海鳴のスカさん家 (ピーナ)
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お知らせ

「海鳴のスカさん家」をご覧くださっている皆さん、作者です。

今回は本作の改訂のお知らせをさせていただきます。

 

 

まず、改訂に思い至った理由ですが、「見切り発車で生まれた三兄弟の設定を生かしきれない」というものです。三兄弟の設定自体思いつきだったのですが、どうしても三男の与市が空気になってしまっていました。

無印も終わりに近づいてきて、間の話やA'sを考えていてもあまり関わらせないなあと思い、改訂に踏み切る事にしました。

 

 

改訂による設定の変更は「三人兄弟から二人兄弟にする」のが大きな変更点で、それに合わせて変える必要のある所は変えていきます。

 

この間、一度非公開とさせていただきます。

 

 

最近、色々忙しく、体調もあまり良くない日が続いており、余力がある時もゆっくり休む事を優先していて更新が出来ていませんけど、少しづつ改訂や更新していきたいと思っていますのでこれからもよろしくお願いします。

 

 

 

文字稼ぎの小ネタ

 

八雲「そういやさ」

大和「どしたの、兄貴?」

八「いや、あの子達はどうしてるかなって。いつも僕らの長い休みに合わせて来るけど、今回は来なかったし」

大「ああ、ギンガ、チンク、ディエチ、スバル、ノーヴェ、ウェンディな。まあ、ギンガが今年小学校入学だしゲンヤ叔父さん達も忙しかったんじゃねえの?」

八「それもそっか。僕らの時も僕らは楽しみだったけど、父さんと母さん忙しそうだったもんなあ」

大「ってか、突然どうしたのさ」

八「いや、なんか今年の春休みは物足りなかったなあって思ってて、なんでか考えてたら二人に会ってない事を思い出してね」

大「ギンガとスバル、ノーヴェとウェンディ、ついでに言うとクイントさんもめっちゃご飯食うからなあ。遊びに来てる間、いつもあんだけの量を作るのがあたり前になってたらそりゃ物足りなく感じるよ」

八「多分、その通りなんだろうけど、食べる量に関してはお前もだからな」

大「遺伝なのかねえ。父さんもかなり食うし」

八「まあ、皆美味しそうに食べてくれるから嬉しいんだけどさ」

大「皆と言えば、スバルはなぜかなのはに凄い懐いてるじゃん? あれ、なんでなんだろうな」

八「フィーリングとかそういう事じゃないのかな? 僕だって、アリサとか刀奈とかはやてはすぐ仲良くなれたと思うし」

大「俺もアリシアやフェイト、簪とはそうだったな。そういう人も居るって事だな」

八「っと、そろそろ夕飯の買い物に行かないと。今日、何食べたい?」

大「ハンバーグ!」

八「はいよ。んじゃ、行ってくるよ」




という訳なのでこれからもお願いします。

STSはまだまだ未定ですけど、ナカジマ家の構成はこんな感じを予定しています。


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プロローグ スカさん家の朝

ただ思いついただけのお話なんで今後どうなるか分かりません。


日本は海鳴市。海と山、自然豊かなこの都市のある場所に、「スカリエッティ研究所」という似つかわしくない看板を掲げた建物はあった。

 

「父さん、朝ご飯の用意が出来たよー」

 

沢山の専門書と論文や設計図が高い天井に届きそうなくらい積まれた一室で「父さん」と呼ばれた紫色の髪に金色の目を持つ年齢不詳とよく周りから言われる男―この研究所の主で次元世界を股にかける世紀の天才科学者、ジェイル・スカリエッティ―は目を覚ました。

 

「後五分……」

 

テンプレな言葉を返すジェイルに、呼びかけていた少年は、

 

「別に待ってもいいけど、多分、大和が食べちゃうよ?」

 

と脅しをかける。その言葉を聞いてジェイルは、

 

「今起きた! 待っていろ、私の朝食!」

 

と部屋を飛び出した。外には黒髪にやや茶色っぽい黒い瞳という日本人らしい容姿の少年―この家の家事全般を握る、家の最高権力者、八雲・スカリエッティ―が立っていた。

 

「おはよう、父さん」

「おはよう、八雲。しかし、いつも言ってるだろう? 私の事は『博士』か『ドクターJ』と呼べと」

「そう言うのは大和とやってよ、父さん」

 

八雲はジェイルの言葉を無視してリビングに向かう。その後ろ姿を見ながら、

 

「大人になったなあ、八雲は」

 

と瞳を潤ませながら呟いた。……まあ、半分は大人子供なジェイルを見て反面教師にしているからなのだが、本人はそれに気付いていない。

 

 

 

ジェイルと八雲がリビングにつくと既に一人の少年がそれぞれ椅子に座っていた。

 

「良き朝だなドクターJ。そして、我が半身よ」

 

最初に挨拶をしたジェイルと同じ紫の髪に右目はジェイル、左目は八雲の色となっている少年は大和・スカリエッティ。現在かなり速い中二病をこじらせており、ジェイルを「ドクターJ」八雲を「我が半身」と呼んでいる。

 

「うむおはよう、大和」

 

ジェイルと八雲も自分の席に座り、全員が手を合わせて、

 

「では、食べようか。いただきます」

「「いただきます!」」

 

全員が顔を合わせて朝食と夕食を摂る。これがスカリエッティ家の決まり。

 

「美味い! 八雲、また腕を上げたんじゃないか?」

「うむ、我が糧としては上々の出来よ」

「ありがと。感想は嬉しいけど、ご飯は早めに食べてね。バス来るまでそんなに時間に余裕あるわけじゃないから」

 

基本的にこの家のヒエラルキーのトップに居るのは八雲である。胃袋と財布を抑えているのもあるが腕っぷしもとんでもなく強い。

特に魔導師としての資質は1000年に一人の逸材とまで言われるレベルで、怒らせると跡形もなく消される可能性があるので怒らせないのがこの家の暗黙の了解になっている。

 

「あ、そうだ。大和帰りにお米買って来て」

「了承した。……しかし、我が半身よ。何故いつもあの白き大地の実りは我が買いに行くのだ?」

「お前が一番力持ちだから。後、お前が一番白米を食うから」

「……了解だ」

 

巷では『海鳴の二大チート一家』の片翼を担うスカリエッティ家。その次男大和も魔導師として素晴らしい能力を持っているが、それ以上に身体能力がとんでもない。近所の喫茶店のマスターに剣道の稽古をつけてもらい師匠から「何十年、何百年に一度の剣才の持ち主」と言われ、家伝の流派を特別に教えてもらったり、そのマスターが率いるサッカーチームのエースストライカーを務めたりしている。ちなみに、八雲も同じく教えてもらっている物の、家事が最優先でむしろ、その奥さんに料理やお菓子作りを教えてもらう事の方が多い。これで剣道の勝率がやや八雲優勢なのは師匠曰く「単純に八雲君が器用すぎるだけ」との事。

ここまですれば女の子が放っておかなさそうなのだが、発症中の中二病で女の子にはモテない。

 

「ご馳走様」

 

一番最初に食べ終わるのは大体八雲だ。彼はこの後後片付けもするから、残りの2人が食べている間に学校に行く準備を済ませるのだ。

 

「おお、そうだ八雲。君のデバイス調整を終わらせたからいつもの所に置いてあるぞ」

「うん、分かった。ありがとね、父さん。父さんのお昼ご飯はいつも通り冷蔵庫にしまってあるから。大和もとっとと食べて、学校行く準備しろよ」

「うむ、分かっている」

 

大和の返事を聞いてから一度部屋に戻っていく八雲。

 

「樹里……私達の息子は今日も元気ですくすく成長しているよ」

 

2人の様子を見ながらそう呟くジェイル。樹里と言うのはジェイルの妻で三人の母。しかし、三年前交通事故で他界した。

 

「父さん、もう学校行くよ!」

「ああ、済まない。後片付けは私の開発した『汚れおちーる君(食器版)』でやっておくよ」

「お願いねー。それじゃ」

「「行ってきます!」」

「行ってらっしゃい」

 

これはスカリエッティ一家とその周りで繰り広げられる物語。さて、ここから先どうなる事か……。




簡単なキャラ設定を。

ジェイル・スカリエッティ

ミッドチルダ出身の天才科学者にして天才技術者、そして天才発明家。
とある事情でミッドから地球に来てそこで結婚(戸籍は作ったbyスカさん)。三人の子供を授かるが妻に先立たれる。それからは三人の息子を男手ひとつで育てている。
現在は妻と出会った海鳴市に研究所を開き、近所の困り事を持ち前の技術で解決したり謎の科学者『ドクターJ』として学会を賑わせたりしながら、子供達と日々を送っている。
夢は「世界征服」。ただし方法は「私の技術が世界中で使われるようになったらそれは世界を制圧したも同然だ!」とかなり平和的な模様。
元キャラはマンガなのはINNOCENTS版のスカリエッティ。

八雲・スカリエッティ

三兄弟の長男で家事全般と家計を握る、スカリエッティ家のヒエラルキーのトップに立つ存在であり、1000年に一度の天才魔導師。
基本的に器用で何でもこなせるので、いつの間にか家事全般を担当していた。
常識人であり、大体破天荒な父や弟たちに振り回される不憫なキャラになる予定。(予定は未定)
夢は「近所にあるような喫茶店のマスター」。ただし、その店は夫婦で経営しているので相手が必要な模様。
元キャラは作者の別作品の主人公。

大和・スカリエッティ

三兄弟の二男で腕っぷし自慢の少年剣士で天才剣士の卵。
何故か妙な言い回しを好み、早すぎる中二病を発症している。容姿は兄弟一整っているのだが、その言動が残念なので女子人気は一番低い。しかし、男子には一番人気。学校の奴大体友達。
夢は「世界最強」。しかし何の最強かは不明。
元キャラは八雲と同じ作品のライバルキャラ。



時間軸的には無印時代で子供たちはなのはと同級生。スカさんはいろんな人たちと知り合いです。


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第一話 兄弟と三人娘

今回は八雲の一人称で物語が進みます。

書いてて気付いたんですけど、中二病の大和じゃ語り手に向かないですね。なので、基本的には八雲が物語のメインの語り手になると思います。


どーも、皆さんこんにちは。スカリエッティ家の長男、八雲・スカリエッティ、九歳です。

僕は今現在弟の大和とウチの学校、聖祥大付属小学校が登校時に運営しているスクールバスが来るのを待っています。

 

「ちいっ、イラつく太陽だ! 我を眠りへと誘うつもりか!」

 

この訳の分からない言動を吐くのは僕の弟、大和・スカリエッティ。一言で説明するなら『愛すべきバカ』です。実際、男女ともに友達も多く、いつも輪の中心に居るし。ただ、見てくれは良いけど言動がバカだから女子からは「もったいない」と評価されています。

 

「だからいつも早く寝ろって言ってるだろ」

「だってよ~」

 

そのバカな言動は自分で作っているせいか結構よく素が出る。普通にしてりゃ良いのにさ。

 

「あっ、八雲君、大和君おはよっ!」

 

バスに乗り込んで早々、僕達に挨拶をしたのは僕と大和の剣道の師匠である高町士郎さんと、僕にとっては料理、特にお菓子作りの師匠でもある高町桃子さんの娘さんで同級生の高町なのは。

 

「ふはは、良き朝だな!」

「おはよう、なのは。それにアリサとすずかもおはよう」

 

なのはの横に座っていた二人、アリサ・バニングスと月村すずかにも挨拶をする。二人とは小学校入ってすぐのころからの仲です。なのはとはそれ以前からの仲で、ぶっちゃけ兄弟と同じ感じ。

 

「二人ともおはよう」

「おはよう。……なんていうか、相変わらずねえ、アンタの所」

 

そう言いながら一番後ろに座っていた三人の内、アリサが立ち上がる。後ろの右の窓側から、なのは、すずか、与大和となって、なのはとすずかの前に僕とアリサという席順がいつしか当たり前になっているからです。

しかし今日はいつもと少し訳が違いました。アリサが立って動いている間にバスが動き出したんです。よろけて前に倒れそうになったアリサを僕は咄嗟に受け止めた。

 

「っと、大丈夫か?」

「だ、大丈夫……。その、ありがとね」

「どういたしまして」

 

まあ、これ位士郎さんに鍛えられている僕からしたら大した事無いけど、こんな狭い所でこけるのは危ないからなあ。こける前に何とか出来て良かった。

 

「ナイスキャッチだよ、八雲君!」

「うん、流石八雲君って感じだったよ」

「よき働きだ、我が半身よ!」

 

なんかめちゃくちゃ褒められた

誰だってこけそうだったら助けるでしょ普通。アスファルトじゃないから擦り傷とかは出来ないだろうけど、こけたら痛いし、打ち所が悪ければ大けがだし。それで今回は助けられるところにたまたま僕が居たってだけだし。

 

「僕としては当たり前の事をしたつもりなんだけど。そこに偶然居ただけだし」

「素直に褒められときなさいよ」

 

ホント、大した事やったつもりは無いんだけどなあ。

そう思いつつ、アリサが後ろの4人と他愛の無い話をしているのを耳にしながら、僕はいつもと変わらない海鳴の街並みを見ている。

僕は大体この時間でその日の夕飯の献立を考えているんだけど、今日はそれじゃなくて別の事を考えています。

それは、僕達みたいに魔導士である父さんが居るわけでない生粋の地球生まれのはずのアリサ、すずか、なのはの三人にリンカーコアがある事。しかも、皆一流になりうる位の大きさの物がです。

この事を僕が気付けた理由は父さん曰く「八雲の魔導師としての才能が100年に、いや1000年に一度と言えるくらい大きなものだからだろうね。無意識に魔力の流れを感じてしまうから気付けたんだろう。普通は結構精度の高い探知魔法が必要なんだよ」らしい。

僕としては魔導師として何かをしたいって事が無いから宝の持ち腐れだなあとしか思わなかったんだけど。ただ、新しく魔法を編み出して使ってみるのは楽しい。……この辺は科学者の父さんの血かなあ。

今の所、3人の魔法の資質の事を知っているのは僕と父さんだけ。普通に地球で暮らす分には魔法なんていらないし、知る機会もないから教えるつもりは無いけど、父さんが何があるか分からないという理由で三人のデバイスを作っています。使う機会が無ければいいんだけど……。

 

「……くも! 八雲!」

「んあ? どしたの、アリサ?」

 

僕の名前をアリサが呼んでたから返事を返した、そしたらアリサは呆れたように

 

「もう、学校着いたわよ。皆は先に行っちゃったから私達も行くわよ」

「マジか。ありがとな、アリサ」

「どういたしまして。ま、私もアンタの言う所の当たり前の事をやっただけよ」

「はは、こりゃしてやられたねえ」

 

自分からしたら当たり前でも誰かにこうやって助けてもらえるのって結構嬉しいねえ。1つ勉強になったよ。

 

「ここで話してて遅刻してちゃ意味ないし、行きましょうか」

「そうだな」

 

これが僕の日常と僕を取り巻く環境です。




簡単なキャラ設定。今回は八雲の追記と三人娘です。

八雲・スカリエッティ

本作のメインの語り手に就任した。
無意識下で膨大な魔力と桁外れの魔力回復で体を壊さない様に探知魔法、対魔法、対物理防御の魔法が常時発動している。

アリサ・バニングス

本作の八雲のヒロイン候補。
原作と違いリンカーコアを所持し、魔力量もなのはとほぼ同レベル。ただし本人は気付いていない。
現在進行形で八雲の事を意識しているが八雲自身がまだ恋愛感情そのものを持っていないので気付かれていない。
周囲は八雲とアリサの事を「秀才コンビ」と呼んでいる。(テストの順位が学年一位と二位の為)

高町なのは

原作主人公。
本作では作者の熱いユーなの押しでいずれ登場するユーノのヒロインの予定。
INNOCENTS要素として、一般的な運動は苦手な物の剣の腕前は中々の物。接近されても戦える魔王様。三兄弟とは同い年で小さい時から一緒なので幼馴染と言うよりほぼ兄弟みたいな物と言う認識。

月村すずか

どちらのヒロインにするか未定な子。
本作ではアリサと同じくリンカーコアを持っている。

無印突入前にもう一話考えています。


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第二話 八雲と水色髪の女の子と猫

前回の後書きで書いた後一話で無印本編に突入は無理ですね。思いつきの弊害です。


どーも、こんにちわ八雲です。ちょっと前に大和に「エイトクラウドよ!」と呼ばれて一瞬何のことか分かりませんでした。

ちなみにその後「……エイトって言ってるからクラウドは複数形じゃないの?」と突っ込で見たら沈黙で返されました。でも、雲って数えられなさそうだから複数形ってあるのかな? その辺、気が向いたら英語ペラペラなアリサに聞いてみよ。

と、それは置いておいて、僕は学校帰りほとんど毎日海鳴市立図書館に行きます。

その理由はまず、家から近い事。学校と家の通り道に図書館が有ります。それ以外にも総合病院も近くにあったりします。

次に近所のスーパーからも近い事。家から行くより少しだけですが近いんです。

最後にそのスーパーが毎日夕方の五時からタイムセールをやっている事。学校が終わるのが大体午後三時前後なので二時間ぐらい間があります。家でやりたい事や皆と遊ぶ時、買い物が無い時は兎も角、買い物がある日は図書館で時間を潰しています。

それに読書はお菓子作りと並んで数少ない僕の趣味ですし。料理? あれは完全に僕の家での仕事ですから。

今は学校から図書館の最短ルートにある公園を通り抜けています。この公園は大通りと大通りが交わる交差点にあるかなり大きな物で公園内の通り道的な遊歩道を除けば全面芝生で、木もたくさん植えてあるから自然豊かな公園って感じ。週末になるとピクニックに来た人たちで賑わうしね。

公園の中の道も半分過ぎた頃、遊歩道の端っこの方で木を見上げている同い年くらいの女の子が居た。それだけならあんまり気にならなかったんだけど、若干おろおろしていたから気になった。

 

「どしたの?」

「えっ⁉」

 

僕が突然話しかけられた事に驚いたのか、その女の子は僕の方を向いた。赤い瞳に水色の髪の可愛い子。僕の幼馴染三人も抜群に可愛いけど、この子も引けを取らないレベル。

ただ、気になるのは何故かこの子も僕の幼馴染達と同じでリンカーコアを持っている事。……いつから海鳴市は魔導師の卵が何人も居る街になったんだ?

