例外少女とギルガメッシュのFate/EXTRA (雨宮ラキ)
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エピソード.0
始まり


――少女は日常を謳歌していた。その日常が作られたものと知りながら…。

 

 

少女は普段通り学校へと向かう。

 

遠目から見てもわかる大勢の人間、先日…本当に先日なのだろうか、もっと前のことのように思える…生徒会が学内風紀強化月間を行うといっていた。大方、そのことについてだろう。

 

校門に近付くと、友人という役割を持った男…生徒会長の柳洞一成が彼女を呼び止める。

 

「おはよう!今朝も気持ちのいい晴天で結構!」

「……おはよう。」

 

少女は一成を一瞥し、そのまま歩を進める。

 

「ん?どうした、そんなに驚いた顔をして。」

 

一成は誰も居ない場所に向かって話している。

端から見たら可笑しな光景だが誰もそれを気には止めない。

 

少女は幾度となくこの光景を見てきた。だが、それが不愉快だとは思ったことは無い。

それどころか、普通の学生になれて嬉しいと思える程だ。

いや、待て。彼女は元々普通の学生だったはず。なのに、何だ?この記憶は。

ただの不具合だろうか。…気にしなくともそこまで問題はない気がする。

 

 

彼女は歩く。靴を履き替え、自身の教室まで向かう。

そして、扉を開く。ガヤガヤと騒がしいほどの教室は今日も健在だ。

だが、彼女に目を向けるものは誰もいない。不気味なほどに、おかしな事に。

それなのに、彼女は気にせず、椅子へと座る。

そして、腰まである長い黒髪を前に持ってき、一つにまとめる。

それから少し経つと、HRの始まりを知らせるチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

それから、"いつもと変わらない"授業を受けた。

 

――そして夕方。

 

 

 

少女を頭痛が襲った。

 

彼女は思う。

 

―もうそろそろ限界かな。と

 

一度目を閉じ、また開く…つまるところの"瞬き"をすると、目の前はノイズに覆われた。

別に周囲が見えないほど酷いものではない。が、視界がぼやけるというのに少女は少しばかりイラついた。

 

だが、そんな事気にした様子もなく下校…いや、この日常から去ろうと一階へと降りる。

 

ふと、少女は目の前をレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイと同じクラスの少年…名前は何だったか。そんなことは覚えていない。どうせただのモブなのだから…が一年生の教室前廊下の方向へ向かっていくのが見えた気がした。

 

最近、この学校はおかしい気がする。行方不明者が多すぎる。

いや、行方不明というべきではない。その者達はいるべき場所に帰ったのだ。

 

問題なのはそこではない。というより、おかしいのはこの少女のことなのだ。

 

 

 

 

 

 

目を―――な。

 

この仮初の日常から。

 

 

目を――るな。

 

真実が何なのかということから。

 

 

目を背けるな。

 

この場所にいる、その意味から。

 

 

 

 

 

 

 

少女は一年生の廊下の方を見ながら決心する。

 

―追おう。と

 

 

そして、走りだす。この作られた日常か抜けだす為に。

 

廊下の先…確か、ここは行き止まりの筈なのだが。そこでレオナルド…レオと先ほどの男が話している。

 

「本当に良く出来ているディテールだけでなく、空気さえリアルだ。

ともすれば、現実よりずっと現実らしい。

 

 

ねぇ、貴方"達"はどう思います?」

 

レオは男に背を向けたまま、そう問いかける。

 

「こんにちは。こうして話をするのは初めてですね。」

 

レオは振り返りながら、穏やかな表情で男のほうを見ている。

 

「ここの生活も悪くはありませんでした。

見聞の限りではありましたが、学校というものに僕は来たことが無かった

。そういう意味ではなかなかに面白い体験が出来ましたよ。

 

……でも、それもここまでです。この場所は僕のいるべき場所ではありませんから。

寄り道は所詮寄り道。いずれは本来の道へと戻らなければいけない。

それが今…。」

 

レオはくるりと、踵を返し男に背を向けた。

 

「さようなら。………いや、お別れを言うのは間違いだ?

今の僕は理由もないのにまた貴方に会える気がしている。

だからここは、"また今度"と言うべきでしょう。では先に行きますね。

貴方"達"に幸運を。」

 

そういったレオは一瞬だが確かに少女の方を向いた気がした。

 

レオは壁へと歩いて行き、この場からは消えてしまった。男もそれに続き、消えていく。

 

あの壁に何があるというのか…いや、それを少女は知っている。

あの壁の先に、行かなければいけない場所があるのだ。

 

少女は彼らが消えていった壁に手をかける。

 

少しばかり目を凝らすと見えてくる。

ただの変わらぬコンクリートの壁だった場所には扉があった。

少女は普通に、自然に手をかけ、中に入る。

 

 

 

そこは、普通の用具室のように見えた。ただ、そこに異物のようなものが混ざっていたが…

少女の目の前にはつるりとした肌のデッサン人形のような人形(ドール)が置かれていたのだ。

 

 

――それはこの先で自身の剣となり、盾となるもの。

 

どこからともなくそんな声が聞こえてくる。

 

少女は人形を一瞥し、扉の無い、穴のようなものの先進んで行く。

 

 

 

―そこは、暗闇だった。ホログラムで作られたかのような道だけがある、ただの暗闇だ。

 

歩くと、少女自身の足音が聞こえる。

反響して大人数いるかのような錯覚を覚えるが、一人だけしか居ないのだ。

 

一定の歩数を歩くと、一瞬だけ光に包まれ周りは暗闇から変化する。

よくわからないがこれもホログラムの一種だろう。

 

そして、また一定の歩数を歩くと、またも光に包まれる。

次は壁が現れた。―この先へ進め。そう、言っているかの様に…。

 

そして、最後にまたも光に包まれた時には、空間が広がっていた。

 

その空間は、いつ物陰から怪物が現れてもおかしくないような異様な空間だ。

この場所に名前をつけるとしたらという言葉がぴったりだろう。

 

「ようこそ、新たなマスター候補よ。」

 

少女があたりを見回していると声がどこからか聞こえてきた。

誰も居ないというのに。どこから聞こえてくるのか…そういう謎が頭を過るがいくら考えようが答えは出てこないだろう。

 

「君が答えを知りたいなら、まずはゴールを目指すといい。さぁ、足を進めたまえ。」

 

言われたとおり、仕方がなく足を進める。 

この迷宮にはアイテムボックス…宝箱のようなものだ…や、エネミー…つまりはモンスターと考えればいい…など、迷宮呼ぶに相応しいものが揃っていた。

 

少女は、声に説明されながらエネミーを人形に命令することで薙ぎ払いながら進んで行く。

 

 

 

そして、4体のエネミーを倒し、先へと進む。

 

少女は声に良くやったと褒められたが、あまり嬉しくないというのが本音だった。

 

…声には出さなかったが。

 

 

そして、声の言う最後の間へと、辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 



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ギルガメッシュとの出会い

ただ、ただ広いホールのような場所についた時、天宮燈月は驚いた。

その広さに驚いたのではない、そこら中に転がっている死体に驚いたのだ。

 

今まで、誰かの人形(ドール)だったのだろうものが倒れこんでおり、そのそばにはその誰か…人形の所有者だったものも倒れ…いや、死んでいた。

 

「この人形動き出しそうだなぁ…」

 

興味に唆られ、近付こうとすると燈月の後ろから付いて来ていた人形が燈月よりも一歩前に出た。

 

…どうしたと言うの?

 

燈月の頭の上にはその疑問が浮かんだ。だが、その疑問はすぐに解消されるものとなった。

燈月が動き出しそうと言った人形が動き出したのだ。

 

「嘘…本当に動き出しちゃったよ…」

 

人形に向かってそう言うと、人形は待ってましたと言わんばかりに進み出た。

人形は先手を取るように素早く攻撃するが、向こうがガードしていた為撥ねかえされ、反撃を食らってしまう。

 

 

この勝負、一言で言うと向こうの勝ちだった。勝てるか勝てないかの瀬戸際だったのだが、最初の攻撃、あれのせいで負けてしまったのだ。

 

 

「………うそ…。」

 

燈月はへたり込む。敵は燈月に近寄り、自身の手を振りかぶろうとしている。

 

―――…今回もダメだったか。…では、今を持って聖杯戦争の募集を締め切るとしよう。

 

そんなところに声が聞こえた。燈月はゆっくりと周りを見通す。だが、誰も居ない。どうやら、ただのシステムのようだ。

 

「……待って。私は、まだ、負けたなんて一言も言ってない。」

 

もはや立つのも限界の足で立ち上がる、が、膝に手を付いてしまい、俯いているような状態となってしまったり

その時だ。

 

「フハハハハッ!面白い、敗北したと言うのに、貴様は負けてないというか!」

「っ…誰?」

 

燈月は顔をあげようとする。だが、声の主はそれを止めた。

 

「貴様の様な雑種が(オレ)の顔を見るなどもっての外だ。…あと、声をかけることもな。

今は例外として我が話しかけてはいるが、それも貴様に聞かせるのは惜しい。

本当ならば我の声を聞かせることもダメなのだ。」

 

―…声をかけるなと、顔を上げるなと言った?…あと、声も聞かせたくないとも。

ならば、どうすればいいのだ。私に一生俯いて過ごせと言っているのか、こいつは。

 

「ふっ…貴様には、あるでは無いかこの最悪の状態を挽回するためのものが。」

 

―挽回するためのもの?何だろう…それは。

 

「まだ分からぬか。それでも魔術師か?貴様はこの聖杯戦争に出たくて来たのであろう。

ならば、少しぐらいルールを知っていても良いではないか。」

 

―…そんなこと言われたって……いや、待て。聖杯戦争?今、この男は聖杯戦争と言ったのか?

 

燈月は閃いた。いや、思い出したのだ。左手に迸る痛みと共に。

 

「………ああ、そっか。最初から、こうすれば良かった。

 

 

 

令呪を持って命ずる。私に顔を上げる権利を渡せ。

令呪を持って命ずる、私が貴方と話す権限を寄越せ、

令呪を持って命ずる!私にあなたの声を聞くことを許せ!」

 

令呪は一人3つまで。この時点で彼女の死は決まった。

 

「フッ…フハハハハッ!良いだろう、許す。顔をあげよ、雑種。

たが、良いのか?貴様は今3つの令呪を使った。これでは聖杯戦争に参加することが出来なくなってしまったではないか。」

「…そうだね。このまま、死ぬっていうのもありなのかも知れない…ね。」

 

そんなことを言いながら、彼女は左手を見る。…だが、令呪は残っていた。

 

「…あれ?令呪、ちゃんとある…。」

 

令呪というのは、元々3画からなるものの筈なのだが、彼女の手に印された令呪は7画。

その内の3つがなくなったので、今は4画となっていた。

 

「何!?それは本当か。…どれ、見してみよ。」

 

男…いや、令呪を使えたのだ。燈月のサーヴァントは燈月の左手を掴み、マジマジを見る。

 

「…これは……やられた、一本取られたぞ!うむ、確かに令呪はある。

この娘は例外ということか、面白い。聖杯戦争、貴様を切り捨て、傍観しようと考えていたが…。やめた!我も参加しようではないか。」

「……あの、ところで、貴方は誰?」

「ん?我か?我は、ゴージャ…いや、アーチャーとして召喚されたサーヴァント、ギルガメッシュだ。

 

さて、天宮燈月。問おうではないか。貴様が我のマスターか?」

 

金ピカの鎧に身を包んだ男…ギルガメッシュと名乗ったサーヴァントはそう、天宮燈月に問いかけた。

 

 

 



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始まりを告げる声がする

燈月はギルガメッシュの方を向き、驚きを隠せない表情をしている。

何時まで経っても何も言わない燈月に苛ついたのか、ギルガメッシュはもう一度問う。

 

「貴様が我のマスターかと、聞いたのだ。

早く答えよ、雑種よ。次はもう聞かんぞ。」

 

その言葉にはっとした燈月は恐る恐るコクリと頷く。

 

「…多分。そうだと思う。」

「多分だと?令呪が使えたのだから多分ではなかろう!」

「……」

 

燈月は呆れた。

それもそうだ、自分でわかっていることをギルガメッシュは聞いてきたのだ。

 

「と言うよりも、だな。この問が一種の契約みたいなものなのだ。

しっかりと答えよ。…まぁ、令呪があると言う事はこれを問う必要はない等しいが。」

 

燈月の顔に出ていたのだろうギルガメッシュが呆れながらも教えてくれる。

 

が、最後の方、つまりは言ってみたかっただけではないのか?

喉に出かかったその言葉を飲み込み、他の言葉を探す。

 

「なるほど…そういうこと。

 

私が貴方のマスターで合ってるよ。……貴方の事はなんて呼んだらいい?」

「ギルガメッシュで良い。我にはクラスは無いようなものよ。」

 

ギルガメッシュはそんなことを言いながら、片手を前に出す。

 

疑問に思いギルガメッシュの目線の先を見ると、先ほど燈月が敗北した人形が立っていた。

 

「ふんっ……我の前で身構えるとはいい度胸だな!」

 

ギルガメッシュがニヤリと笑うと、人形の真下と真上に穴のようなものが出現した。

 

燈月がなんだろう。と疑問に思っていると、真下の穴から剣や槍など殺傷性の高い武器が勢い良くでて、人形の体を貫いて真上の穴に吸い込まれるようにして戻っていった。

 

「……すごい。流石英雄王って呼ばれるほどの実力…。」

「これぐらい、当然よ。」

 

人形はそこら中に穴が空き、再起不能の状態となり、倒れた。

 

「手に刻まれたのは令呪……まぁ、もう知っているようだがな。

一応説明しておこう。サーヴァントの主人となった証だ。

使い方によってサーヴァントの力を強め、あるいは束縛する。

……使い捨ての強化装置と思えばいい。」

 

いきなり、先ほどまで黙っていた声が令呪について説明してくれる。

 

「ただし、それは同時に聖杯戦争本戦の参加証でもある。令呪をすべて失えば

マスターは死ぬ。注意することだ。

 

困惑していることだろう。しかし、まずは…

おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いたものよ。

主の名のもとに休息を与えよう。とりあえずは、ここがゴールということになる。」

 

その後も、声は色々と言葉をつらつらと並べ、言葉を締める。

 

「君に、何者からか祝辞が届いている。光あれ、と。

 

では洗礼を始めよう。君にはその資格がある。

日常に背を向けて踏み出した君の決断は生き残るにたる資格を得た。

喜びたまえ、若き兵士よ。君の聖杯戦争はここから始まるのだ。」 

 

 

聖杯戦争…ムーンセルが作り出した最も強き魔術師(ウィザード)を決める戦い。

それが今。開かれようとしているのだ。

 

「これからの戦いを切り裂くために用意された英霊。それが君の隣にいる者だ。」

 

英霊…ふと、燈月はギルガメッシュの方を向く。

ギルガメッシュは真正面を向いたまま動かない。

 

「…長ったらしい話はそろそろやめろ。聞いているこっちが飽きてきた。」

「おっと、済まない。どうやら、怒られてしまったようだな。

 

では、これより、聖杯戦争を始めよう。

いかなる時代、いかなる歳月が流れようと戦いをもって頂点を決するのは人の摂理。

 

月に招かれた、電子の魔術師たちよ。汝、自らを以て最強を証明せよ。」

 

そう、声が言うと、世界が光に包まれ、

 

その眩しさ故か、それとも、先ほどまではなかった令呪の痛みのせいか…

 

燈月はふらりと地面へ倒れ、気を失った。

 

 

 



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聖杯戦争の始まり

 

燈月が目を開けると、そこは保健室のベットの上だった。

 

予選時に居た学校と似ているが確実に何かが違う。

 

燈月は布団を綺麗に畳んでから立ち上がる。

ふと、目の前に何かが現れた。

 

黄金の鎧をまとった絶対的王者、ギルガメッシュ……。

彼が隣にあるベットに足を組み、腕を組み座っていたのだ。

 

「遅いぞ!もっと早く起きれんのか、待ちくたびれたぞ!」

「……そんなこと言われても…。」

 

燈月は自身の服装を整える。

予選の時に着ていた月海原学園とは違い、黒いドレスのようなワンピース。

そして、首元に巻いてある黒いマフラーに黒い靴。

 

すべて黒。夏のような、冬のような格好はこの月だからこそできる格好と言ってもいいだろう。

季節という概念が無い世界だからこそだが、やはり少しばかり異端だ。

端から見たらセンスがないと言われるであろう恰好なのだ。

 

 

「そんなことではないのだ、燈月よ。起きなければ聖杯戦争に参加できないではないか。

我はコレに参加するために召喚されたのだぞ?ずっとここで座ってろというのか、貴様は。」

 

聖杯戦争…それは聖杯であるムーンセル・オートマトンが用意した電脳空間での戦い。

その戦いに勝ち抜けば聖杯が願いを叶えてくれるという。

 

「それにしても、勝ち抜け戦とは……7人のマスターと英霊の乱戦だったら楽しいのだが…。

まぁ、128人もいるのだ。無理もない、か。」

「乱戦?何、それ。」

「貴様が気にすることではない。今は目の前にある聖杯戦争を勝ち抜くことだけを考えよ。」

 

そこでふと、燈月は疑問に思い、その疑問を口に出してみた。

 

「そういえば、ギルガメッシュ。

真名隠さなくていいの?正体、バレバレだけど…。」

「ん?問題あるまい。正体がバレてもどうせ我には勝てぬからな。」

 

ニヤリと笑いながら答える。流石というべきか、何と言うか、ものすごい自信だ。

まだ、対戦者も発表されて居ないというのに。

 

「さて、そろそろ行こうか、十分休めたし。」

 

燈月がギルガメッシュにそう問うと、ギルガメッシュは頷くと姿を消す。

 

姿を消しているだけで普通に側にはいるようだ。

 

 

保健室から出ようと、扉に手をかけようとすると、扉が自動的に開いた。

別に、その扉が自動ドアだったと言う訳ではない。

ただの来訪者だ。いや、白衣を着ているから、元々は彼女の場所だったのかもしれないが。

 

そこに立っていたのは、月海原の制服を着て、その上に白衣を着た、髪の長い少女。

その上の長さは燈月のは比べ物にならない。地面につくのではないかという程だ。

 

「あ、天宮さん。目が覚めたんですか?良かったです。」

 

そう声をかけてきた少女は予選でも見かけた事のある人物だった。

間桐桜。間桐慎二の妹という役割を持っていた少女だ。

 

「体の方は異常ありませんから、もう自由に散策などして頂いても構いませんよ。

それと、セラフに入られた時に預からせていただいた記憶は返却させていただきましたのでご安心を。」

 

元々用意されていたような文を淡々と喋り、彼女は予選について説明し始める。

 

どうやら、予選は一生徒として日常を送り、仮初の日常から自我を呼び起こし、

自分を取り戻した者のみがマスターとして本戦に参加する、というものだったらしい。

 

燈月は初めの方に自我を呼び起こしてはいたが、それからも仮初の日常を過ごしていたせいで少しばかり混乱を起こしてしまっていたようだ。毒されたというべきだろうか。

 

「貴方も名前と記憶を取り戻しましたので、確認しておいて下さいね。」

 

名前と記憶…燈月は自身の記憶を巡る。

 

学生だったこと、不登校になっていたこと。

 

などの簡単な記憶は見つかる。

しかし、なぜ聖杯戦争に参加したのか、自分の願いが何なのか。

 

そして……自分の記憶が多々欠落している。

 

「…待って。記憶、戻って来てないんだけど。」

「不備、ですか?すみません。

それは私には何とも…間桐桜(わたし)は運営用に作られたAIですから。」

 

それは、燈月も知っていた。だが、ムーンセルがこんな不備をするだろうか?

ムーンセルについても、少しばかり抜けているところはあるが、燈月の調べたムーンセルはそんな失敗をするモノではなかった気がするのだが…。

 

「あ、それからこれ、渡しておきますね。」

 

燈月の思考を遮るようにして桜がこちらに端末を渡してきた。

 

「表示されるメッセージに注意するように、とのことです。」

 

燈月は端末を出現させたバックに入れ、保健室を後にした。

 

 

 



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遠坂凛という少女

廊下から出た燈月は、AIの一人であり、燈月の友人という役割を割り当てられた一成にすすめられ、屋上に来ていた。

 

「一成の言うほど…美しいとは言えないけど、いい眺め。」

 

歩きながら外の眺めを見ていると、しゃがんでこちらに顔を向けている一人の少女と目があった。

 

「あら。そのカスタムアバター…マスターね?」

「うん、そうだよ。貴方は…遠坂凛、かな?」

 

遠坂凛は、容姿端麗、成績優秀な月海原学園のアイドル、という役割だった少女だ。

確かに、顔だちは良い。頭が良いのかはわからないが、優秀な魔術師ということは、彼女の行っていた行為で何となくだがわかる。

 

「壁とか床を触ってるってことは、ここの作りを調べてるの?」

「ええ、そうよ。こんなの見せつけられてるのに、調べないって何がハッカーよ。」

 

凜は立ち上がり、スカートを払う素振りをした…もちろんその必要はないが。

 

「それにしても貴方、ちょっとぼんやりし過ぎじゃない?

他のマスターが目の前にいるっていうのにそんなにのんびりして。

もしかして、まだ記憶が戻ってきてないとか言うんじゃないでしょうね。」

「……ちょっとだけ、不備があったみたいで…あはは。」

 

燈月は無理に笑おうとするが、笑顔が引きつる。

 

「不備!?それってかなりまずいわよ。

コレのシステム上、ここから出られるのは最後まで生き残ったマスターだけ。

棄権…途中退場は許されてないわ。記憶に不備があって、いままでの戦闘経験が無くても、ホームに戻ることは出来ないわよ?」

「…記憶がちゃんとあっても、ホームに戻りたいとは思わないよ。」

「そういうことは覚えてるのね。でも、まぁ問題無いわ、貴方どこかで脱落するもの。」

 

という言葉にギルガメッシュが口を開く、と言っても、燈月だけにしか聞こえないが。

 

「何なのだ、この小娘は。貴様が未熟者であるのは変わりないが、我がサーヴァントなのだから、退場するわけ無いだろう。」

「ちょっと、未熟者ってひどくない?これでもハッカーとしてはいい方なんだけど。」

「何を言っておる。我が言っているのは戦闘経験のことだ。ハッカーとしての力など我の知ったことではない。」

 

燈月は自身がここに来る前、凄腕とまでは行かないが、強い方のハッカーだったことは覚えている。

 

「……あっそう。でも、遠坂さん、私が脱落するかなんてわからないよね?」

「分かるわ。そんなぼんやりしてたら背中からザクッとやられるもの、私ならそうするわ。」

「…そうかなぁ。」

「…はぁ、そういうところがダメだって言ってるんだけど…。

…貴方、本戦に来る前に魂の端っこでもぶつけたんじゃない?どうして記憶が欠落してるのか、後で調べてみたら?」

「んー…気が向いたらね。」

「…………あのさ、また夢でも見てる気分なら改めなさいよ?

そんな状態で勝てるほど甘くは無いわよ。」

 

凜は呆れ顔で燈月に言い、「そろそろ私は戻るわ、じゃあね。」そう言うと、屋上から出て行ってしまった。

 

「なぁ、燈月よ。」

「…何?」

「少し話があるのだが…。良いか?」

「話?どうかしたの?」

「……まだ確信は得ていないのだが、武器の大半が我の倉庫から消えている。

いや、消えているというのは間違いだな。使用禁止になっている。」

「嘘!…それってまずいんじゃ?」

「いや、それほどまずくは無い。これは使用禁止になっているだけだ。

直に使用できるようになるだろう。」

「直にって……いつ?」

「確かなことは言えんが、貴様が戦闘経験を積み、我に見合った魔術師になれば使えるようになるだろう。だが、心配は要らん。我のステータスは万全だ。

最低限の武器しか使えなくとも、問題無い。」

「……そう、なんだ。」

 

結構な一大事だというのに全く慌てないギルガメッシュをみて燈月は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

――夕刻。

 

 

燈月が1階に行くと新婦の格好をした男に話しかけられた。

 

「本戦出場おめでとう。これより君は正式に聖杯戦争の参加者となる。

私は言峰。この聖杯戦争の監督役として機能されているNPCだ。」

「ほう、言峰綺礼か。……いや、言峰綺礼の見た目をしたただのAIか。」

 

ギルガメッシュは彼のことを知っているのか。

そう問いかけようとしたが、言峰が話を続けたので問いかけることが出来なかった。

 

「今日この日より、君たちはこの先にあるアリーナという戦場で戦うことを宿命付けられた。

この戦いはトーナメント形式で行われる。

七回戦まで勝ち進み、最終的に残った一人に聖杯が与えられる。

非常にわかりやすいだろう?どんな愚鈍な頭でも理解可能な実にシンプルなシステムだ。」

「……NPCとなってもその性格は変わらない、か。」

 

―…確かに鼻につく言い方をする神父だ。

 

そんなことを考えてる燈月を知っているのかはわからないが、言峰は話を続ける。

 

「戦いは一回戦毎に七日間で行われる。各マスターには一日目から六日目までに相手と戦う準備をする猶予期間(モラトリアム)がある。

君はこれから六日間の猶予期間で相手を殺す算段を整えればいい。

そして最終日…七日目に相手との最終決戦が行われ、

勝者は生き残り、敗者にはご退場いただく、という具合だ。

 

何か聞きたいことがあるのなら答えよう。

最低限のルールを聞く権利は等しく与えられるものだからな。」

 

「聞きたいこと…。あ、そうだ。私の対戦者って誰なの?」

「何?まだ決まってないのか?ふむ…――妙な話だがシステムにエラーがあったようだ。

君の対戦組み合わせは明日までに手配しよう。」

 

システムエラーは珍しいのか、少しばかり驚いているようだ。

偶数なのにこうやって決まっていないということは、もう一人、燈月のようにエラーがあった人物がいるのだろう。つまり、その人物が対戦者だということだ。

 

「それと、もう一つ。本戦に勝ち進んだマスターには個室が与えられる。

2−Bが入り口となっているので、この認証コードを携帯端末に入力(インストール)してかざしてみるといい。」

 

 

「アリーナの扉は開けといた。今日のところは空気に慣れるといい。

扉は予選の時に通過したあの扉だ。」

 

言峰は燈月に認証コードを渡し、去っていく。

 

「ふむ、個室、か。見に行ってみようではないか。」

 

ギルガメッシュの言葉に燈月はコクリと頷き、端末に認証コードを入力してから、個室に向かった。

 

 

 

 

 

 





…多分、ギルガメッシュはこの制限でも足りない気がする。




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燈月のハッキング能力

 

 

「なんだ、この質素な部屋は。」

 

個室は、2-Aと同じ、ただの教室だった。

 

「これ、個室って言うものなのかな…」

「そんなこと、我に聞くな。」

「せめて、ベッドぐらいは置いておいてほしかったものだけど…」

 

燈月は机を四つ並べて、簡易なテーブルを作る。

 

「まあ、贅沢は言えないかな…」

 

その上に、チェック柄のテーブルクロスを敷き、少しでも見た目を良くする。

 

「何か、出せたりはせんのか?」

「出来ないことはないけど…私自身が知ってるものしか出せないよ?」

「それで良い。出来る限り豪華な椅子をだせ。」

「豪華なって…よく王様とかが座ってる、あの?」

「ああ、できないこともないだろう?」

「まあ…頑張れば…」

 

そういうと、燈月は目を瞑り、近くにある椅子に手をかける。

椅子は、光を放ったかと思えばグニャリとその形を変えていく。

 

「……ほう。」

 

燈月が目を開けた時には、よくゲームなどでよく見る玉座のようなものになっていた。

 

燈月はものの形を変え、自身の記憶しているものに変えることが出来る。

と言っても、現実世界では使えないが。

それに元の形が似ているものにしか変化できない。

 

「どういう原理だ?これは。」

「ハッキングしたんだよ。この椅子を。と言っても私じゃこれぐらいしか無理だけど。」

 

さっきのテーブルクロスも同じ原理だ。こちらはハンカチをハッキングしたが。

 

「結構大変だったんだから、大事に使ってよ?」

「わかっておる。雑種が頑張って我の為に作ったものだからな。」

「そう…ならいいんだけど。」

 

ギルガメッシュは玉座のような椅子に座り、感覚を確かめている。

 

燈月はそばにあったもう一つの椅子をハッキングして、質素だが先程まであった椅子よりかは座りやすい椅子を作り出した。

 

燈月はそれに座り、ギルガメッシュに問いかける。

 

「あのさ、さっき武器の大半が使えなくなったって言ってたでしょ?」

「ああ、言った。だが、それがどうした?」

「それって、宝具とかスキルの類はどうなっているの?」

「もちろん、使えないが?」

 

