東方仮装戦場 〜Phantom of Battle Field〜 (徒然ノ厭離)
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♯1 霊夢と魔理沙

 

...いずれにせよ、私にはここから逃げる余力も、私を血眼で探しているであろう奴らに抵抗をすることもできやしないだろう。

 

M16(アサルトライフル)の弾丸は、とっくに尽きている。残るは、名も知らぬハンドガンと、折れてしまったナイフだけ。

 

 

...いくら仮想世界と言えど......現実の私は死にはしない、と言えど、『死』と言うのは本当に恐ろしいものだ。私のそばに立っているこの世界(仮想世界)の死神に対して、恐怖のあまり体が震えている。

 

 

......待て、私は何を弱気になっているのだ?

 

仮にも、私は『完全で瀟洒な突撃兵』だぞ?こんなところで、あんな奴らに負けてしまっていいのか?ここで死んでしまって、お嬢様に顔向けできるのか?

 

___否、できやしない。先程私を庇って散って行ったお嬢様なら、なんて言うのだろう。

 

 

『運命を変えなさい、咲夜。殺される、という運命を、捻じ曲げてやりなさい。』

 

 

......気のせいだろうか、どこかから本当にお嬢様の声が聞こえた。まるで、私に語りかけるように.....なんて言っていた?

 

 

運命を、捻じ曲げろ?

 

 

.....Yes ma'am.

やってやる、やってやる。やってやるわ。

 

この十六夜咲夜、命尽きるまで、お嬢様の任務を完璧に遂行致します。

 

 

「十六夜咲夜、参ります。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、聞いたか霊夢。」

 

「聞いてないわね。」

 

 

この街は激戦区、と言っても過言ではない。実際、5分に一度銃声がこちらまで聞こえてくる。まあ、このマップで一番でかい街だから、必然的にいい物資は湧く。それを求めた人が集まるのだから、殺伐とした雰囲気もしょうがないけど。

今この部屋(サーバー)には...ざっと60人弱の人がいる。人気の部屋にはいつもこのぐらいの人数が存在する。

 

私達はバディを組んで、街の外れの警察署前、優秀な銃が湧きやすい建物を、森の中から狙撃銃で見張っている。ボルトアクション式の狙撃銃、モシン・ナガンは私のお気に入りでもある。

なかなかいい位置だ。入り口はよく見えるし、敵の奇襲もすぐに対応できる。神経を張り詰めて見張るにはとても素晴らしいのだが、右の魔法使い(魔理沙)が口を閉じてくれなければ、集中はできない。

 

 

「咲夜だよ。あいつ、メインが弾切れ、ついでに得意なナイフも折れている状態で5人抜きしたらしいんだ。」

 

「ふーん......その5人が弱かっただけなんじゃないの?」

 

「ところがどっこいその5人、大会で上位にいた連中だったらしい。あの天狗(射命丸)が嬉しそうに話してくれたぜ?明日の記事はこれだー、って。」

 

「へぇ。よっぽど生き残りたかったのねぇ...」

 

 

話半分、スコープ覗き半分。今日は珍しくあまり獲物が来ない。早く誰かを撃ちたい気分なのだけど。

 

しかし、消耗した状態で5人抜き、か。流石は完全で瀟洒な突撃兵。やることが完全で瀟洒ね。...この場合、瀟洒と言えるのだろうか?

きっと私だったら...敵にやられるくらいなら、自らの額を撃ち抜くでしょうね。

 

 

「...霊夢、来たぞ。」

 

 

やっと獲物か。スポッター兼、話相手の魔理沙が、ようやくお喋り以外の仕事をしてくれる。

魔理沙の目線を見ると、確かに敵が警戒しつつ、建物に入ろうとしている。こちらから確認できる相手の装備は、斧と拳銃のみだ。スポーンしたばかりなのだろうか?

 

 

「バンビ(スポーンしたばかりのプレイヤー)なのかしらね?」

 

 

バンビを殺すと、ペナルティで自分のポイント(ゲームのランキングで上位に上がるためのポイント。他プレイヤーに殺される、バンビを殺すなどするとポイントが下がり、他プレイヤーを殺す、連続キルをストップさせるなどをするとポイントが上がる)が下がってしまうから、緊急時以外はなるべく殺さないように心がけている。もしあいつがバンディット(敵対勢力)だったら、敵にやすやすと良い武器を渡してしまうことになる。あいつが私たちを殺せるような武器を手に入れるかもしれない。仕方がなく殺したのだ。

 

 

「いや、ここのサーバーの初期装備に斧は無かったはずだ。多分、バンビじゃない。」

 

「なら別に殺してしまっても構わないのでしょう?」

 

 

引き金を引く指に力を込める。ライフルの銃口から放たれた弾丸は、額を貫通し、男は後ろの壁に脳漿で模様を作った。毎回思うのだけど、このゲームはゴア表現がリアル過ぎてとても気持ち悪い。

 

視界の端に電子的な文字で『霊夢→シースー』という文字が出る。このサーバーはキルログが出るように設定されているから、数分に一度は絶対にキルログが出てくる。人が多いから必然的に殺し合いが発生する、殺伐としたサーバーだ。

 

 

「ナイスショット。さすが霊夢だな、惚れ惚れする腕前だぜ。」

 

