とある武偵の未元物質 (victory)
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新たな武偵
第一弾  不可解な目覚め


ふとやりたくなりましたので始めます。
更新ペースはまちまちです・・・週に一話は更新出来るようには考えていますが・・・

ちなみに禁書は新訳は読んでないので悪しからずご了承ください



ーー似合わねェな、メルヘン野郎

 

 

 

ーー心配するな。自覚はある。

 

 

ーーオーケー。クソと一緒に埋めてやる。

 

 

ーー俺の【未元物質(ダークマター)】に常識は通用しねぇ!

 

 

ーー三下だな。美学が足りねェからそんな台詞しか出てこねェんだよ、オマエは

 

ーーそもそも俺とお前がどォーして第一位と第二位に分けられてるか知ってるか

 

    その間に、絶対的な壁があるからだ

 

ーームカついたかよ、チンピラ。これが悪党だ。

 

 

ーーyjkp悪wp

 

 

ーーそうか。・・・そういう事か!テメェの役割は・・・!

 

 

 

「・・・ちっ、最悪だな」

 

少し長めの茶髪の髪にホスト風の顔立ちとも形容される端正な顔を持つ少年、【垣根帝督】は開口一番そう呟いた。

 

 

ホント最悪だな・・・

思い返す事すら忌ま忌ましいあの出来事を夢にまで見るとは・・・

 

あの日、俺は【アレイスター】との直接交渉権を得る為に【一方通行(アクセラレータ)】と戦い、そして敗れた。

 

抜かりはなかった筈なのにな・・・

【ピンセット】の回収、未元物質による一方通行の攻略までは上手くいっていた。だが、上手くいったのはそこまでだ。それから先は、一方通行による未元物質の攻略、一方通行から発生した黒い翼・・・それを見て未元物質のなんたるかを理解したものの、最後は押し迫る黒い奔流に飲み込まれた・・・

 

「・・・っつーか、ここどこだ?」

 

忌ま忌ましい記憶に苛立つ気持ちを抑え、垣根帝督はベッドから身を起こし周囲を見渡す。

 

彼がいるのは白を基調としたこじんまりとした簡素な部屋だ。

そのこじんまりとした部屋にあるのは、小さな窓、白いカーテン、椅子と棚・・・そして彼が今使用しているベッドのみ・・・

 

それらの視覚情報からここがどこかの学区の医療施設ないしは病室かなんかだろうと結論付ける。

 

 

「・・・いや、待て」

 

そう結論付けたもののどうも腑に落ちない。

 

 

今更だが、俺は何故無事でいる?

 

 

あの時、俺は一方通行に敗れた。

文字通り一方的に叩きのめされた・・・押し迫る黒い奔流に飲み込まれた際に聞こえたのは俺の身体が潰れる音。死を予期した筈だ。

あの忌ま忌ましい出来事を夢に見る状況すら訪れない筈だ。                     

 

身体を動かしてみるとやや軽い痛みはあるものの、なんの支障もなく動いている。

得に目新しい傷はついていない。

 

待て待て!?可笑しいだろ!?

確かに学園都市には【冥土返し(ヘウ゛ンキャンセラー)】っていうブラックジャックも真っ青な凄腕の医者がいるって話だが・・・そんな奴でも出来る事と出来ねぇ事があるはずだ!科学の世界にも不可能という言葉は必ず存在するもんだ!

 

一命を取り留めた俺を仮に冥土返しが執刀していたとしても『手術痕もなく、潰れた身体を何事もなかったかのように元に戻す』

なんて事出来る訳がねぇ!!

 

ならどうして!?何故!?

 

今の状況を理解しようとするが、理解出来ないものは理解出来ない。情報が全くない。記憶も曖昧な部分が多い。

理解出来たのは、ここがどこかの病室である事と自分が生きているという事実のみ。

 

「ちっ、まぁいい。後で裏の連中に問い詰めりゃ分かるこったな」

 

はっ、俺とした事がこんな事で取り乱すなんて情けねぇ・・・

 

なんて事を考えながら今出来る事を行う為に俺は視覚情報以外の情報を得る為に未元物質を発動させる。

いつものように発動する自身の能力に僅かばかりだが、安堵する。

 

能力が発動し、周囲の状況を探りに取り掛かる。

 

だが、どうもおかしい・・・

能力は発動しているが、演算の乱れに加え妙なノイズが生じている。また、形容しがたい違和感を感じる。

学園都市らしからぬ雰囲気を感知している。まるで、学園都市とは違う地にいる、そんな気に陥ってしまうような奇妙な感覚だ。

 

 

「はっ、情けねぇ」

 

病み上がりの影響かなにかだろうと思い、学園都市に存在する能力者の中で7人しかいない超能力者の第二位として君臨し続けてきた、絶対的な自信を持っていた俺の思いも寄らぬ不甲斐なさに思わずそんな言葉が零れてしまう。

 

  

しかし、いつ他人が来るか分からないこの場で目立つ事をするのはどうかと考え直し、能力を解除し、ふと気になったことを思い出した。

 

「そういや・・・あれからどの位たった?」

 

 

あの日・・・アレイスターとの直接交渉権を得る為の一件、つまりは一方通行に敗れたあの日からどの位たったのか・・・

 

それを確認する為、俺は先程周囲を確認する際に壁に電子式カレンダーがあるのは確認していたので、改めてそちらを見てみる。

 

目を寄越した電子式カレンダーにはこう表示されていた。

 

『2009年4月8日』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・どういう事だ、オイ」

 

そんな言葉しか出て来ない。

垣根帝督に吐き気と動悸が襲いかかる。

 

「・・・・・・どういう事だ、オイ!!」

 

二度も同じ言葉が出てしまうが、それほど垣根帝督は動揺していた。先程不可解な自身のおかれた状況に動揺した際とは比べものにならない程。

 

 

どういう事だ、オイ・・・

洒落になんねぇし、笑えねぇぞ!!

俺が一方通行と殺りあったのは10月だぞ!?

それが・・・今が4月!?馬鹿いうな!?

ありえねぇだろ!!

 

垣根帝督が一方通行に敗北を喫したのは10月9日。

そして電子式カレンダーに表示されている現在の日付は4月8日。

4月と10月・・・半年近くの期間の差がある。だが、彼が動揺しているのはそこではない。半年近く眠っていた訳ではない。なら、何に彼は動揺したのか?

 

問題なのは垣根帝督が一方通行に敗れた日が『2009年10月9日』であり、電子式カレンダーに表示されている現在の日付が『2009年4月8日』である事だ。

この事が意味する事、それは垣根には受け入れがたい事だ。いや、垣根でなくともだ。

 

「俺の記憶違いか・・・!?いやいや、んな訳ねぇ!?

あの一件は学園都市の独立記念日に行ったのは間違いねぇ!!」

 

だが、手術やら入退院やらでスケジュール管理が徹底されている医療施設が間違った表示のカレンダーを置くか!?置かねぇだろ!?

 

落ちつけ!落ちいて考えろ!冷静さを失うな!!

クール、クールな俺に戻れ!

                                                                                               

 

そう自身に言い聞かせるが、こればかりは落ち着いてはいられない。

 

「どういう事だ、オイ!!」

 

理解出来ない状況が重なり苛立ちから声をあげ、怒鳴り散らしながら近くにあったごみ箱を蹴り飛ばす。

 

ゴン!!

 

とごみ箱は壁に当たると少量だが、中に入っていた紙ぐずやら何やらを零しながら床を転がる。

 

「はっ」

 

転がるごみ箱を見て垣根は自嘲気味に笑う。

 

訳わかんねぇからって物にあたるなんてただのガキじゃねーか。違うだろ・・・垣根帝督って人間はそんな奴じゃねーだろ・・・ガキなんて生易しいもんじゃ・・・

 

等と理解出来ない自分の状況に苛立ちは感じるものの幾分か冷静さを取り戻すと、ふと病室の外からこちらに近づく足音が聞こえてくる事に気付いた。

 

っべーな、大方、さっきのごみ箱を蹴り飛ばした時の音か怒鳴り声に誰かが気付いたって所か?

 

そうこうするうちに扉の前で足音は止まり数回のノックと共にこちらの返事を聞くまでもなく扉は開かれた。

 

 

 

「病室で騒ぐとか暴れるとかあんた、馬鹿なの?常識がないの?どっちなの?」

 

見た目20代前半~30代前のやや危うい雰囲気を漂わせた女性は開口一番そう言い放つのであった。

 

 

この女性との出会いが後に垣根の人生の分岐点になることになるのだが、この時の垣根にはまだ、知るよしもなかった。

 

続く




垣根帝督が好きなので、やっちゃいました・・・

禁書目録はアレイスターが60年前云々といった表記とアリアとの兼ね合いで2009年でも問題ないと判断しました。問題ない・・・はず?

感想や評価、指摘等お待ちしております


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第二弾 残酷な言葉

「病室で騒ぐとか暴れるとかあんた、馬鹿なの?常識がないの?どっちなの?」

 

ノックの返事も聞かずに扉を開け中に入ってきた女性はそう言った。

 

垣根は入ってきた女性を一瞥する。

 

誰だ・・・こいつ?

 

女性なのは間違いないが、女性らしさはあまり感じられない・・・言葉は悪くなるが、どこかラリったような雰囲気が漂っている。また、この場に不釣り合いというか、こういう場ではまず見かける事がないであろう、煙草のような物を口にくわえている。

 

 

少なくとも垣根が見知った人間ではない。

 

だが、どれくらいの事を知っているかは分からないがこいつは俺を知っているような口振りだ。

 

「・・・・・・」

 

さて、どうしたもんかと垣根は考える。

 

少なくとも裏側の人間ではねぇな・・・

俺を含めた裏側の人間独特の雰囲気はしねぇ・・・

表側の人間だろうが、俺を少しは知っているみてぇだ・・・全てを探り出す必要はないが、こいつから何かしらの情報は掴めるか?

 

「病室で暴れるとか常識がないの?」

 

「待て待て!?病室で煙草(?)くわえてるテメェに常識どうこう言われたかねぇ!?」

 

「何言ってんの?くわえているだけで火はつけてないから問題はないはずだけど・・・大丈夫?」

 

このアマ・・・今の大丈夫ってのはアレか?

頭大丈夫って意味か!?ムカついた!

 

「まぁ、そんだけ口聞けるようなら大丈夫そうだね」

 

その女性はそう呟くと椅子に腰掛ける。

 

垣根は椅子に腰掛けた失礼な女性とどうしたもんかと考えるが、今はとにかく情報が欲しいとの結論に至り

女性に合わすようにベッドに腰掛け女性と対面する。

 

「あんた・・・俺の事知ってんのか?」

 

「いや、詳しくは知らないけど?あんたの名前が垣根帝督ってくらいしか知らない。あと目上の人間に向かってあんたとは口の聞き方がなってないぞ」

 

「いやいや、あんたの名前知らねぇから仕方ねぇだろ!?」

 

「あぁ、そうだったね・・・私は綴、綴梅子だ」

 

「そうかい、綴さんよ。何故俺の名前を知ってたんだ?」

 

「あんたが唯一身につけていた持ち物、財布の中にあった学生証を勝手ながら見させてもらったからね」

 

「・・・ほぅ」

 

学生証ねぇ・・・そういや、そんなもん入れてたっけな・・・学籍だけ入れてあり通いもしない学園都市でもトップクラスの高校、【長点上機学園】の学生証。

ロクな情報が記載されている訳でもねぇ。

記載されているのは、俺の名前と顔写真、高校名や学区名と記号で記載された所在地だけの簡易な学生証。

 

 

 

綴の口振りからすると、こいつは第一発見者あるいはその関係者、または医療機関の人間か何かか?

 

 

っつーか・・・俺が唯一身につけていた持ち物ってこいつが言ったって事は携帯はないって事じゃねーか・・・

 

ちっ、携帯さえありゃ【心理定規(メジャー・ハート)】やら他の裏の連中とも連絡が取れるんだが・・・まぁ、他の奴との連絡はこいつ、綴って奴から情報を聞き出した後どうにかすりゃいい。

 

やや平静さを取り戻した俺がこの女から聞きだすべき情報を整理していると

 

「しかし・・・長点上機・・・垣根帝督ねぇ」

 

綴はそう呟くと何か訝しむような目でジッと俺を見てくる。

 

マズッたか?いや、高校名や名前だけじゃ何も裏の情報は掴めねぇ筈だ。だが、この女の訝しむような目はなんだ?

