを向いた所だった。その目は、何かを決意したように見える。レコンは分かっているのだ。自身の魔法が打開策に繋がるということに。

 任せて、とレコンの目が語っていた。リーファは一旦、目を強く瞑り、次いで声をあげる。

 

「三人とも、一回下がって!!」

 

 コウ達はリーファの言葉に一瞬怪訝な表情をしたが、すぐに頷き下降を開始した。

 

「レコン!!」

 

 リーファの指示にレコンは力強く頷き、詠唱を開始した。体を、深い紫色のエフェクトが包む。

 今、レコンが詠唱しているのは闇属性の魔法だ。複雑な立体魔法陣が展開し始め、それが高度な魔法だというが分かる。魔法陣は周囲から押し寄せる守護騎士達を包み込んだ。複雑な紋様が一瞬小さく凝縮、次いで眩い閃光が放たれる。

 

『『『『っ!!!?』』』』

 

 あまりの光量に、全員が顔を覆う。視界が回復するのに一秒程かかった。なんとか爆心点に視線を向けた者達は、例外なく息を呑む。そこに有ったのがリメンライトのみだったからだ。あれだけ密集していた守護騎士の群も、魔法を放ったレコンの姿も無かった。

 彼が放った魔法は《自爆魔法》。現在実装されている魔法の中で最強の威力と範囲を誇る代わりに、全HPを失うデメリットを持つ。更に通常よりも数倍のデスペナを課せられる、ALO内では禁じ手に入るモノだ。痛みが無いとはいえ、死ぬという感覚を自ら味合う者はいない。それをレコンは、この場を打開するために戸惑いなく放った。

 

「今のうちよ!!」

 

 リーファの声に全員がハッとなった。

 そうだ、彼の開けた穴は、ほんの一時的なものに過ぎない。凹んだ水面が戻るように、守護騎士が埋め尽くしてしまう。そうなる前に、コウを突破させなければならない。

 やはりと言うべきか、リーファが声をあげる前にコウ、キリト、アスカは上昇を開始していた。そして守護騎士に斬りかかりながら、キリトはユイにコウの元まで飛んでもらう。突破した時にユイがいた方がいいだろうと考えたからだ。

 生還者、シルフらも守護騎士の群れに突撃しているが、こじ開けるのにはまだ足りない。後もう少し、何かがあれば─

 

「─一点集中、ファイアブレス、撃てーー!!!!」

 

「っ!回避ぃぃぃい!!」

 

 誰かがそう叫び、反射的に中心を避けるように散った瞬間、そこを貫くように炎が通る。それは十数体の守護騎士をまとめて焼き尽くした。

 

「っ!」

 

 それを逃さず、コウは空いた穴へ急上昇、守護騎士の壁を突破した。それを確認したキリトは全員に撤退の指示を出し、世界樹から外へ出る。

 

 

 

「サクヤ、来てくれてありがとう。アリシャさんも本当にありがとうございます」

 

「なに、友人が困っていたら助けるのは当然だろう?」

 

「そうそう、それにお金も貰っちゃったしネ〜。恩返しだヨー」

 

 そして出来ることなら自分達が世界樹攻略をする時には手伝ってもらいたい、と言われリーファは勿論と頷いた。そして彼女達は、しばらくこの街を見ていくと言って去っていく。

 

「来てくれてありがとうな」

 

「お前らにはデケェ借りがあるからな」

 

 一方こちらではキリトが生還者達に感謝を述べていた。それに対しクラインらは当然だと返す。

 またいつでも頼れ、と言って生還者達はログアウトしていった。エンバだけは去り際に「キリハ殿を助けられなかったら、代わりに貴殿等の首を頂くであります」と言ってきたが。

 

「それじゃあスグ、()()()()()()()()

 

「分かった。佳奈ねぇ達もね」

 

 そう言ってリーファはログアウトしていった。残ったのは、キリトとアスカのみ。

 

「さて、後は浩一さんが姉さんの所まで行ってくれれば終わりだな」



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決着

はい先月は投稿できず申し訳あrっ!?
和葉「とりあえず斬っておいたので、これでも足りない人は作者に石でも投げつけておいて下さい」


 守護騎士を突破したコウは、何故か開かない扉に小太刀を振りかざしていた。

 

「…開かないか。ユイちゃん、これどうなってる?」

 

 コウの呼びかけにポケットから出てきたユイは扉に手を当て、何が原因か調べる。そしてすぐに声をあげた。

 

「…この扉はクエストフラグによって閉じられているわけではありません!システム管理者権限によるものです!」

 

 つまり、プレーヤーには絶対に開けられないという事か。ふざけるなと言いたいところではあるが、あの男ならやりかねない。やはりキリト達が予想した通り、世界樹内部で何か良からぬ事をやっているのだろう。

 

(さて、どうしよう)

 

 悩んでいる間にも周囲から守護騎士が接近してきている。何か打開策を…そこまで考えたコウは、ある物を持っている事を思い出した。

 

「ユイちゃん、これ使えないかな?」

 

 コウが取り出した物を見て、ユイがハッとなる。それは黒いカード、システム管理者のアクセス・コードだ。

 ユイはすぐさまカードを手に取り、扉に触れる。

 

「転送されます!コウさん捕まってください!」

 

 ユイの指示通りにコウはその小さな手を掴み、次には転送された。

 

 

 目を開けると、先程までいた場所ではなかった。まぁ、転送されたのだから当たり前なのだが。

 ここは、どうやら通路のようだ。壁は白く、前も後ろも曲線状に曲がっている。まるで研究施設だ。

 

「コウさん、大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈…夫、だよ?」

 

 コウの言葉が詰まったのはユイの姿を見たからだ。今のユイはピクシーの姿ではなく、本来の少女の姿。コウは初めて目にするので、一瞬理解出来なかったのだ。とはいっても、すぐにその姿が彼女本来の姿だと理解出来たが。

 

「ユイちゃん、和葉の…ねぇねの場所はわかるかな?」

 

 

「はい。ここのマップ情報はありませんが、ねぇねの場所はわかります…。かなり近いです…。こっちです!」

 

 ワンピースから伸びる素足で、ユイは音もなく走り出し、コウはそれに続いた。

 ユイに続いて廊下を走り続けているが内側にいくつかの扉があるだけで、走っても走っても景色が変わらない。自分がアバター姿でなければ、ここがALOだと忘れてしまいそうだ。と、そんなことを考えているとユイが突然何もないところで立ち止まった。

 

「どうしたんだい?」

 

「この向こうに空間があります」

 

 ユイがそう言って壁を撫でると、青い線が扉の形に浮かび上がり、その内側が消滅。そこから見えたのは、赤い夕焼けだった。一歩踏み出せば足元は太い枝で出来ており、大人二人程度なら並べそうだ。上を見れば太い枝が四方に散らばり、葉を繁らせている。

 あぁ、確かにここは世界樹だ。しかし―

 

(―空中都市は無し…か)

 

 振り返っても、太い幹が上に伸びているのみ。都市と呼べるモノは何一つ無い。端から期待なんてしていなかったが、これではALOのプレーヤーを舐めているとしか思えない。

 いや、今はそんなことを考えている暇はない。早くキリハ(和葉)の元へ向かわなければ。ユイが先導し、世界樹の枝を走っていく。道を走っていると、ふいに夕焼けを反射して金色に光るモノが目に映った。二人はそこに向かって走り出す。やがて、金色に光るモノの正体がはっきりと見えてきた。金属を縦横に組み合わせた格子─いや、鳥籠だ。それも、かなり巨大なもの。あれでは一般的な鳥はおろか、鷲ですら入れておくことは出来ないだろう。けれどコウはそれが、動物ではなく人を閉じ込めてることを知っている。2人は同時に走る速度を上げた。

近づくにつれ、中にいる人物がハッキリと見えてきた。その人物は反対側に顔を向けていたが、気配を感じたのだろうか。不意に顔をこちらに向ける。こちらを確認すると目を見開き、表情を驚愕に染めた。

 

「─和葉」

 

「ねぇね…ねぇね!!」

 

 コウとユイは同時にキリハの名前を呼んだ。彼らとキリハの間には格子で作られた扉があり、その横にロック版と思わしきものも見える。しかし二人は速度を緩めるはなかった。残り数mまで来ると、ユイが右手を体の左側に引き上げ、その手を青い光が包み込む。そして扉にぶつかる直前に、手を右側に払うと扉が消滅した。

 

「ねぇね!!」

 

 そのまま勢いを殺すことなく、ユイはキリハの胸へと飛び込む。立ち上がっていたキリハは危なげなく受け止めた。しかし、未だに状況を把握しきれていないような顔をしている。

 

「和葉」

 

 彼女の呆けた表情を見るのは久しぶりだな、と思いながらコウは声をかけた。ユイに頬を摺り寄せられていたキリハは、コウへ顔を向ける。ジッとこちらを凝視するキリハを見て、現実(リアル)と容姿が違うから分からないか、と思い─

 

「─浩一郎?」

 

 そう呼ばれて固まった。しかしコウはすぐに柔らかな表情を浮かべ、彼女に近づいていく。そしてユイも一緒に彼女を抱きしめた。その行動から彼女も漸く確信を持てたのだろう。背中に手を回され、力強く抱きしめ返される。

 

「まさか、君が来るとは思いませんでした」

 

「君を助ける役は、誰にも渡したくなかったからね」

 

「…まったく、君って人は」

 

 ふふっとキリハが笑い、三人はしばらく抱擁を続ける。お互いの体温を確かめ合うように…。

 

 

 

 抱擁を解いても、キリハを真ん中にして三人は手を繋いでいた。

 

「ユイちゃん、和葉をここからログアウトさせることは出来る?」

 

 コウの問いにユイは眉を顰め、すぐに首を横に振った。

 

「今の私では専用のコンソールがないと不可能です」

 

「あ、それっぽいのなら見つけましたよ」

 

 そのキリハの言葉にコウとユイは一瞬唖然とするも、すぐに溜息を吐いた。

 

「うんまぁ、和葉がここでじっと待っているだけなわけないよね」

 

「ねぇねですから」

 

 二人の反応にキャラじゃないと分かっていても、解せぬとキリハは言いたくなった。

 気を取り直して、今のうちにコンソールの所へ行こうと誰かが言おうとして─

 

「「「!?っ」」」

 

─突如として三人を真っ暗な闇が覆った。次いで、強力な重力が三人を襲う。

 

「きゃあっ!?」

 

 そして、ユイの口から悲鳴が聞こえた。まるで何かに攻撃されたかのように。

 

「「ユイ(ちゃん)!!」」

 

「気をつけて…くださいっ…何か…よくないものが…」

 

 言い終わらないうちにユイの体に紫の稲妻が走り、フラッシュ─その時にはユイの姿がどこにも見えなくなっていた。残された二人は同時にユイの名を呼んだが、返事はない。嫌な予感がしたコウは、すぐさまキリハに手を伸ばした。キリハも手を伸ばし、二人の手が重なる瞬間─更に強力な重力が二人を襲う。その強さに堪らずコウは膝をつき、キリハは真っ暗な床に倒れ伏した。

 そしてその瞬間を待っていたように、甲高い笑い声が聞こえてくる。

 

「どうだい?次のアップデートで導入予定の重力魔法の威力は。ちょっと強すぎるかな?」

 

 そう言いながら一人の男が暗闇から姿を表した。姿形も声も違うが、その人物が誰なのかは分かる。

 

「須郷っ…!!」

 

 立ち上がろうとしながら、唸り声で名を呼ぶ。

 

「君は、浩一郎君かな?どうやってここまで来んだい?さっきまで妙なプログラムもいたようだし」

 

 その言動から、ユイはこの男の手にかかっていないことに二人は表情に出さずに安堵した。それを知らない須郷は口を開く。

 

「まぁ、どうでもいいことだね。さて、君達の記憶を改ざんする前にパーティーと行こうじゃないか!ここの空間は全部記録中だ!せいぜい楽しませてくれたよ」

 

 そう言って須郷はキリハに近づく。そして指を鳴らすと、暗闇から鎖が下りてキリハの腕に絡みついた。ついで足がつくギリギリまで引き上げる。重力はまだ働いており、キリハは眉をひそめていた。

 

「はいっ!」

 

 そして須郷のその合図で、更に強力な重力がキリハを襲った。たまらず悲鳴を上げ、表情は苦しみに満ちる。コウは怒りの声を上げ、須郷の嗤い声が空間に響き渡った―

 

 

 

 

 

 

「―なにか面白いことでもあったか?」

 

 不意にそんな声が聞こえた。その瞬間、須郷は()()()()()。キリハを見れば、鎖に繋がれてはいるものの吊られてはいない。

 そう、先程のは須郷の妄想、というよりは、()()()()()()起きたはずの出来事。だが、現実にはそんな出来事など()()()()()()()

 

「もしかして何か妄想でもしてたか?たとえば、姉さんを酷い目にあわせる、とか」

 

 何故、と考えていた須郷はようやくその声が聞こえる方を向く。そこには、ここに来れるはずのない二人─

 

「何故…何故お前達がここにいる!?」

 

─キリトとアスカがいた。須郷の疑問に、アスカが答える。

 

「世界樹から上の空間、正確に言えばこの空間をハッキングしたんだよ」

 

 まぁ俺がやったわけじゃないけど、とアスカは呟く。勿論、無条件に出来る訳では無い。いや、出来ないことは無いが時間がかかりすぎる。だからコウに先導してもらったのだ。彼がキリハのいる空間まで行ってくれれば、その空間のみで済むのだ。

 しかしそんなことなど須郷にわかるはずがなく、怒りの声を出している。

 

「ハッキング…だとっ…!この僕の世界に…!」

 

「─あなたの世界じゃないでしょう?」

 

 須郷の声に返したのは、女性の声だった。声の聞こえた方にはキリトしかいない―いや、よく見れば彼女の肩に何かが乗っている。

 

「元々は晶彦くんの世界よ。それをあなたが奪っただけでしょう?」

 

 そういう人物は背中に小さな羽を生やし、薄緑のワンピースのようなものを着ている。見た目はナビゲーション・ピクシーのようであるが、NPCではない。実際、キリハはその声に聞き覚えがあった。

 

「母さん?」

 

「合ってるわよ、和葉」

 

 キリハに母さんと呼ばれたピクシー─桐ヶ谷 翠は笑って応える。ただ、その笑顔は少しぎこちなかった。

 それもそのはず。翠はフルダイブではなく、PCでアバターを操作しているのだ。コマンドで表情を表現するので多少ぎこちないのは仕方ない。

 

「さて須郷さん?あなたには私の娘を監禁したこと、そして私の後輩の技術を悪用したことをたっぷりと後悔してもらうわ」

 

「…後悔?どうやって?」

 

 先程までの焦りが嘘のように静かに、笑みを浮かべて問う。事実、彼は余裕を取り戻していた。空間をハッキングしようと、GMアカウントのハッキングは不可能だからだ。

 

「僕はこの世界の神だ!君たちを縛り付けるなんて造作もないことだよ」

 

 それならば、まだやりようがある。故に両手を広げ、高らかにそう言った。

 

「なら、やってみればいいだろ?」

 

 しかし、キリトはニヤリと笑みを浮かべ、そう言った。まるで、そんなことは無駄だと言うように。

 須郷は、その笑みの意味が理解できていない。その笑みを歪ませることしか考えていない。ウインドウを出そうと左手を振ったが、何も起きなかった。驚愕の表情になり、何度も振るが出ない。システムコールを叫ぶが、それでもシステムは何も応えない。

 

「確かに、お前のアカウントに勝てるのはこの世界に無いよ」

 

「だが、そもそもこの世界自体があの世界(SAO)から出来てんだ。なら、お前より上位のアカウントがあってもおかしくないだろ?」

 

 アスカとキリトの言葉で須郷は、そのアカウントが誰のものか理解したようだった。誰もいない虚空へ叫ぼうとして─鎖が体に巻き付く。

 

「!?」

 

「さて、どうしてやろうかしら。痛みを無くして恐怖を与えるか。痛みを与えるか」

 

 顎に手を当てていた翠は小さく「決めた」と呟くと、ウィンドウを表示し何かの操作をした。そして、鎖で強く締め付ける。途端、須郷の口から悲鳴が上がった。まるで、本当に痛みを感じたかのように。

 

「…お義母さん、何したんですか?」

 

「ペイン・アブソーバのレベルを0にしただけよ」

 

 アスカの質問に対した翠の答えに軽く引いた。下げることはするにしても、まさか0にするとは思わなかった。

 ペイン・アブソーバとは、簡単に言えば痛みの感じやすさだ。0~10まであり、これが高ければ痛みは感じない。当たり前である。いくらゲーム内とはいえ、痛みを感じたいと思う者はごく少数だ。

 分かっているとは思うが、このレベルを0にするということは、痛みは軽減されず、そのままの痛みを感じるということになる。

 

「まだ終わりじゃないわよ?」

 

 翠はそういうと、次々と須郷に痛みを与えていく。指先を切り落としたり、締め付けたり、体の関節を曲げたりと。最早拷問であった。因みに、キリハは既に救出済みである。

 翠の拷問具合を見て全員がここにユイがいなくて正解だなと考えていたら、悲鳴がやんだことに気づく。見たくもないがそちらに目を向ければ、須郷が白目を向いてボロボロになっていた。そのすぐそばで翠のアバターはスッキリした表情をしている。

 

「どうする浩一郎君?あなたが止めをさしたいなら譲るけれど」

 

 この中で一番怒りを秘めているのは彼だと思っての発言だった。しかし、コウは首を横に振る。

 確かに八つ裂きにしてやりたいと思っていたが、翠の拷問を見てしまうとその気が失せてしまったのだ。それが分かったのかどうか知らないが「そう」と翠は呟き、戸惑いなく須郷の首をはねた。

 

「さて、和葉をログアウトさせましょうか」

 

 須郷のアバターが消失したことを確認した翠がキリハの方を向いて言った。それに頷き、キリハはコウに顔を向ける。

 

「では、向こうで待っています」

 

「うん、待ってて」

 

 コウの言葉に笑顔で返し、それを見届けた翠がキリハをログアウトさせた。

 

「じゃあ、迎えに行ってきます」

 

 それに三人それぞれで返し、コウは消えていった。それと入れ替わりでユイが現れる。

 

「ママ、パパ!」

 

「「ユイ(ちゃん)!」」

 

 三人は抱擁し合い、ユイは二人がいないことに気づく。それを問い、二人は現実に帰ったと聞くと嬉しそうに笑った。

 それを見ていた翠は、突然虚空に向かって口を開く。

 

「あなたはいつまで黙っているつもり?

 

 

─晶彦君」

 

 

 

 

 現実で目を覚ました浩一郎はアミュスフィアを外し、上着を着ると外に飛び出る。やけに寒いと思っていたら雪が降っていた。だが、そんなことは構わず、バイクにまたがり病院へと向かう。軽くとはいえ、雪が道路を覆っているのであまりスピードは出せないが、交通量も減少しているのでありがたい。

 一刻も早く、彼女の顔が見たい。だがそれと同時に、あの病室に行くことに恐怖もある。この2年間のほとんど毎日、彼女の元に行ったが、二度と目覚めないのではないかという思いが常にあった。それが、ここ二ヶ月間は特に酷かった。他の者が目覚めている中、彼女だけが目覚めないのだ。絶望感が生じても仕方ないだろう。これで彼女がまだ目覚めていなかったら?彼女の魂がALOになく、現実にも帰ってきていなかったら?

 いや、それはありえない。現実世界がそこまで冷酷なわけがない。後ろ向きな考えを殴り捨て、アクセルを回す。数分進めば病院の影が見えてきた。

 駐車場にバイクを止めて、正面玄関まで走る。この時間だと本来は急患以外は受け付けていないが、今回は特別だった。玄関に人影が見える。その人物はこちらを視認すると手をあげてきた。

 

「医院長さん」

 

「やぁ、浩一郎君。桐ケ谷君から話は聞いてるよ」

 

 彼はここの病院の医院長であり、彼の言う『桐ケ谷』は峰高のことだ。医院長とは和葉達の祖父が学友だったらしい。そのため、浩一郎達を優遇してくれる。

 医院長はカードパスをくれ、それに礼を言い、走っていった。エレベーターを使い、最上階まで登る。エレベーターを降り、突き当りの病室まで走る。扉の前まで着き、扉を開けようと手をかけたが、触れる直前に手が止まった。

 

─ここまで来て、彼女が目覚めていなかったら…─

 

 その迷いを払うように勢いよく扉を開ける。そして浩一郎は息をのんだ。今まではベッドの上に寝転がっていた彼女が、和葉が、起き上がっていたからだ。

 音に気付いた和葉は、窓に向けていた顔を、こちらに向ける。そして浩一郎を視認すると、笑みを浮かべた。

 

─待っていました─

 

 口を動かし、かすれた声でそう伝えてくる。たまらず浩一郎は泣き笑いになり、和葉を抱きしめた。それに対し、和葉も力の入らない状態で返してくれる。

 嗚呼、やっと実感できた、やっと取り戻せた。自分が一番愛おしいと思っている彼女を。その思いが占めていたからこそ、次の和葉の発言は不意打ちだった。

 

「好きです…浩一郎…」

 

 耳元で囁かれ、思わず抱擁を離し、目を見開いて和葉の顔を見る。彼女は変わらず笑みを浮かべていた。

 

─実らなくても良い。自分のこの思いを、ただ伝えたかっただけ─

 

 その思いで伝えた気持ちは、和葉にとって予想外の形で返されることになる。

 

「和葉」

 

 浩一郎は名前を呼ぶと、和葉の両頬に手をあてる。何をするのかと思っていると、目の前に浩一郎の顔があり、口に何か感触がある。口づけをされたのだと、数秒遅れて気づいた。口を離した浩一郎は微笑んで、口を開く。

 

「僕も君のことが好きだよ。愛してる」

 

 今度は和葉が目を見開く番だった。しかし、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。そして、和葉から浩一郎に口づけをした。浩一郎はそれを受け入れ、先程より長く交わす。二人の心には、温かな気持ちが溢れていた─

 

 

 

 

「─ううん…最上階とはいえ窓側だから見えてるんだけど…。和ねぇ達分かってるのかな?」

 

「わかってるわけねぇだろ、この時間だぞ。誰が下から見られてると思う」

 

 それもそうだね~、と()()()()()()直葉が返した。峰高は溜息を吐き、それにしてもと思いながら直葉の背後に視線を向ける。

 

「お前、強くなったな」

 

「やった。お父さんに褒められた!」

 

 嬉しそうに笑う直葉を見るとほほえましい気持ちになる。が、ここに一般人がいたらそのように思わないだろう。なにせ、今直葉の足元には()()()()()()()()()()()()()()。その中には、須郷の姿も見える。

 ALOで負ければ、須郷は浩一郎に復讐をすると考えて待っていたが、まさか本当に来るとは。しかも数人の、恐らくは共犯者をつれて。

 

(まぁ。それも失敗したわけだが)

 

 危なくなれば手助けをするつもりでいたが、その必要はなかった。直葉は、自分が思っているよりも強くなっていたようだ。

 この男の敗因は二つ。桐ケ谷家を舐めていたこと、そして家族をさらったことだ。その代償は重い。

 

「よくもうちの娘を監禁してくれたな」

 

 峰高は須郷の髪をつかみ持ち上げ、声を低くしてそう言った。

 

「お前のやっていた実験の証拠は今頃、俺の部下達が回収しているだろう」

 

 須郷の瞳に浮かぶのは恐怖と絶望。ようやく、敵に回してしまった者の恐ろしさを知ったようだが、今更遅い。もうこの男は、この瞬間に終わったのだから。

 

「─二度と陽の光を浴びることはないと思え」




ここまで見ていただきありがとうございました。一応、あと一話でALO編は終わらせます。

誤字脱字または変なところがありましたらご報告宜しくお願いします。

質問がありましたら、活動報告のほうまでよろしくお願いします。


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妖精の踊り

 『ALO編』最終話となります。


 授業終了のチャイムが鳴る。この後は昼食の時間だ。ずっと座っていたので、固まった体を伸ばす。周囲に目を向けると、弁当を出して集まる者と教室を出て食堂に行く者の二つに分かれた。かくいう自分も、食堂にこれから行くわけだが。

 

「明日加ー、食堂行こうぜー」

 

「今日はこいつ無理だろ」

 

「そういうこと。んじゃ」

 

 声のする方に顔を向ければ、明日加が二人のクラスメートとそんな会話をしていた。手をあげ、にこやかに笑って教室を出ていく。教室のあちこちから「羨ましい」だの「俺も彼女作りたかった…!」だの「どちくしょうがぁぁぁあ!!」だの、男子から嫉妬の叫び声が響き渡った。つい、微笑んでしまう。それを聞いて、この学校は平和だなと思ったからだ。中学では嫉妬心から二人に危害がいっていた。それに比べれば可愛いものだ。

 

「和葉ー、向かいに来たわよー」

 

 そんなことを思っていたら名前を呼ばれる。そちらを向けば、一人の女子が手を腰に当て立っていた。手をあげて応え、鞄から弁当を取り出して立ち上がる。

 

「お待たせしました。里香」

 

「別に良いわよ」

 

 行くわよ、と言い二人で食堂に向かう。

 さて、あれから今までの出来事を説明していくとしよう。まずは、やはり和葉が目覚めてからの話からだろう。

 

「珪子はもう食堂ですか?」

 

「えぇ、そうよ。今日はあの子の方が授業終わるの早かったみたいだから。ちなみに黒猫団…だっけ、あの子たちは今日は別だって」

 

「おや、そうですか」

 

 和葉が病院で目覚めた次の日、つまりは和葉と浩一郎が付き合い出した次の日からは大変だった。なにせずっと寝たきりであり、監禁されていたのだ。脳や体に異常がないかの検査をすることになった。幸い、他の目覚めた三百人と同様に異常は見つからなかったが。

 

「あ、お二人ともー、こっちでーす!」

 

「そんなに声張らなくても聞こえるわよ」

 

「やぁ珪子、いつもありがとうございます」

 

「いえいえ、好きでやってることなので」

 

 それからは毎日がリハビリ+筋トレ。どちらも基本的に浩一郎がいてくれたので苦ではなかったが、今思うとやはり筋トレはおかしくないだろうか。両親いわく無理ない範囲でメニューを組んだらしいが、慣れるまでは泥に沈むように寝ていた。因みに佳奈と明日加もやったらしい。まぁおかげで、早い段階で松葉杖がいらなくなったので良しとしよう。それでも無理な運動は禁止されているが。

 

「あ、中庭にいるの佳奈さんと明日加さんじゃないですか?」

 

「今日は二人で邪魔無く食べる日ですから」

 

「なるほど」

 

「週三日って決めてるみたいだけど、それが多いんだか少ないんだか」

 

 さて、次はこの学校について。ここは国が設立した中学・高校に通っていた学生生還者用の学校である。オレンジプレイヤーはカウンセリングをするために一年以上の経過観察が義務付けられているが、自衛のためにオレンジとなった者も少なくない。更に恐喝や盗みなどの犯罪行為はデータに残らないため、プレイヤーネームが知られていなければ問題が起きることは少ないといえる。まぁ、一部の者(主に和葉達のことだ)は顔が知られているため即バレしたのだが。

 

「あいつらっ…!ここからそこは丸見えだっつうの…!」

 

「どうし…あぁ」

 

「お互い食べさせ合ってますね…」

 

 今和葉と一緒に食事を取っているのはリズベット─篠崎里香─とシリカ─綾野珪子─だ。二人の年齢は里香が一つ上、珪子は二つ下。この学校に入学する前に会いたかったので連絡先を突き止め、悪いとは思ったが病室までお見舞いに来てもらった。そこでリアルの名前を紹介し合い、ついで須郷のしでかした事件も話した。二人とも表情を怒りに染めたが、それについては問題ないことを伝えると疑問に思いながらも追求しないでくれた。二人曰く、和葉なら何をしても驚かない自信があるそう。佳奈が思わず「なんだそれ」と呟いていた。

 

「そういえば二人とも。今日のオフ会、もちろん行きますよね?」

 

「「あったりまえよ!/当然です」」

 

 次は須郷について。両親から聞くに、奴は捕まった後もとにかく醜く抗い、黙秘に次ぐ黙秘、否定に次ぐ否定、挙句の果てには晶彦に全ての罪を擦り付けようとしたらしい(それを聞いた和葉達はつい殺気を放ってしまった)。しかし、重要参考人として奴の部下が連れてこられるとあっさり白状したとのこと。まぁ、それは形だけのものらしく今度は精神鑑定を申請中らしいが、無駄だろうなと思う。証拠の全てを峰高が集めていたのだから、奴の有罪は免れないだろう。二度と、奴と出会うことは無い。

 一つ、奴が行っていた非人道的行為は世間一般には知らされていない。よって、浩一郎と明日加の父親である彰三が何か責任を取るということは無い。

 

「珪子は直葉ちゃんと仲良いもんね」

 

「はい!リアルで会ってALO内でも会っていたら意気投合しちゃいました」

 

「妹と仲良くしてくれてなによりです。あの子、どうも女子の友人が少ないようで」

 

 さて、最後に晶彦について。彼はALO内で目覚め、和葉の側にいたはずなのに出てこなかったわけだが、危なくなったら出てくるつもりだったらしい。これは浩一郎がログアウトした後に翠が直接聞いた話だ。ユイを保護したのも、佳奈達の手助けをしたのも、当たり前だが晶彦だ。あの時、翠が使っていたアカウントは晶彦が託したものである。それでも何故出てこなかったと問い詰めれば「先輩達が来た時点で私の出る幕があるわけないでしょう」と言われたらしい。

 

「あぁでも、分からなくはないです。女子って直葉ちゃんみたいに素直な人を嫌いますし」

 

「それは陰険な女子の場合でしょ?あたしは好きだけどね、あの子の素直なところ」

 

「姉として嬉しい限りです」

 

 因みにいうと、晶彦と翠は近所が一緒である。その縁から和葉達はSAOの製作に関わることになった、ということだ。

 そして彼はその空間から出る際、あるものを翠達に託した。それをどうするかは任せると言われたらしい。それは─

 

 

 

 ダイシ―・カフェの店前、そこに和葉、佳奈、直葉、明日加、浩一郎の五人はいた。扉には『本日貸し切り』と書かれたプレートがかかっている。

 

「へ~、ここがエギルさんのお店かぁ」

 

「そっか、スグはアンドリューとリアルで会うの初めてか」

 

「リアルでも大きいからね。けっこう驚くかも」

 

「佳奈から聞きましたが、明日加がかなり驚いていたとか」

 

「あれは無理ないって」

 

 そんなことを話しながら扉を開けた─瞬間に中から歓声や拍手、指笛が響いてきた。突然のことで和葉は固まったが、他の四人はクスクスと笑っている。思わず時間を確認するが、遅刻はしていない。

 

「なに固まってるのよ。ほらほら、主役はこっちに早く来なさい」

 

 里香に手を引っ張られて、和葉は店の奥にある小さなステージの上に連れてこられた。そして手に飲み物の入ったグラスを持たせられる。周囲を見れば、所せましと人がいて場は盛り上がっていた。

 

「じゃあ、行くわよ。せーのっ!」

 

『『『『(キリハ/姉さん/和葉/和ねぇ)SAO攻略おめでとう!!』』』』

 

 全員の唱和とクラッカーが店内に響き渡ったのを、和葉はポカンと見ていた。

 今日のオフ会は《SAO攻略記念パーティ》と聞いていたのだが、どうやら和葉の知らぬところで話が進んでいたらしい。反応をみるに、和葉以外は全員知っていたようだ。だがまぁ、悪い気はしないし、むしろこうやって祝福してくれるのは嬉しい。スピーチをやらされるのと、浩一郎との関係を冷やかされるのは勘弁してほしかったが。

 店内の者達とお互いに改めて自己紹介をしあう。その中にはシンカー(本名、新島康太)もいた。彼はユリエール(本名、佐々木由里)と入籍したそうだ。今は《新生MMOトゥデイ》のサイトを運営している。だが現状、MMOはある事情で混沌と化しているので色々と大変なのだそうだ。まぁその事情は、晶彦が翠達に託したものが原因なのだが。

 晶彦から託されたものは《世界の種子(ザ・シード)》。フルダイブ・システムによるVR環境を動かすためのプログラム・パッケージだった。難しい説明は無しだ、要は環境を整えておけば誰でも簡単に『VR世界(新しい世界)』を作れるパッケージなのだ。それを誰でも簡単にアップロード、使用できるように全世界のサーバに開放しておいた。

 今までカーディナルシステムの権利は《アーガス》から、彰三が経営している《レクト》へ移譲されていた。しかし彰三はプログラムの権利を破棄、その権利は何人かのALOプレーヤーが新たに立ち上げた会社へと移行された。彰三は「私にはVR世界を活かすことができない。ならば、活かせる者に託した方が良いだろう」と言っていた。結果、彼らによってALOは生まれ変わった。飛翔制限は無くなり、そして驚くものが今夜、実装される─

 

 

 

 ALO内、漆黒の夜空をリーファが高速で飛んでいた。四枚の翅で大気を切り、どこまでも加速し、どこまでも遠くへ。

 以前までは限られた時間で飛ばなければならなかったため、効率の良い飛び方をしなければならなかった。しかしそれはもう過去の話、今はもうリーファを縛るシステムの枷は無い。

 彼女は集合時間の一時間前にログインし、最近滞在しているケットシー領首都《フリーリア》から飛び出した。かれこれ二十分は飛んでいる。しかし翅の輝きが失われる気配は無い。先週開かれた《アルヴヘイム横断レース》でキリトとのデッドヒートは楽しかった。が、やはり自分は何も考えずに飛んでいた方が楽しい。

 体感的に今までの最高速度を出したと思った瞬間、急上昇に転じた。雲を突き抜け、巨大な満月まで飛んでいく。満月に手を伸ばし、あそこまで飛んでいけるかもしれないと思った。だが、突如として翅は輝きを失った。飛翔限界高度に到達したのだ。以前よりは高くなったとはいえ、それでもやはり限界高度はある。翅の輝きを失ったリーファは翅を再展開することなく、目を閉じてそのまま落ちていく。しかし、その顔には笑みを浮かべていた。今はまだ届かないが、そのうち届くようになるだろう。《ザ・シード》で作られたVR世界は互いにコンバートできる仕組みが出来つつある。その延長でVRMMO連結体(ネクサス)の参加を募集中だ。手始めにALOは月面を舞台にしたVR世界と相互接続をする予定だそうだ。そうすれば、あの月まで飛んでいくことが可能になる。やがては他の世界もそれぞれが一つの惑星として設定され、星間旅行も出来るようになる。

 どこまでも飛んでいける、どこまでも行けるようになる─けれど、行けない場所もある。寂しさを感じてる理由はわかっている。今日の打ち上げが原因だ。あそこにいた人達は良い人達だ、それはわかっている。実際にSAO(あの世界)を経験していない自分を快く仲間に入れてくれた。しかし、同時に感じてもいたのだ。あの人達は、あの人達にしかみえない絆で繋がれている。《浮遊城アインクラッド》で共に戦い、笑い、泣き、生き残った、その記憶が彼らを繋いでいる。そこにリーファ(直葉)は入れない。自分にはその城の記憶がないから。

 伸ばしていた手を縮めて、体を丸めて落下を続ける。雲海はもうすぐ、集合場所は世界樹の上にある《イグドラル・シティ》だ。そろそろ滑空を始めなければならない。しかし、心の寂しさのせいで翅を広げることが出来ない。冷たい風が頬を撫でる、胸の中の温もりを奪っていく、このまま深く、深く落ちていく─

 

「─?」

 

 突然、手を引っ張られて落下が止まる。一体誰が、と思い上を向くと、そこにいたのはレコンだった。

 

「見つけたと思ったら落ちててびっくりしたよ」

 

「それはごめん。それよりなんであんたがここに?」

 

 リーファは翅を広げ、ホバリングしながら問うた。レコンは掴んでいた手を放し、答える。

 

「もうすぐ集合時間だから向かいに来たんだよ」

 

 何故かキリハ達は、ログインした自分にリーファを向かいに行くことを頼んできたのだ。確かに向かいに行きたかったのは本音だが、何故みんな自分に行かせようとしたのか、内心首をかしげる。そんなことは知らないリーファは突然、口を開く。

 

「レコン、踊ろうよ」

 

「へっ?」

 

 レコンの表情にクスっと笑うリーファは彼の腕を掴み、雲海の上を滑るように移動する。

 

「最近開発した動きなんだけどね、ホバリングしたまま横移動するんだ」

 

 リーファの動きについて行こうと真剣な表情になるが、バランスを崩しそうになった。そんなレコンに笑みを浮かべ、リーファはアドバイスを送る。それを何回か繰り返し数分、なんとかついていけるようにはなってきた。するとリーファは胸ポケットから小さな瓶を取り出す。蓋を開け空中に浮かせれば、中から銀色の光の粒とどこからともなく弦楽の重奏が聞こえてきた。ハイレベルのプーカが自分の演奏を瓶に詰めて売っているアイテムだ。

 音楽に合わせてリーファはステップを踏み始め、両手を繋いでいるレコンがそれに合わせる。大きく、時には小さくステップを踏んで夜空を舞う。レコンが慣れてきたと判断したら動きにアドリブを入れていった。青い月光に照らされ、二人は雲海を滑り、緩やかな動きを徐々に速くしていく。二人の翅が散らす碧の光が重なり、ぶつかって消えていった。

 踊りながらリーファは、不意に口を開いた。最近、胸が苦しいと。大丈夫かとレコンが聞いてきたが、病気ではないことを伝える。原因は、はっきりしているのだ。

 

「─多分、私は浩にぃが好きだったんだと思う。家族としてじゃなくて、一人の異性として」

 

 そうでなければ、キリハとコウの二人が付き合うと聞いて、胸が痛くなることは無かっただろう。もちろん、二人を祝福する気持ちは誰よりも大きい自信はある。しかし、確かに感じたのだ。自分の胸に走る小さな痛みを。最初は理由が分からなかった。でも、何度も二人を見るたびに痛みが走れば、流石にわかる。自分は、浩一郎が好きだったのだと。

 それを黙って聞いていたレコンは、ただ一言だけ口にした。知っていた、と。

 

「桐ケ谷さんが浩一郎さんのことが好きなのは、なんとなく分かってたよ」

 

 なにせ、ずっと彼女のことを見てきたのだ。彼女の視線が常にコウにいっていたのくらい分かる。自分の恋は叶わないと思ったが、それでも構わなかった。なぜなら自分は、彼女の隣にいられればそれで良いのだから。

 リーファは目を見開いたが、すぐに納得できた。レコン(慎一)はいつも自分のことを見てくれている。知っていても不思議ではない。

 

「慎一君」

 

「ん?」

 

「聞いてくれてありがとう。これからもよろしく!」

 

 満面の笑みを浮かべてリーファはそう言った。レコンはその笑み見て赤面する。意味が分からず首を傾げていると

 

「おーい、二人とも。そろそろ時間…なにしてんだ?」

 

 その声が聞こえた瞬間、二人は慌てて手を離した。声が聞こえた方を向くと、キリトは呆れたような顔を、アスカは苦笑している。

 

「お、お二人はどうしてここに?」

 

「リーちゃんを迎えに行かせたレコン君も戻って来ないから迎えに来たんだよ」

 

 邪魔しちゃったみたいだけど、とアスカは言った。それを二人して慌てて否定する。まぁいいや、とキリトが呟いて二人に手を伸ばす。

 

「もうそろ時間がやべぇ。さっさと行くぞ」

 

 キリトはリーファの、アスカはレコンの手をそれぞれ掴んで急発進する。リーファは慣れているが、レコンは慣れていないので悲鳴をあげた。

 向かう先は《イグドラル・シティ》、その中央にある塔だ。遠くからは明かりの集合体にしか見えなかった光が、建物から漏れ出るものや、街灯だと認識したその時、アルブヘイム内で零時を知らせる鐘が鳴り響いた。その音を聞いたキリトとアスカは急ブレーキをかける。

 

「間に合わなかったか」

 

「二人とも、月を見ててごらん」

 

 アスカに言われた通り、月を見るがなんら変化があるようには見えない─いや、よくよく見れば月の右上の淵が、わずかにかけている。

 

「「えっ?」」

 

 月食かと思ったが、それはアルブヘイムでは起こったことがない。月を侵食するそれは、どんどん面積を増やしていく。円形ではなかった。三角形の楔が食い込んでいくように見える。

 そして不意に、低い唸りが鳴り響く。先程の鐘とは違う、鐘の音。その音が、月を隠しているものから聞こえてきていることが分かった。”それ”がなんなのか、二人には分からない。円錐形の形をしているようだが─。

 突然、”それ”自体が発光した。四方に眩い黄色の光を放つ。その形を見た瞬間、二人は”それ”がなんなのかを察した。

 

「え、まさか…あれ…」

 

「《浮遊城アインクラッド》…?」

 

 口にしながらも信じられなかった。あれは、データが完全に消去されてここにないはずのものなのだ。その疑問を口にすると、決着をつけると二人は言った。

 

「前は四分の三で終わっちまったからな。次こそは完璧にクリアする」

 

「俺達はSAOのデータを消して弱くなっちゃったからね。二人にも協力してもらいたいんだ」

 

 そういってキリトとアスカは、二人に手を差し出す。今度は一緒に戦おうと、ここでも皆で絆を繋げようと、そう二人に言ってくれているのだ。リーファは涙が零れそうになるのを抑え、笑顔でもちろん!と言った。レコンもそれに続き肯定を返す。

 すると、下の方から声が聞こえてくる。

 

「おーい!遅ぇぞ、おめぇら!」

 

 クライン率いる《風林火山》に続き、エギル、リズ、シリカ、《月夜の黒猫団》、アルゴと顔なじみが上昇してきた。更に後ろには領主のサクヤとアリシャが先行してくるシルフ・ケットシー、ユージーンとその部下のサラマンダー。その集団がキリト達を追い越し、我先にと《伝説の城》へ飛翔していく。

 最後に、男女のスプリガンが四人の前に停止した。刀を腰につけ、肩にユイを乗せたキリハは笑みを浮かべていた。

 

「さぁ、二人とも行きましょう」

 

「これからも、よろしくね」

 

 そう言った二人はリーファとレコンの手を取り、城へと飛んでいく。

 ユイはキリトの肩に移り、「ママ、パパ、早くわたし達も行きましょう!」と元気よく言った。キリトとアスカは目を合わせ、頷いた。

 

「「みんな、行こう!!」」

 

 二人は笑みを浮かべ、飛翔していく。今度こそ、完全攻略するために─。




 ここまで見ていただきありがとうございました。これにて『ALO編』は終わりになります。しばらく更新はお休みします。いつまで休むかはわかりませんが、次回の更新まで待っていただければ幸いです。


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ファントム・バレット
菊岡誠二郎


 はぁい皆様ジャスト一年ぶりでございまぁす!!!待ってくださった方々はかなぁりお待たせしましたぁ!!
 皆様はコロナでどのように過ごしましたか?自分は以前までとそこまで変わらなかったです。習い事が無かったり大学の授業が通信になってたくらいですかね。

 今回からGGO編始まります。取り敢えずストックしている話がいくつかあるので、3日に1話のペースで載させて貰います。

 ではどうぞ


─暗い部屋の中、数人の男の嘲笑と共に体に拳が撃ち込まれる。両手は吊るされているので防ぐ術がない。何時間経ったのだろうか、仲間は自分のことを助けてくれるだろうか。見捨てることはしないか、と思い直すと一際強く撃ち込まれた。思わずせき込み、血を吐く。そこへ、この場にはいなかった男が口を開きながら部屋に入ってきた。

 

「ふん、流石の『Vent(ヴォン)Noir(ノワール)』も吊るされては何もできんか」

 

 『Vent(ヴォン)Noir(ノワール)』、フランス語で『黒い風』を意味するそれは自分の異名だ。この道に入って十数年、いつのまにかそんな異名がついていた。自分としては特になんとも思わなかったが、仲間は喜んでくれていたっけか。

 何のために自分を捕らえたのだろう。とは言っても、心当たりはあるのだが。

 

「─僕を捕らえたのは仲間の敵討ち、というところでしょうか」

 

「その通りだ。我々の部隊は貴様らに壊滅させられた」

 

 はっ、と思わず笑ってしまった。男達が怪訝な顔をしたが、関係ない。この道では仲間が死ぬなど日常茶飯事だろうに。こいつらはいちいち敵討ちをしてきたのだろうか。つい、くだらないと呟いてしまった。

 

「なんだと?」

 

「くだらないと言ったんですよ。()()なんてやってれば誰かが死ぬ事は当たり前でしょうに」

 

 その答えが気に食わなかったらしい。脇腹に鋭い蹴りが入った。骨が折れたなと思っていると、男は口を開く。

 

「少し休憩を入れてやろうと思っていたが気が変わった。おい」

 

 男の指示で部下が小振りのナイフを持ってくる。それを手に取り、近づいてきた。そして刃を思い切り腹に刺される。

 

「ぐっ、がぁぁぁあ!!」

 

 そのままねじる様に押し込まれた。たまらず悲鳴をあげる。それを面白がるように、更にねじ込まれる─

 

 

 

「─っ!」

 

 目を開ければ、浩一郎が覗き込んでいた。その眼には心配の色が見える。

 

「大丈夫かい和葉。()()うなされていたようだけど」

 

 彼が言うには、相当酷かったらしい。何も言わずに和葉は浩一郎に抱き着いた。浩一郎は目を軽く開いたが、何も聞かずに抱きしめ返してくれた。二人は今、服を着ていない。そのため、彼の体温を直接感じることが出来る。和葉は浩一郎の体温を感じると落ち着けることが最近分かった。

 彼の匂いを嗅ぎながら和葉は先程見た夢を考える。小さい頃から同じような夢を見ているが、いつも見下ろすように見ていたのだ。しかし、ここ最近は自分が体験しているような夢を見る。まるで、過去の出来事を繰り返すように。そんなことはありえない、と思う。あんな過去はない、あれはただの夢だ、そのはずだ。

 

(でも、何故でしょうね─)

 

─ただの夢で終わる気がしないのは─

 

 

 

「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか」

 

 先に来ていることを店員に伝え、喫茶店の中を見回す。すぐに奥の窓際の席から無遠慮な声が聞こえてきた。

 

「おーい和葉ちゃん、こっちだよー!」

 

 店内にいた他の客から非難気味の視線を浴びても、自分を呼んだ男は笑顔で手を振っていた。これはさっさと行った方がいいな、と判断して溜息を吐きながらその席へ向かう。

 

「ここは僕が持つから好きなの頼んでいいからね」

 

「最初からそのつもりです。それと、こういう喫茶店で大声を出さないでください」

 

 居心地悪くなるんですよ、と男に言いながら席に座った。手厳しいなぁと笑っている男を目に入れながら、ウェイターが持ってきてくれたメニュー表を見る。こういうところのメニューは高いもので、一番安いものは千二百円するものだった。この男が一般人だったら遠慮するところなのだが、生憎一般人ではないので遠慮はしない。ケーキ二つとカフェを一つ、ざっと四千円分のものを頼んだ。

 

「ところで、浩一郎君は本当に来なかったんだね」

 

「先約がありましたから」

 