っと、それは置いておいて話を戻そう。

 

「あっ、いや、歩いてたら何か困ってたようで木を見上げてたからさ、気になって」

「そうなんだ。アレを見て?」

 

彼女の指を差した方を見ると木の上には三毛猫が一匹。

 

「あの猫がどうしたんだ?」

「怪我をしてるみたいで降りられないみたいなの」

 

良く見ると確かに右の前足の毛が少し変な感じで切れている。血は止まってるみたいだけど。上の方を見てみると折れた枝が二つくらいある。

多分上の枝が折れて落ちたあの猫が今いる枝に落ちるまでの間にもう一つの枝に引っかけてそれで怪我をしたんだろう。……大体三メートル位か。これ位なら楽勝だね。

 

「ちょっとこれを持ってて」

「う、うん」

 

僕は背負っていたランドセルを下に置いて、制服の上着を彼女に預けてから僕はその木に登った。するすると登っていって、その猫のいる枝まで来る。

 

「よし、良い子だからそのまま動くなよ……」

 

慎重に近付いてその猫を抱き上げる。猫の抱き上げるのと撫でるテクニックはすずかの家で磨き上げたから野良猫でも腕の中で暴れたりしない。

おっ、この子、男の子じゃん。三毛の男の子ってかなり珍しいんじゃなかったっけ? ま、とりあえず降りますか。

僕はその場から飛び降りる。

 

「よっと」

「うわっ、いきなり降りて来て、ビックリした~」

「ゴメンゴメン。さ、お前ももうあんなドジするなよ~」

 

下に降りてからその猫を離してやる。その子は普通に走り出していく。

 

「怪我大丈夫かな?」

「大丈夫だろ。血は止まってたし」

「良かった~」

 

猫の無事にほっとした様子。とりあえず一段落かな。

 

「ありがとね。私だけじゃどうしようもなかったから」

「どういたしまして」

「あっ、そうだ制服返すよ。それで、これって聖祥大付属小の制服だよね。私の幼馴染やお父さんの友達の娘さんも通ってるんだ~」

「へえ。ひょっとしたらその人達と会ってるかもね。なんていう名前なの?」

「私の幼馴染がアリサって子でお父さんの友達の娘さんがなのはって子。知ってる?」

 

……偶然だけど、僕の幼馴染にも同じ名前の女の子がいるんだけど、同じ名前の子だよね? 一応確認してみようかな。

 

「アリサ・バニングスと高町なのはなら知ってるけど」

「その二人! 友達?」

「うん、小1からずっとクラスメイトで友達だよ。なのははもっと前から知ってるけど」

「ひょっとして、アリサの言ってた、三兄弟の男友達って君の事?」

 

アイツそんな話別の学校の子と話してたのな。……そういや、自己紹介してないな。

 

「僕は八雲・スカリエッティ。聖祥大付属小の三年生でアリサの言ってた三兄弟の長男だよ。よろしく」

「へえ……君が。私は更識刀奈。海女(うみじょ)の四年生だよ。よろしくね八雲君。あっ、敬語は要らないし、名前で良いよ」

「分かったよ、刀奈」

 

海女、正式名称は『海風館女学院(かいふうかんじょがくいん)』は海鳴市、いやこの地域でも有名な小学校から小中高一貫の女子校。所謂『お嬢様学校』だ。名門校と言う意味で海鳴市の二大名門校とも言える。桃子さんに聞いた話だと「教育ママはこの二つの入学を目指すのよ」って言ってた。

ちなみに、アリサ達三人が聖祥大付属を選んだのは単純に近いかららしい。

 

「海女ってここから少し遠くない?」

「今日はお母さんの誕生日で翠屋にケーキを取りに行く途中だったんだ」

 

僕は海女と翠屋の位置関係を思い浮かべる。確かに通り道だね。

 

「それなら、もうちょっとしたら翠屋混むから早めに行った方が良いよ」

「そうなの⁉ それじゃ、私はもう行くね! またね、八雲君!」

「うん、またね」

 

駆け出していく刀奈の後ろ姿を見送った後、僕も当初の目的通り図書館に向かう。

しかし……なんで海鳴市にはこんなに魔法の素質、リンカーコアの所持者が多いんだろ?




キャラや本作独自の設定です

八雲・スカリエッティ

家計を握る彼は節約の為にタイムサービスをフル活用する。その技術は主婦ばりで近所の奥様の人気者。この世界観でアイマスがあるなら、間違いなく好きなアイドルは高槻やよい。
運動神経も抜群。
アリサとすずかの家で犬猫の撫でるコツを掴んだので、遊びに行くと犬や猫に囲まれる。本人は動物好きなので超ハッピーらしい。

更識刀奈

ISの登場キャラで本作の八雲のヒロイン候補。
本作独自の設定でアリサとなのはの幼馴染。(ただし二人は知らない)そして、魔導師の素質を持つ。
現状は八雲の事を「幼馴染で親友のアリサの好きな人で、お人好し」という印象。しかし、恋の花の種はもう植えられた模様。
登場させた理由は本作の一話を書いている時に大学の友人が実家の事情で一人暮らしを終えて実家に帰る際に引っ越しの手伝いをしたら、猫の刀奈のフィギュアをお礼として貰ったから。

海女(海風館女学院)

刀奈を出すためだけに考えられた学校。同じ学校でも良いかなと思ったけど、何か違う気がしたので即興で誕生。

次回は八雲と言えば、なあの子が登場します。


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第三話 図書館にて

いよいよついにあの子の登場です!


どーも、皆さんこんにちは、八雲です。

刀奈と別れた僕は図書館にやってきました。

図書館の入口にある時計を確認したら四時を少し過ぎた所。大体三十分ぐらいあるから……一冊読めるか怪しい所かな。まあ、途中になったら借りればいいし。

何を読むか探しながら歩いていると、高い位置の本を取ろうと本棚に手を伸ばしている車いすの女の子を見つける。僕はその女の子が取ろうとした本を取って手渡した。

 

「これで良いか? はやて」

「うん、ありがとうな、八雲君」

 

彼女は八神はやて。僕が小学校に上がる少し前の頃にこの図書館で出会って、それから週に2、3回くらいここで会っている。僕と同い年なんだけど、車いすに乗っているので分かる通り体が悪いらしく、学校には行かず、通院と入院の繰り返しで、病院の帰りにここに寄っているとの事。

 

「そういや、ちょっと前にすずかちゃんに会ったで。今日は本を返しに来ただけやったみたいやけど。八雲君、遅かったけどなんか有ったん? 同じクラスなんやろ?」

 

僕が小学校に上がってすずかと知り合って少しした後、僕とはやてが話していた時に偶然出会ってそれ以来二人も友達になった。

 

「今日、放課後の掃除当番だったのと、来る時に木の上から降りられなかった猫を助けててね」

「へえー。しかし、よく木の上の猫なんて気付いたなあ。にゃーって鳴いてたん聞こえたん?」

 

手首を猫っぽく曲げてそう聞くはやて。

 

「いや、その木の下で見上げてた女の子が居てさ。何かって聞いたらそういう話だったんだよ」

「なるほどなあ。うん、八雲君らしい」

 

……最近思う事がある。それを聞いてみよう。

 

「あのさ、『僕らしい』って何? よく言われるんだけど」

「うーん、見える範囲の困った人を見逃せず手助けする、優しい所ちゃう? 今日の事もそうやし、私と会った事もそうやん?」

 

僕としては目に入った困った人を見逃すのって気分が悪いし、手助け出来る事なら手助けする物だと思ってるし、自分では大した事じゃ無くてもお礼の一つ言われたら気分も良くなるからとかそんな理由なんだけどね。

 

「確かにそれは否定できないなあ。なるほどね」

「まあ、人から見たらお人好しってとられるかもやけど、私はそのおかげで八雲君と出会えて、お話しするようになって、友達になれたからええ事やと思うで」

 

はやての言う通り、僕がこういう性格じゃ無かったら、今の様にはやてと当たり前に話せなかっただろう。今日の刀奈の事も同じ感じ。もっと言うとアリサやすずかと仲良くなったのってアリサがすずかにちょっかい掛けてたのをなのはが止めようとして始まったアリサとなのはのケンカを止めたのが切っ掛けだったし。

……思い返すと全部僕のお節介から始まってるなあ。

 

「それもそうか。なんか納得した」

「そりゃ良かった。……私は八雲君に一杯いろんな物貰とるから、少しは力になれて嬉しいよ」

「僕、なにかはやてにあげたっけ?」

 

全然記憶に無い。……誕生日にクッキー渡した位かな。

 

「さっき私が言った事って全部八雲君がくれた物やで? すずかちゃんと友達になれたんも、今こうやって楽しい時間を過ごすのも、全部八雲君のおかげやもん。そうじゃなかったら友達なんておらんだやろうし……」

 

そのはやての言葉にむかっと来たから俯き気味だったはやてのおでこにデコピンを食らわす。

 

「痛っ!? なにすんの!」

「はやてが勝手にネガティブってるのが悪い。確かにさっき言った事は全部僕切っ掛けだったけどさ、その後、僕に話しかけてきてくれて楽しい時間を過ごせるようになったのも、すずかと友達になれたのも、全部はやてが自分で頑張ったからだろ」

 

僕の一件は一回目は確かに僕が助けたからだけど、二回目は僕を見かけたはやてが話しかけて来てお礼という事で手作りのカップケーキをくれた。本格的にここで会ったら話すようになったのはその日からだった。

すずかの事もすずか本人が「この前、はやてちゃんから話しかけて来てくれたんだ。はやてちゃん、本の趣味が合うから話してて楽しいよ~」って言ってたからね。

 

「そうなんかな?」

「少なくとも僕はそう思うよ。それにネガティブに捉えてても気分が落ち込むだけだからね。ポジティブに行かないと」

「……せやね。ネガティブっとってもええ事なんて何もあらへんよな。うん! ポジティブに行くわ」

「その方が絶対良いよ。それにやっぱり女の子は笑顔の方が断然良いと思うし」

 

僕がこう思うのは無くなった僕達の母さんがいつも明るく笑顔がとても印象的で素敵な人だったからだと思う。父さんも母さんの好きな所で真っ先に笑顔って答えるし。

 

「そ、そう?」

「そりゃ、暗い顔見るより笑顔の方が誰でも気分良いでしょ」

「あー、せやね……」

 

同意を示すものの何故かはやてはがっかりした様子。何で?

このはやての反応は気になる所なんだけど、スーパーのタイムセールの時間が迫っていた。

 

「悪いはやて、今日はもう帰るよ」

「タイムセール頑張ってな~」

「もちろん。家計が掛かってるからね」

 

僕を笑顔で手を振って見送ってくれるはやてにそう返事して僕は図書館を後にした。

しかし……なぜ、僕が知り合う女の子達は軒並み魔導師の資質を持ってるんだろ? これはアレか? 大和が読んでたマンガの言葉を借りるなら『魔導師は引かれ合う』って事なのか? もし、そうなら厄介事確定って事じゃん。

まあ、そうなったら僕の見える範囲、出来る範囲で色々やっていこう。




今回のお話関連のキャラ紹介です。

八雲・スカリエッティ

基本的にはお人好しで困っている人をスルー出来ない。
趣味の一つは読書。煮込み料理を作る時にキッチンに椅子を置いて様子を見ながら読むのが基本。

八神はやて

八雲のヒロイン筆頭候補。
本作では小学校に上がる前に八雲と出会っているので一番付き合いも長い。趣味の読書や料理で話が弾むので、仲もかなり良好。
すずかとは親友で八雲についても相談している。(すずかはアリサの気持ちも知っているので、相談に留めて、どちらの後押しもしていない)
八雲への好意は自覚しており、八雲が鈍感なのも察している。

次回から無印編突入の予定です。


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第四話 助けを呼ぶ声

無印編開始です。


どーも、大和・スカリエッティっす。

えっ、あのしゃべり方はどうしたかって? あれは俺自身カッコいいと思うんだけど、他の人の評判があまり良くないんす。

意図的にやっているから、真剣な会話をすると普通の喋りになってるっす。

それはそれとして、今は学校からの帰り道。俺はなのは、アリサ、すずかの3人と一緒に歩いている。

兄貴が居ないのは、昨日遅くまで起きていて宿題を入れ忘れるというミスをしたから。

 

「しかし、兄貴が忘れ物するとはなあ」

「アイツだって忘れ物の一つや二つくらいするでしょ」

「それはそうなんだけどね~」

「八雲君はなんでもちゃんとこなすイメージがあるからびっくりしたの」

 

なのはの言葉は一理ある。なんでもちゃんとこなせるから兄貴に頼ってしまう事が多い。兄貴も頼られる事が嫌いじゃないから、それをほいほいと受けてしまう。昨日遅くまで起きていたのもそういう所が原因だった。

そんな事を考えていると、

 

『……助けて……』

 

そんな言葉が頭に響いた。これは……念話? この近辺で魔法を使えるのは俺と兄貴、父さんだけのはずなのに、一体誰なんだ? 周りを見回してみるけど、それっぽい人影は見つからない。これだけでも驚きなのに、

 

「アリサちゃん、すずかちゃん、今何か聞こえなかった?」

「うん、聞こえたよ!『助けて』って」

「私の気のせいじゃなかったのね! 行きましょ!」

 

アリサの言葉で三人は進み始めた。何故か三人にも聞こえていたらしい。

……いや、なんで?

 

『いったいどういう事なんだ、武蔵?』

 

俺は考えがまとまらず、相棒であるインテリジェントデバイス『武蔵』に念話で話しかけた。

 

『普通に考えればお三方がリンカーコアを持っている、という事でしょう』

『まあ、そういう事なんだろうけどさ。……そういう事ってありうるの?』

『稀に、自然発生的にリンカーコアを持った子供が生まれる事はあります』

『じゃあ、それが同じタイミングで三人も近所で生まれる事は?』

『天文学的な数字の確率でしょう。まさに奇跡です』

 

父さんはよく「たとえ成功する確率がかなり低くとも0でない限り起こりうる」と言ってたけど、この事もきっとそんな感じ。あり得ないくらい低い確率だけどあり得た。

 

『兄貴は気付いてたと思う?』

『恐らくは。事魔法に関しては天才、奇才ですから』

『言わなかったのは……言う必要が無かったからだろうな。俺は隠し事が下手だし』

 

普通に地球で暮らしていたら魔法なんて全く必要ない。知らせて何か起きるくらいなら知らせない方が良いと思ったんだろう。

俺に言わなかったのは、口は固いけど、何かある事が顔に出る事をよく知っていたからだと思う。

兄貴がどれだけ隠し事が上手いかというと、去年の冬風邪をひいて40度を超える高熱でもいつも通り生活しようとしていた。その時、父さんはちょっと用事があって次元世界の方に居て、一緒に暮らしている俺は全く気付かなかった。

ちなみにその時はアリサが一発で気付いて学校ついて早々保健室送り、さらにそこから先生の車で病院に直行だった。

そんな事を思い出していると前を行っていた三人に追いついた。そして、なのはの手にはなんか動物。

 

「なあ、それなんて動物だ?」

「フェレットだよ、大和君」

「結構怪我してる……」

「病院に連れてかないと!」

 

アリサの言葉に俺達はうなずいて速足で近所にあるというすずかの家のかかりつけの獣医さんの所に向かった。

 

 

獣医さんの所に寄った後、三人は塾に向かい、俺は家への帰り道を歩いていた。

 

『あれは……使い魔なのか?』

『いえ、地球の魔力とうまく適合が出来ない状態で魔力を使い過ぎたので消耗を減らすためにああなったのでしょう』

『怪我もしていたみたいだし、魔力や体力消費を抑えるための省エネモードって事か。って事はあのフェレットは人間なのか?』

『ええ。なので、フェレットとは少し違います』

 

そう言や獣医の先生もそんな事言ってたなあ。そういう事もあるのかって思ってたけど、フェレットじゃなかったんなら納得できる。

 

『それで、この後どうしますか?』

『まあ、何かあったら動く。難しい事は考えても分かんねえし』

 

サッカーやってて、色々対戦相手の情報貰って考えてプレーをするんだけど、今一上手くいかない。だけど、自分の勘で動いた方が上手くいく。

多分、今回もどういう事がありそうだとか考えちゃうと上手くいかない気がする。事が起こったら動く。その心構えだけあれば良い。

 

『まあ、色々している兄貴にはばれねえようにしないとなあ』

『了解しました』

 

すぐにばれる気がするけど、それでもいきなり頼りにするんじゃなくて出来る事はやってかないとな。



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第五話 兄、動く

ちょっとしたオリジナル要素が出てきます。


どーも、八雲です。

なんか家に帰ると大和がこそこそやってます。まあ、困ったら相談に来ると思うからそれまでは気に掛ける程度のスタンスで行きます。

 

 

 

そう思ってたんだけど……

 

『僕の声が……聞こえる方……お願いです……力を貸してください』

 

頭の中に響く声。

そして、大和が動き出しているのが分かる。

 

「羽々斬、サーチャーでアイツを追跡しといて」

『了解』

 

相棒に弟達の監視を任せて、僕は父さんの書斎に向かう。

父さんは普段ここか、研究室に居る。判断の方法は物音がうるさい時が研究室、静かな時が書斎。今日は静かだったから書斎に居ると判断した。

 

「ん? どうしたんだい?」

「どうやら、大和がなんか事件に首突っ込んだみたいだよ」

「ふむ……管理局にいる友人から、地球にロストロギアが落ちたかもしれないと聞かされているが」

「それに関わってる可能性が大きいね」

 

……ちょっと待てよ。アイツの様子が変わったのに気付いたのは僕が帰って来てから。って事は首を突っ込むきっかけになったのは学校の帰り道。大和はアリサ、すずか、なのはと一緒に帰っていたはずだ。

 

「父さん、ひょっとしたらあの三人も関わってくるかもしれない!」

「あの三人と言うのは、なのはちゃん達の事かい? 何故そう思うんだい?」

「父さんにもさっきの念話聞こえたでしょ? もし、あの念話と大和の隠し事が結びつくとしたら、その隠したい事って言うのは今日の帰り道で何かあったとしか思えないんだ。それで今日の帰りは三人と一緒だった」

「なるほど、三人も魔法の素養があるから首を突っ込んでる可能性が高いと。しかも、大和と違って魔法を知らないからより危険だという事だね」

「……こんな事なら、三人に言っておいた方が良かったかな?」

 

ロストロギアは総じて危険な物が多い。それに巻き込まれるのなら僕が気付いた段階で話しておけば少なくとも自衛の手段を用意できたはずだ。だけど、僕は無理に教える必要はないと思って教えなかった。

……違うな、僕は怖かったんだ。友人と思っているアリサ、すずか、なのはにこの世界にはありえない力を持つ自分を知られる事が。

俯いている僕に父さんはいつの間にか近付いてきていて、僕の頭をなでながら、

 

「八雲の判断は彼女達の事、弟達を考えた最善の判断だったと私は思うよ。さて、我が息子はこの事態、どうやって動くつもりかな?」

 

そう言ってくれた。父さんの言葉で暗い気持ちも少しは晴れた。……後で、皆にも謝らないとな。

 

「やれるだけの事をやるよ。友達曰く『見える範囲、手の届く範囲で困っている人を放っておけないお人好し』らしいからね」

「ははは、八雲の事を的確に捉えているね。その子は八雲の事を良く見てくれているんだね」

 

父さんにもそう思われてたのね。まあ、良いんだけどさ。

 

「そんじゃ、僕らしく動いてくるよ」

「いってらっしゃい」

 

 

 

私は息子の後ろ姿を見送った後、電話を取った。電話を掛けるのは高町家。

 

『もしもし、高町です』

「やあ、士郎」

『ジェイルか。こんな時間にどうしたんだ?』

「単刀直入に言う。なのはちゃん達が魔法に関わった可能性がある」

 

実は私は高町家、月村家、バニングス家に既に魔法の事を言ってある。子供の事について知っておくのは親の責任だと思ったのと、もし何か起こってから実は……と話すより、あらかじめ話しておいた方が混乱が少ないと考えたからだ。

 

『……それは本当かい?』

「十中八九は。私はほとんどありえないと思っていたが、まさかこういう事態になるとはね。ああ、なのはちゃんを叱らないでやってくれ。知らなかった事だし優しいあの子達だからこそ起こった事だから」