 

「どーした?」

 

やや生じた動揺を隠しなるべく平静を装い綴に問い掛ける。

 

「いや・・・何も。身体は大丈夫なの?」

 

「あ、あぁ・・・身体は問題なく動く」

 

「そ。何があったか覚えてる?」

 

「いや・・・気がついたらこの病室だったからな。正直、今一分かっちゃいねぇな」

 

覚えているような覚えてないようなそんな感覚だが、正直に『一方通行と殺りあったところまでは覚えている』と言えば、こいつは身構えるだろうし、情報を聞き出せなくなると判断し、曖昧に答える。

最も嘘は言っていないがな。

今一分かっていないの事実だからな・・・

 

というよりも正直、こいつから聞きたかったのはそれ

等の情報だ。

 

「ふーん・・・まぁ、最近は【武偵殺し】やらその模倣犯やらもあるしね。そんな中で路地裏で倒れているあんたが発見されたときて、少し気になってね」

 

「そうか」

 

そうかと流したものの・・・よく分からねぇ。

【ぶてーごろし】ってなんだ?

言葉から察するに【ぶてー】と【殺し】なんだろうが、【ぶてー】なんて言葉聞いた事がねぇ。

路地裏で倒れていたのは、一方通行と殺りあったのも似たような場所だ、今は気に泊める必要はねぇ!

いつからこの病室にいるかだとかも気にはなるが・・・

今は聞き覚えのない【ぶてー】という言葉が気になる。

 

聞き覚えのない言葉に戸惑っている垣根を知ってか知らずか、マイペースに綴は言葉を続ける。

 

「今朝も【武偵高】の生徒が【武偵殺し】の模倣犯らしき奴に狙われたらしいし。もしかしたら、あんた・・・垣根も巻き込れたかなにかだと思ったんだけど」

 

待て待て・・・【ぶてーごろし】やら【ぶてーこう】?

さっきから聞き覚えのない単語がホイホイ出てきやがる。どうなってんだ!?

 

 

「待て待て、【ぶてー】だの【ぶてーごろし】だの【ぶてーこう】だのなんなんだらそれは!?」

 

綴にそう問い掛ける。

 

俺はガキの頃から・・・記憶の中じゃ10年以上前から学園都市にいるが、【ぶてー】だの【ぶてーこう】だの聞いた事がねぇ。にも関わらず、この女・・・綴はさも当たり前のように使っている。

 

先程から・・・目が覚めた時から感じていた違和感が殊更強まってくる。

 

綴にそう問い掛けると、先程まで訝しむような・・・何かを探るような目を止め、どこか呆気に取られたような表情に変わりやがった。

 

なんなんだ?

 

「その目・・・挙動・・・反応・・・そうか、あんたは無関係か」

 

「あ?」

 

「いや・・・何でもないよ。武偵っていうのは・・・【武装探偵】の事だけど・・・本当に大丈夫なの?顔色悪くなってるぞ?」

 

【武装探偵】・・・略して【武偵】

なるほど・・・言葉の意味はなんとなくだが、分かったが・・・やはり聞き覚えがねぇ・・・

そもそも学園都市に探偵なんていんのか?

いねぇだろ・・・【風紀委員(ジャッジメント)】や【警備員(アンチスキル)】で充分事足りる筈だ。

 

能力による周囲の状況の確認時に感じた妙な違和感、嫌な予感が確信めいたものに変わってくる。

少し前から出始めた冷や汗が止まらなくなってきやがった。綴の言う通り、俺の顔色は本当に悪いのだろう。鏡がないので顔色等分かりゃしねぇが・・・寒気と吐き気がし始めた今の俺の精神状態を考えりゃそういう事なんだろうよ・・・

 

だが・・・僅かばかりの・・・一縷の望みをかけて綴に女は問い掛ける。

 

「綴・・・一つ確認だ。ここは・・・学園都市でいいんだよな・・・?」

 

今まで抱いていた疑問・・・

一方通行に敗れた筈の俺が何故無事でいられたのか・・・無傷でいたのか・・・俺の記憶と現実の時間に齟齬がある事等はこの際構わないが・・・この嫌な予感・・・違和感だけは勘違いであってくれ・・・確信めいたのも俺の思い過ごしであってくれ・・・

 

柄にもなく縋るような思いで綴に問い掛ける。

 

 

 

                                      

「学園都市って・・・何言ってんの?垣根・・・ここは人工浮島・・・【学園島】でしょ?」

 

そんな俺の思いと現実は酷く掛け離れ、返ってきた言葉は残酷で非情なものだった。

 

学園都市じゃない、だと・・・!?

 

続く




特に深い意味はないのですが、垣根は長点上機に籍を入れてた設定です・・・
原作では垣根の高校について記載がないので・・・


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第三弾 最善の手

綴の言葉を受けて垣根は腰掛けていたベッドから起き上がると、窓の側まで行きカーテンを勢いよく開ける。

遮る物がなくなった窓の先に見えたのは、ビルが建ち並ぶ外の景色。ビルが建ち並ぶ姿は垣根が暮らしていた学園都市となんら代わり映えのない景色だった。

 

ビル群までは学園都市と代わり映えしない・・・

だが、その遥か先にうっすらと見える『ある景色』を見て垣根は自身が感じた違和感や綴の言葉が真実である事を理解する。

 

ここは学園都市ではないのが、事実だと・・・

ビル群の遥か先に見えたものが、学園都市ではありえない物なのだから

 

学園都市・・・東京西部気位置するあらゆる教育機関や研究組織の集合体である。学生が人口の8割を占めておりら外部より数十年進んだ最先端科学技術が運用されている科学の街だ。また、その進んだ科学技術荷より、人為的な超能力開発が学生全員に実施され、実用化までに至っている。その進んだ科学技術や超能力開発は秘匿性が高い。その為、外周さ高さ5m以上、厚さ3mの『壁』に阻まれ外部とは完全に『隔離』されている。

 

海に浮かぶようなビル群の遥か先に見えるのは、外部と完全隔離された学園都市に存在しえないもの・・・

【レインボーブリッジ】そして青の景色、【海】。

 

 

レインボーブリッジの南に浮かぶ人工浮島、通称【学園島】。学園島では、これらの景色は見慣れたものなのだが、垣根にとっては見慣れない景色であり、微かな希望をも打ち破る残酷な景色に見えた。

 

 

 

オイオイ・・・どうなってんだ!?

気がついたら身体に痛みはあるが傷一つなく生きてるし、俺の記憶と現実の時間に齟齬がある・・・それに加えて学園都市ですらねぇだと・・・!?

どういう事だ・・・オイ!?

 

明らかに動揺した様子でフラフラとベッドまで戻り座り込む垣根。

 

「・・・・・・」

 

「・・・そういう事か」

 

綴が俺を見て何やら呟いたが、正直どうでもいい。

目が覚めた時は違和感や現実、事実の確認は裏の連中にすれば良いと思ってはいたが、ここが学園都市でないとすれば不可能だ。

 

「ちっ」

 

今自分がおかれている状況をいくら考えても答えは出る筈もなく、苛立ちから思わず舌打ちが出てしまう。

 

「なるほどね・・・思ってたよりは良かったんだけどね・・・」

 

そんな苛立ちを隠せない俺を見て綴は何やら呟く。

 

「あ?どうした?」

 

苛立ちを隠せない為か、やや荒い言葉遣いになってしまうが、仕方ねぇだろ・・・

 

「いや、私の懸念が外れて良かったと思ってね。でも・・・垣根、あんたの状況は深刻そうだ」

 

懸念ね・・・綴がこの病室に入ってきた時から訝しむような視線を送ってきたが・・・先程のいくつかの綴の言葉を思い返すと、察っしはついた

 

「はっ、テメェの懸念ってのはアレか?武偵殺しだの模倣犯って奴に俺が関与してるかもしれねぇ・・・って感じか?」

 

「まぁ、大体そんなところだね。武偵殺しは捕まったけど、その模倣犯が最近出てきる中で見知らぬ人間が路地裏で『血まみれ』で倒れているんだ。それも『無傷』でね・・・なんらかの事件か武偵殺しの関連の筋で疑うのはおかしな事じゃないでしょ」

 

綴は俺の返しに驚く事もなく、淡々と語る。

 

「疑っていた割には妙に馴れ馴れしい口調と露骨な武偵殺しに関する話があったのは?」

 

「もし模倣犯が意識を取り戻した直後に武偵殺し関連の話をされたら、動揺すると思ってね」

 

まぁ、するかもしれねぇな・・・

 

「目が覚めた早々に疑ってかかられるのは気が悪い話だ」

 

綴を睨む。

綴の言葉尻からして例の武偵、あるいはそれに近い職にあるのだろう。

捜査の一環であれば綴のやっている事はおかしくはねぇ。最も、武偵殺しって奴がなんなのかは知らんが

 

だが、こっちは目が覚めたら見知らぬ土地で時間のズレな何やらで自分の置かれた状況にパニくってんだ

 

「悪い事はしてないと思うぞ?」

 

半ば開き直るような口調の綴。

まぁ、そんな怪しい奴は疑ってかかるのが妥当だわな

 

「はっ、中々ふてぶてしい奴だな、テメェは」

 

「で、あんたの様子から懸念はなくなったけど、あんた自身がマズイ状況にあると分かって頭を痛めてるんだよ、私は」

 

「・・・頭を痛めてるようには見えねぇぞ・・・」

 

「失礼な事を言うね垣根。あんたは、武偵すら知らなかったり、『ここは学園都市か?』みたいな事を言い出す・・・」

 

一縷の望みをかけて聞いたんだが、その望みをぶち殺したのテメェだ、綴。

 

「残念な奴に見えたか?」

 

「まさか。ただ、残念な結果になったのは事実だけどね・・・」

 

「あん?」

 

「記憶喪失とかの類ならどうにか出来たかも知れない。対策は取れた。けど、あんたの様子や口振りはそんな生易しいものじゃなさそうだ」

 

「それはどういうこった?」

 

「あんたは・・・まるで違う世界から来たかのような口調、雰囲気、動揺だった」

 

こいつ・・・ラリった見た目に反して中々の曲者じゃねーか・・・

 

「その表情・・・どうやら私の予想は間違いなさそうだ」

 

「・・・これは演技って線は考えねーのか?」

 

「私はこうみえて武偵高で尋問科の教師もやっている尋問のプロだ。挙動や言動、表情から相手が述べた事が真実か虚言か位見分けられる。

口調や表情からあんたが虚言を吐いてない事は既に分かっている。あんたは珍妙な事を言い出した。今更そんな演技をしても無駄だし、演技してるつもりならあんたは大した大根役者だ、垣根」

 

 

尋問科ってなんだよ?

教育機関が教える事じゃねーだろ!?

尋問のプロってなんだよ、大根役者じゃねー

だの突っ込みたいことは色々あるが、このアマ・・・思っていた以上にやり手のようだ。

 

「何があったか言えるか?」

 

さて、どうしたもんか・・・

学園都市の事や事実を全て話すのは気が引けるが、現状分からねぇ事だらけだ。

見知った人間がいねぇここで今唯一の情報源となる奴はこいつしかいねぇ・・・幸いこいつは今の俺の現状を少しは把握している・・・と、なると

 

俺は綴に事情を話す事にした。

話した所でこいつにどうこう出来るとは思わねぇが、今はそれしか打てる手がねぇからな。

 

俺が科学の街、学園都市にいた事。

一方通行と殺り合った事は伏せ、とある抗争に巻き込まれ、気を失い目が覚めたらここにいたと話す。

 

俺の話を聞き終えた後の綴は狐につつまれたような表情にはなったものの、俺の話は信じたようだ。

 

一方、俺は綴から情報を聞き出す。

学園島や俺が学園島で発見された時の事、武偵の事・・・そして、学園都市の存在について・・・

 

 

そして、綴から聞き出した話をまとめるとこうなる。

 

1-ここはレインボーブリッジの南に浮かぶ人工浮島であり、通称【学園島】。学園島は武偵を育成する総合教育機関である。

 

2-武偵、武装探偵とは凶悪化する犯罪(どの程度凶悪なのかは知らねぇが)に対抗して新設された国際資格。これを取得すると警察に準ずる活動が出来るらしい

 

3-超能力開発と科学の進んだ街、学園都市は【存在しない】。綴の携帯電話を使い検索をかけても、『教育機関の集合体』やら『●●学園都市』だのといった情報しか出てこねぇ。いくら、俺がいた筈の学園都市が外部とは隔離されているとはいえ、ある程度の・・・出しても差し支えない程度の情報は開示されている筈だ。科学の街、学園都市が検索に全く引っかからねぇ、なんて事は本来ありえねぇ。

 

4-俺は5日前に学園島のとある路地裏で血まみれで倒れていたらしい。無傷だったそうだ。それを【トーヤマ】って奴て【ミネ】って奴が発見し武偵高や医療機関に連絡わや入れたらしい。たまたま連絡に出たのが、綴だったそうだ。

 

5-綴は東京武偵高で教師をやっているらしい。尋問科らしい。また、武偵高は世界各地にあるらしく日本にもいくつかあるらしい。

 

6-今日が2009年4月8日である事に間違いはない

 

 

「・・・・・・」

 

言葉が出てこねぇってのはこういう事を言うんだな。

ある程度の覚悟はしていたが、これはキツいぞ・・・

学園都市が存在しない事が絶望的だ。

 

学園都市が存在してりゃ、まだ打開策は考えられたかもしれねぇが、分からねぇ事の方が多い現状で頼みの綱が無くなってしまうなんてよ・・・

 

「・・・・・・」

 

綴は綴で俺をジッと見つめ何やら考え込んでいやがる。まぁ、奴の事情も分かるっちゃ分かるがな・・・

武偵殺しとやらの模倣犯に関連する人物と疑ってた奴が、『存在しない場所から来ました』なんて宣ってよだ、そうなるわな・・・

 

だが、実際どうする?  