「褒めたって何も出ないわよ。さあ、さっさとあいつの装備を回収しましょう。」

 

 

装備を回収して、行商屋に売る。そうすることで、さらなる武器や装備を手に入れることができるのだ。

私も魔理沙も、欲しい装備がある。目的の一致した仲間。二人の方が安全であり、それが背中を任せられるほどの腕前ならば、さらに安心する。

 

 

「あいつの身ぐるみ剥いだら、どのぐらいすると思う?」

 

「初期装備に近いっぽいし、そこまでないんじゃない?」

 

「まあ、私はもうすぐで欲しいの買えるけど...霊夢はあとジュエル(仮想世界での通貨)はどのくらいいるんだ?」

 

「そうね...十万くらいかしら?まあ、気長にやるわよ。」

 

 

そんな会話をしていると、徒歩三分程度の距離というものは、あっという間に縮まるものだ。すぐに死体を調べる。

 

思った通り、バンビに近いプレイヤーだ。拳銃とその予備弾倉、斧とメディキットぐらいしか目ぼしいものはない。大した金にはならないだろう。

だけど少しでもお金は欲しいので、こいつの装備は回収する。

 

 

「しかし...こういったゲームをしてると、身体を動かさないから、運動不足になってきて困るわ。」

 

「それはわかるな。運動不足解消がてら、今度弾幕ごっこでもやろうぜ?咲夜とかその辺のやつ呼んでよ。」

 

「いいわね、たまには。ついでに軽く飲みましょうか?」

 

「お前さんの『軽く』は『朝まで』だろうがね。ま、お付き合いしますとも。」

 

 

荷物は積み込んだ。今から森の奥に隠したトラックに向かい、そのまま狙撃場所を変えて同じことをしよう。

もちろん、戻るときも警戒を怠らない。他プレイヤーに見つかったら全てが台無しだ。

 

 

「魔理沙、狙撃場所変えて同じことするわよ。移動するから準備して。」

 

「あいあいさー......っと、厄介なのがログインしてるぜ?」

 

「ランカー?」

 

「いや、ドロボウで有名なやつだ。『カンダダ』、聞いたことあるだろ?鍵がかかってるのも簡単に盗んじまうらしいぜ?」

 

 

キーピック持ちの漁り野郎か。それは厄介だ。

 

 

「そんなの、見つけたら殺すだけでしょう?簡単な話よ。」

 

「そうだが...警戒は怠らないほうがいいだろ?今日はこのぐらいでやめておこう、成果が盗られたら全く意味がない。」

 

「じゃあとっとと帰りましょう?」

 

 

駆け足で車へと向かう。鍵はかけてあるから、多分大丈夫だと思うがキーピック持ちだとなると厄介だ。早めに帰って売り払うしかない。

それにしても、音を立てないように草木の生い茂る森を駆け足で行くのは難しいものだ。どうしても音が出てしまって、バレてしまうのではないかと心臓に悪い。

 

と、ここで私の耳に第三者の発する音が聞こえた。バックを開ける音だ。魔理沙はバックを触っていないから、他のプレイヤーがいるに違いない。

 

 

「...聞こえた?」

 

「ああ、聞こえた。車はもうすぐだってのに...もしかしたら、カンダダかもしれん。」

 

「まずいわね。...車に急ぎましょう。銃の準備も済ませておきなさい。」

 

 

近距離で遠距離用のスナイパーライフルを使うわけにはいかないので、私はをモシン・ナガンを構え、魔理沙はショットガンのスパスを構える。先手を取れば確実に勝てる装備だ。敵を逃しはしない。

 

 

「......車についたが...敵の姿は確認できないぞ。」

 

「了解。このまま待っていれば、いずれ来るでしょう。もし相手がロケットランチャーを持っていたら、二人とも死ぬからね。車を動かすのはやめておきましょうか。」

 

「了解。来たら奇襲すればいいんだな。」

 

 

そしてまた、待つ。ひたすら待つ。カンダダと思わしきヤツが来るまで。

 

...待っている時間も、このゲームだと醍醐味となる。相手がいつ現れるか、という緊張感と相手を殺した時の達成感。その2つを直で感じることができるから、スナイパーというのはやめられない。

別に、手に汗握る接近戦を繰り広げてもいいのだけど、スリルを感じると同時に、死んでしまうリスクも高くなる。おとなしく遠くから撃ち殺したほうが安全だ。

 

 

「...敵影確認。カンダダではなさそうだが...」

 

 

森林迷彩服を装備したプレイヤーが、私達の車をジロジロと眺めている。

開いているのか確かめているのだろう。ここから、ヤツの装備も確認できる。

 

 

「1人ね。スナイパーライフル持ってるし、私達と同じこと(芋砂)してるってところかしら?」

 

「そんなところだろう。...おっと、腰にダブルバレルショットガンか....厄介だな...こんな近いと、こちらもやられるかもしれんぞ?」

 

 

先ほど言った通り、私達は手に汗握る接近戦を繰り広げるつもりはない。スキをみて撃ち殺すのが賢いやり方だろう。

魔理沙の言う通り、反撃されると厄介だ。こちらとあちらの距離は十数メートル程度。

こちらも、魔理沙がショットガンを持っている。だがここから撃って100%当たるか否か、と言われたら首を振るしかない。

 

 