 非常にすまなそうな表情をしていたことを覚えている。確かに寂しさが無いとは言わないし、隠すつもりも無いが友人との約束を守らないのは違うと思うのだ。

 

「それで、今回はどのような要件でわざわざ銀座まで呼び出したんですか?」

 

「…なんか和葉ちゃん、機嫌悪い?」

 

 そう言って困ったように笑ったこの男は菊岡誠二郎、SAO生還者のために動いてくれた人物だ。それは感謝しているが、何度も会っていればただの善意でこちらに接触していないことくらい分かる。それは別に構わないのだ。その方がこちらも楽ではあるし、両親の調べによれば敵ではないようだし。

 因みに、最初はPLN(プレーヤーネーム)で呼んできたので訂正させた。

 

「…ここ一年、毎日のように嫌な夢を見るので…」

 

 八つ当たりに近いのは自覚しているのでばつが悪そうにそう言うと、誠二郎はほっと胸をなでおろした。

 

「良かったぁ。とうとう嫌われたのかと思ったよ」

 

「嫌いではありませんよ。信頼しきれていないだけで」

 

 信用はしているのだ。そもそも、この男は桐ケ谷家のことを()()()()()。彼が所属するのは総務省総合通信基盤局硬度通信網振興課第二別室、通称《仮想課》。氾濫しているVR世界を監視するために国が設立したものだ。まぁ、詳しいことは教えてもらっていないが、どうやら裏の道にも繋がっているようでその関係で桐ケ谷家のことを知ったそうだ。

 

「そんなことより、早く要件を言ってください」

 

 わかったよ、と誠二郎はタブレットを取り出し要件を言っていく。

 なんでも、ここ数ヶ月でVR関係の事件が急激に増えているらしい。仮想財産の盗難や毀損が十一月のみで百件以上、ゲーム内のトラブルが原因の傷害事件が十三件、うち一つは致死事件。刃渡り百二十センチ、重さ三・五キロの模造の西洋剣で二人死んだ。なんでも、ヘビープレイのためにドラッグを乱用していたらしい。これはニュースでも報道されたし、父親が鎮圧した事件なのでよく知っている。たまたま近くにいたかららしいが、それを聞いた時には何やってんだと言ってしまった。

 しかしこういってはなんだが、全体からみて傷害事件がその程度なら社会不安を醸成しているとは言えないだろう。つまりこの男が言いたいのは─

 

「─VRMMOが現実世界で人を物理的に傷つけることへの心理的障壁を低くしている、それは認めます」

 

 その時、ウェイターが和葉の前に皿を二つとカップを一つ置いて「以上でお揃いでしょうか」と述べてくる。それに頷くとウェイターは伝票を置いていった。コーヒーを一口含み、話を続ける。

 

「ゲームによってはPKが日常化していますしね。ある意味では、殺人の予行演習と言えるでしょう。先鋭化したものでは、よりリアルなものもありますし」

 

 ここで言うことはしないが、血が出たり、内臓がぶちまけられたりするものがあるのだ。一部のマニアはログアウトの代わりに自殺をしているらしい。

 毎日そんなことをしていれば現実で行おうとする者がでてきても不思議ではない。なんらかの対策は必要だろうが、法規制は無理だろう。それこそ、ネット的に鎖国をしない限りは。

 そこまで話した和葉はケーキをフォークですくって口に運んだ。すると誠二郎が一口貰っていいかと聞いてきたので、無言で皿を前に出す。口に運んだのを見計らって和葉は口を開く。

 

「それで?本題はそれじゃないでしょう」

 

 ばれてたかといわんばかりに苦笑を浮かべ、タブレットを再び操作し差し出される。そこに写っていたのは一人の男性と、その男のプロフィールだった。

 

「この男性は?」

 

 彼の話によると、先月(十一月)の十四日に死亡した男性の写真らしい。東京都中野区のアパートで掃除していた大家が異臭に気づき、その発生源と思われる部屋のインターホンを鳴らすも部屋主は出ない。電話にも出ない、が部屋の電気はついている。それを異常と感じた大家は電子ロックを解除、部屋に踏み込んだ。するとその男、茂村(しげむら)(たもつ)二十二歳がベッドの上で死んでいた。死後五日が経っていたらしい。部屋は荒らされた様子がなく、アミュスフィアを被っていた。すぐに家族に連絡がいき、変死ということで司法解剖が行われた─

 

「─死因は心不全だそうだ」

 

「心不全?何故心臓が止まったんですか?」

 

 和葉の問いに無言で首を横に振った。死亡してから時間が経ちすぎており、事件性が薄いこともあって精密な解剖は行われなかったようだ。ただ男性は二日はほとんど食べずにログインしていたとのこと。

 

「…話を聞く限り、変ではないでしょう。栄養失調で心臓発作は起こりますから」

 

「そう、別に珍しいことじゃない。でもね、実は妙な話があるんだ」

 

「妙?」

 

 誠二郎は頷いて話し始める。

 その男性は《ガンゲイル・オンライン(GGO)》のトップに位置していたプレーヤーだったらしい。十月に行われた最強者決定戦での優勝者、キャラクターネームは《ゼクシード》。死亡直前にログインしていたのは《MMOストリーム》というネット番組で、それの《今週の勝ち組さん》に出演中だったそうだ。

 そういえば、番組の途中で出演者がログアウトして一時中断したという話を聞いたなと思い出した。「多分それのことだろうね」と彼は言って続きを話し始める。

 《Mスト》はゲーム内でも中継される。それはGGO内の首都、《SBCグロッケン》のとある酒場での話だ。あるプレーヤーが立ち上がり、テレビに映っているゼクシードに向かって、裁きを受けろ、死ねなどと叫んで発砲したそうだ。それをたまたま音声ログを取っていたプレーヤーが掲示板に貼り付け、ファイルには日本標準時(JST)も記録されていた。銃撃があったのが十一月九日二十三時三十分二秒、茂村が突如消滅したのが同日二十三時三十分十五秒。

 更にもう一件、今度のは十一月二十八日。埼玉県さいたま市のアパートで死体を発見、死因は心不全でその人物がやっていたゲームもGGO。キャラクターネームは《薄塩たらこ》。この人物もまた、トップに位置するプレーであるそうだ。掲示板の情報なので信憑性は薄いが、彼はゲームの中でスコードロン─ギルドのことだ─の集会に出ていたところを銃撃されたらしい。それに怒り詰め寄ろうとしたところ、消滅した。アミュスフィアのログによると消滅したのは十一月二十五日二十二時四秒、死亡推定時刻もそのあたり。こちらも同じような言葉の後に銃撃され、同じネームを名乗っているらしい。

 

「─《シジュウ》…それに《デス・ガン》とね」

 

─すなわち《死銃(death gun)》。

 和葉はその名を何度か口にしてから、誠二郎へ顔を向ける。

 

「その二人の死因は、心不全で間違いないのでしょうね?」

 

「というと?」

 

「脳に損傷は無かったのですか?」

 

 そう言うと、それは誠二郎も気になったらしく司法解剖した医者に問い詰めたそうだ。しかし、二人の脳には何の損傷も無かったらしい。そもそもの話、アミュスフィアはナーブギアと違って、脳を破壊するレベルの出力を出すことは出来ないのだ。

 

「まぁこんな具合でね。和葉ちゃんは可能だと思うかい?ゲーム内から人を殺すことが」

 

 誠二郎の問いに顎を引いて考える。不可能だ、と和葉は即座に答えをだした。

 ナーブギアを被っていたら、もしかしたら可能かもしれない。しかし、二人が被っていたのはアミュスフィアだ。しかも死因は脳の損傷ではなく心不全、不可解なことが多すぎる。アミュスフィアは一定以上のレベルの信号波を生成することが出来ない。つまり、ゲーム内からの干渉でショック死させることは不可能なのだ。そんなことはこの男もわかっているだろう。

 

「それで、僕に何をしろと?」

 

 そこまで考えて頬杖をついてジト目を向けると、誠二郎は参ったというように両手をあげた。

 

「OKわかった、白状しよう。GGOにログインして《死銃(デス・ガン)》に接触してほしいんだ」

 

 それを聞いて和葉はつい溜息を吐いた。

 

「そういうことだろうと思いました。報酬は?」

 

 誠二郎は指を三本たてた。三十万、ということだ。それだけあれば今の和葉には十分、了承する。誠二郎がホッと息を吐いた。

 

(浩一郎がGGOをやっているのでちょうどいいでしょう)

 

 そう思いながら和葉は口を開く。

 

「接触の仕方は任せて貰えますよね」

 

「うん、僕もALOをやってるとはいえ、ゲームは苦手だからねぇ。あ、でも一応捜査って事になってるから場所はこちらが提供するよ。もちろん、安全面は保証する」

 

 本当は君の家の方が安全だろうけどね、と誠二郎は苦笑する。それに和葉は否定も肯定もせず、肩を竦めるだけに留めた。

 

「最後に、音声ログを聞かせてくれませんか?」

 

 全て食べ終わり、解散する流れになった時に和葉がそう言った。誠二郎は勿論と答えて音声をイヤホンで流す。

 低い喧噪が再生されたが、すぐに消失。張り詰めた沈黙を、鋭い宣言が切り裂いた。

 

『これが本当の力、本当の強さだ!愚か者どもよ、この名を恐怖と共に刻め!』

 

『俺と、この銃の名は《死銃》…《デス・ガン》だ!!』

 

 金属質の響きを帯びた声だった。それとともに、和葉は感じる。その声の主は、ロールプレイではなく、本物の殺戮を望んでいると…。




 ここまで見ていただきありがとうございました。誤字脱字、又はおかしな場所がありましたらご報告よろしくお願いします。


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荒野の世界

 今回から弟のオリキャラが登場します。


─心配だと溜息を吐きたくなるが、周囲にプレーヤーがいるのでぐっと我慢する。

 黒髪の男─コウがそう思う相手は、もちろん恋人のことだ。ここ一年はうなされっぱなしで、よく寝られていない日が多い。今日はあの公務員の男性と会う日らしい。先にこっちと約束していたとはいえ、彼女には悪いことをしたと思っている。「そうですか、わかりました」と言っていたが、目が寂しがっていた。罪悪感がすごかった。そんな彼女も愛おしいと思ってしまうのは、仕方ないことだろう。そこまで考えて、思考を今いる場所に戻す。

 この場に待機してからそろそろ一時間経つ。流石に飽きてきた。何しろ、ここはALOと違って目に入るのは岩と砂の荒野のみ。少し目を遠くに向ければ旧時代の高層建物が見えるだろうが、なんの気休めにもならない。傾きかけた太陽が荒野を薄い黄色に染める光景は、もう見飽きている。さらに一時間待機するのなら、夜間装備に切り替えをしなけらばならない。

 

(まぁ僕は構わないんだけど、彼女は嫌がるだろうね)

 

 コウは岩に背中を預け、両手で《PGM・ウルティマラティオ・へカートⅡ(対物狙撃銃)》を抱きかかえている少女に視線を送る。

 その少女のPLNは《シノン》。この世界(GGO)で数少ない女性PLだ。そして、コウがGGOで仲良くなったプレーヤーの片割れである。そんな彼女は現在、同じスコードロンの《ギンロウ》という男に声をかけられていた。先程までは、本当にここを獲物(ターゲット)となるスコードロンが通るのか、狩りが長引いてるだけだろうと話していたはずだが、今はギンロウがシノンをお茶に誘っている。用事があると断っているが、この手の相手は誘うことは二の次であり話すこと自体が目的なのだ。

 

「ギンロウさん、リアルの話題はマナー違反ですよ。そこまでにしておきましょう」

 

 リアルでの話になりかけたので、コウはそう声をかけた。

 

「そうっすよギンロウさん。むこうでもこっちでも寂しい独身(ソロ)だからって」

 

「そういやそういってたな!」

 

「うるせぇ!お前らだって変わんねぇだろうが!」

 

 すると他二人からの追撃が入り、ギンロウが二人の頭を殴った。

 ホッと息を吐いているシノンにコウが近づくと「ありがとうございます」と言ってきた。

 

「彼に任されてるからね。君に何かあったら彼に恨まれるよ」

 

 肩をすくめてそう言うと、シノンはフッと口元を緩める。そのまま二人はこの後のことを話し始めた。

 彼、というのはもう一人の片割れだ。今はここより少し離れたところにいる。こちらの合図で襲撃する手はずだ。

 

「─来たぞ」

 

 そう言ったのは双眼鏡で索敵を続けていたパーティーメンバーだ。このスコードロンのリーダーである《ダイン》は《SIG・SG550(アサルトライフル)》を肩に下げたまま、双眼鏡を覗き込んだ。

 

「間違いねぇ、先週と同じ奴らだ。八人…二人増えたな」

 

 コウも確認のために双眼鏡を覗き込む。光学系ブラスターが四、大口系レーザーライフルが一、実弾系の《FN・MINIMI(軽機関銃)》─通称《ミニミ》─が一、マントを被って装備が見えないのが二。この中で脅威度は《ミニミ》持ちが一番高いか。

 この世界の銃は実弾銃と光学銃の二つのカテゴリに分けられる。光学銃のメリットは、銃自体が軽量であり、射程が長く命中精度が高い。マガジンにあたるエネルギーパックも軽量であるが、《防護フィールド》という防具で威力を散らされてしまうデメリットがある。実弾銃のメリットは、一発当たりのダメージが高く、《防護フィールド》の貫通能力があること。デメリットは、銃自体やマガジンが重く、弾道が風や湿度の影響を受けてしまうこと。

 それ故、mob(モンスター)相手には光学銃、対人には実弾銃がセオリーとなっている。性能とは関係ないが、それぞれの特徴として光学銃は架空の名称のみ、実弾銃は実在する名称が使われている。よってガンマニア達は普段は実弾銃、mob相手にのみ光学銃に切り替える者が多い。

 

(あのマント二人…嫌な予感がするな…)

 

 一人は巨漢、見える限り武装は無い。腰にあるであろう武装は、大きくても軽機関銃だろうか。もう一人はすらりとした体形、こちらは背後のマントが若干膨らんでいる。膨らみ方から長身の銃、スナイパーか。しかし、それが光学銃なのか実弾銃なのかは判断できない。ヘッドセットからは何も聞こえない。となると、彼からも装備が見えていないということだろう。彼は確信しない限り余計なことは言わないのだ。

 

「一人は分からねぇが、でけぇほうは多分…極STR型の運び屋だな。狩りで稼いだアイテムやら予備の弾薬やエネルギーパックを背負ってるんだろう。武装も大したものじゃねぇだろうし、こいつは無視していい」

 

 ダインの言葉に一人の仲間が「もう一人のマントはどうする」と聞く。それに対し、どうせ光学銃だろうと言った。しかしコウは、そんなダインの言葉を否定したい。

 

(明らかに不安定要素だよね、あの二人は。それに─)

 

─多分、相当強い。GGOを始めたのは数か月前のことだが、ALOと現実(リアル)で培ってきた経験が《ミニミ》持ちより、マント二人の方に警報を鳴らす。。それをシノンも感じたのだろう。ダインに「でかい方のマントを最初に狙撃したい」と言った。明確な根拠は無いが不確定要素だからと、しかしダイン達は目に見える脅威を優先した。正論ではあるので、シノンは主張を引っ込める。それなら変わりに自分がマントを撃とうと、コウが言った。実弾銃持ちは一人だけなので、ダイン達はそれを了承した。

 距離が近くなってきたのでダイン達は移動を始める。ここに残るのはシノンとコウだ。シノンは持っていた狙撃銃のスコープを覗き込み、いつでも狙撃できる体制に入った。コウは一度周囲を見回し、危険が無いことを確認してから《SV-98(自分の狙撃銃)》を取り出す。この銃は六:四でAGIよりの自分がギリギリで持てる狙撃銃なので、極STR型を倒すには圧倒的に威力が足りない。ひるませることが出来れば上出来だろう。本来、あの巨漢を狙撃するなら対物狙撃銃(アンチマテリアル・スナイパーライフル)を持っているシノンが最適なのだ。しかし、彼女の方が狙撃の腕は高い。確実に《ミニミ》持ちを仕留めるには仕方がない。

 

(まぁ最悪、彼がこの子を守るだろうしね)

 

 二千五百Mも離れていれば、狙撃銃でない限り撃たれることは無いだろうが。しかし心配なのは、もしあのマント二人組が強敵だった場合は飛び出して行きかねないということだ。

 この子達が何のためにGGOをやっているのかは知らない。ただ遊ぶために始めたのではないだろうとは思っている。敵を狙撃する時の彼女は、氷を連想させるほどに、冷静に敵の眉間を撃ち抜く。まるで自分は機械だと()()()()()()()()ようだなと思いつつ、コウもスコープを覗き込んだ。

 こちらが狙撃するのはダインの指示が来てからだ。それまではダイン達に敵の位置情報を伝える。そして、こちらとの距離が千五百を切ったことを伝えると、『いけるか?』とダインがシノンに聞いた。ちらっとシノンがこちらを見る。それはコウも大丈夫なのかという意味なのはすぐに分かった。なので、自分の弾丸は外れても問題ないという意味で頷いた。

 

「問題ない」

 

『よし、狙撃開始』

 

 その言葉と共に照準器(レテイクル)の十字を動かし、距離と風向き、相手の移動速度を考慮して照準を決める。そしてトリガーに触れると、視界にライトグリーンに光る半透明の円が現れた。

 銃を撃とうとしている本人にのみ表示される攻撃的システムアシスト《着弾予測円(バレットサークル)》。これは本人の鼓動に応じて拡縮を繰り返す。この円は脈を打つ瞬間に最大まで広がり、弾丸はこの円内にランダムで着弾するので、精密な狙撃をするには常にリラックスしていなければならない。故に、GGOには狙撃手が少ない。外れれば味方の負担が高くなる、誰が好き好んで責任重大な役をする。

 まぁ、コウが狙撃銃を使うのはただの趣味なのだが。シノンが使う理由は知らない、知ろうとも思わない。興味が無いからだ。身内以外には結構ドライなのだ、この男は。

 さらに言えば、コウからしたら外れても対処できるからだ。狙撃が失敗したら、後は接近戦に持ち込めば良いと考えている。なので、いつでも飛び出せるよう腰には二本のナイフが常備してる。

 息を思い切り吸って、吐く。円が最小まで縮まった瞬間、トリガーを引いた。ほぼ同時にシノンの銃からも弾丸が撃ち出される。

 さて、この戦いはどうなるか。恐らくは一筋縄ではいかないだろう。だがまぁ─

 

(─ここはゲーム、せっかくだから楽しまないと損だよね?)

 

 自分の弾丸が巨漢に当たったのを見つつ、コウはそう思った。



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強敵

─シノンの放った弾丸は《ミニミ》持ちをポリゴンに変えた。しかし、巨漢の方は仰け反らせるのみで終わる。

 

(まぁ、上出来かな)

 

 二人は弾丸を放った瞬間にボルトハンドルを引き、次弾を装填する。ここまで約三秒が経過した。マントの二人はこちらをはっきりと視認しただろう。その証拠に巨漢はゴーグルの奥から、もう一人はフードの奥からまっすぐこちらを凝視していた。巨漢に関しては自信が撃たれたのにも関わらず、動揺した素振りが無い。

 かなりのベテラン、二人とも名のある者に違いないと思いつつ、シノンが二発目を巨漢に向けて発射。まぁ、それは予測していた。シノンのことだから、次弾で必ず巨漢を狙うだろうと。しかし、それは当たらないだろうとも思う。

 守備的システムアシスト《弾道予測戦(バレット・ライン)》。銃口を向けられた本人の視界には、襲ってくるであろう弾道が光の筋となって表示されるシステムだ。

 狙撃銃の利点は、視認されていない場合に最初の一弾のみ、相手にこの《弾道予測戦(バレット・ライン)》が表示されない。それはつまり、二発目は相手に《弾道予測戦(バレット・ライン)》が見えるということであり、回避するのは簡単ということだ。

 予想通り、巨漢は足を一歩右後ろにずらすだけで回避した。二人とも既に次弾を装填しているが、トリガーに手をかけることはしない。無駄弾になると分かっているからだ。どうしても撃ちたければ現在位置を移動し、二人のマントの視界から外れ、視覚情報がリセットされる六十秒経つのを待つしかない。

 

「第一目標成功(クリア)。第二目標失敗(フェイル)

 

『了解、アタック開始…。ゴーゴーゴー!!』

 

 シノンからの報告にダインはすぐに応答、仲間に攻撃開始の合図を送る。ヘッドセット越しから地面を蹴る音が聞こえた。

 狙撃手に課せられた任務はこれで終わりだ。スコープを覗き、敵を観察する。ブラスターの前衛四人が慌ただしく付近の岩やコンクリート壁などの遮蔽物に隠れ始めた。そして後方にはレーザーライフルを構えた後衛と、マントの二人─

 

「っ」

 

「えっ!?」

 

 コウは息を飲み、シノンが驚愕の声を出す。それはちょうど(くだん)の二人がマントをはぎ取ったところだった。

 男は両手にも、腰にも武器を持っていなかった。アイテム運搬用のバックパックだと思っていた物─それこそが武器だったのだ。円筒系の機関銃、そこから伸びる()()もの銃身。その凶悪な武器の名は《GE・M134ミニガン》。カテゴリは重機関銃、GGOにおいて最大級の武器の一つである。六連の銃身が高速回転しながら装填・発射・排莢を行い、六・七ミリ弾を()()()()という狂気じみた速度でばらまく、もはや兵器と呼ぶべき銃。当然だが、それは銃身自体が十八キロという重さがある。戦う分の弾薬も合わせれば四十キロはいくだろう。どんなSTR特化型でも重量ペナルティが発生される。つまり、あのパーティの移動がのんびりしていたのは狩りが長引いていたからではない。あの巨漢にあわせていただけなのだ。

 そしてもう一人のプレーヤーは、青い長髪をストレートに流した女だった。背に背負っていたのはコウの予想通り狙撃銃、しかし実弾銃ではなく光学銃だ。それだけで見れば女の方の脅威度は少ないが、コウは彼らを知っていた。

 

「あの二人、《ベヒモス》と《リヴァイア》かな」

 

「っ、あの二人が?」

 

 シノンにもその名には聞き覚えがあった。GGOで最強を決めるトーナメント、《BOB(バレット・オブ・バレッツ)》には出場していないが、かなり名の通ったプレーヤー達だ。北大陸を根城にしており、金を払えば誰であろうと護衛をする傭兵。

 

(となると、()()()()どこかにいるはずなんだけど…)

 

 ミニガンが火を噴き、ギンロウのアバターが溶けるように消え、仲間の一人は接近してきたリヴァイアの狙撃を零距離で頭に食らった。いくら《防護フィールド》を装備しているとはいえ、零距離では防ぐことなどできない。それがリヴァイアの戦闘スタイル、所謂突撃スナイパー(凸砂)というやつだ。

 コウはスコープを戦地より更に後方へ動かす。そして、そこから千メートル程離れたところから砂煙が上がっているのが見えた。

 

(見つけた)

 

 すぐさま狙撃銃をストレージにしまい、立ち上がる。何事かと目を見開くシノンに「ちょっと行ってくるね」とだけ言って、そこから飛び出した。そして通信で彼にだけ理由を告げる。了解、と短い言葉を貰いながら、コウは目標まで走り抜けた。

 

 

 

 

(─近づいてくる敵を撃破してくる、ね。…あの人の事だから大丈夫か)

 

 心配なんてしない。するだけ無駄だと知っているからだ。それよりも、まさかあの《ベヒモス》と《リヴァイア》に出会えるとは。どちらかを彼女に任せたいが。

 そう考えているのはフードを被った男─シノンの片割れである《アレン》。GGOがリリースされた時に始め、シノンを誘ったプレーヤーである。シノンが狙撃手に対して、彼はいうなれば『奇襲兵』。AGIよりのステータスをフルに活かしてナイフで敵を翻弄する、狙撃手よりも更に珍しい…どころか彼以外はいない近接オンリーで戦うプレーヤーだ。

 

「…シノン、あの二人のどっちかを任せたい」

 

『了解。私がベヒモスを殺る』

 

 それが聞こえた瞬間、アレンは岩陰から飛び出した。突然飛び出してきたアレンに驚愕し、硬直している一人をナイフで切り裂く。ちょうどまた一人、リヴァイアの餌食になっているところだった。その者には悪いが、囮にさせてもらおう。

 背後から奇襲を仕掛けようとしたが、直前に気づかれ避けられてしまった。一旦距離を取る。

 

「おや?その姿…君が《死神》かな?」

 

 リヴァイアはアレンを目にした瞬間、そう聞いてきた。

 《死神》というのはアレンの通り名だ。全身を黒で統一され、深くまでフードを被ったその姿から《死神》と言われている。

 しかし通り名など彼からしたらどうでもいいのもの。故にその問いには答えず、ナイフを構える。それで問いに答える気が無いことが伝わったようで、リヴァイアは肩をすくめた。彼女が構える前にアレンは斬りかかる。しかしそれは腰から抜かれたナイフで防がれた。

 

「っと。酷い奴だね君は。私は女なんだが」

 

「…GGO(この世界)に性別なんて関係ない」

 

「ふっ、それもそうだ」

 

 アレンの返答にリヴァイアは楽しそうに笑みを浮かべ、狙撃銃を巧みに使い至近距離で弾を放つ。これがリヴァイアの怖いところだ。遠距離だろうが近距離だろうが、関係なく狙撃銃を使うことが出来る。

 互いの距離が十メートルを切ると、もう弾道予測線(バレット・ライン)の意味は無い。がしかし、銃先が自分に向いた瞬間にリヴァイアの背後へ回るように動き回避した。そのままナイフを振るうが、伏せられる。間髪入れず回転しながら左手に持っていたナイフを振るわれ、跳んで回避。腰からもう一つナイフを取り出し、逆手で突き刺すように腕を振り下ろす。それは転がるようにして避けられる。そちらを振り向きながらナイフをなげると赤い線が二本、見えた。弾丸が放たれ、一発は投げたナイフに、もう一発は持っていたナイフで弾く。

 

「君みたいな者にはこっちだな。いや、にしても本当に銃弾を弾くとは…」

 

 リヴァイアが手に持っていたのは狙撃銃ではなく、二丁のベレッタ90-Two(ハンドガン)だった。

 彼女の判断は正解だ。実際、狙撃銃のみで近接を相手取るのは難しいだろう。しかし、その判断を下すには、遅すぎた。

 狙いつけたまま弾丸を放つがアレンはそれらを回避、新たにナイフを抜きながら懐に入り込む。すぐさまリヴァイアは後退して距離を取り、連射してきた。アレンは銃口の向きと自信の()()でナイフで全てを弾く。

 

「っ、この距離ですら弾くかっ」

 

 左手の拳銃をナイフに持ち替える。その間にアレンは既に懐にいた。咄嗟に足蹴りを放つがそれすらも躱し、目を見開いたリヴァイアの首を切り裂く。その勢いでリヴァイアの背後に着地、彼女に視線を送りポリゴンになったのを確認した。

 

 

 

 

(─あそこか)

 

 目標を見つけたコウは腰にぶら下がっていた筒を手に取った。それについているスイッチをスライドすると、紫の光が筒状に一メートル程伸びる。

 その武器の名は『マサムネG3』、光剣(フォトンソード)という近接武器にカテゴリされている。それは当たれば一撃でHPを全損させることが出来る強力な武器であるが、そもそもGGOは銃がメインのゲームである。普通に考えれば近づく前にハチの巣にされるのがオチだ。…それらのセオリーを無視していくのが彼でもあるが。

 真正面から向かっていったので、当たり前だが敵はこっちに気づいたようだ。アサルトライフルを乱射してきた。まだ距離は十分にあるので回避は余裕だ。ある程度近づいてからグロック17(ハンドガン)で何発か撃つ。相手は回避に移行した。しかし銃口をこちらに向けて撃ち続けられる。避けられるものは全て回避、当たりそう弾は弾丸予測線(バレット・ライン)上に光剣を添えて身を守る。すると無駄撃ちと踏んだのか、ライフルをしまいナイフを手に取った。よく見れば、そのナイフからは液体がたれている。

 

(毒ナイフか…。ってことはやっぱりこの人が《バジリスク》…)

 

 ベヒモス、リヴァイアと共に傭兵スコードロンを組んでいる者。バジリスクが毒使いということしかコウには分っていない。ナイフだけにとどまらず、銃弾でも毒を使い、毒ガスを使うという情報もある。近づけば毒ナイフと毒ガス、離れれば毒の弾。

 

(厄介だけど、対処法はあるんだよね)

 

 注射型のアイテムを取り出し、自分の首に刺して中の液体を注入する。一定時間の間、ヴェノム状態を軽減するアイテムだ。時間は、およそ百五十秒。

 砂を踏み締めて疾走、左上から光剣を振り下ろす。それに対してバジリスクは避けるのではなく、こちらに踏み込んできた。ナイフを振られる前にハンドガンで牽制する。ここまで至近距離だとバジリスクは難なく回避した。距離を開けさせないよう詰めようとして、視界に何かが映る。それは筒状の何かだった。そう認識した瞬間、筒から紫の煙が噴出される。

 

(毒ガスっ!)

 

 コウは咄嗟に後ろへ下がる。いくら軽減しているとはいえ、ヴェノムの強さが予測できない以上、むやみに食らうべきではない。

 ガスの範囲外まで出て銃口を煙に向けると、その瞬間に煙からガスマスクをしたバジリスクが出てきた。そういう手もあるのか、と思いながら横に避ける。コウがいた場所にバジリスクが着地し、すぐさまナイフを振るってきた。それを光剣で防ぎ、弾丸を放つ。それを少し体をひねるだけで回避、ナイフを突き出された。咄嗟に突き出される場所に腕を置き、ナイフの刃が左腕に深く刺さり、ヴェノムを食らう。

 相当強力な毒のようだ。軽減しているはずなのだが、毎秒十数ダメージはくらう。ナイフも刺さったままなので、毒状態と裂傷の二つ分減っていってしまう。が、これでいい。

 

「捕まえた…」

 

 コウの狙いは、相手を自分のテリトリーから逃がさないことなのだから。

 バジリスクもコウの狙いに気づいたのか慌ててナイフを離したが、もう遅い。ナイフが刺さった瞬間にふり上げていた光剣を振り下ろす。それは何の抵抗もなくバジリスクを左肩から右わき腹にかけて両断した。

 

「ふぅ…」

 

 ポリゴンとなり倒したのを確認してから解毒薬を飲み、仲間に通信を取る。返答があったのはシノンとアレンの二人のみ。他は殺られたようだ。確かに強敵だったが、たった三人増えるだけでここまで被害を被るものだろうかとコウは考える。が、考えるだけ無駄なので弱者ばかりを狙っていたつけが回ってきたのだろうと結論付けた。



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彼らの現実

「─それで、和葉がその死銃(デス・ガン)の調査をすることとなったと」

 

 えぇ、とコウの言葉に肯定する。

 誠二郎と会った翌日、場所はALO、シルフ領首都『スイルベーン』の近くのフィールド。そこでキリハは先日のことをコウに話していた。案の定、コウは呆れの溜息を吐く。それを予想していたため、キリハは苦笑するしかなかった。

 

「…死銃(その噂)については僕も聞いたことはある。でも、和葉がやらなければいけないことなのかい?」

 

「そういうわけではありませんが、今のうちにコネを持っておいた方が良いと思いまして」

 

 いずれは自分が桐ケ谷家を引き継ぐのだ。少なくとも、彼は敵ではない。ならば国に繋がっている彼とは繋がりを持っておいた方が良いだろう。もちろん、親のコネも使わせてもらうつもりだが、それだけに頼るわけにもいかない。

 まぁその脅威が巡り巡って身内に来ることを防ぐため、というのが大半の理由なのだが。

 

「まぁ、和葉が決めたことだ。僕が何を言っても今更やめるつもりはないんだろう?」

 

 それが分かっているコウは観念したようにそう言った。基本的に、コウは彼女の行動を縛るつもりはない。ただ、無理なことだと分かっているが、出来るだけ危険な事に首を突っ込むことはやめてほしいと思う。尤も、そんなコウの願いを分かっているうえで首を突っ込んでいくのだから余計にたちが悪いのだが。

 

「そういうわけで、向こうの準備が整うまである程度の知識を頭に入れておきたいんですよ」

 

 一応公式サイトや攻略サイトも見ているが、せっかく身近にGGOをやっている人物がいるのだ。直接教えてもらった方が良いに決まっている。

 

「それだったら、本当はログインしていた方が説明は早いんだけど、駄目なんだっけ?」

 

「ログインしてからの経過を報告するらしいので、やめてほしいそうです」

 

 そういえば、協力者(コウ)はどうすればいいのか聞くのを忘れていた。この後連絡すれば問題ないかとキリハは考えて、コウの話を聞くために思考を断ち切った。ちなみに新しくデータを作るのではなく、今のアバターをコンバートさせるつもりだ。

 コンバートとは《ザ・シード》で作り出されたVRでなら、他のゲームのデータをそのまま別のゲームに引き継ぐことだ。ただし、コピーをするというものではなく、他のゲームに移す、と言った方が正しいかもしれない。完全に引き継がれるのはステータスのみで、アイテムを持ち込むことは不可能。なのでコンバートする際には、持っているアイテムをどこかに預けなければならないのだ。

 

「姉さんの近づいたら斬るオーラが凄いな」

 

「まぁようやく恋人になれたからね」

 

「キリねぇ達は人のこと言えないと思う」

 

「そうね、あんたたちも近づくなオーラ結構出てるわよ」

 

「呑気に話してないで助けてくださーーい!!」

 

「あの!僕一人だときついんで誰か一緒にシリカさん助けてくれませんか!?」

 

 その後助けられたシリカは、逆襲と言わんばかりに自分を吊ったmobを切り刻んだ。

 

 

 

 

─授業終わりのチャイムが鳴った。今日はバイトが無い日であるためGGOにログインするか、と考えた。そういえばと、ふと昨日の夜にGGO内で親しくなった人物の言葉を思い出す。

 

(…あの人の彼女さんが始めるんだっけ)

 

 その時はよろしくと笑顔で言われた。ただ、人見知りの自分にどうしろと。誰かの後ろにいるイメージしか思い浮かばない。それを彼も知っているはずなのだが…。

 そう心中で溜息を吐くのは藍沢(あいざわ) 蓮巳(はすみ)、GGOではアレンと名乗っている。現実の彼は銀髪、無表情かつ口数も少ないため周囲から何考えているか分からないとよく言われ、歳は17。彼自身はそこまで人付き合いを重視していないので、気にしていない。

 彼は将来、医者になるために予備校に通っている。普段ならこの後にバイトが入っているのだが、店長から急遽休みをもらった。曰く、「お金が必要なのもわかるけど、毎日入ってもらうのも悪いから週二は休みなさい」とのこと。別にきつくは無いのだが、反論する必要もなかったのでお言葉に甘えた。

 そんなことを考えているうちに、いつのまにやら自分が住んでいるアパート前に着いていた。階段を上がると、自分の隣の部屋の前に人がいるのが見える。よく知っている少女だ。

 

「あら、蓮巳じゃない。今日はバイトないの?」

 

 その少女は足音が聞こえたのか、こちらに振り向きそう言った。少女の名は朝田 詩乃、GGOではシノンと名乗っている。歳は16、蓮巳の一つ下である。

 

「…ない。…顔色悪いけど」

 

 なにかあったか、と蓮巳は首をかしげる。一瞬動きを止め、ついで溜息を吐く。「隠せないわね」と言って今日あったことを話し始めた。

 

「─っとまぁいつものがあったのよ。新川君が来てくれなければ危なかったかも」

 

 そして愚痴を聞かせてごめんねと言ってきた。蓮巳は別に構わないと答える。

 いつものこと、詩乃はカツアゲをされているのだ。最初、詩乃に友達として近づき、そして彼女が小さい頃にあったことで脅してきたのだ。そのあることが原因で銃がトラウマとなってしまい、モデルガンを持ってくるようになってしまったのだ。助けてくれるような人は学校にいないので、詩乃にとって蓮巳ともう一人の男子─新川 恭二、詩乃の同級生であるが、現在は不登校となっている。ちなみに彼もGGOをやっている。PLNは《シュピーゲル》─は数少ない信頼できる人物なのだ。

 最初はただのお隣さんだった。それが変わったのは、詩乃が蹲っているところを見たからだ。なんとなく放っておけなくて事情を聴いた。精神的に弱っていたのだろう、多少は渋っていたものの結局は口を開いた(とは言っても銃がトラウマになっているとしか聞かなかったが)。それを聞いた蓮巳は、これまたなんとなく自分がやっていたGGOに誘った。医療関係でもトラウマを治すためにVRを使うことになるかもしれないと聞いたから、本当に治るのか気になったからだ。もちろん、そのことは彼女にも伝えてある。ある意味では実験扱いだが、それで治るかもしれないならと彼女は了承した。最初はゲーム内でも銃を見ただけで震えが止まらなかったが、次第に慣れ始め、今ではまったく問題がない。しかし、これで全て解決とはいかなかった。

 BOBの上位者報酬として、試しにGGO内に存在する光学銃のモデルガンを貰ったらしいが、駄目だったそうだ。VRで大丈夫なのは、これはゲームであり本物では無いと思っているから、つまり現実とゲームをはっきりと区別しているのではないかと推測している。普通に考えればこれは良いことなのだが、トラウマ克服という分野に関しては思い込みが強い者の方が良いのだろう。

 まぁ、GGO自体は楽しいらしく今でも続けている。蓮巳にとっても誰かと一緒にゲームをするのは悪くないと思っているので、どうせならとパーティを組んだ。その縁から二人は現実でも親しくなった、ということだ、

 

「…今日はどうする」

 

「そうね…、もうすぐでBOBも始まるから、装備を軽く整えるために稼ぎに行くのはどう?」

 

 詩乃の提案に分かったと頷き、それぞれ部屋に入る。蓮巳はすぐにログインすることはせず、風呂に入り夕飯の準備に入った。ログアウトしたらすぐに食べられるようにするためだ。

 

(…今日は食べるか聞いてなかった)

 

 GGOで聞けばいいかと思い、念のため二人分作っておく。そうして全ての準備を終えて、漸く蓮巳はベッドに入り込み、ナーブギアを被る。

 

「…リンク・スタート」



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銃の世界

 GGOにログイン!


 誠二郎にケーキを奢ってもらってから一週間後の土曜日、和葉は浩一郎のバイクに乗せてもらい、彼が指定した病院に来ていた。その病院の名前を言えば、浩一郎は迷うことなく来ることが出来た。それもそのはず、その病院は和葉が入院しリハビリを行っていた場所だからだ。一か月半のリハビリを終えた後も、何度も浩一郎に連れてきてもらっては検査をしていた。嫌でも覚えてしまうだろう。バイクの免許は持っているのだが、浩一郎が頑として自分が送ると言ってくれたので甘えている。流石に学校がある日は自分で来ていたが。

 病院の中に入り、指定された病室までたどり着く。患者のネームプレートは無い。ノックをし、扉を開けた。

 

「おっす、和葉ちゃんに浩一君!久しぶり!」

 

 中に入って開口一番そう言ってきたのは、和葉のリハビリを担当していた女性看護師、安岐 ナツキ。女性にしてはかなりの身長であり、男性患者にとってはある意味で目に毒になるであろうメリハリのついた体つきをしている。常に笑みを浮かべている顔は、まさに白衣の天使と呼ぶにふさわしい清楚さを感じさせるが、実際は砕けた口調で接し、笑顔のまま無茶ぶりをしてくる女性だったりする。

 

「ご無沙汰しています」

 

「お久しぶりです」

 

 二人はそう言って頭を下げた。途端、ナツキは腕を伸ばし和葉の肩の上から二の腕、脇腹を触る。

 

「ふむふむ、肉はついてきたけどそれでも細いねぇ。ちゃあんと食べてる?」

 

「えぇ、食べてますよ」

 

 というか、と和葉は苦笑しながら続ける。

 

「家族全員で食べさせてくるので、若干苦しい時があります」

 

 なので苦しくなったら正直にそう言っている。心配からきていることはわかっているが、限度というものがあるだろうといつも思っている。軽く浩一郎に恨めしそうな視線を送ると、彼は苦笑していた。それを聞いてナツキは「愛されてるねぇ」とケラケラ笑う。

 

「そういえば、菊岡さんはどうしたんですか?」

 

 浩一郎の問いにナツキは来ていないと答えた。曰く、外せない会議があるらしい。で、ナツキは和葉のリハビリを担当していたことから、今回の件に適任だろうということでシフトが外れたとのこと。

 

「上の方から言われたからそりゃあ断れないよね~。まぁ久しぶりに和葉ちゃんの様子見れるから全然いいんだけど」

 

 そういって漸く和葉の体から手を離し、二人をジェルベッドまで案内する。隣にはモニター機器が並び、ヘッドレスは真新しいアミュスフィアが置いてあった。

 

「じゃあ二人とも、電極貼るから上脱いで」

 

「「わかりました」」

 

 ナツキからの指示に二人は戸惑いなく上を脱ごうとした。それに多少は驚愕しつつも、そういえばこの二人は恋人だったと思いだし、二つのベッドの間をカーテンでしきる。

 

「先に和葉ちゃん貼っちゃうね。浩一君、恋人だからって覗くなよ~?」

 

 流石にしないことを伝え、ベッドに腰を下ろした。少し経てばナツキが来て浩一郎の上半身に電極を貼っていく。

 アミュスフィアにも心拍モニター機能はあるのだが、クラッキングなどでその機能が殺されてしまっては、と誠二郎が危惧したものらしい。本気で安全を気にしているのだな、と感じ取れる。

 

「よし、これでOKと」

 

 最後にモニターに異常がないことを確認したナツキがそう呟いたのを聞いてから、二人はアミュスフィアを被る。四、五時間は潜っていることを伝えると、二人の体は任せろとありがたい言葉を貰い、二人はログインした。

 

 

 

 キリハはGGOの世界に降り立つと、周囲に目を向ける。流石にSAOやALOと世界観が違うこともあり、街並みが大きく異なっていた。メタリックな質感を持つ高層建造物が並び、それらを空中回廊が繋いでいる。ビルの谷間にはホログラム広告が流れ、地上に近づくにつれその数は増えていった。キリハが今踏みしめているのも土や石ではなく、金属で舗装された道だった。背後を見れば、初期アバターの転送位置に設定されているのであろうドーム状の建物があり、目の前には街のメインストリートらしき道が伸びている。

 これらをさっと確認し、まずはアバターを確認しようとミラーガラスの前に立ち、自分の姿を確認する。

 

「…これはこれは」

 

 そこに映っていたのは、中性的な顔…というより、ぱっと見は男にしか見えなかった。ショートスパイクの髪と瞳の色は現実と同じく黒で、現実の自分を男よりの顔にしたらこんな感じなのだろう、と思える。身長はそこそこあり、百七十くらいだろうか。

 そうやって自分の姿を観察し、キリハはその場から動き始める。コウとの待ち合わせ場所は予め決めてあり、とあるガンショップで待っていると言っていた。とはいえ、誰かに案内してもらわないと迷ってしまいそうだ。なので、適当に通りを歩きPLを探す。屈強そうな見た目を持つものはやめておく、変に絡んできそうだからだ。そして目を引いた水色の髪を持つPLを発見、小走りで近づき背後から声をかける。

 

「すいません、少しいいですか」

 

 振り返ったそのPLは女性だった。ペールブルーの髪は無造作なショートであり、額の両側で結えた細い房がアクセントになっている。キリハの身長が高いこともあるが、それでもこのPLはかなりの小柄なアバターだった。そして、振り返ったその顔には警戒の色が浮かんでいる。はてと内心首を傾げ、その理由に思い当たった。そういえば今のアバターは男っぽい見た目をしていたな、と。

 通常、男性PLが女性PLに「道に迷った」と声をかける場合、その七割はナンパ目的である。キリハもその被害にあったことがあるので、そのめんどくささを知っていた。

 そのことを数秒の思考で考え付き、苦笑をしながらネームカードを実体化させ、相手に見せる。

 

「自己紹介もなくすいません。こういう者です」

 

 警戒しながらネームカードを手に取り、目を通したようだ。そしてすぐに目を見開く。

 

「Femaleって…、え?女なの…?その見た目で…?」

 

 混乱しているのがよくわかる。数分の間、視線のがネームカードとキリハの顔を行ったり来たりしていたが、漸く彼女の中で落ち着けたようだ。そうしてキリハはその少女に、今日始めたばっかりであること、ガンショップで待ち合わせをしていることを伝える。そういうことならと、道案内を承諾してくれたのでついていく。

 その途中改めて自己紹介をし合った。彼女─名はシノン─もこれから待ち合わせをしているらしい。BOBに参加することを話すと怪訝な表情をされたが、コンバートしたアバターであることを伝えると納得してくれた。

 

「なんでこの世界に来たの?」

 

「元々はファンタジーものをやっていたのですが、たまには殺伐としたものもやってみようかと思いまして。後は、そのゲームでの経験がこの銃の世界でどこまで通じるか気になったからですね」

 

 シノンの問いに、キリハは嘘と若干の本音を混ぜて答えた。実際、この世界で自分の力がどこまで通じるかは気になっていたところではある。ただ、銃を使う自分が全く想像できていないのだが。ちなみに敬語を外してもいいと言われたが、これが癖であることを既に言ってある。

 気づけばガンショップに着いていた。道は覚えていない、というか覚えられる気がしない。そのレベルで道は入り組んでいたのだ。つい、アインクラッドの《アルゲート》を思い出す。

 中に入ると、広大な店内には様々な色の光と喧噪に満ち、まるでアミューズメントパークのようだった。NPC店員の手に握られている銃や、壁に飾られている銃に目を奪われているとシノンが口を開く。

 

「本当はこういう初心者向けの総合ショップよりも、もっとディープな専門店とかの方が掘り出し物が合ったりするんだけど…。まぁこういうところで自分の好みの銃系統を決めてから、そういうところに行くのもありだから」

 

 歩いていこうとして、シノンは振り向いた。

 

「そういえば待ち合わせをしてるのよね?ここのどこで待ってるとかは言ってた?」

 

「確か…、『Untouchable(アンタッチャブル)』というゲームの所にいると」

 

 じゃああそこね、とシノンが指した方を向くと何やら巨大な装置が見えた。近づいてみると、幅三M、長さは二十Mほどあるだろうか。金属タイルが敷かれた床を五十CMほどの木の柵が囲い、一番奥に西部劇のガンマンめいたNPCが立っている。時折リボルバーを抜いては挑発めいたセリフを発していた。そして、そのゲームの周辺には多数のPL。

 キリハはその中からコウを探そうとするが、アバターの特徴を聞いているとはいえ、明確な姿を知らないので探せない。

 

「あ」

 

 シノンが誰かを見つけたように声を発し、目線の先を追うと、二人の男性PLがこっちに近づいてきていた。彼女の表情を見るに親しい人物なのだろうと思い、コウ探しを再開しようとした。

 

「…」

 

「や、シノンちゃん。そっちの人は?」

 

「アレン、コウさん」

 

 が、シノンの口にした名前に思い切り振り向く。それにシノンが驚くのが見えたが、それに構わず『コウ』と呼ばれたPLをジッと見つめる。それで気づいたのか分からないが、そのPLは口を開いた。

 

「もしかして君、キリハかい?」

 

 その言葉で、このPLがコウだということが判明した。肯定するために頷く。

 

「シノンちゃんと会ってたんだね」

 

「ここまで道案内してもらいました」

 

 と話していると、コウは今思い出したようにシノンともう一人のPLに振り替える。

 

「紹介するよ。この子が僕の彼女、キリハだよ。で─シノンちゃんはいいよね─こっちのプレーヤーがアレン君。この世界で仲良くなった二人だよ」

 

 よろしくお願いします、とシノンには改めて、アレンには初めましての意を込めて頭を下げる。シノンは「こちらこそ」と言い、アレンは静かに「…よろしく」と言った。

 

「それで?何故ここにしたんですか?」

 

 キリハの問いに、お金をもっていないだろう?と返す。それはその通りなのだが、なんの関係があるのか分からず首を傾げた。が、アレンとシノンはどういう意味か分かったようだ。アレンの表情からは何も感じられないが、シノンは驚いたような表情をしている。

 

「コウさん、まさかこれやらせる気ですか?」

 

 そう言いながらシノンが指したのは、目の前のゲームだった。




 一応補足しときます。
 今の時代でも片目が見えなくても条件を満たせば免許を取ることは可能だそうです。


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Untouchableゲーム

 祝!二十歳!
和「斬っていいですか?」
 なんでや!?