今の俺に出来る事なんざほぼ皆無だ。

見知らぬ土地で見知らぬ人間ばかり・・・知らない事ばかりなのが、今の俺の現状だ。

 

学園都市じよら大抵の事はどうにかしてきた、捩じ伏せてきたが・・・ここで俺に何が出来る!?

そもそもの元凶を知ろうにも知る為の手段がねぇ!?

どうする!?  どうする!?  どうする!?

 

焦燥感や絶望に駆られていると、先程まで黙り込んでいた綴が口を開いた。

 

「垣根・・・」

 

「あ!?」

 

どうしようもない現実から出る苛立ちを隠せず荒い言葉遣いになるが、知ったこっちゃねぇ!

 

「今から言うのは決定的な打開策とは言えないぞ?だが、今のあんたが元凶を知る、学園都市とやらに戻る方法を知るにはこれしか手がなさそうだから言うぞ。いわばあんたが打てる最善の手だ」

 

「勿体ぶってねーで話せ」

 

要件を中々述べず御託を並べる綴に苛立ち、その最善の手とやらを話せと綴に促す。

 

俺の言葉を聞いた綴は俺を真っすぐな目で見つめると最善の手とやらを言う。

 

「あんたが今打てる唯一の手、最善の手は・・・武偵になる事」

 

・・・・・・このアマ、何言ってやがる・・・?

 

続く

 



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第四弾 新たな武偵 上編

 

「あんたが今打てる唯一の手、最善の手は・・・武偵になる事」

 

 

「は?」

 

 

このアマ・・・何言ってやがる・・・? 

 

 

「は?って聞いてなかったのか?」

 

 

「いや、聞いちゃいたが・・・」

 

 

「今の垣根に出来る事は限られている。元いた場所、つまりは学園都市とやらに戻る為の手掛かりや元凶を掴もうにも出来る事に限りがあるからね・・・。けど、武偵になれば・・・権限や活動範囲は劇的に増える。希薄な可能性を少しでも高める事が出来る」

 

 

 

 

綴の言っている事は最もだ。

見知らぬ土地や見知らぬ人間・・・見知らぬ世界にいると言っても過言ではない、今の俺が出来る事なんざ限られている。元凶や手掛かりを掴もうにもその可能性はかなり希薄だ。

だが、武偵になれば手段や可能性は増える。

この世界では、武偵になる事で活動範囲も出来る事も劇的に増えるらしいからな・・・

 

 

 

「まぁ、このまま特に策もなく一人で可能性が少ない道を選ぶか・・・武偵となって少しでも可能性の高い道を選ぶかは・・・あんた次第だよ、垣根」

 

 

 

 

学園都市では暗部組織【スクール】のリーダーとして、【統括理事会】や他の上層部の連中からの指令を受け、学園都市の【不要な人間(屑やゴミ)】を始末する悪党だった俺が、それしか手段がねぇとは言え正義の味方ともいえる武偵になるなんてのは奇っ怪な話だ。

 

 

 

だが・・・

 

 

「確認したい事がある」

 

 

「なに?」

 

 

「武偵ってのはすぐになれるもんなのか?」

 

 

「資格を取得すればなれるさ」

 

 

「そうか」

 

 

 

 

学園都市での俺を知る人間が、今の俺を見たら笑うだろうな・・・くそったれの悪党、外道の俺が・・・正義の味方、それが最善とはいえ、武偵への道を提示されてんだ・・・自分でも可笑しい位くらいだ。

 

 

 

 

だが・・・

 

 

「武偵高には入る必要はあるけどね」

 

 

 

正義の味方、武偵なんてのは柄にあっちゃいねぇ・・・悪党の俺には不相応だ・・・

 

 

だが・・・

 

 

「専攻する科によって危険も高くなるけど・・・あんたがここに来てしまった手掛かりを見つけられる可能性はその分高くなる」

 

 

 

学園都市からこの学園島に飛ばされる形で今の俺がいる。

なら、少なくとも元凶はこの世界にいる筈、あるいはある筈だ。

 

 

なら・・・

 

 

 

「資格?取ってやろうじゃねぇか!武偵高?入ってやろうじゃねぇか!危険?上等じゃねぇか!」

 

 

 

柄じゃねぇ、可笑しいだろ?なんて感情は捨て置く。

 

今の俺を見て笑う奴は笑わせておけばいい・・・愉快な死体(オブジェ)に変えてやるがな。

 

 

危険?くだらねぇな・・・

この俺を誰だと思ってやがる?

 

 

 

垣根帝督だぞ!

 

 

 

 

 

 

 

「なってやろうじゃねぇか!武偵とやらに!手掛かりを掴むまではな」

 

 

「なってやろう、とは随分上から来たのは気になるけど・・・まぁ、いいさ。覚悟は決まったみたいだね」

 

 

綴は呆れたような少し表情になってはいたが、小さな笑みを浮かべると、綴は紙きれと何やら資料を手渡してきた。

 

【東京武偵高】とやらの資料であり、紙きれには綴の連絡先が書かれている。

 

 

「近いうちに、ここに来なよ。例外的、特例で編入試験を設けるから受けに来い。特例だからチャンスは一度きりだけどね。落ちたら落ちたで、あんたはそれまでだったって事だ。」

 

 

 

「そうか・・・近いうちに、な。あと、落ちるとは思ってねぇから心配するな」                                                            

 

 

言うと綴は苦笑いした後何故か怪訝そうな目で俺を見てくるが気にしない事にした。

 

 

「っつーか・・・自分で言うのはなんだが、俺は怪しい奴だぞ? そいつにここまでする、無用心にも連絡先まで教える理由はなんだ?」

 

 

武偵高の資料や綴の連絡先が書かれた紙に目を通しながら綴に聞いてみた。

 

 

正直、理解出来ねぇ・・・

 

綴の提案は確かに俺が取れる選択肢の中で最善の手で、それで俺も綴の提案に乗る事は決めた。

その事自体はありがてぇが、例外的措置を設けようとしたり連絡先まで教える必要はないと思う。

ましてや他人から見たら俺はこの世界じゃ存在しない土地から来たとかなんとか宣っている痛々しい奴だろう。別に俺は痛々しい訳じゃねぇがな・・・

そんな痛々しい奴に最善の案を提示するなんて普通しねぇだろ・・・

 

俺が綴の立場なら武偵殺しとやらに関与してない時点で用済みだ。

そいつがどういう状況におかれていようが関係ねぇ。

聞きたい情報だけ聞き出したらそこで終わりだ。

そいつその後、どうなろうが関係ねぇし、興味もねぇからな・・・

 

だが、綴は俺を見捨てる事をせずに特例の措置まで行うときた。

そこまでする理由が俺には分からねぇ・・・

 

 

「武偵憲章第6条」

 

 

俺の問いに対してそう綴は答えた。

 

 

「は?」

 

聞き覚えのない言葉が耳に入り思わず

間抜けな声を出してしまった。

憲章っつーからには、武偵の取り決めか何かか。                         

 

「武偵憲章第6条・・・『自ら考え自ら行動せよ』

それに則っただけだよ。私は私がそうした方が良いと思ったからそうした。垣根みたいな怪しい奴は近くに置いておいた方が野放しにするよりも良いと思ったからね。ある種の監視の意味合いが強いな。それと私も武偵である前に一人の人間だ。垣根の状況を知り手を貸したい、と思っただけさ。あとは・・・単純に垣根に興味が沸いたってのもあるね」

 

 

 

なるほどな、怪しい奴、危ない奴は放置するよりもある程度の監視下あるいは管理下ね置く方が良い・・野放しにするよりもリスクはその方が低いからな。何かあればすぐに対応出来る点大きいしな。

 

綴、ヌボっとした顔の割にゃ中々考えてるじゃねぇか・・・だが、単純な善意だけでない分好感が持てる。

 

 

 

最も、大人しく管理されてやるつもりはねぇがな・・・ 

 

「さっきも言ったけど資格が取れなけばそれまでだけどね・・・さて、そろそろ私は帰るぞ」

 

 

綴はそう言うと椅子から立ち上がり扉に向かって歩き始める。

 

 

扉に差しかかった辺りで綴はこちらに振り返ると、

 

 

 

「武偵高で待ってるぞ。そして、健闘を祈る」

 

 

そう言い残し、綴は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綴が去り、5日ぶりに目が覚めたとやらで検査だのなんだの夕食だのを済ませた俺は今、武偵高の資料に再び目を通している。

 

どうやら武偵高の生徒は、一定の訓練期間の後いきなり依頼を受ける事が出来るそうだ。それら依頼と試験の結果に基づいて生徒にA~Eの『ランク』付けが行われるらしい。また、Aランクの更に上、Sランクもあるらしいが・・・ランクがどうこうってのは学園都市のシステムとあまり変わりはしねぇな。

 

ちなみに学園都市でも学生は6段階でランク付けされる。

lv0(無能力者)から始まり、lv1(低能力者)lv2(異能力者)lv3(強能力者)lv4(大能力者)そして、頂点であり230万の学生で7人しかいないlv5(超能力者)。俺もlv5の第二位だ。

 

ランクは高ければ高い程活動範囲も広くなり依頼内容も変化するようだ。

 

学科も色々あるみてぇだな。 

 

強襲学部(アサルト)ー強襲科】:近接戦による強襲逮捕を習得する学科。日常的に激しい戦闘訓練があるらしい。

 

 

 

探偵学部(インケスタ)ー探偵科】:探偵術と推理学による調査・分析を習得する学科。外部からの依頼もあるみてぇだ。

 

 

 

研究部(リサーチ)

超能力操作研究科】(SSR)】:超能力・超心理学による犯罪操作研究を行う学科。サイコメトリーやダウジング等の超能力者操作がメインの学科。

 

 

 

 

 

とりあえず目を引いたのはその3学科だけだな。

他にも学部や学科は【強襲学部ー狙撃科(スナイプ)】やら【諜報学部(レザド)尋問科(ダキュラ)】やら他にもあったがさして興味はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が目指すべきランクは決まった。専攻する学科も決まった。

特例の試験がどんな内容なのかは分からねぇが、俺は武偵にならなきゃならねぇ・・・

 

そう思いつつ、俺は眠りについた。

 

 