「霊夢...ここから狙撃できないか?」

 

「奇遇ね。私も同じこと考えてた。」

 

 

モシン・ナガンは倍率が高すぎてなにも見えない。ならば近距離の狙撃用に用意しておいた、腕のいいガンスミス(銃職人)に頼んだ特注品『コルトパイソンハンター』の出番だ。大口径リボルバーにスコープを取り付けた中距離狙撃用の拳銃である。

重さも握りやすさも、私が一番なじむように改造してある。

 

この距離ならば、確実に当てることができる。

 

 

「頼むぞ。私は周囲の警戒をしている。」

 

「了解。ま、多分あいつ1人よ。」

 

 

バン、バン

 

 

と、2発の銃声が響く。

勿論、私のリボルバーからだ。

 

 

左胸とこめかみにヒットした。血しぶきをあげ、相手は力なく倒れる。何が起きたのかわからないだろうが、スナイパーの奇襲なんてそんなものだ。

 

人の車は、あんまりジロジロ覗くものじゃないよ。覚えておくといいわ。

 

 

「キル確認...。オーケーだ。近くに敵の反応はない。」

 

「了解。ならもういきましょう。車上荒らしなんて真っ平ごめんだわ。」

 

 

死体の近くに行き、装備を回収する。性能と価格のいいスナイパーライフルだ。個人的にはモシン・ナガンの方が使いやすいが、市場ではこちらの方が人気なのだろう。ダブルバレルショットガンも美しい装飾の掘られたレア物だ。高く売れる。

 

 

「さーて、商人のところに戻るか。」

 

「これだけ集めても、まだまだ足りないのよね...」

 

「まあ、あれは『市場に出回っちゃいけないライフル』だからな。当然それだけの値は張るだろうよ。」

 

 

車に乗り込む。

運転するのは魔理沙で、助手席で眠るのが私の仕事だ。

たまーに武器の手入れをするけど、主に寝ている。魔理沙の運転は心地がいい。

 

 

「ま、一時間ってところかな。」

 

「はいはい。何かあったら起こしてね...」

 

 

エンジンをつけた瞬間、まどろみが襲いかかってくる...

 

まぶたを閉じると、すぐに深い眠りについた。

 

 

 

 

 

「霊夢!起きてくれ!」

 

「ん?」

 

 

と、休んだのもつかの間。魔理沙に叩き起こされた。

寝ている私を起こすのだから、何かあったのだろう。体を起こして魔理沙を見る。

 

 

「後ろだ。さっきからつけられてる。」

 

「ふーん...あら、」

 

 

どうやら先ほど車をのぞいていたやつの仲間らしい。よく目を凝らすと本人も見える。黒色のSUV(スポーツ用多目的車。悪路にも対応できる多目的のジープ)。あれも結構な値段のする車だ。こちらのボロいバンと違って。そして戦闘の準備はできているらしい。

 

 

「お顔を真っ赤にして復讐しにきたわね。」

 

「どうする?」

 

「蜂の巣にして差し上げるわ。」

 

 

後部座席に積んであるアサルトライフルを無造作に取り出す。AK−47。充分な火力だ。

 

弾が入っているのを確認し、安全装置を外す。サンルーフを開け、車から顔を出す。さて、パーティの時間だ。

 

 

ダダダダダダダダダッ!

 

 

全自動で斉射すると、たちまちSUVのフロント部分は蜂の巣だ。だが、止まる気配はない。運転席を狙ったはずなのだが、ガラスにヒビが入らない。

 

 

「防弾車か!」

 

 

弾がはじかれる。穴を開けることはできるようだが、表面が傷ついただけでは、車を止めることはできない。

今度は奴らも反撃してくる。後部座席と助手席から合計で3人。全員ハンドガンだ。必死になって撃っているが、下手くそだ。当たっていない。

 

 

「装備は一丁前だけど、プレイヤーがへぼいのか。宝の持ち腐れってやつね。」

 

 

あいつらの装備を無事にぶん取ればかなりのお金になる。多少強引だが、やるしかない。

 

 

「魔理沙!奴らの車を盗るわよ!」

 

「マジかよ!どうするんだ?」

 

「キメてやるわ。SUVの横につける?」

 

「ガッテンだ。」

 

 

武器を変える。動きやすいように、片手で扱えるサブマシンガンだ。弾薬もワンマガジンで充分。

横についてもらう前に、まずは片側にいる一人を撃ち殺す。魔理沙がなるべく揺れないように運転してくれているから狙いやすい。弾丸は肩と首を貫いた。そのまま車から転げ落ちていく。たとえ生きていても、走っている車に追いつけるほど早くはないだろうから、やつは無力化したと言えるだろう。

 

続けて残りの二人のガンナーを殺す。偶然にも二人ともヘッドショットだ。横薙ぎに撃ったのが良かった。

 

 

そして魔理沙は、慌てずにSUVの横にぴったりと貼りつく。

 

 

「ありがとう。あとはボイチャで話しましょうね!」

 

「もうオンにしてあるぜ!さっさと行って取ってこい!」

 

「了解!」

 

 

SUVの開いている助手席の窓に滑り込み、助手席に座る。

運転手は見るからに貧弱そうな装備をしている。運転に集中しすぎて、私が助手席に乗ったのに気づくのに、少し時間がかかったようだ。

 

 

「はーい、運転ご苦労様。」

 

「なっ!?て、てめ」

 

 

パン!パン!