─『Untouchable』ゲーム。一回のプレイ価格は五百クレジット、ルールは簡単。ガンマンの攻撃を回避し、十Mを超えれば千、十五Mを超えれば千五百、ガンマンの体にタッチすれば今まで他のPLが掛けた金が全て手に入る。

 

「ま、ようするに弾避けゲームさ。簡単でしょ?」

 

 コウの言葉にキリハは顎を引く。確かにルールは簡単だ。しかし、その割にはクリアした時の報酬が良すぎる。つまり─

 

「─難易度が高いんですね?」

 

 ニコっと笑い「見ればわかるよ」と言ってゲームの方に顔を向けた。答える気がないんだなと軽く溜息を吐き、キリハも顔を向ける。ちょうど一人のPLが挑戦するところのようだ。

 入口にあるパネルにタッチ、カウントダウンが零になった瞬間に走り出した。が、突然ピタリと変な体制で止まる。一体何を、と思った瞬間に三発の弾丸がそのPLの側を通った。その避け方はまるで、弾丸がどこを通るかが分かっているかのようだった。

 

「今のが《弾道予測線(バレット・ライン)》ですね」

 

 その通り、と三人は肯定する。

 男は順調に進んでいる。七Mを超え、後三Mで千クレジット獲得というところで、ガンマンの撃ち方が変わった。今までは三発ずつ規則的に撃っていたのを、不規則に間を開け撃ち始めた。それに対応できず、体勢を崩したところを撃ち抜かれてしまう。

 

「左右に大きく動けるならともかく、ほとんど一直線にしか行けないから、どうしてもあそこらへんが限界なのよ。ガンマンも八Mを超えたら一秒経てずにリロードを終わらせるし」

 

 無理げーにもほどがあるわ、と呆れているように溜息を吐いた。

 どうする?と目線で問うて来るコウに、キリハは不適に笑い返し入口に歩いていく。シノンが止めようとしたが、コウに止められた。アレンは何もすることは無く、ただ立っている。

 新たな馬鹿者と見たか、周囲のギャラリーは騒めく。が、既にキリハには周囲の喧噪など聞こえていなかった。ただ減っていくカウントと目の前のガンマンにのみ意識を向ける。そしてカウントが零になった瞬間、キリハは床を蹴った。

 数歩も進まないうちにガンマンの腕が上がり、握られた銃から三本の赤い線が伸びる。それらは頭、右胸、左足の順にあたるが、その時には既にキリハは右前方に飛んでいた。直後、体の左側を予測線が伸びた順で弾丸が通過、すぐさま右足でタイルを蹴り中央の道に戻る。

 

(なるほど。予測線が伸びた順で弾丸も放たれる、と)

 

 分かりやすくて良い、と心中でキリハは呟く。

 無論、キリハが銃を持った相手と相対するのは初めてである。しかし、飛び道具を放ってくる相手というのはSAOにもALOにも多数存在した。それらの攻撃を回避する方法は、飛んできた瞬間にその軌道から外れる、もしくは相手の《視線》を読むことの二つである。これは晶彦のこだわりであり、カーディナル・システム上で動作されているmobは全て遠距離攻撃をする際には必ず軌道上を視線で見るのだ。勿論、《眼》に類する器官を持っているmobに限るが。

 そしてその原則は、目の前のガンマンも例外ではない。

 故にキリハはギョロギョロと動き続けるガンマンの瞳を見ていた。ガンマンの視線から弾丸を放ってくる気配を感じ取り、弾丸を回避していく。つまり、キリハは弾丸だけでなく、予測線すらも避けているのだ。

 ガンマンがリロードする時、十Mを超えたSEが鳴り響く。ギャラリーはその事実にどよめくが、当然のごとくキリハの耳には届いていない。

 空になった回転式弾倉(シリンダー)を背後にリリース、左手で新しい六発の弾丸を装填しフレームに戻すという一連の作業をコンマ五秒で終わらせたガンマンは再びキリハに銃口を向ける。放たれた弾丸は規則的なものではなく、不規則なものに変わった。二発、一発、三発と放たれた弾丸を全て回避、さらに五M詰める。空になった薬莢を捨て、再びガンマンの半秒リロード。

 ガンマンの瞳が胸辺りを水平に薙ぐ。左右への回避は不可能と判断、金属タイル上をスライディングした。マシンガン並みの連射で放たれた弾丸を潜り抜き、更に二M半ほど稼ぐ。これでガンマンは弾切れ、次のリロードが終わる前には触ることが出来るだろう。キリハが立ち上がりながらそう考えると、ガンマンの目が怪しく嗤ったように見えた。それに嫌な予感を察知、前に走り出すのを変更し、上に高く跳躍する。

 その瞬間、キリハが先程までいた場所を六発の()()()()が穴だらけにした。

 

(それは少し卑怯では?)

 

 少しではなく、かなり卑怯である。

 空中で一回転、ガンマンの前に着地し、また他の手を出してくる前にタッチ。その場を静寂が包み込む。

 

「Oh my goooooood!!」

 

 ガンマンが頭を抱えながらそう叫ぶと、背後のレンガから大量のクレジットが流れ出てきて床を跳ねた。それらが全て手に入ったことをウィンドウを開いて確認し、三人の元へ戻る。顔をあげ周囲を見渡すと、コウとアレンを覗いた全PLが唖然としており、シノンが呆れたような表情をしていた。

 

「あ、あんた…、最後のあれどうやって避けたんだ…?」

 

 あの距離では予測線なんて意味をなさないだろうと、ある男性PLが瞳を驚愕色に染めながら聞いてきた。その秘密を聞きたいのだろう、ギャラリーが耳をこちらに向けているのが分かる。

 はてさて、なんと説明しようか。正直に視線を読んだと言ってもいいが、それでは味気が無い。

 

「多分、キリハは予測線なんて見ていないんじゃないかな?」

 

 だよね、とコウは笑顔のまま言い放った。ギャラリーが、は?と声を出していそうな表情をしているなか、アレンは予想していたのか反応がない。

 自分もそうだが、コウも大概人の反応を楽しんでいるなと思いながら口を開く。

 

「このゲーム、予測線を予測するってゲームですよね?」

 

 指を一本立て首を傾げながらそう言うと、音が消えた。聞こえてくるのは店内を流れるBGMと、外の喧噪のみ。ついで

 

『『『はぁぁぁあ!!?』』』

 

 その場にいる全PLの叫び声が響き渡った。

 

 

 

 あの場から抜け出して、キリハは現在ショーケースの前で唸っていた。自分に合う銃が分からないので、メインにする銃を決めるのに時間がかかってしまう。

 

「三人のおすすめの銃はありますか?」

 

 ステータスは六:四でAGIよりであることも伝える。先程のゲームで三十万も稼いでいるのだから、出来るだけ良いものを買いたい。

 するとコウがキリハにおすすめの武器があると言って、あるショーケースの前で止まった。

 

「コウ、これはなんですか?」

 

 それを見たキリハは少し混乱した。その中に入っていたのは明らかに異質だったからだ。中に入っていたのは、直径三Cm、長さ二十Cmほどの筒だった。

 

「光の剣と書いて光剣。正式名称は《フォトン・ソード》。この世界の近接武器は、ナイフとこれだけだよ」

 

「威力はバカ高いけど、使う人なんて滅多にいないわよ。コウさんは使っているけど」

 

 理由は言われなくともわかる。が、コウが使っているということは使えるということだろう。そう考え、キリハは迷わず購入した。

 

「…コウさんの彼女さん、チャレンジャー?」

 

 コウはアレンの問いには答えず、肩をすくめるだけにとどめる。代わりにシノンが、あんたが言うなという視線を送った。

 購入した光剣の名は《ムラマサG2》。試しにスイッチをON、エネルギー状の刃を出し、それを軽く振り回す。

 

「…かなり軽いですね」

 

「基本的に軽いくらいしかメリットないもの」

 

 当然だが、護身・牽制用としてハンドガンは持っておいた方が良いだろう。残金が十五万まで減ってしまったので、考えて購入しなければ必要最低限なものすら買えなくなりそうだ。ということで購入したのはオススメされた《FN Five-seveN》、ではなく《ライヒスリボルバー》。三人が驚いたように視線を送ってきたが、自分でも何故これを購入したのか分かっていない。気づいたら購入していた。ぼそりと「…やっぱりチャレンジャー」とアレンに呟かれ、あんたが言うなと今度は声を出してシノンが言った。

 他にも予備弾倉や防弾ジャケット、ベルト型の《対光学銃防護フィールド発生器》などを購入すると、先程稼いだ三十万が綺麗さっぱり消えた。

 必要なものを購入し、総督府まで行くことになった。現在時刻は十四時半、エントリー締め切りは十五時、歩きでは間に合わないので走っていくことになる。いくらVR世では息が切れないとはいえ、三Kmを全力ダッシュというのは出来ればやりたくない。

 

「アレン君、そういえばこの近くにアレ、あったよね?」

 

 すると不意にコウがアレンにそう問うた。アレンはそれに頷くことで答えシノンの手を、コウはキリハの手をそれぞれ引いてとある看板のもとに行く。その看板には《Rental-A-Buggy!》の文字。そこにあったのは前輪が一、後輪が二の三輪バイクが三台。女性陣を後ろに乗せて、男性陣が前のシートに乗る。どうやらこのバギーは現実のバイクにあるマニュアル操作であるらしく、二人はスロットを思い切り回し、道路へと飛び出した。

 このバギー、運転するPLはかなり少ないらしい。考えるに、今時マニュアルで運転する人がいないからだろうなとキリハは思う。そもそも、教習所ですら基本的に習うのは電動スクーターなのだ。コウはもしものためにとマニュアル操作を習っていたのが良かった。アレンは知らないが、もしかしたらこの世界で練習していたのかもしれない。だとしたら、現実でバイクの免許を取るとき大変だろうな、と他人ごとに思いながらキリハは風を感じることにした。



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バレット・オブ・バレッツ

 五分も経たずに総督府に到着、中に入る。内部はかなり広いドームであり、いかにも未来的なディテールが施されていた。壁には巨大なモニターがいくつも設置され、いろんな告知から実在企業のCMが流れている。一番目立っているのは中心にある《第三回 バレット・オブ・バレッツ》のパネル。

 それらをサッと見渡してエントリーパネルの前に行く。分からないことがあったら言ってね、とコウに言われたので頷いたが、特に問題はなさそうだ。PLNを入力後、すぐさま現れたのは現実世界の情報を入力する場所だった。これには驚いたが、そういえば上位入賞者には商品が送られると聞いたことを思い出す。が、キリハは何も入力せず下にスクロール、SUBMITボタンを押した。そそられなかったと言えば嘘になるが、今回はGGOを楽しみに来ているのではないのだ。最悪な話、《死銃(デス・ガン)》が運営側の人間だった場合、自由にPL側の個人情報にアクセスすることが可能である。そいつの正体を暴かない限り、現実の情報を晒すのは良くないだろう。

 パネルに登録が完了した旨と、キリハの対戦日時が表示されていた。今日の十五時半だ。後四十分ほどある。他の三人も終わったようだ。

 

「皆はどこのブロック?僕はEなんだけど」

 

「私はFです」

 

「…F」

 

「Eですね」

 

 二人ずつ同じブロックになってしまったが、トーナメント票を見るとそれぞれ決勝戦で当たるようだ。となると全員本戦に行ける可能性がある。

 BOBは各ブロックで二人が予選を突破できる。つまり、決勝戦に行ければ本戦に出場できるというわけだ。よかったね、とコウが笑顔で言った。その言葉はまるで、この中の誰一人として予選落ちしないと思っているようで、実際そう思っているが故の言葉である。勿論、相手が親しい相手であろうと全力でぶつかるつもりだ。

 会場は地下にあるのでエレベーターで地下まで行くと、幾人ものいかついPLが武器を持って佇んでいた。ゲームの中だというのに騒いでいるものは誰もいない。数人で固まって囁いているか、一人で押し黙っているかのどちらかだ。その中の数人は、これまたいかつい銃を見せびらかすように持っている。基本的に対mobをしていたキリハにとって、対人(PVP)ばかりしてきたPLの出す空気は少し慣れない。特に怖気づくわけでもないが。

 情報を読み取ろうと鋭い視線を向けてくるPLらを通り過ぎ、男女で別れて更衣室に入る。

 

「まったく…バカな連中ね」

 

「あれでは対策してくれ、と言っているようなものですからね」

 

 シノンはキリハの言葉に少々驚いたようだった。

 GGOについては素人だが、SAOやALOでも対人戦闘は行ったことがある。その時にも相手の武器を見て戦闘スタイルを予想していた。故に大会前であり、多数のPLの目があるあの場でメイン武器を見せるのは悪手である。

 そうシノンに言うと、納得したようだった。

 

「キリハはPVPの経験が豊富なの?」

 

 そこそこと答える。が、詳しくは話すことはしない。シノンとは決勝で戦うことになるのだ。どうせ中央にあるモニターで試合風景が流れるだろうが、出来るだけこちらの情報は渡したくない。

 それをシノンも承知なのだろう。そっか、とだけ呟いて深く突っ込んでくることはなかった。

 

 

 

 戦闘服に着替え終わると四人は固まってソファーに座り、雑談を始めた。というよりは、改めてキリハにBOBのルールをレクチャーしているところだ。

 中央にあるモニターのカウントダウンが零になったら、ここにいるエントリー者は予選一回戦目の相手と二人きりのフィールドに転送される。フィールドの一Kmの正方形、地形タイプや天候、時間はランダム。相手との距離が最低五百m離れたところからスタートし、勝者はこの待機エリアに、敗者は一階ホールに転送される。負けてもランダムドロップは無し。勝者はその時点で相手が決まっていたらすぐに二回戦、決まっていなかったらそれまで待機。待ち時間をどう使おうと自由だが、基本的には中央モニターで試合風景を見ていることを推奨する。

 

「─とまぁこんな感じかな?僕は出たこと無いから、動画やサイト、二人から聞いたことをそのまま話したんだけど」

 

 合ってる?とシノンとアレンに確認を取ると、二人とも頷く。

 

「二人はBOBに参加をしたことが?」

 

「私は二回目ね。アレンは初めてよ。ルールを把握しているだけ」

 

 キリハの問いにシノンが答え、アレンは頷く。

 

「シノンちゃん、前回は三位だっけ?」

 

「えぇ、そうですね」

 

「…背後を疎かにしたから」

 

 アレンの静かな指摘にシノンが小さく呻いた。

 

「…初めて参戦して意外といけたから調子づいたのよ…」

 

「…それで油断したら元も子もない」

 

 シノンがテーブルに突っ伏した。彼は割と容赦がないようだ。

 

 

 そこからは本当に雑談に移行、途中で《シュピーゲル》という青年のPLも会話に参加。なぜかアレンとコウの二人に敵意のある視線を向けていたが、気にしていないようだったのでキリハも気にしないことにした。因みに最初はキリハにもその視線を向けていたが、性別を知るとその視線は綺麗に消えた。そこからキリハはあぁ、と納得し、面倒くさい奴という印象を付けた。出会って一日と経っていないが、シノンの雰囲気は男友達に対するそれであったからだ。

 残り一分を切ったので雑談は終了、それぞれが自分の気持ちを切り替えている。そしてそれぞれ決勝で会おうと言い、それぞれ転移された。

 

 

 

 転送された先は、暗闇の中に浮かぶ六角形(へクス)パネルの上だった。見上げれば薄赤いホロウウィンドウがあり、上部には【Kiriha VS 餓丸】、下部には【残り時間:58秒 フィールド:失われた古代寺院】と表示されている。

 恐らくはマップに適した装備を準備するために一分間の猶予があるのだろうが、キリハには意味がない。右手を振ってメニューを呼び出し、リボルバーを左の後ろ腰に、光剣を右腰に装備。装備し忘れたものがないかを確認し、メニューを消去。やることがないので減っていく時間を見る。その中で、ある可能性が思い浮かんだ。

 限りなく零に近いことであるが、アレンかシノン、どちらかが死銃(デス・ガン)である可能性だ。が、すぐに馬鹿馬鹿しいと首を横にふる。コウが一緒にいる時点で、あの二人はそれらとは─少なくとも直接的には─無関係だろう。それにどちらも聞いた音声とは喋り方や、声の雰囲気が違う。

 

(どちらにしろ本戦で二人と戦うでしょうし…)

 

 そうすればなにか分かるだろう。そう考え、キリハは再び転送された。

 転送された先は、陰鬱な黄昏の空の下だった。四方には草原が伸び、すぐ傍らには石柱が立っている。三mほどの間隔を置いて、コの字型に何本も連なっていた。ある柱は上部が崩れ、あるいは倒れており、はるか昔に滅びた神殿の廃墟といった趣だ。

 

(さて、浩一郎の説明によれば、相手は五百メートルは離れているということですが…)

 

 どうするかと柱の影に移動して考える。周囲を見渡しても人影は見えず、ただ草原が広がり、所々に遺跡であろう建造物が見えるだけだ。ひたすら隠れて相手がしびれを切らすのを待つ方が良いのだろうが、どうも『待ち』は性にあわない。わざと姿を表して相手が撃ってきた所を反撃するかとキリハが考えると、目の前の草むらががさりと揺れた。その瞬間、キリハは腰からリボルバーを取り出し、草むらからは人影が飛び出る。そして互いに目を見開いた。人影─餓丸─は飛び出る前に銃を向けられたことに、キリハは咄嗟に銃を向けることが出来た自分に。

 餓丸の構えたH&K G3A3(アサルトライフル)から予測線が出た、瞬間にキリハは右に回避しながら左手に持ったリボルバーで三発撃つ。向こうの弾丸は全て回避、こちらの弾丸は一発だけ命中。右足で急ブレーキ、その流れで光剣を右手に持ちスイッチを入れ、そのまま飢丸に向かって疾走。まさか接近してくるとは思わなかったのだろう、慌てたように銃を乱射してきた。再び数十本の予測線が伸び、今度は回避せずに前へ。現実よりも身長のあるアバターを捕らえている線は八本、他は掠めすらしていない。

 餓丸の銃から弾丸が放たれ、予測線上に光剣を振るい、八発全てを斬り裂いた。

 

「う…そだろっ!!?」

 

 驚愕しながらも餓丸は両手を動かし、空になったマガジンをリリース、スペアを取り出し本体に装填、銃を前に向けて─視線の先にキリハを見つけられず狼狽える。だがそれも一瞬、すぐしたからザっと地面を踏みしめる音。視線を向ければ、そこにキリハが低い姿勢のまま光剣を構えていた。ほんの数舜、目を離したのを見逃さずキリハは懐に入り込んだのだ。

 

「しっ」

 

 短く息を吐くのと同時に光剣を左から右へ振るうと、大した抵抗もなく餓丸を真っ二つにしポリゴンへと変えた。武器をしまい、息を吐きながら不思議に思う。

 

(…自然に動きましたね)

 

 体が勝手に動いた、まるで()()()()()()()()のように。だがそんなことはあり得ない、銃を使っての戦闘は今回が初めてなのだ。ではなぜ─

 

(─まぁ考えても無駄でしょう)

 

 そんなことより、と次からの試合のことについて考え始めた。それはまるで、先程までの考えを()()()()ように…。

 

 

 

 転送エフェクトが収まった時には、先程までの待機エリアだった。周囲を見渡しても三人の姿が見えない。まだ戦闘中なのか、と思い中央のモニターを見上げる。カウントダウンのみが映っていたモニターには、いくつもの戦場が映し出されていた。恐らく現在行われている数百の試合の内、交戦している場所のみを選んでいるのだろう。アバターが爆散するたびに試合を観戦していたPL達から歓声が上がる。

 さて三人はどこかなと探そうとするが、映る戦場が目まぐるしく変更されているため中々探せない。せめて髪色の目立つシノンを探そうと目を凝らし─

 

「─お前、本物、か」

 

「っ!?」

 

 反射的に飛び去りながら振り向く。ソイツを見たキリハの第一印象は、幽霊(ゴースト)だった。全身を包むボロボロにちぎれかかったダークグレーで深めのフード付きマント、フードの中は漆黒で、その奥に見えるのは仄かな赤に光る眼。

 

「…本物?それはどういう意味ですか?」

 

 が、そんな見た目をしてても目の前のコイツがPLなのは間違いない。突然背後から声をかけてきたことに若干腹が立ったが、笑みを浮かべてそう問いかけた。

 それに対し、PLは一歩こちらに近づき、再び金属を帯びたような声で口を開く。

 

「さっきの、試合、剣を、使ったな」

 

 だからなんだというのだろう。確かに珍しいかもしれないが、別にルール違反だというわけでもない。一体何が目的で─。

 PLはトーナメント表を呼び出し、キリハの名前を指さす。そして数センチ顔を近づけ、囁く。

 

「この、名前、あの、動き、お前、本物、か」

 

(─っ!?)

 

 その瞬間、キリハはSAOでの出来事が一瞬で流れた。それでキリハは理解する。コイツとはSAOで知り合っている、目の前のPLは《生還者(サバイバー)》であると。だがそれだけならそこまで驚くほどではない。なのに何故、ここまで動揺しているのか。

 キリハの視線が、トーナメント表を消してマントの中に戻ろうとしていた腕に視線が向く。ボロボロの包帯を巻きつけたようなグローブの前腕部分、その手首の少し上に細い隙間、そにはあるタトゥーが刻まれていた。

 カリカチュアライズされた西洋風の棺桶、蓋には不気味な笑顔が描かれている。その蓋は少しずらされ、中の暗闇から見るものを手招きするように骸骨の腕が伸びていた。

 そこまで認識した瞬間、キリハは声を上げそうになった。それは、ここでは見るはずのないエンブレムだったからだ。このエンブレムを使うのは、キリハの知る限り一つだけ。

 この世界ではない、魔法のない剣だけのファンタジーな世界。そこで数多のPLを殺し、恐怖を抱かせた集団─

 

(何故…ここに…)

 

─殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》。



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予選決勝

─《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》。ゲームの『死』が現実での『死』を意味するSAOの中で、数多くの殺害を行った最悪の殺人ギルド。何故、ここにそのエンブレムがある…!

 何の反応も示さないキリハを、マントの男が赤い瞳で凝視して囁く。

 

「質問の、意図が、解らない、か」

 

 それに対しキリハは、動揺を悟らせないよう、いつもの調子で返す。

 

「えぇ、解りません。本物とは何のことですか?」

 

 笑みを浮かべて、本当に言っていることが分からないと、そう返す。するとマントの男は無音で一歩下がり、赤い眼光が瞬きするように点滅した。

 

「…なら、いい。だが、名前を、騙る、偽物、か……もしくは、本物、なら─」

 

 無機質を増した声で、背後を振り向きながら、こう言った。

 

─いつか、殺す─

 

 その言葉を最後に、男は遠ざかっていき、空気に溶けるように()()()。しばらく立ちつくし、崩れるように椅子に座り込む。そして両手を握り額に当て、今の男について考え始めた。

 先の言葉には、確かに殺気が込められていた。つまり奴は、本気で殺すことを考えている。そして、あのエンブレムに、あの口調…。

 

(《赤目のザザ》、ですかね…)

 

 SAOの中で、あの区切るように特徴的な話し方をする者はソイツしか知らない。

 

(恨みますよ、菊岡さん…)

 

 正直、ただの調査で終わるものだと思っていた。それがまさか、SAOの因縁と会うことになるとは。

 今更ながらに冷や汗が流れ、体が少し震えていることを自覚する。先程まで動揺が表に出なかったのが奇跡だなと他人事のように考えた。キリハは深く息を吐く。

 だが、これではっきりしたこともある。《死銃(デス・ガン)》の正体は奴であり、ゲーム内から現実の人物を殺しているわけではない。だが、方法が分からない。

 

(一体どうやって─)

 

─肩を叩かれる。思考に沈んでいたキリハは突然のことに肩を跳ねさせた。

 

「どうしたんだい?少し青ざめてるけど」

 

 肩を叩いた人物はコウだった。試合が終わり、キリハが見えたので声をかけたのだろう。軽く見渡せばシノンとアレンの姿もあった。

 過激ともいえる反応を見せたキリハに、コウは怪訝な表情を見せた。それに対しキリハは、思わずコウの手を両手で包むように握る。これは何かあったな、とコウはキリハの隣に座った。事情を聴いている時間は無いだろうから、少しでも彼女が安心できるように空いている手で頭を撫でる。それで安心したのだろう、体の震えが治まってきた。そしてコウにぎこちないながらも笑顔を見せる。

 

「ありがとうございます、コウ」

 

「僕の彼女だからね。当然のことさ」

 

 コウの言葉に照れたように頬を軽く染め、それを見られないように顔を下に向けた。この男はさらりと言うから困る。それを自覚しているのかいないのか、本人は笑顔で首を傾げていることが多い。

 実際の所、コウは意識して言っているときと、意識しないで言っているときがある。今回は前者で、キリハは女PLであり、自分のだから手を出すなよ?と周囲に牽制している。割と独占欲が強いのだ、この男。

 

 

 

(─多少は落ち着いただろうけど、それでも心配だなぁ)

 

 予選二回戦、廃墟と化したビル街。乗り捨てられている車の陰に潜みながらコウはキリハのことを考えていた。

 あそこまで動揺している彼女を見るのは久しぶりだ。それこそ─

 

(─あれ?僕、和葉が動揺してるところ見たところあったっけ?)

 

 んんん??と首を傾げる。何度も思い出そうとしても、彼女が動揺しているところを思い出せない。いやいやそんな馬鹿な、と強盗事件の時を思い出す。流石にあの時は─

 

(─動揺してなかったなぁ…)

 

 駄目だった。彼女自身、後悔はしているが何も感じないと言っていたし、コウの目から見ても恐怖や動揺などの負の感情を感じているようには見えなかった。もう一度深く思考に沈もうとして─目の前から予測線が伸びてくる。

 そうだった、今はBOBの最中だったと思い出し回避。グロックで撃つ。相手はそれをローリングで回避、膝立ちで構え─

 

「遅いよ」

 

─既に背後に回っていたコウが光剣で首を斬り飛ばす。何が起こったのかわかっていない瞳のまま、相手はポリゴンと化した。

 

(まぁ、彼女の試合を見ればわかるか)

 

 倒した瞬間からコウの頭の中に先まで戦っていた相手の事は無く、キリハの事しか考えていなかった。

 

 

 

 コウの懸念通り、キリハはホントに少ししか落ち着けていないようだった。周囲の反応から相手がサブマシンガンだろうが、ライトマシンガンだろうが、アサルトライフルだろうが、致命傷になりうる弾丸のみを斬り落とし、無理矢理接近して斬っているらしい。普段の彼女なら、あそこまでハイリスクな戦い方をしないだろう。コウは一試合しか見れていないが、周囲の反応を見るにずっと同じ戦い方をしているようだ。決勝までは来れるだろうが、あのままの彼女と戦っても楽しめない。

 

(というか、和葉自身が楽しめていないじゃないか)

 

 楽しむためにハイリスクな戦い方をする彼女ではあるが、表情を見る限りそうではない。これは説教が必要かな、と溜息を吐きながら次のステージに転送された。

 

 

 

─準決勝の敵も、二回戦以降と同じように斬り裂いた。ただ無感情に、本当に相手を殺すつもりで。

 普段の自分ならしない戦い方をしていることも、楽しめていないことも自覚している。けれど、自分がコントロール出来ない。自分が何故こんなにも焦っている─否、()()()()()のかは分からないが、原因は分かっている。死銃(デス・ガン)と会ったからだ。

 

─何故?─

 

 因縁と会ったから?相手がラフコフだから?不意打ちだったから?

 それだけではない。何か、自分の奥底にある、忘れたいと思っている記憶を思い出そうとしている気がする。だが、トラウマになるような記憶があったとしたら、あの強盗事件しかないはずだ。

 

(僕は一体─)

 

─何を思い出そうとしている?─

 

 そこまで考え、真黒な空間に転送される。そこで次の相手がコウだということを思い出した。ホールではなくここに転送されたということは、もうコウは終わらせていたということだろう。彼相手に余計な事を考えている余裕はない。雑念を振り払うように頭を振り、気持ちを落ち着かせようとする。だが、どれだけ落ち着かせようとしても、まったく落ち着けることは無かった。

 

 

 転送先は《大陸間高速道路》。フィールド範囲は今まで通りだが、大陸を貫く幅百mの高速道路から降りることが出来ないようになっているので、実際はただの一本道だ。しかし道路上には廃棄された車や輸送車、墜落したヘリや道路の表面が斜めにつきあがっているので、、端から端までを見通すことは出来ない。遮蔽物はあるが回り込むことが出来ないマップなので、スナイパーが有利なマップだろう。

 もちろん、キリハにそんな知識があるはずがなく、ただ道なりに進んでいく。彼の事だ、正面から向かってくるだろうと思っての事だ。はたから見たらただ歩いているだけに見えるが、実際は周囲を警戒しながら進んでいる。だが、その心配は無かったようだ。目の前、恐らくフィールドの中央にあたるであろう位置で彼は待っていた。

 お互い、言葉はいらない。キリハは残り十mまで近づいた瞬間に加速、光剣を持ち斬りかかった。それに対しコウは武器を取り出すことは無く、あえて前に出て右手首と胸倉を掴む。何をされるか分かったキリハは、空いている左手で殴ろうとして─背負い投げされた。地面に打ち付けられる前に両足を振り下ろし、ブリッジのような体勢になる。仮想世界ならではの動きにコウは目を見開き、その隙を突くように顔に向かって左拳を振るった。両手を離して回避、キリハは拳を振るった反動で回転、体勢を立て直す。

 

「どういうつもりですか」

 

 向き合った状態で、コウを睨みながらキリハがそう言った。コウが武器を取り出す気配が無かったからだ。

 

「今の君は素手で十分だと思ってね」

 

 そう言いながら不敵に笑い、コウは構える。ギリッと思わず歯を食いしばった。挑発だ、分かっている。分かっているのに─

 

「─ふざけんなよ」

 

 声色に憤怒の感情を乗せて再度突撃、先程よりも速く、鋭く斬りかかる。コウは回避、腕を掴む、筒を蹴るなどで全てを無手で防ぎきる。光剣だけでは攻めきれないと判断、リボルバーを抜いて三発放った。至近距離で放たれた弾丸を右側に半歩ずらして回避。そこでキリハはハッと気づく。コウの右腕が引き絞られていることに。

 慌てて回避しようとするも間に合わず、正拳突きが鳩尾に叩き込まれた。痛みが軽減されているとはいえ、人体の急所を突かれ、よろける。まずいと思った時には背後を取られ右腕を後ろに拘束、上に乗られた。ご丁寧に光剣のスイッチは切られ、左腕も足で動かせないようにされている。

 コウは相手を拘束することが得意だ。ここまで決められてしまうともう動かすことは出来ない。それを知っているが故に少しだけ体を動かそうとして、体中の力を抜いた。それと同時に、先程までの気持ちの昂りが無くなっていることに気づく。

 

「落ち着いたかい?」

 

 体制は変えず、しかし少しだけ拘束の力を弱めて、コウはそう問いかけた。それにキリハは静かに「えぇ」と返事をする。彼女が嘘をついていないと判断、拘束を解く。

 ここまで来て漸くキリハは、コウが自分を落ち着かせるためにあえて素手で戦っていたのだと気づいた。どれだけ余裕が無かったのかと自嘲しながら、正面から差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。と、コウが顔をじっと見てきた。

 

「うん、すっきりした顔してるね」

 

 どうしたのだろうと首を傾げていると、コウが満足げに頷いた。あぁ心配してくれたんだなと頬が緩む。リアルに戻ったら事情を説明することを約束した。

 試合どうする?との問いに、キリハは首を横に振る。これから仕切り直すのは会場のPL達に悪いだろう。個人的にも、これから戦うのでは気持ちよく戦えない。なのでキリハは「リザイン」と─

 

「あ、そうそう。後で説教ね」

 

 ニッコリと、先程とは違う笑みに思わず背筋が伸びた。

 

 

 

 素直に凄いと感じた。

 コウの強さは同じパーティだから知っていた。その彼女であるキリハが只者ではないだろうということも感じていた。

 

(けど、まさかあんなに強いなんて…)

 

 Fブロック決勝戦はアレンの勝利で終わり、Eブロック決勝戦を見ていたシノンは戦慄した。決勝戦以外でキリハの試合を見たのは一回だけだが、それだけでも彼女はかなり強いと感じたのだ。しかし、決勝戦はそれ以上だった。

 ちらりと横に視線を送ると、アレンは食い入るように試合を見ていた。その瞳には静かに、それでいて確かに闘志の炎がある。

 

(まぁ、そうよね)

 

 あそこまで激しい試合を見て、この男が燃えないはずがない。さて、自分もあの人達の対策を考えないと、と帰ってきた二人を迎えながらそう思った。



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本戦開始前

─ベッドから起き上がり、適当に服を羽織って机に座りPCを起動。メールを開き、誠二郎に頼んで送ってもらった資料を見る。その資料は、《死銃(デス・ガン)》被害者のものだ。リアルでの情報だけでなく、GGO内のキャラ情報もある。それらの情報と、自分で調べた情報をまとめていく。無差別に標的を決めているならば意味が無いが、そうでないなら共通点を探すためだ。そうすれば、ある程度は次の被害者を絞り込めると思う。問題点として、被害者が少ないので、絞り込んだところでそれがあっているかどうかがわからないのだが。まぁ。やらないよりはマシだろう。

 

(職業は違う…。年齢も違う…。二人に共通の知り合いがいるわけでもない…)

 

 リアルでの共通点があるとすればどちらも男性であり、関東圏で一人暮らししていることくらい。となると、やはりキャラの方か。そう思い今度はキャラ情報をまとめようとして、後ろから腕が伸びて抱きしめられる。顔を見なくとも誰か分かる、この部屋にいるのは自分ともう一人だけだからだ。そういえば、昨日は悪夢を見なかったなと抱きしめられながら思う。

 

「おはよう和葉。朝から肌を出しているのは感心しないよ?」

 

 浩一郎がそう言うと、和葉は溜息を吐いた。確かに暖房が効いているとはいえ、十二月中旬に彼シャツ状態はまずいだろう。が、和葉は物申したい。

 

「夜、『お仕置き』と称して人の体を好き勝手したのは誰でしたっけ?」

 

「和葉があんな戦い方しなければよかっただけだよね?」

 

 ジト目を向けながら言った和葉の言葉に、浩一郎は即座に反論された。まったくもってその通り、浩一郎が正論である。ので言葉に詰まり、溜息を吐いて負けを認め、彼が持ってきてくれていたパジャマを着た。

 

「それで、何か共通点は見つかったかい?」

 

「リアルでの目ぼしい共通点は無いですね。キャラの方はこれから調べようと思っていたところです」

 

 とはいっても浩一郎が起きたのなら、このまま進めるのは彼に悪い。スリープモードにして椅子から立ち上がる。そして部屋から出ようとして、言い忘れていたことを思い出した。振り向き、浩一郎に笑顔を向けて口を開く。

 

「おはようございます、浩一郎」

 

 

 

 

 BOB予選の翌日、二人は結城家にいる。本当ならいつも通りに桐ケ谷家に行こうとしたのだが、明日加と浩一郎の母親である京子(きょうこ)に「たまにはうちにも来てちょうだい」と言われたのだ。そういえばここ最近は桐ケ谷家に二人が来ているなと思い、ここに来た。京子は常に表情が険しいため厳しい人物だと思われがちだが、実際はそこまでではない。まぁ、夫である彰三がかなり甘い人物であるため、比べてしまうとかなり厳しいと評価されてしまうが。

 

「あら、二人ともおはよう」

 

「「おはよう(ございいます)」」

 

 京子に挨拶をして、結城家の家政婦─佐田 明代(さだ あきよ)─が作ってくれた朝食を食べる。因みに、彰三は出勤しているのでいない。名残惜しそうに「日曜出勤は辛いよ…」と呟きながら出ていったのが印象深かった。最高責任者となると大変だなと他人事ながらに思う。自分の義父とは言え、こう思ってしまうのは許してほしい。

 

「浩一郎」

 

 食事中、不意に京子が浩一郎を呼んだ。それに対し、浩一郎は食事の手を止める。そこまで重い話が出るとは思っていないが、念のためだ。そして「どうしたの?」と聞く。

 

「まだ妊娠は駄目ですからね」

 

 ゴフッ、と浩一郎の隣で食事をしていた和葉が咳き込んだ。即座に浩一郎が水を和葉に手渡し、それを飲む。当の京子は普通に食事をしていた。

 

「何故いきなりそのようなことを…?」

 

 背中をさすられながら和葉が問うと、不思議そうに「だって」と口を開く。

 

「夜、浩一郎の部屋から声が聞こえてたわよ」

 

「…聞いてたの?」

 

「耳が良いの、知ってるでしょ?」

 

 違った?と首を傾げられる。それに二人とも口をつぐんだ。何かやましいことをしていたかと聞かれれば、答えはNO。が、何もしていなかったのかと聞かれても答えはNO。なので沈黙したのだが、それは逆に何かあったのだと言っているようなものだ。

 

(うちも、あの子達の部屋は防音にするべきね)

 

 桐ケ谷の家におすすめの防音材を聞こうと思った。息子達の様子を見る限り意外と早く孫を見られそうだと、京子と彰三は密かに楽しみにしているのであった。

 因みにその後の食事中、和葉と浩一郎の間に変な空気が漂っていた。その様子を見て、京子が微笑ましい気持ちになったのは余談だろう。

 

「あ、そうそう。和葉さんの首元、見えてますよ」

 

「っ!」

 

(顔真っ赤な和葉可愛い。母さんグッジョブ)

 

 

 

 

 昨日の予選決勝を思い出して、つい溜息を吐く。それを見ていた目の前にいる蓮巳が視線でどうしたと聞いてきた。隠すことでもないので、正直に話す。

 

「昨日の試合を思い出していたのよ」

 

 銃弾を弾くなどという無茶苦茶な相手に、どのように戦えばいいのだろう。昨日からどれだけ考えても、見つかる前の最初の一発で仕留めることしか考え付かない。それは目の前の人物にも言えるのだが。

 詩乃の言葉に納得したように軽く頷いた。

 

「…初弾で仕留めれば?」

 

「アナタには通じないから悩んでるんでしょ」

 

 蓮巳は直観、所謂第六感が異常に優れている、らしい。どれだけ離れていても、不意を突いたとしても、スナイパーの初弾を回避するのだ。彼が言うには殺気を感じるらしいが、VR世界でそんなものを感じるものだろうか。疑問に思うが、事実そうやって今まで回避してきているので信じざるをえない。昨日もそれで避けられ接近されて殺られたのだ。

 こんなことなら多少は近接戦闘もやっておけばよかったと後悔するが、今頃考えても無駄である。それに気づきもう一度溜息を吐いた。更にコウ曰く、あの時の彼女は本調子でなかったらしい。

 

「…付け焼き刃で良いなら、教えるけど」

 

 やめておく、と伝える。今更教わっても遅いと考えたからだ。

 因みに現在、二人は家から近い喫茶店にいる。そこで雑談を交えながら、今日の本戦について話していた。

 

「…詩乃」

 

「嫌よ」

 

 要件を言わせず、断る。詩乃には、彼が次に言おうとしていたことが分かっていたからだ。

 

「私だってあの二人を倒したいもの」

 

 だから、と右手を銃の形にして蓮巳に向けて、こう言った。

 

あの二人(今回の獲物)は早い者勝ちよ」

 

 詩乃のその()()に、蓮巳はほんの少しだけ、無意識に笑みを浮かべる。

 蓮巳が言おうとしていたのは、あの二人との戦闘を邪魔しないでほしい、だ。それが断られるだろうということは分かっていた。では何故、笑みを浮かべたのか。

 詩乃のトラウマは酷いもので、銃のレプリカ、動画や写真、ゲーム内の物、挙句の果てに手で銃の形に模したものでも発作が出ていたのだ。それが今ではGGO内だけでなく、手で銃の形を模しても大丈夫になった。向けられるのは未だに慣れていないようだが。

 故に蓮巳は─自分が銃を使わないこともあるが─右手の人差し指と中指を伸ばし、自分の首元に当てた。言葉には出さなかったが、それが彼の返事だということは詩乃には分かっている。そしてそれは互いとも言外に、その次はお前だ、と伝えていた。

 

 

 

 GGOにログインしたキリハは、その足で総督府に向かう。コウとは別々の場所になってしまったようだが、それでも総督府に行けば会えるだろう。

 総督府の中に入れば、少数ではあるが、BOBが始まるのを今か今かと待ち望んでいるPLが見える。この中には観戦しにきた者もいるだろう。BOBはGGO最大のイベント、あらゆるところで映像が流れると思ったが、やはりよそで見るのとは違うのだろうか。

 キリハの足音に気づいたのか、数人のPLが振り向き顔を向けてくる。それに構わずコウ達を探そうとすると、まるで滝が割れるように人波が割れた。先日自分がしたことを思い返せば、周囲のPLがそうなるのも分かる。銃相手に近接で突貫かけるPLに声をかける勇気を持つ者が、はたしてどのくらいいるのやら。

 

「キリハ」

 

 声の方に顔を向ければ、コウが手を振っていた。四人掛けの椅子に座っており、シノンとアレンもいる。そちらに歩いていき、コウの隣に座った。

 

「僕が言うのもなんですが、二人とも早いですね」

 

 現在、本選開始三時間前である。キリハの言葉に、余裕を持ってエントリーしに来た、とシノンが答えた。それを聞いて、まだエントリーしていないことを思い出し、席を立つ。コウに視線を送ると、彼はもうしてきたと目で答えたので、一人で向かった。

 エントリーを終えて席に戻り、本選のルールを改めて確認する。といってもルールが記述されたメールをざっと読みとおしただけなので、自分の認識が間違っていないかを確認してもらうのだが。

 

「スタート地点では他プレーヤーとは最低千m離れていて、エリアは十kmの正方形。隠れてやり過ごすのを防ぐために《サテライト・スキャン》が各プレーヤーに配布され、十五分ごとに全プレーヤーの位置と名前が表示される、と」

 

 合っています?と視線でシノンとアレンに問い、二人は頷く。

 改めて、戦闘エリアが広いなと思う。アインクラッド第一層と同じ広さだ。まぁ、銃撃戦を行うのだから当たり前か。

 そういえばと、二人に聞いておくことがあることを思い出した。

 

「お二人、というかシノンさんに聞きたいことがあるのですが」

 

 そう言いながらキリハはトーナメント表を全員に見えるように表示させた。「変なことを聞くようですが」と前置きをしてから口を開く。

 

「この中で、初参加のプレーヤーの名前を教えてください」

 

「はぁ?」

 

 何言ってんだ?という目でシノンに見られた。しかし、キリハは真面目な顔を崩さない。シノンは一度、アレンに顔を向け、彼がなんの反応も示さないと溜息を吐き「分かったわ」と言った。

 

「もう三回目だから、ほとんどの人達とは顔見知りよ。今回のBOBで初参加なのは貴方達三人を除くと」

 

 そう言って、トーナメント表に指を滑らせながら名前を言っていく。

 

「《銃士(じゅうし)X》、《ペイルライダー》、後は…あら?《バジリスク》もいるじゃない。他の二人はいないようね。

で、これは…《スティーブン》かしら?」

 

「違う」

 

 シノンの言葉をアレンが即座に否定し、それに驚いたようにシノンが顔を向ける。言葉の前に溜めがないのが珍しいのだ。

 

「…sterben(ステルベン)。…ドイツ語で、医療用語でもある」

 

 感情が表に出にくく、分かりにくい彼であるが、その浮かべてる表情から悪い意味なのだとシノンは察した。

 

「…意味は、《死》。…医療では患者が死んだときに使う」

 

 沈黙が、その場を漂った。その中で、キリハは思考を巡らす。結論付けるのはまだ早いが、今のところ最も《死銃(デス・ガン)》である可能性が高いのは《ステルベン》だ。今のところ二件だけだが《死銃(デス・ガン)》事件が起こっている中で、そのような不吉な言葉を使用するPLが奴ら以外にいるのだろうか?いるはずがない、とキリハは考える。

 

「と、ところで、いきなりどうしたの?名前なんて聞いて」

 

 空気を変えるようにシノンが問うてきた。それにキリハは、どう答えたものかと迷う。馬鹿正直に、この中の誰かが《死銃(デス・ガン)》である可能性がある、と言ったところで何かが変わるわけもない。そもそも、《死銃(デス・ガン)》を本気で信じているPLはかなり少数だ。それは、目の前の二人もそうだろう。

 仮に、だ。二人に自分の目的を話したとしても、二人に大会の出場をキャンセルさせることは出来ないだろう。かといって何も言わずに、というのは無理だろう。もしかしたら協力してくれるかもしれないが、信用していいのか。

 

「キリハ、この二人は信用して良いよ。僕が保証する」

 

 そうして迷っているとコウが口を開き、そう言った。キリハは彼に視線を向け、次いで二人を見る。アレンは無表情なので何を考えているかわからないが、シノンは困惑したような表情だ。深く息を吐き、キリハは口を開く。

 

「僕がこのゲームに来た本当の目的は、《死銃(デス・ガン)》調査のためです」

 

 仮の目的ではなく、本当の目的を話した。本当のことは話さずに誤魔化すという選択があったが、コウが信用しているのなら誤魔化す必要はないと判断した。

 

「《死銃(デス・ガン)》って…あの噂の?なんでそんなことのために?」

 

 シノンが怪訝そうにそう聞いてきた。それにキリハは頷く。

 彼女の反応も当然だろうと考える。普通のPL達は《死銃(デス・ガン)》はあくまでも噂でしかないと考えているだろう。だが、それは違うのだ。一般人には知られていない情報を、キリハは二人に伝える。

 

「今から伝えるのは、表に出ていない情報です。それを踏まえて聞いてください」 



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本戦開始

 おまたせ!本選だよ!

 そんでもってこれでストック切れです!出来るだけ早めに投稿できるようにはします!