サラリと言ってのけるギルガメッシュを燈月は呆れたような表情で見つめる。

 

「………。」

「だが、言っただろう。お前が努力すれば使えるようになると。

それにな、一回戦で宝具や、我のスキルを使う必要はなかろう。」

「よくそんな自信満々に言えるね…。強い人と当たるかもしれないというのに。」

「確かに、その可能性も否めぬが、問題は無かろう。」

「……あっ、そう。」

 

そこで燈月は立ち上がる。

 

「む、どうした?」

「アリーナ行くよ。ギルガメッシュの制限がどれぐらい効果のあるものなのかも知りたいし。」

「そうか。」

 

燈月が個室から出ようとしているところを呼び止めたギルガメッシュは渋々立ち上がり、燈月の後を追った。

 

 

 



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エピソード.1 1回戦
初のアリーナ


燈月がアリーナに行くため、一階に降りると藤村大河に話しかけられた。

 

藤村大河とは、予選時に燈月たち2−Aを担当していたAIだ。

だが、彼女は何のようなのだろう。少し困っているような表情をしているが。

 

「あ、天宮さん!ちょっと頼まれてくれない?」

「唐突ですね…どうかしたんですか?」

「実はね、竹刀がなくなっちゃったの。で、どこにあるのか探したんだけど、どうやらアリーナにあるみたいなのよ。

あそこって、エネミーが居るじゃない?私、戦えないからさ。

竹刀を持ってきてくれない?お礼はするから!」

 

そう言って藤村は両手を合わせながらお願いと悲願してきた。

 

「…仕方ないですね。良いですよ。」

「本当?ありがとう!多分、早めに見つけないと処分されちゃうと思うから一回戦が終わるまでに持ってきて!」

「わかりました。」

 

燈月が頷くと、藤村はとても嬉しそうな顔をして、流石私の生徒ね!などと言っている。

 

「では、そろそろ行きますね。」

「頑張ってねー。応援してるから!」

 

藤村は手を振って見送ってくれる。

それを燈月は礼で返し、アリーナ前の扉へとやってきた。

 

「おい、燈月。アリーナに入るともう戻ってこれんぞ?準備は先に済ませておけよ。」

「ギルガメッシュが助言なんて、意外。」

 

燈月はおふざけ半分で驚いたような表情をしてみせる。

 

「馬鹿者!助言では無い。もし、貴様が死ぬようなことがあれば我もここで退場ではないか。

折角財産をいくつか手放してきたというのに貴様が死んではつまらん。」

「…まぁ、準備するにもお金がないから準備出来ないんだけどね。」

「何?貴様、一銭も持っておらんのか!」

「…そうだけど。て言うか、持ってたほうが凄いと思うよ?」

「まぁ、確かに…。ここは電子世界であり、現実世界とは違うのだしな。」

「そういうこと。じゃあ、行こう?」

「ああ。」

 

燈月はそう言うと扉を開け、中に入った。

 

 

アリーナ内は電子の海、というのが一番合っているだろうか。

深海の底。その言葉通りの世界だった。

一言で言えば殺風景。

道とエネミー、アイテムボックス以外は何もないような場所だった。

 

二人は歩きながら周りを見る。

 

「ここがアリーナか…。つまらん世界だな。」

「第二層になった時とかに変わったりするんじゃない?」

「まぁ良い。肩慣らしと行くぞ、燈月!」

 

ギルガメッシュは目の前に現れたエネミーにいきなり向かっていく。

 

「ちょっと!?いきなり突っ込まないでよ!」

「雑魚ごときに負ける我ではないわ!」

 

そういうが早いか、ギルガメッシュは敵の攻撃を先読みして、連撃を繰り出す。

一回戦だからなのか、敵の攻撃が単調だ。言ってはいけないとは思うが確かに雑魚だ。

 

「ふん、これぐらい簡単だ。」

 

いつの間にかギルガメッシュの前にいたエネミーは塵となって消えていた。

 

「む…。燈月よ。今日はあのハチのような敵には挑まないでおこう。

燈月の能力では手強いであろう。」

「…私、何もしてないんだけど。」

「魔力供給が足りなくなるぞ?あやつ、ここらにいる雑魚とは一味違うようだしな。」

「攻撃が複雑ってことね。なるほど、オーケー従おう。」

 

それから少し経ち、ハチより奥にいる敵以外を殲滅し、アイテムを拾った。

 

「…あまり良いアイテムでは無いな。宝は無いのか!」

「この壁ホログラムだから向こう見えるけど…向こうにありそうだよ?」

「なぬ…。ならば明日出直そう、少々惜しい気もするが…。」

「大丈夫、アイテムは逃げないよ。」

「逃げたら逆に恐ろしいと思うが?」

「比喩だよ!」

 

全面がガラスのように見えている為あまりにも遠くにあるもの以外は見えてしまう。

その為、アイテム探しはやりやすそうだ。

 

「しかし、あまり肩慣らしにもならないな。これぐらいなら燈月の支援も必要なくあのハチも倒せるだろうがそれでは興ざめというもの。

今後、ここを探索する時に楽しみがなくなっては困るからな。そろそろ戻るぞ。」

「そうだね。歩き疲れちゃったし。」

 

燈月たちは、戻る際、復活していたエネミーを倒しながらアリーナを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――夜。

 

 

校舎に戻り、個室にて休息をとっていたところ、ギルガメッシュが口を開いた。

 

「うむ、やはり我の推測はあたったようだ。」

「推測…って、何だっけ?」

 

燈月は眠いのか、片目だけを開けている。

 

「阿呆か貴様は!武器の話だ。

燈月の戦闘能力か上がれば武器も自然と戻ってくると言ったであろう。」

「あー…言ってたね。でも、今日私何にもしてないよ?」

「見るだけでも経験となる。少ししか上がらんがな。」

「そうなんだ。で、いくつ戻ってきたの?」

「2つだ。」

「は?」

「聞こえなかったのか?2つ戻って来たのだ。」

 

自慢気に語るギルガメッシュを見ていた目を閉じ、燈月は眠ろうとする。

 

「…なぜ無言でこちらから目をそらした。」

「…2つで自慢気に語る王が可哀想で。」

「燈月よ、貴様……。」

 

ギルガメッシュは燈月に文句を言おうとしたが、部屋に響く寝息を耳にし溜め息をついた。

 

「…この我が2つで喜ぶとは…この娘に影響されたのかもしれんな。」

 

 

 

ギルガメッシュは燈月にならった訳ではないが椅子にその身を預け、目を瞑った。

 

 

 







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対戦者「間桐慎二」

燈月が目を覚ますと、ギルガメッシュが玉座に身を預けスヤスヤと眠っていた。

立ち上がり、ギルガメッシュの方に近付き、揺する。

 

「―……起きて。」

「………む。」

 

ユサユサと揺らされていることに気が付き、ギルガメッシュは目を覚ます。

 

「なんだ、小娘。」

「ご飯食べようと思うんだけど、行く?」

「…どこにだ?」

「食堂。」

「ふむ…まぁ、庶民の味を楽しむのも悪くないだろう。」

 

そう言うと、ギルガメッシュは立ち上がり、個室から出る。

 

「寝起き悪そうに見えるけど、案外良いのね…。」

 

燈月は独り言をポツリと呟くとギルガメッシュを追って廊下へ出た。

 

「ああ、そうだ。燈月よ、今度椅子のそばに丸机を用意しておけ。」

「…なんで?」

「必要だからに決まっておろう。それ以外なにがある。」

「りょーかい…。」

 

燈月は目を擦りながら、食堂へと向かった。

もちろん、ちゃんとギルガメッシュには霊体化してもらったが。

 

 

 

***

 

 

 

「美味しかったぁ。」

 

朝食…と言っても、もう昼に近いが…を食べ終わり、燈月たちは個室に戻ろうとしていた。

別に、個室で何かするというわけではないが、やる事が無く、暇なのだ。

図書室で相手のことを調べるにも対戦相手が決まってない今、調べる必要もない。

 

「流石ムーンセルと言ったところだろうな。」

「うん、何と言うか、来れて良かったムーンセルって、思っちゃうくらい。」

 

などと、談笑をしていた時だ。

 

――プルルルッ…!

 

 

と、燈月が手に持っているバッグから無機質な機械音がなった。

 

「……対戦者決まったのかな。」

 

そんなことを考えながら端末を開き確認すると、燈月の予想通りの言葉が書かれていた。

 

 

 

::2階掲示板にて、次の対戦者を発表する。

 

 

「端末で教えてくれる訳じゃないんだ。」

「ということは鉢合わせるかもしれんな、相手マスターと。」

「そうだね。誰だろ…。」

 

燈月は階段を駆け上がり、掲示板の前に立つ。

 

 

元々貼っていた紙の上に貼らされていた真っ白な紙には、

 

 

燈月の名と間桐慎二の名と決戦場が書かれていた。

 

「へえ。まさか君が一回戦の相手とはね。

本戦に居るだけでも驚きだったけどね。」

 

いつの間にか、燈月のそばには第二ボタンまで開けたYシャツを着た男が立っていた。

 

「間桐、慎二……。誰だっけ?」

「ほう、1回戦は慎二が相手とはな。」

「ちょっと!?誰って、酷くないか?一応、予選ではお前の友人だったんだぞ!」

「私の友人はそんなにワカメじゃない、はず。」

「ワ、ワカ……。」

 

驚愕で固まった慎二の方を向いた燈月はくすっと笑って言った。

 

「嘘だよ、ワカメなんていうわけ無いじゃん。覚えてる覚えてる。」

「全く、君は元友人に対する礼儀がなってないよね。」

「冗談を本気にするほうが悪いと思うよ。」

「……。」

 

慎二は燈月の言い分に呆れ、仕切り直しするかのようにコホンとひとつ咳き込んだ。

 

「でも、考えてみれば僕の友人に割り当てられてた以上、

君も世界有志の魔術師だったってことだよね。

格の違いは歴然だけど、一応、楽しく友人やってた訳だし、おめでとうと言っておくよ。」

 

ギルガメッシュは慎二の話を聞き、燈月に問いかける。

 

「格の違いとは…燈月、貴様が当然上であろうな?」

「いや、多分下。慎二、こういう性格だし。」

「……分かっていた。慎二がこういう性格なのは我もよく知っている。

だが、なぜ我が下と思われねばならんのだ。」

「…下って思われたの私だと思うけど。」

「何ゴチャゴチャ言ってんの?

…――そう言えば君、予選ギリギリで突破したんだっけ?

どうせお情けで通してもらったんだろ?良いよねえ凡俗は。

色々ハンデつけてもらってさ。」

 

その通りなのだが燈月はそれぐらいで引く人間ではない。

 

「うん、結構お情け。ギ――サーヴァントがサーヴァントじゃなかったら多分、失格だったんじゃないかな。」

「ふーん?でも、本戦では実力勝負だから、勘違いしたままは良くないぜ?」

「いやいや、してないよ?」

「けど、ここの主催者もなかなか見所があるじゃないか。

ほんと、一回戦目から盛り上げてくれるよ。」

 

もはや、脱線したくないのか、慎二は燈月の言葉を無視である。

 

「……行こう。」

 

燈月は拗ねたのか、慎二を無視して個室へ行こうとする。

 

 

「ちょっ、ちょっと待てよ!お前一応、友人だろ?」

「……やだ。友人って言っても仮初の友人だし、別に情が移ったとかないし。」

 

慎二は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「…ああ!やだやだ!だから凡俗は嫌なんだよ!立場というものをわかってない!

今回の戦いで、それをお前に分からしてやるからな!」

「…正々堂々?」

「ああ、僕はそこはちゃんとしてるからね。正々堂々とだ!」

 

そう言うと、慎二は歩いてどこかへ行ってしまった。

 

「…捨て台詞みたいだったね。」

「…ああ、そうだな。慎二らしいといえばらしいが。」

 

ふと、燈月は先程から疑問に思ってたことを聞いてみた。

 

「そう言えば、ギルガメッシュ、慎二と知り合い?」

「む?…ああ、向こうは知らんがな。」

「ふーん?…そうなんだ。」

 

まぁ、良いけど。

 

燈月はそう呟くと個室へ戻る為、足を進めた。

 

 

 

 








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慎二との戦い

――夕刻。

 

 

燈月がギルガメッシュに頼まれていたテーブルを作ったりしていると、いつの間にか、夕方になっていた。

そろそろアリーナに行こう。

そう思いながら個室から出ると先ほど聞いた無機質な音が響いた。

 

「…次は何だ?」

「ええっと…第一暗号鍵(プライマリトリガー)を生成。第一層にて取得されたし。

だってさ。第一暗号鍵って、何だろう?」

「さぁな。これは言峰に聞いてみるのがいいんではないか?」

「そうだね。聞きに行ってみようか。」

 

燈月たちが話していると、調度良く言峰が現れた。

 

「若きマスターよ。アリーナに向かう前に私の話を聞いておきたまえ。」

 

なぜ彼は上から目線なのだろう…。だが、監督役の言うことなのだから聞いておいて損はないだろう。

 

燈月はそんなことを考え、なんですか?と聞く。

 

「先ほど端末に第一暗号鍵が生成されたと通信があっただろう?」

「ああ、そのことですか。そのことなら丁度いいです。私も聞こうと思ってましたから。」

「本戦の参加者は6日の猶予期間(モラトリアム)のうちに暗号鍵(トリガー)を二つ、揃えなければならないルールとなっている。」

「揃えなかったらどうなるんですか?」

「闘技場に入れず退場となる。それだけか?」

「まぁ、今聴きたいことは。」

「そうか。注意点を伝えておくが、七日目に闘技場に入る前の死闘は、学園であれ、アリーナであれ禁止されている。

万が一、アリーナで私闘に及んだ場合はシステム側から強制終了されるだろう。

学園での私闘はマスターのステータス低下という罰則が加えられる。きをつけたまえ。」

「…なるほど。肝に銘じておきます。」

 

そう頷くと言峰は話すことがなくなったのかこちらに背を向けた。

 

「じゃあ、アリーナに行こう。」

「ああ、今日はハチの奥にも行ってみるとしよう。」

「ハチと戦う前に慎二と鉢合わせしそうだと思うけどね。」

 

燈月はそんなこと、ありませんようにと願いながら階段を降りる。

すると、次は慎二が声をかけてきた。

 

「お、天宮。おまえもトリガー取りに行くのかい?悪いけど僕もこれから行くところさ。」

「…そう。なら慎二が出るまで待ってようかな。」

 

慎二に聞こえないような声で呟く。

 

「お前みたいなノロマには取れないかもしれないけどさ。精々頑張んなよ。」

 

笑い声を上げながら去っていった。

 

「……ノロマ?」

「貴様が本戦に来るのが遅すぎるからであろう。

今すぐ追いかけるぞ!貴様とて、罵倒されて黙っている口ではなかろう!」

「…別に言い返さなくても。」

 

燈月はそういうが、確かに少しは苛ついていたのか、体がアリーナに向かっていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

アリーナに入るとギルガメッシュが声をあげる。

 

「やはり、居るか。慎二め、待ち構えているぞ。気をつけろ!」

「相手の情報探るのも良いかもね。戦ってみる?」

「うむ、どうせ強制終了されるだろうが一回戦うというのも手だな。」

「じゃあ、行こう。」

 

 

燈月は走りだし、エネミーを蹴散らしながら慎二の元へと駆け寄る。

 

「あ、ハチがワカメに退化してる。」

「遅かったじゃないか天………天宮。」

 

少し聞こえてしまったのか、平然とした顔をしながらも慎二は動揺している。

 

「…お前があまりにもモタモタしているから、僕はもう暗号鍵(トリガー)をゲットしちゃったよ!」

「モタモタはしてないよ。経験積んでただけだし。」

 

ムスッと膨れた顔をしていると、慎二は貶したような笑い声を出す。

 

「あははっ、そんな顔するなよ?才能の差ってやつだからね。うん、気にしなくてもいいよ!」

「気にするんだけど…。」

「ついでだ。どうせ勝てないだろうし、僕のサーヴァントを見せてあげるよ。」

「…勝てない、だと?」

 

ギルガメッシュは慎二に聞こえない声で呟く。どこからどう見てもお怒りだ。

それを燈月が宥めているにも関わらず慎二は話を続ける。

 

暗号鍵(トリガー)を手に入れられないなら、ここでゲームオーバーになるのも、同じことだろ?」

「…言峰から聞いてないの?死闘は強制終了させられるんだよ?」

「それまでに終わらせればいいさ!さぁ!蜂の巣にしちゃってよ、遠慮無く!」

「おしゃべりはもうおしまいかい?なかなか聞き応えがあったのに。」

 

慎二の隣にいる顔に大きな傷を負った女性が慎二のサーヴァントなのだろう。

 

「ほら、うちのマスターは人間付き合いがヘタクソだろ?」

「うん、ちょっと罵倒が過ぎるかな。」

「だろ?お嬢ちゃんとは、平和的解決もありかと思ったんだがねぇ。」

「それはあり得ないね。私のサーヴァントは結構短気だし。」

「おい、小娘。何を言っている。」

「……ほら。」

「おい、ラ……サーヴァント!いいから痛めつけてやってよ!」

「はいはい、わかったよ。…報酬をたっぷりと用意しときなよ!」

 

そう言うと、向こうのサーヴァントは拳銃を取り出した。

 

「ギルっ…――!」

「何勝手に略している。ちゃんと最後まで言え、雑種!」

「そんなことしたら相手にばれるじゃない!」

「バレてもどうということはない、いいハンデであろう。」

 

そんなことを言いながらもギルガメッシュはちゃんと構える。

 

「燈月よ、今回ばかりは後方支援(バックアップ)を頼むぞ!」

「了解!任せておいて!」

 

 

燈月たちのほうは、話し合っていたからか、少し出遅れてしまい、向こうが先に攻撃してくる。銃をギルガメッシュに向かって撃った。

 

「ふん、それぐらいで我を倒せると思うではないぞ!雑種。」

 

ギルガメッシュはその弾を取り出した剣で跳ね返しながら距離を縮める。

ふと、そこでアリーナ内に警報が鳴り響く。

 

「チッ…もう気付かれたのかよ!」

「早めに片付けるよ、慎二!」

 

それでも、敵は銃を連発して来る。

 

――アーチャー…?いや、でも…まだ決め付けるには情報が少なすぎる。

 

「ギル、今は相手を倒すよりも情報を!」

「分かっておる!楽しみはとっておかねばつまらんからな!」

 

ギルガメッシュは飛び上がり、敵に向かって槍のようなものを投げつける。

 

「それぐらいでアタシをビビらせられると思ってるのかい!」

 

敵はそれをかわし、飛んでいるギルガメッシュに向けて発泡した。

空中にいるため銃弾はかわせない。だが、ギルガメッシュはそんなこと分かっていた。

相手が上に気を取るように仕向けば下ががら空きになる。

 

ギルガメッシュはそこを狙ったのだ。

 

「おい!下だ!」

「何!?」

 

敵が下を向いた時にはもう遅い。武器が下から這い出てきた。

 

「っ…ぐ。」

 

身を捩り回避しようとしたが、想像よりも大量の武器を出したのだろう。かわせなかったためか、いくつか傷ができている。

 

「大丈夫か!?」

「ああ、問題ないさ!」

 

「どうした?雑種。先程までの威勢の良さはどこに行った。」

 

地に降りニヤリと笑うギルガメッシュはまるで挑発しているよう……いや、確実に徴発している。

 

「その自信、へし折ってやるよ!」

 

敵はギルガメッシュに…突撃した。

 

「何?銃で突撃とは…面白い。はは―っ!流石よな、こうでなくては戦いはつまらん!」

 

ギルガメッシュは敵に剣を振るう。が、敵は左にある銃を盾としその攻撃をガードする。

そして、もう片方の銃でギルガメッシュの顔を狙い、撃った。

 

「中々やるではないか。」

 

ギルガメッシュは流石に避けきれなかったのか頬に傷ができていた。

 

「アンタもねぇ!」

 

双方が下がった時、セラフの干渉があり、戦闘が強制終了された。

 

「チッ…セラフに感知されたか。」

「…ギル、人が支援してるからって羽目外しすぎ…。」

「それにしても、天宮。良いのかい?サーヴァントの真名を普通に名乗っちゃってさ。」

「ギルから始まる英霊だって結構いるよ、多分。」

「我的には晒してやっても構わんのだが、燈月は駄目だというからな。」

「ふーん…。ねぇ、天宮。サーヴァントは結構いいの引いたみたいだけど、それでも君が弱くっちゃ意味ないんだよ、分かる?もうヘトヘトじゃないか。帰って休んだらどうなんだい?」

「休むのはそっちの方じゃない?もういる意味もないでしょう?サーヴァント、休ませたほうが良いんじゃない?ボロボロじゃない。」

「僕のサーヴァントはまだ本気を出してはいないんだぜ?精々、特訓にでも励んだらどう?まぁ、それでも勝てるとは思えないけどね!あはははっ!」

 

笑いながら、慎二は何かの石を使い校舎へと戻っていった。

 

「んー…中々疲れた。」

「燈月、貴様、少々体力が少なくないか?何もやってないようなものではないか。」

「慎二の相手をするのが…。」

「確かに、あいつは面倒なやつではあるがな。」

「まぁ、いいや。探索、再開しよう?」

「ああ、そうだな。」

 

 

その後、昨日と同じようにアリーナを探索した。

言峰の言っていたトリガーや、礼装、藤村先生に頼まれた竹刀などを取りながら進み、最奥にあったゴールのような場所に入り、探索は終了した。

 

 

 

 

 

 




初戦闘回。
どうしても銃vs剣って書きづらい


ギルガメッシュさんのキャラがどんどん崩壊していってるような気がしてならない



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間桐慎二と遠坂凛

 

燈月とギルガメッシュはアリーナから帰り個室に入るとすぐに自身の椅子に座る。

 

「……さすがに一日で全制覇は辛い…。」

「貴様が言い出したのだろう。で、礼装は何だったのだ?」

「heal…サーヴァントの体力少し回復するやつよ。」

「ほう、それはなかなか良い礼装だな。ケチったりせず、危険と思ったらすぐ使え。」

「わかってるって。」

 

燈月は礼装を手に持ち唸っている。

 

「…どうした?」

「マフラーなんだよね、これ。……もうマフラー身につけてるし、どうしようかなって。」

「ハッキングでもして他のものに変えればよかろう。」

「それで能力消えたらどうするの?」

「実験でもすればいいではないか。」

「…面倒。まぁ、いいや。衣替えしよう。」

 

燈月は自身の身に付けていたマフラーを消し、礼装を首に巻く。

 

「……やっぱり、黒染めでもしようかな…。」

 

礼装…鳳凰のマフラーを眺めながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

夕方。燈月は相手の情報を探るため、図書室に向かうところだ。

マイルームから出ると見覚えのある人物が見えた。

 

図書室の前で、遠坂凛と間桐慎二がもめていたのだ。

 

燈月がすぐ近くに居るというのに慎二は全く持って気付かない。

 

「君はもうアリーナには入ったのかい?なかなか面白い所だったよ。

ファンタジックなものかと思ってたけど、わりとアプローチだったね。

神話再現的な静かな海ってところかな。

さっき、アームストロングをサーヴァントにしているマスターも見かけたしね。」

 

燈月は近付こうとするがギルガメッシュに止められる。

 

「待て、慎二の性格だとボロを出す可能性がある。黙って見ていようではないか。」

「……確かに。」

 

「いや、洒落てるよ。海ってのは本当いいテーマだ。

このゲーム、結構よく出来てるじゃないか。」

「あら、その分じゃ、いいサーヴァントを、引いたみたいね。アジア圏有数のクラッカーマトウシンジ君。」

 

凜は燈月がいるというのに気付いている筈なのにこっちには目もくすれず、慎二と話している。

 

「ああ、君には何度か煮え湯を飲まされたけど今回は僕の勝ちだぜ?」

 

これだけ近付いているのに気付かないとは…。慎二、後ろから刺されて死ぬんじゃないか?

余裕なのか、殺されないという自信があるのか…。

 

それが何なのかはわからないが、まぁここは校舎だ。

ペナルティは喰らいたくはないし、黙って見ていよう。

 

燈月はそんなことを思いながら二人の会話を黙って聞く。

 

「僕の彼女の"艦隊"はまさに無敵。いくら君が逆立ちしても今回ばかりは届かない存在さ。」

「へぇ、サーヴァントの情報を敵に喋っちゃうなんてマトウ君ったら随分と余裕なんだ。」

 

慎二は自分の失態に気付いたのか、顔が赤くなる。

 

「そ、そうさ!あんまり一方的だとつまらないから、ハンデってやつさ。」

 

「慎二の癖にハンデだと?笑せてくれる。」

 

そう言いながら、ギルガメッシュは笑う。正直言って笑い声のせいで二人の会話が聴こえないからやめてほしいものだ。

 

「で、でも大したハンデじゃないか、な?僕のブラフかもしれないし、参考にする価値はないかもだよ?」

「そうね。さっきの迂闊な発言からじゃ真名は想像の域を出ない。

ま、それでめ艦隊を操るクラスなら候補は絞られてくるし

どうせ攻撃も艦なんでしょ?」

「う…。」

「今の私にできるのは、物理防壁を大量に用意しておくぐらいかしら。」

 

「それにしても、凜、やるな。結構な情報が貰えたぞ?」

「そうだね。感謝しなきゃ。」

 

慎二の顔がみるみる青くなる。そこで声をかけようとしたが、その前に凜が声をあげる。

 

「あ、一つ忠告しておくけど。私の分析(アナライズ)が正しいなら"無敵艦隊"はどうなのかしらね。それはむしろ彼女の敵のあだ名だし?折角のサーヴァントも気を悪くしちゃうわよ?」

「ふ、ふん、まぁいいさ。知識だけあっても実践でなきゃ意味ないし。」

 

慎二は強がっているが声が震えてる。

 

「…追い打ちかけてみよっか。あれ、慎二と遠坂さん、どうかしたの?」

 

燈月がにっこりと笑いかけながらさっき来た風に話しかける。

 

「あら、ずっと盗み見てたのに、偶然今さっき来たみたいに話しかけてくるのね。」

「あ、天宮!ずっと見てたわけ!?ま、まぁ、どうせお前じゃ僕の無敵艦…サーヴァントは止められないさ。」

「そうかな?結構遠坂さんが色々と教えてくれたし、わかんないよ?」

「っ…!それぐらいじゃ、僕の勝ちは揺るがないさ。お、お前もせいぜい頑張れば?」

 

慎二は立ち去り、凜が燈月に近づいて来る。

 

「……やれやれ、緊張感に欠けるマスターが多いわね。」

「うんうん。まったくだよ。」

「…貴方も入ってるんだからね?」

「ええ!」

 

燈月は大袈裟に驚いたのような顔をする。その仕草に凛は呆れながら立ち去っていく。

 

「…確かに、燈月は少しのんびりし過ぎだと思うが…。」

「嘘…。」

「嘘ではないぞ。」

「……ま、まぁ。良いじゃない、間抜けな慎二君のお陰で情報入手出来たんだし。

無敵艦隊について、調べてみよう?」

「そうするか…。」

 

ギルガメッシュは半ば呆れながら図書館に行く燈月に付いていく。

 

 

 

「無敵艦隊…無敵艦隊…。あ、あった。」

 

 

無敵艦隊とは、大航海時代におけるスペイン海軍の異名。

千t級の以上の大型艦100隻以上を主軸とし合計六万五千人からなる英国征服艦隊。

 

スペインを「太陽の沈まぬ王国」と謳わしめた無敵の艦隊である。

 

「うーん…これじゃあ、あんまり良い情報にはならないなぁ。

虱潰しに探していけば見つかるかもしれないけど…そんな時間ないし。

朝とかのうちに参考程度に調べておこうかな…。」

 

燈月はブツブツと呟き、図書室を後にした。

 

 

 

 






ワカメ…原作で無口ならまだ勝ち目あったんだけどなぁ…
口滑りすぎぃ




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レオナルド・B・ハーウェイ

 

 

二日目のアリーナ探索。

ギルガメッシュの強さを見るに、アリーナにいるエネミーと戦う意味はないのではと思えてくるが、ギルガメッシュが良くても燈月が良くない為、毎日欠かさず第一層のエネミーを殲滅している。

 

「そろそろ、見てるだけでは経験が上がらなくなってきたか。」

 

突然、ギルガメッシュがそんなことを言い出した。

 