 

あの声が理由だとしたら、好奇心も少しはあるだろうけど、それよりも彼女達を動かしたのは優しさだと私は思う。それはあの子達の美点なのだからそれを摘み取るべきではないと私は考える。

 

『どういう事だい?』

「以前話した魔法の一つの念話という物で助けを求めてきた者がいるんだよ。ウチの下の子が今日帰って来てから八雲や私に心配をかけないために何か隠しているのと、資質を持った五人が一緒に帰っていた事を考えるとね」

『なるほど。今晩そちらに桃子と一緒に向かう。詳しくはその時に聞くよ』

「分かった。私はこれから後の二人の家にも連絡を入れるよ。では、また明日、義兄さん」

 

そう言って電話を切る。

そう、私の妻、樹里・スカリエッティ、旧姓不破樹里は高町士郎の二人いる妹の一人。つまり、私の息子三人となのはちゃんは従兄妹同士になる。樹里の実家の家伝の剣術、御神流を息子達が習っているのはそれが理由である。

根っからの研究者の私には剣術の事は分からないが、最愛の妻の腕前はかなりの物だったらしい。そして、それは八雲と大和に色濃く受け継がれている。特に大和は「修行に打ち込むひたむきさ、努力を確実に実力に変えて行けるのは樹里の子供の頃を思い出すよ」と士郎が言っていた。

ちなみに八雲の驚異的なまでの要領の良さは樹里や士郎の祖父で不世出の天才剣士と言われた不破源蔵の物じゃないかと言っている。

今回の一件で彼女が息子達に残した血が、息子達が打ち込んできた事が、皆が怪我無く帰ってくる事に繋がると私は信じる。

 

「あの子達を護ってやってくれ、樹里」

 

信じてはいるが子供を心配するのは親の性。天国の樹里もそれは変わらないはずだ。




次回、ジュエルシード事件、初戦です。


八雲・スカリエッティ

相棒は日本刀型になるインテリジェント・デバイス『羽々斬』。余剰魔力を様々なサポート魔法に変え、制御している。

樹里・スカリエッティ

旧姓不破樹里。本作のオリジナルキャラクターで故人。高町家とスカリエッティ家の繋がりを作りたくて作ったキャラクター。血は繋がっていないが士郎の妻桃子に似ている(士郎、ジェイル談)

ジェイル・スカリエッティ

士郎の義弟でなのはたち高町家の子供は甥、姪の関係に当たる。


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第六話 対決! ジュエルシード

対決編です。


ども大和っす。

念話を聞いて家を飛び出したけど、兄貴相手に上手く誤魔化せたかねえ……。

 

 

それはそれとして、今はピンチなんだよなあ。

そうなったのは少し前に戻る。

 

 

大きな魔力反応と助けを呼ぶ念話を感知した俺達は兄貴と父さんにばれない様にそれぞれの部屋の窓から外に出て、バリアジャケットを纏って飛び立った。

あのフェレットを預けた動物病院に付くと、既に三人が居たんだけど……。

 

『あの黒い玉、何?』

『……検索完了。アレは魔力の塊ですね。多分、核に高魔力の何かが使われてるんじゃないかと』

『ますます、兄貴なら楽勝そうな相手だな……って、マズイ!』

 

敵は触手っぽいのを勢いよく伸ばして三人に襲い掛かる。

俺は一気に下りて、相棒であるブレードに魔力を纏わせながらそれに振り下ろす。

 

「蒼牙刃!」

 

なんとか攻撃が皆に届く前に断つ事が出来た。

 

「大和君……?」

 

フェレットを抱えているなのはがそう聞く。

 

「そうだぜ。怪我無いか?」

 

出来る限り普通に挨拶をする。……不安そうな三人を少しでも安心させるには普段通りな俺達で居る方が良いだろ。

 

「って、何でアンタ達、空を飛んでるのよ!」

「その辺は後で説明する。兄貴か父さんが」

 

ってか全員の家族を呼んでの話し合いだろうな。大事っぽいし。

 

「ふ、二人とも! 話してる場合じゃないみたいだよ!」

 

すずかがそう言いながら指を差している方向を見ると、黒いのが分かれていた。……ひょっとして

 

「俺が斬ったから?」

『だと思われます。マスターとの相性は最悪ですね』

 

もうばれても良いと思ったのか、俺の言葉に通常音声で返す武蔵。

斬撃系全般と相性が悪いとなると、俺の魔法は剣に魔力を乗せて発動させる物ばかりだからなあ。与市はサポート特化だから、こりゃ、ピンチだ。

 

「そこのフェレット! 何か案は無えのか?」

「えと、これを三人の誰かが使えばあるいは……」

 

そう言って、フェレットは首に提げていた赤い玉をくわえる。何だあれ?

 

「ひょっとして、デバイス?」

『でしょうね』

 

ぶっつけ本番だけどそれで打開するしか無えのか……。不甲斐ないな、クソッ。

 

「とりあえず俺達が押さえとくからとっととやってくれ!」

「わ、分かった!」

 

 

 

というやり取りがあって、今は黒い奴の攻撃を俺と与市の防御魔法で防ぐ。だーっ、こんなんだったら兄貴相手に魔法の練習しとくんだった!

俺は相棒である武蔵の峰で攻撃を払いつつ防御魔法を併用して黒玉の攻撃を防いでいく。

後ろでなのはが始動キーを言っているのを聞きながら、そこまで通さないように動くのはゴールキーパーみたいだ。俺、チームではフォワードなんだけど。

 

「これならいけそうだな」

「大和、それフラグ」

 

与市が俺の言葉に突っ込んだら、攻撃が激しくなった。それと、軽口を叩けるくらいには油断もしていたから、一発抜けてしまった。その攻撃はアリサの方に向かう。

 

「アリサ、伏せろ!」

「えっ⁉」

 

いきなりの事で反応できないアリサ。どうやっても間に合わねえ!

 

「……誰に手出そうとしてるのかな?」

 

その言葉と共にアリサと攻撃の間に人影が入ってくる。その人影は攻撃を素手で受け止め、そこから燃やしてしまった。その人影は俺達の良く知る人物。ってか、兄貴だった。登場がかっけえ!

 

「や、八雲……?」

「正真正銘の八雲さんですよ~。アリサ、怪我は無い?」

「アンタのお蔭で私は大丈夫よ。……アリガト」

「そりゃ良かった。そこに居る小動物もどき君!」

 

アリサの様子を聞いた後、兄貴はあのフェレットに話しかけた。……しかし、もどきって言ったって事は兄貴もあれの正体に気付いているって事だよな。

 

「あのロストロギアの特徴を簡潔に教えて」

「は、はい! あれは大魔力を撃ちこむか、封印魔法を使う事で再封印できます!」

「だけど、斬撃系は駄目だったぜ。そのせいで数増やしちまった」

「ふーん。OK、とりあえず吹き飛ばせばいいんだな。来い、爆炎! 燃やし尽くせ! バーンストライク!」

 

兄貴の詠唱の終わりと共に、空から降って来た火の玉は黒い奴に当たり、爆発した。爆炎が晴れるとそこには黒い玉は無くて、綺麗な宝石みたいなものが浮かんでいた。……一撃とか、流石は兄貴だぜ。

 

「こんなものかな。後はよろしくなのは」

「ええっ、私⁉」

「彼が持ってたものだし、多分、その杖にあのロストロギアを保管する何かがあるんじゃない?」

「はい。後はレイジングハートで触れれば良いだけです」

 

フェレットの言葉を聞いて、俺は張っていた力を抜く。あっ、そうだ

 

「兄貴……」

「ん、何?」

「黙って勝手に出てきてゴメン!」

「ま、僕にも皆と同じであの声が聞こえてたから、理由は分かってたし、むしろ動かなかったら殴ってるけどね。それに、怒るのは父さんの仕事だしね」

「げっ、兄貴、父さんに言ったのかよ!」

「小学生がこんな時間に出るんだから、親に言うのは当たり前だろ」

「……おっしゃる通りです」

「それじゃ、全員僕の転移魔法でご案内だよ」

 

……全員? まあ、女の子だけで帰らすわけには行かないよな。

 

「兄貴、皆家を経由するより、それぞれを家に送って行く方が良いんじゃねえの?」

「何勘違いしてんの? 父さんが念話で3人の家の人に来てもらって事情をちゃんと話すって言ってたから全員我が家に来るんだよ」

 

あっ、なるほど。だからウチに行くのな。

 

「という訳で、4人仲良く怒られなよ~」

 

その時の兄貴の笑顔は殴りたくなる位良い笑顔だった。




という訳で、ジュエルシード事件、無印編スタートです。今作は劇場版及びマンガ『original chronicle魔法少女リリカルなのはThe 1st』を参考にしつつオリジナル要素も入れていきます。

大和・スカリエッティ

キャラはすでに崩壊しかけ。
デバイス名は『武蔵』で八雲と同じく日本刀型。



次回は変わった日常をご紹介する話になります。


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第七話 変わった? 日常

繋ぎのお話です。


どうも、八雲です。

ロストロギア関係の事件が起こってアリサ達に魔法がばれました。その後すぐに彼女達の保護者に父さんと当事者の小動物君改めユーノが事情を説明しました。そこから僕達の日常は変わります。僕達六人はユーノに協力する事に決めました。

 

 

 

朝。僕は朝食とお弁当の準備があるから朝5時に起きて、大和は7時~7時半くらいに起きていたけど、

 

「兄貴、行って来るぜ!」

「はいよ。車には気を付けろよ~」

 

最近はアリサ、すずか、なのはの三人との早朝の魔法の練習の為に5時半には起きるようになりました。ちなみにユーノも家に居て、皆の魔法のコーチ兼父さんの助手的な事をしています。

僕がこの練習に付き合わないのは家事があるのももちろんなんだけど、僕の魔法が皆の使うミッドチルダ式とは違うからっていうのもある。何故違うのかは父さんにも分からないし別に何か影響がある訳でもないから気にしては居ないけど。

僕が皆の魔法と決定的に違うのは色。一応、僕もミッド式みたいな射撃系統の魔法も出来るし、僕個別の魔法光の色もある。だけど、僕の魔法は発動させる魔法の属性によって色が違う。一応、法則性を見つけて色の数から僕は『オクタゴン・エレメント』と名付けた。

いかにもファンタジーっぽい魔法ばっかりだったからやたら大和には受けたっけな。

二人にもその欠片と言うか、一部はあるらしく、大和は剣にいくつかの属性が付く。

ちなみに父さんはいたって普通のミッド式の魔導師。父さんに言わせると「恐らく、私達のご先祖様からの隔世遺伝じゃないかな。つまり、今の魔法が確立するかどうかの古い時代の失われた物の可能性があるね」との事。

魔法の分類って言うのは小さい頃、僕の魔法が大和とは違う事を知ってから父さんに習った。

今、最もポピュラーなのが現代の次元世界発祥の地で中心地発展した所から取られたミッドチルダ式。次いで多いのが現在でも様々な文化を残す古代ベルカの魔法が時代に合わせて変化した近代ベルカ式。おおよそこの二つの方式らしい。そこに古代のベルカの技をそのまま引き継ぐ人が居たり、各管理世界独自の魔法だったりがあると教えてくれた。

事、知識という一点に置いては「どんなものがいつ必要になるか分からないから」という理由で蒐集している父さん。もちろん、各世界の魔法も大半を知っているけど、僕のはどの世界の物にも当てはまらなかったらしい。

まあ、僕は「人とはちょっと違った魔法を使える」くらいにしか捉えていないけど。

 

「よし、全部終わり! さて、迎えに行くかな」

 

朝ご飯には帰ってくるというけど、皆熱中していて時間を忘れそうだから僕が迎えに行っている。まあ、僕は転移魔法が使えるから一瞬で移動できるし、これ位は手間でもなんでもないから良いんだけどね。……多用していると運動不足になりそうだから急ぐ時くらいにしか使わないけど。

 

 

 

学校の授業中は僕は特に何か変わったわけじゃないけど、皆はこういう時間を使って魔法の基礎であるマルチタスクの練習をしている。アリサやすずか、なのはは分かるんだけど、何故か大和もやってるんだよなあ。まあ大和は基本的に一点を突き詰めていく方が向いているのと、同時期に士郎さんという剣術の師匠の所に通い出したっていうのもあって疎かになってたから良い機会ではあるかな。

放課後も皆で集まれる時は魔法の練習。こっちは僕も出来る限り参加してる。と言っても夕飯の用意だったり買い物だったりで最初の方しか付き合えないんだけどね。

……あれ? 他の皆は兎も角、僕に関してはあんまり変わって無くないか? まあ、たとえ何があっても日常生活に必要な物は変わらないって事だね。

 

「八雲、アンタ前からの約束覚えてる?」

「覚えてるよ。明日、授業が午前までだから午後から温水プール行こうって奴だろ?」

 

この事件に飛び込む前からの遊びに行く約束。僕自身楽しみにしていたから忘れるわけない。

 

「準備とかは大丈夫?」

「大丈夫。去年の水着引っ張り出しただけだけど。後は、時間が時間だから明日の朝にお昼を作るだけだから期待しててよ」

「お母さんか!」

「いーじゃん。泳いだらお腹空くし」

 

素手でも行ける様なおにぎりとかサンドイッチが良いかな~。おかずも爪楊枝で刺して食べれるようなものにすれば良いかな。

 

「……まあ、そうね。楽しみにしてるわ」

「はいよ。おっと、もうこんな時間だ。明日のお昼の分も買いたいし、僕は先に帰るよ」

「また明日ね」

「大和、ユーノ、夕飯までには帰ってこいよ~」

「はいよ!」

「気を付けとくよ」

 

三人の返事を聞いて僕はのんびりスーパーに寄りつつ帰る事にした。

……あっ、さっきの言葉みたいなのがアリサのツッコミを引き出してたのな。今さらだけど。




今回はジョエルシードの一件が始まった事で少しだけ変わった日常を紹介するお話でした。


八雲・スカリエッティ

他の皆はかなり変わっている物の、唯一ほとんど日常に変化がない。最も変わった事はご飯の用意が一人増えた事。
使用魔法はミッドチルダ式?

ユーノ・スクライア

原作と違いスカリエッティ家に居候をし、八雲以外の魔法の先生となる。


次回はアニメの無印サウンドステージ一巻のプールでのお話です。


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第八話 温水プールって凄い贅沢だと思う

ただ、温めの温泉なんじゃないかとも思ってしまいます。


ども、大和っす。

今日俺達はなのは、すずか、アリサ、ユーノ、なのはのお姉さんの美由希さん、すずかのお姉さんの忍さん、すずかの家のメイドのファリンさんとノエルさんと一緒に温水プールに来ているっす。

ウォータースライダーやら流れるプールやらがある所で俺達は思い思いに楽しんでる。

……燃費がいいからっていう理由でフェレットモードでいるユーノと早々荷物番している兄貴は楽しんでいるのか分からないけどさ。いや、兄貴は楽しんだか。俺と競泳で競争したし。

ちなみに結果は俺の勝ち。……なんだけど、兄貴は潜水で25メートル泳ぎ切ったから、速さで勝ってもあんま達成感無いんだよなあ。

 

 

そんな感じで各々楽しんでいたら、

 

『皆! ジュエルシードが発動してる!』

 

ユーノがそうやって知らせてくれるけど、突然過ぎて反応できないぜ⁉ デバイスも手元にある訳じゃないし。俺のは更衣室のロッカーの中だ。自分の身を守る事位なら出来るけど、せめてここに持ち込んだ荷物と一緒に持ってこりゃ良かったな。

そんな事を考えてたらプールの水面にやたらデカい水の化け物が現れた。……ジュエルシードってすげえなあ。

 

「「きゃああああ!」」

 

悲鳴が上がったからそっちの方に行くと、プールに居たアリサとすずかが水の化け物に捕まってた。なんだけど……

 

「コイツ、何なの⁉」

「脱がされちゃう……」

「やらしい動きすんなあ!」

 

……命の危険性はなさそうだな。ってか、あのジュエルシードを発動させた奴は何なの? どうしようもない変態なの?

 

「ってか、大和とユーノはこっち見んなあ!」

 

アリサからのお叱りの言葉で俺とユーノは慌てて目をそらす。

 

「なあユーノ、あれってどうなんだ?」

「多分だけどあのジュエルシードを発動させた人は捕まった更衣室荒らしなんじゃないかな」

 

……何だかなあ。ジュエルシードの暴走体が危ないのはこの前の一件で分かってるんだけど、これじゃない感が凄いんだけど。

 

「っていうか大和、デバイスは?」

「更衣室のロッカーの中。泳ぐ時に邪魔だと思って」

「……どうしようか?」

「……どうするかねえ」

 

今ここには捕まってる二人(アリサ、すずか)、攻撃性能が高くない魔導師(ユーノ)、デバイスの無いあまり役に立たない魔導師(俺)のみ。

今回のは攻撃性は低いから少し安心できるけど、このままにしておいても良いわけでもない。

 

「「きゃああああ!」」

 

再度悲鳴が上がったから、振り返ると、水着を剥ぎ取られた二人が水の化け物に投げ飛ばされてた。って、プールの外にそこそこの高さから投げられたから危ない! どっちかでも受け止めに行かないと! 間に合うか怪しいけど!

 

「……ったく、人が気持ちよく昼寝してたのにさ~」

 

転移魔法で現れた兄貴がそう愚痴を言いながらも水で出来た球体を作り出し、それで二人を受け止めた。

その後二人にタオルを渡すあたり、さすがは兄貴だなあ。

 

「兄貴はデバイス持ち込んでたのな」

「パーカーのポケットの中にね」

「その手があったか!」

 

兄貴もこういう事があると思ってたんなら言ってくれれば良かったのにさ~。

 

「大和、二人の事ちゃんと護ってろよ」

 

と振り向かずに言って水の化け物に相対する。

……やっぱカッコいいよ俺の兄貴は。俺の憧れだけあるぜ。

ウチの中心は間違いなく兄貴だ。

母さんが亡くなってから、一番立ち直るのが早かったのは兄貴だった。「母さんの変わりが出来るのは僕だけだから」と家事を一手に引き受けてそれを当たり前の日常にしていった。

冷たそうに思えるかもしれないけど、俺は知っている。一時期、兄貴は無茶をするようになって、夜一人で泣いていた事を。

俺達と話しているよりも恭兄と話している方がしっくりくるくらい大人びてるけど、兄貴は俺と同い年。ただ、母さん譲りの強がりで弱い所を見せない。父さんや士郎伯父さんには見せるけど、俺達の前では絶対に。その時期も少しずつその二人の力で元の兄貴に戻っていったと思うし。

俺としてはそれは少し寂しくて悔しい。だから、俺の目標は「兄貴に頼られるようになる」。それには兄貴に追いつけないとな。

 

「だーっ、プールに出来てやがるから再生してキリが無い! こうなったら、全部ぶっ飛ばす! エクスプロージョン!」

 

……アレを一撃で吹き飛ばすような兄貴に追いつけるのかねえ?




時系列的にはまだ4月の終わり位なのですが、そんな時期に温水プールって結構な贅沢ですよね。


大和・スカリエッティ

自慢の兄は目標。困難な壁程挑みたくなるタイプ


次回は少しオリジナルな話です。


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第九話 出稽古!