─目の前にいたPLの喉を切り裂く。するとそのPLの頭上に【DEAD】の文字が浮かび上がった。BOBは普段と違い、HPが0になってもアバターは残る仕様になっている。それを横目に、アレンは試合開始前にキリハの言っていたことを思い出す。

 

 

─キリハは自身の知っていることを全て話した。ゼクシードと薄塩たらこが現実で死亡したこと、《死銃(デス・ガン)》が実在していること、奴が何かしらの手段で現実の彼らを殺したこと、そして《死銃(デス・ガン)》を名乗るPLがシノンの上げた名前の中にいるかもしれないことを。

 

「…なんで彼らが死んだことを?」

 

「僕に調査を頼んできた人からの情報です。彼は一般人ではないので、表に出回らない情報も持っています」

 

 勿論、信じるか信じないかはこちらの自由だそうだ。アレンとしては、信じるに値しない、と判断する。当然だ、いくら信用出来るコウの恋人とはいえ、昨日知り合ったばかりの人物の言葉を鵜呑みに出来るはずもない。

 それがわかったのかどうか、キリハは「まぁそう簡単に信じられるはずがないんですけど」と苦笑した。次いで、《死銃(デス・ガン)》の目的が何なのか、無差別なのかターゲットを選んでいるのかは不明だということを口にした。これは、《死銃(デス・ガン)》によるものだと思われる事件が少ないことが原因である。

 

「先ほども言いましたが、信じなくても構いません。コウが信用しているから話しただけですから」

 

 肩をすくめる姿を見る限り、元より信じてもらおうとも思っていないのだろう。ただ、本当の目的を伝えようと思っただけで。

 

「まぁ、そういうことですので、先ほど名前を挙げたプレーヤーには一応気を付けてください─」

 

 

─そう締めくくられたので一応気を付けるつもりではあるが、正直自分とシノンに害が無ければどうでもいいと考えている。

 

(…考えるだけ無駄か)

 

 どちらにしろ、自分の前に出てきたのならば斬るだけだ。アレンはそう考えた。

 

 

 

 ビルの残骸が残る街の中、ある程度の高さがある建物の上で、コウはある人物を見ていた。

 

(まさか、バジリスクが参加しているとはね…)

 

 見た目は相変わらずだ。彼の武器が見えないのはレザーマントで全身を覆っており、大型の武器を持っていないからだ。毒使いで知られている彼が、今大会で毒を使わないわけがないだろう。解毒アイテムが無いのが痛いが、当たらなければいいだけの話だ。

 

(和葉の聞いた通りの格好をこの大会中もしているなら、彼は違うことになるけど…)

 

 とはいえ、同じ格好をしているとは限らないので監視を外すという選択肢はない。実は近くに《銃士X》がいるのだが、同時に監視することは出来ないので一番近い彼にした。

 キリハ達の心配はしない。しなくても問題ないだろうから。なにより─

 

(─彼女、本調子だろうしね。勝てる人がどのくらいいるのかな)

 

 

 

 シノンもまた、衛星からの情報からダインとペイルライダーに標的を定めていた。情報では近くに《獅子王リッチー》もいたが、彼は高い場所から《ビッカーズ(重機関銃)》で近づくPLを掃射するつもりだろう。前回も同じ戦法を取っていたが、最終的に弾切れで退場したはずだ。何か対策をしてきたのだろうか。とりあえず動かない者は放置する。

 ダインの進路方向から彼の行き先を予測、彼は森での戦闘を避け、見通しのいい橋で戦闘を行うと考える。故にシノンは先回りをし、ダイン達のいる森の対岸沿いで待ち伏せをすることにした。へカートを抱え、目的地まで走る。彼らに比べ、自分の方が橋までの距離は近い。十分に間に合うだろう。

 そういえばと、知り合い達は今どこにいるのだろうと思った。まさかもう殺られた、ということはないだろう。アレンとコウの実力は組んでいたからよく知っている。キリハは昨日知り合ったばかりだが、戦いをみるにそこらのGGOPLよりも実力はかなり上だろう。そう簡単に殺られているとは思えない。

 そこまで考えた所で、もう橋の近くに来ていることに気づき、ダインが森から抜けてきた。急いでへかーとを地面に置き、スコープを覗き込む。それと同時にダインは振り向き、伏射姿勢の体勢になる。なるほど、その体勢なら橋を渡ろうとする相手を一方的に撃つことが可能だ。が、この状況でそれは悪手だろう。

 

「どんな時も背後に要注意(チェック・シックス)よ、ダイン─」

 

─こんな風にね─

 

 呟きながらシノンは、腰からグロック18(ハンドガン)を抜き出しながら背後に向けた。が、行動しながらも疑問が浮かび上がる。先程端末で見たときに、背後にいたのは《獅子王リッチー》だけだった。彼があの場所から降りてきたとは考えにくいし、何より彼の武器は重機関銃だ。この短時間でここまで来れるはずもないし、足音に気づかないわけがない。では一体誰が─?

 

「─待ってください」

 

 その声と同時に銃身が捕まれ、シノンは顔を上げる。そこにいたのは一人の男─のようなアバターを持つキリハだった。武器を手に持たず、ただ自身に向けられた銃口を逸らすよう手を添えているだけだ。

 

「…何のつもり?」

 

 武器を持たずにいるなんて、なんの狙いがあるのか。シノンが睨みつけながら低い声でそう言うと、キリハは落ち着いた声で口を開く。

 

「あそこで起きる戦闘が見たいんです。ペイルライダーというプレーヤーが《死銃(デス・ガン)》なのかどうかを知りたいので」

 

 そう言ったキリハの目には、真剣な色が見える。それもそうだろう、彼女がこの世界に来たのは《死銃(デス・ガン)》調査のためだ。それを知っている故、シノンは釈然としない思いを抱えながら銃を下ろした。それを確認したキリハはシノンの横で腹ばいになり、ポーチから双眼鏡を取り出して覗き込む。口約束をしたわけでも無し、不意打ちで頭を撃ちぬいても構わないが、キリハは真正面から正々堂々と戦いたい。

 

「後できちんと戦ってくれるんでしょうね?」

 

「えぇ勿論。僕も貴方とは戦ってみたいと思っていたので」

 

 その言葉を聞けたので良しとしよう。キリハは約束を破るような人物ではないだろうから。

 シノンも腹ばいになり、狙撃銃のスコープを覗き込む。ダインは未だに伏射姿勢を保ったままだった。この長い時間その姿勢を保ってられるその集中力は流石だ。これではペイルライダーも簡単に出てくることはないだろう。

 

「このままじゃ戦闘起きないかもよ。ダインだっていつまでもあの姿勢を保っていないだろうし、あいつがあの場から動こうとしたら撃ち抜くから」

 

「それなら構いませんよ。ん、出てきました」

 

 キリハがそう言うと同時に、森から一人のPLが出てきた。彼がペイルライダーだろう。長身で青白い迷彩柄のスーツで全身を包み、フルフェイスのヘルメットを被っているため顔は見えない。見たところ、武器は右手にぶら下げたアーマーライト・AR17(ショットガン)のみか。

 ダインが両肩を緊張させているのに対し、ペイルライダーからは緊張が感じられない。ダインが待ち構えていることを知っておきながら、それを恐れずに橋に近づいていく。

 

「あいつ、強いわ…」

 

 シノンがそう呟くと、キリハも同意するように頷いた。

 普通、敵がこちらに向かって銃を構えていることがわかっている場合、障害物に隠れながらジグザグに走っていくものだ。しかしペイルライダーは何かに隠れることはせず、堂々と橋に身を現した。それを狙っていたはずのダインの背中が、動揺したように震える。しかしそれは一瞬のこと、すぐさまダインはトリガーを引いた。最低十発は発射された五・六ミリ弾を、ペイルライダーは意表を突く形で回避する。橋を支える幾本ものワイヤーロープに飛びつくと、左手だけで登り始めたのだ。ダインは慌てて銃口で追うとしたが、伏射姿勢は上方に狙いをつけにくい。その間にペイルライダーはワイヤーの反動を利用して、ダインよりの位置に着地する。

 

「彼、STR型なのに出来るだけ重量を抑えて三次元機動をブーストしているんだわ…」

 

 ダインは同じ手を食らわないと言わんばかりに立ち上がり、トリガーを引いた。が、ペイルライダーはそれを読んでおり、飛び込みに近い形で回避する。そのまま転倒することなく、片手で前転をしてダインからわずか二十mまで近づいた。

 何か声を上げながら(恐らく毒づいたのであろうが)空になったマガジンを交換していく─その瞬間、ペイルライダーのショットガンが火を噴いた。あの距離なら全弾外すことはあり得ない。ダインの体にいくつもの着弾エフェクトが閃き、体を後ろに大きく仰け反る。流石というべきか、その状態になりながらもマガジン交換を終え頬を付け─ようとしたところで再びショットガンの轟音が響き、ダインは仰け反った。

 ショットガンはこれが恐ろしい。一定数ショットガンの弾が直撃してしまうと強制硬直(ディレイ)を食らってしまい、何もできないまま連続でやられてしまうのだ。頬を付けず、腰撃ちをすればよかったのにとシノンが考えている中でも、状況は進んでいく。

 悠々とショットガンに弾を詰め込みながらダインに近づいていく。慌ててダインは顔を上げたが、既にその鼻先にショットガンを突き付けられていた。そのまま慈悲もなく轟音が響き、ダインのHPを吹き飛ばす。後ろに大の字で倒れ、ダインの上に【DEAD】の文字が浮かび上がった。これで彼は脱落、リアルでの情報共有を防ぐため、意識はアバターに残したまま今頃は中継画面を見ているだろう。

 

「撃つわよ」

 

 返事を待たずにシノンはトリガーに指をかける。ダインを仕留め、橋から離れようとしているペイルライダーに銃口を合わせた。そしてトリガーを引く直前、彼の右肩に小さな着弾エフェクトが閃き、体が弾かれたように倒れる。




 かなりぶつ切りにしていしまいましたが、これ以上伸ばすと文字数が大変なことになったので…。


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死銃

 なんとか9月中に投稿出来た…
和「サボりすぎです」


「─狙撃…?」

 

 ペイルライダーが倒れた原因を狙撃されたと判断し、二人は耳を澄まして銃声を探す。しかし、いくら時間が経っても音が聞こえることは無かった。聞き逃したかとシノンは思ったが、キリハはそれを否定する。二人いてどちらも聞き逃すことはまずありえないだろうと。ということはサプレッサーを付けているのだろうと、二人は早々に結論付けた。そんなことよりもと、シノンには不可解に思う。先程の端末の情報では自分を含めて四人しかいなかったはずだ。どこから狙撃したのだろう?そこまで考えて、思い出す。

 

「ねぇキリハ、あんたどうやってここまで来たのよ」

 

 十分前に見た時は端末に映っていなかったことを伝えると、キリハは首を傾げながら言う。

 

「僕はペイルライダー()を後ろから追いかけていましたから、端末に映ってたはずですが…」

 

 うぅむと顎に手を当ててしばらく考え、そういえばと続ける。

 

「十分前は川を潜っていたかもしれません。ずっと潜っていたので、それで映らなかった可能性が…」

 

 は?と言いそうになった、というか口に出た。言っている意味は分かるのに、頭が理解を拒否した。川や水の中は侵入禁止ではないが、水の中に全身が浸かればHPは継続的に減少し、装備の重量でまともに泳げないはずなのだが…。

 それがわかったのかどうか知らないが、キリハは続けて言う。

 

「勿論、装備は全部外しましたよ。そうでないと泳げませんから。ウィンドウから解除した装備はストレージに戻るので、手で運ぶ必要がないのは《ザ・シード》規格VRMMOで共通ですから」

 

 ほんの数秒、思考が停止した。泳いで渡る、という発想が思いつくこともさながら、周囲が敵だらけの中で装備を全て外せるその度胸が信じられない。

 

「ん?装備全解除…?って、あんた女子でしょう!?」

 

「コウに知られると問題なので、彼には黙っててださいね?」

 

 笑みを浮かべてキリハはそう言った。それに頷きつつ、もう自分の常識は通じないのだと無理やり納得させ、それにしてもとシノンは口を開く。

 

「彼、いつまで寝ているつもりかしら」

 

「動けない、のかもしれませんね」

 

 キリハの言葉にスコープの倍率を上げよく見てみると、ペイルライダーのアバターを青いスパークがはい回っている。あれは確か─

 

「─電磁スタン弾…」

 

 名前の通り、命中した相手を麻痺(スタン)させる特殊弾。大型のライフルでしか装填できず、一発の値段がかなり張るためもっぱら大型のmobで使用されるものだ。

 そうキリハに説明している間にもスパークが薄れ始めている。後数十秒で回復するだろう。HPはほとんど減っていないはずで、これでは何のために難易度の高い超狙撃を成功させスタンさせたのか…。

 

「「───!」」

 

 そこまで考えたところで、二人が同時に反応した。

 今二人がいる場所から反対の位置にある柱を支える鉄柱の陰から、ゆらりとにじみ出る黒い人型のシルエットがあった。一見、PLに見えなかった。輪郭が微妙にぼやけているのだ。ぼろぼろのギリーマントを羽織い、それが風になびいてまるで小動物のように不規則に動いているのが理由だった。

 

「いつから…」

 

 シノンは思わず、そう呟いた。そいつがペイルライダーを撃ったのは間違いない。だが、一体どうやってそこまでたどり着いたのか。それらの疑問をシノンの頭から吹き飛ばす出来事が三つ、立て続けに起こった。

 まずは一つ、それはいままで 隠れていたそのPLの武器が見えたこと。

 

「《サイレント・アサシン》…」

 

 正式名称『アキュラシー・インターナショナル・L115A3』。専用サプレッサーを標準装備することを前提とした大型の狙撃銃だ。最大射程距離は二千m以上。撃たれた者は射手の姿を見ることなく、銃声を聞くこともなく命を散らす。故に、与えられた別名が『沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)』。

 それが実在しているとは聞いていたが実際に見たことなかったこと、そして自分以外でソロの狙撃手がいたこと。故に、シノンはぼろマントが何者なのかと考える。

  二つ目、驚くことにそのPLは狙撃銃をしまいながらペイルライダーに近づいて行ったのだ。スタンさせて、改めて精密射撃を行わず、姿を見せ、挙句の果てにメインアームをしまう。ヘッドショットを狙ったところで、HPを削りきるのは難しいだろう。もう理解できなかった。

 そして三つ目─

 

「─今すぐ奴を撃ってください…」

 

「え?」

 

「あのぼろマントを撃ってください!早く!」

 

 ペイルライダーのそばまで近づくと十字架を切り、そしてハンドガンをペイルライダーに向ける。すると先ほどまで見せていた冷静さを捨てたようなキリハの切迫した声に、シノンは反射的に従う。突然のキリハに疑問を思い浮かべながらも照準をぼろマントに合わせ─迷わずトリガーを引いた。彼女が、意味もなくそう指示するはずはないと思ったからだ。

 距離は三百m、外すはずがなく、シノンは大穴の空いたPLを幻視した。だが─

 

「なっ!?」

 

─外した、否当たらなかった。シノンがトリガーを引いたと同時に、ぼろマントは上半身を仰け反らせ、弾丸を回避したのだ。

 

「あいつ…こっちを認識してた…?」

 

 いつ?一体どうやって?疑問は浮かび上がるが、そうでなければあの避け方は予測線が見えていなければ説明できない。

 驚愕しながらもシノンは無意識のうちに次弾を装填させている。狙撃体勢を維持しつつも、彼女は迷った。ただでさえ狙撃手は第二射以降は不利なのだ。それに加えへカートは連射が出来ない銃である。マガジンに残っている弾を全て連射しても当たらないだろう。

 そう考えているシノンを余所に、ぼろマントは再びハンドガンをペイルライダーに向けた。そして─発砲。

 

「っ」

 

 隣で息を呑んだのがわかった。

 この世界では、小口径の弾丸をどこに当てようとも─それこそステータスに絶望的な差が無い限りは─即死は基本あり得ない。ペイルライダーのHPはまだ九割近くは残っているだろう。しかしぼろマントは、追撃をしない。ペイルライダーが後数秒で回復するのも、シノンが狙っているのも知っているはずだ。それなのに奴は身を隠そうともしないのは一体…。

 そこでペイルライダーがスタンから回復。飛び跳ねるように体を持ち上げ、霞むような速度でショットガンをぼろマントの胸に食い込ませるように打ち付けた。文字通りのゼロ距離、一度トリガーを引けばぼろマントのHPは消し飛ぶだろう。しかし─銃声は響かなかった。代わりに聞こえたのは、土の上に何かが落ちた音。ペイルライダーの右手からショットガンが零れた。ついで空いた右手で胸を強く掴みながら、両座を降り、最後には倒れる。シノンのスコープに、彼のヘルメットから除く口元が苦しんでいるように開いているのが見えた。そして─彼のアバターがノイズのような光に包まれ、突如消滅。その場に【DISCONNECTION】という文字が浮かび上がる。

 

「なに…今の…」

 

 数秒経って、シノンはそれだけを発せた。理解が追い付いていないからだ。

 ぼろマントはペイルライダーを撃った銃を空中に向ける。恐らくそこに大会を中継しているバーチャル・カメラのレンズがあるのだろう。それはつまり、今の状況を観客にアピールしているということ。何故そんなことをしているのかわからないが、シノンは一つだけ思い浮かべた。それはつまり─

 

「─あいつが…《死銃(デス・ガン)》か…」

 

 キリハがこの世界にやってきた本当の理由。どのような手を使ったかはわからないが、今奴は《ペイルライダー》というアバターを使用していた人間を、()()()。前もってキリハから《死銃(デス・ガン)》のことを教えてもらわなかったら、この考えは思い浮かばなかっただろう。

 そういえば、先ほどから隣のアクションが伝わってこない。どうしたのだろう思ったのと同時に、覗き込んでいたスコープに新しい人影が映る。

 

(いつのまに…)

 

 それはキリハだった。光剣とリボルバーを手に持ち、ぼろマントに向かっている。一体いつ、自分に気づかせずにいなくなったのか。気になることはあるが、今はキリハに協力した方が良さそうだ。故にシノンはへカートを抱え、キリハの後を追い始める。

 

 

 

 ペイルライダーのアバターが消滅した瞬間、キリハはぼろマントに向かって走り始めた。間違いなく奴が《死銃(デス・ガン)》であると確信したからだ。出来れば被害を出したくなかったのが本音だが、()()()()。助けられなかった後悔よりも、今は奴が優先事項だ。

 奴は今、拳銃をホルスターに戻してダインの方向へ歩き始めたところだった。彼も標的なのかと疑ったが通り過ぎたので、最初に現れた鉄柱に向かっているのだろう。橋まで残り百五十M、ここで奴を倒せればいいが、間に合うか?

 キリハが橋に到着したと同時に、奴の姿が鉄柱の向こう側に消えた。その場で止まらず、姿が消えたところまで走り、一段低くなっている川岸に目を通す。ここに隠れる場所はないはずだ。

 

「いない…?」

 

 だが、奴の姿はどこにも見えなかった。川に飛び込んだのかと、目を凝らしても影すら見えない。一体どこに消えたのか。

 

「ちょっと。いきなり走らないでよ」

 

 振り向けばシノンが走りよってきていた。

 

「シノンさん、スキャンを」

 

 ちょっとした抗議を受けたが、それよりも奴が重要だ。それをシノンも分かっているのか、軽くムッとした顔をしながらも指示に従ってくれる。

 スキャンは少しの隠蔽物なら容易く貫く。それを欺くには洞窟の奥に隠れるか、キリハが行ったように水の深くまで潜水しなければならない。スキャンが開始され、画面にいくつもの光点が現れる。南端には相変わらずリッチーがいた。恐らく大会終了間近まで降りてこないつもりだろう。放置に変わりはない。

 そこから更に北へ約1km、薄い光点が一つと通常の光点が二つ。薄い方がダイン、通常がキリハとシノンだ。恐らく他のPLは二人が近接戦闘中だと思うだろう。別にそこはどうでもいいので思考から排除。近くにあるはずの、もう一つの光点を探すが─

 

「─無い!?」

 

 見当たらない。シノンは再度食い入るように画面を見るが、どれだけ探しても近くにある光点は三つのみだった。森の方へ行ったのか、それとも川岸を走ったのか。だが、そうだったとしてもキリハが見逃すなどまずないだろう。となると…。

 

「水の中にいるんだわ…だったら─」

 

「─チャンス、だと?」

 

 キリハの言葉に頷く。奴は今、全ての装備を外しているはずだ。そして、再び装備するのに最低でも数十秒はかかる。その間に自分が撃てばいい。そう考えての発言だったが、キリハは何かしらの懸念事項があるようだ。

 

「なによ。心配事があるなら言ってよ」

 

 キリハはしばらく言うかどうか迷ったように口を開閉させ、やがて「可能性の話ですが」と前置きをする。

 

「透明になれる装備…光学迷彩のような装備があったとしたら─」

 

─それはサテライト・スキャンに映るのですか?─



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観戦者達

はぁい三か月以上お待たせして大変申し訳ございません!!
単純にモチベが無くなってました。今月もう一話投稿出来ればと思っています。


 時は少し遡り、場所はALO。広大なマップの中心に聳え立つ《世界樹》の上にある空中都市《イグドラル・シティ》。その一面にPLが月額料金を払って借りられる部屋があり、そこで複数人のPLが集まっていた。

 

「和ねぇも浩にぃも中々映らないね~」

 

「リーファちゃん?ゲーム内(ここ)ではPLN(プレーヤーネーム)だよ?」

 

 現実での呼び名(リアルネーム)でキリハを呼んだリーファに、シリカが薄く笑いながらそう言い、それに追従するようにピナが「キュアっ」と鳴いた。

 

「まぁまぁシリカ、ここにいるの現実(リアル)で知り合ったのしかいないんだからいいじゃない」

 

(桐ケ谷さん、佳奈さん達がいると気が緩むんだよなぁ…)

 

 シリカに軽い口調でそう言ったリズと、リーファの横でそう考えるレコン。なお、考えが顔に出ていたのか、リーファに肘でどつかれたことを追記しておく。

 

「リズの言う通りだぜ?シリカ。まぁそれはそれとして、二人はかなり計算高ぇからな。テキトーに人数減るまで隠れてんじゃねぇか?」

 

 部屋の隅にあるバーカウンターに陣取ったクラインの台詞に対し、この部屋主の一人であるキリトが返す。

 

「クラインお前、SAO(あそこ)で姉さんの何見てきたんだよ。あの姉さんだぞ?隠れてるわけないだろ。…いつもなら、だけど」

 

 最後に小さく呟いたキリトの声は全員に聞こえていたのか、首を傾げる中、隣のアスカだけが苦笑しながら口を開く。

 

「まぁ確かに、いつもなら突貫するだろうけど。和葉にも考えがあるんだよ。兄さんはクラインさんの言う通りだろうけど」

 

「そうです!それに、ねぇねもにぃにもカメラに映る前に敵を一瞬でやっつけちゃいます!」

 

 キリトとアスカの娘であるユイ(inキリトの膝上、子供姿ver)の台詞に、誰かが銃じゃなくて剣でやりそうと言ってその場の全員が笑った。

 因みにユイの言った『にぃに』はコウのことだ。キリトの姉が『ねぇね』なら、アスカの兄は『にぃに』だろうと。

 

 先も記したが、ここをキリトとアスカが共同で借りている。月額二千ユルドを払っているだけあって、相当に広い。具体的には六十五畳、おおよそ百平方Mほど。主な集会会場になっているということもあって、かなり広い部屋を借りたのだが。

 綺麗に磨かれた板張りの床、中央には五人が座っても余裕がある大きなソファーセット、壁にはホームバーまで設えられている。棚に並んでいる無数のボトルは、仮想世界でも酒飲みキャラを貫いているクラインが、妖精九種族の領地から地下の《ヨツンヘイム》まで行ってかき集めたものだ。たまに部屋主の許可をもらって、成人組で集まって飲んでいるらしい。らしいというのも、その時は許可だけ出して、別の場所でアスキリユイ(三人親子)は別の場所でまったりしているからだ。

 南向きの壁は一面ガラス張りとなっており、いつもならイグドラル・シティ(イグシティ)の壮麗な景色が一望できる。が、今日ばかりは大型スクリーンも兼ねているガラスに別世界の光景が映し出されているので、景色は見れない。映し出されている光景は、《MMOストリーム》が中継している《第三回バレット・オブ・バレッツ》、キリハとコウが参加している大会だ。

 集まっている趣旨は、この大会に出ることは事前に聞いていたために二人の応援、そして単純に他の世界に興味があるからである。

 ここに居ない面子だが、それぞれ違う場所で見ていたり(黒猫団など)、年中無休の仕事だったり(エギルのことだ。彼の喫茶店は夕方のこの時間からがかき入れ時なのだ)で不在である。

 

「しっかし、コウは元々GGOをやっているから良いけどよぉ。なんでキリハはコンバートしてまでこの大会に出ようと思ったのやら」

 

「あ、それ私も思った。時間がないっていうのもあるんだろうけど、キリハだったらキャラ作成からやりそうなのに」

 

 飲み物片手にリズが不思議そうにそう言うと、リーファがピクリと反応したが「なんでだろうね~」と笑顔で言った。キリハが誠二郎(ALOでは水妖精(ウンディーネ)で、PLNは『クリスハイト』)から依頼を受けていることを知っているのは家族のみだ。リーファが反応したことに気づいたのはアスキリユイの三人…と隣で彼女を見ていたレコンくらいだろうか。妹をよく見てるなぁと思いつつ、キリトは口を開く。

 

「信用できるところからの依頼だよ。VRMMO、というより《ザ・シード連結体(ネクサス)》の現状リサーチ…だったか?GGOは唯一《通貨還元システム》があるから選ばれたらしい」

 

 とキリハから教えられた理由そのままを皆に説明したが、確実にそれだけではないだろうと、家族の四人は思っている。嘘ではないだろうが、真の目的が他にあるはずだ。恐らく、コウはそれを知っているだろう。

 

(まったく…そんなに俺達に心配かけたくないか?)

 

 信頼できないから話していない、それはあり得ない。どちらにしろ心配してしまうのだから、真実を話してほしかった、とキリトは内心不貞腐れる。表情には出ていないが、リーファも同じ気持ちだろう。

 

「だとしても、わざわざPVP大会に出る必要はあるんでしょうか?リサーチなら、街のPLに話を聞くだけでいいのでは…」

 

 レコンの発した問いに一同が確かにと首を傾げる中、リーファが口を開いた。

 

「和ねぇのことだから、依頼ついでに厄介ごとに巻き込まれてるんだよ、絶対」

 

「「「あぁ…」」」

 

「え?今ので納得するんですか?」

 

 リーファの言葉にレコン以外のキリハのことをよく知っているメンバーが納得したように頷いた。この場に彼女がいたら「なんで納得するんですか」と抗議をしていたに違いない。

 

「それにしても、本当にお二人とも映りませんねぇ。大会が始まってからもう三十分経ちますよ?」

 

 シリカの言葉が示すように、現実では三百インチはありそうな大型スクリーンには、二人の姿は映っていない。銃撃戦型だからか、基本的に中継は一人のPLを背後から追いかける形であり、原則的に戦闘中以外のPLは映さない仕様になっているようだ。そして現在、十六分割されている画面のどこにも、【Kiriha】と【Kou】の名はなかった。また参加者全員の名が表示されているところでも、二人の名の隣には【Alive】と表示されているので生存している。それはつまり、二人はこの三十分間、一度も戦闘に参加していないことを示している。

 キリハが戦闘症なのはこの場の全員が知っている。それ故、彼女が他人の戦闘音を聞いていておとなしく出来るはずがないと思っていたのだが…。

 

「あの姉さんが戦闘しない事情、ねぇ…」

 

 これはかなり厄介なことに巻き込まれてるなと、キリトは頬杖を突きながらつぶやく。次いで、一度ログアウトして菊岡に突撃してくるか、とも思った。

 そんなことをしているうちも試合は進み、今『Dyne(ダイン)』というPLが、青白いギリースーツを着たPLに倒された。

 

「こう見るとGGOも楽しそうだなぁ。銃って自作出来るのかな…」

 

「リズさんまでコンバートするとか言わないでくださいね?《新生アインクラッド》の攻略、これからなんですから」

 

 シリカの言葉に「はいはい」と手を振りながら答えた。

 シリカの言葉に一理ある。生まれ変わったSAO─《新生アインクラッド》はもうすぐ二十層台のアップデートが入るのだ。層の形、テーマは以前のままだが、《SAO生還者(サバイバー)》のPLがいる関係上、モンスターやクエストは新しいものとなっているのだ。以前とは違うとはいえ、やはりこの馴染み深い面子であの城を完全攻略したいところである。…まぁ、かくいうキリトはリズの言葉にも共感しているのだが。

 少しだけなら…などと思っていると、ダインを倒したPLが横に倒れた。視点が切り替わり、今度はそのPL視点となる。画面下部に『Pale Rider(ペイルライダー)』なる名前が表示された。

 倒れただけで、一撃死してしまったわけではないようだ。右肩のダメージ痕から、全身を封じるように青いスパークが這い回っている。

 

「風魔法の《封雷網(サンダーウェーブ)》みたいだね」

 

「俺あれ苦手なんだよなぁ。追尾(ホーミング)性能良すぎだろどう見ても」

 

「あんたは弱体化(デバフ)魔法全部苦手でしょうが!ちっとは魔法抵抗(レジ)スキル上げなさいよ」

 

「やなこった。侍たるもの、魔の一文字が付いたスキルは取れねぇし、取っちゃなんねぇ!」

 

「あの…RPGでいう《侍》ジョブは戦士プラス黒魔法が基本なんですけど…?」

 

 リーファの一言からギャーギャー騒ぎ出す面々に苦笑しつつ、アスカは右手を伸ばし件の画面にフォーカス、二本の指を開いた。すると、そこの画面が大きくなり、他の画面が隅に追いやられる。

 あのPLが撃たれてから十秒が経過しようとしているが、他のPLはフレーム内に入ってこない。いったい何のために麻痺(スタン)させたのか…。

 

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

 

 七人が()()に反応したのは同時だった。()()─黒い布地は突然、画面の左端からフレームインしてきたのだ。カメラが徐々に引き、それの全体像を映し出す。

 

「ゴースト…?」

 

 女性陣の誰かがそう呟いたが、それも仕方ないと言える。ぼろぼろのマントは微風に揺れ、内部を完全な闇に隠すフード。そして、その奥で鬼火のように赤く瞬く二つの瞳。その姿が、幽霊(ゴースト)系mobを連想させたのだ。

 とはいえ、それがこの大会に出場しているPLの一人であり、ペイルライダーをスタンさせた人物なのは間違いない。目に見える装備は、右肩にかける大きな黒い猟銃のみ。恐らくは、動きを封じてから近接で止めを刺すのだろう。そう考えたキリトだが、ぼろマントが懐に手を入れ、取り出した拳銃を見て首を傾げた。あれがダメージソースだとしたら、どう見ても物足りないと思ったからだ。他の皆も同じことを思ったようで「しょぼくね?」やら「ライフルの方が攻撃力高そうだけど…」と好き放題言っていた。一応リーファが「弾代が高いのかなぁ?」とフォローしていたが。

 そしてぼろマントは拳銃をペイルライダーに向け、十字を切る仕草をする。それを見て、キリトの頭の内側で、何かが小さく引き攣れた気がした。

 ジェスチャーとしては特に珍しいものではない。ALOでも回復師(ヒーラー)系の一部のPLがRP(ロールプレイ)の一環として行っている。正式なキリスト教徒からしたら不快なものかもしれないが、キリトは別にキリスタンではないので、そのジェスチャーに不快や嫌悪感を感じることはない。

 

(なんだ…この嫌な感覚は…)

 

 知らず知らず顔を顰めるキリトを余所に、ぼろマントは十字を切り終えた左手を拳銃の握りに添えた。そして引き金を引こうとし─突然、上半身を仰け反らせる。その理由はコンマ一秒後、先ほどまでPLの心臓部があった空間を画面外から巨大なオレンジの光弾が貫き、再び画面外に飛び去ったことで判明した。

 恐らく、遠距離からぼろマントを狙撃したのだろうと予測する。ぼろマントの左後ろから飛来したように見えたが、それを慌てもせず余裕をもって回避したとこをみると、このPLもただものじゃないとキリトは思った。

 ゆらりと、上半身を戻したぼろマントは、再び拳銃をペイルライダーに向ける。そして今度は誰にも邪魔されることなく引き金を引き、弾はPLを貫いた。胸の中心に直撃したが、とても大ダメージを与えたようには見えず、それを証明するように麻痺から回復したペイルライダーはばねのように起き上がると、銃口をぼろマントの胸に当てた。

 ぼろマントはこれで終わり、と誰もが思ったその時、一つの音が響く。それは銃声─ではなく、ペイルライダーの手から銃が滑り落ち、地面に転がった音だった。

 何が起こったのか、事態を理解できないでいると、ペイルライダーは自身の胸に右手を持っていき、力強く握り始めた。次いで膝から崩れ落ちると、突如一時停止したように止まると、青いエフェクトに包まれてアバターを消失させた。

 理解不能の出来事が立て続けに起こり、全員が声も出せないでいると、ぼろマントがカメラに向かって視線をよこした。どうやら向こうからでも中継カメラの位置が分かるらしく、右手に持った拳銃をカメラに突き付けた。

 フードの奥で赤い瞳が瞬き、それと同時に機械的な音声が聞こえ始める。

 

『俺と、この銃の、真の名は、《死銃》…《デス・ガン》だ』

 

 その声を聞いた瞬間、SAOの記憶がキリトとアスカの脳裏によぎる。目を見開き、二人の呼吸が止まる。

 

『俺は、いつか、貴様らの、前にも、現れる。そして、この銃で、本当の、死を、もたらす。俺には、その力が、ある』

 

 その言葉はまるで、画面を見ているこちらに言っているように聞こえ─否、ようにではない。奴は、今この瞬間に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!

 

『忘れるな。()()()()()()()()()()()()()()()()()。─イッツ・ショウ・タイム』

 

 その瞬間、硬質なサウンドが室内に響いた。そちらを向くと、音源はクラインの右手から滑り落ちたクリスタルのタンブラーが粉々に砕けたものだったようだ。

 

「ちょっとなにやって…」

 

 決して安価ではないPLメイドのものを壊したことに文句を言おうとして、リズは口ごもった。クラインが信じられないと言わんばかりに両目を見開いていたからだ。

 

「う…嘘だろ…なんで…」

 

 唖然としているクラインを見て、アスカはやはりと口を開く。

 

「やっぱりあいつ、《ラフィン・コフィン》か…」

 

 その言葉に、今度はリズとシリカが息を吸い込み、言葉を失う。

 SAOで数々の凶行で血に染めた殺人(レッド)ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の名は、中層PLである彼女達の記憶にも染みついていたのだ。

 その場の空気に付いていけないリーファとレコンに説明している間に、件のぼろマントが川岸へと姿を消していく。説明を聞き終わった二人は、拳を握りしめ、唇を噛み締めた。

 

「クライン、あいつの名前、覚えてる?」

 

 名前までは思い出せないアスカの問いに、クラインは首を横に振り否定する。

 

「いや…奴の名前までは思い出せねぇが、幹部の一人なのは間違いはねぇ…。さっきの『イッツ・ショウ・タイム』ってのはリーダーだったPoH(ヤロウ)の口癖だったからな…」

 

 その場を、重い沈黙が支配しそうになって─大きな舌打ちが響いた。あまりにも突然だったので、全員がびくっと肩を浮かせ、舌打ちをした人物に目を向ける。

 

「か、かなねぇ…?どうしたの…?」

 

 代表してリーファがそう問いかけた。真っ先に声をかけるはずのアスカはというと、どうしてだか苦笑している。彼女が次に起こす行動が分かったのだろうか。

 

「姉さんの依頼主をここに呼んでくる。明日香は俺と、ユイはGGO内の出来事を調べといてくれ」

 

「「了解(です!)」」

 

 リーファはそれに納得したように頷き、彼女以外の面子は「依頼主?」と首を傾げる。皆が知ってるやつだよ、と教えてから二人はログアウトした。

 

 

 とりあえず菊岡はぶん殴る、と心に決めて。



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追跡

はぁいギリギリですが宣言通りもう一話投稿です!


(…シノンはキリハさん(あの人)と一緒か)

 

 キリハ達のいる鉄橋から北東へわずか二Km地点の森の中、アレンは太い枝の上で端末を見ていた。自分の周囲には一人しかいないことを確認してから、シノンの安否を確認している。彼女がこの段階で脱落するなどまずあり得ないが、物事に絶対など無いので念のためだ。彼女の近くにキリハがいるが、恐らく戦闘はしていないだろう。まず二人の距離が近すぎる。それに加え、この距離で銃声が聞こえていないのだ。銃を撃つ暇もなく斬られたのなら、シノンのマーカーが灰色になっていなければおかしい。よって、二人は現在休戦状態、もしくはそれに近い状態なのだろう。

 

(…コウさんは)

 

 シノンのついでにキリハの安否も知れたので、ついでにコウも探そうとして─

 

「!」

 

─風切り音が背後から襲来、即座に枝から飛び降りる。飛んできたのはナイフ、着地して背後を確認する。はたして、そこにいたのは、黒いフードを深く被った男だった。

 

「Wow。今、音だけで避けたか?流石は二つ名を持っているだけあるな」

 

 そいつは拍手をしながら、ゆっくりと歩いている。何が面白いのか、唯一見える口には笑みを浮かべていた。

 アレンはそのPLの名前を思い出す。名前は《nymphaea》、読み方は分からない。確か、前回のBOBにも参加していたはずだ。その時はTOP5には入っていた、のだったか。シノンとは戦っていなかったはずだ。

 アレン自身は、このPLと戦ったことはおろか会ったことすらない。なので詳しくは知らないが、目の前で見て思う。

 

(…強いな)

 

 少なくとも、つい最近戦ったリヴァイアより強いのではないだろうか。まぁ良い、出会ったのだから殺りあおう。

 両手でナイフを取り出し、即座に距離を詰める。それに対し、男は右手で懐からスチェッキン・マシンピストル(ハンドガン)を取り出し撃ってきた。それをナイフで弾き、斬りかかる。

 

「ハッ、マジで弾きやがった!」

 

 男は歯をむき出しにしてそう言い、ハンドガンと左手に持った筒でそれぞれはじく。次いで弾丸を放ってくるが、素早く腕を引き戻し弾丸を斬り割いた。

 

「!」

 

 いつの間に近づいたのか、目の前に男の顔があった。男は右手に持ち替えた筒─光剣を左から振るう。

 光剣はその攻撃力の高さから、基本的に防御は出来ない。というより、防いだ物ごと斬られてしまう可能性が高い。故に仰け反って回避、そのままバク転。足を付けた瞬間、距離を詰めナイフを振るう。それをバックステップで男は回避、そのまま距離を取った─と認識した瞬間、何かを投げてきた。筒状のもの、それから煙幕が勢いよく吹き出る。

 

(スモーク…)

 

 バックステップをして、煙の中に入らないようにする。黒い煙のため、余計に中の様子が見えない。どう来られても対処できるよう低く構え、耳を澄ませる。しかし、いくら待っても仕掛けてくる気配が無い。首を傾げている間に煙が晴れると、そこに男はいなかった。少し拍子抜けだ。どんな目的で仕掛けてきたのだろうか。

 

(…どうでもいいか)

 

 襲ってきたらその時に考えるとして、取り敢えずシノンと合流するとしよう。

 

 

 

 

「っ!」

 

 弾丸予測線(バレットライン)の一本が顔の中心に伸びた瞬間、10m程の高さから飛び降りる。と同時にコウが先ほどまでいた場所に数発の弾丸が通った。このままだとダメージを食らってしまうので、壁にナイフを突き刺して勢いを殺してから着地。撃ってきたのは誰か、そんなこと、確認するまでもない。聞こえてくる足音の方向に顔を向けると、AKS-74S(アサルトライフル)を手に持ち、こちらに歩いてくる人物が一人。バジリスクだ。

 

「完全に不意打ちだったろぉ今。何で回避できたんだぁ?」

 

 首を傾げながら、彼はそうぼやいた。なんでも何も、見られていない狙撃銃の初弾以外は弾道予測線が見えるのだから回避できて当然、それを知らないはずがないのだが...。

 それらの疑問を排除し、コウは光剣を手に持ちバジリスクに斬りかかる。「うおっ!」と驚愕の声を上げながらも危なげなくバジリスクはそれを回避、アサルトを連射してきた。コウは光剣を予測線上に置き、それらを防ぎながら距離を取る。

 

(和葉の言う通りだね)

 

 予測線が伸びてきた順に弾丸も飛んでくる…なるほど、言われればその通りだ。今までは回避一択であったが、これで手数が増えた。とはいえ、わざわざ自ら銃弾の中に飛び込もうとはしないだろうが。今更だが、アレンにも聞くことが出来たなと思う。

 それにしても、とコウは疑問を浮かべる。

 

(彼、ホントにバジリスクなのか?)

 

 何かしら小さく呟いているバジリスクを見てそう思う。以前は5分ほどしか敵対していないが、ここまで喋るような人物ではなかったはずだ。確認してみるか、と思い口を開く。

 

「君、ホントにバジリスクだよね?」

 

 それに対しバジリスクは一瞬硬直した後、体中の力を抜いた。次いで、顔に片手を当て呟く。

 

「はぁマジかよ…()()()ともう会ってんのかよ…」

 

「…?何を言って…」

 

─突如、ナイフを手に持って斬りかかってきた。伏せて回避、下から光剣で斬り上げようとして、バックステップをされる。いつでも撃てるようにハンドガンを向けていると、バジリスクは既に弾丸を放ってきていた。それらを切り払う。と、バジリスクは背を向け一目散に駆けていった。それに硬直するが、追うことはせず武器をしまう。

 

(結局、誰なのかわからなかったな…)

 

 だが恐らく、バジリスク本人ではないだろうとコウは思う。出なければ、自分のことを"こいつ"とは言わないだろう。考えにくいが、ただアカウントを乗っ取られたか、あるいは─

 

(─殺されたか)

 

 とすれば、彼は死銃の関係者か。断定は出来ないので、この考えは保留しておくことにする。一応、キリハに会ったらバジリスクのことを言うつもりだ。

 

(さて、次のスキャンで彼女と合流できると良いけど…)

 

 それまではこの辺で身を隠すとしよう。

 

 

 

 

 キリト・シノンペアは《夏候惇》というPLをさくっと倒し、鉄橋より北に向かっていた。《死銃(デス・ガン)》は狙撃兵(スナイパー)、遮蔽物の無い開けた場所は苦手、かといって森は論外、よってそこそこに遮蔽物があり見渡しも良いマップ中央の都市廃墟へ向かったと判断したからだ。二十一時のスキャンで奴は次のターゲットを決めるだろう。それまでに、奴を止めなければならない。それはシノンにもわかっている。故にキリハに協力しているし、こうやって無理にでも付いて行っているのだ。だが、シノンには懸念事項があった。

 

(もし本当に…)

 

 キリハの言っていたことがあるのなら…。否、そんなことは無いはずだと、シノンは被りを振る。姿を消す能力(アビリティ)は一部のボス専用であるはずで、PL側に実装されたという(アナウンス)は聞いていない。しかし、もしそれが本当に実装されていて、手に入れたPLが隠していたのだとしたら…?

 そんなことを考えているうちに、フィールド中南部の草原地帯を抜け、ビル群が見えるところまで来ていた。

 

「追いつきませんでしたか…」

 

 川が途切れ、足を止めたキリハはそう呟いた。川を泳いで都市を目指していると予想している《死銃(デス・ガン)》に途中で追いつき、非武装状態で上がってきた所を追撃出来ればと思っていたのだ。

 

「まさか、途中で追い抜いたとか?」

 

「いえ、それはないでしょう。走りながら水中を見てましたから」

 

 シノンの言葉にキリハが即答した。「そう…」と答えつつ、疑問に思う。ダイビング機材(アクアラング)を背負っていなければ、水中に一分以上潜っていられないはずなのだ。L115A3という大型ライフルを持つ奴の装備重量に、そこまで余裕があるとは思えない。となると、自分達の見えない場所で岸に上がり、そのまま都市まで走っていったのだろう。

 二人が視線を向けた先は、川が暗渠(あんきょ)となって都市地下に流れ込んでいた。その入り口は鉄格子が設置されており、PLが通り抜けられないようになっている。あの手の障害物はプラズマグレネードをいくら当てても破壊することは出来ない《破壊不能オブジェクト》になっている。

 二十一時のスキャンまで残り三分。この都市のエリア内は、どこにいようとスキャンから隠れることは出来ない。前回の大会でも、高層ビルの一階にいたPLもスキャンされていた。ノーリスクで衛星の目を誤魔化すことは、恐らく出来ない。少なくともシノンは知らない。それらをキリハに言うと、「ふむ」と顎に手を当て考え始める。

 

「…それなら次のスキャンで、奴に強襲かけましょうか。ここにいる《死銃(デス・ガン)》候補者が一人だと良いのですが…」

 

 《死銃(デス・ガン)》の候補者、大会に初参加のPL《Pale Rider(ペイルライダー)》、《銃士X》、《バジリスク》、《Sterben(ステルベン)》の四名。この内、ペイルライダーは《死銃(デス・ガン)》ではなかった。バジリスクは大会には初参加だが、以前にコウが戦闘したことがあるらしいので、《死銃(デス・ガン)》本人の可能性は低い。

 

「では《ステルベン》と《銃士X》、どちらかしかいなかったらそちらに行けば良いですが、どちらもここにいたら近い方へ行きましょう。どちらの場合でも僕が突っ込みます。もし僕がスタンさせられても、シノンさんは慌てず撃ち抜いてください」

 

 その言葉を聞いた瞬間、シノンは目を見開いた。出会ってまだ二日、それで何故信じられるのか。

 

「…後ろを任せるのね。私があなたを撃ち抜くかもしれないのに」

 

 シノンのその言葉にキリハは苦笑してから口を開く。

 

「コウが信用していますし、僕自身あなたがそんなことをしない人物であると思っているので」

 

 さ、時間ですよ、とキリハは川床から都市に行くための階段を上り始めた。シノンは溜息を一つ、キリハの背を負い始める。

 

(ここまで信用されてちゃ、しょうがないわね)

 

 答えてあげたくなるのが、シノンという人物だ。冷静な部分が未だにキリハを疑っているが、これで全てが嘘だったら自分が浅はかだったというだけだ。

 

 

 コンクリートの短い階段上部、向こうからは見えない位置で二人は蹲り、スキャンを見始めていた。シノンは南から、キリハは北から。

 コウや《バジリスク》などの知った名前たちを流し見し、目当ての名前を探す。ここで二人の名前を見つけられなかったら、自分達の考えが根本から間違ってたことに─

 

「いた!」

「見つけました」

 

 ほぼ同時に二人は声を上げた。都市中央、スタジアム風の円形建設物の外周部。見晴らしのよさそうな狙撃ボジションに単独で表示されている光点をタッチ、名前は《銃士X》。二人は一度視線を交わし、同時に頷くともう一度マップに目を戻す。

 

「ここにいるのは《銃士X》だけね」

 

 その言葉にキリハは頷き、マップに指を走らせ、一つの光点に指を置く。

 

「狙われているのは恐らく、この《リココ》というプレーヤーでしょうね」

 

 場所はスタジアムからやや西のビル。孤立しているうえ、移動するには必ず《銃士X》に姿を現さなければならない。そうしたらスタン弾が放たれ、倒れたところをあの黒い拳銃で撃つだろう。スタンはともかく、拳銃で撃たれるのは防がなければならない。

 二人はすぐさま行動を開始、端末をしまい中央に向かって走り始めた。このエリアには自分達と《銃士X》の他に七、八人のPLがいたが、幸い自分達の向かう先にはPLがいないことを確認済み。更に路上には朽ちたタクシーやバスなどが転がっている隠れ場所には困らない。故にそれらの間を縫うように、中央まで速度を緩めなずに走りきる。

 七百Mほどの距離を一分かからずに走破し、目的地の中央スタジアムまで来ると、シノンのハンドサインで近くのバスの陰に隠れる。外装はビル三階ほどの高さで、東西南北のそれぞれに入り口が一つ。スキャンの時から動いていなければ、《銃士X》は西口の真上辺り─

 

「─いた」

 

 夕日に一瞬光ったものを見逃さず、シノンがそう報告する。間違いなくライフルの銃口で、キリハも確認できたようだった。恐らく、まだ《リココ》が出るのを待っているのだろう。ならば好都合だ。

 

「今のうちに後ろからやりましょう。シノンさんは向かいのビルから狙撃してください」

 

「分かったわ」

 

 キリハの作戦に頷く。シノンは狙撃手、遠くから撃ち抜くのが本来の役割なのだから。

 別れてから三十秒後に戦闘を開始すると言って、キリハはほとんど足音を立てずに走っていった。それと同時にシノンも目的地に向かって走り始める。

 都市エリアの建設物には入れる場所と入れない場所があるが、入れる場合は分かりやすい出入口が設置されている。スタジアム向かいのビルにも、壁面が大きく崩れている場所があった。そこから入り三階まで登ればスタジアムが見渡せるはずだ。距離が近いので向こうにも気づかれる危険があるが、近接戦闘中に周囲を見渡す余裕はないだろう。

 そこまで考え、ビル崩壊部分をくぐろうとした瞬間、背中に悪寒が走った。咄嗟に背後に振り返ろうとしたが、何も出来ずに地面に倒れる。

 

(なに…何が起こったの…!?)