「ええと、それは……まさか?」

「ああ、そのまさかだ。燈月よ、貴様が我に指示せよ。」

「…いきなり過ぎない?」

「いずれはそうする必要があった。それが今、と言うだけだ。という訳で、そこにいるエネミーと戦ってみよ。」

 

燈月は驚き過ぎて声が出ず、コクリと頷くことで誠意を示した。

 

 

 

***

 

 

「小娘!何をやっている。貴様の判断力はそれ程のものか!」

「そ、そんなこと言われても…。実質、これが私の初戦闘みたいな感じなんだから、少しは大目に見てよ!」

 

燈月の初戦闘、やはり、見ているだけでは少ししか経験が詰めず、エネミーの攻撃が分からず、いくつかの傷を負ってしまった。

 

「まだまだだな。エネミーを3体完勝するまでは帰れんと思え!」

「ス、スパルタ…!」

 

 

 

 

そして、3体を完勝することができた頃には、燈月はフラフラだった。

ギルガメッシュの回復、エネミーが居る所まで駆けずり回ったり、はたまた復活するまで待機したり……。

 

「も、もう動けない…。……あ、この床、冷たくて気持ちい……。」

 

個室に戻った燈月は椅子に座る前に倒れ伏してしまい、床に転がったまま寝てしまった。

 

「…これぐらいでへこたれるとは…先が思いやられるな。」

 

ギルガメッシュは燈月を持ち上げ、椅子に寝かせながら呟く。

 

「床に寝られて、明日、体痛くて動けないとか言われても困るからな…。」

 

 

自身の椅子に座り、目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燈月は目覚めた後、何で椅子で寝てるんだろう、床で寝てしまった筈なのに…などと考えながらギルガメッシュと共に個室から出た。

 

 

個室から出ると、NPC達に混じって、マスターたちとすれ違う。

外見が明らかにNPCじゃない、という人もいるが制服を着ている人もいる。

何となく、雰囲気が違うのだ。マスターがピリピリしているのか、NPCが意思のない人形だからなのか、明確なことはわからないが。

 

そんなマスターの中に一際目立っている人がいた。

 

と言っても、燈月も十分目立っているが。

 

「おや、あなたは…。やはり、あなたも本戦に来たんですね。」

 

そう声を掛けてきたのはレオナルド・B・ハーウェイだった。

赤い学生服を身に纏った彼は、存在感と言うものが他のマスター達よりも確実に濃かった。

予選ではとてつもない違和感があったが、ココではあまり違和感を感じさせない。

 

「言ったでしょう、あなたにはまた会えるって。」

 

にこりと微笑みながら言ったレオは歳相応のあどけなさというものがある。

だが、その笑顔の裏には何が隠れているのか分かったものじゃない。

彼だって聖杯戦争の参加者なのだ。

 

 

何も、目立つというのはレオのことだけではなかった。

レオの後ろに立っている青年。

甲冑を着込み、帯剣している姿。何もしていないというのに漏れ出てくる人の域を超越した力。誰が、どう見ても、サーヴァントだ。

 

ふと、燈月がレオのサーヴァントを警戒していることに気付いたのか、声をあげる。

 

「…ガウェインですか?ああ、僕とした事が失念していました。

 

………ガウェイン、挨拶を。」

 

レオが後ろにいる騎士に命令すると、騎士は一歩前に出て礼をする。

 

「従者のガウェインと申します。以後、お見知りおきを。

どうか、我が主の良き好敵手であらんことを。」

「あの、え?…なぜ堂々と?」

「自身の表れ、だろうな。我も堂々と居ても構わんのだが。」

「それはダメ。」

「と、貴様が言うのならば仕方あるまい。令呪をこんなことに使われてはかなわないからな。」

「ちょっと!私、そんなことに使わないから!」

 

「なかなかに面白いサーヴァントと当たったようですね。」

「面白くないよ…。」

「…それでは、失礼しますね。再開を祈っています。どうか、悔いのない戦いを。」

 

クスクスと優雅に笑うレオはお辞儀をして去っていった。

 

ガウェインと言うと、思い付くのはアーサー王伝説の円卓の騎士の一人だが…

こうも堂々とバラしてていいものなのだろうか。

レオだからこそ出来るのかも知れないが…普通じゃ考えられない。

流石と言うものだろうか。

 

「レオ…!ハーウェイが来るのは想定してたけど、あんな大物なんて。」

 

いつの間にか凜が燈月の近くに居た。

 

「西欧財団の連中がセラフを危険視してるって話は本当だったか。

 

それにしても、御自らご出陣とはね。…良いじゃない。地上での借り、返してあげる。」

 

ニヤリと笑う凛はレオ……ハーウェイと何かあったのだろうか。

 

「……あの、遠坂…さん?」

 

燈月が声をかけるも、眼中に無いのかそのまま去っていった。

 

「……何だったんだろう。……まぁいいや、ガウェインについてちょっと調べてみよう!」

 

 

夕方、燈月が図書館に向かおうと足を進めていると、視界の端に赤い服を着たツインテールの少女が目に入る。

 

「あれ、遠坂さん。」

「あら、御機嫌よう。調子はどうかしら?」

「ぼちぼち、かな…。」

「そう、逃げ回ってばかりじゃ勝てる見込みは無いわよ。

けど、相手の情報を得ないまま戦いを挑むなんて愚の骨頂。この聖杯戦争はいわば情報戦何だから。」

「わかってるよ。あともう少しかな…遠坂さんのお陰だよ。

…でも、どうしてそんなに?」

「別に。あなたのほうが勝ちやすい気がするだけよ。ああ見えて、間桐くんはゲームチャンプ。彼が勝ち上がるよりあなたと当たったほうがやりやすそうだもの。」

「…そっか。」

「ま、精々頑張りなさい。」

 

そんな話をした後、図書室に行くから。と話を区切り、凛と別れた。

 

 

「そういえば…遠坂さんに名前教えてないなぁ…話しづらくないのかな。」

 

そんな事を思いながら図書室に入ると慎二が居た。

 

「あれ、こんなところで会うなんて奇遇だね。」

「あーうん、そう…だね?」

「なんてね、ウソに決まってるじゃないか。」

「まさか、待ちぶせて…?」

「……情報収集といえば図書室しかないだろ。そんなので偶然もなにも無いって言ったんだ。僕も君の情報はしっかりと集めているから、くれぐれも手を抜かないでくれよ。」

「あー…そう言うことね。」

「ところで、目めぼしい本がみつからないみたいだね。残念ながら対策済みさ。あの海賊女に関する本は既に隠蔽(スプーフィング)済みだよ。

少しでも君が楽しめるようにアリーナに隠しておいたよ。」

「それ、なんていじめですか…。」

「まぁ、最弱マスターの君には見つけられないと思うけどね。」

 

あはははっと笑う慎二の言葉は燈月の心にぐさっと来た。

 

「…最弱…体力無いもんね。……最弱って言われても仕方ないよね…。」

「お、おい、天宮?最弱って、そういう意味じゃ無いからな!?体力面もそうだけど僕が言ってるのはマスターとしての方だよ。」

「体力面もそうって言わなかった!?」

「……あ。と、ところで。君のサーヴァントは働くのに何を要求するんだい?

やっぱりお金?」

 

無理やり話を変えた慎二の言葉に燈月はギルガメッシュがいるであろう方向を向く。

 

「……要求…。」

「何だ、我が要求するのは貴様の強さだぞ?」

「…どうせ私は強くないよ!悪いか!」

「まぁ、精々あがいておくといいさ。あ、はははっ。」

 

笑いながら去っていく慎二を見送り、調べ物に専念した。

 

 

 

 






最近、書き貯めというものを取得したけど、そろそろその書き貯めの在庫が減ってきてつらい…。色々リアルが大変なせいでかけないのもあって、次々回あたりから不定期更新になりそうな気がします


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魂の改竄

 

 

調べ物も終わり、アリーナに行こうと一回に降りると言峰に声をかけられた。

 

「やあ、順調そうだな。その調子で第二暗号鍵(セカンダリトリガー)を入手すれば決戦場の扉は開かれる。第二暗号鍵は第二層まで生成される。

アリーナにの扉に行けば、新たな迷宮に入れることだろう。」

 

言峰はこれを全マスターにいっていっているのだろうか…監督役というのも大変なものだ。

 

「ああ、それと、教会には足を運んだかね?サーヴァントの強化が出来るはずだ。

有効だと思うなら利用するがいい。」

「教会……そんなところがあったんだ。行ってみよっかな。」

 

言峰と別れ、その近くにいた藤村先生に竹刀を渡す。褒美がもらえるかと思っていたが、またも依頼を頼まれてしまったが…まぁ、みかんだし、いいだろう…。

 

 

その後、教会に行く前になんとなく保健室を訪れると、桜から回復薬を貰った。

 

 

そして、元々の目的だった教会に着いた。

教会は薄暗く、外の喧騒から遮断されていた。

まるで、この場所だけ世界から切り離されているかのようだ。

 

長椅子には誰も座ってないが、先に進んでいくと赤髪と青髪の女性が居た。

 

「はあい、ようこそ教会へ。君も魂の改竄をしに来たのかな?」

「ん、お前は確か……何だったかな。…ふむ、私が物忘れとは、珍しい。」

「自分で言うんですか…。それより、魂の改竄って、なんですか?」

「あら、魂の改竄知らないできたんだ。ってことは貴方素人の中の素人?」

「…必要としてませんでしたから。」

「そうか。では説明しよう。魂の改竄とは、簡単に言えば君の魂とサーヴァントの魂を連結(リンク)させる事だ。

マスターの魂の位階があがればそれだけ強く連結させることも出来る。

どう連結させるかを決めて、直接魂にハッキングすると言う訳さ。」

「なるほど…。」

「ま、大体姉貴の言ったとおりね。私はその改竄をする役についてるの。

魂の改竄をしてほしかったら私に話しかけて。」

「わかりました。」

 

燈月がコクリと頷くといきなり、赤髪の人が青髪の人に喧嘩をふっかけた。

……聞いてなかったため何を言っていたのかはわからなかったが。

 

「命が惜しければその女の技量をあまり過信しない事だ。

ま、サーヴァントの失われた霊格を取り戻す程度にしておくことだ。」

「失われた霊格を取り戻す…もしかして、使えるかも…。

あの、さっそくお願いしてもいいですか?…あーええと。」

「ああ、私は蒼崎青子だよ。でそっちが蒼崎橙子。」

「わかりました。青子さん、おねがいします。」

「オッケー。じゃあ、サーヴァントさん、そこに立ってもらえる?」

「なぜ、我がそんなことを…。」

「もしかしたらスキル使えるようになるかもしれないでしょ。」

「…それもそうだな。」

 

ギルガメッシュは霊体化をやめ、言われた場所に立つ。

 

青子は出現させたキーボードをいじり、改竄する。

一際眩しい光がギルガメッシュを包んだかと思えば、その光はすぐに消え、ギルガメッシュが降りてくる。

 

「ふむ、燈月よ。どうやら一つスキルを取り戻したようだぞ?」

「え、本当!…青子さんすごいですね。」

「でしょ。」

 

青子は燈月に褒められて嬉しそうだ。

 

「で、何が使えるようになったの?」

「知りたいか?…知りたいだろうな、ならば教えてやろう"風を放つ"だ。」

「……それってどんな技なの?」

「…端末に追加されているはずだ。それを見ておけ。」

「説明面倒なだけでしょ。」

「む、そんなことはないぞ。」

「…はいはい。」

 

燈月はこれ以上長居はしてられないだろうと思い、二人に挨拶をしてから教会を出た。

教会を出るとすぐ目の前で誰かが慎二と揉めていた。

 

どうやら、女の子を連れて教会で騒いでいた慎二があの老人の怒りを買ってしまい外に追い出されたらしい。

 

「教会では静かにするものだ。君の神がどのようなものかは知らんが神父からそう教わらなかったのかね?」

「あいにく、僕は無神論者なんだよ。」

「…日本人は礼儀正しいといていたがそれも人それぞれらしいな。」

「さるがいい、小僧。主を信じぬものに父の家の門は開かれん。技術を学ぶ前に礼儀作法から出直すのだな。」

 

白髪の老人は慎二に言いたいことだけを言い、燈月の横を通りすぎて教会へと入っていってしまった。

 

「はっ!これだからロートルは。」

「…慎二、さっきのは貴方が悪いと思うよ?」

「ひ、燈月!」

「私も神を信じているかって聞かれたら信じてないって言うかもだけどさ。

教会はお祈りをする場所だし。話したいだけなら場所変えたら?」

「なんだよ!お前もさっきのやつみたいなこと言うなよ。」

「……普通の事言っただけなんだけど…まぁいいや、じゃあね。」

 

燈月は慎二とその女の子に手を振って、校舎内に入った。

 

 

 

 







前回あたりのギルガメッシュ曰く、椅子に寝かせてあげたのは、
ただ単に次の日、体痛くてアリーナ探索が出来なくなったら困るから。だそうです。
ツンデレかな…


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アリーナ第二層目

 

 

燈月が、アリーナに行こうと廊下を歩いていると、端末がけたたましく鳴った。

確認してみると、どうやら第二暗号鍵(セカンダリトリガー)が生成されたとのことだ。

 

早々に取りに行こう。そう思い、購買で一応回復薬をいくつか購入する。

 

 

 

 

そして、アリーナの第二層へと足を進めた。

 

「…なんか、殺風景じゃなくなってるね。」

「そうだな。だが、そんなにゆっくりと見ている場合ではないぞ。」

「わかってる。慎二が居るんでしょ?何となくそんな気はした。」

「なら、あいつらに隙を突かれないように慎重に行け。」

「はいはい。」

 

そんな会話をしながら、アリーナ内を歩く。勿論、エネミーを排除しながら。

 

途中、簡単なギミックがあったが、スイッチを押せば扉が開くという簡単なものだったので楽に進めた。

 

 

やはり、二層目というだけあって少し複雑になっていた。

 

 

「なんで、結構な距離歩いて1000PPTしか入ってないの…?」 

 

PPTとは、ここでの資金で、喜ばれることはあっても悲しまれることはないはずだったが、燈月にとってはお金は二の次だった。

 

「礼装欲しいのに…!」

 

確かに誰しも礼装は欲しがるものだが、回復薬を買うにはお金が必要の為、貯めなければいけないのだが…。

 

「……。」

 

膨れっ面のまま、アリーナの探索を再会する。

 

 

 

 

 

 

「む、分かれ道か。どちらに進む?」

「ここは……右だ!お宝がありそうな気がする。」

 

そういうと燈月は走って右の通路に向かう。

すると、本当にお宝らしきものがあった。

 

「…隠し通路だね。何も無いところに足を踏み出すのは苦手だなぁ。」

「どうせちゃんと足場はある。つべこべ言わずに早く行け。」

「…はーい。」

 

ギルガメッシュに勢い良く背中を押され、転びそうになりながらも足を踏み出し、アイテムボックスを開く。

 

「どれどれ……古ぼけた手記だ。」

「これは…あのワカメが隠していたものか?」

「…そうみたい。」

 

燈月は中身を確認しながら頷く。

 

黄金の鹿号(ゴールデンハインド)………なるほど。真名は掠れて読めないけど……向こうの英霊がなんなのかは予想がついたよ。」

「しかし、あいつが消せなかったとなると、よほど強力なプログラムなんだろうな。燈月は消せないのか?」

「……消せないと思うよ、ていうか、確かめないからね?」

 

燈月は手記をかばんに入れ、近くにあった礼装を取り、スイッチを押す。

 

「また、スイッチ……向こうは調べてないけど反対側に扉でもあるのかな。」

 

そんなことを考えながら元きた道を戻る途中、慎二と出くわした。

 

「チッ…!こんな所まで探すなんて随分必死じゃないか。」

「お宝の匂いがしたからね。来てみたらお宝じゃなくてただのボロい手帳だったけど…。」「どうせ、お前の事だ、もう中見は見たんだろう?」

「うん、見たよ。ただの海賊の日記でつまらなかった。」

「ふーん?なら、返して貰えないか?」

「やだよ。一応お宝だし。欲しければ力尽くで奪い返してみたら?」

 

燈月はヒラヒラと手記を見せびらかす。

 

「っ…!…おい!早く取り返せ!」

 

その姿を見た慎二は顔を赤くしながらサーヴァントに命令する。

 

「おうよ!」

 

サーヴァントはニヤリと笑いながら銃を燈月の持っている手記目掛けて放つ。燈月はそれを回避しながらギルガメッシュを一瞥する。

 

「うわっとと…ギル!」

「わかってる!命令するな!」

「してない!」

 

ギルガメッシュは前に出て、燈月は後ろへと下がる。

サーヴァントはもう所々バレてる為か、惜しみなくスキルを使ってきた。

 

「砲撃よーい!討て!」

 

砲弾での攻撃だ。ギルガメッシュはガードをして攻撃を防ごうとするが、流石にそれだけでは抑えきれず、傷を喰らってしまう。

 

「…流石に無理か。まぁ、これぐらいは問題無いがな。」

 

ギルガメッシュはそう言うと、走って敵に寄り、斬る。

ここまで近付いてしまえば迂闊にスキルも使えないだろうと判断したからだ。

砲弾は威力も強いが爆発の衝撃も辛い。至近距離で打ってしまえば自身も爆風に飲まれて自爆するのが落ちだろう。

 

「っ…やっぱり強いねぇ、アンタ。」

「当たり前だ。俺は――――…。」

「ギル!何バラそうとしてるの!?」

「俺の強さを見たのだ。もうバレてると思うが?」

「強さを見ただけでばれたら逆にすごいから!」

「む……そうか。」

 

燈月がギルガメッシュの暴露に気を取られている最中、思いもよらぬ攻撃があった。

慎二の支援だ。

 

「ぐ…スタンだと。」

「…あー、ごめん。慎二居ること忘れてた。回復させるから耐えて!」

「一撃食らったぐらいで死なん、阿呆かお前は!」

「…あのさ、今、忘れてたって言わなったか!?」

「気のせいだよ、慎二。誰もそんなこと言ってないって。」

 

そんなことを言いながらスタン中に攻撃された傷を燈月が回復させる。

スタンが解け、身動きが取れるようになったギルガメッシュは敵に向かって行く。

 

が、ギルガメッシュが攻撃する一歩前でセラフに干渉される。

 

「くそっ、ここまでかよ。仕方ないから決着は本番までとっておいてやるよ。」

「うわ、見事な捨て台詞。」

「うるさい!」

 

燈月の言葉に苛つかせながらも慎二はアリーナから出る。

 

「スタンとは…小癪な手を使うな、あいつ。」

「まぁ、そういうやつだから。でも、慎二のサーヴァント何となくだけどわかったよ。」

「そうだな。あやつが使った艦砲攻撃、ライダーで間違いないだろう。」

「はぁ……疲れた。けど、今日中にとっちゃおう、トリガー。」

 

そして、燈月もトリガーと落ちていたみかんを入手し、アリーナから帰宅した。

 

 

 

 






最近、暑いですね。熱中症とか、大丈夫ですか?水分補給はちゃんとしてくださいね。

私、北海道に住んでるのですが、去年より暑くて驚いてます。朝起きてリビングに行くと窓が開いて無いせいかムワッとしてて………。
部屋は窓開けっぱなので涼しいんですけどね……
北海道なのに暑いってことは本州の方はもっと暑いんでしょうね。



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決勝前のお宝探し

決戦まであと2日。

 

燈月はアリーナに入ろうとしたが、慎二によって入られないように細工が施されていた。

 

慎二の口の緩さのお陰か、解除するための魔法陣(アンテナ)はこの学園にあるということと、二つ魔法陣があるということがわかった。

 

どこにあるのか、最初こそ分からなかったが、学園の人に聞き込みをするとすぐに判明した。

「保健室前で立ち止まってなにかしていたよ。」

「自分の机をいじってたよ。もう学校生活は送らなくていいのにどうしたんだろうね。」

 

などと言う言葉から机の周り、保健室のドアを調べ、ちょっといじるとその魔法陣はすぐに消えた。

流石に慎二といえど、そこまで複雑なものをムーンセル内に施すのは難しかったのだろう。

 

ムーンセル内にハッキングするという時点ですごいとは思うが。

 

 

やっと、入れる。そう思いながら扉の前に行くと慎二が立っていた。

 

「チッ…思ったより早いな。あいつ、そこまで宝とれてないんじゃ…。」

 

「…宝?」

 

宝とはなんなのか、そう問いかける前に慎二はアリーナに入っていってしまったため聞けなかったが、向こうのサーヴァント…ライダーは海賊なのだ。宝を欲するのは当然なのだろう。

それにしても、アリーナに海賊が欲する宝などあっただろうか。

 

「慎二なら、出来ない事もないのかな。」

 

少し、疑問に思うことはあるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。そう結論付けた燈月は慎二を追ってアリーナへと入っていった。 

 

 

 

 

「……居ない。」

 

 

一通りアリーナを探し回ったのだが、慎二どころか、おたからのおの字も一切と言っていいほど見つからなかった。

 

 

先程の慎二の言葉から察すると、どうやら彼はアリーナに一人で向かわせたライダーに宝を持って来てもらっていたようだし、合流しすぐに撤退したのだろう。

 

「だろうな、気配が一切無い。あやつらはアサシンでは無いからな、もう居ないのだろう。」

「…最初っから居ないって知ってたんでしょう。ならいないと言ってくれればいいのに。」

 

教えてくれればこんなに体力使うこともなかったのに…などと文句を垂れながらエネミーを倒していく。

 

「フッ…居ない敵を探す為に駆け回っている姿は滑稽だったぞ?」

「……………。」

 

燈月はギルガメッシュのことを睨み、アリーナから出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、まだ怒っているのか?」  

 

部屋に戻った燈月はギルガメッシュに背を向けて椅子に座っている。

ギルガメッシュはいつの間に取り出したのかワインの入っている黄金の杯を飲みながら見ている。

 

「…怒ってない。」

「起こってるではないか。もっと素直になったほうが良いぞ?」

「人の気配がわからない自分に腹が立ってるだけだし…。」

「では何故我に背を向けている?」

「…別に意味はない。」

「ならば敬意を払え。我に背を向けるではない。」

 

「…やだ、鎧が眩しいから眠れないし。」

「…我の命令を断るなど貴様ぐらいのものだぞ?」

「…うるさい、寝たいから黙ってて。」

「……明日までには機嫌を直せ。そうでなくてはあやつらには勝てんぞ?」

「わかってる……おやすみ。」

 

それから少し経つと、燈月の寝息が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

決勝まであと一日。

 

燈月は昨日の不機嫌など元からなかったかのようにアリーナを駆け回っていた。

 

なぜそんなにも機嫌がいいのか。それは少し前に遡る。

 

 

 

 

藤村先生にみかんを渡し、黄金のシャンデリアを貰ったことも嬉しいうちに入るのだが、それは三割にも満たない。

 

燈月がアリーナに行こうと扉近くに来たところ、慎二とライダーが言い合っているのが聞こえたのだ。

 

「シンジィ、最初に言ったはずだよねぇ?アタシを働かせるには何が必要かってさぁ。」

「なっ!まだ金がいるのかよ!この強浴女!」

「そうとも。アタシは雇われ海賊だからね。積まれた金が多いほどやる気が出るってもんさ!」

「………ちっ、わかったよ。ちょっと待ってろ。」

 

慎二は扉を触り、ハッキングをした。どうやらアリーナ内の財宝を増やしたようだ。これは彼が言っていたことだから間違いない。

 

 

「財宝!?」

 

燈月は財宝と聞き、目を輝かせる。

 

「わ!なんだよ、天宮、驚かすなよ!」

「財宝って、何?宝石?」

「財宝は財宝だよ、金になるものか、金だ。僕のサーヴァントはお金を払えばそれだけ強くなるからね!こうやってハッキングまでして財宝を出現させたのさ!」

「おおっ!私も取りに行ってもいい?」

「好きにすれば?財宝は第二層に出現させたからね。」

 

燈月はやった!と目を爛々に輝かせながら嬉しそうにその場で飛び跳ねてる。

 

「へぇ、随分と余裕じゃないか。そいつの目の前で財宝を全部とっちまおうって算段かい?いや、もうどうしようもないネジ曲りっぷりだ!小悪党にもほどがある!」

「小悪党って言うな!………じゃ、じゃあな天宮。」

 

燈月はその話を聞いてなかったのだろう、何を話してたんだろうと疑問に思いながら慎二を見送った。

 

慎二が居なくなったことを確認してからギルガメッシュが口を開く。

 

「…財宝という言葉を聞いた途端、元気になりおって…‥貴様もあのサーヴァントに似ているのではないか?」

「…失礼だよ、ギルガメッシュ。私はお金が欲しいんじゃなくてお宝が欲しいんだから!」

「………貴様の前で宝は見せないほうが良いかもしれんな。」

「私、落ちてるものしか取らないよ?…っと、早く行かなきゃ、先に取られるよ、急ごう!」

 

 

燈月は扉を勢い良く開き中に飛び込むように入る。それに続いてギルガメッシュも入っていく。

 

 

「…まぁ、ものによっては我の目に付くものもあるかもしれんしな、奪うのも悪くないだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

…そして、現在、燈月は3つ目の財宝をとり、宝探しは終わった。残りの2つは残念ながら慎二の手に渡ってしまったが。

 

慎二は財宝が無くなったとわかって、撤退したようだ。

 

「何が入ってるかなぁ。」

「…ここでは確認するなよ?雑魚だと慢心し、背後を取られたら敵わん。」

「わかってるって!…じゃあ、帰ろっか。」

 

燈月は回復薬のついでに買っておいたリターンクリスタルを使って帰還した。

 

 

 

 

部屋に戻った燈月は財宝の中身を確認する。

 

「…わぁ!すごい、ルビーにマカライト!金とか、銀とか本当に財宝だよ!」

「ああ、なかなかに良い物だな。」

 

ギルガメッシュは一つのコインを手に取り、存分に眺めた後、指で弾き元の場所にもどす。

それを見て怒ったのか、燈月はギルガメッシュに触らせないように財宝を抱える。

 

「雑に扱ったらダメだよ、傷がついたりしたら大変だし。」

「それぐらいで価値は変わらん。溶かしてしまえば傷など分からんのだからな。」

「夢がないなぁ…。」

 

まぁ、確かに溶かして固めたらそれで綺麗になるけどさ……

 

など文句を言いながら燈月は財宝を1つにまとめ、棚の上に置く。

 

「さあて、本題に入るけど…明日の決勝戦に向けて整理しなきゃね。」

「そうだな。……その顔からすると何となくだが分かっているのだろう?」

「…そう、だねー…ただ、調べて行って見つかったのが男なんだよね。」

 

そう言いながら、燈月は暇な時間に調べて見つけた一つの本を取り出し、あるページを開いた。

 

「史実とは違うけどさ、スペインの無敵艦隊を打ち破って英雄になったのって言ったらフランシス・ドレイクぐらいだと思うんだよね。」

「…ほう?」

「ゴールデンハインド…だっけ?あれ、フランシス・ドレイクの私掠船なの。……まぁ、慎二が馬鹿で助かったって感じだね。図書館に置いといたら気付きづらいものを持ちだしてくれたんだから。」

 

そのページにはフランシス・ドレイクについて書かれていた。

 

「…これ、フランシス・ドレイクの他にもいろいろ書かれてるから基本的なことしか書かれてないんだよね、だから見落としたんじゃないかな。」

 

「……なるほど。まあ、相手の真名だけだが判明したのは向こうにとっても痛手だろう。

 

…さて、明日のために寝ておけ。途中で倒れたりしたら困るからな。」

 

「わかった。…じゃあ、おやすみ。」

 

燈月はいつの間に作成したのか、クッションを頭の下に置き眠りについた。

 

 






いやー、流石に話数が長くなってしまったのでダイジェスト風でお送りしてしまいました。

まぁ、しょうが無いですよね、相手がワカメですし。
…なんだか、どんどん燈月に変なキャラが追加されてるような…気がしなくも無いですけど…。気のせいですよね!

あはは…



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決戦前のエレベーター

燈月は小さなあくびを漏らしながら一階の用具室前へとやってきた。

 

人間がどこに居るのかはあまり把握しきれない彼女だが、禍々しいモノなどを探知するのには長けている。

 

…と言っても、二階からでも音が隠しきれてなかったため何処にあるのかなどすぐに分かったが。

 

「あ、言峰。」

「ようこそ、決戦の地へ。身支度は全て整えたかね?扉は一つ、再びこの後者に戻るのも一組。覚悟を決めたのなら闘技場(コロッセオ)の扉を開こう。」

 

元々用意されていた定型文なのだろう。淡々と話す言峰はやはりAIなのだという事を再認識させられる。 

 

燈月はがさりとバックの中身を調べて必要なものが全て揃っていることを確認する。

 

「…そうだね。問題ないですよ。」

「そうか、では若き闘志よ。決戦の扉は今開かれた。ささやかながら幸運を祈ろう。

再びこの校舎に戻れることを。そして………存分に殺し合い給え。」

 

 

 

そういうと言峰は扉から離れる。

 

扉には鎖が巡らされていて、トリガーを使わなければ入れないような仕組みになっている。

燈月は鍵穴にトリガーを2つ差し込む。

 

 

―――ゴゴゴッ…―!