 

 

頭に2発。即死だ。

そのまま運転を代わってもらう。無論、彼には降りて貰った。80キロで走ってる車からだけど。

 

 

うーん、我ながら鮮やかな強奪。私でなきゃ失敗しちゃうね。

 

 

「魔理沙?SUVの強奪に成功。このまま商人さんのところに向かいましょう。」

 

『...了解!先導する、そのままついてきてくれ。』

 

 

さて、あとは商人さんのところに向かうだけだ。ダラーっと運転することにしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませェ!いつもごヒイキに、ありがとございマス!」

 

「うん、こちらこそいつもありがとうね。」

 

 

非正規だが、『商人』さんは装備などを買い取ってくれる。彼自身もプレイヤーだけど、趣味でちょっとした商店を開いている。正規の店では発売されないような武器も多々置いていて、その中にはイベント限定だったのものやAIボスの撃破商品までも存在する。入手ルートは秘密らしい。

 

いかにもって感じに怪しい店だが、買い取りの時の価格が正規の店よりも高く、なおかつ珍しい武器もたくさんあるから、よくお世話になる。

 

 

「はァい、買い取らせていただきますよォ!

にとりさん、オモテのバンから全部、回収してきてくだサイ!」

 

「分かりました!」

 

「あー、隣のSUVも一緒に売るわ。はい、これ鍵。」

 

「了解!」

 

 

武器の改造担当の河城にとりもいる。彼女こそ、腕のいいガンスミスなのだ。

商人さんとにとりは、プライベートでも仲が良いらしいが、現実でもこのゲームでも古くからやっているのは商人さんだ。

 

 

「今回は結構持ってきたけど...どれくらいになりそうだ?」

 

「ウーン、結構流通している武器が多いデスネ。お支払いできるのはこのぐらい...あ、デモこのダブルバレルはレア物デスネ!」

 

「高いか?」

 

「ハイ!まあ、このぐらいですカネ?」

 

 

提示された価格は、普通に装甲車が一台買える程度のお金だ。

だが、私が欲しいライフルには手が届かない。

 

 

「はぁ...まだまだ届かないわね。あのライフルには。」

 

「エエ!まあ、当店で一番高いライフルですからネ!現存するのは、あのライフルだけデスシ!」

 

「本当?」

 

「うん。私が覚えてる限り、あのライフルは初期に3本だけ配布されてる。1本は戦闘で壊れ、もう一本は行方不明。初期に多かったバグの影響で、データの狭間に落っこちたらしいよ。

最後の一本は、商人さんが持ってたんだけど。」

 

「今ではこの通り、戦闘からは足を洗ったんですケドネ!よく助けられましタヨ!」

 

 

いつもニコニコしている商人さんがそんなに強かったとは思えないから、大方武器の力に頼り切った戦闘スタイルだったんだろう。

だけど武器についての知識で、商人さんの右に出る人はいないはずだ。戦闘は知識で勝ってきたかも知れない。

 

 

「取り敢えず、またここに体置かせてもらえる?」

 

「ハイ!お部屋は取って置いてありますので、どうぞお使いくださいナ!」

 

 

ログアウトするときは、20分程度そこの場所にアバターが残ってしまう。安全が確立された場所でログアウトを行わないと、その20分の間に殺されてしまうこともあるので、注意が必要だ。

街の中の宿屋でログアウトしている人も多いが、私と魔理沙は、よく商人さんの家でログアウトしている。お金も取られないし。

 

 

「商人さん、弾くれ。12ゲージ48発。」

 

「毎度アリ!」

 

 

商人さんの店は通な人しか知らないから、私達以外に客がいるのは珍しいな。...んー、あの人どこかで見たことあるけど、どこで見たか思い出せない。

 

 

......あ、あの人、前回の生存遊戯大会でMVP取った人だ。確か『散弾銃を知り尽くした男』って言われてたな...魔理沙はあの人に憧れてショットガン使い始めたんだったわね。

 

魔理沙は気づいてない。ま、言ったら騒ぐだろうし、言わないでおこう...

 

 

......大会か...優勝したら、ゲーム内通貨でかなりもらえるんだよね...

 

...頑張ってみようかなぁ......

 

 



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#2 新参者と古参兵

わたしは、やっぱりイケナイ子だ。

 

おねえさまの言いつけをまたやぶってしまった。

 

でも、しかたのなかったことだ。

彼らを先にコロさなければ、きっとわたしが死んでいた。

 

たおれたムクロたちからは、鮮血がしたたっている。みずたまりは、どんどん大きくなっていく。

 

わたしの両手には、まだケムリが上がる機関銃。

からだじゅうに、アイツラの血がついている。

 

...しにぞこなった1人が、わたしに助けを求めてきた。

カワいたハッポウオンが、あたりに響いた。

 

 

_______わたしはそんな中で、1人。せせら笑っている。

 

せせら笑って、おねえさまを待っている。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの...すみません!」

 

「...?」

 

 

俺はこの殺伐としたゲームに、こんなに似つかわしくない可愛い女の子を見たのは初めてだ。しかもなんだ、俺は今、口元にバンダナ巻いて、若干血のついたジャケットを着ている。つまるところ、見た目が完全に人を殺して歩いてそうな感じの装備をしている。そんな怖そうなおっちゃんに話しかけてくるなんて、度胸のある娘だ。