続く



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第五弾 新たな武偵 中編

  ~~~東京武偵高・応接室~~~

 

現時刻16:00

 

「垣根・・・確かに私は近いうちに来いとは言ったぞ?言ったな?言ったが・・・」

 

綴はこめかみに手をあてながら言う。

 

前回会った時と同様、煙草のようなものをくわえている。

どうでもいい事なんだが、綴はヘビースモーカーだったりすんのか?いや、っつーかよくよく見て見りゃ煙草みてぇな何かじゃねーのか?アレは・・・明らかに非合法な匂いがぷんぷんしやがる。まぁ、俺にはあまり関係ねぇけどよ。

 

 

「なんつーか、似合わねぇな・・・その仕草。どうでもいいんだけどよ」

 

 

 

「放っといてくれ。あと、どうでもいいなら言わなくていいでしょ」

 

 

 

俺の発言が不満だったのか、ややむくれた顔つきの綴だったが一度溜息を吐くと言葉を続ける。

 

 

 

「じゃなくて、確かに私は近いうちとは言ったが・・・何故今日来るんだ?アレから一日(・・)しか経ってないぞ」

 

 

 

綴は呆れたような口調で相変わらずこめかみに手をあてながら言う。

 

 

確かに綴の言った通りあの話を受けてから一日しか経っちゃいねぇが・・・何か問題あんのか?

 

 

「近いうち、じゃねぇか」

 

俺はおかしな事なんてしちゃいねぇし、言ってもねぇぞ。綴の『近いうちに来い』という言葉通りにしただけだ。この場合悪いのは俺か?否、綴じゃねぇか!

 

 

 

「いくらなんでも近過ぎでしょ・・・」

 

 

 

 

「いいじゃねぇか。『思い立ったが吉日』、『善は急げ』って名言があるのを知らねぇのか?いい言葉だぜ、アレは」

 

 

 

「別に知ってるけど・・・垣根こそ『急がば回れ』という名言がある事を知らないのか?」

 

 

    

「まぁ、そうだな。だが、本当なら朝来ても良かった所をあんたや学校側の事情やらなんやらを配慮した結果、放課後のこの時間まで待って俺はここに来たんだぜ?なら十分急がば回ってもいるはずだ」

 

 

 

   

                        

 

「配慮した結果がこれなのか・・・まだ見知って一日程しか経ってないけど・・・大分、垣根がどんな奴か分かってきたよ、私は」

 

 

「嬉しいお言葉、ありがとよ」

 

 

 

「思ってもない事を言うな・・・全く」 

 

 

ぶつぶつと呟きながら綴は諦めたかのようにフッと溜息を吐くと再び言葉を紡ぎ始める。  

 

 

 

「まぁ・・・近いうちとしか言ってなかったのは私だ。仕方ない、と思う事にするよ。納得はいかないけど・・・昨日別れた後、垣根の事は学校側には伝えてあるし、特例の編入試験も許可が出てるから問題はないよ。」

 

 

 

「そりゃ助かる」

 

 

 

「全科の試験は用意はしてある。分かっているとは思うけど、受験可能な科は一つだけだぞ?」

 

 

「分かってんよ、んな事。しかし、アレだな。全科の試験用意とは随分と気前が良いじゃねぇか」

 

 

 

「まぁ、特に試験内容も考える必要はなかったってのが大きいね。垣根が受ける試験は今年の入試内容と同様のものだからね」

 

 

綴は気のない声で言う。

今更だが、やる気ねぇのなこいつ。

 

 

しかし・・・

 

 

 

「入試、ねぇ」

 

 

入試ってのは学校にもよるが、2月~3月に行われるのが、一般的な訳だ。中には例外もあるんだろうが・・・

そして、今は4月って訳なんだが・・・どうも慣れねぇな。

 

まだ、俺の感覚ではまだ学園都市にいた時のまま・・・10月のままだからな。

 

綴と出会ったり武偵の話をしたりで一旦は脇に置いていたこの違和感、俺とこの世界との時間の齟齬・・・それを含めた元凶や手掛かりを俺としては出来る限り早く掴みたいものだが、武偵になったとしても直ぐにはそれらが見つかると思う程俺もこの件に関しては楽観視しちゃいねぇ。何せ分からねぇ事が多すぎるからな。

 

最もその分からねぇ事を知る為に武偵になろうとしてんだがな。

 

なんにせよ、恐らくこの世界には暫く世話になるんだ。不服だがこの不快な違和感には慣れるしかねぇ。

 

 

そんな事を考えていると、綴は口にくわえていた煙草に似た非合法的な何か(もう煙草じゃねぇ口に出せねぇ非合法なものと俺は判断した。本人に聞く気はねぇ)を灰皿に置くと、さっきまでのやる気のねぇ面はどこにやったのか、綴には似合いもしねぇ真剣な面構えをした上で口を開いた。

 

 

 

「垣根、あんたには幸いな事に多くの選択肢が提示されている。その選択肢の中からどの学部、どの学科を選ぶかであんたの人生は大きく変わる事は分かっているな?」

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

「なら、問うぞ垣根。あんたはどの学部、どの学科を志望する?」

 

 

「俺が志望するのは                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                【強襲科(アサルト)】だ」 

 

 

 

 

 

武偵高の資料を目に通した俺が選んだ学科、それが強襲科だ。

 

強襲科ー平たく言えば、名の通り強襲逮捕を習得する学科。危険度全学科の中で断トツらしい。犯罪組織のアジトへの突撃も依頼さえあれば行うとの事だ。

 

そんな強襲科を俺は志望した訳だ。

 

 

 

「なんとなくだけど、あんたは強襲科を志望しそうな気はしてた」

 

綴は表情を変える事なく淡々とした様子で言う。

まぁ、別に驚く様な事は言った覚えもねぇし、過剰な反応されるのもウゼェだけだ。

だが、こいつに『なんとなくそう思ってた』って言われんのはなんかムカつくな・・・

 

 

「少し悩みはしたが、強襲科に決めた」

 

 

「即決じゃなかったのか?」

 

 

「あぁ」

 

 

実際、俺も資料を見て即座に強襲科と決めた訳じゃねぇ。少しばかり・・・具体的には2分~3分程熟考した結果、一番俺に適した(・・)学科だと判断したまでだ。

 

 

「ふ~ん・・・まぁ、いいけど。一応聞いておくけど・・・ちなみに何と悩み、何故強襲科に決めた?強襲科は【明日無き学科】とも言われているぞ?」

 

 

 

「貰った資料に目を通して目についたのは【強襲科】【探偵科(インケスタ)】【超能力者捜査研究科(SSR)】だったな」

 

 

捜査という意味では探偵科にも惹かれたが、よくよく資料を読んで見ると探偵科に来る依頼は・・・アレだった。行方不明者の捜索や未解決事件のプロファイリング等もくるらしいが、大抵は迷子探しだの浮気調査だの・・・挙げ句の果てには猫探しだのなんつーか、他の連中がどう思うかは分からねぇが、俺的にはシケたもんばかりだったな。一応猫探しをしている俺を想像してみたが、驚く程似合わねぇ!シュール過ぎんだろ・・・俺はくそったれの悪党、垣根帝督だぞ!?ってな理由で却下。

いや、マジでねーよ

 

 

超能力者捜査研究科、通称SSRにも惹かれるものはあった。超能力ってのが学園都市から来た・・・いや、学園都市にいたというべきか?ともかく文字通り超能力を持っている俺に適したもんだと思った訳だが・・・よくよく考えてみたら学園都市じゃねぇし、超能力を今更研究するつもりもねぇ。

 

それに学園都市以上のものを期待出来るかも正直怪しい。また、資料には霊地での合宿を行うとも書いてあったのを見て一気に熱が冷めた。科学の街学園都市出身の俺が霊地、いわばオカルト的な場所で合宿?なんだそれ・・・っつーかSSRの連中には悪いが正直胡散臭せぇ・・・SSRが一般的に行う事はサイコメトリーだのダウンジングだのといった超能力者捜査が主だったものらしい。俺の超能力・・・【未元物質】も一応そういった類の事は出来るっちゃ出来るが・・・最も(・・)した活用方法だとは言えねぇ。それ等の要因を踏まえて却下。

 

その点、強襲科は魅力的であり俺に最も適した学科だと言える。強襲科に来る依頼は学科の名の通り強襲逮捕だ。犯罪組織への突撃だのなんだのと色々あるらしい。捜査よりも壊す事に適した俺の未元物質を最大限に活かせる学科と言えんだろ。最も不殺ってのは気に食わねぇが・・・依頼で金を貰って合法的に犯罪者(バカ共)でストレス発散も出来ると考えりゃ文句はねぇ。三下をどうこうするつもりはあまりねぇが・・・強襲科に依頼が来る位の奴なら少しは骨のある奴もいるだろうよ

なんにせよ・・・ここが学園都市であろうとなかろうと、俺は壊す事が本職だ・・・この道は変えるつもりはねぇし、変えられねぇ・・・

 

 

そんな理由で俺は強襲科に決めた訳だが・・・

 

「・・・アレだな、アレがこうしてああなって強襲科に決めた」

 

綴が俺に時折向ける訝しむような視線、思惑を探るような視線を受けた事や正直に理由を言うのはマズイと思った俺はこんなアホみたいな事を言っていた。

 

なんだよ、アレがこうしてああなったって・・・

 

「・・・垣根、何一つ情報が伝わって来ないぞ?」

 

 

 

「色々考えた結果そん中で一番俺に適したのが、強襲科だと思った。・・・そんだけだ」

 

 

「ふ~ん。でもいいの?さっきも言ったけど、明日無き学科だぞ?」

 

 

 

「明日無き学科、ねぇ」

 

 

明日無き学科に関しては資料の強襲科の情報欄にも要注意事項として載ってはいた。

 

なんでも、卒業時の生存率がおよそ97.1%・・・つまりはおよそ3%の生徒が死亡するらしく、強襲科を志望する学生やその家族には自己責任やらなんやらの所謂【念書】を書かせるらしい。つまりは、死ぬかもしれんから気をつけろよって事だ。

それでついた俗称が、明日無き学科って訳だ。

 

だが、そんなもん気にはならねぇ。

暗部時代・・・学園都市にいた頃も生と死との隣り合わせの日常を送ってた訳だ。最も死ぬ気は一切しなかったがな、あん時以外は・・・

むしろ、3%しか死亡しないと考えてみれば生存率は高い方だ。

 

 

「明日無き学科に関しちゃ問題ねぇ。俺に死ぬ予定はねぇし、誰も俺を殺せねぇよ」

 

俺は学園都市だろうが学園島だろうが・・・どこにいようが死ねねぇ・・・少なくとも一方通行の野郎を殺すまではな!

 

「そこまで自信過剰だと逆に清々しいもんだね」

 

綴は苦笑しながらそう言うと、どこかに電話をかけ始めた。

 

 

詳しい事は綴が電話中なので分からねぇが、恐らく一連の話の流れからして強襲科の関係者だろう。試験について話てんのかもな・・・

にしてもアレだな、時折電話先から『殺す!』だの『ぶっ殺す!』だの物騒な声が聞こえるのは気のせいか?気のせいじゃねぇな。世紀末過ぎんだろ武偵高・・・そして強襲科・・・

っつーか誰だか知らんが、うっせぇよ!

 

 

正確な時間は分からねぇが、5分位電話を終えた綴はフッと溜息を吐くと俺を見て口を開く。

 

 

 

「30分後、強襲科特別編入試験を行う」

 

 

こうして俺の武偵への第一歩が始まろうとしていた。

 

 

 

続く




最初はこのお話を後編とし第一章、つまりは新たな武偵編を終える予定だったのですが、急遽中編という形になりました・・・

次話で第一章は終わり、第二章からはキンジやアリアが出てきます。


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第六弾 新たな武偵 後編 I

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  

    【強襲学部-強襲科特別編入試験】  

 

          《概要》  

 

1-例外的に編入試験を設ける。  

                 

2-強襲科特別編入試験の内容は以下の項目とする。

 

3-第一試験-狙撃科(スナイプ)の射撃場において射撃の適性試験。10分間の中距離射撃を行った上で獲得スコアから強襲科に必要な射撃の適性を判断する。

 

4-第二試験-実践形式の試験。郊外にある2階建の廃墟に犯罪グループが潜伏中と仮定。犯罪者は10名。武装した上で廃墟に突入し10名を無力化及び捕縛せよ。なお、本試験における犯罪者役は本校の強襲学部の強襲科及び狙撃科に属する新入生8名、2年生2名が務める。あらゆる事態を想定した上で挑む事。戦闘力及び状況判断力等武偵、ひいては強襲科に必要な素質が試される。

 

※武装品は以下の通り。

 

【拳銃:2丁】【バタフライナイフ:1本】【防弾制服】【弾薬:24発】【スタングレネード:1個】

 

   

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

以上が綴があの話の後、俺に手渡してきた試験内容の詳細だ。

要は試されるのは強襲科に必要な要素があるかどうかって事だけだ。

分かりやすくて結構なこった。

 

 

 

 

あれから20分近くが経ち、俺は今第一試験の会場である狙撃科射撃場とやらに足を向けている。

 

学園都市では裏側の住人である俺は暗部での活動の際も頻繁って程じゃねぇが、何度か銃火器を使った事はある。

大した労力じゃねぇが、学園都市の超能力者や大能力者問わず能力者ってのはその能力の使用の際には脳内での演算が必要となる。能力を使用しなくても殺せる、あるいは無力化出来る奴はそうするにこした事はねぇ・・・ってな理由だ。能力者の演算を妨害するキャパシティダウンって存在がある事も一つの要因だ。

あまり影響は受けはしねぇがな・・・

 

だが、武偵ってのは銃火器を取り扱う頻度は高い。

恐らく暗部時代の俺よりも高いだろう。

 

強襲科・・・そして射撃・狙撃(その道)のプロを育成する狙撃科の連中の存在。

 

射撃適性試験は例年入試で取り扱われると綴は言っていた。

この世界には一般の中学校の他に武偵中学校があるとも聞く。

余談だが、一般中学は【パンチュー】って略すらしい。なんか卑猥な感じがするな・・・

 

  

一般中(パンチュー)が卑猥なのはともかく、だ。この俺がド素人のガキ、あるいは素人に毛が生えた程度のガキに劣るとは思っちゃいねぇ、いねぇが・・・

綴曰く武偵高の2年に狙撃科所属のSランクの奴がいるらしい。

 

そいつは、入試は勿論Sランクで合格。

狙撃科の入試も俺が受ける射撃適性試験とは内容は違うが、試験は全てパーフェクトだったそうだ。

 

Sランク武偵は数える程しかいないそうだが、前述した狙撃科の奴同様にぶっ飛んだ奴らしいな・・・

 

武偵を舐めてた訳じゃねぇが・・・そんな奴がいるって事だけは覚えておく必要がありそうだ。

 

なんて事を考えながら歩いていると、狙撃科の射撃場とやらが見えてきた。

 

 

 