 

扉が震え、本来の姿を取り戻す。一言で、分かりやすく言うならばエレベーターだ。いや、エレベーターそのものだ。

 

だが、エレベーターは何も押してないのに勝手に開かれた。

燈月に―乗るがいい。と言うかのように。

 

その言葉に急かされた訳ではないが燈月は中に入る。

 

中に入ると、慎二とライダーが立っていた。

 

「なんだ、逃げずにちゃんと来たんだ。」

 

燈月と慎二が、乗ったことが確認されると、扉が締まり、エレベーターが下に向かって降りていく。

 

「お前ってさ、ホント空気読めないよね。折角僕が忠告してやったのに。」

「まぁ、戦って負けて死ぬならまだしも。不戦勝で死ぬのは嫌だからね。」

「ふーん?でも、悪いね。君じゃあ僕には勝てないよ。

どうせ負けるんだからさっさと棄権すればよかったのに。」

「…棄権なんて出来るの?…いや、聞く必要は無いね。そんなルール、ある訳が無い。

まぁ、トリガーを取らずに決戦場に来なければ棄権、とかになるのかもしれないけど。」

「…でも、それだと死ぬんだろ?…危険とは違うじゃないか。」

「……そうだね。」

「まぁ、僕にそんなルール必要ないけどね。僕には勝てる訳がないんだからね。」

「随分と余裕だね。」

「当たり前だろう?僕と僕のエル・ド……サーヴァントは最強なんだ!」

 

「…‥…フッ。」

 

その言葉を聞いてか、ギルガメッシュは慎二に聞こえるか聞こえないぐらいの声で笑う。

 

「それにしても、お前も運が無いよな。一回戦目から僕に当たるなんて。

もしこれが決勝戦なら友人のよしみでちょっとは見せ場を作ってあげても良かったんだけど……。」

「……いや、いらな」

「そうだ!いいこと思いついた!これからの戦いで得になる話だけど聞くかい?」

「いらない。」

 

燈月は言葉を切られたことに少し苛つきながらも返事を返す。

 

「……はぁ、お前って本当に馬鹿なんだな。」

「…はあ?」

「呆れを通り越して哀れだよ。…そっか、分不相応の力を手に入れちゃって僕に勝てるとかドリーム見ちゃったのか。」

「…慎二のほうが哀れだよ。自分が確実に勝てると思い込んでる。慢心していいのは絶対的王者だけだよ?」

「なっ……おい、そこのサーヴァント。お前からも言ってやれよ。諦めたほうがいいって。」

 

慎二は燈月を一瞬睨み、閃いたようにギルガメッシュに目を向ける。

 

「…何だ、我にこいつに何かを言えというのか?…おい、燈月よ。」

「なに?」

「このワカメに目にモノを見せてやるがいい。この我が訓練してやったのだ、負けたらタダではおかんぞ?」

「…うん、わかった。」

「なっ…!お前も、お前のサーヴァントも、立場ってもんを分かってないのかよ!」

「分かってないのは貴様であろう?……おい、ライダー。お前が好む財とはどんなものだ?」

 

「ん?アタシかい?アタシは金を使うのが好きなんだよ。」

「……やはりか、貴様とは相容れぬな。財宝というのは使い切れぬ量持ってなくては意味が無かろう。」

「んー…確かに。一生かかっても使い切れない量を使うっていうのはいいね。」

「なんなんだよ、僕を放って話進めるなよ!」

 

燈月がため息をつこうとした時、軽い振動と共にエレベーターが止まった。

 

「…あ、着いたよ。」

「ちょっと!?

 

……ふん、まぁいいさ、お前がその気なら遠慮なくやってやる。圧倒的な実力差ってやつを思い知ればいい。僕のエル・ドラゴのカルバリン砲でボロボロになって後悔するんだね。」

 

そういうが早いか、慎二はエレベーターから降りようとする。燈月はその背中を呼びかける。

 

「そうやって、余裕でいられるのも今だけだよ?私なりに足掻いて見せるから。」

 

「はっ…やってみなよ。」

 

慎二の後を追うように燈月もエレベーターから降り、決戦の場へと、降り立った。

 



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決闘の末の勝者は…

 

決戦場は大きな船の上だった。周りは暗闇と言ってもいいほど暗い海の中で、沈没船をイメージしてあるのだろうことはすぐにわかった。

 

「燈月よ、貴様は貴様らしく戦えば良い。」

「うん、わかった。」

 

 

「天宮!貴様には生きてるのが耐えられないくらいの赤っ恥をかかせてやるよ。」

「おや、勝つだけでなく恥までかかせると?強欲だねぇ慎二。いいよ、ロープの準備をしておこう。」

「間違っても手を抜くなよエル・ドラゴ、この僕に歯向かったんだ、かける情なんてひとつもない。」

「アタシは情けなんざ持ち合わせてないよ。」

「情けをかけられるほど小物になったつもりはないから、安心して本気でかかって来てよ。こっちも……出せる限りの力を出して戦うからさ。」

 

ギルガメッシュは宝具を今は使えない。そのため、本気とは言わないでおいた。

 

「さあ、破産する覚悟はいいかい?嬢ちゃん。一切合財、派手に散らそうじゃないか!」

 

ギルガメッシュは剣をとり出し、ライダーは銃を構え、向かい合う。

 

「フッ…雑種は雑種らしく、跪いてればいいものを!だが、これも面白い。かかってくるが良い、海賊!」

 

 

ライダーはギルガメッシュの言葉が終わると同時に弾を放つ。

 

「その程度………フッ!」

 

ギルガメッシュはその弾を剣で払い、そのままその剣をライダーに向けて投げる。

 

「おいおい、武器を投げる奴がどこに居るってんだ。流石、規格外だねぇ。

手を抜いちゃ要られないね。…派手に使いきるとしようか!――姐さんの華麗な略奪(エンダ・ソルポネンドゥ)!」

 

ライダーはそれをかわし、自身に攻撃力向上の補正をかける。

―が、ライダーの後方で素っ頓狂な叫び声が聞こえた。

どうやら、ライダーのかわした剣が慎二のほうに飛んでいったようだ。

 

「っわあ!おい、ライダー!お前がかわしたせいで僕に飛んできたじゃないか!」

「と、済まないねぇ慎二。でも、かわさなきゃ今頃やられてる。慎二でもかわせるだろう?」

「ギリギリだよ!髪少し斬れたから!」

「髪ぐらい、問題ないよ!」

 

ライダーは慎二の方を向き、怒鳴る。

 

「どこを見ているか!余所見ばかりしていたらすぐに首を斬られるぞ。」

 

ギルガメッシュはライダーが少し慎二の方を向いた隙に近付き、新しく取り出した剣で斬る。

 

「っ……危ないねぇ。」

 

が、それを、間一髪でかわし、空振った為にできた隙に追い打ちをかける。

それをギルガメッシュはほんの少し下がることでかわす。

そして、ギルガメッシュは一秒も開けずに剣をまたも振るう。

さすがにかわせないと思ったのか、ライダーは銃でソレを防ぐ。

 

「甘いわ!」

 

そう来ることを読んでいたのか、左手に隠し持っていた短剣でライダーの顔を突く。

 

「っ…くぅ。」

 

ライダーは顔を横に傾けて回避しようとするが、ギルガメッシュは真ん中を狙っていたために完璧に回避することは敵わず頬に掠れてしまう。

 

この近さならば銃よりも物理の方が良いのかと思ったのか、ライダーは銃の持ち手の部分でギルガメッシュに殴りかかった。

まさかの攻撃に戸惑ったギルガメッシュは瞬時にかわせず、肩に当たってしまう。

 

…と言っても、鎧のおかげか大したダメージは受けなかったが。

 

 

 

至近距離だと、戦いづらいため、二人はお互いに距離をとる。

 

 

「ギル、大丈夫?きついなら回復するけど。」

「問題無い、これぐらいで回復してたら貴様の体力が持たんぞ!」

 

 

「チッ…手強いなお前。まぁ、いいや。どうせ勝つのは僕なんだからね。」

 

慎二は手元を弄り、礼装を発動させる。

 

loss_lck(幸運低下)

 

その名の通り、敵のサーヴァント…この場合はギルガメッシュの幸運を低下させるコードキャストだ。

 

 

それを燈月は気付いたがかけられたコードキャストを払い除ける礼装など持ち合わせてはいない。

打開策を考えようとするが思い浮かばない。

 

ライダーは慎二のコードキャストを待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

「っ…まずい!ギル、防御に入って!」

「砲撃用意!藻屑と消えな!」

 

燈月がそう叫ぶが、少し遅かっただろうか…

ライダーのスキル"カルバリン砲"が弾をギルガメッシュに向けて撃ち放っていた。

 

撃ち終わったカルバリン砲からでる煙が爆風で舞い、周りが灰色に染まり上がる。

 

「…ギル、大丈夫?」

 

煙が視界を覆っている中、キラリと輝く黄金の鎧が見える。

その鎧は所々しかみえないが影を見るにどうやら立っているようだ。

 

 

 

「ああ、問題ない。今回ばかりはいい判断だったぞ、褒めて遣わす。」

「そう、でも一応回復しておく!」

 

 

それに安心した燈月は黒く染め上げたマフラーに付属されていたコードキャスト、healを使いギルガメッシュの体力を回復させる。

 

「ちゃんと喰らってくれたみたいだねぇ。」

「防がれてるじゃないか!」

「そうみたいさね。判断力の高い嬢ちゃんだ。」

 

少し経ち、薄くなったと言っても、見えて精々サーヴァントの二人だ。それよりも奥にいる慎二の姿は見えない。それは向こうも同じようでギルガメッシュが攻撃を防いだことはすでに確認済みのようだ。

 

「…無理でもかわしておくべきだったか、我の鎧に傷ができてしまった。

 

――スキルは使わずしても勝てるが、この怒りをぶつける為に使おうぞ!」

 

 

ギルガメッシュは叫び、ライダーへ突撃する。

 

剣を振るった。そう思った瞬間、視界を覆っていた灰が割かれ、視界がクリアになった。

 

ギルガメッシュの振るった剣はライダーの肩を切り裂き、血が滴る。

 

「ぐ――っぅ。」

 

このスキルは"風を放つ"の上位互換のようなもの。今朝、燈月が協会に行き、魂の改竄をしてもらった際にギルガメッシュの元に戻ってきたスキル…"嵐を払う"だ。

 

「っ…ライダー!」

 

慎二は慌てているが、攻撃食らっていて肩だけというのは幸運な方だ。

なぜならギルガメッシュは首を狙い放ったのだから。

 

……ライダーが幸運だからなのか、ギルガメッシュの運が低下しているからなのかはわからないが。

 

「流石さねぇ、英雄王。」

「ほう…我の真名にたどり着いておったか。」

「当たり前だろ?なんたって、天才の僕が居るんだからね!」

 

フフンと胸を張りドヤ顔をする。

戦場でこんなにも自分らしく振る舞える彼はある意味すごいのかもしれない。

 

「…なら、ライダーの真名に辿りつけた私も天才かな。」

 

ポツリと呟いた言葉は慎二には聞こえなかったが、ギルガメッシュには聞こえたようだ。

 

「そんな訳無かろう!燈月、貴様は凡人以下だ。」

「凡人以下!?」

「記憶がないのだ。当然であろう。」

 

そんなふうに燈月と会話をしているが、ギルガメッシュはライダーの銃弾を燈月の方に行かないように弾きながら、あらゆる武器を投げて応戦している。

 

 

「…ちょっと傷付いたんだけど………まぁいいや。――はっ!」

 

燈月はできる限り近付き、何処からか刀を取り出しライダーに向けて、投げる。

ギルガメッシュはその刀が自身の横に来る瞬間を狙い、似たような武器をいくつか投げる。

 

「…っちぃ!」

 

ライダーはそれを辛うじて避けようとするが、燈月の投げた刀をかわすことはできなかった。それも、ギルガメッシュのフォローが上手かったためだ。

 

燈月が投げた刀は守り刀…これも礼装の一つだ。スキルスタンという効果が付いているため、それをまともに食らってしまったライダーはスキルは使えないはずだ。

 

「ちぃと、辛くなってきたねぇ。…シンジィ!―そろそろ勝ちにいっていいかい?」

「ああ、見せてやれよエル・ドラゴ!僕の力の程ってやつをさぁ!」

 

「っ…しまっ…!」

 

慎二の余裕そうな顔、そして先程の言葉。

今さっき、燈月がスキルは使えないようにしておいた。

 

―――だが、宝具は使える。

 

「消費量が半端無いけど…やるしかない!」

 

それを瞬時に確信した燈月はギルガメッシュをコードキャストで回復させ、相手の宝具が終わった後、いつでも回復させられるように準備する。

 

 

 

燈月が感付いたならば、ギルガメッシュも宝具を使ってくと気付いている。

いや、燈月が感付く前にギルガメッシュのほうが気づいているだろう

ギルガメッシュは急ぎで作った時ような防御体制とは違う、本格的な防御体制をつくる。

 

 

「アタシの名を覚えて逝きな!」

 

ライダーは空高く跳び、どこから現れたのか、大きな海賊船…あれがゴールデンハインドだろう…に乗り込む。

 

「テメロッソ・エル・ドラゴ!

 

――――太陽を落とした女、ってなぁ!」

 

その言葉と共にライダーが手を振り下ろすと、船に付いている大砲から幾多もの爆撃がギルガメッシュに降り注ぐ。

 

「っ―おのれ!」

 

本来の力を取り戻せてない故か、全ては避けきれず、攻撃を食らってしまう。

 

ギルガメッシュは船から飛び降りたライダーに向かって、沢山の武器を投擲する。

その間に燈月が回復する。ギルガメッシュは燈月が回復させるということを見越して、標準がブレないように飛び掛かりたいのを抑え、その場で武器を投擲してくれたのだろう。

 

燈月が回復したと同時に、ライダーにとびかかった。

 

「ッチィ!こいつはヤバイね。」

 

ライダーはギルガメッシュの斬撃を防御することに専念したためドンドン圧されていく。

 

「何やってるんだよライダー!」

 

そこですかさず慎二がコードキャストを使う。

 

「―スタンか、やってくれるな、雑種!」

 

慎二がコードキャストを使った瞬間、ギルガメッシュはその場で止まる。

動きたくても動けない。と言うような状況のようだ。

 

「っ―ギルガメッシュ!」

 

慎二が使ってきたコードキャストはshock。相手に麻痺付属のダメージを与える技だ。

そこまで麻痺―スタンは続かないが、この場合はまずい。

ギルガメッシュは動けないが故に防御も出来ず、ライダーの連続攻撃を食らっている。

 

 

弾がなくなったのだろう、ライダーが銃弾をためているときに運良くスタンが解けた。

 

相手にも疲労が見える。そろそろ残り体力も少なくなって来たのだろう。

それをギルガメッシュが見逃すはずも無く、手にしていた槍をライダーに投げる。

 

「何!?もう解けたっていうのかい!」

「我を舐めるではない!そんな小細工、通用せんわ!」

 

ギルガメッシュがスタンを食らっていた時間は十五秒ほど。確かに通用しないと言えばそうなのだろう。

 

驚きなのか、身体が固まってしまったライダーの胸にギルガメッシュの投げた槍が突き刺さる。

 

「………っかは!」

 

ライダーは口から血を吐き出し胸を抑える。刺さっていたはずの剣はもうどこにも姿がなく、ポッカリと空いた穴から向こうの景色が見える。

 

「……こりゃ…いいの、貰っちまったね…。」

「う、嘘だろ?ライダー!おい、ライダァ―!」

 

慎二はぺたりと座り込んで、悔しさに顔を歪ませる。

 

「な、なんで僕のサーヴァントが負けるんだ!どう見ても僕のほうが優れてる!天才の僕が!こんなところで負ける訳にはいかないのに!」

 

慎二はキッとライダーを睨み付け言葉を続ける。

 

「そ、そうだ!全部お前のせいだぞエル・ドラゴ!お前が不甲斐ないからこんなことになったんだ!」

「うん?…なんだい、ボロボロのアタシに鞭打つかい。さっすがアタシのマスターだ。」

 

ライダーは胸を抑えたまま慎二に軽口を叩く。

流石英霊というところか、一度死ぬという体験をしているからなのか慎二のように恐怖に顔を歪ませたりはしない。

 

「そうだ!全部!全部全部!お前のせいだ!」

「済まないねぇ慎二。もう少し戦ってやりたいところなんだけど…アタシ、心臓撃ち抜かれちまってねぇ。そろそろこの体も消えるみたいだ。」

「な、なんだよそれ、勝手に一人で消える気か!?僕はお前のせいで負けたのに!」

「そうさね…負けたのはアタシのせいかもねぇ。運がなかったのか、アタシが弱かったのか

 

――ま、なんでもいいさ。人生の勝ち負けに真の意味での偶然なんてありゃしない。

敗者は敗れるべくして敗れる。向こうのマスターのほうが劣ってるように見えて、なにかがアタシらには足りなかったんだろうね。」

「な、何いってんだよ、僕は完璧だった!

こんなはずじゃなかったのに…とんだハズレを引かされた!」

 

つまらない、つまらない!そういう慎二が燈月には哀しそうに見えた。

 

「つまらんな、かえるぞ、雑種よ。早く帰って寝るとしようではないか。」

「……そう、だね。もう見てられないし……。」

 

帰ろうとするギルガメッシュの後をついていく。が、それを慎二が呼び止める。

 

「ま、待てよ!お前に話があるんだ。僕に価値を譲らないか?」

「…何言ってるの?慎二。負けた人間は次に進めないっ……て、そう言峰が言ってたじゃない。」

「はぁ?お前らが勝ったのはどう考えてもまぐれだろ!」

 

そう言って慎二が近付いてくる。が、それを拒むかのように赤い壁が出現した。

 

「な、なんだよこれ!」

 

が、慎二が驚いていることはそれじゃなかった。慎二の手が、足が、どんどん消えていっているのだ。――まるで、敗者は要らない。そうムーンセルが言っているかのように。

 

「僕の体が!消え、消えていく!?し、知らないぞこんなアウトの仕方!」

「っ、慎二!」

 

燈月は慎二に駆け寄ろうとするが、それを壁とギルガメッシュに阻まれる。

 

「よせ、こうなってしまってはもう元には戻らん。憐れなだけだ、帰るぞ。」

「で、でも!」

 

慎二のそばにいるライダーもどんどん消えていこうとしてる。

 

「……聖杯戦争で敗れたものは死ぬ。シンジ、アンタもマスターとしてそれだけは聞いていたよな。」

「そ、そんなの脅しだろ!?電脳死なんてある訳!」

「そりゃ、死ぬだろ普通。戦いに負けるってのはそういうことだ。」

 

燈月の視界がグニャリと歪む。幾ら、慎二の言動や行動に苛ついたとしても、彼は予選で友人だった男だ。

敗者には死――それは分かっていた。理解していたはずだった。なのにこんなにも誰かが死ぬのが辛いのはなぜなのだろう。

 

「――燈月。行くぞ。」

「……っう、ん。」

 

ギルガメッシュが燈月のマフラーを引っ張って出て行く。

 

「た、助けてくれよ!なぁ!僕は、まだ死にたくないんだよ!まだ8歳なのに!なんで!僕が死ななきゃいけないんだよ!」

 

燈月が決戦場から出るとき、慎二のそんな叫びが頭に残って離れなかった。

 

 

 

 





ああ、やっと、一回戦が、終わりましたよ!
二回戦からは少しでも短めに出来ればいいんですけどね。流石にゆっくりしすぎました。
いくら原作通りに進めるって言ったって流石に全部見ていくのはあれですね。
二回戦はもう少しサクサクーっと、見やすいように書けるように頑張りますね!

燈月ちゃん、慎二にワカメやらなんやら言っておいての最後は悲しみの涙です。
つまりはツンデr…。
………ツンデレキャラはギルガメッシュだけで良かったはずなんだけどな…あれぇ。

な、何はともあれ、確か一章は終わりだったはずです確か。もしかしたら次回も一章かもしれません。



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一回戦終了。

 

エレベーターに乗り込み、校舎へと戻る。

エレベーターの中では、燈月の泣き声だけが響いた。

 

「っ…し、死ぬって…理解してたのにっ…!

やっぱり…辛いよ…っ私が慎二の人生を奪ったって思ったら…!」

 

 

燈月は泣きじゃくったまま校舎に戻ってきた。

 

エレベーターから降りると、遠坂凛が立っていた。

 

「一回戦、終わったみたいね……シンジはアンタと戦うって言ってたから、負けて死んだのはアイツの方ね。……って、なんで泣いてるのよ。」

「……一応、友人だったから…やっぱり居なくなったら悲しいんだよ…。」

 

嗚咽混じりに燈月が言うと、遠坂はハンカチを差し出しながら呆れ言った。

 

「ここは戦場なのよ?敗者に肩入れしてどうするのよ。」

「わかって、るよ…そんなの……。」

「聖杯戦争に参加した人はみんな、それ相応の覚悟を持ってここに来てるの。

願いたい望みがあるから参加してるのよ。……アンタに目的がないのはいい。

 

けど、覚悟ぐらいは持っていなさい。覚悟もなしに戦われるのは目障りなの。

死ぬ覚悟も、殺す気概もないのなら、隅っこで縮こまっていて。」

 

燈月はハンカチで涙をふいてから、顔を上げる。

 

「覚悟は…出来てるよ。でもさ、遠坂さん。君が、いきなり友人と戦えって言われたらどうするの?」

「そりゃ、殺すわよ。私には願いがあるわ、その邪魔をする人はみんな払いのけるわ。

……ま、口先だけじゃなければいいけど。」

 

そう言って、遠坂は立ち去ろうとする。

 

「っ…待って!」

 

燈月の呼び声に遠坂は振り向く。

 

「何よ。」

「ハンカチ、明日綺麗にして返すから。」

「要らないわ、それぐらいいくつももってるもの。」

 

「……あのさ、そういえば、自己紹介まだだったよね?…私は天宮燈月だよ。」

「…いきなり何よ。」

「名前、知らないと話しづらいからさ。」

 

そう言って燈月は無理に笑う。こうでもしないとまた涙が出てきそうだったのだ。

 

「……そう、覚えておくわ。私は遠坂凛よ。」

 

遠坂は今度こそ、去っていった。

 

 

 

 

 

 

燈月たちは部屋に戻り、それぞれ椅子に座っていた。

 

燈月はちょっと前、購買でかったココアを温めたミルクで溶かし、ホットココアを作りちびちびと飲む。

ギルガメッシュはその横でワインを取り出し、優雅に香りを楽しみながら飲んでいる。

 

黄金だというのに燈月はそれに目を向けず、赤く腫らした目をココアが入ったことによって温かくなったカップで暖めながらまた、涙を流していた。

 

「…そろそろ泣き止んだらどうだ。」

 

流石にギルガメッシュもずっと泣いている燈月を放っておくことが出来なかったのだろう。

ボソリと呟いく。

 

「……泣いてない。」

「泣いているではないか。…貴様がそんな調子だと明日から身が持たんぞ。」

「…わかってる。」

 

泣いてないと燈月は言っているが、静かな部屋にはひっくと嗚咽が響く。

 

 

 

燈月は泣きながら飲み終えたカップをテーブルに置く。

 

もともと手に持っていたクッションを力一杯抱きしめ、ソレに顔を埋める。

クッションが涙のせいか、埋めた部分から涙が広がっていく。

 

最初の方は嗚咽が続いていたが、時間が経つとそれが寝息へと変わっていく。

 

 

「…やっと、寝たか。」

 

ギルガメッシュはポツリ、とため息まじりに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一回目の対決が終了し、燈月の心を癒やす時間もなく、第二回戦が始まる。

 

誰しもが、願いを手にしたいと思い、ココに来た。

 

あるものはこの世界の平和のため。

あるものは自身を満たすため。

あるものは誰かのため。

また…あるものは何も持たずに。

 

死にたくないから。という願いで前に進む。

 

 

どんな願いであれ、皆戦う。それが友人との別れになろうとも。

願いを叶えるために見知らぬ人と戦い、前へと進むのだ。

 

 

 

 

 

 






一回戦終了しました!(デジャヴ感)
いや、べ、別にま、間違えてないですしおすし、一応、前回慎二倒しましたし


さて、ということで次回から2章に入ります!