実際殺しちゃってるけど。

 

 

「...どうかしたのかい?」

 

 

なるべーく、丁寧に返してあげる。女の子と話すのも久し振りな感じがする。

なんか武器を出したまま話すのも失礼な気がして、ショットガンはインベントリにしまった。

 

 

「実は、姉と一緒にこのゲームを初めてみたんですけど...最初に何をすれば良いかわからなくて...」

 

「ふーん。...あれ、でも君は今1人だよね?お姉さんは?」

 

「あ、います!...貴方の見た目が怖い、って言って向こうに隠れちゃいまして。」

 

「...そう......」

 

 

まあ、それが普通の反応だ。その子は正しい、その子は正しいんだけど、なんか、悲しいなぁ......

 

 

「んー、わかった。俺が教えてやろう。もう武器は買ったのかい?」

 

「武器屋さんがわからなくて...」

 

「そう。ま、この街入り組んでるからね。取り敢えず、お姉さん連れて来なよ。一緒に教えてあげるから。」

 

「わかりました!」

 

 

走って呼びに行った。なかなか可愛らしい少女だ。...でも、なんかどっかでみたことあるんだよな...あの金髪......

 

 

「お待たせしました!」

 

「ど、どうも...よろしくお願いします。」

 

「うん、よろしくね。

さて、じゃあ取り敢えず武器を買いに行こうか。ついてきて。」

 

 

俺が知っている限り、一番安くて安心できる店を紹介しに行く。ここからは少し歩くが、かまわないだろう。妹さんメチャクチャ元気そうだし。お姉さんの方はまだこちらにビビってるみたいだけど...まあ、気にしない。

 

 

「ところで、君達の名前は?」

 

「あ、私が秋穣子です!こっちが秋静葉って言います!」

 

「し、静葉です...」

 

「どうも。俺は『ブレインウォッシュ』。長いからブレインって呼んでくれて良いよ。」

 

 

お姉さんは秋静葉、妹さんは秋穣子。静かな方がお姉さんで、元気なのが妹さんね。把握。

 

 

「しかし...よくこんなゲーム始める気になったね。結構殺伐としてるゲームなのに...」

 

「知り合いがみんなやってて...暇だったし、面白そうだったからやってみたんですよ。2人してやってみたかったゲームですし。」

 

「へぇ...まあ結構有名なゲームだからねぇ。あ、何か使ってみたい武器とかあるの?」

 

「私はマシンガンとかですかね!バーって撃ってみたいです!」

 

「わ、私は別に...使ってみたい武器はないです...」

 

「へぇ。あ、そうだ。2人共始めたばっかでお金あんまり持ってないだろうし、俺が装備代を払ってあげるよ。」

 

「え、そんな...」

 

「悪いですよ!」

 

「いーのいーの。どうせお金あんまり使わないし、どんどん溜まる一方だから。2人分の装備くらい、パパッと買えちゃうよ。」

 

 

なんて話してるうちに、既に店の目の前に着いていた。

『商人さんの店』だ。非正規の店だが、正規の店よりもあらゆるものが安いので、よく利用させてもらっている。俺が使っている装備の殆どは、ここで買ったものだ。

 

商人さんは別のお客さん2人と何やら話し込んでいる。まあ、終わる前に2人には武器を選んでもらおう。

 

 

「じゃあ2人共、好きな武器選んできて良いよ。」

 

「で、でも...奢ってもらうのは...」

 

「いいっていいって。あ、じゃあさ、少しの間でいいから、俺と一緒に行動してよ。俺もチーム組んでみたかったし、色々教えてあげれるでしょ?」

 

「...うーん、でも...」

 

「いいじゃん、戦闘手伝ってもらえれば俺も楽だし。悪くないと思うよ?」

 

「...わかりました。じゃあ、そうしましょう。お姉ちゃんもいいよね?」

 

「うん...ありがとうございます。」

 

「ありがとうございます!」

 

「うん。さ、早く選んでおいで。」

 

 

やっと選んでいってくれた。足りなかったら、まあ俺の使ってない装備を売れば足りるだろうし、多分大丈夫だろ。

 

さて、商人さんの話し合いは終わったようだし、俺は弾を買ってこよう。

 

 

「商人さん、弾くれ。12ゲージ48発。」

 

「毎度アリ!」

 

「それと、あの2人に合いそうな防弾チョッキと中型リュックも2つずつ。」

 

「ハーイ!」

 

 

序盤であった方が楽な装備だ。防弾チョッキもリュックも、最後まで使える。金もまだまだ余裕がある。セカンダリも買ってあげられるくらいにはあるな。買ってあげよう。

 

 

「ブレインさん!私、これがいいです!」

 

「わ、私はこれで...安いし...」

 

 

穣子はサブマシンガンのUZI。信頼性が高く、かなり流通している銃だ。静葉はMac11。見た目の割に以外と弾数のあるサブマシンガンだ。

 

 

「はいよ。商人さん、この2つとあと...ベレッタ92Fも2つ頼んでいいかな?弾はそれぞれ3マガジンで。」

 