ここから何話かは出稽古編になります。まずは導入部。


話は変わりますが、年末という事で部屋の片づけをしていたら、やたらキャラクタースリーブが出てくる。しかも使ってない奴が。
そこで友人の言った「キャラスリはファングッツだから、好きなキャラのが出たら買っとけ。再生産は無いし」という言葉を思い出しました。今日もFEのアイクとミスト、アイマスのクリスマスと晴れ着のを買ってきまして、20個近くあります。
来週もアイマスとモバマスのを買う予定ですし。
何が言いたいかと言うと……この作品のヒロイン候補の子達のスリーブを出してください!



どうも八雲です。

ハプニングもあったけど、概ね楽しかったプールに遊びに行った日の翌日、僕は大和と恭也さんと一緒に士郎さんの車で士郎さんの友人の方の家に向かっています。その家の方も古流武術を代々継いでいる方なので所謂出稽古って奴です。

こういう流れになったのは実は僕が理由らしいです。

ここ2~3週間ほどスランプ、不調に陥っていて、今まで勝ち越していた大和にめっきり勝てなくなった。確実に大和の腕が上がっているのもありますが、どうも自分の感覚が狂っていて大和の攻撃が避けられない。だから、ジュエルシード戦で大和に前衛を任せて魔法のぶっ放しばかりしているんだけど。

 

 

「でっけえなあ……」

 

件のお宅に到着した大和の一言目がこれだった。

確かに大きい。我が家も高町家も一般家庭という事も考えると結構な大きさだと思うけど、そんなの目じゃない程の大きさだ。ぶっちゃけ規模ならアリサとすずかの家に匹敵するかも。

 

「恭也、二日振りだね」

 

門の前に立っていた男の人が恭也さんに話しかけた。

 

「そうだな。八雲、大和、紹介するよ。こいつは布仏実。同級生だ」

「初めまして。八雲・スカリエッティです」

「大和・スカリエッティっす」

「僕は布仏実。この屋敷で代々従者をやらせてもらってるよ。よろしくね八雲君、大和君」

「「よろしくお願いします!」」

 

恭也さんと実さんの関係って僕達となのはみたいな物かな? あ、でも僕達となのはって親戚だから少し違うか。

 

「実君、楯無は道場かい?」

「はい、旦那様は朝から準備していましたので」

 

実さんの案内で僕達は屋敷の中に入る。

従者っていうのは、アリサの所の鮫島さんやすずかの所のノエルさん、ファリンさんみたいな人って事かな?

 

「あれ? 八雲君?」

 

初めてきたはずのこの家で何故か僕の名前が呼ばれた。僕が振り返ると刀奈が居た。……ひょっとして

 

「ここ、刀奈の家なのか?」

「そうだよ」

 

海女がお嬢様学校って聞いてたけど、ホントだったんだな。……並んで呼ばれる名門校である聖祥大付属に僕と大和を通わせてるウチの家計は大丈夫なんだろうか?

 

「兄貴、知り合い?」

「まあ、少し前に偶然ね」

 

大和に聞かれたのでそう答える。まあ、あれは偶然としか言いようがないと思う。

 

「更識刀奈よ。よろしくね」

「大和・スカリエッティだ。よろしくな」

 

二人が自己紹介を終えると刀奈が実さんに話しかけた。

 

「実さん、お父さんの言ってた出稽古相手って八雲君達の事だったの?」

「ええ。お嬢様もそこに隠れている簪様たちも如何です?」

 

実さんがそう言うと、三人の女の子が出て来た。一人は刀奈にとてもそっくりで、後の二人は実さんと同じ色の髪。実さんの妹さん達かな?

という事は、このお屋敷の娘さんが刀奈とその妹っぽい子、そこでお仕えする家の人が実さんと後二人の子って事だよな。

 

「兄さん、お客様ですか?」

「旦那様が昨日言ってたね。虚、本音、挨拶を」

「布仏虚です。よろしくお願いします」

「布仏本音だよ~、よろしく~」

 

……ここまで反対な姉妹っていうのも珍しいんじゃないかな?

 

「ほら、簪ちゃんも!」

「更識簪……です」

 

と思ったらこっちも正反対だなあ。

 

「八雲・スカリエッティです。よろしくです」

「弟の大和・スカリエッティだ。よろしくな」

「そろそろ行かないと、楯無の奴が待ちくたびれているんじゃないかな?」

 

士郎さんの一声で総勢9人の大所帯になってこの家にあるという道場に向かう。

 

「ねえ、八雲君」

 

その道中、僕の横に並んで歩くのは刀奈。さっきまで横に居た大和は僕の前の方で簪さんと本音さんに捕まって話している。見た感じ積極的なのは本音さんの方で簪さんは巻き込まれて二人の話を聞いてるっぽいかな。

 

「何?」

「大和君の目、オッドアイって言うんだっけ? 左右違うのって元からなの?」

「そうだよ。ちなみに右目が父さんの左目が母さんの色なんだ」

「へえ~。って事は八雲君はお母さん似なんだ」

「うん。ちょっと前に母さんの子供の頃の写真見せてもらったけど、自分でも似てるって思ったくらいだし」

 

違いは性別だけって言っても良いと思う。母さんの昔を知っている母さんのお兄さんである士郎さんなんかは「たまに見間違える」って言ってたし。

僕としては大和のオッドアイは結構羨ましい。なんでかっていうと、見た目的に僕は父さんの血が薄いから。

大和は顔のパーツは父さん似だけどオッドアイで分かりやすけど、僕はそういう要素が無い。

 

「そうなんだ。あっ、道場に着いたよ」

 

刀奈と話していたらいつの間にか道場に着いていた。

高町家にある道場も立派だけど、ここにあるのもそれに比べて同じ位立派だ。

中に入ると一人の男性が居た。今までの会話から考えるとこの人が刀奈と簪のお父さん。

……多分だけど、士郎さん並に強そう。なんとなく、僕の勘だけど。

 

「久しぶりだね、楯無」

「そうだな。恭也君も」

「お久しぶりです」

「それで、その子達が?」

「ああ、甥っ子達だよ」

「大和・スカリエッティです!」

「兄の八雲です」

 

簡単に挨拶を済ませたら、士郎さんが爆弾を投下した。

 

「さて、八雲君。君にはここに居る楯無と戦ってもらう。楯無、本気で頼むよ」

 

そう、特大の爆弾を。




オリジナル話の導入と共に、以前出した刀奈の関係者の紹介も兼ねました。

八雲・スカリエッティ

接近戦は不調。なので、後衛に徹していた。しかし、強化フラグが立つ。

布仏真

作者の別の作品に登場したオリジナルキャラクター。あれも更新しないとなあ……。

布仏虚
布仏本音

とりあえず、この話を思いついた時に出しておこうと思ったキャラクター。どう関わらせるかは未定。

更識簪

このオリジナル話の重要な位置に居るかもしれないキャラ。姉が魔導師の資質を持っているという事は……。

次回は八雲の試合のお話です。出来たら明日に上げます。


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第十話 スランプの行きつく先

今回は独自解釈を含んでます。


どうも、八雲です。

今僕は士郎さんの指示で出稽古先の主であり、士郎さんの友人であり、刀奈のお父さんでもある楯無さんと戦う事になった。しかも本気で。

駆け出しの僕なんかがいうのもおこがましいけど、楯無さんは強い。本気の士郎さんと戦った経験は何度かあるけど、一回も勝てた事は無い。いや、怪我しない様に気を使ってもらってたから本気ではなかったのだと思う。まあ、骨折位なら一瞬で治せるけど。

御神流の神髄が速さである事から、本気の士郎さんや恭也さんのスピードは目にも映らない。楯無さんはスピードこそ目にも映らないって程ではないけど、速いし技術的にも経験的にも士郎さんと同じ位に感じる。

何とか付いて行けるのは見えている事と、ジュエルシードの経験があったから。それでも、ギリギリで避けたり防いだりしているだけだからいずれ押し切られるだろう。

……だけど、どんな人が相手でも一矢報いずに負けるのは嫌だ。

全神経を相手に集中しろ。楯無さんの一挙手一投足に。色彩も何もいらない。ただ、目の前の人を認識できればいい。

……この感覚だ。大和や美由希さん、恭也さんや士郎さんと最近やっていた時に起こっている集中し始めるとずれる感覚。

この感覚をものにしないと勝てない。もっと、もっと集中しないと。

 

 

 

 

兄貴と楯無さんの試合は一方的だった。いくら兄貴が強いと言っても、伯父さんと互角の人には勝てない。それでも、あそこまでやれているのは兄貴がマルチタスクをフルに使って次の手を読んでいるからだろう。複数を同時に考えれる兄貴だからこそ、ようやく付いて行ける。

 

「恭兄、いくら兄貴でも荷が重すぎると思うんだ」

「それは俺も思うが、父さんが考えも無くやるとは思えん」

 

確かに。俺が兄貴に追いつきたくて無茶な練習をしようとすると真っ先に怒って止めるのが士郎伯父さん。それは俺に大きな怪我をさせないためだと兄貴が教えてくれた。

体の事を何も知らない俺はとにかく練習すれば良いと思ってたけど、翠屋JFCのマネージャーを務める兄貴はそういう事を母さんと勉強していたから、結構知識がある。

母さんがそういう知識を身に付けたのは御神流を修める上で必要だと思ったからで、その頃は伯父さんと一緒に勉強してたらしい。なので、当然伯父さんにもしっかりとした知識がある。

 

「ん? 八雲の雰囲気が変わったな」

「なんかそんな感じするね」

 

次の瞬間、兄貴の姿は『消えた』。文字通りの意味だ。流石にここに居る皆が驚いている。いや一人、伯父さんだけ、満足そうに笑ってる。

 

「そこまで!」

 

 

 

一回だけ、攻めに転じた後すぐに、士郎さんに試合を止められた。その言葉を聞いた瞬間、僕はその場に崩れ落ちる。足に力が入らない。

 

「お疲れ様、八雲君」

 

座り込んでいる僕に飲み物を渡してくれる士郎さん。

 

「あ、ありがとうございます。……それで、さっきのなんなんですか?」

「感覚的には掴めているんじゃないかな?」

「なんとなくですけど……。集中する事で、見えてる感覚と自分の感覚がなんかかみ合わなくて、どうしようか悩んでもっと集中したらその感覚が一致したんです」

「それが『御神流 奥義之歩法 神速』だよ。八雲君の素晴らしい集中力からすればいずれたどり着くとは思っていたけど、こんなにも早くたどり着けるとはね。だけど……」

「わかってます。一回で立てなくなるんですもん。大きくなるまで使いません」

 

魔力併用で負担を減らしたり、回復を早めたりできるけど、それが後でどう僕に跳ね返って来るか分からない。本当に必要になった時だけ使おう。

 

「士郎お前、俺を当て馬に使ったな」

「悪いね。だけど、この子を次の段階に引き上げるには手の内を知らない強者じゃないと駄目だったんだ」

「それは、戦って分かった。手の内を知っていると、この坊主は読み切りそうだからな」

 

次の手を読んだりどうやって動くかを僕の魔導師としてのスキル、マルチタスクで読んでいた。

……あっ、だから中途半端な感じの神速になっていたんだ。

思考を分割するという事は集中力を分割すると置き換えてもいい。だから、近接戦闘がメインの魔導戦競技の選手はマルチタスクをあまり鍛えないらしい。大和も分ける数よりも分けた時の質を重視している。

僕の場合、馬鹿みたいにある魔力を普段から放出するために、魔法を常時展開しているからマルチタスクを使っているのが普通なのだ。

御神流を習っていく間にその状態でも、100%に近い集中力を発揮できるまでになったつもりだった。

多分、ジュエルシードとの戦いで100%以上まで行けるようになったんだと思う。

それが楯無さんという強い人との戦いで普段の状態じゃどうしようもないと思ったから、無意識的にマルチタスクをOFFにした。それが神速の領域に至った理由だろう。

……よし、やるべき事も見えたな。マルチタスク状態で神速を使えるようにする事。それが今の目標だ。

 

「士郎さん、楯無さん、今日は僕の為にありがとうございました!」

 

今日手に入れた物でジュエルシード回収を無事に終わらせる。その為に頑張らないとね。




という訳で独自解釈を含んだ成長回でした。

神速

御神流の奥義の一つ。
なお、僕はとらは3を未プレイなので二次創作やらで見た物を自分なりに解釈して書いています。なので、マルチスキルとは相性が悪いという事にしています。
今回の不調→強敵との戦いというのは『はじめの一歩』の東日本新人王戦後~星戦の板垣を参考に書きました。

八雲・スカリエッティ

偶然、奥義の境地に達する。魔導師の必須スキルがまさかの足かせになっていたが、どうすれば良いかも分かったので不安は無い。

大和・スカリエッティ

大和の場合、八雲と違いマルチタスクのON,OFFは当たり前なので、いずれは覚える。

次回はある二人にスポットを当てたお話になる予定です。早ければ今週中に、遅くても来週には上げます。


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第十一話 凄い兄(姉)を持った弟(妹)のお話

もう年の瀬ですね~。

八雲の強化イベントと共にやりたかった事です。


ども、大和っす。

兄貴と楯無さんの手合せから始まって、俺も皆と稽古して、食事もご馳走になって、今は食休みとして縁側でのんびりしている。

 

「ひあー、疲れたー」

 

いつもの稽古とは違う感じの疲労がありながらも、いつも以上に充実した稽古が出来たと思う。楯無さんも実さんも凄く強かったし。やっぱり、強い人と戦うのは楽しいねえ。

兄貴もそうだし、士郎伯父さん、恭兄に美由希さんとの戦いもテンションが凄く上がる。

 

「えと……大和君、横良いかな?」

 

ぼーっとしてたら、話しかけられた。話しかけてきたのは今日知り合った、この家の御嬢さんである簪。

 

「良いぜ」

「ありがとう」

 

簪は俺の横に腰掛けた。少しだけ間が空いてから彼女は話始めた。

 

「お兄さん、凄いね」

 

多分、今日の兄貴と楯無さんの試合の事を言ってるんだろう。圧倒的に格上の楯無さんに食らいついて行っただけではなく、その最中に御神流の奥義の一つにたどり着いたんだし。単純に腕相撲とか足の速さとかなら勝てる自信はあるけど、いきなり何かを極める所まで行くなんて事は俺には出来ない。

 

「だよなあ。流石は自慢の兄貴だぜ」

「……でも、周りから比べられない?」

 

文武両道、品行方正と非の打ちどころのない兄貴と比べられる。それはたまに有る事だ。「よくある事」で無いのは、俺は俺で翠屋JFCで活躍している事を知ってる人が多くて、一概には比べられないと思われているから。

 

「あるにはあるけど、気にしねえなあ」

「どうして?」

「だって、俺は俺だもん。兄貴じゃねえから、兄貴と同じような真似は出来ない。だから俺は俺のやり方で行く。その上で兄貴を超える」

 

これは母さんに言われた事。

あれは、御神流を習い始めた頃だった。兄貴はスポンジで水を吸収するようにどんどん新しい事を覚えていく。それに比べると俺はかなり覚えるのが遅かった。兄貴に負けたくない一心で結構な無茶をした。それを母さんが止めてさっきの言葉を言ってくれた。

後で士郎伯父さんが教えてくれた事だけど、母さんも俺と近い歳の頃、伯父さんや美沙斗伯母さんと比べられる事があったらしい。その頃は周りから見て痛々しく思えるくらいの努力をしていた。だけど、祖父ちゃんに俺に言ってくれた言葉を言われて、俺達のよく知っている母さんになっていったらしい。

その時から兄貴を意識しない……のは無理だから兄貴を身近な目標に置いて、自分のペースで頑張っていこうと思えるようになった。

 

「……でも、越えられないかもしれないよ?」

「かもな」

「努力が無駄になるのかもしれないよ?」

「傍から見たらそうかもな。だけどさ、それが無駄かどうかを決めるのも自分自身が決める事だろ」

 

よく、伯父さんに誘われて草野球に行く。中には甲子園やプロ入りを目指して凄い頑張った人だっている。翠屋JFCのメンバーでサッカー選手になりたい奴も一杯いる。

だけど、皆が皆上手く行く訳ではない。傍から見たらそれは無駄だった努力に見えるだろう。だけど、本人にとってはそうじゃないと思う。今の俺は充実してるし、大人になってからも充実していたと言い切れる自信があるから。

 

「自分自身で決める……か。そうだね、その通りかも。ありがとう、話を聞いてくれて」

「これ位、大した事じゃ無いさ」

 

ただ、話を聞いて自分の考えを言っただけだし。

 

「……話は変わるんだけど、ヒーローが好きな女の子ってどう思う?」

「良いんじゃないか? ウチは日曜の朝、皆で見てるぜ。父さんは発明家だから、自分で変身アイテム作るし」

 

しかも、デバイスの技術を応用しているから本物の様に変身できる。外では使えないけど、家の中ではかなりの頻度で使っている。

ちなみに、皆特撮全般好きだけど俺と兄貴はライダー、与市は戦隊、父さんは光の戦士が特に好きだ。

 

「見てみたい!」

 

今日一のテンションだな。

 

「んじゃ、今度持ってくるか、俺の家にでも……」

 

そう言おうとした瞬間、辺りの景色が変わる。これは……結界⁉ それに気付いた瞬間、俺達の前にはジュエルシードの異相体が現れる。最初の時のに似た奴だな。

多分、発動の為に魔力が集まっているのに気付いた兄貴が展開したんだろう。

 

「な、何アレ……」

 

って、なんで簪が居るんだよ⁉ 兄貴が魔力を持たない人を入れる様なへまをするとは思えんし……。まさか、なのは達と同じって事か?