~~~~~~~~~~射撃場~~~~~~~~~

 

「お前が垣根帝督っちゅー奴やな」

 

射撃場に入るや否や20代前半かそこらのポニーテールの大女が声を掛けてくる。

顔立ちから察するに中国系の奴だろうか?

 

「いかにも、俺が垣根帝督っちゅー奴だが?」

 

 

「おまっ・・・ムカつく奴やな・・・まぁええ。ウチは蘭豹(らんぴょう)、試験を見るよう言われとる」

 

 

「そうか」

 

 

「綴センセから聞いたけど、『死ぬ予定はないし、誰も俺を殺せねぇ』って大事宣ったらしいな?」

 

 

「言ったような気がするが・・・」

 

 

別段意識して言った覚えはないので、そんな返答になってしまう。

 

「そんな大事宣うっちゅー事は、それなりの自信があるんかあるいは口先だけのアホか・・・あんたがどっちか見極めたる!」

 

 

それなりの自信か口先だけのアホ、ねぇ・・・

『健闘を祈る』なんてヌカした綴にしても目の前のこいつにしても・・・俺が誰だと思ってやがるんだ?

 

いや、仕方ねぇか・・・

綴や蘭豹の認識にある垣根帝督って人間は、学園都市で第二位に君臨した垣根帝督じゃねぇんだ・・・仕方ねぇと言えば仕方ねぇ。

 

だが、そう思われるのは癪だ。

 

 

 

 

だから・・・てめぇ等に見せてやるよ、垣根帝督って人間をよ!

 

 

「出来ねぇ法螺は吹かねぇぞ、俺は」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、蘭豹は射撃レーンまで俺を連れていき銃を手渡してきた。

 

 

「試験始めるけど、一つ確認。銃火器の扱いは?」

 

 

 

「・・・嗜む程度にはあるな」

 

 

「あるんやったらええ。ほな始めるで!」

 

こうして、第一の適性試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

試験はつつがなく進んでいく。

垣根は正確な射撃でポイントを積み重ねていく。    

 

  

 

 

   

 

  

 

 

 

 

 

蘭豹は思う。

垣根帝督という少年は妙な奴だ、と。

 

構え方も使い慣れた人間のソレだ。

個人的には残念ではあるが、今年の新入生の中には9mm弾の反動で手ブレを起こす奴もいる。

だが、垣根は手ブレを起こす様子もない。

 

的に対して外す事なく撃ち抜いている。狙い所が難しい高得点ばかりとは流石にいかないが・・・

 

確かに上出来だ。

現時点でのスコアだけ見れば今年の新入生とは比べものにならない程だ。だが、あくまでそれだけだ。

 

この程度で『誰も俺を殺せねぇ』等豪語出来るだろうか?否、出来ない。していい筈がない。

武偵は・・・ひいては強襲科は常に死と隣合わせだ。

強襲科は明日無き科という二つ名の通り毎年死者が数名は出る武偵の中でも死亡率は高い。

 

 

この程度で、そんな危険な世界を歩もうとしているのに、誰も自分を殺せないなんて大それた事は普通は言えない。言わない。言わせない。

だが、垣根はそれを平然と宣ったという。          

 

こいつは口先だけのバカなのか?

 

いや、だがそれにしては・・・

 

『出来ねぇ法螺は吹かねぇぞ』

 

そう言った時の奴の目には絶対的な自信が見えた。

 

つまりは、奴には絶対的な自信を持たせる何かがある、という事だ。

 

綴センセの話では、昨日目が覚め武偵の存在を知ったのも昨日らしい。

その少年が、翌日である今日に武偵になるための試験を受けに来ている。

 

中々興味深い。

面白い奴だ・・・タメ口を使って来る辺りはムカつくが・・・

 

見定めてみよう、垣根帝督という男を・・・

 

蘭豹はそう思った。 

 

 

 

10分が経ち、射撃適性試験は終わった。 

 

  

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   射撃適性試験の結果   

 

   受験生 垣根帝督    

 

   スコア 620/700

 

   ランク   A

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ランクA。

まぁ、こんなもんだろ・・・

撃つ機会が増えればもう少しスコアは伸びるんだろうが・・・伸びても俺の見立てじゃ650が限度って所だろ。

パーフェクトスコアを出した狙撃科のSランクの奴は色々とぶっ飛んでんな、オイ

 

 

「まぁ、射撃適性はまずまず言うところやな。ほな、次は強襲科入試の醍醐味・・・実践形式の試験や!」

 

蘭豹の奴はそう言うと、ついて来いと言わんばかりに俺の腕を掴み外へと促す。

 

試験会場とやらに向かうのは良い。ただし、腕は掴むな・・・あと力入れすぎな、痛ぇよ。マジで痛ぇ・・・

 

 

 

 

射撃場で10分間も撃ちつづけていたせいか、やや硝煙臭くなった身体で試験会場である廃墟に向かっている最中、蘭豹から聞いた話。

 

昨年の強襲科志望者を対象とした入試をSランクで合格した奴が出たらしい。なんでもそいつは今探偵科に転科したらしく、Eランクらしい。【遠山】って奴だそうだが・・・遠山ってどこかで聞いた事あんな・・・どこで聞いた?色々あって忘れてんのか?

 

流石にSランクになった時の試験内容までは蘭豹も言いはしなかったが、おかしな話だ。SからEなんざ、都落ちもいいところだ。まぐれでSランクになれるとも思えねぇ・・・まぁ、この件は少し気になるが・・・武偵高に入った後、遠山って奴に直接聞きゃ済む話だしな。

 

そんな事を考えつつ蘭豹から情報収集しつつ歩いていると、試験会場であるという廃墟にたどり着いた。                         

 

「ほな、垣根。もうすぐ第二の試験始めるで!」

 

 

「うぃ」

 

 

「第二の試験は試験概要記載の通りや。既に犯罪者役の生徒は待機済み。垣根が突入した時点で試験はスタートや」

 

 

余談だが、綴は今年の入試と変わらないみたいな事言っていたが来る最中蘭豹に確認してみるとそうでもなかった。この廃墟を使用した点は同じだが、内容は少し違った。今年の入試では強襲科志望者10名が互いに捕縛しあうってものだったらしい。

綴・・・あいつアテになんのか?

 

蘭豹は強襲科の実技試験から良い感じのものをチョイスしたとか言ったが・・・まぁ、気にしても仕方ねぇが・・・本当大丈夫か?武偵高

 

 

蘭豹はそう言うと、記載されていた武装品を手渡してくる。

一応、素直に受け取り装着してみる。

 

 

「試験や思って舐めるなよ?犯罪者役の生徒は新入生がほとんどといえど、Aランク7名。Bランク3名や。特例やから難易度上げといたで!あと、お前にムカついたからな」

 

「ムカつくも何も初対面だろ・・・」

 

っつーか、試験概要の紙貰った時は対面すらしてねぇぞ?会ってもねぇ奴にムカつくのか?

 

 

「『死ぬ予定はねぇし、誰も俺を殺せねぇよ』の件があってイラッてきてな・・・出来心でやったんやけど、反省はせぇへん」

 

キリッとした顔で俺が言ったという台詞を吐く蘭豹。

だが、蘭豹・・・俺はそんなお前にイラッてきてる訳だが?

 

 

 

 

「反省はしろよ・・・せめて『反省してまーす』とでもいいから言えよ」

 

どうでもいいが、この防弾制服・・・似合わねぇな、俺に。

なんつーか、キャラにあってねぇっていうかアレだな

 

 

「ほな、もうすぐ始めるけど・・準備はええか?」

 

準備は十分出来ている。

出来ているが・・・

 

 

「一つ確認したい事がある」

 

 

 

「なんや?」

 

 

俺が確認したい事、それは・・・

 

 

「この試験では、"何をしてもいい"んだな?」

 

 

 

 

「"何を"がどこまでを指しているんかは分からんけど、不殺を守ればええ。己の出せる力全てが試される試験やからな」

 

 

 

「オーケー、それが聞ければ十分だ」

 

 

 

「ん?」

 

 

蘭豹はそう呟いた俺を見て何やらキョトンと首を傾げているが・・・正直似合わねぇから止めとけ。切実にだ。

 

『己の出せる力全てが試される』

それが聞ければ十分だ。

 

 

 

 

 

 

間もなくして、俺は試験会場・・・廃墟に突入。

 

こうして、運命の第二試験が幕を開ける。

 

 

綴、蘭豹・・・お前等に見せてやるよ、俺を・・・本当の垣根帝督をな!

 

続く




前回の後書きで六弾で1章終了って言っておきながら・・・次話に持ち越しました・・・

戦闘描写やらなんやらの兼ね合いで六弾に入れてしまうのは・・・長過ぎると判断し、次話に持ち越しました・・・

次回で1章は終わらせ、次々話で2章に突入します!

というか、未だにヒロイン成分が皆無なのは少し問題があるかもしれませんね・・・


キンジやアリアが出るまでもうしばらくお付き合い下さい

では、次話で!


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第七弾 新たな武偵 後編 II

詐欺


~垣根side~

 

廃墟内に入り暫くすると、標的はすぐにこちらにやって来た。

こちらに向かって来る二名の生徒・・・つまりは犯罪者役だが、二人との距離はまだ少しある。

一人はバタフライナイフを振りかざしながら、もう一人には何かを手にしている様子はない。

 

・・・アレか?考えなしで突っ込んで来てんのか?

それとも俺を舐めてんのか?