「ありがとございマス!随分とお買い上げなさりますケド、お金は大丈夫デスカ?」

 

「ああ。こう見えて結構持ってるんだ。一括で払うぜ。」

 

「毎度アリ!」

 

 

初期装備として配布されるジャケットとカーゴパンツ。この2つは、意外と手に入りにくい物資だ。たかが服と侮ってはいけない。マガジンが入るポケットは各所にあるし、ジャケットも軽くて暖かい。ついでに、一番最初のログインの時に、配布されるジャケットを好きな色に決めることができる。

俺は黒。穣子ちゃんと静葉ちゃんは、真っ赤な紅葉色だ。紅蓮っていうのかな。

 

 

「わー、なんか戦う人っぽくなったね!」

 

「...うん!」

 

 

お、だんだん静葉ちゃんが元気になってきたかな?結構結構。おじさんはやましい意味なんて決してない程度に少女の笑顔が好きだ。

 

 

「さ、いよいよ魔境に入っていくけど...銃の撃ち方はわかるかい?」

 

「はい!」

 

「はい...」

 

「よし、じゃあ俺の車で戦地に向かおう。...最初だし、AIサーバーでいいよね。」

 

 

AIサーバーは、敵が全員AIが操作するCOMとなる。プレイヤーが操作しているキャラクターからは、一切ダメージを受けない。

初心者や久しぶりにやる人がブランクを取り戻す時によく使われるサーバーだ。勿論、倒した敵の装備は回収できる。

 

 

「行こう。すぐそこに俺の車があるから。」

 

 

ボロッボロになった車。かなり前に鹵獲したバンをずっと使っている。愛着が湧いたため、新しい車を買う気もない。

あちこちに弾痕があり、傷と汚れが目立つ。一見ただのボロ車だが...実はある秘密がある。だが、秘密は簡単に喋ってしまっては面白くない。2人には暫く内緒だ。

 

 

「ボロい車で悪いが...結構近いところだから、我慢してくれ。」

 

「はい!」

 

 

本当に近い...五分程度だ。すぐに着く。それまで、楽しいお話を3人でしていようじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意外と彼女たちの素性というか、情報を聞き出せた。

2人とも、豊穣祭によくお呼ばれする、秋の神様だったらしい。道理でどこかで見たと思った。先ほどまでの無礼を詫びたが、畏まらなくてもいい、と言われたので先程までのような口調で話すことにする。

先程の店にいた、河城にとりとも知り合いだったらしく、仲良く3人で話していた。その瞬間は見ていなかったが。

このゲームをやっている知り合いを他にも聞いてみたら、『ミラクルプレイヤー』早苗や『戦神』神奈子、『厄の雛人形』鍵山雛に『最速の情報屋』射命丸文...二つ名を所持する有名なプレイヤーの名がゴロゴロ出てきた。怖い。

 

俺の素性も結構喋った。まあ、俺の本名はどうでもいいとして、得意な武器やゲームをやり始めた期間、実績。このゲームの醍醐味なんかも話したかな。

 

 

「さぁて、着いたよ。ここからはいつ死んでもおかしくないから、気を引き締めるように。」

 

「...!」

 

 

そう言うと、彼女達は顔を引き締めた。緊張の表情。そう言う顔は個人的に好きだ。生に必死な感じがして。

結構な場数を踏んできたが、戦闘前には俺も緊張する。相手がCOMだからといって舐めてはいけない。稀に『500メートル先からアイアンサイトでヘッドショットする』『1対5の圧倒的不利な状況で圧勝する』などの鉱石を持った、バケモノじみたCOMがいる。

流石の俺も、そんなのとかち合うなんてしたくない。

 

 

「いいかい?移動の時は常に身を屈める。いつ狙撃手が狙ってきたり、奇襲を受けるかわからないからね。」

 

「はい。」

 

 

そっと身を屈め、壁伝いに歩く。まだ敵は視認できない。ショットガンを握る手に、自然と力が入る。緊張していた。

 

 

「よし、あのビルに入ろう。周りに気をつけて着いてきてね。」

 

 

屈みながら早く移動するのは、意外と疲れる。ビルに着く頃には、息は切れている。

20階建てのビルだ。こういうところには武器が湧いていることが多い。

 

まずはビルの中に敵がいるかどうかを確認しなければならないが...

 

 

「ちょっと待って。」

 

 

チラッと、中を覗き見る。

 

...ああ、いる。3人。ビルの警備をしているようだ。

3人とも隙が大きい...というか、背中をこちらに向けている。暗殺は簡単だろう。だが、ここは2人のために試練を与えなければならない。

 

 

「よし、穣子、静葉。あの3人が見えるか?」

 

「はい。」

 

「...見えます。」

 

「その銃で、あの3人を撃ってみて。」

 

「わかりました!」

 

 

そっと、バレないように2人は3人が見える位置に移動する。

2人の初キルだ。しかと見届けないと。

 

穣子はサブマシンガンをおもむろに構え、左にいたCOMの背中をフルオート(全自動)で撃ち抜いた。蜂の巣になって、彼は倒れる。

かなりの無駄弾を消費したらしい。穣子はトリガーハッピー(乱射魔)なのかな、もうマガジンに弾はないようだ。しかし、静葉が冷静に残りの2人のうち、1人を2、3発で仕留める。頭に2発、胴に1発。見事な狙撃だ。

 

そこで、最後の1人は机の陰に隠れた。さて、ここからが見ものである。

 

『2人がどうやってヤツを殺すのか』。初めてまだ一時間も経っていないだろう2人が、どうやって彼を殺すのか。興味深い。

 

 

「っ、よし、お姉ちゃん!」

 

「わかったわ!」

 

 

む、静葉が穣子に何も言われずに動き始めた。穣子は机に向かって斉射。COMは動けないが...一体どうするのだろうか。静葉は障害物を上手く使って回り込んでいく。

 

...ああ、成る程。

 

 

「食らえ!」

 

 

パパパ!パパン!