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エピソード.2 二回戦
ダン·ブラックモア






 

 

あれから、一夜が終わり、昼になった。

 

「もう問題ないのか?」

 

暇潰し程度に図書館で本を読んでいた燈月だが、霊体化をしたギルガメッシュに話しかけられた為に、本を一度閉じた。

 

「何が?」

「昨日のことだ。」

「ああ…。うん、問題ないよ。ずっと引き摺ってはいられないしね。それに――」

 

そう続けようとした彼女だが、それは一つの着信音によって防がれる。

 

どうせ、二回戦の知らせだろう。

そう考えた燈月は溜息をつきながら話を戻した。

 

「…それに、すぐに二回戦が始まるしね。そう言おうとした時に報せが届いたみたいだよ。」

 

 

燈月はそう言って立ち上がり、本を元の場所に戻してから、図書館を出る。

 

 

 

 

 

 

掲示板には、前回同様燈月の名と――ダン・ブラックモア――という名が記されていた。

 

ふと、燈月は振り返る。そこには白髪の白い髭を生やした老人が立っていた。

兵士か何かなのだろうか軽めの、だが防御面では良い活躍をしてくれそうな服を着ていた。

 

「ふむ。君が次の対戦相手か。」

「と、すると貴方がダン・ブラックモアですか。……確か、教会前で慎二に注意してた人ですね?」

「君は…あの無礼者と友人か何かなのかね?」

「対戦者だっただけ……ですよ。」

 

ダンの何気ない発言に一瞬、顔を暗くさせるがすぐに調子を取り戻す。

 

「それにしても…若いな。実戦の経験も無いに等しいと見た。」

「バレちゃいます?」

「ああ。一々、居なくなった友のことを思っていてはこの先生き残れないぞ。

それに、君の目……迷っているな?」

 

「………」

「案山子以前だ。そのような状態で戦場に赴くとは…不幸なことだ。」

 

燈月が何も言わないのを見かねてか、ダンはそのまま立ち去っていってしまった。

 

「まよっている…かぁ。」

「迷う?そんな必要なかろう。」

「…どういうこと?」

「貴様は自身の道を真っ直ぐ歩いていれば良い。

誰かに指図されてもなお、自身の道を突き進むのが貴様らしいだろう。」

「なるほど…。……ダン・ブラックモア、なんで私には強そうな人ばかり当たるんだろう。

…これも試練と割り切るのがいいのかな。」

 

 

燈月の独り言は、昼のためか、ギルガメッシュ以外の耳へ入ることなく消えていった。

 

 

 

 

 

「そうだ、遠坂さんに会いに行ってみよう。」

 

彼女なら助言をくれるかもしれない。そんな考えと昨日くれたハンカチを手に、燈月は屋上に来ていた。

 

「あら、天宮さん。あなたの対戦者聞いたわ。あのダン・ブラックモアらしいわね。」

「"あの"って…ダン・ブラックモアって有名人なの?」

「ええ。、彼、今はもう現役ではないけれど、名のある軍人なのよ。」

「だから、あんな服装してたんだね。」

 

そう言って思い出すのは兵士のような服装。

緑に溶け込めるように緑色を基調とし作られたソレはいかにも軍人がきてそうな服だった。

 

「西欧財閥の一角を担うある王国の狙撃手だった。匍匐前進で一キロ進んで敵の司令官を狙撃するとか日常茶飯事。ま、並の精神力じゃ無いのは確かね。」

「……それはすごい。何だか、ムーンセルの悪意が感じられる人選だよ。」

「でも、一回戦とは何もかも違うわよ。慎二はただのゲームチャンプだったけど、彼はプロの軍人なんだから。見たところ記憶は戻ってないみたいだし…本当ご愁傷さまね。」

「…あはは。」

 

燈月が顔を引き攣らせながら笑うがそれを遠坂に怒られてしまった。

 

「笑っていられる状況じゃ無いのよ。根性論は口にしたくないけど、勝利へと執念は目的から生まれるんだから。」

「わ、わかってる。わかってるからほっぺた触らないで。」

 

遠坂は燈月の頬をグリグリしたり引っ張ったりしながら説教まがいのことをする。

しまいにはただ、プニプニさせて遊んでいる始末である。

 

「中々、柔らかいわね。……じゃない。例え、あんたの宝具がいくら強いからって言っても一回戦と同じようには勝てないわよ?」

「ふへ?」

 

燈月は少し赤くなってしまった頬を擦りながら顔を傾げる。

 

「宝具、使ってないよ?」

「じゃあ、あんたそんな状態でエル・ドラドを倒したの?」

「うん。サーヴァント、結構いいの引いたおかげ、かな。」

「ふうん…いくらサーヴァントがいいの引けたからって言っても援護するのはマスターの仕事だし…。少し、見直したかも。」

「本当?」

「ええ。でも…あなたのパーソナルデータは問題がありすぎるわね。予選を突破した時にバグでも発生したのかしら。それとも貴方の魔術回路に異常が発生してるか。」

 

遠坂は少し考えたあと、口を開く。

 

「いずれにせよ、何とかするしかないわね。とにかく、今はサーヴァントを使いこなして魂の改竄を繰り返しなさい。」

「わかった。」

「セラフは基本的に参加しているすべてのマスターに、大して平等のはずよ。だから、宝具が使えないマスターがいると判れば修正処理を施すでしょ。」

「………そうだね。あ、そうだ。遠坂さん、これ、要らないって言われたけどやっぱり返すよ。ちゃんと、綺麗にしておいたから。――それじゃ。」

 

燈月は遠坂の手にハンカチを握らせ、屋上から立ち去る。そして、飛び込むように個室に入るとギルガメッシュを呼んだ。

 

「ギルガメッシュ!ちょっと、宝具やら色々、教えて!」

「…なんだ。いきなり駈け出したかと思えばそんなことか。」

「そんなことじゃないよ!ギルガメッシュの宝具、いつかは帰ってくるよね!?もし、最後まで生き残らたとして、レオとかに当たったら貴方でも勝てないかも知れないよ?」

 

燈月はギルガメッシュの腕を掴み、少し慌てたように問う。

 

「さあな。そんなもの我にはわからぬ。セラフからしたら我が宝具を使わないことで周りと平等にしているのかも知れん。」

「…わからないんだ。」

「だが、安心しろ。我の強さはなにも宝具だけにあらず。我の肉体から倉庫に入っている武器までもが我の強さよ。」

「…しっかりしてAUO!なんか変だと気付いて!流石に肉体は力にはならないから!」

「そうか?」

「武器は絶対的な力にはなるけど。なるとしてもルックスだよ!」

「ほう、そうだったか。」

 

どうしよう。AUOが何かに飲まれて行っている気がする。

 

燈月はそう思ったのだった。

 

 

 

 






きっと、これを書いていた時の私は頭がおかしかったに違いありません
なんだよ、肉体って...。いや、でも言いそうだから怖いデスネ...アハハ


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二回戦のアリーナ

 

燈月は新しく開かれたアリーナに来ていた。それはもちろん、トリガーを入手するためだ。

だが、アリーナは一回戦の時とは違い、体に纏わり付くような空気だった。

 

「……これは。」

 

アリーナに入る前に敵の姿を見たため、もしかしたら敵の宝具か何かなのかもしれない。

早くコレを解かなければ…死んでしまうかもしれない。

 

燈月はそう直感的に感じた。

 

「結界か。厄介なものを用意してくれたな。どこかに基点があるはずだ。

すぐに破壊しに行くぞ、小娘よ。」

「うん…わかった。」

 

燈月たちは歩き出し、エネミーを倒しながら先に進む。

その時だ。このアリーナにとてつもなく不似合いのものを見つけた。

 

樹だ。

 

「…あれが基点…かな。魔力を感じるし。」

「だろうな。早く壊しに行くぞ。ああいうものはいらん。」

 

ギルガメッシュは先程からものすごい勢いで燈月を急かしてくる。

やはり、いくらギルガメッシュだからといっても、辛いのだろうか。

 

燈月はコクンと頷き、足を進める。

 

 

「これはどういうことだ?」

 

角を曲がったあたりの通路から声が聞こえてくる。

 

「へ?どうもこうも、旦那を勝たせるために結界を張ったんですが。」

 

運良く死角になっているのか、ダンは燈月に気付いている様子はない。

もしかしたら、気付いていてわざと無視しているのかもしれないがここで出て行くのは得策じゃないだろう。

 

相手の出方を知らない今。向こう側も戦いたくはないのではないだろうか。

 

燈月はその場で立ち止まり、先に進もうとするギルガメッシュを引き留める。

 

「決戦まで待ってるとか正気じゃねーし?奴らが勝手におっちぬんならオレらも楽できて万々歳でしょ。」

「誰がそのような真似をしろと言った。死肉を漁る禿鷹にも一握りの矜持はあるのだぞ。」

 

 

意見があっていないのだろうか、揉めているのは一目瞭然だ。

 

「イチイの毒はこの戦いには不要だ。決してして使うなと命じたはずだが。お前には誇りというものが欠落している。」

 

やはり、ダンは騎士なのだろう。騎士道を貫こうとしているようだ。

 

「そんなもん求められても困るすね。誇りで敵が倒れてくれるならいいですけど?

でも、オレゃあその域の達人じゃなくて毒を盛って殺すリアリストなんすよ。」

 

それに比べて、彼のサーヴァントは何やらコソコソとやるのが主要なのかもしれない。

 

「…イチイ…。」

 

―確かに、イチイの種や葉には中毒性がある。摂取し過ぎると死に至る場合もあると聞くけど…。

 

「ふむ、なるほどな。条約違反、奇襲、裏切り。そういった策に頼るのがお前の戦いか。」

 

ダンとサーヴァントは意見が合わない為だろうか、険悪な雰囲気が二人の間に流れている。

 

「あやつら…仲が悪いのかも知れんな。これが勝負の鍵となる可能性もあるかも知れん。」

 

ダンの声が一段と低くなる。サーヴァントに対して落胆しているのかも知れない。…もしかしたら侮蔑の可能性もある。

 

「今更結界を解けとは言わぬ。だが次に信義にもとることがあれば――。」

「あーはいはい、わかりましたよ。」

 

サーヴァントが頷いたからか、ダンは引き上げていった。

だが、結界はいまも継続している。早く壊さなければ。そう思い、燈月は歩き出す。

 

 

 

 

燈月はやっとの思いで樹のそばまで来た。

樹を見ると、確かにイチイの樹に似ている。

 

「どいておれ。」

 

ギルガメッシュは観察しようと近付く燈月のマフラーを引っ張り、後ろへと下げる。

 

そして、いつの間にか取り出していた剣を振り下ろし、樹を真っ二つに斬る。

 

「ああ――まだ調べてないのに!」

「貴様が無闇に近付くのが行けないのであろう。毒だということは貴様も知っていただろう。不用心過ぎるのだ。あれ以上近付いていたら毒気に溺れていたぞ?」

「うぐ…―。」

 

燈月はすぐにその重要性に気付き、顔を俯かせる。どうやら目の前のことしか見えていなかったようだ。

 

 

ふと、燈月がちらりと樹のあった方を見ると、樹は元からそこになかったかのように消滅していた。

 

それを確認したと同時に、身体の力が抜けたのか、座り込んでしまう。

 

「……疲れた。」

 

どうやら、平然と過ごすためにものすごい気を使っていたらしい。

 

 

「今日は引き上げるか。」

 

ギルガメッシュも少し疲れたらしくやつれた顔をしながらいう。

 

当たり前だ。マスターと違い、毒に蝕まれながらエネミーと戦っていたのだ。

その辛さは燈月の倍は雄と超えているだろう。

 

 

「そうだね。帰ろう。」

 

燈月はバックに入れておいたリターンクリスタルを使い、帰還した。

 

 

 

 

そして、その次の日、燈月がアリーナに行こうとすると大人びた…いや、機械的な声が燈月の歩みを止めた。

 

「ごきげんよう。」

 

そうお辞儀をする褐色系の少女は紫の髪を一つにしばっている。

 

「突然話し掛けてすみません。私はラニ。」

「……天宮燈月です。」

 

燈月は突然話し掛けてきた少女…ラニに少し動揺しながらも自身も自己紹介をする。

 

「貴方を照らす星を見ていました。貴方の星はどうやら他の方とは違うようなのです。」

「星…?」

「ええ。それで質問してもよろしいですか?」

「私が知ってる限りなら。」

「では…貴方は何なのですか?」

「……へ?……記憶喪失真っ最中の普通の人間、だよ?」

「記憶喪失…ですか。では、私の問の答えを持ち合わせていなさそうですね。」

「…申し訳ないけどね。」

 

ラニは少し残念そうにするが、すぐに元の無表情に戻すと、口を開いた。

 

「では…よければで良いので、私に協力してもらえませんか?」

「協力って、何を?」

 

いきなりの言葉に燈月は驚きながら首を傾げる。

 

「私は星を観なければいけないのです。ですので、ブラックモアの星を、私にも教えて欲しい。蔵書の巨人(アトラス)の最後の末として、私はその価値を示したいのです。」

「…アトラス…?…ああ、いや、そこはいいや。協力するのはいいけど、星を見たら具体的になにが分かるの?あと、教えるって言っても何をすればいいの?」

「まず、一つ目。彼の星を見る事により、彼について分かります。もしかしたら弱点なども分かるかもしれません。」

「…なるほど。確かにそれは有益かも。」

「そして、二つ目。やることは簡単です。3日後に、ブラックモアの遺物を持ってくるだけです。出来れば3つほど。」

 

それなら簡単だ。燈月は二つ返事で了承する。

それを確認したラニは「では、三日後に。」と、燈月に微笑みながらお辞儀をし、3階に登っていった。

燈月はそれを見送り、アリーナに向かう。もちろん、改竄や藤村先生の依頼を受けた後にだ。

 

 

「小娘よ。あの女の依頼、受けるのか?」

「うん。なかなかにいい情報が手に入るかも知れないしね。」

「貴様がそれで良いのならば止はせぬが…。」

 

ギルガメッシュはあやつも敵になるかも知れぬのだぞ。そう言ったのだが、燈月には届かなかったようだ。

なぜなら…燈月はギルガメッシュを置いて、先に進んでしまっていたからだ。

 

「おい、雑種!何我をおいて先に進んでおる!貴様一人では死ぬに決まっておろう!」

 

ギルガメッシュは怒鳴りながら燈月を追いかけた。

 

そして、着いた先は先日イチイの樹があった場所だ。

 

「あ、ギル!…って、なんでそんなに怒ってるの?」

「当たり前であろう、何故貴様はそう突っ込んでいくのだ。自殺行為にも程があるぞ!」

 

燈月は矢じりを、手にしながら振り向く。

その様子を見て、ギルガメッシュは呆れながらも安堵する。

 

「ええと、……ご、ごめん…。」

 

燈月はすぐに、自分の行いを思い出し、罰が悪そうに謝る。

 

「で、でもいいじゃん、生きてたんだし!」

「……はあ。」

 

ギルガメッシュは溜息を付き、またも少し先を行く燈月の後を追った。

 

 

 

そして、アリーナの先を行くと、細い棒や藤村先生に依頼されていた柿、そして一番のお目当てのトリガーと、風切羽根を見つけた。

 

「…これで3つかな。全部合わせたら矢に見えるね。」

 

アリーナは個別に用意されている。入れるのは燈月と他の対戦者、ダンだけだ。

とすると、この矢じりと棒と風切羽根はダンの遺物で間違いないだろう。

アリーナが用意したものだとアイテムボックスに入っているはずだ。

それに燈月とギルガメッシュは弓の類は使っていないのだ。

 

 

「さて、そろそろ帰ろっか!今日の目的は完了したし。」

「そうだな。…まぁいいだろう。貴様の戦闘経験も磨かれてきたところだしな。」

 

そして、燈月たちはアリーナの終点にあるワープ装置を起動させ、帰還した。

 

 

 



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サーヴァントの襲撃

 

 

「おい、気を付けろ。嫌な気配がする。」

 

 

ラニに言われて三種類の遺物を燈月が用意した次の日の夕方。

燈月がアリーナに行こうと廊下に出ると、ギルガメッシュが忠告してくる。

 

「確かに…何だか視線を感じるね。でも学校で死闘は禁止されてるし…大丈夫じゃない?」

「万が一のことがあるだろう。用心しておけ。」

「……わかった。」

 

燈月はギルガメッシュに言われた通り、慎重に一階に行くための階段を降りる。

 

"慎重に"していても人間、誰しも怖気づいてしまうものである。

来る。そう思っていても対処できないものが絶対にあるのだ。

燈月自身、そうだった。

 

一階に降りると同時にくる殺気。

それに恐怖してしまい足が…いや、身体全体が動かなくなってしまったのだ。

内臓が働くことをやめたのかと錯覚してしまうほどだ。

だが、それは杞憂に終わる。人っ子一人いない静か過ぎる廊下で聞こえてくるのは自身の心臓の音。

 

 

「狙われているようだ。…小癪な手を使うサーヴァントよな。

燈月よ、合図をしたらアリーナに向かって走れ。そこで返り討ちにするぞ。」

 

 

 

ギルガメッシュの発した音は静かな廊下に反響して燈月の耳に入った。

 

それが幾分か心のゆとりになったのだろう。自分には頼もしい仲間がいると。

ギシギシと…ロボットのような音がなるのではないかと思うほどゆっくりと頷く。

 

燈月は落ち着こうと目を閉じる。聞こえてくるのはギルガメッシュと自分の規則正しい呼吸と、バクバクと落ち着かない心臓の音。

 

深呼吸をし、落ち着かせる。

ハァー…そう息を吐き、目を開けると同時に聞こえてくるのはギルガメッシュの声。

 

「落ち着いたようだな、では走れ!」

 

その声に感化されるようにいつの間にか足が動き出す。

全速力で走り、アリーナの扉を開け、飛び込むように入る。

 

「ここで戦うのは些か問題がある。広い場所まで向かうぞ。」

 

いつもなら燈月の後をついていくのだが、今回は燈月の前を走り、エネミーを薙ぎ払いながら押し進む。

二回はこの道を通っているためか、あまり入り組んでいないためか、すんなりと広めの場所に行けた。

 

「予想通りだな。わかりやすくて助かったぜ。」

 

その声と共に風を切る音が聞こえてきた。

 

息も絶え絶えで先ほどとは違う意味で心臓が煩い燈月はその主に顔を向ける。

がそう思った時にはすでに遅く、あと2メートルというところまで矢が近づいてきていた。

 

「っ!?」

 

だが、ギルガメッシュにはそんなもの見切っていたのだろう。

矢を弾くようにして剣が振るわれ、その剣を敵に向かって投げる。

 

――カツン!

 

剣が何かに当たり、威力が半減されながらも的に向かう。

ギルガメッシュが投げた寸前であればかわせなかっただろうが、その時よりも確実にゆっくりとしていた剣は軽々とかわされてしまう。

 

「っちぃ!バレてたか。…流石にこれは分が悪ぃ。退散と行きますか!」

 

そうポツリとつぶやく声が聞こえ、まさかと思い声の主が居たであろう場所に目を向ける。

だが、そこには誰も居なく、ギルガメッシュの剣があるだけだった。

 

「…初めてアーチャーなんだなってことが思い知らされたよ。」

 

その的確な射撃能力に惚れ惚れしてしまう。

今までも、その能力は活躍してきたのだが今回のは頭が2つほど飛び出るような活躍だったからだろう。

 

「フッ…これぐらい我にかかれば容易いことよ。」

「そうだね。まあ、英雄王って言われるぐらいなんだから当たり前か。

…何はともあれ、これで敵のクラスがわかったね。」

「そうだな。アーチャー以外有り得んだろう。」

 

燈月たちは今回入手した情報を確認し帰路につく。

 

 

 

 

 

 

 

個室に戻った燈月は椅子に座り、持ち帰ったものを取り出す。

大きめのハンカチで何重も包まれたソレはアーチャーが燈月を射ろうとした時に使った矢だった。

 

「貴様は何を持って帰ってきておるのだ。」

「みてわかるでしょ。」

「そういうことは聞いておらん。」

 

呆れながらも、取り出した矢をしげしげと眺める。

燈月が矢を触ろうと手を伸ばしたが、ギルガメッシュに腕を捕またため、触ることは出来なかった。

 

「毒が塗られている。ココでは問題ないとは思うが万一ということがある、触るではないぞ。」

「毒?……やっぱりイチイかな。んー……わからないこと悩んでてもあれだ。今はわかることを考えよう。」

 

燈月はそう言い、毒矢を窓から投げ捨てる。それは良いのかと思うが放置していて触ってしまうよりはマシだ。

それにセラフがどうにかしてくれるだろう。

 

「今のままだと、アーチャーということしか分からなかったと思うが?」

「確かにサーヴァントのことはそれしか分からないよ。

私が気になるのはダン・ブラックモアのことだよ。

ほら、あの人ってさ。アーチャーにコソコソするのはやめろって言ってたでしょ?」

「ああ、言っていたな。」

 

ギルガメッシュは昨日の記憶を探りながら頷く。

 

「なのに、なんで今回みたいな命令を出したのかなって。」

「……いや、出してはいないと思うぞ。」

「へ?」

「多分、あのネズミの単独行動だ。」

「………ねずみ?」

「屋根裏を走り回るコソコソとしたやつには調度よいであろう。」

 

確かに人目に隠れて行動するというのはネズミに似ているとは思うが…。

そう頷きそうになる燈月は何だかんだ言ってギルガメッシュに汚染…この言い方は悪いかもしれないが…されているのではないだろうか。

 

「……そうだね。」

 

だが、反論すると話しが進まなさそうなので頷いておく。

 

「話戻すけど、単独って、ダンは今回の件に関しては関係ないってこと?」

「まぁ、そういう事だ。」

「……なるほど。食い違いが原因かな。」

 

そう結論づけると、燈月は一回戦が終了した自分へとご褒美だと作成した黒のリクライニングチェアを倒し、そこに寝転がる。

 

 

毎日毎日、椅子で寝ていたためか、体が回復出来ていないのだ。

ギルガメッシュにも大丈夫なのかと、聞いたのだが問題無いと一蹴されたので、玉座の隣に横になれるような大きめのソファを一応用意しておいた。

 

 

 

今日も疲れていたため、睡魔はすぐにやってきて、燈月はすぐに眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 






ギル様が、仮にもマスターである人に傷を負わせるわけがないでしょう!


………あれ、守ってる姿なんてあったっけ…CCCではあったかも知れないけど…ステナイトとかで見たことない気がしないこともないかも…?


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ダンの騎士道精神

 

燈月が昼、食事でも取ろうと思い、個室から出ると思いもよらぬ人間が居た。

 

その人物…ダンは無言で燈月を見ている。

 

「…あの?」

 

沈黙に嫌気が差したのか、燈月が声をかける。

 

「ああ、済まない。昨日のことに関してだ。」

「昨日……奇襲のことですか。」

「ああ、そうだ。……すまなかった。サーヴァントの身勝手な行動とはいえ、校内での奇襲、深く謝罪する。」

 

そう表情を変えずに言う老人。

無表情だが、本当に詫びたい、そう思っているのだろう。

 

「いえ…傷はありませんし…問題ないですよ。」

「これはわし自身の問題だ。しかし…アーチャー。失望したぞ。」

 

ダンはダンのそばで控えていた青年に言う。

 

「この戦場では公正なルールが敷かれている。それを破るとは人としての誇りを貶めることだ。

これは国の国との戦いではない。人と人との戦いだ。畜生に落ちる必要はもうないのだ。」

 

そう、アーチャーに顔を向けて言うダンの眼には確固たる信念が見受けられた。

 

「アーチャーよ。汝がマスター、ダン・ブラックモアが令呪を持って命ずる。」

「学園サイドでの敵マスターへと祈りの弓(イー・パウ)による攻撃を永久に禁ずる。」

「はぁ!?」

「っええ!?」

 

燈月とアーチャーの目が大きく見開かれる。

燈月は驚きで声が出ないのだが、アーチャーは違うようだ。

 

「おいおい、ダンナ。正気かよ!負けられない戦いじゃなかったのか!」

「無論だ。わしは自身に懸けて負けられぬし、当然のように勝つ。その覚悟だ。」

 

なら、なんで!

 

アーチャーは叫ぶ。本当に訳がわからない。という顔だ。

 

「だがアーチャーよ。貴君にまでそれを強制するつもりはない。

わしの戦いとお前の戦いは別物だ。何をしても勝てとは言わん。

わしにとって負けられぬ戦いでも、貴君にとってはそうでないのだからな。」

 

その言葉にアーチャーはまたも目を見開く。そして、一瞬顔を歪め姿を消した。

 

彼は自身のサーヴァントに令呪を使ったのだ。

燈月がい得ることではないが、そんな「正々堂々戦え。」という命令のために使っても良いのだろうか…いや、彼にとってはいいのだろう。それが最善の策だと思ったのだから。

 

「君とは決戦場で正面から雌雄を決するつもりだ。どうか、先ほどのことを許して欲しい。」

 

ダンは燈月の返事も聞かずに立ち去ってしまった。

彼の騎士道精神がアーチャーの行動を許せなかったからこその先ほどの行動だったのだろう。

 

 

そこで、ギルガメッシュが姿を隠したまま話しかけてきた。

 

「おい、燈月。聞き逃していないよな?先ほどの言葉を。」

「……?」

「貴様は…全く…。いくら敵が目の前で令呪を使ったからと言ってそんなに驚くことではなかろう…。我が言いたいのはあの老いぼれが言っていた宝具のことだ。」

 

ギルガメッシュがため息をつく。

当たり前だ。燈月はまだポカンとしていたのだから。

 

ギルガメッシュが宝具と口にしてもちょっと反応するだけで当の名前が浮かんでこないのだろう首を傾げるだけの燈月。それに怒ったギルガメッシュは燈月の頭を軽く叩いた。

 

「あいたっ!」

「いつまでボケッとしているつもりだ、貴様は!」

「あー…うん、ごめん…。で、何だっけ?」

「先ほど敵が言っていた宝具のことだ!」

「宝具……宝具…あー祈りの弓ね。……なんだろ、図書室でも行ってみよっか。」

 

燈月はハッと我に返り、歩き始める。…もちろん、図書室に向かってだ。

 

 

 

 

 

 

「祈りの弓について」

 

イチイの機で作られた短弓。

イチイはケルトや北欧では聖なる樹木の一種とされ、これを素材とすることで「この森と一体である」という儀式を意味したという。

 

 

 

燈月は数ある本の中から目的の本を見つけ出し、その内容を携帯端末にコピーした。

使えるかどうかはわからないが持っていて損はないだろう。

 

慎二とは違うので、彼が本を隠すということもしないとは思うが念には念を、というやつだ。

 

 

 

 

 

その後、魂の改竄をし、スキル……黄金律を取り戻した。

 

黄金律は攻撃スキルではなく、ただ、エネミーを倒した時に貰えるPPTが多く貰える。と言うものだった。

 

確かにお金が貰えるのは嬉しいが、攻撃手段が増えない、というのは少し悲しい物があった。

 

 

 

教会から出て、1階に行くと藤村先生がいた。

そう言えば…そう思った燈月はバックの中を漁る。

 

すると、オレンジ色をした何かが目に入った。

 

「あった。」

 

燈月はそれを取り出し、藤村先生に渡す。

 

「はい、これ。私のアリーナに紛れていたようですよ。」

「あ!私の柿!ありがとう天宮さん、恩に着るわ!…そうだ。

生徒からお願いされたことがあるんだけど代わりに聞いてもらえないかしら。私も忙しくってねー。」

「…まぁいいですよ。」

「助かるわー。あのね、その子アリーナでメガネ落としちゃったらしくて。

第二層の海の底に落としたらしいんだけど、そういう物ってたまに他の人のアリーナに紛れ込んでる事があるのよね。

だからあなたのアリーナも探してみてもらえないかしら。」

「わかりました。メガネですね。」

「ええ、ありがとう、天宮さん!」

 

流石先生というべきか、生徒から頼み事を良くされるらしい。

だが、されすぎて困っているのだろう…自分の悩み事もあるようだが。

 

燈月は藤村先生にお辞儀をしてアリーナへと向かう。

 

 

 

アリーナはなんと言うか…廃墟となった城のような場所だった。

城という根拠はないが、造りかたが豪勢のような気がしたのだ。

 

そして、前回よりも入り組んだアリーナを探索し、マッピング作業をする。

案の定というか、なんと言うか…藤村先生から頼まれたメガネは燈月のアリーナに落ちていた。

 

礼装もゲットし、トリガーも入手し、アリーナから帰還した。

 

 

 

エネミーと何回か戦闘を行ったのだが、端末に表示されているPPTの量が一気に増えた気がしたのは気のせいでも何でもないだろう。

 

 

 

 



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ラニの占星術

 

 

二回戦が始まってから五日が経った日、今日はラニに頼まれた日だ。

 

そのため、燈月は三階廊下の突き当りまで来ていた。

そこには、やはりというか、褐色の少女がいた。

ラニはいつもここに居たのだ。それを燈月も知っていた。

凜に会いに行く日などに見かけていたためだ。

 

燈月が声を掛けようと近寄ると、ラニは燈月のほうに振り向き、挨拶をした。

 

「ごきげんよう。」

「…うん、ええと…こんにちは。」

 

こうも畏まられたらどう返せばいいのか少し戸惑ってしまう。

だが、挨拶はされたら返すものである。

だから、燈月は少し複雑な表情をしながらもラニに挨拶を返した。

 

「ブラックモアの遺物を持ってきてくれましたか?」

「うん、ここにあるよ。」

 

そう言いながら、燈月はバッグからビニール袋を取り出し、中身を出してからラニに渡す。

 

「礼を言います。今日ならば時も満ち、ブラックモアの星も詠めるでしょう。」

「お礼なんていいよ。私は、利用出来るから利用させてもらってるだけだし。」

 

ラニは「そうですか。」そう言い、燈月が持ってきた遺物に目を落とす。

 

「…これならばいけそうです。」

「ああ、良かった。これぐらいしか無かったからさ。」

 

そうは言うが、二日程前、アーチャーが燈月を射るために使った矢、それも一応遺物となりうるものだったのだ。

彼女が落としてしまったからもうないが。

燈月がそれに気付いてないのだから困りものだ。

 

 

 

ラニは遺物を柔らかな手つきで撫で、目を閉じ空を見上げた。

 

―――占星術。

 

 

太陽系内の太陽、月、惑星、小惑星などの天体の位置や動きなどと人間、社会のあり方を経 験的に結びつけて占う技術。

 

ムーンセルでそれが出来るのか不安だが、どうやらちゃんと出来たようだ。

ラニはブツブツと独り事のように呟く。

 

「……これは、森?……深く、暗い…。とても、とても暗い色。

時に汚名も負い、暗い闇に潜んだ人生。賞賛の影には、自らの歩んだ道に対する苦渋の色が混じった、そんな色。

緑の衣装で森に溶け込み、影から敵を射続けた姿…。」

 

隠れながら敵を殺していく…燈月は思った。

 

 

彼、アーチャーよりもアサシンに近いのでは?

 

と。

確かに、アサシンになれる資格も持っているのかも知れない。

だが、今回はアーチャーとして呼ばれた。それだけのことだ。

 

「ダンとは大違いだね。騎士道の騎の字もない。」

「…そう、だからこそ、憧憬が常にあるのかもしれませんね。

陽光に照らされた偽りのない人生に。」

 

どうやら、これで占星術は終わったようだ。ラニは目を開き、残念そうに首を横に振った。

 

「これは…私の探しているものではないのかも知れません。」

「あらら、それは残念だね。」

 

そうは言うが、燈月は全然残念そうには見えない。

強いて言うなら、嬉しさ半分、複雑さ半分だ。どうやら、彼女にはラニの言っていることがよく理解できなかったらしい。

と言っても、理解できなかったのは最後の方だけらしいが。

 

 

「んー、でも、よく分かんないな…。」

「でしたら、直接問いてみたらどうですか?第二層から彼の星の気配を感じます。」

「ま、それが一番、かな。ありがとう、ラニ。助かったよ。」

「いえ、お気になさらず。」

 

燈月がラニに手を振って立ち去る。

ラニはお辞儀をしていたようだが、燈月はそれに気付かず行ってしまった。

 

 

「…んんー…。それにしても…誰だろう。皆目検討もつかないよ。」

「分からぬものを悩んでいても仕方あるまい。早く行かねば逃げられるかもしれんぞ?」

「逃げるっていい方はちょっと違うと思うけど…そうだね!」

 

階段を下りながら燈月は呟く。

 

その独り言に対して、言葉が帰ってきた。

と言っても、周りからはただの変な独り事のようにしか聴こえないだろうが。

 

サーヴァントがいるという生活もいいものだ。

独りでいた燈月にとって、個室とは孤独になるところだった。

だが、サーヴァント…ギルガメッシュが居ることによって孤独になることは少なくなったのだ。

 

燈月はいつもお気楽な性格だが、だからといっていつも周りに誰かがいるということはなかった。

それどころか、一人のほうが断然多かったのだ。

その寂しさを隠すようにお気楽な口調をしていると言ってもいい。

だが、彼女にも友達はいた。今は、顔も名前も思い出せないが。

 

自分の友人とは男だったのだろうか、女だったのだろうか。

 

友達がいるということは思い出せる。だが、顔や声を思い出そうとすると靄がかかるのだ。

 

 

「ま、別にいいか。今は目先のことに集中しないと。」

「どうかしたのか?」

「気にしないで。」

「…?」

 

首を傾げるギルガメッシュに横目に、燈月は自身の考えを振り払うかのようにアリーナへと入っていった。

 

 

 

 

 








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ない胸に突き刺さる



サブタイはけっしてネタに走ってません!