 

「まぁ、どちらにせよ現実的とは言えねぇな・・・」

 

無策に突っ込んで来る二人の頭の出来具合を心配しながら、スタングレネードを投げつける。

スタングレネードが炸裂し、行動不能に陥っている二人に急接近しボディーに強烈な一撃を食らわせる。

 

強烈な一撃を食らった二人の生徒に激痛が走りそ  のまま意識を失った。

 

 

二人の生徒を無力化した垣根に一発の銃弾が放たれる。

垣根は簡単だと言わんばかりに交わすと、銃弾が放たれたであろう場所に向かって走り出す。

 

銃弾を放った狙撃科の生徒は垣根に向かって何度も銃弾を放つが当たる気配はなく、徐々にだが生徒の顔に焦りの色が見えはじめる。

 

そうこうする内に垣根は接近し・・・両者は対峙する。

 

 

「見~つけた」

 

こちらを馬鹿にするような、挑発するような垣根の物言いに思わず怒りで我を忘れ不得手とする接近戦に持ち込む生徒だが、不得手な接近戦技(CQC)は通用する筈もない。

 

「オイオイ・・・怒りで我を忘れたか?短絡的だな」

 

垣根はそう言うと生徒が全力で放った拳をあっさり交わし、放った拳が交わされ身体が前のめりになっている生徒に足払いをかける。

足払いをかけられた生徒は前方に倒れ込むのだが、倒れ込んだ次の瞬間には垣根によって顔面を地に押し付けられる形で後頭部を踏み付けられ意識を手放した。

 

 

 

 

 

「さて、こっからどうしたもんか・・・」

 

自身の足元に転がる狙撃を行った生徒の脇腹を足で突きながら呟く。

 

 

この三下共は都合良くやられに来てくれたが、残りの連中がこいつらみてぇな馬鹿ばかりとは限らねぇ訳だ。

っつーか、強襲科志望の俺としては切実にそう願いたい。

 

強襲ってのは、一発で決めなきゃ意味がねぇ。

この三下共はそれを分かってなかったのか、あるいは分かっちゃいたがテメェの力量と相手の力量を見極められなかったのか・・・どちらにせよ無能の一言に尽きる。

 

さて、もう一度言うがどうしたもんか・・・

残りの連中を一人一人探し回るのもありっちゃありな訳だが、わざわざ時間をかけて探すのも面倒臭ぇ。

 

 

【武偵は疾くあれ。先手必勝を旨とすべし】

武偵憲章5条にそんなのがある。

そして、これは強襲科の試験であり強襲に必要な要素が試されるもんだ。

強襲・・・強襲ってのは攻撃の予告を与える事なく"不意"に襲撃する事だ。

 

"不意の襲撃"

 

そして、蘭豹の奴は不殺以外なら"何をしてもいい"

と言った。

 

"何をしてもいい"

 

ならここは・・・

 

 

「いいぜ、三下共・・・本物の強襲って奴を見せてやるよ」

 

言うと同時に能力を発動させる。

周囲の空気が一変する。

 

舞台は整った。

これから始まるのはまともな武偵が行う強襲とは大きく掛け離れたもの。

垣根帝督による強襲である。

 

そして、余談だが今から垣根が行う強襲は後に伝説として語り継がれる事となるのだが・・・当然、この時の垣根には知るよしもない。

 

 

 

~蘭豹side~

 

さて、第二試験が始まって2~3分が経った。

中にいる忍び込ませている諜報科から情報を収集していると、こちらに一つの足音が近づいてきよった。

足音がする方に目を向けると、平素と変わりなくやる気の無い様子の綴センセがそこにはおった。

 

 

「お~、第二試験始まってるのか」

 

 

「始まったばっかやで」

 

 

「そーか。で、中の様子は?」

 

 

「中に忍び込んでいる諜報科の服部センセからの報告やと垣根は三人を無力化したらしい。容赦ないやり方らしいけどな」

 

諜報科の教師、服部瞬蔵センセ。

名前はなんか古臭いが21歳とウチと年齢はあんま変わらん男。基本ええセンセやけどちょっと癖があるというか、アレやウザい。尋常じゃなくウザい。主に喋り方がウザい奴や。

 

 

 

そのウザい服部センセから聞いた容赦ないやり方はともかく、この短時間で三人を無力化する辺りは大した奴やとは思う。銃火器の扱いといい報告といい戦闘スキルは高そうやな、垣根は。

 

 

「そーか・・・大した奴なんだなぁ垣根は」

 

綴センセの台詞は感嘆したような物だが、相変わらず表情といい声色といいやる気の欠片も感じへんな。

ウチが綴センセのやる気の無さに呆れていると・・・

 

 

廃墟内からありえない音が鳴り響いた。

銃声でも発光音でもない・・・垣根や犯人役の生徒に持たせた武装品からはおおよそ発生しないであろう、

爆発音が鳴り響き・・・そして、廃墟内からは何かが崩れる音が聞こえる。

これらが意味する事・・・それは廃墟が破壊されている、という事だ。

 

 

「おぉ・・・なんだ?」

 

異常な事態やのに驚いている様な台詞を平素と変わらずやる気の無い表情&声色で言う綴センセにイラッときつつも今は状況を掴む為に中にいる服部センセにインカムを使い連絡を取る。

 

 

『服部センセ!!何があったんや!?』

 

 

問うと、返ってきたのは爽やかな声。だが、ウザい!

 

『おぉ!!その声は蘭豹先生じゃないですか!ん~・・・いやぁ、相変わらず素敵なお声だ!ん~』

 

 

『くだらん事言うなアホンダラ!!何があったんか聞いとるんや!!』

 

綴センセにしても服部センセにしても緊張感がないんかいな!

 

『ん~、くだらん事ってツレないですねぇ・・・ん~、受験生君がやりましたよ?ん~』

 

服部センセは淡々と言っているが・・・廃墟の破壊はともかくとして爆発を起こせる武装品なんか誰にも持たせてない!!

 

『センセ・・・垣根が何をしたんか教えてくれんか?』

 

爆発音及び廃墟の破壊・・・一つの推測がある。

だが、確証を得る為に確認しておく。

恐らく、恐らくやけど垣根は・・・

 

 

『ん~、この服部瞬蔵・・・感嘆いたしましたよ!ん~、いやねぇ・・・彼が二、三何かを呟いたと思ったら・・・ん~ドカーンですよ?ドカーン!そして彼は彼で正体不明の爆発と同時に消えちゃいましたし!ん~、もう今週一番のびっくりドッキリですよ!!』

 

 

・・・ん~、が多過ぎるんと頭の悪そうな説明でイマイチ情報が伝わりにくい。

せやけど、その伝わりにくい情報の中からでも分かった事はある。                             

 

やはり垣根は・・・

 

 

超能力(ステルス)使いって所か」

 

一連の話を聞いていたのか、

綴センセはやる気の無い顔をややキリッとさせそう言った。

 

超能力・・・使用出来る人数は少ないが武偵や犯罪者の中にも使用者がいる。超能力を使う武偵を【超偵】と呼ぶ。ウチの学校にも優秀な超偵がいるが・・・垣根もその類とはなぁ。なるほど、絶対的な自信の裏にはそんなもんがあったんか・・・中々面白いやないか!

 

『服部センセ、垣根はなんて呟いたんや?』

 

 

『ん~、それがですねぇ・・・【逆算】だとか【本物の強襲】がどうとか呟いてましたよ?ん~訳が分かりません!服部、気になります!!』

 

相変わらずのテンションの服部センセにイラッときつつ、爆発音が鳴り響き続ける廃墟に目を向ける。

『逆算』はともかく、『本物の強襲』・・・か

本物・・・はっ、こら面白いやないか!

あんたの強襲・・・しかと見届けたる!

 

                                                          

 

 

~廃墟内~

 

 

廃墟内は阿鼻叫喚と化していた。

内部に妙な違和感、悪寒が走ったと同時に壁が・・・床が・・・天井が破壊されていく異常事態に加え、砂埃の先に突如として現れる凶悪な笑みを浮かべる茶髪の男。

 

ある生徒は異常な事態に極度の混乱に陥り意識を失い、ある生徒は崩壊した壁の先から突如として現れた

茶髪の少年、垣根の放つ異質な雰囲気に腰をぬかし戦意を失った所、意識を刈り取られ無力化。またある生徒は果敢に垣根に挑むが異常事態に冷静さを欠き容易く敗れる・・・

 

そうこうする内に残りの生徒は一人になっていた。

そして、その生徒は今垣根と対峙している。

 

「な、なんなんだお前は!?それにこんな崩壊聞いてないぞ!?」

 

生徒は垣根が放つ異質な雰囲気と崩壊が続く廃墟の様子に戸惑いながらも、垣根になんとか銃口を向ける。

 

「なんなんだとは失礼な奴だな。聞いてないだ?当たり前だろ。これは強襲だぜ?クソボケ」

 

垣根は溜息をフッと一息吐くと拳銃を取り出した。

拳銃を取り出した垣根を見て対峙した生徒に緊張が走る。

 

「動揺は隠せてないが、そんな中でも銃口を俺に向けられる辺りテメェは三下の中でもまぁマシだな」

 

垣根はつまらなさそうにそう言うと、ゆっくりとだが生徒に近づいていく。

近づいて来る垣根を見て生徒は銃弾を放つが、恐怖という感情から手は振るえ狙いは定まらない。そして垣根を正確に捉える事は出来ず、無情にもあらぬ方向に銃弾は向かう。

入っていた弾薬を切らし焦りはますます酷くなる。

 

大丈夫だ・・・まだ奴との距離は少しある。

落ち着け!!落ち着け!!落ち着け!!

 

恐怖や戸惑いから手が振るえてしまい中々銃弾は上手く補充出来ず時間は思った以上に掛かってしまう。

チラリと垣根の様子を見た際には・・・既に垣根は生徒の目の前から消えていた。

 

「目の前の敵から目反らすなよ。ド素人か?テメェは」

 

突如背後からする垣根の声。

いつの間にか・・・垣根から意識を離した数瞬の間に垣根は生徒の背後を取っていた。

その事実に生徒は驚嘆したと同時に後頭部をグリップで殴られ気絶した。

 

        残り生徒数0名

 

 

 

~垣根side~

 

『ん~ん~』ってうっせぇ監視野郎がいる前で能力使用は気が引けだが、結果としては正解だったな。

 

能力で三下共の大体の位置を把握した後は・・・未元物質による建物内の崩壊を狙う。

パニックを起こした奴程仕留めやすいもんはねぇ。

移動時には壁を破壊、上層に行く時には天井を破壊し時短で標的の元に向かう。

 

後は・・・冷静さを失った馬鹿を刈り取るだけ。

 

廃墟の破壊を狙い未元物質を使用したが・・・まぁ、三下相手に直接使った訳じゃねぇし、良心的だろ。

 

 

 

どちらにせよ・・・これで蘭豹も文句はねぇ筈だ。

十名を無力化したんだ試験はクリアだ。

クリアなんだろうが・・・気掛かりな事が一つある。    

 

『ん~』の野郎とは違う存在がこの廃墟内にいる。

 

廃墟内に入った直後から感じる奇妙な視線・・・

敵意でも殺意でも無ければ、好意でもない。

ただ単にこちらを見ているだけ、といった視線。

そして、その視線は今も俺に向けられている。

 

武偵か?

だが、この奇妙な視線は人間染みたものじゃない・・・

だったら、一体なんなんだ?

 

正体不明の視線についてアレコレ考えるが、答えは出ない。

 

「最近、分かんねぇ事ばっか増えてんな」

 

首の関節をコキコキ鳴らしながら呟く。

 

ともあれ試験自体は終わった。

正体不明の視線に違和感や疑問を感じつつも外にいる蘭豹の元に行くため、元来た道に引き返す。 

 

増えていく謎に思わず溜息が漏れてしまう。

 

 

そんな時だった。

一つの銃声が廃墟内に鳴り響いたのだ。

 

放たれた銃弾は謎の光を帯ながら、垣根の頬を掠る。

そして、垣根の頬から滴り落ちる一筋の鮮血。

 

間もなくして、一つの声が聞こえてくる。

 

「油断大敵って言葉を知らないのか?受験生。武偵になるのであれば一つの油断が命取りになるぞ?」

 

少し低めのこちらを威圧するような声は垣根にドンドン近づいてくる。

 

間もなくして、スーツにサングラスを着用した20代前後の男性が姿を現した。 

 

続く




というわけで・・・まだ一章は続いちゃいます・・・
5弾辺りから終わる終わる言い続毛ているのに終わらない一章・・・どうしてこうなった・・・

次回の更新は少し空きますが、次回こそ必ず終わります!終わらせます!今回がいわばクライマックスです!

早くキンジやアリアを出したいなと思いつつ次回に向けて頑張りますので応援よろしくお願いします。


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第八弾 新たな武偵 後編 III

更新遅れました・・・


目が覚めた時から垣根を襲っている不可解な現象や今回の試験中に感じた正体不明の視線。

増えていく謎に思考が傾き周囲への意識が散漫し、反応が遅れた為だろうか?

 

あるいは、垣根に放たれた銃弾が生徒の放ったソレとは明らかに違う弾速だったからだろうか?