 

 

『穣子が机から出さないようにして、横から静葉が挟撃』か。COMも予想できていなかったようで、すぐに地に伏せた。死亡確認。

 

初心者にしてはなかなか賢明な作戦、そして何も言わなくても伝わる、『姉妹ならではのコンビネーション』。なんて理想的な関係だろうか。

 

...将来有望だろう。下手をすれば、ベテランプレイヤーも狩れるぞ...

 

 

「すごいな2人とも!よく倒せたな!」

 

「えへへ〜...」

 

「あ、ありがとうございます...」

 

「いや、本当にすごいコンビネーションだ。俺だったら一瞬でやられちゃうね。」

 

 

お世辞ではない。思ったことを口に出した。それだけだ。

そして、今の戦闘で2人の適正武器がわかった。今言っておこう。どうせ後になると忘れてしまう。

 

 

「それで、2人にあっている銃だけど...穣子はマシンガン、静葉はハンドガンが合うと思うよ。」

 

「...え?」

 

「穣子は弾をばら撒きが上手だが、少し命中精度が悪い。多くの弾をばら撒ける武器があっていると思う。

静葉は見事な命中精度だよ。片手武器の狙い撃ちが得意のようだね。さっき渡したセカンダリのベレッタを使ってごらん。Mac11よりも取り回ししやすいから、きっとすごく使いやすいとおもう。」

 

 

さらっと死んだヤツらの装備を確認しながら、2人にアドバイスを送った。静葉はアドバイス通りにMac11をしまい、ベレッタを引き抜いた。安全装置を外す。

 

ちょうど死んだ1人がばら撒きやすい武器を持っていた。AK−47だ。反動がでかいが、腰撃ちがしやすいアサルトライフル。これを穣子に持たせよう。

 

 

「穣子はこれを使ってごらん。多分、肌に合うとおもうよ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「さ、この階を調べたら、次の階に行こう。何かお宝が眠っているかもしれないよー?」

 

 

取り繕った意気揚々。実際はショットガンを握る手の汗がハンパない。

___今までずっとこのゲームをやって来たが、2人の少女に醍醐味を教えながら、殺されないように守るっていうのは初めての経験だ。集団で戦闘をしたことはあったが、戦闘慣れしているベテランプレイヤーと組んだのだ。訓練中の新兵と組んだことはない。

 

...2人の少女を守らなければならないという責任感に、恐ろしさを感じている。このゲーム関係で恐ろしさを覚えたのは、ずっと前の大会くらいだ。

 

 

「あ、ブレインさん!向こうに意味深な箱がありますよ!」

 

「え?」

 

 

おっと、ボーッとしていた。穣子が何かを発見したらしい。意味深な箱...武器箱か何かなのか?

 

...なんで部屋の真ん中にポツンと箱だけが置いてある?しかも、窓も無ければ他に家具もない...別の部屋は机やら椅子やら沢山あるのに...

 

 

「早速開けに行きましょうよ!」

 

「...!待て!穣子!それは...それは多分罠だ!」

 

「え!」

 

「穣子!」

 

 

時、既に遅し。ブービートラップだ。

 

 

 

ジリリリリリリリリリリリリ!!!!

 

 

 

「クッ、ソ!」

 

 

箱の中身は警報装置。ビル全体に響き渡るような、ものすごくでかい音だ。

すぐさま穣子を箱から離し、ショットガンで警報装置を破壊する。

 

 

「す、すみません!」

 

「...いいんだ.....即死系のトラップじゃなくてよかった。穣子にもしものことがあったら、注意が行き届かなかった俺のせいだ。」

 

「あ、あの...ど、どうなるんですか...?この、警報音は...」

 

 

 

階段の方だ。少なくとも20人以上の足音が聞こえて来た。

恐らく、もっといるだろう。このゲームの嫌になるところでもある。COMの頭が良すぎるのだ。人間並みの戦略を持っている。そこらのゲームのようにパターン化された動きなどない。

 

...命を刈り取る者のように無慈悲で残酷で狡猾なヤツらだ。

 

 

 

「...武器を構えろ。...ヤツらが来るぞ。大量の......『死神ども』が......!」



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#3 新参者と古参兵 II

けたたましい排気音。

 

唸るはチェーンの刃。

 

高速回転するチェーンに触るものならば、一瞬で一生感覚は戻ってこないだろう。

 

 

「殺した殺した斬った絶った殺した殺したふひひふひははははは」

 

 

彼女はこのゲームに入ると、人格が大きく豹変する。特に、チェーンソーを握った時には。

 

彼女はトチ狂ったように人を斬り始めるのだ。彼女の邪魔になるものは勿論、直前まで一緒に談笑していた人間にも。

 