 

「…本当にいた。」

 

燈月は第二層のアリーナの奥…

ワープエリアの一つ前の小さいが戦うには充分の大きさのフロアに居た。

 

燈月は少しばかりラニのことを疑っていたのだろうか。

いや、疑わない人はいないと思うが…。

 

少し驚きながらも、二人の男性のもとに近付いた。

 

彼らも、燈月たちがアリーナに入ってきたというのに勘付き、待っていたのだろう。

 

「旦那、どうします?目の前に出てきましたけど。」

 

いや、どうやら別にそんなことは無かったのかもしれない。

 

 

アーチャーは少し警戒しながらこちらの動きを探っている。

 

「フハハハ!良くもまぁぬけぬけと我の前に顔を出せたな。

いつも、コソコソとこちらの出方を見ていた貴様が。」

「よく言うぜ。そちらさんは鼠みたいに逃げ回ってたってのに。」

「狭い通路で戦うの、好きじゃないからさ。」

 

 

燈月はあははーっと、誤魔化すように笑う。

それを見たギルガメッシュは燈月に聞こえるくらいの声で言う。

 

「貴様は黙っていろ。」

「えー、私も挑発って言うのしてみたい!」

「……お前には向いてないだろう。」

 

その言葉は図星だったのだろう。燈月は黙ってしまう。

 

「生前も隠れて敵を襲っていたろだろう?さぞ、楽しかったであろうな。

影で倒れ死に行くものを見るというのは。」

 

嘲笑うかのようにギルガメッシュは言葉を続ける。

 

「だが、そこの老いぼれに心打たれたか?表に出てきおって。…貴様にはコソコソしてるほうがお似合いだぞ?」

「ってめぇ…。」

 

ギルガメッシュが挑発していると、アーチャーの顔が歪んだ。

癪に障ったのだろうか。まぁ、それはそれでギルガメッシュの思うつぼだが。

 

「時間をやろう。隠れるがいい。…まぁ、隠れても串刺しになる運命は変わらないがなぁ。」

 

アーチャーはもう耐えられない、というように背を覆ったマントに手をかける。

 

「上等だ!"シャーウッドの森"の殺戮技巧、とくと味わいな!」

 

シャーウッドの森。その言葉が出てきた瞬間、ギルガメッシュはかかった。そう言うかのようにニヤリと笑った。

 

ギルガメッシュが、構えた瞬間。今まで黙っていたダンが止めに入った。

 

「やめんか、アーチャー。お前らしくない。」

「…あいあい、わかってますけどねぇ。サーの旦那、こいつはちょいと七面倒くさい注文ですよ?」

 

アーチャーはダンの言葉に手を下ろしながら文句を言う。

 

「正当法だけで戦えとか。俺が誰だかわかってます?

つーか、本当意味わかんねえ!オレから奇襲とったら何が残るんだっての?

ハンサム?この甘いハンサムに効果があるのは町娘だけだっつーの!」

「………。」

 

 

確かに、イケメンの部類には入るのだろうがその言葉に燈月は呆れる。

 

まぁ、それもそうだろう。いきなり自分のことをイケメン呼ばわりだ。

よっぽど自信があるのだろうか。

 

ギルガメッシュも相手に聞こえないくらいの声で嘲笑っている。

一応、彼も王だ。空気は読めるらしい。

 

「不服か?伝え聞く狩人の力は"顔のない王"だけに頼ったものだと?」

 

向こうがドンドン情報流していってくれているのだ。

そのチャンスをみすみす逃すわけには行かない。

 

「あーいや、まぁ、ね?そりゃあ、俺だってがんばったし?弓に関してはプライドありますけど。」

「では、その方向で奮戦し給え。お前の技量はなにより狙撃手だったわしがよくしっている。それこそ、背筋が寒くなるくらいにな。信頼しているよ、アーチャー。」

 

「話し終わりました?ちょっと退屈しちゃいましたよ。…まぁ、情報手に入れられたからいいけど。」

 

最後の方は向こうに聞えないくらいの、そして、口を動かさず、ぼそぼそっと言う。

 

「ああ、済まないな。」

 

アーチャーも燈月に向きなおっている。

 

「ま、相手は幸いひな鳥だ。成功法なんざ滅多にしませんが、どうにかなるでしょ。」

「…ひな鳥。」

「確かにこやつは赤ん坊程度の弱さだが、見くびるなよ?雑種。」

「ちょ、ギル!ひな鳥よりも胸に刺さる!」

 

燈月は庇おうとしているのか、貶しているのか分からないギルガメッシュの言葉に反論を入れる。

 

「ハッ!無い胸に刺さったって問題ないだろ。」

「はぁ?サーヴァントのくせに生意気だね。黙ってそこの爺に従ってたら?というか、口開くなよ。」

 

燈月もカチンと来たのか、いつものお気楽な口調が抜けている。

それに、どことなく笑顔が黒い…気がするのは気のせいではないだろうことは明らかだ。

 

「お前こそ、なんも出来ねぇマスターはサーヴァントに守られてろっての。」

「アンタに襲撃が無かったらハンサムしか残らないんでしょ?そんなのでどうやって戦うの?あーあ、見てみたい。ほーんと、顔だけで戦う姿とか、見てみたい。あ、顔だけなら頭突きも出来そうだね。人間誰しも頭は硬いし、ハンサムしか残ってないアンタでも問題はないんじゃない?」

「ま、お前とは鍛え方がちげえから、ヤワなお前には頭突きだけで充分かもな。」

 

ギリギリと、火花が散るのではないかというほど睨み合う二人。

 

それを止めたのはギルガメッシュだ。

 

「おい、燈月。そろそろやめないか。戦うのは貴様ではなく我だぞ?」

「分かってるけどさ。向こうが悪いんだよ!無い胸とか言うから!」

「確かに、貧相だが…。」

 

さらっと言う貧相という言葉に燈月は項垂れる。

このままではフロアの隅に体育座りするのではないかというほどの落ち込み具合だ。

 

「…ええい、アーチャー!燈月の貧相な胸に刺さった痛み、貴様に倍返ししてやろう!」

 

ギルガメッシュはどう扱って良いのか分からず、アーチャーに八つ当たりだ。

 

「……いや、最終的にお前がとどめ刺してるから。」

「黙れ、雑種!」

 

アーチャーが呆れながら燈月を見た瞬間にギルガメッシュが剣を飛ばす。

 

「っわっとと。」

 

アーチャーはそれを避けたため、壁に剣が勢い良く衝突する。

剣はそのまま床に落ち、カラン……!と音をたてた。

 

まるで、開始の合図かのように。

 

 

 

 

 






嘘です。ネタに走りました。



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アーチャーとアーチャーの戦い

 

 

 

剣が落ちた音と共に、ギルガメッシュは勢い良く飛び掛かり、一気にアーチャーとの間合いを詰めた。

アーチャーは縮められた距離を広めようと後ろに下がる。

だが、それだけでは距離を広められる訳もなく、また縮められてしまう。

そのため、アーチャーはギルガメッシュを弓で射ろうと思い、弓を張る。

たが、その間にも間合いは詰められ、ギルガメッシュはアーチャーを斬ろうと飛び掛かってくる。

 

アーチャーは舌打ちをし、まだ充分と張られていないというのに矢を放った。

そんな弱い矢をギルガメッシュが撃ち落とせない訳もなく、軽々と撃ち落とす。

 

ギルガメッシュがそれに気を取られてしまっていたせいか、アーチャーはその間に距離を取る。

ソレはアーチャーにとって距離を取るには充分だったのだろう。

ギルガメッシュが顔を上げた時には結構な距離を取られていた。

 

ギルガメッシュがまた距離を詰めようと走りだそうとするが、ソレはアーチャーの矢によって妨げられる。

もっていた剣を使い、弾きながら先へ進もうとするが、次々と矢が放たれるため、なかなか進めない。

そのため、ギルガメッシュは武器を飛ばし始めた。

 

「何でもありだな、てめぇは!」

「これでも我は手を抜いているが?」

「はっ!まだ手を抜いてるっつーのかよ。」

 

アーチャーはありえねぇ…などと呟きながら矢を放つ。

 

だが、木で出来た矢と鉄や鋼などで出来た武器の類では圧倒的に武器の方が有利だ。

個数が限られているとは言っても、飛ばしてしまった剣はいつでも戻すことが出来る。

いざとなれば拾えばいいのだ。

それに個数が限られているのは向こうも同じなのだ。

 

しかも、放つ速さも違う。

ギルガメッシュは取り出して投げるという二パターンだが、アーチャーは取り出し、構え、放つという三パターンなのだ。

だが、矢と武器の数は変わらない。

つまりは、確実に大量の武器を飛ばせるはずのギルガメッシュが手を抜いているとしか考えられないのだ。

 

いくらアーチャーが弓の名手だとしても、弓を張るのは時間がかかるものだ。弦が切れてしまっては元も子もないのだから。

 

ということは、アーチャーは舐められているのだ。

今回、燈月はフロアの隅に縮こまっているのでギルガメッシュ独自の判断だ。

つまり、ギルガメッシュは幾ら慢心しようが怒鳴られたりしないのだ。

だからこその慢心だ。

 

騎士道精神の持ち主のダンが隙を見て燈月のことを攻撃するわけがない。

 

そして、そのダンのサーヴァントであるアーチャーも燈月に攻撃することはないだろう。ダンに怒られるのが目に見えている。

 

自身のマスターである燈月が殺される心配もなく、そして、自身が死ぬことは一切ない。そういう慢心だ。

 

だが、それはアーチャーを怒らせるだけである。それが一目でわかるようにアーチャーの額には青筋が浮き出ていた。

 

「てめぇ…ふざけてんのか?」

「我は至って真面目だが?」

 

そう、ギルガメッシュが言った瞬間、燈月は「嘘つけ…」と、呟く。だがそれはギルガメッシュに聞こえるわけもなく、もちろんそれより遠くにいるアーチャーに聞こえることもない。

 

「なるほど…性根が腐った野郎ってことか。余裕振った顔しやがって。

てめぇからは殺されないっつー自信しか見えねぇわ…。」

「当たり前であろう?この我が貴様のような鼠に殺される?笑わせてくれるわ!」

 

ギルガメッシュは地を蹴り、アーチャーに斬り掛かった。

だが、それはアーチャーの戦場で培った勘だろうか、間一髪のところで避けられてしまう。

 

「避けるな!」

「避けるに決まってんだろ!?」

 

そう言いながら、ギルガメッシュはもう一振り喰らわせようとする。

 

 

―――が、そこでセラフに介入された。振るっている途中だった剣は、止められるわけもなく、アーチャーに突き刺さる、かと思えば弾かれたように剣が飛ばされてしまう。

 

「あー…疲れた!やっぱ、俺には合いませんわ、こう言うの。

つーか?相手がこいつって時点で無理っしょ。王様見てるみたいで、どんな手使ってでも殺したくなってくるし。」

「それは決戦の時までどうにか抑えておけ。それに、わしのサーヴァントである以上、一人の騎士として振る舞ってもらいたい。」

「わかってますよ。騙し討ちは禁止なんでしょ。はぁ…人には適材適所ってもんがあるんだが…。」

 

その後も、二人の会話は続いていたようだが、燈月は早く帰りたかったのか、話の途中でリターンクリスタルを使い帰還した。

 

 

「……アーチャー、許さないから。」

 

 

最後に一言、伝えてから。

 

 







燈月、怒ると怖い…




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燈月のお怒り



茶番回入れちゃいましたぜ


 

 

 

燈月は不機嫌だった。藤村から家具を貰えば回復するであろう。そうギルガメッシュは簡単に考えていたのだが、全くもって機嫌を治してはくれない。

 

ギルガメッシュが声をかけるも、いつもより数倍素っ気ない返事が帰ってくるだけだ。

今回はギルガメッシュも悪いため、機嫌を治したらどうだ?と言ったら逆に怒られるに決まっている。

 

ギルガメッシュの倉庫に胸を膨らませるというものもあるにはあるのだが、必要の無いものでありながら何故かムーンセルに規制されている。

宝石などをちらつかせても反応がないのだ。

 

ギルガメッシュの額に青筋が出来そう。という所で燈月の目の前に一人の少女が立ち塞がった。

 

「天宮さん。何だか、嫌なオーラが漂っているけどどうかしたの?」

「何でもないよ…遠坂さん…。」

 

そう、ツインテールの持ち主。遠坂凛だ。

遠坂は燈月のそっけない態度に、溜息をつく。

 

「何でもないわけ無いでしょ?一回戦終了の時よりもひどいじゃない。」

「何でもないよ…気にしないで、遠坂さん。」

 

一回戦終了、と言うと燈月が泣いていた時のことだろう。

確かにその時よりも酷い。と言っても、今回は怒りなのだろうが。

 

「…何があったのかは知らないけど…それぐらいのことで不機嫌になるような子だったのね。天宮さんは。」

「それぐらい…って、私にとっては一番大事なことなんだよ。」

「ふーん…。ま、良いわ。私には関係のないことだもの。

そうやってウジウジして、死になさい?そんなのじゃダン・ブラックモアには勝てないわ。」

「っ…ダメ。あいつは、アーチャーは倒す。」

「なら、顔あげなさいよ。そうやってウジウジしてるのは貴方らしくないわよ。」

 

そう遠坂は言うがこれは彼女なりの励ましなのだろうことは容易に見て取れた。

 

「私的には貴方が勝ってくれたほうが楽なのよ。ブラックモアが生き残っても倒せる自信はあるけど、アイツは強い。サーヴァントとかの問題じゃなくて指示するのがよ?

それよりかは貴方が生き残ってくれたほうが楽だわ。こんな天宮さんなら、尚更ね。」

「………私、だって」

「私だってやれるって?無理よ、無理。そんなのじゃ勝てないわ。貴方のサーヴァントだってこんな貴方には手を貸したくないだろうし。」

 

……本当に励ましなのか分からなくなってくるが。

遠回しの励ましなのだと信じたいところだ。

 

「っ………。だって…だって、ギルが、あの敵のアーチャーが私の胸貧相だっているんだもん!」

 

燈月は叫んだ。幸いだったことは廊下に人が少なかったことだろう。

 

「……はあ?アンタ、もしかしてそんなことで悩んでた訳?」

「私にとってはとっても大事なんだよ。」

「……心配した私が馬鹿だったわ。」

 

遠坂は頭を抱えた。まさか、この少女の不機嫌の理由がそんなものだったなんて思いもしなかったのだろう。

涙目で訴えてくる少女だが…なやんでいる事で全て台無しだろう。

 

「それなら、アンタのサーヴァントにグーパンしておきなさい。そして、アーチャーを倒しなさいよ。それで少しは晴れるでしょ?」

「…かな。」

 

燈月は振り返り、ギルガメッシュの目の前に立った。

だが、グーパンと言ってもギルガメッシュは鎧を着用しているのだ。

どこを殴れば…そう思った時、ギルガメッシュの頭が目に入った。

 

「よし、ギル。頭出して?」

「なぜ我が貴様に頭を垂れなければならない?」

「いや、頭を出すだけで…。しゃがむだけでもいいんだよ?」

「貴様!我に跪けと申すか!この我に対して。」

 

話の内容を聞いていたからなのだろう。イエスと答えてくれない。

ふと、燈月は考えた。左手にあるではないか。と

サーヴァントにとって、絶対命令となるものが。

 

燈月が令呪を使おうと「令呪をもって…」そう言い、左手をギルガメッシュに向けた。

だが、それは遠坂に止められた。

 

「何やってるのよ!そんなことに令呪を使うとか、馬鹿じゃないの!?」

「だって、頭出してくれないから…。」

「他の方法でも考えなさい…。」

 

そう言われ、燈月は仕方がなく手を下ろした。そこで、燈月はなにか使えるものが無いかと、バッグを漁る。

 

出てきたのはペンや、ハンカチ、礼装だ。

 

「……これなら、叩ける。」

 

そう言って取り出したのは礼装、守り刀だ。

確かに叩けることは叩けるが…叩くというよりは斬るのではないだろうか。

 

「待て、燈月。それで攻撃するつもりか!?」

 

流石にギルガメッシュも慌てる。と言っても、当たり前である。

 

「…これ以外で何があるの?」

「形を変えるとかして、だな。それでは斬れるぞ!?」

「ああ、そっか。遠坂さんが汚れたら困るもんね。」

 

燈月は守り刀をただの棍棒に形を変え、構えた。

それには遠坂も驚きである。だが、そんなこと気にした様子もなく、燈月はギルガメッシュに棍棒を振るった。

だが、それは空振りに終わる。ギルガメッシュが避けたのだ。

 

「避けないでよ、ギル!」

「避けるに決まってるだろう。壁にでも当たっておれ!」

「……はぁ。」

 

そうして、燈月は棍棒を刀の形に戻し仕舞った。

諦めたのだろう。遠坂にお礼をいい、アリーナに向かい始めた。

 

 

 

 

ギルガメッシュも安堵したのだが、そんなのお門違いだった。

雑魚戦の時、燈月に的外れな指示を出され、ボロボロになる所だったのだ。

 

 

 

 

 

 







その後、ギルガメッシュと燈月はちゃんと仲直りしました。

ただ、二人共アーチャーに対して倒すという気力があがりました




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老人の戦う理由



更新遅くなってごめんなさい!
忙しくって…。次も少し遅れると思います、戦闘は苦手なので…。


 

燈月は前回と同じように情報を整理していた。

 

「…ロビンフッド、かなぁ。シャーウッドの森と言えば一人しかいないはずだし。」

 

今回は慎二のような小癪な手を使ってくるような人では無かったため、図書室に行けば大抵の情報は手に入った。

それに、前回とは違い史実では男だった。だとか、そういうことは無かったので真名には辿り着きやすかった。

 

「ロビンフッドというと、義賊か。」

「あれ、知ってるの?」

「当たり前だ。我を誰だと思っておる?」

「あーはいはい。AUOAUO。」

「我の扱いが雑になっている気がするのだが?」

 

流石に燈月の適当さに怒りを覚えたのか。ギルガメッシュは眉を吊り上げながら燈月を睨みつける。

燈月はそんなギルガメッシュに多少びびりながらも口を開く。

 

「……気のせいだよ。うん気のせい。」

「…気のせいではないだろう…が、まぁよしとするか。どうせ貴様のことだ。まだ少しばかり根に持っているのだろう?我は温情だからな。許してやろう。」

 

根に持っているという言葉が図星だった為に燈月は喉をつまらせたが、そのすぐの言葉に呆れてため息をついてしまった。

 

「自画自賛…。」

「ふっ…当然よ。」

「ああ、もうめんどい。行こう?決戦へ。」

 

燈月は椅子から立ち上がり、用具室へとむかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリガーを2つ差し込み、エレベーターへ乗り込む。

どうやらダンはもう来ていたらしく、エレベーターの中で壁にもたれかかっていた。

 

「遅かったじゃねぇか。てっきり、オレはこないのかと思ったぜ。」

「私にも色々とあるんだよ。悩みのなそうな貴方は良いよね。ああ、私はあなたのことで悩んでるんだけど。気にしないで。」

 

アーチャーはエレベーターが動き出した瞬間、燈月に厭味ったらしく声をかけてきた。

やはり燈月はアーチャーのことが気に喰わないのか、素っ気ない態度だ。

 

「ふーん…オレのことで?」

「…そうそう。どうやって殺そうかなーって。」

「物騒な悩みだなぁオイ。」

 

満面の笑みで言う燈月にアーチャーは顔を引き攣らせながら言う。

 

「勿論、冗談だけど。」

「……我の聞いたところ冗談じゃなかった気がするぞ?」

「…知らないよ。」

 

燈月が真顔に戻りそう言うが、ギルガメッシュがやれやれと言った顔で燈月に顔を向ける。

飽きられたような視線を感じながら燈月はため息をつく。

 

「まぁ、そんなことどうでも良い。おいそこのネズミ。何でも良い、適当に喋れ。」

「もう話すことなんてねぇよ。黙って死の恐怖に震えてな!」

 

アーチャーはそう言って一度口を閉じるが頭を掻きながらまたも口を開いた。

 

「つっても、それじゃオレが暇なんだよな。

うちのダンナは世間話とかしねぇの。…――どうよ、貧乳マスターさん。ダンナに話しかけてみないかい?」

「………誰のことかな?」

 

アーチャーの言葉に燈月は笑顔で言う。

 

「おっと、すまねぇ。コンプレックスだもんな。」

「………で、話しかけてみたら、だっけ?」

 

もう相手するのも面倒なのか、燈月は話を戻す。

アーチャーは燈月の言葉に頷き、どうだ?と、また聞いてくる。

 

「……そうだね…。じゃあ、貴方なりの考えを聞かせてもらおうかな。なんで戦うの?」

 

ダンは壁にもたれ掛かったまま、目線を燈月に向け口を開く。

 

「戦いに理由などない。戦地に赴いた以上、あるのは目的だけだ。」

「ふーん…よく分からないね。」

「加えるなら、わしは軍人だったからな。国のために戦わねばなるまい。個人の理由は必要ないのだよ。」

 

その言葉に燈月はなるほど。と頷く。

その会話を聞いていたアーチャーは燈月にどんまいという顔をする。

 

「やっぱ無理だったか。ご苦労さん、つまみ程度には楽しめたぜ。」

「……我は貴様に頼んだのだが、まぁ良い。我は寛大だからな。」

「…最近、ギルがおかしくなってきた気がする。」

「気のせいだ。それか、貴様に毒されたか、だな。」

 

燈月とギルガメッシュが話しているとアーチャーが割り込んできた。

 

「唐突だが、そっちのマスターさんは闇討ち、不意打ち、騙し討ちは嫌いかい?」

「…嫌いだね。そうでもしないと勝てない奴はただ力がないだけだよ。」

 

ギルガメッシュよりも燈月がギルガメッシュに毒されている気がするが…。

 

だが、燈月は遠回しにお前が嫌いだと言っているのだ。

アーチャーは気付いているのか、気付いていないのか、スルーするが。

 

「難儀だねぇ…。ま、せいぜい頑張んな。」

「アーチャー、随分と楽しそうだな。」

 

そこでダンがアーチャーに話しかける。アーチャーはダンの方に体を向け答える。

 

「おや、そう見えましたかい?」

 

あいも変わらず、燈月とダンの時の態度が違う。

燈月のサーヴァントが少しばかりおかしいだけだが。

 

「うむ、戦いを目前に控えながら倒すべき敵となりを楽しんでる。

……少なくともワシにはそう見えるな。」

 

燈月にはそうは見えないのだが、アーチャーは頷いた。

 

「ご明察。お喋りなのは大目に見てもらえれば、何しろ敵と話すこと自体珍しくて。」

「ああ、暗殺が得意なサーヴァントだもんね。…こうやって見てるともう、アサシンにしか見えないよ。」

「おいおい、今回の決勝は正々堂々戦うつもりだぜ?オレもちぃと毒されちまったみたいでな。」

 

アーチャーの否定に燈月はふーんと素っ気なく返す。アーチャーは気にした様子はなく、ダンに顔を向け直した。

 

「ダンナは少しばかり若者の言葉を聞いたほうがいいっすよ?」

「そんなものいらん。敵を知るのは勝負の後でも問題ない。」

「ああ、そんなんじゃ気疲れして次ぐらいで自滅しちまいますよ?なぁ、あんたもそう思うよな?」

 

燈月はアーチャーの言葉に少し悩んでから口を開く。

 

「そんなの知らないよ。…ダンさんはそうやって生きてきたんだし。大丈夫じゃない?」

「どいつも、潤いが無いねぇ。若者はオレだけかい?」

「…それはない。貴方が若者だったら大爆笑だよ。」

「お前ってたまに酷いこと言うよな…。」

 

それからも、少し雑談をしていると、エレベーターの表示が0へと変わる。

 

どうやらついたみたいだ。

燈月は知らず知らずのうちに緊張していたらしい。

エレベーターに降りる前にギルガメッシュが声をかけてきた。

 

「相手が軍人だろうが誰であろうが貴様は何時もどおりでよい。我に身を任せておけば良いのだ」

「…うん、わかってる。…ありがとう、ギル。」

 

ギルガメッシュの言葉で緊張が解れたのか、先程よりも幾分か顔が緩くなっている。

燈月はギルガメッシュに笑顔でお礼を言いエレベーターから、降りた。

 

 

 







燈月に毒されてもああはならないだろ…と自分で思ったり思わなかったり。

ああ、三回戦も戦闘大変だなぁ…などとしみじみ思います。


CCCもやりたいとは思ってるんですけど…そのままやるとつまらないので大幅に変更したいんですよね。……そういうことやるのは苦手なので辛いですけど。


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真剣勝負の行く末は

 

燈月がエレベーターから降りると、そこはもう戦場だった。

サーヴァント2人はマスターに指示をされたらすぐに動くだろう。

 

燈月はその凄みに潰されそうになりながらもダンを見据えた。

 

「…決戦前のお喋りは済んだし、始めましょうか。」

「うむ、そうだな。アーチャー。」

 

ダンが横に控えているアーチャーを呼ぶと、彼は一言、返事をした。

それと同時に、燈月もギルガメッシュに目配せをする。ギルガメッシュは頷くと、地を蹴りアーチャーに向かい、剣を振るった。

 

アーチャーも同じ事を考えていたらしく、弓でギルガメッシュを狙う。

ギルガメッシュに向かってとばされた矢を剣で弾く。

 

燈月はそれを見ながら後方に下がり、いつでも回復出来るように準備する。

 

いつ毒を使ってくるのか分からない。それならいつでも使えるようにしておかなければいけない。

 

だが、現在2人は弓を射、剣で弾き、を繰り返している。

たまにギルガメッシュが武器を飛ばし、ダメージを与えようとしているのだがアーチャーの弓の精度が高く、思うように剣を飛ばせていない。

 

ギルガメッシュは苛立ちを感じ、舌打ちをする。

アーチャーは決戦前のアリーナでの戦いでは手を抜いていたようで、前回に比べ弓を張る速さ、矢の数、そして矢の強度すべてを上げてきたようだ。

 

「我との戦い、手を抜いておったな?」

「ああ、そりゃあ、ただの偵察みたいなもんだったし?でも、まぁ…ちぃと、あん時は油断し過ぎてたわ。」

 

二人は呑気に会話をしているが、ここが戦場だという事は忘れてないようで…

ギルガメッシュが前に進めばアーチャーが距離を保つ為後ろに下がる。

 

「ほう…つまりは本気を出したということか?それをするにはいささか遅かったようだが。」

 

ギルガメッシュが余裕そうな笑みを浮かべながら言う。

その時、ずっと見るだけだったダンがアーチャーに向かってコードキャストを使った。

 

「アーチャー、火力を上げるぞ。」

「ありがとよ!ダンナ。」

 

使ったのはgain_str…筋力をあげるものだ。

 

その瞬間、速さがまたも上がった。

 

「なかなか楽しめそうになってきたではないか。…だが、二度も同じ攻撃は効かんぞ。」

 

そう言ってギルガメッシュは、2回同じ場所に向けて剣を振るう。

アーチャーは前、燈月が奇襲され攻撃されたその罠と全く同じ攻撃をしてきたのだ。

 

だが、アーチャーにはそれが読み通りだったかのように不敵に笑った。

 

「いや、一度も喰らってなかったな……む?何がおかし……――っ!」

 

一本でダメなら二本。二本でダメなら三本にすればいい。

 