はたまた、能力使用を行っていなかった為だろうか・・・

 

いずれにせよ、垣根の頬には一筋の血が滴り落ちておりこの試験にて始めて傷を負った・・・それが事実である。

 

 

「油断大敵という言葉を知らないのか?受験生。武偵になるのであれば一つの油断が命取りになるぞ」

 

 

スーツを着用しサングラスを掛けた男性が垣根に近づきながら言う。

 

 

確かに油断はあったのかもしれない。

垣根はこの試験の中で、ある種のラインを引いてしまっていたのだ。

 

垣根は学園都市では裏の世界で活動していた。

そんな裏の世界では、血で血を洗う抗争が当たり前であった。学園都市に不利益を与える者や害を為す者の始末、あるいは命知らずなスキルアウトの奇襲なんて事が垣根が過ごしていた裏の世界で日常だった。

 

学園都市に七人しかいないlv5の超能力者である垣根にとって敵対する存在のほとんど、いやほぼ全ての存在が自らより数段劣る文字通りの格下ばかりだ。

工夫次第、あるいは奇をてらった攻撃でどうこう出来る領域を超えた存在、それが学園都市における垣根だ。

 

だが、いくら格下とはいえ垣根と同様学園都市の脳開発によって人工的に異能の力を得た者、天然の原石と言われる能力の持ち主・・・あるいは戦闘ひいては殺しの手段を幾つも持つ裏の世界の住人が垣根と敵対するほとんどだ。

 

彼等は圧倒的な力を持つ垣根にとっては些細な存在ではあるが、裏の世界を知る存在である。

そんな彼等の力は過少評価する訳はなく、常に防御の意味を兼ねて能力は微弱ながら能力は発動しており、【アイテム】との抗争時にアイテムの構成員、【絹旗最愛】の能力による攻撃もその能力により無効化した。

 

そんな能力保護を行っていた垣根は学園都市では、傷を負うなんて事はそうそうなかったのだ。

 

だが今回の試験においては面白みのない試験である事や犯人役の生徒達の力量を見て学園都市とは違い、この試験では能力発動による保護は必要ないと判断してしまったのかもしれない。

 

らしくはないが、垣根には確かに油断が生じていた。

例え能力発動をせずとも得体の知れない視線に思考を偏らせる事なく、意識を周囲に向けていれば結果は違ったかもしれないが・・・結局は後の祭だ。

 

 

 

垣根は頬を滴り落ちる血を手で拭うと、不思議な事に傷口はまるで初めからなかったかのように塞がり血は止まった。

それを確認すると自身に銃弾を放った男性を見据える。

そして、警戒を取り戻し改めて思う事は一つである。

 

違う・・・コイツじゃねぇ(・・・・・・・・・・)、と。

 

あの得体の知れない視線はこの男性から感じたソレとは明らかに違う。 

 

確かに未だ尻尾すら出さない得体の知れない視線は気にはなる。だが、どんな理由があれ結果として油断していた自身に傷を付けた目の前の男性に垣根は今、集中する事にした。

 

 

「で、テメェは?」

         

 

垣根は男性を見据え、問い掛ける。

 

 

「テメェとは、口の聞き方がなっていないね。だが、聞かれたのだから答えてあげようか」

 

男性はフッと溜息を吐くと口元に笑みを浮かべ、

言葉を続ける。

 

 

「私は蘭豹先生と同じく強襲科の教諭を務めている羽賀、羽賀雷人(はがらいと)だ。君も東京武偵高に入りたいと思うのであれば覚えておきたまえ」

 

 

垣根も男性同様溜息を吐く。

テメェの名前が聞きたかった訳じゃない、と。

 

「・・・さっきの問いはその羽賀、テメェが何をしたか、何をしに出てきたのかって意味で聞いたんだがな」

 

 

「ふむ・・・それは失敬。試験としてはだね、10人と伝えられていた犯罪者は実は11人、つまりは1人が隠れ潜んでいたという設定だ。『あらゆる事態を想定せよ』というのはこの事なんだ。そして、隠れ潜んでいた最後の犯人である私を捕縛出来ればパーフェクト、といった所だ」

 

 

「なるほどな・・・テメェの事は『ん~』の野郎とは違う存在として感知はしていたが、そういう意味合いがあったとはな」

 

能力発動時に廃墟内に存在する人間の位置を把握した際に感知した。

試験前に10人と伝えられていたが、能力で感知出来た人間の数12人であり可笑しいとは思ってはいた。

最も、この件についての最大の謎は正体不明の視線を送っていた奴の肉体的存在が感知出来なかった事なんだが、今は捨て置く。

 

とにもかくにもだ、自ら監視役だと言わんばかりの『ん~』の野郎と同じ監視の類と思って放置していたが・・・まさかソイツが犯人役であり、俺に傷を負わせるなんて事になるとはな。

 

 

「にしちゃ、テメェの言い分はおかしかねぇか?

本来なら俺が見つけるべき存在だろうが、テメェは。何故自ら出てきた?自首か?」

 

 

 

「・・・教官に対するその言葉遣い、全く腹立たしい限りだ」

 

 

羽賀は苦々しげな表情で垣根を睨むと言葉を続ける。

 

 

「なに、ただ君が気に食わなかっただけ・・・とでも言っておこうか」

 

 

気に食わなかっただけ・・・感情的かつ私的な理由じゃねぇか・・・くだらねぇな

 

 

「で、テメェは何がお気に召さなかったってんだ?」

 

 

特に意味はなかったが、潰す前に一応聞いておく。

 

 

 

「全て、とでも言っておこうか。傲岸不遜なその態度。懸命な努力を続ける生徒達を馬鹿にしたような言動。そして、己の力に過信しきったその様・・・全てだ」

 

傲岸不遜、ねぇ・・・

見下すも何もテメェ自身と他人を正当に評価した結果、そうなっただけなんだがな・・・

所詮三下は三下に過ぎねぇんだよ。

 

己の力を過信?

誰に向かって言ってんだ、コイツは?

 

 

「で、テメェはそんな理由でいたいけな受験生に発砲したってのか?短絡的だな、オイ」

 

 

「なに、私もただ感情的に発砲した訳ではないさ。教育的指導という面もあるさ」

 

羽賀はサングラスを指で掛け直しながら言う。

 

 

「己の力を過信した武偵は危険だ。己の力を信じ過ぎるあまり敵との実力差を測かり損ねるからな」

 

 

 

羽賀とやらの言わんとしている事は分かる。

俺の元にわざわざ自殺しに来るスキルアウトやら半端な能力者がその典型例だな。

中途半端な力量に酔いしれて何の根拠もなく圧倒的に格の違う相手と同等、あるいはそれ以上だと思い込む・・・そんな輩は少なくなかった。

だが、それは目の前のテメェにも言える事なんじゃねぇか、羽賀?

 

 

「何が言いたいか、分かったかね?」

 

 

羽賀は垣根を見つめながら言う。

 

 

 

「いや、全然だな」

 

 

肩を竦めておどけるような仕種を見せる垣根に羽賀の眉が怒りからなのか、ピクリと動く。

 

 

「試験中の君の言動、挙動、そして能力・・・全て見させてもらった。君は些か他人を見下す傾向があると判断した。原理は分からないが、君の爆発を起こすステルスは素晴らしいが・・・それだけだ。それだけに過ぎない。そんな程度の力で混乱を起こし、それに乗じてつまらなさそうな・・・自分が勝つのが当たり前といった表情で生徒達を倒した君に教えておこう。上には上がいる、と。君のような自分の力を過信しきったチンピラが真っ先に死ぬ・・・そんな世界だ、武偵というのは」

 

 

上には上がいる・・・コイツ本気で言ってんのか?

 

爆発を起こすステルス?

爆発しか起こしちゃいねぇから仕方ねぇが・・・俺の未元物質はそんなチャチなもんじゃねぇ・・・

 

その程度の力?

はっ、中々どうして愉快な事を宣いやがる

 

思い上がってんのはテメェだ、羽賀

 

 

 

「くっ・・・くっくっく・・・!はははは!!はははははッ!!」

 

堪えてはいたが、もう駄目だった。

笑いに笑いながら羽賀を見据える。

 

 

 

「何かおかしな事でもあったかね?」

 

 

羽賀の口ぶりは平静を装ってはいるが、自身を馬鹿にしたような垣根の笑いに怒りを隠せないのか顔はかなり真っ赤に染まっている。

 

 

 

「汚ねぇ口からプープー屁出してんじゃねぇよ、笑っちまったじゃねぇか・・・くっ・・・くっくっくっくっ!」

 

言いながらなおも笑い続ける垣根は愉快そうたが、それに反比例するかのように羽賀の顔は怒りで染まっていく。

 

 

 

「何がおかしい!!言ってみろ!?」

 

 

 

「くっくっくっ・・・はぁ・・・」

 

 

 

「いつまで笑っている!?」

 

 

 

なおも笑い続ける垣根に対し血管がぶちギレんまでに羽賀の怒りが頂点に達する。

 

 

「はぁはぁ・・・あ?何がおかしいかまでわかんねぇくるくるパーなのかよ、テメェは」

 

 

この一言が、羽賀の怒りを増幅させた。

 

「ふざけるな!!ただのチンピラ風情が!!私をコケにするな!!」

 

 

突然、バチバチという音が鳴り響く。

そして、羽賀の周囲に電流が帯び始めた。

 

 

ほぅ・・・中々面白ぇじゃねぇか、ステルスってのも。学園都市でいう所の電撃使い系にあたるって訳か。そして、さっきの光を帯びた銃弾は超電磁砲(レールガン)の要領で加速させたって所か?

最も、本物の超電磁砲である御坂美琴には威力・速度ともに数段劣るが・・・まぁ、精々lv3程度の実力だろう。

 

 

「驚いたかね?私は強襲科の教官であるが、ステルスも使えるのだよ!!私のステルスは電撃!!爆発という陳腐なステルスしか使えない君とは格が違うのだ!!」

 

 

格が違う、爆発ねぇ・・・

本当に言うこと為すこと一々くだらねぇ野郎だ。

この程度の力でコイツら俺に強さを誇示しようとしている・・・それが酷く哀れに思える。

そして、聞き捨てならねぇ事を宣った。

 

 

「先程までの侮辱や非礼・・・詫びるなら今のうちだぞ?」

 

敵意の篭った眼差しで羽賀は垣根を見据える。

羽賀としてはいくら垣根が無礼な人間であろうと、謝罪すれば、不問にするつもりだった。

そもそも、羽賀の目的は傲岸不遜、爆発しか起こせないステルス使いの少年に上には上がいる事を伝え、自身の力に思い上がっている事を止める事だ。

羽賀はそれを含め、自身を馬鹿にした態度を取る少年に灸を据えれればよかった。

 

よかったのだが、垣根から返ってきた言葉は羽賀の思惑を大きく外れるものだった。

 

 

「ベラベラと臭っせぇ息バラ巻いて楽しいか?」

 

 

その言葉に羽賀の怒りは臨界点に達した。

 

羽賀の周囲に帯びている電流が増幅する。

 

「・・・ッ!!身の程知らずのチンピラが!?上には上がいる事を知り散りたまえ!!」

 

増幅した電流が垣根に向かって解き放たれる。

垣根に迫る閃光・・・そして、周囲は眩しい光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・少しやり過ぎたか?」

 

羽賀は一人呟く。

 

歯にもの着せぬ垣根の物言いに思わず本気を出してしまった・・・武偵法は守ってはいる為、命に関わる事態には陥ってないはずだ。

最もそれだけであり、直撃したのは確認したから無事ではないだろうが・・・まぁ、舐めた態度を取っていた事や思い上がった態度への高い授業料と思えば問題なかろう、と羽賀は思った。

 

 

 

「ふむ・・・」

 

垣根がいた辺りを黙視してみると、先程放った電流の影響により砂埃が酷く舞っており様子は確認出来ない。                    

暫しジッと見つめていたが、あそこで倒れている筈の垣根の回収や医療機関への搬送はアニメヲタクの服部先生がやってくれるだろうと思い、溜息を一息吐くと踵を返す。

 

 

「あまり武偵を舐めるよ、受験生」

 

 

そう言い残し、その場から立ち去ろうとした。

 

立ち去ろうとし数歩、歩を進めた所で背後から物音がした。

そして、背中に走る悪寒。

と同時に聞こえる筈のなかった声が耳に入ってくる。

 

 

 

「オイオイ・・・そんだけか?」

 

 

ありえない!?

羽賀はそう思い勢いよく振り返る。

 

振り返った先には傷はおろか、肌や髪、服に汚れ一つつけていない垣根が悠然と立っていた。

 

 

 

「なっ、なぜ・・・!?」 

 

なぜ、としか言いようがなかった。

直撃して無事ではいられない程の電流を浴びたのに何故この男は平然としている!?