 

 体を起こそうにも自由が利かず、動かせるのは両目のみだ。先程、何かの光を視界にとらえ、咄嗟に振り上げた左腕に衝撃が走ったのを思い出した。両目を動かし、ダメージ感の残る左腕を見下ろす。そこにあったのは─

 

(電磁…スタン弾…?)

 

 ペイルライダーを麻痺させた弾丸と全く同じものだ。電磁スタン弾を装填出来るのは大型ライフルのみ、そして発射音がほとんど聞こえなかった。サプレッサー付きの大型ライフルを持っている者など、そうそういない。

 そこまでシノンは考えても、自分を撃ったのが『あいつ』とは思いたくなかった。

 

(だって…今はスタジアムの方にいるはず…)

 

 弾丸が飛んできたのは通りの南、スタジアムは北側。スタジアムから降りてきたとしても、この短い時間では無理だ。そも、先ほどのスキャンで南側にいるPLがシノンを狙撃出来ることはないと断言できる。

 

─何故、分からない、理解不能─

 

 その問いに答えるように、一人のPLがシノンの前に姿を現した─シノンの視界先で突如、空気を切り裂くように。それはまるで透明化を解除したかのようだった。その不可思議な現象を、シノンは知っていた。

 

(メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)…!)

 

 装甲表面で光を滑らし、姿を不可視化する究極の迷彩能力。だがそれは、一部の超高レベルネームドmobにしか実装されていなかったはずだ。だがそれがあるということは、サイレント実装されていたということになるだろう。キリハの予想が最悪の形で証明されてしまった。

 ばさりとぼろマントをはためかせ、シノンの前に姿を現したPL─死銃(デス・ガン)がゆっくりと歩いてくる。そのマントの下に、サプレッサー付きの大型ライフルも見え、あのマントに迷彩能力があるのだろうと冷静な部分で考える。衛星は透明な者まではとらえられないのだろう。だからこいつは誰にも気づかれることなくスタン弾を撃つことが出来たのだ。

 フードの奥で二つの赤い光点を瞬き、《死銃(デス・ガン)》はシノンから二M離れた場所で立ち止まった。

 

「キリハ、お前が、本物か、偽物か、これで、はっきりする」

 

 どうやらこいつはキリハがスタジアムにいることを知っており、シノンではなく彼女に語り掛けているようだった。

 

「あの時のことを、まだ、覚えているぞ。お前の、目の前で、殺すことは、出来なかったが、この女を、殺して、狂えば、本物だ。さぁ、見せてみろ、キリハ。お前の、殺意を、怒りを、()()()に」

 

 シノンにはその言葉の意味のほとんどが理解できなかったが、こいつが自分を殺そうとしていることは分かった。それを分かったうえで、はいそうですかと納得できるはずがない。

 

(すぐに撃ってこなくて助かった…)

 

 シノンは目の前に《死銃(デス・ガン)》が現れてから、右手を腰に装着してある副武装のMP7(短機関銃)に伸ばしていた。そして今、グリップを握ったところだった。

 それと同時に、《死銃(デス・ガン)》が懐に手を伸ばす。

 

(大丈夫、間に合う…)

 

 こいつは撃つまでに十字を切るはずだ。それより、自分が銃口を向けてトリガーを引く方が早い。焦らず、早急に、着実に右手を動かす。それが見えているはずだが、何もしようとはしてこない。それに疑問を覚えつつも好都合と捉える。そして漸く銃口を向けたとき、相手の持っている拳銃の全体が目に入った瞬間─シノンの全身が凍るように動かなくなった。

 

(な…んで…いま…ここに…)

 

 それよりも凶悪な銃など山ほどある。なんども目の前で銃口を向けられたこともある。なのになぜ、シノンがここまで動揺しているのか。

 嗚呼、視界にとらえた銃が《デザートイーグル》や《M500》などだったら、シノンは動きを止めることなく今頃はトリガーを引いていただろう。だが、それは…()()()()()()()()だ。

 その黒い拳銃の名は《TT-33》。グリップに刻まれた星から、別名《黒星(ヘイシン)》。そして─

 

 

 

 

 

 

シノン(朝田 詩乃)()()()()()()()()だ。




銃殺…おやぁ?どっかで書いた記憶があるなぁ?どこだっけなぁ?(すっとぼけ)
和「切り刻みますよ」
怖っ


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逃走

Fooooo!!!ちょっぱやで書いたぜ!
和「どうしたんですか?」
いや、モンハンやらずに書いてたら終わった。
和「…そうですか」


─五年前のこと、シノン(詩乃)はあの日のことを今でも覚えている。とある郵便局に自分と母親がいたとき、そこに三人の拳銃を持った強盗が入ってきた。母を撃とうとした男の銃を無我夢中で奪い、引き金を引いて一人の男を撃ち殺した。

 死銃(デス・ガン)の赤い瞳が、その時の男の《眼》に移り変わっていく。もうこの時点で、右手からは短機関銃が滑り落ち、全身の間隔が失われていた。心臓の音が、やけに大きく聞こえる。失神してしまえば楽になれるのに、むしろ鮮明になり黒星(ヘイシン)のトリガーが引かれる瞬間を待ち続けていた。後数ミリ、奴の指が動けば弾丸が体を貫くだろう。そうなればHPを少し削るだけでなく、シノン(詩乃)を殺す。

 これが、自分の運命なのだろうか。それならば、受け入れるべきなのだろう。あの日、自分が撃ち殺した、あの男のように…。

 

─いやだ…!こんなところで…死にたくない…!─

 

 だが、巨大な諦観の中で、シノンはそう叫ぶ。

 諦められるわけがなかった。まだシノンは、本当の意味で『強さ』を持っていない。まだ、『克服』していない。

 

(それに…私はまだ…あいつと…)

 

 そう考えたその時、銃声が鳴り響く。ついに黒星(ヘイシン)の弾丸が放たれたかと思ったが、死銃(デス・ガン)の体がぐらりと体を揺らした。

 フードの中に見えていた《あの眼》が消え、赤い光点に戻る。視線を少し動かせば、右肩にダメージエフェクトが見えた。誰かが奴を撃ったのだと理解し、次いで二度目の銃声。シノンの背後から放たれた弾丸を死銃(デス・ガン)は身を屈め回避、ビル穴に隠れる。銃声音から小口径、ハンドガンか。

 シノンの位置からは、まだ奴の挙動が見えた。黒星(ヘイシン)をホルスターに戻すと、肩からL115A3を下ろし、素早くマガジンを入れ替える。恐らく、電磁スタン弾から通常の弾丸に入れ替えたのだろう。そして奴がスコープを覗き込むのと同時に、筒状の物が投げ込まれた。グレネードだ。それを見た死銃(デス・ガン)は狙撃体勢を止め、ビル内に引っ込む。

 シノンは少しでも爆破地点から離れようと、体を動かす。とは言っても、その距離は微々たるもの。大ダメージを受けることは免れないだろう。だがそれでも、ここで死にたくはなかった。いっそノーマルに死んで楽になってしまえと心が囁いてくる─その瞬間、グレネードだと思っていたものから煙が放たれた。

 

(スモークグレネード!?一体…)

 

 誰が、と思うと同時に転がるシノンの右手を誰かが掴む。そのまま乱暴に引き上げられ、肩の上に担がれた。所謂、消防士搬送と呼ばれる担ぎ方で、次いで走り出したのを感じ、スモークが晴れる。シノンは視界が回復すると、目を動かし自分を運んでいる人物を捉えた。

 

(アレン…)

 

 真っ黒な髪に深紅色の瞳。いつもの無表情だが、心なしか必死になっているように見える。いや、実際に必死なのだろう。彼はAGI型のステータス。いくら楽な運び方を知っていようと、人の重心を理解していようと、アバター+大型ライフルを抱えては可搬重量を容易に超えているはず。その状態で普段より少し遅い程度のペースで走れているのが奇跡だ。

 いったい何故ここにいるのか。それを聞きたいが、今はその余裕がアレンにないだろう。重心制御と走るのに思考の大半を取られているように見える。

 置いてって良い。そう言った所で、彼はシノンを見捨てないだろう。代わりにシノンは、違うことを口に出す。

 

「北に向かって…」

 

 煙幕の方から何故か戦闘音が聞こえるが、それらを無視して提案。それに疑問を挟まず、アレンはスタジアムの東を回り込み、北へ向かった。こちら側も南と同じようにメインストリートがまっすぐ伸び、壊れたバスや乗用車がいくつも転がっている。しかしそれでも、二人が完全に隠れられるような場所はない。

 死銃(デス・ガン)のビルドは分からないが、今のアレンより遅いということは無いだろう。いずれは追い付かれる。それを理解したからこそ、シノンは()()へアレンを誘う。

 ストリートを走り続け、見えてきたのは【Rent-a-Buggy&Horse】のネオンサイン。首都グロッケンにもあった無人のレンタル乗り場だ。ほとんどのバギーが壊れていたが、何台かは走れそうなものがあった。

 乗り物はそれだけではない。看板通りバギーの隣には、馬が数匹繋がれている。とはいえ生き物ではなく機械、ロボットホースである。こちらもほとんどが壊れていた。

 アレンは一瞬の躊躇もなくバギーに走り寄り、シノンを後部座席に乗せる。次いで始動装置のパネルに触れてエンジンを掛け、アクセルを全力で回した。太い後輪が甲高く鳴き、バギーはターンする。

 

「…撃てる?」

 

 フロントが道路の北側に向いたところでアレンはバギーを停め、シノンにそう聞いた。痺れが薄れてきた右手で、左腕に刺さっていたスタン弾を抜きながらシノンは少し逡巡した後で頷く。

 

「…やってみるわ」

 

 未だ震えが残る両腕で肩からへカートを下ろし、銃口を二十M先の標的たち(バギーと馬)に向ける。スコープを覗き込まずともスキル補正で必中する距離であるが、エンジン部に当てるためにスコープを使用することにした。上手くいけば爆発炎上し、残りの乗り物を破壊することが出来るかもしれないと考えたからだ。そうしてトリガーを引こうと指に力を入れ─固い感触に阻まれる。

 

「え…?」

 

 トリガーを引けない。いつのまに安全装置が掛かっていたのかと、愛銃の側面を確認したがそんなことはない。もう一度トリガーを引こうとしたが、先と同じ結果に終わる。

 

「まさか…」

 

 スコープから目を離し、代わりに自身の指に向ける。そのまま先までと同じように指に力を込めると─トリガーと指の間に数ミリ以上の空白が存在した。どれだけ力を入れても、その空白が埋まることはない。焦りが表情に現れ、何度も指を動かす。

 

「…」

 

 それを見ていたアレンは、やはりと思う。今の彼女は『シノン』ではなく、『詩乃』の側面が大きく出てしまっている。恐らくは、先ほど突き付けられた拳銃が原因なのだろう。そう考えていると、視界の端、スタジアムの東側の煙幕が薄れてきたのが見えた。

 

「…捕まって」

 

「え、きゃっ」

 

 一言の後、アクセルを全力で回し、バギーを走らせた。シノンはそれに驚きながらも、咄嗟にアレンの腰に手を回す。速度を緩めることなどせずバギーは加速し続け、すぐさまトップスピードに達し道を疾走し始めた。

 逃げ切れるのだろうか。シノンは全身が恐怖で震えていることに気づきながらそう考えたが、振り返る勇気はなかった。少なくとも、先ほどまでは姿が見えなかったが…。

 突然、アレンがバギーを右にずらした。一瞬何事かと思い─シノンの左頬を弾丸が掠める。勢いよくシノンは背後を向くと、一体の黒い機会馬が走り寄ってきているのが見えた。それに騎乗しているのは、死銃(デス・ガン)だ。

 

「なん…で…」

 

 例え、現実世界で騎乗経験があったとしても、機械馬を操るのは簡単なことではない。少なくともシノンは、あの馬に乗れるPLを知らない。

 だが奴は路上に転がる廃車を迂回、時には飛び越え、バギーと全く同じスピードで追いかけてくる。目測で二百M以上離れているが、やはり馬の方が踏破率が高いのだろう。それに加えこちらは二人で、向こうは一人…。否、よく見ればもう一人乗っているのが見えた。

 

「ア…アレン…」

 

 シノンの弱弱しい声に、アレンは応えるようにアクセルを更に回す。しかし、道路上には小さな凹凸がいくつもある。それらをタイヤが踏むたびに小さくスリップし、距離を開けるどころか逆に詰められていく。

 百Mを切ると、後ろから声が聞こえてくる。

 

「なぁなぁ!俺が撃っても良いんだよな!?撃つぜ!?」

 

 そう死銃(デス・ガン)の後ろに乗った男が言うやいなや、銃口をこちらに向けてきた。握られているのは─黒星(ヘイシン)

 それを見た瞬間、震えが一層大きくなるのを自覚した。伏せることも、声を上げることも出来ず、銃を凝視する。銃口から弾道予測線(バレット・ライン)が伸び、それが右頬に触れた。反射的に首を左に傾ける。それと同時に銃から弾丸が飛び出し、シノンから十cmほど離れた位置を通過した。

 

「嫌ぁぁぁ!」

 

 今度こそシノンは悲鳴を上げて背後から顔を背けると、アレンの背中に顔を押し付けた。背後からちょっとした口論が聞こえたかと思うと、二発目の銃声。サイドミラーで確認していたのか、アレンは少しバギーをずらすだけで回避する。

 

「やだよ…助けて…助けてよ…」

 

 今までトラウマを前にしていて、耐えられていたのが不思議だったのだ。シノンは赤ん坊のように体を縮め、そう言葉を繰り返す。それに対しアレンは左手をシノンの手に添えて、ただ一言。

 

「…大丈夫」

 

 それだけでシノンは少しだけ、冷静さを取り戻すことが出来た。次いで、なにが大丈夫なのだろうと思う。死銃(デス・ガン)達は追い付いてから確実に命中させる作戦に切り替えたのか、銃声が止んだものの蹄の音が近づいてくる。あと十数秒で追いつかれて─

 

「─キリハ!」

 

 その声と銃声が聞こえたのは同時だった。「ぬぉ!?」と聞こえたことからこちらを狙ったものではないらしい。いや、それは当然だろう。その声は、アレンの次に付き合いが長いPLのものなのだから。

 蹄が着地する音にゆっくりと後ろを振り返ると、そこには一体の機械馬がいた。しかしその色は銀色であり、乗っていたPLは知っている者であった。

 視線のあった者─コウはシノンに微笑を向けると、バギーと併走するように馬を走り出す。

 

「遅れてごめんね?ちょっと機械馬(この子)を制御するのに手間取っちゃって」

 

 ということは、コウが乗ったのはこれが初だということだろうか。この人のPS(プレーヤースキル)本当にどうなってんだ、と先ほどまでの恐怖を忘れて呆れてしまった。

 

「割り込んですみませんが、まだ追いかけてきていますからね」

 

 コウの後ろに乗っていたキリハが、そう言いながら後ろに向かってリボルバーを二発放った。が、それを回避し、更に距離を詰めようとしてくる。

 

「まぁ、当たりませんよね」

 

 言いつつ残りの三発も放つ。当然のように回避されるのを見ながら素早くリロード、銃口を向けるだけにとどめた。さてどうしましょうか、と小さく呟く。

 

「…前方…大型トラック」

 

 アレンの言ったとおり、横転した大型トラックが見える。それを目にした瞬間、コウが懐からグレネードを取り出した。シノンは何をしようとしているのか分かったが、どうやってそれを実行しようというのか。

 

「キリハ、グレネードを道路に()()から撃ち抜いて」

 

 その言葉は、キリハが外すとは全く思っていない声で発せられた。そして、キリハは納得したように頷く。

 確かに、シノンから見てもキリハの狙撃の腕は悪くない。本当に銃の世界が初めてなのかと疑うほどだ。だが、それとグレネードを撃ち抜けるかどうかの話は別だ。こちらが動いている状態、それもかなりのスピードが乗っている状態で小さな物体を撃ち抜くのは至難の技である。シノンは狙撃銃を使えば出来る自信があるが、弾丸をばらまくAR(アサルトライフル)SMG(サブマシンガン)でない限り当てるのは難しいのでは─

 

「─任せてください」

 

 キリハの顔を見ると、小さく笑みを浮かべているのが見えた。「頼もしいな」と言いながらコウは、トラックを横を通ったときに、ピンを抜かない状態でグレネードを死銃(デス・ガン)らから見えないように置く。キリハは両手でリボルバーを持ち、照準を合わせた。

 

「僕自身不思議なんですが─外す気がしないんですよ」

 

 ちょうど死銃(デス・ガン)がトラックの真横を通り過ぎようとした時に発砲。それに嫌な予感がしたのか、道路の反対側にジャンプさせて回避しようとしたが─それよりも一瞬早くオレンジの炎がトラックと馬を包み込んだ。しばらくそれを見続け、コウとアレンは乗り物を砂漠地帯の方向に走らせる。



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トラウマ

 シノンは体中の力を抜くと、アレンの背中にもたれ掛かる。ふと左手首にある時計を見ると、現在時刻は二十一時十二分。都市に突入してから、まだ十分(じゅっぷん)ほどしか経っていない。

 今までで一番長く感じた十分だったなと考えながら、先ほどまでの出来事を思い出す。

 

(まだ…無理なのね…)

 

 少なくともGGO(この世界)なら、トラウマを発症することはないだろうと思っていた。だが、それはただの勘違いだった。数多の銃を見ても問題なくなったのに、肝心の黒星(ヘイシン)を目にしたら、この(ざま)だ。いつかは、あの黒い拳銃を持った者と対峙することを目標にしていたくせに…。

 電磁スタン弾の効果はとっくに消えているが、未だ全身の感覚は鈍く、両手で抱くヘカートの重さすら今は辛く感じる。アレンの背中から感じる温度だけが、心地良い。

 

「ついこっちに来ちゃったけど、ここら辺に隠れる場所ってある?」

 

「…このまままっすぐ行けば、洞窟があるわ」

 

 コウの言葉にシノンが応え、指示に従って走らせた。十数秒で岩山に到着し、周囲を回る。北側の側面に大きな穴が開いていた。とはいえ、馬ごと入るには少々狭い。先に入っていいといった後、コウとキリハは馬を洞窟から遠ざける。アレンは気にせずバギーを洞窟の中に入れ、入り口から見えない位置に止めた。中は意外と広く、バギーを止めても畳二枚分の広さは残っている。二人がバギーから降りようとして、小さな爆発音が聞こえた。まさか近くにPLがいるのかと身構えると、爆発の方向からキリハとコウが歩いてくるのが見える。

 

「ん?あぁごめん。もしかして爆発の音聞こえた?」

 

「他の人に使われると面倒なので、馬を破壊しました」

 

 音の原因が分かったところで、四人は洞窟の中でつかの間の休息を取る。シノンとアレンは壁際、キリハとコウは入り口側に座った。

 洞窟の中は衛星に映らない代わり、情報が入ってくることもない。周囲にPLがいるかどうかもわからないので、山勘でグレネードを放り込まれたら全員お陀仏だ。まぁ爆発するまで多少の時間はあるので、投げ返せばいいだけなのだが。

 そういう話をしていると、コウが「そういえばキリハから聞いたんだけど」とシノンに問いかける。

 

死銃(デス・ガン)はシノンちゃんの近くにいきなり現れたと聞いたけど。もしかして透明になる能力が追加された?」

 

 コウの言葉にシノンは頷く。実装されたという話は聞かないので、サイレント実装されたのだろうと。そして、あくまでも透明になれるだけなので、足音や足跡は感知できるとも。つまりここに突然現れることは出来ないということ。

 シノンは腕時計に目を向けると、時刻は二十一時十五分。サテライトスキャンが行われる時間だが、先ほど言った通り洞窟の中にいる時は情報が来ないので端末を見ても意味が無い。

 

「…あの爆発であいつらが死んだ可能性は…?」

 

「無いでしょうね。片方は知りませんが、死銃(デス・ガン)PS(プレーヤースキル)は知っています。それに直前で飛び降りたのが見えました。無傷ではないでしょうが」

 

 シノンの問いにキリハがそう答えた。あれほどの爆発を近距離で受けたのだ、確かに無傷で済むはずがない。寧ろ、HPが消し飛んでいないことに驚くべきだ。

 シノンは「そう…」とだけ答え、ヘカートを地面に置いて膝を両手で抱えた。そして別の質問を投げかける。

 

「アレン、あなた何で私を助けられたの?近くにいたの?」

 

 首を横に向けてそう聞くと、アレンは首を縦に頷いた。続いてキリハが「いやぁ驚きましたよ」と口を開く。

 

「僕が銃士X─正しい読みは《マスケティア・イクス》で女性でした─を倒してシノンさんを見たら、倒れてるじゃないですか。すぐに飛び降りようとしたらアレンさんが下にいたんですよね」

 

 いつ来たのか知りませんがと、言って続きを話す。

 で、アレンに上から呼びかけて自分のリボルバーと銃士X(マスケティア・イクス)のスモークグレネードを渡したのだそうだ。それを受け取ったアレンはシノンのとこまでダッシュ、スモークを投げて弾丸を放って…。ついでに言うと、アレンはシノンを抱える直前にリボルバーを捨ておいたらしい。

 

「それは良いんですが。で、僕は近くに来ていたコウと合流して時間を稼ぐために斬りかかった、ということです」

 

 そこからはシノンの知っている通りだそうだ。

 アレンは銃を所持していないのにどうやって撃っていたのだろうと思っていたが、キリハのリボルバーを持っていたわけだ。

 

「まぁ死銃(デス・ガン)に仲間がいたことには驚いたけどね。しかもバジリスクだとは」

 

「え!?」

 

 コウの言葉にシノンは驚いた。先程死銃(デス・ガン)の後ろにいたのが、まさかバジリスクだとは思わなかったのだ。

 

「…あんなにやかましかった?」

 

「いや、多分あれ()()だよ」

 

 コウの言葉にアレンは怪訝な表情になる。他人のアカウントを乗っ取ることは不可能である─と世間一般では認識されているからだ。

 コウがキリハに顔を向けると、キリハは口を開く。

 

「基本的に不可能、というだけであって裏道がないわけではないんですよね」

 

 アミュスフィアの開発者ではないので詳しいことまでは知らないが、と付け加えて続ける。

 

「現状、脳波のみで個人を特定する技術はないはずです。だから《アカウント》と《パスワード》が必要なわけですから」

 

「…つまりその二つがあれば乗っ取れる…かもってこと?」

 

 シノンの言葉に頷く。ただし、あくまでも可能性の話なので、考えるだけ疲れるだけだ。それよりも解決しなければいけないことがある。

 

「さて、では僕は行きますね。シノンさん…とアレンさんもですね。ここで休んでいてください」

 

 キリハの言葉に、シノンは反射的に「え?」と返す。見れば、光剣のバッテリー量を確認しているところだった。少し目をずらせば、苦笑しながらコウも準備をしている。

 

「あいつと…死銃(デス・ガン)と…戦う気なの…?」

 

 弱弱しい声でそう呟くと、キリハは当然といわんばかりに頷いた。

 

「…怖くないの?」

 

「怖くないといえば嘘になりますが、放っておいて犠牲者を出すわけにはいきませんから」

 

 肩をすくめてそう言ったキリハを見て、かなわないなとシノンは思い俯いた。恐怖に打ち勝つ心は、既に失われている。

 シノンは、このフィールドから出た自分のことを想像する。死銃(デス・ガン)にあの銃を突き付けられたとき、シノンの体は完全にすくみああがり、骨の髄まで凍り付いた。逃走中も悲鳴を上げ、ヘカート(相棒)のトリガーですら引けなくなった。『氷の狙撃手シノン』は今や消える瀬戸際にいる。恐らく、このまま洞窟に隠れ続けていたら、自分の『強さ』を二度と信じられなくなるだろう。

 あの記憶い打ち克つどころか現実世界でも、夜道の物陰─戸口の隙間から、『あの男』がいつか復讐しに来るのではないかと、怯え続けることになる。それがシノン(詩乃)を待ち受ける、バーチャルとリアル。

─それだけは、断じて許せない。

 

「…私、逃げない」

 

 シノンの呟くような言葉に、三人は顔を向けることで反応する。

 

「私も外に出て、あの男達と戦う」

 

 顔を上げ、瞳に決意を映してはっきりとそう口にした。キリハは片目を瞑り、コウは変わらず笑みを浮かべ、アレンは無表情のままこちらを見つめる。

 

「死ぬのは今でも怖いよ…。でも─」

 

─これからも『あの男(過去)』に怯えたまま生きていくのだけは、断じて許すことが出来ない─

 

 そう、胸の内をさらけ出したシノンに、キリハは口を開く。

 

「…そのためなら、死んでも構わないと、そう思っていますか?」

 

 その言葉に、シノンは改めて自己分析を始める。

 自分は怯え続け、情けなく生きていくくらいなら、死んだほうがマシと思っているかどうか…。怖いのは、もう嫌だ。怯え続けるのは、もう疲れた。

 

「そう、かもしれないわね…」

 

 苦笑しながらそう言うと、隣にいるアレンから息を吞む気配を感じた。だが、これは自分の正直な思いだ。恐らく、あの銃を突き付けられて表面化しただけで、今までもこの思いはずっと抱えていたのだろう。それを自覚した今、この場にいるという選択肢は無い。

 

(…行かないと)

 

 全身に力を入れて立ち上がろうとすると、隣にいるアレンが腕を掴んで引き留めた。聞いたこともない張り詰めた声で、アレンは口を開く。

 

「…どこにいくつもり」

 

 そう聞きつつも、どこに行こうとしていたのか確信しているようだ。故にアレンの言葉を無視して振りほどこうとするが、アレンは更に力を入れてきた。だから、シノンはアレンの顔を見ずに「離して」と言った。しかし、アレンは逆に強く握りしめてくる。

 

─駄目、やめて、それ以上踏み込んでこないで─

 

 視界が歪む。何度も振りほどこうとして、失敗に終わる。最終的には目の前に陣取られ、身動きすら許されなくなる。体中が沸騰したように熱くなる。そして─

 

「っ、いい加減にして!」

 

─爆発した。掴まれていない左手で、アレンの胸倉を掴む。

 

「これは!私の…私だけの戦いなの!負けても死んでも、誰にも私を責める権利は無い!」

 

 先ほど自覚し、誰にも言うつもりのなかった思いが溢れ出る。

 

「何も知らないくせに!踏み込んでこないでよ!どうせあなたも…」

 

 シノンは俯く。そして顔を上げ、アレンにだけは知ってほしくなかった事実を伝える。

 

「私は人殺しなの!それを知っても、私の手を握ってくれるの!?」

 

 記憶の底から、シノン(詩乃)を罵る声がいくつも蘇る。あの事件─強盗事件以降、詩乃は孤独となった。どこからか、詩乃が人を殺したことが洩れたのだ。正当防衛とはいえ、そんなことは周りにとって関係なかった。罵られて、殴られて、蹴とばされた。虐めてこない者もいたが、遠目に見るだけ。教師ですら見て見ぬふりをした。誰も手を差し伸べてくれなかった、助けてくれなかった。

─だからあの日、声を掛けてくれたのが嬉しかった。ただのお隣さんだったのに、軽く事情を話すとこの世界に誘ってくれた。彼にとっては実験のサンプル集めが目的だったとしても、深くは聞いてこない彼との距離感は心地よかった─それを今、自分で壊してしまった。

 

「う…うっ…」

 

 堪える余裕もなく、涙が零れ落ち続ける。泣き顔を見られたくなくて俯くと、アレンの胸に額がぶつかった。胸倉は掴んだまま歯を食いしばり、嗚咽が漏れる。

 アレンは何を言うでもなく、ただシノンが落ち着くまで、背中を優しくと叩き続けた。そして、握った手を離すつもりもなかった。




 後半、キリハとコウが空気になってしまいましたが、正直申し訳ない。入れられなかった…!


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過去

 はぁい凡そ3ヶ月お待たせしましたぁ。筆がのらなくてですね…(言い訳)

 それと以前、和葉を書いてくれた友達がまたまた描いてくれましたので載せさせて貰います。いや、ほんとありがとう

【挿絵表示】



 シノンが泣き始めてから、十数分ほど経っただろうか。涙が枯れ、シノンは強い虚脱感と共に体の力を抜き、アレンの体に全身の重みを委ねた。

 

「少し…こうさせて…」

 

 そう言ってシノンは、アレンの膝に頭を乗せる。泣き顔を彼に見せたくなくて洞窟の入り口側に顔を向けるが、そちらにはキリハとコウがいた。すっかり二人の存在を忘れていたことを思い出して、二人にも顔を見られないようにして─結果アレンの腹に顔を埋めるような状態になった。

 

「いやぁ…うん、なんか、外に出てれば良かったね?」

 

 コウが、恐らく苦笑しながらそう言ってくるが、何も言わないで欲しかった。泣いた姿を見られて恥ずかしいやら情けないやらで火を噴きそうだ。アレンが背中をポンポンと優しく叩いてくれるのが救いである。

 少しづつ落ち着いてくると、頭がぼんやりしてくる。思考停止とはまた違う、心が軽くなったような浮遊感があった。

 

「私ね…人を殺したの」

 

 そのせいか、自分から話すことはしないだろうと思っていたことを、いつの間にか口に出していた。一瞬アレンの手が止まり、キリハとコウが外に出ようとしたが、その前に話を続ける。アレンには勿論だが、この二人にも自分を…シノン(詩乃)を知ってほしくなったから。

 ゲームの中では無く、現実世界で人を殺したこと。五年前、小さな町の郵便局で強盗事件が起こったこと。ニュースでは局員が一人撃たれ、仲間割れで全員が死んだことになっていること。だが実際は違うこと。

 

「三人いた強盗のうち、一人は私が撃ち殺したの。強盗の拳銃を奪ってね…」

 

 他の二人に関しては言わない。彼女らだって、自分の知らないところで、殺人をしたことを知られるのは嫌だろう。そう思ったから、口にしなかった。

 シノンの独白を、三人は静かに聞いてくれる。誰の顔も見ていないが、恐らく軽蔑の類の表情はしていないだろう。今まで、そういう視線を受けてきたから、分かる。黙って聞いてくれることに感謝しながら、話を続ける。

 

「当時は十一歳だったんだけど…もしかしたら子供だったからそんなことが出来たのかもしれないわね…。もちろん、無傷じゃなかった。歯は折れたし両手首も捻挫して、背中は打撲して肩は脱臼したわ」

 

 それはそうだろう、とアレンは内心頷く。銃の種類は分からないが、小口径のハンドガンだとしても十一歳の少女が撃つには衝撃が強いはずだ。逆に強盗が目の前にいて、それだけでの怪我で済んで─そこまで思ってハッとする。

 

「…もしかして」

 

「そう、この時の私は…体の傷だけじゃなくて、心にも傷を負った」

 

 シノンが銃をトラウマとなった原因、それがこの事件だったわけだ。アレンは深く納得した。普通の日常を送っていた子供の目の前に人殺しの道具が突如として現れて、更に自分で人を撃ち殺した。そんな経験をして、トラウマにならない方が不思議だ。

 現実では銃を見ると、今でも発作を起こしてしまうことをシノンが話すと、コウとキリハは驚いたように目を見開いた。それもそうだ、コウですら自分達と知り合ったのは、シノンがこの世界で銃を見ても平気になってからだ。この世界ではトラウマは発症せず、それどころかいくつかの銃を…好きになることすら出来た。ヘカートは、その中の一つ…いや、一番好きな銃だ。

 故に思った、思ってしまった。この世界で頂点に立つことが出来れば、現実でも強くなれる、あの記憶を乗り越えることが出来るかもしれないと。だが、その思いは無駄だった。

 

死銃(デス・ガン)に襲われたとき、発作が起きそうになって…いつのまにか《シノン》じゃなくなって…現実の私になってた…」

 

 だから戦わなければならない。否、勝たなければならない。勝たなければ─《氷の狙撃手シノン》はいなくなってしまう。

 死銃(デス・ガン)と、あの記憶と戦わず逃げてしまえば、自分は前よりも弱くなってしまうだろう。それは、それだけは─

 

─パァン─

 

 空気が破裂するような音に、シノンは思考を止める。音の発生源に目を向ければ、キリハが両手を合わせて笑みを浮かべていた。

 

「辛いことを話してくれてありがとうございます、シノンさん。代わりと言っては何ですが、僕と死銃(デス・ガン)に関係することを一つ」

 

 お話しましょうと言って、笑みを消し、続ける。

 

「─僕と死銃(デス・ガン)は、SAO生還者(サバイバー)です」

 

 その言葉に、シノンとアレンは目を見開いた。コウだけが、なんの反応もしなかった。

 SAO、正式名称『ソードアート・オンライン』。それは三年前にサービスを開始し─ゲーム内での死亡は現実での死を意味するデスゲームと化したもの。クリアされたのは去年、死者はおよそ三千人。そして生き残った七千人がSAO生還者(サバイバー)と呼ばれている。

 キリハと死銃(デス・ガン)、そのうちの一人という。

 

死銃(デス・ガン)は《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》というレッドギルドに所属していました。SAO内で犯罪を犯したプレーヤーはカーソルがオレンジになります」

 

 そのことから犯罪PLを《オレンジプレーヤー》、犯罪ギルドを《オレンジギルド》と呼んでいたという。そして、その中でも、積極的に殺人を楽しんだPLを《レッドプレーヤー》と呼んでいた。

 そこまでキリハが説明すると、シノンは「ちょ、ちょっとまって!」と叫んだ。

 

「殺人って…でも、SAOの中で死んだら…」

 

 シノンの言葉にキリハは頷き、「だからこそ、でしょうか」と続ける。

 

「一部のプレーヤーにとって、殺人という行為は最大の快楽でした。そしてラフィン・コフィンはそういう集団でした」

 

 金とアイテムを奪っては、容赦なく殺す集団だと。SAO内で死亡した三千人のうち、少なくとも三百人が殺されたと。

 当然、厳重に警戒はしたという。それでも奴らは次々と新しい手口を生み出しては犠牲者を増やしていった。故に─大規模な討伐パーティーが組まれた。

 

「僕もそこに加わりました。討伐といっても、無力化して牢屋(ジェイル)に送る手筈でした」

 

 今まで必死になって探して、リークされたことによって漸く見つけられた奴らのアジト。戦力的にも高レベルのPLを揃え、夜更けに急襲した。

 

「しかし、情報が漏れていたのか、リークされたことが罠だったのかは知りませんが、奴らは待ち構えていました」

 

 故に混戦になった。幸いだったのは、集まったメンバーらは修羅場に慣れていたことだ。すぐに立て直すことが出来た。キリハが相手取ったのは、ラフコフのリーダーである『PoH』。マルチリンガルで、圧倒的なカリスマを持って、殺人集団をまとめ上げた張本人。

 PoHとの戦闘中、ラフコフのメンバーが三人乱入してきて─

 

「─僕は、その三人を殺しました」

 

 もう、その三人の顔と名前を憶えていない。正確に言えば、名前はそもそも知らない。そのことを、総督府で死銃(デス・ガン)に会うまで忘れていたと。

 そして、その乱入者らのせいで、PoHを取り逃がしてしまった…。キリハはそう締めくくった。

 

「じゃあ死銃(デス・ガン)はその…」

 

「いいえ、PoHではありません。《赤眼のザザ》、SAOではそう言われていました」

 

 その言葉を最後に、沈黙が下りる。コウが静かにキリハを引き寄せ、それに逆らわず頭をコウの肩に置いた。

 シノンは、何も言うことが出来なかった。キリハがSAOのPLだったこと。そこで命を賭けた戦いの日々を二年間もしてきたこと。どれも想像すらしなかったからだ。だが、納得はすることが出来た。強さの理由の一端が判明したから。

 

「キリハ、一つだけ聞かせて…。あなたは、どうやってその記憶を乗り越えたの…?なんで、そんなに強くなれるの…?」

 

 そう考えた故に、配慮のない質問をしてしまった。自分の罪を吐露した相手に、なんてことを訊くのだと自分でも思う。だが、どうしても知りたかった。『忘れていた』と言うが、シノンはそれすらも出来なかったのだから。

 シノンのその問いに、キリハはキョトンとした表情になり、口を開く。

 

「乗り越えてなんかいません」

 

「え…」

 

 シノンは唖然とした。ではどうやって、そこまで強く─。

 

「後悔をしていない、と言ったら噓になりますが、あの時は殺さなければ僕が殺されていましたから」

 

 今考えれば、手足を切り落とすだけでも良かったかもしれませんが。そうキリハは続けた。

 

「過去を消すことは出来ません。ならばせめて、自分のしたことの意味を考え続けます。それが償いと言うつもりはありませんが、そうすることで多少なり自分を許すことは出来ると思います」

 

 誰かに許してもらうのではなく、自分で自分を許す。キリハはそう言うが、自分には出来そうもない。結局は、自分で解決策を考えるしかないということか。それでもキリハの話は、一つだけシノンの迷いを解いたかもしれない。

 そしてコウが手を二回叩き、注目を集めた。

 

「さて、じゃあ死銃(デス・ガン)と、その仲間について考えようか」

 

 と言われても、何を考えればいいのか。シノンがそう思っていると、アレンが口を開く。

 

「…死銃(デス・ガン)に殺された人達…死因、心不全って言った」

 

 えぇ、とアレンの言葉にキリハが頷いたのを確認して、言葉を続ける。

 

「…心不全になった…その理由は?」

 

「それが不明なんですよねぇ」

 

「まぁ今時珍しくないからね。廃人ゲーマーが栄養失調で亡くなるなんて」

 

 ふぅとキリハは憂鬱そうに溜息を吐くと、コウが補足を加えた。

 

「コウの言った通りというのと、死んでから時間が経っていたせいで詳しく解剖されなかったんですよ」

 

 現状キリハが分かっていることは、殺すためのトリガーはあの銃で撃ち抜くこと。ゼクシードも薄塩たらこも(ペイルライダーは分からないが)都内にいて、一人暮らしだったこと。この二点だけで、殺害方法などは不明のまま。

 

「…変なことを聞くけど、何か呪いとか、そういうので殺したってことは…?」

 

 笑われるかもしれないと思いながら、そうシノンが問うと、キリハは笑うことはせずに「それは無いでしょうね」と即答した。

 

「非科学的ですし、何より、そのような力を持っているのなら鉄橋でダインさんを殺していたでしょう。死銃(デス・ガン)には現実でも動いている協力者がいると考えるのが妥当でしょうね」

 

「協力者…?」

 

 シノンの呟きにキリハは頷く。

 

「考えられるのは、ゲーム内で死銃(デス・ガン)が銃を撃ち、それと同時に何らかの手段で現実で殺害…でしょうか」

 

「どうやってプレーヤーの住所を特定したのか、殺害方法は何なのか、結局それらが不明なんだけどね」

 

 コウがそう言うと、キリハはキョトンとした顔になった。

 

「いえ、住所を特定した方は分かっていますよ?」

 

「「え?」」

 

 コウとシノンが思わずそう声をこぼすと、キリハはなぜ気づかなかったのかと言わんばかりの顔をして説明を始める。

 

「総督府で参加登録をするときに、リアルで商品を受け取るために住所を入力する欄があったじゃないですか。それを見たんでしょう」

 

「…それは無理」

 

 アレンの言う通り、それは不可能だ。総督府の端末には遠近エフェクトがかかっており、離れていると見えなくなる仕組みになっている。仮に見える場所まで近づいたとしても、気づかないとおかしい。

 そう指摘するアレンに、キリハは頷く。

 

「えぇ、アレンさんの言う通り。見ることは不可能でしょう…普通に考えるならば」

 

 含みがあるその言い方に全員が首を傾げる。が、すぐにコウは何かを思い出したように「あっ」と声を出す。

 

「コウには話したことありましたね。エフェクトがかかっていても、何か、鏡や双眼鏡を通せば見ることが出来るんですよ」

 

 だがそれでも、そんなものを使っているPLがいたら、誰かしらが追放するだろう。荒い者が多くても、そこら辺のモラルはある程度しっかりしている。

 

「今、僕が話しているには全て仮定です。だから、これももしも、の話です。もし、あの透明になれる能力が街中でも使えるとしたら?そのうえでアイテムを使い、端末を盗み見したのだとしたら?」

 

 その言葉で三人は驚愕に目を見開き、嫌な沈黙が場を支配した─




 ブツ切りしてしまったが、いつものことだな!(白目)



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会議

 今月にもう一話…いけっかなぁ…?


 キリハの言葉を、ありえないと言える者はいなかった。メニューウィンドウは設定しない限り他人に見られることはないが、ゲーム内端末は複数人で操作する場合もあるため、初期設定では誰にでも中身を見ることが出来る。シノン自身、前大会でも今大会でも初期設定のまま弄っていない。そもそも、望遠アイテムを使用してアカウントをBANされる可能性が多分にあるのに、住所を特定しようとする者がいるなんて、想像すらしなかった。

 

「…仮に住所を特定したとしても、鍵はどうするの?」

 

「ゼクシードさんと薄塩たらこさんに限って言えば、二人とも家は古いアパートで一人暮らしでした。恐らくはドアの電子錠も、古いものでセキュリティの甘いものだったのでしょう」

 

 それに加え、標的GGOにログインしている間は、生身の体は完全な無意識状態。侵入に多少手間取ったとしても、気づかれる心配はない。

 住宅の鍵が電子錠になったのは、ここ七、八年のことだ。物理的なピッキングこそ不可能になったが、初期型のものは解析されてしまい、マスターキー(電波)が組み込まれた開錠装置がブラックマーケットで高額取引されているらしい。シノンはその情報を知ってから電子錠だけでなく、金属鍵と暗証番号を併用している。とはいえ、背筋をはい回る冷たさが消えることはない。

 そこまでシノンが考えたところで、キリハが歩み寄ってきた。ついで真剣な表情で目を合わせてくる。

 

「シノンさん、あなたは一人暮らしですか?」

 

 突然の問いに一瞬呆けるが、すぐに肯定する。

 

「鍵は?チェーンは掛けてありますか?」

 

「一応、電子ロックだけじゃなくてシリンダー錠も掛けてあるけど…鍵そのものは初期型よ。チェーンは…掛けてないかも」

 

 だが、それが一体どうしたのだろうか。そうやって()()()()()()()をしていると、触れているアレンの体が強張った気がした。

 

─やめて、意識させないで。それ以上、何も言わないで─

 

 キリハの問いの意味を無意識にでも理解してしまったからこそ、そう願うが、キリハは「落ち着いて聞いてください」と口を開く。

 

「奴らはあなたに弾丸を放ちました。それはつまり…準備が完了しているということです」

 

 その言葉を聞いて呼吸が止まる。息が漏れ始めると、それは過呼吸のようになる。焦点が合わなくなっていく。脳裏に映し出されたのは、自分の住んでいる六畳の部屋だ。

 こまめに掃除機をかけている床。ラグマット。小さな木製テーブル。黒いランディングデスクとパイプベッド。その上に横たわる自分(詩乃)。そして、その横で詩乃の顔を覗き込む、黒い人影。

 

「嫌…いやよ…」

 

 頭を抱えて、そう呻いた。

 恐怖、なんて生易しいものではない。強烈な拒否反応が体中を駆け巡り、全身が震える。周囲を認識することも、動くこともできない現実の自分を、見知らぬ誰かがすぐ近くで見ている。

 

「あ…ああ…」

 

 光が遠ざかる。耳鳴りが響く。そのまま仮初の肉体から離脱─しようとしたところで、頭を抱えられた。

 

「…落ち着いて、シノン」

 

 頭が、アレンの胸に抱えられる。ゆっくりと落ち着かせられるように、背中を撫でてくれる。

 

「…大丈夫…奴らに撃たせたりしない」

 

 頭部からはトクン、トクンとアレンの心音を感じ取れる。それが仮初のものだとはわかっているが、シノンを落ち着かせるには十分なものだった。

 その様子を外から見ていても確認できたのか、キリハが関心したように口を開く。

 

「人を落ち着かせるの上手ですね」

 

 まるで心理カウンセラーですね、とキリハが笑うと、アレンはほんの少しだけ眉をひそめた。

 

「…目指してるのは医者なんだけど」

 

「おや、そうでしたか」

 

 ふふっと変わらずキリハは笑った。少し和やかな雰囲気が流れ始めたところで、シノンは口を開く。

 

「─どうするの?」

 

 思ったよりもしっかりとした声を出せて、内心驚く。だが隣にアレンがいることを考えると何も不思議に感じない。

 シノンの問いに、キリハは笑顔から真剣な表情に切り替えて答える。

 

死銃(デス・ガン)とその仲間を倒す、ただそれだけです。そうすればシノンさんの部屋から、協力者はいなくなるでしょう。それが、奴らの定めたルールですから」

 

「…大丈夫なの?」

 

 不安そうにシノンはそう言うと、キリハは少しだけ表情を緩めた。

 

「えぇ、僕はエントリーするときに住所を書いていませんし、そもそも僕もコウも自宅からログインしているわけではありませんから。すぐ近くに人もいます」

 

 だからこっちの心配はいらないのだと、キリハは言う。コウに視線を向ければ、彼もその通りだと頷いている。ならば彼女達の、現実世界での心配はいらない。自分のことだけを考えていられる。

 

「でも、あいつはかなりの手練れよ。たった百メートルからの狙撃を避けたの、見たでしょう?」

 

「…ほんとに?」

 

 シノンの言葉に、キリハではなくアレンが反応した。顔を上に向ければ、彼の瞳に多少の期待の色が見える。それに少しだけうんざりしながら、シノンは肯定する。

 

「えぇ本当よ。私の狙撃を避けたのよ。先にこっちを確認していたようだけど、背後から狙撃したのに避けたんだから、それでも凄まじい回避力よ」

 

 そう言うと、心なしか期待の色が強まったように見える。その瞳のまま、何かを確認するようにキリハの方に顔を向けた。

 

「どうしました?」

 

「…強いの?」

 

「…コウ?」

 

 意図が読めなかったようだ。困惑気味にコウの名前を呼ぶと、彼は苦笑しながら話し始める。

 

「アレン君は強敵と戦うことが好きみたいでね。だから死銃(デス・ガン)に期待してるんだよ。要するに、君の同類だね」

 

「納得しました」

 

「同類なの…」

 

 今度はシノンが困惑した。昨日今日で彼女を見ている限りだと、戦闘症の気配をまったく感じなかったからだ。そういえば、昨日は調子が良くなかったんだったか。そのせいだろうか。

 死銃(デス・ガン)─《赤目のザザ》についてキリハが説明しているのを遠目になりながら聞いていると、コウが口を開く。

 

「それで、作戦はどうする?」

 

「…本当は僕が次のサテライトスキャンでわざと映ろうとしたのですが…」

 

 ちらりとキリハは先ほどまで説明をしていたアレンに視線を送る。するとアレンは力強く頷き、キリハはそれを見て肩をすくめた。

 

「ザザと戦いたいそうなので、その役はアレンさんに譲ります」

 

 正気かと思いつつ、こうなったアレンは止められないことをよぉく知っているので溜息を吐くだけにとどめる。そしてふと顔を天井に見上げて「…あ」と零れた。全員に聞こえたようで、三人がこちらを見てくる。アレンがシノンの視線を追って、納得したように頷いた。それに倣って残りの二人も視線を天井に送ると、そこには奇妙な同心円が浮いていた。

 ライブ中継カメラだ。普段は戦闘中のPLしか追わないが、現在は人数が減っているのでこんなところまで来たのだろう。そう説明しつつ、音声が拾われることはないことも付け加えておく。すると「それは良いんですが…」と、どこかキリハは言いにくそうに続きを口にする。

 

「この構図、傍から見たらシノンさんの逆ハーレムに見えませんか?」

 

「…」

 

 そう言われればそうだ。実際は男女二人ずつだが、キリハの見た目は完全に男だ。

 

「あぁ…まぁいいわ。少なくともアレンとコウがいれば、絡んでくる奴少なさそうだし」

 

 なんて言っていると、カメラがふっと消えた。恐らく別のPLのところへ行ったのだろう。

 

「さて、そろそろ時間だね。次のスキャンまで二分。僕らは…そういえばどうするか話してないね」

 

「シノンさんの護衛でいいでしょう」

 

「そうしようか」

 

 なんか護衛されることになったが、特に異論はないので黙っておく。アレンが立ち上がり、洞窟の外に歩き出した。そしてただ一言。

 

「…行ってくる」

 

 それに対してシノンは、静かに「気を付けてね」と言った。その言葉にアレンは頷き、今度こそ洞窟の外に出ていった。



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事情を知った者達

あっっっっっっぶない!