二本の矢を振り落とし、余裕そうにしていたギルガメッシュの目の前には矢が一本。

ギルガメッシュは躱そうとするが、あと数ミリ遅く。

ギリギリ交わせず、頬がチクリとする。しかも、その矢には毒が塗ってあったらしく、そこから毒が回っていくのがギルガメッシュには分かった。

 

「生き物ならこれだけで死ぬもんだが、アンタはどうなんだ?」

 

身体を蝕む独に毒耐えながらも、ギルガメッシュは矢を振り落としていく。

だが、毒によるものなのか、視界が霞み、たまに矢が体に刺さってしまう。

 

生前ならばこれぐらいどうってことは無かったのだが、ムーンセルに規制されているからだろうか、毒への耐性が減っている気がする。

 

「っ…ギル!」

 

 

さすがに異変に気付いたのか、燈月はギルガメッシュに回復薬を使用する。

すると、くすりが効いたのか、徐々に視界など、すべての器官がハッキリとしていく。

 

「ちぃ…もう少しだってのに。」

「やってくれるな、ネズミ。」

 

ギルガメッシュは自身に刺さった矢を抜き、アーチャーに向かって全速力で走りながら、剣を飛ばす。

アーチャーはそれを軽く躱し応戦しようと弓を放ちながら後ろへとさがる。

 

だが、後ろにある歪みの先から剣が出ていることには気付かず、後ろに下がろうとする。

 

「アーチャー!後ろだ。」

「っ…!?……ぁぶね。」

 

ダンの言葉でやっと気付いたのか、アーチャーはその場で一度立ち止まり、前に行こうとして立ち止まる。

 

ギルガメッシュが目の前で、剣をアーチャーに刺すところだったのだ。

アーチャーはその場にしゃがみ込みそれを回避し、その場から離れ手を床についた。

 

「――茂みの棘。死にな!」

 

アーチャーがトンと付いた途端、ギルガメッシュが居る場所が膨れ上がった。

危険を感じ、飛び退いた瞬間、そこからいくつもの棘が突き出してきた。

 

ギルガメッシュは飛び退きながらもアーチャーに剣を飛ばして行く。

 

アーチャーもそれに負けず、矢を放っている。

 

ギルガメッシュは地に足を付けたかと思えば、すぐに地面を蹴りアーチャーに向かって行く。

 

「その首、目障りにも程があろう!――嵐を払う」

「脇ががら空きだ。――矢尻の毒」

 

二人がスキルを発動するのは同時だった。

 

アーチャーの矢がギルガメッシュを攻撃し、ギルガメッシュの剣がアーチャーを斬る。

 

「っぐ…。」

 

アーチャーが斬られた箇所を手で押さえる。電子世界のため血は出ていないが、痛みはやって来るのだ。

その痛みに顔を歪めているとアーチャーの真横を剣が後ろから通ってくる。

頬に痛みが走るが、アーチャーはニヤリと笑ってギルガメッシュに向き直った。

 

「毒のせいで目が霞んでんのか?ちゃんと当たってないぜ?」

「はっ…!貴様こそ、痛みで攻撃出来てなかろう。」

 

燈月は毒の回復よりも怪我を優先したらしく、ギルガメッシュにヒールをする。

それを確認したアーチャーは笑みを深くした。

 

「ダンナ!」

「良いだろう。仕留めるがいい。魔弾の射手よ。」

 

燈月はその言葉だけで分かったのだろう。回復薬を使おうとするが、一歩遅く。

 

「森の恵みよ。圧政者への毒となれ。

 

―――祈りの矢(イー・パウ)

 

アーチャーは弓をギルガメッシュに向け、矢を飛ばす。

 

「ギル!」

 

燈月の叫び虚しくソレはギルガメッシュに刺さり、その瞬間、一瞬だがギルガメッシュが木に包まれたかのように見えた。

瞬きをするとそこにはギルガメッシュが立っているだけであり、何も代わり映えはない。

 

だが、祈りの矢は毒の周りを強くするものだったようで、ギルガメッシュは苦痛に顔を歪めた。

 

それを見て、燈月はすかさず回復をする。だが、回復をすると解毒が出来ないため、ギルガメッシュの痛みは終わらない。

 

ギルガメッシュは倉庫からいくつもの武器を飛ばす。

投げ飛ばした武器の数は十を越えていて、毒が回ってなければ躱すことは難しいだろう。

 

「危ねえ!…その苦痛の中、どうやってここまでの威力出してんだよ。」

「我は王だからな…これぐらい出来て当然というものよ!」

 

ギルガメッシュはアーチャーの放つ矢を躱し、今使える武器の中で一番強いだろう剣を握る。

毒が身体を蝕むと、すかさず燈月が回復させるから良いものの、普通の英霊ならばこんなこと出来ないだろう。

 

 

アーチャーの背後からが刀を向けられ、ギルガメッシュの攻撃に一瞬だが反応が遅れてしまった。

それが唯一つのアーチャーの敗因だろう。

 

「っはぁ―…。」

 

全速力で走ってきたのだろう。息も絶え絶えだった。まだ良かったのは、アーチャーとギルガメッシュの位置が変わり、ダンの目が届いていなかったことだろう。

 

途中、ダンもそれに気付き、止めようと走ったのだが一歩及ばなかった。

 

「っ…すまねぇ、ダンナ……。」

 

アーチャーはギルガメッシュに斬られ、その場に倒れこんだ

 

 







くっ……顔のない王、使えなかった…

まさか、ここまでグダるとは思わなかったんです……2つに分けてもいいかなって考えたんですけどそうすると辛いですし……

まぁ…顔のない王なんて嫌いだから出番なんて作りませんけど…。
あれのせいで幾度となくやり直したことか……っ!

くっそぅ…。


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老人からの助言

 

 

 

 

 

 

 

ダンは目を見開いた。

 

当然だろう、いくら燈月のサーヴァントが強かろうと燈月自身が強くなくては意味がない。

 

 

燈月の精神が不安定の中、勝てるかどうかはサーヴァントの強さに任されたようなものだ。

燈月にとってはそれで勝てたのかも知れないが、ダンから見たらそうではない。

 

 

意志の強さよりも意志の質のほうが強い。

 

「くそっ…何もかもダンナの方が上だったってのに…。」

 

 

燈月たちとダンたちを遮るかのように赤い壁が現れる。

 

「…ワシもまだまだだったようだな。」

 

「どこがだよ!ダンナは強いさ!」

 

「いいんだ、アーチャー。彼女に負けた。それはもう覆らない。」

 

「っ……。」

 

ダンは清々しい顔だ。悔いはない、そんなふうに見える。

 

「悪くないな。敗北というのも。」

「……ダンさん。」

「君が悔やむことはない。

 

一つ、助言をしておこう。…迷いながらも生きるがいい、その迷いはいずれ敵を穿つための意志となる。」

 

燈月は頷く。ダンの顔はまるで、孫を見守るかのように穏やかだった。

 

アーチャーはダンのことを本当に慕っていたらしく、最期に一言、聞こえないくらいの小ささではあったが礼を言い、消えた。

 

跡形もなく。

 

「最期に、どうしても手に入れられなかったものを、掴ませてもらったさ……。」

 

そう、一言残して。

 

満足気に微笑んで消えた。

 

「天宮君。最後に年寄りの戯言を聞いてほしい。

 

…これから先、誰を敵として討つことになろうとも必ずその結果を受け入れてほしい。

迷いも悔いも、消えないのなら消さずともいい。

ただ、結果を拒むことだけはしてはならない。すべてを糧に進め。

 

……覚悟とは、そういうことだ。それを見失ったまま進めば君は必ず未練を残す。

そして、可能であるのなら、戦いに意味を見出してほしい。自分なりの答えを模索し、最後まで勝ち続けた責任を果たすのだ。」

 

「……責任…。分かりました…出来るかどうかは分かりませんが…やってみます。」

 

「未来ある若者よ。…それだけは忘れるな。」

 

そう燈月に助言を残し、ダンは消えた。

愛しの妻の名前をつぶやいて。

 

 

 

エレベーターに向かうギルガメッシュを追いかける燈月は一度だけ振り向いた。

 

ギルガメッシュに呼ばれたため、一瞬ではあったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの老いぼれの話を聞き、何か得るものはあったか?」

 

 

 

学校に戻ってくると、ギルガメッシュは早々に燈月に質問を投げかけた。

 

 

「…合ったと言えば合った…と思うよ。それが何なのかと聞かれるとわからないけど…。」

「なんだ。はっきりしないな。」

 

マイルームに戻りながら、燈月は呟く。

 

「ただ、これから先、誰が相手になるかはわからないけど…。

本気で立ち向かおうって思ったよ。慎二の時みたく生半可な気持ちじゃダメだなって。」

 

「ほう?…だが、出来るのか?それが貴様に。」

 

「…わからない。でも、やるんだよ。やらなきゃ死ぬでしょ?」

 

死にたくないから。それは他の人の意志よりは弱いかもしれない。

でも、それでもちゃんとした意志だ。それを持っているか持ってないかというだけで違うのだ。

 

燈月がそれを知っているか知らないかはわからない。だが、その目には確かに意志が宿っていたのだ。

 

 

 






いや、遅くなってすみませんでした。
同時進行でエクストラ進めてるんですけど、キャスターであれほど手間取るとは思いもしなかったんです!

もう少しレベル上げてから挑めば良かったと後悔しましたよ…
でも、攻略のおかげで倒せたから良いんですけどね

勝てればいいんです!勝てれば!

っと、今回、原作重視となってしまいましたが、久しぶりなので勘弁してください。

ギルガメッシュの扱い方を忘れてしまったんですよ…

次回からはリハビリも兼ねて色々とやっていこうかなとおもいます。
番外編的な感じでアーチャーとかと絡ませたいですねぇ。もちろん、別の世界線みたいな感じで、ですが。



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エピソード 2.5
Happy Halloween 前編




番外編です。

死んだはずの人とかも出てくるのでパラレルワールドだと思ってください。





 

 

 

燈月が昼、いつものように購買に訪れると、そこはハロウィーン一色だった。

 

壁にはお化けやカボチャの紙が貼られていて、嫌になるのではないかというほどだ。

廊下にもそれは成されており、もはや燈月は苦々しい表情である。

 

まだ、良かったと思えることは自身の部屋がいつも道理だったということか。

 

「いらっしゃいませー。今日のおすすめはパンプキンパイですよー。」

 

なぜこんなにも、カボチャ押しなのかというと、まぁ、それは今日が現実世界で言うハロウィーンだからだろう。

 

「あ、いえ…いりません。」

「そうですかー。残念です。…あ、そうだ。これどうぞ。」

 

そう言いながら、店員は紙袋に入っている何か。

燈月が中身を見ると、そこには黒い何かが…。

 

不審に思いながらも、中身を取り出してみると、それは黒猫の衣装だった。へそが出るように作られているフリフリの上下の服。

赤い首輪と鈴が目立つ。

 

 

「……ナニコレ。」

「今日はハロウィーンなのでという事で、ムーンセルが用意したみたいですよ?」

 

 

燈月は朝からギルガメッシュの姿を見ていない。

朝起きた時にはもう英霊化していたようだ。

なぜと聞いたら、怒られた。理不尽である。

 

「今日は絶対にこれを着て過ごしてください。試着室なら貸しますよ?」

 

燈月はため息をつきながら、服を店員に押し付けた。

 

店員は頭をかしげながらルーナにそれを返そうとする。

 

「着ないと退場ですよ?」

「……着るけど、いらない。」

 

その言葉に店員は倒れるのではないかというほど頭をかしげる。

 

燈月は絶望したような表情で、服をポンポンと叩いた。

 

すると、黒いワンピースが先程店員に返したはずの、黒猫衣装に変わっている。

マフラーを叩き、首輪に変える。

 

いつの間にか、猫耳と尻尾も追加されていた。

 

 

ふと、そこで遠坂凛がやってきた。

魔女っ子の格好をしている。

 

「ああ、いたいた。雨宮さん、探したわよ。」

 

そう言いながら、燈月の腕を掴み強引に連れだそうとする。

 

「ちょっと待って!どこに行くの?」

「いいから付いて来て。」

 

有無を言わさないような言い方に、燈月は口を膨れさせながらも付いて行った。

 

ついていく途中に気付いたことなのだが、他の生徒達も仮想をしていた。

 

 

 

 

そして、連れて行かれたのは、一つの教室。

そこは机が片付けられていて、机の代わりに白いテーブルクロスが敷かれた机がいくつか並んでいた。

 

そして、その場所にいるのは、ラニやレオなど、十数人の人たちだった。

 

「あ、やっと来たんですね。遅かったじゃないですか。」

 

そういうレオは海賊の格好をしていて、とても楽しそうだ。

 

「やっとっていうか……何これ?」

「見てわかりませんか?パーティですよ!」

 

 

ハロウィーンの今日、ムーンセルは変なことを考えたのだった。

 

 







後編は後々投稿します



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Happy Halloween 後編




異様に後編だけ長くなってしまいました。





ルーナがレオから貰ったぶどうジュースを飲んでいると、近付いて来たのは血濡れた白衣を着ているラニだ。

 

「おはようございます、雨宮さん。可愛らしい格好ですね。」

 

そう社交辞令のように言うラニだが、本当にそう思っているようで、心がこもっていた。

それに気付いた燈月は照れ臭そうにありがとうと言った。

 

「ラニも、似合ってるよ。大人の女性みたいな…。」

「ありがとうございます。」

 

ラニがそういうと、話が途切れる。

ラニは元々不要な話はしないのか、無口なようなのである。

 

ふと、そこに近付く一人の少年がいた。

 

「やぁ、雨宮。楽しく過ごしているかい?」

「……うん。」

 

燈月は目を見開きながら頷いた。

そこに居るのは慎二なのだが、服装が可笑しいのだ。

 

一言で言うなら、ゾンビ。特殊メイクを施したようで本格的だ。

 

「楽しそうには見えないんだけど?君さ、わかってる?パーティなんだから楽しくなくても、笑顔を作らないと。」

「いや、楽しいよ。ただ、慎二の格好が可笑しくて。」

 

ぽかんとした表情をしてしまったせいで、要らぬ心配をさせてしまったようだ。

 

「なんだよ。仕方ないだろ?いきなり、服渡されて、メイクさせられたんだから。」

「あ、そのメイク自分でやったんじゃないんだ?」

「するわけ無いだろ!こんなの!」

 

慎二は肩を震わせながら燈月に突っ込む。

 

「おやおや、何だい慎二ぃ、結構楽しそうにしてたじゃないか。」

「なっ!してない!するわけ無いだろ?この僕が!」

 

そんな中、慎二の行動を一番知っているであろう人物、エル・ドラゴがいつもと変わらぬ格好で現れた。

 

「ライダーは着替えてないんだね。」

「ああ、している奴もいるみたいだけど、アタシはアンタ等から見るといっつも仮装しているようなもんだろ?」

 

いつもと変わらぬ…と言っても、所々ハロウィーン仕様になっている。

と言っても、カボチャの刺繍がされていたりだが。

 

「…ん?と言うか、出てきてもいいの?」

「大丈夫じゃないかね。他にも出てきてる奴いるだろ?」

 

そう言われ、辺りを見回してみると確実にマスターではない、という感じの人もいる。

仮装なのか違うのかはよく分からないが。

 

なぜこうも皆が姿を表しているのか、それは明日にはサーヴァントの顔を忘れているからである。

 

ムーンセルの配慮だろう。サーヴァントにも楽しんでもらえるようにと。

 

ふと、そこで燈月は自身のサーヴァントであるギルガメッシュに問いかけた。

 

「ギルは出てくる気ないの?」

「馬鹿者。我が出て行ったら、もしムーンセルに記憶を消されたとしてもこの類稀な存在感のせいですぐに思い出してしまうではないか。」

「いやいや、ムーンセルだよ?あり得ないでしょ。」

 

ものすごい遠回りだが、つまりは出てくる気はないのだろう。

 

燈月はため息をつきながら、慎二たちと別れ、食事を取りに行く。

 

テーブルのそばに行くと、パンプキンパイやパンプキンスープ、パンプキンプリンやお菓子など、色とりどりの食べ物の香りが漂ってきた。

 

だが、その中、一際目を引く者がひとつ。

 

食べる気が無くなるぐらい真っ赤な麻婆豆腐がテーブルのど真ん中に置かれていた。

 

「いい赤さね!美味しそう!いっただきまーすっ!」

 

そう言って食べた魔女っ子が顔を真っ赤にしてジュースをごくごく飲んでいる。

それがどれほど辛いのか…その少女を見ただけでわかる。

 

「む…いかん、燈月。それを食べるというなら我は貴様と契約を解くぞ!」

「…はい?」

「我は麻婆が嫌いなのだ、無論それを食す奴も嫌いだ。」

「そうなんだ…どれくらい辛いのか調べてみたいものではあったけど…。」

 

ふと、その時、言峰が麻婆豆腐の入った皿を持ってこちらにやってきた。

どうやら、中身の補充をしているようで…。

 

「む、君は食べないのかね?」

「…辛いのは、苦手で。」

「一口だけでも食べてみたらどうだ?旨いぞ?」

 

そうは言われるが、契約を解除されては死んでしまうのだ。

好奇心はあるが死んでまでして食べてみたいとは思わない。

 

燈月は頬を引き攣らせながら、遠慮します…と、断った。

言峰はとても悲しそうな顔をしていたが。

 

それから、テーブルに乗っているものを食べたり、飲んだり、話したりしながら時間を潰していると、もう夜になっていた。

 

パーティも終盤なのか、みんなのテンションも心なしかヒートアップしているように思える。

 

そんな中、燈月の眼の前で麻婆豆腐を食べて半泣きになっていた少女がマイクを持って教壇に立った。

 

「今日は機嫌がいいわ!1曲歌ってあげる!」

 

酒を飲んだのか、顔が真っ赤になっていて、酔っ払っているんだなということが見て取れる。

それにしては、口元が赤く腫れている気がするが、気のせいだろう。

 

マイクの聞き取れる音に反して声が大きかったのか、マイクが悲鳴をあげているが気にせず彼女は歌い出す。

 

 

 

 

 

とても、絶望的で

 

 

 

物凄く狂気的で

 

 

壊滅的に下手な…お世辞にも上手いとは言えないような…

 

 

 

マイクと言うより、聞いていた観客全員が悲鳴をあげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燈月が目を覚ますと、そこはマイルームだった。

 

そこには、ギルガメッシュがいつもの玉座に何故か、髪を下ろし何処ぞの執事のような格好をしていた。

 

執事と言っても、こちらもハロウィーン仕様のようだが。

 

 

「目が覚めたか、小娘。余り我をこき使うでない。」

「……よくわからないけど、ごめん?」

 

目が覚めたばかりのせいか…二日酔いのように響く頭痛のせいなのか、あまり頭が働かない。

それに気付いたのか、ギルガメッシュはため息を付きながらも説明してくれた。

 

「我が貴様をここまで運んでやったのだぞ?礼の一つでも言えぬのか?」

「…そうなの?それは…ありがとう。

 

 

………ところで、私、パーティの最後のほう何してたんだっけ?」

 

 

燈月は、もう自分が気絶するに至った経路を覚えてはいなかった。

ムーンセルが消去したと言うよりも、心の奥底に閉じ込めたような物だ。

 

その上からムーンセルが消去したのだから、もうなにかの反動で思い出すことはないだろう。

 

歌を歌っていた彼女の声も顔も服装も、何もかも覚えておらず、他のサーヴァントでさえうろ覚えだ。

 

「疲れた。我はもう寝る。貴様も寝ろ。」

「うん…。あ、そう言えば、ギルガメッシュ、たまには髪下ろしても良いんじゃない?」

「フッ…当然であろう?我を誰だと思っておる。」

 

 

 

 

そして、夜は更けた。

 

 

Halloween Partyの痕跡を一切残さずに。楽しかった事があったという事だけを皆の記憶に残して。

 

 

 

 







勘の良い人ならわかるんじゃないですかね。彼女が誰なのか。

私は個人的にあの子好きですよ。今度、また他のキャラも出したいですねー
候補としては、清姫とか、マリーアントワネットとかかなぁ…。

どちらにしてもカオスになりそうですけどね。

さて、次回辺りからまた普通のに戻りますね。

もしかしたらもう一回番外をやるかもしれませんね。

では!



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ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ




fate/goでザビちゃん出ましたね!
あれ、名前何なんでしょうか……



欲しくて10連回したんですけど、出ませんでした…





 

 

3回戦を次に控えていた燈月はある昼下がり、異様な光景を目にした。

 

 

それは3階の広間でのこと。

 

燈月がいつもの通り、遠坂に生存報告的なものをしに行こうと思い階段を登って3階についたら異様な光景が目に入ってきた。

 

そこには何人ものマスター…だと思われる人――カスタムアバターでは無い為、分かりにくいのだ――が倒れていのだ。

 

そして、次に来たのは衝撃。

 

引っ張られるように後方に吹き飛ばされる。

 

「――――っ!?」

 

後ろは階段だ。落ちたら捻挫程度で済むかどうか…。

衝撃に少しでも耐える為、目を瞑り歯を食いしばるも、その衝撃はやって来なかった。

 

恐る恐る燈月が目を開けるとそこは見覚えのない…が何故か既視感のある空間だった。

 

 

「……なに、ここ。」

 

こんな事、ムーンセルが許すはずがない。つまりは不正規(イレギュラー)

ハッキングか何かをしてここに転移させたのだろうが、その方法は思いつかない。

 

辺りを見渡せば、闘技場に似たものだという事が分かる。

細部は違えど、それを元に作られたりしていることは間違いないだろう。

 

「貴方は…誰。」

 

燈月は自身の目の前にいる人物に向かって言った。

先程からいたわけではない。いきなり現れたと言ってもいいだろう。

 

赤い中華服を着て、赤い髪を一つに纏めた男。

 

 

サーヴァントだろう…最低でもマスターでは無い事ははっきり分かる。

殺気とも言えるものを放っている彼は暗殺者(アサシン)とも取れるほどの気配の無さ。

 

例えるなら、死そのものを身体全体に纏わせているような…だが、アサシンはこんなにも堂々としていていいのだろうか。

そう考えると違うのではないかと思える。

 

 

「脆弱にも程がある。魔術師とはいえここまで非力では木偶にも劣ろう。

鵜を殺すのも飽きた。多少の手応えが欲しい所だが…。」

 

それは、ただの独り言のようで、誰かに聞かせている風ではない。

 

ふと、男は燈月の方を向き、構えを取りながら言った。

 

「小娘。お主はどうかな?」

 

どうかな?と言われても、そんなの戦えない。だ

 

記憶があるうちならばまだ戦える手段を身に着けている可能性はあった。

だが、記憶がない今……いや、多分記憶があろうともこの体力の無さから言って、戦うなど無理な話だろう。

 

男が燈月に飛び掛かろうとしたその瞬間、それを邪魔するものが介入した。

 

「邪魔だ!さがっていろ。」

 

そう燈月に言いながら、男の攻撃を弾き返したその人物は燈月のサーヴァント…ギルガメッシュであり。

 

「え?…あ、うん!」

 

そのまま、男に迎撃を加えた。

だが、男には全く持って効いてないようだ。

痛がる素振りも無く、ただその場に笑いながら立っていた。

 

「少しは気骨のあるものがおるでは無いか。よく踏みとどまったな小娘。

時間切れとは興醒めだが、殺しきれるのでは仕方がない。舞台裏ではこれが限度よ。

 

お主とはまたいずれ()り合うことになるかもしれんな。その時まで楽しみにしておこう。」

 

「……私にとっては全然楽しみじゃないんだけど。」

 

燈月が相手に聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で冷や汗をかきながら呟くと、そこはもういつも道理…とは言い難いが、元いた場所に戻っていた。

 

運が良かったのか、階段から足は踏み外してはいなかった。

 

 

周りを見るも、ギルガメッシュはそこには居なく、代わりのように黒いコー斗を着た男性が立っていた。

 

その男は予選では葛木という教師だった男だ。燈月も何度かあったことがある。

葛木は燈月を少し驚いた表情でみつめ、つぶやいた。

 

「その実力でどうやって……。」

「……え?」

「ただの雑魚かと思ったが。上級のサーヴァントを引き当てたか、それとも爪を隠した腕利きか…。

 

どちらにせとあの魔拳から生き延びたのだ…。」

 

 

葛木はそう言うと、目を細め燈月を見つめた。

その視線は刃物のように研ぎ澄まされていて、恐怖を覚える。

 

「ここで始末するに越したことはない。」

 

葛木はそのまま燈月に近づく。だが、燈月も本能からか、後退る。

先ほどまで動かなかった足も、死にたくない。その一心からか動いてくれたのだ。

本当ならばすぐにでもはしって逃げ出したい。

だが、後ろを振り向いた途端、殺されるのではないか。

 

そう思えてくる。

 

「っまず…!」

 

すっかり、後ろが階段だということを忘れていた。

足を踏み外しそうになり、どうにか手すりを掴み安堵する。

 

そのせいか、気が付かなかった。男がすぐ目の前にまで迫ってきていることを。

どこからか凶器を取り出し燈月の首に当てる。

 

だが、そこから鮮血が飛び散ることはなかった……仮想空間のため、もともと血は出ないが。

 

「ふうん。やっぱり貴方がマスターを殺して回っている放課後の殺人鬼さんだったのね。」

 

そう、一人の少女の言葉によって、葛木の動きが止まったのだ。

教室から出てきた遠坂は壁にもたれ掛かりながら葛木を見る。

 

「……遠坂凛か。」

「あら、私のことはご存知なのね。さすが世界に誇るハーウェイ財団の情報網。」

 

弱い少女を殺すよりも優勝候補と言われる実力を持つ少女を殺すことを選んだのか。

それとも他人には殺すところを見られたくないのか。

 

何故なのかは知らないが、葛木は凶器を下ろした。

 

「ハーウェイ……?」

 

ハーウェイと言うのはレオの名前のはずだ。葛木とは一切関係ないはずだが。

そんな燈月の呟きは聞こえたのか聞こえてないのか、遠坂はその呟きには目もくれず、葛木に話しかける。

 

「それとも、ちょっと派手にやりすぎたかしら。ねぇ?ユリウス・ベルキスク・ハーウェイさん?」

 

葛木(ユリウス)は薄い唇を歪めて微かに笑った。

それにしても、今、遠坂はなんて言った?ユリウス、ハーウェイ?驚きすぎて、頭が混乱してくる。口をパクパクするも、声が出ないのが現状だ。

 

「敵を援けるとは随分と気が多いな。この女を味方に引き入れる気か?」

「まさか。その子は私の仕事とは無関係よ。殺したいなら勝手にしたら?」

「………ぅぇ。」

 

遠坂の言葉に驚き、少し声が出るもそれは言葉とは言い難い。

 

「――テロ屋め。その隙に後ろから刺されるのでは堪らんな。」

 

唇の端に笑みを浮かべたまま葛木は廊下の壁に向かって歩いた。

そこには何もないはずだが…と、燈月が首を傾げる。

 

ふと、葛木は燈月の方を向いた。

 

「確か…雨宮燈月と言ったな。覚えておこう。」

 

そう一言言い、男は、その場から消えた。

 

ハッキングの一種なのだろう。

 

「なるほどね。管理者側のキャラクタープロフィールをハッキングして好き放題してたわけか。……はぁ、この手の反則を平気でやってくるとなると、校内でも気を抜いていられないわね。」

 

遠坂はそう呟き、燈月の方を向いた。

燈月も葛木が居なくなった安堵感からか、幾分か気が楽になったため、遠坂に声をかけた。

 

「……あの、さ。葛木さんがハーウェイってどういうこと?」

「そのままの意味よ。葛木っていうのは偽名。本当の名前がユリウスだってこと。

…というか、ハーウェイの殺し屋が居なくなったからって安心してんじゃないわよ。私だって敵なのよ?」

 

そうは言うが、遠坂が助けてくれたのは紛れもない事実である。

 

「貴方とは変なトラブルがあったじゃない?だから…ほら―――――。」

 

そこで一言止めて、頭を片手で抱えた。

 

「って、何言ってんだろ。私。……ま、2回戦も突破できたことは見直してあげる。それじゃあね。」

 

そう言い、遠坂は燈月の横を通り、階段を降りて行った。

降りる際、微笑んでいたのは気のせいではないことを願いたい。

 

 

 

 

 






ここの凛は絶対助けるために来たんだと思います。
というか、ツンデレ凛ちゃん可愛すぎる。


それにしても、今回は燈月全然喋ってないですね。
……まぁ、今回は仕方ないですけど。
主人公脇役ですもん。



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エピソード.3 三回戦
ありす



お久しぶりです。

まだエクストラ復旧とまでは至ってませんが、どうにか動画などを見て作成できました。

こういう感じなら亀更新でも投稿していけるとおもいます。またこれからもよろしくお願いします。




 

 

燈月は校内掲示板の前に来ていた。

そう、第3回戦の対戦相手が決まったのだ。

 

生きている人間も少なくなり、もう32人となってしまった。だが、まだ3回戦。これを入れてあと4回続くのだ。

単純計算で毎回ひとは2分の1になるのだから、普通といえば普通なのだが燈月にとってはそうではない。

 

記憶もない今、自分が何をしていたのか何もわからないが流石に1週間で人が半分になるなど初だろう。

 

 

「ええっと…?」

 

自身の名前を確認し、その下にある相手の名前を見る。

 

 

マスター:ありす

決戦場:三の月想海

 

 

そう、相手の名前を理解した瞬間、後ろでクスクスという笑い声が聞こえてきた。

 

「こんどの遊びあいてはお姉ちゃんなんだ。」

 

 

燈月が後ろを振り向くと白いロリータ服に身を包んだ幼い少女がいた。

恐らく、10にも満たない年齢だろう。

 

 

「遊び相手ってことは…君がありす?」

 

 

驚いたせいでバクバクとなる心臓を抑えつつ、少女に問いかける。

 

「そうよ?…お姉ちゃん、あたし(ありす)のこと覚えてる?」

 

ありすは小首をかしげながら聞いてくる。

 

燈月はありすと同じように首をかしげ、今までのことを思い返す。

だが、こんな少女と会ったことは全く持って記憶にない。

 

燈月は首を横に振りながら否定した。

 

「私たち、どっかで会ったことあったっけ?」

 

「覚えてないんだ…。それもそうだよね、あたし(ありす)はただ、みつめてるだけだったから…」

 

ありすは悲しそうな目をしながら呟いた。

 

あたし(ありす)、お姉ちゃんとなら友達になれる気がしてたのに…。でもね、あたし(ありす)にはあたし(アリス)が出来たからいいの。」

 

ありすはアリスさえいればまんぞくだから。

ありすは先ほどの目が嘘のように笑った。

クスクスと鈴のように。

 

「でも、次の遊びあいてなんだよね。しょうがないから、遊んであげる。」

 

ありすは最後に一言、残して去っていった。

 

 

『おねがいだから、すぐには消えないでね。あたし(ありす)はかなしいし、あたし(アリス)はつまらないから。』と

 

 

だが、燈月にとってそれどころではなかった。

アリス、アリス、ありす、ありすと、ありすを連呼してくるのだ。頭がこんがらがって仕方が無い。

 

 

「なんなんだろう…あの子。」

 

やっと整理できても出てきたのはその一言だけだった。

 

「フッ…。ある意味そうだな。厄介な奴よ。燈月がそう思うのも無理はないだろうよ。

 

飲まれたりするなよ?貴様より小娘と言えど今まで2人も殺してきているのだからな。 」

 

「…そうだね。……うん、大丈夫。同情なんかしないよ。」

 

死にたくないから。

 

 

燈月は頬を軽く叩き、ふと、思い至った。

 

「そうだ。凛にでも相談してみよう。 」

 

いくら同情しないと口に出しても相手が子供だとやりづらい事この上ない。

それならば自身よりも強いだろう彼女に相談するのが一番だろう。

 

凛ならどこにいるだろうか。そう思いつつも燈月の足は無意識に屋上へと向かっていた。

 

 



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敵同士

屋上のいつもの場所に凛はいた。

 

燈月が声をかける前に凛はこちらを振り向いた。

 

 

「あら、天宮さん。少しはマシな顔になったみたいね。…なら、ここからは完全に敵同士ね。まぐれとはいえ!勝ち進んだのは事実なんだから。」

 

「マシ…になったかな?」

 

「なったわよ。」

 

そんな皮肉を混じらせつつ、凛は楽しげに話しかけてきた。

 

彼女は優しい。本当にそう思う。

 

敵と言いつつ友人のように接してくれるのだ。

普通の女性像とは違うがそれが彼女らしい。

 

 

「あ、ところで、あの子があなたの次の対戦相手?