 

 

「何故か・・・単純明快だ。テメェ如きじゃ俺は倒せねぇ、それだけだろ」 

 

先程までの羽賀であったのなら、垣根の物言いに反論していただろう。

だが、出来なかった。

 

羽賀が全力で放った電撃を受けても平然としている垣根を見て抱くのは恐怖のみだった。

 

 

「武偵を舐めるな、か。ご忠告痛み入る。だが、だからこそ俺からもあんたに言いたい事があるんだが・・・聞いてくれるか?」

 

 

「な、な、な、何かね!?」

 

 

「テメェこそ・・・未元物質(この俺)を舐めるなよ」

 

先程までの平素と変わらぬ声色から冷酷な、冷たい声色に変わる。

 

 

「な、何を・・・」

 

羽賀はそれ以上言葉を紡ぐ事は出来なかった。

垣根の背中に現れた異物を目の当たりにしてしまったからだ。

 

 

垣根の背中に現れた異物・・・それは純白に輝く六枚の翼。

 

未元物質という異質な能力は、その能力を最大限に使う際に垣根の意思を問わず正体不明の純白の翼は出現する。しかし、簡単な能力の使用であるのならば出現させずとも可能である。例えば、この試験の中で正体不明の爆発を起こしたように・・・

 

では、何故出現させたのか?

思い上がった三下に格の違いを見せ付ける為、それだけに過ぎない。

 

羽賀の顔が絶望の色に染まる。

 

 

「いいか、三下。こっから先、テメェの常識は通用しねぇ。何一つだ・・・それが分かったら」

 

 

純白の翼が羽賀に向かって振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

「俺とテメェの格の違いに絶望してから逝け」

 

 

押し迫る白い奔流

垣根の持つ純白の翼は天使の翼、とも形容すべき美しいものなのだが・・・この時、羽賀雷人には悪魔の翼に見えたという。

 

 

 

こうして、戦いの幕はひけた。

 

 

 

 

----------------------

 

第二試験結果  

 

受験生 垣根帝督

 

犯人役生徒10名 全て無力化

 

教官1名 無力化 

 

暫定ランク S   

 

 

 

------------------------

 

 

「おー、お疲れさん。思ったより早かったなぁ」

 

 

第二試験を終え、舞台となった廃墟を出ると蘭豹が声を掛けて来る。

何故かその蘭豹の隣には相も変わらずやる気のなさそうな面を下げた綴もいやがる。

 

 

「ステルス使いだったなんて聞いてなかったぞ、垣根」

 

 

 

「言ってなかったからな」

 

 

別に言う必要がなかったから言わなかっただけだしな。

 

 

 

「しっかし、アレやな!ステルス使いとはいえ試験会場を破壊しながら挑む奴がおるとは思わんかったで!!東京武偵高始まって以来の大物(アホ)やな、垣根は」

 

 

ケラケラと笑いながら、バシバシと俺の背中を叩く蘭豹。

 

 

 

痛ぇし、ウゼェ・・・

っつーか、お前とは初対面だっつーのに馴れ馴れし過ぎだろ・・・ウゼェ、心の底からウゼェ

あと、アホはテメェだ。                        

 

蘭豹は一通り笑い終わったのか、あるいはウザがってる俺に気付いたのか・・・背中を叩くのを止め、再び口を開いた。

 

 

 

「まぁ、何はともあれ第二試験もクリアっちゅー事で編入試験は無事終了や」

 

 

まぁ、羽賀だかなんだかを含めた全員を無力化したんだ。当然といえば当然なんだが・・・

 

 

「で、結果は?」                     

 

 

「合否や合格時のランクはまた後日知らせる。諜報科の服部センセからの報告も踏まえて判断せなあかんしな」

 

 

「そうかい」

 

 

『ん~』の野郎が諜報科の教官っつーのは初耳だが・・・っつーか、『ん~ん~』うるさいあいつに諜報活動出来んのか?

途中から居なくなったしよ・・・

 

等とどうでもいい事を考えながら返す。

 

 

「まぁ、悪い結果にはならん思うで。ほなな」

 

 

蘭豹はそう言うと、東京武偵高の方へ去っていった。

 

 

 

「ま、2、3日中には結果を伝えに行くから待っとけ」

 

 

綴が例のものを口にしながら言う。

 

 

「2、3日ねぇ・・・」

 

 

それまでどうしたもんか・・・

学園島の探索でもするか?

っつーか、今日みたいに病室抜けだせんのか?

 

等と考えていると、綴も蘭豹に続くように歩き出す。

 

歩き出した綴の背中をなんとなくだが見ていると、綴はこちらに振り返ると口を開いた。

 

 

「東京武偵高で待っている」

 

そう言い残すとこちらを振り返る事なく綴は去っていった。

 

 

そして、綴が去ったのを確認すると俺も入院している病院に向かい歩き出す。

 

目が覚めた時から続く不可解な出来事、時間の齟齬、正体不明の視線・・・増え続ける謎を再確認し溜息を吐きながら俺は歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、2日後綴から知らされた結果は以下の通りだ。

 

 

 

----------------------  

 

編入試験結果  合格 

                       

 

暫定ランク   Sランク 

(危険性高い為、要注意)

-----------------------

 

 

 

その翌日には、東京武偵高に編入する事となる。

 

 

学園都市に戻る手掛かりを探る為、俺の武偵としての活動が明日から始まる。

 

 

 

続く?

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、垣根が行った第二試験は伝説として広まる事となる。

しい。

試験会場を破壊した受験生がいた、と。

垣根がこの事を知るのはまだ先の話となる。

 

 




一章、一応終わりました!
なんとかなんとかですが・・・ 

次話はキャラ紹介と補足を入れて、キリの良い10弾から2章スタートです!

今後もよろしくお願いします!


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第八・五弾  正体不明

垣根が去ってから暫く経った廃墟内には一人の人物が佇んでいた。

 

 

「ん~、中々どうして!ん~素晴らしい!」

 

 

東京武偵高 諜報科教官 服部瞬蔵である。

服部は今回の第二試験において、垣根帝督という受験生の監視を任され、事実監視に当たっていた。

 

「ん~、途中で蘭豹先生からの通信があった際にはヒヤヒヤしちゃいましたが・・・」

 

 

垣根が正体不明の爆発を起こし、異変に気付いた蘭豹からの通信。そして何故かテンションが上がり思わず声が大きくなってしまった。

諜報科としてあるまじき失態だ。

 

 

「ん~、まぁ始めから気付かれていたとは思いますが!ん~、私もまだまだですねぇ~!いや、まだまだだね!!ですねぇ!!ん~ん~」

 

 

しっかし、彼はなんなんでしょうかね~!ん~!

始めから私の存在に気付くとは・・・驚きのあまり思わず前屈みになりそうでしたよ!!ん~

 

そうそう、謎といえば・・・羽賀先生との闘り合いの中で見せた白い翼。

あれも興味深いですねぇ!!ん~、私気になります!

無駄に気配消した甲斐があったってもんですよ!!

 

 

垣根は服部の存在を途中から認識出来なかった・・・

服部の持つ術によって感知されない存在として監視を続けていたのだ。

諜報科のプロ、それが本来の服部瞬蔵だ。

 

 

「体力使うからあまり好きじゃないんですけどねぇ~。ん~、彼も彼で私を警戒してたみたいですし・・・仕方ありませんね!!」

 

 

 

しかし、と服部はヘラヘラした態度から一転真面目に思考し始める。

 

 

正体不明の爆発を起こし会場を破壊した垣根・・・

 

羽賀が放った高威力の電撃を受けても傷一つ付かない垣根・・・

 

長い諜報活動の中でも見たことのない異常な存在の垣根・・・

 

そして、極めつけは白い翼。

あの時異様な空気が周囲を包んだ・・・

思わず震えてしまった程に。

あれはこの世界には有り得ない力・・・の筈。

 

なら・・・彼はもしかして・・・

 

 

「ん~・・・事実は小説より奇なりと言いますしね。有り得ないなんて事は有り得ないって奴ですかね~!ん~」

 

 

そう言う、服部の顔は心底楽しそうだ。

 

 

「アレを見たまま伝えるのは・・・面白くないですし!・・・それに、まだ早いですね・・・」

 

 

服部は独り呟きながら出口に向かって歩き出す。

羽賀及び気を失った生徒達を引きずりながら・・・

 

 

「しかし、彼もえげつないですねぇ・・・」

 

服部は羽賀の両腕を見ながら呟く。

羽賀の両腕は通常では有り得ない方向に捩曲がっており、どう見てもかなりの深手を負っているのが分かる。

 

 

「ん~・・・まぁ、どうでもいいか!」

 

心底どうでも良さそうに言う服部の眼は心なしか冷たかった。

 

 

 

さて、蘭豹先生にはどう報告しますかね・・・ん~

 

白い翼・・・興味深いですが・・・黙っておくのもアリですねぇ~!

 

『彼の実力は大したもんだ!』

『正体不明のステルスを使った!』

『訳が分からないよ!』とでも言っておきましょう! 

あ、今のどこぞの地球外生命体みたいですね!

 

 

服部は一人納得し、フンフン鼻唄を唄いながら歩みつづける。

 

 

「いや~、正体不明のステルスを使う謎の編入生!ん~、またまた前屈みになりそうな位テンション上がってきましたよ!!」

 

そんな事を言いながら出口に差し掛かった辺りで服部はふと違和感を感じた。

 

ん・・・?誰かいるんですかね~?ん~・・・

 

術を使い周囲を索敵してみるが、何も引っ掛からない。

 

ん~・・・何か居たような気がしたんですが・・・気のせいですかね!!

 

 

「ん~!!帰って録画したアニメでも見ますかね!!深夜アニメも見ないといけないし・・・ん~、時間がない!!」

 

服部はそう言うと、廃墟を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟内のとある一角には、正体不明の存在がいた。

その存在は極めて異質な存在・・・この世界にはいるはずのない存在だ。

 

 

『・・・・・・垣根・・・帝督』

 

垣根の名前を呟くとその存在は笑ったかのようにも見えるが、よく分からない。

 

 

「・・・・・んな・・・ッダが・・・・ない。・・・・しかし・・・・・見つけた・・・」

 

言葉は途切れ途切れ。

そんな正体不明の存在は終始、この試験を観察していた。いや、正確には垣根帝督をだ。

 

何が目的で、何故垣根を知っているのか分からない謎の存在は不思議な事に数瞬するとスッと姿を消した・・・

 

まるで、始めから存在していなかったかのように・・・

 

そして、廃墟内に存在するものはいなくなった。

 

 

新たな武偵 終わり。

 

 

----------------------

 

登場人物紹介(オリキャラ)

 

服部瞬蔵

 

21歳。諜報科の教官。

かの有名な服部半蔵の子孫。服部家に代々伝わる忍術を活かした諜報活動が得意。

 

口癖は『ん~』

 

アニメヲタクで、影響を受けやすく日常会話の中にでもよくアニメのキャラの台詞をよく取り入れる。 

ロボット物からハーレム物まで内容は問わず見る。が、基本的には美少女キャラが登場しないとテンションは上がらない。

ハーレム物も好きといえば好きだが、どちらかといえば百合っぽいものが好み。

 

深夜アニメもリアルタイムで見ており、    睡眠時間は短い。短いが、基本的には常にハイテンション。

理想のタイプ美少女っぽいアニメ声の娘     恋人は二次元と豪語する。

 

一部の生徒には人気があるが、 

その他の生徒達からはウザがられている。    

 

垣根の第二試験の監視及び報告担当者。

 

報告内容は以下の通り。

 

1 認識出来ないステルスを使う。

 視識出来たのは正体不明の爆発のみ。

                                       

2 戦闘力、状況判断力に秀でている。強襲の適性あり。

 

3 Sランク相当。だが、性格及びステルスには危険性あり。要注意する必要がある。

 

 

4 試験において、教官を撃退する。  

 

 

 

 

 

 

 

羽賀雷人  

 

25歳。強襲科教官。

強襲科の教官としては蘭豹には劣るが優秀な存在。

 

ただ、思い込みが激しい一面や頭に血が昇りやすい一面もあり生徒達からはあまり人気はない。 

また、普段は丁寧語だが頭に血が昇ると暴言が飛び出る。

 

ステルスは電撃。

応用が利き、ステルスを使った強襲が得意

 

垣根に敗れ両腕をへし折られる等悲惨な目に遭った。

垣根との戦闘はトラウマとなっており、何も語らない。

 

19歳の妻と2歳の娘がおり、家族仲は良好らしい。

 

サングラスは妻からのプレゼントで常時着用している。            

 

垣根と同じ武偵病院で治療を受ける事になる。




次話から2章です。
『未元物質と武偵殺し』突入します!

と言っても9月からですが・・・

更新遅くなりますが、頑張りますのでよろしくお願いします


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