 

「楽しいわ楽しいわ楽しいわねぇねぇおじさん今どんな気分私に斬られて今どんな気分ねぇねぇねぇねぇ」

 

 

殺戮の瞬間を目の当たりにした人間は、いかに精神力が強くても吐き出してしまうだろう。

 

 

「おじさんおじさん腹わたが飛び出ているよ直したほうがいいんじゃないほらほら自分で治してよ治してよ治してよふひひひひひ」

 

 

彼女は『狂気の繰り人形』メディスン。繰られた人形は演技のように人を殺す。殺し続ける。ターゲットはいない。目に入るものを全て斬る。

 

逃れることなど不可能だ。

 

 

 

 

「ねぇねぇねぇねぇ次はあなたあなたあなたあなた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穣子、静葉!下がれ!」

 

 

階段だ。大変なことになっている。

ワラワラと、どこから出てきたんだとツッコミたいくらいに、COMがいる。

個々の武器の種類も偏っておらず、万面に対応できるようだ。更に医療キットを持った奴もいる。

 

2人を前線に出すのは非常に危険だ。と、なると、俺が出るしかない。

 

 

「...2人とも、俺が撃てって言うまで撃つな。ここで隠れていろ。」

 

「えっ?」

 

「ブレインさん...?」

 

 

手にしたショットガンが震える。少しばかりビビっているのだ。まあ、こんな劣勢の局は初めてやるかも知れない。

俺のショットガン...モスバーグM500の準備は万端だ。今なら、やれる気がする。

 

 

「なあに、ブレインさんに任せておきなさいって。」

 

 

ポンプ(給弾)。引き金を引けばいつでも撃てる。ショットガンのスピードローダーの準備もいい。

さて、あとは後ろの2人に格好つけるだけだ。

 

 

『ショットガンを知り尽くした男』。その貫禄と実力を証明する。

 

 

「30秒もあれば。」

 

 

飛び出る。目の前に突撃銃を持ったヤツが1人。

 

 

「10人程度、すぐだ。」

 

 

胸に1発。絶対に死ぬ。吹っ飛んだそいつにダッシュで近づき、またその近くにいたヤツに蹴り飛ばす。

 

死体は当たった。間髪は入れない。怯んだCOMの頭に1発くれてやる。弾けた。崩れ落ちてくCOMのサブマシンガンを拝借して、左にいたヤツらに弾丸を薙ぐ。3人は殺した。

 

次は右方向。思いっきり机から飛んで、頭を蹴り、そして踏み潰す。全体重がかかった両足のストンプだ。ひとたまりもないだろう。

 

俺の靴にはナイフが仕込んである。爪先の部分に。仕込みナイフっていうのかな?商人さんに作ってもらった。

俺に向けて銃口を突きつけてるヤツの首にハイキック。死んだ。まだ余裕がある。

 

ショットガンの残弾はあと6発。まだリロードは不要だ。

果たしてCOMの動きというのはこんなにも遅かっただろうか?重機関銃を持ったヤツに散弾をプレゼントした。ついでにサイドアームで更に2人。弾丸のプレゼントに喜んでもらえて何より。

 

 

今が丁度30秒くらいかな?宣言通りに10キル。手際は良かったと思う。2人がいる部屋から見て左の机の裏に滑り込む。

そうしたところで、やっとCOMが俺を攻撃し始めた。俺ってそんなに影薄かったかな...

 

ともかく、これで隙ができた。後は2人に任せても構わないだろう。今の彼女たちの立ち位置は、丁度奴らの横。不意打ちにはもってこいの場所だ。

 

 

「穣子!静葉!机を盾にしながら奴らを攻撃してくれ!」

 

「「了解!!」」

 

「こちらも援護する!」

 

 

俺のショットガンが火を噴く。無論、狙っていないというわけではない。が、ここで彼女たちに殺させれば、さらなる成長を遂げるだろうし、まあ致し方ない。ワザと外す。

 

 

暫くは銃声は止まなかった。穣子のAKの連射音と静葉のベレッタの銃声が止む頃には、もう立っているCOMは誰もいない。

勝利の天秤はこちらに傾いたようだ。

 

 

「よくやったな2人とも!とてもじゃないけど、今日始めたとは思えないくらいに上出来だ!」

 

「い、いえ!ブレインさんの援護が素晴らしかったから...」

 

「えへへー、褒めてくれてありがとう!」

 

 

静葉は『片手での狙撃』については本当に才能がある。敵10人の内、7人は彼女の狙撃で命を刈り取られた。

穣子も『弾をばらまく』という点においては俺より上だ。簡単そうに聞こえるが、敵を机から出させない、つまるところ釘付けにする能力は素晴らしい。

 

 

かつてここまで才能のある初心者はいただろうか?いや、記憶にない。本当になんなのだろうか、この2人は。

 

 

「よし、もう君達の装備は決まったな。こいつらの武器を奪って、もう一度商人さんのところに戻ろう!

俺が判断した限りで、君たちに最適な武器を送るよ!」

 

 

さてさて、俺にはこのゲームでの楽しみが一つ増えてしまったな。

2人を立派な兵士に育てる。絶対にこの子たちは強くなるだろう。

 

 

さて、これからが楽しみだ!

 



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