厄介な相手ばかり引くわね…。クジ運ないんじゃない?教会で清めてもらったら?」

 

「あはは…今度、気が向いたら、ね…。で、

厄介って?」

 

「見た目よ、見た目!他にあると言えばあるけど……そんなの自分で考えなさいな。言ったでしょ?私とあなたは敵同士。簡単に教えるわけないでしょ。ま、せいぜい頑張ってね。」

 

「そうだよね…。そっちも頑張って。」

 

「なによ、わたしが負けるわけないでしょ?」

 

「それもそうだね。ま、油断はダメだよ。」

 

「あなたこそ。」

 

 

そう言って2人は別れた。相談は出来なかったが少しは肩の荷も降りたように思える。

 

燈月がアリーナに行こうと一階に降りると待っていたかのようにありすが飛び出してきた。

 

「お姉ちゃん、遊ぼ!おにごっこがいいな、ねぇ!おにごっこ!」

 

 

そう言う瞳はただの子供のようで、燈月は安易に頷きそうになった。

 

ギルガメッシュに頭を叩かれたのだ。

 

「いったぁ…。何すんの!?」

 

 

燈月が後ろを振り向くと呆れたようなギルガメッシュが立っていた。いや、正確には見えないが呆れている様子がありありと分かる。

 

「ね、いいでしょ?」

 

そんな中、ありすは無邪気な笑顔をこちらに向けてくる。そんな笑顔に勝てるはずもなく…。

というか、燈月も遊びたかったのもあっただろうが…

 

頷いてしまった。

その瞬間、またも頭を叩かれる。先程よりも強い力で。

 

「ちょっと!頭割れるって!馬鹿になったらどうするの!?」

 

「記憶もない貴様が馬鹿になるはずもないだろう?そもそも、叩いた拍子で思い出せるかもしれんぞ?」

 

思い出せてないのだが…。まず、記憶はなくとも基礎知識はちゃんとのこっている。数式ならばお手の物なのだ。

歴史はまったくもってダメダメだが。

 

燈月は言おうとした口を閉じ、喜びアリーナへ向かうありすの方を見た。

 

「お姉ちゃんが鬼だよ!早く来てね!」

 

 

ありすがいなくなったあと、藤村先生に声をかけられミッションというなのただの使いっパシリを頼まれた。

 

なにやら禁止物を没収してほしいようで…。

 

それは後にするとして、燈月はアリーナへと向かった。



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少女との鬼ごっこ

アリーナへ続く扉を開け、第1層へと足を踏み入れる。

魂の改竄も済ませ、準備は万端にしてきたはずだ。

 

少なくとも燈月はそう思っている。

 

 

アリーナにありすの姿はなく、燈月は首を傾げる。

 

 

「ほう、姿は感じないが気配はあるな。」

「え、いるの?」

「ああ、近くにいる筈だぞ?そんなこともわからないのか?」

「…いや、わからないのが普通だから。」

 

 

そんなふうに話しながら先を歩くと透明な床の先に少女はいた。

 

 

「あ、お姉ちゃん!来てくれたんだね!

鬼はお姉ちゃんだよ、ありすのこと捕まえられたらお姉ちゃんの勝ちだよ!」

「私、鬼苦手なんだけど…大丈夫かな。」

「じゃあ、よーい。どん!」

 

燈月の心配を余所にありすは合図を口頭で言う。

その言葉とともにありすはアリーナの奥へと走り去っていった。

 

「はぁ…なんで貴様はこんな事を引き受けたのだ……。」

「ほ、ほら、情報が手に入るかも知れないでしょ?」

「ハッ…。そういうなら一つぐらいは手に入れないと我は許さんぞ?」

 

そうはいうがギルガメッシュは少しばかり楽しそうだ。いままで気を張ってばかりだったからだろうか。

これで少しばかり空気をかえられればいいのだが…。

 

と、言ってもそれで緩みすぎては意味は無いが。

 

 

敵を薙ぎ払い、拾えるアイテムを拾いつつ、ありすを追いかけていく。

 

エネミーは2回戦よりも行動が複雑になっていて少し手間取った。

 

それもそうだ。ギルガメッシュは燈月の指示を待ち一切自分から手を出さなかったのだ。

 

 

「前よりかは上手くなったな。」

「そう?」

「ああ。指示が的確になって来ている。」

「でも結構傷負ってるよね?」

 

 

燈月は申し訳なさそうに言うがギルガメッシュは笑みを噛み殺しながらいった。

 

「これぐらいで傷だと?笑わせてくれる。か擦り傷よ。」

「あー。そうだった。そういう性格だったね…。」

 

燈月は頭を抱えつつ、ギルガメッシュに回復薬渡す。

 

ギルガメッシュはそれを受け取り自身の傷を回復させる。

それもそうだ。2人はもうありすのそばに来ていた。

 

目の前の通路を通ればありすと対峙できる。

2回ほど逃げられたが次はそうもいかないだろう。

そろそろアリーナも終わりだ。

 

ありすもそれを分かっていたのだろう今回は逃げずにそのままたっている。

 

 

「あーあ、見つかっちゃった。でも楽しかったよ。お姉ちゃん!」

 

本当に楽しかったのだろう満面の笑みで笑いかけてくる。

 

 

「私も楽しかったよ。ありがとう、ありす。」

「そっか…!

 

 

……ねぇ、お姉ちゃん。あたし(ありす)のお話聞いてくれる?」

 

ありすは先程までの笑みが嘘のような顔をして燈月を見た。

 

「…話?」

「うん、あたし(ありす)ね、ずっと昔は違う国にいたの…。」

 

 

そう、ありすが言った瞬間、ありすの横に黒い…ありすと全く同じ容姿の少女が現れた。

 

 

 

そして、ふたりが交互に話し始めた。

 

 

 

どうやら、ありすは戦争に巻き込まれ、白い部屋に閉じ込められていたらしい。

毎日変わらない生活をし、親も友達も居ない、独りぼっちで過ごす。

 

でも、ありすは泣かなかった。行儀良くしていないと父親に怒られるから。

 

 

でも、ある日、我慢出来ないぐらいの痛みがありすを襲った。

そして目を覚ますとこのムーンセルにいた。

 

 

「でもいいんだ。ここは楽しいから。色んな人がいて、みんな仲良くしてくれる。」

「ええ、そうねありす(あたし)。ここなら力いっぱい遊べると思ったでしょう?」

「でも、思いっきり遊んだら壊しちゃうかも。

くびもおててもとれちゃうかも、取れちゃったら大変だわ。」

「壊しちゃったら直せばいいよ。ママから貰った針と糸があるもの。

ちゃちゃっと縫っておしまいよ。ママみたいにお上手じゃないけど、ちゃんとくっつくわ。」

 

ありすは燈月とギルガメッシュのことなど忘れたように話す。

残酷なことをとても楽しそうに。

 

「くっつければだいじょうぶだもんね。」

「だいじょうぶじゃない?」

「良かったー!またママに怒られるかと思った。」

「じゃあ、力いっぱい遊びましょう。

だって、このお姉ちゃんはようやく出会えた仲間だもの。」

 

 

仲間?燈月は首を傾ける。全く持って記憶にない。

ギルガメッシュも燈月に顔を向けてくる。

 

お前はアイツらの仲間なのか?と。

 

だが、燈月はそんなこと知らないため、首を振る。

 

 

「前の二人のマスターとは違う。

今度はちゃんと触れ合えるの。真っ赤な血も、あたたかいの。

 

さあ。"あの子"を呼ぶとしましょう?」

「うん、それがいいよ!」

 

ありすはそう言って手を振り上げる。

するとありすの後ろに巨大な怪物が現れた。

 

アリーナの床が、壁が、全てが震え上がる。

それほどまでに規格外なのだ。

 

燈月の頭に警鐘が鳴り響く。

 

 

逃げろ。

 

 

逃げろ。

 

 

逃げろ。

 

 

と。

 

 

アレには触れてはいけない。ギルガメッシュならいける可能性もあるだろう。だが、燈月にとってはそうではない。

 

足がガクガクと震え、背中を冷や汗がつたう。

 

 

「あはっ、すごいでしょ。このこお友達なんだよ。」

「ねぇ、お姉ちゃん。この子のこともあそんであげて。」

 

二人のありすは笑って燈月にゆらりと近づいてこようとする。

 

 

「おい!燈月!大丈夫か!」

 

燈月はその言葉で自身の立場を思い出した。

 

「っ…。大丈夫…。」

 

未だに足は震えるが、大丈夫。燈月はそう思い、1歩後退しようとした。

 

 

だが、一切足が、手が、身体が動かない。

 

石にでもなってしまったかのようだった。

 

 

ギルガメッシュはそれに気づいたのだろう。

鼻で笑った。

 

「我に口答え出来るというのに怪物には足がすくむか…。お主ももう分からん人間よのう。」

「し、しょうがないでしょ!?怪物なんて、見たこと無かったんだから!初めてだよ!」

 

 

それに性格や、中身がどうあれギルガメッシュの見た目は人間そのものだ。

 

その差だろう。

 

 

「はぁ…こんな状態のマスターが居ては戦おうにも戦えん。気が引けるがここは撤退でもするか?」

「…そうしてくれると、助かる…かな。」

 

ギルガメッシュはまたも深いため息をつき、燈月を担ぎあげた。

 

「って、ちょっと!この担ぎ方はないと思うんだけど!」

 

燈月は現在、脇に抱えられてる状態だ。怒るのも無理はないだろう。

だが、ギルガメッシュはそんなこと知ってか、無視してそのまま前線を離脱した。

 

 

 

 






前、アーチャーの時の戦いでマスターを放置して戦ったことがありますが、その時は燈月が動ける状態なのに動かなかったからです。
でも今回は足がすくんでいるということと勘のいいギルガメッシュのことだから気付いていたからじゃないでしょうか。

なにが、とはネタバレになるのでいいませんが。
え?もう知ってる?ははは、気にしないでください


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燈月の本当の才能


ステイナイトのギルガメッシュとエクストラのギルガメッシュをあわせてみたい今日このごろ。



燈月はアリーナから出た後、校舎内を歩き回っていた。

いや、それには語弊がある。校舎だけでは無く校庭などにもいっているのだから。

 

そして、ある人物を見つけた。雑誌を手に持つ少年を。

 

そう、藤村先生に頼まれたミッションをこなしていたのだ。

 

 

「ねぇ、そこの君。手に持ってるもの、渡してくれない?」

「は、あ!?なんで!…まさかタイガーの手先か!貴様!」

「勘がいいんだね、そうだよ。」

 

少年は雑誌を取られないように燈月から距離を取る。

 

「あげてもいいが、条件がある。」

「…条件?」

「ああ、大釜を持ってきて欲しいんだ。」

 

おおがま……そういえばアリーナでそんなものを手にいれたような気がする。

四次元ポケットのような…いや、燈月が見た目を変えているから小さくなっているだけに過ぎないが、バッグから大釜を取り出し、生徒に渡す。

 

「はい、これが欲しいんでしょ?」

 

生徒は驚きつつもそれを受け取り、雑誌を燈月へと渡してくれた。

 

「うん、交渉成立ってやつだね。ありがとう。」

 

 

燈月はそう言って、弓道場へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ、こんな所に来た?」

 

燈月の考えはギルガメッシュでさえ、わからない。突拍子もない事をするのが燈月だからだ。

 

燈月は弓と矢を手に持ち、構えながら言った。

 

 

「そんなの、決まってるでしょ?弓道をしようと思ってね。」

 

いつの間に袴に変えたのか、彼女は弓道をする気満々のようだった。

 

そして、姿勢を正し、弓矢を構える。

 

弦をひき、的に狙いを定めて打つ。

 

 

空気を切る音とともに、矢が的に刺さる音が聞こえた。

 

 

「燈月…お前は弓を扱うことが出来るのか?」

「ううん…。どうなんだろう。わかんない。

ただ、アーチャー…ロビンフットのこと見てたら疼いちゃって……。」

 

 

的の中心に、矢は刺さっていた。

 

何ミリかのズレはあるものの、燈月には才能が宿っていた。

もしかしたら、ココに来る前は弓道を習っていたのかもしれない。だが、燈月にそんな記憶は無かった。

 

「…刀を投げた時はこうじゃなかったんだけど…。」

「当然よ。弓矢と刀では勝手が違う。そんなこともわからぬのか?」

「し、知ってるよ!」

 

それからも、何本かうち続けた。

誤差はあるものの、すべて真ん中に刺さっていた。

 

 

もしかしたら、これが。彼女の真の才能なのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

少女は夢を見た。

 

 

 

二つの夢を見た。

 

ひとつは、幼い少女が弓を射るところ。

母親らしき人に褒められているところ。

少女は嬉しそうに笑い、何回も、何回も弓を射る。

母親に褒められたいから。自分を認めてもらいたいから。

 

 

 

 

ふたつめは、ギルガメッシュと緑髪の長い…中性的な人。

二人は戦っていた。と言っても、聖杯戦争のような醜い争いではない。

剣を交え、真剣勝負というものだ。

 

 

二人はとても楽しそうで、本気なのだが、本気で殺る気

はないようだった。

 

 

この夢は何を示しているのか、今後、どんな事があるのか、少女からしてはわからなかったがただ、しれて良かったと。

 

 

そう思った。

 

 





二つの夢のあいだに1度目が覚めたってことにしておいてください。
二度寝して後者の夢見たって感じですね。

まぁ、本当なら夢は見ないんですが…例外ですね。



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推測

早朝、いつもより早く目が覚めてしまった燈月はあの怪物について考えていた。

 

 

 

紅茶とお菓子を用意し、自分が考えるための最適な空間を作る。

 

本当ならばギルガメッシュの考えも聞いてみたいところだが気持ちよさそうに寝ているところを起こすのは気が引ける。

だからこそ、自分だけで考えてみようというわけだ。

 

 

 

さて、あそこまでの殺気。出せるのは限られてくる。

例えば、あの赤い服の男…ユリウスのサーヴァントあたりだろうか。

 

だが、あいつは逆かもしれない。気配がないといった方がいい。

あそこを通ったとき、ギルガメッシュが何も感じないというのがまずおかしい。

 

それでも、目の前にした時の恐怖はあの怪物に近い。

と、なると、あれ以上かあれぐらいなのだろう。

あれがサーヴァントとなると本当に勝てるのか不安になる。

いくらギルガメッシュが強かろうと自身が足手まといになる。

 

聖杯戦争はマスターが死ねばそれで終わりだ。

となると、相手は燈月を狙ってくるだろう。

 

格好の餌というわけだ。

 

だが、あれがサーヴァントだと、ありすが去り際いった言葉が引っ掛かる。

 

すっかりと忘れていたが、少女は

 

「この子は分けてあげた魔力がなくなるまでここにいるからね」

 

そういっていた。

サーヴァントとはいつもそばにいるものではないのだろうか。

 

 

「魔力が切れれば消える…となると…サーヴァント、じゃない?」

 

いや、でもあれが幻影の類いだとしたらあの殺気はなんなのだろうか。

あの強さは嘘ではないだろう。

 

「…やっぱり、サーヴァント?」

「いや、アレはバーサーカーのように見えるがそうではない。」

 

燈月の独り言で目が覚めてしまったのだろうか。

ギルガメッシュがあくびをしながら燈月の考えを否定した。

 

「アレは何でもない。強いて言うなら使い魔みたなものよ。」

「…その根拠は?」

「あの怪物はあの時召喚されていた。霊体化していたわけではない。

あれほどの魔力の塊、呼び出せるのはキャスターぐらいだろうな。」

 

まだ推測の域を超えはしないがな。

 

ギルガメッシュはそういって立ち上がり扉へと向かう。

燈月が首をかしげているとギルガメッシュが振り向く。

 

「何をしている。こういうことはあのツインテ娘かアトラスの錬金術師に聞くのが一番だろう。」

「あ、そっか。こんなところでのんびりしてる暇はないよね。」

 

気が付けばもう9時を回っている。ついでに朝食も済ませてしまうのがいいだろう。

 

燈月も立ち上がり、もう、霊体化して外に出てしまったギルガメッシュを追った。

 

 

 

 




色々と解釈が間違ってたらすみません。
ここではこういうことにしておいてください。

次にはストーリーすすめますから!


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かくれんぼと宝探し





ふと、誰かの声が聞こえた。

 

辺りを見回すが誰も居ない。いや、それには語弊がある。

 

 

そこにはなにかの気配があった。

サーヴァント…なのだろうか。だが、1人で勝手に動いていいものなのだろうか。いや、それはマスターによりけりだろう。

 

なにかは分からない。だが、魔力の流れを感じたのだ。

 

そして、微かに甘い香りがした。

 

 

なんだったのか、燈月が首を傾けると霊体化して先を歩いていたギルガメッシュが声をかけてきた。

 

「何をしている。早く行くぞ。」

「いま、そこを誰かが通った気がして…。」

「なんだ、サイバーゴーストか?」

「ゴースト…なのかなぁ…」

「我は見てないから分からぬが…。」

「ふぅん…そう、なんだ。」

 

少し、頭に引っかかるものを感じたが気にすることはないだろう。

 

屋上に着くと、凛は居なかった。

お昼前だし食堂だろうか。

 

そう思い、屋上を後にした

 

 

 

 

***

 

 

 

 

1回の廊下に着くとありすがいた。

 

「あっ、お姉ちゃんだ!」

「おはよう。」

「おはよ!今日は何して遊ぶ?かくれんぼがいいな!」

 

背後でギルガメッシュがため息をついた。

仕方ないのかもしれない昨日の今日だ。

 

またあの怪物のようなものを出されてはたまったものじゃない。

 

「か、かくれんぼ?アリーナで?」

「あそこはダメ!は隠れる場所なんてどこにもないし!」

「じゃあ、校舎で?」

「うん!今日もお姉ちゃんが鬼でいい?」

「いいけど…。」

 

こんなことをしていていいのだろうか…。

 

という不安が頭をよぎるが、ありすはそんな事をお構い無しに廊下を走って居なくなってしまった。

 

「全くもって童子というのは人の話を聞かんな。」

「あはは…」

「だが、好機と考えてもいいかもしれんな。」

「…好機?」

「ああ、探りを入れてみるといい。もしかしたら情報を貰えるかもしれぬぞ?」

 

「ああ、なるほど。」

 

かくれんぼなので隠れる時間も必要だと思い、1分ほど待ってから探し始める。

 

あたりを見回しながら歩いているとありすらしき人物を見つけた。

途中、ラニや一成に呆れられたりしたが犠牲はつきものだ。

 

それが自身の印象だというのが1番腹立たしいが。

 

 

「…ありす。」

 

燈月が声を掛けるとありすはこちらに少し振り向き見つかっちゃった。と少ししょんぼりしながらも笑った。

 

 

「お姉ちゃん見つけるの得意なんだね!」

 

さて、廊下の隅にうずくまっているのを隠れているとは言えないだろうが褒められているので良しとしよう。

 

……苦笑い以外出てこないが。

 

 

「じゃあ、お姉ちゃんのお願いごと、なにか聞いてあげる!何がいい?」

 

 

そう、ありすは聞いてきた。

まさか、聞かれるとは思ってなかったため、燈月は思案する。

 

「なんだ。悩んでいるのか?そう悩む必要などあるまい。」

 

それも、そうだ。情報を引き出す。

それが燈月にとって今、一番大切なことだ。

 

「お友達…だっけ?どかしてくれないかな?」

「それはあの子に聞いてみないとわからないわ。」

 

ありすは首を横に振った。だが、少し考えてから「じゃあ、こうしよう!」と自分で頷きながら言った。

 

「今度は宝探ししよう!"ヴォーパルの剣"を見つけられたらきっとあの子も退いてくれるわ?特別にヒントをあげる!ヴォーパルの剣はアリーナに行っても見つからないよ。だって架空の剣だもの!」

 

ありすはクスクスと笑いながら燈月に手を振り去っていく。

 

「頑張ってね。お姉ちゃん。」

 

と一言残して。

 

 

だが、燈月はヴォーパルの剣など聞いたことも見たこともない。

どうしよう。と眉をひそめつつ元来た道を戻っていると凛が声をかけてきた。

 

「あら、どうしたの?難しそうな顔して。」

 

凛ならば知ってるかもしれない。そう思い燈月は事の経緯を話した。

 

 

「それで、ヴォーパルの剣って言うのが必要みたいで…何か知らないかな…。」

「ヴォーパルの剣?確か…理性のない怪物に有効な概念礼装(ロジックカンサー)だったかしら。錬金術(アルケミー)の領域だから…残念なから私には錬成出来ないわ。」

「錬金術…。そっか、ありがとう。誰か探して見るよ。」

「そうしなさい。まぁ、あなたの対戦相手、なかなかに厄介そうだから手伝ってあげる。何かあれば言って。」

 

燈月は頷き、その場を後にした。

 

 

 



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ヴォーパルの剣

燈月は悩んでいた。

 

 

ヴォーパルの剣など自分では錬成できないし、まず名前すら知らなかったものなど用意できるわけがない。

 

となると、凛がいっていた通り誰かに頼むしか無いのだ。

だが、誰が錬成出来る?あの凛ですら出来ないと言っていた。

 

ならば、どうしたら…

 

 

「あー!もう!わかんない…」

 

 

溜息をつきつつ、壁にもたれ掛かる。

 

ふと、燈月の目の前を1人の少女が通った。

 

 

褐色色の肌をした以前、助けてもらった記憶のある少女だ。

 

ラニ=(エイト)

そういえば、アトラス院は錬金術が扱えると何処かで聞いた覚えがある。

 

「…なんですか?」

 

そう、燈月が思い出した時にはもう手を掴んでいた。

 

「ヴォーパルの剣って…作れる?」

 

流石に唐突すぎたか、燈月は喋ってから後悔した。

 

ラニも何なんだこの人は。と、思ってるような顔である。

 

 

「あっ、ごめん。今回の戦いに勝つためにどうしても必要なの。アトラス院ってそういうのに詳しいって聞いたから…」

 

ラニにも簡単に事情を説明し、助力を求めた。

 

 

「確かに錬金術には詳しいですし、ヴォーパルの剣も錬成出来ないことはありません。

……そうですね、この前手伝ってもらいましたし…いいでしょう。

ですが、条件があります。」

 

「条件…?」

 

燈月の問にラニは頷いた。

 

「はい、ヴォーパルの剣の素材であるマカライトを持ってきてください。」

 

「マカライト…わかった。」

 

 

凛ならば持ってるだろう。無ければそばにいるギルガメッシュに貰えばいいのだ、そう頭の中で考えをまとめ、凛の元へ向かった。

 

 

 

 

彼女は先程と同じ場所に立っていた。

 

 

「マカライト?あるにはあるけど…ただで渡せるほど安いものじゃないわよ?」

 

「例えば…?」

 

「そうね…大粒の…ルビーとかかしら。」

 

 

ルビー…?ルビーならば慎二が出した宝箱の中に入ってなかっただろうか、あれで大丈夫ならばあれを使うのが楽だろう。

 

それでダメなら王様に貰えばいいのだ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

燈月はマイルームから持ってきたルビーを凛へと渡した。

 

 

「あら、速かったわね。」

 

凛はそう言いながら貰ったルビーを細部までくまなく見て頷いた。

 

「うん、大丈夫そうね。はい、じゃあ、これ。」

 

そう言いながら、ポケットからマカライトをとりだし燈月へと渡した

 

 

「ありがとう。」

 

しっかりと目を見てお礼を言ってからラニの元へと燈月は走った

 

 

ラニは先ほどの場所から一歩たりとも動いてなかった。

 

そして、燈月が来たことにいち早く気付き用意は出来ましたか?そう聞いてきた。

 

 

燈月はそれに頷き、マカライトをラニへと渡した。

 

 

ラニは目を瞑り、マカライトを手中に収める。

 

 

 

その瞬間、パキンと甲高い音が響き、マカライトが爆ぜた。

 

そして、その代わりにと言うべきか、1本の剣が握られていた。

 

 

「錬成…なかなかのものだな。」

 

一瞬だった。

ギルガメッシュは分かっていたのかもしれないが、燈月には全くと言っていいほど理解出来ないほどに。

 

 

ラニはそれの剣を燈月の手に握らせた。

 

「私の力ではこれを使えるのは1度きりでしょう。よく考えてお使い下さい。2度目は無いでしょうから。」

 

「わかった。ありがとう。」

 

燈月はそう言ってアリーナへと向かった。

 

 

 






ここでモブキャラが上級の魔術師になれば魔術回路を分析して作り替えることも可能みたいなことを言ってますが、燈月のはそれとは似て異なるものです

まだまだ亀更新にはなりますが、ゆっくりとお楽しみください

あー…早くエクステラやりたい


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