「とりあえず一発ぶん殴らせろ」

 

「えっ?ブハァ!!?」

 

 部屋の扉が開いた瞬間、キリトがそう宣言しながら問答無用で顔面に拳を叩き込み、突然のことで対応出来ずに扉を開けた人物─クリスハイトは吹き飛ばされた。それに驚く者は、この場にはいない。キリトがクリスハイトに一撃いれるだろうことは分かっていたし、何なら(レコンを除く)それぞれが一発入れたいと思っている。証拠として、それぞれが手に武器を持っており、リズに至っては先程まで素振りしていた。流石にこれ以上やると時間の無駄になってしまうので、アスカが止めた。

 余談ではあるが、彼がALOを初めて四か月近くが経過している。やっているのは本人曰く「君たちと交友を深めたいからだよ」と言っていたが、本当のことではないだろうとキリトは確信している。情報収取の一環だろう。

 

「姉さんに、何を依頼した?」

 

 「いたた…」と顔をさするクリスハイトを椅子にさっさと座らせると、キリトは単刀直入に切り出した。彼はさすっていた手を止め、キリトの顔を見る。誤魔化したら承知しない、とその表情が語っているのを察したクリスハイトは、頭を軽く掻きながら語り出す。

 

「そうだね…まずは質問なんだけど、《死銃》─《デス・ガン》という言葉に聞き覚えは?」

 

 その問いにほとんどの者が首を横に振る中、マグカップの影から小さな影が飛び出した。その主は、クリスハイトが来ると知ってピクシー姿になったユイだ。

 

「《GGO》内で十一月九日の深夜に現れたプレーヤーのことですね。物騒な発言をした後、モニタに発砲したプレーヤー」

 

「…驚いたな。うん、その通りだよ」

 

 ユイの言葉に、クリスハイトは小さく呟いた後に肯定した。そうして、いきさつを語り始める。

 最初に死銃(デス・ガン)が現れたとき、《安全圏内》である街中で弾丸を、しかもテレビモニタに向かって放った。その数秒後、モニタ越しに撃たれたPL─《MMOストリーム》に出演していたゼクシードは突如ログアウト。その五日後に死亡していたところを発見された。死亡してから時間が経っていたこともあり詳細なことまでは分からなかったが、推定死亡時刻が撃たれた時刻と重なっていた。更にもう一軒、同じような事件が起こったこと。

 そこまで聞くと、クラインが口を開く。

 

「クリスの旦那よぉ…つまりあんたは、その危険な状況にキリハを送り込んだってわけだよなぁ?」

 

 その声には、誰にでもわかるくらいには怒気が含まれていた。

 当然のことだろう。その二人と、先ほど消えたペイルライダーを、死銃(デス・ガン)と名乗るPLは実際に殺したわけだ。それを知っていて、この男は─

 

「待ってくれ。それに関しては違うと言わせてもらう。確かに殺害方法は不明だけど、少なくともゲーム内から直接殺したわけではない。それがキリハちゃんと僕で散々話し合った結論だ」

 

 クリスハイト(菊岡)は、自分がうさん臭く見られることを自覚している。これは職業柄でもあるし、性格の問題でもあるだろう。

 職場からは彼女の家─桐ケ谷家は敵に回すなと言われている。その理由は分かっている。桐ケ谷家を敵に回したからといって自分達の職業が潰れるということはない。ないが、何しろ桐ケ谷家は顔が広すぎる。邪魔をされることはないだろうが、彼らの協力を得られないのは正直に言って辛い。だからこそ、というのもあるが、クリスハイト自身が誤魔化すことはしたくないと思った。

 

「ゼクシード氏も薄塩たらこ氏も、使っていたギアはアミュスフィアだ。あらゆるセーフティが設けられたアミュスフィアでは、脳を損傷させることなど絶対に不可能なんだよ。だから僕達は、ゲーム内からの銃撃で心臓を止めることは不可能だと、そう結論づけた」

 

 故にクリスハイトは偽ることなく話す。すると何かしら反論をしようとしていた者達は唸り声をあげて、椅子に座りこんだ。それを見てクリスハイトは続ける。

 

「僕が彼女に依頼したのは、死銃(デス・ガン)に何かあると思ったから、というのは否定しない。調べるには接触するしかないと考えたんだ。僕を含めて、職場にはゲーム上手な人がいなくてね。気軽に頼めて、かつ実力のある彼女が適任者だと思った。仕事の内容上、詳しいことまでは言えないけどね」

 

 そうしてクリスハイトは「質問があるなら受け付けるよ」と言って締めくくった。しばらくの間、誰も口を開かなったが、キリトが口を開く。

 

「…一つだけ聞く。あんたは死銃(デス・ガン)がラフコフの元メンバーだってことは知ってるか?」

 

 キリトの言葉にクリスハイトは驚愕して目を見開き、「それは本当かい?」と聞き返した。それにアスカが頷き、そのまま口を開く。

 

「クリスさん、あなたなら奴の住所を特定してログアウトさせることが出来るんじゃないですか?元ラフコフメンバーをピックアップして、今GGOにログインしているかどうかを確認出来れば「それは不可能だ」

 

 アスカの言葉を遮り、クリスハイトは続ける。

 

「元ラフコフという情報だけじゃ本人の特定ができない。僕達、仮想科が持っているSAO生還者(サバイバー)達の情報は、プレーヤーネームと最終レベルだけなんだ。どこのギルドに属していたか、どうやって経験値を得ていたか、どこにいたか、そういうのは分からない。更に言えば、例えプレーヤーネームが分かったとしても、それをするには裁判所の令状が必要になるし、捜査当局に今回の説明と説得で何時間もかかる」

 

「…出来はするんだな?」

 

「言った通り、時間はかなりかかるけどね」

 

 確認するように聞いたキリトの問いに、クリスハイトはそう言って頷いた。それを確認したキリトは「ならすぐにやってくれ」と頼んだ。

 

「奴の名前は《ザザ》。《赤眼のザザ》って異名を持ってた。ついでに《ジョニー・ブラック》と《モルテ》,ラフコフのリーダーだった《PoH》もだ」

 

 何故他の幹部とリーダーも?全員が抱えるその疑問に答えるように、キリトは続きを口にする。

 

「念のためだ。奴が《死銃(デス・ガン)》と名乗って殺人をしていることは確実だ。だがさっきあんたが言った通り、アミュスフィアじゃ脳を破壊できない。殺害方法が超能力や呪いの類でないのなら─」

 

─共犯者がいるはずだ。

 そうキリトが締めくくると、その場の全員が目を見開いた。何故かその考えに、誰もいきつかなかったのだ。恐らく、色々な出来事が一気に起こったことで、混乱が生じていたのだろう。

 ふぅ、と一度息を吐いてキリトはクリスハイトを見る。彼はしばらく沈黙した後、口を開いた。

 

「…さっきも言ったけど、時間かかるよ?」

 

「それでも、だ」

 

「分かった」

 

 クリスハイトは立ち上がると、出来るだけ連絡には出るようにすること、なにか分かったら連絡することを告げてログアウトしていった。続いてキリトも「親父に話してくる」と言ってログアウトしていく。

 

「明日にぃ、和ねぇは知ってたと思う?」

 

死銃(デス・ガン)について?」

 

 アスカがそう聞き返すと、リーファは首を縦に頷かせる。アスカは腕を組んで、自分の考えを口に出し始めた。

 

「うーん…多分知ってた…んじゃないか?キリトがここで見てただけであそこまで気づいたんだ。接触したんだったら気づいてないとおかしい、と俺は思う」

 

 そう言いながらアスカは、絶対接触してるよなぁと思いながら、昨日コウに言われたことを思い出していた。

 たまにはうちに泊まりに来なさいと母に言われたこと。いつものキリハ(和葉)じゃ無かったこと。これからお仕置きする(話を聞く)こと。

 なんか最後だけ含みがあったが詳しくは聞かなかった。聞いてはならないと感じたからだ。

 

「じゃ、じゃあなんでコウさん以外誰にも言わなかったんですか…?」

 

 レコンが不安げにそう問うと、キリハのことをよく知ってる面々が呆れたように次々と口を開く。

 

「あいつはそういう奴なんだよ…言ってくれりゃあどこまでも着いていくんだが…」

 

「仕方ないですよ。キリハさんは、それこそキリトさんも、私達を巻き込まないようにする人ですから」

 

「信頼されてないわけじゃないのが厄介よねぇ…」

 

「浩にぃに協力を頼んだのは、GGOをプレイしてるっていうのと、彼氏だからでしょ」

 

「まぁそれ以外考えられないですけど…リーファさん機嫌が悪いですか?」

 

 ユイが首を傾げながらそう聞くと、別にと言いつつその表情は明らかに『私不機嫌です』と表している。アスカはユイを撫でながら苦笑し、スクリーンに目を向けた。

 

(まぁ何はともあれ、二人が無事なら俺的には問題ないけど)

 

 正直、他に犠牲者が出ようと知ったことではない。家族に、特にキリト(佳奈)に被害が行かなければどうでもいい。

 そう思いながら、銃撃戦を眺めていた。




誤字脱字、おかしな表現があったら報告お願いします。


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奇襲

 んーむ、一か月に二話投稿できそうにない…参ったなぁ…。


 アレンは洞窟から出ると、少し離れたところで立ち止まり、そうして空を見上げる。夜空が広がる現在、人口光が存在しないので星がよく見えるはずなのだが、ほとんど星が()()()()

 この世界(GGO)では大昔に宇宙規模の大戦争が起きて文明が大きく衰退、人類は過去の技術遺産に頼って生活している。恐らくは、その影響で数多の星が破壊されてしまったのだろう。とはいえ、どれだけ大規模だったのだろうかと思わなくもない。

 その暗闇の中で走る一筋の光。流れ星─ではない。人工衛星だ。前文明に打ち上げられ、運用する者がいなくなっても、愚直に情報を地上に送り続けている。

 現在の時刻は午後九時四十五分、七回目の《スキャン》が行われる時間だ。アレンは夜空を眺めるのをやめ、端末を手に取る。それと同時に、マップ中央に一つの光点が浮かび上がった。マップは常に自身が中央で表示されるので、これはアレンだ。

 因みに洞窟から離れている理由だが、自分の近くにシノン達が隠れていることを悟らせないためだ。もし今のうちに、洞窟にグレネードを放り込まれても、コウが反応してくれるだろう。正直、キリハの方はまだよく分かっていない。

 表示されている範囲は、半径五キロほど。ざっと見たところ、グレーになった光点がいくつか存在している。休憩中に何故襲われなかったのかと考えていたが、その理由が分かった。銃声が聞こえなかったことから、《死銃(デス・ガン)》がやったのだろうことは想像に難くない。

 奴は《光学迷彩》をしていてマップに映らないので、現状映ってるのはアレンのみ─いや待て、よく見れば近くに存在している。場所は、ここから百数m程離れている、シノン達が隠れている岩場だ。

 

(…コウさん達かな)

 

 そう思いつつ、光点をタッチしてみる。表示された名前は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《nymphaea》と《basilisk》だった。

 その名前を確認した瞬間、視界の端で何かが光った。同時にそれが飛来してくるのを確認。

 それは、弾丸だった─

 

 

--------------

 

 

 刻は数分前に遡る。

 アレンが洞窟から出ていくと、残りの三人はこれからどうするべきかを決めるために話し始める。

 

「で、これからどうするの?このまま洞窟に立てこもってるわけにはいかないでしょ」

 

 シノンの言葉に二人して肯定した後、キリハが「あっ」と言葉を零す。それにシノンとコウが反応して振り向くと、キリハは少し躊躇いがちに口を開いた。

 

「…考えていたことをアレンさんに説明するの忘れていました。スキャン終わったら、一回戻ってきますよね?」

 

「そこは安心して。流石のアレンでも戻ってくるわ」

 

 シノンのその言葉に、キリハは安心したように息を吐く。

 

「で?キリハが考えていたことって?」

 

「かなりシンプルですよ?ただスキャンに僕だけが映り、《死銃(デス・ガン)》とその仲間を釣ろうとしようとしただけです」

 

「…」

 

 反応がないことにキリハが不思議そうにコウに視線を向けると、彼はキリハの肩を両手で力強く掴んだ。気のせいか、ミシミシ聞こえる気がするし、コウの顔は笑顔だし、キリハの顔は引きつっている。

 この雰囲気は説教だな、と当たりを付けて顔を逸らす。と同時に洞窟の入り口から丸くて細長い筒が─

 

「─逃げて!!」

 

 シノンの言葉に二人は即座に反応、全員で入り口に走り出す。洞窟から出たと同時に洞窟内が紫の煙で充満した。

 それを目にしながらシノンはヘカートを背負い、グロック18を手に取る。視界の端でコウとキリハが光剣を起動させるのが見えた。

 

「ハッ、うまく逃げたか。マァこれでfinishしちまったら面白くねぇからなぁ」

 

 そう言ったのは、入口の側に立つ男。フードを深く被っており、顔は見えない。ただ、唯一見える口には笑みを浮かべていた。

 そしてもう一人、紫の短髪で顔に大きな傷がある男。そいつは洞窟の上に腰掛けている。

 

「ちぇ、シラケるなぁおい。少しは食らっとけよ」

 

 まるで子供のように、そう不満を口に出した。恐らくは、毒ガスを放ったのはこっちだろう。

 

毒ガス(あんなもん)を喰らうような奴じゃねぇのはテメェだって分かってただろうが」

 

「えー、だってアイツはともかく、他の奴は喰らうと思ったんスもん」

 

 まるでこちらに関心がないように会話をしているが、シノンは目を離せなかった。目を離した瞬間、自分は─死ぬ。

 何故そう思ったのか、冷や汗を感じて理解したことは一つ。コイツらは、今までシノンの出会ったPLの中でもかなり強い。

 銃口を向けて引き金を引けばいい、そう思うも、当たる予感がしない。そして、シノンがアクションを起こせば即座に襲ってくるだろう。だが、何かしら行動を起こさなければとも思う。

 そしてトリガーを引くことを決意した、その時、シノンよりも先に弾丸を二発放った者がいた。それは回避され、シノンは弾丸を放った者に視線を向ける。

 

「キリハ…?」

 

 それを行ったのはキリハだった。左手にリボルバーを持ち、件の二人に向けている。その体勢のままキリハは、口を開く。

 

死銃(ザザ)に仲間がいると聞いてから、万が一のことは考えていましたが…まさか、お前までいるとは思いませんでしたよ─」

 

─PoH、とフードを被ったPLに銃口を向けながら、その名前を言った。

 それを聞いた瞬間にシノンは、フードの男に視線を戻した。その名は確か…ラフィン・コフィンというレッドギルドの…。

 フードの男─《nymphaea(PoH)》はニィっと口角を上げて、キリハに向かって喋り出す。

 

「会えて嬉しいぜぇ?キリハ」

 

「僕は嬉しくありませんね」

 

 険しい表情のまま、キリハはそう吐き捨てた。そして一瞬ぐっと膝を曲げたかと思うと、PoHに向かって疾走して斬りかかる。それを阻止しようとバジリスク、否《ジョニー・ブラック》がARを向けたが、コウが先に弾丸を放ち、回避を余儀なくされる。

 

「アッハハハハ!!いきなりかよキリハァ!!」

 

 愉しそうに笑いながらPoHは半身ずらして回避、光剣を振るう。振るわれた光剣を、同じ光剣でキリハは打ち払い、距離を取らずに左手のリボルバーを放った。それを半歩下がるだけで避け、彼もまたその距離を取ることなく応戦する。

 

(なんてレベルの戦いなの…)

 

 シノンは二人の戦闘を見て戦慄した。これまでGGOでの近接戦闘と言えば、近くてもせいぜい5Mほどでの撃ち合い。その常識を覆すほどのゼロ距離戦闘…正直に言わせてもらえばGGO(この世界の)PLとはレベルが違いすぎる。

 とはいえ、ただ唖然としているわけにはいかない。あの戦闘に参加できないのならば…

 

(もう一人を…殺るっ!)

 

 そう思考したと同時にシノンはグロックでコウと戦っているジョニーを狙った。

 

「うおっ!?」

 

 仰け反って躱されたが、その間にコウの横に並ぶ。

 

「援護します」

 

「それはありがたいけど…」

 

 コウは横目でちらっとシノンを見ると、すぐさま目線をジョニーに戻す。

 

「彼らの狙いは君だからね。僕としては隠れてくれる方が安心するね」

 

 その言葉にムッとして言い返そうとしたが、ふとある考えが浮かんだ。故に首を縦に振り、コウの考えに同意する。すると彼は驚いたのか、目を見開いた。ニヤっと笑みを浮かべて、その場を走り去る。

 

「逃がさ─」

 

「君の相手は僕だよ」

 

「ああああ邪魔すんじゃねぇぇぇえ!!」

 

 驚愕していたわりには、すぐに動けるあたり流石だ。さて、邪魔されない場所に行かなければ。

 

(怒られる覚悟しとかないと─ね)

 

 なにせ、彼の楽しみを奪うことになるのだから。



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決戦

 執筆速度遅すぎてちょっと自分が嫌になる。辞めることはしないけど

 それはそれとして、今回の話ですが、好みがハッキリと分かれそう。ただでさえ普通に投稿してて、お気に入り解除されるのに。今回でどれだけ減るのやら。


─真正面から予測線が見えたので、即座に右へ。その数舜後、顔のすぐ左を弾丸が通り過ぎていく。スナイパーライフルの弾丸を弾くことは、流石にしない。

 使用しているナイフは、GGO内で取得できる素材の中で最高級の金属で作られている。弾丸にあたっても壊れることは無いだろうが、自分のSTR値で弾けるかどうかが問題だ。故に回避する。

 ザザ()は既に目視出来る範囲にいる。放たれた弾丸を回避し、更に距離を詰めていく。そして残り百Mを切った時、おもむろに奴は《サイレント・アサシン》の銃身から何かを引き抜いた。

 細い金属棒だ。ぱっと見はクリーニング・ロッド、銃のメンテナンスツールに見える。だが、ここまで来て攻撃力の持たない物を、奴が出すだろうか。

 

(…そんなわけがない)

 

 警戒はしつつ足は止めない。そうして後り数歩で接触できる距離まで近づいたとき、奴はその手に持ったモノをこちらに突き出してきた。

 ガツン!と重い金属音が鳴り響いた。突き出された瞬間にアレンは交差させたナイフの腹で受け止めたのだ。だがそれも一瞬だけ、踏ん張っていなかったので後ろに弾き飛ばされる。

 が、すぐに着地した足で砂を踏みしめて、ザザに突貫する。両手に持ったナイフで不規則に斬りつけるが、かすりはするものの、致命傷には至らない。流石は《SAO生還者(サバイバー)》といったところか。

 何度目かの攻め合いの末、鍔迫り合いの状態となった。今度は踏みしめているので、飛ばされることは無い。

 

「…何でシノンを狙う?」

 

 その状態でアレンは気になっていたことを聞く。これだけは実行犯に聞かなければわからないことだからだ。

 それを聞いたザザは、笑みを零す。

 

「それを、聞いて、どうする?」

「お前には、何も、できない」

生還者(サバイバー)ですら、無いお前に、俺を止めることなど、できない」

「お前はここで、あの女が殺されるのを、無様に、見ていろ!」

 

 腹を蹴られ、距離を開けられる。着地して顔を上げれば、すぐそこにザザがその手に持ったモノ─刺剣(エストック)を引き絞っていた。突き出されたエストックを右のナイフで弾き、その勢いで先ほどの仕返しと言わんばかりに左足で後ろ回し蹴りを放つ。が、それは容易く回避されてしまう。

 

(…少し侮っていたか)

 

 こいつが生還者だということも、殺人者だということも、全てキリハから聞いていた。そのうえでなお、アレンは《ザザ》というPLを侮っていたことを自覚した。

 これまでアレンにとっての強者とは、コウしかいなかった。故にと言うべきか、無自覚の内にこの世界で自分と渡りあえる者はいないと思っていたようだ。この癖は直さなければならないなと思っていると、目の前でザザが口を開く。

 

「余計なことを、考えている、場合か」

 

 ノーモーションで突き出されたエストックを半歩体をずらして回避、左足で砂を巻き上げるように蹴り上げた。目つぶしも兼ねたそれは体を仰け反らせて回避され、再び両者の間に距離が開いた。

 

(…ギアを上げるか)

 

 視線を奴に向ければ、ゆらゆらと得物を揺らしている。小さく息を吐いて、軽く両手のナイフを握り直すと─砂を蹴り、真正面から突っ込んだ。

 

--------------

 

 振られた毒ナイフをジョニーの手ごと掴んで防ぎ、そのまま腹に蹴りを入れる。「ぐっ」と声を上げながら体をくの字に曲げて、数Mだけ距離が開いた。

 

「あああうっぜぇなぁ!?さっさと殺されとけよ!」

 

 ジョニーはそう癇癪を起こしながら、毒ナイフを振るってきた。解毒剤を持ち込むことができないBOBでヴェノムを喰らうわけにはいかないので少し身をよじって躱し、グロックを撃つ。それは易々と回避され、彼もまたアサルトを乱射してきたので、それらを光剣で出来うる限り弾く。

 ナイフの扱いは流石、というべきだろう。しかし銃の扱い方がなっていないと、コウは評価を下す。それらを総合的に考えた結果─

 

「思っていたよりも弱いね…」

 

 ポロっと、本音が零れてしまったようにそう発すると、喚いていたジョニーがピタリと動きを止める。

 

「…あ?今なんつった?」

 

 次いで、目を吊り上げ、怒気と殺意が混じった声でそう聞いてきた。それに対しコウは…。

 

「ん?思っていたよりも弱い、と言ったんだけど…。聞こえてしまっていたかい?」

 

 首を傾げ、笑みを浮かべてそう言い放った。ついでに、仕方ない子だなぁ、というような哀れみを視線に込めて。

 天然でなく、勿論わざとだ。挑発の意味を込めている。

 基本、普段から冷静さを身に着けていない者は、挑発を受けると更に調子が狂う傾向にある。故に明らかとわかるほどの挑発をしたのだが。

 

(…静かだな)

 

 先程と同じ、もしくはあれ以上に喚き散らして突貫してくると思っていたのだが…。想定していたことと違い、彼は先程までが嘘のように黙ってしまった。

 

(これは…余計なことをしたかな)

 

 その思考を裏付けるように、ジョニーはいつの間に出したのか、毒ガスグレネードを投げて来た。風下に行かないよう大きく回避する─と、目の前にジョニーの顔があった。

 

「っ」

 

「殺す」

 

 静かに、それでいて確かな殺意を込めて、斬りつけてくる。どうやら《ジョニー・ブラック》というPLは、怒りが最高点に達すると、普段とは逆に静かになるタイプのようだ。攻撃の熾烈さが増している。確実に余計なことをしてしまった。とはいえ─

 

(─()()()()で負ける僕じゃないけどね)

 

--------------

 

「ハハハ!!」

 

「っ!!」

 

 一人の男の笑い声、バチバチっという電撃音、二種類の銃声、砂の舞い散る音、それらが重なり合い、夜の砂漠に響き渡る。絶えず場所が入れ替わり、その度に砂が舞う。

 

「おいおい鈍ったか!?キリハよぉ!!」

 

「黙りなさい…!」

 

 現在、優生なのはPoHだ。キリハはいまいち攻め切れておらず、それこそPoHに鈍ったと思われても仕方ないほどの動きだった。そんなことは、キリハ自身もわかっている。だが、その根本的な原因が分からない。

 

(どうなっているんですか…!?)

 

 思考が鈍る、鼓動が早い、息が荒い、体を思うように動かせない、落ち着かない─否、()()()()()()()()()

 予選でもこうだった。弾丸を放ち、放たれ、それを斬るために光剣を振るう。

 その度に気持ちが高ぶっていき、体に熱がこもっていく。思考が鈍り始め、ナニカを思い出すように頭痛がする。

 今まで戦闘中に、このようなことになったことが無い。闘いならばただ楽しみ、殺し合いならば殺意を込める、そのどちらかだった。これではまるで、()()()のようでは─待て。あいつとは、いったい誰のことを言っている?

 自分でも誰のことを指しているかわからないまま、思考は回る。

 浩一郎、佳奈、明日加、直葉、父、母…。違う、誰もこのような状態にはならない─

 

【─おいおい、そこまで考えられて思い出せねぇのかよ?】

 

 そう声が聞こえると、突如として視界全てが黒く染まった。周囲を見渡しても何も見えない。手には何も持ってなく、先ほどまで戦っていたPoHの気配までもが無い。

 そして気づく。今の自分の手はGGOアバターのものではなく、現実のものだと。いやそれだけではない。現実と同じように、左目が見えていない。

 

(ここは…いったい…)

 

【おっと、それ以上はまだ考えなくていいぜ】

 

(!?)

 

 背後から聞こえた声に振り向いたが、何も見えない。否、声の主のものであろう手で視界を塞がれた。振りほどこうとするも、何故か体が動かない。

 

【奴の繰り返しじゃねぇが、戦闘が雑だぜ?あんなんじゃ勝てねぇだろうよ】

 

 この声は、キリハ(和葉)のものだ。だが、こいつは自分ではない。目の前のこいつは誰だ。そう思うと同時に、懐かしくも感じるのは何故だ。

 そう困惑している和葉をよそに、こいつは言葉を続ける。

 

【まぁいい、()()()()()俺がお前に変わって奴の相手してやるよ。しばらく眠ってな】

 

「待っ」

 

 聞きたいことが山ほどあるのに、思考がどんどんと落ちていく。

 

【おーおー、そうだよな。聞きたいことあるよな?】

 

 だがまぁ、と声の主は続ける。

 

【全部終わってお前が()()()()()教えてやるよ─】

 

─おやすみ。

 その言葉を最後に、今度こそ和葉の思考は闇に落ちた。

 

 

 

 

「くははっ!」

 

「!?」

 

 一瞬キリハが顔を俯かせたと思ったら、楽し気な声を上げて光剣を斬り上げてきた。それにPoHは驚愕しつつ、仰け反って回避する。そして左手に持ったハンドガンを撃とうとして、振り下げられる光剣に気づいた。無理やり体を捻るようにしてその場を離れる。

 

「流石に反応早ぇなぁ」

 

 左手に光剣を持ち、獰猛な笑みを浮かべながらそう言った。「ならこれはどうだ」とそのまま一歩踏み込むと、PoHの視界から砂煙を残して消える。PoHはそれを知っているかのように、右回りで背後に光剣を振るった。

 SAO時代でも、キリハはこの移動法をよく使用していた。故に、その移動法をPoHが知らないわけがなかった。

 

「うおっ!」

 

 バチィっと光剣同士のぶつかりで激しく火花が舞った。動きが止まったその隙を逃さず、PoHは弾丸を放つ。それを回避することは出来ず、腹に二発喰らった。

 

「づっ…─くはっ!」

 

 一瞬だけ顔を歪めたが、すぐさま笑みを浮かべラッシュを仕掛ける。それらを全て捌きながら、PoHもまた嗤った。

 

「アハハハ!!やっとノッテきたなぁ!!?」

 

「くはは!こんなこと、楽しまなきゃあ損だろうよ!」

 

 銃声、電撃音、足音、それらに笑い声が一つ加わった。




 あと二話でGGO篇終わらせます。


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幻影を撃ち抜くは

 なんだか早めに書き終わりました。


 三つの戦場、それぞれが拮抗し始めて来た。

 

(アレンがギアを上げてるのに…)

 

 それだけ、死銃(デス・ガン)は強敵ということだろう。スコープ越しに見ながら、そう思う。

 今シノンがいるのは、先程まで(ひそ)んでいた洞窟から少し北方向。そこの見晴らしの良い砂丘の上で伏せている。

 生存PLが後どれだけいるのが分からないので念のため砂を全身に被ってはいるが、正直無防備と言えなくはないだろう。だがまぁ、前回の大会が2時間で決着したことを考えれば、もう一人いるかどうかだと思う。スキャンまで10分ほどある。それまでに決めれば良いだけだ。

 ざっと見渡してみても、他のPLが見えることはない…。いや、南西方向で砂が舞っている。誰かがこちらに走ってきているのだ。レティクルを操作しズーム。

 小柄な体格、最低限のプロテクター、ダークブルーのコンバットスーツ。ヘルメットは被らず、厳つく尖った顔を晒している。武器はM900A(短機関銃)とプラズマグレネードのみだ。間違いない、《闇風》だ。

 AGIに極振りをしたステータスに、極めたダッシュスキルによる支援が、まさしく闇色の風と言うべき速度を実現している。両足だけを霞ませる勢いで動かすその姿は、兵士というよりも忍者と呼ぶべきかもしれない。前傾した上半身はほとんどブレておらず、その上、一切スピードが落ちない。

 

(まぁ当然ね)

 

 シノンのような狙撃手からしたら、一瞬の減速や停止が狙撃チャンスとなる。故に、闇風のように高速で移動している方が安全なのだ。とはいえ普通は、どんなスピード自慢でも物陰に入れば様子を見るために停止するものだが。

 このままシノンが狙撃しなければ、コウの場所まで止まらないだろう。そして如何に彼と言えど、二人を相手取るのは至難である。

 かといって、ここで焦るのはいけない。シノンは闇風に対しての最適解を考える。

 

─彼の軌道はランダム、動きを先読みして撃ち抜くのはほぼ不可能。一発目をわざと外し、慌てたところを撃ち抜くか。いや、彼のようなベテランにそんな使い古された戦略は通用しない。何より、予測線を相手に与えるのは悪手─

 

(…ごめんなさい、コウさん)

 

 刹那の思考でシノンが下した決断は、コウを囮にすることだった。

 ダッシュ中に狙撃は不可能。ならば確実にダッシュを止める戦闘中に撃ち抜けばいい。

 闇風がスピードを緩めずに行けば、コウ達と接敵するまで約10秒。

 

─9─

 

 深呼吸をし、精神を整える。

 

─8─

 

 トリガーに指をかける。

 

─7─

 

 レティクルを操作、照準を合わせる。

 

─6─

 

 心は冷静に。今一度、シノンは《氷の狙撃手》となり、闇風を撃ち抜く。

 

(準備完了)

 

─5─

─4─

─3─

─2─

─1─

 

─0─

 

 闇風が近づきながら乱射。それを焦ることなく二人は回避。間を通るように闇風は跳ぶ─

 

(─今!)

 

 そう認識するよりも早く、シノンの指はトリガーを引いていた。その時の《弾道予測円》の大きさは最小、ポイントされたのは胸の中央。そして、宙にいる闇風に、音速を超える弾丸を回避する術はない。

 ヘカートのマズルフラッシュに気づいた彼らのうち、スコープ越しに目が合ったのは闇風だ。ヘカートから放たれた弾丸が彼を貫くまでの一瞬のことであったが、確かに彼の瞳からは驚愕と悔しさ、賞賛が見えた。

 弾丸が闇風のアバターを貫いた瞬間に、シノンはボルトハンドルを引きながら銃身を別の方向に変えていた。狙いは、死銃(デス・ガン)

 恐怖が沸き上がることは無い。奴は亡霊ではない、シノン(詩乃)が殺してしまった、あの男ではないのだ。SAOで数多の人間を殺害し、現実世界に戻って恐ろしい殺人計画を立てる精神を持っていても、奴は生きている。現実に存在し、呼吸をし、心臓を脈打たせている、ただの人間だ。ならば、どこに恐れることがあるだろうか。

 更に言えば、視線の先には死銃(デス・ガン)だけでなく、アレンもいる。

 今大会で図らずもシノンの中で、アレンの存在がどれだけ占めているのかを自覚することができた。彼がいる、それだけでシノンは頑張れる。立ち向かえる。

 

(だから、ごめんなさいね。アレン─)

 

─あなたの楽しみを奪うことになって─

 

 故にこそ、シノンは最後の儀式として、奴に銃口を向ける。精神は安定した、心構えもできた、ならば後は行動に移すだけ。あの亡霊擬きを…あの男の幻影を、撃ち抜く…!

 トリガーに指をかけ、《予測円》が出た瞬間、奴はピクリと反応した。

 先程の第一射を補足していたのだろう。予測線が見えたのだ。だが、そんなことは予測済み。故にシノンは、回避されることなど一切考慮することなく、弾丸を放つ。

 アレンと戦闘を行っているとはいえ、予測線が見えている狙撃が当たることは無いだろう。だが、それでいい。

 狙撃手としていかがなものかと思うが、これは外すことを前提にした狙撃だ。奴の気を逸らすことさえ出来れば─アレンが決める。

 

--------------

 

─乱入してきた闇風が撃ち抜かれた時には、既にコウはジョニーの懐まで潜り込んでいた。

 

「!」

 

 それに気づいたジョニーは毒ナイフを振りかぶり、対してコウは、グロックでガード。腕が止まった瞬間を逃さず光剣を振り上げ、右腕を斬り飛ばす。

 

「くそがっ!」

 

 罵倒しながらジョニーは後退しようと砂を蹴った─が、背後に下がるよりもコウの方が速かった。

 足払いをかけてジョニーのアバターを浮かせ、光剣を思い切り振り下ろす。それはジョニーの左肩から右脇腹まで何の抵抗もなく斬り裂き、胴体を真っ二つにした。

 どさりと、二つに分かれたアバターが砂上に落ちる。この状態になってしまうと、HPが無くなったことは確定している。なので、何かジョニーが喚いているのを無視し、コウはその場を離れた。

 行先は、勿論キリハの所だ。

 

--------------

 

 何処からか銃声が聞こえた。これは何度も聞いた、へカートのものだ。それが聞こえた瞬間に少しだけ身構えたが、こちらに弾丸が飛んでこなかったことに安堵する。

 

─そうだ、そのままこちらの楽しみを邪魔しないでくれ─

 

 そう願いながらザザと交戦を続けていると、背後から予測線が伸び、奴の顔を貫く。シノンのヘカートだと思う間もなく、ザザは大きく後退─と同時に、先程まで奴の顔があった場所を、弾丸が通り過ぎる。

 

「っ!」

 

 ここで決めるチャンス、故にザザを追うように強く踏み込む。だが、そんなことは奴も承知なのだろう。《光歪曲迷彩》を使用して、姿を消していく。足跡は残るので見失うことは無いが、的確にクリティカルを入れることは出来なくなるだろう。

 

─それがどうした─

 

 アレンは迷うことなく更に踏み込むと、姿勢を極限まで低くし─足首があるであろう場所を何度も斬りつける。ダメージ痕によって足が浮き出たのを確認、加速、砂を巻き上げ、足から辿るようにザザの全身を斬りつけていく。

 

「なめ、るな!」

 

 ぼろマントが引き裂かれたことによって《光歪曲迷彩》が解除されるも、ザザはそう声を上げながらエストックを突き刺そうとしてくるが─もう、既に何もかもが遅かった。

 エストックを持っている右手首を切断、そのまま脇の下を潜り抜けながら胴体を斬りつけ、背後から頸動脈を裂いた。確実な致命傷、どうあがいてもHPがゼロになることは避けられない。その状態でもなお、ザザは何かをしようとするも、それよりも早くアレンは首にナイフを突き刺し、止めを刺す。

 

「…終わり」

 

 アバターの頭上に【DEAD】が浮かび上がったのを確認してから、アレンは静かにナイフを引き抜いた。そして、シノンがいるであろう方向に顔を向ける。

 

「…」

 

 アレンにしては珍しく、誰が見てもわかるような表情を浮かべていた。楽しみが奪われたことに対する、不満である。

 

--------------

 

「くはは!!」

 

「アハハ!!」

 

 お互いに笑い声を上げ、戦闘は激しくなっていく。両者とも、先程の二発の銃声が聞こえていたのか怪しいほどだ。

 光剣同士であるが故、鍔迫り合いが発生することは無い代わりに、光剣同士でぶつかるたびに弾かれあう。その弾かれたのを利用し、斬りつける。避けられる、弾丸が放たれる、無理矢理体を捻って回避する。

 決定的な一撃を決めることは無く、逆に決められることもないまま、時間だけが過ぎていく。だが、戦闘時間が伸びるほどに、綻びは生じるものだ。そして、先にリズムが崩れたのは■■■(キリハ)だった。

 かちっと、リボルバーを空撃ちしてしまったのだ。

 

「やべ!?」

 

 ほんの一瞬、時間にすれば1秒にも満たないそれは、PoHからすれば十分な隙であった。

 リボルバーを右手ごと斬り裂き、弾丸を放つ。更に蹴りを入れ、体勢を完全に崩す。そして光剣を胴体に向かって斬り上げてフィニッシュ─

 

「─なぁんてな」

 

 ■■■の口元が弧を描き、体勢を崩しながらも左足を無理矢理上げ、即座に振り下ろす。それは、少し踵部分が削られたものの、光剣自体をPoHの右手から叩き落とした。

 

「だらぁ!」

 

「ぐっ!?」

 

 振り下ろした勢いで体を前に倒し、PoHへショルダータックル。数Mほど砂上を転がるがすぐにPoHは立ち上がり─■■■の姿が見えないことに動揺。が、頭上から声が聞こえた。

 

「じゃあな、楽しかったぜ」

 

 上に顔を向ければ、目の前で獰猛に笑みを浮かべながら、光剣を振り下ろしていた。光剣は手元に無く、ハンドガンも、回避も間に合わない。それを察すると─

 

「─ハッ」

 

 PoHもまた笑みを浮かべ、縦に斬り裂かれた。

 

 

 

「で、どうやって決着付けようか?」

 

 ボロボロになった■■■を無茶な戦い方したということできっちり叱り、全員合流してからコウはそう言い放った。

 実際、悩むことではある。大会であるので順位を決めなければならない。が、シノンは狙撃手であり、キリハはボロボロ。満足に戦えるのはコウとアレンのみだ。故に「僕とアレン君だけでも決着付ける?」という言葉にアレンが乗り気になるのは必然であった。

 

「はいストップ。それはまた今度にして」

 

 ナイフを引き抜き、ヤル気に満ちていたアレンを、シノンはそう言いながら腕を捕まえた。非難気味の視線を無視して「これで終わらせましょう」とあるものを取り出す。

 

「!」

 

「はい逃げない」

 

 それを見た瞬間にアレンがこの場を離れようとしたが、腕を更に強く掴まれて阻止する。

 アレンが反射的に逃げようとするのは仕方がない。シノンが取り出したのは、プラズマグレネードだからだ。闇風の死体から拝借したものである。

 

「なるほどなぁ。それ使って全員同時に消し飛ばすのか」

 

 おもしれぇと続けた■■■に、シノンは肯定する。なお、未だにアレンは離れ(逃げ)ようとしていることを記しておく。

 

「あ、ちょっと待って。それ使う前に確認しときたいんだけど、シノンちゃんログアウトして大丈夫だと思う?」

 

 すっかり忘れていた。とはいえ

 

「大丈夫じゃないか?『ゲーム内で撃ったPLが死ぬ』っていうのが奴らのルールだ。奴らが倒れた今、部屋に居座る理由がねぇ」

 

 まぁログアウトしたらすぐ依頼主に報告しとく、と続けて■■■は言った。そこでシノンは、ある決断をして口を開く。

 

「一応、私の住所教えましょうか?」

 

「…それは、良いのかい?」

 

 もちろんと、首を縦に振る。依頼があったとはいえ守ってくれたし、なにより、シノン自身が二人を信用したいと思っている。

 

「悪用なんてしないだろうしね?」

 

 にっこりと、笑顔でシノンはそう言い放った。コウはそれに苦笑しつつ、それではフェアじゃないと返す。

 ということでお互いに住所を教え合い(かなり近かったことに驚いた)、全員でグレネードに手を乗せる。流石にここまで来れば、アレンも大人しくしていた。まぁシノンは戻った後に何かしら言われるだろうが。

 不満を見せる者、微笑する者、苦笑する者、不敵な笑みを浮かべる者。四人はそれぞれの表情のまま、グレネードの光に包まれていった─

 

─The 3rd Bullet Of Bullets─

─Finish─

─Champions《Sinon》《Allen》《Kiriha》《Kou》─

 

 

 

 

 意識が現実世界に戻った蓮巳は、ベッドから起き上がらないままアミュスフィアを外した。そうして立ち上がることもせずに天井を見つめる。不満が収まっておらず、簡単に言えば、拗ねていた。その要因は主に二つ。

 一つ、ザザとの戦闘を邪魔されたこと。まぁこれに関しては、詩乃の命が掛かっていた状況で楽しもうとした自分にも非はある。そのため、文句を言おうにも言えないのだが。

 二つ、最後の決着の付け方だ。確かに、あの時点で大会が始まってから二時間近くが経っていた。故にさっさと終わらせようとしたのもわかる。が、それはそれ、これはこれ。せめてコウと戦わせて欲しかった、というのが蓮巳の思いだった。故に不貞腐れていた。

 数十分程そうしていただろうか。隣の、詩乃の部屋が騒がしくなる。そこで蓮巳は、詩乃が《死銃(デス・ガン)》のターゲットであったことを思い出した。ベッドから跳ね上がり、駆けだす。

 靴も履かずに外に出て、詩乃の部屋のドアノブに手をかける。鍵は掛かっておらず、少々勢いづけて開けてしまった。そして目に入ったのは、抵抗する詩乃の上に乗っかる誰か()。それを認識すると短い廊下を走り抜け、男に蹴りを放った。

 

「蓮巳…」

 

「下がって」

 

 詩乃の手を取り自身の背後に下がらせ、男を警戒する。呻き声を漏らしながら立ち上がる男は─よく見れば新川だ─手に何かを持っている。

 細長い、注射器のような形だ。透明な容器であるため、中に液体が入っているのが見える。

 

「藍沢ぁ…!」

 

 新川はこちらを視認すると、呪詛を吐き出すようにそう言い放った。

 

「なんでいつもお前が朝田さんの隣にいるんだ朝田さんの気持ちを分かってあげられるのは僕だけなのに」

 

 新川が詩乃に執着していることはなんとなく分かっていたが、ここまでとは流石に思ってもいなかった。いやまぁ、予想できるわけないが。

 

「朝田さんは僕だけの人なんだ僕だけのシノンなんだお前なんかに邪魔させてたまる─あっ!?」

 

 あまりにも耳障りだったため、蹴りで黙らせる。蹴りを喰らった新川は、手に持っていた容器を落とし、尋常じゃないほどに苦し気な表情を浮かべて、膝から崩れ落ちた。無理はない、というか誰でもそうなるはずだ。

 なにせ蓮巳は、男にとっての急所に蹴りを当てたのだから。

 言葉にならない声をあげて蹲っている新川を、蓮巳が胸倉を掴んで立ち上がらせる。そして手を離し─頭に回し蹴りを叩き込んだ。そのまま壁に頭部が当たり、倒れ込んだ。数十秒程、警戒をするが、新川は沈黙を続ける。なので警戒を解く。

 

「えっと…死んでない…わよね?」

 

「…」

 

 血は流れていないので死んでいないとは思うが、一応の生存確認と、容器を回収するために近づく。

 口元に手を近づけて呼吸を、同時に脈がきちんとあることを確認した。そして容器を手に取ったところで、ドアノブが回る音がした。

 素早く振り向き、とっさに詩乃を背後に回す。そうしてドアから顔を見せたのは、一組の男女だった。 

 

「あ~…状況説明をしてもらっていいですか?」

 

 どこか見覚えのあるような、前髪で左目を隠した女性が困ったように苦笑を浮かべて、そう口を開いた。




 はい、ここまで見ていただきありがとうございました。GGGO編、次でラストです。
 にしても、やっぱりジョニー戦短すぎるな…。


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氷解

 はーい遅くなりましたぁ!今年最後にして、GGO編ラストになります!