 

『大和、聞こえるか!』

 

念話で兄貴の声が聞こえる。珍しくかなり焦っている声色だ。

 

『兄貴、簪が!』

『……一緒に居たのなら良かった。後は刀奈を「簪ちゃん!」』

 

タイミングよく、刀奈が現れた。

 

『刀奈もこっちに居るぜ。ただ、ジュエルシードの方の近くだけど』

『もうすぐ着く、それまでに二人を「二人とも、逃げましょ!」』

 

簪の手を取り、動き出す刀奈。当たり前の行動だけど、今回は不味かった。逃げる二人に向けて異相体は攻撃を仕掛ける。それに気付いて動きが止まる二人。……そんな事、俺の目の前で

 

「「やらせるかよ!」」

 

簪の前に俺、刀奈の前に兄貴が立ちはだかり、攻撃を切り払う。……肩で息をしている辺り、兄貴は全力でここまで来たんだな。

……さて、どうやって戦うかねえ。




この出稽古編は後々に起こる簪のコンプレックスの緩和の為でもあります。

大和・スカリエッティ

ひょっとしたら三兄弟の仲で最も主人公向きな存在。
仮面ライダーでは平成より昭和派。

更識簪

大和のヒロイン候補。ヒーロー好きはこの頃から。多分切っ掛けは日曜朝7時30分から9時の流れのせい。

八雲・スカリエッティ

スペック的には主人公よりもライバル向き。ただし、性格は主人公っぽい。
仮面ライダーでは平成派。

ジェイル・スカリエッティ

実は地球に移住を決めた理由が特撮だったりする。
日本の文化の勉強している時にハマり、移住を決定した。ちなみに奥さんとのなれ初めも
資金稼ぎの一環と趣味でヒーローショーの音響のバイトをしていた時にヒーローショーの司会をしていた奥さんと出会うという物。

次回は戦闘回。大和が頑張ります。早めに上げる予定です。


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第十二話 ウサギとカメ

多分、この作品の今年の更新はこれで最後だと思います。


どうも、八雲です。

楯無さんのご厚意でお昼ご飯を頂き、食休みついでにこの屋敷の中を見させてもらったら、ジュエルシードの反応が有ったので咄嗟に結界を張りました。来てない奴、特にアリサは来そうだな。逆に僕達のいる事を知っているなのはは安心してそう。

ただ、ここには魔力はあるけど、魔導師ではない刀奈と簪さんが居る。

大和にも二人の事を伝えようと動きながら念話を使ったら、簪さんとは一緒に居て、すぐに刀奈も来たらしい。……ただ、ジュエルシードの方も近くにあって結構マズイ状況らしいけど。

んで、僕の視界に三人が入った時にジュエルシードが逃げようとしていた二人に攻撃をしていた。……僕の目の前でそんな事

 

「「やらせるかよ!」」

 

刀奈への攻撃は僕が簪さんへの攻撃は大和が防ぐ。全力で走って来たから疲れた~。

 

「兄貴、今日は色々有ったから、疲れてんだろ。今も肩で息してるし」

 

隣に居るからやっぱり気付くか。まあそれは本当の所だし、隠していても仕方ないね。

 

「ぶっちゃけ、かなり疲れてる。だから大和、ここは任せるよ」

 

なんだかんだ大和も強いから何とか出来るだろう。若干抜けているのが弱点だけど。

 

「任せとけ!」

 

やる気満々だし大丈夫そう……かねえ? 少し不安。

僕が一歩下がり二人の前に大和が一歩前に出て矢面に立つ。

 

「八雲君、大和君大丈夫なの?」

 

少し混乱から抜け出したらしい刀奈が僕にそう聞いてきた。

 

「大丈夫。心配しなくても大和は勝つよ」

 

攻撃は来ないと思っているけど、一応目を離さないまま、刀奈の質問に答えた。

 

「……どうして言い切れるの?」

「そうさねえ……。簪さんは『ウサギとカメ』って話知ってる?」

「えっ? うん」

「あれで置き換えるなら僕はウサギで大和はカメ。歩みは遅いけど目標に向かって自分のペースで確実に進んで行く奴だからさ。今日まで、アイツがどんだけ頑張って来たかを間近で見てきたから、心配なんてないんだよ」

 

まあ、たまに無茶をするけど、大体は士郎さんの教えを守って日々頑張っている。最近は魔法の方もちゃんと訓練してるし。何時も手合せをしている僕にはそれが確実に大和の力になっているのが分かる。

だから、僕も負けてられない。アイツの目標であり続けたいし、何より弟よりも弱いっていうのが兄として嫌だし。

 

「そろそろ決めるぜ! とっておきを見せてやる!」

 

……とっておきってなんだろ? 僕が知らない内にそんなの作ってたんだ。

 

「秘剣……」

 

構えた剣に魔力を集める。そしてその魔力が風に変わっていく。

 

「青嵐!」

 

風を纏った剣の一撃でその異相体を倒してしまった。

 

「よし、上手く行った! どうだった、兄貴? 兄貴の魔王炎撃波を俺なりにアレンジしてみたんだけど」

「魔力を一撃に込めた感じ? 上手く行ったんじゃないの。溜めの時間とかはまだまだ詰めてかないとは思うけど」

 

あくまで僕の魔王炎撃波の方は決めるまでの繋ぎの技だから、溜める時間とかは無いけど、青嵐の方は大和の必殺技になっていくもの。ある程度の溜める時間は仕方ないとは思う。まずは魔力を溜めながら同時に風に変換できるようにならないとな。

 

「やっぱ、その辺は課題か~。ま、良いや。それが分かっただけで十分でしょ。兄貴の技だって未完成な物ばっかだし」

「そりゃ、士郎さんに教えてもらってる御神流と違って、一から自分で作ってる物だからなあ。それに未完成って言い方は良くない。成長の余地があるって方が良いだろ」

 

あくまで気分の問題だけど。

 

「まあ、技としての形は出来上がって磨いてく段階だから、そっちの方が良いか」

「ちょっと~、私達を放っておくってどうなの?」

「……説明が欲しいよ」

 

……忘れてた。この場で2人に説明しても良いんだろうけど、やっぱり楯無さんにも言わないとだろうし……父さん呼ぶか。

 

「二人とも、ちょっとだけ待って。父さんを交えてちゃんと説明するから。大和、僕は父さんに連絡してくるから、士郎さんに事情を説明しといて」

「分かった」

 

僕は父さんに連絡をするために三人から少し離れてから携帯を取り出す。

 

「もしもし、父さん?」

『どうしたんだい? 八雲』

「この前のなのは達みたいになった。出稽古先の娘さん達が」

『……さっきの結界はそのためだったのか。分かった、説明の為に出向こう。という事はデバイスが必要か……」

「あ、それは大丈夫」

『どういう事だい?』

「なんでか知らないけど、その家の中に結構いいデバイスがある反応が有ったから」

 

僕が一人で行動していたのはその位置を確かめるため。有る場所を確認した後、楯無さんにその場所を確認したら、昔からこの家に伝わる古い物を集めてある蔵らしい。使えるかどうかは父さんが確かめてからになるだろうけど、多分問題ないと思う。

 

『一から作るよりは楽にはなるね。物によってはそのままでも大丈夫だろうし。では、10分ほどで着く』

「待ってるね」

 

伝えたい事をしっかり伝えて電話を切る。

……なんか、今日は色々あったなあ。昨日もジュエルシード関係に巻き込まれたし、今週は休みが休みじゃなかったよ。




さて、主人公側の戦力がどんどん増強してきましたね。

八雲・スカリエッティ
超早熟の天才。ウサギはウサギでも真面目なウサギ。

大和・スカリエッティ
努力の天才。マイペースなカメ。ただし、最後にはウサギを超える可能性も持つ。
技の元ネタが分かった貴方はかなりのゲーマー。

更識簪
原作での姉への劣等感さえなければ大成出来る。本作では同じような境遇の大和が居るのでコンプレックスを抱かないかも。

更識刀奈
八雲程ではないが早熟の天才。妹好きはこの頃から。

八雲&大和と刀奈&簪の関係
吊り橋効果。しかし、これは切っ掛けに過ぎない。

そろそろなのは本編のあのキャラを出さないとなあ。


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第十三話 幼馴染との再会

この幼馴染が誰を指すのか、まあ、皆さん分かっているでしょう。


ども、大和っす。この前の一件で朝と放課後の魔法特訓に刀奈と簪の二人も参加するようになった。朝は兄貴が転移魔法で迎えに行き、放課後は聖祥大付属と海女の大体中間にある公園に集まっている。

ちなみに、刀奈は俺に近い前衛タイプ、簪がなのはに近い中衛タイプ。どっちも中々の実力者だ。

今日は珍しく一人で帰っている。というのも、アリサとすずかは習い事、兄貴は図書館→スーパーの定番コース、なのははユーノとの魔法特訓で俺はJFCの練習試合に向けた連携の確認をチームメイトとするために放課後のグラウンドで練習をしていたからだ。

 

「今日の晩飯、なんじゃろなっと」

 

車道と歩道を分けるブロックを渡りながら、適当にリズムを付けて口ずさんで帰る。ウチの学校は弁当で今日は練習もあるから兄貴がかなり多めに作ってくれたんだけど、それでも今はかなり腹ペコだ。

 

「マスター、ジュエルシード反応です」

 

ジュエルシードの一件が始まって、俺の相棒にも一定範囲内のジュエルシードの反応を感知できるように父さんに改造してもらった。そのお蔭で気付けたな。

 

「とりあえず、近くに居そうなユーノとなのはに連絡頼む!」

「了解」

 

 

 

武蔵の案内で現場に向かうと既に戦闘が始まっていた。

だけど、俺達の仲間ではない。しかし、俺はその戦っている女の子の事を知っている。

 

「フェイト!」

 

思わず、彼女の名前を呼んだ。いや、呼んでしまった。

普通の道端ならともかく、今はジュエルシードの異相体との戦闘中でフェイトは戦っているのだ。一瞬俺の方に気を取られたフェイトは隙を生んでしまう。そして異相体はその隙を見逃さなかった。

 

「間にあってくれよ! 蒼波刃!」

 

なんとか異相体の攻撃が届く前に蒼波刃で撃ち落とす事が出来た。

 

「や、大和⁉ どうしてここに⁉」

「久しぶり、フェイト。ま、詳しい事はこいつを倒してからな」

 

幸い、フェイトがダメージを与えていたから、もう一押しで決着が着くはず。

 

「アークセイバー!」

「絶風刃!」

 

鎌と剣、二人の武器から放たれた金色と緑の衝撃波で異相体が吹き飛ばされ、その中からジュエルシードが現れる。

 

「ジュエルシード、封印!」

 

 

 

一件落着となり、現場近くの林の中に降りて、近くに良い感じにあった大き目の岩に座って話始める。

 

「それで、大和はどうしてここに?」

「そりゃ、この近くに俺達の家があるからなあ」

 

そういや、父さんとフェイトの両親が昔からの知り合いで、会う時はいつもミッドかフェイトの家が所有する次元空間内に存在している『時の庭園』だったからなあ。

 

「そうだったんだ」

「次は俺。どうしてフェイトはジュエルシードを集めているんだ?」

「それは……言えない」

 

それだけ言ってフェイトは口を閉じてしまう。言えない事なのか、言いたくない事なのか……。いくら幼馴染で親しいと言っても話せない事位はあるだろうし、無理に問いただしても教えてくれるとは限らない。

 

「分かった。じゃあ聞かない」

「ゴメン」

「それとさ、何か困ったら俺を頼ってくれよ。兄貴に比べると頼りないかもしれないけどさ」

「そんな事ないよ!」

 

ぐっと顔を近づけて結構な勢いでそう言うフェイト。

 

「お、おう、そうか」

 

フェイトの勢いに押されてるけど、確実に兄貴の方が頼れると思うんだよなあ。まあ、そう言ってくれるならその期待に応えたいとは思う。

 

「それと、ここで私と会った事は秘密にしておいて欲しいな」

「OK、分かった」

 

与市は兎も角、父さんと兄貴から隠しきれるかは分からないけどな。正直、自信ない。

 

「んじゃ、またなフェイト」

「うん、またね大和」

 

 

 

フェイトと別れた後の帰り道、俺は歩きながらどうしてフェイトがジュエルシードを必要としているかを考えていた。

ユーノが「遺跡発掘やロストロギアの発見なんかは魔導研究者や考古学者はもちろん、その道に興味のある人でもアンテナさえしっかり張ってれば知れるんだ」って言ってたし、フェイトのお母さんであるプレシアさんがジュエルシードを知っている可能性はかなりあると思う。

だけど、ジュエルシードは結構危険なロストロギア。いくらフェイトに凄い魔法の才能があるからと言って、かなりフェイトを溺愛しているプレシアさんが何かの為に集めるとは思えない。という事はフェイトが自主的に動いているって事になる。「秘密にしておいて欲しい」っていうのは友人である父さん経由でここに居るのを知られたくないからって事だと思う。

ただ、なんでフェイトがジュエルシードが必要なのかは分からない。ユーノが父さんにジュエルシードの事を話してた気がするけど……覚えてないからなあ。あんまり興味無かったし、とりあえず、封印すればいいんだろって思ってたから。

ま、良いや。考え事は俺には合わねえし、いざという時に動けるように心構えしとけば良いだろ。




という訳で、新年一発目の更新、フェイト登場回をお送りしました。


フェイト・テスタロッサ

マンガ版INNOCENTの要素によって実子になった、テスタロッサ家次女で大和のヒロイン候補。大和たち三兄弟とは幼馴染。
原作では母親の指示だが、本作では……?

テスタロッサ家とスカリエッティ家の関係

ジェイルとプレシアが学生時代からの友人。プレシアの夫(フェイトの父親)とも友人だったので家族ぐるみの付き合いがあった。


次回は今回の話で出て来たサッカー回。しかし、それよりも大事な事が起こります。


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第十四話 河川敷の出会い

今回は本作初の場面があります。


どうも、八雲です。今日は大和が選手で、僕がマネージャーとして所属している翠屋JFCの試合の日です。

最初はなのは、アリサ、すずかの三人が応援に来るって話だったけど、練習の時に言った刀奈と簪、図書館ですずかが話したはやても来ている。

すずか以外初対面のはやてもあっという間に仲良くなっていった。今は皆楽しそうに話している。見た感じ、アリサと刀奈とは話が合うらしい。……結構違うタイプだと思うんだけどなあ。

さて、ウチのチームからのキックオフなんだけど、センターサークルに居る大和には凄い視線が集中している。というのも今日応援に来てくれているメンバーからの声援のせいだ。……アイツ、怪我しないよなあ?

 

 

 

皆さん初めまして、月村すずかです。今日は皆と一緒に翠屋JFCの試合を見に来ています。

実は、私は大和君を始めとした翠屋JFCの応援以外に目的があった。それは、はやてちゃんを皆、特に同じ想いを持っているアリサちゃんと刀奈ちゃんに会わせる為。

普通、物語なんかでは同じ男の子が好きならば、いがみ合いそうなんだけど、この三人は、

 

「へえ~、八雲君って強いんやねえ。図書館で会ったから、インドア派なんかと思ってた」

「私からすると、読書してる八雲君が想像付かないわねえ」

「八雲は文武両道だからね。二人の見た八雲の違いがらしさだと思うわ」

 

八雲君の事で盛り上がってる。どうやら、私の心配はいらない事だったみたい。

 

「そういえば、私はクラスメイトだけど、二人はどうやって八雲に会ったのよ?」

「大した事じゃないで? ちょっと高い所の本を取ろうとしてたんを手伝ってくれたのが切っ掛けやね」

「八雲君らしいね。私の時はね、翠屋にケーキを買いに行く途中の公園で木から降りれない猫を見つけてどうしようかって思ってたら、話しかけてくれたのが切っ掛けかな」

「それ、八雲君から聞いたよ。木を見上げてた女の子っていうのは刀奈ちゃんの事やったんやね」

 

八雲君と刀奈ちゃんがそんな所で出会ってたなんて私達も知らなかったなあ。

 

「しかし、意外だったわ。刀奈となのはが知り合い、ってか幼馴染だったなんて」

「なんだかんだ小学校に入る前から一月に一回くらいは会ってたからね。アリサはどうなの?」

「確かに気になるなあ。いくらクラスメイトでも話す切っ掛けみたいな物があったんやろ?」

「……言いたくない」

 

まあ、アリサちゃんからしたらあんまり言いたくない事だもんねえ。

 

「すずかちゃん、なのはちゃん、教えてくれへん?」

「良いよー」

「なのは!」

 

なのはちゃんの口を塞ぎに行こうとするアリサちゃんを私と簪ちゃんで両手を抱えて止める。じたばた暴れるけど、アリサちゃんより運動神経に自信にある私と、武道をやっている簪ちゃん相手には分が悪い。

 

「えっとねー、小学校に入ってすぐの頃、アリサちゃんがすずかちゃんにちょっかい掛けてた時があって、私が二回注意して、三回目に実力行使しようとした時に、八雲君が偶然来てね。それで、私達は仲良くなれたし、八雲君達がアリサちゃんとすずかちゃんと仲良くなったのもそれが切っ掛けだよ」

 

あの時八雲君が言った「折角クラスメイトになったのに、会っていきなりケンカしちゃ台無しだぜ。だから、言いたい事全部言っちゃえよ」って言葉で引っ込み思案な私は変われたし、日本という異国と小学校という新しい場所で不安だと言うアリサちゃんの気持ちも知れた。

 

「……なんか八雲君ってお兄ちゃん役が板についてるね」

「私を含めて同い年の中で自然とそういう風になってたんだと思うよ」

 

八雲君達は三つ子で大和君と与市君はどっちが上かたまにわからなくなるけど、八雲君がお兄さんっていうのはかなりはっきりしてる。大和君は「兄貴が恭兄と話しててもあんま違和感無えもん。同級生って言っても信じれるぜ」って言ってた。

そう考えていると、グラウンドの方で動きがあった。どうやら、翠屋JFCの選手が怪我をしたらしい。代わりの選手は……八雲君⁉

 

 

 

一応、僕は選手登録されている。背番号は8。チームの皆が僕の名前にちなんでくれた。一桁台はスタメンだと思うから、マネージャーの僕じゃなくて、他のメンバーがつけた方が良いと思うんだけどなあ。ちなみにポジションはDMF。

ただ、僕はサッカーが上手いという訳ではない。特にドリブルは苦手でドリブルでディフェンスを抜くなんて出来ない。だけど、武道で培った一対一の呼吸を活かしたディフェンスと大和のシュート練習の時のラストパスを出す相手として付き合っているのでキックの精度には自信がある。なので、セットプレーのキッカーも任される。後、マルチタスクを活かした視野もだね。

ほら今も大和へのマークが緩んでる。

 

「行けっ!」

 

二列目の底から最前線、ディフェンスラインとキーパーの間へのロングパス。大和は俊足を生かしてディフェンスを振り切り、パスを受け取る。そして、少しした後にはスコアレスの状態を打開する一点が入るのだった。

この後は一点目のパスに警戒した相手チームが僕にマークを集中させたお蔭で攻撃がスムーズにできて終始ウチのチームはペースを握って試合が出来た。攻撃の良い流れは守備の良い流れも作り、試合にももちろん勝利。

今日は勝てたし、美味しい晩御飯が作れそうだね。




というわけで、サッカー回にかこつけたヒロインたちの遭遇回にでした。

大和・スカリエッティ

翠屋JFCでのポジションはCFで背番号は9。この試合では4得点を挙げハットトリックを達成。

八雲・スカリエッティ

この試合では2アシスト、1得点(直接FK)。翠屋JFCの秘密兵器。

月村すずか

三兄弟以外で初の語り手を担当。この回の目的であるはやてとその他のヒロインの出会い的には両方を知っている彼女が適任だと思ったので。

次回もなのは本編のキャラが出てきます。


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第十五話 管理局との接触

シリアス風味の題名ですが、そんな事はありません。


どうも、八雲です。魔法の練習をしている皆と別れて僕は夕飯の準備の為に一足先に帰ってきました。

そうしたら、我が家の人ではない靴が二足。お客さんが来ているらしい。誰だろ。

 

「父さん、ただいま~」

 

そう言いながらリビングに行くと、父さんとお客さんが居た。

 

「おかえり、八雲。お茶を用意してくれないか?」

「はいよ。リンディさんとクロノも待ってください」

 

お客さんは父さんの古くからの友人の一人で管理局で提督の地位に居るリンディ・ハラオウンさんとその息子のクロノ・ハラオウン。

今日ここに二人が来ているという事は多分、ジュエルシードの一件だろう。

 

「お待たせしました」

 

とりあえず、緑茶ではなく紅茶を用意して僕は席を外そうとするけど、父さんに

 

「当事者として、八雲も居た方が良いだろう」

 

と呼びとめられたから僕も話し合いに同席する事になった。

 