 雲一つない青空が広がる。どこまでも高い、澄んだ空だ。この『青空』だけは、どれだけVR技術が発達しても再現できないだろう。マフラーを首に巻いた詩乃は、空を見上げながらそう思った。

 まぁ、今は落ち着いたからそのようなことを思えるのだが。

 先程まで詩乃は、自分を虐めていた三人と対峙していた。いつも通り金をよこせと、そう命じて来たのだ。勿論、詩乃は拒否。それにイラついた彼女らは、兄から借りて来たというモデルガンを一丁見せつけて来た。以前に持ってくると宣言していたので予想はしていたが、体が本能的に震えようとして─奥歯を噛みしめて堪えた。そして、モデルガンを撃てない…撃ち方を知らない彼女らを見て、自分でも驚くほど拍子抜けした。そこで理解したのだ。本当に恐ろしいのは銃ではなく、人間の方なのだと。

 では彼女達はどうだろう。攻撃するのは自分よりも弱者、更に群れているときのみ。モデルガンの撃ち方を知らず、目の前で焦っている。

 

─なんだ、自分と同じ普通の女子高生じゃないか─

 

 確かそう思ったはずだ。その後は…あぁそうだ、彼女の手からモデルガンを奪い取り、解説しながらロックを解除。そして焼却炉の隣にあった空き缶に狙いを定め、撃ち抜いた。我ながら、初段でよく当てられたものだ。そして唖然としている彼女らに再びロックをかけたモデルガンを返して、あの場を去ったのだ。

 それで現在、学校から出るために正門に向かっているところなのだが…なんだか少しざわついている。正門前の広場で幾人かの女子生徒が校門をみて、何事かを囁きあっていた。そのうちの二人が、クラスでもそこそこ仲の良い人物だと気づき、詩乃は声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「あ、朝田さんやっほー」

 

「なんかね。校門前にバイク停めてる女の人がいるの。話しかけた人がいてね?誰か待ってるみたいなの」

 

「?…!?」

 

 最初は疑問符を浮かべたが、すぐにある可能性に思い当たる。いやまさかそんな、と否定したい。

 確かに、学校が終わる時間は教えたし、電車代が勿体ないから、その時間に誰かが迎えに来るとも言っていた。そして蓮巳は人見知りなので、自分は行かないとも。そうすると浩一郎か和葉のどちらかが迎えに来ることになり、ここは女である和葉の方が良いだろうということになった。

 それは分かるし、まぁ当然だろうとは思った。女子というのは恋バナが大好きだ。蓮巳か浩一郎と会っている所を見られたら追及は避けられない。だから和葉に決まったのだが…。

 恐る恐ると言った風に、校門の向こう側を覗き見て、詩乃はがくりと肩を落とす。スタンドを下した黒色の中型バイクに寄りかかり、女子生徒と談笑している人物は、間違いなく一昨日出会ったばかりの少女だった。

 

─話しかけたくない。心の底から─

 

 十人以上が彼女に注目していて、更に話している所に声をかけ、バイクの後ろに乗る?顔を覆いたくなる。というか何であんなに楽しそうに話しているのだ。文句を言いたくなる気持ちを抑え、傍らの同級生に向き直った。

 

「えっと…あの人、私の知り合いなの…」

 

「えぇ!?朝田さんだったの!?」

 

「どういう知り合い!?」

 

 驚愕したのは分かるが大きな声を出さないで欲しかった。その声に反応して、周囲の生徒達がこちらに注目してしまったではないか。とうとう顔を覆ってしまった。

 じりじりとこちらに近づきながら、説明を求める彼女達に「ごめん!」と叫んで、詩乃は逃げるように和葉の方に走った。これでは和葉に来てもらった意味がないではないかと思いながら、校門を潜り抜け、車回しに出る。

 足音が聞こえたのか、雑談をしていたはずの和葉が振り向く。詩乃の姿を確認すると、「すいません、待ち人が来ましたので」と雑談していた女子達に言った。その女子達は気が良い人達のようで、笑顔のまま手を振って帰っていった。

 

「こんにちは、詩乃さん」

 

 片手をあげ、そう言った和葉。走行中、邪魔にならないよう腰まで届く黒髪をポニーテールにし、ジャケットを羽織っている。因みに全身真っ黒コーデだった。

 こうして改めて彼女を見てみると、少し年上に見える。いやまぁ実際に一つ上なのだが、高校生というよりも、大学生と言われた方がしっくりくるのだ。身長はさして変わらないのに、それほどに大人びて見える。少女というより、女性と表現したほうが良いかもしれない。

 

「…こんにちは、おまたせ」

 

「いえ、僕もつい先程到着した所ですし、楽しくお話させていただきましたから」

 

 和葉は笑みを見せながらそう言うと、詩乃にヘルメットを渡してきた。詩乃としてもさっさとここから移動したいので、黙って受け取る。鞄を斜め掛けにして、フルフェイス型ヘルメットを被り、ハーネスを留めた。時折、蓮巳のバイクで後ろに乗せてもらっていたので、手間取ることはなかった。

 和葉はそれを確認すると自らも黒いヘルメットを被り、シートに跨ると、和葉は首を傾げた。

 

「そういえば、スカートは大丈夫ですか?」

 

「体育用のスパッツ履いてるわ」

 

「そうですか」

 

 詩乃の言葉に納得したような声をすると、バイザーを下す。これが蓮巳だったら文句ありげに眉を顰めるんだけど、と詩乃は思いながらリアシートに跨った。詩乃が和葉の腰に手を回すと、「しっかり捕まっててください」と言ってバイクを走らせた。

 

 

 

「ここです」

 

 十分足らずで到着した場所は湯島の隣、御徒町にある喫茶店『DICEY CAFE(ダイシ-・カフェ)』。

 ヘルメットを手に持ったままドアを開けると、スローテンポなジャズが流れてくる。艶やかな板張りの店内はオレンジ色の灯り照らされていて、狭いが何とも言えない暖かさに満ちていた。

 

「いらっしゃい」

 

 バリトンボイスでそう言ってきたのは、カウンターの向こう側に立つ黒人。その人物は、アンドリュー・ギルバード・ミルズと名乗った。和葉が言うには、この人物もSAO生還者(サバイバー)だという。

 

「やぁアンドリュー」

 

「よぉ和葉。連れなら先に来てるぜ」

 

 そう言って指をさした方を見ると、眼鏡をかけた男性がこちらに笑みを向けていた。彼が、和葉に《死銃(デス・ガン)》調査を依頼した人物なのだろう。他に蓮巳と浩一郎もそこにいて、こちらに手を軽く振っている。

 本当は別の場所を指定されていたらしいのだが、そこにこの人数で行くと他の人に迷惑をかけてしまうので、ここにしたらしい。

 二人が席に座り、飲み物を頼んだのを確認した眼鏡の男は、詩乃に名刺を差し出してきた。

 

「はじめまして。僕は総務省総合通信基盤局の菊岡誠二郎と言います」

 

「は…はじめまして…朝田、詩乃です」

 

 詩乃は慌てて名刺を受け取り、会釈を返した。つい蓮巳を見てしまったが、彼は自分よりも先に来ていたので、既に挨拶終わっているのだろう。そう思っていると菊岡と名乗った男は、口元を引き締めると頭を思い切り下げて来た。

 

「まずは謝罪を。この度は、こちらの不手際であなた方を危険に晒してしまいしまい、本当に申し訳ございませんでした」

 

「い、いえ…そんな…」

 

 突然の謝罪に、詩乃は狼狽える。最初から自分はターゲットに含まれていたし、結果的に助けてもらったのだから謝罪をする必要はない。そう正直に言おうとして

 

「…謝罪を受け入れます」

 

「蓮巳?」

 

 隣に座っていた蓮巳が、そう口にした。彼は目線だけをこちらに向けていた。

 

「…こういうのは、受け入れたほうが早い」

 

 でないと話が進まない、と。身も蓋もないことを言えば、そういうことらしい。

 その証拠、というべきか、菊岡は肯定も否定もせず苦笑だけに留めた。

 

「では本題に入りましょう。とりあえず、ここ二日で分かったことを伝えます」

 

 そういって菊岡は『死銃(デス・ガン)事件』について判明したことを話し始める。

 新川晶一(しょういち)─SAONM(ネーム)《赤眼のザザ》、新川恭二の兄であり今回の首謀者と判断されている─の証言によると、協力者(チーム)は五人いたとのこと。新川兄弟、ジョニー・ブラックこと本名金元 敦(かなもと あつし)、モルテこと本名八尾 宗太(やお そうた)、そして─

 

「PoHと呼ばれていた人物の五人。今回のBOBではターゲットとされていた人が三人だったそうだ」

 

 シノン、ペイルライダー、ギャレット。詩乃は和葉達に助けられたが、残念ながらペイルライダーとギャレットは助からなかったそうだ。

 

「前日…せめて朝に思いついていれば、死なないで済んだかもしれないですね…」

 

 悲痛な表情でそう呟いた和葉の右腕を、慰めるように浩一郎が優しく握った。

 

「今それを言っても仕方ないことだよ。それに、今回で犯行を止められなかったら、あと三人は犠牲になってたかもしれない。それだけでも喜ぼう」

 

 菊岡は続ける。

 総合病院のオーナー院長(新川家)の長男であった兄は、幼い頃から体が弱かったこと。それに伴い跡継ぎを弟にその役目を与えたこと。兄は期待されないことに、弟は期待されることに、双方ともに追い詰めてしまったのかもしれない。と彼らの父親は証言した。

 その境遇でも兄弟仲は良好で、兄が高校を中退してからは精神の慰撫をVRMMOに求め、その趣味はすぐに弟に電波した。そして兄は二年間《SAO》の虜囚となり、父親の病院で昏睡していた。生還してからは、弟にとって兄は偶像…一種の英雄のような存在になった。生還後、しばらくはSAOのことについて話題に出さなかったようだが、リハビリが終了し帰宅すると、弟にだけはSAO内でのことを話していたそうだ。

 GGOを始めたのは弟に誘われたから。本当の殺人が起きることのない世界は彼にとって退屈で、観察していたPLの殺し方を想像することの方が楽しかったそうだ。それが一変したのは、リアルマネー取引(RMT)で《メタマテリアル光歪曲迷彩》を手に入れてから。

 最初はただストーキングする日々。ある日、総督府でPLのリアル情報を知る機会が訪れた。兄は見た情報を反射的に記録した。それを続けて、全員で十六名ものリアル情報を手に入れたという。この時はまだ、この情報をどうしようとは思っていなかったらしいが、弟が兄にキャラ育成が行き詰ったことを打ち明けた。それがゼクシードのせいだということも聞くと、手に入れた情報の中に彼のものがあった。そして二人して、ゼクシードこと茂村の殺害方法を計画し始めた。

 実際に行うにはいくつもの壁が存在したが、薬品の入手、マスターキーの入手と一つ一つ乗り越えていき…殺害した。この時、直接手を下したのは兄の方だ。GGO内での銃撃に合わせて、アミュスフィア使用中だった茂村の顎の裏側に高圧注射器を刺し、薬液を注入した。

 二人目の犠牲者の際も手口は同様。この時点で彼らは条件に一致する者を七人決めていたそうだ。

 そして一向に死銃(デス・ガン)の噂が広まらないことに業を煮やした二人は、デモンストレーションとしてBOBで一気に三人の標的を殺害することにした。

 

「これが、『死銃(デス・ガン)事件』の背景さ。弟の心象も含めて、全て晶一氏の証言だけどね。恭二君は完全な黙秘を貫いているから、実際に彼がどう思っていたのかはわからない。更に言えば、何故他の面子が協力していたのかもね」

 

「…捕まっていない、ということですか」

 

 和葉の言葉に菊岡は頷き、詩乃は目を見開く。

 

「君の妹さんからラフコフ幹部の名前を聞いてすぐに調べたんだけどね。捜査当局やら裁判所の説得に手間がかかりすぎた」

 

「しょうがない…と言いたくはありませんが、仕方ないでしょうね。『ゲーム内から殺人を起こしている可能性がある』だなんて信じるはずがないですし」

 

 ふぅと重い溜息を吐いた二人に、詩乃は何も言うことができなかった。蓮巳にどうにかしてほしいと思うも、彼は口が回る方ではない。故に浩一郎に視線を向けると、彼はこちらに気づき目線だけで頷いた。

 

「菊岡さん、一つ気になったんですけど、なんでPoHの本名は言わなかったんですか?」

 

 それはそれで悪手では?詩乃はそう思ったが、先程より若干は空気が軽くなったので良しとする。

 浩一郎の言葉に「あぁ…そのことか」と言って、信じがたいことを続けた。

 

「デタラメだったんだよ。名前も、住所も、全て」

 

 

 

 

 薬品カートリッジがまだ2つ行方不明であること、彼らを繋げたのはPoHであることを最後に告げて、菊岡は帰っていった。

 

「…よかったの?」

 

 蓮巳は、詩乃に向かってそう聞いた。蓮巳は、詩乃が恭二について何かしら聞くものだと思っていたからだ。

 

「いいのよ」

 

 詩乃は、ただそう答えた。

 もし、詩乃の近くにいてくれた人が恭二だけであったら彼について何か聞いていたかもしれない。だが自分には、隣には蓮巳がいる。彼がいてくれればそれでいい。今はそう思う。

 その思いは蓮巳にも伝わったようで、納得したように何も言わなかった。

 

「さて詩乃さん、蓮巳さん、まだ時間はありますか?」

 

 和葉は両手を鳴らして注意を引くと、こちらにそう聞いてきた。それに何もないと答えると、それは良かったと言い─

 

「─姉さん終わったか?」

 

 詩乃から見て右側、つまり店の奥側からそのような声が聞こえてきた。そちらに顔を向ければ、茶髪を三つ編みにした男と、もう一人の和葉がいた。幻覚かと一回目を擦り、そうではないことを確認してしまった。

 

「久々にその反応見たなぁ」

 

「まぁ二人と別々に会うっていうこと自体が久々だしね」

 

 最近知り合った人達は二人と同時に会ってるし、と肩を竦めながら男の方が言った。和葉そっくりの女子が来た時から頭に手を当てていた和葉が、溜息を吐きながら口を開く。

 

「紹介します。双子の妹の佳奈と、その恋人の明日加です」

 

 どうもと二人が和葉の紹介にそって、こちらに頭を下げて来たので挨拶を返す。そして和葉が真剣な表情になり、口を開いた。

 

「詩乃さん、貴女に謝らなければならないことがあります」

 

「え?」

 

 引き継ぐように浩一郎が口を開く。

 

「ここに来てもらったのはもう一つ理由があってね。君は怒るかもしれないけど」

 

 そう言われても、詩乃には意味が分からない。それが表情から分かったのだろう。佳奈が言葉を紡ぐ。

 

「先に言っておくが、俺と明日加は事件のことを知っている」

 

「勝手なのは承知だけど、俺たちは昨日■■■市の銀行に行ってきたんだ」

 

「っ!?」

 

 佳奈と明日加の言葉で頭が真っ白になり、驚愕と言う言葉では生ぬるいほどに絶句した。まずは自分の過去を知っていることに、そして町の名前に。

 その町の名は、かつて詩乃が住んでいた町だ。忘れたくても、忘れられない、町の名前。何故、今になってその町の名前が出てくるのか。更に、その銀行とは、あの事件の起こった銀行のことだろう。何故そこに行ったのか。

 

「詩乃さん、それは貴女が合うべき人に会っていない…聞くべき言葉を聞いていないと思ったからです」

 

「だから銀行に直接行って頼んだんだ。ある人の連絡先を教えてほしいって」

 

「会うべき人…?聞くべき言葉…?」

 

 唖然と言葉を繰り返す詩乃の前で、和葉が佳奈に向かって目で合図を送る。そして佳奈が店奥のドアを開けると、そこから一人の女性と小さな女の子が姿を見せた─

 

 

 

 

「良かったのかい?」

 

 女性─あの事件にて巻き込まれ、妊娠中だった彼女は詩乃に救われた。それを詩乃に伝え、彼女の子供も絵を見せると、志乃は涙を流した。蓮巳はそんな彼女の背をさすっている。

 

「何がですか?」

 

「君が─君達も()()()()()()()を言わなくて」

 

 カウンターに移動した浩一郎と和葉は、それらを視界に入れながら話してた。浩一郎は和葉に視線を向けながらそう言ったが、目を詩乃達に向けたまま和葉は口を開く。

 

「良いんですよ。別に知らなければいけないなんてことはないですし」

 

 まぁ聞かれたら隠すことなく言うつもりではあるのだが。少なくとも彼女が落ち着いてからになるだろう。佳奈もそれは了承している。

 なら良いんだと浩一郎は言って、また騒がしく楽しくなるだろうなと、これからに思いを馳せた。




 習い事やら就活やら卒論やらで忙しくなるので、またしばらく休みます!もしかしたら短編を投稿するかもしれませんが、まぁないと思ってくれていれば!
 ではではまた会いましょう!
















「あー楽しかった。やっぱ殺し合いは最高だよなぁ」

「─()()するなら事前に言ってくれないか。いきなりやられると大変なんだ」

「くはは、すぐに対処しといてよく言うぜ」

「流石に目の前でやられればな。それはそれとして、干渉した事自体を咎めることはない。あのままであれば、和葉は負けていただろう」

「別にそれでも問題なかっただろうがな。生前の話とはいえ、俺とアイツは()()()()一蓮托生だった。ゲームの中とはいえ、負けるのが許せなかっただけだ」

「そうか」

「…」

「…」

「なぁ、あの約束、本当に守ってくれるんだろうな?」

「当たり前だ。俺は交わした約束を破ることは無い」

「なら良い。それを聞きたかっただけだ」

「ではな、俺は戻る」

「おう」

 足音が遠のいて行き、一人になった空間でその人物は呟く。

「嗚呼、ようやくテメェと─」

─殺し合える─

「楽しみだなぁ和葉…くはは!」


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オ⬛︎ジ⬛︎
記■


 そちらの時間では久しぶり、になるか?まぁそちらに合わせて久しぶりと言っておこう。
 紹介が遅れたな。俺の名前はリョウ。知っているとは思うが、和葉をこの世界に転生させた存在だ。あいつの前では『神』といったが、正確には違う。あぁ、そんなことはどうでもいいか。
 本題に入ろう。俺が出て来たのは、今回の話は()()()()()()()()()()ことを知らせに来たからだ。無論、『外の世界』から観測しているお前たちは別だがな。そのことを了承した者から入るといい。
 では、今回も楽しんでくれ。


 死銃(デス・ガン)事件を終えてから一週間。ALO内、中立域。そこにてコウ達はMob狩りを行っていた。新しく仲間になったアレンとシノンにALO各所の紹介をしながら、この世界での戦闘方法や飛び方を教えているところだ。と言っても二人がこのゲームを始めたのが事件後からなので、ほとんど教えることは無くなっている。2人の戦闘方法は、また今度語るとしよう。

 因みにメンバーは上記の2人と、コウ、キリト、アスカ、ユイ、シリカ、リズ、リーファ、レコン、クラインの合計11人だ。黒猫団は5人で狩りを行っており、エギルは現実世界で夜の準備を行っているので、彼は後合流するとのこと。

 そしてキリハはというと─

 

「コウさんも何も聞いてないのか」

 

「そうなんだよね。ただ遠慮しますとしか言われてないや」

 

─ここ最近、死銃(デス・ガン)事件を終えてから1人になることが多い。言い方を悪くすれば、付き合いが悪くなっている。

 

(また何か抱え込んでるかな?)

 

 キリハ(和葉)はどちらかと言えば抱え込む方だ。だから今まで、何かあるなら誰にでもいいから話すように言ってきた。それのおかげで、ここ数年は何も言わずともすぐに頼ってくれていたのだが…。

 

(今回は多分、今までとは違う)

 

 直接悩みがあるなら聞くと言っても、はぐらかされた。こんなことは初だ。キリトに聞いても、家族相手にもはぐらかしているとのこと。

 誰にも言えないモノ。果たしてどのようなモノなのか。

 

 

 

 

 12月下旬。死銃(デス・ガン)事件から一週間ほど経つ。あれから奴らを拘束したという報告も、発見したという報告もない。まだ一週間とはいえ、この情報社会において全力で捜索して見つからないなんてことがあり得るのだろうか。考えられるのは、既に海外へ逃亡したか、どこかの犯罪組織と繋がっているかだ。もしそうだとすれば、もうしばらくは拘束出来ないだろう。

 まぁそれは…どうでも良くはないが一先ず置いておく。それよりも重要なことが、和葉にはあるからだ。

 

(こんなこと、誰にも話せるわけないじゃないですか…)

 

 そう考えながら、和葉は家の近所を歩き回る。

 嗚呼まったくもってその通り、和葉の悩みは誰にも話すことなどできはしない。例え話すことができたとしても、信じる者はいないだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という話など。

 気づけば、家から近い神社まで歩いてきていた。ちょっとした階段を上った先にある、木々に囲まれた場所だ。神社自体の古さ、葉の隙間から降り注ぐ日の光、それらがまるで別空間にいるかのような雰囲気を醸し出している。

 実際かなり昔に建てられたらしく、少なくとも500年前の物らしい。というのも、この神社の詳細が記されたモノがほとんど見つかっていないのが理由だ。では何故年代が分かったのかと言えば、使用された素材や、地質などを調べたとのこと。

 そんなことを考えながら、和葉は思考を続ける。

 

(というか何で思い出してるんですか。あの時、確かに前世の記憶を全て消してくれるように言ったはずなんですけど─)

 

「─そりゃあお前、俺がそう頼んだからな」

 

「っ!」

 

 気配もなく、突然背後から聞こえた声に、和葉は振り向きながら距離を取る。

 

「そんな距離を取るなよ。寂しいだろ?」

 

 口元に笑みを浮かべ、そう言った人物を見て、和葉は目を見開いた。

 先ほどまでは確実にいなかったはずなのに、こいつはどこから現れたのか。そうした疑問は、その人物を目にした瞬間に全て消し飛んだ。

 そいつは黒い軍服を着ており、和葉と同じ姿、見た目をしていた。普通ならばそのことに混乱するはずだが、和葉はそんなことなどはどうでもよかった。こいつが、和葉の()()()()()()()()()()に混乱し、驚愕しているのだから。

 

「混乱してんなぁ。まぁ当たり前か。()()()()()()()()()()()()なんておかしいことだもんなぁ?」

 

 こいつの言う通り、この現状が異様だ。なにしろ目の前のこいつは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからだ。

 

「…何故、君がいるんですか─」

 

─フェイ─

 

 和葉が目の前の存在の名前を言うと、そいつはニィッと嬉しそうに口角を上げた。

 

「嬉しいぜ和葉。やっと思い出してくれてよ」

 

 和葉は深く息を吐き、自分を落ち着かせる。

 

「…あの時、PoHと戦ったのは」

 

 その言葉に、フェイはその通りと肯定する。

 

「あいつが色々と手を回してくれてな。だからあの時、誰も違和感を持たなかった」

 

 お前を含めてな、と続けた。

 あの時、和葉は深層心理ともいうべき場所でフェイと言葉を交えたが、今の今までそのことを忘れていた。PoHと戦闘してからログアウトするまでの間は、フェイが体を使用していたのだ。だが和葉はそのことを認識できず、それらも全て自身で行っていたとご認識させられていた。流石『神』と名乗るだけのことはある、ということだろう。

 

「それで、どいうことなのか説明しなさい」

 

 君が現れた理由も含めて全て、と睨みつける和葉に対し、そう急かすなよと返した後に口を開く。

 

「寂しかったんだぜ?あの楽しかった人生を一緒に過ごしたのに、記憶を消すなんて言いやがって。だからお前が転生した後、(あいつ)に頼んだんだよ─徐々に記憶を思い出すようにしてくれってな」

 

「楽しかったのは君だけですよ…いえそれより、何故そのようなことを?」

 

 そう問いかけると、楽しそうに笑っていたフェイは笑みを消した。それに伴い雰囲気までもがガラリと変わる。

 

「転生するときに、お前こう思ったよな?辛い人生だったって」

「あぁお前にとってはそうだったろうな。じゃなきゃ俺が()()()()()()わけがねぇ」

「けどよ。ホントに辛いだけだったか?少しでも幸せを感じることはなかったか?んなわけねぇよな」

 

 フェイの発したその声には、紛れもなく怒りが籠っている。突然のこと、ではない。和葉と会って嬉しかったことは本音だろう。ただ同時に、和葉に対して怒りを覚えていただけのことだ。

 

「アイツらは良い奴だ。俺たちが、仲間が戦果を挙げれば一緒に喜ぶ。誰かが捕らえられたときは、見捨てずに助けに行く。

 捨てられてた俺たちを拾ってくれた親父殿。仲間になってくれたあいつら。それを忘れようとしたお前を、俺が許すと思うか?」

 

 瞳孔が開き無表情で怒気を放つフェイに、和葉は何も言えなかった。あの時の選択はフェイを、彼らを裏切る行為だと理解してたのだから。

 重い空気が場を包んでいたが、やがてフェイはフッと笑みを零した。

 

「ま、お前の気持ちも分からないわけじゃねぇ。俺が一番、お前のことを理解できてたからな」

 

 だからチャンスをやろう、と奴は言った。それにどういうことだと、怪訝な表情を和葉は隠さない。

 そんな和葉に構わず、にぃっと笑みを深めたフェイは、こう言い放った。

 

「奴らを捨てろ。そして、俺と一緒にあの場所に戻るんだ」

 

─何を言われたのか、理解できなかった。浩一郎達を捨てる?あの場所に戻る?こいつ(フェイ)は、何を言っている?

 

(あいつ)に確認した。俺らが本当に望むんなら、死んだ時より前に戻らせてくれるってな。

 俺は望むぜ。アイツらとまだ生きていたい。アイツらとまた一緒に戦いたい。あの場所から必ず生還する。次はお前に任せねぇ。俺がやる」

 

 握り拳を作り、フェイは自身の心情を吐露した。本当に心の底から願っている、強い思い。あの場で死んだことは、こいつにとっては許せないことなのだろう。

 お前はどうだ、と手を差し伸べられて、和葉は身動きすら出来なかった。

 

(僕は…)

 

 フェイの思いに共感できない、わけではない。けれど、浩一郎を、今世の家族を、捨てることもできない。だから動けない。

 しばらく手を伸ばしたままだったが、和葉が動かないことを知ると、手を引っ込める。

 

「ま、今すぐに答えを出せとは言わねぇ。どっちにしろ時間は必要だろうしな」

 

 だから、とフェイは期限を設けることにした。

 

「今日の24時。それまでに答えを出し、ここに来い」

 

 来なかったら、答えを決めなかったらどうなるのか。そんなことは言わないし、聞かない。和葉が必ず答えを出すことを知っている。無駄な応答だと互いに分かっているから。

 

「じゃあな」

 

 それだけを言い残すと、瞬きする間にフェイは消えていた。まるで最初から、そこには何も存在しなかったかのように。

 和葉はしばらく留まっていたが、やがて背を向け、その場から立ち去っていく。心底ではどっちを望んでいるのかと、自分に問いかけながら。



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■世

 紛争、戦争、内乱、革命。世界中で争いが絶えない、人間同士が醜く殺し合いをし続ける世界。それが和葉の前世で住んでいた世界だった。前世と今世、途中までは非常に似た歴史をたどっていたのだろうと和葉は推測している。というのも今世の歴史は調べられても、前世の歴史は調べられないし知らないからだ。ただ国の名前や山脈、海、地域はほぼ前世と変わりなかった。内陸部の一部は前世と異なっている国があったが、それは戦争の有無の違いだろう。

 とまぁ上記のようなことから、和葉は今世と前世は途中までは似た歴史をたどっていたと結論づけた。だからなんだ、と言われてしまえばそれまでだが。

 

 さて本題、ここからは和葉の前世を記していこう。

 先も記した通り、彼女の前世は世界中で戦争が絶えず起こり続けていた。無論、終わることもあったが、世界中で戦争が、争いが起こらなかった瞬間は1秒もなかった。必ずどこかしらで争いが起こっていた。何度、世界大戦が起こったのかもわからない。彼女にはあずかり知らぬことだが、植民地となった瞬間に独立戦争が起こった地域もある。というか、そのようなことばかりだった。

 そんな世界で、彼女は生まれた。前世では珍しくもない、両親を知らない孤児だった。巻き込まれて死んだのか、捨てられたのか、それは知らない。ただ、生まれて間もなかった、内乱の起こっていた地域にいた、その時点で右目に怪我をしていたと、彼女を拾った人物は教えてくれた。

 その人物は、彼女にとっての父親であり、師匠であった。名前を付けてくれた、常識を教えてくれた、この時代での生き残り方を教えてくれた。彼女の口調は、その人物─《彼》のが移ったものだ。

 《彼》は傭兵だった。あの場にいたのは、そこの戦場で雇われたからだ。彼女を育てながら、《彼》は仲間と共に世界中の紛争に参加していた。故に、それを物心付く前から見ていた彼女が、《彼》と同じ傭兵になりたがるのは必然だろう。

 最初は良い顔をしなかったが、すぐに傭兵としての生き方を教えてくれた。あのご時世で、まともに生きていくのはまず不可能だとわかっていたからだ。最初に良い顔をしなかったのは『親』としての良心があったのかどうか、何度も教えてもらおうとしたが、頑なに喋らなかったため理由は不明なままだ。仲間にも言わなかったようだし。

 さて、そんなこんなで数年。年齢でいえば12,3歳になったころ、彼女は初めて武器を持ち、《彼》の仲間として紛争地域に降り立った。手にする武器は彼女自身が選んだもの、刀とリボルバーだ。模擬戦闘を何度も行い、武器の扱い方、身体の動かし方を充分に染み込ませた。更に今回の紛争は小規模な方であり、いざとなれば仲間が助けてくれる。それが、彼女に安心をもたらしていた。作戦開始前、《彼》から「獣には堕ちないでください」と言われたが、当時の彼女には意味が分からなかった。

 作戦を開始して、すぐに彼女は《テキ》と接触した。《テキ》の武装はAR(アサルトライフル)、数は1人、こちらは周囲に何人かいる。彼女は迷わなかった。まずは弾丸を二発。そのうち一発が命中、体勢を崩した。その隙に懐に入り込み、抜刀と同時に斬りつける。居合、生まれ変わっても魂に染み付いていた技だ。彼女のそれは《テキ》の体を深く抉り、地面に転がす─前に、喉に刀を突き刺した。確実な致命傷、どう足掻いても、この《テキ》は助からない。喉から刀を抜くと、今度こそ《テキ》は地面に倒れる。

 

─やった、やった!《テキ》を殺した!僕が《テキ》を!─

 

 最初に感じたのは達成感、あるいは喜び。いや、喜びの方が強いか。とにかく彼女はそれをもう一度感じるために、敵を探そうと動き始めようとした。そこでふと、彼女は足を止めて、自分が殺した《テキ》を見る。うつ伏せに倒れている。横に向いているその顔を隠しておらず、表情がはっきりと見えた。首元からは血が大量に流れ、口は半開き、そして目からは光が失われており─

 

「っ」

 

 そこで彼女は顔を逸らし、今度こそ走り去っていく。胸に流れた不快感を無視して。

 

 

 結局、この時は彼女達が勝利した。数年後、戦争自体は敗戦したと風の噂で聞いたが。というのも、彼女の所属している傭兵部隊は、戦争終了までいることは殆どないからだ。依頼料が高いことが理由である。だがその分、実力は本物だった。死者を殆ど出さずに敵兵を蹂躙していく様は、全身が黒一色というのも相まって『死神部隊』とも呼ばれていたほどだ。なお、基本的な通称は『黒狗』である。

 それはともかく、勝利した彼女達は祝杯を挙げた。それ自体はこれまでも行ってきたことだが、今回は彼女の初出撃・生還ということがあり、いつもよりも大騒ぎだ。酒、煙草、飯など、部隊が保持していたものと、依頼料として貰ったもので、大量にある。

 祝杯の主役となった彼女も、周囲に流されつつも楽しくしていた。そこに、《彼》は酒を片手にやってきた。彼女は満面の笑みで駆けよった。そして嬉しそうに自分の成果を伝えた。《彼》は頭を撫で、ただ一言だけ。

 

─無理はしないように─

 

 思えば、この時点で《彼》には分っていたのだろう。このままでは、彼女が壊れてしまうことを。

 彼女は優秀だった。それこそ天才と呼ばれる才能を持っていた。まだ未熟の身体でありながら、兵士としての知識・動き・技を、数年で習得してしまったのだから。その後も、幾度も戦場に降り立ち、その度に戦果を挙げながら、大した怪我をすることなく生還していった。

 あぁ、確かに彼女は優秀な兵士だ。だがその一方で、彼女の精神は()()()()()()()()()()()()()()。戦場に降り立つ度に、敵兵(ヒト)を殺す度に、彼女の精神はすり減っていった。戦場に立つのがもう少し大きくなっていてからだったら、ここまで精神がすり減ることはなかったかもしれない。まぁ仮定の話をしても仕方ないのだが。

 戦場に立っている者達は─少なくとも彼女の周囲には─まともな者はいなかった。全員が少なからず、精神に異常をきたしていた。感情を無くす者、食が細くなった者、誰かに依存するようになった者、酒や性行為に溺れる者、戦場や殺しを楽しむようになった者…。様々な者が存在していた。だがこれらは、本当に心を壊さないようにするための、一種の防衛本能が働いただけだ。

 彼女は仲間の役にたてることに喜びを感じていた一方で、人間の死に顔を見るたびに不快感が積もっていった。最初はただの《テキ》としか認識していなかった彼女は、やがて《テキ》が自分と同じ《ヒト》だという目を背けていたことに目を向け始めた。そしてある戦場に降りたとき、彼女は《テキ》にも家族や仲間がいることを、今まで目を背けていたことを、認識した。してしまった。

 瞬間、彼女は戦場に立っていることを忘れ、発狂した。それを見た《彼》はすぐに回収、撤退した。予想していたことだったからだ。上記のように、大人ですら異常をきたすのだから、まだ子供である彼女が正常のままでいられるはずがないと。

 今まで彼女が発狂しなかったのは、敵兵を《人間》だと認識しないようにしていたからだ。傭兵になろうと思った理由も、ただただ皆がかっこよかったから。自分を拾って育ててくれた《彼》に恩返しをしたかったから。彼らが戦闘している相手が人間だと、考えもしなかったのだ。それ故に、その事実を認識してしまい、発狂した。

 それから《彼》はしばらくの間、彼女の様子を見ることにした。とはいえ傭兵部隊として、依頼があれば断ることはできないので、1人でだが。《彼》は二週間ほど様子を見て彼女が立ち直れなかったら、傭兵から離そうと決めていた。誰が死んでもおかしくない仕事。今の状態で次の戦場に行かせれば、間違いなく死ぬだろう。彼女のことを娘のように思っている《彼》からすれば、それを許すことは出来ない。戦場で死ぬのは仕方ない、だが死ぬとわかりきっている状態で行かせるのは違う。故に《彼》はそう決めた。以前にも同じようなことで離れた者がいることもあり、仲間達は誰一人反対しなかった。会えなくなるのは寂しいが、死に別れよりはマシだと。

 

 

 彼女が戦場を離れて早二日。小屋で彼女の身の回りを世話していた《彼》はいつも通りに飯を用意し、彼女の所に運ぶ。一声かけ、彼女のいる部屋に入った《彼》は、驚愕に食事を落としそうになった。人形のように動かなくなってしまっていた彼女が、ベッドから立ち上がり外を見ていたからだ。動けるようになるにも、早くて五日は掛かるだろうと考えていたのだから、驚愕するというものだ。

 とはいえ、立ち直ったかどうかはまた別だ。故に《彼》は食事を手に持ちながら、もう一度彼女に声をかける。彼女はそれに反応し、振り向く。そして二っと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()

 

─おはよう、親父殿。初めまして、というべきだよな?─

 

 それが、後に『フェイ』と名付けられる人格の第一声だった。



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選択

 彼女─和葉は心を壊さないようにフェイを、自分の中にもう一つの人格を作った。《彼》と離れたくなかった和葉は、フェイを戦闘症の人格として生み出した、のだと思っている。何しろ無意識だったのだ。気が付けば自分の中にもう一人誰かいたことに、相当驚愕したことを思い出した。同時に、すぐに受け入れたことも。フェイがいれば《彼》と一緒にいられる、フェイに戦闘を任せれば問題ない。そう思って、受け入れたのだ。

 実際、フェイを生み出したのは、和葉にとって良い方向に働くことが多かった。フェイは戦闘症であったが輪を乱すことはしなかったし、あくまでも副人格だとして、基本的に主人格である和葉の言うことを聞いた。また、フェイ自体も《彼》に褒められることは好きだった。体は一つだけだったが、姉妹あるいは姉弟のような関係性だったと認識している。

 そうして和葉達は、いくつもの戦場を渡り歩き、生き残っていった。大人と言われる年齢になって、強くなっていって。だがそれでも和葉の精神は、安定したが回復はしなかった。そして今までのことが積み重なっていった結果、和葉は生きることに疲れてしまった。その気持ちを背負ったまま、ある作戦に1人で赴いた。いつもならフェイに体を貸すのだが、この作戦は和葉自身が行った。その作戦は敵を全滅させれば良く、()()()()()()()()()()()()()()()()。故に隠密することなく真正面から突撃し、暴れまわり、敵兵を全滅させ、和葉は力尽きた。

 

 まぁ今考えてみると、どれだけ《彼》に依存していたか分かる。当時は《彼》に捨てられたら生きていけないと本気で思ってたほどだ。今ならありえないな、と自己分析する。

 というか前世の最後、これはフェイに恨まれて当然か。なんだ、生きるのに疲れたって。自分で言うのもなんだが、前世では相当メンタルが雑魚だったようだ。

 

(さて…)

 

 現在の時刻は23時半。家族は寝静まっている。そろそろ神社に向かっても良いだろう。和葉はもう選択した。その答えを、言いに行かなければならない。

 背中合わせに寝ている人物を起こさないように、そっとベッドから出る。音が鳴らないよう静かに、かつ素早く着替え、ドアノブに手をかけた。そこで、和葉は振り返る。彼女のベッドで寝ているのは勿論、浩一郎だ。壁の方を向いており、顔は見えない。本当は、顔を見てから行きたい。だが今の状態で顔を覗き込むには、一度ベッドに乗り上げなければならない。そうすると今度こそ起こしてしまうかもしれないので、諦める。

 だけれど、ベッドに近づくだけなら問題ないだろう。

 足音を立てずに、ベッドの端まで歩く。まぁ、こうして自分でも何をしたいのか分からないのだが。顔は見れない、触れることもできない。浩一郎が起きてしまうから。あぁ、でも、何もしないで出ていくことが出来ない。小さく、小さく声をかけるだけなら。囁くだけなら。

 

「浩一郎…行ってきます…」

 

 笑みを浮かべてそう囁いた和葉は、今度こそ部屋から、家から出ていく。窓から見つめる、1人の影に気づかずに。

 

 

 

 和葉はまっすぐに神社まで歩いていく。もう深夜近いこと、元々人通りがそこまでないこともあって、誰ともすれ違うことはなかった。階段を登りきると、まだそこには誰もいない。既にいると思っていたが。

 

「なんだ、時間よりも早く来るんだな」

 

 聞こえて来た声に背後を振り向けば、昼間と変わらない格好をしたフェイがいた。時間を確認するものを持っていないが、フェイの言葉通りなら、今は24時前だということだろう。

 

「相手を待たせるなと教わったもので」

 

「お前の両親からか。前んときは時間ピッタリに行動してたのによぉ」

 

 憎らしいと言わんばかりの口調だが、本心からそう思っていないことくらい分かる。確かに前世での和葉は、時間前行動ではなく、時間通りに動くことの方が圧倒的に多かった。作戦通りに行動することが、部隊全体の生存率に関わっていたからだ。勿論、状況によっては作戦通りにいかないことの方が多かったが。

 だが今世と前世は違う。後はまぁ、小さい頃から教えられてきたものだから、というのは確実にあるだろう。和葉は何も言わず、ただ肩を竦めるだけに留める。

 そこで2人は、口を閉ざす。生物の音はせず、ただ夜風の音だけが微かに聞こえる。

 

「で?どっちを選択したんだ?」

 

 数分程経っただろうか。やがて口を開いたのは、フェイの方だった。

 

「既に分かっているのでは?」

 

 それでもだよ、とフェイは言う。分かっていても和葉の口から聞きたいのだと。

 和葉は一度深呼吸をし、フェイを見つめ、自分の答えを言い放つ。

 

「僕は浩一郎を、今世の家族を捨てることは出来ません。もうあの時の僕ではありません。だから─」

 

─殺意。体を仰け反らせながら後退した瞬間、先程まで首があった位置を何かが通る。体勢を立て直し正面を見て、今度は右へ跳ぶ。そのすぐ後に銃声が二つ聞こえた。

 

「あぁ、そうだよなそうなるよな。お前のことはずっと見て来たんだ予想してたさ。だがよぉ─」

 

 左手に刀を、右手にリボルバーを持つその姿は、前世でフェイが散々行っていたものだ。要するに─

 

「─テメェの口から直接聞くと殺意が沸いてしょうがねぇよ!!」

 

─本気のスタイルということだ。

 フェイは吠えると同時に前進、刀を振るってくる。それを手首ごと掴むことで防ぎ、右手が動いたのでこちらは手を掴む。

 

「テメェを殺す。力づくでも戻ってもらうぜ」

 

 同じ体だが、恐らくフェイの方は前世のモノなのだろう。徐々に力負けし始めている。いくら鍛えられていると言っても、幾度もの戦場を駆け抜けた身体に勝てる道理はない。

 それはそれとして、殺されるつもりは全くないが。

 

「お断りします、よ!」

 

 フェイの腹に蹴りを入れ、距離を空ける。居合を構えるように腰に手を当てれば、そこに刀が差さっていた。多分リボルバーもあるだろう。何故だとか、いつからとか、そんなことはどうでもいい。『前世の人格(フェイ)』というありえないはずの存在があるのだから、考えるだけ無駄だ。

 空いた距離を今度は和葉から詰め、居合を放った。フェイは跳躍して回避、刀が振り下ろされ、それを刀と鞘を重ねて防ぐ。が思ったよりもその一撃は重く、片膝を着いた。ギィと金属の擦れ合う音が鳴る。

 

「っ!」

 

 和葉は刀を左にずらし、フェイの体勢を崩す。次いで刀を横なぎに振るったが、刀を下向きにして防がれた。その状態のままフェイは弾丸を放ってきたので、右に跳んで回避。鞘を左腰に差してリボルバーを持ち、二発撃つ。それをフェイは、二発とも斬り裂いた。

 前世では和葉自身も行っていたが、魔法も存在しない世界で音速以上の速度で飛んでくる弾丸を斬り裂くというのは、やはり普通に考えて意味が分からない。流石に今は出来る気がしない。

 

「君はさっき、僕に殺意が沸くと言いましたね…」

 

 この短い戦闘(やり取り)で汗を垂らす和葉は、不意にそう聞いた。フェイの返答を待つことなく続ける。

 

「それは確かに君の本音でしょう。ですが、それと同じくらいに僕との死合(闘い)を─」

 

─望んでたでしょう─

 

 沈黙。互いに見合った状態で制止。その間に和葉は体勢と息を整える。それでも動かなかったフェイは

 

「…くはっ」

 

 能面のような表情を崩し、嗤った。

 

「くくっくはははははは!!!!!」

 

 口を大きく開け、腹を抱えてしまいそうになる程に笑う、嗤う、呵う。嬉しそうに、蔑むように、堪えきれないように。

 そんなフェイを、和葉はただ黙って見つめる。しばらく嗤い続け、最後に「はぁ…」と息を吐いた。

 

「あぁ、その通りだ。俺はこの死合(状況)を心から楽しみにしてたさ」

 

 嗤いながら、両手を広げてフェイは言う。

 

「俺は戦いが好きだ。殺し合いが好きだ。強ぇ奴との死合が何よりも楽しくて仕方ねぇ!それは相手がアイツらだろうと、お前だろうと変わりはしねぇ!!」

 

 笑みを浮かべなら、怒号を挙げるように、語気を荒げる。

 

「叶わねぇ事だと分かりながらどうやったらお前と殺し合えるか!!どれだけ考えたかお前は知らねぇだろ!?」

 

 だから!!と、刀の切っ先を和葉に向ける。

 

「─俺はこの状況に感謝しよう。せっかくの機会、ずっと望んでた事が叶ったんだ。楽しまなきゃ損だろ?」

 

 少しだけ笑みが穏やかなものに変わったのを見て、和葉は思考する。

 フェイがそんな事を考えているなんて知らなかった。自分との戦いを望んでいるなんて。本気で応えなければフェイに失礼だろう。そう思っても、本気にはなれない。これが殺し合いになっているから。

 

「ごちゃごちゃ考えてんじゃねぇぞ。これは確かに死合だが、お前の好きな闘いでもあるんだぜ?俺はお前を殺すつもりだが、お前は俺を殺す必要はねぇ。だからなぁ、和葉─」

 

─お前も楽しめよ。

 フェイのその言葉に、ふっと肩の力が抜ける。

 あぁ確かに、フェイの言う通りだ。結果的にどちらかが死んでしまうかもしれないとしても、別にフェイを殺す必要はないのだ。ならば、何の躊躇いも無い。

 

「フェイ」

 

「あん?」

 

「ありがとうございます」

 

 笑う。先程までの硬かった表情から、変わる。二ィっとフェイが獰猛な笑みを浮かべた。

 和葉は腰の刀に手を添えると、上体を前に、左脚を大きく後ろに伸ばし、前景姿勢となる。対するフェイは、腰を落とし、防御の構えを取った。

 地を蹴り疾走。居合を放ち、金属音。すぐに引き戻すと、左斜め下から斬り上げが襲う。少し右にズレながら更に体勢を低くする。鞘を振るうと、右手で受け止められる。

 

「「─」」

 

 互いに距離を空けず、刀を振るう、銃弾を放つ、殴る、蹴る。

 

「「はは─」」

 

 受け止める、逸らす、相殺する。

 

「「ははははは!!!!」」

 

 幾度となく繰り返される中、いつしか2人は、笑っていた。

 力と速さはフェイの方が上。そこで和葉は、前世の技"ではなく今世の"技"を使う。前世の"技"はフェイも使えるし、対処されてしまう。なら、フェイの知らないもので戦うしかない。

 

「くははは!!最っ高だなぁ和葉ぁ!!」

 

 声を出さずに同意し、刀を振るう。フェイもまた、返事が来るとは端から思っていないので弾いて防いだ。刀を打ち合う度にフェイの感情が流れてくる。

 相手の気持ちは剣を打ち合えば分かる、という訳では無いのだが、元々フェイは和葉の副人格。だからか、互いに相手の感情が流れこんでいるのだろう。

 フェイは今、心の底から死合を楽しんでおり、喜んでいる。それはそうだろう。もし和葉が前世のままだったら、楽しむことは出来なかっただろうから。

 前世の彼女にとって戦いとは、《彼》に褒められるための手段でしかなく、そこに楽しむという感情は無かった。だが今世の彼女にとって戦いは、楽しむためのものとなった。まるでフェイの一部が混ざったかのように。故に楽しむ、この闘いが、今夜限りのもの、生涯一度きりのものだと理解しているかあら。

 

 

 どれだけ時間が経っただろう。一時間は経ったようにも、数分しか経っていないようにも感じる。時間の感覚が無くなるほどに、2人は純粋に闘い(死合)を楽しんでいた。いつまでも続けばいい、とは思わない。いつかは終わることを知っているから。そしてそれは、突然来るという事も。

 

「っ!?」

 

 突如として和葉が体勢を崩した。砂利で足を滑らしたのだ。転ぶ、倒れこむとまではいかなかったが、その一瞬の隙を見逃すほど、フェイは甘くは無い。

 最小限の動作で足払いし、動きを阻害。和葉が何かをする前に、右足と右手を撃ち抜く。刀を離した瞬間、右わき腹を深く斬り裂いた。致命傷とまではいかずとも、先程までと同じようには動けないだろう。だがそれで終わる和葉ではないと、フェイは知っている。

 

「ぐっ」

 

 斬られたと同時、和葉は右足でフェイの腹を蹴り上げた。その状態でもフェイは和葉の首に向かって刀を振るう。体ごと左に傾け、両手を地面につける。体を捻り、今度は左足裏で蹴って吹き飛ばす。その阿間に体を起こし、左手に持っていた拳銃を放り投げ、刀を握る。手足の痛みを無視して、突貫、振るう。未だ宙に浮いているフェイは回避が出来ない。故に防ごうとし─刀の軌道が蛇のように()()()()()()

 

─蛇刃─

 

 防ごうとした刀をすり抜け、フェイの両手を斬り飛ばす。そこで止まらず、袈裟斬り。和葉の傷よりも深く、重い一撃を叩き込んだ。

 

(あぁくそ…これで終わりかぁ…)

 

 うつ伏せに倒れこむ和葉を視界に収めながら、フェイも仰向けに倒れながら自身の負けを悟る。和葉に勝てなかった、和葉を連れていけなかった。それが悔しい、それを為せなかった自分に怒りを覚える。だがそれ以上に─楽しかった。自分が望んでいたことが叶った、互いに楽しんで死合が出来た。ならば、満足だ。

 

(じゃあな、和葉。お前ともう会えないことは残念だが…)

 

─お前の幸せを、願ってるぜ─

 

 

 

 

 

 

 起き上がる。見渡せば、いつも自分が寝ているベッドだ。当たり前の事なのに、何故かそれを不思議に思う自分がいる。はてと内心首を傾げていると、部屋のドアがノックされた。どうぞと言えば、入ってきたのは男だ。

 

「やっと起きたかい?ぐっすり寝ていたね」

 

 ふわりと柔らかい笑みでそう言うのは、自分にとって大切な存在。自分が愛している人物。時間を見れば、確かに。何もない日だとはいえ、昼近くまで寝ているのはとても珍しい。

 何かあったのかい?と聞いてくる彼に少し考えて、返答する。

 

「懐かしい誰かに、会った夢を見た気がします」

 

 懐かしむような顔をするが、悲しそうにも見えた。まるで大事な何かを忘れてしまったかのように。




 さて、これで今回の話は終わりだ。和葉は今日一日の出来事と()()()()()()完全()()()()、あの世界の人物として生きていく。逆に負けていれば、あいつの存在はあの世界から消滅し、フェイと共に前世の世界に戻していた。そういう契約だったからな。
 ん?負けたフェイがどうなったか、だと?そうだな、本来ならば消滅するはずだろうな。たかが人格でしかない存在が、明確に自我を持ち、一つの『個』として存在するなどありえないことだ。だが、奴はその例外。俺としても興味深い。だから消滅させるには惜しいと感じたのでな。()()()()()()()()()。奴がどのようにして生きていくのか、俺はそれを見守っていこう。
 お前たちの前に現れることはもうないだろう。本来、俺のような転生させる存在は、それで終わりだ。見守ることはあれど、介入することは無い。そういうことだ。
 では、さらばだ。

 あぁ最後に。和葉の物語はまだ続く。それまでは見守ってやっていてくれ。


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エクスキャリバー編
集合


 はぁい皆さんお待たせしましたぁ!!今回からエクスキャリバー編スタートです!!