「まず、ジュエルシードの事なんだけど、管理局はアースラを拠点とした探索、捜査を行なう事になったわ。ただ……」

「落ちた所が管理外世界である事から、人員が限られている。ジュエルシード自体『願いを叶える』という、真偽の分からない記述しか見つからなかったから、危険性が確認できず、このようになってしまった」

「そこで、八雲君やお友達にも協力してほしいの」

「動ける魔導師が僕しかいなくて、何もなく終わらせるためにはこれしかないと判断した。……すまない」

 

リンディさんもクロノも申し訳なさそう。まあ、常識から考えたから一般人の子供がこんな事に関わる事を良しとしないのは当たり前の考えなのだ。

一部管理局では戦力にさえなれば年齢を問わないみたいな考えもあると父さんが言ってたけど、僕の知っている二人はそんな人じゃない。一番確実にこの一件を終わらせるための方法としての苦渋の決断なのだと思う。

 

「僕としては海鳴の街に危ない物があるのは見過ごせないから協力します。管理局がサポートしてくれるなら、今までよりも速く、安全に見つけれると思いますし」

 

このまま、管理局が来たからと手を引いて悪い事態になるのも嫌だし、物事を途中で放り出すのは好きじゃない。

 

「だけど、他の皆は分かんないですよ」

 

まあ、皆引き受けると思うけど。

 

「ええ、引き受けてくれる子だけで良いわ」

「八雲さえ来てくれれば百人力だ」

「褒めてもいつも言ってる通り管理局には行かないよ」

 

クロノは何度か僕を管理局にスカウトしようとしている。といっても、僕は地球生まれ海鳴育ちで、管理世界の知識はあっても愛着が無いから、所属しようと思わないし、やりたい事もあるから断っている。

 

「分かっている。……惜しいとは思うがな」

「僕ももったいないとは思うけどね。後、皆結構な才能を秘めてるから、僕さえ来てくれればってのはちょっと違うかな」

「魔法の無いこの世界でか?」

「逆に突然変異だからじゃない? 5人とも魔力量だけならAAAランクはあるよ」

 

しかも年齢的にはまだまだ伸びる。まあ、それは僕も同じだけど。

 

「5人のAAAランク……凄いわね」

「無理やりなスカウトは止めて下さいね。そうじゃないとアースラ沈めちゃいますよ」

「怖い事を言わないでくれ。君の魔法の力からしたら冗談には聞こえない」

「じゃ、冗談で済むようにしてくれ」

 

リンディさんやクロノは信頼できるから僕の心配はいらぬ心配だとは思うけど、こういう事に巻き込んでしまった一端は僕にあると思う。だからあっちの理不尽を防げるなら僕が防ぐべきだと思う。

 

「私もこの子と同じ考えさ。少なくとも彼女達が自分で自分の道を決めるまでは世話をするつもりだ」

「分かったわ。その子達には無理やりなスカウトはしない。今回の一件の民間協力者で留めるわ」

「まあ、子供達がこの一件で管理局員の道を選ぶなら私は止めはしないが」

 

父さんの言う通り、それを止める権利は僕たちにはない。

 

「ジュエルシードの方はこれくらいね」

「ん? まだ他に何かあるのかい?」

「実はプレシアから連絡があってね。どうやらフェイトちゃんが地球に来てるみたいなの」

 

プレシアさんっていうのはリンディさんと同じ父さんの古い友人の一人でフェイトは娘さん。僕やクロノの幼馴染でもある。

 

「どうして、フェイトが?」

「プレシアさんがこの件に気づいたのはフェイトの部屋にジュエルシードの資料があった事。察しの良い八雲君なら分かるんじゃないかしら?」

「……アリシアの為ですね」

 

アリシアはフェイトの二つ上の姉。だけど二年前の事故で意識不明になって、それから目覚めていない。プレシアさんはアリシアの治療のための研究をするために仕事を辞めて時の庭園でその事に専念してる。

ユーノが言っていたジュエルシードの発掘された事や輸送船の事故は知ろうと思えば知れる事、輸送船の事故の場所でどの辺りに落ちたかの予測はつけれる事、そして、フェイトとアリシアの仲の良さを知っていればこの結論になると思う。

 

「八雲、フェイトちゃんには会ったかい?」

「ううん、会ってない。ってか、会ってたらどうしてなんて聞かないよ」

「それもそうか。フェイトの事も気にかけておいてくれ」

「了解。それで、皆との顔合わせ、いつにする?」

 

この後、リンディさんやクロノと皆の顔合わせの日を決めて話は終わった。

しかし、フェイトがねえ。知ってる僕らなら良いけど、知らない皆と当たって戦いにならないと良いけど。

……もし、フェイトの事を知ってるとしたら最近、何か隠しているっぽい大和だな。




というわけでハラオウン親子登場回でした。

リンディ・ハラオウン

原作通り管理局の提督だがINNOCENTS要素によりプレシアとも古い付き合いに。

クロノ・ハラオウン

原作通り管理局の執務官だがINNOCENTS要素によってフェイトやアリシア、八雲達スカリエッティ兄弟と幼馴染に。



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第十六話 親達のお話

忘れちゃいけない。この作品の題名は『海鳴のスカさん家』である事を。


やあ、スカリエッティ家の家長、ジェイル・スカリエッティだ。

息子たちが協力しているロストロギア、ジュエルシードの捜索の一件もリンディとクロノ君が率いる管理局の人員が投入されたから、そのうち解決するだろう。完全に解決するにはもう一つやらない事があるが。

なので私はここ2年ほど取り組んでいた研究の最終確認を行っていた。それは、私の友人であるプレシア・テスタロッサの娘、アリシア・テスタロッサ君の治療。

彼女は二年前、多数の犠牲者を出した、魔導炉の実験失敗の被害者だ。

当時、テスタロッサ一家はある大企業の研究所近くの家族寮に住んでいた。この企業とテスタロッサの一族は古くから関係があったらしく、この魔導炉事業の協力のためにプレシアとその夫であるディオニス・テスタロッサはプロジェクトに参加していた。

そして事件は起こった。魔力炉の実験失敗の事は当時様々なメディアに取り上げられ、波紋を起こしたことをよく覚えている。起こった原因は企業上層部の危機管理意識の低さだとプレシアが言っていた。

彼女によると、上層部は現場が作った安全管理のマニュアルを無視し、管理局が立ち入る部分のみしっかりとやり、後の部分を手抜きするという物だった。

企業として利益を求めるのは理解できなくはないが、それを求めすぎて、安全やそこから生まれる信用を失っては意味がないように思う。結果的にその企業はこの事故での被害者やその家族にとんでもない額の賠償金を支払い、それのせいで倒産することになった。

話をテスタロッサ家に戻そう。この時、フェイト君が風邪をひいたので、プレシアはフェイト君を連れてかかりつけの病院に行っていた。なので結果的に二人には直接的な被害はなかった。

しかし、休日で寮にいたディオニスと一緒にいたアリシアちゃんは実験失敗の余波を受けてしまう。その結果がディオニスの死であり、二年たった今でも目を覚まさないアリシアちゃんである。

なぜ、アリシアちゃんは重体ではあるが助かったのか? それはディオニスがとっさに身を挺して守ったからこその結果だった。

さて、アリシアちゃんの重体の直接的な原因は細胞内の異常な量の魔力である。本来体内の魔力というのは空気中の魔力の元となる魔力素をリンカーコアが取り込んで生成し、貯蔵している。この生成速度(回復速度と置き換えても良いだろう)、貯蔵量は人それぞれである。例えば八雲はこの両方が桁外れであり、その能力は古今東西並ぶ者はいないだろう。特に生成速度はとんでもない。なので八雲は日ごろから貯蔵量をオーバーしないように魔法を使っている。しかし、大和は貯蔵量こそ多いものの生成速度は並みである。

貯蔵量を超えた魔力は体を侵す毒になる。しかし、基本的にはリンカーコアがそれを調整してくれるので自分の魔力で体がどうこうなるという事は無い。八雲のような例はかなり稀な例なのだ。特異体質とでも言った方がいいか。

アリシア君の魔力の貯蔵量は妹のフェイト君と同量。これは今回の一件にかかわっているメンバーの子達とほぼ同等(今回のメンバーの魔力貯蔵量は一般的な量に比べるとかなり多い)なのも助かった一因かもしれない。

ある程度外的要因で魔力を体内に取り込んでも、使えば消費される。しかし、意識がなければ魔法は使えない。

リンカーコアにある魔力を吸収する事は技術的に可能だが、それをするとリンカーコアは空気中から魔力素を吸収し新たな魔力を作る事を優先してしまうので、細胞内に分散してしまった魔力の操作は体外からでは出来ない。

なのでプレシアはテスタロッサ家の所持している時の庭園に拠点を移し、そこにある膨大なロストロギアの資料から情報を集めて解決をしようとしている。私もこの一件に協力している。

今回の私の研究は人の体内に蓄積した魔力を外部から動かす技術。それを行う装置も開発しモルモットでの実験は成功した。

この装置の欠陥は装置を操る側にも高い魔力操作技術、そして魔力保有量が必要になる。というのも、この装置でできるのは被験者の魔力を装置の使用者に移す事だけ。つまり、魔力を貯める器が必要なのだ。

アリシアちゃんのような素晴らしい素質を持った子の回復にはそれ以上の素質が必要になる。そして、魔力保有量が多いほど魔力操作は難しくなる。この相反するものを解決しないといけない。

が、この問題はすでに解決済みである。私の計算では八雲の能力なら可能だ。八雲も「僕の力が役に立つのなら喜んで手伝うよ」と言っていた。

 

「……という訳なのだよ」

『本当、流石は世紀の大天才ね』

 

資料を見せながら、プレシアに通信で説明をしていた。流石にいくつもの論文を発表し、特許も持っているその道で名を知られた彼女の理解力は高い。

 

「亡き友の意志を尊重しただけさ。とりあえず、装置は大きいからこちらに出向いてほしい」

『分かったわ。……フェイトの方は?』

 

そう尋ねる彼女の顔は研究者から娘を心配する母親の顔になっている。

 

「分からない。が、安心したまえ。リンディが捜索しているんだ」

『……そうね。歴戦の提督のリンディがいるものね』

 

管理局の事はあまり詳しくはないが、リンディほどの歴戦の提督も中々いないだろう。しかも、今回は若手ながらも有能な執務官であるクロノ君も居る。

 

『アリシアの方はジュエルシードの一件が終わってからにするわ。協力しているんでしょう、八雲君』

「私もそう思うのだが、八雲自身が『フェイトが見つかったらすぐやる』と聞かなくてね」

 

自分を殺して様々な事をやってくれる事に頭が下がる一方、親としては八雲の可能性を殺してしまっているのではないかと考えてしまう。

八雲は責任感が強い。だから、樹里が亡くなってから家の事を率先してやってくれた。すまないと思うが八雲が「父さんは家事には向いてないから僕に任せてよ」と何度も言われてしまったので、任せている。

情けないが私は研究以外は苦手だ。昔は母や妹、結婚してからは樹里、現在は八雲と迷惑を掛けている。

しかし、この事で八雲は本当にやりたい事を出来ていないのではないかと思う。子供の事を考えると片親はよくない。だが、新しい母親をあの子達が心から受け入れてくれるとも限らない。難しい問題だ。

 

『八雲君の言葉に甘えて良いのかしら?』

「父親としては止めるべきなのだろうが、ああみえて頑固だからね。一度決めたらてこでも動かんよ」

『……なら、三日後にそっちに行くわ』

「分かった。待っている」

 

通信を終えて、私は一息吐く。時間がかかった研究も一段落し、降ってきた一件も順調に進んでいる。全てを確実に解決するために、子供達だけではなく、私ももう一頑張りしなければな。




という訳で、親(ジェイルとプレシア)の会話回でした。
プレシアの夫は名前が調べても出てこなかったので適当に付けました。アリシアの状態、魔力などの設定も独自設定です。

ジェイル・スカリエッティ

スカさん家で一番最後に語り部に就任。まあ、原作が子供にスポットを当てているので仕方ない部分ではある。困った時はスカさん頼みにならないように気を付けたい。

次回は……多分、フェイト関連になるんじゃないかなと思います。


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第十七話 これが八雲の必殺技!

体調が悪い時期がずっと続いていたんで、投稿の気力が湧きませんでした。まだ、回復はしきっていませんが、余裕があればしていきます。

寝る間隔がずれているので、こんな時間に投稿になりました。


どうも、八雲です。

僕が危惧した通り、フェイトがなのはとぶつかっていました。僕が見たというわけじゃなくてなのはが正体不明の魔導師と戦ったという話を聞いて、その見た目から十中八九そうだろうという予想だけど。

ただ、なのはは怒っているとかそんなんではなく、話を聞きたいのと友達になりたいとの事。……なのはとぶつかったのは不幸中の幸いってことなのかな。いや、誰と当たってもこうなってたかも。

それ以降は誰も遭遇してません。多分、アースラでの組織立った収集を出来ている僕たちと単独行動のフェイトの差が出てるのだと思う。しかし、ジュエルシードの方もここ2,3日めっきり見つからなくなった。アースラからだと波の影響とかで探しにくい海にあるんじゃないかというのが執務官のクロノと技術やロストロギアのアドバイザーとして協力している父さんの見解だ。

そんな感じで数日過ぎた休日のある日、僕は食材の買い出しを終えて一人家でのんびりしていたら、クロノから連絡が入った。

 

「どしたの、クロノ」

『フェイトが見つかった』

「あっ、そうなの? そりゃ良かった」

 

って事は父さんに頼まれてた件をするのは、今晩か明日って事になるのかな。

 

『ただな……なぜか、フェイトとなのはが戦闘を始めてな』

「……はあっ!?」

 

フェイトの事はプレシアさんも交えて皆に伝えてあるよな? 

 

「なんでそんな事になったのさ?」

『よく分からない。まあ、フェイトは思い込んだら一直線だからな』

「なのはも同じタイプだし、お互いの意見に決着がつかずって感じかねえ」

『一番それがありそうだな。でだ、八雲には止めに行ってもらいたい』

「僕に? 他の皆は?」

 

別に止めるだけなら誰でも出来そうだけど。

 

『どうも、皆勢いに押されているらしい』

「なるほど、真剣勝負に水は差せないと。……ってか、僕に水を差せと?」

『ああ。お前なら空気を読まない事も出来るだろう?』

「それって喜ぶ所? それとも怒る所?」

『読めないなら馬鹿にしているが、読まないなら褒めてるぞ』

「なら良いけど。んじゃ、行ってくるよ」

 

せっかく、アリシアの回復する手立てが見つかったんだ。なのにここでフェイトがケガしちゃ、意味がない。起きたアリシアも喜ばないだろう。幼馴染の涙をほっとけるほど冷たい人間でもないから、止めに行くか。

 

 

 

エイミィさんに教えてもらった座標に転移して現場に行くとそこには戦闘しているなのはとフェイト。それを眺めるしかない大和、アリサ、すずか、ユーノ、刀奈、簪。そしてすごい穴だらけの地面が目に入った。地面や折れた木に関しては封時結界をユーノが張ってくれてたから問題ないけど、これ、かなりの環境破壊だよねえ。

 

「あっ、八雲君」

 

一番最初に気付いたのは偶然視線を下していた簪。その声に反応して見ていた皆も僕の方を向く。

 

「二人結構激しく戦ってるねえ。こりゃ、止めるの難しいわな」

 

手っ取り早く終わらせるのは二人をノックアウトする事だけど、真剣勝負に入るという事は結構危ない。皆の実力はかなり拮抗しているし。それに誰かが怪我するかもしれないしね。

 

「で、どうするのよ、八雲?」

「介入して止めるだけだよ、アリサ」

「それが難しくて皆見てるだけだったんだけど?」

「まあ、我に秘策ありってね。安心してよ刀奈」

 

あっ、そうだ。

 

「大和、ユーノ。多分、二人とも落ちてくると思うからちゃんと受け止めてあげてね」

「「はい?」」

「さて、今はとっととやる事を終わらせますか! 必殺!」

「いや、止めるのに必殺って!?」

 

すずかが何か言ってたけど、スルーして僕はこのタイミングで使うべき魔法を発射する。

 

「ピコレイン!」

 

詠唱とともに沢山のピコピコハンマーが降ってくる。……自分で作って使っておいてなんだけど中々にシュールな画だね。

だけど、その効果はかなり強力。当たれば強制的に気絶させる事が出来るのだ。まあ、便利そうなんだけど一対一なら気づかれて当たらず、範囲も広めなので誤爆の可能性もあるから使い所の難しい技なんだけどね。

 

「な、なに!?」

「なんなの~!?」

 

咄嗟に回避行動をしてるけど、避けきれず落ちてく二人。地面へ墜落する前にフェイトを大和が、なのはをユーノがキャッチする。

 

「兄貴、なんなんだよあの技?」

「昔、見た目重視で組んだ魔法だよ。気絶させれるっていう実用性はあるんだけど、使い所が難しいし、そもそも今回のジュエルシードの異相体に効くか怪しかったから使わなかっただけさね」

「近い効果のでスタンバレットって射撃魔法があるけど、直射かつ弾速も遅くて使いにくいからね。強力な効果の物はそういうものだよ」

「だね。んじゃ、とりあえず、アースラに運びますか」

 

 

この後、アースラで意識を取り戻したフェイトはプレシアさんにしっかり怒られた。フェイトも心配をかけたのは分かっているから素直に受けていた。

さて、後はアリシアの治療だけだね。それは僕にかかってるんだから頑張らないと。勝負は今晩だね。




本当はピコレインはアリシアの技にしようと思ってました。(中の人的に)


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第十八話 これがスカさんちの全力だ!