 十二月二十八日日曜日の午前。ALO内イグドラシル・シティ大通りにある《リズベット武具店》。そこに12人+1匹もの妖精と小さいドラゴンが集まっていた。ここに、買い出しに行っている2人+1人が加わるので、2パーティ分の人数が集っていることになる。

 現在彼らは待ち時間を潰すために雑談をしていた。

 

「クラインさん、もう正月休みですか?」

 

「おう、昨日からな。働きたくてもこの時期は荷が入ってこねーからよ」

 

 そう話すはイツメンのシリカとクライン。彼女の問いに答え、そのまま流れるように社長の悪口を言い始めたが、その実かなり恩義を感じていることを知っている。まぁSAOに2年間も囚われていた彼の面倒を見て、生還後即座に仕事復帰できているのだから、実際に良い企業なのだろう。

 

「キリハ!誘ってくれてありがとう!」

 

「落ち着け、サチ。俺からも礼を言わせてくれ」

 

「こちらこそ、来てくれてありがとうございます。3人には謝った方がいいでしょうか?」

 

「アイツらは自業自得だ」

 

 次に『月夜の黒猫団』からケイタとサチの2名。ちょくちょく遊んではいるが、攻略に誘われたということでか、サチのテンションが少々高い。他の3人は次のテストがやばいということで勉強だそうだ。後はまぁ、単純に人数制限があるのも理由の一つだが。これは後に語るとする。

 

「今日はヒーラー出来る人結構いるし、私も前に出ようかなー」

 

「いつも出てない…?」

 

「なんか言った?」

 

「何でもないです!!」

 

 ニッコリ笑顔のリーファから、すぐさま顔を逸らすレコン。リーファの前で失言してしまうレコンはいつも道理なので、誰も助け船を出さない。

 

「…」

 

「アレン…私の背後に隠れないでよ…」

 

 店の隅におり、更にシノンの影に隠れるアレン。知り合いが半数を占めてはいるが、今日初めての人物がいるということで、人見知りが発動してしまっているらしい。

 

「もう!なんでアタシしか鍛冶師いないのよ!」

 

 文句を言いながらも全員分の武具の耐久地を回復させているのは、この面子で唯一の鍛冶師であるリズベット。2パーティ分もあるので大変そうだ。

 

「これ、僕は場違いじゃないかい?」

 

「活躍、期待してますよ」

 

 苦笑しながら呟いたクリスハイトに、コウが笑顔でそう言った。今回の面子のほとんどが脳筋、つまり魔法を使わないビルドだということで、魔法ビルドである彼が呼ばれた。後はまぁ、死銃(デス・ガン)事件のことをつついて、今度はこちらを手伝えという背景もある。

 以上にキリト、アスカ、ユイの3人が加わったのが今日のメンバーとなる。

 

「おうキリハ。今日の目的取れたら『霊刀カグツチ』取りに行くの手伝ってくれよ」

 

「それはキリトに言ってください。今日の主催はあの子です」

 

「あ、じゃあ私あれ欲しい。『光弓シェキナー』」

 

 クラインの言葉に、キリハがこの場にいない妹に責任パスすると、シノンが片手を挙げながらそう宣う。そのままの流れで次々とあれが欲しいこれが欲しいと言い始める面々にキリハは苦笑した。しかも欲しいと言っている物が大体『レジェンダリー武具』だ。それを言ったらキリハだって正直欲しい。というかいつもの面子はともかくクリスハイト、どさぐさに紛れて言ってるんじゃない。シノンとアレンに至ってはALOを始めて2週間でそれを欲しがっている。それを指摘すると。

 

「リズの作ってくれた弓も良いんだけど、できればもう少し射程が…」

 

「あのねぇ、この世界の弓は槍以上魔法以下の距離で戦うものなの!100メートル離れた所から狙うなんて普通しないのよ!」

 

 シノンの言葉に、全員の武具の耐久値を回復していたリズがそう返すと、「欲を言えばその2倍は射程が欲しいところね」と肩を軽く竦めた。元々GGOでは二千m離れた場所から狙撃していたので、その十分の一程度の距離では物足りないのだろう。まぁ、ALOではまずありえない距離なのだが。

 ついでだ。新参者2名(シノンとアレン)の戦闘方を紹介しよう。

 アレンは早々に飛び方のコツを覚え、空中戦闘に適応した。“足が地についてないから落ち着かない”とのことで本人的には苦手と言っているらしいが。因みにアレンの種族は闇妖精(インプ)、主要武器は片手剣で、動き回りながら斬りつける戦闘を行う。主要武器が変わっただけで、戦闘方法自体はGGOからそこまで変わっていない。まぁ移動しながら魔法詠唱出来たことには相当に驚いたが。jobシステムはALOには無いが、もし付けるとしたら近接よりの魔法戦士、と言ったところか。ホントに基本は近接しかしないので、本人が思い出しては魔法を放つくらいしかしてない。

 シノンの場合、自他ともに飛ぶのは苦手だと認識しているが、飛翔自体は問題なく出来るし、弓で正確無比に()を撃ち抜いていくのでそこまで問題になっていなかった。彼女の武器は長弓(ロングボウ)。全武器中最大射程距離を誇る弓だ。長弓に限らず、この世界の弓は適正距離ならシステムアシストである命中補正が働く。それ以上の距離から放つと、風や重力の影響を受けて狙った場所に飛ばない。だが彼女は、GGOで培われた狙撃手としての技術を《システム外スキル》として扱っており、命中補正の働かない距離からでも敵を針鼠にしていく様は圧巻だったし、正直引いた。これが地上戦になると、猫妖精(ケットシー)という敏捷力最上位の種族特性を生かして動き回り、ゼロ距離で矢を放ったりするので全く油断できない。遠距離武器とは何だったのか。なお、種族を選んだ理由は『視力が一番良い』だったことを記しておく。

 さてここで、面子を集めた理由を説明しよう。単刀直入に言うと、《聖剣エクスキャリバー》を獲得するためだ。

 発端は昨日、《MMOストリーム》が載せた記事だ。内容は、《エクスキャリバー》がとうとう発見されたこと。その文字が写真と共に載せられていたのだ。

 この武器は今まで、公式サイトの武器紹介ページ最下部に名前と写真が載せられているのみで、場所・取得方法などを知る者はいなかった─正確には6人だけ、知っている者はいた。言わずもがな、キリハ達だ。最初に見つけたのはリーファとアスカ、ユイ。情報を共有されたのがキリハ、キリト、コウだ(見つけた方法は割愛する)。それが今年の一月なので、およそ一年にわたって秘密が保たれていたことになる。この間に《エクスキャリバー》を取得しに行かなかったと聞かれれば、勿論行った。だがあっけなく失敗したのだ。

 それがあるのは、地下世界《ヨツンヘイム》に存在する、世界樹の根にぶら下がる逆ピラミッド型ダンジョン。そして、そこにいたのは邪紳モンスターだ。それらがひしめくダンジョンをたったの5人で攻略出来るわけもなく。今度は人数集めて挑戦しようとなっていたのだが。

 が、そこからは色々とタイミングが合わなかった。GGOの事や、ALOのアップデートによる新要素。中でも『新生アインクラッド』の攻略にかかりっきりになったことが原因だろう。ヨツンヘイムにはたまに素材を取りに行ったり、トンキーと遊んだりする程度で、エクスキャリバーに関しては『どうせ誰も見つけることが出来ない』と思っていたこともあり放置していた。

 しかし、MMORPGにおいて永遠に発見されないアイテムなど存在しない。実際にエクスキャリバーが見つかってしまった以上、現在ヨツンヘイムにはPLが押しかけているだろうし、一部は空中ダンジョンに乗り込んでいるだろう。

 だからと言って諦める気は全くない。だからメンバーを集めたのだから。

 

「ただいま」

 

「待たせたな」

 

 そう言って扉を開けて入ってきたのは、ポーション等のアイテムを買い出しに行っていたキリトとアスカだ。2人が購入してきたアイテムをテーブルの上に広げていく中、キリトの頭の上に座るユイが口を開く。

 

「買い物ついでに情報収集をしてきたのですが、まだあの空中ダンジョンに到達したパーティ及びプレーヤーはいないようです」

 

「何故ですか?」

 

 キリハが問うと、ユイは答える。

 どうやらアスカ達が発見したトンキーのクエストとは別種のモノが発見され、そのNPCが報酬として提示したのがエクスキャリバーらしいとのこと。更にクエストの内容は、『○○を何体倒せ』などというタイプの虐殺(スローター)系。おかげで今、ヨツンヘイムはmobの取り合いで殺伐しているらしい。

 そこまで聞いてクリスハイトが首を傾げる。

 

「そうなると可笑しくないかい?《聖剣エクスキャリバー》はダンジョンの一番奥にあるんだろう?それをNPCが報酬として出すっていうのはどういうことだい?」

 

 彼の言う通りだ。最難関に位置するであろうダンジョンの奥地にあるモノを、報酬として提示するのは些か可笑しな話だ。ダンジョンまでの移動手段が報酬だというなら分かるのだが。まぁ行けば分かるだろう。

 そうこう話していると、工房の奥からリズベットの叫びが聞こえた。

 

「よーっし!全武器フル回復ぅ!」

 

『『お疲れ様(です)!』』

 

 労いを全員で昭和。新品の輝きを取り戻したそれぞれの武具を手に取り、身に着ける。次いで2人が購入してきたポーション類をポーチに収納。オブジェクトで持ち切れない分はアイテム蘭に格納する。

 時間を確認すると、午前11時。どこかのタイミングで昼食休憩などを入れる必要がありそうだが、その前にダンジョン内の最初の安全エリアまでは行けるだろう。

 全員の準備が完了したこと確認し、今回主催のキリトがぐるりと見渡した。

 

「今日は急な呼び出しに応じてくれて感謝する。このお礼はいつか必ず返す」

 

 そこまで言って、二っと葉をむき出しにして笑う。

 

「堅苦しいのはここまでにして─全員、気合入れていくぞ!!」

 

『『おぉー!!』』

 

 全員で腕を突き上げ、キリトの声に応える。そして工場の扉を開け、目的地目指して踏み出した。




 ここまで見てくれてありがとうございました!誤字脱字、または可笑しな表現等がありましたらご報告よろしくお願いします!!
 後今更ですが、感想待ってます!!


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トモダチ

 一か月お待たせした割には3000字ちょっとという短い文章ですがどうぞ見てください!


 マップにすら表示されないようなアルンの裏通りを進み、入り組んだ道の先にその扉は存在する。見た目は何の変哲もない円形の木戸で、ただの装飾オブジェクトにしか思えないだろう。

 その扉の鍵穴にリーファがポーチから取り出した鍵を差し込み回すと、あっさりと扉は開いた。この鍵は、以前トンキーにこの扉の向こうにあるトンネルの下側出入り口に運んでもらった際に、いつのまにかストレージに追加されていたらしい。つまり、トンキーのように助けなければ、この道は使えないということだ。

 扉の中に14人が二列になって滑り込み、最後尾のクラインとクリスハイトが入ると扉は自動で閉まり、再施錠される。

 

「うわ、何段あるのよこれ」

 

「アインクラッドの一階層分くらいはあるかと」

 

 リズの言葉にキリハがそう答えると、SAO生還者らはうへぇとでもいうように顔を顰めた。

 まぁ彼女が問いかけるのも無理はない。まっすぐに下まで伸びている階段は、視界限界を超えても続いているのが分かる。視力の良いケットシーでも、一番下まで見ることは出来ない。

 とはいえ、実際には下まで降りるのに5分程度。通常ルートで《ヨツンヘイム》に行くとなるとどんなに急いでも1時間はかかるので、かなりの時短になる。人によっては商売にしようと考えるかもしれないが、降りた先にあるのは底なしの大穴、『中央大空洞(グレードボイド)』。そして聖剣エクスカリバーが封印されている逆ピラミッド型の空中迷宮は、そのボイドの真上の天蓋から突き出している。この階段の出口はボイドの真上に設けられているため、その先に進もうものなら穴まで真っ逆さまだ。

 雑談を交えながら降りて行けば、予想通り5分足らずで出口にたどり着く。トンネルを抜けると視界に飛び込んでくるのは、分厚い雪と氷に覆われた常夜の世界。照明となるのは、氷の天蓋から突き出す巨大な水晶の柱からにじみ出る、僅かな地上の光のみ。他、真下を見ればボイドがあり、地表に点在するのは邪紳族の城や砦。地上と天蓋の距離は1Kmに達するため、フィールドを跋扈する邪紳の姿は確認できない。

 そして視線を下から上に向ければ、無数の根っこに抱え込まれるようにしている薄青い氷塊。根っこの正体は地上に屹立する世界樹の根であり、薄青い氷塊こそが今回キリハ達が目指す『空中迷宮』だ。基部は1辺300m、全長も同等くらいはあるだろう。そしてその最下層に、エクスカリバーが封印されている。

 それらの光景に、初めて来た面子(キリハ、キリアスユイ、リーファ、クライン以外)が感銘の声をあげている。その気持ちは大変分かると思いながら、アスカは滑らかにスペルワードを唱えた。HPゲージの下に小さなアイコンが点灯する。凍結耐性を上昇させる支援魔法(バフ)だ。

 それを確認したリーファは右手の指を口に当て、高く口笛を吹き鳴らす。数秒後、風に乗って象のような啼き声が遠くから響いてきた。目を凝らせばボイドの暗闇を背景に、白い影が上昇してくるのが見える。饅頭のような真っ白な体から生える四対の羽と多数の触手、そして象のような顔。言わずもがなトンキーである。

 

「トンキーさーーーん!!」

 

 キリトの頭の上から、ユイが精いっぱいの声を上げながら手を大きく振る。それに応えるようにトンキーはもう一度啼いた。力強く羽ばたき、螺旋状を描いて上昇してくる。その姿は近づくにつれて巨大化し、初対面の面々が少し後ずさった。

 

「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。敵対しなければ優しい子ですから」

 

「なんで怖がるかなー?こんなに可愛いのに」

 

 苦笑したキリハと若干不満げなリーファがトンキーを優しく撫でていると、キリトが首を傾げた。

 

「可愛い…?いや確かに遠目で見れば分からなくはないが…最近、妹の趣味が分からん…」

 

「デカい魚を一口で食べたトンキーを見ても可愛いって言ってたなぁ…」

 

 軽くドン引きしたり、敵対したらどうなるんだろうと初対面の面子が不安げにしていると、トンキーが象のような鼻を伸ばす。その対象はシリカだった。

 

「うわぁ!え、何です…あ、結構ふさふさ…」

 

 包まれたシリカは一瞬恐怖に顔が歪んだが、すぐにリラックスしたような表情になった。動物好きの彼女らしい。なお、頭の上でピナが軽くトンキーに威嚇していることを記述しておく。

 

「乗れって言ってるんですよ」

 

「そうなんですか?えっと、じゃあ失礼します」

 

 見た目ほど怖くはないことが分かったのか、シリカはトンキーの上に遠慮がちに飛び乗った。それに満足気に頷いたリーファが慣れたように飛び乗り、レコン、リズ、キリト、アスカ、クラインが続く。そしてクリスハイトが飛び乗ろうと跳躍して─キリハは、言い忘れてましたがと、口を開く。

 

「彼に乗れる人数は1パーティ分だけです」

 

『『はっ?』』

 

「ちょ、先に言ってぶはっ!?」

 

 ぎょっとした表情をしたクリスハイトは、見えない壁にぶつかったように弾かれた。幸いにも弾かれた先は今キリハ達がいる場所だったので落ちることは無かったが、顔面で着地したので痛そうだ。

 

「…じゃあどうするつもり?」

 

 そんな状態のクリスハイトを無視して、アレンが首を傾げながらそう問うた。

 

「大丈夫大丈夫。ちゃんと方法はあるから。ね、キリハ」

 

「もちろんです。でなければ呼びませんよ」

 

「先に僕の心配をしてくれていいんじゃないかな…」

 

 クリスハイトの言葉を全スルー、トンキーに「よろしくお願いします」と頼み込む。するとトンキーは、先程よりも高く啼き声を上げた。先の2回とは違う、まるで何かを呼ぶような啼き声。

 一体何を。その答えは、遠くから聞こえてきた新たな啼き声。象のようなモノではなく、まるで肉食獣のような咆哮だった。

 

「お、今日はあいつか」

 

 キリトがそう言ってボイドの方に目を向ければ、何かが近づいてくるのが見える。それは、ぱっと見で言えば羽の生えた虎だ。もう少し詳しく説明するのならば、二対の鳥のような巨大な翼、六対の脚、成人男性でやっと抱え込めるだろう程に太い尾、そして二つある虎の顔。

 この《ヨツンヘイム》にポップする邪神には大きくわけて2種類存在する。1つは人型邪神。そして、そんな人型邪神と敵対するトンキーのような異形型邪神。

 先程トンキーが呼んだこの虎のような邪神は、彼の同胞だ。トンキーがいれば、異形型邪神に襲われることはない。無論、こちらから攻撃を仕掛けた場合や、トンキーがいない時は別だが。

 通常はトンキーのみなのだが、1PTを超える人数がいると同胞を呼んでくれるのだ。この時、呼ばれる同胞はランダム。トンキーの同族もあるし、今回来てくれた虎、他にも鰐のような邪紳や鳥のようなものもいる。なお、以前と同じ種族が呼ばれたかと言って、同一個体かどうかは分からない。トンキーとは異なり、簡単なアクションしかしてくれないので。そのため名前を付けたのはトンキーだけだ。リーファは他にも名前を付けたがっていたが、同一個体かどうか分からないのに名前を付けるのはどうなのか、と説得(主にキリトが)した。

 上記のような説明をしていると、虎はトンキーの隣まで飛んできた。虎の顔をしているということもあり、残っている面子は先程よりも後ずさる。まぁ初見はそうなるよなと思いつつ、キリハはストレージから巨大な生肉を二つ取り出し、虎に向かって放り投げた。それぞれの首が肉をキャッチ、咀嚼している彼らの鼻を撫でる。

 

「では、今日はよろしくお願いします」

 

 そう言ってキリハは背中に飛び乗る。そして残っている面々に、どうぞと視線を飛ばした。

 最初に乗ったのはアレン。彼が振り向けば、シノンが腹をくくったような瞳で跳躍、アレンの近くに着地する。続いてケイタとサチ、クリスハイトが乗り、最後に一撫でしたコウが乗る。

 全員が全長10m級の邪紳に乗ったことを確認したリーファが声をあげる。

 

「よーし二人とも!ダンジョンの入り口までお願い!」

 

 トンキーは鼻を持ち上げて啼き、虎はグルルと了承するように啼く。そしてそれぞれ翼をゆっくりと羽ばたかせた。

 向かうは世界樹の根に抱え込まれている逆ピラミッド型のダンジョン。今日こそは手に入れてやると、キリトは心底思うのであった。




 誤字脱字・可笑しな表現等がありましたら、ご報告お願いします!
 あと感想もぜひお待ちしております!!


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湖の嬢王

 はい。三か月もお待たせしてしまい申し訳ございませんでした!! 単純に書く意欲が無くなっていました。


 キリハ達がトンキーを含めた飛行型邪紳に乗らせて貰ったのは、単なる遊びも含めれば、もう何度目にもなる。そしてその度に思っていたことがある。それは─

 

「─ねぇ、これ落ちたらどうなるの?」

 

 不安そうに言ったのはサチだ。同時に、誰もが思っていたことでもある。

 ALOでは優秀な物理エンジンプログラムが組み込まれている。そのため、着地方次第やスキル値次第ではあるが10mほどならばノーダメージでいけなくはない。逆に言えば、どれだけステータスが高くても下手な着地をすれば、同じ高さから落ちたらダメージを受ける。そしてどんなにバフを持ったり衝撃を逃がす着地をしたとしても、40mの高さから落ちれば確実に死ぬ。

 現在の高度は凡そ1千m付近。ここから落ちて地面に激突すれば死ぬことは確実だが、サチが聞きたいのはそういうことでは無いだろう。故にキリハはこう答える。

 

「安心してください。たとえ落ちたとしても、トンキーは助けてくれますから」

 

 それを聞いた面々はホッと安心したように息を吐くと同時に、何故知っているんだ?と疑問に思った。答えは簡単だ。

 

「クラインが足滑らせたんだよ」

 

「おう、肝を冷やしたぜ」

 

笑いながらキリトの言葉を肯定したクラインだったが、肝を冷やしたのは落ちた彼を見ていた面々もだった。他人が目の前で超高度から落ちるのを見るのは怖い。

 

「…あれ?今、トンキー()って言いました?」

 

 レコンがそう問いかけると、キリハはニッコリと笑みを浮かべただけで、何も言わなかった。キリトとリーファは顔を背け、アスカとコウは苦笑い、クラインは下手な口笛を吹いている。そしてユイはといえば。

 

「ハイ!レコンさんの言う通りです!トンキーさんなど一部の方々は助けてくれますが、それ以外の方はそのまま落ちます!」

 

 元気にそんなことを言い、レコンの言葉を肯定した。それを聞いた面々は一人残らず頬を引きつらせ、アレンですら少し顔を青ざめさせる。楽しそうにしているのは先頭に座っている『速度狂(スピード・ホリック)』のリーファと、彼女の頭上に座っているユイ、そしてシリカに抱かれているピナくらいだろう。

 そんなやり取りをしている間にもトンキーと虎は翼をはためかせて、ゆっくりと空中を飛んでいる。向かう先は、空中ダンジョンの上部側面に設けられた入り口のテラス。何事もなければ、このまま安全運転のまま向かってくれるのだが。

 と、そんなことを誰かが考えたのがフラグだったのか。突如として異形型邪紳の2体は翼を折りたたみ、急激なダイブを始めた。

 

「「「うおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!???」」」

「「「うわああぁぁぁぁぁぁあああ!!!???」」」

「…」

 

 という男共の絶好(一人だけ無表情無言だが)。

 

「「「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁあああ!!!???」」」」」」

 

 と(一部除く)女性陣の甲高い悲鳴。

 

「やっほーーーーーう!!!」

「楽しいですねぇ」

「はは!!これは良いな!!」

 

 と心底楽しそうにしている笑顔で腕を挙げる《スピード・ホリック》のリーファと、同じく《スピード・ホリック》の疑いが掛かっているキリハとキリト。

 広い背に密集している毛を両手で必死に掴み、風圧に耐える。ほとんど垂直と言っていい角度で遥か下にあった地面が急速に近づいてくる。

 それを楽しみながら、しかし突然どうしたのだろうとキリハは考える。今まで何度も乗せてもらったが、木の根の階段から一定コースを緩やかに巡回していただけだったのだが。どうやらトンキーらはボイドの南淵辺りを目財しているらしい。そこは、リーファとアスカがトンキーを守るために、邪紳狩りPTと一戦交えた場所である、と以前に聞いた。

 そんなことを考えているとトンキーらは翼を広げ、急ブレーキをかけた。その結果として急激なGが襲い掛かり、速度狂の姉妹を除いた全員がべたっと背中に張り付く。ここを目指して飛んでいただけであり、キリハ達を落とす気はなかったらしい。

 自分達が無事なことにホッとしている面々を横目に見つつ、キリハは地上を見下ろす。高度は50mを切っているようで、上空からは高縮尺な航空写真のようだった地上がはっきりと見えた。鋭い氷柱をぶら下げた枯れ木、凍り付いた湖や川、そして─邪紳狩りのPT。

 

「「…は?」」

「…え!?」

 

 困惑したように声を発したのは、キリハ達姉妹だ。見つめている先は、象水母のような邪紳を狩っているレイドPT。トンキーが悲しげに啼き、双頭の虎もまた小さく啼く。

 それ自体は特に珍しいことではない。このニブルヘイムにいるPL達の目的のほとんどは邪紳狩りだから。また、トンキーの同族が狩られていることに怒りを抱いているわけでもない。悲しくは思うが、それはトンキーと友達になったキリハ達の都合であり、他のPL達にそんなことは関係がないからだ。では何故、キリハ達は困惑しているのか。

 

「ちょっとちょっと!どうなってんのよあれ!?」

 

 リズがその光景を見て、絶句している全員の声を代弁した。そう叫びたくもなるだろう。何故なら象水母を攻撃しているのは30人のPLだけでなく、()()()()()()()()()一緒()()()って()()()()()()()()()()()()()()P()L()()()()()()()()()

 

「あれは…誰かがあの人型邪紳をテイムしたのかい?」

 

「それはありえません」

 

「そうです!たとえ最大スキル値に専用装備でフルブーストしたとしても、邪紳級モンスターのテイム成功率はゼロパーセントです!」

 

 クリスハイトの呟きをレコンが食い気味に否定し、シリカが理由と共にそう答えた。

 

「…便乗してる?」

 

「あの巨人型邪紳の攻撃に乗っかってるってこと?」

 

「そんな都合よくヘイト管理ができるわけないんだけどなぁ…」

 

 心底不思議そうに首を傾げるアレン。彼の言葉を翻訳するシノン。納得いかなそうに呻くアスカ。

 邪紳級に限らない話ではあるが、通常ならばあれだけの至近距離で攻撃魔法やスキルを放っていれば、例えダメージを与えていなくても、人型邪紳のヘイトがPLに向いてもおかしくはないはずだ。

 誰も状況を理解できずに見ていると、ついに象水母の巨体が地響きを立てて雪原に横たわった。そこに人型邪紳の巨剣とPLの大型魔法が襲い掛かり─

 

「ひゅるるるぅ…」

 

─象水母は断末魔の悲鳴と膨大なポリゴンをまき散らして、その体を四散させた。トンキーらが再び悲し気に啼く。一番トンキーに感情移入しているリーファが肩を震わせ、女性陣も眉を顰めた。

 誰も声をかけられずに眼下を眺めていると、更に驚愕することを目にする。

 四つ腕巨人とPL達はそれぞれが勝利の雄たけびを上げると、両者はそのまま()()()()()()()()()()()()

 

「な…んで戦闘になってないんだ!?」

 

「あっ!皆、あっち!」

 

 掠れ声で呻いたケイタの横で、何かに気づいたサチがある方向を指す。全員がそちらに視線を向けると、大規模スペルとスキルのエフェクトが見えた。先程の光景と同じように、攻撃されているのはトンキーの同胞であろう多脚の鰐のような邪紳であり、攻撃しているのは多数のPLと二体の人型邪紳。

 少し遠くを見れば、似たようなことが起きている。共通しているのは異形型邪紳を、PLと人型邪紳が協力して攻撃していることだ。

 

「これ…一体何が起こってるんだ…」

 

 呆然としたケイタの声に、コウが呟く。

 

「もしかしてだけど、さっき言っていたスローター系のクエストがこれなんじゃないかい?」

 

「人型邪紳と協力して、異形型邪紳を殲滅する…ですか」

 

 表情を顰めて、キリハが小さく続けた。

 その可能性は高い。クエスト中ならば、特定のmobと共闘状態になることはあるからだ。だがそうだとしても、その報酬が《聖剣エクスキャリバー》だという意味が分からない。あれは空中ダンジョンの最奥に封印されており、人型邪紳を倒さなければ手に入れられないもののはずだ。

 誰もがその疑問を浮かべていると、不意にキリハを含む何人かが後方へと振り向いた。全員が何事かと続けば、トンキーの後方に光の粒が集まっている。それは音もなく凝縮していき、やがて人影を形どった。ローブ風の衣装を着込み、背中から足元まで流れる金色の長髪を持つ、女性だった。

 その人物を見た者達は皆、唖然とした。それは、優雅かつ超然とした美貌を持っていることもあるだろう。だが何よりもその反応をした理由は、その女性が()()()()()からだ。女性の身の丈は、少なく見積もっても3mはあるだろう。

 

「私はウルズ。《湖の女王》と言われています」

 

 固まっているキリハ達に気分を害した様子もなく、その女性─ウルズは自身の名を名乗った。その声もまた、PLとは一線を画す、荘重なエフェクトを帯びていた。

 

「我らが眷属と絆を結びし妖精達よ。そなたらに、私と2人の妹から一つの請願があります。どうかこの国を、『霜の巨人族』から救ってほしい」

 

 そして、ウルズはそう続けた。眷属、というのがトンキーと虎を指していることは明白だ。よく見ればウルズと名乗った者が、完全なヒトではないことに気づく。髪の先は触手のようにうねり、僅かに見える素肌には鱗のようなモノが付いている。本来は異形の姿を持つモノが、仮初の姿として人型になっていると考えていいだろう。

 そもそもこのウルズとやらは、システム的に何なのか。カーソルが出ないのでPLではないことは確実だ。しかし無害なイベントNPCなのか、罠に嵌めようとしている敵対NPCなのか、はたまたGMが直k説動かしているアバターなのか、その判断が付かない。

 するとユイがキリトの左肩に乗り、囁くように喋り始める。

 

「ママ、あの人はNPCです。でも少し妙です。通常NPCのように固定応答プログラムではなく、コアプログラムに近い言語エンジン・モジュールに接続されています」

 

 キリトはユイの言葉に、声を出さずに軽く驚愕する。ユイの言葉を簡単に表せば、ウルズはAI化されているということになるからだ。それが何を示すのか、思考する間もなく、ウルズは話を続ける。

 

 《ヨツンヘイム》はかつて、地上と同じく世界樹(イグドラシル)の恩寵を受け、美しい水と緑で覆われており、彼女達《丘の巨人族》と眷属達は、ここで穏やかに暮らしていたのだと。

 しかし、更に下層に存在する氷の国《ニブルヘイム》より、霜の巨人族の王『スリュム』が狼に変装し、この国に忍び込んだ。彼の王は、鍛冶の神『ヴェルンド』が鍛えたエクスキャリバーを《ウルズの泉》に投げ入れ、世界樹の最も大切な根を断ち切った。それにより世界樹の恩寵は失われてしまった。

 そしてスリュムの率いた霜の巨人族は大挙して攻め込み、城や砦を築き、丘の巨人族を幽閉した。スリュムは元々《ウルズの泉》だった巨氷に居城《スリュムヘイム》を築き、この地を支配した。ウルズと妹達は凍り付いた泉の奥へと逃げのびたが、力の大半を失ってしまった。それに飽きたらないスリュムは、この地で生き延びている眷属をも皆殺しにしようとしていると。

 

「眷属がいなくなってしまえば私の力は完全に失われ、スリュムヘイムはアルブヘイムまで浮き上がらせるでしょう」

 

「そ、そんなことをしたらアルンが壊れてしまいます!?」

 

 たまらずレコンが叫ぶ。ウルズは彼の言葉に頷くと、続ける。

 

「彼の王の目的はアルブヘイムまでもを氷雪に閉ざし、世界樹の梢まで攻めあがること。そこに実っている、《黄金の林檎》を手に入れるために」

 

 更にウルズは話を続ける。

 中々滅ぼせないことにいら立ったスリュムは、とうとうPLの手を借りることにした。エクスキャリバーという餌をぶら下げて。

 しかしスリュムがそれを手放すことはない。彼の聖剣が台座から抜かれれば、再び世界樹の恩寵がこの地に戻るからだ。

 報酬として与えるのは《偽剣カリバーン》だろうと。充分に協力ではあるが、聖剣には全く届かない剣を。

 

「しかしスリュムは一つの過ちを犯しました。眷属を滅ぼすことを焦るあまり、配下のほとんどを妖精達に協力させるために地上へ降ろしたのです。スリュムヘイムは今、かつてないほどに護りが薄くなっています」

 

 ここまで来れば、ウルズからの請願を全員が悟った。そしてウルズは空中ダンジョン─スリュムヘイムに腕を差し伸べ、言った。

 

「妖精達よ、スリュムヘイムへと侵入し、エクスキャリバーを《要の台座》より引き抜いてください」

 

 それは彼女達の願いであり、依頼であり、女王からの命令であった。




ここまで見ていただきありがとうございました。誤字脱字・可笑しな表現がありましたらご報告お願いします。
 また質問があったら活動報告にて質問箱を用意してありますので、そちらまでお願いします。


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コラボ作品 天野刹那様
今度は現実世界で勝負!! 和葉VS皐月


※この話はコラボです。
この時間軸では和葉と皐月は会っている設定です。詳しく知りたい方は『天野刹那』さんの《SAO ~蒼き鋼と呼ばれた英雄~》をご覧ください。

皐月「おっじゃましま~す」
いらっしゃ~い、和葉ならもう準備してるよ
皐月「OK」


現実世界

 

 和葉は桐ヶ谷家にある剣道場(格闘場)胡座(あぐら)をし、その上に鞘付木刀を置き瞑想をしていた。因みに翠は仕事に、明日香と佳奈はデートに、直葉は剣道に、浩一郎は大学に行っているため、いない。

 突然、和葉はピクリと何かに反応し、目を開けた。

 

「来ましたか」

 

 薄く笑いながら立ち上がる。すると和葉の目の前が激しい光に包まれた。しばらくして光がおさまると、目の前には和葉と同じくらいの少女が現れた。その少女に声をかける。

 

「久しぶりですね、サツキ」

 

「久しぶりだね、キリハ」

 

 サツキと呼ばれた少女は挨拶を返す。どうやらこの二人は会ったことがあるらしい。

 

「それにしても、相変わらず少女にしか見えない容姿してますねぇ」

 

「うるさいな!!ほっとけよ!!」

 

 これは驚いた。サツキと呼ばれた人物は少女ではなく少年のようだ。よくにいう男の娘である。恐らく、一目で男の娘と見抜ける人物はそうそういないのではないだろうか。翠は見抜けそうだが。

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前は小野寺 皐月(おのでら さつき)、改めてよろしく」

 

「桐ヶ谷 和葉です。こちらこそよろしくお願いします」

 

 和葉が自己紹介をすると、皐月が怪訝な顔をした。

 

「桐ヶ谷?それって和人と同じ苗字じゃないか」

 

「和人?知らない名前ですね。僕には妹が二人と両親しか家族はいませんよ?」

 

「もしかしなくても、その妹の一人って直葉?」

 

「知っているのですか?」

 

()()()()()()にもいるんだよ。因みに和人は直葉の兄ね」

 

「なるほど。まぁ、もうこの話はいいでしょう。()()()()()()()()ならこんなこともありますよ」

 

 どうやら皐月は違う世界、つまりパラレルワールドから来たらしい。そしてこの様子だと和葉はパラレルワールドの存在を知っていたようだ。

 

「ていうか、よく僕が来ることわかったね」

 

「まぁそもそもこの話事態、作sy「それ以上はいけない」」

 

 

 軽くメタ発言が出てきたが閑話休題(それはともかく)

 

 

「さて、そろそろ遊び(闘い)を始めm「待ってちょっと待って、今遊びと書いて闘いって読まなかった?ていうか遊びなのかそれ?」僕らの中では遊びに入ります。そんなことより武器何にします?」

 

「何事もなく始めようとする和葉ぇ…。そして物騒だな…。片手剣ある?」

 

「近いのならありますけど、それで良いですか?」

 

「良いよ」

 

 そのまま続ける皐月も皐月だと思うが…。

 

 

 

 和葉は鞘付木刀、皐月は片手剣に近い木刀、それぞれの得物を持って向かい合い、和葉がコインを持っている。

 

「このコインを弾いて床に落ちたらスタート、でよろしいですか?」

 

「OK」

 

「では」

 

 和葉がコインを弾いた、直後、二人の雰囲気がガラリと変わり、殺気を全開にした。証拠に先程まで庭にいた小鳥が慌てながら飛び立っていく。

 コインが宙にある間に二人はそれぞれ構えをとる。そしてコインが床に落ちた瞬間、風を切る音、間髪入れず打撃音が聞こえた。そこにはつばぜり合いをしている二人の姿があった。

 

(ぐっ…!なんてパワーだよ…!)

 

 皐月は、見た目に反して和葉の力が強いことに驚愕していた。何しろ男である皐月が両手で木刀を押しているのに対し、女である和葉は片手で木刀を押しているのだ。だが和葉の力の強さは一瞬のことだ。和葉は居合の速度で力を上乗せしたにすぎない。だからすぐに和葉は左に受け流した。そのせいで体重をかけていた皐月のバランスが崩れる。和葉は一度鞘に戻し、そのまま時計回りで斬る。皐月はバランスが崩れてもなお木刀を立て防御する。今度は全力で防御をしたので勢いが止まり、体制もその勢いで直った。。それを好機と見た皐月は力任せに上に振り払い、その勢いのまま回転斬りを行う。

 

(貰ったっ…!!)

 

 木刀を持っている手は上にあり、鞘を持っている手は防御に間に合わない。和葉に防ぐ術はない─

 

「まさか、貰ったなんて思ってないですよね?」

 

─はずだった。いや、確かに防いではいない、が当たらなかった。簡単なことだ。後ろに下がって回避しただけのこと。防御が出来ないなら避ければ良い。それは分かる、分かるが…

 

(今のを避けるのかよ!!?)

 

 皐月の振るった木刀は一般人が目で追える速度を軽く越えていた。それを和葉は避けたのだ。和葉にとって見えにくいはずの左から攻撃したにも関わらず、だ。

 

「相手の武器を弾き死角と思われる所から狙う、その戦法は間違っていませんよ。

ですが、自らの死角をそのままにしておくわけありませんよね?」

 

 不敵に微笑む和葉。目が見えない人は、聴覚、嗅覚などの視覚以外の感覚が鋭くなるという。和葉は左目が見えていない。故に、左側の感覚は右側以上に鋭くなった。皐月の攻撃を避けれたのは耳で風切り音を察知したのだ。

 

(んな滅茶苦茶な…。いくら感覚が鋭いからってそれだけで避けるとか超人の域だろそれ…。だけど─)

 

「─だからこそ燃えるってもんだよなぁ!!」

 

 ここにきて皐月のスイッチが入った。そして、和葉の目の前から皐月が消える。

 

「っ!!」

 

 後ろから風切り音が聞こえた和葉はしゃがむ。がそれを予測していた皐月は切り下ろしをする。だが、和葉もまたそれを予測しており前方へ回避し、皐月に向き直る。その顔にはほんの少し汗が滲んでいる。

 

「なるほど、スイッチが入ると劇的に戦闘力が上がるということですか…。冷や汗が出ましたよ…」

 

「やっと和葉を驚かせることが出来たか、そりゃあよかった」

 

 和葉を驚愕させたことがよほど嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべている。

 正直予想外だった。確かに自分が窮地に陥ったら戦闘力が上がる者もいる。だが、ここまで劇的に変化した者を和葉は見たことが無かった。先程までは優勢だったのにたったあれだけの攻防で劣勢になってしまった。普通に考えれば、もし皐月の強さが闘いが終わるまで変わらないなら和葉は負けるだろう。

 だが忘れてはいけない。和葉もまた、相手が強ければ強いほど燃える戦闘症(バトルジャンキー)であり、狂戦士(バーサーカー)であることを─

 

「─あははははははは!!そうですよねぇ!!そうでなくては面白くありませんよねぇ!!」

 

 突然笑い出す和葉。それを不気味に見る皐月。笑い終わった和葉はニィっと口元に弧を描いた。次の瞬間、皐月の目の前に和葉の顔があった。反射的に木刀を右へ振るう皐月。そのすぐ後に右手に走る今までよりも強い衝撃。皐月は、先程和葉がしたように左へ受け流し、回転斬りを行う。和葉はそれを鞘で防御する。

 そこからは激しい攻防戦になった。いや、攻撃の打ち合いが始まった、と言うべきか。そこには防御という動作が存在しなかった。どちらかが攻撃をすればそれに合わせ攻撃をする。木刀だけではらちがあかないと体術を入れれば、相手もまた体術を使い相殺する。投げようとすれば投げられる間に攻撃をする。

 

 互いに一撃も攻撃を決めることなく、闘いが始まってから十分が経過した。そして、遂に決着がつく。

 次の一撃で決めようとする二人は自身の持つ最大の力を使って木刀を振るった。そして木刀同士が打ち合った瞬間

 

─バキン─

 

 音を立てて互いの木刀が折れた。二人は得物を振るった状態で静止する。

 

「ん?おや、木刀が折れてしまいましたね」

 

「んあ?あ、ホントだ」

 

 動き出したと思ったら木刀が折れたことに今気づいたようだ。音が鳴った時点で気づけよお前ら。

 

「これは、つまり…」

 

「引き分け、ってことだよな…」

 

 二人は顔を見合わせ

 

「「とてつもない不完全燃焼で(終わりましたね/終わったな)…」」

 

 同時に同じ言葉を言い、溜息をついた。

 

 

 折れた木刀は和葉が処分するそうだ。皐月は木刀が折れたことに対し謝ろうとしたのだが、和葉曰く

 

「別に問題ありませんよ。模擬戦をやっていると木刀が折れることなんて日常茶飯事ですし」

 

 だそうだ。これを聞いたとき、皐月は思った。

 

─この世界の桐ヶ谷家怖い…。和葉の強さが分かった気がする…─

 

と。

 

 

 木刀は後で処分するようのでとりあえず放置しておき、二人は雑談をしたり、皐月に桐ヶ谷家の移動方法を教えたりしていると、突如前触れもなく皐月の体から光の粒子の様な物が流れ出した。

 

「どうやらお別れのようですね」

 

「そのようだな」

 

 二人は立ち上がり握手をした。

 

「君との闘いはとても楽しかったです」

 

「あぁ、僕もさ」

 

 微笑み合う二人。皐月の体が消える寸前まで来たとき、二人は同じ言葉を言った。

 

「「また縁があったら」」

 

 その言葉を最後に皐月は完全に消えた。そこに先程まで皐月がいた痕跡はない。だが、皐月は確かにここにいた。和葉は折れた二つの木刀を手にとる。

 

(処分なんてするわけないじゃないですか)

 

 何故なら、これが無ければ皐月のいた証拠が何も無くなってしまう。だから、和葉は最初から自分の部屋に保存するつもりだった。この出来事が夢だと思わないように、この出来事を忘れないように…。

 

「「ただいまー」」

 

「「お邪魔します」」

 

 妹二人の声と男二人の声が聞こえてきた。三組とも行き先はバラバラだったはずなのだが、どこかでバッタリ会ったのだろう。いつものことだ。

 

「って姉さん?なんで木刀が二本も折れてるんだ?」

 

「あれ?ホントだ。翠さんと模擬戦でもしたの?」

 

「でも確か、お母さんは仕事で出かけてたような…」

 

「じゃあ誰とやったんだ?」

 

 剣道場にひょっこりと顔を出した四人は佳奈、浩一郎、直葉、明日香の順でそんなことを言った。

 

「秘密です」

 

 和葉は指を口に当て、笑みを浮かべながらそう答えた。和葉はこのことを誰にも言うつもりはない。もしかしたら浩一郎には言うかもしれないが、少なくとも今は…。

 

(皐月、辛いことや悲しいことは少なからずあります。けれど、貴方は一人ではありません。それを忘れなければ乗り越えて行けるでしょう。

だから僕は、こちらの世界から皐月とその周囲の方々に幸せが訪れますよう、願っています。そして─)

 

─また逢いましょう。そして今度こそ決着をつけましょう─

 

 和葉は空を見上げながらそう思った。




ここまで見ていただきありがとうございました!!そして、コラボしていただいた天野刹那さん、本当にありがとうございます!!
和葉「僕からもお礼を言わせてください。こんな駄作者とコラボしていただきありがとうございます」
駄作者言うなし

皐月の口調あってます?それがものすごく不安です。間違ってたらごめんなさい
和葉「間違ってたら斬ります」
ですよね~


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