やあ、ジェイルだ。

フェイト君がようやく見つかったその日の夜、いよいよアリシア君の治療の日。私とプレシアは役目は八雲が行うアリシア君の治療の最中の様々なアクシデントに対応するため。

外科手術ではないから、普通に大和やフェイト君も同じ部屋にいるのだが。

そして、部屋の中心ですごい空気を出している八雲。私が今回治療に使う装置を試験した際に、扱うのにはかなりの集中力がいると感じた。魔力保有量の多さも必要になってくることも考えると、この装置は使いこなせる人間が少なすぎるから欠陥品と言っても良い。八雲という逸材がいるからこそ、今回の治療が出来るという事だ。

 

「八雲、始めていいかい?」

「いつでも良いよ」

 

八雲の返事を聞いて私は装置の電源を入れる。

ここからが長い。以前私が行った時は、想定されるアリシア君の魔力量の半分行くか行かないかくらいでかかった時間がおおよそ25分。という事は今回の治療で予測される時間は一時間位は掛かるだろう。八雲はそこまで集中力を持たせないといけない。

分けて出来れば良いのだが、この治療中に不測の事態があるかもしれないし、一回目と二回目の間にアリシアの体に異変が起こるかもしれないので八雲は一発で終わらせると言い切った。私達はそれを精一杯サポートするしかできない。

 

 

 

治療を初めて30分位立った時、私の体にいきなり軽い目眩と吐き気が襲い掛かってきた。横目で傍にいるプレシアを見ると彼女の顔色もあまり悪くない。

 

「ふむ、何か起こっているようだね」

「ええ、少し調べてみるわ。心当たりがないわけではないし」

「大和、フェイト君、君たちの体調はどうだい?」

「そういえばさっきから俺も少し調子が悪いんだよなあ」

「私も少しだけ」

 

見ていた二人にも私達と同じ症状が出ているらしい。

 

「やっぱり! この辺の空気中の魔力量が増えた事から起こった魔力中毒よ!」

 

魔力中毒は空気中の魔力濃度が増える事で起こるもので、吐き気やめまい、頭痛などが主な症状。特に子供がなりやすい。近くにいるが大人の私達と、少し離れているが子供の二人の症状の重さが近いのはそのため。プレシアの手元のモニターに表示されている空気中の魔力濃度は八雲を中心に濃くなっている。

多分、アリシアの細胞内に溜まった魔力を体外に出した弊害だろう。このままだと、こっちも倒れてしまう可能性がある。

 

「八雲君、体は大丈夫なの?」

「僕は……大丈夫です」

 

これは嘘だ。誰が見てもわかる位顔色は悪いし、脂汗も凄い。

 

「そんな訳ないでしょ! 魔力濃度は貴方を中心にしているのよ!」

「何とか、しますから」

 

それだけ言って八雲は治療を続ける。

少し経つと、気持ち楽になった。八雲が何かしたと思うんだけど、何をしたんだろう。

集中している八雲の顔を見てみるが、八雲の顔色は変わっていない。プレシアの手元にあるモニターに映し出されているこの部屋の魔力濃度は八雲の辺りのみ濃いだけになっている。

 

「八雲、ここで一旦止めるか? 幸い装置に異常はないから、体調が回復してからでも問題は無いと思うが」

 

私は八雲の体の事を考えて止める事を提案したけど、八雲は首を横に振る。明確な意思表示だが喋る事すら億劫な

様だ

 

「まったく……その頑固さは誰に似たんだろうね?」

「ジェイル!」

「大丈夫だよ。本当に限界なら有無を言わさず止めているさ。八雲、後30パーセントほどだ」

 

私のその言葉を聞いた八雲は一つ頷く。

コツを掴んだのか、ペースも上がっている。見る見るうちに正常値に近づいていく。

 

「3……2……1……終了だ」

 

私の終了の言葉を聞いた兄さんはその場でうずくまり、何かを吐き出した。カラン、と音を立てて落ちたそれは明るい水色の結晶体。結構な大きさだ。

 

「兄貴、あれ何?」

「アリシアの、細胞内の、魔力を、圧縮して、固めた、ものだよ」

 

あんな大きさのものを口に入れてずっといた八雲の呼吸は荒く、答えも途切れ途切れだった。

 

「魔力を圧縮して固めるなんて、専用の機械が必要なんだけど……」

 

呆れているプレシア。魔力を圧縮して結晶体にするのは魔法が使われている世界ではかなりポピュラーで、自分の魔力を結晶にしてそれをアクセサリーにする人も居る。

 

「兄貴の事だからやってみたら出来たとかじゃねえの?」

「それ、ありそう」

 

八雲は魔法に関してかなり感覚派だから、理論立ててというより、こんな感じかなとやってみて成功してしまう。中には変わった物も多く、それがミッド式との大きな違いを見せる。

 

「まあ、そんな感じ。疲れたし、寝るよ」

 

そう言って八雲はふらつきながらも自分の足で部屋に戻っていった。……我が息子ながら凄いと言わざる負えない。あの濃度の魔力空間にいたら、普通は大人でも意識を失っているか、そうでなくてもすぐに立ち上がる事なんてできない。

魔力に対する耐性の高さも去る事ながら、一度決めた事をやり通す強さが八雲らしさなのだと私は思う。

 

 

 

八雲が休みに行ってから少ししてアリシアが目を覚ました。

これで、亡き友の願いも叶えられて、私も一つ肩の荷が下りた。

次は今関わっているジュエルシードの一件を本腰入れて終わらせに行こうか。妻や息子達との思い出の詰まったこの町を守るために。




次回はジュエルシード事件最終戦です。


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第十九話 事態急変

どうも、八雲です。

アリシアが回復して数日、その間の経過を観察して問題無しと父さんは判断したから、プレシアさんはアリシアのリハビリの為に研究の拠点をミッドに移す準備の為に時の庭園に戻った。庭園の方ではプレシアさんの使い魔のリニスとフェイトの使い魔のアルフが引っ越しの準備をしてたみたいだけど、研究の資料とかはプレシアさん自身がしないといけないという事らしい。

その間アリシアはアースラの医務室に居る。フェイトも本格的に僕たちと一緒にジュエルシード探しを手伝うし、艦内には設備もそれなりに揃っているから、丁度良かったみたい。

父さんが技術関係のアドバイザーをやっている関係で僕達兄弟はこの一件が解決するまでアースラで生活する事になった。転送ポートが家にあるし、僕自身転移魔法が使えるから、問題なく生活できている。

ここ何日かはアースラで寝起きし、学校に行って、放課後はアースラの訓練室で皆と訓練している。

皆はそんなに変わらないだろうけど、僕的にはご飯を用意しないで良い分、自由に使える時間が増えてちょっと戸惑っている。母さんが亡くなった頃は今と正反対の事を考えてたのに、もう家事全般を担当する生活に慣れちゃってたんだねえ。

そんな感想を抱きつつ、アースラの生活にも慣れてきたある日の事、訓練室で皆と魔法の練習をしてたら、

 

『皆、ブリッジに来てくれ!』

 

焦った声のクロノの放送が入ってきた。

 

「皆、固まって! 転移魔法で一気に行くよ」

 

ユーノの周りに皆集まって一気にブリッジの出入り口まで移動する。こういう時に転移魔法は便利だ。僕も使えるけど、クロノのあの焦り様も考えると多分……

考え事をしながら入ると、正面のモニターには海が馬鹿でかい何かに変化していく映像が流れていた。

 

「……何あれ」

 

そう言ったのは誰だったんだろう。言葉に出すかどうかの違いはあれど、皆それは思っている。

 

「ロストロギアの暴走体だよ。今まで皆が戦って来た奴だね。ただ、海にまとめて落ちたものが同時に10個まとめて発動したんだ」

 

父さんの説明を聞いているけど、僕はモニターから目を離せなかった。

直接見ているわけじゃないけど、それでも伝わってくる迫力。それが海鳴の海にいる。

……それを黙って見てられるか。

今は時間が惜しい。行こう。

 

 

 

一人海鳴に転移魔法で戻った。既に管理局員が結界を張ってあったから、そこに入る。

直に見る巨大暴走体は、映像以上の迫力があった。怖くて足がすくむ。

けど……僕がやらなくて誰がやるのさ。僕が生まれ育った、皆と出会ったこの街を今守れる力があるのは僕なんだ。動かなくて後悔なんてしたくない!

 

「行くよ、羽々斬!」

『了解』

 

セットアップして、飛び立つ。

僕の魔力反応を見つけたのか、

 

『八雲! お前、何しているんだ!』

 

と、クロノが通信で怒鳴り込んできた。僕はマルチタスクの大半で観察しつつ、応える。

 

「そんなん、見れば分かるでしょ?」

『もっと、考えてから動け!』

「普段ならそうするよ。けどさ、緊急事態で僕の住んでる街のピンチなんだよ? そんな時に悠長にしてられないって」

『……はあ。僕もすぐに行く』

「来るまでに片付けちゃうかもよ?」

『それならそれで良いさ』

 

通信が終わったから戦闘に全集中を傾ける。

相手は見ての通り大きい。見た目通りの攻撃力や防御力だ。それ以上に厄介なのは体が水でできていて海にいる事。ダメージを与えても再生してしまう。

いくら僕の魔力が無尽蔵に近くて回復速度が速くても短期間に大量の魔力を使ったら、無くなってしまう。だけど、倒す方法はある。

体はあくまで水なのだ。貫通力の高い魔法を使えば貫ける。そこに大量の魔力を込めて、一発で封印する。10個同時の精密射撃だ。普通なら1個ずつでも良いとは思うんだけど、これだけ大規模な結界の維持は大変だし、脆い所から壊されて街に被害が出たら意味が無い。時間が掛かる方法は取りたくない。問題は……

 

「サンダーブレード!」

 

試しにやってみた感じ、貫通させるのに必要な魔力は僕の魔力総量の15パーセント位。同時は6本が限界だ。

 

『羽々斬、5本作って維持しながら、もう5本作って発射って出来ると思う?』

『可能か不可能かだけなら可能です。しかし、空戦中になのでマルチタスクを割く事と魔力回復が遅い事を考えると厳しいかと』

『だよねえ。時間が掛かっても1個ずつか……』

『いえ、それは愚策です』

『なんで?』

 

あれを倒すなら時間を掛けて削ってく位しか方法は無さそうなんだけど……。

 

『他の起動しているジュエルシードに反応して封印が解けるでしょう』

『強制封印だからか』

 

一口に封印と言っても正式な封印魔法を使うのと、強力な攻撃魔法を当てて強制的に封印するのとでは効力が違う。強制封印の方が解けやすいのだ。だから、ジュエルシードの方も全部回収し終わった後、どこかでちゃんと封印魔法を使う予定だ。

 

『何か方法は無い?』

『魔力集束がベターでは? ジュエルシードが発動しているのでこのあたり一帯の魔力濃度は平時よりも多いですから』

 

魔力の集束というのは空間にある魔力を集める事。大火力を扱いやすい砲撃魔導士の特級スキルである。仲間内だとなのはと簪が当たる、まあその内自力で覚えそうだけど。

 

『集束か……出来るとは思うけど、一人はちょっときついなあ』

 

魔力集束は片手間で出来る技じゃない。動きを止める必要がある。……覚悟を決めるか。

 

『羽々斬、防御は任せるよ。僕は集束に集中するよ』

『お任せを』

 

さて、僕の全力受けてもらおうか!



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第二十話 最終決戦! VS巨大暴走体

ジュエルシード事件も佳境ですね~


どうも、八雲です。

僕は羽々斬に防御を任せて魔力の集束に専念している。巨大暴走体の攻撃は羽々斬が防いでくれているけど、そのものが水で出来ているため水飛沫はこっちに来てる。たかが水飛沫でも結構勢いよく来るから痛いし、何か所かは切れている。

 

「動かないなんて、アンタ馬鹿じゃないの!」

「八雲君、どうして避けないの!」

 

駆け付けたアリサと刀奈に怒られる。まあ、傍から見たら攻撃受けてるだけだしなあ。

 

「ごめんよ。でも、終わらせるにはこれしかないからさ」

「……自分の身も考えなさいよ」

「知り合ってそんなに経たないけど、八雲君って自分の意志は何が何でも貫くじゃん」

「それは分かってるけど、それと私が心配するのは別問題なの!」

「そうね。私もそうだもん」

「……ホントにごめん」

 

二人に、いや他の皆に心配をかけたのは間違いないから僕は素直に謝るしかない。

 

「で、八雲は何する気?」

「大技で決める」

「あんなに大きいのを?」

「回復し続けるからね。ピンポイントにジュエルシードを撃ち抜いて封印するよ。魔法に関してはこの世1だから大丈夫だよ。準備はいるけど」

 

僕の魔法は異質だ。

ミッドチルダ式の魔法は基本的な射撃魔法や防御魔法以外は基本的にあらかじめデバイスで組み上げておいて発動させる。だけど、僕はそれとは少し違う。魔法の骨子はデバイスにあるけど、速さだったり威力だったりその時に必要なものを追加して放てる。咄嗟に思いついた物を形にすることだって余裕だ。

 

「八雲君の魔法って面白いし、勉強になるのよね~」

「確かに。皆の魔法ってどこか八雲の魔法の要素が入ってるし」

「今回のは技術的にはなのはや簪には勉強になるかもね。技は大和の考えてたのを使うけど」

「準備は後どれくらい?」

「もうちょっとだね」

「分かったわ。皆! 八雲が決めてくれるから、あのデカいのを削って!」

「とりあえず簡単だけど、バインドで攻撃を止めさせてもらうよ!」

 

ユーノの前に出現した魔法陣から何本もの鎖状のバインドが放たれ、動くを封じていく。

 

「分かったぜ! アイツが海で回復するなら、俺も海の力を使わせてもらう! 秘剣・斬水!」

 

剣に水を纏わせて、斬撃を放つ大和。前見た時はもっと小さかったんだけど、海水も纏わせているから大きさも威力も比べ物にならない。

 

「私が動きを止めるよ! 受けて、白銀の抱擁! アブソリュート!」

 

すずかの発した魔力による超低温により海面が、そしてその海面にいる暴走体までもが凍っていく。まさか、ここまで氷結能力を使いこなせてるなんて。

 

「次お願い!」

「私も続くよ! アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト」

 

詠唱の終了と共にフェイトの前に大量の金色の魔力球が出現する。

これは、ちょっと前にプレシアさんの使い魔でフェイト達の家庭教師であるリニスが教えた、今現在のフェイトに合わせた大技。前見た時より完成度が上がっている。

 

「ファイア!」

 

一斉に魔力弾が高速で斉射される。ガガガと氷が削られていく音が響く。

 

「これでおしまい! スパーク……」

 

魔力球を収束させて大きな雷の槍が作られる。無駄が無いなあ。

 

「エンド!」

 

放たれた雷の槍が暴走体に当たると大きな音と共に爆発した。

 

「次は僕だ! スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」

 

クロノの主力魔法である「スティンガーブレイド」の大量展開による広域魔法攻撃を発動する。

クロノ自身が言っていたけど、クロノは対人は得意だが、こういう対大型目標はあまり得意ではない。この技はそれを補うための技だ。

 

「次は私達だよ、簪ちゃん!」

「うん、行くよなのは! ダブルディバイン……」

「「バスター!」」

 

二人9つ9の掛け声とともに放たれる二発の砲撃。

二人とも遠距離の射撃、砲撃型の魔導師(その中でなのはは一発の威力と防御力に秀でたパワータイプ、簪は誘導弾を巧みに操るテクニックタイプ)でお互いが切磋琢磨している。

そんな二人が砲撃の基本技であり必殺技として練り上げたこの技。その威力は絶大だ。

 

「最後は私達ね。行くわよ、刀奈!」

「任せなさい! 全てを満たせ!」

「灼熱の炎霧!」

「「レイジングミスト!」」

 

人数が多いからよくチーム戦をやるけど、一番連携が上手いのがこの二人だ。二人とも他の皆と上手く合わせられる。その中でもこの組み合わせは変幻自在という言葉がぴったりくる。基本的にフロント刀奈・バックスアリサなんだけど、二人ともどちらもこなせるから、攻撃パターンが豊富で手強い。

二人も相性が良いのが分かっているから、いろんな連携や合体の技を考えている。レイジングミストは二人に相談されて僕が火を使っているアリサと水を使っている刀奈に合う物として見せたものだった。ただ、一人でやる僕のと二人の技は威力も範囲も桁外れだ。

 

「お膳立ては出来たわよ、八雲」

「後はお願いね、八雲君」

「はいよ。大和!」

「何だよ兄貴!」

 

割と距離があるのでかなり大声で話す僕達。

 

「お前の考えてた技の見本見せるからよく見てろよ! 剣よ! 我が前に集いて敵を貫け! 秘剣・夢刃!」

 

詠唱が終わると暴走体の周りに10本の巨大な剣が現れる。本来の「秘剣・夢刃」はこんなに大きくない(大和の考えた9つの秘剣は全て基本的には対人を目的としている)のだが、僕はそこにちょっと+αを付け足した。

 

「ちょ、ちょっと八雲! 大き過ぎよ!」

「何をやったの⁉」

「魔力収束って言ってな。一度使った魔力をもう一回取り込んで使う技術さ」

「だが八雲、それでもこの規模は……まさか!」

「さすがクロノ、気付いたようだね。そんじゃ、ネタばらし!」

 

僕が指を弾くと、僕の魔力光の色である白銀(厳密には銀色に近い白色)から一本を除いてそれぞれオレンジ、青紫(明るめ)、桜色、金色、青色(暗め)、浅葱色、青色(水色に近い)、緑色(淡い)、赤色に変わる。

 

「これは……私達の魔力の色?」

「その通りだよ、簪。これが、魔力収束って技術だよ」

「自分の出した発射体をさっきのフェイトみたいにもう一度集めて使う事はそれほど難しくないし、それなりの魔導師なら出来る。しかし、八雲みたいに使用して拡散した魔力を再度収束させて使用するのはSランク以上の超高等技術なんだ」

「皆が攻撃をした分、集中できたからね。誰の魔力かまで仕分けられたよ」

「……分かっていると思うが、こんな真似が出来るのは八雲だけだ」

 

だろうね。父さんの持ってた資料でもクロノの説明までだったし。でも、出来ちゃったんだから仕方ないよね。この方が皆も分かりやすいだろうからやってみただけだし。まあ、難しいから防御を羽々斬に任せて、僕は集中する必要があったしね。

ちなみに魔力光はそれぞれ、アリサ、刀奈、なのは、フェイト、すずか、簪、クロノ、ユーノ、大和となっている。

 

「それじゃ、この事件、この一撃で終わらせてもらうよ!」

 

僕がもう一度指を弾いたのを合図に10本の剣が飛んでいく。それらは寸分違わず暴走体の中にあるジュエルシードに吸い込まれていった。

次の瞬間、暴走体の体は崩れその跡に10個のジュエルシードが残っていた。これにて一件落着だね!

 



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第二十一話 封印

まもなく、無印編が終了です。


どうも、八雲です。

ジュエルシードの収集が終わった2日後、僕達今回の事件に関わったメンバーは時の庭園に来ています。今日はここで全てのジュエルシードの再封印をします。ジュエルシードのあった遺跡に封印の術式の書かれた古文書もあったらしく、この2日でユーノから教えてもらいました。

なぜ、僕が教えてもらったかというと、その古文書にあった術式の説明よると、この術式には大量の魔力が必要で、それを補えるのが僕しかいなかったから。時の庭園で行うのは万が一のことを考えてで、どこかの無人世界でも良かったんだけど、それだと管理局の許可申請やらで時間が掛かる。大魔力をぶち当てた強制封印は不安定なので出来る限り早い方が良いというのが皆の共通認識だったから、持ち主であるプレシアさんが許可を出した。

皆が居るのは何かあった時に対処するため。

 

「じゃあ、再封印始めるよ。ユーノ、サポートよろしく」

「分かってる。いつでも大丈夫だよ」

 

 

 

ども、大和っす。

兄貴が封印を初めて10分位、ここまでは特に異常もなく進んでいたのだけど、突然、ジュエルシードが反応しだした。

 

『艦長! クロノ君! ジュエルシードから高エネルギー反応! このままじゃかなりヤバいよ!』

「皆! 急いでここを出るわよ!」

 

リンディさんの合図で皆動き出す。慌ててないのは、今回の一連の事件で度胸が付いたからなのか? まあ、避難訓練でも慌てないって言われるから良い事なんだろうと思う。

 

「八雲! お前も早く逃げろ!」

 

一歩も動かなかった兄貴にクロノがそう叫ぶ。

 

「無理だね。封印してるから分かるけど、時間稼がなきゃ避難できないよ。だから、僕はここでやってるよ」

「馬鹿を言うな! 一個でも次元震を起こす可能性のあるジュエルシードが21個もあるんだぞ!」

「そんな事は分かってるよ」

 

暴走し始めているジュエルシードから目を逸らさずに兄貴は答える。頑固な兄貴の事だ。決めてしまったからもう誰にも止められない。この中で一番付き合いの長いクロノやなのはは気付いているだろう。

 

「……ユーノ、転移魔法を頼む」

「クロノ!」

「……僕は管理局員だ。被害を抑えるために最善の手段を取る」

 

そう言い切ったクロノの拳からは血が流れ出ていた。クロノ自身も選びたくない決断だったんだろう。

……この状況じゃ誰もが無力だ。皆分かっているから、クロノの言葉に何も言えない。

 

「転移魔法、発動……」

 

転移する直前に俺達が見たのは、どんどん光を大きくしていくジュエルシードと、その前で必死に魔法を展開する兄貴だった。

 

 

 

 

俺達がアースラに戻った直後、時の庭園は大規模な次元震が発生し、その影響で起こった次元断層に飲み込まれていった。

それはつまり、兄貴の捜索も出来ない。事実上死んだという事だ。こんなのって無えよ……こんなのって……




短いですが、区切りのいいところで。


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第二十二話 これにて一件落着!

このお話で無印編が終わりです。


……ども、大和っす。

ジュエルシードの一件が解決して3日、兄貴の捜索は打ち切られた。本当なら、次元断層が発生してその中で生きている確率なんかは無いから、捜索は即打ち切りのはずなのに、クロノとリンディさんが独断で観測し続けてくれていた。けど、それが打ち切られたという事は、もう兄貴が帰ってこないという事。

そして、今日はフェイトとプレシアさん、クロノとリンディさんが帰る日。

当たり前だけど、兄貴が居なくなって皆とても暗い。ユーノはずっと自分を責めてたし、アリサや刀奈の目の下には隈が見えるし、目が赤い。兄貴の為にずっと泣いてくれたんだろう。俺は……ずっと魔法の練習、兄貴が見せてくれた見本を元に完成させようとしていた。

 

「ごめんなさいね、ジェイル。力になれなくて」

「いや、次元断層が発生したあの状況では誰も何も出来ないさ。リンディ、君が思いつめる事は無いよ」

 

この一件で一番思いつめているのは父さんだと俺は思う。父さんも俺と同じで部屋でずっと、何かの作業をしていたし。昨日、桃子伯母さんが様子を見に来てくれなきゃ飲まず食わずでずっと作業してただろうし。

 

「そうですよ。今回の事件は何事もなく終わったんですから」

 

俺達の後ろから凄く聞き覚えのある声。何事もなかったように普通に居る、兄貴。

 

 

 

そこからが酷かった。真っ先に駆けだしたアリサと刀奈が兄貴の顔面に利き腕でストレート(アリサが左利きで刀奈が右利き。ただ、アリサは矯正して両利きになっている)して、それから抱き着いて泣くというカオスな展開。

事情が分からずオロオロしている兄貴の姿は面白かったけど、帰って来てくれた嬉しさで俺も泣いてしまったからちょっと恥ずかしい。まあ、皆泣いてたから、あんまり気にしないけど。

 

 

 

どうも、生還した八雲です。

僕に起こった出来事を説明するために皆で我が家に戻ってきました。

 

「えーっと、僕が助かった理由……っていうか、あれは何も害が無かったんですけどね」

「どういうことだい?」

「あれは……というより、この一件の起こった理由の一つが僕だったみたい」

 

聞いた皆はよく意味が分かっていないみたい。僕自身言われるまで分からなかったし。

 

「ここからは、ジュエルシードの意志が教えてくれたことも入るんだけど」

「ちょっと待て! ジュエルシードの意志って何だ!」

 

すかさずツッコミを入れるクロノ。

 

「うーん、ジュエルシードを作った人の思念みたいな感じかな。その人によると、ジュエルシードは今は失われた超古代魔法文明『アルハザード』の技を継ぐ人間を探す物みたいです」

「「「アルハザード⁉」」」

 

驚きの声を上げたのは父さんとプレシアさんとユーノ。まあ、考古学に携わるユーノや技術者の父さん達からしたら、アルハザードは興味の対象なんだろう。

 

「ユーノが発掘したのが偶然地球に近い航路を取ってその地球にジュエルシードの探していた僕が居たから封印が緩んだみたい。それで全部集めての再封印で僕の大きな魔力で起動したという訳です。で、次元断層はその引き継ぎ作業を妨害されないための強力な結界って訳です。だから、今は元通りですよ」

「そうなの……まあ、あそこはどうなっても構わないとは思ってたけど、残っているのなら、元々あったクラナガンの郊外に戻そうかしら」

「兄貴、アルハザードの技ってどんな感じ?」

「基本的には今までと同じだけど、なんかもっといろいろ出来るみたい。今の魔法じゃ出来ない事でも」

「……まあ、さっき超古代魔法文明って言ってたからな。そもそもお前の今までの魔法ですら分からない事だらけだったんだし」

 

クロノの言う通り、僕の魔法は使っている僕自身が分からない事だらけだった。それがさらに分からない事が増えた。これから時間を掛けてのんびりそれを理解していく。これが父さんがいつも言っている僕のライフワークって奴になりそう。

 

「あ、そうだ。ユーノにお土産話があるんだよ」

「僕に?」

「ジュエルシードの意志と話した時に教えてもらった事で一番興味ありそうなのはユーノかなって」

 

ってか、これは次元世界の人しか分からない事だし。

 

「へえ~、どんな話」

「アルハザードの人々は自分たちの技術、今でいうロストロギアが自分達でも扱いきれない危険な物として封印したんだ」

「……なるほど、ロストロギアの出自にはそういう理由があったのか」

「正確に言うと、ロストロギアはさっき僕が言ったものと、その後、様々な次元世界で模倣されたものの二種類があるらしいよ。こっちは古い時代だと新天地で暮らしを発展させるために使われたものも多いけど、アルハザードの技術を模倣しようとして出来たかなり危険な物も同じくらい一杯あるらしい」

 

分類すると、

アルハザード期の物 今では使い方不明な物も多く、危険な物も多い。ジュエルシードもここに入る。

古代ベルカなどの新暦以前の初期時代 比較的危険度の低いものが多い。

古代ベルカなどの隆盛期~戦乱期(新暦直前) 兵器利用の物が多いので危険な物が多い。

 

「……それが分かっただけで管理局としてはありがたいんだがな」

「そういうもの? まあ、それは置いておいて。ロストロギアの事で分かると思うけど、今の魔法技術の元はアルハザードから来ている。それの分かりやすい証拠が僕の魔法の特徴とある有名な人の魔力光の共通点」

「前々から思ってたんだけど……カイゼルファルベかい?」

「正解!」

「ちょ、ちょっと! 私達地球組にも分かるように言いなさいよ!」

 

今まで蚊帳の外だった地球組を代表してアリサがそう言う。

 

「カイゼルファルベっていうのは、こういうのを言うんだよ」

 

僕は右手に虹色の魔力弾を作り出す。

 

「綺麗なんだけど、なんで次元世界出身の人たちはあんなに驚いているの?」

「カイゼルファルベはね、地球で言う所のイエス・キリストに当たる人の末裔の証でもあるんだ」

 

聖王教会、古代ベルカの王家の一つであり、長く続いた古代ベルカの戦乱期に終止符を打った一族でもある、聖王家を祀っている所。次元世界最大の宗教団体でもある。カイゼルファルベは聖王家に連なる者の証だ。

 

「八雲君がそうなの?」

「凄く遡れば少し位関わりがあるかもしれないけど、違うよ。僕の本当の魔力光は銀色に近い白だし。ただ、アルハザードの人の中では僕のような事が出来る人が結構居たみたい」

 

昔話の聖王は強い肉体と巨大な魔力を持っていたって書かれている。カイゼルファルベを発動させると、一時的に肉体強化されているのが分かるし、やや魔力消費が多くなる感じがする。

聖王というのは何らかの要因でそれを常時発動できるようにしているのだと思う。

 

「知れて嬉しいけど、聖王関係は面倒な事も多いし、僕の心の中に閉まっておくよ」

「そう。そんじゃ、僕はもう休むよ。凄い疲れたし」

 

封印しようとした時の魔力も体力もまだ回復していないから、結構きつい。2、3日ゆっくり休みたいなあ。

 

 

 

……けど、これは言えないかな。「ジュエルシードは僕の体の中にある」って。




本作の独自設定を紹介する回になりました。


アルハザードについて

原作ではおとぎ話のような存在で調べてもよく分かりませんでした。なので、今作では「『超古代魔法文明』として、実在したものの、行き過ぎた技術によって滅亡しかけ、残った人々が封印して新たな次元世界を築いていった」としました。時が流れた現在ではおとぎ話のような存在ですが、この作品内では存在しました。

八雲の魔法

今作ではこれから『アルハザード式』と呼んでいくと思います。『超古代魔法文明』だけあって、チート(確定)

ジュエルシードについて

八雲はアルハザードの技を継ぐ者を探すと本編で言っていましたが、名の通り魔法が大きく占めていたアルハザードでそれを継ぐ者という事はかなりの地位に就くものという意味でもあります。
なのでジュエルシードはエクスカリバーのような選定の剣であり、力の象徴でもあります。

ロストロギアの大雑把な振り分けについて

この辺は本編中通りです。ここでは出てきた順に初期、中期、後期としますが、初期の物がジュエルシード、聖王のゆりかご。中期の物はSTSSS1で出てきたアレ、夜天の魔導書。後期が闇の書、レリックです。

アルハザードと聖王

STSおよびVividに関わってくる聖王。本作ではアルハザードの生き残りの一族の一つとしています。

カイゼルファルベ

ヴィヴィオの魔力光の色であり、聖王の血筋の証の一つともされる虹色の魔力光。
Vividのオリヴィエ過去話によると、聖王家では、聖王核と呼ばれる補助の魔力コアを生まれるとすぐに埋め込まれるとありました。
なので本作では「虹色の魔力光=本来のリンカーコア以外の魔力発生源がある事での突然変異」としました。八雲の場合、ジュエルシードが補助コアの役割をしているので、使えますし、切り替えも出来ます。

ジュエルシードが体内に……

どうなるのかは後々。



前書きでもありましたが今回で無印編が終わりです。

A's編の流れはざっくり決めてありますが、始まるまでの約半年をどのようにするかが決まっていないのでまた間が開くと思いますがよろしくお願いします。


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第二十三話 A's編プロローグ 6月3日、始まりの日

お久しぶりです。

ついになのはの新作映画の公開日が発表されましたね。そこまでにA's終わらせられたら良いなあ……。


どうも、八雲です。

ジュエルシードが僕に融合してから、僕は自分で何が出来るようになったかを調べています。

 

出来るようになった事その1 魔法の強化

出来るようになったとは少し違うけど、僕の使う魔法が強化された。21個のジュエルシードが補助コアの役割をしているからだと思う。その分、制御が難しくなったから、練習あるのみだね。

一番変わったと思うのは魔力から様々な物が生み出せるようになった事。

例えば、今まで僕の攻撃魔法で何も無い所から水や火を生み出したりしてたんだけど、それは一時的なものだった。これは適性があれば出来る事だったからそこまで特別な事ではなかった。

けど、今は金属や繊維なども生み出せるし、それは消えたりしない。食べ物だけは出来なかったけど、それでもこれはあまりにも異質だから隠そうと思う。

 

出来るようになった事その2 次元の本棚にアクセスできるようになった

『次元の本棚』っていうのは、次元世界のあらゆる情報が存在する巨大な図書館みたいな空間。僕しか行けないから精神世界と言ってもいいと思う。名前は僕が付けた。もちろん元ネタはライダーからだ。

ただ、情報量が多すぎて扱いきれていないと思う。今は専ら次に関連する事ばっかりに使っている。

 

出来るようになった事その3 魔法道具の作成

ジュエルシードの一件があってから、古代の魔法技術で作られた道具に興味を持った僕は次元の本棚で情報を仕入れて自分で作っている。後は本で読んだおとぎ話の道具や武器を作ってみたり。こういうのをしていると父さんの息子だなと思う。

作って特に重宝しているのは訓練用に作った、入ると広い空間が広がり、少しの時間が長くなる『魔法の箱庭』と持ち運びの簡単な『四次元バック』。

『魔法の箱庭』は場所を気にせず、魔法の実験出来るし、家事をした後の短い時間でトレーニングも出来る。大和に負けたくないからね。時間は有効に使わないと。欠点として、使うために魔力がいるけど、その辺は問題にならないしね。

『四次元バック』はランドセルを背負ったまま色んな所に行くのは結構目立つと思うし、買い物を大量にしても困らないから凄く便利。作ったものを仕舞う場所にも困らないしね。

 

大和との剣術勝負は最近、大和に分がある。ジュエルシードの一件が良い経験になったのかねえ? 元々運動とかは大和の方が上だし、この差が大きくなっていったら勝てなくなっていきそうだねえ。そうならないように僕に合った方法を考えていかないと。

 

 

 

ある日の事、夕飯を作ったら醤油が切れた。明日の朝も使うかもしれないし、明日の放課後はすずかと一緒にはやての家で誕生日を祝う予定だから、買い物に行く時間が無い。だから、夜なんだけど買い物に出た。

いつものスーパーで買い物を済ませて帰っていると、横断歩道を渡っているはやてを見かけた。向かっている方向がはやての家の方で来た方向が病院だから、多分検査に時間がかかったんだろう。

宿題もないし、家まで送っていこうかなと思い、話しかけようと近付いていく。すると、大きなエンジン音が近付いてきた。

その音の方を見たら、大きなトラックが突っ込んで来た。

 

「はやてっ!」

 

荷物をその場に置いて、全力で(魔力+神速)で駆け出す。けど、間に合わない。くそっ!

次の瞬間、はやての持っていた本から大きな魔力反応があり、はやての身を守る様に彼女の体を空に持っていく。

僕も一緒に空に昇っていく。

 

『封印を解除します』

 

空にいるはやての目の前でいつも彼女が持っていた、鎖が巻き付かれた本の鎖が解かれ、そういう音声と共に大きな魔力反応が出た。魔力反応が有るって事は魔法関連の物、もっというと、展開されている魔法陣を見て古代ベルカ期のロストロギアだと推測できる。実物が目の前にあるし、次元の本棚で検索しよう。いや、それは後回しでまずは、混乱の極みにいるはやての元に行こう。

 

『起動』

「はやて!」

「や、八雲君!?」

 

飛んできている僕を見て驚いて気を失ってしまうはやて。……やっちゃった。

 

「闇の書の起動を確認しました」

「我ら闇の書の蒐集を行い、主様を守る守護騎士にてございます」

「夜天の主の元に集いし雲」

「ヴォルケンリッター」

 

闇の書とヴォルケンリッターねえ。キーワードは揃ったみたいだねえ。まあ、とりあえずは。

 

「まじめにやっている所悪いけど、君たちの主気絶してるよ?」

「何っ!?」

「ええっ!?」

 

最初に喋ったポニテの人と次に喋った金髪の人は驚いている。まあ、突然人が現れたら驚くのは当たり前でも気絶まではいかないと思う。けど、その前に色々あったからなあ。仕方ないよ、うん。

 

「ってか、てめえ、誰だよ!」

 

赤い髪の女の子が突然吹っかけてくる。

 

「僕? 僕は八雲・スカリエッティ。通りすがりの魔法使いで君たちの主の友達だよ。とりあえず、はやてを家に運ぶよ。暖かくなってきたとはいえ風邪引いちゃうから」

 

そこから少し間が空いたのは多分、念話をしているからだろう。

 

「分かった」

 

ポニテの人が代表してそう答えたのを聞いて僕は転移魔法ではやての家の中に飛んだ。

 

 

 

これが管理外世界としては管理局史上最大の事件と言われる「最後の闇の書事件」の始まりとなる事をまだ誰も知らない。




とりあえずここから何話か使ってA's本編に入っていきたいなと考えています。

八雲・スカリエッティ
ジュエルシードの一件を経てチートが進行する。A's編のキーパーソンになる予定。


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第二十四話 天災襲来

閑話的なお話なので短いです。


どうも、八雲です。

はやてを家に送り届けた後、僕は家に帰った。あの4人は僕に事情を話し辛そうだったから聞かなかった。

まあ、僕には次元世界最強の情報源があるから問題ないけどね。

……と思っていたのは数時間前の事。こんな事知りたくなかったよ。

 

 

 

闇の書―正式名称は夜天の魔導書―は古代ベルカ時代、ある魔導学者が作った魔導書型のストレージ。目的はベルカをはじめとした様々な魔導技術を集めるため。

しかし、その開発者を殺し、奪った人間が改造した結果、『最悪のロストロギア』とまで呼ばれるようになってしまった。

……このままじゃあ、バッドエンド間違いなしだなあ。なんとかそれを回避する方法を考えないと。

 

 

 

闇の書の対処法を考えていたら夏休みに入っていた。

 

「なあ、兄貴」

「何?」

「あの人、来るのかねえ?」

「さあ? 来るっていう連絡入れない人だから分からんね」

 

夏休みの宿題をリビングで消化しながら、話している。こういう時にマルチタスクは便利だと思う。

で、大和の言うあの人とはここ数年、夏と冬、たまに春にやって来る我が家の風物詩だ。夏は確実に来ているからいつ来るのかねえ。と思っていたら、庭の方でドーンと大きな音がした。

 

「噂をすればなんとやらだな」

「庭の埋め戻ししないとなあ。宿題もキリの良い所まで来たから、今日はこの辺にしてついでに畑の雑草も抜いておくか」

 

家の庭は母さんが作った家庭菜園(色々な作物があるからもはや兼業農家レベル。でも、家で食べる分+高町家へのおすそ分け位だからやっぱり家庭菜園かな)があって、今も僕を中心に家族三人で管理している。家族の思い出がたくさん詰まった所だし、自分で作ったものの味は格別だもんね。

 

「俺も手伝うぜ」

「んじゃ、埋め戻しよろしく。それ終わったら、朝の内に採って冷やしてあるスイカ切って食べようか」

「よっしゃ!やっぱ、夏はスイカだよな! 気合い入れていくぜ!」

 

そんな事を話していると廊下から結構なスピードで走ってくる足音が聞こえる。

 

「やっちゃん、やっくん! ししょーは何処かな?」

 

駆け込んできた人は篠ノ之束さん。「ドクターJ」として学会を賑わせている父さんに何年か前に直接会いに来て弟子入りした人である。ちなみに年齢は美由希さんと同い年。

束さんがぼくをちゃん付けで呼ぶのは初めて会った時からで、理由は僕が母さんそっくりだったかららしい。

 

「「研究室」」

「ありがとー!」

 

……相変わらず嵐みたいな人である。でも、夢へひたむきに向かう推進力は凄いなと思うし、あんなに全力なのはカッコいいとも思う。

そういや、僕って夢って無いなあ。ぼんやりとはあった気がするんだけど、いつの間にやら消えていった。なんでだろ?

ま、そんな事は置いといて、とりあえずは宿題を部屋に置きに行って、外に出る用意しないとなあ。それと、今晩は夏野菜カレーで決まりだね。匂いで食欲を刺激しないと部屋から出てこない人が二人もいるから。




ヴォルケンとのお話を飛ばしたのはあのタイミングでは警戒度MAXで話すわけないと思ったからです。

八雲・スカリエッティ
夢を失った人。プロローグのあとがきで書いたのは、持っていた夢。失ってしまった理由は普通の子供以上に現実に忙しかったから。

篠ノ之束
ジェイルの唯一の弟子。夢を持ち続けれる人。それもある意味才能。


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